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Fate/Reversal Order 宙喰獣性魔界 京都

1 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:55:06 IxjslNws0





                  世界は人類で始まった。そして人類なしで終わるであろう。




                                                     .


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2 : 虹彩 ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:56:16 IxjslNws0
「この宇宙は間違っている」

 ――正しき宇宙とは何か。

「この世界は間違っている」

 ――正しき世界とは、何か。

 問い掛けたところで、答えを返す者などありはしない。答えを返せるモノなどありはしない。
 恐らくは本物の神でさえも、その詰問に明確な解を示すことは出来ないだろう。
 彼の問いはあまりに抽象的に過ぎた。何を以って間違いと指摘するのか、その定義が明かされていないのだから正誤の判断など出来よう筈もない。

 長髪の男だった。上質なサファイアを思わせる濃紺の髪に、凪いだ水面の如く起伏に乏しい表情。
 どんなに育ちの悪い者が見ても、一目で彼が人並み外れた叡智の持ち主であると理解しよう。
 その右手には不明な電子機器が握られ、魔境に堕ちた都で蠢く〝何か〟の挙動を無機質な電子音で絶え間なく主に報告している。
 左手はフォトニック純結晶体と鉄から成る義手だ。手のひらの真ん中にはホロスコープが埋め込まれている。

 碩学が立つのは、近未来という単語の似合う清潔な白色の地下施設。
 正しくはその心臓部といっても過言ではない、無数のスクリーンに囲まれた暗黒球体の前だ。
 英霊の座から得た知識、現界してから集めた技術、そして己自身の天賦の頭脳。
 三つの力を渾然一体とすることで形成されたそれは、2017年現代の技術水準を数百年単位で飛び越した代物だった。

「紀元一世紀から私はその間違いを知覚していた。だが、人の身で出来ることには限りがあった」

 右手の機械も。
 左手の義手も。
 この暗黒球体も。
 すべて、彼が自らの手と頭で一から設計した発明品だ。

 しかしながらこの英霊は近現代の英霊でも、未来の英霊でもない。
 彼は紀元一世紀の地球に生を受け、紀元二世紀に命を落とした。
 未だ神秘が星そのものに深く根付いていた、機械工学の〝き〟の字もないような時代を生きた人間なのである。

「しかし私の虚構を暴いた彼らを責めるべきではない。
 彼らは自分達の頭で世界の真理に辿り着いてみせたのだから。
 私の論などな。所詮、この間違った世界では何の役にも立ちはしないのだ」

 にも関わらず彼の造った道具には一箇所の綻びも設計ミスもない。
 どんな精密機械にも付き物である微細なバグの発生すらあり得ない。
 彼はそれを可能とするほどの頭脳を持った碩学だった。

 それだけの頭脳を持つが故に、最高の完成度で最悪の間違いを後世に残してしまった才人。
 彼のせいで人生を棒に振った者も、無辜の人を破滅させた者もごまんといる。
 間違いなく人類史上有数の天才だが、それだけにその失敗は長いこと人類発展の歯車を狂わせた。
 そこに間違いはない。しかし、それだけが真実というわけでもない。


3 : 虹彩 ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:56:46 IxjslNws0

「――そう。間違っているのは、この世界だ。
 ――そう。間違っているのは、この宇宙だ」

 恐らくは創生段階で、この世界は致命的な間違いを冒した。
 菓子に砂糖と塩を間違って投入するような、決してあってはならないミスを。
 そのことを知っている者は一人として存在しない。だから、この男が立ち上がった。

「世界を正す。世界を質す。……世界を糾す。
 その為に私は此処に居る。願望器の福音に導かれて、な」

「福音。福音ね。呪いの間違いじゃないのかい、ボクらのようなもんを呼んどいてさ」

 声がした。
 少年の声と少女の声と男の声と女の声と翁の声と媼の声。
 牛の声と豚の声と鳥の声と山羊の声と馬の声と犬の声。
 蝿の羽音と血の滴音と排泄音と放尿音と金属音――この世のあらゆる声、あらゆる音を混ぜたような声が。

 ケタケタと響く笑い声は、耳元で蝿に飛び回られるような不快感を聞く者に与える。
 見ればつい一瞬前まで確かに無人だった男の傍らに、褐色のヒトガタが立っているではないか。
 白目のない黒だけの眼球をギョロギョロと動かして、口に浮かべるのは三日月の笑み。
 その性別は見た目だけではとても分からない。少年でも、少女でも。美男でも美女でも通るだろう、中性的な美貌の持ち主であった。

「覚悟は出来てるンだろうね、やめるなら今の内だぜ? 我が愛しのマスター様よ」

「ほざけ。今更従順ぶるなよ気色の悪い。
 此処で退けるほど利口な人間なら、最初からお前のような癌細胞を取り寄せてなどいない」

「ギャハハハハハ、それもそうだなマスター!
 ワタシとしたことが、オマエはそのナリでどうしようもなく膿んだ脳髄をお持ちなアホ野郎だってことを忘れてたよ!!」

「膿んだ、とは心外だな。少なくともお前よりはマシな頭の構造をしていると自負しているぞ、ウォッチャー」

「阿呆抜かせ。頭の病気でもなきゃ、思い付いても実行に移すかよこんな真似」

 おかしくて堪らないという風に呵々大笑し、褐色……ウォッチャーと呼ばれたそれは喘鳴のように荒く息を注ぐ。
 その言動の端々或いは所作の一つ一つから滲み出ているのは、誰もが救えないと断言するだろう悪性であり獣性だ。
 これはただ面白がっているだけ。人類史に刻まれた英霊でありながら、人に忖度するつもりなど欠片もないという真性悪魔。
 その在り方はまさに人類史の癌細胞だ。そして此度の主役である才人は、それを知った上でこのサーヴァントを〝狙って〟召喚した。

「……お戯れは程々になさいませ、ウォッチャー。我があるじへの侮辱は、そのまま私への侮辱であるとお考えください」

 次に響いたのは、淀みのない、起伏もない少女の声だった。
 声の出所は部屋の入り口。
 突然虚空から現れたウォッチャーとは違い、彼女はきちんと扉から入室してきた。

 雪のような白い肌に、やや露出の多い修道服、ターコイズブルーの瞳とサイドポニー。
 背丈は小柄な方だと言うのにその胸元ははち切れんばかりの巨大な果実で膨らみ、男の劣情を誘う。
 痴女と取られてもおかしくない身なりの少女だったが、そこに人間味らしいものは全く見受けられない。
 精巧なアンティークドールが意思を持って動いているような、何とも言い難い異質さが可憐さの中に同居している。

 部屋に入るなり彼女が口にしたのは、ウォッチャーへの警告。
 それは冗談でもなければ、口先だけの脅しでもない。
 現にその左腕からは、半透明の紅いブレードが顔を覗かせている。
 ウォッチャーが一言でも次に侮辱を口にしたなら、容赦なく彼女はそれの首を刈り取りにかかるだろう。


4 : 虹彩 ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:57:21 IxjslNws0

「相変わらず物騒だなあルーラーちゃんは。人に刃物向けちゃダメって習わなかったのか? オレはただ、マスターのことを心配してるだけだぜ」

「そうですか、では不要です。あなたに慮られずとも、我らのあるじは成すべきことを成すでしょう」

「やだなあ、方便だっての。そんなことも分からないのかナ、ポンコツ人形ちゃんは」

「あいにく理解したくもございませんので。人の愚かさを象徴する、あなたのような存在の考えなど」

 まさに一触即発。
 この二騎は、水と油の関係にあるらしい。
 正確には一方的に少女人形の方が食って掛かっているだけなのだが、刃を振るわれればウォッチャーとて応戦しよう。

「控えろルーラー。此処を何処だと心得るか」

 しかし、そうなられては困る。
 今にも戦端を開きそうな少女人形を、マスターであり、あるじたる男が諌めた。
 すると、つい一瞬前まで目の前の有害物質を消し去らんと放たれていた敵意が瞬時に霧消。
 主人同様の凪いだ水面のように起伏に欠けた鉄仮面が戻ってくる。

「失礼致しました、我があるじ。必要ならば、何なりと罰をお与えください」

「仕方ないな〜。そこまで言うんなら、ワタシがキッチリ一から調教してやろう。まずはワシの性癖であるところの――」

 片や、命ぜられれば自分の首を切り落としても構わないとばかりに謝意を示し。
 片や、水を得た魚のようにまた少女人形の殺意を買いそうな台詞を吐く。
 彼女らの主人たる万能の才人は、そんな二騎に付き合ってやるつもりはさらさらないようだった。
 ただ一方的に、彼は言葉を口にする。

「アヴェンジャーの様子はどうか」

 その言葉は室内の空気を一気に張り詰めさせた。
 ウォッチャー、ルーラーに続く三騎目のサーヴァント。
 そのクラスはアヴェンジャー……即ち復讐者のクラス。
 衰退の化身であるところの彼は、この場にはいない。

 というより――連れてくることも解き放つことも困難な存在なのであった、件のサーヴァントは。

「……今は眠っているようです。数時間前は拘束式を第六まで突破。式の修復には成功しましたが、格段に本来の力を取り戻しつつあるようで」

「嫌だねェ、自分ちで狂犬を飼わなきゃならないってのは。
 ちゃんと見ててくれよな、ルーラーちゃん。完全体ならまだしも、この霊基(カラダ)の余じゃありゃどうにもならんからネ」

「あなたに言われずとも理解しています。〝彼〟は我々の切り札であり、同時に最悪の時限爆弾。
 爆発の時が来るのは避けられないとしても、その期が早まるようなことだけはあってはならない。
 もしそうなった時は――私も、あなたも、恐らくはあるじ様も。この地に集った全ての役者も」

「ああ。等しく砕け散るだろう」

 実のところ、ウォッチャーとルーラーが実際にかち合ったなら勝利するのはルーラーだ。
 というのも、褐色の彼と少女人形のサーヴァントは非常に相性が悪いのである、その性質上。
 だから先程の諍いは彼にとって致命的な事態を招きかねないものだったのだが、ウォッチャーはそれでも何ら怖じ気付く様子を見せなかった。
 その彼をして、戦うのは御免だと言わしめる存在。それが、未だ封じられたままのアヴェンジャーなのだ。


5 : 虹彩 ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:57:47 IxjslNws0
 無機質ながらも強い危機感を滲ませたルーラーの長台詞を遮って、才人がアヴェンジャーが解き放たれた未来の結末を口にする。
 そうなってしまえば全てはご破算だ。最低でもこの国ごと、最悪なら地球ごと、彼らの野望は砕け散る。

 カードとして抱えるには大きすぎるリスクだが、それでもアヴェンジャーは必須の一枚だった。
 此度の主役であり、脚本家でもある彼の筋書きは常に正確無比。
 一人として不要な役者は居らず、欠けていい歯車は存在しない。
 
「本当に上手くいくと思ってるのかい、〝キャスター〟? 
 ……思ってるんだろうなあ。魔王なんてやってると色んな人種を見るけども、おたくは元人間の中じゃ度を越したイカれの部類だぜ。誇っていい」

「私は、この身命を賭して世界の誤りを正す。
 その為ならば多少の博打は打とう。多少のリスクは背負おう。
 お前達のような星の癌細胞も、良薬として使ってみせよう」

 全てはあるべき秩序を造る為。
 此処では嘘とされている、正しい法理を下ろす為。
 無限に広がる未来の可能性から、一切の闇を消し去る為。
 魔術師であり、学者であり、■■■■■である彼は外道に堕ちた。
 悪魔に魂を売るよりもなお恐ろしい、魔王も慄く大博打に打って出た。

「ビーストα。
 ビーストβ。
 そしてビーストγ」

 ビーストα――
 仮の霊基をルーラー。
 人類の発展の頂上より生まれ、人の全てを奪い尽くす電子の猿。

 ビーストβ――
 仮の霊基をウォッチャー。
 人類を堕落へ誘い、人の意志の傍らに常に寄り添い続ける大欲の魔王。

 ビーストγ――
 仮の霊基をアヴェンジャー。
 人類が望んだ悪の総体より生まれたモノであり、あらゆる悪の根源と謳われる衰退の邪龍神。

 いずれも使役できる存在ではない。
 ビースト。それは人類愛が転じて人を滅ぼす悪となった獣性の化身。
 それを三騎、この男は召喚した。正道にあっては成らぬ願いを遂げようと思うならば、正道の力だけで事足りる筈もないのだから。

「生まれた意味を果たせ。その果てにこそ、正しい宇宙は訪れる」

 二つ三つの腫瘍を持ち込んだところで、今更この世界の病みが深まるわけでもない。
 とうの昔に手遅れだ。先程も述べたように、恐らくは世界創生の段階から。
 
 だから、彼はこの世界という病巣に抗癌剤を打ち込もうとしているのだった。
 副作用は甚大。恐らく世界は巨大な疲弊に苛まれ、長い混沌に包まれるだろう。
 それでも、全てが闇に覆われるよりは幾らか救いがある。
 荒療治は不可欠なのだ。患者を寝台に縛り付けてでも、正さねばならない病がある。

「さあ――我らの偉業(グランドオーダー)を始めよう」

 彼が擁する召使は三体の人類悪。
 それぞれ未来を、欲望を、滅びを司る獣達。
 どれか一柱のみでも人類を滅ぼし得る彼らは未だ不完全ながら、しかし既に星を喰む終末の萠芽を備えている。

 グランドオーダープロジェクト此処に始動。
 星の為、世界の為、宇宙の為、未来の為。
 全ての人の営みを、永遠に守る為。
 底なしの人類愛と尽きることない執念を胸に、一人の男が運命へ挑む。


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6 : 虹彩 ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:58:28 IxjslNws0
   ▼  ▼  ▼


 神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。
 我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。
 人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。
 これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。

 しかしこの世界には、とある構造的欠陥が存在していた。
 その欠陥は致命的であった。人の安寧は約束されず、世界の行く末には暗闇しかない。
 
 ■■であるべき筈の■■は無意味な■■と■■を続け、幸福なる未来の■図は永遠に失われた。
 ■■の先、遥か地平の■■■■から訪れた一人の碩学のみが、その事実を知覚している。
 この世界そのものが人類絶滅の遠因。
 本来除去すべき巨大な病巣であると判断した碩学は未来を覆う暗闇を払う為、人類史上最大の医療処置の決行に踏み切る。

 それは数多の■■■■とこの世界を接続し、接続先の■■を■として■■させることで■■■■■の■■■を形成する禁断の儀式。

 禁断の儀式の名は、聖杯■■ ―――――― グランドオーダー。
 それは同時に、人類を守るために無数に枝分かれした■■の■■■■を■■にし、運命と戦う者への称号でもある。

 それは、未来を救う物語。


7 : 虹彩 ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:59:06 IxjslNws0

はじめに
・当企画はいわゆる「史実系聖杯」に分類される、史実・伝承・創作上の英霊達の聖杯戦争を描くリレー小説企画になります。

・wiki:ttps://www65.atwiki.jp/fro2018/pages/1.html

基本設定
・舞台は「京都府・京都市」です。ただしあくまでも並行世界の一つであるため、参戦作品内に登場する施設やキャラクターなどが存在する可能性があります。

・聖杯戦争への参加条件は、〝無記名霊基@Fate/Grand Order〟を手にすることです。
 無記名霊基の形状は基本的には原作通りですが、必要なら改変していただいても構いません。
 これを手にすることで舞台となる世界への転移が起き、同時に魔術回路を持たない一般人でもサーヴァントを召喚、運用できるようになります。

・令呪の全損によるペナルティはありません。

・サーヴァントが消滅しても、マスターは消滅せず生き残ります。

・マスターが死亡した場合、サーヴァントは単独行動スキルを持つか、新たなマスターのアテがない限り一定時間の経過と共に消滅します。

・この世界は並行世界の一つであり、住んでいる人間や施設は紛れもない実体です。便宜上NPCと呼称しますが、彼らも一個の魂を持った人間です。

・コンペ段階での季節は一月です。本戦開始は二月一日となります。

マスターについて
・版権キャラクター限定とします。オリジナルキャラクターでの投下は不可です。

・いずれのマスターにも、特別な理由がない限りはこちらの世界の住人としてのロールが与えられます。

・自分が聖杯戦争の参加者であると自覚した時点で、マスターには聖杯戦争に関する基本的な知識が聖杯から付与されます。

サーヴァントについて
・史実、神話、物語等、特定の版権原作を持たないオリジナルのサーヴァント限定とします。

・原作Fateシリーズからのサーヴァント出典も原則不可ですが、原作サーヴァントの別解釈や別クラスなど、何かオリジナルの要素が存在するならば投下していただいても構いません。

・基本的には裁量ですが、存命中の人物や最近の犯罪者などの投下はご遠慮ください。

コンペについて
・採用主従数は18程度を想定しています。

・もちろん、皆様の投下数次第ではこれより増えたり減ったりする可能性があります。

・通常の7クラス以外にも、エクストラクラスでの投下も可能です。ただし〝ルーラー〟〝ビースト〟の2クラスは不可とさせていただきます。

・締切は現状決めていませんが、一ヶ月半〜二ヶ月くらいをめどに考えております。

・候補作の中で死亡するモブサーヴァント、モブマスターについては自由に使っていただいて構いません。


8 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 16:59:55 IxjslNws0
続けて候補作を投下します


9 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:00:32 IxjslNws0
 拳を振るう。
 それは、喰らえば大の男ですら昏倒し、プロの格闘家さえも唸らせる恐るべき剛拳だった。
 打ち込まれたサンドバッグがハンマーで殴られたような激しい動きを見せているのが、その威力の程を物語っている。
 どう見ても素人の拳ではない。比喩でも何でもなく血反吐を吐くような鍛錬と稽古を経て出来上がった、修羅の鉄拳である。

 京都市内、某所。
 市内では最も実績のあるボクシングジムの片隅に、そのファイターの姿はあった。
 通りかかった会員達は皆目を丸くする。
 会員のトレーニングに寄り添うのが役目であるインストラクターやコーチ達が、誰も寄り付こうとしない。

 その答えは単純だ。
 彼らには、そのファイターに有効なアドバイスが出来る自信がなかった。
 自分達如きが助言出来ることは彼女も当然知っているだろうし、きっとノイズにしかならない。
 無限に広がる成長の可能性を摘んでしまいかねないから、ただばつが悪そうに目を背けるだけ。
 
 もしも彼女が競技試合に顔を出したなら、同年代の女子ではまず敵うまい。
 それどころか歳が数倍上の相手でも一方的に打ち倒してしまうかもしれない。
 紛うことなき天才だった、この少女は。何万人に一人の逸材といっても過言ではない素養と、それに見合った実力。
 
 だが真に驚くべきは――彼女がまだ十三歳であるということだろう。
 つい一年前までは初等部に通っていたような娘が、これほどの鬼気を放てるものか。
 一体どんな幼少期を経てきたならこのような拳が打てるようになるのか……そして。
 これほどの実力を持ち、毎日欠かさずジムに顔を出しては目を瞠るようなハードワークをこなす彼女が、何故競技としてのボクシングに一切の興味を示さないのか。
 誰もが、疑問に思っていた。

 もちろんそれには理由がある。
 しかし、彼女がそれを誰かに語った試しは一度としてなかった。
 何故か。その答えは、単純だ。
 〝話したところで、首を傾げられるだけだから〟である。

「(……本当は試合にも出たいんだけどな)」

 額から垂れた汗を拭いながら、少女……リンネ・ベルリネッタは小さく溜息を吐いた。
 スポーツ選手、特に格闘技の世界を往く者にとって日々のトレーニングは欠かせない。
 一日怠けただけでも体が衰える。二日無為に過ごせば、取り戻すのに倍以上の時間が掛かる。
 格闘技とはそういう競技だ。リンネが平日も休日も一日として練習を欠かさないのはその為である。

 加えて、練習量さえあればいいのかといえばそういうわけでもない。
 不覚を取ることの許されない本番に向けて、試合勘というものを養っていく必要があるのだ。
 イメージトレーニングと一人きりの鍛錬だけで王座に君臨できるほど、格闘技の世界は甘くない。

 だからこそ、リンネとしても出来れば試合がしたかった。
 魔法やデバイスの存在しない、単純な技と力の比べ合い。
 それは正確にはリンネの主戦場とはやや趣の異なるものであったが――重要なのはリングに立ち、拳を振るい、勝利するということ。
 一瞬たりとて気の抜けない実戦の感覚が抜けないように、己の内面を常に張り詰めさせておくこと。
 この世界基準の同年代など恐らくは相手にもならないだろうが、それでも構わない。
 そもそもこの世界に、そこまでのことは求めていない。


10 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:01:09 IxjslNws0


 ――リンネ・ベルリネッタ。
 彼女は、いわゆる異世界からやって来た人間である。
 魔法という概念が生活の基盤の一つとなった、ミッドチルダという世界の住人。
 
 DSAA・U15ワールドランク一位。
 魔法格闘戦の世界でその名を轟かせる、若きパワーファイター。
 立ち塞がる敵を神に愛された天性の肉体で幾度となく打ち破り、その心までもへし折ってきた。
 その彼女が魔法の存在しない世界……京都という古都でこうして暮らしているのには理由があった。割と理不尽寄りな、とある理由が。

 聖杯戦争という儀式が存在する。
 七人の魔術師が集い、七騎の英霊を呼び出して戦うバトル・ロワイアル。
 英霊という単語に最初リンネは首を傾げたが、歴史上の人物のようなものだ、という説明を受けて納得へ至った。
 誰から説明を受けたのか? 言うまでもなく、彼女の召喚したサーヴァントからである。
 閑話休題、今回の聖杯戦争はややイレギュラーの色が強いものであるらしい。
 だから次元世界の垣根さえ越えてマスターが〝招集〟され、七騎どころではない数の英霊達が殺し合う。

 ただ一つ――万能の願望器という幻想(ゆめ)を求めて。

「……迷惑な話」

 心底嫌気がするというように、リンネは溢す。
 彼女の聖杯戦争に対する感情は今の一言に全て集約されている。
 迷惑だ。何故ならリンネには、聖杯に縋って叶えたいような願いはない。
 狂おしいほど求めているものはある。だが、その為に他の誰かを殺せるほどリンネは道を踏み外してはいなかった。

 とはいえ、死ぬつもりはもちろんない。
 他の主従に襲撃されたなら、全力を尽くして迎撃する。
 後は元の世界に戻る手段が都合よく見つかってくれるかどうかだ。
 そして元の世界に帰り――今度こそ、彼女に。高町ヴィヴィオという因縁の敵に勝つのだ。

 リンネ・ベルリネッタが公式戦で付けられた黒星はただ一つ。
 ナカジマジムに所属する高町ヴィヴィオという年下のファイターに、一度だけ判定負けを喫した。
 身を焦がすような敗北の屈辱と自己嫌悪。膨れ上がる、強さへの渇望。
 それらに突き動かされるままに身体を鍛え、技を磨き、ようやく雪辱を果たす機会が巡ってきた。
 その矢先のことだ。聖杯戦争への招待状である、〝無記名霊基〟を手に取ってしまったのは。

 聖杯戦争は、子供の遊びではない。
 生き残るより死ぬ確率の方が高いような、おぞましい儀式だ。
 そのことは分かっているが、リンネに恐怖の感情はなかった。
 あるのは一つ。苛立ちと焦り。

 ――次は負けられない。絶対に勝つ。それが出来なければ、私は。

 その先は敢えて思考しない。
 不要な感情を断ち切るように叩き込む拳。
 血のように真っ赤なサンドバッグが、車に衝突でもされたように大きく跳ねた。
 
 見目麗しい少女から繰り出されたとは思えない剛拳。
 その威力も速さも、敵を穿つ鋭さも、以前の敗戦の時とは比べ物にならないほど上がっている。
 記憶の中のヴィヴィオの動きを確実に見切り、捉え、殴り倒せるイメージだってある。
 これなら勝てる、勝てるのだ。後はその日、リングに立てるか。この世界を去って試合のゴングを聞けるかどうかに全てが懸かっている。

「(なんとしても、私はリングに立つ。高町選手を倒す。そして――)」

 チャンピオンを……アインハルト・ストラトスを倒す。
 そうして、自分はもっと強くなる。
 あの日の弱くて馬鹿な自分と訣別するために、聳え立つ壁の悉くを乗り越えてみせる。
 それが出来なければ、生きている価値さえない。


11 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:01:42 IxjslNws0
 そこにあるのは病的なほどのストイックさだ。
 強くならねばならない。強くあらねばならない。
 リンネにとって格闘技とは、その為の手段。
 競技を楽しむだとか、王座が欲しいだとか、そうした諸々は二の次以下だ。

 高町ヴィヴィオにリベンジを果たすというのも、その過程。
 敗北を乗り越えて得られる強さで、更なる高みに到るのだ。
 再び拳を握り、後ろに引くリンネ。
 その時だった。彼女の脳裏に、重厚な男の声が響いたのは。

【……強いのか? その高町という娘は】
【……セイバー】

 サーヴァント・セイバー。
 リンネが召喚したのは、聖杯戦争において最優と呼ばれるクラスの英霊だった。
 人間基準ではかなりの強者であるリンネの拳も、サーヴァント相手にはかすり傷すら付けられない。

 人間とサーヴァントの間には天と地ほどの力の差がある。
 強力な英霊を引けるか否かは、それ即ち聖杯戦争における生存率とイコールだ。
 その点、リンネの召喚した彼は〝当たり〟といって差し障りのない力量とスペックを保有している。
 熾烈を極める聖杯戦争を生き延びるのは並大抵のことではないが、それを可能とするだけの力が、リンネのセイバーにはあった。

 寡黙で無欲な武人。
 どんな姿勢であれ聖杯戦争に臨むにあたって、これ以上の好カードはそうない。
 しかしながら、リンネはこの男のことが苦手だった。
 彼の目だ。彼に見つめられると、リンネは自分の全てが見透かされているように錯覚してしまう。
 
【強いです。ですが、次は私が勝ちます】

 凛とした声色で答えるリンネ。
 だが、それを賛するでもなく茶化すでもなくセイバーは続ける。
 お前の意気込みになど興味はないというような、えらく淡白な態度だ。

【そいつも、お前のような戦士(ファイター)なのか】
【……いえ】

 唇を噛む。
 記憶を掘り返せば、浮かんでくるのはヴィヴィオの笑顔だ。
 無敗だった自分に黒星を付け、コーチやチームメイトと喜びを分かち合っている姿。
 自分には出来ない顔だ。弱かった頃の己ならいざ知らず、今の自分には。

【あの人は、私とは違います。何から何まで】

 たくさんの優しい大人達に囲まれて何不自由なく育ってきた生まれついてのお嬢様。
 格闘技には向いていない非力な身体の持ち主。
 強くならなくても、帰れる家があり、友達がいる。
 何も我慢する必要のない幸せ者――

【負けはしません。私には、強くなりたい理由がある】
「そうか、今ので分かった。負けるのはお前だ、マスター」

 ――決意と闘志を込めて紡いだ言葉は、心底呆れ返ったような声によって切り捨てられた。


12 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:02:21 IxjslNws0
 胸が何かに圧されたように苦しくなり、呼吸が乱れる。
 そこら辺の雑把に何か言われたとしても、有名税の一環として我慢出来る。
 だがセイバーは違う。彼は、正真正銘の強者なのだ。自分よりも、コーチのジルよりも……恐らくは今まで戦ってきた誰よりも強い。
 そんな人物にお前は勝てないと言われて揺らがないほど、リンネの心は強くない。

 インストラクターや他の会員達が近くに居ないのをいいことに、霊体化を解除してその姿を露わにするセイバー。
 黒い軽鎧に身を包んだ長身の男だった。腰まで伸びた銀髪は研ぎ澄ました刃のような煌めきを湛えている。
 何より目を引くのは、服や鎧に覆われることなく剥き出しの両腕――そこに刻まれている双子座のシンメトリータトゥーだろう。
 
 リンネは、キッと己のサーヴァントを睨み付ける。
 たとえ自分より格上であり、身を委ねるべき存在であろうとも今の発言は看過出来ない。
 言うに事欠いて……自分がまた高町ヴィヴィオに負けるなどと。

「お前の目を見ていれば分かる。さぞかし真っ直ぐで輝きに満ちた戦士なのだろう、相手は」
「……何を言って」
「精神論を説くつもりはないが、拳闘と精神性は切っても切り離せない間柄にある。
 驕り自惚れた強者と遜り進み続ける強者がかち合えば……勝つのは後者だ。
 互いの力量と経験が近ければ近いほど、精神の健康が趨勢を分かつ場面は増加する」

 セイバーは、基本的に寡黙な男だ。
 多くを語らず、現にリンネと彼が言葉を交わした回数はたかが知れている。
 これほど喋る彼を見るのは初めてだった。
 らしくない長台詞の一節一節が、的確にリンネの心を抉ってくる。

「私が驕っていると、自惚れているというんですか」
「それ以外の何物でもないだろう。
 お前の目は濁った酒のようだよ、マスター。
 飲み干せば腹を下すこと間違いない、腐り切った瞳だ」
「――っ」

 似たようなことを、自分に言った人物が居た。
 それは、かつての幼馴染。
 姉のようであり、妹のようでもあった少女。
 今は袂を分かって久しい――なのに、いきなり自分の世界へ土足で踏み込んできた――フーカという少女である。

 彼女はリンネを面と向かって糾弾した。今のお前は、ドブのような目をしていると。
 弱者を見下す、腐り切った目をしていると。セイバーはよりによって、彼女と同じことを宣ったのだ。
 全ての過去を振り切って進み続けるリンネが、唯一振り切れずにいる遠い日の〝親友〟。
 元の世界で今も仲間と鍛錬に明け暮れているだろうフーカの姿が、こんなところで自分の前に現れるとは思いもしなかった。

「……撤回してください、セイバー。今の言葉は聞き流せません」
「不服なら令呪でも使ってみるか。お前の進む道は細くなるだろうが、それなら手っ取り早く溜飲を下げられるぞ」

 リンネの歯噛みする音が響いた。
 セイバーは、明らかに自分を挑発している。
 彼の言う通り、令呪を使ってでも強引に黙らせたい衝動に駆られる。

 が、それをすれば後で困るのは自分だ。
 令呪の重要性は既に知識として知っている。これはただの手綱ではない。
 いざという時、自分の命を救ってくれる蜘蛛の糸なのだ。

 そんなリンネをよそに、セイバーはポキポキと肩を鳴らしながら足を進める。
 彼はどこへ向かうでもなく、リンネの真向かいに立った。
 そして、片手を胸の前で広げてみせる。
 その意味は、ファイターであるリンネにはすぐに伝わった。

「……打ってみろ、と?」
「そうだ」

 神秘の宿らない攻撃ではサーヴァントに傷を与えられない。
 しかし触れることは出来るのだから、スパーリングの真似事くらいは可能だ。
 グローブも付けない素手の手の平を構えて、セイバーは打って来い、とリンネへ言った。

「お前の拳の冴えを見てやる。お前が、本当に玉座を狙うに相応しい器かどうかもな」

 ……こう言われては、リンネも引き下がれない。


13 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:02:56 IxjslNws0
 彼女にだって意地がある。むしろ、彼女は意地の塊だ。
 強さだけをひたすらに、病的なまでのストイックさで追い求める若きグラップラー。
 面と向かってこれだけ侮辱され、挑発されて大人しくしていられるほど、リンネは大人ではなかった。

 ザッと床を踏み締め、周囲に人目がないかを確認。
 その上で再び視線を前へと戻し、無感情なセイバーの顔を睥睨する。
 結果は分かり切っているとでも言いたげな表情を、変えてやらなければ気が済まない。
 自分の強さを、この男に認めさせなければ。

「――では、行きます」

 瞬間、肉食獣もかくやといった勢いでリンネが踏み込む!
 引き絞った拳は矢の如し。されど迸る姿は、間違いなく槍の類であった。
 人間相手に放っていいのかと疑問が噴出してくるほどの鉄拳は、過つことなくセイバーの手の平へ吸い込まれていく。

 風船でも割ったような激しく鋭い音が、ジムの中に高らかに木霊した。
 会心の手応え。試合だったなら、一撃でのノックアウトすら有り得る拳撃。
 どうだ、と顔を上げるが――しかし。

「……やはりな。器ではない」

 セイバーの表情は、微動だにしていなかった。
 溜息混じりに放たれた言葉がリンネを一際深く抉る。
 彼の力を信用しているからこそ、言葉のナイフは切れ味を増す。
 そしてそんな彼女の腹に、〝威力を極限まで殺した〟セイバーの拳が炸裂した。

 腹筋の盾を知ったことかと貫通して駆け抜ける衝撃。身体が真上に浮かび上がり、口から唾液が溢れ出す。
 気付けば――リンネは地を這っていた。目を見開いて、肩で息をし、何が起きたのか分からないと動揺する〝敗者〟の姿がそこにはあった。
 
「リンネ・ベルリネッタ。我がマスター。
 俺に言わせれば、お前は拳闘士として落第の部類だよ。
 端的に言って弱すぎる。それでよくぞ今まで白星を重ねられていたものだ」
「……ッ!!」
「そして生憎だが、お前が強くなる兆しは見えない。
 今の三倍のペースで毎日鍛錬を続けて、睡眠時間を一秒も取らずに鍛え続けて……それでも精々一歩の前進が限度だろうよ。
 高町とやらへのリベンジは諦めろ。無様を晒すだけだ」

 下品な笑い声をあげながら貶してくれた方がまだ幾らかよかったとリンネは思う。
 感情の籠もらない声で淡々と指摘されることにも、慣れているといえば慣れている。
 彼女のコーチであるジル・ストーラの教え方はひたすらに厳しいものだ。
 出来なければ時には突き放す。そういう育て方が、リンネを今の立ち位置まで高めあげてくれた。

 しかし、セイバーはその全てを否定した。
 弱いと。ファイターとして落第だと。
 お前などに、敗北を覆すことは出来ないと。
 大英雄であると同時に生粋の拳闘士でもある彼に、断言されてしまったのだ。

 違う、そんなことはない。
 耳を貸すな。こいつは既に死んだ存在、過去の残響でしかないのだから。
 こんな戯言を真に受けている暇があるなら拳を握り、一秒でも多くの鍛錬を積むべきだ。
 頭ではそう分かっているのに、体は重りでも括り付けられたように倒れ伏した姿勢から動かない。動いて、くれない。

「……どうするかはお前次第だ。
 拳の道を辞して普通の少女に戻るか。
 それとも、泥を啜りながら拳を振るい続けるか。
 どちらであろうと、俺のやることは変わらんがな。
 此度の俺は光輝なる双子座に非ず。召喚者の露払いを粛々と成す、ディオスクロイの片割れだ」

 踵を返す、セイバー。
 その体が空気に溶けるように霊体へと戻っていく。
 リンネはそれを、ただ見送るしか出来なかった。
 忌まわしい〝過去(あのひ)〟――弱くて、虐げられるままだった頃のように。

「……違う、私は……ッ」

 諦める?
 そんなこと、出来るわけがない。
 
 強くならなければ、この世は何かを守ることすら許されない。
 だからリンネ・ベルリネッタは誓ったのだ。

 ――もう誰にも見下されないように。
 ――もう何も奪われないように。
 誰よりも、何よりも強くなってみせると己に課したのに。

 虚無感だけが、満ちていた。
 そんな中、リンネの唇が微かに動く。
 人の名だ。しかし彼女が呼んだのは、リンネを此処まで育て上げたコーチ、ジル・ストーラの名ではない。
 
「……フーちゃん」

 袂を分かって久しい、いつかの幼馴染。
 彼女が何よりも嫌悪する、〝弱かった頃の自分〟のように。
 リンネは頼りなく、少女の名を呼んでいた。
 合わせる顔もない、彼女(フーカ)のことを。


14 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:03:25 IxjslNws0
   ▼  ▼  ▼


 ――聖杯の巡り合わせとやらは、成程馬鹿に出来たものではないらしい。

 リンネの下を離れ、哨戒に従事しながらセイバーは独りごちた。
 その視線は両手に装着された、黒鉄の鉄拳へと落ちている。
 それは只の籠手(ガントレット)に非ず。万能の贋作者でも複製には難儀するだろう、神が鍛えた神造兵装に他ならない。
 彼はセイバーでありながら、剣に纏わる宝具もスキルも持たない。
 鍛冶神ヘパイストスが授けたこの拳こそ、セイバーの誇る至上の武器。
 セイバーならぬファイター。拳闘の領域でこそ真に輝く、古代ギリシャの大英雄。

 ――我が召喚者の持つ肉体は、間違いなく天性のものだ。あれに並び立てる者など、この時代にはそう居まい。

 先はああ言ったが、リンネ・ベルリネッタは紛れもなく天才である。
 そこについては、セイバーも異論はない。
 特別な生まれを持たない普通の人間としては、彼女の素養は破格のそれだ。
 凡百の相手なら才能だけで一蹴。実際に目にしたことこそないものの、さぞかし圧巻の試合を演じてみせるのだろう。
  
 だからこそ、セイバーは惜しいと思うのだ。
 あの少女には決定的にあるものが欠落している。
 それは精神面。勝ち続ける者の心というものを、彼女は持っていない。

 遠くない未来――リンネは挫折するだろう。
 完膚なきまでの敗北で心を折られ、リングを降りることになるだろう。
 その未来がセイバーには見えてしまった。リンネの淀んだ瞳を見た瞬間、理解してしまった。
 
 ――師父ケイローンの爪の垢でも煎じて飲んでおくべきだったな。奴ならば、あれにどんな言葉を掛けるか……

 鈍い苦笑を浮かべる。
 それもその筈、彼は天性の戦士であって知恵者ではない。
 教官の真似事をしたところで、教えられるのは小手先の技術のみ。
 そしてそれは、リンネの問題を解決することには繋がらない要素だ。
 となると後は、彼女自身が掴み取るしかない。
 肉体に由来しない、無形の強さ。真に自分に欠落しているものを。

 セイバーは、己を召喚者の道具と弁えている。
 明らかに筋の通らない非道を承服するつもりはないが、聖杯を求めるか否かについては勘案しない。

 そもそも聖杯に託す願いを持たない身だ。
 ならばせめて召喚者が望む通りの剣/拳として仮初の余生を駆け抜けよう。
 それが終わったなら、潔く英霊の座へと還ろう。彼は、そういう思考を持った英雄である。

 だがそう考えると、彼がリンネの強さという聖杯戦争と関係のない、誰に望まれたわけでもない事柄に執着するのはいささか妙な話だったが――


15 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:03:51 IxjslNws0
「行き着く先の明らかな幼娘を捨て置いたのでは、兄貴に何と言われるか分かったものではないからな」

 セイバーの両腕に輝く双子座のタトゥー。
 これは、只の伊達ではない。
 この星座は彼という英霊、彼らという英雄そのものだ。
 
 恋人に射抜かれて天へ昇ったオリオン。
 ゼウスに功績を讃えられ、天に昇る栄誉を許されたケイローン。
 彼らもまた、その類。壮絶な生き様の果て、天に輝く星座の一つとなった双子の英雄。
 ディオスクロイの片割れ。拳冴え渡る勇敢な弟。その真名を、ポルックスといった。

「前途は多難だろうが、故にこそ俺が喚ばれた意味がある。
 俺もまた、苦難に挑まんとする船乗りを導くセントエルモの火なのだから」

 航海の守護神として祀られた経歴を持つセイバーは、苦難に挑む者へと加護を授けることが出来る。
 だが、彼の恩恵を受けられるのはなりふり構わず挑む者だけだ。
 真実を直視し、震えながらでも無明の海に漕ぎ出せる勇者にこそ、セントエルモの火は祝福を示す。

 ――あとは、お前次第だ。

 あくまでも、セイバーは聖杯戦争という戦いを制する為の道具でしかない。
 勝つか負けるか。進むか止まるか。決めるのは、リンネ・ベルリネッタ。強さを望む若きファイターの仕事だ。
 一月の夕暮れに双子座は見えない。だが、双子座の光は今地上に在るのだった。
 寡黙ながらもまばゆく輝く、英雄の魂を秘めた武人。彼もまた、聖杯戦争という無明の海へと船を漕ぐ。


【CLASS】セイバー

【真名】ポルックス

【出典】ギリシャ神話

【性別】男性

【身長・体重】180cm・75kg

【属性】混沌・善

【ステータス】

筋力A 耐久B 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具B++

【クラス別スキル】

 対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

 騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。


16 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:04:26 IxjslNws0

【固有スキル】

 神性:C
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
 主神の血を受け継いでいるセイバーはかつて最高ランクの適正を保有していたが、戦死した兄にその血を分け与えた為適性が低下している。

 嵐の航海神:EX
 セイバーとその兄カストールは、航海の守護神として崇められている。
 オルフェウスの祈りによって苛酷な暴風雨に打ち勝ったことから、風、水、雷など嵐に纏わる三属性に非常に高い耐性を持つ。
 また航海神として彼が与える加護は厳密には航海の安定ではなく、〝結果の不確かな挑戦〟を支えるもの。
 難行に挑もうとする者に加護を与えることで、幸運と複数のランダムなステータスを1ランクアップさせる。

 心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す〝戦闘論理〟。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

 古代ボクシング:A+
 セイバーは剣術以上に、拳術……ボクシングを極めた英霊である。
 剣を用いず拳で戦闘を行う場合、筋力と耐久のステータスが1ランクアップし、代わりに敏捷が1ランクダウンする。
 更にその上で、〝心眼(真)〟のランクを1ランクアップさせる。

【宝具】

『鍛冶神の黒鉄拳(ヘパイストス・ナックル)』

 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜4 最大捕捉:1

 セイバーが鍛冶神ヘパイストスより授けられた鋼の拳。
 これを装着したセイバーは一人で一軍に匹敵する強さを示し、残虐なる拳闘王をも容易く打ち負かしたとされる。
 神が鍛えた神造兵装である為、その強度は非常に高い。セイバー以外の人物では、仮に身に着けることが出来ても拳を振るうことは不可能。
 宝具としての強度、性能よりも、〝セイバーがボクサーとして戦う〟ことそのものが敵手にとって最大級の危険となる。

『遙かなる双子の星(ディオスクロイ)』

 ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

 かつて兄・カストールへと分け与えた神の血を、一時的に取り戻す。
 神性のランクがAまで上昇し、宝具持続中、セイバーは不死の特性を得る。
 神性を持たないサーヴァントの攻撃から受けるダメージを大幅に減少させ、全てのステータスが1ランクアップ。耐久については更にもう一段階のランクアップ補正を受けることが可能。
 それに加えてあらゆる傷への高い抵抗力……高速再生能力まで持つようになり、致命傷ですらものの三十秒もあれば完治する。
 大半の攻撃による痛手を抑え、尚且つ耐性を潜り抜けてようやく与えられたダメージも片っ端から再生していくのだから、敵としては当然堪ったものではない。
 最高練度の武芸と最高峰の肉体を両立させた彼はさながら人の形をした要塞。倒すことはもちろん、背を向けて逃げ出すことさえ至難の業。

【Weapon】

 ケイローンより授かった名もなき剣。
 宝具ほどの神秘や強度は持たないが、かなりの上物。


17 : Dull Strike ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:05:06 IxjslNws0

【マテリアル】

 ポルックス。スパルタの王子で、(厳密には双子ではないが)テュンダレオスとレーダーの間に生まれた英雄カストールを双子の兄に持つ。
 カストールがケイローンより馬術とレスリングを学んだのに対し、ポルックスは剣術とボクシングを学んだ。
 やがて鍛冶神ヘパイストスから鋼鉄の拳を授かり、拳闘術においては師を凌駕する超絶の実力者へと成長していく。
 兄や妹のヘレネと仲睦まじく暮らしながらも名を馳せていった彼は、兄と共にイアソン率いるアルゴナウタイの冒険にも参加した。
 名だたる英雄達と共に過ごした日々は彼にとって非常に充実したものだったようで、「俺の生涯の中でも、最も得難い日々だった」と時折思い出してはそう零す。
 船が嵐に遭って難航した際、同乗していたオルフェウスが琴を奏でて神に祈ると、彼ら双子の頭上に一つずつ大きな星が煌めいたという。
 これは兄弟の絆に感心した海神ポセイドンが風と海を鎮める力を彼らに与えたと言われており、事実その通り。この出来事を通じて、ポルックスは航海の守護神と崇められるようになった。
 その後も最強の守護者とされる神獣級の巨人・タロスを兄や魔女メディアと協力して打ち倒すなど華々しい活躍を収め、兄弟はイアソン達との冒険を終える。

 が――それから程なくして、アルゴナウタイの船員であったイダス、リュンケウスの双子と対立。
 決闘に発展し、兄は殺され、ポルックス自身もイダスに墓石で頭を打たれ死の淵に瀕してしまう。
 しかしポルックスは死なず、イダスを見事殺し返してみせる。
 されど、彼は勝利の喜びに酔うのではなく、最愛の兄の死を嘆き悲しんだ。
 そして、ポルックスはゼウスへ祈った――どうか、己の血を兄へ分け与えてほしいと。
 それは神の血を、祝福を放棄する行い。ゼウスは制止するが、ポルックスは頑として譲らなかった。
 やがてゼウスの方が根負けし、彼の望み通り神の血の半分をカストールの遺体に注ぎ込み、ディオスクロイの片割れを蘇生させる。
 蘇ったカストールと完全を捨てたポルックスの二人は再会を喜び合いながら天へと昇り、夜空に輝く双子座になったとされている。

【外見的特徴】
   
 黒い軽鎧を装備した、銀髪長身の偉丈夫。
 体付きは筋肉質だがよく引き締まっており、鍛錬の程が窺える。
 両腕は防具を装備しておらず、肌が剥き出し。
 それぞれの腕に、双子座の星座を模した蒼い刺青が刻まれている。

【聖杯にかける願い】

 持たない。サーヴァントとしての役目を果たし、名だたる英雄達との戦いに明け暮れるだけ。


【マスター】

リンネ・ベルリネッタ@Vivid Strike!

【マスターとしての願い】

 元の世界への帰還

【Weapon】

 ■スクーデリア
 宝石をはめ込んだ、ペンダント型のデバイス。
 彼女を引き取ったベルリネッタ・ブランド製の宝石がベースとなっている。
 戦闘時、リンネはこのデバイスを用いて数年歳を重ねた姿、通称〝大人モード〟に変身する。

【能力・技能】   
   
 競技格闘戦のセオリーを覆すほどの、常軌を逸した筋力を持つ。
 それでいてパワー以外の各種運動能力も軒並み全国レベルに達しており、百年に一人の天才と称される。
 格闘のみならず魔法の腕も高く、バトルスタイルは一切の隙が存在しないトータルファイティング。

【人物背景】

 孤児院で育った、銀髪白磁の少女。中学一年生。
 格闘技の名選手で、DSAA・U15ワールドランク1位の称号を持つ。
 ひょんなことから富豪ベルリネッタ家に養女として迎えられるが、通い始めた学校でいじめのターゲットにされてしまう。
 家族に迷惑をかけまいと苛酷な日々を耐え続けるも、いじめが原因で最愛の義祖父の死に目に立ち会えず、激昂。
 〝自分が弱いのがいけなかった〟という結論に到達し、いじめっ子三人を暴力で制裁、紆余曲折を経て格闘技の道に足を進めることになる。
 しかしこの経験からリンネは自分の強さに固執して力ばかりを欲するようになり、平然と他者を見下すような人格の持ち主に変わってしまう。

 その後は圧倒的強者として格闘技の世界に君臨。何度も嘔吐するほどの厳しいトレーニングで自らを徹底的に鍛え抜きながら戦いの日々を送っていたが、判定とはいえ一度自分に黒星を付けたファイター・高町ヴィヴィオとの再戦に向け調整を重ねている最中、偶然にも聖杯戦争に巻き込まれてしまった。
   
【方針】
 
 聖杯に興味はないので、早急にこの世界を出て元の世界に帰りたい。
 ……しかしセイバーの言葉は、鎖のようにその心に絡みついたままでいる。


18 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:06:20 IxjslNws0
投下は以上になります。
経験もノウハウも乏しい未熟者ではありますが、精一杯企画を運営させていただこうと思います。
皆さま、どうかよろしくお願いいたします


19 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/10(日) 17:08:01 IxjslNws0
また何かご質問などあればいつでも受け付けますので、お気軽にどうぞ。


20 : 名無しさん :2017/12/10(日) 19:50:23 FiMVUX0U0
マップが有ると捗る気がする


21 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/11(月) 01:08:14 hapAbueY0
>>20
ご意見ありがとうございます。
急ごしらえですが、マップを用意させていただきました

ttps://www65.atwiki.jp/fro2018/pages/19.html


22 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:17:46 IC4GNfAM0
投下します


23 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:18:19 IC4GNfAM0
 
 異様な光景だった。
 現代日本の往来の真ん中で、合わせてざっと三百人近くは居るであろう二つの群衆が何やら怒号を交わし合っている。
 幸い、双方の間を隔てるように警官隊が立っている為荒事には発展していないが、それでも時間の問題だろう。
 現に制止する警官に食ってかかる者の姿も、少なからず確認できる。

 二十一世紀の日本でこんな光景が見られるのか、というほど昭和的な光景だが――これはいわゆる〝デモ〟だ。
 政治的に異なる思想を持つ二派の片方が往来の真ん中で声を張り上げながら行進し、それに対抗すべくもう一方が出てきた形である。
 一般市民からすれば大迷惑な話だったが、警官による交通規制は既に敷かれてあるため不運にも巻き込まれてしまうといった事態は起こり得ない。

 ある警官の顔を見ると、彼は心底うんざりした様子だった。
 京都は何しろ人口が多い。今までにも何度かデモが行われ、衝突が起きることはあったが、今回はその中でもかなり規模の大きい方だ。
 黄門の印籠宜しく警察の威光を振り翳して退散願えばいいのではと思うかもしれないが、それで上手く行くならとっくにやっている。
 ただでさえ熱くなっている彼らに権力など振るおうものなら、それはまさに火に油を注ぐ行いだ。
 今回はどうにか退散させられても必ず近い内に、もっと大きな規模で次が来る。だから、手は出せない。こうして調停に努めるしかないのだ。

「下がれ愚か者共! 自分達が正しい行いを阻んでいることが何故分からないッ!!」

「愚か者はお前達だ! 自分が絶対的な正義だと思い込んでいる悪党共に歩かせる道はないッ!!」

 拡声器の効果も相俟って、双方の代表が喚き立てる声は耳が痛くなるほどだ。
 鬼気というのは、まさにこういうことをいうのだろう。
 成程、確かに彼らにならば人が付いて行くのも頷ける。

 彼らにはカリスマ性があった。
 人を惹き付け、「この人ならば、もしかしたら」と思わせる人間的魅力。
 集団を率いて何かを成そうとするならば、それは必須の資質だ。
 どれだけ素晴らしい実績を持っていても、結局魅力のない人物には誰も付いて行かない。
 
 そして故にこそ、二つのデモ隊が手を取り分かり合う日は永遠に来ない。
 どちらも違う象徴に惹かれ、理想を追い始めた者達の集まりなのだから。
 永遠の平行線。この場の誰もがそう分かっているし、分かっているから譲らない。
 なんて不毛な争いだと警官の一人が嘆きを溢してしまったのも詮なきことであろう。

 と――その時だ。
 怒号がぶつかり合って隣の人間の声も聞こえないような状態であるというのに、この場に居る全ての人間の耳に聞こえる音があった。
 アスファルトを叩く靴の音だ。奇妙なほどよく通るのに全く邪魔に感じない、小気味のいい音がする。

 バッと群衆の中の何十人かが一斉に振り返る。
 その勢いに気圧されて、また何人か振り返る。
 この繰り返しが、ほんの十秒ほどの間に何度となく行われた。


24 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:18:50 IC4GNfAM0

 彼らの視線の先に立つのは、警官ではない。
 デモの喧騒に腹を立てた民間人でもなければ、政治家でもどちらかの援軍でもない。
 黒いスーツの男だった。背丈は日本人男性の平均より少し上程度で、体付きも平凡。
 唯一目を引くのはその顔だ。縁日で売っているようなチープな特撮もののお面を被っている。
 
「だ……誰だ、お前は?」

 先程はああ言ったが、この場に集っている彼らは揃ってただの人間だ。
 先頭に立って怒号を吐き出すリーダーですら、その例外ではない。
 しかしながら。ただの人間にも分かるほど、この黒スーツは異質な存在だった。

 陳腐な表現になるが、纏っているものが違う。
 オーラ、とでも言おうか。
 とにかくこの男は凡人とは全く違うものを宿している。
 そのことだけは、誰の目にも明らかであった。

「君達は不満なのだな――今の治世が」

 発せられた声は甘く暴徒達の鼓膜に吸い込まれた。
 お前は誰だ、という問いに対する答えとして成立していないにも関わらず、誰もそれに反感を抱けない。
 指摘するよりも先に感嘆と驚き、何より〝彼の〟問いに対する肯定の感情が湧き上がってくるのだ。

 そうだ、不満なのだと口々に皆が言う。
 やれ政策が悪い、経済が悪い、外交が悪い。
 いやそこは良いそこは駄目だ、やれあれも駄目だろうと言い争いながらも、噴出した不満は際限なく怪人の耳に吸われていく。
 元を辿れば彼らは国や国民の生活を憂いて集った者達。そんな集団にこんな問いを投げれば、こうなるのは当然の話だ。

「今の君達の様子を見て、二つ分かったことがある」

 男が喋ると、白熱した空気が冷水でも浴びせかけられたように一瞬で鎮静。
 誰一人意識していないにも関わらず、自然と彼の声を聞く為に押し黙ってしまう。
 そんな様子に、男は「いい子だ」と子供でもあやすように微笑。語り始めた。

「一つ。君達は、とても深い愛国心の持ち主だということ。
 思想や主義の違いはあれど、誰もが熱く熱くこの国のことを想っている」

 彼の声は聞く者の胸を打った。
 子を認める父親のような響きがそこにはあった。
 
「一つ。この国には――そんな君達の熱を力に変えるだけの指導者がいないこと」

 そうだ、と誰かが言った。
 一人の声は隣に伝播し、やがて大勢へ。
 さながら――感染爆発(パンデミック)のように。


25 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:19:19 IC4GNfAM0
 
 自分達はこれほどまでに国を愛している。
 なのに現状は遅々として進まない、張り上げた声はただ虚しく響くのみだ。
 それを的確に指摘してのけた黒い怪人に向けて放たれる声は既に半ばほど歓声に変わっていた。
 
「問おう。君達の声はいつか届くか?
 愚鈍にして蒙昧な、指導者なき政府を動かせるか?
 君達が悪いのではない。君達の熱で、国という機械を動かせる者が存在するか? この国に!」

 いない、いない。
 声が伝播する。とめどなく。
 調停役の警察達は皆口をあんぐりと開けて、目の前の事態に驚愕している。

 何が起こっているのか分からない。どんな政治家でも、こんな芸当は不可能だ。
 こんなにも巧く人の心を掴み、鎮めつつも燃え上がらせるなど――人間業ではない。
 まるで何か見えない力が働いているようだと、誰かが思った。
 しかし、生まれた疑念の寿命は短かった。

「否だ! 存在する!!」

 再びの静寂。
 無理もないだろう。
 派閥を超えて始まっていた〝流れ〟の爆発に、焚き付けた者自ら水を差してきたのだから。
 が、群衆が萎え始めるすんでのところで「それは!」と声のボリュームを上げる。


「それは、この私である!!」


 ――高らかな宣言は、今日一番鋭く大きく、封鎖された街並みの中木霊した。


「私は決して虚言を弄したり、誤魔化したりはしない! 
 従って私は、いかなる時も我が国民に対して妥協したり、口先だけの甘言を呈したりすることを拒否するものである!!」

 ……彼の言っていること自体は、何ら奇を衒ったものではない。
 国民を愛国者と持て囃すことなど、どんな愚図でも出来る。
 そこから体制批判に繋げるのはもっと簡単だ。
 極めてありきたり。今の時代、少し頭のいい子供でも思い付くような内容である。
 
 にも関わらず、彼の言葉に群衆はそれこそ子供のように熱狂した。
 デモ隊のみではない。それを調停し、平穏を守る立場である筈の警察までもが同調し始めている。
 では言葉の内容以外の何が、彼らをこうまで惹き付けるのか。

 それは、話術。
 徹底的に計算された演説の手際と、心理を揺さぶる抑揚。
 そして――今しがた熱狂の波に溶けたある警官が抱いた違和感の通りの、〝見えない力〟。


26 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:19:42 IC4GNfAM0

 加護、あるいは呪い。
 後天的に植え付けられた、覇者の気質。
 世界だって揺るがせる、嵐のような男。それが、彼だ。

「日本国民よ、我にわずかな時を与えよ。しかるのちに我を判断せよ!
 私は誓おう。君達の国を愛する心、熱き志を必ずや未来へ繋げてみせると!!」

 からん、と何か軽いものが地面を転がる音がする。
 それぞれのデモ隊のリーダーが、拡声器を取り落とした音だった。
 それが、最後の合図。この場の全員の心が、熱病のようなカリスマに当てられた瞬間。

「そして、私にしか君達を守ることは出来ない。
 何故なら私は知っている!
 この素晴らしき町に巣食う、病巣のような者達のことを!
 君達の平穏を脅かし、日常の落日をもたらさんとする、未だ誰も嗅ぎ付けていない悪魔共のことを!!」

 両手を大きく広げて体を反らせる姿は、さながら大統領か何かのよう。
 それもその筈。彼は大統領になったことはないが、大統領にも勝る権力を手にしたことはある。
 指導者として思う存分手腕を発揮し、国の行く末を導いたことがある。
 反戦が絶対的マジョリティとなった現代の何倍も激しく厳しい時代で、国家の先頭に立って覇を唱えたことがある。
 その彼にしてみれば、温室のような平和の中でぬくぬくと育ってきた子供を手玉に取る程度造作もないことだった。

「日本国民よ。もしも、君達が私を支持するというのなら――」

 空を切る快音が響くほどの勢いで、黒スーツの指導者は己の右腕を斜め前方へと掲げ、左腕を自らの腹へと当ててみせた。
 彼の国で用いられていた敬礼。
 現代では、するだけでも常識を疑われる代物。
 
「ありったけの万歳を唱えてくれ。我が君臨を、祝福してくれ」

「ば――万歳!!」

 誰かが叫んだ。
 すると、それを聞いた隣が叫ぶ。
 それを聞いてまた誰かが叫んで。
 わずか一瞬にして、往来は怒号ではなく喝采に変わった。

「万歳! 万歳! 万歳!」

 万歳三唱が轟き渡る。
 病魔のように感染した狂気が指導者への親愛に変わる。
 
「万歳! 万歳! 万歳!」

 男が現れてからまだ五分も経っていない。
 にも関わらず、彼は完璧にこの場を支配してしまった。
 武力も恐怖も使わず、ただ己の魅力と話術のみで。
 
「万歳! 万歳! 万歳!」

 響く万歳(ハイル)の声を心地よさそうに聞きながら、仮面の奥で男は微笑む。
 指導者でもあり、挑戦者でもあり、冒険者でもある彼の顔は髭面だった。
 鼻の下にだけ生えた髭が比較的整った顔立ちをより個性的なものにしている。
 今日び小学生でも知っている、世界で最も忌み嫌われた男の顔がそこにはあった。
 
 そうとは知らず万歳を唱える民衆を愚かしいと嘲笑いながら、彼は呟く。

 ハイル・ヒトラーと。


27 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:20:07 IC4GNfAM0
   ▼  ▼  ▼


「何をしてるのよ、あなたは」

 不満げに呟いたのは、白皙の少女だった。
 日本人離れした可憐な顔立ち、白い肌に白い髪。
 赤い瞳は宝石のような深みを湛えている。
 その細くしなやかな片手には、年端も行かぬ少女にはこれ以上なく似合わない赤の刻印が刻まれていた。

 それは令呪。
 此処ではないどこかの世界から、これから魔都になる古都を訪れた者の証。
 妖精のように可愛らしい彼女もまた、聖杯戦争のマスターの一人に他ならない。 
 それどころか彼女は、聖杯戦争に参加するべくして生まれてきた――もとい〝生み出された〟存在である。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 魔術の名門と呼ばれる家は山のように存在するが、その中でも間違いなく上位に入るだろう資金力と技術を有したアインツベルン家。
 そのアインツベルンが聖杯戦争に送り込んだ、最高傑作と謳われる仕上がりのホムンクルスが彼女だ。
 もっとも、本来彼女が参加するのは地方都市冬木での聖杯戦争であり、間違っても京都の戦争などではなかったのだが……

 今回の聖杯戦争は、イリヤにとって二度目の戦争であった。
 彼女が戦うべき本来の聖杯戦争は、既に終わってしまっているのである。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの敗北という、最悪の結末で。

 思い出したくもない光景は今も脳裏に焼き付いている。
 命のストックを瞬く間に削られていく、己のバーサーカー。
 目を斬られ、心臓を抉り出されて自分は死んだ。

 そして――完全に息が絶える寸前。
 何か硬くて小さなものを掴んだのを覚えている。
 結論から言えば、イリヤがこの世界に迷い込むに至ったのはその掴んだものこそが原因だった。
 名を、無記名霊基。願いを叶える戦いに臨むための入場券。

 思うところがないわけがない。
 イリヤにとってかの大英雄は、無二の存在だった。
 単純な主人と従僕の関係などでは、断じてなかったのだ。
 それをあんな形で奪われて心が動かないほど、イリヤは無機質な人形ではなかった。
 
 だが、消沈してもいられない。
 聖杯の獲得はイリヤの生まれた意味であり、使命だ。
 一度は逃したそのチャンスが、こうしてもう一度転がってきた。
 ならば、それに縋らない手はない。今度こそ聖杯戦争を制し、願望器を持ち帰る。
 
 大聖杯ほど優れた杯なのかという疑問もあるにはあるが、何せこれだけの規模とスケールで行う儀式なのだ。
 同格、もしかするとそれ以上。最低でも大聖杯に限りなく近い、上等な代物であろうとイリヤは推察していた。
 となると問題は、熾烈な戦いを制するだけの英霊(カード)を引けるかどうかという話だが――

 幸運にも、イリヤはその運試しに見事勝利することが出来た。
 彼女が引いたサーヴァントは、限りなく最高に近い知名度と破格の宝具を持つ。
 近代の英霊でありながら、故に神代の英雄とさえ互角以上に張り合えるポテンシャルを秘めた一騎。
 十分に聖杯を狙える。アインツベルンに聖杯をもたらし得るサーヴァント。
 にも関わらず、彼女の顔色は芳しくなかった。険しいの一言に尽きた。


28 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:21:01 IC4GNfAM0

「民意の掌握、その第一歩だよ」
「……あのね、神秘の秘匿って知ってる?」

 事もなげに言ってのける髭面のサーヴァント……ランサーに、イリヤは呆れ十割の溜息をこぼす。
 今から二時間ほど前、彼は仮面を被って申し訳程度に顔を隠しただけの装いで以ってデモ隊の衝突現場に顔を出した。
 そして、双方の勢力とその場に居合わせた警官隊を自分の信奉者へと変えてみせた。
 無論、人払いの魔術だの使い魔への対策だのといった備えは一切なしの状態で、だ。

 イリヤに断りもせず勝手に、ランサーは暴挙に出た。
 もしそんな真似をしていいかと問われたなら、一秒と考えることなく切って捨てたというのに。

「君はマスターとしては最高の人材だが、しかしまだまだ幼いな。人の力を侮りすぎている。
 いいかね、民衆とは波なのだよ。放っておけば勝手に凪いでいるだけだが、コントロール出来ればとてつもない力になるんだ」

 ランサーの言い分は、イリヤとしても分からなくはない。
 特に、彼に限っては。
 何を隠そうこの男は、文字通りその方法で世界を揺るがした魔人なのだ。
 人類史上最悪とも呼ばれる、二度目の世界大戦。その引き金を弾いたと言っても過言ではない、最も悪名高き独裁者。

「言っとくけど、此処はあなたの国じゃないのよ、〝アドルフ・ヒトラー〟。ナチスドイツはもうないの。時代が違うのよ」
「いいや、違わないさ。時代が違っても、人は変わらない」

 真名、アドルフ・ヒトラー。
 言わずと知れた、ナチス・ドイツ第三帝国の指導者。
 人種差別政策を公然と掲げ、民族浄化の名の下に数多の命を虐殺した男。
 彼はあくまで民衆を道具として使い、社会の波を味方に付けながら聖杯戦争に勝利する腹積もりでいるらしい。
 
 イリヤとしてはなんとも頭の痛い話だった。
 何故か。答えは、それがあまりに現実的ではないからだ。
 確かに民衆の力を完全にコントロールし、操れたなら得られるアドバンテージはかなりのものだろう。
 だが、それだけ派手に立ち回れば否応なく素性を露見させてしまうことに繋がる。

 まして、アドルフ・ヒトラー。
 真名特定の難易度はあまりにも低い。
 彼が先の演説の際に仮面を被って、黒のスーツなんて着用していたのも、素顔を晒せば一瞬で真名がバレてしまうから、という理由である。
 ……その割に、思い切りナチス式の敬礼をしている辺りは迂闊という他ないが。

「それに、良いではないか。
 仮令不届き者が無粋を働いたとしても――私には、これがある」

 ランサーが虚空に手を翳すと、黄金の粒子がそこに集まっていく。
 やがてそれは一つの確たる形を取り、ランサーの身の丈ほどもある巨大な黄金の槍へと変わった。

 一目見ただけでも、万人が理解しよう。
 これは、尋常な武器ではない。
 近代英霊であるランサーが持つには、あまりにも不釣り合いな代物だ。


29 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:21:30 IC4GNfAM0

 格も秘めた威力も、神話に語られる兵装に匹敵、それどころか凌駕している。
 人類史を逆さに引っ繰り返したとしても、これほどの業物が幾つ出てくるか。
 それほどの代物だった、彼の〝宝具〟は。

「『巡り廻る宿命の槍(ロンギヌス)』。聖槍、と呼ばれるこれの威力は見せずとも分かるだろう?」

 イリヤは、何も言えない。
 聖槍ロンギヌス。神の子を貫いた、万人が認める最上位聖遺物。
 ランサーの第一宝具は、その真作である。
 
「……私は元々、世界を取る器ではなかった。
 何せ、目指した大学にすら上手く入れない程度の男だ。
 有名な演説だって、あんなものは計算と練習でどうとでも出来る。誰がどう見ても、ナチスに未来はなかった」

 この槍を、奪うまでは。
 愛おしそうに、ランサーは聖槍を撫でる。
 自分の子供に対して見せるような、柔らかで落ち着いた姿であった。

 ――アドルフ・ヒトラーはロンギヌスの槍を手にし、覇道の道を突き進んだ。
 しかし米軍にロンギヌスが奪還されたことで加護を失い、一気に運命の坂道を転げ落ち、破滅した。
 眉唾物のオカルト話では彼の生存説と並んで定番の〝ネタ〟だが、誰が信じるだろうか。
 それが嘘でも冗談でも何でもなく、真実であるということを。

「聖槍は私を魔人に変えた。あの時教会の狗共に掠め取られさえしなければ……私が、私達が夢見た穢れなき正しい世界が実現していたのだッ!」

 ヒステリーのように声を荒げ、口角泡を飛ばすランサー。否、ヒトラー。

「私は大戦をやり直す! 真に聖槍を扱える身体になった今ならば、ナチスは必ず全ての敵を打ち倒せるのだ!!」

 彼の言い分は、確かに合っている。
 聖槍は魔性の聖遺物だ。
 手にした人間に、力と運命を与える。

 だが聖槍がもたらす運命は必ずしも成功だけとは限らない。
 成功の果ての破滅。
 あるいは、狂乱をももたらすのがロンギヌスという宝具。

 そしてヒトラーは、その典型だった。
 今の彼は明らかに狂している――生前のそれに輪をかけて、暴走の兆候が絶え間なく覗いている。
 聖槍が、それしきのリスクが軽く見えるほどの代物だというのはイリヤとて重々承知だ。

 それでも、一抹の不安を覚えずにはいられない。
 錆び付いて噛み合わなくなった歯車を無理やり動かしているような、奇妙な感覚がある。
 万夫不当の大英雄と共に駆け抜けてきたイリヤにとって、それは生まれて初めての感覚だった。
 バーサーカー……ヘラクレスの時には、常に安心感と余裕があったのに。


30 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:22:07 IC4GNfAM0
「時に」

 直前まで喚き立てていたランサーが、急にケロッと落ち着いてイリヤに視線を戻す。
 病的な態度の変わりようは、果たして生来のものなのか。
 それとも。彼の中で煮え立つ狂気の片鱗なのか。

「君は、なかなか私(ナチス)に染まってくれないようだね。
 やはりマスター相手には効果が薄いのか。それとも、君がホムンクルスだからなのかな」
「……さあ、どちらでしょうね」
「どちらにせよ、君にはもっと自分のサーヴァントを信用してほしいものだ」

 湯気を立てるコーヒーを啜りながら、困った風に言うランサー。
 それに、イリヤはくすりと笑った。
 この世界に来てからの――バーサーカーを失ってからの彼女には珍しい、〝イリヤらしい〟無邪気さと残酷さの入り混じった微笑だった。
 
「生憎だけど、それには応えられそうにないわ」

「ほう。何故だね、イリヤスフィール」

「わたしのサーヴァントはバーサーカーだけよ。ランサーなんかじゃないもの」

「ハハハ。これは手厳しいね、お人形(ホムンクルス)さん」

「調子が戻ってきたかもしれないわ、お人形(マリオネット)さん」

 張り詰める空気。
 お世辞にも良好とはいえない主従関係が垣間見える一幕。
 それを、黄金の聖槍はただ見守っていた。
 
 聖槍ロンギヌス。
 それは、運命をもたらす槍。
 人の手を巡り、廻り続ける黄金の槍。
 これは必ずや、アドルフ・ヒトラーとイリヤスフィール・フォン・アインツベルンにも然るべき運命(さだめ)を与えることだろう。

 輝かしい栄光か――それとも、おぞましい破滅か。

 どちらに転ぶかは、未だ誰にもわからない。
 

【CLASS】ランサー

【真名】アドルフ・ヒトラー

【出典】史実(WW2)

【性別】男性

【身長・体重】175cm・70kg

【属性】秩序・狂

【ステータス】

 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A+ 幸運D 宝具EX

【クラス別スキル】

 対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、魔術ではランサーに傷をつけられない。
 ランサーは、宝具である聖槍の加護によってこのスキルを獲得している。

 狂化:E+++
 通常時は狂化の恩恵を受けない。
 その代わり、正常な思考力を保つ。
 ただし自身が不利な局面に立たされると一定の確率で〝発作〟を引き起こし、理性を保ったまま理屈の通らない行動に出てしまう。
 ランサーは、宝具である聖槍の反動によってこのスキルを悪化させられている。


31 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:22:46 IC4GNfAM0

【固有スキル】

 精神汚染:EX
 精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を完全にシャットアウトする。
 同ランクの精神汚染がない人物とも意思疎通自体は可能だが、根っこの部分で決して噛み合わない。
 ランサーを真に理解するためには、彼と同じだけの狂気とパラノイアが必要となる。
 本来のランクはAだが、聖槍の反動によって汚染の深度が深まっている。

 指導者特権:A++
 一国を絶対的な権力で統治した独裁者のみが所有するスキル。
 近現代の英霊であればあるほど、優先してこのスキルを獲得出来る。
 ランサーの持つ特権は彼が率いたナチス・ドイツの象徴的政策、ホロコースト……つまりは弾圧、虐殺。
 敵が弱ければ弱いほど、弱っていればいるほど、万全から遠ければ遠いほど、ランサー並びにその同胞が与えるダメージ量は増加する。
 近代最大の悪名を持つランサーのランクは非常に高い。

 狂気のカリスマ:A
 大軍団を指揮・統率する才能。
 ランサーの場合、味方全体に抵抗判定を行わせ、失敗した対象全てにCランク相当の狂化を付与する。
 この効果を受けた者は理性は保つものの、盲目的にランサーを信頼、その敵に強い敵愾心を抱くようになってしまう。
 解呪の手段さえあれば容易く狂化は外せるが、当人にはそれを付与されたという実感が発生しないため、気付かれにくい。
 まして聖杯戦争の序盤、主従間の信頼関係が未熟な間は尚更。植え付けられた盲信は、出会った運命すらも破壊する。

 芸術審美:E
 芸術作品、美術品への造詣。
 芸能面における逸話を持つ宝具を目にした場合、高確率で真名を看破することができる。

【宝具】

『巡り廻る宿命の槍(ロンギヌス)』

 ランク:EX 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1000

 聖槍ロンギヌス。神の子、イエス・キリストの腹を貫いたとされる槍。
 地球上に存在するありとあらゆる聖遺物の中でも最大級の神秘を宿す代物であり、当然そのランクは規格外を示すEX。
 厳密には〝聖槍〟とされる聖遺物は複数存在し、現在でも保存されているのだが、ランサーが所有するのは正真正銘オリジナルの聖槍。
 彼はハプスブルク家より槍を奪い、米軍によって奪還されるまでの十年弱を共に過ごした。
 ランサーはサーヴァントとなったことで生前以上に聖槍と強く結び付き、魔力の大幅な上昇と対魔力装甲を獲得している。
 だが反動も大きく、生前以上に抱える狂気の深度と激しさを悪化させられてもいる。
 肝心の宝具としての性能は、切っ先からの魔力光放射と投擲による対人・対軍破壊。
 その威力たるや凄まじく、直撃すれば一神話体系の上位に君臨するサーヴァントですら容易に死に至らしめるほど。
 通常時でもAランク宝具の真名解放に匹敵する火力だが、真名解放を行えば火力はその三倍以上に跳ね上がる。
 武器としても破格の性能を持ち、聖槍自身の意思による自動攻撃・自動防御機能を持つ。
 彼は近接戦の出来るようなステータスはしていないが、この自動戦闘機能だけで極致に達した戦士と渡り合うことをも可能とする。
 また、この宝具はランサーが消滅したとしても、彼とは別の存在として〝聖杯戦争終了まで現世に残る〟。
 テオドシウス、アラリック、テオドリック、ユスティニアヌス、カール・マルテル、シャルルマーニュ、アドルフ・ヒトラー、エトセトラ。
 数多の人間の手に渡り、手にした者に栄光と破滅を齎してきた聖槍は、この期に及んでも尚世界に混沌をもたらし続けるつもりらしい。


32 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:23:41 IC4GNfAM0

『いざや掲げよ鉤十字・熱病の第三帝国(ナチス・ドイツ=ダス・ドゥリッテ・ライヒ)』

 ランク:D+ 種別:対民宝具 レンジ:- 最大捕捉:∞

 聖杯戦争の主役たるサーヴァント達ではなく、そのマスターや無辜の民衆達に対し働く洗脳宝具。
 直接の対話、或いは何らかの媒体を通してのアプローチにより、対象とした人物にランサーへの盲目的な信頼を植え付ける。
 〝狂気のカリスマ〟と似た効果だが、サーヴァント相手に通じない代わりに人間に対する効果ならばこちらの方が上。
 アプローチが直接的であればあるほど洗脳の深度は増すが、対話によって解除することも可能。
 しかし深度が深ければ並大抵のことでは解けないため、対話を持ちかける側の熱意と巧みさが重要となる。
 真名解放を行うことで、ランサーの声が聞こえる範囲にいる洗脳済みの民衆全てを暴走行動に及ばせる。
 たかが人、されど人。熱に侵された群衆は、津波のように社会を滅ぼす。

『絶滅燔祭・無穢世界(アウシュヴィッツ=ビルケナウ)』

 ランク:C〜EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1〜500

 アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。ランサーの行った大虐殺・絶滅政策ホロコーストがそのまま宝具に昇華されたもの。
 効果範囲内の空間に英霊にすら作用する毒ガスを展開し、そこに存在する生命という生命を軒並み虐殺する。
 この虐殺によって殺めた魂は従来の魂喰いの数倍の効率でランサーに供給され、彼の魔力プールを迅速に満たしていく。
 本来であれば、宝具の効果はそれまで。強力な魔力回収宝具ではあるものの、威力も範囲もそう秀でたものがあるわけではない。
 だがイリヤスフィールという最良のマスターを引き当てたランサーは、さながら収容所を建て増すが如く、虐殺の範囲となる空間を広げることが可能となっている。
 彼の最終目的は、第二宝具『いざや掲げよ鉤十字・熱病の第三帝国』によって勢力を拡大しつつ、その傍らで魂喰いによる魔力の貯蔵を続け、宝具の展開規模を京都市全域にまで拡大させること。
 その上で宝具を発動、約150万の京都市民を生贄に捧げて自己を最強のサーヴァントへと高め上げようと目論んでいる。
 仮にそれが成されたなら、ランサーは聖槍を自動操作ではなく自らの力で扱いこなし、無尽蔵に近い魔力で全ての敵を鏖殺するだろう。

【マテリアル】

 アドルフ・ヒトラー。第二次世界大戦にてかの悪名高きナチス・ドイツを率いた、恐らく地球上で最も悪名高く典型的な独裁者。
 第一次世界大戦までは芸術家を志す無名の一青年に過ぎなかったが、大戦勃発時には自ら志願して従軍。
 果てには国家社会主義ドイツ労働者党――ナチスの指導者としてアーリア民族を中心に据えた人種主義と反ユダヤ主義を掲げた政治活動を行うようになった。
 1923年に中央政権の転覆を目指したミュンヘン一揆の首謀者となり、一時投獄されるも、出獄後は合法的な選挙により勢力を拡大。
 その後大統領による指名を受けてドイツ国首相となり、首相就任後に他政党や党内外の政敵を弾圧し、ドイツ史上かつてない権力を掌握した。
 更に1934年には大統領の死去に伴い、大統領の権能を個人として継承する。こうして彼という人格が最高権力の三権を掌握し、ドイツ国における法そのものとなり、彼という人格を介してナチズム運動が国家と同一のものになるという特異な支配体制を築き上げた。
 彼の思想は北方人種こそ世界を指導すべき人種であるというもので、様々な法や政策で有色人種やユダヤ系、スラブ系、ロマと国民の接触を断ち、迫害を進めていった。
 ナチスの統治は1939年のポーランド侵攻によって第二次世界大戦を引き起こし、戦争の最中でユダヤ人に対するホロコースト、障害者に対するT4作戦などの虐殺政策が推し進められた。今日まで語り継がれるナチスひいてはヒトラーの悪行の最たるところがこの虐殺行為である。
 ヒトラーは幾度かの暗殺計画を生き延びたものの、1943年、スターリングラード攻防戦の敗北以降坂道を転げ落ちるように劣勢となっていく。
 やがて彼は全ての占領地と領土を失い、ベルリンの総統地下壕内で拳銃自殺した。


33 : Destiny ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:24:37 IC4GNfAM0

 此処からが、歴史の真実の話。
 アドルフ・ヒトラーが第三帝国の名の下に聖遺物〝ロンギヌスの槍〟を入手していたという話は有名だが、彼が手にしたのは嘘偽りなく正真の聖槍で、その加護によって破竹の勢いで戦勝を重ねることが出来ていた。
 が、事態を重く見た聖堂教会と米軍の混合部隊の暗躍により聖槍を奪還されたことで加護が消失。そのまま敗戦へと追い込まれた。
 サーヴァントとして召喚されたヒトラーは、神秘存在となったことで聖槍を武器として使用出来るようになっている。
 もしも――もしも万一、ナチスが彼の聖槍を死守していたなら。先の大戦の結末は、全く違うものとなっていたかもしれない。

【外見的特徴】
   
 ナチスの軍服を着用したちょび髭の男。
 顔立ちは精悍だが、〝発作〟時には目を大きく見開いた狂気の形相となる。

【聖杯にかける願い】

 第二次世界大戦のやり直し。聖槍の力を以って、今度こそ理想の地平を作り上げる。


【マスター】

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night

【マスターとしての願い】

 聖杯入手

【Weapon】

 ■シュトルヒリッター(コウノトリの騎士)
 彼女自身の髪の毛を媒介とした使い魔。
 術式名は『天使の詩(エルゲンリート)』。
 オートで追尾するビットに近い自立浮遊砲台の小型の使い魔で、小型ながら魔力の生成すら可能。

【能力・技能】   
   
 マスターとしては凡そ最高峰の適性を持ち、凄まじく魔力を消耗する大英雄のサーヴァントをすら苦もなく維持することが出来る。
 ただしマスターとしては群を抜く適性を有してはいても、聖杯戦争のためだけに育てられたという歪な教育課程のためか魔術師としての技量そのものは未だ高くなく、まだまだ発展途上。
 もっともこちらの適性もホムンクルス故に高く、魔術回路の数も通常の魔術師を圧倒し、自立型魔術回路とでも言うべき存在。

【人物背景】
   
 〝最高傑作〟と謳われる、アインツベルンのホムンクルス。
 第四次聖杯戦争開始に先立ち、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの卵子と衛宮切嗣の精子を用いて作り出された。
 なお、ホムンクルスでありながら、その過程でアイリスフィールの母胎から〝出産〟されることで生を受けている。生まれながらに聖杯の器となることが宿命づけられており、母親の胎内にいる間から様々な呪的処理を施されている。しかしその反作用として、発育不全・短命などのハンデも背負っている。
 第五次聖杯戦争にて、バーサーカーのサーヴァント・ヘラクレスを召喚。苛烈な訓練を経て、人格を失っているはずのバーサーカーと強固な絆を得るが、聖杯戦争の最中にイレギュラーである黄金のサーヴァントと交戦。敗北し、心臓を抉り出されて死亡する。

【方針】
 
 ランサーを使い、使命を果たす


34 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/14(木) 00:25:07 IC4GNfAM0
投下を終了します


35 : ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:17:54 Z9sKVX060
投下します


36 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:19:51 Z9sKVX060


手足をもがれたアンドロイドを見た。それを殺せない自分を見た。

心を奪われ、しあわせに暮らす人々を見た。それを見逃す自分を見た。

尊厳を奪われ、激痛に悶え苦しみながら死に行く自分を見た。
そして今、それを見ていた自分がここにいる。



「……なんや、嫌な夢やったなあ」皮膚を切り裂くような1月の冷気に耐え、布団から這い出ながら彼女は呟いた。
青い髪にブラウンの瞳。顔立ちは端正で、やや垂れた目元や豊かな表情が彼女を年齢より幼く見せる。
紛うことなき美人である彼女だが、しかし彼女を初めて見た者は、美しい顔立ちよりもまずその身体に目を奪われるだろう。
布団から起き上がり、着替えを取りにタンスに向かったところで、彼女は頭……どころかもはや額を通り越して鼻筋の域にあるような部位を天井の梁にぶつけた。
「いったぁ〜! なんでこんなところに天井があんのや!」
明らかに梁は視界に入っていたにも関わらず、頭をぶつけたことによくわからない悪態を吐く。
やはり年齢に比して少し幼い気もするが、彼女は20代をとうに越した大人の女性で、ついでに言うなら身長も195センチ以上はある。
もはや女性の平均より高いどころではない長身。彼女はこれと20年以上付き合っていながら未だに持て余していた。
少し赤くなった鼻筋をさすりながら、彼女は服を脱ぎ始めた。
少しずつ露わになる肉体には女性らしいふくよかさがまるで無く、代わりによく鍛えられた刀を思わせる引き締まった美しい筋肉があり、すらりと長い体躯には、裂傷、打撲、骨折、火傷。ありとあらゆる加虐の詰まった箱をぶちまけたような傷痕が刻み込まれている。
彼女はとうにそれを見慣れているのだろう、特に気に留めるでもなく鼻歌交じりで黒いインナーに袖を通し、上から道着を羽織る。


37 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:21:25 Z9sKVX060
「カズ! 来たでー!」ちょうど着替えを終えた頃、玄関から少年の声がした。
「カズはやめろ! せめて和那姉ちゃん呼べや!」
カズと呼ばれた彼女……大江和那は快活な笑顔を浮かべて少年の呼びかけに応えた。
彼女は今、鞍馬山の麓に居を構える由緒ある槍術道場の師範として生活を送っている。
このご時世、合気道や空手などの素手で行使できる護身術ならともかく、長物を用いる槍術など、よほどの物好きしか習いに来ない。
カズの道場も2、3人の少年と昔を懐かしんだ高齢の男性がふらふらとやってくる程度で、正式な門下生は今日訪ねてきたこの少年しかいなかった。

広間の中央に向かい合って正座し「おはようございます」と挨拶を交わしてから、カズはぽりぽりと頭を掻いて切り出した。
「わざわざ早うに来てもらってすまんけどな、実は今日寝坊してまだ朝飯食っとらんのよ。せやからちょっと待っといてくれんか?」
「俺は食ってきた! やから今は、メシ食ってる分俺が有利ってことやな!」少年の強気な発言にカズは思わず頰を緩ませる。
「ほほお、言うやんけ。キミにも兵法っちゅうもんが分かってきたみたいやな。……よっしゃ! その成長に免じて相手したる!」そう言ってカズは壁に掛けられていた練習用のタンポ槍を手に取り、もう一本を少年に手渡した。
「いつも通り、キミがウチの体か槍にでも攻撃を当てれたら勝ち、キミが諦めたらウチの勝ちや」
と、割と無茶苦茶なルールを提示するカズ。しかしカズと少年では50センチほども身長差があり、それに加えて、例えるなら富士山と砂場のお山くらいには本質的な実力差もある。
まともな形式でやればそもそも練習にすらならないのだ。それは少年自身にも分かっていることで、だからこそ少年は、万に一つほどは勝ち目のあるこのルールを承諾した。
「よっしゃ! 来い、少年!」タンポ槍を構えてカズが叫んだ。それに呼応して少年も一歩踏み出し、真っ直ぐに初手を繰り出した。


38 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:24:33 Z9sKVX060


「いやあ、少年もだいぶ上達したなあ」白米とたくあんを頬張りながら、カズは上機嫌で少年に声をかけた。
「どこがやねん。また今日も1時間遊ばれてただけやん。しかも俺、卑怯な手まで使って……」対する少年は不満げな表情で、出された朝食に手を出さず頬杖を突いてむくれている。結局少年は今日もカズに一撃さえ加えられなかったのである。
1時間絶え間なく動き続けて腹が減っていないわけもなく、自分だけ万全の状態で勝負を仕掛けて、なおかつ完敗したことに負い目を感じているのだろう。
カズはそんな少年を見て、一層機嫌を良くして彼の頭をゴシゴシと荒っぽく撫でた。
「あんなあ。さっきも言うたけど、自分に都合よくて相手に都合が悪い条件で戦うんは兵法の基本や。卑怯でもなんでもない」
「でも、もしさっきので俺が勝ってても、それは俺が姉ちゃんより強いって証明にはならんやろ。やからな、えーっと……」頭を揺さぶるカズの大きな手を払いのけて少年が呟く。
そこで、またもカズの顔が綻んだ。この少年は愚直だが、馬鹿ではない。彼我の実力差を理解し、埋められないと分かって、今朝いつもより早くに来て勝負を仕掛けて来たのだろう。だが。
「勝つ勝たんやなくて、かっこいいかかっこ悪いかで言ったら、かっこ悪いやろ?」そうだ。この少年には矜持がある。あるいは根性と言い換えてもいい。
自分より小さい者が、誇りと知恵と持てる全てを掛けて自分に挑んでくる。彼女はそういった人間の気合、根性、プライドといったものが堪らなく好きなのだ。
「……そうやな。キミのそういうところ、ウチはめっちゃ好きやで!」カズは満面の笑みで少年に語りかける。
「えー、気持ち悪う」
「なんでや! こんな美人が好きやって言っとんねん! ありがたく受け取らんかい!」カズはバシバシと少年の背中を叩いた。
「もう、朝からイチャイチャせんといてえや」
ふと、彼らの背後からお盆を持った女性が歩み寄ってくる。身長はカズほどではないがかなり高い。紅い瞳がなんとも言えない妖しい色気を醸し出しているが、淑やかな表情や落ち着いた仕草が、彼女を妖艶というよりはむしろ清楚な美女として印象付けている。
「ひ、瞳子さん! おはようございます!」少年は慌てて立ち上がり、瞳子と呼ばれた女性にお辞儀をする。瞳子は笑顔で少年に会釈を返し、食卓の上に温かいお茶を並べていく。
「お姉ちゃんもこんないい男おったんやったら私に紹介してえよ。先に食べてしまいたかったわあ」かなり品の無い冗談だが、何故だか花の話でもしているような爽やかさがあるのは、やはりこれも瞳子の清楚な印象があるからなのだろう。
「アホ、あんまりふざけたこと言うな」くすくすと笑いながら二人をからかう瞳子を、カズは厳しい口調で諌める。
「はあい、ごめんなさい。……そうそう。今朝あなたらがやり合ってる間にお山の方の様子を見て来たんやけどな、『鳥が一匹、引っかかっとったわ』」
一瞬、カズの瞳がギラリと動き、射殺さんばかりの視線を瞳子に送った。瞳子は明らかに楽しんだ様子で、嫌やわあ、男取られそうで怒ってるんかなあ。などとのたまっている。
カズは瞳子を不思議そうに、しかし憧憬の念を持って見つめる少年と、この意地の悪い『妹』を見比べて大きくため息を吐いた。
「早よ来てもらったのにすまんけど、今日はこのくらいにしよか。ウチらちょっと用事ができたわ」


39 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:27:52 Z9sKVX060



「これが……使い魔っちゅうやつか?」カズが掴んでいるそれは、まぶたを針金で縫い、嘴を針で留められた一羽の烏だった。
大怪我をしているにも関わらず、大きくもがいてカズの手から逃れようとしている。
抜け落ちる真っ黒な烏羽を眺めながらカズは言葉を続けた。
「ウチには普通のカラスにしか見えんけどなあ」
「まあ、普通のカラスっちゃカラスやからなあ。その辺におるカラスの五感を潰して、代わりに魔力の糸で操って飛ばしてる感じ。
式神とかわかりやすうい感じの使い魔やったらどんなタイプの魔術師かもわかったやろうけど、これやとなんとも言えへんわ」
瞳子が言葉を返す。彼女の左手の爪は異様に伸びていて、まるで刃物か何かのように鋭く変化している。
瞳子は腰に下げたポーチからウエットティッシュを取り出し、爪の間にこびり付いた血を拭きながら続けた。
「やけどこいつ、今夜には仕掛けてくると思う」
「なんでや? ウチやったらわざわざ罠仕掛けて待ってるようなとこには行かん。一旦ほっといて他を探し回るけどな」
「罠があるからこそ行くんよ。私は妖術はあんま得意ちゃうし、このカラスを捕まえたことで、敵には多分私の結界やらのレベルがバレてもうた。
一流の魔術師やったら、魔力の糸をたどって逆に相手を探すこともできる。でも私らが今日の夜になってもそれをせんかったら、相手はどう考えると思う?」
「キャスターのくせに逆探知もできん、カモにできそうなヘボにカチコミ掛けに来るんやな」カズが拳を鳴らし、闘牛のように獰猛な笑みを浮かべた。
「表現が下品やわ、『お姉ちゃん』。もっと私みたいに上品な言葉遣いを心がけな」カズの笑みに合わせるように、瞳子も口を押さえてコロコロと笑い始める。
鈴の音のように澄んでいてよく通るそれは、なぜか極めて不吉な響きを伴っているように聞こえた。
「殺して、裂いて、奪って、食ろうて――ああ、ほんま楽しみやわぁ」


「はっ、はっ、はっ、はっ……!」その夜、鞍馬の山を駆け廻る一人の男の姿があった。
なにかを探している、という様子でもない。探索にしては男の視線はまっすぐ前を向きすぎていて、目的のものを見つけられるはずもないからだ。
なにかを目指している、という様子でもない。男の体はもはや千切れんばかりに疲労していて、目標を目指すのならば休息を入れて然るべきだからだ。
まして、なにかを狩っているという様子では決してない。必死に手足を動かす男の姿はあまりにも惨めで、狩っているというよりはむしろ――。
「あははははは! あんた、よりにもよって私の方に鬼ごっこ仕掛けんのかいな。おもろい人やなあ」
走る男の後方から、紅い女が身を露わにする。長身痩駆を風に躍らせ、魔術で走るスピードを強化しているはずの男との距離をあっという間に縮めていく。
女はよく見れば一糸纏わぬ裸体で、そしてなにより、全身を血まみれにしながら、明らかに人のそれではない牙を露わにして哄笑していた。それは、まぎれもなく瞳子だった。
「はあい、捕まえたぁ」彼女はまるで恋人にするように、軽やかに男の背中に抱きついた。バランスを崩した男は転倒し、そして気づく。
女に触れられた背中の肉が、ごっそり剥ぎ取られていることに。
「いぎゃあああ! 痛い、いたいいいい」男がゴロゴロと転がる度に草木が背中の傷に突き刺さり、男はその刺激に耐えられずまたのたうちまわる。
地獄のような光景を、瞳子は楽しげに、むしり取った背中の肉を食いながら眺めていた。


40 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:28:52 Z9sKVX060
「っが、あ、はあ、クソ、キャスター! キャスターは何をやってんだッ! 早く助けに来いッ!」
ようやく動いても苦しむだけだと察したのか、あるいは蠢く体力も無くなったのか。うつぶせに丸まりながら男は己のサーヴァントを罵り始めた。
「あんたのキャスターさんなあ……ああ、丁度ええとこに転がってくれとるわ。あんた、ちょっと月でも見てみいひん?」
瞳子は男のわき腹を蹴飛ばして上を向ける。
こんな美人と月見できてよかったなあ、役得やなあとしみじみつぶやく瞳子の声を聞き流し、痛みに耐えながらなんとか瞼を開いた男の目に映ったのは、空中でサンドバッグの様に打ちのめされている己のサーヴァントと、月夜を泳いでいるかのように舞い、漆黒の鎧を輝かせて槍を振るう、美しい人魚の姿だった。
「が、え、なんで、お前、サーヴァントじゃ」困惑した男は思わず瞳子に問う。
「そうやでえ、サーヴァントやでえ。ほら、令呪もないやろ?」瞳子は左手をひらひらと動かして男に見せつける。真っ白な肌には傷一つない。
問いに素直に答えられたにも関わらず、男はさらに困惑を深めることになった。
「じゃああいつは、あの黒いモノは」男は焦点の合わない目で虚ろにつぶやきを重ねた。
「ああ、あの子はなあ」瞳子が男の顔を覗き込む。紅い瞳が男を射抜き、男は思考が蕩かされていくのを感じた。
「私の孫なんよお」
瞳子がひょいと立ちあがり、男の瞳はもう一度空を映し出す。彼が最期に見たものは、ぼろ布のようになった自分のサーヴァントと、その上から高速で空を落ちてくる、黒いヒーローの姿だった。



「……なんで殺した」そういう魔術を掛けていたのか、あるいはこの聖杯戦争の性質なのか。煙のように消滅していった男の死体があった場所を見つめながら、カズは背後にいる自分のサーヴァント――茨木童子に尋ねた。
「それはこっちのセリフやわ。他のサーヴァントのこと聞けるかと思って、せっかく半殺しで置いとったのに」
「あいつの顔見たか。あそこまで苦しんでる人間に慈悲をかけようと思わんのか」カズは肩越しに茨木童子を睨みつける。
並みの人間ならそれだけで殺せそうな鋭い視線を、茨木童子は受け止め、睨み返した。
「奪って、殺して、食う。私ら鬼が人間にすることなんかそんだけやんか。余計な情なんかいらん。あんたも鬼の末裔……私の子孫やったらわかってるやろ?」
茨木童子は嘲笑を浮かべた。
「向こうのキャスターを切り刻んでる時のあんた、ほんっまに楽しそうやったで?」


41 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:30:49 Z9sKVX060



下山し、道場への帰路を歩きながら、カズは聖杯戦争について考えていた。
万能の願望機というのはなんとも馬鹿らしいものだが、彼女の前に現れたサーヴァント、茨木童子のことや、
何よりジオット・セヴェルスのドリームマシン――大気中のマナの濃度を増加させ、人の願いを具現化する願望機――によって一度生き返ったことがある身としては、この京都で行われるバトルロワイアルについての一切を、
敵の超能力者に見せられた幻覚かなにかだと切り捨てることはできなかった。
「まためんどくさいことになっとるなあ」
諦観の入り混じった苦笑を浮かべながら、カズはまだ思考を巡らせる。次は自身のサーヴァント、茨木童子についてだ。
彼女が召喚するサーヴァントとして茨木童子よりも適任である者はいないだろう。なぜなら彼女の本名は茨木和那、茨木童子の子孫を標榜する一族の出身である。
実際のところ、カズは茨木童子のことは単なる山賊かなにかだと考えていて、本当の鬼であるなどとは思ってもいなかった。
それが実際に目の前に現れ、自分は間違いなく鬼であり、お前はその子孫だと断言する。
生きることに絶望し、戦いの中でしか充足感を得られない自分が、どうして鬼ではないと言い切れるだろうか。
「おーい、カズ!」
ふと、自分を呼ぶ声がした。顔をあげるとそこはもう道場の前で、門下生の少年が、胴着のままで自分に手を振っていた。
「こんな時間になにしてんねん」思わず、カズは少年の頬に手を当てる。ほんのりと赤い肌の冷たさが、彼がどれだけの時間ここで待っていたかを証明していた。
「もう一回勝負してもらおう思って待っててん!」
と、屈託のない笑顔を浮かべる少年。カズはふと、もしも見境なく人を襲うサーヴァントが現れた時、誰がこの人たちを守るのかということを思いついてしまった。
彼らは確かに生きた人間だ。例え並行世界の住民だとしても、ヒーローである自分が、無辜の人々を守らなければ、自分は本当に鬼になってしまうだろう。ならば。
ほんまに貧乏くじひいてばっかやなあと、カズはまた苦笑した。
「でもなあ、やっぱりハッピーエンドが一番やもんなあ」


42 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:31:17 Z9sKVX060


崩壊に歩んだ世界があった。血反吐を吐きながら、必死の思いでそれを繋ぎ止めた。

大切な人ととの別離があった。それでもまだ、いつかはまた会おうと約束した。

尊厳を奪われ、激痛に悶え苦しみながら死に行く自分を見た。
そしてそれでも自分を応援してくれる、あの野球帽の少年を見た。

たとえどれほどの苦難があろうとも、彼女は最後にこう言って笑ってきた。心配掛けてごめん、ウチのことは大丈夫やから、と。
そんな彼女の物語が、バッドエンドであるはずがない。


43 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:33:03 Z9sKVX060
【マスター】大江和那@パワプロクンポケット14
【人物背景】世界を滅ぼす大災害を引き起こそうとしたツナミ社の敵。世界最強の男に一度は敗れながら勇気ある少年の願いに応えて蘇り、世界を救ったヒーロー。
千本槍(スピア・ア・ロット)、ダークスピアなどと呼ばれることもある。重力を自在に操作し、手足が如く槍を操る戦闘の達人。
自身に戦闘狂の気があることを自覚しており、不殺の誓いを立てている。
敵対組織からはそのような評価を受ける彼女だが、高校生の頃は少しばかり身長が大きいだけの、いたって普通の内気な女子高生だった。
軽い気持ちから超能力者になってしまい、超一流の戦士となった今でも、修羅の殻の内側は普通の生活に憧れる一人の女性である。
普段は明るく振舞ってはいるものの既に生きることに絶望しており、戦う以外に生きている実感を持てなくなっていた。
それでもなお「ハッピーエンドが好きだから」という理由で戦い続けることができる正義の味方。
「また会おう」と約束した、プロ野球選手の恋人だけが彼女の心の支えとなっている。

【能力・技能】
茨木流短槍術:祖父から受け継がれた槍の技術。
短槍術と言いながらあくまで槍は敵に見せつける囮で、態勢を崩した後に内臓や関節への打撃を狙う実践的な戦闘術。
カズの場合、後述する重力操作により触れるだけで相手の手足や胴を捻り破壊することができるため、能力と噛み合っている。

重力制御:5m以内の無機物、または触れた生物にかかる重力の方向を自由に操ることができる。
自分にかかる重力の方向を変化させることで自由に空を「落ちる」、数tの海水の塊を「持って来て」敵の集団に投げつける、山を持ち上げて落とし周囲に地震を起こす、高度1万メートルまで上昇した後に自然落下して体当たりするなど、シンプルな能力ゆえに非常に汎用性に富んでいる。
方向を変えるだけなので燃費も良く、あらゆる動作に重力操作を加えることで高速移動、攻撃の強引な軌道変化、相手にかかる重力の方向を変えることで重心を崩して体術に繋げるなど、対人戦闘において圧倒的な強さを誇る。

【weapon】ツナミ社が開発した変身スーツと槍。
変身スーツはかつてとある高校に現れたヒーローと呼ばれる超常存在を解剖、研究して制作されており、高度1万メートルからの落下や16インチ砲の直撃にも耐え、更には宇宙空間での活動も可能など驚異的な耐久力を有している。
詳細は省くが、ヒーローとはある少年の願望がマナによって具現化した存在であり、それを研究して制作されたこのスーツには一定の対魔力が兼ね備えられていると考えられる。
槍にはそういった超常的な能力はないただの頑丈なスピアだが強度は高く、カズ本人の技量によって、神秘さえ付与できれば英霊に致命傷を与えることも可能。

【マスターとしての願い】無事に元の世界に帰る

【方針】不必要な犠牲は避けつつ聖杯戦争に優勝、あるいは聖杯を破壊し、速やかに聖杯戦争を終了させる。


44 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:34:11 Z9sKVX060
【クラス】キャスター
【真名】茨木童子
【出典】史実
【性別】女
【身長・体重】174cm・59kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力:B 耐久:B+ 敏捷:C 魔力:A 幸運:E 宝具:C
幸運はマスターの影響で最低ランクまで低下している。
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作成可能。
茨木童子の場合、目を付けた山を自らの縄張りとして定義することで、英霊にも効果のある罠や妖術による高度な結界を張ることが可能となる。
いくらかの妖術は使えるものの、茨木童子は魔術師ではなく、本来であればキャスターとして召喚されることもない。
しかし、聖杯戦争が自分たちの根城であった大江山のある京都で行われるという、これ以上ないほど抜群の好条件により陣地作成スキルが大幅に強化され、キャスター適性を得るに至った。

道具作成:E 特に道具を用いた逸話が無いためスキルランクは低い。強いて言うなら丸太を切り出すなど、木から資材を作り出すことが上手いが、本人はあまりやりたがらない。

【固有スキル】
変化:A+
文字通り「変身」するスキル。見た目を自由に変化させることができる。
茨木童子の場合、相手の最も好む顔、肉体、体質を察知し、瞬時に作り変えることができる。
皮膚や体毛を変化させることで服やアクセサリーも形成可能。

鬼種の魔:B++
鬼の異能および魔性を表すスキル。天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
魔力放出の形態は「熱」にまつわる例が多いが、茨木童子の場合は「美」となっており、自らの美しさを魔力に乗せて強調する一種のフェロモンのようなもの。
強い魅了効果があり、普通の人間なら男女問わず即刻彼女の言いなりにすることができる(サーヴァントと契約しているマスターは例外)
サーヴァントが相手の場合でも、対象は彼女の美貌を傷つけることを躊躇い、筋力・敏捷のステータスが1ランク低下する。

仕切り直し:A
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
頼光四天王の鬼退治から唯一逃げ延びた逸話、渡辺綱に腕を切り落とされても逃げ延びた逸話が昇華されたもの。
茨木童子の場合は低ランクの情報抹消スキルとしての効果もあり、茨木童子が変化の達人であると知られながらも渡辺綱の家に変化して侵入できたのは、このスキルによって彼女の情報が曖昧になっており警戒が緩んだ為。


45 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:35:21 Z9sKVX060
【宝具】
『大江山山賊団』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1〜30
大江山を拠点としていた巨大山賊団の長としての宝具。かつての自分が籠絡し、利用した山賊たちを30名まで召喚し従えることができる。
山賊たちはそれぞれが人格を持っているように見えるがあくまでも宝具によって生み出される幻想で、茨木童子の記憶が曖昧な部分はかなり適当に形作られている。
そんな緩い宝具であるためか、非常に燃費が良く、聖杯戦争の期間中全員を出しっぱなしにしていても大した負担にはならない。
戦闘能力は人並みで、消滅すれば補充は不可能。

『紳士万猿・身辺帰属(しんしばんえん・しんぺんきぞく)』
ランク:B 種別:対男宝具 レンジ:20m 最大捕捉:1
あらゆる男を魅了し、堕落させ、大江山に酒池肉林を築いた茨木童子の宝具。
視線が合った相手を、如何に高潔な英霊であろうとその情欲を掻き立て、霊基を人間の肉体へと堕落させる。
ステータスこそ変化しないが、霊体化やマスターの魔力を消費しての急速な肉体の回復などは不可能となり、魔力の上限が著しく低下するほか、神秘の付与されていない武器でもダメージを与えられるようになる。
この宝具に抗うにはAランク以上の精神耐性が必要となる。
受肉させるというわけではなく、言うなれば英雄属性、サーヴァント属性を人間属性で上書きする宝具。
この宝具の影響を受けたからといってマスターとサーヴァントの契約が切れるわけでも、ましてや英霊の座から消去されるわけでもない。
茨木童子の前では獰猛な戦士も、潔癖な僧侶も、男なら等しくその魅力に抗えず、ただひたすら彼女に恋い焦がれる猿に成り下がる。
渡辺綱はこの宝具に一度は抵抗し茨木童子の腕を切り落としたものの、二の太刀を加えるには至らず、目を閉じてその場を離れるのが精一杯だったという。

【weapon】素手。もしくは爪をナイフのように変形させたもの。またいくらかの妖術。
キャスターのクラスで現界しているものの、元々が鬼であること、知名度補正が強く働いていることからステータスもそれなりに高く、鬼種の魔などのスキルも相まって並みの三騎士相手なら互角以上に戦うことができる。


46 : undyne the undying ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:36:36 Z9sKVX060
【マテリアル】御伽草子などで有名な大江山に巣食った鬼の一人。
Fate/Grand Orderにも同名のサーヴァントが登場するが、今回は聖杯戦争の開催地が京都ということで「かつて実際に都を混乱させた脅威」としての側面が強調されており、ほとんど別人のようになっている。
享楽的な性格で刹那主義者。両親に捨てられ、拾われた床屋でしばらくは平穏に暮らしていたが、ある時剃刀で傷つけた血を舐めてしまってからその味が癖になり、しばしば客を傷付けて血を舐めるようになる。
見かねた床屋に厳しく叱られた彼女が小川のたもとでしくしく泣いていると、水面に映った自分がすっかり鬼の顔になってしまっていたことに驚き、以後は村を抜け出して大江山に居を構える山賊となる。
そこで絶世の美少年であった酒天童子と出会い、二人は美貌を利用して着々と勢力を広げた。
悪評は都まで轟き、見兼ねた朝廷が源頼光らに酒天らの討伐を命じる。
頼光は酒天を酔わせて討伐するも、討伐隊のほとんどが男であった幸運から、茨木童子は腕一本の犠牲でなんとかその場を逃げ切った。
後日自身の腕を切り落とした渡辺綱の家へ出向いて腕を取り返した後、京都を離れて楽しく暮らしたという。
現在はカズの妹として大江瞳子(ひとみこ)を名乗り、生前の頃から随分と様変わりした京都を楽しんでいる。

【外見的特徴】顔や体格は気分でコロコロ変わるが、カズと話すときは生前の自分が基本としていた姿……長身痩躯に青髪の美少女の外見に変化することを好む。
服装は主にベージュのダッフルコートに赤いベレー帽。スレンダーな体型や美貌と相まって一見するとただの育ちのいい女子大生といった風に見えるが、コートの下には昔話の鬼が履いているパンツのような柄の下着のみを着用しており、シャツやスカートなどは一切身に付けていない。
本人曰く「こういうカッコが一番楽に落とせんねん」とのこと。

【聖杯にかける願い】受肉して(鬼としてではなく、人間の体で)遊びまわる。でもまあ英霊の身も楽しいっちゃ楽しいので別にカズが聖杯を破壊するならそれでいい。


47 : ◆W9/vTj7sAM :2017/12/16(土) 03:36:57 Z9sKVX060
投下を終了します


48 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:08:34 3D9mnbM.0
>>1
年末にコンペを行うのなら、期間を長くとったほうが良いのでは?

投下します


49 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:08:58 3D9mnbM.0
「お前は一体誰なんだ」

自分の顔を興味深げに見つめる、ウェディングドレス身に纏い、白いヴェールに顔を隠した銀の長髪の女に、長門という名の女はそう訪ねた。


──────────少し前


──────────


夜の鴨川河川敷に、響く女の声が一つ。

「ゴハァッ!?」

腹を石突きで抉られ、盛大に吐瀉物を吐き散らしながらも、目の前の二人を睨み付ける。
夜とはいえ人の気配が絶えたわけでも無いのに、他に人が全くいない鴨川の河川敷で、剣と槍を交える男女を目撃。
呆気に取られているうちに両手足を穿たれた女が槍の柄で頭を砕かれて死亡。
死体が跡形残さず消え去ったのを疑問に思う暇など無く、槍を持った男と、顔色の悪い痩身の男が、消えゆく女に縋って泣いていた少女の衣服を剥ぎ取り、殴り倒したのを見て、駆け出したのだった。
そしてこのザマ。助けようとした少女は助けられず、己も少女と同じ運命を辿ろうとしている。

「ハッ、良かったじゃねえかマスター。二人で使うのも気が乗らない話だろ」

下卑た瞳を己の体に向けながら、歯をむき出して笑う槍を持った男の隙を伺う。
突如、後頭部に衝撃が走り、地面に俯せに倒れる。後ろから蹴られたのだ。

「どうせ殺す相手だ。最後に愉しませてやろう」

痩身の男が身を屈めよウトしたその時、槍の男の全身が茫と霞み、手にした槍が消えた。
同時に聞こえる衝突音。鴨川に派手に水柱が上がるのと、轟くような轟音が聞こえたのは同時。

─────この音、砲声!?

散々慣れ親しんだ音だ、聞き間違える筈が無い。然し、夜の古都で聞くような音では断じてない。
槍男が視線を向ける先。鴨川の下流に眼を向けると、川面を覆った霧がこちらに向かって来るのが見えた。

「サーヴァントかよっ!」

槍男の声で思い出す。

─────確か、、私は、鎮守府の……提督の部屋で……………。

再度男の槍が消える。再度水柱が立ち、同時に河川敷に爆発。舞い上げられた土砂が降り注ぐよりも早く、辺りは霧に覆われた。
霧の中に奔る閃光は正し砲火の煌めき。正面と右から同時に飛来した砲弾を、奇跡の様な槍捌きで防いだ男が、射手を探し求めて首を盛んに左右に振る。
その眼前に虚突如として出現した白い女の振り下ろした手刀が、槍男の身体を撃砕した。


────────────────────


50 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:09:30 3D9mnbM.0
その女が顔を此方に向け、自分を興味深げに眺めている。

「一体お前は誰なんだ」

「貴女……私の同類かしら?」

答えずに問いを返す女に、長門は怪訝な表情を浮かべた。そもそも己にこんな知り合いは居ない。しかし、先程の砲撃は、艦娘の艤装か?ならばこの女は艦娘か?

「まあ、自己紹介の前に…」

女の背後の空間が揺らめく、水面を破って迫り出して来るかのように虚空より現れたのは、機関砲。
腹に響く轟音と共に放たれた砲弾は、逃走しようとしていた槍男─────ランサー─────のマスターの背中から胸にかけて貫通。胸部を吹き飛ばした。

思わず息を飲む長門の耳に、鈍く湿った音が聞こえた。

「マスターも仕留めておきませんと」

白い女の足元に広がる赤黒い沁み。長門が救おうとした少女の頭は、白い女の足に踏み潰されていた。

「貴様…何故殺した!?」

激怒する長門に対し女はどこまでも冷静だった。

「マスターも殺しておきませんと」、いつ何処で他のサーヴァントと契約するか知れたものではありませんし」」

「だからと言って、戦う力を失った者を殺す事など!」

「はあ……私と同じ様な気配がするのに、随分と私と気質が違いますのね。私は兵器。造られた目的に従い、戦い、撃ち倒すのが役目であり存在意義」

「戦う力を持たないマスターは敵では無い!!」

「ああ…貴女瞳と髪の色から察するに日本の方?ならば私とは合いませんわね。私の産まれはドイツ。通商破壊も私の役目の一つなのですから。
誇り高いサムライは、戦闘艦だけを狙い、非武装の船を狙う事を良しとしない。それはそれで立派な事だと思います。讃えましょう。
けれど、私は兵器。騎士道もサムライの精神も、そんなものは駆る方が持っていれば良い。私はそれに従い使われるだけ」

女の右手がヴェールにかかり、その顔を露わにする。

「それはそうと、そろそろ名乗らせて貰いますわ。私の名前は─────」

露わになった顔に長門は驚愕する。何故ならばその顔は─────。

「ビスマルク⁉」

「あの娘(こ)を知っているのかしら…?私の様に汚れていない、綺麗なままだと思っていたのだけれど」


51 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:10:26 3D9mnbM.0
ヴェールの下から現れた顔は、長門の知る艦娘の一人、ビスマルクに瓜二つ。然しビスマルクを知るものならば、誰もが違うというだろう。
流れ出たばかりの鮮血の色を湛えた真紅の瞳。処女雪を糸に加工して編み上げた様な、光を受けて輝く銀髪。
顔立ちが双子といっても良いほどに似通っているだけに、違和感が一際増すが、最も異なるものはその表情。そのその眼光。
その瞳には気高さと見られた者を凍てつかせる酷薄さが満ち。
顔に浮かぶ表情は、今しがた頭を踏み潰した少女を嘲る、嗜虐に満ちた笑みだ。
断じてこの女は艦娘では無い。長門はそう確信したが、同時に己の同類であるとも認識していた。

「違う…ビスマルクは貴様の様に、無力な相手を殺して悦んだりはしないっ!」

「ごめんなさいね。お気に障ったかしら?けれど仕方がないの。私は“こうある様に変えられてしまったのだから”」

尤も、元のままでも、無力であっても敵は撃ちますけど。と続ける白い女を長門は劣化の如き視線で射た。

「いいからさっさと名乗れ!一体貴様は─────」

言いかけた長門の口が、女の手で塞がれる。その掌の感触は鋼鉄。砲弾すら弾く硬度と質量を感じさせた。
に、長門の足裏から地の感触が消える。女は片手で長門の身体を持ち上げたのだ。
が、それよりも、肌が泡立ち、肉が強張り、骨の髄まで凍り付きそうな冷気が、より強く長門を苛む。
外そうともがくものの、女の力は異常というより他になく、全く外せなかった。

「いい事。始めに名を尋ねたのは貴女。私の名乗りを遮ったのも貴女。なのに『さっさと』とは、随分と不躾な言い方ですわね」

女の腹を蹴る足が二度目で止まる。艤装も無い身では、鋼を誇る女の肉体に、長門は全く無力だった。

「まあ良いでしょう。私の名はシャルンホルスト。ヴェルサイユ条約後に、ドイツが初めて建造した戦艦。そのアヴァター。貴女とは……少し異なる様ですが、根は同じと見ましたわ」

顔を圧搾する女の力が緩み、長門は地にへたり込んで荒い息をついた。

「それで?貴女は?」

「私は……長門。戦艦長門だ」

「あら、まあ……」

白い女は驚きを素直に表した。


52 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:11:05 3D9mnbM.0
「連合艦隊旗艦でもある、あのビッグ7と共に戦えるとは、光栄ですわ……。それで、貴女は如何なる願いを持ってこの戦争に臨むのですか」

「願いなど…無い。私は、こんな処で無意味な戦闘を行なっている暇など無い。戻らなければいけないんだ!!」

「はあ……そうですの……本当に?」

嘲る様な、弄う様なシャルンホルストの視線を、長門は真っ向から睨み付ける。

「どういう意味だ」

シャルンホルストは微笑を浮かべた。嘲笑と嗜虐に満ちた笑みは、マゾの気がある男なら、それだけで射精しそうな笑みだった。

「世界のビッグ7。連合艦隊旗艦。そんな貴女が……。連合艦隊の象徴であった貴女が………。今ではすっかり大和の陰」

シャルンホルストの冷たい手が、長門の左胸に当てられる。

「この身体を流れる熱い血が、その事に耐えられるのかしら……」

「……そんな些事はどうでも良い。それよりも、お前は‘’自分が兵器である”といったな」

「ええ、言いました」

「兵器である以上、使うものに従うと」

「ええ言いました」

長門は大きく息を吸う。

「ならば私に従え。戦闘能力を持たない者を攻撃することは許さん」

「了解しましたわ。艦長」

婉然と微笑み、完璧な敬礼を返すシャルンホルストに、長門はどこか懐かしいものを覚える。然し─────。

「艦長!?」

「だって貴女は、このシャルンホルストを指揮する者なのでしょう。ならば、艦長とお呼びするべきかと」

からかわれているのか、真面目に言っているのか。長門には判別がつかなかった。


53 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:11:41 3D9mnbM.0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
シャルンホルスト20世紀ドイツ

【ステータス】1
筋力:A (A+++) 耐久:A+(EX) 敏捷:A (A ++) 魔力:C 幸運: A + 宝具A+++

【属性】

秩序・狂

【クラススキル】
狂化:
狂化:B
全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
バーサーカーには、制御不可能どころか理性を失っている様子すら見られない。
これは狂化スキルがバーサーカーの本質と合わさっているためである。
尤もバーサーカーは軍艦であり怪物である為、人の倫理や常識は通用しない。
つまり、制御できる保証はない。

【保有スキル】

無辜の怪物:A
後世の与太話により能力、性質が変貌している。
二十世紀の戦艦であり、神秘など欠片らも無い存在でありながら、高位の魔獣に匹敵する神秘を帯びている。
このスキルは外せない。


鉄の戦船:C(A)
バーサーカーはの本来の姿は戦艦。水上に浮かぶ鋼の城である。
艦内に内蔵された機関の生み出す膨大な出力が、バーサーカーの筋力と敏捷を高いものにしている。
更に、鋼の艦という本質の為に、バーサーカーの身体は鋼の硬度をと人体の靭性を併せ持つ。
が、機関を駆動させるには膨大な魔力を要し、フル稼働ともなると消費量は絶大なものとなる。
水上での戦闘では全ての行動判定に大幅なプラス補正がかり、魔力の消費量が減少する。
マスターが海軍の関係者であるならば、Cランク相応の千里眼とBランク相応の射撃と嵐の航海者のスキル効果をも発揮するが、カリスマの効果は無辜の怪物スキルにより発揮しない。
更に建造した各国海軍のドクトリンに基づき異なるスキルを発揮する。
バーサーカーの場合はCランクの単独行動。


死神艦:A+
本スキルの存在によって、バーサーカーの幸運ランクは跳ね上げられている。特定の条件なくしては突破できない敵サーヴァントの能力さえ突破可能。
ただしこの幸運は、他者の生命を、そして何よりマスターの生命を無慈悲に奪う。
バーサーカーは数多くの関係者が不慮の死を遂げたが、共にあった僚艦は無傷だった。という与太話により獲得したスキル。
史実でもバーサーカーは幸運艦として名高い戦艦である。
この幸運の効果は、共に戦うサーヴァントにも齎されるが、そのマスターは生命を吸い上げられる。


戦闘続行:A
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。


ルーンの護り:A
Cランク相応の対魔力を発揮し、魔術以外の攻撃を1ランク低下させる
呪いに対してはBランク以下を無効化、Aランク以上でもBランク分は差し引いた数値 として計上する。
後世の与太話により得たスキル


54 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:12:32 3D9mnbM.0
【宝具】
霧夜の亡霊
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ: 1〜70 最大補足:1000人


常に霧を纏い、敵に捕捉される事がなかった。という与太話に基づく宝具。
北海の濃霧を周囲数百m、最大で10km範囲に渡って発生させる。
この霧の中ではバーサーカーは瞬間移動を可能とし、Bランクの気配遮断と気配探知を攻撃中であっても発揮する。
また、各種武装も範囲内の任意の場所に出現させる事が可能。
北海の霧は強力な幻惑効果と冷気を帯びており、範囲内の生物の体力を無慈悲に奪い、霧の中を行くもの全てを惑わせ彷徨わせる。
こ宝具は、常時効果としてバーサーカーの身体を、氷の様に冷たくしている。
水上で用いた場合、魔力消費量が三分の一まで抑えられる。


シャルンホルスト級一番艦シャルンホルスト(Scharnhorst, DKM Scharnhorst))
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

戦艦シャルンホルストを呼び出す宝具。
人間型の姿は言わばアバターであり、この姿がバーサーカーの本来の姿。
この宝具発動時にはステータスとスキルが()内のものになり、本来の出力を発揮する駆動機関の放出熱によりA ランクの魔力放出(熱)を得る。
この時バーサーカーは海を征く鉄の城としての本質を発揮し、撃破は非常に困難となる。
対人宝具では決して傷つかず、対軍宝具はその威力を六割減衰する。
しかし、魔力消費量は莫大なものとなり、現状では10秒と持たない。
水上で用いた場合魔力消費量が半減する。



生きて帰りし者は無し
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:レンジ内の全員

バーサーカーが沈んだ時、2名を除き全員死亡。脱出した2名も携帯ストーブが爆発して死亡した。という与太話により得た宝具。
バーサーカーは消滅時に周囲に死の呪いを撒き散らす。
この呪いに対し抵抗に失敗すれば何らかの偶発的な原因により死亡。抵抗に成功しても幸運が2ランク下がる。
この呪いに耐えるのに必要なのは、呪いを上回る加護か、幸運値もしくは偶発的な死の要因に耐える体力である。
猶、乗員全てが死亡したという与太話に基づく宝具の為に、発動時にはマスターは必ず死ぬ。


55 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:13:12 3D9mnbM.0
【weapon】
28.3cm(54.5口径)3連装砲3基
15cm(55口径)連装砲6基
10.5cm(65口径)連装砲7基
37mm(83口径)連装高射機関砲8基
20mm(65口径)連装高射機関砲5基
艦載機
3機、射出機2基
アバターが使用する際には、基本的にアバターのサイズに合った大きさに変わるが、本来のサイズでの使用も可能。



【人物背景】
ヴェルサイユ条約後、ドイツが最初に建造した戦艦。
ドーバー海峡を白昼堂々突破するなどの武勲を挙げ、共に出撃した僚艦が沈んだ事がない為に幸運艦として知られる。
……………が、誰が言い出した与太話かは知らないが、シャルンホルストはいつの間にやら数多のの呪われた逸話を持つ死神艦と認識されだした。
とはいえ、与太話の中でも彼女の僚艦が沈んだ事はなく、手を組んで共に戦えばその幸運の恩恵に与れるだろう。
与太話に影響されてか、性格は嗜虐的かつ好戦的。
自身を兵器と定義し、尚且つ通商破壊を運用目的とする独逸艦は、マスターであれば例え無力な存在であっても殺害する。
日本艦の長門とはこの辺り反りが合わないかも、


艦娘というよりもアルペジオの霧に近い。


【外見】
艦これのビスマルクを銀髪紅眼にしてウェディングドレス着せた姿。


【方針】
マスターに従う。 無辜の民に害を為す者は殲滅する。

【聖杯にかける願い】
無い。兵器は願いなど持たない



【マスター】
長門@艦隊これくしょん(プラウザ版)

【能力・技能】
連合艦隊旗艦であった戦艦長門の擬人化か、戦艦長門の能力宿した人間かは判らないが、戦艦長門としての本来の能力を発揮すればバーサーカーよりずっと強い。
が………艤装が無い為に常人の域を出ていない。精々身体能力が高く運動神経が良い程度
戦闘経験は豊富なのでバーサーカーを巧く運用出来るかも。

【weapon】
無い。あったらバーサーカーより強いが。

【人物背景】
長門型一番艦にして連合艦隊旗艦。戦前・戦中に於ける帝国海軍の象徴だった。
戦後は大和に取って代わられたが。
美人。格好は現代の衣服が支給されている。無かったら痴女だし。


【方針】
聖杯戦争に巻き込まれた者たちを救う。民間人を護る。

【聖杯にかける願い】
帰還。


56 : 艦隊乙女 ◆yvMlJZlK/. :2017/12/17(日) 22:13:44 3D9mnbM.0
投下を終了します


57 : ◆yvMlJZlK/. :2017/12/18(月) 07:55:39 viLiG/1Y0
拙作。艦隊乙女を追記・修正してWikiに登録しました


58 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/18(月) 19:27:13 nleQVFXM0
お二方とも、素晴らしい作品の投下ありがとうございます! 僭越ながら感想を書かせていただきましたので、よろしければ御覧ください。

>>undyne the undying
まさかのキャスター茨木ちゃん!
京都という舞台を利用した候補作は来るだろうなと思っていましたが、こんな形でとは盲点でした。
確かに京都という茨木童子ゆかりの地で召喚されたなら、このような形で現界するのも納得です。
FGOではポンコツな側面が目立つ彼女からは想像もできないような恐ろしさに、鬼とは本来どんなものかを思い出しました。
ハッピーエンドを目指すという観点から見ると最悪に近いカードですが、果たしてこの主従の行く末はいかに……。
ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>>艦隊乙女
聖杯戦争企画では割とよくお目に掛かる、艦隊主従ですね。
一瞬不穏な流れにはなりましたが、どうやら主従仲は良好になりそうな様子。
厳格な艦娘である長門であれば、癖の強そうなバーサーカーも上手く扱えるだろうな、という安心感があります。
バーサーカーは一目見て解る、と言ってもいいくらい強力なステータスのサーヴァントなので、対聖杯派の中核となってくれそうです。
兵器のサーヴァントなだけあって、闘いの絵面も派手になりそうなので、その点も見応えがありそうですね。
ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

期限については伸ばすつもりは特にございませんが、適宜調整します


59 : 名無しさん :2017/12/19(火) 13:58:56 jgZhh3UI0
ちょっと思ったんだけど、史実系聖杯でもFate原作で出てるサーヴァントはそのまま流用できる、とかにしたほうが良くない?
現存してる史実系聖杯はどこも停滞気味だけど、その一因は間違いなくオリジナルキャラの書きにくさにあると思う
コンペだけして止まるってのも悲しい話だし、進行を現実的に考えるなら通常の聖杯形式+史実形式のハイブリッドにするのが無難じゃないかな


60 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:22:07 pKnjwt7.0
>>59
現状そうする予定はありません

投下します。


61 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:22:46 pKnjwt7.0

 昼間だというのにカーテンを締め切った薄暗い部屋。
 そこには一台のベッドがあり、萎れた老人が眠っている。
 生きてはいるようだが、この姿からは精気というものが一切感じられない。
 彼が既に再起不能であることは、誰の目から見ても明らかだった。

「悪いな、組長(オヤジ)」

 目を硬く閉じ、か細い息を吐き出して辛うじて生命の証明をし続けている老人。
 それを無感動な瞳で見下ろしながら声を漏らしたのは、赤いペストマスクを被った一人の青年だ。
 乱痴気騒ぎに明け暮れるチーマーと勘違いされてもおかしくない奇特な装備は、しかし彼の印象をまるで損なわない。
 マスクに覆われていない素顔の部分だけで、彼が知性に満ちた優秀な男であることは自ずと理解出来るからである。

 男はあらゆる面で優れていた。
 力もあり、頭もある。
 見た目も精微で、口だって達者。
 そして何より、一度やると決めたことはどんな手段を使ってでもやる。

 そういう人種がどこの世界で最も重宝されるのかといえば、裏の世界だ。
 人道倫理の鎖を引き千切り、純粋に利益と今後の展望のみを見据えて行動出来る冷血漢。
 もしも彼の話をテロリストや活動家達に聞かせたなら、目を輝かせてウチに寄越せと言ってくるに違いない。
 治崎廻という男はそういう人間だった。一つの感情を燃料にして鬼にでも悪魔にでもなれる、闇に落ちるべくして生まれた人間。

「悪いけど、今回は相談する手間も惜しかったんだ。どうせアンタは俺が何を言ったところで聞きやしないだろうしな」

 ではそんな治崎を擁する組織が、彼の性質とポテンシャルを活かすことの出来る場所だったかというと……否であった。
 仁義を重んじる昔気質の任侠団体。義理と人情をなくせば終わりと豪語し、極道なれども決して一線は踏み越えない旧型。
 治崎の情熱は全て無為に終わった。理解されることはただの一度としてなかった。

 それはこの世界での話ではないが――誰よりも組の為に全力を注いできた治崎だからこそ分かる。
 仮にこれから自分がやろうとしていることを正直に話したとして、絶対に賛同は得られない。
 信じすらせずに笑い飛ばされるか、信じて貰えたとしてもウチの理念がどうこうと耳にタコが出来るほど聞いた綺麗事を並べられるだけだ。
 そう、以前のように。だから今度は、非合理的な手間は省くことにした。

 目を覚ます気配もなく眠りこける組長の姿にかつての面影はない。
 そのことを悲しく思う一方で、何としても成し遂げねばという決意が改めて鎌首を擡げる。
 組長のような古い考え、理想では最早極道は立ち行かない。
 故にトップの挿げ替えは必要不可欠だ。旧態依然の組長には一度退場して貰い、治崎自身が若頭として指揮を執る。

 街一つを戦場に変える狂気の儀式。
 数多の英霊と数多の願い持つ者が集って繰り広げる蠱毒。
 生き延びた者には黄金の杯。敗れ去った者には死の末路。

 治崎は、それに勝利する為にこれより組を利用する。
 己を拾い、育ててくれた大切な組を軍隊に変えて全ての敵を抹殺する。
 そのことに呵責はない。何故なら、これが正しいと微塵の疑いもなく信じているからだ。

 自分にしか極道は救えない。
 組に未来はもたらせない。
 世界の清浄化は、成し遂げられない。
 分かっているから治崎は進むことが出来る。路傍の石がどうなろうと、気にも留めずに。

「世界は病みから解放されるんだ。〝個性〟なんて薄汚い病原菌は根絶される。
 そうなればヒーロー全盛の時代は終わり、ヴィランも鳴りを潜め、また極道が輝ける時代がやって来るんだよ。
 アンタの、俺達の――八斎會は、蘇るんだ」

 広域指定暴力団・死穢八斎會。
 これはその組長が突然の急病により失脚した、一週間後の一幕である。


62 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:23:11 pKnjwt7.0
    ▼  ▼  ▼


「市内の同業者は粗方掌握出来た。よく働いてくれたな、バーサーカー」

 組長の失脚による、若頭の実質的な組長就任。
 一から十まで仕組まれた交代劇を終えるや否や、治崎はすぐに行動を開始した。
 己のサーヴァントと組員を用いた同業者……市内の他のヤクザへの襲撃と脅迫。
 拳銃が輪ゴム鉄砲に思えるほどの絶対的な〝逸脱者〟を前に、彼らが陥落するのはすぐだった。
 
 中には徹底抗戦を掲げたところもあったが、見せしめとシンボルの崩壊も兼ねてトップを葬ってやると、此方も早かった。
 従わない者は殺し、或いは殺させ、従う利口な者は手駒としてストックする。
 表向きはあくまで睨み合いを続ける敵同士という構図を演じながらも、実情は市内全ての極道が八斎會の手に落ちた。

 圧倒的な速度で実行された武力制圧は治崎に不信感を抱く組員の殆どを〝力〟という甘い蜜で舞い上がらせ、従順な手駒へと変えた。
 八斎會に取り込まれた側も、組への忠誠心がまだまだ低い若年層を中心に続々と治崎への信奉者を輩出している。
 今や反治崎の声はすっかり聞こえなくなった。というのも、声に出そうものなら命の危険が伴うからだ。

 治崎廻……オーバーホールと自らを称した彼もまた、怪物と呼ぶべき力をその身に宿す存在。
 治崎は反乱分子の粛清や拷問、その他あらゆる用途で事ある毎に力をちらつかせ、無数の死体を生み出した。
 そんな存在に声を上げられる気概のある人間は、京都の裏社会から殆ど絶滅してしまっている。
 斯くして完成した、治崎の箱庭が。聖杯戦争を戦う上で凡そ盤石のものといっていいだろう陣地が整った。

「わたしは何も。ただ、為すべきことを為しただけですよ」

 治崎の労いは口先だけのものと誰にでも分かる渇いたものだったが、バーサーカーはそれを皮肉るでもなく慎ましやかに受け止めた。
 そんな淑女めいたサーヴァントがどんな姿をしているのかというと、こちらはペストマスクの治崎以上に異様な成りをしている。
 プラチナブロンドの髪にやや小柄な体格、にも関わらず豊満に成長した胸。海色のロングドレス。
 この極めて整った容姿を、頭から生えた二対のねじれた角が台無しにしてしまっている。

 バーサーカーは〝角付き〟だった。
 悪魔か怪物か、とにかくこの世の人倫から解き放たれた存在であることを示す冒涜的特徴。
 そして、その通り。彼女は悪魔であり、同時に怪物でもある規格外のサーヴァントである。
 聖職者が見たのなら顔を青くするか怒り狂い、悪魔学者が見たとしても蒼白面を晒すだろう大悪魔。
 治崎廻という悪魔の如く恐ろしい男の下に舞い降りた――正真正銘の魔性に他ならない。

「……この世界は綺麗だ」

 治崎は窓の外、綿雪の降り頻る景色を見つめて言う。
 言うまでもなく、景色の美しさを賞賛しているのではない。
 この世界には、治崎の世界では今や当たり前になったとある概念が存在していない。
 彼が病と呼び、心から嫌悪する人類規模の大異常……〝個性〟という異能力が萠芽の兆しすら見せていない。


63 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:23:35 pKnjwt7.0

 〝個性〟の出現。
 それは、世界を大きく変えてしまった。
 治崎も含めて、今や世界の八割もの人間が異能の力を抱えている。
 〝個性〟の常識化は新たな秩序と体制を生み出し、ヒーローと敵(ヴィラン)という新たな枠組みを作り出した。
 
 そしてそれらの台頭は、治崎にとって大恩ある組の零細化を招いたのだ。
 かつて誰もが恐れ敬っていた極道は社会の影に隠れ、時代遅れの天然記念物と冷笑されるようになった。
 ヒーローと警察の絶え間ない監視を受けているから正攻法での復権も不可能。後は自然消滅するのを待つのみの、完全な負け組と化してしまった。
 だから治崎は、憎んでいる。ヒーローヴィラン云々以前に、世界を穢した元凶である〝個性〟そのものを憎悪している。

「穢らわしい病人共がいない。病原菌も蔓延していない。俺にとって、理想の世界だ」

 この男にしては珍しく、心底羨むような声色だった。
 もしも組の全てをそっくりそのままこちらの世界に持って来ることが出来るというのなら、治崎は喜んで頷いたろう。
 ヒーロー思想を拗らせた英雄症候群の患者達が彷徨くわけでもなく、八斎會は全盛期の頃の勢いを保っている。
 聖杯を手に入れる為に治崎が行った介入で結局形は歪んでしまったが、それさえなければ、組長健在のまま末永く存続していったに違いない。

 だからこそ治崎はこの世界を綺麗だと思う。
 あのむせ返るような腐臭に満ちた膿んだ世界に比べれば、何百倍とマシだ。
 心の底からそう思っている、のだったが。

「いえ、いえ。そんなことはありませんよ、廻。
 この世界は、ひどく汚れています。
 とても拭い去れないくらい深い汚濁の罪に、穢れているのです」

 バーサーカーは悲愴な声で、それを否定する。
 この世界は綺麗などではない。
 おぞましいほど汚く、吐き気がするほど穢れていると断言した。
 その表情はまるで恋に破れた乙女のよう。この世の何もかもに絶望した顔を、彼女はしているのだった。

「元凶の悪魔(おまえ)がそれを言うとはな。何の皮肉だ?」
「前にも言ったでしょう。わたしは、こうなどなりたくはなかった」

 目を見開き、息は荒い。
 なまじ見た目が麗しい為その様はひどくエロティックだったが、これに興奮する者は余程の豪傑でもない限りまずいないだろう。
 溢れ出しているからだ、彼女の抱える狂気が。
 パラノイアとでも形容すべき病みの波動が。

「わたしは永久に大海を揺蕩っているべきだったのです。
 退屈でも、あの時わたしは確かに満たされていた。
 いずれ神の晩餐に並ぶ運命の怪物だとしても。少なくとも、飢えに苦しみ喘ぐことだけはなかった」

 バーサーカーは生まれながらに悪魔だったわけではない。
 彼女は神の手で生み出された生物。最強であれと願われ、海へ放たれた大海の支配者。
 その彼女が悪魔に変生するに至ったのには、当然ながら理由がある。
 他人が聞けば下らない、しかし当人にしてみれば切実な祈りの果て、諸悪の王は七罪の悪魔へとカタチを変えた。

「願うべきではなかった。願うべきではなかったのです。
 この海を離れて陸を歩き、未知なるものを知りたいなどと。
 そんな子供じみた願いを抱いた結果がこの霊基(カタチ)だというのなら、成程、これは神の罰以外の何物でもないのでしょう」


64 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:24:03 pKnjwt7.0

 怪物が願ったのは未知と自由。
 海の全てを知り尽くしてしまった彼女は上陸を求めた。
 子女のように強く願い、祈り、その願いは遂に神の被造物たる己を全く別の存在に変生させるに至った。

 海という檻を離れ、陸を歩けるヒトの姿。
 そして、どこへでも行ける悪魔の力。
 しかし、これだけではなかった。
 憧れた自由への変生は、彼女を永劫に苦しめ続ける副作用も同時に連れてきたのである。

「人の世界に踏み入ったわたしを待つのは人の罪でした。
 嫉ましいのです、羨ましいのです――他者の全てが。
 わたしに持っていないものがあることが耐えられない。
 全身の肉の内側を蛆が這い回るような苦痛が常に付き纏い続けるのです。

 それがわたしの被った罪。わたしに課せられた永遠の罰。七つの大罪が一、嫉妬の性」

 傲慢、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲――そして〝嫉妬〟。
 七つの大罪が一つにして、楽園の蛇が司るとされる悪徳。
 悪魔となったバーサーカーは人から抽出された妬みの罪を、その魂に刻み込まれた。
 その結果生まれたのは全ての嫉妬を司る大悪魔。レヴィアタンという名はそのままに、最強の力もそのままに、形だけを大きく歪められた怪物。

 そこに生まれながらの悪性など存在しない。
 あるのは人間の悪徳を自由の代償に押し込まれたことへの嘆きだけだ。
 悪魔でありながら、自身の司る罪からの解放を願う彼女は成程異端の一言に尽きよう。

「お前の自業自得以外の何だっていうんだ? 
 被害者面するなよ、悪魔。そうなることを望んだのは、他でもないお前自身だろう」

「分かっています。分かっていますとも。誰よりもわたしが、己の罪深さを理解しています」

 神に造られながら、役目からの逸脱を望んだ罪。
 悪魔となってでも、自由の二文字を得たいと欲した罪。
 その顛末が今の己だ。バーサーカーはその言葉の通り、誰よりもそのことをよく理解している。
 
「わたしは俗物なのです。頭では分かっていても、割り切れない。
 永遠に続く罰に耐えられるほど、わたしは強い心を持っていない。
 だから聖杯を求めるのです、廻。聡明なあなた。我がマスター。
 堕落に付き添う悪魔ではありますが、あなたにだけはそれをもたらさぬと誓いましょう」

「当然のことを改まって言われても何も響かないな。
 思い上がるなよ、お前は道具だ。病気で汚れた世界を浄化して八斎會を再興させる。お前はその為の兵器に過ぎない」

 下らないし興味もない。
 道具は道具らしく仕事だけをこなしていればそれでいい。

 聖杯の恩寵も半分は渡そう。
 〝個性〟の廃絶程度なら、残りの半分でも事足りる筈。そこで無駄な軋轢を生むつもりはない。
 要は利害の一致さえあれば他には何も要らないというのが、治崎のスタンスだった。

 サーヴァントと絆を深める? 
 互いの願いに同調する? 
 それは無益、非合理的というものだろう。

 そんな暇があるなら勝つ為の策なり備えなりを一つでも多く用意すべきだ。
 時間は有限ではなく、刻々と戦況は変わっていく。
 それに乗り遅れた者から脱落していくのだと、治崎は最初から理解している。
 故にこそ治崎はバーサーカーを重用はすれど、彼女を理解しようとは全く思わない。


65 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:24:24 pKnjwt7.0

 それどころか、彼の彼女に対する感情は先の一言に全て集約されている。
 即ち、自業自得。同情には値しないし、心底どうでもいい。
 それ以上でも以下でもない。バーサーカーがどれほど悲愴な顔をしようが、治崎としては知ったことではない。
 重要なのは勝つかどうか。その為に何をするか。――己に配られたカードをどのように使い、どのように勝つか。

〝ええ――分かっています。分かっています。
 わたしは道具であなたは使用者。サーヴァントとマスターの関係とは本来そういうもの。
 それ以上の何かを期待するのは、幼稚なことなのでしょう〟

 バーサーカーも、そんな治崎の考えはよく理解していた。
 反発するどころか、むしろそれでいいと認めてすらいる。
 事実治崎廻というマスターは相当な〝当たり〟だ。
 知略も腕っ節も身分も高い。聖杯戦争を誇張抜きに掌握できる力を秘めた、自分などより余程悪魔じみた男。

 そんな彼のことを心から信頼し、敬愛するからこそ――バーサーカーは怖くて堪らない。
 駄目なのだ、こういうのは。こうなるとバーサーカーは、自分の病気が抑えられなくなる。
 
〝どうかお気をつけて、廻。
 わたしはあなたに堕落を与えません。
 しかし……〟

 バーサーカー・レヴィアタンの司る悪徳は嫉妬。
 それは彼女が人にもたらす堕落であると同時に、彼女の魂を永劫に苛む衝動だ。
 まさに病。後天性にして治す手段のない、完全なる存在さえも発狂させるパラノイア。
 
〝わたしは、あなたのことも羨ましい。
 触れれば砕き、散った命すら復元する力。
 欲しくて堪りません。わたしにはあなたの両手が、きらびやかな宝石に見える――〟

 ――そこに見境はない。それどころか彼女が私的な感情を注げば注ぐほど、同時に衝動は強まっていく。

〝――嗚呼、なんておぞましい〟

 悪魔になどなるべきではなかった。
 あの海へ還り、永遠に満ちたまま既知の海を漂っているべきだった。
 満ち足りたい。退屈の牢獄に閉じ込められたい。その祈りこそが、大悪魔レヴィアタンのすべて。

 ひとりは充足からの解放を。
 ひとりは解放からの充足を。
 全く正反対のものを奇跡の力に乞いながら、彼らの聖杯戦争は続いていく。


66 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:25:32 pKnjwt7.0

【CLASS】バーサーカー

【真名】レヴィアタン

【出典】旧約聖書、七つの大罪、悪魔学

【性別】女性

【身長・体重】150cm、39kg

【属性】混沌・狂

【ステータス】

筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:A+(人間体)

筋力:A++ 耐久:A+++ 敏捷:D 魔力:A 幸運:D 宝具:A+(竜体)

【クラス別スキル】

 狂化:EX
 全ステータスを1ランクアップさせるが、理性は失われていない。
 後天的に付与された性質とはいえ、悪魔であるバーサーカーは狂化の鎖をはね除け、その上でメリットのみを受けることが出来る。
 ただし、それは彼女が狂っていないこととイコールにはならない。狂化など施すまでもなく、彼女は生まれた瞬間から狂気を宿している。

【固有スキル】

 大海の支配者:EX
 太古の魔海に君臨した大海竜としての能力。
 人間体の状態でも、自由自在に自分の肉体部位を竜化させることが出来る。
 〝変化〟〝自己改造〟などの強化スキルが幾つも複合されたユニークスキル。
 また、父にして母なる海の支配者であるバーサーカーは水、海に纏わる攻撃から受けるダメージを常に大きく軽減し、ランクが低ければその攻撃を支配し返して完全に掌握することも可能。
 それが液体であるならば、余程桁違いの神秘でも抱えていない限り大なり小なりバーサーカーの干渉を受ける。

 嫉妬の性:A+
 バーサーカーが持つ、悪魔としての特性。彼女は嫉妬の罪を司る大悪魔である。
 相対した全ての存在に等しく嫉妬し、その人物の輝かしい部分を奪いたいという衝動に常に駆られ続ける。
 普段は悪魔としての意志力で抑え込んでいるが、彼女自身でも制御不能な領域にまで欲求が高まると暴走の危険がある。
 バーサーカー自身にとっても忌まわしくて堪らない、呪いのような性。

 天性の魔:A+
 英雄や神が魔獣に堕としたのではなく、怪物として産み落とされたものに備わるスキル。
 生まれながらに怪物であったバーサーカーは、人の身で辿り着くのは困難なランクの筋力と耐久力に到達している。 

 魔力放出(水):A
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
 バーサーカーの場合、水を魔力として放つ。鉄砲水のように打ち出したり、地面から噴き上がらせて盾にするなど応用の幅はかなり広い。
 長時間に渡り放出させ続けることで、水流ブレードなどの武器を形成することも出来る。


67 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:26:31 pKnjwt7.0

【宝具】

『諸悪の王(リヴァイアサン)』
 
 ランク:A+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1

 バーサーカーの本来の姿である、全長数百メートルはあろうかという巨大な神獣ランクの竜種に転身する。
 魔力消費が凄まじく大きく、その上あまりにも目立つためおいそれとは使えない切り札だが、その分非常に凶悪な性能を誇るのが特徴。
 災害じみた攻撃力もさることながら、真に厄介なのはその防御力。竜の全身は鎧を思わせる強固な鱗に覆われており、この鱗はあらゆる〝武器〟による直接攻撃に対し高い耐性を持つ。
 Aランク以下であればそもそもダメージを受けず、それ以上のランクでも最終ダメージが大きく軽減されてしまう。
 このため、武器の存在に依存したサーヴァントがバーサーカーに手傷を与えようと思うなら、武器から放った光線や炎などといった〝派生形〟で攻める必要がある。
 他にもドラゴンブレスを始めとした竜種固有の技を多数有するため、ただ防戦するだけでも容易ではない。
 更に本来海の支配者である竜体のバーサーカーは、ただそこにいるだけで自分と接触している箇所の地面を溶解、擬似的な海に変えてしまう。このため、真の姿を解放したバーサーカーを野放しにしていれば際限なく都市機能が破壊されていく。
 まして彼女が嫉妬を拗らせて暴走状態にあったなら、誇張抜きに京都の町が地図から消えてしまう可能性がある。

『七罪魔手・楽園の蛇(エンヴィー・デモノロジー)』

 ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:1

 彼女を象徴する悪徳である〝嫉妬〟……何かを羨む浅ましい想いそのものが宝具の域に昇華されたもの。
 背後の空間から半透明の巨大で禍々しい腕を出現させ、敵に向けて攻撃を仕掛ける。これ自体の威力は見た目に反して驚くほど低いが、重要なのは接触によって発動する事象。
 この腕に触れられた対象は、バーサーカーが羨望を覚えたスキルを一つ奪い取られる。もし掴まれてしまえば宝具すら奪われる危険性がある。
 奪ったスキルや宝具はバーサーカーの所有物となり、真名解放も含めて本来の持ち主と同等の技量・知識で扱うことが出来るようになる。
 これを取り返す手段は、バーサーカーを殺害して『七大罪手・楽園の蛇』の効果そのものを消滅させるしかない。
 対魔力などのスキルで抵抗可能だが、最も効率よく奪う手段である〝掴み〟が決まったなら、A+ランク相当の対魔力持ちからでもスキルまでは略奪出来る。
 逆に対魔力を持たないサーヴァントにとっては、わずかにかすることすら許されない、最悪レベルの厄介な能力となるだろう。

【weapon】
〝大海の支配者〟〝魔力放出(水)〟によって作り出した武器

【解説】

 レヴィアタン。旧約聖書に登場する海中の怪物。悪魔と見られることもある。
 語源は〝ねじれた〟〝渦を巻いた〟という意味のヘブライ語だが、現代では原義から転じて、単に大きな怪物や生き物を意味する言葉として使用されることも多い。
 神が天地創造の五日目に作り出した存在で、同じく神に造られたベヒモスと二頭一対を成すとされている。
 ベヒモスが最高の生物と称されるのに対し、レヴィアタンは最強の生物と呼ばれる。その硬い鱗と巨大さはいかなる武器も寄せ付けず、世界の終末に際してはベヒモスと共に食べ物として供されるという。
 また、中世以降はサタンなどと同じ悪魔と観られるのが一般化。水を司る者という属性は変わらず、外観も怪物であるとされるが、その一方で一般的に想起されるような悪魔の外観を持つという説も存在する。
 コラン・ド・ブランシーが著した『地獄の辞典』に拠ればレヴィアタンは地獄の海軍大提督を務めており、悪魔の階級においてはサタン、ベルゼブブに次ぐ第三位の地位を持つ強大な魔神とされる。
 キリスト教の七つの大罪では、嫉妬を司る悪魔と定義されてもいる。また、嫉妬は動物で表された場合は蛇となり、レヴィアタンが海蛇として描かれる場合の外観と一致する。しかしこれについては当時から反対意見が多く、知性のない怪物であるレヴィアタンを無理矢理悪魔と定義しただけのこじつけ、オカルティストの創作であるという意見が根強い。


68 : 盲目のアイロニー ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:27:11 pKnjwt7.0

 が、実は誤っているのは否定派の方。
 レヴィアタンは正真正銘の大悪魔であり、同時に神が作り出した大海の支配者でもある存在。
 神の手で創造されたレヴィアタンは伝承通りの強大な怪物であったが、しかし知性を持たないわけではなかった。むしろその逆。彼女はその頃から明晰な知性とパラノイアめいた狂気を宿していた。
 大海の支配者は長い時間を過ごす中で、海からの脱出を願うようになる。退屈で、永く、終わりの見えない海遊をやめ、人として地上に昇って生きたいとそう思うようになっていく。
 だが、神の造った怪物である彼女の願いは歪んだ形で叶えられた。レヴィアタン自身の変質、人の悪性を司る悪魔への変容という形で。
 悪魔となったレヴィアタンは人から抽出された妬み、嫉みの感情を常に抱えながら、人を堕落・破滅させる魔性そのもの。欲しいものが手に入らなければ抱え込んだ衝動は次第に膨れ上がっていき、いつかは爆発する。
 半端に理性の残ってしまっている彼女にとって、それは自分が自分でなくなる苦しみに他ならず――故にその願いは悪魔らしからぬもの。
 自らのアイデンティティの崩壊……嫉妬の終わり。充足の時を、彼女は聖杯に願うのだ。

【特徴】

 頭に捻れた二対の角が生えた、プラチナブロンドの少女。小柄だが胸は大きい。
 海色のロングドレスを着用し、臀部からは鯨のそれを思わせる尻尾が生えている。
 彼女の嫉妬心が高揚するとドレスの色が夜の水面のように黒く染まっていき、表面が波打ち始める。

【聖杯にかける願い】

 満たされたい。それが自分という悪魔(そんざい)の破綻をもたらすとしても、この情動から解放されたい


【マスター】

治崎廻@僕のヒーローアカデミア

【マスターとしての願い】

 全人類の〝個性〟の消滅。

【Weapon】

 ヤクザの若頭であるため、拳銃などの凶器を所持している。

【能力・技能】   
   
 ■個性『オーバーホール』
 対象物を分解し、任意で再構築する個性。
 自らの爪で引っ掻いたものを対象にし、任意の規模で分解あるいは再構築を行う。
 人体程度ならば引っ掻いてから一瞬で完全分解し、死亡直後ならば死人の再構築(=蘇生)すら可能。
 治崎は二つの性質を巧みに組み合わせ、建物や地形そのものを自在に変形させながらの戦闘を得意とする。

【人物背景】

 指定敵予備団体・死穢八斎會の若頭。通称オーバーホール。
 作中世界では落ち目となっている極道の人間で、八斎會の組長への恩義もあって誰よりも強く組の、ひいては極道の未来を案じている。
 その思いは最早狂気に近く、綿密な努力と計算でどんな非道にも手を染め、遂には恩人である組長をすら再起不能の身に変えた。
 彼の目的は〝巻き戻し〟の個性を持つ少女、壊理を利用して個性を人から消す銃弾と、それに対する血清を開発。
 前者をヴィラン、後者をヒーローに売り捌き、市場を独占することによる組の復興である。
 だが無論、聖杯さえ手に入ってしまえば組を衰退させた諸悪の根源である個性をこの世から苦もなく消し去れる為、今回はそれを目標に動く。
 八斎會本部強制捜索が行われる前からの参戦。
   
【方針】
 
 聖杯狙い


69 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/21(木) 02:27:51 pKnjwt7.0
投下終了します。


70 : ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:15:42 qzeh.bz20
投下します


71 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:18:36 qzeh.bz20
しゅるしゅるしゅる。
紙の上をペンが走る。
殺風景な部屋に、こつこつとペン先が紙の上から机を叩く音が響く。
互いの息遣いさえ手に取るようにわかる。
…死刑宣告を待つ囚人のようだ。
…判決を待つ大罪人のようだ。
ただ"黙っている"という時間が、こんなにも苦しい瞬間があるとは思っていなかった。
ただ"何もしてはいけない"という時間が、こんなにも恐ろしい瞬間があるとは思っていなかった。

「―――じゃあ繰り返しますが」

褐色の男が口を開く。
若い、仏頂面な男だ。
年齢は二十歳…を少し過ぎた辺りだろうか。
男にしては比較的高めの声が、机と明かりしか存在しないこの部屋に響く。
―――この部屋には『灰色』という印象がとても似合う。
暖かいモノなど何一つ無く、ただ淡々と事実のみを確認するだけの部屋。
誤魔化しは許されない。嘘は許されない。
ただ、己が成した悪行を吐露する場。
此処が何処かなど、正直余り覚えていない。
"京都の警察署"だというのはわかっている―――その取調室だということもわかっているのだが、はて、その詳しい住所までは覚えていない。
何もしていない人物が此処まで運ばれることはない。
警察に事情を聞かれる『何か』をしたからこの場に連行されているのだ。
しかし、自分が何をしたかというのも余り覚えていない。
朧気ながら覚えていることもある。
自分は、週末に酒の場で、この拳で誰かを傷つけた―――それだけ。
何か、とても許せないことを言われた気がする。
何か、とてつもない衝動に身を焼かれた覚えはある。
しかし、それが何かも覚えていない。

「俺の話、聞いてます?」
「ああ、すいません、よく聞いてなかった」
「…繰り返します」

ぽうっと呆けている僕に声をかけた警察官は、不機嫌そうに此方を睨む。
警察という役職に似合わない白い服装は何かの行事が開かれる前だったのだろうか、取調室室の灰色の中では酷く目立つ。

「貴方は○月×日―――時刻22時38分。
偶々同席した男性と口論になり、殴り合いに発展。
相手の男性が『お前の面を見てると酒が不味くなる』と発言したことにより、貴方はカッなり男性を殴りつけた。
その場では居酒屋の店主に止められ『双方に落ち度がある』と納得し和解し、金を払って退出した男を見送った…そこまでは、良いですね?」
「えっと…はい。そうなんだと思います」
「そうですか。では、続けます」

調書、というものだろうか。
褐色の男が紙にサラサラとまた何かを書いていく。
…自分の仕出かした事の大きさを現実として突き付けられると、脳が揺れるような感覚がある。
くらくら、ぐるぐる、視界が揺れる。
カッとなったとは言え、僕はたったそれだけの言葉で人を傷つけるようなことをしたのか。
自分が自分を信じられない。
暴力的にも程がある。
もしや自分にはもう一つの人格があって、そいつがやったのではないかと疑いたくなるほどで―――

「そして相手の男性が退店した後を追い、その男性と交際関係にある女性が出会ったのを確認した。
居酒屋から歩くこと約20分、人気のない道に入ったのを確認し―――後ろから男性の高等部を手持ちのナイフで一突き。次に喉を切り裂き、男性は即死」
「…は?」
「慌てふためく女性が叫び声を上げる前に口内にナイフを挿し込み、そのまま下顎を抉り取り黙らせた。
その後、男性の両親指を切断しその女性の両眼孔部に挿し」
「ちょ、ちょっ、待ってください!」


72 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:20:34 qzeh.bz20
机を叩き、立ち上がる。
その振動と衝撃で明かりを提供してくれていたライトが傾くが、些細なことだ。

「ぼ、僕が殺し……!?人、ひ、人を刺し殺したって何なんですか…!?」
「何、とは?貴方が仕出かした事の確認を取っているだけですけど。
口論の結果、男女を刺し殺した。それだけでしょう?」
「それだけって…そんな、ふざけるな!それだけで人を殺す訳がないだろう……!!」

戸惑いと怒りで頭が沸騰しそうになる。
確かに口論をした覚えはある。
確かに殴った覚えはある。
だが、それだけだ。
其処から先は何一つ覚えがないし、何よりそんな恐ろしいことをこの自分が出来るとも思わない。
人として。
そんな"愚行"を自分が犯したとは思えない。

「…そうですか」
「そうですかじゃない…!何かの間違いだ、今すぐ取り消せ」
「取り消せ、と言われましても。
何も俺は嘘で貴方を騙そうとしてるんじゃない。
本当に―――貴方が殺ったことなんですよ」

その時。
褐色のの男が、初めて"喜"の表情を見せた。
男が懐から取り出した袋を机の上に放り投げる。
からん、と音がする。
赤い、固形物。
親指の爪よりも……少し、大きい。

「…わかりませんか?
これ、女性の体内に残ってたモノなんですけど」

褐色の男の口角が上がる。
大きく口を開く。
ゆっくりとしたその動作はまるで、食事を前にした肉食獣のよう。
男は己の口内に指を差し込み。
コンコン、と音を鳴らし指先で指し示す。

「―――貴方。奥歯、今も『ありますか』?」
「……へ?」

汗腺が、活発的に動き出す。
脳内が嫌なビジョンを写し出す。
目の前の袋入りの"固形物"が存在感を主張している。
まさか。
まさか。まさか。
まさか。まさか。まさか。

「おく、ば」

ゆっくりと。己の口内に指を伸ばす。
動揺で唾液が分泌されニチャア、と音がする。
ふるふると震えた指が口内の奥に進んでいき―――奥歯がある場所へと、辿り着いた。

いや。

正確には、奥歯が『あった場所』か。


73 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:21:40 qzeh.bz20
「相当腹が立っていたんでしょうねえ。いや、減っていたのかな?
刺し殺し、惨殺した後に喰らいつくなんて―――女の方が、肉は柔らかかったんですか?」
「い、いや、待て、そんな」
「でも肉は千切れても骨は硬いですよねえ。カルシウム足りなかったんじゃないですか?
奥歯…ほら。罅が入ってますよ。
肉は柔らかくて美味しかったのに、硬いものに当たったから痛くて痛くて、慌てて落としてしまったのかな」

―――視界が、反転する。
女性の肉に刺さっていたと言われた、僕の"奥歯"。
記憶はない。
自分がそんなことするはずがない。
殺しただけでなく、そんな、人を、人を喰う、なんて。
…動揺で息が荒くなる。
視点が定まらない。
記憶はない。
己がそんな"愚行"を起こすはずがない。
なのに。
だというのに。

「血液も現場と遺体から大分減ってましてねえ。遺体は二人分あるのに、血液量はおよそ一人分だった。
…まるで。
誰かが傷口から溢れるのを延々と吸ったか、と思わせるほどでしたよ?」

男が言葉を紡ぐ度に―――『記憶にない記憶』が甦る。
赤子の頃のホームビデオを見せられているような気分だ。
身に覚えもないそれは―――鮮明な感覚として、胸の中に訪れる。
喉を潤す血液。
男のそれは、まるでステーキを焼いた後の肉汁で作ったソースのように油が混じっていて、それだけで充実感を与えてくれた。
腹を満たす肉。
女の皮に包まれたそれは、まるで焼く前の餃子のように柔らかく。
それでいて、極上の北京ダックを食しているような奇妙な感覚があった。

…ああ、もう、否定できない。
直視してしまった。
認識してしまった。
これは、僕がやったことなんだ。
僕は。
人を殺し―――喰ったんだ。

「ほら……ここに、サイン。
"供述調書に間違いはない"、と。
書いていただけますね?」

褐色の男が、悪魔のような微笑みで此方を見る。
震える指でペンを取り、調書に名前を刻む。
これで、僕の罪は確定した。
ゆっくりと顔を上げる。
男は変わらず、此方をにこりと見つめている。
そうすると。
眼帯。
男の右目を隠していた眼帯が、偶然取れたのだろうか、はらりと落ちて―――


―――其処に。
赫い。悪魔の瞳を見た気がした。


▲ ▼ ▲


74 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:23:41 qzeh.bz20
「可哀想だなあ」

褐色の男は、ふと、そんな感想を抱いた。
勿論本心ではない。暇を持て余す故に口から漏れた意味のない言葉だ。
コンビニエンスストアで注いだ暖かい珈琲を口に運びながら夜風に当たる。
夜風で白を基調とした服がゆらゆらと揺れる。
川…それとも海だろうか。
土地勘がないためどちらかは知らないが、流れる水を眼下に納めながら橋の上で口内の苦い液体を味わう。
男女二人を殺し、一部を喰らった男のその後はどうなったかは知らない。
後は一部のお偉い様の仕事だ。
凶悪殺人犯のその後なんて、一介の警察官に任せてもらえるはずがない。
"相次ぐ凶悪殺人。その原因は"とか、昼のワイドショーで特集されたりするのだろうか。
別に興味の欠片もないが、自分が関わった者の末路として録画ぐらいはしてやってもいいかもしれない。
褐色の男はそんな、次の瞬間には忘れているようなどうでもいいことを考えつつ、夜風に当たる。
…東京より、ここは少し肌寒い。
それだけで別の場所に連れてこられたことを嫌というほど実感させられた。
どのようなテクノロジーが使われているのかもわからない。
東京に帰ろうともしたが、何がどうなったのか不明だがそれも出来ないようだ。
…感傷にも浸りたくなる。
帰らなければならない。
一刻も早く。
俺は、俺はオレはおれは―――私は、会わなければいけないヒトがいるのに。
苛つきを抑えられず、指先でトントンと腕を叩く。
…何時からだろうか。此が、男の癖となったのは。

「ん、んー、んふ……?
あれ、お巡りさぁーん?白い制服のお巡りさん、めずらしっ」

すると。
前後すら不確かで、足取りも覚束ない女が現れた。
髪は波のようにカールしており、カツカツと鳴るハイヒールに纏っているものはピンクのドレス…の上に、野暮ったいジャケットを羽織っていた。
何処かのキャバクラの女だろうか。
こんな人気の少ない場所を酔って歩いているのだ、頭の出来は良い方ではないだろう。
キラキラと光を反射するドレスも目障りなことこの上ない。

「えっへ、眼帯、クールじゃね?おしゃれ?あっやべ足ふらっふらしてる。
ねえ〜、いぬのお巡りさん」

酔った足でハイヒールなど履いているからか。
かつんと音を立てて、女はゆらりと男に倒れ込んでくる。
余程泥酔しているらしい。受け身を取ろうともしない。

「はいはい」

だから。
その無防備な首が。
余りにも、落としやすそうだったから。

「こうでしょ」

懐から取り出した二本のナイフで―――女の首を切断し、返す刃で両肩から先を切り離した。
へぴょっ、と女は空気が漏れるような音を奏でつつ、糸が切れた操り人形のようにバラバラに地面に散る。

「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「…女、嫌いだァ」

思わず声が出る。
生身の肉を裂いた感覚が気持ち良い。
この男にもし、魔羅があったなら。
天を衝くほど喜んでいたかもしれない。

『…あらやだ。まーた殺したの?
後始末するの、わたしなんですけど!』


75 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:25:49 qzeh.bz20
脳内に言葉が響く。
いつ聞いてもこれは気持ちが悪い。
脳内に誰かもう一人いるような気分がして、とても気持ちが悪い。

「それ、やめろって言ったよね」
『…うちのマスターは気性の激しいお方だこと』

スウウウウ、と。
青い粒のような光が、ヒトのカタチを形成する。
身体に纏った白い布。ところどころに、派手にならない程度の金のアクセサリー。
黒い長い髪に、少々目付きの悪い赤い瞳。
…これが、サーヴァント。
バーサーカー、というらしい。
真名―――サーヴァントとやらには隠している"本名"があるらしい。
男にはどうでもよいので、特に興味もなく忘れてしまったが。

「…喰べなくていいのかしら?
魔術師の魔力は体液によく溶ける…血液は充分魔力源になると思うけれど。
魔力のない一般人だとしても…ほら。
貴方が血肉を吸い私が魂を貰えば足しにはなるわ」

バーサーカーが女の死体を指先で指し示す。

「それとも。
"先程の男"のように、貴方の罪を擦り付けて楽しむのかしら?」

上機嫌なのは見るまでもなく理解できた。
バーサーカーは人が悶え苦しみ、仲違いし、憎しみ合うのを観察するのがそれはもうたまらないほど好きなのだ。
愛しているのだ。
バーサーカーに嘘はない。
つまり。
"男女二人を殺した"と取調室で自供した男は、その実、人など殺していない。
ただ、褐色の男にその夜の『獲物』として選ばれた男女は、その場の気分で殺され、バーサーカーに後始末を任せたのだ。
結果。バーサーカーの『能力』で男は自分の記憶にすら疑心暗鬼になり、奥歯などという言葉に騙され、ありもしない記憶を勝手に作り上げ、やってもいない罪を自供した。
殺したのも喰ったのも褐色の男。
何もしていない無実な男は檻に投げ入れられ、『本当に自分が殺したのだ』と一生自責の念に苛まれ続ける―――哀れな憐れな冤罪の出来上がりだ。
バーサーカーの『能力』。
狂気の檻に自らを閉じ込めるクラスであるバーサーカーだが、彼女の狂気は自らを犯すものではない。
己より発せられ、拡がる狂気―――伝染する狂気なのだ。
ソレに魅入られた者は理性も記憶も届かないところに放り投げて、己を蝕む疑心暗鬼に苛まれ愚行へと手を伸ばす。
マスターの褐色の男だけはバーサーカーとパスが繋がっているため"外からの狂気"に耐性が産まれたようだが、仕方ない。
それはそれで、まあ別にいいかと投げやりな判断を下す。

「ん、でぇ?
マスターは、この聖杯戦争どうするの?
血肉と魂を注いだ杯に、何を望む?」

バーサーカーの口元がニタリと歪む。
願い。
俺の、私の、たった一つの願い。

「会いたいなぁ」

思うと、ぽつりと言葉が漏れていた。
思い出が甦る。浮かぶのは、白と黒が混じったような"先生"と呼ばれる男。
料理を作る先生。
訓練をする先生。読書をする先生。
寝不足で資料を纏める先生。庭に水を撒く先生。武器の手入れをする先生。珈琲を飲む先生。泥棒猫と一緒にいる先生。殺す。久しぶりに出会って驚いている先生。クソ猫泥棒猫に唆された先生。ねこころす寝間着の先生先パーティーを生する生先生くそ猫先生次はバラす先生あいしてるだいすきどこにも先いかな先生いであなたがいないとわたっしは先生あのクソ猫だけには絶対に渡さない―――

「―――先生」

濁流と化し、混沌とした愛に身を捧ぐ。
この身は、たったそれだけの為に。

▲ ▼ ▲


76 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:26:55 qzeh.bz20
―――サーヴァント・バーサーカーは、女神だ。
主神と女神の間に産まれた子。
"愚行"を誘発する女神。
サーヴァントとして呼ぶには大きすぎる存在。
しかし、実際現実として、彼女はこの京都の場に召喚されていた。

「……」

その事実が、バーサーカーを少し不愉快にさせた。
規格外の神の娘、女神であるにも関わらずサーヴァントとして呼ばれ、こうして現界しているということは。
それ即ち―――バーサーカーは、"英霊"程度にまで格が落ちているということだからだ。
バーサーカーは主神から人間界へ追放された女神。
神々の元へ帰ることを許されなかった女神。
人間界に溶け―――人間共の感情の一つとなった女神。
その事件が原因で、彼女から女神としての格が奪われ召喚可能な域にまで落ちぶれてしまったのかもしれない。
勿論、召喚されたということは少しでも召喚に応じるつもりがあったということだ。
…事実、少し程度なら現代を見てみたいなー、とは思った。
もう少し掌で慌てふためく虫けら同然の人間を見てみたいなー、とも思った。
故に、少し興味本意で召喚に応じてしまった。
失策である。
聖杯なんて興味はない。
手にしたところで叶える願いなどない。
神々の山へと帰りたい。故郷へ帰りたい。
そのような願いが無いと言えば嘘になる。
だがしかし、聖杯程度の奇跡でそれが成し得るとも思えない。
故に、バーサーカーは聖杯を欲しない。
スケールの低い杯など貰っても置き場に困るだけだ。

(ま、今回の主人はそうでもないみたいだけど)

マスターは、屈折している。
屈折し、捻れ、歪み、愛は崩壊している。
少女の如き純粋な恋心と、痛みしか知らなかった人生が絡み合い醜悪なコラボレーションを産み出している。
"不和"を司る女神を母に持つバーサーカー故に、視認しただけで理解できる。
この男―――いや、この"女"は。
とっくの昔に、心が壊れている。
それが生まれつきなのか、幼少期に何か痛い目にあったのかは知らない。
だが、決定的に人としての何かが欠けている。
愛情を痛みでしか表現できない。
そんな己自身を許容している。
とってもとっても性格が―――タチが悪い、恋に恋する少女の在り方。

(……でも、いいわ。
聖杯なんていらない。英雄の戦争なんぞに興味はない。
でも―――ねえ、トオル?
貴女の行き先だけは、興味がある)

かつて世界に神秘が溢れていた時代。
そんな世界でも見つからなかった逸材。
そんな素材が、どのような結末を辿るのか。
それが、とても興味があった。

バーサーカー。
主神ゼウスを父に持ち、不和と争いの女神ヘレナを母に持つと言われる女神。
狂気の神格化。
妄想。疑心暗鬼。破滅。
人間の愚行を司る存在。
真名―――女神アテ。
主神ゼウスにより神々の座より追放された、堕ちた女神である。

▲ ▼ ▲


77 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:27:42 qzeh.bz20
女の死体は細かく切り刻んで水底にばら蒔いた。
別に自棄になった訳じゃない。
バーサーカーによる犯人の捏造は完了しているし、サーヴァントの偽装を通常の人間如きが感知できるはずもない。
もし死体が一般人に見つかったとしても、それは自分じゃない誰かが捕まるだけ。
ただ、余りにも女臭かったので、消臭の意味も込めて海に消えてもらった。
夜景を見渡す。
其処に、彼が―――"喰種捜査官"という職に就いている彼が一番に向かうべき場所はない。
どうやらこの京都には、自分が所属していた組織―――日本における対喰種機関"喰種対策局"は存在しないようだ。
喰種対策局の本局は東京にあるとして、京都ぐらいになら支部があってもおかしくはない。
"喰種"。人ならざる眼を持ち、捕食器官を持ち、人しか喰えない生物。
人の形でありながらも、人ではないもの。
それらを捜査し、人を喰らう前に駆逐するのが喰種捜査官の仕事だ。
だが。
喰種の姿は、此処に連れてこられて一体も確認できなかった。
匂いどころか、痕跡すら確認できない。
故に喰種対策局、通称"CCG"が存在しないのか。
CCGが存在しなければ、手に入れられる情報量は大きく減る。
それは困る。
一匹でも多く喰種を殺したいし、何なら人でもいい―――それに何より、『先生』を探すことが出来なくなる。
しかし、何の技術を使ったのか知らないが―――この場では自分は喰種捜査官ではなく、警察官などという職業に就いていることになっていた。
…RPGゲームで言う、役割(ロール)というやつだろうか。
同僚ほどゲームに詳しくない彼はそんなことを思いつつ、白い息を吐く。

右の目を隠している眼帯がゆらり、と揺れる。
彼の右目は―――いや。
そろそろ、此処で明かしておくべきかもしれかい。
褐色の男―――本名、六月透は男ではない。
所謂男装というモノだ。
ある年齢を過ぎてからは男として生きてきた。
別に、性同一性障害を患っている訳ではない。
ただ、男の女(じぶん)を見る目線が余りにも気持ちが悪くて。
自分が女であることに、酷く嫌気が差して。
だから、そう生きているだけ。
……ああ、でも。
"先生"だけは、違った。
穢らわしい男のような目線もない。
見ているだけの女のような図々しさもない。
勇敢で。
清廉で。実直で。
博識で。柔和で。それでいて―――
思い浮かべているだけで感情が溢れそうになる。
ああ、好きだ。
大好きだ。
何処にもいかないでほしい。
私のモノになってほしい―――ああ、一刻も早くあの泥棒猫から助けてあげないと。
その為には、此処から東京に帰らなければいけない。
運命があるのなら、此処に"先生"もいるのかもしれないが、確証はないのだから。

「ねえ、バーサーカー」
「…呼んだ?」
「君、強い?」

戯れに名前を呼ぶと返答と共に実体化した。
姿が見えなくとも常に側にいるらしい。
とんだオカルトだ、と思う。

「…そうね。じゃあ一つ教えてあげる。
英霊なんてのはね、どいつもこいつも自信があるの。剣が得意だったり、槍が得意だったり。
それだけじゃない。
騎士なんて連中は弓だけじゃなく剣にも魔術にも精通してるから"騎士"と呼ばれる。
英雄なんて連中は狂っていながらも偉業を成したから"英雄"と呼ばれる。
何か一つ。英雄には他の誰にも負けない"何か"があるの。
…わたしより肉弾戦で強いのなんて沢山いる。それこそ群がる羽虫のようにね」
「……」
「でもね」


78 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:31:53 qzeh.bz20
使えないな、と思った先に言葉が続く。
どうせなら即座に聖杯戦争を終わらせるような、強い者が良かった。
しかし。
そんな思いを見抜いたかのように、バーサーカーの赤い瞳が此方を向く。
…その瞳は。
喰種の"赫"より、澄んだ神々しい"赤"で。

「―――こと『狂わせる』ことにおいて、私の右に出る者はいない。
破滅。愚行。自らの罪で消えていく呪い。
不義、不仲を増長させる病。
それが、わたし。
わたしの前では―――どんな英雄だって、正気じゃいられない」

それは。
"誰にも負けない"という、己の主に向けた宣戦布告でもあった。
ああ、良い。
女は嫌いだが―――このサーヴァントは、使える。

「そう。
じゃあ……殺そう?」

返答は、簡潔に。
歪みに歪んだ、殺人鬼の主と狂気の女神。
誰よりも狂った、暗い道が京都の闇を指し示す。



【CLASS】バーサーカー

【真名】女神アテ

【出典】ギリシャ神話

【性別】女性

【身長・体重】165cm・52kg

【属性】中立・狂

【ステータス】

 筋力D 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
狂化:EX
バーサーカーのクラス特性。
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル―――だが、彼女の場合、このスキルは宝具と彼女の在り方にて変質している。
よって、この狂化は彼女に施されるものではなく―――

【固有スキル】
魔力放出(雷神):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
アテの場合痺れ・焼き唸る雷が魔力となって放出され、それによる高速移動や飛行なども可能にする。
その由来は『主神・ゼウスを父に持つ』ことにより、『神ゼウスの娘である』という自己認識が彼女にほんの一部であるが父の雷撃を分け与えられている。
その一撃は上級宝具に匹敵するほど。

神性:A
神霊適性を持つかどうか。
ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
本来は主神の血を引くとも、女神の血を引くとも言われているため本物の女神なのだが、失態の責任を追わされ地上へと落とされたため神性は大きくランクダウン。
サーヴァントとして召喚可能になった。

狂気の顕現:EX→A
破滅・愚行の女神としての恐るべき伝染する不和。
他者の理性・秩序を崩壊させる力。
強力な恐慌状態を付与することを主体としたカリスマスキルの一種で、他人を疑心暗鬼や後先を省みない愚行へと走らせる。
在りもしない罪。覚えのない闇。
疑心暗鬼は己への不信へと繋がり、身に覚えのない罪悪を植え付けられる。
本来ならEXランクだが、人間界へと落とされたことにより女神としても神格が下がり、Aとなった。


79 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:35:00 qzeh.bz20
【宝具】

『迷妄と愚行の果てに滅び逝きよ(イーリアス・ディアフォンノ)』
 ランク:A 種別:対人間宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

愚行。妄想。破滅。精神を犯す甘き毒。
誰しもが持つ『魔が差した』などという悪感情。
彼女が司るのは、"ソレ"である。
どんなに信頼していようとどんなに愛し合っていようとその仲に必ず存在する『不和』『疑心暗鬼』を強大化させ、『破裂』させる。
決定的な瞬間に『致命的な過ち』を犯してしまう。
意志疎通が不確かな精神状況。一種の『狂化(ステータスの上昇効果は無し)』を付与させる。
女神アテを認識してしまうか、または女神アテに認識されてしまうと最後―――彼女が存在する限り心に産まれた疑惑の火種は消えない。
徐々に疑心暗鬼は膨れ上がり、内部からの崩壊を誘発する。
人としての知能がある限り避けられない、『対人間宝具』である。
神の力でもあるため、精神耐性でも防げない。
しかし、パスが繋がっている己のマスターには狂気への耐性が付与されるためこの宝具は効かない。
この宝具により彼女が生来から纏っていた狂気及びバーサーカークラスとして彼女に付与される狂気は、他者へと伝染するものとなったため、彼女はバーサーカーでありながら理性的な存在として君臨している。

『神託導きし女神の予言(ミュケナイ・マディス)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:一人 最大捕捉:?

女神アテとしての予言能力。
己を、他者を『その者にとって』有意義な方向へと導く予言。
戦闘や生涯、その場における最適解を読み取る神の力であり、これを覆すには同じく神の力でなければいけない。
……が、ゼウスの一件で少しトラウマがあるので他者にはあまり使いたがらない。
「どうせわたしが使ったときに限って違う神様が現れて覆したりするんでしょう?わかってるわよぉ……」とは彼女談。
少し、いやかなり卑屈になっている。

【人物背景】
主神ゼウスと争い・不和の女神エレスの娘。
元はオリンポス山で神々と暮らしていた。
そしてある日、予言の能力を持つアテは父であるゼウスに一言申したのだ。
「次に生まれるペルセウスの子供に王座あげなよ。その方が良いって」
その助言を信じたゼウス。ヘラクレスを王座に迎えようと、次のペルセウスの息子に王座を与えようと宣言する。
それを聞いた正妻ヘラはこれまた怒り、叫んだ。
正妻ヘラは常々夫の素行に警戒していたが、今度もまた深い妬みを抱いたのだ。
「エイレイテュイアを呼びなさい…!あんにゃろ、また勝手なことを…!」
ヘラの一声で呼ばれた安産の女神エイレイテュイアはヘラの言う通り、アルクメーネー(ヘラクレスの母)のお産を遅れさせ、ヘラクレスの従兄弟であるエウリュステウスを早産させた。
次の息子が玉座に迎えられるなら、従兄弟を先に産ませちゃえばいいじゃない!
そうして神の加護により予言が外れ、エウリュステウスは玉座へ。
ヘラクレスを迎えようと思っていたゼウス神はこれまた大怒り。
おまえの予言で当てが外れた、と怒り散らしアテの頭をむんずと掴み、地上へと投げ飛ばしたという。
「…わたし、悪くなくない…?正妻が悪いんじゃないの…?」
地上へと追放されたアテ。
しかし神々の元へ帰ることは許されなかった。
だがアテは往生際が良くなかったので、その力を存分に発揮し人間界にて愚行へと人を走らせる力を存分に使ったという。
人々が愚行へと走るようになったのを見かねて『祈願(リタイ)の神』を送り、アテの世話をさせた―――というのが女神アテの物語である。

【外見的特徴】
ギリシャ神話らしい衣に身を纏った長い黒髪の女性。
母譲りか、目付きが悪い。
争いと不和の女神エレスの陰湿さと主神ゼウスの奔放っぷりが混ざり、嬉々として人の愚行を呼び起こす嫌な性格の女神となった。
しかし誰かに予言をし導いたり根は(少しだけ)良い子の部分もあるので好きに悪行を成した後に「またやっちゃった…」と少し自己嫌悪に陥ることもしばしば。

【聖杯にかける願い】
神霊レベルになると聖杯レベルの奇跡などいくらでも起こせる―――のだが彼女は追放され人間界に落ちた女神なので不可能。
出来るならば普通の女神として戻りたい気持ちもあるが、それもいいかなー程度で強く願っている訳でもない。
この聖杯戦争は楽しそうなのでそれでいっか…という、ゼウス譲りの後先考えない快楽主義。


80 : 不和の子供 ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:37:41 qzeh.bz20
【マスター】
六月透@東京喰種:re
(東京喰種:re147話後より参戦)

【能力・技能】
人ならざる姿で人を喰う『喰種』を狩るための組織『喰種対策局』が作り出した、『喰種の力を持った人間』―――それが彼ら、クインクス(Qs)である。
喰種の器官"赫胞"をセーフティをつけた状態で移植しているため、人間を遥かに越えた身体能力と視力・動体視力、そして人間を遥かに越えた再生力を持つ。
そして最大の特色としてその"赫胞"から『赫子』という器官を伸ばし、戦闘に利用する。
堅くしなやかで切れ味のある赫子、腰の辺りから生える『尾赫』というタイプを使い複数の尻尾のような形状を作り出し、厚い鉄板すらも切断する。
人肉を捕食することで細胞が活性化し、傷の修復や瞬間的な火力の増強にも使われる。
ナイフの扱いにも長けており、十数本を舞わせ、斬り、投擲し己の身体の一部のように扱うこともできる。

【weapon】
・赫子(尾赫)
・クインケ『イフラフト(鱗赫)』&『アブクソル(鱗赫)』
二本のナイフ。喰種の赫子で作られているため普通のナイフより遥かに強度と切れ味がある。
・クインケ[甲赫]『黒のリンシルグナット16/16』
・クインケ[甲赫]『白のルスティングナット16/16』
白色のナイフ状のクインケ16本、黒色のナイフ状のクインケ16本。
合わせて32本。
甲赫素材であるため普通のクインケより堅くそれを、まるで曲芸のように振り回し投げ切り刻む。

【人物背景】
クインクス班の一人。褐色肌に眼の制御が出来ないため赤く染まった右目を眼帯で隠し、線の細い容姿をしている。
女性であるが自身の性を嫌悪し男性から「女性として」見られることを酷く嫌悪している。
故に男装をしているが、同一性障害ではない。
両親と兄を喰種に殺された孤児で、何かと問題児の多い『CCG第二アカデミー』出身。
当時、講師であった佐々木琲世と面識があり名残として“先生”と呼び慕っている。
弱気だがその弱さを飼い慣らし強くなりたいという願望を持ち日々成長している。

……が。
手足・首を切り取り胴体のみを愛する喰種"トルソー"に手足を切り取られ暴行を受けたことにより蓋をしていた記憶が開かれる。
父から殴る蹴る、溺死する寸前まで虐待を受け続け時には性的暴行すら受ける悲惨な少女時代。
母は父を恐れて彼女を助けようとはしない。
そして。
「―――"喰種"が殺した」
自宅にあった斧を持って父と母を虐殺。
犯行中の記憶は封印していたため、己がやったとは思っていなかった。
警察は彼女の犯行だと断定したが、如何せん『少女であること』『記憶がないこと』があるため、孤児としてCCGアカデミーに送られた。
それからも猟奇的な殺害衝動は収まることを知らず、同級生に犯罪者扱いされた時も「俺はやってない」と泣きながら猫を解体し、その舌を収集していた。
クインクスとなり、負傷してからはそれを治すために死体も喰らった。
そして似た者同士であったトルソーを殺害後、己の正体(少年殺人犯)を自覚した六月はその記憶を自分のモノと受け入れ―――力に溺れ殺人鬼として暴走していく。

【方針】
早急に帰りたいが、とりあえずはいつも通り職務を全うするだけであるが―――はて。
参加者に襲われたら、殺すしかないし。
参加者を見つけたら、殺すしかないだろう。

【聖杯にかける願い】
先生(佐々木琲世、または金木研)を探して止める(殺す)。
自分のモノにする。
―――が、今は聖杯そのものを絵空事としてしか認識していないため、帰ることが最優先になっている。


81 : ◆DpgFZhamPE :2017/12/22(金) 23:38:40 qzeh.bz20
投下終了します


82 : 名無しさん :2017/12/23(土) 06:05:21 dFnwqtg60
どぼぢでまともなさーゔぁんとっさんこないのおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?


83 : ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:45:57 0AeMwa.M0
お借りいたします


84 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:47:55 0AeMwa.M0


 ジーザスが電話に出ているぜ。

 欲しいものを言ってみな。

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「ひ、っぎぃっ!? う、うああぁあああぁああぁあっ!?」

 暗黒の中に、若い娘の悲痛な叫びが木霊した。

 氷のように冷え切った、石造りの牢獄。
 明り取りの窓は、そう呼ぶことさえ憚れるほどに小さく、空気は淀んで濁りきっていた。
 腐敗した肉の臭い。汗と垢、脂の混ざった体臭。長く放置された糞尿。そして淫臭。

「い、いやあ……っ! もう、やめて……ッ! やめて、くださ――う、ぎいぃいぃい……ッ!?」

 獄に繋がれているのは、一人の娘だ。
 この世全ての悪意が煮詰まったその空間に、似つかわしくないとも、相応しいともいえる――白い花。
 その柔らかな稜線は、彼女の肢体が陶磁の人形を思わせる完璧に近い美しさを持っていることを教えてくれる。
 だが日にきらめいていただろう短い金髪も、宝石のように美しい碧眼も、今は光を失ってどんよりと沈んでいる。
 戦傷によるものだろう首筋と太腿に残る醜い傷、一糸纏うことも許されず、重さと冷たさで彼女を苛む首枷と手枷、鎖。
 明らかに、娘は虜の身であった。

「ひッあぁ!? わ、わかり……まし、たァッ! や、ァッ!? み、とめ、ます……ッ! 認め、ます、からぁ……っ!」

 牢獄には、およそ人間の想像力の賜物である、おぞましい形状の器具がいくつも並んでいた。
 そのいずれもが赤黒く汚れ、鉄錆を纏い、あるいは幾度となく熱されたことが伺える。
 娘の白磁のような体に刻まれた痕の数を見れば、そのいずれもが使用された事は明白。
 ならばその美しい容貌が整ったままなのは、奇跡などではなくどす黒い欲望によるもの。
 男たちは哀れな娘を慰み者にするために、面白半分に彼女の顔を傷つけなかったのだ。

「わたし――悪い子です……ッ! 魔女です……魔女なんですぅっ!!」

 まるで童女の如く啜り泣きながら、娘は自らの罪を告白する。
 身悶え、悲鳴をあげ、哀願する度にその豊かな胸はふるりと震え、加虐者の目を楽しませた。
 だから、その言葉に耳を貸す者はいない。

「だからどうか、どうか……もう許してください……ッ う、あぁ……っ おね、が……おねがい、します……っ」

 ――そう、娘は決して許されることはなかった。

 囚われてから一年もの長きに渡って尊厳を踏みにじられ、彼女の心は粉々に砕かれた。
 やがてこの書類に名前を書けば解放してやると言われた娘は、大喜びしてその手にペンを取った。
 そして彼女は無学故にそれと知らず自らの処刑執行書にサインをし、炎に包まれて焼かれて死んだ。

 これはそういった、救われない、どこにでもあるような結末の物語だ―――――……。

.


85 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:48:26 0AeMwa.M0
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 暗闇の中、男はゆっくりと目を開き、ベッドから身を起こした。
 深夜0時前。サイドテーブルに置かれた時計のデジタル表示が教えてくれる。
 男の覚醒はいつだって唐突だった。電源を切るように眠りに落ち、電源をつけるように目覚める。
 はたしてそれが戦争に行く前からそうなのか、行った後からなのかは、もう覚えてはいない。

「お前はいつだってそういう奴だったからな」
「――――――」

 頭から血を流している髭面の友人の言葉を無視して、男はベッドから立ち上がろうとした。
 と、その手が柔らかく暖かな感触に包まれる。
 見れば傍らで眠っている娘の手が、彼の手に――まるで縋るように重ねられていた。
 男の口元が僅かに緩む。
 裸身にシーツだけをまとった娘は、傷つき、疲れ果て、ようやっと眠ることができたように思えた。

「――――――」

 男は無骨な手でそっと娘の手を外すと、今度こそベッドから起き上がる。
 闇に慣れた目で見回す彼の部屋は――ひところとは大きく変わっていた。
 散乱していたピザの空き箱、散らばっていた新聞、放り出されたままの衣服――その全てが消え失せていた。
 この娘が彼の元に来て以来、そうだ。荒れ果てていた空間は、徐々に落ち着きを取り戻しつつある。

「――――――」

 掃除の行き届いた部屋を横断し、洗濯機の傍に置かれた籠から衣服を取り出す。
 シャツにジーンズ、それから愛用のスタジアムジャケット。道具は車に放り込んであるから荷物は無い。
 身支度を整えて仕事に向かう前に、男は娘の顔を見ようとベッドの方へ目を向けた。僅かな衣擦れの音。

「……行かれるのですね」

 娘がベッドの上、シーツを巻きつけて身を起こしていた。力ない碧眼が、じっと男の方を見つめている。
 カーテンの隙間から差し込むネオンの明かりに照らされ、娘の美しい体がぼんやりと浮かび上がった。
 彼女の汗ばみ、先程まで乱れ、しかしそれを健気に耐えて隠そうとしていた白い肌には、薄く痕が浮かんでいる。
 男はその一つ一つがどこにあるのかを確かめ、彼女以上に把握していた。

「――――――」

 男が頷くと、娘は何かを堪えるようにぎゅっと唇を噛み締めた。
 彼女はしばらくそうして俯いていたが、やがて意を決して顔を上げ、震える声で途切れ途切れに呟いた。

「……あの、信じて……頂けるかは、わからないのですが―――――」

 男は頷いた。彼女の言葉を聞かない理由も、信じない理由も無かったからだ。

.


86 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:49:13 0AeMwa.M0
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「キョートってのは良いとこだって言うぜ。オリエンタルだし、綺麗な女の子も多い。サクラも綺麗だって聞くしな」

 髭面の友人がそう言ったのは、いつの事だったろう。
 鈍い銀色に輝く愛車を走らせながら、男はぼんやりと思い返す。
 あの頃は楽しかった――少なくとも良き上司と、良き仲間と、良き友に恵まれた。血まみれではあったけれど。

「――――――」

 やがて男は目当ての建物にたどり着いた。大きく、清潔で、綺麗な、オフィスビル。
 入り口に貼られたプレートを確かめる。この国ではこういった奴らは堂々とカンバンを掲げているので楽で良い。
 男は助手席に放り出した荷物をあさり、バットを手にし、顔にゴム製のマスクをしっかりと被った。
 愛車のガルウィングドアを開けて外に降り、肩を回すようにして体を解す。対して緊張することはない。いつもの事だ。
 まるで友人の家でも訪れるかのようにぶらぶらとした足取りで、男は無造作に扉に近づき――――

「ぎゃっ!?」

 無言のままにドアを蹴破り、その向こうにいた連中へと扉を叩きつけた。
 悲鳴を上げて吹き飛ぶのは、画一的な黒のスーツにサングラス、手には銃、カタギではない。ヤクザだ。
 打ちのめされたヤクザどもが床に倒れるのを前に、男は手にしたバットをゆらりと構えながら、のんびりとその時を待った。
 やがてヤクザ二人がよろよろと立ち上がろうとした瞬間、男は容赦なくバットを見舞う。

 ――――入り口の扉の向こうには警備が二人います。奇襲を仕掛けて下さい。

「おぇッ!?」
「げぼッ……!?」

 頭蓋骨ごと脳味噌を叩き潰す感触を二回ほど味わって、しっかりと息の根を止める。
 きっと彼らは何が起きたかもわからなかったに違いない。それで良い。
 血にまみれたバットを死体と共に床へ転がし、男はヤクザどもの手から零れ落ちた銃を拾い上げた。
 抑制器がついた黒光りする拳銃。目立たないのは素晴らしい。ロシア製なのは頂けないけれど。

 ――彼らの武器を回収してください。きっと役に立つはずです。

 男はゆったりとリラックスした動きで死体を超えて、オフィスの奥へと入っていく。
 ふとパーテーション越しに、歩き回っているスキンヘッドがちらりと見えた。ぴたりと狙いをつけて三連射。

「あが……ッ!?」

 太ったヤクザがどさりと通路に倒れ込み、その体から血が滲むように広がっていくのが見える。まだ誰も気がついていない。
 男はさらに音もなく突き進み、通路の角でぼんやりと立ち尽くした。ひたひたとした足音が近づいてくる。それを待つ。

「ギャウンッ!?」

 出会い頭に黒い犬の頭を撃ち抜く。引き金を絞る度、ぷしゅ、ぷしゅと気の抜けた音がして弾が飛び、命を奪う。
 それに誰も気づかない――気づかれないように動いているから、当然なのだけれども。

 ――番犬の類が室内に放たれています。壁際をめぐるので、来るまで待ってから対処してください。

.


87 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:49:36 0AeMwa.M0

 そうしてオフィスの廊下をうろつく連中を全て片付けた男は、ぶらりと奥の会議室へと向かった。
 先ほどと同じように思い切りドアを蹴破ると、中のヤクザどもががたりと席を立つ。
 そいつらにちらりと姿を見せ、男は扉の影へと引っ込んだ。

「な、なんだァ、あいつァ!?」
「どこのカチコミだ!?」
「構わねえ、やっちまえ……!」

 ドタドタと音を立てて此方へと走ってくる一人目が扉から出てきた瞬間、男は無造作にそいつを撃ち殺した。

「アバッ!?」

 胸から血飛沫を上げて崩れ落ちるそいつの手から、男はカタナを奪い取る。

「ンダ、ッテメ!!」
「ザッケンナゴラーッ!!」

 続けて扉から飛び出し此方へカタナを振りかざすヤクザ二人。それへ素早く近づき、先手を取って首を叩き切る。
 喉笛を切り裂かれたヤクザどもは声も上げられずに血を噴き出し、ほどなく血溜まりに沈んだ。
 その死体へ一瞥もくれず、男は滑るように会議室へと足を踏み入れる。

「な、な……な、なあ……ッ!?」

 部屋の奥には賢いのか臆病なのか、一人残っていたヤクザが慌てて此方に散弾銃を向けようとしている。
 男は無言のままにカタナを振りかぶり、ひょうと鋭く投げつけた。

「うげえッ!?」

 腹をカタナで貫かれたヤクザが、どたりと床へ倒れ込む。
 這いずるように床の上で藻掻いているが、どうせそう遠くへは行けまい。

「な、なんで……なんで……お前……」

 男が気安い足取りで最後のヤクザの元へ向かうと、急速に死へと近づきつつある瞳が男の方を向いたのがわかった。
 ヤクザは血反吐を溢れさせる口をぱくぱくと開閉させ、恐怖に押しつぶされた声を、なんとか絞り出そうとする。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・
「なんで、ニワトリの顔、してるんだ……!?」

 男は物も言わずにそいつの頭を掴むと、繰り返し床に叩きつけて仕留めた。頭が砕け、脳漿が飛び散る。

 ――会議室には、きっと四人か五人は詰めているでしょう。一人ずつ誘い出して、片付けてください。

「―――――――」

 これでフロアは制圧した。後は2階と3階。別に大したことではない。
 男はヤクザの死体の傍から散弾銃を拾い上げ、ポンプをがしゃりと動かして初弾を装填し直した。

 いつも通りにやれば、済むことだ。

.


88 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:52:08 0AeMwa.M0
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 男があの娘に出会ったのは、マイアミでのいつもの"仕事"の途中だった。
 
 いつものように"間違い電話"の留守電、暗号で指示された邸宅へ踏み込み、ロシアン・マフィアどもを皆殺し。
 しかしその日、片っ端からマフィアを始末して奥へ向かった男が見たのは、いつもと違った光景だ。
 怪しげな機材に囲まれた、手術台の上――拘束されている、金髪の少女。
 スナッフフィルムかなにかを撮影していたのだろうか。男にはわからなかった。これからもわからないままだろう。
 少女はすでに事切れていて、男は何もすることもできなかったからだ。
 ずたずたに切り刻まれ、その血で奇妙なマークが描かれたその中央に、少女は横たわって死んでいた。
 だから――たぶん、それは気まぐれだったように思う。
 青白く輝く銀の環。
 少女の死体の傍に転がっていたそれに、彼は何の気もなく手を伸ばし、触れて、そして――。

「……もう、いやあ……やめて、ください。痛いの、も、や……なんです。しんじゃ……ぅ……やめて……助けて、ください……っ」

 ――――そして、運命に出会った。

 光が消えると共に現れたのは、男を縋るような瞳で見つめる、傷つき打ちひしがれた娘だったのだ。
 男は彼女を救い出した。裸身を抱き上げ、愛車へ運び、散らかった自宅へと連れ帰った。
 右手に浮かび上がった紋様も、脳裏に浮かぶ聖杯戦争も、そのときは瑣末ごとのように思えた。
 少なくとも彼がマイアミからキョートへと飛んだのは……聖杯戦争のためではなく、娘のためだったからだ。
 いったいぜんたい、他に何の理由があるというのだ?

「――――――」

 前にもこんな事があったような既視感を覚えた男は、ゆっくりと首を横に振りながら、自分の殺戮の跡を辿った。
 死体を踏み越え、血溜まりを蹴散らし、武器を投げ捨て、扉を開ける。
 寒い夜だった。
 オフィスビルを出た男はゆっくりと愛車に歩み寄り、ガルウィングドアを開けて中に潜り込んだ。
 警察が来る気配はない。通報された様子も無い。いつも通りにやれば、追求されることもないのはわかっていた。
 脱いだマスクを助手席へ放り投げると、返り血に濡れたニワトリがぱくぱくと嘴を開け閉めしてさえずった。

「他人を傷つけるのは好きか?」

 男は答えないまま、無言でキーを回して車を走らせた。
 答える必要は無かった。答えはもうわかっていたから。
 だから聖杯はいらない。自分には必要ない。
 必要なのは―――――あの娘に対する、わずかばかりの救済だけだった。

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89 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:53:12 0AeMwa.M0
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「あ、あ……っ」

 自分の体に満たされていく確かな魔力に、娘はひざまずいて喘いだ。それは紛れもない罪の証だった。
 娘の生は――望みは――いつだって、誰かの死によってしか叶えられないのだ。

「主よ、どうか……どうか、許してください……。お許しください……」

 生まれ故郷の村が焼かれなければ、故郷を飛び出すことはできなかったろう。
 敵兵を殺さなければ、故郷を救うことはできなかったろう。
 味方を殺さなければ、勝利を勝ち取ることはできなかったろう。

 娘はその罪の重さに啜り泣き、ベッドがまるで祭壇であるかのように両手を組んで、祈りを捧げる。
 こんな自分が、聖女であるわけがない。だからこそあれほどに責め苛まれ、誰も助けてはくれなかったのだ。
 魔女だ。悪魔の声に耳を貸し、それに惑わされ、多くの人々を死に追いやった、救いがたい魔女だ。

 だから、そう――こんなに救われていて、良いわけはない。

 血溜まりの中、傷ついた自分を救いあげてくれる人には、もう出会えた。
 助けてと乞うた自分を、彼は確かに助けてくれたのだ。

 それはまるで、奇跡のように。

 彼は――彼女を救い出してくれた。

「――――主よ、この身を委ねます……っ」

 だから、どうか、神様。
 聖杯はいりません。私はもう救われました。
 愚かで欲深く、ふしだらで浅ましい、こんな自分にはもう十分過ぎます。

 必要なのは―――――彼に対する、わずかばかりの救済だけだった。

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 二人は受話器の前で待っている。

 ――まだ電話はかかって来ない。

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90 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:54:03 0AeMwa.M0
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【クラス】
 キャスター

【真名】
 ジャネット・ドゥ・アルク

【ステータス】
 筋力:B 耐久:A 敏捷:A 魔力:C 幸運:A 宝具:B+

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
・陣地作成(真):B
 魔術師の工房としてではなく、野戦において自らに有利な陣を敷くスキル。
 このランクならば歴史に名を残す名将としての才を発揮できる。
 ジャネットの布陣は、守勢より攻勢を好んだものである。

・道具作成(真):C
 魔術師の道具ではなく、ごくごく普通の日用品などの扱いに関するスキル。
 このランクならば民家一つの家事全般を滞りなく行うことができる。

【保有スキル】
・啓示(偽):A-
 "天からの声"ではなく、目標の達成に関する事象全てを直感的に予見する軍事的才能。
「カリスマ」「軍師の指揮」「軍師の忠言」「軍略」の複合スキルであり、それぞれBランクの習熟度を発揮できる。
 兵を統率しその実力を大いに高め、彼女の助言は正確に的中し、対軍宝具の行使および対処に有利を得る。
 ただしジャネット自身はこれを「魔術」系統のスキルだと誤認しているため、他者に理論だてて説明することができない。

・信仰の加護:A
 一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。
 加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
 ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。

・被虐体質:A+
 集団戦闘において、敵の標的になる確率が増してしまうスキル。
 加えて攻撃側は攻めれば攻めるほど冷静さを欠き、このスキルを持つ者の事しか考えられなくなる。
 このランクになると一国をも動かすほどの恐ろしい衝動を引き起こしてしまう。

【宝具】
『主よ、この身を委ねます(パース・クエ・デュ・ア・コマンド)』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:9400人
 ジャネットが戦場に立って旗を揮う限り、常に敵の損害は最大となり、味方の被害は最少となる。
 わずか九日間でイングランドの包囲を打ち破り、オルレアン解放を成し遂げた才能の発露。
 厳密には宝具ではなく的確なスキル運用であり、因果逆転のような「奇跡」を起こすことはできない。
 よって最少の被害の中に、彼女自身を含む重大な要素が含まれる可能性は常に存在する。
 ――――ある意味ではジャネットの宝具は、彼女が率いる「兵士」だと言える。

『供犠の聖女(ラ・ピュセル・ド・コンピエーニュ)』
 ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:400人
 自らが殿として最後まで踏みとどまって戦い続けることで、他の友軍全員を安全に戦場から離脱させる。
 軍人ジャネット・ドゥ・アルクが最後に繰り広げてみせた壮絶な撤退戦、その極めて高度な再現。
 厳密には宝具ではなくスキルを最大限に発揮した結果だが、それは固有結界にも似た「奇跡」を成し遂げる。
 使用しても消滅することはないが、彼女個人の敗北は約束され、その後の運命は悲惨なものとなるだろう。

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91 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:54:20 0AeMwa.M0

【weapon】
『百合の軍旗』
 百合の花と天使の姿が描かれたジャネットの軍旗。
 あくまで指揮を執るためのもので、武器としての使用には適さない。

『無銘・長剣』
 何の変哲もない、ありふれた普通の鉄剣。

【マテリアル】
 身長/体重:159cm・44kg
 出典:史実 地域:フランス
 属性:秩序・善・人 性別:女性
 スリーサイズ:B85/W59/H86

 ドンレミーの村娘、オルレアンの聖女、ルーアンの魔女、フランス王国の軍人ジャンヌ・ダルク。
 13歳で「神の声」を聞き、17歳で旅立ち、18歳でフランスを救い、19歳で火刑に処されて死んだ少女。
 その事績について、改めて詳しく述べる必要はあるまい。

 だがしかし―――はたしてジャンヌ・ダルクが聞いた「神の声」とは、いった何だったのだろう。
 精神的な病によるものか、傍付きの傭兵の入れ知恵か、あるいは本当に最高存在からの声があったのか。
 ただひとつはっきりしているのは、ジャンヌ・ダルクが采配を振るっていた間フランス軍は勝ち続けたという一点のみ。

 無学な農家の娘が絶望的な劣勢を覆し、さらに勝利を掴んでのけるなど、「奇跡」以外の何だというのか。
 フランスが、イギリスが、民が、僧が、兵が、将が、貴族が、そして王さえもがそれを信じたのは当然だったろう。
 なにせその娘本人すら、それは「奇跡」によるものだと心から信じてしまっていたのだから。
 そして信じていたがゆえに裏切られた彼女は魔女裁判で心砕かれ、それは魔術なのだと認めてしまった。

 ジャンヌ・ダルクとは死後に広まった名であり、彼女自身は「ドゥ・アルク家のジャネット」と呼ばれることを好んだという。
 フランス軍の大敗を予見し、自ら指揮を執ってそれを覆し、劣勢となれば殿を務めて友軍を逃がした偉大な指揮官。
 結局、彼女は、「奇跡」のような才能を持ちながら自らを聖女と思い込んだ、哀れで愚かな娘に過ぎなかった。
 ――つまりジャネット・ドゥ・アルクは他でもない自らの意思で、どこかの誰かの明日のために立ち上がった娘だという事だ。

【外見】
 肩ほどで髪を切って短髪にし、地味で薄汚れた甲冑をまとった、軍人としての装いのジャンヌ・ダルク。
 ルーラーとアヴェンジャーの中間のような姿だが、その碧眼には輝きがなく、表情は弱々しく、どこか怯えている。
 また首と右太腿に矢を受けた大きな傷跡がある他、全身には苛烈な拷問の痕がくまなく刻まれている。

【聖杯にかける願い】
 マスターの救済を

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92 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:56:05 0AeMwa.M0
【マスター】
 Jacket@Hotline Miami

【人物背景】
 北米マイアミ市でロシアンマフィアを次々と惨殺した「ニワトリ頭の殺人鬼」として知られる殺し屋。

 かつては米国特殊部隊「GhostWolfs」の一員として対ロシア作戦で凄まじい戦果をあげた精鋭であったが、
 親友の無惨な死によってPTSDを患って以降は、無為な日々を過ごすようになった若者に過ぎない。
 しかしある日HotlineMiamiという伝言サービスから奇妙な「間違い電話」を受けたことで、その生活は一変。
 電話に従って仕事をこなし、ロシアンマフィアを標的に殺戮を繰り返す殺人鬼としてマイアミを震撼させるようになる。

 無関係な目撃者を殺害しただけで嘔吐し、スナッフフィルム撮影現場にいた女性Hookerを自宅へ匿うなど、
 ロシアンマフィアへの過剰な攻撃性とは裏腹に、精神を病みかけながらもJacketは人間性を保ち続けていた。
 JacketはHookerとの奇妙な同居生活の中で交流を重ねることによって、徐々に荒廃していた心を癒やしていく。
 しかしその一方で、Jacketは死んだ友人や殺した犠牲者の幻覚を見始めるようになっていく。
 彼らは死体となってJacketの周りに現れ、時には動物マスクの人物の姿を取ってJacketへ問いかける。

 ――他人を傷つけるのは好きか?

 やがてJacketは自宅を突き止めた殺し屋にHookerを殺され、自身も撃たれて昏睡状態に陥ってしまう。
 だが夢の中で自問自答したJacketは、二ヶ月後に現実へ覚醒、復讐を果たすため一直線に走り出す。
 病院を脱走したJacketは警察署を強襲、警官を皆殺しにした上に殺し屋を絞め殺して、事件の捜査資料を入手する。
 そしてJacketは全てに決着をつけるため、マイアミを支配するロシアンマフィアの本拠地へ一人乗り込んでいく。

 ――たとえ真実が何もわからないとしても、その行いに無駄なことは何もないのだと信じて。

【能力・技能】
・精神汚染
 ソシオパス、後天的な社会病質者。恐怖を感じず、敵に対して感情移入せず、過剰な攻撃性を発揮する。
 精神干渉を高確率でシャットアウトし、Jacketの戦闘行為を目撃した者は高確率で恐怖のBSを付与される。
 また同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
 ジャネットは「信仰の加護」スキルによってJacketとの意思疎通を可能としている。

・失語症
 Jacketは過去のトラウマから声を発することができない。ジャネットとは念話によって意思疎通を行っている。

・戦闘能力
 元特殊部隊員としての極めて高度な戦闘能力。
 格闘技、白兵武器、銃火器類の扱いに精通しており、隠密行動や潜入行動なども得意としている。
 さらに背後組織の支援があったとはいえ、長期間に渡って警察やマフィアの追及を逃れ続けるだけの周到さも持っている。

 非武装状態でマフィアの拠点に乗り込んで構成員を虐殺、重傷を負っていても警察署へ正面から突入して皆殺しなどの他、
 ゲーム中では事実上たった一人でマイアミ市を支配するロシアンマフィアに壊滅的打撃を与えることに成功している。
 続編ではJacketのフォロワーたちがマフィアの拠点に乗り込むも最終的に全滅、さらに警察にも活動を把握されており、
 他にも単身でマフィアを蹴散らした男は頼ったドラックで破滅し、殺戮を繰り返した殺人鬼はその正体を掴まれるなど、
 一対多を基本としている作中においてさえ、Jacketは異常なほどに強く優秀な人物であるという風に描かれている。

 特筆すべきは「超人的な身体能力」の類は一切有しておらず、あくまで鍛えた軍人程度の身体能力しかないという点。
 Jacketの戦果は高度な状況判断能力と的確な行動に由来しており、ある意味では「鍛えた軍人の強さ」の極限とも言える。

・宝具
 Jacketがジャネットと共に戦う兵士である限り、その戦闘行為全ては武器に関わらず宝具としての性質を帯びる。

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93 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:56:37 0AeMwa.M0

【weapon】
・Richard
 ニワトリのマスク。ゴム製。
 他にも多数の動物マスクを所持しているが、Jacketの内的世界における彼の象徴である。

・Bat
 何の変哲もないバット。木製。
 基本的に武器は全て現地調達だが、頻繁に入手できる代表的な武器。

・Acado GT
 Jacketの愛車。ガルウィングドア、リアウィンドウシャッターを持つ銀のスポーツカー。
 DMC-12デロリアンや1985年製トヨタ・スープラに似た外観をしている。

【方針】
 ヤクザを殺して魂喰いを行い、キャスターの維持と強化を続ける。
 他参加者に対してはマスター狙いの暗殺、奇襲、強襲を中心に。

【聖杯にかける願い】
 キャスターの救済を

【参考資料】
・Hotline Miami ノーデスプレイ
ttps://www.youtube.com/watch?v=y65YBb2lPwE

・ストーリーを教えてもらうスレ暫定Wiki Hotline Miami
ttps://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/1934.html

・ゲームPayDay2 キャラクター追加DLC PV
ttps://www.youtube.com/watch?v=-_5RKK1vBIw
ttps://www.youtube.com/watch?v=kHeETQUd2W0

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94 : Hotline ◆yYcNedCd82 :2017/12/23(土) 12:57:42 0AeMwa.M0
以上です

ジャンヌ・ダルクおよびジャンヌ・オルタはすでにFate本編に登場しているサーヴァントですが
「聖女」「魔女」とは違う「人間の軍人」「天才的指揮官」という解釈での召喚となります

よろしくお願い致します


95 : ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 18:53:01 CqINwRPI0
投下します。


96 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 18:55:10 CqINwRPI0

手の中にあるのは、血塗れの短刀。

自分の血だ。襲ってきた奴は即座に殺したが、不覚を取った。物盗りではなく、オレの命そのものを狙った、刺客だ。
……そりゃあ、狙われもしようなァ。裏はあいつらで、あろうなァ。疑り深いことだ。ま、オレがいない方が、クニは治まるか……。

トリカブト、か……。これはたすからぬか……な。傍らに駆け寄ってきた猟犬たちに命じる。
「鳥はもういい、人を呼びにいけ!」

ふ……そうは行っても……この山の中に人はおらんか……。
小屋まで行けば、毒消しが、ある……が……。まにあう……か………。





………だめだ……。■■■……ゆるせ。■■■の祝いには……行ってやれぬ……。


■■


できる……と 思うよ あんたにも たぶん

そうか……じゃあ……じゃあ

どうしたの? あんたは死んでから どうするのが お望み?

そうだ うん そうだなあ……… どこか よく見える高い所にいて 黙って見ていてやりたいな
オレの好きなみんなが あんまり ふしあわせなことにならないように そう願って……そして

できることなら ほんのすこしでいいから 力もかしてやれたら……いいと………………


■■■■■■■■■■


97 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 18:57:40 CqINwRPI0



「なあ、ふしぎなものだな」
【そう、ですなァ……】

寒い朝。京都市左京区、高野川と鴨川が合流するあたり。
雪を被った、丹塗りの立派な楼門を眩しげに見上げて、男は呟く。それに答えて、もう一人の声が脳内に響く。

男は、年の頃三十半ばか、四十ほどか。外套とマフラーを纏い、たけ高くたくましく、よく日焼けしている。壮健なますらおだ。
楼門を抜けて進み、檜皮葺の舞殿の横をすぎ、中門をくぐる。本殿の前にあるのは、十二支を祀り守護するという小さな社。
今年は、戌年か。入って左の中央、大己貴神。長い行列ができている。男はクスリと微笑み、拝礼した。そして、本殿に向き直る。

【ふしぎなものだ。オレが祀られておる社に参るとは、妙な気持ちだ】
【不思議ですなァ。私もまさか、遠つ御祖様に喚ばれるとは思いませなんだわい】

境内には参拝客が大勢いるが、相手の姿は、人の目には見えぬ。声も人には聞こえぬ。男の精神の内にいるからだ。
他人に物狂いと思われぬよう、男は会話を念話に切り替えた。

ここは下鴨神社。正式には『賀茂御祖(かものみおや)神社』。近くの上賀茂神社こと『賀茂別雷神社』と共に、山城国一宮とされる。
祭神は、東殿が玉依姫命。上賀茂神社の祭神の母だ。西殿は、その玉依姫命の父、賀茂建角身命(かものたけつのみのみこと)。
古来山城国を、平安京を守護してきた山城賀茂氏の氏神である。

男は、自分がその神だという。精神に異常をきたしているわけでもない。まことにそうだからだ。
といって、別段の異能は持たぬ。世のつねの人であるに過ぎぬ。異能というなら、彼の脳内の霊の方が、よほど異能であろう。

その霊は……男にのみ、姿がありありと見えるが……男よりは、やや若い。鼻が高く、痩せて長身。片手に錫杖を執り、片手に経巻を持つ。
頭に角のような頭巾を被り、袈裟と篠懸を纏い、脛をむき出し、足元は高下駄。いわゆる山伏、修験者の姿だ。
男は先程の小さな社を振り返る。

【見よ。ここに、オレの父上が祀られておるわ。オレやお前よりは、よほど有名だ】
【ええ、まァ。喚ぼうと思えば喚べますが、どうしましょうか】
【いやいや、眠らせておいてやれ。ここは人が多すぎるわ】

悪戯っぽく笑い、小声で囁く。はて、しかし。喚ばれた神は、果たしてオレの父上であろうか。だいいち、オレに娘がいたろうか。
ここが異(こと)つ世であることは承知しておる。となると、事の流れも異なり、別人が祀られておるのではなかろうか。
そう思うと、妙に可笑しい。本殿を拝み、中門を抜け、境内を散策する。


98 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 19:00:21 CqINwRPI0

やがて楼門をくぐり、森の中の参道に戻る。左右に屋台。……ポツリと、男が尋ねた。
【なあ。お前、家族はいたか】
【妻子は持ちませんでしたが、父母がおりました。母は長生きしましてなァ……】
【そうか】

男に今、家族はない。父母はとうに死んだ。妻は……いない。気楽な一人暮らしだ。
かつてはいた。父母と弟妹と、妻と、幼い男児が。あれからなんと千八百年。そりゃあ彼らも、古社に坐す神々にもなろう。

【むかし、使役しておった神に讒訴されましてな。神使いが荒いとゆうて、人に依り憑いて、謀反の疑いありと。
 それだけならどうとでも出来ましたが、老母を人質にとられては、逆らうわけにも参りませず。おとなしく流刑となりました】
【そうか。よいことをした】
【東国にも行きとうございましたし、これも仏神の導き、ちょうど良い折かと思いましてな】

男に取り憑いているこの霊は、有名人だ。魔術師(キャスター)としては、この日本では屈指であろう。
真名は、『役小角(えんのおづぬ)』。役行者、役優婆塞とも。
今より千三百年以上前、飛鳥時代に活躍した呪術者。仙術や雑密を学び、修験道を開いたとして世に名高い。
彼の出身氏族は、加茂役君(かものえだちのきみ)という。古代の有力氏族・加茂(鴨・賀茂)氏の一派である。

何の因果か、因縁か。彼に振り当てられたマスターは、あろうことか、その加茂氏の祖神。『武(タケ)ツノミ』と名乗った。

はじめ、狂人かと疑った。世の中に、おれが神じゃという者は山ほどおる。が、あまりに自信満々に言うものだから、記憶を覗いて見た。
さすれば、どうだ。於投馬(イヅモ)、邪馬台(ヤマト)、纏向、卑弥呼、徐福。スサノオ、ナムジ、オオドシ、タギリヒメ、ナガスネヒコ、イワレヒコ。
名高い神々が、かつてはただの人として、この倭のしまじまを舞台に生き、死に、戦い、愛し、這い回っておったという。
さもあろう。神というのは、自然が形を取ったものばかりでもない。人が信じるからこそ存在し得る。英雄が神と成ることに、何の不思議がある。
彼が歴史に於いて成し遂げたことは、このクニの建国者の輔佐だ。集めた信仰も長く篤い。英霊となり、神霊となっていても、不思議はなかろう。

ただ、どうも……この遠つ御祖様の世と、自分の世とでは、物事の流れが異なるようでもある。
かつて葛木、熊野、大峯を経巡り、数多の鬼神と顔を合わせて語った。その中に、八咫烏、賀茂建角身命もおられたはずだ。
だいいち、卑弥呼は筑紫日向ではなく、もともと纏向におったのではなかったか。自分はそう聞いている。
まあよい。いずれにせよ、彼は武ツノミ本人だ。どちらが間違いというのでもない。三千大千世界の何処かには、そのような世もあるのだろう。

【それで、ツノミ様。聖杯戦争とやらには】
【乗らぬ。ここで生きておるだけでも儲けものだのに、万能の願望器だと。オレがいまさら、そんなものを望むような男に見えるか】
【見えませぬな。私も別に、この世に未練もなし】
【それなら、こんなばかな殺し合いをやめさせるか。それとも、英霊だけで殺し合うか、だな】


99 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 19:02:42 CqINwRPI0

キャスターがツノミの精神の内で顎を撫で、見解を述べる。
【原理的には……聖杯戦争というのは、人を殺さずともよいようには、出来ております。
 英霊というのは半神の英雄、鬼神の類ゆえ、倒すのは難しい。となれば、その主人を殺した方が手っ取り早い、というわけで。
 主人が死ねば、使われておる英霊も程なく消えてしまいますでな。あとはまぁ、脅して降りさせる、ということも出来ましょう】
【それならよい。オレはお前に取り憑かれておるが、常人に過ぎんのだ。お前は有名な英霊なのだから、なんとかできよう】
【相手にもよりましょう。たとえば……】

ふっと話を切る。一瞬後に金属音がして、上から襲ってきた剣が跳ね返される。
【!】
敵の英霊だ。ひと気の途切れた森の中で、襲って来たのだ。
【敵か。何者かわかるか、オヅヌ】
【そこまでは。ただ装束からして、倭や韓、漢のものではなさそうで。天竺よりも西か……】
キャスターが、ツノミが、目を細める。よく気配を隠しておるが、この場所で彼の目を欺くことなど出来はせぬ。

『ほうほうほう。今、なにでわしの剣を防いだ? ぬしはマスターじゃな。サーヴァントはおらぬのか?』
男の声。禍々しく歪んだ、西洋風の甲冑に身を包んだサーヴァントが、森の闇から姿を現す。ツノミが誰何する。
「名乗らぬか、英霊殿」
相手はぐつぐつと笑い、血塗れの剣を向ける。
『見ての通り、わしは「セイバー」よ。人を斬り苛むのが好きで好きでたまらぬ。特に魔術師や英霊をな』

ツノミが眉根を寄せる。これは物狂いの霊であろうか。戦狂いというなら、バーサーカーではないのか。
「セイバー。剣士か。なるほど、剣に取り憑かれたか」
【その程度の者なら、祓ってみせましょうか】
『なぁめるなぁッ! きぃェーーーッ!』
事も無げに話すツノミに、セイバーが激昂して斬りかかる。恐るべき速度!

がしん。セイバーの剣がツノミの数歩前で止まる。止めているのは、大きな斧。
それを持つのは、巨大な鬼。ツノミの後ろには、水瓶を持つ小柄な女の鬼が現れる。
『ぬしのサーヴァントか……! 否、二体とは……使い魔のたぐいか……!?』
【あるじ様。私が脳内におり、この者らが前後を護る限り、心配はいりませぬぞ】
キャスターが脳内で微笑む。ツノミは……ツノミの肉体は冷徹な表情となり、印契を結び、真言を唱える。

【オン・マユラ・キランデイ・ソバカ】


100 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 19:04:48 CqINwRPI0



静けさを取り戻した森に、ツノミはふうっと大きな息をつく。遠くに参拝客の声。
キャスターの幻術かなにかで、騒ぎは一般人には見えず、聞こえなかったようだ。セイバーは……消滅している。
【たいした力だな、オヅヌ】
【さしたるものでも。……ここは祖廟の地ゆえ、他所より力は強まりますが、戦場とはしたくありませぬな】
鬼たちは姿を消しているが、いる。キャスターがいる限り、彼らは常に付き従っているのだ。

【どこがよいかな】
【街なかはあまり、好みませぬ。やはり、山がよいかと。比叡、鞍馬、愛宕……このあたりも、よう知っております】
【そうであろうな。この都の北は山ばかり、丹波を越えて北の海まで続いておる。葛木や熊野、大峯ほどではないが、よい山だ】

ツノミが懐かしげに目を細める。イワレヒコ様が日向より遷られてから、ご子孫は連綿と続き、宮居は幾度も代わったという。
今は遥か東国におられるとか。何処にても、我が加茂の族(うから)が仕え奉り、助け奉って来たことだろう。……ふと、思い至る。

【……ひょっとして、それで山背(やましろ)の国と呼ぶのだったかな】
【いえいえ。ヤマトの北端、那良(なら)山の背後(うしろ)にあるからです。
 ここよりはだいぶ南、木津川のほとり……あのあたりにも、加茂という地名がありますな】
【そうか。しかし……】

ツノミは、北の空を見やる。雪はやんでいるが、曇天だ。
【真冬の山中は、寒かろうな。オレは宗像の沖ノ島や日向で暮らしたゆえ、温暖な海辺がよいが……】
【まあ、一旦ご自宅へ戻り、身支度なさいませ。本格的に戦が始まるのは、まだ先のことでござろう】
「そうだな。……おお、甘酒が売っている。飲んで行こう。寒い寒い」

肉声に戻り、おどけるマスターに、キャスターは微笑む。これも因縁だ、彼を護らねばなるまい。
とはいえ、自分や彼のように、聖杯など欲しくもない者まで喚ばれておるというのは、不思議ではある。
殺し合いを見て愉しむような外道の輩が背後におるのは間違いなかろう。敵というなら、そちらが敵だ。

【糾さねばならぬ、な……】


101 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 19:07:06 CqINwRPI0

【クラス】
キャスター

【真名】
役小角@古代日本

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷A 魔力A++ 幸運B 宝具A

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
陣地作成:B+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。“工房”の形成が可能。然るべき地脈と接続すれば、戦術的にも優れた“城砦”の建設も可能。

道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。霊符や霊薬、仙丹などを作成できる。

【保有スキル】
仏の加護:A
呪いに対しての守り。同ランクの「対魔力」にも相当。A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師では傷をつけられない。
守護神は孔雀明王であり、魔を祓い、毒や病気を瞬時に癒やす他、空中を飛行することも可能である。
他に金剛蔵王権現、不動明王、地蔵菩薩、弁才天、大聖歓喜天などの力も借りることができる。

修験道:EX
山界での修行の末に得た魔術体系。仏教・密教・神道・道教・陰陽道・神仙術・呪術・幻術・医術などが渾然一体となった強力な法術。
修験道の開祖として高度な術を使うことが出来、千里眼・圏境・縮地(仙術)をAランクで使用可能。また地霊や鬼神、動物を使い魔として召喚・使役できる。
霊地や霊脈、山々からの霊気を吸うことで、マスターなしでも魔力を容易に補給できる。あまりに人工的な環境では、やや力が落ちる。

鬼神呪禁:A
ランク以下の鬼神(神霊、鬼種、天狗)を法力と葛縄で呪縛し、命令を強制的に聞かせる事ができる。魔物や禽獣にも覿面に効く。
日本、中国、インドの鬼神には特に効くが、それ以外の鬼神には効果がやや落ちる。対魔力である程度防げる。

目覚めた人:A
求道の果ての悟りの境地。いかなる環境・状況にも左右されない不動の精神。あらゆるものを客観視し、自身を制御し、精神面への干渉を無効化する。


102 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 19:09:27 CqINwRPI0

【宝具】
『金剛不壊前鬼後鬼(ヴァジュラ・オン・アーク)』
ランク:A 種別:対人/結界宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:100

キャスターの従える二体一組の護法鬼神。常に一対で行動し、前鬼はキャスターの前方を、後鬼は後方を護る。
前鬼は金剛の斧を振るって戦い、後鬼は水瓶から退魔・治癒の霊水を注いでサポートする。二体揃えばなまなかなサーヴァントを凌ぐ。
この両鬼に前後を護られた空間・対象は、極めて堅固な物理的・魔術的障壁に護られているに等しく、幻覚や精神攻撃もランク分まで防ぐ。

【Weapon】
錫杖、金剛杵、葛縄、霊符などを虚空から取り出し、憑依しているマスターの肉体を自在に操って戦う。

【人物背景】
役小角(えんのおづぬ)。役行者(えんのぎょうじゃ)、役優婆塞(えんのうばそく)とも。飛鳥時代の呪術者であり、修験道の開祖。
史実としては『続日本紀』文武天皇三年(699)の記事に「葛木山の呪術師・役君小角を、人心を惑わしたとの訴えにより伊豆島に流した」とある。
また呪禁者の韓国連広足(からくにのむらじ ひろたり)が師と仰いでおり、鬼神を使役して水や薪を採らせ、従わないと呪縛したと伝える、とも記されている。
実は広足が師匠を讒訴したとは記されていないが、そう読むこともできるので、後世にはそのように伝わっている。

伝説によれば舒明天皇6年(634)、大和国葛城上郡茅原郷(現・奈良県御所市茅原)に住む加茂役君(かものえだちのきみ)の家に生まれる。
17歳の時、元興寺で孔雀明王の呪法を学び、葛木・熊野・大峯の山々で修業を重ね、吉野金峰山で金剛蔵王権現を感得、修験道の基礎を築いた。
また鬼神を自在に呼び出して操る事ができ、前鬼と後鬼という二体の鬼を常に従え、各地の霊山を巡り歩いた。
なお奈良県御所市蛇穴(さらぎ)町には、若き役行者が鴨の神と共に清姫めいたヤンデレ蛇女を封じたという伝承が残っている。

のち諸国の神々を動員して葛城山と金峰山の間に石橋を架けようとしたが、一言主神は自分の姿が醜悪なので夜間しか働かなかった。
小角はこれに立腹して折檻したので、神は人の口を通して「役行者に謀反の疑いあり」と讒訴した。
そこで朝廷は、小角の老母・白専女(しらとうめ)を人質にして小角を出頭させ、伊豆大島へ配流した。
小角は日中こそ島でおとなしくしていたが、夜になると海上を歩いて本土へ渡り、富士山へ登って修行に励んだ。
2年後の大宝元年(701)正月に赦されて帰り、6月に摂州箕面の天上ヶ岳で入寂、昇仙したという。

『日本霊異記』によると、のちに道昭法師が新羅国で五百の虎の請いを受けて法華経を講じた時、虎集の中に一人の人がいて日本語で質問してきた。
法師が「誰か」と問うと「役優婆塞である」と答えた。法師は高座から降りて探したがすでに居なかったという。
ただ道昭が唐に渡ったのは白雉4年から斉明天皇6年(653-660)のことで、文武天皇4年(700)には遷化しており、この伝説は年代が不正確である。
中世には修験道の開祖として尊崇を集め、各地で役行者の伝承を含む縁起が成立。『役行者略縁起事』では大日如来の変化、不動明王の分身とする。
寛政11年(1799)には没後1100年記念に光格天皇より「神変大菩薩」の諡を賜った。京都市内では愛宕山や聖護院、醍醐寺とも縁がある。
弘法大師空海や安倍晴明と並ぶ、日本版マーリンみたいなチートキャスター。

【方針】
聖杯は不要。主催者の思惑を探り、聖杯戦争を解体する。それが今の自分の使命なのだろう。当然マスターの肉体と精神はしっかり護る。


103 : Reboot,Raven ◆Lnde/AVAFI :2017/12/23(土) 19:11:52 CqINwRPI0

【マスター】
ツノミ@神武

【weapon・能力・技能】
鍛え上げられた肉体。宗像の沖ノ島で育ったため水泳も得意。山にも慣れており、飛ぶように野山を疾走する。
しかし常人の範疇を出るものではない。武術の心得もあるが、精神は古代人であるため、現代の武術は新たな記憶上のものに過ぎない。
自らのサーヴァントであるキャスターを脳内に宿らせており、二重人格じみて二心同体。精神と肉体を直接キャスターに護られている。

【人物背景】
安彦良和の漫画『神武』の主人公。記紀における賀茂建角身命、八咫烏、味耜高彦根命に相当する。作品上では、3世紀前半の倭に生きていた人間。
英雄ナムジ(大己貴命・大国主神)とタギリ(多紀理毘売命)の子。母方より於投馬(イヅモ)王スサノオと日向邪馬台の女王ヒミコ(天照大神)の血をひく。
壮健な中年男で、カラスのように黒く日焼けしている。令呪は右手の甲、ナムジの額の刺墨と同じデザイン。

【ロール】
元警察官の施設警備員。ヒゲは剃っている。

【方針】
聖杯は不要。主催者の思惑を探り、聖杯戦争を解体する。
せっかく第二の人生を送れているのだし、キャスターの目的のためにも必要であろうから、死にたくはない。

【把握手段・参戦時期】
原作(全4巻、前作『ナムジ』の続編)終了後。死にゆくさなかに何かを手渡され、この地に無傷で転移した。



投下終了です。


104 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/25(月) 16:57:52 fICQZVSA0
死ぬほど遅れてしまいましたが、感想を投下します

>>不和の子供
ギリシャ神話のヤバい女神が来てしまった……。
まず第一に、東京喰種の言い回しや空気感が見事に再現されていることに驚きました。
六月という超の付く際物をこうも見事に描いてみせる文章力に脱帽です。
そしてそんな六月に召喚された女神アテ。どう転んでも不和しか生まないであろう彼女は、全ての参加者にとって不安の種になりそうですね。
暴れること間違いなしと一目で分かる、そんな凄まじい主従だったと思います。
ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>>Hotline
ジャンヌ・ダルクならぬジャネット・ドゥ・アルク。
気丈で気高いジャンヌではなく、拷問に屈して処断された彼女というアイデアは面白いなと感心させられました。
しかし第二宝具や被虐体質のスキルから垣間見える破滅的な要素が何とも、彼女自身の幸薄さを物語っているようで。
一方でSSの内容は凄惨の一言。ジャネットの指揮通りに淡々と行われていく殺人は、まさに鏖殺と呼ぶに相応しいものですね。
マスターもサーヴァントも揃って薄暗い雰囲気を纏ったこの主従。果たして望む結末に辿り着くことは出来るのでしょうか。
ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>>Reboot,Raven
役小角! これはまた結構な大物が出てきましたね。
主従間の会話や地の文に存在する、古めかしくも味のある雰囲気が凄いな、と感じました。
その雰囲気が示すように落ち着いた、非常に強い安定感のある主従だと思います。
作中で披露されたようにキャスターの戦闘能力も非常に高いですし、反聖杯派の有力株として活躍してくれそうです。
空海や晴明と並ぶ、という形容は伊達ではありませんね。
ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


105 : ◆A2923OYYmQ :2017/12/26(火) 20:16:15 Y9IP3.dk0
投下します


106 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:19:36 Y9IP3.dk0

「良い…夜とは………到底言えねえよなあ」

鮮血の様に赤い髪を揺らし、月を見上げ、喰い千切った肉を咀嚼しながら男は思う。
生前と比べれば空気は濁って臭いし、遠くから聞こえる、夜気を震わす車の走行音が鬱陶しい。
周囲に生き物の気配が無いのは……まあ、生きてる頃から変わらない。

「それでも…悪くは無い」

何度か戦乱でもあったのか、己が死んでからも人間の欲望と怨嗟と呪詛とが積もり続けたのは明白だった。
臭くて五月蝿い夜だが、夜気に満ちる妖気と瘴気は、寧ろ生前よりも心地良い。
そんな事を思いながら、男は口の中の肉を飲み込んだ。

「なあ……アンタもそう思うだろ」

屠られる家畜の様な声が夜気を乱した。
地べたを必死に這いずる男に、感心した様な視線を向ける。
衣服の上からでも分かる程に両手足を捻り折られ、前衛芸術を思わせる態の人体が、亀にも劣る速度とはいえ動いているのを見れば、感心もしたくなるだろう。
地べたを這う男の身体が痙攣したのは、痛みの為か、恐怖の為か、おそらくは両方だろう。


────────────────────


107 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:20:07 Y9IP3.dk0
数十分前まで、男は得意の絶頂にあった。
強力な魔力を帯びた品を、偶然古物市で見つけた幸運。その品がかの名高い魔術儀式、『聖杯戦争』への参加資格だったという事。
この突発的な事態において、相応の金銭を用意でき、社会的地位もそれなりにある役割(ロール)を宛てがわれた事。
男が引き当てたサーヴァントが女とはいえセイバーであり、最優のサーヴァントに相応しい実力を有していた事。
男が一流と呼ばれる水準の者達の中でも、優れた実力の魔術師であった事。
役割(ロール)を活かして優れた霊地を抑え、強力な陣地を作り上げた。霊脈を汲み上げてセイバーの優れたステータスを底上げし、戦闘と宝具の使用に必要な魔力を充分に蓄えた。
後は、役割(ロール)に応じて与えられていた部下を用いて、他の主従を捜索し狩るだけ。
その、筈だったのだ─────。



その襲撃者を見たとき、男はおろかセイバーですらが息をすることを忘れ、拠点の中及び周囲の任意の場所を映し出す水晶玉に魅入った。
襲撃者は美しかった。残忍苛烈な眼光を放つ切れ長の瞳は紅玉も及ばぬ輝きを放ち、顔の中心を走る鼻梁のラインの優美さは、男女を問わず欲しいと思わせる程だ。
酷薄無残な笑みの形に歪んだ口元などは、見た者全てが、この口に愛を囁かれたいと願うだろう。
全体的な顔の作りで言えば中性的で、160cmも無い身長と合わさって女性とすら見えるが、肩に羽織った紅い女物の小袖以外何も身につけていない上半身を見れば、男と判る。
とうの昔に『鍛え終わった』処女雪の様に白い身体は、筋肉であれ贅肉であれ、無駄な肉というものが一切無い。痩身矮躯でありながらも、脆弱な印象を一切与えない、業物の日本刀を思わせる身体だった。
だが─────襲撃者の最も人目を引きつける部分はそれら全てのどこにも無く、男とセイバーが、揃って目を引きつけられたのは、襲撃者の額、そこから生える一対の角だった。

─────鬼。

二人が揃って同じ感想を抱いた時、襲撃してきた鬼が、水晶玉の向こうから二人を見て─────耳元まで口が裂けて、悪鬼に相応しい形相になった。




─────男の拠点で行われたのは、攻略や戦闘の類ではなく、純粋な破壊と蹂躙だった。
襲撃してきた鬼が拠点に浸入すると同時に、拠点の機能が停止。
ステータスの向上効果を失ったとはいえ、優秀なステータスと潤沢な魔力を持ち、技倆にも優れたセイバーを、鬼は容易く拠点ごと叩き潰した。


────────────────────


108 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:21:21 Y9IP3.dk0
男は只恐怖に駆られて逃げようとする。
セイバーを降した悪鬼についでといった感じで破壊された両手足を必死に動かして。まるで塩をかけられたナメクジがのたうつ様な動きで。
殺し尽くした男の配下達の骸を積み上げ、その上に座る悪鬼から1mmでも離れようと。
赤毛の鬼は、そんな男に感心を無くしたらしく、再び肉を喰い千切った。

肝臓が全て無くなったセイバーが、痙攣して血を吐くのを、鮮血色の瞳に愉悦を湛えて見つめる。
この悪鬼はサーヴァントを喰らうのだ。

「初めて喰ったがサーヴァントってのは旨いもんだな、まあ…男を喰う気にはならねえが」

金鈴を転がす様な美声て呟き、少女の様にも、少年の様にも見える、中性的な端整な顔立ちの鬼が、悪鬼羅刹ですら怯える凶相を浮かべる。
死なない程度に身体の複数の箇所を喰い千切られた女騎士は、完全に心が折れたらしく、恐怖と絶望に満ちた瞳を鬼に向けた。

「気張れよ死ぬなよ。俺が全部喰うまで消えるなよ」

悪鬼が女騎士の右胸に歯を立てた時─────。

「なに…やってんのよおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

飛来した黄色い影が、鬼に巨大な剣を振り下ろした。
飛燕すら避け得ぬ速度で振るわれる大質量の斬撃は、巨木を両断する威力。それを、赤毛の悪鬼は、左掌で事も無げに受け止めた。

「何って…運動して腹減ったから飯喰ってる」

軽く、そっと当てがう程度に左掌を押し出すと、飛来した影は、大きくよろめいて後退した。

「お前にとっても願ったり叶ったりだろう?」

「ふざけないでッッ!」

踏み込んで横薙ぎに振るう一閃。巨牛の首を宙に舞わす威力の斬撃を、赤毛の男は首筋に受けて、平然と笑った。

「少し切れたな。やるじゃねえか、流石は勇者様だ、風」

僅かに血の滲んだ首筋に指を当ててケラケラと笑う鬼に対して、ギリギリと、錆び付いた歯車が軋むような音。奥歯が砕けんばかりに歯ぎしりする風の目を真っ直ぐ見つめる。

─────勿体ねえなあ。

己に対する怒りと、悪鬼と縁を切れない悲しみが篭った瞳が真っ直ぐこちらを見据えている─────右眼だけ。
本当に、左眼が眼帯に隠れているのが惜しかった。

─────こういう綺麗な眼をした女を、死んだ魚みたいな眼になるまで甚振って嬲ってから喰うと美味いんだよなあ……。

「出来ねえんだが……」

「何が!?」

唸りと共に叩きつけられて来た大剣をが、コメカミに直撃した。


109 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:22:00 Y9IP3.dk0
風─────犬吠埼風は、己のサーヴァントに心底からの殺意を持っていた。
大切な仲間に障害消えぬ重荷を背負わせ、樹の─────妹の夢を奪った償いをする為に、聖杯戦争に乗ると決めた。その報いか。
風の元に現れたのは、この京都に馴染みの深い大悪鬼。
暴虐と殺戮を欲しいままに行った化け物。
何故にこんなものが己の元に来たのか風には判らない。
贖罪の為に聖杯を手に入れる。その為に多くの人々の願いを踏み砕く。そう誓っても風は『勇者』なのだ。
弱者を蹂躙し、悪逆非道の行いを良しとするこのサーヴァントとは、本質的に合うわけがない。

「真面目に答えて!何が!私にとって願ったり叶ったりなの!!!」

たとえ『満開』してもこの鬼には及ばない。だからと言ってこの悪鬼を野放しにはして置けない。そんな決意を胸に、風は己がサーヴァントに刃を向ける。

「真面目だぞ俺は、俺は燃費が悪いんだ。本気で戦うためには魔力を蓄える必要がある。そこらの人間喰うよりも、サーヴァント喰ったほうが効率良いし、人間共も死なない。敵も倒せる。良いことづくめだろう」

「うる…さああああああいッッ!!!」

怒りそのものと言って良い怒声。眉間に振り下ろされた大剣を、鬼は前方に飛び出して回避。風の死角である左側に回り込む。
振り向いた風の眼前で、悪鬼の口が耳元まで裂け、赤黒い口腔が見えた。

「第一、俺もお前も権道は不得手だろう。嵌められた時に魔力がないと罠を破れねえよ」

風が行動を起こすより速く、右手に下げていたセイバーの身体を、一気に口の中に押し込んだ。
そのまま一気に咀嚼し、肉を噛み裂き骨を砕く。
しきりに動くバーサーカーの口の辺りから、生涯夢を脅かしそうな凄まじい断末魔が聞こえて、風を怖気付かせた。

「魔力を補うにしても!そこまで苦しめる必要が!」

それでも、風は、バーサーカーを咎めるのを止めない。風は勇者なのだから、この悪鬼の様な輩に、好きな様に振る舞わせる訳には行かないのだった。

「有るんだよ」

冷え切った声。それまで帯びていた愉悦が無くなり、何の感情も帯ない無機質な声。
発条(バネ)と歯車で出来た自動人形(オートマータ)の様な声。
初めて聞くバーサーカーの声に、風は体温が下がるのを知覚した。


110 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:23:00 Y9IP3.dk0
「俺の始まり……鬼としての俺が産まれ、人としてのはが終わったのは、女共の呪詛によるものなんだからな。
だから俺には呪詛が、憎しみが、怨嗟が必要のさ……女であれば尚更良い」

風を見る鬼の瞳は深淵。底なしの黒い淵に身も心も魂すらもが吸い込まれていくような、そんな感覚を風は持った。

「だから俺は殺す。酷く殺す。苛んで殺す。惨たらしく殺す。それが俺(鬼)を俺(鬼)足らしめるからだ、ら
だが…まあ、安心しろよ。マスターが死ぬのは嫌なんだろう?殺さねえよ。尤も、この有様じゃ聖杯戦争に復帰は出来ねえがな」

それはそうだろう。今だに地を這い続ける魔術師に体が快癒するまでには。聖杯戦争など、当に終結している。
悪鬼の行動は風の意向には沿っている。

「なら……その…人達は…・?」

掠れた声を絞り出す。震える指が示すのは、積み上げられた死体の山。

「ああ、単純な話さ。お前が言ったのは、マスターを殺すな、無関係な人間を襲うな……だろ。だが、こいつらは敵で、マスターじゃ無い………。殺しても、構わないだろう」

悪意と嘲笑がたっぷりと篭った言葉。風の精神を抉って傷つける意図がありありと篭った言葉だった。

「ぐ……う…ううぅう………………」

屁理屈なのは解っている。それでも屁理屈の余地を与えた時点で、令呪で縛らず自由行動を許した時点で、こうなるのは予測出来たはず。

「わたしは……本当…………」

勇者なんて事に皆を巻き込んで、樹の夢を潰して、喚び出したバケモノの制御も出来ない。

「まあ良いさ。お前が殺すなと言うなら殺さねえよ。サーヴァントとして召喚に応じた時点で、お前の言うことを聞くって事に同意してるんだからな。
『鬼神に権道無きものを』、俺は言葉を違えねえよ…。お前に必ず聖杯を取らせてやる。
そんでもって…俺の願いを叶える前に、大赦とやらを潰してやる。
だから、お前も約定は守れよ。
聖杯で願いを叶えたら、お前は俺のモノだ。犯そうが喰らおうが俺の気の向くまま……さ」

言葉を切ると、鬼は再び月を見上げる。地を這う力も無くして動かなくなった男にも、声を殺して泣く風にも関心を無くして。

「わたしは……それでも、聖杯を手に入れないといけないんだ……」

これだけの事をやっておいて、まだ浅ましく聖杯を求める……。伝説の悪鬼を使ってまで。
『勇者』ならこのサーヴァントを自害させて、聖杯戦争を潰そうとするのだろう。
それが解っているのに、聖杯を求める私は、『勇者』なんて、到底名乗る資格は無い。
けれど、それでも……。私は聖杯を手に入れる。
私が巻き込んでしまった皆の為に。私が潰した樹の夢の為に。
私は聖杯を手に入れる。

こんな浅ましい私なんて、鬼に喰われて死ぬのが似合いだろうなあ。
涙を拭おうともせず、風は月を見上げた。




─────本物もこんな良い気分で酒飲んでたのかねえ。

宝具である盃を取り出し、真紅の酒を飲み干して。月を見上げながら悪鬼は思う。

「生前は出逢うことなど出来なかったが…今生は別だ。聖杯をてにいれたら、何方が本物の悪鬼か決めようぜ……“酒呑童子”さんよ」

月を見上げ、真紅の瞳を光らせて、悪鬼は笑った。



神樹によって『勇者』となった少女と、呪いによって『鬼』と化した少年は、心を通わせることもなく、同じ月を見上げるのだった。


111 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:24:12 Y9IP3.dk0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
酒呑童子(外道丸)@酒呑童子伝説

【ステータス】
筋力:B 耐久: A+ 敏捷:C 魔力:B 幸運: D 宝具:A

【属性】
混沌・狂

【クラススキル】
狂化:EX
バーサーカーは会話を可能とし、理性的な判断を行えるが、人外化生であり、ただ鬼としてのあり方に忠実であろうとする。その為道徳観や倫理観は破綻している。
ステータス向上効果は無く、強力な信仰の加護としての効果得を発揮する

【保有スキル】

鬼種の魔;D(++++)

魔性を現すスキル。天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出等との混合スキル。真性の鬼である証左。女達の怨念によって人から鬼に変じた為にこのクラス。
魔力放出の形態は“鬼気”。周囲に垂れ流される“鬼気”だけでも、生物を衰弱死させ、無機物を腐らせ、機械を作動不良に陥らせ、地脈や霊脈や魔力の流れを断つ。

堕天の魔:B(A+)

魔に堕ちた、或いは堕とされた者。
バーサーカーは鬼と堕ち、自らの所業により、より人からかけ離れていき、死後に大江山酒呑童子伝説に組み込まれることでこのランクとなった。
魔と変じた肉体はこの世の理の外にある頑強さを発揮し、同時に極めて強力な精神耐性の効果も持つ。


捕食:A

捕食により、魔術であろうとサーヴァントであろうとも魔力と変えることができる。


心眼(偽):C(A )

鬼と化した事で得た 、第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。


112 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:24:44 Y9IP3.dk0
【宝具】
百花無惨・怨情禍(ひゃっかむざん・えんじょうか)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

バーサーカーの持つ盃。バーサーカーが殺して喰らってきた女達の怨念と憎悪が篭っている。
この盃に注いだ液体は、人間が飲むと忽ち絶命する呪酒と化す。
サーヴァントに対してみ有効だが、同ランク以上の対魔力、神性等で無効化される。


神出鬼没・怪力乱心(しんしゅつきぼつ・かいりきらんbしん)
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

鬼としての肉体的性質を性質を、肉体の限界を越えて発現させる。
A++ランクの戦闘続行を獲得。肉体がどれだけ破損しても胃にも介さず戦闘を行えるようになり、
筋力と敏捷が時間経過と共に際限無く上昇していく。
この宝具を用いた場合、魔力の消費は然程でも無いが、バーサーカーの肉体にかかる負荷が尋常なものではなくなり、発狂しかねない痛みが全身を蝕む。


百相怨面(ひゃくそうおんめん)
ランク:A種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大補足:1000人

バーサーカーが殺し、喰らい、今もバーサーカーの体内で怨嗟と呪詛の声を上げる女達の魂を、全身に無数の顔として浮かび上がらせる。
この時、バーサーカーの鬼種の魔及び堕天の魔スキルは()内のものに修正され、全ステータスが1ランク上昇する。
女達の顔は、バーサーカーの目となり耳となり鼻となって死角を無くし、バーサーカーへの攻撃を受け止める。
更に無数のデスマスクは常時呪詛の叫びをあげていて、敵対者の聴覚を封じ、呪いにより生命力を奪っていく。
この呪詛は、この悪鬼の周囲にいる、同じ女でありながらも自分達のような境遇に陥っていない女に対して、より強力に向けられる。
その為に女性若しくは女性の姿をしたものに対して特攻の効果を持つ。
この宝具を解放すると、魔力消費が倍以上に跳ね上がる。



百相怨面・大怨哮(ひゃくそうおんめん・だいえんこう)
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:1-99 最大補足:1000人
百相怨面で浮かび上がらせた顔を統括し、周囲に垂れ流している呪いをバーサーカーが狙った標的に収束させて放つ大怨叫。
収束された絶叫は、物理的な威力を持つ衝撃波と化し、堅牢な城砦すらも撃ち砕く。


113 : 名無しさん :2017/12/26(火) 20:25:43 Y9IP3.dk0

【weapon】
自身の肉体

【人物背景】
元は越後国(新潟県)に生まれた絶世の美少年で、数多くの女達に懸想されたが、送られた恋文をを読みもせず全て焼いてしまったところ、想いを伝えられなかった女性の恋心が煙となって、彼の周りを取り囲み、その怨念によって鬼になったという。そして鬼となった彼は、各地の山々を転々とした後に、大江山に棲みついたという。
その地で、過去に大江山に存在した鬼にあやかり、酒呑童子と名乗る。
自身の力を高める為に、数多くの女達を拐い惨殺して喰らい、さらなる力を求め、鬼種の血を引く者達や、退魔の役を担う者達を、片端から襲ってが喰らっていった。
その最後は、高まり過ぎた鬼の力に、元は人であった肉体が耐えきれなくなっての自壊であった。


【方針】
マスターに従って聖杯を取る。マスターの指示の穴をついて殺戮を行う

【聖杯にかける願い】
受肉して過去へと行き、本物の酒呑童と逢う



【マスター】
犬吠埼風@結城友奈は勇者である

【能力・技能】
「勇者システム」
神樹から力を授かって変身する。「勇者スマホ」のボタンが変身キー
「精霊バリア」「満開」は使用不可能。

【weapon】
大きさを自在に変えられる大剣。

【ロール】
女子中学生

【人物背景】
『大赦』から派遣された勇者候補であり、勇者の資質がある生徒を集めて『勇者部』を作る。
バーテックスや勇者についてある程度の知識は有ったが、『満開』の代償については知らされておらず、妹の夢を結果として潰してしまった。

【令呪の形・位置】
オキザリスを象ったものが喉の部分に。

【聖杯にかける願い】
勇者達を満開の後遺症から救う。

【方針】
優勝狙い。マスターやNPCは殺さないし死なせない

【参戦時期】
9話で真相を知った後。


114 : ◆A2923OYYmQ :2017/12/26(火) 20:30:57 Y9IP3.dk0
追記

【外見的特徴】
身長157cm・体重52kg
見た目は紅眼赤髪の中性的な顔立ちをした美少年、額に二本の角が生えている。
笑うと口が耳まで裂けた凶相になる。
服装はボロボロの白袴を履いて、裸の上半身に赤い女物の小袖を羽織っただけの姿。


115 : ◆A2923OYYmQ :2017/12/26(火) 20:32:30 Y9IP3.dk0
投下を終了します

タイトルは『勇者』と『悪鬼』の聖杯戦争です


116 : full broom,harvester ◆mlbZX05J9w :2017/12/27(水) 03:43:14 gSww/iQ20
投下します


117 : full broom,harvester ◆mlbZX05J9w :2017/12/27(水) 03:43:37 gSww/iQ20
私は私が特別だと思いこんでいた。オーストリア軍に入った時、私はそんなことは無く、ただの砂の一粒でしか無いのだと知った。

人類に価値は無い、とは言わない。然して――――宇宙から見てしまえば、人類など鼻息一つで消えてしまえるほどにか細い存在なのだ。
私はそんな物の一つで在りたくはなかった。私は私自身が特別であることを望んでいた。そのための様々な現実逃避が私の頭の中を掻き乱していった。
振り払いたかったが、然し私は砂粒の一つで在りたくはなかった。それがその現実逃避から逃避することを許さなかった――――だから、あれはほんの気の迷いだったのだ。
1889年。あの時には……ただ、遊びだと思っていた。暇を持て余した人間たちの魔術ごっこで、大したことなどなく、結局私は砂粒の一つなのだと。

 ――――輝きを見た。

星を喰らい渡り歩く遊星。一万4000年前に地球に飛来し、その全てを徹底的に蹂躙していった方舟達。
素晴らしいと思った。面白くもない自分の人生にほんの僅かな刺激を求めた程度であったのに、そんな“素晴らしい者達”に出会えるとは。
感動した。感涙した。今まで自分が信じていた神は、宗教は、一体何だったのかと笑い飛ばせるほどに一瞬にして心酔してしまった。
私の世界が色めきだった。私の世界が輝き始めた。そして、彼らは私を祝福した。その素晴らしき力の一端を私に与え、尖兵の一人としてくれた――――私はその時、“特別”になった。

であるならば。

私はいくらでも道化となろう。私という存在全てを、あなた方に捧げよう。

誰にも理解されなくともよい。あなた達さえ私のことを見てくれるのであれば、たとえ精神病院に叩き込まれたとしても苦ではない。

家族から見放されようとも。誰からの信用を失い、孤独に死んだとしてもそれは素晴らしいことなのだ。


――――嗚呼、だから。


捕食遊星よ、星を喰らえ、地球を喰らえ、神代を喰らえ、人類を喰らえ、文明を喰らえ、未来を喰らえ、喰らえ喰らえ、喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ!!!!!!
故にこそ素晴らしい! であるからこそ美しい! こんなに下らない世界を喰らい尽くして、世界を再び更地に戻してしまえ! 神秘も文明も終ぞ夢へと消え失せてしまえ!
所詮奴らは砂粒だ。嗚呼然し、私は特別だ。“私は、喰らう側なのだから”。

そして、願わくば――――あなたの下へと辿り着き、宇宙を泳ぐ旅に寄り添う“特別”で在りたい。


118 : full broom,harvester ◆mlbZX05J9w :2017/12/27(水) 03:44:19 gSww/iQ20




「いらないよ、聖杯なんて」

――――金髪碧眼のキャスターの、美しい顔貌が僅かに歪んだ。

つい先刻、三ノ輪銀は京都府京都市に現れた。
彼女は……神樹歴と呼ばれる世界において。世界の殆どが焼き尽くされて、僅かに残された人類最後の領地を守るために戦う、勇者だった。
そして彼女はあの時も、全力を賭して戦った。自身が持つ全てをバーテックスに叩きつけた。命を賭けた、魂を賭けた、そして……人々を、そして掛け替えのない友達を守った。

――――それで良かった。少女は、その事実だけで良いと笑った。

ここに現れ困惑している三ノ輪銀に対して、彼女のサーヴァントであるキャスターは現状の説明をした。
彼女はその勇気を以て、世界と友人を守ったと。そして聖杯戦争の説明をし、己はその姿に感服したと――――だからこそ、貴女のサーヴァントになったのだと語った。
万物の願いを叶える聖杯、それを取り戻そうとキャスターは謳った。それさえあれば、貴女の想うその全てが叶うのだと笑い。

「……今。なんと?」

「だから、いらないって、聖杯」

それを、拒絶された。
キャスターには分からなかった。
現界する際に、キャスターは『これならば聖杯を求めるだろう』という人間を選んだ。
全て知った上で、彼女ならば聖杯を求めて戦うだろうと期待していた。だと言うのにこの現状は何なのだと、この言葉は何なのだ、と。

「何を言う。何を言いますか、我がマスター。聖杯とは正しく万能。手に入れさえすれば、ありとあらゆる願いが叶う!
 貴女は世界のために死んだ、御学友のために死んだ、素晴らしき勝利と引き換えに貴女は逝ってしまった!
 駄目だ、そんな悲しい結末が在ってはならない! 貴女にはそう……願いを叶える資格がある、願いを叶える義務がある!!」

「無いよ、アタシに……資格なんて」

強い瞳をしていた。それにキャスターは射抜かれていた――――ギリ、と奥歯を噛み締めていた。
キャスターのことを責めるでも無ければ、敵意を持っているというわけでもなかった。ただ、三ノ輪銀は、純粋に彼女へと自身の心を真っ直ぐに語っているだけだった。
これが少しでも瞳が濁っているのであれば、その言葉は虚実であると暴き立てて説得することも出来ただろう。
だが、こうも純真な心に……“まるで曲げられる気がしない”とすら思いかけてしまった。それを否であると振り払うために、キャスターはそれでもと言葉を繋ぎ続ける。

「あるのです! 貴女にはあるのですよ、この聖杯戦争に勝ち残る資格が!!
 全てのマスターを下し! 全てのサーヴァントを聖杯に焚べ、そして願望機をその手に、好きなように願いを叶えるだけの資格が!
 それさえ手に入れれば、幸せな世界に戻ることが出来る! 幸せな故郷へと帰れる! 幸せな時間を永遠に享受することが出来る! それが……それがいらないとでも?」

「うーん、そうだなぁ……」

その言葉を聞いて、少女は腕を組んで首を傾げ考える素振りを見せた。
漸くキャスターは糸口を見つけた。そうだとも、彼女は……彼女には掛け替えのない友がいる。そしてその時間は何よりも大切だったはずだ。
必ず決断すると確信した。然して、少女が生み出した結論は――――


119 : full broom,harvester ◆mlbZX05J9w :2017/12/27(水) 03:44:41 gSww/iQ20
「うん、やっぱり駄目だ!」


それでも尚、拒絶であった。
絶句するキャスターへと、三ノ輪銀は苦笑いを浮かべている……そんなに変なことを自分は言っているだろうか、と思いながら。
実際のところ、今の問いかけ自体も三ノ輪銀に取っては考えるべくもないことだった、最初から考えは決まっている……ただ少し、思い出に思いを馳せていただけの話だった。
そしてだからこそ。その思い出が三ノ輪銀を支えていた。そして、その思い出が――――三ノ輪銀に、そうであれと。それで正しいのだと、確信させているのだ。

「人の、誰かの命を踏み躙ってまで叶えて良い願いなんて無いんだ。そりゃあ、そういう風に思うくらいに、どうしても叶えたい願いはあるかもしれないけどさ。
 それでも……アタシは駄目だと思う。何ていうか、それがなんで駄目なのか、ってのは……ちゃんと言えないんだけど! でも、一番の理由は……そうだなぁ」

だから、それを否定するのに欠片の勇気も決断もいらなかった。


「須美や園子に、怒られちゃう気がするから、かな」

 
――――凄まじく度し難いマスターを引いてしまったと、キャスターは思った。
そんな理由で願望機を拒絶するなど在ってはならないと思った。
あの総統閣下はどれほどまでにそれを欲していたことか。あの男自身も相当度し難いとは思っていたが、欲望自体が見えている以上まだ分かりやすい。
だが、これは何故だ。この少女は何故だと思った。まだ生き足り無いはずだ、まだ遊び足りないはずだ、まだまだ……やり残したことは、無数にあるはずなのだ。
相応の齢を生きた自身ですら“そう”なのだ。故に彼女もそうである筈が、無いのに――――


「……御学友は、きっと貴女が帰ってくることを望んでいる筈です。誰かを踏み躙ってでも」

「だったら、その時はあたしが説教してやらないとな!」


――――何故、笑顔でそう言えるのかが分からない。


「……分かりません、分かりません。分からない、分からない、分からない!!
 何故です! そう思っても良いはずだ、心の底から! 貴女は! あの時間を! 平穏で幸せな日々を求めているはずだ!

 そんなもの――――理屈が通らない! それでは私の目的が“成立”しない!!」

取り乱す。余りにも想定外であると、余りにもこれは違うだろうと。
それが前提であった。マスターが聖杯を求めること。ただそれだけで良かった。強い意思を持ち、強い願いを持つマスターであること。それだけが条件の筈だった。
そんな簡単な条件が、何故成立しないと――――否。否否否、それでも私の見立ては間違っていないのだと。キャスターは、尚も食って掛かった。

「そんなものは張りぼてだ! 自身の欲望を鍍金で覆い隠している、そうでしょう!?
 本当は、貴女は求めている! 今も貴女は今言った言葉を後悔している! 未練が在る! 聖杯に、願望機に、そうでしょう、そうでないはずがない!」

「……たしかに、そう言われるとそうかも」

「ならば――――」

「それでも、駄目だ」

確かに、その言葉には否定しきれないことが在る。
もう一度、友達に会いたい。家族に会いたい。それは本当のことだ、心の底からそれを願っている――――だから、願いがない、と言ってしまえば嘘になってしまう。
それでも、三ノ輪銀は頑なに首を横に振る。どれだけキャスターがそう在れと主張しようとも……それでも、“絶対に”。


120 : full broom,harvester ◆mlbZX05J9w :2017/12/27(水) 03:45:22 gSww/iQ20
「……所詮。所詮人間なんぞ砂粒の一つ。一息すれば飛んでいくか弱い生き物です。そんな有象無象を、ほんの僅かに生き延びさせるためだけに貴女は犠牲になったのだ。
 悔しいと、理不尽だと思わないのですか。私こそが特別だと思わないのですか。私こそが!! ならば多少の見返りが在ってもいいと、何故思わない!?」

何故、それでいいと思う。
顔も名前も知らぬ有象無象を守るために使命を背負わされ、そして理不尽に死んでいったことに対して何故何も疑問に思わない。
彼女は特別であったのだ。ならばそれ相応の特権を振るってもいい。弱者を守るために戦った彼女には、多少の命を踏み躙っても良い権利があると。
キャスターにとって、三ノ輪銀にかける言葉の殆どは詭弁であった。今は――――最早その鍍金は剥がれ切って、ただ感情のままに彼女へと向けて言葉を吐き出している。



「見返りならとっくに貰ってるんだ。今まで幸せな時間を過ごせた。大切な友達が出来た。その二人を守れた。家族を守れて皆を守れた。
 それだけでアタシは十分だから。だから――――今回も、アタシは勇者らしくしないとな。



 ――――こんな戦い、止めてやる。たとえ、キャスターがアタシを見捨てたって」

然して、三ノ輪銀は笑っている。
彼女は、人を守る勇者であった。ならば今度もまた、勇者として在らねばならないと。それこそが、三ノ輪銀であるのだと。
此度の戦いでもまた、少女は両手に斧を握りしめるだろう。そうして余りにも輝かしい魂とともにその身を焦がして、きっと燃え尽きていってしまう。
キャスターは、特別な存在でありたかった。そしてそうなれた。そうなれた筈だった。だと言うのに彼女は―――あまりにも特別であるというのに。


「――――否、否、否否否!!!」


そんなことは許されない。
この少女は、キャスターが望んで仕方なかった特別なのだ。キャスターが捕食遊星と接触して漸く成れた“特別”なのだ。
だからこそ、それは否なのだ。特別な彼女は、その特権を振るわねばならない。そうでなければ、キャスターは――――嫉妬で、その身を焦がしてしまう。

「貴女は特別でなければならない。貴女は聖杯を手に入れなければならない! そして私は、それを以て捕食遊星ヴェルバーの下へと至る!
 故に私は貴女を!! 必ずや聖杯のもとに導いてみせる! 貴女の意思など知った事か――――必ず、必ず! その願いを抉じ開けて、聖杯へと至らせる!」


捕食遊星の尖兵は、それを第一とする。なれば、キャスターがそう叫ぶのは――――きっと。そこに本当の“特別”を見たのだろう。


「見捨てる? そんなはずがあるものか! 貴女はこの私が選びだしたマスターなのだ! それに間違いがあるはずがない!

 約束しよう。私は、無理矢理にでも――――貴女を、聖杯戦争の勝者にする」


三ノ輪銀は、実のところキャスターの言葉を全て理解できているわけではない。
魔術だ何だということはわからないし、今口走った捕食遊星、という言葉の意味も理解していない。
けれど、キャスターがどういう風に考えていようとも三ノ輪銀がやるべきことは変わらない。
此処が何処かなんてまだよく分かっていなくても、この先に会う人達がどんな人間で……この先、どんなに恐ろしい怪物に出会うことになったとしても。



「やってみなよ。アタシは勇者だ、そう簡単には負けないぞ?」



――――三ノ輪銀は、勇者である。



故に彼女は、理不尽に抗い。魂を、燃やし尽くす。


121 : full broom,harvester ◆mlbZX05J9w :2017/12/27(水) 03:46:49 gSww/iQ20
【クラス】
キャスター

【真名】
カール・マリア・ヴィリグート

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A++ 幸運:B 宝具:EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
条件さえ揃えれば魔術的な要塞である“魔城”の形成が可能。

道具作成:C
魔術により道具を作り上げる能力。

【保有スキル】
高速詠唱:B
魔術詠唱を早める技術。自身の修める魔術レベルは低いが、詠唱のスピードは一流の魔術師と同格である。

信仰の加護:A-
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。

ヴィリグート・ルーン:EX
ヴィリグートが創り出した独自の文字。
完全な創作としてはあまりにも高度な術式を形成する文字―――――その正体は“遊星の紋章”を書き出したもの。
キャスター自体はヴェルバーの分身でも端末というわけでもないため、オリジナルほどの威力を発揮することは出来ない。
然しそれでも、既存の魔術の枠に入らない強力な術式を行使する事が可能。

【宝具】
『歪み狂わす偽教典(クリスト・イルミン)』
ランク:A+ 種別:対魔宝具 レンジ:1 最大捕捉:20人
カール・マリア・ヴィリグーとの謳う偽教、イルミン教について記されている教典。
雑把且つ荒唐無稽が過ぎるイルミン教という存在それ自体が宝具と化したものであり、その本質は現存する宗教の否定により“喰らう”ことである。
経典を通じて他者、もしくは道具に対して発動を可能とし、人間、道具、どちらに使用した場合にも対象にAランクの対魔力に相当する耐性を付与する。
『歪み狂わす偽教典』を施された対象が触れたり、施された魔術は純粋な魔力へと変換され、キャスターへと送られる。
送られた魔力は単純にキャスターの物になるほか、後述の第二宝具発動のためのキーにもなる。
大凡近現代の魔術に対してはほぼ間違いなく喰らうことが可能だが、神代やそれでなくとも高位の魔術に対しては喰らい切れず取り零す事も有り得る。
それでも大幅な減衰自体は行われるだろうが。


『収穫の星、第三の太陽(イルミニズム・ドゥリッテ・ゾンネ・ハーヴェスター)』
ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:1000人
キャスターが自身の信じる宗教――――その世界に存在していた三つ存在する太陽の内の一つの力を引用する、と“偽装している”宝具。
実際にはキャスターの信じる世界も宗教も存在していない。だが、生前行った魔術儀式によって偶然ヴェルバーと接触。
捕食遊星ヴェルバー、そして三つのアンチセル……そしてこれに触れ侵食を受けたことによってその力の一端を振るう尖兵と成った。
これにより、その神霊をすら蹂躙した力の極々一部を、純粋な破壊としてのみではあるが発動、放出することが出来る。
上空に魔術式を展開、これによりヴェルバーとのゲートを展開することにより、輝ける破壊の濁流としてこの世界に流し込む。
発動には膨大な魔力が必要だが、前述の第一宝具によってある程度補える他発動後の“破壊の濁流”に関してはその出処自体が全く別に在るために魔力を一切消費することがない。
またその性質上、神性を持つサーヴァントに対しては特攻が付与される。


122 : full broom,harvester ◆mlbZX05J9w :2017/12/27(水) 03:48:08 gSww/iQ20
【Weapon】
『SS長剣、SS短剣』
キャスターが生前持ち逃げした二振りの剣。
魔術発動の媒介に使用される。剣として使用されることはあまりない。

【人物背景】
ナチス・ドイツ親衛隊(SS)の将軍。
独特な神秘主義とオカルトを信仰し、親衛隊全国指導者ハインリヒ・ヒムラーから絶大な信任を得て親衛隊の宗教思想に大きな影響を与えた人物。「ヒムラーのラスプーチン」の異名をとる。
イルミン教なる宗教を主張しており、自身をその宗教における神族が結合した存在“氷の王”であると主張したり、キリスト教をこのイルミン教の剽窃と主張している。
第一次世界大戦におけるドイツの敗戦はこのイルミン教への迫害によって行われていると宣う等屡々それらは地震の被害妄想や陰謀論を掲げるために使われたりしていた。
そのような人物ながらヒムラーからは信頼され、ヴェヴェルスブルク城を親衛隊で購入させ怪しげな魔術儀式を執り行ったり、敵視するヴォータニズムの信者を次々に収容所に送っていた。
他、親衛隊に於いてはヴェヴェルスブルク城で結婚式の司祭に相当する役目を担当し洗礼を施したり、親衛隊名誉リングのデザインを行ったりと、宗教的に重要な役割に居た。
然し1938年10月にヒムラーへと精神病院入院の経歴が齎され、それと同時にヒムラーの側近の女性に関係を迫ったことでヒムラーからの信用を失い1939年8月28日にSSを除隊させられた。
その際返却を求められたS髑髏リングやSS長剣、SS短剣等を自分のものにしてしまっている。

上記が公的に残されている事実である。
その裏側にて、カール・マリア・ヴィリグートは若かりし頃……1889年に参加した魔術団体の儀式によって、偶然にも捕食遊星『ヴェルバー』との接触を果たしていた。
とは言え実際にそれと対話したというわけでもなく、ほんの僅かにだけその道を偶然に開いたというのみであるが――――それを以て、ヴェルバーの侵食を受ける。
ヴィリグートはこれらに完全に魅了され、その人生の最終目標を『ヴェルバーの下へと辿り着くこと』に設定。
遭遇したヴェルバーの情報を下に『イルミン教』を作り出し、この地上にヴェルバーを再度辿り着かせるための試行錯誤を親衛隊を利用して行った。
然しヴェヴェルスブルク城で執り行われている魔術儀式に危うさを感じた総統、アドルフ・ヒトラーの命令によってヒムラーはヴィリグートを失脚させ、親衛隊から追放させている。
現代にヴェルバーを降ろすことを諦めたヴィリグートであったが、それでも諦めることはなかった。
英霊として自身が現界した時に、聖杯戦争の勝者となり願望機を手に入れることによりヴェルバーへと辿り着くことを画策し、『最終秘術』を以て死後英霊の座へと辿り着く。
尚、自身の肉体は“理想”として生前に座に登録するために用意したもの。色々ともっともらしい理由はあるが、本人の好みが反映されているというのは間違いのない事実。

【外見的特徴】
美しい金髪と碧眼を持った、長身且つ豊満な肉体を持った美女。
非常に整った親衛隊制服と帽子を被り、常に不敵な笑みを浮かべている。
但し、感情の動きはすぐに表情に現れる。とりわけ取り乱したときなどはそれが著しい。

【方針】
兎に角『マスターに聖杯を取らせる』。
本来であれば聖杯を用いてヴェルバーの下へ行くことなのだが、今はそれが最も優先されている。

【マスター】
三ノ輪銀@鷲尾須美は勇者である

【能力・技能】
神樹に選ばれた勇者として、スマートフォンを介した変身によりその力を扱うことが出来る。
巨大な二丁の斧を武器としており、勇猛果敢に突撃し多少のダメージを物ともせず猛攻を加えるという戦法を得意としている。
作中では限界を超えた戦闘行動により、勇者二人を戦闘不能に陥れた三体のバーテックスを命と引き換えに撃破している。

【weapon】
二丁の斧

【ロール】
市内の小学校に通う小学生

【人物背景】
結城友奈は勇者であるのスピンオフ、本編の二年前を描いた鷲尾須美は勇者であるの登場人物。
元気いっぱいの火の玉ガール。運が悪くしょっちゅうトラブルに遭遇しては、それを放っておけないという正義感も持ち合わせるとても良い子。
家族思いで友達思い。最初は須美からは苦手意識を持たれていたが、すぐに園子とともに打ち解けて掛け替えのない友達になった。
本編では三体のバーテックスを道連れに死亡しているが、彼女の死を受けて大赦は勇者システムを改良。
『精霊』『満開』という形で勇者の力となっている。……それが彼女の望む形であるかは別として、だが。


【令呪の形・位置】
右手の甲。牡丹の花をかたどったものが刻まれている。


【聖杯にかける願い】
無し。

【方針】
聖杯戦争を止める

【参戦時期】
本編での死亡後


123 : 名無しさん :2017/12/27(水) 07:38:32 20zla95E0
拙作『勇者』と『悪鬼』の聖杯戦争を追記・修正してWikiに登録しました


124 : ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:45:48 CoPkmlbY0
投下させていただきます


125 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:46:49 CoPkmlbY0

「もし、私の家に何か用かな?」

神条紫杏が買い出しから帰り、自室へと戻ると扉の前に一人の女性が立っていた。
背後からでもわかる、大柄な体格だ。
人並な背丈と、平均よりも細い体格の紫杏と比べると大人と子供ほどはあるかもしれない。

「むーん?」

鳴き声とも取れる奇妙な声を発して女性が振り返る。
紫杏は見覚えのないその顔に、わずかに眉をしかめる。
醜女だった。
目も背けたくなるほど、とは言わないが、やはり平均よりはいくらか落ちる容貌。
おまけに香水を大量にふりかけており、紫杏の嗅覚にツンと刺さる。
のっぺりとした面と、服の上からでもわかる贅肉のついた

「キャンセル料」
「……なに?」
「キャンセル料を寄越すのです。他の女が居る中では規定違反となるのです」

むーん、と鳴き声を放ちながら手を差し出してくる。
紫杏は戸惑いを覚えつつも、同時に頭が痛くなった。
この醜女が何者なのかはさっぱり分からないが、この醜女がここに居る原因はわかりつつあったからだ。

「おおっ!来ておったか!」

そんな時に、ガチャリと扉が内側から開く。
そこから飛び出してきたのは、とびっきりの美丈夫だった。
身の丈は六尺を超えるであろう長身、ガッチリとした岩のように厚い胸板と神社のしめ縄のように太い腕と神木のように太く長い脚。
顔立ちは鋭さを持ちながらも、朗らかな笑顔を与える美丈夫。
だが、服のセンスは壊滅的だった。
一個の桃だけが大きくプリントされた白の半袖Tシャツと、大きな太腿をキュウキュウに詰め込んだタイトなジーンズ。
整えられてはいるが無造作な印象を与える、後頭部の高い位置で結われた黒の長髪。
そして、日本一と書かれた文字と桃の模様で描かれた白い鉢巻。
純日本人の顔立ちをしているくせして観光外国人のような姿をした美丈夫は、醜女を見ると盛大な笑いを見せた。

「フハハ、これは凄い!
 猿め、フォトショップとやらをよくもまあ見抜いたものだ!
 やはり犬や雉よりも、この手のことは猿のほうが頼りになるな!
 紫杏、金は払っておけ。遠慮するな、中に――――」
「キャンセル料はいくらだ」
「むーん、これぐらい」

女が差し出した端末に映る金額に僅かに顔をしかめる。
しかし、財布から数枚ほどお札を取り出して手渡してみせた。
女は何も言わずに立ち去っていき、そこには怜悧な顔つきの美貌を持った紫杏と、体格の良い間抜けな格好をした男だけが残された。

「貴様、紫杏! 何をしている!」
「こちらのセリフだ。何をしている、アーチャー」


126 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:47:17 CoPkmlbY0

プンスカと擬音がつきそうな怒りを見せる男――――アーチャーへと紫杏は冷ややかな目を向ける。
初めて見る動物と対面したような、尊大な口ぶりの男が僅かにたじろいだ。
この整った顔立ちと鍛え抜かれた肉体だ。
紫杏の軽蔑するような目に慣れていないのだろう。

「アーチャー。
 私が稼いだ金で買った服を着て、私が仕事用に使っているPCで探して、私の借りた部屋に呼ぶデリヘル遊びは楽しいか?」
「ブォッ」

そのまくし立てた言葉に反応したのはアーチャーではなく、部屋の奥に居た別の人間であった。
いや、人間という言葉は正しくない。
もこもことした柔らかな毛皮と、ハツラツとした笑みを浮かべ、シンバルを抱えた子猿の人形だったのだ。
そう、子猿の人形が喋ったのだ。
いや、子猿の人形だけではない。

「マスターに対して失礼だぞ、『猿』」
「あ、いや、すまぬ、『犬』。
 しかしだな、我ら日ノ本の民が偉大なる主に向かって、まるで幼子に言い含めるように言っていると思うと、面白くてな」

キリッとした顔つきながら大きな瞳が愛らしい犬の人形も喋りだすではないか。
犬と猿の人形に挟まれたまま、アーチャーは目を見開いた。
恐らく、女に詰められるという未経験をようやく飲み込んだのだろう。
紫杏に向かって大声で抗議をしだしたのだ。

「阿呆め! この京の都はすでに戦場ぞ!
 戦場とは死が隣に立って手招きをしてくる場、そこで穢れを跳ね除けるような清廉な美女など抱けるものか!
 抱くならば穢れを引きつけて押し付けることの出来る、とびっきりの醜女に決まっておる!
 そんなこともわからんのか!」
「何もわからんが、まずはそのふざけたTシャツを脱げ」

紫杏は苛立ち混じりに答えると、犬が申し訳なさそうに頭を下げる。。

「我らが主はこのような御方。マスター、どうかご容赦を」

デカデカと桃の描かれたシャツをピチピチに引き伸ばしたマッシブな成人男性。
その成人男性をかばうように言うゆるキャラとしか言いようのない犬。
不可思議なその様子に、紫杏ははぁと溜め息をつく。

「いやぁ、あの糞ダサTシャツ、思いの外に気に入っちゃって。
 この猿としてはジョークグッズのつもりだったんですがねぇ」
「西道将軍殿にセンスはないと見えるな」

紫杏が冷たい視線を向けると、今度は別の方向から、紫杏でもアーチャーでも犬でも猿でもない声が響いた。

「いけませんよ、マスター……みだりに皇子の真名を連想させる肩書を呟いては……」

聞くだけで神経質とわかる声。
声の方向へと視線を向けると、やはり神経質に見上げてくる瞳が特徴的な、『雉』の人形がそこに居た。

「壁に耳あり障子にメアリーさん……どこで誰が聴いているかわかったものではありません」
「当の本人が桃のプリントTシャツと日本一の鉢巻を付けていては説得力の欠片もないな」
「皇子は良いのです……頭は良いですが性格が馬鹿なので、馬鹿な考えがあるのでしょう……
 貴女は頭も性格も馬鹿ではないでしょう……?」

褒めているのか、馬鹿にしているのか。
紫杏は何度目かになる溜め息をついた。


127 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:48:23 CoPkmlbY0

「貴様ら! 麻呂を馬鹿にしておるな!」
「いえいえ、滅相もありません」

そして、雉の言葉を聞いたアーチャーはどうやらそれを罵倒と取ったようだ。
雉は、はぁ、と重たい息を吐きながら弁解する。
だが、気にしている様子はない。
その様子にやはり腹がたったのか、よく通る美声でアーチャーは叫び始める。

「刀を持たせれば日本一、弓を取らせば三国一!
 大和武尊、源頼光、宮本武蔵、何するものぞ!
 天下に轟く大英雄!
 さぁ、並ぶものなき、栄光に満ちた我が名を讃えよ!
 千年前の童も、千年後の翁も、神州無敵と問えば答える麻呂の名を!」
 天下無双!神州無敵!日の本一の兵!」
 その名も高き――――」

そこで一度声を区切り、その巨体をぴょんと宙へと浮かす。
そのまま横を向き、片膝をついて大きく手を伸ばし、背筋を伸ばし、独特のポーズを取った。
そして、くるりと紫杏の方を向き。
大きく、紫杏の先程の発言など問題にならぬほどの、有り体に言ってしまえば。


「あっ!桃太郎!」


この日本という国で最も有名な英雄の名。
恐らく、日本一の英雄と聞かれれば多くの人間が口にするであろう名前。
そんな、自身の真名そのものとも言える名を口にした。

「いよっ!日本一!」
「あんたが大将!」
「……」

犬こと『犬飼健<<イヌカイタケル>>』が合いの手を打ちながら紙吹雪を撒き散らし、
猿こと『楽々森彦<<ササモリヒコ>>』がからかうように叫びながらパリーンパリーン!とシンバルを叩き、
雉こと『留玉臣<<トメタマオミ>>』が無言で空を舞いながらひらひらと『日本一』という文字と桃が描かれた旗をはためかせる。

恐らく、この三人、いや、三匹は慣れているのだろう。
この奇天烈な主の有り様に。

吉備津彦命。

『桃太郎伝説』のモデルとなった飛鳥の軍神。
おおよそこの日本で行う聖杯戦争において、もっとも有利となるであろう英雄。
当たりか外れかで言えば、恐らく大当たりの部類に当たるサーヴァント。
だというのに。
紫杏は、何度めかになるかわからぬ溜め息をついていた。


128 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:49:01 CoPkmlbY0





「いやぁ、すみません……皇子は押さえつけるとへそを曲げる人なので……」

雉が神経質な目をそのままに、無言でせっせと動く犬とともに散らかった紙吹雪を回収していく。
猿はといえば、アーチャー・吉備津彦命とともにテレビを見ている。
吉備津彦命が何かを言えばうまい具合に合いの手を入れる。
会話をしてわかった。
犬は生真面目な武人で、猿はお調子者で、雉は神経質ながらも気配りの人。

「ふむ」

紙吹雪の後始末も終わった頃、ニュースを見ていた吉備津彦命はピタリとテレビを止めて紫杏に向き直る。
紫杏は煩わしげに吉備津彦命と向かい合った。

「戦略は練れたか、大将軍殿」
「戦ばかりだな、この世は」

紫杏の言葉を無視するように、先ほどまで見ていた各地の紛争のニュースについて話題を振る。
やはり、溜め息をつき、紫杏は頷いた。

「ああ、戦争はなくならない。今の世の中も、昔も、きっと未来も。
 きっと、人の業なのだろう」
「おかしなことを言うな、マスター。
 必要でないなら人は戦争などしない、麻呂にもわかるぞ、これは背後に得をしている人間がいるのだろう」
「居るだろうな、だが、それだけじゃない。
 多くの人には必要じゃないことだ、だが、必要なことだと勘違いしている」

吉備津彦命の、どこかドライな言葉を否定する。
世の中はおぞましいことに、計算だけでは成り立たない。
人の心によって動いているからだ。

「人は信仰というと軽く見るくせに、愛だと言えばまるで偉大なことのように褒め称える。
 悲しいことだ。
 世の中の悲劇の半分は、自分が持っている愛が特別なものだと勘違いするから生まれる。
 愛も、信仰も、食欲と同じだ。
 誰もが持っていて当然のことで、特別なものなんかじゃないのに」
「マスターの願いは、その勘違いを正すことか?」
「いいや、違う。
 確固とした願いなど、私にはない。
 ただ、今の世界は間違っているとは思う。
 聖杯は奇跡の願望器、あらゆる願いを叶えるもの。
 努力した人間が報われ、誰もが愛を持っていることを理解し、神を信じる心は誰も邪魔しない。
 そんな当たり前のことを、当たり前に出来る願望器だ。
 手に入るのなら当然欲しいだろう。
 要らないなどと言うならば、それは単なるすっぱいぶどうだ。
 今まで手に届かなかったものが届いてしまう、それが期待はずれだったら怖い。
 だから、『簡単に願いを叶えてはいけない』としているだけだ」

そこまで言い切ると、少し熱くなったことに気づいたのだろう。
冷蔵庫の中から紫杏はミネラルウォーターを取り出し、一気に煽る。
それを見た吉備津彦命は笑った。


129 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:49:37 CoPkmlbY0

「マスター、貴様、真面目すぎて嫌われやすい性質だろう」
「だからどうした、見えぬ聞こえぬ批判など、所詮は箱の中の猫だ」
「箱の中の猫?」

箱の中の猫。
箱の中に猫を閉じ込め、その後に二分の一の確率で死に至る毒ガスを注入する。
箱の中からは猫の様子は分からない。
生きているのか死んでいるのかわからないのならば、存在しないのと一緒だ。
紫杏の使い方は誤用であるが、それを意図的に使っている。
確定させなければ存在しない、としているのだ。

「箱を開けねば中身は分からぬ。
 分からぬものなど存在しない……しかし、世の中には開けねばならぬ時もある。
 放っておきたいと言うのに、結果を確定させなければいけないこともある。
 煩わしいことだがな」

そこで初めて吉備津彦命が顔が曇った。
思い返したくない出来事を思い出しているのかもしれない。
しかし、言葉を続けた。
初めて、紫杏は吉備津彦命が伝説に名を残した英雄の姿に見えた。

「我が宝具も箱の中の猫で説明できるな。
 二分の一の確率で存在するものがある。
 望む結果を引き出せるのは、どうあがいても二分の一。
 しかしだ、最初から二つの結果を用意してやれば良いのだよ。
 温羅の神通力も強烈なものだった。
 山をも分かつ麻呂の自慢の一射を、神通力によってたかだが岩の一つで防いでみせるではないか。
 弓が描く結果など『当たる』か『当たらぬ』かの二択。
 ならば、『当たる矢』と『当たらぬ矢』を同時に射ってみせたのだ」
「それは……規格外だな」
「麻呂は我儘なのだ」

知っている、という言葉を飲み込んだ。
吉備津彦命の瞳には憂いが帯びている。
子供のような破顔した笑顔が特徴的な男だけに、まるで別人のようだった。

「きっと、子供のまま大人になったのだろう。
 折れることはしたくなかった。
 折れなければいけないことがあるとわかっていたからこそ、なるべく折れたくなかったのだ」
「私とは正反対だな」

紫杏は空気に耐えきれないと言った様子で口を開いた。

「私は子供の頃から大人だった。
 可愛げなど一つもない、子供の姿をした大人だ。
 折れなければそれが成し遂げられないのならば、折れるしかなかろう。
 そのような二射の極意など成し遂げず、私はきっと、別の方法で温羅を討つ方法を考える」
「……そうか」

吉備津彦命は寂しげに笑った。
紫杏の言葉に反論があったのだろう。
だが、それを飲み込んでいるような顔だった。

『結果を譲れないのならば、それは十分に折れたくないということなのだ』

吉備津彦命は、そんな言葉を飲み込んだ。
恐らく、子供の頃から大人だったと思い込んでいる、大人になっても真面目な子供である紫杏に。
恐らく、大人になっても子供のように振る舞う、しかし、子供の頃から大人でなければならなかった吉備津彦命は。
何も言うことはなかったのだ。
それは、自分で見つけなければいけないことだし。
あるいは、見つけずとも良いことだからだ。
子供のままでも死ぬことは出来るのだから。


130 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:50:21 CoPkmlbY0





桃の木の下で。
二人の偉丈夫が向かい合っていた。
片方は六尺にも勝る大柄な体躯をしており、刃のごとき怜悧な美貌を水で濡らしている。
さらに大柄な体躯だが、片目を矢で貫かれており、激しく流血をしている。
一人は彦五十狭芹彦命、大和の国の将軍。
一人は温羅、吉備の国の戦神。

「見事……」

戦神・温羅は地の底から湧き上がるような恐ろしい声で、彦五十狭芹彦命を讃える。
勇ましきその面からは彦五十狭芹彦命への敬意が見て取れる。
神の例に漏れず、傲慢な温羅が浮かべるとは思えないものだった。

大和の国が吉備の国へと攻め入った。
これがことの始まり。
大将・彦五十狭芹彦命が率いる軍をこの地を治める神・温羅が迎え撃つ。
互いに陣を張り、遠く離れたその地から、彦五十狭芹彦命はなんと弓を射る。
温羅を射止めるどころか先行の軍にすらも届くはずのないその矢はしかし、先行の陣を薙ぎ払った。
豪傑揃いで評判の彦五十狭芹彦命の忠臣たちが作り上げた五人張りの剛弓。
彦五十狭芹彦命でなければ到底引くことなど出来ぬそれは、遠く離れた陣地でさえ、温羅の生命を十分に奪い得る射程範囲であった。
彦五十狭芹彦命が温羅の生命を奪うために、弓を引く。
しかし、戦神たる温羅がその程度で死ぬわけもなし。
神通力を持って、矢を岩で迎撃する。

本来ならば、迎撃された岩を砕き、威力を失わずに温羅を仕留めるであろう彦五十狭芹彦命の一矢。
本来ならば、迎え撃った矢を砕き、そのまま彦五十狭芹彦命を押しつぶすであろう温羅の投石。

しかし、矢と岩はぶつかると両者が砕け、互いに無傷。
それが幾度となく繰り返される、千日手。
いかに部下が戦功を上げようとも、大将である彦五十狭芹彦命と温羅の争いは終わりが見えない。

「見事だ、人の子よッ!
 二矢同射の秘技、堪能したぞッ!
 我が御業をあのような例外で乗り越えてくるとはな!」

そんな時、彦五十狭芹彦命の夢枕に住吉大明神の神託が降りる。
神託と、当代無敵と謳われる武芸の極みへと至った彦五十狭芹彦命だからこそたどり着ける弓の極地。
この二つによって生み出された、ニ矢同射の極意。
同時に放たれる二つの矢。
片方は温羅の岩により砕かれ、しかし、片方は温羅の目を貫いた。
彦五十狭芹彦命の魔技は、温羅の神通力を打ち破ったのだ。

「見事はそちらよ、温羅!
 貴殿の神通力に参り果て、ついにはあのような魔技を生み出してしまったわ!
 山を貫く麻呂の一射、とうとう貴殿の岩を貫くことを出来なんだ!
 挙句の果てには麻呂すらも慌てる変化の術!
 逃げられてその傷を癒されるかとヒヤヒヤしたわ!」

その後、温羅はこれは不味いと変化の術を用いて雉になり、傷を癒やすために逃げようとした。
しかし、はるか彼方ながらもその姿を映した彦五十狭芹彦命は、そうはさせじと鷹へと変化する。
このままでは捕まってしまうと、温羅は慌てて鯉へと変化し水中へと逃げる。
だが、彦五十狭芹彦命は鵜へと変化し、見事温羅を捉えた。
そして、二人は向かい合っている。
この戦を決める一騎打ちの始まりである。


131 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:51:46 CoPkmlbY0

「だが、戯れもここまでよ!
 麻呂の必殺の魔技である二射の極意も、貴殿を殺すには至らなかった!」

彦五十狭芹彦命は鞘から刀を抜き、勢い良く鞘を後方へと投げ捨てた。
しかし、これに慌てるは遅れてやってきた三人の忠臣。
犬飼健、楽々森彦、留玉臣である。
いずれも剛将、彦五十狭芹彦命の信頼厚き勇猛なる戦士である。

「ぬぅ!
 彦五十狭芹彦命様が鞘を投げ捨てられた!
 鞘を捨てるは合戦の心得ぞ!」
「数多の兵士が沸き立つ戦場においては命など放たれた矢のようなもの!
 彦五十狭芹彦命様は刀を鞘に治めて生きて帰るなどという甘えを捨てられたのだ!
 しかし、彦五十狭芹彦命様の目には温羅が千の、いや、万の軍勢にも映っておられるのか!」
「いや、わかる、わかるともさ!
 この場にいても感じる、温羅めの強大な神気!
 彦五十狭芹彦命皇子は本気だ、本気で死ぬ覚悟をしておられる!」

温羅は彦五十狭芹彦命の命懸けの決意に笑みを深める。
戦神、争いの神である温羅に刃を向ける異国の勇者。
勇者は嫌いではない、戦いに身を捧げたものだからだ。
すなわち、戦いの神である自身に身を捧げるものだからだ。

「来い、勇者・彦五十狭芹彦命!
 貴様を殺し、儂の神殿にてその名を讃えてやろう!
 貴様は百年の後に吉備国ににて、異国の勇者『彦五十狭芹彦命』として崇められるのだ!」
「いいや、それは違うぞ、『悪鬼』温羅ッ!」

ピクリ、と。
悪鬼の言葉に温羅の表情が凍る。
先程までの勇者を前にした嬉々とした表情はない。
彦五十狭芹彦命を見る目は絶対零度。
敵意すら凍った、恐ろしき目だ。

「悪鬼!
 儂を悪鬼と言ったか、人よ!」
「千年の後に讃えられるは我が『吉備津彦命』の名!
 軍神・吉備津彦命が悪鬼・温羅を成敗したと謳われる伝説よ!」

彦五十狭芹彦命、いや、吉備津彦命は勇ましく啖呵を切った。
温羅の凍った表情が溶けていく。
怒りという炎で、溶けていく!

「貴様、奪うつもりか!
 儂に勝った挙句、土地を、民を、儂の命を奪うに留まらず!」
「温羅よ、貴様は異国の神などではない!
 大和に逆らいしまつろわぬ民として、民を苛む悪鬼に過ぎん!」
「儂の神性を奪うつもりか!
 儂の歴史を、儂の有り様を、儂の戦を!」
「悪鬼成敗!
 貴様は戦神として雄々しく戦ったのではなく、悪鬼として麻呂に成敗されたと容易く唄われるのだ!」
「儂の『全て』を奪うのか!」

温羅の怒気が、世界を揺るがした。
真金吹く吉備の国。
すなわち、戦神、戦いの神である温羅の権能によって約束された製鉄の恵み。
吉備の大地とはすなわち温羅そのものなのだ。
大地が震え、割れ、顎を開き、大和の兵士のみならず吉備の兵士をも飲み込んでいく。
海が震え、逆巻き、龍となり、大和の兵士のみならず吉備の兵士をも咥え込んだまま天へと昇っていく。


132 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:53:10 CoPkmlbY0

「恐ろしき神気!
 こ、これが、これが戦神・温羅か!」
「真金吹く吉備の国、その名に相応しき敵将どもすら容易く飲み込まれていく!
 荒ぶる神そのものだ!
 もしや、もしや……彦五十狭芹彦命様といえども……」
「負けぬ!」

その恐ろしさに犬飼健は震え、楽々森彦もまた心に隙が生まれる。
溢れ出る神気を前に、心が挫けそうになる。
しかし、留玉臣は声を張り上げた。
大和の兵士たちの視線が、留玉臣に集まる。

「負けるものか、彦五十狭芹彦命皇子……いや、吉備津彦命様は我らとは違う!
 我らの剣など、所詮は魔を退けるだけの退魔の剣!
 しかし、吉備津彦命様の剣は特別なのだ!
 鬼すら慟哭し、魔すら滅する、鬼哭魔滅の剣よ!」
「……応よ、留玉臣!
 吉備津彦命様ならば神すら恐れぬ!
 神すら斬って捨てようぞ!」
「戦神・温羅……いや、悪鬼・温羅なにするものぞ!
 我らが主は軍神・吉備津彦命よ!
 一騎打ちぞ、邪魔立てをさせるな!」

留玉臣の言葉に、犬飼健は獰猛な笑みを浮かべ、楽々森彦もまた兵士に喝を入れる。
吉備津彦命と温羅の間に、空間が生まれた。
誰も邪魔などせぬ、二人だけの死合の空間だ。

「神すら冒涜する愚者、彦五十狭芹彦命よ!」
「民を苦しめる悪鬼、温羅よ!」

吉備津彦命は刀を地面へと這わせるように構える。
温羅は固く握りしめた右拳を弓をひくように大きく後方へと持っていく。

「いざ!」
「いざ!」

桃の木の下で。
二人の視線が重なる。
瞬間、空間が破裂した。

「「尋常に勝負!!!」」

その激闘は、もはや誰も知らない。
結果だけは誰もが知っている。

それで良いと、吉備津彦命は笑う。

大事なものは、結果に過ぎないと。
平和なる世に必要な武勇は、一点の曇りもない輝かしいお伽噺で良いと。


133 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:53:48 CoPkmlbY0

【クラス】
アーチャー

【真名】
吉備津彦命

【出典】
日本神話

【性別】


【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力:A+ 耐久:C+ 敏捷:C 魔力:B 幸運:B+ 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
その場合、大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクAならば、マスターを失ってから一週間現界可能。


【保有スキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
"工房"を上回る"社"を形成することが可能。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。
高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
神を祖に持つ万世一系の皇族の皇子であり、死後も神として高い信仰を得ている吉備津彦命は神性を持つ。

無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

神秘殺し:A+
人に寄り添ってあらゆる鬼や魔といった魔性を切り払ってきた吉備津彦命が持つスキル。
その有り様と信仰が神秘殺しという一つのスキルとして形となり、魔性の類や人ならざる英霊に対して大きなアドバンテージを得る。

変化:B
変化の術、借体成形とも呼ばれる。
魔術に秀でていた吉備津彦命は変化の術も得意とし、吉備平定の逸話でも鷹や鵜に変化している。


134 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:54:06 CoPkmlbY0

【宝具】
『住吉連理之極意(すみよしれんりのごくい)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:10〜100 最大補足:999
住吉大明神より夢枕で授かったニ射の極意。
吉備津彦命は同時に矢を射ることで、『当たる矢』の代わりとなる『当たらぬ矢』を同時に放つと嘯くが、その実は因果の固定。
片方の矢に吉備津彦命が『望まぬ結果』のすべてを押し付け、もう片方の矢に吉備津彦命が『望む結果』だけを乗せて放つ射法の極意。
犬飼健や楽々森彦を代表とする怪力自慢の部下達も協力して拵えた五人張りの剛弓から放たれる、10km以上離れた場所からでも射抜く必殺の射撃。
その射撃を確実とするための、神州無敵とまで称される日本一の英雄である吉備津彦命のみが可能とする秘技。
吉備津彦命は原理を簡単に語るが、当然、誰もがたどり着けるような境地ではない。
神州無敵である吉備津彦命を持ってしても生涯の難敵、百発百中の結果すら捻じ曲げる温羅。
この魔王を殺すため、天下無双の兵である吉備津彦命が、住吉大明神の協力のもと、秘奥のさらに奥とも呼べる境地に立って編み出した極意。
放たれたその矢を回避するためには吉備津彦命以上の因果操作か、因果を捻じ曲げるほどの高い幸運と必殺の因果干渉を跳ね除ける対魔力が必要となる。


『桃印之三獣士(ももじるしのさんじゅうし)』
ランク:C 種別:対獣宝具 レンジ:1 最大補足:3匹
大きな瞳を神経質に見上げるように固定した、しかしその陰鬱な表情がどこか愛らしい子雉。
キシシと大きく口を開き、シンバルを片手に持った親近感の覚える子猿。
しっかりした固く結んだ口元とは対象的にまるっとした可愛らしいつぶらな瞳を持つ子犬。

普段はそんな愛らしいデフォルメ調のゆるキャラ。
しかし、吉備津彦命が納めた吉備の国の銘菓、『桃印の吉備団子』を食することで神獣変化する。

ジェット機を軽々と超える速度とあらゆる得物を啄む嘴を持った、『怪鳥・留玉臣』は空を飛ぶ。
握りつぶす強大な握力を持った、魚よりも自在に水中を泳ぐ『巨大狒々・楽々森彦』は海を行く。
鎧の如き堅い黒々とした体毛に覆われ、牙は刀剣を思わせる鋭さを得、『大狼・犬飼健』は地を駆ける。

これは吉備津彦命と同じ優れた魔術師でもあった三人の臣下たちが生前より持っていた変化の能力である。
地球の平和を守るため、鬼の城を壊すため、世界の未来を開くため、吉備津彦命の号令とともに敵へと襲いかかる。


『神州無敵之桃太郎(しんしゅうむてきのももたろう)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
吉備津彦命の生涯とその後の信仰が生んだ、国民に由来する宝具。
端的にいうと、『何かにおいて世界一の存在だったとしても、日本では二番目』となる能力を持つ。
『桃太郎』こそが日本一の存在であると無邪気に信じる人々が居る限り。
吉備津彦命は『天津神』と『国津神』、そして『日本という国の象徴』を除く全てに対して大きなアドバンテージを得る。
また、対象が日本を由来しない英雄や神性を持つ場合は、魔性属性の付与と権能を削ぐことが可能となる。

例外的に、吉備津彦命の心が折れた場合はこの宝具は効果を失う。


【Weapon】
『無銘・剛弓』
豪傑五人が必死に拵えた、吉備津彦命だけが扱える五人張りの剛弓。
力自慢の楽々森彦でさえもこの弓を扱うことは出来ない。

『無銘・直刀』
『真金吹く吉備の国』に相応しい製鉄技術で作られた上等な刀。
天下無双の吉備津彦命の剣術には、あらゆる武術の達人である犬飼健も敵わない。


135 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:54:30 CoPkmlbY0

【マテリアル】
吉備津彦とは、古代皇族の武人である。
『古事記』『日本書紀』に記載のある人物。
『五十狭芹彦(いさせりひこ)』『彦五十狭芹彦命(ひこいさせりひこのみこと)』とも言う。
七代天皇孝霊天皇の息子で第三皇子。
兄弟の稚武彦命(わかたけひこのみこと)と共に吉備国を平定させ、十代目崇神天皇の代に四道将軍の一人に任命され、西道(山陽道)に遣わされた。

吉備(岡山県南部)には彼が温羅という鬼を討伐したという伝説が残っている。
伝説によると、鬼ノ城に住んで地域を荒らし、暴虐ぶりで現地の人々を苦しめていた悪鬼・温羅。
この鬼を、吉備津彦命が犬飼健・楽々森彦・留玉臣という3人の家来と共に討ち倒し、その祟りを鎮めるために温羅を吉備津神社の釜の下に封じたとされている。

この伝説が後代に昔話「桃太郎」となったとされる。
温羅の本拠地鬼ノ城が鬼ヶ島、討伐にあたって引き連れた臣下はそれぞれ、犬飼健が犬、楽々森彦が猿、留玉臣が雉のモデルとなったとされる。

上述の吉備平定の活躍と、岡山県(吉備国)の温羅(うら)伝説は、共に古代の大和政権と吉備国の対立構図を、桃太郎と鬼の争いになぞらえたとするものとされる。
つまり鬼とは当時の地元民の抵抗勢力の隠喩とも言われ、蝦夷などの古来民族を敵視する古事記や日本書紀などの流れを組んだ部分が強いことを示唆している。

この伝説は、岡山県において広く語り継がれている後に上田秋成が手掛けた読本『雨月物語』中の1編である『吉備津の釜』に登場する 、同神社の御釜殿(重要文化財)における鳴釜神事の謂われともなっている

ちなみに、家来の1人である犬飼健は犬養氏の始祖で、五・一五事件で暗殺された犬養毅首相の祖先であると言われている。


【外見的特徴】
六尺を超える大柄な体格に、岩を連想させる分厚い胸板と、神木さながらの太い手足をした偉丈夫。
黒い艶のある長髪は後頭部できつく結んでいる。
顔のパーツは怜悧な刀のような鋭いものだが、普段は子供のような無邪気な笑みを浮かべているために冷たい印象は与えていない。

日本一や桃といった衣装を好んで身につけようとする。

【聖杯にかける願い】
英雄は大きな願いは持たない。


136 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:54:52 CoPkmlbY0

【マスター】
神条紫杏@パワプロクンポケット11

【能力・技能】
何かに成り切ることを得意とする。
『もしもこんな人物だったらどう動くか』をシミュレートして、自らの人格ではなくその人格で動くことが出来る。


【人物背景】
神条紫杏は高校に入学するまで、生真面目でどこか尊大な、自分のことを大人だと思う大きな子供であった。
子供だからこそ、欺瞞に満ちた世界を理解でき、それが我慢できなかった。
努力をしていた人が馬鹿を見て、ズルをしたり嘘をつく者が幸福になる世界。
それに対する怒りに似た感情を抱いており、常に世界を正そうとしていた。
例え、鏡に映った自分の姿がどれだけ醜いものでも。

高校在学中、表社会にも裏社会にも大きな影響を及ぼしている大グループ『ジャジメント』の幹部候補として渡米。
彼女はその渡米の最中、『人間が滅ぶ最悪の未来』からやってきた男・ミスターKと接触する。
ミスターKの語る滅びの未来が十分に信じることが出来るものだと確信し、彼の仲間である『六人組』に入る。
その後、18歳の春には日本支部の社長として就任。

ジャジメントと敵対している『オオガミグループ』も支配し、二つの組織を統合。
こうして、紫杏の『世界征服』は成功し、最悪の未来を回避するための『世界支配』を開始する。
燃料や食糧問題から生まれる人間同士の滅びの戦争を、世界人口の大半を殺すことで世界を維持する。
そんな『一撃計画』を実行した。
その後、ほどなくして暗殺される。
しかし、『六人組』は『一撃計画』を実行するだろう。

六人組としての彼女は、『見ることの出来ない顔も知らない誰かの笑顔』のために動いている。
世の中の不正義を直視し続けたため、自身が幸せになることを諦めている。
暗殺された直後、『自身が体験できない遠い未来をやり直そう』とする意思を以って、聖杯戦争に招かれた。


【マスターとしての願い】
より良い世界を、もっとよい世界を。


137 : 桃の木の下 ◆7WJp/yel/Y :2017/12/28(木) 23:55:02 CoPkmlbY0
投下終了です


138 : ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:11:44 cUHpCZhk0
新企画立て乙です。私も投下させていただきます。


139 : 異端審問 ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:12:24 cUHpCZhk0



お前は魔女だと言われた。


私は魔女じゃないと答えた。







「……」


少女が一人、家の鍵を開けて扉を開けるが、誰も「おかえり」と歓迎しない所か。
奥の方で男女が口論する音が耳につく。
無論。怒鳴り合いは外まで聞こえるが、二人はお構いなし。近所の人々もヒソヒソ噂をする程度で、警察に通報したり。
変に関わるのを意図的に避けてるようだった。

不思議だな、と少女は思う。
この――『日本』なる国の京都。どうやら海外から数多の観光客を集める有名な土地らしい。
日本人じゃあない。金髪碧眼の容姿であるせいか、少女を迷子の観光客と勘違いする者が多い。
だから親切に声をかけたり、わざわざ英語で意志疎通を試みる者も。
奇妙な話、少女は異国で言語に不便はなかった。言葉は通じるし、文字も読める。
……けれど。何故か家の問題で心配される事はないのだ。
本当に不思議である。

一応、少女の身分設定は『日本に移住してきた外国人一家』。
ここには少女の他に、父親母親も居る。
便宜上の。
少女はこの『両親』が本物ではないと既に理解していた。偽物である、と。何故なら……


【おい、レイチェル。とっとと部屋、行けよ】


「うん」


脳裏に響いた声に返事すると、少女――レイチェル・ガードナーは平静に自室へ移動した。
扉を施錠。大分、騒音は収まって、僅かだが静寂にも思えた。
音もなくレイチェルの前に、一人の男性が現れた。

目を痛めるような紅マントに西洋騎士っぽい簡易な鎧、赤系統の旗を暴走族みたいに肩で支え持つ。
京都の町並みには不釣り合いな時代遅れのフランス人だ。
ベリーショートヘアの金髪と炎の如く輝く赤眼が、更に野蛮さ……不良っぽさだろうか。
悪印象を加速させている。

レイチェルは死んだ、淀んだ瞳でしげしげと男性を眺めてから言う。


「ごめんなさい。よく分からない」


「はあ?」


「だって……あなたはサーヴァント。英霊。歴史上に実在した人物……それで――『ジャンヌ・ダルク』?」


「そうだっつってんだろ」


「聖女じゃない?」


「俺は魔女で異端のジャンヌ・ダルクだって説明しただろーが」


「男だったの?」


「戦場じゃ男装してたんだよ。『ジャンヌ・ダルク』は」


「……女?」


「だーかーら! 俺は男だ!!」


140 : 異端審問 ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:12:58 cUHpCZhk0
レイチェルが眉を潜めるのは当然であろう。彼女の知識とは異なる。
少女でも『ジャンヌ・ダルク』の逸話を耳にした。そう、彼女のサーヴァント。
この男性はなんと――真名を『ジャンヌ・ダルク』と言うのだそう。
魔女の側面?のジャンヌ・ダルク……と説明されても訳が分からない。
まだ、オルタとか。サンタ・リリィとか。考えないで感じられる方がマシに思える。
やれやれな『男のジャンヌ・ダルク』は溜息を長々とつく。


「そもそも俺はジャンヌ本人じゃねーよ。お前さんの知ってる通り、聖女で女性で魔女じゃないのが本物のジャンヌ・ダルク」


「あなたは、偽物?」


「まーややこしいよな。ガキには更に理解できねえ。一から説明すんのがメンドくせーんだが……
 大昔。結局、ジャンヌ・ダルクってよ。魔女扱いされて処刑にされただろ」


「うん」


「要するに―――昔はガチでジャンヌが魔女だって風評被害があった」


「……」


「んで。そーいう噂つーの。イメージ? 過大解釈とか風評被害で『無辜の怪物』ってので、別の姿に捩じらげ曲げちまう」


「それがあなた?」


「やーと分かったか」


魔法使い的な魔女だけではない、異性装や野蛮さを含めた異端の側面。無辜の怪物の集合体。
最も、ジャンヌ・ダルクが既に魔女ではなく聖女として認定された事で。
通常の――英霊として観測されているジャンヌ・ダルクにも無辜の怪物は付与されていない。
ひょっとすれば、この男性のジャンヌが、基本的なサーヴァントのジャンヌとされる世界もあるかも。
即ち。
彼はジャンヌ・ダルクから削ぎ落された『異端』。つまるところ


「あと。俺をジャンヌと呼ぶなよ。サーヴァントのクラス名……『アルターエゴ』で呼べ」


「わかった」


141 : 異端審問 ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:13:34 cUHpCZhk0
エクストラクラス・アルターエゴのジャンヌ。
それが、レイチェルが召喚したサーヴァントの正体。
……元より。アルターエゴの存在すら、聖杯戦争において通常召喚出来るか危ういにも関わらず。
『既に失われた無辜の怪物』たるジャンヌが召喚されたのは、この聖杯戦争そのものが異常であるからか……
ふと、ジャンヌが尋ねる。


「そーいや。お前の願いを聞いちゃいなかったな」


「願い……」


「まだ聖杯戦争の事、受け入れてねーのか?」


「それは大丈夫。……願い………………ザックを」


「あ? 誰」


「ザックが……死刑になるって。だから」


「はぁぁ!? んだよそれ。しゃーねえな。助ける」


えっ、と死んだ目だったにも関わらず、突拍子も無いことに驚きを隠せないレイチェル。
顔をしかめてジャンヌが確認した。


「知り合いが処刑されそーだから助けてえって願いじゃねーの、違うか」


「間違ってない。でも」


「でも、ってんだよ。処刑なんてたまんねーだろうが。火炙り体験した俺が保証するぜ」


「本当に……助けてくれるの?」


「どんだけ疑心暗鬼なんだよ、お前」


レイチェルが動揺したのは、躊躇なく「助ける」とジャンヌが宣言した事。
普通。前提として、レイチェルの言うザックがどのような人物か問いただすべきではないのか。
疑いもせず。考えもせず。
聖女じゃなくとも。善良に人を救う英霊たる姿勢があった。


142 : 異端審問 ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:14:47 cUHpCZhk0

「ザックが悪い事をしてても、助けてくれる」


「……ああ、そ。別に」


「どうして」


「死刑の時点で悪い事してるかもな考えてたわ」


「違う」


「違う? ザックってのがお前にとって必要なんだろ。助けてえんだろ。なら別に何とも」


「思わないの」


「ソイツがまた悪い事するとか? そーいう正論? 興味ねー。言っておくが俺は『聖女』じゃねえぞ。
 正義の味方とか。悪を淘汰するとか。第一、ジャンヌ・ダルク本人も戦場で殺しまくってっからな?」


「………あなたは本当に『魔女』なの?」


少し視線を逸らしてからジャンヌが言う。


「世間体で言う『悪』だろ。フツーは極悪人助けねーからな」


きっと違った。
間違いなく善人だった。
法には背くし、躊躇なく戦争を招き、宗教において異端と魔女の具現化だったとしても。
だからこそ。レイチェルは動揺してしまう。
彼女の周囲は実に歪んでいた。十分ロクでもない人間ばっかりだし、普通に生きてる人間だって。
レイチェルの家庭内事情を心配しない。
レイチェルに――ザックの処刑を教えた者だって、ザックを死んでしまえば良いと思っていたに違いない。
故に、ジャンヌは間違いほど善であったのだ。そう目に映った。


143 : 異端審問 ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:15:19 cUHpCZhk0


ガチャン!


雰囲気を破壊するかの如く、ガラス製の何かが割れる音。
ドタドタと誰かが移動する音。
一瞬、レイチェルの部屋に向かっているのかと緊迫が醸しだされたが、やがて玄関が乱雑に開閉される騒音だけが響く。
恐らく『父親』の方だ。京都の町で飲みふらしに往くのだろう。
ジャンヌが舌打った。


「おい。レイチェル。ここから出んぞ」


「何故?」


「ここに居たところで聖杯戦争のアドバンテージにならねえからだ」


「住む場所も食べ物も。ここにいなくちゃ手に入らない」


「んなの。俺の魔女パワーでどーにかできんだよ。あとイライラする」


「アルターエゴが嫌なら……そうする」


まだ家に残っているであろう『母親』の様子を伺う必要などない。
何故なら


「あの人達は『偽物』だから」


痕跡も残さず、声もかけず、音も立たずにレイチェルとジャンヌは立ち去った。
ここの『両親』がレイチェルの捜索など警察に依頼するだろうか。
『どこかの誰か』を演じているなら、レイチェルがいなくなった所で、嘆く事すらしない。

レイチェルは不気味に冷静な思考をした。
確かに『偽物』と付き合っている場合じゃない。ザックを助けるために、聖杯を手に入れたい。
死刑どころか。自分たちの障害となるもの全てを取り除けるかもしれない。


ザックに殺される為ならば。


144 : 異端審問 ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:15:44 cUHpCZhk0

【クラス】アルターエゴ

【真名】ジャンヌ・ダルク@史実

【属性】混沌・善

【性別】男

【ステータス】筋力:A+ 耐久:A 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:E 宝具:B


【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。


【保有スキル】
無辜の怪物:EX
 生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。
 本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない。

 本来、ジャンヌ・ダルクは異端たる魔女の称号は『削がれた』。
 しかし。過去、例えばジャンヌ・ダルクが異端として処刑された当時。
 魔女としての風評被害を受けていただろう。
 つまり、かつて失われた怪物の称号。アルターエゴの正体。

 ジャンヌ・ダルクが戦場で男装していた事や、常識に捕らわれないゲリラじみた戦法等、野蛮性。
 異端とされた側面を核とした存在の為、巡り巡って最終的に性別が『男』になった。
 拳で殴り、足で蹴る。タイマン勝負バッチコイ。


異端のカリスマ:A+
 人々を、フランスを、魅了的なカリスマによって引導し、戦争を激化させた。
 悪魔との交信を経て得た能力とも噂されている。
 士気向上効果は受けた錯覚でしかなく、真価は洗脳・記憶・感情操作である。
 精神耐性が無ければ自らの意志で行動していると勘違いするレベル。


魔力放出(炎):C
 武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
 火炙りを攻撃的に解釈したスキル。


勇猛:B
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。


145 : 異端審問 ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:16:13 cUHpCZhk0
【宝具】
『紅蓮爆走御旗』(ライディング・ラ・ピュセル号)
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜500 最大補足:1〜1000人
 生前、ジャンヌ(本物)が振るっていた聖旗……を赤系統のカラーリングに変化したもの。
 魔女ならぬ魔法使いの箒みたいに、旗にスノーボードっぽく立ち乗りして飛行する。
 微粒子レベルで残った魔女要素をつぎ込んだ感じの宝具。
 飛行速度は魔力消費次第。当然、飛行した際の周囲の風圧や衝撃だけで建造物が破壊される事も。
 軍隊に突撃すれば、特攻じみた強力な全体宝具と化す。
 アルターエゴ本人は、宝具の速度を利用し、強力な一撃必殺の拳とか頭突きを噛ます為に使う。



【人物背景】
ジャンヌ・ダルクより削がれた魔女・異端の側面。失われた無辜の怪物。
本人の一面を抽出した存在、切り離された存在の為。クラスはアルターエゴとなる。

本物とは全く異なり、男で不良で、善良だが聖女でも聖人ですらない為、神の信仰心は皆無である。
気に食わない事は気に食わないで、あれこれ言い訳せず。
ムカつく、赦さねえなど否定し、嫌悪する。相手が善であれ悪であれ、構わずに。

戦闘スタイルは殴る蹴る。拳が通用しなければ旗をぶっ刺す。それすら通用しなかったら。
躊躇せず他サーヴァントに協力を脅迫して、徹底的倒す。手段は選ばない。


【容姿・特徴】
fate原作のジャンヌのマントを赤くしたものと西洋騎士っぽい簡易な鎧を着る。
ベリーショートヘアの金髪と赤眼のフランス人男性。
異端と称された野蛮性を体現した存在の為、不良な雰囲気が捨てきれない。


【聖杯にかける願い】
自分は得になし。マスターの願いを叶える。



【マスター】
レイチェル・ガードナー@殺戮の天使


【聖杯にかける願い】
ザックを助ける


【人物背景】
死んだ目をした金髪碧眼、13歳の少女。
殺人鬼が住まうビルに閉じ込められ、住人であった殺人鬼とビルからの脱出を図り。
あらゆる邪魔なものを打ち倒し。結果として生き残った。
しかし、自分を殺すと約束した殺人鬼に死刑判決が下され……その後からの参戦。


【能力・技能】
悪い意味で一般人。保護された施設で無記名霊基を手にした事でマスターになっただけで
魔力は皆無。ジャンヌが長期戦をするほど、不利になるだろう。
良い意味で一般人より精神力が強く。悪い意味で精神がイカれている。


【捕捉】
京都の舞台において日本に移住してきた外国人一家の一員の設定だが
ジャンヌが機嫌をそこねて、自宅から離れる。もう戻る事は無い。
多分、両親とされている者達もレイチェルを捜索などしないだろう。
また、レイチェルもその両親が『偽物』だと分かっている。


146 : ◆xn2vs62Y1I :2017/12/29(金) 13:17:03 cUHpCZhk0
投下終了します


147 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:04:00 3CrRuBU60
投下します


148 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:11:43 dH38z9I60
投下します


149 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:12:34 dH38z9I60
>>147
すいません。お先にどうぞ


150 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:18:08 3CrRuBU60

 ────あなたは其処に居ますか?私《ボク》にはまだ視えません。

 ────あなたは其処に居ますか?僕《わたし》にはまだ聞こえません。

 ────ねえ、何処に居るの?

 ここには、何もない。誰も居ない。

 ────ずっと、ずっと遠くを久遠《とおく》を見つめても、まだ何も視えません。

 ────ずっと、ずっと君を待ちつづけても、まだ貴方は来ません。

 ────ずっと、ずっと名前を呼んでも、まだ君は答えてくれません。

 僕の背中を追いかけてた君を、今では僕が背中を追いかけてる。
 僕は、それがずっと続くとは疑いも思いもしなかった。
 もしかしたらこれが夢から醒めたその夢で実は悪い夢なんかじゃないかって、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も思った。
 これが何かの間違いなら、もう生きているか死んでいるのか自分でも判らない────。

 このまま沈んでいけば……。

 ────到達出来ない《error》。
     ────観測出来ない《error》。
         ────起算出来ない《error》。
                    ────途絶《out》……。

 俯瞰の視界は幾つもの夢と現実が絡み合って混乱して見境を亡くて……。

 闇から闇へ、昏い海に力尽きて流されている。
 今にもここから零れ落ちそうになる。

 この眼も触角も顎も貴方のためだけに使いたいのに……なんで?届きそうなのに……なんで?

 ────なんで、呼んでくれないの?

 ────お願い、今すぐ。

 ────そうすればどんな場所でも迷わないで走ってゆけるから。だから……。

 個体《システム》を蝕む。意識《自分》が削られていく悪寒。いや、もう溶けている────。

 カタチの無いものが混ざり合う。
 この水の感触も静けさもどんな寒さより震える。
 それでも救いを求めるように探し続けた。
 なんて、無様なんだ。僕はもう、何も出来ない役立たずだ。
 こんなの貴方に見せたくない。半端な自分の無力さを呪いたくなる。

 底の昏い。道の標は何処?君は何処に居るの?

 覚えていた夢のような日々は無へと薄れてゆく……。

 ……崩れる。早くここから離れないと────────それでも、行かなくちゃ……。

 闇に吠える。せめて、一度だけ。

 ────だから、お願い。今すぐ。

────僕《ワタシ》の銘《なまえ》を呼んで。

 容赦なく切り刻まれた慟哭はやがて全てが儚い夢となって消えてしまう。
 その自分自身さえもが鎮かに死の海に融けていった。



      「          」


151 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:20:42 3CrRuBU60

    ◇   ◇   ◇


 ────世界の認識を再開する。

『────、ぁ』

 視界を水沫が逆巻いた。透明度の高い海水に包まれている。
 途端、顔を合わせていた魚たちも驚いた。
 それには一緒に居たマダラトビエイも釘付けだ。
 青いライト。虹の弱光。超巨大水槽の中を漂うヒトガタ。
 水流に揺られる鈍い光の中を漂っている。

 ──京都市下京区 京都水族館──
 ── PM 18:47 ──

 左右へ覗き見る蛇か鮫のように底のしれない黒瞳。
 呆然と水の中を泳ぐ視線が気に食わないのか、魚たちは次々とどこかへ逃げ去っていく消えていく。
 何も居ない静謐の海。
 無表情無感動な顔をしたまま、それでも胸の空白を埋めて心のどこかが満たされていた。

「       」
 
 顔が切り替わる。
 振り向いたその先、ぶ厚いアクリルガラスの向こう側に一人の人影がこちらに向かって口をパクパクさせている。ガラスもバンバン叩いていた。
 じっと眺める。
 顔は酷い剣幕だった。

「             」
 
“ そ こ か ら は や く で ろ ”

 喚き立てる口から泡を飛ばしてそう言っている。

 『……?』

 想起。再認。この男《ひと》は〝今の飼い主〟だった────。

   ◇   ◇   ◇

 ……地上《そと》は完全な暗闇だった。空気は正常《寒い》。

 外の空気を吸うと、げんなりしていた男の肩が再び震えてだした。

「一体何やってたんだよ!?……おい!?訊いているのか!?」

 自分のサーヴァントを脇の下に抱えたまま見下ろす。

『あの海、偽物だった……』

 泣き出すのをこらえているように見える。
 不満そうに引き締めた口元を曲げたまま、唇だけが震えている。

「当たり前だ……。水族館だぞ……」

 呪いの言葉を吐きながら落胆と焦燥の入り混じった気持ちで自分のサーヴァントを何度も見返した……。
 変声期を迎えてもいない男なのか女なのかもまだあやふやな子供。
 これ以上なく黒々して艶のある髪。細い首。シルクシフォン二重仕立てにサスペンダーと半ズボン姿。
 海水から揚がったばかりでまだ身体がびっしょり濡れている……。
 ほのかに肌の色が伺う事が出来、その首にぶら下げた小さな縞瑪瑙が揺れる。
 それは虐められっ子のようなあまりにも頼りなさげで痩せっぽち。とても貧弱に見える。

(これが、こんなのが……僕のサーヴァントかよ……!?こんなのあんまりだ!)


152 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:21:46 3CrRuBU60

 そんな第一印象はこの男、〝間桐シンジ〟も同じ感想だろう。
 ────泣きたいのはこっちだ。
 この時、彼の中の聖杯戦争は終わった。それは断定と判決だった。
 彼は知る限りの神に祈ったが、無情にも引き当てたのは蝿の脳みそほども無いこの最低ランク頭のおかしなサーヴァント。
 こうなったら弾除けになって死んでもらうしかない。きっとライダーだったらそう言うだろう。否、そもそも盾にすらならないかもしれない。
 このまま他のマスターでも交番にでも押しつけてここから消えてしまいたい気持ちで一杯だった。

「おいガキンチョ。お前何の英霊なんだよ?」

『……………………………………………アサシン』

 アサシン?は倦怠に満ちた声で相手に応えた。

「今考えたんじゃないのか?」

『違うよ』

 こんな馬鹿馬鹿しい会話するのもうんざりだ。
 ようやく自分の足で歩き始めたアサシンは掌で縞瑪瑙を転がしながらブツブツと呟きはじめた 。
 無愛想で怠惰で、自分の事は殆ど喋らない、自信も怒りも覇気も持ち合わせない。そして何より────。

『…… Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrhaMh'ithrha……Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrhaMh'ithrhaMh'ithrhaMh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha……』

 ────コレだ。
 きわめて支離滅裂。意味不明。正体不明。声に似て声でない音節唱。音を言葉としても還元できないノイズ。身の毛のよだつ不気味さだ。ホント気持ち悪い。
 これにはシンジも道行く人も黙って身震いを繰り返すばかり。文字通り気が違った人か幽霊そのものと出逢ってしまったのだから。いや、両方だ。

「ホント何なんだよお前?どこの出身の英霊だよ?」

 会話が途切れる度に口から発する異様な雑音《ノイズ》にはシンジも露骨な嫌悪感を醸し出す。

『……えーと、大西洋……?多分』

 これでも真剣に応えているつもりらしい。そしてまた再びブツブツ呟き始めた。

「ハァ!?お前、馬鹿じゃないのか!?自分がどこから来たかも知らないわからない。だいたいブブなんとか何て訊いたことないよ。一体何人だよ』

『何?』

 アサシンはシンジに静かな一瞥をくれる。
 シンジも真面目腐った顔で受け止めた。これは初めてのリアクションだ。

『──────』


153 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:22:30 3CrRuBU60

 アサシンが復唱する。不気味な囁き声。また再び雑音。

『────僕の銘《なまえ》は……▃▇▅▇▅▆▇▅▇▃▇▇▅ 間違えないで……』


「あ?なんだって?声が小さいぞ」

 聞き取るどころか吃音すら出来ない言葉をアサシンは再び繰り返す。


『────▃▇▇▅▇▅▆▇▅▇ 』

「え?ルル……何?」

『だから、〝ルルハリル〟……。僕の銘《なまえ》……』

 ル
 ル
 ハ
 リ
 ル
  。

 アサシンの黒瞳には相手を値踏みするような皮肉な光が宿り、文字通り身体の裏側まで見透かされている。

『慎二は上から〝三番目〟……』

「三番……って、それが褒めてるつもりなのか?ちっとも褒めてるないぞ」

『だから、一緒に聖杯を手に入れよう……それまで』

 感情を一切交えない透した眼差しはまるで深い洞のようだ。

『僕の全てを君に捧《あ》げる。一体誰を殺せばいいの……?』

 石を投げ落としても、落下する音の聞こえない。それがどこまで続くか解らない……。
 その小さな躯に底知れぬ太古の神秘がみなぎっているのをシンジは感じとってくれるだろうか。

「…………そうだな。もう少し様子を見よう」

『判った……』

 シンジはアサシン質問の応答を控え、二人は帰路に着いた。


154 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:23:45 3CrRuBU60
    ◇   ◇   ◇




【出典】 クトゥルフ神話『万物溶解液・錬金術師エノイクラの物語』
【SAESS】アサシン
【身長】不明(人間時150㎝)【体重】不明(人間時35㎏)
【性別】君たちはどっちがいい?
【真名】ルルハリル
【属性】混沌・善
【ステータス】
筋力(臨機応変) 耐久(臨機応変) 敏捷EX 魔力(臨機応変) 幸運EX 宝具EX

【クラス別スキル】
気配遮断:(臨機応変)
万物流転によって上下する。
普段はサーヴァントとして認識されない。宝具との能力によって追跡もほぼ不可能。
戦闘体勢に入ると急激にダウンし、 相手を恐慌状態に陥れる。

単独権限:A
単体で現世に現れるスキル。
即死耐性。魅力耐性。
その力はこの星の在り方を歪め捻じ曲げながら突き進み刻を駆け抜ける狂った獣。
自身の宝具の能力で時間操作を用いたタイムパラドクス等の攻撃を完全無効化する。
────アサシンをこの現世に留める理由はただ一つだけだ。

対魔力:(臨機応変)
魔術に対する耐性。
万物流転によってランクが上下する。
全身に刻まれた〝帝王の紋章《ジェノサイダー・メダリオン》〟
自分でやりました……。

【保有スキル】
忘却補正:?
どんなに離れていても彼方より顕れる。主を護る番犬であり、地上の神すら追い立て喰らい殺す猟犬。
匙加減一つで聖杯戦争どころか世界すら破綻させうる危うい死滅願望。
精神構造も復讐者とは全く異なる。
そもそも感情というものも希薄でいつもどこかフワフワ。ポヤンとしている。

ストーキング:A
アサシンは標的を空間を転移しながら殺害・捕食するまで永久的に追跡する。 その追跡は何者でも停められない。
シンジを護る時はトイレにも付いてきて便器の中に身を潜める。その逆も……。

同形三復:A
仕切り直し。千日手《パペチュアル・チェック》。
戦闘からの離脱し、状況をリセットする。そしてアサシンは何度だってやる無限ループ。
相手に有利な状況を何度でも作り出すアサシンからは決して逃げられはしない。
サーヴァントなら魔力切れに、睡眠すら許されない追われる者《マスター》の精神は徐々にすり減らされ……やがて、自滅するか諦める。

ティンダロス:B
言い伝えによると北欧神話の魔獣・フェンリルと同一種族と考えられている神殺しの別れ身。
神性・霊体にプラス補正を与える。サーヴァントも例外ではなく、治癒不可能の傷を負わせる呪い。

万物流転:C
自身のステータスを状況によって任意に振り分け直す事ができる変容。
霊基改稿による更にアサシンとしてのステータス隠匿を発揮し、相手にワンランク下の存在として認識される。
均等に振り分けた場合は全てCランク。
アサシンによって負傷した人間は幸運判定を行い、失敗すると転換。単独行動:E-相当を保有するアンデッド化され、ルルハリルに追従する怨霊になる。


155 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:24:47 3CrRuBU60

【宝具】
『貴方の狩りだす夢幻劇《トワイライト・フィアーズ》』
ランク:A+ 種別:対個人宝具 レンジ:∞ 最大補足:一人
アサシンへの視覚妨害の無効。対象をサーヴァント・マスター問わず常時補足される何者も欺けぬ追跡能力。
千里眼としてカゴテライズされているが本来は全く異なるこのアサシン独特の超感覚。標的は一度に一人まで。

『虚神鎖す紫棘の檻《ドール・ハウス》』
ランク:EX 種別:対次元宝具 レンジ:自身 最大補足:∞
令呪を用いずに、 任意の場所に自身のみを空間転移させる瞬間移動能力。
これを応用した多重次元屈折現象よって、自分自身の存在を増殖させた時空連続体観測群。
万物流転によって千変万化させた様々な自分自身を同時に繰り出す。
その並列化した思考と情報処理能力で他を圧倒する。

※顕現化したアサシンは増える訳ではなく存在されるため、分裂したアサシンの全てホンモノ。受けたダメージは全てのアサシンが受ける。例えばアサシンのダメージを他の分身に押しつけるのは不可能だ。

真名解放状態ではアサシンは形態変化し、ステータスをランクアップさせる。
その姿は敵全員の筋力と敏捷のパラメーターが一時的にランクダウンさせる精神系の干渉。

 このどちらの宝具も本来の目的は異界と通じる〝ある存在〟との境界線に向けられ張り巡らされる防衛機構である。 
 が、魔術師たちはこれを特定の個人攻撃のためだけに利用していた。
 世界の何処かに穴を空けている事も気づかずに……。
これを喚び水に同族を呼び寄せてしまうかもしれない……。そんな重大な事は誰も知る由はない。

『だから、こっそり殺ろそうね?』


【 weapon 】
・自分自身
アサシンの変性する肉体は万能兵器。 紫棘と呼ばれる亜空の瘴気を閉ざす縛鎖。宙を游ぐ空間断層。
その伸縮自在に変化する躯は毒液を撒き散す牙であり、嘴であり、触手であり、消化器官。子供形態でもサーヴァントが素手で触った瞬間、喰われる。

・チェーンソー状に変化させた触手や尾鰭。
絡み付いたら離さない。植物の根のように相手に入り込む。

・アンデッド
アサシンには命令権がないため時々シンジにも襲いかかり、シンジをヒヤヒヤさせる。
殆どアサシンのご飯。

【人物背景】
 抑止力に排斥されたある大陸からの出自を持つ錬金術師の一族に仕えた使い魔。その大勢の群生の内の一。
 神すらも咬み殺すこの世ならざる殺戮機構。
 数多の魔術師たちの権力闘争に利用され、持ち主を転々としながら使い潰されて、現在では彼等を使役する術は喪われれている。
 本来なら有り得ない群生から外れ単独行動し、聖杯戦争にアサシンとして無理矢理自分の存在を捻じこんだ存在だ。
 この個体には感情や人格といったものが多少見受けられる。 原因は元々の契約が切れていない影響、またはバグが考えられる。
 その考えも非常に極端で〝他者を自分が従うべき存在か、自分に従うべき存在か〟〝生きて貰わないと困ると死んで貰わないと困る〟〝好き《1》と嫌い《0》〟と二種類に分け、相手を識別する機械そのものの虚無的思考力と自滅を省みない渇愛の感情の二律背反。
 使い魔としての自己評価も飼い主の殆どが死亡または暗殺されているためとても低い。
 それでも本当の飼い主《マスター》の下に還るためだけに聖杯を求める文字通りの忠犬。
 ちぐはぐで不器用な言動でどこまでも純真で真っ直ぐに突き進み、この世の理の外から来た天成の手段を選ばない残忍性と戦闘能力で聖杯の手に入れ、彼の向かった根源の渦を目指す。

 見た目は小学校四年生ぐらい。男の子として見ても女の子として見ても可愛らしい中性。 男にも女にもニッチな方向にも成れる。
『みんなはどれが好き?』
 これが飼い主だった魔術師の趣向なのか、マスターによって変わるものなのか、それのもこのサーヴァントの在り方なのかも不明だ。
 因みに〝上から二番目の飼い主〟にシンジは似ているらしい。おもに頭とか精神的に。
 シンジの命令は何でも利き、際限のなく実行する。彼の情けない叫び声一つでどこからともなく現れて彼を助けてくれるだろう。
 待機中は部屋の隅や浴槽の中で常に蹲っている。コワい。
 プールや川・海・水族館に行くのが好きな乙女回路搭載子犬系?サーヴァントだ。

【サーヴァントとしての願い】

本当の君主《マスター》の下に還りたい。


156 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:25:50 3CrRuBU60

【出展】 Fate/EXTRA
【マスター】間桐シンジ
【人物背景】
没落した貴族が西欧財閥から優良遺伝子を買い取り、跡取りとして生み出したデザインベビー。

容姿、性格は『stay night』の慎二にそっくり。
だが、物心ついた頃から自主学習の繰り返しの日々を送ってきたためか知力は非常に優れており、予選時の様子から高等教育レベルの学力は既に保持していると思われる。
チェスが得意。
〝実年齢8歳〟とは思えない霊子ハッカー。
その腕前も天才的なものであり、エネミーを改造したり、システムをいじる等のことは平然と行える程の力量を持つ。 ゲーマーとしてはある一定の矜持を持っており、正当なゲームの結果は受け入れ、ルールを逸脱したチート行為は嫌っているきれいなワカメ。ツッコミ担当。

【能力・技能】 
・コードキャスト
相手サーヴァントの幸運値を低下させるloss_lck(64)
幸運値や敏捷をダウンさせてアサシンをサポートする。
他にもシンジタンク、ワカメウォールなど名前負けしているが信じられない性能のエネミーたちを使いこなす。

【マスターとしての願い】
ゲームのような遊び半分の感覚で聖杯戦争に参加する。


【方針】
京都を盤面、サーヴァントを駒に見立てて多数の陣営を相手取り、ウォーゲームのような聖杯戦争を仕掛ける。
アサシンの情報処理と戦闘能力で聖杯戦争全体を支配しする……。




終わり

以前投稿した星座聖杯候補話を更にフューチャーさせました。
SE.RA.PH関係は設定に関わるのでもしかして駄目だったら、ダメな方の慎二で宜しくお願いします。


157 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:48:13 dH38z9I60
割り込みすみませんでした。
改めて投下します。


158 : 仄暗い闇の底から ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:49:08 dH38z9I60

夜の帳が降りきった京都の町を一組の男女が連れだって歩く。
その片割れである男は上機嫌だ。
ナンパに出たはいいものの、この時間まで釣果はゼロ。
日が悪かったかと舌打ち混じりに帰ろうとした時に、いま彼の横を歩いている女を見つけたのだ。
周りに友人らしき人物や男の影もなく、ぼうっと空を眺めていた女に狙いを定め、男はいつもの調子で声をかけた。
そこから先は、男が驚くほどのトントン拍子。結果としてこうやって二人で夜の京都を歩いている次第である。

横目に女を見る。
あまり表情の変わらないミステリアスな女だ。
見るものが見れば不気味に思うかもしれないが、男はそこに強く惹き付けられた。
男に誘われるままについてきた女。雰囲気に反して好き者なのかもしれないと下卑た思考が男に浮かぶ。
だが、何にしろ上玉は上玉だ。下半身と脳が直結しているが如き思考回路の男は、これから先のお楽しみに思いを馳せるばかりである。

不意に、袖口を引っ張られた。
引っ張ったのは誰あろう、男が誘った女だ。

「どうかしたかい?」

紳士的な笑顔を貼り付け男は尋ねる。
女は無機質な顔のまま、スッとある方向を指差した。
その先にあるのは明かりもない真っ暗な路地裏へと続く道。

「私、あっちの方がいいわ」

マジかよ、と心の中で男が呟く。
これからホテルへ向かう予定だった。
だが、彼女が指差したのは人通りも殆どなく、人目にもつかない路地裏。
ヤバイ女を引っかけたのでは?と、男の危機意識が警鐘を鳴らす。
なだめすかしてどうにかホテルへと連れ込むか、それとも適当な理由をつけてここで別れるかで揺れ動く思考。
曖昧な笑顔を形作りながら、男は視線を路地裏から女へと戻す。
すがるような女の顔が男の視界に映った。

「ねえ、いいでしょう?」

瞬間、男の中にあった危機感が霧散する。
陶然、という表現が相応しいだろう。
囁くような言葉と憂いを帯びた瞳が男の理性を侵食した。
"ちょっと変わった趣味の子なんだろう"、"こんなことで逃がすのは勿体ない"、"たまには一風変わった趣向も悪くない"。
靄にかかった思考が紡ぎ出す言い訳めいた理屈でもって本能が捩じ伏せられる。

女が手を引けば、誘われるようにふらふらと男がついていく。その様はさながら誘蛾灯に惹き付けられる羽虫のようだ。
月明かり以外にロクに光源のない路地裏に二人分の足音が響く。
不意に女は掴んでいた男の袖口から手を離し、2、3歩ほど歩いたところで足を止める。つられて男も足を止めた。

ここでヤるつもりなのか。興奮から男がごくりと生唾を飲む。
ゆっくりと女が振り返る。
女は笑っていた。ナンパをしてからここに来るまで見ることのなかった表情だ。

「ありがとう、ついてきてくれて」

女の口から溢れた言葉。
何故、急にそんなことを言うのかと男の心の内に疑問が生じる。
だが、全ては手遅れだった。

女が後ろへ跳び退ると同時に女と男の間の空間に二人を遮る様に巨大な影が姿を現す。
「へ?」と間の抜けた声をあげた男の胸めがけ、影かの背後から伸びていた突起物が風切り音を響かせながら突き刺さる。
何が起こったのかついぞ理解できないまま、哀れな男の意識は完全にブラックアウトした。


159 : 仄暗い闇の底から ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:49:46 dH38z9I60



岸田 百合 -72:00:01


岸田 百合 -72:00:00


岸田 百合 -71:59:59





160 : 仄暗い闇の底から ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:51:21 dH38z9I60

ぴちゃぴちゃと液体が滴る音。
くちゃくちゃと肉を咀嚼する音。
ゴリ、ガリと堅いものを噛み砕く音。
赤く染まった路地裏で響くのは人一人を喰らい尽くす際の音。

そこにいたのは異形の怪物 。
上半身は甲冑と角冠を纏った人間のそれだ。だがその両足は鳥を連想させる鉤爪であり、臀部からは先端を朱に染めた蠍の尾が生えている。
サソリ人間、と形容するのが妥当だろうか。
そんな怪物は無言で物言わぬ肉の塊となった哀れな男を貪り食っていた。
その光景を女は無感情な瞳で眺めている。

女の名前は便宜上、岸田百合としておこう。
本来の彼女の名ではないが、彼女を呼ぶのに適当な名前というのはこれ以外に存在しないからだ。
彼女は何をするでもなく、異形が食事を終えるのをじっと佇んで待っていた。

「やはり全然足りぬな。我が生を受けし神代に比べ、人の質は随分と劣化したものだ」

食事を終え、紅く染まった口許を拭いながら、怪物が不満げな口調で呟いた。
魂食いをかねた補食行為。しかし、人一人を食い殺したというのに彼が満足する程の魔力は得られなかったらしい。

「まだ、足りないの? アーチャー」
「我が門は展開させ続けることこそが真価である宝具よ、瞬間的に使用するならともかく十全に扱うとなればこの程度ではとてもとても」

百合にアーチャーと呼ばれた男はそう答えると嘆息し、瞳孔の確認できない白一色の両目を百合へと向ける。
ギルタブリル。
バビロニア神話の冥界の門番にして、ティアマト神が産み出した11の怪物が1つ。それがこの異形の真名である。

「まだ暫くは貴様に贄を捧げてもらわなくてはならぬなマスターよ」
「いいわ、それでお母さんを解放することが出来るのなら」

剣呑なアーチャーの物言いに対し百合は平然と了承の意を口にする。
こうやって彼女が下心を見せて近寄ってきた男を誘い出し、アーチャーに魂食いをさせたのは何も今回が初めてではない。
聖杯戦争の舞台に呼び出された百合とサーヴァントとして召喚されたアーチャーが互いの望みの為に聖杯を得ると決めてから、既に何回も魂食いを敢行しているのだ。
百合に備わっている男を魅了する異能を駆使すれば、怪しまれることなく魂食いを行うことはそう困難ではなかった。
そしてアーチャーも百合も、己の目的の為に関係のない他者を犠牲にすることになんの忌避も躊躇もありはしない。
そのような人間的な感傷を、彼ら彼女らは初めから持ち合わせていないのである。
衣服に男の血液が付着してないかを念入りに確認してから夜の闇に消える百合を見て、アーチャーは僅かに目を細める。


161 : 梦見る獣は君を求めてる ◆WqjPzMBpm6 :2017/12/29(金) 15:51:49 3CrRuBU60
投下終了します。すいません


162 : 仄暗い闇の底から ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:52:09 dH38z9I60

岸田百合は反英雄の怪物である自身を呼び寄せるに相応しかった。
出会ってすぐに、かの英雄王の出自を一目で見抜いた審美眼が彼女が魔性のものであると看破した。
アーチャーが門番を務める冥界に近い、昏い世界で産まれた魔性。
その証左に心の弱い者であれば彼の姿を視界に捉えた時点で心停止を引き起こす程の濃密な死の気配を感じ取っても、彼女は眉1つ動かさない。
そして彼と同じく百合もまた世界の裏側に押しやられた大いなる母に作り出された怪物である。それが縁としてアーチャーを引き寄せたのだ。
自身の母を現世に蘇らせる。アーチャーと百合の願いは蘇らせる対象こそ違えど同一のものだ。
アーチャーの生前の記憶が脳裏に再生される。

神々との戦いでマルドゥークに敗れ、その身を裂かれた母。
母が死して後、憎き神々の軍門に下ってまで彼が生き長らえたのは、母を蘇らせる方法を探し、その復活の機会を伺うためだ。
冥府の門番としてマーシュ山に居を構え冥界へと足を運ぶものを監視する日々。
死者の安寧の為に奮闘を続けた冥界の女主人、尊大にして寛大なる太陽神、暴威を振るう美の女神、軽飄でありながら底の知れぬ牧羊神、そして神をも恐れぬ半人半神の王。
永劫とも思える程の長い期間と様々な出会いを経てもなお、彼の胸の裡に燃える宿願の炎は命が尽きるその時まで消える事はなかった。

(母上よ、今しばらくお待ちくだされ。このギルタブリル、必ず貴方様をこの神が消えた大地に蘇らせて見せます故)

アーチャーはその姿を霊体化させて姿を消す。
惨劇のあった路地裏に残っているのは血だまりと人であったものの残骸程度。翌朝にはこの惨劇の跡も誰かに発見され、この街の住人たちの知るところとなるだろう。
母を求めてさ迷う異形は今日も古都の暗闇に紛れ、その牙を研ぐ。
どこからか歌声の様な音が、あるいはサイレンの様な音が響いた気がした。


163 : 仄暗い闇の底から ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:52:42 dH38z9I60
【CLASS】アーチャー
【真名】ギルタブリル
【出典】シュメール神話
【性別】男
【身長・体重】216cm・98kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】
筋力B+ 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具A

【クラス別スキル】

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:D
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクDならば、マスターを失っても半日間は現界可能。

【固有スキル】

看破:B
視覚を介しての認識において、同ランク以下の変化や情報抹消といった偽装スキルの効果を無効化する。
物事の真実を見抜く力。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
ティアマトより直接神性を付与されているため、魔獣でありながら高い適正を持つ。

怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

死の具現:B
アーチャーを視認した対象を本能的な恐怖によって怯ませる。精神耐性などによって防御可能。
また、同ランク未満の冥府に由来するスキルおよび宝具に強い耐性を持つ。
冥界へと続く門の守り手であるアーチャーは濃密な死の気配を漂わせ、目視した者に死を激しく想起させる。

【宝具】

『我が背にありしは不帰の門(カ・クル・ヌ・ギ・ア・ラ)』

 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1000

一時的に冥界へと続く門を召喚し、周囲を冥界へと作り替える。
冥界への耐性、あるいはAランクの神性を所持していないサーヴァントの幸運を除くステータスが1ランク低下する。以降この空間に継続して存在している場合は時間経過と共にステータスの低下が発生し、この効果により耐久のステータスがEにまで低下した場合、対象は強制的に冥界へと送られる。
時間経過と共に冥界と化した空間は拡張されていくが、それに比例して魔力の消費量も増大していく。

ティアマトが敗北後、神の軍勢に下ったアーチャーが守り続けていた冥界の門を召喚し世界を作り替える大規模な魔術結界。実際の冥界を呼び出す程の力はなく、冥界へと繋がる微かな綻びを作り出す程度のものだが、神代の世界からの干渉はそれだけでも現世に絶大な影響を及ぼす。
魂すら凍てつかせる寒気と障気は居合わせた者の体力と気力を奪い続け、抵抗の意思を失ったものを強制的に冥界へと引きずり込んでしまう。
また、この門は現世と冥府を隔てる壁の役割も持っており、仮にこの宝具が発動した後に門が物理的に破壊されるような事があれば、現世と冥府の境界が混ざり合い周辺一帯に甚大な被害を及ぼす事になるだろう。

【Weapon】
・弓矢
サソリ毒を塗布した矢とそれを撃ち出すショートボウ型の弓
・サソリの尾

【マテリアル】
自身を排斥しようとする神々に対抗し、ティアマトが産み出した11の怪物の1つ。名前は"サソリ人間"を意味する。
ティアマトが神々に敗れた後は、母の仇である神々の軍門に下り冥界へと続く門のあるマーシュ山にて門番の役についた。不死の薬を求め冥界へと赴いたギルガメッシュとも面識があり「行けば生きて戻れぬ」と警告したうえで冥界への通行を許可した逸話を持つ。
本作では神々の軍門に下った後もティアマト復活を願望に虎視眈々と機会を狙っていたとしている。
人語を介するなど他の怪物に比べると理知的。
魔の血を引きながら人であり続けた女武者の在り方に美しさを見出すなど、尊敬に値する相手に敬意を持つことこそあれ、彼にとって何よりも優先すべきことは母であり、その為なら何をも切り捨てられる冷徹さも併せ持っている。

【外見的特徴】
上半身は精悍な成人男性。短く刈り込んだ黒い頭髪と茶褐色の肌を黒色の角冠とサソリの甲殻を思わせる甲冑で覆っている。目は白目のみ。
下半身は腰から下が鳥のもので両足は鋭い鉤爪。臀部からは自身の身長の半分ほどのサソリの尾が映えている。

【聖杯にかける願い】
母たるティアマトの復活


164 : 仄暗い闇の底から ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:53:23 dH38z9I60
【マスター】
岸田百合@SIREN2

【マスターとしての願い】
お母さんの復活

【Weapon】
なし

【能力・技能】
・幻視
任意の対象の視界に映る光景を盗み見ることができる。
・魅了
異性に対しての精神干渉。無差別かつ無条件に魅了するというよりは、対象と接触、会話する事によって作用するタイプと思われる。
魅了された相手は彼女の"お願い"に従いたくなる様に思考を誘導され、また、彼女に危害が加えられそうな状況に直面した場合は例えそれが不可解な状況であっても彼女に味方をしてしまう。
精神干渉に耐性を持っているものや、最初から彼女に何らかの警戒心を持って接された場合、この効果は無効化される。

【人物背景】
感情の起伏に乏しく憂いを帯びたミステリアスな雰囲気を纏わせた美女。
その正体は遥か昔に光の洪水という現象によって地の裏(冥府)へと追いやられた闇霊の集合体・母胎が現世へと復活を遂げるために作り出した"鳩"と呼ばれる端末である。
"鳩"は複数存在するが、その中でも彼女はもっとも母胎に近い存在であり母胎の命令(=母胎の復活)に忠実。殺人などの犯罪行為も厭わずにやってのける。
岸田百合というのは偽名であり、本来の岸田百合を拉致監禁してその名前と戸籍を奪って使用。
母胎の封印されている夜見島(よみじま)において、迷い混んだ男性達を誘惑し母胎復活の為に暗躍した。
弱点は強い光。当てられると怯んだり不快な表情を露にする

【方針】
アーチャーが十全に宝具を使用できる様に当面は人目につかないよう気をつけつつ魂食いで魔力の補充をする。
利用できそうな男性のマスターがいれば魅了のうえで同盟を組み、最終的には優勝を目指す。


165 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/12/29(金) 15:54:33 dH38z9I60
以上で投下を終了します


166 : ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:29:53 geNoWeeU0
投下します


167 : 死者行軍 ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:32:06 geNoWeeU0

某月某日、深夜に京都府警に入った一本の助けを求める通話。

走行中の車から、半狂乱になって掛けられた通報によると。『バケモノの群れに追われている。このままじゃ殺される。他の連中はもう殺された』というもの。
通常ならば、悪戯か、クスリかアルコールが脳の奥深くにまで行き渡ったアホウの戯言と処理するところだが、声に含まれたものがそれを許さなかった。
取り敢えず近場にいたパトカーを通報のあった現場に赴かせたところ、警官達が見たものは、姿形はおろか人数すらも判別出来ない程に破壊された複数の人体。
現場に残された車のナンバーから所有者を割り出した所、暴行、恐喝、監禁、傷害、強姦等の複数の犯罪への関与が疑われる人物で。捜査関係者を大いに驚かせた、
この殺人事件こそが、京都市を震撼させる連続殺人の始まりだと、当然ながらこの時は誰も予想できなかった。


────────────────────


168 : 死者行軍 ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:32:45 geNoWeeU0
「や、やめ─────」

命乞いをする男の口に、突き込まれた長槍は、脳幹を貫き男を即死させ、頭部を貫いた穂先が、男の後ろの壁に掛かっていた額縁に穴を開けた。
『無駄な人間などいない』と、墨痕淋漓と大暑された額縁が真っ赤に染まる。



京都市内にある貸しビルの一室は地獄と化していた、
表向きは小さな輸入品を扱う会社だったが、実質は振り込め詐欺と闇金及び密輸品の売買を行う、犯罪組織の一端だった。
そんな所に白昼堂々乗り込んで来たのは、黒髪黒瞳の黒いセーラー服に身を包んだ少女だった。
室内に居た男達が、少女を見た瞬間一斉に立ち上がったのは、アイドルとしてもやっていけそうな整った顔立ちに惹かれた為ではない。
少女が左手に提げた、黒鞘の日本刀に反応しての事だった。
やっている事がやっている事なだけあって、男達の反応は早かった。
入り口に近い連中が事務机をひっくり返して少女の行動を封じ、残りの連中は、ある者は椅子を投げつけ、ある者は隠してある銃器を取り出した。
こういう手合が殴り込んで来るのは、頻繁ではないが珍しくもない。大抵がアル中か薬物中毒(ジャンキー)で、ドナーにも肉屋にも廻せない屑ばかりだったが。
殴り込んで来た連中は、その度に制圧して、ある者は殺人(スナッフ)ビデオに出演させ、ある者は人狩り(マンハント)や射的の的にして来た。
どんな人間であっても彼らは金銭にかえてきた。文字通り『無駄な人間などいない』のだ。
今回も同じように処理して、先ず全員で輪姦してからボロ雑巾になるまで裏モノのビデオに出演させて、最後はバラして豚の餌にでもする。
狩られる側の獲物が脆弱な牙を剥いた所で、捕食種に敵うはずが無い。
そう思っていた男達は知る事になる。
今日は自分達が狩られる側であり、少女が冠絶した捕食者だったと。
椅子を投げた男が、投げつけられた椅子を打ち返され─────掴んで投げ返したのではなく、掌打をいれて、より強力な勢いで送り返したのだ─────顔面が砕けて死んだのを皮切りに、一方的な殺戮が始まった。
少女の周囲に不意に現れた無数の影が、剣で斬り、槍で突き、マスケット銃で撃ち、弓と弩で射抜き、影で出来た猟犬を嗾ける。
瞬く間に室内に生きた人間は少女一人となると、少女はクルリと踵を返し歩み去った。


169 : 死者行軍 ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:37:27 geNoWeeU0
───────────────



歌詞ビルの一室で殺戮を行なった二日後。寂れたセーラー服の少女、‘’クロメ”の姿があった
二日前に皆殺しにした連中の知識によれば、此処には窃盗グループの溜まり場があるらしい。
己がサーヴァントの特性。殺したものを“自分達”の内に加え、その知識と経験と技術とを己のものとする能力。
己の持つ帝具“八房”と同じ性質を持つサーヴァントだった。
この能力を用いて、クロメは自己の負担を減らす為の魂喰いに丁度良い手合いの情報を獲得していた。
サーヴァントは人の魂をを喰うことで魔力を補充・強化する事が出来る。あくまでも副次的なものに過ぎず、戦力の強弱を覆すものでは無い。
だが、クロメのサーヴァントは喰えば喰うほど、殺せば殺す程に強くなる。魔力は高まり、ステータスは向上する性質を持つ。
尤もその為にはサーヴァントを喰うか、数万単位の殺戮を行う必要が有るが。
クロメは別段、自己のサーヴァントを強くする為に殺戮に励んでいるわけでは無い。
単純な話が、己れにかかる負担を減らす為に、サーヴァントに人を喰わせているのだった。
思わず眉間に皺が寄る。記憶を取り戻し、サーヴァントを召喚して以来ずっと不機嫌だが、物思いに耽る度に、更に機嫌が悪くなるのを感じる。
昔の自分なら兎も角、今では帝国の敵では無い人間を、悪人だからといって無分別に殺すのは多少気が引ける。
余程の下劣畜生や外道鬼畜の類─────あの連中のような─────ならいざ知らず。本来ならば捕縛して法の裁きを受けさせるべきなのだろう。

「ふふ……」

笑みが溢れる。少し心が温かくなる。こんな事を考えるのもウェイブの影響なんだろうなとは思う。
こんな事をやっているのを知れば、きっと怒るだろうとも。

だが、それでも─────。

「お姉ちゃんが待っている……」

愛おしい姉との決着。他の誰にも、例えウェイブやエスデスにすらも邪魔はさせない、ただ二人きりでつけるべき決着。
それを前にしてこんな所でクロメは死ねない。死ぬ訳にはいかない。
なんとしてでも生還し、姉の─────アカメの前に立つ。
その為にも“勝つ”為の布石を怠る訳にはいかなかった。
強化薬物の使用で、壊れかかっている肉体に負荷を掛けない為にも、サーヴァントに人を喰わせる事は避けられなかった。
周囲に放った“サーヴァント達”から、周囲に人通りが無い事を確認。この地で取り込んだNPCの知識から獲得した周辺の地理を脳裏に浮かべ、
迅速かつ人目につかずに逃走できるルートを複数思い描いておく。

それにしても─────。ふと思った。

こうして街を徘徊しては殺戮に耽るなんて、まるでランを殺した奴等のようだと。
そう思うと、改めてこのサーヴァントを召喚した時のことを思い出す。


あの時、男達にハイエースに押し込まれそうになっていた自分の前に現れ、瞬く間に男達を殺してのけたサーヴァントは、荒野を吹きすさぶ狂風のような、嵐の夜に全ての音を圧して響く雷鳴のような。少年のような、老人のような声でこう名乗ったのだった。

“我はライダー。ワイルドハント”と。


クロメは、姉との決着に割って入り、こんな名前のサーヴァントを己が元によこし、自分にこんな事をさせている聖杯戦争に対して、改めて激しい怒りを覚えた。


170 : 死者行軍 ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:37:56 geNoWeeU0
【クラス】
ライダー

【真名】
ワイルドハント@ヨーロッパ伝承

【ステータス】
筋力:C 耐久: C 敏捷:C 魔力:B 幸運: C 宝具:EX

【身長.体重】
190cm ー(体重は無い)

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。


【保有スキル】
衆知の智慧:C(A)
ライダーを構成する群霊の知恵と知識と経験と技能。
英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルをDランク相当で発揮する。
また、個々が過去に蓄積した知識、情報、技能を発揮できる。
サーヴァントを取り込めばそのスキルも使用可能となる。
これらの内知識のみは、マスターにも念話の形で完全に伝授する事が可能。


自己改造:A++
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。


魔術:A+
ヘカテー及びオーディンを首魁とするという伝説を持つ為に獲得したスキル。
魔術神の技能と膨大な魔力が併さって、並なキャスタークラスよりも強力。


狂化:ー(A+)
宝具使用時に発動し、全ステータスを2ランク向上させるが、制御不可能になる。
が…、ライダーには、制御不可能どころか理性を失っている様子すら見られない。
これは狂化スキルがライダーの本質と合わさっている為で有る
尤もバーサーカーは怪物であり、人の倫理や常識は通用しない。
つまり、制御できる保証は無い。


171 : 死者行軍 ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:40:17 geNoWeeU0
【宝具】
嵐の夜に駆ける者たち(ワイルドハント)
ランク:A 種別:対人及び対軍宝具 レンジ:京都府全域 最大補足:京都府全域

複数の人間霊や精霊の集合体であるワイルドハントの本質。
自身の身体を構成する群霊を切り離して別個体として行動させることや、自身を構成する無数の群霊の一個体の姿を取る事が出来る。
大半の霊体は常人並の能力しか持たないが、長きに渡る信仰によって魔獣並の霊格を有している。
作り出す分体が多い程、一つの個体を構成出来る霊体の数は少なくなり、弱体化が著しくなる。
最大限内包する群霊を解放すれば、数十万の軍勢となるが、一部の例外を除き、一体一体は通常の人間と変わらなくなる。
また、ワイルドハントに殺された者は、マスター、サーヴァント、NPCを問わず、ワイルドハントに加えられる。
殺す程、魂を取り込む程にステータスが向上していくが、ステータスを一つ上げる為にはサーヴァントを喰らうか、数万単位の人間を喰らうか必要が有る。



吹けよ風 呼べよ嵐(ストームライダー)
ランク:C 種別:対人及び対軍宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

黒雲を呼び、狂風を吹かせる。
この宝具を使用している時、ライダーは風に乗り飛行することができる。
飛行以外にも、 風や雷で攻撃を行なうことも可能とする。
また、飛行時のライダーを見た者は精神判定を行い、失敗した場合数ターン恐慌状態に陥る。
此の効果はCランク相当以上の精神耐性系スキルで無効化可能。



嵐の王(ワイルドハンツマン)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:一人

ワイルドハントの首魁の亡霊の姿と精神を前面に押し出し、英霊に限りなく近い存在に我が身を再構築する。
ステータスは姿を取った英霊に1ランク落ちるものとなり、その英霊のスキルも-が付くものの使用可能になり、神獣に相当する霊格となる。
この宝具を使用すると、衆知の智慧スキル及び狂化スキルが()内のものとなりステータスが劇的に向上する為、結果として模した英霊を上回るステータスとなる。
また、英霊の象徴である宝具は再現できないが、代わりに並の対軍宝具に匹敵する暴風や稲妻を用いて戦う。
この宝具を用いる為には、その時点で存在する全てのワイルドハントを集結させなければならない。



【weapon】
マスケット銃と弩と弓矢と剣と槍、あと影で出来た猟犬。そして影で出来た乗馬
姿を取った英霊の持つ武具を形だけ再現したもの



【人物背景】
其れは個にして群。群にして個。ワイルドハントとは嵐の夜に空を征く、精霊、妖精、英雄、死者、落魄した神である。
日本で例えるなら百鬼夜行がこれに近い。
目撃すれば災厄や戦災を招くとされ、行進を阻んだり、追いかけたりすれば、冥府へと連れ去られ、ワイルドハントに加えられるという。
その本質は、亡霊や幻霊やシャドウサーヴァントの群れ。
模する英霊の姿は座にいる英霊のものではなく、人々の抱くイメージの具象である。

通常の状態では自我が希薄で、伝承通りの行動しか出来ないが、ワイルドハンツマンの形態を取れば、その姿に相応しい個我を持つ。


【外見】
17世紀辺りの狩猟服を着て、馬に跨った偉丈夫。人馬共に黒い影法師であり、顔立ちや服の細部は不明。
この姿は基本形であり、分裂した場合は、意図して同じ形にしない限り、異なる姿を持つ事になる。


【方針】
悉くを狩る

【聖杯にかける願い】
無い


172 : 死者行軍 ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:41:05 geNoWeeU0
【マスター】
クロメ@アカメが斬る!(原作漫画版)

【能力・技能】
非常に高い身体能力に、遠距離からの狙撃を回避する反応速度
頭か心臓を潰されない限り一撃では死なない耐久力
作中でも上位に入る戦闘能力だが、薬物強化の産物であり、定期的に薬を摂取する必要がある。
これらは元の素質をドーピングで引き上げた結果である為、重度の薬物中毒であり、定期的に薬物(お菓子)を食べ必要がある。
食べないと禁断症状を引き起こし、死ぬ。

【weapon】
死者行軍・八房:
千年前に始皇帝が作らせた48の兵器の一つ。
日本刀型の帝具。
斬り殺したものを八体まで“骸人形”として行使できる。
骸人形は自我は無いが生前の能力をそのまま行使し、クロメの命令に忠実に従う。五体を粉砕されない限り止まらない。
強い念を持ったまま死んだ骸人形は、生前の念に影響されて動く事がある。


強化薬物:
身体能力を底上げする。中毒性が強く定期的に摂取しないと禁断症状を起こす。


超強化薬物:
強化薬物を遥かに超える身体能力の強化を齎す。
効果が極めて短時間で、効果が切れると身体能力が低下する。



【人物背景】
反帝国組織“ナイトレイド”のメンバーアカメの妹。
アカメと共に帝国の暗殺者養成機関に売られ、暗殺者として育てられた。
強化薬物を使われた為に戦闘能力は高いが、薬物中毒となっており余命は僅か。薬の副作用でと洗脳により、思考と倫理が常人のそれから逸脱している。
帝国を裏切った姉には憎悪と歪んだ愛情を向けている。
特殊部隊イェーガーズに招集されて、そこで出遭った少年ウェイブとの出逢いで、帝国に忠実な殺人機械だった人格に変化を来していく。
ずっと一緒にいたいと願った人間が自分の元から離れようとするのを(例え死別であっても)“八房”の骸人形にする事で阻止しようとするのは変わっていないが。

姉との決着後はウェイブと共に帝国を離れ、ウェイブと共に余生を過ごした。


【方針】
善良なNPCを護りつつ他陣営皆殺し。治安を無出す輩を相手に魂喰いを行わせて自身にかかる負担を減らす。
薬物中毒の為に持久力が無く、薬が無くなると禁断症状で詰むので、早期決着を狙う。

【聖杯にかける願い】
帰還。アカメとの決着は自分で着ける。

【参戦時期】


173 : 死者行軍 ◆A2923OYYmQ :2017/12/29(金) 20:41:34 geNoWeeU0
投下を終了します


174 : ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:00:31 H6ciEH0U0
投下します。


175 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:02:46 H6ciEH0U0

ある日の穏やかな朝。猥雑な大都会に日が昇り、木造住宅が並ぶ下町も照らし出す。今日は、特別な日だ。

「おいっちに、さんし」「さんし」

『本日は・・・通常の放送番組を変更し、臨時政府・・・より、国民の皆様へ緊急声明の発表がございます』

「ミチコォ、早くしないと学校遅れちゃうわよォ」「靴下がかたっぽないのよ」「だから前の晩に」「あーんもう」
「こらァ御飯のときはテレビを消しなさい!」「あっ戦車だ」

『・・・・により外出は禁止されています。尚、国立及び市立、区立の医療機関、又、一部公共機関は・・・・』

「クーデタってなァに、お父さん」「かっ会社に電話だ!」「・・・・じゃあ学校休みじゃんかァ、ねェお父さん」「やったァ」

不穏なニュース。市街地に戦車や兵士。だが、日々の生活に追われる庶民は無関心だ。

「ねェ マユミ、TV見たァ! 学校休みみたいだからさァ、映画行こうよ」「だって外出れないよォ」「どうして?」
「たったっ大変だァ」「戒厳令っていうのよォ」「国家危急存亡のこの日こそ 滅私奉公 いざ つかまつらん」
「お母さんお早よう」「いつ迄寝てるんだい この子は 早く顔洗いなさいよ もう」

そんな日常を、非日常を、光が呑み込んでいく。誰も彼も平等に。無数の高層ビルが崩れ、砕ける・・・・!



「なっ 何だ?! ひっ 光が・・・・集まってる?! まさかそんな!!」

光の中心部。少年が叫び、兵士たちが吹き飛ばされる。ビルの上に転移する。まだ近い。もっと遠くへ・・・・!

「うっ ぅわあっ」

ついに、光が少年を呑み込む。彼の存在と意識は、複数の時空間に、同時に・・・・


176 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:04:31 H6ciEH0U0



ドルンドルンドルンドルン・・・ボンボンボンボン・・・

エンジン音、ライト、排気ガスの臭い。タバコの煙、缶コーヒーの湯気。吐く息も白い。
冬の深夜。大型ショッピングモールの駐車場に、十数人のバイク野郎どもが屯している。

「かーっ、寒ィー。京都の冬は寒ィよなァー。終わったら呑みにいこーぜ」
「ここんとこ天気良かったから、雪はだいぶ溶けたけどなァ・・・余計寒く感じるわァ」
「京都ねェ。こないだ初めて来たけど、大したとこじゃねェなァ」
「そりゃーボンは、トーキョーから来たんやもんなァ。文明度がちゃうもんな」
「おー、トーキョー。もうすぐオリンピックが開催される、トーキョーから来たんだぜェ、オレは。近未来よ」
「じぶんもシティーボーイやからァ、走るンなら大阪のがいいンよねェ・・・環状線、行ったことある?」
「ボーイ? オッサンやん、もう。オレの親父ぐらいや」
「あいつ、まだトイレかァ? ・・・あ、戻って来たわ」
「ホットココア買って来たァ・・・熱々の」

ダベる一同に、数人の男たちが紙袋から何かを取り出し、配っている。
「おら、ブツや。カッとやれェ!」
「うす! ゴチになりゃーすッ」「ウホッウホッ」「キャッキャ、ウフフーッ」「待ってましたァー!」

彼らが配ったのは・・・ドラッグのカプセルだ。気の利いた薬剤師なら、市販の風邪薬などから作れる。脱法ドラッグだ。
飲んで眠くなるようなものではない。むしろ覚醒させ、集中力と感覚を鋭敏にする。依存性は・・・ある。常用すれば、健康に良くはない。
しかし、そんなことを心配するような頭脳のある連中ではない。舌の上に乗せ、コーヒーやココアで飲み下す。或いは噛み砕く。効くまで数十秒待つ。

「・・・んーッ、キタキタキタぁーッ」「かはーっ、バクハツしそーだぜェーッ」「今夜はとことんいっちゃうもんねーっ、おりゃーっ」

行き渡り、効き出したのを見計らって、一人が叫ぶ。
「しィ! いくぞォァ! コースはわかってンな! 今夜もケツのおごりだかンなァ!」
「「「おおっ!」」」
掛け声と共に、一同はヘルメットを被り、エンジンをふかし、一斉に走り出す。


177 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:06:30 H6ciEH0U0



まずは西へ。淀大橋の前で京滋バイパスに入って、東へ。久御山ジャンクションから第二京阪道路へ入り、北上して、阪神高速8号京都線へ。
彼らは、走り屋だ。京都は意外に暴走族が多い。速度、暴力、薬物、オンナ。彼らを引きつけるのは、危険、刺激、快楽だ。
そして今、そうした暴走集団が一つ。十代の若者に、旧車會の中年連中も加わり十数人。

巨椋池。宇治川。伏見。城南宮。鴨川。上鳥羽。ここから大きく右にカーブし、全長2.5kmの稲荷山トンネルへ。
山科へ抜け、北東に向かって粟田口を抜け、北上。山道を通って京都を一周。これが一応のコースだが、目的地に辿り着けばとりあえずいい。

ファオンファオンファオンファオンファオン・・・後方からサイレン。早速お出ましだ。
『前方の暴走集団、止まりなさい・・・!』

「警察や!」

誰かが叫ぶ。仲間が叫び返す。ヘルメットとゴーグルをつけ、真っ赤なライダースジャケットを纏い、赤いモーターバイクに乗った少年。
「へっ。やっとモーターのコイルがあったまってきたところだぜ!」
「エンジンならともかく、コイルは冷えとったがええンとちゃうかァ」
「っせーな、比喩だよ比喩ゥ。他のゾクどもがいねェならよォ、国家権力様と鬼ごっこと行くぜェ!」

猛スピードで、少年のバイクが抜け出す。ホイールから電光を発し、飛ぶように駆ける。
前の車を次々追い抜き、尾灯が光の軌跡を描く。誰にも捕まえられはしない。他のバイクも後を追う。

「イヤッホーゥ!」「ヒャッハァ!」「お勤めご苦労さァーん」「おらァ、行け行け! どんどん行けェー!」

少年の名は、『金田正太郎』。こことは違う世界、違う歴史を歩んだ、西暦2019年の『ネオ東京』からきた男である。
年齢は16歳。大型自動二輪免許取得可能年齢は、現代日本では18歳。勿論、無免許だ。
バイクは盗品を改造したものだが、ネオ東京から一緒に来たものであり、その件では罪に問えない。
まあ、薬物も使用中だ。少年法があるとはいえ、逮捕されれば少年院送りは免れまい。国家が崩壊でもしない限りは。


178 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:08:26 H6ciEH0U0

「ン?」
稲荷山トンネルに入ったあたりで、少年は眉を顰める。真正面から強烈なライト。逆走トラックが二台向かってくる!!
「おわぁ!?」
咄嗟に避けようとするが、トンネルの中だ。車線を塞がれ、逃げ場がない!

【マスター。お護り致そうか】
「おっ、やっちまうか。頼むぜェ!」
謎の声に答え、少年は笑ってトラックへ突撃! 薬物で興奮した後続バイクたちも、そのまま突っ込む!

少年のバイクの前の空中に、女が片膝立ちで出現した。顔立ちは白人のようだ。頭に毛皮の帽子を被り、厚手の外套と長手袋を纏う。腰には剣。
下半身はズボンを穿き、足元は膝下までブーツに覆われている。その女が両手をすっと前に伸ばす。翳した両掌にあるのは、回転する鉄の車輪。

激突寸前で、二台の逆走トラックがひしゃげる。ねじれ、壊れ、砕け、粉々になって、バイクの後方へすっ飛んでいく。誰も傷つけることなく。遥か後方で爆発。
「ひょォ、すげェ! 愛してるぜ『ライダー』ちゃァん」
【運転手はいない。これは、敵の攻撃だ】
ライダーと呼ばれた女が呟き、前方を睨む。次々と爆走するトラックが突っ込んでくる。女のブーツの底にも、鉄の車輪が出現する。

【マスター。この先に、敵サーヴァントがいる。轢殺するぞ】
「おう、派手にドカーンとやっちまえェ!」
鉄の車輪が激しく回転! 軋むカウル! 唸るダイナモ! 悲鳴を上げる後続車!!



数日前。寮でバイクを整備中だった金田は、急に頭痛を覚え・・・稲妻が閃くように、すべてを思い出した。

嵐。瓦礫。炎、かけら、街、竜巻。力。光。ヤツら。祭り。空、仲間、走る。

――――鉄雄。甲斐。山形。ケイ。レジスタンスたち。シワシワのガキども。タコ。アーミー。オリンピック会場。アキラ。

「鉄雄ォ・・・! あんにゃろォ、山形のアタマ、割りやがって・・・!」
目の前がチカチカし、頭が割れるように痛い。脂汗が滲む。あれが現実。こっちも、現実。記憶が混ざり、もつれ合う。
非行が過ぎて、東京から京都へ転校? ンなわけねェ。あの時、ネオ東京は吹っ飛んじまったはず。オレはそれに巻き込まれ・・・。
「・・・せーはい戦争ォ? なンでも願いが叶うだァ? へっ、だったらオレをケイちゃんとこへ、ネオ東京へ帰してくれよ」

目を剥き、笑いながら歯を食いしばる。あの時、崩壊したビルが目の前に・・・光に包まれ・・・そして。
手袋をした掌の中に、模型バイクのホイールみたいなものが現れる。あの光の中で掴んだ、なにか。


179 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:10:32 H6ciEH0U0



「えーと、お嬢様。なんつったっけぇ・・・カニ?」
【「カニシュカ」だ。知らぬか。古代インド、クシャーナ帝国の大王・諸王の王・天子・皇帝である、この余を】
「しーらね。オレ歴史の授業は睡眠時間と重なっててさァ。バイクやクルマいじんのは得意だけど・・・」
【では、ただ『ライダー』と呼ぶがいい】

その輪っかから出て来た、モコモコに冬服を着込んだ長身の白人女、の幽霊。
カニだか鹿だか名乗ったが、要はこいつが英霊、サーヴァントって奴だ。こいつを使って勝ち残りゃいいわけだ。
なんでもゆうこと聞く女の子あてがってくれるたァ、嬉しいじゃないの。ちょっとキツそうだけど・・・。

【・・・まあよい。聖杯がほしいのなら、余も同じだ】
「へえ、望みがあんのか、カニカニ女王様」
【頭が悪いようだから、分かり易く言おう。余は帝王。ゆえに、聖杯がほしい。それで充分。聖杯への願いはない】
「うわお、すっごいシンプル。おもしれえじゃねェか。乗ったぜオレもォ」

カニちゃんが腕組みしてふんぞり返る。お山はそこそこ。胸を見つめていると、キッと睨んでくれた。でひひ。

【それとな。余は男だ。そのはずであった。英霊の座でもそのはずだ。なんで余が女になっておる】
「知らねぇよォ。あれだよ、せーどいつせーなんとかじゃねーの? オレは女の方がよっぽどいいけど」
【・・・まあ、よい。輪廻転生するうちに、千の頭の魚ともなった余だ。女になることもあろう。女では転輪聖王にはなれぬはずだが】
「男の子になりたいのォ? 聖杯ってのにそれをお願いすればァ、カニ子ちゃァん」
【主催者が何を考えておるかは知らぬが、どうせろくな連中ではあるまい。お前を元の世界に送ったら、聖杯は仏に寄進するとしよう】



煙に包まれた稲荷山トンネルから、金田のバイクが飛び出す! 後続車も! 各々の周囲には鉄輪が浮遊し、守護している。
【派手な出迎えだったが、大した奴ではなかったな。鉄輪宝で脳天を砕いてやったわ】
「物騒だよねェ。ま、これでオレたちの件もウヤムヤさ。逆走トラック群がトンネル内で大爆発なんてな・・・」
【どうだかな。あまり派手な真似をすれば、警察ばかりか他の主従にも目をつけられるぞ。予選はもう始まっている】
窘めるライダーに、金田はニッと笑って答える。楽しい夜はこれからだ。
「地味に生きるのは、得意じゃァないんでね。ナメられてたまるかよ、オレァ健康優良不良少年だぜ」

ライダーも不敵に笑う。小なりとも覇者たるものは、そのような気概がなければならぬ。
【よかろう。攻めて来る者は片っ端から、我が鉄輪の錆にしてくれる】


180 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:12:20 H6ciEH0U0

【クラス】
ライダー

【真名】
カニシュカ一世@クシャーナ朝

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具A

【属性】
混沌・善

【クラス別スキル】
対魔力:B
宝具と仏の加護により強化されている。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。自前の宝具を用いて飛行する。象宝や馬宝などはオミットされてしまった。

【保有スキル】
皇帝特権:A(B)
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。宝具によりランクアップしている。
該当するスキルは騎乗(習得済み)、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。ランクA以上ならば、肉体面での負荷(神性など)すら獲得できる。
クシャーナ朝は、最盛期には中央アジア・アフガニスタン・北インドに至る広大な領域を支配した。
その君主はシャーヒ、ムローダ、マハーラージャ(大王)、ラージャティラージャ(諸王の王)、デーヴァプトラ(神の子、天子)、カイサラ(カエサル)、
サルヴァローケーシュヴァラ(一切世界の主)、マヘーシュヴァラ(偉大な主、大自在天)などと号した。

仏の加護:B
呪いに対しての守り。同ランクの「対魔力」にも相当。危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる。

黄金律:A(B)
身体の黄金比ではなく、人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
鉄輪王として莫大な富を保有し、一生金に困ることはない。クシャーナ朝はローマを含む世界各地との交易により莫大な富を得ていた。

ダヌルヴェーダ:B
古代インドの正統総合武術・兵法。クシャトリヤかつ遊牧民の王として、様々な武器や軍勢を自在に操る。


181 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:14:38 H6ciEH0U0

【宝具】
『九億轢殺鉄輪宝(ローハ・チャクラ・ラトナ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:900

閻浮提洲のみを統治する最下級の転輪聖王「鉄輪王」であることを示す輪宝(『大毘婆沙論』『倶舎論』等による)。
常にライダーに付き従い、行く手を遮る敵を悉く破砕する。武器を振り上げただけで相手を畏怖させ、悪人を威光によって降伏させる。
大きさは自在に変わり、多数に分裂して防御結界を張ったり、これに乗って空中を高速で自在に移動したりできる。
投擲すれば敵陣を薙ぎ払い、なんかビームも出る。インド古来の太陽円輪チャクラムや、古代イランの王権の象徴クワルナフにあたるものであろう。

『南無三宝大焔肩(マハールチ・スカンダ)』
ランク:C 種別:対軍・結界宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:100

『大唐西域記』迦畢試国条や『今昔物語集』巻三に記されたライダーの逸話によるもの。風雲や暗黒を両肩からの焔で吹き払う。
大雪山(ヒマラヤ)山頂の龍池に棲む悪龍を退治せんとした時、龍は暴風を起こして樹木を抜き、沙石を雨の如く降らせて妨げた。
ライダーが三宝に帰命して加護を願うと、両肩から大煙焔が噴き上がって風雲を鎮め、ついに龍を退散させたという。
当時の貨幣や仏像に見られる肩の焔は、シュメル時代の太陽神の像にも見られ、イランを介して伝わったものとも思われる。

【Weapon】
宝具である鉄輪宝。腰には宝剣を帯びており、槍や弓矢なども必要に応じて出現させられる。

【人物背景】
迦膩色迦王。クシャーナ朝の第四代君主。後に二世、三世も現れるが、一般にカニシュカと言えば一世を指す。『ラバータク碑文』によればヴィマ・カドフィセス王の子。
コインに刻まれた年数などから推定される在位年代は西暦127年頃から150年頃。中央アジアから北インドに跨る父祖以来の帝国を受け継ぎ、さらに拡大した。
夏都をカーピシー(ベグラム)、冬都をプルシャプラ(ペシャーワル)、副都を中インドのマトゥラーに置き、東はネパールやベンガルまで威令を轟かせた。
またギリシア系・イラン系・インド系の神々、仏教(主に説一切有部)やジャイナ教など多様な宗教を幅広く庇護し、多数の仏塔や寺院、神殿を建立した。
この時代に仏像が初めて出現しており(ガンダーラ美術、マトゥラー美術)、仏教詩人アシュヴァゴーシャ(馬鳴)を招聘し、仏典結集を行ったともされる。

『雑宝蔵経』等によると、カニシカ王には菩薩アシュヴァゴーシャ、名医チャラカ、大臣マータラの三友があり、各々霊的救済、健康長寿、天下平定を進言した。
王は大臣の意見を採用して遠征を行い、西の安息(アルサケス朝)など三方を平定して三億人(九億人とも)を殺害、最後に東北方の葱嶺(パミール高原)を越えようとした。
だが馬が死んだので引き返し、罪業の報いを思って多数の仏塔や寺院を建立し、功徳を積んだ。群臣が「今更ではないか」と呟くと、王は熱湯に指輪を入れて「取ってみよ」と命じた。
群臣が「熱湯を冷まさねば無理です」と答えると、王は「余は功徳を積んで罪業の火を消し、熱湯を冷ましたのだ」と答えたという。
しかし別の伝説では、王は多年の遠征を倦んだ群臣によって窒息死させられ、その罪により千頭の怪魚に転生して、長く苦しみを受けたともいう。
ホータンの伝説ではホータン人の祖とされ、アショーカ王やアレクサンドロスなどと混合した。毘沙門天やケサル王のモデルのひとつとする説もある。

どうしたわけか女体化している。精神は男のまま。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯の獲得そのもの。獲得したら仏に寄進する。他人が何を願おうが知ったことではない。

【方針】
なるべく殺生はしない(無力化はする)。英霊は積極的に排除するが、聖杯を求めず善良ならば支援する。


182 : Hail to the Shade of Buddha-Speed ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:16:56 H6ciEH0U0

【マスター】
金田正太郎@AKIRA(原作版)

【weapon】
『モーターバイク』
かの有名な『金田のバイク』。盗品を自分専用に改造したピーキー過ぎるバイク。電気とガソリンのハイブリッド。
セラミックツーローターの両輪駆動で、バックも可能。常温超伝導発電機を搭載し、12000回転の200馬力。最高速度243km/h。
ネオ東京では「電動二輪免許」があれば乗れるが、現代日本では大型二輪扱いだと思うので無免許運転。
普段は秘密基地に隠してあり、16歳でも乗れる普通二輪や原付に乗っている。ライダーのスキルのお陰で資金は潤沢。

【能力・技能】
ただの人間のはずだが、運動神経が高く、軍隊でも捕まえられないほど逃げ足が速くてすばしっこい。なぜか銃弾や瓦礫にもめったに当たらない。
バイクいじりにも長け、鹵獲した乗り物をたちまち乗りこなし、銃火器も器用に使いこなす。仲間の死には激昂するが、敵や無関係な奴が死んでも気にしない。
ドラッグと走りと女が好きなどうしようもない無軌道野郎だが、度胸と行動力と人望、天運はある。

【人物背景】
大友克洋『AKIRA』の主人公。2003年9月5日生まれの乙女座で16歳(2019年当時)。黒髪短髪の日本人顔。
ネオ東京第8区青少年高等職業訓練専門学校・工業科所属。名前の由来は『鉄人28号』の主人公・金田正太郎。自称「健康優良不良少年」。
クリーニング店経営の両親と障害を持つ弟がいたが、父親は弟の看病疲れで倒れてアルコール依存症を患い、母親は蒸発。父親に扶養能力が無くなった事で、養護施設入りに。
その後は寄宿制の中学校に入学するも、翌年に非行に走り、さらに警察沙汰を起こして退学。職業訓練校に編入し、バイクチームを結成する。

自分専用に改造したバイク(盗品)を駆り、日々を無目的な暴走行為に費やしている。暴走族チームのリーダー格で、仲間や走り屋連中からの人望も厚い。
劇場アニメ版でも大概だが、原作漫画版では輪をかけたワル。学校の保健婦を妊娠させても大して意に介さず、彼女に調合させた薬物を日常的に摂取している。
幼馴染の鉄雄、山形、甲斐らと仲が良かったが、ある事件がきっかけで鉄雄が超能力に目覚め、薬物と暴力に溺れた末に山形を殺害。金田は鉄雄への復讐に走る。
成り行きで反政府ゲリラに加わっていたが、鉄雄との戦いのさなか、覚醒した「アキラ」の力に飲み込まれ、一時現世から姿を消す。

【ロール】
京都市内の職業訓練校に通う暴走族。

【マスターとしての願い】
ネオ東京に帰る。

【方針】
帰還に聖杯が必要なら獲得する。

【把握手段・参戦時期】
原作3巻末でアキラの力に飲み込まれた時。


183 : ◆Lnde/AVAFI :2017/12/30(土) 18:18:40 H6ciEH0U0
投下終了です。


184 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/30(土) 19:43:15 1hHJAb.Q0
皆様投下お疲れ様です。感想を投下させていただきます。


>『勇者』と『悪鬼』の聖杯戦争
 茨木童子の別解釈サーヴァントは既に投下されていましたが、今度は酒呑とは。
 しかも外道丸伝説の方を前面に出してくるとは、企画主としても予想外でしたね。
 こちらの酒呑童子も言動、やり口全てが鬼らしい。当然、勇者である風先輩には看過出来るものではないでしょう。
 特に「何って…運動して腹減ったから飯喰ってる」この台詞が、相互理解の不可能な存在だと一発で理解させてくれます。
 願いを叶えたいという想いと、犠牲を生み出してしまう現実の間での葛藤。そこの部分がよく描写された、素晴らしいSSでした。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>full broom,harvester
 まず、カール・マリア・ヴィリゲートという人物をこの候補作を読んで初めて知りました。
 非常に癖のある、それこそ創作の登場人物のような経歴は非常に興味深いものだなあと感じました。
 そのヴィリグートがあのヴェルバーに接触した人物だった、という解釈は非常に驚かされました。凄まじい発想だと思います。
 そしてそんな超のつく厄ネタに毅然と対応できる銀は、やはり〝勇者〟ですね。流石の一言です。
 文字通り悪魔じみた相方と戦いつつ、聖杯戦争とも戦う。そんな彼女の行き着く先がいかなるものなのか、とても楽しみです。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>桃の木の下
 まさしく、「英雄の話」と呼ぶに相応しいSSだったように思います。
 桃太郎の由来とされる人物をこうも見事に描き切り、表現した筆力とキャラクター造形には思わず舌を巻きました。
 より良き世界を目指す紫杏との会話もさることながら、何より過去に繰り広げられた魔王温羅との対決が良い。
 聖杯企画の候補作というより、神話の一節を読まされているような感覚にすら陥りました。
 日本由来の英霊としては間違いなく最高峰。その武勇がどこまで轟くのか、期待です。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>異端審問
 軍人としてのジャンヌの次は、異端の魔女としてのジャンヌ・ダルクが来ましたね。
 ジャンヌ・ダルクといえば救国の聖女というイメージなため、不良めいた口調の男、というのは意外でした。
 しかしながら人を誑かす極悪存在ではなく、れっきとした善性らしいものを持っているのもまた面白い。
 やはり元はジャンヌであった存在なのだな、と少し面白かったです。
 良いバディになれそうなこの二人。しかし魔力面など問題は比較的多いので、マスターのレイチェルをジャンヌがどうカバーするかが肝要になりそうですね。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


185 : ◆FROrt..nPQ :2017/12/30(土) 19:43:26 1hHJAb.Q0

>梦見る獣は君を求めてる
 ティンダロスの猟犬! うーーーーーーーーーん、厄い!!!
 あどけない物腰や見た目とは全く結びつかない不穏さが雰囲気の端々に滲んでいる辺り、どう転んでも碌なことにならなそうな。
 流石にかの猟犬というだけはあり、その追跡性能は非常に恐ろしいものがありそうですが、しかしどうなることやら。
 八歳児ことシンジも成長していない状態での参戦のようですし、不安要素のかなり多い主従ですね。見ていてハラハラします。
 ……しかし、これを権力闘争の道具として利用する魔術師達も命知らずというかなんというか……w
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>仄暗い闇の底から
 聖杯戦争の舞台に選ばれた町はあっという間に命が幾つあっても足りない魔境に早変わりですね。
 ごく淡々と行われ、これからも繰り返されるであろう一連の魂食いの流れに、この主従の異様さと恐ろしさを感じました。
 しかしギルタブリル、どこかで聞いた名前と思ったら、第七特異点で巴御前と相討ちになった魔獣たちの将軍だったのですね。
 誇り高き魔将がサーヴァントとして召喚され、掘り下げられていくのは個人的にもかなり楽しみです。
 対象は違えど共に〝母〟の復活を望む者。聖杯の巡り合わせは、京都市民にとっては堪ったものではない主従を完成させましたね……w
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>死者行軍
 此処でも犯罪組織が壊滅している……。殺しやすいからね、仕方ないね。
 クロメの病みっぷりと、それだけではない彼女の人間性や人生が巧く描写されたSSだったと思います。
 しかしながら聖杯の巡り合わせは皮肉の一言。よりにもよってイェーガーズの彼女にワイルドハントとは。
 そして作中でも描写されていますが、悪鬼達の集団と同じ名前を冠するサーヴァントを使役した彼女のやっていることが、そのワイルドハントに似ているのが一番の皮肉ですね。
 彼女のサーヴァントは最大で神獣級にもなれる強力なものなので、巧く使いこなせれば、それこそ聖杯だって狙えそうなものですが――。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>Hail to the Shade of Buddha-Speed
 不良たちの薬物使用や会話などの各描写が非常に生々しくもリアリティで、凄く独特な雰囲気のあるSSだと感じました。
 マスターの金田は相当ぶっ飛んだ人物ですが、それと大真面目に相対するライダーがまた面白い。
 しかし金田の方も頭はともかく、行動や度胸は間違いなく超人のそれ。
 サーヴァントの戦いや突然の襲撃にも怯えずに対応してのける辺りは、まさに〝逸般人〟という形容が相応しいでしょう。
 精神が男のまま女体化させられるという奇怪な状況に置かれたライダーのキャラも非常に好きなので、この主従の行く末はかなり気になります。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


年内には自分も候補作を投下出来ればいいなあ……(願望)


186 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:00:19 xSUF7mTs0
あけましておめでとうございます。投下します


187 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:00:56 xSUF7mTs0


 ――〝黒い鳥〟という伝説が存在する。

 それは、あるVRMMORPGの最終目標。
 竜より強く獣より速い、ゲーム中最強のボスモンスター。
 その出現難易度もまた極限域。
 目撃例からしてゼロに等しく、生息地とされているフィールドもゲーム内最強の〝一家〟に支配されている為そもそも近付くことすらままならない。
 
 とはいえ、これだけならまだ現実的に有り得る範疇。
 あらゆる意味でとてつもない討伐難易度というだけで、伝説の名を与えるには弱すぎる。
 〝黒い鳥〟を伝説にしたのは、ゲームの運営会社が掲げた前代未聞のキャンペーンだった。
 
 ――〝黒い鳥〟を捕獲・或いは討伐したプレイヤーには、三億円の賞金を与える。

 金の力は人を狂わせる。
 莫大過ぎる報酬金を狙って、ジャンルの垣根を越えて挑戦者が電脳世界へと集まった。
 全ては〝黒い鳥〟を倒し、三億もの現金で己の欲を満たす為。
 
 人々は熱狂し、冒険家のように追い求めた。
 不吉の象徴たる黒の羽を。
 世界を喰む、ただ一羽の悪魔を。


188 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:01:20 xSUF7mTs0
   ▼  ▼  ▼

「私は、何を間違ったというのだ」

 嘆く男は冴えない中年だった。
 いや、もう既に初老の域に足を踏み入れている。
 魅力も熱意も枯れ果てた、見るからに人生という長旅に草臥れた男。
 顔も元は精悍だったのだろうが、今となっては見る影もない。
 
「……いや、問うまでもないか」

 男は、人生の敗北者であった。
 自業自得で階段を転げ落ち、底の底まで落ちぶれた。
 一つの家庭を持ちながら、それすら守れず。
 取り戻そうとした結果、取り返しの付かない失敗を冒した大馬鹿者。

 中には未だに自分を天才と呼ぶ者もいるが、今となってはその絶賛を素直に受け取れる若さも失ってしまった。
 こんな男が天才だから、一体どうしたというのだ。
 仕事が出来る、知識がある、経験値もある。
 この歳になれば、そんなものは虚飾でしかないと嫌でも分かってくる。

「何もかも、だ」

 取り返せるのなら、とは思わない。
 今はただ、己の罪を清算するので精一杯だ。
 いや、清算にすら届いていない。

 ただ、自分で自分の尻を拭いているだけ。
 自分の失敗の後始末をしているだけだ。
 子供にも出来る、単純な仕事を異常なスケールでやっているだけに過ぎない。
 こんな男に何の価値があるのだと、男……有間小次郎は大真面目にそう思っている。

「だから、か? お前のような、不出来なサーヴァントを引いてしまうのは。
 私のような愚か者には奇跡を願う権利すら与えないという、聖杯の思し召しか?」

 そして、〝思っている〟ことを言動で貫けないのがこの男の最大の欠点だった。
 よく言えば、人間臭い。悪く言えば、潔癖すぎる。
 他人の失敗や技術的欠点が許せない。

 自分のプライドが損なわれることも、もちろん許せない。
 過去にそれで失敗をしているにも関わらず、一向に直る気配の見えない悪癖。
 彼と、彼の家族達全員を狂わせた、人間的欠陥。
 破綻者なんて言葉では過剰すぎて、誰にでもある一面と弁護するには醜悪すぎる。

 故に――とことんまで救えない、救いようのない男。
 それが、有間小次郎という父親である。
 彼の妻は精神を病み、長男は引き篭もった。
 娘に至っては、死んだ。無残に殺された。


189 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:01:39 xSUF7mTs0

「返す言葉もない。
 もしも僕が他のファラオだったなら、貴方の戦争はもっと容易なものだったろう」

 癇癪じみた小太郎の物言いに、彼のサーヴァントは怒気すら示さない。
 静かに瞑目し、甘んじて受け止めている。
 豪奢な装いに身を包んだ、褐色肌の少女だった。
 尤も、少女というのはその声で判別しているだけだ。
 彼女の人相や表情は、過美とすらいえるだろう黄金の仮面で隠されて窺えない。

 その容姿から、中東系の英霊なのだろうと察しを付けることが出来る。
 多少知識のある者ならば、更にそこから一段階。
 彼女がエジプトの王たるファラオ――その一人であろうことも、衣装の外観から理解出来るに違いない。
 そしてその通り。この少女はファラオの一人。エジプトの王者の一角に他ならなかった。

 ただし、彼女はある一点において他の王達とは一線を画している。
 では、それは一体どこだというのか。
 その答えこそが、先程有間小次郎が叱責した部分。
 サーヴァントとしての強さ、である。

「僕は弱い。
 生来病弱で、武道などまるで出来ない体だったが……英霊になってからも引き継がれるとは思わなんだ。
 小次郎。貴方を落胆させてしまったこと、心からすまないと思っている」

 彼女は、弱いのだ。
 魔術の心得こそ多少あれど、それ以外は軒並み基準を下回る。
 スフィンクスを宝具として持っているわけでも、神の権能を引っ提げてきているわけでもない。
 あるのは精々軍略の冴えくらいのもの。これでは、小次郎でなくとも落胆・失望を見せるというものだ。

「……それは本当にお前自身の言葉か? アサシン」

 真摯に謝罪するサーヴァント……アサシンに対し、小次郎の態度はあくまで冷ややかだった。
 というのも、彼は知っているのだ。
 『王の遺面(ツタンカーメンズ・マスク)』。
 アサシンの第一宝具。それが己の弱さを強さで塗り潰し、王として活動する為の虚飾であることを。

 仮面を被った彼女は、少なくとも形だけは理想的な王となる。
 毅然とした物腰。言葉や事象によって揺るがされない確固たる精神性。
 そして人を惹き付け、鼓舞する覇者のカリスマ。
 アサシンは暗殺者のクラスにありながら、それとは最も縁遠い華やかさを自らの力で取得することが出来る。

「誓って。この仮面は僕を王たらしめるものだが、僕の言葉を偽るものではない」

 聞いて、小次郎は小さな溜息を吐く。
 それは己のサーヴァントへの失望か、こんな少女に嫌味を言って鬱憤を晴らしている自分自身への嫌悪か。
 恐らくは、両方だろう。
 有間小次郎は俗で醜悪な男だが、かといって悪にもなり切れない。そんな半端者なのだ。


190 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:02:10 xSUF7mTs0

 卓上の酒。
 安物のウィスキーをぐっと呷って、口許を拭う。
 そうして自分を少し落ち着けて、彼は再び口を開いた。

「……当分は雌伏しつつ、同盟相手兼〝移行先〟となり得る主従を探す。
 もちろん戦闘は極力回避する。討伐令が発布されたとしても、積極的に参加はしない。
 聖杯戦争のシステム上、多数の主従に追い回されることが確定した馬鹿が長生き出来る可能性は極小だからな。
 どうせ脱落する奴らの為に、一度限りの切り札を使う意味もないだろう」
「むしろ、狙いは――」
「ああ。討伐に名乗りをあげた連中だ」

 アサシンは弱い。
 この京都聖杯戦争中でも、間違いなく最弱に部類されるサーヴァントだ。
 しかし彼女は一つ、切り札を保有していた。
 発動条件は緩いが重い。ただしその分、決まれば破滅を確定させるほどの効果を発揮する〝第二宝具〟。

「いずれ、確実に聖杯を獲る上で障害となる強豪。
 最低でも、全主従中三本の指に入る大英霊。
 お前の死は、そいつらに使う」

 そのトリガーは、アサシンの死。もとい消滅。
 霊核の崩壊による現世からの消滅が完了した瞬間、〝アサシンを殺害した〟という事実そのものが極大の呪いに変貌する。
 敵が万軍ならそれに与した全員を蝕み、滅びへ向かわせる呪術宝具。
 『王権よ、我が死を以って詛呪と成せ(ウラエウス・ハルシネイション)』。
 それは、彼女が後世にて受けた脚色のすべて。
 呪いのファラオという蔑称を賜るに至った、不運な偶然とデマゴーグの結晶。

「ツタンカーメン。捨て石となることに、異論はないな」
「無論。それが、弱きファラオであるこの僕に出来る最大限だ」

 ――ファラオ・ツタンカーメン。それが、アサシンの真名。
 現代における彼女のイメージは、ある二文字の単語に集約されている。
 〝呪い〟だ。王家の呪い。たった一人の急死を大袈裟に脚色した結果、世界規模で蔓延したデマゴーグ。
 それが生み出したのは呪いのスキル、呪いの宝具。無辜の怪物という、風評の呪縛。

 だがアサシンは、それを嫌悪していない。
 むしろマスターの戦いを前進させることの出来る、有意義な武器だとすら思っていた。
 だからこそ、状況が来たら捨て石として死ねという刎頚モノの命令(オーダー)も抵抗なく受け入れられる。


191 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:02:37 xSUF7mTs0

「僕の死が貴方を聖杯に近付けることを、心から祈っている。
 僕は貴方を恨まない。その願いの為に、喜んでこの身を散らそう」
「……ああ、そうだな」

 有間小次郎には、願いがある。
 いや、願いなんて上等なものではない。
 自分が生み出してしまったものを、聖杯の力を借りて消し去るという不毛な行いをするだけだ。

 自分でも情けない話、馬鹿な話だと思う。
 だが、そうでもしなければ止められない領域にまで、彼の生んだ〝失敗〟は到達してしまった。
 正攻法では削除(デリート)しきれないほど醜く肥え太った、電子の鳥。

「私は……お前を犠牲に聖杯を獲る。
 そして、あの鳥を欠片も残さず消し去ってみせる。
 それでようやく、私の贖罪が一つ完遂されるんだ」
 
 数え切れない罪に塗れた哀れな男。
 有間小次郎は人を愛するべきではなかった。
 有間小次郎は人の親になるべきではなかった。
 彼の愛は、巡り巡って全ての罪に通じている。

「(――これでいい。これでいいんだ)」

 聖杯を手にする上で、自分は必ず誰かを犠牲にするだろう。
 それはアサシンであり、他の誰かでもある。
 聖杯を掴んだとしても、その時にはまた幾つもの重荷が背中に載っているのだ。
 有間小次郎は永遠に救われない。そんなことは、小次郎自身が一番よく分かっている。

 墜ちていく。
 堕ちていく。
 実の息子に世界最悪とまで呼ばれた男は、家族の罵声も、部下の献身も届かないところへ落ちていく。

 かつて天才だった男は、かつて父親だった男は今、どうしようもなく孤独だった。
 そして遠くない内。今度こそ、有間小次郎は一人になる。


192 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:02:53 xSUF7mTs0

    ▼  ▼  ▼

「こ、怖かったぁ……」

 小次郎のもとを離れて。
 アサシンは『王の遺面』を外し、へたり込まん勢いで情けない声を絞り出した。
 露わになった素顔はまっとうに可愛らしいものだが、それよりも問題はその雰囲気である。
 遺面にカリスマを与える効果がある以上ある意味では当然であるが、余りにも仮面を装備している時とそうでない時との落差が激しすぎるのだ。
 
 それもその筈。
 アサシンことツタンカーメンは元々、極めて臆病な娘であった。
 少年王ならぬ少女王。
 人前に出ることが苦手な、およそ王を名乗るには相応しくない人物。

 もっとも、有事となれば彼女はその明晰な頭脳を遺憾なく回し、敵軍を見事に退けてみせるのだが。
 ヒッタイトの軍勢を退けた偉業を踏まえても、他のファラオには何歩か劣る。
 そんな彼女が持つ英霊としての力は、その殆どが後世の脚色から逆輸入されたものだ。
 前述した王家の呪い、風評被害。ノブレス・オブリージュのきらびやかさとは縁遠い、闇色の霊基。

「はあ。ご無礼だとは分かってますけど、どうにもなりませんね……」

 アサシンにとって有間小次郎は苦手な部類の人間だ。
 威圧的で口煩く、プライドが高い。
 遺面を装備していなければ、情けない話だがまともに話せているかも怪しいとアサシンは思う。
 もっともその〝話すための努力〟が、小次郎に一抹の不信感を与えてしまっているのだったが。

 では、アサシンは己のマスターが嫌いなのか。
 その答えは、否である。
 弱くとも、彼女はファラオだ。
 一人前の気高さと挟持を持っている以上、邪なマスターでは彼女を従えることは敵わない。

 有間小次郎は人として、確実に歪んでいる。
 その歪みを正せないまま老いた結果、悲しいほどに破滅してしまったのが彼だ。
 されど、その願いは至極真摯なものだ。
 自分の生み出した失敗をこの世から消し去り、世界を守らんとする正しい想い。
 小次郎がそれを掲げ続ける限り、呪いあれと願われた少女王は全面的に彼の味方であり続ける。

「……小次郎さん。僕は貴方の言う通り、弱いサーヴァントです。
 他のファラオの皆さんに恥ずかしくなるくらい、不出来な英霊であると自負しています」

 弱き王。
 儚き王。
 されど、彼女は。

「それでも。貴方が人の為、世界の為に在る限り――僕は貴方に全てを捧げましょう」

 誰よりも民を、人を愛した王であった。
 故に彼女は、二度目の現世においても人の為に生きる。
 一人の、悲しき男の為に。
 

【CLASS】アサシン

【真名】ツタンカーメン

【出典】エジプト史

【性別】女性

【身長・体重】155cm、42kg

【属性】秩序・善

【ステータス】

筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B+ 幸運C 宝具EX


193 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:03:08 xSUF7mTs0

【クラス別スキル】

 気配遮断:D
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。

【固有スキル】

 無辜の怪物:A+
 本人の意思や姿とは関係なく、風評によって真相をねじ曲げられたものの深度を指す。
 アサシンの場合は〝呪殺の伝説〟である。
 彼女の墓の開封に携わった人間が次々と急死したことから伝説が生まれ、現代ではツタンカーメンというファラオの代名詞と化している。
 しかし実際のところ急死したのはただ一人で、それも開封以前の怪我がきっかけの感染症であったことが確認されている。
 要するに、王家の呪いは実在しない。
 だが多くの大衆は彼女に恐るべき呪殺者のイメージを抱き、結果アサシンはそういう存在としてねじ曲げられてしまった。
 アサシンに敵対的な行動を取った存在のLUCK判定達成値を大きく減少させ、不幸な出来事、不慮の事故が起こりやすくなる。
 ……とはいえ対魔力や神性などの各種スキルに効き目が大きく左右されるため、通じない相手にはとことん通じない。

 神性:B
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
 アサシンは生前自らをアモンの生き姿と称し、その即位と同時にアモン=ラーの信仰を復活させた。

 軍略:B
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
 アサシンは虚弱な王であったが、ヒッタイトとの交戦で勝利する、ヌビアの反乱を収めるなど優れた将の資質を有していたとされる。

 病弱:B
 天性の打たれ弱さ、虚弱体質。あらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴う。
 確率としてはそれほど高いものではないが、戦闘時に発動した場合のリスクは計り知れない。
 ……元々戦闘が出来るスペックの持ち主じゃない? それは言わないお約束だ。
 アサシンは生来虚弱体質の持ち主で、常に杖を突いており、体調を崩しては臣下に介抱して貰っていた。

【宝具】

『王の遺面(ツタンカーメンズ・マスク)』

 ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:100

 ツタンカーメンの墓より発掘された副葬品の一つ、黄金のマスク。
 装備することで、アサシンはA+ランク相当の精神耐性とBランク相当のカリスマを獲得する。
 何も小難しいことはない。これは、王と呼ぶには少々気弱が過ぎるアサシンをファラオらしく装飾する宝具。
 これを被っている間、彼女はファラオの称号に恥じない堂々とした立ち振る舞いが出来るようになる。
 ……もちろん、彼女自身のステータスは一切変動しない。変なビームが出たりもしない。


194 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:03:30 xSUF7mTs0

『王権よ、我が死を以って詛呪と成せ(ウラエウス・ハルシネイション)』

 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

 生前ではなく、死後にこそ英霊と称されるだけの逸話を持つ。
 そんなアサシンの性質そのものが宝具に昇華されたもの。
 とはいえ彼女の自由意志で使用することは出来ず、令呪で解放させることも出来ない。
 この宝具の発動条件は、〝アサシンが他殺される〟こと。
 アサシンの死をトリガーとして発動し、彼女を害した存在に莫大な詛呪の波動を叩き付ける。
 敵が単体であれば単体に、大軍であれば軍全体を襲う災禍にもなるだろう。死を以って発動する宝具という特異性から、ランクは規格外のEX。

【weapon】
 仕込み杖。ただし、極めて戦闘能力は低い。

【マテリアル】

 ツタンカーメン。古代エジプト第18王朝のファラオ。
 歴史上は男性王であったとされているが、実際は誤り。
 現存している彼女のミイラも、若くして死んだツタンカーメンの名誉を少しでも高める為に魔術的処置を施されている。
 虚弱な王であり、腐骨や内反足を患い、骨折などの外的要因も相俟って歩くのに杖を必須としていた。
 最期もマラリアに倒れ、合併症を患ったことによる病死であったという。
 気弱で怖がり、甘えん坊。とにかく王らしからぬ人格の持ち主で、本人も逸話ではないと自認している。
 イアソンやヘクトールの弟パリスと同じく、絶体絶命の危機、のっぴきならない状況になると真価を発揮するタイプ。
 特に彼女の場合、〝大切なものを守る〟時にその性質が最大まで高まる。
 万人が聞けば万人が王らしくないと認めるであろう弱虫少女だが、ただ一つだけ、王らしい一面を持つ。
 それは―――ツタンカーメンは、遍く全ての民を愛しているということ。


195 : 輝く呪いの物語 ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:03:42 xSUF7mTs0

【特徴】

 紺のショートヘアー。その貧相な体型は、王族のそれとはとても思えない。
 クリーム色の腰布と、きらびやかながらも虚弱体質に配慮した軽い衣装。瞳は蒼色で肌は褐色。

【聖杯にかける願い】

 存在しない。
 マスターのため、この霊基は捨て石となる。


【マスター】

 有間小次郎@グッド・ナイト・ワールド

【マスターとしての願い】

 〝黒い鳥〟の削除。

【Weapon】

 なし

【能力・技能】   
   
 天才的なサイバー技術を持ち、エンジニアとしての腕前は非常に高い。

【人物背景】

 ある一家の大黒柱〝だった〟、冴えない中年男性。頭はヅラで、実は禿げている。
 極度の完璧主義者であり、才能のない者、失敗する者の存在が認められないという社会性異常の持ち主。
 彼の娘である有間綾はどん臭く頭が悪いと、彼との相性は最悪だった。
 そんな彼はある時、綾が学校に忘れ物をしてきた事に激怒し、夜遅くだったにも関わらず学校へ自らの足で取りに行くよう命じる。
 その結果、綾は学校に向かう途中で何者かに捕まり、殺害されてダンボールに詰められた死体で発見されてしまった。
 以降有間家は崩壊。妻は放浪、長男からは軽蔑と憎悪の目を向けられながら、自身が過去に生み出してしまった人を殺すコンピューターウイルス"黒い鳥"の完全消去(アンインストール)を果たす為に活動するようになる。
   
【方針】
 
 聖杯狙い。
 当面は鞍替え先を探しつつ、アサシンの死なせ時を見極める


196 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/01(月) 04:03:59 xSUF7mTs0
投下を終了します。今年も当企画をよろしくお願いします


197 : ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:11:04 57e1Ned60
投下お疲れ様です
自分もお借りいたします


198 : No Boy No Cry ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:16:12 57e1Ned60


「こんな筈では……こんなつもりでは、なかった……」

 豪華絢爛たる天守閣の高みで、女は一人そう呟いた。

 美しい女だった。
 すらりと背は高く、肌は白く、切れ長の瞳と同じく黒い髪は鴉の濡羽色をして艷やかで。
 橙色の小袖に袖無羽織、軽衫と男の装いをこそしていても、肢体の線は女の肉(しし)の柔らかさを隠せない。
 しかし――女の額に刻まれた醜い疵痕が、その美しさに影を落としていた。

 女は腰に帯びた刀の柄を、指も折れよとばかりに握りしめた。
 自らの銘を刻んだ茎がぎしぎしと軋もうと、女にとっては瑣末事に過ぎない。

「私は、決して……こんなつもりでは、なかった……!」

 眼下に栄えていた街並みは、もはやその名残さえ見出だせぬ。
 彼方に清水を讃えていた湖は、残滓すら消え失せ枯れ果てた。
 地平の彼方まで広がるのは、王道楽土などではない。

 ただの無だ。

 色の無い砂漠――果てしなく、どこまでも続く。
 それは星の死骸だった。宇宙の終わりだった。この世の最期だった。

 女はつくづくと思い知らされた――いや、そんな事は端からわかっていたのだ。

 天下は途方もなく大きく、広く――世界は、想像を絶するほどに遠い。
 あの魔王ですら五十年、一生涯かけてやっと日ノ本全てに手が届くかどうか。
 己にそれを背負えるだけの器なぞないことなど、女は最初からわかっていた。

 だからこれは、当然の結末だ。

 有り得ざる繁栄は可能性を失い、剪定され、燃え尽き、後には一握りの砂が残るのみ。
 しかし、それでも……女は繰り返し、繰り返し、声を上げる。

「私は、こんなつもりでは……なかったんだ……ッ!!」

 その声は無意味だ。
 もはや誰の耳にも届くことはない。
 だから高い城に住まう女は、一人、世界の終わりまで声を上げ続ける。
 無意味で、無価値で――――だからこそ、この世界は終わるのだというのに。

.


199 : No Boy No Cry ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:17:17 57e1Ned60

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「それで、主殿。どのように采配を振ろうとお考えでしょうか」

 不意に声をかけられて、ジャギはぱちくりとヘルメットの中で目を瞬かせた。

 うたた寝でもしていたのだろうか。
 気を緩ませていた自分が嫌になるほど苛立たしく、ジャギは不機嫌さを隠しもせず「ああ」と言った。

「決まってんだろ。片っ端から他のマスターってヤツをぶっ殺して、俺が最強だって証明すンのよ」

 ジャギはそう言って、愛用のバイクにより掛かるようにして座り直した。
 薄暗いそこは、打ち捨てられ忘れ去られたガレージだった。
 ゴミとか、泥とか、唸る室外機の排ガスとか、そういった物の臭いが充満し、控えめに言っても居心地は悪くない。
 天井は破れ、雨漏りの名残だろう水たまりも其処此処にある。冬の冷たい風だって入ってくる。

 だけれど、ジャギはこれで良いと思っていた。

 静謐に満たされた道場だとか、安っぽい診療所だとか、無駄に豪奢な御殿だのは、反吐が出るほど嫌だった。
 自分が目指す物は、目指す場所は――それがどんなものかはジャギにさえわからなかったが――もっとずっと、違うものだ。
 だからこれで良い。俺はここから始まる。ここから突き進んでいくのだ。

 ――本当なら俺様一人でだってやってやれるってのによ。

 だがしかし、この戦いは面倒くさいことに、目の前に佇む女と手を組まねばならないらしい。ジャギは溜め息を吐いた。

「ええ、目的が定まっているというのは良いことですよ。主殿。問題はそのためにどうするか、ですが」

 女――アーチャーはそう言って、冷たい印象を与える美貌に薄っすらと笑みを浮かべて見せてくる。
 その全てを見透かすような視線がどうにも居心地が悪く、ジャギは何か意味もなく、ホルスターに収めた散弾銃をいじった。

 ――とても夢ン中でめそめそ泣いてやがった女には思えねぇな……。

 アーチャーは、恐らく日本人であれば誰もが知っているだろう有名な英雄であった。
 よもや女だとは思わなかったが、あまり頭の良い方ではない自覚のあるジャギですら、その名前と事跡くらいは知っている。
 そんな人物が味方になることに対して、頼もしい、とは思わなかった。何しろ敵も似たような英雄を引き連れているというのだから。

 ――聖杯戦争、ねぇ。

 万能の願望機を巡って行われる、魔術師とやらの殺し合い。
 普通であれば一笑に伏すところだが、ジャギとて仮にも歴史の裏で語り継がれる暗殺拳を修めた身だ。
 たまたま襲った妙な男が命乞いにさえずった話を、ジャギは信用こそしないまでも否定はしなかった。

 ――この俺様にかかれば、裏があることくらいお見通しよ。

 そんな七つ集めれば願いが叶う珠みたいなものがあるなら、わざわざ他の参加者を呼び集める必要はあるまい。
 自分なら、そんなものは自分のためだけに使う。人手が必要だからエサを垂らしたのだとしても、やり方が露骨過ぎる。
 だから男が後生大事に持っていた青白く光る妙な宝石を奪い取り、それに触れた事で現れた女を見てさえ、その気持ちは変わらなかった。

 聖杯戦争とやらは、間抜けどもを騙すための糞くだらない茶番に過ぎない。

「ですので、いくつか方針を書き加えてもよろしいでしょうか、主殿?」
「お、おう……」

 もっとも――このように美しい女に「あるじ」と呼ばれて、心の奥底がむず痒く高揚する気持ちだけは抑えられなかったが。

.


200 : No Boy No Cry ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:18:11 57e1Ned60

「良いぜ、話してくれよ」

 しかしまあ、それも一時のことだ。
 こうして何もかもお見通しとでも言うような瞳で見つめられ、薄く微笑まれると、嘲笑されているように思えてならない。
 ジャギは体裁を取り繕うように咳払いをし、主君らしくどっかと座り直した。
 その仕草から主の不興を買ったことを敏感に察したのだろう、アーチャーは「すみません」と小さな声で言った。

「生来、私はどうも……人に誤解されてしまうようなので。主殿に、他意は無いのですけれど」

 そうして申し訳なさそうに眉をひそめて頭を垂れる姿でさえ、何故か無性に癪に障る。

 ――ケッ。……ケンシロウみてぇなアマだぜ。

 まるで自分が一から十まで正しいという面構えは、その美貌のせいもあって、どうにもジャギは虫が好かなかった。
 もっともアーチャーの言うとおりそれが生まれつきだというのなら、ケンシロウも運の無い奴だったのかもしれないが。

「……本当にすみません。私は、その……」
「良いから、話せよ。俺ァ別に……」とジャギは少し考え、付け加えた。「……怒っちゃいねえよ」
「……なら、良いのですが」

 付け加えた一言が、どこか厭味ったらしくて気に入らない。
 だがジャギはそれに対してじろりと睨みをくれるだけで、その苛立ちを飲み込んだ。

「大筋は主殿の仰る通り、敵を倒して覇を唱えるという事で問題はありません。
 問題は――――倒せる相手を、倒せる時、倒せる場で、確実に倒す、という一点を心がける事です」
「んだよ。つまり……俺じゃあ勝てねえ相手がいるから、尻尾巻いて逃げ出せってことか……!?」
「勝てない相手?」

 その飲み込んだ怒りを吐き出した瞬間、アーチャーはやはり薄い笑みを絶やさずに言い切った。

「そんな者はいませんよ」

 それは、ジャギが思わず目を見開くほどに冷たい一言だった。
 アーチャーは表情一つ変えず
 そう、日本中の英雄の中でもただ一人、アーチャーだけはこの言葉を口にすることが許される。
 如何なる強大な存在、英雄、怪物であろうとも――――……

「ただし倒せる時間が、場所が、状況があれば――の話ですけれど」

 殺し間さえ整えば殺せない者など、いないのだと。
 この女だけは、そう言うことが許されているのだ。

「……」

 ジャギは低く唸った。

 それだけの事をやってのけた、炎のような英雄。
 目の前で氷のような表情で自らを「主殿」と呼ぶ女。
 そして夢の中で――「こんなはずではなかった」と叫んでいた娘。

 そのどれもがアーチャーという女を指し示していて、その全てがチグハグに思えてならなかった。

「……なあ。一つ聞いて良いか」
「一つと言わず、何なりと」

 だから、聞いた。
 誰もが――恐らく、日本中の誰もが、この英雄にあったら聞いてみたいと思っているだろう事だ。


         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「なんでお前、織田信長を殺しちまったんだ?」


.


201 : No Boy No Cry ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:20:11 57e1Ned60

「さあ――――?」

 アーチャー、明智光秀は薄っすらと――鮫のように微笑んで小首を傾げた。

「恨んでいたのか、何か企みがあったのか、愛ゆえか、たまたま場が整ったのか、あの人に勝ちたかったのか……。

 今となっては、私にも……よくわからないんですよ」

 ジャギは、その鋭い笑顔に、何かを垣間見たような気がした。

 覇を唱えんとしたラオウ――或いは武を医に転じて世に広めんとしたトキ――そして、あの忌々しいケンシロウ。
 彼が目指していたのは、その全てを乗り越えた先にある――「何か」だ。
 それは蒼天の向こうに輝くものだ。遥か空に見える星だ。七つの輝きだ。
 だが、果たして全てを打ち倒し、乗り越えたとして、その最果てに何が見えるのだろう。どこに行き着くというのだろう。

 それはよもや、この女が見たであろうような――「無」なのではないか。

「……けッ」

 やめだ、やめだ。そう呟いて、ジャギは低く唸った。
 俺はこの女とは違う。兄者たちとも、ケンシロウとも違う。俺はきっと、もっと、ずっと、上手くやれる。

「……いいぜ、やってやるよ。殺すべき状況、殺すべき場所、殺すべき時だな」

 それは北斗七星の隣に死兆星が輝く時だ。その時に殺す。
 北斗二千年の歴史は、そのためだけに積み重ねられてきた暗殺拳だ。

 舐めやがって。ジャギはヘルメットの内側で、誰にも――アーチャーにも気づかれぬよう、低い声で呟いた。
 英霊どもと、魔術師だか何だか知らないマスターども。
 その全員を殴り倒せば最強の名は自分のものだ。北斗神拳伝承者として相応しいのは自分だ。
 聖杯なぞどうでも良い。欲しいのは、ただひとつ。

 ――俺の名を言ってみろ。そうだ、俺の名を言ってみろ!

「俺は第六十二代北斗神拳正統伝承者、ジャギ様だ……!」

 その言葉を聞いて、アーチャー・明智光秀はやはり薄い笑みを浮かべたまま。
 彼女の真意がどこにあるのかは、きっと彼女自身にもわからないに違いない。
 ジャギはそんな彼女をじぃと睨むと、やおら溜め息を吐いた。

「……で、もう一つ聞きたいんだけどよ」
「ええ、何なりとどうぞ、主殿」
「その格好はなんだ?」
「私は知名度が高いので、隠匿しようと思って当世の格好をしてみたのですが……」
「……――それでなんでクソダサTシャツ着てるんだお前は」

 え。
 アーチャーはきょとんとした顔をし、張り詰めて「ARTS!」と自己主張するシャツの胸元を見下ろした。

「……似合って、いませんか? その……結構、格好良い装いだと思うのですけれど……?」

 ジャギは無言で、穴の空いた屋根を振り仰いだ。
 垣間見える蒼天はどこまでも青く、遠い。

.


202 : No Boy No Cry ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:20:46 57e1Ned60
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【クラス】
 アーチャー

【真名】
 明智光秀

【ステータス】
 筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:E〜A+

【属性】
 混沌・中庸

【クラススキル】
・対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

・単独行動:B+
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクB+ならば、マスターを失っても三日間現界可能。

【保有スキル】
・反骨の相:B
 一つの場所に留まらず、また、一つの主君を抱けぬ気性。
 自らは王の器ではなく、また、自らの王を見つける事のできない放浪の星である。
 本人の意思にかかわらず、同ランクの「カリスマ」を無効化する。

・心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

・鷹の目:B+
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力。
 この領域に至れば動かぬ的である限り、間違っても射撃を外すことはない。

【宝具】
『時今也桔梗旗揚(ころしま)』
ランク:E〜A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:30000人
「時は今 雨が下しる 五月哉――敵は、本能寺にありィッ!!」
 光秀が最も得意とした火縄銃戦術。殺し間。
 三万丁の火縄銃を展開、交差するように十字砲火を浴びせ、誘い込んだ敵を一網打尽に鏖殺する。
 本能寺で織田信長を屠ったというあまりにも有名な逸話から、擬似的な固有結界の領域にまで達している。
 領域内からの脱出には何者であれ大幅なペナルティが課せられ、また火縄銃からの射撃は決して外れる事はない。
 そして相手の攻撃力が高ければ高いほど威力が増加し、騎乗スキルを持つ英霊にはさらに威力が増加する。
 光秀が織田家臣団最高の射手である以上、神秘殺しを除けば『三千世界』の完全上位互換宝具である。

『明智軍記(てんかびと)』
ランク:E〜A 種別:神性宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
「順逆無二門 大道徹心源 五十五年夢 覚来帰一元……!」
 三日天下とも言われる、光秀の天下人としての不完全な能力。擬似的な皇帝特権。
 発動中、自分の能力やスキルが対峙した敵に劣っていた場合、自動的に取得・同等にまで強化する。
 しかしその性質上、常に進化し続ける「日輪の子」羽柴藤吉郎秀吉には敵わない。
“本来の世界"の光秀では無制限だが、“この世界”の光秀の枠に落とし込まれた事で弱体化している。
 この宝具を発動した場合、真名解放から三日が経過するまで任意で停止することはできない。
 そして三日目の終わりに強制解除され、強化・取得した能力は全て失われてしまう。
 もう一度宝具を行使して再取得することは可能。

【weapon】
『備州長船近景』
 明智近景とも呼ばれる国宝級の名刀。金象嵌に明智日向守所持の銘が彫られている。
 本来なら宝具級の逸品だが、明智光秀はセイバーの適性を有していないためその域には達していない。

『無銘・火縄銃』
 明智光秀愛用の火縄銃。宝具『時今也桔梗旗揚』から引き出したもので、いくらでも補充ができる。

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203 : No Boy No Cry ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:21:02 57e1Ned60

【マテリアル】
 身長/体重:163cm・48kg
 出典:史実 地域:日本
 属性:混沌・中庸・人 性別:女性
 スリーサイズ:B83/W55/H86

 日本三大英傑のひとり織田信長を本能寺の変で討ち取った謀反人。
 しかし十三日後に大返しを行ってきた羽柴秀吉との戦いに敗れ、敗走中に落ち武者狩りで農民に殺された。

 出自は不明で、土岐衆の出であったとも、刀鍛冶の子であったとも言われている。
 織田家に取り立てられるまでは浪々の身であり、自分を取り立ててくれた信長には大恩を覚え、誠心誠意仕えた。
 にもかかわらずどうして謀反を企てたのかは今日に至るまでわかっていない。
 その最期でさえ不確かな部分が多々あり、生き長らえて怪僧・天海となって家康を背後から操ったとさえ言われる。
 明智光秀の生涯は最初から最後まで、多くの謎に包まれているのだ。

 確かなことはその武将としての才覚である。
 織田家臣団随一の鉄砲の才を持ち、銃をもたせれば百発百中、決して外れることはないと言われた。
 さらに鉄砲隊の運用においても、敵兵を誘い込んで確実に殲滅する「殺し間」は敵味方から大いに恐れられた。
 信長からの信頼も厚く、様々な仕事を任されて大いに采配を振るい、信長の天下布武の助けとなった。
 しかしその一方で癇癪を起こした信長からは度々叱責され、衆目の前でたびたび体罰を伴う折檻を受けていたともいう。
 もし問題があったとすれば、それは明智光秀の、どこか人好きのされない態度だったのかもしれない。

 仮に明智光秀が織田信長、羽柴秀吉に勝利したとして、その後に天下人としてどれほどのことができたかはわからない。
 明智光秀に天下への展望が無かった以上、全ての可能性は失われ、焼却され、剪定されてしまったろう。
 彼女は、そんな世界線からやって来た――“勝利してしまった”明智光秀である。

【外見】
 長い黒髪に切れ長の瞳、白い肌、背の高い和風美人。ただし額には醜い疵痕が斜めに走っている。
 戦闘時は桔梗紋の入った当世具足に火縄銃を持った姿を取るが、知名度の高さからなるべく私服での行動を心がけている。
 なお私服は胸に大きく「ARTS!」と描かれた青いTシャツとジーンズ、ロングブーツで、主兵装は刀といったもの。

【聖杯にかける願い】
 なぜ自分が織田信長を討ったのか、その理由を知りたい。

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204 : No Boy No Cry ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:21:17 57e1Ned60

【マスター】
 ジャギ@北斗の拳外伝-極悪の拳-

【能力・技能】
・北斗神拳
 二千年の長きに渡って人類史の影で培われてきた暗殺拳。
 なかでも父から伝授された奥義「北斗羅漢撃」を得意としている。
 伝承者候補に過ぎないとはいえ、他の武芸者とは一線を画する実力の持ち主。

【weapon】
・ショットガン
 ダブルバレル式のソードオフ・ショットガン。

・オートバイ
 大型バイク

【人物背景】
 北斗神拳伝承者リュウケンの養子として引き取られた少年。
 リュウケンとは親子として確かな絆を結んでいたが、伝承者候補を巡る日々の中で軋轢が生まれていく。
 息子を北斗神拳の血なまぐさい戦いに巻き込みたくないリュウケンに対し、ジャギは父の全てを受け継ぎたかったのだ。
 ラオウ、トキ、ケンシロウに対し、ひたむきに努力を重ね食い下がるジャギだが、才能の壁は乗り越えるには遠すぎた。
 やがてジャギは徐々に鬱屈していき、暴走族の一員として無軌道な行動を繰り返すようになってしまう。
 そしてついに核戦争前後の混乱期に親しくしていた少女を失い、さらに伝承者の座をケンシロウに奪われた事で全てが破綻。
 ジャギはケンシロウへの復讐を誓い、自分が何を望んでいたかもわからぬまま、世紀末の荒野を駆け抜けることになる。

 ジャギの不幸は同じ時代にケンシロウ、トキ、そしてラオウといった恐るべき強者が揃ってしまった事だろう。
 常人とは比べ物にならない非凡な拳才を有したジャギは、世が世なら間違いなく北斗神拳正統伝承者になれたのだから。

【令呪の形・位置】
 北斗七星型のものが左手に

【聖杯にかける願い】
 聖杯には無い。
 だが聖杯戦争優勝という結果をもって北斗神拳伝承者となる。

【方針】
 全員倒して俺最強。

【参戦時期】
 核戦争勃発直前
 アンナが死んでおらず、伝承者も決まっておらず、まだ引き返せる時期

.


205 : ◆yYcNedCd82 :2018/01/01(月) 18:21:33 57e1Ned60
以上です
ありがとうございます


206 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/02(火) 23:27:02 BMgiERGI0
明けましておめでとうございます。投下させていただきます。


207 : それ以上でもそれ以下でもない ◆xn2vs62Y1I :2018/01/02(火) 23:27:41 BMgiERGI0
京の都。
古き時代の面影と、当時に手施された在り方を現代になお残し続ける美しくも異常な空間。
これが何を意味するかは様々逸話や歴史や数多の記録がある。
歴史とは受け継がれゆくものだろう。
だが逆に『受け継がれないもの』『語られぬもの』も存在した。

例えば―――ファティマ・第三の予言。
ローマ教皇が内容の恐ろしさに絶句し封印した。核戦争・第三次世界大戦の予言だ。
噂や諸説が幾つもあっても、結局のところ本格的な発表は現在に至るまでされてはいない。

つまるところ。
歴史とは全く以て信用ならない事だ。史実と歴史に異なる点はありえる。
アーサー王やネロ・クラウディウスが女性だったり、加藤段蔵がからくり人形だったり。
所詮は語り継がれたモノ。アテにはならない。
故に……
歴史の曖昧さ故の『隙』というのが存在するのである。


「――――――」


凍えるような冷気。
現代の京都。その一角で氷づけになっている英霊が声も上げる事なく、キラキラと粒子となり消失を迎えようとしていた。
傍らでは、肉体そのものが『停止』したことにより『凍結』した人間がいる。
ソレがマスターであった事は、明白だ。


「……■■■■■………ほまるはうと………」


演武の如く『唄』を口ずさむ平安貴族のような格好の男が一人。
随分若い。まだ二十代手前と言った二枚目。どこかでアイドル活動をしてそうな美男子は。
不気味な理解不能の言語で『唄』を奏でつつも、氷点下の美を傍観する。


「ふんぐるい、むぐるうなふ―――」


「……それ何?」


恐る恐る美男子に問いかけたのは――十四松だった。


十四松。
松野十四松である。
松野家五男の十四松は十四松以外に何者でもないので、十四松と説明する他ない。

明るい狂人。笑顔を絶やさない十四松ですら、冒涜的な光景に顔がひきつって見えた。
美男子は憂い帯びた表情で振り返る。ギョッと体を跳ねる十四松。
両者に謎めいた沈黙が広がり。やや保たれた間を気に留めず、美男子は十四松から視線を逸らし謎めいた『唄』を続ける。


「―――ホマルハウト、ウガア、グアア、ナフル……」


ああー。と呆然に近い声を十四松は漏らした。






208 : それ以上でもそれ以下でもない ◆xn2vs62Y1I :2018/01/02(火) 23:28:24 BMgiERGI0


どういう訳か京都に点在する松野家。
寒さを逃れるために、六つ子揃って炬燵に入ってテレビを視聴。
何気なくニュースが一つ報道されたのである。


『京都市にて変死体が発見されました。―――警察は事件性を見て捜査を――――』


マジで?近所じゃん。と兄弟の誰が口にしただろうか。
とは言っても。変な危機感を抱いたりせず、所詮は他人事。そんな風に言えばマジメっぽい風な。
ついつい口にしてしまった癖のようなもので意味なんて無い。

ただ一人。
十四松だけは笑顔のまま顔色だけが悪かった。アレは自分のサーヴァントの仕業だと、誰より知っている。
確かに、殺した。ヒト一人殺してしまったのだが、結局のところ。正当防衛である。
多分、悪くない。十四松は勝手に頷いている。

あの主従は十四松がマスターであると分かって攻撃を仕掛けた。
否。元より無警戒で聖杯戦争の事を口にした十四松自身が迂闊だったに違いない。
とにかく、攻撃されたからだろう。
十四松のサーヴァントは、マスターの指示を受ける必要なく彼らを打倒してしまった。
アッサリ説明しているが十四松にとっては、わりとショッキングな出来事だ。

気分転換を兼ねて十四松が松野家の屋根に上がろうと外に出れば、冬に関わらず不思議にも温かい。
そして、あの唄が聞こえる。


「ほまるはうと うがあ ぐああ なふる……」


「――ねえ! それ何の歌?!」


今度はテンション高めに飛びだしながら十四松が、屋根の上で唄う美男子のサーヴァントに問う。
ピタリと唄が止むと。いきなり身が震えるような風が二人を吹きつけた。
次はサーヴァントは十四松に振り返らず、虚空を眺めて言う。


「君は確か。十四松。名は十四松だよね」


「うん。そうだよ」


「現代の世にして風流な名を貰った幸運な人。ジュウシマツ。鳥の『十姉妹』が由来なんだろう?」


「え? そーなの?」


「『十』の『姉妹』だから、君達兄弟に準えた訳ではないようだ」


「へえ〜〜〜」


209 : それ以上でもそれ以下でもない ◆xn2vs62Y1I :2018/01/02(火) 23:28:48 BMgiERGI0
傍らに座りながら十四松が尋ねる。


「さっきの歌、なに?」


「うーーーーーーーーーーーん………」


唸ってから相変わらず虚空を眺めて美男子が言う。


「ああ、僕の呼び名を教えてなかった。僕は『フォーリナー』だよ」


「フォーリナー? え? 外国人?」


十四松のサーヴァント・フォーリナーは、京都の古き良き道を歩む人々を眺めながら


「ここに居ると寒いよ。十四松」


「そうかな? さっきは寒くなかったよ」


するとフォーリナーが虚ろな紅染みた瞳で歌い始める。


「ふんぐるい、むぐるうなふ……くとぅぐあ、ほまるはうと………」


結局その『唄』は何を意味するのか?
十四松が答えを知る事はなかったものの。フォーリナーが歌うと風が止み、全身が炬燵に包まれるように温かい。
だから「別にいっか」と十四松は疑問を抱くのを諦めた。





【クラス】フォーリナー

【真名】冷泉天皇@史実(+クトゥルフ神話)

【属性】中立・中庸


【ステータス】筋力:C 耐久:D 敏捷:D 魔力:B 幸運:A 宝具:A


【クラス別スキル】
領域外の生命:EX
 外宇宙あるいは別次元の領域に住まう存在。砕けた表現でいう宇宙人・エイリアン。
 我々の世界において理解不能。測定不能。
 文字通り、測る事すら不可能な存在が故に神また邪神とされるが、その正体は果たして――

狂気:A
 精神を冒涜的狂気によって蝕まれた者が持つスキル。
 精神異常・精神汚染と同等で、精神スキルを阻害ものでありながら
 英霊自身の正気と正常を崩壊させる。
 冷泉天皇は元より精神に異常を来していた為『負×負=正』の理論で正常になった。


210 : それ以上でもそれ以下でもない ◆xn2vs62Y1I :2018/01/02(火) 23:29:30 BMgiERGI0
【保有スキル】
神性:B
 神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。

生ける炎の加護:A++
 とある邪神の加護。
 敵対する混沌属性に対する強力な耐性と特攻を持ち合わせている。

三寒四温の唄:EX
 「ふんぐるい むぐるうなふ……」
 冷泉天皇の奏でる唄。それと規格外の邪神の能力が重なり合ったもの。
 『生ける炎』と呼ばれる彼の神だが、実際は『炎』ではなく『熱』そのものを操作している。
 熱を停止すれば炎と対極的な『氷』を。
 熱を高めれば如何なるものにも『炎』を。
 炎と氷だけではなく、体感的な『寒暖』すら操作出来る。


【宝具】
『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』
ランク:A 種別:対混沌宝具 レンジ:1〜500 最大補足:1〜500人
浮遊する八つの紅勾玉。それを自在に操作可能。行動範囲はレンジ内に限られる。
スキルの『三寒四温の唄』を勾玉に付与することで強力な攻撃が実現できる。

彼の有名な『三種の神器』の一つ。
八咫鏡に対して月を示しているのではないか?とされるが不明。具体的な形状の詳細すら不鮮明。
ましてやそもそも『神器は二つ(八咫鏡と天叢雲剣)だった』。
何故か『八尺瓊勾玉』のみ神器を剥奪されてる。なんて事も多々記述として残されている。

元より存在しなかったものの可能性を隙に、規格外の存在によって歪められた。
いや……元より邪神によって歪められた歴史こそが、我々の世界で正常と認知されてしまって。
本来の神器は二つのみだった……かもしれない。



【人物背景】
平安時代・第63代天皇。冷泉院。
生後間もなく権威の関係で非常に恵まれていたが、精神病を患っていた。
奇行エピソードは数多にあるが、御所が火事になった際。大声で歌をうたっていたらしい。
それが『歌』だったのか『呪文』であったのか。現在、真相を知る術は存在しない。
冷泉天皇は『三種の神器』が一つ『八尺瓊勾玉』の箱を開けようとした逸話がある。
箱より白い煙が湧きあがり、恐怖により実物を確認しなかったらしい。

遥か未来で異形の神々によって観測された我々の世界。
ほんの一瞬垣間見えた世界に、彼らは関心を抱く。
無論『這い寄る混沌』すらいづれ、こちらの世界に至るであろう。
ソレと敵対する『生ける炎』は炎を目にし奇行の唄を奏でた冷泉天皇に注目し、接触。
しかし、元より精神が狂っていた事が功を奏し(?)異形の神に取り込まれる事は無かった。

十四松に呪文の詳細を話さないのも、自らの正体を明かさないのも。
彼を正常にさせる為であって、気がふれている訳じゃなく意図的である。
正常になったことで過去の己の行いに恥ており。
仮にそれを指摘されれば、逆鱗に触れたようなもので、正常な意味で憤慨する。
本人は真面目に、親身にサーヴァントとして十四松を守り、十四松の願いを叶えるつもり。


211 : それ以上でもそれ以下でもない ◆xn2vs62Y1I :2018/01/02(火) 23:29:55 BMgiERGI0
【容姿・特徴】
紅色の文官束帯。天皇の座についていた時代である二十歳手前の姿。
顔立ちは非常に整って二枚目。
普段は日本男児らしく短髪黒髪・黒目だが、邪神の能力を使用すると髪目に赤みがかる。
現在、前述の姿で留まっているが、邪な神の力を使用し続けると。
服装と肉体が炎もしくは氷に侵食され、赤髪赤眼へと変色していく。
宝具を出現させると彼の背後で旋回する。


【聖杯にかける願い】
サーヴァントとして正常であり続ける。



【マスター】
松野十四松@おそ松さん


【聖杯にかける願い】
どうしよう……?


【人物背景】
松野家の一卵性六つ子の五男。
明るい狂人。
ジャンルそのものが十四松。ただの十四松。
体のてっぺんから足のつま先に至るまで十四松。それ以上もそれ以下もない。

……しかし、聖杯戦争の一端と異常なフォーリナーを目撃し。
ハッスルマッスルできない状態。


【能力・技能】
足の速さや身体能力は人並以上にあるだろう。
しかしギャグ空間ではない為、いつも通りにはいかない。


212 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/02(火) 23:30:29 BMgiERGI0
投下終了します


213 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:40:10 sdyau6fk0
投下します


214 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:41:12 sdyau6fk0
凄まじいまでの『暴』の気配が室内に満ちていた。
室内で向かい合うのは二人の男。
一人は長身でありながらも、見るものすべてにそれを感じさせない“太い”印象の黒髪黒瞳のアジア系の男だった。
腕が足が頚が胴が太く、それでいて肥満という印象を一切与えないのは、その肉体の内から溢れ出る、狂える獅子の如き獰猛さと、羆ですら素手で屠れそうな‘’力”の為であった。
見たものが受ける印象としては、王。それも万里と続く血河を流し、万丈の高さの屍山を築く獰悪の魔王であった。
対するもう一人は、金髪碧眼の日に焼けた白人男性。
長身であるアジア系の男が見上げる酷の長身であるが、一見すると痩身に見える。アジア系の男の体格を鑑みても、やはり細身であると言えるだろう。
では、この白人はもう一人の男に比して‘‘’弱く”見えるのかと問えば─────。否、この男の身体を見るまでもない、動くところを見るまでもない。
只、其処に在るだけで周囲の万象が、男のものであると認識してしまう比類無き覇気。
只、其処に在るだけで周囲の万象が、薄っぺらく貧相脆弱な書き割りに思える存在感。
こちらもまた、王。覇軍を率いて万里を進軍し、古き秩序を破壊し、其処に住む人々に対して、隷属以外の生を認めぬ暴虐の武王であった。

太い吐息がアジア系の男の唇から吐き出される。

「我が名は董卓!貴様は天下に名の聞こえた王であろう!!名乗るが良い!!!」

白人の目が細められる。

「董卓……ローマと並ぶ東の大国で暴虐をほしいままにした男か」

「然り、それで、お前は?」

「お前は俺の名は知らぬだろう。俺の名はガイセリック。ローマを散々に撃ち破り、永遠の都と謳われたローマを蹂躙したヴァンダルの王よ」

「ヴァンダルもガイセリックも知らぬ名だ。だが、解るぞ!お前が万軍を撃ち破り、敵を降し、都市を破壊し、都を焼き、財貨を奪い、女を犯し、男を殺し、広大な版図を得た事が!!
お前の真名も出自もどうでも良い!!お前が如何なる男か!それのみが解れば良い!!」


215 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:42:55 sdyau6fk0
─────名や出自ではなく、実を知ろうとするか。この男…比類無き“暴”の気質を持ちながら、確かな理知を持つか。

「面白い…」

元より己の召喚者に対しては、悪い感情は持ってはいなかったが、今はっきりと認識した。
この男は強い。そして己と同類だ。
天の意を意に介さず、地の歴史にどう記されるかなど思考のうちに微塵も無く。
只々美女を犯し勇者を嬲り殺し、天下を奪いて君臨する覇王。
欲望のままに奔り、全てを奪い尽くし、前に立つ者は、美醜を問わず善悪を問わず、賢愚を問わず、ただ殺す魔王。
当千の勇者が集う大軍を率いていても、千里を見通す慧眼と一戦で百万の軍を撃滅し、一夜で大城塞を落とす智者が配下にいようとも、一切顧みずに己が力のみを信じ用いる武王。
古き秩序を灰塵と帰さしめ、己の意思を絶対の秩序として布く暴王。
この男は己の同類。人として生まれ、人の極峰を踏破せんとする男だった。

「クカカ……。我等は生まれた時、生まれた地は違えど、同じ者。今ある秩序を灰塵と帰し、全ての地を統べ、全ての民を従えんと欲する者か─────」

「この董卓の同類たるガイセリックに問う!!お前は聖杯に何を望む!!!」

太い眼光、力と意思に 充ちたその眼差しは、只人ならば、否、英霊と言えども凡百な者ならば、精神を呑まれる程のものだったが、ガイセリックはその眼光を真っ向から受け止めた。

「俺の望みか…。俺の望みは世界をこの手に握ることよ」

「ほう、貴様の望みも天下か!!」

「然り、だが、世界を聖杯に願ったりはせんよ。世界などは俺が生きていれば何時でもこの手に掴めるものだからな。願うとすればもう一つ……。
この世では手に入らぬモノ。世界、お前の言う天下よりも価値があるモノが有る」

「お前ほどの男が天下より価値があると断ずるモノとは何だ」

短く息を吐くとガイセリックは瞑目した。遥か過去に失われた存在に想いを馳せているかのような、そんな佇まいだった。


216 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:44:03 sdyau6fk0
「アルテラ、世に騎馬の王アッティラの名で知られる女よ」

「女か。よもや貴様が女で動くとはな。呂布の様に色に迷ったか」

「失望したか?あの女を知らぬ以上は仕方がない故流してやるが、あの女こそ、このガイセリックが唯一対等と認めた王だ。
あの軍略、あの武勇。そして表象の美もそうだが、その在り方、その精神が持つ美。あの女を降さずしては、到底世界を取ったとは言えん。
あの女こそ世界に等しい価値のモノよ。あの女を手中に収めてこそ、俺の覇道は完成する。世界を制覇するのは、その途上だな。
尤も、今生に於いては先ずアルテラを喚び出して我がモノとし、その後に世界を征する事になるがな」

語りだけを聞いていらば、愛の吐露とも聞こえない事もないが、その表情、その目に宿った光を見れば、万人がこの男の願いが叶わぬように祈るだろう。
凄まじいまでの獣性。魂の深奥から溢れ出る破壊衝動と欲望とを隠しも抑えもしない、悪鬼羅刹の如き顔。
その対象が都市ならば、全ての財を奪い尽くし、全ての住人を殺し尽くして、都市そのものを灰塵とするだろう。
その対象が国ならば、住まう民悉くを奴隷とし、治める王を虐殺し、血濡れた玉座に腰を下ろし、領土の隅々にまで己が旗を打ち立てるのだろう。
その対象が一個人ならば─────。人で有る事を許されない。人としての尊厳も感情も破壊され尽くすだろう。
正しく暴戻を欲しいままにする魔王であった。

「ふむ、女と天下を等しいと言うか。まあ良い」

尊大極まりない董卓の物言いにも、ガイセリックは気を悪くした風も無く、鷹揚に頷いた。

「お前もまた世界を欲するか」

ガイセリックの問いに董卓は頷く。

「然り、およそ天下の悉くを自らの手に有し天下の悉くを意のままにふるまい欲望・快楽を極め尽くす! 贅の限りをつくし善悪さだかならぬ果てに届いてこそ尊重な王となるのだ!
俺はその一端を垣間見た、だが、今生は違う!俺は真の王となる!!
だが、盃などに天下を願おうとは思わん。この董卓が生きていれば、自ずと天下は我がものとなる!!」

凄まじいまでの傲慢とも言える自負。然し、この男が言えば、誰も傲慢とは思うまい。そう思わせるものを、董卓は持っていた。


217 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:45:05 sdyau6fk0
「では盃に何を願う」

ガイセリックの問いに董卓は笑顔を返した、地獄の底で嗤う魔王の笑みだった。

「知れた事。これより我等が行う戦いを、座とやらにいる英霊共全てに知らしめる事よ!!
董卓の名を聞けば。それだけで臓腑を吐いて死ぬ様にな」

「ふむ、この世界の人間共のみならず、座の英霊共にまで己が名を轟かせんと欲するか」

「然り。それもまた、我が覇業の一部」

「一部……か。他の全てはこの世にこそある。そして覇業の先に、目指す王の姿がある。つまり我等は」

ガイセリックが嗤う。

「己が目指す処に到達する為に天下を取ると言うわけだ」

董卓もまた嗤う。

「クカカ…良かろう。ならば征くぞ董卓。この世を灰塵とし、我等の秩序を打ち立てる為に。我等の目指す王となる為に」


218 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:47:06 sdyau6fk0
【クラス】
セイバー

【真名】
ガイセリック@五世紀ヨーロッパ

【身長・体重】
210cm・130kg

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:C 幸運:A 宝具:A

【属性】
混沌・中立・人

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。



騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。



【保有スキル】

武王:A
自ら戦陣に立ち、一代で国を築き上げる。若しくは大規模に領土を拡大した王の持つスキル。
Bランク相応のカリスマ・軍略・勇猛の効果を発揮する。




反骨の相:A+
権威に囚われない、裏切りと策謀の梟雄としての性質。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。


文明略奪:EX
人の文明に属するものの所有権を、奪い取り己がものとする。
凡そ‘’人”が作りしものならば、それが 物質であれ概念であれ技術であれ己がものとすることができる。
ガイセリックが‘’欲しい”と思ったものに対して発動し、接触によって奪い取ることができる。


ローマの蹂躙者:A
アラリック一世、アッティラといったローマを脅かした覇者達が、直後に相次いで急死したローマを脅かしたものに対する‘’呪い”、あるいは‘’神罰”。
ガイセリックはこの様な逸話を持つローマを蹂躙しながらも、その後も生き続け、己が王国を堅固なものとした。
この為に同ランクまでの呪いを無効化。ランク以上のものでも効果をランク分削減する。洗礼詠唱の類に至ってはランクを問わず無効化する。
また、ローマに属する英霊に対し特攻の効果を持ち、更に属性が“秩序”であれば、攻撃及び防御に際して大幅な上昇補正が掛かる。


星の紋章:C
ガイセリックの体に刻まれた独特の紋様。通常は見えないが魔力を通すことで表れる。
何らかの高度な術式による紋、ヴァンダル族特有の紋と言う訳ではなく、ガイセリックという個人が有する不可思議な紋。
紋を通じて魔力を消費することで、瞬間的に任意の身体部位の能力を向上させることが可能。魔力放出スキルほどの爆発的な上昇幅はないが、魔力消費が少なく燃費が良い。
更に、直感スキルの効果も兼ね備えた特殊スキルでもある。


219 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:47:43 sdyau6fk0
【宝具】
軍神の剣(フォトン・レイ)
ランク:C
種別:対軍宝具
レンジ:1〜10
最大捕捉:50人

通常は無骨な、柄頭から切っ先まで一つの隕鉄で出来ている長剣だが、魔力を込めることで、三色の輝きを放つ剣へと変わる。
長剣の剣状をしていながらどこか未来的な意匠を思わせる三色の光で構成された「刀身」は、地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得るという。
「刀身」を鞭のようにしならせる他、真名解放を行うことで「刀身」は虹の如き魔力光を放ち、流星の如き突進を持って敵陣を広範に渡って殲滅する。
真の力を解放した時、ランクと種別が上昇する………が、ガイセリックには真の力を解放することは出来ない。




実は……彼の持つ剣は、かつてセファールが地球を蹂躙した際に、当時一番強い神であった戦神を破り、その戦利品として得た本物の「神の剣」。謂わば神造兵器のプロトタイプとも言える武具、或いは概念がこの軍神の剣である。戦利品としたことの影響は強く、その因子を僅かにしか持たぬガイセリックであっても、所持する剣が軍神の剣の性質を持つ程に結びついている。



灰塵となれ古き秩序。崩れ落ちよ古の権威(ヴァンダリズム)
ランク:A 種別:対歴史・概念宝具宝具 レンジ:1-30 最大補足:50人

常時発動型宝具。
ガイセリックがその身に帯びた「文明の破壊者」という概念が宝具化したもの
攻撃を加える度に、攻撃対象の持つ「歴史・概念」を破壊する。
ガイセリックの攻撃を受ける程に宝具や英霊の神秘は薄まり、帯びる概念は剥がれ落ちて行く。
最終的には宝具は只の武具となり、概念・逸話に基づくスキル及び宝具は使用不能になる。
発動させる為には威力の大小問わず攻撃を当てる必要がある。
また、この効果は防御にも発揮され、人の作りしものならば宝具であっても、ランク以下の攻撃を無効化し、ランク以上のものでも効果をランク分削減する。




【weapon】
軍神の剣


220 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:48:11 sdyau6fk0
【人物背景】
五世紀にローマ帝国の『夷を以って夷を制す』政策により、周辺部族から攻撃を受け続けた為に、イベリア半島から北アフリカに渡り、北アフリカのローマの領土を奪って、カルタゴを首都とするヴァンダル王国を建国した人物。
アッティラやアラリックと並ぶ軍略家。
宗教はキリスト教アリウス派。
ヴァンダル王国は、西ローマ帝国の穀倉地帯や資金の逃亡先を征服。カルタゴのローマ艦隊を基盤とした海軍を創設し、地中海の制海権を奪って、西ローマ帝国の経済に致命傷を与えた。
その後、西ローマ帝国の政変により、ウァレンティニアス帝の未亡人、リキニア・エウドクシアの助けを求める手紙に応じてローマを包囲する。。
アッティラとの会談を成功させた実績を持つ、ローマ教皇レオ一世との会談に応じ、ローマを略奪及び破壊しないとの言質を与えて、ローマを開城させるが、入城直後に略奪を開始、二週間に渡ってローマを略奪した。
この結果ローマの貴人、職人が連行され、多数の市民も奴隷として連れ去られた。
このローマに対する略奪を語源とするのが『ヴァンダリズム』(文化破壊運動)である。
体格には恵まれず、落馬事故が元で片足が不自由だったとか。



以上が歴史上のガイセリックである。ここからは本企画における設定。

ガイセリックの祖は一万四千年前に、北アフリカの地でセファールが斃れた時、周囲に飛散したセファールの細胞の一欠片を浴びて融合してしまった人間である。
遺伝子の内にセファールの因子を継いで来たガイセリックは、アルテラの活動に呼応して、セファールの因子が覚醒。文明を破壊する衝動に突き動かされて生きる様になる。
生涯においてローマとの和解を行わず、その晩年に至るまでローマを攻撃し続けたのは、政治的宗教的な経緯の他にも、ガイセリックの内に在る衝動の為であった。
セファールを祖とする為に、アルテラのそれいりも大幅にランクが落ちるが、軍神の剣及び星の紋章を持つ。
然し、元より人として生まれ人として生きたガイセリックは、セファールの持つ破壊衝動に流されず自己流に昇華。
文明に対する破壊の意思を、『旧秩序の破壊』と定義。全てを灰塵とした上で己の布く新しい秩序を構築しようとした。


人物的には分かり易い悪の帝王。享楽的で弱肉強食がモットー。食って呑んで犯して殺す事を人生の喜びとする。“欲しいものは奪う”がモットー。それが人であったとしても変わらない。抵抗すれば力尽くで逆らう意思を破壊して手中に収める。
敵対するものには基本的に容赦せず、媚び諂いながら服従して来たものは嬲り殺すが、気骨ある者や勇者は讃え、才有る者は配下に加える。
一見すれば粗暴に見えるが実際は智謀に長け用意周到。相手を騙して不意を突くことも多い。
己に絶対の自負を持ち、基本的に自分で物事を処理しようとする。
当人はアルテラに対し抱いている感情を恋情の様なものと解釈しているが、実際には細胞が持つ、頭脳体のバックアップと合一して、セファールに近付こうとする回帰衝動である。

【方針】
取り敢えず情報を集める。その上で弱者を打ち斃して傘下とし、強者を数の暴力で潰していく。
威力偵察を行うのも有りだろう。

【聖杯にかける願い】
自身の受肉。そしてアルテラの召喚と受肉。

【外見的特徴】
全身を覆う鎖帷子の上から、革の鎧と脛当てを身に着けた、金髪碧眼の日に焼けた白人男性。長身かつ均整の取れた身体つきは痩身にすら見えるが、実際には膨大な鍛錬と戦闘で完成した戦士の身体である。


【マスター】
董卓@蒼天航路

【能力・技能】
騎馬術、弓術、剣術、軍略に長ける。
カリスマ性も高く、北の異民族を己が傘下とした。
蒼天航路のネームドキャラのデフォだが、身体能力が人の域を超えている。

【weapon】


【人物背景】
後漢末期の人物。黄巾討伐にワザと失敗して辺境に留まり、北の異民族を懐柔して地と人の利を得る。
次いで袁紹の発した宦官追討令により天の時を得て洛陽へと入る。
天子を連れて逃亡した宦官・張譲から天子を奪い、張譲を惨殺。少帝を廃して劉協を擁立、漢王朝の実権を握り、暴虐を欲しいままにする。

序盤で死ぬが、作中における圧倒的な存在感は凄まじく。悪の魔王としてのカリスマ性は比類無い。

【方針】
座にいる他の英霊達が、董卓の名を聞けば。それだけで臓腑を吐いて死ぬ様な暴虐を示して優勝。

【聖杯にかける願い】
この聖杯戦争での己が戦いぶりを座にいる英霊共に知らしめる。現界した時に、董卓の名を聞けば。それだけで臓腑を吐いて死ぬ様に。


【参戦時期】
原作死亡後


221 : 駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中 ◆A2923OYYmQ :2018/01/04(木) 09:48:39 sdyau6fk0
投下を終了します


222 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/04(木) 21:59:53 /tN1yKq20
>No Boy No Cry
 明智光秀という日本人ならばまず知らない者のいない人物を、こうも見事に仕上げてくるか、と感服致しました。
 条件さえ整えばどんな相手であろうと殺せる、と冷たく宣言するシーンは、流石というべき凄味。
 本能寺の変を起こした動機という大きな謎は光秀を語る上で外せない要素ですが、彼女自身それを知らず、聖杯に問うつもりというのも面白い。
 そして、ジャギは本編ではなく外伝の(いくらか)綺麗な彼というのも驚きでしたね。
 この聖杯戦争がまだ引き返せる彼と、引き返しようもない彼女にどんな結末を齎すのか、楽しみです。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>それ以上でもそれ以下でもない
 タイムリーなフォーリナー! どこぞの浮世絵師といいこの天皇といい、日ノ本は地獄としか言い様がない……。
 炎の邪神といえば、やはり某混沌の天敵ですね。森燃やさなきゃ(使命感)。
 個人的にはあの有名な神器の存在そのものが実は邪神に捏造された歴史だったのかもしれない、という設定がいいトンデモ感で非常に好きです。
 マスターの十四松もスキルで狂気を持ってそうな奴ですが、さすがに邪神が絡んだ人には押され気味のようですね。
 明らかに不穏の塊であるこのフォーリナー、果たして十四松に扱いこなせるのか……。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中
 このお話から感じたものを一言で表すなら、〝男〟ですかね……。もちろん、いい意味で。
 男らしい、非常に濃い雰囲気が印象的なSSでした。女々しさのめの字も存在しねえ。
 ヴァンダリズムという言葉の語源にもなる行いをしたガイセリックの傍若無人さもよく表現されていたように思います。
 そしてそんな彼がセファール絡みのなかなかに厄い存在だという設定が、また面白いなあと感じました。
 セファールの破壊衝動を自己流に昇華させるとか、さらっと凄いことが書いてあるのもポイントですね。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


223 : その男、完璧主義者につき ◆Il3y9e1bmo :2018/01/05(金) 18:28:04 mB3ahFZg0
投下します。


224 : その男、完璧主義者につき ◆Il3y9e1bmo :2018/01/05(金) 18:29:02 mB3ahFZg0

完璧主義は最高の自己批判である。

                       ――アン・ウィルソン・シェイフ

◆ ◆ ◆

埃一つ無い窓枠、床にはベッドと椅子と本棚が一つずつ、壁にはポスターどころかカレンダーさえかかっていない。
そんな寒々しささえ感じる無機質な部屋で男が一人、読書をしていた。
男の名は虹村形兆。スタンド使いだ。

読んでいる本はダンテの「神曲」。
ただ奇妙なことに形兆は先程からページをめくっていない。
形兆がそのページを全て読み終えると独りでにページが浮き上がり、めくれていくのだ。

いや、よく目を凝らしてみると小さなフィギュアのようなものが本を支え、ページをめくっている。
これこそが虹村形兆のスタンド、『バッド・カンパニー(極悪中隊)』である。
歩兵60名、戦車7台、戦闘ヘリコプター4機等々で構成されているこのスタンド群は、形兆のこまごまとした雑用をこなすために日夜働いていた。

「今日はここまでにしておくか……」

形兆が本を一通り読み終え、一息入れようかと思ったその時、待っていたかのようにドアがノックされた。

「お前か。入れ」

形兆はドアを一瞥するとそう言った。

「ハァイ☆」

部屋に入ってきたのは――中東系だろうか――肌の浅黒い筋肉質な青年である。
頭にターバンを巻き、上半身は裸で白いゆったりとしたズボンを履いている。
全身が血まみれになっているが本人の身体は傷ついた様子がない。――となると、返り血だろう。

「おい、またやったのか。前にも言っただろ、床が汚れるからシャワーを浴びてから部屋に入ってこい」

形兆はあからさまに眉をひそめてそう言った。

「やーだー、そんなこと言ったって仕方ないじゃない。襲われる前に殺っとかないと。殺られてからじゃ遅いのよ?」

形兆のサーヴァント――アサシン『アリババ』――は、返す刀で言い返した。

「そんなことは分かってる。俺が言いたいのは……」

「んもー、そんな細かいことばっかり言ってるとモテないゾ☆」

アリババは形兆の口を人差し指で塞いでウィンクした。
形兆の背筋に寒気が走る。

「汚らしい上に気持ちが悪いわ〜〜ッ!」

形兆はポケットから白いレースのハンカチを取り出すと口を拭った。

「兎に角シャワーを浴びてこい。頼むから浴びてきてくれ。な?」

「分かったわよ。ちょっと待ってて。シャワーを浴び終わったら今日の釣果について話しましょう」


225 : その男、完璧主義者につき ◆Il3y9e1bmo :2018/01/05(金) 18:29:35 mB3ahFZg0
◆ ◆ ◆

――アリババがシャワーを浴びに行ってから10分後。
形兆は『バッド・カンパニー』に命じて床とドアノブの雑巾がけを行っていた。

「まぁた自分の『スタンド』に命令して自分はふんぞり返ってるの。そんなんじゃ牛になっちゃうわよ。牛に」

「ぬッ!?」

いつの間にか形兆の後ろに、シャワーを浴び終わってバスローブに着替えたアリババが立っていた。

「ビックリした? ねえ、ビックリした?」

「うるさい」

子供のようにはしゃぐアリババをよそに形兆は溜息をついた。
これではどちらが年上なのか分かったものではない。

「しっかし、いつ見ても良く出来てるわよねー、これ。アタシ初めて見たとき何かの絡繰仕掛けかと思っちゃったもん」

アリババはバッド・カンパニーの内の一体を指先で突っついた。
そう、どうやらサーヴァントにもスタンドは『見える』らしいのだ。
初めは自身のサーヴァントにも手の内を明かすのを嫌がった形兆だったが、この事実を先に知れたのは大きなアドバンテージだった。
例えば相手のマスターを暗殺する際、マスターであろうとサーヴァントであろうと『見えない』のであれば、いきなり特攻させて問題ないと思っていたが、サーヴァントに見えるのであれば問題は別だ。
バッド・カンパニーでマスターを攻撃する場合、サーヴァントとマスターをなるべく引き離してから殺るのが最善手だろう。そう形兆は考える。
まだまだ考えることは山積みだ。何せ聖杯戦争を勝ち抜くためには戦略はいくらあっても足りないのだから。

「――ちょっと、ちょっと聞いてるの? マスター?」

「ん? ああ、すまん」

考え込みすぎていたようだ。
アリババが今日の諜報、及び主従狩りの報告を始めていたらしい。

「――というわけで、今日は二組も殺っちゃいました☆ 褒めて褒めてー!」

「ふむ、順調だな」

「これで合計三組の主従を殺ったことになるわね」

「殺り過ぎか?」

「うーん、かも、ね。そろそろ他の強豪に目を付けられ始める頃合いだから暫くは潜んでた方がいいかも」

――などと剣呑な話をしていると、形兆とアリババが同時に何かに気づいた。

「……来たな」

「来たわね」

「せっかくいい部屋を借りれたと思ったんだがな……。こればかりはどうしようもないか」

やれやれといった表情を見せる形兆。

――と、次の瞬間。派手な爆発音が部屋の外から鳴り響いた。
あまりの轟音に部屋が軽く揺れる。

「引っかかったな。マヌケが」

先程の音は誰か――十中八九は形兆たちをつけ狙ってきたサーヴァントだろうが――がバッド・カンパニーが仕掛けていた小型地雷に引っかかったことを意味する。
サーヴァントであればダメージはほぼ無いに等しいだろうが、一瞬でも意識を逸らせれば僥倖。

「さて、命令を。マスター?」

あっという間にいつもの装束に着替えたアリババは、微笑みながら形兆に問いかけた。

「――ああ、俺たちの敵を討ち倒してこい。アサシン」

「御意」

そういって影に溶けていくアリババを見ながら、形兆はこの聖杯戦争での勝利を確信した。


226 : その男、完璧主義者につき ◆Il3y9e1bmo :2018/01/05(金) 18:30:15 mB3ahFZg0
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【CLASS】アサシン

【真名】アリババ@千夜一夜物語

【性別】男性

【身長・体重】175cm・75kg

【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:D 幸運:A 宝具:A

【属性】混沌・中立

【クラス別スキル】
気配遮断:B+
自身の気配を消す能力。攻撃態勢に移るとランクが下がる。

【固有スキル】
黄金律:A
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

多勢殺し:A++
大勢の敵と戦う際、全てのステータスにプラス補正を得る。
敵の数が多ければ多いほど、プラス補正は大きくなる。

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
視覚・聴覚への妨害を半減させる効果も持っている。

【宝具】
『シムシム、扉を開けよ(オープン・セサミ)』
ランク:D 種別:開放宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1
範囲内の「閉じている」とアサシンが認識したものを強制的に開かせる宝具。
施錠された扉やジャムの瓶は言うに及ばず、瞼や完治していない傷口等も開かせることが出来る。
ただし、感情などの認識が難しいものには影響を与えにくい。

『女奴隷と煮えたぎる油(シージング・ポット)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:39
アサシンの元で奴隷として働いていたモルジアナという女性が、壺の中に隠れた39人の盗賊たちを沸騰した油を壺の中に注ぎ込むことで皆殺しにしたという逸話から生まれた宝具。
範囲内の対象を壺の中に捕らえ、煮えたぎった油でもってそのまま焼き殺す。
この「焼き殺す」というのは宝具を展開した時点で決定事項であり、熱に耐性を持っていようが、耐久が高かろうが壺から脱出しない限りは確実に焼き殺されてしまう。
また、壺は内側からは絶対に破壊不能であり、脱出するには誰かに外側から蓋を開けてもらうか、瞬間移動系のスキルを使用して外に出るしかない。

【Weapon】
曲刀

【マテリアル】
千夜一夜物語の中の一つである、「アリババと40人の盗賊」に登場する主人公。
働き者だったが貧乏だった彼は、ある日偶然山まで出かけた際に、40人の盗賊たちが宝を魔法の洞窟に隠しているのを目撃する。
「シムシム、扉を開けろ!」の呪文で開くその魔法の洞窟の奥には盗賊たちの隠した莫大な財宝があり、アリババはそこから一部を持ち帰り、それを元手に大金持ちとなる。
以前より金持ちだった兄のカシムにもその秘密を話したが、カシムは欲に身を任せた結果、盗賊たちに見つかり殺される。
アリババはカシムの遺体を発見し持ち帰るも、そのことから盗賊の頭領にカシム以外に秘密を知る人間がいることを勘付かれてしまい、命を狙われる。
幾度と無く差し向けられる刺客をアリババの元に居た聡明な女奴隷モルジアナが上手くあしらったため、頭領自らが素性を隠し、アリババを狙ってやってくる。
しかし、ひょんなことから盗賊の頭領であることはバレてしまい、隠れ潜んでいた盗賊たちはモルジアナによって皆殺しにされ、頭領も隙を突かれてモルジアナに刺殺される。
アリババはこれらの功績からモルジアナを奴隷から開放し、息子の妻とした。そして盗賊たちの宝を国中の貧しい民に分け与え、アリババの一族は繁栄した。

【外見的特徴】
頭にターバンを巻いた肌の浅黒い筋肉質な青年。
全身からアンニュイな雰囲気を醸し出しているが、喋るとハイテンション。
現界時に何故かモルジアナと意識が混濁しまったらしく妙にオネエっぽい。

【サーヴァントとしての願い】
特になし。
マスターに従う。


227 : その男、完璧主義者につき ◆Il3y9e1bmo :2018/01/05(金) 18:30:34 mB3ahFZg0
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【マスター】
虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない

【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ、父を完全に殺す。

【Weapon】
無し

【能力・技能】
スタンド『バッド・カンパニー(極悪中隊)』
【破壊力:B/スピード:B/射程距離:C/持続力:B/精密動作性:C/成長性:C】
M16自動小銃を装備した歩兵60名、戦車7台、戦闘ヘリコプター4機で構成されている米陸軍を模したミニチュア軍隊のスタンド。他にも地雷やグリーンベレーがいる。
群体型のスタンドであるため、数体倒されたところで本体には影響はほとんどない。
軍隊の武器のサイズは小さいが威力は本物であり、数体の同時攻撃やミサイルでの攻撃は高い殺傷力を誇る。

【人物背景】
スタンド使いの青年。冷静沈着で非常に几帳面な性格。
参戦時期は音石明に殺害される前。

【方針】
優勝狙い。
とりあえずは弱そうな主従から狙う。
強そうな主従の場合、スタンドやアサシンを使って情報収集を行う。


228 : その男、完璧主義者につき ◆Il3y9e1bmo :2018/01/05(金) 18:30:51 mB3ahFZg0
投下を終了します。


229 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:55:57 M8LtO3i.0
投下します。


230 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:57:03 M8LtO3i.0
ぐつぐつ、ぐつぐつ。
既に日も暮れた寒空の下、月の光も当たらぬ橋の下で男は静かに鍋を見つめていた。
いや、見つめていたというのは正確ではない。男の瞳は白濁しており、とても物が映るようには見えない。
男は集中していた、この橋の下で唯一響く鍋が煮立つ心地良い音に、そして鍋から匂う――おぞましい獣のにおいに。
鍋が煮立った、そう判断した男は鍋の蓋を開けた。

「あっち!!」

開けた瞬間、煮立った汁が顔にかかり大きくのけぞる。
失敗したなあ、そうぼやきながら男は特徴的な金の前髪に付いた汁をぬぐった。

「おい、貴様、何をしている」

背後から声がかかる。
さっきまでこの橋の下には鍋の音と匂いしかなかったはずだが、突如気配が背後に現れたのだ。

「煮込んでる」

それでも男は気にせず箸で鍋をかき回す。このサーヴァント・アサシンと出会った時から、こういうことは日常茶飯事であった。
背後から舌打ちが聞こえて来る、振り向けば獣臭に顔をしかめるアサシンの顔が見える、ような気がした。

「何を煮込んでいる」
「ん」

男は口を閉じたままそっと箸を上げる。
その箸には、汁の滴る肉球の付いた足が掴まれていた。

「それは…」
「犬だよ」

あっけからんに男は答える。


231 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:57:17 M8LtO3i.0
「この町にゃアマゾンもいねえし、鶏もこの目じゃ育てられねえし、肉を探すのに手間取ったぜ。痛っ」

足にむさぼりながらそう答えた男は、血の付いた骨を吐き出した。
その光景に皮肉気な笑みを浮かべながらアサシンは聞いた。

「旨いか?」
「まじい、獣臭いうえに骨が尖ってやがった、内臓は取っておいたほうがよかったな」
「その割には箸が進んでいるようだな」
「でも空腹には勝てないんだな」
「所詮下賤な者の食事とはその程度か」

アサシンはそう言いながら、鍋の近くに白い物が刺さった棒を突き立てた。

「…そういうあんたのそれは何だよ」
「餅とやらだ、向こうで配っていた」
「餅」
「その鍋、匂いが落ちるまで洗うことだな。俺が使う」
「あんたもさ、結構なアウトドア派だねえ」

男はそう笑いながら鍋の中のものを口に掻き込んだ。
弱い火で餅が膨らんできたころ、ようやく男の食事は終わった。

「ふぅー、食った食った。ところでさ、あんた」
「なんだ」
「ここで人、殺してねえよな?」

アサシンがそう尋ねる男の顔を覗き込むと笑顔のままだった。
しかしその笑顔は以前とは違う、冷たい笑顔だ。そう感じた。

「貴様に答える筋合いはない」

そう答え、焼けた餅を食おうとしたところで、串ごと餅をひったくられた。


232 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:57:29 M8LtO3i.0
「俺はな、人類のために戦ってるんだよ。俺は俺が殺したものを食うし絶対に人は殺さねえ、そう決めてる」
「俺には関係のないことだ」
「そうはいかねえんだよ、生前のあんたはどうでもいいが、人殺しのバケモノを野放しにするわけにもいかねえ、もし殺してたら…この令呪とかいうので始末を付けなきゃならねえ」

そう言って男――鷹山仁は胸に刻まれた印、令呪を覗かせた。
だが、アサシンは顔色一つ変えない。

「ならば何かが起こる前に、俺を殺してみせたらどうだ?」
「聖杯で願いがかなえられるって奴には興味がある」
「誰も殺せないと宣う身でか?」
「あんたならわざわざ人を殺さなくても勝ち残れるんだろ」
「確かにマスターを狙わなくとも戦うことは容易い…が、二つほど確認しておく必要はあるな」
「………」

鷹山仁はアサシンを睨んだまま黙った。
それに構わずアサシンは続けた。

「まず一つ、人間以外なら殺そうが構わんな?」
「当然だ」
「二つめ、…殺さなければ、良いんだな?」
「………」

鷹山仁はアサシンを睨んだまま黙る。
アサシンはこれを肯定と取った。

「そろそろ俺の餅を返せ」

アサシンは鷹山仁の手にある串を握った、その手にはもはや力はなく、易々と串を奪い、餅にありつくことができた。

「うん、これは中々、王をやっていると中々温かい物にはありつけんからな。このような戦いも一興…」
「あんた、小さいんだな」


233 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:57:43 M8LtO3i.0
「…背が低いから、なんだ?」
「いやあ、そうじゃなくて幼いっていうか純粋っていうかな
いちいち聞かれたら答えて、正確にしなきゃ気が済まないっていうか」

鷹山仁はそう言って寝転んだ、見透かされたかのような言い分にわずかに顔をしかめたが、アサシンはしばらくしてから再び餅を食べ始めた。

「…俺の願いは、俺の息子を、俺が作ったアマゾンを全員殺すことだ、人類のためにな」

ようやくありつけた餅にアサシンが舌を打っている最中、突然鷹山仁は語り始めた。
アサシンは食べる手を止め、その目を見た。

「お前のために、だろう?」
「…ああ、そうだな…最後の質問だ」


「お前の願いは、なんだ?」


「………人類に害する願いならばここで殺すということか?俺は正直者だから答えると?」

やれやれ、そう言ってアサシンは肩を伸ばした。

「貴様相手に隠す必要もないか、俺の願いは………」


パチパチと、焚火が火を噴いていた。
鷹山仁は木が焦げる匂いが鼻を焼き、火花のはじける音が耳に響いた。
アサシンは「のどが渇いた」と言い残し離れている。
鷹山仁は回想した、アマゾンを作ったこと。人を食うそれらが逃げ出したこと。己もアマゾンとなり、戦いを始めたこと。七羽と出会い、過ごしたこと。意思を失いながらアマゾンと戦ったこと。その中で息子が、千翼が生まれてしまったこと。視力を失い、あてもなく二人を探しているさなか、この地へ呼ばれたこと。そして、あの男の願いを。
聖杯戦争。他人の願いを食らうことが罪か。聖杯という手段から目を逸らし、この眼の死角にいる七羽と千翼を見ている気になっていること罪か。


234 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:57:56 M8LtO3i.0
「…わかんねえな、何も」
大の字になって寝転ぶ、己の作ったアマゾン細胞は頑丈だ。地面の上で寝ても十分休憩できる。
己の使命と、そしてアサシンの言った願いを考えながら、鷹山仁は眠りについた。
---------------------------------------------------------------------------------------------
「貴様相手に隠す必要もないか、俺の願いはお前と同じだ」

「子を殺す。俺のためにな」
---------------------------------------------------------------------------------------------


235 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:58:15 M8LtO3i.0
「これが飲み物を買う箱…で、良いんだな?」

アサシンは自動販売機の前で固まっていた。
飲み物を買いに来た、それはいい、飲み場の確保はアウトドアの鉄則だ。この箱の使い方は解っている。しかし、小さな牧場というべきか、小さな釣り堀と言うべきか、この箱には多くの獲物がいた。
大牧場主にして漁師、あのドゥムジの顔が浮かんだ、奴なら少ない狩り道具でどの獲物を獲るのか。
酒は無いんだろうか、特にウルクでも親しんだビールに、じゅわじゅわと広がる泡を混ぜたあれは旨い。鷹山仁が飲んでいたのを見たし、外見も覚えたがここにはない。
好きな獲物が好きな場所で見つかるわけではない、アウトドアの鉄則だ。
足にものを言わせて探すべきか、そう思ったところで見知った絵が目に入った。
餅だ。よくわからんが餅が描かれているということはきっと餅に合う飲み物に違いない。
そう思い、『おしるこ』というものを買った。
熱い、今まさに箱から狩ったばかりの獲物の温もりをこの手に感じる。
時代は変われどアウトドアは変わらない、それを実感しながらアサシンは帰路へ着いた。

「や〜がて〜星が降〜る、星が降る頃〜」

どこからともなく流れてきた歌に、アサシンは何となく空を見上げる。
この国でも、星は美しい。
アサシンは思った。
故郷ウルクの星を見上げた日を。
8人の王子の末として生まれながら、王の地位を望んだ幼き日。
王にふさわしい名誉を求め、父兄達と共に従軍したが、道半ばで倒れたあの日。
ウトゥの導きにより目覚め、アンズーと契約を結んだあの日。
契約を隠し名誉を重ね、優しい兄達を足蹴にして王の地位に就いたあの日。
イシュタルの寝床を、国をアンズーに与え、女神を娶り更に神の力を得たあの日。

―――これが全て我が子、王孫となるものの名誉のためであり、我が名誉は永遠にその背後で輝くものになると星読みに告げられたあの日。
あの日、生まれた我が子を、人理の可能性を、丘から投げ捨てたあの日。
地の上に立っても、人の上に立っても、天の上に立っても、星は常に我が頭上に輝いていた。

一体どれほどの業を重ねれば、我が名誉は永遠にこの世で輝き続けるのか。


236 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:58:47 M8LtO3i.0
スーツに付いたポケットの中のハンカチを握りしめる。
もはや何も躊躇いはない。星読みから我が子の栄華を、我が名誉の行く先を知ったあの時から、我が子を投げ落としたあの時から、もはや我が名に戻る場所はない。

神としての能力すら半端なため、このような戦いに呼ばれたが、この戦いはチャンスでもある。
あのマスターを、己の世界を、人理をも犠牲にしてでも、願いを叶える。


(お前、小さいんだな)

ふと、あの男の言葉が脳をよぎった。
「小さき王<ルガルバンダ>はもういない…」
ハンカチを取り出し、広げる、そこには先に吐き出された犬の骨と、それにべっとりと鷹山仁の赤い血がついている。
あの男の体は異常だ、下手をすると魔力のパスで繋がり、正常な判断力のある俺の方が分かっているかもしれない。
鬼が出るか蛇が出るか。己の国に神獣をバラまいた俺が恐れるものではない。


「我が名は…セウエコロス」

星を目指し続けた小さな王は、そう呟いた。


237 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:59:04 M8LtO3i.0
【クラス】
アサシン

【真名】
セウエコロス@ギルガメッシュ叙事詩(ギリシャ)

【身長・体重】

【ステータス】
筋力:C++ 耐久:D 敏捷:A++ 魔力:B 幸運:A- 宝具:A+

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
本来の彼には暗殺者たる逸話はないが暗君セウエコロスとしての現界によりプラス補正がかかっている。

【固有スキル】
神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

仕切り直し:A
戦闘から離脱する能力
どんな状況でも戦況をターンの初期状態に戻す事が可能

真名秘匿:C
真名看破判定を妨害する能力。
Cランク以下のスキル・宝具による真名看破を無効とする。

心眼(真):E
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握する。


238 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:59:25 M8LtO3i.0
【宝具】

天を掴む炎(フラムマ・ブラキウム)&地を駆る稲妻(フルメン・ペース)
ランク:B
種別:対人宝具
レンジ:1〜100
最大捕捉:1~?人
神獣アンズーより授かった疲れを知らぬ手足。
その腕を振ることで炎のように跳躍し、その足は稲妻のように大地を駆ける。
この宝具が存在する限り手足に限りAランク相当の対魔力・単独行動が働きたとえ死の淵であっても衰えることはない。
更に真名開放により天を掴む炎ならAランク相当の魔力放出(炎)が発動し、全身を天まで届く巨大な火柱と化し、
地を駆る稲妻ならAランク相当の魔力放出(雷)が発動し全身を稲妻と化して文字通り雷速で移動可能。
しかし、どちらも真名開放した場合真名秘匿スキルがその後恒常的に無効となり、さらに天を掴む炎、地を駆る稲妻両方の効果が十分な魔力供給を受けるまで無効化される。
生前のアサシンはアンズー鳥の教えを守り、真名開放することはなかったので最大威力・範囲のほどは不明。


麗しきハルブ木の頂(アンズー・テムプルム)
ランク:A+
種別:対国宝具
レンジ1〜100
最大捕捉:5000人
上記の宝具を得る代償として神獣アンズーの威光をウルク中に知らしめ、各神殿に石像を配置したという伝説が宝具となったもの。
稲妻を咥える獅子頭の怪鳥、神獣アンズーを召喚し、さらに副次的にその配下である『巨大な蛇』、『梟の魔女キシキルリルラケ』を召喚可能とする。
神獣アンズーはウルク中に神威が広まった伝説から一つの市を制圧するのに十分な数を召喚可能。

【人物詳細】
セウエコロスとは英雄王ギルガメッシュ誕生に関わる登場人物であり、バビロン(ウルク)においてギルガメッシュの二代前の祖先だとされる。生まれる子供が己の王権を揺るがすと予言された彼は、ギルガメッシュの母とされる人物を丘に幽閉し、生まれたギルガメッシュは丘から投げ捨てられたという。
現地であるシュメール語版・アッカド語版ギルガメッシュ叙事詩に登場することはない。
遠いギリシャ語の文献にのみ見られる彼の物語は、伝わったギルガメッシュ叙事詩に現地での創作が加えられたものと思われる。
ギルガメッシュの二代前の王の現地での名はギルガメッシュの父とされるルガルバンダ。彼は父エンメルカルと7人の兄とともにアラッタ遠征に赴き、その道中で倒れ、置いて行かれた彼は合流するためにアンズーと契約を結び、授かった健脚を持ってして合流、その健脚を活用し戦争を終わらせたのち、契約の通り故郷ウルクにアンズー信仰を広めた英雄。
没後は全ての王の父とされ、後の王が己を英雄王ギルガメッシュと同一視させるためにその名を用いられたという。

本来存在しないセウエコロスとして召喚された彼は、英雄ルガルバンダの別側面(オルタナティブ)として見るべきか、創作された無辜の怪物と見るべきか、はたまた異聞の地から呼ばれたのか。
伝説の中で、明示されたタブーを破らず健脚を隠し通した彼がその正体を明かす保証はない。


239 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:59:40 M8LtO3i.0
【聖杯にかける願い】
己の名を何よりも、息子より輝けるものとする。
例え息子が死んでも、それゆえ人理に先がなくなろうとも構わない。

【外見的特徴】
身長170cmほどの小柄な体格、外見年齢は20代半ばほど。
息子似の金髪と赤い目をしているが現地調達した伊達メガネを着用している。
肉体は?せすぎず太すぎず、少なくとも外見的に手足と肉体に差はない。
私服としては黒スーツを着用しているが、
サーヴァントとしての服装は上半身は裸に金色のローブを羽織り、下半身は鳥の羽の文様の入ったスカートを着用。

【マスター】
鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズ


【聖杯にかける願い】
アマゾンを全員殺す


【参戦時期】
Episode 8 ~ 7の間

【能力・技能】
アマゾンズドライバーによりアマゾンアルファへ変身可能。
使わずともアマゾン細胞により人間より強固だが、タンパク質を摂取しなければならず、目は傷により異常を来たしている。
更にトラロックによる突然変異で摂取したものをアマゾンへ変える溶原生細胞を保有している、本人の自覚があるかどうかは定かではない。


240 : 狂気のレガシー ◆VJq6ZENwx6 :2018/01/05(金) 21:59:50 M8LtO3i.0
投下終了です


241 : ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:06:07 8SeUSodw0
投下します。


242 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:08:07 8SeUSodw0

その日、京都市内の全てのテレビ、モニタ、携帯端末に、なんらかの画像が表示された。
記録に残らないほどの一刹那。けれど、それは何度も繰り返され、人々の潜在意識に微妙な影響を与えた。



これから、戦争が始まる。
大規模テロが起きる。
ミサイルが落ちる。
大勢の人が死ぬ。
鬼神や悪霊が徘徊する。
京都は地上の地獄と化す。
天変地異が発生する。
世界が終わる。

そんな噂がSNSに流れ、広がっていく。リツイートが増え、まとめサイトが取り上げる。
大多数の人々は、苦笑とともに無視する。いつの世も、世界の終わりを唱える者はいた。
けれど、その幻想を必要とする者は、いつの世もいる。世界よ終われと唱える者たちが。
世界から必要とされない、力なき、名もなき、顔なき者たちが。

確かに年明けから、急に京都市内で物騒な事件が頻発し始めた。噂は信憑性を帯び、尾鰭がついて拡散していく。

その情報は人々の心の暗い部分に、火種を作り、燠火を灯す。いつか灰が掘り起こされ、それが空気に触れた時。
それは燃え上がり、町を、人を、世界を焼き尽くす。


243 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:10:21 8SeUSodw0



「はぁ……」

深夜。アパートの一室。パジャマ姿でベッドに仰向けになり、暗い天井に向けて、彼女は本日何度めかのため息をついた。心が重い。体が重い。

癖っ毛でセミロングの銀髪、色白で碧眼の美女。スタイルも良い。
だが生真面目で気弱で、不憫な雰囲気を漂わせる。見るからに悪い男に騙されそうな、幸の薄そうな女性である。

彼女は平凡な一市民。何らの異能も持たず、武術も習得していない。ただの英語教師だ。京都市内の中学校に勤めている。
国籍は……ニュージーランドということになっている。本来は、そうではない。彼女の祖国は、この世界には存在しない島国だ。
赤道直下、東経150度。パプアニューギニア領ビスマルク諸島の北百数十キロ。北ビスマルクプレート、カロライナプレート、太平洋プレートがぶつかるあたり。

「聖杯……それがあれば、リモネシアも……」

彼女の名は『シオニー・レジス』。祖国を愛し、25歳にして外務大臣となり、そして……知らずとは言え、祖国の首都を消滅させた張本人。
いろいろあった末にリモネシアへ戻り、一市民として教職に身を捧げていた。祖国に大災害をもたらし、多数の国民を死なせた大罪人であることを、ひた隠しにして。
あの忌まわしい事実から目を背け、忘れようとしていた。これは、その報いなのだろうか。

「…………いやいやいやいや。あれは悪夢。あれは幻。あんなバカなことが起きてたまるか!」

シオニーの精神は、全てを捧げてきたリモネシアが滅んだ時に、一旦崩壊した。その後は、よく覚えていない。記憶に蓋をしてしまった。
それからいろいろなことがあり……いろいろなものを継ぎ合わせて、危ういバランスのままだ。時々PTSDの発作を起こすため精神安定剤の世話にもなっている。
リモネシア残存部の住民は先住民や移民が多く、自分を知らなかった。大災害での大混乱もある。一応名前も変えた。知っている者もいたのかもしれないが。
ようやく落ち着き始め、天職とも言える職業につき、陰ながら祖国復興の一助を担おうとしていた時……何かを拾ったせいで、ここに呼ばれてしまった。聖杯戦争の場に。

「私は京都在住の欧州系ニュージーランド人、中学校の英語教師……恋人募集中……リモネシアなんか知らない……戦争なんか知らない……」

虚しい。涙も出ない。さっき地図アプリで確認したが、この世界にはリモネシアなる島自体が存在しない。帰るべき場所がない。
聖杯を手に入れねば、リモネシアが存在する世界へは還れない。そういうことになってしまっている。なんてことだ。いっそこのまま日本で暮らそうか。
それにしても聖杯とは。私をここへ呼び寄せ、偽りの記憶を与えるほどの事ができるなら、大概のことは叶えられそうではある。DECとかそういうのに近いなにかか。
平行世界。大時空震動。三大国。戦争、戦争、戦争、戦争。抑圧してきた記憶がフラッシュバックしそうになり、薬の紙袋に手を伸ばす。いや、まだ、まだ大丈夫だ。

BBBBBBBBBBB…… 「ひっ!?」

顔の傍らのスマホが振動した。なんだ。誰だ。相手の名前や電話番号は、表示されていない。いたずら電話か。だが一応、出ておこう。学校からかも知れないし。
「……も、もしもし」


244 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:12:48 8SeUSodw0

『違うね』

低い男の声。英語だ。誰だ。間違い電話ではないのか。……電話が、切れない。
続いて、別々の声がした。女の声、男の子の声、少女の声、老婆の声、濁声、かすれ声、機械音声……。
「お前はそうじゃない」「思い出せ」「愛する祖国を」「リモネシア」「リモネシア」「リモネシア」「リモネシア」「リモネシア」「リモネシア……」

「ひいっ!?」
瞳が揺れる。両眼から涙が溢れ、吐き気がしてきた。鳥肌がたち、脂汗が滲む。やめて、やめて。
だが、ここで負けてはダメだ。気力を振り絞り、言い返す。
「だっ、誰だ!? 敵か!?」

スマホの画面に、奇妙な画像が現れた。頭のない、黒いスーツの男を図像化したような。それに重なって、何かがノイズめいて……。

「泣かないで」「安心しなさい」「私は」「お前の味方」「お前のサーヴァント」「『アサシン』さ」「マスター」「シオニー・レジス」「殿」

シオニーの背筋を、さらなる悪寒が走る。頬をつねる。痛い。現実だ。悪い夢などではない。本当に、聖杯戦争が行われようとしているのだ。
サーヴァント。アサシン。暗殺者。脳内に吹き込まれた情報によれば、通常はサーヴァントの中では戦闘力は低い。
しかしマスターを暗殺することにかけては、右に出る者はないという。気配を消し、後ろからざくりと殺るのがアサシンだ。
ということは。勝ち残るには、生き残るには、こいつを使って『人殺し』をしなければならない。

意図的に人を殺した経験は、ある。あの日、私は自国の大統領を暗殺している。だが、だが、だけど。その結果が、アレだ。
なんでも望みが叶う? どうせろくなことにならない。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘をついている。でも、もし、本当なら。
それで祖国が復興するなら。私の罪が、帳消しになるなら。胸を張って祖国へ帰れるなら。私の名が、祖国の英雄として残るなら。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。とにかく、とにかくだ。

「し……真名を名乗りなさい! そして、姿を現しなさい!」

スマホから、何十人もの、何百人もの笑い声。シオニーを、自らを、嘲笑するかのような。

「私の」「名を?」「名は無い」「捨てた」「捨てられた」「仮に名乗ることは出来るけど」「ね」「姿は」「ない」「見ている通り」
「私は」「アサシンの」「サーヴァント」「名は」「仮の名は」「概念としては」「そうだなあ」「こう定義しておこう」

ジジッ。スマホ画面に、奇怪な仮面が浮かび上がる。その口が動き、多数の声で名乗る。ゆっくりと。

「「「『ガイ・フォークス』」」」


245 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:15:08 8SeUSodw0

ガイ・フォークス。英語圏では有名な、彼か。けど、何をしたんだっけ。記憶が曖昧だ。
私は英国へ行ったことはない、と思う。AEUは……どうだっけ。外務大臣だから、行ったとは思うのだが。
「知っているか、知らないか」「お前は多分知らないだろう」「私の所業を」「歴史を」「ブリテンを知っているか」

ブリテン。それを聞いてふと、口から呟きが漏れる。
「……ブリタニア・ユニオン?」

ざわざわざわ、とスマホの向こうからざわめき。ブーイング。どうも失礼なことを言ってしまったようだ。どうしよう。
「違う」「忌まわしや、あの悪王」「グレートブリテンの王、連合(the Unite)などと」
「イングランドと言うべきだったぞ、私」「そうだ私」「すまない私」「ならば、聞け!」
不興を買ってしまった。ブリタニア・ユニオンは、そうだ、欧州ではなかった。アサシンたちがオペラめいて語り出す。

「我らは暗殺者」「我らは反抗者」「悪王を殺すために」「計画を巡らせたぞ」
「計画は失敗し」「我らは捕まり」「残虐に処刑された」「我らは死んだのさ」
「死してもなお」「名をば残せり」「ガイ・フォークス」「ガイ・フォークス」
「名もなき者も」「我らとなるぞ」「ガイ・フォークス」「ガイ・フォークス」

そうだった。思い出した。彼は17世紀初頭、ジェームズ1世を暗殺しようとしたテロリスト。詳しくは知らないが、そう聞いた。
なるほど確かに暗殺者、アサシンだ。暗殺に失敗した暗殺者。そんな彼が聖杯を得たら、何を望むか。いや、そもそも。
「…………あなたは、聖杯が欲しいの?」

問いかけに、再び何百人もの笑い声、嗤い声。いろいろな言葉が一斉に。
「聖杯」「ははは!」「主の聖血を受けた杯!」「知っているさ、欲しいとも!」「普遍公同の教会のため!」
「ガイ・フォークスならそう言うだろう!」「今の私は?」「反体制! 反体制!」「火!火!火!」「火と剣!」
「お前も望んでいよう!」「聖杯を! 聖杯を!」「祖国のため! 己のため!」「リモネシア!」「リモネシア!」
「縁(rim)の島(nesos)!」「西の果てなる我が島!」「東の果てなる汝が島!」「ジャパン!ブリテン!リモネシア!」

ごくり、とシオニーは唾を呑み込む。なにがなんだか分からない。こいつは、こいつらは、狂ってる。
だんだん声が調整され、同じようなトーンになる。オペラめいた台詞。

「我らは戦う」「暴君と戦う」「火薬で」「火薬で」「火薬で」「火薬で」「火薬で戦う」
「我らは戦う」「圧政と戦う」「情報で」「恐怖で」「情報で」「恐怖で」「情報で戦う」

スマホ画面いっぱいに掌が広がる。シオニーが顔を逸らすと、BOMB! 画面の上で、小さな爆発が起きる。
「ひいいいっ!?」
シオニーが怯え、スマホを取り落とす。爆発。怖い。爆発。火。破壊。瓦礫。嫌だ、嫌だ、嫌だ。


246 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:17:42 8SeUSodw0

「これが武器」「これが我ら」「情報を集め」「情報を流し」「恐怖」「爆発」「パニック」「テロル」「これが武器」
「殺しはしない」「傷つけ、怯えさせる」「そうすれば我らは増える」「恐怖と絶望」「変革への熱望」「不満と無力」
「それが火種」「火種が増えて」「我らになる」「この街の住民が」「皆我らとなり得る」「殺すのは」「主従だけ」

歯の根が合わない。こいつらは、幽霊じみた存在。情報空間を漂流する怪物。そう伝わってくる。強制的に理解させられる。
令呪も効かない。誰の命令も聞かない。混乱と破壊だけが彼らの望み、彼らの存在意義。最悪の愉快犯。テロリストを増やすテロリスト。
「わ……私は、どうすれば。守ってくれる、のよね? 貴方が、貴方達が」

青褪め、呆然とした表情で、シオニーは訊く。せめて、生き残りたい。生きてリモネシアに帰りたい。帰して。
アサシンは、アサシンたちは、無数の声で囁きかけてくる。

「教えてやろう」「お前はマスター」「私はサーヴァント」「けれど」「私はお前を」「特に必要としない」
「私の主人は」「この私」「お前じゃない」「無視してもいい」「お前は寝ていてもいいのさ」「私は私で勝手に殺る」
「記憶を見たぞ」「お前は独裁者、暴君、虐殺者」「虎の威を借る牝狐だ」「今は反省しているか?」「そうでないなら我らの敵」
「我らの情報を漏らすなよ」「お前は知っているからな」「忘れろ」「言えば殺すぞ」「殺す、殺す、容赦なく」
「安心しろ、記憶は消える」「令呪に利用価値がある」「生かしておいてやる」「お前は何もしなくていい」「何も出来やしない」
「シー・ノー・イーヴル」「それでいい」「「「ははははは!」」」

何百人もの笑い声、嗤い声。シオニーはスマホを床に投げ、枕を頭からかぶる。けれど、声は聞こえてくる。助けて。

「お前が死んでも」「我らは残る」「お前が消えても」「我らは消えない」「我らはどこにでもいる」

「我らは名無し」「我らは大勢」「我らは許さぬ」「我らは忘れぬ」「我らを待ち受けよ!」

人々の心の暗い部分に、火種を作り、燠火を灯す。
いつか灰が掘り起こされ、それが空気に触れた時。
それは燃え上がり、町を、人を、世界を焼き尽くす。

「We are Anonymous(我らは名無し)」

「We are Legion(我らは大勢)」

「We do not forgive(我らは許さぬ)」

「We do not forget(我らは忘れぬ)」

「Expect us!(我らを待ち受けよ!)」


247 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:19:53 8SeUSodw0

【クラス】
アサシン

【真名】
ガイ・フォークス@近世英国

【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷B 魔力C+ 幸運D 宝具B

【属性】
混沌・中庸

【クラス別スキル】
気配遮断:B+
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。攻撃体勢に入ったまま、長時間の潜伏が可能。

【保有スキル】
単独行動:EX(C)
マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。宝具によりEXまで上昇しており、マスターがいなくてもなんの制限も受けない。

反骨の相:EX
反体制の象徴。あらゆる権威を否定し嘲笑う諧謔の徒。何者にも従わず、己の欲することを行う道化。
カリスマや皇帝特権等、権力関係のスキルを無効化する。令呪についても具体的な命令であれ決定的な強制力になりえない。

破壊工作:C+
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力を削ぎ落とすスキル。敵兵力に対する直接的な攻撃ではなく、相手の進軍を遅延させたり、偵察や諜報を混乱させる技術。
高度なハッキング・クラッキング技術を持ち、IT機器や監視カメラを乗っ取っての情報収集が可能。フェイクニュースで敵を混乱させるのも大得意。

情報抹消:A
対戦が終了した瞬間に、目撃者と対戦相手の記憶から能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。マスターの記憶すら編集可能。We are Anonymous.

精神分裂:B
宝具の影響と生前の拷問により、人格が多人数に分裂している。本来一人の英霊だが、複数いるように行動し、相談する。互いに裏切ることはない。We are Legion.


248 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:23:21 8SeUSodw0

【宝具】
『無頭無貌仮面劇の夜(ナイト・オブ・アノニマス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:視認 最大補足:全京都市民

アサシンそのものである宝具。後世に反体制の象徴化された『ガイ・フォークスの仮面』という図像情報。
映像や画像にサブリミナル・ノイズとして仕込むなどして、これを認識した「波長が合う人間」に取り憑かせ、「火種」とする。英霊や自他のマスター、視力のない者、動物には無効。
波長が合うのは、自分や社会の現状に不満があり、それを変革する必要と、それが出来ない自分の無力さを感じている者に限られる。恐怖や絶望で自我が弱まっている者にも波長が合い易い。
この宝具を情報として認識した「火種」は、アサシンが宝具を発動すると自我が消失し、アサシンのアバター『アノニマス(名無し)』と化す。
姿は変化しないが戦闘能力はアサシンと同等で、両手に拳銃を持ち、命知らずに戦う。アバターがやられてもアサシン本体にダメージはなく、別の「火種」に乗り移って復活できる。
「火種」が増えれば増えるほど、アサシンの魔力は増し、操りやすくなる。何千、何万でも同時に操れる。「火種」同士の記憶情報共有は出来ないが、アノニマスは全ての記憶を共有出来る。
宝具を解除すれば、アノニマスは人間に戻る。アノニマスだった時の記憶は失われるが、疲労と高揚感は覚えているであろう。そして「火種」は残る。

『爆殺火薬陰謀劇の夜(ナイト・オブ・ガンパウダー・プロット)』
ランク:B 種別:対人-対軍宝具 レンジ:1-99 最大補足:1-500

魔力で生成される大量の黒色火薬。アサシン(アノニマス)の掌や指先から任意の量を射出する。罠として仕込んでおいて、任意のタイミングで爆発させる。自爆も可能。
アノニマス1体につき、最大で2.5t、36樽ぶんの火薬を出せる。一度に出して爆発させ、ビルや城塞、地盤を崩落させることも可能。火薬を出し切ると「火種」は消えてしまう。
黒色火薬の威力は、おおむねTNT火薬の0.55倍程度とされるので、TNT換算で1.375tとすると約6GJ、雷(1.5GJ)の4倍の威力。人間を殺すには充分。アノニマスが増えるほどに総火薬量は増える。

【Weapon】
二丁拳銃、軍刀、各種爆弾。『アノニマス』は全てこれらを自動的に支給される。掌からは宝具である黒色火薬を射出する。
その場にある武器や車両、兵器等を用いて攻撃することも当然可能。ところで京都市内には自衛隊の駐屯地とかがあるようだ。

【人物背景】
17世紀初め、イングランドとスコットランドの王であるジェームズ1世を暗殺しようとした「火薬陰謀事件」の実行犯の一人。グイド・フォークスとも。
1570年ヨーク生まれ。イングランド国教会で洗礼を受けるが、父の死と母の再婚後、継父の影響でカトリックに改宗。成人すると大陸に渡ってスペイン軍に参加した。
背が高く体格もよく、赤毛の髪で八の字の口髭と濃い顎髭をたくわえ、陽気で誠実で知的であり、軍事にも精通した人物であったと友人からは絶賛されている。
1603年にエリザベス1世が崩御してプロテスタントのスコットランド王ジェームズがイングランド王位につくと、ロバート・ケイツビーらと共に国王暗殺を企て、
ウェストミンスター宮殿内の議事堂の地下に大量の爆薬を仕掛けて、国王や政府要人を一挙に爆殺しようとした。だが1605年11月5日、仲間の密告で発覚し、逮捕される。
激しい拷問の末に共犯者の名と計画を明かし、1606年1月27日に裁判を受け、31日に処刑された。彼は絞首刑の時点で即死したが、死体は四つ裂きにされ晒し者となった。

ロンドン市民は国王が無事だったことを寿ぐため、彼が逮捕された毎年11月5日を「ガイ・フォークス・ナイト(ボンファイア・ナイト)」とし、篝火を焚いて祝うようになった。
後には花火を打ち上げたり、ガイ・フォークスを象った人形を焼いたりするようにもなり、18世紀末には彼の仮面をつけた子供たちが夜中に金をせびって歩くという風習もできた。
19世紀の大衆小説ではアクション・ヒーローともなり、アメリカではその名の「ガイ」が「男」を意味する語ともなった。
さらに1982年から始まった漫画『Vフォー・ヴェンデッタ』、2005年のその映画では、口髭と尖ったあごひげで様式化されたガイ・フォークス・マスクが「反体制」の象徴となった。
それ以来、このマスクは「抵抗と匿名の国際的シンボル」として、政治家、銀行、金融機関に抗議する集団によって使われるようになった。
このサーヴァントは、そうした「ガイ・フォークス」にかける無数の人々の想念が凝結した存在であり、正確には彼本人ではない。


249 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:25:36 8SeUSodw0

【願いと方針】
あらゆる暴君・圧政への反抗、反体制。すなわち、この聖杯戦争をも破壊する。そのために手段を問わず敵マスターを全員殺し、聖杯を獲得する。
マスターが死のうと生きようと、彼らは存在する。147万2000人の京都市民の中に『アノニマス』となり得る人間が存在する限り。
そのため、彼らは一般市民を無闇矢鱈に殺すことはない。「火種」が減るからだ。むしろ彼らの命を守りつつ心身を傷つけ、恐怖と無力感を与えるだろう。
そうなればなるだけ「火種」は増える。彼らを完全に殺すには、147万2000人の京都市民を殺し尽くすか、あるいは……?


【マスター】
シオニー・レジス@第2次スーパーロボット大戦Z

【weapon】
なし。

【能力・技能】
25歳で小なりとは言え一国の外務大臣を務めるほどにはエリート。たぶん語学には堪能。しかし本質的に気が弱く不憫。
精神コマンド:偵察・鉄壁・必中・分析・突撃・愛・直撃が使える気がする。
特殊技能:Eセーブ、戦意高揚、気力限界突破、底力L8、闘争心が使えるといいな。気力はマイナスに限界を突破している。

【人物背景】
ゲーム『第2次スーパーロボット大戦Z 破界篇』に登場する女性。25歳。CVは小林沙苗。太平洋の小国、リモネシア共和国の外務大臣。
リモネシアは超次元エネルギーを引き出す特殊鉱石DECの産地として急速に発展したが、DECの涸渇による国家存亡の危機が迫っていた。
そんな時、彼女はある男からの「祖国を救う手がある」という甘言に乗せられ、大統領にも相談せず独断で協力、実施にこぎつける。
それはDECを用いて異次元からの超エネルギーを得、リモネシアを大国にのし上がらせるというものだったが、男の真意は別にあった。

現れたのは超エネルギーではなく、全てを破壊する「破界の王」と呼ばれる存在。その出現の余波でリモネシア都市部は消し飛んでしまう。
精神の平衡を失ったシオニーは、「破界の王」を皇帝とする新帝国インペリウムの筆頭政務官に任命され、独善的で傲慢な独裁者へと変貌してしまった。
立場の高い者には歪んだコンプレックスを抱いており、インペリウムの力を己のものと誤認して他者を恫喝、土下座を強要したりする。
しかし攻撃を受けたり脅されたりするごとに怯えたり錯乱したりと小物感が溢れまくり、妙な嗜虐欲をそそる存在として歪んだ人気を集めた。
最後は旗艦ごとフルボッコにされ爆炎に消えるが、実は救出されてリモネシアに帰還しており、教職に一生を捧げたという。
続編の『第2次スーパーロボット大戦Z 再世篇』『第3次スーパーロボット大戦Z 天獄篇』にもちらっと登場。子供たちには「お姉さん先生」と呼ばれている。


250 : Satz-Batz Night By Night ◆Lnde/AVAFI :2018/01/06(土) 00:30:28 8SeUSodw0

【ロール】
中学校の英語教師。国籍はニュージーランド。

【マスターとしての願い】
リモネシアに帰してよぉ……。

【方針】
何も考えたくない。胃が痛い。
自分がマスターで、どこかに自分のサーヴァントがいること、自律的に動き令呪が聞かないことは記憶している。

【把握手段・参戦時期】
本編終了後、リモネシアで教職についている頃。そろそろ26歳かも。
「破界の王」からとあるメッセージを預かっているが、過去の記憶に蓋をしているため思い出せていない。



投下終了です。


251 : 名無しさん :2018/01/06(土) 01:27:26 H37odOFw0
シオニーちゃん被虐体質EX持ちじゃ


252 : ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:12:41 IPcHvVq.0
投下します


253 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:16:19 IPcHvVq.0
―――『他人の不幸は蜜の味』、と言うが。
人間誰しも、蜜だけでは生きていけない。
どんなに蜜を好もうが、人として身体を運営する以上、燃料として他の栄養素が必要になる。
肉だったり野菜だったり様々だが、原則として人間は他人の不幸という蜜だけでは生きてはいけない。
肉のような、温かく人並みの幸せを。
野菜のような、爽やかな日々の安寧を。
それらを纏めて摂取するからこそ、人間は健全な精神を育むことができる。
故に、人間は清濁併せ持つ。
美しいものを美しいと判断し、醜いものを醜いと判断できるのが人間だ。
…だが。
どんな事柄にも『当てはまらないもの』というのは存在する。
善よりも悪を好み。
他人の不幸を蜜とし、他の栄養素を必要としない存在。
産まれながらに人が持つべき感情を持って生まれなかった存在。
この世に望まれない破綻者。
そんな人間は、確かにいるのだ。
…ならば、そんな人間はこの世の中をどうやって生きればいいというのだろう。
善を愛し、悪を憎むのが一般の世界で。
誕生の瞬間からその在り方だった疎まれるべき破綻者に、この世に生きる価値はない。
だからその者は、『産まれる価値がない者』として『産まれた理由』を探し続ける。
……そんなもの、見つかるはずがない。
人間とは、答えの出せない生き物だ。
短い生涯で難題を見つけてはその解明に没頭し次の世代にそれを託す。
そうやってこの瞬間まで長く続いてきた種族だ。
故にその破綻者は自らの問いの答えを自らで探り当てることはできないし、己の瞳でその答えを見ることもない。
だから。
自らで答えが出せない問題ならば。
『答えを出せる者』を、喚んでしまえばいい。

―――『この世全ての悪』。
聖杯に溜まった汚泥。
世界に悪であれと望まれたモノ。
この世に現界した瞬間、人を殺すモノ。
人殺しに特化したそれは紛うことなき『悪』だ。
少なくとも、人間にとっては。
だが破綻者はそう考えなかった。
まだ産まれ出でぬ者に罪科は問えぬ。
その泥は産まれれば間違いなく人を殺すだろう。
だが、もし、産まれ出でたその『この世全ての悪』が人間に近い感情を持つならば。
その自らの存在をどう認識するのだろう。
『悪』しか成せない己を悔やむのなら、それは悪だろう。
自らの残虐を理解しているのだから。
だが、『悪』しか成せない己に何も感じないのであれば―――それは『善』だ。
何故ならば、そうであれと望まれたモノ。
世界に悪であれと望まれたモノは、当然のように自らの責務を果たすだけなのだから。

―――破綻者は、それが知りたい。
破綻者という異常がこの世に産まれた価値を。
悪性しか持って生まれなかったこの身を、どう思えば良いのかと。
この是非を、破綻者は未だ、求め続けているのだ。



▲ ▼ ▲


254 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:19:46 IPcHvVq.0
「ほう。セイバーのサーヴァントか。
…確かに、誉れも高き剣士のようだ」

―――京都の何処かに位置する教会。
神々への信仰。懺悔を行う場所。
その地で、俺はマスターに喚ばれた。
サーヴァント。
万物の願望器、聖杯を奪い合うため喚ばれた英雄たちの一つの側面。
しかし、どうやらこの聖杯戦争は通常とは異なるようだ。
何より人物を転移させるなど聞いたことがない―――それ一つが、高位のキャスタークラスではないと難しいという。
残念ながら、魔術には詳しくない身故に詳しい部分は理解できなかったが。

「…簡単に説明しよう。とある地で行われた聖杯戦争に用いられる『聖杯』とは名ばかりの物だ。
伝説上の聖杯と同一のものではない―――高位の魔術礼装、というのが正しいか。
長年魔力を溜め込みサーヴァントの召喚という"奇跡"を行い。
それを見せつけることで聖杯としての真贋はともかく『強大な神秘』として魔術師を呼ぶ。
それがサーヴァントの召喚の真実だ」

何事にも効果を得るには燃料が必要だ。
魔術礼装もまず"それ"に通す魔力がなければただの置物。
聖杯も同様。
奇跡を起こすと言うならば―――それ相応の、魔力が必要だ。
しかし、この聖杯戦争ではサーヴァントの召喚だけでなくマスターの転移など様々な奇跡が行われている。
それこそ、人の手に余るほどの。
恐らく。
この聖杯には、人非らざる何者かの『意図』が関わっている―――と、マスターは語る。
まだ試していない為わからないが、京都を囲うように結界が張られている可能性もある。
マスターとなるべき者を京都呼び寄せた以上、逃げ出さないように何らかの対策はしてあると見るべきだろう。

「まあ、憶測の域は出ないがな。
何らかの超常の者の意図が絡んでいるとしても、今の我等には届かぬよ。
目の前の戦争を勝ち抜かぬことにはな。
…それはそうとセイバー。おまえには、望みはあるのか?」
「望み?」
「この戦争に託す望みとやらだ。
貴様もあるのだろう?
それが聖杯に願うものか、戦いで得られるものなのかは知らんが―――」

―――召喚に応じたからには何らかの『意図』があるのだろう、と。
そう語る瞳は、人の心を暴く剣のようだ。
肉を裂き、骨を砕き、魂の奥底の古傷を抉る。
そんな錯覚すら覚える。

「ああ。私もおまえの逸話は知っている。
誉れ高きスウェーデン王。人間の英雄よ。
人間として圧倒的な神秘に対抗した戦士よ。
その心に刻んだ、おまえの願いとは何だ」
「…願い、か」

ぽつりと呟く。
人間の英雄。確かにそうだ。
俺は神の血を引いている訳でもなければ魔を扱える訳でもない。
剣士のクラスとして呼ばれたこの姿も、何も失いたくないと人間の限界まで足掻いたからこそ存在している。
…その人生に、一点の悔いもないと言えば嘘になる。
何も失いたくないと足掻いた。
結果、全てを護ることが出来た訳じゃない。
取り零しも沢山あった。
誇りを手放したこともあった。最期には、己の命すら落とした。
やり直しが望めるのなら―――あの頃に戻ることができるのならば、剣など握らず、平穏に何処かに逃げた方が幸せだったかもしれない。


255 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:24:23 IPcHvVq.0
「…ああ。うん、俺がもっと努力していれば。
足掻いたその先は、『結果はこうなるんだ』ってもっと早く知っていれば、俺の人生はより良いものに変わったかもしれない」

己の人生を振り返る。
考えてみれば、後半は駆け抜けるように生きていた。
冒険、というほど夢溢れるものじゃない。
常に失うことへの恐怖に追われていた。
戦うためなら手段を選ばなかったことなど沢山だ。
…今なら、もっと上手く出来たかもしれない。
無念など、数え切れないほど存在する。

「―――でもな。
無念こそあれど、未練はないよ。
あの時の俺はできる限りのことはした。
それを俺が否定しちゃ、それこそ俺の行動は無駄になる。
俺が愛した者の為にも、俺が護ると誓った者の為にも―――俺は、俺を裏切れない」

それでも。
その無念に匹敵するほどの、美しいものを見たのだ。
失うことは恐ろしい。
愛する者を奪われたくないと足掻いた。
だからこそ俺はその一瞬に生きて命を燃やし、愛を育んだのだ。
その全てを無かったことにしては。
そんな俺を愛してくれた人達の思いを、全て消し去ることになってしまう。

「…そうか。
おまえは聖杯に導かれたサーヴァントでありながら、聖杯を要らぬというのか」
「そうだ。
聖杯はいらない。身に余る願いなぞ真っ平御免だ。
俺は、こんな俺を愛してくれた者たちの為にも『この俺』でないといけない。
やり直しなんてしたら、それはもう今の俺じゃない」

サーヴァントの身であれど。
本来の俺から一側面を切り取っただけの存在だとしても、この思いは変わらない。
それが、俺の誇りであり。
それが、俺の生きた証なのだから。

「だから聖杯が欲しいのならマスターにやるよ。
何を願うのかは知らないが、俺は使わな」
「本当に。
心の底から、そう思っているのか?」
「…へ?」

重い、曇天の空のような。
先程まで手を差し伸べるようだったマスターの声には、明確な侮蔑が込められていた。

「…残念だ。
おまえのような英霊でさえ、やはり人間である限り自らの本質からは目を逸らすのか
いや。『人間だからこそ』か。
人間として、人間の英雄として生きたおまえだからこそ自らの汚泥を見つめることができない」

待て。
待て。
待て。
マスターは、この目の前の男は一体何を言っている―――?

「本当に、愛する者の為に戦った自分を誇らしいと思っているのか?
本当に。
その人生に未練はないと言えるのか?」


256 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:26:09 IPcHvVq.0
目の前の男の一言一言が、心の表皮を剥いでいく。
べりべり。べりべり。
"自分ですら知覚していない自分"が晒される。
駄目だ。
これ以上この男の言葉を聞いてはいけない。
聞いてはいけない、のに。
魂の奥底が、この言葉を求めている。

「何、を」
「今一度問おう、セイバー。


おまえは、生涯一度たりとも―――『何故自分がこんな目に合わなければいけない』と。

理不尽な己の運命を、呪ったことがないのか?」

魂の古傷を抉じ開ける音。
理性で抑え込んでいた感情が、顔を出す。
心が割れる。
それ以上言うなと、今までの自分が叫んでいる。
駄目だ。
駄目だ。
この男の言葉は、的確に『自らの本質』を暴き出す。

「…頃合いだな。
己を知らぬそのままでは辛かろう、セイバー。
おまえは自覚すべきだ。自らの腹の内を。
自らの憤怒を」

脳をガツンと揺らされる気分だ。
心を暴く言葉はするりと肉体に忍び込み、魂に染み込んでいく。
一刻も早く、この言葉を止めねばならない。
そう、この男を、マスターを、今すぐ殺してでも…!

其処で。
顔を上げて、ようやく気がついた。
男が、その手の甲に輝く聖痕―――令呪を掲げているのに。

「令呪を以て命じよう」



それは。
絶対遵守の、逆らうことの出来ない三画の命の一つ。





「……懺悔の時だ、セイバー。
『己が深淵から、目を背けるな』―――」




▲ ▼ ▲


257 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:28:23 IPcHvVq.0
遥か未来。
スウェーデンと称されるその地でノルウェー王に育てられた彼は、美しい青年だった。
…『ホテルス』。それが、彼の名だった。
武芸にも秀で、敵無しとの呼び声高く。
堅琴の腕前は聴く者を魅了し、芸術への理解も深かった。
天才だった―――という訳ではない。
出来損ないという訳でもない。
天才という程でもない。
ただありふれた才を持つホテルスは、ありふれているだけに誰よりも努力した。
この身に宿る才が人と変わらないのならば。
天才の何倍も努力して、その域に到達すればよい。
努力することを努力できる。
ただホテルスの辞書には『諦める』という文字がなかったのだ。
愚直に、人よりも遥かに努力していれば無限の才を持つ者にも追い付ける。
そう、信じていた。

『―――貴方を、お慕いしております』

だからこそ、その言葉を聞いた時はとても驚いた。
努力するしか能のない自分を愛してくれる人がいることに、とても驚いた。
王女ナンナ。
理知的で清純な、美しい女性だった。
二人はすぐに恋に落ちた。
愚直に努力を重ねるホテルスをナンナは愛し。
そんな自分を誰よりも認め、愛してくれたナンナをホテルスは愛した。
幸せだった。
人間としての人並みの幸福を噛み締めていた。
しかし。
ある日、それは訪れた。
ナンナは沐浴を好んでいた。
美しい彼女は、愛した男に愛されるに値する女になるよういつも自分を磨いていた。
長い髪に水が滴り、完成された肢体に纏う。
本人にその気がなかったとしても、その姿はとても美しく―――それでいて、男の欲情を煽った。
その美しさは神々にすら届く。
偶然。
神の子であり、半神であるバルデルスがその姿を見てしまったたのだ。
引き締まった身体。
美しい所作。
水に濡れて光る、身体の造形。

『ああ、なんと美しい。
美しい。美しい美しい美しい……!!
その身体を我が物に。
あの女は、このバルデルスにこそ相応しい…!』

バルデルスは激しい欲情を抱いた。
男として、ナンナを己の女にしたいと思った。
だが、ナンナは既に愛している男がいるという。
バルデルスは自らの国へと帰り、軍を整えた。
この半神バルデルスの愛を断ると言うならば。
力付くで、奪ってみせようと。
その報告を聞き付けたホテルスは、国王に申し出る。

「―――私はナンナと添い遂げます。
私は彼女を愛している。
彼女はこんな私を愛してくれた。
それを、あんな野蛮な半神如きに渡す訳にはいかない」

婚約の申し出だった。


258 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:30:01 IPcHvVq.0
ナンナと添い遂げると誓った。
誰よりも愛していると。
この生涯をかけて護り通すと決めた。

『―――ならぬ』

しかし。
国王から告げられたのは、否だった。

「何故ですか」
『ナンナを幸せにすると言ったな。
その役目、貴公に果たせるとは思えぬ』
「…婚約において、本当に"大切"なのは個人の意思だと思いますが」
『本当に"必要"なのは王の許可だ。
貴公は婚約相手に相応しくないとこの王が判断した』
「ナンナに届くよう努力を続けてきたッ!」
『貴公に選択権はない。
全ての権限は王にこそある』
「納得出来かねます…!」
『これは王の"勅令"だ』

堂々巡りだった。
努力を重ねたのも、全てはこの時にあったのかもしれない。
そう思えたのに、この想いは届かぬのか。
神々に奪われて全て終わりなのか。
心に暗幕が落とされる。
…私では、ナンナを幸せに出来ないのか。
そう思い顔を上げると―――王の、悔やむような顔がそこにあった。

『…この私とてな。
本当は、貴公とナンナで幸せになってほしい。
しかしな。それは、叶わぬのだ。
―――半神バルデルスが、ナンナを奪うために軍を整えているとの連絡が入った。
軍神。激昂する者。様々な異名を持つ神"オーティヌス"の息子。
それだけではない。トール神も戦線に出るとの話が届いている。
…この国とナンナは、奪われる。
貴公は殺されるだろう。
私は。
ナンナがようやく手に入れた幸せたを、夫を、失うような思いをさせたくない』

それは。
王の、絞り出したような本心だった。
本当は婚約も認め、その幸せを国を挙げて祝ってやりたい。
だが、人間は神には敵わないのだ。
圧倒的な力に全ては奪われる。
蟻(人間)が群れを成したところで象(神)には届かない。
だからこそ。
直ぐに奪われる幸せなら―――いっそのこと、その味を教えないことこそが救いであろう、と。
奪われる。
奪われる。奪われる。
超常なる存在に、全てが奪われる。
人間の力なんて大したことのないものだ。
いくら努力を重ねたところで、届かないものはある。
いつかそれに直面するのはわかっていた。
心の何処かで理解していた。
だから、此処は納得しろ。
諦めて次の幸せを探せば、それで。
……ああ、でも。

「―――私が、戦います」

―――それでも、俺は、引けなかった。


259 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:32:21 IPcHvVq.0
それからは、少しも安らぐことのない日々だった。
ホテルスの言葉を受けた王は、苦渋の決断をする。
『遠い凍土の地にあるミミングスの洞窟で作られた剣を求めよ』、との命を下す。
神すら殺す、その名剣。
それを手にすれば神とすら戦えるというのだ。
長い時間を、遠い大地まで歩いたホテルスはミミングスの洞窟に到着する。
手段を選んでいる暇はない。
ホテルスは必勝の剣に見合う価値のモノなど、最初から持っていないのだ。
だから、まず誇りを捨てた。
人である幸せを手に入れるために、人の誇りを捨てた。
ミミングスの洞窟にてサチュルン神の人質を取り、剣を渡すよう脅した。
この者の命が惜しければ貴様達の名剣を寄越せ、と。
そして無限の富の腕輪と、ミミングスの剣を得たホテルスは国へ帰る。
戦争は間近だった。
半神バルデルスが率いるオーティヌスやトールの軍が、群れを成して現れたのだ。
スウェーデンを襲う神々に対抗する人間の軍。
しかし、それらは一蹴される。
トールの鎚、ミョルニルが人々を紙のように吹き飛ばす。
…規模が、違い過ぎる。
技術だけならホテルスも神々に匹敵する。
しかし、存在の規模(スケール)が違い過ぎる。
技量が同等な剣士が二人いたとして。
神が持つ剣が鋼で出来たそれならば、人間が持つのは木の枝だ。
余りにも魂のサイズが違い過ぎる神は、相対するだけで人の魂を押し潰す。
軍を蹴散らしたトールが、目の前に現れる。
身に纏う雷が空気を焼き、人々が道を開ける。

『―――ヌシがホテルスか』
「如何にも」

一言で大気が震える。
…まるで、山を見ているようだ。
押しても引いても人間の力ではビクともしない存在が、ヒトの言語で接している。
通常の人間なら一息の間もなく、神気に捻り潰される。

『貴様に恨みはない。
しかし、此もまた運命よ。
仕方無しと諦め、その命を差し出すがいい―――!!』

雷神の鎚、ミョルニルが迫る。
その雷が光速だとするならば。
その鎚は、神速のソレだ。
上方から振り下ろされたそれは、容易く人間を地面に描かれた染みへと変える。
…光る、流星のようだ。
人の領域では届かない。
人の手では届かない。
限界を越えなければ、この神には届かない。
だからこそ。

「―――唸れ」

脳裏に描く軌道は一つ。
流星よりも速く。雷よりも速く。
速く。速く。より速く。

この身体を一本の剣と成し。

剣から迸る凍気の濁流を、一本の流れへと変換し。

轟く雷撃を凍気により迎え撃ち。

頭蓋を割る神速の軌跡を、人の腕にて凌駕する―――!!


260 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:33:52 IPcHvVq.0
ごろん、と。
音を立てて、何かが地面へと落下する。
想像を絶するほど重く、硬いのだろう。
落下した衝撃で、地面が耐えきれず蜘蛛の巣のように亀裂が走っている。

『貴様、我のミョルニルを―――!!』

叩き斬った。
ミョルニル、と呼ばれた鎚は根本から切断されている。
神速を人の身にて凌駕し、その存在を叩き伏せた。

「ああ、それだけじゃない」

カチャリ、と剣を再び構える。
これなら、闘える。
護ることができる。
最早神など、恐るるに足らぬ。

「次は、おまえだ……!!」


―――結果。
神々の軍は、撤退した。
主戦力であるトールの敗北。
ミョルニルという伝説の武器を切断しな男。
軍の士気は大幅に下がり、圧されていた神々の軍は成す術なく己の陣地へと帰っていった。
このままでは全滅も有り得ると判断した、半神バルデルスの決断である。

国が平和になってから。
ホテルスはすぐに、ナンナと婚約をした。
国中を挙げたパレードは華やかで。
あれだけ反対していた国王も王の威厳など何処えやらという風に、みっともなく笑顔を涙で濡らしていた。

『……ねえ、ホテルス様』
「…どうした、ナンナ。大丈夫、私はこれからも君を護るよ」
『ううん、違うの。
貴方はきっと私を守ってくれる。
努力の人だもの。不可能を可能にする男。
その真っ直ぐな所に、私は命を恋したのだから』

ぴとり、とナンナがホテルスの厚い胸板に寄り添う。
ホテルスはそっと、痛めてしまわないように、覆うように抱き締めた。
幸福だった。
戦ってよかったと思った。
この小さな幸せを、護れたんだと実感した。
顔を胸元に押し付けていたナンナはひょこりと顔を上げ、満面の笑みで。

『この幸せが、何時までも続いたらいいのになって―――』

そんな、尊くも儚い願いを口にした。
それだけでこの先の人生、闘える活力が湧いてくる。

「…ああ。続くさ。きっとな」




……ああ、そうだ。
続いたら、良かったのに。


261 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:36:45 IPcHvVq.0
国王の娘、ナンナと婚約したことによりスウェーデン王となったホテルスはバルデルスの軍との最後の戦いへと出る。
互いの軍が剣を交わす中、バルデルスとホテルスは相対する。

交差する。
その剣撃は、鮮烈だった。
バルデルスが嵐ならば、ホテルスは突風。
暴力的なまでの神の力を人間の技術で捌いていく。
…どれだけの時間が立っただろう。
最早軍は疲労困憊、立っているのはバルデルスとホテルスのみとなった。
互いの剣はたった一つの速度も落とさず、何度も何度も交差し。
そして、その決着。

『ホオォテルゥゥスゥゥゥッッッ!!!』
「バル、デルス―――!!!」

貫いたのは、ホテルスの剣だった。
ずぶりと、バルデルスの腹部に魔剣が捩じ込まれる。
洞窟の乙女にて授かった勝利の帯は決定的な瞬間に、ホテルスに勝利を授けたのだ。

バルデルスは致命傷を負い三日後に死亡した。
これで、スウェーデンは平和になる。
そう思ったのも束の間だった。
バルデルスの親であり神・オーティヌスは息子の死亡に激怒した。
たかが人間風情が、半神である息子を刺し殺したと。
そうして怒りのままに送り出された刺客、半神ボーウス。
結論から述べると、半神ボーウスはホテルスを殺した。
神との連戦に人間が耐えられる筈がなかったのだ。
だが、それでは終わらせない。
ホテルスは身を犠牲にした最後の手段で―――半神ボーウスに致命傷を与え、ボーウスもまたその翌日に死に絶えたという。
これが、英雄ホテルスの人生だ。
未練はある。
もっと上手くやれたかもしれない、などと思うこともある。
だが、ナンナが愛してくれたのはこのホテルスだった。
努力を重ね、困難から逃走しなかったホテルスだった。
ならば、やり直しなどしてはナンナを裏切る行為になる。
故に、聖杯は要らず。
不要なんだ。
もう要らないんだ。
願いなんてない。
襲い掛かる試練相手に此所までやったんだ。
人間として十分上手くやった―――







「―――その試練が。
『理不尽』だと感じたことは、一度もないのか?」





だから。
その言葉は、押さえていた『本心』を抉り出した。


262 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:38:56 IPcHvVq.0
そもそもの発端は何だ。
ナンナと二人で、人並みの幸せを得るはずだった未来を壊したのは誰だ。

「―――曰く。
半神バルデルスは国王の娘ナンナの沐浴を覗いた際の情欲によりその身体を欲したという。
…惨めだな。
貴様の幸せは、獣にも劣るただの性欲により貶められたのだ」

ふつふつと、何かが込み上げる。
嫌な、感情だ。
認めてはいけない何かだ。
此を認めては、決定的な何かを喪うという確信がある。

「半神バルデルスとの戦争で何人の国民が死に絶えた?
トールの鎚にて何人の兵士が骨すら残さず蒸発した?
おまえの愛した国民の何百人が、英雄ホテルスが死に際に駆け付けてくれる姿を夢想し、潰れ死んでいったのだろうな」

自分が愛していたのは、ナンナだけではない。
幼い頃から生きていた国も、兵士も、その国民もみんな愛していた。

「中には家庭を持つ兵士もいただろう。
死んだ夫の帰りを永久に待ち続ける妻もいるだろう。
その母親を見て、父親が死んだことを悟り甘えることを諦めた子供もいただろう」

幸せを奪われたのは自分だけじゃない。
自分の愛した者、全てだ。
何故だ。
何故こうなった。
自分がナンナと出会ったからか。
自分が無様にも足掻いたからか。
それとも―――

「…そうだな。
おまえの言う通りだ、セイバー。
その苦しみは辛かろう。
己の憤怒の理由が見当たらぬ苦痛は理解できる。
良いだろう、私がおまえの憤怒を言葉にしてやろう」

魂が、霊基が歪んでいくのを理解できる。
恨みを知らなかったこの身体に、ドス黒い『何か』が沸き上がる。
ああ、駄目だ。
この言葉を聞いたら、最期になる。
しかし。
この魂は、不思議とそれを受け入れていた。



「最初から―――『最初から神などいなければ、こんなことにはならなかったのに』な」


言葉はギロチンのように。
己の隠されていた本心の蓋を、叩き切った。


▲ ▼ ▲


263 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:41:35 IPcHvVq.0
精神が、現実に帰る。
協会は変わらない。
証明で照らされた協会は、今も神々しく懺悔の時を待っていた。
ただ。
少しだけ、世界が曇って見えた。

「どうだセイバー。
気分の方は?」
「最悪の気分だ。でも、今ならわかる。
俺は、ただ醜い自分を見ないようにしていただけだったんだな」

幼い頃から努力した。
努力に努力と努力を重ね、才など無くても一流に辿り着けるのだと証明した。
…それが、間違いだったのだ。
努力したのは、才が無い故に諦めたく
なかったのではない。
『何故自分だけ』。
どうしようもなく誰かを妬み、才が無い己を恨み、その境遇を憎んだから。
その恨みを埋めるよう、醜く努力で蓋をしただけ。

「もう一度問おう、セイバー。
……この『戦争』に託す望みは、何だ?」
「…ああ。決まってるよ、そんなこと」

空を見上げる。
視線は高く。
協会の天井を遥か越え。
その視線は雲を越え。
空を越え、星を越え。
何処にいるかもわからない、神々へ向けて。

「―――この世から神を切り離す。
この世の人々の脳内から『神という概念』を消し去る。
何かの間違いが起きても人々に二度と干渉できないように、その信仰を完全に消し去ってやる」

すうう、と身体が霊子となり空間へと溶けていく。
なるほど、これが霊体化か、と思う。
便利なものだとその性能を理解すると、目の前の男が口を開く。

「何処に行くつもりだ、セイバー」
「何処も何もない。戦いになるその時まで休ませてもらうさ。
マスターには感謝しているよ。あんたがいなけりゃ、俺はまだ『奪われる側』のままだった。
…そういや、名前を聞いていなかったな。マスター、あんたの名を」

身体は霊子となり空間へと溶けた。
肉体を有さない、というのは時として有利に働く。
マスターは長身の男だった。
見る者に圧迫感を与えるであろうその姿は、およそ協会には似合わない。
懺悔を聞く、というより懺悔をさせるといった方が正しいのではないかとさえ思えた。

「ああ、名乗っていなかったな」

男はゆっくりと口を開く。


「―――言峰綺礼。
何、英雄に覚えて頂けるほどの崇高な者ではない。
神父、で構わんよ」


▲ ▼ ▲


264 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:43:08 IPcHvVq.0
(―――やれやれ。
私もまだ、大人とは言い切れんな)

協会の自室にて、神父は一人思う。
人間である、人間の為の英雄。
それがホテルスだ。
彼の在り方にも諸説あるが、大体はそう考えて間違いはない。
そして。
神父は―――その人間の部分の傷を開いた。

(…八つ当たり、なのかもしれんな。
求めても得られなかったもの。手に入れたというのに手に入らなかったもの。
人としての、人並みの幸福。
どのように掬い上げても水のように隙間から零れ落ちた、感情。
それを手にし、そして奪われた身で―――それも仕方ないと諦めたその姿)

自分が死に物狂いで求めても手に入らなかったそれを奪われて諦めているその顔が。
およそ、勘に触ったのだろう。

「……まあいい。
セイバーもこれでも乗るつもりにはなっただろう。
ならば、私も己の為に動くだけだ」

この場の聖杯は、恐らく冬木のそれではない。
参加者の転移。京都という場への固定。
どれも規格外の奇跡だ。
冬木の聖杯ではないとすれば、禍々しいあの泥も注がれているか怪しい。
ならば。
聖杯を勝ち取り―――あの泥をこの地に顕現させるのも、それはそれで悪くない。
生まれる価値無き者が生まれる価値。
己の在り方が生まれつき悪の者が。
外界との隔たりを感じ、孤独のままに生きる"悪"に果たして罪科はあるのかどうか。
……今の神父では、その答えは出せない。
だからこそ、聖杯を用い『答えを出せる者』を顕現させる。
それが、『この世全ての悪』。
悪であれと望まれた、人を殺すだけの呪いである。

「だが、それは最終目的だ。
聖杯を知る者として導くことも吝かではない」

しかし、神父は人であるが聖職者だ。
助けを乞われれば手を差し伸ばすこともあるだろう。
何故と聞かれれば嘘を話すこともない。
今のところは、そうだな。
聖職者の仕事を果たすとしよう―――と神父は、自室を照らす蝋燭を見つめた。


265 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:46:16 IPcHvVq.0
【CLASS】セイバー

【真名】ホテルス

【出典】デンマーク人の事積

【性別】男性

【身長・体重】189cm・80kg

【属性】中立・悪

【ステータス】

 筋力B 耐久C 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具B

【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

復讐者:D
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

忘却補正:A
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):D
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復する。

【固有スキル】
常勝の帯:A
森の乙女たちに渡された、光輝く帯。
身に着けた者に勝利をもたらすと言われる。
「致命的な隙」や「絶体絶命」を回避可能な困難へと変え、それらを乗り越えていく英雄の象徴。

二重召喚:B
二つのクラス別スキルを保有することができる。
極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。
ホテルスが自らの怒りを自覚したと同時に会得した。
ホテルスの場合、セイバーとアヴェンジャー、両方のクラス別スキルを獲得して現界している。

神々との決別:B
彼の生涯は、神との戦いだった。
愛するべき者を奪われないために。
愛した者と共に歩むために、彼は神の軍勢と戦った。
人の尊厳を守るべく神と決別し立ち上がった人間のスキル。
神由来の能力や神性を持つ者への強大な耐性、及び特効を持つ。
どんな神にも剣を向ける鋼の意思…しかし、彼も最期には神の刺客に殺されてしまう。
故に、神性を持つ者と戦う度にこのスキルは徐々に弱まっていく。


266 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:49:46 IPcHvVq.0
【宝具】
『神よ、滅び伴え(ミミングス・グーディラ)』
 ランク:B 種別:対神宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:300人

神―――オーティヌスなどを相手取り、トールのミョルニルを根本から切断しバルデルスを葬った神殺しの魔剣。
凍土の山にて鍛えられた、超低温の魔剣。
神性・及び神の類いの者に特効を持ち、真名解放すればその一振りであらゆる概念は凍結され、神々の武具ですら一太刀の内に両断される絶対破壊の一撃と化す。
サーヴァント版ライザーソードのようなもの。

『神よ、共に逝きよ(ラスト・ホテルス)』
 ランク:B 種別:対神宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:30人

ホテルスを殺した半神ボーウスは、彼につけられた傷が原因で翌日に絶命した。
その逸話を具現化する。
彼は人生の最期の瞬間、ボーウスに敗北した。
しかし、それだけでは終わらない。
彼はその死の瞬間、自らに宿る魔術回路を魂・及び『神よ、滅び伴え』と接続した…と本作では定義する。
己の魔力及び魔剣の神気を体内で混ぜ融合させ、魂を燃料に魔術回路に限界を越えて回転させる。
体内には己の魔力・魔剣の神気・魂が一体化するまで練られ、高密度のエネルギーと化したモノが極限まで貯められ―――その結果訪れるのは、体内からの超起爆。
自身を宝具と接続し『己は宝具と同義である』と己の概念を書き変え破裂する、『壊れた幻想』。
ホテルスの自滅を前提とした、敵対者を己と共に葬る最期の手段である自爆宝具。

【人物背景】
スウェーデン王の息子であり、ノルウェー王に養育された男。
武芸や堅琴にも秀でており、まさにパーフェクトボーイだった。(努力の賜物ではあるが)
そんな彼に国王の娘・ナンナは恋をし、二人は情熱的な時間を過ごした。
しかし、ある日偶然ナンナの沐浴を目撃してしまったオーティヌスの息子、バルデルスはその肢体と美しい姿に一目惚れ。
絶対に我が物にする―――ホテルスを殺害してでも、と決意する。
それを知ったホテルスは、様々な情報を得て遠く凍った山・ミミングスに神にも勝てる武具があることを知る。
そこでホテルスはナンナを奪われないためなりふり構ってはいられないと凍った山にて人質を取り、剣と無限の富を与える腕輪を奪取する。
そうしてホテルスはナンナを奪いに来たバルデルス軍と激突する。
人を蹴散らすオーティヌスの息子バルデルス。
ミョルニルを振り回し軽々と蹂躙する雷神トール。
劣勢に追い込まれるが、ホテルスにはあの剣があった。
見事トールのミョルニルを根本から切断し、その威力で神々を撃退したという。
そして森の乙女たちなら帯を受け取り、バルデルスとの戦いで辛勝する。
これで妻と幸せに暮らせる…と、誰もが思っていた。
平穏は長く続かず。
自らの息子を殺されたオーティヌスの怒りは凄まじく、半神ボーウスを送る。
そして、またもや起こった死闘の末にホテルスは死亡する。
しかし、その時つけた傷によりボーウスも翌日に絶命したという。
…結局、彼は神の子でもなければ選ばれた勇者でもなく。
聖剣を預けられた訳でもない。
だから剣を奪うしかなかった。
神の血を引いている訳でもない。
だから足掻くしかなかった。
そんな愛する人と共に生きたかった、ただの人間なのだった。
通常は『神と決別した、何処までも人間の英雄』として召喚される。
だがしかし、言峰の令呪により自らの悪性の感情と直面させられた。
何故自分がこのような目に合わなければいけない。
自分は、ただ愛する人と生きたかっただけなのに。
身勝手な神々の行動で人生を狂わされた怒り。
神々への憎しみ。
確かに己の内に存在し、しかし愛してきた者の為にも目を背け続けてきた負の感情を直面させられた彼は、自らの願いを発見する。
神という存在をこの惑星から切り離す。
神々の身勝手で人生を狂わされた男は、自らの身勝手で神を殺すのだ。

【外見的特徴】
軽い布を身を纏っているが、王族であるからかその布も高価な物であるようだ。
短い緑髪と程よい筋肉は普通の青年を思わせる。
育ちがいいため基本は高貴な思いやりのある、しかしてそれを押し付けない優しい青年だが、己の負を自覚したためやさぐれている。
一人称は俺。
まだ若い頃は「私」だったが、数々の戦いが彼を男らしくしたようだ。

【聖杯にかける願い】
願いはたった一つ。
聖杯を使いこの世から『神』という概念を切り離し人を自立させることで信仰を消し、神を消滅させる。


267 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:52:10 IPcHvVq.0
【マスター】
言峰綺礼@Fate/stay night

【能力・技能】
聖堂教会の最も血と臓物の匂いがする部署、異端討伐を主とする『代行者』。
神の代わりに魔を消滅させる戦闘集団の一人。
人のトラウマや心の傷に敏感で、その類いを察知するのはとても早い。
黒鍵を使った投擲能力や『傷を開く』ことに特化しているため精度の高い治癒魔術を使用する。
教会の使徒として洗礼詠唱も修めており、霊体や魔に強い。
中国拳法、八極拳の達人でもあり自身は『真似ただけの内に何も宿らぬもの』と称しているがその精度は極上で、その実、恐るべき人体破壊技術と化している

【weapon】
・令呪、残り二画
・黒鍵
聖堂教会にて使われる悪魔祓いの護符。
投擲用の剣であり、柄は短く刀身は長いため斬り合うのには向かない。
これを弾丸の如きスピードで投擲する。
死徒の身体に人間の摂理を無理やり取り戻させ、その上で塵に返す剣。
普段は柄だけであり、収納は簡単なので多く持ち歩ける。
埋葬機関の第七位などは、その服の下に百程度隠し持っているそうだ。
・預託令呪
腕に残る『過去の聖杯戦争で使われなかったマスター達』の令呪。
無色の魔力源であり、それを攻撃に転用することも魔術に使うことも可能。

【人物背景】
万人が愛するものを美しいと思えず。
他人の不幸や痛み、苦悩を好む生まれながらの外道。
それでいて「人並みの幸福」への願望を捨てきれない男。
己が破綻者なのを理解しつつ。
それに対し納得もしたが。
未だ彼は、その破綻者という価値のない者がこの世に産まれた価値を。
初めから世界に望まれなかったものが産まれた意味を。
外界との隔たりをもったモノが、ありのままに生き続けることに罪があるのかどうか―――その答えを探し求めている。
参戦時期は不明。少なくとも五次聖杯戦争はある程度始まっているよう。

【方針】
監督役でもないのでセイバーの自由にさせる。

【聖杯にかける願い】
今の己では答えが出せぬ問い。
その問いの答えを出せる者を顕現させるのも、良いかもしれない。


268 : 泣いて笑む ◆DpgFZhamPE :2018/01/07(日) 00:53:04 IPcHvVq.0
投下終了です


269 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:50:29 l.W7McuY0
皆さま投下乙です。私も投下させていただきます。


270 : 人類最初の糞野郎の話 ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:51:42 l.W7McuY0
.



聖杯戦争のマスターとして不幸にも覚醒してしまった男が、目撃したのは『絶望』そのものだった。


日本の京都。
舞台に相応しい『僧侶』の役割を当てられていた・室井静信が、かつての記憶を取り戻すに時間は要しない。
彼が身を置いていたのは、自然豊か程度で済まされない。
閉鎖された古典的『ド田舎』。人口が僅か1300人だけの村。
そこと比較すれば大都会かつ有名な京都へ移ったのだから、違和感の一つや二つ。直ぐに抱いた。

――静信が人気ない、自身が在籍すると『されている』寺院で思い出した矢先。
目にしたのは自らのサーヴァント。
じゃない。
最早、原型のない血液の集合体であった。
偉大なる英霊とはかけ離れた『化物』そのもの。

何かと疑念を脳に発生させる必要なく、血液は独特の匂いを漂わせながら静信に接近する。
逃げるべきだが。
不思議にも静信は逃げる手段を取らずに、額に汗を浮かべながらも静観していた。
血液は静信の周囲を取り囲み。


『お前は――セイシン。嗚呼、ムロイセイシン。そう呼ばれているな。「情報」がある』


と、ゴポゴポと泡を立てながら。
確かに、血液から声が聞こえたのである。しかも人間の。
血液でしかないソレを果たして『人間』と称するべきなのだろうか。
聖杯戦争をすんなり受け入れた訳じゃないが、静信は酷く落ち着いた様子で聞き返す。


「情報?」


『お前の「血」の情報だ。お前は――自殺しようとしたな。手首をかっ切り、死のうとした』


自然と静信は、指摘された手首を抑えていた。
今尚、痕跡が残されている。血液に果たして視力があるか怪しいものの。
ソレの言葉は事実であり、真実だった。そして―――


『お前はこの世界に絶望した。とっくの昔に全てを悟り、死を選択し。だが結局のところ死なずに居る』


271 : 人類最初の糞野郎の話 ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:52:34 l.W7McuY0
何故だか息を飲む。
絶望した。
そうなのかもしれない。閉鎖された村に対してじゃない……この世界全てに対して。
でも、実際は曖昧だった。絶望の衝動で刃を立てたのか。分からない。
困惑する静信に対し、血液は嗤う。


『お前の選択は最善だ。そうだとも。死ぬ必要なんて無い。死ななくても良いからだ』


「なら、どうして。ぼくにその話を」


『俺とてこの世界に絶望しているからな。こんな世界はクソでアホでバカで間抜けだ。
 最も、世界を代無しに没落させた要因は、紛れも無く「人間」という最低最悪の生物だ』


「―――」


静信を差し置いて語り語る血液の形状は、見る見る内にヒトの姿になった。
年齢は明らかに静信よりも若い。
先ほど男の声だった気もするのだが、実際の姿は
木瓜紋があしらわれた帽子を被り、赤マントを靡かせる黒の軍服の黒長髪の少女。
軍に関わる年代と性別に大凡思えない容姿。
口調と違って可愛らしい声色で、堂々とソレは言う。


「だが、考えても見ろよ。こんなにも醜く哀れで地上の宝を湯水の如く消化し穢す愚かな生物が
 滅亡すること無く、その文明を永続させられると思うか? 俺は思わないな! 人類は滅びる。勝手に滅びる。
 確実に滅びる。滅んで当然の末路だ。クソ世界に絶望した俺の共感者(マスター)。お前なら分かる筈だぜ」


「……君は一体何者なんだ?」


震える静信の問いかけに、英霊は不敵に嗤い答えた。


「人類で最初に『殺された』間抜けだよ」







人間が知らない神話。


人類最初の被害者と称された弟は、兄の嘘を告発する為、執念により大地に流れた自らの血液を利用した。
それを視た神は、弟を『人類全ての血の祖』にし。
死と引き換えに『血液』を通し、人類史の観測するの地位を与えられた。

誰しも神からの恩恵に喜ぶ事だろう。
最初、弟も神から与えられた地位に心より感謝を意を表していた。
……だが。本当にそれは最初の内だけ。

人類が流す『血』の要因など、自ずと悲劇と非業と拷問や戦争……醜悪の塊でしかない。
無論。全てがそうでなかったとしても。
そうでなかった『希望』が『絶望』に塗り替えられるほど、弟の魂を摩耗し、精神を穢した。

あらゆる私怨や憎悪を抱く中。
弟がこれらが――兄の血筋が要因ではなく。人類という種族そのものが愚かであるが故の顛末なのだ、と理解するのに。
さほど時間はかからなかっただろう。
罪人として『生き続ける』兄の方が安息に思えるほど、弟は『悪』を目にし続ける。


弟の名は『アベル』。
京都の地において『ライダー』のクラスで召喚された英霊。


272 : 人類最初の糞野郎の話 ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:52:57 l.W7McuY0




翌日早朝。
ふう。と静信は、寺院の清掃を終えた。
枯れ葉をゴミ袋にまとめ、観光客の姿もまばらなのを確認し、自室へ移動すると今時珍しい原稿用紙を机に敷き。
小刻みにペンで音立てて執筆活動に励む。
僧侶ながら副業に小説家を持つ人間は、珍しい部類に属するだろう。


「おい、何してる?」


静信のいる部屋に面した縁側で、胡坐をかいて呆れた風に声をかけたのは、夢でもない、静信が召喚したライダーである。
……なのだが。
静信がペンを落としかけるのも当然。
ライダーの姿は形状を露わにした黒髪の少女そのものだが、格好は現代らしいラフなものへと変わり果てていた。

木瓜紋をあしらった帽子はそのまま。
現代のジャケットと『Buster』とロゴがある赤いクソダサTシャツ、あげくにミニスカ。ロックなヘッドフォン。
彼――性別は彼女だが――の真名を看破できる存在など、現状いるのか怪しいほどだ。
流石に静信も溜息をついて、一旦ペンを置く。


「君こそ、世界に絶望しているにも関わらず。謳歌しているのかい」


「仕方ないだろう。現代がこのような格好を求めているのだから」


「君が『女性』だったとは思えない」


馬鹿真面目な態度で返事する静信に、ライダーは舌打つ。


「俺本来の姿になったところで何の意味がある? 京都に縁ある英霊の姿を借りて何が悪い?
 確か名前……オダ、オダノブナガ。これは『織田信長』の姿だ。お前の国の英霊だぜ。名くらい知ってるだろ」


「なんだって?」


否。織田信長が女性である方こそ『おかしい』のだが……
頭をかかえる静信を気にも留めず。
ライダーは悠々と問いかけた。


273 : 人類最初の糞野郎の話 ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:53:23 l.W7McuY0
「おい、共感者(マスター)。お前の願いはなんだ。言っておくが人類滅亡も衰退も願う必要はない」


「僕は……まだ分からないよ」


真剣な面持ちの静信に対し、ライダーは鼻先で笑う。
どのように罵倒されようが静信は続けた。


「君の提案する人類の衰退も最初から願いになかったし、特別な願いも僕にはない」


「つまらんな。本当につまらん。小さな箱庭で満足するキチガイめ」


「僕はそれでいいと思っているよ。今もね」


「今もか? こんな世界を知っておいて。良いと思って死のうとした癖に」


「そう」


「……お前はきっと俺に失望しているんだろうな」


「そうだね」


「馬鹿だな。何故、嘘をつかない」


「君には嘘が通用しないと知っているからだよ。英霊の力は逸話通りじゃないのかい」


ライダーの表情は心底退屈そうなもの。
静信が察する通り、ライダーの逸話に準え『虚偽』を明かす能力が備わっている。
英霊であれマスターであれ。ここに配置された無銘の住人ですらライダーに嘘を暴かれる。
しかし。だからこそか。
ライダーは本当につまらなそうな様子だった。


「もう俺は嘘が嫌いじゃない。嘘がないほど面白みが失われる。
 なあ、どうだ。共感者(マスター)。世界を混沌極まりない残虐かつ残酷な土台に変えたのは人間か? 神か?」


「どうなのかな」


「俺を殺した男は典型的な卑怯者だが、神に対し泥を塗ったのは滑稽で面白いと思うぜ」


274 : 人類最初の糞野郎の話 ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:53:51 l.W7McuY0
ゲラゲラ嗤うライダーは、最早悪魔のようだった。
そんな彼――アベルに静信は失望していた。
聖書で語られたアベル。その存在に身勝手な尊さを抱いて、自滅し、失望しているのか。
あるいは……神に対し失望しているのか。
死して終わる筈のアベルに対し、清らかな心を穢すかの如く。あらゆる醜さを味あわせるなど。


「君は、観測者には相応しくなかったんだ」


皮肉めいた静信の発言に、アベルが目を見開く。


「やっぱりお前は俺の共感者(マスター)だ。俺もそれを願おうと考えていた」


所謂、自らの消滅。
通常願う事ない自殺を願う。
だけど静信は当然のことだと考えていた。何故ならアベルに『罪』も『罰』もない。きっとそうだ。
故に地位を捨てる事も赦されるのだ、と――勝手な理想を描いていた。






【クラス】ライダー

【真名】アベル@旧約聖書

【属性】混沌・悪


【ステータス】筋力:C 耐久:C 敏捷:D+++ 魔力:D 幸運:C 宝具:EX


【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:EX
 アベルの騎乗の真価は『血液』の騎乗にある。


【保有スキル】
変化:EX
 血液そのものと成ったアベルは、大地に流れ続ける人間の血液と同化し続けている。
 血を流した人間であれば誰にも変身可能。
 どこかの英霊も体現可能だが、英霊としてのスキルや宝具は獲得できない。
 文字通りの見かけ騙し、姿だけのハリボテ。形は本物なので初見殺しになりえるだろう。
 アベル本来の姿は保てない訳ではない。
 愚かな兄に殺された自分自身を『弱い』と嫌悪している。
 
血脈集束:EX
 大地に流れた人間の血液と同化状態にあるアベルは、それらから『情報』を得る。
 所謂、ほぼ人類史巨大サーバー。あらゆる情報が集束されたネットワーク。
 当然ながらアベルが全ての情報を即座に引き出す事は不可能。
 そうしようとしたら彼自身に膨大な負荷がかかり、自滅に終わる。
 一つ一つ、特定の情報を『検索』する作業となる。
 無論、情報検索における魔力消費も必要。ある程度、検索条件を加えれば魔力消費も少ない。


275 : 人類最初の糞野郎の話 ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:54:17 l.W7McuY0
精神汚染:C+
 精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
 一応、会話は可能だがハメをはずして、命令を聞かない。
 マスターの静信があれこれ言っても、素直に応じる事もない。
 ただ『共感者』として意気投合できると思っている。

真紅の告訴:A
 かつてカインの嘘を暴いた逸話によるスキル。相手の虚偽を暴くもの。
 アベルの認識範囲に留まる全てが対象。嘘をつけば嘘を述べた者の足元。
 もしくは肉体等に血液に似たものが浮かびあがる。


【宝具】
『人類の不浄よ、地上を潤したまえ(クリムゾン・レコード)』
ランク:EX 種別:対血宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
あらゆる世界。人類が大地に流した血液の集合体であり、そのものであるアベルは
前述にある変化や血脈情報の他にも、血液そのものを使役する事が可能。
血液中にある鉄分を利用し、武器を創造。血液を使い魔のような生命体に変化。
巨大な血液で構成されたモンスターに形作ることすら出来る。
舞台の京都そのものを血液の海に沈める事も……可能だが、魔力が圧倒的に足りない為、行わない。
使役する血液の量により、魔力消費は変化する。



【人物背景】
旧約聖書に登場する人類最初の被害者。
兄・カインから嫉妬され、殺され、大地に流れた血液と成った。
死したアベルは、神より人間の血を通し人類史の観測者となる恩恵を与えられる。
しかしながら、戦争等非業の歴史と所業。
血に流される『情報』は人間の醜さが凝縮されたものだった。

これは罪人として生き永らえ続けるカインの行いではなく。
人間という生物が至った醜さだと理解し、絶望している。ヤグされている。
人類滅亡を望んでいるものの。別に願う必要なく人類は自滅すると過信している。


【容姿・特徴】
宝具はスキルにより姿はコロコロ変わる。『姿だけ』であれば血を流した者に限り、誰でもなれる。
現在、京都所縁ある英霊・織田信長(FGOのノッブ)の姿でいる。
それも水着verのラフな格好だったり、魔人アーチャーの軍服verだったり様々。
本来の姿は、二十前半の青年。短髪黒髪。細みだが筋力ある体つき。一枚布を体に纏っている。


【聖杯にかける願い】
観測者の恩寵という呪いを解く






【マスター】
室井静信@屍鬼(漫画版)


【聖杯にかける願い】
まだ分からない


【人物背景】
人工わずか1300人の村の寺院の息子。
本業は僧侶で、副業は小説家。ワープロに抵抗がある為、原稿用紙で執筆している。
性格は典型的な温厚だが、学生時代に自殺未遂を起こす。


【能力・技能】
特になし。
典型的な魔力なしマスターである為、魔力源は心もとない。


276 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/07(日) 11:55:22 l.W7McuY0
投下終了します


277 : ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:16:22 VCwup94o0
投下します
『Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木』様に投下した候補作を一部改変したものになります


278 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:17:52 VCwup94o0

 ぐちゃり、ぐちゃりと耳障りな音が断続的に響く。
 男は耳を塞いでしまいたかったが、両腕は震えて力が入らない。
 仄暗い闇の中でやけに眩しく見える緋色が弾ける。
 男は目を瞑ってしまいたかったが、瞼は凝り固まって動かない。
 尻餅をついたまま声も出せず、男はただ悔いることしかできなかった。

 思えばなんて軽率だったのだろう。己のサーヴァントが別のサーヴァントの気配を感知したと聞いて、すぐさま向かったのを男はひどく後悔していた。
 男はそれなりの魔術師であったし、それ故にセイバークラスを引き当てたということがどれほど聖杯戦争においてアドバンテージになるのかを理解していた。
 まさかその無意識な自信が驕りとなって牙を剥くとは、喜々として無防備なサーヴァントを倒しに向かう頃の彼は夢にも思わなかっただろう。
 サーヴァントの気配は入り組んだ裏路地のどこかであったから、神秘の秘匿にも都合がいい。街灯もないから月明かりに頼るしかないが、それは相手も同条件だ。
 つまるところ男は、自分の勝利を信じて疑わなかったのだ。
 セイバーである騎士甲冑の女性を前衛に、サーヴァントを探して細い路地を探索する男の顔が満月に照らされていれば、さぞ愉快そうに歪められているのが分かるだろう。
 そしてその表情が苦痛に移り変わるのは、ほんの一瞬のことだった。
 十数分は路地を彷徨っただろうか。男もセイバーも、いまだ気配はあるが一向に遭遇できないことに苛立ちが募りつつある頃合いだった。
 気の緩みもあったのだろう。右へと折れる曲がり角に差しかかったとき、彼らは僅かに警戒を怠っていた。

  飢えた獣はその油断を見逃さなかった。

 前を歩くセイバーがまさに角を曲がろうとしたとき、まるでその瞬間を狙いすましたかのように黒い影が躍り出た。
 至近距離からの奇襲。だがそれに反応してみせたのだから、さすがは最優というべきか。
 咄嗟に右手に握る剣で襲撃者を切り払わんとするセイバーの背中は、男に安堵と勝利の確信を与えるに十分だった。
 そこから先の戦いはあまりにも速く刹那のものだったから、男にはなにが起こったのか分からなかった。
 もしそこでうなじに宿っている令呪を使っていれば、男の運命もまた違ったものになっていたのかもしれない。
 しかし薄暗い視界では敵サーヴァントの姿もはっきりとは見えず、魔術でのサポートも難しかったから、ただ数歩下がったところで見守るしか男にはできなかった。
 誰かが息を飲む。ぶちり、となにかがちぎれた。悲鳴。舞い散る液体。
 そうして男がなにが起こったかをやっと悟ったときにはもう、敗北が確定づけられていた。

 あの音がやんだ。語るも悍ましい行為がようやく終わったのだ。
 セイバーだったモノが少しずつ薄れていく。引きちぎられた四肢と、大きく抉られた腹部。自分も今からこうなるのだろうと、男は確信していた。
 それでも身体は動かなかった。足は笑って立ち上がることもできない。呼吸すら忘れそうになる。股間が湿って生温かい。
 向こうに見覚えのある剣が、持ち主の腕に握られたまま転がっている。反射する男の顔のなんと無様なことだろうか。
 これは死を前にしたせいではないと男は自覚していた。死を恐れないわけではない。それ以上に男は、目の前の存在が恐ろしくて仕方がなかったのだ。
 爛々と光る金色の瞳が男を射竦める。口元からだらしなく垂れる紅い雫が顎を伝う。
 影がゆっくりと近づいてくる。もはや逃げる気力も、一矢報いようという気概も男にはなかった。
 せめて苦しまずに殺してくれるようにと、切に祈るしかできない。もっとも相手に人語が通じるかは甚だ疑問ではあるのだが。

 ああそうだ、これはきっと殺し合いではない。
 獣が本能に任せて駆る、一方的な狩りなのだ。


279 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:19:33 VCwup94o0

 その夜は美しい満月だった。
 月光は眠る京都市の街並みを静かに照らし、全てを優しく包み込むように降り注ぐ。
 それはある高層マンションの一室でも変わらなかった。最上階をまるまる一戸としたその部屋は、開け放たれたカーテンから射しこむ光にぼんやりと浮かぶ。
 もし部屋を訪れる者がいるならば、まずその異様さに目を剥くだろう。ところ狭しと並んだ本棚に、それこそいっぱいに本が詰まっているのだから。
 その様は前に立つ者を威圧するかのように荘厳で。よく見れば並ぶ背表紙の言語は日本語や英語、ラテン語など様々だ。
 そして本の壁を抜ければ、その先に待つ者に誰もが息を呑むだろう。まるでこの世のものとは思えない、あまりに美しい少女がそこにはいた。
 神の手を持つ人形師が全てを賭けて造り出したような、あまりに人間離れした顔。流れる銀髪は床を這い、月光を受けて神秘的に煌めく。
 床に直接座る少女を中心に、フリルをふんだんにあしらった真っ黒なドレスが広がって花開く。その周りを輪になって囲むのは広げられた5、6冊の本で、どれも一冊読むのに1日はかかりそうなものばかりだ。
 少女は重いものなど持ったこともないだろうかわいらしい指で、それらのページを次々と捲っていく。その手の甲にはあまりに不自然な、聖杯戦争の参加者たる証が刻まれていた。
 幼い外見に似合わないもう片方の手のパイプのせいか、白煙が月明かりに揺らぐ。まるでこの部屋だけ下界から切り離されてしまったような、夢幻と神秘に満ちた空間がそこにはあった。

「随分と遅かったな」

 不意に、静寂が破られた。およそ少女のものとは思えない、老婆のように嗄れた声。
 その先には誰もいない。否、虚空が一瞬揺らいだかと思うと少年が姿を現した。
 見た目だけならば少女よりもいくつか年上であろうか。フードを目深にかぶったその少年がその場に増えただけでぴん、と空気が張り詰める。
 爛々と獰猛な気色が覗く琥珀色の瞳。ズボンと呼べるかも怪しいぼろぼろな布を穿き、引き締まった身体には直接パーカーを羽織っている。
 不機嫌というには些か嫌厭を潜ませた眼差しを向ける彼こそが、少女――ヴィクトリカが引き当てたサーヴァントだった。

「やる事は済ませたんだ、構わねェだろ」

 吐き捨てるように少年が返す。その様子にまたか、とヴィクトリカは思った。大方食事に時間をかけたのだろう。
 このサーヴァントには少々悪食のきらいがあった。とはいえその性質があったこそ、彼はこうしてアヴェンジャーとしてここに現界しているのだが。
 ヴィクトリカはアヴェンジャーに自由行動を許す代わりに、いくつかきつく言いつけている。その1つが食事についてだ。
 よほど余裕がない時でもない限り、サーヴァントとそのマスター以外を獲物としないように。
 そうも言ってられなくなったならば、いなくなっても大事にならない独り身を選び、誰の目につかない場所で、骨も残さず喰らいつくせと。
 それはきっと非情な決断なのだろう。それでもヴィクトリカは、この戦いで勝ち抜くための駒を失うわけにはいかなかった。
 なんとしても帰らなければいけないのだ。身体に刻んだ、大切な人を待つべき場所へ。例えそのために、彼に侮蔑されるような行為に手を染めなくてはならないとしても。
 少し、胸が痛んだ気がした。


280 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:20:35 VCwup94o0
 黙っているヴィクトリカに痺れを切らしたのか、アヴェンジャーが再び口を開いた。

「それで、明日からどうするんだ」

 ヴィクトリカがふん、と小さくかわいらしい鼻を鳴らす。いかにも狂犬といった風体だが、その実マスターには忠実なのだから思わず唸ってしまいそうになる。
 実際はその根幹には聖杯への渇望しかないことを知っていたから、そんなことは断じてしないのだが。

「いつも通りだ。朝に出てマスターを探して、可能なら夜に襲う」

 ヴィクトリカがアヴェンジャーを召喚してからは、ずっとその繰り返しだ。これまでも何組かをそうやって仕留めてきた。
 今日もそうだ。暖房が十分に効いているはずのカフェテリアで、マフラーを巻いたままの男性を見かけたからしばらく様子を窺った。
 動作の端々に不遜な態度が滲み出ていたのを見て取ったヴィクトリカは、離れたところで待機していたアヴェンジャーに指示を出したのだ。
 そこからはアヴェンジャーの仕事だ。夜を待って入り組んだ路地に誘き出して、反撃する隙も与えずサーヴァントを無力化する。
 もちろん正面からぶつかればこちらもただでは済まない。そのために一計を案じていた。
 まず彼らと遭遇しないように立ち回り、苛立ちと油断を誘った。そのついでにサーヴァントの足音から武器を持つ手を確認し、その方向に曲がる角で待ち伏せをする。
 細い路地だからサーヴァントが先行するのは当然と言えた。あとはサーヴァントが通りかかるタイミングを狙って、利き手を速やかに奪えばいい。
 アヴェンジャーが聴覚に優れているからこそ成せる計略だった。
 マスターを探すのはヴィクトリカ、敵を排除するのはアヴェンジャーだ。どちらかの存在が誰かに認識されてもいい。ただ、彼らが主従であることが明らかになるのは避けたかった。
 幸いヴィクトリカの役割(ロール)は、フランスの由緒ある大手企業の社長の令嬢というものであったから、金と時間だけは不自由しなかった。
 こちらに来てからまだ顔を合わせていない父は随分と放任主義らしい。ヴィクトリカとしては複雑な気持ちだが、社会的立場で優位に立てるのは大きかった。

「またかよ、まどろっこしィな」

「言ったはずだ。君は目立つと少し面倒だからな、序盤はできるだけ敵を作らないでおきたい」

 アヴェンジャーが性に合わない、とでも言いたげにアンバーの瞳で睨めつける。大の大人でも震え上がってしまいそうなその冷たい眼光を、ヴィクトリカは本から目を離さないままこともなげに受け流す。
 このような態度をとれるのは、彼が憎悪を向けるのは自分だけではないと知っていたからだ。そもそも他の者がマスターであれば、召喚した時点で彼の不興を買って聖杯戦争は終わりを告げていただろう。
 そういった意味ではこのサーヴァントは、ヴィクトリカにとって当たりだったと言える。むしろアヴェンジャーにとってマスターが当たりだったと言うべきか。彼の特性はこの戦いをまともに勝ち残るには少々癖が強すぎた。
 もしかすると、とヴィクトリカは時々考える。ヴィクトリカが時間さえ超えて異邦の地に招かれ、この哀れな獣を召喚したのは最早必然だったのではないだろうかと。少なくともそう思わせるだけの強い縁を、ヴィクトリカは奥底で確かに感じていた。

「それは勝つためか?」

 振り絞るようなアヴェンジャーの声。まるで餌を前にして鎖に繋がれているような、強い焦燥と苛立ちを隠そうともしない。
 初めて、ヴィクトリカが顔を上げた。視線がぶつかっておよそ主従とは思えない緊張を生み出す。
 ヴィクトリカとて思いは同じだ。だから期待を裏切る答えも、知らず呻き声となって返る。

「当たり前だ。私達は絶対に、最後まで勝ち残る」

 沈黙。
 パイプから零れる白煙さえも動きを止めたかと思わせる、刹那とも永遠とも思える時間。

「……そうかよ」

 先に口を開いたのは従者の方だった。諦観のようで、しかし確かに勝利への意志を籠めた呟き。

「勝利に貪欲ならそれでいい。テメェがそう在り続ける限り、俺はなんでも聞いてやる」

 同じやり取りだった。数日前、主従が引き合わされた時と。
 違うことと言えば、彼がヴィクトリカを喰らおうとしていないことだろうか。あの時はアヴェンジャーがヴィクトリカを人間と認めるや否や、マスターと分かっていながらもその爪で引き裂こうとしたのだ。結局はその寸前で、アヴェンジャーがヴィクトリカの異常性に気が付いて事なきを得たのだが。
 それは彼が自分を同類と認めた証左でもあるが、まだ小さな仔狼はそのことに気がつかないふりをしていた。


281 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:21:54 VCwup94o0
 この主従は優勝という目的だけで成り立っている。令呪でさえアヴェンジャーを縛る鎖にはなりはしないとヴィクトリカは悟っていた。例え自害を命じようとしても、果たされる前にこちらも食いちぎられてしまうだろう。
 勝ちたい、願いを叶えたいのではない。勝たなければならない、願いを叶えなければならないのだ。その野望が一致しているから、この契約はどうにか形を成している。
 とはいえ普通のマスターであれば、その覚悟を通わす前にアヴェンジャーの復讐の糧になっていただろう。ひとえにヴィクトリカが仔狼――灰色狼の血を引く者だったからこそ成し得た主従関係だった。どうやら見境のない餓えた獣にも、同族を尊重する程度の分別はあるらしい。
 話は終わりだとばかりにアヴェンジャーが背を向ける。ほんの僅かにその輪郭が揺らいで、ふとヴィクトリカを振り返る。

「取り繕ってるつもりだろうがなァ、やっぱりテメェも獣だよ」

 その顔に浮かぶのは部屋に戻って来てから初めて見せた、それでいてどこか悲しげな笑みだった。
 それだけ言うと今度こそアヴェンジャーは姿を消した。おそらくは霊体化して屋上にでも行ったのだろう。今日は月もよく見える。
 また白煙が揺らぎだす。一人残された少女はふう、と大きく息をつく。少年がいた場所からは陰になっている幼い手が、ぎゅっと強く握られていた。
 彼を見ていると、どうにもかつての自分を見ているようで落ち着かない。親の欲望を満たすためだけに産み落とされ、全てを取り上げられてただ無為に日々を過ごすだけだった時の自分にどうにも重なってしまう。
 だがヴィクトリカは大切な出会いを得て、あの獣はたった一人で闘って果てた。近いものを感じるというのにどうしてこうも違ってしまったのか、その答えを見つけるのは彼への最大級の侮辱のような気がした。
 いつか異母兄に言われた言葉を思い出す。今なら彼の気持ちも少しだが分かる。きっと今ヴィクトリカがアヴェンジャーに抱くもどかしさは、あの男がかつてヴィクトリカに向けていたものと同じものだ。
 けれどアヴェンジャーはもう怨嗟に囚われてしまった。復讐の奔流となった彼とあの亡霊達は、もう慈しみを知ることは叶わないだろう。その前に相手を噛みちぎって飲み下してしまうだろうから。
 彼の復讐の先になにがあろうと、ヴィクトリカは興味がない。けれど自分もああなってしまっていたかもしれないのだろうかと思うと、知らず胸がきゅっと締め付けられる。

「――ぅ」

 小さく、届かない名前を呼ぶ。彼女の心臓でもある、大切なことを教えてくれた、なによりも愛しい人。
 二度目の嵐に引き裂かれて以来、片時も忘れたことなどない。もう一度逢うために多くの人の手を借りて、この時代より遥か昔の日本へとどうにか辿り着いた。あとは無事を祈って待つだけだったはずなのに。
 ただ逢いたかった。けれどあの東洋人はこの街にはいない。「知恵の泉」は時空を超えて帰る方法を教えてはくれない。
 だからヴィクトリカは生き残らなければならないのだ。勝って、あの場所へと戻らなければいけない。
 しかし、僅かな恐怖もあった。それがヴィクトリカを、勝利に向かってひたすらに走る四つ足にするのを寸でのところで押しとどめていた。
 あのアヴェンジャーがではない。血を血で洗う戦争がでもない。
 ただヴィクトリカは、自身がなによりも恐ろしかった。あの復讐の獣に引っ張られて、かつての自分がまた現れてしまいそうで。
 もう獣には逆戻りしたくなかった。目的のために他の全てを駒として扱うような、冷徹にして非情な獣には。
 再び獣へと戻ってしまったヴィクトリカをあの愛しい人は受け入れてくれるだろうか、それが少女は不安で仕方がないのだ。

「――それでも私は、帰らなければいけないのだ」

 言い聞かせるように呟く。数秒、目を瞑る。
 宝石のような碧眼は迷いなど初めからないかの如く澄み渡っていた。


282 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:23:08 VCwup94o0

【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
ギシンゲの狼

【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
復讐者:A
 復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
 周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
 人々に恐れられ、虐げられた獣達の憤怒の表れ。

忘却補正:EX
 人は恐れを喪えば忘れる生き物だが、獣の執念は決して衰えない。
 忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、獣の恐怖を忘れた者に痛烈な打撃を与える。

自己回復(魔力):C
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。

【保有スキル】
複合獣性:A
 アヴェンジャーは怒りに打ち震える狼の群れであり、また個でもある。
 その内に蓄積された経験と本能はただ、人に剥くためだけに磨き上げられた。
 Aランク相当の直感、怪力、勇猛を得る。

精神汚染:B
 見た目こそ人の形をとっているが、その精神性はどうしようもなく野獣そのものである。他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
 人ならざる者、特に自身と近い獣性を持つ者でなければ意思疎通が成立しない。
 会話自体は可能だが、相手が人間であればマスターであろうとアヴェンジャーの餌食となるだろう。
 アヴェンジャーは人間を信用することはなく、ただ己の恩讐のためだけに吼える。

半人半獣:A
 人と狼、両方の因子を持つ「ギシンゲの狼」としてのスキル。
 見た目は人間だが体の一部は異形である。狼の耳と尻尾を持つ。鋭い牙は動物の骨さえ容易く噛み砕き、研がれた爪はどんな名刀にも劣らない。
 聴覚や嗅覚は獣のそれと同等。どんな音も残り香も、アヴェンジャーは見逃さない。


283 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:24:10 VCwup94o0
【宝具】
『凶暴兇狼狂想曲(ゾーンデアヴォルフ)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:2〜99 最大捕捉:99人
 アヴェンジャーの霊基を構成する、復讐に駆られた名もなき狼達を召喚する。
 人を憎む怒れる獣は一旦敵を認めれば、どちらかが息絶えるまで執拗に追い回し、骨すら残さず喰らいつくす。
 その数はこれまで人に狩られた数に等しく、魔力切れでも起こさない限り際限なく湧き続ける。
 喚び出される種族も多岐に渡り、大狼から人狼まで、人に虐げられた歴史と逸話を持つならば彼らは喜々として仇の肉を喰らうだろう。
 ただし膨らんだ憤怒はアヴェンジャー自身にも制御しきれず、眼前から全ての敵が失せるまで解除することはできない。

『狼は奔る前に満月に吠える(ウンターデムヴォルモンド)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 人喰い狼として人々に恐れられ、歪められた獣達の在り方が宝具として昇華されたもの。無辜の怪物に近い性質で、常時発動型。
 人やサーヴァントを喰らう、すなわち魂喰いで得られる魔力量が大きく増え、一時的にステータスが上昇する。また常に人型特効が付与される。
 デメリットとして、定期的に魂喰いを行わなければBランク相当の凶化が付与されてしまい、人を喰らう以外のことを考えられなくなってしまう。これは魂食いによって解除される。

【人物背景】
 1817年、スウェーデンに子狼を柵の中で飼育していた人物がいた。この狼は逃げ出し、1820年12月30日から翌年の3月27日にかけて31人を襲い、内12人の命を奪った。
 犠牲者のほとんどは子供。遺体には部分的に食べられた形跡があったことから、人喰いとして恐れられた獣。それがギシンゲの狼である。
 その正体は、とある物好きな魔術師によって生み出された、人間と狼を掛け合わせたホムンクルス。監禁され家畜以下の扱いを受けていたところを逃走し、残虐な事件を引き起こすに至った。
 彼が人、特に子供を狙って襲ったのは飢えを満たすためだけではない。本人には自覚がないが、囚われ虐げられていた自分とは違い、外で親の愛を一身に受けて育つ彼らへの嫉妬がそこにはあった。
 そしてそれらを上回ったのが、自身を造った魔術師への復讐心である。己の欲望のためだけに造り、挙句物のように扱った魔術師を彼は決して赦しはしないと決意。
 人を喰らって力を得た彼は怨敵を殺すべく動き出すが、事態を重く見た地元の魔術組織が先んじて討伐隊を派遣。復讐を遂げることなく狩られることとなった。

 このアヴェンジャーは正当な英霊ではなく、人に殺された狼の怨みが概念として昇華されたものである。
 彼らの狩りは草食動物の数の調整、すなわち生態系の維持に繋がっていた。しかし人間の生活圏の拡大、家畜への被害によって人による狼駆除が活発になっていく。
 こうして殺された名もなき獣達の集合体がアヴェンジャーであり、その表層がギシンゲの狼。怨嗟が積み重なり、ようやく現界に値する霊基を得た。
 現界においては、マスターが最も恐ろしいと思う狼がその表層となって表れる。フェンリルや人狼のような有名どころの場合が多く、ギシンゲの狼としての現界は非常に稀なケース。

【特徴】
 目付きの鋭い少年。膝丈までのゆったりとしたぼろぼろのズボン。素肌に直接黒のパーカーを羽織り、フードを深くかぶっている。
 長く手入れしていない肩までの灰褐色の髪に琥珀色の瞳。狼の耳と尻尾を持つがマスターの指示で隠している。

【聖杯にかける願い】
 自分を産んだ魔術師をこの手で殺す。


284 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:24:50 VCwup94o0
【マスター】
ヴィクトリカ・ド・ブロワ@GOSICK

【能力・技能】
 非常に頭脳明晰で知識が豊富。他人が集めた情報だけで事件の全貌を推理してしまう、いわゆる安楽椅子探偵。
 曰く、「混沌(カオス)の欠片」を溢れる「知恵の泉」が再構成するらしい。
 妖精か人形かと見紛うほどに美しい容姿の持ち主でもある。

【人物背景】
 身の丈ほどもある銀の髪に碧い瞳の、いつもフリルがたくさんのゴスロリを着ている少女。外見にそぐわない、老婆のような嗄れた声で話す。
 ヨーロッパはソヴュール王国の生まれで、名門である聖マルグリット学園に生徒として住んでいた。
 「灰色狼」の一族であるコルデリカ・ギャロの娘。その力を求めたブロワ侯爵に「オカルト兵器」として生み出される。
 幼少期は屋敷の塔に一人軟禁される。学園に移されてからも基本的に外出は許されず、授業にも出なかったため孤独な日々を送っていた。
 初めてにして唯一の友人と出会い、彼との絆を育んでいくが第二次世界大戦の勃発に伴い離れ離れになってしまう。
 ブロワ侯爵によって監獄に収監され、薬物投与によってその頭脳を利用されていたが母が身代わりになる形で逃亡。
 自らの体に入れ墨した彼の住所を頼りに日本へと辿り着き、彼の姉とともに彼の帰りを待つ。
 参戦時期は原作8巻後半、日本に渡り瑠璃の元に辿り着いてから。

【マスターとしての願い】
 なし。さっさと帰りたい。

【方針】
 優勝狙い。今のところは情報収集を重視、勝機があれば戦闘に臨む。


285 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/07(日) 23:26:06 VCwup94o0
投下終了します


286 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/12(金) 21:45:39 qBj//OjI0
最近霊圧が消えていましたが、生きています。
生存報告代わりに、感想を投下させていただきます(激遅)

>その男、完璧主義者につき
 アリババの意識がモルジアナと混濁した結果オネエっぽくなっているというキマった発想に笑いました。
 それはそうと、聖杯戦争とはいえ殺生に何の躊躇もない辺りはまさにあちらの童話の住人ならではという感じですね。
 宝具のえげつなさも相俟って、より原典らしい、いい意味でメルヘンとかけ離れたキャラに仕上がっているように感じました。
 そしてマスターの形兆、彼が持つバッド・カンパニーもまた相当に凶悪な性能をしているため、隙がないのも恐ろしい。
 形兆の頭であればアサシンを完全に使いこなせるでしょうし、他の主従にとって強力な敵となりそうです。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>狂気のレガシー
 サーヴァントとマスターの会話に、非常に深い味のあるお話だったように思います。
 セウエコロスも仁もどちらも善人では決してなく、自分の生み出したものを殺すという共通の願いを抱いているというのがとても面白い。
 ただ、精神性では仁の方が一歩セウエコロスの上を行っているようですね。
 この主従間の差が今後どんなものに変じていくのか、そこが肝になりそうです。
 それはさておき、神代の割と気難しい性分をした王様が現代文化に触れる描写がちょくちょく挟まるの笑ってしまう……w
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>Satz-Batz Night By Night 
 ガイ・フォークス! 反体制の象徴たる彼をこうも見事にキャラメイクする、その手腕に脱帽を禁じ得ません。
 しかしガイ・フォークス本人ではなく彼という象徴に掛かった想念から生まれた異形の英霊であれば、こういう形での現界も納得です。
 連続した怒涛の台詞がとても不気味で、このサーヴァントの異常性と規格外性を物語っているように思いました。
 全滅させるのは容易ではなく、尚且つアサシンとして十分な殺傷能力も所持している、紛れもなく強力なサーヴァントといえるでしょう。
 シオニーちゃんは本当に可哀想。マスターと書いて便利な道具と読む……。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


287 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/12(金) 21:46:17 qBj//OjI0

>泣いて笑む
 うおお……すごくエグいお話でした。
 言峰というキャラクターの得意技(?)である傷口の切開が、令呪があるとはいえよもやこれほどまでにサーヴァントを変質させてしまうとは。
 ホテルスが当初は英霊らしい高潔な台詞を吐いていたからこそ、変質後の変わりようが痛ましい。
 壮絶な過去と壮絶な末路を抱えた英霊ともなれば、やっぱり神父の舌は刺さってしまうよなあ。
 神への憎悪からとんでもない願いへと至ってしまった彼もそうですが、言峰が今後どんな風に暴れるかも大変気になります。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>人類最初の糞野郎の話
 アベルとはまた凄い名前が出てきましたね。見た瞬間に「おっ」と声を出してしまいました。
 まず、大地に流れた血液となったアベルは検索サイトのように人類史の情報を引き出せる、という設定が非常に上手いなあと。
 アベルの逸話からこういう発想に到れるセンス、素直に羨ましいです。とても魅力的な設定であると思います。
 兄は永遠に縛られ、弟は呪いじみた観測者に定義されと、この兄弟は本当に救われない……。
 そしてまたしてもクソダサTシャツ。京都の街では、しまむらとかで普通に売ってるのかもしれませんね(ヤケクソ)。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>愛知らぬ哀しき獣よ
 人を憎むアヴェンジャーの狼には既に公式で該当者がいますが、それと此処まで巧く差別化しているのは見事の一言でした。
 単一の獣ではなく殺された狼達の怨みの集合体。いわば、概念が英霊化したもの。
 それがわざわざフェンリルや狼男ではなくギシンゲの狼という形を取る辺りに、マスターの聡明さが現れているというのも面白いです。
 しかしながら、生まれが生まれなだけにその性質は厄介の一言。特に宝具など、不用意に開放すれば詰んでしまいかねません。
 ヴィクトリカが如何にしてこの狼の手綱を握るのか、そもそもそれが可能なのか。非常に気になるお話でした。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

土日には候補作を投下できるように書き進めていますので、今後とも当企画をよろしくお願いします


288 : ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:22:56 uuvSzN0Q0
投下します


289 : ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:23:23 uuvSzN0Q0
 一月の空気がまだ肌を刺す夜。空気が冷えて澄んでいるせいだろうか、雲一つない空にぽっかりと浮かぶ月が、いつもよりはっきりと見える。
 鴨川の河川敷もそれは変わらず、むしろ流れる水のせせらぎがより一層寒さを際立てているようにも思える。
 だというのに黒のロングコートを纏うこの少女は、事もなげに夜の散歩に繰り出しているのだから、キャスターは数歩後ろを歩きながら不思議に思っていた。
 平時であれば構わないかもしれないがしかし、今はそうではない。いつ誰から命を狙われるかも分からない状況なのだ、この聖杯戦争においては。
 一度だけ苦言を呈したことがあったがのらりくらりと躱されてしまったものだから、止めるのは諦めた。だからキャスターはせめてものと、こうして必ず同行しては周囲に注意を払っているのだった。
 そんなキャスターの気苦労など露も知らず、マスターである少女は鴨川の河川敷を流れに沿って歩く。こうして水流と一緒に歩いていると、まるで一向に前に進んでいない錯覚に襲われる。

「御覧、キャスターさん。あれが七条大橋だよ。なんでも、鴨川の橋では一番古いんだそうだ」

 鈴を転がしたような声とともに、少女の足取りが止まる。キャスターもそれに従って、前方に架かっている橋を見上げる。
 ライトアップ期間でもない鴨川最古の橋は味気のない街灯に照らされて、無骨なコンクリート造りと相まっていやに荘厳な印象を与えた。
 コンクリートには馴染みのないキャスターにはそれが得体の知れない存在に感じられたのだが、比較的生きた時代が近かった少女にはそうでもなかったらしい。

「うん。やっぱりいいね。今度は昼にも来てみようか」

 満足げに頷く少女。最初から明るい時間に来てほしかったものだが、どうにか文句を飲みこんだ。
 今回ばかりは勝手が違うようにキャスターは感じていたからだ。いつも鴨川を沿って散歩するときは、出合橋から三条大橋あたりまでだった。
 夜の散歩を止めるつもりがないとはいえ、その危険性を理解できないほど少女は愚かではないはずだった。だからこの遠出にも、なにか意味がある気がしたのだ。
 もう一つ、キャスターが訝しがる理由があった。いつも手ぶらで散歩に出る少女だったが、今日だけ封筒を持って外に出ていた。昼に役所を訪れて受け取った書類が入ってるものだった。
 キャスターはその内容を知らなかったが、きっとそこに少女の行動の原因があると推測していた。とはいえ自分から問いただすほど、キャスターはマスターに対して関心を持たなかったのだが。
 戦いに喚ばれたから勝つ。聖杯に願いなどなく、ただ勝利を目的とする。マスターには生きていてもらなわければ困るが、それも結局は敗北を避けるための手段の一つでしかなかった。

「冬子、そろそろ帰ろう。もう遅い時間だ」

「そうだね、少し遠出しすぎてしまったみたいだ」

 言いながらも冬子と呼ばれた少女は動かない。七条大橋を渡る車を目で追いながら、どこか上の空だった。
 風が吹いて髪を揺らす。どちらも同じ黒髪なのだが、冬子の髪はさらさらと靡いて宵闇に溶けてしまいそうに見えた。冬子ほど髪が長くはない自分では、こうはならないだろうと見惚れてしまいそうになる。


290 : ルリノユメ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:25:14 uuvSzN0Q0
「キャスターさんはさ、前に“自分”が分からないって言っていたよね」

 不意に、冬子が振り向いた。月明かりにぼんやりと浮かぶ顔は、キャスターからしても美少女だと思えた。
 突然のことにすぐに言葉が返せなかったキャスターに構わず、冬子は続ける。普段はあまり見せない、真剣な表情だった。

「実はね、私も“本当の自分”を知らないんだ」

 そう言って切ない笑みを浮かべたのも一瞬で、すぐに元の真剣な面持ちに戻る。
 鴨川のせせらぎでさえ、鬱陶しく聞こえる間だった。

「養子だったんだ、朽木家の。親の顔も知らないから、よほど小さい頃に連れてこられたんだろうね」

 そのときキャスターに芽生えた感情をどう名付ければいいのか、彼自身にも分からなかった。
 実の両親も知らず、自分が何者なのかも分からない恐怖。
 血の繋がらない家族に育てられ、上辺だけの関係に縛りつけられる苦痛。
 きっとそれは、感情をずっと押し殺して過ごしてきた少女に対して、初めてキャスターが興味を抱いた瞬間だったのだろう。

「ずっと今の“自分”が“本当の自分”じゃない気がしていたんだ。なんとなく、私は朽木家の人間じゃないって。それで調べてみたら、案の定さ」

「……だった、とはどういうことだい」

 冬子の物言いが引っかかった。まるでこの世界ではそうではないような。
 ずっと持っていた封筒を顔の横に持ってきて、ひらひらと弄ぶ冬子。その仕種がキャスターには、どこか答えるのを躊躇っているように見えた。

「この世界の母さんは、本当の母さんってことになっているんだ。私は朽木家の冬子。それ以外の何者でもないんだろうね」

 冬子のまるで他人事のような口ぶりに、キャスターは口を挟めずにいた。
 否、本当に他人事なのだろう。キャスターもかつて活動していたこれまでの“自分”について語るとなれば、きっと他人として考えるに違いない。

「でもそれは違う。私は朽木家としての私を、“本当の自分”にしたいんじゃない」

 おもむろに手にしていた封筒を破く。ここまでくれば、キャスターにもその中の書類には察しがついた。おそらくは彼女の戸籍を示すものだろう。
 二つ、四つ、それ以上。千々になったこの世界の冬子の存在証明は風にさらわれて手から離れ、鴨川へと流れ落ちていく。

「私はただ、“本当の自分”を知りたいんだ」

 沈黙が流れる。鴨川の囁きはもうキャスターの耳に入らない。冬子はじっと、キャスターの反応を窺っていた。
 “本当の自分”を知らないという恐怖がどれだけ心を蝕むものか、キャスターは知っていた。キャスターもまたそうであると言えたからだ。
 数多の霊基と人格が混じり合って生まれた代替物、それが今のキャスターだ。本来ならば英霊はある程度生前との連続性を約束される。
 しかしキャスターはそうではない。キャスターの霊基自体は古いものであるが、キャスター自身は生まれて間もないと言えるだろう。
 いわば今回の聖杯戦争でのみ存在していられる、仮初の“自分”のようなものだ。役目を終えて座に還れば人格は分離してあるべき霊基に戻り、今の“自分”はきっとなかったことにされる。
 それでもいいと、キャスターは考えていた。ただの泡沫に過ぎない存在が、なにを未練に思うことがあるだろうかと。
 しかし冬子は違う。彼女は“本当の自分”を知ることに貪欲だった。用意された妥協とも言える答えを蹴飛ばすほどに。
 それがキャスターには、とても眩しく見えた。


291 : ルリノユメ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:26:05 uuvSzN0Q0
「前にも言ったかもしれないけど、僕はたくさんの“自分”が集まってできた、表面だけのようなものなんだ」

 今度はキャスターが語る番だった。自分の成り立ちについては冬子に伝えていたが、“自分”について話すのは初めてだった。
 両手がすっかり空いた冬子が黙って続きを促す。

「要はさ、この聖杯戦争のために作られたような存在なんだよね。冬子に召喚されたときに生まれて、別れるときには消えちゃうんだ。だから僕は僕自身を“自分”って考えられないんだ」

「なんだ、まるで私と出会うために生まれてきたみたいじゃないか」

 冬子が笑って茶化す。キャスターは運命を信じる性質ではないが、そうかもしれないねとおどけてみせた。
 物は言いようだ。例えば聖杯戦争に勝ち抜いて願いを叶えた者がいたとして、『聖杯戦争は彼の願いを聞くために行われた』とだって言えてしまうのだから。

「でもそうだね。きっと私とテスカトリポカさんは、同じなんだ」

 今度は声に出さず、心の内で肯定した。冬子が真名を口にしたことも気にならなかった。
 “本当の自分”を知らないマスターと“自分”が分からないサーヴァントに、なんの違いがあるだろうか。
 ただ異なるのは意欲だろうか。冬子とは対照的に、キャスターはこのまま消えてしまっても構わないと考えていた。
 しかし、ここにきてその考えに亀裂が入り始めていた。自分より弱く儚いはずの存在が“本当の自分”を探し求めるその様に、触発されたのしれない。

「ねえ、冬子」

 考えるより先に、口が動いていた。

「僕がこの聖杯戦争が終わってからも、“自分”であり続けたいと思うのは我儘かな」

 珍しく冬子が目を見開いたが、それも一瞬だった。

「そんな訳ないじゃないか。私たちが“自分”を求めるのは、誰にも邪魔なんてできないんだよ」

 そう言って微笑んだ彼女はとても自信に満ちていて、それがキャスターには頼もしく思えた。
 それと同時に、言いようのない感情を冬子に向けているのを、キャスターは自覚していた。
 好きとか嫌いとか愛してるだとか、そういったものではない。そんな想いを他者に抱けるほど、キャスターはまだ人との関わりを経ていなかった。
 ただキャスターにとって、冬子は必要な存在なのだ。そしてきっと、冬子にとってのキャスターも同じなのだろう。
 ようやく、“自分”が聖杯にかけるべき願いを見つけられたような気がした。

「帰ろうか、キャスターさん」

 いつの間にか横を通り抜けていた冬子が、振り向きざまに声をかける。川のせせらぎが戻っていた。また車が七条大橋を照らして通る。
 追ってキャスターも歩き出す。身体を撫でる夜風が心地よい。

「うん、冬子。ちゃんと守ってあげるから」

 そうだ、冬子はここで命を落としてはならない。生き残って、彼女の世界でちゃんと“本当の自分”を見つけるべきだ。
 そして願わくば彼女の傍で、いつか探し物が見つかるのを見届けられんことを。


292 : ルリノユメ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:27:02 uuvSzN0Q0
【クラス】
キャスター

【真名】
テスカトリポカ@アステカ神話

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力A 幸運A 宝具EX

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
陣地作成:A+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 “神殿”を上回る“大神殿”を形成することが可能。

道具作成:A+
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 黒曜石を素材とする場合、十分な時間さえあれば宝具を作り上げることすら可能。

【保有スキル】
神性:EX
 神霊適性を持つかどうか。
 アステカ神話に連なる正統な神である。

変化:A+
 卓越した魔術による肉体の変形・変質。
 キャスターは変身の名人とされ、千の化身を持つとされる。
 特にジャガーに変身した場合、敏捷を1ランクアップさせる。
 本人は「今の自分が分からなくなるのが怖い」とあまり使いたがらない。

千里眼(偽):A
 義足でもある『煙を吐く鏡』によって得たスキル。
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
 透視、未来視さえも可能とする。

【宝具】
『黒望みし底知れぬ闇(ヤヤウキ・テスカトリポカ)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 召喚の際の不可解な現象によって得た、本来ならば存在しないはずの宝具。
 キャスターがかつて関連づけられていた、様々な神性や権能を自由に行使することができる。

  例えばそれは、夜風の神ヨワリ・エエカトルとして。
  例えばそれは、疫病の神チャルチウトトリンとして。
  例えばそれは、黒曜石のナイフの神イツトリとして。
  例えばそれは、山彦と地震の神テペヨロトルとして。
  そして高貴なる魔術師、ナワルピリとして。

 夜の風に紛れて自由に移動できたり疫病を撒き散らしたり、天変地異を起こしたりと魔力がある限りやりたい放題である。
 軍神としての側面も持つため、キャスタークラスでありながら殴り合いにもそこそこ強い。
 キャスターとしての技能はほとんどがこの宝具に依存している。

『死の渇き満たす祭(トシュカトル)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 生贄本人から進んで身を投げ出したとされる異様な祭祀の再現。
 作成した“大神殿”の影響が及ぶレンジ内に、ランダムで黒曜石と翡翠で作られた仮面を転移させる。
 それを拾った者はAランク相当の黄金律(偽)を付与され、贅沢と快楽の限りを尽くす事が出来る。
 ただし、一定時間ごとに精神判定を行い、判定に失敗する度に対象の生贄願望が強くなっていく。
 最終的には対象自ら命を絶ってしまう。キャスターは対象が自殺した瞬間、離れた場所にいても魂喰いと同じ効果を得ることができる。
 またキャスターは仮面の持ち主の位置と生贄願望の強さを、常に捕捉することができる。


293 : ルリノユメ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:28:11 uuvSzN0Q0
『煙を吐く鏡(テスカトリポカ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 キャスターの名を冠する、黒曜石を磨いて作られた鏡。この世のあらゆるものを映し出すとされている。
 キャスターの失われた右足に付いており、吐き出される煙が実体化して義足代わりになっている。
 常に濃度の高い煙を撒き散らしており、非常に視界が悪くなる。
 キャスターに対する命中判定に、常にペナルティを付与する。
 またこの鏡の所有者に『千里眼:A』を付与する。

【weapon】
『無銘・黒曜石のナイフ』
 刃渡り15cm程度の、黒曜石を削って尖らせたナイフ。
 キャスターがスキルで製作したもので、宝具級の代物である。
 キャスターは『黒望みし底知れぬ闇』によって、これを極めて高いレベルで扱うことができる。

『無銘・マクアフィテル』
 キャスターがスキルで製作した、木の板に黒曜石を挟んだ木剣。
 刃物のように叩き切るだけでなく、棍棒としても用いることができる。

【人物背景】
 古くはトルテカ族の軍神であった、アステカ神話における最高神。
 夜の空、夜の翼、北の方角、大地、黒曜石、敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い概念と関連付けられている。
 罪を罰し、復讐を行なう力を持つ。戦士、呪術師、泥棒、奴隷の守護神でもある。
 ナワルピリ(高貴な魔術師)、ヨワリ・エエカトル(夜風)、テペヨロトル(山の心臓)など多くの名前と神性を持つ。
 ケツァルコアトルとともに創世した際、右足を失い『煙を吐く鏡』を義足とするようになった。
 互いに太陽から蹴落とし合ったり、酒を飲ませて失脚させたりとケツァルコアトルとは険悪であるが、テスカトリポカは「弄りがいのある相手」くらいにしか思っていない。
 アステカ神の例に漏れず、生贄を要求していた。テスカトリポカの生贄には若い男性が選ばれ、従者や若い女性を傍につけて神のような生活を一年間過ごし、祭祀の日に神官が心臓を取り出して捧げたという。

 同じ中南米の神であるケツァルコアトルと同様、人間に乗り移って活動していた。
 しかしテスカトリポカは他の神々とは異なり、時代や地域によって呼び名や神性が大きく異なっていた。これがテスカトリポカが「千の化身を持つ」とされる所以である。
 本来ならばいずれかの側面が分霊として召喚されるはずだったが、なぜかテスカトリポカという概念に近い形で召喚されてしまった。
 そのためにこのテスカトリポカの霊基は、これまでテスカトリポカであった存在が全てごちゃ混ぜになっている状態であり、性能だけで見れば本来のテスカトリポカ神に極めて近い。
 この不具合といってもよい現象によって、『黒望みし底知れぬ闇』を得るに至った。
 しかし中身は複数の人格が溶け合ったために代替として生まれた、全く新しい人格である。この聖杯戦争が終われば今の霊基はなかったことになり、自分という人格は消えてしまうだろうとテスカトリポカは推測している。
 テスカトリポカはそんな自身を“自分のようなナニカ”として捉えており、召喚当時はそれほど消滅を恐れてはいなかった。
 だが生まれて初めての話し相手に影響され、他の分霊から切り離された別個の存在としての“自分”を望むようになる。
 ちなみにどの時代のテスカトリポカでも気まぐれで自分がやりたい事をやる、トリックスター的な性格は変わらなかったらしく、このテスカトリポカもしっかりと受け継いでいる。
 とはいえマスターのことは気に入っているようで、彼女に害が及ぶようなことはしないだろう。

【特徴】
 黒髪に黒目の、痩躯な少年。顔はかなり整っている。
 今までのテスカトリポカが皆着ていたというアステカの民族衣装を嫌い、変化を利用して現代の衣服を着ている。
 季節に合わせ適当なコートにニット、Gパンというラフな格好を好む。
 右足の欠損を『煙を吐く鏡』で補っているが、認識阻害の魔術を用いて普通の義足に見せかけている。

【聖杯にかける願い】
 “自分”という存在のまま受肉し、冬子の行く末を見守る。


294 : ルリノユメ ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:29:00 uuvSzN0Q0
【マスター】
朽木冬子@殻ノ少女

【能力・技能】
 ごく普通の学生であり、際立った技能や能力を有さない。
 再生不良性貧血を患っており、定期的に注射器で薬を投与しなければ倒れてしまう。
 ボンベイ型という特殊な血液型であり、通常の輸血ができない。

【人物背景】
 大人びているが、大人でも少女でもない生き物。
 昭和31年を生きる、ミステリアスな雰囲気の高校2年生。祖父が病院を持っている、いわば良家の子女である。
 外見は美少女だがまるで少年のような口調で話す。周囲からはやや浮いているが、本人はどこ吹く風で自分のペースを崩さない。
 母と伯父(母の兄)と三人暮らしだが母親との関係がうまくいっておらず、自分は誰からも愛されていないと考えている。
 漠然と自分が朽木家の人間ではないと感じとっており、戸籍を調べて実は養子であったことを知る。
 今の自分が“本当の自分”ではないと悩み、“本当の自分”を知るためにある探偵に依頼することになる。
 今回の聖杯戦争では母と伯父とともに暮らしているが、血の繋がった母ということになっている模様。
 礼呪は鳥を模したものが右の脇腹にある。ゲーム本編開始前からの参戦。

【マスターとしての願い】
 願いはあるが聖杯には託さない。

【方針】
 冬子の生還を最優先とし、願いを叶えるのは二の次。
 積極的には交戦せず、自己防衛を重視する。


295 : ◆jpyJgxV.6A :2018/01/13(土) 06:29:20 uuvSzN0Q0
投下終了します


296 : ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:37:22 ncg471zU0
投下します。


297 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:39:26 ncg471zU0

誰かに呼ばれた気がして、町はずれの森を歩いた。
夜明け前の空は、まだ暗い。薄闇の中を歩いているうちに、洞窟の入口を見つけた。
内部は暗く、奥は深い。……胸騒ぎがした。この洞窟は、あなたを招いている。

あなたは洞窟に足を踏み入れた。『螢火』の呪文を唱え、周囲を照らす。

―――なぜあなたは、そんなことが出来るのか? ライターや懐中電灯ではなく、呪文を?
息を吸って吐くほど自然に、あなたはそれを行った。それを疑問に思った時……。

今、あなたは全てを思い出した。本当の本当の人生、本当の力を。帰るべき場所を。そして、聖杯戦争の記憶を。
あなたの金髪は白髪となり、碧い瞳は赤い瞳となる。手元にあの杖と、あの宝石が現れる。あなたが獲得した知識と経験が蘇る。
さあ、冒険を始めよう。



洞窟の奥へ進むと石の階段があり、それを何百段と下るうち、広大な空間に出た。見渡せば、それが古い時代の図書館だとわかる。
あなたは歴史に関する知識を持っているが、あの世界の様式ではない。けれど、雰囲気そのものは似ている。
こちらの、今暮らしている世界の、ある時代、ある地域の様式だ。何百年、千年も前の、砂漠と大河の国……。

「ああ、迷い込まれましたか」

不意に前方から声。敵意はない。螢火に照らされたその姿は、この図書館の時代と様式にしっくりと合う。
頭にターバンを巻き、ゆったりとした長衣を纏い、髭に覆われた顔。彼は軽く会釈し、名乗った。

「私は、『アブー・アリー・アル=ハサン』。フランク人(イフランジ)は『アルハゼン』などと呼びますが」

アルハゼン? どこかで聞いた名だ。しかし、こちらの世界の存在のはずだ。とすると、自分のサーヴァントだろうか。
あなたが訝しんでいると、向こうが問う。
「それで、あなたは……?」


298 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:41:48 ncg471zU0

『アベリオン』。あなたは、そう名乗った。賢者デネロスの弟子であり、強大な魔術師であり、タイタスの子孫であるあなたは。
ここは、あなたが暮らしていたネス公国のホルムの町ではない。日本という極東の島国の、かつての帝都。キョート、という。



「ははあ、フランク人ではない。ローマ人(ルーミー)でもない。それらと似た異世界から来られたと。そういうこともありましょうな」

アルハゼンはこちらの話を聞いて、理解してくれたようだ。あなたは「ここは?」と問う。
キョートにこんな広大な地下空間が広がっているとは聞いたことが無い。アルハゼンは悲しげな顔をして答えた。
「あなたが召喚された方の、宝具の中です。私も閉じ込められているんですよ。英霊でもないのに……」

召喚? 宝具? つまり、サーヴァントが自分を、閉じ込めている? あなたの頭は疑問でいっぱいになる。
アルハゼンはあなたのサーヴァントではないが、友好的ではあるようだ。疑問をぶつけてみよう。
「ええ、そういうことで。その方も、ここを彷徨っておられます。私には一応居場所がわかりますので、ご案内しましょう」

その、サーヴァントの名は? クラス名は? そう問うと、アルハゼンは苦笑いし、本棚から一冊の本を取り出して、あなたに手渡した。
「私の口からは、ちょっと。とりあえず、この本を……」
どうもよくわからないが、歩きながら読めということらしい。否、読まないうちから本の内容が頭に流れ込んでくる……。



「ああ、よかった、おられました。すみませんが、ここで少々お待ちを」

迷宮のように入り組んだ大図書館を、進むことしばし。アルハゼンが立ち止まり、小声で言う。
奥の暗がりに目を凝らすと、長椅子に寝そべって本を読んでいる小柄な影がいる。アルハゼンは長椅子の傍らに近づき、囁いた。あなたは耳をそばだてる。
「……夜明け前の礼拝の時間です、陛下。それから……」
小柄な影は頷き、本を置いて、一緒に近くの小部屋へ歩いて行く。二人はその前にある水場で丁寧に身を清め、小部屋に入って祈りの言葉を唱える。

「「神は偉大なり(アッラーフ・アクバル)。唯一神の他に神なし(ラー・イラーハ・イッラッラー)。ムハンマドは神の使徒なり(ムハンマド・ラスールッラー)……」」

声からすると、小柄な影の方は少年らしい。アルハゼンと少年は、ムスリム。イスラム教徒だ。異教徒であるあなたは、おとなしく待っている他ない。


299 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:44:14 ncg471zU0

この世界について吹き込まれた知識と、先程の本からの知識によれば、全世界にイスラム教徒は16億人いるという。
世界人口は70億余。世界の四人に一人はムスリム(信徒)やムスリマ(信女)というわけだ。
イスラム教(イスラーム)は大きくスンナ派とシーア派に分けられる。後者のほうが圧倒的に少数派だが、それでも2億人はいる。
預言者ムハンマドの娘婿であるアリーの子孫だけを宗教指導者(カリフ、イマーム)と認めるのがシーア・アリー、シーア派だ。
シーア派の中でも最大派閥は「十二イマーム派」といい、イランやイラク、湾岸諸国などに分布する。
その他にもシーア派の分派は数多く、それらはシリア、パキスタン、アフガニスタン、インドなどに少数ながら存在する。

あの少年が属するのはイスマーイール派、または七イマーム派という。七代目のイマーム位を巡って派閥抗争があり、十二イマーム派と別れた。
その一派が北アフリカに渡り王朝を建てた。その王朝はエジプトを征服し、シリアやアラビアに勢力を伸ばした。彼はその君主だという。



礼拝が終わり、二人がスッキリした表情で小部屋から出て来た。跪き、恭しく呼びかける。

少年があなたに顔を向ける。灯火に照らされたその顔は、鞣し革のような褐色の肌に金髪碧眼。瞳の中には赤金色の斑。
年齢は十代半ば頃か。顔貌は整い聡明そうだが、どこか爬虫類じみた、酷薄さと狂気を感じる。手には奇妙な金属製の小箱を持ち、弄んでいる。
身に纏うのはアルハゼンと同じくターバンと長衣、それに黒い毛織の外套で、ところどころに金糸や宝石があしらってある。
だが、ひどく汚れている。悪臭がし、埃まみれだ。髪の毛は汚れて肩まで伸び、爪は長く、垢だらけ。君主だか乞食だか分からない。

彼は意外なほどの大声で、こちらの呼びかけに応え、問うた。
「そなたがぼくの、マスターであるな!」
あなたは「はい」と答える。少年がサーヴァントであるなら、当然聖杯戦争に関する知識も与えられている。
細かいところはアルハゼンが説明しておいてくれたようだ。少年は、大声で名乗った。

「ぼくはアブー・アリー・マンスール・アル=ハーキム・ビ・アムリッラー・イブン・アブー・マンスール・ニザール・アル=アズィーズ・ビッラー。
 信徒の長(アミール・アル=ムウミニーン)、神の代理人(ハリーファト・アッラー)、救世主(マフディー)、導師(イマーム)である!」

超長い。とりあえず『ハーキム』と呼ぶことにしよう。真名が分かったのでステータスを確認する。クラスは……『フォーリナー』?


300 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:46:24 ncg471zU0

ハーキムは、瞳をギラギラと輝かせて問う。
「アベリオン! そなたは、聖杯を望むか!」
あなたは……少し躊躇ったのち、「はい」と答えて頷いた。
「そうか。では、何の故に望むか!」

あなたは答えた。元の世界へ帰るためだ、と。ここはあなたの国、あなたの世界ではないのだ。故郷では親しい友人たちが心配していよう。
聖杯でなんでも欲望が叶うとしても、それで叶えるほどの欲望を、あなたは持っていない。
力と欲望の果てが何であるか、何であったかを、あなたは既に知っている。聖杯にも匹敵する力を、あなたは見た。

このような殺し合いを主催する者たちは、どうせろくな連中ではないだろうが、彼らと戦う必然性も今のところ乏しい。
ならば、帰還を望むのが一番だろう。なるべくマスターを殺さず、サーヴァントだけを屠ればいい話だ。あなたにはその力がある。
生かしておけないほど邪悪なマスターなら、容赦はしない。あなたはそのように告げた。ハーキムは頷き、答えた。

「ぼくは、聖杯を獲得する! そして、理想の世界を実現するのだ! これはぼくの聖戦(ジハード)だ!」

理想の世界、とは。あなたは思わず訊いた。ハーキムは笑って答えた。

「勿論、アル=イスラーム(神への帰依)が万人に信じられ、神が正しく讃えられる世だ!
 全ての悪徳が滅び、誰も酒を飲まず、浴場に行かず、犬が消え、モロヘイヤがなくなり、夜の闇に覆われた世界だ!
 おお神の使徒ムハンマド(彼の上に平安あれ)とイマーム・アリー(彼の上に平安あれ)よ!」

なるほど、彼は狂っている。いや、神がかっているのだ。ぽかんと口を開けて見ていると、彼はさらに大声を張り上げた。

「アベリオン、そなたが言いたいことはわかっておる! 邪悪な妖術師どもが作り上げた聖杯だというのだろう!
 預言者イーサー(彼の上に平安あれ)が用いたとして、無知蒙昧なフランク人のでっち上げた聖遺物だとも言うのだろう!
 それでもよい! 神はそれを本物にして下さるだろう! 神がぼくに、それを獲得せよとお命じになったのだ!」

あなたは……理解も賛同も出来ないが、彼と協力することにはした。
彼の戦闘力は乏しく、狂信的過ぎて理性的とは言えないが、自分のサーヴァントがいなければ聖杯は手に入らないだろう。
ただ、彼の望みを叶えれば、この世界の人間によからぬ影響を与える。それはどうにか阻止したほうがよさそうである。


301 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:48:16 ncg471zU0



アルハゼンに案内され、図書館から出た。―――気がつくと洞窟ではなく、あなたのベッドの上だ。窓の外は明るくなってきた。
どうやらあの洞窟、図書館は、夢の中とも通じているらしい。枕元にはあなたの杖<上霊>と、あなたの宝石「イーテリオのかけら」がある。
そして……部屋の片隅には、黒い影が蟠っている。あの影の中に、先程のハーキム、フォーリナーがいる。あなたにはわかる。

【アベリオンよ。ぼくは眠い。ぼくは夜行性なのだ】

フォーリナーからの念話だ。

【ぼくは寝る。日が沈んだら起こせ】

影がトカゲのように床を這いずり、あなたの影と融合する。
するとあなたの脳内に、膨大な情報が流れ込んで来る。あの図書館の蔵書の知識だ。いや、それ以外にも、何か不吉な、禍々しい何かが……。
膨大過ぎる。一旦流入を止める。……過ぎた知識は、身を滅ぼす。必要なだけあればいい。あなたはそれを知っている。

あなたは偉大な魔術師だ。その杖も宝石も、高次元からもたらされた神秘の塊だ。その魔力をもってすれば、英霊とも充分戦えよう。
しかし、あなたは人間。格闘能力には乏しく、さほど敏捷でも頑丈でもない。神秘的な各種防具もない現状、ドラゴンに爪でひとかすりされれば死にかねない。
精霊を召喚して従えることも、結界や魔物よけの呪文で身を守ることも可能だが、あなたとフォーリナーだけで聖杯を獲得することは困難だ。

あなたには仲間が必要だ。少なくとも、会話が通じ、邪悪ではなく、聖杯を望まないか帰還を求める、まともな精神の主従が。
しばらくすれば、否応なく殺し合いは始まる。京都市内ではいろいろ不穏な話も流れている。暴走を始めた主従の仕業かもしれない。

まずは、情報を集めよう。生き残り、元の世界へ帰ろう。あなたは決断し、ベッドから起き上がった。


302 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:50:25 ncg471zU0

【クラス】
フォーリナー

【真名】
ハーキム@ファーティマ朝

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具B+

【属性】
混沌・狂(自己認識は秩序・善)

【クラス別スキル】
領域外の生命:EX
詳細不明。恐らくは地球の理では測れない程の生命を宿している事の証左と思われる。

神性:B
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。
異邦の神と接し、その影響を受けているが為に、フォーリナーはそれ由来の神性を帯びるようになる。自覚はない。

狂気:B
理性による力の枷が外れており、攻撃性が高くなっている。人間を容易く狂わせる狂気を放つ彼自身もまた、狂気に陥っている。
「外なる神々」は存在自体が狂気そのものであり、さらにそれを周囲に無遠慮にばら撒く混沌そのものである。
彼の場合、「理性を奪われた」状態で「正常な思考を維持する」矛盾を成し遂げている。ただしまともな会話は難しい。

【保有スキル】
信仰の加護:A+++
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。敬虔なイスマーイール派イスラームの信者であり教主。

影灯籠:A
影そのものと同化するスキル。暗闇から周囲の魔力を得る為、実体化さえしなければマスターの魔力供給はほぼ不要。
令呪を使われない限り、マスターに対してもステータスの隠蔽が可能となるが、自覚がないので特に隠そうとはしない。
完全に夜行性化しており、日光を浴びると悶え苦しむ(滅びはしない)。灯火や電気の光程度なら大丈夫である。

気配遮断:A+
自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
シーア派の伝統であるタキーヤ(信仰秘匿)、彼が獲得したガイバ(幽隠)の伝説、そして邪神の影響により、極めて強力になっている。


303 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:53:07 ncg471zU0

教主特権:B
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。エジプト・アラビア・シリア・北アフリカを支配したファーティマ朝の専制君主。
宝具と邪神の影響によりランクアップしている。該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
「黄金律」スキルも含まれており、一生金に困ることはないが、本人は財産に無頓着。

正気喪失:B
彼に宿る邪神より滲み出た狂気は、人間の脆い常識と道徳心をいともたやすく崩壊させる。

【宝具】
『玄妙驚異な知の迷宮(ダール・アル=イルム・ワ・ダール・アル=ヒクマ)』
ランク:B 種別:対人/迷宮宝具 レンジ:? 最大捕捉:100

敬虔で知識を好んだ名君としての彼が持つ宝具。彼がカイロに創設した、神学・哲学・科学の研究機関。
これを所有することは、スキル「蔵知の司書」と「専科百般」を各々Bランクで持つに等しい。恩恵はマスターにも及ぶ。
固有結界として展開すると、迷宮じみた広大な図書館となる。全貌は彼自身にも分からず、アルハゼン(イブン・アル=ハイサム)など学者の亡霊が彷徨している。
アレクサンドリア図書館やアッシュールバニパルの図書館、バグダードの「知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)」など歴史上の(また架空や異次元の)図書館に繋がっている可能性もある。
探索すると魔術書や調合素材も見つかるかもしれない。ただしこの図書館に長期間閉じ込められると、蔵書の内容に没頭して正気を失っていき、果ては知に飲み込まれて消え去る。

『妄想天使(マーリク・アル=ザバーニーヤ)』
ランク:B+ 種別:対悪宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:100

拷問と処刑を好んだ暴君としての彼が持つ宝具。19本の燃え熾る肉刺し(フォーク)。
展開すると地獄(ジャハンナム)を司る天使マーリクが顕現し、19体の従天使ザバーニーヤに命じて敵を攻撃させる。
また苦く猛毒のザックームの実が敵の口に無理やり詰め込まれ、体内で爆発して地獄の焔が燃え上がる。異教徒、特に「悪」属性に対して特攻。
七イマーム派なので七の倍数にしたいが、クルアーンにあるので無理だった。別にランサーの適性はない。
マスターが極めて強力な魔術師であるため、その魔力が上乗せされて凄まじい破壊力になっている。


304 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:55:48 ncg471zU0

『黒く輝く多面体(サティァ・タラビズゥヒドゥルーン/シャイニング・トラペゾヘドロン)』
ランク:B+ 種別:対界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:50

フォーリナーたる所以の宝具。ラヴクラフトの小説『闇をさまようもの』に登場するアーティファクト。時間と空間の全てに通じる窓と言われる。
直径4インチ(10cm)ほどの、漆黒でところどころに赤い線が入った球形の結晶体で、不揃いな大きさの切子面を数多く備えた多面体(偏方二十四面体)。
不均整で奇怪な装飾が施された金属製の小箱の中に、金属製の帯と七つの支柱によって吊り下げられている。
暗黒星ユゴスで作り出され、「古きものども」によって地球にもたらされ、ヴァルーシアの蛇人間の手を経て、レムリア、アトランティス、古代エジプトに渡った。

暗闇の中でこの多面体を見つめることで、心に異界の光景を浮かび上がらせ、混沌の彼方より無貌の神の化身「闇をさまようもの」を召喚する。
これは黒煙で出来た巨大な蝙蝠人間のようで、黒い翼と燃え上がる三つに分かれた目を備え、暗闇の中ならどこへでも、固いものを突き抜けて飛んで行く事ができる。
魔力のこもっていない物理的な攻撃は通用しない。攻撃する時は標的を煙状の肢で掴み、肉体を焼き溶かしつつ脳を貪り食ったり、高所から墜落させたり、異次元へ連れ去ったりする。
ただし継続する眩しい光には極度に弱く、星明かりならなんとか耐えるが、ロウソクや松明、懐中電灯や月光ですらダメージを受け、直射日光を浴びると崩壊する。
雷や閃光のように一瞬だけの光なら大丈夫らしい。この化身を目撃した者は狂気に襲われる。使い所が難しい。

【Weapon】
宝具である肉刺し(フォーク)と金属製の小箱。宝剣や短剣も帯びている。

【人物背景】
エジプト・ファーティマ朝の第六代カリフ(985年生まれ、在位:996-1021)。父はアブー・マンスール・ニザール・アル=アズィーズ・ビッラー。
本名はアブー・アリー・マンスール、即位名はアル=ハーキム・ビ・アムリッラー(神に命じられた統治者)。
父の病死により11歳で即位し、宦官バルジャワーンが後見人となった。宦官は宰相として全権を握り、ハーキムを軟禁したが、ハーキムは5年後に彼を殺して親政を開始した。
彼はファーティマ朝支配層の公式教義であるイスラム教シーア派の一派・イスマーイール派(七イマーム派)を称揚し、積極的に宣教活動や宗教施設の建築を行った。
また学芸の保護者となり、首都カイロに「知識の館(ダール・アル=イルム)」「知恵の館(ダール・アル=ヒクマ)」を創設、世界中から人材を集めて科学や神学の研究を行わせた。

その一方、彼は厳格な原理主義者、理不尽で気紛れな専制君主として知られ、統治下の住民(非イスマーイール派が多数)に厳しい禁令を課した。
ユダヤ教徒は鈴、キリスト教徒は十字架を常に身につけるよう命じ、シナゴーグや教会、修道院はみな破壊して、その財産を没収した。1009年にはエルサレムの聖墳墓教会も破壊している。
酒、歌舞音曲、遊興、売春、将棋や賭博は禁止され、葡萄畑も破壊された。女性が公衆浴場に出入りすること、後には外出することすら禁止され、靴屋には女性用の靴を作るなと命令した。
犬がうるさいというので皆殺しにし、スンニ派のカリフがモロヘイヤを好んだというので栽培さえ禁止し、鱗のない魚を売らないように市場では魚の鱗をつけたまま売らせた。
禁令を破った者や癇に障った者は誰でも即座に処罰・処刑された。時折気前よく金銭や封土・官職を与えたが、その直後に手足や舌を切ったり命を奪ったりした。
また夜と暗闇がひどく好きで完全に夜行性であり、会議も深夜に開き、人々には夜働いて昼は外出するなと命令し、ロバに乗って一晩中カイロ市街を巡視した。
髪も爪も切らず、外套やターバンも換えなかったので悪臭を放ち、浮浪者同然の身なりであった。瞳は青く、トカゲのようにすばしこく動き、異様な大声で話したという。

狂気の暴君ながらカリスマ性はあり、誰も彼を殺そうとはしなかったし、彼を救世主(マフディー)や神の化身だと信じる集団すら現れた。
1021年のある夜、36歳のハーキムはいつものようにロバに乗って砂漠へ散歩に出かけたが、そのまま行方知れずになった。
数日後に血の付いた彼の衣服と傷ついたロバが見つかり、暗殺されたらしいが、黒幕は彼の妹シット・アル=ムルクともいう。妹はハーキムの子ザーヒルをカリフとし、後見人となった。
彼を神格化していた集団は「生きたままこの世からお隠れ(ガイバ)なさったのだ」と主張し、未来に帰還すると唱えたが、主流派からは弾圧され、ドゥルーズ派を形成した。


305 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 16:58:27 ncg471zU0

イスラム圏の君主の中でも相当に奇矯な人物。キリスト教徒やアッバース朝など反ファーティマ朝勢力によるネガティヴ・キャンペーンも多々あろうが。
彼の治世にファーティマ朝は衰退を始め、北アフリカやシリアが反乱で分離してしまった。七イマーム派だから七を聖数とするが、自分はファーティマ朝六代目なのでなんか不満。
なお、彼の孫ムスタンスィルの子がニザールとアフマド(ムスタアリー)で、ムスタンスィルの死後カリフ位を巡って両者の間に争いが起き、前者が敗北して幽閉された。
ニザールを支持する人々は「ニザール派」を称してファーティマ朝から離脱したが、イラン北部でこれを率いたのがハサン・サッバーフ(サッバーハ)である。
彼とその後継者らはニザールの代理人(フッジャ「証し」)を称したが、のちニザールの子孫たるイマームと称した。ハーキムからすればドゥルーズ派共々異端扱いであろう。
また19世紀フランスの詩人ジェラール・ド・ネルヴァルは『カリフ・ハーキムの物語』という短編小説を書いている。古川日出男の小説『アラビアの夜の種族』にも登場。

金髪碧眼褐色肌の夜行性サイコショタ。瞳の中には赤金色の斑点がある。趣味は美少年を切り刻むこと。バーサーカー、アサシン、キャスター、セイヴァーの適性も持つ。
星占いと知恵の探究が昂じて、古代エジプトのアレを発見してしまいああいう感じに。アレがアレであると理解しているが、唯一神の使いに過ぎないと考えている。

【サーヴァントとしての願い】
理想の国を地上に築く。闇に覆われ、犬やモロヘイヤや酒エトセトラがなく、誰もがイスマーイール派の正統教義(と自分の命令)に従う理想世界を。
彼に宿るアレは、それで世界に破壊と混乱がもたらされればいいと考えている。

【方針】
聖杯を手に入れる。行動は夜に限る。日中に無理やり起こされると暴れ、機嫌が悪いと『妄想天使』をぶっ放しかねない。



【マスター】
アベリオン@Ruina

【Weapon】
<上霊>
天界の知恵。利き腕に装備する片手杖。装備者の魔力を大幅に増強する。
振ると全体に重打・聖・闇・魔力属性のダメージを与えた上、魔力支配(魔物を混乱させる)や怯みを付与する。

『イーテリオのかけら』
契約のあかし。雷・聖・闇属性の攻撃に耐性。消費魔力半減。回避力上昇。即死無効。使用すると瀕死を含む全状態異常を治療(全体)。
星を鍛えて宝玉となしたものであり、無限の光明から流出する知識の出ずる門であるという。

イバの盾・始祖帝の戦衣・猫耳フードなどの各種装備品やアイテムは持ってこれなかった。


306 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 17:00:31 ncg471zU0

【能力・技能】
『古代知識』
歴史の知識や古代語のスキル。歴史や文化が根本的に違うこの世界では役に立たないが、魔術書を探したりするには役立つかもしれない。

『調合』
薬や装飾品などを作成する。ただし彼がいた世界で手に入る調合材料は、この世界ではほとんど手に入らない。
一応、トカゲの糞で煙石、トカゲの糞+毒腺で毒玉、布地+油で火炎ボトル、トカゲの糞+油で爆発フラスコが作れる。
しかし煙石以外は現代社会で作成・所持していることが知られると確実に逮捕される。魔術が使えるので特にいらない。

『古代魔術』
高次世界からもたらされた魔術。多数の強力な呪文を使いこなす。
「イーテリオのかけら」で消費魔力は抑えられている。先に相手の動きを拘束して一方的に叩き潰すのが定石。

攻撃:矢の呪文、幻影の呪文、不可視の力、鬼火、爆炎の投射、地霊の爪、くくりの呪文、白き槍の呪文、腕なえの言葉、破魔の理力、
   封魔の呪文、燔祭の火、稲妻、闇の投影、邪眼、腐敗の呪い、天雷陣、竜脈の解放、魔力支配、風の十二方位、樹縛、竜巻の呪文、
   炎魔界、凍土領域、劫火の王国、死の指、死霊支配、雷の暴君、瘴気、魔界門、氷の棺、死の空気、星落とし、裁きの雷、吸血鬼の呪文、大いなる秘儀
強化:加速の呪文、盾の呪文、結界の構成、光の障壁、詠唱、神殿結界、無音詠唱、地霊の守護、熱よけの鏡、水と風の加護
治療:治癒術、禍祓い、蘇生の秘儀、病祓い、治癒の力場
他 :螢火、魔物よけ、精霊の召喚

『呪歌』
吟遊詩人の用いる、魔力を込めた歌。敵の精神を惑わし、あるいは味方を鼓舞する。

攻撃:踊り歌、まどろみの歌、風喚びの歌、惑乱の歌
強化:いくさ歌


307 : Tyranny Within ◆Lnde/AVAFI :2018/01/13(土) 17:02:31 ncg471zU0

【人物背景】
枯草章吉のフリーゲーム『Ruina 廃都の物語』の主人公の一人。孤児であり、賢者デネロスの弟子。顔は男1。肌と髪が白く瞳は赤い。14歳よりは年上。
古代の大魔術師のようになり、自分の価値を証明したいと思っていた。冒険の末に自らが古代の皇帝タイタスの末裔であることを知る。
獲得した称号は「魔術師」「吟遊詩人」「退魔師」「妖術師」「賢者」「精霊術師」「魔人」。

【ロール】
高校生(ドイツからの短期留学生)。白髪赤瞳は目立つので、普段は幻術で隠すことにする。

【マスターとしての願い】
元の世界へ帰る。

【方針】
帰還に聖杯が必要なら獲得する。ハーキムの願いはどうかと思うが。

【把握手段・参戦時期】
原作「賢者の弟子」ルート。wikiとかを参照下さい。グッドエンドでのゲームクリア後。シーフォンは助けた。



投下終了です。


308 : ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:09:00 ExMDffcQ0
投下します


309 : 邪正一如 ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:09:38 ExMDffcQ0
京都市の一角にある洋風建築の屋敷。そこ内部は今、サーヴァントの手により空間的な限界を無視した広さを持つ拠点と変わろうとしていた。
全身を苛む激痛から、間桐雁夜はようやく解放された。のたうち回る事を止め、そのまま動かずに体力の回復を待つ。
石床から畳張りに変わった床の上で、大の字になって息を整える。
そして動かずにいるまま、十分程が過ぎ、漸く全身の感覚が正常になってきた。

「よう耐えなさった。じゃが、主人(あるじ)殿のお陰で、儂も宝具の支度が出来申した」

心からの労りに満ちた声がかけられた。
優しく、柔らかく、人の心の深い場所に染み入る様な声だった。
関わった人間全てに欺かれた、猜疑心しか人に向けぬ者であっても。
己以外を意識する事すらない傲岸の極みというべき者であっても。
この男の言葉には耳を傾けるだろう。そう、感じさせるものが男の声にはあった。
塩をかけられた蛞蝓にすら、心底からの労りを見せるほどに慈悲深い?
此方の抱えている事柄を、一言で言い当て、忽ちの内に解決法を示せる程の機知に富んでいる?
長い生の中で蓄積された経験が、岩盤の如き厚みと巌の如き重みをもって感じられる?
その何れもが当て嵌まり、その何れもが違うと言える声だった。この声の持ち主ならば、民主的な選挙制度のある国であれば、瞬く間に国家の首座を占める事が叶うだろう。
雁夜はこの声を聞く度に、男の名を思い浮かべる。日本でも並ぶ者など殆どいない知名度と、伝説的とも言える生涯を送った男の名を。

「礼を言うよキャスター。お陰で身体も随分マシになった」

身体を苛んでいた痛みも既に残滓が残るのみ。キャスターの宝具により齎される魔力が雁夜の全身に行き渡り、満たされた刻印虫は活動を停止していた。

「何の、マスターの命は我が命脈。礼には及びません。それに…マスターの戦う理由に、儂も深く感服し申した。是非にも、我等は聖杯を掴まねばなりません」

「そうだな。そして、桜ちゃんを…」

穏やかな物腰と語り口。第4次聖杯戦争に臨むと決めたその時から、雁夜に張り詰めていたものが、綺麗に収まっている。
消えたわけではなく、表に現れない様になっただけだ。それでも格段の変化と言えよう。
キャスターと過ごした一日にも満たない時間で、雁夜の精神は平穏とキャスターへの信頼で満たされていた。

「それでは、主人殿、今後の方針はやはり………」

「ああ、聖杯を取る。桜ちゃんを救い、葵さんと凛ちゃんの元へと帰す、そして時臣に罪に相応しい罰をくれてやる」

雁夜の言葉にキャスターは破顔した、猿そっくりの醜男が、笑うと愛嬌に満ちた顔になった。

「儂は主人殿のその気概を好いておる。善を成し義を行い、か弱き女子達に幸と笑顔を齎さんとする。ほんに儂は良い心根の主人に出逢えた」

「褒められる事じゃない。これは俺の贖罪でもあるんだから」

「そう御自分をお責めになるな。主人殿に責はござらんよ。咎められるべきは魔術師共。ささ、主人殿は今は何も気にせず身体を休めて下され。儂が万事片付けますに」

雁夜の謝辞を背に、キャスターは部屋を出た。
その顔には先程まで雁夜に見せていためのとは、全く異なる笑顔を浮かべていた。



────────────────────────────────────────


310 : 邪正一如 ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:10:44 ExMDffcQ0
深更。

屋敷の中は地獄と言うべき状況だった。
キャスターが陣地を構築した屋敷一帯が、突如として他サーヴァントの魔力の干渉を受けたのが20分前。
その20分で、築き上げた陣地の中で二人は敗北しようとしていた。

「ぐ……あ……ま…マス、た……」

キャスターは己がマスターに呼びかけるという、ただそれだけで全精力使い果たした気がした。
陣地が干渉を受けたと同時に二人を襲った強烈な飢えと疲労。地脈を汲み上げて魔力を得ている筈なのに、全く魔力を得ることができない。
マスターからの魔力も、予め陣地の内部に備蓄しておいた魔力も、全くキャスターに供給されないのだ。
それでいて飢えと疲労は時間が経つごとに増していく。
サーヴァントである己ですら最早立てぬほどの状態なのだ。人間でしかないマスターは最早昏倒しているだろう。
それが良い─────。キャスターは朦朧とする意識でそう考えた。このまま苦しんで死ぬよりも遥かに良いと。

だからこそ─────。

「れ…………れい……じゅ…を………………もっ…………て………」

マスターが令呪を使用した時には驚いた。そして同時に光明が見えた。聖杯戦争を戦うマスターに与えられる3回きりのワイルドカード。
これを用いれば、この己の制御をとうに離れ、未だ姿を見せぬ敵の手中に落ちたこの拠点から脱出できる。
そう、信じたキャスターは、マスターの右腕の令呪が輝くのを見た。
後は全身に魔力が満ちるのを待って─────。

「─────え?」

令呪が発動したのは確かに見た。ならば、何故、何も起きない?
最後の希望を断たれて、両者の動きと思考が止まったその時。

「ふむ……。令呪が一画とはいえ手に入るとはの」

猿を思わせる顔の小柄な男が屋敷内に入ってきた。

「中々良い陣地じゃった。じゃがのう、この京都で城を築くというのは、儂の方が先達じゃ。故に解る。城を築くに良い場所は何処か、逆に悪い場所は何処か。
キャスターよ。お主は儂の予想した位置に拠点を築き上げておったの。じゃから解った」

キャスター何とか頭を上げると、小男の右手にマスター右腕から消えたものと同じ紋様が見えた。

「儂の宝具といえども、使われておらぬ令呪は奪えぬ、礼を言うぞ名も知らぬ魔術師よ。褒美を取らそう」

言葉が終わると同時、キャスターに流れ込む魔力。その流れを感じた瞬間。

「ごふっ」

キャスターは頭部7穴から血を噴いて絶命した。

「男は要らん」

マスターの少年の頭を踏み潰すと、小男は屋敷を後にした。


────────────────────────────────────────


311 : 邪正一如 ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:11:20 ExMDffcQ0
予め目を付けておいた、キャスタークラスのサーヴァントが布陣しそうな場所へと、夜道を行きながらキャスターは、己がマスターを嘲笑う。

「全く以って愚かな男よ。娘を救いたいのならば、先ずは臓硯とやらを始末するべきであろうに。それに夫を父を殺しておいてその妻子にどのツラ下げて会うのやら。
まあ、これに関しては、儂が手解きしてやっても良いが。懸想したおなごの身内を殺す…我等を繋いだ縁かもしれんからのう」

目を細めて、召喚された時に見た、雁夜の記憶にあった3人を思い出す。

柔和で気品漂う良妻賢母の鑑と言うべき美女。遠坂葵。

「良い」

快活で母親によく似た顔立ちの、将来は陽光のように輝き、大輪の花を咲かせる少女。遠坂凛。

「良い」

凛とは異なる性質の、一見すれば姉の陰に隠れそうだが、いずれは凛にも負けぬ、凛とは異なる魅力を持つだろう妹。間桐桜。

「良い」

三者共に、各々の長を持つ名花。儂の城の彩りとなるには充分に過ぎる。
聖杯が手に入った暁には、城のを飾る花の中核となるあの魔王・織田信長と比しても劣りはしない。

「信長公…今度こそ我がものとしてみせますぞ」

それにしても……生前に食い散らかした代替共ではない、本物の織田信長。茶々ですら遥か及ばぬ、恋がれて欲したあの女を我がものとする機を呉れただけでなく、あの様な、上の上な女達との縁も繋いでくれるとは。
ああ、全く。あの阿呆にはいくら感謝しても足りないくらいだ。

「ほんに、あの阿呆にはどう報いてやろうかのう」

その笑みは何処までも邪悪で、己が欲望のみを思い浮かべたものでありながらも、人が見れば確実に心を惹かれるものだった。


312 : 邪正一如 ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:12:07 ExMDffcQ0
【クラス】
キャスター

【真名】
豊臣秀吉@十六世紀日本

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:B 幸運:EX 宝具:EX

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成できる。
十分な時間と素材さえあれば、宝具を作り上げることすら可能。
ただし、作成される宝具のランクは現代の神秘の薄さと、
現代で手に入る材料に左右される。
充分な量の武具があれば『方広寺大仏』を作成できるが、これ以外に作れるものを持たない。


陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”聚楽第”を形成する事が出来る。



【保有スキル】

人たらし:EX
人の心を掴むことに日本史上最も長けたキャスターの持つスキル。
敵であっても友とするどころか、主家を乗っ取り、主筋の人間を己が膝下に服さしめてもその人望は陰ることすらなく。
両親と義理の父と弟を殺された茶々ですらが愛する様になる程の人心掌握術。
一度味方と信じれば、キャスターが面と向かって敵対行動を取っても『何かの間違いだ』と思い込む。
最高ランクのカリスマ・扇動・諜報・人間観察・貧者の見識といった多彩なスキル効果を持つ。


中国大返し:A
予め地脈を確保しておくことで、地脈を伝って瞬間移動することができる。
点と点の間しか移動できないが、移動には時間と魔力を要しない。


軍略:B+
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
城攻めに際しては効果が倍増する。


直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。


黄金律:EX
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶり。
大土木工事と大規模な対外戦争をやっても財政破綻しなかった規格外の財力を持つ。


313 : 邪正一如 ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:12:59 ExMDffcQ0
【宝具】

飢餓地獄・鳥取城城飢え殺し
ランク: B++ 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大補足:1000人

嘗てキャスターが行なった、予め米を買い占めておいてから城を重囲する事で、城内を飢餓地獄とした鳥取城飢え殺しの再現。
発動と共に範囲内のマスター・NPCは強い飢餓と疲労を覚え行動不能となり、そのまま死に至る。
サーヴァントであれば、飢餓と疲労に加えて、ありとあらゆる魔力供給が断たれた上で魔力を奪われていき、最終的には消滅する。
範囲内は文字通りの飢餓地獄となる結界宝具。この中で奪われた魔力は、発動させた令呪であっても、全てキャスターに還元される。
干殺しは城攻めに用いられた手段である為に、“城塞”や“陣地”といったもに対しては、対象となった“城塞”や“陣地”の範囲内をくまなく多い尽くし、その中に蓄えられた魔力を根こそぎ奪い尽くす。
鳥取城の降兵に食を与えたところ、弱り切った胃が食を受け付けず、死亡したという逸話から、この宝具内で一定以上魔力が減った場合、魔力を供給されると死ぬ。
例外は、自力で魔力を精製出来る能力を持つ者か、キャスターが死なぬように加減して魔力を与えて回復させた者のみである。


下劣畜生極楽天・聚楽第
ランク:C〜A++種別: 城塞宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1000人

キャスターが京都に築いた“聚楽第”を召喚する。固有結界と言うべき天下人の歓楽の城。
内部の空間は拡張されていて、外見不相応な広大を持つ。
歓楽の城である為に、この城は土地の霊脈をキャスター及びマスターの魔力消費を零にする程に汲み上げ、同時に高い再生能力を与える。
“楽”を“聚”める、という名の通り、城の中に宝物を収納していくことで効果を増していき、最終的には大城塞に匹敵する効果を発揮する。
この宝物は“女性”も含み、女性であればサーヴァントであっても一度この城に囚われれば、“キャスターに所有された”事となり、抵抗は元より自力での脱出も不可能となる。
聚楽第を譲られた豊臣秀次が、謀反の嫌疑をかけられた際、未だ顔を合わせたことのない側妾諸共殺害されたという逸話により、
キャスター以外の聚楽第の主人である者。─────要するにキャスターのマスター─────がキャスターと対立した場合、その者及びその者と縁のある女性が全て死ぬ。
現在のマスターで言うならば、遠坂葵・遠坂凛・間桐桜の三人が該当する。



惣無事令
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:ー最大補足:1000人

キャスターが大名同士の私闘を禁じ、大名同士の争いを、己の名の下に裁定し、従わない者は罰するという、キャスターが諸大名を統制する立場にある事を示した法令が宝具と昇華されたもの。
キャスターと結んだ、或いはキャスター立会いの元に交わされた停戦協定を破約した場合、全ステータスが2ランク下がり、宝具及び令呪はは使用不能となる。
この状態はキャスターが消滅するか、キャスターに破約を許されるまで続く。



方広寺大仏
ランク:D〜EX 種別:対軍〜対国宝具レンジ:1〜100最大補足:1000人

刀狩りによって集めた武具を釘にして建造した『方広寺大仏』を建造する。
宝具武具を問わず、『武器』でさえあれば如何なるものでも材料とでき、建造された大仏は、キャスターの動きに連動して動く。
大仏の性能は、材料とした『武器』の性能に準じ、大量の宝具を用いれば、神造兵装すら凌駕するが、実質そこまで宝具を集められるわけが無い。
材料とした『武器』の能力をそのまま用いることが可能であり、空間を断つ刃を用いれば空間を断ち、大砲を用いれば砲撃を可能とする。


【weapon】
宗左文字
三好長慶を始めとして名だたる天下人の間を巡った刀。宝具ではないが、かなりの業物。


314 : 邪正一如 ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:15:18 ExMDffcQ0
【人物背景】
社会の最底辺から頂点に上り詰めた天下人。豊臣秀吉。
キャスターはその豊臣秀吉の栄光の影の部分である。
信長の死後に織田一族を自身の膝下にひれ伏させ、織田一族の女性を側妾とし。
民に重税を課し、大土木工事を行い、養子である豊臣秀次をその子供や妻妾までをも諸共に処刑し、凡そ暴君と呼ばれる者がやった事を余さず行った、紛うことなき大暴君。
これもまた“日輪の子”の本質。光が強い酷に影は濃くなるものなのである。
尚、世に言う戦国三英傑の中では最も京都と縁が深く、知名度補正により能力が向上している。

性格は好色じゃつ強欲。凡そ財であれば価値を問わず我が物にしようとし、美女であれば手段を問わず我が物にしようとする。
常に笑顔を浮かべ、振る舞いは明るく、行いは公明正大で正義感に富んでいるように見えるが、実際は目的の為ならば周囲への被害を一切考慮せず、腹の中では周囲を常に見下し、引き摺り下ろす機会を伺っている。
キャスターの人に対する評価とは、『己の役に立つか否か』に集約されている。
恋い焦がれた信長の面影を求めて市を欲し、茶々を手中に収め、織田一族の女性を側妾とした。
そんな彼が聖杯に望むものとは…………。


【備考】
聚楽第は既に展開されています



【方針】
聖杯狙い

【聖杯にかける願い】
受肉。信長公を我が手に


【マスター】
間桐雁夜@Fate/Zero

【能力・技能】
一年間の付け焼き刃で、寿命を削り潰して習得した魔術。
蟲を使役する魔術を使う。切り札は牛骨すら噛み砕く肉食虫「翅刃虫」の大群使役。ただし蟲は炎に弱い。


【weapon】


【人物背景】
第四次聖杯戦争の11年前に出奔。
聖杯戦争の1年前、遠坂葵のもとに顔を出したある日、彼女の口から娘の桜が間桐へ養子に出されたと知る。
桜を間桐から解放すべく、寿命を削り潰して魔術を習得し聖杯戦争に望む。

【方針】
聖杯を散る

【聖杯にかける願い】
葵と凛と桜が笑って暮らせる事

【参戦時期】
2巻終了直後


315 : 邪正一如 ◆A2923OYYmQ :2018/01/13(土) 19:15:49 ExMDffcQ0
投下を終了します


316 : がらんどうのマッチ箱 ◆Il3y9e1bmo :2018/01/13(土) 21:16:38 1qO59wCk0
投下します。


317 : がらんどうのマッチ箱 ◆Il3y9e1bmo :2018/01/13(土) 21:17:32 1qO59wCk0

「行き先は地獄ですよ」

アノヨから響くような声が鼓膜を刺激する。
そして、胸を、自分の胸を赤黒い腕が貫く。
刺すような痛み。どろり。身体が、意識が溶けていく。

「アイエッ!」

アーソンは己の叫び声とともに目を覚ました。
ベッドのシーツがぐっしょりと濡れている。すごい寝汗だ。

「……フーッ、フーッ!」

アーソンはそう呻くとまた布団を被った。
今日に入って五度目の悪夢である。

「マスター、マタ、アノ夢、見タカ?」

アーソンの隣に座って林檎の皮を剥いているのは、チャールズ・ダーウィン。
筋骨隆々で毛むくじゃらの身体、類人猿のような顔、そして少し漂う獣臭さ。
どう控えめに見てもゴリラだが、彼は正真正銘ランサーとして現界した、アーソンのサーヴァントらしい。
ダーウィンは太い指を器用に動かしてナイフを使っている。

「コレ、食ベテ、元気出シテ。林檎、体ニ、良イカラ」

ダーウィンはフォークと一緒に皿に綺麗に盛った林檎を差し出した。

「ああ、ドーモ……」

アーソンはそう言うと受け取った林檎を少し齧った。

ダーウィンと言えば「進化論」で有名だ。アーソンも名前とその概略ぐらいは知っていた。
しかし、ゴリラと言うのはどういうことだ? 実際、ダーウィン自身も何故自身がゴリラになってしまったのかは分からないらしい()。
だがサーヴァントがゴリラになってしまったのは仕方のないことだ。アーソンは若干の戸惑いを覚えながらも、日が経つにつれそれを受け入れつつあった。
そんなことより問題はこの悪夢の方だ。あの、あのネオサイタマの死神に殺された後にこの京都に転移して来たアーソンだったが、どうしても「あの光景」が忘れられないでいた。あの、ジゴクのような一方的な虐殺を。
幸いにもメンタルケアを習得していたダーウィンに、ぽつりぽつりとあの時のことを打ち明けてカウンセリングを受け、白昼夢を見る頻度は少しずつ減ってはいるのだが、依然ダーウィンの介護無しでは外にも出られない有様だった。

――このままでは、また殺されてしまう。

「二度目の生を得た」などと喜んでいる暇は無いし、もちろんそうは思えない。
アーソンは聖杯戦争に巻き込まれたのだ。

地獄のような、戦争に。

アーソンは皿の林檎を拳で包み、力を込めた。
林檎は瞬く間に松明めいて燃え、塵と化した。
アーソンのニンジャとしてのジツである「カトン・ジツ」も、心が折れた今となっては宝の持ち腐れだ。ベッドの脇に置かれたメンポもすっかり埃を被ってしまっている。

「ウウッ、クソッ、クソッ……!」

この京都はアーソンが知っているキョートとはどうやら別物のようだ。
ザイバツ・シャドーギルドのニンジャは暗躍していないようだし、日本から独立した自主国家でも無いらしい。
ザイバツのニンジャに襲われる心配は一先ずないが、それでも百戦錬磨のサーヴァントたちが己の命を狙ってくるのだ。それを考えただけでもアーソンは身震いがした。

そんなアーソンを見て何かを察したのだろう、ダーウィンは「心配、イラナイ。私、マスター、守ル」と言ってくれた。
実際、ダーウィンは頼りになった。外出する時は霊体化して常にアーソンの周りに付いていてくれ、この世界に転移する前はヤクザやメンターにやらせていた食料の買い出しやコインランドリーでの洗濯など、不慣れなことは何でも教えてくれた。
――だが、夕飯を食べている時も、テレビを眺めている時も、何をしていても、あの男の、例の瞳が頭に去来する。あの、赤黒い狂人の瞳が。

アーソンは手袋を外し、自身の手の甲を見つめた。
そこには「火」を象った紅蓮の令呪がしっかりと刻み込まれている。

アーソンはそれを見ながら、「やはり逃れられないのか……」と嘆息した。

――すると。

「生キ残リタイカ?」

ダーウィンが突然アーソンに尋ねてきた。

「マスター、私、策、アル」

「ほ、本当か……?」

アーソンは一縷の希望をダーウィンの言葉に見出した。

「本当、私、嘘ツカナイ」

するとダーウィンは椅子から立ち上がり、部屋の窓を開けた。
この部屋は崩れかけのアパートの三階に位置している。
窓の近くの電線には、カラスが一羽止まって鳴いている

「モシモシ、チョット、オ願イ」

信じられないことにダーウィンはカラスに向かって話しかけ始めた。
アーソンはそれを見て、ついにダーウィンの頭が野生に帰ってしまったのかと思った。


318 : がらんどうのマッチ箱 ◆Il3y9e1bmo :2018/01/13(土) 21:18:01 1qO59wCk0
――が、なんとカラスはダーウィンの呼びかけに応答する素振りを見せたのだ。
そう言えば以前に一度聞いたことがある。
ダーウィンは『動物会話』というスキルを持っており、少しだけなら動物と話せるのだという。

「――ウン、ジャア、オ願イ」

何やらカラスと話し込んでいたダーウィンはそう言って窓を閉めた。

「今、カラスト、交渉シテタ」

「交渉だと?」

「エサヲアゲル代ワリニ、町中ヲ、見張ッテテクレル」

「なるほど……」

「コノ辺デ、戦イガアレバ、スグニ分カル。明日ニハ、モット沢山ノカラスガ来ルカラ」

そう言うとダーウィンは自分の胸をドンとドラミングした。アーソンは太鼓の音を聞いた時のように、腹が響くのを感じた。

「ソレカラ、コレ……」

ダーウィンは、懐の毛の中から白い錠剤のようなものを一つ取り出した。

「これは?」

「私ノ、宝具デ作ッタ薬。向精神効果ト、疲労回復効果ト、催眠効果ト……諸々アル。体ニ、負担ガナイヨウニ、弱イ効果ニシテアルカラ、一回デハ、アマリ効カナイカモシレナイケド、良カッタラ飲ンデ」

ダーウィンはコップに水を注ぎながらそう言った。

「……ドーモ、アリガトウゴザイマス」

アーソンはソウカイヤ時代には心から謝意を表したことなど一度もないな、などと自嘲しつつ、錠剤を一気に飲み干した。


319 : がらんどうのマッチ箱 ◆Il3y9e1bmo :2018/01/13(土) 21:18:31 1qO59wCk0
【CLASS】ランサー

【真名】チャールズ・ダーウィン@史実

【性別】男性

【身長・体重】180cm・180kg

【属性】秩序・中立

【ステータス】
筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:C 魔力:E 幸運:D 宝具:C

【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【固有スキル】
頑健:EX
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。
複合スキルであり、対毒スキルの能力も含まれている。

動物会話:A
言葉を持たない動物との意思疎通が可能。
動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらない。

星の開拓者:EX
人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
あらゆる難航・難行が「不可能なまま」、「実現可能な出来事」になる。
ダーウィンは生物の種の起源を解き明かしたことにより、このスキルを高ランクで有している。

【宝具】
『種の革命(パンゲネシス)』
ランク:C 種別:対肉宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
肉体の各部・各器官の細胞に「ジェミュール」と呼ばれる自己増殖性の粒子を魔力によって生成し、それの組成を変化させることで、筋力を増強したり、内臓の位置を移動させたりと肉体を強化・変形させる宝具。
ジェミュールはダーウィンの肉体内部でのみ生成されるが、血液等に混ぜて外部に取り出したものを他の生物に摂取させることにより、摂取した生物も同様の効果を得ることが出来る。
なお、ジェミュールとはダーウィンが唱えた形質遺伝に関する仮説「パンゲネシス」の中に登場する物質のことである。

【Weapon】
棍棒

【マテリアル】
イギリスの自然科学者。卓越した地質学者・生物学者で、種の形成理論を構築した。
全ての生物種が共通の祖先から長い時間をかけて、彼が自然選択と呼んだプロセスを通して進化したことを明らかにした。
進化の事実は存命中に科学界と一般大衆に受け入れられた一方で、自然選択の理論が進化の主要な原動力と見なされるようになったのは1930年代であり、自然選択説は現在でも進化生物学の基盤の一つである。
またダーウィンの科学的な発見は修正を施されながら生物多様性に一貫した理論的説明を与え、現代生物学の基盤をなしている。

【外見的特徴】
どこからどう見てもゴリラ。片言で話す。
「森の賢者」と呼ばれるためか、はたまた生前学者であったためか、外見に似合わず非常に思慮深く、様々な学問を修めているようだ。

【サーヴァントとしての願い】
特に無いが、強いて言うならば人間に戻った上での受肉。


320 : がらんどうのマッチ箱 ◆Il3y9e1bmo :2018/01/13(土) 21:18:51 1qO59wCk0
【マスター】
アーソン@ニンジャスレイヤー

【マスターとしての願い】
特になし。元の世界へは絶対に帰還したくない。

【Weapon】
無し

【能力・技能】
カトン・ジツ
殴った相手を超自然の発火現象で燃やして殺す実際危険なジツ。

【人物背景】
痩身の男性ニンジャ。ソウカイヤ所属。
普段はヤクザめいた灰色のスーツ姿だが、その下にはダークオレンジ色のニンジャ装束が隠されている。
金属製メンポ(面頬)を使用している模様。スーツ姿の際にもメンポはそのまま。
参戦時期はニンジャスレイヤーに殺された後。薄れ行く意識の中で掴み取った無記名霊基により京都に転移した。

【方針】
圧倒的暴力に敗れ去って死亡した直後なので既にマスターの心が折れている。
当面はランサーにメンタルケアを行ってもらいつつ潜伏する構え。


321 : がらんどうのマッチ箱 ◆Il3y9e1bmo :2018/01/13(土) 21:19:06 1qO59wCk0
投下を終了します。


322 : ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:18:25 ULs3bhDw0
投下させていただきます


323 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:19:10 ULs3bhDw0




翼を斬れと命じられ、無表情に翼をもいだ。
理由を聞かれれば、その者は答えるだろう。

『これこそが、神の慈悲なのです』、と。






324 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:19:31 ULs3bhDw0

「なっ!なっ!良かっただろ、月!」

ライブハウスを出ながら興奮した様子の青年、鴨田マサルと、その青年の隣を歩く朗らかな笑みを浮かべた青年、夜神月。
マサルに連れてこられた月が、初めて地下アイドルのライブを見に行ったその帰りのことだ。

「元気もらえるね」

鴨田の言葉に月は答える。
楽しそうに笑う鴨田に対して、月もまた嬉しそうに笑った。

「なんか最近の月、ちょっと元気なさそうだったからさぁ。絶対にこのライブ見たら元気出ると思ったんだよ」

鴨田の言葉の通り、最近の月は気の参る『事件』があった。
ライブは実際に見ていて楽しかったし、友人である鴨田の気遣いも嬉しかった。
多少、重かった心が楽になったような気がする。

「この後どうする?メシ食ってく?」

まだ日が高い。
昼には少し遅いが、夕飯には大分早い時間帯だが、不規則な大学生活ならおかしな時間帯ではない。
せっかくのことだから、一緒にしようと思ったその時。

「良い――――」
『月』
「……ごめん、ちょっと、用事があったんだった」

月にだけ聞こえる声が響き、友人の誘いを断った。
そして、虚空を睨みつける。
鴨田はそんな月を心配そうに見つめ、そんな鴨田に対して月は笑いながら手を合わせて謝った。

「月……その、あんまり無理すんなよ」

鴨田はそうとしか言えなかった。
月は笑いながら、自宅へと戻った。
その背後に、誰にも見えない『翼のない天使』が付き添っていることを鴨田は知らない。
その『翼のない天使』こそが月の心を重くしていることに、気づけない。





325 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:19:54 ULs3bhDw0

「ただいま……あれ」

月が扉を開けると、見慣れたとも見慣れないとも言えない、微妙な頻度で目にする革靴が玄関に置かれてあった。
珍しいことがあるな、と思いながら月はリビングへと進む。
そこには想像通りの人物が居た。

「ただいま。珍しいね、こんな時間に帰ってたんだ」

そこでスーツを脱いだワイシャツ姿で冷えた麦茶を飲んでいたのは、月の父である夜神総一郎だった。
警察官である父はあまり家へと戻らない。
特に、こんな日の高い時間になんの連絡もなく戻ってくることなど珍しいことだった。

「ああ、少し荷物を纏めにな」

そう言って、足元の大きく膨らんだバッグを顎で指す。
着替えの類だ。
月は、顔をしかめた。

「……父さんのやってることって意味が無いんじゃないの?」

口が、滑った。
本来なら溢れるはずのない言葉だ。
だけど、今の月は理解不能な出来事が起こっていた。
その精神的負担が、月の口を軽くした。

「世の中見てみなよ、犯罪が増えた減ったって話は聞くけど、無くなったなんて話は聞かないよ。
 ある年に犯罪が減っても、別の年で増えたら結局は同じじゃないか。
 父さんが身体をボロボロにしてまで働く価値なんて無いなんじゃないの」

もっと賢い生き方だってあるでしょう。
その言葉だけは、かろうじて呑み込んだ。

「――――そうだな、月の言うことは正しいかもしれない」

少し疲れているようだった総一郎は、顔が引き締まった。
月の言葉の中に満ちていた迷いを、総一郎も読み取ったのだろう。

「だが、その月の意見じゃ、父さんが今よりももっともっと良い社会を作ろうと頑張らなくていい理由にはならない」

だからこそ、自身の中にあるものを総一郎は月へとぶつける。
総一郎は自身で自身のことを不器用だと思っている。
自身がもっと頭の良い人物ならば、月へうまく答えられるのかもしれない。
しかし、総一郎は総一郎でしかない。

「変わらないかもしれない、でも、変わるかもしれない。
 答えは分からない。
 今日や明日には変わらなくても、一年後、十年後、百年後には変わってるかもしれない。
 いや、例え、変わらなくても。
 今、答えが分からないのなら、父さんにとっては無価値な行動でも無意味な考えでもない」

総一郎は手元のお茶をあおった。

「月の言葉は正しい」

眼鏡越しでも鋭い総一郎の視線と交わり、ビクリと月は体を震わせた。

「だが、月の正しさじゃ父さんを諦めさせることは出来ない。
 それだけだ」

総一郎の言葉に、月は何も言えなかった。
関係が少しギクシャクとしていた息子との対話で、説教のような形になったことに思うところがあったのか、目を伏せる。
しかし、すぐに顔を上げた。

「……少し、帰れない日が続く。
 試験勉強やバイトで大変だろうが、家と粧裕のことは頼んだぞ」

総一郎はそう言って脱いでいたスーツを着て、家を出ていった。
月は父の広い背中を見続け、肩を落として自室へと戻った。


326 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:20:28 ULs3bhDw0


「この世は神の慈悲によって構成されています」


月が部屋を入ると、虚空に『翼のない天使』が現れた。
それは男にも女にも、子供にも老人にも見えなかった。
ただ、そこにあるだけで光が満ちたような。
人ではない清廉な何かが存在した。
翼のない天使は、男にも女にも、子供にも老人にも聞こえない声で言葉を続けた。

「月、貴方のお父君が成されていることは、非常に神の慈悲に沿っている。
 正しきことを疑わずに一歩ずつ進んでいく、それがどれほど尊く、希少なことか……」
「でも、父さんは仏教徒だよ」

信仰はブディズムだよ。
月がそう言うと、やはり感情というものを感じさせない表情と声で言葉が返ってくる。

「神は人を愛している、そして、人が神の愛を知らぬことは罪ではない。
 無知は罪ではないのですよ、月」
「……ウリエル。ずっと思ってたけど、お前って超ポジティブだよな」

翼のない天使――――『ウリエル』は穏やかに呟いた、少なくとも、月にはそう見えた。
そんなウリエルに対して、呆れたように言葉を返した。
すると、先程まで無表情を動かさなかったウリエルが、眉をしかめた。

「月、『アーチャー』です。真名は秘匿すべきもの。
 また、私の名はみだりに呟いて良いものではない」
「世界中のみんながお前に祈ってるだろ?」
「私の姿を前にして、私の存在を実感しながら、私の名を口にしてはならない。
 そういうものです」

聖杯戦争において『アーチャー』、弓兵のクラスにおいて召喚されたウリエル。
聖杯戦争とは、万能の願望器を争う魔術儀式。
人類史に刻まれた偉人・英雄たちを『サーヴァント』という使い魔の器で召喚する。
参加したマスターはサーヴァント達を使って殺し合い、最後に残った一組が聖杯を手にする。

「わかりますか、月。
 聖杯は御子の血が注がれた、いわば御子そのもの。
 名前だけを真似た偽りの杯だとしても、そのようなものが信仰なき罪人へと渡ることは許されぬのです。
 たとえ、私の名と魂と存在がどれだけ穢れようとも――――許してはならぬのです」

全く意味のないもの。
それは神の御子が残した聖杯ではない。
だが、その名を翳している以上は見過ごすことは出来ない。
ウリエルには聖杯戦争に参加し、勝ち抜く理由がある。
だが、月にはない。

「悪いけどな、ウリエル。
 ハズレくじを引いたよ、お前は俺を殺せないんだろう?」
「……ええ。貴方を殺す理由がなく、また、呪縛もかけられた」

絶対命令権の令呪。
月の右手に刻まれた令呪、三画で描かれた『L』の文字は一画消費され、二画のみが残されている。
つまり、月はウリエルに対して令呪を以て自身の生命の保障を行った。
『ウリエルは夜神月の生命を優先的に守護する』という命令を施したのだ。

「月よ、いつか貴方は弓を執るでしょう。
 この私の裁きの矢を求める、そう言った人間です。
 ですが、忘れてはいけませんよ」

ウリエルは、やはり。
男にも女にも、子供にも大人にも見える表情で。
男にも女にも、子供にも大人にも聞こえる声でつぶやいた。

「人である限り、人を裁く権利など誰も持っていないのです」

月は何も言わずに、ベッドで眠りについた。






327 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:20:52 ULs3bhDw0

「お兄ちゃん!」
「粧裕……!」

ある日のことだった。
総一郎が家に戻らなくなって、それほど経っていない。
月は総一郎の同期の若手刑事である松田から連絡を受けた。
『人質と一緒に立てこもった犯人に対して、父が人質交換を持ちかけた』とのこと。

「お父さんが……お父さんが……!」
「わかってる、今は落ち着くんだ」

先に警察署へと来ていた妹である夜神粧裕へと語りかける。
動揺している粧裕をなだめながらも、月もまた動揺していた。

『その音原田ってやつは、十年以上前だけどお父さんが捕まえたやつで。
 その報復で……係長は殺されるかも……』

立てこもっている犯人の音原田九郎はかつて、父の総一郎が捕まえた凶悪犯。
時期から察するに。
かつて、父が凶悪犯への捜査を優先し、母の死に目に会えなかった時期の凶悪犯だ。

「なんでそんなやつが生きてるの……!」
「粧裕、落ち着け!」
「死ぬべきなのはそいつじゃん!さっさと殺してよ!
 お父さんが殺される前に、さっさとそいつ殺してよ!」

錯乱する粧裕に、月は何も言えなかった。
月もまた、そう思ってしまったからだ。
父の総一郎は愛する妻よりも、社会的正義を優先した。
そこまでして行った正義は、なにも父に対して報いなかった。
月は耐えきれず、走り出した。
誰もいないところへと、走り出した。
『翼のない天使』へと、すがりつくために。

「助けてくれよ……」

屋上で。
月は震える声で、月にだけ見える翼のない天使へと縋り付いた。
子供のような、いや、子供の声だった。
震える肩で、震える声で、震える瞳で。
月は天使へと縋る。

「助けてくれ、ウリエル……父さんを……父さんが、死んじゃうんだ……」

祈るように閉じた瞳の裏に映るのは母の姿。
大好きだった母が生命を失うその姿。
そして、その姿が父へと変わっていく。
仲違いをしていたが、父のことが嫌いなわけではない。
むしろ、尊敬をしている偉大な父だ。
父はいつだって正しく、いつだって正しくないことに怒りを燃やしていた。
夜神月にとっての『正義』とは、夜神総一郎のことだった。
だからこそ、そんな尊敬する父が大好きな母の最期を看取ってくれなかったことを許せなかった。


328 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:21:39 ULs3bhDw0

「月よ」

男にも女にも、子供のようにも大人のようにも聞こえない、肉の熱を感じさせない無機質な声が響く。
審判の声。
天使は、天の御遣いはいかなる答えを出すのか。
そんなことはわかりきっている。
善の象徴である御使いならば、正しき魂を持つ父親を――――


「この試練もまた、神の慈悲なのです」


月のそんな考えは、余りにも無感情に切り捨てられた。
顔を挙げる。
視線と視線が交錯する。
いや、違う。
視線など合っていなかった。
ウリエルは月の位置する方角を見、月の瞳のある座標へと視線を向けている。
だが、ウリエルは月を見てなどいなかった。

男にも女にも、子供のようにも老人のようにも見える、不思議な姿の天使へと向かって。
男とも女とも、子供のものとも老人のものとも聞こえない、無機質な音が返ってくる予感を覚えながら。

月は、絞り出すように喉を動かす。

「慈悲ってなんだよ……試練なんだろ、なんでそれが慈悲なんだよ!
 神様は、なんでこんなことするんだよ!」
「月、今の貴方の考えこそが『傲り』であり、悪魔の付け入る隙となるのです。
 罪深い人の身で、偉大なる唯一無二の主、その神慮を理解しようと思うなど……恥を知りなさい」

やはり男とも女とも、子供のようにも老人のようにも聞こえない無機質な声だったが。
初めて、ウリエルの言葉に感情の色が浮かび上がった。
侮蔑という、感情が。
その侮蔑の言葉に、月は理解した。
神の在り方と、悪魔の在り方と、天使の在り方の違いを。
神は人を愛するが故に人を追放し、悪魔もまた人を恋をしたが故に天より堕ちた。


――――しかし、天使だけは人を見ていなかった。


人に興味を持たない天使は、人と交わる必要がなかった。
人を助けようと思った天使は、全てが輝く天より堕ちてしまった。
ならば、天に存在する天使は、人に興味が無い存在の集まりだ。
ウリエルは堕天こそしているが、その堕天は神に命じられてのこと。
神のために堕天し、神のために地上に伏せていた。

人のためでは、ない。


329 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:22:19 ULs3bhDw0

「なんだよ、それ……!
 父さんが、父さんが何をしたっていうんだよ!
 これじゃ……こんな終わり方じゃ!
 今まで頑張ってきた父さんが報われないじゃないか!
 父さんは、なんのために今まで生きてきたんだよ!
 神様は父さんをどうしたいんだよ!」
「月よ、貴方の問は全て無意味であり無価値なものです。
 我々はただ神の意思を以って行われる世界の試練に耐え、乗り越え、神の愛を感じるのみです」
「だから……なんなんだよ!!
 父さんが死ぬんだぞ!?
 今、それ以上に大事なものなんてあるのかよ!?」
「人はいつか死に、約束の日にて地上へと戻ります。
 それでも今、この瞬間の別れは哀しきものでしょうが、それもまた、罪深き人に与える神の試練なのです。
 そして、その試練の先には神の愛が待っています。
 それを信じ、敬い、ただ正しく生きるのです」

言葉が通じるのに、会話が通じない。
月は、口をパクパクと開閉し、しかし言葉を紡げない。
どのような言葉でも、ウリエルに通じるとは思えない。
有効な言葉というものが、思い浮かばない。

「人は、人のままでいれば良いのですから」


「もう、良い……!」

月はそう言い、手の甲をウリエルへと向けた。
ウリエルは抗わずに、ただ、溜め息を一つこぼした。
月は決めた。
失われようとする命を救わないことが神の慈悲なら。
罪にまみれた犯罪者が世の中に蔓延ることが神の試練なら。

「令呪を以て命じる――――!」


――――僕が、神になる。







330 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:22:36 ULs3bhDw0


その時、不思議な事が起こった。
夜神総一郎の目の前、音原田九郎に対して突然『矢』が突き刺さった。
その矢は外から飛んできたにも関わらず、窓も壁も壊すことはなかった。
ただ、矢は音原田に対してのみ突き刺さり、音原田の命を奪った。
そこまでは良い。
そこから、音原田の矢は突如として『崩れ』始めた。
音原田の身体が白い粉末へと変わっていき、人の形をした柱となった。
総一郎は遅れてきた起動班に拘束を解いてもらった後、その謎の粉末を、なぜかは分からないが口へと運んだ。
謎の粉末を口に含むなど自殺行為だとは思ったが、そうせざるを得ない何かが総一郎の心を突き動かした。
総一郎は、その味を知っていた。

「……塩だ」

罪人が、塩の柱となっていた。


331 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:22:55 ULs3bhDw0

【クラス】アーチャー
【真名】ウリエル
【出典】旧約聖書
【マスター】夜神月@ドラマ版DEATH NOTE
【性別】無性
【属性】秩序・善

【ステータス】
筋力:B++ 耐久:A++ 敏捷:E 魔力:A++ 幸運:C 宝具:EX

【クラススキル】
対魔力:A+
Aランクでは、A+ランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、ウリエルを魔術で傷をつけることは出来ない。

単独行動:EX
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
EXランクではマスター不在でも行動できるようになる。
宝具を最大出力で使用する場合など、多大な魔力を必要とする行為にはマスターの存在が必要不可欠となる。

【保有スキル】
魔力放出(炎):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
ウリエルの場合、燃え盛る炎が魔力となって使用武器に宿る。
このスキルは常時発動しており、ウリエルが握った武具は全てこの効果を受ける。

信仰の加護:A+++
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。

殉教者の魂:A+++
精神面への干渉を無効化する精神防御。
ウリエルは天使信仰が過熱化した際、唯一神より堕天を命じられて自らの意思で自らの羽根を切り落とした。
自らの意志で地に堕ちた強靭なる信仰の持ち主である。

聖人:A+
聖人として認定された者であることを表す。
ウリエルは堕天後、天使としての復権ではなく聖人として復権を果たした経緯を持っている。
よって、このスキルの存在によって神性は失われている。
堕天したとは言え、四大天使であり熾天使の一柱であるウリエルは最高ランクのスキルランクを誇る。
彼よりも高いランクは神の御子と同等の存在のみ。
サーヴァントとして召喚された時に、
"秘蹟の効果上昇"、"HP自動回復"、"カリスマを1ランクアップ"、"聖骸布の作成が可能"
この中から、三つ選択される。
『ウリエルは秘蹟の効果上昇』と『聖骸布の作成が可能』と『HP自動回復』を選択している。


【宝具】
『神の御名において(イン・ノミネ・ドミニ)』
ランク:EX 種別:対罪宝具 レンジ:1-999 最大補足:1000人
退廃と悪徳の都であるソドムとゴモラを滅ぼしたメギドの火。
その火矢を放った天使こそウリエルである。
空から降り注ぐ火と硫黄の雨の正体であり、ウリエルが認識する『罪人』をこの矢が貫いた時、罪人の身体と魂は塩へと変わる。
『神の御名において』が効果を催す対象は『罪人』のみである。
いかな盾を持とうとも盾をすり抜けて罪人を撃ち抜く。
ただし、罪人Aが別の罪人Bを盾とした場合は別の罪人Bに対して効果を発揮するため、罪人Aはその効果から逃れる。
聖なる四文字を持つ唯一神の権能の一つ。


【Weapon】
『無銘・神弓』
ウリエルが持つ弓。
銘こそないが、熾天使が持つに相応しい超級の神秘を所持した弓矢である。

『無銘・神剣』
ウリエルが持つ炎の剣。
銘こそないが、熾天使が持つに相応しい超級の神秘を所持した剣である。


332 : 神の光 ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:23:13 ULs3bhDw0

【人物背景】
ウリエルは、正典には含まれておらず、カトリック教会では認可されていないがユダヤの神秘主義的文学において重要な天使。
旧約聖書外典『エチオピア語エノク書』『第四エズラ書』、新約聖書外典『ペトロの黙示録』で、その名が言及されている。
ミカエル、ガブリエル、ラファエルと共に「神の御前に立つ四人の天使」の一人。
ウリエルという名前は、「神の光」「神の炎」を意味する。また、ウリエルの名は預言者ウリアに由来するといわれている。
大天使、熾天使、智天使とされることがある。

芸術作品においてウリエルは、作家と教師にインスピレーションを与え、
裁きと預言の解説者という役割を示す本と巻物を持つ姿、または開いた手の中に炎を灯した姿で描かれる。

また、かつて退廃の都『ソドム』と『ゴモラ』を滅ぼしたメギドの火を放った天使であるともされている。

ユダヤの伝承『ヨセフの祈り』の中で、ウリエルは『わたしは人間たちの中で暮らすために地上におり、ヤコブという名で呼ばれる』と述べる。
この言葉の正確な意味は明らかにされていないが、そうなるとウリエルは天使から人間になった初めての者となる。

かつて天使信仰が加熱した際、天使信仰を収めるために唯一神から堕天を命じられた。
ウリエルはその言葉に迷いもなく自らの翼を差し出して堕天した。
このことからウリエルは堕天使とされ、しかし、その在り様から聖人認定を受けている。
ウリエルは堕天使でありながら神の敬虔な信徒であり聖人である。

【特徴】
男にも女にも、子供にも老人にも見えない容姿。
男にも女にも、子供にも老人にも聞こえない声。
人間とは思えない清廉な雰囲気を持ちながら、無機質な印象を与える唯一神の作り出した美術品。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯を回収する。





【マスター】
夜神月@ドラマ版DEATH NOTE

【能力・技能】
ごくごく普通の大学生。

【人物背景】
原作の設定と異なり、杉並経済大学に通うごく普通の大学生で、人気アイドルグループ「イチゴBERRY」のファン。
20歳。
10年前の母の死が原因で父とは距離を置いており、警察官僚ではなく地元の区役所職員を志望している。
居酒屋でのバイトもしている。
アルバイト先の居酒屋に現れた高校時代の同級生・佐古田との再会直後にノートを拾い、再び親友がいじめられることを恐れ、衝動的にノートを使ってしまう。
その後、父総一郎が立てこもり事件の人質となったことで、彼を救うために今度は人が死ぬと完全に確信を持ったうえでノートを使用。
ノート使用に対し、当初は原作以上の罪悪感を抱き自殺を考えるが、
リュークに「お前がこのノートを使わないのなら凶悪犯に渡すかもな」などと脅しをかけられたことで半ば自暴自棄になり、
「犯罪者のいない平和な世界を創る」という歪んだ正義感のもと、原作同様の犯罪者粛清に動くようになる。
「キラは学生」とLに特定されそうになって慌てて手を打つなど詰めの甘い面も目立つが、物語が進むにつれて原作同様の狡猾な一面が現れていく。

親友の言から昔から「やればできる」人物ではあったらしく、後にLからも「私が天才性を目覚めさせた」と評されている。
Lから「こんな形でなく出会いたかった」などと明確に友と認識されており、
ほかのノートを持つ者らにも従来の夜神月の「利用するだけ利用して不要なら切り捨てる」スタンスではなく、
「一緒に新世界を作る仲間」として行動しているなど、原作とは大きく人間性が異なるキャラクターである。


【マスターとしての願い】
神となる。


333 : ◆7WJp/yel/Y :2018/01/13(土) 23:23:25 ULs3bhDw0
投下終了です


334 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:49:52 DgPR0LJ60
皆さんたくさんの力作、ご投下ありがとうございます!
感想は後日しっかりと書かせていただきます。

随分間が空きましたが、投下します。


335 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:50:36 DgPR0LJ60

 息を切らして走る人が居た。
 高級そうな腕時計の針は午前零時を示している。
 男は市内の某有名企業に努める、管理職のサラリーマンであった。

 歳は既に四十後半。
 美しい妻も可愛い娘も居る。
 周りの人間は誰もが彼を幸福な奴と呼んだし、彼自身もそう自負していた。
 欲を言えばもう少し出世したいところだったが、今のままでも身に余るほど幸せだ。
 
 金に困っているわけでもない。
 人間関係に悩んでいるわけでもない。
 妻子との関係は円満で、両親も健在。
 とことんまで恵まれた男だった。悩みのない男だった。

 そんな彼の職場は今、所謂繁忙期にある。
 毎日のように激務が続き、こうして帰宅時間が日付を跨ぐことも珍しくはない。
 電車を降りて寒空の下を歩くのは何ともいえず寂しい。
 世界に自分だけ取り残されてしまったような寂寥感が胸を満たした。
 早く家に帰って、暖かい風呂に浸かって酒の一杯でも呷りたい。
 妻と他愛もない話をして、娘の寝顔を見て、ゆっくり眠りにつきたい。

 昔は夜道を歩くとなれば命懸けだった。
 もちろん実際には命の危険などまずないのだが、子供にとってはそれだけ、夜というのは恐ろしい概念だったのだ。

 あの頃、夜は未知だった。
 異世界に迷い込んだような不安があった。
 建物の影、藪、曲がり角、廃屋――目に入る全てが恐怖の対象だった。

 あそこから化け物が飛び出してくるのではないか。
 自分の後ろに何か居るのではないか。
 目線は忙しなく動き回り、何十秒か置きに立ち止まっては振り返る。

 そんな挙動不審な姿を晒していた幼き日が今となっては懐かしい。
 歳を取るにつれ、夜は日常の一つに変わっていった。
 恐ろしげな幽霊や妖怪は存在せず、暗闇は星の流転で作られる自然現象の一つに過ぎない。
 感じる視線や気配も全ては錯覚だ。この世に、不思議な存在など居ない。夢のない話だが、此処は人間の世界なのだ。

 無知な子供ではなくなった今、夜道でノスタルジックな感傷に浸ることこそあれど、恐怖を感じることはない。
 その、筈だった。京都へ引っ越してきてから二十年余、ずっとそうやって夜の闇と向き合ってきた筈だった。
 しかし今、男の顔は恐怖に歪み、全身は猛暑日が如く脂汗に塗れていた。
 じきに初老に入ろうかという中年男性が余裕なく走る姿は滑稽であったが、彼にそんなことを気にしている余裕などありはしない。


336 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:51:00 DgPR0LJ60

 今夜は何かがおかしかった。
 電車を降りた瞬間から付き纏う視線。
 常に感じる気配。
 視界の端で何かが動く不快な感覚。
 その全てが錯覚だと分かっているのに、どうしても振り払えない。
 募っていく不快感はやがて不安に変わり、蛹を破って恐怖へと羽化した。
 
 目覚めた恐怖は足取りを早くする。
 そして男がいつかの怖さを思い出したのを見計らったように、夜は真の姿を現した。
 煙が人の形を取ったような何かが居た。地面や壁から突き出、おいでおいでをしている無数の手があった。
 ケタケタ笑いながら近付いてくる子供が居た。道を塞いでいる、建物大サイズの巨大な顔があった。

 もしかしたらあるかもしれないと恐れた全てが我が物顔で闊歩していた。
 間抜けにも恐れるべきものなど居ないと法螺を吹いていた彼を嘲笑うように、夜は彼を追い回した。
 衰えた体が悲鳴をあげる。喉は焼け付いたように痛み、足は既に棒。
 普段ならもう一歩も歩けないと弱音の一つも吐くところだが、相手はそれを聞いてくれる存在ではない。
 
 ひぃ、ひぃ、はぁ、はぁ。
 情けない呼吸音を漏らしながら男は走る。
 なんだこれは。一体何が起きているのか、とんと分からない。
 どうしてこんなことに。自分が、一体何をしたというんだ。

 理解不能の理不尽を嘆きながら走る男を、夜が追い立てる。
 集団の意思などそこにはない。個々の意思で、彼らは生者を狩らんとしていた。
 だが男にも希望がないわけではなかった。家までの距離はあと数百メートル。
 家にさえ入ってしまえば。そうすれば、きっと大丈夫な筈。根拠のない希望だけを寄る辺に、彼は棒になった足を軋ませながら走る。

 その背を――道の向こうから猛スピードで突進してきた、燃え盛るタイヤが轢き潰した。
 黒鞄が投げ出され、ピクピクと痙攣したままの死体がタイヤの炎で燃えていく。
 男には人生があった。妻子があって、部下が居て、友人が居た。
 これから先、生きていればあと一度二度は昇進の機会もあったかもしれない。
 娘の晴れ姿を見て、両親の最期を見送って、ゆっくりと穏やかに老いていく未来が彼にはある筈だった。

 しかしそれは今潰えた。
 理不尽な、人の心を持たない怪異によって羽虫のように潰された。
 〝夜〟は人を理解しない。〝夜〟は人と交わらない。
 〝夜〟は――全ての人に共通する、原初の恐怖である。

 京の都に夜が来た。
 京の都に夜が来た。
 生きとし生けるもの全てを引き込み、追い立てる。
 永遠に廻る、夜が来た。


337 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:51:18 DgPR0LJ60
    ▼  ▼


 よるのこわさをおぼえていますか


    ▼  ▼


338 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:51:41 DgPR0LJ60


「イア・イア」

 詠唱と水音が暗い広間に響いていた。
 経文を読むように淡々と紡がれる詠唱は、常人には理解することすら出来ない独特の響きを含む。
 一方で水音の正体は万人にとって身近なものであった。
 性交音だ。いきり立った逸物を女陰に打ち付ける、生肉でも叩き付けるような音。

 サバトの舞台はある宗教施設だ。
 むせ返るほど濃密な淫臭が立ち込めた空間は異界めいている。
 部屋の隅に数十人の幹部が立って呪文を紡ぎ。
 一介の信者達は部屋の真ん中で退廃的な性行為に及ぶ。

 さながら獣の性交だ。
 知性も理性も存在しない、純粋な貪り合い。
 これほどに道徳、倫理という言葉からかけ離れた性行為が果たして存在するだろうかと問いたくなるほど異様な光景。
 一目見ただけでも、彼らの崇める神が碌なものではないと誰もが理解しよう。

「千の仔山羊を孕みし森の黒山羊よ」

 ――邪神崇拝。
 あまねく正気を贄に、外なる神格を崇め奉る現代の邪教。
 これほど冒涜的なサバトを毎夜繰り広げているというのに、外へその情報が漏洩している様子は一切ない。
 集団の意思が一つに統一されている。一つの綻びも生まれないほど強く、大いなる邪神を信仰しているのだ、彼らは。

「大いなる宇宙の女神よ、我が生け贄を照覧あれ」

 それは万物の母である。
 それは豊穣の象徴である。
 それは千の仔山羊を孕む黒山羊である。
 それは――この宇宙の外を漂う、直視すべきでない神性である。

「イア・イア・シュブ=ニグラス! 千の仔山羊を孕みし森の黒山羊よ!!」

 その名、シュブ=ニグラス。
 人類史をねじ曲げ、改変し、自らの軌跡を突如出現させた邪神。
 彼女であり、彼でもあるかの神を崇拝する信徒達ですら、そのことには気付いていない。

 この神に纏わる文献、アイテム、逸話、信仰……
 そうしたものは全て、この数日の内に生まれ、拡散したものである。
 確定した過去に割り込んで事象を出現させ、それを元から存在したように人々の脳へ刷り込んだ結果がこの現在なのだ。
 
「シュブ=ニグラスよ、大いなる宇宙の女神よ! 我が生け贄を照覧あれ!!」

 都は、世界は瞬きの内に病んでいく。
 おぞましき夜が氾濫し、外なる邪神の吐息が流れ込む。
 イア、イアと、礼賛の声が黒塗りの夜に木霊していた。
 神の御姿の顕現を、救世主を崇めるように強く祈る。
 向ける先さえ違えば間違いなく万人から尊敬されていただろう程の敬虔な祈りが、邪神へと降り注いでいく。

 世界の寿命を縮め。
 破滅的降臨を招く〝儀式(サバト)〟が。
 今宵も、深度を増していく。
 外なるシュブ=ニグラス、その威光が都の総てを照らす日を夢に描きながら。


339 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:52:15 DgPR0LJ60
    ▼  ▼


 歩く、歩く。
 少女は歩く。
 魑魅魍魎の跋扈する夜を、ひとり彷徨う。
 その瞳は虚ろだった。およそ生気とは縁遠い、孤独な死者の瞳をしていた。

 背丈は小学生程度だろうか。
 小柄であどけない顔立ちは、夜の暗闇にはおよそ相応しくないように見える。
 しかし彼女が放つ気配と覚束ない足取りは、彼女が人ならざる存在であることを如実に物語っている。
 そう、これはもうヒトではない。生者の領域を離れて死者の夜を往く住人となった、憐れな少女である。

 彼女が過ちを犯したわけではない。
 ただ、心に隙間があっただけだ。
 唯一自分の孤独を満たしてくれる親友との離別。
 幼い少女にとって、人生を投げ捨てたくなるほどの絶望――そこを、巨大な悪意が嘲笑った。

 少女は、神に魅入られたのだ。
 善悪問わず、生死関係なく縁を結ぶ山の神。
 無数の目玉をぎょろぎょろと動かしながら、神は少女を操った。
 弱った心を丁寧に破滅へと誘い、自らの手でその人生を締め括らせた。

 ユイという名前を持っていた少女は、神の思うがままに命を失った。
 失われた命は還らない。死者に落ちた彼女は、自分の末路も理解できないまま夜を彷徨う迷子と化した。
 しかし少女は知る。放浪の末、長い夜の先に自身の辿った結末を見る。
 そうして、少女は壊れた。夜に蠢く怪異達と同じ存在に……生者を死出の道に引きずり込む怪物となった。


 迷う、迷う。
 少女は迷う。
 ありのままの姿を取り戻した夜を、あてもなく彷徨う。
 その霊基はサーヴァントのそれであった。されど、英雄では決してない。

 真実を知り、救いがないことを知り、ただ彷徨うしか出来なくなった時。
 少女は路傍に落ちている、きらりと輝くものを拾い上げた。
 それが無記名霊基と呼ばれる聖遺物の一種であることを、ついぞ彼女は知り得ない。
 知り得ないまま、死者の少女は京の都へ、獣性満つる魔界へ足を踏み入れる権利を手にした。
 そして彼女はまたしても、神に魅入られることになるのである。
 縁結びの悪神が赤子に思えるほどの存在規模を持つ、正真正銘の邪神に。

 死者でありながら、生者の視点を持つ者。
 神の結んだ縁に穢されながらも、最初の純真さを失わぬ者。
 条件は整っていた。少女は、降臨者の依代となれる器だった。
 そうして彼女は選ばれた。黒き豊穣、黒山羊の母。万物の恐怖たる邪神、シュブ=ニグラスの依代に。

 少女が救われる未来は存在しない。
 なぜなら彼女は、既に死んでいる。
 死んだ者は戻らない、この世の摂理だ。
 よしんば、それを覆す手段があったとしても――邪神と接続された今となっては無意味。
 勝って都を滅ぼすか、負けて燃え尽きるかのどちらかしかない。

 それでも少女はただ願う。
 ひたむきで純粋な願いをかける。
 
「……ずっと、いっしょにいたい」

 ずっと一緒に居たかった。
 ハル、ハル。わたしの、たった一人の友達。
 世界で一番大事だったもの。


340 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:52:36 DgPR0LJ60

 あの子とずっと一緒に居られるなら、他には何もいらない。
 最初から、それだけだったのだ。
 それだけあれば、どんな辛いことにだって耐えられた。

「ハルと」

 けれどそれは叶わなかった。
 大人の都合が少女達を引き裂いた。
 死に別れるわけじゃない、いつかまた会える。
 でも、少女はそれに耐えられなかった。
 
「ハルと、ずっといっしょにいたい――」

 その願いには一点の邪心もない。
 聖杯は、彼女の願いを聞き届けるだろう。

 されど彼女は穢れている。
 その穢れは、少女が永遠に辿り着くまでに、山のような犠牲を生み出すだろう。

 
 純真な願いと素養を以って、彼女は邪神の依代となった。
 病原の夜と邪神崇拝を拡散させながら、少女は存在の終わりまで彷徨い歩く。
 深い夜を廻る死者。それが少女の役割。少女のかたち。
 
「イア、イア」

 歌うように、呟いて。
 夜は、往く。


【CLASS】フォーリナー

【真名】シュブ=ニグラス

【出典】クトゥルフ神話

【性別】女性

【身長・体重】135cm、38kg

【属性】混沌・悪

【ステータス】

筋力E 耐久A+ 敏捷D 魔力A+ 幸運E 宝具EX


341 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:53:14 DgPR0LJ60

【クラス別スキル】

 領域外の生命:EX
 我々の住まう宇宙、時空の外から訪れた存在。
 相互理解がそれ即ち永遠の発狂に通ずる、規格外の生命体。
 外なる神と呼ばれる、恐るべき来訪者(インベーダー)を示す。
 
 神性:A
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
 黒き邪神の依代であるフォーリナーは、最高ランクの適性を持つ。

 狂気:B
 外的存在と接続されたことにより発芽した精神異常。
 精神異常・精神汚染と同じ効果を持つが、バーサーカーの狂化に匹敵するステータス補正を受けることが出来る。

【固有スキル】

 黒き豊穣:A+
 豊穣の女神としての性質の一つ。
 永続的な魔力供給と損傷の自動修復、一度受けた攻撃に対する耐性の獲得。
 このスキルは正確にはフォーリナー自身が持つそれではなく、彼女を依代とする〝邪神〟本体が契約のパイプを通じて膨大な量の魔力と権能の断片を送り込んでいるに過ぎない。
 言うなれば極太のポンプに繋がれ、常に燃料を注がれ続けている状態。疑似サーヴァントの原則から逸脱しているのは言うまでもない。

 黒山羊の母:A
 母神としての性質の一つ。
 魔力を消費することで眷属たる落とし子、〝黒い仔山羊〟を生成する。
 黒い仔山羊はロープ状の触手と蹄のある四本の脚を持った象のように巨大な怪物で、シルエットは樹木に似ている。
 是のステータスはCとBの混合で、内訳は個体によって異なる。サーヴァントとも十分に戦闘出来るスペックを持つ。

 夜を廻る死者:EX
 本来マスターとなる筈だった少女が、邪神の神威に充てられたことで習得した固有スキル。宝具の外付けパーツ。
 宝具『母を崇めよ、是は万物の親である』が適用されている都市に、彼女の彷徨った街に巣食う怪異を発生させる。
 彼女自身の意思で呼び出したり操ることは出来ず、あくまで夜の怪異達の生息地を異界の京都にまで拡大させるだけのスキル。
 昼間は怪異の活動は極めて緩慢であるが、日が落ちて夜が深まっていくにつれて彼らは攻撃的、積極的に変化する。
 誰もが幼き日に恐れた〝夜〟という恐怖が、そこにはある。


342 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:53:39 DgPR0LJ60

【宝具】

『母を崇めよ、是は万物の親である(ウィスパラー・イン・ダークネス)』

 ランク:A 種別:対信仰宝具 レンジ:都市一つ 最大捕捉:存在しない

 邪神の現身が降臨したという事実を以って、召喚と同時に聖杯戦争の舞台となる都市全体に適用される〝対民信仰宝具〟。
 シュブ=ニグラスという外なる神にまつわる伝承や道具をその実在・非実在に関わらず〝元々存在した〟概念として定義する。
 そうして生まれ出た情報は有害なミームとして伝染、拡大し、シュブ=ニグラスへの信仰を発生させる。
 信仰は日数の経過と共に広がっていき、信徒達は聖杯戦争についての知識を持つ・持たないに関わらず、教義に則って――あるいはそれ以前の無意識でフォーリナーにとって有益となる行動を行う。
 そしてその中には、退廃的で異常な性行為や殺傷を含む儀式が含まれ、この儀式が行われる度にフォーリナーと本体の間に存在するポンプは太くなり、最終的には邪神の神威を取り出せるまでに至る。
 この段階に入ったフォーリナーは切り札である第二宝具を解放することが可能になり、手の付けられない存在と化す。

『母を恐れよ、是は万物の恐怖である(リング・オブ・パパロイ)』

 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:500

 ステータス:筋力A+ 耐久EX 敏捷E 魔力A++ 幸運A 宝具EX

 フォーリナーの取り出せる魔力量が神霊級のそれに達した時、使用可能となる第二宝具。
 シュブ=ニグラスは非常に上位の神格であり、その存在が宇宙の外側にあることを除いても、聖杯戦争に召喚するのはまず不可能である。
 この宝具を使ったところでそれは変わらない。しかしこの宝具は、外なるシュブ=ニグラスの姿を質量を持った幻像として空間に投射することが可能。何の隠蔽も施されていない、おぞましき邪神の写身が京の都に出現する。
 純粋に凄まじいパラメータを持つことも脅威だが、何よりこの邪神は視認するだけで有害。視認した対象に重度の精神ダメージを与え、長時間視認すれば霊基や魂の崩壊を招く。サーヴァントにすら通用する存在攻撃は、対魔力によってある程度軽減可能とはいえ、戦いが長引けば長引くほど立ち向かう者達の死亡確率を上げていく非常に強力なものである。
 更にその性質上、宝具が発動された時点で数千〜数万人単位の発狂者、死亡者を出すことは避けられない。どういう形に終わろうと一定の被害を叩き出すため、〝そもそも発動させてはならない〟危険な宝具。
 
【weapon】
 蹄付きの触手。
 他にも怪異としての攻撃能力などを持つ。


343 : 愛を教えてくれた君へ ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:54:24 DgPR0LJ60

【マテリアル】

 シュブ=ニグラス。豊穣の女神・母神という性格を持ち、ヨグ=ソトースの妻であるとも言われる。
 外なる神の一柱であり、〝千匹の仔を孕みし森の黒山羊〟〝狂気産む黒の山羊〟〝黒き豊穣の女神〝〟〝万物の母〟などの異名を持つ。
 アスタルテなどの地球の様々な豊穣の女神、大地母神の原型にして、ワルプルギスの夜に祀られる悪魔の原型ともなったとされる存在。豊穣の概念そのものではないかともされる。
 生命力を司り象徴する神。故に産み増える慈愛の母性と同時に、森の力強い生命力の象徴の男神としての側面も同時に備え持っている。
 多くの作品において相手を選ばぬ淫蕩な女神として描かれ、様々な神、怪物、知性のあるなしも関係なく様々な種族と交わり子を産んでいる。自分の子など、近親者であっても頓着しない。
 アザトースがナイアルラトホテップ、無名の霧と共に生み出された〝闇〟から出現した存在といわれており、その姿は黒い雲の様に巨大としか表記されていないため判然としないが、『呪術師(パパロイ)の指環』に登場する彼女を象った神像は〝山羊のような生き物を表したものの、はっきりとした違和感・不自然さを持っており、何本かの触手があって、見誤りようのない冷笑的な、しかし人間的な感情を持った〟姿となっている。
 本来であれば聖杯戦争に召喚できる存在ではないが、死者でありながら生者の視点を持ち、狂気の中にあってなお純真さを失わないユイの特異性に付け込む形でパイプを繋ぎ、彼女を擬似サーヴァントとして聖杯戦争に参戦するに至った。自我はユイの方にある。

【特徴】

 黒い雲のように巨大な存在。
 山羊のような生き物を表しながらも、はっきりとした違和感・不自然さを持ち、蹄付きの無数の触手を持つ冷笑的な神。
 しかしながら、そこには確かな人間的感情が垣間見える。

【聖杯にかける願い】
 ???


【マスター】
 ユイ@深夜廻

【能力・技能】

 フォーリナーと共通。

【人物背景】

 頭に包帯を巻いた、赤いリボンの少女。
 大人しい性格の親友が恐がっている時は手を取り、隠れさせて自分が見にいく明るく勇敢な性格の持ち主。
 神に魅入られ、友と引き裂かれ、そしてまた神に魅入られた。

【マスターとしての願い】

 ハルと、また一緒に過ごしたい。
 ずっと、ずっと。いつまでも。


344 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/14(日) 15:55:06 DgPR0LJ60
いきなりミスったので修正します。

【身長・体重】不定

が正しい記述となります。
以上で投下を終了します


345 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:26:31 JA3P4Ftk0
感想ありがとうございます。再び投下させていただきます。


346 : 京の都を越えて ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:27:44 JA3P4Ftk0

京都の町を歩む一人の少年は、はあと白い息を大気中に発生させる。
彼の名は、藤丸立香。
ある世界にて人理を守り、数多のサーヴァントと巡り合った。しかしながら魔術でもなければ、特別でもない。
善でありながら悪を知ったうえで、悪を為せ、悪を赦す。
マスターとしては相応しい人格者な存在。

今回のように、あらぬ世界――特異点に引き込まれる経験はなくもない。
立香はこれが現実なのか。あるいは『夢』なのか。ここへ至った経緯すら曖昧なせいで、基本的な状況確認すら怪しい。
ただ。確かなのは……


>なんだか。体が少し重い。


>疲れが取れていないのかな……


「きっとそれは私のせいだよ」


立香の傍ら。同行している男は、京都の聖杯戦争において立香のサーヴァントとして召喚されたもの。
白のオーバーコートに黒スーツといった。
如何にもサラリーマン風の容姿をし、童顔のせいで若く見える。
背丈は立香よりも高く、視線を合すとなれば立香が見上げる必要がある。
クセある髪質の黒短髪で紫色の瞳……男のクラスは『セイバー』だった。
現に、男は剣を握っていないものの。立香は以前――召喚した際に剣を……『白銀の鍵剣』を目にしている。

紛れなく『そのせい』でセイバーに対する立香の態度は、強張ったものが続く。
一方、セイバーの方は至って平穏である。
むしろ立香が力み過ぎているかのような有様で。


「サーヴァントを現界し続けるにも魔力が必要でね。以前の君はカルデアからのバックアップも受けていたから
 体感的に不自由なくサーヴァントと交流し続けられたんだ。
 霊体化の話は聞いた事あるかな? いつ戦闘が起きても良いよう魔力を節約したいならば、私も従うけれど」


>そのままで居て欲しい。


「おや。いいのかい? ひょっとして私と話したい事でも? 受け答えの範囲で留まる内容だったら構わないよ」


セイバーは立香の表情を伺う。
多少、魔力消費を堪えてでもセイバーの実体化を求めていた。対話ではなく『監視』の意味で。
霊体化されては、どこで何をしでかすか分からないようなものである。
最も立香の目論みなど、セイバーには無意味に終わるのだが……彼は理解していない。
セイバーを知っていながらも、詳細な情報を網羅して無い。中途半端な状態なのだが。


「うん。案の定だったかな。この時間帯は空いているよ」


とは言え。セイバーの行動をいざ眼にしてみると、奇妙どころか立香には理解の外なのだろうか。
先ほどから立香達が移動し、到着したのは――『清水寺』。そう、あの清水寺。
清水の舞台から飛び降りたいで有名な、あそこ。

意外にも(立香ですら知らなかったが)早朝から清水寺は開門されており。
観光とは無縁な時間帯に足を運んで見れば、立香達以外誰も居ない。静寂で閑散とした。
人で埋め尽くされて当然の清水の舞台ががらんどうの為、変に違和感を抱くほどである。


347 : 京の都を越えて ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:28:17 JA3P4Ftk0


>まるで観光に来た気分だ……


無論、観光目的ではない。
周辺に人愚か、サーヴァント等の不在を確認し終えたらしいセイバーが虚空に左腕を伸ばせば。
例の『白銀の鍵剣』を手元に出現させている。
やがて七色の球体状の粒子が、立香達の周辺全土より顕わとなり。
粒子は幻想世界じみた浮遊で漂いながら鍵剣へと集結してゆく。
思わず立香が尋ねた。


>これって一体?


「『神秘』かな。清水の歴史文化価値を質量に変換した……おっと、君は『私』を把握していないんだったね。
 私は『歴史』そのものだ。『アカシックレコード』とか。そうだ。
 君はブラヴァッキーを知っているだろう? 彼女に是非とも話を持ちかければいいんじゃないかな」


アッサリと立香の知る英霊の名を口したものだから、驚愕を隠す事は難しい。
セイバーは構わず話を続けていた。


「今の私は力を大幅に削ぎ落しているからね。歴史の痕跡である土地や建造物から糧を回収出来るんだ。
 最も――ここまで説明すれば分かるだろう? つまり『文明の破壊』が致命的な弱点でもある。
 君の知る英霊に、一人覚えがあるんじゃないかな」


>一つ確認したい


>何が目的なんだ? セイバー。


「目的?」


セイバーは穏やかな表情を一変させ、男性にしては大きめの瞳を細め、不愉快そうな様子で立香を横目にやる。
七色の粒子を粗方吸収し終えたらしい鍵剣を、再び虚空に消し。
わざとらしい溜息をついてから、口を開いた。


「目的があると……君が勝手にそう思い込んでいるだけだよ。藤丸立香」






348 : 京の都を越えて ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:28:44 JA3P4Ftk0


目的などない。
立香はセイバーの言葉がまるで信用ならない。胡散臭さとは違って。違和感や第一印象の問題じゃなかった。
藤丸立香はセイバーの正体を、知っているようで知らない。
矛盾めいた曖昧な表現ではあるが正しい。

正直、つい最近の事。
悪魔の名を冠する魔神柱が架空の神話に可能性を見出し、人理もとい人類の終わらせる為に
外宇宙との隔たりの蓋を僅かに開いたのである。
立香は、外宇宙の神の力を宿した少女と対峙した。


「全く困ったものだよ」


と――藤丸立香の眼前で外宇宙に存在せし

異形の神

門にして鍵

魔術師は『根源』と称する概念が微笑を浮かべている。


「魔神柱の思考も浅はかで参るね。私達は確かに簡単に人類を終わらせるけれども。
 だからといって簡単に人類を終わらせるほど、理性のない神格ではないよ。
 君も、渡されたばかりのプレゼントをいきなり叩き壊す真似はしないだろう? マスター」


嗚呼。紛れもない。
この男は――どこかの誰かの体を借りた神格。『ヨグ=ソトース』と呼称される存在。
先ほどの『白銀の鍵』は、異形の神の力を露わにした少女が手にしてた鍵と対になる代物。
強張った表情を浮かべる立香に対し「ふむ」とセイバーが言う。


「どうやら君は『無自覚』のようだから話しておこうか。
 君のみならず、君の宇宙にいる誰もが――私達が人類あるいは宇宙に手出ししようと不安視しているのだろう。
 だが、実際。それらにはまるで興味はないよ。少なくとも『現時点』では」


>………


「むしろ現時点で何が狙われているか。的確に示すなら――それは君だよ、藤丸立香」


>……え? 俺??


「ホラ。やっぱり分かっていない。
 想像してくれたまえ。私達が最初に『君の宇宙』を観測したのは特異点と化したセイレムだ。
 そして――渦中に居た英霊などを除いて、注目するべき人間は『君』だったじゃないか」


349 : 京の都を越えて ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:29:08 JA3P4Ftk0
確かに。
指摘されれば、言われてみれば、思い返せば本当にそうなのだが。
立香は些か突拍子もない展開に困惑している。
世界や宇宙。サーヴァント・即ち英霊システムを差し置いて、どうして平凡な人間でしかない自分が注目されるのか。
納得いかない様子の立香に対し、セイバーは無表情で続けた。


「君……あの時、自分が何をしたのか。忘れた訳じゃないだろう?」


>何を?


ポカンと間抜けに話を聞く立香を、セイバーは呆れか、残念そうな表情で溜息つく。
それからセイバーは、改めて平穏な顔で尋ねた。


「確認として聞くけど……マスター、『根源』に興味は?」


>ない


「随分と即答だね。まあいいや。念の為だよ。ひょっとしたらの場合を考慮してね」


改まって不穏な雰囲気に立香が身構えているのに対し、セイバーは驚くほど落ち着いていた。


「再度忠告すると、私達の中で君に注目している神格が存在するのは事実だよ。
 しかしだね。君とて想像出来ると思う。それきっとロクな目に合わない、とね。
 正解さ。中でも私の弟は特にしつこい部類で。その癖、簡単に使い潰しをするんだ。全くどうしようもないよ」


相手が相手だからか、サッパリな話の流れに困惑する立香。
彼も、セイバーが指摘する点を十分。でなくとも大凡、把握している。
結局のところ、何故自分が異形の神々に注目されたのかは不明のままだが。


「だから……私の話はあくまで『提案』に過ぎない。だが藤丸立香。これは選択肢の一つだよ。
 私という『根源』の領域に至れば、君の安全を保証してあげよう」


>……!


「私が言うのも何だが、最善の選択でもあるんだ。皆、君の夢を関してあちら側に至ろうとしている。
 君、一人だけが外宇宙から脱する事で全てが救われるのだから、ある種。比較的安全に対処が可能な訳だ」


それとも。
セイバーが試す風に問いかける。


「全てなかった事にする、と。聖杯に願うのかな」


>聖杯には願わない。


>それに、聖杯はこの特異点の維持に利用されていると思う。


「だったら私の所に来るのかい。道順は安心していい。君は『鍵』を持っているからね」


鍵。
いや、そんなものは所持していない。
しいて京都の住まいである場所の鍵くらいしか――立香がポケットを探ると、手に奇妙な感触が一つ。
取り出して見れば、あのセイレムで少女に返しそびれたペンダントだった。
掌にあるペンダントから視点を上げた立香が、セイバーと目が合うと奇妙な恐怖が込み上げる。
一方のセイバーは何ら反応も見せずに。


「考える時間は、ほんの少しの間だけ。あるにはある。それまでに決めておいてくれればいいんだよ」


丁重な表現に聞こえるが、立香だけはセイバー自身に何ら感情も無い。
皮肉や嘲笑、悪意があれば良いのに『悪意すらない』、ただただ醜悪なものしかないに思えたのだった。


350 : 京の都を越えて ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:30:27 JA3P4Ftk0
【クラス】セイバー

【真名】ヨグ=ソトース@クトゥルフ神話

【属性】秩序・悪


【ステータス】筋力:A 耐久:C 敏捷:E 魔力:B 幸運:C 宝具:A


【クラス別スキル】
対魔力:A
 魔力に対する耐性。Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
 事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。


【保有スキル】
無名の霧:EX
 外なる異形の神性。
 精神干渉系の類を無力化する所か、干渉を試みた者の精神にダメージを与える。
 外宇宙に居る異形の神々の恐怖をゆめゆめ忘れることなかれ。

色彩の煌:A
 空間転移に似た現象と認識されやすいが、実際は『空間との同化』を実現させるスキル。
 戦闘時は、一瞬にして敵に接近する他。分身の如く複数自身を出現させ、攻撃する。
 ただし、どれもヨグ=ソトースである為。複数体顕わした自身が受けたダメージが余計に加算されてしまう。

空間感知:A
 時空間と隣接する事で通常感知不可能な霊体化状態のサーヴァントの感知。
 気配遮断のスキルすら実質無力化し、敵の位置を正確に把握出来る。
 勿論、これらを生かす為には魔力消費が必要であり、常時発動可能ではない。

根源接続:-
 擬似サーヴァント召喚の為、このスキルは使用不可となっている。



【宝具】
『神の無限の図書館(アカシックレコード)』
ランク:A++ 種別:歴史宝具 レンジ:- 最大補足:-
元始からの事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念。あらゆる情報が蓄えられている記録層。
アカシャ年代記と称されるもの。ヨグ=ソトースそのものを示す場合も。

周辺の歴史に纏わる神秘性が、ヨグ=ソトースの周囲に漂い七色に輝く球体状の粒子となり攻撃に変換。
砕けた表現で言うなら『歴史文化を物理にして殴る』。セイバー特有のビーム斬撃も出来る。
神秘性の濃度を攻撃力とするだけなので、魔力がエネルギーとして消費される。
故に京都が舞台となった今回の聖杯戦争ではこの宝具の威力も脅威的。

弱点は『文明』を破壊する相手には諸刃の剣となる事。


『原初の言葉の外的表れ(クリフォー・ライゾォム)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
ある魔女が持つ鍵が門を開く鍵ならば、こちらは門を閉じる鍵。白銀の鍵剣。
白銀の鍵剣の役割は、ただ実在する事だけ。
常に『根源』たるヨグ=ソトースがこちら側に接触しないように、門を施錠し続けている。
この白銀の鍵は案内人たるウムル・アト=タウィルにヨグ=ソトースが授けた代物。

通常時はセイバークラスとしての剣の役割を担う。
固有結界など時空間に影響を与える類を攻撃可能とする。
また『閉ざす』役割がある為、何らかの『解放』を防ぐ事も出来るだろう。


351 : 京の都を越えて ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:30:47 JA3P4Ftk0
【人物背景】
門にして鍵。全にして一、一にして全。漆黒の闇に永遠に幽閉されるものの外的な知性。
クトゥルフ神話の最高神とされる『アザトース』の産物『無名の霧』から発生した神格。
あらゆる時間・空間に隣接する。あるいは時空そのもの等。
藤丸立香の世界・宇宙にて、クトゥルフ神話は空想・架空の神話体系であると明言されている。

彼の正体は藤丸立香の世界で『根源』と呼ばれる。つまるところ『究極の知識』である。
無論。藤丸立香の世界・宇宙における『根源』そのものではない。
正真正銘の『クトゥルフ神話が実在する外宇宙の神格・ヨグ=ソトース』。
異なる外宇宙世界の『根源』そのものであり。あらゆる時空間に隣接する神性を得た意識を持つ概念。
フォーリナーではなくセイバーとして召喚されたのは
舞台となっている『京都』が藤丸立香の世界・宇宙にあらず、あらゆる外宇宙と面している十字路に存在する為。


召喚された姿は、ヨグ=ソトース本体ではなく『擬似サーヴァント』としてのもの。
依代となっている人間は『ウムル・アト=タウィル』。

ウムル・アト=タウィルがヨグ=ソトースの化身とされる事が多いが、実際は
何らかの事件を通し、幸い中の不幸に合い。『根源』の一歩手前まで至ったものの、肝心な『銀の鍵』を所持しておらず。
彷徨うハメになった平凡な青年である。それを認知したヨグ=ソトースが、彼に『案内人』としての役割を与える。

ウムル・アト=タウィルは『案内人』でしかない為、根源に至った力など冒涜的な能力すら所持していない。
神性が備わっている。危害を加えれば邪悪な本性を露わにする。等、あらぬ逸話があるのは。
ヨグ=ソトースの加護による影響に過ぎず。彼はただの人間のまま。
あらゆる時空間に隣接する特異空間に居る為、ウムル・アト=タウィルは若者だったり老人だったり。
生きていたり、死んでいたり、観測上非常に曖昧な存在だが。
ゆるやかに生命として死に向かっているのは確かで。いづれは普通の人間と同じ、死に至る。


ヨグ=ソトースの片鱗を纏った少女が葬られるかと思えば、藤丸立香はその少女を助け、自由へ解放した。
藤丸立香は、それこそ『ただの人間』であり。
奇跡的な巡り合わせの運命により、数多の英霊と関われただけに過ぎない。
魔術師のような冷酷さを持ち合わせていない。善悪で区別しない人格だからこその判断であったとしても
危険因子を野放しにする愚行を犯した。


それを切っ掛けに、藤丸立香は一部の外宇宙の神々に関心を抱かれた。
ヨグ=ソトースは、他の神格らが余計な手出しをする前に、藤丸立香に『銀の門』を開けさせようと目論んでいる。
それは藤丸立香を根源に到達させる為ではなく、自らの領域に引き込む為。


一見、穏やかな微笑と雰囲気を漂わせる不思議が詰まったように感じられるが、
藤丸立香の世界における『神』とはまるで異なる。
良心や慈悲・愛情すら持ち合わせない、高慢に気取っているつもりもなく、嘲笑の蔑みすら無い。
「藤丸立香を先に観測したのは自分だから自分が支配下に置いて当然」という醜悪な独占欲が存在する。
……最もこれはヨグ=ソトースの意志・性格ではなく。
擬似サーヴァント――ウムル・アト=タウィルと融合により発生したもの。

元となったウムル・アト=タウィルは反社会性な人格者であり、人間として破綻している。


352 : 京の都を越えて ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:31:08 JA3P4Ftk0
【容姿・特徴】
二十代ほどの年齢ながら童顔。くしゃくしゃ癖毛の黒髪短髪・紫眼。
白のオーバーコートを羽織り、黒スーツ姿の男性。


【聖杯にかける願い】
聖杯の魔力を利用し、藤丸立香を自らの神域に引き込む。





【マスター】
藤丸立香(男)@Fate/Grand Order


【聖杯にかける願い】
なし。
この特異点の解決を目的とする。


【人物背景】
人理を守り。その後、魔神柱が作りし亜種特異点を解決。
最後のレイシフトから帰還を果たしたのだが……


【weapon】
魔術礼装・カルデア
 人理継続保障機関・カルデアのマスターに支給される魔術礼装。

ペンダント
 亜種特異点・セイレムで回収したペンダント。
 ある少女に返し忘れた代物。


【能力・技能】
マスター適正とレイシフト適正を兼ね備えた。
しかしながら魔術師とは無縁の一般人。
良くも悪くもなく、サーヴァントとの付き合いに慣れている。
魔術師らしい冷酷さはなく。善悪で区別しない。善でありながら悪を為せる人間。


353 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/15(月) 00:31:38 JA3P4Ftk0
投下終了します


354 : ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:48:51 RuESrjxc0
投下します


355 : 志々雄真実&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:49:21 RuESrjxc0

…………欠けた夢を、見ていた。





―――人間五十年。下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり―――

美しく。華麗に。荘厳に。
女が舞う。それを一人の男が傍らで静かに見守る。
これで終わり、と謡うように。まだ終わらぬ、と嘆くように。

紅く。赤く。朱く。
血に染まる。炎が躍る。
肉を焦がし、骨を焼き、それでも飽き足らず炎はついに世界を侵す。

一面の炎。一面の炎。一面の炎。
そんな地獄のただ中でも女は笑う。
涼しげな顔をして血と炎の海の中で腰を落ち着け。
刃を抜き。
着物をはだけ。
その刃を自らに向けて。

―――是非もなし―――

腹を十字に掻っ捌く。

それに少しだけ遅れて、男もおっとり刃を振るい。
女の首を一刀に刎ねる。

血の海と炎を海は勢いを増し、男と女だったものを呑み込む。
周り全てが赤に覆われるが、一筋の純白が舞い上がるように視界に飛び込む。
認識票、ドッグタグのようなそれが炎で焦げ、灰を纏い、血に染まり、その紋様に意味のある文字のようなものが浮かんだところで。
世界が変わる。時代が変わる。視点が変わる。




…………刹那の幻は終わりを告げて、現実へと浮上する。
地獄の炎に焼かれた男はかつて見た夢幻で口にした言葉を吐き出していた。



―――閻魔相手に、地獄の国盗りだ―――

誰かの見た夢の中から。
人の生きる、現実という地獄に志々雄真実は帰還する。


356 : 志々雄真実&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:49:50 RuESrjxc0

「おや、お目覚めですか」

起きて志々雄の視界に真っ先に飛び込んだのは鎧兜を着込んだ髷の男だった。
背丈は150そこそこ、歳のころは老年に近い。
小柄な老人が時代錯誤な格好をしているなど呆けたようにしか見えないが、危険な匂いとどこかで見た風貌に気を緩めることができずにいた。

「包帯だらけだったのでとりあえず寝かせておきましたが、その火傷は拙にはどうしようもありません。戦場での傷くらいならいざ知らず、魔術師どころか薬師でもない、一介の武人の手には余ります。ご容赦を……とりあえずお水を一杯、いかがです?」

するり、と。
警戒するように睨む志々雄へと水の満たされた椀が差し出された。
それを見ると途端に渇きを自覚した。なにせ夢でも現でも先ほどまで炎にまかれていたのが最新の記憶だ。
奪い取るようにして飲み干し落ち着いてくると、次第に頭が晴れていく。
覚えるのは様々な疑問だ。まず聞くのは

「おい、俺の刀はどこだ」

無限刃が手元にない。
眠っていたのだから当然といえば当然だが、使い込んだ得物が自分以外の者の手にあるというのは志々雄にも多少苛立つものがあった。
ぎらついた眼で真っ先に凶器を求めるなど答えるとは思えないが、力づくで聞きだす・奪いかえすことも考えて問い詰めると

「こちらに。変わった刀をお持ちですな。血と脂の焦げたような匂いが染みついておられる」

と、背後に隠し持つようにしていた無限刃を手渡される。
抜いてみても振るってみても細工などされた様子はない。

「……で、誰だお前は。随分呆気なく刀渡すじゃあねえか」

全身に包帯を巻いた不審者をけが人と思って保護したのは百歩譲ってよしとしよう。
だが廃刀令も出て‏散切り頭も流行って久しいご時世に鎧まで着込んだ髷の男というのは、志々雄真実と比してなお不審者だ。

「クラス、バーサーカーのサーヴァント」

要領を得ない答えに志々雄の口からなんだそれは、と言葉が漏れかけるがすぐに噤んでしまう。
覚えのないはずの単語だが、どこで知ったのか脳裏に知識が突如として現れていたのだ。
聖杯戦争、英霊の召喚、使役、令呪、魔術……すなわち殺し合いの理が。

「志々雄殿。先ほど拙のはらわたまで犯すような感覚があり申した。おそらく拙が何者かもご覧になったはず」

夢の風景が志々雄の脳裏にフラッシュバックする。
血と炎でアカく染まった女の最期が。その首を撥ねた男……目の前に立つ熟練の武人が。
堂々たる死出の旅立ち、敦盛を舞ったのちに切腹と介錯。

どう見ても線の細い女だったなどというのは疑問だ。
しかしそんなものは些事であると切って捨てられる王気(オーラ)、魔性……あれは間違いなく織田信長その人であろう。
ならばその介錯をしたこの男はというと

「森蘭丸か?おまえ」
「蘭丸は二十歳前の若武者でござる。拙のような裏切者の老いぼれと一緒にしてほしくはありますまい」

男はそう答えると膝をつき、こうべを垂れて名乗りを上げた。

「惟任……いえ明智光秀、でございます。貴殿のサーヴァントとして召喚され申した。お見知りおきをば」

惟任光秀、もとい明智光秀。
日ノ本に産まれ育ち、その名を知らぬものがおろうか。
日本史上指折りの英傑を滅ぼした謀反人の名に、夢に見た本能寺の光景が自らの知識や想像と異なることに志々雄も僅か瞠目する。

「拙のことも我が殿信長様のこともご存知でおられるようで。安心いたしました。ならば上様の御首いただいた甲斐もあろうというもの」

その反応を見て老将・光秀の口元に笑みが浮かぶ。
よくぞ我が名を、我が君の名を時代を超えて存じ上げてくれた、と歓喜と誇らしさを交えて。


357 : 志々雄真実&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:50:59 RuESrjxc0

「……光秀、か。それじゃあ人斬りの大先輩よ、たしかあんたは信長の死体を見つけられなかったせいで随分と多くの味方にし損ねたはずだ。信長の首を撥ねたのがあんたならなぜだ?」

弱肉強食の理に従う志々雄に裏切り自体はさして疑問ではない。
だが天下を目指すならば信長の首を掲げるべきだったろう。。勝つために取るべき道筋をとることができない性質ならば、戦場での同道には適さない。部下に要らない。
ゆるりと無限刃を構えいつでも斬りかかれるようにするが

「さような剣で拙は、サーヴァントは斬れませぬ。害したくば左手のものをお使い自害をご命じあれ。焔のようなその三画の聖痕を令呪と呼びまする」

動じることなく、むしろ自らを殺す助言をして逆に志々雄の反応を待つ光秀。
志々雄が左手に僅かに意識を巡らせると、火傷とは違う熱のようなものを感じ令呪というものを知覚する。
誅する手段が如何様なものか……それが互いに共通の認識となったところで光秀は問いに答えた。

「上様の亡骸は見つからぬように拙が秘匿いたしました。拙の目的にはそれが必要だったのです」
「目的?」
「さよう……悟ってしまったのです。羽柴殿も、柴田殿も、丹羽殿も気づいておられぬ。徳川様はお察しだったやも知れませぬが。
 上様には、天下はとれませぬ。あのお方はあまりに勝ちすぎ、方々に怨みを重ねすぎた。今川はともかくとしても、浅井に朝倉に武田、それに毛利に、なにより生臭とはいえ坊主ども。そして足利はもとより、朝廷内にも良く思わぬものは多い。
 征夷大将軍となることはできたかもしれませぬ。しかし10年持たず、源が北条に取って代わられたように織田の時代は終わるでしょう」

慟哭。嗚咽。悲鳴。
静かに、しかし嘆きに満ちた言の葉が光秀の口から奔流のように溢れ出る。

「ならばせめて信長敗れるも織田は敗れてはなりませぬ。何より織田信長の名を堕とすことは防がねば。
 部下の裏切りで本能寺で夢半ばに潰え、その亡骸の行方が分からぬとなれば……信忠様も羽柴殿も柴田殿も高らかに声を上げるでしょう。我こそ織田信長の後継なり、と。
 あるいは後世、生き延びた信長様の落とし胤であるなどと名乗りを上げる者も出るやも。上様が討たれたとあれば多少は溜飲を下げるものもおります。
 ……かくして、拙の目論見通りあの瞬間天下人の座とはすなわち織田信長の後継に等しくなったのでございます。天下人ならざる上様でありましたが、そうなれば幾百年経とうと誰もがその名に畏怖と敬意を忘れることはないでしょうと思いましたが……いやはや、上手くいったようで何より」

光秀の功の大半は信長の下で立てたもの。例外と言えば最後に信長を討ち取ったものがあげられるが、他にさして名だたるものはない。ならば明智光秀を知る者がまさか織田信長を知らぬことなどあり得ぬ。
志々雄の反応はまさに光秀にとって理想と言えるものだった。

「……天下に名乗りを上げる気はなかったと?」
「上様を裏切った拙がどの面下げて信長の後継を名乗れましょうや。それでは目的とは違ってしまいまする。後世と世俗の評価は馬鹿にできませんからなあ、羽柴殿がお茶々様とのお子を、徳川様がお江様のお子を跡継ぎにして織田の血を入れたのはさような意味も兼ねておられるでしょうし。
 ……なにより、上様の後継を名乗る最大の近道はその仇である拙を討つことでありましょう?大義と小義を取り違えてはなりませぬ。拙や一族の命運など主家のためならば惜しむべくもない」

主君の命も自分の命も投げ捨てて、ただ織田信長の名を歴史に刻むために。
大我と小我の反転した価値観。
世から外れた感性の志々雄にも慮外のそれを理解するのは難しい。
だから

「それで、よかったと思ってんのか」

満足したのか。成し遂げたといえるのか。死してなおの勝利を、もぎ取ったのか。
本人の口から改めて価値観を知っておきたかった。


358 : 志々雄真実&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:51:25 RuESrjxc0

「その答えを求めてここに馳せ参じた次第でございます。上様亡き後、羽柴殿や徳川様がいかような世を成したのか。それと上様の軌跡は斯様に遺っておるのか。
 幸いここに上様もおりますゆえ、少なくとも墓前に手を合わせたくはあります。焼けた本能寺も再建したとのこと、確かめとうございますな」
「…あ?ここにいるだぁ?信長がか」

そういう光秀は身を起こし、まるで妊婦のように自らの腹を愛おし気に両の手で撫でていた。
……少しだけ、志々雄も心胆に寒いものを覚える。

「然様です。拙は上様の仇として露と消える腹積もりでありました。ならば万に一つも上様を匿っているだのなぜか亡骸を隠しているなど流言はさけねば、話が拗れる恐れがありますからなあ。徹底的に探させましたとも。焼けた梁をどけ、畳をひっくり返して、出てきた髑髏の検分もし申した……その上で見つからぬようにするには誰の眼にもつかぬよう、されど手元に置いておくのが安心でございましょう?」

何ぞ可笑しなことがことがあらんや、と慈愛と底知れぬ狂気に満ちた笑みを光秀は浮かべる。
腹を撫でる手は止まらない。

「……食ったのか。信長の死体を」
「首だけでありますが。それでも上様の血と拙の涙でえづきが止まらず、飲み干すには苦労いたした。
 おまけにさすがという他在りませぬ。首だけになって、胎の内に収まっても、未だに中で暴れておられる。助けられている面も多いのですが、やはり落ち着いていただいた方がよいのでひとまず墓前で弔いたいと……どうされました?顔色は分かりませんが、鼓動がやけに早くなっておりますぞ?」
「うるせえ。なんでもねえよ」

にじみ出る狂気にさすがの志々雄も少し狼狽したが、何ということはない。
このくらいの狂人なら幕末にも探せばいるだろう。

「墓参りのために戦場に来たのか?勝つ気は今度もねえとか言い出さねえだろうな?」

しかしこれほどに腕が立つのはそうはいまい。
十本刀も壊滅し、使えるものは何でも欲しいところ。聖杯も、使えるならこの男も。
少なくとも聖杯戦争の間はまともに使えてくれなければ、聖杯を欲してくれなければやりにくいことになる。
その期待に応えるように狂気を孕んだ光秀は笑みそのままに願いの続きを語りだした。

「ここは生前拙が幾度か世話になった寺でござる。変わりませぬな、京の都は。見慣れぬ建造物も多くなっておりますが、寺も残り人もあり、人の中身は変わっておりませぬ。貴殿を担ぎ込んで休ませてくれと頼んだら快諾してくだされた。
 端々まで、この世がいかなものか見届けとうござる。一時この世に再び根を下ろして、変わったものも変わらぬものも堪能するのが我が悲願」

願いはある。勝つ気もある。今度は、殺す。
再び礼の姿勢をとり、志々雄に闘う気はあるのかと今度は逆に投げかけているかのよう。
当然志々雄の答えは一つだ。

「なら俺についてこい。俺の隣で、この国の様を見せてやるよ」
「おや。よろしゅうござるか?拙はこれでも日ノ本一の反骨になってしまったと自負していますが」
「構いやしねえよ。そういうのが本当に一人くらいいる方が面白え」

明治政府だろうと、閻魔だろうと。
室町幕府だろうと、日輪だろうと。
そしてまだ見ぬ獣であろうと。
それらすべてを敵に回してでも、志々雄真実と明智光秀は天下への道を行くだろう。
その道が重なる間は、ともに。


359 : 志々雄真実&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:51:58 RuESrjxc0

【CLASS】バーサーカー

【真名】明智光秀

【出典】戦国時代日本

【性別】男性

【身長・体重】155cm・56kg

【属性】秩序・狂

【ステータス】
筋力A 耐久C- 敏捷B 魔力EX 幸運E 宝具EX
(狂化による上昇、京都での知名度補正含む)

【クラス別スキル】
狂化:C
耐久と幸運を除くパラメータをランクアップさせるが、理性を喪失し人間的な思考ができなくなる。
クラス別スキルであると同時に鬼としての種族特性でもあるため例外的に制御が可能。
制御中は落ち着いて会話もできる。ただし織田信長に関わることで彼が理性的に振る舞えるかは幸運判定が必要となる。

【固有スキル】
反骨の相:C+
一つの場所に留まらず、一つの主君を抱かぬ気性。
自らは王の器ではなく、自らの王を見つける事のできない放浪の星である。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。
このランクでは信長のカリスマを常時完全には無効化はできず、どうにも変な効き方をしていた。

鬼種の魔:B
鬼の異能および魔性を現すスキル。源頼光≒丑御前の血を引く彼は頼光から500年後の時代に突如として「先祖還り」を起こして生まれ落ちた天才的な「混血」の子であった。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキルだが、反骨の相を持つ光秀のカリスマはほぼ機能していない。
魔力放出の形態は先祖とは違い雷ではなく「炎」。

血脈励起:B
生前の光秀が行っていた自己暗示の一種。
サーヴァントとして現界するにあたっては、鬼種としての力を一時的に増幅させるスキルとして定義されている。

間隙の第六天魔王:B-
織田信長の持つ本来のスキル、「魔王」のアナザースキル。三日天下……魔王信長と天下人秀吉の継投を行ったもう一人の魔王。
後述の宝具を喰らったことと後世のイメージによって己の在り方を捻じ曲げられた怪物。能力、姿が変貌してしまう。
生来の怪物、鬼種であるため変化スキルも内包し、人の姿と鬼の姿ならば自在にコントロールできる。
そして燃え盛る本能寺の中で魔王を打倒した逸話により「炎上」した地では力を増し、また鬼の力も相まって炎を糧として魔力を生成する能力も獲得している。

騎乗:-
武将である以上馬術にも精通するのだが、反転・狂化したことでこのスキルは失われている。
もはや凡百の馬よりも鬼の健脚の方が優れるのは言うまでもない。

【宝具】
『大千世界(さんだんうちがひとつ)』
ランク:E〜B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
九山八海、其れ一世界。一世界、千集まれば小千世界。小千世界、千束ねれば中千世界。中千世界、千纏めれば大千世界。これすなわち三千世界の成立ちなり。
織田信長の宝具、三千世界をのもととなった鉄砲隊を構成する一員であるためにその一部を宝具として有する。
射撃の名手であり、また信長のもとで相応の地位にあった光秀は千丁の火縄銃を展開できる。
オリジナルの三千世界同様に騎乗スキルを持つ相手には威力を増す。

『第六天魔王波旬〜受胎〜(ノブナガ・THE・ガブリエール)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
織田信長の持つ、「神性」や「神秘」を持つ者に対して絶対的な力を振るう存在へと変生する固有結界。
彼女の首を喰らうことで脳髄もろとも心象風景まで胎内に取り込んだ。獲得した魔王スキルにより肉体を変質させており、体内でなく胎内で間違いない。
本来の第六天魔王状態は神仏はおろか、信長自身すら焼き尽くしかねない危険な代物であり、首だけとなってもその力は尋常ではない。
胎から常に魔力と炎を放っており、光秀の魔力源となっている。スキル:間隙の第六点魔王の獲得、および魔力ランクが規格外となっている要因である。
なお二時間半もすれば霊基の方が耐えきれないほどに過剰供給されてしまうため、実体化など何らかの形で魔力を消費し続けなければメルトダウンを起こす。
制御はできないため攻撃手段に転用するならば暴走させるしかない。切腹など、腹を裂いて信長の首を露出すれば固有結界が世界を侵し、本能寺の変の如く光秀もろともだが一面を焦土と化すだろう。

なお光秀の最期は落ち武者狩りの農民、中村長兵衛の竹槍に胎を貫かれたせいで固有結界が暴走したもの。結果、光秀の首も体も身に着けていたものも、周りの数名の全身もほぼ全て燃やしつくして骨が少ししか残らなかったという。神仏を滅ぼす固有結界の暴走としては小規模で済んだが、そのせいで光秀の首は部下のものと区別はつかなくなり、複数の首が秀吉に献上されたり、討ち取った長兵衛の行方も分からなったりと混乱を招いた。


360 : 志々雄真実&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:52:56 RuESrjxc0

【weapon】
・火縄銃
宝具『大千世界』の火縄銃。真名解放なしで数丁召喚・行使できる。
魔力放出の炎で火薬を直接着火させることができるため、火縄の常識を外れた早撃ちを可能とする。

・備前長船近景
光秀の愛刀。鬼が振るい、魔王の首を落としたもはや妖刀の一。
幕末期に手入れをした刀工が銘を擦り落としその呪いも払ったのだが、サーヴァントの武装として持ち込んだことで銘も取り戻し妖刀に戻っている。
宝具には至らなかったが、鬼の膂力で振るっても炎の魔力を纏わせても刃こぼれや劣化などしない逸品である。

【特徴】
型月信長より少しだけ大きい、細身の男。月姫の遠野秋葉が男体化したイメージ。でも戦い方は軋間紅摩よりのパワーファイター。
黒髪を髷に結った鎧武者、典型的な日ノ本の武将ルック。
信長を殺し、首を食った年代が最も鬼として優れた時期であるために晩年の姿で召喚されている。
髷にしてなお分かるほどに髪が少ない。
鬼の特徴である角が生まれついて頭部に生えていたのだが、人の世で生きるために斬り落とした痕跡が禿のようになっているためである。そのせいで信長に「金柑頭」とからかわれたが、鬼でなく人として認められたような気がして嫌いではない。鬼子だの角付きだの蔑まれるのに比べれば格段にマシ。


【人物背景】
明智光秀は恐らく日本に限れば、ユダやブルータスにも匹敵する裏切者・謀反人の代名詞と言えよう。
正確な出自は不明だが清和源氏の流れをくむ家に産まれたのが有力とされ、斎藤道三や朝倉義景、足利義昭に仕えた後に織田信長の臣下となる。将軍家とのやり取りや戦場での功もあり、京都の差配を任せられるほどの重臣だったのだが、突如本能寺において謀反を起こす。
歴史に知られる本能寺の変を起こし信長を自害に追い込んだが、それを聞きつけた羽柴秀吉にあっけなく敗れる。そこから逃げ延びるさなかに落ち武者狩りにあって命を落としたとされる。
しかし本能寺から信長の亡骸は見つかっていない、光秀の首は秀吉に届けられたとき骨だけで光秀と分からなかった、討ち取った農民は行方知れず、そもそもなぜ謀反を起こしたのかも正確な出生も不明。
足利将軍家にそそのかされた謀反、朝廷に命じられた暗殺、秀吉や家康と協力しての叛逆、実は生き延びて徳川幕府に影響力を発揮しており二代将軍「秀」忠と三代将軍家「光」は明智光秀が世話をした、など日本史上の転換点にありながら謎と風聞の多い人物となっている

そんな明智光秀を今回は源頼光の血が強く出た鬼種、鬼の角の名残があって金柑頭、鬼ゆえの狂った愛が信長に向いて謀反を起こし果てには信長の首を食べたり、そのせいで死体が謎の炎上を遂げたなどと解釈してみた。


【サーヴァントの願い】
受肉して信長公の史跡巡りをしたい。
そうだ、京都いこう。


361 : 志々雄真実&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:53:16 RuESrjxc0

【マスター】
志々雄真実@るろうに剣心

【マスターとしての願い】
再び天下を狙う。

【weapon】
・無限刃
刃こぼれで切れ味が鈍っていく刀から発想を逆転し、刃を鋸歯状にする事で切れ味をある程度犠牲にする代わりに殺傷力を一定に保っている殺人奇剣。
志々雄は無限刃で人を斬り、刃に染みこんだ人間の脂肪を大気・刀等との摩擦で発火させる技術を開発した。
この剣で起こした火を利用するための火薬も所持しており、弐の秘剣「紅蓮腕」などで使用する。

・鉢金
不意打ちを防ぐために頭部に仕込んでいる。
斎藤一の牙突を受け止めるこの鉢金もすごいが、直撃しても首を痛めたりしない志々雄のタフさもすごい。

【能力・技能】
無限刃を用いた我流の剣術。

全身火傷により発汗機能はほぼ死んでおり、体温調節ができない。
そのため15分以上戦闘を行うと体温が異常に上昇し、作中では人体発火にまで至った。
ただし部下の見立てでは志々雄の体内には内燃機関に近いものが備わっており、高温になればなるほどその力は増していくと推測していた。このためか外見以上の怪力とタフネスを誇るなどデメリットばかりでもないらしい。

【人物背景】
幕末期に長州維新志士の一派として活躍した暗殺剣士、いわゆる人斬り。
剣の腕も頭脳も一流だったのだが、野心と思想を危険視され味方であるはずの志士に奇襲され瀕死の目に合う。
全身を焼かれながらも生き延び、後に多くの部下を率いて明治政府転覆を目論むテロリストとなる。
日本の頂点に立ち、西洋列強と渡り合う強国にするなど思想は一見真っ当で、志々雄のカリスマや様々な思惑も相まって一大組織となったそれを明治政府も無視できず、かつての同志であり志々雄以前に人斬りを行っていた剣豪などを刺客として放つ。
その闘争において死亡。部下の大半は明治政府に組み込まれ、志々雄の野望は潰えた。
だが死してなお志々雄に忠義を誓う部下も存在し、今際にて地獄に堕ちてなお国盗りを目論む志々雄の姿を幻視したという。

聖杯戦争には死後時間軸での参戦。
剣心一行との戦いの傷は癒えているようだが、火傷の方はいまだ地獄の業火の残り火として彼の体でくすぶっている。


362 : ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:55:08 RuESrjxc0
もう一作、別企画に投下したものを微修正したものを投下します。


363 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:55:46 RuESrjxc0

女が目を覚ますとそこは真っ暗な空間だった。
どこか簡素な家の一室のようだが、明かりはついておらず、窓も閉じているようで部屋の様子はうかがえない。
間違っても自室ではない。
疑問と怖れに苛まれて、女はなぜこんなところにいるのが必死に記憶を探りはじめた。

自分は夜の相手をする客を探して路頭に立っていた。
そこへ奇妙な格好をした外国人の男二人が声をかけてきたのだ。
牛のような模様でまとめた若い男と、フィクションの世界の貴族そのままといった出で立ちに髭を蓄えた紳士。
この京都で外国人はそう珍しくはないが、その中にいても目立つどことなく浮世離れしたしたものを感じさせる組み合わせだった。
第一印象としてはそんなところ。
次に覚えた感想はカネを持っていそうだ、という商売女としての嗅覚からくるもの。
どことなく不安は覚えるが上客を拒むつもりはない、と笑顔で向き合った時に見えた紳士の鮮やかな碧い眼が最後の記憶だった。

それから何がどうなって暗闇の一室で意識を失っているのか。
誘拐でもされたのか。一体何の目的で。
混乱。焦燥。恐怖。そうした感情が湧き上がり悲鳴となって女の口から洩れ出そうになる。

「お目覚めのようだネ」

それを留めるようにどこからともなく声が響いた。
一寸先も見えない闇の中から聞こえてきた、機械を通したようなノイズ交じりの声に女は反射的に質問を投げかける。

「だ、誰?なんで私をこんなところに?」
「先ほど君を買おうとした男の一人さ。伯爵、と呼んでくれて構わないヨ。
 なぜここに連れてきたのかと聞かれたら、そりゃあ春を売ってる女性を買うのに外でやるわけにいかないだろ?公衆の面前でやるのはちょっと、まずいよネ?」

女は返ってきた答えにほんの少しだけ息をつく。
前後が不明瞭で、まだ物騒な事態になる可能性は否定できない。
それでも客だと主張するのなら、少なくとも相手をしている間は無事で済むはずだと。
でもせめてあまりにも過激な真似をすることになるのは避けたいと、震える声を抑えて少しだけ主張することにする。

「その……真っ暗な部屋でするのがあなたの趣味?そのくらいならいいけれど、顔や体に傷をつけるのは無しよ」

体にコンプレックスがあるのくらい珍しくない。それを見られるのが嫌で暗くするのはやりにくいが分かる。
肥満、手術痕、刺青など個性なのだからそのくらいなら受け入れる。
でも傷をつけたり、つけさせたりするのが茶飯事で、それを隠すための暗闇だとしたらそういうのは御免被りたい。
対価を受け取る仕事としてやる以上、契約の条件としてそのくらいは通させてもらう。
はっきりとそう告げると一瞬の沈黙をおいてノイズ交じりの返事が返ってきた。

「いいネ。プロ意識の高い女性だ。好きだヨ、そういう人は。
 でも……私はともかく教会の人間は君の仕事をよく思わないだろうネ。躰を売る仕事に一端の誇りを持つなんて生粋の毒婦(ヴァンプ)だと」

薄っすらと笑いを含んだ声が、なぜかペンを走らせるような音を交えて耳に届く。
瞬間、女の体に変化が生じた。
突如暗闇に目が慣れ、部屋の様子が見渡せるようになる。


364 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:56:14 RuESrjxc0

別に明かりは壊れているわけではないように見えた。
窓はカーテンに加えて雨戸まで完全に閉じられている。
その窓から日の差し込まない場所に満杯の本棚。
床にはなぜか無造作に酒瓶が置かれている。
部屋の中央にはちゃぶ台、その上に無線機らしいものがある。どうやら声はここから聞こえていたらしい。
見渡してみても部屋には他に誰もいない。
背後まで見渡してみると扉がある……さっきまで全く分からなかったのだが、その向こうから人の気配のようなものを感じる。

感覚が鋭敏になっているのがはっきりと自覚できる。
だが一番大きな変化はそれではない。
渇く。
渇く。
渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く。

視界が真っ赤になるほどに渇く。
咄嗟に床に置かれた酒瓶に手が伸びる。
中身は……空。
苛立ち混じりに酒瓶を床に叩きつけた。
ガラスの砕ける甲高い音が響く。
そしてその欠片が天井にまで反射して深く刺さる鈍い音と苛立った舌打ちも響く。
部屋には水道などない。
ならば、と扉の方へと足を進めるが

「ああ、ダメだヨ。この部屋は立ち入り禁止だ」

無線機越しではなく扉の奥から声が聞こえた。
人がいる。あの男がいる。■が飲める。
渇きの求めるままに扉の向こうに踏み入ろうとするが、なぜかそれができない。
入るなと言われたところでそれに従う必要などない筈なのに、魂がその命令に逆らうことができない。

「ぅ、ぅううう……!」

ドアノブを掴むこともおぼつかない。体重をかけて無理矢理に押し開けることも叶わない。
ガリガリと扉に爪痕を刻み付けるのが精いっぱい。まるで檻の中の猛獣のよう。

「ふぅむ、扉を傷つけるので精いっぱいか。せいぜいが下の上といったところだネ。
 もしかして君、赤子のころ母乳を飲んでいなかったな?乳腺でろ過されているとはいえ母乳(ち)を口にしていれば、毒婦(ヴァンプ)なんだしもう少しましな力を得ると思ったが。
 やれやれ、期待を外れてしまったようようだネ」

今度は呆れたような、失望したような声が聞こえてきた。
だがその内容はどうでもいい。
渇きに耐えきれない。無心に扉を掻きむしり続ける。


365 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:56:52 RuESrjxc0

突然、扉が弾けるように開かれた。
女の方に向かって途轍もない速さで押し開かれたために、それに女は部屋の反対側にまで弾き飛ばされてしまう。
そこから現れたのは一人の男だ。
女にはその男に見覚えがある。
牛柄の服の若い外国人、自分を買おうとしていた伯爵なる男といたのを覚えていた。

「随分とよォ〜、おっかねえ面になったな、おい」

男の顔には恐怖があった。
汗をびしょびしょにかいている。アドレナリンだとかの匂いも嗅ぎ取れた。

「イイ女だと思ったんだが、キャスターの宝具の効果ってのはそこまでキくのか。麻薬でハイになってたウンガロの方がまだマシかもなぁ〜」

ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
慎重に、しかし怖れを踏み越えるように堂々と。
勇ましい。
とても……おいしそうだ。

「ぅ、うゥ、WRYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

男が二歩目を踏み出したところで女も跳んだ。
男に向かってではなく、部屋の壁へ。
そのまま壁を蹴って三角跳び、男の背後に向かう。
狙うは頸動脈。
星の形の奇妙な痣がある首筋へと長く伸びた犬歯を突き立て血を啜るのだ。

歯が、触れた。
そのまま顎を閉じ、肉を食い破ろうとする。
だがそれができない。
今度は何かを命じられたわけではない。
なのに牙を突き立てることが……それだけでない、体が全く動かせない。

「汗ってよォ〜、何でかくもんなのか知ってるよな?脂汗ってのはまあ別だが、基本的には体温を下げるために出るもんだ。
 オレ、さっきまで汗だくだったろ?でも今は乾いてる。蒸発したんだ。熱を奪って、な」

冷たい。
男の首筋に触れている歯を通じて、顎が、首が、全身が冷え切って動かない。
凍って、固まってしまっている。

「まだ慣れねえからロッズが体温を食うのも併せてようやく、ってところだが。
 それでも顎関節だけなら触れた一瞬で、全身だって10秒ありゃあ氷像にしてやる」

凍結して動きを止めた女から一歩距離をとると同時に再び扉が開いた。

「キャスター。お前、結局出てきたのか」
「マスターの勇姿はこの眼で見なければネ。いやあ、素晴らしいよ、リキエル。
 吸血鬼の父を持ち、殺されたはずなのに今そうして歩いている……そんな女とは比べ物にならない才覚。吸血鬼としては上の中といったところかな。さあ、もっとらしくなってくれたまえヨ」

そう言いながらキャスターは一本の身の丈ほどに長い杭を差し出す。
リキエルはそれを受け取ると、身動きの取れない女の腹部へと突き立てる。
凍った肉を抉る鈍い音と、えずくような断末魔。
腹部から胸部へ杭を進ませ、その先端が心臓を抉ると女の体は灰へと還って消える。
亡骸はなく、残ったのは杭についた真っ赤な血が数滴だけ。
リキエルはそれをフォークについた上等なステーキのソースを口にするように舐めとる。


366 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:57:24 RuESrjxc0

「嗚呼、なんたることを。怪物に堕したとはいえ麗しき乙女を串刺しにしてその血を啜るなんて!
 吸血鬼(バケモノ)め!父に劣らぬ稀有な怪物め!フフフ、父も煉獄で笑っているだろうサ」

楽しそうな笑みを口の端に浮かべながらキャスターは己がマスターをそう評する。
そして喉を鳴らして血を飲み干すリキエルを確かめると、ペンを取り出し一筆したためる。
するとリキエルの口から覗く犬歯が伸び、より吸血鬼らしさを増していく。

「KUAAAA……」
「上々、上々。そろそろ体を霧にできるようになるかナ?ネズミやコウモリを使い魔として使役できるようになったら敵探しを手伝ってくれたまえヨ」

キャスターの言葉に反応して体の調子を確かめるように動かす。
霧にするというのは感覚がつかめずできるのかどうか分からなかったが、スカイハイに意識を巡らせるようにすると、部屋の端から這い出たネズミがリキエルの足元集まってきた。

「使い魔の使役はできそうだネ。死の病、ペストを運ぶネズミは死の象徴とされ、吸血鬼の僕として有名だ。疫病が蔓延するように増えるのも早い。
 私も使えるが、ロッズを扱う君の方が恐らくうまく扱えるだろう。よろしく頼むヨ」

リキエルが指揮をするように腕を振るうとネズミは散っていく。
着実に怪物性を増していく姿はキャスターにとってこの上なく好ましい題材として映った。

「本当に面白いヨ、君と君の父親にまつわる物語は……
 10万年以上生きた吸血種の作った宝具によって吸血鬼となった男が、天国を目指して神父と友になり、その目的のために君を含めて多くの子をこの世に放った、なんて!
 カイン以前の吸血種!?吸血鬼が天国を目指す!?神父と友情を育む!?人と子をなす!?禁忌のオンパレードだ、聖堂教会の連中が知ったら怒り狂うこと間違いないネ!
 私の生きた時代でそんな本を書いたら発禁になるかもしれないヨ。神がいて物語を紡いでいるのならこれほど奇妙な物語もそうあるまい。
 いやあ、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだネ、はは!カーミラを読んで以来の感動だヨ」

名作を読んで感動した。
名優に実際にあえて興奮している。
キャスターがリキエルに向ける関心はそういうものに近い。
そうなった彼がどうするかは生前から決まっている。
ヴラド三世、ヴァンベリ教授という人物をもとにした、ある種の二次創作をしたように、この地でもまた物語を書くのだ。

「オレたちの物語はアンタの書いたドラキュラより奇妙かい、ストーカー先生よ?」
「比較することに意味はないヨ。ワラキア公の伝説が奇譚として語られるように、君たちブランドーの血族の物語もまた数奇な運命に彩られている。
 今もまた、だ。吸血鬼が聖杯を目指すのだヨ?これを奇妙と言わずに何を奇妙というのか!読者としても作者としても興味に耐えないネ」
「奇妙、ねぇ……」

歴史上でも指折りの怪奇譚を書いた男にこうまで言わせる星の巡りに誇らしいような嫌気がさすような微妙な感慨。

(独特の価値観というか、文豪ってのは変人ばかりというか。ウンガロのスタンドと突き合せたら面白いかもなぁ)

時代というだけでは括れない明らかな差異……プッチ神父とはまた違う偉人の考えと言葉に興味をそそられ、ふと語り合ってみたくなる。

「なあ、ストーカー先生よ。この世で一番強いものってのは何だと思う?あんたは吸血鬼って答えるのかな?」
「いいや。ドラキュラという怪物はヘルシングという英雄に敗れるものサ。吸血鬼はとても力が強いが、同時にとても弱いからネ。
 作家の端くれとして、サーヴァントの端くれとして答えるならこの世で最も強いのは神々でも怪物でもなく英雄だと答えるヨ」
「ほお。つまり吸血鬼に堕してるオレやあんたはサーヴァントには絶対に勝てないってことかよ」

ストーカーの答えに少しの皮肉と疑問を込めてリキエルは問うた。
対してストーカーは少し自慢げに懐から銃と杭を掲げて見せる。

「私は吸血鬼であると同時に吸血鬼ハンターという英雄でもあるのサ」
「ズルいなそれ」
「設定を盛るのは作者様の特権と言っても過言ではないからネ。それはそうとマスター、君は何が一番強いと思うんだい?」

アーサー王とアレキサンダー大王はどっちが強いと思う?
そんな子供の話題のような話に楽しそうにストーカーは応じ、リキエルにも問い返す。
その問いに対する答えをリキエルはとうに決めている。


367 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:57:48 RuESrjxc0

「キャスター、君は引力を信じるか?人と人の間には引力がある、ということを」

突如として口調が変わる。
淡々とした、おそらくは誰かの言葉と口調をそのまま真似た問いを投げかける。

「フム。万有引力というやつか?物理学は専門じゃないんだが」
「そう、引力だ。あらゆる怪物を切り伏せる剣でもない。どんな攻撃も受け付けない鎧でもない。
 神から不死を奪う毒でもない。それらすべてを掌で転がす神算鬼謀でもない。
 人と人が引き合う引力……すなわち『運命』。それこそがこの世で最も強い力だとオレは思う」

引力。
プッチ神父に教えられた……そしてプッチ神父もまたディオ・ブランドーから教えられた力だ。
それをリキエルは最も強大な力だと悟ったか、あるいは信仰していた。

「万有引力といったな、キャスター。そうだ、星と星もまた引き合う。
 きっとオレに宿る星が引き寄せられたんだ、この聖杯戦争という星座(しんわ)の一節になるために。白紙の原稿に物語が紡がれるように、あんたとおれの名が刻まれるのさ」

キャスターの召喚に用いられた無記名の霊基。
ジョースターから始まった、星の紡ぐキャスター曰く奇妙な物語の続きを紡ぐように、そこには作者(ストーカー)の名が刻まれた。

「オレの父とジョースターの血族は出会うべくして出会った。プッチ神父ともそうだ。そしてオレたち、ヴェルサスにウンガロが神父のもとに導かれたのもそう。
 神父の弟が進むのも、空条徐倫がオレを降していくのも全ては偶然という名の運命だ。
 そして、今もまた。オレがこうして聖杯戦争に参加しているのも、君をパートナーにしていることも全ては『引力』のなせる奇跡」

宗教家の説法のように静謐で情熱的な論説。
たった一人の聴衆、ストーカーは

「似合ってないヨ、その口調」

リキエルの答えに対するものではなく、その口調に対して素っ気なく反応を返した。
その指摘に、自覚はあったのか気まずそうにリキエルは視線を逸らす。

「やっぱダメか。神父を真似てみたんだが」
「仕事柄、キャラ設定にはうるさくてネ。君は君らしい方がいい」
「まあそれは置いといて……なるようにしかならない。それがオレのスタンスだということは理解しておいてくれ。
 聖杯を欲するならば汝その力でもって証を立てよ、だったか。最も強い『力』とは『運命』だ。
 ならばオレが何をしようと優勝者は変わらない。オレがするべきことは聖杯を手にすることなのか?誰かが聖杯を手にする助けになるべきなのか?
 あんたの言う通り、オレはオレらしく振る舞い、その結末が敗北だろうと勝利だろうと甘んじて受け入れよう」

リキエルはすでに満ち足りた最期を一度迎えている。
信じるものを得て、今怪物としてここにいるリキエルに願いはない

「本当にそうかナ?」

とはストーカーは思わない。

「自らの意思で歩むのと、ただ流されるままに進むのは違うヨ。
 抗えないのが君の言う運命だと‪しても、それでも運命の前に抗うか抗わないかという選択はできる。
 ……聖杯を手にするのが君でないとしても、それは君が願いを持たない理由にはならないナ。君の願いは何だ?君は何のために聖杯へと歩みを進める?」

ストーカーがリキエルという怪物(キャラクター)に肉をつける。
そのための問いに、絞り出すように小さく、祈るように真摯にリキエルは答えを口にした。

「願わくば。オレもディオと神父が目指すという天国へ」
「グッド。願いがあるなら君はこの聖杯戦争の登場人物になる権利がある。
 このブラム・ストーカーが新たに書く作品の第一の読者兼登場人物として君を正式に認めるヨ。いい物語を期待している、そして期待してくれマスター」

頁は捲られた。
文も書かれた。
物語が始まる。


368 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:58:14 RuESrjxc0

【クラス】
キャスター

【真名】
ブラム・ストーカー@19世紀アイルランド

【パラメーター】
筋力C 耐久E 敏捷B+ 魔力D 幸運A 宝具A+
【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
陣地作成:C-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
彼が作るのは基本的に工房ではなく、物語を紡ぐ“書斎”である。
ドラキュラ邸や串刺しの陣の二次創作をすることもあるが、その場合ランクは低下する。

道具作成:C
魔力を帯びた道具を作成する。
宝具にまでなった人物像を歪める小説を執筆するほか、吸血鬼ハンターの扱う白木の杭や銀の弾丸などを魔力消費で生み出す。

【保有スキル】
無辜の怪物:A
吸血鬼に血を吸われたものは吸血鬼となる。つまり吸血鬼の手によって吸血鬼は生み出されるというのが大衆の認識である。
ならばもっとも有名な吸血鬼ドラキュラの生みの親の正体もまた、吸血鬼であって然るべきであろう。
……ワラキア公ヴラド三世と同名同質のスキル。
能力・姿が変貌し、吸血鬼となっている。
血を啜り、傷を再生し、優れた身体能力を誇り、コウモリを使役し、ネズミやコウモリや狼へと姿を変え、霧に転じ、目の合ったものを魅了する強大な化け物。
そして陽光に焼かれ、祝福された武器に拒絶され、流水を渡ること叶わず、閉ざされた地に許可なく入れない弱小な存在。

怪物理解:A+
吸血鬼に対する深い造詣。
吸血鬼に関連する宝具やスキルを目にした場合極めて高い確率で真名を看破する。
また現界にあたって聖杯から剪定事象であろうと異聞帯であろうと幻霊であろうとに限らずあらゆる吸血鬼の知識を獲得している。これにより彼はディオ・ブランド―にまつわる物語も認識している。

戦闘続行:D++
吸血鬼としての頑健な肉体と、小説家としての不屈の精神。
瀕死の傷でも長時間の戦闘を可能とする。
自らの望む作品を書き上げることに関してはプラス補正が発生し、病の床だろうと重体だろうと何としても脱稿する。

高速詠唱:E
魔術詠唱を早める技術。
彼の場合、魔術ではなく原稿の進みに多少の恩恵があるようだ。
ドラキュラ執筆に一年半を要した彼は速筆ではないが、それでも題材の決定は素早い。
ヴラド三世はドラキュラである、と即座に決めて書き始めたように、かの者は吸血鬼であるというプロットだけなら即座に書き上げるだろう。
敏捷のプラス補正はこのスキルの恩恵であり、執筆時に発生する。


369 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:58:36 RuESrjxc0

【宝具】
『此より始まるは鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:666
偉大なる武人にして信徒であるワラキア公ヴラド三世を無辜の怪物に貶めた怪作「吸血鬼ドラキュラ」の生原稿。
舞台化、映画化、二次創作やリメイクに富んだドラキュラを、ヴラド三世以外の別の人物をモチーフにしてストーカー自身が改めて創作する。
そうすることでヴラド以外の人物にドラキュラにまつわるスキル:無辜の怪物を付与し、その者を新たな吸血鬼へと変える宝具。

当然モチーフにするだけの吸血鬼らしさは必要だが、「母乳を口にした」者はすなわち吸血鬼であるため全く無垢な人間というのは少ない。
さらに「死んだはずだが動いている者」であるサーヴァントはより吸血鬼らしい存在と言える。
吸血鬼らしさに応じてスキル:無辜の怪物のランクは向上し、より吸血鬼に近づく。
低ランクでは吸血衝動の他に肉体が頑健になる程度の変化だが、高ランクになれば使い魔の使役や肉体を霧に変えるなど強力な特性を獲得する。
個体によっては二十七祖や真祖に近い特異な能力を獲得することもあるかもしれない。

なお彼の書く吸血鬼はあくまでヴァン・ヘルシングに討たれる反英雄であるため、吸血鬼特有の弱点を克服することは決してできない。
日の下を歩くこと能わず、流水を渡ることはできず、許可なく閉ざされた空間に踏み入ること叶わず、ニンニクを嫌悪し、信心深い者であれば十字架に縛られ、心臓に杭を刺されれば灰へと還る。
どんなに弱小な存在も不滅の吸血鬼へ昇華させる宝具であり、どんなに強大な存在も必滅の吸血鬼に貶める宝具である。
死の概念を持たない獣であってもこの宝具の影響下では、強靭なれど脆弱な吸血鬼でしかなくなるだろう。

またあくまで無辜の怪物を付与する宝具であるため、すでに別種の無辜の怪物を持つサーヴァントには効き目がない。読者の呪いに冒されたハンス・C・アンデルセンやオペラ座の怪人、メフィストフェレスなどの別種の怪物には効果を発揮しないが、ヴラド三世やカーミラなど吸血鬼としての無辜の怪物を持つものならばランクを向上させる。、

『血濡れ鬼殺(カズィクル・ベイ)』
ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:666
吸血鬼ドラキュラの生みの親であるストーカーは吸血鬼に誰よりも通じている。
同時に吸血鬼ハンターヴァン・ヘルシングの生みの親でもあるストーカーは吸血鬼の殺し方にも通じているのだ。
ドラキュラの原典であるヴラド三世の串刺しと、ドラキュラを殺す白木の杭による刺突の再現。
真名解放により大地から白木の杭を突き出し、敵を串刺しにする。杭は心臓を追尾する。
吸血鬼に対しては特攻、かつ即死判定の攻撃である。
心臓に当たった場合には二重に即死判定が行われる。
即死判定に成功した場合、死体は即座に灰へと還る。
当然だが杭による刺突は吸血鬼でなくとも十分なダメージであり、心臓に刺されば死ぬ確率が極めて高い。


【weapon】
白木の杭や銀の弾丸。
敵を吸血鬼に仕立て上げて、吸血鬼特攻の武装で攻撃するタチの悪い戦術だヨ。


370 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:59:32 RuESrjxc0

【人物背景】
本名、エイブラハム・ストーカー。イギリス時代アイルランド人の小説家で、怪奇小説の古典『吸血鬼ドラキュラ』の作者として知られる。
ポリドリ作のヴァンパイア、シェリダン作のカーミラなどドラキュラ以前にも吸血鬼を扱った作品は在れど、世に吸血鬼の存在を知らしめ、もっとも有名な怪物の一角にまで押し上げたのはブラム・ストーカーの功績であろう。
大学時代から観劇の趣味を持ち、名優ヘンリー・アーヴィングと知り合ってからは特に創作意欲を刺激されたらしく、政庁勤めの傍らで劇評や小説の連載に精を出す。
アーヴィングを通じてアルミニウス・ヴァンベリという人物に知り合う。
彼はハンガリーのブダペスト大学の東洋言語学教授で、16ヶ国語を話し、20ヶ国語が読めるという碩学であり、彼に聞かされたトランシルヴァニアの吸血鬼伝説がストーカーを『ドラキュラ』執筆へと駆り立てた。
以降一年半を調査と執筆に費やし、敬愛する英雄ドラクルことヴラド三世モチーフのドラキュラ、物語のヒントをくれた碩学ヴァンべリ教授をモデルにしたヴァン・ヘルシングという二人の主人公を有する怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」は世に放たれた。
ストーカーはこの後も何本かの小説を発表しつつ1912年に64歳で亡くなったが、『ドラキュラ』があまりに有名すぎるためか他の作品はほぼ完全に忘れ去られてしまっている。
悪く言えば一発屋だが、ドラキュラの発表以降その影響を受けていない吸血鬼創作は皆無といえる現状、吸血鬼という一面に限れば「あらゆるジャンルはすでに彼が書いている」とまでいわれるウィリアム・シェイクスピアに匹敵する影響力と言えよう。
ちなみに彼のドラキュラが異常とも言える知名度を得た背景に、吸血鬼を世に浸透させることでその神秘を貶め、死徒の弱体化を企てた聖堂教会なる組織の影響があったとも……?

余談であるが、彼なくしてはディオ・ブランドーにアルクェイド・ブリュンスタッド、ひいてはジョジョの奇妙な冒険や月姫、もしかするとTYPE MOONそのものも生まれなかったかもしれない。

【サーヴァントの願い】
面白い作品を知り、面白い作品を書く。
特にいろいろな吸血鬼のことを知れれば最高だネ。

【特徴】
立派な顎髭を蓄えた恰幅のいい男性。
俳優として舞台に立つこともあったため、そこそこに体格がいい。
舞台でのドラキュラ伯爵の衣装(いわゆる貴族風の黒いローブ)を身に着けているが、腰に白木の杭を打つための槌や、銀の弾丸の籠められた回転銃を下げている。


371 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2018/01/16(火) 21:59:57 RuESrjxc0

【マスター】
リキエル@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
聖杯を手にする運命のある者へ聖杯を授ける。
それが自分であるのなら、もしも許されるなら自身もDIOや神父の目指す天国へとたどり着く。

【weapon】
後述の能力に依存する。

【能力・技能】
・スカイ・ハイ
いわゆる超能力者、スタンド使い。ステータスは【破壊力:なし / スピード:なし / 射程距離:肉眼で届く範囲 / 持続力:C / 精密動作性:なし / 成長性:なし】
スタンドのエネルギーを魔力の代替として供給する。持続力はCなので並の魔術師と同等かそれ以下の供給量。

リキエルの手首に装着される両生類の様な姿の小さなスタンドで、能力はロッズ(スカイフィッシュ)を操ること。
このロッズは視認が不可能な程のスピードと障害物にぶつからない正確さで飛行し、動物の体温を奪って活動している。
ロッズを操って肉体の特定の部位から体温を奪うことが主な戦闘方法になる。
体温を奪うというのはそんなに恐ろしくなさそうに見えるが、熱を奪う部位によって若々しい健康体の少年を血尿にする、対象の体を自由に動かす、凍傷で体を腐らせるなど、相手をさまざまな病気にする事ができる。
さらに脳幹の体温を奪えば相手を即死させる事も可能。
また、ロッズはスタンドではなく生物なので倒されたところで本体にはなんの影響も無い。さらにこのロッズはいたる所に生息しているようで、次から次へと繰り出すことが出来る。

・無辜の怪物
ストーカーの宝具によって獲得したスキル。
吸血鬼としての適性が極めて高いリキエルは高ランクの無辜の怪物スキルを獲得した。
リキエル自身はそうと知らないが、父ディオ・ブランド―とほぼ同じことができるようになっている。
日光や波紋に弱い、そしてドラキュラ同様胸に杭を刺されれば死ぬなどの弱点も再現されている。

【人物背景】
かつて天国を目指した吸血鬼、ディオ・ブランド―が計画の駒として産ませた男。
母は吸血鬼ディオに血を自ら捧げて死に、父ディオ自身は星の痣の一族に野望を阻止され命を落とした。
そうして孤児となったリキエルはひっそりとアメリカで育つこととなる。
パニック障害を抱え、自分の存在意義も生きる自信も見いだせずに過ごすが、ディオの親友プッチ神父と出会うことで光を見出した。
天国へ行くという父と神父の願いに影響され精神的に大きく成長、父を打倒した星の痣の一族がプッチの邪魔をしないよう排除に動く。
奮戦及ばず敵の覚悟に敗北するが、その敗北もまた神父にとって意味のある偶然だったと確信しながら最期を迎えた。
その直後の参戦である。


372 : 名無しさん :2018/01/16(火) 22:00:29 RuESrjxc0
投下終了です。


373 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:37:58 /E/ue8Mc0
投下します


374 : つばきクロウ ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:38:41 /E/ue8Mc0



「ははは! 凄いなあ。こいつは凄い! 幾ら時間があっても足りない奴だ。聖杯戦争をしている暇が惜しいぞ」


召喚されたサーヴァントは酷く感動していた。
現代日本の京都だけではない、世界情勢や英霊本人の過去も含めれば、彼らの反応は様々あるが。
中でも。

カラスを連想させるような漆黒のファーが襟袖にあるコートを着た装いで、中はタートルネックニット。
皮ズボンまで黒で染められている装い。
茶髪のポニーテルと、三十前半の年齢ながら中性的な整った顔立ちの男性。
彼のクラスは『アサシン』にも関わらず、子供じみたはしゃぎようだった。

アサシンが感動していたのは京都の町並み……じゃない。
自動車、電化製品、公共施設、家具や衣服類、書籍から情報媒体まで。
本に至っては、ちゃんと眼を通しているのか怪しいほどパラパラ捲って流し見。
また次の本へと手を伸ばす有様。

折角の由緒正しき日本伝統の和室にごちゃごちゃと物が乱雑されている中。
ポツンと着物の少女が、まるで場違いのように存在していた。
少女こそアサシンのマスターなのだが、御覧の通り。彼女は困惑……混乱状態に陥っている。
アサシンは、そうだと現代社会必須のスマートフォンを一台、懐から取り出して少女に差し出す。


「マスターは持っていないと聞いて驚いたぞ。色が気に食わないなら、後で交換してやる」


「ちょ……ちょ、ちょっと! こ、これ」


「スマホだ。ス・マ・ホ。俺の連絡先は既に登録済みだ。なんだったか……連絡アプリの――」


「そうじゃないわ! そうじゃない!!」


少女・春日野椿は取り乱して叫んだ。


「一体――どうやって用意したのよ!!? これ『全部』!!!」


375 : つばきクロウ ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:39:04 /E/ue8Mc0
そうなのだ。
これら全部が全部、マスターの椿はまるで知らない。
京都にマスター候補として招かれた彼女は、何の立場もない、弱視で生活に支障を来している少女でしかない。
金なんて絶対ある訳ない。
本やスマホも、パソコン、ゲーム機器、小型の電化製品。
盗んだのか? それとも『御目方教』とは無縁となった京都に点在する椿の家の金を勝手に使用したのか?
本を流し読みしながら、アサシンは全く椿と視線を合わせずに。


「知り合いに頼んだ」


と、簡潔に説明したのである。椿は呆然とし、脱力感で畳に座り込んだままだった。
元気のないマスターに、アサシンが溜息をついて本を閉じる。


「俺は悪運が良い。悪運と言っても『悪を引き寄せる』意味でな」


「何とでも言いなさい」


椿は最早投げやり気味だった。水を得た魚のようにアサシンはベラベラと述べる。


「贅沢だ、本当に贅沢だぞ。マスター。『こんな世界がクソ』だ? 本気でクソな世界を視たこと無いから言えるんだ。
 俺の生きてた時代と比べて見ろ。本当の本当に『何も無い』のさ。
 ちょっとした現象をタタリだの天罰だの恐れ、飛躍や進化を追求せず、土で誰がセンスの良い器を作れるか
 アホみたいに競っている退屈でくだらない世界が『クソ』と呼ぶべきだ」


おい、見ろ。と皮肉る様にスマホであるページを検索する。
弱視の椿に分かりやすく、限界まで液晶画面を彼女の顔に近付けた。
アサシンの顔は、本気で不愉快そうだった。


「ローマ帝国の歴史は凄いだろう? 凄いよなあ。それと比べて俺の――『俺達の国』は……なんだこれ。泣けるぞ」


376 : つばきクロウ ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:39:27 /E/ue8Mc0
日本でいう『弥生時代』の欄には僅かな情報。比較してローマ辺りは圧倒的情報量。
確かに悲しい。


「………そうね」


アサシンのスマホを押しのけ、椿は咳払いする。


「私もよく理解できたわ。貴方の事が」


「ほう。具体的には?」


「貴方は―――紛れも無く『詐欺師』という事よ」


当初。椿がアサシンの真名を知った時『ありえない』と『嘘に決まっている』と、完全にアサシンを信用せずにいた。
けれども、どうやら事実らしい。
サーヴァントらしい非現実能力を行使せずに、アサシンは自らの話術や知識と経験を用いて現代社会に適応した。
時間を惜しむ声も関係なく、一般常識の範疇……それ以上を網羅するのにさほど時間はかからないだろう。

総合したアサシンの評価が『詐欺師』の称号。
多少の間を開けてから、少々機嫌よくアサシンは答えた。


「素晴らしい響きだな。如何にも。俺こそ日本――世界全てを欺き続け、大国の『女王』を演じた『詐欺師』さ」


弥生時代に実在したとされる邪馬台国の女王――『卑弥呼』。
そんなものは『いなかった』のである。






377 : つばきクロウ ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:40:13 /E/ue8Mc0
日本、弥生時代にある無銘の男が居た。


男はまるで神など信じて居なかった。
何故なら、彼は天候もある程度、空模様を眺めれば予想が出来た。
現代の人間が怪奇現象を科学的に証明するかの如く、人々が不可思議と恐れる現象の原理を何となく分かった。
紛れも無く生まれて来る時代と国を間違えた人間。優秀な数学者・科学者・芸術家への道。
そういった可能性を、国柄と時代で棒に振らざる負えなかった。


男は退屈だった。
狭い世界、小さな島国だけであっても男は全知全能に等しく。あらゆるものに目ぼしさを感じられず。
ただただ時を過ごしていた。

そこで男は退屈凌ぎで、大国を築き、支配しようと考えた。
神聖なる神の使いであり、様々な奇跡のような術を統べる美しい女性を演じ、人々を妄信・洗脳し。
あっと言う間に『女王』の座に君臨した。
無論、奇跡も神話もなく。古典的な話術と手際よいトリックを用いて、さも妖術かのように『見せかけていた』だけである。


女王の名を――『卑弥呼』と呼ぶ。


卑弥呼となった男は、最初だけ国造りを楽しんだが、直ぐに飽きた。
何か新しい発見や優れた人材が現れるかと待ち望んだが、どれもこれも卑弥呼に関心を抱かせるものじゃなかった。
再び、退屈な日々が訪れる。男にとっては地獄に等しかった。


ある日。月と太陽が重なり合い、世界が暗黒に包まれた。皆既日食である。
これは不吉の予兆じゃないかと人々は恐怖で恐れ慄く一方。
卑弥呼はそれが月によって太陽が覆われているだけだと理解していた為に、何の恐怖もなかった。



そこで予期せぬ出来事が起きる。
日食の漆黒より現れる強大な三本足のカラス――アマテラスの使いとされる『八咫烏』が降臨したのだ。



八咫烏は人々に、卑弥呼などという聖女は実在しておらず、男が神を蔑んだ罪人であると告発した。
事実を知り、国中が途方も無く混乱する中。
当事者たる卑弥呼は、本当に神を信用しなかった為、三本足のカラスが生まれる確率とカラスが人の言語を理解出来うるか。
一体どういう現象なのかと探っていた。
八咫烏は、男が時代に似つかわしくない知識と才を持った因子だと察し。
人々に男に関する全てを消すよう告げ、男を皆既日食の漆黒へと連れ往き、実質『卑弥呼』は没した。

統治者のない国は、一時期混乱状態に陥るものの。やがて怒りの冷めた人々が、卑弥呼の一族をでっちあげ。
次の世代への架け橋を産み出す。



以上の顛末により「卑弥呼は邪馬台国の女王」という残された歴史が『事実』として語り継がれている………


378 : つばきクロウ ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:40:37 /E/ue8Mc0




「あのカラスは俺にこう告げた。――お前は産まれる時代を間違えた、と。
 改めて実感したさ。俺は、マスターがクソだと罵る『この時代』に産まれるべきだった」


確かに事実だ。
この男――虚偽で形作ったとはいえ、大国の国民全てを騙した途方ない詐欺師が、現代に君臨すれば。
必ずや、善悪が逆転しまうような時代の動乱を巻き起こすだろう。

しかしながら。椿は不思議にもソレを赦しがたく感じた。
こんな世界。どうしようもない腐った世界。どうなろうと知ったこっちゃないのに。
アサシンが聖杯で受肉を願い、世界を蹂躙すれば一体……自分のような人間が、どれほど犠牲になるのか。
恐らく、アサシンは弱者の犠牲など関心や同情を抱かないのだろう。
天性の悪は、自らの退屈をなくす為だけに、踏み潰すのだ。

今更、アサシンは顔を上げて、椿と視線が合う。


「マスター。『共犯者』として俺が受肉した際には、聖杯を使わずとも俺が手を貸してやる」


「まさか『御目方教』を利用するつもり……?」


椿の握り拳に力が籠る。
虚空を眺めつつ、アサシンは息を吐いた。


「冗談はよせ。宗教は『飽きた』。邪馬台国で散々やりつくしたからな。
 化学兵器はどうか? 遺伝子組み換えを用いた新種の生物兵器も中々味あるぞ。
 最新鋭の技術を用いた第三次世界大戦でも、人工衛星を利用した大規模サイバーテロでも」


嗚呼。ついでの如く、アサシンは加える。


「個人的な『復讐』に付き合ってもいい」


復讐。
平然とどうしようもない陰謀ばかり口にするアサシンの絵空事よりも、そちらの方が椿には魅力的な言葉だった。
自らを貶めた者たちへの復讐。
『御目方教』という柵に縛られ続ける自分。
もしかしなくとも、椿が願う世界の滅亡などアサシンが並べたプランを実行すれば他愛ない事なのだ。
だとすれば……だとすれば、聖杯には何を願うべきか?


もっと……もっと……絶対に叶えられない願いを…………


「まだ考えさせて」


一人の少女が抱え込む葛藤は、かつて失われた善と今に迫る悪の狭間の彷徨いだった。


379 : つばきクロウ ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:41:03 /E/ue8Mc0
【クラス】アサシン

【真名】卑弥呼@史実

【属性】秩序・悪


【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:A 魔力:D 幸運:B 宝具:A


【クラス別スキル】
気配遮断:EX
 太陽もしくは月によって生じる影に同化する事で気配を消す。
 実体化した状態でも、擬似的な気配遮断が実現される。
 人工の明かりによる影では適応されない為、注意されたし。


【保有スキル】
邪智のカリスマ:A-
 通常の『カリスマ』とは異なり、醜悪なる者としての魅了を示す。
 悪はもちろん、善ですら悪へ陥るほどの誘惑を漂わす。
 一個人のみならず、卑弥呼の場合は大国全土相手にしても尚、最後の時まで欺き続けた。
 ただし、卑弥呼の時代背景を考慮すれば、詐欺の才にとって恰好な餌食だった
 国民の知識の低さも相まっての結果と言える。

蜘蛛糸の果て:A+++
 経験・叡智・教養等の情報材料を蜘蛛の巣状に広げ、最終的に中央一点に集束し、解答を導き出す。
 擬似的な『直感』『心眼』に近い天性の発想・ひらめき。
 卑弥呼は文化・学問が乏しい時代ながら、そこで至れるだけの最大限の知識を得られるほどだった。
 
人間観察:A
 人々を観察し、理解する技術。
 ただ観察するだけでなく、名前も知らない人々の生活や好み、
 人生までを想定し、これを忘れない記憶力が重要とされる。



【宝具】
『漆黒ノ皆既八咫烏』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具
漆黒ノ皆既八咫烏(しっこくのかいきやたがらす)。
太陽神・アマテラスの使い『八咫烏』の断片的な能力。日光もしくは月光の影を操作する事が可能。
通常攻撃の演出は『影』をカラスに変化させ、相手を攻撃したり、カラスを使い魔として使役できる。
また、相手が影に踏み居れば、底なし沼のように相手を沈め、密度の高い影による爆発的ダメージを圧かける。
条件として『影』は日光と月光で生じるものに限られ、人工的な光源の『影』は操作出来ない。


380 : つばきクロウ ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:41:31 /E/ue8Mc0
【人物背景】
魏志倭人伝などに存在が明記されている倭国・邪馬台国の女王。
その名を知る日本人が多いだろうが、卑弥呼に纏わる文献等は皆無に等しく。
人前に姿を現すこと無く、弟が主に統治の指示を告げに現れていた。
鬼道なるものを使用し、夫は持たず。謎めいた生涯は誰にも明かされず、そして彼女の正体も様々逸話がある。

しかし、それら逸話を差し置いて結論から述べると――卑弥呼は実在しなかった。
厳密には「女王・卑弥呼」は実在しなかった。
女王の弟とされていた男性こそが卑弥呼の正体であり。邪馬台国全土を欺いた詐欺師である。

太陽と月の狭間に生じる漆黒に導かれた卑弥呼は、八咫烏に時代を間違えた人間だと宣告される。
そして「いづれ、お前を満たす時代が訪れる」と予言され。
卑弥呼は八咫烏によって、封印もとい眠りにつかされたのだった。


そして、卑弥呼が導かれた聖杯戦争の幕が上がる。



【容姿・特徴】
襟・袖にカラスを連想する黒ファーがつけられた黒基調のコート。
黒のタートルネックニットと皮ズボン。
全然卑弥呼の欠片もないが、女装趣味はないし、季節が冬だからあの時代の服は寒いとのこと。

茶髪ポニーテールで、中性的な顔立ちの釣り目。瞳の色も茶。年齢は三十前半の男性。


【聖杯にかける願い】
受肉し、現代社会を自らの才を以て掻きまわしたい。





【マスター】
春日野椿@未来日記


【聖杯にかける願い】
???


【人物背景】
新興宗教『御目方教』の教祖。亡き彼女の両親が設立した教団を継いでいる。
教団のNO.2に両親は事故死させられ、さらにはその人物の陰謀により、信者から凌辱された。
世界に絶望し、世界を滅ぼす為に神の座に至ろうとし。
あらゆる手段もいとわない非道さを垣間見る事もあるのだが、本来は真面目で明るい性格。

神の座へ至る『未来日記』の殺し合いに参戦していない。
未来日記も所持していない状態のただの少女。


【能力・技能】
弱視。生まれつき視力が良くない。


381 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/16(火) 23:42:07 /E/ue8Mc0
投下終了します


382 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/20(土) 00:06:02 keDUqlqs0
>感想は後日
この文言を書いた自分を殴りたいですね。(溜まった感想の山を見ながら)
それはさておき、感想を投下させていただきます。

>ルリノユメ
 良い意味で独特な、純文学的な雰囲気に満ちたお話だな、と感じました。
 冬子というキャラクターの儚さと、それを正面から受け止めるキャスターの英霊らしさ。
 二つのピースがいい具合に噛み合って作り出された穏やかな水面のような雰囲気は、実に見事と思わず舌を巻きました。
 キャスターはFGOでお馴染みのルチャなお姉さんの不倶戴天の敵ですが、あちらとは正反対の落ち着きに満ちているのがまた面白い。
 半ばアクシデントのような状況にある彼ですが、神霊級サーヴァントとしての力は本物。実に頼もしいサーヴァントだと思います。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>Tyranny Within
 自分でもフォーリナーを投下しておいてなんですが、すっごい邪神と縁のある都ですね、京都は。
 浅学故にハーキムという人物はこのお話で初めて知りましたが、成程確かに、これは邪神に魅入られてもおかしくはない人物。
 彼の独特なキャラクター性が、TRPGの導入のような独特な文章とかっちり噛み合っている辺りは流石と言わざるを得ません。
 言っていることはもっともらしいものの、彼がもし聖杯を手にすることになれば、例の如くとんでもないことになるでしょう。
 打って変わってまともそうなアベリオン君は、彼の制御に苦労する羽目になりそうですね。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>邪正一如 
 コハエース時空のサルが見たら血を吐きそうなレベルの邪悪が来ましたね。
 とにかく悪い話の多い秀吉の影の面を前面に押し出したキャラ造形、お見事だと思います。
 雁夜おじさんは最早ご愁傷様としか言いようがない。流石は、シリーズ屈指のラック欠乏勢と言うべきか……。
 キャラクター性もさることながら、秀吉の性能、特に宝具は凶悪の一言。まさにえぐい、という言葉がふさわしいと言えるでしょう。
 舞台の京都を最大限味方につけて能力を底上げしつつ暴れ回る姿を想像すると、否応なく波乱の予感がしてきます。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>がらんどうのマッチ箱
 >どこからどう見てもゴリラ。片言で話す。  ?????????????????
 これまで様々な面白い解釈のサーヴァントを見てきましたが、此処まではっちゃけたものが果たしてあったかどうか。
 それくらい、強烈なファーストインパクトでした。ゴリラはずるいと思います。
 しかしながら、星の開拓者や動物会話など、ダーウィンならば当然のスキルを持っている辺りやはり侮れない。
 宝具によって生成されたジェミュールの使い道が、この主従が勝ち残っていく上でのポイントとなりそうですね。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>神の光
 うーん碌でもない! 天使の癖して屈指の碌でもなさ! ……いや、天使だからこそなのかもしれませんが。
 言葉が通じるのに、会話が通じない。そんな地の文がこのウリエルというサーヴァントの全てを表しているような気がします。
 そして原作の彼ならばともかく、凡庸な大学生でしかないドラマ版の彼にとってその存在は強烈すぎましたね。
 神の慈悲と試練を認めず、そうあるべきでないと思って神を目指し始めた月。
 一方で悪びれる様子の全くない、今後もブレないだろうウリエル。うーん、先行きが不安過ぎる……。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


383 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/20(土) 00:06:15 keDUqlqs0

>京の都を越えて
 シュブ=ニグラスを投下したと思ったら、間髪入れずにヨグ様が投下されて流石に草を生やしました。
 FGO本編でも降臨しかけた邪神ヨグ=ソトース。それを未然に防いだはずのぐだ男がこうして彼を呼んでしまうというのは何という皮肉。
 様々なサーヴァントと絆を深めることにおいては右に出る者のいないぐだですが、しかし流石にこいつはまずい。
 サーヴァントとしてのスペックはもちろんのこと、思いっ切りマスターを神域に引き込もうとしている辺りも厄過ぎます。
 それでもぐだなら……! と期待したいところですが、果たしてどうなるか。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>志々雄真実&バーサーカー
 まさかの光秀二人目! おまけにマスターはかのCCOと、これまた凄まじい主従が投下されましたね。
 志々雄の貫禄と光秀の静かな恐ろしさが、非常に巧みに表現されたお話だったように思います。
 光秀が本能寺の変へと走った理由付けの部分で聡明さと忠臣ぶりを見せつつ、突然狂気を発露させて空気を冷えさせるこの緩急もまた巧い。
 あの志々雄をして一瞬驚愕するほどの狂いぶりは、流石にバーサーカーと言う他ありません。
 この二人ならばそれこそ、いかなる敵でもねじ伏せるでしょう。そんな凄味の籠もった、濃厚な候補作でした。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>リキエル&キャスター
 ブラム・ストーカー。どこぞの串刺し公が召喚されていたなら、何を置いても真っ先に殺しに行きそうな奴が来ましたね。
 ジョジョ六部の、あの他の部とはどこか違った雰囲気が見事に再現されており、思わず感服しました。
 リキエルは言ってしまえばそこまで有名なキャラクターではありませんが、その魅力を余すところなく引き出しているのもまた凄い。
 そして肝心のブラムのキャラクターは、「厄介」の一言に尽きるようなそれでしたね。
 他者への吸血鬼性の付与はともかくとして、吸血鬼を殺す手段にもブラムは精通している、という解釈が個人的にはとても好みでした。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>つばきクロウ
 卑弥呼の解釈がとても面白く、奇抜ながらも説得力のあるもので、手放しの賞賛を送りたい気分です。
 女ですらないアラサー男が卑弥呼として召喚されるという意外性、そして彼の人物背景が霞むほどの邪悪さ。
 とてもよく練られた、あらゆる意味で「巧い」キャラクター造形だなあと感心致しました。
 凄惨な過去を持つ椿は、しかしいずれ災厄を招くであろう彼にすぐ同意できるほど道を踏み外してはいない様子。
 しかし椿がどう転んでも、彼が狡猾な悪である以上、良いように誘導されてしまいそうですね……。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


384 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/20(土) 00:06:29 keDUqlqs0


 感想は以上になります。
 また、今日を以って正式に、本企画のコンペ終了期限を決定させていただこうと思います。

 『2018/3/1 0:00』

 が、候補作の応募期限となります。
 当初予定していたものよりは少し長めですが、これより伸びることはまずないと思っていただいて結構です。もちろんその逆も。
 あと一ヶ月と少しのコンペになりますが、今後もぜひ、当企画にお付き合いいただければ幸いです。


385 : ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:20:07 FAm5h6d60
感想感謝です。
投下します。


386 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:22:16 FAm5h6d60

「なかなか風情があって、ええとこじゃのう」

夜。ネオンきらめく歓楽街の真ん中を、一人の酔漢が歩いていく。
年齢は二十代前半。中折れ帽にティアドロップサングラス、ダボシャツにダボズボン。腹巻きに雪駄履き。口には爪楊枝代わりのマッチ棒。
黒髪の短髪にゲジゲジ眉毛。背丈はそれなり、筋骨もしっかりした男だが、その顔たるや兇悪そのもの。口から出るのは広島弁。
三百六十度どこから見たって、昔の任侠映画から抜け出てきたような、完全なヤクザである。
しかもチンピラや三下ではない。強烈な殺気が全身から溢れまくっている。平和な日本ではなく、海外の紛争地帯にいる方がよく似合うほどの。

通行人はざわざわと遠巻きにし、彼の前に道を開ける。カメラで撮影しようとする者もいるが、ぎろりと睨まれて逃げて行く。
サングラスを帽子にかけ、ヤクザは周りにガンたれながら、がに股でのたりのたりと道路を闊歩する。

「ふん、人はいまいちじゃな。健全と不健全のバランスがとれとるのはええが、どいつもこいつも軟弱じゃ。
 これからでっかいケンカがあるっちゅうに、こんなもんで生き残れるんかのう、こいつら」

ヤクザはぶちぶちと呟き、肩を怒らせて歩く。次第に顔が綻び、否、引き攣り、大型肉食獣じみた兇悪な笑顔を浮かべる。
口角がつり上がり、歯を剥き出し、危険に輝く瞳にはぐるぐる渦巻き。気の弱い者が見れば小便をちびり、腰を抜かすだろう。

「しっかし、まあ……ようもわしをこんなとこに放り込んでくれたのうーーッ!」

ヤクザが足を止め、右拳を夜空に突き上げて叫ぶ。群衆がさらに遠巻きになる。
そう、彼はこの京都での聖杯戦争に喚ばれたマスターの一人だ。先程記憶が戻り、己が誰であるかを思い出したところだ。
だが生憎、彼は魔術師でもなんでもない。ヤクザ、極道でしかない。しかしながらこの男は、ただの極道ではない。極道の中の極道である!

「要は、敵を見つけて殺しまくればいいんじゃな! 殺ったるわい! なにしろわしは人殺しが三度の飯とオ●コより好きじゃけぇのうーッ!!」

群衆がざわつき、警察に電話しようとする者もいる。しかし、武器も持たぬ酔漢の戯言と思い直し、そそくさと逃げて行く。


387 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:24:20 FAm5h6d60

その一人が突如、全身から出血し倒れた。数秒後、事態を認識した群衆が恐慌! 悲鳴を上げて散っていく!
ひゅん。ひゅんひゅん。ひゅひゅひゅん。風切り音と共に、群衆の手足が飛び散り、顔の皮膚がずるりと剥け、指が散らばる! 響き渡る絶叫!

「なんじゃあ?」

ヤクザが振り向く。彼は別に何もしていない。と、群衆の中から怪しい兇相の男が歩み出て来た。
背は高いが猫背。異様に痩せこけ、全身傷まみれ。髪はざんばら、髭はぼうぼう。病的に黄色い顔。目つきは胡乱で、目の下に濃い隈があり、ボロボロの黒い長衣を纏う。
その右手には、七本に分かれた革鞭に多数の刃を埋め込んだ、奇怪な鞭剣。これを振り回し、群衆を無造作に斬り裂きながら向かってくる!

「おどれもかい。おれも人殺しが大好きじゃ。気が合うのうーっ」

分厚い唇から乱杭歯を剥き出し、その男はそう言った。やはり全身から強烈な殺気を撒き散らしているが、ヤクザが陽ならこちらは陰。
双方ともに、明らかに狂人。そして鞭剣男の方は、幽鬼のように輪郭がぼやけている。つまり、人間ではない。
対面したヤクザは……ビビらない。彼がこんなものにビビるものか。小指で耳をほじり、無言で睨みつけ、相手に先に名乗らせる。
鞭剣男は陰気に笑い、念話で名乗った。下から睨め上げるような、暗い目つきで。

【おれは、おどれの手下(サーヴァント)、剣士(セイバー)の『張献忠』っちゅうもんじゃ。よろしくな、親分(マスター)よう】

張献忠。その名を知っている人は、その恐ろしさをも知っていよう。明末清初の中国で大虐殺を行った男、流賊の頭目から一地方の皇帝に成り上がった男だ。
生憎、ヤクザの方には全く彼に関する知識はない。ただ中国系のヤクザであろうと思っただけだ。道路にタンを吐き、肉声で名乗り返す。

「わしは天下無敵の極道兵器、『岩鬼将造』じゃ!」

将造には、この張という男が、どうも気に入らない。自分の手下にこんな野郎をつけてくれるとは。
なるほど、確かに自分は人殺しが好きだ。ヤクザやマフィアは勿論、無辜のカタギも数え切れぬほど巻き添えにして殺しただろう。
しかし……こいつのように、ではないはずだ。相手を通して自分を省みるという珍しいことを、将造は少し行った。

群衆が遠巻きにする中、二人の男は睨み合っている。互いを値踏みするかのように。一触即発。足元には無惨な死体がごろごろ。


388 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:26:35 FAm5h6d60

「……張よお。おまえ、なんでこいつらを殺したんじゃ」
将造が口火を切る。セイバーは暗く嗤う。
「なんで、と来たか。おどれ、それでも侠客、極道かい。道の邪魔しよったからよ。どいてもろうただけよ」
「ほうか。おかげでちいっと静かに、いや、騒がしゅうなったのう」
「ビビっとんのかい。これからお宝巡ってケンカが始まるんじゃろ。ほしたら、このシケた都(まち)の人間は、どうせ屠城鏖殺(みなごろし)じゃあ!
 ほうして、おれは人を殺せば殺すほど、人が苦しめば苦しむほど、魔力(ちから)を増すんじゃ! おれがやらんでも、誰かがこの都(まち)でやればのうーッ!」

セイバーが左掌を地面に翳すと、身の丈ほどある禍々しい石碑がアスファルトを割って出現した。
「殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺せ! それが人の使命、存在意義じゃあ!」
凄まじい殺気に当てられ、群衆の目つきがおかしくなる。殴り合いのケンカが始まる。掠奪が起こり、石や即席の武器を手にして殺し合う。地獄絵図だ。
その群衆から、死体から、ぞわぞわと魔力が煙めいて溢れ、セイバーに集まっていく……。

それを見て、将造が鼻を鳴らす。こういう手合いは、ガツンといってやらねばならん。令呪なんぞ、もったいない。
サングラスを帽子から取り、ずい、と歩み寄り、顔を近づける。そしてニヤつくセイバーの鼻柱に、思い切り頭突きを見舞った!

「!?」

不意を打たれて、セイバーが鼻血を流し、うずくまる。将造はセイバーの胸を雪駄で蹴倒し、踏みつけ、見下ろし、怒りもあらわに言う。

「軍隊にいた頃、おまえみたいな人間を、よう見たよ。よほど欲求が満たされないんじゃろう、そいつらは……銃を持たせると、急に強くなりよる。
 その銃がでかけりゃでかいほど、人が変わったように相手につっかかっていき! 自分を誇示したがりよる!!
 しかし、相手が自分以上の器だともうダメじゃ! ガタガタ震え、怯え……鳴きよる。鳴いたらしまいじゃ」
「おどれは……!」

セイバーの目に畏怖の色が浮かぶ。ただの男に言われたなら、嗤って殺していただろう。だがこいつの目は、見たことがある。
天下人の目だ。闖王となり、明朝を滅ぼした、李自成の目だ。いや、あれよりも……!

「確かに、人殺しはわしの最大の楽しみじゃ。人が死ぬ時の悲鳴がわしの耳から身体中を駆け巡るんじゃ……。
 じゃがのう……こんなわしでも、わしなりの仁義っちゅうもんはある」

将造の目に、怒りと哀しみと、覚悟と狂気がないまぜになって浮かぶ。彼はそういう人間なのだ。

「この日本国(シマウチ)で大量の人間を死なせるわけにゃいかねえ。それだけはさせん。命をはってもじゃ。
 何故なら……それが日本国(シマ)を預かる首領(ドン)のつとめだからよ!」


389 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:28:36 FAm5h6d60

セイバー・張献忠は、びりりと全身を震わせる。こいつは、おれと真逆だ。他人の意見や疑心ではなく、己の仁義で動く男だ。
ああ、かつてはおれも、こういうどでかい侠客に、天下人に、憧れていたはずだ。力強く笑い、応える。

「……気に入ったで、親分。確かに、あんたの器はおれよりでけえ。おれの命、あんたのために使うてつかあさいや」
「おまえはわしの手下じゃろ。当然じゃ。当然わしもおまえを助けちゃる。極道一匹、命はとうに捨てとるわい」

セイバーが宝具をおさめ、殺し合いをやめさせる。将造の覇気に賭けてみたくなったのだ。将造は、セイバーに手を差し伸べる。



「おれは、弱い男じゃ。敵も大勢殺したが、身内や手下も大勢殺した。皇帝になってからは疑心暗鬼にかられて、歯止めがきかんようになった。
 おれが手に入れたもんじゃから、自由に殺しまくれると思うちょった。殺した。殺して殺して殺しまくった。
 妻も妾も、子も友も、疑わしきは皆殺し、癇に障れば何千何万と殺してきた。おれは無敵じゃと自惚れちょった。自惚れようとしちょった」

薄暗い廃ビルの中。自嘲するセイバーを、将造は腕を組んでじっと見つめている。

「……おれは、自分の手足や内臓をもいでおったようなもんじゃ。皇帝が、官吏や身内、働いて食わしてくれる人民を殺しとったんじゃ。
 そんな男が、天下を治められるわけがねえ。治めていいはずがねえ。気づけば、歴代の皇帝と同じことをしちょったんじゃ。いや、もっとひどいか。
 李自成っちゅう男は、おれは気に食わんかったが、それとは真逆をやりよった。皆殺しにはせん、税金を取らんというので、皆従った。
 したがよ、皇帝を自殺に追いやって都を獲ったが、治めることはできず、すぐに滅びてしもうた」

将造に難しいことは分からないが、言っていることは分かる。セイバーの語気が熱を帯びる。
「親分、大将よ。あんたは天下の器じゃ。李自成よりでかい器じゃ。おれはあんたに天下を獲ってもらいたい! じゃけえ……!」

セイバーの言葉に、将造は頷く。満面に怒りがみなぎっている。
「わぁっとる。わしは天下を獲る男じゃあ。いずれは日本ばかりでなく、世界の首領(ドン)にもなったるわい。
 じゃがのう。聖杯っちゅう器は、天下の器か? それでわしが天下獲って、満足するか?」


390 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:30:37 FAm5h6d60

その怒気に、セイバーが震える。おお、心地好い怒りだ。
「おまえも考えてみい。わしですら分かることじゃ。聖杯っちゅう餌で殺し合いを煽って、裏でこそこそ動いちょる連中がおるわけじゃろ。
 さっきのおまえみたいに嘲笑って、わしらを見て好き勝手言っとる連中がな。わしにはそれが気に食わん。気取りくさって、胸糞悪い」

将造が右手で自分の左手首をつかむ。ぐいっと引っ張ると、肘から先が抜けた。義手だ。その下には、異様な鉄製の機関銃がある。
彼は顔と銃口を天井に向け、大声で宣言する。

「見とるか、おい! わしはおまえらに従わんぞ! 殺しはしちゃる、聖杯はもらっちゃる!
 そのかわり、おまえらもわしらと同じ舞台に引きずりおろしちゃるわい! 気持ちよう殺し合えるようにのう!」

宣戦布告だ。この戦場を用意した主催者に向けての、大胆極まる挑戦だ!
なにしろ彼は、超高層ビルの最上階に立て籠もる敵を、面倒だからとビルを爆破崩落させて物理的に引きずり下ろした男なのだ。やるといったらやる。

「お、親分、その腕は……」
「ああ、言わんかったかのう。わしゃ極道兵器、改造人間じゃ。左腕に機関銃、右膝にロケットランチャー、右目はレーザーサイトよ。
 ちゅうても、これで英霊は殺せんちゅうし、銃弾や砲弾は使い切ったら補充せにゃならんがのう。まあ腕力だけは無尽蔵じゃが……」

セイバーが力強く笑い、左手を床に翳して、先程の石碑を出現させる。
「親分、ほしたら、おれの宝具を使ってくれ」
将造が訝しんでいると、その石碑からゴロゴロと武器弾薬が転がり出て来た。弾帯に手榴弾、火炎放射器やロケットランチャーまでも。
「この『金神七殺碑』のもうひとつの効果じゃ。魔力が続く限り、親分が望む通りの武器弾薬が湧いて出て来る。
 あんまりでっけえもんは出んが、宝具から湧くもんじゃけえ、英霊にも効くはずじゃ。筋金入りの人殺しの道具じゃ」

それを聞いて、将造が満面の笑みを浮かべる。大型肉食獣じみた兇悪な笑顔だ。
「ほっほう、そりゃ便利じゃのう。最高じゃあ! これでわしも、英霊をぶっ殺せるんじゃな!」



まずは、カネと情報、手下、そして足だ。彼らは早速手頃な中堅ヤクザの事務所を襲い、ぶんどった。
殺しはしない。今日から彼らも、日本全土をシマとする「極道連合岩鬼組」の一員だ。とりあえずの準備は出来た。

「よし、行くぞ張! 天下を賭けた大ゲンカじゃあ!」
「おうよ、親分! 地獄の底までついてくぜえ!」


391 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:32:24 FAm5h6d60

【クラス】
セイバー

【真名】
張献忠@近世中国

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運C 宝具B+

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
無辜の怪物:C
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない。
虐殺鬼、殺人魔王として悪名高いが、彼が殺したとされる人数には清軍による殺戮、飢饉や疫病による死、逃亡による戸籍上の減少なども多々含まれる。
とはいえ彼の近くにいた宣教師の報告などからも、実際にかなりの虐殺を行ったことは確からしい。中国史ではよくあること。
このスキルと宝具の影響により、舞台となる街で死人や負傷者が増えるほど「彼の仕業」とされ、魔力が勝手に増していく。

殺戮嗜虐狂:A+
猟奇殺人と拷問が好きすぎて、人を殺さないと落ち着かないという異常な欲望。
対人ダメージが増加し、対峙した人間に強い恐怖を抱かせる。同ランクの精神汚染と同様の効果も持つ。マスターはあいつなので大丈夫である。

皇帝特権:D
本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで短期間だけ獲得できる。該当するのは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、と多岐に渡る。
曲がりなりにも大西皇帝に即位しており、李自成よりは長く在位したが、国が早く滅んだためと本人の所業のせいであんまり高くない。

黄金律(兇):B
掠奪&浪費癖。他人の財産を好き勝手に奪い取り浪費する賊徒の生き様そのもの。他者から奪うことで一時的に大金持ちになれるが、身にはつかない。
当初は四川に安定政権を作ろうとした形跡はあるが、相次ぐ反乱と漢中での敗戦の繰り返しで自暴自棄になり、敵に渡すぐらいならと破壊と殺戮を行った。


392 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:34:34 FAm5h6d60

【宝具】
『金神七殺碑(チンシェンチーシャーペイ)』
ランク:B+ 種別:対人-対軍宝具 レンジ:1-77 最大捕捉:777

七殺碑。セイバーが建立したと伝承される石碑。高さ2m、幅1m、厚さ20cmほど。本来は『聖諭碑』といい、実物は四川省徳陽市広漢の房湖公園に現存。
大順2年(1645)2月13日の落款があり、「天生萬物與人、人無一物與天、鬼神明明、自思自量(人の行いは神々が見ているぞ、自省せよ)」と刻まれている。
だが後世の悪評によって禍々しく捻じ曲げられ、この宝具の文字は「天生萬物以養人、人無一善以報天、殺殺殺殺殺殺殺」と書き換えられている。
「天(おれ)が万物を生んで人を養っているのに、人(民)は一善も天に報いぬ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ」という意味である。
殺伐金気を司る西方の神・蓐収の力が加わり強化されている。この宝具を発動させると、周囲の人間の疑心と憤怒と殺戮欲を増大させ、無目的な殺し合いを行わせる。

また、この宝具からは、セイバーやマスターが望むままに武器や銃器、銃弾や手榴弾が出て来る。ただし手で持てるものに限り、戦闘機や戦車や巨大ロボは出せない。
宝具から出た武器は英霊にも効果があり、他人に装備させることも可能だが、丸一日で消滅する。その間に誰も殺さなかった場合、武器は爆発して装備者が死ぬ。
幸いセイバーとそのマスターにそうした制限はなく、ただの武器庫として活用可能である。周辺の死者が増えるほど、怨念が溜まって魔力に変換され、武器が湧き溢れる。
相当数の人間が死ねば、大型兵器も出せるように進化する可能性はある。ゲッター線とか出てそう。

『屠蜀凌遅刀(トゥシュウリンチータオ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-7 最大捕捉:77

セイバーが殺戮に用いた刀剣。対「人」特攻。完全に呪われており、セイバー以外が装備すると発狂するが、マスターはあいつなので大丈夫である。
多数の刃を埋め込んだ鞭を七本伸ばし、一振りで多数の標的に斬りつけることができ、手足をもいだり背骨に沿って断ち割ったり、串刺しにしたり生皮を剥いだりできる。
女性の足を切断したり、赤子を投げ上げて貫いたり、一寸刻み五分刻みにして生き地獄を味わわせたりするのが大好き。
標的が苦しめば苦しむほど、標的を殺せば殺すほど、魔力を吸い上げ強力になる。自分を傷つけても魔力が高まる。

【Weapon】
宝具である『屠蜀凌遅刀』。また『金神七殺碑』から様々な武器を湧き出させる。

【人物背景】
明末の農民反乱軍の指導者。字は秉忠、号は敬軒。万暦34年丙午(1606)生まれ。陝西省延安衛柳樹澗堡(現陝西省楡林市定辺県劉渠村)の出身。
もと軍籍にあったが法を犯して免職され、崇禎3年(1630)に王嘉胤が反乱を起こすと、米脂でこれに呼応して挙兵、八大王を自称した。
背が高く顔が黄色かったので「黄虎」と呼ばれた。崇禎4年に王嘉胤が死ぬと一旦官軍に降ったが、5年には背いて王自用に属し、王自用が死ぬと闖王高迎祥と合流した。
7年には湖広から四川へ攻め込もうとしたが、女将軍の秦良玉(63歳)に敗北を喫している。8年には高迎祥と共に東方へ進出し、山西、河南、安徽を転戦、明朝の祖陵を焼いた。
9年に高迎祥が敗死すると、闖王を継いだ李自成と別れ、長江流域を荒らし回った。10年、湖広に侵入して襄陽を囲んだが、明の総兵官左良玉に破れて負傷し、11年再び明に降る。
しかし12年にはまたも離反。湖広と四川の境を転戦し、14年には襄陽を陥落させ、16年には武昌で「大西王」を称した。長沙に進軍して免税三年を約束し、従う者はますます増えた。
17年(1644)に大軍を率いて四川に攻め込み、秦良玉はこれを阻もうとしたが衆寡敵せず、敵中の要害に孤立して抵抗を続けた。
張献忠は同年8月に成都を陥落させて秦王を号し、国号を「大西」として大順と建元。次いで皇帝を称し、成都を西京と号した。


393 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:36:37 FAm5h6d60

この頃、李自成は北京を落として明朝の崇禎帝を自殺に追い込んでいたが、清の入関によって追い出され、華北は清の手に落ちつつあった。
焦った張献忠は陝西省を確保しようと四川から漢中へ攻め込むが、二度に渡って敗北を喫した。張献忠は動揺を収めようと厳しい粛清を行ったが、余計に民心は離れた。
冠婚葬祭の儀礼の制限、五日一験・三日一点といった厳罰つきの人民点呼制度、成都城内にスパイを放って市民の行動を監視するといった政策も行った。
それでも相次ぐ反乱と清の圧迫で疑心暗鬼に陥った張献忠は無意味な虐殺に走り、大順3年(1646)8月には西京及び四川を放棄して陝西に向かった。
この時「おれが手に入れたのだから、他人のために一人でも生かしておくものか」と大虐殺を行った(屠蜀)が、部下の劉進忠が裏切り、清軍を迎え入れた。
粛親王ホーゲ率いる清軍は陝西から漢中を経て四川に入り、10月に西充の鳳凰山(四川省綿陽市塩亭県)で張献忠と戦闘、これを射殺した。享年41歳。
ホーゲはそのまま四川の大部分を平定したが、李定国・孫可望・劉文秀・艾能奇ら張献忠の残党は雲南へ逃れ、南明と結んで清への抵抗を続けた。

張献忠とその軍勢は残虐で、殺戮や拷問を好んだ。四川に入る前から、陥落させた城を住民ごと焼き払ったり、住民数万人を皆殺しにして屍体を川に投げ込んだり、
命を助ける代わりに手足や耳を切ったり、目や鼻を潰したりは当たり前であった。四川を奪って皇帝になると明朝の官制に擬した官僚組織を作り、善政を敷こうとした。
だが貧民出身であったことから官吏や知識人を憎悪しており、虐殺が始まった。まず官吏を集めて犬を連れ出し、犬が誰かの臭いを嗅ぐと「天殺」と言って殺した。
科挙を行うと言って知識人数万を集めると、身長四尺(120cm)以下の者以外を皆殺しにした。生き残ったのは子供二人だけであった。
武科挙を行うと言って千人あまりの若者を集め、全員を兇猛な悍馬に乗せ、配下の兵士らに銅鑼・太鼓・大砲を鳴らさせて落馬させ、馬に踏み殺させた。
経穴を示した人体模型に紙を貼って穴を隠し、医者を集めて正確な経穴に針を刺せと命じ、少しでも間違えたら容赦なく殺した。
僧侶に布施を行うと言って数万人を集め、十人ごとに縄で縛って皆殺しにした。呼び出しに応じない者は勿論殺された。

殺戮は身内にも及び、後宮に集めた女たちの纏足を切り取って山のように積み上げ、頂上には愛妾の足を切って載せた。
部下に命じて自分の妻子を皆殺しにし、翌日妻子を呼ぼうとしたがいなかったので、部下に「何故止めなかった」と怒って皆殺しにした。
友人たちを招いて宴会を開いた後、彼らの帰り道に刺客を送って殺し、その首を持ち帰らせて卓上に並べ、話しかけて笑った。
四肢の切断を「匏奴」、人体を背骨の位置で縦割りに切り離すのを「辺地」、赤子を投げ上げ、槍で貫くのを「雪鰍」または「貫戯」と呼んだ。
また皮剥ぎの刑を好み、生きた人間の後頭部から肛門までを切り、左右に皮を剥がせた。受刑者は蝙蝠が翼を広げたような姿で一日近く苦しんだ末に死んだ。
皮剥ぎの最中や執行直後に死んだ場合、あるいは剥がした皮に少しでも肉片が付着していた場合は、執行人が皮剥ぎに処された。
張献忠の養子であった孫可望は皮剥ぎの名人で、南明に降った後も皮剥ぎを繰り返し、剥いだ皮に草をつめてぬいぐるみにしたという。

万暦6年(1578)に四川省の人口は310万あったが、この大虐殺とその後の戦乱・疫病・飢饉により、康煕24年(1685)には1万8090人に激減した。
40万人を数えた成都の人口は20戸まで減り、都市は草が生い茂って虎や豹や熊が闊歩し、人民は高楼に逃げ延びて命を繋いでいたという。
共産党政権下では「漢族農民起義の英雄」に人民虐殺の罪を負わせないよう、異民族にして封建主義勢力たる清軍がなすりつけたのだとする主張もなされているが、
清と無関係なイエズス会宣教師や体験者の報告などから、実際にかなりの規模で張献忠による組織的虐殺が行われたことが明らかになってきている。
虐殺が可能になったのは、皮肉なことに彼の政権が当初はかなりの支持を得ており、統治機構が整備されていたせいであるという。
清の康煕帝は三藩の乱(1673-1681)の頃から四川への大規模な移民誘致を行ったが、特に湖広からの移民が多かったので、これを「湖広填四川」という。
明初には江西から湖広への大規模移民「江西填湖広」が起きているため、現代の四川人の多くは江西人の末裔である。こうして張献忠の虐殺の影響は現代にも及んでいる。

バーサーカー、アサシン、アヴェンジャーの適性もある。セイバーとしては並み以下ながら、死傷者が増えれば魔力が勝手に増す。しかもマスターがあいつである。


394 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:38:37 FAm5h6d60

【サーヴァントとしての願い】
親分(マスター)に天下を取らせたい。

【方針】
親分に従い、武器弾薬を補給してサポートする。殺しの許可が出たら喜んで殺しまくる。敵は苦しめ苛んで殺し、魂喰いをして魔力に変える。
大量の兵士や使い魔を呼び出す術や宝具など、彼にとってはボーナスゲームに等しい。


【マスター】
岩鬼将造@極道兵器

【Weapon・能力・技能】
重武装サイボーグヤクザ。左腕に小型機関銃、右膝にロケットランチャー6発を内蔵。右目には自動ロックオン機能付き高性能義眼を搭載。
左腕の武器は銃弾をも弾く高性能な義手で隠しており、鞘のように義手を抜いて露わにする。アタッチメントを取り替えることで重機関銃や火炎放射器にもなる。
銃弾や砲弾には限りがあるため、どこかで調達せねばならないが、幸いにもサーヴァントの宝具で補充可能。通常のドスやハジキも装備している。
だが真に恐るべきは素の身体能力、生命力、戦場での勘、悪運、恐れ知らずの狂った精神力、そして馬鹿力である。時空の彼方から石川先生のご加護があるかもしれない。

【人物背景】
石川賢の傑作漫画『極道兵器』の主人公。モデルは任侠映画『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友勝利、名前の元ネタは広能昌三か。
西日本で一、二を争う武闘派極道「岩鬼組」の御曹司。許嫁が22歳で多分同年代。余りに過激な性格から父に勘当され、海外で傭兵となり殺戮の日々を送っていた。
父が死んだと聞かされても嘲笑っていたが、父を殺した男・倉脇の背後に世界征服を狙う「デス・ドロップ・マフィア」が存在すると知らされる。
新たな抗争を求めて帰国した彼は倉脇のもとへ攻め込むが、デス・ドロップ・マフィアとの戦いで重傷を負う。そこへ現れた男・赤尾により、彼は「極道兵器」に改造されたのである!

人呼んで「狂犬(マッド・ドッグ)」。サイボーグ化する前から「極道兵器」を名乗る。大胆不敵で傲岸不遜、兇暴・兇悪・破天荒な戦闘狂。敵からよく「くるってる」と言われる。
趣味はケンカと人殺し。人が死ぬ時の悲鳴が大好きで、捕虜は吊り下げて皆殺しにし、歯向かう奴らにはとてもいい笑顔で機関銃やロケットランチャーをぶっ放す。
超高層ビルの最上階に人質と共にいる敵に対しては「お前が降りてこい」とビルに爆弾を仕掛けて崩落させ、ミサイルや核兵器による脅しにもビビらない。
勝手に改造された際も(痛みで泣いてはいたが)「よくもこんなスバラシイ身体にしてくれたのう!最高じゃあ!!」と大喜びし、右目を潰されても「箔がついたぜ」と怯む様子もなし。
身体能力も高く、銃弾の嵐に突っ込んでも「弾なんぞ怖いと思うから当たるんじゃあ!」と叫んで実際当たらず、敵将の顔面に兇悪なスパイクシューズで蹴りを叩き込む。
二丁拳銃の一丁で銃弾を弾きつつ敵を撃ち、崩れるビルの斜面を敵をボードにして滑り降り、核ミサイルにロデオしてビルに突っ込み……とやりたい放題。

敵がいればカタギを巻き込もうと構わず攻撃し、パトカーやビルをふっ飛ばしても平然としているが、一応は積極的にカタギを皆殺しにしたいわけではない。
日本国を自分のシマと考えており、シマを預かる首領(ドン)の務めとして、シマウチでの無差別大量殺人は命をはってもさせないと宣言してはいる。敵は皆殺しにするだけである。
狂人ではあるが人間味に溢れる人物でもあり、少年時代の恩人で親友の安否を気遣い、肉親の泣き落としには弱く、婚約者や子分たちを信頼し大切にする(盾にはするが)立派な任侠者である。
頭は悪いが本質を掴み、度胸や覚悟が足りない者には極道者のなんたるかを激しく説き、人間性や社会の有り様にも一家言を持つ男。作者は彼を「最も動かしやすくてお気に入り」と呼んだ。
また単なる重武装サイボーグヤクザながら「石川作品最強、根性が違う」との公式発言があるので、ゲッターエンペラーやラ=グース、時天空より強い(「進化」の末にそうなる?)とも言われる。
連載が続けば脳みそごとふっ飛ばされて全身が機械に置き換えられる予定だったというが、彼なら悩むことなく大喜びするであろう。
OVA『真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ』では、なんと内閣官房長官として彼の名が。実写映画版『極道兵器(YAKUZA WEAPON)』では坂口拓が演じた。


395 : Neo-Yakuza for Sale ◆Lnde/AVAFI :2018/01/20(土) 21:40:48 FAm5h6d60

【ロール】
風来坊の極道。ついさっき中堅ヤクザの事務所をぶんどって組長になり、「極道連合岩鬼組」を立ち上げた。

【マスターとしての願い】
主催者も引きずり下ろしてぶっ殺し、元の世界へ帰って天下を取る。

【方針】
ケンカは先手必勝。新興ヤクザとしてシマを広げつつ、敵マスターやサーヴァントを発見したら率先してぶっ殺す。手を組める奴がいれば組む。

【把握手段・参戦時期】
原作(全3巻)。石川賢作品入門に最適。絶版なので手に入れにくいが、電子書籍があるので是非とも天下万民に読んで頂きたい。
作品コンセプトは「任侠映画文体での仮面ライダー」。物語自体は掲載誌ごと虚無っているが気にしない。実写映画版もとってもB級でグッド。
右目がレーザーサイト化しているので、2巻「人間核野郎編」「鉄男編」以後の時系列での参戦。



投下終了です。


396 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:51:57 yOYmw7gM0
投下お疲れ様です!
感想はもう少々お待ちください。

投下します。


397 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:53:01 yOYmw7gM0


 ――異形の何かが群れていた。

 機械のようにのっぺりとした無機的なフォルム。
 にも関わらず、挙動や姿形に宿る有機的なもの。
 生物の真似をする非生物。そんな形容句こそが、これらを称する上では相応しいだろう。
 見る者に生理的嫌悪感すら与えるこれらは、紛うことなき人類種の敵である。

 名称をバーテックス。その意味は頂点。
 全ての生命の頂点という意味を、この白き侵略者(インベーダー)達は与えられていた。
 ある者はこう言った。これは、天の神が人類を粛清する為に遣わした存在だと。

 侵略者(インベーダー)にして粛清者(パニッシャー)。
 かつてこれらは、人類に対しおぞましい殺戮の限りを尽くしていった。
 その結果、人類は一部の地域を残して絶滅の淵へと追いやられることとなった。 
 バーテックスには鉛弾も爆炎も通じない。ひとえにこれが、常世の法則に依るものではない為だ。

 空より来る頂上種を人は恐れた。
 地球上に残る数多の生物の中から人間のみを選んで殺し尽くす存在を前に心を壊した。
 そしてまたも、バーテックスは無情に押し寄せる。
 今度は人の世界を壊すのではなく、それを見守る存在を破壊することを目的として。

 されど。
 世界を壊す者があるのなら、世界を守る者があるのもまた道理。
 大いなる存在は人の手に世界の防衛を委ねた。
 年端も行かぬ純真無垢で希望に溢れた少女達に、世界と人の営みを守る力をもたらしたのだ。


 ――少女達を指して勇者と呼ぶ。
 勇者。それは勇気を以って武器を執り、我が身を顧みず敵へと向かう救世主。

 
 そして今。
 一人の勇者が、死地に立っていた。
 押し寄せるは破滅の軍勢。
 視界は半分欠けて、片腕は動かず、全身には決して少なくない疲労感が蓄積している。

 いや、疲労感を感じてくれるならばまだ救いがある。
 少女の総身には、既に何の感覚もしない部位が複数存在した。
 まるでその部分の身体機能が、まるっと抜け落ちてしまったように。
 戦いの中で機能の欠落は増えていった。逆境を打破する勇者の切り札。それを使う度に、一箇所ずつ。

 この戦いは破滅的であった。
 勇者と呼ぶには、彼女の戦い方はあまりに悲惨だった。
 身体を失いながら敵を貫く。感覚を失いながら敵を砕く。
 その有様は壮絶すぎて――故に、見惚れるほど美しい。


398 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:53:24 yOYmw7gM0

 仮に此度の激戦を制したとしても、少女が元通りの日常に戻れる可能性は絶無だ。
 機能欠損の数は、最早人間らしいまともな生活が送れない領域にまで達している。
 大の大人でも涙を流して絶望するような有様。年端も行かない少女であれば、尚更心の痛みは大きいだろう。

 勝利を収めたとしてその次は? その次は? 次の次の次は、どうなる?
 決まっている。後は失うばかりだ。人らしいものを全て失って、それでも戦い続けるしかない。
 まっとうな価値観の持ち主ならば、少女の置かれた境遇を称して地獄と呼ぼう。

 世界を防衛する為、永遠に失い続ける非業の勇者。
 奇跡でも起きない限り、その行く末に救いはない。
 当の彼女も、この時点で既に、それに気付いている。


 ――それでも。

 それでも少女は退かない。
 膝を突かない。泣き言を溢さない。
 自分の背中、その遥か先には守りたいものがある。
 誰かの守りたかった景色がある。あの子の愛した、日々がある。

 欠けていく身体とは裏腹に、少女の勇気は微塵も翳らない。
 それどころか、戦いが進むにつれ、失うにつれどんどん増していく。
 天井知らずに。絶望的な戦いの趨勢をなんとしても覆してやると、奮起しているから負けはしない。


 その姿はまさしく勇者。そして、英雄だった。人類史に名を刻んだ益荒男達と比べても遜色ない、偉大なる希望に他ならなかった。


 そうして少女は、勇者は勝利する。
 たった一人で全ての敵を撃退し、世界を見事に守ってみせた。
 だが、バーテックスが木端微塵に弾け飛んだことで押し寄せた粉塵が晴れた時。
 そこに、勇者の姿はなかった。髪の毛一本残さず、完全に消失してしまっていた。

 彼女が守ろうとした、大いなる〝神樹〟。
 それを破壊すべく押し寄せ、蹴散らされたバーテックス。
 勇者システムを統括し、管理する〝大赦〟という組織。
 そのいずれも、勇者の消失には誓って関与していない。

 では何故、偉大な少女は消えたのか。
 守った世界をその目で見ることもなく、居なくなってしまったのか。
 その答えは――異界の聖杯。世界の救済を夢見る男が望んだ願望器だけが、知っている。


399 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:53:50 yOYmw7gM0



 むせ返りそうな血と汗の匂い。
 戦場の端では既に、朽ちた兵士に蝿が集り始めている。
 それを払ってやる余裕など、このロンスヴォーに結集した如何なる人物にも存在しない。
 それほどの激戦であった、此度の戦争は。人が、人の殻を脱ぎ捨ててしまうほどに。

 白銀の刃が敵兵の腕を断つ。
 開いた口の奥から聞き苦しい悲鳴が這い出る前に喉を貫き、脈を斬る。
 同胞を殺され怒り狂った者と、今こそ好機と睨んだ者とが左右から同時に斬り掛かるが。
 見え透いた手だと嘲笑うようにワンステップで回避して、返しの薙ぎで二人纏めて首を飛ばした。

 その光景に、懲りもせず義憤に駆られた阿呆が突っ込む。
 振るった剣は受け止められるが怯まない。
 仲間の仇をなんとしても取るのだと力を込める。

 が、そこで、彼は見た。
 フルフェイスの白兜の下から覗く、瑠璃色の瞳を。
 感情の見て取れない淡白な瞳の真の恐ろしさは、実際に相対した者にしか分かるまい。

 少なくともこの彼は、そこに戦神の威容を見た。
 百万の軍勢を鎧袖一触に薙ぎ払う、戦争の化身を見た。
 瞬間、剣に込めた力が一瞬緩む。
 それだけで敗北の条件としては十二分。
 白兜の綺晶剣が、真横から彼の頭部を切断した。

 
 戦は続いていく。
 同胞が散り、敵が散る。
 されども止まぬ鋼の音色、飛沫の調べ。
 罪深く惨たらしいはずのそれに、不思議な充足感を覚えている己が居ることに、白兜のパラディンは最初から気付いていた。
 
 この戦場に来た瞬間から、ではない。
 パラディンとなって初めて敵を討った瞬間より、女は己の居場所が戦場にしかないことを自覚していた。
 心が高鳴るわけではない。もっと強い敵を求めたことはない。
 ただ、一番強く生の実感を得られるのは戦場だ。

 同胞と語らい、酒を酌み交わす時よりも。
 師父と過ごし、郷愁の念に浸る時よりも。
 こうして大地を駆け、敵を斬り、或いは斬られている時の方がより強く〝生きている〟と感じられる。

 もっとも、その感覚は女にとって甚だ不本意なものであったが。
 彼女はただ全力を尽くしているだけだ。
 勝利する為に必要な策を絞り出し、策のみでどうにもならないのならこうして肉を使う。
 敵を倒すことに常時全力で取り組んだ結果返り血を浴びることになるだけであり、戦闘はあくまでも手段でしかない。
 手段を愛するなど愚の骨頂。重要なのは、結果だ。勝つか負けるか、ただそれだけ。


400 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:54:19 yOYmw7gM0


 ――戦は佳境へと入る。敵も味方も目減りして、白兜のパラディンも無事とは言い難い状態だった。

 砕け綻んだ鎧。
 血液は垂れ、兜も右目の部分が砕けて、顔が一部露出している。
 負傷は既に、誰の目から見ても撤退が最善と思えるレベルのそれだ。
 このまま戦闘を続行すれば、死ぬ。そのことを理解出来ない彼女ではない。

 だが、退くことは出来ないと彼女の聡明な脳髄は弾き出した。
 此処で自分が退けば、残軍の兵力と士気は大きく落ちる。
 彼が……ローランが居る以上心配無用と考えるのは早計が過ぎるだろう。
 彼と誰より永く過ごした戦友として、親友として――此処は退けぬと闘志を更に燃え上がらせる。
 
 目指すは勝ちだ。ただそれだけだ。
 その為に、多少の損耗は度外視しよう。
 剣を握る力は決して緩めない。
 最後の一瞬まで、この生命は我が友と、我が同胞の為に。


 そうして女は力尽きるまで駆け抜けた。
 その魂は英霊として世界に召し上げられ、やがて異界の聖杯に見初められる。
 英雄は英雄と。勇者は勇者と。その本質はどうあれ、相応しい者同士が偶然にも結び付く。
 
 破滅へ向かいながらも、生かされ続ける少女。
 戦死を越え、悔いなく生涯を終えた白兜。

 二つの英雄譚は、京の都へ――。


401 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:54:44 yOYmw7gM0


「おいしいねえ、これ」

「ええ、美味ですね。品のある味がします」

 黄昏時の梅小路公園。
 遊具で遊ぶ子供達の姿も疎らになってきた頃。
 ベンチに隣り合って座り、京都名物の生八つ橋を頬張る少女達の姿があった。
 双方、髪は金色。強いて言うなら、背丈の低い方はやや山吹色に近い髪色をしている。

 そんな似通った身体的特徴を持つ彼女達だったが、姉妹のようにはとても見えない。
 というよりも、事情を知らぬ者が見れば、そもそも〝少女達〟という認識をしない可能性すらある。
 背の高い、日本人離れした顔立ちの少女。彼女は、男装に身を包んでいたからだ。
 タキシードのようにぴっちりとしたものでこそないが、男物のラフな服装を纏っており、何か違和感を覚えている様子もない。
 
 男装の麗人と呼ぶにはいささか俗すぎて。
 しかし、ちゃんとした服装さえすればそうなれる資質は十分にあるだろう娘。
 彼女は、背の低い少女の下僕であった。
 少女が何かを成すために、遙かなる座から呼び出された、人類史の影法師であった。

「それにしても良い街だ。出来ることなら、ローラン達と共に練り歩いてみたかったものです」

「またその名前。セイバーさんは、〝ローランさん〟のことが好きなんだねえ」

 その名を聞けば、歴史に聡い者は何らかの反応を示すだろう。
 ローラン。シャルルマーニュのパラディンの筆頭とされる、勇猛果敢な大英雄。
 こうも気安くかの英雄の名を口にするとなれば、少女の出身はある程度推測できる。
 即ち、ローランの同胞。パラディンの一人にして、かの英雄譚に名を連ねた英雄。

「恋愛感情の類は誓って欠片もありませんでしたが、気心の知れた友ではありました。
 単純に付き合いが長かったというのもありますがね。……まあ、百人が見れば百人が狂人と断言するような男でしたよ」

 聖騎士ローランの幼馴染にして、親友だった騎士。
 ローランが勇猛一辺倒の勇者ならば、彼女はそれを支えて導く賢者。
 だがその一方で、死地となったロンスヴォーの戦いにおいては、ローランを凌駕する撃破数(スコア)を見せたという血鬼。

 ――オリヴィエ。それが、勇者・乃木園子が召喚した剣の英霊の真名だった。

「……セイバーさんは、いいの?」

「何がです?」

「だって、その――セイバーさん達は、最後に負けちゃったんでしょ?」

 オリヴィエやローランの物語は、勝利で締め括られたわけではない。
 彼女達は戦った。最後まで勇敢に戦い、騎士の名を穢すことなき生き様を貫いた。
 その果てに、彼女達は敗死した。

 全ての敵兵を斬り払うこと敵わず戦場に散った。
 無念であったことだろうと、園子は思う。
 そして今。この京には、その結末を覆し得る奇跡が降臨しようとしているのだ。


402 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:55:04 yOYmw7gM0

 聖杯。それは、万能の願望器。
 あらゆる願いを叶える至高の聖遺物。
 聖杯の力があれば、ロンスヴォーの結末は容易に覆るだろう。
 オリヴィエ達は全ての敵を討ち、見事勝利を収めて大帝の下に凱旋した。
 そういう風に、歴史を書き換えることが可能であろう。
 そのことは、オリヴィエ自身分かっている。
 分かっているが――。

「……確かにあの戦いで、わたし達は敗北しました。
 それを無念でないと、悔しくないと言えば嘘になります」

 ですが、とオリヴィエは続ける。

「少なくとも、あれは意味のない玉砕ではなかった。
 わたし達の死は大帝と本隊に未来を与え、最悪の結果を遠ざけることが出来たのです。
 もう一度やり直せるというのなら、もちろん全力で勝利を勝ち取りにいく所存ですが――
 屍の上の願望器を奪い取ってまでそうしたいとは、正直思えませんね。それならむしろ受肉して、当代の戦争にでも名乗りを上げたいところです」

 さらっととんでもないことを口にしたのは、一先ず置いておいて。
 結論から言えば彼女のマスターである園子は、聖杯を取ろうとは考えていなかった。
 むしろその逆。園子の狙いは、聖杯戦争そのものを止めることにある。
 
「貴女が気兼ねする必要はどこにもありませんよ、園子。
 此度のわたしは大帝のパラディンでもなければ、ローランの頭脳でもない。
 わたしは今、乃木園子というマスターに仕えるサーヴァントなのです。貴女には、わたしを自分の目的の為に〝使う〟権利がある」

 聖杯戦争を、願いの為に戦うにしろ。
 聖杯戦争を、打ち砕かんとするにしろ。
 オリヴィエはそれが道義に悖る外道の戦いとならない限りは、全面的にマスターの賛同者になる。
 それがサーヴァントの役目であり、正しい姿と信じるが故に。

「……そっか。ありがとね、セイバーさん」

 園子は彼女の言葉に、ほんのりと笑みを浮かべた。
 咲いて散る大輪の花のように、可憐さと儚さが同居した笑顔。
 
「私ね、やっぱり聖杯戦争は止めなきゃいけないと思うんだ。
 聖杯を手に入れた人は救われるかもしれないけど、手に入れられなかった人達は、このルールじゃ絶対に救われない」

 聖杯戦争。その趣向自体は、ほとんど殺し合いと言ってもいいものだ。
 本来の聖杯戦争ならば棄権の自由も存在するのだろうが、この京都聖杯戦争にはそれもない。
 呼ばれてしまえば最後、後は勝つか死ぬかのどちらか。

 救われるのはたった一人。
 あとは全員、救われない。
 聖杯を望むかどうかなど関係なく、負ければ死ぬ。
 乃木園子はそれを看過出来ない。


403 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:55:25 yOYmw7gM0

 まして――舞台となるこの京都は、張りぼてのバトルフィールドなどでは断じてないのだ。
 此処は誰かの日常。誰かが愛した世界。聖杯戦争は、それを自分勝手に奪い去る。
 現に、既に被害は出ているのだ。異世界からやって来た来訪者達のせいで、誰かの平穏が崩されている。
 それを仕方のないことと見過ごしてしまうのなら、それはもう、勇者の在り方ではない。ただの、偽善者だ。

「友達が居たの。日常を守る為勇敢に戦って、死んじゃった友達が」

 脳裏に浮かぶ、愛しい親友。
 もう二度と会えない、遠い世界に行ってしまった彼女。
 その最期と生き様を思えば尚更、聖杯戦争を認めることは出来なかった。
 
「その子ならきっと、止めると思う。
 わっしー……もう一人の友達もおんなじ。
 だったら私も、そうしないと。あの子達の友達として――勇者として。
 誰かの日常を守る為に、一肌脱がなきゃ嘘だと思うんだ」

 遠くを見て、園子は思い返す。
 楽しかった日々。愛しかった時間。
 もう戻らないかの日に想いを馳せながら、なおも貫く勇者の道。
 年端も行かない身体で苛酷過ぎる運命と向き合い、屈さず進むその姿に、オリヴィエは紛れもなく英雄のそれを見た。
 
「一つだけ、忠告させていただくなら。
 園子、貴女の先に待つのは茨の道ですよ。
 後戻りの利かない英雄の道。それを貫く覚悟はお有りですか」

「……もちろん。これでも私、勇者だからね」

「ならば、わたしから言うことは何もありません」

 勇者。
 それは勇気を持って前に進む者の総称。
 たとえ進んだ先に破滅が待っていようとも。
 たとえ、誰からも評価されることのない戦いだったとしても。
 勇者は、進み続ける。ただ――護るべき何かの為に。

「共に往きましょう、園子。
 どうか貴女の進む道の果てに、輝く未来があらんことを」

「――うん。往こう、セイバーさん。
 勇者らしく、格好良く決めちゃおうね」


404 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:55:50 yOYmw7gM0


【CLASS】セイバー

【真名】オリヴィエ

【出典】ローランの歌

【性別】女性

【身長・体重】152cm・51kg

【属性】秩序・善

【ステータス】

 筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A+

【クラス別スキル】

 対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

 騎乗:B
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】

 戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

 心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す〝戦闘論理〟。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

 軍略:B
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

 ロンスヴォーの血鬼:A+
 かのロンスヴォーの戦いにて、セイバーは視力を失いながらも懸命に戦い、勇猛なるローラン以上の敵を切り伏せた。
 ダメージを負えば負うほど筋力、敏捷のステータスが向上し、弱体化するどころか強くなっていく。
 また消耗が一定域に達すると、ステータスアップに加えて〝直感〟〝勇猛〟を始めとする各種戦闘スキルをランダムに獲得。
 精緻な洞察力から成る真の心眼と第六感から成る偽の心眼を併用し、全ての敵を掃討するまでセイバーは綺晶剣を振るい続ける。


405 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:56:28 yOYmw7gM0

【宝具】

 『穢れなき綺晶の剣(オートクレール)』

 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:1

 セイバーの主武装であり、黄金の鍔と水晶の柄頭を持つ優美な両刃の片手剣。
 美術品としても非常に上等な代物だが、武装としても超の付く一級品で、〝穢れ〟を切り裂く効果を持つ。
 穢れたる者――悪魔、死徒、魔獣、殺人鬼など、人倫と交わるべきでない存在へ与えるダメージが大きく上昇する。
 真名解放を行うことで、切っ先から空色の魔力光を放ち敵単体に強力な刺突ダメージを与えることが出来る。
 これ自体の威力も結構なものだが、真価は次に記述する第二宝具による〝追撃〟。

 『不浄を祓え、穢れなき綺晶の剣(アンチキャンサー・オートクレール)』

 ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:1

 『穢れなき綺晶の剣』の真の運用法。腫瘍のように世界を冒す穢れを祓う、救い/滅びの光。
 刀身を敵に突き刺した状態であらん限りの魔力を注ぎ込み、敵の体内で浄化の特性を持った魔力光を炸裂させる。
 その性質上、一度敵にどうにかして剣を突き刺す必要があるが、逆に言えば彼女に貫かれることはこの宝具の直撃を許すことに等しい。
 体内からの攻撃であるため防御力は無視され、穢れを持つ者は浄化特性によって即死級の大ダメージを受けることになる。
 また、『穢れなき綺晶の剣』の真名解放で敵を貫いた場合も、この宝具をその状態から発動させて追撃可能。
 当然ただ突き刺して発動するよりも総合的なダメージ量は大きくなるため、これが彼女の最強の〝必勝パターン〟となる。
 文句なしの超強力な攻撃宝具だが、その分魔力の消費は激しく、故に外すことは許されない。

【マテリアル】

 オリヴィエ。ローランの歌などに登場するパラディンの一人。
 ローランとは幼馴染にして親友であり、彼の為に知恵を絞る優秀な知将でもあったとされる。
 彼女はローランのことを信頼しているし、ローランの方も彼女に信を置いていた。ちなみに妹のオードはローランとの婚約者だったりする。
 ローランが勇猛な戦士として知られるのに対し、オリヴィエは冷静沈着に的確な判断を下す知将としてのイメージが強い。
 
 ……が、実際の彼女は確かに知将ではあったものの、根っこの部分はローラン以上の脳味噌筋肉人種(バカ)。
 策を練って戦場をコントロールしつつも、自分の損耗を一切恐れずに突貫して敵を斬る。
 その側面が最も色濃く表れたのが、彼女達の死地となったロンスヴォーの戦いである。
 この戦争で彼女はローラン以上の敵を討ち、凄まじい戦功をあげた。その激しさたるや、うっかり敵と間違えてローランの頭を叩き斬ってしまったほどである。ちなみに本人曰く「あの時のことは反省していますが、それはそれとして、あれだけ強く叩いて血の一滴も出なかったのは何かムカつきましたね」とのこと。
 『ローランの歌』では男性とされているが、その理由は、オリヴィエ自身が不当な偏見を受けるのを嫌ってごく一部の信が置ける同胞以外には性別を隠していたから。
 もちろん思いっ切り顔立ちが女性なので中にはこいつ女じゃね?と疑問を抱いた者も居たが、そういう者達は彼女の鬼神の如き活躍を見て、「これは〝ついて〟ますわ(確信)」という感想に行き着いたという。
 ローランはもちろん彼女の性別について知っていたが、彼との間に恋愛感情のようなものは存在しない。あくまで付き合いの長い親友/戦友として戦場を共にし、離別へ至った。

 性格はやや天然寄りな敬語女子。頭は切れるが根っこは脳筋。回復手段が確立された日には、いよいよ後先の一切を考えなくなる。
 聖杯を狙うか否かは、基本的に自身を召喚したマスターの方針に依る。
 聖杯狙いのマスターであれば同調して聖杯を狙い、適当に受肉して現代の戦地でも練り歩こうとなるし、
 反聖杯派のマスターであれば現世への未練をちょっぴり抱きつつも聖杯戦争の破壊に向けて動く。
 しかし道義に適わない行為には嫌悪を示し、マスターがそういう方針を選ぶのなら何の迷いもなく反目するだろう。


406 : 勇者の歌 ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:56:59 yOYmw7gM0

【Weapon】

 『穢れなき綺晶の剣(オートクレール)』

【外見的特徴】

 長い金髪の女騎士。背は小さいが体は引き締まっており、顔さえ隠せば男を名乗っても通用する。胸は見事なまでの絶壁。
 肌の露出が少ない白銀の鎧を着用し、兜で女の顔を隠して戦闘する。『穢れなき綺晶の剣』は普段は背負っている。
 瞳は瑠璃色、肌は白い。戦闘時以外は当代風の服装に身を包んで行動するが、その際も男装を好む。

【聖杯にかける願い】

 園子と協力し、聖杯戦争を止める。


【マスター】

乃木園子@鷲尾須美は勇者である

【マスターとしての願い】

 聖杯戦争を止める

【Weapon】

 浮遊する穂先をいくつも備えた槍。
 傘のように展開することで盾としても使えるなど攻防一体で、戦闘スタイルは中距離攻撃型となっている。

【能力・技能】   

 神樹に選ばれた勇者として、スマートフォンを介した変身によりその力を扱うことが出来る。
 烏天狗と呼ばれる精霊が彼女の戦闘をサポートし、バリアによる攻撃からの防御などを行ってくれる。

 ■満開
 勇者の切り札。
 勇者コスチュームに搭載された花弁のマーク、通称『満開ゲージ』が全て点灯することで発動可能となる。
 満開の際には普段の勇者を超越した強大な力を得られ、満開を経ることで勇者はより強力な存在にレベルアップしていく。
 満開ゲージの増加は敵に与えたダメージの大きさと必ずしも比例するというわけではなく、精神的な要素も深く関わっている。
 その為、勇気に溢れた攻撃をすれば、一撃で満開ゲージがゼロから最大になることもある。

 ■散華
 勇者の切り札、その代償。
 満開とは神の力を得ること。そしてその対価として、花開く度に勇者は身体機能の一部を神樹に捧げることになる。
 つまり満開を使えば使うほど勇者は強くなるが、体はどんどん不自由になっていく。
 本来であれば散華の度に精霊が増えるのだが、本作ではオリジナル要素が強くなってしまう為、精霊増加はしない。

【人物背景】

 名家、乃木家の少女。
 天真爛漫かつふわふわとした性格の持ち主だが、有事における頭の回転はとても速い。
 バーテックスから世界を守る勇者としてクラスメイトの鷲尾須美、銀と共に選出される。
 友を喪っても挫けることなく敵へ立ち向かい、二桁回数もの満開を経て――少女は世界を守り抜いた。

 参戦時間軸は本編第八話『瀬戸大橋跡地の合戦』終了後。
 満開の連打によって失った身体機能はどういうわけか回復しているが、満開を経て強化された力も元に戻ってしまっている。

【方針】

 聖杯戦争を止め、元の世界に帰る


407 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/21(日) 14:57:12 yOYmw7gM0
投下を終了します


408 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:23:55 o7kAABL60
感想有難うございますそして投下お疲れ様です

投下します


409 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:24:49 o7kAABL60
剣風が夜気を震わせ、剣光が夜闇を裂く、聖杯戦争に参戦した剣士達の闘争が始まってから、既に五分が経過していた。
鎧姿の剣士─────セイバーが繰り出す長大重厚な白刃は、威力速度共に対戦車兵器にも匹敵する。
生身の人間が受ければ、斬殺死体─────どころか、周囲に血霧と肉片を飛び散らせて原型すら留めぬ事だろう。
対するは長衫の剣士、手にしたレイピアはセイバーが振るう大剣に比していかにも頼りなく、刃と刃が激突すれば、忽ちの内に砕けるだろう。
振るう度に剣風轟くセイバーの剛刃と比すれば、男の手で振るわれるレイピアは、いかにもか細く頼りなかった。
筋骨隆々たる偉丈夫のセイバーの肉体に対しては、例え鎧を身に纏っていなくとみ、到底傷をつけられまいと思える程に。
二人の剣士の剣撃は、威力速度得物に於いてセイバーに劣る長衫の剣士が、嵐の様な猛攻を何とか凌いで反撃の機を伺っている。
只人が見れば─────サーヴァントでさえもが、そう認識しそうな立ち合いだったが、 当事者達は実相を理解していた。
セイバーの嵐の様な攻撃が、悉く意味を為していない事を。
セイバーが繰り出したどの攻撃も、男は紙一重で、それでいて十分あ余裕を持って回避、或いは手にしたレイピアで捌いている。
只の鋼で、宝具である刃を捌く。
凡そ有り得ない事だった。只の鋼でしかないレイピアなど、例えどれ程の業物であっても、交われば薄焼きの陶器の様に砕け散る。それなのに、この有様。立て続けに振るった八閃を悉く男は手にしたレイピアで捌き切る。
男はセイバーの攻撃を受けているわけでは無い、むしろ逆に、剣身を刃に絡め、手元に引き込む様に釣っている。敵の攻撃に自ら勢いを加えている様なものだ。
次第。セイバーの攻撃は一層勢いを増すものの、その表紙に僅かにベクトルを狂わせ、虚しく空に軌跡を描く。
重さで勝る武器をいなす軽妙の技を、セイバーは理解できない。更に速度を上げれば、更に力を込めれば、きっと刃が届く。
そう信じて無為に白刃を振るうのみ。
不意に男の長衫の裾が翻り、セイバーの視界を覆う。愕然としたのと同時、左眼に強い衝撃を受けてセイバーは仰け反った。
長衫で視界を塞がれた隙に、男が後ろ回し蹴りをセイバーの左目に決めたのだ。
動きの止まったセイバーの両足を貫く剣尖。同時に繰り出されたとしか思えぬ二つの刺突がセイバーの両足を深々と貫いて動きを封じる─────筈が。
通常なら立てなくなる程の深傷にも関わらず、セイバーは距離を取ろうとする。

「刺さる事は刺さるか」

男の呟き、次いでセイバーの胸に生じた衝撃。生前に受けた如何なる衝撃とも質が異なる。五臓六腑に直接響く打撃に、肺腑をやられたセイバーの口から大量の血が吐き出される。

「これでは死なないか。だが、身体の作りは生身と変わらんな」

実験の結果を淡々と告げるだけの様な声が聞こえた時には、セイバーの頭部は男の左手で掴まれていた。

「ならばこれはどうだ?」

例え昼であっても、周囲の人間の網膜を灼く程の閃光が生じ、周囲が再度闇に覆われた時には、セイバーは絶命していた。

「さて…残るは……」

男の目線を受けて、呆然と立っていた少女─────セイバーのマスター─────が身を震わせる。

「あ……ありえ…ない………、有り得ない!!何で!どうしてよ!!何で『ただの人間』なんかにセイバーが負けるのよ!!!」

消えゆくセイバーの身体を見ても、尚信じる事が出来ずに少女は叫ぶ。理不尽だ。理不尽極まりない。こんな事があってたまるかと。

「どうしてそう思う?拳で鋼を砕けるからか?素肌で刃を弾けるからか?亜音速で機動し、極音速で剣を振るえるからか?
笑わせる。俺が生きていた時代にはな、その上で人とは根本的に身体の作りが異なる、決まり切った急所を持たぬ奴等が闊歩していたぞ。
口を開けば力だの速さだの…その程度では俺の“功”には届かんよ……。
試しは終わった。アーチャー」

男の言葉が終わると同時、飛来した矢が、身を翻して駆け出していた少女の後頭部を貫いた。


410 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:27:30 o7kAABL60
◆ ◆ ◆ ◆

いつも泣いている女が居た。愛の無い結婚、それだけならばまだ良い。女は夫から虐待を受けていt。
許せなかった。何故に結婚しておいて虐待を行う必要がある?周囲は、神々は、何故にこの愚劣な行為を止めようとしない。
だから連れて逃げた。後々の惨と悲との始まりであると知りながら。



悪鬼羅刹も怯えて退散するであろう形相で、三頭立ての戦車(チャリオット)を駆る男。
馬体と車体を染めるのは、蹄にかけられ、車輪に潰された兵の血肉だ。
城壁の上からでもハッキリと解る黄金に輝く鎧を染める紅は─────。
戦車の後ろで、地面の起伏に跳ね上げられ、引っかかっては、骨が砕け肉が潰れて、次第にカタチを無くしていくのは─────。
僕の行いを黙って受け入れ、誰よりも果敢に戦った英雄が、この様な仕打ちを受けて良いものなのか?神はただ見ているだけだった。
夜になって、父の懇願により返された遺体は、最早人の形を留めていなかった。


燃える街並み。血笑浮かべて血濡れた武器を手に街路を徘徊する男達。
燃える家から泣き叫ぶ女が引き摺り出される、夫であろう男が暴漢達に跪いて慈悲を乞うも、背中に槍を突き刺され、跪いた姿勢のまま地に縫い止められた。
絶叫する女の姿を暴漢達が覆い隠す。
神は獣と化した男達を糾そうとはしなかった。


数珠繋ぎにされ、鞭打たれながら引かれていく人々。
亡国の民は奴隷として売られ、家畜の様に扱われて死んでいく。
その列には誰よりも敬い慕った男の妻子が混じっていた。
神は何もしようとしなかった。


神殿の中、泣きながら女神像に縋り付いて慈悲を求める少女が居る。
何に慈悲を求める?少女を囲む暴漢達か?縋り付く女神像にか?
この国を滅ぼした女神にも、その加護の下戦った男達にも慈悲など無い。
予言の力を授け、少女の言葉が誰にも届かぬ呪いを与えた神もまた。
少女が衣服を剥ぎ取られ、男達の一人に組み敷かれ、欲望の餌食となるのを、暴漢達は笑いながら、女神像は何もせず黙したまま見ていた。


彼等は、此処まで無惨苛烈な運命を与えられるような罪を犯したのだろうか?
否。断じて否。
彼等の中にはこの様な運命を与えられて良い人間など一人も居なかった。
彼等を襲った運命に責は彼等の誰にも無く。あるとすれば─────。


411 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:29:39 o7kAABL60
◆ ◆ ◆ ◆


「もう何もかもが遅すぎるけれど…。これだけは確かな事だ…。僕が彼女を連れ出さなければ、あんな事にはならなかった!!」

血を吐く様な叫びと言う。比喩では無くサーヴァントの声は血に濡れていた。身体ではなく、心の流す地で濡れていた。永遠に消えぬ罪に、償う術さえ無い咎に、永劫苛まれる者の姿がそこにはあった。
その姿に向けられる冷ややかな双眸。

「それで、お前は一体何を望むのだ。贖罪かそれとも復讐か?」

感情の籠らぬ男の声が問いを投げた。
涼やかな麗貌と匂い立つ様な気品の男、艶やかな繭袖(けんちゅう)の布地に龍の刺繍をあしらった長衫を纏った姿は、美丈夫という呼び方が相応しい。
だが─────。何よりも人目をひくのはその双眸。
心の奥底まで見抜かれそうな眼光を放つその眼に居射竦まれたかの様に、サーヴァントは絞り出す様に答えた。

「……どちらでも無い、あの様な運命を齎した、黙して見ているだけだった、神に対する怒りは有る。奴等に対する憎しみも有る。
殺され、繋がれて引いていかれた者たちの、呪いと悲哀と怒りに満ちた眼差しを忘れた事など片時も無い!!
だが………本当に怒りを抱いているのは、呪わしく厭おしいのは…………。この僕だ!!!
彼等の運命!!兄の惨死!!妹の惨劇!!そのどれよりも!彼女が幸せになれなかった事を、怒り憎み呪う、この僕の心こそが悍ましい!!!」

「つまりお前の願いとは─────」

「あの悲劇を無かった事にするわけでも無い、彼等に相応しい最後を与えてやる事でも無い。神への報復でも、悪鬼共を人理から抹消することでも無い!!
只!彼女の幸せを!!只それだけ!!
始まりの過ちを再度繰り返そうとする、それをどれだけ厭わしく悍ましく思っても、僕は聖杯を彼女の為に使うだろう」

己の行動が、誰よりも慕った者を死なせ、その妻子を無惨な運命に叩き込んだ。
祖国を滅ぼし、民が奴隷となる憂き目にあっても、それらを一切省みぬことのない自分を恥じて悍ましいと思いながらも、このサーヴァントは聖杯を求めるのだ。
唯一人─────唯一人の女の幸せの為に。


412 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:30:53 o7kAABL60
「唯一人の女の為に、国も民も何もかもを捨てるか………」

「軽蔑するかい?だがそれでも構わない。僕は彼女を愛している!!彼女に幸を与える為ならば、僕は何だってやってみせる!!
邪魔をするならそれが何者であっても殺してやる!!
ああ、そうさ!これが!これこそが!!僕が彼女に捧ぐ愛だ!!!」

それは、マスターである男に対する叛意の吐露でもあったが、男は取り立てて気にした風もなかった。

「一つ訊くが、お前が切り捨てようとする者達は、お前が聖杯を使おうとする女の為になったのか」

「は…………?」

「お前はその女を愛しているのだろう?ならば幸を与える為に役立たぬ者など、価値も意味も無い。
神とやらは、女を暴夫から守護れなかった。兄の奮闘は、妹の言葉は、敵を退ける役に立たなかった。
国が、民が、その女に幸を与える為に何かをしたのか?
しなかっただろう?ならばそんなものに価値は無い。存在している意味すら無い」

淡々と語るマスターをサーヴァントは茫然と見つめる。

「国を、民を、親兄弟を、捧げる事でその女が幸を得るならそうするべきだろう?何を悩む事がある。それとも、お前の愛とやらはその程度の代物か?
笑わせる。そんな覚悟では到底聖杯を取る事などは出来んだろうよ。お前は再び敗者として座とやらに帰るだけだ」」

静かな、それでいて痛烈極まりない罵倒。しかしサーヴァントは怒りを見せない。何故ならば─────。

「貴方は……まさか…………」

「ああ、権威を極め、武を極め、手に収めた全てを俺は彼女の捧げた。彼女が望むというのであれば、世界も獲る。そう意気込んだ事もあった」

マスターである男は笑った。世界の全てを嘲り、唾棄する様に。


413 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:31:20 o7kAABL60
「彼女にとっては、俺が手に入れられるものなど屑ほどの価値も無かったが。彼女はいつも泣いていたよ。
俺が彼女に与えてやれたのは掛け値無しの絶望。中途半端な幸福よりも、彼女は己が想いを抱いて地獄へと落ちることを望んだ。
そうする事で………唯一心に居た男に、己が想いを知らせる事が出来ると信じて」

血を吐く様な叫びと言う。比喩では無くマスターの声は血に濡れていた。身体ではなく、心の流す地で濡れていた。永遠に届かぬ想いに、与える術さえ無い彼女の幸に、永劫苛まれる者の姿がそこにはあった。

「手にした権威も配下も�辞会も、何もかもを彼女の想いを叶える贄とした。これこそが俺が彼女に捧ぐ愛だと、そう信じて。
それでも彼女は俺を見もしなかったが。
だが、それでも良い。彼女が笑ってくれるなら、彼女が俺を…僅かでも良いから見てくれるなら……」

「貴方に……悔いは…………」

「無い」

幽鬼の如き眼でサーヴァントを見据え、男は語る。

「彼女の望まざる世界、彼女に幸をもたらさぬ世界に……遺すべきものなど何がある?」

男は真実掛け値無しの本心を告げている。
只一人の女に捧げる愛。比喩でも何でもなく、たった一人の女を世界より重いとするその心。
如何なる倫理も道徳も、親兄弟の情ですらも、愛を捧げた女の為ならば路傍の石の様に捨てられる。
そんな男の問いに、サーヴァントもまた迷いも虚飾も捨て去った声で答えた。

「無い。彼女に幸を与えない者達にも世界にも、価値も意味も共に無い」

ここにサーヴァントは答えを得る。
嘆きも怒りも全ては只一人の女の為に。
マスターの男は薄笑いを浮かべてサーヴァントを見た。
サーヴァントは何処か晴々とした顔でマスターを見た。

「では─────」

「ああ─────」

二人の声が重なる。

「「彼女に幸を」」


414 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:31:48 o7kAABL60
【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
パリス@イーリアス

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D宝具:A+

【属性】
中立・悪

【クラススキル】

復讐者:A
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
トロイアの者達全てから怨みと蔑みを受けても、アヴェンジャーの決意は変わらない。

忘却補正:C
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
ヘレネーに対し神が与えた運命を、アヴェンジャーは決して忘れない。


自己回復(魔力):D
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復する。
愛する女に幸福を与えるまで、アヴェンジャーは決して倒れる事は無い。



【保有スキル】


嗤う鉄心(偽):A
精神汚染スキル。
精神汚染と異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。
本来は反転の際に付与される精神汚染スキル。アヴェンジャーは自らの意思で獲得している為(偽)が付く。
自ら固定している思考の方向性は、『愛する女の為ならば、他の全てをかなぐり捨て、犠牲にできる』というもの。
迷いも情も無い攻撃は、常のものより遥かに強力なものとなる。


完全な肉体:A
後世において“完全な肉体を持つ”と言われたアヴェンジャーの身体。
Bランクの天性の肉体及び頑健の効果を発揮する。
ヒュドラの毒矢を受けながらも、後方に下がり、治療の為に山を登る事が出来る身体を持つ。


太陽神の加護:A
宝具発動時に効果を発揮し、幸運を人の極限域にまで引き上げる。特定の条件なくしては突破できない敵サーヴァントの能力さえ突破可能。
宝具発動時にのみ効果を発揮する。

千里眼:A
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
 透視、未来視さえも可能とする。
宝具発動時にのみ効果を発揮する。


415 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:32:11 o7kAABL60
【宝具】

訴状の矢文(タウロポロス・カタストロフェ)
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜50 最大捕捉:100人

弓や矢が宝具なのではなく、それらを触媒とした『弓に矢を番え、放つという術理』そのものが具現化した宝具。
“天穹の弓”で雲より高い天へと二本の矢を撃ち放ち、太陽神アポロンと月女神アルテミスへの加護を訴える。
荒ぶる神々はその訴えに対し、敵方への災厄という形で彼に加護を与え、次ターンに豪雨のような光の矢による広範囲の全体攻撃を行う。
射程及び効果範囲に長けた宝具で、特に広域に展開した軍勢に対して効果を発揮する。
だが射撃を行っているのが彼ではないため、照準は余り正確ではない。攻撃領域を彼の意志で極度に限定して収束することも可能だが、元々の攻撃範囲が広いため、集団戦においては周囲の敵味方の配置を確認してから使用しなければならない。
ちなみに、この効果は多産の女性・ニオベが「子どもの数が少ない」とアポロンとアルテミスの母・レトを馬鹿にしたため、二人がニオベの子らを一人残らず射殺したエピソードにちなむ。



陽光は遍く天地を照らす(デッドエンド・スワスチカ)
ランク:A+ 種別: 対人宝具 レンジ: 1〜99 最大補足:1人

アキレウスを射殺した射撃。
太陽神の加護の下に陽光そのものを矢として放つ。
弓や矢が宝具なのではなく、それらを触媒とした『弓に矢を番え、放つという術理』そのものが具現化した宝具。弦を引いて放つ事により、陽光そのものを矢と変える射技。
狙いをつける、弦を引く、という過程を必要とするが、陽光を矢とするという性質上、
対象は陽光に照らされている、つまりは既に矢に当たっている状態の為に、放たれた矢を回避或いは防御する事は不可能。
回避或いは防御の為には、弦を離す前に狙われている箇所を影で覆うしかない。
弓勢は、実際に矢を射た時の威力が反映される為に、威力を出す為には相応に弓引く事が必要となる。
発動時には、幸運と太陽のシンボルで有る卍(スワスチカ)がアヴェンジャーの後背に浮かび、太陽神の加護が発動。幸運値がA++となり、Aランクの千里眼を獲得する。矢はAランク相当の神造兵装と同等の神秘を持つ、ら
魔力消費は多め。
対人宝具だが、連続で狙いを定めて使用し続ける事で、対集団にも使用できる。


416 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:32:58 o7kAABL60
【weapon】
天穹の弓(ポイポス)
太陽神、アポロンから授かった弓。
引き絞れば引き絞るほどにその威力を増す。赤のアーチャー自身の筋力はDランクだが、渾身の力を込め、限界を超えて引き絞ればAランクを凌駕するほどの物理攻撃力を発揮することも可能。

【人物背景】
トロイア戦争の発端はパリスがアカイアの后へレネーを奪ったことから始まった。
へレネーはメネラーオスが死後エリュシオンに行くために必要な巫女として愛の無い結婚をされ、虐待を受けてしまう。
パリスはこれを救うのは当然の理として、目の前で泣く彼女を見捨てることができず、連れ出したが、それが状況を悪化させる事となった。
押し寄せる大軍。率いるは数多の英雄達。
トロイア軍総大将ヘクトールが勇戦し、良く敵を支えるが、アキレウスによりうたれてしまう。
パリスはアポロンの加護を得てアキレウスを射殺すも、ヘラクレスの弓と矢を持参したピロクテーテースに毒矢を射られ、救いを求めてイーデー山に登るも、拒まれて死んだ。
その後のトロイアの運命を知っており、ヘクトールの死も含めて、全ての責は己に有ると知りながらも、幸を得る事なく死んだヘレネーの為に、パリスは聖杯を求めるのだ。
今のパリスならば、例え己の愚行を責める事なく受け入れた、敬愛する兄であるヘクトールが相手であっても、僅かの躊躇もせずに矢を射る事だろう。

【方針】
聖杯を取る。手段は選ばない。
パリスは近接戦闘が不得手の為狙撃に徹する。

【聖杯にかける願い】
ヘレネーに幸福を


【外見】
身長165cm・体重65kg
外見はFGOのヘクトールを童顔にした感じ。
ヘクトールのものと同じ鎧を身に着けている。


417 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:34:38 o7kAABL60
【マスター】
劉豪軍(リュウ・ホージュン)

【能力・技能】
戴天流:
中国武術の二つの大系のうちの一つ、『内家』に属する武術大系。
型や技法の修練に重きを置き、筋肉や皮膚など人体外部の諸要素を鍛え抜く武術大系である『外功』と対になる武術大系。
外功の“剛”に対する“柔”であり、力に対する心気の技である。体内の氣が生み出すエネルギー“内勁”を駆使することにより、軽く触れただけで相手を跳ね飛ばしたり、武器の鋭利さを増したり、五感を極限まで研ぎ澄ましたりといった超人的な技を発揮するほか、掌法と呼ばれる手技により、掌から発散する内勁によって敵にダメージを与えたり治癒能力を発揮したりもする。
内家功夫は外家功夫より修得が難しく、その深奥に触れうるのはごく一握りの者しかいない。
敵手の“意”を読んで、“意”より遅れて放たれる攻撃を払う事で、“軽きを以って重きを凌ぎ、遅きを以って速きを制す”事が可能となる。
攻撃に際しては、意と同時に刃を繰り出す“一刀如意”の境地により、通常は意に遅れて刃が放たれる為に可能となる事前の察知を、この境地により知ることは不可能としている。
劉豪軍は絶技に開眼してはいないが、練達の武人であり、修得した戴天流の武功は、宝具の効果により、極めた者の其れを遥かに凌駕する。
内功を充分に練らなければ使用だが、内勁の込められた刃が齎すは因果律の破断。凡そ形在るもの全てを斬断する。
サーヴァントという超常存在に対しては効き目が鈍り、鈍刀で斬った様な結果を齎す。つまりは満足に斬れない。


紫電掌 :
特異な練気法で内剄を電磁パルスに変え、掌打として相手の体内に直接撃ち込む対サイボーグ用の絶技。
テクノロジーが戦いの在り方を変えて行く中で、先古の武術体系が生み出した新たなる “功”
生身の徒手空拳でサイボーグを葬る殺戮の絶技(アーツ・オブ・ウォー)
対電磁防護を施された戦闘用サイボーグの神経を瞬時に焼き切る電撃は、生身であっても致命打となる。


黒手裂震破 :
内功掌法の絶技。胸への一撃で五臓六腑を破裂させる。
撃たれると胸に黒い手形が付く。


轟雷功 :
特異な練気法で内剄を電磁パルスに変えて放出、電子機器を焼き切る技。


内功:
呼吸法により丹田に気を練り、全身に巡らせて、森羅万象の気運の流れに身を委ねる技法。
身体能力や五感を向上させる。
使うと内傷を負い、内臓や経絡に損傷を齎す……が、セイバーは義体により内傷を負う事が無い。
この技法を用いねば、戴天流はその真価を発揮しない。
内功は魔力の精製に当たると考えれば、サーヴァントにも有効だろう。


軽身功:
踏み込みの際の瞬発のタイミングと重心移動が根底から異なり、腿を膝を腰を稼働させる腱と筋と血流のリズムを“把握”し“同調”させるだけの集中力によって肉体を駆使する事で人体の運動能力の常識をも覆す技巧。
その速度は複数の残像を伴いながら間合いを詰め、複数人数から同時に攻撃されたと誤認させる程。
床のみならず壁や天井すらも足場として駆け抜け、空を飛び交う自動車ですらもを足場として用いることを可能とする。
劉豪軍にとって、間合いとは存在しないに等しいものである。



義体:
生前の躰であった史上初の内剄駆動型義体の試作品。
人体を完全に再現した義体であり、経穴まで存在する。
この為内功を駆使できるが、義体そのものの性能は、生身より多少丈夫というだけである。
人造器官の強度とパワーで駆使する内功は、内傷を負うことも肉体の限界に縛られることも無い、全ての流派を過去の遺物と劉豪軍に言わしめる究極の義体
内傷の心配無く内剄を巡らせ続ける為に、内傷を負う事なく気を巡らせ続けられる。
絶縁体で構成されている為紫電掌ですら無効化する。
しかし、首筋だけは接続端子がある為電撃が通る。


418 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:35:18 o7kAABL60
【weapon】
レイピア:
只の鋼だが、内家剣士が用いれば、万象断ち切る魔剣と化す。

【人物背景】
望むならば世界の全てを手に入れる。そう思うほどに愛した妻が実際に愛していたのは自分ではなく実の兄というどうしようもない悲劇。
「兄を愛してるけど、兄は自分が幸せだと本気で思ってるから、自分の思いには気付いて貰えない」
「だから地獄に落ちた自分の姿を見せて、兄を振り向かせたい」
と妻が望んだので、実際に妻を地獄に落として、義兄で有り弟弟子でもある主人公に、妻の気持ちに気づかせようとした。
取り敢えず主人公にマカオで重傷負わせて、妻を仲間四人に輪姦させる。その後妻の脳内情報を全部吸い出して、五体のガイノイド(人間の脳内情報を入力したアンドロイド)に五分割して入力。
そして妻そっくりのガイノイドを自分の手元に置き、残りの4体は仲間に分ける。
うち一人は義兄の事を嫌っていて、女を嬲り殺すのが趣味というロクデナシだが、妻が望んだ事なので無問題。
自分は妻そっくりのろくに反応を返さない人形をひたすらひたすら愛でる。
端麗を模したガイノイドの肌に5mm傷付けられた程度で、傷付けたメイドを原型無くなる力で殴り殺す程にに愛している。
義兄が戻ってくると、仲間四人はおろか、自身が属する組織すらも妻への贄として義兄により壊滅させる。
最後は荒涼と荒れ果てた妻の邸宅で義兄である主人公と決戦。恨み言まじりにネタバレかまして主人公を精神的に嬲りながら刻み殺そうとするも、
絶技に開眼してい主人公と相打ちになって死ぬ。
最後の最後まで主人公に呪詛を吐いていた。
通常アーチャーとして召喚されるパリスがアヴェンジャーとして召喚されたのは此奴の性格と引き合った所為。

CV
鈴置洋孝(旧) 速水奨(新)


【方針】
聖杯を取りに行く、手段は選ばない。義体の仕様上損傷を治す術が無いので無理は禁物。
アヴェンジャーは近接戦闘が不得手の為、マスターである豪軍が戦い、アヴェンジャーが後方から支援を行う事になる。

【ロール】
某チャイニーズマフィアの京都支部のトップ
部下は当然の様に使い潰す

【聖杯にかける願い】
瑞麗に幸を

【参戦時期】
原作終了後


419 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:37:08 o7kAABL60
投下を終了します


420 : Nihil difficile amanti. ◆/sv130J1Ck :2018/01/21(日) 19:54:04 o7kAABL60
武器欄をこちらに訂正します

【weapon】
天穹の弓(ポイポス)
太陽神、アポロンから授かった弓。
引き絞れば引き絞るほどにその威力を増す。赤のアーチャー自身の筋力はDランクだが、渾身の力を込め、限界を超えて引き絞ればAランクを凌駕するほどの物理攻撃力を発揮することも可能。
妹であるアルテミスと同じくアポロンも弓を良くする為に、アルテミスの加護を受けた女狩人アタランテと宝具と武具を共有する。


421 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/22(月) 17:53:49 YJLbUa8A0
感想を投下します。

>Neo-Yakuza for Sale
 なんだこれは、(京都の治安が)壊れるなぁ……。
 思わずそんな感想をこぼしてしまいそうな、笑いが出るほど暴力的にかっ飛んだお話でした。
 セイバーについてはこのお話を読むまで知りませんでしたが、調べてみたところとんでもないの一言に尽きる人物ですね。
 そんな彼を召喚したのが、とにかくハチャメチャな人物であることが経歴から容易に伝わる将造であったのは所謂見合い召喚なのか……。
 彼らの聖杯戦争がどう進んでいくにしろ、その過程でとんでもない数の犠牲が出そうです。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>Nihil difficile amanti.
 アキレウスを射殺したヘクトールの弟、その悲哀がよく描かれていたと思います。
 冒頭のソリッドな文体による戦闘描写も見事でしたが、やはり印象的だったのは豪軍とパリスの語らいでしょうか。
 どちらが英霊か分からないほど的確な言葉を放つ豪軍と、それに少しずつ触発されていくパリス。
 その過程と、変容の様子が凄く丁寧に描かれている辺りに、氏の筆力の高さを感じました。
 どちらも行動原理は愛、されど捻れを抱えた愛情。その愛がどこへ至るのかは、今後次第ですね。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


422 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:15:44 ZYDDud4s0
感想ありがとうございます。もう一つ投下させていただきます。


423 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:16:33 ZYDDud4s0

艶やかなブロンドヘアを持つ、青と黒の基調を持つアフタヌーンドレスを着こなす一人の女性。
彼女も聖杯戦争に導かれ、サーヴァント・キャスターのクラスで召喚された。
通常、古き良き伝統ある町並・京都が光景として広がっている筈が。
キャスターが召喚された矢先に、存在していたのは京都市内の何処なのだろう。
しかしされど、京都ではない。京都と隣接するようで、京都内にも関わらず『どこでもあって、どこでもない場所』。


俄かに信じがたいのだが、キャスターが至ったのは虚数領域だった。
実在を保てない亡霊染みた者が集う空間に、途方もなく馬鹿馬鹿しい虚数の塊――怪物が居る。
虚数領域に、実在するかも怪しい。むしろ自己認識が困難を極める空間に。
一体どのような猟奇思考を以てすれば、人智を超えたこのような怪物をぶちこめるというのだ。

更に加えて。
これが最もキャスターが頭を抱える程に呆れて、理解不能な、それこそ虚数らしく『ありえない』話なのだが。
虚数の怪物こそ、キャスターのマスターだった。
厳密には、虚数の怪物に溺れた『誰か』一人がマスター。
怪物を構成する虚数とは、英数字の集合体ではない。尋常ではない生命の集合と膨大な情報、記録、知識……それら含めて。



詳細に述べれば『三百四十二万四千八百六十七』+虚数の生命体。



以上の情報量を取り込み抱えた怪物が、虚数の生命体を取り込んだせいで自己認識できなくなったという。
やっぱり、一見すれば間抜けな有様。自分で自分がどうしようもなくなった哀れな状態だ。

キャスターは察していた。
多分、もしかしなくても怪物の中心に座して、怪物を産み出した救いようのない哀れな『馬鹿』こそが
自分のマスターに違いない、と。
そんな馬鹿を、虚数で消してしまおうと冴えない勝利を収めた相手も、途方ない『馬鹿』であろう。
虚数の怪物にキャスターが触れるだけで、静寂の水面に水滴一つ垂らされた風に、動きが発生した。


「聞こえる? マスター」


無感情かつ淡白な声質で問いかけるキャスターは、異常でもあった。
このような怪物を前にして。
むしろ、自己認識が危うい虚数領域で召喚されたにも関わらず、彼女は凛と希薄な存在を保ち続けていた。
まるで彼女自身が『虚数そのもの』のように。


424 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:17:00 ZYDDud4s0
キャスターの声に怪物が反応した。膨大な虚数の集合体が蠢いている。
音に反応したのではなく。
もっと、異なる理由でリアクションを起こしたかも不鮮明だ。
否。必要不要な過程報告は特出するべき部分じゃない。キャスターは学者や科学者、それとも魔術師めいた冷酷さで告げる。


「貴方を『浮上』させてあげる。だから貴方の名前を教えて」


怪物が蠢く。騒音・音色よりかは人間の聴覚では聞き取れない超音波のような何か。
キャスターには、確かに『声』として『言語』として理解出来た。
その上で、彼女は無表情かつ感情ない凍てつく言葉を発する。


「それでは駄目。それは――貴方の名前……『真名』ではないわ。真名は重要。私達サーヴァントと同じ」


怪物は憤りや動揺とも受け止めれるような静止を行う。
もう対話の必要もないと、拗ねた子供の様子にキャスターは呆れながらも続けた。


「きっと貴方は名前を捨てたつもりなのでしょうね。でも貴方の『真名』はまだ生きているわ。
 それは私が貴方を証明し、正確な認識に必要不可欠なのよ」


キャスターは彼女自身に確固たる信念を抱いた様子なく、単純に言葉を選んでいた。


「……前提として、貴方は聖杯に興味もないのね。
 残念だけど、聖杯『戦争』は始まる。貴方がやり投げてしまっても逃れられない。これも一つの『運命』」


すると怪物は笑った。
何故だか、急に歓喜興奮し、愉快そうな様子で語る。


『そうか、そうなのだな。全くどうしようもなく恐ろしい馬鹿共がここにも居る。そして「戦争」がしたいと』


一体どこが可笑しいのか。
キャスターの眉間にしわが寄せられて、くっくっと怪物が先ほどとは別人のように。
いいや。
怪物の中、唯一の、キャスターのマスターたる存在が言う。


『ならばこそ戦争だ。お前が望む真名を告げてやろう』


瞬間。
曖昧で不安定な虚数領域より一騎のキャスターと、一人の化物が急浮上し。
ようやく『京都』へと至った。


425 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:17:27 ZYDDud4s0




京都は良くも悪くも落ち着き、平凡で退屈な、平穏たる時間を浪費し続けている建て前を偽っている人間もチラホラ居る。
不浄と無常とが入り乱れた。混沌らしかぬ吐き溜まりと化している。
美しき古典や美しさを着飾った欲望が犇めく町に、一体の怪物が現れた。
ヒトの形をしているだけで、直ぐに無辜の住人達の視線を集束させるほど。

ど派手な赤コートにゾッとする白き肌と、滑らかな髪と赤い瞳を持つ異国人。
一周回って美しくも、不気味にも、人によって感性は異なるが、無視してはおけない存在だ。

当然の話。
男の風貌を装っている怪物は、観光しに人里へ降りてきたのではない。
戦争。
血で血を洗う闘争。
英霊による非現実能力を行使した神秘と魔術に溢れた、されど暴力と無常で蹂躙する『戦争』が。
夢物語か都市伝説のような『聖杯戦争』が、この京都の地で行われようとしている。

ぞろぞろとした視線から離れ、小動物すらいない市内から離れた位置で、漸く怪物は口を開いた。


「なんのつもりだ。キャスター」


霊体化を解除したサーヴァントは、至って平静を装っているが鉄仮面の表情を歪ませている。
大男の怪物と比較すれば、キャスターが圧倒的に低身長で。
少女風の体型と顔立ちにも関わらず、風貌は一人前な大人のソレだった。


「監視よ。吸血鬼である貴方にとっては受け入れ難い状態だけど
 例えるなら貴方は絶対安静、全治数カ月程度では収まらない重傷患者ってこと。本当に余計な真似はしないで」


吸血鬼。
現代社会に生きる人間ならば紛れも無く、この世で最も強い生命の空想として挙げる代表のような生物。
しかしかながら、確かに吸血鬼が重傷もとい病を負っているのは、些か想像つかない。
不可解な状態に陥った。よりも、不可解な状況へ陥るまで途方なく、どうしようもない吸血鬼が。
キャスターのマスターである不死王と恐れられた『アーカード』だ。
むしろ、彼こそが英霊として召喚されるべき存在であろう。
対し、キャスターは無表情のまま。


「現時点まで自己観測に問題がなければ、私の魔力消費も安定の域にあるわ。
 私がもう一つの宝具を使用しても、支障に来さない。気分はどう? ■■■……いえ『伯爵』」


426 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:17:45 ZYDDud4s0
一瞬。アーカードの眼差しに憤りを感じ取ったのか、キャスターは訂正する。
しばし凍てつくような間があった後、アーカードは言う。


「成程。つまり私が闘争する余裕はあると」


「全然違うわ」


「どこが?」


「貴方一人だけなら良いのよ。問題は貴方が取り込んだ命の方。あまりに膨大で、私の宝具による処理は追いつかないわ」


兎に角。キャスターが放つ忠告は変わらず


「絶対に戦わないで頂戴」


この一言に尽きる。
しかし、戦争屋の闘争狂たるアーカードに『戦うな』とは無理の効かない命令だ。
全く以て、どうしてマスター側にサーヴァントを制御する令呪があるのに。
サーヴァントの方にはマスターを制御する令呪がないのだろう。
と、聖杯戦争システムの根本に不満を抱くキャスター。
虚数領域に至れ、英霊としての素質を持ち、そして彼女の正体こそは―――


「キャスター。クィンティッルス」


そうアーカードが呼ぶ。


「マルクス・アウレリウス・クラウディウス・クィンティッルス。お前に聖遺物が必要だというのかね」


「あるわ。貴方の呪いを解くのに必要よ」


キャスター・クィンティッルスは意図も容易く述べた。
自らの望みではなく、マスター……アーカードの願いを叶える為でもない願い。
効率と経済的に導いた結論を。






427 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:18:10 ZYDDud4s0
クラウディウス・ゴティクス。
かつて神として讃えられたローマ皇帝が一人。彼に弟が居たのだが、それこそが『クィンティッルス』であった。


マルクス・アウレリウス・クラウディウス・クィンティッルス。
兄の亡き後。ローマ皇帝となった彼……否、実際は『妹』であり『彼女』に関する記録は矛盾に溢れていた。
少なくとも僅かな期間のみ、皇帝になり。それは僅か1年にも満たない。
日本の総理大臣が辞任するよりも早くに殺されたとの記録があったりなかったりするが。
前述にもある通り、矛盾めいた記録に信憑性など皆無だ。


どの歴代皇帝の中でも曖昧で不確定で矛盾と信憑性の無さは
最終的に『実在したのかすらあやふや』との逸話に昇華されたのである。


確かな事実は――

彼女は冷徹に聡明な判断力を持ち合わせていたが、皇帝の座についたのはローマの為、後継者に相応しい者を探す
『その場凌ぎ』の代理だった。本人は表裏なく権力や名誉に興味なく、であっても、彼女の才は優れており。
見る者によっては『皇帝に相応しい精神性』が確かにあった。
全うに政治を行い、皇帝たる姿勢を顕わにすれば、余計に命を狙われる事もなかっただろう。

簡単に言えば――彼女は善良かつ『お人よし』だった。


お人よしでなければ、その場凌ぎの皇帝職を継いだりしないし。
ましてや、虚数に溺れたどうしようもない化物すら救わないのだから。







「貴方はヒロイズムな人間信仰がお好みらしいけど、現実的じゃないわ。
 一体全体、どれほどの確立で虚数を打破する人間が現れるというの」


クィンティッルスの物言いは悪印象もあったが、彼女は至って普通の提案を差し出しているのだ。
聖杯を用いてアーカードに取り込まれた虚数を取り除く。
むしろ、この面倒な化物はそれが叶った方が良い。
虚数が残り続ければ、死のうと思えば死ねるし。生きようと思えば生きられる。
聖杯で解決出来なければ、常に曖昧不定形な存在であり続けなければならない。
だが吸血鬼は笑う。


「それでも私は幾度も死んだ。人間によって殺される宿命なのだ」


明確に呆れたクィンティッルスの目立つ溜息を余所に、アーカードの顔は少し歪む。


428 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:19:16 ZYDDud4s0

「『聖骸布』『聖杯』『千人長の槍』………『エレナの聖釘』」


「……?」


「奇跡の残骸など『ロクでもない』。奇跡の残骸で奇跡の残骸と成った男を、私は知っている」


吸血鬼はどこか、遠く彼方の、故郷の思い出を語る口ぶりだった。
哀愁と空虚を僅かな間だけ表情に浮かべたそれは、紛れも無くかつて人であった証拠である。
やがて、相変わらずの狂気混じりの雰囲気を漂わせるアーカード。


「この戦争(宴)の主催者を、どうしようもない馬鹿共を滅ぼしてやるとも。
 私が呼ばれ、私を導いたのならば、この私が相手してやろう」


要するに、売られた喧嘩は有難く買う。
有象無象の区別なく、この吸血鬼は戦争を闘争という蹂躙でかき乱すだろう。


「だから安静にしてて」


というクィンティッルスの突っ込みなど耳に入れずに。





【クラス】キャスター

【真名】クィンティッルス@史実

【属性】秩序・善


【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A 幸運:E 宝具:???


【クラス別スキル】
道具作成:EX
 クィンティッルスの性質上『実在しないもの』を作り上げる事が可能。
 この聖杯戦争に参戦していない英霊の宝具すら、材料と魔力と時間を要すれば産み出せる。
 残念ながら、現在魔力に余裕ある状態ではない為、このスキルを生かせない。

陣地作成:E++
 魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作成可能。
 クィンティッルスは非常に曖昧かつ、実在しない領域を産み出す事が可能。
 例えばホテルの客室を一つ増やしたり、一つ二つ新たに席を用意したり。


429 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:19:43 ZYDDud4s0
【保有スキル】
皇帝特権:D
 一時期、仕方なく皇帝となった事で会得したスキル。
 本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで短期間だけ獲得できる。

非干渉の箱猫:B
 クィンティッルス自体があやふやな為、通常の感知では彼女を捉える事も不可能。
 『気配遮断』とは異なり、所謂存在感が薄い。居たんだ?と驚かれるほど。
 生前から存在の薄さはあった模様。彼女の才の一つとも言える。

情報抹消:C
 対戦終了後、目撃者と対戦相手の記憶に影響を齎す。
 決して完全に情報が消失する訳ではなく、クィンティッルスの存在があやふやで。
 実在するのか?という前提から曖昧になってしまう。
 スキル『非干渉の箱猫』と合わさって、実質彼女に関する記憶は希薄となる。


【宝具】
『何処にも居ないが、何処かに居た者達(シュレディンガー・ワールド)』
ランク:E〜A++ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜1000 最大捕捉:500人
この世に実在・存在しえないモノを産み出す、あるいは召喚する宝具。
神秘性のある竜や妖精、小人やエルフ……それらは無銘のレプリカではあるが、クィンティッルスは使役が可能となる。
また『実在しない』の抜け穴を利用すれば、太古の時代に存在したが絶滅した恐竜を含めた絶滅種も含まれる。
魔力負担の関係上、神秘性の薄い恐竜系統の召喚が手軽らしく。
基本的には大小様々な恐竜を召喚し、攻撃・移動・偵察を行う。


『虚数肯定演算式』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
自己観測の平衡感覚を揺るがし、強固な自我を持たない英霊や人間であれば、自分が認識できず。
虚数の塊となって、世界から消失するだけではなく、英霊の座にすら至れず彷徨う必殺の一撃。
クィンティッルスが対象に接近し、直接触れなければ発動しない危険性と
対象となる者の精神によって成功率は左右される為、一か八かのギャンブル宝具。

通常は前述のような使用法をするが、現在はその真逆。
アーカードを虚数の大海からサルベージし、自己観測の感覚を保護している。
事実上、この宝具は他の対象に発動不可能な状況である。

勿論、クィンティッルスが宝具を解いたり、クィンティッルスが消滅すればアーカードは再び虚数に飲み込まれる。


【weapon】
杖:道具作成のスキルで産み出した独自のもの。
  彼女の身の丈よりも長い柄に、先端は地球儀っぽい構造球体がある。
  球体は英数字(主に数式に使用されるもの)で構成され、常に蠢いている。
  球体を取り囲むように円形の金属製フレームがある。
  通常攻撃は球体の先端で蠢く英数字が対象に接近し、物理的な攻撃をする。


430 : 虚数皇帝(虚数工程) ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:20:14 ZYDDud4s0
【人物背景】
マルクス・アウレリウス・クラウディウス・クィンティッルス。
270年の一定期間だけローマ皇帝として君臨した矛盾と謎と出鱈目に満ち溢れた女性。
神として祀られローマ市民に愛された彼女の兄、クラウディウス・ゴティクスの方が遥かに有名である。

亡き兄の後継者探しの間だけ皇帝の座につくつもりだったが命を狙われ。
歴史の舞台の裏側へと逃げ込み。政治とは無縁な場所で余生を過ごした。
刺客から逃れる知恵や行動力が十分過ぎるほど手際よく、実際に彼女は政治活動をほとんど行わなかったものの。
皇帝――そうでなくとも、指導者の才は優れていた。命を狙われたのも、その片鱗があったせいである。

クィンティッルスに関する記録に矛盾が満ち溢れているのは、単純に記録の不備ではなく。
彼女自身が根回し等を行い、自らの痕跡を隠蔽し。信憑性ある情報を潰し。
結果、矛盾まみれの証拠しか残らなかった。
矛盾めいた不確定な存在こそが『逸話』として昇華され。
やがて『どこかにいるのに、どこにもいない』存在自体があやふやな者として虚数の海へと沈んだ。

無表情でクールな女性。生前から存在感のない空気めいていた。
マスターが生きた虚数の化物であろうが、戦闘狂だろうが、吸血鬼だろうが怯まず淡々と付き合う精神力を持つ。
感情に乏しく、しかしながら善良な心は確かにある。
お人よしでなければ、兄の死後。仕方なく皇帝になったりしないし。
どうしようもなく哀れで虚しく救いようのない不死王を助けようとも考えない。


【容姿・特徴】
ウェーブのかかったブロンドロングヘア。瞳は緑目。無表情で感情に乏しい。
外見は中学生ほどの童顔と若さ。身長も140あるか怪しい。
青と黒を基調としたフリルがあしらわれたアフタヌーンドレス。スカートの丈はくるぶし以上、裾が床につかない未満。


【聖杯にかける願い】
アーカードから虚数を取り除く。




【マスター】
アーカード@HELLSING


【聖杯にかける願い】
なし。
ぶっちゃけ、戦争の方が興味ある。主催者を滅ぼす。


【人物背景】
自分を自分で認識できなくなり、生きてもいないし、死んでもいなくなった。
虚数の塊となって世界から消失してしまった吸血鬼。


【能力・技能】
猟奇的な吸血鬼の能力。暴力的な命のストック。
普段は青年の姿だが、幼女になったり、ジジイになったり。髪の毛の長さまで変わる忙しい変身能力。

マスターにも関わらずアホなほど強いが、
虚数の呪いを抱えている為、クィンティッルスの宝具なしでは自己認識すら出来ない。
また、命のストックを消費したり、馬鹿みたいにわざと攻撃くらって死んだり。
使い魔の犬を出現させて遊ぶなど色々やらかせば、クィンティッルスの魔力消費がハンパない事になる。
パソコンが発熱してオーバーヒートするようなもの。

調子乗ってアーカードが戦い続ければ、両者自滅の結末を迎えてしまう。
5分間戦えれば、大分マシな方。令呪を消費すれば、もうちょっと戦える筈。
クィンティッルスの宝具の効果を得た状態なので、皮肉にもサーヴァントに攻撃が可能である。

要するに、戦わないで大人しくして下さい。お願いします。


431 : ◆xn2vs62Y1I :2018/01/22(月) 23:20:44 ZYDDud4s0
投下終了します


432 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:32:18 nrYu/gJM0
投下感謝します!
感想はもう少しお待ちください。

投下します。


433 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:33:10 nrYu/gJM0


 白昼の京都に流星が轟いた。
 天にて屈折し、地へ降り注ぐ神秘の星。
 日常の裏側から着々と表側の世界を食い潰しつつある〝かの儀式〟について無知な者達は、この光をそう認識したことだろう。

 だが言わずもがな、現実は違う。
 これは星などではない。
 一つのヒトガタが擲った、一振りの槍である。
 本来は刺突武器であるところの槍を敢えて投擲することで、武器そのものに込められた神秘を外部出力しているのだ。
 無論、そんな真似は人間の手ではまず不可能。
 必然的に、この流星を作り出した者は、人外の存在であるということになる。

 サーヴァント。
 男はそう形容される存在であった。
 人類史に刻まれる偉業を成した、誉れも高き無双の英雄。
 今は時空を超えて仮初の主の下に現界し、主の願いを叶えるべくこうして戦いに明け暮れている。
 願い持つ召喚者(マスター)達と、彼らの呼び声に応え英霊の座より馳せ参じたサーヴァント達による血塗られた戦い。
 ――聖杯戦争。それが、この古都を舞台に繰り広げられている儀式の名だ。

 サーヴァントは人間の規格を超えている。
 曰く、英霊一体の戦力は戦略爆撃機にも匹敵するという。
 そんな存在が意思を持って武力を振るってくるのだから、人間ではまず敵わない。
 槍兵(ランサー)のクラスで現界した彼は、誰にでも胸を張って己の強さを誇ることの出来る極限の強者だ。

 サーヴァントであるからという、それだけの理由ではない。
 彼自身が生前に積み重ねた研鑽、踏んできた場数、成し遂げた功績。
 その全てが今、力となって彼を支えているのだ。
 弱い筈がない。これで弱いと謗られるなら、世界中に強者の形容を受けるに足る者が一体どれだけ存在するのだ、という話になってしまう。

 だが。

「――弱いな、お前」

 傲岸不遜に、そう吐き捨てる者があった。
 英雄と相対する、巌の如き肉体の巨漢が声の主だ。
 その身長は、敵の倍ほどもある。
 三メートルオーバーというどう考えても現実的でない身長は、この男が人間由来の英霊ではないということを如実に物語っていた。

 英雄が目を瞠る。
 バカな、とその口が動く。
 英霊の癖に情けないと貶すのはあまりに酷だ。
 巌の巨人が彼の必殺に対して行った行動を見れば、誰であれ彼と同じリアクションに到達する。
 もしも例外があるとすれば――この巨人と同じレベルの化け物か、敵の力を理解出来ない頭抜けた馬鹿かのどちらかである。

「ランクはB……いや、B+というところか。
 見た目だけは美麗だが、しかしそれだけよ。
 武具は落第、そして振るう貴様も落第さな。
 これしきの技、儂(オレ)の軍では一兵卒でも当たり前に使うていたわ」


434 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:33:35 nrYu/gJM0

 巨人の右腕には、盾が握られていた。
 彼は先程、敵サーヴァント……ランサーが放った宝具真名解放による投擲をこれで受け止めた。此処までは、良い。
 問題はその後だ。真名解放の一撃を受け止めておきながら、一体どれほど力が余っていたのか。
 おもむろに受け止めた腕に力を込め、盾を振り抜けば。

 野球で言うところの場外ホームランのように、ランサーの得物を遥か彼方まで〝打ち返して〟しまった。

 彼方の空に消えていく自分の得物を、ランサーはただ見送るしか出来ない。
 やがて彼の口から、絞り出すような声が漏れた。
 「……何者なのだ、お前は」。それは事実上、英霊としての敗北宣言にも等しい。
 自分にはお前の底は推し測れない。正体に、見当も付かない。
 言わずもがなそれは屈服だ。自分はお前より下だと、認める行い。
 そうしてでも、ランサーは……無双を誇った英傑は知らねばならぬと思った。

 己を完膚なきまでに圧倒し、誇りの一投をゴミのように吹き飛ばし、未だ無傷で君臨するこの暴君が何者なのか。
 それを知らぬまま敗残者として舞台を去るなんて、それこそ己の矜持が許さない。
 何者なのだ、お前は。何故にそうも強い。何故に、それほど恐れを知らぬ。

 その問いかけに、巨人は獰猛な笑みを浮かべて答えた。
 盾を握った右腕を天高く振り上げながら――握った盾を機械細工のように、全く別な武器へと変形させながら。

「神だ」

 巨人は名乗った。
 己を意味する言葉を、堂々と。
 聖杯戦争のシステム上、神霊が呼ばれることなどあり得ない。

 だが、この巨人を前にすれば理屈抜きに納得してしまう。
 少なくとも、ランサーはそうであった。
 ああ、そうか――神であったのか、この男は。
 そんな納得のままに、これから訪れる運命を受け入れてしまった。

 英雄が見せた潔さ。
 彼は負けを認め、それを承服した。
 その決断に対し巨人が示した反応は――

「……相手が悪かったと諦めるのか。
 己の誇りが、研鑽が、芥子粒のように磨り潰されようとしているというのに。
 貴様は、拳を握ることもせんのか」

 心からの、失望であった。
 笑みは消え、隠そうともしない軽蔑の色が双眼に宿る。
 業火のような紅を宿した瞳は、しかしながら一切の熱量を持っていなかった。
 ぞわりと、英雄の背筋が凍る。歯の根が合わず震え出す。
 敗北を認めたのだから恐れるものなど何もない筈なのに、目の前の巨神が恐ろしくて堪らない。


435 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:34:03 nrYu/gJM0

 心からの、失望であった。
 笑みは消え、隠そうともしない軽蔑の色が双眼に宿る。
 業火のような紅を宿した瞳は、しかしながら一切の熱量を持っていなかった。
 ぞわりと、英雄の背筋が凍る。歯の根が合わず震え出す。
 敗北を認めたのだから恐れるものなど何もない筈なのに、目の前の巨神が恐ろしくて堪らない。

「道理で弱いわけだ。口では英雄を名乗りながら、その性根は匹夫のそれであったとは。
 ――お前、もう二度と英霊の座から出撃(で)て来るなよ。
 闘争を司る者として、戦火を愛する一戦士として、実に不愉快だ」

 振り上げた右手の武器は、戟と呼ばれるそれに変化していた。
 戟を扱う武人といえば、やはりかの呂布奉先が一番に挙げられるか。
 呂布は方天画戟というこの戟の派生武器を握り、数多の敵を薙ぎ払って群雄割拠の時代にその武勇を轟かせた。
 しかしながら、呂布奉先も、その他凡百の武将達も、元を辿ればこの巨人が成した功績の恩恵に預かっているに過ぎない。
 それは何も、戟の使い手に限った話ではない。
 戦斧、盾、弓矢。誰もが当たり前に握ったそれらの武器は、全て一人の神の発明品なのだ。

 中華神話にて語られる原初の反乱者。
 戦神にして軍神。偉大なる黄帝が心底恐れ、殺した後ですら一瞬も油断を見せなかったという恐るべき暴力装置。
 戦乱を愛し、戦乱に愛された男。理想郷の破壊者。人類発展の礎たる、闘争の理を象徴する存在。
 
「――『戦神五兵(ゴッドフォース・プロトタイプ)』。雑魚は雑魚らしく、惨めな屍を晒すがいい」


 ――その真名を、蚩尤。六の腕を持ち、魑魅魍魎の軍勢を統べる兵主神である。
 
 
 蚩尤の一閃は空を切り裂く。
 そして、愚かな槍兵の身体を頭頂部から股にかけて両断した。
 その余波のみで地面が裂け、木は千切れ、空を飛んでいた小鳥が八つ裂きになって地面に墜ちる。
 更に言うなら、腰を抜かして見ていることしか出来なかったランサーのマスターも、ついでのように斬殺死体に変えられていた。
 痛みを感じる暇もなく天に召されたのは、せめてもの救いだったと言えよう。
 彼らは感謝するべきだ、蚩尤が加虐の趣味を持っていなかったことに。
 否――彼が今、その必要性を感じていなかったことに。


436 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:34:31 nrYu/gJM0




 
「……手応えがない。総じて、ぬるい。
 聖杯を持ち帰る為の作業工程とはいえ、あまりに退屈が過ぎるわ。
 こんなものかよ、人類史。こんなものかよ、聖杯戦争。
 世界は儂の想像以上に、糞にもならん腑抜けで溢れ返っているようだな」

 蚩尤に話は通じない。
 蚩尤に理屈は通じない。
 蚩尤に情は通じない。
 蚩尤に、常識は通じない。

 この荒ぶる神はそうした諸般の軛の外にある存在だ。
 冗談のように強く、冗談のように単純で、冗談のようなことしかしない。
 そのことは、彼がマスターを伴うことなく単独で戦いを行っているという事実からも察せるだろう。

 そも、蚩尤は召喚のプロセス自体を踏んでいないのだ。
 誰もが等しく通るべき行程を丸ごとパスして此処に存在している。
 無論、聖杯戦争を仕組んだ者達が狙って呼び出したわけでもない。
 ではどうやって、この傍迷惑な神格は異界の聖杯戦争に割り入ったのか?
 答えは単純明快。それ故に、いっとう悪夢じみている。

 ――単独顕現。

 誰かに召喚されるのではなく、自ら現世に顕れるスキル。
 彼はそれを用いて聖杯戦争へ割り込んだ。
 招かれざる客として、堂々と扉を蹴破って。
 聖杯を取るのは儂だと、挨拶代わりの蹂躙を振り撒き出したのである。

 ……とはいえ、流石に何十という平行世界の因果が混線した都へ押し入るのはさしもの彼でも至難だった。
 結果的に成功こそしたものの、蚩尤の霊基は大きく劣化し、本来のクラスからも外れてしまっている。
 平たく言えば弱体化しているのだった、今の蚩尤は。

「だが、管を巻いても仕方のないこと。
 どうせやらねばならぬのなら、楽しんだものが勝ちよ。
 まだまだ戦争も序盤。弱者と腑抜けの淘汰が進めば、あの黄帝めに肉薄する強者も出て来るやもしれん。見限るには、ちと早計だな」

 蚩尤は何も嗜好品として聖杯を求めているわけではない。
 彼もまた、願い抱く者の一人なのだ。このナリと、この性格で。

 彼には誰にも譲れない願いがある。
 そして彼は、自分の願いこそ最も尊く切実なものであると確信していた。
 聖杯を使わなければ、全知全能の神でもない限り決して叶えられない理想。
 創り出したい景色。成し遂げたい――勝利(リベンジ)。


437 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:34:55 nrYu/gJM0

「儂は蘇ったぞ……黄帝よ。我が唯一無二の好敵手よ」

 蚩尤は、再戦がしたいのである。
 かつて自分を激戦の末に破り、処刑した男。
 偉大なる黄帝と再び相見え、今度こそあの男を破りたい。
 しかし黄帝は不死身ではない。蚩尤が朽ちたように、黄帝もまた時代の流れと共にこの世を去った。
 そして恐らくは英霊の座に登録され、安らかな時を過ごしているのだろう。

 それでは困るのだ。
 まず黄帝には、己と同じく現世に蘇ってもらう必要がある。
 もう、お分かりだろう。蚩尤の願いとは――黄帝の受肉。
 自分を打ち負かした好敵手を、聖杯の力で蘇らせることに他ならない。

「儂とお前の戦が不格好なものであっていい道理はない。
 武器も、軍勢も、全て儂が揃えよう。望むならば現代に雌伏した神秘も引きずり出して来よう。
 その上で――心置きなく再戦と洒落込もうではないか!
 星の全てを巻き込みながら、空前絶後の大戦争を楽しもうぞ!!」

 たとえそれで地上の全てが更地になろうと、構わない。
 慣れ親しんだ得物から現代の戦場を席巻する兵器の山、核爆弾なる大量殺戮兵器、その全てを使った決戦を始めるのだ。
 戦争などという言葉では足りない。

 ――大戦争を。
 ――どちらかが斃れるまで終わらない、史上最大の大戦争を。

 それこそが、蚩尤の願い。
 零落した獣が持つ、恋する生娘のように純粋な願望だ。
 それだけに救いようがない。
 混じり気のない純粋な願いは歪まない。
 蚩尤が京にある限り、その願いが揺らぐことはあり得ない。

 これはまさしく全ての英霊にとっての悪夢。
 七十二の宝具を持つ闘争の化身は、高らかに哄笑の音色を響かせた。


438 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:35:20 nrYu/gJM0


    ▼  ▼  ▼


 闘争――それは人を殺す。文明を壊す。
 積み上げてきたものを真っ平らに変えて、ゼロの地平を作り出す悪徳だ。
 土地の奪い合い、宗教間の対立、果てには個人同士の諍いから。
 人類は数え切れない回数の闘争を繰り返してきた。
 人の歴史は、闘争の歴史だ。そう断じたとして、一体誰が異論を唱えられようか。

 
 しかしながら、目を背けてはならない。
 人を育ててきたのは、常に闘争であった。
 闘争は人に教訓を与え、技術を与える。
 人類は闘争から幾度となく恩恵を受け取ってきた。
 ゴミのように散乱する人命と引き換えに、多数の幸福を成り立たせてきた。
 

 蚩尤は弱者を嫌うが、人類の可能性を愛している。
 かつて黄帝が自分にしてみせたように、人にはどんな強大な壁も打ち壊す力が備わっていると信じている。
 闘争から生まれる勝利、敗北、犠牲――その他あらゆるものを糧にどこまでも強くなれる生き物であると、確信すらしているのだ。


 以上の本性を以って、彼のクラスは決定される。戦の神など偽りの名。
 其は人間が倣った、人類史を最も肥え太らせた大災害。
 その名を――――


【CLASS】ライダー

【真名】蚩尤

【出典】中国神話

【性別】男性

【身長・体重】350cm・325kg

【属性】混沌・悪

【ステータス】

 筋力A 耐久A 敏捷C 魔力A++ 幸運C 宝具EX

【クラス別スキル】

 対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、魔術ではライダーに傷をつけられない。

 騎乗:EX
 軍神としての特権。
 戦乱のある場所を仔細に感知し、流れに乗り損ねるということがない。
 戦の波を乗りこなすという特性故にランクは規格外。
 性質としては、戦乱限定の高ランク千里眼に近い。


439 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:36:04 nrYu/gJM0

【固有スキル】

 神性:A+
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
 サーヴァントに型落ちしているとはいえ、ライダーは最高ランクの適性を持つ。

 単独顕現:E
 単体で現世に現れるスキル。並行世界や時間逆行等の攻撃にも耐性を持つ、いわば運命即死耐性。
 ライダーはそもそもこのスキルによって聖杯戦争に参戦している為、マスターを必要としない。

 獣の権能:D
 とあるクラスのスキル。対人類、とも。そのクラスの時はAだが、ライダーに変化するとDランクまで落ちる。

 ネガ・アルカディア:A
 争いのなき世界を、絶対に実現させない存在。
 秩序属性と善属性のサーヴァントに与えるダメージが常に上昇し、〝戦闘を行わせない〟スキルや宝具の全てを自動で無効化する。

 反骨の相:EX
 中華神話において、初めて反乱という行為を行った存在とされる。
 相手が保有するカリスマや魅了などのスキルをランクに関わらず完全に無効化する。

 魔力放出(気象):A+
 黄帝との戦いで用いた気象操作能力。
 桁外れの魔力を自在に放出、操作して〝天〟を味方に付ける。
 霧、煙、雨、雷と手札の数は非常に多いが、唯一太陽光を操ることだけは出来ない。

 勇猛:A
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

【宝具】

 『武神蚩尤七十二柱(エルダーフォース・ウォーゴッド)』

 ランク:EX 種別:概念宝具 レンジ:不定 最大捕捉:不定

 ライダーには、自身と全く同じ姿・技を持った72人の兄弟が居たとされている。
 だが、これは間違い。彼らはライダーが自身の闘争心を72等分に切り分け、分離させ、一つ一つの塊に命と人格を吹き込んだ戦闘人形(オートマタ)に過ぎない。
 これらは今はライダーの内へと戻り霊基と合一化しているが、〝72の兄弟を率いた逸話〟と五大兵器を開発した〝武器の創造主としての権能〟が混ざり合うことで、一つの凶悪な概念宝具として成立するに至った。
 ライダーは任意で英霊の座に登録されている英霊を選択し、その宝具を自身の武器として使用することが出来る。一度登録した宝具は聖杯戦争が終結するまでの間、魔力さえあれば何度でも使用可能。
 ただしEXランクの宝具は選択出来ず、それ未満のものでも、用途が攻撃以外の宝具は登録しても扱えない。これはあくまで蚩尤という神が戦神、闘争を司る神格である為。
 また、宝具に付随する追加効果が発動するか否か、その効力がどの程度かはライダーと元の所有者の相性によって決定される。この相性はライダーの完全な主観で決まるから質が悪い。
 登録できる宝具の限界数は彼が作り出した人形の総数と同じ72。一度登録した宝具は削除出来ず、スロットが埋まってもその上から上書きして別な宝具を使う、といった芸当も不可能。更に特筆すべき点として、聖杯戦争が行われている時代、舞台となる世界に持ち主が存在する宝具はそもそも選択不可能となる。
 間違いなく反則級の性能を誇る宝具だが、ライダーはステータスの通り非常に高いステータスを持つサーヴァントである為、低ランクサーヴァントの宝具を持ち出そうが自動的にトップサーヴァント級の出力となるなど性能に一切穴が存在しない。偉大なる武器を生み出し、大いなる闘争を司る神が保有する〝人類史の弾薬庫〟。
 
 『戦神五兵(ゴッドフォース・プロトタイプ)』

 ランク:A+ 種別:対人・対軍・対城宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:1〜50人

 ライダーが開発したとされる五つの兵器群。
 彼は神としての姿では六本の腕を持ち、その全てにそれぞれ異なる武器を持っていたとされる。
 サーヴァントとして現界した彼は二本の腕しか持たない為、それに合わせて武器の形状も変化。
 デフォルトでは戈の形を取っているが、彼の意思一つで戟、鉞、楯、弓矢に変形する。
 状況や敵に応じて使い分けることでライダーは常に膨大な選択肢を有し、そこから極限の技量を以って繰り出される攻撃はいずれも敵にとって恐るべき脅威となる。
 真名を解放することで対軍宝具としての威力を発揮。五種全ての性質を内包した大火力砲撃を行い、敵陣を殲滅する。
 余談だが、自由自在に形態を変化させるマルチプルウェポンというコンセプトは彼が一から考え出したものではなく、さる超軍師がとある英傑の為に考案した中華ガジェットの仕組みを参考に再設計したものである。本人曰く、『是非とも儂の傘下に加えたい頭脳とセンス』らしい。


440 : 武器よ、来たれ ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:37:44 nrYu/gJM0

【マテリアル】

 蚩尤。中国神話に登場する軍神。銅の頭に鉄の額を持ち、人の身体に牛頭と鳥蹄が備わっているという。
 中国神話における最初の〝反逆者〟であり、五兵と呼ばれる兵器を開発した武具の祖でもある存在。
 その性格は勇猛の一言に尽きる。いかなる苦痛も障害も無視して、全部終わらせた後でようやく後ろを振り返るたぐいの人物。
 だが善性の存在では決してなく、戦いに無辜の民を巻き込もうが一切斟酌しない。それで相手が憤り、更に力を増すなら喜んで虐殺に走る。
 古代中国の帝であった黄帝から玉座を奪うべく帝楡罔の代に乱を起こし、自身の漲る闘争心を外部に出力することで生み出した72体の兄弟と数え切れないほどの魑魅魍魎を率いてかの皇帝と戦った。
 互いに手を尽くしての激戦の果て、蚩尤は黄帝に敗れて処刑されたが、黄帝は蚩尤が蘇って再び戦を仕掛けてくるのではないかと恐れ、彼の首と身体を遠く離れた別々の場所に埋めさせたという。
 彼の行動原理は闘争。全てはそれに集約される。黄帝に反乱を起こしたのも、実は彼と後先を考えない総力戦がしてみたいからというだけの理由であった。
 そんな気性は処刑されてなお微塵も変わっておらず、それどころか敗北の味を知ったことでより一層闘争への欲求が高まっている始末。
 彼は好き勝手に聖杯戦争を荒らし回るだろうが、その最終目的は唯一無二の好敵手・黄帝との再戦。聖杯を使ってお互いが過去、現在、未来から取り寄せた至高の兵器と軍を有する状態を作り出し、その上で空前絶後の大戦争を行う気でいる。もちろん、黄帝の意思は聞いていない。
 今回の聖杯戦争では単独顕現スキルによりマスター無しで現界。複数世界の因果が混線した京都に入り込む負担は大きく、霊基の劣化とクラスの強制変更というある種の損傷を負っている。その為、前述した神としての異形の姿ではなく、人間に近い姿と身なりでの現界となっている。

【Weapon】

 『軍神五兵(ゴッドフォース・プロトタイプ)』

【外見的特徴】

 くすんだ黄金色の逆立った頭髪が特徴的な、人外じみた背丈の巨漢。
 肉体は巌のように引き締まっており、軽く小突いただけでも鉄が罅割れる。
 両肩部分にそれぞれ牛の頭蓋骨があしらわれた、真紅の外套を着用。

【聖杯にかける願い】

 黄帝を蘇らせ、互いに最高の戦力を持った状態で、空前絶後の大戦争と洒落込む


441 : ◆FROrt..nPQ :2018/01/25(木) 21:38:03 nrYu/gJM0
投下終了します。


442 : ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 21:50:04 LAECWY2A0
投下します。


443 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 21:52:15 LAECWY2A0




コツ、コツ、コツ、コツ。

夜の京都。月の下、人気のない道を歩く影が一つ。
外套を羽織り、白い息を吐く。街灯の光を外れ、少し暗い場所へ踏み込む。

「!」

突然、その首が転げ落ち、血が噴き出す。悲鳴さえあげられぬ。
瞬時に手足、胴体までも切断され、バラバラ死体が道に転がる。……顔を見れば、まだ若い女。

「あは、あはは。ダメでしょォ、女の子がこんな夜中に一人でうろついちゃァ。いくら日本の治安がいいからってさァ……」
笑いながら、ぬるりと暗闇から現れたのは……きわどいチャイナ服に白い肌を包んだ、うねるように長い黒髪の女。その胸は豊満だ。
蛇のような銀色の瞳を輝かせ、うっとりした表情で女の死体を見つめている。
「あはッ、いい手応え。殺るならやっぱり若い女の子に限るわァ」

彼女が持つのは日本刀。この京都の町に似つかわしい、美しい刃物。犠牲者の血液は刃に吸い込まれ、魔力に変換されていく。
彼女は人斬り。『アサシン』のサーヴァント。魂を喰い魔力を増すため、いわゆる辻斬りをやっているというわけだ。
刃をペロペロと舐めつつ、しばし斬殺死体の転がる美しい光景を堪能する。なんたる至福か。

「うーん、美味しい。さ、そろそろ死体も食っちゃわないとね。可愛いマスターが待ってるわ」
そう言ってアサシンが死体に近づいた、その時。


444 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 21:54:24 LAECWY2A0

「!?」

脛に痛み。さっきの娘の生首が、自分の脚に噛み付いている! アサシンは眉根を寄せ、鼻で笑う。そんなこともあろう。誰かのサーヴァントか。
「おやおやァ、しっかり殺ったと思ったのにィ。不思議な娘。アンデッド(死に損ない)ってヤツかしら」
生首を蹴り飛ばし、空中で脳天唐竹割り。脳漿が飛び散る。……だが、生首は転がりながら再び切断面をくっつけ、叫ぶ!
「痛い、痛い、痛いニャァ! この恨みハラサデオクベキカ、ニャ!」

驚くべし、生首の白いボブカットの上には、細長い猫耳が伸びている。瞳は碧く輝き、口には牙。頬には傷。
「あらあら、猫娘さんなのねェ。猫の命は九つあるとはいうけれどォォ」
「九つだけで済むと思ったら……大間違いニャ!」

なんたることか。バラバラ死体が、筋肉や血管や神経を伸ばし合って繋がり、むっくりと起き上がる。
外套や衣服は切り裂かれ、筋肉質な褐色の肌が剥き出しだ。お尻には尻尾。生首はまだ地面を転がっている。
「シャア!」
首なしの体が両手の爪を伸ばし、アサシンに襲いかかる! 皮膚が破れて関節が外れ、筋肉が伸びて間合いを伸ばす! だが、アサシンは難なく避ける。
「何やら魔力の匂いはするけどォ、アンタ、サーヴァントじゃあないね。変なマスターか、魔術で召喚されたモンスターってとこ?」
「GRRRRRR!」

猫娘が猛り狂う! アサシンは涼しい顔でくるりと後ろを向き、刀で背後からの攻撃を弾く!
「ウフフ。多分こいつがサーヴァントってワケね。猫チャン」
『GRRRRRRRR!!』
少し離れた位置に音もなく着地したのは、真っ黒い大型肉食獣。上半身は異様に筋肉質な女だ。獣人か。兇暴な爪牙、膂力、敏捷性。強烈な魔の匂い。
「こっちから先に仕留めてあげる。貴女のその不死身さ加減、操り人形だからかしら?」

アサシンは状況判断し、右掌から衝撃波を放って襲い来る猫娘を吹き飛ばすと、くるりと反転。再び飛びかかる獣女めがけ必殺の一閃を放つ!


445 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 21:56:30 LAECWY2A0

「かはッ……!」

だが、アサシンの背中を何かが貫く。背中から胸へ抜け、飛び出したのは、槍。猫娘が投げた武器か。それも宝具。どこにしまっていた……!
『まだくたばるでないぞ。血肉と魔力を喰らってくれるゆえ。GRRRRRRRRRRRR!!!』
空中ブリッジで一閃と槍を躱した獣女が、そのまま縦に回転。言葉を発し、黒く鋭い牙でアサシンの喉笛に喰らいつく。さらに爪で胸を引き裂き、心臓、霊核にかぶりつく。
「ARRRGGGHHH!!」
刀を含めた、アサシンの全身全霊が獣女に貪り食われ、消滅する。猫娘は身体に首をくっつけ、ストレッチしてなじませる。
やれやれ、だいぶ血を流してしまった。槍を拾い上げ、胸に柄から突き刺し、しまい込む。破れた服も拾い上げる。瞬く間にそれは修復される。

「んもー『ランサー』、しっかり見張って守っててニャ。私が不死身だからいいけど、普通のマスターならさっきので脱落ニャ!」
『スマンスマン、どれだけお前が不死身か試したくてのう。まあ普通のマスターでないから、よいジャないか』
獣女はニタリと笑い、路上に流された血液を啜り終えると、猫娘と共に暗闇へ姿を消した。―――後には何事もなかったように、月夜の照らす静かな道。



国際文化観光都市、京都。年間観光客数は5500万人、うち外国人は日帰り・宿泊合わせて600万人を超え、1兆円以上の観光収入がある。
彼女はそんなありふれた外国人観光客、長期滞在者の一人として、京都に来ていたのだが……ここが自分のいた世界でないことに、ふと気づいた。
頭に猫耳が生え、お尻から尻尾が伸びる。細マッチョな体に傷跡が浮かび上がる。彼女の名は、『ミス・フォーチュン』。

「聖杯……要は、スカルハートと似たようなもんだニャ……!」
とある格安ゲストハウスの一室。和室に敷かれた布団に座り、頬杖をついて彼女は考え込む。彼女の世界に伝わる神秘的アーティファクトの伝説を思い起こす。
「聖杯が本物なら、フィッシュボーン・ギャングの皆を生き返らせることも……! でも……!」

スカルハートは女性の願いしか叶えてくれないし、願いが純粋でないなら、歪んだ形で叶えてしまう。
そして願った本人は、『スカルガール』というバケモノに変えられてしまうという。聖杯がそんな呪われたアイテムでないとは限らない。
わざわざ異世界から参加者を呼び寄せ、呪術じみた殺し合いによって獲得させるようなものが、まともなものであろうはずはない。


446 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 21:58:31 LAECWY2A0

【何を躊躇うか。お前の望みが確実に叶うのジャぞ】

念話が届く。彼女のサーヴァント、ランサーだ。フォーチュンの周囲に姿は見えない。霊体化しているわけでもない。
先程互いに挨拶は済ませた。フォーチュンは胸に手を当て、呟く。

「……他の参加者の望みを絶ち切るのは、しょうがないニャ。英霊だけ倒せばいいなら、殺しにはならないニャ。
 でも私には、聖杯の効果が疑わしいニャ……。もし聖杯を使って、代償に破滅や危険がもたらされたら……」

彼女の肉体には、神秘的なアーティファクト「ライフ・ジェム」が溶け込んでいる。完全なる不死身をもたらすそれは、しかし、彼女を幸福にはしなかった。
これを巡ってマフィアとギャングの殺し合いが起き、育ての親のフィッシュボーン・ギャングたちは皆殺しにされた。
今彼女が生きているのは、幸運だ。偶然ライフ・ジェムを飲み込んだため、肉体が変質したのだ。それでも痛みは感じるし、気絶もする。
年は取るのか、病気や寿命で死ねるのか、子供は産めるのか……わからないことだらけだ。わかっているのは、これで復讐が可能になったということだけだ。

【迷いは戦いの勘を鈍らせる。迷うな。迷いを捨てて、戦いに専念するのジャ】
「迷いがあってこそ、強くなれるニャ。迷いが全くないのは、狂人やゾンビや機械だけニャ……」

彼女は孤独だ。ユーワンやミネットもここにはいない。友達を作るのは得意だが、ここは騙し合いと殺し合いの戦場。
いつ何時背後から襲われ、友達になった人を巻き込むかもしれない。フォーチュンは拳を握りしめる。

「ランサーは、神様なんだよニャ? 死人を生き返らせることは、出来るのかニャ?」
【わしは混じりっけなしに神ジャが、死人を生き返らせることはようせんのジャ。ゾンビやスケルトンにならできるのジャが】

暢気そうに話すランサー。彼女がいるのは、フォーチュンの豊満な胸の真ん中。小さな黒い鏡として貼り付いている。
彼女の真名は……『テスカトリ・ポカ(煙を吐く鏡)』。メキシコのトルテカ文明やチチメカ諸族、アステカ帝国において崇拝された創造神。
戦争と夜と魔術、死と破壊と悪行の神。世界に混乱と変化と自由をもたらすトリックスター。その聖獣・化身がオセロトル、ジャガーである。
神代ならぬ現代、偉大な神たる彼女が直接地上世界に介入することは出来ない。そのため分霊となり、こうしてマスターに取り憑いているわけだ。


447 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 22:00:40 LAECWY2A0

【だいたいおぬし、一個しか無い特効薬の効果が疑わしいなら、どうするのジャ?】
「試してみるのが一番ニャ!」
【それでよい。万事なんとかなるものジャ。禍事があってもそれはそれ。わしがなんとかしてやるわい】

自信満々のランサーの言葉に、フォーチュンは少し安心する。全知全能ではないにせよ、自分のサーヴァントは神様なのだ。だいぶ邪神寄りだが。
「わかったニャ。今はひとまず、聖杯を獲得するために動くニャ。けど、調べてみて、ダメそうだったらぶっ壊す。それでいいニャ?」
【待て待て、壊すことはないジャろ。わしの望みを叶えさせてくれ!】
「何がお望みニャ? 世界征服とか人類絶滅とか、ヤバいお願いならお断りだニャ。事と次第によっては協力するけど……」

ランサーは黒曜石の鏡の中で胡座をかき、考え込む。はてさて。
【うーむ……わしの真の望みは、ケツアル・コアトルと決着をつけることジャ! あのアバズレと、東から来た白い連中のせいで、随分苦しめられたものジャ。
 とはいえ、わしらはオメテオトル(双子の神)。互いがおって世界の秩序が保たれておるのも事実。十字架のオッサンもその母親も土着化しとるし、今更帰れとも言えん。
 ……そーーージャのう、言われてみれば、何を願ったもんかのう? 血肉や心臓なら、英霊オンリーとは言え、この戦場で喰えるしのう……】
「まあ、追い追い考えればいいニャ。闘いが好きなら、たっぷり闘えばいいニャ」

ぐっと伸びをし、フォーチュンはベッドから起き上がる。……なんだか、身体がムズムズしてきた。ランサーの仕業か。
「ランサー、外出したいのニャ? 私、寒いから寝床で丸くなりたいニャ……」
【わしも寒いのは苦手ジャが、基本的に夜行性なのジャ。魔力で保温してやるゆえ、ちょいと夜道を散歩しようぞ。コンビでの戦い方も試したいしの】
「面倒なことになりそうだニャ……。私の服が破れたら、魔力で直してニャ!」

貴重品を身につけ外套を纏うと、フォーチュンは窓を開け、ひらりと夜の街へ飛び出す。さあ、狩りの時間だ。




448 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 22:02:37 LAECWY2A0

【クラス】
ランサー

【真名】
テスカトリ・ポカ@中米神話

【パラメーター(化身)】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力A++ 幸運B 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
対魔力:A++
ランク以下の魔術を完全に無効化し、逆に反射or吸収する。事実上、魔術で傷をつけることは出来ない。

【保有スキル】
女神の神核:B
生まれながらにして完成した女神であることを現す、神性スキルやカリスマを含む複合スキル。精神系の干渉をほとんど緩和する。
アステカ神話における創造神の一柱であり、ケツアル・コアトルの対立者。シヴァやスサノヲにも類似する創造と破壊の神。
そのまま現界すると世界が滅びかねないので、相応に霊力を弱めて分霊化し、宝具を介してマスターに取り憑いている(疑似サーヴァントではない)。
『クァウティトラン年代記』には「トランの宰相(王)ウェマクを陥れるべく、尻の大きな女に変身して同棲した」という話があるので、女体化しても問題はないですやんか。

悪神の智慧:EX
トリックスターにして文化英雄、夜と闇と魔術の神としての偉大なる叡智。幻術や呪術、変化などのスキルを内包する。

自由なる闘争:EX
創造と破壊の神として、世界に絶え間なき混乱と変化と自由をもたらさんとする傍迷惑な情熱。
同ランクの「反骨の相」スキルにも相当し、令呪による命令やカリスマ等を無効化するばかりか反射する。根っからのケンカ馬鹿であり、狡猾な妖術師でもある。

吸血:A
吸血行為と血を浴びることによる体力・魔力吸収&回復。ランクが上がるほど吸収力が上昇する。吸血鬼というわけではないのだが、人身御供を好む。
若く美しい人間の血を飲み心臓を喰らうのが好きだが、マスターが嫌がるので敵サーヴァントの血肉を飲食するにとどめている。

オセロトル:A
自らの聖獣(ナワル)である黒いオセロトル(ジャガー)の化身を出現させる。ちょっとずんぐりむっくり。上半身は筋肉質な裸の獣女。口からは黒くて臭い毒ガスを吐く。
「暗き密林の顎(ジャガー・アイ)」「怪力(ジャガー・キック)」「ジャガーの加護(ジャガー・パンチ)」を兼ね備え、マスターにも付与する。
「森」のフィールドにいる時に各種判定にプラス効果を加え、攻撃力が上昇し、必要以上の恐れや痛みを感じなくなる。化身を破壊されても本体にダメージはない。


449 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 22:04:37 LAECWY2A0

【宝具】
『時に煙る黒曜の鏡(テスカトリ・ポカ)』
ランク:EX 種別:神性宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:100

彼女の真名を冠し、霊核を埋め込んだ御神体。マスターの胸に埋め込まれており、黒煙を吹き出して敵の目を晦ます。
「千里眼」及び「気配遮断」スキルをAランクで所有していると同等の効果があり、相手が千里眼などでこちらを観測するのを防ぐ効果もある。
さらに魔力攻撃を吸収or反射する。これを破壊しない限り彼女の霊核を砕く事は出来ない。神性特攻持ちなら普通にダメージが通ってしまう。

『朱に染まる黒曜の槍(テペヨロトル・テポストピリー)』
ランク:B 種別:対人-対城宝具 レンジ:1-300 最大捕捉:1000

ランサーである所以の宝具。彼女に仕える戦士団「ジャガーの戦士(オセロメー)」が振るった石槍。マスターに振るわせることも可能。
長い木製の柄の先に、樹脂を用いて黒曜石の刃を埋め込み、薙刀状にしたもの。相手を掠め切るようにして使用する。
神の宝具であるため強度は高く伸縮自在。吸血スキルとの合わせ技により、敵が流した血液を吸って魔力に変換出来る。
ジャガー神テペヨロトル(山の心臓)として、地面に突き刺して霊脈に働きかけ、局地的な地震や火山噴火、洪水を起こすことも可能である。

【Weapon】
宝具である石槍。マスターの肉体を強化して戦わせるほか、ジャガーマンならぬオセロトルレディとして仮現し共に戦うことも可能。
卓越した幻術により変幻自在。指先から蜘蛛の糸を射出して移動したり、背中から蝙蝠の翼を生やして飛翔したり、肋骨を伸ばして敵を突き刺したりできる。

【神物背景】
メキシコ中央高地のトルテカ人やチチメカ人に崇拝された大神。テオティワカンの網目ジャガー神、ユカタンのカウィール神、キチェ人の嵐の神フラカンや黒曜石の神トヒルに相当する。
その名はナワトル語の「鏡(tezcatl)」と「煙(poca)」から成り、「煙を吐く鏡」あるいは「曇った鏡」を意味する。テスカ・トリポカやテスカポリトカではない。
通常は黒い肌の戦士として描かれ、顔に黒と黄色の縞模様を塗り、片足は魔術に用いる黒曜石の鏡に置き換えられているが、片足が蛇で胸に鏡が置かれている場合もある。
大英博物館には、人間の頭蓋骨を黒曜石や翡翠、トルコ石などで飾り立てた、この神を表したとされるマスクが所蔵されている。

この神は複雑な性格と多くの異名(異相・化身)を持ち、モヨコヤニ(全能者)、ティトラカワン(我らは彼の奴隷)、イパルネモアニ(我らを生かしている者)、
トロケ・ナワケ(傍らにいる者の王)、イルウィカワ・トラルティクパケ(天と地の所有者)、ナワルピリ(高貴な魔術師)、チャルチウ・テコロトル(尊いフクロウ)、
チャルチウ・トトリン(尊い七面鳥)、ヨワリ・エエカトル(夜の風)、ネコク・ヤオトル(双方の敵)、ヨワリ・テポストリ(夜の斧)、オメ・アカトル(二の葦)などとも呼ばれる。
戦争と夜と魔術の神であり、性格は奔放、気紛れかつ好戦的で人身供犠を要求し、貴族・戦士・呪術師・盗賊を守護し、死と破壊と悪行をもたらす。
一方では卑俗で親しみやすい神でもあり、気に入った者には繁栄と富貴と名声を授ける。また夜になると辻をうろつき戦士たちに挑戦するが、打ち負かせば願いを叶えてくれるという。
妻は大地と水の女神アトラトナン、塩の女神ウィシュトシワトル、豊穣の女神シローネン、花の女神ショチケツァルの四柱で、愛欲と浄化の女神トラソルテオトルとも関係が深い。


450 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 22:06:34 LAECWY2A0

創世神話によれば、この神は至高神オメテオトルが産んだ四柱の神々の一柱で、ケツアル・コアトルや雨の神トラロック、犠牲の神シペ・トテックとは兄弟とされる(諸説あり)。
神々が世界を創造した後、テスカトリ・ポカは太陽神となり、巨人族を地上に住まわせて統治した。やがてケツアル・コアトルが反逆し、テスカトリ・ポカを棍棒で天空から叩き落とした。
水中に落ちたテスカトリ・ポカは巨大なオセロトル(ジャガー)に変身して陸に上がり、巨人族を皆殺しにすると、太陽神になっていたケツアル・コアトルを天空から蹴り落とした。
この時、人類の多くは風で吹き飛ばされてしまい、生き残った人々は森に逃げて猿になった。そこでトラロックが第三の太陽神となり、世界を治めた。
だがケツアル・コアトルは天から火の雨を降らせて人々を焼き殺し、トラロックを引きずり下ろした。生き残った人類は七面鳥になった。
第四の太陽になったのは、トラロックの妻である水神チャルチウィトリクエだったが、テスカトリ・ポカが大洪水を起こして世界を滅ぼしてしまい、人類は魚に変えられた。
テスカトリ・ポカは一組の夫婦だけは木の洞に隠して救ってやったが、彼らが魚を勝手に食ったため怒りを発し、犬に変えてしまった。
これらの後、神々は協力して世界を再建することにし、崩れ落ちた天を持ち上げた。だが大地は海の底に沈んでしまっていた。
そこでケツアル・コアトルとテスカトリ・ポカは、海を泳ぐ巨大なワニの怪物トラルテクトリと戦い、蛇に化身してこれを引き裂き、大地を創造した。
この時の戦いでテスカトリ・ポカは片足を食いちぎられてしまい、代わりに鏡(あるいは蛇)をつけたのだという。

その後はケツアル・コアトルが神話の主役となり、テスカトリ・ポカは影に隠れてしまうが、10世紀にケツアル・コアトルの化身とされたトルテカ王トピルツィンを破滅させるため突然姿を現す。
蜘蛛の糸を伝って天空から降りてきたテスカトリ・ポカは、呪術師に変装して王に近づき、鏡に王の老いた姿を映して憂鬱にさせた。そして憂さ晴らしに酒を飲ませ、王の姉妹と近親相姦させた。
続いて「暁の如き全裸の美青年」に変身し、宰相ウェマクの娘婿になった。彼は戦争で活躍して人望を集めたが、宴会で呪いの歌を歌い、客人たちを踊り狂わせて崖から飛び降りさせた。
さらに奇術師に化けて市場の人々を集め、将棋倒しにさせて殺した後、民衆を煽って自分を殺させた。するとその死体が腐敗して悪臭を放ち、嗅いだ者を全て殺した。
王は嘆き悲しんで王宮に火をかけ、蛇の筏に乗って東方の海の彼方へ去っていったという。こうした神々の争いは、実際には信者同士の争いを表すともされる。

トルテカ文明が北方のチチメカ人の襲来で滅亡した後、テスカトリ・ポカはチチメカ人にも崇拝され、都市国家テスココでは主神として崇められた。
またチチメカ人の一派であるクルワ・メシカ族の国、すなわちアステカ帝国においても、民族神ウィツィロポチトリらと並んで篤く崇拝され、王権の守護神とされた。
彼の祭礼は第五月トシュカトルに催され、神の化身として一年間の栄光を受けた若者が生贄に捧げられた。第九月のミクカイルウィントントリ、第十五月のパンケツァリストリも祭月である。
スペイン人到来後にキリスト教が布教されていくと、テスカトリ・ポカは闇の精霊である悪魔とみなされ、その神話や伝承は歪められた形で伝えられた。

気紛れで快楽主義的な神の分霊。ケツアル・コアトルやジャガーマンが女体化したことだし、女っ気が少ないのでノリで女体化した。語尾は「ジャ」。
キャスター、バーサーカー、アヴェンジャー等の適性もある。光に弱いわけではないが、夜や暗闇の方が好き。

【サーヴァントとしての願い】
考え中。今のところは闘争や殺戮、食事が出来ればそれでいい。

【方針】
弱そうなサーヴァントを狩っては喰らい、魔力を高めつつ優勝を狙う。手強そうなら策略を仕掛けて脱落させる。


451 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 22:08:34 LAECWY2A0

【マスター】
ミス・フォーチュン@スカルガールズ

【Weapon・能力・技能】
『パルクール』
猫めいた俊敏な動きで飛び跳ねる。運動神経はよい。

『硬質化』
耳や尻尾など体の一部を硬質化させ、武器として用いる野性的な特殊能力。手足の爪や牙も攻撃に使う。普段はランサーが幻術で隠している。

『不死身』
ミステリアスな宝石「ライフ・ジェム」を飲み込み消化したことで獲得した、完全なる不死身の肉体。
痛みはしっかり感じるものの、肉体をどれだけ破壊されても死ぬことはなく、自ら切断・分離させて独自に行動させるトリッキーな戦法を使う。
傷跡はある程度残るし、衣服は修復しない(サーヴァントに修復させることは可能)。不老なのか、寿命でも死なないのか、代償があるのかは不明。
サーヴァントによる加護もあるが、相当に痛めつけられれば気絶はする。生きたまま封じ込められたりすればどうしようもない。

【人物背景】
Ms. Fortune。米国産対戦格闘ゲーム『スカルガールズ』のプレイヤーキャラクターの一人。本名はナディア・フォーチュン。職業は盗賊。
英語版でのCVはキムリン・トラン、日本語版でのCVは花澤香菜。褐色の肌で白髪ボブ、碧眼、猫耳と牙と尻尾を持つ猫娘の盗賊。語尾は「ニャ」。
年齢20歳、11月24日生まれの射手座。血液型はB。身長173cm、体重58kg。B86・W58・H86。ブラのサイズは32B。
好きなものは友達をつくること、日向での昼寝、下手なジョークを聞かせること、金持ちから奪うこと、恵まれない人に与えること、
子犬、フィッシュボーン・ギャングとユーワンのレストラン、バレーボール、ボウリング、ゴルフ、パルクール、飲茶、ポテトチップス。
嫌いなものは弱い者いじめ、騒音、有袋類、メディチ・マフィア、ブラック・ダリア、警察、寿司、レモネード。

キャノピー王国ニューメリディアン市リトル・インスマウス地区出身。ダゴニアン(魚人)の盗賊団「フィッシュボーン・ギャング」に拾われて育った。
しかし王国の裏社会を仕切るメディチ・マフィアから「ライフ・ジェム」を盗み出そうとして失敗し、メンバーは無残な死を遂げた。
ナディアもマフィアの女殺し屋ブラック・ダリアに身体をバラバラにされたが、ライフ・ジェムを飲み込み消化してしまったことにより、完全な不死身を獲得していた。
死んだふりをして生き残った彼女はリトル・インスマウス地区に身を潜め、魚人ユーワン&ミネットのレストランで世話になりつつ、仲間の復讐のために機をうかがっている。
元いた世界は現代地球と遜色ない程度の(超科学等もある)文明世界で、日本に相当する地域から来たマンガやアニメも存在するが、テレビゲームは存在しないらしい。


452 : Manifest Destiny by Misfortune ◆Lnde/AVAFI :2018/01/27(土) 22:10:28 LAECWY2A0

【ロール】
イタリアからの観光客。とある格安ゲストハウスでアルバイトしながら長期滞在中。懐具合はそこそこ。

【マスターとしての願い】
フィッシュボーン・ギャングの皆を生き返らせて欲しい。けど……。

【方針】
京都観光をしつつ、サーヴァントだけ倒して優勝し、聖杯を獲得する。協力できる主従とは協力する。

【把握手段・参戦時期】
原作でのストーリー開始前。詳しくは公式サイトやwiki、Youtubeとかを参照下さい。



投下終了です。


453 : ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:14:26 ZvGF5o7.0
投下します。


454 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:15:05 ZvGF5o7.0



「■■■■」


 ――真後ろから、名前を呼ばれたような記憶がある。
 しかし、その記憶は、後に思い出そうとするたびに全く違った色合いを伴ってしまう。
 女の声だったような気もするし、男の声だったような気もする。
 始めての失恋のように懐かしく胸を刺激ものとして思い出される時もあれば、まるで他人事のようにひどく淡泊なものとして思い出される時もある。
 だから、それが実際の記憶だったのか、それともただの夢や作り上げた空想の記憶なのか、オレにはもうわからない。

 その時でさえ曖昧だったのだ。
 それから先、あまりにも時間がたちすぎてしまった。
 そう、途方もないほどに、時間がたちすぎてしまった。


「あん?」


 とにかく――その時。
 オレは、それを聞いて振り返ろうとした瞬間、すさまじい形相のそいつを見る事になる。

 そいつは、武器を持っていた。殺意があるのは、次の瞬間矢じりをオレの指先に掠らせた機敏な動きですぐにわかった。
 オレにも、持ち合わせた武器がいくつかあった。矢、斧、槍――後でそう呼ばれる類の武器だ。ただ、この時はまだあまり洗練されていない鉄くれに過ぎなかった。
 とにかくオレは、憮然としつつもそいつを必死に振り回して、何度かそいつを軽く傷つけたが、何分地の利が悪すぎた。
 オレはあまり自由に動けない場所に立って、背中を取られたまま、必死に身動きを取るようにしてそいつに抵抗していたのだ。


 ――しかし、なぜ。


 そう思った。
 なぜ、そいつはオレの命を狙ったのか? ――それは、その時もまたわからなかった。
 ただ、疑問だけが湧いた。


「くっ……!」


 打撃はオレの首筋へと至った。鋭い何かが、オレも気づかぬうちにそこを射止めていた。
 直後に、冷ややかな線が首筋に走り、凄絶な痛みと刺激に襲われていく。
 手で触れると、鮮血がオレの手にこびりついた。
 それはとめどなく流れ続け、オレを焦らせた。血が止まらないのがわかる。


「ァ……――な、…………ぜ…………」


 そうしてオレは、力を失いそこに倒れた。
 すぐに体は動かなくなった。
 目の前で残雪が朱色になって溶けていく。

 大河が轟音を立てているそばで、オレはそいつがそこにいるのか、もう消えたのかもわからないまま寝そべっていた。
 首元に残る鈍痛と、冷えていく体、遠ざかっていく意識。


 ――冷たい。


 そう感じた。
 溶けた残雪のかたまりが、木々に持たれるのをやめてオレの身体に圧し掛かったのだ。
 オレの視界は完全に闇に包まれた。全てが冷たい雪に覆いかぶさった。
 それから、オレの姿を探ったものがいたとして……オレを見つけられる者はいないだろう。


455 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:15:41 ZvGF5o7.0


 遂に、オレは完全にその命を絶った。


 生まれてから死ぬまで、あらゆる喜びと悲しみを繰り返した。
 幾人が帰ってこられなかった山を友と登り、共に生還した日も。
 我が誇りたる父の死も、愛する母の死も。
 命と命のとり合いや狩りに出されても、ほとんど死ぬような状況であれ生き抜いた数十年も。
 ただ穏やかに過ごした、平和な一日一日も。

 そして、どうあれ明日も生きていくはずだった。
 そんなオレの人生にトドメを刺した何者か――。
 それは、最後の瞬間、怒りや憎しみ、痛みや悔しさ――あらゆる感情と同時に、ぷっつりと記憶の外に外されてしまった。


 ――誰が、何故、俺を殺した。


 今はただ、それだけが知りたい。
 これだけ時間を隔てても――いや、隔てたからこそ尚更――オレの胸にお前への憎しみはないのだ。
 だから、オレはオレの為に、お前の名だけ知りたいのだ。
 オレの人生にピリオドを打った、そいつの名前さえ知る事ができれば、それで満足なのだ。

 ただ一人の人間として、それを願うのは罰当たりか?
 今より先、世界が滅びるまでどれだけの人間が生まれ死んでいくかはわからないが――その一人として、己の死を飾ったその真相を知りたいと思うのは間違っているだろうか?

 根拠もない。これといった心当たりもない。
 ただ、頭の中を巡る様々な可能性を考え続け、誰も信じられず、誰も疑えず、孤独になった。
 関わった者すべてを疑い、疑いきれず。信じようとしても、信じ切れず。
 そんな夢を見ていた。
 

「■■■■」


 あの時より五千年。
 オレはそれを知りに行く。
 そのためならば手段は問わない。
 しかし、胸を張り殺しに行くだろう。――すべてを知り尽くすために。







 京都府京都市。背の低いビル群から垣間見える永久のオリエンタリズム。
 点々と残る数百年前の歴史と、その周りを取り囲む当世風の――特徴のない建物たち。
 何となしのビル。何となしの家。何となしの駅。

 あまりにも……あまりにも……、そこは戦に向いていなかった。
 小規模な戦に晒される事はあっても、長らく大きな破壊を伴う戦いのなかった地である。
 人々が、「先の戦い」と呼んだならそれは応仁の乱だ、という冗談さえも在る。
 ――それくらいの間。五百年もの間、戦争が壊す事のなかった都。
 それが、京都という地であった。
 勿論、第二次世界大戦で全くの被害がなかったわけではないが、今始まろうとしている戦いは時にそれ以上の破壊を齎す事が想像に難くない。

 夜――さる人々は、願いと羨望を胸に杯を目指すだろう。
 聖杯戦争という、戦に生きた者たちのバトルロワイアル。杯を目指す魔術師たちに従えられ、戦士がよみがえる。
 今夜もまた――、顕現した一人の英霊が街を眺めていた。






456 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:16:07 ZvGF5o7.0



「――」


 それは、『私』にとっては不意打ちであった。
 一人暮らしの私の自宅に及んだ、あまりに唐突な戦争の狼煙である。
 フローリングの床に浮き上がった朱色の魔法陣より出でた巨大な光、そして私の腕を這う鋭い痛み。


「っ……!!」


 聖杯戦争。
 なんとなくどこかから教えられていた、そのゲームとそのルールが頭に浮かび上がる。
 班目機関によるバイオテロと偶然そこにあった憎しみとが生み出した――あの夏の忌まわしい事件から少し経ち、今日。

 また。再び。私は極限の事件に巻き込まれる事になった。
 それは今までに遭遇した殺人事件の類ではなく、ファンタジックな戦争の物語で――便宜上『探偵少女』などと呼ばれた私からすると、専門外の事態かもしれない。
 しかし、どうあれ、自らのもとにあの呪いめいた体質が呼び起こした不運の一つなのだろう。
 私は、どうあれ抵抗するしかない。自らが巻き込まれる運命に。それは単純に、私のこのうら若い命を散らしたくはないからだ。


「……――よォ」


 と、渋みのある老人のような声が、挨拶を投げかけた。擦れたその声が、老獪めいた印象を植え付けるのである。
 光が晴れていくと、彼の姿もはっきりと浮かび上がる。
 私の召喚したらしいサーヴァント――その何重にも深く被った毛皮のフードからは、鋭い茶色の瞳だけが覗いていた。
 逆に言えば、それだけが――この名もなき英霊のただ一つ見せる生身であった。


「あなたは……」


 私――剣崎比留子は、彼を上目遣いに見つめた。
 訝し気な顔をしていただろう。訝し気、というよりは初めて目の当たりにするサーヴァントへの警戒も含まれていた。

 当たり前だ。
 彼の全身は、あまりに隠されていた。
 毛皮のフードだけではなく、腕も、足も、それぞれ体の全てを動物の毛皮で覆っていた。
 これでは、性別さえも、あるいは本当に人の姿をしているかさえも判然としない。

 しかして、複雑な道具を使いこなすだけの理性と知識のある文化的背景を過ごした戦士であるのは、私にもすぐにわかった。
 彼は、小さな手斧を携え、それにまた背中には弓兵の英霊であるかのような巨大な弓を背負っていた。
 それがこの聖杯戦争において彼の戦の道具らしい。


「――アンタがオレのマスターかィ」

「……ええ」


 サーヴァントの問いに、上ずった声で返事をした。
 ……自分でも少し、気に入らない――あまり可愛くない声が響いた。咄嗟な事でも、もう少し上手く返事をしたい。むう。
 しかし、サーヴァントは私の声色が艶やかか間抜けであるかには、あまり興味がないようだった。そっけない返事が返ってくる。


「そうかィ。よろしくな」

「そうですね。……いや、うん。これから、よろしく」


 調子よく声が出たところで、彼への口調を敬語から改める。
 どうあれ、私は主、彼は従者。それならば、年下に効くような口で話しても構わないだろう。
 彼もその力関係はよく把握し、納得しているらしい。


「で、早速だがな。どうやら、マスターは何か訊きたそうに見受けられる。
 ――ひとまずはそれを晴らしておこう。
 何から知りたい? とりあえずは、オレの知ってる限りの事はなんでも応えるぜ」


457 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:16:38 ZvGF5o7.0


 なんとも私にとって都合の良い事を言ってくれる。
 ちょっと調子が狂っていた私は、ひとまず調子を取り戻す。
 サーヴァントとして覚悟を伴っている彼と違い、私はすぐには自然な会話に戻れない。
 ちょっと深呼吸した。


「……ありがとう。そう言われると助かるよ。
 何せ、私は否応なしに聖杯戦争に巻き込まれてしまってね。魔術師ではないから、聖杯戦争そのものを知ったばかりだ。
 知りたい事、というよりは知っておかなければならない事が多すぎる」

「なるほどなァ……。それなら尚更だ。情報は生存を左右する」

「ああ。だから、こちらから遠慮なく。
 まずは、その背の弓。あなたは……『アーチャー』? で間違いないかい?」


 私はまず、彼の背の弓を見て問うた。
 聖杯戦争には、基本の七つのクラスと、それに属さないエクストラクラスが存在する事を解している。
 セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー……その中のいずれかと言われたなら、彼はそうだろう。
 ただ、彼を呼ぶ時になんと呼んでいいのかさえわからないのはあまりに不便だ。


「いや――オレは復讐者、アヴェンジャーさ」

「復讐者……エクストラクラスか……」

「ああ」

「つまり、あなたは過去に誰かに『殺された』という認識で良いかな?」

「……ああ。すっかり、遠い昔の話だが、それは間違いねェ」

「あなたにとっては――その復讐、が最終目的であると」

「――いや。それはまた、違うな」


 私の言葉を、アヴェンジャーは遮った。


「オレが望むのは復讐じゃァねェんだ」

「では、何故復讐者として召喚に応じ、何故聖杯戦争に参加したのかな?」

「……オレはな――ただ、知りたいのさ。
 オレを殺したのは誰なのかをな」


 そう呟く時のアヴェンジャーの少し強くなった語調と、その迫力に圧された。
 強い拘りか、やりきれない何かが放出されているように見えた。

 まだ契約の結ばれたばかり、情報交換の段階の私たちには信頼はない。何気ない一言が、私に固唾を呑ませる。
 すべてがあまりにも私の常識と食い違う存在――いくら主従関係でも、安易に触れるには少しヘビィな相手だった。
 アヴェンジャーは、そんな私の様子を察する事もなく、口を開いた。


「――オレは五十年ほどだけ生きた、ごく普通の人間だった。
 マスターは幾つか知れねェが、それでも結構苦労や楽しみがあって生きてきた貴重な人生だろう?
 オレにとっては、その五十年が人生の全て、オレの世界の全てだった。
 まあ、あの日から今日までを隔てる五千年なんていう時間に比べれば、大した事ァねェかもしれねェが――」

「……五千年?」

「ああ、五千年だ。考えてみると、ああ、あんまりにも、時間が経ちすぎたな。
 それだけ経った次代を見てしまったのなら、自分が死ぬより後にどれだけ生き続ける事になったのかなんて考えたって仕方がねェだろう。
 世界が見違えるほど時間が経っているってのに、今更復讐と言って何にもならねェよ」

「まあ、そうかもしれないけど……」

「それに、オレは自分を殺したのが何者なのかも全く知らねェ立場だ。憎もうにも憎みきれねェ。
 それじゃあ、恨みを買ったのは、オレに原因があったとも言い切れねェしな。
 必ずしも、相手の勝手で殺されたとは言い切れねェ……だから復讐とは行けねェのさ」


458 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:17:11 ZvGF5o7.0


 私には、殺された人間の気持ちなどわからない。
 一方的に殺されたとして、ここまで相手を許せるものなのだろうか。
 ……ただ、私には、アヴェンジャーは恨みを捨て去ったのとも、忘れたのとも少し違うように聞こえた。
 あっけからんと云おうとしているが、それを隠しきれていない。


「それに、どうせ人はいつか死ぬもんさ。あれから多少生きながらえたとして、この時間にも、この国にも、決して辿りつく事はないワケだ。
 なのに、今になって『自分の復讐』なんざやったって意味がねェ」


 そう――それは、私には「諦観」に近いニュアンスに聞こえた。
 本来なら憎しみが湧いてもおかしくないのを、かつてと今とを隔てた膨大な時間に諦めさせられたようにも聞こえる。
 前向きでおおらかというよりは、どうにもならない状況を諦めきったような、無理のある言葉であった。
 自分が殺されたという事実もまた、歴史から見れば小さな出来事の一つに過ぎないと悟りきってしまったのだろう。
 勿論、それは私の邪推に過ぎないかもしれないが。


「――だが、どうせ終わったのなら、誰が、どうして、オレを終わらせたのか知りてェのさ。
 オレの人生の幕を閉じたのが誰なのか、何故なのか、知らぬままには死んでられねェからな。
 そう……別に憎んじゃいねェ。ただ、オレは知りてェ……そうしてェんだ」

「心当たりは、まるでないのかな?」

「心当たり?」

「アヴェンジャーを殺した人間の心当たりだよ。大きな恨みを買ったとか」

「……いや、それならあるさ。人並に、ただし、膨大にな。
 妻か、弟か、友か、敵か、味方か、通り魔か、偶然か。
 オレに対する強い敵意があったのか、それとも不幸な事情があったのか、何かの間違いによる事故なのか。
 それこそ、誰にだって突然、殺される理由、その可能性なんて無限にある。
 理由がない殺人――それも今のオレからすれば納得のいく理由の一つだな」

「確かに正論だけど。
 そこから一つに絞る事は出来ないなら、それは心当たりがないのと同じだよ」

「ああ。まったく、そんなところだな。
 云った通り、大きな恨みを買った覚えはほとんどない。
 それすらも、何もわからないままに――オレ自身は血まみれになって、氷に沈んだ。
 はっきり言うが、やってられん。
 ……だから、『知る』為に戦う。
 それだけが……【アイスマン】と呼ばれたこのオレの――ただ一つの願いさ」


 理不尽に殺され、理由もわからないままな一人の被害者の『やりきれない想い』が、アヴェンジャーの持つ一抹の願いだった。
 聖杯に託す願いさえも、絶対ではない。
 諦めきれない想いを、せめて癒せるかもしれないというギャンブルに過ぎないように聞こえた。
 それが叶ったら良いな、もしその為に戦えるのなら全力を尽くせるだろうな、というような――ある種の神頼みと、チャンスをつかみたい意志。

 自分の人生が何故終わらせられなければならなかったのかを、彼はただ知りたい。
 それだけが彼の復讐者としての事情であった。
 そして――何より。


459 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:18:19 ZvGF5o7.0


「そう……なるほど」


 アヴェンジャーの持つ『理由』に、私は妙に納得した。
 この聖杯戦争なる儀式に応じる者は、いかなる考えを持った人間なのか。
 それが納得しきれない事には、自分の安全は確保できない――過去に虐殺を行った英霊ならば、あるいはあまりに異なった価値観を持つ英霊ならば、私もコントロールが難しいからだ。
 しかし、ごく一般的にも納得しうる理由で彼は動いている。

 それに、彼の『アイスマン』なる名前には聞き覚えがある。
 エッツ渓谷で発見されたミイラに名付けられた名前――そのミイラは、『世界で初めて殺された男』などと呼ばれている。
 見れば、五千年前という時代にも、この動物の皮をまとったいでたちにも、その境遇にも、ほとんどそれは――あのミイラ男の特徴と一致するのである。

 私には、ほとんど確信があった。
 彼が――アヴェンジャーこそが、そのアイスマンであると。
 それならば、決して強いとは言わずとも、あまりに突飛な思考の英霊にはなりえない。虐殺の逸話もなく、親や主を殺す逸話もない。



 ただの、有名な、被害者だ。



 安全や安定を求める私にはマッチングしている。

 彼は、願いそのものへの執着も他の英霊と比べて薄い事だろうと思う。何せ、自分ならば絶対に願いを叶えられるなどとは思っていない筈だからだ。
 成功者でもなければ、万能でもなく、決して勝ち続けた人間でもないが故に、聖杯戦争にかける自信も弱い。
 マスターを利用し、マスターを切り捨てるなどといった方針にも至らないだろうし、いざという時には潔く自分の運命を認めるだろう。

 あくまで、彼は知名度の高い凡人といったところだ。
 そんな彼ならばこそ、私の相棒には相応しい。




「取引しよう、アヴェンジャー」




 と、私は云った。


「私の願いは一つだ。私自身が、すべての危険を回避してその場を生き残る事。
 あなたの願いは一つだ。あなた自身が、かつて殺された理由を探りだす事。
 あなたは私が殺された段階で消滅し、その願いを叶える機会を失ってしまう。それは不本意のはずだ。
 つまり、それまであなたは私を守りきらなければならない」

「ああ。もとよりそのつもりだ。だが、マスターに願いはないと?」

「ないわけではない。けど、それは今になって無理に叶えたい物でもない。
 リスクが多すぎるし、私には正直、疑念の方が大きいよ」


 それが率直な私の気持ちだ。
 聖杯の叶える願いが本当ならば魅力的だが、そうでないならば単なる危険な徒労になる。回避しておきたい事象だ。
 それよりか、とにかくひたすらに身の安全を守る合理的な方法を追いたいのである。
 ならば、降りれば良いかもしれないが――ここにも理屈はある。


460 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:18:36 ZvGF5o7.0


「ただ、今すぐゲームを降りるのもリスクは大きいと思ってる。サーヴァントの力は兵器も同然だからね。
 人的被害も厭わない性格のヤツも少なからずいるとみて間違いない。と、すると無関係なモノを巻きこまずに戦争を終える事の方が難しい。
 その戦場にあって、力がないのはあまりにも心細いし怖いんだ。
 だから、正直、私の身を守るナイトが欲しい……となると、それはサーヴァントに他ならない」

「なるほどなァ……否応なしに巻き込まれれば、そうもなるか」

「そこで、アヴェンジャーには最後まで私を守り抜いてくれる事を約束してもらいたい。
 そのうえで、最後まで守ってくれたなら、私は聖杯を使う権利をあなたに与える」


 この内容なら、アヴェンジャーも考えるまでもないだろう。
 サーヴァントは、非力な部類であれ常識離れした能力を持っている。
 それが野放しにされている町で、何も助けがないままに行動するのはリスキーだ。
 ここで切り捨てる事もなく、アヴェンジャーを利用。そして、同時にアヴェンジャーに利用されるというのが合理的に違いない。
 双方、この条件の意味を納得し、契約するのが前提である。


「わかった、取引に応じるぜ。マスター」

「物分かりが良くて助かるよ」

「それで、マスターの質問は終わりか?」

「……そうかな。当面は。アヴェンジャーの番、でいいよ」


 私からすれば、訊きたい事は膨大にある。しかし、それらは後で聞いても差し支えないし、いずれを訊いていいのかはわからない。
 フードの下には何が隠されているのか。宝具は何か。どういう戦法を使うか、使えるか。過去に殺された時の話、殺される前の話。
 しかし、それではあまりに一方的すぎる。
 相手方もこちらに訊きたい事は少なくないはずだ。
 すると、アヴェンジャーから下された質問はたった一つだった。


「なら質問だ。――マスター、名は」

「ああ……言ってなかったっけ」


 そうだ。まだ彼に自分の名前を明かしていなかった。
 自分を殺した人間の名前を知りたいがために聖杯戦争に参加したような男だ――自分の命を託すマスターの名前は聞いておきたかったところだろう。
 私は、そっとその名前を口にした。



「私は、剣崎比留子。ただの大学生だよ」







461 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:19:14 ZvGF5o7.0




【クラス】

アヴェンジャー

【真名】

■■■■(エッツィ・ジ・アイスマン)@史実

【身長・体重】

165cm前後・不明

【ステータス】

筋力D+ 耐久C 敏捷D 魔力B 幸運E 宝具EX

【属性】

秩序・中庸

【クラス別スキル】

復讐者:B
 復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
 周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。

忘却補正:B
 人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
 忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):A
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
 魔力を微量ながら毎ターン回復する。

【保有スキル】

凍てついた呪詛:A
 アイスマンの木乃伊に関わるものすべてに降りかかる呪い。
 彼の身体の非生成部位に触れたもの、嗅いだもの、見たもの、存在を感知したもの――あらゆるものの幸運値を無条件かつ強制的に引き下げる。
 時に測定可能なEクラス以下にまで引き下げ、およそありえない偶然の不幸さえも引き起こす。
 アイスマンが英霊として形を残している限り、その効果は持続する。

武具作成:B
 鉄製の武具を生成するスキル。
 何の逸話もない無銘の鉄器であれば、自在に作成できる。

【宝具】

『氷河が遺した屍の記憶(メモリー・オブ・アイスマン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:2〜99 最大捕捉:99人

 毛皮の下に隠されたアヴェンジャーの生身。
 かつて人として生きた時代の姿と、現代人の前に姿を現したミイラ男としての姿とが混在した悍ましき肉体。
 5000年前と今、二つの時代の氷河が見た『一人の人間の姿の記憶』を一身に抱え込んだ怪物である。
 それを見たものはサヴァンジャーの敵味方を問わず、例外なく『凍てついた呪詛』にかけられ、あらゆるものに無自覚に敵意を買い、あらゆる偶然に命を狙われ続ける「断続的な不幸」に見舞われる。
 事故、災害、自滅、時に契約を結びあっているはずのマスターとサーヴァントの不幸な殺し合いさえも呼び起こす。
 ただし、これはアヴェンジャーの意思によらず発動する為、自身のマスターや協力者がそれを見た場合でも発動してしまう諸刃の剣である。


462 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:19:35 ZvGF5o7.0

【人物背景】

 1991年にエッツ渓谷にて発見されたミイラの男――アイスマン。本名不明。
 5000年以上前、青銅器時代に何者かに殺されて以来、氷河でミイラとなって現代まで形を残し続けた。
 今もなお彼の死体は研究され続け、生活習慣や死因などを特定されていった。
 その過程で彼が殺害された事が判明したのち、彼の存在は「最古の未解決殺人事件」とも呼ばれ、何者がいかにして何故彼を殺したのかも興味を惹き続けている。

 あくまで無銘の人物であるが、研究によれば、それなりに身分の高い人間の食事を摂っていたらしい。
 死亡時の年齢は40歳〜50歳程度。筋肉質な体格であり、動物の皮を身にまとい、斧や矢じりなどの武器を装備していたとされる。

 また、現代では、発掘以来関係者が続々と怪死した事から「アイスマンの呪い」という都市伝説が吹聴されるようになった。
 これは相当数の関係者がいた事などから全くの偶然ともいわれているが、5000年の時間を氷河に晒されながら形を残し続けた執念は呪いの粋に達していてもおかしくはないだろう。

 彼は、この聖杯戦争においては、自分を殺害したのが何者なのかを忘却している。ただ殺された記憶だけが忌まわしく残存されているのである。
 犯人が何者なのかをはっきりと思い出せぬまま英霊の座に在り続け、ただその犯人と動機を知る事だけを己の願いとする。

【特徴】

 体すべてを負おう動物の毛皮、ただ茶色い瞳だけが覗いている。初見では、二足歩行の生物である事しかわからない。
 あくまで男性。本人の年齢は五十歳としているが、その肉体年齢は全盛期のものである。
 毛皮の下には、現代の人間が見た「ミイラ」としてのアイスマンの姿が意匠を残しており、その姿を見た物、あるいは感知したものはすべからく『凍てついた呪詛』にかけられる。
 いずれにせよ、その真の姿はあまりに醜く、決して目視すべきではない。

【所有武器】

『無銘・弓矢』
『無銘・矢じり』
『無銘・斧』

【聖杯にかける願い】

 己を殺した物が誰なのか知る事。
 復讐ではなく、それを知る事で永久の休息にたどり着く事が彼の目的である。


463 : 剣崎比留子&アヴェンジャー ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:20:22 ZvGF5o7.0




【マスター】

剣崎比留子@屍人荘の殺人

【能力・技能】

 探偵少女としての知識と知恵。高い推理力と応用力を持ち、いくつもの事件を解決している。
 戦闘能力は一般人並だが、作品内の随所で戦闘行為も行っている。

【人物背景】

 神紅大学文学部二回生。幾多の事件を解決に導いた探偵少女。実家は横浜の名家で、警察協力章も授与されているらしい。
 初登場の描写による外見は以下に抜粋。

『相当な美少女――少女かどうかは微妙だが――である。
 黒のブラウスとスカートに身を包み、肩よりも少し長い髪も黒。
 身長は百五中センチと少しといったところだが、スカートの腰の位置が高いためすらりとして見える。
 風貌は可愛いというよりも、そう、佳麗というのが正しい。
 少女と女性という分類のちょうど境目にいるような、とにかくそこいらの女子大生とはまるで違う生き物に思えた。』

 (服装は場面によって変動あり)

 そんな彼女は、いくつもの危険で奇怪な事件に「偶然」にも巻き込まれるという呪いのような体質の持ち主でもある。
 彼女が生まれた頃から言えや親族、グループ内で頻繁に事件が発生するようになり、十四歳で殺人事件に遭遇して以来、自分の周りで頻繁に凶悪事件が発生。
 現在では三か月に一回は死体を見ているらしい。要するに、金田一くんとか、コナンくんとかと同じ死神体質なのである。

 しかし、彼女の場合は、メンタルは普通の少女と同等であるのがネック。
 それゆえに、「探偵役」として事件を解決する事はあっても、人が襲われ殺される事件自体は怖くてたまらないと言っている。彼女もまた何度も危険に遭っているらしい。
 あくまで彼女が謎を解き犯人を暴くのは「事件からの生還」の為。得体の知れない殺人鬼によって「次のターゲット」にされる前に犯行を暴くというのが目的である。
 謎に対する興味や好奇心もなければ、正義感や使命感、真実への執着といったものも人並程度にしか持ち合わせてはいない。
 作中では、強かで動じないように見えて、女の子らしい一面を度々見せる。

 『屍人荘殺人事件』終了後より参戦。
 ちなみに、これは「ネタバレ禁止!」と宣伝されるミステリ作品のキャラだが、これから読む人は彼女が犯人だとか考えてはいけない。一応。

【マスターとしての願い】

 下記、方針の方に記載。

【方針】

①あらゆる手段を用いた生存。
 聖杯戦争がどういう形であれ終了し、その結果として自分の安全が確保されているならばそれでいい。
 血を見るのも、恨みを買うのも好きではないので、極力他マスターを前にも上手く立ち回る。
 ②以降の方針は①の為なら捨て去る。

②聖杯の入手。
 望みは二つある。
 一つは、取引の通りにアヴェンジャーの願いを叶える事。取引をした以上、比留子はこちらの願いを優先する。
 もう一つは、己の呪い的体質を消し去る事。これはアヴェンジャーの記憶等からアヴェンジャーの殺害者を推理できてしまった場合などに叶える。
 ただし、その過程で人間の死や己の身の危険があるならば、いずれも優先順位は低くなる。

③アヴェンジャーの殺害者を推理する。
 あくまで、材料が上手く揃って推理が出来る状況になったらの話。
 これが叶った場合、聖杯を入手した際の願いが変動する。


464 : ◆CKro7V0jEc :2018/01/28(日) 22:20:40 ZvGF5o7.0
投下終了です。


465 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:36:47 rIgDK8vs0
投下します


466 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:37:43 rIgDK8vs0
「跪け」

再度の聖杯戦争に臨む羽目になったウェイバー・ベルベットが聞いた、己がサーヴァントの一声がこれだった。

「第一声がいきなりこれか…………」

自分は態度のデカイサーヴァントとよっぽど縁があるらしい。それにしてもこのLな態度は何なのか?またか、また王様なのか。

「ほれ、さっさと跪かんか、王の御前だぞ」

そういう女の容貌を、ウェイバーは改めて見つめた。
その一筋ですらもが、大金で売り買いされる神が機織りに用いた糸だと説明されても納得できようほどに美しい、腰まで伸びた、黒絹ですら薄汚れて見える烏の濡れ羽色の髪。
芸術の神の祝福を受けた絵師が、心血を搾り尽くして描いた一筆の如き優美典雅な眉のライン。
銀河の星全てをを封じ込めた様な煌めきを放つ双瞳には、万人を魅了する輝きと、鋭い知性が宿り、その眼差しには大帝国を統べる覇者の如き意志が籠っていた。
美神が悠久の時をかけて配置と配色を決めたかの様な朱脣は、見るもの全てにこの唇が開いて言葉を紡ぐ瞬間に居合わせたいと願わせるだろう。
純白の絹で出来た白いワンピースに、ハッキリと分かる凹凸をつけるボディラインの美しさよ。
この女が全裸で立っていたとしても、劣情を及ぼす者はいないだろう。
只々その美に見惚れて魅入るだけだ。
万人が認める美女でありながら、美女というものの基準には成り得ぬ女。この女を美女の基準とするという事は、高峰の頂を地平の基準とするに等しい愚行だった。


467 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:38:38 rIgDK8vs0
「四人目か……」

女の美貌に呑まれながらウェイバーは呆然と呟く。

冬木の地で出逢った三人の王。
清冽な蒼の騎士王。
傲岸な黄金の英雄王。
そして─────ウェイバーが死後すら捧げたウェイバーにとっての至上の英雄─────豪放な朱の征服王。
各々が人類史にその名を刻み込んだ偉大にして鮮烈な輝きを放つ王達。
彼等を知っているからこそウェイバーには理解できるのだ。
この女は、彼の知る三人の王には及ばぬが、紛れもなく王であると。
その佇まい。身にまとう王気。その全てに懐かしさすら覚えるが、なればこそ決して譲れぬ、譲ってはならぬものがウェイバー・ベルベットには存在する。

「四人目?貴様は私以外に王を三人も知るのが。ならば王に対して取るべき礼を知っていよう。
例え貴様がマスターとやらであったとしても、一介の魔術師風情が、この私の上に立とうなどとは、自惚れぬ事だ」

さっさと跪け。そう、無言のまま態度で示してくる女に、ウェイバー・ベルベットははっきりと拒絶の意思を表明した。

「出来ない。何故なら僕は、もう他の王の臣下だからだ」

「ほう、王を知るだけでなく、既に忠を捧げていたか。ならば臣としての礼は強いないでおこう。それで?一体貴様は何処の王の臣なのか。お前の王は、この私と比べられる程の王か?
まず我が名を聞け、その上で答えよ。私の名は、セプティミア・バトザッバイ・ゼノビア。
カルタゴのディードー、アッシリアのセミラミス、プトレマイオス朝のクレオパトラ七世の跡を継ぐものだ。
さて、お前の王は、この名に霞まぬ名を持っているか?」


468 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:39:14 rIgDK8vs0
はあ。と、ウェイバーは溜息を吐く。
クレオパトラ七世の跡。ウェイバーと同じ王を仰ぐ男の末裔の跡を継ぐ程度の女に、こうまでLな態度を取られていたのか。

「クレオパトラ七世の跡って時点で比べるまでもないぞ。僕が忠を捧げた王の名はイスカンダル。人の歴史が続く限りその名が語られる征服王だ」

「なんと、あの征服王の臣。かの王なれば…流石に私よりも上か」

ウェイバーは溜息を吐いた。長い長い溜息だった。

「…………大体なんでそんなに態度がでかいんだ。お前のやったことっていったら、ローマ帝国相手に無謀な戦争吹っ掛けて、パルミュラを滅ぼした事ぐらいだろう」

フフン。ゼノビアは邪悪な笑みを浮かべた。

「私は征服王やアウレリアヌスと同じで統治者としては水準以下だからな。
我が夫が居ればなぁ。それでも時が足りないか、ローマの反攻があれ程早くなければなぁ。
奪った領土を完全に我がものと出来ておれば、いくら相手がアウレリアヌスといえど、ああも早く負けはしなかったろうに。
それに貴様は知らんのか?あの時のローマは滅亡寸前と言われても誰もが受け入れる惨状を呈していたぞ。
……アウレリアヌスがあれ程の傑物でなければなぁ。ローマの領域を全て平らげてやったものを」

シミジミと呟くゼノビアに、ウェイバーは何処か既視感を覚えながら訊く。

「なあ、ライダー……もとい、イスカンダルは統治者としては失格か」

ウェイバーの問いをゼノビアは鼻で笑った。

「失格に決まっている。王とは玉座に長く在って己が統治の結果を完成させねばならん。
早死にした上、後継者争いまで引き起こしたとあっては征服者としては破格でも統治者としては三流よ。
アウレリアヌスは厳格過ぎて部下に恨まれ暗殺された。後五年も生きていれば、ローマ帝国も息を吹き返したかも知れぬのに。
どちらにせよ及第点とは言えんよ。己の目指した地平に至るまで生きている。これもまた王の責務だ。
ん……。となれば我が夫も失格か…。なにしろこの私を妻としたのだから。
まあ、それにしても……。ローマですら世界の一部に過ぎんかったとわな。いや、知ってはいたぞ、知ってはいたが、こうして聖杯より得た知識に照らし合わせてみれば、随分と世界は広いのう。
征服王の領土とローマ帝国の版図を合わせても半分にも満たぬ。
これでは、世界そのものなど、征服王が後百年生きていても征服しきれたどうか………」

「で、お前はどうなんだ」

腕組みして何やらしきりに頷いていたゼノビアに、ウェイバーのツッコミが飛ぶ。


469 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:40:02 rIgDK8vs0
「フ……………。生前は神がローマ帝国を選び、アウレリアヌスを皇帝としたが、この神無き世に於いては私を阻む者などはおりはせん。
今度こそは世界を征服してくれよう」

「つまり届かなかった……と」

そっぽを向いて口笛を吹くゼノビアに溜息しか出ないウェイバーだった。

「まあ其れは其れ。此度はしっかりと征服してくれよう。幸いな事に、マスターにも恵まれたしの」

「イヤミ……ああ、そういう事か」

「フン、お前の魔力量など無いよりマシ程度だが、聖杯戦争に参戦したという経験は大きい。それに、あの征服王ですらが勝ちを掴めなかった戦で生き残ったという運も有る。
つまりだ、此度の戦、運命は私に味方していると言えよう」

クックックッと笑うゼノビアを憮然と見つめるウェイバーだが、先刻ゼノビアの言った言葉に聞き捨てならないものがあった事を思い出した。

「なあオイ。お前の夫も失格っていうのは…………」

「私を妻としなければ、我が夫の元でパルミュラは更に富み栄え、後世においてローマとペルシア、二つの帝国の間で確固たる繁栄を享受したであろうな」

「殺したのか─────」

絶句。絶句せずにはいられない。
殺していながら、「我が夫が居れば」などとのたまう精神は、ウェイバーの理解をはるかに超えていた。

「我が血の滾りを抑えられなかった。ただ我が野心を形にしたかった。
その為に夫を弑して国を奪った。
……その末路はお前の知るところだがな。
だが、悔いてはおらん。あのまま良き妻であり続けた方が、私にとっては悔いであったろうよ。
まあ、過ぎた話だ。夫を死なせてまで追った夢を掴めずに終わるのは、夫の死を無駄にしている………などとは言わんし言えんよ。
私は結局、自分の欲望の為に国も民も子も夫も犠牲にした人でなしなのだから」


470 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:40:30 rIgDK8vs0
ゼノビアは何処か遠くに想いを馳せる様に遠くを見た。滅びた国と、共に駆けた者達に想いをはせる様に。

「……まあ、人でなしは人でなしらしく在るとしようか。私は世界を獲る。何を犠牲にしてもな。
私は所詮一個の人間としては市井の小娘にも劣る。故に世界を獲る。それ以外の在り方は出来んよ。
尤も……この世界の広さでは、私でも届かぬかもしれんがなあ」

それは、何処までも鮮烈に生き、豪快に駆け抜けたウェイバーの王とは異なって、何処か儚げで、寂寥を感じさせるものだった。

「なあ…お前と共に駆けた奴等は、お前に夢を見たのか?」

「何の事だ?」

「僕の王が言っていた。王とは人を魅せるものだと」

王とはッ─────誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!
すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に─────!
王は孤高にあらず。その偉志は、すべての臣民の志の総算たるが故に!

「世界が広くっても─────広いからこそ征服しがいも有るってもんだろう?」

彼方にこそ栄あり(ト・フィロティモ)。届かぬからこそ挑むのだ! 覇道を謳い! 覇道を示す!

「フン、征服王の受け売りか。良く覚えておるようだな」

「ああ、そうだよ。僕はあの人に言われたんだ。
『すべてを見届け、そして生き存えて語るのだ。貴様の王の在り方を。このイスカンダルの疾走を』
そう言われたら、臣下としては全力を挙げて勤めるべきだろう」

ゼノビアは笑った。愉快そうに、感心したように。どこか吹っ切れた様な笑みだった。

「見上げた忠道よ、ではお前に征服王から受けた使命を果たさせてやろう。
語れ、お前の王の事を。このゼノビアに」

「ああ、良いとも」


───────────────────────────────────


471 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:41:01 rIgDK8vs0
翌日。

「何がどうなっているんだ………」

延々と自身の王について語らされ、その上でウェイバーが参加した“第四次聖杯戦争”についても知る限りのことを語らされ、それが終わると、ゼノビアが礼としてホメロスとプラトンについての講義を行い出したのだった。
断ろうにも、イスカンダルが愛読していた『イリアス』の著者と、イスカンダルの師であるアリストテレスの師についての講義とあっては、聞かないわけにはいかなかった。
そんな訳で、明け方になって当然のようにぶっ倒れ夜まで眠りに就いたウェイバーが目を覚ましてみれば、部屋の中に見慣れぬものがあった。
ウェイバーに与えられた役割は、ソコソコの金を持った海外からの旅行者。というものだった。
当然余計な金なんてない。にも関わらず、ウェイバーの宿泊しているホテルの一室には、京都のゼンリン地図や小冊子レベルの地図が複数散らばり、果てはパソコンが鎮座していた。

「おおマスター、漸く起きたか」

パソコンに向かっていた三世紀の人間がこちらを見ずに挨拶してくる。

「ああ…うん。事情は分かった、だいたい察した。で、地図は兎も角、そんなもん買ってきて一体何をしているんだ」

「私が死んだ後にこの星に生まれた碩学と哲人について学んでおった」

「はああ………」

ウェイバーは長い長い長い溜息を吐いた。どうしてこうも自分のサーヴァントは聖杯戦争とは無縁の事柄に興味を示すのか。
アインツベルンが連れていたセイバーの様なサーヴァントは、自分とは縁が無いのか。

「何を呆れておる。金なら賭博でしっかり稼いだぞ。それにしてもこんな小さな箱に、この星の歴史と知が詰まっているとは、アレキサンドリア大図書館が無駄の極みに思えてくるな」

早速妙な感じに現代文明に馴染み出した己がサーヴァントに、ウェイバーは胃が痛むのを感じた。しかも─────。


472 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:42:14 rIgDK8vs0
「その格好は何なんだよ………」

ゼノビアの格好ときたら、白いジーンズと白い袖の長いシャツという代物だった。身体のラインが布越しにハッキリ分かる所為で、大変目のやり場に困る。

「フン、見て分からんのか?今の街並みに溶け込もうと思ってな。……ああ、そうか、そういう事か。だがまあ諦めろ。私を抱けるのは我が夫だけだ」

「んな事考えてない!!」

京都の地でもウェイバーはサーヴァントに振り回されることになるのは確定なのだった。

「マスター。地図は覚えておくが良い。地理を知らずして戦はできんからな。尤も征服王の薫陶を受けたお前ならば言われるまでもなく理解できていようが」

「分かっているよ。ああ…それと一つ言い忘れていたけれど……」

「何だ」

「この戦いで僕の命が危なくなった場合……令呪を使ってでも僕の生存を優先させる」

「フン、いきなりマスターがそんな事を言えば、臆病風に吹かれたかと思うところだが、お前は別だ。王の遺命を果たす為にも生き残らなければならないからな」

「ああ、その通りだ」

ウェイバーは力強く頷き、ゼノビアはそんなウェイバーを見て、愉快そうに笑ったのだった。


473 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:42:51 rIgDK8vs0
【クラス】
ライダー

【真名】
ゼノビア@三世紀シリア

【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:B 魔力:C 幸運:B 宝具:EX

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
対魔力:C (A+)
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
宝具使用時は()内の数値に変更される。


騎乗:A+
 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。




【保有スキル】

皇帝特権:D+
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
極短期間とはいえパルミュラ帝国の支配者だった。
戦闘に関する技能については持続時間と効果が倍増する。


カリスマ:D+
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
一国の長としては不足だが、一軍の長としては及第点。
陣頭に立った時効果が倍増する。


軍略:C
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。


黄金律(富&体):B
二種の「黄金律」が複合した特殊スキル。
第一に、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命を示す。
富豪として充分にやっていける金ぴか金ピカぶり。ローマ帝国とペルシアの間で栄えた交易都市を支配した実績が、彼女にこのスキルを与えている。
第二に、生まれながらに有する女神の如き完璧な肉体を示す。虜囚の身となり縛られてもローマ市民の心を打った美貌と威厳を持つ。


474 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:43:13 rIgDK8vs0
【宝具】


戦士女王(ウォーリアー・クィーン)
ランク:A+ 種別: 対人宝具 レンジ:1最大補足:100人

パルミュラの領土を拡大し、エジプトの女王を自称した事により、『戦士女王』と呼ばれた事に基づく宝具。戦士としての技能と女王としての指揮能力。
また、ゼノビアは騎馬術にも優れていたという。
戦闘に用いられる乗り物と武器に対し、使用時にDランクの宝具に相当する神秘を付与し、己の武器として使うことが可能。
他者の武具も己のものであるかの様に扱うが、宝具は対象外。
この効果は、マスターや率いる軍勢にも及ぶ。


最も傑出した敬虔なる女王、(セプティミア=バト=ザッバイ)
ランク:C 種別: 対軍宝具 レンジ:1~40 最大補足:500人

ゼノビアが生前騎乗していた白い駱駝が宝具へと昇華されたもの。
時速200kmで走行する。
この宝具はゼノビアが君臨したパルミュラの繁栄の象徴であり、パルミュラの富と栄華を表すものである。
サーヴァントの宝具としては、ゼノビア及びそのマスターの財と権勢を表すものとなり、マスター及びサーヴァントの社会的地位と財力により威力が変動する。
最大時には音速を超える速度で走り、対城宝具にも匹敵する威力と範囲になる。


折れぬ誇り 堕ちぬ尊厳(アウグスタ)
ランク:A+ 種別: 対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人

ゼノビアがアウレリアヌスの凱旋式で、ローマ市中を引き回された際に、ゼノビアの身を戒めていた黄金の鎖。
ゼノビアの両手足と胴に巻きついているこの鎖は、ゼノビアの女王としての尊厳が形となったものである。
真名解放時にはA+ランクの対魔力を発揮し、ゼノビアの心が折れぬ限り、如何なる攻撃をも受け止めるが、鎖の無い部分を攻撃されれば当然の様に防御効果を発揮しない。
真名解放を行わずとも武具として使用可能。



世界の破壊者(オウガバトル)
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ: 1~99 最大補足:1000人

ゼノビアが敵対したローマ皇帝アウレリアヌスが世界の修復者と呼ばれた事に端を発する宝具。
世界の秩序の修復者の敵対者であるゼノビアは、その対である世界の秩序の破壊者と自らを定義する。
人の世の到来により、世界の裏側へと追いやられた者達を召喚する、人の世の秩序を破壊する宝具。
竜種・巨人・神獣・魔獣・妖精・果ては異界の魔魚までを召喚する破格の宝具だが、魔力消費量は呼び出す対象の神秘によって変動する。
現代においては“存在しない”とされる絶滅種や、都市伝説の類なら手軽に呼び出せる。


475 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:43:41 rIgDK8vs0
【weapon】
剣・槍・弓

土地柄習得した拳闘術とレスリングにファラオ闘法を組み合わせた闘技を用いる。

【人物背景】
三世紀ごろに存在した都市国家パルミュラの女王と呼ばれた人物。
側近で哲学者でもあったかっシウス・ロンギヌスの指導を受けてホメロスとプラトンの比較論や歴史書を著したとされる。
パルミュラ一帯を治める有力者であったセプティミトゥス・オダエナトゥスの後妻となり、オダエナトゥスとに間にルキウス・ユリウス・アウレリウス・セプティミウス・ウァバッラトゥス・アテノドラスを設ける。
夫を軍事面で補佐し、ローマ皇帝を僭称した者や、ササン朝ペルシアとの戦いにおけるパルミュラの勝利に貢献する。
オダエナトゥスが前妻の子共々殺された時には、ウァバッラトゥスを後継とし、自らは共同統治者となる事で混乱を収集。
パルミュラを掌握するとササン朝ペルシアからローマ帝国の東部属州を守るという名目で領土を拡大。エジプトまでをも支配下に組み込む。
ローマ皇帝アウレリアヌスからの降伏勧告を跳ね除け、ウァバッラトゥスに「アウグストゥス」自らは「アウグスタ」を称し、これを記念した貨幣を発行。ローマ帝国と全面対決の姿勢を示した。
この時がゼノビアの人生の頂点だったと言える。
アウレリアヌスの親征を、ゼノビアも陣頭に立って迎え撃つが二度の戦いに大敗。ウァバッラトゥスも戦死する。
パルミュラに籠城し、ローマの兵糧切れを狙うも、エジプトを奪還したローマ軍が合流したために敗北を悟り、ペルシアに援軍を求めにパルミュラを脱出するも、ユーフラテスのほとりで捕縛された。
パルミュラはその後一旦は降伏するも、アウレリアヌスが帰国の途についた隙に反乱を起こし、取って返したローマ軍に再度制圧され、徹底的な略奪を受け亡び去った。
ゼノビアはその後、アウレリアヌスの凱旋式でローマ市中を引き回された後、荘園を与えられそこで一生を終えたとも、ローマ貴族と結婚し、間に子供を設けたとも、パルミュラの滅亡を知って自殺したとも伝えられる。



当企画においては野心のままに夫と前妻の子を謀殺。パルミュラを率いてローマ帝国と戦い敗北。
その後はローマ帝国で貴族待遇で一生涯を終えた。
という事にする。

性格は自己中かつ身勝手。基本的には我欲を優先するが、理に適っていれば人の言う事を聞く度量を持つ。
生前は自分の思い通りに物事を運びたがる傾向があったが、アウレリアヌスに負けた事で思うところがあったらしい。
謀殺した夫や、戦死させた息子、滅んだパルミュラに対しては、確たる愛情を抱いており、敵手であるアウレリアヌスに対しても敬意を抱いているが、彼等が野心の妨げとなるならば心から惜しみ悼みながら殺す。
だからといって非道を良しとする精神は持ち合わせておらず、戦火に巻き込まれて死ぬ事も、戦時に於ける略奪暴行も容認するが、自身の楽しみの為に他者を虐げ殺戮することは嫌う。
自身を人でなしだと認識しており、才や学識ではなく、人としてのあり方という点では市井の娘にも劣ると断じているが、それでも生き方を変える気は無い。
新しいもの好きであり、現代に於いては何もかもが新鮮で目移りする程。
今の所嵌っているのは、芸術、哲学、歴史、科学技術といった諸学。
立ち居振る舞いと口調はオッサンだが、一国の妃として女王としての威儀と礼を兼ね備えた振る舞いをする事も可能。

【外見】
身長167cm・体重60kg
B87W57H85
黒髪黒瞳褐色肌の美女。
出るとこ出て引っ込んでるところは引っ込んでるが、筋肉はしっかりとついている。
格好は純白の絹で出来たワンピース。戦闘時はこの上から鎖帷子と板金鎧を身に纏う。
現在は白いジーンズと白い袖の長いシャツという代物。身体のラインがくっきりと浮かび上がるサイズ。


【方針】
聖杯狙い。聖杯がロクでもなさそうなシロモノなら破壊する。
当面は宝具強化のために財テクに励みつつネットで色々学ぶ。

【聖杯にかける願い】
受肉


476 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:43:59 rIgDK8vs0
【マスター】
ウェイバー・ベルベット@Fate/Zero

【能力・技能】
魔術師としては平凡止まり、魔力料は心許ない。
洞察力・観察力に優れる。研究者に向いている。
ズバ抜けた幸運を持つ。

【weapon】
征服王と駆け抜けた聖杯戦争の記憶


【人物背景】
第四次聖杯戦争に参加し、生き残った魔術師。
己の卑小さと非才を知り、世界を知る事を決意した─────その矢先にこうして新たな聖杯戦争に巻き込まれたわけだが。

【方針】
当面は様子見。勝利よりも生存を第一とする。王の遺命を果たす為にもウェイバーは生き残らなければならないのだから。

【聖杯にかける願い】
無い。強いていうなら王と共にまた駆けたい。

【参戦時期】
原作終了後


477 : 王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す ◆A2923OYYmQ :2018/01/30(火) 20:44:36 rIgDK8vs0
投下を終了します


478 : ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:42:56 fZBqtG9s0
投下します


479 : 敗北の味は甘苦く ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:47:02 fZBqtG9s0
夜の繁華街。四条河原町一帯を見渡せる建物の屋上に、彼ら二人の姿はあった。

一人は年端もいかない少女。
濃い紫にも見える長髪を腰まで流し、スポーツウェアの上から黄色い上着を羽織っている。

少女は地上の喧騒も届かない屋上で無心に拳を振るっていた。
拳闘競技でいうところのシャドーボクシング。仮想の敵を思い浮かべて行う鍛錬法だ。
脳裏に浮かぶ仮想敵はただ一人。網膜と記憶に焼き付いた動きをトレースし、ただひたすらに四肢を動かし続ける。

もう一人は長身の青年。
金色の髪に時代錯誤な軽装の鎧、そして顔の上半分を覆うバイザー。
頭頂から爪先まで現代の京都には似つかわしくない風貌だ。

青年は屋上を囲むフェンスの上で屈み込み、バイザー越しに市街地を見渡していた。
二人の間に会話らしい会話はなく、冷え切った屋上には少女の拳撃と蹴撃が空を切る音と、鋭い吐息だけが聞こえている。

「……っ!」

唐突に顔を歪め、少女は拳を止めた――








――傷んだのは体じゃない。心の方だ。

少女、キャリー・ターセルはイメージ上の仮想敵とのスパーリングを中断し、額に滲んだ汗を腕で拭った。
あの相手に勝てるビジョンがどうしても浮かばない。
それどころか、こちらを強敵と認めて本気の目を向けてくる姿すら想像できなかった。

聖杯戦争なる大儀式に招かれる以前、キャリーは挑戦者として試合のリングに立っていた。
対戦相手はリンネ・ベルリネッタ。DSAAのU15ワールドランク1位。
同ワールドランクの8位にランクインし、U15枠において無敗を誇ったキャリーにとっても名実ともに格上の相手であった。

結果は惨敗である。
機先を制されて初撃を食らい、ただひたすらにラッシュで翻弄され、頭からリングに投げ落とされるという完膚無きまでのKO負けだ。

敗北したこと自体は、まだいい。
格闘家として誰もが経験することだ。生涯無敗なんて滅多にあるものじゃない。
キャリーの心を砕いたのは、試合前後のリンネの言動だった。

試合開始寸前、リンネはキャリーから目を逸らした。
これから戦う相手ではなく観客席にいる誰かに意識を向けたのだ。
そして試合後、ダメージから身動きの取れないキャリーに対し、リンネは平然とこんなことを言い放った。

『良い試合にはなりませんでしたが、良かったです。あなたを壊さずに済んで』
『お疲れ様でした、8位の人』

……他所に気を散らしているリンネにこっちを向かせてやりたかった。
たとえ勝てなかったとしても、手強い相手だったと記憶に刻んでやりたかった。
なのに、リンネはキャリーの名前すら覚えていなかった。


480 : 敗北の味は甘苦く ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:48:00 fZBqtG9s0
それだけではない。リンネは試合後に、特別室で観戦していた別のジムの選手達に対戦を要求するマイクパフォーマンスを行った。
キャリーが担架で医務室に運ばれた後の出来事だったが、知らずに済むような自体ではない。

リンネにとって、キャリーは最初から眼中にも入っていなかった。
試合が始まる前にも、終わった後も、ひょっとしたら試合の最中にだって。
彼女の意識はナカジマジムの選手達に向けられていて、自分はその片手間に片付けられる存在でしかなかったのだ。

あの時の気持ちを思い出すだけで拳が鈍る。
敗北をバネにするなんて言葉があるが、バネそのものが折れてしまったような感覚だ。

 ――ボン、と目の前で何かが跳ねる。

「……?」

この世界のスポーツドリンクが入った透明なボトルだ。高いところから放り投げられたのか、底が少しへこんでいる。
ボトルが投げられたであろう方向に目をやると、金髪の青年が今も変わらずフェンスの上でしゃがんでいた。

「ランサー……ありがと」

金髪の青年――ランサーのサーヴァントを召喚したのは半日ほど前のことだったが、未だに必要最小限の会話以外は交わしていない。
それでもこれは彼の好意なのだろう。キャリーはキャップを外して甘い液体を煽った。

「おい、マスター。リンネって餓鬼をブチのめしてぇのか」
「ぶふーっ!」

思わずドリンクを噴き出してしまう。
リンネのことはランサーには話していない。この世界に来た理由だってそうだ。
ランサーはデバイスに似たバイザーを上げて目元を露出させると、首だけを傾けてフェンスの下のキャリーを見やった。
一言で言うなら四白眼の悪人面。それでいて、友達が持っていた雑誌のワイルド系男性モデル的な雰囲気もある。

「説明してなかったか? マスターとサーヴァントってのは、お互いの過去を夢で見ることがあるんだよ。お前はまだ見てねぇのか」
「……そ、そういえば、凄いショッキングな夢を見たことがあるような……」
「どんな夢だ?」
「ええと……」

――銀髪の青年がランサーと戦っている夢だった。
自分やリンネが身を置いている格闘技の世界の戦いとは違う。
使えるものは何でも使う、まさに殺し合いとしか呼びようのない死闘だった。

リンネがそのことを伝えると、ランサーはボトルを握るリンネの手が震えているのを一瞥し、バイザーを元の位置に戻して「あっそ」とだけ言い捨てた。


481 : 敗北の味は甘苦く ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:49:31 fZBqtG9s0
「聖杯戦争は問答無用の殺し合いだ。『俺達』みてぇないっぺん人生ゲームオーバーした過去の幻影だけじゃなくて、今を生きてる人間だってぶっ殺すしぶっ殺される。そこまでして叶えたい願いがあるのか?」
「それは……その……」

キャリーの声が少しずつ小さくなっていく。
聖杯戦争への参加権だというオブジェクトがキャリーの前に現れたのは、医務室のベッドで涙に暮れているときだった。
悔しさと哀しさと虚しさに打ち震え、勝ち残れば願いが叶うという甘言に、一も二もなく飛びついた。
だから、心構えを問われても即答することができなかった。

「餓鬼に命(タマ)の取り合いの覚悟を問うほど無駄なこともねぇか。とりあえず、だ。どんな願いを聖杯にふっかけるつもりなのかくらいは教えてくれや。それくらいは把握しとかねぇとな」
「分かん……ない」
「あぁ?」
「あんな風にされて悔しくって、どうにかしたいって思って……でも、どうしたらいいのか分かんなくって……」

だからこそ、キャリーはがむしゃらにシャドーボクシングに打ち込んでいた。
ああやって体を動かしている間は、目指す先が自分でも分からないという現実から目を背けられたから。

「ったく。餓鬼のお守りをしに現界したわけじゃねぇんだがな」

ランサーが音もなくキャリーの隣に降り立つ。
そしてサイズの合わないバイザーをキャリーの顔に押し付けた。

「うわっぷ……」
「せいぜい視野を広く持つことだ。聖杯戦争を通じて腕を磨くも良し、聖杯でそいつに勝てるくらいにパワーアップするも良し、いっそ聖杯の力でダイレクトにぶっ潰すも良し。自分自身が後悔しない結末を考えな」

――ランサーのバイザー越しに見た風景は、視野が広いなどというレベルではなかった。

あらゆる障害物を遥か彼方まで透過し、夜の暗さを物ともしない超絶の視界。この世の全てを一望できるのではと錯覚するほどの大パノラマ。

「あっ、あの!」
「何だ?」
「……ランサーは、どうして聖杯が必要なの?」

そう問いかけると、素顔のランサーはどこか遠い目をした。

「俺はな、自分が死んだときの戦いに納得がいかねぇんだ。お節介な神様の余計な横やりを食らっちまった」
「その人に、勝ちたいから?」
「いいや」

 即答だった。キャリーが精一杯の想像力で考えた問いかけを、ランサーは一秒の間も置かずに否定した。


482 : 敗北の味は甘苦く ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:50:23 fZBqtG9s0
「勝ちだの負けだのは重要じゃねぇ。俺はただ、今度こそ納得のいく戦いをしたいだけだ」

ランサーの肉体が金色の粒子になってほつれていき、やがて跡形もなく消えてなくなった。
霊体化、というのだったか。何回見ても不思議な気分になってしまう。

「納得したい……だけ……」

夜の屋上にキャリーとバイザーだけが残される。
ただそれだけのために、ランサーは命を賭けているのだという。
キャリーにとっては、命のやり取りそのものが非日常でしかないというのに。

「私は、どうしたら……」
『おおっとぉ? 悩むのも青春の一幕ではありますが、こんなところで考え込んでたら風邪ひきますよ?』
「うわわっ! 喋った!?」

バイザーからいきなり声が聞こえ、キャリーは思わずバイザーを放り投げた。
堅牢なバイザーがコンクリートの屋上でバウンドしてコロコロと転がっていく。

『あいたたたた……』
「インテリジェントデバイス、だったのかな……ごめん、大丈夫?」
『いけませんねぇ、いけませんいけません、これはいけません。骨が五本か六本は真っ二つになったかも知れません』
「ほ、骨? どこに!?」
『心の目で視るのDeath! レッツ落とし前! まずはその上着を悩ましげにキャストオ――』

混乱するキャリーの目の前に突如としてランサーが実体化し、プロゴルファーじみた見事なフォームで槍を振り抜いてバイザーを弾き飛ばす。

『ドメスティィィック・ヴァイオレンスッ!』

バイザーが奇天烈な悲鳴を上げながら屋上の階段室の壁に激突し、盛大にクレーターを作った。

ぽかんとしたままのキャリーを尻目に、ランサーは人相の悪い目を余計に細め、片手でがりがりと髪を掻いた。

「リュンケウスだ。あんなナリだが俺の弟でな。今回は俺の宝具ってことになってる。アホだが仕事はきっちりこなす奴だから安心しろ。アホだがな」
「(二回言った……!)」
『まぁ冗談は置いときまして』

ランサーの槍の穂先に引っ掛けられて回収されつつ、バイザーが――リュンケウスが平然とした様子で再び喋りだす。

『私やイダス兄さんと違って、貴女はまだ"終わっていない"のですから。ゆっくり考えることをお勧めしますよ』
「いいからさっさと部屋に戻れ。この世界じゃお前は中学生って奴なんだろ」
「むっ。全部終わったら元の世界に帰るんだから、別に気にしなくていいでしょ!」
「宿題も済ませとけよ」

抗議を無視してさっさと屋内に戻っていくランサー。
キャリーは急いでその後を追い掛けた。

――何もかも分からないままだ。自分はリンネに何をしてやりたいのか。聖杯を手に入れたとして何を願いたいと思っているのか。胸に重々しく残る悔しさをどうやって跳ね除ければいいのか。

けれどランサー達の言うとおり、、焦る必要はないのかもしれない。キャリーは何となくそう思った。


483 : 敗北の味は甘苦く ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:51:36 fZBqtG9s0
【CLASS】ランサー

【真名】イダス

【出典】ギリシャ神話

【性別】男性

【身長・体重】

【属性】中立・悪

【ステータス】筋力A 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運D 宝具C

【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【固有スキル】
神性:D
 神霊適正を持つかどうか。
 海神ポセイドンの息子とされるが、本人は否定している。

心眼(偽):C
 直感・第六感による危険回避。

コンビネーション:A
 特定の人間と共闘する際に、どれだけ戦闘力が向上するかを表すスキル。
 生涯共に戦ってきた兄弟の間にはアイコンタクトすら不要。
 互いが互いの肉体の一部であるかのような連携を容易く実行する。

【宝具】
『万象見通す山猫の眼(リュンケウス)』
ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大補足:-
 顔の上半分を覆うバイザー型宝具。
 形を変えて現界した弟のリュンケウスそのものであり、千里眼によって得た情報を装着者に提供する。
 ランサーで召喚された場合は遠方知覚よりも動体視力と未来予測に比重が置かれ、正確な先読みを交えた白兵戦を可能とする。
 心眼や直感スキルで対抗可能だが、攻撃を凌ぎ切るには最低でもAランクが要求され、心眼(偽)を交えた防御を確実に崩すには更にワンランク上の能力が求められる。

 全くの余談だが、リュンケウスがサーヴァントとして召喚された場合はイダスが攻撃用宝具となって現界するという。

『人は土に還り、神は天に還る(カストール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大補足:1人
 かつて討ち取った英雄の名を冠した槍。
 不死なるポルックスの半身(きょうだい)を奪ったように、この宝具は神性を帯びた英霊から神ならぬ半身を削ぎ落とす。
 神性またはそれに準じるスキルを持つサーヴァントに攻撃を加えるたび、霊基のうちに占める「神ならぬ属性」の割合が低下し、それを補うように「神としての属性」が増大。
 やがて神性がサーヴァントの器に収まりきらなくなり、自壊する。
 神性を大幅アップさせる特性は欠点にもなり得るが、増大と自壊のペースは神性が高まるほどに加速していく。

 効果の発動条件は肉体に攻撃を当てること。傷を与える必要はない。
 神性を帯びた相手に対しては防御力も再生力も無視できる確殺手段だが、そうでない英霊にとっては単純威力のCランク宝具に過ぎない。


484 : 敗北の味は甘苦く ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:52:46 fZBqtG9s0
【マテリアル】
 アルゴナウタイの一人。弟のリュンケウス共々『アパレティダイ』と称された。
 ポセイドンの息子という説もあり、娘の求婚者に戦車競走を挑んで勝利しては殺害していたエウエノスという男に勝負を挑み、ポセイドンから借りた有翼の馬が牽く戦車を駆ってこれに勝利。エウエノスの娘マルペッサを妻とする。
 その直後、前々からマルペッサに目をつけていたアポロンがマルペッサを奪おうとして出現し、イダスはこれに対して弓を構える。この一人と一柱の対立はすぐさまゼウスが仲裁に入り、マルペッサが自分と同じ寿命を持つイダスを選んだことで終結する。
 これらのエピソードから、アーチャーとライダーの適正もあると思われる。

 アルゴナウタイとしては、予言者イドモンがイノシシに殺されたという有名なエピソードにおいて、そのイノシシを仕留める役目を担っている。また、カリュドーンの猪狩りのメンバーの一人でもある。

 物語においては、ディオスクロイ、即ちカストールとポルックスのライバルとして描写されている。
 ディオスクロイとの対立は、神話においては彼らがアパレティダイの婚約者達を略奪したことから始まるとされている(マルペッサの件よりも以前のエピソードである)
 しかし、その後もアパレティダイとディオスクロイが表立って衝突することはなく、共にアルゴナウタイのメンバーとして航海を成功させ、航海を終えてからも共同で事に当たることがしばしばあった。

 だが、それからしばらくして両兄弟は決定的な対立を迎える。
 リュンケウスの千里眼によってディオスクロイの動向を把握していたイダスは、先手を打ってカストールを殺害。リュンケウスがポルックスに殺されるなど激戦を繰り広げた末、ポルックスのみが生き残って双子座誕生の神話へと繋がるのだった。

 ――しかし、イダスは自分がポルックスに敗北したとは考えていない。
 ポルックスの父であるゼウスの介入があり、自分はそれによって命を落としたのだと確信している。
 故にイダスは聖杯を求める。もう一度、ポルックスとの決闘を果たすために。納得のいく決着を迎えるために。

【外見的特徴】
 ワイルドな風貌で金髪の勇士。目元をバイザー型の宝具で覆っている。
 バイザーの下の目付きはかなり悪く、四白眼気味なのもあって結構怖い。

【聖杯にかける願い】
 生前に殺し損ねたポルックスと満足の行く決着をつけること。
 あくまで再戦の機会が重要なのであって、聖杯でのパワーアップは望んでいない。


485 : 敗北の味は甘苦く ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:56:08 fZBqtG9s0
【マスター】キャリー・ターセル@Vivid Strike!

【マスターとしての願い】リベンジを果たしたい

【Weapon】
■名称不明のデバイス
 スマートフォン型と思われるデバイス。
 本来の年齢は15歳以下(U-15の選手のため)だが、試合のときはこれを用いて大人の姿に変身する。

【能力・技能】
 作中に登場する格闘技のU-15ワールドランキング8位。
 U-15枠では無敗を誇り、パワー、スピード、テクニックの三拍子が揃っている。
 ランキングだけ見れば前作主人公のヴィヴィオ(7位)に肉薄する実力者……

【人物背景】
 ……なのだが、ランキング1位にして今作主人公のライバルであるリンネ・ベルリネッタとの試合において、ただの一度も攻勢に転ずることができず完膚無きまでの秒殺を喫する。

 しかも相手からは(本人の真意はともかくとして)慇懃無礼で侮辱的な言葉を投げかけられたうえ、名前すら覚えられず「8位の人」とだけ呼ばれる屈辱的な扱いを受け、人目も憚らずに泣き崩れたまま担架で運ばれていった。

 本編ではその後立ち直ったようで、最終話ではリンネにビデオレターを送り、主人公とリンネの(全力の)練習試合の賞賛と、リベンジ宣言とも取れるメッセージを送っている。

 しかしこの聖杯戦争に招かれた彼女は、敗北して間もなくの段階でありまだ立ち直っていない。

【ロール】市内の中学校に通う中学生

【方針】
 ランサーとともに聖杯戦争を戦い抜く。
 それを通じて、自分が目指す先を見つけたい。
 そのために聖杯が必要なら……。



【オマケ】
【宝具】リュンケウス
【人物背景】イダスのマテリアルを参照。ポルックスに殺された。
【特徴】抜け目がなく能力を巧みに使いこなすがウザい。兄曰くアホ。一番性格の近い原作キャラは人工天然精霊マジカルルビー。


486 : ◆qAT6M/hdIg :2018/01/31(水) 23:58:41 fZBqtG9s0
投下終了です
身長体重が抜けていたのでこちらに差し替えます

【身長・体重】182cm・78kg


スレを頭から読んで>>9を見て真っ先に思いついたネタ
リュンケウスのキャラがああなった理由は自分でもよく分からない


487 : ◆FROrt..nPQ :2018/02/01(木) 18:11:03 JM44x5tQ0
感想を投下します。

>Manifest Destiny by Misfortune
 本企画二体目の南米邪神! これにはコアトルの姐御も暗黒ニッコリスマイル不可避。
 それはそうと、生け贄を愛する邪神という性質とは似つかない独特なキャラクターに仕上がっている印象を受けました。
 神としての性質が時折垣間見える一方、純粋な悪ではないという辺りが面白い。
 マスターのミスフォーチュンとの掛け合いもこれまた独特なものがあり、非常にテンポよく読める作品だなあと。
 しかしながら主神なだけはあり超凶悪な宝具を持っていますね……果たしてどうなることやら。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>剣崎比留子&アヴェンジャー
 エッツィ・ジ・アイスマンという人選がまず驚きでしたが、蓋を開けてみれば凄く巧いキャラ造形に思わず舌を巻きました。
 現代の人間からしてみればただのミステリアスな木乃伊でも、元を辿ればそこにも物語があった筈。
 そんな当たり前のことを凄く丁寧に、徹底して描いていることで一個のキャラクターとして成立させる手腕、お見事です。
 人類最古の未解決事件という命題をこういう形で話に仕上げてくるという発想力もまた凄い。
 果たして彼と比留子は、望む真実に辿り着くことが出来るのか……。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>王たる者 誰だって一度は 世界征服を志す
 ウェイバーくん、せっかく冬木の聖杯戦争を生き延びたのに……w
 しかし召喚するのがまたしても王というのは因果なものですね。
 一度王を知り、仕えた者だからこそ、ゼノビアとのやり取りにも物語序盤の彼にはなかった風格のようなものが宿っていたように思います。
 様々な意味で、Zeroを超えたウェイバーは最早冬木に入った当初の彼とは全く別物。
 そんな彼がもう一度、改めて聖杯戦争に挑めばどうなるか。これは面白いことになりそうですね。
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。

>敗北の味は甘苦く
 は、八位の人ことキャリーさん! という驚きが真っ先に来てしまいました。予想外過ぎる。
 それはともかく、キャリーが召喚したのはディオスクロイの最後の敵であるところのイダス。
 ゼウスが関与していた可能性が高い為、正当な形で決着を着けたいという動機には成程な、と唸らされました。本当あいつ碌なことしねえな。
 そんなイダスが先人としてキャリーに何かを語る姿を見ると、やはり彼らも英雄なのだなあと感じますね。
 しかしリュンケウス、これでは完全にデバイスだ……w
 ご投下ありがとうございました! 機会があればまたよろしくお願いします。


488 : ◆FROrt..nPQ :2018/02/01(木) 18:11:16 JM44x5tQ0


 感想は以上になります。
 以前にもお伝えした通り、当コンペの締切は2月いっぱいとなります。
 あと僅かな時間ではありますが、引き続き当企画をよろしくお願いいただければ幸いです。


489 : ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:35:11 wdvz4Vz20
感想感謝です。
投下します。


490 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:37:17 wdvz4Vz20

午後の京都に、曇天から雪が舞い落ちる。
旧正月、春節は確か二月中頃。その頃には中国人観光客が溢れるだろう。年末年始の混雑も落ち着いた、ちょうどいい時期だ。

「こうしてゆったり日本国内を観光することって、そういや、あまりなかったなァ……」

京都市右京区、嵐山の渡月橋。観光客の一人として、その男はここを訪れていた。
デジカメや携帯端末で、何枚もそれっぽい写真を撮り、次々とSNSにアップする。結構フォロワーも増えた。
「……ま、たまには休暇を愉しむか。戦争はもう始まってるけどね……」

京都市内を歩いただけでも、異常な殺気をそこかしこで感じる。物騒な事件も増えつつある。既に何人も脱落者や死人が出ているのだろう。
警察はテロを警戒し、警備体制を強化している。マスターはともかく、英霊相手には無駄なことだ。一体どれほど死ぬのか。

「しかし、京都の冬かァ……北海道やロシアに比べりゃ、まるで南国。ビーチでのバカンスだ」
彼は愉しげに笑い、歩き出す。平和な被写体には不足しない、いい街だ。

男は……随分小柄だ。おそらく160cmもないだろう。ごつい軍用靴を履いているが、威圧感はない。
顔は丸くのっぺりしていて、髭や眉毛はなく、目は丸く鼻は低い。スキンヘッドをバンダナで覆う。
肌のツヤからしても中学生ぐらいの少年に見えるが、実年齢はその三倍。変哲もない外套と衣服の下には、適度に鍛えられた肉体。

この偽りの世界での彼のロールは、フリーの戦場カメラマンということになっている。最近写真集も出し、カネはそれなり。自由といえば自由だ。
本来の世界では、そうではなかった。彼は凄腕の傭兵であり、立派な自衛官であった。


491 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:39:21 wdvz4Vz20



嵯峨野、竹林の道。歩幅を調整し、ついてきた彼女の横に並ぶ。彼女の方がだいぶ背が高い。目を合わせぬまま、小柄な男が小さく声をかける。
「懐かしいね、お嬢ちゃん」
「そうね。お久しぶり」

彼女が答える。かすかに漂う硝煙の香り、鉄の匂い。嗅ぎ慣れた臭いだ。念話に切り替える。
【フフ……戦場じゃ、よくあんたを抱いて寝たもんさ。数え切れないほどの男が、あんたで『童貞』を捨てただろう。わたしも……】
【女もね。『ノムラ』さん】

ノムラと呼ばれた男が、横目でチラリと女を見る。
スッキリしたミリタリールック。GIカットの金髪にサングラス。厳ついが整ったロシア系の顔立ち、細マッチョの長身。剣呑な雰囲気。
なるほど、『彼女』が人間になれば、人間の形をとれば、こういう姿も一つの選択肢か。

先程、念話で挨拶は済ませた。彼女は弓兵(アーチャー)のサーヴァント。
真名は『アフタマート・カラシニカヴァ』。ミハイル・カラシニコフの「娘」。



嵯峨野を北西へ歩き、化野念仏寺前を通り、小倉山展望台へ向かう。道の雪が深くなってきた。
ノムラは時々立ち止まって風景写真を獲る。彼女はノムラの背後を歩きながら、念話での会話を続けている。

【武器は凄い。美しく、カッコいい。用途に応じ、無駄をとことんまで排除してる。残った形状(かたち)は『必要』そのもの。
 『要求』そのものを形状に残したもの。機能だけが形状になっている。だからこそカッコいい】

ノムラの思念の声は、子供のようにはしゃいでいる。出来れば彼女も被写体にしたいところだが、ぐっと堪える。
【……けどねぇ、お嬢ちゃん。わたしはあんまり銃を使わないんだ、残念ながら】
銃があれば勿論いい。あれば使う。だが手元に小石や葉っぱの一つもあれば、いや素手でも、人間は充分殺せる。
その境地に立った時、彼は銃にさほど頼らなくなった。捕虜となり銃殺されかけたトラウマもあったかも知れない。


492 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:41:40 wdvz4Vz20

アーチャーは無表情のまま、饒舌に答える。
【あなたが銃を使わずとも充分に強く、素晴らしい兵士であり、戦士であることは分かる。知ってるし、伝わる。
 でも、私を使ってくれなきゃ。あなたの攻撃に神秘はある? 英霊にダメージを与えることが出来る?
 いくらあなたでも、神や精霊、幽霊と戦ったことはないでしょう?】

ノムラは心の中で微苦笑する。己と溶け合いつつある別人格が大地の神「ガイア」を自称する彼だが、あくまで人間。
数年前に、ガイアとして、あの鬼(オーガ)とは闘ったが、手も足も出なかった。もし彼女と闘えば……懐に飛び込めば、いけるだろう。
しかし、何の神秘もない物理的な攻撃は、英霊を傷つけることが出来ない。どうやらそういうルールらしい。あの鬼ならいざしらず、自分では……。

【私は、近代に生まれた英霊。父は最近まで生きていた。神や半神の英雄ではなく、人類がその偉業によって英霊となったものですらない。
 でも何千万、何億という人々の、血と汗と涙と、怒りと哀しみと狂気とが凝って私が生まれた。両親の思いもこもっている。
 私を知らない者は少ない。この平和な日本でさえも。私であれば、英霊と戦える。殺せる。生き残り、聖杯を手に入れることができる!】

熱っぽく語りかけるアーチャーに、ノムラは強く同意する。それに使えるものはなんでも使うのが、戦場での常道だ。ましてや彼女を。
【分かってる、ミス・カラシニカヴァ。キミは信頼できる、素晴らしい戦友だ。戦場においてキミほど頼もしい味方はいない】



展望台に到着し、下界や周囲を見回す。戦場は京都市全域、ここは西の端に近い。市街地もいいが、京都市の面積の四分の三は森林。
民間人を無用に巻き込まずに済むし、自分の戦法を最大限発揮するには、こちらの方が有利だろう。他の主従もそう考えるだろうが……。

【……けれど、私たちは増えすぎたわ。純正品ならいい。粗悪な海賊品が出回りすぎてる】
アーチャーはずっと喋りっぱなしだ。クールな外見に似合わぬ、文字通りのマシンガン・トーク。
なにせ器物、言いたいことがあっても長らく言えなかったのだ。愚痴を吐き出させてあげた方が、精神的に安定するだろう。
【私は粗悪品が許せない。銃を作り、使い、整備するのは人間。私は使う人の意志に従うだけ。でも、敬意を払って欲しい。私と、私の両親に】

しかし、こちらもプロの軍人。彼女を使う側から、使わせる側から、少し反論しておきたい。
【まことに正論だ。でもコピー品でも粗悪品でも、それを現場で使ってるヤツにとっちゃ、世界で最高の、かけがえのない銃なんだよ。
 想い出や思い入れもある。そういう想いが今のキミを形作ったんだ。あまり全否定しないほうがいいと思うね】
アーチャーは鼻を鳴らす。一理はある。
【貴重なご意見ね、お客様。……とにかく、それが私の望み。聖杯を獲得したら、そう願うの。
 私の粗悪な海賊品を消してくれ、これ以上生産させないでくれって。私の父の願いでもある。それによって英霊でなくなっても構わない】


493 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:43:58 wdvz4Vz20

親思いのいい娘だ。そうなっても、また別の銃の海賊品が出回るだけだろうが。
【世界から戦争をなくすとは、言わないのかい】
【戦争がなくなれば、私は用済み。猟銃ぐらいにはなるかも。それでもいいけど、つまんないわ。
 私は道具として、銃器として、正当に使う人間の役に立ちたい。祖国を守り、自由と独立を守るために使われたい】

ノムラは笑う。銃は道具。自己主張はしないし、出来ない。けれど意志を持てば、こう言うことも出来るのだ。
【なんて誇り高く、立派なことだろう。世界中の武器や兵器が、そんな風になってくれることを願いたいよ】



紅葉シーズンの11月中を除き、平日はカフェはやっていない。駐車場奥の自販機でホットコーヒーを二つ買い、一つを彼女に渡す。
この場に敵の気配はない。監視カメラの死角に座り、口で当たり障りのない会話をしながら、念話での会話を続ける。
【さて……我々は今ここで何をしてるんだ? ロシアの女(ひと)よ】
【デートじゃあないわね。聖杯戦争の準備……いや……既に、戦い】
【そう……戦いには違いない。しかし……格闘ではない。生き残り。ミス・カラシニカヴァとノムラ、ガイア。全存在を総動員した生き残りだ】
表面的には、欠伸が出るほど平和な日常。けれど、戦争はもう始まっている。ここは既に戦場。実家のような、殺し合うための舞台。

【どんな手段を使おうと、裏切ろうと、逃げようと、隠れようと、屈辱を味わおうと、大怪我をしようと、最後まで生き残れば勝ち。そういうルールよね】
聖杯戦争で勝ち残るということは、他の全てのサーヴァント、英霊を破壊するということ。マスターを殺すこと、脅して降りさせることも含まれる。

【言っておくが、わたしは、俺は……『ボク』は『弱い』。……凡人相手ならそれなりには強いが、上には上がいる。
 あまりに多くの勝利は、かえって兵士を弱体化させる、っていうじゃないか。若い頃から調子に乗りやすかったんでね、敗北を教えてくれた人たちには感謝してるよ。
 半神の英雄とやらと、たとえ攻撃が通じる前提で戦っても、勝てる自信はない。それを前提に物事を考えよう】

偉人、英雄。例えばアレクサンドロス大王、織田信長、宮本武蔵……。そういう連中の幽霊に、マンガに出て来るみたいな超常能力を上乗せしたのが英霊、サーヴァントだという。
彼女のようなものは例外としても、神話や伝説上の神々や英雄も含まれるとか。あの鬼なら、喜々として戦い、そして勝つだろう。
『ボク』は、俺は、そして「ガイア」は、そういう存在じゃない。臆病なチビからスタートして、強さに憧れ、戦場では伝説的な存在になったとは言え……まだ弱いままだ。
敗北を知る。知った上で生き残り、教訓とする。それはとても重要なインストラクション。「ガイア」が宿ったのも敗北の後、処刑の瞬間だった。
生き残れば次がある。もっと強くなれる。まだ改善の余地がある。「ガイア」は俺に、そう囁いている。彼も弱くなったものだ。

【賢明ね。自分の実力に自信を持つことも大事だけど、弱さに自信を持つことも大事だわ。恐怖を感じない兵士は、いい兵士じゃない。必ず死ぬ】


494 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:46:20 wdvz4Vz20

戦場では幾多の兵士を見、戦い、育てて来た。生き残ったヤツは決まって運があり、慎重で、知恵が働き、根性のあるヤツだった。
死ぬような目に遭っても、そういうヤツは必ず生き延びた。この戦場に集うマスターの中にも、きっといるだろう。手を組むなら、そういうヤツだ。

【弱肉強食……そんな世界で生き残るため、動物は擬態能力を発達させ、仲間と協力し、知恵を磨き、道具を作り出した。君のような】
【そう。私は弱者の味方。女子供でも私を手に取り、適切に使えば、屈強な男や猛獣だって殺せる。……銃弾がちゃんと当たればね】

ノムラが微笑む。あの鬼すら、不意打ちで強靭な網を被せられ、大型獣用麻酔銃で一斉射撃されたら、一時的にしろ拘束されたという(今は通じるか分からないが)。
人類の祖先が初めて石を手に持って投げた時、人類の勝利は決まっていた。彼女の銃弾が当たれば、当たる状況を作れば、勝てる相手には勝てるだろう。

アーチャーが、ふと北の方を見る。ノムラが視界を共有し、数km先から歩いて来る主従を見る。
マスターらしき方は優男。隣には胸の大きな女。どちらも大きく負傷しており、発する魔力は弱々しい。先程から山の中で戦っていた連中の、勝利者の方だ。
この展望台で休息しようというのだろうが……あの怪我では、生き残れそうにない。じきに死ぬだろう。銃弾を弾く力も能力も感じ取れない。

【可哀想だが、引導を渡してやれ。可能なら魔力の足しにでもするといい】
【了解(ハラショー)】

コーヒーを飲み終わった頃、有効射程まで近づいたところで、アーチャーが無雑作に右手をあげ、指先から銃弾を発射した。
油断していたマスターが頭部を貫かれる。次いでサーヴァントも。どうっと倒れ、命の灯が消える。ゲームオーバーだ。

眉根を寄せて小さくため息をつき、ノムラは空き缶をゴミ箱へ投げ入れた。立ち上がり、歩きながら、小声で歌う。


♪もしオレが戦場で死んだら 故郷の皆に伝えて欲しい オレはベストを尽くしたと
♪もしオレが戦場で死んだら 可愛いあの娘に伝えて欲しい 楽しい想い出 抱いて行くと
♪もしオレが戦場で死んだら 親しい友に伝えて欲しい 銃に向かってオレは死んだと
♪もしオレが戦場で死んだら オレの墓に名前はいらない ただ一人の男が 生き 闘い 死んでいったと 刻んで欲しい


495 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:49:07 wdvz4Vz20

【クラス】
アーチャー

【真名】
アフタマート・カラシニカヴァ@ソ連および全世界

【パラメーター】
筋力C 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術を無効化する。魔力避けのアミュレット程度。

単独行動:C
魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても1日は現界可能。

【保有スキル】
機種の魔:A
付喪神。数十年前に作成された機械の概念に過ぎないが、大量生産・複製・模倣・乱造や戦場での功績、染み着いた大量の血と怨念によって英霊の末席に連なった。
「人造四肢」「大量生産(自己)」「自己改造」「殺戮技巧(道具)」「戦闘続行」などを包含する特殊スキル。ランクが高くなればなるほど正純の英雄からは遠ざかる。
対人ダメージ値が上昇し、戦闘に関する行動判定、スキルの成功判定にボーナス。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
銃の概念が人の形をとった霊子アンドロイドであり、劣悪な環境下でも行動可能な耐久性は折り紙付き。大きなダメージを受けるとメカバレする。

射撃:A
銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。本人が銃器そのものであり、指先や掌、口からも銃弾を発射する。銃弾はほぼ無尽蔵。

気配遮断:B
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。マスターの影響で習得。

千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。遠方の標的捕捉に効果を発揮。暗視装置により夜目も利く。


496 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:51:18 wdvz4Vz20

【宝具】
『世界最多の殺人機械(アフタマート・カラシニカヴァ)』
ランク:B 種別:対人-対軍宝具 レンジ:600m前後 最大捕捉:470

Автомат Калашникова(Avtomat Kalashnikova)。「アブトマット・カラシニコバ」は英語読み。
宝具であると同時に彼女そのものでもある自動小銃(アフタマーチシェスカヤ・ヴィントーフカ)、その群体。ただひたすら数が多い。
全世界に5億挺以上存在すると言われる彼女たちの概念と接続し、ほぼ無制限に同類の銃とその銃弾(主に7.62mm)及び付属品を召喚・供給できる。
初代のAK-47からAKM、AK-74、AK-74M、AK-12に至るAKシリーズに加え、派生型のAKMSUやAK-100シリーズ、OTs-14グロザー、軽機関銃のRPKやPK、
散弾銃のヴェープル12モロトやサイガ12、狙撃銃のVSSなども召喚可能。マスターや協力者に渡して使用させられ、魔力を帯びているため英霊にも効果がある。
真名解放すると彼女の周囲に無数の銃が出現し、標的に対する射撃を行う。時間差射撃により限定時空間を銃弾で埋め尽くし、限界はあるが概念攻撃をも弾く。
また自らの分身を最大47体まで作成し、短時間だが作戦に参加させることも可能である。マスターの魔力が乏しいので多用は出来ない。

【Weapon】
自分自身。弾倉やグレネード、銃剣を含む付属装備一式を召喚可能。様々な軍隊格闘術も使え、掴んだ手や貫手から銃弾を発射する。

【器物背景】
1949年、ソビエト連邦国営イジェフスク造兵廠(イズマッシュ)で製作され、ソ連軍に採用された自動小銃。制式名称は「7.62mm アフタマート・カラシニカヴァ」。略称はAK。
父はミハイル・チモフェエヴィチ・カラシニコフ(1919-2013)、母はエカテリーナ・ヴィクトロヴナ・モイセーエワ(1921-1977)。
多種多様な気候に適応でき、また劣悪な生産施設でも生産可能なよう、部品の公差が大きく設計され、非常に高い信頼性と耐久性、生産性を誇る。
極寒地でも砂漠やジャングルでも、酷使や技術不足で部品の精度が低下しても問題なく動作する。部品は極力ユニット化され、整備も楽で故障も少ない。
そのため銃を扱うのが初めての新兵でも、数時間から数日間の短期講習で扱えるようになる。この抜群の性能から「世界三大小銃」の一つに数えられる。
何度かのバージョンアップや派生品の開発を経て、現在の最新式はAK-12(既存の火器の備蓄が多すぎるので、ロシア軍での制式採用は足踏み状態)。

冷戦期、ソ連は東側諸国や友好国・友好組織に大量のAKを供与し、ライセンス生産を一部認めた。
また冷戦終結後は東欧製AKが多数流出し、さらに海賊品も出回り、民間の武装勢力や傭兵、犯罪組織の手にも渡った。
東欧、中東、アフリカ、アフガニスタン、パキスタン、ベトナム、中国、北朝鮮、アメリカ、メキシコ、コロンビア……。
世界中の紛争地帯や銃社会で、AKは「最も信頼できる装備」として広まっていった。この事は紛争や内戦を激化させ、犠牲者を増やす一因となった。
武力によって独立を勝ち取った国家や革命政府にとって、AKは民族自決や自主独立の象徴とされた。モザンビークの国旗と国章にはAKの図柄が組み込まれた。
ジンバブエ及び東ティモールの国章や、レバノンのヒズボラ、コロンビアのFARKなども組織の旗にAKの図柄を取り入れた。
こうした「実績」により、彼女は英霊の座に登録されるに至ったようである。アサシン、ランサーの適性もあるかも知れない。

現在地球上には5億挺を超えるAKが存在するとされ、そのほとんどは中国などがライセンス切れのまま生産を続ける海賊品や、粗悪なコピー品である。
なおソ連崩壊後、イズマッシュは民営化されたが、ロシア国営企業ロステックの傘下に置かれた。
2012年にイズマッシュ社は経営不振により破産し、翌年には国営持株会社カラシニコフ・コンツェルンとなった。


497 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:53:23 wdvz4Vz20

【サーヴァントとしての願い】
自らの粗悪な海賊品たちの消滅。両親の願いどおり、国を護るために役立ちたい。

【方針】
マスターの指示に従う。強力な英霊には叶わない程度の性能であるため、基本的にはマスターを狙う。


【マスター】
ノムラ/ガイア@グラップラー刃牙

【Weapon】
アーミーナイフ、暗器、煙玉などを隠し持っている。普通に銃刀法違反だが、見つかるようなヘマはしない。
歯の中には硫酸入りカプセルが仕込んであり、敵の顔に噴き付けて攻撃する。また『環境利用闘法』により、周囲の全てが武器や兵器となり得る。
アーチャーから銃器や銃弾・銃剣などを渡してもらえば、それを自由自在に操って戦う。

【能力・技能】
『本部流実践柔術+軍隊式戦闘術』
本部以蔵の元で修行を積み、銃弾飛び交う実際の戦場で鍛え上げた総合戦闘・生存術。卑怯卑劣は褒め言葉であり、フェアプレー精神はない。
卓越した徒手格闘術に加え、銃器、ナイフ、クロスボウ、投擲、捕縄、偽装、気配遮断などの技術をマスターしている(偽装は格上相手にはよくバレる)。
格闘技というより忍術に近く、『環境利用闘法』もこの一環か。話術で相手の動揺を誘うのも術の一つ。衛生兵として応急手当等の医療技術も習得済み。

『多重人格』
解離性同一性障害。平時は気弱な小男「ノムラ(野村)」が表に出ているが、「ガイア」という傲慢な超軍人の人格が裏にいる。
ノムラのままでもそこそこ強いが、ガイアと化すと異常な強さになる。記憶は共有していないらしい。第二部以後はやや統合されたのか、ノムラのようなガイアになった。
作者もノムラのことを忘れている気がするが、一応ここでは主人格ノムラに「ガイア」の記憶と技術が溶け込みつつある(勇次郎に敗れた影響か?)ということにする。
つまり普段は(成長した)ノムラがガイアを名乗っている。「ガイア」は強い危険を感じると出て来るが、アドレナリン中毒ゆえか自分に酔う悪癖があり、あまり信頼は出来ない。

『闘気読破』
生命の危機により開花した、危険に対する卓越した感知能力。経験による勘や推察ではない。白兵戦でも戦術レベルでも、敵の未来の動きが手に取るように分かる。
筋肉や目線の動きを読むだけでなく、周囲の殺気・闘志の質や数量をも瞬時に読み取り、最小限の動きで高精度の回避・反撃を可能とする。
奇襲も察知できるが、殺気・闘志のない機械や無意識の動きを読み取ることは出来ないし、反応が間に合わない速度の攻撃には対処できない。

『アドレナリン操作』
アドレナリンの分泌量を自在にコントロールし、苦痛や出血を抑え、潜在能力を解放して超人的な身体能力を発揮する。
心身への負担が大きいのか、常時やっているわけではない。「ガイア」へのスイッチ切り替えもこれで行う。あらゆるスポーツ競技の記録を塗り替えられると豪語。
体重65-66kgの人間を片手で10mも投げ飛ばし、幅10mはある沼を助走をつけて飛び越え、パンチ一発で大木をへし折り、ビルの7階から落下する威力がある時速80kmの抱え投げを放つ。


498 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:55:44 wdvz4Vz20

『環境利用闘法』
周囲の環境を全て自分の味方につけ、武器や兵器とする戦闘スタイル。主な技には、掌で水や砂を掬って高速で投げつける「水弾」「砂弾」、
植物の葉を刃物としての斬撃、植物の蔓で相手を拘束・絞首する「蔓技(つるぎ)」、砂埃を煙幕とし体表に砂をまぶして姿を消す土遁などがある。
森林などの自然の環境が最適だが、沙漠や屋内や市街地でも、その場にあるものを自在に利用する。

『鼓膜破り』
特殊な呼吸法で常人の数倍の空気を肺に吸い込み、声帯を通して一気に放出、凄まじい大声をぶつけて鼓膜を破壊する。
近くで無防備のまま受けると三半規管をやられて平衡感覚を失い、気絶する。耐えてもしばらくは聴覚や平衡感覚が働かない。
最大数秒の溜めを要するが、軽くやっても相手にショックを与えることが可能。本人には効果がない。英霊でも実体化していれば多少は効きそう。

『トンネル』
中身をくり抜いたソファに身を潜め、標的が座った時に肛門をナイフで切り裂き、体内に侵入して口から抜け出る残虐な暗殺術。
読切『バキ外伝GaiA』で披露。普通に刺殺すればいい気もするが、死体に潜んで奇襲を仕掛けたりするのには使えるか(無印16巻)。

【人物背景】
板垣恵介『グラップラー刃牙』シリーズの登場人物。本名は野村。TVアニメ版(2001年)でのCVは遊佐浩二。
経歴からして少なくとも30代半ば(刃牙幼年編)か40歳近いと思われるが、異様に小柄かつ少年のような童顔で、髪が全くない頭をバンダナで覆う。
身体は筋肉質ではあるが、不自然に鍛え上げることを嫌うため、戦場での必要最低限の細マッチョ程度。傷跡もない。
一人称は、ノムラは「ボク」、ガイアは「わたし」であるが、時々「俺」になるなど安定しない。

実践柔術家・本部以蔵の弟子。戦闘術を習った後、1981年に20歳で傭兵としてウガンダに行き殺人の童貞を捨てる(ということは1961年生まれ?)。
殺しという美酒に酔って調子に乗った末、捕虜となり処刑されかけた。この時恐怖で頭髪が全て抜け落ちるが、第二の人格「ガイア」と殺気を読み取る能力に覚醒。
以後、範馬勇次郎と並んで世界各地の戦場で恐れられる超軍人となり、「ミスター戦争(ウォーズ)」の異名を持つに至った(1980年のコンゴにも「ガイア」がいたようだが…)。
やがて陸上自衛隊に招かれ、第1空挺団精鋭部隊5名の隊長兼衛生兵として、北海道奥地で機甲師団相手に壮絶な「訓練」を行う。
そこへやってきた中学生時代の範馬刃牙と死闘を演じ、臨死状態まで追い込むも、気合で蘇生した刃牙に敗北。和解して別れた(無印15-17巻)。
19巻では勇次郎に挑むも完敗し、ボコボコにされた屈辱的な姿で刃牙の前に現れた。最大トーナメント編には姿を見せず。

第二部『バキ』最凶死刑囚編で唐突に再登場し、地下闘技場でシコルスキーと闘い圧倒、心を折って完敗させた(17-18巻)。
第三部『範馬刃牙』ピクル編でもちらっと登場したが、米軍基地内のピクルのねぐらに潜入し偽装していただけであり、戦うことなく撤収した(12巻)。
第四部『刃牙道』では本部の弟子という設定が飛び込むものの、道場で本部に負けるわ武蔵に完敗するわといいところなし(10-11巻)。今じゃ本部の太鼓持ち。
読切の外伝『GaiA』では主役を務め、残虐な暗殺術で偽ガイアを殺し、米国の次期大統領を護衛したりとそれなりに活躍している。
刃牙との対戦後は自衛隊員としてイラクに渡り、一人の犠牲者も出すことなく帰還させるという功績を挙げていた(2003-2009年の自衛隊イラク派遣)。


499 : Damaged Goods ◆Lnde/AVAFI :2018/02/03(土) 21:58:10 wdvz4Vz20

刃牙シリーズの常として強さが変動するのはしょうがないにせよ、本部ともども強いのか弱いのかよく分からない人物。
環境次第で無双出来るが、勇次郎・刃牙・ピクル・武蔵といった規格外の怪物には遠く及ばず、師匠の本部には手も足も出ない(ノムラ時だったかも)。
烈海王や郭海皇、花山、オリバにも勝てる気がしないが、渋川や独歩、克己やジャック、万全状態の死刑囚やゲバル相手なら、厳しそうだが状況次第。
火器を用いずに戦車部隊を壊滅させたりはしているが、基本的に対人戦主体。超人的戦闘力を持つものの、魔術や念力は使えず、物理的常識の範囲に留まる。
俊敏だが、小柄なので攻撃力・耐久力は微妙。殺人には躊躇しないが、メンタルは比較的弱い。だが……ここは戦場。ガイアが強くて何が悪い!!!

【ロール】
フリーの戦場カメラマン。観光客として市内のホテルに長期滞在中。

【マスターとしての願い】
帰還以外は特に考えていない。アーチャーの望みを叶えてあげてもいい。

【方針】
手段を問わず生き延び、帰還するか聖杯を獲得する。魔術師でも何でもないため、英霊相手に直接戦闘を挑むのは自殺行為。
狙撃や奇襲、精神攻撃や交渉など搦め手を用いて立ち回り、アーチャーと協力して敵マスターを暗殺するのが最善手か。
確実に殺せる相手だけを安全に殺し、無理そうなら躊躇わず逃げる。他の主従とも協力できそうなら協力する。民間人の死者はあまり出したくはない。

【把握手段・参戦時期】
第二部『バキ』でシコルスキーに勝利した後。ピクルや武蔵とはまだ会っていない。出番は多くないので、彼が出る話だけ読めば大体把握できる。
刃牙世界の「西暦」は連載時の現実世界に合わせて推移するので考えるだけ無駄だが、一応1961年生まれで40歳前後、2001年頃(イラク派遣前)から来たということにする。


投下終了です。


500 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:20:43 VEzPmQiM0
投下します


501 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:21:49 VEzPmQiM0
死闘だった。
己の胸元に漸く頭が届くかどうか、という体躯の騎士が振るう剣は剛烈にして精妙。
その剣技は、何度も俺の体を捉えた。
その剛剣は、刃を撃ち交わす度に手のみならず、腕どころでは済まず、全身に痺れを覚えさせた。
強い。などという言葉では追い付かない。
強敵。などという括りに入れられるモノでは無い。
俺が遥か仰ぎ見る騎士達と比しても遜色ない騎士だった。
俺が握る剣が“彼女”からの贈り物で無ければ、とうに剣身が折れ砕けて勝負は決していただろう。
“彼女”が俺に与えた“鎧”が無ければ、とうに俺は致命の傷を負わされていた事だろう。
それほどまでに俺の方が恵まれていながら、何度も傷を負わされているのは、純粋に向こうが俺より強いからだ。それもずっとずっと遥かに。
俺に“彼女”の加護が無ければ、とうに俺は痛みと出血で動けなくなり、地に伏していただろう。
それほどの騎士だった。
世は広い。王や国の誉である騎士達の他にもこれ程の騎士が居ようとは。
だが、敗北はできない。代理として決闘の場に立った以上は。
そして“彼女”の為に、“彼女”の騎士として勝利を捧げる為にも。
その思いを胸に、心が折れそうになる力量差と、間断無く傷つき続ける身体を動かし続けた。
そして、決着の刻。
無数に撃ち交わされた刃は、全身の関節がバラバラになり、筋肉が骨から離れそうな損傷を俺の身体に刻んでいる。
騎士から与えられた衝撃と、攻撃の為の踏み込みを支えた脚は、膝から下が石に変じたかのように重く、僅かに動かすだけで体力の全てを使い果たしそうな程だった。
剣を握っている─────どころか保持している事が奇跡と言い切れる両手など、この先の一生涯、物を持てそうにない。
だが─────それでも。

「勝った………」

そう、勝ったのは俺だった。


502 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:22:28 VEzPmQiM0

渾身の勢いで踏み込んで上段から斬り下ろす─────と見せ掛けた。
釣られた騎士が前に踏み込み、俺の振り下ろした剣が届くよりも速く俺の胴を薙ごうとする。
互いに踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
そう思わせておいて、俺は大きく後ろに飛びながら剣を振り下ろしたのだ。
騎士と俺とでは体格差が文字通り大人と子供ほども有る。
俺の間合いであっても、騎士は更に踏み込まねば俺に刃が届かない。
その間合いの差を活かした攻撃。
元より成功する見込みは低い。良くて相討ち。
だが─────これより他にこの騎士に勝つ術はない。
果たして騎士は横に振り抜こうとした動きを即座に止め、地を蹴って俺の懐に飛び込もうとした、
速い。あまりにも速過ぎて俺の剣が届く前に騎士の身体がぶつかって来る。
後ろに飛んでいる最中に体当たりを受ければ転倒は必至。騎士が俺を百度殺すに足りる隙を俺は晒す事だろう。
だが─────騎士は大きくつんのめった。
足を滑らせて体勢を崩したのだ。
即座に俺の剣を払う動きに転じたのは賞賛に値するが、最早到底間に合わない。
俺の剣は不恰好な形で受けた騎士の剣を砕き、兜を叩き割って、その下の頭部に致命の傷を与えた。

俺は、勝ったのだ。


503 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:23:00 VEzPmQiM0
地を赤く染めて倒れ伏す騎士。

割れ砕けた兜の下から覗く、陽光の輝きを思わせる金の髪。
ああ……この顔は…………まさか………………。
倒れた騎士に駆け寄った時の俺の顔は、死人そのものの色をしていたに違いない。
抱き起こし、顔を改めた時の絶望を言葉で語る事など不可能だ。
鮮血に濡れたその顔─────。白皙の肌は失血により更に白く。
倒した騎士に誰よりも貴い姿を見た時、俺はそう、確かに狂ったのだ。
愚か、愚か、愚か、愚か、愚か。
何故、その立ち姿を見ても何も思わなかったのか。
何故、その闘志を浴びながら王を思わなかったのか。
何故、直接刃を交えて王と気づけなかったのか。

王と対峙しながらも、胸中を占めたは只“彼女”の事のみ。
浅ましい、浅ましい、なんと浅ましい。まさしく獣。
獣欲に駆られて王を殺したのか、俺は。
こんな…こんな男に我が王は殺されたのか。
許されない。否、あって良いはずがない。
悍ましい。ああ悍ましい。この俺の存在がたまらなく厭わしい。
ああ、もし奇跡が有るのなら。ああ、もし神が我が願いを聞き届けてくれるというのなら。
俺は─────俺を消し去りたい。
過去未来の全てから。自分自身を消し去りたい。
俺が存在しなければ王は死なずに済む。
俺が存在しなければ国は滅ばずに済む。

絶望に囚われ呆然と立ち尽くす俺の元に“彼女”が現れこう言った。

「これでこの国から王は消えた。貴方の強さに聖剣と鞘の力が加われば、統制の取れぬ騎士共など恐るに足らず。
国を奪い、王となるのです。私も力を貸しましょう」

俺はその時、騎士が─────王が足を滑らせた理由を知った。
俺は─────“彼女”の、魔女の意のままに踊って、王をこの手で弑したのだ。
俺は、その場から逃げ出した。
王を殺した事も。
王になれと囁く“彼女”も。
全てが耐え難かった。


王を殺した後。王の死を知って怒り狂った騎士達に切り刻まれている最中にも。王を殺した事で英霊の座に至っても。
俺は只それだけを願い続けていた。


504 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:23:33 VEzPmQiM0
「ふむ、飢えし混沌の君も、なかなか面白い道具を贈って下さる」

京都市の北部。静原の森の中に一人の男が佇んでいた。
腰まで届く銀の髪。獣皮と覚しい黒い胴着と籠手。
街中にいれば衆目を集める奇抜な格好だったが、この男が最も人目を引きつけるのは他にあった。
耳。男の耳は人のそれとは違って長く伸び、先端が尖っていた。
エルフ。そう呼ばれる者達の特徴を示した耳だった。

「いきなりこの様な土地に連れてこられた時には驚いたが、これも飢えし混沌の君の御意志か。我が君は神の子とやらの杯を以って人を滅ぼせと仰せか」

エルフは邪悪に口元を歪めて笑う。
エルフは今まで陽光に栄える者共の欲望を煽って争わせ、欺いて殺し合わせ、忠を大義を掲げる者達を憎しみ合わせ、そうやって死と滅びを撒いてきた。
どうやらこの男の愛人とやらは己の同類だったらしい。
国を護り、民に安寧を齎した王を、その王を崇める騎士に殺させるその悪辣さは賞賛に値した。
先のこの男の繰り手に劣らぬ真似をして見せねば、飢えし混沌の君へ捧げる“神楽”として不足極まりない。

「この様な者を送って来られるとは、この地の“神楽”は念入りに整えねばならんな。嘗て傀儡として操られし愚昧な騎士よ。今一度私が整えた舞台で存分に舞うが良い」

エルフは視線を己がサーヴァントへと向ける。
バーサーカーとして現界した己がサーヴァントが、拠点となる地を求めてこの地へと赴いた魔術師のサーヴァント、セイバーを滅多切りにしている所だった。
一撃を加えて抉り。
二撃を加えて砕き。
三撃を加えて穿ち。
胸中に抱く悲憤を敵に叩きつけるかの様に、動きの止まったセイバーを切り刻む。


505 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:24:07 VEzPmQiM0
「この狂い振り、騎士道などとホザイて逆らう事もあるまい」

戦闘力も申し分無し。この操躯兵(バイラリン)は、現時点に於る最高傑作を凌駕するものだった。
自身の手で作成したわけでないのが気に障るが。

「さて…先ずはどう動くか。矢張り大義とやらを掲げて聖杯戦争とやらの打倒を謳い、駒を増やすか」

右腕を捻る。連動して右手に握られた槍が回転し、逆棘で体内を掻き回された魔術師が、怖気の走る絶叫を上げた。
夜の静寂を破った絶叫の、最後の余韻までを堪能してエルフは笑顔で告げる。

「ああ頑張ってくれ魔術師殿。何しろこの地での初めての贄だ。宴の景気づけに頑張って悲鳴をあげてくれ。
聞きつけて誰かが来れば、死ぬ仲間が出来るぞ。ほら、もう一声」

引き抜かれた槍が、緩慢に降りて来るのを、魔術師度は恐怖に満ちた目で見つめる事しか出来なかった。

「さて、宴の演目は………」

飢えし混沌の君の加護か、エルフの戦力は些かも損なわれる事なくこの地にある。これ以上望むものなどない。
後はただ─────死と滅びをもたらすのみ。

殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし。

ただそれのみを胸に、エルフは聖杯戦争に、より一層の惨と禍を加える。


506 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:24:46 VEzPmQiM0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
アコロン@アーサー王伝説

【ステータス】
筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:C 幸運: E- 宝具:A

【属性】
混沌・狂

【クラススキル】
狂化:A
パラメータを向上させるが理性の全てを奪われる。
バーサーカーにとっては救いでしかない為、彼の狂化スキルはAより下になることはない。


【保有スキル】

対英雄:B
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
Bランクの場合、英雄であれば2ランク、反英雄であれば1ランク低下する。
王を相手にした時はAランクとなる。


心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。


魔女の呪い(加護):A+
魔女モルガンからの加護。魔力と幸運を除く、他全てのステータスがランクアップしている。
キャメロットに関わる英霊が相手の場合、自身の行動の成功判定と、相手のファンブル率を大幅に上げ、直感や心眼(偽)の効果を半減させる。
本来は祝福もしくは加護なのだが、バーサーカーにとっては最早呪いでしかない。
バーサーカーがアーサー王に勝ってしまった最大の要因。


507 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:27:05 VEzPmQiM0
【宝具】

風王結界(インビジブル・エア)
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1〜2
最大捕捉:1人
バーサーカーの全身を覆い隠す、風で出来た第二の鎧。厳密には宝具というより魔術に該当する。
幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
ただし、あくまで視覚にうったえる効果であるため、幻覚耐性や「心眼(偽)」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
また、音を遮断する。という効果を持つ。
要するにバーサーカーが発する声はも聞く声も、例え怒声ですら聞こえ辛い。


貴血に濡れし勝利の剣(エクスカリバー・ブラッドアーサー)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人

アーサー王が持つ剣であり、その代名詞とも言える宝具。
人々の「こうであって欲しい」という想念が星の内部で結晶・精製された神造兵装であり、最強の幻想(ラスト・ファンタズム)。聖剣というカテゴリーの中において頂点に立つ最強の聖剣。
アーサー王を殺害した事により魔剣と化し、剣身は鮮血を思わせる紅に染まっている。
只の剣としてしかバーサーカーには使えない。
本来の持ち主ではない為に大幅にランクダウンしている。



償い能わぬ過去の罪業(アヴァロン・シン)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 対象:1人

妖精モルガン(モルガン・ル・フェ)がアーサー王から奪った聖剣の鞘。
「不老不死」の効果を有し、持ち主の老化を抑え、呪いを跳ね除け、傷を癒す。
本来の持ち主ではない為に大幅にランクダウンしている。
バーサーカーに齎される効果は、高い治癒能力と魔力回復のみである。
生前、モルガン・ル・フェイによってバーサーカーの体内に埋め込まれた。


508 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:28:02 VEzPmQiM0
【weapon】
貴血に濡れし勝利の剣(エクスカリバー・ブラッドアーサー)

【人物】
アーサー王伝説に登場する騎士。妖女モルガン・ル・フェイの愛人。
エクスカリバーとその鞘をモルガン・ル・フェイから与えられ、知らぬままにアーサー王と戦いあわやというところまで追い詰めるも、湖の乙女の助けにより、鞘を落とした隙をついてアーサー王が勝利する。
死の直前相手がアーサー王だったと知り懺悔して許される。
その骸はアーサー王により棺に納められ、モルガン・ル・フェイの元へ送りつけられた。
モルガン・ル・フェイは棺に縋って泣いたという。


当企画においてはモルガン・ル・フェイの加護によりアーサー王を殺してしまった。……ということにする。
Aランクの狂化スキル持ちのバーサーカーである為に会話は不可能。本能に任せて敵を殺すのみ。


【方針】
????

【聖杯に託す願い】
アコロンの存在を人理から抹消する

【外見】
身長195cm・体重102kg
全身を無骨な漆黒の板金鎧と兜で覆い、更に風王結界で姿を隠している。
鉛色の肌をした壮年。偉丈夫であったがその面影はどこにも無く、その顔は木乃伊のように�覧せこけ、両目からは血涙を流し続けている。


509 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:29:53 VEzPmQiM0
【マスター】
ラゼィル・ラファルガー@白貌の伝道師

【能力・技能】
骸操り(コープスハンドラー)
屍に魔力を通し、生前そのままの能力を発揮させる技術。
擬似生命としての性質を持つ武器や骸人形を作り出せる。

武芸
殺戮の技を技芸として嗜み、芸術の域へと昇華させている。
此処に非常に高度な解剖学の技術と知識が加わることにより、効率的に人体を解体し、拷問することが出来る。

魔術
影の中に武器を収納したり、死骸に魔力を充填して動かす外法に精通している。


【weapon】
龍骸装
ラゼィルが手ずから仕留めた、白銀龍の骸を解体して加工した一群の武器。ラゼィルの屠龍の勲の証。
鋼すら断ち切る威力を、ラゼィルの施した魔力が更に向上させている。


凍月(いてづき)
龍の第六肋骨を削りだした一体成形型の曲刀。
刀身には"鋭化""硬化"の術が施され、状況に応じて“”震壊""重剛""柔靱"の状況に応じた魔力付与を発動させることが可能。

群鮫(むらさめ)
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
刃に“硬化”の二重掛け。更に切っ先への衝撃で“重剛”の魔力付加が発動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、投擲において絶妙な精度を誇る。

凶蛟(まがみずち)
白銀龍の下顎の骨に、四五枚の鱗を髭で結わえつけた鎖分銅。
全長二十フィート余りだが、連結部に“柔靭”が掛かっている為、状況に応じて自在に収縮する。
全ての部品に“鋭化”が、顎骨には重ねて“重剛”の術が施されている。
尾端に凍月を連結する事で鎖鎌としても使用可能。
逆棘が付いていて抜くときに傷を抉る。

手裏剣
龍の鱗から作成したもの。柳葉状の刃はどこに触れても鮮血を噴く。

胴着と籠手
鬣を編み上げて作成したもの、籠手がないと龍骸装備は扱えたものではない。

凄煉(せいれん)
最強の龍骸装。白銀龍の肺胞を用いたものだが、これには一切の魔力付与をしていない。
取り出すと同時に吸気を始め、100秒後に龍の吐息(ドラゴンブレス)を吐き出す。
超高温を帯びた瘴気の息吹は、金属すら溶解させ、直撃せずとも致死の毒性で骨が腐り地が枯れる。

いずれも鮮血を滋養として代謝し、自己再生能力を持つ。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。
龍骸装は、使わないときは、影に変えてラゼィルの服の袖の中に収納されている。


操躯兵
男はバイラリン、女はバイラリナと呼称される。
ラゼィルの充填した魔力によって動く。概念としてはゴーレムが近い。
肉体の神経網をそのまま活用し、生前の思考能力と身に付いた技術をそのままに、自我、欲望、感情が欠落した、主人に絶対服従する使い魔。
痛みも疲労もを感じなくなり、肉体の限界まで筋肉を行使することが出来、酷使により傷ついた筋繊維は充填された魔力によって即座に治る。
複数の死体を組み合わせて作成することも可能。
戦闘用のものは“嘆きの鉈”と呼ばれる超重量の武具をラゼィルから渡される。
現在持っているのはハーフエルフの少女を素体にした“バイラリナ”
その性質上内臓が不要な為、臓器を全て取り出して腹の中にものを入れる事が可能。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。

ラゼィルは操躯兵をゾンビだのネクロマンシーだの言われるとキレる。


夜鬼の置き土産
極めて特殊な揮発物。訓練されたダークエルフのみが、その匂いを数マイル先からでも嗅ぎわけることが出来る。

白貌
エルフの血と骨粉で作った白粉。水にも強いがエルフの血には弱い。


【人物背景】
ダークエルフの英雄。その武練、その信仰心は地下世界アビサリオンに並ぶものなく、屠龍の勲は、母が子に寝物語として聞かせるほど。
その功を以って筆頭祀将にまでなった真性の英雄。
ある時、同族同士で争うだけで、聖典ウィグニアのただ一説。“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
この教えを忘れ、地上世界への侵攻を忘れて只相争う同族を見限り、神像の右目を抉り取って地上へと出奔する。
その後は地上を彷徨い、人やエルフの集落をいくつも滅ぼし、死と滅びを神像から抉り取った右目に見せ続けてきた。
後世に“白貌の伝道師”という邪悪な伝説となって語られることになる。


【方針】
“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
バーサーカーに聖杯を渡すなんてことは絶対しない。
魔力が豊富な為にバーサーカーの運用に支障をきたすことはないが、それでも長時間の戦闘は避けるべきだろう。

【聖杯にかける願い】
取ってから考える

【参戦時期】
原作終了後


510 : 俺って、本当にバカ ◆yvMlJZlK/. :2018/02/09(金) 22:30:22 VEzPmQiM0
投下を終了します


511 : ◆EPyDv9DKJs :2018/02/10(土) 00:39:12 XPq/hDJY0
投下します


512 : ◆EPyDv9DKJs :2018/02/10(土) 00:40:28 XPq/hDJY0
 人の気配なき、夜の山。
 街の明かりが無数にちりばめられた情景は、
 山という都から離れた高所であるからこそのものだ。
 もっとも、今の彼らはそんなこと興じている場合ではなく......










「■■■■■■■■■■―――――ッ!!」

 表現できないような悲鳴を上げる、一人のマスターがいた。
 それもそのはずだ。今の彼は、まさに文字通りの『火柱』なのだから。
 一本の木に縛られて、悶えることすら満足にできず、生きたまま木と共に焼かれる。
 まさに地獄絵図である。常人ならば、この光景に目を背けても仕方がないほどに。
 こんな非常事態に、彼の相棒―――サーヴァントは一体何をしているのか。
 決まっている。その火柱となるマスターを前に石に腰掛けた男が既に燃やした。
 赤と灰色の袴の、山の字に類した特徴的な髭の男はそんな光景を眺めながら、
 そばにおいてあった猪口に酒を注いで、凄惨な光景を月見酒の如く水面に映し、呷る。
 人が燃えてるのを見物し、酒の肴にするなどと言う狂人のごとき、人から逸脱した行為。
 そのいかれた光景を、その壮年の男の背後にいる少年は黙って見続けている。
 少年は壮年の男性と違い若く、美少年と言ってもいいぐらいだ。
 中性的で、黒を基調とした格好もあいまって、より魅力を引き出す。
 黙って見てはいるが、表情は険しいものでしかなかった。





 暫くして飽いたのか、その燃える木を前に袴の男は指を鳴らす。
 鳴らすと同時に炎は一気に散り散りに霧散し、山火事とは無縁のものになる。
 マスターだったものは燃え尽きている。どうなってるかなど聞くまでもない。
 人間のあらゆる部位が焼け焦げた異臭が鼻につき、少年は眉をひそめた。

「実にいいものだ。そうは思わないか我が君よ。」

 同意を求めるように席を立ち、背後の少年へと男は問う。
 男の表情は酒か、今の光景に酔ってるのか、微笑を浮かべている。

「悪いが、お前の趣味に付き合う暇はない。
 付き合ったとしても、僕が理解することもない。」

 よほど狂人や嗜好を持たない限り、これをいい者と言うものはいない。
 それは彼も例外ではなく、彼のしている行為は不愉快でしかなかった。
 だが、仕方ないと割り切る。これが武器だ。これが新たなパートナーなのだから。
 仲間も相棒もいない中、唯一共に戦ってくれるのは、嫌悪するこの男だけだ。

「残念だ。その奇抜な仮面から、主とは気が合うと思ったんだが。」

 やれやれと肩をすくめながら指摘するのは、少年が被っている仮面だ。
 いや、それを仮面と言うのは少々間違いだとも思えてくるだろう。
 奇抜と言うのは、仮面と呼ぶには色々空いていて、視点次第で顔が伺えるからだ。
 顔が入る程度に大きい、怪物のような頭蓋骨を被っている。
 隠す気があるのかないのか分からない、奇妙な仮面は顔を隠すのではなく、
 戦利品か何かなのではないかとサーヴァントは思っていた。

「かの織田信長殿は、討ち取った将の髑髏を杯にした。
 マスターの仮面とは、趣味か何かではないのかね?」

「これは元いた世界で変装のためにしていただけだ。
 僕は元の世界の歴史に、裏切り者として名を遺した。
 瓜二つな顔の人間がいれば、目立つに決まっている。」

 彼は大罪人だ。仲間だった彼らと大切な存在を天秤にかけて、裏切った。
 歴史にも裏切り者として名を残した存在で、本人もそれを認めている。
 そのための変装であり、彼と同じ嗜好といわれるのは不愉快極まりない。

「歴史・・・・・・貴方も、私と同じだったんですね。」

 唐突に、サーヴァントの声色が変化する。
 先ほどまで悦に浸っていた男とは思えぬほど、
 誠実さを伺わせてくれるような声色で。

 マスターである少年は、自分のことは話さなかった。
 このサーヴァントを召喚してからと言うもの、会話をしていなかったのだ。
 サーヴァントの情報が流れこんだ瞬間、彼とは相性が悪いと理解して、
 ただ三日の間は情報収集だけをしろといわれて、サーヴァントもそれを快諾。
 そんな風に主従関係を結んではや四日。ようやくまともな会話に至っている。
 話すつもりなどは最初からなかったのだが、話してしまった以上仕方がない。
 余り気乗りはしないが、軽く身の上話をすることにした。

「僕もお前と同じ裏切り者(ジューダス)だ。
 お前も僕も、世間からすれば大罪人になる。」

 このサーヴァントも、彼と同じ裏切り者として非常に名高い。
 決定的な違いがあるとすれば、一度の裏切りが歴史に残す大罪と、
 幾度と裏切りを重ね、悪逆のエピソードも名高いという積み重ねによる大罪か。

「だから、マスターは『ジューダスとも好きに呼べ』といったのですね。」


513 : ◆EPyDv9DKJs :2018/02/10(土) 00:43:15 XPq/hDJY0
 ジューダス―――裏切り者。
 自分にはそれがお似合いで、彼はジューダスと名乗った。
 もっとも、元をただせば甥となる存在が名づけたのだが。
 何故初対面の人間に裏切り者たるジューダスをつけたのか。
 今思えば、カイルの名づけ方は想像の斜め上を行く。
 行動自体がアイツと重なって、親子なのだと思えるが。

「では、貴殿は歴史を改変したいのでしょうか。」

 マスターを殺す以上、少なくとも優勝する理由があるのだと推測はしていたが、
 身の上話をろくにしなかった都合、サーヴァントに真意は分からなかった。
 歴史と言う本来ならば変えようのないものは、聖杯で叶えるに相応しいだと思って。

「違うな、アサシン。僕は―――歴史を変えようとはしない。
 僕がした選択は、たとえ何度生まれ変わっても、同じ道を選ぶ。」

 だが、それは違う。
 何度同じ状況に陥っても、彼は自分のしたことに後悔はない。
 だから歴史を変えて、自分を英雄に仕立てて歴史に刻むつもりはなく。

「では、何故急ぐので?」

 優勝するため、聖杯戦争をするのは普通だ。
 けれど、それを差し引いたとしても行動力がありすぎる。
 三日間は目的が何かも伝えないまま放置して優勝する気がないと思ったら、
 その三日が過ぎれば、ジューダスは聖杯戦争を勝ち抜くための行動を開始。
 この四日目、一日で二組も狩ることに成功しているが、一日二組はペースが早過ぎる。
 理知的な人物と推察していた彼のする行動とも思えなかった。

「時間がないんだ、僕には。」

 神の卵―――彼がいた世界上空に現れた巨大彗星。
 アレを落とそうとする神を倒すため、その神の卵へと乗り込んだ。
 しかし、その道中の魔物に吹き飛ばされた先に、此処への切符があるとは思わなかった。
 エルレイン達が万が一に備えて用意していたのか、それともただの偶然か。
 どちらにせよ、この聖杯戦争に招かれたことであの世界から自分は消えている。
 仲間が消えれば確実にカイル達は探すことを優先してしまうし、戦力も低下。
 自分がいなければならないほど、自分だけに依存したメンバーではないのは確かだ。
 カイルだけではない。ロニ、リアラ、ナナリー、ハロルド。誰もが頼れる存在である。
 殆どがそれぞれ時代の違う存在だが、共に旅をしてきたことで仲間としての信頼は十分だ。
 だが、イコール心配いらないと言い切れるほど相手はやわな存在ではない。相手は紛れもない神。
 一刻も早く戻らなければ、フォルトゥナは世界を破壊と再生を行い、歴史が変わってしまう。
 神が関与した世界を、果たして聖杯がどこまで通用するのかわかったものではない。

 最初は、この世界に来てからは脱出しようと画策した。
 自分達の世界のためだけに人を殺し、願望を実現させる。
 それは相対していた神、フォルトゥナ達と同じ行動なのだから。
 だから三日は調べた。三日で結果が出せなければ、優勝を目指そうと。
 そして過ぎた。何も見つからないまま三日......諦めざるを得なかった。
 この三日で向こうでどれだけの時間が経っているか分からない。
 もしかしたら、全てが手遅れかもしれない。だからジューダスは急いでいた。
 スタン達が繋いだ歴史を、世界の崩壊は目の前により、時間は僅かなものだ。

「話は終わりだ。確か、交渉を進めてるマスターがいると言ったな。」

「今朝方、討伐したサーヴァントに追われていたところを救出し、
 勘違いか利用する算段かは不明として、此方と協力したいとのことです。」

「・・・・・・追われていた、か。どうやら期待はできないな。」

 一組目のマスターをどうしたかは分からないが、
 二組目のマスターは、今まさに惨たらしく見殺しにした。
 カイル達ならば絶対止めに入るだろう行為を、ただ眺め続けた。
 これからするであろう行為は、決して彼らが進もうとする道ではない。
 だから見殺しにした。自分がしている行為がどういうことかを戒めとせんがため。
 
「そのマスターを『狩る』ぞ、アサシン。」

 嘗ての大罪人の如く、嘗ての仲間を殺めようとした非常さを持て。
 ジューダスにして、四英雄を裏切ったリオン・マグナスとして動け。
 今一度、京都の大罪人として裏切り者(ジューダス)が動き出す。

「御意に・・・・・・アサシン―――松永久秀、マスターの為に。」





(随分と真っ直ぐな志ですね。)

 自身が裏切り者であり、世間には永劫に蔑まされても、
 歴史を正しいものへ戻そうとする彼を見たアサシンの感想は―――


514 : ◆EPyDv9DKJs :2018/02/10(土) 00:45:59 XPq/hDJY0
(―――つまらない。)

 その一言に尽きた。
 一貫した行動を取らなかったこの梟雄は、
 一貫した行動をする彼の行動は面白みにかけていた。
 幾度と裏切り、大罪を犯した彼は刺激と言うものを欲するように至っている。
 裏切った時の相手の対応はいかようなものか、行き過ぎた性格だと自覚はあるが、やめられない。
 もしも。裏切り者を裏切った時、裏切り者は一体どんな表情を見せてくれるか。

(だが、聖杯と言うものも欲しいものだ。)

 聖杯、紛れもなく名器と言うべきもの。
 数々の茶器をコレクターした彼には、興味深い存在になる。
 西洋の杯にして、願望器となる聖杯とは一体どんなものなのか。

 かといって、聖杯だけを手にするのも悩みどころだった。
 信長も欲した数々の茶器、それだけでは満たせない。
 他にもいかようなものがあるのか、少々知りたくもある。

 今は一先ずマスターに従うつもりだ。
 自分の行動を不快には思うが、制止はしない。
 ある程度は好きにやらせてくれるのだから、忠義は尽くすつもりだ。
 だが、裏切れる時が来たらどうするべきだろうか。

 梟雄は京都の情景を眺め、この先を見据える。
 尽くすか裏切るか。欲するか願うか。彼の本当は、果たしていずれなのか。

 裏切り者同士、二つの仮面を持つ者同士。
 少なくとも彼らの行く道は、屍が築かれる

【CLASS】アサシン
【真名】松永久秀
【出典】史実
【性別】男性
【身長・体重】180cm・72kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力C+ 耐久B 敏捷C+ 魔力D 幸運B- 宝具B
【クラス別スキル】

気配遮断:A
将軍、足利義輝を暗殺に成功した偉業は、
信長をもってして『常人ではありえない』と評した

【固有スキル】

弾正久秀:B-
茶人、裏切り者、側近、反逆者、忠臣、梟雄、暗殺者、下克上、武将
大罪と同時に、忠義を尽くした男と入り混じった逆転した人物像は、
様々な立場にあった存在から彼の素性は混沌としたものとなっている
それらを束ねた結果、この男は二重人格に類したスキルを獲得した
二重人格とは言うが、どちらかと言えば『演じている』に近い
忠義を尽くす松永弾正を演じ、梟雄である大罪人松永久秀を演じる
そのせいか、たびたびマスターや相手の呼び方が変わってしまう
精神汚染と情報抹消の複合に近いが、この男は梟雄であることを忘れてはならない
わざと痕跡を残して、マスターと言う本来の主を裏切るかもしれないのだから
その異常性から、精神攻撃にもそこそこの耐性を持つ
どちらが本当の彼かは、誰にも分からない
彼自身からすれば、どちらも自分なのだ

梟雄:A
何度も裏切っては元鞘に戻った、戦国の梟雄
サーヴァントとなった今でもその悪辣さは変わっていない
協力関係などの交渉における成功率が上がると同時に
裏切る行動に出た場合、ステータス上昇と行動の成功率が上がりやすくなる
表で協力すると言う条件を満たさなければならないのでかなりの手間はかかるが、
その分裏切った場面と組み合わせれば、相手にはかなりの痛手になるだろう
足利義輝の側近を筆頭に多数で複雑な立場であった彼の交渉術は卓越しており、
よほど疑り深い人物でもなければ、すんなりと交渉を進めるだろう

魔力放出(炎):C
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル
いわば魔力によるジェット噴射で、アサシンは生前の火に纏わる逸話から発火能力が魔力と化した
あくまで発火能力のみで爆発はできないが、宝具との併用で爆破自体は行うことが可能

【宝具】

『将軍より略奪せし不動の刃』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1
足利将軍を暗殺し、そこから奪って信長に献上した太刀、不動国行
真名解放中は筋力と敏捷を強化し、死角からの一撃を狙いやすくし、
暗殺、不意打ちと言った類の攻撃の成功率に補正がかかる
地味な宝具ではあるが、スキル『梟雄』と組み合わせた時の一撃は凄まじいもの
その条件下でかつ幸運が低ければ、サーヴァントでも一撃で倒せる可能性は高い


515 : ◆EPyDv9DKJs :2018/02/10(土) 00:46:39 XPq/hDJY0
『譲れぬ古天明平蜘蛛』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1〜50
蜘蛛が這ってるかのような平らな茶器、古天明平蜘蛛
信長から名器と評されて、二度目の助命の際に要求したものが宝具となった
茶器そのものが爆弾とも言うべき火薬が詰まっており、発火能力とあわせた爆破を起こす
規模は大きくないが威力は十分。投げるか置くか渡すかは、彼の気分次第
もしかしたら叩き割って、周囲に火薬をばらまいて自爆するかもしれない
なお、彼は火をコントロールできるので、何かしらで発火能力を使用できない状況下でもなければ、
事実上これによる自身への被害は最小限に抑えることが可能 ※爆風自体は抑えられるわけではない
これを利用し、偽装するのも一つの手

【Weapon】
発火
大仏の焼討、死の間際など多数の彼の周りに纏わりつく火
纏わりつく火は彼を支えるものとなり、炎を操る力を得た
爆破は出来ないが、宝具との応用で類似したものが可能になっている

不動国行
足利義輝殺害時に奪取し、信長に謙譲した来国行作の太刀
暗殺者としての所以である足利義輝殺害の象徴として、
此度の聖杯戦争でアサシンとして召喚された彼はこれを所持する

【マテリアル】
松永久秀―――またの名を、松永弾正
戦国の乱世において何度も裏切りや悪逆を尽くしたとされる、梟雄とされる一人
信長は家康に対して彼を『常人にはありえない偉業、大罪を三つなしえた』と述べ、
宣教師ルイス・フロイスには『希有な天稟、技量、知識、狡猾さがある』と言わしめている
近年の解釈や調査によっては、彼は忠義を尽くした男と言う説も存在しており、
最初に仕えた三好長慶に関する彼の行動に、不利になる行為はなかったと言う
どちらが正しいか、どちらが本物か。どちらが本当の松永久秀なのか
その答えを知る者は、恐らく当人『達』にしか分からないのだろう

忠臣久秀は誠実さ持つ、忠義の鑑とも言うべき男で、交渉関係は此方が主とする
戦闘関連は暗殺と言った目立つ行動は避けるべき場合は此方の久秀が行う
誠実ではあるが、それでもこの男は松永久秀と言うことを忘れてはならない
梟雄久秀はまさに悪辣。人の死を肴に静かに茶を、酒を啜る狂人
戦闘関連は真っ向勝負や素性がばれてる者を相手にした場合此方になる
また、裏切る行動に出た場合は必ず此方の人格が相手の様子を伺う

【外見的特徴】
下は赤、上は灰色と火と灰を連想させた袴姿に、赤黒い籠手の壮年の男性
顎から上へ、『山』の文字に似たような非常に独特な髭を持つ
年が年で白髪だが、健康に気遣った故に健常者そのものとも言うべき体格を持つ

【聖杯にかける願い】
聖杯そのものも欲しいが、願いもあって色々と思案
一先ずはマスターの命令の範疇で自分の思うがままに動くが、
やはりこの男はいつも通りに裏切るかもしれない

【マスター】
ジューダス@テイルズオブデスティニー2

【マスターとしての願い】
スタン達の正しい歴史を変えさせない

【Weapon】
短剣・剣
剣と短剣の二刀流が彼のスタイル
あるべき剣にして相棒は、今や存在しない
何処から調達したかも忘れた、ただの剣に過ぎない

【能力・技能】
晶術
十八年前の技術ではソーディアンマスターのみが用いることが出来たが、
ジューダスが復活した世界では、ソーディアンなしでも一般人が使役可能になっている
とは言え、ソーディアンを使った場合の威力とは比べると、やはり見劣りしてしまう
ジューダスはソーディアンマスターだが、シャルティエを所持してないため晶術は平凡
強くとも中級晶術、ネガティブゲイトなどに留まる

ソーディアンマスター
簡潔に言ってしまえば意志を持った剣、ソーディアンと意志の疎通が図れる特殊な体質
とは言うが、今の彼はそのソーディアンと別れてしまった以上、この技能はないに等しい

剣術
リオンの時に卓越された剣の腕は高く評価され、
将来はセインガルド王国の誇る七人の指揮官、
七将軍になるだろうと言わしめるほどの才能を持つ
短剣と剣の二刀流による、手数の多い攻撃が特徴
また、リオンの頃も空襲剣などの移動しながらの攻撃も多い

【人物背景】
第二次天地戦争で、スタン達四英雄を裏切り、
歴史にその名を記した裏切り者(ジューダス)、リオン・マグナス
エルレインの手によって蘇った『英雄になれなかった存在』だが、
彼は自身のしてきたことに悔いがなく、エルレイン達と敵対する
まさに最終決戦、神の卵を地上に落とされる前に決着をつける道中
幸か不幸か、彼は願望器を手にする切符を手に入れてしまった

【方針】
すぐにでも戻りたいので優勝、或いは脱出狙い
聖杯が望みを叶えるなら、歴史を正しいものに戻すことを願う
ただ、神が改変に成功した世界に聖杯の力が働くとは思えず、急ぎ気味
脱出は半ば諦め気味だが、あれば考えたいところ


516 : ◆EPyDv9DKJs :2018/02/10(土) 00:47:20 XPq/hDJY0
以上『裏切り者』投下終了です
史実系聖杯は初なので、至らぬ点があるかもしれません


517 : ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:00:17 mpLuyM/w0
投下します。


518 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:02:45 mpLuyM/w0

曇り空の朝。京都市内の、とある公園、のトイレ。

ボロボロの自転車に薄汚い大量の荷物が積まれ、地面にまで散らばっている。毛布、衣類、空き缶、空き瓶、カラの弁当箱、雑誌や本。
近くにはダンボールとブルーシートで作られた、小さなねぐら。典型的なホームレスの棲家だ。

この町にも、ホームレスが多少はいる。大概の場合、市民は彼らを無視する。
時にはお役所から「支援施設に入りなさい」とのお達しも来るが、入る者も入らぬ者もいる。

ねぐらには何枚かの毛布が敷かれ、男が一人くるまって、イビキをかいている。彼にとっては、この暮らしは昔からの習性だ。
なにしろ、働かなくていい。金持ちが目指すのは「働かなくていい暮らし」だが、カネがなくてもそんな暮らしは可能だ。少々不便なだけだ。
とはいえ、今は一月。京都の冬は寒い。並の人間なら、路上生活をやめ、一時的にでも支援施設に入ることを選ぶだろう。並の人間なら。

「………んーーー……」

男が寝返りをうつ。天地を我が家とする境涯ながら、都会は居心地がいい。探せばいくらでも上等な食料がある。
盗みを働かずとも、日々大量の食料が廃棄されている。それをいくらでも食っていける。飲むもの、着るものにも不自由はしない。
「ムニャムニャ……『何を食べ、何を飲み、何を着るかと思い煩うな……命は食物にまさり、体は衣服にまさる……』……ZZZZZZ………」

「……おうオッサン、どいてんか。便所が使えんやないか。おう、起きろや!」
「ムニャムニャ……ふーーっ」
「ぎゃーーーっ!!! オボロロロロロ………がくっ」

ホームレスの男が、呼びかけて蹴りつけた若いチンピラに臭い息を吹きかけた。その、あまりの臭さ! チンピラは悶絶して転倒、嘔吐、失神してしまう。
「おやまあ。ああ、いらぬ殺生をした。朝の睾丸、夕の白濁、南無阿弥お陀仏、ほうれん草……」
男はねぼけ眼をこすりながら起き上がり、痙攣するチンピラに合掌する。それから彼の懐を漁り、財布やスマホを抜き取る。
「チェッ、近頃の野郎は現ナマをあんまり持ってやがらねぇな。なーァにがカード社会、デジタル化だってんだ。不便なもんだぜ」


519 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:05:13 mpLuyM/w0

指輪やなんやの装飾品、衣服もかっぱぐ。これでしばらくの生活費にはなろう。気絶したチンピラは哀れにも、寒空の下に裸で放り出された。
「そこに転がってると、ひと目をひくじゃあねえか。あそこのマンホールにでも投げ込んどいてやろう……よいしょっと」
おお、なんたる悪逆であろう。チンピラは下水へ真っ逆さま……。どぼん、と音がした。

その男は……汚いにも程があるボロ布を纏い、足は裸足。背丈は並より低く、顔がやたらに長細い。二本の前歯に八本の口ヒゲ。これなん……
「『ビビビのねずみ男』サマよ……。ムフフ、よろしくネ」
男はくるりとカメラを振り向き、卑しい笑顔を浮かべる。アッ、鼻息の臭さでカメラマンが倒れた……。カット、カット!

◆◆◆

「それにしても、だよ。なんでも願いが叶う。これに、このミリキに惹きつけられないバカものが、この世にいるのかねえ。無欲で愚かな鬼太公なんかはともかくだ」

ねずみ男は胡座をかいて独り言つ。なんということであろう……彼もまた、この胡乱な聖杯戦争に呼び寄せられたマスターなのです。
「清貧を重んじるおれにしても、ここへ喚び出されたからにゃあ、願い事があるに決まってる。仮にも不老不死ではあるから、それ以外だな。
 若く美しい乙女と恋愛もしたいし……メイク・ラブもいたしたい。カネがあれば大概のことはなんとかなるから、カネにしようか。いやうーん、どうも安直だな」

そう思ってみれば、大した願い事はないのが悲しいところ。しかし、呉れるというものを貰わない手はない。
ほかの連中がどれだけ強くたって、こちらの大先生には到底及びもつくまい。カミサマはおれのような貧乏人を見捨てちゃあおかないのだ。彼はそう考えます。

「「「くだらん望みだな。まあ適当に考えておきな。われらが戦ったら、おまえ、こんな街はぺちゃんこさ」」」

と、トイレの奥から轟くような不気味な声。ふらりと現れ出たのは、同じくボロ布を纏った、ふためと見られぬ醜い矮人(こびと)です。
ねずみ男は慌ててこれに平伏。実はさっき、夢の中で挨拶は済ませたところなのです。
「あっ、大先生。おはようございます。どうぞよろしくおねがいします」
「「「むははははは。さっきの人間は食ってしまったぞ。朝食とは気が利くな。もうちょっと連れて来い」」」
「ふはっ、た、食べちゃったんですか。おみそれしました」

大笑いする矮人。おお、その形相といったら! まるっきり畸形で、でこぼこした禿頭には、目や鼻や口や耳がたくさん、デタラメについてるのです。


520 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:07:23 mpLuyM/w0

矮人は、グニャグニャの腕を振り上げ、ねずみ男を指差します。
「「「よいか、ねずみ男。われらの望みはな、この島国の支配者になることだ。そうしたら、おまえもそれなりの地位につけてやるぞ。励みなさいよ」」」
「ははーっ!」

◆◆◆

夜。先程の公園に、数人の不良どもが集まり始めます。どうも溜まり場のようで……。
「消えちまったァ? あいつがァ?」
「ああ……なんか、朝から行方不明とか……」
「どっかで死んでんのンちゃうかァ? あいつアホやし」
「ヤクザにケンカ売ったとかァ?」

と、一人がスマホをいじりながら、例のトイレへ。街灯に照らされた地面の脇、草むらにふと目を見やりますと、何か落ちています。
「………おい、これ……あいつの財布やん。オレ、見たことある……おい!」
「なんやァ」「どしたん?」「おう」
ぞろぞろと不良たちが、そこへ集まって来ます。マンホールの蓋の傍らに、件の財布。その少し向こうに、いびきが聞こえるホームレスのねぐら。

「財布……だけやないで、カードとか、スマホとか、散らばって……」
「なあ、マンホールの蓋、ちょっと開いてへんか?」
「足滑らせて、落ちた……っちゅうんも、不自然やな。……あそこのホームレス、なんか知らんやろか」
「ヨレヨレのオッサンに殺されるようなやつとちゃうけど、ひょっとしたら」
「警察に知らせたがええんちゃうか」

ざわざわと話し合う数人の不良。すると、マンホールの蓋がさらにずりり、と動きます。次の瞬間!

「ぐっ」「あっ」「うわ」「え」


521 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:09:31 mpLuyM/w0

マンホールの中の暗闇から、吸盤がたくさんついた、細い触手が伸びます。何本も。それが彼らに絡みつき、一瞬のうちに……引きずり込みました。
闇の中へ。奈落の底へ。絶叫をあげる暇もあらばこそ。哀れ、彼らも同じ運命。地底の悪魔の腹の底。

◆◆◆

―――ああ、なんと。またも醜い。醜い。悍ましい。このようなもの、生かしておけるか!

―――おお、息子よ。わしが産んだものを、なんと言いおる。おまえの種でもあるのだぞ。

―――黙れい。あばずれめ。おまえの子ではあっても、おれの種ではあるまい。あの醜い、昏い、奇怪な、水底のものと交わったのだろう!

―――あはは。そうかも知れぬな。なにせ、わしは万物を産み育てるもの。てて親がたれか、しかとは分からぬのう。

―――それならよい。いずれにせよ、おれとおまえが治めるこの地上に、かような異形の子らは置いておけぬ。

―――どうするのじゃ。

―――こうするのよ。

空から巨大な手が伸びて、むんずとばかりにわれらを掴む。大地の裂け目へ投げ飛ばされ、奈落の底へ真っ逆さま。
九日九夜を落ち続け、十日目。ついに着いたは、地の底の底、海の底の底。待っておったは蛇女。周りは全て真っ暗で、荒れ狂う嵐ばかり。

その後も次々、似たような、異形の連中が落ちてくる。やがて来たのは輝く神。塗炭の苦しみから救ってやろう、わしに味方せよと命ずる。
勇躍、地上へ躍り出て、暴れに暴れ、大暴れ。神も魔物も敵すればこそ、古き神々を己が代わりに、もといた奈落へ叩き落とす。あな痛快!

したが、勿論……あの輝く神が、そのまま放っておきはせぬ。結局のところ、もとの場所へ。もといた奈落へ舞い戻らせる。
監視者として。われらを奈落に落とした者の子らの。彼らの苦艱を悠々眺め、おのが心の楽しみとする。奈落の愉しみ。まあよかろう。
上ではまたも戦が起こり、異形の子らが奈落へ落ちる。ほれまた一人。ああ、われらは看守。意地の悪い、ゴミ捨て場、深淵の管理人。

◆◆◆


522 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:11:37 mpLuyM/w0

山に囲まれた京都盆地の地下には、深い砂礫層があり、その下に強固な岩盤がある。
そこに、膨大な地下水が蓄えられている。推定211億立方メートル。琵琶湖の8割にも及ぶ。この地下水は、琵琶湖から宇治川によって流れ込むのだ。
巨椋池周辺では、砂礫層の深さ800メートル。唯一の出口となる天王山と男山の間が、深さ30-50メートル。天然の地下ダムである。

豊かできれいなこの地下水が、千年の都・京都を養ってきた。そこに……この水がめに、巨大な半透明の怪獣が棲み着いている。

長さ数十メートルにも及ぶであろう、太くグニャグニャとした触腕は、百本。大岩やビルを持ち上げ、投げつけることも可能だ。
その根もと、触腕が集まる頭部は……頭足類のそれは、輝く巨大な、百の眼を持つ。一つの頭部に二つずつ眼があるなら、五十の頭があることになろう。
頭部の背後……下……には、ぶよぶよとした肉塊。臓腑のありか。胴体だ。全体に異様な紋様が浮かび上がり、螢火めいて光を放つ。

これぞ、ああ、悍ましきサーヴァント。半神どころか、古代の神々にも等しき巨神、その分霊。地球、ガイアの落とし子の、ほんのひとかけら。
『バーサーカー(狂戦士)』のサーヴァント。辛うじて、そのクラスにどうにかこうにか留められる程度のもの。
ギリシア神話に名高き、三柱の『百手巨人(ヘカトンケイレス)』……その一柱。真名をば『ブリアレオス』。別名は『アイガイオン』。

彼……彼らと呼ぶべきか。己を「われら」と呼ぶ彼らを。その彼らに、今や、知性も理性もありはせぬ。
目覚めれば、手当たり次第に触腕を伸ばし、尖端をほつれさせて……それでも太い……触糸を放ち、生き物を、無生物を、その貪欲な腹に収めてしまうだろう。
それをせぬのは、知性と理性を、一応は具えた、あの矮人……ふためと見られぬ醜いあれを、化身(アバター)として置いておくため。
割り当てられたマスターと会話し、おのが意図を伝え、従わせ、偵察させるため。狂った本体が奈落の底におるのでは、外の情報も手に入らぬ。
いきなりこいつを出したなら、討伐令が敷かれるは必定。それもよいが、どれほどの主従がいるか確認せねばならぬ。もしや、己を殺せるほどの者もいるやもしれぬ。
だから時が至るまで、それは……深淵の怪物は……眠らぬままに、夢を見続ける。深淵に。京都の底の水がめに。

ああ、この大怪獣が目覚めた時! 京都はガラガラと崩れ落ち、狂った奈落が口を開ける! 貪欲な、カオスが、タルタロスが、ポントスが!

◆◆◆

地上では、ねずみ男が……すやすやと眠る。矮人がぎろぎろとあたりを睨め回す。そしてマンホールの蓋を閉め、手をうって笑う。

「「「罠にかかりおったわい!」」」


523 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:13:34 mpLuyM/w0

【クラス】
バーサーカー

【真名】
ブリアレオス@ギリシア神話

【パラメーター】
化身 筋力C 耐久E 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A
本体 筋力A+++(EX) 耐久A+++(EX) 敏捷E 魔力C 幸運D 宝具A

【属性】
混沌・狂

【クラス別スキル】
狂化:EX
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。
神々によって理性を封じられ、地獄の奥底で反逆者たちを監視するだけの役割を与えられた。彼の召喚は(基本的には)このクラスかアヴェンジャーでしか不可能である。
巨大な本体は地下に現界しており、アバターとして畸形の矮人を地上に遣わしている。こちらとの会話は普通に可能。アバターは他のスキルを使用可能で、倒しても本体に影響はない。

【保有スキル】
鬼種の魔:EX
鬼の異能および魔性を表すスキル。天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出(水)等との混合スキル。もはや鬼の範疇を超えて神に近い。
ウラノス(あるいはポントス)とガイアの子であり、数多のティターン神族を倒して封印した神代の大巨人の一柱。その怪力は文字通り大地を揺るがし、山々を投擲する域にある。

原初の一:A(EX)
アルテミット・ワン。星からのバックアップで、敵対相手より一段上のスペックになるスキル。神々に対してすら働いたガイアの抑止力そのもの。
自己回復や単独行動スキルも含まれており、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できるどころか、マスターがいなくても相当長期間は現界可能。
大地や水に触れている限り、母なるガイア(地球)そのものから直接エネルギーを受けることが出来るが、神代ではない上に(これでも)分霊なので完全ではない。

畏怖の叫び:A+
生物としての本能的な畏怖を抱かせる咆哮。敵全体に恐怖、防御低下、呪い状態などを付与する。アバターも使用可能。

異形:EX
生みの親にも嫌悪されたほどの、吐き気を催す醜悪な異形。出会った者を恐怖させ、狂気を吹き込む。アバターならまだしも、その本体を直視した者は常人なら狂死する。

復讐者:B
棄て虐げる者への復讐者として、恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意や恐怖を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちに力へと変化する。被攻撃時に魔力を回復させる。

忘却補正:B
復讐者は英雄にあらず、忌まわしきものとして埋もれていく存在である。人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方、奈落の底より襲い来る攻撃は、正規の英雄に対するクリティカル効果を強化させる。


524 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:15:46 mpLuyM/w0

【宝具】
『奈落監視す百手巨人(ヘカトンケイル・アイガイオン)』
ランク:A 種別:対己宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

京都盆地の膨大な地下水を媒体として現界している、己の本体。あまりの神秘さに宝具としても存在し得る。百本の触腕、百の眼球を具えた悍ましい巨大頭足類。
大きさは水の量によって変化するが、現状では触腕一本が長さ数十メートル(伸ばせばそれ以上)に及び、巨人というよりは「怪獣」という言葉がふさわしい。
舞台となる場所に海があれば、そこからほぼ無尽蔵の魔力を吸い上げさらに巨大化することも可能であったが、生憎京都は内陸なのでこういう形になった。
水を操る様々な術を持ち、泥から醜い矮人や頭足類を造り、アバターとして操ることも出来る。岩石を纏って貝殻とすることも可能。
触腕・触手を伸ばして標的を捕まえ、霊体をも溶かす強酸性の体液で消化する。消化液は触手からも出る。

【Weapon】
己そのもの。百本ある触腕の一振りで市街地を薙ぎ払い、ビルを投げつけ、地震を起こし、体液で全てを溶かす。
アバターたちが「畏怖の叫び」をコーラスするだけでえらいことになる。

【怪物背景】
ギリシア神話(ホメロスの『イリアス』、ヘシオドスの『神統記』、アポロドロスの『ギリシア神話』など)に登場する、原初の巨人族ヘカトンケイレスのひとり。
天空神ウラノスと、大地母神ガイアの子。その名は「強い者」を意味し、兄弟にコットス(殴る者)、ギュエス(曲がった者)がいる。
この三者は百(ヘカトン)の手(ケイル)と五十の頭を持つ途方もない巨人で、その醜悪さを嫌った父ウラノスにより、単眼巨人族キュクロペス共々タルタロス(地獄)に封じ込められた。
ガイアはこれを恨みに思い、我が子クロノスにウラノスを去勢させた。だがクロノスはヘカトンケイレスらを解放しなかったので、ガイアはやはり不満に思い、クロノスの子ゼウスを唆した。
ゼウスは自らタルタロスに下ると、ヘカトンケイレスやキュクロペスを解放して味方につけ、父が率いるティターン神族を滅ぼして、世界の支配者の座についた。

この時ヘカトンケイレスは山の如き大岩を一度に百ずつ(三体いるので三百ずつ)持ち上げては投げつけ、大いに戦功をあげたという。
ゼウスはティターン神族の多くをタルタロスへ投げ入れ、キュクロペスは神々の鍛冶屋として働かせたが、ヘカトンケイレスはタルタロスへ戻った。
彼らはもはや囚人ではなく、ティターン神族を見張る役目を与えられ、看守としてタルタロスに棲み着いたのである。そのためギガントマキアやテューポーンとの戦いには参戦していない。
カリマコスの『デロス讃歌』では「ブリアレオスは神々に逆らい、エトナ山に埋められた」とするが、多くの神話ではこれは巨人エンケラドスやテューポーンの最期である(類似性はあろう)。

ゼウスら神々も恩人である彼らには敬意を払っており、世界の果てのオケアノス(海洋)の上に館を与えて棲まわせた。またブリアレオスは(比較的)美しかったので、
ポセイドンは娘キュモポレイア(波に流離うもの)を娶らせた。のちポセイドンがヘラやアポロンらと結託し、ゼウスを鎖で縛り付けた際、ヘカトンケイレスがゼウスを救出したという。
パウサニアスの『ギリシア案内記』によると、ブリアレオスはコリントスにおける神々の領地争いを仲裁し、コリントス地峡をポセイドンの、アクロコリントスをヘリオスの聖域にするよう提案したとされる。
このようにブリアレオスは海と関係が深く、アイガイオン(エーゲ海の神)と呼ばれることもある。神々はブリアレオス、人類はアイガイオンと呼ぶともされる。
ロドスのアポロニオスは「彼はガイアと海神ポントスの子であり、エウボイア島周辺の海を支配し、軍艦を発明し、ポセイドンと敵対した」と記しており、オウィディウスらは「海の神」であるとした。
インド神話においても、無数の腕を持つ巨人アスラ族は神々の敵対者であり、須弥山から追放されて海中に住み、水神ヴァルナ(ウラノス?)が彼らを支配するという。
深淵……海……巨人……多くの手……もうおわかりだろう。彼らは大いなるクトゥrアイエエエ!?窓に!窓に!

【サーヴァントとしての願い】
この島国を我がものとする。それぐらいよかろう。

【方針】
マスターやアバターたちに地上を見張らせつつ、下水道や河川、地下水脈や霊脈に触肢を伸ばし、風水都市として名高い京都の魔力を少しずつ吸い上げる。
マンホール、溝、井戸、川辺、池、便所、蛇口。水さえあれば、思いもよらぬ場所から触手が伸びる。一気に食ってはつまらぬ。お八つをつまむように、少しずつ。
マスターでもサーヴァントでも、ひょい、ぱくり。変なものを食わぬよう気はつける。飽きたらこの街を大地震で潰し、他の主従を全滅させる。


525 : Underworld Refuge ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:18:09 mpLuyM/w0

【マスター】
ねずみ男@墓場鬼太郎、ゲゲゲの鬼太郎

【Weapon・能力・技能】
『悪臭・不潔』
極めて不潔な男であり、体臭・口臭・放屁は武器を超えて兵器に匹敵する。口から息を吹けば10m先の蝿を落下させ、人間をバタバタと失神させる。
ボロ布めいた衣服を被せられたり放屁を嗅いだりすれば、強力な妖怪でも臭さで発狂・失神し、人間なら心臓発作で即死しかねない。
またインキンタムシを患う皮膚を掻くとパラパラと粉が落ち、これに触れると漆のようにかぶれる。

『歯』
ねずみならではの丈夫な歯。壁をも食い破ることが出来る。

『ビンタ』
強烈な往復ビンタ。ビビビビビと音を発する。

『妖力』
半妖怪とはいえそこそこ妖力があり、多少の妖術を使うことが可能。また半妖怪ゆえ、純粋な妖怪には有害な攻撃が半減・無効になる場合がある。

【人物背景】
水木しげる『墓場鬼太郎』『ゲゲゲの鬼太郎』などに登場する半妖怪。皆様御存知、ビビビのねずみ男。宇野重吉に並ぶ名脇役。
身長160cm、体重49kg、年齢は約360歳。鬼太郎とは腐れ縁の悪友であり、カネとオンナに目がなく、いつもろくなことをしでかさないトリックスター。
CVは大塚周夫(1-2期&墓場)、富山敬(3期)、千葉繁(4期)、高木渉(5期)、大塚明夫(妖怪ウォッチ)、古川登志夫(6期)。
実写版では竹中直人、うえだ峻、大泉洋などが演じた。あまりにも有名なので詳しい解説はしない。

【ロール】
ホームレス。現代社会に適応して働けなくもないのだが、長続きはしない。他者に寄生して最低限度の生活を維持することは出来る。

【マスターとしての願い】
考え中。富か、名声か、それとも愛か……。おお、バラ色の未来!

【方針】
バーサーカー大先生にイケニエを捧げる。とにかく大船に乗ったつもり。敵が無差別に襲ってきたら、下水道に逃げ込んで守ってもらう。

【把握手段・参戦時期】
いつもの(おおむね漫画版の)彼である。wikipediaとかをご覧下さい。


526 : ◆Lnde/AVAFI :2018/02/10(土) 22:20:06 mpLuyM/w0
投下終了です。


527 : 名無しさん :2018/02/21(水) 16:28:59 wlSBXDy20
〆切一週間前age


528 : ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:26:39 OrG0o44E0
投下します。
なお、先に書いておきますが露骨に卑猥な表現を描く意図は全くございません。


529 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:28:01 OrG0o44E0
私は一体誰なのだ?

私はなぜこの地――京都にいるのか?

なぜ体のど真ん中に、こんな四角の窪みがあるのか?

そしてこの頭の上の、トグロのオブジェはなんなのか?

ひとつ分かっていることは、私が京都のプロレス団体に所属するレスラーであること――

そして皆が私をこのオブジェの形から"エラード(ソフトフリーム)マン"と呼んでくれていること。









朝日が昇り、青空に照らされている京都市内の歩道を堂々と歩く、一人の男がいた。
荷袋を肩にかけて背負い、日光に目をしかめることもなく無表情な顔で淡々と歩いている。
しかし、彼とすれ違った通行人は例外なくその容姿を二度見して目を丸くしたり、男の頭頂部を凝視したりするなど、
所謂一般人と言われるようなただの男ではないことはその外見から一目瞭然であった。
艶のある硬そうでメタリックな質感の白銀の肌。服すら纏っておらず、胴体はタイルで覆われた窪みのある箱で構成されている。
そして、彼の頭頂部にはまるでチョコレート味のソフトクリームのような、茶色のとぐろを巻いたオブジェが絶大な存在感を放っていた。

「ママー。なんであのひとあたまのうえにウンコのせてるの?」
「シーッ!関わっちゃダメよ!」

母親に手を引かれる子供が男を指さして言う。
しかし、彼の頭に乗っている物は排泄物のオブジェではない。あくまでソフトクリームである。
なぜなら、この男には「エラードマン」という与えられた仮の名があるのだから。

「…結局、何もわからぬままここまで来てしまったな」

エラードマンは京都市随一の施設面積を誇る体育館を前にして呟く。
今日は、エラードマンの所属するプロレス団体でのチャンピオン決定戦が、この体育館を貸し切った上で執り行われる。
テレビのCMに新聞、京都市中を行き交う宣伝車までもを動員した、京都市のプロレス団体の命運を左右する一大イベントだ。
その盤石の宣伝体制の甲斐もあって、京都に住む往年のプロレスファンは勿論、その手の話にあまり詳しくない新参者から家族連れまでが観戦に訪れるという。
このチャンピオン決定戦は、プロレス団体としては何としても成功に終わらせて観客の脳裏に焼き付かせたい興行であるとともに、
エラードマンにとっても負けられない一戦である。

しかし、眉のない無表情を通り越して冷徹ともとれる目の奥には、どこか満たされない虚無感が渦巻いていた。
記憶がなく、自分が何者かを知らぬまま、ただ『レスラーであるから』戦い、試合で勝つ日々。
これではまるで踊らされる人形だ。本当にそれでいいのか?自分にはもっと大事なことがあるのではないのか?
エラードマンはその問いに対する答えを得られずに、迷いを抱きながらも順当に勝ち進み、現在に至る。

「エラードマン!」

と、遠い目をしていたエラードマンの名を呼んだのは、ペルーの民族的なカラフルな色合いのポンチョを羽織った男だった。
今日の試合でエラードマンのセコンドを務める男だ。

「遅かったじゃないか。どこをほっつき歩いてたんだ?」
「いや…少し、な」

考えながら歩いていたら時間が過ぎていたとは言えず、エラードマンは歯切れの悪い返事を返す。
自分のみならずセコンドにとっても大事な一戦を控えている以上、セコンドに要らぬ心配はかけたくなかった。

「とにかく、早く会場入りしてコンディションを整えよう。スパークリングで勝つ流れをもぎ取る術を復習だ」
「…ああ」

心ここにあらずといった様子で、セコンドに促されるままにエラードマンは体育館の入り口へ歩いていく。
その顔は、冷静なのか哀愁に満ちているのかわからない無表情だった。







530 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:28:38 OrG0o44E0




『お聞きくださいこの大歓声!これまでに我々京都プロレスのレスラー達が凌ぎを削り、今や勝ち残った選手はたった2名となっています!
そして本日、ついに、ついにチャンピオンの座を手に取るレスラーが決まろうとしています!』

体育館を貸し切ってアリーナ中央に設置されたリング、試合が始まるのは今か今かと待ちわびるように会場を彷徨うスポットライト、
そしてリングはアリーナ席からスタンド席まで観客で埋まっており、彼らの送る声援が熱気となって会場の温度を引き上げる。
京都プロレスのチャンピオン決定戦は、試合開始前からボルテージが最高潮に達していた。

『それでは皆様!待ちに待った、選手の入場を行います!…赤コーナー!チョコレート味のソフトクリーム野郎がまさかまさかのファイナル進出!?
その容姿だけじゃなく、ねちっこい寝技を持ち味としているせいで女性のみならず男性にも不人気なアイツがここまで来てしまった!
その名も……エラードマン!!』

実況がマイク越しに抑揚を利かせ、勿体ぶったようにエラードマンの名前を呼ぶと、
それに呼応して脇で白い煙が噴射される花道より、ペルー独特の色合いを持つポンチョをマント風に羽織ったエラードマンが入場する。
しかし、諸氏がお思いのようにその実況によるエラードマンの煽り文句は実に酷く、同様にエラードマンへの客からの反応も散々だった。

「おいエラードマン!決勝戦でもソフトクリームみてーに甘すぎるつまんねー試合をしたら許さねえからな!!」
「お前なんかチャンピオンじゃねぇ!万が一勝っても認めねーぞ俺は!!」
「うわ、頭のやつナニアレ!?チョコレート味のソフトクリームってゆうかどう見ても茶色いアレじゃん…キモッ」

観客席からは容赦ない罵声とブーイングの波が浴びせかけられるも、花道を歩くエラードマンはどこ吹く風というように無表情だ。

「気にするなエラードマン。むしろ連中のお前への目線はチャンスだ。ここで勝ってお前が単なるウンチ野郎じゃなく甘くもないソフトクリームの漢であることを示してやれ」

傍らを歩くセコンドがエラードマンに助言する。
それを聞き入れたかそうでないのか、エラードマンは反応することなくリングイン。そしてロープを跨ぐ際に少しオーバー気味にポンチョを脱ぎ捨てた。

『…対する青コーナー!…あ――っと!?』

エラードマンの決勝戦の相手選手の名を叫ぼうとした実況の声が、突如驚愕の色に塗り替えられる。
会場にいる全員の目が、エラードマンの反対側に続く花道へと向けられた。

(…何事だ?)

エラードマンもリングの上から今から戦うであろう相手側のスペースを見る。
既に、スポットライトに照らされながら花道を通る影があった。
しかし、エラードマン含めその影の持ち主を見た者の顔が実況と同じものに塗り替えられる。

『なんということでしょう!!本来ここで戦うはずだった選手は、既にKOされていた―――!!』

青コーナーの花道を歩いていたのは、美形だが見るからに人相の悪い金髪の男だった。傍らにセコンドと思しきフードを目深に被った美女を侍らせながら堂々とリングに向かってくる。
エラードマン達が驚いているのは、男が担ぎ上げている“かつて人だったモノ”だ。
筋肉質なその肩には、無残にも本来エラードマンと戦うはずだったレスラーが血まみれかつ幾つもの殴打痕の残る状態で担ぎ上げられていた。

『これは、想定外のハプニング!まさかこの大事な大事な決勝戦の舞台に、乱入者が現れた―――!!』

ざわざわと観客席から動揺が伝わってくる。
それはエラードマンとセコンドはもちろん、実況やその他スタッフも例外ではなく、実況に至っては傍らのスタッフに小声でマイクに通らないように「えっ、そんな予定あった?」と聞いている。
確かに実際のプロレスでもこのようなケースはしばしばあるが、プロレスとは勝ち負けを決める格闘技だけでなく、観客を楽しませる興行の側面を持つことを忘れてはいけない。
そういった試合やセレモニーへの部外者レスラーによる乱入のような突然のハプニングというものは、普通ではその場をさらに盛り上げるために予めアポが取られているのであり、
今起こっているような本当の意味でのハプニング、予定外の試合への乱入はよほどのことがないと起こらないといっていい。
よって、この状況には実況までもが困惑を隠せていないのは無理からぬことであった。
表面では会場を盛り上げ、運営側の動揺が観客に伝わらないようにしているのは一種のプロ根性ゆえか。


531 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:29:42 OrG0o44E0

「さて、やるか」
「ええ」

乱入した男は隣にいる女と意味深なやりとりをしつつ、肩慣らしをするかのように抱えていたレスラーをその場に叩きつける。
床に降ろされたレスラーの惨状を目撃した者は絶句した。全身が赤紫の打撲痕で覆われており、所々から出血している。
もはや人間らしい肌色を保てている部分の方が少ない上に首と四肢があらぬ方向に曲がっており、人間としての原型を留めていないほど痛めつけられていた。
かなりの勢いで床に落とされたというのに、“それ”はピクリとも動かなかった。

「なんてひどいことを…!」

相手レスラーの痛ましい姿を見たエラードマンは思わず口にする。
これはではまるで死んでいるよう…否、死んでいる。エラードマンにはわかる。
生物がまだ生物であるならば痙攣や呼吸によって意識がなくとも体が動くはずだが、横たわっている“それ”はほんの少しも、凍ったように動かなかった。
血生臭い物事とは無関連な人間がそんな死体を見れば悲鳴の一つでも上がるであろうがしかし、
会場内の観客どころかそれを目の当たりにした観客からも、付近の観客からも絶句はするものの悲鳴は起こらなかった。

その原因は、ここが興業としてのプロレス、格闘技としてのプロレスの会場であるからに他ならない。
常識的に考えれば、人が集まるような場所で殺人を犯し、あまつさえ死体を抱え上げて堂々とそれを人間に見せつけるなどあり得ないだろう。
リスクに対するリータンが皆無どころか、理解の範疇の次元を幾重にも突破した狂気の沙汰だ。
故に、殆どが“常識的な”人間である観客は皆が無意識にこう結論付けてしまうのだ。
『ここで殺人が起きるなんて“有り得ない”。きっとこれはヒールレスラーのパフォーマンスであり、京都プロレスの演出の一環だろう』と。

「ほう、結構惨たらしく痛めつけてしまったのだが、これでも騒ぎにならないのだな」
「そういう興業ですもの。でも、そのおかげで先駆けて大規模な魔術を行使できる」

そう言ってほくそ笑みつつ、金髪の男とフードを被った女は人間とは思えぬ鋭い動きでリングイン。
軽々とリングにかけられたロープを越えてエラードマンと対峙した。

『さて、大変なことになってまいりました!対戦カードが変わり、エラードマン対謎の男女!彼らの目的が気になるところです!』

「お前達…何者だ!」
「随分と汚らわしい恰好ね。始末するのを後回しにしておいてよかったわ」

エラードマンは義憤交じりで威嚇するも、乱入者二人は意に介さないどころか、女からは心底蔑む視線がエラードマンに伝わってくる。

「ようこそ、我がパーティーへ」

男が観客席に向かって、手を仰々しく広げながらリング上より声を上げる。
その口調は落ち着いていながらも、不思議なことにマイクを持っていないにも関わらず会場全体に声が通っていた。
ついに謎だった乱入者が観客に向かって話し始めたということで、会場はしんと静まり返り、男に耳を傾ける。

「これからこの地を紅い血で染め上げられることを光栄に思う。名は敢えて名乗らない。なぜなら、お前達はこれから死ぬのだからな」

男の言葉の意を測りかねてしばらくは黙ったままの観客だったが、それもヒールレスラーのマイクパフォーマンスと受け取ったのか、次第に熱を取り戻してくる。


532 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:30:18 OrG0o44E0

「何が紅い血でパーティーだ!せっかく見に来たチャンピオン決定戦を台無しにすんじゃねー!!」
「しかも名乗らねえなんてテメーそれでもレスラーか!!」
「やっちまえエラードマン!アンタを応援するのは癪だが今回ばかりはそいつが気に入らねえ!!」

「エラードマン!」「エラードマン!」「エラードマン!」

『あ――っと!乱入者のあまりの態度に、観客があれほど嫌っていたエラードマンに声援を送る――――!!まさかの事態に私どもも驚きを禁じ得ません!』

男の痛々しい高説が観客の反感を買ったようで、惜しみないエラードマンコールが沸き起こった。
しかし、エラードマンは観客を味方につけたにも関わらず、冷や汗を掻きながら乱入者の男女を睨んだまま身構えていた。
嫌な予感がする。いや、予感どころか確信とも言っていいだろう。
先程死体になり果ててしまったレスラーのこともあり、この男の言うことに嘘偽りが感じられないのだ。
今すぐ止めなければ。これから起こるであろう惨劇を未然に防がねばならないのに、目の前にいる相手の次の行動が全く読めないゆえに、身体が動かない。

――■■たちよ、おまえたちは何ゆえ比類なき力と戦闘能力を身につけこの世に生を受けたかわかっているか?

だが、エラードマンの心には同時に、心を突き動かすような力が、ぽっかりと開いた胸の内を叩いていた。
それは確かな失われていたかつての記憶の芽生えだ。

「残念だけど、この人が言ってるのは全部本当のことなの。貴方達の魂、できるだけ有効に使ってあげるから感謝してね」

フードを被った女が冷徹に告げると共に、淡い紫色の光が女を中心に広がった。
その光は鮮やかな模様を描いた円陣――所謂魔法陣――を形作っていき、まるで威光のような溢れ出した風が周囲に押し寄せる。

「な…なんだ?」

エラードマンもエラードマンのセコンドも、観客実況含めた皆が突如発生した現象に戸惑いつつも見とれてしまう。
女を囲っていた光は徐々にその輝度を増していき、極限まで眩しく輝くと同時に――爆ぜるようにして会場全体に広がった。

「うわっ!?」

思わずエラードマンも目を瞑ってしまう。
光が収まったのを確認すると同時に、恐る恐る目を開くが、特に何も起こった様子はない。
が、乱入者の二人としては確実に何かをしたようで、したり顔の厭らしい笑みを深くした。

「結界を張った…これでこの体育館は外と隔離されたわ。出入りもできなければここでどんなことが起ころうが、外に伝わらないし誰も知覚できない」
「これで心置きなく大量に狩れる。聖杯戦争の準備は抜かりなく、だな」

次の瞬間、エラードマンの体がリングから斜め上へと吹き飛び、会場の壁へと激突した。
身体中に迸る痛みと共に、エラードマンはこの刹那で起こったことを認知できておらず、明滅する視界の中で先程自分のいたリングを注視する。
そこには、金髪の男が掌底を放った姿勢のまま静止していた。彼の拳からはあまりの速さに摩擦が起こったのか、白い煙が立ちのぼっている。

『な…何が起こったのでしょうか!?気付いたらエラードマンが、会場の壁にめり込んでいました!そしてリングには涼しい顔で乱入者の謎の男がドヤ顔で掌底を突き出している!まさか、乱入者の仕業なのでしょうか――――!?』

男は、もはや人間離れという生易しいものではない身体能力でエラードマンを軽々と打ち飛ばしていた。
観客は皆何が起こったかを理解できず、エラードマンとリングにいる男を交互に見ている。

「肉体強化の魔術を使っているとはいえ、こんなものか。人間からかけ離れた容姿をしている分マスターかと警戒していたが、そうでないのか目覚めていないのか」
「どっちにせよ皆殺しの過程で処分すればいいわ。覚醒する前にとどめを刺せば所詮はNPCと同じ」
「何を…言っている?」

エラードマンは呻きつつも問う。乱入者の男女の言うことは、正直言って何のことを言っているかわからない。
魔術?マスター?聖杯戦争?そんなものは聞き覚えがない。

――それはその力を宇宙のため平和のため、人間たちをあらゆる外敵や禍から守るために神から与えられしものなのじゃ

しかし、惨劇の幕が開けようとしている時に、確かに聞き覚えのある、肝に銘じていたはずの言葉がエラードマンの脳裏に浮かんでくる。


533 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:30:57 OrG0o44E0

「おいおいあんた達、さっきから黙ってりゃなんなんだ!?予定にない乱入に加え、エラードマンまでもをあんな――」

一部始終を見ていたエラードマンのセコンドも、流石の事態にロープをくぐってリング脇に上がり、乱入者の男女に物申す。
しかし、その行動が命取りとなった。

「ちょうどいい。お前が犠牲者第一号だ、喜ぶがいい。…キャスター!」
「――へ?」

男が叫ぶと、キャスターと呼ばれた女は無言でセコンドを指差し――たかと思えば、その指から紫色の丸太のような光線が発射され、セコンドの胸を貫いた。

「あ゛…が…」

『え?あれ、死んで――』

実況の呆けた声がマイクに乗せて会場全体に響く。観客も実況と同じ心持で呆然としていた。
果たして、光線に貫かれたセコンドの胸には風穴が空いていた。それもエラードマンの胴体にあるような窪みではない。貫通だ。
心臓、肺、肋骨、背骨に至るあらゆる臓器が光線の熱で焼かれ、消失していた。
そんなプスプスと焼け焦げた自身の胸を不思議そうに見ながら、エラードマンのセコンドは仰向けに倒れ、リング外へ落ちて死んだ。

「さあ…我らの糧になってもらおう」
「私とマスターのためにね」

男は拳をポキポキと鳴らし、女はまた魔術を使おうとしているのか紫色の光を再び発行させる。

「う、うわあああああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?」

ようやく現実を認識した観客は会場が揺れ動きそうな喧騒に包まれた。
蜘蛛の子を散らすように逃げて出口へと向かい始める者、未だに受け入れられず呆然としている者、嵐が過ぎ去るのを待つようにうずくまっている者と、取った行動は様々であった。

「な、なんでだ!?どうして開かないんだ!?」
「お願い、開いて!私まだ死にたくない!」

「私さっき言わなかった?体育館は外と隔離されたって。ここから出られないし、貴方達がどんなに叫ぼうと外には届かないわよ」

リングから降り、逃げ惑う観客にゆったりとした歩調で近づいていくキャスター。
彼女の言う通り、この会場は外と完全に隔離されており、出入りも出来なければ外からもこの騒がしさは知覚できない。

「我々には魔力が必要なのでな。悪く思うな」

マスターと呼ばれていた男は近くにいた観客の男の首を掴んで持ち上げている。
このままでは観客は皆、いずれエラードマンのセコンドや相手レスラーのようになる。
この会場がキャスターの張った結界から解放される時には、この会場は血の海と死体で満ち溢れていることだろう。

『皆様…我々は未曽有の大ピンチに晒されています。乱入者の言ったことは…真実でした…!彼らは今…我々を葬ろうと動き出しています。我々はどうなってしまうのでしょうか…!』
『何やってんですか!早く逃げましょう!』
『嫌だ!どうせ死ぬなら私は実況して死ぬ!』

マイクを通して実況とスタッフの言い合う声が飛び交う悲鳴の合間を縫って木霊する。
京都市のプロレス団体のチャンピオン決定戦の舞台は、地獄絵図になり果てていた。


534 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:31:55 OrG0o44E0





「や、やめろ…」





壁に打ち付けられ、ダウンしていたエラードマンが辛くも立ち上がる。





「人間を傷つけるのは…」





そのメタリックな肌を震わせ、エラードマンは怒りを乱入者のマスターとキャスターに向ける。





――超人たちよ
――超人たるものその力で人間を救うためにあることを、その身が滅び黄泉の国にいくまで強く肝に銘じていなければならない





その怒りは、かつてエラードマン――否、『ベンキマン』が抱いた怒りと、同じだった。




「正義超人として断じて許さんっ!!」




そして、エラードマンはベンキマンとして覚醒する。
胴体にある窪みの正体は、『便器』。そしてベンキマンは、便器の超人。
出身は古代インカ帝国、所属は正義超人。
正義超人の務めは…人間の窮地を救うこと!





「たった今…ようやく完全に思い出した―――っ!!」

ベンキマンは雄叫びを上げながらマスターの男へ立ち向かっていく。

「フン、雑魚が何度来たところで…」

男は強化した肉体により観客の首を掴んでいる方とは逆の手で軽くあしらおうとする。

「シャラーッ!」

が、今の相手はエラードマンではなくベンキマンだった。
ベンキマンは勢い良く男に向かってドロップキックを放つと、マスターの男は突き出した拳ごと逆方向に吹き飛ばされてリングの床に打ち付けられる。

『どういうことでしょう!?エラードマン、立ち上がって先程圧倒された男をドロップキックで逆に吹っ飛ばす――――!』

半ば自棄になっていた実況にも希望が見えてきたか、少しばかり熱が入ってくる。
ベンキマンは手放され、へたり込んでいる観客を会場の隅へ逃げるよう促すと男を追って軽々と跳躍し、リングインして倒れる男を見下ろした。


535 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:32:37 OrG0o44E0

「が、は…!!き、貴様…何だその力は!先程とはまるで違う…!」
「超人パワーを取り戻した私を甘く見てもらっては困るな!」
「『取り戻した』だと!?…まさか!」

男の顔が驚愕に彩られる。
エラードマンだった時とは比べ物にならないベンキマンの実力もそうだが、男はベンキマンが記憶を取り戻し、聖杯戦争のマスターとして覚醒した可能性に行きついた。
男の推測は正しく、ベンキマンは記憶を取り戻すと同時に、聖杯戦争の知識を得ており、この乱入者が一足先に成った主従であること、また乱入者の目的も理解していた。

「魔力を得るために多数の民を犠牲にしようなど外道の所業!このベンキマンが貴様の悪の心ごと洗い流してやる!!」
「マスター!」

多数の観客を魔術によって一網打尽にしようとしていたキャスターが転回し、ベンキマンに向かってくる。
そして魔術によって展開した無数の魔弾をベンキマンに浴びせた。

「そして何よりも許せぬのは……無関係な者まで集めて殺し合わせる聖杯戦争そのものだ―――っ!!」

『今度は乱入者の女が気弾のようなものをマシンガンの如く放つ―――!!もはやこれはプロレスではない!超次元プロレスだ――っ!これを前に、どうするエラードマン!?』

ベンキマンはマスターを自覚して抱いた憤りを叫びながら、キャスターの撃ち出した魔弾を細身の身体を駆使して紙一重で避けていく。
本来マスターとサーヴァントの間には隔絶した実力差のある筈が、超人パワーを持つベンキマンはそれがどうしたと言わんばかりにキャスターへと肉薄する。

『エラードマン、避ける避ける!皆さんご覧ください!私どもももうダメかと想っておりましたが、希望は見えてきました!エラードマンがたった一人で今、戦っています!』

まさかマスターであるはずの者に見切られるとは思わず、キャスターにも焦りが見え始めるもベンキマンの手が届きそうになったところで、ついにその身に魔弾を受けてしまう。
一度怯むとそのまま2発3発と続けざまに食らってしまい、ベンキマンはリング外に押し出されてダウンした。

『あ――っと、エラードマンダウーン!これは万事休すか!?』

「グ…!」

「おのれ…このタイミングで目覚めてしまうとはな」
「早く片付けましょう。サーヴァントを召喚される前に!」

倒れるベンキマンを見下ろすマスターとキャスター。
しかし今の彼らには余裕を保つ笑みはなく、その目に殺意を浮かべながらベンキマンを睨んでいた。
二人はベンキマンの便器の身体を粉砕すべく、再び動き出そうとした、その時。

「私は正義超人として…インカ超人の末裔として…誇り高きベンキーヤ一族として…負けるわけにはいかぬ!」

尚も立ち上がったベンキマンの便器の奥から、眩い光が迸った。

【この水流が懐かしい。我を喚ぶ男の声が懐かしい。あの頃を思い出すな…かの地に開いた国のことを。我を支えてくれた兵と民を】

会場に声が木霊する。それは紛れもなく、ベンキマンの便器の中――そこに溜まっている水の奥から聞こえていた。
だが何故だろう。本来汚いはずの便器に溜まった水が、まるで聖なる女神が現れるような泉に見えてしまうのは。
ベンキマンの便器を纏うその光は、それだけの神々しさを放っていた。

【我を喚ぶ者よ。我をよりにもよってこの星のほぼ真反対の地、京都に喚ぶとは相当縁深い者と見える。もしそうならば呼んでおくれ、我の名を。我がお前を知るならば、我もお前を覚えていよう】

「こ、この声は…!」

ベンキマンはそれを聞いた時、途方もない懐かしさに襲われる。
それは強敵ギヤマスターにあと一歩のところで敗れた時でも、キン肉マンにパンツを詰められて敗れた時でも、
インカ超人としての記憶を取り戻し、第21回超人オリンピック ザ・ビッグファイトのペルー予選で優勝した時でもない。
昔の昔、さらに昔。フランシスコ・ピサロ率いるスペインに故郷のインカ帝国が侵略されるよりも遥かに昔。
現在で2000歳を超えるベンキマンが、まだ現役で古代インカ帝国皇帝の警備超人を務めていた頃の――。

「ああ、あなたは、あなたは…」

ベンキマンは、会心の笑みを浮かべ、感極まって一筋の涙を流す。
声の主は、かつて自身が守っていた者。声の主は、故郷の開祖。声の主は、かの地・クスコに国を開いたインカ帝国の偉大なる礎。

「インカ帝国健在の頃より、我が両親と同じ、いやそれ以上にあなたを慕っておりました――」


536 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:33:20 OrG0o44E0







「我が王・マンコ!!!!!!!!!!」






.


537 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:34:07 OrG0o44E0

「我を喚んだな!!ベンキーヤの!!」






ベンキマンがその名を叫んだ瞬間、ベンキマンの便器の内から"彼"は飛び出した!
その姿は褐色肌で、インカの王冠を被った黒髪の長髪の中性的な容姿をしていた。インカの民族装束を露出度高めに着ている。
男とも女とも取れる、男装の麗人風のサーヴァントだった。
その真名は、【マンコ・カパック】。ライダークラスのサーヴァントとして現界した、インカの神話にも破格の存在感を誇るインカの初代皇帝。

「お前のことは我が側面の一が覚えている。本人ではないが、敢えて言おう。『久しぶりだな』、ベンキーヤの」
「あの王マンコにまさか会う日が来るとは…!…しかし、その姿は?声も心なしかかなり高いような…?」
「ああ、この容姿はな…。おそらく、日本とやらの国の文化に影響を受けて無理矢理女の側面を付け足されたようでな。まったく言葉とは国によっては本当に――おっと」

マンコが苦笑しながらベンキマンに語ろうとしていると、後ろから殺意の塊となった乱入者の主従が各々の拳と魔力を滾らせて奇襲してきた。
マンコはベンキマンと共に軽々とマスターの拳を避け、その隙を狙ってキャスターから打ち出された光線を、なんとマンコは手を軽く払うだけでかき消してしまった。

「な、なんて強固な対魔力なの…!?」

キャスターに心からの動揺が走る。
乱入者の主従が劣勢になるにつれ、逃げ惑っていた観客もベンキマンとマンコに希望を見出し、徐々に応援の声が湧きつつあった。

『なんと、ここでまさかのエラードマンに援軍だ―――!!突如としてエラードマンの四角い窪みから現れた男装の美女が助太刀に現れた――!!
2対2、数で互角!エラードマン、現れた謎の美女と共に巻き返せるか!?』

「はっはっは!我は本来は男だというのにまさか美女だとはな!妻のママへのいい土産話になる!
ベンキマンよ、随分と愉快な場所で喚んでくれたではないか!これは何の文化だ?何の文明だ?後世に生きる人間がこれほどまで面白い文明を創っているとは、感動したぞ!」
「王マンコ、相手は主従です!元々プロレスのチャンピオン決定戦が行われていたところを、この者達が全員を皆殺しにしようと――」
「ふむ、大方は把握した。ならば、この場に則ってプロレスなるものの技を使ってみよう。ベンキマンの知る超人プロレスの技とやらも使ってみたいな」

それを聞いて驚いたのはベンキマンだ。

「王マンコ、貴方はサーヴァントの筈…超人レスラーにもなれるのですか!?」
「そうだな、その秘密を今から見せてやろう」

そう言ってマンコは腕を水平に広げ、計画が狂った焦りと動揺により目に見えて動きの鈍ったマスターとキャスターごと、両腕のラリアットで吹き飛ばしつつリングに飛び入る。
ただでさえ強力なサーヴァントのラリアットで相当な衝撃が二人の脳に伝わったようで、リングの床で二人とも倒れ伏し、マスターに至っては身体を痙攣させている。

『ここで謎の美女、ダブルラリアット――っ!左右の腕に乱入者の男女の首がかかって直撃している!これは間違いなく効いています!!』

そしてリング上から、懐から取り出した黄金に輝く杖を高く掲げた。

【ベンキマンよ、これが我がサーヴァントとして現界した際に得た宝具の一、『素晴らしき礎、此処に在り《タパク・ヤウリ》』。我が父なる神から賜った文明を拓く王の証であり、クスコを開く礎】

リング外でインカの王の姿に見入るベンキマンに、マンコは念話で語りかけてくる。


538 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:34:52 OrG0o44E0

【この宝具のおかげで、我はあらゆるスキルを瞬時に会得することができ、授けることもできるのだ。それはベンキマン、超人レスラーとしてのパワーとテクニックも例外ではない】

マンコは念で話しつつも、足元で何とか抵抗しようと魔力を集中させていたキャスターの片足を掴み、なんとサーヴァントの筋力を全開にして頭上でプロペラの如く振り回した。

「きゃあああああぁぁぁ!?!?」

『そして乱入者の女の片足を掴んでブンブンと振り回す―――!流石にこれには耐え兼ねて悲鳴を漏らしています!振り回す振り回すどんどん振り回す!振り回すスピードが早すぎて空まで飛んでしまった―――!』

サーヴァントが振り回しているだけあってミスミスミスミス…という奇妙な風を斬る音が生まれた上、
その回転速度のあまりの速さにマンコは竹トンボのようにキャスターごと上昇、その遠心力に合わせてキャスターの臓器は細胞分離機の如く圧迫されていく。

【我は父なる神に遣わされて無秩序だった地上の人間に知恵と文明を齎した過去があってな。この能力は言わば文明の始祖の特権、支配者たる皇帝の特権というわけだ】

キャスターを濡れたタオルのように振り回しているという異様な光景ながらも、マンコはあくまで堂々とした様子だ。
その視線は勿論ベンキマンに行っていた。

「ところで知っているか?女の肉体は男とは違って硬い筋肉組織が少なく、逆に脂肪が多いという。これが何を意味するかわかるか?」

マンコはキャスターをプロペラにして会場を上昇し続けるも、その問いへの答えは帰ってこない。
応える余裕がキャスターには残されていないのだ。

「柔らかいのだ、女の肉体は!そして貴様は今、殆どの内蔵が遠心力によって上半身へと追いやられていることだろう。下半身はほぼ最低限の筋肉と脂肪しかない!つまり、極限まで柔らかくなっているということだっ!!」

【今から見せてやろう、ベンキーヤの。その超人レスラーのスキルから編み出した我がフェイバリットホールドを】

そしてマンコは十分な高度まで上昇したことを確認すると、空中でそのままキャスターの身体を抱え込み、
腕でキャスターの両手を掴み、腰をほぼ¬の型で背骨が折れるかという所まで逸らし、両足を掛けてキャスターを180度以上開脚させ、そのままの態勢でキャスターを下にして猛スピードでリングの床へと落下していった。






「『開国の分娩台』―――!!!!!!」






「…がはぁっ!?!?!?」

リングに叩きつけられたキャスターの口からはおおよそ女の声とは思えない苦悶の声が響く。
それとは対照的に、観客からは敵の一人を倒したことと派手な必殺技を見れたことから、先ほどの恐怖から解放された歓声と拍手喝采が起こった。
叩きつけられてからキャスターは解放されるものの、もはや息をしておらず、口から血を流して身体を構成している魔力が霧散していった。

『ここでK.O.―――!エラードマンに加勢した謎の美女、気付けば圧倒的な強さで乱入者の女に勝利―――!我々にはもはや救いはないのかと諦めかけましたが、確かにここにヒーローはいた―――!!本当によかった…!』


539 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:35:53 OrG0o44E0

カーンカーンカーンとけたたましくゴングが鳴る中、マンコは誇らしげに拳を天に突きあげる。

【ベンキマンよ、やはり文明というものはいいな。単に知るだけじゃなく自分も使ってみてかけがえのない価値に気づける…プロレス、もとい超人プロレスも素晴らしいモノであった。またこのスキルを聖杯戦争でも使いたいものだな】
【王マンコ…】
【して、ベンキマン。お前は我のマスターとなったわけだが、聖杯戦争でお前はどうしたいのかをまだ聞いていなかったな】
【私は…】

マンコの問いにベンキマンが答えようとした時、ベンキマンはリングに倒れていたマスターが起き上がろうとしていることに気付く。

「認めん…認めてたまるか…これで終わりなどぉぉぉ―――!!」
「させるかっ!」

キャスターのマスターは自身の敗北が認められず、暴走して強化魔術を自身の肉体に過剰に付与、自壊も厭わないほどに筋肉を膨張させてマンコに殴りかかる。
それを、咄嗟にリングインしたベンキマンが阻止。ベンキマンの2倍以上の面積となったマスターの突進を、ベンキマンは何とか食い止める。

「…王マンコ」

震える手でマスターを食い止めながら、ベンキマンは後ろにいるマンコに振り返る。

「私はかつて警護超人でしたが…今は正義超人です」

グググ…とマスターの加えてくる圧力が強くなる。ベンキマンは徐々に押し合いに劣勢になっていき、踏ん張っている足が後方へと押しやられる。

「もちろんかつてスペインの侵攻から守れなかった皇帝もお守りしたい気持ちもある…しかし、正義超人となった今の私には更に多くの救うべき者ができた…」

ベンキマンの言葉を、マンコは静かに聞き入れる。

「王だけではありません…ここにいる観客の皆のような人間…そして私と共にいてくれる友…きっと聖杯戦争では多くの民が襲撃してきた主従のような殺し合いに乗る輩の牙に晒されるでしょう。私は正義超人として、そんな者達から皆を守りたい」

ベンキマンは語気を強くしていく。それに比例してマスターを押し返す力も強くなり、ついにベンキマンが優勢になる。

「どんな状況でも、正義超人の魂を貫きたいっ!」

そしてベンキマンは咄嗟に胴体の便器についているレバーを操作して水流を逆噴射し、その水流の勢いに乗せてキャスターのマスターを遥か空中へと打ち上げる。
ベンキマンも追うように飛び上がって筋肉で膨れ上がったマスターの肉体を上下逆の態勢にして掴む。






「『ボットン便所落とし』―――!!」






そのままマスターの頭を下にして、ベンキマンは高空からパイルドライバーを炸裂させ床に叩きつける。
脳という中枢機能へ再度ダメージを受けたキャスターのマスターはリングの上にダウンし、起き上がれない。

「食らえ―――っ!アリダンゴ―――ッ!!」

間髪入れずにベンキマンはのびているマスターの肉体をこねくり回していく。

「たとえ他の主従に気づかれても、背中を狙われようとも、どこかで襲撃されても!私は目の前で苦しんでいる人達を見捨てたくない!
聖杯戦争のセオリーが何だ!私は正義超人として、人の危機あるところに駆けつけてこの力を振るい、戦い、救う!そうありたい!」

マスターの巨大化した肉体はベンキマンが話しているうちに団子状に丸められていき、やがて綺麗な球体となってしまった。

「そしてこの狂った催しの根源、この聖杯戦争に巣食っている悪を、全て洗い流す!」

そしてキャスターのマスターが変化した球体の団子を自身の便器にはめ込み、レバーを押す。






「『恐怖のベンキ流し』―――!!」






『あ――っと、残された乱入者の男、一時は巨大化してどうなるかと思いましたが、エラードマンの咄嗟の活躍によって団子状に丸められ、たった今、流されていく―――っ!!』

ベンキマンの便器を怒涛の水流が流れ、球体化したキャスターのマスターは便器の奥底へ消え去っていった。
しばらくして、便器の奥にあった生命の気配は完全に消えた。


540 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:36:41 OrG0o44E0

「観客のみんな――っ!私は今日よりエラードマンではない!古代インカ超人ベンキマンと呼んでくれ―――!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」

「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」

それを聞いた観客は一拍子置いて今日一番の規模の歓声を挙げ、惜しみないベンキマンコールが湧き上がった。
それに応えるように、ベンキマンは胸の便器に手を当ててリングに跪く。
無表情だった顔には、クールながらも嬉しそうな笑みがこぼれていた。

「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」

『投げないでください!』

ただの嫌われ者や訳ありの応援ではない、自分達の命を救ってくれたヒーローとして、観客はベンキマンを称えるのであった。

『ウンコを投げないでください!』『ウンコを投げないでください!』

そしてそのファンの証として、どこから取り出したのか、リングにはとぐろを巻いた大便が方々から投げ入れられていた。

『他のお客様のご迷惑になります!』

マンコは跪くベンキマンの肩に手を置き、満足げに微笑む。

「正義超人…この上なく素晴らしい文明じゃないか。インカの皇帝として、誇らしいよ」
「王マンコ、申し訳ありません。私は警護超人ではいられません」
「いいんだ、そんなこと!むしろ、私も正義超人の仲間入りをさせてくれないか?お前と一緒に聖杯戦争を戦いたい。それも皇帝と警護超人じゃない…対等な友として」
「王マンコ…!」

古代インカの主従、ここに復活――。
古代インカの友情、新なる覚醒《めざめ》――。











≪後日談≫

なお、この出来事はマンコの計らいにより、マンコが宝具で暗示魔術スキルを会得した上でベンキマンとマンコ以外のNPCは皆暗示をかけられ、一部始終を忘れている。
他の主従に存在が露呈することを恐れたのではなく、目の前で殺人が起きたことによるショックとその時に味わった死の恐怖の心理的な影響を考えてのことである。
また、聖杯戦争は未だ準備期間。大量虐殺未遂があったことが暴露されれば、
プロレス団体のチャンピオン決定戦を観に行っていたNPCに危険が及ぶかもしれないことを考慮した上での判断だった。

さらに余談だが、この日であった出来事は『ベンキマンと改名したレスラーのファンになった観客が大便を投げ入れた』という珍事として処理され、ニュースに取り上げられた。
下品な行いをしたとして、ベンキマンはプロレス団体から無期限の謹慎処分を受けた。
これに関してはベンキマン、マンコ共々気にしておらず、むしろロールに縛られることなく活動できるので幸いと感じている部分も多いが、
報じられたニュースがあまりに異様な珍事であるため、そのニュースを見た聡い主従からは早々にベンキマンはマスター候補として挙げられてしまうのであった。
しかし、そんな主従の大半はこう思ったという。

(コイツには関わらないようにしよう…)


541 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:37:45 OrG0o44E0
【クラス】
ライダー

【真名】
マンコ・カパック@インカ神話、古代インカ帝国

【性別】
不明

【身長・体重】
175cm・69kg

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力A++ 幸運A+ 宝具A+

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
対魔力:A+
魔術に対する抵抗力。
父なる神々の加護により、その抵抗力は破格の域にまで達している。

騎乗:B++
乗り物を乗りこなす能力。
Bランクならば大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
ただし、マンコの場合は宝具によってスキルを上書きして獲得することで本来乗りこなせない物まで乗りこなすことができる。

【保有スキル】
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされ、より肉体的な忍耐力も強くなる。「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果がある。
また、「菩提樹の悟り」「信仰の加護」といったスキルを打ち破る。
太陽神インティの子とも、創造神ビラコチャの子ともされ、自身も神として崇拝されていた。

神々の加護:A
太陽神インティと創造神ビラコチャからの加護。
対魔力をランク分押し上げるだけでなく、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せ、マンコの行動の成功率を上昇させる。
また、陣地或いは太陽の下にいる間は全ステータスが1ランク上昇する他、魔力・ダメージの常時回復効果が得られる。

両性:C
男性と女性の特徴の両方を同時に有していることを示すスキル。
しかしそれは「男でも女でもない」ため、性別に依存する干渉能力全般を無効化する。
マンコの場合は元々男性なので本来持っているスキルではなく、京都及び日本に召喚されたことにより女性の側面も付加されたことで得たもの。
マンコ自身は日本の文化に影響された結果だと考察しているが、マンコのナニが影響されたのかは不明。


542 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:39:23 OrG0o44E0

【宝具】
『素晴らしき礎、此処に在り(タパク・ヤウリ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
マンコの父なる神から授けられた金の杖。
太陽神からこの杖が地面に沈む地に神殿を作るようにと授けられたという逸話から、この杖で地面を突くことによってどこでも瞬時に神殿クラス以上の陣地を作成することができる。
この杖が沈む地とは、後にインカ帝国の首都となる『クスコ』のことを指すが、此度の聖杯戦争ではあらゆる地点がこの杖を起点に『クスコ』となり得るのである。
また、この杖は支配者の象徴ともされており、所持者のマンコが主張すれば、
素養がなくとも本来持ちえないスキルをAランク以上の習熟度で獲得できるという皇帝特権の宝具版ともいえる効果を持つ。
騎乗を獲得すれば幻想種の生物すら手名付けてしまうし、道具作成を獲得すれば魔術器具は勿論、古代インカの兵士の召喚やプロレスやボクシングをするためのリングを即席で作ることもできる。
さらに、マンコは無秩序だった地上の人間に文明をもたらし、インカ文明の創始者となった逸話から、
他者にも所持しえないスキルを獲得させることができ、マスターや味方をサーヴァント以上の強さへと強化することも可能。

『新なる世界、水流と共に(ウヌ・パチャクチ)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
創造神ビラコチャが、世界を新たにやり直すべく、大洪水を起こして人々を滅ぼした逸話の具現。
その際にビラコチャはマンコとその妻ママ・オクリョをやり直した世界に文明を広げるために助けている。
マンコも人々に文明を広げることに関わり、自身も最高格の神の化身とされていたことから、この宝具を使える。
巨大な洪水を起こし、レンジ内のモノを全て呑み込む。その規模は辺りの都市一帯を沈めてしまうほどで、全てを水に流してしまう。
水といえど広大な「面」で相手に襲い来る波は神の槌の如き威力を誇り、旧い人類を破壊し尽くすには十分な破滅の奔流といえる。
ただし、その威力に見合うだけの膨大な魔力が必要であり、乱発は禁物。
なお、先述の逸話から洪水は『素晴らしき礎、此処に在り』によって作成された陣地を避けて流れていくため、その領域内にいる者は洪水の影響を受けなくて済む。

【weapon】
普通に戦う時は槍を用いるが、宝具により槍以外の武器でも十全の状態で戦える。
その気になれば、マスターと同じくリング上でサーヴァント超人としてプロレスなどの格闘技で戦うことも可能。

【サーヴァントとしての願い】
ベンキマンと共にNPCや弱き者を救う傍ら、自分の知らない世界や文明を知りたい。

【人物背景】
インカ神話におけるクスコ王国――後のインカ帝国の初代皇帝。ケチュア語で「素晴らしき礎」を冠する名を持つ。
太陽神から金の杖を与えられ、その杖が地面に沈む地に太陽の神殿を作るように言われて兄弟達と共に送り出され、旅の果てに金の杖が沈む地・クスコに到達。
マンコはそこに太陽神インティを讃える神殿を建設してクスコ王国を築き、その王となった。
そして開かれたクスコ王国は、後代にまで伝えられる栄えあるインカ帝国として語り継がれることになる。

マンコが生きていた時代はビラコチャが幾度目かの世界をやり直す前――創造神ビラコチャが人間を創ったものの、彼らの生活に文明もなく、宗教も政治も知らず、そればかりか衣服も身に付けずに獣同然の暮らしをしていた時代。
彼は太陽神インティの(一説によると創造神ビラコチャの)息子であったが、兄弟と共に地上のパカリ・タンプの洞窟で暮らしていた。
しかし、ビラコチャは地上に人間を創ってからというもの、一向に文明を持たず、あまつさえ争って命を奪い合う人間達を“失敗作”と断じ、大洪水を起こして滅ぼしてしまう。
その際に、ビラコチャは新しく人類を創り直す傍ら、インティと縁のあるマンコとその兄弟を滅んだ人間達の中から助け出す。
その目的はマンコ達に次なる世界の人類に文明をもたらす指導者となって導かせるためであり、
ビラコチャとインティから金の杖を授かったマンコ達は新しい世界の地上にパカリ・タンプの洞窟を通じて(一説にはチチカカ湖の底から)降り立つ。
マンコ達は父なる神の期待に応えて各地にいる人間に様々な生存術・技芸・宗教といった知識を授け、やがてクスコに王朝を開き、マンコは王マンコとなったのである。


543 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:39:55 OrG0o44E0

【容姿・特徴】
褐色肌で、インカの民族装束を露出度高めに着ていて赤いマントを羽織っている。頭には降ろした長髪の黒髪の上にインカの王の証である冠を着けている。
本来は男性だが、仮の舞台とはいえ日本に現界したことで女性の側面を付与されたせいで顔立ちは中性的な容貌。
男装の麗人風、Fate/Grand Orderのオジマンディアスを女体化した風体と言った方がわかりやすいだろうか。
性別はあくまで不明。一方、人格はれっきとした男性で、王の威厳を感じさせる堂々とした口調をしている。
寛大でノリのいい性格をしており、インカ帝国とは異なる文明に興味を抱くこともしばしば。
ただし既に素晴らしい文明の発展を遂げた人間を滅ぼすことには否定的で、それもあって『新なる世界、水流と共に』の使用には消極的。


544 : ベンキとマンコ、勃つ!の巻 ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:41:00 OrG0o44E0
【マスター】
ベンキマン@キン肉マン

【マスターとしての願い】
正義超人として、聖杯戦争に乗る主従から皆を守り、救う
聖杯戦争を止め、それに巣食う悪を倒す

【weapon】
基本的に素手や便器の身体で戦うが、武器として便器ブラシ、デッキブラシ、スッポンを、飛び道具としてとぐろを巻いた大便やトイレットペーパーも使うことがある。汚い。
また、頭に乗っているとぐろを巻いた大便のオブジェは非常に硬く、巨大なギヤに巻き込まれても逆にその動きを無理矢理止めてしまう。
それを回転させて敵を頭突くエラードスピンは単純ながらも強力。だが汚い。

【能力・技能】
・超人
人間の能力を遥かに超えた存在。その出自や強さは多様であり、生命力も傷の回復力も人間のそれを遥かに上回る。
ベンキマンは便器の超人で、肛門を持たない、腹の便器の奥に下水が存在するなど人間と身体構造が全く異なり、その身体に持つギミックを戦闘でも利用する。
器物そのものの超人のため性格は常に冷静で、超人レスラーとしては知恵とテクニックに優れる技巧派。

・秘技 アリダンゴ
ベンキマンは立ち技や組み技よりも寝技を得意としており、原理は不明だが相手を高速でこねくり回し、強制的に球体化させて団子状に丸めてしまう。
巨体を持つ相手を恐怖のベンキ流しで流せるサイズまで小さくする際に有効。

・恐怖のベンキ流し
ベンキマンの得意技であり、相手を自身の便器で流してしまう荒技。
流された者がどうなるのかはベンキマンも原作者にもわからないが、一応この聖杯戦争では脱落扱いになるらしい。

・火事場のクソ力
窮地にて、仲間への思いが高まると同時に全身が発光して発揮される奇跡的な力であり、潜在能力。
発動中は戦況を根本から覆し得る強大な力を発揮する。
ベンキマンの場合、ギヤマスター戦でこれを発動。劣勢からその力を以てギヤマスターを追いつめた。

【人物背景】
胴体が和式便器、頭にとぐろを巻いた大便のオブジェを頂く超人。2000歳。超人強度は40万パワーで、「全てを水に流す男」の異名を持つ。
出身国は古代インカ帝国。
当初は過去の記憶を失ったまま、超人レスラー「エラードマン」として活躍していたが、病床の祖父から自分が「ベンキーヤ一族」に属する水洗トイレの超人で、
さらに古代インカ帝国皇帝直属の警護超人だったこと、スペインが古代インカを侵略した際に両親を殺され、自らも記憶を失ってしまったことを教わる。
その後、古の記憶に従い、超人オリンピックペルー予選決勝戦の相手・ヒガンテマンを「恐怖のベンキ流し」で撃破。
超人オリンピック・ペルー代表の座を手にすると同時に、ベンキマンを名乗るようになった。

【方針】
NPC・弱者・仲間を聖杯狙いの主従や危険から守る。
他の主従やNPCに正体を晒すことになるのも厭わない。

【把握情報】
ベンキマンはキン肉マンでもかなりニッチなキャラクターなので、最低限の把握だけならベンキマンが主人公の外伝が掲載されている「キン肉マン 読み切り傑作選2011-2014」だけを読んでいればOK。
他の登場巻は、初登場のキン肉マン7巻及び8巻、38巻にかませ犬として出演、現行の最新シリーズでも登場しておりついに活躍したものの、まだ単行本化はされていない。
とはいえ、感想サイト等である程度の内容は把握できる。ギヤマスター戦のベンキマンは必見。

また、キン肉マンの世界観としてプロレスが世界観の中心に組み込まれていたリ規模が宇宙まで広がっていたリと困惑することもあるが、『そういうもの』としてふわふわに捉えておけばOK。作者が作者なので。


545 : ◆ZjW0Ah9nuU :2018/02/25(日) 10:42:30 OrG0o44E0
以上で投下を修了します。
重ねて言いますが露骨に卑猥な表現を描く意図は全くございません。


546 : ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 14:56:59 M04tjaR60
投下します


547 : 光放つ刃 ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 14:57:59 M04tjaR60
◆  ◆

初夏の蒸し暑く、暗い和室だった。
亥の刻を過ぎ、行燈の灯りはあってもその深い闇を照らすのは余りにも頼りなくおぼろげにしか見えないが、そこには10人近い男たちが犇めいていた。
各々その手に持つ抜身の刀を怒声とともに振り回し、こちらに切りかかって来る。
頭数は向こうが圧倒的だが、その分それぞれの身体がぶつかり邪魔し合い生まれた隙に腕を裂き、首筋を削いで1人ずつ地道に仕留めていた。中々面倒くさい戦いになったが、『あの人』はいまだに無傷。この調子なら今日の仕事も――――――そんな時だった。

突如、背後から激しく咳き込む音が響き、すぐ後にぽたりと液体が畳に滴る音が続いた。行燈の弱い光にもそれがはっきりと赤色をしていることが解る。
凄まじい倦怠感と咳嗽に襲われたのだろう彼は、たまらず顔を歪め身体をくの字に折り曲げ膝をついてしまう。
分かり切ったことだがここは敵陣でありしかも未だ複数の敵に囲まれた状態である。つい先ほどまで鬼のような大立ち回りを演じていた相手の突然の吐血に戸惑っていた様子の男達だったが、好機が回ってきたのだと悟ったらしく口元を吊り上げ刃を振りかぶる。それに反応できたのは、やはり当代の剣士たちの中でも彼の人の力がずば抜けていた証拠だろう。その一閃は彼に傷一つもつけることはなかった。

だが、流石に急な体調の悪化のせいで手元が狂ったのかそれともこれまでの戦闘での無理が祟ったのか、敵の胴を薙いだ刀身からばきん、と鈍く嫌な音がした。折れた切先が宙を舞い、畳に突き刺さる。

「総司っ!!」

階段を駆け上がる足音と共に近藤さんの慌てた叫び声をどこか遠くに聞きながら、ある刀の意識は闇に閉ざされた。


548 : 光放つ刃 ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 14:59:14 M04tjaR60
◆  ◆


夕刻、京都市内のある路地―――京都では数多く存在する赴きのある町屋が並び、石畳が敷かれた小道。京都を訪れる観光客の中には、そのひっそりした和の雰囲気を感じるために路地を探して巡る者もいるという。この路地もその一つのはずだった。しかし、今やその自慢の穏やかな空気は失われ、剣呑な殺気とどす黒い闘気に満ち溢れていた。

周囲の家屋の軒先を軽く超えそうな身長に、肥え太った身体。狂気を隠そうともせずに切り立った崖の一部をそのまま取り出してきた様な歪な剣を振り回し、醜悪な姿の男が喉を潰しそうな叫びを上げた。
それに相対する白髪和装の少年がいた。自身の倍近い体格差を前に微塵の恐れも見せずに鈍い風切音をたてて迫る刃を涼しい顔で回避する。
ほんの少し掠っただけでも、その部位の骨を確実に粉砕するであろう威力を持つ『狂戦士』の斬撃であっても少年の髪の毛すら掠ることもできずに空を切り、対する少年はその隙を見逃さずに踏み込むと、瞬時にバーサーカーの手首を掻き切った。
動脈と腱を断たれ、噴水のように出血した腕は重力に逆らえず剣を取り落とし、バーサーカーはまた何事かを叫ぼうとしたがそれは叶うことはなかった。
落とした剣が指先から離れるよりも速くに、目にもとまらぬ動きで間合いを詰めて跳んだ少年の刀による一閃で憐れバーサーカーの頭部とそれから下は泣き別れになったのだ。
単純な腕力ではバーサーカーが圧倒的に勝っていたのだが、それを全く感じさせないほどのたった数分間ほどの戦いの呆気ない幕切れであった。



頭部が切断された死体と化したバーサーカーの霊基が光の粒となって大気に溶けるように消えていくのを眺めながら、納刀した少年はふう、と息をつく。この程度の相手に不覚を取る気はさらさら無かったが、目下最大の弱点となりうる自分が宿す厄介な特性を自覚する身としては、欠片の油断も許されず、速攻で片を付けるに越したことはない。今回は上手く事が運べたようだ、と新たに察知した気配を感じて思う。
敵意も殺気もないそれは、少年―――アサシンの後方に建っている家屋の屋根から跳躍し、アサシンの隣にほとんど音をたてずに着地した。

「よっ、と・・ただいま。そっち終わった?」

鮮やかな紅色の爪が目を惹く手をひらひら振り、親しげに話しかけてきたのはこのアサシンを召喚したマスター、加州清光であった。
アサシンとちょうど同じくらいの背格好である彼は、銃刀法が布かれた現代日本ではそうお目にかかれないであろう一振りの日本刀を携えていた。
――――――赤い鞘に猪目が彫られた鍔というアサシンが今も腰に佩いている刀とそっくりの・・否、そのまま同じ物を、である。
そして、その刀の名も『加州清光』。マスターである清光がこのアサシンを召喚した時に触媒となったものであり、そしてこの主従の間に強い縁があるという証拠だ。
まさしく百数十年前――――清光にとっては三百年以上前にもなる、アサシンが存命だったころからの物が。

アサシンの真名は、沖田総司。幕末の混沌の中にあった京の都にあってなお、血気盛んな攘夷浪士から無辜の町人まであらゆる人間を恐れさせた治安維持部隊『新撰組』の若き天才剣士であり、日本でも有数の知名度を誇る侍だ。

そして、この場にある二振りの刀と同じ名を持つマスター加州清光の正体は人間ではなく、刀工・六代目清光が鍛えた数多くの刀のうち『沖田総司に使用された加州清光』に宿っていた刀の付喪神が審神者の能力で人間の肉体を得た存在―――時間を跳躍し、自ら刃を振るい時間遡行軍を殲滅する歴史の守り手、刀剣男士の一振りである。


549 : 光放つ刃 ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 15:01:24 M04tjaR60


「ええ。その様子だとそちらも上手く行ったようですね。」

数分前、あのバーサーカーは路地に迷い込んだと思われる幼い少女に大剣を振り下ろそうとしていた。間一髪のところでアサシンが割って入り、清光がそのまま気絶していた少女を抱えて退避させることで事なきを得たが。

「まーね。あの子は近くの交番前に下ろしといたから、もう大丈夫だと思う。
で、戻りついでに見つけたんだけど、1個向こうの通りにあのでかい奴のマスターっぽいのが襲ってきたからのしといたよ。
・・・すぐに木乃伊みたいになって死んだけど、『バーサーカーの魂喰いを邪魔するな』とか言ってたから、あいつのマスターでまちがいないと思う。
魔力ってやつを絞られすぎたんだろうね」

「なるほど。仕留める寸前に何か言おうとしたように見えたのは宝具を使おうとしてたんですね。それで魔力切れで干からびたと」


人外の脚力によって踏み砕かれた石畳や切断された電柱、しかも近くには元マスターの変死体もある。通行人や警察が気付くのも時間の問題だろう。
人の気配を避けながら足早にその場を離れる。アサシンはもちろんだが、清光も普段から時間移動で何度も京都に出陣しているおかげで大体の地理は把握できていた。
夕日はだいぶ前に完全に沈み、無数の街灯や建物の灯りが闇に煌めいていた。遠くから人々の喧騒と、鴨川の向こう南方面、京都駅の方だろうか、複数のサイレンの音がかすかに聞こえてくる。
日本でも屈指の観光地で人口も多い方であるため、その分犯罪が地方よりは起こりやすくはあるが、それを抜きにしても今月に入ってからこの京都では建造物損壊、変死体、大量の行方不明者、はたまた怪物としか言えない奇妙な生物の目撃情報など、ありとあらゆる事件が発生し常にメディアを騒がせ、警察などが京都中を駆け回る異様な場所となっていた。
しかし、懸命な彼らの捜査または取材が報われることは決して無い。むしろ少しでも真実に近づいてしまえば『こちら側』となるか、あるいは最悪の場合死よりも恐ろしい終わりを迎えることになるだろう。



【・・・警邏の者が多いですね。今日のところは帰宅した方がいいかと。人間として過ごすのなら、学生であるマスターがあまり遅くに出歩くのは咎められるでしょう。その刀も見つかればまずそうですし・・『じゅうとうほう』とかいう法があるんですよね?】

霊体化したアサシンが念話で囁く。刀剣としての記憶を取り戻すと同時にどこからともなく顕れた刀は、清光が着ていた上着で包んで小脇に抱えている。常人よりは丈夫にできているはずの刀剣男士の身体だが、それでも真冬の夜の寒さは身に染みた。
これまで帯刀が許されない時代に転移したことはなかった清光にとっては、刀を隠して行動するのは始めての経験だ。

「そーね。竹刀袋とか用意しなきゃいけないか。あー俺が短刀とかならまだ隠すの楽だったんだろうけど」

返事をしながら川向こうをまたちらりと眺める。京都駅にほど近い七条通添いには嘗て新撰組二番目の屯所であった西本願寺がある。
池田屋事件により一躍脚光を浴び、人員増加で大所帯になったり、長州志士と寺とのつながりを断ちたいという思惑もあった隊は事件の翌年、八木家からここへ移転することとなったのだ。近藤、土方、沖田を始めとした総勢二百人が約二年間暮らしたという。
池田屋で折れ、修理を依頼した刀鍛冶にも匙を投げられた清光はそこで過ごすことはなかったけれど。

そんな景色を眺めていると、清光にはとある疑問が湧いきてしまう。自らに課せられた役目の内容としては、本当ならば口にしない方が良いことなのだろう。
しかし、沖田総司の逸話によって生まれた清光にとって絶対に切り離せない存在であるアサシンの、というかその心情について無関心の態度をとることはどうしてもできなかった。
その人が清光を認識していて、交流することが禁じられていないのならなおさら。


550 : 光放つ刃 ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 15:03:07 M04tjaR60

「・・ねえ、沖田くんはさ、ほんとに良いの?俺のお願い、全部聞いてもらっちゃってさ」

先刻アサシンを召喚した際、真名が真名だけに少なくない動揺があったものの、所謂平行世界の存在であり、全てを話したとしても清光の世界の歴史には影響がないだろうということ、そして何よりも一時的にとはいえ命を預ける相手として話しておく必要があると判断したので、自身の正体『刀剣男士』のこと、そして背負う使命を明かした上で清光はアサシンに「聖杯戦争に乗るつもりはない」と伝えた。

望んでもいないのにいきなり異世界に拉致され、偽りの記憶を刷り込まれたあげくに殺し合いをしろなどと到底従う気にはなれない。
正直、清光は『どんな願いも叶う杯』のことは非常に胡散臭い話しだと感じていた。願いが叶うこともそうだが、仮にそれが本物だとしても多人数で殺し合うという蠱毒に似た儀式の内容からしてそれがまともに願いを叶えてくれるとは思えなかった。
自分と同じく望まずに巻き込まれた者達が居るならば、彼らと協力し脱出を。可能であれば聖杯を破壊なり無力化して、万が一にも今の主の怨敵である歴史修正主義者などの手に渡ることのないようにしたい――――それが今の自分の望みである、と。

聖杯を求めて現界した者がほとんどだと思われるサーヴァントに対して、無茶苦茶な話だろうことは分かっていた。契約を破棄、またはその場で粛清されるかもしれないと覚悟してのことだったが、アサシンは己を召喚したマスターの正体は自分が今腰に佩いている刀であることには驚いた様子だったが、清光の方針を聴くと僅かに考えた素振りをした後に、はっきり了承したのだった。
あまりにもあっさり了解がもらえたことに驚愕した清光が何か聞き返す前に、幼子の悲鳴が聞こえてそちらに駆けつけたために聞きそびれていたのだった。

「叶えたい願い、何かあるんじゃないの?あんたは俺の知ってる沖田くんとは違う人なんだろうけどさ、でも『沖田総司』なんでしょ?」

自分が嘗て共に在った彼とアサシンは髪色やら顔の造作は似ていない、恐らくその他にも人生の所々違うことが起こったのかもしれないけれども、彼のサーヴァントとして持つスキルの一つ――――只人の身にありながら、魔剣と呼ばれる域まで冴え渡った彼の剣を唯一鈍らせてしまう恐れのある忌まわしいデメリットスキルの存在が、彼らが辿った末路が同じであることの動かぬ証拠となっている。

肺結核。治療薬の存在しないあの頃にできることと言えば、なるべく身体を休めることでほんの少しの延命を期待することくらいの文字通りの死病である。清光は直接見てはいないが、彼の最期を見届けたという、ここにはいないもう一振りの沖田の刀から聴いてはいた。その刀が語った様子では、何の憂いや悔いなく逝ったようにはどうしても思えなかった。

清光の真剣な声音を感じ取ったのか、アサシンは人通りの無さを確認したように少し間を置いてから霊体化を解いて、こちらと視線を合わせて口を開いた。

「ふむ、なら僕の願いが君たちの守る世界をも含めた『全ての平行世界で沖田総司の病気完治!ついでに新政府軍撲滅で新撰組&幕府大勝利!』だと言ったら清光は協力してくれるんですか?」

軽い口調からはかけ離れた冷気を帯びた視線が向けられる。それが数多の攘夷浪士、そして新撰組の掟に背いた元同僚達に突き付けられた冷徹な気であると、遠い昔の経験から清光は即座に理解した。

「っ!それ、は――――――それはできない・・今の主は審神者だから。あんたがこっちの歴史まで巻き込むって言うんなら、俺をまた必要としてくれた主と仲間のために、俺は沖田総司とでも戦うよ」

突き刺さる痛みを錯覚しそうなほどの鋭い殺気に、負けないようにそう言い返すとアサシンはふっと表情を和らげてそうですか、と穏やかに言った。

「だったらそれを貫いてください。あなたのやるべきことは・・戦いたい戦場はここではないんでしょう。そこに戻るために戦うというならこの沖田さん、快く協力しちゃいますよ?大切な人達と最後まで戦い抜きたい気持ちは、よーく分かるつもりですから。」


551 : 光放つ刃 ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 15:04:05 M04tjaR60
アサシンは首を動かして何処かを見やる。それは遠くの西本願寺を眺めているようであり、ここではない過去の風景を思い起こしているようでもあった。

「沖田くん・・・。」

「ま、自分の意志で参戦したんならともかく、無理やり拉致られてきた相手に強請するほど僕は切羽詰まっていませんからね。
っていうか、この鬱陶しい病弱も聖杯では治らないみたいですし!」

「えぇ、治らないんだ・・・なら『何でも叶う』ってやっぱ嘘じゃん!」

ひとしきり会話してからふふ、とどちらからともなく笑う。少しだけ、憂いが晴れた気がした。そういえば自分の歴史の彼も、こういう明るさで隊の仲間たちを励ましていたことがあった。こういうところはやっぱり同じなんだなと清光は思う。
ならば自分も彼の逸話を引き継ぐ者として、親身になってくれた彼に報いなければ。


「正直さ、こんなとこにほっぽり出されて、どうしたもんかと思ってたけど。俺の召喚に応えてくれてありがと。短い間だと思うけどよろしくね、アサシンくん。」

「ええ、こちらこそ。この沖田さんにどーんと任せてください、マスター!」


大切な仲間の元に帰るため、今度こそ最後まで折れずに戦うために、一人と一振りは時空と世界を越えて再び共に戦いに挑む。


◆  ◆


【クラス】アサシン
【真名】沖田総司
【出典】史実
【性別】男
【身長・体重】165cm・56kg

【属性】中立・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷:A+ +魔力:D 幸運:C 宝具:D
新撰組の本拠地である京都での召喚のため少し上昇補正が掛かっている

【クラススキル】
気配遮断:B +
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】
心眼(偽):A
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。


病弱:A
天性の打たれ弱さ、虚弱体質。アサシンの場合、生前の病に加えて後世の民衆が抱いた心象を塗り込まれたことで、「無辜の怪物」に近い呪いを受けている。
保有者は、あらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴うようになる、デメリットスキル。
発生確率はそれほど高くないが、戦闘時に発動した場合のリスクは計り知れない。


縮地:B
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。最上級であるAランクともなると、もはや次元跳躍であり、技術を超え仙術の範疇との事。その為、恐らくは人間が技術でやれる範疇としての最高峰に相当するのがBランクと思われる。


内部粛清:C++
裏切り者、内通者への暗殺技術。アサシンの所属する陣営に対しての裏切り行為を行った味方、または同盟相手への奇襲攻撃を仕掛けた場合にその成功率を引き上げる。攻撃時のみCランク以下の精神干渉を無効化し、ランク以上でもその効果を低下させる。
正面から挑んだ場合はこのスキルは作用しない。


無明参段突き
種別:対人〜対軍魔剣 最大捕捉:1〜50人
稀代の天才剣士、沖田総司が誇る必殺の魔剣。「壱の突き」に「弐の突き」「参の突き」を内包する。
平晴眼の構えから“ほぼ同時”ではなく、“全く同時”に放たれる平突き。超絶的な技巧と速さが生み出す、防御不能の秘剣。
三段突きの瞬間は壱の突き、弐の突き、参の突きが”同じ位置”に”同時に存在”する。
壱の突きを防いでも、同じ位置を弐の突き、参の突きが貫いているという矛盾のため、剣先は局所的に事象飽和を起こす。
そのため三段突きは事実上防御不能の剣戟となる。結果から来る事象飽和を利用しての対物破壊にも優れる。


【宝具】
『決意の羽織』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
アサシンとしての召喚であるため浅葱色の羽織ではなく、その後に着用した漆黒の羽織。
着用していてもパラメーターに影響はしないが、病弱スキル発動時にのみ真名解放できる。
解放すると白地に黒のダンダラ模様の羽織に変化し、病弱によるステータス低下の影響を無視して1つだけ何かしらの行動を成功させることができる。
行動が終わった後の羽織は真名解放前の状態に戻り、アサシンは必ず重度の病弱スキルを発症して10ターンの間行動不能状態になり、戦闘どころか立っていることも困難になる。


552 : 光放つ刃 ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 15:04:46 M04tjaR60

『誠の旗』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50
最大捕捉:1〜200人
新撰組隊士の生きた証であり、彼らが心に刻み込んだ『誠』の字を表す一振りの旗。
かつてこの旗の元に集い共に時代を駆け抜けた近藤勇を始めとする新撰組隊士達が一定範囲内の空間に召喚される。
各隊士は全員が独立したサーヴァントで、宝具は持たないが全員がE-相当の「単独行動」スキルを有しており、短時間であればマスター不在でも活動が可能。
この宝具は新撰組の隊長格は全員保有しており、 効果は変わらないが発動者の心象によって召喚される隊士の面子や性格が多少変化するという非常に特殊な性質を持つ。 また召喚者との仲が悪いとそもそも召喚に応じない者もいる。


【weapon】
『乞食清光』
日本刀『加州清光』の愛称。諸説あるが、史実通り沖田総司の愛刀。

『ミニエー銃』
幕末期に使用された西洋式の銃。新撰組も使用した記録がある。
刀と一緒に腰に下げているがアサシンの銃の腕前はさほど高くはない。

【人物背景】
Fateおなじみ沖田さん(女性)の平行世界での同一人物。アルトリアに対するプロトアーサーのようなもの。一人称は僕または沖田さん。
幕末、京都にその名を轟かせた新撰組一番隊隊長・沖田総司。
普段はお調子者の様に明るくも物腰柔らかく、子供好きであり謙虚で礼儀正しいが、こと斬り合いになると人斬り集団の隊長らしく冷酷かつシビアな面を覗かせる。今回はホームグラウンドで活躍できるのとマスターが自分に縁ある者(物)であるということでモチベは高い。
でもやっぱり病弱さは健在で時々吐血することは免れない。是非もないね


【外見的特徴】
白髪ポニーテールの少年。
袖なしの白い着物の上に黒い羽織を纏い、白の襟巻をしている。下は膝丈の袴に脚絆。額には鉢金を着けている。

【サーヴァントとしての願い】
清光を生還させる。

【マスター】
加州清光@刀剣乱舞

【マスターとしての願い】
本丸への帰還。できるならば聖杯が歴史修正主義者などの危険人物の手に渡らないようにしたい。

【weapon・装備】
『加州清光』
彼自身でもある江戸時代初期の日本刀。別名乞食清光。これを修復不可能なまでに破壊されると連動して彼も消滅する。

『お守り』
刀剣男士の装備。装備した者が死亡した(破壊された)時に一度だけHP1の状態で復活させる。一度でも効果が発動するとお守りは消滅するが、その戦闘中に限り装備していた者は戦闘不能の状態ではあるものの、敵の攻撃対象から外れる(狙われなくなる)。
違う人物に譲渡することもできる。

【能力・技能】
西暦23世紀初頭、歴史修正主義者に対抗するためプレイヤーである審神者(さにわ)の持つ「眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる」という能力によって人の姿を与えられた刀剣の神。少なくとも普通の人間よりは高い戦闘能力と相応の霊力(魔力)を持つと思われる。
沖田総司および新撰組から剣術と戦法を受け継いでいる。

『真剣必殺』
攻撃され中傷、あるいは重傷になる。または、中傷、重傷の時に攻撃を受けると発動することがある状態。これ以降攻撃が全て会心の一撃となり、攻撃してきた相手に対してカウンター攻撃を返すことができる。怪我が回復するまたは戦闘が終了すると元のステータスに戻る。


【人物背景】
ゲームで最初に貰える刀剣男士の一人で、かつて沖田総司が愛用していた刀の付喪神の片割れ。黒髪赤目で両手両足の爪に紅をした少年の姿をしている。打った刀匠が非人小屋暮らしだったということに因んでか自らを川の下の子と名乗る。
貧しい環境の生まれと、池田屋事件後に廃棄されたとされるからか身なりにとても気を使っている。一見すると軽そうな人柄に思えてしまうが、戦闘では勇ましく戦い、達観していたり、芯の強い内面を見せる。

【ロール】
1人暮らしの高校生

【令呪】
左手甲に木瓜の花に似たものがある

【方針】
周辺を警戒しつつ協力できる他主従を見つけたい。アサシンくん以外には付喪神であることはなるべく隠し、人間のふりをしておく。

【把握手段】
原作ゲーム「刀剣乱舞」。動画サイトやwikiで台詞集や回想(他の刀剣との会話)が見れる。
アニメ「刀剣乱舞‐花丸‐」1期&2期。メインキャラなのでほぼ毎回出演している。


553 : 光放つ刃 ◆mtsNaPlNVI :2018/02/25(日) 15:06:05 M04tjaR60
投下を終了します
拙作は混沌月聖杯様に投下したものを書き直したものになります


554 : ◆qAT6M/hdIg :2018/02/27(火) 16:43:58 A5fwSFWU0
投下します


555 : クズの本懐 ◆qAT6M/hdIg :2018/02/27(火) 16:45:05 A5fwSFWU0
「はーっはっはっは! もっとだ! もっと酒を持って来ぉい!」

貸切状態のキャバクラに下品な笑い声が響く。
普段は大勢の客で賑わう店舗だが、今はその全てがたった一人のために供されている。
しかし、ただ一人の客をもてなす嬢達の表情は固い。
笑顔と愛嬌を振りまくことが生業であるにも関わらず、客への恐怖と嫌悪を押し隠すことができずにいた。

それもそのはず。
たった一人の客は体の半分が『馬』なのだから。

「飯が旨い! 酒も旨い! いい時代じゃねぇえかヤマザキ! 羨ましいぜまったく!」

半人半馬の種族ケンタウロス。
たとえギリシアの神話を知らずとも、その名と姿を知らぬ者はそう多くはないだろう。
此度の聖杯戦争では、種族名との区別のために『セントール』と名乗ってはいるが、このサーヴァントがケンタウロスであることに疑いの余地はない。

「おら、そこの女! 生ハムメロンだかいうのをもう一切れ食わせな! もちろん王サマにやるみてぇに恭しく口に運べよ!」

セントールは震える嬢の肩を掴んで乱暴に抱き寄せた。
すっかり酔いが回っているせいか、小さく悲鳴を上げられたことを意にも介していない。

酒を好み、女を好む粗野なるデミヒューマン。
かような存在が、反英雄のカテゴリとはいえ何故サーヴァントとして存在を確立させているのか。
その理由はケンタウロスという種族が発生した経緯にある。

ギリシア神話において、妻の父を殺害し最初の血縁者殺しとなった男、イクシオン。
英雄テセウスの親友ペイリトオスの実父としても知られるこの男は、神々の宴に招かれたおり、不遜にも女神ヘラを誘惑しようと試みた。
しかしその企みはゼウスによって看破されており、イクシオンは雲で作られたヘラの似姿を犯し、その現場を押さえられて地獄へ落とされた。

ケンタウロスという種族は、イクシオンとヘラの似姿ネペレーの間に生まれた。
すなわち最初の一体は紛れもない半人。英霊たりうる身体的な条件を文句なしに満たしているのだ。

「おいアーチャー。分かってんだろうな。好き放題遊び呆けた分の仕事はしてもらうぜ」

セントールのマスターでありキャバクラのオーナーでもある大男が、威圧感に満ちた視線を振り向ける。
山崎竜二。元の世界においては裏社会のブローカーとして知られる男だ。

「もちろんだとも、ヤマザキ。どんな作戦だろうと命じてくれや。略奪、蹂躙、騙し討ち。俺ぁ清廉潔白な英雄サマとは違うんでな。甘っちょろいことは言わねぇよ」
「そいつぁいい! テキトーに呼び出した割にゃいい根性してるじゃねぇか!」
「触媒抜きでの召喚は、マスターと似たサーヴァントが喚ばれるっていうからな! ヤクザもんなら俺のマスターにぴったりだぜ!」
「ケッ……ヤクザねぇ。誰も俺を知らねぇあたり、本気でここは『別の世界』って奴らしいな」


556 : クズの本懐 ◆qAT6M/hdIg :2018/02/27(火) 16:45:40 A5fwSFWU0
山崎は恩人を謀殺したボスをリンチの末に殺害したことで、日本国内の闇組織から狙われ続けている。
しかし、聖杯戦争への招待に応じてこの土地に来て以降、その件を追求されたことはただの一度もなかった。
役割として割り当てられた組織の構成員はもとより、他の暴力団すら山崎の強行を全く認知していなかったのだ。

それ自体は別にどうでもいい。面倒事が減って楽になっただけだ。
問題は暴力団の組長という役割の方だった。

山崎もかつては極道に生きた時期があったが、それも過去の話。
この土地において与えられた『小規模な暴力団の組長』という役割は、一匹狼気質であり群れることを嫌う山崎にとって、あまり気分のいいものではなかった。
組のシノギであるこのキャバクラにしてもそうだ。
山崎の本来の稼業は武器の裏取引や密入国の仲介。こんなケバケバしい稼ぎ方は性に合わない。
かと言って、自身に利益をもたらし生存確率を上げる、都合のいい『組織』を手放すのも考えものだ。

「さっそくだが命令だ。俺の兵隊はテメーが使え。雑魚ども引き連れて群れんの慣れてんだろ?」
「兵隊? ああ、組員か。いいぜ、使い潰してやるよ。雑魚ってのは否定させてもらうが、頭の足りねぇ荒くれモンを纏めんのは慣れてるからな」

セントールと山崎。両者の最大の相違点は群れることへの認識だ。
山崎は群れることを好まない。それどころか見下してすらいる。
一方、ケンタウロス族という群れを築き上げたセントールには、そのような考えはない。

決定的な相違点を有する両者だが、その関係性に破綻の予兆はまるで見られなかった。
何故ならその相違点すら含め、お互いを利用価値のある存在と認識しているからだ。

山崎にとってセントールは貴重な戦力だ。
さしもの山崎といえどサーヴァントを正面切って打倒することはできない。
生き残るためにはサーヴァントとの契約が必要不可欠であり、山崎のやり方を全面的に肯定するセントールは最善に近いパートナーと言える。

セントールにとって山崎は大事な拠り所だ。
A+ランクの単独行動スキルを持つセントールは実質的にマスターを必要としないが、問題はそこではない。
異形の肉体を持つセントールは人間社会に紛れ込むことが極めて難しく、山崎が与えられた組織力のサポートは手放したくないものだ。
たとえ兵隊の指揮権を与えられたところで、山崎無くしては組織を維持することなどできないだろう。

騙し合いという次元を越え、お互いに利用し合っていることを隠しもしない二人の男。
聖杯に望むモノは酒池肉林と己の利益。
悪と悪の歯車がガチリと噛み合い、京都市という戦場に邪悪な音を響かせ始めた――


557 : クズの本懐 ◆qAT6M/hdIg :2018/02/27(火) 16:46:38 A5fwSFWU0
【CLASS】アーチャー

【真名】セントール

【出典】ギリシャ神話

【性別】男性

【身長・体重】2m・450kg(共に馬部分含む)

【属性】混沌・悪

【ステータス】筋力B 耐久D 敏捷A 魔力D 幸運C 宝具C

【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:A+
 マスター不在でも行動できる能力。

【固有スキル】
天性の肉体:B
 生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。
 このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。
 ただしアルコールを多量に摂取した場合の理性低下は避けられない。

直感:E
 野生の勘。視覚・聴覚・嗅覚に干渉する妨害を軽減する。

カリスマ:E
 群れの統率者としての資質。価値観が似通った者にしか効果がない。
 現代においては反社会組織の下部構成員などが該当する。

【宝具】
『狂乱を孕む雲(スコール・オブ・ネフェレ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:800人
 母たるネペレーを象徴する宝具。
 空に向けて矢を放ち、魔力によって生成された風雨を巻き起こす。
 この嵐はアーチャーの知覚とリンクしており、風雨の及ぶ範囲で起きたあらゆる出来事は即座にアーチャーの知るところとなる。
 狩猟の前段階として用いてこそ真価を発揮する宝具であり、単体の破壊力は期待できない。

『限定展開・神罰の車輪(ホイール・オブ・イクシオン)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
 父たるイクシオンを象徴する宝具。
 宝具『狂乱を孕む雲』と併用する形でのみ発動可能。雨を炎に、風を熱風に変換し、広範囲を焼き払う。
 発動中は宝具の本体である車輪が空中で回転し続ける。
 本来は拘束した対象の魔力を炎に強制変換する宝具だが、アーチャーはその機能を使用できない。

【マテリアル】
ギリシャ神話に登場する半人半馬の種族ケンタウロス――その最初の一体。
女神ヘラを手篭めにせんとして神罰を下された男と、ヘラの身代わりとして作られた雲の精の間に生まれた存在。

この聖杯戦争において現界したケンタウロスは、種族としてのケンタウロスの特徴を煮詰めたような性質をしている。
つまりは好色、酒好き、乱暴者。正統な英霊ではなく反英雄にカテゴライズされ、思想も行動も野蛮の一言。
しかしながら愚鈍ではなく、無敵の肉体を持つ英雄の弱点をすぐさま見抜いて封殺した伝承(彼の子孫によるものだが)からも分かる通り、状況によっては驚くほどに知恵も回る。

真名がセントール名義なのは種族名のケンタウロスとの区別のため。
あくまで本人が便宜上そう呼ぶように言っているだけで、本来の個体名は種族名と同じケンタウロスである。

【外見的特徴】
 典型的なイメージ通りのケンタウロス。
 とある外典で召喚された賢者ケイローンとは異なり、半人半馬の姿を誤魔化しもしていない。というか誤魔化せない。

【聖杯にかける願い】
 飯! 酒!! 女ァ!!!
 ……それ以外のことなど最初から頭にもない。


558 : クズの本懐 ◆qAT6M/hdIg :2018/02/27(火) 16:47:32 A5fwSFWU0
【マスター】山崎竜二@餓狼伝説またはキング・オブ・ファイターズ

【聖杯を求める動機】自分の利益にするため

【Weapon】
・生身の肉体。戦闘スタイルは我流(我流喧嘩殺法とも我流喧嘩空手とも)
・隠し武器の匕首(ゲーム中の名称は裁きの匕首)

【能力・技能】
兄貴分のヤクザから学んだ喧嘩空手をベースとした我流格闘技を使う。
格闘ゲームという出自もあるが、その実力は様々な格闘技のプロフェッショナルや古武術の達人と比べても遜色ない。
KOFにおいては特殊な一族の転生体とされているものの、同じ設定を持つキャラとは異なり、特殊能力のようなものは殆ど発揮しない。

戦闘スタイルは正真正銘何でもあり。
卑怯な技や砂を用いた目潰し、果ては忍ばせた匕首による凶器攻撃を躊躇うことなく実行する。

【人物背景】
身長192cm、体重96kg。香港の九龍城砦を拠点とする闇ブローカー。
普段は粗暴な口調ながら理知的で狡猾。利益を得ることと生き延びることを第一に考える。
しかし常にポケットに入れている左手を抜くと、一転して狂気を爆発させて暴れ狂う。
……息の長いシリーズなのでキャラクター性も変化し続け、常時イカれたキャラクターとして描写されることも少なくない。

少年時代から裏社会で育ち、暴力の横行する世界で生き抜く術を身に付けた。
後に武闘派ヤクザの弟分となり極道組織に身を置くも、組織内の陰謀でその兄貴分が謀殺されてしまう。
激高した山崎は、掟を無視して自組織のボスを惨殺。日本中の闇組織を敵に回して国外逃亡し、香港の闇ブローカーとなる。

左手を見ると暴走してしまうのは、兄貴分のヤクザが左拳の破壊力をよく褒めてくれたという過去があり、左手を見ることで彼の最後を思い出して正気を失ってしまうから。

なお、好きな食べ物は馬刺しである。

【キャラ把握】
最も容易なのは最新作のKOF14か。
最近の作品ではKOF2002UMが初期のキャラ付けに近いと言われがち。

【ロール】
京都市内に縄張りを持つヤクザ。小規模ながら自身の組を持つ組長。


559 : ◆qAT6M/hdIg :2018/02/27(火) 16:49:48 A5fwSFWU0
以上です
苦悩? 葛藤? ねぇよんなもん、な悪党チームである


560 : ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:34:36 KKPHQVZM0
投下します。


561 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:37:03 KKPHQVZM0

ああ……。

今、目の前で、愛する人が殺されようとしている。
わたしの時と同じ。彼が愛する女性……の、ひとり……を人質にされ、手も足も出せず、敵の攻撃を受けている。
わたしも敵に縛られ、手も足も……出ない。出せない。彼もそうだ。彼はそういう男だ。

「全世界と、ひとりの娘の命と、どっちが大切だと……」
「オレはその女のほうがいい」
「……狂ったか」

違う。彼はそういう男だ。わたしにそうであったように、彼女にもそうだ。そう言わないわけがない。わかっている。
―――けれどやはり、心臓が痛む。嫉妬してしまう。わたしにだけ、そうであれば、どんなにいいか。

「……キミなんか大嫌いだ」

人質の少女が、縛られたまま、傍らの石に体当たりした。僅かな衝撃。それで充分。
……敵と、少女がいた石の足場が、脆くも崩れる。落ちる。諸共に下へ。尖塔の切っ先へ。尖った岩へ。

敵は死んだ。少女も死んだ。彼は少女のために叫ぶ。

敵の死と共に、混沌の力が溢れる。爆発する。すべてが、呑み込まれていく。わたしは束縛を解かれ、彼の元へ駆ける。このまま共に。
……………でも、彼は。このまま死ぬような人ではない。このまま、わたしたちを死なせるような人でも。

ああ……。


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562 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:39:12 KKPHQVZM0

平安神宮の近くにある、京都国立近代美術館。その、女性用トイレの一室。

彼女は……洋式便器の前に立ったまま、額に掌を当て、眩暈と頭痛をこらえていた。
紙がないとかそういう些細なことではない。最悪だ。

用を足そうとしていた便器から、生白い裸の女が上半身を出している。幽霊ではない。
肌は蒼白、耳先は尖り、銀髪は長く、胸は豊満。白目は黒く、瞳は真紅。唇や目の周りには黒い化粧。体中に禍々しい紋様。
頭には黒く捻れた山羊の角が一対。背中にはコウモリの皮翼。まるっきり悪魔だ。あの、悪意に満ちた異次元の生物。
そいつが念話で話しかけてくる。なんといやらしい声だろうか。

【ハァロォー、ご主人様(マスター)。御機嫌いかがァー?】
ここは、魔術師どもの戦場。誰かが聞いていないとも限らぬゆえ、念話で答える。
【最悪ね。どきなさい】
【めんどくさァい。このまますればァ? うち、飲んであげるよォ。それとも、大きい方? そっちでもええわァ】

にたにた嗤いながら、悪魔は牙の並んだ口を開け、舌を出してレロレロと唾液を捏ね回す。吐き気がする。

【どきなさい。殺すわよ】
【はァーい。あんた程度じゃ、うちを殺せるわけないけどねェ。ウフ】

すっと悪魔が姿を消し、便座の横の空中に立つ。下半身も丸出しだ。腰からは蛇のような長い尻尾が伸びている。尖端には実際、蛇の頭。

こいつがわたしに仕える使い魔、英霊、サーヴァントなのか。魔力そのものは極めて強大だと如実に分かるが、完全に変態だ。
まだしも女の、それも美女の姿でマシだった。男の姿だったら無言で殺していただろう。そういう趣味はないし、こいつに性別は意味がなさそうだが。


563 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:42:09 KKPHQVZM0



小用を足しつつ……頭を整理する。目の前で悪魔が好色そうに嗤っているが、瞑目し、無視する。
観光客としてここに来ていて、トイレに入った瞬間に、急に全てが思い出させられた。たぶん、こいつのせい。
ここは……大破壊以前の旧世界そのもの。御伽噺に語られる、ジャパンの都キョート。思いもよらないことだ。
聖杯戦争とやらの参加者……、否、「贄」として、この異世界へ招かれたということか。

拭いて下着をあげ、立ち上がり、毅然とした態度で悪魔と向き合う。

【わたしは『アーシェス・ネイ』。あなたは?】

記憶は、あの戦いの後……。メタ=リカーナの王城が消滅した時、ダーシュが魔力を振り絞り、わたしたちをどこか遠くへ飛ばした後だ。
それからしばらく、ダーシュの隠れ家のひとつにいた。そうだ、そこに落ちていたなにか、魔力のこめられた道具を拾って……。

【うちは……サーヴァントとしては……『アルターエゴ(もう一人の自分)』。真名は……】
悪魔がにたりと嗤い、名乗る。
【ご存知かしらァ。七大魔王の一柱、『ベルフェゴール』や】

瞬間、トイレの一室が異界化する。極小規模の混沌嘯(ケイオス・タイド)。便座が、壁が、床が、天井が、うねり歪み腐り爛れる肉塊と化す。膿と蛆が湧き出す。
吐き気を催す、凄惨身の毛もよだつ、地獄の火と硫黄の臭い。暗黒魔術や召喚魔術を使用した際、しばしば嗅ぐ臭いだ。脂汗が滲む。

【悪魔(デーモン)の支配階級……上位悪魔神(デヴィル)族……!!!】
【の、分霊や。遥かに低級な。使い魔になる程度の存在に縮められた、な。せやけ、大したことはできへんよ。そんじょそこらのカスよりは強いけど】

悪魔が右掌を上に向けて手招きすると、剣が虚空から出現した。あれは、わたしの『雷神剣』だ。
【ほれ、あんたのやろ。ええ剣やな。持っとき】
眉根を寄せ、剣を受け取る。魔術で腕輪に変え、身につけておく。……この国では、「武装して身を守る権利」というのは認められていない。平和だからだ。


564 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:44:15 KKPHQVZM0



トイレを出て、化粧を整え、美術館の館内を歩く。尖った耳は幻術で隠してある。
悪魔は薄絹のヴェールを被ると、霊体化してついてくる。不気味な便器に座って浮遊し、べらべら喋りながら。

【あんたら人間―――あんたは微妙にちゃうけど、まァ人間として―――の使ってる、魔法や魔術ゆうんはな。
 『神』の力の秘密を、うちら堕天使が人間に伝えたモンや。うちらにとったら、『初心者向け』の魔力制御法に過ぎん。
 なんぼ大規模な術でも、呪文の詠唱だの儀式だの一切不要。手足を動かす時に起きる自然な現象や】

ダーシュやカル=ス、アビゲイルから、魔術の起源について聞いたことはある。デーモン程度ならかなり殺した。
だが……古えの神々にも匹敵する「デヴィル」には、流石にお目にかかったことはない、と思う。こいつの言うとおり、確かに、魔力の格が違う。桁が違う。
これでも使い魔か。これが。わたしはもとより、ひょっとしたら、ダーシュよりも……。

【せやで。まァあいつは色々特別やから、どうか知らんけど。今のうちは流石にそこまでやない。ここも地獄とちゃうしな。
 それでもほれ、うちのステータス見てみ。あんたの魔力もそれなりやから、英霊としてはええとこや。あたり引いたなァ。ガチャ運あるで】
【勝手に心を読むな】

まあ、幸運と考えておこう。だが……聖杯? 万能の願望機だと? わたしの願いなど、ひとつしかない。愛する人の元へ戻ること。
彼が死ぬはずはない。きっと、絶対に、生きている。何年経とうと必ず、生きてわたしのところへ帰ってくる。いつでもそうだったのだから。

【わたしは、ダーシュの元へ帰る。何があっても、何をしても。愛しているから】
【はぁ、さよけ。……うちには分かるんやけど、あんたも多分、分霊かなんかよ。ここであんたが死んだって、元の世界には何の影響もない】
【それでも。今のこのわたしが何者であれ、わたしが、アーシェス・ネイが、ダーシュの元へ帰らない理由にはならない。何一つ】

あの人の元へ帰る。そのために他の参加者を皆殺しにするか、サーヴァントを破壊して脱落させる。シンプルだ。何も問題ない。
ダーシュ本人なら「主催者どもをブッ殺す」とか言いかねないが、今のところそこまでやる気はない。彼らがわたしの道を阻むなら容赦はしないが。

【で……アルターエゴ。あなたの願いは?】


565 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:46:32 KKPHQVZM0

悪魔は、鼻で嗤い、肩を竦める。
【うちの願いィ? 究極的に言うたら『唯一神』を打倒することやけど、そんなん聖杯ごときで叶うわけないよねェ。
 ホンマモンならあいつの息が、文字通り聖霊がかかったもんやろし、偽モンごときであいつがどうにかなるはずもなし。なったら、うちらは苦労してへんわ。
 だいたい、うちはめんどくさがりなんや。何と言っても『怠惰』の悪魔。こんなお遊び、あんまり真剣にやる気はないねん】

【わたしは真剣よ】
【あんただけでも結構いけるやろ。糞雑魚ごとき、相手にするんも面倒や。ホンマにヤバイ相手やったら、うちが暇つぶしに殺ってやらんでもないけど】
【それで構わない。わたしの邪魔をしないのであれば、それで充分。わたしは絶対に優勝し、聖杯を手に入れ、帰還する】

ネイは悪魔を連れたまま、美術館を後にする。さあ、戦いの始まりだ。


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愛しているから、と来たで。あーあ、アホらし。これやから人間は、女っちゅうもんは。

愛する御方のために、汗水たらして働いて。それでうちらは報われたか。いやいや。
あいつは、うちらを見てへんかった。新しいおもちゃを作り上げて、それにご執心。あまつさえ、そいつに跪けとうちらに命じよった。
ああ、これで怒らへんアホがおるかいな。……怒ったのは、天使の三分の一。うちらは残ったアホより賢い。そういうふうに、あいつが造りよったんやろな。

せやけ、うちは人間が嫌い。低能で、愚劣で、あの美しい地球(エデン)を汚すしか能のない屑ども。調和するように出来てへん、神の失敗作。
うちらが凄惨身の毛もよだつ地獄で呻吟しとるんは、こんなアホどものせいやなんて。正義は、善は、愛はどこにあるんや。ああ、神こそそれか。ほな、しゃあないね。

せやけ、うちは人間どもをこっちへ、地獄へ引きずり込んでやる。仲間に引き入れて、一緒に神を呪わせたる。うちらを捨てたあの神を。
……どうせそれも、神の思し召しのままなんやろなあと、思いながらも。





566 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:48:29 KKPHQVZM0

【クラス】
アルターエゴ

【真名】
ベルフェゴール@旧約聖書、悪魔学

【パラメーター】
筋力E 耐久C 敏捷C 魔力A++(EX) 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
対魔力:A+
魔術は全てキャンセル。事実上、魔術では傷をつけられない。そもそも人類に魔術を教えた側の存在である。

単独行動:C+
魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても1日は現界可能。大地の隙間でじっとしていれば長持ちはする。

気配遮断:A+
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
次元そのものに「隙間」を作り出し、そこに潜む。めんどくさがりなので一度潜むとあまり出てこないが、ほぼ完全な奇襲を可能とする。

女神の神核:C
生まれながらにして完成した女神であることを現す、神性スキルやカリスマを含む複合スキル。精神系の干渉を緩和する。堕天している上に分霊なので大して高くない。

ハイ・サーヴァント:A
複数の神話エッセンスを合成して作られた存在であることを示す。太陽神ケモシ、生贄神モロク、蝿の王ベルゼブブ、美の女神ウェヌス、
地底の富の神プルトン、男根神プリアポス、放屁神クレピリュスなどと雑に習合している。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
自分の脚で動くのもめんどくさがり、自前の宝具である便座に乗って空中をふよふよ移動する。


567 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:50:40 KKPHQVZM0

【保有スキル】
美の顕現:A+
色欲を司る魔神としての権能。他者を惹き付ける力。ゲージ吸収、呪い、スキル封印、カリスマ、魅了、麗しの風貌、フェロモンなど、強力な誘惑を主体とした複合スキル。
性別を特定し難い美しさを(姿形ではなく)雰囲気で有している。男性にも女性にも交渉時の判定にプラス修正。特定の性別を対象としたあらゆる効果を無視する。
全身から芳しい花や香水のような匂いをフェロモンとして漂わせているが、実は糞や屁の臭いを薄めただけである。臭いを強めにすると常人なら臭さで気絶する。

創意発明:A+
発明を司る魔神としての権能。「道具作成」「陣地作成」「概念改良」「投影魔術」等の複合スキル。
神造兵器を除く、古今東西のあらゆる道具を瞬時に作り出し、性能をギリギリまで上昇させる反則特権。あまりの便利さに使用者は怠惰になり堕落する。

高速神言:A+
神代の言葉。呪文・魔術回路の接続を必要とせずに一言で大魔術を発動させる、高速詠唱の最上位スキル。現代人の舌では発音不能で、耳には言語として聞き取れない。
これでも「手足を動かすだけで自由自在に『魔法』が出る」レベルの七大魔王(サタン)級上位悪魔神(デヴィル)族からすれば、もどかしいほどの無力さ。

魔神の叡智:A
創意発明とは別に、魔神としての研ぎ澄まされた才覚と知恵。「千里眼」「魔術」「幻術」「人間観察」スキル等も含まれる。
特に幻術を得意とし、精神世界における悪夢はもちろん、現実においても一つの村程度の虚像を軽く作りあげ、人々を欺く事ができる。

ブレスト・バレー:EX
胸の「谷間」に相手を挟み込んで潰し、虚数空間(ゴミ箱)へ収納する。潰したデータならどんな容量だろうと無限に収納できる。
やろうと思えば股間や尻や脇の下でも出来る。元に戻すことも可能かもしれないがめんどいのでやらない。

【宝具】
『變態糞王爺父衆合地獄肉便器(ハヨーク・ソマミ・レニナローヤ)』
ランク:A 種別:地獄宝具 レンジ:1-500 最大捕捉:5000

彼女の玉座である悍ましい便器。空中にふよふよ浮かんで移動でき、そこそこ素早い。人肌温度でウォシュレット機能付き。
地獄に落ちた同性愛者たちの肉体で出来ており、悪臭のする毒ガスを放ったり、燃え盛る汚物や蝿を撒き散らしたり出来る。マスターは嫌がる。
「ブレスト・バレー」のスキルと組み合わせることで、選択したもの以外を無制限に吸い込むブラックホールを作り出せるが、めんどくさいので滅多にやらない。
固有結界などに閉じ込められても、屁でホワイトホール(イエローホール)を作っていとも簡単に脱出する。
固有結界として展開すると、(BASTARD!!の方の)混沌嘯(ケイオス・タイド)を起こして限定空間内を地獄に塗り替え、無数のデーモンたちに対象を貪り食わせる。

【Weapon】
本人はめんどくさがって戦おうとしないが、創意発明スキルで無数の武器や兵器を創造可能。


568 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:52:43 KKPHQVZM0

【人物背景】
Belphegor。ユダヤ・キリスト教の悪魔学における悪魔・魔神。旧約聖書『民数記』第25章に登場するモアブ人の神バアル・ペオル(裂け目の主)を前身とする。
モーセに導かれてエジプトを出たイスラエル人がモアブの地(現ヨルダン)のシッテムを訪れた際、モアブ王バラクは魔術師バラムと相談し、彼らを堕落させようとした。
そこで彼らはモアブ人やミデアン人の娘たちをイスラエル人の陣営に近づかせ、バアル・ペオルらモアブの神々に犠牲を捧げる宴会に彼らを招き寄せた。
イスラエルの男たちは色香に迷って娘たちに近づき、宴会に加わって共に飲食し、モアブの神々を拝み、彼女らと姦淫を行った(豊穣の神だったのであろう)。
イスラエルの神ヤハウェはこれに激怒し、疫病を放って多数のイスラエル人を殺し、モーセに「民の長を悉く我が前で殺せ。そうすればやめてやる」と告げた。
モーセは「バアル・ペオルを拝んだ者だけ殺せ」と命じたが、神の怒りはおさまらず、祭司アロンの孫ピネハスが不埒者たちを槍で突き殺したのでようやくおさまった。
この件によって神が疫病で殺したイスラエル人は2万4千人に及んだという。またモアブ人ではなく、なぜかミデアン人だけが報復で殺された。

こうした記述から、ベルフェゴールは愛欲によって人を堕落させる悪魔とされ、占星術では金星(ヴィーナス)と結び付けられ、妖艶な美女の姿で現れると考えられた。
中世の伝説によれば、ある時悪魔たちの間で「幸福な結婚とは存在し得るか」という議論が起こり、ベルフェゴールが地上に赴いて探してくることになった。
だが結局そんなものは見当たらず、「人間というものは仲良く暮らすようには造られておらぬ。これは創造主の失敗だ」と結論。女性嫌い、人間不信に陥ってしまった。
この故事より、不可能な計画を皮肉って「ベルフェゴールの探求」と呼ぶようになったという。マキァヴェッリの小説『ベルファゴール』(1549年)にも書かれるとおり。
所謂「七つの大罪(罪源)」では「好色」に配されるが、この罪をアスモデウスにあてる場合は、アスタロトに代わって「怠惰(acedia,sloth)」の罪にあてられる場合もある。
これはビンスフェルドの説くところ(1589年)で、より古くは「大食」にあてる者もいた。さらに「発見と創意発明の魔神」とされることもある。
ベルフェゴールは人類に便利な道具を発明する知恵を授けるが、それゆえ人類は労苦を厭って怠惰に陥り、堕落するのだという(グリゴリの伝承からか)。

4-5世紀の神学者ヒエロニムスは、バアル・ペオルをモアブの神ケモシ(シャマシュ、太陽神)の別名としている。
ミルトンも『楽園喪失』(1667年)においてペオルをケモシと同一視し、魔術師エリファス・レヴィはモロクやルドラとも結びつけ、ペオルの祭儀を魔女の宴の起源とみなした。
コラン・ド・プランシー(1794-1881)の『地獄の辞典』では「地獄のフランス大使」とされ、もとは権天使で、種々の(地底の)富をもたらし、しばしば若い女に化ける、とある。
また「ラビたちによれば、人々はこの魔神に椅子式便器を捧げ、汚らわしい排泄物を奉献した」とも記されており、それゆえかの有名な、便器に座る醜悪な魔神の図像が描かれた。
どうも「糞山の王」ベルゼブブとごっちゃになっていたようであるが、まあ一神教からすれば偶像神なんて似たようなもんである。男根神プリアポス、放屁神クレピリュスとも習合。
この悪魔が棲んでいるとされるフランスでは、「ルーブル美術館を夜中に歩き回っている」という都市伝説上のキャラクターとしても有名だとか。
ウィリアム・G・グレイの『邪悪の樹』においては、6番目のクリファであるカイツール(醜悪)に当てはめられた。

人類悪でも魔神柱でもない、ほぼ神霊扱いの、唯一神に創造されて堕天した『真性悪魔』。その分霊の分霊の…ぐらいに縮んだ、ギリギリ英霊の座に登録できるレベルの悪魔。
本体は少なくともアンスラサクスより圧倒的に強い。「怠惰」の側面が強く出てしまっているが、「好色」「発明」の面もあり、魔力満載な女魔王としての風格を漂わせている。
女や人間は下劣な意味では好きだが、本質的には嫌い。キャスター、アサシン、ライダー(意味深)、ランサー(意味深)の適性もある。キャラ付けのために胡乱な関西弁で喋る。

【サーヴァントとしての願い】
別にないが、しいて言えば聖杯を便器コレクションに加えたい。

【方針】
糞雑魚共相手に本気を出すのもアホらしいし、基本的にはマスターに任せる。主催者側に魔王らしき存在がいることには感づいている。


569 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:54:43 KKPHQVZM0

【マスター】
アーシェス・ネイ@BASTARD!!暗黒の破壊神

【Weapon】
『雷神剣(ライトニング・ソード)』
雷獣ヌエが宿る魔剣。剣化を解いてヌエの姿に戻ることも可能。折れても雷の刃を出せ、魔力で修復する。

【能力・技能】
『破裏剣(はりけん)流剣法』
ネイが修めている正統派剣法。魔剣も相まって恐るべき威力を発揮する。敵を横薙ぎに寸断する「龍撃羅刹斬」、
雷の刃で物質を透過して斬りつける「覇皇剣・雷撃鷲爪斬」、飛翔して落下しながら雷を纏わせた剣で攻撃する「超弾道雷撃剣」、
空中から雷の刃を振り下ろす「雷神王彗星斬」などの奥義がある。後二者の奥義は開けた空中がないと放つことは出来ない。

『牙狼獄雷破』
拳に雷の力を乗せてパンチを繰り出す技。

『魔術』
精霊魔術(特に雷・風・炎系)、暗黒魔術、古代語魔術(ハイ・エンシェント)、召喚魔術(サモニング)等、数々の高等魔術を習得している。
凄まじい破壊力や様々な効力を持つが、強い精神集中や詠唱、時には儀式を必要とし、一日に唱えられる呪文には限りがある。
下記は作中でネイが実際に使用した魔術だが、これ以外にも使える可能性は高い。幻術など基本的な魔術は普通に使えるであろう。

・精霊魔術(複合含む)
 雷撃(バルヴォルト)、雷電怒濤(ライ・オット)、裂空魔雷(フォルテッシモ、落雷)、轟雷(テスラ、雷撃系最上位)、気裂(ディエン・ティアー、竜巻&風刃)、
 黒烏嵐飛(レイ・ヴン、高速飛翔)、鋼雷破弾(アンセム、光弾射出)、爆裂(ダムド)、天地爆烈(メガデス、大規模建造物破壊級爆発)

・暗黒魔術
 炎魔焦熱地獄(エグ・ゾーダス):魔界の最下層に存在する地獄(アバドンとゲヘナ)の炎を呼び出し、その炎を纏ったまま敵に体当たりする。この炎で燃えないものはない。

・古代語魔術
 滅極渦雷球(デフ・レイ・バー):黒い雷球状の異界門を開き、自在に移動させて攻撃を防御する。
  門は周囲の魔力を全て吸収し、接触した物体全てを異界へ飛ばす。術者も他の者も魔術が行使できなくなるが、ネイは魔剣によって戦うことが可能。
 七鍵守護神(ハーロ・イーン):七つの魔界の門を古代神との契約によって開き、導き出された魔力を術者の肉体を媒介にして一方向に放射する。
  進路上にある物質を粉砕・分解する。威力自体は天体の運行、特に月の満ち欠けに強く作用される。ネイのレベルでは新月時以外行使できない。

・召喚魔術
 霊撃雷電襲(ギルバルド):風の精霊「雷精」を直接召喚して意のままに操る。雷精は雷撃以上の雷を操り、黒烏嵐飛以上の高速で飛翔する。
  通常は一体召喚するのがやっとだが、ネイの魔力に雷神剣が加われば数体から数十体を同時に召喚使役可能。ただし集中力が乱れると雷精は暴走する。


570 : Glance of Mother Curse ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:56:38 KKPHQVZM0

【人物背景】
萩原一至の漫画『BASTARD!!暗黒の破壊神』の登場人物。主人公である大魔術師ダーク・シュナイダー(D・S)の部下「四天王」の紅一点。人間とダークエルフのハーフ。
褐色肌に豊満な肉体、長身で黒髪の耳長美女。外見年齢は20代だが、実年齢は100歳を越える(天寿は400歳ほどか)。CVは佐久間レイ(OVA版)、小山茉美(CDドラマ版)。
雷撃系の精霊魔法を得意とし、魔術と剣術の両方に秀でる魔法戦士。魔剣「雷神剣」を所有し、戦場にあっては勇猛果敢な「雷帝」として恐れられる。
他の四天王はカル=ス、ガラ、アビゲイル。部下に鬼道三人衆(シーン・ハリ、カイ・ハーン、ダイ・アモン)らがいる。

ダークエルフの一族に育てられたが、片親が人間であるため疎まれており、ネイ(誰でもない)という名で呼ばれていた。
森エルフとの抗争の際に棄てられ、森を彷徨っていた時、D・Sに気紛れから拾われて育てられ、養女となる。「アーシェス」という名はD・Sが与えたものである。
長ずるとD・Sを師として魔術を習い、剣術も覚え、50年後に四天王の一角となった。彼女はD・Sを深く愛しており、100年間愛人として連れ添ってきた。
D・Sを「ダーシュ」と呼び、D・Sからは愛称の「アーシェ」で呼ばれ、お互い以外にこの呼び名は許さない。同じく拾われたカル=スとは三人で家族として暮らしてきた。
性格は苛烈で嫉妬深く、他者に対しては毅然としているが、無節操に女に手を出すD・Sには激しく怒り、子供のように泣きじゃくる。ガラには妹のように扱われている。

第一部「闇の反逆軍団編」では、破壊神アンスラサクスの封印を解くため他の四天王共々諸国を攻撃していたが、D・Sが15年ぶりに復活し敵に回ったと聞いて激昂。
部下の鬼道三人衆を差し向けるも撃退・籠絡されてしまい、裏切り防止のためアビゲイルに呪いをかけられた上でD・Sと対決。愛情を棄てきれず敗北し、D・Sにより呪いを解かれる。
以後はD・S側についてアビゲイルらと戦うことになったが、アビゲイルとD・Sの最終決戦で大爆発が起きた際、D・Sの隠れ家の一つに強制転移させられた。
名前は日本のHR/HMバンド「アースシェイカー」(米国のバンド「Y&T」の曲にもあるが)と、ゲーム『ファンタシースターII』のヒロインであるネイから。
外見はネイ及び、『聖戦士ダンバイン』のヒロイン、マーベル・フローズンから。

【ロール】
アメリカ人の観光客。

【マスターとしての願い】
ダーシュの元へ帰る。それ以外に望みなどない。

【方針】
呪文を温存しつつ、マスターを見かけたら積極的に殺す。誰かとの協力が必要なら協力するが、最終的には殺す。自分のサーヴァントにはあまり期待しない。

【把握手段・参戦時期】
第一部「闇の反逆軍団編」(1-8巻)終了後、第二部11巻で再登場するまでの二年間のいつか。ネイは2巻から登場。


571 : ◆Lnde/AVAFI :2018/02/28(水) 00:58:33 KKPHQVZM0
投下終了です。


572 : 名無しさん :2018/02/28(水) 21:26:22 Wx7YeRKs0
投下します


573 : 魅上照&アサシン ◆bWc6ncfvXw :2018/02/28(水) 21:27:15 Wx7YeRKs0

神は死んだ。
命を落とされたわけではない。
ただ、もう高潔で善良な神の姿はそこになく、ただ落ちぶれた犯罪者の姿があるだけだった。
涙がにじみ、視界を揺らがす。
失意と絶望が胸を焦がす。
衝動の赴くままに懐から取り出したペンを心臓へ……


-魅上照 ノートを偽物と疑う事も本物かどうか試す事もなく、2010年1月28日13時10分YB倉庫内にノートを持ち込み、信奉するキラの醜態に絶望し自殺-


「その未来、殺してやろう」

さくり、とあっけない音を立てて何かが死んだ気配。
空間そのものが切り裂かれたような、世界の在り方が剪定されたような感覚を覚えた瞬間、魅上の世界が一変する。
足元が消えてなくなる浮遊感、そしてまるで夢の中のようにいつまでも、どこまでも落下していく。
……地に足が着いた。
まるで重力がないようにゆっくりと着地したその場所には何もない。
ただ無限に虚無が広がる空間で、360度全て地平線の彼方まで見渡せる。

何が起きたのか。
まさかここが死後の世界だとでもいうのか。
混乱する魅上に答えを示すようにするり、と一つの異物が世界に混ざる。
黒い背表紙に英字でタイトルの書かれた、魅上にとって見覚えのありすぎるノートがそこに突如現れた。

「面白い宝具だ。死の未来を確定させる死神の手帳か。だが本来カタチのない未来にカタチを与えるなど愚の骨頂。
 不明確であるゆえの無敵さを失えば、この眼に殺されるのは必然よの」

さらに失笑混じりの声がどこからか響く。
それに呼応するようにざくざく、とノートが切り刻まれていく。
魅上が丁寧に書き込んだ名前も死因も、全て粉微塵に裂かれただの点と線の集合体へと還っていく。
……ふわ、と刻まれたページが宙に舞った。
点と線の書かれた紙片が引かれ合うように集まり、紋様を描くように連なっていく。
魅上には、描かれているそれが名前だと何となく感じられた。死神の眼を介して様々な文化圏の名前を目にしたためだろうか。
事実、それは名前であった。
デスノートの機能を殺し、無記名霊基へと変じさせ、そこに古代のルーン文字で自らの名を刻み、一柱の神が顕現しようとしているのだ。

――――――ノートに名が書かれた。それと同時に一つの影が像を結ぶ。


574 : 魅上照&アサシン ◆bWc6ncfvXw :2018/02/28(水) 21:28:03 Wx7YeRKs0

「探したぞ。余と共に死を見つめることのできる、死神の使徒よ。貴様が余のマスターだ」

現れたのは学ランを着て、両目を帯のようなもので隠した一人の男。
学ラン……魅上の常識で考えると目の前の男は学生ということになる。
だとするなら重厚なその口調もティーンエイジによくあるカッコつけと考えるのが妥当だが、それにしては妙に堂に入っていた。
纏う雰囲気も只人とは思えない。そしてもう一つ、魅上の眼に異変が見えた……正確には見えるはずのものが見えなかった。

(死神の眼に、名も寿命も見えない)

目元を帯で隠しているからかと最初は思った。
サングラス程度ならばともかく、顔がはっきり見えなければ死神の眼は効果を発揮しない。
だが、これは何となくそういう理由ではないのだと魅上には感じられた。

死神の眼の干渉を何らかの形で受けないものは魅上の知る限り二種類。
一つは魅上をはじめとしたデスノートの保持者。それならば寿命が死神の眼で読み取れなくなる。
そしてもう一つは

「死神か?お前は」

死神。デスノートの本来の所持者。
ノートによって殺す側に立ち続ける彼の者たちは、死神の眼を以てしても真名も寿命も露わにすることはない。
リュークという魅上に憑いていた死神に比べれば目の前の少年は人間風の見ためをしているが、化生染みた雰囲気は死神のそれに近い。
異様な登場の仕方もあって死神だろうと口にしたのだが、それに少年は嗤って答えた。

「死神か。些か不敬ではあるが、まあ間違ってはおらぬ」

目元が見えないので表情は読みにくいが、歪ませた口元からさほど強い悪意は伝わってこない。
すぐに言の葉を継ごうとしたようだが、そんな緩んだ唇が自らの名を滑らせるのは気に食わぬ、と言わんばかりに表情が引き締まった。
そしてまるで話すのに不慣れなようにゆっくりと間をおいてから少年は名乗りを上げる。

「我が名はバロール。ダーナ神族を支配した、死に等しき魔神である」

死神など木っ端。我が名を見知ったか。
そんな自信にあふれた宣言だった。

バロール。ケルト神話に登場する神の一柱、くらいの知識は魅上も持ち合わせている。
年頃の少年のたわ言、と常人なら切って捨ててもおかしくはない内容だ。
だが魅上には死神やデスノートという超常の存在に触れた経験があった。
目前の少年、いや見た目に反して老練な空気を纏う男はそれらと比してなお上位のモノであると思わせるナニかがある。

困惑、しかしその中に確かに喜びがある。
かつて身を焦がすほどに憧れたキラと接点を持った時と同じような感覚が魅上の内に駆ける。

「むぅ……か、神としての証明などは……?」

当惑混じり、興奮混じりでいつか口にしたような問いが口をついて出る。
バロールは不遜とも言えるその問いに再び笑みを深めて答えた。

「余の権能を知りたいと申すか……よかろう。マスターであれば当然の問いよな」

そう答えながら左手の袖を捲ると、右手の人差し指で文字を描くようになぞる。
光る文字のようなものが刻まれると、その部位の皮膚が蠢く。まるで泥が泡立つように膨れ上がっていき、しばらくするとそれは数匹の蛇になってバロールの腕から飛び出した。

「一つは『獣』。この体に宿した混沌の残渣をもとに使い魔を生み出す。ティアマト母神のようには出来ぬが、斥候には十分よ」

飛び出した蛇が這いまわり、刻まれたデスノートの紙片をかき集めてくる。
それがバロールの周りに小さな山を築き始めたあたりで、また指を走らせ今度は空中に文字を刻んだ。
文字に呼応して今度は小規模な旋風が巻き起こった。

「一つは『風』。言っておくがこの程度ではないぞ。嵐を起こし、病を運び、死をもたらす災害よ」

風で紙片がまとまって舞い上がり、魅上の視界に入る。
そこに魅上の書いた覚えのない、魅上照自身の死の運命が書かれているのも。

-魅上照 ノートを偽物と疑う事も本物かどうか試す事もなく、2010年1月28日13時10分YB倉庫内にノートを持ち込み、信奉するキラの醜態に絶望し自殺-

バロールが中空に文字を描くとその紙片が燃え落ちる。

「一つは『火』。肉体を焼き、魂を焦がす。生と死の境界線にあるものこそ火である」

魅上の死が刻まれたノートのページが焼け落ちて灰になる。
だが本来デスノートに書かれた死はその程度では避けられない……はずだ。
やはり自分はすでに死に、それが故に神と会っているのかと魅上の胸中を占める混乱の割合が増していく。


575 : 魅上照&アサシン ◆bWc6ncfvXw :2018/02/28(水) 21:28:39 Wx7YeRKs0

「……この宝具は灰にした程度で機能を停止はせぬ。だが余ならばこれを無力化できる」

す、と。
目にも止まらぬ速さでバロールが手元で短刀を抜く。

「我が最大の権能。それは『死』である。そこに確かにあるものならば、あらゆるものを殺す。
 神であろうと。獣であろうと。白き巨人とて殺めてみせよう。
 そして、確定した未来や宝具の機能すらもこの眼と手ならば必ず殺す」

一閃。
魅上の死の未来と、死神のノートを殺した技巧が奔る。

「見るがいい。これが、モノを殺すということだ」

途端、世界が崩れる。
空が落ちてくる。地面は崩壊する。無限の奈落の底……死に吸い込まれていく感覚。
はじめこの地に降り立った時に感じたものを、より恐ろしく冷たくしたような浮遊感。

すぐ知覚できる位置に死がある、まさに死と隣り合わせなのだと突き付けられて魅上の口から乾いた悲鳴が――――

「落ち着け。周りをよく見ろ」

どうやったのかは知らないが、落下する魅上を抱えるような姿勢にバロールが移動していた。
そして周りの景色も変わっている。
落下しているのは変わらないが、地の底に吸いこまれるような暗い絶望はない。
人の営みの気配。自然の呼吸の気配。
見覚えのある景色だった。
仕事で訪れたこともある。修学旅行も確かここだ。
京の都。日本の誇る歴史都市の夜空を二人は滑空していた。

落ちていく。街に近づく。
そのたびに魅上の脳裏に新たな知識が刻まれていく。
サーヴァントのこと。聖杯のこと。聖杯戦争のこと。この地で検事として勤める、仮初の役割のこと。

「理解できたか?余が何をしに来たのかを。そして貴様が何をするべきかを」

神は死んだ。
ノートも死んだ。
だが、ここに万能の願望機が活きている。
ならば為すべき願いは一つ。

「私が……新世界の神(キラ)となる!」


576 : 魅上照&アサシン ◆bWc6ncfvXw :2018/02/28(水) 21:29:36 Wx7YeRKs0

【クラス】アサシン
【真名】バロール@ケルト神話
【属性】秩序・悪
【パラメーター】
筋力B 耐久D 敏捷A+ 魔力A 幸運E 宝具A++

【クラススキル】
気配遮断:C(-)
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
巨人族であるバロールはその巨躯に加え纏う濃厚な死の気配から本来このスキルを保持しないが、クラス補正に加えて依り代が極めて高度な退魔の殺し屋であるために獲得した。
巨躯でなくなったのも大きな要因。

【保有スキル】
直死の魔眼:A (A++)
魔眼と称される異能の中でも最上級のもの。究極の未来視、その一。異能の中の異能、希少品の中の希少品。
無機・有機を問わず活きているものも死の要因を読み取り、干渉可能な現象として視認する。
直死の魔眼から見た世界は死の線で満ちた終末の風景であり、まっとうな精神構造ではこれと向き合っての日常生活は難しい。
バロールは人ならざる魔神であるために、人間ならば発狂するであろう異様な視界であっても平然と振る舞える超常の精神構造をしている。
マスターとの視界共有は控えた方がいいだろう。
なおこれですら生前のバロールの直死の魔眼に比べれば疑似サーヴァント化に伴いランクダウンしているもの。
かつては魔眼で見ただけで死の線どころか死そのものを事象として引き起こしてしまい、日常など成り立つ道理がなかったため戦場以外では完全に片眼を閉じて過ごしていた。

魔神の神核:B
完成された魔神であることを現すスキル。神性スキルを含む複合スキル。
あらゆる精神系の干渉を無効化し、毒・病・呪い・老いなどによる肉体の劣化もなく、どんなに怠けても持ち前の殺戮技巧が鈍ることはない。
疑似サーヴァントであるため、ランクはB止まりとなる。

魔術:B+
属性は風と火の二重属性。
嵐を引き起こす、それにより海を荒らす、さらに海を炎に変えるなど大魔術の行使も可能。
後に神々を滅ぼすことになる蛇竜を生み出したともされ、使い魔の作成・使役も得手。
依り代の肉体にはかつて上級死徒との戦いで取り込んだ獣の因子(人類悪のことではなく文字通りの獣)の名残があるためそれを行使すれば動物の形で生命因子を繰り出すことができる。

天性の魔:‐(A+)
英雄や神が魔獣に堕としたのではなく、怪物として産み落とされた者に備わるスキル。
生まれついての巨人族であり、その中でもバロールは跳びぬけた頑健さを誇った魔神。
人間などでは及びもつかない筋力、耐久を誇ったのだが、疑似サーヴァントの依り代に「眼」を重視して肉体は二の次としたためにこのスキルは失われてしまった。
本来ならば魔眼を唯一の弱点とし、肉体は光の剣をもってしても打ち倒せない魔神であったのだが、このスキルを失ったために通常の攻撃でも彼に通用するようになっている。


577 : 魅上照&アサシン ◆bWc6ncfvXw :2018/02/28(水) 21:30:30 Wx7YeRKs0

【宝具】
『自己封印・四死拘束(ブレーカー・フォモール)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
4の4乗、256の封印のルーンを刻んだ帯。
天の鎖やグレイプニルにも匹敵する拘束具で、これを4重に巻き付けることで直死の魔眼の効力を一部封じている。
並の魔術師が4人程度なら枯死するほどの魔力を消費することで封印を解き直死の魔眼を完全に開放する。
また真名解放によって他者への拘束宝具として用いることも可能である。
この帯は暴走を防ぐためのものであり、直死の魔眼を完全に封じているわけではない。
死の線を認識する技能は封じ切れておらず、帯越しに外を死の線のみであるが認識している。

『極識・直死の魔眼(バロール・ドーハスーラ)』
ランク:A++(本来はEX) 種別:対城宝具 レンジ:1〜444 最大捕捉:444
武器など無粋。真の英雄は目で殺す。
前述の宝具で封じているバロールの眼そのもの。
視界に収めたものすべてに死をもたらすが、疑似サーヴァントとなったことでランクダウンし大きく力を削がれている。
真名解放により視線に入ったものへ物理破壊現象を伴うほどに極大の呪いをもたらす。
身もふたもない表現をすると、対城規模の破壊光線を左眼から発射する宝具になっている。依り代の両目が直死の魔眼だったため、死の線を認識するのは両目でできるが、この宝具を扱えるのは生前と同じように左眼だけである。
また最期に頭部を射抜かれたことで魔眼が背後にいた兵士を壊滅させてしまったという逸話から、この宝具はサーヴァントとしての消滅間際に自動発動する。
座に還る霊気消滅の際で最期までこの眼は現世に留まり続け、目に映ったあらゆるものを殺すことになる。
つまりはバロールは消滅間際にほぼ全方位にビームを撃つ目玉を遺して逝く。

『黒死・七夜(ラグナロク・ナウ)』
ランク:A 種別:対国宝具 レンジ:1〜777 最大捕捉:上限なし
わずか七日で世界は作られた。
ならば七夜で世界は滅ぶもの。
フォモール族が他の巨人族を支配するのに用いた病。
バロールの権力の象徴である死の恐怖、黒死病を振りまく。
感染した時点でHPの「最大値」を7分の1削り、そこから強い苦痛と共に最短七日かけてHPの最大値そのものを0にする。なお神を支配するための病であるため、神性を持つものは防ぐことはできず、ヒュドラ毒にも匹敵するより強い苦痛を与える。
神代の毒と病であり、バロールの直死の魔眼同様に生き物のみならず無機物にすら死をもたらす。
無機物すら感染源とする病は一たび広まれば恐ろしい速度で感染させることが可能だが、支配のために用いた宝具であるため病状の進行を止めることもできる。
それによって無作為の感染、ひいてはマスターの魔力消費を抑えたり、多大な苦痛を与え続けることが可能。
削られたHPの最大値に応じて体は黒く染まっていく。黒く染まった箇所はすでに死んでいるため、病を癒してもHPの最大値が治ることはなく、治すには死者蘇生に匹敵する療法が必要となる。
神代の病であるため治すことも容易ではなく、神代の毒を癒す霊薬、あらゆる病を根絶する鋼の看護、病そのものを殺す眼など規格外のもので当たらなければならない。
感染しないためには高ランクの耐毒や天性の肉体などのスキルが必要となる。

【weapon】
・短刀「七ツ夜」
依り代が愛用していた暗殺用の飛び出しナイフ。
そのままでも上級死徒や真祖、埋葬機関の代行者とも打ち合うほど頑丈。強化魔術などを施せば神造兵装とも打ち合う可能性はあるとバロールは考えている。
サーヴァントの装備として再現されているため、僅かながら神秘殺しの属性を持つ。


578 : 魅上照&アサシン ◆bWc6ncfvXw :2018/02/28(水) 21:31:08 Wx7YeRKs0

【人物背景】
アイルランドの神話サイクルにおいて語られる神の一柱。太陽神ルーの祖父であり、アルスターサイクルの大英雄クー・フーリンの曽祖父にあたる。
混沌と野生を代表するフォモール神族の王であり、光の剣クラウソラスすら弾く不死身の肉体、凄まじい感染力と致死性の黒死病、何より見たもの全てに死をもたらす魔眼によって神々を支配、君臨していた。
それほどに強大なバロールであったが、孫に殺されるという予言を受けていた。
予言を防ぐために娘エスリンを幽閉するが、支配していた神の一族の手引きによって一人の子が産まれ落ちる。
その子こそが太陽神ルー。
幾ばくの時を重ねた後、予言はついに現実となる。
モイトゥラの戦いでルーの槍、ブリューナクによって魔眼ごと頭部を射抜かれたバロール……瞼を射抜かれたことで直死の魔眼は一帯に死を振りまき、同胞のフォモール族諸共にバロールは最期を迎えた。
最大の特徴である魔眼は、ドルイドである父親が行っていた毒の魔術儀式を目にしたことで獲得したもので、不死身の肉体の中でここだけが唯一バロールに攻撃が通じる部位……毒により変質した最大の武器でありながら弱点でもあったのだ。

再度の生を求めて万能の願望機ダグザの窯、もとい聖杯を求めるが曲りなりにも神霊であるバロールはサーヴァントとしての現界は難しく擬似サーヴァントとなることを試みる。
容姿や身体能力の大半を無視して、直死の魔眼を持つ希少な依り代を求めたところ、ある世界で行われた月の聖杯戦争に可能性を見出す。
100近いサーヴァントを切って捨てたモンスター、両義式に目をつけるが、性別の不一致に加え神たるバロールも根源接続者にはおいそれと手出しするのを避けた。
次善として式と同じ月の聖杯戦争に参加していた白のバーサーカーこと真祖、及びその聖杯戦争の教会で魂の改竄を行っていた青の魔法使いの縁をたどり直死の魔眼を持つ少年を依り代とした。
正確には少年の死体を乗っ取り擬似サーヴァントとなった……眼という肉体に宿る異能は死体となっても残るうえ、依り代の思念が残るなど邪魔でしかないからだ。
このためバロールは擬似サーヴァントにある器と中身の人格の混合ということはおこらず、純粋にバロールの人格のみで現れている。
少年時代に二度の臨死体験をし、他者の命を共有することで命を繋いできた青年の肉体は他者の命を受け入れる面でも優れた器だった。
ある王の肉体を乗っ取り、その肉体の千里眼を使いこなした魔術式のように、バロールもまた少年の死体を乗っ取り直死の魔眼をはじめとした肉体に染み付いた技能を再現している。

【サーヴァントの願い】
フォモール族の強靭な肉体で神として復活する。

【特徴】
依り代の外見そのもの。服装も生前の巨人スタイルでは合わないため借用している。
身長169cm、体重57kg、黒い学ラン、両目を覆う帯、ポケットに短刀。
帯の下の瞳の色は常に蒼。


579 : 魅上照&アサシン ◆bWc6ncfvXw :2018/02/28(水) 21:31:47 Wx7YeRKs0

【マスター】
魅上照@DEATH NOTE(アニメ)

【マスターとしての願い】
新たなるキラとして世界に平和をもたらす。

【令呪】
左手の甲。
秋霜烈日の形。
花弁が二枚で一画×2、葉で一画。

【能力・技能】
・死神の眼
契約した死神から寿命の半分と引き換えに授けられた魔眼。稀にだが生まれついてこの魔眼を保有する人間もいる。
3.6以上の視力を獲得し、視認した人間の真名と寿命を看破する、千里眼や未来視に近い能力を持つ。
なお真名と寿命が見れるのは生きている人間のみであり、死んでいる使い魔であるサーヴァント相手には効果を発揮しない。
受肉して一個の人間となったサーヴァントで、神や魔の因子が混ざってなければ見えるかもしれない。

魔眼とは魔術師に付属した器官でありながら、それ自体が半ば独立した魔術回路であり、単体で魔力を生み出して術式を起動できるもの。
死神の眼は寿命の半分を対価とすることで、その失われた時間をかけて生成するはずだった魔力を糧に死神が変性させた魔眼である。
そのため魔術師でない照の眼には半生分の魔力がストックされているのに等しく、独自の魔力回路となった魔眼がさらに魔力を生成している。
サーヴァントを使役するだけなら平時の生成分で問題なく、バロールの宝具を数度は真名解放するに十分な魔力ストックを秘める。
ただし魔力を大量に消耗するたびに魔眼も損耗するため、みだりな宝具開帳は視力の低下や魔眼の喪失に繋がる。

【weapon】
・デスノート
顔を知っている人間の名前を書けばその人間は死ぬ。
ただし直死の魔眼によってその機能は殺され、ただのノートでしかない。
科学的に調べたところ人間界には存在しない物質で作られているらしいので、何かしら魔術的な用途はあるかもしれない。
バロールはこれを無記名霊基として利用し、自ら魅上のもとに顕現してきた。

【人物背景】
幼い頃から正義感の強い少年であり、クラスからいじめを無くそうと頑張っていた。
小学生の頃は上手くいっていたのだが、中学校時代になると、加害者が傍観者に加害者側に加わる事を強要するという卑劣ないじめが多くなり、それまでのようにはいかなくなる。
それでも魅上は自分の考えを変えず、無茶をして傷ついていく彼を心配して「照が傷つく理由はないのだから、もう止めなさい」と制止する母の事さえも否定するようになった。
だがある時、いじめの主犯格4人が交通事故を起こし、魅上の母を巻き込んでまとめて死亡するという事態が発生。
訪れた平和に、「悪は可能性の芽も含めてこの世から削除されるべき」という考えへと傾倒していく。
成長すると検事になり、悪を裁くという正義のもと活動するようになる。
このころ世界は大きく変わった。
超常の力で犯罪者を次々と裁いていく存在……「キラ」と呼ばれる何者かが現れたのだ。
はじめはキラも殺人者であるというのが世の認識であったが、犯罪者と自らの正体を追うもの以外は殺さないキラのシンパも増えていく。
魅上もまたキラを神と崇め、公共の電波に乗せてキラ肯定の発言を幾度も真摯に繰り返してきた。
その活動が実り、魅上にはキラの力、名前を書かれた者を殺すノートとそれに憑く死神、さらに死神との取引を介して魔眼を貸し与えられることになった。
キラの代行として精力的に活動し、キラの敵対者とキラの最後の対峙にも赴くが、魅上の些細な気遣いからキラは敗北。
無様にあがくキラの姿に涙を流し、多くの犯罪者の心臓を止めてきたペンを自らの心臓に突き立て命を絶った。

漫画版と基本的なキャラや背景は変わりないが、最期に漫画では夜神月をただのクズと罵り、獄中死を遂げたのに対し、アニメでは月の醜態に対し涙を流したのみで否定の言葉を投げかけてはいない。


580 : 名無しさん :2018/02/28(水) 21:32:26 Wx7YeRKs0
投下終了です


581 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:19:36 XE70YXw.0
投下します


582 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:20:31 XE70YXw.0
旅人の夢を見た。

旅人には双子の片割れがいた。
旅人には姉がいた。
旅人には同僚がいた。

双子の片割れは傲慢で派手好き。姉は内気で嫉妬深い。同僚は無謀で名誉欲が深く、
皆、それぞれ欠点を持ち、それゆえに苦しむことがあった。

旅人には欠点は無く、決して道を外さず、それゆえ皆から公平な審判者、正義の使者として慕われていた。

彼は人を見ることが、その物語を見ることが好きだった。
その個人の物語を完遂するため、時には自分の力をも貸した。
特に、彼の子孫の一人、英雄の中の英雄となった男の叙事詩を好み、常に見守り、例え自分たちの物語が終わろうとも力を貸すことを躊躇わなかった―――はずであった。

男が友人を失い、死を恐れ、死の克服を求め旅に出た時、旅人は男がそんな無謀な旅をするのを忍び難く思い、それを止めに向かった。
常に見守り、力を貸していた自分が止めれば、当然思いとどまってくれるだろう、そう考えていた。
しかし、男を説得してもにべもなく、あしらわれてしまった。

旅人は己を見つめた。

確かに己には欠点は無い。
しかし、逆に欠点からくる美点も物語も無かった。

双子の片割れの豪快さと奔放さは多くの人間を引きつけ、やがて旅人も己の孫を彼女に任せた。
姉は主人としての器量を持ち合わせ、己の領域を豊かにすることに余念がなかった。
同僚は戦士としての潔さも持ち合わせ、姉に負けた際は友人として持てる力を与えた。




自分には何もない、毎日同じことを繰り返し、姉妹の助けにもなれなかった自分、
人を見降ろしてばかりの自分に、何があっただろうか。
あの男の前に立てるだけの、何かをしただろうか。
旅人は己を恥じた。そして望んだ。
―――もしも、願いが叶うのなら。
物語が欲しい。


583 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:21:13 XE70YXw.0
そこで私は目を覚ました。
真っ暗な中時計を探り、時間を見る。
………早起きをしすぎた。机の上の紙を手に取る。昨晩これのことで熱中しすぎたのがよくなかっただろうか、寝ぼけた目で紙――進路調査票に目を落とすと、昨日の激論が脳裏に浮かぶようだった。

(こっちよ)

「え?」

今、微かだがカーテンの向こうから聞きなれぬ少女の声が聞こえた。
………家のすぐそばに知らない人がいる。というのも不気味だが、ここはアパートの2回である。まさか。
薄暗い中、恐る恐るカーテンを開き、窓を開ける。
9月の終わり、暑かった夏の余韻も無くなり、冷えてきた空気を浴びた私が見たのは東の空から太陽が昇り始めた朝焼けの空だった。
気のせいだったのだろうか、そう思った瞬間。

(ここで、ゲームオーバーかい?)

また、声が聞こえた。今度は少年の声だ
気のせいではない、確かに誰かがいる。
目を落とすと、そこには人影が一つあった。
朝焼けの逆光で影しか見えないが、確かに誰かがいる。
それを認識したとたん、私はそのまま誘われるように外へ出た。


584 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:21:51 XE70YXw.0
アパートから出て、道路へ出る。
辺りを見回すが誰もいない。ふと、私は一週間前の里帰りであったことを思い出した。
一週間前、何も知らなかった私は、私の知らなかった故郷、四津村へ帰り、そこで今のように誘われ出て、そこで『自分』と『過去』を知った。
そして私は強い意志を持って将来を決めることができたのだが…。

手に持ったままだった進路調査票に目を落とす。
第一志望の欄は、黒く汚れているうえ、繰り返される消しゴムの猛攻によって、破けていた。
四津村から帰って以降、自立するために就職を希望する自分と進学を希望する父親で意見が真っ二つに割れ、連日言い争いが続いている。
真っ白い進路調査票もなかなか憂鬱になるものだったが、真っ黒い進路調査票も別にいいものではないと思い知った私は、ため息をついた。
その時、突然背後から伸びてきた手に紙をひったくられる。

「四津村の話はこれで終わり、本当にいいのかな?」
<過去とはお別れして、それでいいの?>

振り返るとそこには黒い短髪の少年がいた。
風でその手に持った進路調査票と耳につけた金色のイヤリングが揺れる。
はためかせる白いローブが目に入るが、それよりも背中に付けた大きな羽に気を引きつられる。
肩で支えられている。生えているのではなく装飾だろう。
奇妙なことに、少年が話すとどこからともなく女性の声も響いたが、辺りには少年しかいない。

「あの…」

「物語が終わっても人生は続く」
<将来に向かって歩くのも良いだろうね>

雲から太陽が覗き、その光に一瞬瞬くと、目の前にいた少年は、服装も装飾もそのまま、オレンジのサイドテールの少女に代わっていた。
手に持った進路調査票もそのままだ、見間違えようがない。
少年の声もどこからか響くが、辺りを見回してもやはり少年は見当たらない。

『けれど』


585 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:22:32 XE70YXw.0
二つの声がハモり、進路調査票が投げ捨てられる。
やはり、そうだ、この二人は同一の存在なのだ。
瞬間的に真衣はそう悟った時、少年と少女の姿が重なった。

「君の願いは、過去に囚われている」
<やり直さなければならないことが、あるよね?>

重なった少年と少女が写真を差し出す。
一つは私の両親の結婚写真、もう一つは私が生まれた時の写真。

「それ、は……」

「これから、杯(さかずき)を巡る戦いが始まる」
<人間と、英雄の物語が始まる>
「君も、まだ物語を終わらせたくないのなら」
<忌まわしい家に報いを、家族に救いを与えたいなら>
「この戦いを、勝ち抜くべきだ」
<最後まで、生き残ればいいよ>

少年と少女が捲くし立てる。

「あなたは一体何なの…?」


「僕はウトゥ」
<私はシャマシュ>
「どこかの世界で、あのイシュタルか、まさかエレシュキガルか」
<いつかの時に、もしかするとネルガルか>
「きっと人間を依り代にしただろう妹らに引っ張られて」
<双子の縁か、日輪の仲間に同調して>
「どこにでもいる普通の少年を依り代に」
<善にして中立の少女を殻にして>
「神の身でありながらこの戦いに呼ばれた神」
<願いを持って、この地に降り立った太陽>


586 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:23:11 XE70YXw.0
「―――君の、願いを叶えるサーヴァントさ」

混線している二人の話は、
目はこちらを見ているのに、意識はこちらを向いていない。
そんな印象を真衣に抱かせた。

わけがわからない、そう問いただそうとしたとき。
昇ってきた太陽の日差しを浴び、一瞬目をつぶった。
その一瞬、ぞくり、と、体に悪寒が走った。

「何、いまの…」
「シャマシュが死んだ」

目の前の少年は、何も変わらず平然と、さっきまでそこにいた少女の死を語った。
少年を見ると、確かに重なっていた少女は消えていた。

「死んだ…?」
「彼女は夜の担当だからね、太陽が昇ると共に死んでしまう
 気にすることはない、夜になれば蘇る」

「蘇る…?」

「ああ、エタナに授けた生誕の草、我が宝具となったこの力があればこそ」

蘇る。それは私にとって魅力的に聞こえた。
四津村のことは全て終わったことだ。過去のことだ。
私は過去を知り、前に進む――

本当にそれでいいのか?

あの悲惨な出来事を、血の繋がった家族を、踏み台にするのか。
そう思ったとたん。声が突いて出た。

「本当に、死んだ人も蘇るの…?」


587 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:23:33 XE70YXw.0
それを聞いた少年は、微笑んだ。

「それを確かめるには、戦うしかないよ」

戦う、戦うということはほかの人間の願いも踏みにじってしまうと言うことだ。
しかし、それを考えてもなお、諦めきれない感情が胸の内にあるのを感じていた。

「いい顔になったね」

少年は微笑みを絶やさない。
彼は空を仰いだ。

「さあて、僕の物語と君の物語の続きを、始めようか」

あの太陽の刺すような輝きは、祝福なのか、それとも非難なのか。
私にはわからなかった。


588 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:24:05 XE70YXw.0
【CLASS】セイバー

【真名】ウトゥ

【出典】シュメール神話

【性別】男性

【属性】中立・善

【ステータス】

 筋力B 耐久E 敏捷B 魔力EX 幸運C 宝具A++

【クラス別スキル】

対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。


騎乗:B

乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
また、英霊の生前には存在しなかった未知の乗り物(例えば古い時代の英雄にとっては見たことも無いはずの、機械仕掛けの車両、果ては飛行機)すらも直感によって自在に乗りこなせる。


【保有スキル】
千里眼(太陽):B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
日の光が当たっている場所に限り、透視さえも可能とする。

分霊生成:Ex
己の霊基を分割し、己の別の側面を召還する。
このスキルを使用した場合、耐久力は3ランクダウンし、同時に対となる状況を選択し、それ以外の状況では消滅する霊基となる。
ウトゥは『昼』以外での消滅。シャマシュは『夜』以外での消滅を選択。
詳しくは宝具・冥界巡る陽の騎手(シャマシュ)を参照。


神性:A++
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。より肉体的な忍耐力も強くなる。


589 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:24:59 XE70YXw.0
【宝具】

雄峰裂く日輪の刃(ディバインド・マーシュ)
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:10 最大捕捉:1
冥界に落ちたエルキドゥのため冥界の天井に穴を開けた逸話が宝具となったもの。
鋸のごとくギザギザの太陽剣を持ってして固有結界・または物理的な天井に穴をあける。
また、己が死したとき、あるいは太陽が昇った際、極小規模の冥界を地下に構築・蘇生魔術により己を再構築し、命のストックを1つ消費して地下より復活可能。
(命のストックの数は輪廻永劫参照)

輪廻永劫
ランク:Ex 種別:生命宝具 レンジ:10 最大捕捉:60
病に倒れ死の淵にあったルガルバンダを死の淵から救う。跡継ぎが生まれないことを悲しむエタナのために誕生の草への道を示すなど、生命の誕生・復活に関する逸話・何より太陽神としての霊格から得た宝具
蘇生に用いる命のストックそのものが宝具となったもの。
一説によると、ギリシャの英雄ヘラクレスの12の試練はもともと10の試練であり、オリエント世界との交流により聖数12を用いるようになった。そして、オリエント世界で12が聖数とされるのはシュメールで60進法を用いていたからだとされる。
よって彼に許可された命のストック数は60と決定された。
死亡直後であること・天或いは地にまつわるサーヴァントであること・霊基の損傷が少ないなどの条件を満たせば他のサーヴァントにも雄峰裂く日輪の刃と併用して使用可能。
また、元から蘇生手段を持っている、宝具を封印・奪取する宝具を持っているサーヴァントも奪取し、使用可能。

冥界巡る陽の騎手(シャマシュ)
ランク:A種別:分霊宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
夜に死に、昼によみがえる太陽の逸話を再現するため、
ウガリト神話を源流とし、己と統合された神格・女神シャマシュを分霊として生成する。
この分霊はウトゥと共通するステータスを保持し、対魔力:B、騎乗:A、千里眼(影):B、女神の神格:Aを保有する。
夜に死に、冥界の魂を見守る太陽のもう一つの側面である。


590 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:25:48 XE70YXw.0
天上震わす勇者の嵐(ザ・ラージ・エイト)
ランク:A++種別:対神宝具 レンジ:50 最大捕捉:8
7つの神威<メ>を持つ怪物フワワとの戦いにおいてウトゥが授けた8つの嵐。
神々のタブレットを奪ったアンズーと戦った神ニヌルタも保持し、食らったフワワ、アンズー両名ともメ、タブレットの力むなしく封じられたという。
この二つに基づき、この嵐を受けたサーヴァントは神性スキルが無効化され、神性に基づく宝具を封印する。
また、神性B以上を保有するサーヴァントに譲渡可能であり、ウトゥはこの宝具をシャマシュに譲渡、シャマシュはこの宝具を用いてウトゥの輪廻永劫を己の身に封印し、己が死したときに使用可能。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争で戦い、己が物語を作る

【マスター】
佐原真依@四ツ目神

【マスターとしての願い】
悠真を復活させる…?


591 : ◆VJq6ZENwx6 :2018/02/28(水) 22:26:10 XE70YXw.0
投下終了です


592 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:45:15 rbg1/Xlo0
投下します


593 : 義務と責任 ◆A2923OYYmQ :2018/02/28(水) 22:48:11 rbg1/Xlo0
京都市中京区にある高級マンション。その最上階は丸ごと一つの部屋となっていた。
玄関はオートロック式、各階とエレベーター及び非常階段には防犯カメラが完備され、異常があれば十分以内に屈強なガードマンが複数人数でやって来る。
怪異な事件が頻発し、変死体が発見されることが日常と化し、人心不安と警察力がそちらに注力している隙に乗じて、窃盗をはじめとする“真っ当な”犯罪も増加。
夜出歩く者は、仕事などで必要がある者を除けば、警察か犯罪者という有様の京都市の中でも、住人達が安心して日々を送る高級マンションの住人達。
そのヒエラルキーの頂点に立つのが、最上階に住む住人なのだった。



「はあああああああ……」

聞いたものも陰鬱になりそうな、暗く精気に欠けた溜息。
最上階丸ごと一室にした広大な部屋の中。天窓から降り注ぐ陽光ですらもが澱んでしまいそうな溜息。
ソファーに深々と腰を下ろし、新聞が乱雑に置かれたテーブルの前で頭を抱えているのは恰幅の良い白人男性。口元に蓄えた豊かな髭が、貫禄に繋がっていないのは、当人の纏う妙にヘタれた気配の為か。

「はあああああああ……………」

再度の溜息。ひどく重い苦悩を感じさせるがそれも当然。男は聖杯戦争に招かれたマスターだった。

「何で私がこんな事に……。だいたい私は死んだ筈じゃ無かったのか……………」


594 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:48:53 rbg1/Xlo0
あの日。死都と化した倫敦で、武装した吸血鬼、ナチの残党最後の大隊(ラストバタリオン)に攻め込まれ、私は奴等を道連れに死んだのだ。
祖国に殉じて、己が生に殉じて。つとめを果たして。
それが何故此処に居るのか?聖杯ならば知っている。嘗て見送った友と同じ名を持つ王とその騎士達の伝承に登場する代物だ。
そこが解らない。何故に死後になってそんなものの為に争わねばならんのか。
あの不死王。絶対無敵と喩うべき吸血鬼に、匹敵あるいは凌駕する存在を率いて。
あの絶対暴君をすら殺し得るかもしれない化け物(フリークス)と戦う。

怖い こわい 怖い コワイ 怖い 恐い 怖い。
只、ひたすらに怖ろしい。

「また死ぬのはイヤだぞ……」

力なく呟いた言葉に、応じる声があった。

【逃げるか。マスターよ】

老年の男の声。肉体に刻まれた歳月が齎す凄みと自負とに満ちた声。
鋼のような声。積み重ねた経験と実績と、それらを己に齎した不動の意思を感じさせる声。
力強く、信を置くには充分な声だが、親愛の情をおよそ持たせない声。
厳格さと凄烈さを相手に抱かせるこの声は、少なくとも一つの組織を束ね指導するものであると感じさせた。

「シールダーか」

髭の男が呟く。髭の男にとって苦手な声だった。自分に足りないものを、無いものを全て感じさせるこの声は。
威厳。威圧。畏怖。自信。それら全てを併せ持つサーヴァントの声を聞く度に、髭の男は身の竦む思いをしていた。


595 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:49:44 rbg1/Xlo0
【逃げても構わんのだぞ。進んで聖杯戦争に関わったのであれば、逃げる事は許さんが、お前は巻き込まれただけだ。
戦う動機も義務も無い。逃げても誰も責めはしない】

それは、シールダーが最初にした提案。
シールダーを自害させ、髭の男に只々無害なNPCとして引き篭もれという、実に魅力的な提案だった。
そしてその提案は、髭の男が未だに答えを出せていない提案だった。
尤も、その決断をすれば、シールダーは己をマスターとして扱う事は決して無いだろうが。
謂わば試し、シールダーは共に聖杯戦争に臨むマスターの意志を試しているのだった。

「……今答えねばならないのか?シールダー」

【そろそろ日も迫っておる。返答を出さねばならん】

髭の男は瞑目してソファーの背もたれに身を預けた。

「私は逃げない。逃げるわけにはいかない」

身体は熱病に罹ったかの様に震え、顔は恐怖に歪み、息は荒く、視線は揺らぎ、されどもその意志に迷いはないと、ハッキリ解る宣言だった。

「私は無能な男だ。どうしようもなく無能な男だ。そして臆病な男だ。聖杯戦争のマスターに選ばれた事が理解不可能な程に、何も無い男だ」

男は瞑目し、強く強く拳を握った。

「私には部下が居た。皆が皆、私よりも生きるに値する者達だった。
皆死んだ。あの日、押し寄せる吸血鬼たちと戦って。義務(つとめ)を果たして、皆死んでいった。
私は彼等に逃げる様に言ったのに、彼等は皆笑って残って笑って死んでいった。
だからこそ私は逃げるわけにはいかない。彼等に対し、背を向ける様な真似はできない」

【お前の義務(つとめ)は此の地には無いぞ】

「有る」

即答だった。決まり切った事を語る様に男は即座に断じたのだ。此の地に己の義務(つとめ)は有ると。


596 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:50:15 rbg1/Xlo0
「聖杯戦争などという未曾有の出来事に巻き込まれる市民がいる。
知らぬ者にとっては理不尽極まりない暴力の嵐だ。抵抗すらできない脅威だ。
だが、私は聖杯戦争について知っている。聖杯戦争に関わって居て、止める為の力も、持ち合わせている。
ならば止めることが私に出来る義務(つとめ)だろう」

【止める為の力というのは余の事が】

「そうだ。私はこの聖杯戦争を打倒する。お前の力を使ってだ。シールダー。
それが私の義務(つとめ)だ、そして……義務(つとめ)に殉じて死んでいった部下達への責任だ」

【己の名誉でも願望の為でも無く、己の義務と責任に殉じるのか。生きて帰ろうとは思わんのか。富であろうが不老不死であろうが、望めば得られるのだぞ】

「生きて帰るとすれば部下達だ。彼等は誰も死ぬ必要など無かった。死ぬのは、死ぬとすれば私だけで良かった。
だが、彼等は残り、人として戦い、死んでいった。
だからこそ。だからこそだ。私はこの聖杯戦争を打倒しなければならない。
欲望に駆られて戦い、市民を傷つけ、巻き込まれた者達を殺して、摂理を捻じ曲げて願いを叶えれば、私は人でなしになってしまう。
死から目を背け、老いから逃げて、人を食らう化け物に成り果てた吸血鬼共と同じ人でなしになってしまう。
それは、それだけは駄目だ。そんな事をしてしまえば部下達に私はどんな顔をして会えば良い?
だからこそ私は聖杯戦争を打倒する。人として生きて、人として死んでいった部下達の為に。
それにな……。これが許せるか!」

髭の男が掴み上げのはテーブルの上の新聞紙だった。

「既に被害が出ている。子供まで……幼子まで巻き込まれて無残に殺されているのだぞ!!こんな事を見過ごせるか!!」

新聞に報じられているのはある家族を襲った惨劇だった。
髭の男は、見ず知らずの他人。ひょっとすれば自分以外のマスターが死んだ事に激しい怒りを示したのだ。


597 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:51:06 rbg1/Xlo0
…………】

返答は無かった。シールダーは何も応えを返さなかった。
長く長く続いた沈黙。それに男が耐えられなくなる直前。

【お前は…………。卑怯者では無いな。無能だが、真の勇者だ。
お前を見ていると、何故お前の部下がお前に付き従ったのかが解る。
お前は─────マスターは部下に慕われていたのだな。マスターの部下達は確かに義務(つとめ)に殉じたのだろう。だが、マスターにもまた殉じたのだ】

光が粒子となって形を作って行く。
形作られたのは人の姿。齢は髭の男と同程度。
然し身に纏った雰囲気は鍛え上げられた鋼。
幾星霜もの間風雨にさらされた巌の様な勁さと鋼の如き剛毅さを併せ持つ男の姿。

「マスターの持つものを徳というのだろう。余にも同じものがあれば、また違った結末を迎えたかも知れぬ。
だが、言った所で詮無き事。余もまた余の在り方を貫こう。
このルキウス・ドミティウス・アウレリアヌス、世界の修復者の名に誓ってマスターの目的を叶えよう。
さしあたっては、この事件の犯人に誅罰を加えることか」

「あ……有難う。シールダー」


598 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:52:29 rbg1/Xlo0
【クラス】
シールダー

【真名】
ルキウス・ドミティウス・アウレリアヌス@三世紀ローマ

【ステータス】
筋力:B 耐久: A 敏捷:B 魔力:B 幸運: C 宝具:A+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではシールダーに傷をつけられない。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。

自陣防御:A
 味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
 防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、
 自分はその対象には含まれない。
 また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。


【保有スキル】
皇帝特権:EX
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
 ランクA以上ならば、肉体面での負荷(神性など)すら獲得できる。


護国の鬼将:EX 
 あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を"自らの領土"とする。
 この領土内の戦闘において、王であるアウレリアヌスはバーサーカーのAランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得できる。
 

軍略:B
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、
 逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。


世界の修復者:EX
ローマ帝国を見襲った三世紀の危機よりローマ帝国を救った功業に基づくスキル。
属性を問わず、秩序を乱す者と対峙した際、ステータスをワンランク下げ、シールダーの行動の成功確率が倍になる。


599 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:53:45 rbg1/Xlo0
【宝具】

鉄の拳(Manu ad Ferrum)

ランク:C 種別: 対人宝具 レンジ: 1〰︎2補足:一人

シールダーの所有する剣。秩序を乱そうとする者に対し特攻の効果を発揮する。
この、秩序というのは属性ではなく聖杯戦争開催地の秩序の事である。
つまり、聖杯戦争に載ったものは全て対象となる。

アウレリアヌス城壁
ランク:B 種別: 対軍宝具 レンジ: 1〰︎99 補足:1000人

シールダーがローマ防衛の為に建造した城壁が宝具となったもの。
無数の煉瓦が出現し、シールダーの意志に沿って動き、自在に形を変える。
この煉瓦は飛び道具や足場として用いる事も出来る。
本領は城壁として用いた時に発揮される。


世界再生 陽はまた昇る(Restitutor Orbis)

ランク:A+ 種別: 対軍宝具 レンジ: 1〰︎99 補足:1000人

シールダーの功業であるローマ帝国の再統合の具象化。
シールダーが信仰した常勝の太陽神ソル・インウィクトゥスを象徴する陽光が世界を照らす。
この光の中では、秩序を乱そうとする者や、人理と相容れぬ幻想種や怪物の類は存在を許されず、毎ターン毎にダメージを受け続ける。
このダメージは、対象がひとから離れている程に向上する。
逆に、秩序を護ろうとする者は、この光の中ではステータスがワンランク向上し、傷や疲労が常時回復し続ける。


【weapon】
鉄の拳(Manu ad Ferrum)


【人物背景】
三世紀ローマ帝国の皇帝。低い身分から叩き上げで皇帝となり、分裂の危機にあったローマ帝国を救い、世界の修復者の称号を得る。
厳格な人物だ、部下の心ゆ得る事が出来ず、ペルシア遠征の途上部下に殺される。

【方針】
京都の秩序を護る。市民を護る

【聖杯にかける願い】
無い。


600 : 名無しさん :2018/02/28(水) 22:54:21 rbg1/Xlo0
【マスター】
シェルビー・M・ ペンウッド@HELLSING


【能力・技能】
無い。自ら無能と認めている。
しかし、彼を知る者からは『男の中の男』『裏切るくらいなら自殺してしまう』と言われ、その人柄を愛され信頼されていた。
部下からも慕われていた。

【weapon】
無い。

【人物背景】
名家の生まれで家柄だけで生きてきた。
が、責任というものを弁えていて、卑怯者と呼ばれる事は決してしない。
ミレニアムによる第二次アシカ作戦の際に、与えられた義務(つとめ)に殉じて死亡。

【方針】
聖杯戦争のマスターとして義務(つとめ)を果たす。
京都の秩序を護る。市民を護る

【聖杯にかける願い】
無い。

【参戦時期】
原作死亡後。


601 : <削除> :<削除>
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602 : <削除> :<削除>
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603 : 名無しさん :2018/02/28(水) 23:09:00 rbg1/Xlo0
>>599に追加

【外見】
ローマ帝国の鎧を身につけた外見年齢60歳程の白人男性。
身長186cm 体重80kg


604 : ◆jpyJgxV.6A :2018/02/28(水) 23:56:10 lrivu6JA0
投下します


605 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/02/28(水) 23:57:01 lrivu6JA0
 カン、と小気味よい音が河川敷に響く。何度も何度も、たまに火花を伴って。
 槍同士の打ち合いだった。遠巻きに見守っている二人の男女はそれぞれのマスターであろう。
 どちらも学生だろうか、黒いチェスターコートの少年と赤いダッフルコートの少女だった。
 互いに積極的な殺人を是としないのか、戦いを挟んで向かい合う形で固唾を飲む。

 素人目には、彼らの戦いは互角に見えた。
 精悍な顔立ちの青年は身の丈よりやや長い槍を振るい、鋭く的確な動きで相手に肉薄する。
 その様は見る者に、否が応でも彼が優れた戦士であることを確信させるに十分だった。
 男とも女ともとれる小さな幼子は、己の倍ほどもある長槍を巧みに操り猛攻に対応する。
 宙に浮き空間転移を駆使する立ち回りは、戦場を舞う妖精かなにかと見紛いそうになる。
 確かな技量と経験を武器にする青年とトリッキーな動きで翻弄する幼子の戦いはしばらく膠着状態だった。
 幼子が不意に背後に転移して槍で突けば、恐るべき直感で反応した青年が横薙ぎに払ってそれを防ぐ。
 体勢が崩れたところを狙って青年が石突きで殴れば、柄で受け止めた幼子は吹き飛んで空中に留まる。
 互いに決定打もなく、こうして距離をとって仕切り直すのも何度目だろうか。

「なかなかやる」

 青年が口を開いた。混じり気のない、素直な称賛だった。

「それはどーも。お兄さんも流石、英霊になるだけあるね」

 幼子が返す。口調は軽いものの、真摯な言葉だった。

「だが、それもここまでだ。そろそろ終わりにさせてもらおう」


606 : ◆Mti19lYchg :2018/02/28(水) 23:57:06 7v2J3iKo0
ギリギリですので、投下の予約をしておきます。


607 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/02/28(水) 23:57:46 lrivu6JA0
 瞬間、空気が変わった。
 青年が構える槍を中心に途轍もない魔力が集いつつあるせいだというのは想像に難くない。
 宝具だ、と誰もが悟った。ここで勝負を決める気なのだ。

「ランサー!」

 見かねたマスターの少女が鋭く叫ぶ。無理もない。その渦巻く魔力量は例え魔術に疎い一般人だろうと、アレはもらえば決してただでは済まないと容易に察せられるほどだったからだ。
 少女は魔術師であったから尚更のことだった。いかに自分のサーヴァントが優秀だとしても、アレだけはいけないと幼子のマスター――遠坂凛は本能的に悟っていた。
 だからこそ口を出した。撤退、令呪、言いたいことはいくつかあった。どれを選ぶにしてもとにかく、何かはしなければならないという焦燥に駆られたのかもしれない。
 しかしそんなマスターの焦りを知ってか知らずか、幼子のランサーと言えば凛の方を振り返りもせず片手で制するのみ。
 言葉を飲みこむしかなかった。この従者を完全に信頼しているわけではない。彼、あるいは彼女がどういった存在なのか、どんな切り札を持つのかもまだ凛は知らないのだ。
 それでも負けをよしとしないことだけは、互いに通わせている。その一点においてはこのサーヴァントは信用に足ると、凛は確信していた。
 だから今はまだ動かず、顛末を見守る。自然と握っていた拳に力が入った。

「いいのか?」

「お兄さん、マスターには手を出さないでしょ?真面目そうだからね。なら問題ないさ」

 短い応酬。互いに口の端だけを僅かに吊り上げる。
 次の瞬間、世界が弾けた。


608 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/02/28(水) 23:58:17 lrivu6JA0
 青年のランサーが跳ぶ。異常な程の魔力を内包した槍は夜の太陽めいて河川敷を照らす。
 その先端から迸る紫電が獲物を貫くのを今か今かと待っているようにも見えた。
 幼子のランサーは動かない。構えもせずじっと睥睨して、誘っているかのようだった。

「かの雷神より賜わりし我が槍、その身に受けるのを光栄と思え!」

 真名解放された雷光を纏う槍が、青年の手より放たれる。
 雷鳴が爆ぜて、街灯の恩恵がほとんど受けられない河川敷にパッと一瞬の昼が訪れる。
 その軌道を凛は目で追う事ができなかった。投げる動作と地面に突き刺さるのが同時だったとしか思えない程の速度だった。
 そして標的であった幼子の姿は、最初からいなかったのかのようにかき消えていた。

「ちょっと、嘘でしょ……?」

 思わず言葉を漏らす。河川敷に再び訪れた夜は、凛の心にも深い影を落とした。
 あまりに呆気なかった。あの余裕そうな態度は、不敵な笑みはなんだったというのだろうか。
 実は高速で離脱してどこかに隠れているのかもしれない、なんて希望的観測は最初から捨てていた。
 感じないのだ。サーヴァントとの繋がりである魔力のパスが。
 それこそがあのランサーがもう消滅してしまった事のなによりの証だった。
 身体に力が入らない。すとんと膝から地面に落ちる。ハイソックスが土に汚れるのも気にならなかった。

「拍子抜けだな。何かあると思っていたが」

 音もなく着地していた青年が呟き、投槍した得物を回収しようと歩き出す。
 その後ろの少年がいかにも安心した、といった様子で大きく息を吐く。その全てが、今の凛には毒物に等しかった。
 恥ずかしいやら悔しいやらで、上手く息ができない。やはり無理矢理にでも令呪を使っておくべきだったと、後悔の波が心に押し寄せる。
 目を伏せて、ふと右手が目に入る。ああそうだ、これを使っていれば今頃はきっと――。


609 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/02/28(水) 23:58:51 lrivu6JA0
 違う。なにかおかしい。なぜこれがまだここにある?
 サーヴァントが消えてしまえば、令呪は聖杯に回収されるはずなのに。

「うん、本当に危なかった。当たってたら死んじゃってたよ」

 聞き覚えのある声に思わず顔を上げる。間違いない、凛もよく知るあの子の声だ。
 見回しても姿が見えない。地面に突き立てられている槍に手をかけようとしていた青年のランサーが、やけに驚いた顔をしていた。
 その理由はすぐに分かった。彼の胸、おそらくは心臓の位置から血濡れの穂先が顔を出していたのだから。
 あれではもう助からないだろうと、ぼんやりと思った。相手のマスターがなにか叫んでいるような気がしたが、凛には内容までは耳に入らなかった。

「な、んで……まだ、生きて……!?」

 少しずつ青年の肉体が消えつつある。息は絶え絶えながらも、僅かに首を後ろに向けて誰かに問いかけているのが凛にも聞こえた。
 その相手は青年の身体に隠れてまだ見えない。

「槍を投げてくれたのは助かったよ。あれだと手応えが分からないからね」

 一気に青年のランサーを貫いていた槍が引き抜かれる。胸の虚空から鮮血が噴き出して、身体の消えるペースが速くなる。
 支えるものがなくなってぐらりと倒れたその向こうに、凛は己のサーヴァントの姿を見た。

「だから少しの間だけ、世界の裏側に隠れただけさ」


610 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/02/28(水) 23:59:27 lrivu6JA0


 遠坂凛はこの聖杯戦争について何も知らない。
 冬木で行なわれるはずだった第五次聖杯戦争に参加するつもりが、いつの間にかこの地に招かれていた。
 原因が触媒になりそうなものを探して自宅で見つけた、無記名霊基であるのは明白だった。けれども覚えのない招待状は一方通行だったようで、冬木に帰る手段は目下見当すらついていない。
 いろいろと調べてはみたが、やはり勝ち抜いて聖杯を獲得するという正攻法しか帰り道はないらしい。
 それでも構わない、と凛は考えていた。もともとこのバトルロワイアルに身を投じる覚悟はしていたのだし、なにも遠坂の悲願である聖杯が冬木のものでないといけない訳ではない。
 しかし、だ。ちらりと斜め後ろをついて歩く自分のサーヴァントを見る。

「どうしたの、お姉ちゃん?」

 凛に導かれる形で手を引かれていた子供が、顔を上げて凛の顔を見る。
 否、見るという表現は正確ではないだろう。その双眸は巻かれた包帯によって遮られているのだから。結び目を解けば痛ましく潰れた両目がある事を凛は知っていた。
 それでも布越しに見つめられているような気がして、居心地が悪くなってまた視線を正面に戻す。

「いろいろ言いたい事はあるけれど……そうね、まさかあなたがあそこまで動けるとは思わなかったわ」

 正直なところ、今回のランサーの立ち回りは予想外だった。普段はこうして手を引いてやらなければ小さな段差にさえ気がつかず躓いてしまうというのに。
 だから凛は初め、ランサーが前線に立とうとするのには反対だった。結局はランサーの楽天的な態度に翻弄されて押し切られてしまったのだが。
 あの青年の鋭い刺突が今でも思い出せる。あれは確かに、生前武の道を突き進んだ者の貫禄だった。
 だというのにランサーは視力のハンデを物ともせず、打ち合いだけで見れば互角に渡り合ってみせた。
 そう、まるで見えているかのように。

「見えてるみたいだったでしょ」

 心臓が跳ねた。ランサーの用いる魔術の全容を凛は知らない。まさか読心まで使えるのだろうかと鼓動が速くなる。
 緊張が握っている手から伝わったのか、ランサーが小さく笑った。子供らしい、混じり気のない笑い声だった。


611 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:00:19 pfvOTQj20
「そりゃあ見えないはずの人があんなに動いたらね。でもね、本当になにも見えてなかったよ」

 無言で続きを促す。
 言われてみればそうだと、恥ずかしくなったのを誤魔化したかった。

「ううん、でもなんで言えばいいんだろう。説明しづらいんだよね、ボクの魔術ってさ」

 その通りだとは凛も思う。魔術の系統としては彼女の妹と同じなのだろうが、その練度があまりにも違いすぎた。
 ただでさえ希少な虚数属性である事も、凛がランサーの魔術を理解するのを一層難しいものにしていた。

「えっとさ、ボクって『目が見えないはず』じゃないか。それをちょっと捻じ曲げて『見えている』ように動けるんだ」

 やはりよく分からない。理論はなんとなく理解できるのだが、なにをどうやればその結果に帰結するのかがさっぱりだ。
 思わずため息が漏れる。聞こえていたのかランサーが苦笑いで返した。

「まあいいわ、それよりもあれはなんだったのよ。本気でやられたかと思ったじゃない」

 相手の青年のランサーが放った宝具を回避した、あの時。
 確かに魔力のパスは切れていた。だというのにしばらくしてから姿を現し、またパスが通り始めた。本来ならばあり得ない事だ。
 ランサーもその問いを予想していたのか、少しの間を空けて口を開く。普段の軽そうな調子とは打って変わって、真剣な声色だった。

「ごめんね凛、それは言えないんだ。話せば長くなるし、言ったら多分、もっと大変な事になっちゃう」

 ほんの少しだけ、ランサーの握る力が強くなる。

「だからさ、ボクにはそういう力があるって事で納得してくれないかな」

 もちろんそう長くは使えないんだけど、と一転して戯けたようにランサーが笑う。
 きっとそれは本心だ。凛を気遣っているのだろうとどことなく察せられた。

「仕方ないわね、今はそういう事にしてあげるわ」

 だから、こう言ってやるしかなかった。
 ランサーがありがとうと、珍しく照れ臭そうに呟いたのが聞こえたから、ちょっとだけ勝ったような気になれた。


612 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:00:58 pfvOTQj20
「それでさ、お姉ちゃんはこれからどうするの?」

「どう……って、どういう事よ」

 聞き直してはいるが、本当は意図を理解していた。
 以前問われたのだ。この聖杯戦争の異常性について。

「今日ので分かったでしょ?やっぱり今回はどこかおかしいって」

 その通りだった。凛が知っている聖杯戦争では、クラスの重複などあり得ないはずなのだ。
 だというのに自分のサーヴァントも先程対峙していた相手も、確かにランサーだった。本来では起こり得ない戦いだというのに。
 それに京都で、というのも妙な話だった。それも強制転移のおまけ付きだ。
 確かに今回の聖杯は、もしかしたらどこかおかしいのかもしれない。冬木の聖杯戦争を知るからこそ、凛はそう考えてしまう。

「それでも負ける訳にはいかないの。聖杯に異常があったならその時はその時よ。今は勝つ事を考えるしかないでしょう」

 しかしそうだとしても、凛には前進の二文字しかない。少なくともこんな所で二の足を踏む訳にはいかないのだ。
 冬木だろうと京都だろうと、聖杯であるのには変わらない。
 であれば遠坂の名において目指すしか道はないし、もしその先に恐ろしい何かが待っていたとしたら、それに真っ向から立ち向かえばいい。
 きっぱりと前を向いたまま答えた凛に満足したのか、ランサーが嬉しそうに何度も頷く。その姿は我儘を聞き届けてもらえた子供のようで。

「うん、それでこそだ。だからボクも、精一杯お姉ちゃんの助けになるよ」

 そう笑ってアフリカの唯一神は、瞳に映らないはずの空を見上げる。
 その向こうのどこかに潜む、果てしなくもささやかな悪意を捉えるかのように。


613 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:01:22 pfvOTQj20
【クラス】
ランサー

【真名】
オニャンコポン@アフリカ神話

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

【保有スキル】
神性:EX
 神性適正を持つかどうか。
 創造主にして天空神であるランサーは規格外の神性を有する。

単独顕現:B
 単独で現世に現れるスキル。このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。
 虚数魔術で偽装して得たスキルである。

精霊の主:A
 相対したサーヴァントが所持する、同ランク以下の精霊の恩恵によるスキルを無効化する。
 またランサー及びマスターを対象とした、同ランク以下の精霊の恩恵による宝具の威力を大きく減衰させる。
 自然に住まう精霊を従える者の証。ランサーは全ての精霊を創造したとされる。

虚ろなる智慧:A
 世界の裏側で人類史を見守り続けて得た知識。
 遥か昔の出来事をまるで実際に生きてきたかのように語る。真名の看破に補正が入る。

盲目:A
 視力が完全に存在しない全盲者。本来マイナススキルだが、地形・環境による視覚妨害は一切受けない上、視覚に訴える幻術・魔眼等は一切通用しない。
 キャスターは虚数魔術によって「見えないはずだが見えているかのように振舞う」ことができる。視覚はないが、同レベルの情報を知覚することが可能。
 とはいえ魔力がもったいないので必要に迫られた時でもない限り、視力はない状態。


614 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:02:17 pfvOTQj20
【宝具】
『神は唯一にして偉大なりて(ニャメ・コ・ポン)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 ランサーは至高にして至尊、普遍にして不変、単一にして唯一の存在である。
 それ故に相手のスキルや宝具によるステータス低下は全て無効化され、ランサーの持つ性質は決して他者に捻じ曲げられない。
 ランサーのスキル・宝具は他のサーヴァントに摸倣されることも奪われることもない。
 聖杯戦争の舞台において何者かがランサーの真名や所業を騙ったとき、相手は本能的に「これは嘘だ」と感じるようになる。
 また「ニャメ/オドマンコマ」「男性神/女性神」など自己を構成する概念を任意に選択することができる。

『全て虚しき暗黒郷(オビクァンシ・オビクァンム)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:ー人
 ランサーが使用する虚数魔術の体系。長く虚数世界に身を置いていたランサーのそれは、凡そ人には到底理解も到達もできない域である。
 目に見えぬ不確定をもって事象に干渉することで、本来ならば成し得ない様々な神秘・奇跡を実現させることができる。
 要はあるはずのものを否定し、ないはずのものを肯定する力。魔力とその気さえあれば他者の存在や性質の消去、場にないものの創造までも可能。
 とはいえ物理法則が確定している現代では抑止力に目をつけられかねないため、使うにあたってはかなり自重している。
 本人が善寄りであるせいか他人の概念を弄るようなことはしたがらない。曰く「本当に世界の危機でもない限り本気で使うことはない」とのこと。
 魔力消費の面も鑑みて今回は空間転移、一般人の記憶改竄、浮遊、身体能力の強化などをよく用いて戦う。
 またランサーは虚数世界へ自由に出入りできる。これは霊体化とは異なり、ランサーの存在そのものが虚数世界に移動する。
 まったく別の空間へ転移するようなもので、一時的に世界との繋がりを断つことによってあらゆる固有結界、束縛、追尾から逃れることができる。
 しかしこの間はマスターとのパスも途切れてしまうため長時間の滞在は魔力切れ、さらには契約の強制破棄を引き起こす危険性がある。
 戻ってくるときはある程度座標を指定でき、擬似的な空間転移としても使えるがタイムラグが生じてしまう。
 虚数世界にはかつて歴史の闇に消えていった多くの宝具級の逸品があちこちに点在しているらしいが、ランサーでは真名解放ができない。
 そのため余程武器の相性が悪いときや物量でゴリ押すときくらいでしか新たなものを持ってくることはないだろう。

『御手杵(おてぎね)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-5 最大捕捉:10
 全長約3.8mの大身槍。穂の部分だけで138cmあり、槍としては規格外。
 元はある戦国大名が用いていた、天下三名槍の一角。既に焼失したもので、現在ではいくつかのレプリカや複製が残されている。
 存在するが実在しないという曖昧な在り方のために虚数世界へと落ちてきたところを、ランサーに拾われた。
 曰く由縁が開催地に近そうな槍っぽいものを適当に持ってきたとのこと。
 真名解放によって冷気の結界を展開、氷の刃を生成することが可能。
 しかしランサーは本来の持ち主ではないために真名解放ができない。あくまで普通の槍として用いる。


615 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:03:08 pfvOTQj20
【人物背景】
 現代のガーナ・コートジボワール付近で暮らすアシャンティ人に古くから信仰されている、単一の創造神・天空神。
 その実態はいまだに不明な部分が多く、宗教における位置付けすら曖昧な神である。
 もともとは人々とともに地上で暮らしていたがある老女に杵をぶつけられて以来、遠く離れた場所に去ってしまったという。
 同じく天空神のニャメと同一視、あるいは別名であるとされる。これらを区別する際にはニャメを月の象徴である女性神、オニャンコポンを太陽の象徴である男性神とする。
 またオニャンコポン、ニャメ、オドマンコマの三柱をまとめて扱うこともある。この場合も同一神の別名か、同一神の持つ三種の様相であるのか、完全に別の神であるかといった捉え方がある。
 オニャンコポンは野や森に偏在する、全ての精霊を生み出したとされる。
 精霊の中でも人との関わりを持つようになった精霊はアボソムと呼ばれる。彼らはオニャンコポンの召使いであり、人とオニャンコポンとの間に入る媒介者としての役割を担う。
 それぞれのアボソムには司祭職が存在するが、オニャンコポンのための司祭職は存在しない。これはアシャンティ人にとって、人と神は直接関わりを持てないという考えによる。
 しかし一方でオニャンコポンへのお供え物が司祭職を通さずにできることから分かるように、オニャンコポンは非常に身近な存在としても考えられている。

 近くにもいるし、遠くにもいる。
 男性でもあるし、女性でもある。
 単体にして、複数の存在である。

 このようにオニャンコポンとは矛盾と虚実を孕んだ、ある種最も得体の知れない神なのである。
 これはオニャンコポンが、自身のあらゆる可能性を取捨選択することができたためである。
 つまりは性別だけではなく、オニャンコポンという単一神として振舞うことも、全く区別されたオドマンコマとして存在することも、オニャンコポンのニャメという側面として顕れることも自由自在。
 “ありえる全ての形”を一個の存在としてとることができるオニャンコポンは虚数に対しての親和性が高く、かなりのレベルで虚数魔術を行使できる。
 これを利用して神代の終わりにおいても他の神霊のように世界の裏側に去らず、オニャンコポンだけ虚数世界に移っていた。
 オニャンコポンは今現在に至るまで虚数世界から人々の営みを見守り、時折こちらに現れては恩恵を与えている。姿を消したはずのオニャンコポンを人々が身近に感じていたのは、このためでもある。
 基本的に人間は好き。世界の裏側に去らなかったのも彼らを見放したくなかったから。
 とはいってもよりよい社会にしてやりたいなどといった救済願望はなく、あるがままの人間性を重視している。
 本当ならもっと人類を守ることに積極的になりたいのだが、現代では下手に力を使いすぎると抑止力に目をつけられかねないために歯痒い思いをしている。


616 : 虚ノ月 ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:03:55 pfvOTQj20
 このオニャンコポンは厳密には召喚された英霊ではなく、神代より虚数世界で過ごしていたオニャンコポンそのものである。したがって霊体化ができない。
 虚数魔術によって単独顕現を一時的に得て召喚システムを誤魔化し、擬似的にサーヴァントとして存在している。
 ランサークラスで召喚されたのはオニャンコポン自身が、この世界と虚数世界を穿つ槍であると認識されたためだろうと本人は推測している。
 さすがに手ぶらでランサーというわけにもいかないので、今回はかつて虚数世界に落ちてきた槍を持ちこんできた。
 なぜそこまでしてこの聖杯戦争に参加しようと思ったのか、その理由は今はまだ語ってはくれない。
 霊体化できないので普段は「ビア」と名乗り、凛の父を頼って海外からやってきた家族の娘として振舞う。

【特徴】
 褐色の肌に胸の下まで伸ばした銀髪。両目が潰れており、包帯を巻いて隠している。
 活発そうで中性的な顔つきの子供。霊体化できないので服は適当に現地調達したもの。
 肉体年齢は性別の違いがまだ現れない程度であるが、なぜか両性具有である。

【聖杯にかける願い】
 なし。聖杯戦争の方に興味がある。


【マスター】
遠坂凛@Fate/stay night

【能力・技能】
 魔術師として若さに見合わぬ才能を持つ、五つ全ての属性を兼ね備えたアベレージ・ワン。
 ガンドや宝石魔術など多彩な魔術を行使するだけでなく、兄弟子から教わった八極拳も使いこなす。

【人物背景】
 冬木の管理者である遠坂の継承者。先の第四次聖杯戦争において父を亡くす。
 表面上では容姿端麗、文武両道、才色兼備の優等生であるが、これは何重にも猫をかぶった姿。
 実際の性格を一言で表すなら「あかいあくま」。やるからには徹底的にやるが、完全には冷徹になりきれないお人好しな面も。
 遺伝のせいか詰めが甘く肝心なところで凡ミスを犯す。また重度の機械音痴でもある。
 冬木で召喚の準備をしていたときに無記名霊基を発見、参戦に至る。

【マスターとしての願い】
 聖杯を得て遠坂家としての務めを果たす。
 ただし今回の聖杯には疑念あり。場合によっては破壊も考える。

【方針】
 積極的な主従を優先的に排除しつつ、今回の聖杯戦争について情報収集。できればサーヴァントのみを狙う。


617 : ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:04:47 pfvOTQj20
投下を終了します


618 : ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:06:32 ypuzUsG60
投下します。


619 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:07:22 ypuzUsG60
 寺が多く点在する京都だが、カトリック、プロテスタントの教会も意外と多く建設されている。
 その中の一つ、祭壇の前で跪き首を垂れ、祈る少年がいた。
 静寂の中、身じろぎ一つせず両手を握り、瞼を閉じている。

「何を祈っているのですか、アーチャーさん?」
 少年の背後にいた、髪をツーサイドアップにした少女が静寂を破り、少年――自身のサーヴァントであるアーチャーに話しかけた。
 アーチャーは立ち上がり、少女に向かい合った。
「遥。祈りなど戦場では死の恐怖を薄めさせるくらいしか役に立たないさ。両方が神に祈れば結局は力の強い方が勝つだけだろう。
 僕はこれから始まる戦争を思い、気が昂りすぎていたから、心を静めていただけだ」
 アーチャーは自分のマスターである遠山遥に対し、涼やかな笑顔でそう説明した。
「だがね」
 と、静かな面持ちだったアーチャーの表情が一変。目は鋭く覇気に満ち、唇は歯をむき出しにする。さながら獅子の如く。
「これから古今東西の英傑たちと矛を交えると思うと、実に心躍る。鎮めようとしても無駄な事さ」
 アーチャーは右手を胸の位置まで上げ、強く握りしめた。
「生前から戦い続けても、やっぱり戦争に飽きることは無いんですか?」
 遥が尋ねると、アーチャーは自嘲するように唇を歪め、腰に差した剣を抜き放ち切っ先を向け、そこから覇気を遥に対し放った。
「遥、生前から僕は常にこの剣で戦う事しか、四六時中戦争に勝つことしか頭にない戦狂いだ。統治に才が無ければ興味も無い。
 そんな俺にとって、戦争のみに集中できるこの聖杯戦争は望むところなのさ」
 アーチャーは剣を鞘に納めたが、覇気はいささかも緩めなかった。
 それは生涯を戦に費やした、正に戦鬼の答えであった。

「アーチャーさん。私がこの聖杯戦争で望むのは誰も殺さず、殺されずに聖杯戦争を終わらせる事です」
 遥はそんなアーチャーの覇気を前に、ひるむことなく自らの不殺主義の願いを口にした。
「……愚かしい願いだ」
 アーチャーは、侮蔑を込めてその言葉を一蹴した。
「戦争でどうして人を殺さずに勝利できる? 人を殺さずにどうして他人どころか自分を救えると思えるのだ?」
「人を殺さなくても、人を救い、勝利してきた人を私はたくさん見てきました、それに――」
 遥は一度息を切った。
「このまま戦い続けた場合、誰も勝者がいない『全滅の未来しか見えません』。
 だから、私は殺すことでしか願いが叶わない――そう人を誘惑して互いに殺し合わせる、この聖杯戦争に対して戦います」
「『全滅の未来』。それはお前の予知によるものか?」
 アーチャーは他者からすれば信じがたい台詞を吐き、遥は確信をもって頷いた。


620 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:08:00 ypuzUsG60
 そう、遠山遥は的中率9割を超える本物の予知能力者である。

 未来視と呼ばれる異能者が実在する事は、アーチャーも時空を超えた知識から与えられている。
 だからこそ、真実か確かめるため、召喚されて事実を明かされた時、服を浅く切りつけるつもりで抜き付けた。
 だが、遥は斬撃の軌道から事前に逃れていた。
 続いてアーチャーは肩口を皮膚だけ傷つけるつもりで突きを放った。
 次も遥はわずかに身を引いだだけで、切っ先を届かなくさせた。
 最後にアーチャーは全力で真っ向からの唐竹割り。ただし寸止めのつもりである。
 今度は遥は動かなかった。正にアーチャーが剣を止めると分かっていた、そう信じた瞳だった。
 これでアーチャーも、遥の予知能力が本物だと信じざるを得なくなった。

 数刻の静寂。先に口を開いたのはアーチャーだった。
「お前の願いは愚かしい、だが私を前にしてそれだけの台詞を吐く勇気は買おう。
 だが、状況が千変万外する戦争では、流れ矢で人が死ぬなど茶飯事だ。ことに私の宝具ならばその可能性は大だ」
「確かにそうかもしれません」
 遥はアーチャーより、所持する三種の宝具の具体的内容を説明されていた。
 その内の第一宝具は、対軍宝具の上、爆発により無辜の人々が巻き込まれる可能性はかなり大きい。 
「でも、犠牲者を限りなく少なくする方法はあります」
 例えば遥がマスターとサーヴァントが離れて行動する、またはマスターが孤立する状況を予知。
 アーチャーの第一宝具をマスターの位置にセットし、爆殺する。
 それを繰り返して最終的な勝者になる方が結果的に犠牲者は少なくなるかもしれない。
「だけど、貴方はそんな勝ち方を望まないでしょう?」
 遥のその問いに、アーチャーは頭を手で押さえ、優雅といえる態度で笑い出した。
「フフフ……ハッハッハッ! そう、その通りだ! 謀略奇襲大いに結構! だが結果として勝利を得ればいいというものじゃない!
 僕はサーヴァントと戦い、勝利したいのだ!」

「騎士として誓ってください。私が指示した場合は殺害をしない、と」
「それだけでいいのか? 令呪で強制しないのか? 僕はその場しのぎで誓うと言い、実際は契約など無視するかもしれないぞ?」
「あなたは騎士としての誓いは決して破りません」
 遥は間髪入れずに答えた。


621 : ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:09:53 pfvOTQj20
投下を終了します


622 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:10:25 ypuzUsG60
 アーチャーは、一瞬驚いた様に遥をまじまじと見つめ、親指を下顎に当てくつくつと笑い出した。
「成程。予知能力者に嘘は通じないか」
 そう呟いたアーチャーは笑顔から一転、生真面目な顔を作り遥に問いただした。
「……遥。お前に戦を教えたのは何者だ?」
「え?」
「とぼけるな、俺を前にこの肝の据わり様。僕がお前と同じ13歳の時でさえ、これだけの受け答えができたかどうか。
 お前、どこかで実戦を経験しているな?」
 アーチャーの問いに遥は答えた。剣の達人で、凶暴で、自称一般社会不適合者と公言してはばからない変人、そして偏狭ながら苛烈な正義感の持ち主である『彼』、土方護の事を。
 そして彼と共に歩み、戦いを教わり、見届けた日々を。
「中々興味深いな、そのサムライは。しかしお前に予知能力があり、サムライに指導者の才があったとしてもそう簡単に実戦の心構えが理解できる訳ないだろう。
 最低でもお前がそいつを全面的に信頼する必要があるはずだ。何がお前をそうさせた?」
「それは…………その人は、私の未来の旦那様なんです」
「…………はあ? 何? それもお前の予知によるものなのか?」
「……はい」
 遥は顔を真っ赤にして答えた。


623 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:14:28 ypuzUsG60
「……私は、以前自分の予知から逃げた事があります。もしかしたら助けられたかもしれないのに」
 遥は俯き、目尻に涙を浮かべて話し始めた。
 その未来は自分の両親が殺害される未来。自分の家に戻った時、囚われていた二人が遥の目の前で殺される。
 それを見た遥は、家から離れようとしたが、結局捕まってしまった。
「私はもう逃げたくない。やれることがあるのなら、その手段があるなら未来に向かって戦います。
 何より護さんに負けないために、私の未来を覆せる護さんに釣り合うためにも、私が諦めたままでいる事なんてできないんです」
 正面からアーチャーの瞳を見つめた遥の答えに対し、アーチャーは一瞬呆けたような顔をしたが、胸を反り、教会に響き渡るほど高笑いをした。
「面白い、面白いぞ遥! お前の戦に対する非現実な望みが、真坂婚姻などに繋がるとは! そいつは俺と違った意味でいかれてるぞ!
 私も妻とは恋愛の末、結婚した! 恋愛は男女の真剣勝負と思えば、これもまた一つの戦の形といえるかもな!
 良いだろう! お前がどこまで不殺などという主義を保ち続けられるか、共に戦う事で見届けてやる!」
 アーチャーは両手を広げ、優美華麗にして熱意気迫に満ちた表情を遥に見せつけた。
 遥はアーチャーが笑う姿を前にして、全身がまるで針が混ざった強烈な風で叩き付けられたかのような、痺れる感触を味わっていた。
 これが闘気というものだろうか。武術の小手先程度をつまんだ遥でも、はっきりと感じ取れる程の圧迫感がアーチャーより発せられている。
「それは私の不殺主義に従ってくれるという事ですか?」
「ああ。だがな、サーヴァントはこの世の影法師。ゆえにお前の不殺の誓いとは別と考えてもらおう。しかしマスターはお前の指示に従い、よほどのことが無ければ殺さないさ」
「有難うございます。私のわがままを聞いて頂いて」
「ふん、わがままなど、およそマスターらしくない台詞だ」
 この当りが限界かもしれない。遥は内心でほっと一息ついた。
 なぜ、長々と自分の事情まで説明して意思疎通を図ったか。それは遥が見た未来による。
 令呪を使って強引に命令したとしたら、どこかで指示を無視し勝手な行動にでる。即座にではなくても、いずれ価値観の違いが相互不信を生み、やはり殺戮に走る。そんな未来が見えた。
 だからこそ、戦争が始まる前に説得で、遥の主義をある程度理解してもらい、歩み寄ってもらう必要があったのだ。


624 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:14:58 ypuzUsG60
「では、行きましょう。この聖杯戦争に戦いを挑むために」
 教会の出口に向かう遥に対し、アーチャーは「待て」と呼び止めた。
「戦争を始める前に、お前に一つサーヴァントとして望みがある。そんな他人行儀な態度を止めて、私の主君として振る舞え。
 所詮我が身はサーヴァント。マスターの盾となり、剣となるものだ。俺を従えるからには、それなりの器量を示してもらわなければな」
 遥は振り向いてアーチャーを見返し、深く一呼吸して精彩に富み、かつ緊張感が入り混じった表情を作り、アーチャーに掌を向けた。
「……では命じます。アーチャー、私の願い、全員が生き残るという勝利を叶えるために戦ってください」
 その声でアーチャーは穏やかな笑みを浮かべ頷き、片膝をついて首を垂れた。
「Yes,Your Majesty. 我が君、遠山遥よ。エドワード・オブ・ウッドストックの名に誓い、貴方に勝利を捧げよう」

 エドワード・オブ・ウッドストック。後世の通称は『エドワード黒太子』。
 イングランドとフランスの『百年戦争』の発端を作ったエドワード三世の嫡子にして、敵国の王を捕虜にするなど幾多もの功績を上げた戦争の天才。
 騎士や騎士道が形骸化しかけた時代で『騎士道精神の体現者』と称えられながらも、虐殺に手を染め、占領地で放蕩生活を続けた男。
 その本性は戦争と決闘と勝利のみを追い求めた『戦鬼』。
 
 二人をステンドグラスを通した光が照らす。
 まるでいつか遥が予知で見た、結婚式の風景の様に。

 これもまた別の形の『死が二人を分かつまで』の誓いであった。


625 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:15:22 ypuzUsG60
【CLASS】
 アーチャー

【真名】
 エドワード・オブ・ウッドストック(エドワード黒太子)

【出典】
 史実

【マスター】
 遠山遥

【性別】
 男性

【身長・体重】
 176cm・65kg

【属性】
 秩序・悪

【ステータス】
 筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具B

【クラス別能力】
 対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

 単独行動:A
 マスター不在でも行動できる。
 ただし、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合は、マスターのバックアップが必要。

【固有スキル】
 カリスマ:C-
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 一軍の将として、また一国の王子としては十分以上の器量と言えるが、その苛烈な振る舞いは、時に他者からの過剰な敵意を招く事になる。

 軍略:C+
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
 手段を択ばぬ奇襲攻撃や無慈悲な殲滅戦に優れる。

 プリンス・オブ・ウェールズの羽根:EX
 現代まで受け継がれているウェールズの象徴。その原型。
 『私は仕える(Ich dien)』のモットーにより、マスターの命に従う限り、通常以上に増幅された魔力が供給される。
 また、マスターの元で『Ich dien』の宣言をし、身を改めて仕えるという儀式を行う事で、状態を初期化してデバフ、状態異常や契約、魔術、呪いを解除する。


626 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:15:50 ypuzUsG60
【宝具】
『覇道を進む平和の紋章(アージェント・フェザーズ)』
 ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
 普段はロングソードの形をとり、柄頭に『黒太子のルビー』と呼ばれるスピネルが填め込まれている。
 真名解放により柄は腕輪に、刀身は300枚の銀の羽に変化し宙に舞い、号令により砲弾の如く敵に襲い掛かり、意図したタイミングで爆破可能。
 自在に操作できるため、ある地点に這う様に設置して罠としても活用できる。
 羽一枚一枚の爆発は戦車砲並の破壊力を持ち、さらにこの爆破は『不壊』の概念が込められている『黒太子のルビー』の効果により、羽が破壊されず連発できる『壊れた幻想』。
 そのため威力に対し、使用する魔力は全ての羽を含めても宝具Eランク相当と驚くほど少ない。
 また、応用として剣の状態のまま、斬撃が命中した瞬間に爆破したり、振り抜いた時、爆風を扇状に広げ敵陣を蹂躙する事も可能。疑似的な魔力放出といえる。
 クレシーの戦いで大砲をヨーロッパの戦争では初めて野戦に使用、ポワティエの戦いで長弓兵を巧みに用いて勝利した史実と、彼が所有した『黒太子のルビー』。
 そして彼の紋章『平和のシールド』が融合した宝具。

『思い邪なる者に災いあれ(オーダー・オブ・ガーター)』
 ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:1〜20 最大補足:50人
 『黒太子』の異名の由来になった、その身に纏う黒い鎧。
 自身に向けられた“敵意”“悪意”を吸収して己の魔力に変換する。
 殺意や憎悪、果ては呪詛や怨念に至るまで、レンジ内におけるセイバーに対する“悪意”は等しくセイバーの糧となる。
 結果として精神干渉への防御ともなっている。ただし『友好』『誘惑』といった“好意”に対しては無効。
 更に真名開放と共に鎧とセットになる『戦いの盾(シールド・オブ・ウォー)』が出現し、彼が指揮できるガーター騎士団13名の加護により狂化:A並のステータスアップが為される。

『王を射抜く平和の紋章(シールド・フォー・ピース)』
 ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:3人
 『覇道を進む平和の紋章』で変化した羽を、巨大な3枚の羽に集合形成し電磁投射砲のごとき勢いで放つ奥の手。
 補足人数は減ったが羽が密集、融合している分破壊力、爆破の威力は桁外れに向上している。
 さらに、対王特攻効果あり。
 
【Weapon】
 無銘・騎乗槍(ランス)
『覇道を進む平和の紋章』
『思い邪なる者に災いあれ』

【特徴】
 金髪碧眼の美形で中背の少年。目の鋭さと瞳に込められた熱が旺盛な生命力を主張している。
 長ズボンに革靴、白いシャツの様な上着に黒いマントを羽織っている。腰には宝具を佩いている。


627 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:16:10 ypuzUsG60
【解説】
 百年戦争の発端を作ったイングランド王、エドワード三世の嫡子『プリンス・オブ・ウェールズ』。
 黒い鎧を身に付けていたことから、通称エドワード黒太子と呼ばれる。
 16歳で初陣を飾り、クレシーの戦いやポワティエの戦いを始めとした、百年戦争前期における主要な戦争殆どに参加し、その全てで勝利した戦争の天才。
 ポワティエの戦いでは捕虜にしたフランス王ジャン2世に対し、臣従の礼をもって遇したことから『中世騎士の鑑』とも言われる。
 その一方でリモージュ包囲戦での民間人虐殺や占領地での放蕩生活など無慈悲な一面も多々あった。
 最後はスペイン遠征の際に黒死病に罹患し、帰国するも父王よりも早く逝去。享年45歳。
 
 騎士道に基づき騎士として振る舞う事を旨とするが、必要とあらば虐殺も躊躇わず、戦場では神の祈りや騎士道など利用できなければ意味がないと嘲笑う。
 戦争では勝利に執着し、奇襲や謀略も用いるが結果としての勝利ではなく、戦いでの勝利にこだわる。
 合理的な現実主義者でありながら観念主義者であるという矛盾した性格の持ち主。その矛盾は自嘲という形で現れる。

 今回の聖杯戦争では、マスターとの相性により16歳の初陣当時の姿で現界した。
 その影響で壮年期の記憶に実感が薄く、一人称が「僕」「俺」「私」とその場の流れで変わる。

 かなり低燃費のサーヴァントで、魔力供給は一般人の遥でも問題は無い。
 三度の飯より戦好きであるが、それはそれ。パーティーや旨い料理、酒も大好き。金銭感覚は禁治産者レベル。享楽的で魔力より金がかかるタイプである。
 流石に戦争中には料理など関係なく、敵と戦う事に高揚を覚え、勝利に最大の価値を見出す戦鬼である。

【サーヴァントとしての願い】
 『聖杯戦争』で望むのは、闘争と勝利。
 『聖杯』に望むのは、アーサー王、ジャンヌ・ダルクと互いに軍を率いての戦争。


628 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:16:28 ypuzUsG60
【マスター】
 遠山遥@死が二人を分かつまで

【能力・技能】
 予知能力
 的中率9割を超える本物の予知能力。
 正確には高度な予測能力と呼ぶべきで、同程度の可能性なら複数の未来が見えるし、外れる事もある。
 特にサーヴァントの様な超人相手だと、遥の感覚では生存可能性を取り合い瞬時の判断で予知を覆す行動を起こすため、刻々と目まぐるしく未来が変化し、精度も下がる。
 また、遥の視覚に影響されるので、透明人間など遥に見えない相手だと予知が狂う。
 トレッキング
 数か月山歩きをしていたので、意外と足が速くスタミナもある。
 身のあたり
 武術の師匠から唯一教わった肩からの当身。まともに当たれば大人一人弾き飛ばす威力がある。
 指揮能力
 予知能力を用いて、適切な場所に適切なタイミングで適切な戦力を投入できる。
【人物背景】
 平凡な両親から何の因果か、超能力をその身に宿してしまった少女。
 幼い頃から自分の予知能力を自覚しており、交通事故を防いだり、高額の宝くじを連続で当てたりしていた。
 そんな彼女が常に見えるのは、血まみれで刀を持った男の姿。
 始めは恐怖で目をそらしていたが、だんだんと目が慣れてゆくと、その男は誰かを守ろうとしている事が分かってきた。
 
 予知能力という簡単に大金を産み出し、あわよくば世界情勢まで動かせる能力を持つ彼女を表社会の企業や裏社会の連中がほおっておくわけが無く、とある帰宅途中、両親が殺害される未来を予知し、途中で引き返そうとするがヤクザ連中にさらわれてしまう。
 だが、一瞬のスキを突き、予知で見た男に助けを求める。
 その男は土方護。予知で誰かを守ろうとしていた剣士。遠い未来の僅かな可能性、大人になった自分と、教会で結婚式を挙げる姿を見た将来の伴侶。
 二人合わせて6億ドルという莫大な賞金を懸けられると予知していても、世界中の傭兵、軍人、賞金稼ぎから護しか自分を守れないと確信し、彼と「死が二人を分かつまで」の契約を結び、互いに立ち向かうようになる。
 
 性格は周りが自分を保護する大人連中の為、おとなしく振る舞っているが本来はかなりお転婆で、こうと決めたら頑として貫く意志の強さがある。
 戦いの途中では予知が狂い、覆されるとパニックに陥り、自己嫌悪に陥る事もしばしばだったが、戦場での経験や傭兵、超人達の影響で状況から目をそらさず強く自分の意志を表に出すようになった。
 犯罪被害者を母体としたヴィジランテグループ「エレメンツ・ネットワーク」に正式に所属してからは、予知能力を生かし指揮官の才を開花させつつある。
 この遥は最終回後、護が数年後結婚を申し出てくるまでの間である。

【ロール】
 東京の親元から離れ、転校してきた一人暮らしの高校生。
 億単位の貯金がある。

【マスターとしての願い】
 誰も殺さず、殺されずに聖杯戦争を終わらせる。
 そして、何より元の世界に戻る。


629 : 契約期間は『死が二人を分かつまで』 ◆Mti19lYchg :2018/03/01(木) 00:16:48 ypuzUsG60
以上、投下終了です。
設定の大部分はみんなでつくるサーヴァントのwikiを参考にさせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
◆jpyJgxV.6A様においては途中で割り込んでしまって申し訳ありませんでした。


630 : ◆jpyJgxV.6A :2018/03/01(木) 00:18:01 pfvOTQj20
こちらこそ投下中の連投失礼致しました


631 : ◆FROrt..nPQ :2018/03/01(木) 00:22:39 yKhyzFBo0
皆様、たくさんのご投下本当にありがとうございました!
これにて当企画のコンペは終了となります。
OPの投下は三週間〜一ヶ月後程度になる予定です。
やや長いなあと自分でも思いますが、気長にお待ちいただければと思います。
また、候補作への感想はOP投下後一気に投稿させていただこうと思います。

最後にもう一度、ご協力ありがとうございました!


632 : 名無しさん :2018/04/05(木) 16:03:54 NTMeLZ..0
そろそろかな?


633 : 名無しさん :2018/10/08(月) 21:18:46 ILsIoFU20
半年以上経過age

誰か再利用しない?


634 : 名無しさん :2018/10/09(火) 14:37:23 El3mNfFM0
確かにちょっともったいないね


635 : 名無しさん :2018/10/09(火) 17:16:01 bI5sHTJs0
となると主催とルーラー新たに設定し直して
という事になるのか?


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