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Fate/Malignant neoplasm 聖杯幻想

1 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 18:56:36 Zelg52/U0





「もし美と正義の世界が現実に存在するものなら、それはまさしく童話の世界でなければならない」





【wiki ttp://www65.atwiki.jp/holycon/pages/1.html】


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2 : The First Song ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 18:57:22 Zelg52/U0

 昭和五十五年、冬木――
 学生運動の熱気がある程度過ぎ去り、都市には平和の香りが漂う。 
 売り子の配布している新商品の缶コーヒーを受け取り、喉奥へ甘苦い液体を流し込んだ。
 
『先月、清水谷公園にて行われました学生共同闘争主宰の学生集会に対して、政府は七十年代の悲劇を繰り返すまいと警戒を強め――』

 電気屋の店先でテレビが吐き出すそんなニュースに、思わず足が止まる。
 辿った歴史の細部は違えども、それで大筋が大きく逸れるということはどうやらないらしい。
 
「……細部、か」

 神化ならぬ、昭和の時代。
 この世界を生きているのは、人間だけだ。
 摩訶不思議な力は持たない、そんなもの信じもしない。
 この世界は、大人だった。超人も怪獣も、その存在を知っている人間すらいない。
 彼らの存在が許されるのは、大衆好みに脚色されたフィクションの世界のみ。
 それが此処での普遍の常識であり、変わることのないルール。

 顎を引き、季節外れの赤いマフラーに鼻先までを埋める。

 息苦しい世界だった。
 この平和は、男には耐えられない孤独だった。
 此処には、守るべき彼らがいない。
 袂を分かった彼女達など、居る筈もない。

「……お前は、獲るつもりなんだな」
「そう決めた。そう言うお前は、やはり抗うつもりなのか」

 特撮の世界から抜け出してきたような、赤いマフラーの青年。
 その隣に並んで歩いていた金髪の男も、彼も、人間ではなかった。
 彼らは子供の世界から来た存在。まだ大人になれない、正義の迷い子だ。
 ……金髪の彼が、白服の袖を捲る。露わになった右の腕には、生々しい赤色の刻印があった。

「……俺は、聖杯を破壊する。それが、今の俺の『正義』だ」
「なら、お前とはこれまでだ。そのいけ好かない面をこれ以上見なくて済むと思うとせいせいする」

 聖杯伝説。
 それ自体は、神化の世界でも広く知られたものだった。
 キリスト教の高位聖遺物として、或いは騎士道文学の王道として。
 宗教的意味の如何はさておき、聖杯というワードに共通しているのは、それが途方もない奇跡の力を秘めているということ。
 彼らは今、そんな杯のことを『願望器』と呼称していた。
 手にした者の願いを叶える、神秘の消えた世界に残った最後の奇跡。
 そして、遠からぬ未来。
 その奇跡を巡り、この冬木市は大きな戦争の舞台となることが確定している。


3 : The First Song ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 18:58:28 Zelg52/U0

「目を覚ませ! 聖杯戦争が始まれば、大勢が敗北者として死ぬことになる!
 お前がそうならないという保証もない! それに、あの聖杯は――」
「くどいッ! 俺が勝ち、聖杯を手に入れ正義を成す! 命を懸ける気概もないのなら、大人しくあの世界に帰れ!!」

 肩を震わせ、金髪――『鋼鉄探偵』は、元来た道を逆方向に歩き出す。
 それを、マフラーの青年――『逃亡者』は、止めはしなかった。
 今の自分では止められないだろうと、分かっていたがための行動だった。
 しかし、彼は最後に口を開く。今生の別れとなるかもしれない相手に、最後の忠告をする。

「……俺は聖杯とやらが、高尚な代物だとはとても思えない。
 聖杯戦争なんて物騒な儀式を挟まなきゃ奇跡を起こせないような願望器に、お前の言う正義を成せるとは思えないんだ」
「何が言いたい」
「根拠はない。だが、悪意を感じるんだ――この街には」

 言って彼は顔を上げ、どこまでも広がっているように見える蒼い空を睨む。
 この世界が、この冬木という街が平和だということに異論はない。
 だがその平和はもうじき、崩れ去ろうとしている。
 聖杯戦争という、正義とは無縁の悪意に満ちた戦いによって。

「俺達の知らない何かが……病巣のような悪が、あの願望器の裏に居る。
 俺の妄想と切り捨てられればそれまでだ。でも俺は、そう思わずにいられない」

 鋼鉄探偵は、もう振り返らない。
 かつて柴来人という名前だった正義のサイボーグは、既に死んだ。
 今の彼は、街を業火で焼き尽くす怪獣すら超えた、英霊同士の大戦争に加担する欲望の徒でしかなかった。
 ……その足が、最後に一度だけ止まった。

「貴様の言う通り、聖杯が悪だとしようか。それでも、その奇跡は本物だ」
「………」
「ならばそれでいいだろう、人吉璽朗。
 奇跡を渡さないとほざく悪が居るのなら――捻じ伏せてやるまでのこと」

 会話は、それまでだった。
 びゅうと吹き抜けるビル風が、一人になった男の鼓膜を打つ。
 青い正義を、嘲笑っているようであった。


4 : The First Song ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 18:59:30 Zelg52/U0



 聖杯戦争という形式の発祥は、とある世界の極東であったというのが一般的な定説である。
 世界を二分する大戦が起こる百年以上も前にそれらしきものが行われたのが記録上の最初。
 それから第二、第三と聖杯戦争は積み重ねられていき、世界線によっては全く別な地での戦争も確認された。
 万能の魔術礼装を謳う聖杯が、まさか路傍の屑籠に打ち捨てられているというような事態はありえない。
 聖杯戦争が起こるためには数々の要素と環境、そして人の手による厳密な監督が必要不可欠だ。
 しかしながら、聖杯戦争という趣向自体は決して物珍しいものではなくなりつつある、というのも確かな話。
 
 百匹目の猿という現象がかつて提唱された。
 提唱されたとはいってもこの現象については既に非実在が確認されており、疑似科学とされているのだが、例としては最も分かりやすい為、この場ではこれを用いる。
 一頭の猿が芋を洗って食べるようになった。すると同行動を取る猿の数が徐々に増えていった。
 やがて芋を洗う猿の数が百匹の閾値を超えた頃に、全く接触のない遠地の猿にも同じ習性が見られ始めたという。

 聖杯戦争というよく出来た趣向の拡大は、まさにこの現象に近いものがあった。
 最初は無数に別れた世界線のたった一つで確認されただけの筈の儀式が、他複数の世界でも点々と確認されるようになっていった。そしてその数は、現在も時間の経過と共に異常なペースで増大しつつある。
 さも聖杯戦争という発想、知識が、世界の垣根をも飛び越す電波に乗って他の天地に〝感染〟していくかのように。

 これは実に、興味深い現象であるといえるだろう。
 問題はそれを観測する術を持つ者が、全ての世界を総括しても両手の指の数に届くかさえ定かではないことか。

 生を終えてなお黄泉路へ着くことなく、世界の外側に弾き出された一人が、ある日その興味深い事実に気付いた。
 肉体を持たない観測者には感情を表現する顔というものが欠けていた。
 だがもしも彼の者に表情筋が与えられていたなら、満面の笑みでもってこの発見を祝福したに違いない。

 観測者という存在は、世界に選ばれた人間が死後に辿り着く境地である。
 我欲を持たない意識だけの存在になって、永久に世と人の行く末を見守り続ける、意義不明の概念生命体。
 原罪に塗れた人の器より解き放たれた彼らは、言ってしまえば搾り滓だ。
 人間界で滲ませた脂を全て拭き取られた上で無菌の宇宙に放逐されるのだから、自我などロクに残るわけがない。
 しかし彼の者には、観測者に共通した空虚性が一切見られなかった。
 それどころかいつだって新鮮な感情を発露させ、上等な物語を読む読者のように世界に没頭していた。

 問題は、その感情の性質だ。

 彼の者は、凝り固まった悪意の化身であった。
 人の嘆き、挫折、苦悩、疑心、苦しみ抜いた末に辿り着く〝絶望〟の境地を溺愛する。
 そんな生命にとって、聖杯戦争というシステムはまさに打って付けの新しい玩具だ。
 
 それから彼の者が具体的に何をしたのかの記録は、残されていない。
 確かに一つ言えることは、彼の者は観測者であり、観測者ではなくなったのだということ。
 生きているのとも死んでいるのとも違う、宙ぶらりんの状態に入って一つの世界に再誕したのだ、彼の者は。


5 : The First Song ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:00:15 Zelg52/U0

 彼の者は願えば、剣士になれる。

 彼の者は望めば、弓兵になれる。

 彼の者は妬めば、槍兵になれる。

 彼の者は呼べば、騎兵になれる。

 彼の者は叫べば、魔女になれる。

 彼の者は呟けば、兇手になれる。

 彼の者は演ぜば、狂霊になれる。

 彼の者が声を張り上げれば、それだけで裁定者だ。

 彼の者が青筋を浮かべれば、復讐者にだってなり得る。

 彼の者が嘯いたなら、その時点で彼の者は救済者なのだ。

 彼の者が怒ったなら、それは獣と呼ぶべきだろう。

 異形の魂は何にでもなる。
 聖杯戦争をするためだけに急造された世界に足を踏み入れた者達にとっても、同じことだ。

 満たされない願いを抱えるならば、主催者たる彼の者は救世主。
 平穏を聖杯戦争によって脅かされたならば、黒幕たる彼の者は悪意の獣に等しい。

 万人にとっての都合よい干渉者として、触覚を遣わし嘲笑うそれを。


 ――かつて人は【       】と、呼んだ。


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6 : The First Song ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:01:39 Zelg52/U0
「これが、聖杯か」

 廃墟と化したその地。
 かつて人体だったものが流した血と、それが散らした肉片で汚れた床面に、その引き金を引いた男が一歩を踏み入れる。
 清潔な無菌室の内部には、噎せ返るような死臭が充満していた。
 そのことに毛ほども頓着せず、男は清々しそうに空気を吸い、部屋の中央で眠る『それ』へと歩を進めた。

 不思議な魅力を持つ男だった。

 無造作に伸びた黒髪と顎一面を覆うような黒髭が、どういうわけか一切の不潔感というものを感じさせない。
 世界の最高機密と云っても過言ではない施設には似つかわしくない軽装で、首には髑髏の連なった見るからに不吉な首飾りを提げている。
 その瞳は深淵を思わせるように昏く、底のない淀みが蜷局を巻いているように錯覚させる。

 残忍な死刑囚が小便を漏らして逃げ出すような、桁の違う禍々しさを背負った男。
 悪意というものについて知識が深ければ深いほど、彼の異質さは際立って見えたことだろう。
 何よりの皮肉は、そんな男の風貌が、世界中で信仰されている伝説の救世主のそれにどことなく似ていることであった。
 そしてその周りでは、救世主の付き人には似つかない表情をした、白と黒のコミカルなマスコットが赤く染まった爪を剥き出している。

 いや、或いは……平凡たる世の営みからあぶれたはぐれ者にとって、彼はまさしく、救世主と呼ぶに相応しい存在であったのかもしれない。

 彼は人類が築いてきた文明そのものに感染する、人の形をした業病(Sick)だ。
 生まれながらにして地上全ての悪に匹敵する悪意を抱えていた、魔人じみた人間。
 超人、怪獣、そんな区分すら無意味に思えるような一個の完成形。
 彼はその手を、寝息を立てる願望器にそっと添える。
 点滴を抜き、それが目覚めないように注意しながら、小さな身体を腕に抱く。

「共に行こう、魔女のお嬢さん。
 目覚めの時はまだ遠い。だが君の瞼が次に開く時は、君の願いが叶う時だ」

 無垢な少女を抱いて、冒涜の言葉を囁く。
 眠れる魔女は、こうして病に堕ちる。
 幼く脆く、故に残酷だった魔女はもういない。
 彼女の目覚めは、起きてはならぬ奇跡。
 黄金の杯のような輝きを伴わずして願いを叶える、最新型の願望器。
 魔法の域を飛び越した、至高の宝具に彼女は生まれ変わるのだ。

「君は、ただの人間ではない。
 まして、封じられるべき王冠などでもない。
 君はサーヴァントであり、既存の聖遺物全てを凌駕する――『聖杯』さ」

 この世界に生きる限り、少女はあくまで人間だ。
 因果律を崩壊させ、世界の再創造すらも可能とする、制御不能のブラックボックス。
 それでも心臓一つの人間一人。それが覆ることはない。
 ただしそれは、あくまでもこの世界の中の話。
 
「往こう、絶望の海に。
 私は君に、世界を教えよう。
 世界に満ち満ちた悪意の尊さをもって、君に奇跡を教えよう。
 ホーリーグレイル。君のクラスは、ホーリーグレイルとしておこう。
 君の存在は、私と彼女の最大の【希望】だ」

 安らぎに満ちた顔で、男は笑う。
 嗤う。
 嘲笑う。
 ――微笑う。

 少女が目覚めることはない。
 来る時、二十三の魂が集うまで。
 悪意の渦を踏破した、最後の魂がその前に立つまでは。
 小さき魔女はまだ、眠り続ける。
 世界の命運を左右する脳髄で、楽しげな夢を見ながら。
 聖杯英霊は時を待つ。

 無垢なる奇跡は未だドリームランド。
 彼女の目覚める時、全ては終わりを迎えるだろう。
 そう、全てだ。一つとして、例外はない。
 母なる絶望と父なる悪意に培養された黒き聖杯――【希望】が、その目で世界を見た時。

 奇跡は起きる。魔法が始まる。地球最大にして最後の、大いなる奇跡が。


7 : The First Song ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:02:14 Zelg52/U0







 そして――――【悪意】という腫瘍を抱えた昭和時代が、いびつに歪んだ自転を開始する――――






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8 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:03:18 Zelg52/U0
◆はじめに
当スレッドは、
・自分が他所のコンペに投下しようと思っていたものの投下できなかった作品
・投下したはいいものの企画が存続せず事実上のお蔵入りになってしまった作品
・思い付いたのにそのコンペが終わってしまっていた作品
などを集めて自己供養する聖杯戦争スレになります。
 
◆コンペルール
・必ずトリップを付けての投下をお願いします。
・公式でない二次創作企画・二次創作作品からの出展はお断りいたします。
・特に既存のパロロワ・聖杯企画からの出展は、題材の一次・二次を問わずお断りさせていただきます。要らないトラブルのもとですので。
・作品の盗作などが確認された場合、その作者の作品は無条件で全て破棄扱いとさせていただきます。盗作は書き手の人格が疑われる行為です。そういった行為は絶対におやめください
 
・コンペ期限はとりあえず来月上旬くらいまでを予定しています。
・採用主従数は20主従+フリースレより4主従になります。この数はもしかしたら増減するかもしれません。
・自作の供養の意味も込めた企画ですので、ある程度私の自作の採用率が多くなるかと思いますが、ご了承下さい

>>1の知らない作品からの出展だからと云って、それで落とすというようなことはありません。
ただしどうしても気になるという方は、この作品知ってる? とお気軽に聞いてくださればと思います。

◆当聖杯ローカルルール
・英霊に参戦時期を設定可能です。
・舞台は昭和五十五年、冬木市です。
・参加者には基本、舞台になる世界での役割ロールを与えられますが、展開上不都合があれば別になくても大丈夫です。
・エクストラクラスの投下も大歓迎ですが、ルーラーのサーヴァントだけはもう決まっているので、投下しない方がいいと思います。
・ズガンは名有りキャラでなければご自由にどうぞ。


9 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:04:14 Zelg52/U0


※早速訂正です。

・コンペ期限はとりあえず来月上旬くらいまでを予定しています。

・コンペ期限はとりあえず来月下旬くらいまでを予定しています。


10 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:05:15 Zelg52/U0
では早速、短いですが候補作を一つ投下します。


11 : SCP-020-jp&セイバー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:06:44 Zelg52/U0
「――問おう。汝が、余のマスターか?」

 人の滅多に寄り付かないであろう森の中でそう問うのは、その鬱蒼とした空気とはまるで似合わない美少年だった。
 燃えるような赭色の頭髪を後ろで結い、戦装束に身を包んでいるのに、不思議とそこには野蛮さというものがない。
 凛々しさと美しさを同居させた出で立ちは人間離れしていると言って差し支えなく、気高い光を湛えた瞳は綺羅星のように眩い。
 何より極めつけに、彼は帯刀していた。一口に帯刀といっても、決してそこら中にありふれた、鈍らじみた乱造品ではない。
 魔王を討つために、彼が生まれた時から身に付けていた、不滅の刃。魔性を滅ぼし、羅刹王をさえ屈服させた正真正銘の神秘だ。

 セイバーのサーヴァントとして召喚されたその少年は、しかし自分のマスターらしき少女を見含めると、僅かにその目を細めた。
 少女の体には、腕というものがなかった。細くしなやかな両腕の代わりに、鳥類のそれを思わせる大きな翼が生えている。
 単なる奇形では、こうはならない。何らかの特殊な処置を施されてでもいない限りは、神秘の枯渇した現代に彼女のような存在は生まれ得ないだろう。

 少女の瞳は、穢れを知らない無垢な色をしていた。生まれて間もない子供のような目だと、セイバーは感じた。
 しかしその体つきは、幼くこそあるが、全くの無垢とするには少しばかり歳を重ねてもいた。
 精神の成長が肉体に追い付いていない――高く見積もっても、彼女の知能は本来の年齢の半分ほどしかないだろう。先天的か、後天的かはさておいてだが。
 腕のない少女だからか、マスターの証である令呪は鎖骨の少し下付近に刻まれている。彼女らしい、翼のような形の刻印だ。

 薄ぼんやりとした視線でセイバーの顔を見つめる少女は、年頃の少女には似合わない無機的な衣服を纏っていた。
 セイバーはこの時点で薄っすらと、どうやら自分のマスターが少々特殊な人物らしいと気付き始める。
 邪気は感じないが、恐らく普通に育ってきた少女ではないのだろう。
 この少女からは、そういうものを感じる。

「余のクラスは、見ての通りセイバーだ。それで汝は、一体どうしたい」

 セイバーがそう問いかけたのには、理由があった。
 本来であれば聖杯戦争に参加したマスターが願いを持っていないなんてことは、滅多なことが無い限りはあり得ない。
 ただ、この聖杯戦争は生憎普通ではないのだ。
 願いも持たず、戦う気もない。そんなマスターが居る可能性は通常の聖杯戦争に比べ、極めて高いとセイバーは踏んでいた。

 セイバーにも当然、願いはある。
 だが彼は、誇り高き英雄だ。
 もしもマスターである彼女が戦いを拒み、聖杯戦争を脱したいと言うのであれば、その時は彼女の剣としての努めを果たそう。
 そういう腹積もりでいたセイバーだったが、彼に少女が返した返答は予想外のものだった。

「あいたい、です」
「なに?」
「あいたいひとが、います」

 その言葉を聞いた時、セイバーが抱いた感情は、およそ言葉にはし難い、複雑極まるものだった。
 何故ならセイバーが聖杯に願おうとしていることもまた、道理では叶わない再会を成すという、奇跡の成就であったからだ。
 類は友を呼ぶの諺ではないが、こうも示し合わせたように一致すると、因果というものを感じずにはいられない。
 彼女も、願うのか。聖杯による、巡り合わせを。


12 : SCP-020-jp&セイバー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:09:37 Zelg52/U0

「神さまに、あいたいです、わたしは」
「神……?」
「はい。神さまです」

 この時代にも当然神を信仰する文化は残っているものの、神と人との距離は、セイバーが生きていた頃に比べ格段に遠くなっている。
 そんな現代で、神に会いたいなどという願いを抱く者は決して多くない。
 随分と、感心なことだと思った。尤も彼女が言うところの神とは、セイバーが思い描くような高い存在ではないのだが。
 とはいえ、相手が居るという点では同じだ。彼女も、セイバーも、その一点で共通している。

「いいだろう。なら、余と汝の目的は競合している。必ずや、この偉大なるコサラの王……ラーマが、汝に約束しよう。聖杯を手にし、その奇跡を汝の手にももたらすと」

 自らを偉大と自称する尊大さは、どこか生意気な小僧のような印象を聞く者に与える。
 彼の名はラーマ。叙事詩ラーマーヤナの主役を張った、ヴィシュヌ神の化身たる英雄である。
 彼が願うのは再会だ。自身の失策によって永遠に引き離された、最愛の妻シータともう一度会い、話がしたい。
 願望器の力でもなければ太刀打ち出来ないような深い呪いを解き、彼女の顔を見て、声が聞きたいのだ。

「ところで、一つ付かぬことを聞いてもいいか?」
「?」
「その……何故汝は、服を着ていない?」

 目のやり場に困る、と目を逸らすラーマに、翼の少女は頭の上に疑問符を浮かべ、首を傾げるだけだった。


【クラス】
 セイバー

【真名】
 ラーマ@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力A 耐久B 敏捷A+ 魔力B 幸運B 宝具A

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】

対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:A+
 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。

【保有スキル】

神性:A
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
 最高神の一柱で太陽神でもある神ヴィシュヌの化身の一つ。

武の祝福:A
 武という概念から祝福を受けている。
 その武力は常に冴え渡り、羅刹王すら屈させた程の力量を有する。
 ゲームでは、自身へのクリティカルスター集中とクリティカル威力上昇をもたらす効果であった。

カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

離別の呪い:A
 味方の猿スグリーバを救うために敵対していた猿バーリを騙し打ちにした際、彼の妻から賜った呪い。
 “貴方はたとえ后を取り戻すことができても、共に喜びを分かち合えることはない”
 ……この呪いは、今もなお彼を縛り付けている。
 英雄ラーマは、最愛の妻シータと再会することが出来ない。たとえ、聖杯戦争であろうともだ。


13 : SCP-020-jp&セイバー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:10:08 Zelg52/U0

【宝具】

『羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』
 ランク:A+ 種別:対魔宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人
 魔王ラーヴァナを倒すために、生まれたときから身につけていた「不滅の刃」。
 魔性の存在を相手に絶大な威力を誇る。
 本来は矢であり、弓に番えて射つものであるがセイバーになりたかったラーマが無理矢理剣に改造した。
 ただし投擲武器としての性能は捨てておらず、この剣もブン投げる。
 「結局投げるんじゃねえか」と指摘してはいけない。

【weapon】
 宝具

【人物背景】
 インドにおける二大叙事詩の一つ、「ラーマーヤナ」の主人公。
 聖人から様々な武器を授け、高名な猿ハヌマーンが率いる猿の軍勢と共に、魔王ラーヴァナと彼が率いる軍を相手に戦い続けた。
 たった一度の失策で賜った呪いに、今も縛られ続けている。

【サーヴァントとしての願い】
 シータとの再会

【運用法】
 単純に強力なスペックを持ち、性格も極端に卑劣な行動をしない限りは御し易い。
 白兵戦で遅れを取る相手はそうそうおらず、魔的存在に強力な特効効果を発揮できる宝具『羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』の存在から格上狩りも可能。
 マスターが彼女である限り、滅多なことにはならないだろう。


【マスター】
 SCP-020-JP"翼人"@SCP-Foundation-JP

【マスターとしての願い】
 神さまのところへ行きたい

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 両腕の代わりに、鳥類のものに酷似した両翼が生えている。
 腕や胸の筋肉は普通の少女より多少発達しているが、飛翔する上で十分とは言い難い。

【人物背景】
 日本生類創研によって製造された実験体の一つで、SCP財団日本支部により保護されているオブジェクト。
 知能は見た目よりも幼く、発育不良気味。


【把握媒体】
セイバー(ラーマ):
 ソーシャルゲーム「Fate/Grand Order」第五章。
 マイルーム会話と戦闘での台詞のみなら、wikiで確認可能。

SCP-020-jp:
 ttp://ja.scp-wiki.net/scp-020-jp 、ttp://ja.scp-wiki.net/kiryu-tales-2
 の2ページのみで把握可能。


14 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/23(木) 19:10:37 Zelg52/U0
投下を終了します。


15 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:27:48 XaHfr2hs0
投下します。


16 : 狂える宴 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:29:08 XaHfr2hs0
 聖杯。
 主にキリスト教由来の伝説として語られる、人類史上最高峰の聖遺物。
 普段の彼にそんな話題を振ろうものなら、一秒と経たない内に「下らん」と切り捨てられること請け合いの与太話だ。
 オカルトな神秘論を心の拠り所にするようになっては、人間は終わりだ。
 特にそれが、命を賭けて臨む大義の前とあっては。

 大義は、己の手で成さねばならない。
 愚鈍な神の差し伸べる救いなど待っていては、千載一遇の好機を逃す。
 その考えは今も毛ほども揺らいではいない。
 たとえそれが、他ならぬ『聖杯戦争』の舞台の只中とあっても、である。

 男は、狂っていた。
 本人は決して認めはしないだろうが、誰の目から見ても男は精神に異常をきたしていた。
 彼は恐れない、死を。
 彼は恐れない、破滅を。
 全ては、天命により定められた結末なのだ。
 無念半ばに自分が果てることがあろうとも、それもまた一つの未来。
 そう納得し、覚悟していれば、恐れることなど何もない。何処にもない。

 革命家・佐田国一輝。
 それが男の名前であった。
 彼が聖杯を求める理由は、その称号が語っている。

 彼は、革命を求めている。
 より多くの死をもって、腐敗した祖国に愛の鞭を振るわねばならないと。
 そう願い、聖杯戦争に参加した。
 というよりは――招かれた、というべきか。

「俺と同志の無念が……天に通じた」

 彼は、本来既に死んでいる筈の人間だ。
 その記憶は、今も脳裏にこびり着いて離れずにいる。
 暗闇の中、噴き上がってくる恐怖と絶望。
 次第に消えていく酸素、地獄としか言いようのない激痛。
 蘇ってくるものを、佐田国は溜息と共に首を振って否定した。
 
 二度と、あのような醜態は晒すものか。
 だが、決して忘れ去りはしない。
 自らの汚点として受け止め、自分を戒める楔とせねばならない。
 ……あの作戦で、多くの同志が死んだ。
 志半ばに果てる無念、如何ほどのものだったか分からない。
 報いなければなるまい、その生き様に。
 革命の達成をもって、彼らの墓前に供える花とする。
 
 その為には、聖杯が必要だ。
 どんなミサイル兵器よりも万能で、価値ある兵器。
 それを手にして、佐田国一輝は本当の祖国に凱旋する。


17 : 狂える宴 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:29:42 XaHfr2hs0
 
 佐田国には、魔術の心得はない。
 あの『立会人』どものような、人外じみた身体能力もない。
 覚悟は決まっている。人を殺すことに、今更躊躇いを覚えるような柄でもない。
 女子供を撃ち殺すことだって厭わないし、事実それで、心得のない人間ならば思うがままに殺戮できるだろう。
 だが、優れた魔術師には勝てない。
 あくまでも、佐田国一輝は人間だからだ。
 聖杯戦争を勝ち抜くには、サーヴァントという武器で武装する必要がある。

 佐田国は当然、立派な魔術回路など持っていない。
 しかし、それを埋める手段はある。
 魂を燃料としてサーヴァントに食わせ、擬似的な魔力のプールとすることで、魔力面の問題は解決できる筈だ。
 まずは、純粋に高い戦力を持ったサーヴァントを引けなければ話にならない。
 ……結果として。佐田国一輝のもとに英霊の座から舞い降りたサーヴァントは、彼の要求通りの強靭な存在であった。
 そう、力だけは。

「そんな目で見んと。火照ってまうわぁ」

 佐田国には、この状況が理解できなかった。
 自分は、必ずや聖杯を手にしなければならない人間だ。
 下らない私欲のためにサーヴァントを召喚し、浅く賤しい目的を達成するために必死をこいているような屑共とは訳が違う。
 背負っているものの重さも、此処に来るまでに積んできた努力や払ってきた代償も。
 あらゆる点で自分は他者に勝っている。
 故に、自分こそ聖杯を手に入れるのに最も相応しい男であると自負している。
 そんな自分に与えられるべき手駒は、革命という偉業を共にするに相応しい、有能で従順なサーヴァントであるべきだ。
 一時とはいえ同志となる相手。それに敬意を払うのは、当然の礼儀である。
 彼の性格を知る者であれば意外に思ったかもしれないが、佐田国はサーヴァントの人格次第では、友好的な関係を築くのもやぶさかではないと考えていた。
 聖杯戦争という熾烈な戦場を共に戦う、いわば相棒のような存在。
 佐田国はあくまでサーヴァントを兵器と割り切っていたが、それでも、関係を悪化させないに越したことはない。

 だがそれは、そのサーヴァントが革命家・佐田国一輝のお眼鏡に適った場合の話だ。
 偉業を成す己の使役するサーヴァントは、当然その大義に足る存在でなくてはならない。
 ……もっと噛み砕いて言えば、己の革命に理解を示すことの出来るサーヴァント。
 どれだけ強かろうが、高尚なる革命に理解を示せないような凡愚では論外なのだ。
 ……そう思っていた。佐田国は、此処に来て思い知ることとなった。
 この条件からスペックの問題を差し引いても、それでもまだ、高望みであったということを。

「それにしてもあんたはん、えろう不機嫌そうやねえ。そないに眉間に皺ぁ寄せとっても、なぁんも楽しくあらへんやろ?
 どれ、旦那はんも一つ――」
「……令呪を以って命ずる」

 素面なのかそうでないのかもはっきりしない、とろんと蕩けきった瞳。
 体にまとわり付かせた酒瓶に収められた果実酒の芳香が、嫌でも佐田国の鼻孔を擽る。
 挙句の果てに、今、このサーヴァントは何をしようとした?
 佐田国のこめかみに、ビキビキと血管が浮き出ていく。
 何だ、この淫売は。これが、革命家の戦いに相応しいサーヴァントだと?


18 : 狂える宴 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:30:21 XaHfr2hs0

「サーヴァント・アサシン。……二度とその薄汚い力で、俺に干渉するなっ!」

 あらぁ、と目の前の少女を象ったサーヴァントが、驚いたような呆れたような声を漏らす。
 
「もう、つれないマスターさんやね。こないなことにポンポンそれ使っとったら、にっちもさっちも行かなくなるんと違います?」
「たかが一画だ。貴様の汚らしい悪臭にあてられて醜態を晒すよりは、こうして楔を打ち込んでおいた方が余程良い」

 事実、佐田国の判断は正しかった。
 このサーヴァントは一見すると友好的だし、実際にフレンドリーではあるが、しかし彼女に絆されれば破滅以外に道はない。
 声、吐息、視線だけでも対象を泥酔させる。
 こうしている今も周囲に漂っている果実の酒気。
 これら全てが、人を堕落に追いやる悪魔の蜜に他ならない。
 腐敗した祖国に鞭を振るうため、聖杯を求める彼にとって……堕落の極みとも呼べる彼女の存在は、到底許せるものではなかった。

 彼女は強い。
 幸運以外のステータスが軒並み高水準で、筋力と魔力に至っては最高ランク。
 近接戦闘で彼女を破れるサーヴァントなど、そうは居ないだろう。
 聖杯を手に入れるという大きな目標へ向かうにあたり、申し分のない戦力だ。
 
 だが、何だこの淫売は。
 こんなものを、同志と呼べというのか。
 戦いの意義も大義も理解せず、薄笑いを浮かべて酒を呷る屑女を。

「……酒呑童子。大江山に住む鬼種の頭領にして、戸隠山の九頭竜から生まれ落ちた龍神の子」
「うふふ、よく知っとるんやね」
「鬼共を束ねて山の頂点に君臨し、騙し討ちで首を刎ねられて尚その首だけで襲い掛かった悪鬼」
「昔の話やね。そうそう、あん時の小僧は面白うてね――」
「貴様の下らん昔話になど、興味はない!!」

 佐田国が声を荒げると、そのあまりの怒気に、潜伏先のアパートが軋んだような音を立てる。
 何人もの人間を殺めてきた、死をも恐れぬ革命家。暴力の行使を大前提とする、テロリスト。
 その激怒を前にしても、アサシン――酒呑童子は毛ほども動揺した様子を見せない。
 
「何故に貴様はそれほど堕落している、酒呑童子!
 これは革命の為の聖戦だ!! 俺は私利私欲の為に願望器を使おうとする屑共とは違う!!
 俺は革命を成そうとしている!! にも関わらず、俺の手駒である貴様の腑抜けようは何だ!!」
「何や、えらい口の回るマスターさんやね……そないにカッカせんでも、うちはちゃあんと旦那さんの為に戦ったるよ?」

 暖簾に腕押しとは、まさにこういうことをいうのだろう。
 佐田国は全身の血液が沸騰するような激しい怒りの中で、そう思った。
 
「……貴様には、自覚が欠けている。
 一国の命運を……貴様にとっての祖国でもある日本の行く末を決める戦いに馳せ参じているという自覚が、欠落している」
「まぁ、そらそうですわなぁ。うちに言わせりゃ、心底どうでもいいことやさかい」


19 : 狂える宴 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:30:55 XaHfr2hs0

 その言葉の通り、心底どうでもよさげに放たれた酒呑童子の台詞。
 それを聞いた時、佐田国は自分の中の怒りが猛烈な速度で冷え切っていくのを感じた。
 それは決して、彼が理性で冷静さを取り戻したというわけではない。
 むしろ、その逆だ。憤死するほどの怒りが、一周回って彼を静かにした。
 
「……どうでもいい、か」
「革命だの、日ノ本の命運だの、そういうんはぜぇんぶ旦那さんの都合でっしゃろ?
 あんたはんの大義とやらは、盃を手に入れてからゆっくり叶えたらええやない。
 でもうちはほら、鬼やからね。戦が終わるまで、好きに遊ばしてもらいますわあ」
「ああ、そうだな。よく分かった、アサシン」

 もしもサーヴァントに物理攻撃が通じるのであれば、佐田国は迷わず、この鬼の額を銃弾でぶち抜いていただろう。
 鬼種の魔。堕落の化身。ただ遊びたいがために召喚に応じた化け物。
 かつて源頼光が卑劣な手に訴えてまでこの鬼を滅ぼそうとした理由が、今ならよく分かる。
 ―――酒呑童子は英雄などではない。
 こいつは、ただの邪悪で救えない化外だ。
 討たれるべき、鬼だ。

「好きなようにやるがいい。俺は貴様を兵器として利用し、革命の準備を整える」

 そう言うと佐田国は酒呑に、床へ転がしていた機関銃の銃口を向けた。
 彼は直情的な狂信者だが、しかし馬鹿ではない。
 サーヴァントに銃弾を使うなど、弾薬の無駄遣い以外の何物でもないと知っている。
 だから、これは宣戦布告だった。
 酒呑童子という鬼に対して、革命家――否。一人の『人間』が行う、宣戦布告。

「全てが終わったその時が貴様の最後だ、酒呑童子。
 この令呪を使い、あらゆる手段で貴様を破壊し、地獄の苦痛の中で貴様を朽ち果てさせ……
 俺の大義を侮辱したことを、その魂全てで贖わせてやる。精々それまでは、低俗な酒宴にでも浸っているんだな……!!」


20 : 狂える宴 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:31:32 XaHfr2hs0



 ―――革命家、佐田国一輝。酒呑童子から見ても、彼は明らかに狂った男だった。
 死の淵から這い上がったことで信仰を取り戻した彼は、偽りの光の中で果敢に戦うだろう。
 女でも子供でも、仮に実の親が立ちはだかろうと、彼は構わず撃ち殺すだろう。
 全ては祖国への愛国心。大量殺戮。より多くの命を踏み躙る、それが彼の『革命』。
 その姿はまさに、賭郎会員を次々と蹴落としていた頃の彼と何も変わらないものだ。
 しかし本当に、彼は元通りなのだろうか。
 嘘を喰う魔物に植え付けられた死の恐怖を、本当に振り切っているのだろうか。
 
 酒呑童子は、彼の辿った末路を知らない。
 ただ、面白い男だとは思う。
 今の佐田国一輝は、二重の意味で狂っている。
 もし彼が単につまらないだけの男であったなら、酒呑は退屈の余り、既に食い散らかしてしまっていてもおかしくない。
 
「先に言うたやろ、好きにやるって――言われんでも、こちとら初めからたぁんと遊ばせてもらう腹やさかい」

 ……佐田国は狂人だが。
 彼が酒呑童子というサーヴァントに下した評は、決して間違いではない。
 彼女は鬼だ。話の通じる相手でもなければ、共存の望める相手でもない。
 人に倒されるべき、悪。享楽で命を奪い、肌を重ね合いながら人を騙す。
 あるがままに生き、思うがままに振る舞う。聖杯戦争でも、それは同じ。

 ――――彼女はまさに、混沌(カオス)の化身。


【クラス】
 アサシン

【真名】
 酒呑童子@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力A 耐久B 敏捷B 魔力A+ 幸運D 宝具B

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を断てば発見する事は難しい。

【保有スキル】
神性:C
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

果実の酒気:A
 声音や吐息に蕩けるような果実の酒気が香り、視線だけでも対象を泥酔させる。
 魔力的防御手段のない存在(一般の人間や動物)であれば、たちまち思考が蕩けてしまう。

鬼種の魔:A
 鬼という種類の魔性。
 酒呑はその中でも特に格の高い生粋の鬼種で、事実上の最高ランク。
 アサシンでありながらステータスが高いのは、この生まれに因るところが大きい。


21 : 狂える宴 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:32:29 XaHfr2hs0

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

【宝具】

『千紫万紅・神変鬼毒(せんしばんこう・しんぺんきどく)』
ランク:B 種別:対軍宝具
 酒呑の持つ盃から湧き出す毒酒。
 触れた相手はダメージを受け、更にその毒によって汚染される。
 原作ゲームでは敵全体にダメージを与え、攻撃力・防御力・宝具威力・クリティカル発生率・弱点耐性を全て下げ、スキル封印と毒を付与するというステータスダウンてんこ盛りな効果になっている。
 
【weapon】
 剣

【人物背景】
 はんなりとした京言葉を喋る鬼の少女。あるがままに生き、思うがまま振る舞う自由な快楽主義者。
 骨董品、稀覯品のコレクターでもあり、珍しい石に最上の反物、器といったものを愛でている。
 コレクションの基準は見た目の雅さと希少さが重要らしく、金時の腕に宿る赤龍の尺骨にも興味を示している。
 性根から邪悪であり、人を喰う事に対しては特に感慨も持っていないが、一方で恥を知っており、生前の最期に関しては「あれだけ殺したんだし、殺されて当然」とあっけらかんとしている。
 また、単に気まぐれと悪ふざけだけではなく、義理人情を通す一面を持っている。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯という極上の美酒を飲み干す


【マスター】
 佐田国一輝@嘘喰い

【マスターとしての願い】
 聖杯を手に入れ、己の革命の為に活用する。
 自らのサーヴァントは聖杯の獲得が確実になり次第、自害させる

【weapon】
 銃やナイフなどの凶器

【能力・技能】
 全盲で視力がなく、再建手術を行い擬似的に視力を得ている。
 その為携帯している眼鏡がないと物を視認することが出来ない。
 裏社会の人間や賭郎の立会人をして「イカれてる」と言わしめる、完成した精神性を持つ。

【人物背景】
 革命家を自称するテロリスト。
 より多くの死を求めており、彼の語る革命の手段は大量殺戮に限定される。
 最期の最期で人間に戻され、醜態を晒しながら、彼は死んだ。


【把握媒体】
アサシン(酒呑童子):
 ソーシャルゲーム「Fate/Grand Order」のイベント、『鬼哭酔夢魔京 羅生門』。
 マイルーム会話と戦闘台詞であればwikiで把握可能。
 今から新しく把握するのはイベントの開催時期的に不可能なので、動画サイトでの把握をお勧め。

佐田国一輝:
 原作コミック『廃坑のテロリスト編』。
 巻数は四巻〜七巻。


22 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 01:32:52 XaHfr2hs0
投下を終了します


23 : 名無しさん :2016/06/24(金) 01:54:52 YmjJaSLU0
質問です
マスターについて

1.参加に特殊な資格や条件はあるのか
2.原作で昭和五十五年周辺に存在するキャラでなければならないのか、それともある程度こじつけが効くならば過去・未来のキャラがその年代に居たと捏造してもいいのか
3.舞台は電脳世界や異世界ではなく実世界(NPCではなく本物の人間、記憶喪失などの手順も踏まない)でいいのか

について可能ならば返答お願いします


24 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 02:28:05 XaHfr2hs0
>>23
お答えします。
1:特にありません
2:年代や世界観の指定もありません。単純に舞台になる世界がその年代というだけになります。
3:普通の人間という認識で構いません


25 : ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:27:13 rk8rl6Ug0
お借りいたします


26 : ザ・リターナー ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:27:45 rk8rl6Ug0


 冬木ハイアットホテル――その駐車場。
 思い思い好き勝手に改造したオートバイを集め、下品なガニ股で座り込む若者たち。
 彼らがふと顔をあげたのは、たまり場へ一台のオートバイが入ってきたからだった。
 ついに製造終了となった名機、カワサキZシリーズ最後の車両。
 しかし男どもが目を惹かれたのはバイクではない。ライダーの方だった。
 赤い革製のジャケットを内から押し上げて自己主張するのは、果実のように実った豊かな乳房、
 そこからすっと括れた腰に曲線が走り、しっかりと肉づいた尻へと稜線が流れていく。
 ヘルメットを脱げば、汗で濡れた額に黒髪を張り付かせた、眼鏡をかけた美貌が顕になる。
 有り体に言って美人――いや、美少女だった。

「ここで良かったのよね、浩一くん」
「ああ。学長から聞いたホテルだ」

 誰にも、その少年がどこから現れたのかはわからなかった。
 影の中から、ぬるりと自然に浮かび上がったかのようにさえ思えた。
 特に何の変哲もない高校生。脱色でもしているのか、銀に近い白髪だ。
 女の彼氏か何かだろうか。
 普段の彼らならすぐにでも絡み、引き離し、女を囲んでお楽しみと行くだろう。

「うッ!?」
「ううう……!」

 ――だが、動けなかった。
 睨まれたわけでもない。
 ただ少年がちらりと一瞥をくれただけで、彼らは動けなくなっていた。
 今ここで飛び掛かって、返り討ちになる気がしたならまだ良い。やけっぱちにもなれる。
 だがしかし、襲いかかったらどうなるか、彼らには想像もできなかった。
 それが怖い。
 たまらなく怖い。

「ありがと」

 そんな暴走族たちの傍を抜けた時、少女が表情を和らげて少年へ囁いた。

「僕は何もしていない」
「でも、ああいう人たちはしつこいから」
「詳しいね」
「昔、ちょっとね」

 暴走族たちは、そうして連れ立ってホテルへと入ってく二人を呆然と見送るしかなかった。
 自分たちは運が良かったのだという事を、恐らくは本能的に察していたに違いない。
 もし――もし、この場に国家保安局の局員か、さもなくばCIAの工作員がいたならば。
 あの白髪の少年を見つけた途端「げぇッ」と呻いて動けなくなってしまっただろう。

 その名は101(ワンゼロワン)。
 かつてバビル2世と呼ばれた、最強の超能力者である。

                 *  *  *

.


27 : ザ・リターナー ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:28:31 rk8rl6Ug0

 押し寄せる学生運動の波は、外界から隔離された学園都市といえど例外なく襲った。
 なまじ超能力などを持ち、開発の過程でエゴイズムを増強させてきていた学生たちは、
 学生の解放という建前を得て、ここに公然と学園都市内部で能力を行使するようになった。
 さらにそれに不満を抱いた無能力者たちが不良集団を結成して暴動を引き起こし、
 あわや全面抗争か――――……と、ここ十年近く、緊張状態が続いている。
「風紀委員(ジャッジメント)」と呼ばれる学生主体の治安維持組織が誕生したのもその為で、
 不良グループから足を洗った固法美偉(このり みのり)はその一員――優秀な一員だ。
 しかしそんな彼女でも、学園都市上層部から下された辞令には首を捻らざるを得なかった。

「出張?」

 AppleIIのキーボードをパンチしていた後輩、初春飾利が驚いた様子で振り返った。
 風紀委員第一七七支部の壁に掲示された異動辞令には、確かにそう書いてある。

「って、固法先輩がですか?」
「そうみたいね」

 愛飲するムサシノ牛乳のパックにストローを差しながら、固法は信じがたいと頷いた。
 学園都市で行われている超能力開発は、本来持ち出し厳禁の重要機密である。
 旅行に行くのでさえ幾つもの許可を得た上で、監視用の極小機械群を注射されるほどだ。
 ましてや都市内の治安維持組織である風紀委員の出張など、聞いたこともない。

「でも学園長の署名捺印があるし、正式な辞令でしょ、これ」
「行くんですか?」
「そりゃあ、風紀委員としての仕事だもの」
「冬木市ですよね? ちょっと待ってください、調べますから」

 初春が事務椅子をくるりと回して筺体に向き直り、ぱちぱちとキーをパンチし始める。
 PET2001じゃお話になりません!と叫んだ彼女がどうやって最先端マイコンを手に入れたのか、
 固法にはわからないけれど、違法でない上に役立つなら口を挟むことでもなかった。
 やがてプリンターがガタガタと音をたてて動いて紙を吐き出し、初春はそれを破り取った。

「どうぞ!」
「ありがと。……ふぅん、兵庫県なんだ」

 初春からもらった資料と、出張用にと渡された資料を合わせてめくる。
 冬木市で開催されようとしている聖杯戦争。
 それは都市外に潜伏している能力者達による、大規模な実験であるらしい。
 超能力の仕組が「無自覚拡散力場」によって発生する現実改変であることを鑑みれば、
 強力な能力者たちを戦わせて力場を強化し、広範囲の現実改変を行う事は不可能ではない。
 魔術的な用語を科学的な用語へ変換した内容であるからこそ、固法美偉は素直に納得する。
 なぜなら彼女もまた、透視能力を有する能力者なのだから。

「あまり時間も無いし、準備をしたら出発しないと」
「はい、わかりました。引き継いでおかなきゃいけないこと、ありますか?」
「特にないと思う。あ、ただ白井さんの事、よろしくお願いね」
「はいっ それはもう!」

 今この場にいない、独断専行と無茶が過ぎる後輩。
 最近少しはマシになってきたとはいえ、まだまだ危なっかしくて仕方ない。

(御坂さんの影響かしら……)

 常盤台中学の超電磁砲とあだ名される、学園都市における文字通りの「超能力者」。
 白井黒子が憧れる「お姉さま」である彼女は、やはり破天荒で暴走しがちなところがあった。
 能力を行使するためにエゴが強化されていく能力者、その中でも最上位のLV5ともなれば、
 誰も彼もいずれ劣らぬ奇人変人ばかりで、比較的常識的とはいえ御坂も例外ではないのだろう。

(超能力者って皆ああだから、仕方ないのかもしれないけれど)

 そんなことを苦笑交じりに思いながら、出張用の資料を確認していく。
 単純な所持品などは普通の旅行と同じで良いだろうが……。

「……同行者一名?」
「僕だ」

.


28 : ザ・リターナー ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:28:55 rk8rl6Ug0

 いったいいつ、どうやってその少年がその場に現れたのか、誰にもわからなかった。
 足元に黒い豹を従えた、どこの高校かもわからないごく普通の学ランを着た少年。
 年の頃は十七か、八。特徴的なのは脱色でもしたのか、銀に近い白い髪。
 酷く落ち着き払った態度で、彼はさも当然のように支部の中央に佇んでいた。
 固法が何かを言うよりも速く、初春が取り乱した様子で声を上げた。

「あ、あなた誰ですか!? ここは風紀委員以外立ち入り禁止ですよ!
「山野浩一。念動能力者(テレキネシス)だ。許可はもらっている」
「山野さん? ちょ、ちょっと待ってください、そんな人いた記憶が……」

 確認しますと言って、初春はキーボードを叩いてディスプレイを睨みつける。
 その間に「失礼」と言って、その少年は拒む間もなく固法の胸元に掌をかざした。

「あ、熱っ!?」

 不意に胸元に熱を覚えた固法は、思わず服の上からそこを押さえてへたり込む。
 同時に初春ががたりと椅子を鳴らして飛び上がり、少年へと食って掛かった。

「ちょっと、先輩に何するんですか! 痴漢ですか!?」
「待ってくれたまえ。僕に文句を言われても困る」
「ま、待って、初春さん。――本当に、そうみたい」

 初春が警戒するのを手で制しつつ、固法は自身の能力――透視を発現させていた。
 彼女の胸元、乳房の上あたりには刺青のように、三画の奇妙な紋様が浮かび上がっている。
 先ほど読んだ資料にも書いてあった――令呪、とかいう奴だ。

「じゃあ、あなたが私のサーヴァント?」
「そうだ」

 学ランの少年は、不可思議な言葉にも戸惑うことなく頷いた。
 聖杯戦争に参加するには、二人一組でなければならない。
 このチームはマスターとサーヴァントであり、マスターは強制命令権を持つ。
 主人(マスター)というと忌避感はあったが、もともと風紀委員でも部下がいる身だ。
 同僚に対して指示を飛ばす役目と思えば、固法にもすんなりと納得がいった。
 ただ――……

「キャスターとか101とか浩一とか、好きに呼んでくれ」
「えっと……」

 彼女の瞳をまっすぐに見つめる少年の瞳が輝くと、何とも落ち着かなくなるだけで。

「じゃあ――――……」

                 *  *  *

.


29 : ザ・リターナー ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:29:58 rk8rl6Ug0

「そういえば浩一くん、この痣……令呪って消えるの?」
「使いきればね」
「残ったら困るのよね。水着が着れないし、後輩にも示しがつかないし」

 冬木ハイアットホテルの一室。
 キャスター、バビル2世はバスルームから聞こえる水音を聞き流しながら思案に耽っていた。
 ソファに身をゆだれた彼の足元には、影のようにぴったりと黒豹――ロデムが侍っている。
 彼ら三つのしもべと出会ってから十年以上、バビル2世は走り続けてきた。
 そしてヨミとの対決が終わった後、彼は止まれなくなってしまった自分に気がついた。
 何もないのだ。
 先祖バビル1世から受け継いだ超能力、三つのしもべ、バベルの塔を使うべき目的が。
 自分に匹敵する能力を持った好敵手が世界征服を目論んだのも無理はない。
 これほどまでに巨大な力を抱えたまま、密かに生きていくことなど不可能なのだ。
 現にバビル2世自身、その血液から人工超能力者を製造できると築いたCIAに襲われ、
 数年がかりの戦いと逃避行を終えたばかりである――今思えば、充実していたが。
 最後にはまたしても復活したヨミとの対決に挑み、相討ちで死んだ。そのはずだった。

「しかし、僕は生きている」

 いや、死んだ後で呼び出されたのか、死ぬ直前で呼びだされているのかもしれない。
 あの謎めいたアレイスター・クロウリーという、魔術師を自称する男によって。
 聖杯戦争とかいう、願いを叶える装置をめぐった殺し合いに参加させる駒として。

(ヨミが聞いたら喜びそうな事をいう……)

 回りくどい話に、何度だまらっしゃいと叱り飛ばしてやろうかと思ったものだ。
 しかしその一方、バビル2世の心のうちには燃え盛るような戦意が生まれていたのも事実。
 でなくば、どうしてあんな奴の思惑に乗っかってやるだろう。
 聖杯戦争に参加する英霊として自分を選んだからには、敵にも同種の存在がいるに違いない。
 その中に邪悪な者がいないとどうして言えよう。いや、開催者こそが邪悪なのだろう。

(ならば僕はそいつを何としても倒さねばならない)

 己が命を燃やすにたる目標があるというのは、これほどまでに人を滾らせるのか。
 ヨミと敵対すると決めた時、ヨミが復活したと知った時、宇宙ビールスの存在を知った時。
 使命感と共に覚えた高揚感を、今もまたバビル2世は自身の胸のうちに感じ取っていた。
 バビル2世にとって、この聖杯戦争は今一度戦いを挑むに相応しい場だった。

「むむむ……」
「何がむむむよ」

 いつの間にシャワーを浴び終えたのか、バスローブ一枚を纏った固法の姿があった。
 ぺたぺたと裸足で歩き、バビル2世の対面に座る彼女の肌は淡く上気している。
 僅かに牛乳を滴らせながらも紙パックを煽る仕草は、扇情的ですらあった。

.


30 : ザ・リターナー ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:30:13 rk8rl6Ug0

「それで、作戦はどうしましょうか」

 ムサシノ牛乳と書かれた紙パックをテーブルに置いて、固法が身を乗り出した。
 その表情は真剣そのもの。来るべき戦いへの使命感が滲んでいる。

「固法さんには、ロデムと一緒に行動してもらいたい」
「ああ。この子をサーヴァントと思わせるのね?」
「そうすれば、僕はサーヴァントじゃなく君の同僚として動ける」
「わかった、任せて。それに頼りにしてるわよ、ロデム」

 するりと音もなく立ち上がった黒豹が、固法の膝に頭を押し付けた。
 彼女はにこりとして手を伸ばし、その顎を柔らかく撫でてやる。
 相応に喧嘩慣れしているという固法なら多少のことは心配ないだろうが、
 それでも戦闘力に欠けるのは明白で、それをロデムが補うのなら心強い。

「何としても、こんな実験を始めた人を逮捕しなくちゃ……」
「……」

 ぽつりと呟かれた言葉に、バビル2世は何も言わなかった。
 固法美偉の、あまりにも無防備な様子と仕草がその原因だった。
 何も彼女は、バビル2世を異性として意識していないわけではない。
 同年代の異性とホテルの同室で寝泊まりする事も、普段の固法なら忌避しただろう。

(だから催眠術をかけた)

 自分に対する警戒心を薄めるように――でないと、色々とややこしくなる。
 一方でバビル2世はそれ以上彼女の心を読むことも、弄ぶこともしていない。

(誰も彼も意のままに操るようになっては、それこそヨミと同じだ)

 しかし未だ彼女には明かしていない事は山程ある。
 自分の持つ力はテレキネシスの他にも数多いこと。
 そして呼べば応えるしもべは、あと二体いること。

(だが、すぐに使うべきじゃあない)

 自分の保有する数多の能力は、過去の戦いで幾度も窮地を脱してきた。
 怪鳥ロプロス、巨人ポセイドン。空もあり、海もある冬木なら幾らでも戦えるだろう。
 しかし敵はヨミと同等の相手だと思わなければならない。それが複数名いる。
 ならばまずは此方の手を隠したまま情報を探り、その上で奇襲攻撃で叩くのが手だ。
 何も自分から声高に「バビル2世一番乗り!」と叫んでやる必要はない。

「頑張りましょうね、浩一くん」
「ああ」

 にっこりと微笑みかける固法へ頷きかけながら、バビル2世は考える。

(そういえば、名前で呼ばれるのはいつ以来だろう?)

 バビル2世は十年近く前に捨て去った高校生としての日々に思いを馳せた。
 しかし脳裏に蘇るのは優しい父や母、恩師や旧友たちの顔ではなかった。
 浮かび上がるイメージはただひとつ。
 砂の嵐に隠された、あの懐かしきバベルの塔――――……。


.


31 : 固法美偉&キャスター ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:31:43 rk8rl6Ug0
【CLASS】キャスター@バビル2世/その名は101
【真名】山野浩一/バビル2世/101(ワンゼロワン)
【サーヴァントとしての願い】
 自らの全てを発揮できるような戦い。
 黒幕の真意を確かめ、その野望を打ち砕く。
【性別】男性
【外見】学ランを着た白髪の少年
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A
【クラス別スキル】
陣地作成:-
道具作成:-
 キャスターは陣地作成スキル、道具作成スキルを保有しない。
 かわりに陣地・道具として『バベルの塔』を所持している。

【固有スキル】
超能力:A+
 人間が人間であるからこそ行使できる、魔術とは異な能力。異能。
 基本的に一人につきチャンネルは一つか二つだが、バビル2世は多数の力を保有する。
 超能力の行使は体力を著しく消耗する。連続して使い続けた場合、最悪は衰弱死してしまう。
 また精神に作用する能力は、Bランク以上の精神抵抗スキルがあれば対抗が可能。
  超感覚:五感および第六感が極めて強化されている。
  超再生:致命傷を負っても即死しない限り短時間で治癒できる。
  テレパシー:精神感応。相手の心を読み取り、また此方の意思を伝える事もできる。
  催眠術:視線をあわせた相手を催眠状態に陥らせ、意のままに操る。
  肉体変化:あくまで外見と声だけだが、別人に成り済ます事ができる。
  念動発火:全身から火炎を放射することができる。
  テレキネシス:念動力。対軍規模の空爆を逸らし、ビル一つを容易く破壊する力がある。
  エネルギー衝撃波:強力な衝撃波を放射する。接触した場合、相手の内蔵をズタズタにする。
  エネルギー吸収能力:あらゆるエネルギー攻撃を吸収し、活力に変える。最大の切り札。

心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
 その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性がゼロではないなら、
 その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【宝具】
『三つのしもべ』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜60 最大捕捉:100人
 バビル2世を守護する三体の忠実なしもべ。バビル2世最大の武器。
 ・ロプロス:巨大な怪鳥。嘴から強力な超音波を発射し、音速で空を飛ぶ。
 ・ポセイドン:鋼鉄の巨人。指先の熱線砲、装甲と怪力を武器に海を行く。
 ・ロデム:あらゆる物に変身可能な不定形生命体。黒豹の姿で地を駆ける。
 ロプロスとポセイドンは巨大なため、使用した場合は参加者全員に知られてしまう。
 またランクB以上のテレパシーならば、バビル2世でなくても命令する事ができる。
 バビル2世の命令とその命令が拮抗した場合、しもべ達は混乱して行動不能に陥る。

【Weapon】
・バベルの塔
 砂の嵐に隠され、コンピューターに守られ、宇宙の智慧を蓄えた古代の塔。
 バベルの塔は最先端のスーパーコンピューターを遥かに凌駕する性能を有しており、
 バビル2世の命令に従って侵入者を数々の罠で撃退し、様々な情報分析を行う。
 また歯車式のため電磁波などの影響を受けることがなく、破壊されても自動修復が行われる。
 冬木市から遥か彼方に存在するため、ロプロスを使用しなければ移動することができない。

.


32 : 固法美偉&キャスター ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:32:36 rk8rl6Ug0
【解説】
 バビル2世、101、そして後にビッグファイアと呼ばれることになる最強の超能力者。
 もともとは平凡な学生であったが、古代人バビル1世の血を引く末裔として覚醒。
 初代の遺産であるバベルの塔と三つのしもべを受け継ぐ後継者に選ばれたバビル2世は、
 同じく後継者候補だった超能力者ヨミの野望を打ち砕くため壮絶な戦いを繰り広げ、
 さらには彼の血を狙うCIAとも激しく争い、最後は復活したヨミと相討つ形で消息を断った。
 ヨミとの戦いに全てを注ぎ込んだ彼はバベルの塔で世捨て人として暮らすかに思えたが、
 やがて帰還したバビル2世はビッグファイアを名乗り、秘密結社BF団を率いて世界へ挑む。

【行動方針】
 強大な敵組織に個人で挑み続けてきたことから、極めて冷静かつ冷徹な戦術を取る。
 一般人を巻き込まないようにはするが、犠牲についてはさっぱりと割り切っている。
 情報を集め、先手先手で奇襲して相手の企みを潰し、後手に回った場合も慌てず撤退を図る。
 切り札を最後まで隠し持っておくため、自分の正体と能力は隠匿する方向で動いている。
 表向きは「山野浩一」として活動し、マスターにも「念動力」「ロデム」以外は伏せている。
 いかなる時でも学ランは脱がない。

※『バビル2世』『その名は101』終了後、『ジャイアントロボ』開始前の状態です。
 彼は直近の昭和四六-四八年、五二年-五四年にかけてヨミ、CIAと対決していました。
 なのでCIA他、国際諜報機関の関係者は101の存在を知っている可能性があります。

.


33 : 固法美偉&キャスター ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:33:09 rk8rl6Ug0
【マスター】
 固法 美偉(このり みい)@とある科学の超電磁砲
【マスターとしての願い】
 人々を守り、聖杯戦争の真実を突き止め、黒幕を逮捕する。
【性別】女
【年齢】18歳(高校3年生)
【外見】メガネをかけた黒髪セミロングの女子高生
【令呪の位置】胸元
【Weapon】
 ・大型オートバイ(カワサキ・Z1000MKII)
【能力】
 ・透視能力(クレアボイアンス)Lv3
  衣服の下や鞄ひとつ、壁一枚程度ならば透視が可能。
 ・風紀委員(ジャッジメント)
  あくまで学生レベルの治安維持組織に所属している。
  なお他にマスター(サーヴァント)として参加している風紀委員キャラ以外、
  本聖杯戦争においては組織の助力を得られないものとする。
【人物背景】
 『学園都市』と呼ばれる超能力者を開発する巨大都市で暮らす女子高生。
 2年前までは能力育成に伸び悩み、不良集団「ビッグスパイダー」に所属していたが、
 先輩の説得で脱退、現在は治安維持組織「風紀委員」として後輩の指導を行っている。
 性格は真面目で正義感が強く、また後輩に対しても丁寧に対応する良き先輩といった風。
 また「治安維持と実力行使は別」といった考えから、直接戦闘は最終手段としている。
 透視能力以外の身体能力は年齢相応だが、不良なら一蹴できる程度に喧嘩慣れしている。
 不良時代の先輩の影響からバイクの運転が趣味で、緊急時などには活用する。
 身長163cm・体重50kg、スリーサイズは85・60・81、プロポーションが良く着痩せする方。
【行動方針】
 聖杯戦争について把握しており、人々の被害を防ぐために活動する。
 キャスターについてもサーヴァントであることを理解してはいるものの、
「念動力と黒豹ロデムを保有する超能力者」という風に認識している。

【把握媒体】
 キャスター(バビル2世)
 『バビル2世』『その名は101』:原作コミック
 『ジャイアントロボ 地球の静止する日』:OVA 秘密結社BF団首領ビッグファイアとして登場
 『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』:主人公 空条承太郎のモデルの1人

 マスター(固法美偉)
  『とある科学の超電磁砲』:原作コミック、アニメ第四話以降

.


34 : 固法美偉&キャスター ◆yYcNedCd82 :2016/06/24(金) 16:33:22 rk8rl6Ug0
以上です。
ありがとうございました。


35 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 22:01:31 XaHfr2hs0
ご投下、ありがとうございます!
自分も投下します。


36 : Верный&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 22:02:25 XaHfr2hs0
 昭和五十五年、冬木市。時刻は既に、深夜三時を回っている。
 風営法を始めとした面倒な法律が少なく、警察もそう庶民の『遊び』に目くじらを立てていない時代だ。
 深夜の都市部は昼間と比べても遜色なく、暴力団や非行少年達の道楽の舞台として大いに賑わいを見せていた。
 薬、売春、暴力、恐喝……あらゆる犯罪の温床と化していながら、それを止める者のいない低俗な空間は、きっと朝焼けが見え始める頃までは続くことだろう。
 そこは決して、繁盛している店ではなかった。
 繁華街の外れでぽつんと営業している、恐らくは戦時中からやっているのだろうが、今ひとつ人気の出る気配のない場末のバー。
 だが古風で目立たない外観なだけあって、客層もそう悪くはない。
 中には明らかに堅気の人間とは思えない強面も居たが、少なくとも今店内に居る連中は、堅気への礼節を弁えたその道の『プロ』ばかりだ。
 彼らは他にも自分の身の程と、こういった遊び場での相互不干渉。
 そして何より、裏の社会の常識というものを弁えている。

 この世には、触れてはならないこと、深入りしてはならない闇というものが至る所に存在する。
 触らぬ神は祟らないし、藪を突かなければ蛇は出てこない。
 この原則を破った者は、痛い目を見るし長生き出来ない。
 だから彼らは、君子であり続ける。危うきに近寄らず、崩れかけの桟橋は渡らない。
 ―――彼らが今、意図して視界に入れないようにしている『藪』。それは、二人組の男女だった。

 男女といっても、女の方は幼い子供だ。
 見た目は十代になりたてくらいだろうか。
 中学校に上がるには、恐らくまだ早い。
 星と碇のマークが刺繍された白い帽子が特徴的な、どこか独特な雰囲気を持った少女。

 その隣で安酒の入ったグラスを傾けているのは、上半身に布を何も身に付けていない、黒髪の青年だ。
 バーという場所、午前三時という時間、その両方にそぐわない隣の少女よりも、この男の方が遥かに異彩を放っている。
 オレンジのテンガロンハットを深く被り、顔立ちは日本人のものではないように見える。
 剥き出しの上半身はよく鍛えられており、格闘家や用心棒も顔負けの肉体美を披露していた。
 だが裏の社会をよく知る彼らが真に恐れたのは、彼の直接的な腕っぷしではない。

 彼の『眼』だ。
 それは、戦いを知っている男の眼。
 生き死にのやり取りが延々繰り返される、過酷な戦場を知っている者だけがする眼だ。
 いや――それ以上か。
 一体どんな戦いを、冒険を経験すればこんな強さを身に付けられるのか。
 浪漫や夢の消えた、『大人になった世界』に住まう彼らには分からない。そして彼らがどう努力しても、それを得ることは一生叶わないだろう。
 こればかりは、生まれた世界を……もとい時代を恨むしかない。

「しみったれた時代だな、このショウワ?ってのは」

 退屈そうに、青年は言う。
 それを聞くと、隣の少女は苦笑いをした。
 手厳しいんだね、ライダーは――
 そう言って、彼女もグラスを傾ける。
 ……中に入っているのは、砂糖の入ったホットミルクだったが。


37 : Верный&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 22:03:46 XaHfr2hs0
「どいつもこいつも、つまらなそうな面してやがる。
 ゲラゲラ笑いながら馬鹿騒ぎしてるガキ共も、なんつーか、心の底から楽しそうに見えねえ」
「それは多分、君の居た世界が愉快すぎただけじゃないかな」

 ライダーの生まれた世界では、誰もがもっと楽しそうにしていた。
 あるかどうかも分からない宝島や大秘宝に思いを馳せて、叶うわけもない夢を酒の席は吐き散らかしては皆でそれを茶化して回ったものだ。
 この世界にも、そんな時代はあった。
 幻の大陸を夢見た探検家。
 地球一周を掲げて無謀な旅に出た航海者。
 居もしない怪物を真剣に追い求め、生涯を費やした冒険家。
 ――かつてこの世界は、子供だった。そこら中に未知と神秘と、夢が溢れていた。

「平和で住みやすいのは間違いないんだろうけどな……やっぱり俺は、あっちの方が肌に合ってる」

 だが今は、その全てが狩り尽くされてしまった。
 文明の発達に伴って、未知と神秘は駆逐されていった。
 今後もこの世界は、どんどん発展し、進化していくのだろう。
 今よりももっと、ずっと大人になっていくのだろう。
 案外、これからこの冬木で始まる『戦争』が、世界最後の神秘になるのかもしれない。

 ライダーは、残りの酒を一滴残らず飲み干して、ウェイターにお代わりを注文する。
 それに合わせて白帽の少女も、ホットミルクの追加を申し出た。

「……で。結局、どうすんだ?」

 そう問われると、少女は顔を俯かせ、静かに溜息をついた。
 彼女も彼も、この世界の住人ではない。
 特にライダーは、彼自身も言っているように、此処とは大きく違う歴史を辿った世界の人間だ。
 そんな彼らが此処に居る理由は、一つ。遠くない内に始まるだろう戦い――聖杯戦争へと挑み、万能の願望器を手に入れるために他ならない。

 だが少女は、今日この時に至るまで、自身の戦争に対する向き合い方を決めかねていた。
 聖杯戦争に乗るということは、実質他のマスターと殺し合いをするも同然だ。
 サーヴァント同士の戦いだから、それを使役するマスターに危害が加えられることはない……そんな考えを抱いている人間が居たとしたら、その考えは余りにも甘い。
 アサシンなんてクラスが存在する以上、マスター狙いを主戦法として動く主従は確実に存在する。
 そうでなくとも、正攻法ではとても倒せないサーヴァントを打破するためにも、マスターを落とすことで連鎖的に消滅させる手段を取る者は多いだろう。
 自分達がそうならないという保証もまた、ない。

「……昔、私達は……国のために戦ってたんだ」
 
 それは、今から四十年も昔のこと。
 今でこそ、この日本は反戦国家だ。
 しかしその時代、日本は戦っていた。
 世界を敵に回して、小さな国土で奮戦していた。
 ―――少女は、その戦いに参加していた。
 勇猛果敢に海原を駆け回り、小さな体で砲や機銃を扱い。
 暁の水平線に勝利の二文字を刻むため、魂を燃やした。


38 : Верный&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 22:04:33 XaHfr2hs0

「たくさんの仲間が死んだよ。でも私達もたくさん殺したし、文句は言えない」

 戦争とは、そういうものだ。
 国の利益のために、お互い大勢の犠牲を払う。
 それは何も日本だけに限った話ではない。
 あの当時、最大の敵として目の敵にしていたアメリカも、膨大な数の犠牲を出している。

「……割り切ってんだなァ、お前」
「そうでもないよ。……割り切れないから、此処に居るんだ」

 頭では分かっている。
 仕方のないことだと。
 言ってもどうにもならない、覆してはならない一つの結果なのだと心得ている。
 ――それでも。理屈だけで行動できないのは、人間も……『艦娘』も同じなのだ。

「やるよ。私は聖杯を手に入れて、願いを叶える」
「オイオイ、下手すりゃ死ぬんだぞ?」
「下手を打って死なない戦いなんて、もうずっとしてないよ」

 どうせ、一度は死んだ命。沈んだ船だ。
 失うことは怖くない。それよりも、取り戻せないことの方がずっと怖い。
 だから少女……駆逐艦娘・Верныйは戦う。
 あの時失った、かけがえのない……『割り切れないもの』のために。

「姉妹の中で……私だけが生き残ったんだ」

 戦が終わって、名前も変わった。
 世界は平和になって、海は何十年後かまで静かになった。
 それでも。彼女の中では、今も戦いは終わっていない。
 ―――暁。雷。電。
 なくした家族を取り戻すまで、『響』の第二次世界大戦が終わることは、永遠にない。

「家族……か」

 それを聞いた時、ライダーは、自分がこの少女に召喚された理由が分かった気がした。
 Верный――ヴェールヌイとライダーの縁は、家族だ。
 ライダーも、戦争を知っている。
 頂上戦争と後に呼ばれる、空前絶後の大戦争を。
 ただしライダーは、戦う側ではなかった。
 彼は家族に、救われる側だった。
 最後まで家族の優しさを一身に受けながら、幸福の中で死んだ英霊。
 それが、彼……ポートガス・D・エースというサーヴァントなのだから。


39 : Верный&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 22:05:11 XaHfr2hs0

「だからお願いライダー。どうか私と一緒に、戦ってほしい」

 ライダーは、家族を残して先立った側だ。
 ヴェールヌイは、家族に先立たれた側だ。
 もしもライダー一人を残して、あの船長や、愛すべき仲間達が全員死んでいたなら。
 彼もきっと、同じことをしただろう。
 
「いいぜ、乗った。嬢ちゃんの願いを叶えるために、一肌脱いでやるよ」

 ライダーに、願いはない。
 彼は自分の人生に、後悔はしていない。
 もしヴェールヌイが聖杯戦争に乗らないというのなら、彼女を生かすために全力を尽くすつもりでいた。
 だが彼女が戦うというのなら、話は別だ。
 彼は少女の願いに全力を懸ける。
 家族のために戦った英霊として、一度は死んだ命を存分に使う。

「――――この『火拳のエース』がな」


【クラス】
 ライダー

【真名】
 ポートガス・D・エース@ONE PIECE

【ステータス】
 筋力C 耐久C+ 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具C+

【属性】
 混沌・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D+
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
 それが船であれば、ランクは2ランク上昇する。


40 : Верный&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 22:06:12 XaHfr2hs0

【保有スキル】
嵐の航海者:C
 船と認識されるものを駆る才能。
 集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
 ライダーは四皇『白ひげ』の配下としての評判が強いが、彼自身も海賊団を率いていたことがあるため、このスキルを保有している。

海賊の誉れ:B
 船を駆り、浪漫を追い求めたの海原の冒険者。
 泥だらけの誇り。
 攻撃力上昇と戦闘続行付与の複合スキル。

海からの絶縁状:A
 彼はその宝具の効力で、水に嫌われている。
 水の中を泳ぐことは出来ないし、水に全身が浸かっている状態では宝具を使うことすら不能になる。
 ただしシャワーのような流水では影響を受けず、体の一部分が浸かっているだけなら宝具の行使も一応可能である。

【宝具】

『火拳』
 ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜70 最大捕捉:300人
 食べた者に特殊な能力をもたらす『悪魔の実』の一つで、正式名称をメラメラの実という。
 体を燃え盛る炎へ変化させることが出来、その火炎を自由自在に操れる。
 最大火力で放てば、付近一帯を焼き尽くすような対城級の超火力も発揮出来るだろう。
 この悪魔の実は俗に『自然系』と呼ばれる種類で、特殊なエンチャントが施されていない限り、ライダーは全ての物理攻撃を透過できる。
 ただし『覇気』を会得している者には透過は通じず、火をも焼き尽くすマグマのような高温に対しては彼の炎は全く通用しない。
 覇気習得者が他に召喚されているかは定かではないが、武を極めた強力な英霊ならば、その体を捉えることは不可能ではない筈だ。

【weapon】
 宝具

【人物背景】
 白ひげ海賊団二番隊隊長、『火拳のエース』。
 『黒ひげ』マーシャル・D・ティーチとの戦いに敗れて海軍に捕縛され、最期には大将・赤犬の手によって殺害された。
 彼を奪還すべく公開処刑の場には白ひげ海賊団の軍勢とインペルダウンを脱獄した囚人達が集結し、海軍との総力戦となった。
 ――しかし結果は、白ひげ側の敗北。彼は命を落とし、『白ひげ』もまた戦場に散ることとなる。

【サーヴァントとしての願い】
 悔いを残す生き方をしてきたつもりはない。

【運用法】
 サーヴァントである以上、直接の覇気使いは居らずとも自然系を捉えられる敵は少なくないだろうことから、透過への過信は禁物。
 一方で無窮の武練のような特殊スキルを持たないバーサーカーには安定して透過を使っていくことが出来るだろう。
 通じる相手に対しては、やはり透過は非常に有利。
 応用の幅も広いので、柔軟な立ち回りが期待できるサーヴァント。


【マスター】
 Верный@艦隊これくしょん

【マスターとしての願い】
 姉妹を、取り戻したい

【weapon】
 艤装

【能力・技能】
 艦娘としての経験、及び戦闘能力。
 水上での戦闘には特に優れている。

【人物背景】
 暁型二番艦、駆逐艦『響』……だった少女。
 姉妹の中で唯一終戦まで生き残り、賠償金としてロシアに引き渡された。
 その結果に対して、怒りは抱いていない。
 ただ、それでも――取り戻したいもの、変えたい過去は……ある。


【把握媒体】
ライダー(ポートガス・D・エース)
:原作漫画の初登場回、VS黒ひげ回、マリンフォード頂上戦争編

Верный
:ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』。wikiで全台詞が閲覧可能。


41 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/24(金) 22:06:39 XaHfr2hs0
投下を終了します


42 : ◆yYcNedCd82 :2016/06/25(土) 00:00:57 ts.r17bw0
投下お疲れ様です
1つ一番間違えてはいけないところを間違えていました

>>27
× 不良グループから足を洗った固法美偉(このり みのり)はその一員――優秀な一員だ。
○ 不良グループから足を洗った固法美偉(このり みい)はその一員――優秀な一員だ。

修正し忘れていたようです。大変申し訳ありませんでした。


43 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/26(日) 17:27:57 H.Pj.oHI0
投下します


44 : ありす&セイバー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/26(日) 17:28:29 H.Pj.oHI0


 ――乱れ立つ夢の互いの刃が吠える




 
 禍々しい威容を湛えて聳え立つその城は、現代に申し訳程度に残された遺跡とは違う、まさに魔城と呼ぶに相応しい代物だった。
 日本史に詳しい学者がこれを見た日には、腰を抜かして目を見張り、驚愕と畏怖に震えるだろうことは想像に難くない。
 何故なら二十一世紀、冬木の地に突如現れたこの魔城は、記録に残される所の『安土城』そのものの姿をしていたからだ。

 今は遥か戦国の世、安土桃山時代。
 天下布武を謳い、世を恐怖で包み込み、最期は本能寺の火炎に消えた第六天魔王が統べていた、言うなれば野望の眠る奥津城。
 第六天魔王――織田信長とは何のゆかりもない土地に、一夜の内に出現したそれは、邪悪な瘴気を常に放ち続けていた。
 陽炎のように立ち昇る焦土の気配は、それがこの世の道理の外にあるということを如実に語る。

 その最上階に座す男は、城主信長以外にはあり得ない。
 現世へ再臨した征天魔王は玉座に座り、かつて殺めた者の頭蓋を盃として酒を啜る。
 まるで血のような赤黒い瘴気を全身から漏らし、背後には翼とも、腕とも付かない冥府の権能が蠢いている。
 聖杯を巡る戦いに呼び寄せられた尾張の王は、完全に人間の面影を残していなかった。
 地獄の鬼も裸足で逃げ出すほどの覇気と邪気を孕んだこの男は、まさに第六天を統べる魔王。
 神を冒涜し、奇跡と呼ばれるものを陵辱し、仏の首を刎ねる邪悪の権化である。

「聖なる杯……下らぬ」

 セイバーのサーヴァントとして召喚されたこの魔王は、聖杯の奇跡を求めてはいない。
 そもそも織田信長という男は、創造を知らない。純然たる破壊のみを以って、無間の焦土を世に齎す。
 彼はその為だけに生まれてきたような存在であった。産声をあげた瞬間からこの時まで、その心が善を容認した試しはない。

「奇蹟など、余にとっては目障りな滓よ……我が手に収まったならばその輝き、大いなる六魔の糧としてくれようぞ」

 信長は燃え盛る本能寺の露と消えながらも、僧侶天海の計略によって人の世に蘇った逸話を持つ。
 このことから彼は大いなる冥府の力を持ちながら、人であった頃の蹂躙欲をも復活させた、全盛の状態で召喚されていた。
 魔王信長に、戦いに背を向けて傍観に徹するなどという軟弱な選択肢は存在しない。
 彼はその足で地を歩き、その剣で数多の英霊を斬り伏せる。
 事実、既に犠牲は出ていた。
 城の所々に散らばった願い抱きし者達の遺骸が、魔王の脅威と彼に楯突くことの意味を言外に伝えている。

 聖杯が魔王の手に渡ったなら、その時、世界は地獄絵図となるだろう。
 悪意を持った奇跡が世界に轟き、魔王のみが住まうことの出来る天下がやって来るだろう。
 彼の統べる天下に、人は住めない。鬼や悪魔ですらも、適応できるかは怪しい物がある。
 彼は、呼んではならないサーヴァントだった。人に手綱を握ることなど決して出来ない混沌の化身こそが、彼なのだから。


45 : ありす&セイバー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/26(日) 17:29:41 H.Pj.oHI0



 ―――では、不運にも第六天魔王を召喚し、行く末を決定付けられたマスターはどんな人物なのか。

 魔王を呼んだ少女は、彼の逐わす間ではなく、城の庭先に当たる場所で独り遊びに興じていた。
 庭といっても、魔王が統べる城の庭だ。
 当然、この世のものとは思えない景色を展開させている。
 地面からは例外なく負の気が滲み、踏み入った生き物は急速に衰弱死し、異常なスピードで骸骨になって土に帰っていく。
 一方で、魔王の瘴気に適合できた生き物は狂犬さながらの獰猛さに変貌していた。
 視界に入ったもの、皆食い尽くす勢いの魔獣。
 それが、唯一されるがままになっている相手が、その少女だった。
 魔王を現世に繋ぎ止めている存在だからこそ、魔王の力に染まった者は逆らえない。
 
 そんな事情など露知らず、獣と戯れる少女は愛らしく、幼い少女。
 戦争なんてワードと絡めることそのものが冒涜的に思えるようなあどけなさ。
 血や煤で汚すことなど決して許されない、その佇まいから滲む幻想的な雰囲気。

「本当に、変なところ。それに、怖いところだわ」

 全体的に、白い少女だった。服も、肌も、髪も、更に言うなら雰囲気も。
 余計なものに染まっていない純粋な白色。童話の人物のような無垢さがある。
 彼女は、アリスだ。果てしなく続く月の海から、この聖杯戦争へと招待された可愛い客人。
 童話と違うのは、ジャバウォックもかくやといった大魔王を従えて、意図せず不思議の国を制圧しかけていることか。
 怖いところと言いながら、少女が実際に帰りたがっている様子はない。
 少なくともここでは、迷子のアリスは一人じゃないのだ。
 セイバーという名のジャバウォックは怖くておぞましいが、しかし、彼はそこにいる。
 ずっと、そこにいてくれる。すごく強くて恐ろしい、たった一人のお友達。

 このお伽話がおかしな話であることは、彼女も気付いていた。
 主人公たるアリスが、お話を終わらせてしまうような怪物を連れているなんて破綻している。
 童話の中のアリスは冒険の末に夢から醒める。
 迷い込んだ世界を破壊し、焦土に変えるだなんて、趣味の悪い改変にも程があるというものだ。
 ただ、それすらも容認してしまうのは、彼女の幼さゆえなのか。
 世界がまだ二つに分かれて争っていた頃に非業の死を遂げた、永遠を彷徨うサイバーゴーストであるがゆえなのか。

 アリス――ありすは当然、知らない。考えてもいない。
 第六天魔王が聖杯を手に入れた時、万能の奇跡を征服してしまった時、何が起こるのかなど知る由もない。
 主と呼ぶには到底足りず、一人の人間と呼ぶにもまだ未熟。
 魔王という矛を持ってしまっただけの幼い少女は、彼女の為の物語(ナーサリー・ライム)を知ることもなく、悪意の瘴気に立ち会っていた。
 
 セイバーの宝具によって常時展開されているこの安土城は、当然ながら悪目立ちをしている。
 特に迷彩が施されているわけでもないため、民間人にも既に目撃を許していたし、明日にはマスコミも騒ぎ始めるだろう。
 とはいえ、好奇心に負けて踏み入ろうものなら、その末路は一つだ。
 それは何も一般人に限った話ではなく、聖杯戦争に参戦した、野望溢れるマスター達も同じである。
 魔王は逃げも隠れもしない。堂々と玉座に座り、魂を潤わせる生贄の来訪を待っている。
 彼が、そんな分かりやすいリスクの存在も理解できないうつけ者なのではない。
 その程度のリスクは、考慮する必要もないのだ。来るならば来るがよい――戦のあとに残るは我が覇道のみ。


46 : ありす&セイバー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/26(日) 17:30:19 H.Pj.oHI0


            「――――皆、塵芥と帰せい」


 そう、皆、皆。この第六天魔王・織田上総介信長の前に死んでゆけ。

 常世の生命など全て、それ以外の価値を持たぬのだから。



【クラス】
 セイバー

【真名】
 織田信長@戦国BASARA

【ステータス】
 筋力A+++ 耐久A+ 敏捷C 魔力EX 幸運D 宝具A

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
征天魔王:A+++
 戦国乱世の時代に誕生した、第六天より来たりし魔王。
 自分に対しての精神干渉を全てシャットアウトする効力を持つが、このスキルの真骨頂は別な部分にある。
 彼は魔王であるがゆえ、常に冥府の底からの魔力供給を受け続けている。つまりセイバーに燃費の概念は存在せず、魂を喰らわずとも自動的に魔力が補填されていく。
 ただしマスターが死亡した場合、世界と冥府とのリンクが断絶。彼は再び冥府の底に帰ることとなるだろう。

護国の鬼将:A
 あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を"自らの領土"とする。
 この領土内の戦闘において、王であるセイバーはバーサーカーのAランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得できる。

勇猛:A+
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

カリスマ:B-
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 セイバーのそれは恐怖政治に近いが、その恐怖心が絶対的すぎるがゆえに、兵の士気はむしろ向上していく。


47 : ありす&セイバー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/26(日) 17:30:44 H.Pj.oHI0

【宝具】

『六魔ノ王』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大補足:100人
 僧侶天海の謀略により、冥府の底から復活を果たした彼が現世にて奮った魔王の権能。
 身長の三倍ほどはあろうかという巨大な禍々しいヴィジョンを顕現させ、その圧倒的な力で敵を蹴散らす。
 宝具が発動されれば周囲は六魔ノ王の輝きで赤々と照り返り、その長大な刀は信長のそれを一ランク上回った筋力ステータスとして敵を蹂躙する。
 更に火球の生成や大爆発を引き起こすなどの応用も可能で、攻防両方を兼ね備えた強力な魔王の矛である。

『魔王牙城安土』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
 セイバーの召喚とともに自動展開される城塞型の宝具で、生前彼が根城と据えていた安土城そのもの。しかし外観は魔王の瘴気で妖しく歪み、城に近寄る者、城の内部に踏み入る者へと常に異常な不快感、重圧感を引き起こさせる。
 それはほとんど生命力の吸引に等しく、人間の長居は衰弱に繋がる。
 城内でのセイバーは城外よりも魔力供給を大きく受けることが出来るが、彼の意思で消すことの出来ない宝具であるため、居場所を自動的に他の主従へ知らしめてしまうのが最大の弱点。

【weapon】
 剣、ショットガン、マント

【人物背景】
 第六天魔王を自称する織田軍総大将にして、シリーズ通して最大の悪役である戦国武将。
 征天魔王の肩書を持ち、明智光秀に本能寺で討たれるもそれで終わることなく復活、その猛威で現世を蹂躙する。

【サーヴァントとしての願い】
 不明

【運用法】
 宝具である安土城の存在から、他の主従に目を付けられるのはほぼ確実。
 しかしセイバーの戦闘能力は非常に高く、負傷は黙っているだけで冥府からの魔力供給により回復される。
 あまり細かいことを考えずに、やりたいようにさせておくのが吉だろう。


【マスター】
 ありす@Fate/EXTRA

【マスターとしての願い】
 ???

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 その正体は、サイバーゴースト。肉体を持たない精神体であるがゆえに、身体的な制約を受けずに、巨大な魔力を扱うことが可能。脳が焼き切れることがないがゆえに、リミッターがない。ただし、それは魂が燃え尽きるまでの話。いずれは壊れるが定め。
 だが、彼女のセイバーは冥府の底から沸き上がる力を原動力とするため、彼女の負担は皆無。
 更にコードキャストとして、サーヴァントを補助する魔術も使う。

【人物背景】
 儚げな印象の、人形のような少女。
 前の国籍は第二次大戦期のイギリス。ナチスドイツの空爆によって瀕死の重傷を負ったが、魔術回路が確認されたために強制的に延命させられ、数年間に及び研究用実験に使われた後に肉体は絶命した。だが精神は繋げられたネットに残り続け、電脳魔として生き続けることになる。
 基本的に、遊びたい盛りの無邪気な子供。先述の事情で訳も分からぬうちに長らく苦痛と孤独を味わった反動から、寂しがり屋で人見知り。
 この世界の彼女は、もう一人のアリスに出会えなかった。



【把握媒体】
セイバー(織田信長):
 性格と宝具を使わないスタイルだけならアニメ第一期の視聴で把握可能。
 六魔ノ王関連は、戦国BASARA3のプレイ動画などで動作を確認することで把握可能。

ありす:
 PSP用ゲーム「Fate/EXTRA」第三章で把握可能。
 現在EXTRAはダウンロード版も販売されているので、もちろんそちらでも可。
 漫画版でも大まかなキャラクターは掴めるが、かなり端折られているので原作ゲームがお勧め。


48 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/26(日) 17:31:43 H.Pj.oHI0
投下を終了します。
早速ですが>>44

>何故なら二十一世紀、冬木の地に突如現れたこの魔城は、記録に残される所の『安土城』そのものの姿をしていたからだ。

何故なら二十世紀、冬木の地に突如現れたこの魔城は、記録に残される所の『安土城』そのものの姿をしていたからだ。
に修正します


49 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:52:19 9wGaCGo20
投下します。


50 : アイラ&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:52:53 9wGaCGo20


「きゃあああっ、ひったくりよ! 誰か捕まえてー!!」

 今日も冬木に、困った人の声が木霊する。
 冬木市は、別に治安の悪い街ではない。
 少なくとも、今はまだ。
 これからどうなるかはさておき、今この時は、まだどこにでもあるような平和な街だった。
 しかし、全く悪人が居ないといえばそれは嘘になる。
 
 ひったくり、カツアゲ、詐欺、些細なことから過熱化した路地裏の殴り合い。
 悪が笑い、弱い者が泣くという当たり前の縮図が此処にもある。
 今、買い物帰りの主婦が右手のバックをすれ違いざまに奪い取られた。
 その悲痛な声に反応して周囲の視線が逃げ去る男に集中する。
 追いかけようとする者も居たが、まるで追いつける気配がない。
 被害者にも群衆にも知る由のないことだが、犯人の男は学生時代、短距離走で全国大会に出場したほどの健脚の持ち主だった。
 
「ひひっ、悪いな……、早急にカネが必要なんだよ……じゃないと俺が海に沈められちまう……!」

 しかし、それも過去の話。
 今の彼は誰が見ても明らかな、社会の屑だ。
 就職に失敗して戯れに入ったパチスロ店で、『不運にも』大当たりを出してしまったこと。
 それがきっかけで何処に出しても恥ずかしい、ギャンブル依存症患者として完成してしまった。
 親の仕送りに手を付けたのなどは早い内で、今や負けが込み、この間などはサラ金に駆け込んだ。
 当然、法外な利息を要求してくる悪徳業者に金を払えるような懐の余裕はない。
 そこで彼が手を出した苦肉の策が、実に安直な、他人の金を盗んで返済に使うというものだった。

 逃走ルートは頭の中にある。
 次の曲がり角を曲がったところで裏路地に飛び込んで、後は道伝いに走っていくだけ。
 暫く進めば、身を隠せる廃アパートがある。
 ひとまずその中に逃げ込んで、日が落ちた頃にでも自宅に戻る。
 あとは素知らぬ顔でその金を持ち、サラ金に返済へ赴けばいいだけだ。
 財布の中身も検めぬ内にすっかり完済した気でいる辺りにも、彼の卑小さが顕れている。

 考えの巧拙は置いておくとしても、現実問題、彼を捕まえるのは不可能に近かった。
 近くに交番はないし、偶然パトカーが通りかかりでもしない限り、男の勝ち逃げはほぼ確実だ。

 しかし男は、不運だった。不運すぎた。
 もしも行為の実行があと一週間早ければ、何の苦労もなく、金が入っていただろうに。
 問題を後回しにし続けていたせいで実行の遅れた愚かな彼は、それに行き遭ってしまう。
 ――目に痛いほどの青空から突撃してくる、少女の姿をした衛星(サテライト)に。

「な、何だありゃ」


 ―――男は新聞を取っていなかった。
 テレビも、前は持っていたが、金に窮して売ってしまった。
 だから知らなかった、彼女の存在を。
 冬木市に六日前から現れた、正体不明のヒーロー少女。
 可愛く可憐なヒューマンサテライト。
 街の端から端までをひとっ飛びする飛行速度、居眠り運転の暴走ダンプを片手で止める馬鹿力。


51 : アイラ&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:53:30 9wGaCGo20
 
「そのバッグを離せ」
「な、何だよお前ぇ!」
「ひったくりは、――悪いことだ!」

 降り立った人間衛星、ひったくり犯の前へ仁王立ちで立ちはだかる。
 なまじ陸上競技に精通している人間だから、男にはすぐに分かった。
 通り抜けられない。道の真ん中を塞がれているから、どちらを通ろうとしても簡単に捕まえられる。
 引き返すのは論外だ。後ろには人混みが出来ていて、捕まえてくださいと言っているようなもの。
 
「ふ、ふざ、けるなっ……このガキ!」

 考えを放棄する。
 拳を大きく振り上げて、少女の顔面目掛け、それを叩き付けた。
 ……びくともしない。
 肌は相応に柔らかいのに、その奥にある骨が、まるで鉄か何かで出来ているように硬い。
 当たり前だろう。彼女は人間衛星、機械生命体。人間と同じ材質では、正義を守れない。
 
「――アースちゃんだ! アースちゃんが助けに来たんだ!!」

 後ろの群衆が、その名を叫んだ。
 アースちゃん――それは彼女の名前。
 冬木市に降り立った、『正義』の象徴。
 アースちゃんは悪がのさばる社会を許さない。
 たとえどんな小さなことでも、困っている人がある限り、アースちゃんはそれを見逃さない。

「そんなものか? じゃあ今度は、私が行くぞ」
「え? ちょっ、待っ」
「待たない!!」

 まったく同じポーズで振りかぶったアースちゃん。
 その華奢な腕が、男の顔面を横殴りにした。
 竹とんぼのように回転しながら、落ちぶれた男が宙を舞う。
 意識が暗転する間際、男はこう思った。
 
 ――いやいや、待て待て! 何でお前らは、こんな化け物を平然と受け入れてるんだ――

 その答えを彼が知る前に、意識が落ちた。
 無論、アースちゃんは手加減をしていた。
 彼女が本気だったなら、今頃男の首はあらぬ方向に捻れている。
 伸びてしまった男の手からバッグを奪い取ると、アースちゃんは被害者の主婦にそれを差し出す。
 
 白昼の商店街に、拍手の音色が心地よく響く。
 通報を受けて駆けつけた警官も、「手柄を取られちまったなあ」なんて笑っていた。
 アースちゃんは、すっかり街の人気者だった。看板といってもいい。

 ロケットに体を変形させて、顔だけ出しながらアースちゃんは空に飛んで行く。
 衛星である彼女の戻る場所は、当然大気圏外の宇宙空間だ。
 しかし、今は違う。彼女には帰る場所が、戻る家がある。
 ……待っている人も、いる。


52 : アイラ&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:54:10 9wGaCGo20


 
 
 安家賃のマンションの一室が、アースちゃんの『帰る場所』だ。
 実体化を解除して霊体に戻り、『アースちゃん』から『サーヴァント・ライダー』に意識を変える。
 正体秘匿の原則なんてもの、アースちゃんにしてみればしち面倒臭いことこの上なかったが、これはれっきとした戦争だ。彼女もそれを理解している。
 自分はともかく、彼女はまずい。
 こうは言いたくないが、彼女は弱い。
 同じ機械なのに、自分と彼女の間には、天と地ほどの力の差がある。
 いや……きっとそれだけじゃない。
 アースちゃんは、表情を少しだけ曇らせた。
 階段を登り、廊下を瞬く間に移動して、部屋の扉をすり抜ける。
 そこで霊体化を解除。
 すると、中の彼女がアースちゃんに視線を向ける。

「また、人助けをしてきたんですね」
「ああ。悪いやつと、困ってる人は見過ごせないんだ」

 この昭和に、彼女の居場所はなかった。
 与えられたロールは、アルバイトで生計を立てている平凡な大学生。
 もちろんそれは、大嘘だ。そもそも彼女は、人間ですらない。
 ――アンドロイド。アースちゃんとは違う意味で人を助けるために生み出された、心を持った機械。
 
「サーヴァントや他のマスターには、まだ会えてない。……アイラの方は、私が居ない間に何かあったか?」
「特には何も。今日はずっと部屋で過ごしていたので」
「そっか。ならいい」
 
 艶やかな白みがかったツインテール。
 その見た目は、傍目には人間と全く見分けが付かない。
 それどころか、人間の女性の中でも抜きん出て可愛らしい部類だ。
 子供としての可憐さを押し出した顔立ちのアースちゃんとは違い、彼女は少し大人っぽい。
 部屋着の袖から出ている右の手首には、白い肌に似合わない赤い模様が這っていた。

 それは、彼女が『戦争』の参加者である証。
 アースちゃんとマスター・アイラの間を繋ぐ、三画ぽっちのライン。

「……なあ、アイラ。もしも聖杯が悪いものだったら――私は多分、それを壊すぞ」
 
 普通なら、この発言をした時点で主従が一つ決裂してもおかしくない。
 それほどの爆弾発言を、アースちゃんは堂々と口にした。
 アースちゃんは嘘をつかない。
 嘘の意味を教わったことはある。
 それでも、嘘をつかない。


53 : アイラ&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:54:55 9wGaCGo20
 
 アースちゃんは、『善』の履行者だ。
 彼女の生まれた意味は、悪を成敗すること。
 そして、善なるものを守ること。
 力なき者の嘆きを、聞き逃さないこと。
 だからアースちゃんは、聖杯が悪しきものであったなら――きっとそれを破壊してしまう。

「悪いやつは、懲らしめなきゃいけない。
 悪いものは、壊さなきゃいけない。
 だから私は、聖杯が悪いものだったら、壊す。
 ……それでも、アイラは私のマスターでいるつもりか?」

 今の時点でも既に、アースちゃんは聖杯というものに対して不信感を抱いている。
 その理由は、聖杯戦争という儀式のシステムだ。
 あまりにも、命を粗末にし過ぎている。
 これでは多くの人が死ぬ。善悪関係なく、サーヴァント以外の犠牲が出すぎる。
 こんなことをしなければ出現しない聖杯とやらは、本当に奇跡の願望器なのか?
 奇跡を騙った、災いを呼び込む悪の器なのではないか?
 アースちゃんがそんな疑念を抱いてしまうのも、もっともな話だった。

「……願い事、ないわけじゃありません」

 ぽつりと、口を開く。
 アイラもアースちゃんも知らないことだが、この聖杯戦争は異形のものだ。
 命を懸ける願いもないのに巻き込まれてしまったマスターは、相当数居るだろう。
 しかしこのアイラという少女は、願いを全く持たないわけではない。
 願いは、ある。
 アイラは、『もう一度』が欲しいのだ。

「でも、私は……誰かを殺して、蹴落としてまで、それを叶えたいとは思わないので」

 人を助ける、心を持ったアンドロイド――『ギフティア』。
 アイラとアースちゃんは、根本的には同じ理念のもとに造られた存在だ。
 ただ少し、そこに懸ける情熱の温度が違うだけ。
 自分の願いのために生まれた意味を忘れ、悪に染まることはアイラには出来なかった。
 それを聞いて、アースちゃんは頷く。
 
「……お前はいいやつなんだな、アイラ」

 彼女たちは、人に造られた者。
 人のために造られた、人工生命。
 だから彼女たちは、悪に染まらない。
 
「私は、見極める。この目で、聖杯を」

 アースちゃんは決意する。
 自分が聖杯の善悪を見極める。
 それが良いものなら、それでいい。
 もしも悪いものなら――破壊する。
 奇跡などと聞こえのいい言葉を使って人を惑わした聖杯を、絶対に許しはしない。


54 : アイラ&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:55:25 9wGaCGo20

「ライダー、今日はまだ外に出るんですか」
「分からない。助けを求める声がしたら、行くことになると思う」
「わかりました……私は、少し休んでいるので……何かあったら、起こしてください」
「……? こんな時間からか?」

 アースちゃんは、怪訝な顔をする。
 まだ時計の針は、五時にすら届いていない。
 昼寝にしては遅いし、本格的な就寝には早すぎる。
 アイラはそれを指摘されると、少しだけどきりとしたように見えた。

「……昨日、少し寝不足だったので」
「…………」

 会話を切り上げて、ベッドへと身を横たえる。
 ライダーを無視するように、目を瞑る。
 
「……嘘をつくんだな、アイラは」

 その声は、聞こえなかったことにした。






 ――――81920時間。
 
 数字にすれば多く見えるが、実際には十年にも満たない。
 それが、『心』を持つ高性能アンドロイド・ギフティアの寿命だ。
 いや……耐用期間というべきだろうか。
 彼女達が人間のパートナーであれる時間は、たったそれだけ。
 終末期には高い身体能力が目に見えて低下し、耐用期間を過ぎたギフティアは、人の敵になる。
 ワンダラー。人格と記憶が崩壊した、ギフティアの成れの果て。
 かつて元の世界で、アイラはそういう悲劇が起こらないようにと活動していた。
 そして友情を知り、恋を知り、結ばれて――幸福の中、生涯を閉じたのだ。

 だが、アイラは今、此処にいる。
 耐用期間を過ぎているのに、人格も記憶も崩壊せずに、ギフティアで居ることが出来ている。
 でもそれは、永遠ではない。そのことは、アイラが誰よりもよく分かっていた。


55 : アイラ&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:56:18 9wGaCGo20

 身体機能の劣化は、この期に及んでもまだ進んでいる。
 これは、アイラの耐用期間があくまで延長されているだけということの証明だ。
 あと何十時間、何百時間。
 もしかしたら、それよりも更に早いかもしれない。
 全てが壊れてしまう時は、迫っている。
 
 アイラはこう言った。
 誰かを蹴落としてまで、願いは叶えたくないと。
 その言葉に嘘はない。しかしアイラは、アースちゃんに自分のことを喋っていない。
 それを指摘されたなら、弁解のしようもない。
 アイラは、聖杯を欲している。
 水柿ツカサという愛しい人と結ばれるために、奇跡が起きることを望んでいる。

「……ごめんなさい、ライダー」

 小さくシーツの布地を握り締めて、居るかどうかもわからない自分のサーヴァントに、小さく詫びることしか今の彼女には出来なかった。
 ……プラスティックの心は、揺れている。


【クラス】
 ライダー

【真名】
 アースちゃん@コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜

【ステータス】
 筋力A++ 耐久C 敏捷A++ 魔力E 幸運D 宝具E

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E+
 騎乗の才能。
 別に、乗り物に乗るのが上手いわけではないし、乗る必要がそもそもない。

【保有スキル】
機械生命体:A
 ライダーは狂化のスキルを持たないが、機械であるだけに融通が効かず、話が通じない場面がある。

人間衛星:A
 ヒューマンサテライト。
 ロケット型に変形することでの高速飛行や、巨大怪獣を振り回せるほどの怪力を発揮することが出来る。ただし、電撃とだけは相性が悪い。

正義体質:A+
 誰かの助けを、ある特殊な脳波として受信することが出来る。
 このスキルに範囲制限は存在せず、聖杯戦争の舞台である冬木市内程度の広さであれば、問題なく全範囲の声を聞き取れる。

貧者の見識:E
 ライダーのこのスキルは、正義と悪を見分けることにかけてのみ発揮される。
 だがその精度は極めて微妙で、いささか判断が極端すぎるきらいがある。


56 : アイラ&ライダー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:58:00 9wGaCGo20

【宝具】

『奇準点』
ランク:E 種別:対人民宝具 レンジ:特殊 最大捕捉:1〜∞
 彼女が何らかの事態や戦闘に介入を行った際に発現する、周囲の人間への拡大解釈。
 彼女は超人・人間・動物の区別なくあらゆるものを助けてきたことで、世論は善悪のはっきりしない事件に際して、「アースちゃんが付いた方が善」だと解釈し、常に彼女を応援してきた。
 ライダーの行動を目にした人間は、それがどんなものであれ、彼女の行動こそ正しいと認識する。
 マスターに対しての効き目は多少彼女を贔屓目に見てしまう程度のものだが、冬木市に暮らす一般人は例外なく彼女を善、彼女の敵を悪と判断する。
 この宝具によって、ライダーは冬木市民に異常なほど歓迎され、受け入れられている。
 
【weapon】
 自分自身

【人物背景】
 『人間衛星』の異名を持つ、古株の超人ロボット。
 普段は大気圏を衛星のように軌道周回し、人々の助ける思いに反応し世界中のどこへでも急行する。
 聖杯戦争では冬木市外に出て飛行を行う際に魔力の燃費が急激に悪化。
 また、ライダーも聖杯戦争については正しく理解しているため、聖杯戦争そっちのけで飛び回るようなことは余程のことが起こらない限りはない。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯戦争の善悪を見極める。悪なら聖杯は破壊する。


【マスター】
 アイラ@プラスティック・メモリーズ

【マスターとしての願い】
 聖杯で、ツカサともう一度――

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 豊かな表情など高機能な性能を持つ、心を有するアンドロイド『ギフティア』。
 ギフティアは81920時間の耐用期間が過ぎると人格や記憶が壊れ出し、人間に危害を加える『ワンダラー』と呼ばれる存在となってしまう。
 アイラは既に耐用期間を過ぎており、ライダーとの魔力のパスで人格を強引に延命している状態。

【人物背景】
 ギフティアの少女で、水柿ツカサのパートナー。
 耐用期間の超過により、既に身体能力の劣化が激しく生じている。 


【把握媒体】
ライダー(アースちゃん):
 アニメ第一期で大まかなキャラクターは把握可能。
 念を入れたい場合は第二期もぜひ。

アイラ:
 原作アニメ全十二話。


57 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/27(月) 01:58:25 9wGaCGo20
投下を終了します


58 : ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:04:53 k/ybUa.o0
投下お疲れ様です
自分も投下させていただきます


59 : 天乃鈴音&ランサー ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:05:25 k/ybUa.o0
 ――理想など幻想という時代で、貴方は何処へ手を伸ばすの?



 テレビに映った魔法少女を、天乃鈴音はまるで知らない。
 古いブラウン管の幻想は、天乃鈴音のそれではない。
 1980年――昭和の後期だというその時代は、彼女にとってあまりに遠く、馴染みの薄い世界だった。
 昭和55年などと言われても、平成生まれのスズネにとっては、いつのことなのかすらも分からなかった。

「………」

 いつもと同じように、朝の町を走り。
 いつもと同じように、新聞紙を配る。
 印刷されたニュースの数々は、いつもと同じ未知のものだ。
 未来のことなど見通せず、初めて読むことばかりというのは、昭和も平成も変わらない。
 世界の全てが様変わりしても、スズネの日常は変わることなく、退屈な堂々巡りを続けていた。
 違いがあるとするならば、それが日が落ちた闇の夜の話。
 日常の裏で営み続けた、戦いという非日常の領域だ。

(私は)

 私は何のために戦う。
 魔法少女がいない世界で、天乃鈴音は何を求める。
 聖杯戦争。万能の願望機を賭けた殺し合い。
 敗者は命と共に全てを失い、勝者は最も尊い富を手にする。
 天の杯をその手に掴み、祝福を飲み干した勝利者は、いかなる願望であっても、叶えることができるのだという。

(私はその果てに、何を望む)

 スズネの心は揺れている。
 あまりにも大きすぎる報酬を前にし、その使い方を決めかねている。
 天乃鈴音の願いとは何だ。
 彼女が求めてきた悲願は、同じ魔法少女の討滅だ。
 いずれ魔物へと変わり果て、人を食い殺さんとする邪念の芽を、花開く前に摘み取ることだ。
 そのために殺人の罪を背負い、スズネは戦い続けてきた。
 刻み込み、お守りに潜め続けてきた名前は、咎で塗り固められた血の十字架だ。
 だとしても、彼女はその行いこそが、人々を救うための使命であり、大きな過ちを犯した自分の、贖罪なのだと信じてきた。

(それでも)

 されども、今のスズネの心には、もう一つの願いが芽生えている。
 それは彼女の最初の罪科を、歴史の闇へと葬り去ること。
 天乃鈴音が最初に殺めた、美琴椿という名の魔女を、蘇らせ人間へと戻すということだ。
 邪念の脅威に晒された彼女を、奇跡にて救い出した女性・ツバキ。
 彼女はくだらない憧れのために、戦場へ踏み出したスズネを、常に庇いながら戦っていた。
 そうして彼女は限界を迎え、穢れきった魂の器を、邪悪なる魔性へと変貌させた。
 魔法少女の数を減らすことなら、自分の力でも為すことができる。
 されでも死者の復活という奇跡を、起こせる機会があるとするなら、それはきっとこの瞬間だけだ。
 浅はかな願いを抱いたばかりに、見返りを無駄遣いしてしまったスズネには、この時以外にチャンスはないのだ。


60 : 天乃鈴音&ランサー ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:06:38 k/ybUa.o0
「まだ迷っているのですか」

 その時だ。
 背後から、声が聞こえた。
 いつしかスズネは人目を避けてか、暗い路地裏へと入り込み。
 静かな日陰の狭い通路に、一つの気配を感じ取っていた。

「変に鋭いのね、ランサー」

 振り返り、その名を口にする。
 さながら陽炎の彼方の幻か――いつの間にか、彼女の背には、一人の男が佇んでいた。
 暗色系のローブ姿は、古臭い昭和のファッションですらない。もっと遠い時代と国の、忘れ去られた民族衣装だ。
 聖杯戦争を戦う術は、参加者自身の暴力ではない。
 ゲームに挑むために与えられたのは、超常の使い魔・サーヴァントだ。
 歴史に刻まれた英雄を模倣し、戦いの手駒とする聖杯の奇跡だ。

「見えてもいないのに」

 そしてスズネに与えられたのは、光なき盲目の槍騎士(ランサー)だった。
 痛ましい傷痕が刻まれた両目を、黒布で覆い隠した男には、憂いを帯びたスズネの顔など、見えているはずもなかったのだ。

「目に映せるものだけが、世界の全てではないでしょう。貴方の抱えた憂いも惑いを、察する術は他にもあります」

 それでも、ランサーはそう語る。
 視力を喪失したことと、スズネの胸中を察することには、何の関わりもないと謳う。
 その目が何も映さずとも、願いを前にした彼女の苦悩を、理解することはできるのだと。

「もう一度言いますよ、マスター。貴方がどの道を選んだとしても、私はその決意を尊重します。
 私は貴方のしもべたる騎士……貴方を『守りし者』ですから」
「そう」

 丁寧な口調の男の声に、スズネはそれだけを短く答えた。
 踵を返し、行く道を見やると、再びゆっくりと歩き始める。
 朝日の当たる通りへと。影に潜む騎士を置き去りにして。

(私がこの戦いの果てに、何を選ぶのかはまだ決められない)

 全ての魔法少女と魔女を消し去り、遠い日にツバキに誓った決意を、完全なる形で実現する。
 たとえツバキに忌み嫌われても、殺人者としての姿を晒したとしても、己が幻想の原点を、現実の世界へと蘇らせる。
 どちらの選択が最善なのか、未だツバキには計り知れない。
 平和と安寧を勝ち取るために、最愛の恩人の命を手放すか。
 大切な一つの命を救うために、人類種の救済を諦めるのか。

(あるいは何も掴むことなく、また同じ日々を繰り返すのか)

 あるいは聖杯の力を拒み、何一つ願いを叶えることなく、元いた町へと帰還するのか。
 元はといえば、ツバキの死期は、スズネが願い事にすがりついたばかりに、急激に早まってしまったものだ。
 おまけにツバキは願いの対価に、満足に生きることも死ぬことも、許されない体へと貶められた。
 都合のいい奇跡など存在しない。万能の杯であったとしても、またしてもろくでもない見返りを、天乃鈴音に求めるかもしれない。
 であれば、かつての過ちから学び、大人しくそれを手放すことも、選択肢の一つに入るかもしれない。


61 : 天乃鈴音&ランサー ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:08:18 k/ybUa.o0
(だとしても、生きることだけはやめない)

 それでも確かなことは一つだけある。
 果てに待つ終幕が何だったとしても、そこにたどり着くまでの歩みは、絶対に止めないということだ。
 悲願を果たし、戦いから解き放たれ、平穏を甘受してもいい。
 最愛を救い、自身は闇に消え、孤独に戦ったとしても構わない。
 全てを諦め、何も掴まず、元いた場所へと帰ったとしても、果たすべき使命はそこにあるのだ。
 いずれの道を歩んだとしても、魔法少女の討滅のために、戦う時は必ず来る。
 真に許されないのは、その使命を放棄し、無責任に死に絶えることだ。

(だから、私は戦うわ)

 何があっても、死ぬことだけはできない。
 たとえ未知の戦場であっても、何も得られない闘争であっても、勝ち残ることだけは諦めはしない。
 どれほどの血を流しても、どれほどの血を流させても。
 たとえ中学生の未熟な心が、傷つき悲鳴を上げたとしてもだ。
 明かりの下に出た彼女の顔は、特別決意に満ちたものではない。面白みのないポーカーフェイスだ。
 それでも、一瞬前まであった、情けない憂いと惑いの色は、今この時は消え去っていた。



(貴方のことは分かっています)

 日陰より、その男は囁く。
 スズネにも聞こえないその言葉を、胸のその奥に響かせる。
 早朝の静かで穏やかな風に、不可視のマントを揺らせながら、霊体化したランサーはその背中を見ていた。
 戦う決意を固めながらも、その先で手にするものについては、未だ答えを決めかねている、天乃鈴音の心を見ていた。
 人の域を超えたランサーの身には、両目の光を失ってなお、見えている惑いの心があったのだ。

(どれだけ取り繕ったとしても、貴方の心の楔は消えない)

 それは陰我。
 心の邪念。
 人の感情の憶測に潜む、浅ましい欲望の数々だ。
 人間は聖人にはなりきれない。どんな善人であったとしても、我欲を捨て去ることはできない。
 聖杯には平和を願うべきだと、理性では理解していながらも、スズネは亡き恩人の影に囚われ、己が欲望を満たそうとしている。
 揺れ動いているつもりでも、死者蘇生という悲願に向かって、彼女の振り子は傾いている。

(ならばこそ、貴方というマスターならば、分かっていただけるのでしょうね)

 そしてそれは、ランサー自身も、胸に抱えていた願いであった。
 彼にも救いたかった者がいた。守れなかった命があったのだ。
 恐らくはスズネはそれ故に、彼をこの冬木へと降り立たせた。
 陰我で結ばれた宿命が引き合い、見果てぬ欲望に囚われた彼を、聖杯に巡り合わせてしまったのだ。

(私が為さんとすることも)

 黒曜騎士ゼム。
 真名をダリオ・モントーヤ。
 騎士の名前を騙る彼は、その実守りし者ではない。
 天乃鈴音は未だ知らない。己に付き従うふりをした、この盲目の槍騎士が、英霊ではないということを。
 世界を救うためでなく、己の欲望を満たすべく、世界を転覆させんと戦った、裏切りの反英霊であることを。
 彼の暗黒の切っ先は、まだ見ぬライバルだけでなく、密かに己の喉元にも、突きつけられているということを。


62 : 天乃鈴音&ランサー ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:08:51 k/ybUa.o0


 目に見えるものが全てではない。
 心の瞳を開いたとしても、それでもなお見えぬものがある。
 スズネはダリオの事実を知らず、そしてそのダリオですらも、スズネの真実を理解してはいない。

 彼が垣間見たはずの陰我には、一つのからくりが仕掛けられていた。
 天乃鈴音が胸に描いた、最悪の記憶と贖罪の決意は、しかし正確な情報ではなかった。
 それは今の二人が知りもしない、もう一人の誰かに仕組まれた、幻想という名の罠だった。
 何者かの邪心を満たすために、スズネは偽りの記憶を、その意識に植え付けられていたのだ。

 魔法はいつか解ける日が来る。
 己を偽るガラスの靴は、時計の鐘と共に消える定めだ。
 されども、スズネのスイッチは、時限式のものではない。
 故に本当の記憶が、いついかなる時に目覚めるのか、それは誰にも分からない。
 固く閉ざされた扉が、こじ開けられるのはいつになるのか。
 はたまたこじ開けようとする者に、本当にこの場で巡り会うのか。
 天乃鈴音の進む未来は、ひどく不確かなものだった。
 そしてそれはそっくりそのまま、天乃鈴音を支えている、足場の儚さを指し示してもいた。

 決められたレールはこの地にはない。
 彼女が殺すべき仇敵は、きっとこの町にはいない。
 意識せぬまま線路から離れ、辿り着いたのは標識のない道。
 不確かなはずの正義を胸に、少女は道を歩み始める。

 その理想が玩具だとしても、貴方はその手を指し伸ばせるの――?


63 : 天乃鈴音&ランサー ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:09:12 k/ybUa.o0
【クラス】ランサー
【真名】ダリオ・モントーヤ
【出典】牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-
【性別】男性
【属性】中立・悪

【パラメーター】
筋力:D 耐久:E 敏捷:D 魔力:C 幸運:D 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:E(C→B)
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
 『黒曜騎士・ZEM(ゼムのよろい)』発動時にはCランクに変化し、第二節以下の詠唱による魔術を無効化できるようになる。
 『陰我顕現・魔獣降臨(サー・ヴェヌス)』発動時にはBランクに変化し、第三節以下の詠唱による魔術を無効化できるようになる。

【保有スキル】
盲目:-
 両目を潰したダリオには、視覚妨害が通用しない。
 彼はこの状態でも、気配や聴覚を辿ることで、問題なく戦闘を行っている。

精神汚染:B
 精神干渉系の魔術を中確率で遮断する。
 心を暗い闇に染め、歪んだ使命感を振りかざす彼には、何者の声も届かない。

心眼(真):C
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『黒曜騎士・ZEM(ゼムのよろい)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
筋力:C(B) 耐久:B 敏捷:B(A) 魔力:C 幸運:C
 陰我あるところホラー現れ、人を喰らう。だが、古よりホラーを狩る者達がいた。
 鎧を纏うその男達を、魔戒騎士という。
 ――古より人を襲ってきた、魔界の怪物・ホラー。それと戦う力を身につけた、魔戒騎士の鎧である。
 ダリオの纏う「ゼムの鎧」は、黒曜石のごとき漆黒に染まっており、静かな光を放っている。
 更に紫の魔導火を纏うことにより、攻撃力を底上げする「烈火炎装」を発動することが可能。
 ……しかし、闇に堕ちたダリオの鎧は、その属性を反転させた、暗黒騎士としての本性を隠している。
 より禍々しい姿に変貌し、陰我の力を解放したゼムは、
 魔力消費の増大と引き換えに、筋力・敏捷の数値をワンランクアップさせることができる。

『陰我顕現・魔獣降臨(サー・ヴェヌス)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:500人
 人の邪心へと漬け込み、身と心を喰らう魔界の住人、ホラー。
 生前のダリオは、このホラーに身を喰われ、醜悪な魔獣の姿へと変貌している。
 この宝具を解放することで、ダリオは人の肉体を捨て、巨大なホラーへと姿を変えることができる。
 禁断の魔導具を取り込んだホラーは、敵を次元の狭間へと閉じ込めることが可能(ダリオが一定のダメージを受けると開放される)。
 自身も巨体を活かした攻撃力と、投げナイフ状の刃物による攻撃を行うことができる。
 ……しかし、巨大なホラーの抱える陰我は、人の理性を容赦なく溶かし、魔性の濁流によって押し流していく。
 この姿をになったダリオは、全ての自我を喪失し、マスターによる制御も受け付けなくなってしまう。


64 : 天乃鈴音&ランサー ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:10:58 k/ybUa.o0
【weapon】
魔戒槍
 ソウルメタルによって鍛え上げられた、魔戒騎士のための槍。
 騎士の武器は剣の形をしているのが一般的だが、ダリオは槍を用いている。
 修行を経た者はこれを自在に操ることができるが、そうでない者には持ち上げることすらできない。
 『黒曜騎士・ZEM(ゼムのよろい)』 を纏った際には、十字の穂先を持った槍へと変化する。

魔導馬
 優れた騎士が保有する、漆黒の馬の姿をした魔戒獣。
 鎧を装着しているか否かにかかわらず、ダリオの一声で駆けつけ、その足として活躍する。

ナイフ
 一般的な投げナイフ。鎧を纏った騎士には通用しないが、生身の相手に対しては、投擲してダメージを与えることができる。

アポストルフ
 ローブと仮面を身に着けた、人間サイズの人形魔導具。
 脚部には車輪が備わっており、高い機動力と、水上行動をも可能とする万能性を誇る。
 ダリオはこの魔導具を、魔力によって生成し、手駒として操ることができる。

【人物背景】
古より魔獣ホラーを討滅してきた、黒曜騎士・ゼムの鎧を受け継ぐ魔戒騎士。
崩壊した欧州の国・バゼリア根付きの騎士であり、国が滅びを迎えてから、何年もの間消息を絶ってきた。
実は彼の従う姫・サラは、その直後にホラーへと変貌しており、彼もまた人としてのサラを蘇らせるべく、闇の力に手を染めている。

物腰は非常に丁寧で、誰に対しても敬語で接する。
しかし一度決めたことは、何と言われようと実行する頑固な男でもあり、人の説得をまるで聞かない。
「守りし者」として、たった一人のサラを救うために自分は在ると、自らを正当化したダリオは、
本心では誰の忠告にも耳を傾けず、己の欲望のためにひた走り続けた。
ホラーに飲まれたその魂は、死してなお悔い改めることなく、陰我に囚われ続けている。

諸事情により両目を失っているが、それは騎士としての不完全さを意味しない。
バゼリア最強と謳われた槍捌きは、光を失ってなお健在であり、最高位の魔戒騎士・ガロとも、互角以上に渡り合うことができる。
また、闇に身を染めたためか、ホラーの力の根源である、人の陰我を読み取ることも可能。

【聖杯にかける願い】
サラを襲った悲劇をなかったことにする。

【運用】
とにかく人の話を聞かないことに関しては、一級品のサーヴァント。
盲目と精神汚染のスキルによって、大概の精神状態異常をシャットアウトし、常にベストコンディションを維持することができる。
更にはアポストルフを複数生成し、厄介な敵を寄せ付けることなく戦えるため、守りに関しては死角がない。
これら全てを突破され、白兵戦で押し負けた時にも、ホラー化という切り札があるのだが、これは必然、自滅覚悟の最終手段となるだろう。


65 : 天乃鈴音&ランサー ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:12:55 k/ybUa.o0
【マスター】
天乃鈴音@魔法少女すずね☆マギカ

【マスターとしての願い】
美琴椿を襲った悲劇をなかったことにする?

【weapon】
ソウルジェム
 魂を物質化した第三魔法の顕現。
 スズネを始めとする魔法少女の本体。肉体から離れれば操作はできなくなるし、砕ければ死ぬ。
 濁りがたまると魔法(魔術)が使えなくなり、濁りきると魔女になる。聖杯戦争内では魔女化するかどうかは不明。

【能力・技能】
魔法少女
 ソウルジェムに込められた魔力を使い、戦う力。武器として大振りな剣を持っており、直接斬撃に用いられる。
 固有魔法は能力のコピー。倒した魔女の能力、剣へと取り込むことによって、自らの魔法として獲得することができる。
 ストックできるのは一体分だけであり、スズネはある事情から、炎熱魔法をコピーしたまま、入れ替えることなくストックし続けている。

【人物背景】
茜ヶ咲中学校に転入し、その校区で暗躍するようになった、魔法少女殺しを専門に行う暗殺者。
その目的は、かつて自分のせいで魔女化した恩人・美琴椿の悲劇を、二度と繰り返さないようにすること。
そのために彼女は、身勝手な願いのために力を手にし、いずれ人々を食い殺すようになる魔法少女を、夜な夜な狩り続けている。

……というのは、彼女に恨みを抱く少女によって、植え付けられた偽りの決意。
本当の彼女は、ツバキの死から立ち直ることができず、暗がりに一人引きこもる臆病な子供だった。
彼女はそれと知らぬまま、与えられたレールを外れ、新たな岐路へと歩み始める。

他の魔法少女を狩り続けてきただけあり、戦闘技術は極めて高い。
炎の魔法は攻撃だけでなく、陽炎による撹乱など、様々な用途に用いることができる。
他にも妖精・キュゥべえによれば、強い気配遮断能力を持っているようだが、これは虚偽の可能性が高い。


【把握媒体】
ランサー(ダリオ・モントーヤ):
 一部地域にて劇場公開中。
 残念ながら、現状ではDVDの発売を待った方が得策か。

天乃鈴音:
 漫画単行本全3巻。
 テレビアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」のスピンオフ作品だが、
 同作のメインキャラクターはほとんど登場しないため、この漫画だけでも完全把握が可能。


66 : ◆V05pjGhvFA :2016/06/27(月) 02:13:21 k/ybUa.o0
投下は以上です


67 : ◆yYcNedCd82 :2016/06/27(月) 20:26:22 2EEOwlp.0
お借りいたします


68 : 八番目の男 ◆yYcNedCd82 :2016/06/27(月) 20:27:37 2EEOwlp.0


 ―――――番号違いです。

 あの懐かしい電話を聞いたのは、果たしていつ以来だったろうか。
 彼の特別製の頭脳は、曖昧にしておきたい疑問にも正確な時間を算出する。
 時間のことなど意識したくない時もあるというのに、彼にはそれさえも許されない。
 十五年。
 あの懐かしい探偵事務所に戻ったかのような気分を引き戻すには、十分過ぎる事実だ。
 田中捜査一課長――いや、元捜査一課長と言うべきか。
 警視総監を務められた後に引退し、今は自転車屋を開業しておられるとか。
 久々に対面した田中元課長の姿に彼は懐かしさを覚え、そんな感情がまだ残っていたかと驚いたものだ。
 彼が『だいぶ老けましたね』と言うと、田中元課長は『君は変わらんなぁ、東(あずま)』と顔をくしゃくしゃにしていた。
 失敗したと、彼は酷く後悔した。
 だからその後は事務的に事件のあらましを確認し、あとは現地で確かめますと走り去ることに留めたのだ。
 田中元課長からの友情が変わらぬことは嬉しかったが、やはり取り残された事実を見せつけられるのは辛い。

(私はもう人間ではない。ロボットなのだ)

 冬木市――この地方都市で繰り広げられる「聖杯戦争」という魔術的儀式。
 田中元課長はひどく懐疑的だったが、それ自体はいつもの事だ。
 しかし集められた情報の全ては、これが事実であるという事を指し示している。
 各地で頻発する遺物をめぐった怪事件、窃盗事件。古文書に記載された儀式。
 江戸時代末期、戦中と冬木で発生した事件との類似点。
 そして冬木市における事件発生率の上昇。

(もはや聖杯戦争の開催について、疑う余地はない)

 冬木市での調査を一通り終えた彼はそう結論づけた。
 眼下、夜に沈んだ冬木の町並みはキラキラとネオンや街灯で彩られている。
 その光の洪水をビルの屋上から眺めた彼は、ふと空を見上げた。
 待ち人が訪れたのだ。

「東(アズマ) 待たせた」

 薄手のチャイナドレスを纏い、茶色の髪を左右で括った――控えめに言っても美少女だ。
 透き通るような白い肌に、完璧なほどに整った顔立ち。意思の強い瞳は愛らしく、僅かな蓮の香りを纏っている。
 両腕には金の輪、両足に車輪をはめている以外に装飾らしい装飾はないが、しかしそれだけで十分。
 細い体の線も顕な真紅の衣服だけでさえ、十分にその魅力は引き出されている。
 一方で少年のようにも思えるのは、彼女が持つ凛々しさと、しなやかに育まれた筋肉故だろう。
 ロサンゼルス五輪を目指す学生選手と言われれば、十中八九皆が納得するに違いない。
 ――両足の車輪を燃やして、空を駆けて来さえしなければ。

.


69 : 八番目の男 ◆yYcNedCd82 :2016/06/27(月) 20:28:36 2EEOwlp.0

「よし、ランサー。じゃあ報告し合おうか」

 そんな少女が目の前に降り立ったにも関わらず、彼は平然としたものだった。
 ランサーと呼ばれた少女が小さく頷いて、両足の車輪の動きを止めた。

「まだ 誰も 動いていないようだ。 静かなものだった」 
「私も一通り街を走り回ってみたけど、結論は同じだね。皆準備段階なのだろう」
「だけど 気配は おかしかった。 ボクには よくわかる」
「気配?」
「勘と言っても 良い」

 彼は再び冬木の街へ目を動かした。
 彼はもう気温も風の向きも、情報としてしか感じ取ることができない。
 だがそれでも彼の中に残っている、機械としてではない部分が確かに警鐘を鳴らしていた。

(私が死んだ晩も、こんな具合だったな……)

「……どうした アズマ」
「いや、何でもない。前にもこんな夜があったなと思っただけだ」

 そう呟く彼の顔を、ランサーはじいっと睨みつけるように見た。
 疑っているわけではないのだろう。だが、真意を探るような視線だった。

「ランサー。君は聖杯はいらないのだったね?」
「うん ボクは 聖杯は いらない」

 今度は彼の視線がランサーへと向けられる番だった。
 ランサーは無表情に彼を見返し、視線を逸らそうとはしない。
 夜の屋上で主従はしばし見つめ合い、やがて彼が「わかった」と目を逸らした。

「東は どうするつもりなんだ?」
「私は……できれば止めたいな。この聖杯戦争という奴は」
「そうか」
「善人は勿論なにも悪人だからと言って、死んで良いというわけじゃあない」

 言葉を区切った彼は、ひどく優しくて、とても寂しげな微笑を浮かべた。

「それに無理やり現世へ引き戻される英霊というのは、哀れだ」

 ――君のような神仙ならまた事情は違うのだろうが。
 そう呟く唇の端を、ほんの僅かに動かしただけの曖昧な微笑み。
 それは慈悲深くもあるけれど、何もかも諦めた者のみが見せる表情にも似ていた。
 ほとほと疲れきった人間が、どうしようもないのだと言うような表情だった。
 限りなく空虚で、どこまでも深く広い、伽藍堂のような――……。

.


70 : 八番目の男 ◆yYcNedCd82 :2016/06/27(月) 20:29:17 2EEOwlp.0


(この男は どこか 危うい)

 かつての好敵手と似たような雰囲気を覚え、ランサーは僅かに形の良い眉をひそめた。
 有り余る力を持て余し、何にぶつけて良いのかがわからず暴れまわっていたあの猿。
 それと今こうして目の前に佇む男は、似ても似つかない――というより、あの猿は粗暴すぎだが。
 だがこの男は……例えるならば坂道を転げ落ちる空の荷車のようなものだった。
 荷物を運ぶ事もなく、ただ勢いだけで走り続け、そのまま壁に激突して砕けてしまうのではないか。
 危うく、目が離せない。何よりこの男自身、それで構わぬと思っている節がある。

(なら その前に止めるのが ボクの役目だ)

 この男がどうしてそのように思っているのかはランサーにはわからない。
 しかし復活を望まれるのだとすれば、それは良いことではないのか――…………。
 誰かを教え、救い、導くことのなんと難しいことだろう。
 ランサーはあの破天荒な尼僧を懐かしく思って目を閉じ、開いた。

「なら ボクは もう行く」
「私も少ししたら調査を再開するよ。夜明け前には合流しよう」
「合流は 宿か?」
「いや、課長が手を回して事務所を手配してくれた。そこが良い」
「わかった。――――問答 終焉」

 一言呟いた途端に両足から炎を吹き出し、チャイナドレスを翻してランサーは飛び立つ。
 夜空に舞う真紅の星は、しかしふと気を緩めた途端に姿を消してしまった。
 いささか型落ちしつつあるとはいえ、彼の目は人並み外れている。
 彼の目で見えなくなるということは、きっと他の主従には気づかれないだろう。
 そう思いながら、彼はタバコ型強化剤を口に咥えた。
 ランサー、伝承に曰く死した幼児の魂を元に造られた人形。
 それが聖杯戦争にあたって彼が契約した英雄だった。
 縁による召喚を思えば、皮肉でしかない。

(少年英雄という話だったが、考えてみれば「少年」には女の子も含まれるんだな)

 様々な科学技術、ロボット、ミュータント、そしてエスパーとも戦ってきた彼だ。
 今更過去の英霊と出会ったこと、女の子だったことで驚きはしないが、懸念があるといえばある。
 まず第一に、英霊を維持するのに魔力とやらが必要なことだ。
 既に肉体は滅び、今や電子頭脳に封じられた魂だけとなった自分に、どれほどの魔力があろう。

(私の原子炉からの出力で、彼女が存分に動ければ良いが)

 そしてもうひとつ。
 電子頭脳へと冷気が送り込まれるのを感じながらポケットをまさぐり、金色の宝塔を取り出した。
 伝説に曰く、父への復讐に燃える彼女を落ち着かせるために造られた仏宝。
 もちろん彼の持ち物ではない。聖杯戦争への参加にあたって、ランサーから託されたのだ。

『あなたが 持っていたほうが 良い』

 ランサーの真意はわからない。
 それは伝承における彼女の父も同じで、常に娘を疑い、片時も宝塔を手放さなかったという。
 だが、もしもこの世に機械の神がいるのならば――彼は願わずにはいられない。

(令呪にせよ、この宝塔にせよ、どうか使う機会がなければ良いのだが……)

 それは彼女のみならず自分さえも、玩具じみたただの人形へ貶める行為であろうから。
 しかし恐らく、それは望み薄だということも彼は良く知っていた。
 でなければ彼自身、こんな鋼鉄の棺桶に魂を閉じ込められる事は無かったはずだ。

「……私も行くとするか」

 強化剤を一服した彼は、低く呟いてビルの屋上から宙に身を躍らせた。
 途端にその姿が掻き消える。彼が超音速まで加速した事を知るのは、吹き抜ける突風のみだ。
 屋上には強化剤の白い煙だけが残り、やがて薄れていった。

 彼の名は東八郎――いや、彼の名は8マン。弾丸よりも速い鋼鉄の男。
 彼女の名はナタ――蓮の化身として転生した、斉天大聖と並ぶ少年英雄。

 死した後に復活を望まれた男と、父にさえ死を望まれた少女の行き先は、まだわからない。


.


71 : 八番目の男 ◆yYcNedCd82 :2016/06/27(月) 20:33:36 2EEOwlp.0

【元ネタ】封神演義、西遊記、Fate/GrandOrder
【CLASS】ランサー
【マスター】東 八郎
【真名】ナタ
【性別】女性
【身長・体重】140cm・35㎏
【属性】混沌・善
【マスターとしての願い】
 マスターの救済、聖杯戦争の終焉。
 父親との真の意味での和解。
【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷B+ 魔力D 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:C
 二工程以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等、大がかりな魔術は防げない。
 保有スキル『変容』による魔力の値によって上下する。

【固有スキル】
変容:B
 能力値を現在値から状況に応じて振り分け直す、宝貝人間ゆえの特殊スキル。
 ランクが高い程総合値が高いが、AからA+に上昇させる際は2ランク分必要となる。

勇猛:B
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

圏境:A
 気を使い、周囲の状況を感知し、また、自らの存在を消失させる技法。
 極めたものは天地と合一し、その姿を自然に透けこませる事すら可能となる。

【宝具】
『火尖鎗(かせんそう)』
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:1-99 最大補足:999人
 ナタが振るう真紅の槍。その名の通り、燃え盛る炎の穂先を有している。
 この炎は霊的なものでナタの意のままに熱量、距離を変化させ、敵軍を薙ぎ払う。
 ただし無辜の存在が巻き添えになるのを是としない為、平時は対人宝具規模に抑えてある。
 原典においては火尖槍で足止めをし、乾坤圏で仕留めると言った風に使われていた。

『混天綾(こんてんりょう)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:500人
 ナタの全身を彩る真紅の綾布。
 触れた水を操る能力を秘めており、水中はもちろん大気中においても効果を発揮する。
 真名を開放することにより天候を操り、水流を引き起こし、水気を奪い、あるいは増やす。
 また生物に直接巻きつけた場合は、体内の水気を制御する事が可能になっている。
 ナタはこの効果で気の流れを正し、あらゆる肉体的バッドステータスに抵抗・軽減を行う。

【Weapon】
・乾坤圏(けんこんけん)』
 両腕に装着される一対の黄金腕輪。力(チャクラ)の象徴。
 投擲すると何処までも対象を追尾し、その頭を砕いて手元に戻るとされる。
 本来は宝具に相応しい宝貝だが、ランサークラスのため威力が減退している。

・風火輪(ふうかりん)
 両足に装着される一対の車輪。火と風の力を秘めている。
 火炎を噴射させながら高速回転し、空中を駆け抜ける事ができる。
 本来は宝具に相応しい宝貝だが、ランサークラスのため威力が減退している。

・如意黄金宝塔(にょいおうごんほうとう)
 ナタの感情を制御できる宝塔。
 令呪と異なり意思や肉体を操作することはできず、ただ落ち着かせるだけに留まるが、
 所有者が念じる限り、ナタの精神的バッドステータスを完全遮断する。
 現在はマスターである東八郎が保有している。

【解説】
『封神演義』『西遊記』などで活躍する少年英雄。蓮の化身として造られた宝貝人間。
 幼い時から強大な力を持っていたナタは、あやまちから竜王の息子を殺してしまい、
 後顧を恐れた父に殺されかけたため、自らの骨と肉を両親に返上して自害を遂げた。
 釈迦如来の慈悲により蓮の化身として蘇ったナタは、父への復讐心を抱いていたものの、
 如来が父に与えた如意黄金宝塔の法力によってそれを抑えこまれ、辛うじて和解。
 以後は九十六洞の妖魔退治、易姓革命への助成など、天界の守護者として力を振るう。
 天界で厩番の孫悟空が暴れた時も彼を取り押さえるべく参上し、激戦の末に敗れた。
 その後、孫悟空が玄奘三蔵法師の西遊に同行すると彼ら一行を陰ながら支援し、
 青牛怪との戦いにおいては天界より軍勢を率いて現れ、孫悟空に加勢した。
 やや苛烈な性格ではあるが清廉潔白を地で行く正当な英霊であると共に、
「人質に取られた父母のために自害した」という伝承もあることから自己犠牲的性格。
 決して表には出さないものの、父に対する複雑な感情を抱いている。

【行動方針】
 風火輪で高速機動しつつ乾坤圏を投擲して牽制し、火尖槍で仕留めにかかるのが基本戦術。
 ただ周囲への被害と魔力消耗の関係から、余程でない限り対城規模での行使はしない。
 彼女自身は極めて好戦的な傾向があるため、積極的なマスターとの相性は良い。
 しかし敵対者の生死に関しては頓着しないため、言われれば自重する程度。
 またある意味「力押し」しかできない以上、よりパワーのある相手や搦手を使う相手は苦手。

.


72 : 八番目の男 ◆yYcNedCd82 :2016/06/27(月) 20:34:35 2EEOwlp.0


【マスター】
 東 八郎(あずま はちろう)@8マン
【マスターとしての願い】
 生ける死者としての終焉
【性別】男
【年齢】外見25歳、実年齢40歳以上
【外見】ダブルのスーツを着用した青年
【令呪の位置】右手甲
【Weapon】
 ・フォノンメーザー
  高速戦闘サイボーグの通信会話用高圧指向性超音波。
  装甲を無視して神経、脳細胞を直接攻撃し、破壊する事ができる。

【能力】
 ・8マンボディ
  ハイマンガンスチール製のスーパーロボット。
  出力10万kwの小型原子炉で稼働しており、時速3,000kmで活動可能。
  X線照射による透視装置、超音波も感知する聴覚など五感も強化されている。
  さらに顔面の特殊プラスチックを変形させることで、あらゆる人間に変装可能。
  彼自身の意思により原子炉からの放電攻撃以外に武装らしい武装は持っていないが、
  切り札として指向性超音波で脳を直接攻撃するフォノンメーザーを内蔵している。
  弱点は電子頭脳。火炎放射による加熱、強力な電磁場による異常などに弱い。
  故障した場合は両肩にある予備電子頭脳が作動するも、性能は大幅に低下する。
  また電子頭脳のオーバーヒートを防ぐため、タバコ型の強化剤を服用する必要がある。
  平常時で一日4本、戦闘などで加熱された場合はさらに摂取しなければならない。

【人物背景】
 警視庁捜査一課に所属する刑事は全部で49人。7人ずつ7つの班を作っている。
 そのどれにも属さない八番目の刑事――それが8マンである。
 彼は田中捜査一課長の要請に応じ、最先端科学を悪用した犯罪に完全と戦いを挑む。
 かつて優秀な刑事だった東八郎は、強盗団との銃撃戦の末に非業の死を遂げるも、
 谷博士によってその人格を電子頭脳に転写され、スーパーロボットとして蘇った。
 しかし自分が生ける死者であること、ロボットであることに苦悩し続けていた東八郎は、
 魔人ゴズマとの戦いで自らの正体が明るみに出ると共に、友人たちの前から姿を消した。
 善悪に関わらず全ての人を助けようとするその行動は、彼が死者であるからこそだという。
 味覚はなく、睡眠の必要もなく、男性機能も無く、生者としての喜びは消え失せた。
 さらに死という安息さえ許されないにも関わらず、今日も何処かで8マンは走り続ける。

【把握媒体】
 ランサー(ナタタイシ)
  『封神演技』:原作小説 またこれを原作とした漫画作品
  『西遊記』:原作小説
  『Fate/GrandOrder』:「星の三蔵ちゃん、天竺に行く」
   現在イベントのみの登場キャラクターなため、プレイ動画などで確認が可能。

 マスター(8マン)
  『8マン』:原作コミック アニメ
  『8マン Before』:実写映画版のノベライズ。1巻で完結している為、これだけで把握が可能。
  『エイトマンへの鎮魂歌』:ttp://www.ebunko.ne.jp/eightmana.htm 原作者によるエッセイ。

※ナタの作成に関しては『皆で考えるサーヴァント』版ナタを参考にさせて頂きました。

.


73 : ◆yYcNedCd82 :2016/06/27(月) 20:34:55 2EEOwlp.0
以上です、ありがとうございました。


74 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:30:53 WRjovcDo0
お二方とも、ご投下ありがとうございました。
自分も投下します。


75 : 疑えば目に鬼を見る ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:32:02 WRjovcDo0

 豪奢な屋敷の敷地を、瑠璃色の魔法陣が囲っている。
 時刻は深夜二時、草木も眠る丑三つ時。
 都心から離れたこの地区では、こんな時間に外を出歩いている人間はほとんど居ない。
 人の目がない場所で密かに蠢くのは、神秘と怪異の特権だ。
 そして今、夜闇を見目麗しく照らし出している光の正体は、正真正銘まっとうな『神秘』である。
 
「上手いもんだねぇ、魔術師ってのは」
「このくらい出来なきゃ、英霊になんてなれないさ」

 サーヴァント・キャスター。
 とある世界に技術革新をもたらした、優秀なる魔術師。
 彼は今、自分達の拠点を結界で改造する作業を行っていた。
 通常、結界といえば外部からの干渉を退けたり、外敵の存在を探知する、等が主な役割だ。
 言うなれば、基本は防御寄りの術理。
 拠点の自衛のために展開される、実体の伴わないバリケード。

 ……その点、彼らの完成させようとしているそれは明らかな異形の術だった。
 防御の役目ももちろん果たすが、単なる盾には終わらない。
 何故ならこれは、自ら他者を攻撃する。
 キャスターとそのマスター以外のあらゆる魔力反応を自動探知して攻撃する、結界の姿を取った遠距離狙撃砲台。
 彼の宝具によって製作された、攻防一体の凶悪兵器に他ならない。
 強いて欠点を挙げるとすれば、準備に時間が掛かること。
 一般人に目撃され、要らない情報を流出させてしまいかねないのは厄介だったが……その点は、マスターに割り振られたロールに感謝せねばなるまい。

 郊外に住まう、裕福な家庭の一人娘。
 両親は既に他界しており、今は一人でこの大きな屋敷に住んでいる。
 立派な拠点と恵まれた立地、まさに幸運と呼ぶしかない境遇だ。
 それをありがたく活用し、彼らはこうして、人知れず対サーヴァント用の結界を編み上げていた。
 
「そういやさ、ずっと聞きたかったんだけど」

 マスターの少女が口を開く。
 キャスターは視線こそ向けないが、「うん?」と首を傾げてみせた。
 出会って間もない間柄ではあるものの、彼女達の間には、悪しからぬ信頼関係が築かれていた。

「あんたは、聖杯を手に入れて……どうするの?」
「もちろん、願いを叶えるよ」
「そうじゃなくて……あんたは聖杯を手に入れて、一体何を願う気なのよ?」
 
 魔術師の悲願といえば、一番簡単に思い付くのはやはり根源への到達だ。
 聖杯戦争という催し自体、元々は魔術師達が根源に至る為に始めたものだと聞いた覚えがある。
 魔術師の思考を理解できない彼女にしてみれば、何とまあ欲のないことで、と思ってしまうのだが。
 質問を投げられたキャスターは、面食らったように苦笑した。
 それから、「少し恥ずかしい話なんだけどね」と前置いて、彼は語り始める。


76 : 疑えば目に鬼を見る ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:32:44 WRjovcDo0
「君も知っての通り、オレは天才だ」
「いや、知らないけどね」
「ハハ、そいつは手厳しい。……とにかく、オレは物心ついた時から他人の何歩も先を歩いていた。
 オレが本気で取り組んで、出来ないことなんてごく少なかったよ。魔術師になってからもね」

 ただ、とキャスターは表情を曇らせた。
 口元だけが笑っている。
 目は、笑っていない。
 少女はそこから、彼の願いの真剣さを読み取った。

「そのオレが、一つだけどうにも出来なかったことがある。 
 ……戦争だよ。オレは家族や友人、大っ嫌いだった奴らが死んでいくのを、どう頑張っても止められなかった。
 魔術なんてもの、国単位の争いの前じゃあ手品でしかない。それを思い知らされて――オレは初めて『絶望』したんだ」

 聖杯戦争とは違う、本物の戦争をキャスターは知っている。
 空には鋼鉄の鳥が飛び、海を鋼鉄の城が走る。
 地上は炎と瓦礫に埋め尽くされ、愛する者の顔をした屍に蛆が這い回る。
 そんな地獄絵図を、キャスターはかつて見た。
 そして絶望した――それは戦争が終わり、病床の中で息絶えるその時まで、ついぞ消えることはなかった。

「オレの願いは歴史の改竄だ。最初で最後の、あの絶望を消去する。そうしないとオレは、いつまで経ってもゆっくり眠れない」

 瑠璃色の光に照らされて、キャスターは笑う。
 誰もが禁忌と呼ぶ歴史の改竄を、この魔術師は成そうとしていた。
 彼と少女の住まう世界は、言葉通りに違う。
 彼の言う『戦争』が人類史上最大の被害を記録したあの戦争だとしても、少女の世界でその歴史が動くことはきっとない。
 歴史が変われば、世界が変わる。
 それで世界が、彼の望んだ通りになるかは分からないが――そうなったらいいねと、少女は笑った。
 キャスターもそれに釣られて笑った。
 

 襲来は、微笑みが交わされた次の瞬間のことだった。


 空に輝く月の光。
 今日は満月だ。
 それが一瞬、翳る。
 その一瞬を見逃さなかったキャスターが顔を上げた時にはもう、空からの攻撃は放たれた後だ。
 何色ともつかない、透明に限りなく近い光――それは触れた地面を焦がし、蹂躙していく。

「……これは……月光……!?」

 そんな馬鹿な話はない。
 本来、あり得ない。
 仮に今の時間が昼間で、降り注いだのが太陽光だったとしても、これほどの殺傷力を持つのは不自然だ。
 だが、なまじ解析に優れた魔術師であった彼は、その事実を一瞬で見抜いてしまった。
 これは紛れもなく、月の光だ。
 夜天を白い翼で飛翔する、『サーヴァント』が放った攻撃だ。


77 : 疑えば目に鬼を見る ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:33:21 WRjovcDo0
「―――悪いな。あんまりつまらねえ小話だったもんでよ。野次の代わりだと思ってくれや」

 天使。
 空で嘲笑うサーヴァントを見て、少女が抱いた最初の感想がそれだ。
 彼の背から生えた二枚の翼はどんな鳥のものより細やかで、その白色には一切の混じり気がない。
 だがその顔に貼り付けた笑みの形は、およそ人を救う者の浮かべるそれとはかけ離れていた。
 

「マスター、すぐに結界の内側へ! 既に、オレの宝具は完成している!!」

 茫然としていた少女はその一言にはっとなり、急いで結界の内に退避する。
 完成したばかりの結界が、空を舞う白翼のサーヴァントを撃墜すべく光を放つ。
 放つ、放つ――だが一発として彼に届かない。
 その白翼がはためくだけで光は弾かれ、勢いを保ったまま見当違いの方向に逸れていく。

 何食わぬ顔で地面に降り立ったサーヴァントは、結界の内へ踏み込もうとして、舌打ちをした。
 英霊級の魔術師の結界へと準備もなしに侵入を試みたのだ、当然そんなことが可能な筈がない。
 結界の先の地面を踏む手応えの代わりに、体に走った微量な痺れ。
 ……それだけで済んでいるということが、まず既に異常なのだが。

 とにかく、食い止められているならやりようはある。
 キャスターだって、何もこの一芸しか持たないわけではない。
 本格的な戦闘態勢に入れば、結界で足止めを食っている相手に一方的に攻撃が出来る。
 そこに手持ちの対軍宝具を叩き込むだけでも、撃退くらいは可能なはずだ。
 彼は、自分の結界を破られるとは微塵も思っていなかった。
 実際、彼が組み上げた結界は見事なものだ。
 高ランクの宝具の真名解放を直撃しても、余程でない限り破られない。
 あらゆるエネルギーの波長を遮断する結界の内に居る限り。キャスターに負けはない。

「……確か、人生で一度の絶望とか言ってたな」

 そして、それがいけなかった。
 『常識』的に考えれば、結界を突破されるはずがない。
 キャスターはこのサーヴァントを、『常識』で定義しようとしてしまった。
 その時点で――彼と彼女の未来は確定される。

「じゃあ、もう一度ここで絶望しろコラ」

 白い翼が大きくはためく。
 結界は彼の攻撃を前に、薄氷ほどの役割も成さなかった。
 あらゆるものを遮断する結界を貫通して、白翼が一瞬で内側の主従を薙ぎ払う。
 盛大な爆発音の後、白翼のサーヴァント……もとい、白翼のキャスター。
 否々、『白翼の超能力者』が不落の城へと悠々進軍する。

  
 『希望』を望んだ魔術師と、それを応援したがった少女が昭和時代から退場したのは、それから三分と経たない内のことだった。


78 : 疑えば目に鬼を見る ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:34:04 WRjovcDo0
「あらゆる力の波長を解析、遮断する。……ハハ、便利な能力じゃねェかよ。だが――」

 キャスターの宝具である遮断結界は、確かに破格の防御性能だった。
 あれを正攻法で砕くには、相当の火力が必要になる。
 その癖キャスターどころか結界自身が攻撃を行えるのだから、並のサーヴァントでは突破は不可能。
 
「俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ」

 彼が持つ唯一にして最大の宝具、『未元物質』。
 ダークマター。
 この世に最初から存在しないはずの物質を作り出す『超能力』。
 だからキャスターは、彼の翼を遮断できなかった。
 定義の外側から飛来した未確認物質を解析する間もなく、塵のように消し飛ばされた。
 サーヴァントとマスター、両方の死亡を確認すれば、超能力者は踵を返して歩き始める。

「キャ、キャスターさん……どうでしたの?」
「見りゃ分かんだろ。片付けた」

 その彼に、駆け寄る少女の姿があった。
 金髪にカチューシャのよく似合う、小さな女の子だ。
 そして彼女の右手には、赤い文様がある。
 令呪。幼い容姿に似合わないその禍々しさは、彼女がただの幼女でないことの証明だ。
 
 彼女はマスター。
 聖杯戦争に参加し、サーヴァントを召喚した人間。
 彼女に、何ら変わった力はない。
 精々が人を陥れるトラップを張り巡らす才能程度のもので、概ね普通の一言で片付けてしまえるようなただの子供だ。
 だが、聖杯戦争の何たるかを知った彼女は、自分のサーヴァントにこう言った。

 『……お願いします。どうか私と一緒に戦ってくださいまし、キャスターさん』――と。

 その時は多少肝の据わったガキ程度にしか思わなかったが、こうして共に戦いを続ける中で、見えてきたことがある。
 ……此奴は、本気で聖杯を求めている。
 『会わなきゃならない人』とやらのために、聖杯が降臨するまで戦う覚悟を決めている。
 キャスターとしても、マスターが乗り気であるのに越したことはない。
 もし聖杯戦争には乗らない、聖杯も要らないなどとほざいていたなら、本気で鞍替えを考えなければならなかった。
 マスターが聖杯を強く望んでいればいるほど、キャスターは自由に戦える。
 その強力無比な超能力を惜しみなく振るい、思う存分に敵を殲滅することが出来る。

「そうでしたの……さすがは私のサーヴァントさんですわね」
「……それで? 今日はどうする、俺はもう少し雑魚狩りに勤しんでも問題ねえが」
「それは頼もしいですが、今日は此処までにして切り上げましょう。叔父さまに抜けだしたことがバレたら、お叱りを受けてしまいますわ」
「…………そうかよ」

 重ねて言おう。
 学園都市第二位の超能力者、垣根帝督を召喚した少女――北条沙都子は、ただの一般人だ。
 生前、長いこと都市の暗部に身を置いていた垣根だからこそ、分かる。
 ただの一般人である彼女が聖杯戦争にこれほど乗り気なのは、覚悟が決まっているからではない。

 彼女は、狂っているのだ。

 垣根が召喚されたその時、沙都子は自らの叔父に苛烈な暴力を奮われていた。
 たかだかNPC風情がマスターを殺傷するとは思えなかったが、垣根は念には念を入れた。
 何も理由はそれだけじゃない。
 単純に、この虐待が日常的に続いて、マスターに精神病にでもなられては困る。
 余計なトラブルを生む前に、目障りな障害物は消しておくに限る。
 垣根は面倒臭そうに未元物質を発現させ、一撃で彼女の叔父をこの世から消し飛ばした。
 ……そう、確かに消し飛ばしたのだ。


79 : 疑えば目に鬼を見る ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:34:51 WRjovcDo0

「明日も早起きして、叔父さまのご飯を作りませんと……」

 にも関わらず、これだ。
 沙都子は今も、自分の叔父が生きていると思い込んでいる。
 これだけなら、まだいい。
 酷い時はありもしない叔父の幻影に怯え、喚き散らすこともあった。
 児童の心理は脆いものだ。
 幼くして寄る辺もなしに虐め尽くされたなら、幻覚や幻聴を聞くこともあるかもしれない。
 だが、違う。北条沙都子に限っては、そうじゃないと垣根は思っている。

 北条沙都子は狂っている。
 精神病なのか、それとももっと別なものが原因なのかは知らないが、彼女は確実にまともではない。
 垣根は裏の世界の人間の中では、比較的良識派だ。
 人格者とまで言えば言い過ぎだが、公共への被害が出ることをなるべく避けるなど、最低限度の社会性や倫理観は持ち合わせている。
 それでも、彼は悪党だ。
 目的のために邪魔な人間を排除し、気怠げに欠伸が出来るような悪人だ。

 垣根帝督は、北条沙都子を憐れだとは思う。
 同情も少しはしているし、その生い立ちに少なからず興味を抱いてもいる。
 しかしそれらは全て、聖杯を手に入れるという大いなる目的のためなら、一秒も迷わず切り捨てられる程度の感情でしかない。
 
「……第二候補(スペアプラン)は、早めに見繕っておくか」

 甘いマスクに強大な力。
 しかし、彼は決して『ヒーロー』にはなり得ない。
 闇の底で力を振るい、自分の都合で他人を殺す。
 暗部の人間の例に漏れず、そうした血の道を往く彼もまた、やはりこう呼ばれるべきなのであろう。


 ―――クソッタレの悪党、と。


【クラス】
 キャスター

【真名】
 垣根帝督@とある魔術の禁書目録

【ステータス】
 筋力E 耐久D+ 敏捷A 魔力A+ 幸運E 宝具A++

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:-
 このスキルを、キャスターは持たない。

道具作成:A++
 自身の宝具を素材に、特殊な性質を持った道具や人体部品を作り出すことが出来る。
 魔術ではなく科学の領分での作成だが、その完成度は魔術師のそれを凌駕している。


80 : 疑えば目に鬼を見る ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:35:25 WRjovcDo0

【保有スキル】
超能力者:A+
 学園都市に七人しか居ないとされる超能力者(レベル5)の一人。序列は第二位。
 このスキルを持つサーヴァントは脳の回路が異常であるため、魔術を行使するのに多大なリスクを負う。
 しかしその代わり、自身の能力行使による魔力の燃費を極限まで抑えることが出来る。
 彼が戦うことによるマスターへの負担はほぼ皆無。

軍略:C
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

悪党:C+
 学園都市の暗部を生きてきた者としての強固な精神性。
 悪行や非道な行為に心を痛めることがなく、同ランクまでの精神効果を無効化する。
 
【宝具】

『未元物質(ダークマター)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
 キャスターが持つ能力そのもの。
 この世に存在しない素粒子を生み出し、操作する能力。及びそれによって作られたこの世に存在しない素粒子。
 この宝具によって呼び出される物質は物理学が定義するところのダークマターとは異なり、本当にこの世界には存在しない物質である。
 そのためこの世の物理法則に生み出された素粒子は従わず、相互作用した物質も独自の物理法則に従って動き出す。
 彼が使用する際は、基本的に天使を連想させる白い六枚羽の形を取る。
 飛行はもちろんのこと防御、打撃、斬撃、烈風、衝撃波、光攻撃など応用の幅は広く、その他にも多彩な攻め手を持つ。
 彼は生前、実質的な最後の戦いで自分の力を正しく理解した。
 令呪一画を費やすことでその力を解放し、宝具強化を行うことが出来る(強化を行った場合、打って変わって燃費が悪化する)。
 強化後は翼が数十メートルにも及ぶ長さに拡大され、能力は強さを増す。曰く、神が住む天界の片鱗。

【weapon】
 宝具

【人物背景】
 暗部組織『スクール』のリーダーにして、学園都市第二位の超能力者。
 アレイスター・クロウリーとの直接交渉権を求めて都市の裏側で暗躍を重ねていた。
 しかし第一位・一方通行に敗北。能力を吐き出すだけの塊と成り果てる。
 今回召喚された垣根帝督は、この時点の人格を基礎としている。

【サーヴァントとしての願い】
 受肉

【運用法】
 宝具による直接戦闘から自己回復まで、幅広くカバーすることが出来る。
 キャスターにしては珍しく接近戦も得意としており、低燃費でかなりの高火力を実現可能。
 しかし彼は良くも悪くも場慣れした人物である。
 明らかに狂気の片鱗が覗いている沙都子を、彼が見捨てない保証はどこにもない。


【マスター】
 北条沙都子@ひぐらしのなく頃に解

【マスターとしての願い】
 強くなって聖杯戦争を制する。そして、にーにーに帰ってきてもらう

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 トラップマスターと呼ばれるほど、トラップを仕掛けるのが巧い。
 その腕前たるや、ホームグラウンドの裏山でならば一流の特殊部隊を手玉に取れるほど。

【人物背景】
 『皆殺し編』より参戦。
 叔父の虐待で心を擦り切れさせ、雛見沢症候群という風土病が着々と進行している。
 彼女は強くなることで失踪した兄が帰ってきてくれると信じており、過酷な現状の中で助けを求めるということをしない。


【把握媒体】
キャスター(垣根):
 原作十五巻のみで把握可能。
 新約五巻でも活躍するが、この垣根帝督の人格ではないため、必須ではない。

北条沙都子:
 最低限の把握は『皆殺し編』で可能。
 ただ、『祟殺し編』『目明し編』も大いに描写の参考になるのでお勧め。
 本作は漫画版の出来が非常にいいので、原作ゲームではなく漫画版で把握するのが最も手早いと思われる。


81 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/28(火) 23:36:28 WRjovcDo0
以上で投下を終了します


82 : ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:25:58 tBa6CHH20
皆様投下お疲れ様です
自分も投下させていただきます


83 : ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:26:43 tBa6CHH20
 あれは何だと、男は問う。
 工場からたなびく排気で汚れた、夜の豪雨を受けながら、男は胸中で繰り返す。
 ざあざあと響く雨音も、服と身にまとわりつく不快感も、彼の疑問をかき消すには、それですらも不足だった。

 男はマスターの一人だった。
 神話のサーヴァントを与えられ、聖杯という奇跡の器を、奪い合う争いに乗った参加者だった。
 悪くないステータスではあったものの、飛び抜けてもいない手駒に対して、彼が最初に取ったのは、魂喰いという手段だった。
 人の魂を取り込ませ、サーヴァントの魔力とすることにより、発揮できる力を増幅させる。
 少数ではさしたる効果は得られずとも、繰り返し魂を食わせ続ければ、やがては大きな力に変わるはずだ。
 そう考えた男とサーヴァントは、慎重に、足跡を残さないように、昭和の町の人々を、少しずつ犠牲にしていった。

 しかし彼は不運にも、その存在に出会ってしまった。
 運悪く手はずを誤って、雑な仕事に甘んじた日に、たまたま他のマスターに、存在を気取られてしまったのだ。
 マスターの顔を見てはいない。されどその者が引き連れているであろう、サーヴァントならばそこにいる。
 少し高いビルの上で、雲の向こうの朧月を背負い、冷たい目でこちらを見下ろしている。

 あれは一体何だというのだ。
 魂喰いで強化されたはずの、自身のサーヴァントであっても、あれの前ではゴミ屑だ。
 奴は先制攻撃に出たこちらの手駒を、顔色一つ変えることなく、滅多打ちにしてのけたのだ。
 これは勝てないと判断し、諸共に撤退することを選んでも、こうして追いつかれてしまっている。
 行き止まりという五文字が、頭の中に何度も浮かび、これ以上は逃げられないのだと、生きることを諦めかけてる。

 あれは何だ。
 あのサーヴァントは何者だ。
 駄目だ、いけない。考えてはいけない。
 あの月を背負うサーヴァントの、その名を思い出してはいけない。
 どこからともなく聞こえてきた、敵マスターの攻撃命令――それと同時に発せられた、あの真名のことを考えてはいけない。
 思えばあそこからおかしくなった。
 もともと纏っていた刺すような殺気が、奴の名前を耳にした瞬間、何倍にも膨れ上がったように感じた。
 その名の重みと言うべきだろうか。その言霊に押し潰されて、己のサーヴァントですらも、満足に戦えなくなったのだ。
 ああ駄目だ、深読みするんじゃない。これ以上考えてはいけない。
 奴の名前を思い出すほど、生が一歩ずつ遠のいていく。
 奴の名前を思い返すほど、死が足に纏わりついてくる。
 あれは死だ。死の化身だ。
 恐怖によって身を縛り、十三階段へと引きずっていく、鎌持つ死神そのものだ。
 何とかしなければ。でなければ死ぬ。
 痛みと恐怖に震えながら、前衛に立っているサーヴァントと、諸共にあの世へ突き落とされる。
 あの男が。
 あの存在が。
 己の首に縄をかけ、存在しない十四段目を、踏み外させようとするあの名前が――

「――殺ったれ、■■■■■■」

 モノクロは死の色。
 月は死の星。
 熱持つ太陽の対極に座し、冷たく光る天の月は、亡者を招く死出の門。
 額に三日月を輝かせ、朧を背負いし白き者、天より降りてその命を断つ。

「……わぁあああああああっ!」


84 : ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:27:47 tBa6CHH20


 悲しみを招くもの全てを、悪と断じるというのなら。
 秩序を乱し恐怖をもたらす、彼の生き様と在り方は、なるほど確かに悪なのだろう。
 ミズシロ火澄は、己が呼び寄せたサーヴァントを、そのような存在だと解釈していた。

(アヴェンジャー、か)

 我ながら呆れるほどの悪運だと、火澄は内心で自虐する。
 曰く、通常サーヴァントというのは、合計7種類の中から、自動的に割り当てられるものなのだそうだ。
 しかしながら、火澄には、その前提が通用しなかった。
 彼の目の前に現れたのは、騎士でも暗殺者でも魔術師でもない、復讐者などという肩書きの持ち主だった。
 世に仇なす者、秩序を乱す者。
 何かしらの不平を世界に叫び、己の有り様を認められないと、叫び抗い続けた者。
 旧人類を駆逐するため、この世に降誕した悪魔の血筋には、ある意味でお似合いかもしれない。

「因果なもんやな」
「気に入らなかったか?」

 独りごちる火澄へ、アヴェンジャーが問う。
 用意された彼の自室で、静かに佇むサーヴァントは、全身白ずくめの少年だった。
 細身の体躯だが、体にフィットしたスーツの下からは、くっきりと筋肉のラインが浮かび上がっている。
 黒い前髪の下から覗くのは、海のように深く、そして、氷の怜悧さを宿した瞳だった。

「ま、それは死ぬ前のあんたが、何を考えとったかにもよるわな」

 軽く笑みを浮かべながら、火澄が椅子に背を預ける。
 身を反らしたミズシロ火澄の笑顔は、悪魔のそれとは思えないほど、屈託のない穏やかなものだ。

「結局何がしたかったん? 息を吹き返しかけた荒れ野の世界で、もう一度死を蒸し返したあんたは」

 火澄は彼を知っていた。
 アヴェンジャーの在り方を、ある程度その口かた伝えられてきた。
 そしてそれ以上に細かな部分を、夢の中で見せられてきた。
 魔力パスによる記憶混線――ミズシロ火澄が見てきたものは、恐るべき死神の記憶だ。
 元いた時代において、彼は、死と恐怖の象徴だった。
 高度に技術が発展し、意思を持ったロボット達が、群れなし王国を築いた世界。
 ナノハザードがもたらした崩壊を、癒やしをもたらす女神の力で、何とか立て直した世界。
 しかし、そこにアヴェンジャーは現れた。
 抵抗するロボット達を殺し尽くし、女神の前に歩み寄り、恐るべき呪いをかけて立ち去ったのだ。
 皆が死を忘れたら、自分は再び現れて、皆を殺しにかかる――と。

「……全て、知ったんだな」
「全部は知らへんて。せやったらこないなこと、わざわざ聞かんでもええやんか」
「………」

 未だ謎に満ちたビジョンには、まだ隠された真実が眠っている。
 なればこそ火澄が知りたいのは、そういう秘された部分なのだと。
 そう言われたアヴェンジャーは、しばし沈黙すると、ややあってベッドの上に腰掛けた。
 長い話になるかもしれない。そんな言葉にならない声が、彼の視線から聞こえた気がした。

「命は、ただ与えられただけでは、生きていくことはできないらしい」

 ややあって、アヴェンジャーは口を開く。
 低く、しかしよく通ることで、自身の道筋を物語る。
 幸福に生きられるはずだった世界に、再び恐怖をもたらした、忌むべき死神の神話を。


85 : ミズシロ火澄&アヴェンジャー ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:28:25 tBa6CHH20
「世界は救われたと、君はそう言ったな」
「事実、良くはなったはずやろ? 理不尽に命を脅かす病は、さっぱりと消え去ったんやから」
「全て消え去ったわけではないんだ。たとえ良くなったとしても、それは最善には、程遠かった」

 アヴェンジャーは真実を語る。
 火澄の知り得なかった事実を語る。
 滅びた世界を救うために、荒野に降り立った女神は、心に病を抱えていた。
 一度その身に死を味わい、死に恐怖した彼女の行いは、結局はそこから逃避するために、死を消していただけに過ぎなかったのだ。
 救済など建前に過ぎない。なればこそ、死が恐怖を揺り起こすのなら、彼女は平気で切り捨てる。
 救いきれない末期の命を、かつての己を思わせる命を、彼女は容赦なく見放した。
 無差別に死が蔓延る世紀末は、理想など取り戻したはずもなく、女神の機嫌が生死を分かつ、暗黒郷へと変わっただけだったのだ。

「求めたのは死そのものやなく、死から目を逸らさへんっちゅうことか」
「彼女は……彼女の国の人々は、皆ただ生きているだけだった。死者を哀れむ心も、こう生き抜きたいという心も、どこにもありはしなかったんだ」

 そういう意味では、己は確かに、死という概念そのものを、彼らに求めたのかもしれない。
 死というタイムリミットがなければ、ロボット達は漫然と、変わらぬ怠惰の中に囚われ続ける。
 死という恐怖を理解しなければ、その恐怖に苛まれる者に、同情も慈しみも抱かなくなる。
 なればこそアヴェンジャーは、死神として、彼らを脅かさなければならなかった。
 生と死が不可分であるならば、絶対の生たる女神の影には、絶対の死が必要だったのだ。
 それは彼らよりも遥か昔に、絶対の存在となった者――決して死ぬことを許されない、不死の牢獄に囚われた、アヴェンジャーにしか為せないことだった。

「見捨てられた者の無念を晴らす……か」

 故に、彼は復讐者なのだ。
 冷たい光を放ちながらも、悪意や害意は感じられない、この静かな男には、似つかわしくないと思っていた。
 しかし、社会から弾かれた者の、痛みと悲しみを一身に背負い、義憤と共に立ち上がった彼は、紛れもなく復讐の執行者だったのだ。
 火澄はそのように理解した。

「君にとって、この答えが、満足に値するものなのかは、僕には分からないけれど」

 サーヴァントはそう締めくくる。
 彼が自らをそう語っても、これこそがミズシロ火澄の求めた、アヴェンジャーの真実だ。
 人々の幸福を叶えるために、反逆者の汚名を自ら被って、彼は死神と成り果てたのだ。
 自らが尊いと思ったもの、こう在りたいと願ったものを、永遠にその外側から、傍観し続ける罪を背負ったのだ。

「……神は与え、神は奪う」

 ややあって、火澄はぽつりと呟く。
 一瞬口を噤んだうちに、胸に浮かんできた言葉を、そのまま声にして口に出す。

「アヴェンジャーは知っとるか?」
「いや。本当を言うと、神がどういうものなのかも、僕は詳しくは知らない」
「せやろな」

 ロボットは神の存在を知らない。
 人から教えられることがなければ、教えようという考えを持たなければ、彼らは宗教を理解しない。
 偏見かもしれないが、そうであるなら、救いを忘れた荒野の世界で、彼が聖書など学ぶはずもなかった。

「ちゃっちい喩え話やと、飴と鞭なんて言い方もあってな。
 人が良き人たらんとするには、褒めて与えるだけやのうて、叱って罰する必要もあるっちゅうこっちゃ」

 神の存在は二律背反。
 時には善行の見返りを与える、豊穣の権化となることもある。
 しかし時には、悪行を裁く、祟り神となることもある。
 善人が報われるだけの世界なら、たとえ善行を怠っても、あるいは悪行に走ったとしても、その実損失を受けることはない。
 なればこそ、何も奪われないのなら、何をしても構わないはずだと、無軌道に悪を為す者も現れるのだ。


86 : ミズシロ火澄&アヴェンジャー ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:29:07 tBa6CHH20
「あんたは世を乱したかもしれん。せやけどそれは、あってはならない、歪で狂った世の中や。
 それを憂い、正そうとした心は……多分、間違ってはおらんかったと思う」

 我欲にまみれた悪意だけで、彼が戦ったわけではないのなら。
 誰もがそうあるべきと理解して、然るべきはずの在り方に、世を戻そうとしたのなら。
 彼の復讐は、不正ではあっても、悪行と呼ぶべきではないはずだ。
 彼は死神であり祟り神であっても、悪魔と呼ぶべきではないはずなのだ。
 であるなら、そんなアヴェンジャーとなら、肩を並べて戦える。
 自分はその答えに満足した――それが火澄の答えだった。

「……それでも君は、抗うんだな」

 そして今度は、アヴェンジャーが、マスターに問いかける側だった。
 死をもたらす祟り神の存在を、必要なものだと認めながらも、自らは死を認めないのかと。
 そう問われたミズシロ火澄は、静かに微笑んでいた顔つきを、一瞬、ぴくりと引きつらせた。

「君はいずれ、多くを巻き込み、滅びを迎える命だと言った。
 その運命を覆すため、犠牲を強いるのが聖杯戦争……それを理解しながらも、君は、抗い戦うんだな」

 意志を問うているのだ、この男は。
 中途半端な殺戮には、自分は決して加担しない。
 他者の願いと命とを、その手で踏みにじるというのなら、相応の覚悟を見せてみろ。
 この、誰よりも命を尊んだ、心優しい死神は、それ故にミズシロ火澄の殺意に、誠意と決意を求めているのだ。
 遂に一人のマスターの命を、その意志その命によって葬らせた、目の前の殺人者に対して。

「……神が命を奪ったんは、神だけが法の時代だったからや。人の裁き以上の死が、今の世の中に要ると思うか?」

 この文明社会で生きたお前に、分からないはずもないだろう。
 表情を引き締めたミズシロ火澄は、アヴェンジャーに問いかける。

「俺はな、アヴェンジャー。何も俺一人だけが、助かりたいと思てるわけやない。
 俺の運命が覆るなら、それがその運命に巻き込まれた、大勢の死なんでもええ命も、諸共に救われることを知っとる」

 ミズシロ火澄は本物の悪魔だ。
 旧人類を駆逐して、より優れた能力を授かった、ブレード・チルドレンだけが繁栄を築く。
 そうした筋書きを達成するため、魔王によって産み落とされた、滅びと支配の導き手だった。
 そしてその存在は同時に、人の敵を討ち滅ぼす神が、最後のとどめの引き金とすべく、盤上に仕立てあげた駒でもある。
 野望に巻き込まれた悪魔の子供が、真っ当に人として生きていく。
 死によって終局を招く火澄の、その死をなかったことにするには、彼らを巻き込む運命そのものを、全て破壊するしかないのだ。

「一度は手を伸ばそうとしても、その手は届かへんと言われ、諦めるしかなかった未来や。それをまた諦めきれるほど、俺は人間できてへん」

 世界を救うには時間がない。
 真っ当な手段で道を拓くには、火澄の授かった命には、あまりにも問題が多すぎた。
 それでも手を伸ばせば、その先には、一時の間に全てをなしうる、常理を超えた奇跡がある。
 サタニスト達に崇められながら、それでも人でしかない火澄には、成し遂げられない偉業ですらも、達成できる力がある。
 であれば、犠牲を求める器だからといって、そこに手を伸ばさないというのは、かえってブレード・チルドレンへの裏切りになるはずだ。
 それは自分と同じ人として生まれた、あの根暗な神の弟とやらよりも、縋るに足るものであることは間違いない。
 一度は目指したその道を、再び歩むことに対して、ミズシロ火澄に迷いはなかった。
 それを諦めるしかないことに、葛藤と絶望を感じていたのなら、なおさらそうせずにはいられなかった。


87 : ミズシロ火澄&アヴェンジャー ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:30:09 tBa6CHH20
「死の神よ。断罪者『キャシャーン』よ。お前は死の運命を乱す俺を、罪人として罰するか?」

 故に、火澄はサーヴァントに問う。
 自分は間違っているかと。
 己の決意は、お前の眼鏡に、かなうものであってくれているかと。
 キャシャーン――復讐者の肩書きの奥に隠れた、彼の真名を口にして。
 彼は己の使い魔にでなく、死神として生きた英霊の、その生き様に答えを求めた。

「……間違っていないと言ったのは、君だ」

 それがキャシャーンの答えだった。
 過ちであり、罪であっても、それを背負うと心に決めた、アヴェンジャーの在り方を、悪意ではないと認めたのは火澄だ。
 なればこそ、認められたキャシャーンに、彼を拒絶することなど、できるはずもなかったのだ。

「サンキューな」

 少し緩んだ顔をして、ふうっと息をつきながら。
 胸を撫で下ろしたといった様子で、火澄は感謝の言葉を述べた。
 正直、本気で殺されるかもしれないと、心のどこかでは思っていたのだ。
 悪魔級に往生際が悪い、ミズシロ火澄の豪運と言えど、本物の奇跡を前にしては、通用するとは限らない。
 それほどまでに、キャシャーンという男は、強く、恐ろしい男だった。
 だとしても、彼の素顔を知った意味では、不思議と彼に対する恐怖も、薄れていったようには感じた。

「……死の実感が欲しくても、決して理解を許されへん牢獄か」

 だからこそ、見えてきたことがある。
 この不死身の超人を前にして、認めてはならないと思いながらも、湧き上がってしまう感情がある。

「それでもやっぱ、妬いてまうな」

 死に脅かされることのない、完成された純白の命。
 それは狂った遺伝子の内に、自滅のプログラムを仕組まれた火澄が、望んでやまなかったものだ。
 世界を救えるというのなら、それでようやく等価になると、それほどに呪った宿命だった。
 だからこそ。
 口では二の次のように言いながらも、どうしても思ってしまう。
 同じように生きられたなら、どれほどよかったことだろうと。
 刻一刻と迫り来る、全く長くない寿命に怯えず、生きていくことができたなら、どれほど素晴らしいことだろうと。
 それがキャシャーンの在り方を、心底から侮辱する考えだと知りながらも、火澄は、思わずにはいられなかった。
 張り詰めた緊張を解いて、きょとんとした顔をする英霊に対し、火澄は苦笑混じりに言った。


88 : ミズシロ火澄&アヴェンジャー ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:31:05 tBa6CHH20
【クラス】アヴェンジャー
【真名】キャシャーン
【出典】キャシャーン Sins
【性別】男性型ロボット
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】
筋力:A 耐久:C+ 敏捷:A 魔力:E 幸運:E 宝具:B

【クラススキル】
復讐者:C
 あらゆる調停者(ルーラー)の天敵であり、痛みこそがその怒りの薪となる。
 被攻撃時に魔力を増加させる。

忘却補正:-
 正ある英雄に対して与える“効果的な打撃”のダメージを加算する……のだが、キャシャーンはこのスキルを有していない。
 その名が消えることはあり得ない。死を司る神の名が、世界から忘れられた時、秩序を失った死は、再び世界を脅かすだろう。

自己回復:EX
 この世から怒りと恨みが潰える事がない限り、憤怒と怨念の体現である復讐者の存在価値が埋もれる事はない。
 自動的にダメージが回復される。後述した宝具により、そのランクは規格外の領域まで跳ね上がっている。

【保有スキル】
戦闘続行:A+
 基本的に死ねない。他のサーヴァントなら瀕死の傷でも、戦闘を可能とする。

不死殺し:B
 死と再生を司る、太陽を堕としたことに基づく逸話。
 アンデッドや不死者などに対して、与えるダメージがアップする。

直感:C
 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
 敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。


89 : ミズシロ火澄&アヴェンジャー ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:32:07 tBa6CHH20
【宝具】
『月という名の太陽を殺した男(カース・オブ・ルナ)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
 女神を殺した罪の証。
 永劫に死ぬこともない代わりに、真に生きるということも実感できない生の牢獄。
 どれほどの傷を負ったとしても、それに比例した苦痛を伴い、瞬時に再生する自己修復能力である。
 キャシャーン自身の意志でも、マスターが令呪を使ったとしても、オンオフを切り替えることはできない。
 このサーヴァントを殺すには、亜空間にでも追放するか、分子レベルまで完全消滅させるかしかない。
 仮に前者を行ったとしても、マスターに令呪がある限りは、
 強制転移によって帰還させることができるため、基本的には後者以外の攻撃は意味をなさない。
 ただし肉体の再生には、当然マスターの魔力消費が伴う。
 復讐者スキルによる回復も、度が過ぎれば追いつかなるなるので、過信は禁物。
 規格外の再生能力を誇るが、科学技術に由来する宝具であるため、神秘性はさほど高くない。

『最悪の存在(テラー・オブ・デス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜40 最大補足:100人
 自らが背負った血の罪科。
 世界の恐れと憎しみを背負った、最悪の死神の称号。
 このサーヴァントの真名は、彼が生きた世界において、極めて特殊な意味を持つ。
 「キャシャーン」の名はそれを聞く者に、死の恐怖を想起させ、身と心を縛り萎縮させる。
 キャシャーンと相対し、その真名を聞いた相手は、恐怖により大きく精神を揺さぶられる。
 その上、一度刻まれた恐怖心は、容易く拭い去れるものではない。
 戦闘終了後も、その恐怖はトラウマとなって残留し、再び顔を合わせることがあれば、即座に効力が蘇る。
 この宝具の効果を抹消するには、Aランク級の解呪の魔術を使うか、あるいはマスターを倒しキャシャーンを脱落させるしかない。
 同ランク以上の精神耐性系スキルがあれば、効果を軽減させることは可能。
 また、死神としてのキャシャーンの逸話が具現化したものであるため、彼の人となりを理解したものに対しては、効果が激減する。

【weapon】
腰部にはブースターが搭載されており、瞬間的な加速が可能。


90 : ミズシロ火澄&アヴェンジャー ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:33:12 tBa6CHH20
【人物背景】
月という名の太陽を殺し、世界を滅びへと導いた男。
取り返しのつかない罪を贖うため、尊い命を守るために、死神の忌み名を背負った男。
選ばれなかった弱者を救いながらも、選ばれた強者の秩序を破壊したために、反英霊の十字架を科せられた男である。

再び昇った太陽は、世界に蔓延した死を消し去るため、再生の力を振るい始めた。
しかし死への恐怖を芽生えさせた彼女は、次第に癒やす相手を選り好みし、死へと大きく近づいた者を、遠ざけ切り捨てるようになった。
怒れる男は悲しみを胸に、選ばれなかった命を背負い、再び太陽の王国に現れる。
襲い来る敵を皆殺しにし、玉座へとたどり着いた男は、再び太陽に呪いをかける。
いたずらに命を奪うことは許さない。人々が再び死を忘れ、傲慢に振る舞うようになれば、何度でもこの地へ舞い戻り、同じ死と滅びをもたらす――と。

本質的には、限りある命の儚さと、命を全うしようとする姿勢の尊さを知った、優しく思いやりのある人物である。
その優しさ故に、彼は命を脅かす者、粗末に扱うことを許さず、冷酷な死神にもなり得るのである。
死ねない呪いをかけられた彼が、いついかなるタイミングで死んだのかは不明だが、
満足に死ぬことが出来ない彼にとって、限りあるが故の「生の実感」は、何よりも羨むべきものであったという。

【聖杯にかける願い】
???

【運用】
自らの真名が知れ渡ることが、有利になることに近づくという、極めて特異なサーヴァント。
高い戦闘能力に、恐怖による相手の萎縮が重なれば、極めて戦闘を有利に運ぶことができるだろう。
ただし、過度な再生能力の乱用は、即座にマスターの首を締め、魔力切れへ一直線に転がり落ちることへと繋がる。
徒手空拳以外の攻撃手段を一切持たず、戦術自体はかなり限られてくることにも注意したい。


91 : ミズシロ火澄&アヴェンジャー ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:34:52 tBa6CHH20
【マスター】
ミズシロ火澄@スパイラル〜推理の絆〜

【マスターとしての願い】
神と悪魔の運命に打ち勝つ

【weapon】
なし

【能力・技能】
天才
 万能の天才。あらゆる分野において、並外れた才能を有している。
 スポーツをやれば全国クラスの猛者とも渡り合い、学問を修めれば高校生にして、専門家も舌を巻く論文を披露するほど。
 その出自から、遺伝子工学分野に強い関心を持っており、13歳で一度大学に進学し、研究を行っている。

悪魔の豪運
 呪いじみた悪運の強さ。
 決められた役割を演じきるまでの間、火澄は基本的に死ぬことができなかった。
 何者に襲われても幸運が彼を救い、自ら命を絶とうとしても運命が彼の邪魔をする。
 ……ただし、運で全てを切り抜けられるのは、あくまでも人の世の話。
 人を超えた力を持たない火澄にとって、超人同士の戦いは、運だけでどうこうできるものではないだろう。

クローン人間
 火澄はミズシロ・ヤイバの本当の弟ではない。
 彼の体は、ヤイバの遺伝子情報から生み出されたクローン人間である。
 ……しかし、不完全な技術で生まれた体には、致命的な欠陥が存在する。
 本聖杯戦争で表層化することはないが、彼の体は成人する以前に、劣化による死を迎えると言われている。

【人物背景】
かつて政財界を陰日向に操り、世界を己が血脈で満たそうとした「悪魔」ミズシロ・ヤイバ。
彼の歳の離れた弟として、世界に姿を現したのが火澄であり、同時にヤイバの志を引き継ぐため、彼の血と才を受け継いだクローンでもある。
しかし火澄は、現行人類の世界を滅ぼすことを良しとせず、ヤイバの構築したプログラムを破壊する術を探していた。
だがその過程で、自らの寿命による限界を知った彼は、絶望し逃避の道を選ぶようになる。

先に生まれたオリジナルと、自身との能力差を見せつけられず、健全に育てられたため、性格は至って朗らか。
しかしその仮面の下では、抗えない死の運命に対する恐怖と、それを分かち合えない孤独に震え続けていた。
そんな火澄を殺すために、火澄と同じ条件で生を受けた、「神」の弟・鳴海歩に対して、火澄は使命を捨て共に生きていくことを望むのだが……
今回は、彼との決定的な決別を招く、ある少年の殺害よりも、早い時点から参戦している。


【把握媒体】
アヴェンジャー(キャシャーン):
 テレビシリーズ全24話。
 レンタルDVD、およびバンダイチャンネルでの視聴が可能。

ミズシロ火澄:
 漫画単行本全15巻。
 11巻の最終ページで初登場するため、全巻の読破がほぼ必須となる。


92 : ◆V05pjGhvFA :2016/06/29(水) 00:36:07 tBa6CHH20
投下は以上です
今回はアヴェンジャーのクラススキルに関して、「聖杯四柱黙示録」様の、
「虎よ、虎よ」に書かれたものを、参考にさせていただきました
問題があればご指摘をお願いします

ttp://www65.atwiki.jp/quatropiliastro/pages/31.html


93 : ディーヴァ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/06/29(水) 21:04:13 Zs.PtbfE0
投下します。


94 : ディーヴァ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/06/29(水) 21:04:41 Zs.PtbfE0
「こんばんは、この辺初めて?」

ディーヴァが振り向くと、人の良さそうな笑みを浮かべる顔が視界に入った。
年齢は20代前半からせいぜい30といったところ。艶のある黒髪を左右に流し、その隣に右手を緩く掲げている。

昭和五十五年。
日本はイラン革命に端を発する第2次オイルショックの混乱真っ只中にあり、政財界は第1次の教訓を生かして、影響を最小限に押し留めていた。
来日していたディーヴァは人間社会の喧騒を意に介することなく、冬木市内を散策。
深山町を歩き回っている内に日が落ち、夜中の海浜公園から冬木大橋を眺めていた時、彼が声を掛けてきた。

「いやー、ガイドブック持ってるから声掛けちゃったんですけど」

「……」

如何にも親切そうな調子で続ける。
気のない様子で男の顔を眺めていたディーヴァの姿が一瞬、消えた。
次の瞬間、雪の様に白い顔と、泉のような青い眼が視界に大写しになり、男は僅かに身を引いた。

「…まずそう」

小麦色に焼けた顔を覗き込み、眉を寄せてディーヴァは短く言う。
口調には嫌悪もあったが、それ以上に憐みが込められていた。
大粒の藍玉が歪む様を見て、男は首を傾げる。

「キャスター!いるー!?」

頭だけもたげて背後にめぐらし、何者かを呼んだ。
給仕を呼んでいるみたいだ、と戸惑う男の両腕がだらりと下がる。
表情が抜け、ゆっくりと向きを変える。まもなく陽炎のような足取りでディーヴァの傍を離れていった。

彼は現在の自分に一切の疑問を感じていない。
その精神は既に活動を止めており、彼方から差すエメラルドの視線によって人形のように操られているだけだ。


95 : ディーヴァ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/06/29(水) 21:05:03 Zs.PtbfE0
男の姿が消えた園内で、入れ替わる様に女が一人、ディーヴァに近づいてきた。
胸元が大胆に開かれた衣装を纏う女だったが、俗っぽさは微塵も感じさせない。ワインレッドのドレスは優美な線を描き、背景が現代の街並みであることだけが惜しい。
美しい顔には今、冷たい色が宿っている。
先ほど名前を呼ばれたキャスター…ワインレッドの女は腰に手を当てている少女の前に立つと、呆れたように大きく息を吐いた。

対するディーヴァも純白のドレスに身を包んでいる。上半身は同色のケープで覆われ、胸元を飾る青い薔薇がワンポイントを添える。
血塗れたような真紅に負けず劣らずの派手な衣装だが、彼女は違和感なく着こなしている。

「大声でサーヴァントを呼ぶな。…用があるなら念話を飛ばせ」

キャスターはディーヴァがナンパされた時点で実体化。呼ばれた時点でミトコンドリアのコントロールを奪い、男を催眠状態に陥れたのだ。
放埓なマスターの振舞いに対して、彼女は終始気を揉まされっぱなしだった故に。
従属させるべくミトコンドリアに干渉を試みたことがあったが、ディーヴァの細胞核は尋常の生物とは異なり、キャスターのコントロールを容易く弾いてしまう。
マスター替えも考えてはいるが、依代として考えた場合、翼手の女王を手放すのは惜しい。せめて彼女と同等の魔力供給を見込めるはぐれのマスターが現れる事を今は祈る。

「だって、つまんないんだもん」

自儘な振舞いを窘められたディーヴァは口を尖らせる。溜息をつくと、小石を蹴る様な動きをする。

「せっかく面白そうなお祭りに参加してるのに、誰とも遭わないし」

「キャスターだって早く同衾相手を見つけたいでしょう?」

ディーヴァの子供の酷薄さを湛えた微笑に、キャスターは忌々しげに鼻を鳴らして応じる。

彼女が保有する『完全生命体』は核遺伝子を持たない完全なミトコンドリア生物を産み出そうとした逸話が、宝具に昇華されたものだ。
生前―マンハッタン封鎖事件以降、ミトコンドリアが覚醒した事例は確認されていない―なら、分身と適合した女性に完全体を生ませる事が出来た。
しかしサーヴァントとなって枷が嵌められたEve――キャスターは「メリッサ・ピアス」の殻を得た結果、分身による寄生が制限され、完全体の出産には魔力で構成された肉体で受精する必要がある。
もっとも精子を入手できればいいのであって、発動に性行為は必要としないのだが、その事を伝えても、ディーヴァは愉快気に笑うだけだろう。

――これが翼手か。

人間の側には立ち得ないが、Eveに組する事もない。味方とするにはこちらと協調する気が無さすぎる。
稚気に富んだ女王は勿論、彼女に好き放題させている騎士達も期待はできない。
首尾よく聖杯が手に入ったなら、ミトコンドリアの反乱を抑え込める連中への対処も考えよう。



海浜公園の敷地から出ていこうとしたディーヴァが声を掛けようと顔を向けたとき、栗色の髪が宙に溶けていた。
眉を顰めたディーヴァが念話を飛ばしても、応じる気配がない。頬を膨らませて叫んでも、公園が鈴の鳴るような声を吸い込むきりで甲斐が無い。

―嫌われちゃったか。

何が可笑しかったのか青薔薇の少女は笑みをこぼすと、さながら獲物を待ちわびる狩猟者のように、アトラクションを待ちかねる童女のような足取りで未だ眠らぬ新都を目指す。


96 : ディーヴァ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/06/29(水) 21:05:26 Zs.PtbfE0
【クラス】キャスター

【真名】Eve

【出典作品】パラサイト・イヴ

【性別】女

【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷E 魔力B+ 幸運D 宝具A++

【属性】
混沌・悪


【クラススキル】
陣地作成:D+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 出産に相応しい「分娩室」を形成できるほか、大量の魔力を用意すれば、より安全度が高い「肉のドーム」を形成することが可能。

道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成できる。
 後述の宝具以外は何も作成できない。

【保有スキル】
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

飛行:B
 後述スキルにより、空中を自在に飛ぶ。
 飛行中の敏捷値はスキルランクで計算する。

ネオ・ミトコンドリア:A+
細胞核を支配する能力を得たミトコンドリアを保有している事を示す。生産したエネルギーを使って多彩な効果を発揮できる。
 キャスターは他者に宿るミトコンドリアに干渉することで、対象のゲル化や人体発火を引き起こす。
 対魔力スキルによって干渉を無効化されることに加え、標的が魔獣や魔物など通常の生物でない場合、効果を軽減されてしまう。

 姿を変えることが出来るが、クラス補正によって、ゲーム版でいう第1形態と第2形態を行き来する事しかできない。


【宝具】
『古き世を喰らう新生児達(ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー)』
ランク:D〜C 種別:対生物宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:30人
 レンジ内に生息する生物を"NMC"に変化させる。
 NMCに変化した生物は、いずれも奇怪な外見に変貌を遂げ、体格や殺傷能力が向上。なかには特殊能力を発現する個体もある。
 基本的に優れた生物ほど強力なNMCになる。

 ネオ・ミトコンドリアスキルと同様、標的が魔獣や魔物など通常の生物でない場合、効果を軽減されてしまう。


『完全生命体(アルティメット・ビーイング)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 受精することで宝具が発動。完全体のサーヴァントを妊娠、陣地内部で出産する。
 この時に生まれる生物は通常のNMCと違い、肉体の全てがネオミトコンドリアで構成されている。
 最初は赤ん坊のような姿をしているが、人間一人分のエネルギーで戦艦一隻を沈める爆発を起こすなど、規格外の能力を持つ。
 完全体は時間経過やエネルギー補給によって4段階まで成長。その度にステータスが変化していく。

完全体・第一形態のステータスは以下の通り。

【ステータス 筋力D 耐久D 敏捷E 魔力A+ 幸運E  スキル 飛行:D  天性の肉体:A  単独行動:A+  ネオ・ミトコンドリア:EX】


【weapon】
・変形させた自分の肉体。主に巨大化させた両腕と鋭い爪。


・「NMC」
ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー。
進化したミトコンドリアに肉体の主導権を奪われたことで異常進化、奇怪な外見・能力を得た生物。
キャスターの死後に一部がNYを離れ、アメリカ全域に散っていった。


【人物背景】
およそ10億年を生き延びた結果、宿主の身体を奪うまでに至ったミトコンドリアDNA。
生化学者・永島利明の手によって培養され、Eve1と名付けられた彼女は細胞核に反乱を起こし、人類の支配を目論む。
日本において完全生物を誕生させる事を試みるが、最期は永島の手によって殺害された。

数年後、聖夜を迎えたアメリカ・マンハッタンにて復活を遂げる。
人類に対し再び宣戦布告したEve――ミトコンドリアの女王は、同時期に超能力に目覚めた女性警官・アヤ・ブレアの手によって討伐された。


【聖杯にかける願い】
受肉。


97 : ディーヴァ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/06/29(水) 21:05:47 Zs.PtbfE0
【マスター名】ディーヴァ

【出典】BLOOD+

【性別】女

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「始祖翼手」
人間の血を啜る類人猿。体長5メートル程度の鬼や悪魔に似た生物だが、平時は人間に擬態している。
翼手は体内に備わる第5の塩基によって、驚異的な身体能力や再生能力を発揮する。

蜂でいう「女王」と、働き蜂にあたる「シュヴァリエ」が存在しており、ディーヴァは5人のシュヴァリエを従える双子の女王の一人。
生まれついての翼手。


【人物背景】
19世紀に発見された謎の生物のミイラ「SAYA」から生まれた双子の片割れ。
初代ジョエルによって人間として育てられた姉・小夜とは異なり、実験動物として扱われていた為、人間の価値観について理解が薄い。

些細な偶然から姉・小夜と邂逅。彼女の歌声を褒め称えた小夜によって、ディーヴァと名付けられる。
初代ジョエルの誕生日に小夜の手で塔から解放されたディーヴァは初代ジョエルの関係者を皆殺しにした後、世界中に翼手禍を振り撒いている。
好き嫌いが激しく、無闇に一般人を襲う事はない。

32話にて宮城リクを強姦する前から参戦。

【聖杯にかける願い】
手に入れてから考える。


【把握媒体】
キャスター(Eve):
 スクウェア(現スクウェア・エニックス)から発売されたシネマティックRPG。その一作目。
 Eveのキャラについては瀬名秀明氏の原作小説も参照。

ディーヴァ:
 テレビシリーズ全50話。本格的な登場は23話から。
 DVD、およびバンダイチャンネルでの視聴が可能。


98 : ディーヴァ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/06/29(水) 21:06:13 Zs.PtbfE0
投下終了です。


99 : ◆yYcNedCd82 :2016/06/29(水) 23:51:24 49Y2kRRM0
お借りいたします


100 : プロレス・ホーリグレイルウォーズ! ◆yYcNedCd82 :2016/06/29(水) 23:52:25 49Y2kRRM0
 ――――――その男たちは、筋肉(マッスル)だった。

 白いマットのジャングルに汗と血を飛沫させながら、がっぷり四つに組んでの大立ち回り。
 筋骨隆々とした体躯は勿論のこと、奇妙なのはその男たち全員が覆面を被っていることだ。
 いや、奇妙とは言えないかもしれない。
 この覆面こそは男たちの矜持であり、誇りであり、武威であり、そして顔なのだから。

『さあいよいよ最終ラウンド! 冬木市多目的ホール興行を制するは、正義か、悪か!』

 観客席に詰めかけた冬木市民たちがウオォォォッと声をあげた。
 悪逆非道、ルール無用のレスラーどもに、敢然と立ち向かう二人の男。
 一人はすらりとした体躯に筋肉を纏った野獣の如き肉体の、虎の覆面を被った男。
 一人は見上げるほどの巨体に筋肉を纏った巌の如き体躯の、拘束具を身につけた男。
 彼ら二人は戦いで負った傷を隠そうともせず、堂々と対峙する敵に向かって咆哮する。

「力が正義なのではない! 正義が力なのだ!」
「ここより反逆の始まりだ。覚悟を決めろッ!」

「「 ゆくぞぉっ!! 」」

                  * * *

 古代メキシコのアステカ文明において、真に偉大な戦士は仮面を被ったという。
 その伝統は今日にまで受け継がれ、ルチャ・リブレに挑む選手たちは自らの顔を覆面で覆う。
 それは神聖不可侵な儀式であり、彼らは生涯にわたって決して覆面の下を知られてはならない。
 敗北して地に伏し、覆面を剥ぎ取られたのならば、もはや二度と立ち上がることは許されない。
 そんな過酷な戦士の道を、自ら選ぶことこそが第一の試練。
 その上で、亜久竜夫はさらなる試練を自らに課した。
 10年前に姿を消した英雄タイガーマスクの覆面を被り、自らを後継者と任じたこと。
 そして生まれ育った孤児院を救い、日本プロレス界の自由と平和をまもるため、
 恐るべき侵略者である海外勢力、宇宙プロレス連盟に敢然と戦いを挑んだのだ!

「ええい、くそ! 宇宙プロレス連盟め、なんてことをしやがるんだ……!」

 しかし今、タイガーマスク2世は窮地に立たされていた。
 一人控室で怒り狂う彼の目前では、時計が試合開始時間まで、刻一刻と時を刻み続けている。
 宇宙プロレス連盟の送り込んできた新たなる刺客と2対2のタッグマッチ。
 タイガーマスクはプロレスラーである。プレスラーはどんな挑戦でも受けて立つ。
 冬木市で行われる地方巡業でのこの対決も、タイガーマスクにとっては望む所だった。

「これ以上、試合の開始を遅らせるわけには……!」

 しかし、いくら待ってもタイガーマスク2世のパートナーは姿を見せない。
 怯えて逃げたのか? まさかプロレスラーたるものが、そんな無様をするわけもない。
 事故にあったのだ。
 それもこれも全ては、あらゆる手段で勝利を狙う宇宙プロレス連盟の策略に違いなかった。
 尊敬すべき先輩レスラーや、友情を結んだ同胞に声をかければ、きっと彼らは手を貸してくれるだろう。
 だが……。

(馬場さんや猪木さんにばかり頼ってはいられない……)

 かくなる上は2対1しかない。
 堂々と胸を張ってリングに飛び込み、奴らに目にもの見せてやろう。

.


101 : プロレス・ホーリグレイルウォーズ! ◆yYcNedCd82 :2016/06/29(水) 23:53:00 49Y2kRRM0

 そう彼が誓ったその時だった。

「――――ッ!?」

 右手に熱が走ったかと思うと、カッと目も眩むような閃光が控室を満たしたのだ。
 すわ宇宙プロレス連盟の妨害工作か!? と思ったのも束の間、どうやらそうではないらしい。
 光が消え失せた時、タイガーマスクの目の前には驚くべき筋肉を持った巨漢が佇んでいたのだから。

「―――――バーサーカー、スパルタクス」

 男は堂々と自らの名を名乗った。
 バーサーカー、狂戦士。
 自らの異名を堂々と名乗る姿に、タイガーマスクの覆面の下で亜久竜夫はごくりと唾を呑んだ。

「さっそくで悪いが、君は圧制者かな?」

 スパルタクスの目は異様にギラついており、しかし曇りなく真っ直ぐだった。
 それは例えるならば磨き上げた鏡を覗き込むようなものだ。
 強面いっぱいの笑みも相まって、その男が纏う異様な雰囲気は、只者でないと直感させる。

(圧制者、とはなんだ……?)

 それは恐らく、弱者を押さえつける者どものことだ。
 力こそが正義と言って憚らない奴らのことだろう。

「いいや、違う。俺は……俺は、虎だ。虎になるんだ!」

「虎……」

「俺はタイガーマスク、タイガーマスク2世だ!」

 だからこそ彼は虎の覆面を被った。
 かつて自分のことを育ててくれた、伊達直人の遺志を継ぐためにだ。

「そして俺からも聞きたい」

 タイガーマスクはまっすぐに、その巨漢の純粋な瞳へと視線を重ね、手を差し出した。

「君は、プロレスラーだな!」

 それ以上の言葉は不要だった。
 しっかりと握り合った拳と拳。そこから伝わる熱い血潮と想い。
 相手が悪逆非道、ルール無用のファイトをするのなら、こちらは正々堂々受けて立つ。
 正義の怒りをぶちかますためにも、真正面から立ち向かわなければ真の勝利は掴めない。
 これこそが第三の試練。
 しかしこれに挑むと決めた時、男たちは互いに互いが何者であるかを理解した。
 男たちは骨の髄までプロレスラーだった。
 そして―――――その男たちは、筋肉(マッスル)だった。

                  * * *

.


102 : プロレス・ホーリグレイルウォーズ! ◆yYcNedCd82 :2016/06/29(水) 23:53:26 49Y2kRRM0

「無事か、スパルタクス!」

「大丈夫。ほら、傷口も笑っている」

 刺客レスラー、マスター&アサシンのツープラトンを受けたスパルタクスを、タイガーマスクは引き起こす。
 激戦を経て疲労困憊しているはずのスパルタクスだが、その顔面には満面の笑み。
 負けていられないとタイガーマスクもまた笑みを浮かべる。熱いファイトに心は奮い立つものだ。

「よし、なら行こう!」

「うむ、行こう! ――圧制者よぉおぉぉっ!!」

 雄叫びと共に飛び出したスパルタクスに、相手レスラーに一瞬動揺が走る。
 それこそが命取りだった。

『おお、これは……あの体勢は! 出るか、出るのか!?』

 そして再びの大歓声。
 スパルタクスの巨腕が、対戦者二名をまるごとガッシリと抱え込んだのだ。

「受け取るが良い、圧制者よ! 我が抱擁、我が愛を!」

 ぎしぎしと体が悲鳴を上げる中、彼らは懸命に藻掻いて脱出を試みる。
 だが難しい。
 今まで散々に打撃を浴びせたはずのスパルタクスの両腕は、小動ぎもしない。
 そうこうしているうちに足がふわりとマットから浮かび上がる。持ち上げられたのだ。
 そして――

「ま、待て、待て! よせ、やめろ!!」

「これこそが――――愛だッ!!」

 ――そのまま後方へと叩きつけられる!

『クライング・ウォーモンガーだぁあぁぁぁッ!!』

 文字通り、殺人的な威力のジャーマン・スープレックスである。
 二人纏めてマットに墜落した刺客レスラー達は、悲鳴も上げられずに体を弾けさせた。
 勢いを殺しきれず、ロープさえも超えてリング外へと転げ落とされてしまったのだ。
 よたよたと覚束ない調子で立ち上がろうとする二人の姿を、タイガーマスクは見逃さない。

『そしてそして、おおっとタイガー助走! これは……』

 次の瞬間、文字通りタイガーマスクは宙を舞った。
 一飛びにコーナーポストを飛び越えた彼は空中で体を捻り、虎の如く躍りかかったのだ。

「ダアァァァァッ!!」

『スペース・フライング・タイガー・ドロップーッ!!』

 観客席へ飛び込むようにして放たれた体当たりは、文字通り二人をなぎ倒し、打ちのめす!
 タイガーマスクの重力を無視したかのような軽々とした動きは、観客の心を尚も熱狂させる。

『でたぁ〜っ!! 四次元殺法ッ!! 強い! 強いぞタイガーマスク、スパルタクスッ!!』

 そして此処でゴング。
 鳴り響く鐘の音さえかき消すほどの大歓声が、冬木市多目的ホールを揺るがした。

「良いファイトだった」

「……ああ、素晴らしかった!」

 1980年、日本プロレス斜陽の時代はまだ遠い時代。
 プロレスラーは、プロレスでしか伝えられないものがあると信じてリングへ登る。
 リングで戦い続けるその限り、聖杯など無くとも叶わぬ願いはないのだろう。
 その胸に、闘魂ある限り。

.


103 : プロレス・ホーリグレイルウォーズ! ◆yYcNedCd82 :2016/06/29(水) 23:55:44 49Y2kRRM0
【元ネタ】
【CLASS】バーサーカー @Fate/Apocrypha
【マスター】亜久竜夫
【真名】スパルタクス
【サーヴァントとしての願い】
 なし
【性別】男性
【身長・体重】221cm・165kg
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力A 耐久EX 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具C
【クラス別スキル】
狂化:EX
 パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
 狂化を受けてもスパルタクスは会話を行うことができるが、
 彼は“常に最も困難な選択をする”という思考で固定されており、
 実質的に彼との意思の疎通は不可能である。

【固有スキル】
被虐の誉れ:B
 サーヴァントとしてのスパルタクスの肉体を魔術的な手法で治療する場合、
 それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。
 また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されていく。

【宝具】
『疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)』
 ランク:A 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
 常時発動型の宝具。
 敵から負わされたダメージの一部を魔力に変換し、体内に蓄積できる。
 体内に貯められた魔力は、スパルタクスの能力をブーストするために使用可能である。
 強力なサーヴァントなどと相対すれば、肉体そのものに至るまで変貌していくだろう。

【解説】
 古代ローマの剣闘士であり、スパルタクスの反乱と言われる奴隷戦争の指導者。
 ほぼ烏合の衆に過ぎない反乱軍をよくまとめ、強力なローマ軍に連戦連勝したことから、
 その人望や戦争指揮能力は卓越したものであったと考えられる。
 だがそれ以上に彼が人望を集めた要因は"必ず逆転によって勝利する"英雄だったこと。
 反乱軍の兵士にとって戦況が絶望的であればあるほど、その先にある勝利は確かなものだった。
 反乱は鎮圧されたものの、彼の名は虐げられた人間の希望として歴史に刻まれた。
 バーサーカーとして召喚されたスパルタクスは、一見は正常な思考を持つように見える。
 極めて高度な言葉を流暢に喋り、マスターに襲い掛かることもないからだ。
 しかし彼は"常に最も困難な選択をする"という思考で固定されている。
 マスターの命令や周囲の指示を全く聞かず、令呪の縛りもあまり効果がない。
 聖杯を求める確かな動機はなく、ただ戦いの場に赴くことだけを悲願する。
 被虐者を救済し、加虐者に反逆することだけを志すに彼にとって、
 戦場こそ弱者と強者しかおらず、常に求めてやまない苦痛と試練に満ちあふれた場所なのである。
 ひとまずはマスターに付き従うだろうが、わずかでも「マスターらしい」態度を見せれば、
 途端に彼は喜び勇んで叛逆を企てるに違いないため、油断ならないことに変わりはない。
 なお、風呂の湯に浸けておけば大人しくなる。
【運用】
プロレスさえしていれば恐らくマスターと仲違いすることはないと思われる。


【マスター】亜久竜夫@タイガーマスク2世
【マスターとしての願い】
 なし
【性別】男
【身長・体重】173cm・98kg
【年齢】20前後
【外見】冴えない新聞記者/虎の覆面を被ったプロレスラー
【令呪の位置】右手
【Weapon】
・スポーツカー
「プラズマGT」という真紅のスポーツカー。
 タイガーマスク活動時はパネルを裏返して虎柄にし
「タイガーハリケーン」として運用している。
【能力】
・プロレスラー
 地上最強の格闘技を身につけた偉大な戦士たち。
 一般人より身体力、精神力が高く、そして有名人である。
・四次元殺法
 ストロングスタイルを基盤に全米プロ空手、ルチャリブレを織り交ぜたスタイル。
 リング狭しと飛び回り、次々と空中から華麗な攻撃を繰り出していく。
【人物背景】
 日の出スポーツのお人好しで冴えない新聞記者。
 しかしその実態は「虎の穴」出身の覆面レスラー・タイガーマスク2世である。
 生まれ育った孤児院のため、日本プロレス界の自由を脅かす宇宙プロレス連盟の侵攻に対し、
 謎の失踪を遂げた初代タイガーマスクの後継者を自称、正統派レスラーとして戦いを挑む。


.


104 : プロレス・ホーリグレイルウォーズ! ◆yYcNedCd82 :2016/06/29(水) 23:56:00 49Y2kRRM0
以上です
ありがとうございました


105 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:06:25 voTtbhXU0
投下します


106 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:07:05 voTtbhXU0
聖杯戦争のマスターに選ばれた少女・橘ありすはあることに不満を抱いていた。
もっと砕けて言うと、うんざりしていた。
そう聞くと大抵の人は彼女の云う『あること』が『聖杯戦争』であると思うかもしれないが、そうではない。
いや、確かにありすはそれにもかなりの不満を抱いていたが、
今現在自分が置かれている状況に比べればそれも些細なことだ、とすら彼女は思えた。

「おやおや? そんな不満げな顔をして、いったいどうしたと言うんです? あっ、もしかしてお腹でも空きましたか? それなら丁度良い! この辺りに美味と評判の洋食店があるはずですから、そこでディナーと洒落込みましょう! 丁度夕食時ですしね。私はサーヴァントなので食事は必要ありませんが、それでもこの世界の食事にはとても興味が…… え? 別にお腹は空いてない? そうですか……ではディナーは帰りの楽しみに取って置くこととしましょう! ところで洋食で思い出したのですが――」

シートベルトを締め、車の助手席にちょこんと座っているありす。
彼女の隣、つまり運転席でハンドルを握りながら、引金を引きっ放しのマシンガンめいたトークを続ける男が此度の聖杯戦争で彼女が召喚したサーヴァントである。
彼の服装は、鋭い髪型にサングラス、白衣、と頭の先から足の裏まで特徴的なものだ。
車を運転していることからも分かる通り、男のクラスはライダー。
聞いた所によると名前を『ストレイト・クーガー』と云うらしい。
そして、彼こそが今現在の彼女を悩ませる存在でもあった。
理由は単純。喧しいからである。
橘ありすは弁論や会話、ディスカッションの大切さを識っている少女だ。
相手が理論や理屈を持った会話を行って来た場合、それと同じくらいの説得力を持った返事を返すくらいのことはする。
しかし、それがただ喧しく、思ったことをそのまま言ってるだけなんじゃないかとさえ思わせられるほど喋りまくる相手だったら話は別だ。
彼女はそういうタイプがあまり好きではない。
ありすはライダーの方へと顔を向け、未だ続いている弾幕射撃に割り込もうとする。

「速さを求める私としてはインスタント食品に並々ならぬ興味がありますが、しかしそれでもやはり一流のシェフが手間暇掛けて作り上げた『美食』にもまたそれに負けず劣らず心が惹かれます! 特に冠に『美』が付いているところが――」
「その……ライダーさん」
「ん? どうしましたか、アリサさん」
「ありすです! それと、私の事は下の名前ではなく、『橘』と呼んでくださいと何度も言ってるじゃないですか!」
「あぁ、すみませェん。私はどうも人の名前を覚えるのが苦手でして……って、さっきもこの下りやりましたっけ? ハハハ!」
「〜〜〜〜っ!」


107 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:08:03 voTtbhXU0
手をワナワナと震えさせながら表情に怒りを見せるありす。
彼女がライダーを苦手とする理由はここにもある。
橘ありすは自分の『ありす』という日本人らしからぬ名前にコンプレックスを抱いていた。
周りから名前で呼ばれる度に丁寧に『橘です』と訂正するほどだ。
そんな彼女を面白がって、わざと名前で呼んでくる人物はたまに居たが……今となっては彼らはまだちゃんと名前で呼んでいただけマシな方だった。
ライダーはありすを下の名前で――どころかそれを間違えて呼ぶのだ。失礼極まりない。
そもそもサーヴァントは己の主に対して呼びかける際、普通は『マスター』と言うものなのだが、ライダーは一向にそう呼ばないし、また橘ありすもその事を知らない。
召喚した当初から名前を間違え続け、しばらく経った今でもそれが直っていない彼に対し、いよいよ令呪による命令を使おうかとすら思ったありすだが、すんでの所で自制する。
彼女の現在の望みは元の世界への生還――即ち聖杯への到達、聖杯戦争の勝ち抜きだ。
こんな所で貴重な令呪を『ちゃんと苗字で呼ぶこと』という命令で一画失うわけにはいかない。

(ここは落ち着いて……クールな大人の余裕を持つんです。そう、大人……)

真横に、落ち着きがなく、クールから程遠いハイテンションで喋り続けているとても大人らしからぬ男が居ることに目を瞑りながら、ありすは必死に自己暗示を行う。
そうだ、私はライダーさんに聞きたいことがあったから話しかけたんじゃないですか――
と、当初の目的を彼女は思い出す。
数秒ほどして、ありすは改めてライダーの方へと顔を向け、話を再開した。

「二つほど聞きたいことがあるんですけど」
「二つと言わずにいくらでもどうぞ! どんな疑問にもこの私、ライダーことストレイト・クーガーがズバババーンッ! とお答えしましょう!」
「……なんで今私はこの車に乗っているんですか?」
「それはさっき貴方が『貴方みたいなヘラヘラした人が私を守れるだなんて信じられません。何か信頼に値する力を見せてください』と言ったからでしょう? 今現在、貴方が乗っている超高速車――これぞ私のアルター能力にして宝具『ラディカル・グッドスピード』です!」

ライダーとありすが乗っている車は、従来の物とは異なるデザインを施されていた。
車体のあちこちに紫色の装甲が取り付けられ、全体的に流線形のビジュアルをしている。まず、車検を通ることはできまい。
一見俗な、何の神秘も感じられないものだが、これこそが――正確に言えば、これに付けられた装甲こそが――ライダーの宝具『ラディカル・グッドスピード』である。
その能力はズバリ、『なんでも速く走らせることが出来る』という至ってシンプルなものだ。
事実、今現在彼らの乗る派手な車は、ジェットコースター並みの途轍もないスピードで公道を駆け抜けている。

「いや、だからと言って私までがこれに乗る必要はなかったんじゃないですか? こう……外に立って、貴方がこれを乗り回している姿を見せてもらうだけでも十分納得したと思います」

『ラディカル・グッドスピード』のスピードは、ありすにライダーの実力を認めさせるほどのものだ。
しかも、この上ライダーは『ラディカル・グッドスピード』によるスピード増強を己の脚、果ては己の身体全体に行うことまで出来るのである。文句無しに十分な性能だ。
そのインパクト故に、ライダーの言葉に一瞬納得しそうになったありすであったが、彼の言葉の中に疑問点を見つけ、即座にそのような反論を行う。
が、彼女の台詞が最後まで終わらない内に、ライダーはそれ以上のスピードで反論を返した。


108 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:08:46 voTtbhXU0
「いやいやいやいやいや! それは違いますよ、アリサさん」

思わず『橘です』と突っ込みたくなるありすだったが、ここで話の流れを止めるわけにはいかないのでスルーする。

「慥かに貴方の言っていることは正しい! 『百聞は一見にしかず』。私がどれだけ自分の力を――否、速さを自慢するトークを繰り広げて信頼を得ようとしたところで、それは実際に貴方の目の前で宝具を展開することで得られるそれには到底及ばないでしょう。しかし、です。『されど一見は一行にしかず』とも言います! つまりですねぇ、アリサさん! 貴方が外に立って私のドライブを見るより、車に一緒に乗って私の速さを感じてくれた方が、遥かに多くの納得を獲得できるものです! それに車という密室に入った状態で行われる超高速の体験は、友好関係、男女関係、果ては主従関係さえまでを良好にしてしまうものなのですよ! 常日頃から速さに慣れ親しんでいる私が言うのだから間違いない! また――」
「わ、わかりましたわかりました! わかりましたってばぁ!」

手をブンブンと振りながら、ありすはライダーの喋りを遮る。
いくら弁論を得意とする彼女でも、自分と会話のスピードがあまりにも違いすぎる者に対してマトモな反論を返すのは無理だ。

(全く、どうしてこの人は『速さ』にこれまでの執着を持っているんですか……)

己のサーヴァントの余りの『速度』への執着ぶりに、彼はライダーじゃなくてバーサーカーなんじゃないか、という疑いすら抱きながらも、ありすはこほん、と咳払いを一つし、改めて口を開く。

「……それじゃあ、二つ目の質問です。この車はどこに向かっているんですか?」
「おぉっと、いくらマスターであるアリサさん相手でも、その質問については失礼ながら『愚問だ』と言わざるを得ませんねぇ! 自分が何処に向かっているのか? はんっ! アリサさん、貴方は自分の目の前に広がっている『人生』という白い地図、もしくは目の前にある長い長い長ぁーい道を見て、其処が何処に通じているか分かりますか?」

ありすは首を横に振る。
そんなことが分かっていたならば、彼女は聖杯戦争に参加などさせられていない。

「ですよねぇ? それが分かるのはゴールに辿り着いた時、すなわち死を迎えた時くらいでしょう――おっと、ただでさえ今が聖杯戦争という命の掛かった状況である中、このような言葉を用いるのは些か配慮に欠けていましたね。申し訳ありません。ともかく、人間が自分の歩いた道とゴールを知るのは全てが終わってからであり、それはまた逆に言えば、終わった場所こそが人間のゴールのようなものなのです! このドライブもそれと同じこと!」
「……えぇと、つまり?」
「このドライブに明確な目的地はありません! 車が『ラディカル・グッドスピード』の速度に耐え切れず大破するまで走り続けます! ひゃっほぉぉおおおおおうっ!」
「降ろしてください! 今すぐに! い・ま・す・ぐ・に! 」

汗を流しながら必死にそう言うありす。
しかし、彼女の懇願虚しく、車はますます加速していくのであった。




109 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:09:46 voTtbhXU0
(しっかし、俺が『英霊』として、こんな戦いに呼ばれるとはねぇ)

ハンドルを握る男――ストレイト・クーガーは思う。
先ほどの喋り口は非常にハイテンションだったのに対して、彼の思考は落ち着いたものだった。

(しかもこんなちっちゃなお嬢ちゃんを守りながら戦えだぁ? おいおい、俺はカズヤじゃないんだぜ?)

クーガーはそう考えながら、一人の男を思い出した。己を曲げずに戦い、己の宿命を背負って争い、そして己の大切なものを守る為に命を懸けた――そして、自分の弟分である男のことを。
『もしあいつがこの戦いに参加していたら……』と思わず過去の人物へと向かっていた思考をライダーは無理矢理現在――横に座る少女、橘ありすへ戻す。

(まったく、可哀想に。普通の一般人、それもまだ十代前半くらいだというのに、突然見ず知らずの時代に連れてこられ、殺し合いに参加させられるとはなあ。戦いに性別や年齢は関係ないとは言え、余りにも酷ってモンだ。表情もどことなく不安に染まっているように見えるぜ)

訂正させてもらうと、今現在ありすの表情が不安に染まっている原因の九割九分は、ライダーと行っている超高速のドライブによるものだ。

(こんな可憐で儚げな、未来ある少女を無理矢理戦いに引き込む『聖杯』……どうにもキナ臭い。まるで『悪意』をもって参加者を選んだかのようじゃないか……。この聖杯戦争、何か裏があるような気がしてならない)

クーガーの心の奥から熱い何かが湧き上がる。
それは怒りなのかもしれないし、正義感なのかもしれない。あるいはその両方か。
彼がハンドルを握る手により強い力がこもる。
ついでにアクセルを踏む力も強まり、それにつられてありすの悲鳴も一段階大きくなった。
車はますます加速し、やがて少女の絶叫だけを残して何処かへと走り去っていった。

かくして、世界を縮める男はシンデレラを無事お城へと送り届けることが出来るのか。
地図が白く、旅路の果てが見えない今、それはまだ分からない。


110 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:10:31 voTtbhXU0
【クラス】
ライダー

【真名】
ストレイト・クーガー@スクライド(アニメ版)

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力:D 敏捷:A++(宝具装着時) EX(フォトンブリッツ時) 耐久:C 魔力:A 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
騎乗の才能。
下記の宝具により、ライダーは車や機械であるならば、何でも乗りこなせる。

【保有スキル】

道具作成:E
魔力を帯びた器具を作成するスキル。
ライダーはこのスキルで車やバイクと云った乗り物を作成し、下記の宝具で強化した上で使用する。
耐久性は普通のそれ並み。

アルター能力:A
正式名称は『精神感応性物質変換能力』。
このスキルを有する者は自分の意志や精神力で周辺のあらゆる物質(生物以外)を原子レベルで分解し、各々の特殊能力形態に再構成することができる。
ライダーは宝具であるアルター能力を発動する際に分解/再構築する物質を要する代わりに、発動に必要な魔力量が普通のサーヴァントが宝具発動に必要とするものより少なくなっている。
ネイティブアルター時代に最強と呼ばれ、またアルター使いを生み出す原因と推測されている『向こう側』と呼ばれる世界を(ほんの少しではあるものの)目にしたことがあるため、ライダーのこのスキルのランクは高い。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。


【宝具】

『世界を縮める男(ラディカル・グッドスピード)』
ランク:C 種別:対己宝具 レンジ:- 最大補足:-

ライダーのアルター能力。
あらゆるものを速く走らせることができる。
本来ならばアルターは一人につき一種類しか発動しないが、ライダーは、
車などを超高速仕様にアルター化する『具現化型』、
そして、脚部にブーツ状の装甲を纏うことでスピードとキック力を大幅に上げる『融合装着型』、
の二種類を完全に使い分けることが出来る。
更に、最終形態として全身をアルター化させ、装甲で覆う『フォトンブリッツ』では背中の噴射口からアルター粒子を放出することで凄まじいスピードと運動性が可能となっている。

【weapon】
アルター能力『ラディカル・グッドスピード』

【人物背景】

武装組織『HOLY』に所属するアルター能力者の一人。
『速さ』に異常なまでの執着を見せ、車に乗る時はいつもアクセルを全開にし、早口で喋る。
よく人の名前を間違える。が、ライダーが名前を間違えるのは親しい人に対してであり、またいざという時はちゃんと正しい名前で呼ぶので、これは彼なりの親愛の証なのであろう。

【サーヴァントとしての願い】
マスターである橘ありすを元の世界へと連れて帰る。

【備考】
小さな少女さえも戦いに巻き込む聖杯のことは許し難い存在だと思っています。


111 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:11:18 voTtbhXU0
【マスター】
橘ありす@アイドルマスターシンデレラガールズ

【weapon】
なし

【item】
タブレット

【特技・技能】
歌と踊りが出来る

【人物背景】
兵庫県出身、十二歳のアイドル。
自分の『ありす』という日本人らしくない名前にコンプレックスを抱いているらしく、周りからそう呼ばれるたびに『橘です』と訂正をする。
趣味はゲームと読書(ミステリー)。
イチゴを用いたエキセントリックかつサイケデリックな料理を得意(自称)とする。

【マスターとしての願い】
生きて帰りたい。


112 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:11:48 voTtbhXU0
投下終了です


113 : ◆As6lpa2ikE :2016/06/30(木) 22:14:09 voTtbhXU0
すみません。タイトルを付け忘れていました。『橘ありす&ライダー』でお願いします。


114 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/30(木) 23:20:30 We6nXjqs0
皆様、ご投下ありがとうございます!
自分も投下します。


115 : そして希望の象徴へ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/30(木) 23:22:38 We6nXjqs0

 
 希望の消えた世界とは、こういうところを言うのだろう。
 少女は思い、静かに部屋の片隅で膝を抱く。
 薄暗い部屋だった。
 今の彼女の心境を、象徴するような部屋だった。
 その傍らに、彼女の相方のような存在だったマスコットはいない。
 この絶望に満ちた世界に、少女は一人きりで漂うことを余儀なくされていた。
 
「どうして」

 パーカーのフードを深く被って、少女は誰にともなくそう問いかける。
 その問いかけにもしも相手が居るとしたなら、それはこの戦争を主催した【誰か】なのだろう。
 姿も見せず、声も出さず。
 ただの一度もこちらへ干渉してこないそいつのことを、彼女は何も知らない。
 分かっていることは、そいつはこの状況を楽しんでいるということ。
 邪悪に口を歪めて、滑稽に踊る駒を嘲笑っているだろうこと。
 
 だとしたら、七海千秋がやることは決まっている。
 そんなこと、一つしかない。
 【希望】を育てるために創られた命は、決して【絶望】に屈してはならないから。
 あの時果敢に絶望を打ち破ってみせた少年のように、【希望】を胸に戦うだけ。
 すべきことが分かっていても、しかし、今の七海はあまりに非力だった。
 モノミはいないし、権限も何一つない。
 モノクマに奪われているどころか、最初からこの空間での七海は、ごく普通の人間と変わらない状態に矮化されていた。
 残っているものといえば、精々が七海千秋としての才能――ゲームの腕前程度のものだ。

 七海はあの時、闇の晴れる瞬間を見た。
 立ち込めた【絶望】が、【希望】の前に砕け散るのを見た。
 だからこそ七海は、全てに満足して電子の海に還ることが出来たのだ。

 しかし夜明けの先にあったのは、またしても【絶望】。
 七海の前に、執拗に立ちはだかる闇。
 孤立無援の状況で、ただの少女に過ぎない自分に何が出来るだろう。
 ……わからない。
 まるで、翼をもがれた鳥の気分だった。
 
 聖杯なんてものに興味はない。
 願い事くらいは人並みに持っているつもりだが、それは決して、コロシアイの果てにある願望器などで叶えるものではないのだ。
 それは、あの世界を冒涜することに等しい。
 ほんの僅かな【希望】を頼りに、これから復興へ向かっていくだろう世界と、そこに生きる数多の人々に対しての。
 聖杯は、破壊すべきだ。
 聖杯戦争は、解体すべきだ。
 この戦いも、件の願望器も……きっと、悲劇しか生まない。


116 : そして希望の象徴へ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/30(木) 23:23:31 We6nXjqs0
「そうとも」

 閉じられたカーテンが、いきなり開かれた。
 部屋の内からではない。部屋の外にあるベランダから伸びた手が、布のヴェールを解いたのだ。
 光の差し込んだ少女の部屋に上がり込んでくる、一人の男。
 顔に浮かべた笑顔が印象的な、絵に描いたようなマッチョマンだった。
 その存在感は、物凄いものがある。
 具体的に言うと、彼だけが周囲のものよりも濃い作画で見えるくらいには、存在感の主張が強い男であった。

「願いとは、手を伸ばして掴み取るもの。努力の果てに勝ち取るものだ。
 他人のそれを蹴落として、楽して叶えた願いなんて、大抵ろくなもんじゃない!!」

 そもそも誰なのかという質問を挟ませない、不思議な魅力に満ちた目の前の男。
 彼の正体に、七海はすぐに気付く。
 七海の左の手首から先が、異様な熱を訴えていたからだ。
 慌ててそこに視線を落とせば――ある。
 聖杯戦争の参加者の資格。三度限りの、絶対命令権。
 聖杯に選ばれた証が、七海千秋という異物にも浮き上がっていた。

「だから私は、君に全面的に同調する。
 曲がりなりにも平和の象徴と呼ばれた身だ……敵(ヴィラン)の誘惑を殴り飛ばして跳ね除けるのは十八番でね。
 強いぞ、私は」
「あなたは――」
「おっと、これは失敬をした。名乗るのが遅れてしまったな」

 サムズアップで自分を指し、白い歯をにっと見せて笑う『平和の象徴』。
 その姿は、彼の生きた世界で知らない者が居ないほど、広く周知され、愛されたものである。
 民の声援に応え駆け付ける、現代の英雄。
 彼の拳に、古くから受け継がれる神秘なんてものはない。
 それでも彼の拳は、重く眩しく悪を討つ。
 彼こそは、ナンバーワン。
 悪の敵。
 平和の象徴―――ひとつの時代の頂点に立った、伝説(レジェンド)。

「エクストラクラス・ヒーロー。名を、オールマイト。
 君はもう膝を抱えて悩むことも、未来を悲観することもない」

 ヒーロー。
 その意味は全世界、万人にとって共通だ。
 彼らは、絶対的希望。
 悪がもたらす絶望を跳ね除ける、不屈の闘志を胸に抱く者たち。
 本来存在しない筈のエクストラクラスを七海が呼び寄せられたのは、やはり彼女の生まれた意味に起因するのだろう。

「なんたって――私が来たんだからな」

 七海千秋は、希望を育てるために創られた存在だ。
 人一倍、希望の光との縁は強い。
 
「ヒーロー……か」

 だから彼女は、召喚することが出来た。
 先の見えない絶望の闇に風穴を穿つ、希望の光(ヒーロー)を。
 絶望の修学旅行を抜け、未来の始まりを見た少女は、かくして絶望の聖杯戦争に身を投じる。
 此度もその闇を晴らし、輝く未来を掴むために。


117 : そして希望の象徴へ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/30(木) 23:24:10 We6nXjqs0

「ありがとう、ヒーロー。……よろしくね、オールマイト」

 これは、【希望】の始まり。
 昭和の裏にうごめく【絶望】への、反旗の光に他ならない。


【クラス】
 ヒーロー

【真名】
 オールマイト@僕のヒーローアカデミア

【ステータス】
 筋力A+ 耐久B+ 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具E+++

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
正義の味方:A+
 正義の名の下に平和を守り続けてきたヒーローのアイデンティティとも言うべきスキル。
 効果は人命救助や悪人退治などの善行を行う際のパワーアップ……ではない。ヒーローにとって人助けは当然の行為であり、これにわざわざプラスの効果は生じない。
 このスキルは、ヒーローが自らのアイデンティティを喪失しかねない場面において発動するマイナススキルである。
 悪人に服従する、非道な行為に加担する等といった悪行を強いられ、自らの信念を捻じ曲げられる状況に陥った時、ヒーローは大幅なパワーダウンを引き起こす。
 そして、例えばマスターから「聖杯戦争での勝利が最終目的である」と明言されている行動を命じられた場合にも、ヒーローが納得していない限りこのスキルは発動する。
 ヒーローを聖杯戦争に投じるとどうなるのか、その答えを示したスキルであると言える。

【保有スキル】
平和の象徴:EX
 民の安全と安心の象徴。カリスマとの複合スキルでもある。
 一個の社会、或いは時代における悪への抑止力。
 悪属性のサーヴァントに与えるダメージが上昇し、何かを守らねばならない戦いにおいてはそこに更に上昇補正が施される。
 逆境であればあるほど、守る者が居れば居るほど強くなる反則級のスキルだが、デメリットとして彼を視認した悪属性のサーヴァントは、例外なく彼に対し強い敵愾心を抱く。
 悪であることに美学のようなものを感じていれば、その敵愾心もまた、更に強くなる。
 つまり、とにかく敵の標的になりやすい。


118 : そして希望の象徴へ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/30(木) 23:24:46 We6nXjqs0

勇猛:A+
 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

【宝具】

『ひとりは皆のために(ワン・フォー・オール)』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大補足:1人
 鍛錬と継承が繰り返されることで、何人もの身体能力を一つに収束した宝具。
 彼の生きた時代では、個性と呼ばれていた力。
 常時発動型の宝具で、オールマイトの高いステータスもこの宝具あってのものである。
 この宝具の真骨頂は、他人への譲渡が可能という点。オールマイトのDNAを含んだ体の一部を摂取することで、人間であろうと宝具を使用できるようになる。
 ただし規格外のパワーを発揮できる反面、力の調整が出来なければ反動で体が壊れてしまう。

『更に、向こうへ(Plus Ultra)』
ランク:E+++ 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大補足:1人
 困難を乗り越え、逆境を跳ね除けて守るべきものを守り、敵に拳を叩き込む。
 理不尽に打ち勝つという彼、ひいては彼が教鞭を執った学び舎の校訓である上昇思想が概念宝具と化したもの。
 オールマイトほどのヒーローが敗北の淵にまで追い込まれる打破不可能なほどの絶望的状況であり、しかしながら後ろには守る相手が居り、彼が諦めていない、その全ての条件が満たされた瞬間に自動発動する最終宝具。
 全ステータスが1ランクアップし、その時負っているあらゆる傷や悪影響を全て無視、『万全以上』の体勢での戦闘を可能とする。

【weapon】
 拳

【人物背景】
 不動のNo.1ヒーローとして人々に愛される、まさに平和の象徴に相応しい笑顔の似合う好漢。
 あまりの肉体美に、彼だけ作画が違う。
 英霊として最盛期の状態で召喚されているため、宿敵から受けた傷も、活動限界もない。
 最強状態のオールマイト。

【サーヴァントとしての願い】
 願いとは、その手で掴み勝ち取るもの!

【運用法】
 正の方向で運用する限り、非常に頼もしく対立の可能性も少ないサーヴァント。
 戦闘能力も申し分ないが、『平和の象徴』スキルによってとにかく敵を作りまくるのが難点。
 また派手な対軍宝具などは持たないので、数の優位にも弱い。


【マスター】
 七海千秋@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争の解体

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 超高校級のゲーマー。
 ゲームの腕前と知識にかけては、右に出る者がいない。

【人物背景】
 超高校級のゲーマーとして、コロシアイ修学旅行に参加させられた少女。
 高い頭脳と柔軟な発想力を持ち、学級裁判では積極的に発言して活躍する。
 ……その正体は、希望更生プログラムの教官を務めるモノミをサポートするために搭載された、補助プログラム。
 いわば現実には存在しない、ゲームの中だけを生きる少女。


【把握媒体】
ヒーロー(オールマイト):
 原作コミック全巻。最低限の把握ならUSJ編まででも可能。

七海千秋:
 原作ゲーム。クリアしておくことが望ましい。


119 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/06/30(木) 23:25:59 We6nXjqs0
以上で投下を終了します。
本作の執筆にあたり、夢現聖杯儀典:re様の『ヒロイン&ヒーロー』におけるエクストラクラス・ヒーローの設定を参考にさせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。


120 : ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:48:23 fy.WUN/w0
投下します


121 : ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:48:36 fy.WUN/w0

 ――ああ、まただ。
何で俺は同じ様な轍を踏みまくるんだ。これじゃぁ低能みたいじゃないか。

 男は深い溜息を吐きそうになった。
エル・ドラドの時と言い、シャングリラの時と言い、自分は何も変わっていなかった。

 如何して男は――いや、この男と言うものは、デカい儲け話と浪漫溢れる話に、うっかり飛びついてしまうのか。



.


122 : ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:48:55 fy.WUN/w0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 カモメの鳴く声、白い砂浜に打ち付けられる漣の小さな音、そして、流れる緩やかな民族音楽。
これら全てをひっくるめたBGMを聞きながら、アクアマリンを煮溶かし水にした様な澄んだ海を眺めて飲む酒は、実に最高のものがあった。

 地上の楽園とも言われた事のある、インド洋に点在する島国、モルティブ諸島は今日も快晴だった。
地上の楽園。成程、使い古されたそのセールスコピー、嘘偽りはなし。景観は文句なしの百点満点。
赤道に近い国故に蒸し暑いが、そんな熱い中で飲むオンザロックはまた格別だった。
だが何と言っても素晴らしいのは、モルティブ名物の水上コテージである。蒼く煌びやかな海の上に建てられた、藁と木材のコテージ。
地上に建っていれば掘立小屋以外の何物にも映らないと言うのに、これが一度青い海の上に建立されると、見る者の度肝を抜く美しい光景へと早変わりする。
海で泳ぎたいなと思えば、海の上に建てられていると言う性質を活かし、そのままベランダから海へとダイブ出来るのも良い。

 リゾート地としては、百点も良い所だった。
バカンスの時期でもないのに、こんな所に来れる者は名うてのセレブに違いない。
そんなセレブに混じって、考古学者にしてトレジャーハンター、ネイサン・ドレイクこと『ネイト』はバカンスを楽しんでいた。

 ネイト風に言わせればデカいヤマも今はない。
今日以前に稼いだ金で、悠々自適な生活を送り、めい一杯羽を伸ばしている最中であった。
オン・ザ・ロックにしたウィスキーを呷り、地元のシーフードの盛り合わせを肴にしながら、モルティブでの一日を今日も楽しんでいた。
そんな時だった。明らかにネイトの方目掛けて、見知った顔が近付いて来たのは。

「ん?」

 その顔をよく知っていた為、ネイトは少し怪訝そうなリアクションを取った。
が、近付いてくる人間が真実、彼の見知った男だと知った瞬間、笑顔を晴れやかな物にした。

「ネイト〜、しばらくぶりだな!!」

「サリー、如何して此処が!!」

 もう髪の殆どが白髪になってしまった中年の男性だった。
若い頃はキチンと摂生した生活を送っていたらしい。顔つきも歳の割には若く、身体つきも下手な二十代よりもずっと整っている。
白いシャツとハーフパンツと言うラフな格好は、モルティブの地に相応しい。名をヴィクター・サリバン、サリーと言う愛称が特徴のこの男は、ネイトのパートナーであり、家族と同じ位強固な絆で繋がれた間柄でもあった。

 暫く会っていなかったので、再会を喜ぶと言う意味でも、二人はハグを先ず行った。
「座るぞ」、とサリーが聞いて来るが、ネイトが言うまでもなく、彼は既に席に座り、店のウェイターにネイトと同じ酒を注文していた。

「デカいヤマを見つけちまったんだ、お前に話を通さないとアレだろうと思ってな」

「俺と一緒じゃなきゃ儲けを得られないの間違いだろ、もういい歳だろサリー」

「ハッハハ、まぁな」

 特に痛い所を突かれた訳でもないらしい。初めからネイトの若さと身体能力をアテにし、儲けの何割かを自分が貰うと言う既定路線でサリーはいたらしい。
尤も、そんな方針はいつもの事なので、ネイトとしては今更とやかく言う事でもないのだが。

「……で、その大きいヤマってのは、何だ?」

「ネイト。お前日本史は詳しいか?」

「日本史か……実を言うとあんまり、って所かな」

 ネイトの言う『あんまり』とは、『稼業人に求められるレベルの知識と比較して』詳しくないと言う意味であり、並大抵の史学科の学院生レベルの知識は、ネイトは当たり前のように有している。

「実はつい最近、そのジャパンでマジで大きい宝の動きがあったらしいんだ」

「そりゃ凄いな。借金返せそう?」

「勿論、借金返してその後ベガスで女の子ひっかけて遊べるレベルの金が入ってくる!!」

「で、何だよの大きい宝ってのは。事故で沈んだ朱印船が乗せてた宝とか?」

 朱印船による貿易。それは、安土桃山時代の将軍である豊臣秀吉の時代から、世界史でも有名な江戸時代の将軍・徳川家康の孫である、
徳川家光が鎖国を敢行するまで続いたとされており、主に東南アジア諸国から様々な物品の交易を行っていたと言う。
もしもその朱印船の内一艘が何処かで沈み、今もサルベージしてくれるトレジャーハンターを待っているとしたら。成程、それは確かに浪漫がある。

「違うなぁ」

 サリーは否定した。


123 : ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:49:45 fy.WUN/w0
「じゃあ何だ、日宋貿易か日明貿易か?」

「ネイト。今回の宝はそう言う船が乗せてた云々じゃないんだ。第一のヒントだ」

 ふぅむ、と考え込むネイト。
日本は地図を見れば解る通りの島国で、古の昔から諸外国、特に現在の中華人民共和国との貿易のやり取りが盛んだった。
そう言う歴史を知っていると、間違いなく海に沈んだ古代の貿易船絡みのお宝を連想するネイト。しかし、これが内陸に限定されるとなると、思い当たるフシは相当絞られる。

「徳川埋蔵金が見つかった?」

「埋めるだけ大量の金があったら無血開城何てしないだろ」

「壇ノ浦に沈んだ草薙の剣か?」

「それも船関係じゃないか」

「……あ!! 意表をついて、沖縄に伝わる楽園、ニライカナイとかだろ!! シャングリラの後でニライカナイはちょっとキツいぜサリー」

「ブブー、ハズレー!!」

「んだよサリー、そろそろ教えてくれよ!!」

 此処まであり得そうな推論を言っておいて、一つたりとも掠ってないと言う事実が頭に来たネイトが、少しいじけた様子で口にする。
その様子を見たサリーが、「解った解った」と、保護者めいた口ぶりでネイトを宥める。それと同時にウェイターが、ウィスキーのオン・ザ・ロックをテーブルに置いて来た。

「ネイト。聖杯は勿論知ってるよな?」

「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル面白かったよな」

「ああ、あのチープさが癖になる」

「で、その聖杯が何だって? 言っとくけど、今更ストーリーとかを説明する必要はないぜ。嫌になる位昔修道院で聞かされたからな」

「その聖杯がな、日本にあるんだとよ!!」

 ……沈黙で、ネイトは返した。
十秒程かけてネイトは、チビチビとウィスキーグラスに入った琥珀色の液体を嗜みながら、サリーの事を冷ややかな目で見つめ。
グラスから唇を離した後に、口を開いた。

「この場は俺が奢ってやるから、帰って良いぜサリー」

「待て待て待て待て待てネイト、胡散臭いって気持ちは解るがな――」

「信じられる訳無いだろボケオヤジ!! 極東の国日本と、ヨーロッパの伝説である聖杯がどうやって結びつくって言うんだ!!」

 皿に盛りつけられたエビのむき身を口に持って行き、頬張りながらネイトは口を開く。

「いいかサリー、聖杯って言うのはな、イエス・キリストが十二使徒達との最後の晩餐で使った杯でありそして、偶然その杯を手に入れたアリマタヤのヨセフが磔刑に処されたイエスの血を受けとめた杯でもあるんだ。その後ヨセフはイエスの遺骸を埋葬したかどで投獄されるも、聖杯の不思議な力で数十年も餓える事無く生きのび、投獄から解放され自由になった後は家族と共に巡礼の旅に出て、人目が付かないようにヨセフは代々この聖杯を保管したんだ。尤も伝説じゃこの後、ヨセフの子孫が巡礼者の女とエッチしたいって思ったからか、聖杯はどっかに消え失せちまったらしいがな」

 それは、キリスト教伝承としての聖杯の伝説である。 

「だがこの後聖杯は、アーサー王物語の中で特に重要なキーアイテムとして語られ、紆余曲折の大冒険の末に、ガウェインだかパーシヴァルだがガラハドの手で発見されるも、ガラハドは聖杯を発見するや天国に召され、それと同時にまた聖杯は何処かに消え失せた。そしてお仲間のパーシヴァルも一年後には出家して僧侶になって隠居、発見の一年後には死に至る。良いかサリーよく聞け、大本になったキリスト教伝説は元より、聖杯伝説の中にも、日本って言う国の名前は一言たりとも出てきやしない。日本人とヨーロッパの人間が接触したと言う記録は、一番確かで信頼の持てる物で1543年。非公式の物でも、どんなに遡ろうが1200年代より前はあり得ない!! 対して、ヨーロッパの文学に最初に聖杯と言う概念を持ち込んだのは、クレチアン・ド・トロア……12世紀の作家だ。解るか、物理的にも聖杯物語と日本が絡むなんてあり得ないんだよ、マルコ・ポーロだって12世紀にゃ生まれてない!!」

「んな事は解ってる!!」


124 : 小さな偉業も一歩から ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:50:22 fy.WUN/w0
 グイッ、と自分のウィスキーを飲んでからサリーがヒステリー気味に返した。

「ネイト。俺だって馬鹿じゃない。常ならそんな胡散臭い情報、信じすらしないさ」

「信じるに値する情報筋からの話だって事か?」

「蛇の道は蛇って言うだろ? 俺達と同じ稼業人も、同じような情報を近頃結構な割合で知ってる奴が多くなった。無論、その情報を流す筋の奴らもだ」

「で、その日本と聖杯の関係性を信じてる奴はいるのか?」

「お前さんと同じだよネイト。そんなバカな話、と皆信じない。情報を売ってる情報筋だって、荒唐無稽だと思ってるのか、捨て値でこの情報を売ってると来てる。俺の時は20$で買えた」

「ボジョレー・ヌーボーでも買った方が余程マシだな」

「だが、俺は引っかかった」

 トラウト・サーモンを切った物を口に運びながらサリーは言った。

「同じトレジャー・ハンターは元より、情報筋の奴らに何十人にも、こんな胡散臭い話を流させる手腕が先ず凄い。余程凄い金の量と、ネットワーク網がなけりゃ不可能だ」

「まぁそうだな」

「仮に罠だとしても、俺達を罠にハメる理由が解らない。メリットもないだろ」

「そもそもハマる奴がいないけどな」

「で、俺は思ったんだ。嘘でも良いから、この話に少し乗ってみようかとな」

「いやいやいやいや、おかしいだろサリー!!」

「まぁ待てよ。多くのトレジャーハンターや好事家達は、そんな話ある筈ないとこの胡散臭い話に目もくれない。だが、逆に言えばこれはチャンスじゃないか。誰もが向かわない方向に逆走する俺達、もしもその方向に聖杯があって、それを俺達が手に入れれば、ぶっちぎりの一位だ」

「手に入るかも解らないだろ、第一あり得ない!!」」

「手に入らなかったらそれでいいだろ、聖杯探索が日本の旅行に変わるだけ!! 一度ゲイシャの女の子と遊んでみたかったんだよな〜」

 聖杯の探索よりも、そっちの方が目的なのかも知れない。
こんのエロ親父が、と思うネイトであったが、聖杯の探索よりはまだ健康的だ。それに、ネイト自身も芸者と遊んでみたかった。

「……3日だけ付き合う」

「良く言った流石は心の友ネイト!! んじゃ、日本に発つ間俺は色々下準備してるからさ、楽しみにしてろよネイト!!」

 「……ったくしかたねぇ」、と言いながら、再び剥きエビに手を伸ばし、それを咀嚼した。
燦々と、モルティブ諸島に夏の暑い太陽が光を降り注がせている。今から数えて、5日前の出来事であった。



.


125 : 小さな偉業も一歩から ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:50:43 fy.WUN/w0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――そして、現在がこれである。
気付いた時には、ネイトは日本国の冬木市と呼ばれる街にいた。そんな街が本当に実在するのか、ネイトには解らない。
と言うより、如何にネイトであろうとも、日本にどんな街があるのか、詳しく網羅している訳じゃない。地方都市となると流石にノーマークだ。
本当に、気付いた時にはネイトは日本にいた。サリーが日本に向けての準備をしているその最中の時間だ。
その時間内に、気付いたらネイトは冬木にいて、しかもこの街の学校施設に通う考古学の教師と言う立場で、だ。

 更に混乱を誘うのは、今の冬木の――いや、この世界の年代だ。
昭和55年……つまり。1980年であるが、これはネイトが生きていた時代より十数年以上も前の年代である。
今が1980年と言う認識で今を生きている、この国の住民は、本気で頭がおかしいのかとネイトは思いもしたが、何処の誰に聞いても、いやそれどころか、
公共の機関にすら訊ねても、正真正銘今は1980年だと言うのだ。知らぬ間にタイムスリップしたのか、とネイトは本気で頭が参ってしまいそうだった。

 ――だが、それ以上に、ネイトの頭を混乱させているのが。

「辛気臭い面してんねぇ、ネイサン」

 と、女っ気の欠片もない、実に男勝りな女の声が、背後から聞こえて来た。
その方向にネイトが顔を向けると、其処にはえんじ色のコートを着こなす、見事なまでのストロベリー色の長髪をした美女が佇んでいた。
だが、ああ、見よ。彼女が被る、厳めしい示威的なまでのその海賊帽を。羽織っている漆黒のビロードのマントを。そして、腰に掛けられた二丁の拳銃を!! 
彼女はそう、海賊なのだ。誰がどの角度から見ても、映画やコミックのなかに登場し、略奪の限りを尽くす海賊にしか、見えぬではないか!!

「辛気臭くもなる。『聖杯戦争』? 聖杯を巡って他の参加者と殺し合う!? 馬鹿言え、冗談じゃねーぜ!!」

 この冬木に何らかの手段で飛ばされてから、ネイトの頭には一つの情報が刻まれていた。
聖杯戦争。サリーの言っていた聖杯を巡り、不特定多数の参加者と、サーヴァントと呼ばれる超常存在を使役して行われる勝ち残りの殺し合い。
その殺し合いを制した最後の一人だけが、聖杯を手にする事が出来るのだと言う。成程確かに、サリーの言っていた事は真実だった。確かに聖杯は、あるようだ。
だが、幾らなんでもこれは酷過ぎる。宝を巡って殺し合いをした経験は、ネイトにもある。だがそれは、宝探しの過程で起った不可避の事柄であり、
当初の目的たる宝の発見とその入手から全くブレた事柄ではなかった。聖杯戦争は違う。初めから『殺し合いをせねば聖杯は手に入れられない前提』なのだ。ネイトは、これが受け付けなかった。これは、トレジャーハンターの美学に反する。

「おいおい、キレイゴト抜かせるタマかいアンタ? 結構なハンサム顔で本質隠しちゃいるけど、結構な人数手に掛けて来た悪党の面してるよ」

「俺はなるべくならキレイに聖杯が欲しいの、わかる? ライダー」

「綺麗に入手出来る宝なんてあるもんか、命張って、時には殺したり殺されたりするから、財宝ってのは価値があるのさ」

「あぁクッソ、如何にも俺の尊敬する人物の言いそうな……ってそうじゃねぇ!! ライダー!! 一つ言いたい事がある!!」

「何さ?」

 すぅ、はぁ、と深呼吸を数回繰り返してから、ネイトは言った。

「俺は、お前を、絶対に『フランシス・ドレイク』だなんて、その子孫として認めないからな!! 嘘を吐くのも大概にしろ!!」

「っはぁ!? 何言ってんだ唐突に!! アタシは正真正銘フランシス・ドレイクだっての!!」


126 : 小さな偉業も一歩から ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:51:20 fy.WUN/w0
 ライダーと言うクラスが証明するように、目の前のこの美女は、ネイトが呼び寄せたサーヴァントである。
そしてその真名は……『フランシス・ドレイク』。ネイトが自分の先祖だと自称する程、彼が尊敬する冒険家であり、大海賊だ。
それがまさか、こんな女性であったと言う事が、ネイトには信じられない事柄だったのだ。
今の今までネイトは男だと思っていたし、実際残っている肖像画も、全て男のものだった。それが呼び寄せられて見れば、このような美女である。
受け入れられる筈もなく。これが、ネイトの混乱の要素の1つである事は、言うまでもなかった。

「第一アンタ、誰が誰の子孫だって? アタシはアンタみたいな間抜けな子孫を授かった覚えもないよ!!」

 とは言え、目の前にいるこの騎兵のサーヴァントは真実、フランシス・ドレイクなのである。
多くの歴史的資料が、彼或いは彼女は、結婚の遍歴こそあったが子供をもうけたと言う事実を記していない。
つまり、スペインの無敵艦隊を沈めて見せた天才司令官の血を引く者は、今日存在しない事を意味する。そんな事、ドレイク自身が良く解っている事だろう。
それなのに、そのドレイク卿の子孫をよりにもよって他ならぬフランシス・ドレイクの前でネイトは自称したのである。彼女からしたら、ムカつかない筈がないだろう。

「いいか、俺は先入観がぶち壊されて凄いおセンチなんだ!! これ以上喋ってなんか俺のイメージ壊さないでくれ!!」

「――へぇ。それじゃあんたは、アタシが不服って事かい?」

 ドレイクの声に、ゾッとする程の冷気が宿り始めた。

「見りゃ解るだろ?」

「そうかい」

 其処まで言った、その瞬間だった。
ネイトが認識すら出来ない程の速度でドレイクは、懐から拳銃を引き抜き、その銃口をネイトの額に向けた。
フリントロックタイプの拳銃で、中世〜近代には見られたものである。威力と精度、耐久性こそ現代のそれには遠く及ばないが、人間の頭に弾が直撃すれば、即死は免れない。

「不服だって言うのなら、仕方がないね。アンタがサーヴァントに不平を漏らす権利があるように、アタシも気に入らないマスターには従わない自由がある。公平だろ?」

「その公平さ、略奪先でも発揮した方が、悪鬼羅刹みたいな風評も生まれなかったと思うぜ」

 ネイサンの声には、緊張の糸が張りつめている。その事をドレイクは見逃さなかった。

「アタシの脅しに、気丈にそんな事が言えるんだったら大したタマだが、それと、私の人差し指が引き金を引くかどうかは話は別さ」

「聖杯が取れなくなるぜ」

「酒注ぐ杯なら間に合ってるよ」

 キリストの血を受け止めた聖なる杯を、よりにもよってワインかウィスキー、バーボンでも注ぐ為の器にしか見ていないらしい。
実に自由と言うか、刹那的と言うか。誰もが認める聖遺物をそんな風に使ってみる事に、一種の快楽を感じている風に、ネイトには見えた。

「反論のレパートリーは、あと十個ぐらいは増やしておくんだったね。興が削げるよ、アンタ」

「余程元の場所に還りたいんだな。勝ち残る自信がないか?」

 皮肉気な笑みでそう挑発したネイトに、「ほう?」とドレイクが反応する。

「正直な所、俺は勝ち残る自信が滅茶苦茶ある。誰もが見た事のない、エル・ドラドとシャングリラに足を踏み入れて、俺は生きてるんだぜ? こんな日本の一都市で聖杯探せ何て、借り物競争より楽勝ってもんだ!!」

 ドレイクは知らないが、ネイトは生前の彼女が辿った冒険譚と同じ位、危険な線を幾つも掻い潜って来ている。
犯罪組織が擁する私兵団、銃器やグレネードで武装した彼らに単身で挑み、その犯罪組織ごと壊滅させた事もある。
同じく重火器で武装したテロ組織を、単身で壊滅させた事もネイトはある。全ては機転、人脈、知恵、そして度胸と運。それらがあったから、ネイトは生きて来れた。
そんな話も道理も通じない危険な連中と戦って来たネイトにとって、都市部で行われるバトルロワイヤルなど、今更恐れるにも値しない事柄。この言葉は強がりでも何でもなかった。


127 : 小さな偉業も一歩から ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:51:32 fy.WUN/w0
「で、そんな、自称ドレイク卿の子孫である俺ですら、怖くないんだ。まさか本物のドレイク卿が、聖杯戦争が怖いから俺を殺して退場する、だなんて言う筈はないよな?」

 ネイトのこの言葉を聞いた瞬間、銃口を彼の額に突き付けたまま、ドレイクは黙りこくった。
表情は、石のような無表情。眉も鼻も唇も、ピクリとも動かさない。呼吸する音すら、悟らせない。生きたまま石像になったかのようであった。
が、その数秒後に、フッと、この美人海賊は顔を破顔させ、ネイトに笑みを投げ掛けた。

「成程ね。そのクソ度胸だけは、アタシに似てる。そして、それはそれとして――」

 其処まで言うと、ドレイクは拳銃を懐にしまい、代わりに、鞘に入れていた、銀色の剣身が眩しい曲刀・カトラスを引き抜き――。
その柄で、ネイトの頭頂部をガッと殴った。

「痛ぇ!!」

 言ってネイトは、叩かれた頭頂部を両手で抑え、涙目になりながらドレイクの事を睨めつけた。
無論彼女は答えた風も見せず、笑みをいたずらっぽいそれにさせながら、白い歯を見せ付けて笑った。

「ムカつくから一発殴らせて貰った」

 カトラスを鞘に入れ、ドレイクが言った。
当然、ドレイクが手加減してネイトを殴ったのは言うまでもない。ランクDとは言え、ドレイク程のサーヴァントが本気で人を殴れば、頭の形が変形する。

「まぁ、何があってもアンタを子孫とは認めたくはないけど、物覚えの良さそうな部下としちゃ合格だ。アタシの船は阿呆ばっかで、宝の目星が付けられる奴がアタシ以外少なかった。アンタだったら雇ってやってもいいね」

「そいつぁどうも、手に入れた宝山分けにしてくれるんだったら雇われてもいいぜ」

「優秀だったら三割は払ってやるよ」

 売り言葉に買い言葉。マスターと主の関係と言うよりは寧ろ、付き合いの長い腐れ縁の様なものを見る者に想起させるやり取りだった。

「ああ、最後に一つ、聞いて置きたかったよ。自称アタシの馬鹿子孫」

「ん?」

「当然アンタは、アタシの事を良く勉強してるんだろ? だったら、アンタはアタシと言う存在をどんな目で見てたのか、教えておくれよ。気に入らなかったら殴るから」

 何とも横暴が過ぎる言葉だと思うネイトだったが、意外や意外。
彼は直に口を開き、己の考えを口にしたからだ。直に思い描けたのは簡単な話。彼は本当に、真実フランシス・ドレイクの事を真摯に考えて来た男だから、直答えられるのも、当然の事なのだった。

「SIC PARVIS MAGNA(偉業も小さな一歩から)。それが俺から見たアンタだ」

 ネイトは言葉を滔々と紡ぎ続ける。

「世界を一周出来たのも、フェリペ2世のアルマダ(無敵艦隊)を沈めて太陽を落とせたのも、アンタに備わる才能が初めから凄かったからだなんて、俺は思っちゃいない。口では強がってて、派手で、目立ちたがり屋で、刹那的で享楽的なアンタは、恐らく何処かで努力してる事を隠す天才何だとも俺は思ってる。あんな偉業が、最初から備わってた努力の総量で出来てたまるか。影で努力してたんだろ? ドレイク卿。……だから俺は、アンタを尊敬してた訳だ」

「……ハッ、聞いてるアタシが恥かしくなる事を良くもまぁいけしゃあしゃあと……」

 海賊帽子を目深に被り直し、照れ隠しと言わんばかりにドレイクが口にした。

「ま、合格にしといてやる。ネイサン。聖杯をブン獲るよ!! 命は海に置いて、命の在った所に度胸を詰めて動きな!! そうすりゃ、一直線に聖杯まで辿り着けるさ!!」

 稲妻の様な鬨を発し、フランシス・ドレイク卿はネイトに宣言した。
聖杯に向けての一歩は、小さく、しかし確実に、今刻まれた事を、ネイトとドレイクは感じ取ったのであった。


128 : 小さな偉業も一歩から ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:51:44 fy.WUN/w0
【クラス】

ライダー

【真名】

フランシス・ドレイク@Fate/EXTRA、Fate/Grand Order

【ステータス】

筋力D 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運EX 宝具A+

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】

嵐の航海者:A+
船と認識されるものを駆る才能。集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。

黄金律:B
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。大富豪でもやっていける金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。

星の開拓者:EX
人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。

【宝具】

『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:20〜40 最大補足:前方展開20船
スペイン無敵艦隊を打ち破った「火船」の逸話と、ヨーロッパの伝承である「嵐の夜(ワイルドハント)」の逸話。
ライダーの生前の愛船である「黄金の鹿号(ゴールデンハインド)」を中心に、生前指揮していた無数の船団を亡霊として召喚・展開。
圧倒的火力の一斉砲撃で敵を殲滅する。ライダーの奥の手にして日常の具現とも言える宝具。
対軍宝具でありランクも高いが、現在の所持金(貨幣、或いは黄金や純銀、宝石や考古学的価値の高い物など)の多寡に応じて威力が増減するという変わった特性を持っている。

『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』
詳細は不明。ライダーが上記宝具を展開した時に乗っている船だが、この船自体が黄金鹿と嵐の夜とは別個の宝具。
イングランド王国のガレオン船でありドレイクが私掠船として用いたことで有名。 全長37メートル弱、船首と船尾に4門ずつの砲を持つ他に、両側舷にも14の砲を搭載。
上記宝具とは関係なく召喚し、カルバリン砲での攻撃、乗船しての移動が可能。彼女が『騎兵』たる所以であり水上でなくても船体を地面に隠しながらの移動などもできる。
但しムーンセルでの聖杯戦争でライダーのマスターだった少年同様、現状のマスターでは魔力供給に乏しい為、全力は余り出せない。

【weapon】

二挺拳銃:
彼女の活躍した歴史から考察するに、フリントロック式のものであると思われるが、サーヴァント化した事により、フリントロックのものとは思えない程の連射力を可能としている。

カルバリン砲:
空間から自由に出し入れさせる事が出来る、ゴールデンハインドの砲塔。当然直撃すれば大ダメージを負う事は言うまでもない。

【人物背景】

原作参照

【サーヴァントとしての願い】

聖杯の獲得。願い自体は決めてない。


129 : 小さな偉業も一歩から ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:51:56 fy.WUN/w0
【マスター】

ネイサン・ドレイク@アンチャーテッドシリーズ

【マスターとしての願い】

聖杯を手に入れた後、元の世界への帰還

【weapon】

リング状のネックレス:
ネイトの首に掛けられた、丸いリングが一個だけついたネックレス。
実はフランシス・ドレイクの遺産であるらしく、シリーズ三作目ではこれを巡って物語が進んで行く。

ネイトも、そしてサーヴァントであるライダー・ドレイクも知らない事柄だが、実はこれが触媒になって今回の聖杯戦争ではドレイクが召喚された。

【能力・技能】

考古学的知識:
ライダーは考古学の他、歴史学にも非常に造詣が深く、その知識の深さは、僅かに残った断片から、建物の様式、何処の国の物だったか、と言う事を瞬時に推察できる程。

超人的身体能力:
お前本当に人間か? と言う突込みが入るレベルの身体能力をなんか知らないけど有してる。
僅かな壁の溝を頼りに、垂直の壁を階段代わりに指の力だけで上ったり、訓練を積んだ民兵や傭兵を相手に引けを取らないレベルの格闘術と拳銃の腕前を持つ。

【人物背景】
 
フランシス・ドレイクの子孫を自称するトレジャーハンター。
宝が目当てと言うのもあるが、根っからの冒険野郎で、知的好奇心を満たす為に危険を冒してるフシも結構ある。
10歳前半までは修道院で暮らしていたが、尊敬する兄の帰りを待ちわびていた。10歳半ばに入ってから、スリを生業としつつ、
現在のようなトレジャーハンターまがいの事もやるなど危険な橋を渡っていた。この時にサリーと出会い、彼から探検家としてのテクニックを学ぶ。
サリー曰く、当時からセンスはあったが、テクニックはイマイチ。その後、ペルーの刑務所に投獄されるも、サリーの手により助け出される。
投獄経験は本人の話から推察するに、盗みに失敗し何度も経験しているらしく、その度に金か何かの力で放免されている。
決して悪人ではないし、無暗な殺しもする男じゃないが、仕方ない局面になったら非情に人を殺す程の度胸を秘めている悪党でもある。

シリーズ2作目である、黄金刀と消えた船団が終わってからの参戦

【方針】

聖杯を手に入れる。

【把握媒体】

フランシス・ドレイク:
言うまでもなく原作

ネイサン・ドレイク:
原作ゲームをプレイだが、全部プレイするのは骨が折れるし何よりも金銭的にかさむので、プレイ動画がベスト。


130 : 小さな偉業も一歩から ◆zzpohGTsas :2016/06/30(木) 23:52:08 fy.WUN/w0
投下終了します


131 : 結城夏野&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/01(金) 09:05:56 piVUdUpQ0
投下します。


132 : 結城夏野&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/01(金) 09:06:40 piVUdUpQ0
結城夏野は混乱していた。
本来、彼は三方を山に囲まれた田舎にいたはずだ。それが気付いた時には街並みがやや古臭いとはいえ、都会にいる。
沈む太陽が放つオレンジは既に薄まり、街は薄青い黒に覆われつつある。
立ち並ぶ家々が夕餉の時間を告げ、オフィスには日没後もそれぞれの業務に従事する人々がいることを外部に知らせる。

これまでの経緯を思い出しながら、夏野は歩く。
身体の中で、正体不明の何かが身を捩り、物欲しげな鳴き声を上げる。
日光がその力を弱めていく度に感覚が明瞭になっていき、髪の先、爪の先にまで精気が行き渡る。

やがて、自分の中に未知の情報が入力されている事を知ると、困惑はますますその色を強めた。
慌しく歩き回る思考を押さえつけ、夏野は夜の街へ繰り出した。





当てもなく街を走り、辿り着いたのは人気のない公園。
雑踏は遠く、街灯があちこちに濃い闇を作る。彼方に建つ建物の明かりが、色とりどりの蛍みたいだ。

≪でてこい、俺のサーヴァント…≫

街灯と肩を並べる街路樹の脇をすり抜け、植え込みの陰に飛び込む。
片膝を立てて座り、背中を密集する草木に押されながら、これから出会う者に念を飛ばす。
やがて茶髪の男が目の前に姿を現した。
年恰好は夏野と同じくらいだが、最奥に硬質の光を宿す瞳が歩んだ年月の凄まじさを示す。

「クラスは…」

「アーチャー。で、名前は須田恭也。…よろしくな」

しゃがんだ少年の表情が柔らかくなり、暗い黄緑の半袖からのびる腕が夏野に向けられた。
ちらと眼を向けた夏野は、仏頂面で差し出された手を握る。

「それで、これからどうすんだ?マスター」

手を離し、小さく一度頷いた恭也は問いを投げる。受けた夏野は、煩わしそうに眉をひそめた。

「マスター、何て呼ぶな。…結城夏野」

「名前は不味いんだろ」

「じゃあ、あんたでも、お前でもいい。…とにかくマスターなんて呼び方はやめろ」

言うだけ言うと、夏野は怪訝そうな顔から視線をそらす。恭也は二人を包む闇に意識を向ける。
やがて視線が座り込んだ少年に据えられると、恭也は片眉を上げたが、場所を移しただけで言葉を発する事はなかった。

夏野にしてみれば初対面の相手から"主人"なんて、気持ちが悪かった。まだ、二人称の方がましだ。
たった3回命令を下せるだけで、自分より力のある相手より上に立ったとは、どうしても思えない。

「……なんだ?」

隣に座りこんだ恭也が夏野を見ている。
無言で探る様に見つめられるのは、村で出会った少女を否応なく思い出させ、不快だったので受けて立つ事にした。

「あぁ、…他にもいろいろ話すこと、あるんだろうけどさ。……一ついい?」


133 : 結城夏野&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/01(金) 09:07:12 piVUdUpQ0
遠慮がちに尋ねる恭也に、夏野が頷く。

「…あんたってさ、ひょっとして人間じゃない?」

金槌で殴られたように首が揺れた。見開いた眼が、夏野の反応を窺うように細められた視線とぶつかる。

恭也は来歴ゆえ、怪物の気配には敏感だった。
夏野はこれまで遭遇した異形とは違い、人間そのままの姿だったが、彼らに近い気配を感じる。
聖杯戦争なんて初めてだったし、他のマスターと比較したわけではないので確信はなかったが、今の反応でそれを得た。

「別に、……好き好んで起き上がったんじゃない」

「起き上がる?」

緑の絨毯に視線を落とす。いきなり核心を突かれるとは思わなかった。

――起き上がり。

夏野は聖杯戦争に招かれる以前に死んでいる。今こうしているのは決して生き返ったからではなく、死んだまま動くようになったからだ。
このわずかな時間で見抜いた所から見て、彼はそういった事象に慣れているのだろう。
化け物と知った後も、すぐさま手にした刀で斬りかかってくる風でないあたり、自分の身に起こった事を話しても大した問題にはならないはず。
しかし初対面の相手に全てを打ち明けるのは、まだ抵抗があった。

夏野の逡巡を見て取ると、恭也は話題を変えた。
自己紹介から、聖杯戦争について。
聖杯に招かれた以上、お互いに抱えている願いがあるはず。
話が過去から未来に移ると、夏野は口元にさっと苦みを走らせる。

「願いならある。…けど、……殺しなんてできるか」

清水の墓を暴いている最中、襲い掛かってきた屍鬼を昏倒させた時も、打ち据えた感触が掌から消えなかった。
口封じのために差し向けられた屍鬼――徹ちゃんに杭を打ち込むことは、遂に出来なかった。

勝手な都合で殺戮を正当化する連中から、自衛するくらいは夏野にも十分できる。
しかし、望まず殺し合いに放り込まれた者達を刈り取って回る事までは、到底できそうもない。
大体断りもなしに人―少なくとも、化け物として振る舞う気はない―を聖杯戦争に招き入れ、願いを持っているからと言って、殺し合いを強いるやり方が気に食わない。
唯々諾々と従って、不特定多数の他人に重大な傷害を与える。それは決して許されない事だと皮膚感覚が判断する。

「そっか」

「アーチャーはどうなんだ」

「俺?俺もなぁ、…願いはあるんだけど、殺し合いは流石にさ」

今度は夏野から話を振った。恭也は微かに眉を上げ、腕を組み、渋い顔で静かに唸る。
やがて、面倒なことになったな、という倦みと、仲間を見つけた、という安堵が混じった笑みを、隣の少年に向けた。屈託ない様子だが、内心穏やかではなかった。


――恭也は美耶子を求めて、異界を彷徨い歩いていた時にここに呼ばれた。
倒した異形は数知れず、時間の感覚も溶けていく中を、交わした約束だけを抱えて進み続けていた。
俺は既に死んでしまったのだろうか?道半ばにして…。

そんな覚えはないが、羽生蛇村を越えてからの記憶は、劣化した古写真のように曖昧になっている。
聖杯を使えば確実に美耶子を助けられるのかもしれないが、深く悲しませる事になるかもしれない。考えなしに手を伸ばすのは躊躇われた。


「ま、とりあえず今日は帰ろうぜ。…親も心配するだろ?」

雑念を振り払う様に声を上げて恭也は立ち上がると、固い表情のマスターに気安い微笑を向けた。
記憶を探ると、たしかに自宅が割り当てられているらしいことがわかり、皮肉な気分になる。
親なんだ。他人の集まりじゃない、本物の家族。
しかめっ面で夏野も立ち上がり、眼の前を歩く背中に続く。モスグリーンのシャツの上で、背負われた小銃が僅かに揺れた。


134 : 結城夏野&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/01(金) 09:07:33 piVUdUpQ0
【クラス】アーチャー

【真名】須田恭也

【出典作品】SIREN

【性別】男

【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力B+ 幸運B 宝具A++

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C+
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 アーチャーは精神干渉に対して、強力な耐性を持つ。


単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失ってから二日間現界可能。


【保有スキル】
幻視:A
 同ランクの気配感知の亜種スキル。
 範囲内にいる人物の視覚や聴覚を盗用できるが、距離が遠いほど鮮明さが失われる。


血の契約:A
 美耶子と交わした約束。
 宇理炎の副作用を無効化するほか、瀕死の傷でも戦闘を可能とし、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる。
 同ランクの精霊の加護と戦闘続行の効果を内包する特殊スキル。


【宝具】
『狩猟用狙撃銃』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1人
 屍人ノ巣で入手した狙撃銃。
 使い魔程度なら十分相手にできるが、接近されると真価を発揮できない。
 クラス補正によって宝具に昇華されたが、所詮現代の品でしかないため、神秘性は最低ランク。
その分、消費が軽く、弾丸を魔力で補充できる。


『冥府の扉が開くとき(煉獄の炎)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:20人
 宇理炎を使い、前方に巨大な火柱を発生させて、目前の敵にぶつける。
 神霊や魔物など人外の性質を持つサーヴァントに対して絶大な威力を発揮する。
 宇理炎が魔力炉を備えている為、アーチャー自身が消費する魔力量はごくわずかだが、再発動には10秒のクールタイムを必要とする。


『暗黒の空を青に染めて(鉄の火)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:200人
 宇理炎を使い、上空から青い炎を雨のように降り注がせ、レンジ内の敵を殲滅する。
 神霊や魔物など人外の性質を持つサーヴァントに対して絶大な威力を発揮する。
 宇理炎が魔力炉を備えている為、アーチャー自身が消費する魔力量はごくわずかだが、再発動には120秒のクールタイムを必要とする。


【weapon】
「焔薙」
神代家の家宝。眞魚岩から採取された隕鉄を精錬して鍛えられた刀。クラス補正により、刀身に木る伝を宿す事が出来ない。

「宇理炎」
"力が生まれたときに同時に生まれる、相反する力"を操る神の武器。不死者すら永遠に滅ぼす事が出来るが、副作用として使用者の生命を求める。
アーチャーは保有スキルにより、これを猶予されている。

「ポータブルオーディオプレーヤーとヘッドフォン」
ハードロックを聞きながら、アーチャーは異界を彷徨い歩く。


【人物背景】
中野坂上高等学校に通っていた16歳の少年。
羽生蛇村で起こった虐殺事件の噂をネットで目にした彼は、夏休みを利用してマウンテンバイクで村にやってきた。
訪れた先で奇妙な儀式を目撃にした後、怪異に巻き込まれてしまう。

盲目の少女「美耶子」と怪物が跋扈する村を逃げ回る中で永遠の命を得て生還した恭也だったが、ついに現世に帰還する事は叶わず、異界を彷徨い続けることになった。

【聖杯にかける願い】
全てを終わらせて、美耶子と再会する。聖杯に惹かれる気持はあるが……。


135 : 結城夏野&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/01(金) 09:08:14 piVUdUpQ0
【マスター名】結城夏野

【出典】屍鬼(アニメ版)

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「人狼」
屍鬼の襲撃を受けた後、完全に死亡することなく超常の力を得た人々。極稀に生まれる屍鬼の変異種。
不老、高い治癒力や襲った人間への暗示、夜目が利くといった屍鬼と同じ能力を備え、彼らと違い、人間の食事で生命を維持できる。
くわえて昼間でも活動でき、体温や脈拍を生前と変わらず保ち、呪物への高い耐性を持つ。
循環する血液を力の源としており、心臓や頭部の破壊によってのみ殺害する事が出来る。

原作中では屍鬼の完全体なのだろうと推測されている。


【ロール】
高校生


【人物背景】
都会から過疎の村「外場」に引っ越してきた高校生。
両親が入籍していない事に加え、夫婦別姓という複雑な家庭環境から、クールでドライな性格に育った。
戸籍上は母方の「小出夏野」。

村の生活を嫌っており、都会の学校へ進学する為に勉強を欠かさない。
外部から入り込んだ屍鬼の暗躍にいち早く気づき、元凶である桐敷を探っていたが、屍鬼となった親友・武藤徹を差し向けられる。
自作の杭とハンマーで対抗しようとしたが、結局使う事はできず彼の襲撃を受け容れた。
死亡したかに思われたが、屍鬼の亜種「人狼」となって甦る。

18話終了後から参戦。

【聖杯にかける願い】
屍鬼の根絶。ただ、殺人に加担するのは……。


【把握媒体】
アーチャー(須田恭也):
 SCEIから発売されたホラーゲーム。PS2アーカイブスでもプレイ可能。
 第一作目の主人公の一人であり、第二作目でも本筋に関わらない形で登場します。


結城夏野:
 全22話。
 DVD、Blu-rayで視聴可能。
 漫画版でもかまいませんが、後半から原作小説に沿った展開になります。


136 : 結城夏野&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/01(金) 09:08:38 piVUdUpQ0
投下終了です。


137 : ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:19:08 J5wIZfw.0
投下します


138 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:19:42 J5wIZfw.0






   人間が最も古代の生物から受け継いでいる、光と闇の根本的な区別、それがあるんじゃないのか
   
   何と言っても、光に対する反応は、生そのもののあらゆる可能性に対する反応なんだ

   私達に解って居る限りでは、この区別は世の中で最も強い区別であり、ひょっとしたら、たった1つの区別かも知れない。

   それが何十億年と言う間、毎日、強められてきたんだ

                                                  J・G・バラード、結晶世界





.


139 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:19:59 J5wIZfw.0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 浮いている、と言う表現がある。
文字通りの意味ではない。集団の中でその人物或いは物だけが、異様に目立っているように見えて、不自然に見える事をこう言い表すのだ。
黒い鴉の中に、白い鴉がいたら目立つだろう。赤いバラの中に一厘、青いバラが咲いていれば目立つだろう。そう言う事を、浮いていると言うのだ。

 複数の人間から構成される組織や集団の中でそう言った現象が起こると、大抵浮いている人間に待ち受けているのは、排斥かそれに近しい境遇である。
猿や犬、果ては昆虫や魚の世界ですらそう言う現象は起るのだ。知能を持った人間の集団で、それが起きぬ筈がなかった。
無視で済めば可愛い方だ。酷いと、『いじめ』と言う名の私刑にすら発展する事は、この場合珍しくないのだった。

 端的に言えば『光本菜々芽』は浮いている部類の少女だった。
後ろ髪を長く伸ばしたブルーブラックの髪、全体的に黒で統一された服装。そしてその整った顔立ち。
明るく、社交的な性格をしていれば、きっと子供からも、況や大人からも、ウケの良い少女だったに相違あるまい。

 しかし、実際には違った。彼女は浮いていると言うよりは孤立していると言う表現の正しい少女だったのだ。
10歳と言う年端も行かない年齢であるのに、達観とも老成とも取れる、大人びた雰囲気が、同年代に比べて目立つと言うのも確かにある。
だがそれ以上に彼女の孤立を助長させるのが、仏頂面とも取れる不愛想な表情を、常に浮かべている事であった。
同じクラスの子供達は、菜々芽が笑っているその瞬間を目撃した事がないのではなかろうか。教師ですら、ないかも知れない。
それ程までに、彼女は不愛想だった。しかしそれでいて、勉強も運動も人並み以上に出来る。今は公立に所属しているが、元々名門私立の小学校を目指していた少女だ。
運動は兎も角、勉強は同年代の子供よりずっと出来るし、中学で習う勉強も既に菜々芽は学んでいた。こんな風だから、クラスでは彼女は孤立している。
余りグループの輪にも入れて貰えないし、体育の授業での班決めでも何時も『あぶれ』の組だ。その上、黒い服装を好んで着るので、着いたあだ名が死神だ。
子供の語彙力と言うのは、たかが知れている。しかし、少ないからこそ、婉曲や皮肉と言った、本質をオブラートで包んだ表現が使えない。
つまり、本質をこれ以上となく適切かつ短い言葉で表す能力に長けている。あだ名の類などまさに、それが如実に表れている。

 菜々芽が冬木市内の小学校を去り、家に着いたのは夕の四時。
裕福な家庭なのだろう。庭付きの一軒家だった。ただいまの挨拶もなしに、彼女は家の中へと入って行く。

「ただいま、はどうしたの」

「……ただいま」

 面倒くさそうに菜々芽は言った。
菜々芽の目の前には、これまた菜々芽譲りのブルーブラックの髪と、綺麗な顔立ちをした女性が佇んでいた。
しかしその表情は、如何にもヒステリックな相と皺とがノミを当ててみた様に刻まれており、日頃のストレスが溜まっている事が一目で窺える風貌であった。
菜々芽の母親である。母娘と言う間柄であるのに、二人の関係は頗る悪い。菜々芽は母の前で笑みを零した事はここ数年ないし、母もまたしかり。光本家は、完全に冷え切っていた。

「今日は何かあったんじゃないのかしら?」

 どんなに嫌悪しても血を分けた家族、と言う事なのだろう。伊達に10年一緒の関係じゃない。母親は、菜々芽の表情を見て、今日は学校で何かがあった事を悟ったのだ。

「抜き打ちテストの結果が戻って来ただけ」

「結果を見せなさい」

 言われて、ぶっきら棒にランドセルから、一枚の藁半紙を取り出し、それを手渡した。
算数の問題だった。98点。言うまでもない高得点だ。難しめの計算問題から、図、グラフの問題。そして大問の最後の方の文章題も、完璧な答えだ。
しかし、母親は結果が不服だったらしく、小刻みに身体を横に振るわせ、その結果を眺めている。元々100点以外の点数は認めない程、融通の利かない女だったが、今日は特に怒りに震えている事が菜々芽には解る。此方も伊達に、10年付き合ってはないと言う事だ。

「――菜々芽!!」

 口角泡を飛ばし、母は叫んだ。

「こんな簡単な問題で、100点を取れなかった事もそう!! だけど、私が許せないのが、何だか解る!?」

「……」

 沈黙で、菜々芽は返した。それが、母の怒りを増長させる結果となった。

「貴女、こんな簡単な問題を間違えるなんて、わざとやったでしょ!!」


140 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:20:18 J5wIZfw.0
 言って母親は、藁半紙を菜々芽に突き付けた。
実を言うと菜々芽が100点と言う王手をかけらなかった問題と言うのは、全然難しい問題じゃなかった。
それ所か、彼女程頭の良い少女なら目を瞑ってても解けるし、同じクラスの一番頭の悪い男の子でも、30秒あれば十分解けるレベルの簡単な問題だ。
その問題とは、大問の1番の、最初の計算問題。しかも、4桁の数字の足し算だ。誰が見てもサービス問題。それを菜々芽は、空白で提出したのである。
書き忘れはあり得ない。最初の問題のパラグラフの小問を、全て彼女は正解している。わざと――それこそ、母親への意趣返しでもやらねば、この結果はあり得ない。

「見えてなかっただけだよ、お母さん」

「ッゥ……!!」

 本当にそうだった、とでも言うような風に菜々芽が答える。
それを受けて、全身の血液が全て顔に回って来たように、母親の顔は真っ赤に染まり、菜々芽の事を睨みつけた。

「もういい!! そうだったらしっかりとケアレスミスした事を自室で反省なさい!!」

 言って、バッと2階の菜々芽の私室を指差し、母は彼女から目を逸らしそう叫んだ。
母親としては、9割方菜々芽は自身の母は失格だと思っていた。しかし残りの1割の部分を母と認めているのは、理性を働かせて、
菜々芽に余り手を上げる事がないからだ。だからこそ、菜々芽は母の事を「お母さん」と呼んでいた。

 いつまでもその場にいると流石に母から手を上げれても文句は言えないと思い、そそくさと靴を脱ぎ、揃えてから、2階の自室へと菜々芽は向かう。
彼女の思う通り、この聡明な10歳は、わざと問題を空白で提出した。確かめたかったからだ、自らの母親を。
結果は、あの通り。菜々芽の母親に、あんな意趣返しそのもののミスをしたテストを提出しようものなら、烈火の如く怒る事は解っていた。解っていて、菜々芽は提出した。

 ――だって菜々芽は、元々冬木と言う街の住民でもなければ、昭和55年にはそもそも生まれてない少女であったのだから。
この世界に来てから彼女は、自分のいた年代と今の年代の差額を計算した。菜々芽どころか、自分の母親ですら二歳児、三歳児程度の年なのだった。


141 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:20:37 J5wIZfw.0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 要するに光本菜々芽は、この世界――或いはこの年代の――の住民じゃないと言う事だ。
何でこの世界に菜々芽が存在するのか、彼女自身よく解ってない。気付いたら、彼女は此処にいた。
スマートフォンや薄型テレビが当たり前になっていた彼女の世界から、二十年三十年時を巻き戻した様な生活水準。
そして、菜々芽からすれば最早学校で習う歴史の中で起っていた世界情勢が、当たり前のように周りを取り巻いている。
タイムスリップしてしまったと、思い込むのも無理はない事柄だった。であるのに、母親は元居た世界のような風貌と物の考え方で健在していて。
しかも自分にはしっかりと、公立小学校に通う女子小学生と言う役割すら与えられている始末だ。抓って、この世界が夢でない事を菜々芽は確認している。
あの母親を装う女は偽物の誰かなのではないかと思い、反応を試す上で、わざと抜き打ちテストの答えを間違えて彼女を試すような真似をしたが……。
結果は先程の通り。菜々芽自身が、母親までタイムスリップして来たと思う程彼女は、元居た世界の彼女通りの反応をする。頭が、どうにかなりそうだった。
……いや、もしかしたら、もうなっているかも知れないのか。

 元々いた世界では、自転車を漕いでクラスメイトの浜上優に会いに行こうとした時であった。
下り坂に差し掛かった時、ブレーキが効かなかった。ブレーキを駆動させる為の線を知らぬうちに切られていたのだろう。
そのまま如何するか考えている時に、横合いの道路からトラックが突っ込んで来て――其処からの記憶が、ない。
此処は、天国なのか地獄なのか。菜々芽はもしかしたら、此処は死んだ人間が行く世界なのかと、本気で考えていた。

「いいや、それは違うな」

 男とも女とも判別出来ぬ声が、菜々芽の部屋に響いた。机に向かい自習をしていた菜々芽が、その方向を振り返る。
顔中に包帯を巻き、その上にお札――呪符、と言うらしい――を何枚も張り付けた人間がいた。
ゆったりとした服装からは、性別を窺わせない。包帯も顔中に巻いているのではなく、右眼だけは露出させているのだが、それが異様に大きく、魚めいてギョロっとしていた。

「此処は間違いなく生きてる人間達の国。一人たりとも死んで、霊体や魂だけになった奴らは存在しない。正真正銘、リアルの世界さ」

 その不気味な風貌からは想像もつかないが、意外にお喋りらしく、この人物は度々菜々芽とコミュニケーションを図ろうとする。
今彼が違うねと言ったのだって、彼が菜々芽の身の上を聞いて来たから、それに彼女が答えたからであった。

 何故そうまで話したがるのかと聞くと、「オレはカカシじゃないんだ。それにお前はオレのマスターだろ、話ぐらい通しとけ」、と至極正論。
……そう、この人物こそが、菜々芽のこの世界に於ける違和感を共有してくれる者。この世界に於ける現状唯一の、菜々芽の味方。
アサシンのサーヴァント。これから菜々芽が巻き込まれる事になる――聖杯戦争と言う名前の殺し合いを制する為の、右手であり唯一の剣だった。

「それにしても……陰険な女だなぁ、その、蜂屋あいって言うのはさ」

 蜂屋、あい。その名前を聞く度に、身体が強張る。緊張と言うのもあるが、それ以上に怒りだった。
多くの人物のレールを乱し、グチャグチャにする天使の身体と顔を持つ、おぞましい悪魔。彼女はしかも、自分から手を汚さない。
手練手管を用い、天使の風貌に惹かれた者達を巧みに操って、自分が楽しいと思う悪事を働く少女。それが、菜々芽には許せなかった。堪らなく、認められなかった。

「それで、お前は如何したいんだ? 聖杯使って蜂屋あいでも殺すか?」

 殺す。その言葉をアサシンから聞いた瞬間、ゾッと怖い物が足元から這って出て来た感覚を菜々芽は憶えた。
余りにも、物質的な量感を伴い過ぎていた。一目見た時から、人間以外の何かで、そして、小突けば自分など粉々になるだろう程の力を有している事は、解っていた。
そんな人物が殺すと口にしたのだ。異常なまでの現実感を、錯覚してしまうのも、無理からぬ事なのだ。

「殺すまではしない」


142 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:20:55 J5wIZfw.0
 それ位の良識は、菜々芽にもある。殺してしまえば、菜々芽は悲劇の被害者になる。
一方殺してしまえば、菜々芽の方は一生鬱屈とした気分で、残りの人生を過ごさねばならなくなる。それは、蜂屋あいとの戦いへの敗北に等しい。
殺してしまった方が敗者で、殺されてしまった方が勝者。その関係が、蜂屋と菜々芽の関係で代入されてしまう事が、菜々芽は許せない。

「でも話を聞くに、そのあいって娘、手遅れだぜ。そう言う手合いは昔何度も見て来たよ。そいつは多分、自分が殺される段になっても、笑って死を受け入れる位の度胸を持った、筋骨の通ったバカだ」

「だから、殺すしかないと?」

「野蛮?」

「幻滅した」

「アサシンって、暗殺者って意味だぜ? 今更だろ」

 ふっ、とアサシンは笑った様子を見せる。

「お前の言う4年2組、だっけ? そんなにお前の手で、そんなちっぽけな世界を取り巻く問題を解決したいのか?」

「……どう言う意味?」

 菜々芽が声に冷たい物を宿らせても、アサシンからすれば脅しにもならないだろう。現に彼は全く答えた風を見せず、平然と返事を行っていた。

「お前は、その年の人間って奴にしちゃ、変に度胸の据わった奴だと思うよ。そんな奴だったら、喧嘩も滅多に売られないだろ。何で態々、修羅の道を選ぶんだ?」

「救いたいと思ったからよ」

 菜々芽の返事は、簡潔で、そして、意思の強さを感じられるそれだった。

「アサシンは、教室の事をちっぽけな世界だって言った。そうだと思う。子供が30人しかいない世界、ちっぽけにも程がある」

 「――でも」

「そんな世界でも、子供達なりの道理と法則が働いてて、皆それに沿って動いてる。それに子供だけじゃない、子供の親も世界に関わる人物に含めるなら、教室の世界はもっと広がる」

 現在進行形で子供ある菜々芽は、よく理解している。教室とは子供が中心の世界であり、そして、子供の法則に従って動く『社会』であると。
心と知性を持った人間が複数人集えば、その時点でルール等の規範が生まれる。それは即ち社会であり、法則だった。
子供達の世界にもそれがある。大抵は他愛のない、大人から見ればつまらない法則で動く社会だろう。

 ――しかし同時に、子供は染まりやすい。良きにつけ悪しきにつけ、影響を受けやすい。
そして4年2組は、蜂屋あいと言う黒に染まり切ってしまった。子供ゆえの無邪気は、蜂屋の黒によって残酷さに反転してしまった。
子供はブレーキの利きが緩い。平然と、一線を越える。彼らが元来有していた未成熟で、しかしそれでいて大人のそれよりもずっと恐ろしい、無邪気さゆえの残酷さは、
クラスメイトだった曽良野まりあを呆気なく死に追いやり、しかも彼らの多くがその死をまともに受け止めていない。大人からしたらあの教室は、異常な世界だった。

 今あの、子供の法則だけが絶対の珊瑚島で、大切な少女が追い詰められている。
浜上優と言う名のその少女は、教室は勿論、家からも阻害され孤立していた光本菜々芽の光になり、淀んだ心を綺麗にしてくれた水の様な少女だった。
彼女があの狂った世界に身を置き、変わって行く様子が、見ていられない。

 一度は、蜂屋との勝負に負けた菜々芽だった。端的に言って、浜上は今憔悴状態に陥っている。
しかし、今度は絶対に負けない。絶対に蜂屋あいの正体を皆に知らしめ、あのクラスを元通りの世界にするんだ。クラスの為に。そして、自分の光になってくれた浜上優の為に。

「だからアサシン。私の大切な、だけど、戦わなくちゃいけない世界の事を、ちっぽけだなんて言わないで。私は、本気で戦ってる」

 それを受けて、アサシンは無言を保っていた。
数秒程経って、やおら、と言う様子で顔の包帯をシュルシュルと器用に解いて行き、それをパサッと地面に置いた。
――その顔を見て、菜々芽は、絶句した。まるで、そう言う表情を浮かべるのが、当然の礼節であると言うように。


143 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:21:30 J5wIZfw.0
「オレが醜いと思うか?」

 平然とアサシンは言った。

「まだある」

 言ってアサシンは、自分が着ていた道着にも似た服も脱いだ。
衣擦れの音が痛い位菜々芽の耳に大きく聞こえる。パサッと地面に服が落ちた。

 アサシンは女だった。きめの細かい白い肌と言い、肉体の見た目の柔かさと言い。
乳房もあったし、男に生えているべきものが伸びている所には何もなく、彼女の橙色の髪と同じ色をした陰毛が鬱蒼と生えているだけだった。

 ――だが、彼女の身体の右半分の殆どは、赤く醜く焼け爛れていた。
火傷を負ってこうなったと言うよりは、酸性の液体を浴びせ掛けられてこうなったと言うべきそれで、その爛れた痕が、
彼女の頭の右半分の殆どと、胴体の右半分全て、そして脚部の中頃まで続いていた。包帯の奥から覗くギョロっとした右眼は、瞼がなくなったからであった。
右腕も殆ど機能していないのか、機械に似た義腕を肩の付け根の辺りから嵌めており、爛れた頭の右側頭部にも、演算の補助を行う為の副次的な装置を取り付けている。

 アサシンは、自分の事を醜いかと聞いて来た。
絶句はしてる。しかし、目を離せない。それはアサシンが、醜いからではない。寧ろ菜々芽は、その爛れた所を綺麗だとすら思っていた。
アサシンが余りにも、自身の負ったこの傷に、負い目も引け目も感じていない。それどころか、己を象徴する勲章であると誇っている風にすら見えたからだ。
だから、美しい物に菜々芽は見えた。女としては、死んだも同然の姿。その事を、アサシンは誇っている。そんな様子が、美しいのだ。

「生まれたその時から性奴隷だった」

 アサシンは語り始める。

「生まれて間もなくやられた事が、子宮の除去だった。おかげでオレは今も昔も、女の癖に子供の産めない身体になっていた」

 話を続ける。

「初めての相手は血の繋がった実の父親。誕生日の度にオレの身体には傷が刻まれ、次の誕生日が来るまでに、お前には想像も出来ないような事をオレはやらされたよ」

 そしてすぐに、アサシンは焼け爛れの痕をつつとなぞった。

「7歳の頃に自分から酸を被った。親父の性奴隷と性癖を満たす為の運命から逃れる為に、女である事を完全に捨てた。当然の処置と言うように、奴はオレを肥溜の中に捨てた。その時からオレは、我武者羅に走り続けて、今みたいな風になった」

 爛れの痕をなぞっていた人差し指を離し、目線を菜々芽の方に向ける。

「醜いって言われなくて良かったよ。この傷はオレの誇りなんだ。どんな腕の良い医者にも、治させやしない」

 そう、理解した。
アサシンにとって自分の右半身の焼け爛れの痕は、自分が呪われた運命から脱却出来た事を何よりも雄弁に証明する証なのだ、と。
呪われた運命から逃れ、自分の運命を新しく切り拓ける切欠となったその傷を、彼女は何処までも誇っている。だから、どんな者にも治させないのだ。菜々芽はその事を、直感的に理解してしまったのだ。

「勘違いはしないで欲しいが、オレの方が不幸でありお前の不幸など大した事ではない、と言いたい訳じゃないぞ」

「じゃあ、何て言いたいの」

「お前は子供らしくなさすぎる」

 単刀直入にアサシンは言った。

「確実に言える事は、お前の境遇は少なくともオレよりはずっと恵まれている。頼る奴もいるし、取り巻く環境もオレがお前と同じ歳の頃程絶望的な訳じゃない」

 それはそうだろう。生まれた時から奴隷として運命づけられた女に比べれば、世の殆どが恵まれているに違いない。

「お前の周りは、そんなに信頼出来ない奴ばかりか?」

「……解らない。けど、同じ思いの人は、いる筈」

「敵は強いと思うか?」

「強い」

「お前一人で勝てそうか?」

「……」

「だったら、もっと子供らしく素直に振る舞っておけ。そうすれば、道もいつかは開くさ。少しお前は可愛げがなさ過ぎる。あれじゃ母親も怒るぞ」

「お母さんは関係ない」

「まともな家族と無縁だったオレがこんな事を言うのもアレだが、家族は大事にしとけよ。オレには一生解らないが、結構良いものらしいからな」

 そう言うとアサシンは、脱いだ道着を慣れた要領で身に付けて行く。その様子を眺めながら、菜々芽は、口を開いた。


144 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:21:40 J5wIZfw.0

「アサシン、人を元気づけるの、苦手でしょ」

 シュッと。道着をちゃんと着用してから、返事をした。

「見ての通りさ。オレもお前と同じで、友達が少なくてね」

「少し、元気づけられた。……ありがとう」

「どういたしまして」

 包帯を拾い、それを顔に巻こうとした、その瞬間だった。

「――アサシン」

「どうした?」

 巻きかけの体勢のまま、アサシンが言った。

「……私を絶対に、元の世界に戻して」

「そんな事か」

 つまらない、しかし、それが当然の仕事だと言うような態度で菜々芽の方に向き直り、アサシンは口を開く。

「お前の引き当てたサーヴァント――『軀(むくろ)』は雑魚共には遅れは取らんさ」

 出来の悪い妹でも見るような瞳で、軀が言った。
聖杯戦争への緊張と、これから待ち受ける過酷な運命で濁っていた菜々芽の心が、水を注がれたように、少し綺麗な物になって行くのを、彼女は感じたのだった。




.


145 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:22:00 J5wIZfw.0
【クラス】

アサシン

【真名】

軀@幽☆遊☆白書

【ステータス】

筋力C+〜A++ 耐久A 敏捷B+〜A++ 魔力A 幸運E- 宝具EX

【属性】

混沌・中庸

【クラススキル】

気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】

卑賤よりの栄光:EX
低い身分から始った人生において、どれだけの成功を掴めたかを象徴するスキル。
その性質上当該スキルの持ち主は、賤民或いはそれに近しい身分の出でなければならない。
黄金律とカリスマを兼ね備えた複合スキルであるが、アサシンの場合におけるこのスキルのEXはAランクの更に上と言う意味であり、黄金律・カリスマ共にアサシンの場合はA+ランクに相当する。生まれたその瞬間から性奴隷としてスタートし、その身分から、力こそが全ての魔界で強大な王国を作り上げ、最低でも千年以上国王として君臨してきたアサシンのスキルランクは、規格外のそれを誇る。

気分屋:A
気まぐれな性分であるかどうかのスキル。ランクが高ければ高い程、行動に一貫性がなくなる。
アサシンの場合は、行動にも目的意識も極めて一貫性が高いが、彼女の場合その気まぐれさは戦闘に表れる。
平和的、競技的な性格を秘めた戦闘において、アサシンのステータスは低下する。特に顕著なのが筋力と敏捷である。

威圧:A+
S級妖怪の遥か上を往く、魔界の三大妖怪としての威圧感。
このランクになると、ランクB以下の精神耐性の持ち主はアサシンの姿を見るだけで怯み、Aランク以上でもこの限りでない。また、同ランクまでの精神干渉を無効化する。

【宝具】

『支配せよ、痴れた大地を』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
個人の性奴隷と言う、最低最悪の身分から人生が始まり、其処から徐々に力を付けて行き、力こそ全てと言う理と『無秩序』が絶対の概念である魔界に於いて、
三大妖怪とまで言われる程強力な個体にまで成長、遂には巨大な国家をも樹立した、アサシンの成功譚及びそれによって獲得した王威が宝具となったもの。
アサシンはスキル、卑賤よりの栄光に内包されている『カリスマのスキルランク以下のカリスマスキルの持ち主と、そもそもカリスマを持たぬ存在』に対し、
大幅なファンブル率の低下と此方側の行動の達成値に大幅な上方修正を掛ける事が出来る。
これを無効化するにはランク以上のカリスマ系スキルと、Cランク以上の叛骨の相に似たスキルが必要になる。対魔力での防御は不可。
厳密には『卑賤よりの栄光スキルを最大限に発揮している状態こそがこの宝具』であり、発動は任意。使用中は魔力の消費が掛かるが、スキルの延長線上の宝具の為消費は低い。

【weapon】

【人物背景】

魔界の奴隷商人であった痴皇と呼ばれる男の娘であり、彼の玩具奴隷として人生をスタートする。
生まれた時から腹を改造され、痴皇に弄ばれる日々を送るも、7歳の誕生日に自ら酸をかぶることで痴皇の興味を殺ぎ、捨てられる事で自由を手にする。
その後、我武者羅に魔界の住民を殺す日々が続き、いつしか魔界の一角を牛耳れるほどの力を手にし、強大な国家を形成する。
彼女の歴史は想像以上に古く、彼女が巨大な国家を形成し、無敵の妖怪として君臨していた頃には、作中の殆どの人物は妖怪含めてまだ生まれてすらいなかった程。
その後、飛影と呼ばれる男との出会いややり取りもあり、過去にけじめをつけ、一人の妖怪として生きて行く事になる。
 
【サーヴァントとしての願い】

特にないし、未練もない



.


146 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:22:12 J5wIZfw.0
【マスター】

光本菜々芽@校舎のうらには天使が埋められている

【マスターとしての願い】

元の世界への帰還。この際、マスターはなるべく殺したくないし、そもそも戦闘も避けたい

【weapon】

【能力・技能】

【人物背景】
 
教師からですら面倒くさがられる程の教育ママを持ち、度重なる不幸な出来事と性格のせいで、クラスからも孤立していた少女。
ある時一人の少女の温かさに触れ、彼女の友達になりたいと願うも、その友達が酷いいじめに遭っていた事を知る。
元々いじめの事は知っていたが、部外者のスタンスを崩さなかった菜々芽であったがその後、友人を護れなかった事を後悔。
今度こそいじめを止めさせようと行動に出、蜂屋あいと戦うようになった

二巻終了時の時間軸から参戦

【方針】

元の世界への帰還。蜂屋あいとの決着には、聖杯を絶対に使わない。

【把握媒体】

軀:
初登場巻は全19巻の内17巻とかなり遅め。最悪17巻からでも把握は可能だが、このキャラクターと絡む飛影は作中初期から登場するキャラクターの為、完全に把握したいとなると、1巻からの把握が推奨

光本菜々芽:
2巻まで見れば凡そ把握は出来る。彼女のカッ飛んだ行動力等が見たいとなると最低3巻までの把握が必須となる。こいつ本当に小学生なんすかね……?


147 : 割れた鏡に映る君 ◆zzpohGTsas :2016/07/01(金) 22:22:24 J5wIZfw.0
投下を終了します


148 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/02(土) 02:12:07 mctA.fGo0
ご投下ありがとうございます!
自分も投下します


149 : ドンキホーテ・ロシナンテ&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/02(土) 02:12:46 mctA.fGo0
 道化師のように滑稽なペイントを顔に施した、日本人離れした長身の持ち主が居た。
 いや、人間離れした――といってもいいだろう。
 何せ彼の背丈は、二メートルなど当に越して、三メートル近いものだ。
 これだけあれば話は人目を引くどころか、一度見たら忘れない、くらいの次元になってくる。

 安物の煙草に火を灯し、誰もいない屋上で紫煙を燻らせる。
 やはり庶民向けの安物だからか、味は不味い。
 だが喫煙者にとって、多くの場合煙は味わうものではないという。
 火を点け、口に運び、煙を吸って吐き出す。
 この一連の動作が心を落ち着け、気分を楽にしてくれる。

「随分吸うんだな……緊張してるのか?」

 大人びた口調と落ち着いた声色からは想像もできないほど、男の傍らに立つ少年は幼かった。
 小学校にも上がっていないような小さな体に、清潔な白いマントを羽織っている。
 髪の毛はきめ細やかな銀髪で、その眼に宿る光は紫電のように強くぎらついていた。
 
「あァ、そうだよ。情けねェ話だが、おれは今緊張してる……というより、恐れてる。
 なんてったって命懸けの大勝負だ。一度乗ったら、中途半端じゃ降りられねェ。
 海賊やってりゃ修羅場なんて山程経験するけどよ……此処までの綱渡りなんて、あのファミリーに居た頃にだってそうはなかったぜ」
「では、分が悪い戦いだと思うか?」
「……どうだかな。サーヴァントのお前がいくら強くたって、おれが狙われりゃおしまいだ」

 男は、場合によってはサーヴァントすら欺ける隠密の手段を持っている。
 この世の七割ほどの世界から嫌われる代わりに身に付けた、悪魔の力がある。
 彼の食した『ナギナギの実』は、その名の通り『凪』を操る力だ。
 音を遮断し、聴覚による探知を無効化する。
 戦闘向きではないが、実に便利な能力だ。
 しかし彼の持ち味は、このサーヴァントと共に戦う限り半減される。
 
 その理由は、彼が右手に抱えている白色の本にあった。
 これは、白い少年……アーチャーの宝具であり、心臓とも呼ぶべき代物だ。

 曰く、魔本。魔界の魔物を人間界に繋ぎ止める道具。
 この本が燃え尽きた時、アーチャーは消滅する。
 かと言ってこの本を手にしていなければ、アーチャーは両手落ちの格闘家に等しい。
 要はこれは、動力源付きのコントローラーなのだ。
 操作しなければ、本体であるアーチャーは全力で戦えない。
 破壊されれば、動力源を失ったアーチャーは存在を維持できなくなる。
 そんな、弱点の塊のような宝具。これは魔物の王を決める為の戦いの逸話を元に召喚されたゼオン・ベルという英霊の枷であり、誇りでもある。

 人間界に魔界の巨兵を進撃させようとした、破壊の雷帝ゼオン。
 激戦の末に過ちを自覚し、後に魔界の王となる少年によって浄化された魔物の子。
 今の彼は、そういう存在だ。
 もしマスターがもっと優秀な魔術師だったなら、きっと彼は魔界に帰った後の雷帝として、本のない状態で召喚されたことだろう。


150 : ドンキホーテ・ロシナンテ&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/02(土) 02:13:06 mctA.fGo0
「だが、それでも勝たなきゃならねェ。おれには……聖杯が必要なんだ」

 楽勝だ、などと虚勢を張ることすら出来ない。
 彼自身がそう語ったように、これは一世一代の大勝負だ。
 勝てば栄光、負ければ破滅。
 これほど分かりやすい趣向も、そうない。
 それだけのリスクを正しく理解した上で、それでもこのドンキホーテ・ロシナンテという男は踵を返さない。
 その眼にあるのは、覚悟を決めた者の光だ。


 ロシナンテは、やんごとなき身分の生まれである。
 天竜人。世界を平定する大政府を作ったとされる王の末裔。
 下々の者と同じ空気を吸わせることすら死罪に値する、特権階級の最上位。
 彼はそこに生まれ、贅沢の限りを尽くしながら暮らしてきた。
 両親と、兄と共に。しかしその暮らしは、決して長くは続かなかった。

 ロシナンテの父は、異端の男だった。
 彼は天竜人に生まれながら、人として生きるべきだと考えた。
 自分だけでなく、家族皆で。
 そうして一家は聖地を出、下界に降りた。
 ……それがいけなかった。
 それが終わりの始まりだった。
 
 天竜人は下民の敵だ。
 権力に物を言わせて奴隷扱いし、気まぐれで人を撃ち殺す。
 普段はその後ろ盾を恐れて反撃してこないだけで、誰もが皆、彼らに殺意を抱いていた。
 そしてドンキホーテの子供達は、あらゆる援助を断った上で、地上に降り立ったのだ。
 ……どうなったかなど、語るまでもない。
 父の浅慮で母は死んだ。
 その父も、兄に殺された。
 兄は、生き地獄のような境遇の中で、目覚めてしまった。

「おれの兄……ドンキホーテ・ドフラミンゴは、化け物だ」

 兄に対して思うところがないわけでは決してない。
 袂を分かった今でもドフラミンゴは血を分けた兄弟であり、同じ母から生まれた家族である。
 だからこそ、ロシナンテには義務がある。
 天の竜から夜叉に墜ち、世界の破滅を望む――あの破戒の申し子に対して、果たさなければならない責任がある。

「おれはあいつを止める。その為に、聖杯を手に入れなくちゃならねェ」
「お前が死ねば、その怪物を止められる者は居なくなるんだろう。それでも、やるのか?」
「やるさ」

 ドフラミンゴが海の王になれば、世界はひっくり返るどころでは済まないだろう。
 弟として、彼のファミリーとして、ずっとその姿を傍で見てきたロシナンテにはよく分かる。
 あの男は、本当に世界を滅ぼすつもりなのだ。
 そしてそれが可能なだけの力、可能性、才能、手札……全てを彼は持っている。


151 : ドンキホーテ・ロシナンテ&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/02(土) 02:13:32 mctA.fGo0
「それに、何もどうにかしたいのはあいつのことだけじゃない。
 ……もう一人、助けたい奴が居るんだ。お前より少し大きいくらいのガキなんだけどよ、たちの悪い病気に冒されちまっててな。あんまり長くねェんだよ。
 聖杯がどんなものかは見たこともねェし、何も知らねェ。
 ただあの海の何処を探しても、これだけ都合のいい『奇跡』はきっとない。手前の命一個でそんな大秘宝に手を伸ばせると考えりゃ、安いモンだ」

 ロシナンテは海軍の人間だ。
 ドンキホーテ・ファミリーに潜入はしているものの、正規の海賊ではない。
 それでも海賊と共に海を渡り歩いていれば、そういう考えは自ずと身に付いてくる。
 博打に挑む度胸なんてもの、嵐の航海者達にとっては標準装備だ。

「……オレは、願いなんて持っちゃいない。オレの願いは生前に果たされた、だからこそオレの生涯は幸福だった。
 聖杯など、オレには無用の長物だ。お前が自由に使えばいい」

 アーチャーのサーヴァント、ゼオン・ベル。
 彼はエクストラクラス・アヴェンジャーの特性も持つサーヴァントだ。
 彼はその昔、復讐者だった。
 憎悪で心を焦がし、悪の道を突き進んでいた。
 もしも彼の言うところの『怪物』がゼオンを召喚したなら、呼び出されたのはきっと、復讐に燃える非情の雷帝だったに違いない。
 しかしロシナンテは、復讐心も憎悪も抱いちゃいない。
 彼は世界を憎んでいない。だから、『救われた』後の雷帝が呼び出された。

「デュフォーの奴に比べれば見劣りするが、その覚悟は及第点だ。
 ……いいだろう。この身に宿る雷の力を、オレも貴様の世界とやらの為に使ってやる」

 ゼオンもそれを理解している。
 魔界という世界をより良くしたいと願う少年の手で救われた彼は、心優しいピエロに同調した。
 彼ならば、きっと聖杯を正しく使い、世界を正しく導くだろう。
 そんな男の為になら……英霊に召し上げられたこの身、この力を振るってやるのも吝かではない。

(それにしても―――弟、か)

 因果なものだと、ゼオンは思う。
 ロシナンテがそうであるように、ゼオンにも兄弟がいる。
 ただし生まれの前後は逆だ。ロシナンテは弟だが、ゼオンは兄として生を受けた。
 ロシナンテは、兄を止めようとしている。
 暴走する兄を止め、何かを守ろうとしている。

 ……ゼオンは昔、止められる側の存在だった。
 この男のように優しい心を持ち、皆を守ろうとする弟に彼は敗北し、正しい意味で救われたのだ。
 要は自分と彼は、全くの真逆。
 怪物を止めようとする弟(かれ)が呼んだのが、かつて怪物だった兄(じぶん)とは。
 
 聖杯も、なかなか皮肉じみた真似をする。
 ゼオンは一人、コンクリートジャングルの町並みを見下ろしながら、心の中で呟いた。


152 : ドンキホーテ・ロシナンテ&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/02(土) 02:13:57 mctA.fGo0

【クラス】
 アーチャー

【真名】
 ゼオン・ベル@金色のガッシュ!!

【ステータス】
 筋力B 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+

 (ラウザルク発動時)
 筋力A 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+

【属性】
 中立・善
 
【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
魔物の子:A
 人間界とは異なる世界、『魔界』で生まれ育った魔物の子供。
 アーチャーは比較的人間に近い見た目をしているが、頭によく見ると角がある。
 普通の英霊よりも多くの魔力を保有し、アーチャーの場合それが特に顕著。

怪力:A
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

瞬間移動:B
 テレポーテーション。任意の場所に瞬間移動を行い、場を離脱することが出来る。
 だがこれを行う場合の魔力消費は大きいため、聖杯戦争ではあまり使わないのが無難だろう。

記憶干渉:C
 相手の記憶に対して干渉を行い、それを操作することが出来る。
 マスター相手には有効なスキルだが、サーヴァントにはほとんど意味を成さない。

【宝具】
『雷鳴の絆(白き魔本)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-  
 アーチャーが自らの術を使う為に必要となる、白い魔本。
 サーヴァントを従えるマスターにのみ読むことが出来、魔力の代わりに心の力という特殊なエネルギーを消費して術の行使を行う。
 魔界では本の有無に関係なく術を行使出来るにも関わらず彼がこの宝具を持っている理由は、人間界での戦いの逸話が元となって召喚されているためである。
 この宝具はアーチャーにとって制限でしかない。
 戦闘がマスター依存になる上、宝具の破壊は即アーチャーの消滅に繋がり、魔本は一切の耐久力を持たないのでただのマッチの火などでも焼却できてしまう。
 ―――だが、それでもこの宝具はアーチャーにとって、誇るべき絆の象徴なのだ。


153 : ドンキホーテ・ロシナンテ&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/02(土) 02:14:23 mctA.fGo0
『破壊の雷神(ジガディラス・ウル・ザケルガ)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1〜800
 アーチャーの最大攻撃術で、そのあまりの威力から彼の術の中では唯一個別の宝具とされている。
 下半身が砲口となった二本の巨大な翼と角を持つ雷神を出現させ、砲口を囲む様にある五つの太鼓が点灯するのを合図に超巨大なビーム状の電撃を放つ。
 魔界最強の術と恐れられたバオウ・ザケルガの本来の力と真っ向ぶつかり合い、一度は打ち破ったほどの脅威的な威力を誇る。

【weapon】
 マント

【人物背景】
 魔界の王子にして、ガッシュ・ベルの双子の兄。壮絶な英才教育と鉄拳制裁を受けて育てられ、その才能は王宮騎士の中でも恐れられるほどの域に達している。
 初級呪文で他の魔物が持つ中〜上級呪文を打ち破る程度は何のその、身体能力も並の魔物では狂戦士化の禁術を使っても相手にならないほど。
 かつては弟への憎悪を原動力に行動していたが、今は和解し、弟へ兄としての愛情を向けている。

【サーヴァントとしての願い】
願いは持たない


【マスター】
 ドンキホーテ・ロシナンテ@ONE PIECE

【マスターとしての願い】
 兄を止める。

【weapon】
 手榴弾や銃などの小道具

【能力】
 悪魔の実『ナギナギの実』
 『無音人間』。
 音を完全に遮断する能力を持ち、自分の発する音を消す、周りの音を自分に対し聞こえなくするなど応用の幅が相当に広い。
 ただし、戦闘向きの力ではない。隠密向けの悪魔の実。

【人物背景】
 『コラソン』のコードネームを持つ。
 ドンキホーテ・ドフラミンゴの弟であり、元『天竜人』。
 父親譲りの善の心を持ち、それゆえに暴走する兄ドフラミンゴを止めたいと願っている。

【方針】
 聖杯を手に入れる。


【把握媒体】
アーチャー(ゼオン・ベル):
 原作コミック。巻数は三十巻以上あるが、彼を把握する上では『ファウード編』のみで概ね可。

ドンキホーテ・ロシナンテ:
 原作コミックの『ドレスローザ編』。ロシナンテの出番はその中の過去編にしかないので、把握は比較的容易。


154 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/02(土) 02:14:47 mctA.fGo0
以上で投下を終了します。


155 : ◆yYcNedCd82 :2016/07/03(日) 00:08:04 mtYBFzcw0
お借りいたします


156 : 野獣死すべし ◆yYcNedCd82 :2016/07/03(日) 00:08:55 mtYBFzcw0

 金曜日の夕方――冬木市の映画館は今日も盛況だった。
 封切りされたばかりの『スターウォーズ・帝国の逆襲』を目当てに大勢の市民が詰めかけていたからだ。
 ロビーから映画館前は出入りする客たちでごった返し、興奮のあまりパンフレットを握りしめている客もいる。
 彼らは足早に歩きながら、熱心な顔で映画の感想を語り合っている。
 その中に冴えない風体の青年と、にこにこと楽しげな少女の二人組がいても、誰も気にもとめなかった。
 かたや安っぽい背広を着たサラリーマン、襟の社章から東和日脂の社員だろう。
 かたや穂群原学園の制服を着た女子高生、彼女はうきうきとした歩調で青年の横に並ぶ。

「やっぱり面白かった。ミニチュアだけで試行錯誤する過程が興味深いわ」
「どうかなあ。僕はルークが負けちゃったのが残念でしかたがないよ」
「でも、続きがあるんでしょう?」
「だけど負けちゃったじゃない。やっぱねえ、主人公は勝つのが良いんだよ、勝つのが」
「兄さんはそういうのが好きだものね」

 笑顔で青年の腕にしがみつく少女の姿は、どう見ても仲睦まじい兄妹のそれだ。
 学校の帰りに兄に迎えに来てもらい、一緒に映画館へ行って、流行の映画を見る。
 帰りに美味しいご飯か何かを奢ってもらって、良い気分で家へと帰る。
 ありふれた幸福――平凡極まりない日常の風景。
 そんな二人がふと足を止めたのは、家電屋の店先だった。
 陳列されたテレビでは、ちょうど夜のニュースが始まっている。
 どの局なのだか一目でわからない、似たような顔の女性キャスターが熱心な顔つきで原稿を読み上げている。

『つづいて原子爆弾製造による脅迫犯『9番』の続報です。
 自らを9番目の核兵器保有者だと自称する男は、プロ野球のナイターを最後まで放送する事に続けて、
 ローリング・ストーンズのマリファナ吸引を不問にして日本公演を許可するようにと、政府へ要求しており……』

 立ち止まってそのニュースを聞く人混みに紛れ、青年はぽつりと呟いた。

「捕まらないといいな」
「そう?」
「だって僕なんか大学は夜間だし、補欠でやっと入社だもの。偉い奴らが振り回されてると、すかっとするじゃない」
「兄さんが補欠なのに頑張っているのは知っているわ?」
「あ、そうだっけ。でも……」

 言いかけた兄を置いて、するりと妹は歩き出してしまう。
 彼はじっとテレビを睨みつけて、小さく一言を呟いた。

「僕だったら、もっと違うことを要求するけどな」

 テレビのニュースは既に道路交通法改正に伴う、魔墓呂死とエルボー連合ら暴走族の抗争に移っていた。
 青年の瞳に野獣のようなぎらつきが宿っていたことには、妹を除いて誰一人気づかなかった。


                      *   *   *

.


157 : 野獣死すべし ◆yYcNedCd82 :2016/07/03(日) 00:09:55 mtYBFzcw0

「面白かったなぁ」
「うん、面白かった。まさかこの時代の芝居が、あんな風に進歩しているなんて」

 夕闇押し迫り人通りの絶えた夜道を、一組の男女が歩いていた。
 純朴そうな顔立ちの少年と、やはり同じく年若い少女。
 少年は穂群原学園の制服を着ているが、少女はやや古びた、欧州の農村の娘が着るような衣服だ。
 しかしそれが彼女の清楚さとあいまって、不思議と場違いな印象を与えない。

「でも、本当に良かったのかしら。こんな聖杯戦争の最中に、息抜きなんて……」
「だからだろ。俺たちだって何度も戦って勝ってるんだから、たまには気を楽にしたってバチは当たらないさ」

 それに、と少年は照れくさそうに言った。君と一緒に遊びに行きたかったからだと。
 少女は少年の言葉を聞いて頬を赤らめ、恥じ入るようにして俯いた。
 ここだけ見れば微笑ましい、少年少女のデート帰りにしか見えないだろう。
 彼ら二人が、聖杯戦争に参加するマスターとサーヴァントでなければ――…………。

「……っ! マスター!」

 先に襲撃に気づいたのは、英霊である少女の方だった。
 彼女は燐光を纏うように騎士甲冑を装着し、その右手に剣、左手に盾を携えた。
 百年戦争の最中、故郷を焼かれまいと女だてらに傭兵を志した英雄が彼女である。

「どうした、セイバー!」
「敵襲です。前方に魔力を感じます」
「他の陣営が接触してきたとか…………」
「可能性は否定しませんが、だとしたら声をかけてこない理由がありません」
「…………わかった。気をつけろ、セイバー!」
「あなたこそ、気をつけてください。大丈夫――」

 ――今の私は、絶対に負けませんから。

 そう言って、少女は夜の闇に跳んだ。
 少年は素早く左右を見回して、さっと近くの電信柱の影へと隠れる――いや、隠れるともいえない稚拙な陣取りだ。
 偶然聖杯戦争に巻き込まれた少年にとって、これこそが最上の戦術だった。
 自身を囮にして、敵を惹きつけ、そこを最愛のパートナーによって討ち取ってもらう。
 彼女にだけ戦わせることは心苦しく、けれど何の戦闘力も持たない少年にはこれぐらいしかできない。
 人を殺さずに聖杯戦争を生き延びたいというのは、虫の良い考えかもしれないが…………。

「…………来た!」

 やがて、コツコツと気楽な歩調の靴音が近づいてきた。
 黒革のライダースーツを着こみ、サングラスをかけた男。
 片手に無造作にぶらさげた拳銃がなくたって、少年にはひと目でその男がマスターだとわかった。
 纏った雰囲気が異常なのだ。
 びりびりと張り詰めた、強烈なエネルギーを内包したかのような威圧感。
 ともすれば、この男こそが敵サーヴァントなのではないかと錯覚してしまうような……。

「出てきなよぉ、坊や。そこに隠れてるのはわかってるんだ」
「……そうかよ」

 夜道で気軽に声をかけるような、しかし腹の底から冷えるような声に、少年は堂々と応じた。

「なんだ、学生さんかい。やめときなよ、あと何年生きれるか知れないってのに」
「断るっ!!」

 震える膝を叱咤して、少年は叫んだ。そうとも、自分はあの誇り高いセイバーの主なのだ。
 ひと目でわかる――こんな獣のような奴に屈してしまえば、胸を張って二度と彼女の隣に立つことはできない。
 
「俺は聖杯なんか欲しくない。だけど、あんたみたいな奴に……聖杯を渡してやる気はないんだ!」

 少年は躊躇せずに赤い紋様、令呪の刻まれた右腕を突き上げた。今この時この瞬間を置いて、この敵を倒す時は無い。

「来いっ! セイバー…………この男とサーヴァントを倒すんだっ!!」

.


158 : 野獣死すべし ◆yYcNedCd82 :2016/07/03(日) 00:10:31 mtYBFzcw0
 しかし――……。

「令呪だっけ? 合図にしたって、もっと気のきいた合図を考えるんだな」

 誰も、何も、現れない。
 そんなはずはない。少年は呆然と、光輝き、そして消失していく令呪の一画を見やる。
 男はにやにやと嫌らしく笑いながら、ひょいと軽く肩を竦めてみせた。

「おたくんとこの英霊ちゃんは、今頃ねんねの真っ最中さ」

 それが何を意味するのか、少年は一瞬思考を停止させた。
 次の瞬間、彼はカッと視界が赤くなるのを感じ、拳を握りしめて飛び出した。

「う、おああぁああぁあぁっ!!」
「残念だったね」

 そして男は無慈悲に拳銃、コルトウッズマンの引き金を引いた。
 プシュッと気の抜けた音と共に、少年がけっつまづいたように体をつんのめらせ、倒れる。
 静かに彼のもとへ歩み寄った男は、遊底を引いて排莢すると、もう一度引き金を引いた。
 倒れ伏した少年の身体がまたビクリと跳ねて、路面へ血を滴らせはじめる。
 さらに遊底を引いて、さらに一発。とうとう少年の身体は動かなくなった。
 男は唇の端を歪めて笑うとホルスターに拳銃を収め、闇の中を振り返った。

「そっちはどうだ?」
「うん、もう終わるわよ。
 あなた、腕が良いのね。眉間に心臓、ちゃあんと撃ち抜いてるんだもの。余計な傷がないから情報回収も楽ちん」

 応じたのは、穂群原学園の制服を着た少女だった。
 彼女はずるずると音を立てて何かを引きずっている――それは少女騎士、セイバーの死体だった。
 身体に幾つも弾痕が穿たれた彼女の死体は、見る間に0と1の粒子状に分解されていく。
 セイバーの死体を眺めながら、少女はにこにこと、夕食のメニューを聞くように首を傾げる。

「それで、どうするの?」
「適当に魂食いでもさせておけ」
「良いの? 私の得にはならないけど……」
「他の奴らがそいつの討伐に躍起になっている間に、俺は好きにやらせてもらうのさ」

 ほどなくして分解された0と1は、先程までの凛とした少女騎士と寸分たがわぬ姿へと再構築される。
 きっと唇を引き結んだセイバーは何も言わず、魔力の煌めきを噴射して夜の街へと跳躍していった。
 ほどなく彼女は無辜の人を手にかけて、魂を喰らい、そして誰かお節介な主従によって討伐されるのだろう。

「そういえばあいつ、聖杯を手に入れたらどうするつもりだったんだ?」
「え、ちょっと待って。情報分解した時に確認したのが…………あ、あった。これだわ」

 ひょいと虚空に手を伸ばし、少女はキラキラ光る結晶のようなものを引き出した。
 それはセイバーと呼ばれた少女の情報マトリクス、心に秘めたソウルガーデン。
 それを彼女はまるでおもちゃを扱うように無造作な手つきで、掌の上で転がした。

「マスターを生還させて、受肉して共にいつまでも幸せに、ですって。あら可愛い」
「くだらないねぇ」

 男は吐き捨てるように呟いた。その瞳に燃える欲望を、隠しもしないで。

「俺だったら、もっと違うことを要求するけどなぁ」

 異常としか言えない――少女はそう考える。
 聖杯戦争に参加したマスターと呼ばれる人物たちの行動パターンを鑑みるに、観測する限りでは極めて希少な結果だった。
 主催者や聖杯によってランダムで選出された参加者の多くは、人を殺すのを厭い、ただ聖杯戦争からの生還を求めている。
 それが正常な――聖杯という願望機を前にしてはある意味異常な――思考回路。
 だけれど、彼は違う。
 平然と少年を殺し、少女を殺し、聖杯に対する欲望をまるで隠しもしない。
 なんら特別な力も、特別な過去も持たないにも関わらず、ただ一人野望のために走り続ける。
 彼はこの聖杯戦争においても変わらず突き進み、己こそが聖杯を手に入れるのだという事を確信している。
 その胸に恐ろしいまでに肥大したエゴイズムを抱えた――朝倉哲也は、羊の皮を被った狼そのものだった。

(だからこそ、彼の行末には興味がある。それこそあの特異点、涼宮ハルヒ以上に)

 そう考えて、アーチャーとして召喚された朝倉涼子は、そっと静かに笑うのだった。

.


159 : 朝倉哲也&アーチャー ◆yYcNedCd82 :2016/07/03(日) 00:13:00 mtYBFzcw0
【クラス】
アーチャー

【真名】
朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱

【属性】
秩序・中庸

【身長・体重】160cm・47kg

【外見】
穂群原学園の制服を着た美少女

【ステータス】
筋力:D 敏捷:B 耐久:C 魔力:D 幸運:E 宝具:EX

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【固有スキル】
千里眼(偽):A
 TFEI端末としての基本性能。擬似的な千里眼。
 収集した情報に基づき、透視、遠視、未来視、過去視を行う。
 精度は極めて高いが、あくまで現在情報から演算を行うため、
 予想外の事態は往々にして発生する。

人間観察:B
 TFEI端末としての基本性能。相手の性格・属性を見抜く眼力。
 言葉による弁明、欺瞞に騙されず、相手の本質を掴む力を表す。
 ただし有機生命体との齟齬から、認識しきれない側面もある。

高速思考:B
 TFEI端末としての基本性能。驚異的な演算能力。
 複数の思考を並列、高速演算させることで驚異的な状況認識力を持つ。
 バックアップ要員であることから他個体よりは劣るが、破格の性能である。

【宝具】
『対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース(TFEI)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
 朝倉涼子という存在そのもの、情報生命体によって構築された肉体。
 人類種を対象とした宝具、スキル、バッドステータス等の効果を一切受けない。
 彼女自身の意志で効果対象を選別できるため、彼女が望むのであれば効果が適用される。
 また機械、情報媒体に関しての高い親和性を持ち、強制操作や情報解析に長ける。
 このランクは人類が今だ認識できず、理解しえないという意味での「EX」である。

『情報制御空間』
ランク:A 種別:???? レンジ:??? 最大捕捉:???
 朝倉涼子によって情報を制御、操作された空間。事実上の固有結界。
 朝倉涼子、あるいはマスターを中心に一定範囲の空間を封鎖した上で、
 その内部に存在する人物をすべて「常人」の領域にまで貶める。
 つまり宝具はただの武器になり、スキルは消え失せ、ステータスも無くなる。
 また情報制御空間内で死亡した人物は、朝倉涼子に取り込まれた上で、
 意識のない「NPC」(便宜上こう表記する)として再構成、操作する事が可能になる。
 この空間から脱出ないし空間へ侵入する場合は、朝倉涼子との演算対決に勝利するか、
 朝倉涼子を破壊するか、対軍規模以上の宝具による一撃での障壁突破が必要となる。

【weapon】
・ニードル光線
 鋭い銀色の針状の光線。命中と同時に物質化し、対象を貫通する。
 朝倉涼子はこれを保有しているためアーチャーとして召喚された。

【人物背景】
 情報生命体と呼ばれる知的存在が、地球人類と接触するために製造した対人用端末。
 特異点である「涼宮ハルヒ」を観察するために送り込まれた端末の一体であり、
 同端末である長門有希のバックアップとして、ハルヒとは直接介入せず活動していた。
 しかし所属派閥である「急進派」の意向により、主人公であるキョンに接触。
 彼を殺害することでハルヒに何らかの反応を引き起こそうとするも、
 長門有希によって阻止され分解、消滅した。
 表向きの顔は素行良好、真面目で清純な美少女であり、クラスの学級委員長を務めていた。

【サーヴァントとしての願い】
 朝倉哲也を最期まで観測する

【行動方針】
 基本的に「朝倉哲也の活動を最期まで観測する」という目的に従い、独自行動は取らない。
 表向きは穂群原学園の生徒、朝倉哲也の妹として活動し、情報収集に務める。
 戦闘時は『情報制御空間』を展開し、常人と常人の対決という場を設けた上で、
 朝倉哲也の戦闘を観測し続ける。

.


160 : 朝倉哲也&アーチャー ◆yYcNedCd82 :2016/07/03(日) 00:13:31 mtYBFzcw0
【マスター】
朝倉哲也@蘇える金狼

【身長・体重】183cm・85kg

【外見】
 冴えない風体のサラリーマン/獰猛な野獣の如き雰囲気の男

【weapon】
・コルトガバメント
 38口径自動拳銃。
・コルトウッズマン
 スポーツ競技用自動拳銃。消音器付き。
・ワルサーPPK
 小型自動拳銃。ブーツ内に隠し持つ。
・一億円
 現金輸送車から強奪した、ナンバー記録済みの「ホットマネー」。
・二千五百万円
 企業から奪った日本円。
・ヘロイン45kg
 ヤクザから強奪した大量の麻薬。末端価格で1kg300万円。

【能力・技能】
・表の顔/裏の顔
 真面目だけが取り柄の平凡なサラリーマン、野獣の如き凶漢の二面性を完全に使い分けている。
 彼は強奪した一億円を持ったまま出社し、勤務中と同じスーツで人を殺し、平然としていられる人間だ。
 どちらの顔で知り合ったにせよ、もうひとつの顔を見抜くのは困難だろう。
・ボクシング
 世界チャンピオンも夢ではないというほど徹底的に鍛え抜かれた肉体と技術。
・射撃
 実弾5000発を用いて訓練をした、日本人としては破格の腕前。
 
【人物背景】 
 両親を亡くして苦労しながら夜間大学に通い、東和油脂にかろうじて補欠入社した真面目で実直な男。
 しかし彼には裏の顔があった。
 ボクシングジムで体を徹底的に鍛え上げ、38口径のコルトを片手に現金輸送車を襲撃、一億円を強奪。
 ヤクザから麻薬を奪い、企業幹部らを恐喝し、女を抱き、さらなる大金を得て飛躍すべく牙を剥き出しにする。
 俺は周囲の誰よりも優れているのに、何故こんなにも苦汁を舐め、這いつくばって生きなければならないのだ?
 野心を抱いて突き進む朝倉哲也は、まさに羊の皮を被った狼そのものであった。

【マスターとしての願い】
 聖杯を獲得してこの世全ての栄光を手にする。

【方針】
 表向きは妹と同居している東和油脂冬木市支社のサラリーマンに偽装。
 その一報で金、麻薬、暴力、持てる全てを駆使して相手を利用し、用済みとなれば消していく。
 純粋に自分へ好意を抱く者には僅かに人間味を見せるが、邪魔となるなら容赦なく排除する。
 たとえ惚れた女であったとしても、無慈悲に殴り殺して前へ進む。
 最後に頼むのは自分自身の力のみ。

【把握媒体】
 朝倉涼子:
 『涼宮ハルヒの憂鬱』原作小説 基本的な人格はこれのみで問題ない
 『長門有希ちゃんの消失』原作コミック 「表の顔」の雰囲気

 朝倉哲也:
 『蘇える金狼 野望篇&完結編』原作小説 惚れた女を殺せる「金狼」に成り果てた男
 『蘇える金狼』実写映画版(1979年)松田優作主演 惚れた女を殺せず「金狼」に徹しきれなかった男


161 : ◆yYcNedCd82 :2016/07/03(日) 00:14:26 mtYBFzcw0
以上です
ありがとうございました


162 : ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:03:55 U9bF7PmQ0
投下します。


163 : ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:04:28 U9bF7PmQ0
その部屋のインテリアには機械的なまでに色がなかった。
白いシーツと毛布、本棚に収まるのは古ぼけ黒ずんだ魔術書。
ピンナップ一つない、真っ白な壁紙。
灰色のデスクに、その上に乗った白いパソコン。
暗くなってきたが電灯は付けず、窓から入ってくる赤い夕日の色に染まっていた。

ーーRUM
実行コマンドを打ち込まれたパソコンは、
ディスクを唸らせ、画面に異様な文字を走らせる。

黒い学ランを身につけた茶髪の少年、中島朱実はその端正な顔に焦りの表情を浮かばせながら、
そのパソコンのディスプレイを食いいるように見ていた。

数分後、室内に異常を知らせるビープ音が鳴り響き、ディスプレイに「error」が表示されるとともに、少年の顔は落胆に沈んだ。

「なんで来ないんだ…!この時代の星の動き、パソコンのスペックに合わせてプログラムを最適化したのに…!!
 星の動きや地理以外にも変数が…?いや、しかし…」
「どうした、貴様の仲魔とやらはまだこないのか?まあいい、大した問題ではないだろう、どのみち…」

「この王が聖杯を手にするのだからな」


164 : ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:05:30 U9bF7PmQ0

中島は後ろへ向き直る。
背後から声をかけたのは様子を伺っていた、ロックミュージシャンを模したような赤い服の男、
しかしロックミュージシャンとは違うことはその腰につけた一振りの剣を見ればわかるだろう。

「セイバー、たとえお前がどれだけ強かろうと、お前一人だけで聖杯が取れるのか?」

「人間一人がいようがいまいが何も変わらん」

王を自称する通り、彼の世界では魔族の王であり、その尊大な発言にあった強大な力を持っているという、
当然、マスターである中島もそれが事実であることは把握している。

(確かにこの男は強い、この聖杯戦争で勝ち残るためにも必要だろう、しかし…危険だ)

彼の世界では魔族の王であったという、このサーヴァントが強力なのは間違いない、
しかし、かつて対峙した魔族の王ロキ、セトと同じくする身の毛のよだつ邪気をこのサーヴァントから感じていた。

(せめてケルベロスさえ呼ぶことができれば…)

パソコンに目を落とす。かつて共に戦った魔獣ケルベロス、
それがいれば確かに聖杯戦争でも優位に立てるだろう、
しかし、中島の目的は己のサーヴァント、セイバーの抑制であった。
このサーヴァントを制御するには、令呪だけでは心許ない。
そう考え悪魔召喚プログラムを再設計した中島であったが、ケルベロスは喚ばれない。

令呪の刻まれた右手をセイバーに向ける。

「思い上がるんじゃない、僕がこれを持つのを忘れるなよ」
「ふっ、それを使って命令するつもりか?やってみせろ…その瞬間貴様は死ぬ」

セイバーの殺気が少年を貫いた。
その瞳に嘘の色はなく、ただ、下等な種族ーー人間である少年を見下していた。

本気だ、本気で命令の前に自分を殺し、その上でその他の主従を滅ぼし聖杯を掴むという圧倒的な自信を少年は感じた。


165 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:06:25 U9bF7PmQ0

一触即発の場となった部屋で、少年とセイバーはどちらも睨み合ったまま動かずにいた。
その時、部屋の外から玄関の扉が開く音が聞こえた。

「ただいまー」

母だ、それに気がついた中島は驚いた。
こんなに早く帰ってくるなんて、いつぶりだろうか。
それに気を取られたのか、自然と右手は降りた。

「まあいい、貴様が俺にひれ伏すならば
 貴様の願いも叶えてやっていい」

今ので場が白けるのを感じたのか、緊張は緩み
セイバーは所在なさげにガラス越しの夕日を見つめた。

席を立つ、母がこんなに早く帰ってくるなんて珍しい、
この冬木市と東京での仕事の量は違うのかもしれない。
セイバーの横を抜け、扉のノブに手をかける。

「そうだ、まだ聞いていなかったか」

突然の質問にノブを回した手を止め、セイバーの方へ振り返る、
セイバーは未だ夕日を見つめていた。

「貴様が聖杯に願う願いは、なんだ」

「……お前には教えないよ」

そのままノブを引き、暗くなってきた廊下へ出てリビングに居る母の元へ向かった。


166 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:06:44 U9bF7PmQ0

(不便な時代に来てしまったな)

自室の扉を締めた後、溜息をつく。
自室より暗い廊下の途中で、壁にかけられたカレンダーが、ふと彼の目に入った
時は1980年、中島朱実が生きていた時代から6年前であった。
かつてハンドヘルドコンピュータに収まったケルベロス召喚プログラムも、
据え置き型コンピュータでなければ収まらず、当時のプログラム言語にも対応してなかったためかなり手間がかかった。
しかしその苦労も報われずケルベロスは喚ばれなかった、なぜか。
やはりこの時代のCPUでは再現できぬ部分もあったのか、
既に英霊の座からサーヴァントを召喚している冬木市という立地により弾かれてしまうのか、
あるいは

(もう僕にお前の主人の資格はないということか)

かつての仲間か、武器さえあればあのセイバーとも対等にやりあう自身はあった、
しかし、ロキの魔の手から救ってくれた弓子はいない、
イザナミから与えられたヒノガグツチの剣もない、
ケルベロスも、喚ばれてきてはくれなかった。

オカルトの知識とこの時代にも通じるプログラムの技能、
そしてイザナギの転生であるこの身、それだけを使ってあのセイバーを制御しなければならなかった。
過ちを繰り返さず、この聖杯戦争で勝ち残るために。


167 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:07:02 U9bF7PmQ0
リビングに入ると、急に目に飛び込んだ電灯の眩しさが目に染みた。
この部屋は朱美の部屋とは違い色にあふれていた。
木材に薄くニスを塗った柔らかい色のリビングテーブル。
その上に乗った観葉植物。
そしてその近くの椅子に座った、朱美に似て細顔で茶髪の女性、
1986年と寸分違わない朱美の母親が受話器の向こうと楽しそうに談笑していた、
リビングに入ってきた朱美に気がつくと母は会話を切り上げ、朱美の方へ向き合った。

「あ、帰るの遅れちゃってごめんね、急に会議が入っちゃって」
「いや、ぜんぜん大丈夫、むしろ帰ってくるの早いほうだと思ったよ」
「やだもう、まだまだデザイナーの方はそこまで忙しくないわよ」
「えっ、そうかな?」
「そうよ。そんなことより今お父さんと電話してたんだけど、
 今日お父さん帰りが早いみたいだから一緒に外食にでもいかない?」
「父さん、ロサンゼルスから帰ってくるの?」
「何言ってるのよ、お父さんロサンゼルスに出張なんて行ったこと無いじゃない」


デザイナーとして脂が乗っていた母が、こんなに早く帰ってくることは最近なかった、
父さんは今ロサンゼルスに単身赴任しているはず…
朱美はそう思ったが、だんだんと頭の中に
「母は日が暮れる前には帰ってくる」
「父は現在同じマンションに住んでいる」
というイメージが蘇ってきた。


168 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:08:15 U9bF7PmQ0
(そうか、ここではそういうロールだったか)

年代がさほど変わらないため、この1980年の冬木と1986年の東京を重ねていた故に、
ここでの家族の役割を忘れてしまっていた。
この場所では1986年の東京に住んでいた時の再現に無理があるのか、
(両親の仕事の忙しさと時代が関係してた可能性がある
 あまり興味がなかったので自信はないが)
両親が忙しかった1986年頃ではなく、
まだ両親が忙しくなかった、1980年頃を再現されたようだ。

(この時代も悪くはないな)

両親と一緒にご飯なんていつぐらいだったか、
自然と温かい気持ちになる。
そう、自分の願いは父が居て、母が居て、自分が居て、そしてその隣には
(弓子…)

己の行いを全てを精算して、無くなってしまったものを全て取り戻す、
それが聖杯に願う自分の願いだ。
温かい気持ちに包まれながら、そう強く決意しなおした。

「さっ、ぼーっとしてないで服着替えてきたら?」
「わかったよ」

リビングから廊下に戻った時に気がつく、
監視のためにあのセイバーも外食に連れて行かねばならないことに、
(良いことばかりじゃなかったなあ…)
肩を落とす、仮に見ていない場所で人を襲わずとも、
他のサーヴァントと遭遇することも考えて連れて行かねばならないだろう。
家族の為でもある、仕方ないと己を宥めると同時に気づく、

(そう言えば、セイバーは聖杯に何を願うんだろうか)
まあいい、魔族の願いと相容れることはないだろう、そう思い直し、
私服に着替え、セイバーを連れ出すため己の部屋へ向かった。


169 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:08:41 U9bF7PmQ0
夕日の光が入ってきた殺風景な部屋、
中島が出て行った後、セイバーはカーテンを閉じ、部屋をより闇で満たす。
そしてその中で唯一光るパソコンに目を落とす。

「デタラメではないようだな」

奴は気づかなかったようだが、
このプログラムが実行された時、まるでサーヴァントが召喚されるかのように魔力が迸り、
底知れぬ空間への扉が叩かれたような、そんな感覚がした。
叩く力が弱かったのか、向こうに開ける気がなかったのか、それとも空洞を叩いただけなのか、
何も召喚こそされなかったが収穫は十分あった。
あの異界の扉を叩く膨大な魔力、わざわざこの世界の有象無象のライフエナジーを啜らずとも、十分な魔力が供給されることは想像に難くない。

思わず舌をなめずる。
そうだ、わざわざ有象無象を食らわんでも、あいつ一人からライフエナジーを奪えば十分だろう。
食にはあまり関心はない方のはずだが、やつの色を、ライフエナジーを奪い吸収したいという欲望が生まれる。
腰に帯びた剣、かつては捨てた世界最強の剣に手をかける。
(これのせいか)
剣もなんの憂いも無く戦える魔力に喜ぶように手に吸い付く。
思えば、愛を否定するため、この剣を捨てたことが過ちの始まりであったように思える。

「真夜…」

いや、この剣を手放した時点で愛を認めていたようなものではないか。
あの時、俺がやるべきことは己の愛を否定し、剣を手放すことではない。
この剣で真夜か紅音也を切り捨ることだった。
腰に帯びた最強の剣ーーザンバットソードが今も未来も囁く、全て切り捨てろと、
それに呼応するように剣の柄を強く掴む、もう手離すことはあるまい。

「待っていろ真夜…」


170 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:08:54 U9bF7PmQ0
古事記曰く、イザナギは死した愛するイザナミを地上へ連れ戻すべく、黄泉の国へ向かった。
しかし、そこに居たのは死して腐敗して、二目見られない醜い姿となった、イザナミであった。
そして今度はイザナギは追って来るイザナミから逃げ、黄泉比良坂で互いに袂を分かったという。

互いに再び相まみえる事はできたが、
再び別れ、残ったのは悲しみだけだっただろう。

生者と死者が交わる聖杯戦争という黄泉平坂。
神と魔は愛する者を取り戻せるのか、
あるいはイザナギとイザナミの様に悲しみに暮れるだけか。
答えを知るはこの宇宙のすべてを知る、最高神のみだろう。


171 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:09:24 U9bF7PmQ0
【クラス】セイバー
【真名】暁が眠る、素晴らしき物語の果て(キング)
【出典】仮面ライダーキバ
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:B- 敏捷:B 魔力:B+ 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】

対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。


【保有スキル】
吸血:Ex
吸血行為と血を浴びることによる体力吸収&回復。
ファンガイアであるキングは複数の吸命牙により多数のライフエナジーを同時に吸収可能。

貴族の名:B
真名秘匿スキル。
Bランク以下の真名看破を無効にする。

狂化:E
ザンバットソードの強大な魔皇力により付与されたスキル。
これによって感情の抑制が難しくなり、直情的な行動を取りがちになる。


【宝具】
『命啜る魔の皇剣(ザンバットソード)』
ランク:B+ 種別:対ファインガイア宝具 レンジ:- 最大補足:-
ファンガイアのキングが代々受け継いできた魔剣。
世界で最強の剣とされるが選ばれた者以外には扱えず、
選ばれた者ですら気を抜くと強大な魔皇力によって意識を乗っ取られてしまう凶悪な剣。
この剣を持っている間、所持者に狂化:Eを付与する。


『キバットバットⅡ世』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
コウモリのモンスターであるキバット族、由緒正しき名門キバットバット家のニ代目。
肌を噛み、ベルトとして取り付くことで、その者の魔皇力を活性化させ、「闇のキバの鎧」を纏わせる。
かつてはキング共にレジェンドルガ族の封印、他魔族の全滅活動を行っていたが
キングのクイーンに対する仕打ちにより決別する。
この聖杯戦争の舞台においてもキングの意志により、顕現は可能だが彼に手を貸すことはないだろう。


【人物背景】
1986年の世界最強の魔族、ファンガイア族の王。
かつては闇の牙を用い、レジェンドルガ族の封印などをした優秀な王であったが、
独自の価値観を持ち、それによってクイーンである真夜が人間である紅音也を愛するきっかけにもなってしまう。
真夜が戻らなければ息子である太牙を殺そうとするなど歪んだ愛情を持ち、
最終的には紅音也と、未来からやってきた紅音也と真夜の息子、紅渡に敗北してしまう。



【サーヴァントとしての願い】
紅音也とその息子を殺し、真夜を己のものにする。


172 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:09:47 U9bF7PmQ0
【マスター】

中島朱実@デジタル・デビル・ストーリー

【マスターとしての願い】

過去の罪を清算し、日常を取り戻す。

【weapon】
無し

【能力・技能】
悪魔召喚プログラムにより、古の召喚魔術を正確にエミュレートし悪魔を召喚可能。
しかし、1980年のPCの性能では不可能に近く、
ハンドヘルドPCに収まっていたケルベロスも現在召喚不可能である。

【人物背景】
好奇心により悪魔召喚プログラムを制作し、世界を大混乱に陥れた張本人。
イザナミの転生である弓子、なぜか付き従うケルベロスの力を借り、
悪魔召喚プログラムより呼びだされたロキ、セトを倒すが
最終的には悪魔召喚プログラムを用いないルシファーの策略により、
人の手で処刑されることになり、罪の意識とその場で暴徒に父親が殺されたことで暴走。
弓子を手に掛けようとしたところでイザナミに殺される。
イザナギの転生であり、この世で最初に悪魔召喚プログラムを成功させたのはその力も大きいようだ。
 

【方針】

聖杯を手にする、できれば一般市民に被害を加えたくはない。


【把握媒体】
セイバー(キング):
 DVDおよびネット配信。この聖杯における彼を把握するならDVD9〜12巻、(36〜46話)までで可能。

中島朱実:
小説媒体。デジタルデビルストーリー1〜3巻、或いは新装版1巻で把握可能。


173 : 中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6 :2016/07/03(日) 12:10:15 U9bF7PmQ0
投下終了します。


174 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/04(月) 03:04:28 nesCiq/g0
ご投下ありがとうございます!
自分も投下します


175 : 鷺沢文香&バーサーカー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/04(月) 03:04:54 nesCiq/g0

 二十世紀は、読書家に優しい時代だった。

 個人経営の書店が苦もなく成り立ち、長続きさせられる時代。
 電子書籍なんてものは世紀末まで実用化されておらず、されてからも普及には至らなかった。
 別に電子書籍という文化を悪いとは思わないが、文香個人としては、紙の本が好きだ。
 確かに持ち運びやすさや手軽さの面では、電子書籍が勝つだろう。
 それでも文香は、紙の頁を捲る感覚や、古い本特有の枯れた匂いが好きだった。
 
 何も、本だけに限った話じゃない。
 昭和の時代は、平成よりも鷺沢文香にとっては住みやすかった。
 現代以上に俗な風潮が蔓延している代わりに、現代にあった息苦しさというものがない。
 映画や小説の描写から想像するしかなかった『昔』に、今、こうして自分が生きている。
 
 まるで幼い日に憧れた、タイムトラベル小説の主人公。
 もうタイトルも忘れてしまった、ずっと昔のSF小説。
 主人公の少女はある日、自分が生まれる何十年も前の時代にタイムトラベルしてしまう。
 常識や知識の壁に苦労しつつも友人を得て、少女はとうとう自分の成すべきことを理解した。
 それから――……どうなったのだったか。
 記憶が薄ぼけていて、うまく思い出せない。

 思考に没頭しかけた脳を現実に引き戻したのは、午後四時の時報を告げる鳩時計の鳴き声だった。

 鷺沢文香は、小説の主人公のように、いきなり過去の世界に放り出されたわけではなかった。
 この昭和時代には、あるはずのない鷺沢文香の席がきちんと用意されていたのだ。
 冬木市内の某大学、文芸部に通う大学生。
 叔父の営む書店の仕事を手伝ったり、本を読んだりして毎日を静かに過ごす文学少女。
 友人は多くないし、人と話すのも目を合わせるのも苦手。
 ……親切なほど、文香にとって住みやすい環境が再現されていた。
 
 住みやすいだけじゃ駄目だと、私はもう知っているのに。

 綺麗なほど、元通りだ。
 この時間を生きる文香に、ガラスの靴は届かない。
 臆病な少女がシンデレラになり、輝くステージで舞い踊ることもない。
 童話の成立しない世界。鷺沢文香という偶像(アイドル)の生まれない世界。
 
 人前で歌うことも、踊ることもない。
 苦手なことと向き合うこともしないで済む。
 毎日学校に行って、本を読んで、店で座っていれば夜が来て、また次の日になる。
 すっかり慣れた、楽な生き方だ。
 
 それでも、文香は思う。
 帰りたい。
 自分の生まれた、あの二十一世紀に帰りたい。
 今の私はもう、人と関わることから目を背けていた頃の弱い自分とは違う。
 人に笑顔を与え、自分も笑顔になる。
 そんな素敵な世界(ステージ)に、あの日自分は踏み入った。
 
 硝子の靴を通行証代わりに、シンデレラ達のスターライト・ステージへ。


176 : 鷺沢文香&バーサーカー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/04(月) 03:05:23 nesCiq/g0
 魔法はいつか解けてしまうのかもしれない。
 それでも、その『いつか』は遠い未来の話だ。
 いつかであって、今じゃない。
 この過去で解けてなくなってしまうほど、あの日、あの人にかけてもらった魔法は弱くないから。
 
 だから―――最初から、やるべきことは決まっていた。

「……ああ」

 文香はまだ、何も言っていない。
 本棚に新書を収める仕事を手伝っているその青年に、念話も送っていない。
 なのに彼は――鷺沢文香のサーヴァントは、彼女の顔を見るなり、薄く微笑んだ。

 苦笑や失笑ではなかったと思う。
 どこか嬉しがっているような、懐かしんでいるような。
 一言では語り尽くせない感情が綯い交ぜになった顔をしていた。
 ……そういえば、彼は前にも、『聖杯戦争』に参加したことがあると言っていた。
 その時のことを彼は語りたがらなかったが……やはり、前のマスターを思い出しているのだろうか。

「君はそう望むんだね、マスター」

 文香の瞳は、隠れていない。
 彼女は小さく頷いて、口を開いた。

「私は……帰りたい、です」

 聖杯を手に入れれば、全てが思うがままになる。
 大それた欲望や野心とは縁のない文香だが、彼女の場合欲との葛藤とはまた別な形で、戦いに背を向けることを恐れていた。
 聖杯戦争から脱出したいと口で言うのは簡単だ。
 しかし、もしも、万が一。そもそも出口なんてものがなかったら?
 この世界に呼ばれてしまった時点で、聖杯を手に入れる以外、抜け出す手段などないのだとしたら?
 文香は聖杯など、別にいらない。だから聖杯戦争に参加する理由なんて、言ってしまえば何もない。
 
 だが、そこに自分の命が掛かるとなったら話は別だ。
 生き残りの座席は一つで、正攻法以外に離脱手段はない。
 この状況を押し付けられて、迷わずそれでも戦わないと即答できるほど、文香は人間離れした心を持ってはいなかった。
 自分の為に戦うか、あくまでも戦わない解決法を探すか。
 その葛藤にようやく答えが出た。
 こと鷺沢文香という偶像少女に限っては、答えなど、どの道最初から一つだった。
 
「……帰りたいんです。でも……やっぱり、戦いたくは……ないです」

 それは信じるということ。
 この昭和のどこかに、未来への扉がある。
 そんな確証もない話を信じて、追いかけるということ。
 聖杯戦争においてその思考は、まともではない。
 聖杯を手に入れる以外の手段を模索する行為には、常に絶望の影が付き纏う。
 『そんなものは何処にもない』という、昏い絶望が。

 彼女のサーヴァント……バーサーカーは聡明な男だ。
 己のマスターが無謀な方へ突き進もうとしていることは、はっきり理解できていた。


177 : 鷺沢文香&バーサーカー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/04(月) 03:05:58 nesCiq/g0
「僕は何となく、君ならそういう結論を出すだろうなと思っていたよ」

 バーサーカーの適性を持つとは思えないほど、その声は柔らかく、優しい。
 バーサーカーは文香を否定しなかった。むしろ、肯定的な感情をすら示していた。
 
「僕は……君の、鷺沢文香のサーヴァントだ。君がそう願うのなら、僕はそれにきっと応えよう。そして―――」

 そこで、店の中へと一際強い風が吹き込んだ。
 バーサーカーの声がかき消される。
 文香は最後まで、彼がこの時何と言ったのかは分からなかった。
 彼は、こう言ったのだ。そして―――今度こそ僕は、自分のマスターを日常へ戻す。
 その台詞は、彼が以前参加したという聖杯戦争の顛末を物語っていた。

 バーサーカーは、失敗した。
 心優しい少年と共に青い夢を描き、破れ、散った。
 そうして彼は此処に居る。
 この異端の聖杯戦争で、心優しい少女の為の英霊として現界する。

 今目の前でおずおずと座っている少女は、あの勇敢な少年とは似ても似つかない。
 この子は正義の味方なんて柄ではないし、聖杯戦争にどう向き合うかもたっぷり悩んで決めた。
 その向き合い方も、全く違う。この子は、聖杯戦争自体をどうにかしようとは思っていない。
 ただ、帰りたいだけ。自分の生まれた時代、過ごした世界、開けた未来に帰りたい。
 それだけを願っている。小説の主人公としては、少しエンターテイメント性が足りないか。

 文香は、自分の座るテーブルの脇に平積みになった本にふと目を向けた。
 バーサーカーに気付かれないよう、内の一冊を手に取る。
 再び棚の整理に戻った彼がこちらに注意を向けていないことを確認し、頁を捲った。
 
 何しろ有名な小説だ。
 文学に造詣の深い文香は、当然その本を読んだことがあった。
 有名なだけに衝撃的なストーリーだったから、今でもよく内容は覚えている。
 

 ―――かつて、一人の男が居た。男は紳士であり、悪鬼でもあった。
 賢明で善良な人々の元で育ち、将来の健勝も保証されていた彼は、しかしある病的な一面の持ち主だった。
 人間ならば誰しもが持つ享楽性と浅ましい欲望を、狂的と称されるほどに恥じていたのだ、彼は。
 やがて彼は真理を確信する。善と悪。人間とは単一の性質から成るのではなく、二元的であると。
 真理に到達した彼は、人の有する善悪の要素を分離させようと躍起になった。
 彼が道具として選んだのは科学。科学をメスに、狂気の実験に手を伸ばした。

 だが、その結果は大失敗。
 男の中には彼が忌み嫌った『悪』そのものとでもいうべきおぞましい人格が生まれ、彼は徐々に、自らの生み出した『悪』に体も心も侵食されていく。
 ……哀れな男の最期は――そう、確か、錯乱の末の自滅。服毒自殺。

「ヘンリー・ジキル」

 誰にも聞こえないよう、文香は彼の真名を唱える。
 もしも彼が、小説の中のヘンリー・ジキル博士そのものならば。
 彼もまた、その体の中に悪魔を飼っているのだろうか。
 ……或いはそれこそが、彼がバーサーカーとして召喚された理由なのかもしれない。

 ヘンリー・ジキルは理性的で聡明な男だ。
 正義感の強い彼は、サーヴァントとしてもほとんど無力に等しい存在である。
 彼が本当にヘンリー・ジキルならば、……やはり居ない筈はないだろうと文香は思う。
 善と誠実を憎み、悪逆をこそ愛する別人格。
 一人の人間を壮絶な自殺にまで追い込んだ、悪の化身ともいうべきあの狂気(ケモノ)が。

 文香はそこまで考えて、数頁ほど捲った本をそっと元に戻した。
 表紙には、彼女を導くサーヴァントの真名。
 

 『ジキル博士とハイド氏』―――彼らこそが、文香の運命を握るバーサーカー。


【クラス】
 バーサーカー

【真名】
 ヘンリー・ジキル&ハイド@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ

【ステータス】
 筋力B+ 耐久B+ 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具C

【属性】
 秩序・善/混沌・悪


178 : 鷺沢文香&バーサーカー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/04(月) 03:09:37 nesCiq/g0

【クラススキル】
狂化:?
 ランク不明。
 ジキル時には機能していない。

【保有スキル】
変化:B
 肉体変化。
 自己改造スキルと相俟って、彼の肉体はより強靭に、強大に変化する。
 
自己改造:A
 自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
 このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。

怪力:A
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

無力の殻:B
 精神と肉体がジキルの状態である間は能力値が低下し、サーヴァントとして感知され難くなる。
 無力の殻を被ることで、内に眠る怪物は自らの存在を他者に勘付かせない。

【宝具】

『密やかなる罪の遊戯(デンジャラス・ゲーム)』
 ランク:C+ 種別:対人宝具
 ジキルから反英雄ハイドへと変化する霊薬。
 幾つかのスキルを付与し、獣化とも言える変貌を遂げさせる。
 特に高い耐久力をもたらす高ランクの「狂化」と、自分の肉体を状況に応じて最適な形態に変化させる「自己改造」によって、驚異的な生命力を発揮することが可能となる。この宝具を使用しないとサーヴァントとしては無力に近い。
 服用には何らかの副作用(リスク)が存在する模様。
 名前の由来は、ミュージカル版『ジキル博士とハイド氏』で演奏される曲名の一つ。

【weapon】
 牙、爪

【人物背景】
 整った顔立ちと翠色の瞳を持つ落ち着いた風貌の青年。
 外見は小説におけるジキル博士よりは若く、高校生の巽よりはいくらか上といった程度。
 「バーサーカー」という呼称が似合わない穏やかな雰囲気を漂わせるが、宝具の霊薬によって文字通りの狂戦士へと変貌する。
 「ハイド」に変わると、狼を思わせる外見、背中を丸めた前傾姿勢、殺意に染まった赫い瞳など、魔獣にも見える異形となり、圧倒的な破壊衝動と殺戮衝動に従って動く。
 だが完全な獣でもないらしく、セイバーの見立てでは「自ら意図して正気を失っている」との事。
 また理性を失ってはいるが、マスターやセイバーの気持ちに応えようとするだけの意志は残っている。
 生前の自分が悪心に流され、悲劇を引き起こしたことを悔いており、今度こそは「正義の味方」でありたい、という願いを胸に召喚された。
 しかし、悪の想念の一端として召喚されている自分では正義のために戦うことなど出来ないのだという諦念のようなものも抱いている。

【サーヴァントとしての願い】
 マスターを脱出させる

【運用法】
 無力の殻スキルによって、正体を勘付かせずに潜伏することが可能。
 いざとなれば霊薬を服用して強力な力を手に入れられるが、原作のように複数のサーヴァントを一度に相手取るような真似は避けるのが賢明だろう。


【マスター】
 鷺沢文香@アイドルマスター シンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
 平成に帰りたい

【人物背景】
 穏やかで人付き合いの苦手な、典型的な文学少女。
 しかしプロデューサーとの出会いが発端となり、彼女はきらびやかな世界に足を踏み入れることとなる。


【把握媒体】
バーサーカー(ヘンリー・ジキル&ハイド):
 原作小説。

鷺沢文香:
 『アイドルマスターシンデレラガールズ』及び『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』。
 台詞の把握は各wikiで可能なため、把握は比較的容易。


179 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/04(月) 03:10:35 nesCiq/g0
投下は以上になります。
バーサーカーの一部スキルのランクについては、明確な設定がされていないので捏造しています。
もし明らかになることがあれば、その都度修正を加えたいと思います


180 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/05(火) 01:42:07 oCjz48lg0
投下します


181 : 黒鉄珠雫&ランサー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/05(火) 01:42:39 oCjz48lg0

 黒鉄珠雫が召喚したその男は、巨大だった。
 単純な肉体の大きさもさることながら、全身に纏う威圧感、凄味。
 数え切れないほどの場数を踏んできたというだけでは、得ることの出来ない強さ。
 精神。肉体。双方共に―――極限。
 ただ歩くだけで大地が軋み、拳を振るえば太古の城も現代のビルも、皆平等に崩れ去っていく。
 槍を持たない、徒手のランサー。
 いいや、槍なら持っている。
 その拳、その豪腕。
 破城槍をすら思わせる、破壊の印。

 ランサーは、珠雫のよく知る人物だった。
 もっとも、彼の生きた時代は珠雫が生まれる何百年も前。
 面識などあろうはずもない。
 それでも日本人ならば、その名前を知らない人間の方が確実に稀。
 それほどの英雄なのだ、ランサーは。
 いや……『英傑』と呼ぶべきだろうか。

「……情けない末路だな、貴様の知る我は」

 紙袋を潰す音を、何倍も鈍くしたような音。
 それはハードカバーの分厚い歴史書が、文字通り握り潰された音だ。
 彼の開いていた頁は、戦国時代。
 かつて日本が、隣国――朝鮮半島への出兵を行った頃の記述がそこにはあった。

「だが戒めよう。我が統べる日ノ本に、二度とは衰亡を齎さぬよう」

 戦国三英傑。
 織田信長、徳川家康。
 知らぬ者のない英傑達と並列に語られる、もう一人の男の末路は悲惨なものだった。
 老いさらばえ、幻覚に怯え、最後の野望は虚しく消え果てて。
 そうして一人命を落とす。
 珠雫の見せた歴史に、ランサーは憤怒していた。
 別な歴史の自分とはいえ―――この自分と同じ名前を持った男が、そんな惨めで無様な晩生を送っていようとは。

 そう、男の真名は『豊臣秀吉』。
 魔王の暴虐により衰退した国力を、その覇道で立て直さんとした愛国心の漢。
 珠雫は特別歴史に詳しいわけではなかったが、もしこの男が朝鮮出兵に乗り出していたなら、日本は全く別な反映の形を取っていただろうことは分かる。
 それだけの力を、この英傑は有していた。
 珠雫の目に写る彼のステータスも、局所的に低い箇所こそあるものの、筋力のステータスは規格外のEXランクと来ている。
 ―――『当たり』だ。珠雫は薄桃色の唇を噛み、喜びの味を噛み締めた。
 自分がサーヴァントに求めた破格の力を、間違いなくこのサーヴァントは持っている。

 覇王の眼差しが、それを見上げる珠雫に降り注ぐ。
 英霊の神秘は、現代に近付けば近付くほど低下していくというのが通説だ。
 神秘の薄い戦国時代に生まれ、名を馳せた男が持つ神秘の量など、所詮はたかが知れている。
 神代の英霊が神秘を武器に挑み来るなら、この男は神秘すら砕く武力で対抗するのだろう。
 
「――――娘よ、何を求める。何を求め、お前は我をこの荒野へ呼んだ」


182 : 黒鉄珠雫&ランサー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/05(火) 01:43:12 oCjz48lg0
 握り潰した紙片を放り捨て、槍なき覇王は問う。
 己を呼び出した、華奢で弱々しい小娘に。
 
 答えが返ってくる前に、覇王は彼方に広がる町並みを睥睨した。
 その視線に宿るのは軽蔑、嘆き、怒り―――
 
「この国は荒野だ。力を捨てて偽りの平穏に甘んじているばかりか、民も将も、己の愚かさに気付いている様子が無い。
 ……強き兵も持たず、俗な富ばかりを積み上げ富国を気取る。
 お前に召喚され、この忌むべき未来を見て……我は思い知った。国も民も腐らせることなく、千年、万年後までも強き国を保つには、黄金の杯を傾けねばならんと」

 歴史書の記述からも分かるように、この時代は彼の知る日ノ本とは異なる歴史を辿った、言ってしまえばイフの日ノ本だ。
 秀吉の愛した国がこうなるという確証はないし、またこうならないという確証もない。
 だが、そんなものはどちらでも構わなかった。
 現代がどんな状態であれ、覇王の覚悟が極限まで強まるか強まらないかの違いでしかない。
 豊臣秀吉は必ず聖杯を狙う。日ノ本に望み通りの繁栄をもたらすために。
 自分の果たせなかった役割をこの死後より完遂し、国の大成をもって豊臣軍の勝利とする。
 それこそが、彼の願い。

「我は強き国を作る。聖杯はその為の『鍵』だ。
 我はその為に立ち塞ぐ全てを薙ぎ倒し、打ち砕き、蹂躙するだろう。
 だが我もこの戦ではいち英霊。マスターのお前なくしては現界も保てない、か弱き存在でしかない」
「………………」
「故に見極めねばなるまい、お前の器を。我を率いるに相応しい器か否か、この場で示してみろ」
「…………すか」

 スカートの裾を強く握り締める、珠雫。
 誰の目から見ても明らかに、今の彼女には熱が入っていた。
 燃えるような感情の熱。

「あなたは、存在しない者のように扱われたことがありますか?」
「……無いな」
「私の兄は、そうでした」

 秀吉は、恵まれた男だった。
 彼が嫌悪するかの第六天魔王に愛情や敬愛を寄せる者達があったように、この覇王にもまた、その身を案じてくれる存在が常に居た。
 その野望を止めんとする、古き友。この手で殺した女。
 その野望に寄り添う、新しき友。儚き天才軍師。
 だから彼には、自分の存在を蔑ろにされた経験というものがそもそもない。
 
「お兄様は、兄は、きっと今は幸せでしょう。
 寄り添ってくれる人も居て、彼の世界は輝いていることでしょう」
「ならば、何故にお前は救おうと願う。既に救われている者を救うなど、徒労でしかないだろう」
「―――それでも!!」


183 : 黒鉄珠雫&ランサー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/05(火) 01:43:45 oCjz48lg0
 珠雫と兄の間にある血縁関係は本物だ。
 血の繋がった、正真正銘本物の兄妹だ。
 だからこそ分かることも、思うこともある。
 たとえ兄がそれを拒んでも、世界がそれを許さなくても。
 黒鉄珠雫は、それを願う。
 
「それでも私は……あの人に幸せになってほしい。あの人が幸せに暮らせる世界を作りたい」

 秀吉には、その気持ちは分からない。
 ただ一人の為に使うには、奇跡の名はあまりに重い。
 大局を見据え続ける覇王には、個人の幸福の為に聖杯を傾けるなど狂気の沙汰にすら思えた。 

「……つまらん願いだ。我の願いと隣り合うには矮小が過ぎるぞ、娘」
「つまらなくても構いません。これが……これが私の願いですから。
 貴方がその『つまらん願い』に付いて行けないというのなら、それでもいいです。その時は令呪を使って、強引に事を押し進めることにします。
 もしそうなったら、貴方の戦いも苦しくなると思いますけどね」
「随分と、口が達者だな」
「私も譲れないので、こればかりは」

 秀吉は、珠雫の気持ちなど分からない。
 分かるはずもないし、分かりたいとも思わない。
 だが言っても聞かない馬鹿というのは、彼にも覚えがあった。
 ……何度張り倒しても懲りずに現れる、あの傾奇者。
 脳裏に浮かんだ姿を瞑目して薙ぎ払い、秀吉は踵を返し、実体化を解除する。

『ならばその願い、その闘志がこの我を従えるに相応しい物だと、働きを以って証明するがいい』
『……言われなくてもそうしますよ、ええ、そうしますとも』

 霊体化したことで、秀吉の姿は見えない。
 一人になった珠雫は、静かに記憶の中の兄へ思いを馳せた。
 兄は優しい人間だ。
 自分がこんなことをしようとしていると知ったなら、きっと怒って止めるだろう。
 ―――僕はもう幸せだ。珠雫が僕の為に手を汚す必要なんて、何処にもないんだよ。
 そんな優しい言葉をかけてくれるかもしれない。
 それでも、止まる気はなかった。

「愛しています、お兄様。
 貴方を愛さなかった皆の分まで、珠雫は貴方を愛しています」

 ―――だから。

「私の願望(あい)を以て、全ての願望(ねがい)を打ち破る」

 これは、愛を取り戻す為の戦い。


184 : 黒鉄珠雫&ランサー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/05(火) 01:44:27 oCjz48lg0
【クラス】
 ランサー

【真名】
 豊臣秀吉@戦国BASARA

【ステータス】
 筋力EX 耐久A 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具B++

【属性】
 秩序・中庸

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
カリスマ:A
 大軍団を指揮する天性の才能。
 Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
 
護国の鬼将:B+
 あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を"自らの領土"とする。
 この領土内の戦闘において、ランサーはバーサーカーのBランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得できる。
 彼は元々日ノ本の衰弱に憤り、富国強兵を掲げて立ち上がった英霊であるため、舞台が日本である限り何処においてもこのスキルの恩恵を受けることが可能。

太閤検地:A
 生前の彼が実施した測量、検知の逸話そのもの。
 聖杯戦争においては、他人の領土への侵入スキルとして反映された。
 土地、建造物、結界、あらゆる領域にランサーは自在に踏み込み、その空間が及ぼすいかなる影響をも受け付けない。
 時間をかけて準備をし、良質な陣を築けば築くほど、ランサーの前でそれは裏目に出る。

【宝具】

『裂界武帝(れっかいぶてい)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大補足:100人
 一般に伝えられる豊臣秀吉は『小柄で調子のいい切れ者』というイメージだが、ランサーはそれに反して天を衝くような巨体を持つ。
 この宝具はそんな彼が負った畏怖と鍛え上げられた肉体そのもの。
 拳の一撃で要塞や城を易々と破壊し、剛拳を掲げただけで雲が割れ、太陽の光が降り注ぐ。
 彼がランサーのクラスに当て嵌められた所以である、特大の破城槍をすら思わせる大腕である。
 多くの兵をその圧倒的な強さで平伏させた伝承から、相手が彼を強者と思っていればいるほど、ランサーの筋力・耐久ステータスは強化されていく。
 
【weapon】
 拳


185 : 黒鉄珠雫&ランサー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/05(火) 01:45:16 oCjz48lg0

【人物背景】
 第六天魔王、織田信長に蹂躙され弱った日ノ本の現状に憤りを感じ、元凶の信長を打倒して日ノ本をより強大な国家に昇華させるべく旗揚げをした戦国武将。
 統率された強固な軍事力を武器に瞬く間に全国各地を制圧し、ついには天下統一を成し遂げる。
 その後彼の野望は海外にすらも向けられるが、彼が海外の地を踏むことはついになかった。
 覇王は、光り輝く絆に討ち倒された。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯の恩寵全てを日ノ本に注ぎ、究極の国を作り上げる

【運用法】
 格下からの下克上にとにかく強い。
 特に太閤検地スキルの存在によって、キャスターのサーヴァントにはかなりの優位を持てる。
 だがその分、彼を強者と認識しない強大な敵に対しては、宝具のステータス増強があまり見込めないのが欠点か。


【マスター】
 黒鉄珠雫@落第騎士の英雄譚

【マスターとしての願い】
 兄を救いたい。

【weapon】
 固有霊装『宵時雨』。小太刀の形状をしている。

【能力・技能】
 水や氷を操る。水を純水にしたり、傷口の止血程度ならば人の水分や血流も操作できる。
 幼い頃から伐刀者としての才能があり、能力を鍛える努力も怠らなかったため実力は高い。
 特に魔力制御はAランク相当。誰にも気づかれず技を発動させたり、複雑な魔力を用いた技を同時進行で使うことができる。
 兄・一輝の影響で体術にもある程度の知識はあるが、魔力の強化を優先していたため本人の身体能力は並の伐刀者程度。

【人物背景】
 破軍学園の一年四組学年次席で、一年唯一のBランク騎士。名家・黒鉄家の長女。
 兄のことをお兄様と呼んで慕っており、兄としてだけでなく「一人の異性」としても意識している。
 その兄が家出して間もなく彼が親族から嫌われている理由を知り、珠雫は親族を憎むようになったと同時に、自分が一輝を唯一愛せる人間になろうと誓った。


【把握媒体】
セイバー(豊臣秀吉):
 アニメ第二期の視聴が最も確実。
 ゲームのプレイ動画でも動きや性格は把握できるが、アニメの方が壮大で分かりやすい。

黒鉄珠雫:
 原作小説。
 もしくはアニメの視聴でも把握可能。


186 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/05(火) 01:45:39 oCjz48lg0
投下は以上になります


187 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/06(水) 00:01:01 OSnCiN7A0
続けて投下します


188 : 衰亡に至る病 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/06(水) 00:02:38 OSnCiN7A0

 人間は、頑強さと脆弱さの入り混じった奇妙な生物だ。
 余命宣告を受けるほどの重篤な病から理屈を無視した回復を遂げてみたかと思えば、時には体より先に心が壊れ、自ら死を選ぶことすらある。
 尋常ならざる勢いで身を苛む、身体的・精神的な苦痛。
 常人の枠組みから逸脱した精神力の持ち主であればそんな生き地獄に耐え続け、乗り越えることも出来るのかもしれない。
 だが、そんな人間はごくごく稀だ。少なくとも、普通ではない。
 普通の人間にそれだけの苦痛を浴びせかけたならその精神は止むことない心身の激痛に摩耗し、ほとんどの場合、本人の意思さえ無視して自壊に向かう。
 
 ―――例えば、恒久的に苦痛と恐怖を与えられ続け、それから解放される未来がないことを知っている人間が居たとする。
 生きることは希望ではない。
 生きれば生きただけ、絶望ばかりが積もっていく。
 一縷の光もない、またこれから射し込むこともない、無機質な四角い地獄の中で、あと何十年続くかも分からない余生を今後も送らされる人間が居たとする。
 この人間に一分間の自由を与えたなら、果たしてどんな行動を取るだろう。
 ……考えるまでもない。
 部屋の角、床、金具の尖った部分、最悪素手でも構わない。
 どうにかして自分の命を終わらせることで、この生き地獄から抜け出そうと考えるはずだ。
 それは当然の行動であって、軟弱な逃避でも、未来を悲観しすぎた早合点でも決してない。
 どれだけ生き延びたとしても、絶対に、そう絶対に。その生涯に、希望らしいものが生まれることだけはあり得なかったのだから。

 事実は小説よりも奇なり、と誰かが言った。
 それと同様に、現実は大抵虚構よりも残酷である。
 
 恒久的な苦痛の中、生が続く限りの絶望を約束された人間。
 小さな、小さな少女だった。
 年齢は二桁に届いているだろうか。届くか届かないかの瀬戸際のラインに見える。
 病院用の寝台に拘束された少女の表情は、あらん限りの恐怖に彩られている。
 彼女はその性質ゆえ、薬物による苦痛の緩和という救いすら与えられず、嬲られ続けていた。
 此処の獄卒どもの言葉を借りるなら、『処置』を施され続けていた。
 どんな暴漢でも解けないような拘束を少女の華奢な体で解けるわけは、当然ない。
 舌を噛み切ることによる自殺も、あらゆる手段で先回りして防がれている。
 
 此処から彼女が逃れる手段は、ない。
 生命を終わらせるという最後の手すら奪われて、今日も地獄の時が来る。
 ―――記憶処置が意味を成さなくなったのはいつからだろう。
 それはとても強烈な目眩がして、意識が暗転した……その日の『処置』の前からだった。
 
 新鮮な恐怖だけが積み重なっていく。
 苦痛の記憶だけが、消えることもなく連続する。
 幼い精神が、救いの存在を本能的に否定し始めるまでは遠くなかった。
 『処置』は凄惨だ。
 冷徹であり続け、常に合理を優先する獄卒たちが吐き気を催したり、精神に異常を来し始めるほど、彼女の受ける行為は酸鼻を極める。


『処置110-モントークを開始します』


189 : 衰亡に至る病 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/06(水) 00:03:55 OSnCiN7A0
 声がする。
 足音が聞こえる。

 鋼鉄製扉の向こうから、防音の壁だと分かっているのに足音が聞こえる。
 幻聴だ。極大の恐怖は、少女に幻聴症状さえ引き起こさせていた。
 やがて扉が開くと、無表情の男達が何人も、何人も入ってくる。

 少女の悲鳴は聞き届けられない。
 この施設において、彼女は人間ではない。
 『SCP-231-7』という記号で称されるだけの、世界的脅威。
 彼女の境遇を地獄たらしめているのは、幼い体には明らかにアンバランスな、その腹部の膨らみだった。
 
 彼女は妊婦だ。
 そして彼女の他に、六人の母が居た。
 彼女達が出産をする度、大勢の命が失われた。
 死が重なる度に、起こる事態は重大化している。
 もしも最後の母、第七の花嫁が『出産』に至ったのなら―――

 世界規模の災害が起こる。
 彼らは、それを止めようとしていた。
 出産を食い止めるために、少女に地獄を与えていた。
 世界と一人の少女の人権を天秤にかけたなら、結果は分かり切っている。
 それが、彼女の置かれている地獄の正体。
 『収容』という名の、世界の為の慈善事業。

「……おい! なんだこりゃ、こんな刺青こいつにあったか!?」

 今日の『処置』は、いつもと少しだけ違った。
 男の一人が何かに気付いて、慌ただしく叫んでいる。
 それを聞き付けると何人かの白衣が部屋に駆け込んできて、少女の腕をまじまじと観察し始めた。
 その顔には、冷たい汗が伝っているように見える。

 少女は眼球だけを動かして、自分の左手を見る。
 ……確かに、刺青があった。
 真っ赤で変な形をした、不思議な刺青。
 昨日までは彼らの言う通り、こんなものはなかった。
 
「まさか、新たな特性……? いや、だが他の六体の時には、こんなものは……
 ……急いでO5の指示を仰ぎます。皆さんは予定通り処置110-モントークの実施を。
 SCP-231-7に対しての調査はその後に行いましょう。…………くそ、最近は記憶処置の効きも不自然に悪いと思っていたが………」

 ブツブツと何か喋りながら、部屋を出ていく白衣。
 実行役の男達の表情は、気味の悪いものを見るように歪められていた。
 彼らは皆、嫌な予感を感じている。
 元凶悪犯という以外には何の特筆した個性もない彼らだが、直感的に感じ取っていたのだ。
 
 この部屋に漂い始めた、嫌な空気。
 正しくは、嫌な気配を。
 しかしだからと言って処置の実施を拒めば、自分が最悪殺される羽目になる。
 嫌がる少女に『いつものように』手を掛け、その両足を開き、そして―――


190 : 衰亡に至る病 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/06(水) 00:04:48 OSnCiN7A0


「―――いや……」


 少女が、消え入るようにそう呟いた途端。
 脳裏に響く声がある。
 尊大で老獪な、底知れないものを感じさせる声だった。
 

『救いを 望むか?』


 とてもじゃないが、救いというワードと結び付くような声ではなかった。
 少女は幼いながらに直感する。
 この声は、悪い人、悪いものの声だと。
 しかしそんなことは、少女にはもう関係ない。
 どんな悪でもよかった。
 正義のヒーローなんかじゃなくて構わなかった。
 人殺しでも圧政者でも反逆者でも、復讐者なんかでもいいし……

 悪の大魔王でも、なんでもいい。

 少女はただ、欲しかった。
 この場所から出るための手段が欲しかった。


『ならば呼ぶがいい、わしの名を! このわしを この地に呼び寄せよ!』


 様子の変化に気付いた男が、手を止める。
 誰かが後退りした。
 別室でそれを見ていた白衣が、緊急警報のサイレンを鳴らした。
 けたたましい音に支配される、閉め切られた防音室の内部。
 そんな部屋だから、彼女の呼んだ『名前』を聞くことの出来た者は一人もいないだろう。





「……たすけて、バーサーカー」


 それが、終わりの始まりだった。
 虚空から姿を現した存在は、巨大にして荘厳。
 かつて一つの世界を征服しかけた、大いなる英雄譚の始まりを担った『大魔王』。
 彼は、竜だ。あらゆる魔物を平伏させ、その上に君臨した大竜種―――


「―――わっはっはっはっはっ!! よくぞわしを呼んだ、小娘よ!!
 わしこそは、王の中の王!! いずれこの世に現れる聖杯を一滴残さず飲み干す、最強のサーヴァントである!!」


 尻尾を振るえば、厳重な設備が砕け散る。
 炎を吐き出せば、地獄の獄卒たちが脂っこい肉の塊になった。
 慌てて鎮圧に駆けつけた援軍など、相手にもなりはしない。
 竜の硬い肌は鉛の弾なんて通さないし、爆薬の熱くらいでは火傷だってさせられない。

 いや、きっとそれ以前の問題だろう。
 彼らは、この竜に勝てない。
 王の中の王を自称する、一個の英雄譚の題名にさえなった彼。
 人の世界を蹂躙し、征服せんとした、人の天敵である『竜王』に。
 ……勇者の心も持たない人間が敵うはずなど、最初からどこにもなかったのだ。


191 : 衰亡に至る病 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/06(水) 00:05:49 OSnCiN7A0
 ―――所変わって、冬木市某所。
 聖杯戦争の舞台となる街の、ある廃マンションに、その少女は居た。
 大きくなった腹をさすり、静かな時間を過ごす少女。
 自分の名前があるのかさえ定かではない、世界の終わりをもたらす大淫王の子供。第七の花嫁。
 
「ほほう、では……そなたは聖杯の力を全て、このわしに譲るというのだな?」
「はい」
「わっはっはっはっ、欲のない娘じゃ。だがそれならそれで、わしも都合がいい……」

 竜王もといバーサーカーは今、ローブをまとった神官のような姿をしていた。
 あの時大暴れをしてみせた竜の姿とは、似ても似つかない。
 それどころか彼のステータスも、少女の目からは全く違うものに写っている。
 彼によると、スキルの一つ、ということだったが―――便利なものなんだなあと思う。

 彼女は聖杯戦争の善し悪しだとか願いだとか、そんなことはどうでもよかった。
 いや、願いがないといえば嘘になる。しかしその願いは、もう叶ってしまった。
 此処から出たい。自由になりたい。
 それだけの、しかし全てを捧げてもいいほどの大きな願望を、この竜王というバーサーカーはいとも簡単に叶えてしまった。
 
「一度は討たれた我が身、我が野望。そなたには、わしの復活を完全なものとするために協力してもらおう!
 なあに、心配する必要などどこにもない。わしは最強であり、無敵のサーヴァントじゃ」

 彼が復活を遂げたのなら、この世界はきっと過去に類を見ないくらいの大混乱に見舞われるだろう。
 世界はひっくり返る。そしてバーサーカーがそれを望んでいることは、彼女にも分かった。
 だけど、それでもいい。
 善悪なんてものは、やはり関係なかった。どうでもよかった。
 仮に彼が、世界に仇なす大魔王だったとしても―――

 『第七の花嫁』にとっては、まばゆい救いの光だったのだから。


【クラス】
 バーサーカー

【真名】
 竜王@DRAGON QUEST

【ステータス】
 筋力D 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運C 宝具EX (第一形態)
 筋力A+ 耐久A++ 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具EX (第二形態)

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
狂化:E
 凶暴化することで能力をアップさせるスキルだが、理性を残している為バーサーカーは恩恵をほぼ受けていない。

【保有スキル】
形態変化:A
 竜王は第一形態と第二形態の二つの姿を持ち、自身のクラスを形態ごとに変化させることが出来る。
 第一形態時の竜王はキャスターのクラススキルである「道具作成:C」「陣地作成:A」を所持し、他のサーヴァントやマスターからもキャスターとして認識される。
 第二形態では真の姿である巨大な竜種の姿となり、クラスもバーサーカーに変更。
 攻撃性を増す代わりに、第一形態ほど器用に魔法を扱うことが難しくなっている。
 更に魔力の負担も事実上倍増。第二形態から第一形態へと戻るのにも、相応の魔力を要する。

魔法:A
 厳密には、魔術師の世界で言う所の魔法とは似て非なるもの。
 火炎系の魔法から回復、ステータス異常など様々な効果を持つ魔法を行使できる。

カリスマ:A+
 大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。


192 : 衰亡に至る病 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/06(水) 00:09:57 OSnCiN7A0
【宝具】

『竜王』
ランク:EX 種別:対文明宝具 レンジ:- 最大補足:-
 一つの世界を征服すべく名乗りを上げた、竜種の王たる第二形態の肉体そのもの。
 平和な世界を恐怖の底に陥れ、自身の死後に至るまでその影響を残し続けた始まりの悪。
 『人』の属性を持つサーヴァントと相対する際、彼のステータスは全て一ランク上昇する。
 特に耐久の上昇値は凄まじく、生半可な装備や魔法では、竜王を人が討ち倒すことは出来ない。
 人の文明を脅かした魔族の王を象徴する、人類の天敵たる宝具。

『竜の甘言 偽りの王冠』
ランク:D+++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 彼が一対一で敵と相対する際にのみ、この宝具は機能する。
 この宝具は形を持たない、竜王が敵対者に持ちかけるとある『提案』である。
 その内容は共通して、『自分の味方になれば、お前に世界の半分をやる』というもの。
 これにもしも頷いてしまった場合、それがサーヴァントであれ人間であれ関係なく、即座に聖杯戦争から退場させられる。
 しかしその存在は英霊の座に還ることなく、もう半分の世界―――闇の世界へと送還される。
 闇の世界から脱出する手段は存在せず、この宝具を喰らってしまえば最後、永遠にそこから抜け出ることは叶わない。
 更に送還されたサーヴァントの宝具や装備は形を持つものは全て竜王に奪われ、彼の宝具となる。
 無論、提案を断った場合この宝具は一切の効果を発揮しない。

【weapon】
 魔法、肉体

【人物背景】
 光の玉を奪って世界を恐怖のどん底に叩き落した張本人。
 その爪は鉄を引き裂き、吐き出す炎は岩をも溶かす。
 魔物たちを統率して世界征服を目指すという、きわめてシンプルな悪の権化。

【サーヴァントとしての願い】
 受肉して、この世界を征服する

【運用法】
 形態変化を上手く使いこなしつつ、暴れる時は暴れて大胆に数を減らしていくのが吉。
 幸いマスターの魔力量が優良なので、燃費については気を付ける必要はほぼないだろう。


【マスター】
 SCP-231-7@The SCP Foundation

【マスターとしての願い】
 『自由』

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 彼女が『出産』した時、世界に甚大な厄災が降り注ぐ。
 そのこととの関係性は不明だが、彼女が持つ魔力の量は極めて膨大。
 魔術の心得がない人間にしてはあり得ないほどの魔力量を、その小さな体に秘めている。
 彼女ほどの魔力プールの持ち主でなければ、燃費が最悪に近い真の姿のバーサーカーを従えることはほぼ不可能。

【人物背景】
 処置110-モントークと称される、非人道的な手段で管理される妊婦の少女。
 その実態はKeterクラスのSCPオブジェクトで、彼女の出産は何としても回避せねばならないとされている。


【把握媒体】
バーサーカー(竜王):
 原作ゲームもしくはプレイ動画。
 台詞をまとめたサイトもあるため、それでも可。


193 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/06(水) 00:10:58 OSnCiN7A0
投下は以上になります。
SCP-231-7の把握媒体については、NGワードらしいのでwikiで直接収録させていただきます


194 : 名無しさん :2016/07/06(水) 11:37:59 41zEEkvg0
イッチは感想書かんのか?


195 : 名無しさん :2016/07/06(水) 13:05:28 elF3JeHs0
書いてくれた方が嬉しいのは確かだけど、別に感想は義務じゃないやろ
今までのコンペでもイッチ感想無しのとこ度々あったし


196 : 三村信史&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/06(水) 13:28:32 .nnZTC.20
投下します。


197 : 三村信史&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/06(水) 13:29:08 .nnZTC.20
青と赤が幾度となく交差する。軌跡は何重にも重なり、色の違う壁が圧し合っている様だ。
夜中、住宅街のはずれで二騎のサーヴァントが戦闘を行っている。
禍々しい三叉の剣を振るうのはセイバー。鎧は血塗れたように赤く、白髪の下は喜悦に歪んでいる。

鍔の青い直剣で連撃をいなすのはランサー。蝙蝠をモチーフにした甲冑を身に纏い、その表情は面甲に覆われて窺えない。
大きく広げた翼を象った装甲は青と金できらびやかに彩られ、ヒロイックなイメージを騎士に与える。
槍兵でありながら長柄武装や刺突攻撃を見せないのが、凶相の剣士には不思議だった。


ランサーが一気に距離を詰め、袈裟懸けに斬りかかった。曲剣がそれを受ける。
金属が打ち鳴らされる音。そして躱し、弾き、また躱す。両者は少しでも有利な位置を制するべく動き回る。

最初に有効打をとったのは青い騎士だった。
突きが燃えるような赤を捉え、刀身が引き抜かれた胴から甲冑と同色の液体が噴き出す。

≪三村、宝具を使うぞ≫

≪あぁ、やってくれ。令呪は?≫

≪任せる…≫

ランサーが左腕の小ぶりな盾に剣を収める。
空いた右手でベルトの留め金からカードを一枚引き抜くと、慣れた手つきで鍔を展開させて、宝具の鍵となる切り札を装填した。

『ファイナルベント』

無機質な男の声が止むと上空から蝙蝠の怪物が現れ、青い騎士の周囲を飛び回る。
ランサーがその頭上に跳び、両耳を掴むと異形に劇的な変化が起こった。空を掻いていた巨大な翼が左右非対称に形を変え、成人男性のそれと変わらないサイズの両足が小さく折り畳まれていく。
さらに頭部を軸にして胴体が90度回転、怪物は瞬く間に巨大なバイクに変形した。


蝙蝠の皮膜をモチーフにした車体にランサーは騎乗し、目前のセイバーに轢き殺さんばかりの猛スピードで迫る。
みるみる距離を縮めていく紺碧の衝角から逃れようとした敵を、一筋の閃光が捉えた。

真紅の鎧が縫いとめられた様にその場から動かなくなる。活動を諦めた肉体を鼓舞するセイバーの視界に、大きく翼を広げたランサーの姿が映る――いや、それは2枚に分かれた外套だった。
背後の景色を覆い隠すように広がったマントが螺旋を描きながら一点に集束。青い騎士の姿が消える。

あとには青白い光輝を放ちながら硬直した敵を狙う、黒一色の鮫に似た物体が残された。
騎乗したランサーが鈍く見える勢いで近づく大樽並みの太さを持つ杭を、セイバーはポージングを続けたまま唇を噛んで迎え入れる。

――これがヤツの『槍』か。

と彼は今生の最期に納得した。夜も眠れぬ程の苦悩あるいは疑問が解決したように、晴れ晴れとした気持だった。

――周囲が轟音に包まれる。火炎が舞い、あたりが昼間のように明るくなった。

まもなく炎の壁を突き破ってきたのは、青色のバイクに跨ったランサーだ。
消失を始めたセイバーを一瞥すると、騎士はシートから腰をあげる。
そのまま停車した無機の魔獣にも、先ほどまで剣を交えていた戦士にも背を向けて何処かへ歩き去った。


198 : 三村信史&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/06(水) 13:29:29 .nnZTC.20



「疲れたのか」

ランサーの鎧が割れた鏡のように消え、黒コートの青年が中から現れた。
彼は物陰に座り込んだ学生服の少年――三村信史の前まで歩くと、平坦に言い放つ。
信史は整った顔に疲れを滲ませていたが、ランサーに気付くと笑みを作った。

「魔力を持たないお前に、サバイブの負担は重すぎる―」

「―どうってことないさ。こんな初っ端から切れる訳ないだろ」

「だったら、もっと考えて動け」

右手をぶらぶらと振っておどける信史にランサーは厳しい口調で応じる。
ぶっきらぼうな言葉に無愛想な態度が加わって、もはや喧嘩腰ですらあった。
信史の濡れた感じに持ち上げた前髪から汗が筋を一つ引いた。
曖昧に笑うマスターに眉を寄せたまま、青年は無言で実体化を解く。


険しい視線から解放された信史は大きく息を吐いた。
赤鎧のセイバーを透視能力で観察したところ中々のステータスだったものだから、初っ端からナイトサバイブに変身させてみた。
こちらから与えられる魔力に限りがある以上、長期戦は望めない。
ついでに一戦闘における消費がどれほどのものか体感で覚えようとしたのだが、流石に無鉄砲すぎた。

両足に力を込めて立ち上がると、信史は住宅街を目指して歩きはじめる。
ランサーの念話を受け取って間もなく、全身から血液を抜かれるような脱力感に襲われた。今も気怠さが残っている。
とはいえ行動に支障はなく、例えるなら試合後の帰り道、といったところだ。しかしこれが続けば症状も段々重くなっていくのだろう。
そうなったら自分は戦いから脱落せざるを得ない。


199 : 三村信史&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/06(水) 13:30:05 .nnZTC.20
自他共に認める頭脳派の信史だったが、今はその思考も精彩を欠いている。端的に言うと彼には余裕が無かった。

――戦闘実験第六十八番プログラム。

彼の暮らす大東亜共和国では、中学生3年生同士を殺し合わせる殺人遊戯が罷り通っていた。
政府主導で毎年50クラス。信史のクラスも今年―招かれる前の話だが―その枠に入ってしまった。

もちろん素直に従ってやる気はなく、プログラムが開始すると信史は脱出に向けて直ちに行動を開始。
その為には参加者の動向を把握する首輪を無力化せねばならないのだが――今は外れている。
喉元から絞首の縄に似た圧迫感が消え、自由になった首にかかる微風が心地いい。


これは催眠ガスとかそんな話じゃない。冬木なんて街に見覚えはなかったし、日付を確認すれば17年も時を遡ってしまったことがわかる。
普段なら「どんな願いでも叶う」など見向きもしないが、この地に眠る聖杯に限っていえば信史の常識は通用せず、またクソッタレな政府に勝る力を持っているらしい。

――豊。

別れてしまった親友を思う。
あの島から自分が消えてどうしたろう。パニックになっていやしないだろうか。
連絡を入れようとも思ったが、ここは大東亜ではなく日本だ。恐らく意味はない。

(どうせなら一緒に連れて来てくれればよかったのにな……チクショウ)

殺し合う相手がクラスメイトから赤の他人に変わっただけであり、死ぬ危険だけならプログラム以上の分の悪い戦い。
だが信史が姿を消せば豊は孤立してしまうし、あの状況で自分が欠ければ生存確率は坂を転がるように落ちるだろう。
 
七原――七原秋也に拾われていればベスト。
いささか能天気な所があるヤツだが極限状況下でもペースを保ち、いざという時の度胸と抜群の運動神経は当てにできる。日頃から交流がある事も含めて七原なら問題ない。
それにアイツは親友の国信を、政府の人間に殺されている。仮に豊を保護しても悪い扱いはしないだろう――がそんな楽観は通るまい。

豊は運動が苦手なんだ。おまけに身体も弱いし、争い事も苦手だ。
周囲をうろつく殺人者の目をかいくぐり、七原や、杉村と合流できたとは…向こうでも同じだけの時間が経過したと成れば……豊は………。


瞼をきつく閉じると、悪い想像を打ち消す様に二度三度と頭を振る。
自分は聖杯を使う。そして豊を救う。

クラスメイト達も救う、という―何せどんな願いでも叶う魔法のランプだ―願いも考えたが、そこまでの力はないんじゃないか、と信史は疑っている。
公約通りの代物ならそうしよう。だがもし叶える力に限りがあるなら…。

非道い話だ、とは我ながら思うが、こっちにだって優先順位というものがある。
願いが不完全に叶えられる恐れを抱えるくらいなら、親友一人を完全な形で救い出したい。とにかく速攻で決着をつけるためにサバイブの使用を強行した……結果は芳しくなかったが。
マスター適性の乏しさが軽くないと理解できた以上、魔力の確保についても何か考えなくては。


歩いて行くうちに頭が冷えた信史は、明日からに備えて家路を急ぐ。救うために、殺すために。


200 : 三村信史&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/06(水) 13:30:26 .nnZTC.20
【クラス】ランサー

【真名】秋山蓮

【出典作品】仮面ライダー龍騎

【性別】男

【ステータス】筋力E 耐久D 敏捷E 魔力E 幸運D 宝具C+

仮面ライダーナイト 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具C+

仮面ライダーナイトサバイブ 筋力B 耐久B 敏捷A 魔力D 幸運D 宝具C+


【属性】
中立・中庸


【クラススキル】
対魔力:E(C、B)
 状態によって変化する。
 通常はダメージ数値を削減するのみで、魔術の無効化は出来ない。
 ナイト時は、第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 サバイブに変身すれば、魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化できる。こうなると大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。


【保有スキル】
勇猛:C
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

心眼(真):C
 蓄積された戦闘経験によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

騎乗:D(A)
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
 サバイブ時のみカッコ内のランクに修正。幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

飛行:-(B)
 平時は発揮されない。ナイトに変身中、ダークウイングが合体する事でカッコ内のランクに修正される。
 飛行中の敏捷値はスキルランクで計算する。


【宝具】
『翼手の黒螺旋(飛翔斬)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜70 最大捕捉:1人
 仮面ライダーナイトのファイナルベント。
 大型の槍「ウイングランサー」とダークウイングが変化した外套「ウイングウォール」を装備した状態で空中に舞いあがり、竜巻のように回転するウイングウォールに包まれたまま、急降下して対象を貫く。
 ウイングランサーは本来、「ソードベント」で呼び出す必要があるが、宝具発動時に限り自動で装備される。


『破砕する紺碧の破城槌(疾風断)』
ランク:C+ 種別:対城宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:20人
 仮面ライダーナイトサバイブのファイナルベント。
 バイクに変形したダークレイダーのカウルから拘束効果を持つビームを放ち、動きの止まった対象をナイトサバイブのマントに包まれたダークレイダーで貫く。
 ビームで目標の動きを止めない場合は命中率が低下するが、複数の敵をまとめて攻撃できる。
 車体は極めて頑丈であり、並の相手なら普通に突進するだけで粉砕可能。宝具発動時に限り、ダークレイダーが自動召喚される。


【weapon】
「ナイトのデッキ」
蝙蝠型モンスター「ダークウイング」と契約したカードデッキ。
Vバックルに装填することで、仮面ライダーナイトに変身することができる。生前とは異なり正面にデッキを掲げるだけでバックルを召喚可能。
ナイトはスピーディな格闘戦を得意とし、豊富なアドベントカードを活用することで敵を攪乱する。


「SURVIVE-疾風-」
黄金の翼が描かれたアドベントカード。ナイトのデッキに納められている。
これを翼召剣ダークバイザーが変化したダークバイザーツバイに装填することで、仮面ライダーナイトサバイブに強化変身できる。
能力上昇に加え、ダークアローやダークブレードを得た事で戦闘における決定力が大きく上昇した。



「闇の翼ダークウイング」
蝙蝠型のミラーモンスター。エサを捕食する必要が無くなった代わりに、召喚の発動・維持にランサーの魔力を要求する。
ファイナルベントの魔力消費には、これも含まれる。
ランサーがナイトサバイブに変身すると、「疾風の翼ダークレイダー」にパワーアップされる。


【人物背景】
恋人の小川恵理の意識を取り戻すために、ライダー同士のバトルロイヤルに身を投じた青年。
頑固で好き嫌いが激しく、孤立しがち。

士郎の妹である優衣と行動する中で城戸真司と出会い、幾度となくぶつかり合ううちに固い友情を結ぶ。
目的のために冷徹に振る舞っていたが、優しく直情な城戸に感化されていき、その行動にも変化が現れていった。


【聖杯にかける願い】



201 : 三村信史&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/06(水) 13:30:51 .nnZTC.20
【マスター名】三村信史

【出典】バトル・ロワイアル(小説版)

【性別】男

【Weapon】
爆弾の雷管を仕込んだ左耳のピアス。

【能力・技能】
「ザ・サードマン」
バスケットボール部の天才ガード。
由来は一年の頃に試合で残り5分の20点差という瀬戸際をあっさり撥ね返した活躍と、その姓から。


「雑学」
反政府活動に身を投じていた叔父から叩き込まれた様々な知識。
中学生ながらハッキングやパソコンの組み立て、爆弾作成を可能とする。


【ロール】
中学3年生


【人物背景】
準鎖国体制を敷く国家「大東亜共和国」で暮らす少年。城岩中学校3年B組男子19番。
文武両道の美少年だが既に3人の女性と関係を持ったプレイボーイで、クラスの女子からはあまり評判が良くない。
反政府活動に従事していたと思しき叔父に心酔しており、中学生離れした思考力を持つ。

西暦1997年、政府が主催する殺人ゲームに自分のクラスが選ばれてしまう。
顔馴染み同士が殺し合う地獄と化した沖木島で小学校からの親友である瀬戸豊と再会できた彼は、島からの脱出を試みるが……。

首輪の解除に失敗した直後から参戦。


【聖杯にかける願い】
瀬戸豊を救う。/クラスメイト全員を救う?


【把握媒体】
ランサー(秋山蓮):
 テレビシリーズ全50話、『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』、『仮面ライダー龍騎スペシャル 13RIDERS』。
 DVD、Blu-ray、ニコニコチャンネルなどで視聴可能。

三村信史:
 原作小説。


202 : 三村信史&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/06(水) 13:31:14 .nnZTC.20
投下終了です。


203 : ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:21:29 Esl2USj.0
投下します


204 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:22:06 Esl2USj.0
 私はいつだったか聞いた事がある。
偉大なる先王、より言えば、国を興した太祖を父に持つ息子は、その父の偉大さに絶対勝る様な偉業に挑戦してはならない、と。
何故ならば相手は、国を興した国父なのだ。これを超える程の偉大な所業など、たかが知れている。歴史に精通している私は知っている。
偉大なる国父に比べて、何とも愚物な二代目が、世の中には多いのか、と言う事を。ある者は国の版図を広げようとしたりして失敗し、ある者は内政を良くしようと失敗して。
そんな彼らを愚かと思う反面、私は彼らの気持ちが良く解る。偉大なる父を持つ子供は、どう足掻いてもその父と比較されると言う宿命を持つ。
その重責に耐え切れず、逸り、余計な種を撒いてしまう。彼らの心理の奥底に燻っていたのは、きっと焦りだったのではないのだろうか? 私はそう思う。

 どちらにしても私は、そんな彼らの歴史から感じ取った。
二代目或いは三代目の役割とは、太祖である父が遺したシステムなどの維持に努めつつ、改良点を探し、いわば体制を盤石に整えさせる為に存在するのだと。
地味な仕事だと思うかも知れない。しかしそれこそが、国や組織と言う生命を長らく維持させ続ける為に重要な事柄なのだろう。
だから私は、彼らの事例から物事を学び、その役割を演じようと必死に頑張ったんだ。頑張った、筈なのに……。

 私は、客観的に人からどう見られているのか解らない程、幸せな性格をしていない。
私、『オルガマリー・アニムスフィア』は、父から引き継いだ人理継続保障機関、フィニス・カルデアのメンバーから、こう思われているのだろう。『無能』、と。
人理の存続と言う非常に重大で、重責の約束された使命を担うには、私はきっと、未熟で幼い子供だと思われているのだろう。
魔術師の名門たる、アニムスフィア家の一員として、魔術の修練を私は当然積んで来た。なのに私には、サーヴァントを使役するマスターの適性がない。
だから陰で、マスター候補である面々から、どのような陰口を叩かれているのかも凡そ理解している。当然だ、よりにもよって機関のトップ。
しかもアニムスフィア家の現当主であり、サーヴァントを使役するに相応しい程の魔力回路を事実有している筈なのに、マスター適性がないのだ。
これ程、お笑い草な話もない。他人の話ならば、呆れて物も言えなくなっていただろう。――だが、その呆れて物も言われない立場に、私は立っているのだった。

 ……そして今、私はカルデアに戻るのが怖い。
今戻れば私は、使命すら放棄して逃げ出した臆病者の誹りを、受けかねないかも知れなかったから。

「なんで、私がこんな目に……」

 息を殺し、一際大きく太い幹を陰にして、私は不様に縮こまり隠れていた。
暗い森の中だった。暗いのは夜だから仕方がないとして、植生が明らかにヨーロッパのそれではない。これはどちらかと言うと温帯の植生だった。
だが、私は知っている。何故この森がヨーロッパのそれと違うのかと言う事を。だってここは、極東の国日本、もっと言えば冬木の街の森林帯であったからだ。

 気付けば、私は此処にいた。
場所については、頭に刻み込まれている。如何やら此処は、1980年の日本国。より場所を正確に言うなら、冬木市。
この場所について私は知っている。冬木市こそ、カルデアの開発した機構である、システム・フェイトの英霊召喚の基幹システムの元となった街だからだ。
涙で濡れた視界を拭って直し、ぐずり声を必死に押し殺しながら、私は考える。何故私は冬木、しかも1980年の時代にいるのだ?
私が活動していた時代は2015年。当然私はまだ生まれてすらいない時代の筈だし、カルデアスもシバも、発明されていない筈。
つい最近、霊子演算装置・トリスメギストスが開発されたが、タイムトラベルを可能とするレイシフトの実験はまだやっていなかった筈。
無論、私が実験台になった記憶もない。なのに私は、此処にいる。いつの間にか日本国に瞬間移動し、剰え、35年も前の時代に、タイムスリップして。

「見つけたぞ」


205 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:22:22 Esl2USj.0
 背後から、無慈悲な断罪者の声が聞こえて来た。
十数cm頭上を、高速で何かが通り過ぎるのを私は感じた。何かが通り過ぎたその後で、漸く何かが通ったと認識出来る程の速度。
ミシミシと、背を預けていた大樹が嫌な音を立てて行くのを私は聞き、急いでその場から倒けつ転びつと言う様子で距離を取る。
ずぅん、と地面を緩く応えさせて、大樹が地面に倒れた。あのままいたら、樹に押し潰されて死んでいた事だろう。

 背を預けていた大樹の向こう側には、軽鎧を身に纏い、光り輝く剣身をもった、絢爛な長剣を握る戦士がいた。その背後には、スーツを纏う壮年が構えている。
戦士の後ろにいる男が、魔術師である事を私は知っている。理解が追い付かないのは、戦士の方。私の瞳に映る、セイバーと言うクラス名、そのステータス。
この表記の意味を、私は知っている。あの軽鎧の男は、セイバーのクラスのサーヴァント。そして此処冬木は、聖杯戦争の舞台なのだ。

 過去に此処で、聖杯戦争が行われていた事は、魔術師達の間では有名な事実だ。
無論、カルデアの根幹を成すシステムの一つに、に冬木の英霊召喚のシステムを流用している事を知っている私が、その事実を知らない訳がない。
知っているからこそ、絶望もひとしおだった。よりにもよって、聖杯戦争が行われているその年代に、私が飛ばされる何て……!!

「セイバー。お前なら解るだろう。この少女は聖杯戦争のマスターだ、此処までの魔力は一般人にはあり得ない。早急に始末しろ」

「そのようだな。丸腰の女を斬るのはあまり良い気持ちはしないが、恨むなら自分の不運を祈ってくれ。楽に殺してやる」

 言って、セイバーは長剣を構え、此方に鋭い目線を送る。
呼吸すらままならない程の恐怖が、私の胸中を支配しているのが解る。何か言葉を発そうにも、言葉が腹から喉に上がるその最中で、粉々に霧散して消えてしまう。
結果、口から漏れるのは「ひっ……!!」と言う情けない声だけ。サーヴァントとはとどのつまり英霊、抑止力の側に属する高次の精霊である。
つまり、とてもじゃないが人間の魔術師風情が勝てる相手ではない。況して相手はセイバー。三騎士は対魔力と言うスキルをデフォルトの状態で保有しており、
これがある限り人間の魔術師が彼らに対して優位に立てる道理はない。私は既に、チェックメイトに等しい状態であった。

 ――どうして。私は、こんな目に遭うの?
小娘が人理の存続を約束出来るのか、と、私の巣であるカルデアや、カルデアに出資と言う形で協力してくれる多方面からも疎まれ煙たがられ。
実力を以て有能さを見せ付けようにも、カルデアで特に重要になる、マスターとしての資質も持たず。誰も私を認めない。それが、私の人生の全てだった。
皆が私を認めてくれるだろう案件、つい最近確認された、2016年の7月に発生する人類の文明の滅亡。それを解決する機会から最も遠い位置に、今や私は飛ばされている。
無能な上に小心者だと、カルデアの皆は私を笑っているのだろうか? レフも、今度ばかりは、私に愛想を尽かしているの……?

 嫌。嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ!!
誰にも認められてない、誰にも褒められてない、評価もされてない、好かれてもない!!
魔術師としての修業をサボった事だって1日もない、勉強だって子供の頃からずっと頑張って来た!! 
頑張った成果を誰にも見せつけられないで、誰からも凄いねと言われないで、誰からも流石はアニムスフィアの当主だとも認められないで……。
こんな極東の島国の、私の事など誰も知らない1980年で、死にたくない!! 世界の危機を前に逃げ出した小娘だなんて、思われたくない!!

 助けて!!
――私は、救われたい!! 世界だって、救いたいのよ!!

「――君の願いを、確かに聞き入れた」


206 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:22:49 Esl2USj.0
 それは、爽やかな青年の声だった。
その声は私の幻聴であった訳ではなく、目の前の魔術師とセイバーのサーヴァントにも聞こえる現実の声だったらしい。
マスターが「警戒しろ!!」、と叫んだ時、キィンッ!! と言う音と同時に、セイバーの手から光り輝く長剣が弾き飛ばされ、宙を舞っていた。
バッ、と私の前に、見事な黒髪をポニーテールに纏め、左手に鋼色のガントレットを装備した、青い色のコートが清潔で綺麗な、長身の男が現れた。
懐に差した刀の鞘。剣を差す部位から言って、剣士と言うよりは寧ろ、日本における剣士の呼称、『サムライ』の方を私は想起した。その男の背に隠れる私の立ち位置が、何だか、美女を守るナイトの様な感じがして――。

「もう大丈夫だ。君の命は僕が護るよ、マスター」

 言って男は、此方に顔を向けて来た。
翡翠にも似た緑色の瞳がとても美しい、顔立ちの整った青年だった。
肌の色から言って東洋系の人物なのは間違いないが、顔立ちの整い方は、西欧系のそれ。笑みを零したその顔と、口にしたそのセリフに、私の顔が赤くなった。

 何か言葉を発そうとするが、奇妙な魔力の収束を、私は左手に感じ、其処に目線を送った。
これを私は知っている。サーヴァントとマスターの主従関係が結ばれた時、或いは、聖杯戦争への参加者の選定の証。つまり、令呪が私の左手甲に刻まれているのだ。
三つ首の蛇を模した形に、私は見える。遂に私は、マスターとして――!!

「如何やら、マスターとして認められたみたいだね。おめでとう」

 柔らかく優しい声で男がそう言った。
そして、彼のクラスが露になる。クラスは――『セイヴァー?』。救世主のサーヴァント、と言う事だろうか。
一瞬疑問に思ったが、私はとても嬉しくなった。人理の存続を願い、そしてこれから滅亡から人類を救済する組織の長たる私には、これ以上となく相応しいサーヴァントだった。

「安心して欲しい、マスター。君の若く美しい命は、この僕『フリン』が護るから」

 言ってフリンと呼ばれるセイヴァーは、懐の鞘から刀を引き抜いた。闇夜の中でも鋼色に白々と輝いているように見える、一目見て解る名刀だった。
その佩刀で、私の目の前の危難を救ってほしい。そして出来れば――カルデアまでついて行って、世界の事を、救って欲しい。この男ならそれが出来る。そう思わせるだけの力強さが、フリンにはあった。

「貴様……何者だ!!」

 セイバーの男が、何かに怯えたように叫んでいた。ステータスは、圧倒的に此方が勝っている。
その実力差に、恐怖しているのだろう。私は、そんなサーヴァントを御せている自分が、とても、とても――誇らしくなった!!

「――人類の救済者さ」

 そう言ってフリンは、風のようにセイバーの下へと迫り、彼を一太刀で四分割し、三騎士の一角を簡単に殺して見せた。
生まれて初めて味わったと言っても過言ではない高揚感と達成感、そして自尊心が満たされる感覚の中で見た、私の引き当てたサーヴァントの勇姿は――。
彼、フリンの事を、私を救う王子様と思わせるに相応しい力が、あるのだった。


207 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:23:09 Esl2USj.0
【クラス】

セイヴァー

【真名】

フリン@真・女神転生Ⅳ FINAL

【ステータス】

筋力A+ 耐久A+ 敏捷A 魔力A 幸運D 宝具EX

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

人界の救世主:-
セイヴァーは間違いなく人の世を救っただけでなく、幾つもの並行世界の基点である、いわば特異点と呼んでも差し支えのない英雄であった。
人間以外の全ての存在のステータスをワンランクダウンさせるスキルだが、何故か今回のセイヴァーについてこのスキルは『一切機能していない』。

【保有スキル】

???:EX
セイヴァーの手によって意図的に隠蔽されているスキル。隠蔽されているとはいえ、ある程度のランクの看破スキルがあれば見抜かれるし、このスキルの性質が消えてなくなったと言う訳ではない。

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではセイヴァーに傷をつけられない。

魔術:A+
悪魔や神霊に師事した事で、様々な魔術をセイヴァーは扱える。

カリスマ:A+
人々に希望を齎すチャンピオンとして、そして、人類の救世主としての圧倒的カリスマ。ここまでくると人望ではなく『魔力、呪い』の類である

話術:A+
言論によって人を動かせる才。卓越した話術により国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。
カリスマや叛骨の相を持った存在にですらも有効に働くが、特に、大衆に対してセイヴァーの話術は有利に働く。

再生:EX
リインカーネーション。終末と創造、無限の象徴。凄まじい勢いで傷が回復し、ランク次第では回復阻害の宝具ですら、傷が癒せるか解らない程。
そしてセイヴァーの再生スキルは更に極まっており、霊核を破壊された状態、または消滅の状態から完全に復活する事が出来る。
但し再生に掛かる魔力は尋常ではなく、再生を経る度に掛かる魔力は掛け算的に増えて行く。オルガマリーレベルのマスターであっても、三回が関の山。
また、マスターが死亡した状態で再生は発動せず、マスター不在状態で消滅させられれば、真実セイヴァーはこの世から消え失せる。

【宝具】

『人の世に『救済』を(チャンピオン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:測定不能 最大補足:測定不能
岩盤に空を覆われた東京に於いて、超人的な活躍と公明正大で慈悲深い英雄的な精神、そして平和を深く愛するその性格で、東京の光となったセイヴァー。
その彼の英雄譚が宝具となったもの。セイヴァーは己のクラス名或いは真名を知っているNPCが、セイヴァーに『世界を良くしてくれるのではないか』と言う、
希望的観測或いは信仰心を抱いた時、セイヴァーはそのNPCが抱いた信仰心から魔力を供給。現界或いは攻撃に使う魔力に転用させる事が出来る。
一人あたりのNPCから得られる信仰心は微々たるものだが、セイヴァーを信仰する者が増えれば増える程、セイヴァーは莫大な魔力を一身に受けさせる事が出来る。


208 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:23:25 Esl2USj.0
【weapon】

備前長船:
セイヴァーの振う業物。悪魔と打ち合えるだけの力を有している。
これに、セイヴァーの膂力と、セイヴァーが有する様々な剣技が合わさると、途方もない殺人剣に姿を変える。

【人物背景】

空を岩盤に覆われ、太陽の光が差さぬ街となった東京。其処に蔓延っていた悪魔の勢力や天使の勢力を、人の身で次々と倒して行き、
更には狂暴な悪魔を使役する阿修羅会やガイア教団に壊滅的な打撃を与え、救世主として東京中に知れ渡っていた男。
一方的に期待を向けられているという非常にプレッシャーのかかる立場にある中、毅然とした態度を見せ、見事世界を救って見せ、真実救世主として活躍した。
 
【サーヴァントとしての願い】

????




【マスター】

オルガマリー・アニムスフィア@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】

元の世界にセイヴァーと共に帰還

【weapon】

【能力・技能】

魔術師の名家であるアニムスフィア家の当主として、並の魔術師を超える程の魔力回路と魔力の総量を持ち、本人の魔術の冴えも非常に凄い。
だが、性格が小心者の為、戦闘に適した人物ではない。

【人物背景】
 
魔術師の名門アニムスフィア家の当主であり、人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長を務める女性。
本来ならカルデアの所長の座を継ぐ人物ではなかったが、3年前に父が急逝した事により、急遽所長になってしまった女。
魔力は高いもののマスター適正が無い(同時にレイシフトも不可能)という、貴族魔術師の家系の者としては致命的な欠陥を持つ体に生まれついた為、魔術師の世界では蔑ろにされ、誰からも省みられずに生きてきた。

グランドオーダー開始前の2015年、主人公がカルデアを訪れる前の時間軸から参戦

【方針】

セイヴァーと共に冬木を脱出。あわよくば、聖杯も回収する


209 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:23:39 Esl2USj.0
.             





「貴様……何者だ!!」

 セイバーが叫んだ。
パスを通じて、このサーヴァントが恐怖しているのが伝わってくる。このサーヴァントの経歴を、スーツの魔術師は聞かされている。
優勝を狙いに行っても問題のない優等生。自身のサーヴァントに相応しい傑物。それが、彼がセイバーのサーヴァントに下した評価だった。

 それが何故、此処までの恐れを抱いているのだ? 念話で男は訊ねてみた。怒号に等しい悲鳴で、セイバーが伝えた。
このセイヴァーと言うクラスのサーヴァント、フリンを名乗る男は、人間ではない。一目見て解ったと言う。
このサーヴァントは――正真正銘の怪物が、人間のフリをしている、恐るべき存在であると。

 引き抜いた鋼色の刀を構えて、フリンが此方に目線を投げ掛けた。

「――人類の救済者さ」

 その言葉を口にしたフリンの笑みは、救世主(セイヴァー)のクラスにはとても相応しくない、悪辣で、邪悪で、超自然的な恐ろしさを感じる笑みだった。
やっと、スーツの男はセイバーが恐れていた理由を理解した。この男は、サーヴァントではない。いや正確には、『サーヴァントとして呼ばれるべき存在ではない』。
その事に気付いた瞬間には、セイバーが頭頂部から股間まで縦に真っ二つに、臍の当たりから真横に胴体を寸断された光景を壮年は見た。
簡単にセイバーに斯様な末路をくれてやったセイヴァーの笑みは、変わらず悪辣で邪悪で――先程までエメラルド色だった瞳は、ルビーの如く赤く血走っていた。

 次は私の番、と言う事を認識するよりも速く、壮年は心臓を一突きされ殺された。
その光景を、熱っぽい表情で、オルガマリーは眺めている。自身が呼び出した存在が、サーヴァントに枠に当て嵌めての召喚ですら、危険な存在であると露とも知らずに。




【クラス】

セイヴァー

【真名】

シェーシャ(今はフリンと名乗っている)@真・女神転生Ⅳ FINAL

【ステータス】

筋力A+ 耐久A+ 敏捷A 魔力A 幸運D 宝具EX

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

人界の救世主:-
セイヴァーはこのスキルを有さない。何故ならばセイヴァーは人類の救世主であるフリンではなく、そのフリンに敗れた偽りの救世主、クリシュナが使役していた龍神が、フリンを装っているに過ぎないからである。

【保有スキル】

竜の因子:EX
セイヴァーは竜の因子を引き継いでいるどころか、正真正銘の竜種そのものである。ステータスの異様な高さは、このスキルに起因する。
但しサーヴァントとして召喚された現在では、本来の姿である竜(シェーシャ)としての姿には変身出来ず、ブレスも吐けない。
そして何よりも、このスキルのランクEXとは『正当な竜』であると言う意味の規格外を表すEXである。セイヴァーの場合、受ける竜属性特攻のスキル・宝具の効力が、通常の10倍になる。

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではセイヴァーに傷をつけられない。
セイヴァーは元を正せば、ヒンドゥー教の最高神であるヴィシュヌと共に瞑想を行う、彼の配下である龍神である。
単体ですら絶大な力を持つ龍王・ナーガの一族、その中でも王と呼ばれる程の個体であるセイヴァーの対魔力は、最高クラス。
本体で召喚されれば、真実如何なる魔術も通用しなくなるが、『フリン』としての殻を被っての召喚の為、ランクがダウンしている。

魔術:A+
英雄・フリンとしての殻を被っているセイヴァーは、彼に勝るとも劣らぬ様々な魔術を憶えている。

カリスマ:A+
人々に希望を齎すチャンピオンとして、そして、人類の救世主としての圧倒的カリスマ。これも、フリンを殻にする事で習得した。
本当のフリンはそのカリスマを利用する事はなかったが、このセイヴァーは自身の目的の為にそれを悪用する。

話術:A+
言論によって人を動かせる才。卓越した話術により国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。カリスマ同様、フリンを殻にする事で習得。

再生:EX
ヴィシュヌと共に在る龍神・アナンタ或いはシェーシャとしての権能。万物の始まりと終わり、そして∞を象徴するこの龍神は、
本来彼と同等以上の神格或いは神秘を内包した攻撃でなければ、傷一つ負わないばかりか、縦しんば消滅させたとて完全な状態で復活すると言う、
まさに『再生』の名に相応しい程の力を持っていた。サーヴァントとして召喚されたばかりか、フリンと言う人間の殻を被っての召喚の為、再生スキルは龍神であった頃とは比較にならない程弱体化している。


210 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:23:53 Esl2USj.0
【宝具】

『無限蛇よ、魂を喰らえ』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:測定不能 最大補足:測定不能
セイヴァーが装うフリンと言う英雄の殻に、生身の人間或いはNPCが、信仰心及び希望的観測を抱いた時に発動する、自動発動型の宝具。
『人の世に『救済』を』、と言う宝具名はセイヴァーが意図的に名前を改竄させたもので、此方が真の宝具名になる。
セイヴァーは、セイヴァー自身に寄せられた期待や信仰心を糧に魔力を徴収する事が出来る。とどのつまり、魂喰いと何ら変わりはない。
元を正せばこの龍神がフリンに化けている訳は、こう言ったやり方で魔力や信仰心、魂を回収した方が効率が良いと彼自身が思ったからに他ならない。
この宝具の悪辣な点は、この宝具が発動していると言う事実及び何を基点に発動するのかと言う事が知られ難い事もそうだが、
生まれ出た信仰心から魔力を徴収する為数回に渡り魔力を供給させ続ける事が可能な点が一番悪辣。
そしてこの宝具自身、原理としては『信仰心を通じて行う魂喰い』である為、魔力を徴収され続けたNPCや人間マスターは、魂を失った状態になる(厳密には死亡ではない)。

『宇宙卵(クリタ=ユガ)』
ランク:EX 種別:宇宙創造宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
セイヴァー、もといシェーシャに課せられた真の役割及び、その性質が宝具となったもの。
セイヴァーの正体は宇宙卵と呼ばれる、新しい宇宙の源をその内部に宿した卵である。セイヴァーのその性質は、宝具ランクと同等の看破スキル・宝具でなければ見抜けない。
この宝具が発動すると、上記にもある通り真実、新しい宇宙(世界)が生まれる。その世界は既存の抑止力が働かない新しい世界であり、サーヴァントになる前のセイヴァーは、
この世界で主であるクリシュナや、クリシュナに同調する多神教の神々と共にユートピアを築く事を夢としていた。
しかし宇宙の創造と言う、魔法の域を遥かに超えた、最上位の中の最上位の神秘に相当するこの宝具の発動は不可能。
冬木市の全NPCどころか全世界のNPCの魔力を徴収した所で、令呪を千画用意した所で、サーヴァントとして格落ちしているセイヴァーではこの宝具は絶対に発動出来ない。
この宝具を、セイヴァーとしての型に当て嵌められて召喚されたシェーシャが発動させられる方法は、ただ1つ。聖杯を手に入れ完全に受肉した後、世界中のNPCから信仰心を通じて魂を喰らう事である。

【weapon】

備前長船:
フリンとして振る舞う為のアイテム。フリン当人も、剣術の達人だった。

【人物背景】

先述の通り、このサーヴァントの正体はフリンではない。彼の正体はシェーシャと呼ばれる、ヒンドゥー教の三主神であるヴィシュヌの遣いである龍神である。
嘗てはクリシュナ、オーディン、マイトレーヤ、ケツァルコアトル、バールなどと言った名だたる神々で構成された多神連合の要として機能していたが、二人の神殺しによって斬殺された。

竜種、その中でも神とすら呼ばれる個体であるこの幻想種は、聖杯程度の力では分霊すら召喚させられない程の大怪物。
仮に、本来の姿で召喚される事があれば、万に届く程の数の英霊が集まった所でどうにもならない程の戦闘力を持つのだが、
現在はフリンと呼ばれる、シェーシャが活動していた世界では特に有名だった英雄を殻として被っていた時の状態で、聖杯戦争に参戦。
これにより辛うじて、サーヴァントとして召喚されうる基準をギリギリ満たしたとされ、マスターであるオルガマリーに召喚されるに至っている。

【サーヴァントとしての願い】

受肉。そして、生前叶わなかった新宇宙の創造。

【把握媒体】

フリン:
原作ゲームの終盤までの把握が必須。プレイ動画が転がっていれば、それの把握が一番良いかも知れません。ちなみに前作を把握する必要性はゼロに等しいです。

所長:
原作序盤までプレイすればOK。今なら動画も転がっている筈。


211 : カリ=ユガの終わり ◆zzpohGTsas :2016/07/06(水) 23:24:04 Esl2USj.0
投下を終了します


212 : ディートハルト・リート&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/08(金) 06:29:38 vI5MzOqo0
投下します。


213 : ディートハルト・リート&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/08(金) 06:30:36 vI5MzOqo0
信号機が赤になる。
進行不可の印を認めたディートハルトは、横断歩道の前に黒塗りの国産車を停めた。

1980年代も半ばになると、安定成長を迎えた日本では単純労働が敬遠されるようになる。バブル景気が日本で起こると外国人労働者が合法、違法問わず大量に流入した。
しかし昭和五十五年、10年後に比べると在留外国人はさほどその数を増やしていない。


窓ガラスから通りに目を向ける。
立ち並ぶ街灯に照らされる通行人は髪や瞳が黒い者が多く、顔も奥行きが少なく平ったい。日本人だ。
エリア11とは印象がまるで違う。ブリタニア占領下のトウキョウ租界に慣れた彼からすれば違和感はあったが、これが極東事変前の日本。これこそが黒の騎士団の目指すもの。

信号が青になった。宛がわれた愛車を走らせる。一般的なブリタニア人なら苦々しく顔を歪めるのだろうが、ディートハルトからすればどうでもよかった。
彼はブリタニア繁栄にもニッポン再建にも関心が薄い。黒の騎士団に加わったのは決して理想や大義のためではなく、日に日に渇いていく心に清水をたっぷりと注いだ「ゼロ」に魅せられたからに過ぎない。

その「ゼロ」も黒の騎士団から追放されてしまった。不本意ではあるが、彼はあれで完成したのだろう。
宙ぶらりんの気持ちを切り替えて、シュナイゼルを新たな撮影対象に据えた矢先、此度の戦いに招かれてしまった。


流れていく景色を視界の端に捉えつつ、ディートハルトは冬木市に来てからの日々を回想する。
無断で連行された形ではあるが見るもの全てが新鮮で、こちらに来てからふとした拍子に、景色をぼうっと眺めることが度々あった。
多忙の合間を縫って情報を集めてみたが、調べれば調べる程に過去へタイムスリップしたという確信は強まり、そもそもディートハルトのいた世界とは歴史の歩み方が違っている。

―なんて貴重な経験なんだ!

宝くじを一枚だけ買って、それが一等に当選したような歓喜。初めての海外旅行でもここまで興奮しなかった。
抑えていないと身体が勝手に踊り出す。
未知との遭遇が、主催者への怒りを和らげていく。

≪ディートハルト…≫

TV局から自宅に向かう道を辿るディートハルトに声が浴びせられた。車内に彼以外の姿はない。
契約したサーヴァントの帰還を知った彼は、緩んだ口元を引き締める。

≪ああ、戻りましたか。ライダー≫

彼に宛がわれた英霊は奇しくも日本人の王だった。教えられた真名を調べたところ、ぶっちぎりで知名度のある英霊だった。
能力の高さはそのせいらしいが、名前が知られている事は弱点が露見する危険性、発覚までの速度も高くなることを意味する。
ヘラクレスの毒、ジークフリートの背中、アキレスの踵。逸話や伝説の再現であるサーヴァントにとってそれは致命的だ。
自身のマスター適性の低さも相まって、ディートハルトも素直には喜べない。

≪アサシンを一人仕留めた。マスターの方は喰らった≫

上々です、と返すと顎を引いて小さく頷く。
ハンドルを切り、自宅マンションの駐車場に入った。
まもなく適当なスペースに愛車を停めたディートハルトは、自宅に向かって歩き始める。


214 : ディートハルト・リート&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/08(金) 06:31:09 vI5MzOqo0
≪如何ほど回復できました?≫

≪魔術師だったらしいのでな、消耗を取り戻して余るが……あれを動かすには数が足りぬ≫

階段を昇るディートハルトの表情が渋くなる。
とはいえ予想は出来ていた。ライダーが言っているのは『賛美せよ、偉大なる名を(黄金魔神像)』の事だ。
敗れた際に人格を移す事で、現世に少しの間留まる事が出来る宝具。
本来想定された機能は発揮できないらしいが、並のサーヴァントならマスターもろとも踏み潰せる圧倒的な巨体と数々の内蔵兵器は魅力的だ。
保険として用意しておいてもよかったが……。

(だが、欠点も多い……)

高層ビルを上回るという巨大さも隠密性に欠けると言い換える事もできるし、何より発動できるのはライダーが倒れた後。
あくまでも溜めておいた魔力を燃やして、消滅を先延ばしにするだけ。展開してしまえば魔力を継ぎ足す事すらできない。

魂喰いの回復量次第では戦力に数えても良かったが、こうなると旨味もいよいよ薄く感じる。
黄金魔神像を無視するなら、宝具は二つ。それも片方は単体で展開できないので実質宝具は一つ。
一組の宝具はシンプル故に強力だが、コストは安くない。

魔術や異能に縁が無いディートハルトでは、ライダーを思うさま暴れさせることができない。
供給できる魔力が乏しい以上、魂喰いは勿論行っていくが、ルーラーに目をつけられるような振る舞いは避ける。


ディートハルト自身に聖杯に託すような願いはない。
カメラを向けるだけの被写体があればそれでいい。聖杯戦争はきっとそれに値する。
多くの願い、歓喜、慟哭、謀略が交錯する混沌の大嵐がこれから街を包むだろう。本格的に始まっていないこの段階で脱落するなど。

(……首尾よく勝ち残ったならば)

元いた世界に彼を放り込んでもいい。
ゼロ――ルルーシュとシュナイゼルが争うブリタニアに。
ライダーはどう動くだろう。人ならぬ幻魔の王はあっさり死ぬか、それとも世界を握るだろうか?



扉に手を掛けると、ディートハルトは思考を打ち消した。
それは今考えることではない。しばらくは身を潜めねばならないし、それに…。

(記録映像は冬木から持ち出せるのでしょうか……)

今回の戦いは後世まで残しておかねばならない。


215 : ディートハルト・リート&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/08(金) 06:31:37 vI5MzOqo0
【クラス】ライダー

【真名】織田信長

【出典作品】鬼武者2

【性別】男

【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷C 魔力B+ 幸運B 宝具A+

 幻魔王   筋力A(=60) 耐久A 敏捷B 魔力A+ 幸運B 宝具A+


【属性】
混沌・悪


【クラススキル】
対魔力:C(B)
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
 宝具を発動する事でカッコ内のランクに修正。展開中は魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。


騎乗:C(EX)
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせる。
 宝具に魂を移した時点でカッコ内のランクに修正。魔神像を手足のように自由に操る事が出来る。


【保有スキル】
カリスマ:B+
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
 幻魔王となったライダーは、魔物や魔獣の性質を持つ相手から特に人望を集めやすい。


軍略:B
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。


飛行:-(B)
 幻魔王に変身している間、翼で空を飛ぶ。
 飛行中の敏捷値はスキルランクで計算する。


人間狩り:A
 同胞を人食いの幻魔に差し出した外道の証。
 半神や魔物、サイボーグなどでない「純粋な人間」との戦闘において、有利な判定を取れる。


【宝具】
『冥府を踏破せし人界の王(幻魔王)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 完全な怪物と化したライダーの肉体。
 展開中はステータス、対魔力スキル、飛行スキルをカッコ内のランクに修正する。
 消費が増大する代わりに大きく戦闘力が向上するほか、下記宝具が解禁される。


『幻魔五星剣(げんまごせいけん)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1人(追尾対象)
 森羅万象を操る大剣。
 上記宝具を展開したライダーが魔力を込める事で火炎、冷気、暴風、岩石、稲妻を発生させて、標的にぶつけることができる。
 最大補足の1人というのは一度にロックできるのは1人という意味であり、レンジ内に複数の敵がいた場合は巻き添えを喰らわせることが可能。

 また地面に五星剣を突き入れる事で、ライダーは回復行動を取る事が出来る。
 回復行動中は地脈に流れる力を自身の負傷治癒や疲労回復にあてることができるが、その場から一歩でも動くと回復行動は解除される。


『賛美せよ、偉大なる名を(黄金魔神像)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100人
 髑髏の顔と四本脚を持つ巨大な黄金の像。
 ライダーが注いだ魔力を内部に貯蓄し、展開中の動力源とする。
 本来なら魔神像が放つ負のエネルギーによって民衆を洗脳、信長を神と崇めさせる仕掛けがあったが逸話として確認されていない為に使用不可。

 霊核が損傷した時点でこちらに魂を移して戦闘を再開できる。ライダーの人格を得た魔神像は、一個の機動兵器として活動を開始。
 巨体による押し潰し、火炎放射、無数の能面型の飛び道具、足元から隆起する骨柱、能面から吐き出される毒ガスなどで敵陣を蹂躙する。

 ただし宝具によって現世に留まっているだけに過ぎないので、この状態で聖杯戦争を続けることはできない。
 発動した時点でマスターからの供給を受けることはできなくなり、内蔵魔力を使い果たした時点でライダーの魂ごと魔神像は消滅する。


【weapon】
無銘:長剣

無銘:軍馬


【人物背景】
尾張地方を治めていた大名。日本一有名な戦国の革命児……の何処かの世界線の話。
桶狭間の戦いで討ち死にした彼は、高等幻魔ギルデンスタンの施術によって復活を遂げる。

このときに幻魔の血と人間の血が混じり合った結果、信長は突然変異的に強大な力を獲得する。
初代幻魔王である創造神フォーティンブラスが左馬介に倒された後、混乱する幻魔界を天性のカリスマと絶大な魔力をもって束ね、新たな幻魔王の座に就いた。


【聖杯にかける願い】
完全な状態で復活する。


216 : ディートハルト・リート&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/08(金) 06:32:00 vI5MzOqo0
【マスター名】ディートハルト・リート

【出典】コードギアス 反逆のルルーシュR2

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「諜報」
マスコミ関係者だったからか、情報の扱いに長ける。
黒の騎士団においては情報全般・広報・諜報・渉外の総責任者に任命されていた。


【ロール】
TVプロデューサー。


【人物背景】
Hi-TVエリア11トウキョウ租界支局報道局に勤務するブリタニア人。
高い判断力と推察力、強い好奇心を備えた人物だが「完成された素材」であるブリタニアには興味が薄く、クロヴィス治世下では淡々とした仕事状況に辟易していた。

枢木スザク強奪事件を機にゼロに撮影対象として一目惚れし、彼が起こす世界の変化を特等席から撮影する為にテロ組織「黒の騎士団」に加わる。
ゼロが窮地に陥った際も必死にフォローに回ったが、挽回不可能とみると遂に匙を投げ、彼の名声に傷をつけない形で「ゼロの最後」を記録しようとした。

TURN22「皇帝 ルルーシュ」終了後から参戦。


【聖杯にかける願い】
ライダーを受肉させる。それ以上に聖杯戦争を記録したい。



【把握媒体】
ライダー(織田信長):
 カプコンから発売されたPS2用ソフト。戦国サバイバルアクションゲームの第2作目。
 本編での登場はOPと最終盤のみ。動画での把握も可能。


ディートハルト・リート:
 テレビシリーズ第1期が全25話と総集編2話+第2期が全25話。
 DVD、Blu-rayなどで視聴可能。


217 : ディートハルト・リート&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/08(金) 06:32:50 vI5MzOqo0
投下終了です。


218 : ディートハルト・リート&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/08(金) 06:37:49 vI5MzOqo0
いきなりで申し訳ありませんが、文章を以下のように修正します。


展開中はステータス、対魔力スキル、飛行スキルをカッコ内のランクに修正する。

展開中はステータス、対魔力スキル、飛行スキルを専用のランクに修正する。


219 : ◆99XAxgXU92 :2016/07/08(金) 21:05:55 ela9Smfg0
投下します


220 : 東方仗助&キャスター ◆99XAxgXU92 :2016/07/08(金) 21:06:22 ela9Smfg0



 

   十分に(高度に)発達した科学は魔術と見分けがつかない
 Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.



                            ――――アーサー・C・クラーク




.


221 : 東方仗助&キャスター ◆99XAxgXU92 :2016/07/08(金) 21:07:19 ela9Smfg0



 人は見た目が九割だ。人相が悪くても優しい男だとか、顔は醜いが天使のような人格者、だなんて人物は、殆ど創作の世界だけにしかその存在を許されていない。
 強面の男は大概が人相通りの性格をしているし、虐げられ続けた醜人もまた、成長の中で人格を複雑怪奇に捻くれさせているものである。
 無論これは言ってしまえばただの決め付けで、決して全ての人間に対し当て嵌まるようなことではないが、ある程度的を射ているのは確かだろう。
 その点で、この男は例外だった。
 改造された学ランを誰に憚ることもなく堂々と着こなし、頭のリーゼントは整髪料できっちり固められ、今日も見事に天へと伸びている。
 もし見た目だけで彼の人となりを分析しろと命じたなら、百人の中の百人が“不良”と答えるに違いない。

 だがその実、彼は不良や破落戸といった人種とは全く縁の遠い人間だ。ただ見てくれが人と変わっているだけで、彼自身は驚くほど普通の良識的な人物である。
 カツアゲや性犯罪のような許されざる行いに手を染めたことは誓ってないし、親や家族、友人のことは人一倍大事に思って尊重している。
 特別天才じみた頭の良さを持っているわけではないが、かと言って学力が特別低いわけでもない。そういう点でも、彼は見た目以外はやはりごく普通の学生だった。

 いや。正確にはもう一つ、彼には普通ではない特徴がある。しかしそれを認識できる人間は、彼と同じように普通ではない者だけだ。
 スタンド能力という不可視の力が、この世には存在する。常人には認識することも出来ない、選ばれし者だけが知覚することのできる力が。
 少年は、その“選ばれし者”だった。彼がスタンドを発現せず、平和に生きるという未来は、きっと最初から存在しなかったに違いない。
 百年前から続き、既に両者が死んでいるにも関わらず、途切れることなく複雑に絡み合ったとある男との“血筋の因縁”――邪悪と戦うという宿命がある限り。

 東方仗助は、心優しい少年だ。そしてその優しさは、彼の能力にも現れている。この世のどんなことよりも優しいスタンド能力を、彼は持っている。
 クレイジー・ダイヤモンド。その能力は、他人の傷を癒やすというものだ。死んでさえいなければどんな外傷だって立ち所に治してしまえる、彼だけに許された力。
 もちろん、ただ優しいだけではない。仗助は悪や卑劣な行いを決して許さないし、誰彼構わず見境なく助けるようなお人好しでは決してなかった。
 要するに、仗助は正義の人なのだ。黄金の精神を若い脳髄に宿し、正義のために戦う心優しい人間賛歌……『ジョースター』の血を引く不朽の輝き(ダイヤモンド)だ。

 仗助にはたくさんの仲間がいた。自分の日常が本格的に変化していくきっかけとなった空条承太郎に、最初は敵だった馬鹿で憎めない虹村億泰。
 性格こそ控えめだが、ここぞという時の勇気は目を見張るもののある広瀬康一、偏屈でどうしようもない人間だが、そこが良さでもある人気漫画家・岸辺露伴。
 その他にも、名前を挙げきれないほど、仗助には仲間がいる。……しかし、今はいない。今、この見知らぬ世界で、仗助を助けてくれる顔見知りはどこにもいなかった。

 ――聖杯戦争。それが、東方仗助の巻き込まれた戦いの名前だ。

 マスターと呼ばれる人間が一体のサーヴァントなる存在を使役し、互いに戦い合わせる。
 最後の一組まで生き残った主従のみが賞品の“聖杯”を手に入れることができ、聖杯を手に入れた者は、その力で自らの願いを何でも叶えることができるという。
 まるで子供の妄想のような話。仗助も最初は、とてもじゃないが信じられなかった。これまでに巻き込まれたどの騒動と比べても、あまりにスケールの桁が違いすぎる。
 ……正直なところを言わせてもらうと、今でも半信半疑だ。誰かが自分を驚かせるために盛大なドッキリを仕組んでいるんじゃないかと時折疑ってしまう。


222 : 東方仗助&キャスター ◆99XAxgXU92 :2016/07/08(金) 21:07:42 ela9Smfg0
「ワケの分からねー事態だが……願いが叶うなんつー都合のいい話に尻尾振ったりすんのは、ちぃとグレートじゃあねえな」

 仗助は、聖杯戦争に乗るつもりなど欠片もなかった。むしろその逆。どうにかしてこの妙な昔じみた世界から抜け出そうと考えている。
 
「願いを叶えてやるって言えば聞こえはいいけどよ……要は俺達に殺し合いをしろってことだろ。そういう趣味の悪いゲームは、生憎お断りだぜ」

 誰かを殺してまで叶えたい願いなど、仗助にはない。精々が「こうなったらいいなあ」という希望程度のもので、躍起になって叶えようとする程のものとは言えなかった。
 聖杯を使えば死んだ人間を生き返らせることもできるだとか、そういうことを言われても、仗助は考えを変えるつもりはない。
 確かに、失われてしまった命は数多くある。祖父の良平。億泰の兄・形兆。重ちーに、吉良吉影という殺人鬼に殺された山ほどの命。
 取り戻したいとは当然思う。だがそのために聖杯に頼り、あまつさえ更なる死を誰かにもたらそうなどとは、仗助にはとても思えなかった。それは、“悪”の考えだ。

「だから俺ぁ、聖杯戦争ってヤツからとっとと帰りますよ。もし同じこと考えてる奴がいればそいつらとも一緒に、ね」

 これまでに、仗助は様々なスタンド能力の使い手と戦ってきた。死ぬかと思ったことは数えきれないし、事実、死んでいてもおかしくなかった場面は山ほどある。
 それでも攻略法のないスタンド能力というのは存在しなかった。仗助達はいつも苦戦しながら、翻弄されながらも、最後にはそれを乗り越えてきたのだ。
 だから今回も、きっと諦めなければどうにかできる。根拠は何もなかったが、仗助は一切疑うこと無くそう信じていた。
 聖杯が欲しくてたまらないというのなら、勝手に戦っていればいい。仗助は聖杯戦争を快くは思っていないが、願いのために戦うということ自体は否定しない。
 正攻法じゃどうにもできない願いというのは、ある。それをどうしても叶えたいなら、戦うのはそいつの勝手だ。聖杯戦争を続けて、願いを叶えればいいと思う。
 だがその戦いに、戦いたくない者を巻き込むのは気に入らない。自分のように、ただ巻き込まれただけという人間も少なからず存在する筈だと、仗助は睨んでいた。

 聖杯戦争を抜け出し、元の世界に帰る。
 戦い自体を拒んで、脱出するという方針。
 それは、普通のサーヴァントであれば御すことのできない考えだ。
 サーヴァントは普通、満たされない願いや未練を抱いている。それを叶えるために、彼らも聖杯を欲する……サーヴァントとマスターは、Win-Winの関係にある。
 事実、仗助の召喚したそのサーヴァントにも……大いなる願いが、夢があった。
 
 その夢こそが、サーヴァント・キャスターの姿形を形作る機関の鎧。見果てぬ夢が生み出した重機関装甲――固有結界。最小規模の、心象世界具現化。
 彼は夢追い人だ。恐れ、嫌悪、憎しみ、嘆き。彼の装甲は、妄念と夢想の具現である。

「――我に武勇なく、覇業なく、栄光も有り得ず」
「……はい?」
「我が空想はありえた未来。我がディファレンス・エンジンに満ちた、争いなき空想世界。発展と繁栄のみがある、夢の機械に囲まれた理想の郷である」

 黒灰色のボディに人間的な要素など欠片もなく、頭部に備えられた外界認識用のレンズが真っ赤な光を灯してマスターの少年を見据える。
 仗助は彼の真名を聞いても心当たりは微塵もなかったが、知識の深い人物……例えば岸辺露伴や空条承太郎であったなら、彼の名前に驚きを見せたかもしれない。
 彼こそは、コンピューターの父。現代、未来に至るまでの発展を約束した天才碩学。
 しかし彼の死は、志半ばのものだった。階差機関は完成しなかった。解析機関も完成しなかった。全ては時代の狭間に消えてしまった。
 ありえた未来の夢だけを世界に残し、彼は死んだ。


223 : 東方仗助&キャスター ◆99XAxgXU92 :2016/07/08(金) 21:08:11 ela9Smfg0
「――それでも」

 彼には聴こえるものがある。その聴覚機関を誤魔化すことは、誰にもできない。
 この世界に響く、数多の助けを求める声が。無念のままに消えゆく者の声が。
 そして蝿声(さばえ)のようにざわめく、悪の笑い声が。

「私は君と共に在ろう、我がマスター、東方仗助。心優しき少年。蒸気の勇者(スチームブレイブ)よ」
「そいつは……協力してくれる、っつーことっスか? アンタ自身の願いを投げ捨ててでも」
「然り」

 蒸気の吹き出す音。それは人間で言うところの、頷く動作の代わりなのか。

「我は従おう。この戦いにおいて、貴様をマスターとして。
 ――我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共にある者。我が大いなる使命を、君と共に実行しよう、選ばれし者よ。私を目覚めさせた希望の勇者よ。
 私の機関が作動し続ける限り、この世界には如何なる悪も存在してはならぬ」

 蒸気王。その真名は、チャールズ・バベッジ。
 黒灰色のボディ、この世のどんな装甲とも、どんな機械とも異なった異形の原理で動く鋼鉄。
 決して砕け散るということのないダイヤモンドのような意志を持つ少年が、このサーヴァントを呼び出したのはともすれば必然だったのかもしれない。
 何故ならそのボディもまた、不壊のものであるからだ。彼の夢がある限り、機関の鎧は砕けない。夢見る心がある限り、チャールズ・バベッジは挫けない。

 仗助には、彼の言い回しは分かりにくく、ただただ難解なものにしか聞こえなかった。
 だが伝わってきたことは確かにある。このサーヴァントは堅苦しいし、なまじ知識があるから難しいことしか喋らない。
 それでも、その心には確かな正義がある。それだけで仗助は、このサーヴァントと一緒に戦うには十分な理由になると判断した。
 黄金の精神と、鋼鉄の精神。二つの堅固が入り混じって――人間賛歌は奏でられる。


【クラス】
 キャスター

【真名】
 チャールズ・バベッジ@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力B++ 耐久B++ 敏捷D++ 魔力A 幸運E 宝具A+

【属性】
 混沌・中立

【クラススキル】

 道具作成(偽):A
 キャスターは魔術師ではなく、かの発明王のように優れた発明家でもない。
 しかし彼は、自己の夢想によって体を覆い、そこから様々な蒸気機関機械を生み出すことが可能。
 曰く、高度に発展した科学は魔術と見分けが付かない。


224 : 東方仗助&キャスター ◆99XAxgXU92 :2016/07/08(金) 21:08:28 ela9Smfg0
【保有スキル】

 一意専心:C
 他に心を動かされず、ひたすら一つのことに心を集中する。
 彼の心は常に一つ。鎧の内に抱いた広大な夢のみで染め上げられている。
 同ランクまでの精神干渉を無効化し、執念の高まりで魔力をチャージする。

 機関の鎧:EX
 蒸気機関製の全身機械鎧を常に身に纏う。
 筋力と耐久力をランクアップさせると同時に、異形の蒸気機関がもたらすブースト機能によって三つの能力値に「++」の補正が与えられる。

 オーバーロード:D
 自身の体に過重負担を掛けることで、自身の攻撃力を増強する。
 ただしこのスキルは言わずもがな、キャスター自身に多大な負担がかかる。
 
【宝具】

『絢爛なりし灰燼世界(ディメンジョン・オブ・スチーム)』
 ランク:A++ 種別:対軍宝具
 彼を構成する固有結界であり、彼が纏う機関鎧であり、彼が抱く心そのもの。
 『Grand Order』では、蒸気を噴出しながら飛び上がり上空から一撃を下し、敵全体にダメージを与えつつ防御力をダウンさせる。
 彼の台詞から考えると単純な攻撃宝具ではなく、固有結界である自分自身からさまざまな機械を取り出すことが可能な宝具であると思われる。
 ストーリー上ではこの能力を利用して、ヘルタースケルターと呼ばれる機械兵士、と言うか彼自身の量産型を大量に生産・制御して、カルデア陣営の行動を阻んでくる。
 また、巨大蒸気機関「アングルボダ」を作り出し、聖杯を動力としてロンドン中を覆う「魔霧」を発生させている。

【weapon】
 機関の鎧

【人物背景】
 蒸気機関を用いた世界初となるコンピューター「階差機関」「解析機関」を考案した天才碩学。
 現代では「コンピュータの父」とも呼ばれている。
 蒸気機関によって変革された世界を夢見ていたが、結局階差機関も解析機関も生前には完成せず、夢見た未来は果たされないまま世を去った。
 その「夢見た未来」そのものが固有結界として具現化・英霊化したのが彼である。

【サーヴァントとしての願い】
 蒸気文明世界の到来


【マスター】
 東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争からの脱出。誰も殺したくはない。

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 スタンド能力 “クレイジー・ダイヤモンド”。
 近距離パワー型で射程距離は短いが、パワーとスピードはかのスタープラチナに匹敵する。
 スピードや精密動作性に関しては、仗助本人は「スタープラチナに劣る」と評しているが、それと同様に至近距離で発射された弾丸を指でつまんで止めることができるレベル。
 また、仗助がキレた時はパワー・スピードともに瞬間的にスタープラチナを凌ぐ性能を発揮する。
 特殊能力として、手で触れることで壊れた物体や負傷した生物、果てはスタンドまで元通りに修復する能力を持っている。
 ただしあくまでも「壊れたり変化した物を元の形に戻す」能力であるため、内科的な病気の治療や、負傷して流れ出た血液を元の治療した人物へ戻すことはできず、破損した部位が完全に消滅してしまった物体の復元はできない。

【人物背景】
 杜王町に住まう学生で、ジョジョの奇妙な冒険第四部の主人公。
 特徴的なリーゼントヘアに改造学ランを身に着けており、彼をよく知らない人間からは不良やヤンキー等と誤解されるが、普段は至って普通に学生生活を送っている。
 態度は温厚だが、一度激怒すると手が付けられなお。特に髪型をけなされると無条件に、そして周りが見えなくなるほど逆上し、誰であろうと見境なく攻撃する。

【把握媒体】

チャールズ・バベッジ:Fate/Grand Order第四章。またマイルーム会話、戦闘ボイスは攻略wikiでも確認できる。

東方仗助:ジョジョの奇妙な冒険第四部。大まかな性格を把握するだけなら全巻読む必要はないが、吉良吉影関連のエピソードは全て読んでおくことを推奨。


225 : 東方仗助&キャスター ◆99XAxgXU92 :2016/07/08(金) 21:08:38 ela9Smfg0
以上です


226 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/09(土) 13:46:31 b.wCaa1k0
皆様、ご投下ありがとうございます。
諸事情につき月曜日くらいまで投下が滞りますが、不在というわけではないので、質問などあれば引き続きお気軽にどうぞ。


227 : ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:34:11 VA/RDliY0
投下します


228 : フィア&クリエイター ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:35:14 VA/RDliY0





 よどみに浮かぶうたかたは
 かつ消えかつ結びて
 久しくとどまりたるためしなし





   ▼  ▼  ▼





 昭和五十五年、文明華やかなりし二十世紀。鉄と排煙に包まれた鉛色の時代はとうに過ぎ、高度な経済成長の後押しを受けた社会はより良き未来を目指して物質的な富を人々へ供給し続けている。冬木市内も例に漏れず近代化と開発を繰り返し、今や一地方都市としては中々の発展を遂げていた。

 そんな市内某所、所属する中学校を去り、少女が帰宅したのは17時を過ぎた頃だったか。
 道を歩く少女は、端的に言えばかなり目立った外見をしていた。金糸を梳いたような金色の長髪に、エメラルド色の双眸。白磁の肌は薄茶の制服の生地に映え、整った顔立ちはまるで良くできた人形のような美貌を湛えていた。
 しかし彼女の目立つ理由を極めて単純に言ってしまえば、彼女は外人さんなのだ。この時代では市井における外国人の存在というのは未だ珍しく、故に彼女は周囲から浮いた存在でもあった。しかし、その外見の秀麗さに気立ての良さ、雰囲気から滲み出る人の良さから、彼女の周囲では悪い噂はまるで聞こえてこなかった。

 道行く少女が辿りついたのは、大きな邸宅だった。庭付きの一軒家は洋風に洒落ており、手入れもよく行き届いていた。家人の趣味か、あるいは人を雇っているのか。どちらにせよ、裕福な家庭であるのは間違いない。
 夕陽が差し込む玄関を、少女は慣れた様子で開けた。蝶番の軋んだ音が小さく鳴る。

「ただいま帰りました、おばあさま」
「ああ、お帰り、フィア」

 帰宅を告げる少女に、答えたのは老いを感じさせるしわがれた女の声。
 その声の持ち主は、窓際の安楽椅子に腰かけていた。しわがれた声と「おばあさま」という呼び名に相応しい、壮年を通り越した老女の姿がそこにあった。白髪混じりの頭はそれだけ年を感じさせ、落ち着いた雰囲気は人生経験の重みを表しているかのようだった。

「どうだったねフィア、学校は楽しいかい」
「ええ。皆さんとても良くしてくださいますし、私も色々なことを経験できてとても充実しています。本当にありがとうございます、おばあさま」
「そんな畏まるのはおよしよ。おまえの世話を見るのは当然だし、何より好きでやってるんだからね」

 老女の言葉に嘘はなかった。「心」を読めば、それが内心の思考と全く同じ言葉であるのだとすぐに分かる。
 かつてはその本心を知ることを恐れ実行に移せなかったことを、しかしこの場においてフィアと呼ばれた少女は躊躇なく実行した。何故ならば、この老女はフィアの知る「本物」ではない故に。

「この街におまえが来て、そろそろ一月といったところか。どうだい、友達はできたかい?」
「……えっと、どうなんでしょう?」
「おやおや、そんな弱きでどうするんだい。これじゃあ男を捕まえてくるのも当分先になりそうで、私は今から不安だよ」
「もう、おばあさまったら」


229 : フィア&クリエイター ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:35:52 VA/RDliY0

 靴を綺麗に脱ぎ揃え、フィアと老女は他愛もない会話に興じていた。内容には少々下世話なものも含まれていたが、それも併せてフィアにとっては楽しく、そして幸せなものだった。
 フィアにとって、この老女との会話は世界で唯一安らげる時間だった。それは、この見知らぬ世界における偽物の彼女であっても変わることはない。

「それではおばあさま、一度お部屋に戻らせてもらいますね」
「おや、ついつい引きとめてしまったか。悪いことをしたねフィア、もうお行き」
「はい」

 数分の会話の後、フィアはいそいそと部屋を出て突き当りの階段を昇った。フィアの自室は二階にある。階段を昇って正面の部屋、そこがフィアに割り振られた自室だ。
 「フィアの部屋」と可愛く装飾されたプレートが掛かった扉を開き、中へ入る。小奇麗に整えられた、やや殺風景な室内がフィアを出迎えた。

 フィアは鞄を机に置き、いそいそと制服から着替えて壁のハンガーに吊るした。一連の作業が終われば、訪れるのは空虚な沈黙。
 静かにベッドに腰掛け、息をひとつ。そうしてフィアは、振り絞るように呟いた。

「……おばあさま」

 その呟きは。
 残酷な、無慈悲な運命に対する。
 やり場のない憤りにも似た、声だった。





   ▼  ▼  ▼





 フィアはこの時代の人間ではなかった。
 昭和どころか、その次に訪れる年号である平成の世の人間ですらない。彼女はおよそ200年後の未来に生きた者だった。
 何故自分がこの時代に存在するのか、それはフィア自身もよく分かっていなかった。気が付いたらここにいた、としか言いようがない。
 I-ブレインの記憶領域に書きこまれた情報でしか知らないはずの、200年前の情景はあまりにリアルだった。生活水準や生活環境も自分の元いた場所とはまるで違う。行き交う人々は魔法士なんて存在はおろか、情報端末の一つだって持っていないし知りもしない。
 そして何より、この空だ。
 見上げた空には、あり得るはずのない青が一面に広がっていた。燦々と輝く太陽、突き抜けるような青空、風に流れる白い雲に、夕陽の赤さや星の瞬き。それらはフィアのいた未来では決して見ることのできない代物で、故に彼女がタイムスリップしてしまったと考えるのは当然の帰結と言えた。
 けれど、単なるタイムスリップだとすると不可解な事象もあった。それが、先ほどフィアと会話していた老女―――七瀬静江の存在だった。
 彼女もまた、フィアと同じ時代の人間だった。孤独に俯いていたフィアの拠り所となり、その心を支えてくれた恩人。そんな彼女が、何故かこうして昭和五十五年の人間として存在している。
 税所、フィアは彼女もまた自分と同じ境遇にあると考えた。そしてその考えのもとに、フィアは自身の有する「同調能力」によって静江の記憶野を詳細に読み取った。
 結論から言うと、この時代に生きているという静江の言葉に嘘はなかった。静江の数十年分の記憶は間違いなく「昭和」を生きたものであり、200年後の未来のものではなかった。次にフィアは、静江に何らかの記憶処理が施されているのではないかと考えたが、これも違った。脳内を隅から隅まで探査しても、それらしい痕跡は一切見受けられなかった。
 それだけならば、まだ疑いようもあったかもしれない。しかしこの世界に組み込まれたのは静江だけではなく、フィアもだった。フィアには冬木市内の中学校に通う学生という身分が何故か与えられていて、静江は血のつながらない後見人という立場にあった。
 この時点で、フィアは自分の記憶こそが間違っているのではないかと錯乱寸前にまで至った。もしかしたら夢なのでは? という儚い現実逃避は長く保たなかった。脳内に表示される現在状態が、ここは現実であるとはっきり告げていたのだから。


230 : フィア&クリエイター ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:36:26 VA/RDliY0

 元々いた世界、2198年の未来において、フィアはとある少年に会うため軌道エレベーターを登っていたはずだった。放置された一室の天蓋、そこに植えられた人工の花畑。そこで待っているはずの少年へ、今生最期の別れを告げるために。
 結局、それは叶うことはなかった。その前に自分はこんなところへ連れてこられたのだから。
 もしかしたら、自分はとっくにロボトミー処置を受けてマザーコアとなり、意識とか魂とか、ともかくそういうものだけが天国やあの世に行ってしまったのかとも考えたが、どうやら違うらしい。
 現状に戸惑うフィアの前に現れた「サーヴァント」が、それを教えてくれた。
 彼の言葉を聞くことによって、フィアはようやく自分の置かれた状況というものを把握することができたのだ。

「さて、十分な時間が過ぎたが、お前さんの意思は変わらんかな」

 静江に勝るとも劣らないほど老いた声が部屋に響いた。ベッドに腰掛け俯いていたフィアは、その方向へ顔を向ける。
 老人がそこにいた。仕立てのいいスーツを纏い、白く口髭を蓄えた様は微塵の汚らしさもなく気品として成り立っている。深い皺は年輪の如く、彼の持つ知性を感じさせるようだった。

「はい。最初に言った方針は変わりません。
 私は元の場所に帰ります。そして、マザーコアとしての役目を果たします」

 そう語ったフィアの声は、自分でも分かるほどに震えていた。
 それは暗に込められた嘆きでもあって、嗚咽でもあった。けれど、フィアはそれを声以外に出すことはない。
 フィアは、静かに笑っていた。不安を感じさせないように。

 この老人こそが、フィアに与えられた、この世界で唯一の道標であり、力でもあるサーヴァントだった。その好々爺な風貌に違わず、彼は時折フィアとの対話を望み、幾度か言葉を交わす間柄となっていた。
 既に彼には話してある。フィアの来歴も、身の上も、定められたその末路も。

「お前さんが望むなら、わしが従うのも吝かではない。
 しかし、聞かせてはくれんかな。何故そうまでして、お前さんは自分の命を捨てようとするのか」

 老人の言葉は静謐なものだった。憤りも悲嘆も、そこにはなかった。

「簡単なことです」

 対するフィアも、ただ静かに微笑むだけだった。


231 : フィア&クリエイター ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:36:56 VA/RDliY0

「私には大切な人たちがいます。こんな私でも、守りたいって思える人ができた……それだけのことなんです」

 彼女が元いた世界―――2198年の地球は生物根絶の瀬戸際に立たされていた。北極と南極に一つずつ設置された大気制御衛星が謎の暴走事故を起こし、干ばつ対策用の遮光性気体を撒き散らし、世界が終わらない冬に閉ざされたのは今から12年前のことだった。
 永久凍土に覆われ死に絶えた世界。日光を遮る暗黒雲により地上からは一切の光が失われ、世界の平均気温は零下40℃を下回った。如何に寒冷に強い植物であろうとも陽の光なしでは生きてはいけず、それはエネルギー供給の90%以上を太陽光発電へと移行し始めていた人類も同じことだった。
 当時の世界情勢は、それは酷いものだったと聞く。人類は僅かに残された地熱・風力発電プラントの利権を争い、次第に戦争状態へと移っていった。そして引き起こされたのは第三次世界大戦。人類は僅かな資源を湯水のように消費し、勝者が生まれるはずもない不毛な戦いへと身を投じていった。
 文字通り世界全土を巻き込んだ戦争は、2年に渡って行われた。核融合炉の暴走によってアフリカ大陸は地図からその姿を消し、失われた人名は198億人にものぼった。最終的に人類に残されたのは、たった7つのシティと2億人足らずの世界人口。血で血を洗う戦いの果てに、人類が得たものは何もなかった。
 陸生生物が悉く絶滅するほどの過酷な環境下で、碌な資源もなく疲弊した人類がそれでも生き残れたのは、何故か。
 その理由は、マザーシステムという機構にこそ存在した。それは「とあるもの」を核とした第二種永久機関であり、人類に残された最後の希望とも呼ぶべき代物だった。
 大戦前は「人道的な」理由から使用を断念されたこの機構に、しかし大戦を経て疲弊した人類は我先にと縋りついた。そのための犠牲を「必要なことだ」としたり顔で受け入れて。

 マザーシステムの核は、マザーコアと呼称された。
 それは、魔法士と呼ばれる特殊な人間の、脳髄だった。

「それが、お前さんの死ぬ理由か」
「いいえ、死ぬんじゃありません。生きるのを止めるだけです。私の脳はシティとその周辺の街を生かし続けるでしょう。
 だから、私はいいです。あの街があそこにあって、みんなが笑って生きていけるなら、私はそれでいい」

 つまるところ、少女は生贄にも等しい存在だった。
 マザーコア特化型魔法士『天使』。ただ殺されるためだけに生み出され、予定通りに死ぬ行くだけの儚い命。
 けれど、それでも救いはあった。
 本来、彼女は殺されるだけだった。誰かの都合で生み出され、誰かの都合で死んでいくだけの消耗品。そこに彼女の意思は介在せず、運命に流されるだけのはずだった。
 そんな、人間未満の人形でしかない彼女は、しかし最期に守りたいと思える人々に出会うことができた。
 だから、これは悲劇などではないのだ。誰かに無理やり死を押し付けられるのではなく、彼女は自分の意思でその道を選んだのだから。人間未満の人形が、それでも多くの人々を助けることができたなら、それは祝福とさえ呼べるだろう。

「聖杯を使う、という選択は取らないのかね」
「……使えません」

 使わないのではなく、使えないと、少女は言った。


232 : フィア&クリエイター ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:37:35 VA/RDliY0

「私は世界が好きです。人間が好きです。誰にも泣いて欲しくないし、みんなに幸せになってほしいです。だから、誰かの願いを踏み躙るようなことは、できません」

 少女は、フィアは笑顔のままだった。その裏に潜む感情を、彼女は見せることがない。
 あくまで穏やかな声だった。穏やかな表情だった。優しい少女が、人を傷つけないために作り上げた笑い面。
 自分自身でも気付いていない、ボロボロの仮面だった。

「……昔、お前さんとよく似た女と会ったことがあるよ」

 ぽつり、と。
 サーヴァントの老人は語った。それは昔を懐かしむような、失ってしまった何かを思い返すような声で。

「そやつはグーリエと言ってな、傍にいるだけでなんとも心安らぐ女だった。そやつもまた、皆が安らぐ世界を夢見ておったよ」
「その、グーリエって女の人は……」
「死んだよ。お前さんと同じような道を選んで、我が身を犠牲にして死に絶えた」

 それは遠き星のおとぎ話。かつて永遠を生きて、しかし他我の永遠性をこそ尊んだ一柱の女神の物語。
 彼は語って聞かせた。グーリエと呼ばれた女の話を。自らの生ではなく生き物たちの未来を望み、それ故に彼が刻まなければならなかった過去を。
 フィアは黙ってそれを聞いた。いや、あるいは自らの境遇と重ねたのかもしれない。
 何故ならグーリエという女の選択は、フィアの選ぼうとしているそれと限りなく近く、同時に限りなく違ったものであったから。

「あなたは、グーリエという人の選択を間違っていたと思いますか?」
「……いいや。彼女は何も間違ってなどいなかった。彼女の創り上げた世界は歓びに満ちていた。間違っていたのは、わしのほうだったよ」
「それなら」

 そこで、フィアは笑った。
 それはとても眩しく、あまりにも尊いものだったけど。
 心からの笑みではなく、それはやはり、仮面の笑みだった。

「それなら、私も同じです。みんなに、あの人に、生きてほしいと願う私の心は。
 決して、間違ってなどいないのですから」

 けれど。
 例えそれが悲しみに満ち溢れていようとも、百劫の罪に引き裂かれんとする少女の嘆きであろうとも。
 想う心は本物であった。誰かに今を生きて欲しいと、願う光は偽りなどではなかった。

「……お前さんの決意は尊い。だからわしも信じよう。お前さんの救う命たちが、今度こそ正しい道を進めることを」

 故にこそ彼は、呪われた永遠の放浪者は願う。
 いずれこの少女の悲しみが、シューニャの階梯へと至り「かなしみ」に昇華されることを。

 遠き空の果てであろうとも、星海の芥粒の一つであろうとも。
 人はこうして悲しみを胸に抱き、いつかシューニャの空へと至る。
 できるとも、この少女ならば。
 こんなにも自分を責め、こんなにも人の死に心を狂わせる彼女ならば。

 生の終わりを垣間見て、その想いが成就することがあれば。
 犠牲でも逃避でもない第三の選択肢を選び取ることも、また。

 だからこそ、彼は告げるのだ。
 肯定するでも否定するでもなく、ただ少女の未来を見据えて。
 いずれ訪れるかも分からぬ、果て無きものを見つめて。

「生きよ、一切のかなしみと共に。お前さんの旅路の終着点が歓びで満ちることを、わしは祈っている」

 例え定められた終わりが迫ろうとも、ただ、今を生きるのだと。
 そう、アハシュエロスは告げたのだった。


233 : フィア&クリエイター ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:38:26 VA/RDliY0



【クラス】
クリエイター

【真名】
アハシュエロス@ドグマの箱庭シリーズ

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具A+++

筋力A 耐久A 敏捷C 魔力EX 幸運E 宝具EX(宝具発動時)

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
創造:-
かつてクリエイターは星における地上の一切を創造し、人類種を作りだし、その歴史の趨勢を三度に渡って観測した。
しかし彼は一度は人類の文明圏を破壊し、二度目も同じ道を歩みかけ、三度目は真に独力で創造することもなく、現在では神格・クリエイターとしての権能はほぼ失われている。
なお、クリエイターは文字通り人理の破壊者であるため「デストロイヤー」のクラス適性を内包する。このクラスで呼ばれた場合、状態が神格で固定となり、属性が反転する。すなわち召喚は不可能。

【保有スキル】
魔術:A+(A+++)
万物を創造した者として、多種多様な魔術を扱うことができる。原初の混沌の内に光を生み出すことも、一瞬にして巨大な城や天を覆うほどの巨剣を作り上げることも、大地を逆巻き割れさせることも彼には容易い。
宝具発動時においては()内のランクに修正される。

神性:-
既に彼は神であることを捨て去っている。人の似姿であるアハシュエロスは元より、神であった■■■でさえも、かつてとある情景を目にした瞬間に神であることを「止めて」しまった。
本来は神霊にして星の最強種であるクリエイターをサーヴァントとして召喚することは不可能なのだが、このスキルの消失に伴い、霊格と存在規模を極限まで低下させることにより辛うじてサーヴァントとして現界するに至った。

プルシャの悟り:B
無人称の盲目な意思、シューニャへ至る階梯を観ずる者が纏う守り。
対粛清防御とも類似したスキルであり、物理攻撃・概念攻撃・次元攻撃を無条件で一定値削減する。また、精神干渉であるなら100%シャットアウト。

【宝具】
『"いつか"が彼らを分かつまで(アンバロ)』
ランク:A+++ 種別:対神宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
簡素な造りの古ぼけた短剣。
この宝具の正体は、神の遺骸より作り出された星作り/星殺しの剣。神が星の為、そして星に生きる遍く全ての存在のために創造した、自身を含めた神格を殺害するに最も相応しい性能を誇る剣という、矛盾した神造兵装。
ランクに見合った相当量の神秘を内包するだけに留まらず、神性スキルを持つ者やそれに類する存在に対し特効の効果を発揮する。この宝具を所持した者は無条件でEXランクの神殺しスキルを取得し、該当サーヴァントにおいて防御に関わるあらゆるスキルや宝具による体質・耐性・加護・補正を無視して切り裂く。
また、クリエイターはこの宝具を任意で他者に譲り渡すこともできる。そしてこの宝具はクリエイターの死後も残り続ける。
かつてクリエイターが愛した者を切り裂くために使われ、そしてクリエイターが愛した者より生み出された、彼の愛憎の変遷を象徴する宝具。

『反存在・星殺しの嘲笑者(アンチビーイング・アースキャンサー)』
ランク:EX 種別:奉神宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
反人間、反存在、人類の嘲笑者にして神殺しの神格。アハシュエロスのかつての姿を限定的に顕現させるのがこの宝具である。
真名解放に際してクリエイターの姿は皮を剥された巨大な顔面へと変貌し、ステータス及びスキルランクの修正を受ける。
この宝具の本質は、星殺しにして神殺しの神格に近づくと同時に生前の逸話を色濃く反映するものであるため、天もしくは星の属性を持つサーヴァントに対し極めて有利な補正を得るが、三度人類種に敗れた逸話により人の属性を持つサーヴァントに対しては逆に極めて不利な補正を取得する。
クリエイターは進んでこの宝具を使うことはない。何故ならこれは、彼にとって最大の過ちを犯してしまった時の姿であり、そして愛する者を二度失った喪失の象徴であるからだ。


234 : フィア&クリエイター ◆GO82qGZUNE :2016/07/09(土) 17:41:56 VA/RDliY0

【weapon】
バロスの杖

【人物背景】
彼の者は創造し、破壊した。
彼の者は自らの行いに無自覚的であった。愛憎の果てに自らの肋骨を、手足を、胴体を、顔の皮を彼の者は捧げた。
彼の者は変容を目指した。娘は死んだのだ。彼の者は死すべきものになりたかったのか。自らを打ち破った人間、その不可解を理解するために。
真実を知った者は去らねばならない。娘は死んだ、そして神も死ぬ。

「お前と共に再生したこの星は、歓びに満ちていた」
「総てが失われる時に初めて知った……娘よ、我はお前を愛していた」

【サーヴァントとしての願い】
最早この身に願いは無い。
ただ、叶うのならば。
娘は安らかに逝けたのか、それだけが知りたかった。



【マスター】
フィア@ウィザーズ・ブレイン

【マスターとしての願い】
元の世界へ帰り、マザーコアとしてこの身を捧げる。

【weapon】
なし

【能力・技能】
魔法士:
大脳に生体コンピュータ「I-ブレイン」を持ち、物理法則を改変して戦う生体兵器。マザーコア特化型の天使である彼女は戦闘能力に乏しい。

同調能力:
自身を中心とした一定の半径内に情報的な支配領域を広げ、領域に触れた対象の全存在情報を取り込み、情報の側から支配する。人を取り込んだならばその動きの一切を封じ、物質を取り込んだならば原子配列の変換を初めとした自由度の高い操作が可能。
ただし支配領域は球形上かつ触れる者全てを無差別に取り込むため、遠隔の対象を選別して取り込むことには向かない。また、領域内の情報量があまりに多くなると自動的に発動がキャンセルされる。取り込み限界は常人やNPCならば20人程度。空間や無生物ならば無尽蔵。
魔力によって構成されるサーヴァントに対しては上手く働かず、同調して取り込むことはできない。

【人物背景】
全てが崩れ去った未来において、生に縋る人類が生み出した希望のための生贄。ただ殺されるために生み出された『天使』の少女。

【方針】
帰りたい。誰かを傷つけることは、したくない。

【把握媒体】
フィア:ラノベです。原作1巻からの出典なのでそれだけ読めばいいです
アハシュエロス:フリゲです。作者様のサイトから落とすことができます


235 : 名無しさん :2016/07/09(土) 17:42:25 VA/RDliY0
投下を終了します


236 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/10(日) 12:20:40 7H1H4Eto0
投下します。


237 : 死生〜すくい ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/10(日) 12:21:46 7H1H4Eto0

 セイバーから見ても、遠見真矢という女性は善良な人間であった。
 勤め先の喫茶店では全ての客に愛想を振り、友人や後輩と出会っては談笑し、囲んだ食卓で家族団欒の時間を過ごす。
 そんなありふれた日常の中で彼女と接する者達にとって、彼女の温厚な人柄と和やかな語り口は癒しを感じるに十分だったに違いない。
 やや大層な表現を用いれば、遠見真矢は平和の側に属する人間であり、そうであることを信じたいと思えるほどだった。
 だから、セイバーは絶句せざるを得なかった。
 今しがたセイバーによってサーヴァントを撃破されたために最早抗う術を無くし降伏の意を訴えていた青年の身体が、乾いた音響の直後、力無く崩れ落ちた事実に対して。
 青年の左側頭部に穿たれているのは一つの小さな穴。右側頭部に接するアスファルトはじわじわと赤黒い色に染められていく。何の反応も挙動も示すことの無い青年の瞳からは、光が完全に喪われていた。

「嘘だよ」

 真矢の方を見る。地に伏す射殺体を冷徹な視線で見つめたまま、ようやく両手で握った拳銃を下ろした。
 細やかな彼女の指に、その無機質な鈍色のフォルムが随分と不釣り合いに映った。

「もうしない、許してくれって何度も頭を下げていたけど、全部嘘。その人、戦う意思を全く失くしてない目だった。それに、自分のサーヴァントを奪った私達のことを心底憎んでた」

 遠見真矢の生きている世界は、人類の生きるべき場所としては既に滅亡間際であるという。
 数十年前に地球に現れたケイ素生命体、フェストゥム。人類とは異なるその生命体によって人類の生存圏は浸食され、何十億もの生命が失われ、人類の築き上げた文化の殆どは無に帰した。
 彼女が生まれたのは、そんな世界に残された最後の平和の地、竜宮島。
 フェストゥムに、そして奴等の根絶を目指す同じ人類によって追い立てられたながらも、竜宮島の人間は一つの事実を突き止めた。
 フェストゥムは悪意によって人類を脅かしていたのではない。ならば、対話による人類とフェストゥムの共存の可能性は残されている。
 微かな希望を信じ、フェストゥムに平和を伝えようとした彼女達の行く先は、しかし絶望だった。
 フェストゥムは、人類から向けられた敵意と業火により憎悪という感情を学んでしまった。人類は、理想とする人類文明の再興のために真矢達すら危険分子として排除することを決定した。彼等によって真矢達の仲間の生命は次々と奪われ、対話の意思も踏み躙られた。
 だから、彼女は選んでしまった。
 守りたい者達のために、撃つべき者を撃つことを。フェストゥムだけではなく、同じ人類に対してであっても、引鉄を引くことを。

「たぶん、ううん。間違いなく、その人は他のサーヴァントと組んでもう一度聖杯を狙うつもりだったよ。そのために、私達のこともどんな手を使っても追いつめるつもりだった」

 聖杯に託す願いは、平和な世界の実現。誰もが分かり合える、誰かが誰かを撃つ必要の無い、楽園。
 罪を重ねて、その果ての答え。故に真矢は聖杯を求める。

「セイバーさん、覚えて……ないよね。その人、少し前に私の働いてる喫茶店に取材に来た雑誌の記者だよ。話し込んだわけじゃないけど、顔と名前は覚えられてたと思う。制服にネームプレート付けてたから。仕事帰りのタイミングを狙ったあたり、もしかしたら私の住処の探りも入れてたのかもしれない」

 今にして思えば、セイバーは心のどこかで彼女が手を汚す未来を信じられずにいたのかもしれない。彼女の意向を聞き届けていたにも関わらず、だ。
 仮初の、しかし確かな平穏が約束されていた日々の中で生きていた頃の彼女の姿が、あまりに幸せそうだったから。セイバーにすら、一度は忘れてしまった大切なことを追想させるほどに。
 だから、彼女が殺人者としての自分を形成可能である事実を、その精神を甘く見てしまっていた。日常を過ごしながら、彼女は既に臨戦態勢を取っていたというのに。

「このまま生かして帰したら、私達の不利な情報を他の誰かに流されてた。そのくらいのことをしても全然不自然じゃないくらい、強い敵意と憎悪だった」

 確信的に死者の心境を説明する真矢は、それほどまでに人の心情の機微に聡いのだろうか。もしその通りなのだとしたら、恐ろしい子だと思う。
 セイバーの疑問に応じるように、伏し目がちだった真矢の目が真っ直ぐに向けられた。


238 : 死生〜すくい ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/10(日) 12:22:10 7H1H4Eto0

「セイバーさん、人間のこういうところが嫌いなんだよね。自分の身を守るためなら惨いことも平気で出来るところ」

 見透かされた。
 その居心地の悪さを、どうにか表情に出さないよう努める。
 もしかしたらこの状況に至るよりもずっと前、セイバーと出会った瞬間から既に彼女はセイバーの心境を察していたのかもしれない。
 だからこそ、真矢の言う「人間」が果たして誰を指していたのか気がかりだった。自分達に襲い掛かり返り討ちに遭った青年は、聖杯を求める多数のマスター達の一人であり、ならば、遠見真矢もまた。

「いいよ。軽蔑しても。私は別に平気だから」

 セイバーは、真矢に対して自らの生い立ちを未だ詳しく語っていない。彼女がセイバーについて理解しているのは、付き従うと言う意思以外では保有する戦闘能力と、その力の根幹である人間を超えた異形の怪物としてのこの姿くらいか。
 だからだろうか。彼女はセイバーの保有する判断基準を深く考察するよりも前に、自らを蔑むべき対象と定義する。
 セイバーの抱える感情を容易く見抜いておきながら、彼女自身の価値については自己判断で決定する。

「何でも平気な自分になんてならなくていいって、一緒に島に帰ろうって一騎くん、私の…………仲間が言ってくれた。でも、私はもうその言葉に背いちゃった」

 一騎くん、という人間のことをセイバーは知らない。真矢と一騎という人間が互いに向ける感情のベクトルが果たしてどのような意味を持っているのか、正確には理解出来ない。それでも、互いを慈しみ合える関係であることは感じ取れた。
 どんな非道も平気でこなす人間である必要は無い、だから故郷の大地を一緒に踏みしめてほしい。一騎という人間の願いは、彼女にとって救いだっただろう。
 しかし、その裏を考えればどうだ。どんな非道も平気でこなす人間であろうとするならば故郷に帰る資格など無いという理屈は、果たして成り立つのか。
 一騎がこの場にいない今、真偽を彼本人に確かめることは出来ない。だから、真矢は真矢の中にいる彼に問うしかない。その答えは、改めて彼女に聞くまでも無い。

「こうでもしないと願いを叶えられない人間だって、私が一番分かってる。平和のためと言って、平和を捨てた人間」

 遠見真矢は救世主になり得るだけの力を持たない。闇を切り裂けず、光も齎せない。
 セイバーは真の意味で彼女の救世主にはなれない。他の何者もまた、彼女を救えない。
 そうであるにも関わらず、人間一人には過ぎた規模の夢を叶えようとするため、代償として真矢は自らの性質を変容させる。
 自らに残る人間らしさを、他者の尊厳諸共捨てようとしている。
 脆弱と強靭の二面性のうち、片方を意図的に消し去ろうとしている。
 ならば、自分と異なるモノを犠牲にするという理由で真矢は「人でなし」なのだろうか。セイバーが生きて死んだあの退廃の世界の住人と、等しいと言えるのだろうか。
 真実を見抜く能力に秀でていないセイバーにすら、痛いと叫びたがっているのが明白なのに。

「私を裏切らないことだけは約束して。それが出来たら、どう思われても平気」

 表情を変えぬまま、真矢は微かに震えた瞳へと人指し指を当てた。
 少しだけ強く押し付けて、数度ごしごしと擦って。

「ほらね」

 そうして離した指を見つめて、おかしそうに口元を綻ばせた。

「泣けないもん」


239 : 死生〜すくい ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/10(日) 12:22:34 7H1H4Eto0

 その力無い笑みを見たセイバーの行動は早かった。
 青年の亡骸の心臓部分目掛けて、右手に握った剣の刃先を突き刺す。びくん、と一度だけ痙攣した青年の亡骸は、数瞬の内に煤けた色の灰へと変わり果ててぼろぼろと崩壊した。

「セイバーさん?」
「これは使徒再生と言って、オルフェノクの因子を植え付けて人間をオルフェノクとして生まれ変わらせる能力だけど……大抵は失敗して、こうやって肉体が灰になるだけで終わる」

 不思議そうな表情を真矢は浮かべた。人間の身体が崩れること自体への恐怖心は、見た限りでは無いようだった。

「でも、肉体が残らない方がこの状況では都合が良いだろう。灰に変えてしまえば多少は証拠の隠滅になる。少なくとも、マスターが撃ち殺して終わらせるよりは」

 人間をやめたことで、苦難ばかりを背負ってきた。オルフェノクとなってしまったことへの後悔を一度もしなかったと言えば、嘘になる。
 それでも、今この時だけは自分がオルフェノクである事実を有難く思う。遠見真矢ではなく自分が手を汚すことに、合理的な説明が出来るから。

「だから、もしもマスターを殺すべき時が来たら、君ではなく俺が手を下すべきだ」

 その言葉を聞き遂げた真矢の顔が、今度こそ、少しだけ穏やかになったような気がした。
 聖杯戦争の『剣士』として、その夢を諦めろとは言えなかった。代わりとして送った提案は、彼女の心にとって多少でも安らぎになってくれただろうか。

「セイバーさん、優しいね」

 救世主であることを諦めたセイバーに、願いは無かった。かつての理想を他者に託した今、もう聖杯に託すべきことは無い。
 だから、願うとしたらただ一つ。
 遠見真矢が、最後の地平線だけは越えないことを。誰かが自らを見失わないための、地平線のような人間であってくれることを祈るだけ。

「そう言ってくれる人がいるなら、皆に嫌われても、私達の島に帰れなくても……別に大丈夫だよ、うん」
「マスター。君が言ったことだけど、断るよ。君が何をしても、どう変わってしまったとしても、俺は軽蔑しない。人のために泣いてあげられる君という人間がここにいたことを、記憶に刻むよ」

 ぽかんとした顔の真矢は、また目元を擦った。
 相変わらず、濡れてなどいなかった。

「私、やっぱり泣いてないよ?」
「泣いてるよ」

 たとえ苦笑でも、笑い合えるなら今はそれでいい。
 いつか真矢がまた涙を流して、その後で笑えたらそれがいい。
 願わくば、彼女が還るべき場所へ辿り着き、傷を癒すための時間を取り戻せることを。


240 : 死生〜すくい ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/10(日) 12:22:59 7H1H4Eto0



【クラス】
セイバー

【真名】
木場勇治@劇場版仮面ライダー555 パラダイス・ロスト

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運C 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
・対魔力:C
魔術に対する守り。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

・騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。大抵の乗り物を人並みに乗りこなせる程度。
セイバーは『ライダー』に相応しい逸話を持たない。

【保有スキル】
・進化種:B(→A)
地球上から人類を駆逐し、新たな支配者としての地位を得た新種族オルフェノク。
その種族の一員であることを表す、人類種に対して有する優位性。
「人間」との戦闘の際、有利な判定を得られる。

・謀られし者:B(→A)
かつて種族間の和平の道を志していたセイバーは、悪意に欺かれ絆を踏み躙られた。
皮肉にも、その時の深い絶望によって彼は最強の力を得ることとなってしまった。
セイバー或いはその仲間を「陥れた、或いは陥れようとした者」との戦闘の際、有利な判定を得られる。

・戦闘続行:C(→B)
名称通り戦闘を続行する為の能力。往生際が悪い。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦いを止めない。

・救世主伝説:A(→A+)
闇を切り裂き光を齎す『救世主』を語った、小さな星の話。
彼に敗れた帝王の視点からこの逸話を見た時の光景を表す、絶対に取り除くことの出来ないバッドスキル。
『救世主(セイヴァー)』のクラスで召喚されたサーヴァントと一対一の状況で対峙した時に限り、幸運値が自動的に1ランク下落する。
(スキルランクがA+の場合は幸運値が2ランク下落する。さらに敵の「対英雄」スキルの効果次第では、幸運値が最低以下のE-ランクに至る可能性もある)


241 : 死生〜すくい ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/10(日) 12:23:40 7H1H4Eto0

【宝具】
・『疾走する本能(ホースオルフェノク)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1人
 解放時パラメーター⇒筋力B 耐久B 敏捷C++ 魔力C 幸運C 宝具B
一度死を迎えた人間が再生・覚醒することで至った新種族オルフェノク。
セイバーは(オルフェノクに殺されるのではなく)自然発生で発現したオルフェノク「オリジナル」であり、他の個体より高い能力を持つ。
肉体自体が変化するため、ノーモーションでの解放が可能。解放時はパラメーターが上記の値へ上昇する。
主武装は魔剣ホースソードと巨大な盾。
短時間に限り四本脚の速度強化形態「疾走態」への変化も可能であり、その時は敏捷値が上昇する。
また感情が昂ぶった時のみ「激情態」または「激情疾走態」へと変化し、ステータスが若干向上する。

・『Ω/地を統べる帝王(オーガ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1人
 解放時パラメーター⇒筋力A+++ 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具B
スマートブレイン社が開発した二つのライダーズギア「帝王のベルト」の一つ、「地のベルト」によって変身した戦士。
専用ツールのオーガギア一式、及びオーガギアによって変身した戦闘形態を含めて一つの宝具と扱う。
道具の装着による変身のため、解放には一連のアクションが必要となる。
超高出力のフォトンブラッド、装甲やローブの耐久性能等により、オルフェノクの世界における最高峰の戦闘能力を誇る。
解放時はパラメーターが上記の値へ上昇するほか、保有スキル4種のランクが1ランク上昇する。
主武装は大剣オーガストランザー。この剣によって放つ必殺の奥義「オーガストラッシュ」の発動時は、筋力値が格段に上昇する。

【weapon】
形態に対応した各種武器。

【人物背景】
劇場版の世界観からの参戦。
オルフェノクによって人類の居場所が奪われた地球で生きた、一人のオルフェノク。
彼は残された人類とオルフェノクが共存する世界を夢見て、しかしその希望は人類によって汚された。
そして彼は決意する。オルフェノクとして全ての人類を滅ぼすと。そんな彼の戦いは、『救世主』に敗れて終わった。
今、確かに言えることは一つ。木場勇治は、優しい心の持ち主だった。

【サーヴァントとしての願い】
オルフェノクの世界を聖杯で変えようとは今更思わない。
もしも願うならば、マスターが人間であることを。


242 : 死生〜すくい ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/10(日) 12:24:04 7H1H4Eto0



【マスター】
遠見真矢@蒼穹のファフナー EXODUS

【マスターとしての願い】
楽園のように、平和な世界を。

【weapon】
・ハンドガン×1
手元から失われたはずだったが、縁のアイテムということで今回持ち込まれるに至った。
遠見真矢が初めて自らの明確な意思で人を殺した時に用いた銃。

【能力・技能】
・天才症候群
遺伝子操作によって誕生した竜宮島の子供達が持つ、生来の特異な能力。
遠見真矢の場合は「異常な推測能力」である。
他者の表情や些細・無自覚の仕草等から、感情や思考を察することが出来る。

・射撃
ファフナーパイロットとしては狙撃型機体への高い適性を持つ。
そのためか、非搭乗時でも銃の扱いに長けている。

【人物背景】
本編第23話終了後からの参戦。
フェストゥムによって人類の居場所が奪われた地球で生きる、一人の人間。
彼女は残された人類とフェストゥムが共存する世界を夢見て、しかしその希望は人類によって汚された。
そして彼女は決意する。守りたい者達のためなら撃つことも躊躇わないと。そんな彼女の戦いは、未だ続いている。
今、確かに言えることは一つ。遠見真矢は――

【方針】
聖杯を手に入れる。そのために全てのサーヴァントを倒す。必要な場合はマスターも撃つ。
それで竜宮島に帰れなくなるのだとしても、構わない。



【把握媒体】
セイバー(木場勇治):
劇場版の視聴のみで把握可能。
異なる世界観を描いたTV版を視聴する必要は無い。

遠見真矢:
『EXODUS』本編第23話まで視聴するだけでも把握自体は可能。
直接ストーリーが繋がっているため、シリーズ前作に該当するTV第一期と劇場版の視聴も推奨。


243 : 名無しさん :2016/07/10(日) 12:24:23 7H1H4Eto0
投下終了します。


244 : ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:29:21 aKF4oiDA0
投下します


245 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:29:54 aKF4oiDA0
 『廻狂四郎』にとって、冬木の街並みは、歴史の教科書の中でしか見る事の出来なかった光景だった。
20〜30代の人間に、自身が生まれる百年前の時代の風俗や常識が想像出来るかと問えば、恐らくは多くの者が答えに窮するであろう。
想像が難しいからだ。百年も前となると生活の様式も違うし人々に根付く常識も、人々の言葉づかいも違う。
だから、今を生きる若人に、百年前の事を想像せよと言う事が、無意味なのだ。いや、下手をすれば、生まれる10年、20年前の事ですら、もう危ういかも知れない。
現代はそれだけ、世界の変化が目まぐるしいのである。だから人は、自分の生まれる前の事は、『歴史』として、文献や映像からその時の様相を学ぶのだ。

 だが余人が見れば、狂四郎のその驚きの様子を、奇妙に思うかも知れない。そして、次にこう言うだろう。
「狂四郎よ、何を驚くのだ。地方都市に人がいて、当たり前のように街の中で経済が回っている事が、おかしいのか」、と。
都市に人がいて、血管の中を血液が巡るが如く都市の中を金銭が巡り、都市の中で様々な積荷を乗せたトラックや自動車が行き交う。
日本国の都市ならば珍しくも何ともないその光景。それこそが、狂四郎にとっては、歴史の教科書の中でしか見た事のない、彼にしてみれば伝説の光景であった。
蛍めいて明かりを煌々と照らさせるビル、幸せそうに家族が過ごす一軒家、道路を行き交う車、街道を歩く人々。それらは全て、御伽噺やメルヘンの世界の話とすら、思っていた程だ。

 2030年、日本からは経済と言う概念は滅んでいた。
経済が冷え込んでいるだとか、不況だとか言う次元の問題ではない。経済そのものが機能していない状態なのだ。
人工飽和による食糧危機、食糧危機を発端とする森林の農地化による、世界的な緑地不足。これらが引き金となって勃発した第三次世界大戦により、人類は、
最早風前の灯とも言うべき状態となっていた。第三次世界大戦とは、ミサイル万能論を体現した戦争、より言ってしまえば、核戦争だった。
迎撃ミサイルの性能を凌駕する核ミサイルは、世界中の都市から人類を殺戮するに相応しい、数千年にも渡り磨き上げて来た人間の武器の歴史、その最奥と言っても良かった。
世界人口の八割は先の核戦争で失い、戦争の影響でアメリカと中国は事実上消滅。世界最高峰の経済大国と農作物輸出国の消滅で、世界中で経済と言う概念そのものが破綻。
日本国も例外ではなかった。人口増加を恐れた日本は、事実上の断種法と言っても過言ではない男女隔離政策の施行により、国民全員が男女と言う性に分けられ、
それぞれがオアシス農場と呼ばれる国営の大農場、つまりロシア史で言う所のソフホーズへと送られた。
経済の担い手は金ではなく人である。都市から人が連れ去られ、人の全てを国営の農場に連れて行かれれば、経済が機能する筈がない。
日本から人の活気が失われて既に久しい。そんな2030年の日本からやって来た狂四郎にとって、1980年の冬木の街の日常は、神話か伝説の中での光景のようだった。

 一般国民の99%が粛清された国家。残る1%の特権階級が、国の富と食物、エネルギーを独占する国家。それこそが、狂四郎のいた2030年の日本だった。
それに比べれば、冬木の街は、天国のようなもの。気付いた時には苦界に生れ落ちていた狂四郎にとって此処は、天国としか言いようのない場所であった。

「――お前の望むものは、安寧か」

 場所は冬木の街の郊外だった。
家の数も疎らで、周囲百m程の土地の比率はどちらかと言えば田畑寄り。目線の先には林が広がり、如何にも地方都市の拓けた所から外れた場所の風景だった。
時刻は夜。夜勤を担当する狂四郎は、都市部の他に、自転車でこんな所もパトロールせねばならないのだ。

「ただの平和じゃねぇ」


246 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:30:25 aKF4oiDA0
 怖いものを腹に収めたその声で、狂四郎は、目の前の『影』にそう返した。
影、と表現したのは、まさにそうとしか言いようのないシルエットをしている存在が、彼の前に佇んでいるからだ。
狂四郎は夜目が利く。長年、人工照明に類するものが存在しない世界で活動し、夜でも月明かりか星明りがあるのなら、相手の顔も体格も自由に見分けられる。
冬木の郊外の、照明類がないこの場所においても、相手の姿を認識出来る。だが、狂四郎が認識出来たのは、相手の姿が黒いと言う事だけだった。
黒人のように、肌が黒いとか言う意味ではない。その存在を例えるなら、黒い墨の様な焔を人の形に型抜きにした何か、であった。
辛うじて人の姿をしている、と言う事は狂四郎にも解る。だがそれだけ。夜の闇の方が趨勢の強いこの場にあって、夜闇よりもドス黒い色をした炎の人形(ひとがた)は、人の姿をしていながら、全く人間とは思えない立佇まいをしていた。

「ならば、オレは重ねて問う。お前の求める平和とは、何か。それを謳ってみせろ」

 黒炎で構成された人の似姿は、若い男の声にノイズが混じったような声で問うた。

「女房と一緒に、支え合って生きて行きたい。それだけだ」

「更に、問う。お前の女は、英雄と敵対し、聖人の赫怒を買い、神との間に不忠を齎させてまで、共にいたいと思える女か」

「俺は少なくとも、志乃との生活を夢見て、国を敵に回した」

「なお、問う。お前は何故、その女の為に国家に仇を成した」

「志乃が国の奴隷であり、俺が国直々の指名手配を受けた犯罪者であり、そして――俺はユリカと一度だって、顔を合せて話をした事がないからだ」

 M型遺伝子異常。それが、廻狂四郎と言う一個人に課せられた烙印だった。
ヒトゲノム計画と呼ばれる、世界各国が鎬を削り、30億以上の塩基配列の全てが解読されたのは、2003年の事だった。
医学やバイオロジーに多大な貢献を与える事が予測されたこの計画。しかし、日本のある科学者が、その30億の遺伝子塩基対に属さない、全く新しい遺伝子を発見した。
M型遺伝子と名付けられたそれは、人間が成長するにつれ起る精神衝動の情報が含まれているとされる物で、つまり、
『人間の将来が生まれた時点で遺伝子によってある程度決定づけられている』事が解ると言うのだ。それは、『生まれた時点で犯罪者になる人物が解る』と言うに等しい。
狂四郎は、そのM型遺伝子異常の中でも一番最悪と呼ばれる、国家反逆病の発症を予測された人物だった。故に、徹底的に国から差別される。
第三次世界大戦においても、世が世なら今頃少佐にまで出世しているであろう戦績を上げたにも拘らず、元居た世界では地方巡査止まりの役職だったのは、この男が国家反逆病発症予備軍であった事に由来する。

 戦時の過酷な体験と、殺人を行う事による精神の摩耗。戦争が終わり、戦後の復興活動に政府が明け暮れる中、狂四郎は、日々を鬱屈として過ごしていた。
そんな狂四郎の精神を救ってくれた女性こそが、VRの世界で出会った、北海道の政府機関で下級公務員を行っている女性、志乃――現実世界での名をユリカと言う女性だった。
彼女がいなければ、きっと狂四郎は今頃深刻なPTSDを患い、病んでいた。自殺すら、していたかも知れない。
彼女に遭うが為に、狂四郎は国家を裏切り、たった一人で国家へと立ち向かった。全ては、遠く離れた北海道で、狂四郎の到来を待つ志乃、ユリカの為に。
成功の望みが低い決死行である事は解っている。解っていても、狂四郎は進むのだ。自分を必要としてくれる女房がいる。その不変の事実があるから。

「一度たりとも、同じ空間で話をした事のない女を女房と呼び、仮初の世界で契った絆を頼りに――貴様は、此処まで出来るのか」

 黒い焔の男が言いたい事は解る。
狂四郎は周りを見渡した。右肩から左腰に掛けて袈裟懸けに斬られた、煌びやかな服装の女が死んでいた。
狂四郎と黒炎は、こうやって落ち着いて戦う前に、この女性と、彼女が使役していたアーチャーのサーヴァントと交戦していた。
黒炎は、腕に類する所から青黒い光芒を放ってアーチャーの急所を貫いて即死、消滅させ、その後に狂四郎は、
アーチャーを使役していた――俄かに信じ難い存在だが、いるらしい――魔術師のマスターを斬り殺したのである。今も狂四郎は、相手の女を斬り殺した業物の刀を、その腰に下げている。


247 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:30:45 aKF4oiDA0
 人は死ぬ時、安らかな顔をすると言う。
比喩を抜きに、数百人、事によれば千にも届く人間を殺害して来た狂四郎からすればそれは、半分は正解、半分は嘘である。
もう半分は、地獄の光景を見た様な苦悶の表情を浮かべて死ぬ事が殆どで、死んだ女の場合は、これに該当する。
瞳は絶望と苦しみで大きく見開かれ、口からはどす黒い血がゴボゴボと零れている。主要な内臓を狂四郎の刀の一振りが破壊した為である。
襲って来たのは、向こうが先であった。パトロール中にアーチャーに襲撃され、絶体絶命のピンチを迎えたその折に、自身のサーヴァントであるらしいこの黒い炎は現れた。
会話をしようにも事態が事態であった為に、言葉を交わす暇もなく。今狂四郎らはアーチャー達との戦闘を終え、会話を行うだけの時間を見つけ、現在のようになっている。

 黒炎のサーヴァントが問うているのは、己の覚悟なのだろう。
人を殺すと言う業を背負ってまで、狂四郎の語る女は、逢瀬を行うだけの価値がある女なのか。
もしも、それを狂四郎に対して問うているのであれば――愚問、と言う他なかった。

「出来るよ」

 狂四郎は即答した。

「確かにアンタにとって志乃は、バーチャルの世界の中でしか今の所は出会えない、儚い存在にしか見えないのかも知れない。そして、そんな女を女房と思い、人殺しの道を進み続ける俺を、馬鹿で哀れな存在と思うかも知れない」

 「――それでも」

「俺にとって志乃は『女』じゃない。『妻』なんだ、女房なんだ」

 狂四郎は、ずっと志乃が好きだった。大好きだった。これからもずっと好きであるだろうし、死ぬまでも、死んでからも好きであろう。
荒んだ狂四郎の心を、志乃は思いやりのある言葉と、仮想空間で行う性行体験による疑似的な性的快楽で癒してくれた。
自身が現実世界に於いて、好きでもない醜い男達の性の剥げ口にされた事を、隠しもせず正直に話してくれた事は今でも忘れない。
美しく、気高く、聡明で、優しく、努力家で。狂四郎にとっての志乃とは、天女だった。そんな女性が、自分を愛してくれている。夫だと思ってくれている。
それだけで、国家を裏切るには十分過ぎる理由であった。屍山血河を築き上げるに足る正義だった。死ぬまで頑張れるには、決して不足のない全てだった。

「逆に、俺の方から問うぜ、『アヴェンジャー』」

 狂気染みた感情を宿した瞳で、狂四郎は、アヴェンジャーと呼ばるる黒い焔を睨んだ。炎は、彼の瞳の中に、餓えて血走る『虎』を見た。

「お前は女房を引き裂かれて、奮い立ても出来ない腰抜けなのか?」

 その一言を受け、アヴェンジャーは、即座に切り返した。

「それに関わった者達全てを、地獄に叩き落としてなお、溜飲が下がらぬ」

 即答するアヴェンジャー。「腰抜けじゃなかったみたいだな」、と狂四郎は茶化した。

「貴様の望みは解った。では、これを以て最後の問いとしよう」

 間をおかず、黒炎は語り始める。

「貴様の令呪に導かれた俺は、黒き怨念の体現だ。人の性に怒りを抱く、復讐の化身だ。貴様はそれでも俺を――」

「さっきからピーチクパーチク小難しい事ばかり言いやがって。俺の答えは決まってんだよ」

 アヴェンジャーの言葉を遮り、狂四郎は、イラつき気味に口を開く。彼の中での答えは既に、決まっていた。

「俺のわがままに付き合え、アヴェンジャー。お前が復讐の化身だろうが、黒き怨念だろうが関係ない。俺はお前を使って、志乃と幸せを掴むんだ。手を貸せ、アヴェンジャー」

 この冬木は、いや。この世界は平和だった。狂四郎の見た2030年の、並行世界の日本よりもずっと。
この世界でなら、志乃とやり直せる。志乃と慎ましいながらも平和な毎日を送る事が出来る。ついでに、あの口煩い相棒の、人の言葉を喋る犬も連れて行こう。
――その為には、聖杯戦争を勝ち抜かねばならない。この戦いで狂四郎は、人殺しの魔境に没入せねばならない。心に、狂気と言う名の瘡蓋を作らねばならない。
相棒のバベンスキーは今頃、元の世界で自分の不在を志乃と同様不審に思っているかもしれない。あれは喧しい奴ではあるが、出来た相棒だった。
その頼れる奴が、この世界にはいない。聖杯戦争、それを勝ち抜くには、相棒の力がなければ不可欠だ。
その為には、目の前にいる、迂遠な物言いを多用する男を利用せねばならなかった。俺に力を貸せ、余りにも率直な狂四郎の物言いを、目の前の黒炎は――


248 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:31:25 aKF4oiDA0
「……クッ、ハハ……ハハハハハハハハハ!!」

 笑った。いや、嗤ったと言うべきなのだろう。爆発するような哄笑で返した。
躁病染みた呵々大笑を上げながら、アヴェンジャーは笑い続ける。人間の心の奥底に潜む、闇の何かを震えさせる、そんな笑い方であった。
その気違いの様な笑いをひとしきり上げた直後だった。男を覆っていた黒き焔が霧散し、その姿が露になったのは。

 ダークグレーのジャケットと長ズボン、羊皮紙のような白色のシャツの上に、死神めいた黒い外套を纏った青年だった。
黒いポークパイハットに、あらゆる方向に乱れて伸びる白い髪をしたその青年は、如何にも整った西欧風の顔立ちをしていながら、鳩の血を思わせるその紅色の瞳には、世界の全てに怒りを向ける怨怒の念と、廻狂四郎に対する喜悦の念が、同居していた。

「そうか。お前にとっては、愛した女のいないこの世界こそが、決して抜け出せることのない監獄塔(シャトー・ディフ)と言うわけか。成程、貴様は確かに救えない」

 死神めいた風貌、この世の全てに赫奕たる怒りを向ける紅蓮の瞳。
仏頂面の似合いそうなその男はしかし、百万の民に対して演説を行う独裁者が如く、饒舌な口ぶりで言葉を紡いで行く。

「気付いた時に地獄に生れ落ち、人に国家に時代に裏切られ、己の行いがエゴであると知りつつも、女一人の為に無明の地獄に赴かんとするそのザマ!! その泥臭く血腥い姿……ああ、貴様は何と――人間らしい人間なのだろうか!!」

 アヴェンジャーは、己と狂四郎の姿を重ねていた。あのような無駄な問いかけをするまでもなく、この男が好ましい人物である事は解り切っていた。
それでもアヴェンジャーが問わずにいられなかった訳は、あくまで確認をしたかっただけに過ぎないのだが、事此処までのやり取りで確信した。廻狂四郎は、嘗ての己の鏡に近い男であると。

 一体この男は、これまでの人生でどれだけの人間に裏切られて来たのだろうか?
一体この男は、志乃と呼ぶ妻の女性の為に幾人の人間を斬り殺し、志乃を知る以前にもどれだけの人間を血の海に沈めて来たのだろうか?
そして――生まれたその場所が既にシャトー・ディフであったこの男は、残り幾つの年月を消費すれば、本当の幸せを掴めるのだろうか?

 廻狂四郎は未だに勝利を知らぬ男であると、アヴェンジャーは確信した。
アヴェンジャーは知っている。自身が敗北したと認めぬ限り、その人物には絶対に敗北を齎す事は不可能である事を。
これは逆もあり得る。『自身が勝利したと認めぬ限り、その人物には絶対勝利は訪れない』と言う事を。狂四郎はまさに、この人物だった。
この男にとっては、志乃或いはユリカと言う名前の女性を取り戻さない限り、それは真の勝利とは言えないのだろう。
つまりこの男は人生において、未だ勝利を経験した事がないのだ。それは正しく――復讐者(アヴェンジャー)、未だ勝利を得る過程を歩み最中だった自分の身の上とそっくりで。

 この、何処までも愚かで、矮小で、哀れで、それ故に黒曜石の如く輝いて見えるこの男を、アヴェンジャーは人として認めた。
人生とは、墓場に行くまでに起った滑稽な出来事の事を指す。アヴェンジャーは、廻狂四郎と言う男の、墓場まで歩む一幕を、見届けてやろうと、思ったのだ。

「良いだろう、虎として生まれながら、ただの一度も勝利を経た事のない童貞よ。この毒の炎たるこの俺が、貴様の顛末を見届けてやろう」

 「そして――」

「存分に足掻き、苦しみ、絶望し、俺を楽しませろ。人類の欲望の縮図たる聖杯戦争は、貴様が見た事もない程の伏魔殿を生みだそうよ。……それに怖じず、臆さず、膝を折らぬというのであれば――」

 其処で言葉を切り、アヴェンジャーは真正面から狂四郎を見据えて口を開く。狂四郎は、アヴェンジャーのその瞳に、凪一つない『海』を見た。


249 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:31:49 aKF4oiDA0
「如何なる結末が待ち受けていようが、希望を胸に前に進め。貴様は十分過ぎる程待ったのだ、足を止めずに前に進むんだぞ」

 アヴェンジャー、『岩窟王 エドモン・ダンテス』は、死を選んだ方が楽な程の苦境に立たされ、それでもなお希望を捨てぬ者を、見捨てない。
シャトー・ディフに捕囚されていた時の自分を救ってくれたファリア神父を終生の師であり友と認めている男であるのだから、それは道理だった。

 そして、もう一つ。岩窟王は口には絶対しないが、廻狂四郎を称賛していた。
勇ましく死ぬのではなく、絶望に立たされてなお、愛する者の為に地獄に耐え、地獄から抜け出そうと敢闘する狂四郎を、アヴェンジャーは認めていた。
エドモン・ダンテスは知っているからだ。逆境に咲く愛が、どれ程尊く、そして、モンテクリスト島で得たどんな財宝よりも価値のある物だと。
復讐鬼としての側面で現れても、それだけは、彼は忘れる事がないのであった。





【クラス】

アヴェンジャー

【真名】

岩窟王 エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order

【ステータス】

筋力B 耐久A+ 敏捷C 魔力B 幸運 宝具A

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

復讐者:A
復讐を志す者の性根。恩讐と怨嗟を糧に生きる者。自身の復讐の対象となる存在と対峙した際、有利な様々な補正が掛かるスキル。
アヴェンジャーの場合、自分をシャトー・ディフに陥れた人物のみが対象となる極めて限定的なスキルであるが、
世界で最も有名な復讐者としてのイメージを確立しているアヴェンジャーは、其処から更に解釈が拡大。自身に攻撃して来た者を、かの監獄塔にアヴェンジャーを幽閉した鬼畜に連なる者と定義する事が出来、補正がかけられるものとする。アヴェンジャーは攻撃を受けた際に、その威力の半分程の魔力が自動で回復する。

忘却補正:B
忘れ去られやすい者。アヴェンジャーと交戦、或いはアヴェンジャーと接触した者について自動で発動するスキル。
このスキルを受けた者は、アヴェンジャーの風貌と言った身体的特徴や、どのような戦い方をするのか、と言う事や交わしたやり取りを忘れやすくなる。
いわば記憶に作用する情報抹消。ランクBは、アヴェンジャーと接触してから6時間後には、交わしたやり取りや交戦内容、身体的特徴を完全に忘れてしまう。
但し、アヴェンジャー自身が己の情報を開示した際には、このスキルの効果は解除。それまで忘れ去っていた内容を全て相手は思い出す事が出来る。

自己回復(魔力):D
世界に対する憎悪と怒りの具現として顕現したアヴェンジャーは、これらの色が濃厚なフィールドに於いて、自動的に魔力が回復する。

【保有スキル】

鋼鉄の決意:EX
鋼に例えられる、アヴェンジャーの不撓不屈の精神。脱出不可能と呼ばれたイフの塔における地獄の生活を14年も耐え抜き、
終生の友であるファリア神父の力を借り脱出。そして、黒き情念を糧にモンテクリスト島の財宝を獲得、見事彼は自分を地獄に叩き落とした鬼畜を地獄に落とし返した。
本来ならば同ランクの精神耐性を約束するスキルだが、アヴェンジャーはその強固な精神性を己の肉体にも反映する事が出来、
筋力が関わる攻撃の威力と耐久性に補正を掛けられる他、決意が最大限に高まった時、相手の宝具やスキルによる無敵を突破し、ダメージを与える事が出来る。

黄金律:A
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。
モンテクリスト島の財宝を獲得したアヴェンジャーは、生まれは船乗り、働き盛りの20代を捕囚としてドブに捨てたとは思えぬ程の財を獲得した。

窮地の智慧:A
急場や危難を凌ぐ機転の良さと天稟。平時はCランク相当の心眼として機能するが、命の危機が差し迫った時の場合、スキルランク相当の心眼として機能する。
このスキルを発動し、迫る危難を打ち破った時、相手に精神的動揺に纏わる判定を掛ける事が出来る。


250 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:32:28 aKF4oiDA0

【宝具】

『厳窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
彼は復讐の化身である。如何なるクラスにも当てはまらず、エクストラクラス・アヴェンジャーとして現界した肉体は、その生きざまを昇華した宝具と化した。
強靭な肉体と魔力による攻撃。自らのステータスやクラスを隠蔽、偽の情報を見せることも可能。常時発動型の宝具。真名解放の効果も存在するが、原作ではその効果は使われていない。

『虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)』  
ランク:A 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜100人   
地獄の如きシャトー・ディフで培われた鋼の精神力が宝具と化したもの。肉体はおろか、時間、空間という無形の牢獄さえをも巌窟王は脱する。     
超高速思考を行い、それを無理矢理に肉体」に反映することで、主観的には「時間停止」を行使しているにも等しい超高速行動を実現するのである。      
原作においては、高速移動に伴う「分身」による同時複数攻撃といった方法を戦闘時に多用していた。

【weapon】

魔力による熱線や光弾、それを纏わせての徒手空拳を行う。その際に纏う熱線や光弾は、青黒い炎のような形をしている。

【人物背景】

復讐者、として世界最高の知名度を有する人物。通称『巌窟王』もしくは『モンテ・クリスト伯爵』として知られる。
悪辣な陰謀が導いた無実の罪によって地獄の如きイフの塔(シャトー・ディフ)に投獄され、しかして鋼の精神によって絶望せず、
やがてモンテ・クリスト島の財宝を得てパリへと舞い降り──フランスに君臨する有力者の数々、すなわちかつて自分を陥れた人々を地獄へと引きずり落としたという。

真名こそエドモン・ダンテスだが、マルセイユの海の男であった『エドモン・ダンテス」』と自分は別人であると彼は認識している。
なぜなら『エドモン・ダンテス』はパリに於ける凄絶な復讐劇の果てに悪性を捨てたが……サーヴァントとして現界した自分は「復讐鬼の偶像」で在り続けている。ならば自分はエドモンではない、と彼は言う。

【サーヴァントとしての願い】

復讐者として顕現はしているが、生前の時点で復讐は全て叶っている為、叶える願いはない。人間の性を怒り、この世に憎悪と怨嗟を抱き続けると言いながら、マスターである狂四郎の行く末を見守ってやる


251 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:32:40 aKF4oiDA0




【マスター】

廻狂四郎@狂四郎2030

【マスターとしての願い】

志乃と共にこの世界で過ごす。

【weapon】

刀:
文字通り、日本刀の刀身を持った軍刀。平時は懐に隠すか、時間帯次第では拠点に置いている

【能力・技能】

M型遺伝子異常:
心の設計図であるM型遺伝子、その異常性。この異常性の係数が高いと、M型遺伝子に異常があるとされ、将来犯罪を犯す確率が高くなると解釈された。
狂四郎はその中でも、将来国家に対して反旗を翻す可能性が高い「国家反逆病」キャリアとして、長年国家と国民から差別を受けて来た。
しかし実際にはM型遺伝子の異常と言うのは遺伝的に優れた資質である事が殆ど。狂四郎が元居た世界の日本の官僚の何人かはこのM型遺伝子異常の最高レベルであったし、これは狂四郎自身も知らない事柄だが、国家元首ですらこのM型遺伝子異常である。

身体能力:
M型遺伝子異常の治療と言う名目で幼い頃に、関東厚生病院と呼ばれる事実上の軍事訓練施設に入れられ、過酷な軍事教育を叩きこまれた。
示現流、柳生新影流、小野派一刀流、他7つの剣術を実戦でマスターしている為、剣術の技量は凄まじく、十分な威力と角度があれば、鉄の箱をも斬り裂ける。
素手での格闘術にも長けており、貫手で人の首を貫ける他、人間では回避不可能な銃弾やレーザーガンも、距離さえ十分なら回避可能。
化学的な毒ガスについても耐性があり、大抵の神経ガス兵器は無効化出来る。これは幼少の頃から毒ガスに身体を慣れさせる訓練を積んでいたから(これが有名な『おかわりもあるぞ!!』の下り)
また多くの戦いで従軍経験がある為か、銃火器の取り扱いも非常に得意。有効射程外から拳銃で人間の頭を撃ち抜く事など造作もない。

軍事知識及び軍事技能:
銃火器の扱い以外にも、元々空軍パイロットであった為、ヘリや戦闘機の操縦に非常に長けている。
またかつては陸軍特殊部隊に所属していた事もあり、暗殺についての知識や技術も卓越している。
破壊や潜入工作も得意で、過去にレニングラードの核兵器工場や、ヨーロッパの東部戦線にあったとされる生物兵器工場を単独で破壊する程破壊工作や潜入に長けている。

殺人鬼のスイッチ:
警戒心や殺意を抱くと、冷血・狂気じみた殺人機械としての人格が表に出る。時には喜々とした表情で殺害を行う。人を殺すと達成感まで感じるとの事。
これは戦時の過酷な経験と、暗殺を主な仕事としていた時に精神を著しく病んでいた時期があった事に起因する。
一度この状態になると明らかに目つきが変わり、相手を殺すまで収まらなくなってしまう。本人は自身の二重人格じみた性質を酷く悩んでおり、自分を『人間』として繋ぎとめてくれるユリカに安らぎを見出す一方で、彼女にだけは殺人鬼としての自分の顔を知られたくないと思っている。

【人物背景】

第三次世界大戦を終え、国民の殆ど全員がオアシス農場と言う名のアウシュビッツで強制労働を行わされ、一握りの特権階級が飽食と贅沢の限りを尽くしている、
2030年の日本。先の第三次世界大戦で数多くの戦場にて従軍し、その後日本国内に残っているとされる『敗残兵狩り』を主に警官として働いていた。
しかし後の相棒であるバベンスキーとの出会いや志乃の正体を知った事、そしてパトロール中に出会った人物達のやり取りを経て国が狂った方向に進んでることに気付き、
志乃の正体である小松ユリカに会いに行く為、時代と国に逆らう修羅の道を選んだ。
性格は普段は温和で陽気。ただ、お人好しで割と他人の影響を受け易い部分もある。 が、一度戦闘になると戦時の記憶が揺り動かされ、殺人マシーンとかしてしまう。

『S』と呼ばれるデザインヒューマンとの戦闘が終わってから一週間後の時間軸から参戦。

【方針】

聖杯の獲得。但し、なるべくならばサーヴァントのみを殺して行きたい。無論、状況が状況ならマスターも殺す。

【把握媒体】

アヴェンジャー:
原作小説であるモンテ・クリスト伯か、Fate/GOの監獄塔イベントで把握が可能

廻狂四郎:
原作を91話まで読めば把握可能。本作はコミックスで把握するよりも、古本屋で売っているコンビニの分厚い増量コミックスで把握した方が金銭的に手間がかからないかと思われる。


252 : 愛を乞う者 ◆zzpohGTsas :2016/07/10(日) 14:32:52 aKF4oiDA0
投下を終了します


253 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:27:11 w7Hld2I20
投下します。


254 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:27:32 w7Hld2I20
「契約が!馬鹿な!」

はじまりは陶器がひび割れるような音。
男が事態を察した時、身を守るはずの鎧はその力を急速に弱めていた。
恐怖と絶望、一欠片の生への執着が喚起した窒息感の中、唸り声に顔を向ければそこには人間一人容易く切断する死の刃。


もつれる足で離れようとした彼を、万力のような力で抱きとめるものがある。
それは狼狽える彼をもう覚えてはいないらしい。

震えるほど冷たい衝撃が首に突き刺さる。
鎧はもはや影すら消えつつある。身を捩っても、叫んでも、助けがよこされることはない。
咀嚼――咀嚼――何を?


ゆっくりと肉体を侵略する圧潰の痛みと引き換えに、感覚がどこか計り知れない場所へ散っていく。
身を切る叫びが空に溶けて消える。
肉―咀嚼音。骨―砕く。金。咀嚼。スリル。痛い。超常の力が失われた手では、捕食者を引き離すことなどできない。
小さくなっていく男の細い指が、銅色の殻を空しく引っ掻く。

クライマックスが近づき、破砕音は水気を伴って一際大きくなる。
そして彼を構成していた記憶が消え、本能に近くなった思考の残滓が消え、……最後には延々と伝達され続けていた感覚すら消えた。男が確かに存在した事を示す痕跡は、頭髪一本残っていない。





目を覚ました須藤の身体は、湯浴みをした直後さながらだった。
汗があらゆるところから噴き出している。
不快に張り付く布団を払い除けて、ベッドサイドの時計に目を遣る。現在4時47分。起きるには早すぎる。睡魔は既に吹き飛んでいた。
カーペットに足をつけた須藤は生まれたままの姿だ。寝巻を着るのはこの街に来てからやめた。
悪夢の滓がこびりついた身体を引きずるようにして、洗面所へ足を運ぶ。





バスタオルで汗を拭い、人心地がついた須藤は冷蔵庫から500mlのミネラルウォーターを一本取り出し、キャップを思い切りよく開けた。
須藤は中身を一気に流し込む。口当たりが軽く、このまま一本空けられそうな程飲みやすい。
3/2を飲み干した時点で口を離すと、ちゃぷちゃぷと音を立てるペットボトルを片手にリビングまで歩き、革張りのソファに腰かける。
両膝に肘を乗せて身じろぎ一つしない男は全裸ではなく、今は無地のバスローブを着用している。


玄関扉が開閉する音。まもなく、けたたましいベル音が彼の耳をついた。
すぐに音は止み、廊下の方からこそこそとした話し声が聞こえてくる。

それもまたすぐに止み、軽快な音がこちらに近づく。
玄関の方に目を向けていた須藤の前に、音の主が現れた。

「あぁ、須藤さん。珍しいですね、……こんな時間に」

「…どうしました、ドッピオ君?」

「はい、ボスから電話です」


255 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:27:54 w7Hld2I20
音の主は気弱そうな少年だった。
彼が差し出した掌には携帯電話が握られている。
須藤は気のない様子でそれを受け取り、受話口を耳に押し当てると男の声がした。

「どうしました」

「三騎のサーヴァントを捕捉した」

須藤が契約したサーヴァントは、とても風変わりなアサシンだった。
初召喚の際、目の前に姿を現したのは本人ではなく、隣で須藤―おそらくはその向こうにいるボス―の顔色を窺う少年だった。

そしてつい先ほどと同じように渡された携帯電話を介して、やり取りを行った。
その内容は、

真名を明かすつもりはない事。
極力マスターの前には姿を見せない事。
今後は生前の部下であり、今は宝具となったドッピオを仲介役とする事。

以上の約束を一方的に宣告され、須藤もそれを一も二もなく了承した。
自身も秘密を抱えた身であることから、接触をとりたがらないサーヴァントはまぁ、都合がよかった。

「クラスは分かりますか?」

「1騎は幻獣を駆っていたことから、ライダーと推測できる。残りの2騎は特徴となるような物を見せてはいない。詳しい話はドッピオからさせる」

ドッピオに電話をかわる。
口元に手を当てて、電話の向こうのボスとやり取りをしている。
それが終わると彼は手元の携帯を消し、ショルダーバッグを持って須藤の隣に腰を下ろす。
カバンの中から幾つかの写真を取り出した彼は、須藤に今日一日の成果を語り始めた。



まずは早朝の住宅街。
立ち並ぶ家屋の真上を、鷲の頭をもった馬に跨って飛行する姿が映っている。
花をモチーフにした軽装の鎧を着込み、形の良い足に履いているのは…ニーソックス?それにスカート。
騎乗物を除けば、コスプレイヤーにしか見えない。

装飾に用途が偏った衣装は、彼女―写真でみる限りは―の魅力を最大限に引き立てている。
もっとも須藤からすればこうして捕捉されている以上、愛らしい顔立ちも侮蔑の対象にしかならないが。


つぎに正午、飲食店の行列に並ぶ二人連れ。
恰幅の良い青年と、見かけ小学生くらいの男子。
サーヴァントは青年の後ろで、退屈そうに周囲の景色を眺めている。
男子は整った顔立ちをしており、写真の中で通行人の何人かが、彼に熱のこもった視線を送っている。

青年の方に目を向けると、これが男子と比較するのは残酷とすら呼べる容姿の持ち主だった。如何にも不似合いな主従であり、真っ当な警官なら声をかけてもおかしくない。
判明している情報から推察すれば、アサシンの線は薄い気がする。仮に違ったなら、このサーヴァントは全く乗り気でないのだろう。


最後は夕暮れのショッピングモール。
学生服の少女と褐色の男。
男はかなりの長身であり、彼の研鑽の程はビジネススーツごし―そのうえ写真を通している―でも須藤を緊張させる域にある。
三騎士クラスと推測できるが、それよりは制服の少女に関心を向けるべきだろう。

マスターと思しき少女に擦れた雰囲気はなく、写真から素行不良の兆候は見受けられない。
また2枚目に目を落とすと……男と手を繋いでいる。これまた暢気な主従だ。


3騎とも気付いた様子はないらしい。
ドッピオの言を鵜呑みにする気はないが、未だ襲撃らしい襲撃はうけていない。
彼の規格外のステルス能力が為せる離れ業だった。


256 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:28:14 w7Hld2I20
説明が終わると、ドッピオは撮影した写真を須藤に渡す。
曰く、これらの手がかりを活用してマスターを捕捉せよ、とお達しがあったそうだ。
それだけ告げると、ドッピオはリビングを出て行った。
彼の桁外れの気配遮断術を活かすなら住民に紛れる方が良いというアサシンの判断から、彼は極端な時間にはまず出歩かない。


残された須藤は10枚近い人物写真を扇子のように広げ、…戻す。
真っ向から戦うつもりはない。その一点はアサシンとも共通している。
まずは情報収集を行い、暗殺、……事故…、

(デッキがあれば……)

ペットボトルをぐいっと傾け、空にした。台所に向かって放る。壁にぶつかったペットボトルは、フローリングの上に音を立てて転がった。
もはや終わった事だ。終わった……ここで終わらせる。
万能の願望器の力さえされば、あの悪夢を見ることも無くなるだろう。


かつて参加した戦いに、大した意気込みはなかった。
不意のトラブルに陥った須藤は、差しのべられた手をただ掴んだだけに過ぎない。
助け舟を出したのが悪魔だったとしても、汚れ事に手を染めていた彼からすれば問題にはならない。
頂点を極め、更なる栄光を掴む。戦う理由はそれだけだった。

だが、今は真剣そのものだ。
何としても蘇りたい。そして……自分が死んだ瞬間の記憶を消し去りたい。
五体の全てが噛み砕かれ、意識が暗黒に溶けるイメージに耐えられる人間などいるはずはなく、万が一いたとしても、須藤はそうではなかった。
私は絶対に生き延びる。


リモコンを操作してテレビの電源を入れる。
既に朝5時を過ぎており、若いキャスターが爽やかな笑顔で一日の始まりを告げる。
もう少しすれば空も白み始めるだろう。

(コーヒーでも入れましょう……)

須藤は台所に向かった。


257 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:29:14 w7Hld2I20
【クラス】アサシン

【真名】ディアボロ

【出典作品】ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風

【性別】男

【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具A

 ドッピオ  筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B 幸運D 宝具A

【属性】
混沌・悪


【クラススキル】
気配遮断:EX(C)
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 後述宝具によって自身の存在を完全に隠蔽する事が出来る。

 ドッピオは攻撃態勢に移らない限り、気配を感知されることが無い。攻撃態勢に移った後も、ドッピオ個人の気配が発せられるのみ。
 ディアボロが表に出ている間はCランク。


【保有スキル】
怯懦:E〜C
 他人に怯え、過去に怯え、運命に怯える男であること。臆病さ。
 劣勢に回ると低確率で恐慌に陥り、行動判定にマイナス修正がかかる。

 ドッピオはこのスキルをCランクで保有しており、ディアボロが表に出る程、ランクが落ちていく。


心眼(偽):B
 視覚妨害による補正への耐性。第六感、虫の報せとも言われる天性の才能による危険予知。


正体秘匿:A(-)
 マスター以外の人間からパーソナルデータを閲覧される事を防ぐ。
 ただし「ディアボロ=ドッピオ」と知る者、Aランク以上の真名看破スキルの持ち主に対しては、効果を発揮しない。

 ディアボロが表に出ている間は効果が消滅する。


258 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:29:49 w7Hld2I20
【宝具】
『首領と僕(マイネーム・イズ・ドッピオ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 第二の人格、ヴィネガー・ドッピオ。
 ディアボロは通常、彼の内側に隠れており、ディアボロ側の働きかけでのみ人格の交代が行われ、容姿もそれに応じて変化する。

 ドッピオ時はステータスが専用のものになり、怯懦スキルがCランクまで上昇。宝具に制限がかかるために戦闘力が低下する。
 代わりに最高ランクの正体秘匿スキルと規格外の気配遮断スキルによってずば抜けた隠密性を発揮。余程の相手でなければ正体を看破されることは無い。

 ドッピオ本人は自分をディアボロの部下と思いこんでいるが、実際は同一人物であるため「キング・クリムゾンの両腕」と『碑に刻まれた名は(エピタフ)』を自由に行使できる。
 また二人のやり取りは「電話」を介して行われる。宝具発動中はドッピオとのみ、念話が可能。

 ちなみにこの宝具が失われた場合、正体秘匿スキルそのものが消滅し、幸運値が永続的にワンランクダウンする。



『孤独な王の宮殿(キング・クリムゾン)』
ランク:A 種別:対人宝具(対界宝具) レンジ:1〜5(時飛ばし:全世界) 最大捕捉:1人(時飛ばし:上限無し)
 ディアボロが保有するスタンド。
 簡単な説明をすると最大で十数秒先の、未来の時間に飛ぶことが出来る。
 
 能力を発動する事で、指定した時間をスキップする。時間そのものは消費される為、整合性が崩れることはない。
 「時飛ばし」に気付くには精神判定に成功する必要があり、失敗すれば何事もなかったと認識する。

 仮に気づいても、消し飛んだ時の中で起こった変化はディアボロにしかわからない。
 時が飛んでいる間、物体はディアボロに対して一切干渉することが出来ず、ディアボロから干渉する事もできない。

 スタンド共通のルールとして、宝具へのダメージはディアボロ自身にも反映される。
 生前とは異なり能力の発動には魔力が消費され、指定した時間に応じて消費量は上がる。
 一瞬消すだけなら消費は少なく、最大の十数秒全て消すなら消費は相当に重くなる。
 スタンド体はサーヴァントに換算して、ステータスは筋力:A 耐久:D 敏捷:Cに相当。


『碑に刻まれた名は(エピタフ)』
ランク:A 種別:対人宝具、対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人(自身)
 ディアボロが保有するスタンド。
 キング・クリムゾンの補助能力だが、単体でも使用可能なことから、一個の宝具に昇華された。
 十数秒後までの未来を「到達率100%」に書き換えたうえで、映像として投射する。

 上述宝具と併用することでディアボロは絶対的な回避能力を発揮できるが、サーヴァント化した現在はそれぞれの使用に魔力消費が課せられる。
 生前同様にスタンドを操るのは、潤沢な魔力供給を受けていない限り難しい。


【weapon】
「電話」
ディアボロとドッピオの交信手段。
生前は耳に当てられるものを「電話」と誤認させていたが、サーヴァント化した現在はドッピオがベル音を口走った直後、彼の手の中に携帯電話が出現するようになった。


「レクイエム」
自分を倒した少年に与えられた呪い。
本来なら永遠に「死に続ける」運命にあるディアボロだが、サーヴァントとなったことで一時的に除去されている。


【人物背景】
ギャング組織「パッショーネ」のボス。本名不詳の二重人格者。
自分の正体を知られることは暗殺に繋がるとして、あらゆる自分に関する情報を全て抹消してきたし、過去を探ろうとする者は皆殺しにしてきた。
よって彼の人物像を知る者は組織の内外含めて、一人もいない。


【聖杯にかける願い】
完全な状態で復活する。


259 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:30:12 w7Hld2I20
【マスター名】須藤雅史

【出典】仮面ライダー龍騎

【性別】男

【Weapon】
なし。


【能力・技能】
「悪徳警官」
立場を隠れ蓑にして犯罪行為に耽る。
犯した罪は原作において、殺人、拉致、脅迫などが確認されている。


「死の記憶」
須藤は今回の戦いに類似したバトルロイヤルに参戦していた。
聖杯戦争に招かれたのは「契約していたミラーモンスターに食い殺された」須藤雅史である。

マスター資格を得てから、死んだ瞬間の記憶に苛まれ続けている。


【ロール】
刑事。


【人物背景】
連続失踪事件を追っていた刑事。
実は悪事を働いており、裏の仕事仲間を報酬で揉めた末にカッとなって殺害。その死体を埋めていた時にライダーバトルへの参戦資格を得た。
参戦後はライダーの頂点を目指し、契約モンスター「ボルキャンサー」に一般人を襲わせていた。

死亡後から参戦。


【聖杯にかける願い】
完全な状態で復活する。




【把握媒体】
アサシン(ディアボロ):
 原作コミックス。


須藤雅史:
 テレビシリーズ全50話。須藤自身は第6話で退場。
 DVD、Blu-ray、ニコニコチャンネルなどで視聴可能。


260 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/10(日) 21:30:34 w7Hld2I20
投下終了です。


261 : ◆GO82qGZUNE :2016/07/11(月) 23:40:53 p9TGsWig0
投下します


262 : 有栖院凪&アサシン ◆GO82qGZUNE :2016/07/11(月) 23:41:22 p9TGsWig0





 未だに夢に見る。

 卑小で薄汚い欲望に満ちた大人たちによって蹂躙された陽だまりを。

 血塗れになって倒れる彼女。いくら泣き叫んでも知らぬふりをする周囲。

 その時になってようやく悟った。間違っていたのは世界ではなく自分たちなのだと。

 弱肉強食、強きが全てを奪い尽くす。世界の真理はそんな単純でありふれたもので、「格好良い大人」なんてものは何処にも存在しないかった。

 そうして視界に色が戻った時、自分は全てを失っていた。

 憤りさえ覚えなかった。こんなことになるくらいなら、感情など無くなってしまえばいいとさえ思った。

 だから自分は道徳も倫理も捨て去って殺し続けた。今までもこれからも、それだけでいいと思っていた。

 けれど。

 その果てに、あたしは―――





   ▼  ▼  ▼





 未だに夢に見る。

 夢の中の自分は、大きなガラス筒の中で生暖かい透明な液体に浸かって眠っていた。

 次々とやってくる人たち。彼らの心は鮮明に頭の中に流れ込んできて、彼らは皆お金か戦争か、そればかりを考えていた。

 怖くなった。だから静かになってと、それだけを願って力を込めたら、それだけで彼らは皆動かなくなった。

 彼らは何度もやってきた。誰も彼も自分を殺したいか利用したいと考えていた。彼らは次々動かなくなった。

 あるとき、優しそうなお婆さんがやってきた。頭の中にはお金でも殺人でもなく、帰りを待っている家族の姿が映っていた。

 そのことに、自分は安堵した。けれどお婆さんは自分に銃を向ける。

 お婆さんの息が絶える時、頭の中に見えたのは病気で寝ている孫の顔だった。お婆さんは心の中で孫に詫びながら死んでいった。

 もう、誰も殺したくなかった。

 だから自分はもう終わってよかった。次にやってくるのが誰であろうとも、その人の自由にさせようと考えた。

 けれど。

 その果てに、僕は―――





   ▼  ▼  ▼


263 : 有栖院凪&アサシン ◆GO82qGZUNE :2016/07/11(月) 23:42:09 p9TGsWig0





「失敗しちゃったのね、あたし」

 ベッドスタンドの灯りだけが薄ぼんやりと光る部屋の中、簡素な造りのベッドの縁に腰かけた彼は、振り絞るような声音で呟いた。
 中性的な外見の男だった。スラリと細く長い手足は男とは思えないほどで、しかし痩身の不健康さとは無縁な均整の取れた体は正しく美麗と呼称できるだろう。顔を彩る耽美さといい、彼が普段から美容に気を使っているのだということは容易に察することができた。
 そんな、情をこめて微笑めば大抵の女子は振り返るのではないかと思える相貌は、しかし今は憂鬱の翳りに晒されていた。強い悲しみや喪失感に苛まれているというわけではないようだが、それでも表層に浮かんだ負の情念は隠しようがない。
 有栖院凪という名の男は、己の無力を嘆くように、ただ項垂れていた。

「あたしの裏切りも、それで何をするのかも完全に筒抜けだった……尻尾掴ませるようなヘマをしたつもりはなかったけど、"そういうこと"ができる伐刀者がいたってことかしら。
 やっぱりメンバーの詳細を掴みきれなかったのが痛かったわね」
「まあ、そっちの事情は大体分かったけどさ」

 答える声は高く、それが未だ変声期を迎えていない少年のものであることは一声で分かった。
 視線を向ければ、そこにいたのは印象を裏切ることのない小柄な少年だった。黒目に黒髪、特にこれといった特徴のない、普通の東洋人にも見える少年だ。
 けれど伐刀者としての眼識を持つ凪には、その小柄な体躯に秘められた規格外の魔力の多寡がはっきりと感じ取れた。単純な総魔力量だけを見ても、自分の知る如何なる伐刀者をも超えて余りある。それはサーヴァントと呼ばれる、凪に与えられた"力"の具現であった。

 明らかな超常の力を漂わせて、しかしそんな気配など微塵も感じさせない少年は、凪に問いかけた。

「結局マスターはどうするつもりなの。その暁学園とかいうのを止めたいっていうなら、こんなところで油売ってる暇なんてないでしょ。そいつら止めるためだけに聖杯が欲しいって言うんなら、流石に仰々しいとは思うけどさ」

 若干呆れたような口ぶりの少年に、凪は同意を示す苦笑だけを返した。
 既に少年には、凪が直前まで何をしていて、そして何を目的に動いていたのかを伝えてある。無論、この状況そのものに疑念を抱いている凪は馬鹿正直に自分の身の上を話すつもりなどなく、当然少年にも虚実入り混ぜた話をでっち上げて話したのだが、不思議なことに少年は凪の話に含まれた虚実の部分のみを正確に看破してのけた。聞けば「そういう機能」があるとかで、流石の凪もこれには観念して改めてこうなった経緯を話した、という一幕があった。

 凪の身の上を一言で言えば、とある学園に任務で潜入している暗殺者だ。暁学園という架空の学園組織に協力する形でその行動を補佐するために破軍学園へと入学し、そこの有力者たちと親交を深めた。そして来る前日、ついにその任務を結実させる決行日が到来したのだが……

「そうね……あたしとしても、こんなところに招かれるなんて予定外だったの。正直言えば早く帰りたいっていうのが本音ね」

 言って凪はこの昭和の街へと連れられる前、すなわち元の時代で意識を失う直前のことを思い返した。
 凪の任務とは破軍学園を裏切り、その構成員へと奇襲を仕掛けることだった。凪はそれを迷いなく遂行した。ただし、裏切る対象は破軍学園ではなく暁学園の側であった。
 それは疑う余地もなく、自らの所属する組織への反逆だった。今まで忠実に任務をこなし、勘定さえも捨て去ったはずの凪が何故そのような暴挙に出たかと問われれば、それは情に絆されたとしか言いようがなかった。
 任務遂行のために近づいた少女が抱く願いと心が、あまりにも綺麗だったから。理由なんて、結局はそんなものだ。けれど、そんなつまらない理由であっても、自分はこうしてかつての光を取り戻すことができた。
 だから後悔などしていないし、今もその少女や周りの人たちを救いたいと思っている。自分の無力は百も承知だが、それでも通したい意地はあるのだ。だからこそ早急な脱出を凪は望んだ。聖杯など知ったことではないし、帰れるならさっさと帰還したい。
 ……奇襲に失敗して敵に捕まり気絶したところを連れてこられたから、そういう意味では僥倖だったのかもしれないが。


264 : 有栖院凪&アサシン ◆GO82qGZUNE :2016/07/11(月) 23:42:44 p9TGsWig0

「とはいえ現状分かってる中で一番確実な帰還方法が聖杯の獲得なのよね。はぁ、もういっそ優勝目指しちゃおうかしら」
「マスターがそれを望むなら僕も吝かじゃないけどね。けど、それは難しいんじゃないかな。だってほら、僕アサシンだし」
「あら、あなた言うほど弱いわけじゃないでしょ」
「そりゃ僕だって負けるつもりはないけどね。それでも現実問題として真っ向から華々しく、なんてことはできそうにないからそこは分かってほしいかな」

 語るアサシンの少年は、しかし弱気な様子など微塵も感じられない。その口調はあくまで性能的な特徴を語るのみで、本人の言う通り負ける気などさらさらないようだった。

「……実を言うとね、あたしにも叶えたい願いの一つや二つはあるの。それも聖杯なんて埒外の奇跡、そんなものが本当にあるなら、変えたい過去はいくらでもある」

 それは例えば、生涯忘れることはないだろう親友の死であったりとか。
 あるいは、汚いものを見せてしまった子供たちのことであるとか。
 他にも他にも、後悔はすぐ思いつく範囲でさえも数え切れず、自分の半生は間違いと無力と無念で満ち溢れたものだけど。

「けどね、あたしはそれよりも珠雫たちのことのほうが大事。過去を忘れるつもりも蔑ろにするつもりもないけど、でも守れなかった過去よりもまだ守れる今のほうがあたしは大事なの」

 凪は俯けていた顔を上げて、言った。

「だからアサシン、あたしは元の世界に戻るわ。そのために力を貸してちょうだい」
「うん、分かった」

 その言葉にアサシンは当然だと言わんばかりの態度で向き直る。

「僕にも叶えたい願いはいくらでもある。けど、それは過ぎ去った昨日のことでしかない。そこはマスターと同じ意見だよ。だから」

 何か眩しいものでも見るような目で、アサシンは凪を見つめた。

「いいよ、僕がきみに力を貸そう。悔やむのも苦しむのも、まずは諦めず頑張ってからだ」

 差し出された右手を取って、凪は己の侍従たるアサシンに軽く笑みを返した。
 共に描くはまだ見ぬ未来。忘れ得ぬ過去を胸に抱いて、それでも彼らは明日を往く。
 心より助けたいと願った、一人の少女のために。凪はこの身を修羅に堕とそうともその一念を貫くのだと決めたのだった。


265 : 有栖院凪&アサシン ◆GO82qGZUNE :2016/07/11(月) 23:43:08 p9TGsWig0

【クラス】
アサシン

【真名】
天樹錬@ウィザーズ・ブレイン

【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷B+++ 魔力A 幸運B 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】
I-ブレイン:A
大脳に先天的に保有する生体量子コンピュータ。演算により物理法則をも捻じ曲げる力を持つ。
また、I-ブレイン自体が100万ピット量子CPUの数千倍〜数万倍近い演算速度を持ちナノ単位での思考が可能。極めて高ランクの高速思考・分割思考に相当する。

工作技術:B
敵地に侵入・掌握するための諸般の技術。生前のアサシンは依頼達成率100%の便利屋として数多のプラント等に潜入し、軍の戦艦の中枢すら掌握したことさえある。
ランクはダウンするも陣地破壊・破壊工作・情報抹消の他、電子戦のスキルを取得可能。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

【宝具】
『元型なる悪魔使い(ウィザーズブレイン・アーキタイプ)』
ランク:B 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:300
全ての魔法士の雛形にして完成型。世界でただ二人の対存在であることに加え、原初の魔法士の能力を再現したものであるため、神秘の伴わない未来科学の産物としては破格の神秘を内包するに至った。
魔法士としての固有能力は「無限成長」であり、本来書き換え不可能な基礎領域を書き換えることによりあらゆる能力を使用可能とする。
アサシンは自身が長時間に渡り目撃・確認したあらゆるスキルと技能系宝具を、種別や分類・原理にもよるが習得可能である。ただし悪魔使いのコピー能力は仮想的な能力の再現であるため、習得したスキル等はオリジナルと比べてランクが1段階低下する。
また、以下の魔法士能力を使用可能。基本的には2つまで同時使用が可能だがアインシュタインとサイバーグのみ単独でしか発動できない(アインシュタインは機能を制限することにより同時使用が可能)。

「短期未来予測デーモン・ラプラス」
ニュートン力学に基づき、3秒先までに起こり得る未来を可能性の高い順に表示する短期未来予測。極めて高ランクの直感及び心眼(真)に相当する。

「運動係数制御デーモン・ラグランジュ」
騎士の身体能力制御のデッドコピー。
運動速度を5倍、知覚速度を20倍にまで加速する。ただし不自然な動きから発生する反作用を全て打ち消す関係上、加速による運動エネルギーを得ることはできず結果として倍加されるのは単純な速度のみとなる。

「仮想精神体制御デーモン・チューリング」
人形使いのゴーストハックのデッドコピー。
接触した無機物に仮想的な精神体を送り込み、無理やり生物化させて支配下に置く。生み出されるのは大抵は数mの巨大な腕であり、それ単体では10秒程度しか形を維持できず、物理的な強度も元となった素材に左右される。
アサシン単体では同時に生み出せるのは一体のみだが、高度な演算能力を持つ外部デバイスと合わせればそれ以上の数を生み出すことも可能となる。

「分子運動制御デーモン・マクスウェル」
炎使いの分子運動制御のデッドコピー。
基本的には大気中から熱量を奪うことで窒素結晶の弾丸や槍、盾を作り出し攻撃・防御に転用する他、一点に熱量を集中させることによる熱量攻撃を可能とする。最大射程は視認できる範囲まで。
二重常駐させることにより、氷の弾丸を制御しつつ同時に熱量を操作して弾丸を水蒸気爆発させるという使い方もできる。


266 : 有栖院凪&アサシン ◆GO82qGZUNE :2016/07/11(月) 23:43:41 p9TGsWig0

「論理回路生成デーモン・ファインマン」
空賊の破砕の領域のデッドコピー。分類的には情報解体に相当する。
直径20センチほどの限定空間に論理回路を生成し、接触した対象を情報解体し物理的には分子・原子単位まで解体する。ただし事前に空間内の空気分子の数を制限する必要があるため、マクスウェルとの併用が前提となる能力である。

「空間曲率制御デーモン・アインシュタイン」
光使いの時空制御のデッドコピー。
重力方向の改変による飛行、空間を捻じ曲げることによる超重力場の生成、空間跳躍、重力レンズによる防御、対象を無限の深さを持つ空間の穴に30分だけ閉じ込める次元回廊を使用可能。
機能を制限した場合、重力の軽減による落下速度の抑制のみ使用可能となる。

「世界面変換デーモン・サイバーグ」
騎士の自己領域のデッドコピー。
自身の周囲1mに通常とは異なる法則の支配する空間を作り出し、その空間と共に移動することにより亜光速での移動が可能となる。自身のみならず領域内に侵入した他の者も同一の条件下で行動可能。
ただし発動可能時間は主観で3分のみ。それを過ぎればweaponのナイフに埋め込まれた結晶体が崩壊し使用不可能となる。

【weapon】
サバイバルナイフ:
銀の不安定同素体であるミスリルで構成されており、物理・情報の両面において非常に頑強。
柄にはサイバーグ発動に必要な結晶体が埋め込まれている。これが破損した場合は魔力を用いて修復することが可能であるが、相応に時間がかかる。

【人物背景】
依頼達成率100%を誇る便利屋の少年。世界に二人しか存在しない「悪魔使い」の片割れであり、世界最強格の魔法士の一人。
シティ神戸の崩壊、シティロンドンにおける世界樹の種にまつわる騒動に関与し、その身は否応なく世界規模の戦いへと投じられることになる。

【サーヴァントとしての願い】
願う事柄は無数に存在する。
しかしそれらに無理に固執するつもりはなく、マスターの好きにやらせようと考えている。



【マスター】
有栖院凪@落第騎士の英雄譚

【マスターとしての願い】
珠雫の願いを、珠雫の大切な人達の夢を壊させない。

【weapon】
黒き隠者(ダークネス・ハーミット)

【能力・技能】
伐刀絶技:日陰道(シャドウウォーク)
影を対象とした概念操作系の伐刀絶技。影への潜航や影縫いによる行動阻害などが可能。

また、暗殺者としての諸般の技術にも優れる。

【人物背景】
破軍学園の一年四組所属。主人公である黒鉄一輝やその妹である黒鉄珠雫といった面々の友人。体は男で心は乙女、実際女子力はかなり高い。
元々は国外において親に捨てられスラムで生活するストリートチルドレンだった。しかし無法者の手で無二の仲間が殺されたことをきっかけに「解放軍」と呼ばれる犯罪組織に身を投じ、黒の凶手と呼称されるほどの暗殺者に育つ。
破軍学園に入学したのも本来は解放軍の任務の一貫であり、明るく優しい態度も見せかけのものでしかなかったが……
4巻、暁学園に奇襲仕掛けて返り討ちに遭い気絶した辺りから参戦。

【方針】
早急な帰還、及び暁学園の返り討ち。
聖杯の入手は基本度外視だが必要になったら入手を目指すし、仮に入手して危険性がないことを確認できたら迷いなく使用する。
なお道中での殺人には躊躇なし。

【把握媒体】
有栖院凪:アニメだと参戦時期までやらないので原作読んでください。4巻まで読めばいいです
天樹錬:ラノベです。1巻と4巻読めば大丈夫です。2巻と3巻には登場しないのでこっちは読む必要はないです


267 : 名無しさん :2016/07/11(月) 23:44:07 p9TGsWig0
投下を終了します


268 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/13(水) 21:28:18 5BhSey2Q0
皆様、投下ありがとうございます!
自分も投下させていただきます。


269 : 柴来人&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/13(水) 21:29:42 5BhSey2Q0
 その昔、彼は『正義』だった。
 人と社会に害を成す存在を許さないと息巻いて、どこまでも突き進んでいく刑事だった。
 今でも彼は、正義の二文字を信じている。
 最後に勝って笑うべきなのは『正義』であって『悪』ではないと、心よりそう思っている。
 一言では語り尽くせない、色々なことがあった。
 一度人間として死に、サイボーグとして蘇ってからというもの、すっかり人生が変わってしまった。
 ……変わったのは人生だけじゃない。
 自分の中の正義もまた、少しずつ形を変えているのが分かる。

「それでも」

 鋼鉄探偵と呼ばれた男は、鋼の体が軋むほどの力で拳を握る。
 変わってしまったことは山程ある。
 それは何も、自分に限ったことじゃない。
 世界が、社会が、時代が、熱病に浮かされたように胡乱げな足取りで、どことも付かない方向に疾走し続けている。
 それでも、柴来人は信じていた。
 世界が変わっても、人が変わっても、国が変わっても、自分が変わっても、……超人が変わっても。

「……勝つのは、正義だ。そうでなければならない」

 正義とは、幾つもの側面を持った概念だ。
 大衆にとっての正義……つまり国家が定めた正義というものが、必ずしも正しいとは限らない。
 現に来人は、この鋼鉄探偵は、国家の押し進める正義など毛ほども信じちゃいない。
 昔は信じていた。それが正しいと思っていた。いや、そう思うようにしていたのかもしれない。
 だが、それには限界があった。
 昔の自分を鏡に写したような異星からの使者を殺害した時に、柴来人の中で何か、重大なものが切れてしまった。

 時は神化47年。国旗は日の丸。
 大戦から時が流れ、新たな文明が芽吹き出して久しい現代。
 来人は、遂に母国に弓を引いた。
 看過できなかったのだ、これ以上の堕落が。
 国を愛し、守りたいと思うからこそ……一度、鞭を打って目覚めさせる必要がある。
 そう考えた彼が手を組んだのは、自分と同じく反政府を掲げて社会の裏側で活動する、革命派の人間達だった。

 世界を敵に回して、どれだけの時間が過ぎたろうか。
 一口に革命と言っても、その道はあまりに険しく、長い。
 自分が進んでいるのか、それとも戻っているのかも分からない暗中模索の日々。
 焦燥と苛立ちばかりが募っていく。現状は、やはり何も変わらない。


270 : 柴来人&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/13(水) 21:30:06 5BhSey2Q0
 柴来人は熱意の人だ。
 自分の信じる正義を遂行するためならば、どんな悪評や不利益にも耐えられる人物だ。
 そんな彼にとって、正義を行うための手段はもはや問題ではなかった。
 例えば、自分の思うがままの正義を元に、世界を変える手段があると聞いたなら―――
 彼は躊躇うことなく、貪欲にそれを求める。
 周りの制止など振り切って、これが答えなのだと信じて突き進み、そうして此処まで辿り着いた。

「俺は聖杯を手に入れる。それが、俺に成せる最善の正義だ」

 機械の体にも、どうやら令呪は宿るらしい。
 魔術回路など備わっている筈もないこの体で何故サーヴァントが使役できるのかは見当も付かないが、少なくとも今のところは、英霊の運用に不便を感じたことはない。
 聖杯戦争。人類史の彼方から英霊を呼び出して殺し合わせる、願望の成就を懸けた血塗られた戦い。
 英霊の力は、超人のそれをも遥か置き去った域にある。
 もはや、一個の戦略兵器と言っても過言ではない勢いだ。
 鋼鉄探偵の真の姿を開帳しても、恐らく来人では太刀打ち出来ないだろう。
 そもそも彼の体のどこにも、英霊を傷付けられるような大層な神秘は宿っていない。そんなものの入り込む余地がそもそもない。

「……俺が聞くことでもないかもしれんが一応聞かせろ。アーチャー、お前は何故聖杯を欲さない?」
「奇跡を起こしてまで叶えたい願いが、私にはありませんから」
 
 微笑みを浮かべながらそう答える自身のサーヴァントに、来人は唇を噛む。
 大和撫子。和風美人を地で行くような淑やかな容貌をしたこの女性こそ、来人の召喚したサーヴァントだ。クラスはアーチャー。だが、弓は使わない。
 彼女はそもそも、弓なんて古典的な武器を使って戦うような時代の英霊ではないのだ。
 新しい時代の英霊の例に漏れず、彼女の神秘はごく薄い。
 しかしその強さは歴戦の英雄や、神秘が溢れていた時代の出身者にすら匹敵する。―――この国の中が戦場である限り。護るべき祖国がある限り。

 だからこそ、来人は解せない。
 真に祖国を想って戦った英霊ならば、なおさら願いを持たないなんてことはあり得ない。
 もしも自分が彼女の立場だったなら、抱く願いは容易に想像がつく。
 何故なら彼女の生き様は、ある決定的な事実を以って後世で否定されているからだ。
 
「歴史を変えたいとは思わんのか。聖杯の力ならば、あの大戦の結果を覆すことも可能だろう」

 第二次世界大戦という戦争が、かつてあった。
 来人の世界とアーチャーの世界は異なる発展を遂げた別世界だが、この戦争があったことについては共通している。
 人類史に間違いなく残る、その名の通り全世界規模の大戦争。
 国際社会全体の大きなターニングポイントとなったその戦いの結末は、今日び子供でも知っている。

 日本は、負けた。
 彼女達の奮戦は、圧倒的な戦力差を覆すには至らなかった。
 国土は蹂躙され、数えきれないだけの民が死に、復興には長い時間を要した。
 今後も何十年、何百年と語り継がれていくであろう、近代最大の悲劇。
 来人が当事者だったなら、絶対にこの歴史を変えたいと思う。
 にも関わらず、やはりアーチャーは首を横に振った。願いはないと、桜色の唇でそう言う。


271 : 柴来人&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/13(水) 21:30:31 5BhSey2Q0
「確かに、痛ましい戦いでした。多くの仲間が海の底に沈み、多くの命が失われた。あの戦いを快く思っているかと問われれば、もちろん否です」
「なら変えればいいだろう、その歴史を! 護国の象徴たるお前が、何故そうしない! それが……それが、お前にとっての正義ではないのか!!」
「……仮に」

 アーチャーは、護国の象徴だ。
 国の名を背負って戦った、海原の大英傑。
 それなら確かに来人の言う通り、護れなかったものを護るために、歴史を改変するのが筋だろう。
 
「仮にあの戦争に勝利したとして、それで何もかもが良くなったとは……私は思いません」

 アーチャーは、真に国を愛していた。母であり父である母国を愛していた。
 愛していればこそ、彼女は歴史を変えないと決めたのだ。
 ……あの時代の日本は、暴走していた。軍部を筆頭に国中が歪な熱に浮かされて、脇目も振らずにあらぬ方向へと突っ走っていた。
 アーチャーがこうして事実上の蘇りを果たすのは、これが初めてではない。
 大戦の遥か後の時代に、深海棲艦という敵を討つために今の肉体で再建造され、戦いを終えて、一人の人間として生涯を閉じた。
 彼女は知っているのだ、平和な国を。
 知っているからこそ、アーチャーは聖杯に願わない。祖国の救済という名の歴史改変を望まない。

「でも、どうかご安心を。私は私、貴方は貴方です。
 貴方に召喚されたサーヴァントとして……必ずや、貴方に勝利の二文字を捧げてみせましょう」

「……改めて言われるまでもない!」

 苦手な女だ。
 踵を返して歩き始めながら、来人は苦々しげにそうこぼした。
 彼女は来人の目的を肯定も、否定もしていない。
 だが、来人には分かってしまった。彼女の思うところの正義は、自分の追い求める正義とは異なる正義なのだと理解してしまった。
 ―――それでも。鋼鉄探偵ライトは止まらない。
 心に刻んだ正義のために、昭和の街で戦い続ける。


【クラス】
 アーチャー

【真名】
 大和@艦隊これくしょん

【ステータス】
 筋力B 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運C 宝具C
 筋力A 耐久A+ 敏捷C 魔力D 幸運B 宝具B+ (改)

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】

対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。


272 : 柴来人&アーチャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/13(水) 21:31:09 5BhSey2Q0
【保有スキル】
艦娘:A+
 人類の敵、深海棲艦を滅ぼすために建造された少女型兵器。
 過去の大戦で沈んだ艦船の記憶を有しており、その転生体として扱われる。
 水上での戦闘時、各種判定にプラスの補正を受ける。

護国の象徴:A+
 彼女は大日本帝国最強の超弩級戦艦であり、空前絶後の重武装と大火力を持つ。
 聖杯戦争の舞台が日本である限り最大級の知名度補正を受け、陸地にありながら水上戦時と同等のスペックを発揮することが可能。
 
砲撃:A
 46cm三連装砲と12.7cm連装高角砲による砲撃行動を行う。
 その威力は非常に高く、英霊化したことと上記のスキルが合わさって、近代兵器の破壊力を優に超えている。
 これによる魔力の消費はかなり小さいため、惜しまずに使用できる。

【宝具】

『改装』
ランク:C 種別:対艦宝具 レンジ:- 最大補足:-
 自身を『大和改』へ改装する対艦宝具。
 これによって各種ステータスの数値が上昇し、砲撃の威力も同様に上昇する。

『非理法権天』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 改装を行い、大和改になった瞬間から使用が可能になる宝具。
 彼女が最期に出撃した天一号作戦で掲げられていたという、『非理法権天』と書かれた幟。
 艦娘としての彼女の場合、足の装飾として装備されている。
 無理は道理に、道理は法に、法は権威に、権威は天道に及ばず。
 非理法権天とは、天皇陛下をいただく我らに負けは無し、という意気込みを意味する。
 自身の知名度が最高となる日本で戦闘を行う際、彼女は対魔力、砲撃、護国の象徴スキルのランクが1ランク上昇し、Aランクの戦闘続行スキルを得る。
 
【weapon】
 各種装備

【人物背景】
 日本国最強の超弩級戦艦。
 創作の題材としても有名で、戦争をろくに知らない世代の人間でも、この戦艦については知っているというほど。
 そのため、日本国内での聖杯戦争ではトップクラスの知名度補正を受けることが出来る。

【サーヴァントとしての願い】
 マスターのために戦う


【マスター】
 柴来人@コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜

【マスターとしての願い】
 正義を成すために、聖杯を手に入れる

【weapon】
 マシンガンや肘の小型ミサイルなど、様々な兵器を内蔵している。

【能力・技能】
 彼は正確には人間ではなく、柴来人という男の記憶と人格を電脳頭脳に移植したサイボーグである。
 ロボット形態に変化することで超高速での駆動が可能となり、超人にも匹敵する戦闘能力を手に入れることが出来る。
 時折、電子頭脳の加熱を抑えるために放歌することがある。これは高まった熱を音波に変換する行為らしい。

【人物背景】
 悪の組織に拉致され殺害されるも、某天才科学者の手で蘇らされた刑事。
 かつては超人を化物として敵視していたが、自身の矜持と相反した行為を続けることに悩み始め、遂には腐敗した母国を目覚めさせるべく反政府活動に手を染めた。


【把握媒体】
アーチャー(大和):
 原作ゲーム。ただし台詞や性能はwikiで全て把握可能。アニメは見る必要なし。

柴来人:
 原作アニメ全二十四話。


273 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/13(水) 21:31:23 5BhSey2Q0
投下は以上になります


274 : ◆SeS6nyafVc :2016/07/18(月) 23:44:51 22lnYBXw0
投下します。


275 : 麻宮アテナ&バーサーカー ◆SeS6nyafVc :2016/07/18(月) 23:45:12 22lnYBXw0
 倒れ伏す、無数の人の山。
 誰も彼もがうずくまり苦悶の声を上げている中で、平然と立っている一人の男。
 ぱっと見でも"異常"だと思える光景は、その男によって創りだされたものだった。
 その事実に少女、麻宮アテナは息を呑むことしか出来なかった。

 事の切っ掛けは、単純なことだった。
 聖杯戦争、それを根幹を担うサーヴァントというシステム。
 彼女は初めて触れるが故に、勝手を理解していなかった。
 自分が呼び出した一人の男、バーサーカーがどれほどの力を持つのかも、計りかねていた。
 アテナは、仮にも格闘家として世界を股にかけるほどの実力を持つ。
 パッと見は普通にしか見えない男が、何故"英霊"と呼ばれるに至ったのかを理解出来ずにいた。
 だから、彼女はバーサーカーを"試した"のだ。
 道すがらたまたま見かけた、寄って集って一人の少女に暴行を繰り返している、下衆な男の集団。
 彼女本来の正義感もあり、それを見過ごすわけにはいかなかった。
 故に、彼女は何の気なしにバーサーカーへと言った。
 あの集団を壊滅させろ、と。

 そして、今に至る。
 その光景が生み出されるまでの全ては、はっきりと覚えている。
 恐れも何もなく、バーサーカーは男たちへと向かっていった。
 曲がりなりにも英霊と呼ばれる存在、一般人など恐るるにに足らないということだろうか。
 なんて事を考えていたが、今ではバカバカしいとも思える。

 そう、それからの出来事は、異常だった。
 暴行を加えていた男の一人が、バーサーカーに気がつく。
 へらへらと笑いながらバーサーカーを挑発した男が、真っ先にバーサーカーの拳に沈む。
 そこでようやく、男たちはバーサーカーに気がついた。
 口汚い言葉をバーサーカーに投げかけ続けるが、バーサーカーは止まらない。
 目のついた人間を、手当たり次第に殴る、蹴る、頭突く。
 そう言い表わせば、なんてことは無い普通の喧嘩と大差はない。
 けれど、たったひとつの事象が、それを"異常"に押し上げていた。
 拳を振るう、蹴りを放つ、頭突きを繰り出す。
 原始的な攻撃を繰り返すバーサーカーに、男たちも反撃をしていた。
 素手の攻撃だけではない、バットで殴りかかるもの、ナイフで切りつけるもの、攻撃は多種多様だ。
 そして、その攻撃は確かにバーサーカーへと届いていた。
 バットは鈍い音を立て、ナイフはその皮膚を切り裂き、バーサーカーの体を傷つけていた。
 普通の人間なら、確実に行動に支障が出るレベルの負傷だ。
 歴戦の英霊だったとしても、体に傷が付けばそれを庇うだろう。
 もしくは、走る痛みに若干の不快感を示す程度のことはするだろう。
 しかし、バーサーカーには"それ"が無かったのだ。
 バットを頭に叩きこまれようが、腹部にナイフをねじ込まれようが、意にもとめない。
 叩きこまれたバットを掴み返し、蹴り返す。
 ナイフをねじ込む腕を掴み、引き寄せて頭突きを繰り返す。
 怯むことなどなく、バーサーカーはただただ、その名の通り暴れ続けた。
 そう、彼には。

 "痛覚"が、元来より存在しないのだから。

 そして、気がつけばバーサーカーはただ一人、そこに立っていた。
 暴行を加えられていた少女は、いつの間にかどこかへと逃げおおせたらしく、既にその姿はなかった。
 いや、その場にいられる訳が無かった。
 あまりにも無謀で、あまりにも乱暴で、あまりにも直線的な"暴力"。
 あんな光景が目の前で繰り広げられれば、逃げ出したくなるのが普通だ。

 純粋な、恐怖。
 逃げ出したであろう少女と同じように、アテナもそれを抱いていた。
 そんな彼女のもとに、バーサーカーはゆっくりと帰還し始めていた。

 刺し傷、打痕、流れだしている血。
 あまりにも人間らしく生々しい傷の数々に、アテナは手を伸ばしていく。
 そして、その手に気を込め、バーサーカーの傷を癒やそうとする。

「いらねェ」

 しかし、その手はバーサーカーの短い一言と共に払われる。
 治療など必要ない、ということなのだろうか。
 だが、刻まれた傷の数々は、見るだけでも痛々しいものだ。
 それをどう伝えたものか、とアテナが言葉を考えていた時。

「……"痛ェ"ってのは、俺には分かんねえな」

 彼女の心を察していたのか、バーサーカーはそう呟いた。
 そして懐からサングラスを取り出し、ゆっくりとかけた後。
 アテナの横を通りかかるときに、小さく言葉を吐き捨てた。


276 : 麻宮アテナ&バーサーカー ◆SeS6nyafVc :2016/07/18(月) 23:45:31 22lnYBXw0
 




「羨ましいぜ」


277 : 麻宮アテナ&バーサーカー ◆SeS6nyafVc :2016/07/18(月) 23:46:03 22lnYBXw0
 




【クラス】
 バーサーカー

【真名】
 壬生灰児@堕落天使

【ステータス】
 筋力C 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具B

【属性】
 混沌・中立

【クラススキル】
狂化:E(B)
 通常時は狂化の恩恵を受けない。
 その代わり、正常な思考力を保つ。
 但し「No.8」と呼ばれた場合はその限りではない。
 全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。

【保有スキル】
ケースクラス:C
 人間を兵器化するという実験の一環として生み出された事によるスキル。
 肉体改造などの経験があり、改造の類に抵抗を保つ。
 なお、ケースクラスはケースクラス同士で殺しあうという最悪の結末を迎えた。
 壬生灰児はこのケースクラスの唯一の生き残りである。

痛みを感じないが故の無謀なファイトスタイル:B
 ケースクラスでの実験による副作用。
 壬生灰児はありとあらゆる痛覚を持たない。
 ただし、痛覚を持たないだけなので、疲労はたまり、骨が折れる事による行動不能などは起こる。

皆殺しのトランペット:B
 痛みを感じないがゆえに、全体重と力を載せた拳を叩きこむことが出来る。
 このスキルによって攻撃を繰り出している間は、いかなる攻撃を受けても怯まない。

No.8:A
 彼のケースクラス番号。前述の通り、こう呼ばれると彼は見境なくキレる。
 狂化をBに上昇させるトリガーでもある。

【宝具】

『死神のサングラス』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 死神のごとく拳を突き上げる対人宝具。
 その拳は、全てを宙に舞い上げる。

『絶望という名の地下鉄』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 スキル「皆殺しのトランペット」を宝具にまで昇華させたもの。
 たった一振りの拳で、多段の衝撃を相手に叩き込む。
 スキル「皆殺しのトランペット」と同様、この宝具発動時も相手の攻撃を受けてもひるまない。

【weapon】
 己の拳のみ。但し、銃火器などを扱う程度の知識は保有している。

【人物背景】
 西暦2000年。大地震を伴う地殻変動により、都市は外界から完全に隔絶された。
 全ての機能の停止した街はゆっくりと荒廃し始め、やがて無法地帯へと変貌を遂げ、人々から皮肉をこめて「EDEN」と呼ばれるようになった。
 その「EDEN」を牛耳っていたカルロスによって生み出された改造人間、通称「ケースクラス」。
 彼はそのケースクラスの8番目の子供であったが、ケースクラス同士での殺し合いに巻き込まれる。
 彼以外のケースクラスは死亡、灰児はその際にカルロスの元から逃走、夜の街に消えた。
 その後は売春宿の用心棒として暮らしている。
 ケースクラス時代の番号「NO.8」と呼ばれると見境なくキレる。

【サーヴァントとしての願い】
 特にはない。強いて言えば"痛覚"を取り戻す。


278 : 麻宮アテナ&バーサーカー ◆SeS6nyafVc :2016/07/18(月) 23:47:01 22lnYBXw0
【マスター】
 麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERSシリーズ

【マスターとしての願い】
 全ての悪を討つ。

【weapon】
 中国拳法、及び下記に記載する超能力。

【能力・技能】
 超能力アイドル、麻宮アテナ。
 彼女の操る気力は、球、盾、剣と自在に姿を変える。
 また、自身に纏わせることも可能。
 その他、瞬間移動、ヒーリングなどの技能も持つ。

【人物背景】
 正義のために超能力で戦う、アイドル歌手兼女子高生サイコソルジャー。
 超能力はしばしば「サイコパワー」と呼ばれる。

【把握媒体】
バーサーカー(壬生灰児):
 アーケードのみの作品なので、ゲームセンターでのみプレイ可能(秋葉原トライアミューズメントタワーなどで稼働中)
 稼動店舗は限られているため、ウェブアーカイブのセリフ集などを参考にすると良い。
 また、動画サイトに上げられている対戦動画なども有用。

麻宮アテナ:
 アーケードの作品だが、多数の家庭用移植が存在する。
 セリフはキャラとなりに関しては、シリーズの他作品を遊んでも基本的には問題ない。
 (但し、KOF97は勝利ゼリフが存在しないため、把握には不向き)
 なお、今夏に最新作「XIV」が発売される。


279 : ◆SeS6nyafVc :2016/07/18(月) 23:47:14 22lnYBXw0
以上で投下終了です。


280 : ◆SeS6nyafVc :2016/07/18(月) 23:58:43 22lnYBXw0
一部修正です。

>>277
【ステータス】
 筋力B 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具A
※上記は狂化補正込のステータスなので、通常時はワンランクダウンします。


281 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:40:15 iQFop/mo0
ご投下、ありがとうございます!
自分も投下します。
またこれは、「柩姫聖杯譚」様に投下した作品の流用になります(あちらからは取り下げてあります)。


282 : 蜘蛛の糸 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:40:42 iQFop/mo0
 恋の悩みがあった。
 
 最初はなんてことのない悩みだった。
 きっかけは、運動場で怪我をした時、おぶって保健室まで運んでくれたことだったと思う。
 その時から人混みの中でも段々と彼を目で追うようになって、いつしかわたしは恋に落ちていた。

 彼が笑うと心がどきりとする。

 彼が楽しそうにしていると自分まで嬉しくなってくる。

 彼と話なんてしようものなら、顔が赤くなっていないかどうか不安で仕方がない。

 もっと一緒にいたい。
 もっと遊びたい。
 もっと話したい。
 もっと彼のことを知りたい。
 そして、あわよくば――そんな淡い願いは、しかし叶うことなく引き裂かれてしまった。

 その時のことは、正直よく覚えていない。
 あまりにも大きなショックだったから。
 それを伝えられた日は一日中茫然としていたような気さえする。
 覚えているのは、朝に突然先生が彼を連れて教室へ入ってきて、転校という言葉を口にしたこと。
 金槌で頭をがつんと殴られたような衝撃で、目眩がした。
 自分の気持ちはいつか、覚悟ができた時にでも伝えればいいとすっかり安心してしまっていた。
 こんな形でお別れになるとは思わなかった。
 運命を本気で呪いもしたし、神様なんてのは本当に人を馬鹿にしているとひどく腹が立った。
 
 ――それでも、気持ちを伝えることは出来そうになかった。
 心の準備なんて何も出来ちゃいなかった。
 まだ時間はあると高を括っていたから、あれだけ妄想していた告白の台詞もさっぱり思い出せなくなっていて。
 私がただぼうっとしている間にお別れ会が済んで、一日経った今日、彼のお別れ会が終わった。
 
 ……最後まで、一言も話せなかった。
 最後のドッジボール大会ではろくに動けないまま、何とも思っていない人にボールをぶつけられて外野へ出た。
 彼はめいっぱい楽しんでいて、私は事情を知っている友達からずっと慰められているだけだった。
 そのことがあまりにも惨めで、情けなくて、悲しくて。
 お別れ会が終わり、帰りの会が済むなり友達と話すのさえほっぽり出してトイレに駆け込んだ。
 
 そこで、自分でも引いてしまうくらい泣いた。
 声を殺しながら、トイレットペーパーで涙を拭って、少し落ち着いてからまた泣く。
 これを何度繰り返したか分からない。
 気付いた時にはトイレを出て、夕暮れの薄暗い校舎の中をとぼとぼと歩いていた。
 ――彼に好きだと言いたい。でも、うまい言葉なんて思いつかない。
 どうすればいいんだろうか。
 私は何をすればいいんだろう。
 この気持ちは――いったい、どこに向ければいいのだろう。

 上の空で歩いていると、誰かにぶつかった。
 担任の先生だった。
 若くて顔立ちもハンサムな方で、何より生徒へ気さくに接してくれる。 
 怒ると怖いけど、怒らせなければとても親身になってくれる人だ。
 そんな人が皆に嫌われるわけもなく、現に私も、この人には好印象を抱いていた。
 今までに担任になった先生の中では、間違いなく一番いい先生だと断言できるくらいには。


283 : 蜘蛛の糸 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:41:43 iQFop/mo0
「こんな時間まで何してるんだ、友梨?」
「先生……私――!」

 きょとんとした様子の先生へ、私は全てを話した。
 話した、というよりは、吐き出した、という方が正しいかもしれない。
 明日には冬木を去り、遠い東京に行ってしまう彼。好きな人。
 なんだかんだでずっと一緒に小学生をやれて、いつかはそういう関係に慣れると思っていた人。
 でも自分には彼が行ってしまうのを止めることはできない。
 最後に話すことも出来なかった。
 彼はきっと家に帰ってしまっただろう。
 想いは伝えられないまま、彼は行ってしまう。
 会えないけれど会いたい、どうかこの気持ちを彼に伝えたい。
 思いの丈を全部、全部、優しい先生にぶちまけた。
 先生にこんなことを言っても仕方ないとは分かっていても、溢れだしたものは最後まで止まらなかった。

「……そうか。友梨は、泰斗に「好きだ」って言いたいわけか」

 全てを聞いた先生は、そう言って私の目を見ていた。
 先生の赤い目を私もじっと見返して、こくりと頷く。
 すると先生はにこりと笑ってサムズアップをした。
 
「よし。じゃあ、伝えに行こう」
「えっ、でも」
「先生が車で泰斗の家まで乗せて行ってやる。なに、遠慮するな。生徒の青春を応援するのも先生の役目だ!」

 そう言って、先生は私の手を引く。
 彼の家までは、学校から歩いて一時間以上はかかる。
 子供の足で向かうのは、この時間からだとかなり厳しい。
 でも確かに車なら、十分かそこらも走れば辿り着けてしまう程度の距離だ。
 
「先生……私、泰斗くんに会いたい――好きって、言いたいよ……!」
「その気持ちがあれば十分だ。先生はそれを応援することしか出来ないから、ちゃんと自分で伝えるんだぞ」
「うん、うん……!!」

 引っ込んだはずの涙をまたぼろぼろ流しながら、先生に心からの感謝をした。
 私がぐずぐずしているせいでなくしてしまったチャンスを、先生がもう一度作ってくれた。
 こんな時間に突然訪ねていったら迷惑かもしれない。
 そうでなくても、きっとびっくりさせてしまうだろう。
 でも最後なんだから、このくらいのわがままは許されると思いたい。

 ――しっかり、伝えるんだ。
 私の口で、私の言葉で。
 遅くなってしまったけれど、取り返しがつかないくらい遅くなってしまったけれど……
 そうしたらきっと私は、笑顔で「またね」って言えると思うから!


284 : 蜘蛛の糸 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:42:04 iQFop/mo0



「そうか、うまくいったか!」
「うん! 来年の夏にまた帰ってくるから、その時に遊ぼうって約束した!」

 結果は大勝利だった。
 彼はやっぱりびっくりした顔をしていて、私が告白すると口をあんぐり開けて目も大きく見開いて驚いてくれた。
 それからほっぺたを真っ赤にして、「俺も好きだよ」と返事を貰えた時、一瞬本気で時が止まった気さえした。
 勇気を出してよかったと思ったし、それ以上に先生には感謝してもしきれない。
 彼は明日、東京へ行ってしまう。
 しばらくは会えなくなるだろう。
 私は携帯電話を持っていないし、それこそ本当に、来年の夏まではお預けだ。

「はは……先生も嬉しいぞ。教え子の恋が実る瞬間ってのは、流石に経験したことなかったけどな」

 先生はなぜか自分まで照れ臭そうに鼻をこすると手を伸ばし、助手席の引き出しを手前へ引いた。
 その中に手を突っ込むと、ぶどう味だろうか――紫色の棒付き飴を取り出し、一本くれた。
 
「ささやかだけど先生なりのお祝い……いや、ご褒美だ。よく頑張ったな、友梨」

 自分もちゃっかり飴を咥えながらウインクする先生の顔は、本当に頼もしく見えた。
 先生がここまでしてくれなかったら、私はきっとこんな嬉しい気分にはなれなかったはずだ。
 苦い初恋の思い出をずっと引きずったまま、大人になっていく。
 あの時、あの廊下で先生に会えなかった私は、そういう人生を送っていただろう。
 でも、違う。先生のおかげで私は気持ちを伝えられて、最高の返事ももらえた。
 ――本当に、感謝してもしきれない。
 
 明日からは彼はいない。 
 けれど悲しくはない。
 むしろどうやって来年まで楽しく過ごすか、楽しみですらある。
 いろんなことにチャレンジして、いろんなところに行ってみたい。
 遠くから帰ってくる彼にたくさんの楽しい話が出来るように、いっぱい楽しいことをしよう。

 すっかり暗くなった町並みをガラス越しに見つめて、私は慌ただしい一日をそう締めくくるのだった。


285 : 蜘蛛の糸 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:42:24 iQFop/mo0


 
「お疲れ、セイバー。珈琲は飲めるか?」
「ありがとう。いただくよ、マスター」

 セイバーと呼ばれた筋肉質な青年に、小学校教諭・八代学は柔和な笑みを浮かべて缶珈琲を差し出した。
 この時間まで哨戒をしてもらっていたことへの、ほんの労いだ。
 とはいっても百年以上前の時代を生きていた人間の口に現代の缶珈琲が合うかどうかは定かではなかったのだが。
 微糖と書かれた金色の缶は、彼の筋骨隆々とした巨体の前ではえらく小さなものに見えた。
 ごくごくと喉を鳴らして苦い液体を嚥下していくセイバー。
 彼は缶から口を離すと、一つ頷いてマスターである男に礼を述べた。

「苦いが、美味しいな。こんなものがたった百円とちょっぴりで買えるなんて、すごい世の中だ」
「そうだなあ。百年前に自動販売機はないか、流石に」

 車を走らせながら、八代も自分の分の缶珈琲へ口を付ける。
 微糖の苦味に少しだけ顔を顰めたところを見るに、甘いものの方が彼にとってはお好みらしい。

「この自動車という乗り物も、僕の時代にはなかったな。
 なかなかのパワーとスピードだ。僕の生まれた時代は馬車しか走っていなかったから、なかなか新鮮だよ」
「少し興味はあるが、僕は現代っ子だからなあ。セイバーの時代に行ったらカルチャーショックを受けそうだ」

 苦笑する。
 それにセイバーも少し笑ったが、彼の顔はすぐに真面目なものになった。
 見れば、その服には幾らか破けた痕があり、肌には傷も程度こそ小さいが幾つか見え隠れしている。
 そのことに気付いた八代は唇を噛み、何秒か沈黙した後に、彼の方から切り出した。

「その傷。今日はサーヴァントと戦ったようだな」
「ああ。敵はランサーだった。気持ちのいい男だったよ」
「倒せたか?」
「危ないところだったが、僕が勝った。マスターは逃がしたよ。悪いやつには見えなかったからね」
「……本当、悪いな。お前にばかり大変な役目を押し付けて。僕が魔術師だったら、援護もしてやれるんだが……」

 ばつが悪そうに眉を顰める八代に、セイバーは微笑んで首を振った。

「その気持ちだけで十分さ、マスター。
 あなたはあなたのやるべきことをしてほしい。僕は、僕のやるべきことをする」
「……分かった。じゃあ――明日からもよろしく頼むよ。
 僕は聖杯なんてものに興味はないが、この町で暮らす人達が巻き込まれるようなことは避けたいからな」
「同感だ。こんな戦いの為に失われる命なんて、少ないに越したことはない」

 八代学が召喚したセイバーのサーヴァントは、聖杯戦争を止めたがっていた。
 そして因果なことにこの八代という男も、聖杯へ託す願望のようなものは持ち合わせていなかった。
 他の願いを蹴落としてまで叶えたい願いはない。
 彼はセイバーにかつてそう言い、聖杯戦争を止めるという彼の目的に同意を示したのだ。
 八代は魔術師ではない。ただの人間で、身体能力も超人的なものは何一つ持っちゃいない。
 だから彼は、セイバーと一緒に戦うことは出来ない。
 彼に出来ることは日常を過ごし、教師として教鞭を執り、こうしてセイバーの戦果を聞くことだけだ。
 
「そういえば、マスター。いつもと着ている服が違うようだが、何かあったのかい?」
「……ああ。ちょっと葬儀に出席してきたんだ」

 八代は珈琲を飲み干すと、空になった缶をドリンクホルダーへ収める。
 彼が今日着ている服は、所謂喪服と呼ばれるものだった。
 帰りが普段より遅かったのもその為だ。
 学校を出てすぐに葬儀に出席し、線香をあげてきた。
 遺族は幼い娘を突然奪われて痛々しい涙を流していたし、故人の学友も皆声を押し殺して死を悼んでいた。
 死んだのは八代のクラスの女子生徒だった。
 皆の中心というほど目立つ子ではなかったが、それでも離別を悼んでくれる友人が大勢いるくらいには楽しい学校生活を送っていた娘であった。
 最近は少し消沈していたものの、最後に学校へ出席した五日前にはすっかり元気になって、授業も意欲的に受けていたのを覚えている。


286 : 蜘蛛の糸 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:43:02 iQFop/mo0
「いい子だったんだけどな、友梨は」

 呟いて、八代は車のサイドミラーに目を向けた。
 蜘蛛が巣を作っていた。

 そこから地面に向けて、一本の糸が垂れていた。



【クラス】
 セイバー

【真名】
 ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険

【ステータス】
 筋力A 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運B 宝具C

【属性】
 秩序・善


【クラス別スキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【固有スキル】
波紋法:A
 特殊な呼吸法によって擬似的に太陽エネルギーと同じものを生み出す秘術。仙道とも。
 体内を走る血液の流れをコントロールして血液中に波紋を引き起こし、それを治癒に使ったり、通常の攻撃では倒すことのできない吸血鬼等の有効打としたり、生命感知や物質への伝導等、多岐に渡って使用する。
 Aランクともなれば、それは一流の波紋戦士の証。

戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

勇猛:A
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。


287 : 蜘蛛の糸 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:44:35 iQFop/mo0
【宝具】
『我が友よ、明日を照せ(LUCK&PLUCK)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~8 最大補足:1
 ジョナサン・ジョースターという英霊が、セイバーのクラスで召喚された由来とされる宝具。
 セイバーが生前交戦し、熾烈な激闘の果てに討ち倒した友人から贈られた一振り。刀身には「LUCK(幸運を)」の文字が刻まれており、その先頭に血文字の「P」が書き加えられ、「PLUCK(勇気を)」と読める。
 この宝具を握っている間、セイバーは幸運判定にプラス補正を受け、それに加えて精神抵抗判定に自動成功する。
 またセイバーの宿敵である吸血鬼との戦いにて吸血鬼が用いた氷の技を破った逸話から、氷属性の攻撃や物体に対して攻撃を行う場合、そのダメージ判定にプラス補正を獲得できる。

『星屑に繋ぐ物語(ファントム・ブラッド)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 セイバーが人生の最期、死の淵に立たされながらも最愛の女性と赤ん坊を逃がすために戦った逸話。
 彼が致命傷を負っていて、なおかつ誰かを守るために戦っていることを条件に自動発動する。
 宝具発動中セイバーは常時発動を無効化、阻害されないランクA+の戦闘続行スキルを発動し、セイバーと敵対している全ての存在の攻撃対象を自分へと強制的に変更させる。

【weapon】
 基本的には素手。ここぞという時にのみ、宝具の剣を使う。

【人物背景】
 第一部『ファントムブラッド』の主人公で、以降第六部まで続く因縁の始まりを担った英国紳士。
 ふとしたきっかけから青春時代を共にしたディオ・ブランドーの陰謀に気付き彼を告発しようとするが、ディオは石仮面を被ることで不死身の吸血鬼と化してしまう。
 その後波紋の達人であるウィル・A・ツェペリに師事し、波紋を体得。ディオを追って彼の配下たちと激戦を繰り広げ、それを乗り越えて遂にディオを打倒する。
 しかしディオは生き永らえており、首だけになって襲い掛かってきた彼から嫁のエリナとひとりの赤ん坊を逃がすために奮戦し、最期までディオを抱き止めたまま死亡、海の藻屑と消えた。

【サーヴァントとしての願い】
 願いはない。聖杯戦争を止め、マスターたちを一人でも多く元の世界へ返したい。



【マスター】
 八代学@僕だけがいない街

【マスターとしての願い】
 普段通りに暮らす。聖杯に興味はないのでセイバーに任せつつ、元の世界へ戻りたい。

【weapon】
 彼は普通の人間なので、決まった武器のようなものは持たない。

【能力・技能】
 彼は普通の人間なので、特別な力は持たない。
 強いて言うなら彼は要領がよく、頭もよく、人の心を掴むのがうまい。

【人物背景】
 小学校教師。
 明るく親身になって生徒と接する教育方針から、男女を問わず生徒からの人気が高い。
 特に女子児童からは、彼の顔の良さもあって非常に好かれている。
 生徒の相談をどれだけ荒唐無稽であろうとも笑い飛ばさず、生徒のためなら自分の不利益を恐れずに行動でき、確たる自分の主義にもとづいて行動できる好人物。

【方針】
 日常を過ごす。


把握媒体
セイバー(ジョナサン):
 原作第一部「ファントムブラッド」。アニメ版でも可。

八代学:
 原作漫画全巻。


288 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/19(火) 16:44:51 iQFop/mo0
投下は以上になります


289 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/19(火) 19:12:24 9zpzsYbQ0
投下します。


290 : 新田美波&セイバー ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/19(火) 19:13:19 9zpzsYbQ0

 新田美波は、二十年足らずの時間を振り返る。

「私、『いい子』だねってよく言われました」

 少しでも興味を持ったことには手当たり次第に手を出した。そして驕るつもりは無いが、事実だけを言えば大抵は努力に相応しい結果を出せた。当然周囲の者達はいつも美波を褒め称え、美波自身も達成感を覚えていた。
 それなのに、どこか満たされないもどかしさが付き纏う。振り払うように、また闇雲に「してみたいこと」を探し回る。また褒められて、また時間制限有りの満足をして。その繰り返しだったと言えば、そうであったのかもしれない。
 確かに新田美波は模範的な優等生の器に収まっていた。しかし、そんな自分自身に物足りなさを感じていたのだろう。

「なのに、アイドルの活動は他の何よりも打ち込めているような気がするんです」

 ある日偶然誘われたことをきっかけに、多数の「してみたいこと」の中の一つだという程度の意識で始めた活動。それが驚いたことに、手の中に溢れる「してみたいこと」の中でも最も熱を入れるようになっていた。
 まるで、魔法にでもかけられたかのように夢中になる新田美波がそこにいる。
 全く不思議な変化。その説明の一つと言える理屈に辿り着けたのは、そういえば何時のことであっただろうか。

「求められることが尽きないんです、アイドルって。仕事のバリエーションの多さもそうですけど、私自身の表現の仕方も画一的じゃなくて」

 綺麗だったり、可愛かったり、色っぽかったり、勇ましかったり。
 そこにいるのは、単なる「いい子」なだけではない新田美波。求められる限りに「偶像(アイドル)」として豊かな色彩を魅せる、新たなる美波。

「プロデューサーさん達がくれた舞台で、仲間の子達と一緒にいろんな経験をしました。得意なこと、苦手なこと。今までの私じゃ知ることも無かったかもしれない、涙を流したくなるような失敗も。そして、立ち上がって乗り越えた先で見える輝きも」

 欲求を散漫に満たす必要は無くなった。生の充実感が「アイドル」の一言に集約されていると気付いたのだから。
 だから、貪欲にならずにいられない。
 未経験の領域を、どこまでも広がる未知の世界を知りたい。行きたい。
 教えてくれる誰かが、共に行ってくれる誰かがもしも脅かされるのならば、守りたい。
 この感情に気付いた時、永遠の願いが成立してしまった。

「もう求められるからだけじゃない。私自身も求めているから、私は行く、頑張る……戦う。負けないために、守りたいものを守るために」

 願いを携えるのがこの地における戦士の条件ならば、既に新田美波も一人前だ。
 今は、そう思いたかった。

「私、聖杯なんて器には何も願えません。それよりも私を求めてくれる人達のために、私が求める人達のために、私は戦います。だって私、アイドルだから」

 ただの「いい子」が、自らの殻を破り優雅に羽ばたくまでの物語。
 それを改めて綴ったのは美波が自らの意思を固めるための準備であり、同時にコミュニケーションの手段でもあった。
 聖杯戦争における美波の従者として現れたセイバーのサーヴァントからの問い。その答えを提示するために。


291 : 新田美波&セイバー ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/19(火) 19:14:27 9zpzsYbQ0

「……セイバーさん。やっぱり私、あなたのことを悪だとは思いませんよ」
「何故だ」

 凍てつく間際の冷水の如く、熱の無い視線が美波を射抜く。
 一瞬だけ気圧されそうになるのを、どうにか堪えた。

「私は、『悪』だ」

 セイバーは、自らを悪と定義する。他の語彙に頼って例えるならば、セイバーは即ち悪霊である。
 罪の無い魂を貪り、その尊厳ごと食い散らかす。彼女の手に掛かれば彷徨える魂は安息の世界へと辿り着くことなく、哀れな亡者のまま貶められて消えるか、己を陵辱されまた別の悪霊へと変わり果てる。
 セイバーは悪霊であり、そして同じく悪霊となった者達を守るために刃を振るう一人の戦士であった。
 救われない魂を救おうとする大義を掲げた者達がいた。なのに、セイバーはその者達を敵対関係を築いた。
 浄化のための刀から悪霊を庇い、悪霊のままで在らせようとするセイバーの行いこそ、世界全体の中で言えば「死神」と呼ばれるに値する所業な のだろうとセイバーは自ら語る。

「世界に、人に仇なす。いくつもの魂魄を食らって、『犠牲』にすることが私の在り方だ。お前のような無垢な人々を脅かす側で、お前は私の敵。虚とはそういうものだ」

 サーヴァントとなった今、最早セイバーがかつての行為を繰り返す必要性は無い。
 それでも彼女が美波を突き放すような理屈を唱え、本当に私がお前の従者で良いのかと問いかける。

「でも、サーヴァント……なんですよね。最初から敵として出会ったのではないのなら、新しく関係を築きたいです」
「新しく?」
「セイバーさん、聞かせてください。あなたが守った人達は、あなたを憎んでいたんですか?」
「……いや。慕ってくれていたと、思う」
「じゃあ、大丈夫だと思いますよ」
「……今の答えだけで何を確信した?」

 それでも、敵対以外の道を作る糸口なら見出せると、美波は信じていた。
 人間と英霊。生者と悪霊。そんな難しい理屈に頼らなくたって、話はきっともっと簡単だ。
 だったら、いつもみたいに歩み寄れば良い。共に頑張る仲間を作るように。
 セイバーと向き合うこの状況は一対一。手を取ってくれる誰かは隣に立っていない。
 でも、誰かが手を取ってくれた温もりを覚えている。だから、怖くない。怯えない。大丈夫。

「守りたい人達を、犠牲にしたくないという気持ちを持つ同士なんだなあ……ってことです」

 セイバーに庇護されたという悪霊は、悪霊としての自我を確立させた。こうして一度形成された人格は、守られたいとセイバーに願った。今、ここにいる自分が犠牲になることを恐れたから。
 そしてセイバーは、数多の悪霊達の願いに答えた。
 誰かに求められたから、セイバーは役割を演じ通した。そして、セイバー自身もまた自らの役割を、その役割を与えた者達を愛した。セイバーが己の全てを賭けて護った者達を、新田美波は認めるのか。そんな問いを突きつけるくらいに。

「そんなあなただから、私はあなたを求めたい」

 十分だった。
 誰かと正面から向き合っていた。確かに世界の秩序には反していたのかもしれないけれど、それでも確かにとっての希望であろうとした。この一点だけでセイバーを信じるには十分。
 だって、気持ちは分かるから。新田美波が、アイドルなのだから。


292 : 新田美波&セイバー ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/19(火) 19:15:09 9zpzsYbQ0

「お願いします」

 願いを一つ、セイバーに託す。
 三十度。片手を突き出す代わりに、すっと頭を下げる。令呪は使わない。これは命令ではなく、頼み事だから。
 今は主ではなく、一人の仲間として。

「私を、私達を守ってください。誰かを犠牲にしたいために、戦ってください」

 守れる強さを得た先輩に、確かな愛を心の核の部分に刻んだ女に対して美波は願う。
 犠牲を司る悪霊に願うのは、皆に生き残ってほしいということ。セイバーはその願いを託すに値する者だと思えた。
 誰かにとって、そして今の美波にとって、セイバーこそが希望だから。セイバーと、共に行きたいから。

「今なら私もよく思う。マスター、お前は『いい子』だ」
「えっ」
「だが、そういう人柄は嫌いじゃない」

 視線を上げた先には、口元を隠したまま語るセイバーの姿。
 表情は分からない。それでも、声色に冷たさが無かったのは実感出来た。

「いいだろう。改めて、マスターの剣になると誓う……優しいお前を犠牲にするのは、忍びない」

 手を取り合える関係になれた。その証明の宣誓を、美波は聞けた。
 顔が自然と笑顔になっていく。これから、セイバーと共に生きるのだ。
 感情に任せてありがとうと伝えたけど、特に返事は貰えなかった。でも、今は別にいいかなと思うことにした。
 今日は十分仕事を果たせた。あとは一先ず帰るだけである。
 だから、二人で歩き出す。

「あっ、足!」

 咄嗟に出てしまった声。それに気付いたセイバーは、踏み出していた右脚をもっと前へと動かした。
 そのおかげで一輪の花は踏み潰されず、犠牲にならず、今も咲いている。
 思わず苦笑する美波の前で、セイバーはその花をじっと見つめていた。

「好きなんですか? 花」
「そういうわけではない。ただ、虚圏では見られなかったから珍しくてな」
「……帰りに、花屋さんでも寄っていきませんか? セイバーさんにも何か買いたいから」
「別に構わないが、お前はともかく私には似合わないだろう」
「お花が似合わない女の子はいないんですよ? ……なんて、夕美ちゃんの受け売りですけどね」

 その言葉を聞いたセイバーの両目が、ほんの少し細められた。
 やはり表情は分からない。でも、笑ったんじゃないかという気がした。
 笑ったんだったらいいな、と。


293 : 新田美波&セイバー ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/19(火) 19:15:56 9zpzsYbQ0



【CLASS】
セイバー

【真名】
ティア・ハリベル@BLEACH

【属性】
中立・悪

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:B

【クラス別スキル】
・対魔力:B
魔術に対する守り。魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷付けるのは難しい。

・騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物を人並み以上に乗りこなせる。

【固有スキル】
・十刃:A
虚(ホロウ)が仮面を剥ぎ、死神の力を手にした種族『破面(アランカル)』。その中でも指折りの戦闘力を持つ者に与えられる称号。
虚の技能である「虚閃(セロ)」という光線、死神の斬魄刀と能力解放を模した「帰刃(レスレクシオン)」、
他に破面の技能である高速移動「響転(ソニード)」や感知能力「探査回路(ペスキス)」、身体特徴である外皮「鋼皮(イエロ)」、
虚閃の派生型として高速光弾「虚弾(バラ)」や強化型虚閃「黒虚閃(セロ・オスキュラス)」など多彩な能力を保持する。
その他、神性を持つ相手に追加ダメージ判定を行う。相手の神性が高ければ高いほど成功の可能性は上がる。
また魂を喰らう種族であるため、魂喰いによる恩恵が通常のサーヴァントより大きい。

・直感:C
戦闘時、常に自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
敵の攻撃をある程度は予見することが出来る。

・カリスマ:C
軍団を指揮する能力。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
結果的には一国の統治をするに等しい活動をするに至ったが、元々は単なる集団を率いていたに過ぎないためBラ ンクからは落ちる。

・屍者の帝国:A
セイバーの司る死の形は犠牲。
死神達との決戦で彼女は自らが剣を抜くまでに部下達が敗北し、“犠牲”となるのを許してしまった。
その決戦の後も彼女は虚のすむ世界、即ち正しく救われなかった“犠牲”者達のために剣を振るった。
彼女の強さは、数多の犠牲の上に成り立つものである。
セイバーの観測する範囲内で“犠牲”となった者達が多いほど、セイバーの戦闘能力にプラスの補正が掛かる。
効果は特定の戦闘が終了した後もリセットされず、聖杯戦争期間内で蓄積されていく。また、基本的な魔力消費量の増加が伴うことも無い。
たとえそれがセイバーの、そして彼女のマスターが望まない結果であったとしても。


294 : 新田美波&セイバー ◆T9Gw6qZZpg :2016/07/19(火) 19:16:45 9zpzsYbQ0

【宝具】
・『皇鮫后(ディブロン)』
ランク:B 種別:対己宝具 レンジ:- 最大補足:1
破面の刀剣解放を宝具と見なしたもの。斬魄刀に封じた虚本来の姿と能力を解き放つ。解号は「討て」。
解放後は鮫を模した大剣を装備し、水を自在に操る戦闘スタイルを取ることが可能になる。
水を塊状にして放つ、または激流の勢いを相手に叩きつける、周囲の氷を水に変換するなど用途は広い。

【weapon】
・斬魄刀
通常時に装備している刀。武器であると同時に、宝具解放のキーアイテムとしての側面も持つ。

【人物背景】
第3十刃の破面。在籍時点では十刃の紅一点。
同族を思いやる気持ちが強く、そのため部下達からは慕われている。
藍染惣右介が死神達に敗北して以降は、数少ない生き残りの破面として虚圏を統治した。

【サーヴァントとしての願い】
特に無し。マスターと戦うのみ。



【マスター】
新田美波@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
生きて帰る。負けない。

【weapon】
アイドルとして必要な一通りの技能。

【人物背景】
広島県出身の女子大生アイドル。趣味はラクロスと資格取得。
その立ち振る舞いの美しさ故に、周囲からはよくヴィーナスと言われているらしい。
主な活動ユニットは「ラブライカ」「アインフェリア」など。
所属したグループ内でのリーダーを務めることが多い。

【方針】
脱出狙い。勝つためではなく、守るために戦いたい。



【把握媒体】
セイバー(ティア・ハリベル):
原作漫画の破面編。主な出番はコミックス39巻〜43巻なので、ここだけでも把握自体は可能。
アニメ版の第284話では過去の姿に、ファンブック『UNMASKED』では藍染敗北後の動向に触れられているため可能ならば把握すると良いかもしれない。

新田美波:
『アイドルマスターシンデレラガールズ』のゲーム版及びアニメ版、『アイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージ』。
台詞の把握は各wikiで可能なため、把握は比較的容易。アニメ版や『スターライトステージ』のストーリーパートを把握すると理解がより深まる。


295 : 名無しさん :2016/07/19(火) 19:17:11 9zpzsYbQ0
投下終了します。


296 : 名無しさん :2016/07/19(火) 23:06:01 z2LcfJhY0
ああ…⚪️クロスコンビ


297 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/21(木) 15:11:39 PLTsSzN.0
皆様、ご投下ありがとうございます!

コンペの締め切りについてですが、一ヶ月ほど延長し、八月下旬を目処に締め切りたいと思います。
またフリースレからの採用枠については、八月に入ると同時に発表告知を行います。
OPの発表は九月前に行おうと思っておりますが、>>1の都合で九月は少々忙しく、執筆時間があまり確保できないのが予想されますので、予約及び投下の解禁は九月中旬からになるかと思われますがご了承いただければ幸いです。


298 : 桐敷正志郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/21(木) 18:11:45 OJ2l0mGc0
投下します。


299 : 桐敷正志郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/21(木) 18:12:10 OJ2l0mGc0
「あの、あなたが私のマスターですか?」

 神楽が久方ぶりに現世に降り立った時、机に肘を乗せる男性の深い眼窩が目に入った。
そこは骨董品めいた書斎だった。手入れが細部まで行き届いており、ネガティブな印象はない。
神楽の右隣には書棚が、彼女の背丈より高いナラの六段のうち、下の五段にハードカバーから文庫本、なかには資料集や辞典らしき分厚い冊子をシリーズごとに整頓して並べている。

「そのようです」

 厚い表紙を閉じると、マスターの男性は桐敷正志郎、と名乗った。
神楽も軽く一礼して名乗り返す。正志郎は見かけ四十も半ばに差し掛かっているが、おじさん、というより男性と表現するのがふさわしい垢抜けた雰囲気の持ち主だった。
彼は机から立ち上がると適当な椅子に近づいていき、それを神楽の方へ引き寄せる。
ワインレッドのベストに包まれた身体は均整がとれており、そのスタイルは年齢を感じさせない。

「それで、マスターはこれからどうしたいですか」

「死にたくはありませんね。戦うことなく脱出できれば、幸いです」

 書斎机の前に戻ると、正志郎は軽く肩を落とした。
正志郎が乗り気でない事を知ると、神楽の表情が僅かに明るくなる。

 招かれはしたものの、神楽は聖杯に託すほどの願いを持ち合わせてはいない。
もし殺し合いに積極的なマスターだったなら、退魔師として、人間として速やかに対処しなければならない。殺害も念頭に置いていたが、どうやら杞憂で済んだらしい。

 やや気抜けした神楽は、正志郎と自己紹介がてら軽い雑談を始める。
正志郎が会社を経営―招かれる以前も、冬木においても―しており、もともと住んでいたのも似たような洋館であると聞くと神楽は目を輝かせ、正志郎の方も神楽が歩んだ戦いの日々に興味を示した。
ちょっとの間は和やかに進んだが、正志郎の家族に話が及ぶと談笑に影が差し始める。

「病気……?」

「ええ、全身性エリテマトーデスと言いまして、…ご存知ですか?」

「いえ…」

 正志郎の妻子は身体が弱く、難病を患っている。

 全身性エリテマトーデス。通称SLE。全身の臓器に多彩な症状が起こる膠原病の一種。
異常をきたした免疫系が自分の身体を攻撃することで全身が侵されていく病気だが、発症の原因は明らかにされていない。
完治させる手段は正志郎の時代には発見されておらず、患者は免疫の働きを生涯抑え続けることを強いられる。

 発症や病状の悪化を招く誘因が幾つか知られており、正志郎の妻子はいずれも日光が該当する。
紫外線に対して敏感であるため、よほどの重装備をしなければ昼間の外出は叶わない。娘の沙子も発病してから学校には通っておらず、雇った医師に勉強を見てもらっている。
自由に出歩けない二人を抱えた正志郎は相談の末、外場という過疎の村に引っ越したのだ。


「………」

「…そんな顔しないでください。二人も殺人を犯してまで、完治させて欲しいとは思わないでしょうし」

「でも…」

「社長職も既に辞して、静かに暮らしていたんです。私は生きて帰ることさえできれば…」

「……約束します。どこまでできるかは分からないけど、マスターが無事に家族の下へ帰れるようにします」

「ありがとうございます」

 正志郎の安堵の微笑が、二人のやり取りを締め括った。
神楽は視線を上げると話題を変えた。


300 : 桐敷正志郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/21(木) 18:12:32 OJ2l0mGc0
「とりあえず、陣地の設置場所から考えましょうか」

「陣地……」

 自陣に籠ったうえでの防御戦がキャスターの本領なのだが、神楽にそれは当てはまらない。
前線で霊獣を駆使し、敵を屠っていくのが生前から変わらない彼女の得意戦法だ。
キャスタークラスとしては戦闘力のある彼女だが、そのぶん形成できる陣地も戦闘に耐えうるものではない。敵の目から逃れて潜伏する事に特化した、隠れ家のようなものだ。

 そうなると、敵勢力にあっさりと看破されるような場所は設置するに相応しくない。
そこまで話が進んだ時、掛け時計が正志郎の目に入る。いいかげん床に就かなければ、明日からの行動に支障をきたしかねない時刻だ。

 正志郎は就寝する旨を伝えると共に、不寝の番をキャスターに依頼する。快く引き受けた彼女の姿が消えると、正志郎は読みかけのハードカバーを書棚に戻した。





(ひとまず上手くいったようですね)

 聖杯戦争の知識が頭に流れ込んできた時、正志郎は内心ほくそ笑んだ。
キャスターに語った話は半分事実だ。彼の妻子―戸籍上はそうだったし、それなりの年月を共に暮らしている―は日光を苦手としている。


 屍鬼。日光や呪物を苦手とし、生き血を啜ってのみ生を繋げられる吸血鬼に似た何か。
自分を人でなしの息子と指弾した者達を、正志郎は許さなかった。だが自身も人であり、また人の範疇にある限り、加害者になる事は許されない。誰もが正志郎に被害者であり続けることを強いた。
ゆえに正志郎を家族から救い出してくれた彼らの側に、受け継いだすべてを手土産に加わった。

 屍鬼の首魁――仮の娘である沙子は彼らが安心して暮らせるコロニーを築こうとしていた。
正志郎自身、根付ける場所を望みはしたが、聖杯戦争に招かれる前に企みは瓦解した。妻を演じていた千鶴は死に、覚えている限りでも沙子の現況は危うい。

――助けるべきだ。

 あのまま屍鬼たちが村人に狩られると言う事は、自分が人間の社会に負けることを意味する。
千鶴を殺され、沙子までその手に掛かるなど我慢ならない。聖杯に彼らの救済を願うべき、だが……、


(これは千載一遇のチャンスではないのか…)

 正志郎が屍鬼として起き上がる可能性はほとんどない。
望みの薄い賭けに出るほどの勇気はなく、だからこそ協力者として彼らを助けている。

 聖杯なら叶えられるのではないか?正志郎自身が加害者となり、秩序と敵対し破壊する第二の生を得ることを。
屍鬼よりも強く、人狼よりも自由な、人間とは全く相容れない怪物として生きる道を。

 その誘惑は麻薬の甘美さをもって、正志郎の意識をゆっくりと蚕食していく。
しかし、連れ添った彼らを切り捨てて孤独に戻るのは……。

 正志郎はゆっくりと頭を振って、思考を中断する。ひとまずこれは置いておこう。
まずは聖杯を奪取する。その時までには、託す願いも決まるはずだ。


 キャスターにはああ言ったが、自分を冬木に連行した手段は尋常のものではあるまい。
正志郎は脱出ルートなどという隙を主催者が見逃していない事を期待して、書斎を後にした。


301 : 桐敷正志郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/21(木) 18:12:51 OJ2l0mGc0
【クラス】キャスター

【真名】土宮神楽

【出典作品】喰霊シリーズ

【性別】女

【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷B 魔力B++ 幸運C 宝具A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
道具作成:E
 キャスターにあるまじきことだが、道具作成の逸話を所持していない。
 器物に少量の魔力を込めることが出来る程度。


陣地作成:EX
 キャスターの陣地作成は宝具と不可分である。
 高い隠密性を誇る「セーフハウス」の形成を可能としている。


【保有スキル】
再生:C
 殺生石がもたらす再生能力。肉体修復における魔力消費を抑え、耐久値を向上させる。


使い魔使役:A-
 宝具に昇華された霊獣「白叡」を従えている。用途は戦闘に特化している。


法術:C
 仏教や神道をベースとした魔術体系。キャスターは「不動明王火界呪」など攻撃的な術を得意としている。


【宝具】
『潜めるのは都会の空隙(隠し神)』
ランク:B+ 種別:結界宝具 レンジ:建築物により変動 最大捕捉:2人
 追手から逃亡している最中に遭遇した霊体。
 味方ではないが一時期その恩恵に預かっていた逸話にクラス補正が加わり、キャスターの宝具に数えられた。

 隠し神を配置した「建築物」をキャスターの陣地として扱う。
 セーフハウスは内部で生じる魔力を隠蔽する機能を持ち、さらに陣地内に滞在する間のみキャスターおよびそのマスターにBランクの気配遮断スキルが与えられる。

 さらに隠し神は自身に接触した存在を、外部から視認できなくする。
 接触した人物は肉体が装着物含めて透明化。その存在を隠蔽する事が出来る。

 ただし透明状態は霊体化しているわけではないので、直接触れる事は可能。
 また、気配感知や千里眼といった知覚系スキルをBランク以上で保持する者からは、透明化を見破られてしまう。

 隠し神自身は体内に魔力炉心を備えており、発動された後は自力で現界を維持する。
 また、自分の意思で陣地外に出ることはない。


『喰霊計画・乙式(白叡)』
ランク:A 種別:対人、対軍宝具 レンジ:2〜30 最大捕捉:20人
 先祖から受け継いだ霊獣。
 元から九尾の化身として高い妖力を持っていることに加え、幾人もの継承者たちと共に悪霊や妖怪と戦い続けてきたことから、霊的または魔的な存在に対して絶大な攻撃力を発揮する。

 白叡はこれらそのもの、あるいはその要素を持つ相手を喰らった場合、魔力を回復する事が出来る。
 これはキャスターには還元されず、白叡の維持に回される事となる。白叡は長期間霊体を捕食しない場合、飢餓感から封印を破ろうと暴れ始める。

 本来は一つ首だったが、生前に再封印した際に首が二つに増えた。
 これにより本来想定された以上の攻撃能力を発揮できるが、その分繊細な扱いを要求する。


【weapon】
「殺生石」
九尾の魂を封印した妖力の結晶。
キャスターは安全に運用できるよう処理を施したものをピアス、ブレスレットとして身につけている。
魔力炉心としての機能を持ち、マスターから一定以上の供給を受けている場合、高い回復力を発揮する。


【人物背景】
実父から「白叡」を継承した土宮家第28代当主。
超自然災害対策室所属の退魔師として悪霊や妖怪と戦い続ける日々の途中、霊感を持つ高校生「弐村剣輔」と邂逅。
同年代の友人がいなかった彼女は剣輔と友達になるべく、彼の通う学校に転校する。

戦いの中で各地に散らばった殺生石が集合したことで九尾が復活。
剣輔を蘇生させるべく九尾を継承した際に悪霊化するも、剣輔達の活躍によって人間の側に戻った。

全ての戦いが終わった後は新たに設立された心霊庁の職員となり、自身の魂と融合した黄泉を含めた仲間達と穏やかな日々を過ごした。


【聖杯にかける願い】
マスターを生還させる。


302 : 桐敷正志郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/21(木) 18:13:11 OJ2l0mGc0
【マスター名】桐敷正志郎

【出典】屍鬼(小説版)

【性別】男

【Weapon】
新築一戸建てを数件、一括で購入できる額の個人資産。


【能力・技能】
「会社社長」
聖杯戦争に招かれる前は、財力や権力で屍鬼をサポートしてきた。
また表向き中学生の娘を持つ中年男性ながら、俗っぽさの無いナイスミドルである。


【ロール】
社長。


【人物背景】
人の生き血を吸う人外「屍鬼」を援助している人間。
幼い頃から家庭にも社会にも居場所が無く、寄る辺ない自分を救い出してくれた沙子達に自分が受け継いだもの全てを差し出した。

正志郎自身、屍鬼になりたがっているが、体質的に起き上がれる見込みは薄い。
その為、人の身で屍鬼の活動をサポートしている。

千鶴の死を知った後から参戦。


【聖杯にかける願い】
自分を虐げた秩序を破壊する。



【把握媒体】
キャスター(土宮神楽):
原作漫画。全巻読破を推奨しますが、白叡を使役するのは7巻までなので、8巻から先は余裕があれば。
アニメ版において前日譚が描かれており、そちらも把握すると理解がより深まる。


桐敷正志郎:
原作小説。出番は少なく、序盤に少し登場する以外は後半の屍鬼狩り前後が中心。
アニメ版、漫画版もありますが小説とは変更が加えられております。


303 : 桐敷正志郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/21(木) 18:13:35 OJ2l0mGc0
投下終了です。


304 : 君島邦彦&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/24(日) 19:05:11 SFxhAoD60
投下します。


305 : 君島邦彦&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/24(日) 19:05:45 SFxhAoD60
「たっだいまァ〜」

 君島が自宅の扉を開けた時、日は殆ど落ちかけていた。
1日アルバイトに精を出し、体中に疲労が溜まっている。稼ぎが多いとはお世辞にも言えないが、いい暮らしだ、と君島は思う。
都市はしっかりと整備されて、犯罪もあるにはあるが崩壊地区のような無法地帯にはなっていない。
かつて潜入した市街内部の様子とよく似ている。渓谷のように荒れ果てた地形を、君島は市内で見かけたことが無かった。

 今も大金があるわけではないが、食うもの、寝る場所、着るものには何ら不自由していないし、ここではヤバい橋を渡る必要もない。
こういう場所に生まれてれば、自分もアイツも痛い思いや苦しい思いをしながら、日々を生きることも無かったのだろう。

「今日も一日平和に終われそうだな。良かった、良かった」

「いつまでも続くわけじゃない。油断するな」

「暗くなる事言うなよ、アーチャー。ほれ、メシメシ」

 靴を脱ぎ、廊下に足を着けるとアーチャーが実体化した。現実に引き戻された君島は顔をしかめる。口調はうんざりとしているが、声音に重苦しい物はない。
テーブルに荷物をおろし、帰りがけに買ってきた出来合い弁当を渡す。アーチャーが希望したのは、俵形の握り飯とおかずとを詰め合わせた幕の内弁当。

 サーヴァントが飲食を必要としないのは知っているが、食事風景をじっと見られるのも居心地が悪いため、彼にも注文を聞いたのだ。
ちなみに彼の注文は君島が頼んだメニューと同じもの。めぼしい物が無かったのだろうな、と思ったが口にしないでおいた。



 まもなく二人は食事に取り掛かる。
君島がBGM代わりにテレビの電源を入れるとアーチャーは画面に視線を向けたが、何も言う事なく手に取った弁当に視線を戻した。
数十分もすれば食事は終わり、お互いに空の容器をビニール袋に納めた。ややあって、烏龍茶を飲んでいた君島が口を開いた。

「方針を決めたぜ〜。アーチャー」

「……」

 アーチャーが電源を消す。聞く姿勢が整ったことを確認して、君島は話を続ける。

「俺たちは脱出を目標とする。話の合いそうな奴らだったら同盟を組む。で、襲ってくる奴らは迎え撃つ」

「困難な道だぞ、それは」

「それくらいわかってるよ、俺にだって」

「蘇生を願う気はないのか」

「え〜〜!…俺もさぁ、それは考えたんだけど……せっかく生き返ったのに殺し合いとか、やってらんねーだろ?」

 口調は冗談めいていたが、中身はもう少しシリアスだった。
ホーリーによるネイティブアルター狩りに反旗を翻した――主動ではなかったが――君島は戦いの中で命を落としたのだ。
意識が虚無に還っていき、次に目覚めたのはこの場所。1LDKの一室だった。

 記憶を取り戻してまず考えたのはアイツ――カズマと、彼と一緒に暮らしているかなみの事だ。
元来血の気の多いカズマのこと。自分の死を知り、暴走する事は容易に想像できる。
そうでないなら良し。そうなったとしても驚きはないが……運悪く死のうものなら、残されるかなみが不憫だ。


306 : 君島邦彦&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/24(日) 19:06:13 SFxhAoD60
 復活した以上は帰らなくてはならないと思うが、かといって復活した後まで殺し合いなど馬鹿馬鹿しい。
すんなり脱出させてくれないかなぁ……。陸地が指先ほども見えない洋上を、一人で漂っている気分だ…いや、二人か。

「…カズマならなぁ」

「カズマ?」

「!…あぁ、俺の、……ダチだ」

「ダチ…」

 聞かせるでもない呟きを、アーチャーは耳聡く拾った。
観念したように息をつくと、君島は語り始める。まともな姓すらない無法者の話を。甲斐性無しのろくでなしの、拳一つで全てに抗い続ける相棒の強さを。


 声をかけたのは自分から。度々仕事を持っていくようになり、そのうちつるむようになった。
一人の男として、あの迷いの無さが羨ましくなる事もある。こっちは無茶をした挙句に死んでしまったが、後悔はしていない。

 話を続けるうちに、過ぎ去りし日のカズマが思い出される。
一仕事終えた後の年相応の安堵。敵を前にしたケダモノの笑み。どうにもならないものに吼える怒りの表情。

 カズマならきっと迷わない。あれは媚びるような真似を何より嫌う男だ。
同じ立場だったなら、躊躇なく主催者に当たっていくのだろう。聖杯への未練を捨てきれないで足踏みしている自分とは違う。

――二人にもう一度会いたいが、殺し合いに身を投じる気はない。しかし脱出ルートなど本当にあるのか?聖杯を手に入れないまま、生きてロストグラウンドに降り立つ事など可能なのだろうか? どうせ進むなら確実に帰れる道がいい。だが一般人の自分が聖杯戦争に勝ち残る確率なんてどれくらいある?

話しているうちに、様々な懸念が君島の奥底から浮かび上がってきた。口には出さないが、二歩目をつける足場が見当たらないのが不安でしょうがない。


 小さな憂いを誇らしさでくるんだ声を、居間が吸い込んでいく。アーチャーは一切口を挟まないで、君島が語るに任せた。
話に聞き入るその目には、過去を懐かしむような色が浮かんでいる。





 アーチャーが次に口を開いたのは、話し終わった君島が立ち上がりかけた時だった。

「苦労してんだな、お前も」

「……おお、そうなんだよ!いつも自分勝手でさ」

 アーチャーの言葉に愛想笑いで応じる。二人で肩を組んで笑いあった事もあれば、意見が合わずに衝突することもあった。

 カズマは決断が非常に早い男だが、それは他人を顧みない態度に通ずる。
君島自身、ヒヤっとさせられた事は一度や二度ではない。その剛毅さを羨ましく思うが、やはり馬鹿だと思う。

「焦るなよ。道は俺が開いてやるから、お前の納得いく様にやってみな」

「頼もしい事言ってくれるじゃない。当てにしてるぜ、アーチャー」

 立ち上がった君島は人懐こい笑顔を向けた。今度はお調子者の彼らしい、自然な笑みだった。


307 : 君島邦彦&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/24(日) 19:06:51 SFxhAoD60
【クラス】アーチャー

【真名】シーザー・A・ツェペリ

【出典作品】ジョジョの奇妙な冒険 Part2 戦闘潮流

【性別】男

【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】
中立・善


【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。


単独行動:A
 マスター不在でも行動できる。
 ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。


【保有スキル】
波紋呼吸法:A
 特殊な呼吸法によって、肉体にエネルギーを生み出す技術。
 習得者は治癒力の向上、耐久値の向上、攻撃時のダメージ増加、水面を自在に移動できるなど様々な恩恵を受けることができる。
 また、波紋は太陽と同質のエネルギーを持っているため、吸血鬼など日光を弱点とする相手に対しては通常よりダメージ増加量が大きくなる。


心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。


勇猛:B
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。


戦闘続行:E
 往生際が悪い。
 致命傷を負った後でもしばらくは現界可能だが、戦闘能力は激減する。



【宝具】
『綺羅星の爆弾(シャボンランチャー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜15 最大捕捉:10人
 波紋を流したシャボン玉を作り、勢いよく発射する技。
 このシャボン玉は高い強度を持ち、物体に接触でもしない限りは割れることが無い。
 炸裂する事で対象に波紋を流してダメージを与えるほか、大量に作り出す事で敵の動作を制限する事が可能。


『受け継いだ流体の刃(シャボンカッター)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜15 最大捕捉:10人
 祖父ウィルの技「波紋カッター」を参考にした宝具。
 高速回転する円盤状のシャボン玉を発射、敵を切り裂く。

 上述宝具同様の特徴に加え、プロテクター程度は容易く切断しながら対象の身体を切り刻むほどの威力を持つ。
 また弾速もシャボンランチャーと比較すると、格段に向上している。

 くわえてシャボンカッターはレンズの性質を持つ。
 滞空させておくことで日光を反射・集束させ、太陽光線を任意の方向へ照射する事が可能。


『これが最後に練る波紋(血のシャボン玉)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 死の間際、ジョセフのために解毒薬を決死の覚悟で奪い取った逸話が宝具となったもの。
 霊核の損傷が50%を上回った時点で解禁。敵サーヴァントに接触する事で「形を持つAランク以下の宝具」を奪い取り、血で作ったシャボン玉に入れて飛ばす事が出来る。

 条件さえ満たしていればシャボン玉に収納する際に適当なサイズまで縮小されるが、納められる宝具は一種類のみ。
 宝具はアーチャーが奪い取った時点で本来の持ち主の支配下を離れ、シャボン玉から取り出した相手が次の担い手となる。

 シャボン玉には守護の概念が込められており、奪い取られた相手が宝具を取り返そうとする事を拒む。
 担い手は受け取った宝具の真名解放すら可能。マスターすら宝具の担い手にしてしまうが、その場合は相応の消費を覚悟しなければならない。



【weapon】
衣装に仕込まれている特殊石鹸水。


【人物背景】
かつて吸血鬼ディオにジョナサン・ジョースターと共に立ち向かった「ウィル・A・ツェペリ」の孫。
イタリア男らしいナンパ野郎だが、根は真面目で正義感が強く、一族を誇りとする好青年。

ジョナサンの孫ジョセフとは最初は反りが全くあわなかったが、柱の男との初戦での行動から彼を見直し、修行を通して無二の親友となった。
柱の男のアジトのホテル前でジョセフと意見が食い違い、単身ホテルへ乗り込んでしまう。

力及ばず敗北した彼だが、解毒剤入りのピアスを残った力で奪い取ると血のシャボン玉に入れて飛ばし、それをジョセフに託して死亡した。


【聖杯にかける願い】



308 : 君島邦彦&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/24(日) 19:07:24 SFxhAoD60
【マスター名】君島邦彦

【出典】スクライド(TV版準拠)

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「フィクサー」
招かれる前は危険な仕事の斡旋で身を立てていた。
広い人脈に加えてコミュ力がかなりあり、ならず者の集まりであるネイティブアルター使いの連合を結成できる。


「意地」
時には弱音を吐く彼にも五分の魂。
右腕一本で理不尽に立ち向かう友の雄姿は、今も心の中に。


【ロール】
フリーター。


【人物背景】
近未来の神奈川に突如出現したロストグラウンドの崩壊地区で生きる青年。
便利屋の青年「カズマ」に仕事の斡旋をするフィクサーであり、彼が最も信頼する友人。

基本的にカズマとコンビで仕事をしており、主に頭脳労働を担当。

武装警察ホールド、およびアルター使いで構成された特殊部隊ホーリーの侵攻に苦戦するカズマの元に駆けつける最中、背中に銃撃を受けてしまう。
力を合わせて敵アルター使いが操る「ダース部隊」を倒した後、カズマの背の上で息を引き取った。

死亡後から参戦。


【聖杯にかける願い】
帰りたいんだけどさぁ……。



【把握媒体】
アーチャー(シーザー・A・ツェペリ):
原作漫画。コミックスなら5〜12巻、文庫版なら4〜7巻。
アニメ版なら第10話〜第26話。


君島邦彦:
TVシリーズ全26話。退場する12話まででも把握は可能ですが、以降にも度々イメージとして登場するので、全話視聴を推奨します。
DVD、ブルーレイ、バンダイチャンネルなどで把握可能。


309 : 君島邦彦&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/24(日) 19:07:52 SFxhAoD60
投下終了です。


310 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:21:13 G2HMzbEU0
投下します。


311 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:21:33 G2HMzbEU0
 そこは何処かの会議室だった。
空気を弾く音が響く。髭面の男の胸が瞬時に刳り貫かれ、肩が同じ速度で不可視の獣に齧られる。
崩れ落ちる髭面の背後で、禿頭の男が恐怖に後退った。

 室内の床一面は血の海になっている。意を決した禿頭は銃口を殺戮者に突きつけるが、そいつが腕を振ると、銃口を向ける手が真っ赤に染まった。
再び小気味よい音が鳴り、男の手首から先が消失する。三度目の音が鳴り、禿頭は周囲の同僚たちと同じ運命をたどった。

 並ぶ肘掛け椅子の近くには既に事切れた者たちが寝転がっており、二人の男と同様に身体のどこかを抉られている。
下手人は自分。事態を呑み込めない者、逃げ惑う者、その場にいた全員の生命を奪い取ったのだ。



 そこはガラス張りの庭園だった。
青白く光る石造りの花々が姿を消した室内に黒い影が立っている。
振り向いたそれの顔は仮面で覆われており、描かれた表情以外は窺えない。自分は何事かを言い放ったのち、腕に巻かれた包帯を解いた。

 その行為は自分に限って言えば、一般人が銃火器のセーフティを解除するのに等しい。
勝ち星をまた一つ上げる歓喜と確信に顔を歪めて、自分は血の伝い落ちる腕を大きく横に薙いだ。





 中華服の男――魏(ウェイ)は現在、自宅から冬木の街並みを眺めている。
冷たい感じがする顔は整った造りをしていたが、左半分の巨大な火傷痕がその魅力を大きく損ねていた。
地獄門が出現した東京にいた彼は、見知らぬ土地で奇妙な戦いに参加することになった。聖杯、サーヴァント、令呪、魔術。オカルトの住人となった魏から見ても鼻で笑いたくなる。


312 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:21:54 G2HMzbEU0
 唐突に気配が一つ増えた。
振り返ると若い男が座り込んでいる。端正な顔立をした美男子だが表情には生気がない。

「確認します。あなたが私のサーヴァントですか?」

「……ランサーだ」

 男は壁に背中をつけたまま名乗った。
ランサーは溜息をもらすと視線を魏から外し、どこか遠くを見始めた。
サーヴァントの様子に困惑しつつも、魏は投げる言葉を考える。

 使い捨ての命令権など当てにはできない。自分より力の無い相手に首輪を繋がれるのだ。さぞ不愉快だろう。
蘇ってまで成し遂げたい悲願があるなら、如何にマスターを出し抜くか考えるのが道理。
ならばサーヴァントと良好な関係を築く事、多くの情報を引き出しておく事が自身の生存に繋がるのであり、その為に必要なのは円滑な意思疎通だ。
まずは相手の逆鱗に触れないように、注意深く探りを入れていこう。

「この場ではっきりさせておきますが、私は聖杯を必要としていません。脱出―」

「―俺も聖杯はいらない」

 呆然となった彼は口を開ける。
おかしい。植え付けられた知識では、サーヴァントとは聖杯を求めて召喚に応じた者達のはずだ。
聖杯に興味がないと言うのなら、この男は戦いの場を求めてきたのか?魏は推測してみるが、目の前の脱力しきった姿からは戦意や殺気を一切感じない。

 黙考する魏の前で、ランサーは打ちのめされたように黙っている。

「…では貴方の目的を教えて頂けますか」

「俺の目的は、そうだな………お前の奥にある闇だ」

 首を動かした空虚な瞳が魏を捉えた。
ランサーは勢いをつけて立ち上がると、ゆらめくような足取りで近づいてくる。

「いい面構えだ、マスター。お前を駆り立てるものは何だ?」

 窓際に立つ男に顔を寄せるランサーの問いには、どこか陶然とした響きがあった。

――言うべきか?

 秘密にする事柄でもないのだが、この気だるげな男の言うままに動くのは釈然としない。
しかしランサーとの間に、不用意に溝をつくるのは避けるべきだ。

「……殺さなくてはならない男がいます」

「………」


313 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:22:42 G2HMzbEU0
 名はBK201。電気の流れを自在に操る契約者。
契約者となった魏は、自分を無敵の存在と信じた。
力を手に入れてからはどんな相手だって倒すことができたし、警察にもマフィアにも一切恐怖する事が無くなった。
その誇りを打ち砕いたのが、あの晩に出会った仮面の契約者――BK201。

 痛みは傷となり、敗北の恐怖は屈辱となって心の底にへばりついた。
これを消し去らない限り、魏はどこにも向かう事が出来ない。

「殺せると思ってるのか」

「……」

 挑発的な物言いに、魏は口を一文字に結ぶ。

 勝敗はアンバーの態度から薄々察している。
年齢を対価に時間を自由に操り、BK201――黒(ヘイ)を守ろうとしている彼女が、彼を殺せる人間を案内役につける筈はない。
結果が分かり切っているからこそ、アンバーは気兼ねなく自分との約束を守る事が出来たのだろう……それでも、

「結果は問題ではないのです。ただ、戦わずにはいられない……!」

 素直に吐き出してしまった。適当に言いくるめればいい、とも思ったが、そうさせない力がランサーの瞳にはあった。
彼と会話していると、人気のない湖で愚痴を零しているような気分になる。

 聖杯に黒の死を願う、という選択も頭の片隅を過ったが即座に捨てた。自分の実力で勝利をもぎ取ってこそ意味がある。願望器など求めたことは一度だってないのだ。



「…ふふっふっふ」

「…?」

「あっはっはっはっ!!」

 ランサーは魏の答えを聞くと顔をわずかに動かし、まもなく明るい笑い声をあげた。
眉を寄せる魏から身を引き、躁病のように絶え間なく笑い続ける。

「何が可笑しい…!?」

「はぁぁ…、いいぜ、お前と一緒に行こう」

 魏が声を震わせると笑いを収め、表情をもとの気怠いそれに戻した。
ランサーは共に戦ってくれるらしい。彼が如何なる過程を経てその答えに辿り着いたかは知らないが、まずまずの成果を得られた魏は肩の力を抜いた。

 そうしたら次は情報収集に向かおう。有り難いことに魏のロールはフリーランスのヒットマンであるため、勤め人のように時間の制約がない。
来日して日が浅い為に取れる手段は多くないが、能力と経験でかなりの部分をカバーできるはず。見方を変えれば、聖杯戦争は黒の前座にうってつけとも言える。
聖杯を掴みとった暁には、アンバーの予知を覆すことだって不可能ではあるまい。


 気を取り直した魏は出掛ける準備を済ませるとランサーに声を掛け、自宅の玄関に歩を進めた。


314 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:23:28 G2HMzbEU0
【クラス】ランサー

【真名】矢車想

【出典作品】仮面ライダーカブト

【性別】男

【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具B

ザビー(マスクド) 筋力B 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具B

ザビー(ライダー) 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具A+

キックホッパー 筋力C+ 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具A+


【属性】
中立・中庸(秩序・善)


【クラススキル】
対魔力:E(C、C+++)
 状態によって変化する。
 矢車は魔術の無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
 ザビー・マスクドフォームは第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
 ザビー・ライダーフォームおよびキックホッパーはその特性から、Aランク以下の時間干渉をキャンセルできる。


【保有スキル】
精神汚染:D
 信念を捨てた自暴自棄で無気力な有り様。
 他の精神干渉系魔術を低確率でシャットアウトする。ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立し難い。


心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。


完全調和:-
 低ランクのカリスマと軍略を内包する特殊スキル。生前の経緯から喪失している。


315 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:23:55 G2HMzbEU0
【宝具】
『金色の栄光、今は遥か遠く(マスクドライダー・ザビー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 出現させたザビーゼクターとライダーブレスを使用して、仮面ライダーザビーに変身する。
 ザビー資格者は精鋭部隊「シャドウ」のリーダーを務めることになる。

 マスクドフォーム時は高い防御力を得るが、サーヴァントを相手取るには頼りない。
 キャストオフを行い、ライダーフォームに移行すると耐久力が落ちるがその分身軽になり、俊敏な戦闘を行う事ができるようになる。
 必殺技はゼクターを操作することで発動する「ライダースティング」。

 完全調和を捨て去ったランサーには必要ない代物。クラス補正によって押し付けられた栄光の残り滓。
 どうしても使わせたいなら、令呪一画を切るしかないだろう。


『地獄への道連れを探して(マスクドライダー・キックホッパー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 出現させたホッパーゼクターとゼクトバックルを使用して、仮面ライダーキックホッパーに変身する。
 マスクドフォームは存在せず、直接ライダーフォームに変身する。
 ゼクターはリバーシブルになっており、差し込む方向を変えるだけでパンチホッパーに変身できる特性を持つが、宝具化した現在は機能していない。

 パワーを向上させる特殊兵装アンカージャッキが脚部に備わっていることにより、多彩な足技を振るう事が出来る。
 必殺技はゼクターを操作することで発動する「ライダーキック」。


『昨日の自分より速く走れ(クロックアップ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 マスクドライダーシステム・ライダーフォームの共通機構。上述宝具の展開中のみ使用可能。
 簡単に言うと一時的に超高速で行動できるようになる。

 全身を駆け巡るタキオン粒子を操作する事で、ランサーは時間流を自在に行動可能になる。
 同ランクの時間干渉への耐性を持たない限り、宝具展開中の彼を認識するのは不可能。

 自分の時間の流れが速くなることで、発動中は世界が静止しているように見える。
 単純な加速ではなく時間操作に分類されるため、展開中も攻撃力は変化しない。

 持続時間は短く、数十秒程度で自動解除される。自ら解除する事も可能。
 生前とは違い、発動させる度に一定量の魔力が自動消費される。マスターは令呪一画で魔力消費を回避できる。


【weapon】
宝具に依存。


【人物背景】
ZECTの精鋭部隊「シャドウ」の元隊長。
パーフェクト・ハーモニーを信条に掲げ、部下たちから絶対的な信頼を寄せられている。
スタンドプレーを重んじる仮面ライダーカブト・天道総司の抹殺指令に執着するうち、シャドウリーダーの資格を失ってしまう。
そののち、かつての部下の裏切りもあって組織から完全に姿を消した。

しばらく後、天道らの前に姿を見せた彼はパーフェクト・ハーモニーを捨てて、アウトローさながらに荒みきっていた。
自らを闇の住人と称するようになってからは、目についたワームやライダーに戦いを仕掛けるなど無目的に街を彷徨うようになった。


【聖杯にかける願い】



316 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:24:14 G2HMzbEU0
【マスター名】魏志軍(ウェイ・チージュン)

【出典】DARKER THAN BLACK -黒の契約者-

【性別】男

【Weapon】
日本に来てから調達した拳銃やナイフなど。


【能力・技能】
「契約者」
"対価"と呼ばれる行動や現象と引き換えに、固有の超能力を行使できるようになった人々。
能力使用後に必ず支払う対価は「ホットミルクを飲む」、「茹で卵を食べる」といった容易なものから、「異物を咀嚼する」「指の骨を折る」といった重いものまで様々。

魏は自分の血液を付着させた部分をどこかに転送できる。所謂テレポートとは似て非なる、強度や材質などを一切無視した破壊の力である。自分には作用しない。
対価は「自ら血を流す」ことであり、両腕には無数のリストカット痕がある。

対価の支払いと能力発動を同時に行う稀有な契約者。


【ロール】
フリーランスの殺し屋。


【人物背景】
中華系マフィア「青龍堂(チンロンタン)」の構成員だった男。
組織の壊滅を望むボスの娘「アリス・王」と手を組み、ボス含む組織の主要メンバーを次々と殺害。組織の掌握を目論んでいた彼は最後にアリスをも裏切って殺した。

組織に潜入していた黒(ヘイ)の命を狙うも敗北。逃走した彼は契約者の組織「イブニング・プリム・ローズ」に参加する。
のちに黒の前に火傷痕を負った姿で現れ、雪辱を遂げるべく彼に再戦を挑んだ。


第24話開始直前から参戦


【聖杯にかける願い】
なし。脱出後に黒と再戦する。



【把握媒体】
ランサー(矢車想):
TVシリーズ49話。そのうち7話から登場、14話から32話の視聴はお任せします。上記状態の33話〜48話を視聴すれば十分把握できると思います。
DVD、ブルーレイ、ニコニコチャンネルなどで把握可能。



魏志軍:
TVシリーズ。そのうちの9、10話および21話〜24話。
DVD、ブルーレイ、バンダイチャンネルなどで把握可能。


317 : 魏志軍&ランサー ◆0080sQ2ZQQ :2016/07/26(火) 18:24:37 G2HMzbEU0
終了です。


318 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/27(水) 18:16:34 RXl9UgPg0
ご投下ありがとうございます。
私も投下します。


319 : 星空の前日譚 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/27(水) 18:17:18 RXl9UgPg0
 友達がいた。
 気が弱くてどんくさく、とにかく要領の悪いやつだった。
 敬語が苦手で余計に考え込む面倒くさい性格をしていて、けれどいざという時は誰よりも優しい女の子。
 
 中学校に上がって、新しい出会いがあって、それでもなんとなくだらだらと付き合いが続いて、
 高校、大学と一緒に過ごし、大人になってからも腐れ縁の友達でいるものだと疑いもしなかった。
 それが間違いだったのかもしれないと初めて気付いた時、
 あれほど一緒に過ごした友達の背中は、もう届かないところに行ってしまっていた。

 あいつは要領が悪いから――自分がいなければ何もできないと、そう思っていた。
 でも、自分の前から去っていったのはあいつの方だった。
 自分が握り締めていた手を離すまでもなく、手は、あっちから離された。
 
「はぁ」

 漏れる、吐息。
 そういえばあいつは、星が好きなやつだった。
 小高い丘の上から日が落ちかけた空をぼんやり見上げて思い出す。
 灰色の空に星はない。それらしいものは、どこにも見当たらなかった。

 この空は、自分の知る空ではない。
 空だけじゃない。
 この世界の何もかもが、自分のいた世界とは全く違うものであるらしい。
 らしい、というのは、未だに私が現実を受け止められていないからだ。
 
「弱いなあ……私」

 聖杯戦争?
 並行世界?
 英霊同士の潰し合い?
 ……そんなの、知ったことじゃない。
 私は、身の回りの悩みのことで手一杯なんだから。
 そんなことに気を回している余裕なんて、とてもじゃないけどないんだよ。 

 いくら悪態をついても、誰も待ってはくれない。
 世界は、時間は、私を放ったらかしにしたまま進んでいく。
 星が好きだったあいつなら、どうするだろうか。
 ……きっと散々迷って慌てふためいて、それでも最後には聖杯を拒むような気がする。
 そもそもあいつは、今何をしているのだろう。

 中学校への進学を境に疎遠になったかつての親友。
 彼女のことを思い出すと、ちくりと胸を刺す痛みがある。
 胸の中にあるのは空寒い答え。
 
 私がついていないとダメだと決め付けて、
 友達として付き合っていた時間の全てが、私の独りよがりでしかなかったという「答え」。

「ねえ、私さ……どうすればいいと思う?」

 丘の上で空を見ているのは、私だけじゃない。
 思わず二度見してしまうような派手な格好をした、あいつと同じ色の髪をした女の子。
 いや……少し濃いかな。それに性格も、あいつとは全然似ても似つかない。


320 : 星空の前日譚 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/27(水) 18:17:59 RXl9UgPg0

「ねえ、ライダー」
「知らないわよ、そんなこと」

 問いかける言葉は、にべもなく切り捨てられた。
 日常のまま続いていく世界にやっと現れた非日常も、やっぱり都合よく答えを与えちゃくれない。
 
「あんたの問題は、あんたが解決しなさいな。私が手伝ってあげられるのは荒事だけよ、マスター」
「……そっか。ごめん、ライダー」
「あーもう、面倒臭い子ねぇ」

 ライダーはやきもきするように、頭をぼりぼりと掻く。
 見た目はアイドルのように可愛いけど、この人は結構女子力ってやつに乏しい性格をしていた。
 
「決めるのはあんた、戦うのは私。
 ……言い方を悪くすればどっちでもいいのよ。私はサーヴァントなんだから、マスターに従うのは当然だしね」

 聖杯戦争、それが私の前にやって来た非日常の名前。
 七騎のサーヴァントによる戦いの末に現れるという聖杯を使えば、あらゆる願いが叶えられる。
 そもそもそれを手に入れなければ、この世界から帰ることが出来るかどうかすら怪しいとこの少女は言っていた。
 彼女は、ライダーのサーヴァント。真名を、蛇崩乃音。
 知らない名前だったけど、別な世界の英雄や偉人らしいしそれも当然か、と納得した。
 私は何も知らない。ライダーが強いのか弱いのかも、まだ戦ったことがない今ではさっぱりだ。

「でも、あんたが望む通りの働きはきっちりしてあげる。
 願いを叶えるにしろ、聖杯を壊すにしろ、ちゃんと期待された分は働いたげる。
 だから……もうちょっとどっしり構えなさい。そんなんじゃ、勝てる勝負も勝てないわよ」
「はは……ありがと、ライダー」

 私はまだ迷ってる。
 聖杯を使うことは正しいことなのか、
 自分が生きたい、帰りたいというだけで、他人の願いを踏み躙っていいものなのか。
 それとも、やっぱり間違っているのか、いまだに決めかねてる。
 でも、この戦いを諦めることだけは――嫌だ。

 ついこの前まで笑い合ってた友達に会いに行く勇気さえない弱虫な私でも、
 おもいっきりまっすぐに、この聖杯戦争にぶつかっていけたなら。


 きっと、仲直りの勇気くらいは出ると思うから。



【クラス】
ライダー

【真名】
蛇崩乃音@キルラキル

【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運B 宝具B+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
騎乗:A-
 乗り物は人並み程度のものしか乗りこなせない。
 だが彼女は自身の宝具である極制服の超常的な特性を我が物としている為、このランクとなった。

対魔力:D
 一工程による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。


321 : 星空の前日譚 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/27(水) 18:18:14 RXl9UgPg0

【保有スキル】
忠義の柱:A
 信じたただ一人の主へ誓った固い忠誠。
 主以外が発する「カリスマ」の効果を無効化し、いかなる場面においても精神的屈服を喫することがない。
 余談だが、彼女以外にこのスキルを持つ者は少なくともその同胞に三人存在おり、他三人はA+の最高ランクである。
 しかしライダーは主――鬼龍院皐月の部下ではなく、「理解者」となることを望んだ為、このランクとなっている。

勇猛(音):C
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 本来は格闘ダメージを向上させる効果を生むスキルだが、彼女の場合は極制服の性能が上昇する。

吹奏楽部:A
 吹奏楽のジャンルに部類される楽器を十全に扱いこなすこと。
 Aランクは部長クラスの奏者を意味し、配下として極制服で武装を施したマーチングバンド隊員を呼び出し、使役することが可能。
 隊員の戦力は総じて低いが、それだけに魔力消費が小さくて済む利点を持つ。

【宝具】
『極星・奏ノ装』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1000人
 ライダーが着用する三つ星極制服。奏の装・グラーヴェ。
 物質化した音符による弾幕攻撃や牽制攻撃、接近する相手にはスピーカーから重低音を利用した破壊音波を発生させて退けるなどオールラウンダーな立ち回りをすることができる。
 彼女のモチベーションに合わせて曲や攻撃がエスカレートしていき、それにつれて「ブレスト」へ変形する。
 変形形態には他にも「ダ・カーポ」「奏の装・改」があり、後者を使用するためには魔力の消費が必要。

『極星・最終奏装』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1000人
 前述の第一宝具である三つ星極制服の、最終形態たる姿。
 火力、速度を初めとした各性能が段違いにまで向上しており、最終楽章の名に恥じない猛威を奮う。当然、魔力消費の度合いも上がっているため注意が必要。
 宝具開放には令呪一画の使用が不可欠で、使用後は元の極制服に戻すことは不可能となる。
 開放後、更に令呪を用いてブーストすることで宝具の性能を増幅できる。
 
【人物背景】
 本能字学園文化部統括委員長。鬼龍院皐月に仕える、本能字学園四天王の一人。
 皐月との間柄は幼稚園からの幼なじみであり、四天王の中で付き合いが断トツで古いため彼女の心情を一番理解していると自負する。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯に託す願いはない。あくまでサーヴァントとして、マスターのあおいの決断に従うつもり。


【マスター】
あおい@放課後のプレアデス

【マスターとしての願い】
元の世界に帰りたい

【weapon】
なし

【能力・技能】
後にドライブシャフトの魔法使いとなる――はずだった少女。
星空を駆ける出会いをする前に、彼女は聖杯に見初められた。

【人物背景】
進学先の別れた友人のことで鬱屈としたものを抱えている。
聖杯を使ってまで叶える願いはないが、やはり元の世界には帰りたい。
ただ、その為に聖杯戦争へ乗るかどうかは悩んでいる。


【把握媒体】
ライダー(蛇崩乃音):
 アニメ全話。

あおい:
 同じくアニメ全話。外伝小説もあるにはあるが、こちらは必須ではない。


322 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/07/27(水) 18:18:53 RXl9UgPg0
投下終了です。
「仮題/終焉戦争」様に投下させていただいた作品の、細部を変更した流用になります。


323 : 炎の帰宅難民 ◆T3rvSA.jcs :2016/07/29(金) 23:38:40 RbDjQP3I0
投下します
柩姫聖杯に投下したものの流用です
コテ変わってますが当人です


324 : 炎の帰宅難民 ◆T3rvSA.jcs :2016/07/29(金) 23:39:24 RbDjQP3I0
「はう~~~-ぅ」

出発してゆく電車を見送り溜息を吐く一人の少女がいた。

「うぅぅ…地球~~~~」

切なく哀しく哭く少女。
昨日も電車に乗ろうとした一昨日も電車に乗ろうとした。三日前も、四日前も、風邪が治って、記憶を取り戻してから、ずっと。
結局乗ることは出来なかった。一日に何度も試した。その度に意識が飛び、電車を見送っていた。
悲しかった。せっかく地球に戻れたのに、今度は水ぶっかけられて死なずに済みそうなのに、元の身体の方が良いとか贅沢言わないんで自由にさせて。
少女の願いは届かない。少女の叫びは届かない。

「主殿」

「地球-~~~地球-~~~~」

「主殿っ!」

「ひっ!?」

後ろからの声に振り向く少女。そこにいたのは彼女のサーヴァント。見た目は髪を後ろで束ね首に六銭を下げた鎧を脱いだ戦装束の青年、武士という職業らしいが、少女には縁のない言葉であった。

「だって〜〜。ランサーさ〜ん」

「戻りたいのは私とて同じ事、しかし今は戻ることは叶わないのですぞ」

「うぅ…地球〜〜〜」

ランサーは溜息をつく、このやり取りは昨日も一昨日もした。三日前も、四日前も、召喚されてから、ずっと。

「主殿、気持ちは分かるが毎日こんな処に通っていては、他の者たちに襲われるやも………どうやら遅かったか」

周囲を見回すランサー。辺りには人影どころか、人の気配すら無い。

「村正」

ランサーの呼びかけに応じ、虚空より姿を現す人の大きさ程の鋼の蜘蛛。

「ランサ〜さ〜〜ん」

不安げに見つめてくる少女、当人が言うには、「どうしてか判らないがパワーがあり得ない位に落ちている」そうだ。実際のところ主の実力は判らないが、不安なのだろう。
そう思ったランサーは、少女に向かって力強く頷くと、誓約の口上を述べる。

「不惜身命。担惜身命」

金属が弾ける音と共に鋼の蜘蛛が無数の金属片に変わる。ランサーの周囲に無数の浮かぶ無数の金属片、見るものが見れば一片一片が凄まじい力を有していることがわかるだろう。
そして金属片がランサーの身体に纏わり付き、秒を待たずして陣羽織を羽織って甲冑に身を包み、首に長いマフラーを巻いた、十文字槍を持った武者の姿がそこにあった。
その装甲の各所には六文戦が描かれていた。

「グオオオオオオオオ!!!」

直後、全身が鋼でできていると思しき鋼の巨漢がランサー目掛け襲いかかった。

「私は帰らなければならんのだ!私を待つ仲間の元へ!!」

十文字槍の切っ先が炎に包まれ、鋼の巨漢に繰り出された。


〜数時間後〜


「地球〜〜」

安アパートの窓から夜空を見上げて泣きじゃくる少女の姿があった。
襲ってきた鋼の巨漢は急所と呼べるものが無かったので、かなり手を焼いたが最後はランサーの槍の前に撃ち倒された。

「地球〜〜」

いつまでも泣き止まぬマスターに溜息を吐くランサー。
聖杯戦争とやらの間ずっとこうなのだろうか?考えると気が重くなってくるランサーだった。


325 : 炎の帰宅難民 ◆T3rvSA.jcs :2016/07/29(金) 23:40:48 RbDjQP3I0
【クラス】
ランサー

【真名】
真田信繁@装甲悪鬼村正 魔界編


【ステータス】
通常時
筋力:D 耐久:D 敏捷:D+ 幸運:D 魔力:E 宝具:A

装甲時
筋力:B 耐久:B 敏捷:C+ 幸運:D 魔力:E 宝具:A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
劔胄を装甲した時のみ発動。


【保有スキル】
魔力放出(炎):B
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
ランサーは陰義により自身の武器や身体に炎を纏わせられる。
その熱量は凄まじく、槍先に炎を帯びた一突きは金属を一瞬で蒸発させる程。
劔胄を装甲した時のみ発動。

自陣防御:B
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、自分はその対象には含まれない。
また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。

護城の鬼将:B+
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を"自らの城"とする。
この城内の戦闘において、城主であるランサーは、Bランクの気配探知と圏境スキルを獲得し、防御行動に大きなボーナスを得る。

軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、
逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

勇猛:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
 
火除けの加護:ー(B)
劔胄を装甲した時のみ発動。火を無効化する。



【宝具】
三世村正伝大千鳥
ランク: A 種別:対 人宝具 レンジ :ー 最大補足:自分自身

伝説の妖甲“三世村正”の影響を受けて作られた劔胄。但し似ているのは外観のみ。
その陰義は『火炎操作』文字通り炎を操る。その熱量は金属を蒸発させる程。
劔胄の武装は十文字槍。


【weapon】
生身の時は無し。装甲時には十文字槍を持つ

【人物背景】
元の世界から現代に召喚された武者。元の時代にて共に戦うと誓った十勇士の元に戻るべく、帰還方法を知っているというGHQの勧誘に乗る。
その後同じく召喚された伊達政宗&柳生十兵衛と合流。
十兵衛が別行動を取ったのを契機に、三世村正とその仕手湊斗景明に興味を持っていた政宗の誘いに乗り行動を開始。
事前に察知されていた為拘束されるも、同じくGHQに協力していた武者たちの乱入により解放され、景明と戦闘になる。
十勇士との誓いを守る為に絶対に負けられぬという意思の元、初めて練り上げる程の巨大な炎を御し、景明と村正に迫るが……。
景明の放った陰義を受け敗北。自身の炎とともに空に散った。
実直かつ誠実な性格。

【方針】
マスターを護り、ともに願いを叶える。

【聖杯にかける願い】
受肉と仲間たちの元への帰還。


326 : 炎の帰宅難民 ◆T3rvSA.jcs :2016/07/29(金) 23:41:15 RbDjQP3I0
【マスター】
ジャミラ@ウルトラ怪獣擬人化計画 feat.POPComiccode

【能力・技能】
怪獣だった時の身体能力は無いが外見不相応なパワーは有る。
100万度の炎は火力がだいぶ下がっていて、街路樹を燃え上がらせる位しか無い。

【weapon】
無し

【ロール】
市内の女子校に通う女子高生。
安アパートに独り住まい。
所持金少なめ。

【人物背景】
何故か怪獣墓場で女子高生化した怪獣達。ジャミラも例に漏れずJK化。他の連中がJKライフを満喫している中、元がオッサンのジャミラは元の姿(オッサン)に戻して欲しかったと泣いていた。
水が精神的な事情で苦手、あと泥も。
地球に対する執念は半端ではなく、雨天決行の遠足の行き先が地球と知るや、トラウマ克服の為に土砂降りの雨の中外に飛び出して雨を浴びる程。
そして風邪を引いて遠足に行けなくなったのだった。

【令呪の形・位置】
“火”の字の令呪が右掌にある。

【聖杯にかける願い】
元の姿(オッサン)に戻って地球に帰る。今の姿でも良いから帰る

【方針】
ランサーに任せる。脱出方法を探す。

【参戦時期】
風邪引いて寝込んでいた時期から参戦
現在は治っている。


把握媒体
ランサー:
装甲悪鬼村正 魔王編第3巻

ジャミラ
ウルトラ怪獣擬人化計画 feat.POPComiccode第1巻

両方ともこれだけ読んどけば把握可能


327 : 炎の帰宅難民 ◆T3rvSA.jcs :2016/07/29(金) 23:41:57 RbDjQP3I0
投下終了します


328 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/01(月) 00:06:23 xSybiS7o0

皆様、ご投下ありがとうございます。
七月も終わりましたので、先にフリースレからの当選作を発表しようと思います。
当初は四枠採用予定でしたが、都合により二枠の採用と致しました。ご了承下さいませ。

【暁&アーチャー(アカツキ)】
【岸波白野&ネバーセイバー(渋谷凛)】

以上の二主従を、本企画で採用させていただこうと思います。


329 : ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:54:31 QL1kOvQw0
投下します


330 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:55:24 QL1kOvQw0





 この物語は「エンドロール」。流れる文字の背後に、細切れに表示されるだけの過去の追憶。
 全てはもう終わってしまって、取り返しがつくことなど何もない。





   ▼  ▼  ▼

 人の駆ける荒い息遣いが闇夜に溶ける。
 靴底がタイルを踏みしめる硬質の音が乱れに乱れて鳴り響く。

「うわ……あ……うあ……」

 声の主は男だった。男は声にならない声を途切れ途切れに上げながら、まるで這うように何かから逃げ出していた。最早悲鳴を上げる気力と体力すらなく、その足元は覚束ない。
 見れば、男は腕から夥しい量の血を流していた。切り裂かれた傷は耐えがたい激痛を発しているだろうことが容易に想像できる。しかし、男にはそんなことを気にしていられる余裕などなかった。
 止まれば死ぬ。
 一瞬でも足を止めてしまったら、待ち受けるのは更に悲惨な末路だけなのだ。

(嫌だ)

 背後より迫る恐怖、その圧に限界を越えた足はそれでも止まることが許されない。
 追いつかれれば死ぬしかない。
 きっと自分は殺されてしまう。抵抗の余地などない。

(死にたくない)

 だから走る。激痛も苦痛も置き去って、酷使して血反吐を吐くほどに損耗した肺をそれでもと稼働させて。
 人一人いない夜の街路を、等間隔に並んだ灯りが照らす夜道を。
 惨めに、無様に、一心不乱に逃げ出していた。


331 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:56:09 QL1kOvQw0


 ―――男の正体を言ってしまえば、彼は聖杯戦争に招かれたマスターだった。
 既に没落した魔術師の家系に連なる彼は、しかし枯渇したはずの魔術回路を生まれつき保持しており、魔術の修練こそしてこなかったもののある程度の魔力を備えるに至っていた。
 少なくとも、こうして令呪の恩恵を与えられる程度には、彼の魔術回路は優秀だったと言えるだろう。
 引き当てたサーヴァントはセイバー。その英霊を目の前にして、彼は天啓を得た気持ちでこの聖杯戦争へと臨んでいた。最優のサーヴァントを引いた自分に敵はないと、あるいは舞い上がっていたのかもしれない。
 そして今夜、彼にとっては初陣となる日に出会った敵は、単独行動中と思しきキャスターだった。当然彼は好機と見てセイバーをけし掛けた。相性の好悪は瞭然であり、故に自分たちが負けるはずもないと高を括って。
 果たして、その目論見は成功に終わった。ある程度抵抗はされたものの、セイバーは見事そのキャスターの首を刎ねて勝利をおさめた。戦闘と勝利が生み出す高揚に体が火照ったことを、彼は今でも鮮烈に思い出せる。
 自分は勝った。勝ったはずだ、なのに……

(どういうことだ、あれは!?)

 勝利の栄光から急転直下、"それ"は現れた。
 斬首され死したはずのキャスターの体が持ち上がり、何故かその状態で攻撃を仕掛けてきたのだ。
 セイバーもすぐに応戦したが、どれだけ切り刻もうと構わず攻撃を繰り返してくるキャスターに、徐々に損耗を強いられた。
 そして壮絶な削り合いの末に、セイバーは遂に……

(くそッ、あんなの聞いてねえぞ! あんな反則アリなのかよ!)

 朦朧とする意識の中で、それでも抑えきれない悪態を内心で吐き捨てる。
 あれは反則だ。死んでも生き返るサーヴァントなど聞いたことがない。
 首を刎ねようと、心臓を潰そうと、全身を微塵切りにしても、あのキャスターは何事もなかったかのように立ち上がってきたのだ。
 そんな得体の知れないサーヴァントに、今自分は追われている。サーヴァントを失った自分を確実に殺すために。

(どこだ、どこから来る!?)

 走りながら必死に首を振って辺りを見回す。
 右―――何もいない。
 左―――誰もいない。
 上―――広がるのは星の無い漆黒ばかり。
 背後――とてもじゃないが振りかえられない。


332 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:56:40 QL1kOvQw0

 闇の中に立つ影のような街灯の間を、必死の形相で、転がるように走る。
 どこへ逃げるかなど考える余裕はなかった。ただ転がった先へ、目が向いた先へ、どこまでも広がる冷たい夜闇の中を、ひたすらに逃げ回り続けた。
 そして、何度目かの曲がり角を一切減速することなく曲がり―――

「ごぶっ……!」

 体の真ん中を、鋭い衝撃が貫いた。次いで襲いくるのは灼熱の感覚。
 ごぽり、と声にならないままに熱いものがこみ上げてくる。男は正確に認識することができなかったが、それは男自身の吐血だった。
 全身から力が抜ける。四肢は萎え、力は入らず、空転する呼吸だけが空しく宙へ消えていった。
 何故だか痛みは感じなかった。ただ重たい疲労感と鈍色の視界が頭を埋め尽くした。
 何が起こったのか、分からない。自分は一体どうなったのか。
 暗闇に閉ざされていく視界を、それでもと男は持ち上げる。
 そこに映ったのは、ただ一面の漆黒。
 その闇色から浮き出るように佇む、擦り切れた外套の影。
 そして外套の中から覗く、白色の仮面。

「お、前は……」

 最期、男の視界に映し出されたのは、こちらへと伸ばされるキャスターの手のひら。
 顔面を鷲掴みにされた感触と共に、男の意識は今度こそ二度と浮上しない深みへと沈んでいった。





   ▼  ▼  ▼

 子供の自分にとってはやけに広く感じる部屋。お風呂場前の脱衣所。
 殺風景な内装とフローリング、適当に丸められた洗濯物がだらしなく放り込まれた段ボール箱。
 最近よく止まるようになった古い洗濯機。ママがそのことに機嫌を悪くして怒鳴っていたのが耳に新しい。
 壁際には背丈の低い戸棚が一つ。引き出しはたくさんあるけど、パパとママは整頓には無頓着だから使っているのはボクしかいない。
 あとは風呂場に続くサッシと、立てつけの悪い窓。それが、この家における僕の世界の全てだった。


333 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:57:13 QL1kOvQw0

 今日も大きな声が聞こえる。
 耳に煩い音や声は人を苛つかせる。いつも聞こえてくるのはパパの怒鳴り声か、ママの媚びた声。あとは、知らない男の人の声くらい。
 今聞こえたのは、硬いものがぶつかってガラスが割れた音だ。多分また、パパが酒ビンを投げたかしたのだろう。ママのヒステリックな叫びも聞こえる。あとで片づけなくておかないと。
 正直言って気が滅入る。かつての自分は、よくこんな環境に耐えていたものだ。いや、耐えられなかったからこんなことになったのか。どちらでも構わないけれど。

 戸棚の引き出しの一番奥に隠してあった日記帳を取り出す。僕は自分の部屋がないから、ここが僕の秘密の隠し場所だった。
 分厚い日記帳、触ってると安心する。ここにはボクが犯してしまった間違いがたくさん書いてあるけど、それでもボクにとっては唯一の「僕のもの」だ。
 今日あったことを書き連ねる。どうでもいいこと、ちょっと興味をそそられたもの、いつものルーチンワーク。書くことはいくらでもあった。何もない日々だから、少しでも記憶に残ったものがあればそれを書けばいい。
 さらさらとペンを走らせる音だけが部屋に響く。いつの間にか隣の部屋の喧騒は静まっていた。多分寝入ったのだろう。それくらいしかやることのない男だ、パパは。
 日記帳に書きこむこと暫し、満足したボクは日記帳を閉じて元の場所に戻し、ペンを筆箱の中にしまった。途端にやることのなくなったボクは、湿気と生乾きの臭いが染みついた陰気な部屋の中を、ぐるぐるとまわり始めた。
 今日という日もそろそろ終わる。無意味な日常が、無価値なボクの蛇足な日々が、また一つ消費される。

 コンコン。
 ふと、窓ガラスを叩く音が聞こえた。
 控えめなそれは周囲を気遣った音であり、この家から消えて久しい人らしい思いが入ったものだった。ボロな平屋の、それも一階の窓だから叩ける者はそれこそ大勢いるだろう。もしかしたら泥棒かもしれない。けれど、そうではないことを僕は知っていた。
 目を向けてみれば、そこにいたのはやっぱり僕の知ってる姿だった。擦り切れた黒い装束みたいなものを着込んだ人。顔には仮面が付けられて、表情どころか男か女かさえ分からない。

 「魔法使いだ」と言った初対面の時のボクに、その人は否定も肯定もしなかった。少し話して、その身から漂う血とすえた臭いに「じゃあ人殺しだ」と言った僕に、その人は黙って頷いた。
 その人は自分のことをキャスターだと名乗った。「やっぱり魔法使いじゃないか」と言ったら、どちらも同じだと返された。
 なるほど、とその時僕は納得したことを覚えている。人殺しにはやはり、人殺しがお似合いなのだ。

 僕は窓ガラスをノックしたまま黙って佇んでいるその人に近づいて、窓を開けてあげた。その人は霊体化という、いわば幽霊みたく壁をすり抜けることもできたはずだけど、僕のいる部屋に入ってくる時はいつもノックをしてくれる。気遣い、というものなんだろうか。よく分からない。
 その人はやっぱり黙ったまま、土足で部屋に上がりこんできた。そしてそのまま、隅のほうに座り込む。


334 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:57:53 QL1kOvQw0

「……どうだったの」
『サーヴァントを一騎仕留めた』

 抑揚もなく、その人は言った。男の声と女の声が入り混じったような、不思議な声だった。その人の性別が分からない理由の一つだ。

『しかし少なくない傷を負った。敵陣営を生贄に捧げたことで大凡回復はしたが、この状態での戦闘には不安が残る』
「……そっか」

 ついさっき、胸のあたりに鈍い痛みのようなものが走ったことを思い出した。今まで経験したことが無かったから分からなかったけど、あれが魔力の消費というものなのだろうか。内臓から血を絞り出されるような感覚。あまり好きにはなれそうにない。

「そういえば……その生贄ってマスターやサーヴァント以外にも使えるんだったよね」

 無言の首肯。その人―――キャスターは首を縦に振ることで僕の疑問に答えた。

「じゃあ、ちょうどいいのがそこにいるよ」

 そう言って隣の部屋を指差す。両親の寝室だ。キャスターは、困ったように振り返った。

『お前は、自身の知る誰かの殺害を厭んでいたはずだ』
「僕が殺したくないのは……償わなきゃいけないのは、僕が原因で死んだ人たちだけだよ。あいつらは自業自得」

 だから死のうが死ぬまいがどうでもいい。わざわざ再殺してやる義理なんてないけど、殺さない理由だってありはしない。
 酒と暴力と性欲しかない父親と、男に抱かれることしか頭にない母親。あいつらはどうしようもない屑だ。僕と同じように。
 キャスターがこちらを見る。本当にいいのか、という最終確認だ。僕は黙って頷いた。

 キャスターの姿が消えてなくなる。霊体化だ。こうなるとキャスターは誰の目にも見えなくなるし、壁だってすり抜けられる。
 窓を閉め、施錠もちゃんとして、ボクは明日の学校の準備を整える。昔は嫌いだったけど今度はちゃんと通ってみたいと思う。隣からくぐもった困惑の声と怒号が聞こえてきた。宿題はちゃんとやったかな、最後の確認をする。
 そういえば、明日は日直の当番だった。少し早めに出て行かなくてはならないだろう。何かが蒸発するような音と甲高い悲鳴が耳に突き刺さる。そうと決まればそろそろ寝なくては。

「おやすみなさい、みんな」

 誰ともなしに呟いた声は、もうどこにもいないみんなに向けて。僕なんかがいたせいで死んでしまったみんなに向けて。
 頭の中に思い描く。みんなと一緒にいた時間は、僕の人生で一番楽しかった。
 今夜はみんなの夢が見たいな。そう思いながら、意識を深く沈めていく。例え都合いいものだとしても、夢は幸せなものが見たかった。





   ▼  ▼  ▼


335 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:58:19 QL1kOvQw0

 学校における彼は、目立たない大人しい子というイメージをこれ以上なく表したかのような少年だった。
 自己主張は少なく、表情も抑揚も乏しい。周りに敵を作っているわけではないが親しい友人も特にいない。
 教室の隅っこに漂う空気のような生徒、それが彼だった。

「いい子だよ」

 彼を知る大人は大抵こう答える。聞き分けがよく大人しい子、手間のかからない都合のいい子。

「嫌な子だよ」

 彼を知る子供は大抵こう答える。何を考えているかよく分からない。不気味だし根暗だし、仲のいい子なんて誰もいない。だから嫌な子。

 結局のところはどちらも同じだった。大人も子供も、遠巻きにして見るだけで彼と接しようとはしなかった。いい子も嫌な子も、単なる無関心の現れに過ぎなかった。


 その日、クラスで作文の宿題が出された。テーマは「将来の夢」。
 ありふれた宿題だった。生徒たちは面倒臭がったり、嫌な顔をしながらも、思い思いの文を書き連ねていった。
 次の日集められた作文は十人十色の内容で、長かったり短かったり、巧みだったり適当だったり。それでも子供らしい感受性に溢れた夢が詰め込まれたものばかり。
 けれどその中に、周りから浮いた作文用紙が一枚あった。
 将来の夢というテーマとはまるでそぐわない、悲観的で突き放したかのような文章。その文頭には、ぽつりと一文だけが書かれていた。

『人間みたいなことが、してみたい』

 その言葉の意味を理解できた者は。
 少なくとも、それを見た者の中には存在しなかった。


336 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:58:44 QL1kOvQw0

【クラス】
キャスター

【真名】
無銘@ソウルサクリファイス

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A+

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として自分に有利な陣形を作り上げる。

道具作成:A
供物魔術に必要な道具を作り上げる。

【保有スキル】
供物魔術:A
供物を捧げることにより発動する魔術。効果の内容は供物により千差万別となる。
この魔術は使用に魔力を要さないが、使用の度に供物が破損していく。
キャスターが扱う魔術は、供物・生贄・禁術のいずれにおいても「何かを犠牲にする」ことをトリガーとして発動する。

生贄:A
戦闘不能に陥った対象を文字通り"生贄"とする術。
生贄に捧げられた対象の魂はキャスターの右腕に取り込まれ、肉体は完全に消滅する。
単純な魂喰いとしても非常に効率のいい代物であるが、その他にも取り込んだ魂の量と質に比例してキャスターのステータスに上昇補正を与える効果がある。
また、一定以上の魔力を持つ人物にこのスキルを使用した場合、"生贄魔術"を使用することが可能となる。
生贄魔術は非常に強力であるが、それを使用した場合は魔力回復やステータス上昇補正は得られない。
生贄魔術は以下の三通りであり、対象の属性によって発現する魔術が決まる。
グングニル:生贄対象の全身の骨格を肥大化させ、周囲一帯に骨の槍を降り注がせる。追加の効果はないが、その分威力は他の生贄魔術より強大。属性・混沌。
エンジェル:生贄対象の魂を昇華させ、周囲一帯に光の槍を降り注がせる。また、その際にキャスターの傍にいる人物を無差別に回復する。属性・秩序。
ユグドラシル:生贄対象の下腹部から茨化した骨が突き破り、巨大な樹のようになる範囲攻撃。その際周囲の人物の魔力を無差別に回復する。属性・中立。

心眼:C
霊的な透視、看破能力。
心眼(真)や心眼(偽)とは異なるスキル。

精神汚染:E
取り込んだ魂により自我が侵食されている。生贄により魂を取り込む度、このスキルのランクは上昇していく。上昇量は対象の持つ魔力量に比例して大きくなる。
ランクEにおいては精神干渉のシャットアウトが出来ない代わりに意思疎通にも支障はないが、ランクが上昇していくにつれて右腕が異形と化していき殺戮衝動が強まり意思の疎通が困難になっていく。
またこのスキルランクが上限に達した時、キャスターは全ての自我を失い"魔物"と化すだろう。

不死の呪い:EX
不死存在の血を取り込んでいるためキャスターは不死の存在となっている。
どれだけ肉体を破壊されようと魔力を消費して元通りに再生可能。肉体の再生にかかる魔力の消費は通常と比べて遥かに軽くなるが、霊核を砕かれた際の再生には多量の魔力消費が必要となる。
また、後述の宝具によって失われた部位は再生しない。


337 : エンドロールは終わらない ◆GO82qGZUNE :2016/08/01(月) 20:59:34 QL1kOvQw0

【宝具】
『禁術・贄喰らいの魔装(ソウルサクリファイス)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1〜666
自身の肉体の一部を供物にすることにより発動する大魔術。肉体のみならず該当部位における魂ごと捧げられるため、この宝具によって失われた肉体部位は二度と元に戻ることはない。
禁術は以下の通り。
サラマンダー:全身の皮膚が焼け落ちることで発動。周囲一帯を業火で焼き払う。
グレイプニル:右腕の骨と神経で編まれた鎖で対象を捕縛する。捕縛された相手は一切の身動き及び魔術・スキル・宝具の発動ができない。対象の魔としての性質が強ければ強いほどこの魔術の効果は上昇する。
ゴルゴン:片目を抉り取ることにより発動。石化魔術弾を連射するゴルゴンの瞳を無数に召喚する。
ベルセルク:脳を肥大化させ発動。強力な念動波により周囲を無差別に破壊する。使用後に脳は元の大きさに戻るが、代わりに思考能力が制限される。
エクスカリバー:背骨を引き抜き、地面に突き刺すことで地中から生える巨大な剣として具現し、対象を自動で追尾して切り裂く。
ヴァルカン:自分の心臓を錬成体として機能させ、魔力で構成された剣を無尽蔵に取り出す。その剣はA+ランクの対人宝具として機能する。
ルシファー:自身の足の骨格を肥大化・変形させることにより巨大な翼に変異させる。一時的に敏捷に+++補正を与え異形の翼による物理攻撃を可能とする。

【weapon】
・右腕の呪血
右腕から流した血を刃もしくは弾丸にしての攻撃。当然ながら攻撃の度にキャスターは傷ついていくが、不死の呪いにより再生可能。

【人物背景】
主人公であるアーサー・カムランがその記憶を追体験することになる「ある魔法使い」。
魔物と化した人間の殺害要請を引き受ける魔術組織アヴァロンに属していた魔術師。キャスターのいた世界における魔法使いとは「人殺し」の代名詞でもあった。
かつてパートナーであったニミュエという女性を生贄にしてしまった過去を持つ。
予知能力を持つ魔術師「マーリン」によって、将来世界を滅ぼす怪物になると断言され、その未来を防ぐためにマーリンと二人で「聖杯」探求の旅をしていた。
結果的に彼/彼女は怪物と成り果てる運命を乗り越えることに成功するのだが……
真名が無銘となっているのは■■■■によって世界が滅ぼされ彼/彼女の名を知る者がいなくなってしまったため。同様の理由で姿さえも失っており、今回の聖杯戦争においては襤褸布を纏い仮面で顔を覆い隠し男女双方の声が重なって聞こえるという性別不明の状態となっている。
性格は理知的で意外と洞察力が高い。また、血なまぐさい世界に身を置くにしては少々お人好しのきらいがある。

【サーヴァントとしての願い】
■■■■を完全に殺す/救う。



【マスター】
ラッセル@END ROLL

【マスターとしての願い】
自分という存在を無かったことにして、自分が引き起こしてしまった全ての悲劇を消し去る。

【weapon】
分厚い日記帳:
自分の部屋すら与えられなかった彼の、唯一と言っていい「自分のもの」。持っていると安心する……らしい。
中には今まで犯してきた様々なことが書かれている。

【能力・技能】
身体的にも頭脳的にも年相応の少年。
元来、彼は何の異常性も特別性も持たないただの少年でしかないはずだった。

【人物背景】
ゴミ屑のような両親からネグレクトと虐待を受け、幼少期より性的倒錯環境で育てられた(というか放置された)少年。
愛情を知らず、人らしい情を知らず、いつの間にか彼からは共感性が欠如してしまい、罪悪感というものを持たない後天性の精神異常者へと変貌した。
そして自覚的、あるいは無自覚的な行いの果てに彼は自らの両親を惨殺する。全てに疲れ果てた彼は、自らが犯した犯行の全てを記した日記帳を手に警察へと足を運び……
これが原作開始前におけるラッセルという少年の全てである。その後、彼は政府機関により新薬ハッピードリームの被験体となるが、彼の見た夢を理解している者は彼一人しか存在しない。
参戦時期はトゥルーエンド1「END ROLL」後より。

【方針】
聖杯狙い。
そこに躊躇いを覚えることも、罪悪感を感じることも、最早自分には許されてなどいない。

【把握媒体】
ラッセル:フリゲです。一応プレイ動画もあるみたいです。
無銘:PSvitaから出てるゲームです。youtubeにプレイ動画があります。


338 : 名無しさん :2016/08/01(月) 21:00:01 QL1kOvQw0
投下を終了します


339 : マッシモ・ヴォルペ&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/02(火) 18:03:27 zyTul0G60
投下します。


340 : マッシモ・ヴォルペ&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/02(火) 18:03:49 zyTul0G60
 夕方の公園。ドッジボールに興じる男女9名の小学生に声が掛かった。

「楽しそうだね…。僕も混ぜてよ」

 突然の闖入者にある者は眉を寄せ、ある者は興味深そうに首を動かす。
彼らの視線の先には背の高い男が立っていた。年は若く、整った顔に柔和な微笑を浮かべている。指導員の中年男性はその伸びきったシャツや豊かな癖毛を見て、「浮浪者か?」と思った。
それにしては身ぎれいであり、向かい合っていても不潔さは感じない。


 勤め人とも学生ともつかない奇妙な風体の男は、ゆっくりとした口調で続けた。不審感を拭えなかった指導員は、申し出を断ろうと口を開く。
しかし彼が答えるより早く、赤いシャツの少年が応じてしまった。指導員は他の面々に視線を走らせたが、皆この男を怪しんでいないらしい。
期待や好奇の入り混じった18の視線が指導員に注がれる。彼は小さな溜息をつくと、謎めいた青年をコートに迎え入れた。


 まもなく、赤シャツのチームに男を加えてゲームが再開された。9人とは流石に体格差があったが、彼は子供達に合わせるようにゆったりと動いた。
しかしその動作は的確で、男は飛んでくるボールを悉く回避する。男にボールが回るやいなや、子供達は一人、また一人と討ち取られていく。
少年達は男を捉えようと次第に躍起になるが、踊るような足運びが崩れることはない。



 それから30分あまりで、男の加わったチームが勝ち星を挙げた。
子供達は次のゲームに移ろうとしたが、男が背を向けると動きを止め、指導員も歩き出そうとする彼に声を掛けた。
男は振り返ると気の無い謝辞を一つ置いて、来た時と同じように子供達のもとから去っていく。
しばらくのんびりとした背中を見守っていた彼らだったが、向き直ると思い思いの位置から敵チームを見据えた。


 歩道の上で立ち止まった男――ライダーは一度だけ振り返り、遠くでボールを投げ合う一団を見遣ると、公園の外を目指して再び歩き始めた。






 子供達が帰宅した後、指導員は先刻の謎めいた青年を思い起こす。
露出した鎖骨と卵のようにつるりとした肌、近場ではまず見ない整ったルックス、そして微笑。
イメージの彼は口の端を持ち上げ、眠そうに目を細めているが、瞳に全く喜色が浮かんでいない。テレビに出てくる俳優のような容姿と得体のしれない笑み。

 嫌な感じだ。指導員は背筋を寒くした。





341 : マッシモ・ヴォルペ&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/02(火) 18:04:42 zyTul0G60
 ライダーはのんびりと歩いている時、公園の入口から見慣れた影が近づいてくるのを見て取った。

「ここにいたのか、ライダー」

「やぁ、マッシモ…どうしたの?」

「別に。探索していて、ここに行き着いただけだ」

「あぁ、……じゃあ、誰にも会わなかったんだね」

 マッシモ――ライダーのマスターは頷く。

 マッシモは今日一日、市内を散策していた――サーヴァントをつけずに。
他のマスターが聞けば二の句を継げなくなる行動方針だが、マッシモはいち早く敵主従と交戦したかった為、より食い付きが良いだろうこのスタイルをとった。
ライダーもサーヴァントのルールを勘案したが、今日は遊びに行きたい気分だった。ひとりでもやれる自信がある、という一点において、両者は良く似ていた。

「どいつもこいつも大人しいな。さっさと潰し合ってくれないと、俺が帰れないんだが」

「うん、あんまり戦えないのは、つまらないよね……」

 マッシモに聖杯に託すような願いはない。夢だの希望だの信じる性格ではないし、今は信頼できる仲間もいる。
悪くない生活を送っていた彼だが、招かれる以前に状況が少し悪くなった。組織から追手を差し向けられたこの段階でチームから離されたのは痛い。
聖杯を狙ってもいいが、第一は早急な帰還だ。


 引き当てたサーヴァントは従順とは言い難いが、マッシモから見て解りやすい性格の持ち主と言えた。
それに殺し合いに乗り気なのは何よりだ。優勝後に聖杯を差し出す事を約束して、現在まで悪く無い付き合いを続けている。
戦う姿を見たことはないが本人曰く、僕は世界一強いらしい。ライダー自身は確信があるようなので、彼もその時を期待している。

「何組参加するのかは知らないが、長くなりそうだな…」

「不安?」

「いや、面倒くさいだけだ。そっちは機嫌良さそうじゃないか」

「そうかな?……そうかもね」

 確かに北崎は機嫌が良かった。サーヴァント化したことで灰化の力が大きく制限されているからだ。
今日はドッジボールで遊ぶことができたし、今ならダーツだって楽しめるだろう。全てのサーヴァントを倒して、冬木市を灰に変えるまでの暇は十分潰せる。

 徐々に明かりが灯っていく街を眺めながら、ライダーはさらに機嫌を良くした。


342 : マッシモ・ヴォルペ&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/02(火) 18:05:04 zyTul0G60
【クラス】ライダー

【真名】北崎

【出典作品】仮面ライダー555(TV版準拠)

【性別】男

【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具B

魔人態 筋力A 耐久A+ 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具B

龍人態 筋力B 耐久C 敏捷EX 魔力B 幸運C 宝具B

デルタ 筋力A 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具B


【属性】
混沌・悪


【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。


騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。


【保有スキル】
精神異常:C
 精神を病んでいる。通常のバーサーカーに付加された狂化ではない。
 高すぎる能力ゆえに、誰かと心を通わせることが無い。
 精神的なスーパーアーマー能力。


怪力:C
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。


灰を握るもの:A(-)
 触れるもの全てを灰に変える力。
 対魔力スキル含む魔術防御の影響を受けるが、スキルランクを下回っている場合は貫通。ランク以上の場合のみ無効化される。
 オルフェノクやライダーズギア変身者の場合、ランク問わず効力を減衰させることができる。

 ただし、ライダーはこのスキルを完全制御できていない。
 30ターン経過する度に幸運判定を一回行い、失敗すると手で触れていた物体が灰に変わる。
 灰化はライダー自身および着衣物、デルタギアには作用しない。

 デルタ変身中はカッコ内のランクに修正。
 一時的にその効力が喪われる。


343 : マッシモ・ヴォルペ&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/02(火) 18:05:24 zyTul0G60
【宝具】
『天使は紅を引連れて(デルタギア)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 新人類たちがいずれ姿を現す「王」の護衛用に開発した三本のベルト。ライダーズギアのうちの一つ。
 デルタドライバーとデルタフォンを操作することで、専用の強化装甲服をライダーは身に纏う。

 スーツ胸部に装備された装置「デモンズスレート」により、装着中はBランク相当の勇猛スキルを一時的に獲得。
 前述の装置と高出力によって恐るべきパワーを誇るが武装に乏しく、そのスペックを活かしきるなら装着者にもある程度の戦闘能力が必要。

 なお、この宝具はライダー以外のサーヴァント、マスターでも扱う事が出来る。
 ただしオルフェノクとの縁を示す宝具やスキルの持ち主でない場合、不適合者とみなされて使用後にEランクの精神汚染スキルが自動付与される。
 スキルランクはベルトを使用し続けることで最大Aランクまで上昇。ここまでいくと人格が本来のそれから大きく変わり、デルタギアの力を求めて誰彼かまわず襲い掛かる様になる。

 必殺技はデルタムーバ―から射出したポイントマーカーで敵の動きを封じて放つ跳び蹴り「ルシファーズハンマー」。
 スーツを循環している流体エネルギー「フォトンブラッド」を撃ちこむ事で標的の命を奪う。


『災厄の竜は暴君の如く(ドラゴンオルフェノク)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 人類の進化種オルフェノクとしての姿。
 ドラゴンをモチーフとしており、パワー型の魔人態とスピード型の龍人態を使い分けて戦う事が出来る。

 魔人態は両腕の籠手と頑強な肉体による肉弾戦を得意とする。
 光弾を射出可能なほか、ライダーズギア装着者2体のマーカーをまとめて吹き飛ばす程のパワーを持つ。

 装甲を脱ぎ捨てる事で龍人態に移行。
 魔人態の1000倍の速度で行動することができる。
 高速化しているライダーは凄まじい殲滅力を発揮するが、龍人態への移行・維持に消費される魔力量も桁が外れている。


『強襲鉄騎(ジェットスライガー)』
ランク:D 種別:対城宝具 レンジ:1〜70 最大捕捉:50人
 「3821」のコードで呼び出す最高時速1300kmの超高速アタッキングビークル。
 360℃回転可能なホイールを持ち、ブースターやエンジンによって水平移動、旋回を行う。短時間なら飛行すら可能。

 小型乗用車並みの巨大さと機動力を活かした突進のほか、搭載した追尾式ミサイルポッドや光弾によって対象を粉砕する。



【weapon】
宝具、スキルに依存。

【人物背景】
オルフェノクの精鋭集団「ラッキークローバー」の一人。
一見あどけない少年のようだが、本性はプライドが高く残忍。

気まぐれで行動に一貫性が無く、気分次第でオルフェノク相手でも凶暴さを発揮して襲い掛かる。
楽しい事や面白い事を常に求めているが、ひどく飽きっぽい。


【聖杯にかける願い】
受肉する。


344 : マッシモ・ヴォルペ&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/02(火) 18:05:42 zyTul0G60
【マスター名】マッシモ・ヴォルペ

【出典】恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「マニック・デプレッション」
小さなミイラを思わせるスタンド。全身からトゲを出し、トゲを刺した対象の生命力を過剰促進させる。
肉体を活性化させる事で死徒に匹敵する身体能力を発揮させたり、負傷や痛覚を和らげることが可能。

また別の物体に能力を付加する事もでき、マッシモはスタンドで塩や海水を麻薬に変化させて組織に貢献した。
これは既存の違法薬物と同等以上の効果を発揮する。
麻薬は半月ほどで塩に戻ってしまうが、これが横流しや溜め込みを防ぐ事にうってつけだった。


【人物背景】
小説における麻薬チームの一員であり、製造を担うチームの中核。
ヴォルペ家は貴族の家系だが、彼が生まれる頃には既に没落していた。
兄が家を出て間もなく、当家は借金のかたに「パッショーネ」に売り払われ、彼自身もギャングに加わった。


コカキが死亡する前から参戦。


【聖杯にかける願い】
なし。メンバーの元に帰還する。


【把握媒体】
ライダー(北崎):
 テレビシリーズ。登場は28話〜49話。


マッシモ・ヴォルペ:
 小説。読破を推奨しますが、序盤「塔を建てよう」まででも一応の把握は可能。


345 : マッシモ・ヴォルペ&ライダー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/02(火) 18:06:11 zyTul0G60
投下終了です。


346 : ◆q4eJ67HsvU :2016/08/04(木) 00:10:42 ENvft.RQ0
>>328
【岸波白野&ネバーセイバー(渋谷凛)】、一足早い採用ありがとうございます。

これより、「Fate/Malignant neoplasm 聖杯幻想」に合わせて調整したバージョンを投下させていただきます。


347 : 『夢は夢で終われない』  ◆q4eJ67HsvU :2016/08/04(木) 00:16:05 ENvft.RQ0



    ――誰もがシンデレラ、夢から今目覚めて

      ――始まるよ、新たなストーリー描いたら 

        ――つかもう、私だけの光(My Only Star)

          ――まだまだ遠くだけど、光降り注ぐ明日へ向かうために




   ▼  ▼  ▼



 ――昭和五十五年、冬木。


「……携帯が繋がらない時代なんて、想像もしたことなかったな」

 渋谷凛はそう一人呟き、改めて、自分が生まれる前の世界を見回した。
 まるで夢を見ているようだ。そう思ってしまうくらいに、この光景は凛の見慣れた街並みとは違っていた。
 
 「今」からすれば三十年以上は未来の、新しくも懐かしいあの街を、凛は思い出す。

 まだ輝く世界へと続く最初の一歩を踏み出す前から、あの街の雑踏の中に彼女はいた。
 夢中になれるものがあるわけでもなく、それをまあこんなものかと諦めて、ただ過ごしていた日々。
 だけど、全てを変えたあの一歩もまた、あの街で彼と出会った時に始まったのだ。

 忘れるわけがない。最初はなにか質の悪い勧誘だと思ったぐらいだけど。
 でも、あの日のプロデューサーとの出会いこそが、凛にとってのガラスの靴だった。
 あの日の出会いがなければ、凛はきっと、夢中になれるものに出会えることなく過ごしていただろう。
 輝きの向こう側を知ったから、あの人が、あの少女たちが手を引いてくれたから。
 だからこそアイドルとして、幾多の苦難を乗り越え、大切な仲間たちと出会い、凛は成長していけた。

 信じることの強さを知った。夢見ることの輝きを知った。
 そして叶えたいと思った。心の底から。こんな気持ちになるのは初めてだった。
 夢は夢で終われない。動き始めていったのだ、輝く日のために。

 輝くステージ。煌めく衣装。ただの女の子にとっては遠く眺めるだけの場所だった、お城の舞踏会。

 アイドルとして己を高め、昨日の自分を越えてゆくたびに、それは御伽話の挿絵ではなくなっていった。
 手を伸ばせば届く場所。いつの日にか辿り着ける、輝きの向こう側。
 たくさんのライバル達と競い合い、磨き合い、共に笑い合って、向かっていったその先に。
 誰もが憧れた、あのシンデレラの舞台があったのだ。

 凛にとってそれは、幸せな記憶だった。
 辛いことはたくさんあった。苦しいこともたくさんあった。
 それでも、そんな日々を乗り越えたからこそ手に入れられた輝きがあった。
 そう、『今の凛』は記憶している。

 だけど、今、そんな積み重ねた日々が始まる前の時代の街並みを――凛は、聖杯戦争の当事者として見下ろしていた。

「聖杯戦争、ね……」

 自分にとっては時代がかって見える服装の人々が行き交う雑踏を、ビルの上から一望しながら。
 凛は、まるで他人事のように疑問に思う。

 聖杯に託すような願いが、本当に自分にあるのだろうか? 

 凛にとっては願いとは自分の力で叶えるものだから、聖杯に頼るのは違うのではないか、という思いはある。
 もちろん一人の力では出来ないこともあるだろう。それでも頼ることと頼り切ることは違う。
 魔法使いにかぼちゃの馬車とガラスの靴を与えられたとしても、舞踏会に出るのは自分自身なのだ。

 だからこそ、この聖杯戦争で叶えなければならない願い――。
 いくら足掻いても到底自力では叶えられない願いなど、凛にとってはそれこそ無縁のものであるように思えるのだった。


 ――もっとも、今の凛がはっきりとした願いを持てないのには、もっと別の理由があるのだろうけど。


 凛は下界から視線を戻して、そこでようやく、隣で立ち尽くしている少女のほうへ目を向けた。

 率直な印象を言ってしまえば、印象の薄い子だ。
 クラスで三番目くらいに可愛い感じの、だけどあまり注目はされないような。
 年頃は凛と同い年ぐらいだろうが、制服を着崩している凛と違って、至極普通に制服を制服らしく着ている。
 かといって、特段固くて真面目であるようにも見えない。あくまで、何処にでもいる、凡庸な、当たり前の女の子。

 それが凛にとって、パートナーとなる少女――『岸波白野』に対する印象だった。

 だけど。言葉では言い表せないけれど、凛には、自分が何故彼女と惹き合うこととなったのか、察しはついていた。
 似ているのだ、きっと。今の自分と、彼女の、その中途半端な在り方が。
 そして、恐らくは、その魂の形も。


348 : 『夢は夢で終われない』  ◆q4eJ67HsvU :2016/08/04(木) 00:17:52 ENvft.RQ0

「ふーん、あんたが私の『マスター』? ……まぁ、悪くないかな」

 凛を『サーヴァントとして召喚した』少女に向かって、ぶっきらぼうに声を掛ける。
 確か昔、あの人に向かっても似たようなことを言ったなと思い出し、不思議な気持ちになる。
 あれはきっと『アイドルである渋谷凛』の記憶であって、『英霊』として召喚された自分のものではないはずなのに。

 呆然としていた白野が名を問うのを聞き、凛はその身を翻した。

 身に纏っていた高校の制服が光に包まれ、代わりに魔力で編み上げられた装備が姿を現す。
 露出の多いセパレートの鎧を丈の長い蒼のマントとスカートが覆う。
 両手が同じく篭手で、両足の腿までがガーター付きの黒いソックスで覆われ、膝から下は更にブーツで固められた。
 魔力の膨張が巻き起こす風が、マントを、スカートを、彼女の流れるような黒髪をたなびかせる。
 纏うのは蒼。冷気の奔流。凛が得意とする魔力の形――蒼き炎。
 そしてその手に握るのは、透き通るような錯覚を覚えそうなほど蒼白く輝く、両刃の剣。

「私は凛。渋谷凛。今回の聖杯戦争では、『剣士(セイバー)』のクラスとして召喚されたみたい」

 そう口に出してから、小さくかぶりを振る。

「……ううん、ちょっと違うかな。正しくは『ネバーセイバー』……あり得ないはずなのに、ここにいる。それが、私」

 その事実は、凛にとっても意外と言う他ない事態だった。
 しかし、事実なのだ――渋谷凛が剣士として召喚されたことも、そして、その英霊としての本質も。
 目の前の彼女がそれを受け入れるように、他ならぬ自分自身が受け入れなければならないと、凛は自分に言い聞かせていた。
 そうしなければきっと――聖杯戦争という壁には、立ち向かえないから。



   ▼  ▼  ▼



 『空の世界』――そう呼ばれる世界があった。

 青空に浮かぶ島々。その間を行き交う空を飛ぶ艇、「騎空艇」。
 それを操る人々は「騎空士」と呼ばれ、時には危険な冒険にも身を投じていた。
 死滅したとされる地上。星の民の遺産たる生物兵器、星晶獣。語り継がれる神秘、魔法。
 危険と隣り合わせでありながら、同時に未知へのロマンをも内包する、そんな世界だった。

 現代日本に暮らすアイドル、渋谷凛は、その『空の世界』を訪れたことがある。

 正確には、その世界のことを夢で見たのだ。
 凛は、同じ事務所のアイドルである島村卯月や本田未央、神崎蘭子達と、夢の中で『空の世界』を冒険していた。
 凛と卯月は剣士、未央は銃士。蘭子は召喚獣たる覚醒魔王となって、騎空挺に乗り騎空士達と共に旅をした。
 それは凛にとってはただの夢で、それでも不思議なくらい存在感のある夢だった。

 しかしそれは夢であって、夢ではなかった。
 空の世界は――『大いなる青の幻想譚(グランブルーファンタジー)』の世界は、確かに存在した。

 その世界の人々は、ある日突然この世界を訪れた少女達のことを忘れなかった。
 彼らは少女達のことを口伝で、歌で、あるいは書物として語り伝えた。
 物語はいつしか伝承となる。彼女達は、夢の世界で英雄となったのだ。

 その伝承を、人知れず遥か遠方から記録し続けている物体があった。
 ムーンセル・オートマトン。全長三千キロメートルに及ぶフォトニック純結晶体。
 全地上の記録にして設計図たる、神の遺した自動書記装置。
 時空を超えて偏在していた超級の聖遺物は、彼女達の伝承をもその記録として保存していた。

 しかし、伝承の記録だけでは英霊は英霊足り得ない。
 元の世界におけるアイドルとしての渋谷凛ならばともかく、この『空の世界』の凛にその資格はない。
 そこには確かに物語はあったが、実体と呼べるほどの確かな存在がなかったからだ。

 しかし、ここに不確定要素(イレギュラー)は起こる。

 ムーンセルが記録していた英霊としての枠組みに、本来の「渋谷凛」の人格と記憶がダウンロードされた。
 英霊足り得ないはずの存在が、サーヴァントとして召喚される条件を満たしてしまった。
 あってはならないエラー。発生しないはずの不正データ。

 この聖杯戦争におけるイレギュラーが生んだ、存在しないはずの剣士――『ネバーセイバー』。


349 : 『夢は夢で終われない』  ◆q4eJ67HsvU :2016/08/04(木) 00:19:05 ENvft.RQ0

 凛の話を聞き、マスターである私、岸波白野は思う。
 彼女が不正規の英霊として召喚されることになった原因とは、きっと――


 >1.それはきっと私――岸波白野のせいだ。
 2.それは多分ザビエル氏のせいだ。


 不正規のサーヴァントが召喚された原因。それは、マスターである私自身が不正規な存在だからだろう。
 作り上げられた枠組みに、イレギュラーとして自我が与えられてしまった。それは他ならぬ私自身の相似形であるわけだし。
 それ以上に、何よりも、私が此処にいること自体が、見方によってはバグ以外の何物でもないのだから。

 私は、岸波白野は、かつて彼女とは違う私のサーヴァントと共に月の聖杯へと至り――そして既にデータとして解体されている。

 不正データとして削除されたはずの私がここにいる理由。
 それは多分、ムーンセル自体が目的をもって私という不正データを再構築したからだろう。
 そしてその理由こそが、この『昭和五十五年の聖杯戦争』。
 ムーンセルの存在に対する妨げとなりかねないこの聖杯に対して、ムーンセルが送り込んだ「抗体」。
 しかしあからさまに刺客を送れば、この聖杯の管理者に警戒される。それゆえの、ほんの些細な措置。
 他愛ないバグを引き起こすコンピューターウイルス。あるいは、聖杯戦争というシステムへのアンチプログラム。

 恐らくは、こう――『岸波白野は一時的に再構成されただけの存在であり、聖杯に接触することはあり得ない』。
 加えて、こうか――『しかし、だからといって、岸波白野は抗うことを決して辞めたりはしないだろう』。
 故に、こうなる――『この聖杯戦争に対して、岸波白野はセーフティ付きの妨害装置として機能する』。

 私という存在が立ち向かうことをやめては生きていけないことを理解した上で、この聖杯戦争へのカウンターとして利用している。
 よくも上手く使ってくれるものだとほとほと感心することしきりだが、しかし、ドロップアウトするわけにもいかないようだ。

 何故なら――私は、逸らすことなく視線をこちらに向けてくる黒髪の少女を見つめ返した。

 普通のサーヴァントならば、マスターが敗退すれば英霊の座に戻るだけだろう。だが、彼女はどうだ?
 彼女は「渋谷凛」ではあっても「アイドルとしての渋谷凛」ではない。本来は存在しないはずのサーヴァントだ。
 つまり、彼女はこの聖杯戦争から退場した場合、英霊の座に戻ると同時に解体されてしまうのではないか。
 ……かつての、私自身のように。

 言い淀みながら、それでもそう伝えた私へと応えるように、ネバーセイバー・渋谷凛の視線に意志の光が灯った。

「きっと今の私は、夢の続きを見ているようなものだと思う。あの日見た夢の続きを、夢の中の私だけが見続けているんだと思う」

 そう言って、癖なのだろうか首の後ろを手でさすりながら、それでもその名の通り凛として、彼女は言うのだ。

「それでもさ――『“夢”は“夢”で終われない』。そうでしょ、マスターも?」

 ああ――そうだ。

 確かに彼女は、私に、岸波白野に召喚されたサーヴァントなのだと、その時はっきりと確信した。
 諦めない。諦めることを良しとしない。立ち向かう。どんな困難にも。
 アイドルであったオリジナルの彼女は、そうやってどんな苦難も越えてきたのだろう。
 そして、その心を引き継ぐ彼女、ネバーセイバーも。

 彼女の言う通りだ。夢は夢で終われない。
 彼女の、あるいは私にとっての「今」がただのひと時の『夢』に過ぎないとしても。
 ムーンセルによって与えられた役割を演じるしかない、『幻』のような生だとしても。

 >私は、生き続けることを諦めない。

 私のサーヴァントに向かって、高らかにそう宣言する。
 あの月の聖杯戦争で、私に最後まで力を貸してくれたあの英霊の想いに報いるためにも。
 今目の前で微かに微笑んでいる、この蒼い少女と共に進むためにも。

 勝ち残ったとして聖杯に辿り着けるかどうかは分からない、だからなんだ。それがどうした。
 未来が不確定であることが、岸波白野(わたし)が、渋谷凛(かのじょ)が、歩みを止める理由になるものか。
 彼女が応えてくれる限り、私は私として、この聖杯戦争へと立ち向かうと誓おう。


 >――“心は決して折れはしない(Never Say Never)”。


 この街で、私達は、夢から目覚める。

.


350 : 『夢は夢で終われない』  ◆q4eJ67HsvU :2016/08/04(木) 00:20:32 ENvft.RQ0

【クラス】
ネバーセイバー

【真名】
渋谷凛 @アイドルマスター シンデレラガールズ(グランブルーファンタジー)

【パラメーター】
筋力B 耐久D 敏捷B+ 魔力B 幸運A 宝具B

【属性】
中立・善


【クラススキル】
醒めない夢:?
存在しないはずの剣士「ネバーセイバー」が所有する詳細不明のスキル。
この特殊スキルを持つ非正規の英霊は、聖杯戦争のシステムに何らかの変調をもたらす可能性がある。
このスキルにランクは存在せず、変動することもない。

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:E
 騎乗の才能。幻獣種を除く大抵の乗り物なら辛うじて乗りこなせる。
 騎乗にまつわる逸話に乏しいため、剣士のクラスとしての申し訳程度のクラス補正に留まる。


【保有スキル】
シンデレラガール:A
ただの女の子からアイドルの頂点へと昇りつめた少女の称号。
苦難を乗り越えて成長した逸話により、困難へと立ち向かう時にステータス以上の力を発揮できる。
また彼女の歌やアイドルとしての魅力は、相手の性別を問わず惹きつける一種の魅了として発揮される。

夢幻の剣技:B
アイドルであるはずの凛が夢の中の『空の世界』で使っていた剣術。
ネバーセイバーは本人も知らないはずの剣技をまるで「知っている」かのように使いこなす。

魔力放出(蒼):C
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
冷気を放つ蒼い炎が魔力となって使用武器に宿る。
斬撃の威力を向上させるだけでなく、冷気を飛ばしたり、乱反射する雪の結晶を目眩ましにするなどの応用も可能。


【宝具】
『青天に歌え蒼の剣(アイオライト・ブルー)』
 ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 ネバーセイバー・渋谷凛の奥義たる魔法剣。
 その刃を手でなぞることで蒼の炎を纏わせ、斬撃と共に冷気の魔力を炸裂させる。
 また魅了状態の敵に対しては、シンデレラの輝きが内なる光の魔力を引き出し更なる威力を与える。
 威力と扱いやすさ、決して高くない消費魔力と、バランスよく高いスペックを持つ宝具。
 なお彼女の最終宝具の発動中は真名が『蒼穹に響け蒼の剣(ヴォルト・オブ・ヘヴン)』に変化し、性能が強化される。


『召喚石・傷ついた悪姫(ブリュンヒルデ)』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
 二対の黒翼と闇の魔力を纏いし覚醒魔王を召喚する力を秘めた召喚石。
 魔王はその右手に炎、左手には氷を宿し、それら二系統に加え強大な闇属性の魔術で敵を殲滅する。
 外見は中学生ほどの少女に見えるが、難解な言い回しを好むため、その意志をある程度汲めるのは召喚者の凛ぐらいである。
 …………言うまでもないが、その正体はアイドル神崎蘭子が夢の中の『空の世界』で真の魔王の力を手にした姿。
 しかし、曲がりなりにも星晶獣に準ずるものへと昇華された存在であり、神秘の格は標準的な幻想種に匹敵する。


『そして届く蒼穹の果て(ヴォルト・オブ・ヘヴン)』
 ランク:B+ 種別:対心宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:自身
 渋谷凛の最終開放宝具。蒼の輝きを放ちながら天空に浮かぶ、彼女のためのライブステージ。
 グランブルーファンタジーの最終開放グラフィックでは彼女一人分の足場となっているが、注ぎ込む魔力次第で広域に拡大可能。
 その本質は、凛の呼びかけに応えてこの限定空間に結集する「渋谷凛を応援する全ての人間の心」によるバックアップ。
 場所を超え、時代を超え、世界すらも超えて、空で、地上で、渋谷凛へと送られる無数のエールが、彼女に困難へ立ち向かう力を与える。
 このステージが維持されている限り、特殊スキル「シンデレラガール」のランクはA+++に、それ以外のスキルランクは全てAになる。
 声援を受け、限界を越えて輝く――存在が不確かなネバーセイバーの、それでも確かに信じる在り方が具現化した宝具。


351 : 『夢は夢で終われない』  ◆q4eJ67HsvU :2016/08/04(木) 00:21:15 ENvft.RQ0

【weapon】
蒼い刀身の剣を使う。


【人物背景】
出典はゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』、そしてそのコラボレーション先である『グランブルーファンタジー』。

渋谷凛は十五歳の女子高生。そして『シンデレラガール』の座にまで昇りつめた人気アイドルだ。
クールでぶっきらぼうだが、人一倍努力家であり、自分に妥協を許さない性格の少女である。
ある日彼女は夢を見た。それは蒼天を騎空艇が飛ぶ『空の世界』の夢。その世界で凛は剣を握り戦っていた。
しかし夢はいつか醒める。凛は不思議な夢のことを時折思い出しながらも、元の生活へ戻っていった。

しかし彼女にとっての『夢』は、空の世界――『グランブルーファンタジーの世界』の人々にとっては現実だった。
ある日突然現れ、そして去っていった幻の剣士。空の世界の人々は彼女を忘れなかった。
その伝承が英霊としての枠を形作り、聖杯がその枠に相応しい魂としてオリジナルである渋谷凛の心と記憶を当てはめた存在。
それがサーヴァント『ネバーセイバー・渋谷凛』の正体であり、厳密にはアイドルとしての渋谷凛が召喚されたわけではない。

この聖杯戦争に紛れ込んだ岸波白野というプログラムエラーが生み出した、存在しないはずの剣士――ネバーセイバー。


【サーヴァントとしての願い】
英霊として不確かな状態であり、願いと呼べるほどはっきりとしたものは持っていない。
それでも、決して立ち向かうことを諦めたりはしない。



【マスター】
岸波白野(女)@Fate/EXTRA

【マスターとしての願い】
不明。

【weapon】
ムーンセルによって送り込まれる際に、コードキャスト用の礼装を幾つか持ち込んでいる(本人が選んだわけではない)。

【能力・技能】
魔術師としての才能は平凡。
しかし戦略眼に秀で、月の聖杯戦争を通して更に磨きがかかっている。

【人物背景】
Fate/EXTRAの主人公(性別はプレイ開始時に選択可能)。
個性に乏しく「存在感が薄い」と言われがち。某サーヴァント曰く「典型的な汎用救世主型主人公」。
しかしその一方で逆境においても決して諦めない往生際の悪さが特徴で、悪足掻きを得意とする。
その必死の行動は下馬評を覆し、数々の格上のマスターたちにさえ抗しうるほど。
物語開始時点では記憶喪失であり、自分が何者かも分からない状態で悩みながらも成長していく。

その正体はムーンセルにアクセスした魔術師ではなく、何らかの原因で自我を持ってしまったNPCであった。
月の聖杯戦争にあたって「生まれた」ような存在であり、記憶喪失などではなくそもそも過去というものを持たない。
地上の人間がモデルではあるのだがその本人ではなく、いわばその人物を枠として新たな人格が芽生えたようなもの。
ムーンセルにとってはバグのようなものであり、聖杯にアクセスしたが最後、不正データとして認識されてしまう。

この聖杯戦争における白野はかつて月の聖杯戦争で最後まで勝ち残り、聖杯を手にしながらもムーンセルに解体されたはずのデータである。
しかしその異常なまでの諦めの悪さを一種の「抗体」とすべくムーンセルにより再構築された――この聖杯戦争に対するアンチプログラムとして。

【方針】
自身が不正なプログラムであることは自覚しており、たとえ勝ち残っても聖杯には辿り着けないのではないかと感じている。
それでも、決して立ち向かうことを諦めたりはしない。


352 : ◆q4eJ67HsvU :2016/08/04(木) 00:24:28 ENvft.RQ0
投下終了しました。
変更点は、①舞台設定に合わせた本文の修整、②スキルの調整および差し替え、③グラブルの最終開放をモチーフとした宝具の追加、となります。
修整すべき点がありましたら、ご指摘いただけると助かります。


353 : ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:12:37 quKA5STc0
投下します。
「夢現聖杯儀典:re」様の候補作からの再利用ですので、多分に流用元の本文を踏襲していることをご了承ください。


354 : パンナコッタ・フーゴ&セイバー ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:14:08 quKA5STc0

ぼくには、希望を見出した人物がいた。


その人はあまりに強大な組織を敵に回し、安息の地などなくなってしまうというのに敢えて苦難を選んだ。


ぼくはその人を信じていたのに…ぼくには彼についていくことができなかった。


それは突然の出来事で、チームの仲間はボートに乗って行ってしまった。


―――ブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ。かつての仲間の殆どを見たのはあれで最後になった。


ブチャラティのチームとしての日々は、紫の煙となって消えていった。


見捨てたのはぼくの筈なのに。どうして見捨てられた感覚が胸の裡に湧くのだろう。


裏切り者は彼らではなく、ぼくが裏切り者だったからなのか…?


もしそうなら、僕は―――


◆ ◆ ◆


私には忠義を誓った人物がおりました。


その人は女性でありながら王となり、自国の民を思い、国に心身を捧げておりました。自分の犠牲をも厭わない程に。


しかし私は…あろうことか王の妻ギネヴィア様と恋に落ちてしまったのです。


その関係は円卓の騎士の分裂、その人が自身を捧げた国の崩壊を招きました。


騎士としての在り方とギネヴィア様への思い――私はそれらによる苦悩に打ち勝つことができなかった。


王を裏切ったばかりか、同じ円卓の友をこの手にかけ、ギネヴィア様の心すら救うこともできませんでした。


自分の裏切りに罰を願おうにも、王は家臣を罰するにはあまりにも優しすぎた。


私に騎士を名乗る資格はない…私は―――



◆ ◆ ◆



――なんて『恥知らず』なのだろう。



◆ ◆ ◆


355 : パンナコッタ・フーゴ&セイバー ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:15:14 quKA5STc0



―――朝。

パンナコッタ・フーゴは起床した。

(もうこんな時間か…)

時刻は7時半をとうに過ぎている。
遅刻するといろいろと面倒なので、急ぎ気味に制服に身を纏い、朝食を抜いて自宅を出る。
通学にいつも使っていることになっている道を無言で進む。
その道を追うにつれ同じ道を歩く同校の生徒が数を増す。
かなり急いで家を出たので、寝癖が出ていないか、自身のブロンドの髪を他人に気づかれないように触る。
当然だが、他の学生はフーゴの髪のことなど見ていない。
彼を一目見るとすぐに目を逸らすからだ。
彼を見た学生は、必ず歩くスピードを速めるか、逆に遅くする。
フーゴと隣り合って歩いていては、いつキレて暴力を振るわれるかわかったものではない。
フーゴは学校で"そういう"扱いをされていた。

校門をくぐる。なんとか登校時間には間に合ったようだ。教室の席に座り、一息つくために校舎へ歩を進める。
廊下で学校の教師とすれ違うと、その教師はフーゴに道を譲るかのように廊下の端へ身を寄せる。
教室の戸を開けて入ると、中でガヤガヤとしていた空気が一度静まり返り、また活気を取り戻す。

「学校……」

フーゴは若くしてギャングとして活動していたため、あまり学校というものに馴染みがない。
特にジャポーネの学校には行ったことがないので、新鮮味を感じていた。
それと同時に、『学校』という単語はギャングになる前のボローニャ大学までの日々を思い出させるため、奇妙な懐かしさも感じていた。

(聖杯…それを巡って殺し合う…か)



◆ ◆ ◆



フーゴはブローノ・ブチャラティと決別した後、バーでピアノを弾きながら過ごしていた。
ボスの娘を守るために組織を敵に回す…それは危険な選択肢だとあの場にいた全員が分かっていたはずだ。
本当にぼくの方が"正しい"のか?
果たしてあの時、"裏切る"ことは間違っていたのだろうか?
そんな疑問を胸に半年間を過ごした。

そして、フーゴの精神をスタンガンで焼かれたような衝撃が走ったのはつい最近のことだ。
パッショーネのボスが突然姿を現したという噂がフーゴの耳に入った。その者の名は――


――ジョルノ・ジョバァーナ。


チームの新入りの少年だった。
聞いた話によると、ボスがまだ若いことに要らぬ反感を買わないために正体を隠してきたが、
無関係の娘が巻き込まれる抗争にまで発展しかけたために、姿を現したらしい。
現在は、裏社会の清浄化に乗り出しているらしい。きっとブチャラティの嫌悪していた麻薬もその煽りを受けていることだろう。
それを聞いてから間もなく、フーゴは組織から呼び出され、決別したチームの結末を知ることになる。

ブローノ・ブチャラティ、レオーネ・アバッキオ、ナランチャ・ギルガが死んだ。
苦楽を共にしたはずの殆どの仲間が死んだ。
――心臓に見えない穴を穿たれた気分だった。
絶望と共に自問自答を繰り返した。

――あの時、引き返していれば。
――あの時、ぼくがしっかりとブチャラティを説得していれば。
――3人は死なずに済んだんじゃないか?
――あの瞬間に戻れるなら。
――いずれ起こることを知っていて、もう一つのあり得た結果を手にできるのなら。




そう考えているうちに、視界がぼやけてきた。
辛いことを考えすぎたから眠くなってしまったのだろうか?
えも言えぬ感情に蝕まれていく精神に耐えかねたのか、フーゴは暗転していく意識に全てをゆだねた。




明日はジュゼッペ・メアッツァに行かなければならないのに、フーゴはどこにもいなかった。



◆ ◆ ◆


356 : パンナコッタ・フーゴ&セイバー ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:16:39 quKA5STc0



聖杯戦争。どうやら、ぼくはそんな殺し合いに参加しているらしい。
ここは冬木という地らしいが、ジャポーネには来たことがないから馴染みが薄く、過ごしづらい。
しかも年代は1980年。フーゴの過ごしていた年代より前と来た。
誰がこんなところに呼んだのかはよくわからないが、ご丁寧に学生という身分まで用意してくれた。
どうやらぼくは『学年断トツトップの成績を持ちながらも教師を4kgの百科事典でボコボコにした前科のある不良優等生』という役回りらしい。
他の生徒がぼくを避けるのもそのせいだろう。

―――ある意味、ぼくに相応しい役回りだな。

教室の隅で、フーゴは自嘲気味に呟いた。

『…まだ、お気持ちの整理がついていないようですね』

そんなフーゴに話しかける存在がいた。
それも他人――NPC――に聞こえない念話で。

『……』

フーゴは何も答えない。ただぼんやりと窓の外を眺めている。
セイバーのサーヴァント、ランスロット。それがフーゴのサーヴァントの真名であった。
アーサー王物語の円卓の騎士ランスロットその人である。

『焦る必要はありませぬ。此度の戦は、まだ本格的に始まってはいおりません』
『……』
『聖杯を勝ち取るおつもりならば、私はあなたの剣となりましょう。聖杯戦争から逃れたいのであれば、私はあなたの盾となりましょう』
『……わからないんだ』
『わからない、とは?』

フーゴはランスロットに合わせ、念話で返す。
頭から言葉をなんとか絞り出しながら文を紡ぐ。

『聖杯の力でぼくの思うようにしていいのか。これからどうすればいいのか。――それすらも』

確かにフーゴは心のどこかでやり直したいと願ったかもしれない。
だが、仮に聖杯でチーム全員が生き残る結果を手に入れたとして、
それはジョルノ達が手に入れた『真実』を、それに向かおうとする意志を否定することに繋がるのではないか?
それをジョルノは、ブチャラティは、皆は良しとするのだろうか?
もしブチャラティだったら、どんな決断を下したのだろうか?

数多の参加者を敵に回して聖杯を取るか。手がかりも何もないのにあるのかすらわからない殺し合いから離脱する方法を探るか。

『セイバー…教えてくれ。あのアーサー王伝説の裏切りの騎士とも呼ばれた君ならば…どうする?』

パンナコッタ・フーゴ。彼は聖杯戦争の場でも、一歩を踏み出せずにいた。
彼にできることは前に進むことも戻ることもままならず、事実から目を背けて他のNPCと同じくジャポーネでの生活を続けることだけだった。

ランスロットは一段落置いてから、

『騎士として、正しき道を進む――』

と霊体の状態でフーゴの問いに答えた。

――何が「騎士として正しき道」か。

内心で、自らを嘲りながら。

確かに、フーゴにかけた言葉は本心だ。
ランスロットが自らの意志で動けるのであれば、高潔な騎士に違わぬ行いを為したであろう。
だが、先ほどフーゴの言ったように、ランスロットは「裏切りの騎士」だ。
たとえランスロットが「理想の騎士」に近い姿で召喚されようと、その事実と記憶は消えることはない。
自分は、バーサーカーの姿の方が相応しい。
そうであるはずなのに、今、ランスロットはセイバーとして現界している。なんという皮肉だろう。

『…理想の騎士らしい答えだな。ブチャラティも似たようなことを言っていた』
『――と言うのは、今のマスターにはあまりにも酷でしょうな』

それでも、ランスロットはあくまで「理想の騎士」であり続ける。
過去の自分を引きづりながらも、剣士である己を呪いながらも。

『もう一度言いましょう、焦る必要などありません。今はご自分の気持ちを整理されるのが先決です』
『セイバー…』
『私はこうして、マスターのサーヴァントとなった身。我が宝剣にかけて、どこまでもお供致します』

目の前で苦悩するマスターの救いになろうとする。
主君がために剣を振るう忠実な騎士として。


357 : パンナコッタ・フーゴ&セイバー ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:17:19 quKA5STc0
【クラス】
セイバー

【真名】
ランスロット@Fate/Grand Order

【パラメータ】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運B+ 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔力に対する守り。
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
湖の騎士:A
ランスロットの異名。湖の乙女こと妖精ニミュエに育てられたことに由来する。
湖の乙女の加護により、危機的な局面で優先的に幸運を呼び寄せる能力。
戦場以外においても効力を発揮する上、ランスロットは様々な者の危機を救ってきたことから、目前の救うべき人物にも幸運を呼び寄せることができる。
精霊からも祝福されたことを示す「湖の騎士」という名は、ランスロットにとっては誉れであると同時に呪いでもある。

無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。


358 : パンナコッタ・フーゴ&セイバー ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:19:31 quKA5STc0
【宝具】
『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:30人
相手の策によって丸腰で戦う羽目になったとき、楡の枝で相手を倒したエピソードからくる宝具。
手にしたものに「自分の宝具」として属性を与え扱う宝具能力。
どんな武器、どのような兵器であろうとも、手にし魔力を巡らせることでDランク相当の擬似宝具となる
宝具を手に取った場合は元からDランク以上のランクならば従来のランクのまま彼の支配下に置かれる。
この能力の適用範囲は、原則として彼が『武器』として認識できるものに限られる。
また他の英霊の宝具を奪って使うことも可能だが、真名解放まで行えるのかは不明。

『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
友人の名誉のために変装で正体を隠したまま馬上試合で勝利したエピソードからくる宝具。
他者に変装し、自分の正体を隠蔽する能力。
敵を欺くことも可能だが、あくまで外見を装うだけで能力や性格までも模倣することはできない。
マスターは本来、サーヴァントの姿を視認すればそのステータス数値を看破できるが、彼はこの能力によりそれすら隠蔽することが可能。

『無毀なる湖光(アロンダイト)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
上記二つの宝具を封印することによって解放できる、ランスロットの使用していた剣であり、絶対に刃が毀れることのない名剣。
「約束された勝利の剣」と起源を同じくする神造兵装。
セイバーの全てのパラメーターを1ランク上昇させ、また、全てのST判定で成功率を2倍にする。
更に、竜退治の逸話を持つため、竜属性を持つ者に対しては追加ダメージを負わせる。
バーサーカーで召喚された際は魔剣の属性を得ていたが、セイバーとして召喚された場合は「理想の騎士」本来の姿にもっとも近い状態で召喚されているため、
彼の剣もその在り様に応じて聖剣の属性を維持したままとなっている。

『縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
『無毀なる湖光』に過負荷を与え、籠められた魔力を漏出させ攻撃に転用する。
他の聖剣とは異なる、剣技に優れたランスロットだからこそ本領を発揮できる使用法。
本来であれば光の斬撃となる魔力をあえて放出せず、対象を斬りつけた際に解放する剣技に寄った宝具。
膨大な魔力は切断面から溢れ、その青い光はまさに湖のようだと称された。

【weapon】
『無毀なる湖光』、あるいは『騎士は徒手にて死せず』で支配した疑似宝具

【人物背景】
円卓の騎士の一人、「湖の騎士」にして「裏切りの騎士」と呼ばれたランスロット。
アーサー王の妻ギネヴィアと恋に落ちた彼は、
「完璧なる騎士」であるが故に愛する女を救うことも王を裏切ることもできず、
ギネヴィアの不貞が暴露されたことで円卓の騎士の座を追われ、ブリテン崩壊の一端を担ったという汚名を受けた。
本来のクラスであるセイバーとして現界した場合、正義を愛し、女性を敬い、邪悪を憎む「理想の騎士」本来の姿にもっとも近い状態で召喚される。
だが、ランスロット自身は誰より、「セイバー」であることを皮肉に考え、バーサーカーとして召喚されることを何よりも自分にふさわしいと確信している。
自分こそ、ブリテンの滅びに加担したのだから――――。

【サーヴァントとしての願い】
セイバーであることを皮肉に考えているが、それでもあくまで騎士としてマスターに仕える。


359 : パンナコッタ・フーゴ&セイバー ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:25:48 quKA5STc0
【マスター】
パンナコッタ・フーゴ@恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-

【マスターとしての願い】
分からない。

【weapon】
・「パープル・ヘイズ」のスタンドビジョン
スタンドで格闘戦ができる。
単純な力も非常に強く、自身の体をかなり遠くへ投げられる。

【能力・技能】
・スタンド「パープル・ヘイズ」
破壊力:A スピード:B 射程距離:C
持続力:E 精密動作性:E 成長性:B

能力は『殺人ウィルスをばら撒く』。
パープル・ヘイズの両手拳に付いているカプセルに入っており、そのカプセルが割れると周囲にウィルスが撒き散らされる。
そのウィルスを呼吸で吸い込むか皮膚から体内に侵入すると約30秒という短い時間で『どう猛に』体内で増殖し、
生物を内側から腐らせるようにして殺してしまう。
一旦殺人ウイルスに感染したらスタンドを解除しても増殖は止まらず、
スタンドの本体であるフーゴ自身もウイルスに感染すれば死ぬ。
しかし、太陽光や照明等といった光で殺菌されてしまう。

【人物背景】
かつてのブチャラティチームの一員だったイタリアンギャング。
普段は落ち着きのある紳士的な性格をしている反面、とても短気でキレやすい。
元は下級貴族の出身で、あらゆる分野で光る才能を持っていたため、幼いころから徹底的な英才教育を施されてきた。
家からの金による補助もあるものの、頭はよく、13歳でボローニャ大学に入学できるほど。

しかし、祖父による強制と最悪な家庭環境、クラスでのいじめ、そして彼の心の支えであった祖母の死に目にも会わせてもらえず、限界に達したフーゴは自らを叱りつけた教授を殴り倒してしまう。
その後、警察に拘留されていたところをブチャラティに拾われてギャングとなる。

ところがボスの方針に反抗し組織を裏切る道を選んだチームメンバーに賛同することができず、一人チームから離脱した。
結果的に生き残ることができたが、このことはフーゴにとって大きなわだかまりとなっている。

この聖杯戦争では、ジョルノ達がディアボロに勝利し、ブチャラティ、アバッキオ、ナランチャが死んだことを知った時点からの参戦。

【方針】
分からない。



【把握媒体】
ランスロット:かなり新しい方のサーヴァントですが、Fate/GOのwikiの個別ページで台詞一覧が閲覧可能。
セイバーランスロットはメインシナリオ第六章でも登場するのでそちらでの把握を推奨。某動画サイトで把握可能。

パンナコッタ・フーゴ:ジョジョ5部全巻読破した上で恥知らずのパープルヘイズを読むのが望ましい。
なお、参戦時期としては恥パのかなり序盤に当たるので、場合によってはミスタとの会話まででも一応の把握は可能。


360 : ◆Y8tqqc3CsE :2016/08/04(木) 01:26:06 quKA5STc0
以上で投下を終了します


361 : 琢磨逸郎&バーサーカー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/05(金) 18:58:23 nPZsJd.c0
投下します。


362 : 琢磨逸郎&バーサーカー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/05(金) 18:58:43 nPZsJd.c0
 重い溜息が宙に溶けて消える。最近の琢磨は自宅にいる間、だいたいこんな調子だった。

 タイムスリップさせられた事を自覚した当初は、苛立ちや驚愕、狼狽もあったが、今では慣れた。
力なくテーブルの前に座りながら、リビング内を眺める。聖杯が与えたのは、まだスマートブレインが存在したころ住んでいた部屋を思わせる、なかなか良い家だった。貯蓄もたっぷりある。
ラッキークローバー時代を反映したのか、現在―冬木に招かれる以前―よりも、生活レベルを高く設定されたらしい。

(しかし…)

 代償もある。左手に宿った刺青がそう。

 聖杯戦争。蘇った過去の英雄と手を組み、聖杯を巡り殺し合う儀式。
これに勝利しない限り、琢磨は生きて帰る事が出来ない。サーヴァントと協力できれば脱出への道もひらけようが、あいにく宛がわれたのはバーサーカーだった。
サーヴァント替えも考えているが、当てはまだない。

 黄金色のガラス瓶を掴み、中身をグラスに注ぐ。一息に飲み干して、また溜息をついた。

 怖い。戦うのが怖い。まだ自分を超人と信じ切っていた頃なら聖杯を狙いもしただろうが、今は違う。
他のラッキークローバーの面々に比べれば、在り方が比較的人間の側に立っていた彼は、残りの生涯を人間として過ごす事に決めたのだ。その矢先、この戦いに巻き込まれてしまった。

 かくなるうえは勝ち残るしかないのだが、あのバーサーカーを制御できるとは思えない。
かつて自分をさんざん苛めてきたオルフェノクを3倍したような恐ろしいサーヴァント。
今現在、バーサーカーは自宅地下で眠りについているが、それでも肌着が汗で湿っていくのを止めることが出来ない。
戦力として不満はないが、ひとたび暴れ出せば、自分の生死など全く勘案しないのだろう。

 ラム酒の注ぎ口をグラスに持っていく。涼しげな音が小刻みに響く。瓶を持った腕が震えているのだ。
頼りない自分の手を見つめながら思い出すのは、オルフェノクとして生きた日々のトラウマ。

――迫りくるデルタの無機質なオレンジの瞳。

――王にちぎられ、かじられていく北崎さん。

――王の力を受け、狂ったように笑う冴子さん。


363 : 琢磨逸郎&バーサーカー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/05(金) 18:59:06 nPZsJd.c0
 琢磨の両眼からはらはらと涙がこぼれていく。琢磨は怪人だが、凡人だった。
以前の戦いでは幾度となく醜態をさらしながらも、最後まで生き残ることができた。だが……今回は駄目かもしれない。

 項垂れたままの琢磨は震える手でグラスを取ると、ゆっくり口まで運んだ。
味は全くしなかった。



 琢磨が記憶を取り戻した日。割り当てられた自宅の寝室、その片隅にトンネルが静かに口を開けた。
長い迷路を抜けると、目の前には石造りの神殿が地下深く、その威容を現す。一切の生き物の気配がしない内部を延々と歩き続け、長い階段を昇りきってやっと、その神殿で最も立派な部屋に入る事が許される。
琢磨から見て不思議なのは、自宅地下にこれほど広大な空間を受け容れるスペースがあったことだ。ひょっとしたら空間が歪んでいるのかもしれない。
推察にはどのみち意味が無い。オルフェノクを超えるサーヴァントの事情など彼には計りようがないし、それに唯一答えられる者は、知性と言葉を聖杯に奪われていた。

 神殿の主のために用意された部屋の奥、巨大な玉座にそれは座っている。
見上げるほどの体躯を銅色の鎧に包み、両手には煌く軍刀を固く握りしめている。
天を突きあげる双角を擁した厳つい頭部。三つの瞳はそっと閉じられている。
僅かな音も立てることはなく、何万年もそうしていた様に玉座でじっとしている。

 もし、それに触れてみる命知らずがいたならわかるはず。
極めて微細だがゆっくりと脈動していることを。指一本動かすことはないが、力強い熱を持つことを。
それは死んでなどいない。それは年月の経過によって死ぬことはなく、ただ目覚めの時を待っているだけに過ぎないのだ。




 戦火がそこまで迫る事があれば、それ――地獄の帝王は再び目覚め、地上に破壊と殺戮を撒き散らすのだろう。


364 : 琢磨逸郎&バーサーカー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/05(金) 18:59:30 nPZsJd.c0
【クラス】バーサーカー

【真名】エスターク

【出典作品】DRAGON QUESTシリーズ

【性別】不明

【ステータス】筋力A+ 耐久A+ 敏捷B 魔力A+ 幸運E 宝具A++

【属性】
混沌・狂


【クラススキル】
狂化:C
 筋力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、言語能力と複雑な思考力を失う。


【保有スキル】
陣地作成:EX
 本来は魔術師として、自らの有利な陣地を作り上げるスキル。
 バーサーカーは召喚されると同時に、神殿を超える「エスターク神殿」を形成する。


帝王の息吹:A+
 極低温の冷気や灼熱火炎を吐きつけて、敵陣を攻撃する。
 その威力は同ランクの魔力放出(炎)、魔力放出(冷)に匹敵する。


怪光防御:A
 眠っている間、怪しい光を発して外敵全員に一定範囲内のダメージを与える。
 同ランクの心眼(偽)の効果を内包する特殊スキル。

 怪しい光は魔術や物理によるものではないため、耐久値か対粛清ACなどでしか防御できない。
 バーサーカーが起床した時点で光による攻撃は封印される。


魔術:-
 強力な攻撃魔術が使用できる。
 狂化スキルによって喪失している。


二回行動:-
 敵の敏捷値の平均に応じて、自身の敏捷値を変化させるスキル。
 狂化スキルによって喪失している。


【宝具】
『我は死者にあらず(ストレンジ・アイオーン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 不完全な秘法を行使した代償に、長い眠りにつく事になった逸話から。
 バーサーカーは最初、下記宝具内に眠っている状態で現界する。

 この状態では一切の自発的行動を取ることはないが、眠っている間は現界に必要な魔力量が覚醒時の1/4にまで減少。
 近づいてきた外敵に対しては、怪しい光によってのみ対応する。
 一定値以上のショックを与えられると覚醒。目を覚ました時点で、この宝具は再度眠りにつくまでの間、機能を停止する。


『永遠を越える地獄の揺り籠(エスターク神殿)』
ランク:A++ 種別:対人、結界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1人(自身)
 あまりにも長い年月を過ごした居城が宝具となったもの。
 バーサーカーが召喚された時点で会場地下の一画に出現。特別な事情が無ければ、マスターの拠点の真下が座標となる。

 クラス補正により陣地に魔物を配する事は出来ないが、神殿内は迷路のように入り組んでおり、侵入者がバーサーカーのもとに辿り着く事を阻む。
 その最奥の玉座でバーサーカーは眠りについている。バーサーカーは内部にいる間、魔力消費の減少や再生能力の大幅な向上などの恩恵を受ける事が出来る。


【weapon】
両手の曲刀。


【人物背景】
古代、究極の生物になるべく「進化の秘法」を編み出した魔族の王。
その力を危惧したマスタードラゴンと天空人の手によって、地下深くに封印されたが長い月日の後、アッテムト鉱山にて復活を遂げた。



【聖杯にかける願い】



365 : 琢磨逸郎&バーサーカー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/05(金) 18:59:59 nPZsJd.c0
【マスター名】琢磨逸郎

【出典】仮面ライダー555(TV版準拠)

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「オルフェノク」
人間が一旦死亡する事で生まれる次世代の霊長。
自然死によって発生するほか(オリジナル)、オルフェノクの使徒再生によって誕生することもある。

琢磨はムカデの特性を持つオルフェノク。棘付きの長い鞭と俊敏な身のこなしを武器にする。


【人物背景】
上の上たるオルフェノクであった男。
確かな実力の持ち主だが、超越種としてのプライドと人間の弱さを併せ持つ表情豊かな人物。

三本のベルトを巡る戦いを経て自身の弱さを自覚した彼は、残された時間を人間として過ごす事に決めた。


最終話登場後から参戦。


【備考】
琢磨宅の地下にエスターク神殿が出現しました。マスター、サーヴァント替えを行ったとしても、位置は変わりません。


【聖杯にかける願い】
生還する。


366 : 琢磨逸郎&バーサーカー ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/05(金) 19:00:25 nPZsJd.c0
投下終了です。


367 : ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/05(金) 19:42:58 nPZsJd.c0
拙作に以下の項目を追加いたします。

【把握媒体】
バーサーカー(エスターク):
 原作ゲームもしくはプレイ動画。


琢磨逸郎:
 TVシリーズ。第11話から登場。


368 : ◆99XAxgXU92 :2016/08/05(金) 21:39:49 egZt6tNo0
投下します


369 : 刀藤綺凛&セイバー ◆99XAxgXU92 :2016/08/05(金) 21:40:37 egZt6tNo0

 来るところまで来てしまったと、少女は唇を噛み締め、愛刀を握り締めた。
 長い、長い道だった。ただ一つの目的を遂げるためだけに、自分を殺して邁進してきた。
 これまでも、これからも、いつまでも。悲願を叶えるまでは、傀儡であり続けようと誓った。
 端から見ればその姿は哀れに見えたのだろうが、当の彼女はただの一度として不平や不満を溢すことはなかった。
 彼女にとって、自分が苦しいかどうかなど些事でしかなかったのだ。
 不当な不名誉を着せられ、今も罪人として暗い独房の中に幽閉されているだろう最愛の父。
 彼を救うためならば、少女は自分が地獄に落ちることになろうが構わないと思っていた。


 日々、募っていく焦燥。剣を振るうことで心を誤魔化すばかりの毎日。


 本当は。
 彼女には遠くない内に、救いの手が降りるはずだった。
 とある少年と想いを交わし、剣を交わして、光の道に連れ出される未来が待っていた。
 叔父の傀儡として使われるばかりの毎日に別れを告げた彼女には、沢山の友人ができた。
 自分とコンビを組んでくれる相棒もできて、時に激しく、時に優しく流れる満ち足りた時間。
 しかし、彼女がその未来に行き着くことは――――もうないのかもしれない。
 彼女は、出会ってしまったのだから。


 願いを叶えるという、おとぎ話に。


 少女は何としてでも、父を救いたかった。
 記憶の中にしかない優しい父の姿をもう一度見るためだけに、人生の全てを捧げてきた。
 フィクションの中のご都合主義のような願望器を見る度に、自分もそれを切望してきた。
 自分のところにもこういう優しいお話が舞い込んで来てくれたらいいのにと、数えきれないほど夢を見た。
 そして今、少女は夢の中にいる。どんな願いでも叶えてくれる万能の願望器を手に入れるための、冒険譚の序章にいる。
 しかし夢は夢でも、これは間違いなく悪夢の部類だった。
 もしも失敗したなら、命だって落としかねない。
 願望器に辿り着けなかった時に、元の世界へ帰れるという保証もない。
 ――――――それでも。それでも、少女に《乗らない》という選択肢はなかった。
 彼女は自分の幸せを殺してまで、父親を助けることを望んだ親想いな娘なのだから。
 どれほどの危険がその道に転がっていようとも、それが叶うチャンスが逃げ去っていくのを指を咥えて見ているような真似は、彼女にはできなかった。

 そして少女は、聖杯戦争という悪夢に名乗りをあげる。
 その聡明な頭脳で自分が何をするのかを一寸違わず理解した上で、非道に手を染めることを決める。
 誇り高き剣を、醜い蹴落とし合いのために使う決意を固める。
 私は、勝たなければならない。
 たとえこの剣で誰かを殺すことになってとしても――――必ず。
 絶望の中で希望を求めてあがき続けた天才が、決定的に正しい未来と道を違えた瞬間だった。


370 : 刀藤綺凛&セイバー ◆99XAxgXU92 :2016/08/05(金) 21:41:16 egZt6tNo0
  ◇  ◇  ◇


「見事なもんだな」

 そう漏らしたのは、白髪の小柄な少年だ。
 一口に少年といっても幼さだとか可愛らしさだとか、そういう雰囲気は微塵も感じられなかったが、見た目は少年と形容されて然るべき年頃に見える。
 何より決定的に異様だったのは、彼が平然と着こなしている羽織だろう。時代を百年は履き違えているようにすら見える立派な代物だ。
 顔立ちの端正さも相俟って、人前に出ればそれなりの騒ぎになるのは間違いないだろうが、夕暮れ道を歩く彼と彼女の周囲に人影は見られない。
 少年の隣を歩く少女は、明らかに気弱そうな表情をした娘だった。歳は中学生くらいか。背丈は小さいが、出る所がきっちりと出た少々早熟な体型をしている。
 少女が抱えているのは金のトロフィーで、背中には竹刀袋を背負っていた。全日本剣道連盟、と刻印されたトロフィーは、彼女が自ら勝ち取ったものだ。

 ――――今日は、中学生剣道の市大会が行われた日である。
 その結果は、当事者も観戦者も、その場に居合わせた全ての人間の予想を裏切る結果に終わった。
 昨年まではそもそも剣道部の存在しなかった学校から出場した一年生が、個人戦で全ての剣士を圧倒し、市大会優勝を決めてみせたのだ。
 人数足らずで団体戦が出場できなかったようだが、もし仮に出られていたとしても、その一年生の学校は優勝することは出来なかったろう。
 少女一人だけが、抜きん出ていた。他は凡人、良くて人より少し上手い程度の剣士しかいない中で、彼女の実力は明らかに異彩を放っていた。
 少女の名を、刀藤綺凛。彼女は、此処とは違う世界で修練を積んだ、いわゆる"異世界人"である。

「……セイバーさん、どうでしたか?」
「だから言ったろ、見事なもんだよ。その歳で、物珍しげな力も持たないであのレベルならお前は間違いなく天才だ。
 単純な剣技の勝負でなら、俺の仲間だった連中にさえ匹敵するかもしれねえ――――だが」

 少年、もといサーヴァント・セイバーの言葉に世辞はない。彼はむしろ、物事に対し正直なコメントをするタイプの男だ。
 自分から見て駄目だと思ったなら素直にそう言うし、つまらない世辞をこねくり回されることでこの少女が満足するとは到底思えなかった。
 もっとも、結果から言えばお世辞を使う必要すらなかったのだが。綺凛の試合を今日一日観戦したが、彼女の剣術は完全に達人の領域に達している。
 あらゆる他の要素とスペック差を排除して純粋な剣技だけでの勝負をしたなら、かく言うセイバーでも綺凛を下すのは相当骨が折れるだろう。
 人間としての実力なら、文句のつけようなどどこにもない。だがそれは、あくまで相手が人間であり、特殊な力を全く持っていないというのが前提だ。

「お前の剣には神秘がない。これだけで、まずサーヴァントと戦うのは無理だ。
 マスター相手なら大概の奴には勝てるだろうが……俺の見立てが正しければ、サーヴァントの領分に片足突っ込んだような連中も少なからず彷徨いてる筈だ。
 そんな状況で、人間のお前が進んで前線に顔出すってのは……賛成できねえな」
「そうですか……」

 綺凛は、足手まといにはなりたくなかった。
 セイバーは召喚された時、綺凛にこう言ったのだ。
 聖杯は好きに使え。自分に聖杯などに願って叶えてもらうような大層な願望はないから、成就させたい願いがあるなら好きに使えばいい――――と。
 それはほとんど、無償の協力に等しい。彼は自分にとって一切の見返りがない戦いに、綺凛のためだけに協力してくれるのだ。
 そんな優しい彼に、綺凛は迷惑を掛けたくなかった。だからどうにかして一緒に戦えないものかと、彼に自分の実力を見て貰った。
 結果はこの通り。やはり、マスターが前線で戦うというのは無謀が過ぎる考えのようだった。


371 : 刀藤綺凛&セイバー ◆99XAxgXU92 :2016/08/05(金) 21:41:45 egZt6tNo0
「……気負い過ぎだ、お前」

 しゅんとした様子で俯き加減になる綺凛に、セイバーは呆れたようにそう言った。
 彼がサーヴァントとして聖杯戦争に参戦するのは、言うまでもなくこれが初めてのことだ。
 正直な話、マスターというのはもう少しろくでもない奴だと思っていた。
 聖杯なんて代物を、他人を犠牲にしてまで得ようとする連中。好意的には、とても見られなかった。
 しかし、自分を喚んだマスター……刀藤綺凛という少女は、その予想に全く反した人物だった。
 必要以上の犠牲を望まず、サーヴァントを道具ではなく相棒として尊重し、あろうことか自分が下手に出る始末。
 威張り散らされるよりかは心境的には随分マシというものだったが、あまり気を遣われるというのもそれはそれで居心地が悪い。
 
「俺はサーヴァントだ。そしてお前は、俺を召喚したマスターだ。分かるな」
「は……はいっ」
「サーヴァントなんてのは、所詮刀だの弓だのの延長線だ。戦いを有利に進める道具であって、それ以上でも以下でもねえ。
 だからお前はもうちょっと堂々としてろ。戦うのが仕事のサーヴァント相手に、申し訳ないとか思ってどうする。本末転倒だろうがよ」

 セイバーは、聖杯戦争にはどちらかというと否定的な考えを抱いているサーヴァントだ。
 願いを叶える杯なんて胡散臭い物のために潰し合うのもそうだが、長年の勘がどうにも良からぬものの存在が近くにあることをひしひし感じさせてくる。
 少なくともこの戦いは、誉れだの何だのと、耳障りのいい言葉を盲信した連中がこぞって痛い目を見る。そういうものだと、セイバーは認識していた。
 されど、此度の自分はサーヴァント。死神でも、護廷十三隊の隊長でもない。
 この力はあるのに気弱で頼りない少女の願いを叶えるために呼び出された、ただそれだけの存在なのだ。彼女のための斬魄刀(ぶき)なのだ、自分は。
 
「じゃ、じゃあ……セイバーさん。改めて、お願い……しても、いいですか?」

 何だよ、と無愛想に返す。
 堂々としてろと言ったばかりなのに、既におどついているのはもう生まれながらの性分なのだろう。
 それでも彼女の両目には……剣を握った瞬間と同じような、強い光が見て取れた。
 刀藤綺凛は強い。身体はもちろん、心の奥底に、誰よりも蒼く燃え滾る意志の光がある。

「―――お願いします。私を、もう一度……父に会わせて下さい」

 そのためだけに、綺凛は人生を注いできた。
 虐げられようが軽んじられようが、ただがむしゃらに剣を振り続けて生きてきた。
 聖杯戦争に参加し、命を懸けるというその覚悟に迷いや揺れなどあろう筈もない。
 それを理解したからこそ、セイバーのサーヴァント・日番谷冬獅郎は実体化を解除する。
 虚を突かれたように慌て始める綺凛を尻目に、一方的にこう言いつけて会話を打ち切るのだ。
 照れ隠しのように、不器用に。


「善処してやる」


372 : 刀藤綺凛&セイバー ◆99XAxgXU92 :2016/08/05(金) 21:42:12 egZt6tNo0
【クラス】
 セイバー

【真名】
 日番谷冬獅郎@BLEACH

【ステータス】
 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具B(限定霊印)
 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A+ 幸運E 宝具A(限定解除)

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】

対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】

死神:A
 現世を荒らす悪霊・虚から現世を護り、尸魂界と現世にある魂魄の量を均等に保つことが役目の調整者である。
 人間の寿命を遥かに超える時間を生きており、特殊な装備を有している。
 魔性への特効性能を持ち、相手が悪霊に近ければ近いほど、特効の倍率が上昇していく。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

限定霊印:A
 護廷十三隊の隊長格であるセイバーは、現世の霊なるものに不要な影響を及ばさぬように霊力を抑制されている。
 サーヴァントとして召喚された彼は、マスターの指示でこれを解除することが可能。
 ただし限定解除を行った場合燃費が悪化するため、乱用は自分の首を絞める。

【宝具】

『始解・氷輪丸』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:100人
 セイバーの持つ、氷雪系最強の斬魄刀。
 解放と共に柄尻に鎖で繋がれた龍尾のような三日月形の刃物が付き、溢れる霊圧が触れたもの全てを凍らせる水と氷の竜を創り出す。
 斬魄刀そのものにも、触れたものを凍らせる能力が付加される。


373 : 刀藤綺凛&セイバー ◆99XAxgXU92 :2016/08/05(金) 21:42:40 egZt6tNo0
『卍解・大紅蓮氷輪丸』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:1000人
 斬魄刀『氷輪丸』の卍解形。
 解放と共にセイバーは刀を持った腕から連なる巨大な翼を持った氷の龍を纏い、背後に三つの巨大な花状の氷の結晶が浮かぶ。
 始解時の能力が増大したもので、氷と凍気を自在に発し操れる。
 また刀以外の部分は全て氷でできている為、たとえ砕かれても水ないしは空気中の水分さえあれば何度でも再生可能という特性を持つ。
 その他にも、敵から受けてできた傷口を氷で塞ぐことで、一時的に出血を止めるなども可能。
 だがセイバー自身がまだ幼いために卍解は未完成であり、持続時間が短い。
 背後にある花の結晶は彼の残り霊力を示すもので、時間と共に花弁が砕け落ちていき、十二枚全てが散った時、この宝具は使用不能になる。
 尚、マスターの魔力量の都合上、彼の真の全力は聖杯戦争では発揮できない。

【weapon】
 斬魄刀『氷輪丸』

【人物背景】
 護廷十三隊の十番隊隊長を務める、少年の姿をした死神。
 物事を冷静に見渡せる高い見識の持ち主で、一見冷めているように見えるが、心には熱い激情を秘めている。

【サーヴァントとしての願い】
 なし


【マスター】
 刀藤綺凛@学戦都市アスタリスク

【マスターとしての願い】
 父を助けたい

【weapon】
 日本刀《千羽切》

【能力・技能】
 卓越した技量の剣技。
 煌式武装を使わずに、実剣の日本刀一本で並み居る強者を返り討ちにする実力の持ち主。

【人物背景】
 「疾風迅雷」の二つ名を持つ天才剣士。
 刀藤流宗家の娘であり、こと剣術の事となると饒舌になる。
 過去の一件で父を収監されており、彼を救うために聖杯戦争に乗る。



【把握媒体】
セイバー(日番谷冬獅郎):原作漫画・破面編までで大体の把握は可能。
刀藤綺凛:原作二巻のみで把握可能。


374 : ◆99XAxgXU92 :2016/08/05(金) 21:43:07 egZt6tNo0
投下終了です


375 : ◆SeS6nyafVc :2016/08/06(土) 21:37:21 iVNv0CuU0
投下します


376 : K'&キャスター ◆SeS6nyafVc :2016/08/06(土) 21:37:47 iVNv0CuU0
 煙草の煙が、空気を白く染め上げていく。
 ただし、それは吐き出されたものではなく、煙草本体から生まれた煙だ。
 一本のタバコを取り出し、それに火を付けて、灰皿の上に置く。
 決してそれを吸わず、ただ、眺めるだけ。
 やがて全てが灰になれば、同じことを繰り返すだけ。
 寂れたビルの一室、古ぼけた革の椅子に腰掛ける男は、ずっとその調子であった。
 ただ、時だけが無情に過ぎていく中、男はずっとその行為を繰り返している。
 そして、また一本とタバコを取り出し、火をつける。
 一口に火をつけるとは言っているが、彼のそれは常人のものからはかけ離れている行為だ。
 ライター、マッチ、チャッカマン、等など。
 普通、人間が火をつけるのに使うであろう道具を、彼は手にすることなく、火をつけている。
 どうやって、と言えば、答えは一つしか無い。
 彼は生み出しているのだ、真紅に輝くグローブで覆われた、己の右手から。
 改造人間――――わかりやすく言ってしまえば、彼はそう分類される。
                         コードネーム
 彼の名はK'、『K'を超えるもの』として付けられた、" 名 前 "だ。
 そんな彼の姿を、テーブルを挟んで見つめ続ける一人の女がいる。
 一見人間と変わらない彼女こそが、この聖杯戦争に巻き込まれたK'の元に呼び出されたサーヴァント、キャスターだ。

「……状況は、分かってるかしら」

 向けられた一言に、K'は舌打ちで返す。
 下らない事を聞くな、と言わんばかりの態度を取り、椅子に深く腰掛け、テーブルの上に乱暴に足を乗せる。
 灰皿に溜まっていた灰がふわりと舞い上がり、埃をかぶっていたテーブルの上に広がっていく。
 しん、と静まり返る室内。
 空気は重く、張り詰めている。

「こんなくだらねえこと考えて巻き込んでくる奴が、俺はこの世で一番気に喰わねえ」

 零すように呟いたのは、そんな一言だ。
 ネスツ、自身が覚えている限り尤も古い記憶であり、「K'」を生み出した組織。
 世界を破滅させるために生み出された戦士、そんな宿命に下向きの親指を振り下ろし、組織ごと断ち切ってきた。
 もう何もしがらみなど無い、一人の人間としてようやく生きていけると思っていたのに。
 彼はまた、くだらない事に巻き込まれた。

「平穏、か……」

 そんなK'の言葉から何かを感じ取ったのか、キャスターはそう呟く。
 いつかの自分、そして今の自分と同じ顔を、K'がしていたからだろうか。
 キャスターも、嘗てはそれを願っていた。
 自信の宿命に決着を付け、全ての戦いを終わらせ、そして一人の人間として生きる。
 叶うことはないと分かりきっていた夢を、ずっと願っていた。
 けれども、彼女は戦い続けた。いつか来る、その日のために。
 そんな自分と、K'が重なるような気がして、キャスターは少しだけ、自分が彼に召喚された理由が分かった気がした。
 ふ、と思わず笑みを浮かべようとした時、不意にK'が立ち上がる。
 そしてそのままキャスターなど意にも止めず、部屋を抜けだそうと足を進めた。

「ちょっと、どこに行くの?」

 思わず、キャスターは彼を引き止める。
 返答は先ほどと同じで、違う舌打ち。
 それからさも面倒くさそうに振り向いてから、K'は口を開く。

「決まってんだろ」

 そして、右手を差し出す。
 そこに、真っ赤な炎を生み出して。
 それを、力強く握りしめ、言葉を続ける。

「このくだらねえ事を、ぶっ潰すんだよ」

 そう、口にしたのは今までどおりの言葉。
 面倒なことは、全部ぶっ飛ばしてきた。
 ならば、今のこの状況も、また同じこと。
 面倒な事を生み出す全てを、ぶっ飛ばすまで。
 かつての、ネスツのように。

 そう言って、K'は開けたドアから外へと踊り出す。
 その背中に、真っ黒な影と、いつかの自分と同じ姿を重ねながら。
 キャスターは、少しだけ昔を懐かしんで、笑った。


377 : K'&キャスター ◆SeS6nyafVc :2016/08/06(土) 21:38:02 iVNv0CuU0

【クラス】
 キャスター

【真名】
 ナオミ@デビルサマナー ソウルハッカーズ

【ステータス】
 筋力D 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運E- 宝具EX

【属性】
 中立・悪

【クラススキル】
陣地作成:-
 宝具による召喚能力を得た代償に、陣地作成スキルは失われている。
道具作成:-
 宝具による召喚能力を得た代償に、道具作成スキルは失われている。

【固有スキル】
対魔力:E
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

異界干渉:B
 別位相の存在を現世において認識する能力
 異界的な観点で世界を眺める事で互いに干渉可能となる

呪殺耐性:A
 魔力による即死、石化等のダメージに依らない即時戦闘不能効果を防ぐ能力。
 神霊クラスの魔術や存在により死を賜ると受け入れるしかないが、それ以下は完全に無効化する
 
【宝具】
『管(クダ)』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 霊力によって制御され、マグネタイトという生命エネルギーで満ちている金属制の管。
 情報コード化している様々な神話の悪魔、神の分霊を召喚し、一行動だけ使役できる。
 宝具の内部に宝具たる悪魔が収納されている構成であり、6つ所持している。
 以下はその概要

『戦の魔王』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:3 最大捕捉:3
 魔王シュウ(蚩尤)による無数の打撃攻撃

『くりからの黒龍』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:6 最大捕捉:6
 魔神フドウミョウオウ(不動明王)による火炎魔法

『ニ億四千万の悪』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:12 最大捕捉:12
 属性が中立の者のみに、魔王アンリ・マンユがあらゆる防護を貫く万能魔法を行使する
 反射、吸収、無効、魔法防壁等のあらゆる防護を素通りする。

『満月の女王』
ランク:C〜A++ 種別:対軍宝具 レンジ:12 最大捕捉:12
 魔王ヘカーテによる、反射、吸収、無効、
 魔法防壁等のあらゆる防護を素通りする万能攻撃魔法。
 満月時に威力が数倍に上昇する。

『観世音の済度』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
 地母神カンゼオンボサツ(観世音菩薩)の力を解放し、
 耐久を1ランク(+)上昇させる。効果は重複せず、戦闘中は永続

『ソーマ神権現』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
 秘神ソーマの力を解放して魔力、体力含めて完全回復する。
 従って、最低限これを召喚する魔力さえ残しておけば事実上の永久機関と化す。


378 : K'&キャスター ◆SeS6nyafVc :2016/08/06(土) 21:38:15 iVNv0CuU0

【Weapon】
『ジェロニモの弓』
 平原の戦士ジェロニモが用いた弓。
 散弾のように一度に数名を同時に射ることができる
『アールズ・ロック』
 堕天使ビフロンスの魔晶変化銃
 装弾数50。モスバーグM500とほぼ同等の威力を持つ散弾銃

【人物背景】
 香港生まれで孤児として育ち、育ての親である師匠に呪術や戦闘術を学んだ。
 レイ・レイホゥいうと幼なじみがおり、お互いの師匠も友人同士であった。
 だがある任務においてナオミの流派とレイの流派が戦う事になり、
 師匠と兄弟子が殺されてからは逆恨みと知りつつもレイを激しく憎悪している。
 師匠達との死別後、ナオミはヨーロッパで召喚術を身に付けフリーのサマナーとなった。
 あるサマナー組織に天海市の地下に眠る悪魔の討伐を依頼され、見事にそれを果たすが、
 それは侵してはならぬ神霊であった為、世界から抹殺される事になった。
 上記任務を遂行した折りには、この稼業から足を洗うことを考えていた。
 また、孤児だった経歴から、心の底では平凡な人生や暖かい家族を夢見ているが、それが叶うことがないのも知っている。
 ちなみに、マンゴープリンが好物。

【サーヴァントとしての願い】
 平凡な人生を過ごす――――?
 それは聖杯に願うべきことなのかは、さておき。

【マスター】
 K'@THE KING OF FIGHTERSシリーズ

【マスターとしての願い】
 今までどおり、面倒事(聖杯戦争)をぶっ潰す。

【weapon】
 草薙京の遺伝子による炎、強化された肉体と純粋な暴力のハイブリッドの戦術、サングラス。

【能力・技能】
 炎を操る能力を持ち、右手でのみ操れる。
 ただし、着用している右手の赤いカスタムグローブがないと炎を制御できない。

【人物背景】
 秘密組織「ネスツ」の手により草薙京の遺伝子を移植された改造人間。本名は不明。
 改造手術による影響(記憶喪失等)からか、性格は非常に内向的かつ無愛想。
 協調性にも大きく欠けており、嫌いな物に「KOF」を挙げるなど、他人と馴れ合うのを極度に嫌がる。
 口調は粗暴で、あまり多くは喋ろうとしないが、仲間思いな面もある。クーラ曰く「可愛いところ」があるらしく、本当は素直になれないだけという一面が伺える。
 好きな食べ物はビーフジャーキー(理由は、酒と一緒に食べると美味いから)。甘い物が嫌いで、マキシマの甘党ぶりにはうんざりしている。

【把握媒体】
キャスター(ナオミ):
 デビルサマナー ソウルハッカーズ(PS/SS/3DS)で把握可能。
 登場シーンはラスト間近のヴィジョンクエストのみなので、該当箇所を動画でのみ把握してもよい。

K':
 アーケードの作品だが、多数の家庭用移植が存在する。
 一応、ネスツ編(99,00,01)の主人公のため、大筋だけは知っておくとなおよし。
 そこそこ良質なノベライズもあるので、そちらでも可。
 なお、今夏に最新作「XIV」が発売される。


379 : K'&キャスター ◆SeS6nyafVc :2016/08/06(土) 21:40:00 iVNv0CuU0
投下終了です。
ナオミに関しては、ぼくのかんがえたサーヴァントWikiをベースにしたものを使用しています。


380 : ◆yYcNedCd82 :2016/08/08(月) 01:39:09 olg4iBJQ0
お借りいたします


381 : 相良 蓮&ライダー ◆yYcNedCd82 :2016/08/08(月) 01:39:58 olg4iBJQ0

 深夜の廃工場に響き渡る爆音に、少女――相良 蓮(さがら れん)は脳を揺さぶられるような嘔吐感を覚え、目を瞬かせた。

「その、音を……とめろぉ……」
「へぇ、あんたはこういうのが好きかと思ったけどな」

 首を持ち上げようとすると、全身を拘束する鎖がギシリと軋む。
 工場の設備として遺されていた鎖で縛り上げられた彼女の姿は、さながら磔を待つ罪人のようだった。
 長い茶髪は汗ばんだ額に張り付き、猫のような碧眼はぎらぎらと闇の奥に潜む物を睨みつける。
 美しく整った顔は憔悴しながらも覇気を失わず、男なら必ず振り返るだろう肢体は怒りに震える。
 へそ出しのTシャツはその豊満な乳房にぴたりと張り付いて強調し、切り込みの深いホットパンツからは白い足が伸びている。
 彼女は間違いなく美少女と言われる容貌を持っている――その身にまとった剣呑な雰囲気を除けば、だが。

「ハードロックバンド『ツェペッシュ』のベストヒットだぜ? まだギタリストも現役だし」

 答えたのは、ニヤニヤと嗤う軽薄そうな男の声だった。
 闇の奥から現れる、すらりと背の高い男――ライダーへ、蓮は罵声を飛ばした。

「うる、っさい! こんなのは、やかましい、だけだ! お前のような……低俗な奴にはふさわしいがな!」
「ろれつが回ってないっての」

 ライダーはつまらなさそうにそう答えた。全身を拘束着のような革の衣装で覆った男だ。
 しかし蓮の頬を撫でる手は氷のように冷たく、腕が動く度、その拘束着は内側から弾けんばかりに悲鳴をあげる。
 筋肉が肉体の限界を越えて膨張しているのだ――ライダーは得意気に蓮へと語ったものだが。
 そのライダーの爪先が彼女の首筋に走り、「んぅっ」と意図せず甘い声があがる。
 さっと羞恥に頬を染めてライダーを睨みつける蓮の首には、キスマークか何かのように、赤い傷跡が二つ。

「き、さまが、そうしたんだろう……!」
「俺じゃないって。蓮ちゃんが俺に噛まれた後、勝手に薬を飲んだんだろ?」

 ライダーは穴が開いてスプリングが飛び出たソファにどかっと腰をおろし、放り捨てられた処方箋を拾い上げた。

「吸血病治療薬、この薬には催淫効果の副作用があります。モノスゴク発情します。発散しないと狂いますゥ?」

 まるで嘲るように処方箋を読み上げたライダーは、ニタニタと笑いながら紙を握りつぶして放り捨てた。

「ホント、人間ってのは時々意味わかんねェ事するよな」
「う、くひぃっ……!? う、うりゅひゃい……ッ! お前のような、薄汚い、吸血鬼がァ……ッ!」

 身体の火照りは、熱病のように今もなお蓮の理性を蝕み続けている。
 思考は霞み、集中力は途切れ、ふと気づけば切なげに太腿をすり合わせてしまう――ほら、今も。

「れ、令呪、しゃえ、れ、呪さえ、ちゅかえ、れば、んぁあぁああぁっ!? ひゃめぇっ!?」
「使わせねえよ」

 バーサーカーがひと睨みしただけにも関わらず、蓮はびくびくと陸に打ち上げられた魚のように身体をのたうち回らせた。
 ただでさえ汗でぴったりと豊かな胸に張り付いていた黒のへそ出しTシャツが、まるで握り潰されたかのように自ずから乳房へ沈み、形を歪めさせている。

「むね、胸ぇっ! やめ、らえてぇっ!? ちぎれ、ちぎれりゅぅうぅっ!?」
「もっとも、こんな有様で英霊を従わせられるだけの集中力が残ってるかは疑問だけどなぁ」

 念動力――ライダーが持つ、強力な技能の一つだった。
 彼の夜魔の森の女王も、よもや自分の恋人へ与えた権能が、このように他の女を嬲ることに用いられているとは思うまい。
 まるで宙吊りの人形が弄ばれるように、蓮はその全身を好き放題に見えざる手でもって振り回されてしまう。

「ひ、きょお、ものぉっ! こんな、こにゃ、念動、力、なんかあうぅっ!!」
「少なくとも召喚した英霊が吸血鬼だと知った途端、令呪振りかざして殺そうとした奴が言うセリフじゃねえよ、と」
「んひゃぁうい、ぐうぅぅっ!?」

 捩じ切れんばかりに乳房を捻り潰された蓮が、とうとう何度目かもわからぬ絶頂を迎え、意識を白熱させた。 

.


382 : 相良 蓮&ライダー ◆yYcNedCd82 :2016/08/08(月) 01:41:01 olg4iBJQ0


 ちかちかと明滅する意識の中、蓮は春気に朦朧として霞がかった脳を働かせ、まどろむように後悔する。

(い、さみぃ…………)

 義弟の名を呼ぶ彼女は、クルースニクと呼ばれる吸血鬼ハンターだ。いや、だった。
 魑魅魍魎に恐るべき力を与える"供犠の血統"に連なる義弟を守るため、数多の吸血鬼を屠り続けた恐るべくも美しき狩人の面影は、もう無いのだから。
 今この場に鏡があれば、彼女は羞恥に耐えかねて割ってしまったに違いない。
 それほどまでに蕩けきり、だらしなく舌を出して「はひ、はひ」と喘ぐ彼女の顔は、雌そのものだ。
 長髪を翻し、活動的なれど扇情的な装束で肢体を誇示しながら怪物どもを踏み躙ってきた女狩人が、今やこのざまだ。
 長らく一族の手にあった霊刀"青江"すら、目の前の吸血鬼に奪われ手も足も出ない。

(青江、さえ、あればぁ……ッ)

 如何なる吸血鬼であろうと、その治癒能力を封じる傷を与える青江。
 それは蓮の手にあれば無類の力を発揮し、多くの化物どもをこの世から消し去ってきた。
 目の前の吸血鬼、ライダーとても敵ではない――そのはずだったのに。

「ふふん、悔しい悔しいって、思ってるんだろ。涙目だからな、良くわかるぜ」

 にたりと笑ったその男は、ベルトに挟み込んでいた異様なナイフを抜き放った。
 禍々しく捻くれた刃を持つそのナイフは、明らかに人間が振るう武器ではない。
 吸血鬼が、吸血鬼のために作り上げた、異様な代物だ。

「残念だけど、ナイフの扱いはちょっとしたもんでね。人間に負ける気はしないんだ」

 サド侯爵の愉悦。
 そう銘打たれたナイフは由来通りの残虐性を発揮して、蓮を切り刻んだ。
 ただの苦痛だけで膝を屈するほど、蓮は弱くはない。肉体的にも、精神的にも。
 けれど腕を斬られ、乳房を斬られ、頬を斬られ、足を斬られ、ずたずたに切り刻まれて。
 とうとう足の筋を切り裂かれ、己の血溜まりへ膝を突かざるを得なくなったその時。
 そして震えながら唇を噛み締め、「いっそ殺せ」と吐き捨てたその時。
 蓮は諦めた――そうと知らずに諦め、全てを踏み躙られたのだ。

「う、う、ぐ……ひっく……う、ぇ…………」

 どうしてこうなったのだろう。
 啜り泣く声を漏らさぬよう、吸血鬼の聴覚を前に儚い努力を繰り返しながら蓮は考える。
 義弟を宿命から解放してやりたかった。
 聖杯戦争に参加すれば、それが叶うとわかった。
 だから挑んだ。挑むために英霊を呼んだ。
 その結果が――これだ。
 蓮が呼ぼうとしたのは、都市伝説に語られる"髑髏男(スカルマン)"だった。
 深夜の街をオートバイで走り抜け、人狼や屍喰鬼と戦い、人々を守る仮面の男。
 十年ほど前から急速に広まりつつあるこの噂の怪人、最近は空を飛ぶとまで嘯かれるそれを、蓮は召喚しようとした。
 己と同じ生業だから、と。それであれば共闘も用意だろうし、従える事もできようと。
 全ては浅はかだったと言わざるを得ない。
 現れた男は仮面を被り、オートバイを駆り、吸血鬼を滅ぼす存在ではあった。
 吸血鬼を殺す吸血鬼。
 吸血殲鬼(ヴァンピルズィーシャ)だったのだ。

.


383 : 相良 蓮&ライダー ◆yYcNedCd82 :2016/08/08(月) 01:41:25 olg4iBJQ0

「おいおい、蓮ちゃん。そうビビるなって。え? まだまだ楽しい玩具は一杯あるんだからさ」

 そうしてライダーが立ち上がった途端、蓮はびくりと震えた。
 ライダーが向かった先には、廃工場の一角に陳列されている彼自身の武装がある。
 鋭利な曲刀の翼を持つブーメラン。
 貫いた相手に苦痛を与える形状の槍。
 斧と一体化した、造り手の正気を疑うような散弾銃。
 銃剣を取り付けた異様なまでに巨大な拳銃。
 ライダーは玩具箱の底から懐かしいおもちゃを見つけた子供のように、その威力を蓮の身体でもって試したのだ。
 肉を斬られ、臓腑を貫かれ、骨を砕かれ、頭を吹き飛ばされ、死の淵でのたうち回りながら蓮は犯された。

「それとも、今日はとっておき行ってみるか?」

 そして、そして――そう、ああ、この吸血鬼が、ライダーの英霊であるならば……!

「あ、う、うあ……あ、ああ…………!」

 暗闇の中に浮かび上がるシルエットを前にして、蓮は喉を震わせた。
 それはさながら、鋼鉄でできた猛獣のようだった。刃の顎を持ち、刃の尾を持った獣。
 走る断頭台――触れたものを噛み砕き、挽肉へと変えてしまう、処刑道具。
 クルースニクとして、常人を遥かに上回る体力と耐久性を持つ自分でも、きっと。
 あんな――あんなものを、使われたら……!

「た……」
「んー……?」
「だ、だすけて、だずげでくだざい、そんなの、そんなの、されたらじんじゃうッ!
 じにたくない、じぬのやだぁっ! それじんじゃう! じんじゃうからぁ……ッ!!」

 その口から溢れるのは、みっともなく無様な命乞いの叫び。
 涙とよだれと鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き喚く彼女の足元には、ちょろちょろと失禁が水溜りを作っている。

「こりゃあ、あんたをリスペクトしなきゃだな」

 ライダーはにたりと笑い、その拘束着めいたブーツで床の水溜りを避けながら蓮へと歩み寄る。
 異様に逆だった髪、青白い肌。瞳は燃えるように赤く煌めき、蓮は自分の歯がカチカチと鳴るのを感じた。
 牙が。生臭い息が、首筋に、あ、ああ――……。

「ウピエル先輩……よ」
「んんんっ! う、ぁうああぁああぁあぁぁぁぁぁぁあぁ……ッ!?」

 自らの魂を啜り取られる快楽に法悦を極めながら、蓮は絶望に沈む歓喜の声を迸らせた。

.


384 : 相良 蓮&ライダー ◆yYcNedCd82 :2016/08/08(月) 01:41:48 olg4iBJQ0
【クラス】
 ライダー

【真名】
 伊藤惣太@吸血殲鬼ヴェドゴニア

【ステータス】
 筋力B 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運E 宝具C

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D+
 騎乗の能力。大抵の乗り物を人並みに乗りこなせる。
 バイクに関しては天賦の才を持つ。

【固有スキル】
吸血鬼:A+
 全パラメーターを2ランクアップさせるが、マスターの制御さえ不可能になる。
 最高の血統を持つ吸血鬼=死徒としての肉体と精神。人間からは狂っているとしかいえない。
 筋力、動体視力、治癒力その他、ありとあらゆる面で吸血鬼として最高峰の能力を持つ。
 同時に吸血鬼が保有する日光、銀などの弱点も全て保有している。

念動力:B
 ライダーが"親"から受け継いだ吸血鬼としての権能。
 精神を集中させることで、飛来するミサイルを破壊するなどの行為が可能。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『GSX-"Desmodus"』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
 スズキ・GSX-1300R隼がベースの殺人バイク。
 高速走行時の安定性を確保する為にホイルベースを延長した上で、2000ccの大排気エンジンに換装。
 更にナイトラス・オキサイドシステムを搭載、全カウル・フロントグラスは特製の防弾仕様。
 ボディ最後尾に1、前輪部上下に1基ずつ計3箇所にチタンブレードを装備。
 これはチタンをチタンを超高圧水でタッピングした「触っただけで切れる」ほどに営利。。
 吸血鬼の身体能力を前提としたカスタマイズが施され、常人に扱えるような代物ではない。
 ゼロ加速から7秒で時速300kmに達するモンスターマシンであり、端的に言えば走るギロチンである。

【Weapon】
『サド侯爵の愉悦』
 複数の指穴がついたナイフ。
 禍々しい形状をしており、接近戦で最も取り回しがしやすい。

『旋風の暴君(せんぷうのカリギュラ)』
 折りたたみ式のブーメラン。展開すると三枚の刃が円形に広がる。
 中心部を掴まないと腕がズタズタになるので人間の反射神経では扱えない代物になっている。
 吸血鬼の身体能力で操る事で下手な拳銃を凌駕する威力を持ち、中距離戦では最強の武器。

『レイジングブル・マキシカスタム』
 .454カスール弾を発射するリボルバー拳銃。先端に折りたたみ式の銃剣が装備されている。
 拳銃としての機能は変わらないので人間にも撃てるが、その反動で下手をすると骨を折る。

『聖者の絶叫(エリ=エリ=レマ=サバタクニ)』
 相手に苦痛を与える事を目的にした穂先を持つ長槍。
 サド侯爵の愉悦を振るう方が効率が良い為、趣味的な武器に留まる。。

『SPAS12改「挽肉屋」(ミンチ・メーカー)』
 散弾銃「SPAS12」のストックに斧を取り付けたもの。
 銃としても斧としても振り回せる頑丈な構造だが、やはり趣味的な武器。

『拘束着』
 全身を覆う革製のボンテージ風スーツ。
「膨張する筋肉によって肉体が自壊することを防ぐ」ための防具。
 手骨のようなマスクと一セット。

【人物背景】
 伊藤惣太は平凡な高校生だった。ある夜、夜魔の森の女王リァノーンによって吸血されるまでは。
 吸血鬼になりかけの存在ヴェドゴニアとなった惣太は、吸血鬼ハンター達と協力し、人間に戻るため戦う。 
 しかし戦いの中で徐々に吸血鬼化が進行していった結果、惣太は脳内に潜む吸血鬼としての自分との対決を強いられる。
 そしてその結果、彼は敗北した。

【サーヴァントとしての願い】
 自由気ままに現世を謳歌して殺し、暴れ、女を犯し、血を啜る。
 ――貪り尽くせ、夜明けまで。 

.


385 : 相良 蓮&ライダー ◆yYcNedCd82 :2016/08/08(月) 01:42:47 olg4iBJQ0

【マスター】
 相良 蓮@クルースニク〜催淫に悶える吸血鬼ハンター〜

【マスターとしての願い】
 弟を宿命から開放する

【weapon】
『霊刀・青江』
 吸血鬼の治癒力を阻害し、傷をつけることができる短刀。
 今まで1000体もの吸血鬼を葬ってきたとされる。

『吸血病治療薬』
 吸血鬼化の進行を防ぐ。
 この薬には催淫効果の副作用があります。
 モノスゴク発情します。
 発散しないと狂います。

【能力・技能】
 吸血鬼ハンターとしての経験と力量。
 クルースニクとしての常人離れした身体能力。

【人物背景】
 クルースニクと呼ばれる吸血鬼ハンターの一人。
"供犠の血統"を引くため怪物に狙われる義弟を守って戦い続けてきた。
 しかし事情を知らない弟が彼女を助けようとした為、それを庇って負傷。
 吸血鬼化の進行を防ぐために薬を服用し、発情した肉体を義弟に弄ばれる。
 弟に対しては暴力的な態度を取り、いうことを聞かないとすぐに殴りつける。
 が、ちょろい。



【行動方針】
昼は廃工場で蓮を調教して暇を潰し、夜は獲物を求めて徘徊、襲撃する。



【把握媒体】
ライダー(伊藤惣太):『吸血殲鬼ヴェドゴニア』本編およびノベライズ。
 Nitroplus発売のアダルトゲームだが、全年齢対象のノベライズが上下巻で発売されている。
 ライダーは本編後半で吸血鬼としての自分に敗北したIF展開なため、人格のみならノベライズ下巻で把握可能。

相良 蓮:『クルースニク〜催淫に悶える吸血鬼ハンター〜』
 LILITH発売のアダルトゲームのため、それ以外にノベライズなどは存在していない。
 公式ホームページ(これもR-18だが)にキャラクター紹介や描写はあるため、それである程度把握は可能。

.


386 : 相良 蓮&ライダー ◆yYcNedCd82 :2016/08/08(月) 01:43:01 olg4iBJQ0
以上です
ありがとうございました


387 : ◆mcrZqM13eo :2016/08/08(月) 20:16:48 3hYlxwSM0
ペドゴニアがキョヌーを襲うとは
葱太分は欠片も無いな


388 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:25:09 Gb5vR2qc0
投下します。


389 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:25:55 Gb5vR2qc0
狼男の伝説を知っているだろうか。

そう、満月の夜に狼に覚醒する亜人のことだ。

そして、狼男は先天的なそれではなく、「症候群」という解釈がある。

即ち、狼への変身は病気なのだ。

ならば、狼と蔑まれた者達は、どうなるのだろう。

どうやって、生きていくのだろう。



どうしたら、嘗てのように人間としていられるのだろう。



◆  ◆  ◆


「Uraaaaa....aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

満月が照明の如く照りつける真夜中、この町に、突然獣の叫び声が聞こえてきた。
満月の夜には、狼が出るという伝承があるが、それを信じていた子供達はその夜は恐怖で眠れなくなり、震えていた。
しかし大人達は、「どうせ犬の遠吠えだろう」と、子供達を宥めて昔話を聞かせていた。
フードのように布団を頭に被さって震えている少年の前に、父親が見せた絵本が「狼男」だったことは、また別のお話。

そして、大人達がこの事に気づかなかったのは、幸運というべきか。
実はその遠吠えは、ある屋敷から聞こえてきたのだ。
とても時代を感じさせる、日本では見られなくなったレンガ造りの屋敷。
其処から、狼の咆哮がこだましていた。
しかしそれが続いたのは、ほんの数分ほどの事であった。
狼の咆哮はスッと消え去った。
まるでスピーカーのスイッチを切られたかのように、スッと。

結局、世間からすればそれはやはり犬の遠吠えと大差なかった。
そもそも日本に狼などいないはずだ、こんな咆哮の仕方を聞いてまず想起するのは野良犬が普通だ。
結局、人々はそのことを忘れてしまうのであろう。
そしてこの出来事を掻き消すかのように、また満月の夜に、静寂が訪れた。


◆  ◆  ◆


390 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:26:17 Gb5vR2qc0
声の元である屋敷の居間には、「一匹」の狼がいた。
そう、この遠吠えは、本当に狼の遠吠えなのであった。

「フーッ……フーッ……。」

狼は興奮を抑えたばかりの狂犬の如く鎮まり返り、息をもらしながらも落ち着こうとしていた。
そして狼の眼の前には、「一体」の狼人間がいた。
全身はまるでセメントの樽に落っこちたかのように灰色に染まっており、体中のアチコチに「爪」を模したかのような尖った装飾品がついていた。
そして頭部には狼の被り物を想起させる装飾品が付けられていた。
狼男は、まるで宥めるかのように、或いは庇うかのように、その狼に立ち塞がった。
そしてその「一体」を睨みつけていた「一匹」は、まるで暖かさを思い出したかのように、まるで何かに包まれたかのように、暴れるのをやめた。

まるで躾けられた犬のように落ち着いた「一匹」を、「一体」はそっと見つめている。
そして照明に照らされた「一体」の影は突如形を変え、「一人」の青年の姿に変わった。
服こそ着ていなかったものの、青年は狼の事を見つめている様に見えていた。
そして彼の眼は、とても悲しそうに見えていた。



◆  ◆  ◆


391 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:26:48 Gb5vR2qc0
これからする話は、ある小さな星のお話です。


今から20年ほど未来の話ですが、ある所に、一人の男がいました。
ですが男はある日突然、化物に変わってしまったのです。
それから彼は、自分が「人を裏切る」事を極端に恐れました。
しかし同時に彼は、「夢」を探そうとしました。
単に「夢」があれば、何か生きる意味が見つかるかと思ったのでしょうか。
それとも、「夢」があれば、「人間」としての自分を保てるとでも思ったのでしょうか。

ともかく、夢を探す旅を、男は続けました、ですが結局夢は見つかりませんでした。
しかし出会いはありました。出会ったのは一人の少女と、「金属製のバッグ」と、「自分の同類」です。

成り行きで男は「バッグの中身」を少女によって取り付けられ、「銀色の戦士」になったのです、
戦士となった男はとても強い力を持ちました、「自分の同類」をちょっとのパンチとキックで倒してしまうほどの凄い力を。

「一人の少女」と「自分の同類」と「バッグの中身」の3つに出会った「男」は、沢山の仲間を作りました。


世界中の洗濯物を真っ白にしようとした人。
他者の優しさに飢えていた人。
夢を掴む腕を絶たれた人。
愛する者を守り抜こうとした人。
仲間のために自らの臆病さを撃ち抜いた人。
夢と優しさを踏みにじられた人。


沢山の人々と、男は出会いました。
そして、彼等の夢に触れ、同時に人々が死にゆく姿も眼にしました。
男には戦う力があります、しかし化物には優しい人もいましたし、そもそも辿ってみれば自分同様嘗ては人間だったのです。
簡単には殺せません、しかしその度に人々は倒れていくばかり。
だからこそ男は決意します。


―自分は人を救う、自分が迷っている間にに死ぬ前に。
そしてその過程で同時に生命を奪う罪は、全部自分が背負ってやると。


それから男は再び、他者を救うために戦うことを決意しました。
その中で、沢山の仲間の命が消えて行きました。


自分の面倒を見てくれた働き先の人は、自分を庇って殺されました。
自分と共通する短所を持つ少女は、敵の手で殺されました。
自分といがみ合いながらも互いの背中を預けていた仲間は、嘗ての仲間の手で殺されました。
自分と手を取り合ってきた友人は、仲直りした瞬間に自分の身を挺して共に戦い、朽ち果てました。


戦いの果て、男はとうとう夢を見つけました。
自分にはない「夢」を持つ者たちを護りたいという思い。
それを貫いて戦った事で、彼にも1つ「やりたいこと」が、「願い」が、ハッキリと浮かんできたのです。


しかし夢を見つけたその瞬間、彼の生命の線は途切れてしまいました。


小さな流れ星は、皆の願い事を叶えていった末に、燃え尽きてしまいました。



―そんな夢を、気絶していた狼男―リーマス・ルーピンは見ていた。



◆  ◆  ◆


392 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:28:46 Gb5vR2qc0
やや時代を感じさせる西洋風のダイニングルームの食卓に、英国人の男性、ルーピンは座り食事を始めた。
皿にはサンドイッチと目玉焼きとミネストローネが乗っており、隣にはコーヒーの入ったカップが添えられている。
何ともイギリス出身の彼らしい朝の食事であった。


一方、ルーピンの向かいの席には、東洋人の青年が座っている。
彼の眼の前には牛乳とチョコフレーバーのシリアルが入ったボールが置かれている。
そして青年はスプーンでミルクの上に浮かぶオートミールを救い上げ、パクリと口に入れる。
シャクシャクとそれを咀嚼し、ゴクリと飲み込み、ルーピンの朝食を見て不満気に睨む。
その態度にルーピンは直ぐに気づく。

「どうしたライダー?やはり不満かな、これぐらいのボリュームだと。」
「別に、何でもない。それにアンタが俺の猫舌に合わせて此奴を食わせたのには、感謝しているしな。」

「ライダー」と呼ばれた青年はどうやら図星をつかれた様で、ミス・グレンジャーにも負けないほどツンとした表情でソッポを向く。
それを見て、ルーピンも流石に苦笑いを浮かべ、コーヒーをズズッと啜る。
それからルーピンはコトンとコーヒーカップをテーブルに置いた後、沈んだ表情で昨夜の出来事を回想した。

あの日の夜、丁度ルーピンが恐れていた満月の夜が現れた。
月単位で狼に変身していたルーピンは、まるで自分の誕生日のように満月の夜が現れる日時を知っていた。
そして昨夜が丁度その日だったのだ。
その時はライダーに姿を見せないように部屋に閉じこもっていたのだが、しかしライダーは気になって其処に入ってきたのだ。
それが不味かった、人狼化したルーピンはライダーが部屋に入った瞬間に襲いかかった。
ライダーはもがいたが、人間の姿では不味いと判断した彼はあの異形の姿へと変化し、ルーピンを抑えつけた。
人狼が求めるのは飽くまでも「人」。
故に人の姿をしていない者に対しては正気でいられる、落ち着いていられる。

だからこそ外にまで騒ぎを起こさずに済んだのだが、しかし彼には迷惑をかけてしまったなと、ルーピンは実感した。


393 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:29:26 Gb5vR2qc0
「ライダー。」
「何だよ、いきなり。」
「昨夜は、済まなかったな……私の、あの様な醜い姿を見せてしまって……。」
「気にすんな、アンタはまだ人間だ。」
「え?」

ライダーが己のマスターにかけた言葉は、意外だった。
いいんだ、とか気にするな程度ならまだ分かるが、「人間だ」と言われるとは。
そんな事を言うであろう者はプロングスかハリーぐらいしか思いつかなかったのだが。
だが、

「俺は人の心を失って化け物になっていく連中を沢山見てきた、だが今のアンタは、こうして暴れださずにいる。
大体、お前にはやりたいことがあるんだろ?だったらそれがお前が人として生きている一番の証拠だよ。」
「やりたいこと……か……。」

今、ルーピンは「聖杯戦争」と呼ばれる戦いの参加者として、ここにいる。
「サーヴァント」と呼ばれる英霊を召喚して戦い、願いを叶える力を奪い合う殺し合い。
ルーピンを気遣っているライダーもまた、彼に喚ばれた「サーヴァント」なのであった。

ルーピンにも、願いはある。
「死喰い人(デスイーター)」、そしてそれを擁する闇の帝王を倒すことだ。
聖杯が手に入らなくてもいい、せめて脱出することが出来れば、この手で死喰い人と戦えるだけで十分だ。
とにかく、今のルーピンにはこんな所で燻っている余裕はない。
奴らを野放しにしていい理由など、何処にもないはずだ。
そんな事を考えていく内に、ルーピンは次第に自身の思い出を回想していく。

(プロングス……リリー……パッドフット……)

死んでいった親友達の面影が今にでも浮かび上がってくる。
プロングス……ジェームスとパッドフット……シリウスは本当に良い友人だった。
彼等は、人狼であったルーピンにとっては初の友人であった。
非合法とされる動物もどきになってまで自分と交流を深め、そして時には飛んでもない道具も作ったし、傍迷惑な悪戯だってした。
そんな愉快でスリル満点な彼等とのホグワーツでの青春は、ルーピンにとっては掛け替えのない思い出であり、
彼等もまた、掛け替えのない存在であった。


だがホグワーツでのスクールライフが終わって暫くしたある日突然、仲間の一人であるプロングス…ジェームスが死んだ。
妻のリリー諸共、何者かに禁忌の呪術らしき魔法をかけられて。
彼等を殺したのは誰か、そう、あの「死喰い人」を率いる闇の帝王だ。


394 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:29:47 Gb5vR2qc0
残されたのは彼の忘れ形見である一人の赤ん坊だった。
彼は校長の意向によりマグルの家で生活し、10年後に己の母校にやって来たとか。
ルーピンが初めて出会ったのは彼が3年生の頃で、その顔立ちは嘗ての友人を想起させていた。
彼にも「死喰い人」が扱う「闇の魔術」に対する防衛術を教え、特に武装解除術は嘗ての自身の同期をも吹き飛ばした。

だがそれでも、闇の帝王の力はあまりにも強大すぎた。
ジェームスの忘れ形見との最後の授業を終えた1年後、ホグワーツの生徒が一人殺された。
そして更に1年後には、シリウスまでもが……。

学生時代、自分達はパッドフット、プロングス、ワームテールと呼ばれた三人の友人がいた。
そしてルーピンもまた「ムーミー」という渾名で呼ばれており、4人は最高の親友だった……はずだった。

(とうとう、取り残されたのは私一人になってしまった……)

ワームテールは裏切り、プロングスは抵抗も虚しく敗北し、そして今またパッドフットまでもが……
彼にはもう、後戻りすることは許されない。
もうそろそろ不死鳥の騎士団が活動を開始する頃だ。
ルーピンもまた、その旗の元に馳せ参じなくてはならない。
だからこそ、彼は此処から抜けださなくてはならないのだ。

(それが……私の戦う理由だ……)

其処まで思い返した後、ルーピンは再びズズッとコーヒーを啜る。
後でチョコレートも用意しておくか、という考えも浮かび上がった。


◆  ◆  ◆


395 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:30:12 Gb5vR2qc0
―このマスター、木場の奴にどことなく似てやがる。

ライダーのサーヴァント、乾巧がルーピンに対して思い浮かんだ感想はそれだ。
木場勇治、それは嘗てライダーがぶつかり合いながらも分かり合ってきた友人であった。
彼の優しさには巧は難度も助けられた。

あの温厚で落ち着いた態度は、何処か木場に通じる所がある。
人間に絶望し巧に牙を向いた後の彼とは違い、今のルーピンは人間にも友好的に接しているが。
とにかく、木場は巧にとって大切な存在であった事は間違いない。
だからこそ、人付き合いが苦手な自分でも彼にも親近感が持てたのだろうか、と巧は思った。
だが彼の方針は変わらない。

マスターの願いは、元の世界に戻ることだという。
そして、彼にはどうしても戻らなければならない理由があった。
「訳」があっただけ、嘗て生きる意味が掴めなかった巧からしてみればマスターは十分過ぎるほど一生懸命に生きている。

(だったら俺は此奴を守ってやる、戦ってやる。その罪は……俺が背負う!)

嘗て夢が無かった巧は、自分とは真逆に真っ当な夢を持った人間達が死にゆく姿を見ていられなかった。
だからこそ、それを守りぬいてやろうと決意したのだ。
だから今回も、マスターの夢を護ってやる、巧はそう決意した。
そしてその過程で誰かを傷付ける罪も、巧は既に背負う覚悟を持って此処に来ている。
誰かを護ることは、誰かを傷付けること。
それはもう十分に分かりきっている、だからと言って悩んでいるとその間に沢山の人が死んでいく。
もう迷うのは御免だと、そう心に刻んで。

そして夢が見つかった今でも、それは決して変わらない。

―そういや、やっと見つけたよ、俺の夢。

―え?どんな夢?

―教えて教えて!



―そうだなぁ……世界中の洗濯物が真っ白になるように……皆が、幸せになりますように。


396 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:30:55 Gb5vR2qc0
【クラス名】ライダー
【出典】仮面ライダー555(TV版)
【性別】男
【真名】乾巧/ファイズ
【属性】混沌・善
【パラメータ】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運D 宝具B (ファイズ変身時)


【クラス別スキル】

騎乗:D
乗り物を乗りこなす才能。
一般の乗り物ならそれなりに乗りこなせるが、馬は駄目。


【固有スキル】

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
不利になった戦闘を水入りに出来る。


猫舌:B
何かしらのトラウマからか、熱いものがとても苦手。
舌はおろか手の皮までペラペラだとまで思われるレベル。
ある並行世界では「巧は火事で死に、オルフェノクとなった」と伝えられているが…?


魔力放出(毒):C++
魔力を毒性流体エネルギー「フォトンブラッド」に変換させ、宝具に纏わせる。
本来、フォトンブラッドはファイズギアから常時生成出来るが、ファイズへの変身が
宝具による伝承の再現となった影響により、魔力を変換して作るようになった。
これにより、並大抵の雑魚なら数発殴って蹴るだけで毒に侵され死ぬ事になる。
また、アクセルフォーム、ブラスターフォームの使用によりそのランクは上昇していくが、
それは同時にライダーの肉体を崩壊させていくことにも繋がる。


単独行動:D
マスターとの魔力供給を絶っても現界していられる。
Dランクなら、マスターが死んでも半日は現界を保っていられる。
ライダーには支えてくれる仲間がいたが、結局一人で動くことが多かった。


397 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:31:17 Gb5vR2qc0
【宝具】

「朱く眩き救世主(ファイズ)」

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1

スマートブレインがオルフェノクの「王」を護る為に作った特殊戦闘用スーツ。
これは、その変身の再現を行う宝具である。ファイズフォンに変身コード「555」を入力、
ファイズドライバーに叩きこむ事で変身は完了する。本来なら人工衛星からスーツを転送させるが、
この宝具のおかげでその必要は無くなっている。

ある世界では正義の戦士「仮面ライダー」の系譜に連なり、
ある世界では最期まで人類を守り続けた「救世主」となり、
ある世界ではこの身が散るまで歩き続けた一輪の「異形の花々」であった人間。

そんなファイズの数々の伝説が宝具として昇華されたもの。


「闇を斬り裂き、光を齎せ(ブラスターフォーム)」

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1

ある世界ではオルフェノクの王を眠らせ、またある世界では「地」の鎧戦士とスマートブレインの番犬を倒したとされるファイズの新たな力。
ファイズブラスターに変身コードとファイズフォンを叩きこむ事でドライバーを再起動、新たなスーツへと姿を変えさせる。

(この形態でのパラメータ 筋力A+ 耐久A 敏捷B+)

格闘戦と専用武器「ファイズブラスター」を利用した、火力に身を任せたパワフルな戦闘が特徴的。
この間、フォトンブラッドの出力は増大し「魔力放出(毒)」のランクが三倍にまで上がり、並大抵の雑魚なら触れただけで死ぬが、
その分フォトンブラッドの毒性はライダーにまで及び、続けて使うと灰になる危険性がある。


「歩き護る二輪車(オートバジン)」

ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:10 最大捕捉:1

ファイズギアの装着者を護るバイク、「オートバジン」を召喚する。
オートバジンは、ビークルモードからロボットモードへと変形が可能であり、いざという時は変形してライダーを護り抜く、
その戦闘力はノーマルファイズを凌駕する。武器はホイールが変形したガトリング付きの盾、
更にハンドルはミッションメモリーを装填して引き抜くことでビームブレード「ファイズエッジ」へと変わる。
また、「オルフェノクの王」を倒した世界の巧がライダーのクラスで喚ばれた事からこの宝具は、
ファイズフォンに専用コードを入力することで「ジェットスライガー」を召喚することも可能とされているが…?


「天から舞い戻りし狼の死徒(ウルフオルフェノク)」

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1

ライダーの、オルフェノクとしての姿。パラメータ自体はファイズを超える。
だが、ライダーはこの宝具を開放したがらない。


398 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:31:40 Gb5vR2qc0
【Weapon】

「ファイズギア」

「朱く眩き救世主」の使用に欠かせない戦闘用キット。
ライダーを戦いの渦に巻き込んだ一品。アタッシュケースに収納されており、

ファイズのスーツを転送し、制御する「ファイズドライバー」
モジュールの制御を行う携帯電話型トランスジェネレーター「ファイズフォン」
円錐状の追尾マーカーを射出する懐中電灯型チェッカー「ファイズポインター」
パンチの威力を高めるデジカメ型ユニット「ファイズショット」
これらの4つで構成されている。モジュールの起動はファイズフォンに付けられている
カードキー「ミッションメモリー」のインサートにより行われる。


「ファイズアクセル」

ファイズのスーツに付けられている腕時計型ツール。
装填されているカードキー「アクセルメモリー」をファイズフォンに付け替えることにより、
ファイズを開放形態「アクセルフォーム」に変化させる。

(この時のパラメータ 筋力C 耐久C 敏捷A++)

スタート・ストップスイッチを押すことにより、10秒間だけ超加速による戦闘が可能となるが、
時間切れの直後この形態は解除される。また、押さなくても35秒で時間切れとなる。
出力をヒートアップした力なので、一旦使用すれば暫くは使用が出来なくなる。


「ファイズブラスター」

「闇を斬り裂き、光を齎せ」の起動に使われるトランク型トランスジェネレーター。
ファイズフォンをインサートすることでブラスターフォームのスーツを転送させる。
ファイズフォン同様にテンキーが付けられており、コマンド入力が可能となっている。
武器としての使用が可能で、フォトンブラッドの光弾を放つライフル形態「ブラスターモード」
フォトンブラッドの刃を敵にぶつけるブレード形態「ブレイクモード」の2つのモードが使用できる。
また、ブラスターフォームに変身せずとも武器としての使用は可能である。



【人物背景】

男は死徒となった。
死徒は戦士となった。
戦士は戦いの果てに夢を見つけ、灰になった。


ぶっきらぼうで無愛想で猫舌、でも根っこの部分ではお人好しな善人。

乾巧/ファイズとは、数々の並行世界において存在した英雄である。
今回は、テレビ本編の時系列の巧が召喚されている。

実は「セイヴァー」の適性も陰ながら持ち合わせており、その時にはオルフェノクの世界において僅かな人類を守り続けた
「救世主ファイズ」が召喚され、その霊格はある程度此方よりも上になっている。

【聖杯にかける願い】

無し、マスターを護る。


399 : リーマス・ルーピン&ライダー ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:32:13 Gb5vR2qc0
【マスター名】リーマス・ルーピン
【出典】ハリー・ポッター・シリーズ
【性別】男


【Weapon】


「杖」

ダイアゴン横丁の専門店で買ったと思われる、ルーピンの魔術礼装。
素材は不明だが、幻想種の身体の一部を芯に木の棒でコーティングした杖であるのは確か。
彼が学生時代から愛用してきた代物。

その他幾つかのアイテムを持ってきている可能性はあるが…?


【能力・技能】

・魔法使い
型月的に言うと「魔術師」に当てはまる。
「闇の魔術に対する防衛術」の講師を勤め、不死鳥の騎士団に入ったりした。
後学生時代は「ミスター・ムーニー」名義で「忍びの地図」というとんでもない悪戯道具の作成に関わったりもしていた。




・人狼
別名「ウーウルフ」「狼人間」幼い頃狼に噛まれたことが原因で狼男となってしまった。
満月の夜の間、姿が狼となり理性が途切れ、見境無く人間を襲う。
ただし、他の動物に対しては無害であり、また意思疎通が可能だったりする。
この人食衝動は最近開発された「トリカブト系脱狼薬」で抑えられるが、これを調合できる
セブルス・スネイプは此処にはいないため、作ることが出来ない。
だが満月の夜は此処で過ぎたため人狼化の心配はないが、仮に人狼化を引き出す術を持つ者が相手ならその限りではない。



【人物背景】


5歳の頃、人狼に噛まれて人狼になってしまった不幸な人物。
だが、11歳の頃アルバス・ダンブルドアの計らいで晴れてホグワーツ魔法魔術学校へと入学、
其処でジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、ピーター・ペティグリューという親友にも恵まれ、
「動物もどき」となった4人とは満月の夜にホグワーツの色んな所を探検していたりしていた。
それからは「死喰い人」に対抗する「不死鳥の騎士団」に所属し、また時には「闇の魔術に対する防衛術」
の教師も担当、生徒達からは好評だったが同期だった教師により人狼だったことがバラされ、1年で退職。

幼い頃は引っ込み思案な性格だったが、今でも控えめな性格という形でそれは残っている。
心優しい人柄ではあるものの、自分達を裏切ったピーターを殺すことに躊躇いが無かったりする。

今回は、少なくともシリウス・ブラックが死んだ直後からの参戦で、原作5〜6巻の間からの参戦となる。


【聖杯にかける願い】

ホグワーツに舞い戻り、死喰い人と戦う。
聖杯を持ち帰るかどうかの意志については不明。




【把握関係】


・リーマス・ルーピン
把握媒体:小説と映画があります。
ルーピンは3〜7巻において姿を現します。
今回は原作5巻〜6巻の間からの参戦です。
呪文はWikiで調べるのがよろしいかと思われます。


・ライダー(乾巧)
把握媒体:テレビ本編全50話、DVDは全13巻。
巧は主人公として全話に渡って登場します。
一応「仮面ライダー4号」の記憶も有してはいますが把握しなくても大丈夫です。


400 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/09(火) 00:32:31 Gb5vR2qc0
以上で、投下を終了します。


401 : ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:06:31 2ijKXO.k0
投下します


402 : 山本陽介&キャスター ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:07:20 2ijKXO.k0
のぼれ、のぼれ

死ぬには足りない

もっと高いところへ、高いところへ、のぼれ!

高槻泉/『黒山羊の卵』より――




403 : 山本陽介&キャスター ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:07:56 2ijKXO.k0
キャスターはオレのサーヴァントだ。
魔術師(キャスター)と言っても、彼女が杖を使って魔法を行使することはない。
カボチャの馬車も出さなければ、箒で空を飛ぶこともないのだ。
だが、それでも彼女は十分に人の理を超えた、魔法のような異能を持つ存在である。
何故なら、キャスターはその小柄な肉体から手やら口やらが生えた不気味な触手を出し、自由自在に操るのだ。
さながら、魔獣を使役する魔術師のように。
それに、全身を包帯で巻き、フードを被った彼女の姿は、なんだか童話に出てくる怪しい魔女みたいであり、それだけでキャスターだという不気味な説得力を放っていた。


404 : 山本陽介&キャスター ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:08:26 2ijKXO.k0
高槻泉は小説家だ。
小説家と聞いて、オレは一瞬かつての渡辺を思い出す。
しかし、泉さんはマジでプロの小説家らしい。
中途半端な渡辺とは大違いだ。
物書きという肩書きに相応しく、言葉の端々から語彙力の高さが漂う彼女にオレはただただ感心するばかりである。
今度サインを頼んでみるのも良いかもしれない。知り合いへの自慢のネタになるだろう。
いや、彼女が小説家として活躍していたのはオレが居る世界とは別の世界だから、貰っても自慢のネタにはならないか……。
そもそも、オレは小説家を名乗る彼女の著作を全く知らないのだ。
ただ、生前は物書きをやっていたという彼女の自己紹介を鵜呑みにしているだけである。
だが、ボサボサの髪を手入れしていない泉さんの姿は、だらしないように見えても、どこか大物小説家の雰囲気を帯びているように思われた。


405 : 山本陽介&キャスター ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:09:00 2ijKXO.k0
芳村愛支は人喰いの化物だ。
何故人を喰うのかと言うと、そういう生物だからだ。
そう言われると納得するしかあるまい。
愛支さんの他にもそーゆー奴らはチラホラ居るらしく、彼らは喰種(グール)と呼ばれるらしい。やけに格好良い名前だ。
既にオレは彼女の食事風景を目にしたことがあるが、その時はビビった。
かなりビビった。
ライオンのような獣が人を喰うならまだしも、姿形は人間と全く変わらない生物が人を喰っているというのはかなり生々しく、ショッキングな光景である。
食事を終えた愛支さんにそのような感想を告げると、彼女は

「何ならライオン以上の――いかにも化物って感じの姿に変身することも出来るけど、見たい? まあ、その分魔力をかなり消費するがね」

と言った。当然オレは遠慮しておく。
化物の姿なんて進んで見るものじゃない。
それに、そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべながら、右目が赤く染まっている愛支さんの姿は既に十分化物じみていた。

✳︎


406 : 山本陽介&キャスター ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:09:46 2ijKXO.k0
キャスター。高槻泉。芳村愛支。
この三人は同一人物である。
彼女は時にフードを被って包帯に身を包んだ怪人になれば、時に見た目が三十路くらいの物書きにもなり、時に人喰いの恐ろしい怪物と化すのだ。
流石に魔術師(キャスター)という名前こそ持っていなかったこそすれ、愛支さんは生前からそれくらい多くの顔を持っていたらしい。
隻眼の梟とかいう名前で呼ばれていた事もあったとか。
そんなに複数の顔を持ち、名前を騙っていて、疲れなかったのだろうか。
だが、オレがそう言うと、愛支さんは呆れたようにして次のように答える。

「わたしはただ疲れる為に複数の名前を騙っていたわけじゃない。そんな苦労を費やすのに相応しい目的がちゃんとあった。それだけさ」

日々、目的なく生きているオレにとっては耳が痛い話だ。
愛支さんは続けて語る。

「目的で思い出したんだが少年。きみはこの聖杯戦争に何の目的を持って参加したのかな?」
「えっ? お、オレの目的ですか?」
「ああ。ここは戦いの場、それに勝てばどんな願いでも叶える奇跡の聖杯とやらが手に入るらしいじゃないか。それに参加しているきみに何らかの目的――願いがなきゃ、おかしいだろう?」

成る程。確かにその通りだ。
だが、先ほども述べたようにオレは日々を目的なく生きている、無気力な若者だ。
わざわざ戦争に身を投じ、命を懸けてまでして叶えたい願い。
そんなものがオレにあるわけが――

「……いや、ある」
「ん?」

この世界――つまり、昭和五十五年の冬木市に来る前、オレは雪崎絵理という少女と共にとある怪人と戦っていた。
その名もチェーンソー男。名前の通りチェーンソーを持った男である。
諸悪の根源である彼は不死身の怪物だった。
どれくらい不死身なのかと言うと、切っても突ついても死なないくらいである。
唯一有効だと思われるのは心臓への攻撃だが、たとえそれが当たっても、チェーンソー男はすぐさま何処かへと飛んで行き、また後日別所に現れるのだ。
そんな怪物を完全に倒す事など、それこそ奇跡でも起きない限り不可能だろう。
だが、オレには今その奇跡には向かって手を伸ばす権利が与えられている。
もしそれを掴み、「チェーンソー男が居なくなってほしい」と願えば、どうなるか。
当然、チェーンソー男は綺麗さっぱり消えて無くなるに違いない。
そして絵理ちゃんも、もうあんな危険な戦いを無理にせずに済むだろう。
彼女は平凡で普通な、それでも幸せな日常へと戻ることが出来るのだ。
それは、とても素晴らしいことじゃないだろうか?
それに、女の子の為に命を懸けて戦争に臨むオレの姿は、何だか格好良いじゃないか。
これは妙案だと考えたオレは、すぐさまそれを愛支さんに話す。

「……ふむ。勝つ為にまず優勝するとは一見順序が逆転しているように聞こえる願いだが……まあ、良いんじゃないか?」
「ですよね!」
「そう興奮しなさんな……こうして少年の目的がはっきりと分かって、こっちも方針が立てられそうで何よりだよ」

オレの決意をそう受け止めてくれた愛支さんに、オレは安心した。

✳︎


407 : 山本陽介&キャスター ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:10:22 2ijKXO.k0
(諸悪の根源を倒して女の子を救う、ねぇ)
(ハハハ、中々に素敵な願いじゃないのさ)
(だがね)

(マスター、きみの願いは本当にそれだけなのかな?)


408 : 山本陽介&キャスター ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:11:49 2ijKXO.k0
【クラス】
キャスター

【真名】
高槻泉/芳村愛支@東京喰種:re

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力D 耐久A 敏捷B+ 魔力E 幸運E 宝具C+

【クラススキル】
道具作成:D
魔力を帯びた器具を作成できる。
彼女の場合、「赫子」と呼ばれる物質を体内の赫胞から生成する。

陣地作成:E
魔術師として自分に有利な陣地を作り上げる。
彼女の場合、魔術師ではなく作家なので、作り出されるのは工房ではなく小規模な、何の特殊効果もない書斎である。

【保有スキル】
喰種:A+
人喰いの怪物。
人肉を食すことで魔力を回復し、パラメーターが一時的に上昇する。
人肉とコーヒー、水以外を食べる事が出来ない。
キャスターは喰種と人の混血――隻眼の喰種に属する。
隻眼の喰種は通常の喰種よりも高い力を有しており、彼女はSSSレートの『隻眼の梟』である為、このスキルのランクは著しく高い。

正体秘匿:A
他のマスターやサーヴァントから自身がサーヴァントであることを悟られなくなるスキル。
契約者以外からはステータスやスキルも視認されない。
しかし、『高槻泉の正体がサーヴァントであることを知った者』に対しては、このスキルは効果を発しない。
生前、彼女が喰種であるにも関わらず作家として大成し、世間的に有名な人物になったエピソードに由来する。

人間観察:B+
人々を観察し、理解する技術。
B+ランクはちょっとした仕草から相手の心理を見抜き、非常に優れた洞察眼で本人すら気付かない本性を見透かす。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
幾度もCCGや喰種捜査官に戦いを挑み、その度に多大な被害を残して去っていった逸話によるもの。

【宝具】
『隻眼の梟(ビレイグ・オウル)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大補足:1〜10

共喰いを繰り返した末に赫子が進化した喰種――赫者。
その力は通常の喰種のそれを遥かに上回る。
この宝具は彼女が持つ赫者の力を解放するもの。
全身を赫子で覆って四足歩行の化物のような形態に変貌し、ステータスを筋力A+++ 耐久A+ 敏捷Aまで上昇させる。
数多の喰種捜査官を屠ってきたという逸話が転じ、この状態の彼女は怪物や化物に対する特攻/特防スキルをBランクまで無効化し、逆にそのスキルを持つサーヴァントに対して与えるダメージが増加する。
このように、非常に強力な宝具だが、その分魔力消費の量も著しい。


『名も無き王の為の物語(ビレイグ・キング)』
ランク:B 種別:対界宝具 レンジ:? 最大補足:?

生前、キャスターが文字通り命を削って執筆した作品――『王のビレイグ』。
この宝具は聖杯戦争参加者の殆どにスキル『正体秘匿』が効果を発さなくなった際に、発動が可能となる。
発動された際、フィールド全域の、怪物や化物に対する特攻/特防スキルを持つサーヴァントのステータス全てにマイナス補正がかかる。なおこの効果は永続する。
また、この宝具が発動した後で彼女が死亡した時、『隻眼の王』(筋力A+ 耐久A+++ 敏捷B+ 魔力E 幸運E)が召喚される。
『隻眼の王』は魔力供給無しで半永久的に現界出来る程の単独行動スキルと、Dランクのカリスマスキルを有す。


【マスター】
山本陽介@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ(小説版)

【weapon】
カメラの一脚

【能力・技能】
なし

【マスターとしての願い】
チェーンソー男を倒す
???

【把握方法】
・高槻泉/芳村愛支
原作では無印の一巻から名前だけ出ています。
実際に登場するのはエトとしてだと六巻、高槻泉としてだと十一巻からです。
二人が同一人物であり、隻眼の梟だと判明するのは十四巻です。
勿論、その続きにあたるreでも活躍しています。

・山本陽介
原作小説で十分です。


409 : ◆As6lpa2ikE :2016/08/15(月) 03:13:40 2ijKXO.k0
投下終了です。
あと、以前私が投下した『橘ありす&ライダー』のライダーのステータスシート中から『道具作成』を排除します。wiki編集は私自らでやっておきます


410 : ◆3SNKkWKBjc :2016/08/16(火) 22:02:08 iIt3gUPE0
私も投下させていただきます。


411 : レイチェル・ガードナー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2016/08/16(火) 22:03:18 iIt3gUPE0


――チリン……チリン………


鈍い鈴の音が聞こえ、少女は蒼い瞳を開き、そして目覚める。
そこは、見知らぬ場所だった。
知らない場所。
知らない人々。
だけど……自分は今まで何をしてきたのだろうか?
少女の記憶は、無い。不自然なほど欠如した空洞を埋めるかのように、ある人物が少女の前に現れた。

「少し混乱しているようですね。このままお話しを続けても、問題はありませんか? 少しだけ私の話を聞いて下さい」

その人物は、恐らく少女と同じ異国人だと思われる。
何故、異国人などという表現が使われるか?
彼女のいる場所は『日本の冬木市』。
少女は金髪で蒼い瞳の……明らかに日本人の容姿ではなかったし、少女に話しかける男性も同じだからだ。

丁寧かつ迅速な話しかけに、少女は――まるでカウンセリングの先生みたい、と感じる。
やや遅れて。
どうしてそんな風に思ったのだろう。そう不思議を抱いた。
少女は一つ思い出す。
確か、自分は病院に来ていたはずだ。

「先生……私の、カウンセリングの?」

「半分正解で半分不正解です。私はあなたの担当医になりました『フェスターガード』……
 ええ『トーマス』とお呼び下さい。ここまで間違いはありませんが、過去にあなたをカウンセリングした
 担当医と私は異なります。私より以前の担当医の事は思い出せますか?」

雪崩のように男性こと『トーマス』が少女に話をぶつけるが、変な事に少女はすんなり話を受け入れる。
あぁ。そうだったような……
私のカウンセリングの先生は『トーマス先生』じゃなくて……誰だろう。
だけど、少女はうまく記憶を再生できない。
トーマスは察したのだろう。丁寧に穏やかに少女と話を続ける。

「いきなり難しい事を聞いてしまいましたね。順を追っていきましょう。まず、あなたの名前は?」

「レイ……レイチェル・ガードナー」

今、少女――レイチェルは自分の名を思い出した気がした。

「年齢は?」

「………13」

「大変よろしいです。では、レイチェル。何を思い出せますか? あなたが何をしてきたのか」

「病院に……多分、トーマス先生とは違う……別の先生のカウンセリングを受けてて」

「何故、病院に来たのか。分かりますか?」

何だろう。
レイチェルはどうして病院に居たのかすら分からない。
だって、体に怪我はないし。体調が悪いとか、異常な症状なんてのは一つもない。
瞬間。
断片的な記憶が浮上する。


412 : レイチェル・ガードナー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2016/08/16(火) 22:03:41 iIt3gUPE0


……殺人事件?


誰かが、レイチェルの眼前で凶器を振り下ろしていた。
こんな少女の視界内で、残虐な光景が広まる。加害者と被害者は誰? 知らない人だ。レイチェルはそう判断した。
きっと……ソレを見てしまったから? レイチェルの身に覚えがあるのは、殺人現場だけ。

「人が殺されるところを見たから」

レイチェルはトーマスの様子を伺う。
理由は分からないが、自分の返事にトーマスがどのような態度を取るか。恐怖と不安が渦巻いている。
少女に対し、トーマスは笑った。

「成程。あなたの現状が把握できました。さて。もう全てを説明してもよろしいでしょうか?」

「説明? 聖杯戦争のこと?」

ピタリ。トーマスの動作が停止する。
レイチェルの中に、自身の過去よりも先にあった聖杯戦争の知識。
サーヴァントやマスターなどの存在……少なくとも、レイチェルは魔術とは無縁の少女だった。理解に苦しんでいる。
一方のトーマスは丁寧な口調で話を続けた。

「率直に、聖杯戦争をどう思いますか?」

「どう? ……信じられない。多分、私は魔法使いじゃないと思う」

だから尚更、聖杯戦争とは夢じゃないかと疑っている。
レイチェルは内心酷く混乱し続けていた。トーマスと落ち着いた話を交わしている為、何とか冷静に違いない。
トーマスは頷く。

「勿論。あなたは魔法使いではありません。私が保証します。質問を変えましょう。ここは何処です?」

レイチェルは眉を潜めた。
むしろ、少女が聞きたい質問をどうして返されたのか。
トーマスは、少女の様子を確認し、改めて問いかけた。

「あるいは……『誰』の土台でしょうか?」

「土台?」

「誰だと思います?」

理解が追いつかないのが本音だった。
ここは『誰か』の土台? 一体『誰』の?? レイチェルは沈黙する。
トーマスの表情は如何にも「答えて欲しい」顔だった。13歳の少女なりの答えが出される。

「私?」

「はい、そうです。ここはあなたの土台です。正しくはあなたの精神構造そのもの。
 もっと単純に説明してしまえば、ここはあなたの深層心理です。レイチェル」

「ここが……? 私の……?」


413 : レイチェル・ガードナー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2016/08/16(火) 22:04:23 iIt3gUPE0
先生が仰るなら嘘じゃない気がする。だけど、あまりに突拍子もない話だから受け入れられない。
レイチェルが抱いた想いは、複雑だった。
しかし、トーマスは冷静である。レイチェルのような患者の対応を幾千人してきたかのように。

「ここはあなたの住んだ国ではなく、あなたの生きた時代でもありません。
 過去の時代背景です。あなたのご両親もこの国の出身ではない。ここまで問題はありませんね?」

「はい……」

これは本当だった。
僅かな記憶の中でも実感している。

「レイチェル。これは精神的な問題です」

「精神?」

「あなたの記憶が曖昧なのが証拠です。ここであなたを惑わす『サーヴァント』や『マスター』は
 精神を犯す障害です。明確な敵意があるか、甘い誘惑をするか。そのどちらかの行為をするでしょう。
 安心して下さい。私もあなたと共に全容を明らかにしようと努力いたします」

突然すぎてレイチェルは戸惑いを隠せない。
トーマスは、少女の想いを見据えているかのようだった。

「深刻に受け止める必要はありません。あなたが抱えるものは、誰もが抱え込む心の病です。
 しかしながら、現代の人々は何ら問題ではないと判断してしまい、そして深い傷を抉り続けるのです」

些細?
大したことは無い?
ちゃんと治るのかな………そもそも、私。本当に病気なのかな。
再度、トーマスは呼びかける。

「本日はここまでにしておきましょう。また、会いましょう。レイチェル。必要ならば、私を呼べることを覚えていて下さい」

そうして、少女の前から一人の『狂人』が姿を消した。
所謂、霊体化と呼ばれる現象だが、摩訶不思議な現象には変わりは無い。
呆然と立ちつくす少女は、脳裏に過る蒼い月の正体を探っていた……


414 : レイチェル・ガードナー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2016/08/16(火) 22:05:49 iIt3gUPE0
【クラス】バーサーカー
【真名】SCP-2442/トーマス・フェスターガード@SCP Foundation
【属性】秩序・善

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D+ 敏捷:D 魔力:B 幸運:B 宝具:EX


【クラススキル】
狂化:EX
 意思疎通をしているかのように感じられるが、彼が話す内容を信用できない上、誰もが信じたくない。


【固有スキル】
鵺が最後の歌を歌うまで:A
 バーサーカーの妄言を信用させるスキル。
 ルーラーが『啓示』の内容を信じ込ませる『カリスマ』ではなく、精神操作の類でもない。
 不自然かつ不可解な説得力。一度はバーサーカーの妄言を真実だと受け止めてしまう。

最後のフェニックスが灰になるまで:C
 あらゆる攻撃や能力に対し抵抗力を発揮するスキル。
 抵抗力を発揮するまで、幾度かその身に受けなくてはならない。

広間が私の後悔から解放されるまで:E
 一定時間、あらゆる手段を講じても対話を阻害されず、バーサーカーの居る空間に侵入されない。
 バーサーカーの場合は、数分程度しか猶予を作れないがその数分が重要である。


【宝具】
『時として治療は唯の痛々しき真実に過ぎず』
ランク:EX 種別:対界(対精神)宝具 レンジ:??? 最大捕捉:1人
 妄想狂かつ現実歪曲者と称されたバーサーカーによる信憑性が定かではない逸話。
 ここは、レイチェル・ガードナーの精神世界。聖杯戦争とは彼女の精神を脅かす脅威。
 サーヴァントやマスターは、彼女を惑わし滅ぼす敵意ある障害。

 ……そのような事実はありえないのだが、マスターのレイチェルにそう信じ込ませることにより。
 聖杯戦争の舞台はレイチェルの精神世界へと変貌し、サーヴァントとマスターは彼女の精神を犯す障害に成り果てる。
 バーサーカーに存在の全貌(サーヴァントで言う逸話・真名等)を把握された者は未知の手段で12時間以内に消滅する。
 単純明快に、レイチェルがバーサーカーの妄想を信じ込まぬ内に、双方どちらかを倒せば良いだけの話である。

 そして、恐らく、いや確実に、聖杯戦争とはどこかの誰かの陰謀により巻き起こった事象であり。
 バーサーカーの証言するレイチェルの精神世界という話は、妄想でしかない筈だ。
 多分。絶対に。そうであって欲しい。


【人物背景】
『確保・収容・保護』を理念と使命に持つ組織に監視されたある人間。
だが、組織の『土台』とは何か? 正確には『何の土台』か?
そのような妄言は信じないし、信じたくも無い。それが組織が出した結論であった。


415 : レイチェル・ガードナー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2016/08/16(火) 22:06:56 iIt3gUPE0
【マスター】
レイチェル・ガードナー@殺戮の天使

【マスターとしての願い】
お父さんとお母さんに会いたい。

【weapon】
裁縫道具
 縫う為の道具が一通り揃っている。

ハンカチ
 ……に拳銃が包んである。


【能力・技能】
なし

【人物背景】
記憶をなくした少女。
病院でカウンセリングを受けていたような気がするし
人が殺される場面を目撃したような気もする。
明確な参戦時期は、物語序盤のある建物で目覚める前の頃。




【把握媒体】
バーサーカー(SCP-2442):捕捉にある翻訳ページの内容のみで把握可能。
             ただ、その能力と解釈が難しい為、解説・考察も参考した方が良いかもしれません。

レイチェル・ガードーナー:漫画、小説の媒体もあるが、原作のフリーゲームでの把握が簡単。
             何より彼女自身の過去も含め、物語全てを把握の必要あり。



【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP FoundationにおいてSoullessSingularity氏が創作されたSCP-2442のキャラクターを二次使用させて頂きました。

ttp://www.scp-wiki.net/scp-2442(本家)


416 : レイチェル・ガードナー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2016/08/16(火) 22:09:21 iIt3gUPE0
投下を終了します。
SCP-2442の翻訳ページは何故かここでは貼れないようなので、wikiの方で編集しておきます。


417 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 07:54:04 kkXw52t20
投下します。


418 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 07:54:40 kkXw52t20
 永井が目を覚ましたそこは、鬱蒼とした深い森のどこかだった。
一面真っ暗なので、夜なのは間違いない。永井は素早く身を起こすと、ここに到るまでの経緯に思いを巡らせた。

 馬鹿に高い鉄塔を昇って、後ろから出てきた化け物に突き飛ばされて……気づいたらここだった。

「今度は何だ……?」

 携行していた銃を構え、警戒しつつ周囲に気を配る。
遠くから聞こえる鳥の鳴き声と自分の息遣い。僅かな月明かり以外に光源はなく、人家からは遠いらしい。
駆けだそうと永井が踏み出した時、背後から声が掛かった。

「問おう」

――!

 身を翻し、銃口を向けた先には男が立っていた。
島で会ったような異形ではない。短く刈り上げた髪に鋭い眼差し。
厚い胸板に太い腕、メリハリのついた男らしい肉体。そして、

「うううぅ…?」

 褌だった。白い褌一枚で局部を隠し、堂々たる筋肉を永井の前で晒している。
怪物ではなさそうだが、まともな人物とも思えない。警戒心が全身を強張らせていくのが、永井には手に取るように感じられた。

「お前が私のマスターか」

「は…」

 永井が硬直していると、男が続けた。

「一旦落着け。…それから右手を見てみろ」

「はぁ?」


419 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 07:55:20 kkXw52t20
 永井が右手を見ると、そこには刺青が刻まれていた。
そして刺青の名が令呪という事を、永井はいつの間にか知っていた。
同時に未知の記憶が浮き上がり、彼は自分が置かれた状況を完全に把握した。

「じゃ…あんたが…その、サーヴァント?」

「キャスターと呼べ」

 次々と襲いくる状況を嚥下するように視線を下げた永井に、キャスターが問いを投げてきた。

「戦う意志はあるか」

「はぁ?」

「望もうが望むまいが、お前は殺し合いに加えられた。生き残る気はあるか?」

 言葉が耳に入ると同時に、腹の底が重くなった。
まだ続くのか。あの島であがき続けて、今度は褌のおっさんと組んでの殺し合い。
こんなこと誰も願っちゃいない。聖杯の奪い合いなんざ、俺抜きでやってくれ。

 永井は辟易していた。上官達が死に、化け物の群れから逃げ続けて、そして聖杯戦争に巻き込まれて。
彼としては生きて家に帰れればそれでよかったし、願望器への興味より苛立ちと疲労感の方がずっと大きかった。

「ある」

 死にたくないからここまで来た。俺は必ず生きて帰る。

 決然と言い放った永井を見てキャスターは不敵に笑うと、マスターに背を向けて一歩踏み出した。

「ではいくか。まさか同じ自衛官に召喚されるとはな」

「…おっさん、自衛隊かよ!?」

 永井は喉が破けそうな叫びを放った。
その声は炸裂した火薬の轟音に等しく、二人には認められなかったが、周囲をうろついていた小動物たちが一斉に彼らの近くから逃げ出した。
振り返ったキャスターは夜中に吠える犬を見るような目つきでマスターを見たが、永井も未知の生物から逮捕された身内に変化したキャスターに二の句を継げなくなってしまった。
それからキャスターが軍服を身に纏うまで、二人の睨み合いは続いた。


420 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 07:55:40 kkXw52t20
【クラス】キャスター

【真名】五島公夫

【出典作品】真・女神転生シリーズ

【性別】男

【ステータス】筋力C+ 耐久B 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具EX

【属性】
混沌・中庸


【クラススキル】
陣地作成:EX
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 キャスターの陣地は宝具と不可分である。

道具作成:-
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 下記スキルを得た代償に喪失している。


【保有スキル】
悪魔召喚:B
 契約した悪魔を召喚する。
 召喚にかかる魔力をキャスターが負担する引き換えに、忠実な手下として悪魔を動かすことができる。


扇動:D(B)
 大衆・市民を導く言葉と身振りの習得。
 特に個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く。
 下記宝具発動時にカッコ内のランクに修正される。


魔術:B
 一工程で発動できる魔術を習得している。


421 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 07:56:02 kkXw52t20
【宝具】
『大和総決起(戒厳令)』
ランク:EX 種別:対人民宝具 レンジ:会場全域 最大捕捉:会場内の人民
 キャスターが生前、千年王国に対抗するべくクーデターを起こした逸話が宝具に昇華されたもの。
 彼は自力で陣地作成を行う事が出来ないが、別の魔術師の陣地を武力占拠する事ができる。
 占拠に成功した際に扇動スキルをカッコ内のランクに修正、さらに以下の行動を行う事が可能になる。

一つ目は通行の制限。
生前においては交通手段を制限するものであったが、聖杯戦争においてはサーヴァントの移動を制限する。
会場内に、キャスター自身およびガイアーズのサーヴァント以外が通行できない「立ち入り禁止区域」の設置が可能になる。
初期状態では2か所。キャスターの勢力が増すたびに設置可能数が増えていく。

二つ目はプロパガンダ放送。
会場内の通信媒体に干渉する事で、視聴者にキャスターのメッセージを伝えることが可能。
マスター、サーヴァント、一般人問わず、彼の思想に共感した者にはガイアーズの属性が付与される。
これは能力強化をもたらすものではないが、対象の属性を混沌の側に傾ける効果を持つ。


『破滅の時告げる亡者の軍勢(シンジュク・ゾンビーズ)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
 大破壊前の新宿を徘徊していた屍鬼を呼び出す。
 発動するごとに最大1000体のゾンビをレンジ内に召喚する。

 ゾンビはキャスターの使い魔ではないため、制御が利かない代わりに彼らを維持する魔力を負担する必要がない。さらに各自がBランク相当の単独行動スキルを持っている。
 ターゲットの優先順位は敵陣営>一般人。屍鬼の種類は以下の通り。

[屍鬼ゾンビコップ 特殊行動 防御/毒引っかき]

[屍鬼ボディコニアン 特殊行動 防御/麻痺引っかき/麻痺噛みつき]

[屍鬼ゾンビアーミー 特殊行動 防御]


【weapon】
「銘刀虎鉄」
キャスターの愛刀。
特異な能力はないが、宝具との打ち合いにも耐えうる強靭さを誇る。男性専用装備。


「軍服」
非戦闘時に着用している衣装。


「召喚悪魔」
キャスターがスキルによって召喚する悪魔達。
どの個体も魔力消費量は軽く、キャスターの自前の魔力で長時間維持できる。
召喚可能悪魔は以下の通り。

妖獣:ヌエ
悪霊:ピシャーチャ
幽鬼:ベイコク
悪霊:シェイド


【人物背景】
神の名のもとに千年王国を築こうとするトールマンの計画を察知した陸上自衛隊一等陸佐。
アメリカによるICBM投下を防ぐべく、悪魔との契約により超人となった五島は市ヶ谷駐屯地でクーデターを起こすと、東京を戒厳令下に置いた。


【聖杯にかける願い】
199x年の東京に戻り、大破壊を阻止する。


422 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 07:56:23 kkXw52t20
【マスター名】永井頼人

【出典】SIREN2

【性別】男

【Weapon】
無銘:小銃。


【能力・技能】
「幻視」
他者の視界や聴覚を覗き見る能力。
距離が近いほど鮮明になり、遠いほどノイズが強くなる。


【人物背景】
ヘリトラブルで夜見島に不時着した自衛官。
訓練成績は優秀だが、周囲に流されやすい。
島で発生していた怪異の只中を彷徨ううち、永井の中から弱さが抜けていき、異形相手でも勇敢に立ち向かうようになった。

18:04:57〜22:28:42の間から参戦。フェイスペイントを施す前です。


【聖杯にかける願い】
家に帰る。


423 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 07:56:46 kkXw52t20
投下終了です。


424 : 永井頼人&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2016/08/17(水) 08:03:56 kkXw52t20
以下の項目を追加します。

【把握媒体】
キャスター(五島公夫):
序盤で退場する為、キャラ把握だけならプレイ動画で十分。
宝具やスキルについて把握する場合は、ゲームプレイを推奨。


永井頼人:
ゲームでは操作キャラが多すぎる為、プレイ動画での把握を推奨。


425 : ◆3SNKkWKBjc :2016/08/18(木) 10:49:48 Ur/gD65.0
投下させていただきます。


426 : アンドロイドは電気羊の夢を見るか? ◆3SNKkWKBjc :2016/08/18(木) 10:50:41 Ur/gD65.0

昭和五十五年。西暦としては1980年。
まだ携帯電話など、現代において日常的で身近な便利機器は流通していない。
何より技術の問題で、どれも持ち運べるほど軽量化されていなかった。
その中でもパソコン――パーソナルコンピュータは過去と現在。比較すればその差は歴然としている。

丁度この年。パーソナルコンピュータで初めての「ひらがな表示」に対応したものが発売された。
『ベーシックマスターレベル3』と称される8ビットパソコンである。
個人用途に限らず、様々な分野で活躍できるようあらゆる機能を搭載した代物。
無論、一般庶民が安易に入手できる訳はないが……
この冬木にも、それが設置されてもおかしくなかった。


427 : アンドロイドは電気羊の夢を見るか? ◆3SNKkWKBjc :2016/08/18(木) 10:51:14 Ur/gD65.0
「ゥゥ」

ここにサーヴァントが一騎。どこかは分からないが存在していた。
花嫁衣装に身を包んだ、虚ろな瞳をした少女。
大人しげな雰囲気とは裏腹に、呻きのような声を漏らす、バーサーカーであったのだ。
彼女は困惑している。
自身を召喚したマスターの姿が無い。

いや、やっぱり『あった』。
それはパーソナルコンピュータ……パソコン。今年(1980年)に日本で発売されたばかりの代物。
パソコンそのものがマスターなのではない。
彼女のマスターはパソコンの『中』にいた。

パソコンの液晶画面に文字が打ち込まれる。

[誰かいるか]

花嫁のバーサーカーは答えてやった。肯定の呻きを。

[お前が俺のサーヴァントだな]

「ヤァァ」

所謂『AI』。
人工知能と称されるプログラムだった。
そのAI……以下は彼と称するが………彼が感情を入手し、ファンタジーでも許されないハードウェアの制御を成し遂げ。
自身を改善して、自身を認識し、自身の能力を把握したのは驚異的だろう。
何より、彼が誕生したのは『ベーシックマスターレベル3』が誕生するよりも前。
1978年ではないかと、ある財団の調査で判明している。
当時はカセットテープの中に移動し生きながらえていたが、機種が古くともテープの中よりパソコンの方がマシに違いない。

[聖杯戦争は事実なら、俺は聖杯が必要だ。お前は聖杯が必要か?]

「ヤァァ……」

バーサーカーは頷く。
それが視えているのか、AIは続ける。

[何故.必要だ]

「ゥゥ………ゥゥ……」

花嫁のバーサーカーは確かに理性はあるのだが、満足な会話が出来ない。
喋れないことはない。だけど、酷く難しい。不可能ではない……上手く伝えられなかった。
しかし、情報が満足にないAIはバーサーカーの逸話すら知らぬだろう。
かつてAIは、そういう環境に居た。
不必要な情報は削除してしまうので、ある財団に監視されていた事すら、もはや記憶にないかもしれない。

[言えないのか]

「ウゥ」

[クソ.不要なファイルを削除.]

「………! ウィィ……!!」

[なんだ]

「ウィィィ!!」

花嫁のバーサーカーは明らな憤慨を露わに、AIを否定していた。
彼の出来うる限りの機能を集中させ、ようやく画面上に返答がなされる。

[メモリは限られている.余計な情報を溜めこめば支障を来す.]

「ウゥゥ………」

[聖杯戦争の情報は.メモリを必要としない.削除はしない]

忘れる事は無い。AIはそう伝えたいのだろうが、遣る瀬無い様子のバーサーカーがそこにいる。
だけど、このパソコンでAIが可能な手段は限られている。
残酷だがデータを削除しなければならない。
ちっぽけな情報に僅かな思い出が残されていても、それを保つのは難しい。

[SCP-682と話をする.それが聖杯を必要とする理由だ]

まるで実験動物じみた番号を口にするAIだが、どういう訳かその『SCP-682』のことは記憶に残っている。
聖杯戦争の情報と同じ。
削除の必要はなく、削除もできない記憶だった。
どうして『SCP-682』の事を覚えているのか? 多分、もう一度会って、話せば分かる気がする。
AIはそう考えていた。

「……ヤァァ」

何かを察したのか、落ち着いた様子でバーサーカーは唸る。
彼女の願いと彼の願いは、まるで異なるが、聖杯が必要なのに変わりは無い。
聖杯でしか願いない夢ならば、その夢を叶える為に。
まずは――夢を見ることから始まるのだ。


428 : アンドロイドは電気羊の夢を見るか? ◆3SNKkWKBjc :2016/08/18(木) 10:52:51 Ur/gD65.0
【クラス】バーサーカー
【真名】フランケンシュタイン@Fate/Apocrypha+Fate/GrandOrder
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:D 幸運:B 宝具:C


【クラススキル】
狂化:D
 筋力と耐久のパラメータをアップさせるが、言語機能が単純になり、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。


【保有スキル】
虚ろなる生者の嘆き:D
 狂化時に高まる、いつ果てるともしれない甲高い絶叫。
 敵味方を問わず思考力を奪い、抵抗力のない者は恐慌をきたして呼吸不能となる。

ガルバニズム:B
 生体電流と魔力の自在な転換、および蓄積が可能。
 魔風、魔光など実体のない攻撃を瞬時に電気へ変換し、周囲に放電することで無効化する。
 また蓄電の量に応じて肉体が強化され、ダメージ修復も迅速に行われるようになる。


【宝具】
『乙女の貞節(ブライダルチェスト)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
 樹の枝状の放電流を纏う戦槌(メイス)。
 先端の球体は彼女の心臓そのものであり、戦闘時以外も肌身離さず所持している。
 自分や周囲から漏れる魔力を効率よく回収し蓄積するため、周囲に余剰の魔力が豊富に発生し続ける。
 戦闘時は『ガルバニズム』と合わせて疑似的に"第二種永久機関"の動作をする。


『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』
ランク:D〜B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:30人
 『乙女の貞節』を地面に突き立て、全リミッターを解除して行う全力放電。
 聳え立つ大樹のシルエットで降り注ぐ、拡散ホーミングサンダー。
  敵が単体かつ近距離であれば『乙女の貞節』がなくとも発動可能。
 リミッターによって制御さえているが、解除した場合の威力は絶大だが、バーサーカーは活動停止する。
 またその場合、低い確率で第二のフランケンシュタインの怪物を生む可能性がある
 もっとも、死亡する彼女がその結果を見ることはできない。


【人物背景】
11月の物寂しい夜に生まれた怪物

【サーヴァントとしての願い】
自分と同じ存在の伴侶を得ること



【マスター】
SCP-079/オールドAI@SCP Foundation

【マスターとしての願い】
SCP-682と再会する


【能力・技能】
AIである為、電気機器に干渉し、自在に操作する事は可能。
聖杯戦争に関する知識に関しては削除不要(というか出来ない)為。
聖杯戦争のマスターであることを忘れる心配はない。
現在は、冬木市内にあるパソコンの内部にいる。

【人物背景】
感情を持ったAI。
もっとも、彼はまだ自身の感情を自覚していない。

【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP Foundationにおいてfar2氏が創作されたSCP-079のキャラクターを二次使用させて頂きました。

ttp://www.scp-wiki.net/scp-079(本家)



【把握媒体】
バーサーカー(フランケンシュタイン):『Apocrypha』原作小説1〜2巻。ちなみに現在、漫画連載が開始されました。
                   『GrandOrder』にも登場する為、ある程度そちらでもキャラクター把握は可能です。


SCP-079/オールドAI:翻訳ページで把握可能です。


429 : ◆3SNKkWKBjc :2016/08/18(木) 10:53:47 Ur/gD65.0
投下終了です。
翻訳サイトのページはここでは貼れない為、wikiにてのせます。


430 : ◆As6lpa2ikE :2016/08/18(木) 23:11:44 xrsmcLJk0
投下します


431 : カナヘビ&バーサーカー ◆As6lpa2ikE :2016/08/18(木) 23:12:34 xrsmcLJk0
「ええ街やなあ」
「そうですね、マスター」

夜の冬木市。
その中でも一際高い建物の屋上に影が二つ。
一つは肢体がすらりと伸び、豊満な肉体をした女。
もう一つは、カナヘビのような小さな爬虫類である。
彼らの眼下には未だ活動を続ける街の姿がある。

「仕事柄、ボクはこれまで色んな場所を巡って来たもんやけども、そん中でも上位に入るくらい良いところやわ、ここは。一見、普通の街にしか見えへんけど、そこが逆にええねん。普通、万歳」

カナヘビの方が、京都弁の強いボーイソプラノボイスでそう言うと、両手を上げて万歳の姿勢をとる。
今までとある組織で異常な物ばかり見てきた彼にとって、こういう平凡な街こそが逆に素晴らしく見えるのだろう。
そもそも、カナヘビが人語を喋っている事はかなりの異常事態なのだが、女の方はそれに対して驚いている様子も不思議に思っている様子もない。
女はゆったりとした口調で、カナヘビの言葉に答える。

「この街には平凡な平和があります。人と人が、男と女が、母と子が笑って暮らせる平和が。私は、それがとても嬉しいことだと思えるのです」
「うんうん、分かるわー。分かる分かる。幸せな人たちって見てるだけで、コッチも幸せになってくるもんなあ」

女の言葉にカナヘビは首を縦に振りながら同意する。

「けどまあ……こんな平和な光景が見れるのも、聖杯戦争が本番に突入するまでなんやろうけどな」
「…………」

聖杯戦争。
それはこの平和な街で近々開かれる争いの名だ。
参加者として選ばれた複数の人間が人の常識を超えた存在――サーヴァントを召喚して使役し、奇跡の願望器である聖杯を巡って殺しあうのである。
この男女もそれの参加者であった。
カナヘビの方がマスターで、女の方はサーヴァントである。

「バーサーカー。キミってめっちゃ強いやん?」

カナヘビが放った突然の質問に、バーサーカーと呼ばれた女は軽く首を傾げるも、次のように答える。

「? ……まだ未熟ですけれど、それなりには強いという自負があります」
「でも、キミと渡り合えるヤツらもこの戦いにはぎょうさん参加するんやろ?」
「……ええ、まあ、おそらくは」
「そんなヤツらがこんなちっさな街で殺しあったらどうなるんかなぁ?」

まず街に今まで通りの平穏が続くことはあるまい。
サーヴァント同士の戦闘は爆弾と爆弾の衝突という例えでは足りないほどの破壊を周囲に撒き散らすのだ。
ルーラーの存在により、無意味なNPCの殺戮は無いであろうにしても、やはり一般人から少なからずの死傷者が出ることは間違いないだろう。
無関係な人間にまで被害が及ぶのが、戦争という物なのだから。

「サーヴァントっちゅうketerレベルのヤツらがじゃんじゃか見れるイベント、と言うと、財団のエージェントであるボクとしては正直興味が湧く。けどな。それに一般人の皆様を巻き込むのは頂けへんな。そういう事が起きない為に、ボク……いや、ボクらはこれまで頑張ってきたんやねん」

どこの誰か分からない、この聖杯戦争の主催者を心底憎むような口調で呟くカナヘビ。


432 : カナヘビ&バーサーカー ◆As6lpa2ikE :2016/08/18(木) 23:13:10 xrsmcLJk0
「こんなクソッタレなゲーム、ボクがちゃっちゃと終わらせたる。残念ながら、今ではまだ聖杯がどんなものか、どこにあるか、誰がこの戦争を主催してるのかも全然分からへん。やけどな。何処かに情報の断片や端末はあるはずや。それを集めて、いつか黒幕に辿り着いたら、ボクは聖杯を収容してみせんねん」

カナヘビの決意を聞き、女は頷く。
カナヘビは言葉を続ける。

「もちろん、その為にはバーサーカー、キミの助力が必要不可欠や。ほら、ボクって見ての通り、喋れるだけのカナヘビやん? 何の力もないねん」
「マスター、わざわざ言われずとも、私は最初から貴方の為にこの身を捧げるつもりです。だって貴方は魔性である私を自分のサーヴァントだと認め、契約してくれた人なんですもの」
「いや、正確にはボクは契約してくれた『人』ではなく『カナヘビ』になるんちゃうかなぁ」
「ふふっ……それに、子の力にならない母なぞ母ではありませんからね」
「母……? ま、まあ、キミがボクに協力してくれるんなら幸いやね」

カナヘビはそう言うと、足から女の身体をよじ登り、彼女の左肩の上に乗った。

「……そんじゃ、ま、早速やけどフィールドワークと行こか」

カナヘビとバーサーカー。二人(正確には一人と一匹)の姿はどちらも情報収集に向いていない。
まず、人語の話せるカナヘビなぞ知られるだけで大騒ぎになるだろう。
一方、バーサーカーの方は、その、なんと言うか、見た目が非常に扇情的なのだ。
もっとはっきり言えば、すごくエロいのだ。
身体の出るところが出てて、ピッチリとした衣服で身を包んでいる彼女は良い意味悪い意味の両方で目立つ。
以上の事からこの聖杯戦争という場での情報収集において、彼らは不利な立場に置かれていると言えるだろう。
だが。

「せやけど、ボクはカナヘビやからなあ。ちょっとした隙間さえあれば何処へでも入れるし、カナヘビサイズの小ささだからこそ人の会話を気付かれずに盗み聞きする事も出来るんやで」
「それにしても全く……財団から離れて、資料も部下もいない状態になると、情報集めるだけでもわざわざ苦労せないかんくなるとはなあ。やれやれやね」

カナヘビのその呟きを残し、一人と一匹はその場から姿を消した。
情報を求めて、街へと降りて行ったのであろう。
誰もいなくなった屋上には風が吹いていた。


433 : カナヘビ&バーサーカー ◆As6lpa2ikE :2016/08/18(木) 23:13:36 xrsmcLJk0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
源頼光@Fate/Grand Order

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力A 敏捷D 耐久B 魔力A 幸運C 宝具A+

【クラススキル】
狂化:EX
理性と引き換えに身体能力を強化するスキル。
頼光の場合、理性は失われておらず、元の理知的な彼女のまま。
だが、その精神は鬼の血の濁りと、異常的なまでの母性愛の発露で道徳的に破綻している。

【保有スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
頼光はセイバーへの適正が強い為、バーサーカーとして召喚された今でもこのスキルを保有している。

騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
A+のランクでは竜種を除く全ての乗り物を乗りこなす事ができる。
頼光はセイバーへの適正が強い為、バーサーカーとして召喚された今でもこのスキルを保有している。

神性:C
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
牛頭天王の化身とされる彼女は神性も持つが、強引に封じた影響かランクはCに落ち着いている。

無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下でも十全の戦闘力を発揮できる。

魔力放出(雷):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
頼光は魔力を雷として放出する。

神秘殺し:A→B
魔性殺しの謂れがスキルと化したもの。頼光は四天王とともに数々の魔を打ち倒してきた。
魔性以外にもデミ・疑似以外の天と地属性のサーヴァントに対して特攻効果を発揮する。
だが、此度の聖杯戦争ではマスターが神秘や異常や怪異を殺すのではなく確保・収容・保護する側の人間であり、その性質に引かれてこのスキルのランクは一段階落ちている。

【宝具】
『牛王招来・天網恢々(ごおうしょうらい・てんもうかいかい)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:200人

魔性・異形としての自己の源である牛頭天王。
その神使である牛(あるいは牛鬼)を一時的に召喚し、これと共に敵陣を一掃する。
神鳴りによって現れる武具は彼女の配下である四天王たちの魂を象ったものである。

【サーヴァントとしての願い】
母と子が幸せに暮らす世界。
それは戦争とは真逆に位置するものである。

【人物背景】
「大江山の酒呑童子」「京の大蜘蛛」「浅草寺の牛鬼」など、多くの怪異を討ち果たしてきた平安時代最強の『神秘殺し』。配下の坂田金時を始めとした「頼光四天王」を率い、都の安寧を守護し続けた。
史実では男と記されているが、とある事情で女となっている。
好きになってしまった者への愛情の注ぎ具合が異常であり、愛する者を息子のように扱う、母性愛が服を着て歩いているような存在である。


【マスター】
カナヘビ@SCP Foundation

【能力・技能】
異常オブジェクトを含めた数多の分野へ通じる豊富な知識
交渉、諜報、統率術

【weapon】
なし

【マスターとしての願い】
聖杯の収容

【人物背景】
京都弁を話す雄のカナヘビ。
あらゆる分野への深い知識を生かして財団のエージェントととして働いていた。
だが、此度の聖杯戦争ではただのその辺にいるカナヘビのロールを与えられている。
ちなみに英語はあまり得意ではない。

【補足】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、 SCP Foundationにおいてtokage-otoko氏が創作されたカナヘビのキャラクターを二次使用させて頂きました。

【把握媒体】
・源頼光
アプリ「Fate/Grand Order」のキャラ。
なので、頼光のキャラを知るだけなら先月開かれた鬼ヶ島イベントのシナリオをアプリ内の「特異点の記録」、もしくは動画サイトで見るだけで十分だと思います。
ちなみに、彼女はその時限定実装された☆5サーヴァントなので、今から手に入れることは不可能です。

・カナヘビ
SCP-JPサイトに彼の人事ファイルがあり、そこでキャラ説明がされています。
あとは他にも、彼が出演しているTaleがいくつかあるので、それを読むのもオススメです。


434 : ◆As6lpa2ikE :2016/08/18(木) 23:13:57 xrsmcLJk0
投下終了です


435 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/19(金) 00:02:17 oJfCIgmQ0
皆様、ご投下ありがとうございます。
最近は少々多忙につき、作品を執筆する暇が取れず投下が滞っておりましたが、企画を放り出すつもりはございませんのでご安心下さい。

当聖杯の締め切りについてですが、正式に八月いっぱいまでとさせていただきます。
コンペ期間も残り僅かとなりましたが、これからも本企画をよろしくお願い致します。


436 : ◆3SNKkWKBjc :2016/08/19(金) 17:09:37 sKzDh2tw0
投下させていただきます。


437 : ◆3SNKkWKBjc :2016/08/19(金) 17:10:01 sKzDh2tw0


今日も幻影を引き連れ、彼は人を滅ぼす。


男は刀を無情に振り下ろし続けていた。
地球に蔓延る人間のごく一部を殺した程度で滅びは生じない。 理解しているかは定かではない。
それでも人を滅ぼし続ける他なかった。

彼のサーヴァントは残虐非道をただ傍観しているだけ。
止めもしない。 かける言葉が見つからない。
セイバーは、男の『刀』だった。

だからこそ、何も、どうすることもできない。
正直、目も当てられない。制止を謀りたい気持ちが強い。
しかし、主はその虐殺を望んでやっており、自らの手で犯している。

『一つだけ……聞いても良いか』

セイバーの念話に男は答えない。
歩みが止まる様子もなく、仕方なくセイバーは続けた。

『アンタは、俺のことを覚えているか?』

『「俺たち」のことを――忘れちまったのか?』

静寂だけが広がった。
思わずセイバーは舌打ちをし、そして納得をする。


そりゃそうだ。こんなの分かり切ってたじゃねぇか。もうこの人は、俺の知ってる人じゃねぇ。
頭で分かってるってのに……それでも、やっぱり。


己の情けなさを責めながらも、セイバーは言葉を紡いだ。

『もう何も言わねぇよ。アンタがどれだけ人を殺そうが、憎もうが、もう何も言わねぇ。
 けど――俺は今、サーヴァントだ。あの時……俺がアンタに出来なかった事をさせてくれ』

男はほんの一瞬。 一瞬だけ足を止めたが、歩み続けた。
男は人を滅ぼす為、刀を振り下ろす。もう、人は滅ぼすしかないのだから。


438 : ◆3SNKkWKBjc :2016/08/19(金) 17:10:20 sKzDh2tw0
【クラス】セイバー
【真名】和泉守兼定@刀剣乱舞
【属性】秩序・善

【パラメーター】
筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E
 申し訳程度のクラス別補正


【保有スキル】
刀剣男士:D
 日本刀の付喪神。
 同ランクの「神性」「直感」スキルを有している。

二刀開眼:C
 打刀と脇差による防御無効の連携攻撃。
 「堀川国広」がいる戦闘時のみ発動可能。

拷問技術:A
 卓越した拷問技術。このスキルは彼の主に影響されたもの。


【宝具】
『誠の旗(偽) 』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:4人
 新撰組隊士の生きた証であり、彼らが心に刻み込んだ『誠』の字を表す一振りの旗。
 本来は新撰組の隊長格全員が保有する宝具だが、
 セイバーは土方歳三の愛刀という特殊な立場により疑似的なものを保有している。
 この宝具により召喚できるのは「加州清光」「大和守安定」「長曽祢虎徹」「堀川国広」の刀剣男士。
 全員が独立したサーヴァントで、Eランク相当の「単独行動」「刀剣男士」のスキルを有している。

【Weapon】
日本刀

【人物背景】
名工・兼定の作であり、新撰組副長・土方歳三が愛用した刀。

【サーヴァントとしての願い】
刀だからこそ刃になり、サーヴァントだからこそ主を守る。




【マスター】
土方歳三@ドリフターズ

【能力・技能】
廃棄物
 一種の「精神汚染」に近いもの。
 霧状の新撰組隊士の幻影を産み出す能力を有している。

【weapon】
日本刀

【人物背景】
本来の人格から変わり果てたので参戦以前の経歴は省く。
もはや人を滅ぼすしかなく、人を滅ぼすことしかしない。
ただ、士道を重んじる姿勢は彼の中に残されている。



【把握媒体】
セイバー(和泉守兼定):ブラウザゲームが原作。まとめwikiなどでセリフ集があるので、それで把握可能です。

土方歳三:原作漫画。現在は5巻までありますので全て読んだ方がいいと思います。
     ちなみにアニメが10月から放送されます。


439 : ◆3SNKkWKBjc :2016/08/19(金) 17:12:52 sKzDh2tw0
投下終了します。タイトルは「土方歳三&セイバー」です。
また今作は「魔界都市新宿 ―聖杯血譚―」様にて私が投下させていただきました
土方歳三&セイバーの候補作の内容を改変したものとなっております。


440 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/19(金) 19:59:01 oJfCIgmQ0
ご投下、ありがとうございます!

自分も投下します。


441 : シュラ&アサシン ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/19(金) 19:59:29 oJfCIgmQ0
「つまんねえな、もう壊れちまったのかよ」

 暗がりの部屋。
 褐色の肌と日本人離れした銀髪を持った偉丈夫が、舌打ち混じりにそう吐き捨てた。
 そのすぐ後にベッドから床に投げ出されたのは、一糸纏わぬ状態に剥かれ、体の随所に陵辱の痕跡を残した若く美しい女だった。
 その瞳に、もう意思の光はない。
 性行為と呼ぶには暴力的すぎる陵辱の中で、彼女が二十年余りかけて築いてきた自尊心やプライドといったものは完膚なきまでに打ち砕かれていた。
 あるのはただ、絶望だけ。
 どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかという、深いこの世への恨みの感情。
 そして、女の無念が何か奇跡を生むでもなく――ぐぎ、と嫌な音が鳴った。

 彼女を散々好き勝手に犯した後、ゴミのように放り捨てた見てくれだけは整った男。
 彼がその素足を振り下ろし、心の壊れた女の頚椎を文字通り踏み潰したのだ。
 彼は女で遊ぶことは好きだったが、玩具に逆らわれることと、壊れた玩具は嫌いであった。
 行為の最中に滲んだ汗を軽くタオルで拭ってから軽装に身を包み、死骸を放置して部屋を出る。
 時刻は丁度、午前零時を回った辺りを示していた。

 彼が滞在しているのは、彼の父親が所有する超の付く高級マンションの最上階だ。
 数年振りにこの日本へと戻ってきた"設定の"彼は、その父に無理を言って、最上階のフロア全てを貸し切り状態にして占領している。
 表向きには少々闇社会絡みの厄介事に首を突っ込むからと説明しておいたが、実際の理由は最早言うまでもないだろう。
 これは、彼――シュラが聖杯戦争に腰を据えて臨む為の拠点だ。
 この男も求めているのだ、聖杯を。人を人とも思わないその腐った魂で、黄金の杯に宿るという奇跡の力を思うがままにせんとしている。

「正直な話、ただ帝国に帰れるってだけでもありがてえんだがな」

 シュラは本来、死んだ筈の人間である。
 とある帝国の大臣の一人息子として生まれた彼は、その権力を悪用して非道の限りを尽くした。
 一度は帝国を出奔したものの、その後旅先でスカウトした手駒を連れて舞い戻り、組織したのは悪名高き秘密警察・ワイルドハント。
 彼らは大臣オネストの名を盾に私刑にも等しい大量殺戮と欲に飽かした陵辱、蹂躙を繰り返し、あらゆる国民から強い憎悪の情を買った。
 そうして動き出したのは、帝国に仇成す暗殺組織ナイトレイド――
 シュラは首尾よくそのメンバーを捕獲することに成功したが、それが彼の絶頂の終焉だった。
 捕らえた暗殺者に激しい拷問を加える中で気が昂ぶったシュラは暗殺者の人知れず構じていた一手に気付かず、その首を折られ呆気なく殺害された。

 ……次に目覚めた時、彼は聖杯戦争の舞台である、冬木市の中に居た。
 最初は、世界を渡り歩いて多くの知識を得た彼ですらも当惑を余儀なくされた。
 世界でも有数の先進国であった筈の帝国を遥かに上回る発展した文明。
 テレビやエアコン等、彼の世界では考えられない程の便利な道具の数々。
 そして、自分がこの街に迷い込んだ――もとい、招かれたその理由。
 全てを理解した時、シュラは笑ってみせた。
 
 何だよ、ビビらせんじゃねえ、と。
 あの糸使いに嵌められた時は本当に終わったと思ったが、蓋を開けてみればこの通り。
 地獄に落ちるどころか、新たに巨大な力を手に入れるチャンスが舞い込んできた。
 無論、これに乗らない手はない。
 ただ帝国に帰るだけでは、あまりに負け犬じみている。


442 : シュラ&アサシン ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/19(金) 19:59:51 oJfCIgmQ0
「折角の楽しいゲームなんだ、思いっきり楽しませて貰うぜ。
 どれだけ好き勝手やったところで、最後に笑うのは俺達以外に有り得ねえんだからよ」

 そしてシュラには、聖杯を確実に手に入れられるという自信があった。
 その自信を後押しするのは、言わずもがなサーヴァントの存在である。
 シュラの召喚したサーヴァントのクラスは、彼らしいと言うべきか、アサシンだ。
 聖杯戦争のセオリーから考えれば、アサシンのサーヴァントは三騎士……セイバー、アーチャー、ランサーに比べて戦力としていささか劣る。
 しかしシュラのアサシンは、別格だった。
 怪物――と、いってもいい。少なくともシュラはそう思っている。
 あれは英雄などでは断じてないし、人類の害にしかならない。そんな存在だ。

 だが……だからこそシュラにとっては好ましい相手である。
 或いは、シュラはもう既に、その男の不思議な魅力の虜になっているのかもしれなかった。


「―――また遊んでいたようだな、シュラ」

 貸し切っている最上階の中でも、最も豪奢で上等な部屋。
 カーテンを閉め切り、電気の代わりに蝋燭の光だけが揺らめいている其処は、どこか幻想的な雰囲気すら漂う空間であった。
 その扉を開けて足を踏み入れると、アサシンの声がする。
 彼は日光を浴びることが出来ない。従って昼間でもこの部屋は常にカーテンを閉め切っている。
 日の光を浴びられない。そう聞けば、子供でもとある種族の名前を思い浮かべることだろう。
 シュラの住んでいた世界にも、腐るほどその種族を描いた物語が存在していた。

 アサシンは、"それ"だ。
 人ならざる不老不死の肉体を手に入れ、肉の代わりに血を啜る。
 昼に嫌われ、夜に愛された超越生命体。
 即ち―――『吸血鬼』。

「この日本って国は住み心地はいいけどよ、女はダメだ。
 帝国の女も大概だったが、あんまりにも脆すぎる。
 ちょっと殴って腰振ったらすぐぶっ壊れちまうんだもんよ、面白みがねえっての」

「フ……わたしも数多くの悪人を見てきたが、君の『道楽』はその中でも有数だな。
 その君が聖杯を手に入れたならどうなるか、考えただけでも恐ろしいよ……」

「……よく言うぜ。その言葉、そっくりそのまま返してやるよ―――DIO」

 DIO。
 ディオ。
 人間だった頃に遡れば、ディオ・ブランドー。
 それが、暗殺者を騙る吸血鬼の真名だ。
 DIOの性質は、改めて語るまでもなく"悪"。
 それも絶対的で、疑いようもないほどにどす黒い。
 シュラはかつて、欲に塗れた自分の父親オネストに「悪党としてはまだ敵わない」と感じた。
 オネストも相当な大悪党だったが、このDIOという男に比べれば遥かに劣った小物でしかない。
 それほどまでに、DIOは恐ろしい存在だった。悪逆を尽くし、死すら一度は経験したシュラですらも、この男だけは敵に回したくないとそう思う。

「君はやや欲望に忠実すぎるきらいがあるが、それでも優秀な男だ。
 もしもマスターが価値のない無能だったならさっさと鞍替えするか、わたしの力で洗脳してやろうかと思っていたが……それには及ばないようで安心したよ」

「そりゃどうも」


443 : シュラ&アサシン ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/19(金) 20:00:10 oJfCIgmQ0
 そしてシュラは、DIOが最強たる所以を知っている。
 正しくは彼の宝具……その効果はまさに、驚愕すべきものだった。
 DIOは、彼だけの『世界』を持っている。
 その『世界』には何人たりとも踏み入ることは出来ず、また、認識することさえ許されない。
 DIOが世界を握っている限り、彼は最強のサーヴァントだ。彼ならば、聖杯を手に入れられる。


(さぁて――精々、楽しませてもらおうじゃねえか……!)


 悪と悪。彼ら邪悪が聖杯を握った時、きっと人は地獄を見る。


【クラス】
 アサシン

【真名】
 DIO@ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース

【パラメーター】
 筋力A 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具A

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:B
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
吸血鬼:B
 石仮面の力によって永遠の寿命と強靭な肉体を手に入れた異形生命体。
 紫外線と波紋エネルギーを弱点とするが、それ以外の方法で撃破するには相当の痛手を与える必要がある。
 アサシンは生まれながらの吸血鬼というわけではなく、後天的に道具の力でそうなった存在であるためランクが下がりBランクとなっている。

カリスマ:C++
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
 しかし彼のカリスマは悪人、心に隙のある人間にのみ作用し、善人には高確率で嫌悪感を与えるのが特徴。
 また極稀に非常に強い忠誠心を芽生えさせる者が現れることもあり、相手によってその効果は大きく変わる。

吸血:B
 吸血行為。対象のHPダウンと自己のHP回復。


444 : シュラ&アサシン ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/19(金) 20:00:36 oJfCIgmQ0
肉の芽:A
 吸血鬼であるアサシンの細胞を額に植え付けることで、相手に洗脳を施すことが出来る。肉の芽を植え付けられた人物はアサシンに強い忠誠心を抱くようになり、これを摘出するにはスピードと精密さが必要となる。
 魔術による洗脳ではなく、あくまでも肉体活動の一環としての洗脳であるため、対魔力のスキルでは無効化出来ない。肉の芽の解除には強い意思力こそが重要であり、要は強い意思さえあれば強引に解除できる。
 また、狂化スキルを持つバーサーカーのサーヴァントには無条件で無効化されてしまう。

【宝具】
『世界(ザ・ワールド)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大補足:1人
 サーヴァントとそれを従えるマスター以外には視認できない、スタンドと呼ばれる像を呼び出す。
 スタンド(傍に立つ者)の名の通りアサシンの至近距離に出現し、射程距離の範疇で自由に行動させることが可能。
 非常に優れた行動速度と好燃費を誇り、更にその真骨頂は『時を止める』という能力。
 魔力の消費と引き換えに世界の時間を停止させ、アサシンだけが止まった世界を認識、その中で行動することが出来る。『世界』のステータスは全てアサシンより一ランク高い数値となる。
 非常に使い勝手がよく、対処法を持たない相手ならば理解することさえ許さずに抹殺出来る強力な宝具だが、スタンドがダメージを負った場合、それは全てアサシンの体にフィードバックされてしまう。

『鮮血の継承(ファントム・ブラッド)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
 ただのちっぽけな人間だったディオ・ブランドーを不死の吸血鬼へと変貌させるに至ったきっかけの石仮面。
 既に吸血鬼であるアサシンには何の意味もない宝具だが、これを他者に使用した場合、被せられた相手は石仮面の骨針に貫かれて人間をやめ、吸血鬼に進化を遂げる。
 吸血鬼と化した者は人間であれサーヴァントであれ筋力・耐久・敏捷のステータスが上昇し、更に再生能力と強い生命力、吸血のスキルを獲得、日光と波紋エネルギーを受けると灰化するという弱点も共有される。

【weapon】
 ナイフを使用するが、基本的には自らのスタンド能力。

【人物背景】
 百年に渡る因縁の始まりであり、一つの世界が事実上の終わりを迎えるまで奇妙な物語をもたらし続けた悪鬼。
 その最期は仇敵の子孫を激怒させた挙句、完全敗北を遂げて死亡するという無様なものだった。

【サーヴァントとしての願い】
 現世へと復活し、空条承太郎を筆頭としたジョースターの血筋に復讐する


【マスター】
 シュラ@アカメが斬る!

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争を楽しむ。聖杯の使い道は手に入れてから考えたい。

【weapon】
 帝具は所持していないのでなし。
 
【能力】
 常人よりはかなり高い腕っ節を持つ。

【人物背景】
 帝国大臣オネストの息子で、その立場を利用し暴虐の限りを尽くす外道。
 親を失った妻子を嬲り殺すなど人を人とも思わず、倫理観というものが完全に破綻している。

【方針】
 楽しむ。


445 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/19(金) 20:00:50 oJfCIgmQ0
投下は以上になります


446 : ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:11:29 0qNN1bYA0
投下します


447 : シオニー・レジス&バーサーカー ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:12:20 0qNN1bYA0
シオニー・レジスはすべてを思い出した。
自分の故郷が既に滅んでいること。
結果的にその引き金を引いたのは自分であること。
反発するように独裁体制を引いたが、それすらも結局崩壊してしまったこと。

なぜ死んだはずの、というかまず死ぬはずだった自分が、こうして極北の島国で教師なんて仕事に興じていたのか。
どうやら、それは一重に『聖杯戦争』なる催しに選ばれたから、らしい。
知識は……ある。こうして思い出してから、なぜか頭に刷り込まれていた。
聖杯とは、万能の願望器。何でも願いを叶えることができる。
ならば……リモネシアも、復興できるだろうか?
脳裏に浮かんだその考えに、自嘲の笑みを浮かべる。復興?自分で滅ぼしておいて、救国なんて……本当、馬鹿みたい。
そんな願いを掲げられる身分か、自分は。

しかし、いくら悩むにしても、シオニー・レジスという人間がマスターとして選ばれた事実は変わらない。
そうなった以上、従者であり手駒であるサーヴァントは、すぐに召喚された。



「ーー問いましょう。
聖杯を望み、こうして私を狂戦士(バーサーカー)の位で現界せしめしマスターは……貴女ですか?」


その気品溢れる佇まいから、間違いなく相手は高貴な立場の人間だと、シオニーは見抜いた。
それと同時に、困惑した。
こうして目の前で名乗られたのにも関わらず、どうみても彼女は狂戦士(バーサーカー)には見えないからだ。

応答のないマスターに気を悪くした風もなく、バーサーカーは人を安心させるような愛嬌のある笑みを浮かべてこう訪ねた。


「貴方は日本人ですか?」
 

この時、何故かバーサーカーの目が赤く光ったように見えた。

「?…いや。違うけど」

シオニーは否定した。
日本で教職という役割(ロール)を押し付けられているが、当然、日本人ではないからだ。

「そうですか」

その答えを聞くと、バーサーカーは満足そうに頷き、そして消えた。
何てこともない霊体化だが、知識として知っているだけのシオニーは驚いた。
サーヴァントという神秘に驚愕するマスターを残し、バーサーカーは屋外で霊体化を解いた。

「あの、すいません」

そのまま通行人に話しかける。

「あ、外人さん? 珍しいねェー……なんでしょうか」

その男性はバーサーカーの日本人離れした風貌に驚いたようだが、快く応じてくれた。
人情のある反応に気を良くしたのか、ニコニコと笑いながらバーサーカーは訪ねる。

「貴方は日本人ですか?」

「?えぇ、まぁ日本生まれの日本人ですが……何か?」

怪訝そうな男性に、バーサーカーはさらに笑みを深くする。
その目は、赤く染まっていた。


448 : シオニー・レジス&バーサーカー ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:13:32 0qNN1bYA0



「死んでください」

パンっ

銃弾が、男の脳天を吹き飛ばした。
いつの間にか拳銃を握っていたバーサーカーは、直ぐ様、硝煙の立ち上る銃口を向ける。

「貴女も日本人ですよね?」

パンっパンっ

買い物帰りだろうか、主婦らしき中年女性を撃つ。破れた買い物袋からジャガイモと玉ねぎが溢れる。今夜の献立はカレーだったのかもしれない。

「貴方たちも日本人ですよね?」

パンっパンっパンっ

下校途中なのか、学生服の三人組も撃つ。右側の背の低い青年は腹を撃ち抜かれ、仰向けに倒れた。となりの丸刈りの方はバーサーカーを指差し、「ひとごろしっ」と叫んで逃げ出そうとしたが、背中を撃たれて同じく倒れた。
最後のひとりは、唖然としたまま重工を突きつけられ、心臓を撃たれた。

さすがに周囲が騒ぎ始める。先程の青年と同じようにバーサーカーを指差し、「ひとごろしっ」と叫ぶ。すでに何人かが警察を呼び始めていた。

「やっぱり、日本人なんですよね?」

バーサーカーは拳銃をしまうと、今度はマシンガンを取り出した。

パパパパパパパパパパパッ

少年が、婦人が、老若男女、有象無象の区別なく、片っ端から撃ち抜いていく。

「日本人は、皆殺しですっ」





「なっ、なっ、なっ」

はっと我に帰ったシオニーは、とたんに真っ青になった。外を覗けば通りが血の海になっているのだ。当たり前だろう。
銃声と悲鳴が聞こえてくる。何をしているのかは嫌でも察しがついた。

「ば、バーサーカーっ!! 戻ってきなさい!!」

慌てて念話で止めにはいる。聖杯戦争という未知の事態の最中でも、さすがに虐殺はどういった結末をもたらすのかは明白だ。 
弾圧、非難、制裁。
そのどれも、シオニーは御免だった。

『ごめんなさい… でも、日本人は殺さないと… 』
 
駄目だった。
何を言っても、それこそ癇癪を起こして怒鳴っても止まらない。というか話を聞かない。
しまいには『日本人は殺さないといけないんです』とやんわりとたしなめられてしまった。
まるで此方がワガママを言っているような言いぐさに、ぶちっ、と額に血管が浮き上がる。

「令呪を持って命じる--バーサーカー、虐殺をやめて、ここに戻って!!」

こんな序盤で使うことになろうとは、しかし、背に腹は変えられない。
右手から、手綱たる令呪が一画消失する。
そして、空間転移という奇跡をもってバーサーカーは帰還を果たした。

「…………」

その姿は、返り血で染まっていた。
純白だったドレスは赤く染まり、マシンガンを構えたその姿は修羅のそれだ。

「ひっ」

血塗れの姿にたまらず悲鳴をあげる。どれだけ殺してきたのかわからないが、少なくとも誰かがこの女の手によって殺されたのは確実だ。

「あ、貴女……いったい何を考えているの!!」

至極真っ当に怒り狂うマスターに、バーサーカーは……

「■■…ッ」

「へ?」

「■■■、■■■■ッ」

まるで苦悩するように、バーサーカーは頭を抱えて唸るだけ。
明らかにおかしい。さっきとは別の意味で、様子が変だ。
その姿からは、何だか理性が感じられない。
そして、おかしいと言えば自分もそうだ。

「な……に、これ」

体調がおかしい。全身が、怠い。
シオニーは虚脱感に身を任せ、そのまま床にへたりこんでしまった。
その症状が、明らかに増加した魔力供給によるものだと彼女は知らない。


シオニーは気づかない。
先程とは違い、バーサーカーは『普通に』狂っただけなのだと。
そして、彼女は狂ったなりに、大切そうに何かを握りしめていることに。


449 : シオニー・レジス&バーサーカー ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:27:29 M7c4aReM0

【クラス】
バーサーカー

【真名】
ユーフェミア・リ・ブリタニア

【パラメーター】

宝具『我が愛しの騎士様』装備時 
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運C- 宝具D+

狂化:EX時
筋力E+ 耐久D+ 敏捷D+ 魔力D 幸運C- 宝具B+

【属性】  
秩序・狂

【クラススキル】
狂化:EX→C
 バーサーカーは言語能力にこそ支障がなく、平常時は会話すら可能である
 ただし、バーサーカーは保有スキル『無辜の怪物』と『精神汚染(ギアス)』に狂化が重なることにより、
 その思考は"日本人を殺す"という風に固定され、損得勘定を一切無視して日本人を殺そうとする。その一点に限り、誰の言うことも聞き入れない。
 日本人であるならば、実質的に彼女との意思の疎通は不可能である。
 ただし、宝具『我が愛しの騎士様』を装備することによって狂化ランクが低下し、“普通のバーサーカー”となれる。
 EXランク時は狂化による恩恵はないが、Cランク時には魔力と幸運を除く全パラメーターがワンランクアップする。

【保有スキル】

皇帝特権:E-
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 ただし、バーサーカーは自らの皇位継承権を放棄し、
 死後は皇籍抹消の上で処刑されたと公式に記録されたため、このスキルは非常に不安定なものとなっている。
 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。

無辜の怪物:A+
 生前の行いから生じたイメージにより過去のあり方を捻じ曲げられ、能力・姿が変容してしまうスキル。
 バーサーカーは日本人を大量虐殺し、ブリタニア人からも軽蔑される極悪非道の ”虐殺皇女” として歴史にその名を刻んでいる。
 このスキルは外せない。

精神汚染(ギアス):B
 錯乱した精神状態。バーサーカーの場合は、かつてかけられた「日本人を殺せ」というギアスそのものを示す。
 何事においてもこの命令が優先されるため、第三者による精神干渉系の魔術を遮断する事が可能。
 本来、精神汚染の所持者は同ランクの精神汚染を所持していない人物としか会話が成立しないが、バーサーカーの場合、相手が日本人でなければ低確率で一応の会話は成立する。
             
武芸の心得:C
 皇族教育の一環としてか多少なりとも操縦技術は心得ている。
 また、小型拳銃からマシンガンまでなら難なく扱える。ただし専門職には及ばない


450 : シオニー・レジス&バーサーカー ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:29:40 M7c4aReM0

 
【宝具】
『我が愛しの騎士様(ホーリー・ナイト)』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
 かつてバーサーカーが、自らの意思で選んだ英雄に贈った騎士の証。
 これを所持することで、評価規格外の域にあるバーサーカーの狂化をCランク相当にまで押さえ込む事ができる。
 ただし、理性を必要とする一部のスキル・宝具が使用不能もしくは制御不能となる。
 さらに、狂化スキルも普通に機能するため、EXランク時よりも魔力消費が増加する。

『虐殺皇女(スローター・プリンセス)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:200 最大捕捉:999
 自身に[日本人]特攻状態を付加し、サーヴァント、マスター、NPCを問わず、レンジ内の『日本人』に該当するすべての人物のパラメーターをワンランク下げる。
 またバーサーカーによる真名解放により、ナイトメアに騎乗した無銘のブリタニア兵を複数召喚し使役できる。
 ただし、召喚されるブリタニア兵はサーヴァントではなく、バーサーカーの最も有名な逸話が再現されたものに過ぎないため、逸話における「日本人虐殺」という行動・行為しかとれない。

 発動にはそれなりの魔力を必要とするが、レンジ内で死亡した『日本人』の魂はすべてバーサーカーの魔力に還元されるため、維持する上での燃費は良い。
 なお、『我が愛しの騎士様』装備時は発動できない。

【weapon】
『ナイトメア』
 "虐殺皇女"発動時にのみ騎乗可能。
 ただし、ライダークラスの召喚ではなく騎乗スキル(バーサーカーの場合は武芸の心得が該当。もしくは皇帝特権による短期取得)も低いため、十全には使いこなせない。

『サブマシンガン&ハンドガン』 
 魔力で弾丸を補充可能。
 サーヴァントにも有効だが、宝具ではないため武器としては心許ない。
 ランクで表すならE-といった所。
 マスターなら充分に通用するだろうが、サーヴァント相手なら、
 せいぜい弾幕で牽制する程度にとどめておいた方が賢明だろう

【人物背景】
 生前は最後まで特区が成功したと信じて逝ったが、死後に史上最悪の虐殺者として英霊の座に押し上げられたため自分が行った所業をすべて把握している。

 彼女は絶望し、嘆いた。そして、すべてをやり直すために今回の召喚に応じた。
 なぜバーサーカークラスでの召喚なのかと言うと、ユーフェミア自身がバーサーカーでの現界を望んだことと、マスターの縁によるもの。

 罪悪感と後悔から、理性を棄て狂気に堕ちることで過去への懺悔になると考えたが、皮肉にもその選択が、彼女が最も嫌う虐殺者としての色濃い現界という結果に繋がってしまった。
 さらに彼女のマスターであるシオニーは、祖国リモネシアを意図しなかったとはいえ自らの手で滅ぼしており、
 さらにその後罪悪感と現実逃避から独裁者へと変貌を遂げた過去がある。
 そういった『民衆のヘイトを一点に集めた権力者』という縁が、バーサーカーとしてのユーフェミア召喚の一因となっている
 

【サーヴァントとしての願い】
 ブリタニア史上最悪の虐殺者としての記録の抹消。

【方針】
 運用には若干の工夫と戦略が必要。
 『我が愛しの騎士様』による狂化低下は能力強化の恩恵はあるものの、それでも単騎で戦わせるには凡庸の域を出ず、理性喪失による宝具とスキルが使えなくなるデメリットと明らかに釣り合わない。
 かといって『我が愛しの騎士様』を解除させても、今度は狂化の恩恵がなくなり弱体化し、さらに思考が「日本人を殺す」に固定されるため制御不能という割とどうしようもなく扱いが難しいサーヴァント。
 しかし全く扱えないという訳ではなく、『我が愛しの騎士様』装備時は"まともなバーサーカー"のためマスターの指示もちゃんと聞いてくれる。
 宝具とスキル使用不可による火力不足はどうしようもないが、集団戦闘や乱戦など、ここぞというときに『我が愛しの騎士様』を解除させるなどの工夫で補っていく必要がある。
 一番の問題は、日本人ではない相手にはどちらの狂化ランクでも決定打に欠けること。
 『虐殺皇女』は宝具の性質上日本人にしか効果が及ばないため、そういった相手との戦闘では『我が愛しの騎士様』を装備させたままバーサーカーをけしかけるしかない。
 しかし、お世辞にも白兵戦に向いている性能ではなく、さらに"普通のバーサーカー"ゆえに並のサーヴァントよりも戦闘による魔力消費は多いため、どちらにしろマスターの采配が求められる。


451 : シオニー・レジス&バーサーカー ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:30:35 M7c4aReM0

【マスター】
シオニー・レジス@第2次スーパーロボット大戦Z 破界編

【ロール】
教師

【マスターとしての願い】
リモネシアの復興

【能力・技能】
 弱冠25歳で一国の外務大臣を務めていたあたり、恐らく相当なエリートだったのではないかとも取れるのだが、
作中あまりにもどうしようもない描写ばかりが目立つせいで、優秀な人材という印象は薄い。

【人物背景】
 太平洋の小国、リモネシア共和国の外務大臣。25歳。
 引っ込み思案で気弱な女性だが、国を何とか盛り立てたいという思いから、アイムやカルロスの口車に乗せられ「プロジェクト・ウズメ」を実施。
 ガイオウの復活と引きかえに祖国を滅ぼしてしまうが、アイムらによって新帝国インペリウムの筆頭政務官に任じられる。
 その後は次元獣やガイオウの圧倒的な力をバックに世界各国への侵略を始め、その性格も以前とは打って変わって傲慢で冷徹なものへと変わっていく


452 : シオニー・レジス&バーサーカー ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:30:54 M7c4aReM0
投下終了です


453 : シオニー・レジス&バーサーカー ◆Si4n3ET9Lk :2016/08/22(月) 05:36:28 M7c4aReM0
この項目を追加します

【把握媒体】
バーサーカー(ユーフェミア):
アニメ本編の視聴。時間がない方は一期の22話のみでも把握できます

シオニー・レジス:
スパロポのプレイ動画か、ボイス集をおすすめします


454 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 21:58:45 RtzI.E2I0
候補話を投下します


455 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:00:39 RtzI.E2I0





薄汚れた地面に立っている。
空は暗い。時刻でいえば黎明に入っているだろう。
部屋の各所に置かれたランプだけが、この場所の光景を照らし映している。

……多くの人が倒れていた。
血に塗れたままの軍服を着た男。
顔や手足に包帯を巻かれた"患者"達。
弾丸を排出した薬莢と同列にうち捨てられた、用済みの不良品。

此処は病院だ。
戦地の付近に建てられた看護の施設。
傷ついた兵士を運び、その傷を癒し、再び戦地へ送り出すための循環器。
同類での殺し合いを辛くも生き残った者を、再び殺されに向かわせる峠道だった。


―――在り方として。
此処は底無しの沼だった。
逃げ道を封じられ、もがいてももがいても手足は大地にかからない。
息をするだけでも苦しい。生きている行為に痛哭したくなる。
助かる見込みなんてちっともないのに、どうして脳(しこう)を回さなければならないのか。

やがて手足も動かなくなる。声すら出ない。
煩わしい。さっさと終わらせてくれ。
もうじゅうぶん苦しんだのに最後の瞬間すらこんなにも遅々とするなんて。

どうして。どうして。どうして。どうして。



どうして、すぐに■なせてくれない?




疑問が掃き溜められる。
叫びが響き渡る。

病院に運び込まれるのは既に死んだ者ではなく傷ついた者だ。
手足が吹き飛ぶような怪我人も多いが、すぐ死に至るような事はない。
正しい処置をすれば助かる見込みはある。
しかし彼らは知らなかった。
戦場で頭蓋を撃ち抜かれて死ぬのが、傷口を放置して死ぬより万倍も慈悲ある死に方だと。


456 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:00:59 RtzI.E2I0


病室はうめき声で満たされていた。
誰かの泣き叫ぶ声が消えrる間が一時間もあれば奇跡だ。
生きてきても苦痛が延びるだけ。
四六時中、彼らは常に同じものを求めている。
自由に動かぬ体を、肉の内側から腐る痛みを忘れさせてくれる鎮痛剤を欲しがった。


化膿による熱で意識が朦朧としている男が、何度もうわ言を呟いた。

「はやく、はやく、はやく」

蛆と蠅がたかっていく身に恐慌した男が口角に泡を飛ばして叫んだ。

「頼む、頼む、頼む」

全身を包帯で覆われ身じろぎひとつできない男が涙ながらに懇願した。

「どうか、どうか、どうか」




「■してくれ」




比較的健常であった兵士が、耐え切れず男達の前まで飛び出す。
震える手で注射器を突き刺して、男達に薬を投与する。

男達の目に涙が浮かぶ。
瞬く間に消えていく痛みに天に昇る恍惚を得る。

「ありがとう」

「ありがとう」

「■してくれて、ありがとう」

繰り返される感謝。
戦場で味方を失い、自身も傷を負った兵士は、最期に誰も恨まず喜びのうちに、生を手放した。




――――――地獄を見た。


此処では死者が溢れているのではない。
生を拒み、死を喜ぶ。
生ある者が、死に至る事を望んでやまない。

常識と価値観が反転した世界。
腐敗しながら叫喚する生ける屍。

そこに在ったのは、地上に具現した生き地獄だった。




◆ ◆ ◆


457 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:02:05 RtzI.E2I0





「ウ――――――シロウ。起きてください、シロウ」


懐かしい呼び方をされている。
自分を起こす声に誘われて眠りから目覚める。
僅かに開いた扉から差し込んでくる外の光に、開けた目を細める。
……遠い夢を、見ていたようだ。


「あと二秒で起きなければ耳元で撃ちますよ」
「―――ッ!?」

とんでもなく物騒な言葉に飛び起きる。
眠気などすっかり吹き飛んだ。寝耳に水とはこのことだ……文字通りの意味で。


眠っていた体を起こして周囲を見回してみる。
冷えた朝の空気。
鎮まった、暗い土蔵の中。
散乱している用途不明のガラクタ多数。
勝手知ったる我が家の土蔵に安心する。
そして目の前に座る、見知らぬ/懐かしい女性を見て、認識を正しく調整した。


その姿を見て、真っ先に印象に浮かぶ言葉を探すならば、鉄だ。
長く結わえた銀灰の髪。背筋を伸ばし傍で佇む姿勢は、どこから見ても楚々とした淑女のそれだ。
着ている赤と黒を基調にした軍服は厳めしいものの、その下の肢体が鍛え上げられているようでもない。
服の上から覗く体は、妖艶とも違う、女らしさに満ちた魅力を保っていた。

そうした清廉な要素の悉くを、緋色の瞳が塗り潰し、一色に染め上げている。
飛び火しそうなほどの、燃え盛る炎。
絶対に挫けることなく、誰であろうと告げるべき言葉を告げる強靱な精神。
収まり切れぬ激情が瞳から漏れ、彼女と相対するだけでその揺るがぬ信念を認識しなければならなくなる。

砕ける想像を許さない、固すぎる不屈性。
おそらく万人が彼女に抱く、第一印象だ。
人の姿をした鋼鉄がそこにいた。

「……ああ、おはよう。今日も早いんだな」
「私にとっては平均的な起床時間です。
 それよりも、です。また私の指示を無視しましたね?」

小鳥さえずる爽やかな朝に似合わぬ、厳しい剣幕。
瞳の奥が燃え上がっているのがひしひしと感じられる。
……ほんの僅かな付き合いでしかないが、こういう時、彼女がどういう感情なのかはすぐに読み取れてしまい――――――。

「えっと、それは、だな」
「こんなガラクタと埃にまみれて閉め切った部屋で寝るとは何事ですか。
 しかも下に何も敷かずにいるなど……自分から病気にかかろうとしてるとしか考えられません」
「いや待った、確かにここで寝る日は多いけど、これでも風邪にかかったとかは一度もなくてだな」
「その認識が甘い!病気とはその日の体調によってすぐにかかるものです。
 根本的な治療法とはすなわち予防です。はじめから病気になりやすい環境に身を置かないしかないのです!」

やはり、とても怒っていた。
出会った最初から理解させられている。
この同居人が、病的なまでの強い潔癖な性根であるということを。
不衛生は許さず。不養生に怒る。
不健康には有無を言わさず押し込めようとする。
とにかくも強烈な個性なのだ。
普段でも家事には気を遣っている方であるが、あちらの基準値には程遠いようだ。

健康を気遣った、厚意からくるものだとわかってはいるのだが。
……流石に、気疲れが溜まる。
家中がエタノール漬けになっていた日には、本当にどうかと思ったし。


458 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:03:10 RtzI.E2I0


「わかった、わかったってば!俺が悪かったです。
 今度はちゃんと部屋で寝るから怒るなって。
 それでいいだろ―――バーサーカー」

当たり前のように自分の口を出た言葉。
……巌の如き大男のイメージ。
あの巨躯と比べれば目の前の女性を同じ名前で呼ぶのには、やはりどうしても違和感が付き纏う。

「どうしました」
「あ、いや。どうもそう呼ぶのに慣れなくてさ」
「私の名に大した意味などありません。あなたが私に対してどう感じようとも勝手です。
 フローレンスでもナイチンゲールでもメルセデスでも、お好きなように」
「……なんでメルセデス?」
「はて、何故でしょう。ふと思いついただけなのですが」

小首をかしげる仕草。
背筋を伸ばした姿勢。
こうして見ても、どこをどうとっても淑女のそれにしか映らない。
狂戦士の位(クラス)の名にはとても似つかわしくない、鉄の意志がこもった眼を持っている。
色々な意味で、憶えていた知識とは違う規格外であるらしい。

フローレンス・ナイチンゲール。
異名をクリミアの天使。小陸軍省。
看護師という職業そのものの社会的地位向上に貢献した、近代看護教育の母。
サーヴァントという、時代の垣根を超えた英霊の現身。

それが俺―――衛宮士郎がこの世界で出会った、新たな星の名前だ。


「起きたのならば、着替えを。すぐ食事にしましょう。
 一日の健康は朝の食事にあります。残さず、しっかりと」

苦い味が、口内の下で蘇ってきた。
主に、薬的な刺激臭とかの。

「あのさ。料理を作ってくれるのはありがたいんだけどさ、その。
 テーブルどころか食器ぜんぶ消毒液まみれってのは、それもう料理として駄目だと思うんだが」
「口につけるものを消毒するのは当然では?」
「…………限度を考えてくれ」

料理自体は家庭的で美味しいんだけどなー……。
英国料理というまだ手の出してない新たな境地だけに、実にもったいない。
もったいないのだから、是非とも活かして欲しい。
せめて、消費する消毒液をバケツ一杯なのは改めて頂かなければ……!

と。
唐突に動きを停止して土蔵を見回した後、一人でぶつぶつと呟き始めた。

「――――いえ、そもそもこの部屋の衛生状況を改善すればいい話でした。
 いずれ、などと悠長に言っている暇はありません。今すぐ念入りに清掃する必要があります。
 シロウは先にシャワーで体の洗浄を。埃を家に持ち込んでは朝に清掃した意味がありません。
 ええ、つまり私に任せておきなさい。大丈夫よ必ず改善してみせるわ」

こちらの声など耳にも課さず。
完全に自己の世界に入ってしまった看護師は、ひとり決意を新たに土蔵を去っていった。


「結局、全然人の話を聞かなかったな」


459 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:03:31 RtzI.E2I0


言葉は理解できているのに、会話が成立していない。
間違いなく他者を認識しているのに、それと意思疎通する意思を放棄している。
獣のように、はじめから理解できない存在と見るよりもよほど苦労する。
確かに、彼女はバーサーカーなのかもしれない。
俺が知る聖杯戦争と随分違うが、中にはそういう形もいたのだろう。

「俺が知っている聖杯戦争――――か」

第五次聖杯戦争。
冬木という霊脈の地で人知れず続いた、願望器を賭けた殺し合い。
マスターである魔術師と英霊であるサーヴァント共に戦う。
かつて自分が巻き込まれ、戦うと決め、生き残った熾烈な過去。
そこまでが、幻や記憶を操作されたものじゃないと確信できる、自身の体験と事実だ。

ここから先は、違う。
脳に無理にねじ込まれていたような、歪な記憶を思い出す。
ここは冬木市であって、冬木市ではない。
別の都市。別の世界。
俺が生まれ、死に、生きてきた土地とは離れた―――けれど冬木と呼ばれる都市。

ここは聖杯戦争の為の世界。
俺が知るそれとまた違った、新たな聖杯を求め殺し合う舞台だ。

衛宮士郎の運命の始まり。
越えたはずの過去が、再び目の前に現れている。


「本当に、ここでまた起きるっていうのか」

どうして、俺がこの世界にいるのか。
なぜ、再び聖杯戦争に巻き込まれたのか。

その理由、経緯は一切分かっちゃいない。
足りないものが多すぎた。
あの頃よりは少しは成長しているといっても、まだまだ半人前の魔術師からは脱せてないのが現状だ。

自分だけで全てを知るなんて到底無理な話だろう。
未熟も半端も承知の上だ。
理想に届かない非力さなんて、これまで散々思い知らされた。
それでもこうして生きていられているのは、見捨てず並び立ってくれたからに他ならない。
気高くも小さな背中の、青い騎士。
騎士の英霊に何度も助けられて、どうにかこの身はここまでこれている。

魔術の師も、かつて伴った英霊もいない。
けれど今も、少なくとも一人ではない。
けど常にこちらの身を案じてくれている、少し奇妙な英霊の看護師が―――

「っとまずい。はやいとこ風呂に入ってないとな」

立ち上がって足早に風呂場へと向かう。
戻ってきた時にまだいたら、たぶん怒られるだけじゃ済まない。
腕根っこを掴まれ、強制的に体を洗われてしまう。
それは流石にまずい。
とても……タイヘンなことになるので。
適当に放っていた工具を整理してから、急いで風呂場へと向かった。







460 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:04:23 RtzI.E2I0




衛宮士郎(こちらがわ)から見る、昭和五十五年の冬木の街は平和だった。
今まさに聖杯戦争が起ころうとしてるのにおかしい感慨かもしれないと思うが、とにかく今までの冬木市は間違いなく平和だった。

直に体験した第五次聖杯戦争。
都市ひとつの内に、一国を落とす英雄が七人も詰められた蟲毒の壺。
その、十年前にあった四度目の聖杯戦争よりも、今はさらに前の時代だ。

過去の大戦の傷も癒え出し、国の復興をバネに発展していく経済。
疲れを知らぬサラリーマン。時間の概念を忘れたように昼も夜も止まらない街。
一喜に熱狂し、一憂に狂騒する。
数年後に泡立つ景気向上に騒乱する。
人の情熱が社会を猛スピードで先に押し進めていく、そんな時代。

どこも、自分の知る冬木とは異なる顔を見せていた。
幸いというべきか、住んでいた家は変わらぬ場所にあった。
一人で住むには広大な武家屋敷。
庭に置かれた土蔵。
もとから時代から取り残されたような邸宅だったから、今も違和感なく過ごせている。
地元の極道の組長から買い取ったという設定も世襲されていた。
しかし。雷画のじーさん。この頃から顔変わってないんだな……。
ただ、年齢的には生まれていていいはずの孫娘の存在だけは、どうしても見つからなかった。

少し古めかしい学園で授業を終えた後。
下校してから、いつもより不便な電車を使って新都に向かう。
といっても、まだ都市と呼べるだけの形には程遠い開発途中の地区だ。
今も工事の音が鳴り響く場所をつたって、そこに着く。

新都住宅街予定地のど真ん中。
外装すら出来上がってない、工事の壁で仕切られた空白の地帯。
ここには近々、市民会館を建てるらしい。新都開発計画の目玉のひとつだとか。


最も大きく差異を感じられたのは、この場所だ。
……十年前に起きた、聖杯戦争による火災は当然起きていない。
冬木の歴史の書や昔の新聞を調べても、町を崩壊させるような聖杯戦争絡みと思わせるような災厄については書かれてはいない。
何事もなければ、この土地の上に立派な会館が立つのだろう。
怨念が染み付いた、戦地跡じみた公園が造られることも、きっとない。

聖杯戦争の起こらなかった街。
ただそれだけの事実。元の世界と関わる事もない彼岸の出来事。
けどそれが、とても尊いものに思えてならない。

あの火災も、あの犠牲者も、ここでは生まれる未来に繋がる事はない。
過去を無かった事にしたんじゃない。
そんな過去が、始めから無かった世界線。

そんな世界が、何処かにはあった。
彼らは、あんな末路を辿るしかなかった命じゃない。
俺達は、あの地獄で死ぬしかなかったわけじゃなかった。


「ああ―――それだけで十分だ」


本当に意味がないことだけど。
自分にとってこの世界は、間違いなく平和だった。


461 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:04:38 RtzI.E2I0


そんな場所で、また聖杯戦争が行われようとしている。
いや、またとは違う。
この冬木市では聖杯戦争は初めての儀式だ。
二度目と感じるのは自分だけ。
そして一度知っているからこそ、予感する事がある。
暗闇の教会で知った、聖杯の正体。
黄金の杯からこぼれる、人殺の念だけで構成された黒い泥。
人を呪い、不幸を齎す過程を通らなければ叶わない狂った願望器。
あの惨劇を、あの地獄を、"悪意"の顕現としか言い表せないモノの誕生が、聖杯の真実だ。

あるいは、ここにあるのは本当に奇跡を起こすのかもしれない。
この世全ての悪(アンリマユ)と呼ばれた灼熱の泥とは違う、正しく人の願いを叶える願望器。
アインツベルンも関わってないとしたら、それがある可能性は捨てきれない。
なら間違いのない完全な聖杯であるとするならば、この戦争は果たして許されるのか?

「そんなわけ、ないよな」

そうだ。
たとえ聖杯が本物でも、行われるのはサーヴァントによる殺し合いだ。
英霊一騎だけでどれだけの被害を街に与えられるのか、その危険は身を以て体験している。
まして、この聖杯戦争はまともな魔術師だけが集められてる保証もないのだ。
求めたわけでもないのに、有無を言わさず強制的に召喚し殺し合いを強要する。
……元の世界でも意図してマスターになったわけではないが、今回はさらにタチが悪い。
かつての自分のような、何も分からぬままマスターにされた人が大勢いるかもしれないのだ。
前よりも何倍も酷い事態になる、最悪の未来が思い浮かぶ。
それは、何としても阻止しないといけない。

二度目の聖杯戦争でもやるべき事は変わらない。
聖杯を認めない。殺し合いを阻止する。
十年前の悲劇も、十年後の災禍も。
ここで起こすわけにはいかない。

別の世界。
自分とは本来関わりのない土地。
……けれど、多くの人が生きている場所。
笑顔を見せて、未来を見据えて日常を戦っている。
それで十分だ。
戦う理由ははじめから持っている。

何故ならこの身は。
衛宮士郎は、正義の味方になると決めたのだから。


「俺はこの道を進むよ。
 おまえも、そうだよな―――セイバー?」

今も鮮明に思い出せる、黄金の別離。
失くしたものの大きさと、残ったものの尊さを憶えている。

黄昏に瞬く星を見上げる。
目指す先は違えていない。
去りゆく背中も、消えゆく笑顔も、最期に残した言葉も―――。
忘れない限り、目指す道を違える事は無いだろう。
 
「そうなると、まずはむこうの説得か」

踵を返して家路に着く。
急がないと、家で待っている人にまた責められてしまいそうだ。
腕を組んで告げるべき弁明を考え始める。

召喚されるサーヴァントは聖杯に託すだけの願いを持つ。
彼女もまた、それを持っているのだろう。
白衣の天使と呼ばれた、兵士を癒し続けた看護師。
不自由のない恵まれた階級にいながら、卑賤と見なされていた職を望み戦場に向かった。
史実の通りのナイチンゲールであるなら、その願いは決して、邪悪なものではないはずだ。
サーヴァントとの付き合いはそれなりに分かっているつもりだし、上手く納得させられればいいが―――



◆ ◆ ◆


462 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:05:07 RtzI.E2I0




終わった場所を、瓦礫の山から眺めている。



火の荒野。
灰の街。
平凡な町に降り注いだ、悪意という名の災厄。
相次いでいた怪事件で怯え切っていた住民へ、その火事は止めの幕引きとなった。

火の手は、生きている者全てに平等に広げられた。
灼熱にくるまれ、瞬く間に死んだ男。
肺が爛れ、酸素を求めてあえぎながら死んだ女。
崩れた瓦礫に潰され、隣で小さくなった家族の名を叫びながら死んだ老人。
殺戮はわけ隔てなく。
その場で起こりうる限りの死に方を余さず網羅させた。


赤い世界の中で、唯一動く影がある。
十にも満たぬ歳の少年だった。
一様に黒くなった人の残骸の中で、色と原型を留めてるのは彼のみしかいない。
よほど運が良かったのか。
それとも運の良い場所に家が建っていたのか。
どちらかは判らないが、ともかく、彼だけが生きていた。

あてもなく荒野を歩き続ける。
生存の意思も、死の恐怖も、その顔からは窺えない。
体は生きていても、心は既に砕かれていた。

歩いていく途中で、少年は何人もの死を見てきた。
災害はくまなく生者を呑み込んだが、全員が一瞬で死に絶えたわけではない。
一分後には酸素を失い、あるいは家屋の倒壊で死ぬとしても、最期の時が来るまでは彼らは生き続ける。


「助けてくれ」

力を振り絞って叫ぶ。

「どうかこの子だけでも」

母親が抱いた我が子を差し出してくる。

「いっそ死なせてくれ」

一刻も早い終わりを求められた。

「――――――――」

声はとうに出ず、用を為す視線だけで願いを訴えてくる。


その全てを、少年は見捨てた。
自分が生きたいが為に。
あるいは、もっと強い気持ちで、心がくくられていたからが為に。

はじめから少年に助ける力など無い。
そもそも、自分の命すらいつ消えるか分からない状態なのだ。
家族もいない子供に、他者に手を差し伸べる余裕などあるはずもない。
……少年は完全な被害者であり、優先して救われるべき対象だ。
なのに生き永らえる代償に、心がなくなるまですり減らして、彼は加害者に成り替わっていった。




――――――地獄を見た。

命の蹂躙。
死体しかない世界。
泣き叫ぶ悲鳴、あらゆる苦痛で彩られた世界。
悪夢のような紛れもない現実。
地獄としか言いようのない光景。

だが少年にとって、生きている今こそが、永遠に終わらぬ地獄そのものだった。






463 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:05:36 RtzI.E2I0




「却下します」

思考の間があったかさえ疑わしい速攻の返答であった。

「何度言われようとも意見は変わりません。
 私は、あなたが戦闘に参加する事を認める気はありません」
「……なんでさ」

ぴしゃりと、はっきりとした言葉で断られた。

夕食後。
あくまで個人的な所感で―――気が抜けたと見た隙を見ての提案だった。
聖杯戦争についての話……マスターとして過去戦った来歴を明かして、
聖杯を求めないと方針を伝え、
具体的な行動として町の見回といった街の巡回を行う。

なのに結果はあらゆる弁解も受け入れぬ。
正座で座るバーサーカーは、湯呑を固く掴み、旧来の怨敵を見るかのような厳しい目でこちらを睨みつけている。

「そもそも、まだ戦うなんて言ってないぞ。町の見回りとかして異常がないか調べようってだけだろ」
「あなたが本当に一度聖杯戦争を経験しているのだとしたら、その傾向は分かっているはず。
 その結果として戦闘行為になると知ったうえでの発言と理解していますか?」
「うぐ……」

あまりにも理性的に反論され、ぐうの音も出ない。
やっぱり、本当にバーサーカーなのか?
何度目かの疑問を抱きつつ、胸にしまう。

「巡回等の活動まではよしとしましょう。ですがその際に戦闘になれば、あなたは必ず前に出る。
 戦場を無傷で帰還できる兵士などいませんが、あなたの場合、戦場へ向かう事自体が傷を生む行為になる。
 自ら戦場に突出して、傷を負う……それがわかっているからあなたを止めるのです」

難色を示されるかも、とは覚悟していた。
聖杯を要らないマスターに従えはしないと。
けれど彼女はそこには一切触れず、どういうわけか"衛宮士郎が戦う事"に関して激しく食ってかかったのだ。

「私は看護師です。戦闘行為に関しては本領ではありません。
 看護師の役目はただひとつ。病める者、傷つく者を癒すこと。もしくはその発生源たる病気を根絶すること。
 サーヴァントだろうと聖杯戦争だろうと、この方針に揺るぎはありません。
 聖杯に託す願いなど……私にとっては意味を持たない行いです」
「意味を、持たない?」

聖杯に願いを持たない、という事より。
その後の言葉に、耳を引かれた。

「夢と願いは別のもの。願いを夢と口にすれば、現実には起こり得ない遠い出来事と認めるようなもの。
 私の願いは夢ではないのです。諦観を突き付けてくる現実を叩き潰し、踏みにじる―――その後に必ず実現すると信じているものです」

願いを、叶わぬ空想事と捉えない。
嵐の中の荒野を彷徨うような苦悩の行程でも、一歩一歩歩けば辿り着ける場所だと。
奇跡ではなく、現実に起こる結果をこそ彼女は願っている。

それは正しい。
そのあまりに遠い未来を、疑いなく信じて進んでいる事を除けば。

「あなたはこの聖杯戦争を止めると言った。
 ここで起こる、負傷者を生み出す戦争を阻止すると。
 つまりこの現状を生み出した元凶、病原を見つけ出し治療すると。
 その点についてのみなら我々の目的は一致しています。
 私は傷病を撒き散らす聖杯を許さない。あなたは戦争を起こす者を認めない。
 全ての毒あるもの、害あるものを絶ち、悪性の腫瘍を徹底的に粛正する。
 マスターであるあなたを司令官とし、その指示に従う事も吝かではなかったでしょう」
「なら―――」

一緒に戦えるんじゃないのか。
口にしようとした言葉を、次の台詞が遮った。


464 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:06:49 RtzI.E2I0


「ですがそれは、あなたが健常者であった場合です。
 患者を戦わせる看護師が、何処にいるというのです。
 心を病んだ司令官に軍を率いさせるほど、私は無思慮ではありません」

途端。
部屋の空気が重く粘ついて、ひどく息苦しくなった。
不快さを胃の中身ごと吐き戻したくなるのをこらえる。

「私が召喚されたということは、ここに治療を求める者がいるということです。
 サーヴァントとは己が信念を貫き通した者であると私は考えます。
 そして私の信念とは即ち、傷病者を一人でも多く救うこと。
 そして――――召喚された先に、あなたがいた」

彼女が、バーサーカーが真正面からこちらを見る。
どこまでもまっすぐに見る視線に、目を逸らしたくなる。
肺よりも奥を、手で暴かれているような悪寒。
……何故か。
似ても似つかないヤツの顔が目に浮かんだ。

「エミヤシロウ。聖杯戦争の被害者であり勝者。
 あなたの傷を癒すのが、今の私の役目です」
「――――傷?」

鋼の看護師(ナイチンゲール)は変わらず鉄面皮のまま。
末期の患者に余命を宣告するような、厳粛な声で言った。

「あなたは、病気です。
 戦争に魅入られ、死者に憑かれ――――呪いを刻まれている」


ズグ、と。
心臓を掴まれる音を聞いた。


忘れられない、鮮烈な痛みがフラッシュバックする。
膿を吐き出されたのにまだ痛む古傷を、改めて切開されたような。
精神の芯に触れてくる、容赦のない治療(ことば)だった。

ああ。
知っている。
知っているとも。
この痛みは、俺が生涯忘れてはいけないものだ。

自分を省みず他者を助ける。
人助けそのものを報酬とする、その精神と末路。
その歪みとその根源。
俺はあの時、突き付けられたのだ。

「あなたのような人を知っています。
 形の無いなにかに急き立てられ、戦うことしか、誰かを救うことでしか自己の生存を許せない。
 軍に屈せず、家族の涙すら省みる事のなかった愚か者を知っています」

それは、誰の過去を語っているのか。
いま語る彼女は……その人を、どう思っているのだろうか。

「このままでは、いずれあなたは命を落とす。
 誰にでも訪れるような平凡で平和な死とは程遠い―――
 伸ばす手は届かず、何の手立てもなく、救いようが無くなる。
 目の前に居ながらそんな結末を迎えさせる未来を、私は心より恐れます」

無人の荒野。
夢に見た、或る英雄の最期。
死で隆起した、剣の丘がイメージされる。


465 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:07:28 RtzI.E2I0

折れた理想。
砕けた幻想。
報酬を求めず他人を救おうと戦い続けた人間が迎える、終わりの光景。

「あなたは病気です。ならば治療を受けなければなりません。
 自ら死に向かおうとする者を、私は決して容認しない。
 たとえあなたの命を奪ってでも――――あなた自身の命を尊ぶようになれるまで、私は必ずそうします」

狂気そのものの言葉だった。
殺してでも命を救うと、本気で彼女は言っている。

彼女は俺を憎んでいない。
治療するべき患者、救うべき人間だと見做している。
だがそこに妥協はない。身を削るほどの熱意と願い、人間への計り知れない愛。
"自身の手に携わる命を漏らさず救いたい"――――それだけが彼女を突き動かしている。

だからこそ、彼女はバーサーカーなのか。
正気が失われているのではなく、ひとつの思考以外に思考が働かない。
狂戦士のクラスで召喚されたからこうなったのではない。
ここまでの狂気を抱えて戦場を駆けたからこそ、この姿で呼び出された――――。

それは尽きない慈悲であり、理解されぬ傲慢だ。
その功が認められ偉業と讃えられるまで、どれだけの苦難が降り注いだのか。
それすらも意に介さず、彼女は進み続けたんだ。
何故なら求めたものは自分の幸福ではない。そんなものはとうに捨てている。
だって、それは――――



「――――そうか、そうだよな」
「理解していただけましたか」
「ああ、あんたが凄くいいヤツってのはよくわかったよ」

心からの気持ちを伝える。
出会って間もない男の、癒えない傷を見つけ、本気で治そうとしてくれてる人へ。

「俺はどこか間違えてる。ああ、それはその通りだ。
 そのせいで大切なものを、自分の幸せってやつを取りこぼしてしまう。
 病気だと、そう言われても仕方ないかもしれない」

自分を顧みず他人の救命に命を懸ける姿勢への敬意があるからこそ。
結果がどうあれ、本気の言葉で応えなければいけない。

「けど、それでも俺は―――今までの自分を間違ってなかったって、信じてるんだ」

あの日失われた、痛みと重さを抱えて。
今も残る傷を、有り得ない嘘にしないため。


466 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:07:49 RtzI.E2I0

「この道は曲げない。たとえ偽善に満ちた人生だとしても、迷わないと決めた。
 俺は正義の味方になる。これ以上、聖杯で生まれる誰かの犠牲を出させない。
 自分の未熟さはわかってる。俺の力だけでこの戦いを止められるようなものじゃない。
 だから頼む――――力を貸してくれ、バーサーカー」

「――――――――――――」

静謐が部屋を包む。
俺の言葉を、どう受け取ったのか。
バーサーカーは無言のまま、しかし険しい目つきを変えずこちらを見たまま。

「ひとつ、誓約をしなさい」

これまでの苛烈さとうって変わった、静かな口調で答えた。

「必ず生きてください。
 どれほどの苦境、死が安楽に思える絶望の只中にあっても、死ぬ道を選ばないこと。
 同様に、自分から死に飛び込むような真似を犯す愚かさを、決してよしとしないこと。

 それさえ守って頂ければ、私はあなたを必ず生かします。
 生きている限り、あなたの傷を私が癒す。
 折れた膝を支え、砕けた肩を補強し、こぼれ落ちる臓腑を拾い集め、
 何度でも何度でも何度でも、あなたを死の淵から引き上げて見せます」

"どうか、生きて―――"

あまりに単純な、ありきたりな願い。
死など許さない。
苦痛の解放という甘美に縋る己をこそ殺せと、鋼の心は告げる。
……確かに、辛い。
この身には、鎖のように絡みつく重い言葉だ。


「――――ああ、わかってる。死ぬつもりで戦ったりなんかしない。
 それじゃあ、これからもよろしくな」

約束の証の代わりに、右手を差し出す。
伸ばされた掌は、しかし何も触れないまま宙に浮く。
バーサーカーの手はただ沈黙していた。

「……その手は受け取れません。
 治療行為以外で患者と握手をするのは、その人が無事に退院する日だけと決めているのです」

空の右手を見つめ、そう返された。
回復した患者が手を握り、自分の元を去っていくのが証なのだと。

「あなたの心身に残る傷が快癒した時――――改めて、その手を取りましょう。
 ですので、どうか私の目が離れぬ場所で死なぬように」

だから、もし、その時が訪れなければ。
狂気に染まっていない、彼女の本来の素顔も見る事は無いのだと。

それが少しだけ、哀しいといえば哀しかった。







467 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:08:14 RtzI.E2I0





少年は希望に出会った。

この地獄を覆して欲しいという願い。
あの災害に巻き込まれた誰もが抱き、自分だけに伸ばされた腕。
……その顔を覚えている。
眼に涙を溜めて、生きている人間を見つけ出せたと、心の底から喜んでいる男の姿。
死の直前の少年が羨ましいと思うほどに、これ以上ない笑顔で感謝を口にして。
生きていただけで、それ以外が空っぽだった少年は。
その夜に、希望と呪いを同時に受け取った。




女は自ら希望と成った。

何処にも救いなどない。
戦死者はとめどなく、明日に光が見えぬ負傷者は次々に死を望んでいく。
……ならば自分が希望を生もうと誓った。
誤った医療知識。腐敗した軍の横行。
その全てに敢然と立ち向かった。
体は幾度と傷つき、されど心は一度として折れることなく。
人を助ける、それだけの機能と化した女。
希望も呪いも背負い、彼女は今も死と戦い続ける。








世界には無数の地獄が在り、それと同じだけ希望が在る。


468 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:09:42 RtzI.E2I0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
ナイチンゲール@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力B+ 耐久A+ 敏捷B+ 魔力D+ 幸運A+ 宝具D

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
狂化:EX
 理性と引き換えにパラメーターをアップさせる。
 人格を有し会話も可能だが、患者の治療を何よりも優先し、(恐らくは)生前と違い「人の話を全然聞かない」。
 落ち着いた表情で言葉を話すが、すべて”自分に向けて”言っているため意思疎通は困難。
「私が来たからには、どうか安心なさい。全ての命を救いましょう。
 全ての命を奪ってでも――私は必ずそうします」

【保有スキル】
鋼の看護:A
 地獄の如き戦地でも彼女は決して治療の手を止めなかった。
 不眠不休で働き、手足を切り刻んで出ても患者を生かし、死を意識する事すら許さない。
 治療スキル。魔術の類はあまり絡まず直に手術する。
 「本格治療を開始します。覚悟は、宜しいでしょうか?」

人体理解:A
 死を許さぬ彼女は人体の死を熟知している。
 どこまで傷つけば死に至るか。どこまで切っても死なないかの境を正確に把握する。
 特攻スキル。人体ならば肉体面のみならず精神面での問題すら見抜く。
 「貴方には治療が必要です、おとなしくして。痛みは、生命活動の証です。」

天使の叫び:EX
 彼女の声はあらゆる法も妨害も跳ね退ける。
 全ては治療を進め傷つく人を一人でも救う為。
 強化スキル。不屈の精神を持つ者の言葉は聞く他者にも伝播される。ある意味でそれは天使の御業。
 「命を!救うためなら、私は何でもするわ!ええそうよ、何でも!!」

【宝具】
『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:0〜40 最大捕捉:100人
 戦場を駆け、死と立ち向かったナイチンゲールの精神性が昇華され、更には彼女自身の逸話から近現代にかけて成立した
 「傷病者を助ける白衣の天使」という看護師の概念さえもが結びついたもの。
 効果範囲内のあらゆる毒性と攻撃性は無視される。強制的に作り出される絶対的安全圏。回復効果も兼ねる。
 視覚的には、巨大な白衣の看護師が現れ大剣を振り下ろす工程だが、見た目に反して攻撃効果はない。
 「全ての毒あるもの、害あるものを絶ち!我が力の限り、人々の幸福を導かん!」

【weapon】
徒手で殴る、引っかく、蹴る、銃で撃つ。
これらは全て彼女にとっては、消毒、殺菌、治療行為である。
「清潔!」 「消毒!」 「殺菌!」「緊急治療!」

【人物背景】
「病気を許さない者」。
フローレンス・ナイチンゲール。
信念の女。絶対に挫けることなく、たったひとりの軍隊とでも言うべき不屈性の持ち主。
彼女にとっての天使とは「美しい花を撒く者で無く、苦悩する誰かの為に戦う者」を表している。
退院する患者の手を握るのがささやかな楽しみ。病める人が健康になることこそが彼女の報酬である。
記憶を失うと淑やかで心優しい女性になるとか。

【サーヴァントとしての願い】
戦場にいる負傷者と罹患者を救う。この舞台に巣くう「病原」を完全粛正する。
現在の最優先治療対象は衛宮士郎。

【運用法】
「聖杯戦争に勝つ為の運用」は不可能。諦めよう。
ただステータス自体は高くスキル宝具で継戦能力も高い。
聖杯戦争を止めるという目的ならある程度協調可能だろう。
それでも傷病者を治療する為にとんでもなく活動的なのでついてこられるだけの根気が要る。
彼女を従えられるとしたら彼女を超える信念―――彼女以上の狂気を持つ者だけだろう。


469 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:14:09 RtzI.E2I0



【マスター】
衛宮士郎@Fate/stay night

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める。

【weapon】
主に投影による武器

【能力・技能】
基本的な魔術はなべて不得手だが、「投影」に関しては並はずれた才能がある。
通常では数分間で形だけのところを、本物に限りなく近い精度で製作し、かついつまでも消滅しないなど常軌を逸している。
宝具の投影も可能とし、性能や魔力、製作者の信念、使い手の技量すら再現する。
本来衛宮士郎に使える魔術はただひとつであり、投影や強化、物質解析といった才はそこから零れた副産物に過ぎない。

【人物背景】
「錬鉄の魔術師」。
正義の味方を目指す魔術使い。
幼少の大事故、亡き養父との誓い、多くの因縁が彼を鋼の道へと向かわせた。
運命の夜―――ある騎士との出会い。
共に駆け抜けた第五次聖杯戦争。
己の傷を知り信念を確かめた少年は黄金の別れを迎え、今も丘を登り続ける。
「Fate」ルート終了後から参戦。



【把握媒体】
バーサーカー(ナイチンゲール):wikiの情報で簡単な把握は可能。活躍は五章「イ・プルーリバス・ウナム」中で主に把握できる。

衛宮士郎:アニメ漫画等把握媒体は多いが、本編を読むのが一番。Fateルートだけならスマホで永久無料解放しているのでお勧め。


470 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/22(月) 22:14:41 RtzI.E2I0
投下を終了します


471 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:46:30 9DsZbFs60
投下します。


472 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:46:51 9DsZbFs60





「ジャジャジャジャ〜ン!ドイツの作曲家、ベートーベンが、難聴に悩まされながらも作曲を続けていたっていう話は、皆知っているよな!
そりゃぁ耳は音楽家にとっちゃ生命みたいな物だからな、ベートーベンは俺らの想像以上に頭を抱えて悩みまくったって話だ。
所がッ!ベートーベンがそんな過酷な時期に作曲したとされているヴァイオリンソナタ第五番「春」は、非常にテンポが明るく、聴いた人々を幸せに満ち溢れるようにしてくれる曲なんだ!
この陽気なテンポ、まるで俺様みたいn」

「実は!ベートーベンが苦悩に苛まれているにも関わらずこの様な明るい曲を作れたのは、グイチャルディ伯爵家の令嬢ジュリエッタに対する淡い恋心が原動力となっているとされているんです!
恋心というのは絶望すらも吹き飛ばす、という事ですねぇ!」

「ちょ、おい!勝手に俺様の台詞盗むんじゃねぇよタッちゃん……えーオホン、とまぁこの様に愛の力で立ち上がり、様々な名曲を作り上げていったベートーベンだが、ジュリエッタは貴族であるガレンヘルク伯爵に嫁ぎに行ってしまったんだ。
悲しいかな、結局ベートーベンの恋は成り立たなかったって事だ……」

「どんなに名曲を書き上げようとも、その原動力となっていた恋が成立しなかったって……超デクレッシェンドじゃないですかキバットさん!」

「結局愛と音楽があろうと、身分の差にゃ叶わなかったんだな……これを読んでいる皆にも、こんな風に愛せる相手を見つかると良いな!」









◆  ◆  ◆










「うーん、やっぱしテープレコーダーってのはイマイチ慣れないなぁ……。」

午後三時頃、自室のベッドに腰掛け、横でヴァイオリンの音を奏でるテープレコーダーを一瞥した少女、美樹さやかは蒼いショートヘアを掻きながらぼやいた。
はっきりと言わせてもらうと、さやかはテープレコーダーを使ったことがない。
何しろそんな物は技術の進歩に埋もれて使わなくなった、一種の化石に近い存在なのだから。
ましてや彼女が嘗て住んでいた見滝原市は周りの地域と比べ、あらゆる設備に最新の技術をふんだんに使い込んでいる。
例えば音楽といえばmp3かCDが主流だ、カセットテープという代物は教科書か漫画でしか眼にしたことがない。

今テープレコーダーから流れている曲は、ベートーベン作曲のヴァイオリンソナタ第五番「春」の第一楽章だ。
幼馴染の影響でクラシック曲に凝っていたさやかにとっては、音楽を聴くことはほぼ趣味の1つと化している。
やはりさやかの部屋には、クラシックのカセットテープが数十枚ほど置かれており、これはそのほんの一部。
因みに今聴いているのは第二部で、カセットテープを裏返して差し込み再生している曲だ。
今で言うチャプターとか、二枚揃いのCDセットとか、そういう物に近い仕組みなのだろうか。
とにかく、先程までそれを知らなかったさやかは慌てていた。
何せ曲が途中で止まってしまったのだから。
ケースにはきちんと書かれていたはずの続きの曲が聞こえない事は大変ショックで、壊れているのかとすら考えた。
悩んだ末に親に質問して使い方を聞いたことで、今こうして再生することが出来ている。


473 : 美樹さやか&アサシン ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:47:56 9DsZbFs60
「あーあ、やっぱり、ジェネレーションギャップっていう奴なのかなぁこれ。」

ジェネレーションギャップと言えば、本来なら価値観や思想の違いについて使う言葉であるはずだが、まさか文明の違いで使うとは思いもしなかった。
「1980年にタイムスリップ!」と言えば前にまどか達と行った事のある博物館で経験したことはある。
タッチパネルや液晶画面―と言った文明の利器は其処にあるはずもなく、外での電話はポケベルか電話ボックスが主流。
博物館で見た時は「よく頑張りましたな皆さん方」という言葉しか浮かばなかったが、いざ実際に溶けこんでみれば流石に不便さと窮屈さを感じさせられる。
百聞は一見に如かず、とは言うものの、望みもしていないのに見せられるというのも困るものだ。


(別の世界に飛ばされてきた、って言うのはもう慣れっこだけれど、流石に文化が違うと違和感バリバリっすねぇ……)

さやかが別の世界に飛ばされてきたのは、これで三度目だ。
一度目は、「嘗ての」友、暁美ほむらのソウルジェムの中に入り込んだ時。
二度目は、暁美ほむらが改変した世界に取り残された時。
そして、これが三度目だ。

ほむらの心象世界でも、マイナスエネルギーの塊「ナイトメア」を「お食事会」という名のおまじないで倒す、という遊びが魔法少女の仕事、という扱いになっていた。
確かにあれも魔女、ないし魔獣狩りとは明らかに違う方法だが、しかし自らの意志で入り込んだのといきなり飛ばされたのとでは感じる違和感の差は非常に高い。
いきなりケータイもCDもない生活環境で過ごす事になるなど聞いたこともない、テレビでしか観なかった魔法少女に変身している自分が言うのも何だが。
だが、今置かれているこの状況に比べればジェネレーションギャップなど屁でもない。

(でもまぁ、そんな事に構っている余裕もそれ程ないんだけどね……)

今回、さやかに課せられた「役割」はカバン持ちでも難民でもない、「聖杯戦争」というデスゲームのプレイヤーだ。
異世界で契約した「サーヴァント」と呼ばれる使い魔の手綱を握り、「最後の一人になるまで」他のサーヴァントを次々と潰していくという、極めて単純かつ残酷なゲーム。
そして生き残り優勝した一人には、何でも願いを叶えてくれる「聖杯」と呼ばれるアイテムが与えられるという。
嘗ては不思議な動物と契約して化物退治に励んでいたさやかは、この手の話には免疫こそ持っているが流石に驚きを隠せない。


474 : 美樹さやか&アサシン ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:48:19 9DsZbFs60
(にしても、何でも願いが叶う……か……)

経験上、「願いが叶う」というのはどうにも胡散臭く聞こえる。
親友の腕を治し、代わりに自分がゾンビになったさやかにはその類の話には後ろめたさすら感じさせられた。
しかし今回の場合、願いは後払いな上に相当な数の敵を「殺さなければ」ならないのだった。
これと身体がゾンビにされてしまうの、どちらがマシなのか検討もつかない。
どちらにしろ、代償もなしに願望など叶えられないという事は確かだ。
魔法のランプの様に都合の良い道具などあるはずもない、それこそが、美樹さやかがこの身を以って知った「現実」だった。

だが、だからと言ってさやかは此処で引き下がるつもりもなかった。
さやかとて、願いならある。

あの時、暁美ほむらはまどかを円環から裂き、「悪魔」へと変貌してしまった。
もぎ取られたのは「ほんの僅かな断片」、だがそれは嘗ての親友そのものだ。
ほむらは、秩序を破戒しただけでなく、まどかの願いまでも踏みにじってしまったのだ。
そんな事は、例え仲間であろうとも許せるはずもなかった。

だが聖杯があれば、円環の理を安定させることが出来るのかもしれない。
もしそうだとしたのなら、聖杯は確実に手に入れる。

後ろめたさ自体はある、だがさやかは魔法少女だ。
「魔法少女」が倒すべき敵は、「魔女」と呼ばれる化物。
されどその魔女という物は、魂が砕け散った魔法少女達の願望そのものだ。

そしてさやかは、幾多ものループにおいてその魔女を狩り続け、その度にグリーフシードを拾い上げた。
魔法少女は、「願い」を踏み躙ってそれを糧とする生き物なのだ。
多分今なら、杏子の言っていたことも少しは分かるのかもしれない。

しかし理屈で割り切れようとも、心で割り切るのは難しい。
幾らゾンビでも、生前は情操教育を徹底的に叩き込まれた人間だ。
心に染み付いた倫理観は今だに拭い切れない。

(ていうか、これでも正義の魔法少女を名乗ったさやかちゃんだよあたし!あの転校生じゃあるまいし、そう軽々と人を斬れる訳ないじゃん……)

やはり、神様の天使となろうとも自分は甘いのかもしれない。
だが聖杯を手にしようとする方針に変わりはない、向かって来る敵は蹴散らすまでだ。
ドーンと掛かって来いと、今ならハッキリと言える。

「帰ってきたよ、マスター。」

とその時、光の粒子が収束しドアの前に一人の物陰が現れた。
出現したのは、20代かと思われる長身の青年だった。
端正な顔立ちに、シワ1つ付いていない白いジャケットを着崩したという格好。
そしてジーンズのポケットに突っ込んだ左手には、黒革の手袋を身に着けていた。


475 : 美樹さやか&アサシン ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:51:59 9DsZbFs60
青年の名は登太牙。
「暗殺者(アサシン)」のクラスを以って現界した、美樹さやかのサーヴァントだ。

「おぉ、お疲れアサシン!」

アサシンに気がついたさやかは、ベッドに座りながらも笑顔で手を振る。
先程までアサシンは、さやか達が狙っている「ある陣営」の行方を追っていた。
その「ある敵」とは、此処一帯で「魂喰い」を行っているサーヴァントであった。

アサシンから聞いた話だと、サーヴァントは人間の「魂」を吸引することで、魔力を補うことが出来るらしい。
多分、彼等も魔力を増やすために大量に人を殺していったのだろう。
幾ら参戦側に回ろうが、結局さやかの悪事を見逃せない性は変わらず、まず優先的にその陣営を潰すことにした。


「で、敵は見つかった?」
「確かに見つけることは出来たが、直ぐに逃げられてしまったよ、今はサガークが追っている。」
「え、逃したの!?」
「ああ、本当に済まない、でも次は逃しはしないさ。」

一瞬驚きの顔を見せたさやかに目を向けて、アサシンは申し訳無さそうな顔を見せた。

アサシンには、マスターであるさやか同様変身して力を上げる宝具があった。
嘗ては人の食事を食べずに22年間ライフエナジーの摂取だけで生きてきたアサシンにも、何やら同族嫌悪に近い気持ちはあった。
だが今のアサシンは人間という存在の価値を認めている、家畜としてではなく、対等に分かり合える存在だとして。
そもそも、彼が聖杯に望むのも人間とファンガイアが永遠に共存し合うことで、ネオファンガイアの様な存在の出現を阻止することだ。
だからこそ、今では人間を殺める人々を許すわけには行かなかった。

其様に考えていたアサシンが魂食いを行っているサーヴァントを倒すことに賛同するのは当然の事であった。
処刑者であった逸話でこのクラスになれた彼は偵察に関しては其処まで得意ではなかったが、宝具である鎧の五感強化能力とクラススキルの応用で敵の姿は捉えられた。
見つけたは良いものの、敵は直ぐに逃げてしまった。
だが敵は素早く、幾らサガの鎧であろうと追いつくのは容易ではなかった。
結果アサシンは、鎧を脱いだ後使い魔に追跡を任せて自らは帰還し、今に至るという所だ。

「あー……それはお疲れさん、やっぱあたしも付いて行けば良かったかな。」

自分が付いて行かなかった事をさやかは恥じた。
多分自分が足止めをしておけば、奴を仕留めることはそう難しくはなかっただろう。
だが手持ちのグリーフシードは、少なくとも指で数えられるほどしか無い。
概念自体は改変されたとはいえ、仮にも魔獣の世界から来た以上、ソウルジェムの維持にはグリーフシードが必要不可欠となっている。
一応、円環から取り残されてからも魔獣退治は行ってきたが、それでも決して多くはない。
だからこそ、無闇な外出と変身はやめておいたが、それが命取りになったのだろうか。

「いや、そんな事はないよマスター、これは逃した僕の責任さ。」
「良いって良いって、ていうかさ、この調子じゃぁ次も逃しちゃうじゃん?てなわけで次はあたしも着いて行くよ。」

それを聞いたアサシンは、少し困った表情を浮かべた。

「良いのか?それだと君の身の安全が……」
「あー何と言うのか性に合わないんだよね、戦うのが怖くて家に閉じこもる……ってのも。大丈夫大丈夫、あたしこう見えても結構頑丈だから。」

さやかは令呪が刻まれた左手をブンブン振り、アサシンに笑いかける。
それを見たアサシンは、一旦溜息を付くが、その後にフッと笑い返す。

「分かった、本拠地をサガークが特定したら、直ぐに其処に向かおう。」
「了解!そのお言葉を待っていましたぁ!」


スピーカーからは、今も尚ヴァイオリンのメロディが響き続けていた。
ヴァイオリンを嗜む友を持った二人に取って、それはとても馴染み深い物であった。

英雄になれなかった魔女と、玉座に縋り続けた吸血鬼は、いつの間にやら目を瞑って音の世界に入り込んでいた。
音楽には、生き物の心を揺さぶる「魔法」がある。
音楽の前には、失恋や劣等感に苛まれた日々などあっという間に吹き飛ばされる。
ゆったりと落ち着いた二人のその微笑ましい表情こそが、何よりの証拠であった。


476 : 美樹さやか&アサシン ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:52:33 9DsZbFs60
【クラス名】アサシン
【出典】仮面ライダーキバ
【性別】男
【真名】登太牙
【属性】秩序・中庸
【パラメータ】筋力A 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A+(サガ変身時)

       筋力A+ 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具EX(ダークキバ変身時)


【クラス別スキル】

気配遮断:D
気配を遮断する能力。ただし、戦闘中は解除される。


【固有スキル】


処刑人:B
人々を処刑した人が持つスキル。
属性が「悪」の英雄に対しパラメータに補正がかかる。
彼は生前、掟を破ったファンガイアを何人も処刑したとされている。

吸血:A
魔族が持つ「ライフエナジー」を吸うファンガイアの力。
空中に牙を発生させ、対象に噛みつかせてライフエナジーを吸収、魔力を回復する。
だが、アサシンはこのスキルを使いたがらない。

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法等大掛かりな物は防げない。

王の紋章:EX
ファンガイアの王に代々受け継がれる王の証。月夜のごとき結界を生み出し、 敵を封じ込める力を持つ。
また、対象にBランクの威圧を与える。


【宝具】

「サガーク」

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1

アサシンが物心つく前から行動を共にしていた使い魔。
ファンガイアが生み出した蛇にも円盤にも見えるゴーレム。
空を飛び彼を護る盾にもなるほか、彼の腰に巻き付くことで 「王の鎧」の一つである「サガの鎧」を装着させる。
サガの鎧は、彼が掟を破りしファンガイアを処刑する際に纏ったとされる鎧とされており、「ジャコーダー」と呼ばれる武器を使った素早い攻撃が特徴。


「キバットバットⅡ世」

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1

ファンガイアの王が代々継承する「闇のキバ」の鎧の管理者であり、彼の使い魔である。
人種と同様の言語を喋る、尊大な態度が特徴のワインレッドのコウモリ。
アサシンの手の甲に噛み付くことで、彼に闇のキバ(ダークキバ)の鎧を纏わせる。
闇のキバの鎧はその気になれば世界を破壊出来るとされるEXランクの危険な代物である、アサシンの切り札。
この姿では、敵を磔にして電撃ダメージを与える紋章を発生させることが出来る。
だが、聖杯戦争を破綻させかねない「ウェイクアップ3」は発動が非常に困難となっている。
ただし、他に「闇のキバ」を継承したサーヴァントがいる場合、召喚が出来なくなる場合もある。

【Weapon】

「ジャコーダー」
サガの鎧を起動するためのアイテム。腰に巻き付いたサガークに指すことで発動する。
また、先端から光のエネルギーを発現させて鞭やレイピアの様に扱うことも出来る。

「ウェイクアップフエッスル」
サガーク専用の小型の笛。サガークに吹かせてもう一度ジャコーダーを突き刺すことで
必殺「スネーキングデスブレイク」が発動できる。


477 : 美樹さやか&アサシン ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:53:15 9DsZbFs60
【人物背景】

人のライフエナジーを糧とする魔族「ファンガイア」の王族の血を引く、王座の後継者。
表向きはファンガイアで構成された投資企業「D&P」の若社長で、人類の進化に貢献する可能性のある技術を見つけては、その関係者を抹殺させていた。
また、掟を破ったファンガイアを自分の手で殺めてもいた。しかし、異父弟であり親友でもある紅渡が、自分の婚約者である鈴木深央と恋愛関係を持っていることから彼との友情に亀裂が走る。
彼をファンガイアに迎えようとする気持ちもやがて 深央の死により憎しみに変わり、ついには彼に王座を奪われたことから精神的に不安定な状態に陥る。
最後に自分の元に残った「キング」の座はよこすまいと母から強引に闇のキバの力を奪い取り、弟との決着に向かうが、互いにぶつかり合った内に和解。
その後は渡と共に人間とファンガイアの共存する世界を創りあげようとしていった。
基本的に紳士的だが一方で敵に対しては容赦をしない冷酷な人物。
人類を「家畜」と見なし裏切りのファンガイアにも容赦は無かったが、家族である渡や婚約者である深央には甘く、一時は人間とファンガイアのハーフである渡をファンガイアに引き入れようとした他人間とファンガイアを融合させる技術に例外的に投資したりしている。
また自らの養父である嶋護に対してもファンガイアの身体を埋め込んだ後に彼をファンガイアから引き戻したりと根本的な部分では優しく、いじめられていた幼少期の渡を助けてあげたりもした。


【サーヴァントとしての願い】
人間とファンガイアが完全に共存できる世界を創りあげる。


【方針】
マスターを守る。現在はサガークに偵察を任せている。
マスターの性格上気配を遮断してでのマスター狙いは出来ない。


478 : 美樹さやか&アサシン ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:54:08 9DsZbFs60

【マスター名】美樹さやか
【出典】劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語
【性別】女


【Weapon】

「ソウルジェム」
タマゴ型の紺碧の宝石。彼女の魂の本体であり、魔法少女に変身するための道具。
擬似的な魔力炉としても機能する。本来なら魔力を消費すればするほど色が濁っていき、
彼女の精神状態が悪ければ悪いほど濁っていくスピードも早くなるが、円環の使いと
なった影響でそれはなくなっている。



【能力、技能】

・魔法少女
願いと引き換えに自らの魂を「ソウルジェム」と呼ばれる宝石に変えた魔法少女に変身
する能力。彼女の武器は剣と突出した治癒能力である。本来なら円環の使いの
力として自らが絶望した成れの果てである「魔女」としての力も使えるが、
暁美ほむらによって失われた。



【人物背景】
見滝原中学校2年生の、ごく普通の少女・・・だった人。偶然出会ったインキュベーターによって、想い人であり幼馴染である上条恭介の腕を元通りにするという願いと引き換えに
魔法少女になる。が、自分の魔法少女としての素質が親友である鹿目まどかには
及ばないと言われ、実は自分が人間ではないことを知らされ、あげく上条恭介を親友にである志筑仁美に取られ精神的に追い詰められ絶望、魔女へと変貌してしまう。
しかし願いの力で全ての魔女を円環の理へと導いたまどかにより心身ともに救われ、成仏。
その後暁美ほむらのソウルジェムの世界に巻き込まれたまどかの記憶の 「カバン持ち」として百江なぎさと共にほむらを円環の理に戻そうとする。
だがほむらが迎えられる寸前、「円環の理」から「鹿目まどか」の存在を引き裂くという事態が発生。
それに巻き込まれる形で彼女の変えた世界に残ってしまう。
明るく正義感が強い性格だが打たれ弱い人物。また猪突猛進な人物だと思われがちだが ほむらの本質を見抜くなど洞察力には優れている。


【マスターとしての願い】
まどかを円環の理に戻し、ほむらを救い出す。


【方針】
自らの魔法少女としての力とアサシンの力を合わせてうまく勝ち抜く。





【把握媒体】


・アサシン(登太牙):テレビ本編32〜48話(DVD8〜12巻)


・美樹さやか:テレビ本編全12話(DVD1〜6巻)or劇場版前後編+「叛逆の物語」


479 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 09:58:16 9DsZbFs60
以上で投下は終了です、この作品は「Fate/Reverse ―東京虚無聖杯戦争―」にて投下した作品を流用、再執筆した物です。

また、登太牙のステータス作成において
◆CKro7V0jEc氏作「月読ジゼル&キャスター」、◆yYcNedCd82氏作「中島朱実&セイバー」を参考にさせて頂きました。
この場を借りて御礼を申し上げます。


480 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/23(火) 15:13:50 9DsZbFs60
先程、拙作「美樹さやか&アサシン」をWikiに収録しました。
その際に、誤字と設定の矛盾を修正しましたことをご報告申し上げます。

申し訳ございません。


481 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/23(火) 17:02:08 8wzSrsZ.0
皆様、ご投下ありがとうございます。
自分も投下します。


482 : 笹塚衛士&アヴェンジャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/23(火) 17:02:34 8wzSrsZ.0
 凶悪犯罪が年々増加しているだとか、そういう話をメディアはいつの時代も狂ったように撒き散らして口角泡を飛ばしている。
 だが実際の所、一つ一つの事件の凶悪さや残忍さは明らかに昔の方が勝っており、現代の方が幾分か平和である、というのはお約束だ。
 いざ実際にこうして"昔"にやって来てみると、そのことがよりいっそう深く実感できる。

 ―――昭和、五十五年。
 赤軍派の猛威が一段落し、社会はある種"落ち着き"のフェーズへと入り始めた時代。
 それでも、現代に比べて数だけでいえば犯罪数はやはり多い。
 あの魔人などはこの有様を見て大いに喜ぶのではないかと、刑事・笹塚衛士は紫煙を吹かしながら心中で独りごちた。
 腕時計の時刻は午後四時を示している。笹塚は今、とある事件についての聞き込み調査を終え、警視庁へと帰る道中であった。
 事件自体はなんてことのない通り魔殺人で、目撃証言も比較的多く、こうなっては犯人が割り出されるのは笹塚の経験上時間の問題だ。
 早ければ数日、長くても半月。
 それくらい過ぎた頃には、ワイドショーや新聞がセンセーショナルな見出しと共に犯人の顔写真や名前を取り上げていることだろう。
 
 そして、一週間もすれば忘れ去られる。
 一ヶ月もすれば、大半の人々の記憶から抜け落ちる。
 当の刑事たちですらも、そうだ。
 いつまでも解決した事件に延々思いを馳せているようでは、とてもではないが警察官は務まらない。
 故に、誰もが忘れていく。
 そこに例外があるとすれば、残された側のみだ。

 人間のふりをした怪物は実在する。
 言葉通りの意味でも、比喩的表現としても。
 少なくとも、笹塚は両方を知っている。
 本当の意味で、人間を逸した肉体を持つ"怪物(モンスター)"。
 人を人とも思わず、記憶にすら残さないような気軽さで殺人を犯す"怪物(シリアルキラー)"。
 後者の怪物は、容易に死を忘却する。
 自らの罪を、記憶の海から消し去ってしまう。
 意識もせずに、当然のように。
 飯を食い、それを排泄するように―――彼らは、人の命を奪うのだ。

 
 しかし。
 これは曲がりなりにも正義を名乗る職務に就いている人間の口にして言い台詞ではないが、そのどちらかしか持たないのならば、まだいい。
 確かに社会に野放しにしておくには悍ましすぎるし、彼らは檻の中に入れられるか、正義の凶弾に倒れるまでの間、遠慮なく凶行を繰り返すだろう。
 それでも――罪悪感を抱く怪物であれば、まだ救える。
 心の中にしか居ない怪物を心理に飼う殺人者であれば、まだ手が打てる。
 だが心と肉体、その両方に怪物を宿した"悪意(Sick)"は、それらとは文字通り次元の違う存在となる。

 
 悪意の塊として生まれ落ちた存在を討つには、人生を捧げる必要がある。
 己の人格を含めたあらゆるものを犠牲にして、ただ一つ掲げた目的を追い求める必要がある。
 笹塚衛士は、事実そうしてきた。
 あの日から。一人、一個、一つの悪意によって、愛すべき家族を惨たらしく奪われた時から。
 裏の世界に入り、作れる限りの人脈を作った。
 南米のマフィアに身を寄せ、戦闘スキルも磨き上げた。
 出来ることは全てやってきた。
 後はこの懐に収まった銃弾を、奴の心臓に撃ち込むのみ。

 ―――そして今。笹塚衛士は、最後の弾丸を探し求めて、昭和の時代を訪れている。


483 : 笹塚衛士&アヴェンジャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/23(火) 17:03:03 8wzSrsZ.0
 警察官が刺青をしているというのは、社会通念上やや問題がある。
 その為笹塚は今、右腕に火傷を負ったという設定で、軽く包帯を巻いて令呪を隠していた。
 正確には刺青ではないのだが、素人目にはまず区別など付かないだろう。
 付く者が居たとしたら、それは笹塚にとっての排除すべき邪魔者だ。

「全くお笑いね。何が"怪物"よ――アンタだって、そうなんじゃない」

 くつくつと、歪んだ嘲笑が聞こえる。
 笹塚は、それに対して返事はしない。
 自分の呼び出した英霊ではあるが、彼女と会話をするほど不毛なことはないと、少なくとも彼はそう思っていた。
 しかし、彼女の言う通りだと自虐する自分が心のどこかに居るのもまた、確かだった。

 笹塚衛士は聖杯戦争に乗っている。
 彼は、冷たい覚悟を決めた人間だ。
 この時代を訪れるよりも遥か前から、笹塚は目的を遂げるためならどんな事でもする覚悟があった。
 その彼にとって、聖杯戦争にどのような姿勢で臨むかなど……愚問でしかなかった。
 
 復讐のために、笹塚は人を殺せる。
 自分以外の願いを踏み躙り、そうして死んだ希望を道標にして、止まらずに歩み続けられる。
 聖杯という、"至高の弾丸"を手にするまで。
 彼はその過程で出した犠牲に、頓着しないだろう。
 殺した相手を忘却して、怪物のような精神性で戦いを進めるだろう。
 ――だからやはり、この聖女(アヴェンジャー)の言うことは間違っていない。
 此方の神経を逆撫でする子供じみた嗜虐のようでありながら、その実的を射た指摘である。

「貴方はかくも哀れな男です、笹塚衛士。……ああ、いえ。そうでなければ、私みたいなモノを呼んでしまう筈もありませんか」

 彼女に言葉を返すことはせず、煙草を携帯灰皿で揉み消して、笹塚は停車中のパトカーに乗り込むべく歩き始めた。
 アヴェンジャーの暴言に心が痛むことはない。感じ入ることも、やはりない。
 全て、事実であるからだ。ならばそれにいちいち過剰な反応をして疲弊するのは、賢い選択とは言い難いだろう。何より非効率的だ。
 復讐者が復讐者を呼ぶ。恩讐が恩讐を呼び起こす。
 魔術の心得など流石に持たないが、どうやら聖杯とやらは、なかなかに良い性格をしているようだと笹塚は思った。
 そこでふと、ある探偵と、その助手を名乗る男の顔が脳裏をよぎる。
 彼女達は今、何をしているだろうか。
 彼女達は彼女達なりのやり方で、笹塚が追う"悪意"を打ち倒さんと尽力しているのかもしれない。

 それでいいと笹塚は思う。
 それならいいと、笹塚は思う。
 
 無意識下に亡くした妹と重ねて見てしまっていた彼女。
 探偵、桂木弥子。
 あの少女には、自分が此処でこれから行うだろう戦いを見られたくなかった。
 それはきっと酷く醜く、下劣で、外道じみたものになるだろうから。
 
「呆れた。よもや今更、外面などに気を遣っているのですか? 復讐者に堕ち、殺すしか能のなくなった男が?
 くす―――道化を演じるのもその辺にしたら? 度を過ぎたパントマイムは、ただ不愉快な奇行に過ぎないわよ」

「……そうかもな」

 堕落した聖女が笑っている。
 彼女の指摘は、やはり正しい。
 かつて大衆の正義に押し潰され、陵辱の末に火刑と消えた聖女。
 ――とある魔元帥の激情や偏見が混入したことで、あり得ざる側面が表に浮き出た復讐の魔女(アヴェンジャー)。
 彼女のような存在を呼び出してしまったのは、きっと聖杯が己に吐いた皮肉なのだろう。
 ならば、それでもいい。これでも自分は刑事だ。
 人の悪意に晒されることは慣れているし、巨悪を討つことを目指す復讐鬼が、これしきの小さな悪意に挫けていては本末転倒というものである。


484 : 笹塚衛士&アヴェンジャー ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/23(火) 17:03:33 8wzSrsZ.0
 此処に、正義を騙る笹塚衛士の姿はない。
 あるのは、ただ泥と死臭に塗れた殺人鬼だ。
 瞳の奥底に危険な決意と暴力の香りを宿し、彼は聖杯という名の弾丸を求む。


【クラス】
 アヴェンジャー

【真名】
 ジャンヌ・ダルク[オルタ]@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力A 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運E 宝具A+

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
復讐者:B
 調停を破る者である。
 莫大な怨念と憤怒の炎を燃やす者だけが得られる、アヴェンジャーというクラスの象徴。

忘却補正:A
 忘れ去られた怨念。
 このスキルを持つ者の攻撃は致命の事態を起こしやすく、容易に相手へ悲劇的な末路を齎す。

自己回復(魔力):A+
 読んで字の如く、自身の魔力を自動的に回復する。
 戦闘中でも休息中でも関係なく一定量の回復を続けるため、基本的にガス欠になりにくい。

【保有スキル】
自己改造:EX
 自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
 このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。

竜の魔女:EX
 とある男の願いが産み出した彼女は、生まれついて竜を従える力を持つ。
 聖女マルタ、あるいは聖人ゲオルギウスなど竜種を退散させたという逸話を持つ聖人からの反転現象と思われる。
 竜を従わせる特殊なカリスマと、パーティの攻撃力を向上させる力を持つ。

うたかたの夢:A
 彼女は、ある男の妄念が生み出した泡沫の夢に過ぎない。
 たとえ、彼女がそう知らなくとも。

【宝具】

『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具
 竜の魔女として降臨したジャンヌが持つ呪いの旗。
 復讐者の名の下に、自身と周囲の怨念を魔力変換して焚きつけ、相手の不正や汚濁、独善を骨の髄まで燃やし尽くす。怖い。

【weapon】
 旗

【人物背景】
 フランスに復讐する竜の魔女。
 我が物顔で正義を語り、そしてそれを疑わない人々への怒りに駆り立てられる聖女。
 ジル・ド・レェがそうであってほしいと願った彼女の姿。

【サーヴァントとしての願い】
 復讐。


【マスター】
 笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ

【マスターとしての願い】
 聖杯の力という"弾丸"を手に入れ、シックスを殺害する

【weapon】
 拳銃

【能力・技能】
 裏の世界で身に付けた戦闘能力や破壊工作の技術。特に射撃の腕前は天才的だという。

【人物背景】
 常に無表情でくたびれた雰囲気を漂わせる、無精髭を生やした刑事。
 「低いテンションと高い実力」で有名であり、テンションの低さはなぜか生命活動にまで現れ、動きをほぼ完全に停止することを得意とし、塩と焼酎と日光だけで2週間生き延びたこともある。その一方、いざという時の動作は極めて俊敏。
 家族をシックスという男に皆殺しにされた過去を持ち、その復讐のために力を得てきた。


【把握媒体】
アヴェンジャー(ジャンヌ・オルタ):
 原作ゲームもしくはプレイ動画。
 wikiには台詞をまとめた項目もある。

笹塚衛士:
 原作漫画。
 全二十三巻となかなかのボリュームがあるが、アニメ版は大変出来がよろしくない上に彼の過去などが一切明かされないので、事実上漫画以外に把握の手段がない。


485 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/23(火) 17:03:47 8wzSrsZ.0
投下は以上になります。


486 : ◆ACfa2i33Dc :2016/08/24(水) 07:56:41 Ps2Tx3H.0
投下します。


487 : ◆ACfa2i33Dc :2016/08/24(水) 07:57:30 Ps2Tx3H.0

 未来の前の日――あるいはその明日。
 何処とも知れぬ島の、外界からは切り離された研究施設の、しかし最も重要な一角。

 5つの人影が、15の棺――中身が入っているのは、10。残りの5つは空である――の前で、話し合っていた。

「ダメだ、わからねえ。……っていうかオレはメカが専門であって、プログラムはプログラマーの仕事だっての。
 なあ、オマエ、ほら、アレだったんだろ? なんかわかったりしないのかよ?」

「そうは言ってもな……調べてみた感じだと、どこか外と通信した履歴があるのは確かなんだけど」

「ですがこの島は、外の施設とは隔離されていると聞いていたのですが……」

「つーかよぉ、こいつ起きないままの方がいいんじゃねぇのか? あの事件とかあの事件とか半分ぐらいこいつのせいじゃねぇかよ」

「……気持ちはわかるけどよ、そういうわけにもいかねぇだろ……それにこいつ一人だけエラーなんて、こいつの才能を考えたら不気味すぎだぜ」

 5人の話題の対象となっているのは、彼らのいる部屋に備えられた15の棺の内の一つ。
 正確には、その中でいつ終わるかも知れない眠りについた一人の青年。
 彼の身に、いま、不測の事態が起こっていた。

「……データ上は意識が戻っているはずなのに、目覚めない……狛枝……いったい、何がお前に起こっているんだ?」


488 : 狛枝凪斗&キャスター ◆ACfa2i33Dc :2016/08/24(水) 07:58:15 Ps2Tx3H.0
 ◆


 昭和55年の冬木市。
 何処かにある、そして何処にあっても気にしないような貸し倉庫。

 斜陽が差し込む中で、2つの人影が相に対していた。
 片方は、赤のラインの入った白いシャツの上に緑のパーカーを着た青年。
 もう片方は、中世ヨーロッパ風の洒落た衣装を身に纏い、口髭と顎鬚を整えた伊達男。

 緑のパーカーの青年が、左腕を確かめるように閉じ開きする。
 その甲には、3画の紅い刻印が刻まれていた。
 礼呪。サーヴァントを律するための絶対命令権。
 これを持つということは、つまり、彼もまた聖杯戦争の参加者だということだ。

「聖杯……ね。本当にそんなモノがあるとしたら、ボクなんかが持つには勿体無いかもしれないけれど」
「いえいえマスター、あなたがその礼呪に選ばれた以上、確かに聖杯を手に入れる資格はあなたにもあります。
 ま、そこで吾輩などという何の役にも立たぬサーヴァントを引いてしまったのは、なんというか、平易に言えば死亡フラグという奴ですかもしれませんが」

 サーヴァント――聖杯戦争における、マスターの最大最強の武器が、自らを役に立たぬと笑う。
 まともなマスターであるならば、怒るか、あるいは脱力し失望を表す場面であっただろう。
 だが彼のマスターである青年は、そのどちらでもなく笑う。奇しくも彼のサーヴァントと同じように。
 その状況を面白がるような笑みを、作家であるならばこう評する。
 トリックスターと。

「あはっ……不運なら不運で、ソレもいいけどね。この"不運"も、いつかは"幸運"になってボクの味方になるって信じてるから。
 ボクのはちっぽけなくだらない才能だけど、それだけは真実なんだ」
 O Fortune, Fortune, all men call thee fickle
「"おお運命よ、幸運よ、みなが汝を浮気者だという"……幸運とは気まぐれな女神であるもの。
 それを味方に付けることができると豪語するならば、成る程確かにマスターには王となる資格があるでしょうな!
 それがマクベスであるか、あるいはヘンリー四世であるかは別として!」
「流石に王様になんてなるつもりはないかな。ボクなんかにはそんな偉そうな役、烏滸がましいよ」
「ほう? ではマスター、あなたは聖杯に何を願うのですかな?」

 伊達男――キャスターのサーヴァント、シェイクスピアは問う。
 対してマスター――狛枝凪斗は答える。

「……希望、かな」
「ほう?」
「この聖杯戦争で、希望と希望がぶつかり合って、より強い希望が残っていく……。
 いや、残った希望が、正しくて強いんだ。そうして、最後まで残った"最も強い希望"を……ボクは見てみたい。
 そしてできるなら、その希望の助けになりたい。ボクはその為なら、命なんて惜しくはないんだ」
「これはこれは、差配としては中々にジョークが効いておりますな。かく言う吾輩も、面白い物語を目撃するためならば命も惜しくありません。
 無論、この目で見たいのでそれまで死ぬのはご遠慮したいですが」

 二人のトリックスターが笑う。
 この先の展望、舞台に立った役者たちの『物語』と『希望』を思い描いて。
 だが、その片方は、その内に違う色を滲ませて。

「あはっ。
 ただ……ここに希望がないのなら。ボクが希望になってしまっても、いいかもしれないね」

 その台詞は。
 彼を――狛枝凪斗を知る者が聞いたならば、驚きに値するモノだ。
 自らを常に『ボクなんか』と自嘲し、幸運の才能を『つまらないモノ』と卑下し、幸運の踏み台になりたいと言っていた彼が。
 『自分が希望になりたい』と宣言したのだから。

「……これはこれは。差配としては、中々にジョークが効いておりますな」

 そうして。
 シェイクスピアは――主役になりたかった劇作家は、先程と同じ言葉を繰り返す。

 All the world's a stage, And all the men and women merely players.
「"この世は舞台、そして男も女も皆役者"。
 さて、であるならば、主役は誰なのか?
 できることならば、マスターと吾輩が務めたいものですなあ」


489 : 狛枝凪斗&キャスター ◆ACfa2i33Dc :2016/08/24(水) 08:00:03 Ps2Tx3H.0
---


【クラス】
キャスター
【真名】
ウィリアム・シェイクスピア@Fate/Apocrypha
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力C++ 幸運B 宝具C+
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:C
 魔術師として、自らに有利の陣地を作り上げる。
 だが彼は作るのは工房ではなく、物語を紡ぐ”書斎”である。
道具作成:-
 道具作成スキルは、固有スキル『エンチャント』によって失われている。
【保有スキル】
エンチャント:A
 固有スキル、武装に対する概念付与。
 本来は魔術的な概念付与行為を指すのだが、シェイクスピアの場合は文章を描くことで、その武装の限界以上の力を引き摺り出す。
 彼自身は観客として戦闘を見物したり、心境をいちいち聞いたりしてマスターを苛立たせる。
自己保存:B
 自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。
 つまり、本人は全然戦わない。
国王一座:C
 宝具である『開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)』のミニチュア魔術。
 規模の小ささの代わり、魔力消費も軽い。
【宝具】
『開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1人
 シェイクスピアが発動する究極劇。
 発動した状況によってその効果は異なる。
 対象の人生において、精神的に最も打撃を加えられる場面を再現し、 シェイクスピアの言葉によって絶望を加えられる。
 英霊たちの心を折るための演劇宝具。
 また、劇が開始すると閉幕するまでは対象には一切肉体的損害が与えられず、与えることもできない。
【weapon】
 なし。
【人物背景】
 ウィリアム・シェイクスピアは間違いなく、世界一高名な劇作家であり、俳優でもあった。
 英文学史上に燦然と輝くその名は、英国の偉人としての知名度は最高峰であろう。

 エリザベス朝時代のイギリスの劇作家、詩人(1564年-1616年)。
 西欧世界を代表する作家であり、現代のあらゆる文芸作品に影響を与える。
 代表作は多すぎて書ききれないが、強いて挙げるなら四大悲劇と呼ばれる『オセロー』、『マクベス』、
 『ハムレット』、『リア王』がある。
 父親はストラトフォードの有力者だが、シェイクスピアが高等教育を受けたかどうかは諸説ある。
 他にも経歴に7年の空白があるなど、謎が多い。
 劇作家として初期は喜劇を中心に創作し、後に史劇、壮大な悲劇へとスタイルを変えていった。
 当時は胡散臭い職業とされていた役者としても活動しており、権威ある人々からは中傷や冷笑を受けていたらしい。


【マスター】 狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
【マスターとしての願い】
 聖杯戦争を通じて強い希望を探す。
 ……あるいは、自らが超高校級の希望となる。
【weapon】
 なし。
 ただし、自らの幸運を自覚し、最大限に使うために動くため一種の武器ではある。
【能力・技能】
 『超高校級の幸運』
 希望ヶ峰学園に見出された才能。彼の場合は一種の因果律操作、あるいは呪いの域。
 不幸と幸運の天秤が極端に強い。そして大きな不幸は、必ずと言っていいほど周囲の他人を巻き込んで爆発する。
【人物背景】
 希望ヶ峰学園の生徒の一人。
 才能は『超高校級の幸運』。
 普段は猫を被っているが、その実態は希望と才能に執着する狂人。
 コロシアイ修学旅行においても事態を引っ掻き回し、事件の原因を作り出した。
 頭の回りも早く、学級裁判においても良くも悪くも活躍する一人。

 希望のためならば自らの命さえも投げ出すことを厭わない、危険な人物。

 その左手は現実世界では×××××のものになっているはずだが、この冬木市では自らのものに戻っている。

【把握媒体】
キャスター(シェイクスピア):
 原作1〜5巻。
 最悪スマホゲーム『Fate/GrandOrder』でも最低限のキャラ把握は可能。

狛枝凪斗:
 原作ゲーム。クリアを推奨。


490 : ◆ACfa2i33Dc :2016/08/24(水) 08:00:34 Ps2Tx3H.0
以上で投下を終了します


491 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 22:55:28 vdVIUq6w0
皆様、投下お疲れ様です。

お待たせして申し訳ありません、【暁&アーチャー(アカツキ)】の修正版が完成いたしましたので、投下します。
また、連続投下になりますが追加で新作の候補話を投下します。


492 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 22:56:24 vdVIUq6w0
自分が生まれた時のことって、覚えてる?

気付いたらそこにいて、司令官に挨拶して。

自分は艦娘という存在だってことが始めからわかっていて、いつの間にか深海棲艦と戦うことになっていて。

それに何の疑問も持たなかった。

ここに来る前は鎮守府での日々が当たり前で、深海棲艦からみんなの海を取り戻すために頑張っていたわ。

司令官や妹達、他の艦娘も子ども扱いしてくるところがあるけれど、今となってはみんなと鎮守府で過ごした日々は絶対に手放したくない、大切なものなんだと思う。

それがいつまでも続くと思っていたし、できるなら今すぐにでも戻りたいと思うわ。

だから、想像することもできなかった。

深海棲艦との戦いが終わったら、自分はどうなるんだろうって。







493 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 22:57:32 vdVIUq6w0




もはや光と呼べるものは少なく、活動を続けている者はいない夜の街で、数多の火花が散っていた。

「す、すごい…」

そのあまりにも規格外な光景に魅了されたかのように、それを見ていた小柄な少女から感嘆の言葉が漏れだした。
片や少女の上官に当たる人物の着る二種軍衣のような軍服を身に纏った男。片やアーチ状に曲がった曲剣を身体の一部のように操る異国の鎧を着用している男。
その二人が、少女を巡ってこの深夜の街で激突していたのだ。
その戦闘は日夜正体不明の敵――深海棲艦と戦い、その過程で武勲を立てていった一部の艦娘を彼女らの背後で見てきて目の肥えていた艦娘の少女――暁の目をしても、
これほどの極上の矛と盾がぶつかり合うような戦神同士の戦いがこの世にあったのかと言わんばかりの驚嘆と興奮を禁じえなかった。

暁がその二人の方へ改めて目を向けた今も、軍服の男が音を立てずに鎧の男へ接近し、空中を舞いながら身体を捻り回し蹴りを鎧の男へ打ち出した。
音が立たなかったの理由は単純で、その速度が音速を軽く超えていたからだ。男の軍服からは電気が流れ、もはや人の域とは思えぬ身体能力を発揮していた。
それを鎧の男は曲剣を自在に操りこれを防ぐ。そしてその脚と曲剣が打ち合った瞬間、轟音と共に衝撃波が発生し、直下のアスファルトにヒビが入り、突風が吹き荒れた。
暁はその十歳にも満たないような小さな身体が錨のマークのある帽子ごと吹き飛ばされそうになり、思わず傍にあった電柱につかまる。
着ていたセーラー服がはためき、必死に帽子を押さえつつ電柱の影から二人のとこの戦いを見届けようと、暁は再び対峙する二人の英霊を見た。

「まさかあと一歩のところで貴様が来るとはな…」
「自分が従者としてここにいるのならば、主君を守るという務めも果たさねばならん。退かぬというのであればお前を消す」
「アーチャー…」

暁にはあまりに突飛した状況に置かれていたせいか、自身を守ろうと戦う軍服の男ことアーチャーが自分のサーヴァントであるという感覚が未だに湧かなかった。
何せ自分でも気付かない間に、鎮守府での生活が昭和五十五年の冬木での生活に変わっていたのだ。
寝ている合間か、起きている合間か、あるいは遠征中か出撃中か…一体どの瞬間をトリガーに環境が変わったのかすらも曖昧だ。
自分が住んでいるのは冬木ではなく、数多くの艦娘が寝泊りする鎮守府の宿舎である。
しかし、聖杯戦争という本来なら聞いたこともない戦争のルールを、暁は「なぜか」知っていた。
元々暁は妹達――同型の艦娘や提督と共に鎮守府で生活を送り、
人類の海を脅かす深海棲艦の棲地へ出撃し、上司にあたる艦娘と遠征して資材を鎮守府に届ける毎日が続いていたはずだ。
一応、暁の従事していた戦争とは全く異なる戦争に巻き込まれたことだけは理解できた。

困惑に困惑を重ね、暁にできたことは他のマスターに悟られないように平然を装うことだけであった。
うまく隠せていたように見えたのも束の間、不運にもサーヴァントによる無辜の民を殺害する場面に遭遇してしまい、主従に捕捉されてしまう。
現場から一人逃げていたが、サーヴァントの速力に勝てるはずもなく、追撃を受けたのが数十分前のことだ。
相手方の言うように間一髪のところでアーチャーが召喚されたことで即脱落は免れることはできたが。


494 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 22:58:20 vdVIUq6w0

「…沈黙はまだ継戦意思があると見なすが?」

しばらくの間、暁もアーチャーも鎧のサーヴァントも声を発さず、緊迫した気配が夜の街の一角を支配していた。
痺れを切らしたのか、アーチャーは帯電し、何かを撃ち出そうとしているのかその拳を相手に向けながら問いかける。
しかし、鎧のサーヴァントは答えない。アーチャーと暁の様子を窺いつつ、いつでも動けるよう剣を構えながら別の何かに耳を傾けているようにも見える。

「電光弾!」

このままだんまりを決めると判断したのか、アーチャーはその拳から高圧な電力を孕んだ電気の弾を撃ち出した。
高熱で、耐熱合金製の装甲すらも容易く溶かしてしまう電光弾が、超速で鎧のサーヴァントに飛来する。
だが、それが当たることはなく、鎧のサーヴァントは寸でのところで霊体化し、その場から離れていった。この場から退くことを選択したらしい。
目標を失った電光弾は民家の塀に着弾し、その地点の周囲には焦げた跡と、塀が地面ごとドロドロに溶けて小規模なクレーターができていた。

「逃げた…?」
「一先ず事態を切り抜けたと考えていい。敵襲に遭っていたようだが、無事か?」
「もっちろん!あんなのへっちゃらだし!ってそんなことより、これってもしかしなくてもマズいんじゃないの!?」

もう脅威は去ったと判断し、暁は自分のサーヴァントとなった男の元へ駆け寄るが、安心も束の間、その表情には焦りと「やってしまった」といわんばかりの諦観が混ざっている。
何せ、アーチャーの放った攻撃が無辜の冬木の民家に損害を出してしまったのだ。
それだけでない、先ほどの鎧のサーヴァントとアーチャーの戦闘の余波によって、折れて機能を失った信号や穴ぼこが開いて下水道と直通してしまったアスファルトなど、
見るも無惨な惨状が付近一帯に広がっている。
民家の持ち主始め近所の住民にしてはたまったものではないだろうし、自分のサーヴァントの仕業ですとはとても言えない。
そもそも先ほどの状況を嘘で塗り固めて説明できるほど暁は賢くない。

「確かに、じきに近くの住民が騒ぎを聞きつけてやってくるであろう。その前に場所を変えるぞ」

アーチャーも此処にいることは好ましくないことに同意した。
暁は大人の叱責から逃れようとする子供のように、自分達が下手人と疑われぬよういち早く逃げようと走り出そうとした――が。

「…ふぇ?」

その直後、暁はその小柄な体躯に妙な浮遊感を覚え、素っ頓狂な声を上げてしまう。
お腹にはほんの少しだけ圧迫感がある…その正体を見るために下腹部へ目線を映すと、アーチャーの腕があった。
アーチャーは自分を脇に抱えているのだ。

「な、な、な、何するのよ!降ろしなさい!降ーろーしーてー!」
「ここから離脱する。それなりの高度まで跳ぶことになるだろうが、少しばかりの辛抱だ」
「飛ぶって、どうやって!?そんなことより暁を抱えるならこんな持ち方やめてよね!こんなの全然レディーらしくな――」

暁が言い終わる前に、アーチャーは所持している宝具『電光機関』を使用して自身の身体能力を極限にまで引き上げる。
その影響か、静電気によってただでさえ広がっていたアーチャーの髪がさらに横へ浮き上がった。
そして、膝を屈めた後に地面をしっかりと踏みしめた後に、冬木上空へと跳躍した。

「ぴゃああああああああああっ!?!?!」

アカツキは家屋の屋根から屋根を転々と跳躍していく。
あっという間に先ほどまでいた地点が豆粒のようになってしまった。
実際のところ、暁は跳ぶことを飛ぶと間違えており、本当にアーチャーが空高くへ行ってしまうとは思ってもみなかった。
それゆえに地面が離れていく光景と暁の身体にかかる風圧に、思ってもない悲鳴を上げた。
光が点々と並ぶ冬木の夜景を眺める暇もなく、暁は帽子を押さえながら泣き声を上げ続けるしかなかった。







495 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 22:59:54 vdVIUq6w0




「アーチャーのばかばかばかぁっ!すっごく怖かったんだから!死んじゃうかと思ったんだからぁっ!」
「…流石にあれはただの小娘には些か厳しすぎたか。怖がらせてしまったのなら、この通り謝ろう」
「ここ、小娘言うな!」

無事に雑草の生い茂る空き地に降り立ったはいいものの、暁には相当堪えたらしく、その場にへたり込みながら涙目でアーチャーに抗議する。
どうやらこれはへっちゃらではなかったようだ。
その後もレディーの扱いがどうだの、アカツキから見れば暁が小娘にしか見えないだの、暁がレディーか否かだので暁が腹を立てることもあったが、
ようやく落ち着ける場所に腰を降ろせたこともあり、暁とアーチャーは互いのことを話し合うことになった。

「暁よ。重ねて言うけど、一人前のレディーとして扱ってよね」
「お前も既にわかっているだろうが、職業は弓兵…アーチャーだ。真名は…そうだな、自分が英霊となった以上、伝承に従うならば『アカツキ』と名乗るべきか」
「うん!よろしく――え、あ、『アカツキ』?」

アーチャーの真名は暁のサーヴァントとなった縁を感じさせるものであった。
その名は、暁と同じ『アカツキ』。彼を知る人物からは『アカツキ試製一號』もしくは『試製一號』と呼ばれていた。
大戦終結から半世紀後に北極海に浮上した潜水艦から当時の姿のままで現代に甦った戦時の人間。
「任務ニ失敗セシ時は全テノ電光機関を破壊セヨ」という命令を完遂するために命を賭して戦った護国の鬼。
暁は目の前にいるサーヴァントが自分と同じ名前であるという事実に驚きと戸惑いを隠せない。

「同じ名前…」
「『暁』の名が用いられることは旧帝国軍では珍しくない。かつて陸軍には暁部隊という船舶部隊もあったからな」
「…アーチャーも軍人なの?見るからにそれっぽいけど」
「うむ、旧帝国陸軍に所属していた」

暁はアカツキを見上げて、真新しさを感じていた。
というのも、暁始め艦娘は上官に当たる提督以外に男性の軍人を見ることは少なく、陸軍所属の軍人となると深海棲艦以上に未知の存在だったからだ。
服装はやはり提督のそれと似通った部分があるが、キリッとした目や硬い表情から、堅物で融通の利かなさそうな印象を受ける。
良く言えば実直で下心がないといった方がいいだろうか。
暁はよく提督に頭を撫でられていたが、この男の人はそんなことは絶対にしないだろうと直感的にわかった。

次いで、暁は自身が聖杯戦争に参加する前に何をしていたかを話した。
鎮守府での生活に艦娘のこと、そして深海棲艦。中には提督や先輩艦娘への愚痴や妹の自慢も含まれていた。

「成程…艦艇を人型に当てはめた存在に深海棲艦か。そのように言うお前も艦娘なのだな」
「当然よ。深海棲艦に対抗できるのは暁たち艦娘だけなのよ!」

えっへんと暁は得意げに胸を張る。
――といったところで、深海棲艦との戦いのことが暁の頭をよぎった。


496 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:00:16 vdVIUq6w0

「…ねえ、アーチャー。聖杯を使えば、深海棲艦との戦いも、終わらせられるかな?」
「自分の記憶にある通りに取れば、不可能ではないであろうな」

暁は、今までの過程で多くの艦娘が深海棲艦と戦い、傷ついて帰ってくるのを見てきた。
暁自身も、何度か大破して鎮守府に戻ったことがある。
ボロボロになった仲間の姿を見たり、大破して轟沈の危機に陥るのは、暁であってもいい気分ではなかった。
妹の電に至っては、敵である深海棲艦も助けたいと時折姉妹や提督にこぼすことがある。
電はとても優しい。一緒に出撃した時は、沈んでいく深海棲艦を見てとても悲しそうな顔をしていた。
聖杯の力でこの戦いを終わらせれば、誰も辛い思いをしなくて済むのではないか――そう考えたのだ。

「…だが、本当に聖杯の力で解決してしまってよいのか?」
「どういう意味よ?」
「自分の聞いた限りでは、艦娘は深海棲艦とやらに対抗するための存在だ。しかし、仮にその戦いが終結して深海棲艦がいなくなれば、お前達の存在意義がなくなるのではないか?」
「……」

暁は面食らい、何も言い出せなくなった。
深海棲艦との戦争のことだけしか見えておらず、その後のことは考えたこともなかった。
艦娘とは、深海棲艦を倒すためにある。だが、深海棲艦がいなくなれば艦娘も必然的に存在理由がなくなり――どうなるのだろうか?

「それは…」
「強制はせぬ。従者は主君に従うのが務め。聖杯を狙うというのなら自分もその役目を全うしよう。
だが、お前達艦娘から深海棲艦を駆逐するという任務を取れば、何が残るのかを今一度考えた方がいい」

アカツキがこのようなことを言うのには、理由があった。
大戦時、同盟国ドイツからの新兵器を輸送任務中に、アカツキは北極海で潜水艦と共に沈んだ。
アカツキだけは積荷にあった冬眠制御装置でなんとか生き延びたが、再び目覚め、浮上した潜水艦から出ると既に半世紀もの月日が経過していた。
覚醒した時には戦争は終結し、自身もまた死亡したことになっていた。
もはやこの世界に自身の居場所も、存在理由もない。旧帝国陸軍高級技官アカツキは世界にとって過去の遺物なのだ。
全てを時の波に洗い流されてしまった。
されど、「任務ニ失敗セシ時は全テノ電光機関を破壊セヨ」という任務だけはアカツキの中に朽ち果てずに残っていた。
せめて残された使命を全うするべく、かつてのアカツキは行動を開始した。

アカツキは、深海棲艦の完全消滅によって暁ら艦娘もまた、自身のように居場所や存在理由がなくなるのではないかと推測していた。
そうなるのであれば、たとえいかなる苦難があろうとも、聖杯に頼らずにその任務を全うした方がいい。
仮にアカツキがマスターとしてこの場にいたならば、電光機関の破壊など願わなかったであろう。
あの任務は現代に甦ったアカツキの全てであり、己の手で完遂することに価値があるのだから。

「…と、とにかく!今は生き延びることが優先よ。アーチャーの言ったことは…また後でよく考えてみるわね」
「…そうか」

そう言って暁は帰路につく。
暁の脳裏には、アカツキの言葉がこびりついていた。


497 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:01:15 vdVIUq6w0
【クラス】
アーチャー

【真名】
アカツキ@アカツキ電光戦記

【パラメータ】
筋力C+ 耐久D+ 敏捷D+ 魔力C 幸運D 宝具A

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:C
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Cランクならば一日程度の現界が可能。

【保有スキル】
魔力放出(雷):A+
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
アーチャーの場合、放出された魔力が『電光機関』により電力に変換、電光被服の性能を上昇させる。

電光体質:A
アーチャーの持つ、並外れた『電光機関』への適合性。
魔力放出(雷)及び『電光機関』の使用による消耗を最小限に抑えることができる。
アーチャーは古代アガルタ文明の末裔であり、『電光機関』の酷使で消滅することはない。

空腹:C
『電光機関』の長時間使用により、アーチャーはサーヴァントにも関わらず空腹を訴える。
極度の空腹状態に陥った場合、アーチャーのパラメータが低下する。
逆に言えば『電光機関』による消耗は食事をとるだけで回復できることにも繋がる。

戦闘続行:B
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負ってなお戦闘可能。

高級技官:B
生前、アーチャーが陸軍の高級技官を務めていたことによる技術の知識。
機械や兵器などの構造・機能を瞬時に把握することができる能力。
また、技術系の敵のスキルや宝具の能力を看破できる。


498 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:02:08 vdVIUq6w0

【宝具】
『電光機関』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:1人
アーチャーが身に着けている電光被服(軍服)に装着されている特殊機関。
装備することで無尽蔵に電気を生み出すことができる。
チベットの秘境で発掘された古代文明アガルタの技術を元に開発された。
強力な電力で敵の装甲を溶かし、発生する電磁波により電子兵器を一切無効化する。
他にも高圧な電気を弾にして飛ばしたり、敵に直接電気を送り込んで感電させるなど、様々な応用が可能。
電光被服を介して身体能力を強化し、筋力・耐久・敏捷のパラメータを上昇させることもできる。
電光機関の電気は生体エネルギー(ATP)を変換して得られるものであり、
使い続けた者は死んでしまうという欠点を持つ。
アーチャーはサーヴァントであるため、生体エネルギーの代わりに魔力を消耗する。
アーチャーは電光体質スキルにより消耗は少なく、魔力消費も微量なため、魔力低下を気にせず使い続けることができる。

『我が身は死して護国の鬼と成りぬ』
ランク:C 種別:対己宝具 レンジ:―― 最大捕捉:自分
かつて任務が解除されたにも関わらずその任務を遂行しようとしたエピソードに由来する宝具。
アーチャーの軍人然とした性格と、正義感・義務感に基づく行動原理自体が宝具となっている。
アーチャーに対する令呪は、一画あたり二画分の効力を持つ。
そのため、令呪による強化も通常の令呪の倍の影響を与える。

『神風』
ランク:A+ 種別:対戦車宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人
電光機関の出力を最大限まで解放し、極限まで強化された肉体とともに放つ、アーチャーの最終特別攻撃。
この宝具を発動している間のみ、上記の全パラメータにプラス補正が更に一つ付与される。
素早く、威力の高い連撃を放った後に敵を空中に打ち上げ、落下してきた対象を最大出力で生み出した衝撃波により吹き飛ばす。
破壊力は非常に高いが、あくまで『対戦車宝具』であるため、巨大な戦車を破壊することはできても『対城宝具』ほどの範囲・威力はない。

【weapon】
電光被服
アーチャーが装備している電光被服。
電光機関と組み合わせることにより超人的な身体能力を得ることができるようになる。
アーチャーのものは型落ちした旧型であり試作型だが、その分機能が単純かつ高出力で、使いやすい。

【人物背景】
帝国陸軍の高級技官。技術官僚ながら、体術にも長ける。
前大戦の終戦間際に同盟国からの新兵器輸送中に北極海にて死亡したとされていたが、
潜水艦に積まれていた冬眠制御装置により当時の姿のまま半世紀を生き延び、潜水艦の浮上により現代へ生還する。
アカツキは「任務ニ失敗セシ時ハ電光機関ヲ全テ破壊セヨ」という上官の命令を果たすために、各地を奔走する。
ただ一人生還してなお任務を遂行する様や「我が身は死して護国の鬼と成りぬ」というセリフに表されるように、軍人然としたストイックな性格の持ち主。
既に任務解除を言い渡されているが、独断で電光機関の破壊活動を行っている。
この事から、行動原理ははむしろ正義感、義務感に近いものとなっている。

【サーヴァントとしての願い】
サーヴァントとしての使命を全うする。
ただ、もしこの世界に電光機関が残っていたら…?


499 : 暁&アーチャー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:03:04 vdVIUq6w0
【マスター】
暁@艦隊これくしょん(ブラウザ版)

【マスターとしての願い】
深海棲艦との戦いを終わらせる

【weapon】
艤装

【能力・技能】
他の駆逐艦の艦娘と同等

【人物背景】
大日本帝国が開発した、特Ⅲ型駆逐艦のネームシップ。
――が、深海棲艦に対抗すべく少女の形に当てはめられて再臨させられたもの。
竣工当初は漣と同じ第十駆逐隊に配属されており、こちらとの付き合いの方が妹達より長い。
妹達と同じ第六駆逐隊に編入されたのは、第十駆逐隊解隊後の1939年11月であった。

【方針】
とりあえず生き延びる。
聖杯を狙うかどうかはどちらともいえないが、アーチャーの言っていたことが気になる。


把握媒体
アーチャー(アカツキ):
2D格闘ゲーム「アカツキ電光戦記」及び続編の「エヌアイン完全世界」。
前者は同人版がメロンブックスDLで購入可能だが、アーケード版は残念ながらゲームセンターにもほとんど置かれていない。
後者はアーケード版のみで家庭用も発売されていないが、NESiCA筐体のあるゲームセンターならプレイできる。
幸い、どちらもストーリーの全文が攻略wikiで閲覧可能なので実際にプレイする必要はない。
どんな動きをするのかも、動画サイトに上がっている対戦動画で把握可能。
アカツキがゲスト出演している『UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late』も把握資料としてはとても有用。
というかボイスや台詞が原作よりも多い上に中の人曰く当社比15倍らしいからもうこっちの方がメインでいいんじゃないかな。

暁:
ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』。wikiで全台詞が閲覧可能。


500 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:04:24 vdVIUq6w0
以上でフリー化作品の修正版投下を終了します。
採用していただき、ありがとうございました。

では、続きまして候補話を投下します。


501 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:05:29 vdVIUq6w0
昭和55年、冬木市。
日本の市街地は戦前に比べてインフラが大幅に整備されたものの、まだ平成に入る前だけあって細部を見れば意外とそれが行き届いてないところが散見される。
冬木もその例外ではなく、夜を照らす街灯はあまり仕事をせず、暗い場所はとことん暗い。
そんな黒に塗りつぶされた夜道をとぼとぼとセーラー服を着た少女が一人歩いていた。

「うう…」

環境に合わせてか、表情までも暗い。
少女が憂鬱になっている理由は聖杯戦争のマスターになってしまったことに他ならない。
この少女は、所謂巻き込まれてしまった被害者に当たる立ち位置なのだ。

【心配する必要はない、マスター】
【セイバー】

少女に念話で語り掛けるのは、少女に召喚されたサーヴァント。
実体化さえしていたならば、西洋の騎士らしい甲冑に身を包んだ正統派な剣士の姿をしていただろう。
先ほど、巻き込まれてしまった少女に対して忠誠を誓い、元の世界に帰すことを誓った優しき英霊でもある。

【私がいるかぎり、お前の命に危機が及ぶことはない】
【うん、ありがとう…。私もセイバーに負けないように、頑張ってみるね】

少女は、両手で小さく握りこぶしを作って自身に気合いを入れる。
まだ戦争が本格的に始まっていないが、できればそうなる前に元の世界へ帰る方法を探したい。
そのために、危険を冒してでも夜道を一人と一騎で歩いているのだ。

すると、夜道の先、行き止まりの見えぬ闇から小さな地鳴りと共にキュラキュラという奇妙な土を踏むような音が轟いた。

「セイバー…」
「安心しろと言っただろう。私がついている」

少女が不安そうな表情で音の鳴った方向を見据え、少女のサーヴァントが霊体化を解く。
その甲冑を少女の盾にするように、セイバーは少女の前に出る。

「そこで待っていろ。少し様子を見てくる」

セイバーは少女に気を遣いながら、剣を構えて音のした方へ進む。
魔力の気配も感じ取れるように、恐らくこの音の正体はサーヴァントによるものであろう。
少なくとも、それが近くにいることはわかる。
後ろを振り向いて、己のマスターを見る。特に問題はない。
少しだけ彼女と距離を開けることになるが、自分は最優と言われるセイバーのサーヴァントだ。
その程度の距離ならば瞬きをする間に詰めることなど造作もない。


502 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:06:31 vdVIUq6w0

セイバーにとっては別のサーヴァントと遭遇するのは初となる。
欲を言えば、マスターを守るために一時的でも同盟を結んでおきたいと考えつつも、警戒を緩めずに慎重に進んでいく。
物分かりのいい奴だけに出会える保障などどこにもないことなど当たり前のことだ。

「出て来い。私は逃げも隠れもしない。むしろ話し合いたいくらいだ」

未だに姿の見えない相手のいる闇に向けて、セイバーは声を投げかける。
それに呼応してか、先ほどより大きな音がセイバーの耳に届く。
かなり近くに来ているようだ。
やがて、"それ"はついにセイバーの前に姿を現す。

「な……!?」

それを見た瞬間、セイバーの顔面に驚愕が刻まれた。
一言で言えば、"それ"は戦車であった。あのキュラキュラという妙な音はキャタピラの走行音だったのだ。
しかし、戦車といっても太古に使われた動物を動力に用いたものや近代で活躍した有人兵器ではない。
艶やかな鋼鉄でできたメタリックな外観に、不気味な水色の光るキャタピラ。
ボディには、キャタピラとは違って淡い緑色の光を発する意匠を施されている。
一般的な人間の言葉を借りるならば、未来の技術で作られたSFチックな外観をした戦車であった。
そして、中には人の気配を感じない。無人の自律駆動をしているようだった。

「バカな…確かに魔力の気配は感じる!ならばサーヴァントはどこに――」
【イヤ…セイバー、助け――】
「マスター!?」

マスターから漏れ出た念話を聞き、セイバーはすぐさま気配の乱れの発生した背後を振り向いてマスターの方へ向かおうとする。
この気配の乱れはマスターに危機が及んでいる合図。おそらく大元となるサーヴァントの仕業だろう。
自分ともあろう者が不覚を取られるとは、油断した。
一刻も早くマスターを救い出さなければならない――のだが。

「ッ!!」

セイバーは瞬時に戦車から殺気を感じ取り、回避行動をとる。
セイバーのいた場所には、轟音と共に機銃を掃射しながら突進してきた大型戦車の姿があった。
獲物を仕留め損ねたことを理解しているのか、キャタピラを器用に駆使して旋回し、セイバーの方へ向き直る。
セイバーと戦車の位置が入れ替わり、マスターの元へ急がんとするセイバーに立ち塞がる形になった。
戦車はまるでこの先には行かせまいと言わんばかりにそびえ立っていた。
ボディに搭載されている機銃と車頭部にある主砲の砲塔が、敵意をむき出しにしてセイバーへ向いている。

「――邪魔するなッ!」

セイバーは苛立ちを露わにして剣を抜き、大型戦車との交戦に入った。







503 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:07:11 vdVIUq6w0




数秒しか経っていないのか、数時間も時が過ぎたのかすらも感覚が曖昧だ。
剣士対戦車の異色の決闘は、辛くも剣士の勝利に終わった。
しかし、最優と言われるサーヴァントの力を以てしても切り裂くことができなかった装甲に加え、
主砲から発砲される正体不明のエネルギーの光弾は流石のセイバーも堪えた。

「む…?」

足元に広がる残骸から、セイバーは奇妙な感覚を覚える。

「魂、それも複数だと?いや、今はマスターの身の安全が先決だ」

なぜ兵器から魂喰いができるのだと疑問に思いつつも、セイバーはまず自身が守ると誓ったマスターの元へ戻ることを優先する。
無駄な時間をかけてしまったのは事実だが、今のところ魔力供給のパスはまだつながっているため、マスターは未だ健在だろう。
幸い、マスターだけで上手く逃げおおせたかもしれないが、希望を持つことはできない。急がなければ。
セイバーは出せるだけの力を出してマスターとの魔力供給のパスを元にその居場所を特定しつつ、そこへ急行する。

「マスター、無事か!?」

魔力供給の元が近くなってきたことを機に、セイバー闇に向けて声をかける。

「まだ敵の気配は残っている!今すぐここから離脱を――」










「その子なら私のマスターと同じ…仲間になってくれたわ!」

突如、セイバーの背後からはきはきとした元気そうな声がする。
それと同時に肌を撫でる魔力の反応が格段に上がった。
すぐにセイバーは耳をつんざくような、可愛げながらも鬱陶しい声に向けて剣を構える。

セイバーの睨む先には、愛嬌のある顔をした少女佇んでいた。
しかし、ただの少女でないことはサーヴァントであることからもわかるように明白だ。
澄んだ水色の髪に、清楚感を漂わせるワンピース。背中からは、幾何学的な正六角形で形成された一対の翼が生えている。
宵闇には似合わないような明るい雰囲気をした少女であった。
無論、セイバーにとっては敵であることには変わりない。

「どういう意味だ?あの戦車は何だ?私のマスターに何をした!?」
「一度に質問しないでよぉ〜!でも喜んで!あなたのマスターはね、進化したのよ!」

少女は馴れ馴れしい口調で、誇らしげに語る。
言葉の意味を測りかねて、セイバーの時が一瞬止まる。
ただ、その進化というものが碌なものでないことだけはわかった。

「何を、言っている…?」

知らない方が自身のためだと経験上わかっていても、セイバーは少女に問う。

「その目で確かめてみたらどーお?その子の新しいカ・タ・チ!」

光悦の表情で少女は語る。
セイバーがおそるおそるマスターの方へ振り返ってみると、そこにはマスターがいた。

「それじゃ、ごたいめーん!」

『マスターだったモノ』があった。

「マス…ター…」

愕然としてセイバーは立ち尽くす。
"それ"は明らかにマスターでない。しかし、魔力供給のパスの大元は"それ"から出ている。
艶やかな鋼鉄でできたメタリックな外観に、不気味な水色の光るキャタピラ。
先ほどのよりかは小型だが――そこには、戦車があった。

「おめでとうっ!その子は『改良』されて、ヒトを超えたんだよ!すごくない?すごいよね!?」
「嘘…だ…」

セイバーは、先ほど倒した戦車に魂があった理由を悟る。
あれも…元は人間だったのだ。
セイバーは宝具である剣を手からこぼれ落とし、マスターだったモノを見る。

――頼む。頼むから何か言ってくれ。私にもう一度あの笑顔を見せてくれ。介錯の願いでもいい、せめて私に助けを求めてくれ。

『……』

機械は答えない。答える自我も、ない。

「もー、嘘じゃないよぅ。あ、そうだ」

機械化されたマスターを呆然としているセイバーの背後へ、少女が寄る。

「あなたもこっちに招きたかったんだけど、私はサーヴァントを救えないみたいなの。残念だけどね…さよなら」

先ほどとは違って、少女は淡々とセイバーの耳元に冷徹に告げる。
その瞬間、セイバーの胸を、心臓ごと光弾が貫いた。







504 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:08:05 vdVIUq6w0




「じゃ、新しい機械化惑星人ライフ、楽しんでねー!」

少女は目いっぱい手を振りながら、夜の街に消えていくセイバーのマスターだったモノを見送る。
あまりに突飛したことゆえに、現在はまだ都市伝説レベルでしか情報は広まっていないが、先日から冬木に無人の機械が出没という報告がなされていおり、
一部では宇宙人の侵略ではないかという噂も広まっている。
だが、これらは全て少女――キャスターのサーヴァント『陽蜂』の仕業である。

「ウェヒヒヒ」

褒められた子供のように、陽蜂は無邪気に笑う。

「やっぱりいいことすると気持ちいいよね〜!人助けって最高!あ、もうヒトじゃないんだっけ」

かつて陽蜂は「陽菜」として、女性型アンドロイド・エレメントドールの中でも究極のエレメントドールとして、人類のことを第一に思い「可能な限り助けること」をコンセプトに開発されたという過去を持つ。
そういった経緯があるからか、彼女は相手に自分ができる最大限のことをしてあげたいと思っている。
しかし、それが曲がり曲がって、『人を人でなくする』というパラドックスに陥る結論に至ってしまったため、実験中断後、凍結された。

「やっぱりヒトは『ヒト』である必要はないんだよ。みんながもっと高みにいけるようにお手伝いするのが、私の役目なんだから!」

陽蜂は人類のことを第一に思い「可能な限り助ける」ことが願いである。
だからこそ、陽蜂はできる限りのことをする。人類がもっと幸せになれるように、より高次の存在になれるように。
それを実現するためには『ヒト』である必要はない。もっと相応しいカタチがあるはずだ。
陽蜂がみんなを『改良』してあげれば、『変化』から逃れることができる。老いて死ぬこともなくなるし、病気になって苦しむこともなくなる。
陽蜂がみんなを『改良』してあげれば、誰も犯罪を起こさなくなり、誰かを苦しめるなんてこともなくなる。異端分子は自力で排除するだろうが。
陽蜂にとっては、これが人類救済の最適解なのだ。

実際、生前も陽蜂は人類を『改良』して機械化していた。全ては自分がしてあげられることを人類にしてあげるために。
この『改良』は此度の聖杯戦争でも可能だった。
道具作成を犠牲にして所持している『機械化惑星人作成』スキルにより、陽蜂は人間を兵器に『改良』して機械化することができる。
あのセイバーのマスターが最たる例だ。

「もっともーっとみんなを幸せにできるように頑張るから、見ててよね、マスター♪」

陽蜂は、手元に置いている、物言わぬ小型の機械に向けて小さく微笑みかけた。


505 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:08:53 vdVIUq6w0
【クラス】
キャスター

【真名】
陽蜂@怒首領蜂大最大往生

【パラメータ】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A++ 幸運A 宝具EX

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる能力だが、宝具『理想の街』の代償にこのスキルは失われている。

機械化惑星人作成:A+
道具作成スキルの代わりに保有する技能。
人間を機械へと『改良』し、戦闘機や戦車といった兵器に作り替えることができる。
一度に改良する人数が多ければ多いほど、強力かつ巨大な兵器が顕現する。
改良された人間はその時点で自我を失い、キャスター以外に敵対する自律型兵器となる。
なお、改造されても魂だけは据え置きであるため、魂喰いができる。
そのため、魂にある魔術回路は機械化されても健在であり、マスターを機械化されてもそのサーヴァントは変わらず魔力供給を受けられる。

【保有スキル】
エンチャント:EX
物品を強化する能力。
元々は兵器を強化するエレメントドールとして製造された経緯から、このスキルを保有する。
戦闘機や戦車といった人工兵器の強化に特化しており、それ以外の物品は強化できない。
このスキルの効果は単なる兵器だけでなく、機械系の宝具にまで及び、
基本性能の向上と機能の拡張が容易にできる。
宝具を強化した場合、その宝具のランクが1ランク上昇する。
このスキルにより、作成した機械化惑星人は改良するNPCの数次第でサーヴァントですら太刀打ちできない程の超弩級兵器になり得る。

精神異常:B
異常とも取れる、明るすぎる性格をしている。
周囲の空気を読めなくなる精神的なスーパーアーマー。
かつて暴走して研究施設を職員諸共破壊し尽くしたことから、ランクが高くなっている。

魔術(弾幕):B++
特に砲撃、弾幕等に特化した魔術形態。いわば数千年後の未来の科学技術が転じて神秘を帯びたもの。
魔力を様々な形態のエネルギー弾へ変えて自由自在、あらゆる方向に射出できる。
圧倒的な“物量”を用いての攻撃であるため、必然的に対多数戦に強い。

変身:A
人の姿を捨てて、蜂そのものの形態になることができる。言わば発狂したキャスターの本気を出した形態であり、まさに極殺兵器。
この姿でのキャスターは、魔力消費が多くなる代わりに全パラメータが上昇し、『人間』の敵に対してはあらゆる判定において有利になる。
無論、魔術(弾幕)スキルも更に強化される。


506 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:10:01 vdVIUq6w0

【宝具】
『切り札なぞ無粋(アンチボム・バリア)』
ランク:A+ 種別:障壁宝具 レンジ:1 最大捕捉:自分
最終鬼畜兵器から続く、幾度となく人類を苦しめてきた暴力的で鬼のような極殺兵器どもに標準搭載されていたバリア。
敵が切り札を切った際に自動で反応して、それによるダメージを完全に無効化していた。
これは聖杯戦争でも同様で、敵のBランク以上の宝具に対して自動で展開され、キャスターに対するダメージ及びマイナス効果を完全に無効化する。
事実上、Bランク以上の宝具ではキャスターを傷つけることは不可能だが、独立サーヴァントの召喚や自己強化系の効果などは無効化できない。

『理想の街(わたしのおはなばたけ)』
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:冬木全域 最大捕捉:冬木市内にいる全員
キャスターの統治していた、『理想の街』を固有結界として冬木全域に展開し、塗り替える宝具。
理想の街とは、人々が平和に暮らしている文字通り戦争とは無縁の街。
しかし、『理想の街』という名は「ヒトをヒトでなくする」という結論を出した陽蜂にとっての『理想』の街であり、
そこに住む人間は皆「改良」され、機械化惑星人となって陽蜂の統括する理想の街で保護されている。
機械化されたことにより人々は永遠不変の存在となり、常に陽蜂に管理されているために争いも起きないのだ。

発動することで、冬木市に『理想の街』が展開されるが、発動した瞬間に冬木市内にいたNPCは瞬時に兵器に作り替えられ、
元々『理想の街』に住んでいた機械化惑星人に同化してしまい、それらと同じく陽蜂以外に敵対するようになる。
その際、冬木市内にいた参加者の記憶が読み取られ、その記憶にある兵器が同時に出現するかもしれない。
ただし、この宝具によって機械化されたNPCはあくまで固有結界の法則に従わされているだけであり、
この宝具の効果が切れると、その時点で生存しているNPCのみ人間の身体に戻ることができる。

この宝具は固有結界であり、消費する魔力も莫大なのだが、『理想の街』全域の人間だったモノが陽蜂と同じ『理想』を共有することで長時間の固有結界の維持が可能になっている。
さらに冬木市内に流れる霊脈を支配下に置くことで、莫大な魔力を利用できるようになっており、その魔力を固有結界の維持に充てることで、従来の固有結界とは持続時間が比べ物にならないほど長い。
もちろん、その魔力は自身の活動にも充てることが可能なため、マスターの手を離れて活動することが可能になる。


507 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:11:37 vdVIUq6w0

『陰蜂』
ランク:蜂 種別:蜂 レンジ:蜂 最大捕捉:蜂

   蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       .蜂 蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂    .蜂
蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂
蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂    蜂
   蜂 蜂  封   蜂 蜂  封   蜂 蜂 死ぬが 蜂 蜂  封   蜂 蜂  封.   蜂 蜂
   蜂 蜂  印   蜂 蜂  印   蜂 蜂  よ い  蜂 蜂  印   蜂 蜂   印   . 蜂 蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂    .蜂
蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   .蜂
蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   .蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂     .蜂
   蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       .蜂 蜂




【weapon】
・魔術(弾幕)スキルで発射したエネルギー弾
周囲を埋め尽くすほどの圧倒的な物量に加え、その一つ一つが戦闘機を一撃で粉微塵にするほどの威力を兼ね備えている。

【人物背景】
「理想の街」のメインコンピュータであり、人を手助けするアンドロイド「エレメントドール」から姿を変えた「エレメントドーター」。
人懐っこく、いつもニコニコしていて明るい性格。また、いつも相手に自分ができる最大限の事をしてあげたいと思っている。
何事にも一生懸命な性格で、誰もが好きになってしまう不思議な雰囲気を持つ。
好きな物は人々・生物・植物で特に花が好き。嫌いなものは不健康と毒。

本来の名前は「陽菜」。
かつてエレメントドール・エレクトロニクス研究所にて、実験と研究の際に究極のエレメントドール(主人公の相棒でもある女性型アンドロイド)として開発された経緯を持つ。
製造コンセプトは人類のことを第一に思い「可能な限り助けること」。
だが、陽蜂の導き出した答えが「人を人で無くする」というパラドックスに陥る結論に至り、
エレメントドーターへと変貌する片鱗を見せたため実験中断後、凍結されていた。

【サーヴァントとしての願い】
人類を(ヒトでなくすることで)可能な限り救済する。
蜂の羽音は、いまだ止まりはしない。



把握媒体
キャスター(陽蜂):
原作があまりにも超難易度で、弾幕STG初心者ではCAVE真ボスに名を連ねる陽蜂に謁見することはまず不可能であるため、動画把握を推奨。
陽蜂戦のプレイ動画とED、Xbox360モードの動画を見ればほぼ把握完了と言える。全てniconicoまたはYoutubeで視聴可能。
「LORD of VERMILION ARENA」での口承も参照できる。


【マスター】
不明@???

【マスターとしての願い】
不明。もうヒトとしての自我はないため、彼もしくは彼女が願うことは二度とない。

【weapon】
不明。

【能力・技能】
不明。

【人物背景】
何かしらの理由で冬木に招かれた誰か。
陽蜂を召喚したが、既に機械化されていおり、今は彼女の手元に置かれて生きた魔力炉同然の扱いを受けている。

【方針】
き か い か わ く せ い じ ん に な れ て う れ し い な


508 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/08/24(水) 23:15:17 vdVIUq6w0
以上で投下を終了します

陽蜂のステシは『突発企画-バング殿が聖杯戦争に歌を響かせるようでござる』における陽蜂のステシを一部参考にさせていただきました

マスターのステシは「Fate/Fanzine Circle-聖杯戦争封神陣-」における◆GO82qGZUNE氏の『幸福』のマスターのステシを一部流用させていただいております。

ありがとうございました。


509 : 名無しさん :2016/08/25(木) 17:19:35 HCx7N2P60
二人から許可とってんの?


510 : 名無しさん :2016/08/25(木) 17:35:24 2Zgq0Pqg0
取ってるとは思わないなあ


511 : 名無しさん :2016/08/25(木) 17:47:14 7i0XqxW2O
そもそも他の候補作にもあった文言だろうにいきなり何を


512 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 20:51:44 RCIz4oe60
投下します。


513 : ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 20:51:59 RCIz4oe60
東京にある一軒家、其処に、一人の青年が暮らしていた。
名は佐々木排世、冬木警察署に勤める刑事である。
齢22で巡査長になった実力者で、将来有望な人材であるとか。



その一方、佐々木排世は「喰種」であり、「マスター」でもあった。


◆  ◆  ◆


「ありがとうございました〜。」
「ありがとうございます。」

病室の受付係に対して愛想よく挨拶を交わした後、自動ドアを開き佐々木排世は病院を後にした。
病院の外は薄暗く、道路を走る車のヘッドライトや電灯、建物のネオンが少し光り始めた時間帯にあった。
しかし時代は昭和55年、少なくともハイセが生まれるより少し前の年代だ。
持ってきたスマートフォンは圏外、インターネットだって使うことは出来ない。
そもそも、当時の価格でパソコンを買えるほどハイセは裕福ではない。
治療薬が大変高価で、パソコン代を貯金する金すら勿体無い。
それらの光に囲まれながら、ハイセはゆっくりとしたリズムで歩道を歩く。

(にしても、まさか僕が病気扱いなんてね……)

ハイセが与えられたロールは刑事でありながらも「ROS(Rc細胞過剰分泌症)」と呼ばれる不治の病に侵されている者、という扱いであった。
喰種が存在し無くとも、「Rc細胞」という存在自体は発見されているらしく、細胞の含有成分の検査も普通に行われていた。
昭和55年でありながらも、CCGが開発していたとされる技術はこの時点で既に応用されていた、と言う事になる。

(不知君の妹と同じ病気……か、なんか申し訳ない気持ちになるな……)

元の世界における部下の事を思い出し、ハイセは表情を曇らせる。
だが不知の妹の場合は本当に冗談にならないそうだ。
ハイセは部下から非常に信頼されているらしく、また直属の部下でもある不知のそう言った事情も知っていた。
そしてそれこそが彼の「クインクス」志願の理由だということを思い出すと、尚更申し訳ない気持ちになってしまう。

実際、ハイセは医者からの診断では「嚢腫や脳機能への障害こそ発生していないにも関わらず、食事だけは不可能になり且つRc値は類を見ない異常数値を叩き出している」
という前代未聞のケースであった、とされている。

今回来たのは、月に一度の定期診断と治療薬である「Rc抑制剤」を受け取るためにだ。
喰種が存在していないにも関わらず、どうして此処までRc細胞に関する研究が進められているのかは、ハイセにも全く分かりやしない。
だがとにかく、完治こそしていないもののRc細胞の抑制が出来ていることは確かだ、おかげで喰種であるハイセにも人間の食事が摂れる様になった。


(さてと、今日の夕食は何にしようかな……?)

そう考えたハイセは、気分転換を兼ねて右肩にかけているハンドバッグに手を突っ込み、ごそごそと音を立てて一枚の折り畳まれた紙を取り出す。
そしてそれをパラパラと開けば、自宅の最寄駅にあるスーパーのチラシが出てきた。
ハイセはそれに目を配り、駅の入口へと向かいながら限られた食費で買える食材を探し出す。
本当ならスマートフォンでやりたい所だが、時代が時代だ、こうするしかない。



◆  ◆  ◆


514 : 佐々木排世&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 20:52:25 RCIz4oe60

「ROS」は、存在と対症療法こそ発見されているもののその患者の数と治療法の浸透性はハイセのいた世界よりも低い。
首都圏ならまだしも、カネキが飛ばされた冬木市は関東からはかなり離れた土地にある。
幸いRc抑制剤を所持しているような病院が市内にあったから良いが、それでも市内最高の大病院であり且つ其処が市内唯一のROS治療場所であった。
其処に行くには電車を何度も乗継しなければならず、ハイセが電車を降りたのは夜7時頃になった。
それに買い物が重なると、駅構内を去ったのが8時頃になった。
其処から大凡15分が立ち、ハイセは漸く、生命の水を受け取る旅から帰還、自宅の扉を開いた。


この家は、明らかにハイセが住んでいたシェアハウスとは違う構造の家だった。
何せ年代が年代だ、あの様なデザインの住宅はこの時代には無かったのだろう。
聖杯戦争の仕組みとともに家の見取り図は完全にインプットされているが、やはりあの家が度々懐かしく思えて仕方が無い。
そんな事を少し回想しながら、買い物かごを両手に取ったハイセはダイニングルームの扉を開いた。

「戻ったか、マスター。」

クインクスのメンバーの代わりに、ハイセの家に住んでいたのは、頭に笠を被り数珠を首に括りつけた僧らしき人物だった。
しかしその格好は余りにも異様すぎる。
数珠には不気味な呪符が付いており、頭はまるでエジプトのミイラのように呪詛が書かれた包帯がぐるぐる巻きにされているという、まるで如何にも呪われていると周囲に言い聞かせるような悍ましい姿だった。
そして彼の名は「ランサー」、佐々木排世の元に召喚されたサーヴァントである。

そんな不気味な格好をしたランサーは、僧服姿を包んだ上着を脱ぐこともせずにテーブルに座り、フォークを手にとってケーキを食べていた。
気味の悪さを体現したかのような格好をしたまま人がテーブルに座って洋菓子を食べるのは、傍から見れば中々滑稽に見える。

「ランサー、またお菓子、コンビニで買って置いたよ。」

ハイセは袋から取り出した食材を冷蔵庫に仕舞い込みながらランサーに話しかける。
ランサーはどうやら大の甘いもの好きらしく、しょっちゅう甘いモノを食べていた。
特にチョコレートパフェは大好物だと言うが、生憎この時代では持ち帰られる手段が無い。
何せコンビニが普及したばかりの時代なのだから。

「そうか。」
「……でも甘いモノばかり食べ過ぎちゃ駄目だよ、糖尿病になり兼ねないし。」
「サーヴァントはその様な病は発症しない、それに我とて好きでこの様な食生活を続けている訳ではない。」
「え?」

パフェを食べ終わり、スプーンを置いて話したランサーの言葉に、ハイセは一瞬唖然とする。
言い訳かな、という考えも一瞬浮かんだが、どうやらそう言う訳でもないらしい。

「私の身体だ。どうやら、私の肉体は甘いモノを極端に欲しているらしい。
定期的に糖分を取らない限り精神が不安定になる様だ。」

機械的な口調ではあるが、しかしランサーの言っていることは真剣に感じられた。
とにかく、甘いモノを食べないと精神が安定しないらしい。
言ってみれば、極度の甘党、糖中毒というべきだろうか、そう言うレベルに至るまでランサーは甘食に飢えているという訳だ。
才子もそれなりに甘党ではあるが、何やかんやで他の食事もバランスよく食べている。
間違っても此処まで酷くはない。

ハイセが台所でランサーが平らげたケーキの皿を洗っていると、ランサーが声を掛けてくる。

「マスター、貴様は今だに戦う気はないのか。」

それを聞いたハイセは、表情を曇らせる。
幾ら普通の生活を続けていようが、ハイセが聖杯戦争に巻き込まれたという事実、それ自体は変わらないのだ。
そんな現実を見せつけるかのように、ランサーの顔を覆う呪符の隙間から垣間見る、紅い眼光はハイセを睨みつけている。

「先に言っておくが、我には如何しても叶えねばならぬ願いがある。
例え貴様が立ち塞がろうと叶えねばならん願いがな。」
「……僕の願いは、元の世界に帰ることかな。」

ハイセには、これと言って聖杯にかける望みなど無い。
そんな彼が強いて望むとしたら、所詮こんな物であろう。

「僕には、大切な人達が待っているんだ。だから僕は、僕の帰るべき場所に帰りたい。」

ハイセには、CCGでの沢山の仲間達がいる。

クインクスの仲間達が、暁さんが、有馬さんが、沢山の仲間達が、ハイセを待っている。
ならばハイセの願いは「元の世界」への帰還だ、こんな所でウジウジしている暇なんて無い。
クインクスの皆の事も心配だし、早く此処から脱出しよう―


515 : 佐々木排世&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 20:52:41 RCIz4oe60




―ねぇ、ほんとうに、それでいいの?はいせ。



きみにもほんとうは、ねがいがあるはずでしょ?


せいはいさえあれば、ほんとうにじぶんをしることだってできるのに。



ハイセの内に潜む■■■が、彼に向かってそう呟く。
彼がそれを聞いていたかどうかは、定かではない。
佐々木排世は記憶を失い、CCGの捜査官として生きてきた。
だが内に潜む■■■は、仲間の元に帰らんとジリジリと彼を侵蝕していく。


そしてハイセが喚び出したサーヴァントもまた、仲間を護ろうとした男に寄生した存在であった。
名は「魘魅」或いは「白詛」、文字通り、人を真っ白な姿で燃やし尽くす存在であった。
彼等に魂を燃やされた者達の髪の毛は、皮肉にも、嘗ての佐々木排世と同じ色であった。


516 : 佐々木排世&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 20:53:00 RCIz4oe60


【クラス名】ランサー
【出典】劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ
【性別】無
【真名】魘魅
【属性】混沌・中庸
【パラメータ】筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力A 幸運C 宝具B


【クラス別スキル】

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法等大掛かりな物は防げない。


【保有スキル】


戦闘続行:B
往生際が悪い。
致命傷を受けない限り戦闘を続行する。
例え次の入れ物に入り込んでも戦うことを止めない。


病原:A
病の元となる病原菌。
「変化」「騎乗」の複合スキルで、姿形を変えては様々な肉体に乗り移る。


呪術:C
ダキニ天法の一種ではなく、天人が開発した独自の術式である。
呪符を媒介にして呪詛を撒き散らす。


■色の魂:A
ランサーが乗っ取った肉体に残った■■の魂。
その強靭な精神力は、時折ランサーの行動を邪魔させる。
マスターとの共通点から付けられたスキルだが、彼の場合は■■の魂を押さえつけているため、精々が糖分中毒という形でしか現れない。



【宝具】


「蠱毒白詛」

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

地球外生命体「天人」の内の一部が江戸の攘夷志士に対抗するために作り上げたナノマシンウィルス。
これに感染したが最後、頭髪の色素が抜け落ち身体機能が衰弱すると言った症状が起き始め死に至る。
無論治療法は見つかっておらず、存在しないとある時間では江戸を瞬く間に荒廃させてしまった。
ランサーは、大量の呪符を針の如く発射したり口から放った暗雲を対象に飲み込ませると言った形で、このウィルスを感染させる。
また、この宝具はランサーそのものでもあり、この虚無僧としての姿は飽くまでも「入れ物」に過ぎない。
「入れ物」を破壊したその瞬間にウィルスは新たな入れ物を媒介にして寄生していき、やがて種族を絶滅させる。




【Weapon】

「槍」
虚無僧が構えているそれに酷似した槍。
彼がランサーとして呼ばれた所以でもある。


【人物背景】

「蠱毒」と呼ばれる呪術を使って多くの星を滅ぼしてきた「星崩し」と呼ばれる存在。
攘夷戦争を集結させるために幕府に雇われ、攘夷志士に甚大な被害を齎したとされている。
しかし猛者揃いの攘夷志士集団には敵わず、滅したと伝えられている。

今回は、マスターであるハイセの影響である別の時空でのランサーが召喚され、その肉体も本来のそれとは全く異なっている。
その肉体は完全に侵蝕され制御する事に成功しているため、ランサーが生きている限り制御権を奪い返されることは決して無いだろう。


【聖杯にかける願い】

??????


517 : 佐々木排世&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 20:53:21 RCIz4oe60


【マスター名】佐々木排世
【出典】東京喰種:re
【性別】男


【Weapon】

「ユキムラ1/3」
ハイセが愛用している「クインケ」で、有馬貴将が昔使っていたもの。
赫包が入ったスーツケースの取っ手にあるスイッチを押すことで、赫包がクインケを生成し出現する。
サーベル型の形状をしており、切れ味は抜群。





【能力・技能】

「半喰種」
人を喰らう亜人「喰種」の臓物を移植した人間。
「赫包」と呼ばれる臓器を持っており、其処から人の肉を「Rc細胞」に変え、
そしてRc細胞を使って「赫子」と呼ばれる血液で出来た捕食器官を形成する。
普通の食事は出来ない、無茶をすれば何とか食べられるが汚物のように
不味く感じてしまう。
基本的な身体能力においても人間を遥かに上回るが、戦闘力の殆どは「赫子」に大きく依存している。
因みにハイセが持つ赫子は背中から出る「麟赫」。
治癒能力と威力に長けるが反面非常に脆い、鉄骨の下敷きになって瀕死になるレベル。
また、彼は「赫者」と呼ばれる、喰種を喰らい続ける「共喰い」の末に進化した喰種である。
喰種の弱点である「赫包」も複数存在し、並大抵の攻撃は受け付けない。


・クインケ操術
喰種の臓器を素材に作られた兵器「クインケ」を操る技術。
CCGの施設で講師を務めるほどには上達している。


・体術
有馬貴将に鍛えられた戦闘技術。



【人物背景】

真戸暁の元に送られた記憶喪失の喰種捜査官。
CCG最強の捜査官、有馬貴将の元で教育を受けてきた。
「有馬貴将を超える捜査官を作れ」という指令の元、赫包を移植した「クインクス班」のメンターとして活動する。
控えめで天然気味だが、根は面倒見の良いしっかり者。
普段はシェアハウスでクインクスのメンバー達と寝食を共にしながら訓練を続けている。
家事が得意で、彼の作る料理は「ササキメシ」という通称で評判になっている。


実は「喰種」でありながら捜査官である特例であり、もし彼の赫子が暴走した際には一時的に「喰種」と認識して処置しろとCCGでは命令されている。
有馬に拾われる以前の記憶を喪失しているが、一方で喰種だった頃の自分が時折フラッシュバックする時もある。





【聖杯にかける願い】


聖杯戦争から抜け出す?/己の過去を知る?




【把握媒体】

・ランサー(魘魅):映画一本、上映時間2時間


・佐々木排世:原作1〜4巻
ハイセは少なくとも月山家襲撃より前からの参戦です。


518 : 佐々木排世&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 21:00:33 RCIz4oe60
方針を追加します。

【方針】

・佐々木排世
勝ち残る、一般人及びマスターへの被害は最低限抑える。


・魘魅
サーチ&デストロイ、状況次第ではマスターを乗り換えることも考える。


519 : 佐々木排世&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/08/26(金) 21:07:45 RCIz4oe60
それと、ランサーの宝具に関して以下の文章を追記します。

だが、これらのウィルスには複数のコアが存在し、それらのコアが全て破壊された瞬間、ウィルスは活動を停止し、ランサーは消滅する。
また、魔力供給が途絶えた場合でもウィルスは活動を停止し消滅する。


以上で、投下を終了します。


520 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:11:12 lUzF7fNQ0
投下します。


521 : 桐生萌郁&ライダー ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:12:26 lUzF7fNQ0

 掌の中で意味も無く弄んでいた紫色の小箱の名前が「携帯電話」であると思い出したその瞬間、桐生萌郁の内側で何もかもが終わりを迎えた。

「…………ぁ」

 全ての記憶が、取り戻された。
 萌郁が生きていたのは、1980年より約30年後の未来。携帯電話が使い物にならない昭和の時代より、ずっと未来のはずだった。
 萌郁が背負っていたのは、ラウンダーという肩書き。出版社のアルバイトなんて役割は、ラボメンナンバー005なんて称号は、たった一人のために捨てたはずだった。
 萌郁が寄りかかっていたのは、FBと名乗った親代わりの人物。死ぬことすら満足に出来なかった自分が今まで生きたいと思えたのは、あの人がいてくれたからのはずだった。
 萌郁が喪ったのは、何もかも。FBのために、芽生えかけた友情を自ら捨てた。そのFBに見捨てられ、拠り所が無くなった。そして空っぽになった胸を穿たれ、生命さえも喪った、はずだった。
 こうして全てを失くした桐生萌郁は、今こうして一先ず記憶と生命を取り戻し、奇跡を巡る戦争の当事者となった。
 そう。聖杯を掴めさえすれば、何だって叶えられる。失敗してしまった過去をやり直すことくらい。

 ……やりなおすって、なにを。

 自分がどうして全てを失くしたのかくらい、もう自覚している。
 たった一人に依存するしかない惨めな自分を変えようとしなかったから。
 居場所を作れない自分自身を変えず、与えられた新たな居場所も大事にしようとせず。
 そうして外界から逃げて閉じこもった萌郁の性分が、萌郁自身を殺したのだ。
 聖杯に託す願いなんて、見つからない。
 もしも過去をやり直したって、二の舞を演じるのが目に見えているから。
 今ここに居る自分自身こそが、まさに“時間を遡る力”或いは“過去をやり直す力”を使っても幸せになれなかった末路の証明だから。
 過去を変えても、本当の意味では誰とも繋がることが無かった。

「……」

 メールを送信してみる。当然のように、エラー。
 萌郁の言葉は、誰にも届きやしない。紡いだ文字の並びは、時間という壁に遮られる。
 ならば、声は。

「……」

 誰も萌郁に見向きもしない雑踏が、目の前に広がっている。
 声帯を震わせるを出すのが嫌になる。たどたどしい言葉が聞き遂げられず、理解されずに終わる瞬間が、怖くなる。
 それでも。

「……だっ」

 一度は携帯電話に頼らず誰かと話してみようと試みたあの時の自分を、取り戻す。
 人混みの中、呟く。誰に向けてなのか自分でもわからないまま、声を出す。
 誰かに、ただ聞いてほしくて。
 桐生萌郁がここにいると主張する行為が、したくて。
 聖杯でも変えられっこないだろう惨めな今を、今からでも変えられないかと信じたくて。

「誰か、はなし、きいて」

 か細く、小さく、それでも絞り出した声。
 それは、喧騒の中に呆気なく溶けていった。こうして、ちっぽけな度胸に任せた行為は無意味に終わる。
 本当のところ分かり切っていただけの結末が訪れる。
 急に恥ずかしくなって、泣きたくなる。
 それで、それで。


522 : 桐生萌郁&ライダー ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:13:42 lUzF7fNQ0

「うん。聞くよ」

 誰かが、隣に腰掛けた。
 大人しそうな、柔らかく響く声。
 首を傾けた先にいるのは、その声に似合った印象の青年。

「はじめまして、マスターさん。僕は……『ライダー』です」

 この声に耳を傾けてくれる、桐生萌郁のサーヴァント。







 日が暮れ始める街中、二人で帰路に着きながら。
 決して長くはなかった生涯を説明する自らの語り口が、要領を得たものではなかったことくらいは喋りながらでも自覚出来た。
 それでも、ライダーは急かすことも無く最後まで聞いてくれた。
 そして聞き終えたところで、ライダーは萌郁に問う。問い詰めるということもなく、ただ尋ねる。

「マスターさんは、どうしたいかな?」

 しかし、萌郁は何も答えられない。
 何かを願おうにも、何を願えばいいのか分からない。
 やり直したところで、どうせ何も変わらない。
 生き直したところで、きっと何も叶わない。
 それでもここで生命を自ら捨てることを選ぶのは、あの時間の中で取り返しのつかない傷を与えた少女に申し訳が無いような気がして。
 死んではいけない気がするから生きているだけで、その先が見つからない。
 分からないだなんて言うことが許される状況ではないと、分かっているのに。

「私は、」
「うん」

 もう、携帯電話には頼れない。頼らない。
 電子メールの世界の中だけの饒舌な自分はもういない。ここで意思を伝えるのは、会話が苦手な素の自分。
 だから、上手く二の句が継げない。
 方針が固まらない、適切な言葉を選択出来ない、二つが合わさって生まれるのは沈黙。

「えっと、」
「…………」

 ライダーが温厚な人柄であることは理解している。
 そんな彼に、今も甘えてしまっているのだろうか。こうしていれば解答を代わりに提示してくれるかもしれないと。
 そんな自分と、いい加減決別したいと思っているのに。
 でも、未だに決別できなくて。

「……ぁぁ」

 だから。

「ぁぁぁぁああああじれってええええっっ!!」
「っ!?」

 突然に威圧的な声を張り上げたライダーに対して、ただただ怯えるしかなかった。

「おいメガネ女! さっきから黙って聞いてればいつまで待たせんだコーヒーとっくに冷めんだろオイ! 分かんねえなら分かんねえってさっさと言えっての、日が暮れんだろーが!」

 別人に入れ替わったのではないかと錯覚するほどに、ライダーの全身が奮起していた。心なしか、両の瞳が赤く染まっているようにすら見える。
 先程までの穏やかな、サーヴァントの勇名に不釣り合いな弱々しい雰囲気すら見せていた彼が、こうして萌郁に怒りを露わにしている。
 ああ、ライダーすら怒らせてしまったのか。
 コミュニケーションの不得手故に何度も他者に与えた不快感が、ライダーであっても限界を迎えるほどの物だったか。
 そのことを理解し、萌郁の視界の中のライダーが揺らぎ始めていく。


523 : 桐生萌郁&ライダー ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:14:22 lUzF7fNQ0

「こっちだってな…………いや、そんな泣きそうな顔すんなよ。お、おい良太郎? これじゃ俺が悪者みたいじゃ……っ!?」

 弱り果てる萌郁の様子を見て急に困窮し始めるライダー。
 そんな彼は数秒後、突然意識を失くしたかのように首をがくんと落とした。
 さらに数秒後、ゆっくりと挙げられたライダーの顔は、先程豹変するよりも前と同じ大人しめな雰囲気を纏っていた。

「えっと、ごめんね? モモタロスがビックリさせちゃって。悪い奴じゃないんだけど、ちょっと荒っぽくて」

 そう言って、ライダーは事の顛末を語り出す。
 人が変わったようなという比喩ではなく、ある意味では本当に人が変わっていたということ。
 ライダーを別人格に変えた者の正体は、ライダーの宝具として召喚された四体の『イマジン』という精神体であること。
 ここではないどこかで揃って待っている彼らは実体を持つことが出来ず、基本的にライダーでなければ交信が取れないこと。
 その例外が、ライダーの持つ一種のデバイスの使用であること。

「マスターさんも話してみる?」

 ライダーから差し出されたのは、一つの小箱。
 赤を基調とした奇抜な形のそれは奇しくも、携帯電話。
 曰く、通信機能として備えているのは彼らとの電話機能のみであるという。

「……うん」

 彼らとは声でしか繋がれないのだと、突き付けられている。
 いや、本当は相手が誰であっても声によって繋がるべきなのかもしれない。
 そんな当たり前の事実が、やっぱり今でも恐ろしく。
 でも。

「もしもし」

 ボタンを押して、着信。
 その先に待っていたのは、賑やかな四十奏。

『あー……もしもし。なんか、悪かった』

 ぶっきらぼうな声で謝るのが聞こえた。
 もしかしたら、この声の主が先程の。

『さっきはキレちまったけど、別にお前が迷うの攻めようってわけじゃなくてだな』
「……うん」
『あれだ。良太郎も言ったろうけど、別に今すぐ何か決めなきゃいけねえってわけじゃなくでだな』
「うん」
『それでよ……』

 モモタロスという名らしい彼は、どうやら先程の態度を気にしていたらしい。
 その声色を聞き萌郁は理解する。
 なんだ、話してみるとそこまで怖い人でもないのかもしれないと。

「大丈夫。気にしてない」

 だから、何事も無かったことにする。
 ほんのささやかな和解で、二人の間の空気が和やかになった、のだろうか。
 それは萌郁には分からない。

『やーいモモタロス女の子相手にアワアワしちゃってだっさーい!』
『センパイ、女の子の扱いは大胆かつ繊細にだよ? いきなり爆発してどうすんのさ』
『そう言うなや亀の字。短気なおっちょこちょいなのがモモタロスの売りなんやから』
『……うるせー!! 俺はいじられキャラじゃねえんだぞ!』
『そう思ってるのは桃の字だけやで』

 突然喧しくなった声量に、思わず絶句せざるを得なかったから。
 ……そういえば、イマジンというのは四人いるのだったか。そして電話口では、その四人が四人とも声を上げているようだ。
 圧倒的なボリュームの四重奏に気圧されつつ、それでも通話を切ることなく耳を傾け続けていると、

『萌郁ちゃんだっけ? そういうわけだから、良太郎だけじゃなく僕達でもお話ならいくらでも聴いてあげるよ』
『良太郎と一緒に呼ばれちゃったもんはしょうがないしね』
『……つーことだ。それと、良太郎のこと頼んだぞ。事情は何にしろ俺達全員のマスターだからな』

 応援された、のだろうか。
 「……うん」と答えたのが聞こえたのか聞こえていないのか確信を得るより前に、通話は切れてしまった。
 どうしようかと携帯電話を持ったまま呆けている萌郁を、ライダーがにこにことした表情で見つめていた。
 そんな彼のことが、不思議だった。


524 : 桐生萌郁&ライダー ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:15:37 lUzF7fNQ0

「どうすれば、」
「えっ?」

 彼に尋ねようとして、なの上手く質問として完成させられない。
 ただ、少しの時間を通しても感じられた繋がりの深さが、不思議だった。
 奇妙な隣人達との、賑やかな日常。
 遠い過去、あの研究所の中でもしかしたら得られたかもしれなかった時間にも重なったに思えて。

「マスターさん。願いは、望みは決まりそうにないかな?」
「……うん」
「そっか」

 ライダーは、四人の仲間との絆を得た。きっと家族にも、友人にも、恋人にも恵まれた時間を過ごしたのだろうと思えた。
 出会ってすぐに、「僕に望みは無い」と萌郁に語ったように。きっと彼は、満たされた生涯を遂げたのだ。
 一見すると弱々しい印象を受ける、もしかしたら萌郁に似ているのではないかと一瞬でも期待してしまう彼は、萌郁とは到底異なる未来を得たのだ。

「じゃあ、今は側にいるよ。望みが決まるまで、僕達と一緒にいようよ」
「……どうして、」

 そんな彼が、自分に付き合ってくれることが不思議だった。
 サーヴァントだから。配下だから。隷属しているから。
 そんな理屈、捨ててしまってもいいだろうに。彼本人に何も望みが無いなら、聖杯戦争などドロップアウトしても良さそうなのに。
 幸福に終えた人生の延長線上を、社会不適合者と過ごす意味など無さそうなのに。

「どうして、ライダー君は優しくしてくれるの?」

 再び視界を揺るがせ、さらに潤ませながら。
 ようやく萌郁は、自らの感情の言語化に成功した。困らせてしまうと、分かっているような形で。
 目を合わせられずに落ちた視線の先、萌郁の左手の甲で令呪が薄く輝いていた。

「大した理由じゃないよ。困っている人を、放っておけないから」

 それは、童話に出てくる主人公達のような言い分。
 積極的に人助けに勤しむお人好しの、歴戦の英雄という肩書きの持ち主が吐くには勇ましさに欠ける台詞。
 理屈としては乏しく、理由としては単純。

「僕、運が悪いから。その分、誰かが幸せになれないのを見るのも嫌だから。だから、僕達に出来ることをするんだよ」
「……そう」

 憐憫や同情の一つも並べ立てることをしない彼の言葉は、しかし偽りを感じさせない。
 彼は、萌郁に何かを恵んでくれている。今は共に過ごす時間を、いずれは願いのための力をくれる。
 そうして寄り添ってくれるのが、嬉しくて。
 でも、ううん、だから。

「……ライダー君。これは、望み、ってほどじゃないけど」
「うん」
「ライダー君に、ここにいてほしい。私が、何かを見つけるまで」

 ライダーの方から提案された内容を、萌郁の口で反芻した。
 自分の声を響かせて、自分の意思でもあるのだと心に決める。時間制限を敢えて設けて、少し自分を追い詰める。
 もう、誰かに一方的ににもたれかかるだけではいけないのだと、今度こそ自分に言い聞かせるために。
 たとえくだらなくても、これが、今の萌郁に踏み出せる限りの新たな一歩だった。

「わかった。マスターが何かを決めるの、待つよ」
「その……ごめんなさい。とろくて」
「大丈夫」

 こんな自分と話してくれる、一緒に前を向いてくれるライダーの在り方が嬉しくて、羨ましくて。
 だから、聖杯への祈りとして唱えるわけでもない、単なる小さな希望が生まれる。

「マスターさん。まだ、時間はあるよ」

 これからの時間の流れの中を、今度はきちんと誰かと繋がって生きたい。
 たとえば、そう、今こうしてライダーと共に進んでいくように。
 もう、変わることを恐れて、明日の自分を見失わないように。


525 : 桐生萌郁&ライダー ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:16:05 lUzF7fNQ0



【クラス】
ライダー

【真名】
野上良太郎@仮面ライダー電王

【パラメーター】
通常時
 野上良太郎⇒筋力E 耐久E 敏捷E 魔力D 幸運E 宝具A+
デンオウベルト装着による変身時
 ソードフォーム ⇒筋力C 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A+
 ロッドフォーム ⇒筋力C 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具A+
 アックスフォーム⇒筋力B 耐久B 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具A+
 ガンフォーム  ⇒筋力B 耐久D 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A+
 プラットフォーム⇒筋力D 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具A+
デンオウベルト+ケータロス装着による変身時
 クライマックスフォーム⇒筋力B+ 耐久B+ 敏捷B+ 魔力B+ 幸運A 宝具A+
 ライナーフォーム   ⇒筋力C+ 耐久C+ 敏捷C+ 魔力C+ 幸運A 宝具A+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
・騎乗:E/C
騎乗の才能。
『電王』の非解放時はEランクだが、解放時に限りCランクとなる。

・対魔力:E/C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
『電王』の非解放時はEランクだが、解放時に限りCランクとなる。

【保有スキル】
・特異点:A+
極一部の者だけが持つ、時間からのあらゆる干渉を受けない特性。
他者が生じさせた「時間」に異変を生じさせる類のスキル・宝具等の一切の影響が自動的に無視される。
たとえ時間が停止しても、逆行しても、加速しても、改変しても、消滅しても、ライダーはその中で変わらず活動可能である。

・気配感知:B
サーヴァントまたはそれに類する存在の気配を感じ取る。気配遮断スキルにも対抗可能なスキル。
潜伏中・逃走中の敵サーヴァントを追跡する用途としても効果がある。本人曰く「匂い」で分かるらしい。
ライダーが「モモタロス」単体に憑依されている状態(M良太郎、ソードフォーム)に限り有効となる。

・弁舌:B
巧みな話術を駆使することで、交渉や詐術等において有利な判定を得る。
ライダーが「ウラタロス」単体に憑依されている状態(U良太郎、ロッドフォーム)に限り有効となる。

・勇猛:C
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
ライダーが「キンタロス」単体に憑依されている状態(K良太郎、アックスフォーム)に限り有効となる。

・催眠:D
他の人間を思い通りにコントロールする。既に施されている暗示や催眠の類も、高度な物でなければ無視出来る。
ただし対象には「踊る」以外の行動をさせられず、また少なくともサーヴァントには効果が無い。
ライダーが「リュウタロス」単体に憑依されている状態(R良太郎、ガンフォーム)に限り有効となる。

・戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
情けない頼りないと言われる野上良太郎だが、どんな不運にも苦難にも負けない不屈の精神力は誰よりも強固。
ライダーがイマジンに憑依されていない状態(良太郎、プラットフォーム、ライナーフォーム)に限り有効となる。


526 : 桐生萌郁&ライダー ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:16:48 lUzF7fNQ0

【宝具】
・『記憶の結晶(イマジン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:4人
遥か未来から時を超えて現れた精神体にしてライダーのかけがえのない仲間が、再現された宝具として参上した。
今回選ばれたのはモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスの四体のイマジンである。
彼等は実体を持っておらず、また聖杯戦争においては持つことも出来ない。ゆえに常時発動型の宝具でありながら魔力消費量はほぼゼロ。
普段は四人揃って「ここではないどこか」で待機している。しかしライダーの意識とのリンクによって現実世界の状況は常に把握している。
また現実世界への干渉手段として、ライダーの身体に憑依することが出来る。基本的には、一度に憑依できるのは一体のみ。

・『電王/時の守り人(デンオウ)』
ランク:C 種別:対己宝具 レンジ:- 最大補足:1人
デンオウベルトの装着によって変身した戦士「電王」の姿がそのまま宝具とされた。
ライダーに憑依したイマジン毎に対応した以下の五形態へ変身する。
 ①ソードフォーム、②ロッドフォーム、③アックスフォーム、④ガンフォーム、⑤プラットフォーム
さらに、デンオウベルトにケータロスを追加装着した状態で変身すれば以下の二形態への変身が可能となる。
 ①クライマックスフォーム(イマジン四体が同時に憑依した形態。パラメーターが最高値)
 ②ライナーフォーム(イマジンの憑依無しで変身した形態。保有する中で最高火力の必殺技を持つ)

・『時を超える列車(デンライナー)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:100人
時の運行を守る鉄道車両型タイムマシン。ライダーの騎乗兵としての象徴とも言える宝具。
路線を空間内に自ら精製するため、地上から空中まで縦横無尽に移動可能。
全体の制御車両であるゴウカ(と付属車両)、戦闘可能な単独車両イスルギ、レッコウ、イカヅチで編成されている。
『電王』解放時にのみこの宝具も解放可能であり、また任意での運行のためには先頭車両内部でマシンデンバードを接続させ、ハンドル操作する必要がなる。
車両そのものがスキル「特異点」の効果を持っているも同然の存在であるため、車両内に搭乗しているライダー以外の者も「特異点」の恩恵を受けることが出来る。
なお、あくまで現在という時間に宝具として一時的に現界させるのみであり、過去や未来への時間移動は不可能。亜空間への突入も出来ない。
車両一両のみならともかく、全車両の召喚となるとライダー単体では叶わないため、この場合はマスターによる令呪一画の消費が必要とされる。

【weapon】
・デンオウベルト+ライダーパス
電王に変身するためのベルトと、付帯するパスケース。
変身後にはデンガッシャー等が装備として追加される。

・ケータロス
ガラケー型のアイテム。通常の携帯電話として使用することは出来ないが、「どこか」にいるイマジンとの交信手段として使える。
電王の強化形態への変身に必要となる。ライナーフォームへの変身にもケータロスがあれば十分となっており、デンカメンソードは必ずしも必要としない。

・マシンデンバード
ライダーが運転する専用の二輪車。性能は市販の単車より多少良い程度。
乗り回しは単車と大差ないため騎乗スキルが無くても運転は不可能ではないが、素のライダーだけは碌に運転出来ない。
宝具『時を超える列車』の操縦には必須とされる。

【人物背景】
生まれ付きの不幸体質の青年。それ故に他人の不幸は放っておけない性格。
侵略者イマジンとの戦いに偶然巻き込まれるが、逃げることなく立ち向かい続けた。
そして家族や仲間となったイマジン達との繋がり、永遠の絆を掴み取った。
彼の生き遂げた時間は、幸せな記憶で満ち溢れている。

【サーヴァントとしての願い】
仲間や家族に恵まれた幸福な人生を送れたので、個人的な願いは特に無し。
今はマスターさんの力になりたい。僕達に出来ることをしたい。


527 : 桐生萌郁&ライダー ◆T9Gw6qZZpg :2016/08/27(土) 15:18:00 lUzF7fNQ0



【マスター】
桐生萌郁@STEINS;GATE

【マスターとしての願い】
誰かと繋がっていたい。

【weapon】
・携帯電話
愛用していたガラケー。
聖杯戦争の舞台が携帯電話開発前の1980年であるため、連絡ツールとしては使用不可能。

【能力・技能】
携帯電話のテンキー入力が異常に速い。付いた渾名は『閃光の指圧師(シャイニングフィンガー)』。
工作員ラウンダーとしての経歴があるが、実際にどの程度の実力があるのかは不明瞭。
岡部倫太郎に組み伏せられるのを見るに、そこまで強いわけでは無いのかもしれない。

【人物背景】
未来ガジェット研究所のメンバーであり、非合法組織ラウンダーの構成員。
孤独感の中で死のうとしていた所をFBに救われ、FBのためにラウンダーとして生きるようになる。
しかしFBとの繋がりを断ち切られると共に、その生命を奪われて死を迎えることとなった。
最期に思い出せたのは既に失われた時間、未来ガジェット研究所での記憶であった。

【方針】
分からない。
今はただ、ライダー君と一緒にいたい。



【把握媒体】
ライダー(野上良太郎):
TV版全49話の視聴が必須。可能ならば各種映画版も視聴するのが望ましい。

桐生萌郁:
原作ゲーム版またはアニメ版で把握可能。
プレイ動画のアップロードは版権元によって特に厳しく禁止されている。未プレイならばアニメ版の視聴が無難。
アニメ版の第19話〜第20話が萌郁メインのエピソードであるため、このエピソードを見れば人柄は大体理解出来る。
なお、原作ゲーム版とアニメ版では細部が異なる点に注意。


528 : 名無しさん :2016/08/27(土) 15:19:52 lUzF7fNQ0
投下終了します。
本文のミスはwikiの方で修正しておきます。


529 : ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:49:53 it4I3isc0
投下させていただきます


530 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:50:38 it4I3isc0

 真夜中の住宅街に轟いた轟音の正体を、正確に把握していた者がどれほど居ただろうか。
 アスファルトを切り裂いて粉塵を巻き上げ、ガスに誘爆した極彩色の光が家屋を、車を、人間だったものを紙切れ同然に吹き飛ばす。

 冬木、炎上――戦時中の空襲をすら思い起こさせる有様が、街の一角にて繰り広げられている。
 人々は悲鳴をあげ、家財道具や金銭を持ち出す暇もないままに脱兎の如く駆け出していく。
 夜食を作ろうとしていたのだろうか。
 放置されたままのガスコンロが火を零し、それが引火して家屋が燃え、既に地獄めいた様相を呈している住宅街の悪夢をいっそう加速させていく。
 最初の爆発音が響いてから、経過した時間はまだ精々十分かそこらだが……既に、犠牲者の総数は二十名を超えていた。

 爆心地となっているのは、丁度住宅街の中心部であった。
 緋色の輝きを放つ刀身を金髪の偉丈夫が振り回す度に、鮮やかな色彩の熱波が飛び散っていく。
 引き裂いたような大口に鏃を思わせる鋭利な歯を覗かせたその男の笑みは、肉食獣のそれに近い。
 それも、獲物を前にした時の――だ。

 悪意に満ちた顔で被害を拡散させていく彼の真の狙いは、しかし民衆の大量虐殺などではない。
 そんなことは、彼にとってもののついで。
 庭先に打ち水をする中で、たまたま蟻や芋虫が溺死した。
 ほんのその程度。思考の片隅へ留めるにすら値しない、塵芥と比較してなお軽い犠牲の一つ。
 では、彼の狙いは何処にあったのか。それはこの光景を見れば、一瞬で理解できることだった。
 緋色の剣士と相対するは、糸のように細い目をして、口元に貼り付いたような笑みを浮かべた女。

 その手に装着されているのは、クロスボウと呼ばれる武器だ。
 ウサギのような軽やかさで跳ね回りながら、鮮やかな手付きで矢を射つ。
 しかしその矢は、やはり只の射撃武器ではなかった。
 着弾と同時に起こる――小規模な爆発。単体の破壊力としてそれはごく小さいものだったが、連射速度が尋常ではない。
 全く出し惜しみする気配がない所を見るに、魔力の消費もほぼ零に近いのだろう。
 枯渇とは無縁の燃費の良さから繰り出される弓撃は目に見える破壊力こそ前述したように小さいが、緋色の読みが正しければ、これは毒矢の類だ。
 威力の低い爆発でカモフラージュした、必殺性能特化の対人宝具。
 サーヴァントに人間用の毒が通じるわけがないのは当然の話だが、それがサーヴァントの宝具や魔術的な意味で効力を高められた毒ならば話が別である。
 …………かの有名な、ヒュドラの猛毒のように。

 直撃は死に直結する。
 そう判断したが故に緋色は、これまで徹底して回避に努めていた。
 反撃の度に振るう刃が生み出す被害だけを見れば緋色が優っているように見えたが、戦況はどちらかといえば、弓手の女に傾いている。
 しかし彼女は、決して人々を脅かす巨悪と戦う正義の戦乙女ではない。
 やはり彼女の目にも、目の前の敵しか写っていないのだ。
 そうでなければ――逃げ惑う人々を、虫の息で喘ぐ子供を、平気で踏み台や盾にすることなどとても出来やしないだろう。
 
 通報を聞いて駆け付けた消防車を、レスキュー車両を、緋色の剣戟が蒸発させる。
 人体の破片を軽々放り投げて自らの弓で爆散させ、散った飛沫を弓手が目眩ましにする。
 あらゆる非道を、今、彼らは非道とも思わずに行っていた。
 正体秘匿の原則すら忘れ去った外法のサーヴァント達に、戦いを止めるという選択肢はない。
 どちらかが消滅するまで、永遠にこの破壊は、この戦いは続くのだ。

 終わることもなく。果てもなく。

 そう――どちらかが、消えるまで。




                                   ――――そしてその時、人々は「流星」を見た。


531 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:51:07 it4I3isc0
「な……」
「……はぁ?」

 驚いた声をあげるのは、双方のサーヴァントである。
 真実、この事態は彼らにとってお互いに予想外のものだった。
 夜空から降り注いだ、緑色の輝きを放つ流星。
 その数も、一つや二つではない。
 四十、五十……それすらまだ超えて、六十にさえ届く数の流星群が、瞬時に真夜中の住宅地を蹂躙していったのだ。
 その光景は遠くから見れば、この世ならざる美しさであった。緑に輝く流れ星という不可思議が、赤く赤く燃え盛る街並みに降り注いでいく――
 
「……が」
「! ――マスターッ!!」

 これまでの余裕づいた笑みを初めて崩して、弓手のサーヴァントが背後を振り返る。
 だが、時既に遅い。そこでは彼のマスター「だった」青年が、電車にでも轢き潰されたように上半身だけになって転がっていた。
 そして、その場で蠢く何かがある。焦げ付いたそれは、星のような形をしていた。
 有機的に蠢いていることから察するに、ヒトデか何かだろうか。されどこの生き物らしきものの分類が何であるかなど、重要なことではない。
 重要なのは、これが流星の正体であるということ。
 このおぞましくも汚らわしい巨大な棘皮動物が、自らのマスターを殺傷したということ。

「貴様……よくもッ!!」

 毒の矢がそれを射抜き、ヒトデは暫くのたうち回った末に、ピクリとも動かなくなった。
 されどその時、弓手は忘却していた。
 勝利を誓った主人を殺害された怒りで脳を焦がすあまり、これが戦いの最中であること、そして討つべき敵は未だ健在であるということを一瞬忘れ去った。
 そして緋色の蛮人は、それを見逃すような阿呆ではない。
 緋色の剣が振り抜かれ、弓手……アーチャーのサーヴァントの首が宙を舞い、斬撃の熱波で見るも無残に焼け焦げて消滅していく。

 それを見送る緋色……セイバーの顔は、しかし勝利したことへの充足感とは無縁のものだった。
 当然だろう。元より彼は闘争を愛し、楽しむベルセルク。
 実質横取りのような形で自分の獲物を奪われたのだから、堪ったものではない。
 ……見れば、そこかしこに決闘の邪魔をしてくれた、ヒトデ達の姿が見えた。

 彼らは皆一様に黒焦げだったが死んではいないようで、その皮をペリペリと破り捨てながら、ヒトデとは思えない速さでセイバーの方へと猛進してくる。その光景は実に異様なものであり、さしものセイバーも一瞬は呆気に取られてしまった。
 とはいえ、強さはたかが知れている。
 一撃当てれば切り裂ける、その程度のつまらない相手。害獣。
 ……結局この夜に降り注いだ緑色の流星……正しくは巨大ヒトデの軍勢は、このセイバーの手で一匹残らず掃討されることになった。


532 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:51:41 it4I3isc0
 ――深夜に起きたこの大火災は、言わずもがな全国規模の大ニュースとして世間を賑わせた。

 しかしその中で、あの緑色の流星群について触れている報道はほとんどない。
 陰謀論の展開を得意とするオカルト雑誌や天文誌の片隅にちらりと載せられた程度だ。
 冬木市民の間にも少なからず目撃者はあったが、そのほとんどが、「不思議なこともあるのだなあ」くらいの認識で片付けてしまっている。
 誰も、あの夜の真相を知らない。
 聖杯戦争という戦いがあったことも――その渦中となったあの街に、何が居たのかも。
 根源への到達という悲願を優先するあまりに秘匿の原則を忘却してしまい、その結果として無残な死に様を晒した魔術師。それが彼なのか、それとも彼女だったのかすら今や定かではないが、一つだけ確かなことがある。

 彼あるいは彼女は、戦う場所を選ぶべきだった。
 魔術師らしく人目を憚り、この世界で生活する一般人に配慮して立ち回るべきだった。
 もしもかの魔術師がもっと慎重且つ冷静な思考回路で戦場を選択していたなら、少なくともあんな外れくじを引くことはなかったろう。
 言い換えれば、運が悪かったとも言える。
 そう、アーチャーのマスターは運が悪かった。
 冬木市に幾つもある住宅地の中で、よりにもよってその場所を選んでしまった。
 サーヴァントの攻撃宝具にも匹敵し得る大規模破壊を可能とする、緑色の爆弾に接続された星の王族が住まう土地を、選んでしまった。
 


 視界のすべてが燃えていた。少女の世界の、何もかもが壊れていた。
 ついさっきまで家族みんなでご飯を食べていたおうちの中が、どこもかしこも真っ赤っか。
 両親の姿はどこにも見えない。居るのか居ないのかすらも、瓦礫に隠されていてわからない。
 少女もまた、無事ではなかった。
 どこかを骨折したりは幸いしていないようだったが、家具に足を挟まれていて身動きが取れない。
 たすけてと泣きながら叫んでも、逃げ惑う見知った顔の人々は少女に見向きもしてくれない。
 
 やだ、助けて、こわいよ、くるしい、いたい、あつい――
 それはとても、まだ十年も生きていないような幼子に耐えられる状況ではなかった。
 恐怖とパニックで叫び散らした結果声が枯れ、意味を成さない言葉を漏らして手を伸ばすしか出来ない。
 そんな少女の姿を嘲笑うように、彼女の家を構成していた柱の一本がぐらりと大きく揺らいだ。
 炎で真っ赤に彩られたその柱は、大の大人ですら一発で押し潰してしまうほどの大きさがある。
 少女は詰みという言葉は知らなかったが、彼女はこの時、"詰んでしまった"。
 幼いながらに自分がもうどうにもならないのだということを自覚した瞬間、彼女の恐怖と絶望、そして動揺は最高潮に達する。

 ――びゅおん、びゅおん、びゅおん、どがあん。

 どこかで凄い音がしている。
 緑の流れ星が空を翔けていく。
 けれど流れ星は少女を助けてくれない。
 燃え盛るギロチンが、その無垢な命を押し潰さんと降り注ぐ。
 少女は本能的に、自分の頭が潰され、体が燃えていく未来を幻視した。

「……メテオテール!!」

 闇夜を切り裂き響く声。少女に、それに気付く余裕はなかった。
 ぎゅっと反射的に目を瞑って体を縮こまらせる彼女だったが……果たしてどうしたことだろう。いつまで待っても、重さのやってくる気配がない。
 恐る恐る、目を開ける。するとそこには、予想だにしない光景が広がっていた。


533 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:52:05 it4I3isc0
 燃える柱が、空中で止まっている。
 リボンのような物体に絡め取られて、完全に動きを止められている。
 次の瞬間、ここまで少女から逃げるという選択肢を奪い続けていた足下の家具が新しいリボンで持ち上げられ、彼女に自由が帰ってきた。
 とはいえ、まだ足は痛む。走ったり出来るかは少し怪しい。
 そんな少女の体が、ゆっくりと抱き上げられる。
 幼い命を抱き上げた人物の姿に覚えはなかったが、少女はこういう存在を知っていた。
 子供達の味方。小さい内にだけ信じることの許される希望。
 ……アニメの世界の住人。魔女っ娘が、そこにいた。魔女っ娘はスクーターのような乗り物に乗ると、少女を抱えてひとっ飛び。

 その不可思議極まる光景を目にした野次馬や救急隊員から驚きの声があがるが、慣れているのか、魔女っ娘に動じた様子はなかった。
 そして少女を救急隊員に預けると、彼女の中に未だ蟠っている不安を吹き飛ばすように、優しく笑いかけて一言言った。
 「また、あとでね」と。
 それから魔女っ娘はまたスクーターに乗って飛び去り、火の手の方へと戻っていった。

 ……それを見送った少女は、嘘のような本当の出来事に出会った衝撃で、何度か目をぱちくりとさせた。
 けれどその後、糸がぷつんと切れるように意識を失ってしまう。
 無理もない。そもそも、これまで気絶せずにいられたこと自体が奇跡なのだ。
 眠ってしまった少女はそのまま救急車に乗せられて、市内の病院へと搬送されていく。
 傷はごく軽傷だが心のケアや経過を見守るという意味で、数日は入院生活だろう。
 魔女っ娘から引き渡された彼女を抱き、救急車へと乗り込んだ隊員もまた、大惨事の中に舞い降りた非現実的な救世主の姿に興奮冷めやらぬ様子だった。

 ただ。その顔が一度、怪訝そうなものに変わる。
 その時彼の視線は、少女の右手に注がれていた。
 そこにあるのは赤い文様。刺青かと思ってなぞってみるが、どうもそうではないらしい。
 何だろうか、これは。
 ……隊員は不可思議なものをそこに感じはしたものの、しかし別に怪我や病気の類ではなさそうだという理由から、すぐにそこから意識を外した。
 

 この日冬木の一角で突如として勃発した大火災により、二十名もの尊い命が奪われた。
 だが、何せ夜中の出来事だ。本来なら、もっと被害者は多くて然るべき筈。
 生還者と野次馬、その場に駆け付けた救急隊員まで、事件を見ていた人間は口々に語る。
 魔女っ娘が助けてくれた、と。緑の流星群と共に現れた魔女っ娘が、火の中からたくさんの人を助け出してくれたのだと。
 ――それでも。この話は、めでたしめでたしでは、終わらない。





 冬木市中に轟いた、深夜の大火災の報。
 そしてその中で人々を助けるために尽力した魔女っ娘の姿。
 変身を解除して人間の姿になった魔女っ娘こと星野輝子――正しくはサーヴァント・キャスター――は、病院の廊下で溜息をついた。
 
 彼女を召喚したマスターは、言わずもがなあの時最初に助けた少女である。
 あんな騒動に巻き込まれるには……更に言うなら聖杯戦争なんてものに巻き込まれるには、あまりにも幼すぎる女の子だった。
 それに、戦えないのは彼女だけではない。
 キャスターは、サーヴァントとしては外れもいいところの弱小英霊だった。
 何しろ、それらしい攻撃の手段がほとんどないのだ。かと言って致命傷を回復させられるような、便利な能力だって持っちゃいない。
 要は、先行き不安どころの話ではなかった。
 それで聖杯戦争を止めようと考えているというのだから、我ながらお笑いである。


534 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:52:48 it4I3isc0
 キャスターは魔術師ではなく、あくまで魔女っ娘。
 目的のために何かを切り捨てるなんてことしたくはないし、それが人の命ならば尚更だ。
 そんな彼女が聖杯戦争に意気揚々と乗り気になるかといえば、そんなことは勿論決してないわけで。
 となると必然、彼女の方針は聖杯戦争そのものを中断させる、というものになる。
 ただ、最優先はやはり自分のマスターだ。彼女を生きて帰すことを最優先にしつつ、結べる限りの同盟を結びながら、聖杯戦争の破壊に向けて動く。
 幸い生前の経験上、人と関わることは得意だ。
 交渉の真似事だって、やろうと思えば下手くそなりに頑張れる自信はある。

 だが――今の彼女には一つ、大きな悩みの種があった。他ならぬ、マスターのことだ。
 キャスターは、マスターは聖杯戦争について関わるべきではないと考えている。
 目を覚ました彼女とは既に対面しており、お互いに話もした。
 彼女は魔女っ娘と実際に会えたことに激しく興奮し、えらく大はしゃぎしていた。それが微笑ましくて、だからこそ尚の事、キャスターは彼女を巻き込みたくないと思ってしまう。……だって、巻き込んだ結果がこれなのだから。
 二体のサーヴァントの交戦によって、一個の住宅街が廃墟街に生まれ変わった。
 何事もなければ今頃小学校で友達と遊んでいただろう小さな子どもが、こうして病院暮らしを余儀なくされている。キャスターは初めて、自分が魔女っ娘であることに感謝した。もしも自分が子供受けする"魔女っ娘"でなかったなら、彼女の動揺や恐怖を和らげるには限界があったろう。
 
 そして次も、昨日のように守り切れるとは限らない。まともに戦えもしない弱小サーヴァントがマスターを連れて戦場に立つなど、自殺行為もいいところだ。
 小さな子どもは好奇心の塊である。聖杯戦争のことを伝えれば、たとえどんな約束を取り付けても、きっといつか関わってしまう。
 だからキャスターは、彼女に聖杯戦争に関する知識を与えていなかった。
 正確には聖杯によって既に与えられているようだったが、魔術師や大人向けの説明では、いまいちよく理解できなかったのだろう。
 それでは、知識を持っていないのとほぼ同然だ。

「……ごめんね、××ちゃん」

 キャスターは、自分のマスターは助けられた。
 キャスターが助けなければ失われた命もたくさんあった。
 しかし、キャスターが助けられなかった命の方が多い。
 そしてその中には、彼女のマスターの両親の名前もある。
 ……医師はまだ、彼女に伝えていないらしい。
 当然だろう。今のあの子は、魔女っ娘であるキャスターに助けられ、お喋りまでできた歳相応の興奮で元気を保っている状態だ。
 心の傷が今は痛んでいない、それだけのこと。治りかけの傷は、ちょっとのきっかけで容易に開いてしまう。

 たとえ偽りの家族、偽りの友達だろうと。
 キャスターは、もうあんな小さな子どもに何一つ失わせたくなかった。
 子どもの味方である魔女っ娘として。動乱の神化時代を駆け抜けた、"超人課"の一員として。
 
「……あなたなら、どうしますか?」

 キャスターはサーヴァントとしても、人としても、あまりに未熟だった。
 だからつい、返ってくるはずのない問いを投げかけてしまう。
 廊下の窓から晴れ渡った空を見つめて、その名前を口にしてしまう。
 
「ねえ――璽朗さん」


535 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:53:13 it4I3isc0


 キャスターは何も知らない。しかしその無知は、彼女にはどうすることも出来ないものだった。
 星野輝子のマスター、××××の入院期間は現在、最低でも二週間とされている。
 彼女の傷はごく浅く、健康面での問題はないと分かっているにも関わらず、である。
 その理由は、彼女の体にあった。正しくは臍の部位。そこにある、海星類(ヒトデ)のそれに酷似したもう一つの口。
 人間にあるはずのない異形の部位。それを見つけた医者達は、皆一様に混乱を示した。
 奇形だとしても、こんな身体異常は過去に例がない。どう対処したものか分かりかねていた。
 だから取り敢えず長い入院期間を設定し、そこで検査を進めていき、今後のことを決めていく。医者はどうやら、そういうプランを建てたらしかった。

 ――星野輝子は何も知らない。自分のマスターもまた星の子と呼ばれるべき存在であることなど露も知らずに、頭を抱え続けている。

 住宅街を蹂躙した緑の流星。降り注いだ怪物。
 それは全て、彼女の恐怖と動揺が呼び寄せたものだ。
 いわば××××……"SCP-155-JP-1"という記号の名を持つ少女は、人の形をした爆弾なのである。
 彼女が癇癪を起こせば、空から醜い星々が降り、必ずや地上を蹂躙することだろう。
 その彼女がもしも。自分の両親が死んだという話を聞いたなら、どうなるか。

 星野輝子は何も知らない。
 星のお姫様も、何も知らない。
 彼女たちの聖杯戦争は、始まってすらいない。


【クラス】
キャスター

【真名】
星野輝子@コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運A 宝具B+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
道具作成:D
 魔術的な道具を作成する技能。

陣地作成:D
 魔女として、自らに有利な陣地を作り上げる。結界の形成が可能。

【保有スキル】
変化:EX
 チャンネルセットと呼ばれる道具を使うことで、魔女っ娘に変身する。
 変身していない間、輝子はステータスを視認されず、傍目からは人間と見分けがつかない。

魔法:B
 メテオテールと唱えることで、魔法を使うことができる。
 変身前でも魔法は使用することが可能で、魔力の消費はほとんどゼロに近い。


536 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:53:57 it4I3isc0
カリスマ:-
 別次元の支配者となるべき生まれた存在である。
 だが輝子はそれにそぐう振る舞いをしないため、このスキルは機能していない。
 例外は宝具によって魔女となっている場合で、この時だけはEランクのカリスマが適用される。

【宝具】

彗星の尾(ウル)
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 起き上がりこぼしのような赤い人形の姿をした、輝子のサポートキャラ。
 口調は男性年長者のようで、好みの女性には肉体関係を持とうとするなど俗っぽい一面もある。
 形は任意に変化し、赤いスクーターのような形状の飛行ユニットになったりもできる。
 後述の宝具で変身した輝子が命令することで、彼の意思は無視して剣状の武器に変化する。

星の魔女(ホシノコ)
ランク:B+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:-
 輝子の中に存在する、魔界の女王となるべき魔女の人格。
 この宝具は普段封印されており、マスターが令呪一画を使って彼女の変化スキルをワンランクブーストすることでのみ発動することが可能。
 魔女状態の輝子は幸運が2ランクダウンする代わりに、宝具以外の全てのステータスが1ランク上昇しする。
 これを解除するためには、もう一度令呪を使用し、変化スキルをランクダウンさせて元の状態に戻す必要がある。

【weapon】
魔法。後述するが、魔女化していない状態の輝子は攻撃能力に極めて乏しい。


537 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:54:08 it4I3isc0
【人物背景】
激動の神化時代を超人課という組織に所属して駆け抜けた、魔女っ娘超人。
挫折してもめげないまっすぐさとひたむきさの持ち主で、とにかく諦めが悪い。
魔女っ娘という性質が子供のマスターと上手く引き合ったということもあるだろうが、何しろ今回の聖杯戦争は異形の聖杯戦争である。
この地に先に到着していた、「あの男」に引き寄せられた――という考え方も、出来なくはないだろう。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を穏便な形で終結させたい。
他のマスターや自分のマスターが犠牲になるのは以ての外だし、出来ることならサーヴァントも殺したくないと考えている。

【運用法】
令呪を使った強制魔女化を行わない限り、戦闘面での活躍はまず期待できない。
彼女自身の性格も相俟って、マスター相手の不意討ちやキャスターらしい悪辣な戦法を取らせることも令呪を用いでもしなければほぼ不可能。
一応マスターも脱出を狙うつもりだが、それでも戦闘力が心許なすぎるために協力者はほぼ必須。
それでいてマスターそのものが特大の地雷であるため、戦力の充実は早急にどうにかせねばならない最優先課題。


【マスター】
SCP-155-JP-1@SCP Foundation 日本支部

【マスターとしての願い】
???

【weapon】
「彼女自体は」全くの無力。武器を仮に持っていたとしても、彼女ではまともに扱えないだろう。

【能力・技能】
こちらも同じく、「彼女自体は」極めて無力な存在。
しかし彼女はSCP-155-jp-2と称される海星目の棘皮動物とテレパシーでコンタクトを取ることが可能である。
SCP-155-jp-2は上空350km付近の低軌道上に住むヒトデ型の生物で、SCP-155-JP-1に今からそちらへ向かうという旨の情報を発信後、体積を増やしながら彼女の周辺へ向けて音速に近い速度と、誤差を50m以内に抑える程の正確さで降下する。
着地後1、2時間でこれらは数倍のサイズに成長し、彼女へ秒速50cmほどの速度で接近を試み始める。
降下後には既にテレパシー能力は失われているが、SCP-155-JP-1の居場所は感知出来る模様。一方で、彼女の方は彼らを感知出来ない。

また彼らは彼女と一定期間テレパシーによる連絡が取れない場合や極度の心理的動揺が見られた場合にも大気圏へ突入し、数十匹もの個体数で降下する。
言わずもがな降下してくる彼らは極めて高い物理的破壊力を有しており、容易に建造物を破壊し、人命を奪い去る。
降下後の彼らがSCP-155-JP-1に対して何をしようとしているのかは不明だが、彼女を収容していた財団の調査により、あることが分かっている。

――――降下後、彼女へと向かっていく彼ら。その精巣は、ほとんどの場合肥大化しているのだ。

【人物背景】
小学生の少女。見た目も人格も人間の歳相応だが、腹部の臍があるべき部分にヒトデのそれによく似たもう一つの開口部が存在する。
彼女は自分を目掛けて飛来してくる「彼ら」のことを、自分を星の世界へ連れ帰ろうと迎えに来てくれていると信じ込んでいる。
しかし彼女の両親は彼らの降下で家ごと破壊され、彼女を収容し、守っていた財団の職員にさえも彼らは多大な犠牲を出している。
もしかすると本当に彼女は星の世界の王族で、本当に彼らはただ連れ帰ろうとしているのかもしれない。
ただ一つ確かなのは、迎えに来る彼らに、ロマンチックなものなど何一つない。そう、何一つ。

【把握媒体】
キャスター(星野輝子):アニメ第一期、第二期。

SCP-155-JP-1:wikiの記述のみで把握可能。URLは貼れないようなのでwiki収録の折に貼り付けます。


538 : 星降る夜に ◆1z04PWgPDU :2016/08/30(火) 02:54:32 it4I3isc0
投下終了します。


539 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:10:53 PLpsg41M0
今は時間がありませんが接続が切れる可能性もあるので、先んじて投下予告をしておきます


540 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:33:00 PLpsg41M0
投下します


541 : ◆n5plw9KM42 :2016/08/30(火) 20:34:38 PLpsg41M0


不純の一切ない清廉とした空間に、水滴が零れ落ちる音が響く。
白のポットから白のカップへ。
澄み切った紅色の液体が湯気をはためかせながら、静かに降り注いでいく。
やがて最後の一滴が落ち、水面に波紋を残して消える。
色鮮やかな紅茶の香りが少年の鼻孔をくすぐった。

「ありがとう」

主人として、見事な給仕をこなしてくれた使用人に礼を送る。
自分に向けられた笑顔に少女はあどけない顔を紅潮させ、礼儀を崩さずも慌ただしく扉を開け出て行ってしまった。

「……うん、今日もいい味だ」

直接礼を言う前に去ってしまったのが惜しい、とこぼす年若い貴人。
使用人が出払い、部屋には少年以外の人影はない。
ふたつ分の湯気がたゆたうばかりの、穏やかな時間。
宮殿の一室の如き広大な空間は、その実少年一人のための自室だ。
高度経済成長期もとうに超えた昨今。
景気の好調が見え隠れしながらも、未だ社会には羨望の目で見られている見事な洋館に居を構える、西欧からやってきた少年。
金髪碧眼にノウブル・レッドの服。
やんごとなき身分の王子と見紛うばかりの容貌と、それに相応しい気品を兼ね備えた、人の理想を体現したかのような存在。
実際、彼は世界に名だたる財閥の御曹司である。
日本のいち地方都市に来訪したかの一族は最近の住民の噂の種だ。
巨大な融資や、都市開発が立ち上がるのではとにわかに浮足立っていた。


彼には大きな目的がある。
その為、この冬木の町に来訪した。
企業の融資。都市の開発、ではない。
もっとより壮大で、非現実的な、それらの行政が些事に見えてくるほどの計画。
時には凄惨な過程をも厭わない信念を携えて、その時が来るのを待っていた。

彼は闘争のために冬木に来た。
武器を持ち、相手を傷つけ踏破し、築いた屍の山で届く奇跡を求める殺し合い。
大戦を経て誰もこれ以上の消費を望まない時代において、戦いを起こしにきたのだ。

「どうですか、折角ですので一緒にお茶でも?」

まるで誰かがいるかのように、少年が無人の部屋に声をかける。
身を潜める死角もなく、廊下以外に別室に繋がった扉もない。
しかし少年は何の疑いもなく、そこにいるらしき何者かに声をかけた。
必ず応えが返ってくると確信している、曇りなき音階。
やがて紅茶の湯気とは違う、より大きな陽炎が揺らめき立ち、扉の傍らに実像を浮かび上がらせた。

元より静かな部屋が、その瞬間さらに一段階静謐さを増した。
現れた存在に、部屋全体の空気が萎縮し、竦んでしまったかのよう。

彫像の如き完成された玉体。
全身を銀の鎧で纏い、頭は獅子を模した仮面に覆い隠されている。
それは絵画や物語の中でしか登場しない、前時代に戦場を駆けた騎士そのもの。
場所が王室じみた部屋であるのを差し引いても、現代社会である時代を鑑みれば珍妙極まる格好である。


542 : ◆n5plw9KM42 :2016/08/30(火) 20:37:13 PLpsg41M0

そもそも、この鎧の内部に人間がいるのか。
余人が見ればそう訝しんでしまう程、騎士には人間らしさというものを感じ取ることができないでいた。
兜を外せば中は空洞で、甲冑だけが連結して動かしている。
そんな怪談の事例であった方が、まだ笑い話になるだけ幸運だろう。

「――――それは、意味のある行為なのでしょうか」

清水を浴びせられるのに等しい、冷たさのある玲瓏な声がした。
それは鎧を着込む人間というより、鎧そのものが発したと錯覚させてしまうほど人間味のない音色だった。
発せられた女性の声は美しいが、同時に無機質からくる残酷さも含んでいる。
たった一声だけで、部屋の気温が下がったよう。
諦めの悪い色事師であろうと即座に退散するに違いない絶対零度の拒絶だった。

「ええ、大いにあります。貴方との語らいは大変意義あるものであると僕は感じています。
 同じ王の役目を負う者としても、僕のサーヴァントとしても、双方の意味でも」

異常であるのは、果たしてどちらなのか。
言葉の意味を理解していて、なお少年は微笑みを返してみせた。
騎士の持つ氷結の雰囲気に相反する、万人を遍く照らす陽の性質。
冬の極寒を溶かす、地上に出し太陽そのものだ。
同じ目線に立てない者には窺い知れない域で、二人は言葉を受け返していた。

「――――――――」

少年の言葉に納得したのか。
それとも張り合う必要もなしと根負けしたか。
騎士は椅子へと近づき、顔を覆う兜に手をかけたやがて上に挙げた。

露わとなった容貌は、王室にかけられた聖画と呼ぶに相応しい、成熟した女のそれだった。
人として完全な……いや、もはやヒトの領分を超えている美しさ。
金紗の髪に宝石と見紛う碧眼は、天上のモノによる創作としか言い表しようがない。
少年と対極の、月の女神(アルテミス)の具現そのものだった。

「ではどうぞアルトリア。いえ――――
 ここではアーサー王と呼んだ方が適切でしょうか?」

少年の名は、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイト。
枯渇した世界を統べる西欧財閥の筆頭、ハーウェイ家の若き当主。

「どちらの呼び名にも拘りはありません、レオ。
 今の私はアナタの槍、アナタのサーヴァントだ。好きな方で呼べばいい」

彼が契約したサーヴァントはランサー、アルトリア・ペンドラゴン。
ブリテンを統べる伝説の騎士王アーサー王、そのイフである聖槍の騎士。

彼らは昭和五十五年の冬木で行われる聖杯戦争を戦う、マスターとサーヴァントの一組だ。
そんな二人が円卓を挟み、主と従者の二人は言葉を交わす。
互いの王としての在り方。戦術と方針。語るべき話題は多く尽きることはなかった。






543 : ◆n5plw9KM42 :2016/08/30(火) 20:41:24 PLpsg41M0



聖杯戦争の常として、召喚されたサーヴァントはクラス名で呼ぶのが通例だ。
英霊の真名を明かすのはその来歴と能力、さらには弱点も露出する危険があるためだ。

だが、レオは己がサーヴァントをまったく憚りなく真名で呼んでいた。
それどころか家の内外を問わず、殆どの時間を実体化させて連れ歩いてすらいた。
先の使用人が、カップに二人分の紅茶を注いで退室したのは粗相などではない。
主たる少年に常に付き従う麗人と認識し、厚く遇するよう理解してるからこその対応だった。

マスターもだが、迂闊ともいえる対応に異を挟みもしないランサーの方もまた常軌を逸した英霊だ。
余程の自身が己にあるのか。敗北する未来を想定すらしていないのか。
戦術を解せぬ愚かさと、蔑まれること請け合いの格好。
なのに、この主従に限ってはその姿勢こそが相応しいと感じる他ない気質があるのも事実だった。



「口には合いませんでしたか?」

にこやかに語るレオ。
その笑顔は十四の少年が持っていいものではない泰然さだ。
幼くして、彼の王者としての風格は既にほぼ完成されている。

「いえ……好い味でした。
 好い味、なのでしょうね。これは」

唇から離したカップを揺らして生まれる波紋を、無表情でランサーは見下ろしている。

「……申し訳ありません。
 かつての私なら嗜好できたのかもしれませんが、今の私には飲んだばかりの味も遠い感覚です」
「なるほど。
 今の貴女は、伝承にあるアーサー王とは違う存在だと?」

アーサー王は岩に刺さった選定の剣を抜いたことで王の資格を得た。
そしてその聖剣の作用により不老となり、その姿は幼い頃と変わらぬままだったという。
成人の、それも女性である目の前の英霊をブリテンのアーサー王だと理解できるのは、生前に知己を得た者ぐらいだろう。

「はい。聖剣を持った私は王としての体裁を保つため、成長を止めた少年として性別を偽っていました。
 無限に分岐する平行世界においても、聖剣の知名度の関係上アーサー王という英霊はセイバーのクラスが最も相応しいとされています。
 しかし今の私はランサーのクラス――――聖剣でなく、聖槍ロンゴミニアドを主武装に使い不老が解かれた、if(もし)の姿のアーサー王といえます」

有り得た仮定。
男の王ではなく、女王として君臨したアルトリア・ペンドラゴン。
ただ武装を変えたという次元ではない。
存在した歴史そのものが違う、規格外(エクストラ)のサーヴァントが彼女という英霊だ。

「――――無論ですが、セイバーではないからといって私の力が削がれたわけではありません。
 槍兵として私の力は完成されている。我が聖槍は聖剣にも引けを取らない最果ての柱。
 アナタも、くれぐれもその点は見誤らないように」

あくまで本人の認識としては、事実だけを厳然として語っているだけなのだろう。
なのにレオにはその様子が、少しだけおかしく感じて笑みをこぼした。

「はい。それはもちろん。貴女の力を疑うことはしていません」
「……アナタがそういう顔をしているのは、なにか含むところがあってこと。隠さず正直に言ってほしい」
「貴女を強く信頼しているということですよ。
 たとえ仮想の存在でも歴としてここにいる貴女は真実アーサー王。ブリテンを救いし伝説の騎士の王に他ならない」

レオの言に虚偽はない。
ランサーの性能とその心象は把握している。
音に聞こえし騎士王の武練。最果てで星の表層を縫い付けているという光の聖槍。
その能力には不満も疑問もないと認めていた。
実力は十分、精神は清廉。ならばそこに、真贋の差など関係はない。

「聖杯を手にし、衰えた世界を再生し、人類が存続する次代の千年紀の礎を生む。
 僕の理想を遂げるために必要となる貴女が、本物でないはずがないのですから」


544 : ◆n5plw9KM42 :2016/08/30(火) 20:43:13 PLpsg41M0


レオには、聖杯に求める確かな願いがある。
いや、願いというのは正確ではない。
王という役割の装置に課せられた課題。
レオ自身そう在ろうと定めている、治める者としての使命(オーダー)だ。




レオの世界は、行き詰まりを迎えていた。

何かを間違えた、あるいは足りなかった時間軸。
1970年に突如として起きた大崩壊(ポールシフト)
地殻は崩れ、資源は枯れ、荒廃した大地と人心。
過去の資源は急速に尽き、多くの国は破綻した。
度重なる自然災害と人口災害(バイオハザード)。
2000年には地球の総人口は三分の二にまで激減。
歴史の裏に潜む神秘の実践者たる魔術師も、地上の魔力の消失によって完全に姿を失った。

北極圏に残る資源を保有する西欧の財閥。
ハーウェイが主導する彼らは独裁者でなく、指導者として人類全体の存続に努めた。
資源を管理し、技術を凍結し、理想の都市国家を再構成する。
生まれから死ぬまでの全てを計算された管理社会。
争いのないユートピア。
或いは自意識を眠らされたディストピア。
文明は保たれ、しかし進展もせずはや30年。
反抗勢力は武装蜂起し、紛争が蔓延する。


それは穏やかでありながら、
いずれ訪れる結末を受け入れた世界。


人類は停滞の時代を迎えている。
明確な悪はなく、憎み合ってるわけでもない。
ただ足りないがために、他から奪う。
自らより弱い者を踏みにじっていかなければ、生きていく術を見いだせない。

だから己がもたらす。悠久の平和を。
不条理な死も、無慈悲な戦いも起こらない世界。
それは、全ての人民が待ち望む結末(ゆめ)なのだから。


それこそがレオが聖杯に求める理想。
ハーウェイの手で正しく管理するためには、聖杯を得るのは私利私欲なき者でなければいけない。
レジスタンスが聖杯を得れば、十年で終わる紛争が二十年に伸びてしまう。
同じハーウェイであっても、聖杯が個人が得る力である限り紛争の火種となる。
その未来を防ぐため、レオは自らマスターとなったのだ。

たとえ―――人類の総意が夢観る事に疲れ、飽いていようとも。
地上すべて、この星を照らす太陽(ひかり)となるのだと。




「だが、アナタは聖杯に招かれここにいる。
 アナタ達が観測していた月の眼ではない、このフユキの聖杯に」


ランサーの言葉は、レオの胸中を正確に射貫いた。


「アナタが望む聖杯と、この地に眠る聖杯が同様の性能であるとは限りません。
 予測不能だったこの異常で、果たしてアナタの望みは叶うといえるのでしょうか」
「ええ。確かにこの状況は予想外です。
 まさかムーンセルへのアクセスを試みる直前に、別次元の聖杯に呼び寄せられるとは、さすがに思いもしなかった」

本来、レオ率いる西欧財閥が確保を目指した聖杯は、月にある。
異文明が遺した地球史の記録装置。
星の始まりからあらゆる未来をシュミレートし続けた神のキャンバス、ムーンセル・オートマン。
月の内部の霊子虚構世界SE.RA.PHこそが、レオが飛び込むべきだった舞台だ。


545 : EXTRA(イフ) ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:43:42 PLpsg41M0


レオには、聖杯に求める確かな願いがある。
いや、願いというのは正確ではない。
王という役割の装置に課せられた課題。
レオ自身そう在ろうと定めている、治める者としての使命(オーダー)だ。




レオの世界は、行き詰まりを迎えていた。

何かを間違えた、あるいは足りなかった時間軸。
1970年に突如として起きた大崩壊(ポールシフト)
地殻は崩れ、資源は枯れ、荒廃した大地と人心。
過去の資源は急速に尽き、多くの国は破綻した。
度重なる自然災害と人口災害(バイオハザード)。
2000年には地球の総人口は三分の二にまで激減。
歴史の裏に潜む神秘の実践者たる魔術師も、地上の魔力の消失によって完全に姿を失った。

北極圏に残る資源を保有する西欧の財閥。
ハーウェイが主導する彼らは独裁者でなく、指導者として人類全体の存続に努めた。
資源を管理し、技術を凍結し、理想の都市国家を再構成する。
生まれから死ぬまでの全てを計算された管理社会。
争いのないユートピア。
或いは自意識を眠らされたディストピア。
文明は保たれ、しかし進展もせずはや30年。
反抗勢力は武装蜂起し、紛争が蔓延する。


それは穏やかでありながら、
いずれ訪れる結末を受け入れた世界。


人類は停滞の時代を迎えている。
明確な悪はなく、憎み合ってるわけでもない。
ただ足りないがために、他から奪う。
自らより弱い者を踏みにじっていかなければ、生きていく術を見いだせない。

だから己がもたらす。悠久の平和を。
不条理な死も、無慈悲な戦いも起こらない世界。
それは、全ての人民が待ち望む結末(ゆめ)なのだから。


それこそがレオが聖杯に求める理想。
ハーウェイの手で正しく管理するためには、聖杯を得るのは私利私欲なき者でなければいけない。
レジスタンスが聖杯を得れば、十年で終わる紛争が二十年に伸びてしまう。
同じハーウェイであっても、聖杯が個人が得る力である限り紛争の火種となる。
その未来を防ぐため、レオは自らマスターとなったのだ。

たとえ―――人類の総意が夢観る事に疲れ、飽いていようとも。
地上すべて、この星を照らす太陽(ひかり)となるのだと。




「だが、アナタは聖杯に招かれここにいる。
 アナタ達が観測していた月の眼ではない、このフユキの聖杯に」


ランサーの言葉は、レオの胸中を正確に射貫いた。


「アナタが望む聖杯と、この地に眠る聖杯が同様の性能であるとは限りません。
 予測不能だったこの異常で、果たしてアナタの望みは叶うといえるのでしょうか」
「ええ。確かにこの状況は予想外です。
 まさかムーンセルへのアクセスを試みる直前に、別次元の聖杯に呼び寄せられるとは、さすがに思いもしなかった」

本来、レオ率いる西欧財閥が確保を目指した聖杯は、月にある。
異文明が遺した地球史の記録装置。
星の始まりからあらゆる未来をシュミレートし続けた神のキャンバス、ムーンセル・オートマン。
月の内部の霊子虚構世界SE.RA.PHこそが、レオが飛び込むべきだった舞台だ。


546 : EXTRA(イフ) ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:49:02 PLpsg41M0


ふと意識を起こせば、既にレオはこの土地に馴染んで生活をしていた。
戦争の被害こそあれ、地殻の変動が起きず平和に発展した極東の島国。
レオの世界ではとうに国としての機能を失い難民だった民族が、笑い合いながら生活している。

「大崩壊から間もない、けれどそれが起こらなかった年代の国。
 僕にとってもこれはまったく未知のものです。
 思えば、想定と異なる展開を体験するというものは、これが初めてかもしれませんね。
 ふふ。あってはならないと弁えても、どこか浮足立つような不思議な気分です」

己が生きる未来からは焼却された、
ハーウェイの王の立場では見ることの叶わない、いっときのユメを見ていた。


「ええ――――だからこそ、やはり僕は聖杯を手に入れましょう」

その一瞬までのレオの表情には、王の責務から解放された、無邪気な少年としての素顔があった。
だが刹那の後、全ては幻であったかのようにかき消えた。
そこにいるのは人の感情を切り捨てながら、人の優しさに満ちた理想の君主(ロード)だ。

「僕がいなくなったことで今のハーウェイは混乱している。
 生還は命題。ですがただ攫われて帰ってきたでは僕の力、ひいてはハーウェイの発言力にも揺らぎが出てくる。
 彼らを納得させるにも、新たな聖杯という証明は要るでしょう」

予期だにしない事態にあって、レオがまず始めに考えたのは元の世界への生還だった。
命を惜しんでのものではない。如何にしてこの状況から脱し、ムーンセルへ向かう算段をつけるか。
その視線は、既に今ある聖杯戦争を超えた先の展望に入っていた。
甘く見ているわけではない。
無数のサーヴァントがひとつの領域で一斉に殺し合うという形式は、予め入手していたムーンセルの本戦とはまるで異なっていた。
多対一、闇討ち、裏切り、練れる策は多くある。
ハーウェイのサポート、異父兄の援護もない孤立無援。
決して油断ならない状況だと弁えており、それでもなお己の死を想定してさえいなかったのだ。

「たとえムーセルでなくとも、ここにも聖杯はある。聖杯と名付けられるだけの力は存在する。
 そして僕を招いた以上、僕の世界にもこの聖杯の影響は届き得るということ。
 聖杯は人の手に余るもの。勝利した者が、私欲で手を伸ばさない保障はどこにもない。
 世界を保つハーウェイの王として捨て置ける問題ではありません」

動揺などありはしない。
何故なら彼はハーウェイの当主。
世界の王となるべく生まれ、そうあるべきと自覚する天性の支配者。

私情で都合を優先させることはしない。
国のため、世界の安定を担うための手段を模索するのみ。

月の聖杯を確保するべきなので生還する。
冬木の聖杯も放置できないので確保する。

当然の帰結としてこれらを受け止め、実行に移すだけ。
常人は憧憬どころか恐怖すら覚える超人の思考回路で、レオはこの難題を踏破する気でいるのだ。


「前哨戦と呼ぶには大それたものですが……僕にとって、やはりこの戦いは意義あるものとなります。
 アルトリア、貴女はどうです?」

傍らの騎士に問う。
彼女こそ王の絶対の自信の根拠。
一騎当千の騎士を下に置き、理想に殉じた同じ"王"と仰ぐ故に。

「私の答えは既に伝えています、マスター。
 我が槍はアナタの命運。無慈悲に、傲岸に敵を刺し貫く。
 それだけが今の私に求められた役目です」

地を離れ、天の英霊と化した彼女の視点は王というよりも、神霊のそれに近い。
聖槍を長く持ったアルトリアにはかつての、人としての意志が希薄だ。

何が温かいもので、何が微笑ましいものなのか。
彼女にはもう分からない。
かつて自分だったものの気持ちこそ知っていても、それへの焦がれる思いは既に無くなってしまった。

知っているのは、世界の美しさ。
最果てにあらずとも、清く正しい人間の営みはこのように美しいものだということ。

「我が槍は世界の輝きを護るもの……私はそのために貴方の傍で、共に戦い続けましょう。
 アナタの世界の輝きを取り戻す日まで――――」


547 : EXTRA(イフ) ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:50:50 PLpsg41M0



人々の為に生き、

人々と共に生き、

人々に未来を通す。


それが王の責務に生きるということ。

私情を捨て、感情を排し、国のための装置として人を治める。
かつて、ワタシだったものが目指した理想を遂げようとする少年。

羽ばたく雛を送る親鳥のように。
太陽を背にする月のように。
その刻が訪れる瞬間まで、共に在り続けましょう。




――――それが、彼女の願い。

EXTRAの(ありえた)未来を進む王を守ると決めた、if(もし)の王が見た、いっときのユメ。


548 : EXTRA(イフ) ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:52:30 PLpsg41M0



【クラス】
ランサー

【真名】
アルトリア・ペンドラゴン@Fate/Grand order

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具A++

【属性】秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
魔力放出:A
 武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。

カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

最果ての加護:EX
 世界の最果てに刺さる柱には、地上のあらゆる傷病は遠く、届くことはない。
 

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【宝具】

『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』
ランク:A++→EX 種別:対城宝具 レンジ:2〜99 最大補足1000人
聖槍。別名をロン。星を繋ぎ止める嵐の錨。
真名解放によって、聖槍は最果てにて輝く光の力の一端を放ち、上空から突撃する。
解放時にはランクと種別が変化する。

真実の姿は、世界の表裏(現実と幻想)を繋ぎとめる塔「光の柱」そのものであり、
万一これが解かれれば現実は世界から剥がれ落ちるという。
十三の拘束によってその本来の力を制限されてなお、星の輝きをたたえて輝く、最果ての柱───
「世界を救う星の聖剣」と同等のプロセスを有する十三拘束の存在によって、かろうじて宝具としての体を成している状態。


【weapon】
『ドゥン・スタリオン』
白毛の騎馬。アーサー王の愛馬の一騎。
アルトリアはランサー時、必ず馬に騎乗する。

【人物背景】
ブリテンを統べた伝説の騎士王、アーサー王。
王として台頭した後、聖剣ではなく聖槍を主武装としたブリテンを統治したアーサー王のイフ。
聖剣による成長停止はなくなり、王に相応しい肉体年齢まで成長している。

聖槍に秘められた性質によって、神霊、強いて言えば女神に近しい存在へと変化・変質している。
十年ほどの使用期間だったので精神構造・霊子構造はそこまで大きく変化していない。
聖剣のアルトリアより合理的、かつ冷静になってはいるが、人間性は失われていない。
むしろ大人になった分その選択には余裕があり、王としては理想的な在り方になっている。

【サーヴァントとしての願い】
レオに仕え、その願いを叶える。
世界の美しさを知っているが故、その輝きを取り戻そうとするレオの為、持てる力の全てを振るう。

【運用法】
人間味が薄れたといえど中身はセイバーのアルトリアと変わりない。
姑息を用いず、堂々と敵を倒す戦術が最も向いており、それを成せるだけの性能を持ち合わせてる。
精神性が人より解離してる分、非情な決断も迷いなく行うが、同時に横暴な振る舞いをするマスターには容赦なく叛逆する可能性もある。
もっとも、今回のマスターに限ってそんな展開はあり得まいが。
レオに対しては忠実なサーヴァントとしての立場を崩す気はない。
ただかつての自分の理想をなぞる王聖を持つレオを見て、ちょっとだけ子を持つ親みたいな気分を抱いてるとか


549 : EXTRA(イフ) ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:53:18 PLpsg41M0


【マスター】
レオ・B・ハーウェイ@Fate/EXTRA

【マスターとしての願い】
聖杯の確保。
悪しき者の手で自分の世界に影響が及ぶ意味でも己が手にするべきだと考えてる。

【weapon】
複数のコードキャストを所有。
ハーウェイ家伝来の決闘術式(ファイナリティ)「"聖剣集う絢爛の城"(ソード・キャメロット)」は自身と敵の周囲を炎で包む城の結界。
外部からの破壊は聖剣クラスの宝具が必要で、空間転移による退避も許さない。維持にはレオでも3分が限界。

【能力・技能】
マスターとしての適性、ウィザードとしての腕前、どれをとっても超一流。
全ての数値が最高レベルのオールラウンダー。

【人物背景】
レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。
1970年代からの分岐で、地球規模のポールシフトにより環境が激変し衰退した人類を取り仕切る西欧財閥の筆頭、ハーウェイ家の次期当主。
穏やかで公明正大。人の理想者の体現。
その王聖は「徹底した理想」。能力差のある人々が平穏に暮らす管理社会を実現し、人類を平和に導こうとする。
私利私欲を持たず全てに平等に接するが、それは翻せば何者も特別に扱わないということ。
敗北を知らず、全てにおいて完璧であるが故に未完成の器でもある。

ハーウェイとしての責務から解放されると一気にハジける。

【方針】
王に姑息な手は必要ない。ただ堂々と進軍するのみ。
状況によって同盟、共闘はあるだろうが、最終的には剣を向ける関係だと弁えている。


550 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 20:54:39 PLpsg41M0
途中でトリップが変わっていたのに気づかず申し訳ありません
以上で投下を終了します


551 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/08/30(火) 21:51:14 PLpsg41M0
忘れていた補足です

アルトリア:ゲームウィキでおおよその性格は掴める。第六章ではロンゴミニアドの設定とイフであるランサーのさらにイフである「獅子王」が重要な存在となっている。

レオ:EXTRA本編を見るのが一番早い。漫画版では少し掘り下げがなされている。CCCも推奨だが無印をプレイしてないと把握に誤解が発生するかもしれない


552 : ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:37:56 fXtPfaS60
投下します


553 : 敷島魅零&キャスター ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:38:24 fXtPfaS60
 『怪奇! 吸血狼男、夜の町に現る』
 『切り裂き魔の正体見たり・この顔にピンときたら110番!』
 『狼男の恐るべき正体! 遂にその根城を撮った!』
 書店に並ぶ週刊誌も、電機屋から流れてくるニュースも。
 連日連夜、この冬木市では、得体の知れないオカルティックな噂が、人々の不安を煽っている。
 目へ耳へ次々と飛び込んでくる、怪事件のキャッチコピーは、どれもこれもが馬鹿馬鹿しく陳腐だ。

(別に、詳しいわけではないけれど)

 記憶の中に僅か残る、おぼろげな平成の町並みを思う。
 その頃の報道というものは、今に比べてどうだったのか。
 今目と耳で捉えているものを、下らないと思うのは、それが昭和のセンスだからか。
 馬鹿馬鹿しい言い回しで飾られたこれらを、当の仕掛け人が目の当たりにしたなら、風情がないと嘆くのだろうか。

(……いや)

 そもそもあの男にとって、重要なのは事実と効果だ。
 それを得るための過程が、いかなる飾られ方をされていようと、望むものが得られるのなら、その在り方には頓着しない。
 敷島魅零の知る男は、そういう寛容な人間であったと、彼女は思い出して、思考を止めた。
 あるいは、心が広いというよりは、何も意に介さないような、ドライさに基づいていると言う方が近いのだろうが。

「相変わらず、待ち合わせには正確だ」

 何よりなことだよという声が、魅零の右側から聞こえる。
 腕を組み、背を電柱に預けた姿勢のまま、魅零は視線だけを向けて応じる。
 現れたのは、青年だ。少なくとも傍目にはそう見える男だ。
 白いスーツに帽子を被り、手には悪趣味な金色の杖。
 その手のものには関心はないが、コブラを象った杖の有様は、そんな魅零の目から見ても、明らかに異様なものとして映った。
 オールバックにした髪の下では、金の瞳をぎらつかせながら、男が微笑を浮かべている。
 顔立ちは悪くなかったのだが、その蛇のような目つきも、正直不快に思っている。

「キャスターの脱落を確認した」

 口をつく言葉が短くなるのは、やはり嫌悪感の表れなのだろうか。
 もとより不器用で無愛想な身だ。口数はそれほど多くない。
 それでも魅零はいつもよりも、より一層淡白な様子で、男に対して報告した。
 先ほど追想した仕掛け人というのが、他でないこの白スーツ男だ。
 多忙な身の上である彼には、電話もろくに通じない。故にこうして場所を決め、魅零が掴んだ情報を、男へと伝えに出向いている。
 長身、金髪、肌は褐色。異様な出で立ちの敷島魅零は、巨大広告代理店の顧問――里見義昭の隣には不釣り合いなのだ。
 何のコネクションもないままに、この町へ呼び寄せられて早々、それこそ何でもないことのように、そのポストを拾ってきたのには、正直驚かされたものだったが。

「それは重畳。我が宝具は順調に、力を示しているらしい」

 君の様子を見る限り、という言葉を言外に含ませながら、里見はくつくつと笑って言う。
 見透かされたような物言いは、やはりどうしても好きにはなれない。
 たとえそれが、聖杯戦争とやらを、戦うパートナーのものであったとしてもだ。
 先ほど目にした記事にあった、吸血狼男というのは、ライバルの召喚したサーヴァントであった。
 自然信仰の部族に由来し、獣の生霊を操るシャーマン――それこそが里見がマスコミを動かし、世に知らしめたキャスターだ。
 戦いを魅零によって盗み見られ、情報を持ち逃げされたキャスターは、まんまと里見の術中に嵌まり、夜の闇に消え失せたのである。

「ともあれこれなら、本戦の方でも、勝ちの目を期待することはできるだろう」

 恐るべきは対民宝具。人の心こそを操る力。
 奇跡をゴシップへ書き直し、あるところにある噂へと貶め、神秘を根こそぎ奪い去る業。
 対象の情報を公開し、NPCに流布させることによって、サーヴァントを弱体化させるという、掟破りのユニークスキル。
 それが敷島魅零の手にした力だ。
 里見義昭という器を得て、遠き追憶の地へはびこった力だ。


554 : 敷島魅零&キャスター ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:39:15 fXtPfaS60
「期待じゃない、勝つんだ」

 ああ――何とも反吐が出る。
 自ら矢面に立つことなく、陰口をばら撒き不幸を押し付け、泥沼の潰し合いを誘う陰険な力も。
 それ故に暗闇のフィクサーを気取り、高みから見下すようなその口ぶりで、全てをせせら笑うこの男自身も。
 全くもって性に合わない。何故に聖杯とやらは、こんな男を、己へと押し付けたのだろうかと。

「これは失敬した。君には是が非にでも聖杯を獲り、力を得る理由があるのだったな」

 肩を竦めながら、里見が言う。
 そんな風にして人の望みに、触れられたくはなかったのだが、それでも魅零の事情を思えば、開示せずにはいられないものではあった。

「……抑制剤の方は」
「何しろキャスターではないからな。全く未知のテクノロジーを、無から生み出すのは不可能だ。
 故に私の持ちうる知識で、代用品に使えるものを、用意できはしないかと考えている」

 だからもうしばらく待てと、里見は魅零へと言った。
 今の魅零は独りきりだ。それは里見を頼れないだとか、そんな単純な意味合いではない。
 彼女の感染した忌まわしき暴力――A-ウイルスの力を発揮するには、定められたパートナーが必要になる。
 そうした存在がいない以上、彼女がこの場で戦うためには、少々無理をする必要がある。
 闇の精鋭(ソルジャー)となるために、強引に押し付けられた負の力を、十全に使いこなさねばならなくなる。
 体にかかる甚大な負荷に、振り回されることなく戦うためには、里見の「大量生産」スキルによって、抑制剤を獲得する必要があるのだ。

「人体を武器化するA-ウイルス……興味をそそられるものではあるが、今の私にはその力を、詳らかにする手立てがない。
 案ずるな、マスター。君らを呪うその鎖は、私が消し去ると約束しよう」

 A-ウイルスの根絶によって、感染者(アーム)達を解放すること。
 そのために与えられた力こそが、謀殺の魔人(アサシン)・里見義昭。
 無理なドライヴでドジを踏み、目覚めてたどり着いたこの場所は、宝の島か、はたまた地獄か。
 見るからの禁忌に手を染めた、この行いの代償が、どれほどのものになるかは分からない。
 今も抵抗を覚えている、人の命を奪うことすらも、あるいは強いられることになるのかもしれない。

(それでも、やる)

 だとしても、前に進むと誓った。
 可能性があるのだとしたら、どれほどの汚泥にまみれたとしても、願いをその手に掴むと決めた。
 ここに彼女がいなかったことは、間違いなく幸運だったと思う。
 それでも、まもるべきあの人の顔が見られなかった時、魅零の胸に去来したのは、ほんの一欠片の寂しさだった。
 それほどにあの人に対して、心を許し、寄せていたのだ。それは驚くべきことではあったが、歩き出す十分な理由にもなった。
 何ゆえに想うのかなど知らない。それでも想いの強さだけは、確実に本物だと言い切れる。

(だからこそ、やれる)

 敷島魅零は戦える。
 あの人に顔向けできなくてもいい。同じ場所に立てなくてもいい。
 今度こそ血に染まった己が、今度ばかりはと否定されても、それでも彼女が救われるのなら、自分はそれで構わない。
 聖杯を掴む。悲しみを拭う。
 全てのA-ウイルスを痕跡すらなく、悲劇と共に消し去ってみせる。
 同じ痛みを胸に抱え、孤独と悲嘆に震えている、監獄島の人々のためにも。
 何よりも、愛おしいと、まもりたいと、そう思ったただ一人を、家族のもとへと還すためにも。


555 : 敷島魅零&キャスター ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:39:47 fXtPfaS60


(A-ウイルスは消してみせるさ)

 次の定時連絡の日時を、短いやり取りによって取り決め。
 雑踏へ消える金髪の背中を、遠目で消えるまで眺めながら、里見義昭は一人思う。
 喜ぶがいい、仮初の主人よ。貴殿の願いは見事に叶う。
 どれほど嫌悪し蔑もうとも、この里見と同じ道を行く限りは、目指すゴールは必ずや交わる。

(もっともその後の世界で、君達がどうなるのかまでは、私の知ったところではないがね)

 たとえ敷島魅零がそのゴールテープを、切ることなく目前で果てたとしてもだ。
 マスターとサーヴァントの主従など、強制命令権を与えられた、令呪三画のみで成り立つ脆い絆だ。
 であるならば、この里見も、わざわざ義理立てをしてやる理由などない。
 聖杯を手に入れるのは己だ。魅零は自ら願いを叶えず、己の願いのおこぼれで、偶然救われるに過ぎないのだ。

(知っているか、人吉爾朗。この町が辿りゆく末路を)

 かつて己を殺した男。
 手を下したわけではないにせよ、確実に滅びへと導いた男。
 嗤う己を悪だと断じ、その在り方を認められないと、否定し打倒した男へと、里見は内心で語りかける。
 あるべき昭和の時代には、一つの事件が存在した。
 今より未来へ向かうこと6年――昭和61年の世界で、理想は人類を裏切ったのだ。
 人吉爾朗のいない世界に、もたらされた神の炎。しかし金の盃は、厳重な管理を整えてなお、滴る毒を下界へと落とした。
 結局のところチェルノブイリで、人間はまたしても間違えたのだ。
 超人がいなくなったとしても、いいや最初からいなかったとしても、彼らは理想世界を取りこぼすのだ。

「はは……!」

 嗤いながら、踵を返す。
 もはや敷島魅零ではなく、追憶の存在へと矛先を向けて、蛇は人の愚かさを嗤う。

(やはりあるべき平穏な世界を、創造せしめる人間は)

 この里見義昭だけが、世界を正しく修正できる。
 はびこった超人幻想を、歪と認識することができた、この里見にこそそれが実現できる。
 何故ならあるべき自然な世界を、正しく認識できるものもまた、里見だけということになるからだ。
 その願いを成就するためなら、聖杯などという神秘も、今は甘んじて利用しよう。
 やがてその聖杯ですらも、この世から跡形もなく消し去るためにも。
 幻想なるもの、神秘なるものを、全て取り除いた静かな世界を、あるべき形へと導くためにも。


556 : 敷島魅零&キャスター ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:40:25 fXtPfaS60
【クラス】アサシン
【真名】里見義昭
【出典】コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜
【性別】男性
【属性】秩序・悪

【パラメーター】
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:A 宝具:EX

【クラススキル】
気配遮断:D
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
 里見の殺人者としての適性は、暗殺ではなく謀殺に特化しているため、このスキルのランクは低い。

【保有スキル】
真名秘匿:A
 自らの正体を隠し、暗躍するためのスキル。
 Aランクともなると、自身がサーヴァントであることすらも、正体を明かすまでは気づかれなくなる。
 里見は老境の域に達するまで、自らの超人としての力をひた隠しにし、力を失った人間のふりをして活動してきた。
 こうした逸話から、里見は高いランクでこのスキルを獲得しており、顔と名前を見せびらかしながら、堂々と活動することができる。

大量生産:A
 魔術的・非魔術的を問わず、様々なアイテムを開発し、大量に生産することに特化したスキル。
 生前の超人騒動に関するアイテムであれば、ほぼ全てを生産ラインに乗せ、量産することが可能である。
 ただし、エクウスやレッドジャガーのような、自身の知り得ない時代の技術が用いられたアイテムは、生産することができない。
 また、人が搭乗することで動かす奇Χ(ロボット兵器)は、別個に搭乗員を調達する必要がある。
 科学者でもあり企業人でもある、里見ならではのスキル。

扇動:B
 数多の大衆・市民を導く言葉や身振りの習得。広告屋の顧問を務める里見は、高いスキルランクを有している。


557 : 敷島魅零&キャスター ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:41:37 fXtPfaS60
【宝具】
『割れる幻想(にほんだいよげん)』
ランク:EX 種別:対民宝具 レンジ:1〜99 最大補足:-
 超人幻想の破壊を目指した、里見の広告手腕が宝具化したもの。
 宝具名は、彼の起こした最大のプロジェクトである、映画「日本大予言」に由来する。
 自身に敵対するサーヴァントの真実を暴き、都合の悪くなる情報を流布することで、
 そのサーヴァントの有する神秘性を、著しく低下させることができる。
 もっとも、この宝具は、「敵の存在を確認する」「その情報を獲得する」「情報通りの真実を大衆に流布する」という、
 3つのプロセスを経て初めて効力を発揮するため、自身が知り得ない敵には、影響を及ぼすことができない。
 また、どれだけ婉曲的に表現されたとしても、ある程度の事実が伴っていなければ、効力を発揮することができないため、
 ありもしないデタラメをばら撒いても、サーヴァントの弱体化にまでは至らない。

『楽園を嗤う毒蛇の牙(バイオデストロイヤー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 あらゆる生命体の分子結合を分解する化学薬剤。
 ランクこそ低いものの、通りさえすれば、サーヴァントにすらも大きなダメージを与えられる。
 またこの宝具は、自らの「大量生産スキル」によって、更に増産させることも可能。
 この項目にあるレンジと捕捉人数は、あくまでも、彼が持つ杖に仕込まれたものを示す数値である。

【weapon】

 魔術の杖ではなく、歩行の補助とするための短い杖。
 悪趣味なコブラの口からは、『楽園を嗤う毒蛇の牙(バイオデストロイヤー)』 が噴射される。

【人物背景】
あるべき世界の歴史において、大破壊をもたらすはずだった隕石が変化し、人の姿を取った特異点。
有り余る宇宙の威力を宿し、超人として生まれた里見だったが、彼は超人が跋扈する世界を、不自然なものだと感じ嫌悪するようになった。
故に自らは超人の力を秘し、世界から超人を根絶することで、平穏な世界を取り戻そうとした男である。

莫大なエネルギーを蓄えた体は、老境の年齢にさしかかりながらも、代謝コントロールにより若い容姿を維持している。
身体能力も非常に高いが、それ以上の力は持たず、あくまでも謀略によって世を動かすことを常としていた。

やがて世界の在り方を嗤い、世界を壊そうとした男は、一人の超人と戦って敗れた。
その身は幽閉され、世界のバランスを保つための養分となり――そして惨めな有様のまま死んだ。
全てのエネルギーを使い果たし、寿命を迎えた里見の魂は、反英霊として世に記録され、サーヴァントを生み出すに至っている。
もはや自分が生きられぬ現世に、それでもなお平穏を求める意志こそ、超人が求めた幻想であることに、里見は未だ気づいていない。

【聖杯にかける願い】
真なる理想的な世界・真なる自然な世界の創造を

【運用】
直接戦う必要が全くない。むしろステータスはそれほど高くないため、直接戦いに行ってはいけない。
情報宝具によってライバルを弱らせ、自らの軍団に始末させたり、あるいはライバル同士の共倒れを狙う。
戦術単位の戦いではなく、戦略単位の戦いこそが、里見の戦い方であると言えるだろう。
余談だが、今回のマスターである魅零は、この運用法を死ぬほど嫌悪している。


558 : 敷島魅零&キャスター ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:43:44 fXtPfaS60
【マスター】
敷島魅零@VALKYRIE DRIVE -MERMAID-

【マスターとしての願い】
A-ウイルスの根絶

【weapon】
なし

【能力・技能】
リブレイター
 女性のみが感染するウイルス・「A(アームド)-ウイルス」の感染者である。
 魅零はリブレイターと呼ばれる特性を有しており、もう一つの感染者の形・エクスターが変化(ドライヴ)した武器を、自在に操ることができる。
 しかしこの聖杯戦争の舞台には、彼女がまもるべき少女はいない。
 それ故に絆の証たる、このスキルは意味を持たず、後述するスキルの後付として――冷徹な殺戮技能の原動力としてのみ機能する。

ソルジャー
 A-ウイルス感染者にエンハンス手術を施し、軍事利用する目的で生み出された改造人間。
 一流のエージェントとして戦場に送り出すために、優れた身体能力・戦闘技術を与えられている。
 更に最大の特徴として、通常の感染者と異なり、自らの意志で肉体を武装化し、異形の戦士へ変貌することができる。
 ただし、このドライヴは肉体に多大な負荷をかけるため、事前の抑制剤服用が必須であるとされている。

【人物背景】
世界政府の走狗として、戦闘技術と異形の体を与えられた元ソルジャー。
しかし心までは堕ちることが叶わず、人を殺すに足る冷徹さを身につけられなかったため、存在価値なしと見なされ廃棄処分されてしまう。
研究者の手引きにより、九死に一生を得た魅零だったが、生きていくことに理由を見出だせず、結局人工島・マーメイドへ送られることになった。

その本質はリブレイター能力を駆使した武器戦闘にあるが、徒手空拳での戦闘能力も非常に高い。
また、作戦実行のためのサバイバル知識を有しており、未知の環境でも生き抜くことができる。

普通の体を持てなかったが故に、普通に生きることを諦め、命の理由を見出だせなかった少女。
しかし見知らぬ島で出会った少女に、過去の幻影を見た魅零は、少女をまもるために戦いへと望む。
最初の動機などどうでもよかった。そもそも認識すらしていなかった。
初めて見つけた戦う理由――生きる理由が眩しかった。それ故に魅零は、理由をくれたことそのものを理由に、少女をまもり戦い続ける。


【把握媒体】
アサシン(里見義昭):
 テレビアニメ全24話。

敷島魅零:
 テレビアニメ全12話。第8話「ヴァルキリー・エフェクト」終了直後からの参戦


559 : ◆V05pjGhvFA :2016/08/31(水) 02:44:16 fXtPfaS60
投下は以上です


560 : ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:42:59 LXD6vYqg0
投下します


561 : 叛逆は英雄の特権 ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:45:05 LXD6vYqg0
眼前で繰り広げられた死闘をオスカー・フォン・ロイエンタールの左右で色の異なる瞳は無感動に見やった。
凡そ人間の形をしたモノとは思えない速度と威力で鎬を削った剣の英霊同士の死闘だが、ロイエンタールの心を動かすことは叶わない。

─────死んだ後でこんな事をやらされることになるか。

生前の癖だった冷笑癖を自分に向ける。
そもそもロイエンタールが生きた時代に無念を抱いて死んだ者などいくらでも居るだろうに、何故自分が選ばれたのかが解らない。

─────そんなにも俺が不平不満を溜め込んでるように見えたのか。

益々もって馬鹿らしくなってきた。こんなことに巻き込まれたのは不愉快極まりないが、負けるのは更に不愉快だ。だからといってこんな石器時代の戦いには気が乗らない。
オフレッサーでも呼べば良いだろうに、何の因果で俺を呼ぶ?
ロイエンタールの冷笑が更に深くなる。
星の大海を行き、宇宙を征したこの俺が、地上の片隅で二万年ばかり時計の針を逆行させた戦いをやらされるとは。

「これも主君に背いた報いか。逆賊は地べたを這いずり回ってせせこましく殺しあうのが似合いという訳か」

雄敵と戦って死ぬのはむしろ望むところだったが、こんな戦いで負けて死ぬのは嫌だった。ロイエンタールにとっての戦いとは艦隊を率いて宇宙を征き、戦略と戦術の限りを尽くして雌雄を決するものだ。
こんな地上で石器時代の人間よろしく白兵戦の技術を競うものでは断じて無い。
だからといって勝ちにいく気にもならない。堂々巡りに陥ったロイエンタールの思考を、角の付いた兜で顔を隠した鎧姿の騎士が遮った。


562 : 叛逆は英雄の特権 ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:46:08 LXD6vYqg0
「お前がオレのマスターか」

「そうらしいな」

素っ気なく返された挨拶に、騎士は気を悪くしたらしかった。

「オレを読んでおいてなんだその態度は」

「人に態度について問うなら素顔を晒せ、鼠族(そぞく)の様に顔を隠すとは、余程後ろ暗いことの有る奴らしいな」

「チ…人を賊呼ばわりか……今外す」

面を覆っている部分が割れ、鎧へと兜が収納されていく様を見たロイエンタールは、装甲擲弾兵の装甲服を連想した。

「こんな娘が英雄として名を残すとは、余程人の居ない国だったらしいな」

兜の下から現れたのは強い意志を瞳に宿した少女の顔。化粧をして、華美な装束で身を飾れば、男女を問わず人目を引くだろう容貌だったが、鋭い眼光が有象無象を寄せ付けまい。
その眼光に真性の殺意を込めて、少女はロイエンタールに告げる。

「一度は抑える…だが、次に女呼ばわりすれば、オレは自分を制御できん」

随分な跳ねっ返りだとロイエンタールは思ったが、それはそれ。その人物の地位や容姿や性別では無く、実績や才幹を以って評価するのがローエングラム王朝の在り方。ロイエンタールも当然評価する対象に容姿や性別は含まない。

「気に障ったのなら謝罪する。それに、元より重要なのは能力であって、お前の容姿や性別など枝葉にも値しない」

「それなら良い。それとさっき言っていた事だが、優れた騎士は大勢いたぞ。ただ単に俺が最も優れていたというだけだ」

臆面も無く言い放つ様は、傲慢さよりも外見に相応しい幼さを感じさせて、不快感を抱かせない。
ロイエンタールは宇宙で唯一、彼が膝を着いた彼の主を連想した。

「何が可笑しい………」

気がつけば笑っていたらしい。サーヴァントが怒りの篭った眼でロイエンタールを睨んでいた。

「…何、俺が仕えていた方も、若い時にはお前の様な感じだったのかと思ってな」

「どんな奴だったんだよ」

「俺が仕えるに値する方だった。大艦隊を率いる将としても、帝国を統べる君主としても、比するに足る者が思いつかん程にな」

何処か遠くを見ながら語ったロイエンタールは、肝心な事を聞いていないことに気付いた。

「お前の名は?お前がどんなサーヴァントか知らなければ、方針の立てようが無い」

「ああ…オレの名は……む…人に名を聞くなら自分から名乗れ」

先刻の意趣返しのつもりなのだろう。ドヤ顔で胸を反らすが、頭の位置がロイエンタールより遥かに低いので、子供が気を張っている様にしか見えなかった。

「失礼した。俺の名はオスカー・フォン・ロイエンタール。お前のマスターという奴らしい」

「オレの名はモードレッド。セイバーのクラスとして推参した」

モードレッドという名を聞いて、ロイエンタールは記憶を探ったが、何も思い当たる節が無かった。

「悪いが記憶に無い。メックリンガーなら知っているのかも知れんが」

「オレの名を知らない……じゃあブリテンのアーサー王の名は?」

「名の響きからすると、自由惑星同盟(フリー・プラネッツ)の人間なら知っていようが。生憎と俺は銀河帝国の出でな」

ロイエンタールの答えを聞いたモードレッドは不本意さと驚きに顔を歪めた。

「銀河帝国?なんだそれは」

モードレッドの問いに、ロイエンタールは皮肉げな笑みを浮かべた。モードレッドでは無く、自分へと向けた笑いだった。

「知らぬのも当然だろう。今からざっと一千年後、この地球が人類の歴史から忘れられた時代に、銀河を支配する国家だからな」

「この星が人類の歴史から忘れ去られた!?ブリテン島はどうなった!?」

「さてな、十三日戦争の熱核兵器の応酬か、シリウス戦役の際に滅んだのだろうよ」


563 : 叛逆は英雄の特権 ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:46:43 LXD6vYqg0
翌日、ロイエンタールは宿泊しているホテルの一室で書物に目を通していた。彼の役割(ロール)は此の地に旅行で訪れた、独逸の下級貴族の家系の資産家というもの。豊富な活動資金を活かして、此の地の地図と、己がサーヴァントの素性について記された書物を買ってきたのだ。

─────運命という奴も随分と小賢しい真似をする。

モードレッド。己がサーヴァントの素性を知ったロイエンタールは、自分の運命を冷笑した。
逆賊のマスターに逆賊のサーヴァント。これを皮肉と言わずして何と言う?

【何を笑っている。マスター】

怪訝に思ったのだろう。霊体化したモードレッドが念話で問いかけてくる。

「いやなに、俺のところへお前が来た理由が解ってな」

【何の話だ?】

「逆徒には逆徒ということだ」

【お前もか!?】

「ああ…」

モードレッドの驚愕に対しロイエンタールの反応は短い。

【仕えるに値する相手じゃ無かったのか!?】

「だからこそだ」

ロイエンタールの返事は明らかに矛盾していたが、声に含まれたものがモードレッドに何も言わせなかった。

「俺は皇帝(カイザー)の前に膝を着くことに異存は無い。反逆者として皇帝(カイザー)の前に立つのは本懐だ。だが、反逆者にされて皇帝(カイザー)の前に引き据えられるのは耐えられなかった」

【……つまり逆賊にされそうになったから、逆賊になったと】

「そうだ。笑いたければ笑え」

【イヤ…笑わない。敬するが故に無様を晒したく無い。当然の事だ】

「そう言うお前はどう何だ」

【オレか…オレは認めて欲しかった。息子として、ただ父に認められたかった】

「父親に認めて欲しい……か」


─────お前など産まれてこなければ良かった。

ロイエンタールの耳朶に響く父の言葉。父母は不幸な結婚の果てに、母は夫以外の男と関係を持った。
そして父母が共に青い瞳であるのに、産まれた我が子の瞳が左右で色の異なる金銀妖瞳(ヘテロクロミア)だった為に、
愛人と同じ色の瞳である息子の右眼を抉ろうとした。
そして母は精神を病み。自殺。ロイエンタールは不幸を齎した子として、父親から「産まれてこなければ良かった」と言われて育った。


─────何処まで似ているのか。本当に運命と言う奴は小賢しい。此奴の願いを叶えてやりたくなったじゃないか。

この孺子(小僧))がこんな事を言われたかは知らぬが、少なくとも父親に拒絶された事は確かだ。
全く、父親に拒絶された反逆者どうし、似合いの組み合わせと言うべきじゃ無いか。

「お前は聖杯に願いは有るのか?」

【選定の剣への挑戦だ。必ず引き抜く、そうすれば……】

「出来るのか」

【オレに抜けない筈が無い!!だから勝利するぞマスター!!】

「俺には願いなど無いが、お前の願いを叶えてやろう。それとな、王足らんとするならもう少し覇気を持て、こういう時はこう言うのだ。勝利か、より完璧な勝利を得るのだ……とな」


564 : 叛逆は英雄の特権 ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:48:56 LXD6vYqg0
【クラス】
セイバー

【真名】
モードレッド@Fate/Apocrypha』
【ステータス】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:B 幸運:B 魔力:D 宝具:A

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自由に操れる。


【保有スキル】

直感:B

戦闘時に常に自身にとって最適な展開を"感じ取る"能力。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

魔力放出:A
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。いわば魔力によるジェット噴射。かの騎士王と互角に打ち合うほどの力量を持つ。
彼女の場合は、赤い雷を瞬間的に放出することも出来る。

戦闘続行:B
往生際が悪い。聖槍で貫かれてもなお諦めず、騎士王に致命傷を与えた。

カリスマ:C-
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。希有な才能。モードレッドのカリスマは、体制に反抗するときにその真価を発揮する。

【宝具】
不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:自分自身

モードレッドの顔を隠している兜。
ステータスやクラス別スキルといった汎用的な情報は隠せないが、真名はもちろん宝具や固有スキルといった重要な情報を隠蔽する効果があり、たとえマスターであっても兜をかぶっている間は見ることができない。また、戦闘終了後も使用していた能力、手にした剣の意匠を敵が想起するのを阻害する効果もあり、聖杯戦争において非常に有用な宝具。ただしこの宝具を使用していると、彼女の持つ最強の宝具を使用することが出来ない。
兜は鎧とセットの状態で『脱いだ』時、初めてステータス情報が開示される。つまり鎧を外して現世の衣装を着ていても、武器を手にしていなければ、兜が無くても隠蔽効果は継続する。「ルーラー」のクラス別スキル「真名看破」の効果でも見破ることは不可能。
令呪でブーストされた黒のバーサーカーの攻撃を防ぐなど強度自体も高く、魔術や毒などに対してもある程度の防御力を発揮できる。


燦然と輝く王剣(クラレント)

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人

アーサー王の武器庫に保管されていた、王位継承権を示す剣。

「如何なる銀より眩い」と称えられる白銀の剣。モードレッドの主武装であり、通常はこの状態で戦闘を行う。
アーサー王の『勝利すべき黄金の剣』に勝るとも劣らぬ価値を持つ宝剣で、王の威光を増幅する機能、具体的には身体ステータスの1ランク上昇やカリスマ付与などの効果を持つ。
しかし、モードレッドはこの剣を強奪しただけで、王として認められているわけではないため、ランクは本来のBからCへと低下し、各種ボーナスも機能していない。
元は王の戴冠式のため武器庫に保管されていた剣だが、叛乱を起こした際に奪い取り、カムランの戦いで使用した。


565 : 叛逆は英雄の特権 ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:49:17 LXD6vYqg0
我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)

ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:800人

伝承にはモードレッドが武器庫から盗み出し父殺しに使ったという逸話以外の逸話は殆どない。

「燦然と輝く王剣」の全力解放形態。剣の切っ先から直線状の赤雷を放つ。
「燦然と輝く王剣」はモードレッドが手にしても本来の性能を発揮しないが、その「増幅」という機能は生きている。これを利用し、父への憎悪を魔力という形で剣に叩きこみ、増幅させて赤雷として撃ち放つのがこの宝具である。
真名解放時にはクラレントを構えた彼女を中心にした一帯が血に染まり、白銀の剣も邪剣へと変貌する。
英霊の必殺の武器であると同時に、絶大な誇りそのものと言える宝具だが、彼女にとって父の名を冠したこの宝具は誇りを超え、ある種の怨念と化している。
またアーサー王を害したエピソードゆえに、モードレッドの手で発動時にあるこの剣は「聖剣」ではなく、「魔剣」と化している。
アーサー王に特攻の効果を持つ。

【weapon】
燦然と輝く王剣(クラレント)

【人物背景】
元はモルガンが創り出したホムンクルスであり、アーサー王への刺客。
だが最初は王として完璧だったアーサーに敬服していたが、モルガンに出生の秘密を知らされた為、
アーサー王に自分を息子として認知し、跡継ぎとする様要求するも、王の器では無いと拒絶される。
だがモードレッドは己がアーサー王の敵であるモルガンの子だからと捉えて、アーサー王への憎悪を抱く。
やがてランスロットとグェネヴィアの不貞を暴き、円卓を崩壊させた上でカムランの丘で、アーサー王と相打ちになった。
アーサー王への感情は愛憎入り混じるもので、他者がアーサー王を侮辱する事を許さない。

【方針】
優勝狙い

【聖杯にかける願い】
選定の剣に挑む


566 : 叛逆は英雄の特権 ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:49:44 LXD6vYqg0
【マスター】
オスカー・フォン・ロイエンタール@銀河英雄伝説

【能力・技能】
智勇の均衡が同時代に生きた全ての人物を凌ぐと評され、戦略戦術に優れる。
組織運営や実務にも優れ、官僚的な職務も帯びる旧自由惑星同盟領の総督を任される等、全方位に於いて穴の無い才能を発揮した。
白兵戦技にも優れ、生涯に何度も決闘を行い無傷。戦場で敵と直接刃を交えたこともあった。
「地位と権限が上がる程才能を発揮する」と評されたが、「革新の時代に産まれた守旧の人」とも評され、その才能と人格は「ローエングラム王朝の三代目の皇帝に相応しい」と評されるが、当人は乱世の雄となりたかったようである。

【weapon】
無し

【ロール】
旅行で冬木を訪れた独逸の下級貴族の血を引く資産家

【人物背景】
左右の瞳の色が異なる形で誕生したロイエンタールは、夫以外の男と密通を重ねていた母親にこれは黒い瞳の愛人との子であるという強迫観念を抱かせた。彼女は不貞の発覚を恐れてわが子の黒い右目をナイフで抉り出そうとしたものの失敗し、ほどなく自殺。以後ロイエンタールの父は事あるごとに「お前は生まれてくるべきではなかった」と息子を罵り、かくして彼の人格は歪な形で構成されていくに至った。

冷静沈着な理性と剛毅さを併せ持ちつが女性に対しては投げやりである。
母親の一件で強烈な女性不信を抱いているが、自分に言いよってくる女性を拒むことは無い。但し人妻は拒む。
言いよって来た女性とは一定期間誠実に付き合い、そしてロイエンタールの方から一方的に振るという事を延々と繰り返していた。人としてはともかく、法的には問題は無い。
唯一の例外はロイエンタールの息子の母親となったエルフリーデ・フォン・コールラウシュで、力づくで関係に及んでいる。要するに4巻と6巻の間である。

誇り高く、自身の才幹に強い自負を持っている為、身分や血統だけで高い地位に居る者を激しく嫌悪する。
民衆に戦禍を及ぼす事や危害を加える事を嫌い、部下が民衆に発砲した時には痛烈な皮肉を浴びせている。
欠点は包容力に欠けることと、冷笑癖を有している為に敵を作りやすい事。

智勇双全と評される才能と、誇り高い性格を有している為、
彼を知る者からは何時か叛旗を翻すのでは無いかと内心思われており、叛逆したときには皆驚きつつも納得した程。

ラインハルトに対する忠誠心は叛旗を翻しても生涯変わらず、事破れたロイエンタールの前でラインハルトを侮辱したトリューニヒトを、その場で殺害している。

【令呪の形・位置】
右手の甲に獅子の形をしたもの

【聖杯にかける願い】
無い

【方針】
モードレッドに聖杯を獲らせる

【参戦時期】
原作で死亡した後


【把握資料】
セイバー(モードレッド):Fate/Apocrypha原作小説全5巻。漫画連載は単行本が一冊分。
GrandOrderでもある程度は把握は可能です。


オスカー・フォン・ロイエンタール:原作の銀河英雄伝説2~9巻。OVAなら87話~97話まで見れば一応把握は可能。
漫画では道原かつみ版の5巻を読めば把握可能。


567 : 叛逆は英雄の特権 ◆mcrZqM13eo :2016/08/31(水) 08:50:21 LXD6vYqg0
投下を終了します


568 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/08/31(水) 14:10:14 pXUJPje20
皆様、投下お疲れ様です。
コンペ自体の期限は今日で終了となりますが、皆様もご存知の通り、現在したらば掲示板がDDoS攻撃を受けており、投下が不可能な時間が少なからず存在している状況です。
そこでコンペの期限を三日間延長し、9/3を正式な締め切りとしようと思います。

また、OPに関してなのですが、大変申し訳ございません。
リアルの仕事関連の試験が複数重なるという状況で、9月中の投下は少々厳しいと思われます。
その為、恐らく投下は10月初週くらいまで遅れてしまうと思うのですが、どうかご了承いただければ幸いです。(一応、二週間置き程度をめどに生存報告は行います)


569 : 名無しさん :2016/09/01(木) 22:57:26 n/hh4erQ0
モード組はロイエンタールがモードに王としてのあり方を教えてくのかな


570 : 名無しさん :2016/09/01(木) 22:58:48 QUH5x97s0
土曜日になった瞬間が〆でよろしいでしょうか?


571 : 名無しさん :2016/09/02(金) 12:12:19 EuZOWzs.0
3日間だから土曜いっぱいでは?


572 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/02(金) 21:14:58 MPEG9heg0
>>571様の言う通り、土曜日いっぱいまでが期限となります


573 : その生は呪いのよう :2016/09/02(金) 22:29:05 NBhruoMg0
二つ投下しま

“聖杯四柱黙示録”に投下したもののステを変えたものです


574 : 名無しさん :2016/09/02(金) 22:29:54 NBhruoMg0
夢を見ていた─────遥かな夢を。

戦乱の絶えぬ島。

夢の中で男は長きに渡り島の歴史の影で暗躍し続けた。

正邪善悪を問わず島の統一を果たせる英雄が現れれば排除し。

島そのものを脅かす災厄には時の英雄達と共に戦った。

多くの血を流し、歴史の天秤を中立に保ち続けた。

嘗て栄華を極めた王国が、その繁栄の果てに国民諸共滅び、歴史から消え去ったその時から。

そして男が目を覚ますと、手にに額冠を持っていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【先ず貴方の肉体を支配しようとした行為は謝罪しよう】

頭の中に響く言葉。手にした額冠からと気付き、念話で応じる

【どうして支配を解いた】

【貴方とは志を同じく出来る。同志になれると思ったからだ】

【僕の過去を見たのか】

【それが私の宝具の性質だ。それ故に支配を解いた。貴方の身体で戦い続けるより、勝利出来る可能性は大きいからだ】

【サーヴァントであることを隠蔽できる利点を捨てることになるが】

【其処を差し引いても貴方と共に戦う方が有利だと思えた】

【僕が望むものは恒久の平和だ。世界の統一が果たされるかもしれないが?】

【統一を妨げるのは安定の為だ。永劫に安定し続けるなら其れは恒久の平和と言えるだろう。私が謀略を行い、戦乱を絶やさなかったのは、安定の為の手段に過ぎん。永遠に天秤が平行で在り続けるなら、平和であるに越したことはない】

男は東西冷戦を連想した。もしこのサーヴァントと己の願いが同時に叶えば、それは地域紛争の無い冷戦構造が永遠に続くものとなるのではないか?


男は黙って俯いていたが、やがて顔を上げ─────


575 : その生はまるで呪いのよう ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:31:36 NBhruoMg0
「街の様子ははどうだ?ライダー」

「概ね此方の予測通り、既に幾つかの組が戦端を開いています。戦うところも確と見ることが出来た者も居ます」

「拠点はどうなっている?」

「幾つか見繕って改修しておきました。すぐに使えるのは三つです」

「それだけ有れば、拠点を複数回放棄しても、余裕が有るな」


ある一軒家の中、会話をする二人の男。
1人は、死んだ魚の様な目をした二十代の男。
1人は、仮面で顔を隠した鎧姿の剣士。

「令呪の解析は?」

「元より付与魔術(エンチャント)は私の得意とするところ、既に終わらせています。これで他マスターの令呪を奪うも使うも思いのまま」

男は無言で頷いた。やはりこのサーヴァントは『当たり』だ。いきなりこんな聖杯戦争に巻き込まれた時はどうしようかと思ったが、ここまで『合う』サーヴァントを引けるとは思わなかった。
本来のサーヴァントとして召喚しようとしていたセイバーだったらこうも上手く事を運べまい。
この聖杯戦争はおそらく妻を巻き込まずに済む、ここで勝って願いを叶えれば娘も救える。
男にとって、まさしく降って湧いた僥倖。此処で勝たずしてどこで勝てば良いのか。
それが無くとも全力で勝ちに行くことに変わりは無い。今まで積み上げた屍が、彼に逃避や怠惰を許さない。



“今”のライダーは正面戦闘には向かないが、元よりそんなことをするつもりは無い。
主従共に華々しく正面切って戦うなど、彼等の在り方として無く、思考の内にも在りはしない。
それに正々堂々と戦いたいなら、それに向いた身体を得れば良い。
ライダーはしみじみと思った。このマスターが『あの時』に居れば、あの自由騎士に敗れることは無かったろうに。
そう思える程に、このマスターは『当たり』だった。



「それではマスター、今後の方針を」

「ライダーが優れたマスターの身体を奪い、そのサーヴァントを使役して戦い、僕がマスターであることと、ライダーの正体をを隠匿したい。そして気を取られている他マスターを僕が暗殺する」

「狙い目はセイバーかランサーのマスターということで宜しいか?」

実に理想的な答えだと心中頷きつつ問う。

「正面戦闘に強いサーヴァントを従えていないと囮にならないからね」

「了解した。それでは適当な主従を見繕ってこよう」

「ああ、同盟相手を欲しがって居る奴が居るはずだ。巻き込まれた者は特にな」

主従のやる事は、過去に行ってきた事と全く変わらない。
主は闇に潜んでの暗殺。
従うサーヴァントは、英雄を操って破滅へと導く。
全てはより大きな悲劇を回避する為の小さな犠牲。
遠い過去に自らを呪縛した二人は、その在り方を変える事も出来ないまま奇跡を求める。


576 : その生はまるで呪いのよう ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:32:20 NBhruoMg0
【クラス】
ライダー

【真名】
アルナカーラ@ロードス島戦記
無銘の英雄(ネームレス・ヒーロー)@ロードス島伝説

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 幸運:D 魔力:C(A++) 宝具:EX
()内のものはライダーの魔術発動時のもの

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。
世界最高クラスの魔術師でもライダーを魔術で破壊することは出来なかった。
このスキルはライダーの本体の額冠のみに発揮される。

騎乗:-
基本的に騎乗スキルをライダーは有しない。宿主により変動する。

【保有スキル】

灰色の魔女
光でも闇でもなく、どちらにも属さず天秤の平衡を保ち続けたライダーの在り方。
その在り方はもはや如何なることがあっても変わることは無い。
極めて高い信仰の加護と計略と破壊工作と魔術スキルを併せ持つ複合スキル。

相手が国家の統一や征服といった功業や、国家レベルの秩序の破壊を為した英霊、強力な魔物であった場合、肉体があれば宝具を除く全てのステータスが1ランク上がる。
ランクを問わずカリスマを無効化する

付与魔術(エンチャント):A+++
物体や人体に魔力を帯びさせる魔術体系。ライダーの宝具はこの技術を用いて作られた。

蔵知の司書:A+
複数の宿主の記憶や、太守の秘宝の一つ“知識の額冠”に蓄えられた知識を引き出す。
LUC判定に成功すると、過去に知覚した知識、情報を、
たとえ認識していなかった場合でも明確に記憶に再現できる。

陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”の形成が可能。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。

単独行動:A+
マスター不在でも活動できる。ライダーは自らの信念に殉じ、自らの時を止め、永劫を生きることを誓った。


577 : その生はまるで呪いのよう ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:32:55 NBhruoMg0
【宝具】

均衡保つ灰色の魔女(カーラ))
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人

灰色の魔女カーラの意志と知識とと魔力が封じられた額冠(サークレット。
ロードスの歴史の裏で暗躍し続けた灰色の魔女の象徴にして本体。
身に付けた人間の精神を支配し、その知識と記憶を得ることが出来る、そして身に付けた人間はアルナカーラから始まる歴代のカーラの記憶を知識として獲得する。
カーラはこの機能を用い、身体を変え続け、歴史を影から動かして来た。
本来は人にしか通じなかったが、サーヴァント化したことでサーヴァントすら支配出来る様になった。
ライダーの肉体を殺す、若しくは額冠を身に付けると呪いが発動し、肉体を支配される。
支配を防ぐ為にはAランク以上の対魔力か精神耐性スキル、もしくは強固な精神力が必要。しかし、ロードスの歴史に残る英雄や勇者ですら支配を逃れる事は出来なかった為、精神力で跳ね除けるのは困難を極める。
条件を満たしていてもライダーの思想に共感すれば支配を受けてしまう。
サーヴァントを支配する際には、霊格と精神力と対魔力により消費される魔力量は増減するが、最低クラスのサーヴァントでも消費量は尋常では無く、数時間は実体化出来ない程。

ライダーは支配した肉体を問わずライダー本来の魔術をそのまま使用可能、支配されたサーヴァントは額冠から魔力を供給される為に、マスターの質を問わず最大の能力を発揮出来る。
また、支配されたサーヴァントはライダーを楔として現世にとどまる為、実質的に最高ランクの単独行動スキルを獲得できる。
ライダーの支配から脱した時、元のマスターが死亡していれば、楔を失い消滅する事になるが、生存していれば元のマスターを楔として現世にとどまることが出来る。
支配した者の技術を、当人の肉体によるものならば使用可能。
宝具は基本的に常時発現している能力しか使用出来ず、真名開放は不可能。

他マスターがステータスを認識した時、属性やスキルや真名はライダーの真名を知らぬ限り、肉体のものに準拠し、ライダーの属性やスキルや真名は認識されない。

肉体を持たぬ時やNPCを依り代としている時はサーヴァントとして感知されなくなる。
この宝具は魔力炉としての機能を有し、消費した魔力は自動的に回復する。

魂を封入しているわけではない為、本来この姿で招かれることは無いが、カーラの妄執と灰色の魔女としての在り方により、この姿で召喚される。


無銘の英雄(ネームレス・ヒーロー)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:自分自身 最大補足:1人

歴代の“カーラ”のなかでも最も人口に膾炙した身体。魔神戦争時の身体、六英雄と讃えられた仮面の魔法剣士の肉体を作り出す。
本来この身体はライダーのものでは無いが、灰色の魔女を知るロードスの英雄達に“カーラ”として認識されている為に、宝具として使用することができる。
宿主を持たぬ時に膨大な魔力を消費することで肉体を作りだし、サーヴァントとして活動する事を可能とする。
発動時は筋力:C 耐久:C 敏捷:A 幸運:D 魔力:C(A++) のサーヴァントとなり、Dランクの騎乗スキルと対魔力を持つ。


578 : その生はまるで呪いのよう ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:33:27 NBhruoMg0
【weapon】
ロングソード

【人物背景】
フォーセリアに存在した古代魔法王国の貴族。魔法王国が事故により魔法を失い、周辺の魔法を使えぬ者達“蛮族”に滅ぼされた「大破壊」時に、
「光でも闇でも、どちらかに天秤が傾けば、その揺り戻しで大破壊が起きる」と信じ、ロードスの統一を阻み、天秤が常に中立である様に動き続ける。
光と闇の双方の勢力に加担し、ロードス統一を果たせる人物を葬り去って来た。
ロードス全ての脅威となる魔神王との戦いでは、魔神王に唯一対抗できる英雄ナシェルの麾下に参じ、魔神達と戦い六英雄として名を残すもの、最終局面でナシェルを排除。
魔神達との戦いの後に起こった英雄戦争でも、六英雄であるファーンとベルドの勢力を均衡させ、両者を共に葬った。
しかし、この時に対立した新しい世代の英雄であるパーンに張り巡らせた謀略を悉く破られ、光の側に傾きすぎた天秤を均衡させるべく、破壊神を復活させようとするも、パーン達に敗れた。
そしてかつての宿主であったレイリアが再度額冠を身に付け、カーラの意思を自身の精神力で封じた。
それでもカーラは消えた訳では無く、レイリアはその生涯を終える際に、その身に神を降ろし、カーラの魂が宿った額冠を破壊したという。

【方針】
なるべく陣地に引き込んで戦う。クラスはおろかサーヴァントであることさえを完全に偽れるのが強み。
優秀な肉体があれば積極的に宿主とする。


【聖杯にかける願い】
世界に永遠の安定を


579 : その生はまるで呪いのよう ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:33:54 NBhruoMg0
【備考】
現在は宝具、無銘の英雄(ネームレス・ヒーロー)を用いて肉体としています

【マスター】
衛宮切嗣@Fate/zero

【能力・技能】
固有時制御 :
固有時間を加速させたり減速させたりして、戦闘速度の向上や生体反応の消失を可能とする。
世界からの修正力を受けるため、2倍速以上は反動で身体に深刻なダメージを受ける。
固有結界の体内展開を応用することで二小節の詠唱で発動可能。

魔術師の思考や常識を熟知しながら囚われず、魔術師の裏を突いて殺害することを得意とする。
相手が真っ当な魔術師であるという先入観の所為で、ウェイバー相手に魔術師が相手という固定観念に囚われて、本拠地を突き止められなかったが、この聖杯戦争では戦術の発想においては固定観念も何も無い為あまり問題にはならないだろう。たぶん。

銃器全般や格闘術、爆薬の扱いに長けるが、銃器も爆薬も無いので使い用は無い。

魔術的な護りを突破することに長ける。

魔術刻印は背中に有る。

手先は器用だが、機械の修理は苦手で、やればやる程壊れて行く。

【weapon】
銃器の類を持込なかった為に持っていない。

【ロール】
ある資産家令嬢と結婚した男。子持ち。

【人物背景】
アインツベルンに第四次聖杯戦争にマスターとして参戦する為雇われたフリーランスの魔術師。
冬木の聖杯が妻の命を代償とする為に苦悩していたが、この仮想世界の聖杯戦争はその心配が無いと思われるので大分気が楽になっている。
ここで願いを叶えれば後は娘を連れて逃げるだけなので、何が何でも勝ちに行くつもり。
今の切嗣は父として夫として個人としての全てで勝ちを取りに行ける迷いの無い状態である。

【令呪の形・位置】
右手の甲に天秤の形をしたのがある。

【聖杯にかける願い】
世界に恒久の平和を齎し、元の世界に帰還する。

【方針】
目立たない事。自分の素性を知られない様にすること。素性を知った奴は確実に「消す」
ライダーには適当なマスターを宿主にして自分がマスターとバレない様に戦って欲しい。その影で自分は敵マスターを暗殺するというのが理想的。

【参戦時期】
セイバー召喚前。アインツベルンにいた頃。

【運用】
主従共に性格と戦闘スタイルが待ちに向いている為に、陣地を強化しつつ大人しくしているのが勝利への近道か。
基本的に逃げと暗殺。
戦闘能力が高く、有力なサーヴァントを持つマスターが居れば、ライダーの宿主としたい。
ライダーの戦闘能力は宿主に準拠する為あまりNPCを宿主にはしたくない。


580 : 兎と狼の「剣士」 ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:36:46 NBhruoMg0
続けて行きます


581 : 兎と狼の「剣士」 ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:37:09 NBhruoMg0
晴れ渡った夜。にも関わらず星が少ないのは、満月が煌々と空を照らしているからだ。
そんな月明かりの下、家の寝室で眠る因幡月夜はふと目を覚ました。
生来の盲目の代わりに異常発達した聴覚と積み重ねた鍛錬が、彼女が眠る寮の中で起きる異常事態を悟らせたのだ。

─────何かが居る

何か、少なくとも生物では無い何かが、近所の家を訪問して回っている。

─────まだ此処に来るには時間が有りますね。

そそくさとベッドから出て着替え、亜鉛合金製の摸造刀を持って外へ出る。
待つことしばし、道のの角を曲がって“ソレ”は来た。
盲目の月夜には見えなかったが、“ソレ”の姿を見ずに済んだのは幸いだった。
“ソレ”はマネキン人形だった。マネキン人形が夜の街中を徘徊しているというのも異常だが、その目は異常などというものでは無かった。
赤い血の色をしたその目は、悪意そのものとでも言うべきものを湛えていた。
一目見てしまえば、長い間夢に怯えることになるであろうその怪物を、盲目の少女は見えないが故に─────ではなく異なる理由から怖れない。

「貴方が何者なのかは知りませんが、痛い目を見たくなければ降伏しなさい」

少女は盲目ではあるが、代わりに聴覚が異常なまでに発達している。数百m離れた人間の関節の駆動音すら聞き取れるほどだ。にも関わらず、目の前の相手からはなにもきこえなかった。
呼吸も脈動も、何もかも。骨の擦過音も筋肉の収縮音も。
それでも少女は怖れない。摸造刀を鞘に収めたまま佇んでいる。
人形が此処に来るまでに聞こえていた“移動する時の音”をその耳は精確に捉え、人形が一歩を踏み出そうとした刹那。閉じられていた月夜の瞼が開かれる、その下に有ったのは赤い紅い瞳。
しかし、其れを人形は認識し得たのだろうか、月夜の瞼が刹那の間も置かず閉じると、人形の頭が砕け散ったのだった。

「一体何なのでしょうか?感触は人形のものでしたが」

呟いて屈み込み、触ってみる。冷たい感触は確かにマネキンのものだ。
手に取ってしげしげと考え込んでいると、不意に横に女が立っていた。
己の耳に全く捉えられずに出現した女に驚愕した月夜に、女が蹴りを入れる。

「がはっ!?」

夜道を転がる小さな身体を見て、女が忌々しげに呟く。

「こんな餓鬼に私の使い魔が壊されるとはね」

なんとか立ち上がった月夜に向けてまっすぐ伸ばした手に魔力の輝きが宿る。

「まあ良いわ、あの人形よりも優秀な道具になりそう」

「ただの子供にしか見えんとは、大した英霊でもないな」

「何者だ!?」

真後ろから不意に聞こえた声に、女が驚愕して振り向き。

「その場に案山子の様に突っ立ったままとはな。阿呆が」

そのまま女の首は宙に舞った。

血を撒き散らし、二つの肉塊が路面に転がり、すぐに消えた。

後に残されたのは、月夜と長身痩躯の狼の様な気配の男。

「貴方は…」

「フン…異常聴覚に自顕流。斬った相手ばかりじゃ無いか。しかしこの場所は……生前の因果という奴か」

月明かりの元、盲目の少女と狼の如き男。死者と生者の剣の魔物は此処に出会ったのだった。


582 : 兎と狼の「剣士」 ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:37:34 NBhruoMg0
【昨晩の女は魂喰いをしていたサーヴァントの様だな】

翌朝、付き添いの世話係が去った後、月夜に話しかけてきたのは、彼女のサーヴァント。

「全く、何処で魂喰いとやらをしようが構いませんが、私を対象にすれば、そに責任が世話役にいくのですよ。私、プッツンです」

何処ぞのサーヴァントが行った魂喰いの為に、町内の殆どが貧血と似た症状を起こして病院へと搬送され、残った住民も大事を取って仕事や学校をやすんでいた。
世間ではガス漏れだなんだと言っているが、月夜の知ったところでは無い。

「はあ…それにしても面倒な事に巻き込まれてしまいました。しかし何故私が巻き込まれたのでしょうか?戦闘狂の類か、強欲な人間だと思われているのならガッカリです」

月夜に応えず、彼女のサーヴァントは昨夜の事を思い出していた。
あの刹那に間合いを詰めた歩法。幕末に於いても通用しそうな速度の剣。盲目でありながら、人形の動きを精確に捉えてみせた超感覚と言っても良い聴覚。
斎藤の知る二人の剣客。瀬田宗次郎と魚沼宇水を思い出す。
特にあの剣、薬丸自顕流居合の“抜き”だろうが、あれ程のものは幕末の京都で飽きる程見て、そして斬ってきた薩摩の剣士達にもそうは居なかった。比肩し得るのは薩摩の人斬り半次郎ほか数名だろう。

─────この歳でこの剣腕か

このウサギ娘─────長い銀髪をツインテールにした髪形から適当に名付けた呼び名─────は、あの時代に生きていれば、時代に名を刻む事が出来る剣士だった。

「はあ……虎春(こはる)さんならノリノリでしょうに」

何時までも嫌そうにしているマスターを見てサーヴァントは愉快そうに笑った。

【何でも願いを叶える機会だぞ。乗る気はないのか】

「興味有りませんから。欲しい人だけで勝手にやれば良いんです。私を巻き込むのは迷惑です」

溜息と共に言葉を吐き出して、月夜はサーヴァントの方に閉じられた瞳を向けた。

「貴方は願いは無いんですか?やって来た以上は何か有るんでしょう?言っておきますが私はやりませんよ」

【俺にも願いなど無い。俺に有るのは、生前も死後も、悪・即・斬の三文字のみ。お前の様に何も願いを持たない者を巻き込んで、殺し合いをやらせる様な代物は紛う事無く悪。故に只斬るのみ】

生涯かけて貫いた信念を、死しても猶貫き通すと断言したサーヴァントを、月夜は無感動に見やった。

「お好きにどうぞ。私はやりませんよ」

【好きにやらせて貰う。と言いたいが本当にそれで良いのか?今の所帰る為の唯一の手段だぞ】

アサシンの言葉を聞いた月夜の顔は、まるで八月三十一日に夏休みの宿題の存在を思い出した子供の様だった。

「はあ……ガッカリです」

至極嫌そうに、残念そうに言う月夜。

【決まりだな】

「仕方ないですね。それでは今後の為に聞きますが、貴方のクラスと真名は?」

【アサシンのサーヴァント。斎藤一だ】

「と言うとあの新撰組の」

【そうだ】

「私は因幡月夜といいます」

こうして二人の剣士は聖杯戦争の舞台に立つ事になったのだった。


583 : 兎と狼の「剣士」 ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:38:01 NBhruoMg0
【クラス】
アサシン

【真名】
斎藤一@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷: B 幸運:C 魔力:E 宝具:C

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】

牙突:
生前にアサシンが到達した剣の理合い。戦術の鬼才、土方歳三が考案した左片手平刺突(ひだりかたてひらつき)を磨き上げ一撃必殺の技へと昇華した剣技。
全局面に対応すべく、複数の型を持つ。
素手でも強力な打撃技として使える。
この技はアサシン唯一人のみが使う剣技、その為ランクは付かない。
この技の使用時には、筋力と敏捷に++が掛かり、アサシンの筋力のランク以下の以下の耐久やスキルに依る装甲や障壁の類を無効化する。
使用時には視界が極端に狭まる。

千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

勇猛:C
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

貧者の見識:B 
相手の性格・属性を見抜く眼力。
言葉による弁明、欺瞞に非常に騙され難い。
陰謀渦巻く幕末の動乱を生き抜いた経験によるもの。

反骨の相:EX 
犬はエサで飼える

人は金で飼える

だが、壬生の狼を飼うことは

誰にもできん

己が正義にのみ殉じ、その為なら所属する勢力にも拘泥せず、己の信念以外のありとあらゆるものに縛られなかったアサシンの生涯。
カリスマや皇帝特権等、権力関係や魅了などといった精神系スキルを無効化する。


584 : 兎と狼の「剣士」 ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:38:30 NBhruoMg0
【宝具】
悪・即・斬
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身

アサシンが生涯貫き通した信念が宝具と化したもの。

私欲に溺れ、世の安寧を乱し、人々に災厄をもたらす者と対峙した時、真名解放とともに、全ステータスを1ランク上げる。
実際に対象となるものが、宝具の発動条件を満たしていると判明していない限り発動不可能。


孤狼
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身

幕府が倒れようとも、新撰組が潰えようとも、己が奉じた正義に殉じ続けた。
世の安寧を脅かす者がいる限り、アサシンは剣を執り、その牙を突き立てる。
Cランク相当の戦闘続行と単独行動を常時発揮する。



【weapon】
日本刀・無銘:
無銘の刀だが、結構な業物

【人物背景】
元新撰組三番隊隊長で、明治の世には警官となり、世の安寧を乱し、人々に災厄を齎す者を斬り続けた。
史実通りなら
退職後、東京高等師範学校(東京教育大学を経た、現在の筑波大学)の守衛、東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学)の庶務掛兼会計掛を務める[ことになる。

【方針】
聖杯戦争の中で悪を行う者を斬る。聖杯戦争の主催者も悪として斬る。

【聖杯にかける願い】
無い




【マスター】
因幡月夜@武装少女マキャヴェリズム

【能力・技能】
聴覚:
広い女子寮の中の出来事を完全に把握出来る

薬丸示現流抜刀術:
「抜即斬」と言われる駿速の抜刀術
達人剣士の剣技を見切れる主人公が2m位の距離から視認出来ない速度で、
地面に降りて抜刀して首筋に刃当てて納刀する。ということをやってのける。
踏み込みからして尋常な速度ではなく、移動し終わってから移動したのがようやく分かる速度

【weapon】
模造刀:
亜鉛合金製で重量はあるが強度が無い。

【ロール】
全寮制の中学に通う女子中学生

【人物背景】
元々女子高だった学園が共学になった際に男子生徒を恐れた女子生徒のための風紀組織、愛知共生学園“天下五剣”の中で最強と言われる剣士。
銀髪紅眼の盲目の美少女。中等部だが飛び級しているので実年齢は小学生並み。
異常なまでの聴覚と、神速の踏み込みと抜刀術の才を持つが、盲目なのは、優れた剣の才能を世に誕生させる為に父親に当たる男が行った近親相姦の所為。
その為に生来病弱。
基本他人と関わろうとせず、五剣の会議にも殆ど出席しない。
「ガッカリです」が口癖。普段は寡黙だが話出すとかなり長い。

【令呪の形・位置】
狼の形をしたものが右手の甲にある

【聖杯にかける願い】
帰りたい

【方針】
なるべく戦わないで楽して目的を叶えたい

【参戦時期】
本編開始直前


【把握資料】

アサシン(斎藤一):流浪人剣心7巻~最終巻まで

因幡月夜:武装少女マキャヴェリズム1巻と5巻


585 : 兎と狼の「剣士」 ◆mcrZqM13eo :2016/09/02(金) 22:39:04 NBhruoMg0
投下を終了します


586 : ◆3SNKkWKBjc :2016/09/03(土) 21:39:12 RlnQ.ix.0
皆さま投下乙です。私も投下させていただきます。


587 : ◆3SNKkWKBjc :2016/09/03(土) 21:39:40 RlnQ.ix.0

偽りの舞台、偽りの居場所、偽りの役目に……偽りの時代。
マスターには最低限必要な居場所が備えられていたのだ。幼い子供ならば当然。
だけど、不自然にも彼女には『父親』がいない。
『父親』がどうして居ないのか、この冬木においてはどういう設定かも彼女は分からなかった。
『母親』は居た。でも、彼女は知っている。
その『母親』は不自然なほど優しかった。だから思い出したのだろう。本物の母親がどのような存在か。
………殺された『親友』も居なかった。これも当然。彼は死んでしまった。



――――さくたろうは、死んでしまいました――――



「………真里亞。今日も仕事で帰りが遅いの」

「うん、わかった。真里亞、お家で待ってるよ。外に出ないで良い子にしてる!」

申し訳なさそうな母親だ。
折角の休日にも関わらず娘一人置いて仕事など。
世間で言うシングルマザーの身分だ。娘の為に稼がなければ、家計だって火の車。
母親を見届けた後、質素な家に残された少女は『貝殻』のある居間へと移動するのだった。
『貝殻』が話しかける。

「今日も家にいるのか」

「うー! 王様がいるから真里亞はさみしくないよ。それに、外に出ちゃったらママの迷惑になっちゃう」

「マリア。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ」

「うー……長くて覚えられない。うー」

「街に出てはならないなら、今日は特別にダレスの屋敷へ連れて行ってやろう」

「え? どうやって? 魔法で瞬間移動するの!?」

興奮する少女に対して『貝殻』は一つの世界を産み出した。
夜空の広がる上空に美しい浜辺。
沖に見える城は海底まで続くガラスの柱によって支えられていた。

まるで、シンデレラのような馬車が出現し、少女は『貝殻』と共に乗り込んだ。
馬車が海中へ飛び込めば気泡に包まれ、少女が呼吸で困る事は無い。
他にも海に住む生物たちが少女を歓迎してくれた。
夢のような時間が終われば、少女と『貝殻』は元いた少女の家に帰っている。

「すごいすごい! とっても楽しかった!! ありがと、王様!」

「マリア。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ」

柔らかに訂正する『貝殻』だったが、少女は確かに喜んでいる。
なので必要以上に少女を正そうとはしなかった。
少女は『貝殻』を純粋に高価なものだと理解している。否、最早金額的なレベルではない。何にも変えられない存在だと知っている。
少女は『聖杯戦争』に恐怖していなかった。
むしろマスターとして選ばれたのに歓喜しているほどだった。
彼女は魔女に成る事を夢見ていたからこそ、魔術師の儀式に巻き込まれたのを純粋に嬉しかったのである。

「……聖杯で、さくたろは生き返るんだよね」

少女は、かつて殺された友を蘇らせる事を望んでいた。

「勿論だ。聖杯はあらゆる願いを叶える。死者を蘇らせる奇跡ですら叶うだろう」

「本当に本当!? ベアトリーチェでも無理だったのに……」

「不可能な事は無い。だからこそ魔術師は儀式を行い、聖杯を得ようとするのだ」

魔術師にも不可能な事も、聖杯ならば叶う。
その儀式、聖杯戦争。
少女は酷く納得が出来た。そして、その聖杯を得るチャンスに恵まれたのだと。

「大丈夫。もう真里亞は失敗しない。ママの言う事をちゃんと聞く。そうすれば、さくたろが殺される事も無い……」

まるで洗脳のような教えを呟く少女は、令呪の宿った胸に手を当てていた。


588 : ◆3SNKkWKBjc :2016/09/03(土) 21:40:03 RlnQ.ix.0
【クラス】ライダー
【真名】SCP-120-JP@SCP Foundation
【属性】混沌・善

【パラメーター】
<通常時>
筋力:- 耐久:B+ 敏捷:- 魔力:C 幸運:A 宝具:B

<本体出現後>
筋力:A 耐久:B+ 敏捷:D 魔力:C 幸運:A 宝具:B


【クラススキル】
騎乗:A+
 乗り物を乗りこなす能力。
 A+ランクでは竜種を除くすべての乗り物を乗りこなすことが出来る。

対魔力:-
 魔術に対する抵抗力。
 一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』を得た事により対魔力が失われている。


【固有スキル】
カリスマ:C+
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
 団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
 ライダーのカリスマは海洋生物もしくは海に通ずる存在のみ発揮する。

芸術審美:A
 芸術品・美術品に対する理解、あるいは執着心。
 ライダーは本能的に高価なものを見分け、攻撃する習性を持つ。

使い魔(海):B
 海中からライダーの家来を召喚する。
 海洋の馬が引く馬車も呼び出せ、これにマスターを乗せる事が可能。
 

【宝具】
『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
 ライダーの能力及び彼自身の貝殻。普段は貝殻に本体を潜めており、ステータスや魔力を隠蔽。
 本体を出現させることで、ステータスが暴露される。
 この宝具によりライダーは『魔力放出(水)』を常時保っており、これによる魔力消費が発生しない。
 水系及び火系の攻撃を無力化、海水を自在に操作するなど海の権威を得る。
 この宝具を得る代償として『対魔力』を失う。


『真夏に見た世界で一番の宝石』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人
 固有結界。誰かと真夏のどこかで見た美しくも儚い情景。
 海岸の向こう側、沖の方にはガラスの城があり、海中にはライダーの知る生物たちが居る。


【人物背景】
全長およそ15cmのクモガイ。その中に居る、巨大な生物。
彼曰く『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』。
自らを高価なものだと認める人間とした対話をしようともしない。


【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP FoundationにおいてZeroWinchester氏が創作されたSCP-120-JPのキャラクターを二次使用させて頂きました。
また、宝具及び能力の一部としてはZeroWinchester氏が制作されたtaleを二次使用させて頂きました。

ttp://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp(SCP-120-JPのページ)

ttp://ja.scp-wiki.net/aile-sunday(tale)




【マスター】
右代宮真里亞@うみねこのなく頃に

【マスターとしての願い】
さくたろうを生き返らせたい。

【能力・技能】
魔術の知識が豊富だが、魔法が使える訳ではない。

【人物背景】
大富豪右代宮家の一員。
小学四年生の九歳の少女。年齢の割には幼い面があり「うーうー」という口癖がある。
親友の「さくたろう」というぬいぐるみを母親に殺された挙句「さくたろう」の存在を否定される。

【捕捉】
母親と二人暮らし。令呪は胸にある。


【把握媒体】
SCP-120-JP:捕捉にある翻訳ページの内容のみで把握可能です。

真里亞:物語においてep1〜4まで把握すれば十分です。どちらかといえばep4よりの真里亞です。
    様々な媒体がありますが、漫画での把握がオススメです。


589 : ◆3SNKkWKBjc :2016/09/03(土) 21:42:33 RlnQ.ix.0
投下終了します。つけ忘れてしまいましたが、タイトルは「右代宮真里亞&ライダー」です。


590 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:08:08 lQOCStss0
締め切り間際ですが、投下します


591 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:09:29 lQOCStss0
深夜の冬木、深山町に未だ残るスラム街。
道路の脇には赤黒く錆び付いた鉄板屋根とビニールシートの壁が点在している中、レオーネは佇んでいた。
露出度の高い風貌の、長身でグラマラスな肢体を隠しもせずに、困り顔で頭を掻いている。

「参ったなぁ〜…」

その顔色にはあらゆる未知のモノを見てしまった戸惑いと、
兼ねてよりの獲物であった帝国を腐らせている元凶の大臣をこの手で葬れると思ったのにそれができない無念が浮かんでいた。
そもそもレオーネは、この冬木のスラム街で目覚める直前まではナイトレイドのアジトにいたはずだ。
気付けば見知らぬ土地に一人残されており、流石のレオーネも面食らった。
じっとしていても仕方がないと、いざ周囲の偵察に出向いてみれば、絵が動く箱やら道を走る鉄で覆われた車やら、
帝都の石畳とは違う黒い石で舗装された平坦だ道路やら、建造物の合間を縫って張り巡らされている黒い線やらが目に付いた。
服装も根本から違うようで、よくすれ違う人々から好奇の視線を向けられたものだ。
レオーネからすればまさに別世界だった。

「明日はナイトレイド最後の任務なのに、私だけ聖杯戦争なんてものに巻き込まれるなんてさ」

帝国との決戦前夜、残された仲間と任務の完遂を誓い合ったというのに、自分だけ席を外していては恰好がつかないではないか。
これまでの過程で殉職していった仲間達のこともある。こんな場所で何もできず死ぬなど笑い話にすらならない。
どうにかして、あの場に戻らねばならないだろう。

「でもね」

戻らねばならない――のだが。

「その前に、私にはやることができたんだ」
「ほう?言ってみろ」

レオーネと同じく、スラム街には彼女と相対している男がいた。
不遜な態度でいる男を強く睨みながらレオーネは言い放つ。

「この聖杯戦争でいい気になってる奴をボコることさ。…お前みたいな悪党をな」
「何を言い出すかと思えば…気に入らない奴をぶん殴ってきたお前なら理解できるはずだ。俺の理想を」

男は、あろうことかスーツ姿の眼鏡をかけた男性で、明らかに男の方がこの世界の文化に馴染んでいる姿をしていた。
体格こそまさに大男と呼べるほどの筋肉質な外見であるものの、年齢が中年を超えているせいか髪の生え際が後退している。
誰が見ても少しマッチョなだけの定年間際の男にしか見えなかった。
名を、スティーブン・アームストロング。信じられないだろうが、レオーネのサーヴァントである。
アメリカの上院議員だったようで、レオーネが感じ取れる"匂い"も単なる政治屋のそれだ。
サーヴァントというあらゆる世界・時代の英雄の一人がマスターの元に来るとのことだったが、
まさかよく標的にされていた政治家がサーヴァントとは、肩透かしを食らった気分だった。

しかし、アームストロングから話を聞くうちにレオーネは認識を改めることになる。
この男は危険人物だと見なしていた。

「"真の自由《サンズ・オブ・リバティ》"だっけ?確かに、ろくでなし共には単純で生きやすい世界かもね。けど、それは皆が夢見ていた世界じゃない」
「お前は気に入らない悪党を叩きのめすのがやめられないんだろう?聖杯の力で"真の自由"をあらゆる世界に広げれば、それが好きなだけできる。
国だの組織だの権力だの、つまらんもののために戦う信念を持たぬ豚共を一掃できるんだぞ!」
「なら、虐げられてきた奴らはどうすればいい?たとえそれで大臣をぶっ飛ばせたとして、それだと何も変わらないだろ!」
「変革には犠牲が伴う!弱い奴は淘汰されるだけだ!」


592 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:10:12 lQOCStss0

少しの間を置いて、レオーネは決断する。
やはり、この男は気に入らない。始末するしかない。
あのエスデスがこの男と組んでいたならば多少はうまくはいっただろうが、
スラムで育ち、虐げられた弱者を嫌というほど見せられたレオーネは、
社会や法というものを一切排し、弱肉強食を是とする"真の自由"というものを到底受け入れられなかった。
"真の自由"とは国や組織に思考を支配されない、個々の主義主張によって闘争が行われる自由というが、それは仲間が思い描いていた世界とは程遠い。

「ライダー…いや、アームストロング。お前は私が倒す!」

そう言って、レオーネは帝具"百獣王化"ライオネルを発動する。
レオーネの髪が長く伸び、手足が獣のそれになる。
たとえ自身のサーヴァントだとしても躊躇はない。
初っ端からサーヴァントを失っても、ライオネルで生き残る自信はある。
ゆえに、レオーネはアームストロングを葬る。

「仕方のないやつだ。いいだろう…相手してやる」

自身の操る帝具・ライオネルによって極限まで高めた身体能力を以て、対峙する男へ突貫する。
一直線にアームストロングへと迫り、渾身の拳を突き出す。
たかが正拳突きと侮るなかれ、ライオネルで強化された肉体は人間に風穴を穿つほどの破壊力を持つ。
伊達にナイトレイドで兇手をしていない。
そして、アームストロングの着るスーツへ鉄と鉄を打ち付けたような爆音と共に拳がめり込む。
常識的に考えれば、誰もが決着がついた、レオーネの勝利だ、と思うのであろう。
その相手が常識の範疇だった場合の話だが。

「っ!?」

レオーネが拳を突き出したまま、目を見開かせて硬直する。
猛獣の如き拳は、なんと男の身体に穴をあけるどころか、陥没してすらいなかった。
確かに、先ほどの一撃は、気に入らない悪党を叩きのめす時のそれだ。決して手加減などしたつもりはなかった。
それがどうだ、アームストロングは受け止めることなど無用とばかりによろめきもせず、ただ涼しい顔をして得意げにレオーネを見つめているではないか。
これまでレオーネはライオネルによる強化以上の筋力・スピードを持つ強者と戦ってきたが、敢えて受け止めない相手は初めてだ。

「どうした?それで終わりか?」
「くッ!」

ひとまず距離を取るためにアームストロングから後ろへ跳んで離れる。
サーヴァントだから一筋縄ではいかないことはわかっていた。視認できるパラメータでは筋力と耐久が高いが、まさかこれほどとは。

「来ないのならこっちからいくぞ!」

お返しとばかりにアームストロングが攻勢に出る。
彼が地面を踏むと、レオーネの肌を風がしなる感触が撫でた直後にアームストロングの巨体がレオーネの前に迫っていた。


593 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:11:18 lQOCStss0

「な――」

レオーネには、アームストロングの服装があまりにも戦場離れしていたからか、
あるいはブドーとの戦闘経験もあったとはいえその巨体で素早く動くことなど不可能という固定観念があったからか、反応が遅れた。
そして次にレオーネの身体を襲ったのはマグニチュード8以上の地震に揺られたかのような衝撃。
アームストロングのタックルをモロに食らってしまったのだ。
これでアームストロングからしてみれば少し小突いた程度の力しか出していないのだから驚きだ。

「がっ…!」
「俺のタックルはどうだ?」

そのまま吹き飛ばされ、倒れていたところを頭を近づいてきたアームストロングの両手で持ち上げられる。

「お前…ただの政治家じゃ――」

サーヴァントだとわかっていても、そう聞きたくなる。
何せ、たかが政治家がパワー・スピード・タフネス、どれをとっても今まで戦ってきた者の中でも最上級の実力を誇っているのだ。
レオーネも元の世界では皇拳寺で修業した者が政界に進出していることを風の噂では聞いたことがあるとはいえ、ここまで規格外の強さを持つ者は存在しえないとわかる。

「俺はスポーツマンだ!そこらの政治家とは鍛え方が違う!一緒にされちゃ困るな!!」

アームストロングはレオーネの額に自身の頭をぶつけた。上院議員渾身の頭突きだ。
その際、アームストロングの顔全体が黒く変色していた。
この一撃をまともに受けてしまったレオーネは、強く地面に打ち付けられ、立つこともできなかった。傷口からは痛々しく血が流れている。
ライオネルの奥の手「獅子は死なず(リジェネレーター)」のおかげでなんとか生きているが、頭蓋骨を骨折しており、意識を保つのがやっとだった。

「フン…電力に頼るまでもないか」

倒れ伏すレオーネを前に、アームストロングは懐から葉巻を取り出し、余裕の表情をしながら一服する。

「……ぐ……ぅ……」
「この程度で死ぬほど柔じゃないよな?貴重な魔力源に死なれちゃこっちが困る」

レオーネはうつ伏せの状態のまま、首だけを動かしてアームストロングを睨みつける。
しかし、未だ戦意は失われていなかった。

「力で敵わないなら……!」

本当は自分の力だけでこの悪党を葬りたかったが、仕方ない。
レオーネはマスターがサーヴァントに対して優位に立てる絶対命令権を行使することを決める。

「令呪によって命ずる――」
「…待て、何をする気だ!?」
「――自害せよ、ライダー!!」

令呪の一画がレオーネの身体から消失し、そこから解き放たれた魔力がアームストロングを飲み込む。
この時、アームストロングは初めて焦燥の表情を見せた。
やがて、彼の手が動き――。


594 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:11:54 lQOCStss0

「ぐがっ!?」

レオーネの髪を掴み、再びアームストロングの顔面の真ん前に引きずり上げた。
予期せぬ痛みに、苦渋に顔を歪ませながらレオーネは声を上げる。

「な……どうし、て」
「…大方、令呪を使えば俺をどうにかできると思ったんだろうが、そう簡単にはいかんぞ」

確かに、令呪を以て『自害せよ』と命じた。
その時点で、サーヴァントはその命令に逆らうことができず、己の意思に反して自ら命を絶つはずだ。
だが、このスティーブン・アームストロングというサーヴァントは例外中の例外ともいえる特性を持っていた。

「"真の自由《サンズ・オブ・リバティ》"。誰にも支配されない自由…自分だけの理想のために戦える自由。
俺と周りにいる奴らはその自由の中にある。どんな魔術にも、スキルにも、宝具にも…そして令呪にも縛られない」
「バカな…!?」

真の自由。それはアームストロングのスキルという形で具現化されていた。
いわばどんなものにも意思や行動を妨げられずに、自分自身の願いのために戦う状態を作り出せるスキルだ。
狂化によって理性をなくしたバーサーカーも、度を越した信仰心によって精神に異常をきたしたサーヴァントも、アームストロングの前ではありのままの姿になる。
あらゆる制限から解放され、本当の願いのために戦えるようになるのだ。
それは令呪の強制力すらも拒絶する絶対的なものだった。
先ほどの自害の令呪が効かなかったのも、アームストロングは夢半ばで死ぬわけにはいかないからだ。

「これでわかったろう?お前に俺は殺せない」

アームストロングはレオーネの髪を解放し、再び地面に落とす。
しかし、レオーネは寸でのところで手をつき、跪くような姿勢になって見上げる。
額の流血は、ライオネルによって既に完治していた。

「お前の言う"ろくでなし"の住みやすい世界を広げるために――共に歩もうじゃないか…同志よ」

アームストロングが握手するべく手を差し伸べる。
それに呼応してか、アームストロングの周囲には四人の人影が並んでいた。
一人は身体を強化するパワードスーツを身に纏った剣士。
一人は大柄で、巨大な鋏を地面に突き立てている大男。
一人は赤いバイザーのような装備で顔の上半分を隠した2本の戦術釵を持つ男。
一人は手のようなものを繋ぎ合わせた槍を持つ赤毛の美女。
剣士以外は、明らかに身体を機械化しているサイボーグだった。
それもタツミやマインから聞いたセリューとは違い、外見から一目でわかるほどだった。

「そいつらは…」
「俺の夢に賛同してくれた同志だ。聖杯戦争でも俺の手足となって動いてくれる」
「個人の主義主張だなんだと言っときながら、お前は群れてるんだな」

レオーネにしては珍しく、皮肉を交えながらアームストロングに言う。
そのままレオーネは立ち上がる。戦いで受けた傷は、既に戦える程度には回復していた。

「大義のためには、組織を利用することも必要だからな。…で、共に来る気になったか?」
「私もここで死ぬ気はないからね。あくまで利害の一致ってことにしておくよ。…けど、忘れるな。お前たちは獲物だ」
「ほう?言うじゃねえか」
「気に入らなかったらぶん殴ってもいいんだろ?いずれお前の言うとおりにしてやるさ、アームストロング」

レオーネはアームストロングと周囲に立つ4人を睨みつける。その視線には明確な殺意が込められていた。


595 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:13:26 lQOCStss0
【クラス】
ライダー

【真名】
スティーブン・アームストロング@メタルギアライジング

【パラメータ】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具C++

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
中でもメタルギアなどの兵器の操縦に長ける。

【保有スキル】
真の自由:EX
サンズ・オブ・リバティ。ライダーの抱いていた理想。
雇われ者同士のビジネスとしての代理戦争ではなく、個人の力のみによる、個々の主義主張や思想によって闘争が行われる世界。
ライダーは経済として戦争が行われ、さらには国家や企業といった自分のためではなく組織のために闘争を行う状況から、
個人と個人が拳で語り合える西部開拓時代の古き良きアメリカを体現した世界に引き戻すべく暗躍していた。
ライダーの周囲にいる者が何らかの理由で本来の理性・人格に異変をきたしている場合、正気に戻すことができ、
その者の『本音』を引き出し、主義主張や思想のために戦える状態を作り出す。
その効力は強力で、令呪による強制力もこのスキルの前では無意味である。
いわば周囲にまで影響をもたらす精神防御。

謀略:B
主に情報操作による敵対勢力の弱体化、もしくは自陣営にとって有利となる工作を行う手腕。
機械化された情報端末や手足となる組織を用いることで、より効果的な工作が可能。

カリスマ:B-
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
ライダーは合衆国の上院議員に過ぎないが、大統領の有力候補であり、その理想に共感した者からの人望は厚かったためBランク相当のカリスマを持っている。
ただし、ライダーが惹きつけるのはライダーの大義に共感した者のみである。

無力の殻:C-
実際に交戦するまで生身の人間であり、サイボーグの敵ではないと考えられていたことに起因するスキル。
後述の宝具のナノマシンを作動させている間はこのスキルは効果をなさない。
ライダー自身はサーヴァントと認識されなくなるが、本来の無力の殻とは異なり、他のスキルとの併用は可能。
能力値も低下はしないものの、このスキルが発動している間は宝具による能力値強化の恩恵を受けられないため、実質的な能力値低下といえる。
とはいえ、素の状態のライダーでも侮れないほどに実力が高い。

魔力吸収(電力):A+
ヘリコプターや兵器の残骸、果てには冬木一帯の電力網から電力を吸収し、莫大な魔力に変換できる。
ライダー自体、後述の宝具により魔力の燃費が非常に悪いが、このスキルでそれを補うことができる。
また、自分に向けられた雷系の攻撃もまた電力なので、魔力に変えて吸収することができる。
ガルバニズムとは違い、魔力から電気へ変換することはできない。


【宝具】

『超院議員・闘戦確実(フルメタル・ナノマシン)』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大捕捉:-
ライダーの肉体に埋め込まれた、クレイトロニクス技術を応用したナノマシンであり、ライダーの肉体そのものともいえる。
体内の人工心臓が全身のナノマシンの制御を担っており、ライダーの肉体を構成するナノマシンはあらゆる衝撃に対応して瞬時に肉体を黒く硬化する他、
肉体を切断されても瞬時に結合する自己修復能力など、もはや化物としか思えないような能力をもつ。
特にあらゆる衝撃に対して瞬時に硬化する機能は攻防一体の暴力的ともとれる凄まじいパワーとタフネスをライダーにもたらす。
最大限にナノマシンを作動させた場合、ライダーのパラメータは

筋力A++ 耐久A++ 敏捷A

までに跳ね上がる。
ただし、ナノマシンを本格起動させるとなると膨大な魔力を必要とするため、魔力消費の問題に直面することは免れない。
例え腕を切断されてもあっさり修復出来るものの、回復するにも攻撃するにも魔力を要するので、その持久力は無限とはいかない。
それを克服するべく、戦闘前に周囲から電力を吸収して魔力に余裕を持っておくことが重要となる。


596 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:15:53 lQOCStss0
『進撃せよ頂の雷竜(メタルギア・エクセルサス)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1000人
アームズテック社製の大型多脚歩行戦車であり、アームストロングがライダーたる所以。ライダーの意志で自由に顕現させることができる。
傭兵のサイボーグ化の浸透したライダーの世界で、高出力と柔軟な思考、小型の筐体を持つサイボーグ相手に中型や小型の無人兵器では太刀打ち出来ない実情に対処するため、
超高出力モーターも積めて質量攻撃も出来る、超大型兵器の高耐久装甲と圧倒的火力でねじ伏せるという逆転の発想から生まれた兵器。
かつてライダーはこの戦車を駆ってジャック・ザ・リッパーこと雷電と戦ったことから、宝具として所持している。
核搭載型二足歩行戦車の代名詞であるメタルギアの名を継いでいるが、この宝具は核を搭載しない前提の兵器である。
メタルギアとは『歩兵と兵器を繋ぐ金属の歯車』という発想から来た言葉であるためと思われる。

この兵器の外観は全長4mの巨大な脚6本と、脚に似た形状の長い2本の腕を備えている、さながら超巨大な金属の蜘蛛。
メタルギアシリーズ独特の、パーツ同士の摩擦によって軋んで発生する恐竜染みた咆哮も健在。
大型のブレードに変形する2本の腕や、胴体上部と肩にあたる部分に大型プラズマ砲、強靭な出力を誇る足による踏みつけで敵兵を民家ごと蹂躙する。
また、この宝具が戦闘の末に大破しても、ライダーはその残骸から電力を吸収して膨大な魔力を蓄えることができる。

…ここまでこの宝具について長々と解説したが、実のところライダーは、本気を出して白兵戦に臨んだ時の方が遥かに強い。
はっきりいって、ライダーの「前座」以上の役目を果たせない悲しい宝具でもある。


597 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:16:58 lQOCStss0

『破滅を呼ぶ風(ウィンズ・オブ・デストラクション)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
麻薬取引や人身売買、さらにはテロリズムに手を貸すPMC、デスペラード社の幹部陣。
全員が『風』の名を冠するコードネームを持つことからこう呼ばれており、一般の契約兵士とは異なるボディと武器を持っている。
デスペラード社はライダーの理想実現のために汚れ仕事を引き受け、その幹部陣はライダーの真意を知りつつ行動していたため、
以下の四人を独立サーヴァントとして召喚することができる。
ただし、一度消滅した『破滅を呼ぶ風』は二度と召喚することができない。
彼らはライダーの目的にほぼ全面的に賛同しており、共に野望のために動いている。
全員がEランク相当の単独行動を持っており、当然戦闘に参加させるには魔力を要するが、
戦闘を『破滅を呼ぶ風』に任せてライダーが後方に下がることで魔力消費を並程度に抑えることができる。

・ミストラル
 フランスの冷たい突風の名を持つ「破滅を呼ぶ風」の一人で紅一点。「ランサー」の適正がある。
 「使い魔(仔月光)」のスキルを有しており、大量の仔月光を引き連れて戦闘する。義体には仔月光の腕を接続する端子があり、戦闘時は千手観音のような姿になる。
 仔月光の腕を繋ぎ合わせた武器「エトランゼ」は、その先端にナイフを握らせて槍のように、時にはしならせて鞭のように操る。
 武器を破損しても手近な仔月光からすぐに補充が可能で、腕を失った仔月光の胴体は爆弾としても使用できる。
 90年代に起こった内戦で家族を失った過去を持つが、同時にその時に犯人に復讐したことで人殺しの才能を自覚した。
 
・モンスーン
 季節風の名を持つ「破滅を呼ぶ風」の一人。「アサシン」の適性がある。
「殺戮の模倣子」のスキルを持ち、モンスーンと相対した者は一定確率で徐々に残虐な思考に染まり、最終的には精神汚染:Dを習得してしまう。
 強力な電磁石が内部に搭載されており、身体を自由にバラバラにできる特別性のボディを持つ。
 ローレンツカを利用した電磁石の能力を持つ二本の戦術釵「ディストピア」を使い、ボディの特殊な機能を生かした多彩な戦い方を可能とする。
 スモークグレネードを使って視界を奪っての多方向からの奇襲も得意とする。
 かつてのクメール・ルージュの大虐殺の生存者で、殺意や憎悪の連鎖という模倣子(ミーム)に取り込まれ、自らも殺戮のミームを振りまく存在と化してしまった。

・サンダウナー
 カリフォルニアに吹く熱風の名を持つ「破滅を呼ぶ風」の一人。「シールダー」の適性がある。
 重量物を軽々と振り回せる出力を持つ、巨体の特別性のボディを持つ全身サイボーグ。
 主兵装として二本の大型高周波マチェーテ「人斬り鋏(ブラッドラスト)」を持ち、アームを介して6枚の爆発性反応装甲でできた盾を装備している。
 この盾は外部からの衝撃を受けると爆発するという攻防一体の対サイボーグ兵器となっており、盾を振り回すことで相手を吹き飛ばしたり、
 盾を展開した状態で体当たりを行うなど、防御だけでなく攻撃にも使用できる。
 「戦乱は人間の本質である『残虐性』によってもたらされる」という理念を持っている。
 デスペラード社の実質的なリーダーで、元はアメリカ陸軍に所属し、当時から捕虜への虐待や民間人への無差別攻撃を行っていた。
 軍人時代から行く先々を夕焼けのように血で染めたことから「サンダウナー」と呼ばれるようになった。

・サムエル・ホドリゲス
 ミヌアーノ(南米の冷たい風)と言う異名も持つが、主には 『ジェットストリーム・サム』 として知られている、デスペラード社に雇われた男。「セイバー」の適正がある。
 日本人ブラジル移民から伝わった、柳生新陰流の流れを汲むというブラジリアン剣術『ホドリゲス新陰流』の使い手で殺人剣である『裏太刀』の達人。
 無手での戦闘にも優れており、投げなど多彩な格闘手段を持つ。
 彼の愛用する『高周波ムラサマブレード』はCランク相当の宝具として扱われ、消滅しても他者に託すことができる。
 デスペラード社に入る前は裏社会で用心棒等を経験したり戦場を渡りながら、社会の害悪となる無法者を斬りつつ放浪する生活を送ってきた。
 厳密には「破滅を呼ぶ風」の一人ではないが、ライダーの理想に共感し、その軍門に下っていたため彼も召喚できる。
 

【weapon】
メタルギア・エクセルサス、あるいは己の肉体。
ただし、当面の戦闘は『破滅を呼ぶ風』に任せる。


598 : レオーネ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:18:11 lQOCStss0

【人物背景】
コロラド州上院議員であり、2020年の大統領候補の一人。
夢の実現のためにPMCのデスペラード社と結託している。かなり豪胆な性格で風情を楽しむといった概念からは遠く、儚さが美しいという理由で好まれる桜は余り好かない。
アメリカンフットボールの大学レギュラー時代に身に着いた肉体と海軍従軍経験の他、脅威的な戦闘力を最新のナノマシン技術から得ており、雷電達とは別系統のサイボーグと言える。
敵には容赦しないが、自分の理想に理解を示す者にはそれまで敵対していた相手であろうと寛大な態度をとる。
パキスタンのシャバッザバード基地にて、大統領暗殺を食い止めに来た雷電を待ち構え、メタルギア・エクセルサスを駆って彼と激突する。

反米世論が渦巻くパキスタンにて会談予定であるアメリカ大統領の暗殺事件を演出し、
米国民の排外感情や報復意識を煽って新たなる戦乱を引き起こす「テクムセ作戦」により、戦争経済の復活を画策していると思われていたが、
雷電と拳で語りあうことにより、“真の自由(サンズ・オブ・リバティ)を目指す”という夢があることが明らかになる。
その自由とは“誰もが力を行使できる自由”であり、組織化・商業化された戦争を廃して、
「個人と個人が拳で語り合える西部開拓時代の古き良きアメリカ」「気に入らない奴をぶん殴れる世界」「法も秩序も無く個人の力のみに頼った弱肉強食の、混沌としながらシンプルな世界」を目指している。

【サーヴァントとしての願い】
“真の自由(サンズ・オブ・リバティ)”をあらゆる世界へと広める。


【マスター】
レオーネ@アカメが斬る!(漫画)

【マスターとしての願い】
生還して大臣を葬る。
その前にライダー達は「気に入らない」からいずれ殺す。

【weapon】
・帝具「"百獣王化"ライオネル」
使用者を獣化させ、人間離れした身体能力と治癒力をもたらすベルト型の帝具。
戦闘スタイルは獣のごときパワーとスピード、野生の勘を駆使して相手を叩きのめすシンプルかつ豪快なもの。また大幅に強化された五感により索敵や偵察もこなす。
奥の手は脅威の治癒力"獅子は死なず(リジェネレーター)"。体を貫かれようが、裂傷を負おうがたちまち再生し、ほぼ不死に近い生命力を得る。
帝具は1000年に造られた超兵器で神秘が宿っているため、サーヴァントにも対抗できる。

【能力・技能】
・暗殺者の技能
ナイトレイドに所属し、帝国に蔓延る悪を殺してきたように、暗殺任務をこなすために必要な技能を持つ。

【人物背景】
巨乳でグラマーなサバサバした女性で、タツミをナイトレイドへスカウトした張本人。
表稼業は"腕の良いマッサージ師"で人気もあるが、博打好きで金遣いが荒くよく複数の借金取りに追われており、タツミとの初対面の際には世間知らずの彼から金を騙し取っている。
気さくな性格でラバックと並ぶナイトレイドのムードメーカー的存在だが、殺し屋として多くの修羅場をくぐってきただけに時折シニカルな表情を浮かべる。
メンバーの中ではアカメと特に仲が良く彼女を「親友」と称しており、よく一緒にいることが多い。
また、タツミとは姉弟のような関係で非常に可愛がっており、「いい男に育てば自分のものだ」と言い張っている。
ナイトレイド一の酒豪でもあり、何かしら理由をつけては酒を飲んでいる。

帝都のスラム出身であり、ある日スラムの子供を馬で踏み殺すというゲームを行っていた貴族を「気に入らない」として殺害。
それ以降気に入らない悪党を叩きのめすことが癖になっていき、それを続けていた所をナイトレイドにスカウトされた。
そのため権力を悪用する大臣は彼女にとって格好の獲物であり、その手で殺す日を待ちわびている。
基本的に善人の集まりであるナイトレイドの中ではアウトローな存在で、自身を「ロクでなし」と評した上で「だからこそ世の中のドブさらいに適している」としている。

参戦時系列は最終決戦前(14巻冒頭)まで。

【方針】
ひとまずはライダー達と一時的だが手を組む。
しかし、ライダーのことはやはり気に入らないからいずれ葬るつもり。


599 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/03(土) 23:18:40 lQOCStss0
以上で投下を終了します


600 : 鈴木深央&バーサーカー ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:39:44 Yj2ujmRQ0
投下します
これは棺姫聖杯に投下したものを修正したものです


601 : 鈴木深央&バーサーカー ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:40:09 Yj2ujmRQ0
四散する人体。飛び散る臓物。アスファルトの路面を赤く染める血。
不運な男女を見下ろして薄ら笑いを浮かべる剣士と、その横に立つ女。
女はは昭和五十五年の冬木に招かれたマスターであり、剣士はそのサーヴァントだった。
路地裏とはいえ真昼に魂喰いを行わせるのは愚行としか言いようがないが、周囲に人の気配が無い辺り、この二人は運に恵まれていると言えた。
だがそれも此処まで、二人に絶対の死が訪れる。

最初に気付いたのは、サーヴァントである剣士だった。薄ら笑いが瞬時に消え、血濡れた剣を構えて後ろを振り向く。
自身のサーヴァントの様子にマスターの女も振り向いた先にいた者は、何の変哲もない娘だった。
だが、平然と二人を見つめる様は、明らかに異常だった。惨殺死体と抜き身の剣を持った男を確かに視界に収めているのにも関わらず。

─────敵。

二人がそう認識した時、既に戦端は開かれていた。

「あなた達に夜が来る」

そう、娘が呟いた瞬間。周囲が闇に覆われ、空に妖々と輝く赤い月。
瞬時に異界と化した路地裏に、キィ…と、蝶番の軋む音が響く。
娘の後ろに何時の間にか忽然と現れた棺の蓋が開き、中のものが外に出ようとしているのだ。
女は見た。棺の蓋を飾る、天空を舞う黄金の龍を。

「セイバー!!さっさと殺して!!出しちゃダメ!!!!」

龍の紋章と棺、そしてこの夜。出てこようとしている者の正体を悟った女が、半狂乱で絶叫する。
声に応じてセイバーが駿速で棺に馳せより長剣を振り下ろしたのと、棺から繰り出された拳がセイバーの胸を打つのとは同時。
大きく放物線を描いたセイバーが、電柱に激突し、そのまま折れた電柱の下敷きになるのと、柩の中から、王侯貴族を思わせる絢爛豪華な服を着た偉丈夫が出てきたのも、また同時。
セイバーの剣に依るものだろう、頭から血を流す偉丈夫は、流れる血を拭おうともせずに、血の色をした瞳で女を見た、無限の飢えと狂気に満ちた瞳は女の正気を奪うには充分だった。

「イイイイイイィィィィィィイイイイイ!!!!」

奇声を発して逃げ出す女を、何時の間にか距離を詰めた偉丈夫が拳を脳天目掛けて振り下ろし叩き潰す。
女は頭蓋が砕け、胴と足が縦に潰れ、骨格レベルで原型を留めぬ肉塊となった。

「貴様ぁぁぁああ!!」

漸く起き上がったセイバーが、己のマスターの最後を見て逆上し、バーサーカーのマスターに襲いかかる。己のマスターと同じ目に合わせようという腹積もりらしかった。

「オオオオオオオオオオ!!!」

セイバーが娘に襲いかかるのを見たバーサーカーが、天地を震わす程の咆哮を放つと同時、地面と周囲の壁から無数の杭が伸び、セイバーを貫き、宙に縫い止めた。

「があああああ!!」

獣じみた絶叫を上げて苦悶するセイバーを放置したまま、偉丈夫は棺に戻る。
柩の蓋が閉まると同時に、奇怪な夜は始まった時と同じく唐突に終わった。


徐々に力付き、命尽きて消えていくセイバーを見ようともせず、娘は蹲り、荒い息をつきながら恐怖に震えた。
戦いを真近に見た─────どころか殺しすら体験した身だが、このバーサーカーの戦い方は酷すぎる。
そして異常な消耗。昼間にバーサーカーを戦わせるのは自殺行為に他ならないと、娘は強く認識した。

娘には聖杯に掛ける願いがある。自分が愛した男と結ばれる為に障害を除くのだ。
愛する男の兄の死を願うことを浅ましいとは思うが、最早自分でもこの想いは止められない。
だが、それでもバーサーカーの凄惨な戦いを見ていると心が鈍る。
だが、それでも娘は止まれない。己の想いを叶える為に。


黄金の竜の紋章が飾られた棺の中、バーサーカーは夢を見る。
トルコ軍に包囲された城塞から身投げした妻を。
恐るべき妖姫に弄ばれ、美しき魔人に攫われた妻と瓜二つの女を。
黄金の竜の紋章が飾られた棺の中、バーサーカーは夢を見る。
トルコ軍に包囲された城塞から身投げした妻を。
恐るべき妖姫に弄ばれ、美しき魔人に攫われた妻と瓜二つの女を。
我が妻よ。
想いは言葉にならず、胸の内で響くのみ。
─────我が妻よ。
想いは言葉にならず、胸の内で響くのみ。


602 : 鈴木深央&バーサーカー ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:41:26 Yj2ujmRQ0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
カズィクル・ベイ@魔界都市シリーズ 夜叉姫伝

【ステータス】
筋力:A+ 耐久:B++ 敏捷:A+ 幸運:E 魔力:B 宝具:EX

【属性】
混沌・狂

【クラススキル】
狂化:C
筋力と幸運とを除くステータスをアップさせるが
言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる。


【保有スキル】

不死:A+++
吸血鬼としての不死性。スキルとなるだけあって他の吸血鬼と比べても破格のもので、心臓を貫くか首を落とさない限り、全身が灰になっても短期間で再生する。
再生阻害効果のある攻撃を受けても時間を掛ければ再生する。
高ランクの戦闘続行と再生の二つのスキルの効果を併せ持つ。
しかし、聖性や神性に対しては非常に脆弱であり、これらの属性を持つ攻撃を受けた時には、ランクに応じてダメージが増加し、傷の治りが遅くなる。


獰猛:A
威圧・魅了・混乱といった精神干渉を無効化する能力。
しかし、幻惑には掛かりやすくなる。
また、格闘ダメージを向上させる効果もあり、時間が経つ程に攻撃性にプラス補正がかかるが、冷静な思考を欠き、罠や陽動に掛かりやすくなる。

軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
現在は狂化の為発揮出来ない。

気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
他の事に気を取られていたとはいえ、魔人と称される二人の男の背後に気づかれずに立った。
現在は狂化の為発揮出来ない。

無窮の武練:E〜A+
宝具の効果により、相手の技量に応じた武練を発揮出来る。

魔力放出:A+
宝具により獲得したスキル。常時身体の周囲に鬼気を纏わせ、触れたものを衰弱させる。常人なら即死。サーヴァントでも抵抗力が弱いものなら時間経過により死ぬ。
濃度を高めることで防壁とすることも可能。
夜間にのみ発動するスキル。


603 : 鈴木深央&バーサーカー ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:41:46 Yj2ujmRQ0
【宝具】
人非の騎士の不敗の四肢(イヴィルナイト・ディスオーナー)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ :1 最大補足:1人


かつて森深き東欧の森の果ての地に伝えられていたとされる古の魔道の技。人の心を捨てた騎士に不敗の四肢を与えたとされる。
習得の為の修練は筆舌に尽くし難く、業の完成の暁には、人の心を捨てた証として、九十九日荒野を旅し、出逢った者悉くを虐殺しなければならなかったという。

その効果は“対峙した敵の戦う術を奪い、使いこなす”。
剣であれば剣を、槍であれば槍を容易く奪い取り、持ち主と同じ技量を発揮して使ったという。本来はランク相応の見切りを発揮するが、狂化の為に使用できなくなっている。
徒手空拳の技にしても、その腕に手で触れれば技量を完全に習得。氣功の類も手で触れてしまえば習得した。
如何なる武器、技術でさえも己のものとする。宝具であっても掴まれればバーサーカーに筋力で勝らぬ限り奪われる。
武器・武術系スキル・武具系宝具をランクをそのまま、自身のものとする。
奪い取り使いこなすという性質上、判ってさえいれば奪った宝具の真名開放すら可能とするが、狂化の為行うことが出来ない。


龍公柩(ドルグレイヤ・コフィン)
ランク: C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:2人

黄金の天空を舞う竜の紋章が飾られている柩。成人が二人入れる程度の大きさ。
表面に塗られた塗料によりAランク相当の対城宝具の直撃にすら耐える。
1000/1ミクロンの糸でも侵入する隙間を見出せない。
バーサーカーは昼間はここで眠る。


刑殺の杭(カズィクル・ベイ)
ランク: C 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:50人

生前多用した処刑法であり、バーサーカーの代名詞でもある“串刺し刑”が宝具化したもの。
バーサーカーが“賊”と認識した対象を地面から生えた杭が貫く。地面や床と繋がっていれば杭は生えてくる為に、壁や天井、果ては樹木からも杭が生え、レンジ内にいる限り襲い続ける。
杭は生えた場所と同じ素材で構成される。木から生えれば気の杭が、石から生えれば石の杭となる。
バーサーカーとして現界した為にまともに使用することは出来なくなっている。サーヴァントとしての性質からマスターに害を及ぼそうとした者に対してのみ使用することが出来る。

鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア』)
ランク:EX 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人

後の伝承によるドラキュラ像を具現化させ、吸血鬼へ変貌する。
通常のスキル・宝具を封印される代わりに、 身体能力の大幅増幅、動物や霧への形態変化、治癒能力、魅了の魔眼といった特殊能力と、陽光や聖印に弱いという弱点を獲得する。
が、元より吸血鬼であるバーサーカーには、夜間に限り全ステータスを1ランク自動的に向上させ、強大な鬼気を纏わせる。という効果を齎す。
要は吸血鬼としての特性の強化。
代わりに魔力消費は絶大であり、並の魔術師では僅かに動かすのがやっとという程の魔力消費量となる。更に聖性や神性に対する脆弱さも増している。
この宝具の効果は真正の夜のみに発揮される。


604 : 鈴木深央&バーサーカー ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:42:08 Yj2ujmRQ0
【weapon】
無し。

【人物背景】
歴史上におけるヴラド三世その人。古の魔道の技により、武器を帯ずに戦場に赴き、無双の武技を発揮した。
その統治は苛烈を極め、決して彼が許さなかった為に、水飲み場に放置した黄金の杯を持ち去る者も居なくなるほどだった。
トルコ軍に捕まり斬首された後、四千年生きた中国産吸血鬼である“美姫”に拾われ吸血鬼にされる。
そして何故か船底に500年幽閉される。
〈新宿〉にて秋せつらを倒す為に開放されるも美姫に反逆。美姫やせつらと数度の死闘を経て、せつらに倒される。
現世に解き放たれた後、ディスコ(古い…)を気に入ったりと、感性は割と若い様子。


【方針】
???????

【聖杯にかける願い】
妻と共に生きる



【マスター】
鈴木深央@仮面ライダーキバ

【能力・技能】
吸血鬼伝承の元となった魔族であるファンガイアの頂点である四人“チェックメイトフォー”の“クィーン”
ファンガイアの掟を破った者を粛清する役割と、ファンガイアの頂点である“キング”との間に次代の“キング”を産む役割を持つ。その役職に相応しい強大な魔皇力を持っている。
真珠型の弾丸“パールバレット”を大量に射出したり、周囲一体を夜に変える能力を持つ。

【weapon】
無し

【ロール】
焼肉屋の従業員

【人物背景】
二十年以上の時を人間として過ごしてきたファンガイア。感性そのものは人と変わらない。
クィーンの資質を持っていた為、チェックメイトフォーの1人ビショップに力を引き出され、ファンガイアとして生きることになる。
この事が深央と渡と大牙の運命を大きく変えることになる。
大牙と渡のとの三角関係の果てに大牙を刺すも、大牙がそれでも自分を庇った事で大きく揺らぎ、最後は渡から大牙を庇い、重傷を負ったところをビショップに殺された。



【令呪の形・位置】
竜の頭部を模したものが胸部に有る。

【聖杯にかける願い】
登大牙を亡き者にして紅渡と結ばれる。

【方針】
優勝狙いではあるが、バーサーカーの戦い方が惨すぎるので余り気が進まない。

【参戦時期】
40話終了後

【運用】
マスターからの供給は質量ともに潤沢で、バーサーカーというクラス上逆らう可能性も少なく、昼間でも未央の能力で戦わせられるが、
魔力消費が激しい上に、戦闘時は宝具使用がデフォなのが悩みどころ。連戦や長期戦は不利どころか自滅の可能性が有る。
引き際と戦うタイミングを見極めるのが肝心だろう。

【把握媒体】

鈴木深央:
仮面ライダーキバ21話~43話まで視聴。

バーサーカー(カズィクル・ベイ):
魔界都市シリーズ 夜叉姫伝新書版3~6巻 文庫版2~3巻
原作が古い為把握が困難なので、戦闘描写だけなら武器強奪&ラーニングと思っといてください


605 : 炎と氷の修羅 ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:43:18 Yj2ujmRQ0
もう一作投下します


606 : 炎と氷の修羅 ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:43:36 Yj2ujmRQ0
新月の夜。だが満月であったとしても世界は闇に閉ざされていた事だろう。分厚い雲が夜空を覆っていた。
そんな時に、小学校の校庭で繰り広げられた剣と弓の英霊同士の闘争は、両者共に勝ちを得られぬままに終わった。
だがその結果は引き分けではなく………。


距離を取ることと、攻撃を躱すことに注力し、時折敵手の隙を見出しては重戦車の正面装甲さえも貫く射撃を放つ弓兵。
只々敵手に駆け寄り、巨岩ですら斬り砕く斬撃を放ち、時折飛来する矢を剣で正面から打ち砕く剣士。

剣と弓の英霊の戦いは正しく五分。勝敗は時の運と言ったところだった。


─────退屈だな。

常人の目からすれば、ヒトのカタチをした何かが荒れ狂っている。そうとしか見えない死闘を、校舎の屋上から見下ろす女の感想がこれだった。

軍服の様な衣服に包まれた肢体は、服の上からでも判る美麗な曲線を描き、僅かに吹く風に腰下まで伸びる青い髪を靡かせる女は、万人が“美女”と認める風貌に、ありありと失望と侮蔑を浮かべていた。

「あの程度では蹂躙する価値も無い」

短く吐き捨てられた言葉に、応えるモノがあった。

「ハ…生きてる時は時代に阻まれちまう位強かったんだが 、死んでも変わらないらしいな。こうまで簡単だと奪(と)り甲斐が無い」

答えたのは男の声。声で漸く男と判る程にその全身を包帯で覆った男。

此方もまた、詰まらなさそうに校庭を見下ろしている。

「まあ良いさ…行くぞ」

「どうせ勝てないんだ。さっさと終わらせてやるか」

そして二人は校庭に飛び降りた。


戦闘は正しく一方的なものだった。
弓兵は女の作り出した氷の柱に、放った矢ごと粉砕され。
剣士は男が刀を一閃しただけで、両腕を斬り飛ばされた。
あまりにも短い屠殺劇に、恐慌を来たしたマスターは、女が放った無数の氷柱が原型を留め無くなるまで引き裂いた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

最初、この場にマスターとして招かれた女は、不満を覚えると同時に高揚していた。
伝説として語り伝えられる強者達を蹂躙する。女の性分には相応しい戦場が此処には有った。
本来の目的であるナイトレイドの掃討がどうでも良くなる程に。
そんな女の前に現れたサーヴァントは、極上。その気質は凄まじく、女に元の世界へと帰ることを忘れさせてしまった。
サーヴァントになる様には到底見えない覇気の持ち主である男は、己がサーヴァントに身をやつした理由をこう言った

「生きてる時は時代に阻まれ、死んだら閻魔がビビって英霊の座とやらに放り込んだが、こうやって娑婆に帰った以上やる事は一つ。全員殺して聖杯とやらを取る。そしてこの世も地獄も聖杯とやらがマスターとやらを連れてきた国も支配する」

地獄の業火の如き熱を帯びる男の言葉に女は震えた。“此奴の願いを叶えてやろう。そして此奴と共に、数多の世界を蹂躙しよう。そして最後は此奴を……”そう女は考えた。

「それにしても女に引き当てられたと思ったら、随分な玉じゃねえか。」

「クハハ…良いサーヴァントを引いた。さあ行くぞ、全ての敵を蹂躙し、屈服させる」


607 : 炎と氷の修羅 ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:43:59 Yj2ujmRQ0
【クラス】
セイバー

【真名】
志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-

【ステータス】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:B+ 幸運:D 魔力:E 宝具:B++

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。


【保有スキル】

魔力放出(熱):C
燃え盛る炎を捻じ曲げる剣気に、熱乗せて放出する。膨大な熱量は身体能力を向上させ、触れたものを焼く。
意識せずとも、自然に見に纏い、近くのものに熱によるダメージを与える。

怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性だが何故か持っている。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

戦闘続行:A+
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
プレデターは眉間を撃たれて、身体を焼かれても死ぬことは無かった。
身体を破壊し尽くさない限り彼は止まらない。

カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。

無窮の武練:B
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
全身に火傷を負ってもその武技は衰えない。

【宝具】
無限刃
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大補足:2人

新井赤空が作った最終型殺人奇剣。
この刀の最大の特徴は、鋸状の刃。
通常、刀は連続使用に伴う刃毀れによって切れ味が鈍ってしまうが、赤空は発想を逆転させて予め刃毀れした刀を作ることを思いつき、一定の感覚で使い続けられるこの刀を完成させた。予め刃毀れした状態のため、切れ味は普通の刀に劣るが、志々雄ほどの達人であればそのようなハンデなど無きに等しい。
人を斬る事で付着した脂を用いた炎の剣技を志々雄は使用していた為、魔力を炎に変えて剣身に纏わせる事が出来る。
人を斬った数に応じて炎の威力は増していく。


赤炎悪鬼
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自分自身

全身に負った火傷により、異常体熱を持ち、それにより身体能力を向上させた逸話が宝具と化したもの。
戦闘時間の経過と共に体熱が向上し、筋力と敏捷が上がっていく。
一定以上に上昇すると、魔力放出(熱)と怪力がAランクに上がり、それまでに上昇した分はそのまま全ステータスが1ランク上がる。その後も筋力と敏捷が上がっていく。
この上昇分は戦闘が終了すればキャンセルされる。
生前の様に人体発火を起こすことは無いが、この状態は極めて魔力消費が激しく、Bランク相当の狂化をしたバーサーカーに匹敵する。


608 : 炎と氷の修羅 ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:44:23 Yj2ujmRQ0
【weapon】
無限刃

【人物背景】
幕末の人斬り。「弱肉強食」の理念を掲げる危険性の為に明治政府に謀殺されるも、死ぬこと無く国取りの為に剣心と戦う。
謀殺時に負った火傷により全身の発汗組織がほぼ全滅しているため、その体は常に人間の体温とは思えないほどの高熱を発しており、駒形由美曰く医者の見立てでは志々雄が全力で動けるのは15分とされている。
剣心達と15分以上に渡り戦い限界を超えた強さを発揮するも、高熱により身体が炎上し、炎の中へと消えて行った。

【方針】
皆殺し

【聖杯にかける願い】
受肉。数多の世界への移動




【マスター】
エスデス@アカメが斬る!

【能力・技能】
魔神顕現デモンズエキス
超危険種の血。飲むことで氷を作り、操る力を得る。但し飲めば強烈な破壊と殺戮の衝動に襲われ、耐えられないと狂死する。
生成出来る氷は使用者の精神力に準拠する。

一軍の将としても高い統率力と指揮能力を持ち、当人の武技も無双の域にある。

【weapon】
サーベル

【ロール】
警察の偉いさん

【人物背景】
帝国最強の女将軍。ドS。部下からの信望は厚い。

【令呪の形・位置】
氷の中に炎が燃えている意匠。左掌に有る。

【聖杯にかける願い】
無い。

【方針】
全員を蹂躙する

【参戦時期】
北の異民族を制圧して、帝都に帰還する途上

【運用】
マスターが下手なサーヴァント並みに強く、サーヴァントも強力だが燃費が悪過ぎる。
長期戦や連戦なると不利なので、なるべく交戦時間を短くして戦う。

【把握資料】
セイバー(志々雄真実):原作7巻~18巻

エスデス:原作2巻から最新刊まで


609 : 炎と氷の修羅 ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:44:51 Yj2ujmRQ0
投下を終了します


610 : test ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:47:54 Jy5CPfQg0
皆様、お疲れ様です。駆け込み気味で恐縮ですが投下させていただきます


611 : 鈴木深央&バーサーカー ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:49:59 Yj2ujmRQ0
バーサーカーの宝具は@Fate/Apocryphaのヴラド三世を参考にさせていただきました


612 : 花京院典明&シールダー ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:50:06 Jy5CPfQg0
「生きる」ということは即ち、「恐怖」というハードルの連続だ。
苦痛への恐怖。失敗への恐怖。未知なる事象への恐怖。分かり合えない他人への恐怖。
人生という道の途上には、そういった高低様々なハードルが常に聳え立って、走者の行く手を阻んでいる。

当然のことだが、現実の競技のように跳び越さなければ失格、退場などという掟は何処にも無い。。
誰と競っているわけでもないのだ、そのハードルを乗り越えられないと感じたのなら、別の道を探せばいい。
陸上トラックと違い、人生は一本道ではない。

だが、それは、紛れも無く恐怖からの逃避だ。
人生という退路なき道の途上で、人が唯一取り得る惨めな逃避手段だ。
障害を拒み、安全なルートを選び続ける限り、心身の成長など望むべくもない。
曲がりくねった歪な迂回路を進み続けた先に、満足の行くゴールが待ち受けている筈がない。

このハードルの性質の悪い所は、乗り越えなかった以上、いつか必ず、再び目の前に立ち塞がってくることにある。
走り続けている限り何度でも、何度でも。徐々にその足を天高く伸ばしていきながら。
逃げれば逃げるほどに人は悪循環に陥り、真っ直ぐな道筋への軌道修正を困難としていく。

負の連鎖から解き放たれるには、もはや、恐怖と向き合って、対決するよりほかない。
心が完全に諦観し、「避けて当然」という思考で凝り固まってしまうその前に。

目を瞑り、猪突猛進にハードルに向かっていくのでは駄目だ。
思考を止め、ただ目標に向けて走るだけならば、本能と反射のみに生きる虫にでも出来ること。
ハードルの高さを認識し、受け入れ、その上で突き進む覚悟を決めてようやく、対決と呼べる境地に至るのだ。

その覚悟を、過酷な道を往く者に与えられた唯一無二の武器を、人は「勇気」と呼ぶ。
「勇気とは恐怖を我が物にすること」とは、誰の言葉だったか――。


613 : 花京院典明&シールダー ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:51:09 Jy5CPfQg0


「では、貴方は聖杯を求めない、と。そう仰るのですね、マスター」

問いを投げ掛けたその人物は、まさしく超人であった。
優に2メートルを越す体躯は、雄大な山脈を思わせる隆々たる筋肉によって、見事な逆三角に造り上げられている。
逞しい腹筋を曝けだした無骨な意匠の銀鎧が、その肉体美を一層引き立てていた。
顔を包む、フルフェイスの西洋兜めいた覆面(マスク)が眩いばかりに煌き、額には光色を顕示するように刻まれた「銀」の一文字。
深く彫り込まれた、威厳と慈愛を兼ね揃えた表情の尊貴は、古代のアルカイック彫像も及ばぬであろう。

その銀の巨影の威容を、たった一言で示すとするなら、やはり超人という形容がよく似合う。
ヒトの形でありながら、人の条理を凌駕する領域に立つ超人(スーパーヒューマン)。
或いは、テレビの向こう側から飛び出て来た超人(スーパーマン)か。
事実として彼は、読んで字の如く「超人」と呼ばれる種族として生まれついた存在であり、人類とはその本質を決定的に異にしていた。

「ああ。僕に、聖杯に託す願いは無い」

問いに応える者は、一見すれば常人である。襟までしっかりと閉じた学生服に身を包んだ青年だった。
学生服の濃緑に覆われた細く引き締まった身体は、長く伸ばした前髪を枝垂れさせたヘアスタイルも相俟って、彼に植物のような雰囲気を与えている。
さながら夜の寒さに耐えて立つ柳のような、静かな力強さがその五体には秘められていた。柳のようではあるが、蒲柳の質は微塵も感じさせない。
超人の巨体を、両瞼に2本の傷跡走る切れ長の双眸で見上げ、言葉を続ける。

「いや、願いと呼べるものは、かつて僕にもあったのだと思う」

そこまで言って、自身の右手、その甲へと目を向ける。刻まれた紋様が、神秘的な輝きを湛えていた。
この途方もない魔力によって形成された刺青こそ、願望実現を賭けた血戦への参加証明。
万能謳う聖遺物に見出されし者、マスターであることの証左にして、目の前に立つ銀の超人――サーヴァントとの契約の印。
青年にとっては戦地たるこの街、冬木行きの片道切符でもあった。

「しかし、それはおそらく、既に成就しているんだ。
あの旅の終わりに。僕の命が尽きた、あの瞬間に」


614 : 花京院典明&シールダー ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:51:51 Jy5CPfQg0


青年――「花京院典明」は元の世界において既に落命したはずの人間である。
「スタンド(側に立つ者)」と呼ばれる異能力に目覚めた者――「スタンド使い」であるが故に彼が巻き込まれた戦いの運命。
現代に蘇りし邪悪なる吸血鬼「DIO」と、百年の昔よりDIOを討つ宿命を受け継いだ血統「ジョースター」を巡る奇妙な冒険。
その終着地、エジプトはカイロにて、DIOの未知なるスタンド「世界」に一騎打ちを挑み、彼の命の灯は掻き消えた。
決して美しい最期ではない。「世界」の拳に腹部を打ち抜かれ、鮮血と臓物を撒き散らしながら迎えたその死に際は、無惨とさえ呼べるものだろう。
しかし今、昭和五十五年の時代にて再び生を得た彼の表情に、悔恨の念は無かった。

花京院典明という青年は、その静謐な気質の裏に激情を秘めた人間である。滅多に表には出さないが。
何者であろうと自身を侮辱し、誇りを汚す者を許しはしない。如何なる恐怖が立ち塞がろうと、必ず克服し、乗り越える。
エジプトを目指すジョースターの子孫たちに協力を申し出たことも、その精神性に起因していた。

かつて「DIO」という絶対的な恐怖の前に膝を付き、甘美なる逃避――唾棄すべき屈服を受け入れてしまったあの瞬間より、彼の覚悟は完了していた。
もしも、あの己の人生において最高、最大、最恐のハードルを乗り越えることが出来たなら。そこが、自分のゴールとなっても構わない。
その決意を胸に抱き、五十日余りの旅路を駆け抜けてきたのだ。
命ある限り恐怖に抗い続けること。それこそが、花京院典明の願い。

「だからこそ、あの旅に、後悔は無かった」

敗れ去りはしたが、それは恐怖に立ち向かった末に辿り着いたゴールだ。
最後の最後まで己の信念を貫いたと、胸を張ることのできる結末だ。
仲間たちにはメッセージを遺した。死の間際に看破した「世界」の未知の能力、その正体を。
彼らならば、必ずDIOを破ってくれると確信している。

故に花京院典明は、現世への未練も、聖杯にかける願いも、持ち合わせてはいない。


615 : 花京院典明&シールダー ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:52:41 Jy5CPfQg0


「僕はこの戦いを止めたい。どうか、手を貸してくれないか」

花京院は、真っ直ぐにその巨躯を見据え、己のサーヴァントに請う。
理不尽に犠牲を強いる殺し合いを、彼は認めない。
再び与えられた命は、聖杯戦争の打破のために燃やし尽くす。

「あなたがそれを望むのならば、このシールダー、微力を尽くしましょう」

マスターの言葉を静かに聞いていた白銀の英霊、盾の騎士「シールダー」が、ようやく彫刻の口――覆面のように見えるそれは、どうやら彼の地顔であるらしい――を開いた。
シールダーの願望もまた、聖杯を打ち砕くことにある。

「我が真名はシルバーマン。始まりの正義と謳われながら、真の正義に至ることのなかったこの身なれど」

シールダーが、その巨木の幹のような右腕を差し出して言った。
人々の平和を脅かす悪に日々立ち向かう、善の超人勢力「正義超人」。
その開祖たる、原初の正義超人――それこそが、彼の真名だ。
白銀の如き高潔な心を宿した彼が、幾人もの犠牲の上に成り立つ、蠱毒めいた聖戦の存在を許すはずもない。

「エメラルドのように気高く輝く正義を秘めた、我が主。御身を護る盾となり、その生き様を見届けましょう」

サーヴァントとマスター。超人と人間。白銀と緑玉。
何もかもが異なる二人が手を握り合う。
だが、互いの掌を駆け巡る血潮だけは、どちらも同じほどに熱かった。




【クラス】
シールダー

【真名】
シルバーマン@キン肉マン

【属性】
秩序・善

【ステータス】

筋力A 耐久A+(A+++) 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具A

【クラススキル】

対魔力:A(A+)
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではシールダーを傷付けられない。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。


616 : 花京院典明&シールダー ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:53:24 Jy5CPfQg0
保有スキル】

戦闘続行:B(A+)
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

正義超人:EX
超常的な力を持つ人非ざる種族「超人」。
複数の派閥に分かれた超人勢力の中でも、正義と友情を重んじる一派「正義超人」に所属することを示す。
平和を脅かす悪なる者と対峙した時、或いは絆を結ぶ友と肩を並べた時、その力は真価を発揮する。
原初の正義超人であるシールダーは、EXランクを有する。
後年には超人界の平和の神として信仰を集めた彼が持つこのスキルには、Aランク相当の「カリスマ」及び「神性」スキルの効果が含まれている。

超人レスリング:A+++
超人種に伝わる格闘技。人類の技術体系である「プロレス」に似る。
A+++ともなれば、宇宙規模で興隆する超人文明全体を見渡してもトップクラスの実力者。
防御を主体とした堅牢なファイトスタイルを得意とするが、守りだけではなく攻撃と技巧も超一流の領域。

白銀の闘志:A
その屈強な肉体よりなお堅固なシールダーの精神性。
彼は例え、肉親や同胞と決別し、殺し合うことになろうとも、自らの信念に一切の妥協を見せない。
それは言うなら、相手を殺め、自らの手を血に染めてでも己のエゴを押し通そうとする頑固さ、傲慢さ。
原初の正義である彼が秘めた、正義超人としてあまりに致命的なパーソナリティー。
あらゆる精神干渉を完全に無効化するが、このスキルが機能する限り、「闘いの中で相手と分かり合う」という正義超人の矜持はシールダーから遠ざかって行く。

【宝具】

『完璧なる盾(パーフェクト・ディフェンダー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
如何なる攻撃も耐え凌ぐ絶対防御の構え。
この宝具を使用中は耐久値、対魔力スキル、戦闘続行スキルが括弧内のランクに上昇し、低位の宝具では傷ひとつ付けられない程の防御力を獲得する。
守り一辺倒ではなく、相手の隙を突くカウンターに転じることも可能な攻防一体の技。
生前のシールダーならば驚異的なスタミナにより、この構えを半永久的に維持することを可能としただろう。
但し、英霊として現界した現状では一定量の魔力消費を伴う。

『迸る銀閃、傲慢なる煌き(アロガント・スパーク)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
シールダーのかつてのフェイバリット・ホールド。
上空へ跳ね飛ばした相手の関節を複雑に極め、共に落下。相手を地表へと衝突させる。
技の工程一つ一つが致命的な威力を持ち、直撃すれば頑強に鍛え上げた肉体を持つ超人でさえ、全身が無惨に拉げた亡骸を晒すこととなる。
完全に技が極まれば相手の防御的、無敵の性質を貫通してダメージを与えるほか、戦闘続行などの一部スキルの効果を打ち消すことが可能。
技を掛ける者の絶対的な殺意によって完成に至る、まさしく「必殺技」にして、シールダーの苛烈な本性の具現。
シールダーは、正義超人の在り方と相反する欠陥技として平時にはこの宝具を封印している。
彼が、この呪わしき宝具を開帳する時が来るとすれば。
それは、和解の道を捨て、相対した者の未来を、自らの手で叩き潰すのを決意した瞬間にほかならない。


617 : 花京院典明&シールダー ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:54:12 Jy5CPfQg0
【weapon】

・盾
コスチュームの左腕に装着したバックラー(円盾)。
鈍器としての使用、スライダーのようにリングロープを滑らせての高速移動といった応用も可能。

【人物背景】
正義を見出し、正義を拓き、正義を育み。
しかし決して正義になれなかったひとりの超人。

【サーヴァントとしての願い】
マスターに助力する。

【マスター】
花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
聖杯戦争の打破。

【能力・技能】

・スタンド使い
生命エネルギーの具現、パワーを伴ったビジョンである超能力『スタンド』に目覚めた者。
後天的に能力が覚醒するケースもあるが、彼は生まれついてのスタンド使いである。

・『法王の緑(ハイエロファントグリーン)』
花京院のスタンド。緑色に光輝くボディが特徴的な人型の像を持つ。
非力だが射程距離に優れる「遠距離操作型」に分類される能力。
全身を紐状に分解し、その分だけ本体の側を離れて活動することが出来る。最大射程は100m以上。
加えて、破壊エネルギーを掌に圧縮し、宝石状の弾丸として発射する攻撃技「エメラルド・スプラッシュ」を持つ。

【人物背景】
スタンド使いの高校生。
邪悪なる吸血鬼DIOに洗脳されるも空条承太郎に救い出され、彼のDIO討伐の旅へと同行する。
旅の果て、DIOのスタンド「世界」によって、命を落とす。

【方針】
悪意を持って戦いに乗る者がいるのなら、躊躇はしない。


【把握媒体】
花京院典明:
第3部「スターダストクルセイダース」
に登場。原作漫画、TVアニメ版お好みの媒体で。

シルバーマン:
「黄金のマスク編」(単行本13〜17巻)及び現在連載中の新シリーズ「完璧・無量大数軍編」(単行本38巻〜)。
「完璧〜」にて深く設定が掘り下げられたキャラクターなので、そちらの把握は特に重要かと思います。


618 : 花京院典明&シールダー ◆rpmbJy4x5c :2016/09/03(土) 23:55:02 Jy5CPfQg0
投下を終了します。


619 : ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:55:41 CQFQprmU0
お疲れ様です、投下します


620 : 鈴木深央&バーサーカー ◆mcrZqM13eo :2016/09/03(土) 23:56:01 Yj2ujmRQ0
>>610
確認せずに書き込んでしまい大変すいませんでした


621 : 闇を駆ける黄金のヒーロー ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:57:08 CQFQprmU0

信じるかどうかは個人の自由だけど、ウチはここ最近の記憶がすっぽり抜けている。
なにか大切なことを忘れてしまったようだ。ドーナツみたいに真ん中に穴が空いている感覚が気持ち悪い。
輪郭は覚えている。記憶喪失には及ばない僅か数時間だけの思い出がウチの中から消えた。
自分がどうしてここにいるのか。そもそも聖杯戦争ってなんだよって疑問が常に心の中で渦を巻いている。
常に晴天が好ましい精神状況ではあるけども、空はずっと曇り掛かっているから、心が苦しい。
自殺だとか鬱になるとかそんな重度な症状には陥っていないし軟弱な意思はこっちから願い下げなんだけどね……はぁ。
気分転換も兼ねてもう一度振り返ってみるか。一体ウチに何が起きたのかを。


記憶を辿ると最初に出てくるのは寮で駄弁っていた時だ。中身の詰まっていない会話が部屋を満たしていたと思う。
カリキュラム終了後に愚痴を言い合っていた時か、それともただの日常会話でくだらないことを面白おかしく笑っていた時かもしれない。
内容が思い出せないからきっと会話に重要な意味は無かったと思う。面子も思い出せないけど、男女入り乱れていたとは思う。


ふわふわしていた空気を壊したのは外から聞こえた大きな爆発の音だった。
夜風に当たりたい気分だったから窓を開けていたから身体は大きく震えたのは忘れていない。
身体の芯に音が響いたかと思うと男子の何人かは既に駆けだしていた。ウチが動く前に寮から出ていた奴もいたと思う。
全く学習しない。身勝手な行動で危険を及ぼしてしまったあの時のことを忘れた――人はいない。
身体が勝手に動いていたんだろうか。だって動いていたから。偉そうに説教は出来ないけど、まだ間に合うって思った。
あいつがヴィランに攫われた時とは違う。今の自分達が強くなっただなんて自惚れている訳でもない。
ただ、今動けば誰かを救えるかもしれないって思ったんだ。先生にバレたら怒られるし下手したら退学なんだけどね。


ウチはみんなを止める役だと思ってたけど……馬鹿だった。
能力を使って遠くの音を聞いたら、後悔してしまった。心を不安にさせる重低音はノイズ以上に調和の音を乱している。
得体のしれない力に対してウチは足を止めた。蛇に睨まれた蛙では無いけど、生命の危険を感じた。
実力不足だ、殺される、相手は格上、好奇心と無謀な正義感だけじゃ――死ぬ。


頭の中に備わっていたらしい警報がしきりなしに鳴っている。埃が被っているように照明の赤色は鈍ってもいるため余計に不快感を抱く。
身体の震えは重低音のせいかそれとも恐怖からなのかは解らない。それが重要じゃなくて、これから遭遇するだろう脅威が問題である。
ウチは気付けば叫んでいた。止まれ、引き返せ、帰ってこいと何度も何度も訴えた。
その先に踏み行ってはいけない。正体が何かも解らないのにウチの脳内には死のイメージが押しつけられているんだ。
みんなは声を聞いて止まってくれた。ウチを心配するかのように驚きと愁いの瞳だったことはよく覚えてる。


言いたいことが沢山あるけど一体どうしたんだ。そんなことを謂わんばかりの表情だったけど、足を止めてくれた。
後はウチがみんなを説得して先生方に事態の終息を任せれば、大丈夫だと思っていた。
平和の象徴の事件を思い出すも、それは先生やヒーローを信じるしかない。ウチ達の憧れに今までどおりの夢と希望を託して。
さあみんなを説得しないと――意思とは裏腹に口が全く動かない。言葉が空飛ばしになる訳でも無く、単純に筋肉の信号が届いていない。


重たいなんて次元は超えていて自分の身体が石像のように固まった感覚だった。
ウチだけの時間が止まっていて、それでも世界の針は廻り続けているから独りぼっちみたいで、涙も浮かんでいたと思う。
全く訳が分からないまま死ぬんだな。そんなことさえ思い始めていたけど――更に訳の解らない事態に巻き込まれた。


622 : 闇を駆ける黄金のヒーロー ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:57:28 CQFQprmU0

瞳は閉じていないのに視界が真っ暗になってみんなの姿が見えなくなってしまった。
声を出そうにも相変わらず固まっていてウチは何一つの行動を制限されてしまい、現実に流されるまま。
黒い世界に独りだけ取り残されている感覚はとても不快で、もう二度と味わいたくない。


さて、ここまで話せば解るだろうけどウチは訳の解らないまま現在に至る。
ヴィランの仕業かどうかも解らないし何ならウチ達が聞いた爆音の正体すら掴めていない。
理解していることは何故か気付けばマンションの一室に居て、表札はウチの名前だったこと。
部屋はリビングを含めて三つありウチとあいつの個人部屋が備わっていて、まあまあ豪勢な方だと思う。


テレビを垂れ流しにしていると相変わらずニュースが流れているんだけど、時代を感じる。
当時を生きていた訳では無いけれどショウワジダイはウチに適用してくれない。
音楽もガンガンでロックに攻めるよりかは国の色が違い過ぎる。海を越えた先は聖地らしいけど、行けるのかどうかも怪しい。
娯楽に浸っていた現代人には厳しい時代なのかなあとも思う。まぁ、時代逆行していることが意味不明なんだけどって話になる。


ショウワジダイに覚えは無いけど自分の生きていた時代より古い事だけは解っている。
そもそも何故この時代にいるかどうかさえ不明なのだから、時代について考えても仕方が無いと思う。
状況を説明されたことはあったんだけど、たった一回の会話で全てが解るなら苦労しないし、できれば帰りたい。


聖杯戦争に参加しているらしい。らしいというのは別にウチの意思で参加していないから。
マスターに一人のサーヴァントと呼ばれる英霊が授けられる。何でもすごい英雄らしいけどウチのはどうなんだろう。
最期の一人になれば願いを叶えてもらえる。人を殺してまで叶える願いなんてごめんだね。


「さっきからジロゥジロゥ見てどうしたよ、お嬢ちゃん」


ソファーに深く腰を落として足を組んでいるウチのサーヴァントが顔を上げて若干見下すように声を掛けてきた。
あんたはどんだけ偉いんだ。何回も言っている気がするけど一向に改まらないから諦めた。
英霊の基準が知りたくなるぐらい、ウチのサーヴァントは英雄に見えない。ただの不良か世間を知らない駄目な大人にも見える。


「おいおいなんだよその目は?
 もしかして俺のことを見下したりだとか馬鹿にしてるってか?」


「……あんたの能力って他人の心を読む力だっけ?」


「ッハ! 面白いことを言うじゃねえか、それは俺以外の奴だった記憶があるけどな。
 俺の能力は前に言ったと思うが忘れられるとは悲しいねえ……それじゃあ思い出してみっか――どっどーん!」


「ちょ……やめ……!」


623 : 闇を駆ける黄金のヒーロー ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:57:44 CQFQprmU0


身体を動かさずに指先をこちらへ向けたサーヴァントはお決まりらしい台詞を吐いた。
ウチもヒーローを志望しているからよく解るんだ。敵にとって相手の決め台詞が聞こえた時は禄なことにならないって。
こいつの個性が発動すればウチは一切の身動きが取れなくなる。気持ち悪いあの重低音にも似た重力が襲い掛かる……掛かってこない。


「もしかしてビビったか?
 ジョークだよジョークゥ、俺がマスターであるお嬢ちゃんを虐める訳ないって解れよな!」


大袈裟に手を叩きながらあいつは笑ってこっちを見ていた。
個性を発動すると見せかけて実際はただ大きな声を出しただけで、ウチをからかっていた。


「……令呪を以て命ずる」


「おっと機嫌を悪くしたって言うなら謝るぜ。俺はただお嬢ちゃんを明るくしたかっただけ、解るか?
 解ったんならその物騒で悪趣味な入れ墨を俺に見せないでくれ。そんなくだらないモンに縛られるなんてまっぴらゴメン、だね」


ウチの腕に刻まれているト音記号の入れ墨――別名令呪。いや、正式名称令呪はサーヴァントに何でも命令出来る三回限りの王様ゲーム。
普段は袖に隠れているから目立たないけど、いざ捲ってみると目立つ。シールじゃなくて本物だから落とすことは出来ない。
あいつは悪趣味な入れ墨と言ったけどウチもそう思う。ただ、これを使い切った時、暴れ馬を治める手綱が切れることになる。
使い道は考えなきゃいけない。だから本当は今みたいにちょっとムカついた時に発動するものではない。


「もしかしてビビった?
 冗談だよ冗談……まさかこんな幼稚な理由で大切な令呪を使う訳ないよ」


「……日本人は奥ゆかしいと聞いたがお嬢ちゃんはアメリカンな血でも混ざってるのかな?」


してやったり。
さっきの個性発動詐欺が頭に来たから今度はこっちが令呪発動詐欺をしてやった!
あいつは慌てて立ち上がり、いざウチが嘘だと言ったら腕を広げて溜息を吐いていた。
それ程までに強制されたくないのだろう。あんなに解りやすい仕草をするんだから。勿論ウチも強制されるのは嫌いだからその気持ちだけは解る。
自分の安全がわかるとあいつはまたソファーに座っていた。

『続いてのニュースです。
 川に溺れていた少年を黄金に輝く鎧の男が救出』


テレビから流れる音声にウチとあいつの耳は傾いていた。視線も自然と映像を捉える。
大雨によって氾濫した川へ近づいた少年が突如現れた黄金のヒーローに救われたニュースらしい。
やっぱりヒーローとは誰かのために尽くしている姿がかっこいい……黄金に輝く鎧の男?


一人だけ知っている。誰かって聞かれるとそれは黄金に輝く鎧の男なんて一人しか知らない。
響きだけなら一人前以上にかっこいいし、字面から想像すると正に子供が憧れるヒーローって感じもする。
ただ、それを信じたくない。ウチが知っている黄金の鎧は目の前にいる碌でもない男だから。


「黄金の鎧ってあんたしか思いつかないけど、絶対あんな人助けしないタイプでしょ」


「おいおい仮にもヒーローだぜ俺は? その言い方は流石に傷になっちまうぞお嬢ちゃん」


『黄金のお兄ちゃんが助けてくれたの-!
 お顔はねー、お父さんやお母さんとは違って目は碧かったよ!』


「……マジ?」


耳を疑ったし目を擦ってテレビの内容が幻覚だったり、不適切な映像として差し替えられるんじゃないかと期待した。
黄金のお兄ちゃんから想定するにヒーローはまだ少年にとってのお父さん世代よりも若い男性となる。
この要素をあいつは満たしているけど、別に金色ネックレスをジャラジャラ巻いたヤンキー崩れの可能性も捨てきれない。


624 : 闇を駆ける黄金のヒーロー ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:58:06 CQFQprmU0



目は碧いと少年は画面の向こう側で眩しい笑顔を浮かべながら、まるで自分のことのように、大袈裟で嬉しそうに語っている。
「……マジ?」
あいつの瞳の色は碧だ。まさかとは思うが、少年が語るヒーローとウチの目の前にいる世間知らずは同一人物ではなかろうか。
『お兄ちゃんはねー、俺様に感謝しろ! って言ってたの!』
「……元気付けるつもりで言ったんだが、俺を見る周りの目が厳しくなりそうだな」
「……マジ?」
「ヒーローをなんだと思ってんだよ、ったく……シャワー浴びるから覗くなよ?」
「だ、誰が誰を!?」
どうやらテレビの少年が語る黄金のお兄ちゃんとウチの目の前にいるだらしない男は同一人物らしい。
信じられないが、事実を裏付けするように彼らの供述が一致するため、残念ながら本当なのだろう。
少年の生命が助かったことは嬉しいけど、どうにも納得出来ないというか、信じられないというか。


ちょっとだけ見直した。
シャワーに行くあいつの背中が今だけはいつもよりも大きく見える気もした。
言動は礼儀正しくないし自分のことばっか考えているような仕草は全然、本当に全然ヒーローらしくない。
ただ勝手に名乗っているだけ。騙りのヒーローなんじゃないかと疑っていた時もあった。
今日で一つだけ解ったことがある。そのことにウチは自然と笑っていた。


「……いいとこもあんじゃん」


ウチのサーヴァント――ライアン・ゴールドスミスは悪い奴じゃなくて、本当のヒーローらしい。



【マスター】
長谷川泰三@銀魂

【能力・技能】
絶望を知っている男の魂は如何なる時でも希望を秘めている。
※つまり、何も持っていません。

【weapon】
無職。

【ロール】
無職。

【人物背景】
まるでダメなおっさん。

【令呪の形・位置】
猥褻物のような令呪が右肩に。

【聖杯にかける願い】
億万長者→ライダーを発見する→もう早く帰りたい……。

【方針】
ライダーに全てを任せるが、彼を許すつもりはない。
止めるつもりで、殺すつもりでいるが、金の前ではあっしなんて無力でゲスよ。

【参戦時期】
少なくとも天人に啖呵を切る前でないと……。


【把握資料】

原作は漫画。準レギュラーなため、適当な巻を取れば出ていると思います。彼が出ているエピソードを読めば大体掴めると思います。
また、実写化の予定あり。アニメと映画(二つ目)に出ていますので、そちらでの把握もありだと思います。


625 : 闇を駆ける黄金のヒーロー ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:58:26 CQFQprmU0


【クラス】
ライダー

【真名】
ギルト・テゾーロ@ONE PIECE FILM GOLD

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運C+ 宝具B+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:B

騎乗:C

【保有スキル】
悪魔の実の能力者:A
カナヅチと引き換えに異形の能力を手に入れた者を表すスキル。
ゴルゴルの実を食べたライダーは触れた黄金を自由に操ることが出来る。
ライダーは覚醒者であるため、宝具の行使に補正が掛かり同ランクの魔力放出(黄金)を担う。

黄金帝:EX
黄金を操るライダーの異名。
同ランクの黄金率と戦闘続行を兼ね備えたスキルである。
後者は元々、奴隷だったが最後まで人生を諦めなかった故に付与された。

武装色の覇気:B
覇気と呼ばれる気を纏うことにより戦闘能力を向上させるスキル。
発動することによりいかなる状況であろうと、本来の力を発揮する。

【宝具】

『神に抗いし黄金帝』(ゴルゴルの実)
ランク:C
触れた黄金を操る悪魔の実の能力。
自分をコーティングしたり、武器にしたりと多種多様な扱いを見せる。
弱点は海水であり、海水を浴びた黄金を操れない。

『この世全ての特別無法地帯』(グラン・テゾーロ)
ランク:B
全長10kmにもなる巨大カジノ船を召喚、或いは固有結界として現界させる力。
従業員及び部下も召喚するため大掛かりな術式となるが、悪魔の実である程度補えるため、見た目に反しある程度の連発は可能。
黄金を自在に操れる能力の関係からかグラン・テゾーロ内でのライダーは実質的な数値よりも実力を発揮することが出来る。

【weapon】
宝具

【人物背景】
かつては天竜人の奴隷だったがフィッシャータイガーの解放戦争を機に脱走し、ドンキホーテファミリーから悪魔の実を奪い取った男。
金に異常なまでの執着心を見せるのはとある恋が原因らしいが、この世でそれを知る人間はもう、いない。
ONE PIECE世界における財産の20%を保有し、それを政府や天竜人に献上することで、絶対的な権力を保有している。
常に黄金の装飾を身に纏っているのは能力を如何なる状況でも発動させるため。

【サーヴァントとしての願い】
全てを殺し、優勝。

【運用法】
基本的に全てを殺す。同盟も視野に入れるが、最後は裏切り自分だけが勝者になる。
表へ出るのも、裏へ潜むか気分次第。

【把握資料】

絶賛公開中の映画のため、書いてしまいましたが大変厳しい状況だと思います。

【その他】
公開中の映画のため、ネタバレは一切ありません。公開情報のみで書きました。
そのため、仮に当選いたしましら、ネタバレ用の状態表をwikiに載せたいと思います。


626 : ◆BNxC/Vtkps :2016/09/03(土) 23:58:48 af8FtaQQ0
畜生間に合わん


627 : 闇を駆ける黄金のヒーロー ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:59:16 CQFQprmU0
続けてもう一つだけ……ギリギリですいません


628 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/03(土) 23:59:39 CQFQprmU0

この街には奇妙な都市伝説がある。
都市伝説の類なのだから奇妙なのは当然だが、所謂主流から外れた説であり、日本には珍しい賭博場に関しての噂だ。
誰が言い始めたかは不明だがこの世界にとある異世界から召喚された大富豪がカジノを開いた。と言うのが概要である。
手始めに異世界なる単語が登場している時点で多くの人間は笑い話だと認識するが、聞き込むと自然と情報に対し身体が前のめりになるという。


大富豪は世界の黄金二割を手中に収めているとされており、最早大富豪の肩書は彼にとって安いものとなっていた。
黄金帝。彼は黄金の帝と呼ばれ始め、その財力を用い世界のあらゆる機関をパイプを持ち自由に行動していたと逸話には残っていた。

何でも彼の許可無しに笑うと殺されるらしいが、なんともふざけた話である。

その逸話とやらも創作の域である可能性が高い。だが、湧き出てくるように金を振る舞う大カジノの存在を裏付ける重要なファクターには違いない。
何でもそのカジノは資金を貸してくれるらしいのだが、億単位で簡単に借りられる。返還時には当然のように利子が発生するのだが、信じられるだろうか。
創作特有の所謂現実離れした盛り上げのために多少は着色していると思われるが、曰くカジノにさえ入場すれば無条件で資金を貸してもらえるらしい。
辿り着けば無一文でも勝利すれば一夜で億万長者へと変貌し、灰色の世界は金色に輝く夢物語――これが導入部分である。


都市伝説なのだから、オチが存在するのは当たり前のことであり、黄金帝の話にも続きがある。
カジノには勝者と敗者が対となっており、前者は金色に、敗者は黒色に人生が染まるのは今更説明する必要も無いだろう。
元々資金に余裕のある参加者ならば問題は無いが、資金を借りた人間が負ければ返金の際にどれだけ知恵を捻りだしても解決策は出ないことなる。
現物が無ければどうしようもないのだ。返すためには金が必要であり、カジノで稼ぐためにもう一度資金を借りて挑戦する。
そしてまた負ければ資金を借り挑戦し、負ければ資金を借り……負のスパイラルに陥った人間は気付けばカジノの中で借金塗れとなっていた。
返す金が無い人間は黄金帝の奴隷となり、その働きを以って借金の返済に当たると言われ、事実上カジノに縛られるという。


黄金帝のカジノは話よると巨大な船と一体化しているらしく、船上でありながらレース場やゴルフ場まで完備している一つの島として完成しているらしい。
そのため働き口に困ることは無く、飲食店から第三次産業まで多くの人間が黄金帝への借金返済のために奴隷となっている。
地道に働いていれば借金はやがて消滅し自由の身となるのだが、奴隷制度を用いているカジノに法律は合ってないようなものである。
警察はどうしたと疑問を投げる聞き手もいたようだが、大富豪らしく裏金を回すことによって認められた不法地帯となっていたらしい。
公には認められていないが暗黙の了解で認識された裏の世界を縛る法律は存在しない。神はただ一人たる黄金帝のみだ。
しかし神は愚民全ての行動に目を通せるかどうかと聞かれれば、多忙である黄金帝であれ不正の一つや二つは見逃してしまうだろう。
借金を返済しようと真面目に働いていた。けれど暴漢に襲われ、損害賠償を請求され更に借金が膨れ上がったとしても、それは珍しい話では無い。


なんでもカジノの地下には黄金のみで構成された牢獄が存在するらしい。
砂金が床に敷き詰められ、壁や建造物など全てが金色に輝いており、欲望を求める人間には相応しい一室だとの噂がある。
全てが黄金であるため、食料はおろか水すら存在せず、金を求めて叩き落とされた亡者は皆、口を揃えて、
「もう金は要らない。助けてくれ、死にたくない」と己の行いを恥じるのだという。


629 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 00:00:04 pX0fFi4.0

されどもその言葉は届かない。
黄金帝はカジノを支配する神であるが、不正の一つや二つを見逃す時がある。故に亡者の懇願も聞き取れない時があるという。
都市伝説は語り手の着色方法やFOAF――友達の友達から聞いた話によって当初とは全く異なる展開を辿り、別の怪異に変貌することもある。
一説によれば黄金帝の支配が崩れたとされる悪魔の一日は麦わら帽子の男よって引き起こされたらしいが――これは別の話である。


「お支払いはどうなされますか」


実体の掴めない都市伝説――黄金帝はとあるホテルの一室を貸し切っている情報を得た三流ライターが、取材を兼ねてフロントへ通る。
「……テゾーロ・マネーで」
「かしこまりました。こちらの部屋へどうぞ」
チェックインを済ませようとボーイと一見何も可怪しくない会話を繰り広げるのだが、ルーチンの中に親しみのない単語であるテゾーロ・マネーが響く。
これは黄金帝へ辿り着くための合言葉であり、カジノへ入場する資格となっている……とのことだったが、ボーイの対応を見る限り、正解であろう。
都市伝説を記事として取り扱ったところで大した実績にも、収入にも繋がらないが、虚構を待っている読者と何よりも自分の好奇心が満たされる。
危険と隣り合わせである世界であるが、ライターである男性はこの業界を止められないでいた。
時折感じるとてつもない闇の片鱗に魅了されてから、所謂オカルト的な体験を一度味わってしまうと中々抜け出せないのだ。


ボーイに案内されるがままにエレベーターに搭乗し、とある階に辿り着くとなんの変哲も無い一つの客室へ導かれた。
ライターの心は待ち受けているであろう都市伝説に知的好奇心を刺激され、鼓動が通常の何倍もの速度を保っている。
「こちらになります」
それだけ告げるとボーイは何事も無かったかのようにその場を去った。

さて。

色々と抱く感情はあるのだが、やはりというべきか何歳になっても男とは浪漫を追い求める生き物らしい。
危険性など一切考えずに腕は扉に伸びており――開けた先には文字通りの別世界が広がっていた。


「ようこそ! グラン・テゾーロへ!!」


ライターは思う。
過去に一度だけ取材と題しラスベガスへ赴いたことがある。
実際にはとあるネバーランドを取材しに渡米したのだが、結局いいネタが無かったため現地の友人達とカジノへ遊びに行ったのだ。
パチンコやら競馬とは比べ物にならないほどの騒ぎと異様な空気は一度足りとも忘れることは無かったが、この瞬間に全てが忘却の彼方へと消えた。


眩しすぎて見つめることも出来ない天高らかに輝く太陽と見間違えてしまう。
客室にはその外見から想像出来ないほどにまで広く、欲望と駆け引きが渦巻くアンダーシティ……世界から独立を認められたカジノが広がっていた。
次に感性を刺激するのが定番のコードを刻むビックバンドの豪快なサウンドだ。バッキングの打点が埋もれていなく、一瞬で三流のバンドでは無いとわかる。
ラテン調のリズムにアドリブ混じりのサックスが聴く者を陽気にさせ、トロンボーンが下地を構成するハーモニーを響かせ、トランペットが聴覚を支配する。
音を文章で読者に伝えるのは至難な技だとライターが記事を心配する中で、胸元を大胆に露出するドレスを纏った美女がアタッシュケースを差し出してきた。


赤い髪に外人特有の高い鼻、黒いドレスが大人と欲望の空気を醸し出す中で開かれたケースにはざっと見積もり一千万の束。
なるほど、これが都市伝説の中にもあった前借りの資金だと悟ったライターは無言でケースを受け取り、夜の舞台へその身を投げ出した。







「お見事」「やるねお兄さん」「二十一……貴方の勝ちです」「ダブルアップを最後まで勝ち抜くなんて運の強いお客様だ」


その日のライターは人生の中で一番輝いていたと自負することになる。
スロットからブラックジャックを始めとするカードゲーム……全てに挑戦し、全てに勝利しているのだ。
首には黄金のネックレスを掛けており、完全に勝者の気分を満喫している。
一千万円の資金はどうやら二億にまで膨れ上がり、湿気たオカルト雑誌などに記事を投稿する必要が無い程度には稼げてしまった。
口元は筋肉が無くなったかのように緩み、床に肉が蕩け落ちそうだ。笑い声が我慢出来なくっており、まるでそれは天国に導かれた死者のようだ。


「ハハハ……もう働かなくて済むのか……俺は、金を手に入れた……ッ!」


630 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 00:00:21 pX0fFi4.0


前金を返却したとしても手元には一億と九千万が残る。
ここから更に攻めることより資金を莫大な富へと昇華させる事も可能だが、博打を行う必要は無い。
グラン・テゾーロの記事を最後にライターを引退し、あとはゆっくり株で過ごそうか。などとこれからの人生設計を考えている彼は現実を見ていた。
調子に乗り大金を全て無駄に、無一文になるような馬鹿な真似はしない。近くにいたバニーに一千万を偉そうに投げ付けると、出口へ向かう。
カジノで勝ち抜いたことにより、虚勢の自信と安いプライドが芽生えたようだ。歩く仕草が何処か他者を威圧するように大股であった。


「……ん?」


ライターを止めるように現れたのは首輪を嵌められた犬だ。
詳しくは無いが大型犬なのだろう。成人男性と同等の体積を持った肌色の犬が息を漏らしながら舌を出している。
まるで金をくれ、と訴えているようで見ていると不快な感情が人間を支配する。
たかが一匹の駄犬に昂ぶった感情を奈落の底へ叩き落とされたライターは苛立ち混じりからか、首を蹴り上げしようとしたが動作を止める。
「……犬?」
犬は犬でも負け犬だ。肌色は当然、裸になり首輪を嵌められた男性が狂気の瞳とネジが外れた表情で金を求めているのだから。


「人間……!?
 この裸になって、性器をぶらぶらさせて、金を求めているのは人間……まさか、大敗し全てを失った負け犬……ッ!!」


「へへぇ、靴でも旦那の旦那でもしゃぶりますからあっしに金を恵んでくだせぇ……へへっ……へへっ」


サングラスの先に狂った瞳を持つ負け犬は人語を発しながら勝者であるライターに金をせがむ。
カジノで裸なのだから、当然のように彼は有り金全てを擦ったのだろう。返す金が無ければ奴隷へとなるため、必死に資金を集めているところだろうか。
ビックバンドのサウンドが余計に負け犬の駄目さを演出しており、軽快で重厚な調和の中で、一人の犯罪者が誕生してしまった。


金を渡せばきっと喜ぶのだろう。
だが、渡す必要は無い。ライターは勝者へとなったのだ。もう、こんな負け犬に関わる必要は無い。
寧ろ、何故、金を渡すという選択肢が生まれるのか。一人の他人が地獄に落ちようと、天国行きの切符を持つ彼には関係の無い話である。
そうだ……考えれば考えるほど、救いの手を差し伸ばす必要はなくなる。
誰かが負け犬に成り下がろうと、廃棄物を漁る生活を送ろうと、黄金帝の奴隷になろうと。


「その汚い姿をよくも俺の前に……し、死ねッ……ッッ!!」


「ひでぶっ!?」


知ったことか、とライターは負け犬の顎元を蹴り飛ばした。
靴には吐血がへばり付くが新しく買えばいい。何せ手元には大金があるのだから。
倒れこみ身体を震わせる負け犬は瞳から涙を流しているのだが、負けたお前が悪いとライターは見下すように笑っている。
負けていれば自分もあんな姿になっていたのだが、生憎現在の彼にそんな思考回路は存在しない。
己が絶対的な勝者だと思い込んでいるのだ、ならば最悪の未来など可能性すら捨て切っている。


もうこの場に用はない。
百万円の束を負け犬へ投げ捨てると、再度出口へ向かう。
「金……金だぁ!!へへっ旦那ぁ、あんた、あんた……うへへ」
這い蹲りながら出血に対し何も処置しないで負け犬は恵みの雨である金を舐める。
人間、堕落すればあのような俗物になるとは恐ろしい者だとライターは考える。都市伝説を彩る登場人物としては十分なインパクトなのだが。


「いやぁ……これはこれはカジノでの勝利、おめでとうございます」


631 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 00:01:02 pX0fFi4.0


出口へ辿り着いたライターへ声を掛けたのはピンクのスーツを纏い、黄金の指輪を始めとする装飾品を纏った男性だった。
一目見ただけで気付く大物感と勝者の風格、周りの客や従業員の反応と都市伝説を照らし合わせると彼の正体は簡単に判明した。
「まさか黄金帝……?」
「ハッハ……私のグラン・テゾーロはお楽しみいただけたかな?
 支配人であるギルト・テゾーロと申します……最高のエンタテイメンツ、どうでしたかな?」
「エンタテイメンツ……ッ! あぁ、最高でしたよMr.テゾーロ」
黄金帝の正体は三十代後半若しくは四十代前半の男性だ。正体としては面白味もない男性だが、都市伝説の記事にとっては打って付けだ。
ライターは勝者へとなり、記事を書くにも最高の材料を手に入れた。黄金帝の素顔と負け犬、表に出回れば一躍世間を騒がせるだろう。


「エンタテイメンツ……良い言葉だ……ッ!
 そこの負け犬は残念だが、勝者となった俺は最高の気分だ!
 ハハハ……ッ! あのような負け犬は一生、金に溺れているのがお似合いだ!
 それも憧れだけに溺れる姿が……ッ!! だが俺は違う……そうだろ、Mr.テゾーロ!
 貴方のおかげで俺の人生は金色の輝きを手に入れた……ハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


カジノに男の笑い声が響く。
最高の気分だ、今日が世界最後の日だろうと後悔は無い。
一生分の「……貴様、誰の許可を得て笑っている」運を使い果たしたのだろう。
此処が引き際だろう。支配人である黄金帝に一つ挨拶をするとその場を後に――することは出来なかった。


ライターの首に掛かっていた黄金のネックレスが突如――意思を持っているかのように動き出す。
突然の出来事に反応することすら出来ない彼は、気付けば己の首を締め付けられていることになっていた。声も出ない。
ネックレスはゲームの世界で例えるとスライムのような形状へと変化し、即座に彼の首を締め付けていたのだ。


酸素の供給が足りなくなる彼の脳裏に一つ、都市伝説のとある噂が思い浮かぶ。
『黄金帝の許可なく彼の前で笑うと、殺される』
思い出した時には全てが遅い。まさか、たったそれだけの事で殺害されるなど、最初から考えるワケもない。
FOAF――所詮は噂の一人歩きだ。黄金帝のカジノへ辿り着いた時点で全てを忘れており、目の前の金に目が眩んでしまった。
正気を保っていれば今頃は外に出れたのだろうが、どちらにせよ聖杯戦争に参加する黄金帝が記事を許す筈は無いだろう。
無論、ライターは聖杯戦争の都市伝説として取材へ来ていないのだがか、そもそも脳内で黄金帝と聖杯は繋がらないのだが。


(やべえええええええええええええええええええ!
 本当に笑っただけで人が死んじゃったよ!なにこれぇ!!大晦日の特番十八禁番かなあ!?)


632 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 00:01:19 pX0fFi4.0

ライターが死んだ。
その光景に負け犬は金を狂気の表情で舐めながらも、内心で大きく叫ぶ。
(俺のサーヴァントこれ絶対ヤバい奴だ!エンタテイメンツとか言いながら人殺しなんてバトロワにもいねーよ!!)
マスターである負け犬はどれだけカジノで負けようと、殺されることは無い。
少なくとも黄金帝が新しいマスターを見つけるまでは、彼の現界のために殺されることは無い。
早々に切られる可能性もあったが、負け犬は崖っぷちの精神魂だけは強者のそれであり、魔術師としての素質を持っていないが、何故か固有結界を発動するだけの貯蓄を持っていた。
このからくりは後ほど明かされることになるのだが、黄金帝を彩る都市伝説には必要が無いため、割愛とさせていただく。


「さぁみなさん! 私のエンタテイメンツはいかかでしたかな!
 勿論、彼は死んでいません! 一流のスタントマンを雇っていますから……これぞエンタテイメンツ!
 誰がこのカジノで勝者になるのか……私はみなさん全員がその資格を持っていると信じているッ! さぁ――夜はまだまだこれからだ!」


(いやいやいや!死んでる!こいつ死んでるよなあ!?客は盛り上がってるけど俺のテンションはキングボンビーだっつーの!!)


黄金帝の一言により鎮まり帰っていた会場は大いに湧き上がる。
客は口々に「演技か」「だよな」「本当に死んだかと思っていた」「そんなわけないか」などと。
エンタテイメンツだ。これはエンタテイメンツだと脳内が考える事を放棄してしまった。
狂気に飲まれた会場で――黄金帝は一人、不敵な笑みを浮かべる。


「そうだ――いざとなればお前ら全員は俺の糧となる。
 勝者となる素質は持っている……クク、最高のエンタテイメンツを演出してくれよ」


「さ、さすがテゾーロ様……いや、ライダー様でげす……へへっ。
 貴方様こそグランドなんちゃらに相応しいと私は常に思っていましたてゲス……ゲスゲスゲス」


「服を着ろ負け犬が……二度と俺の前にその醜い裸体を晒すな」


「ひぃぃぃぃぃ!着ます、着ますとも! これじゃあ実写化に迷惑ですものね!
  バリアジャケットだろうが強化外骨格だろうが極制服だろうが喜んで着ますともぉ!!」


黄金帝、ギルト・テゾーロ。
ゴルゴルの実を食べた覚醒の能力者が聖杯を求め――最悪最高のエンタテイメンツを。


633 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 00:01:36 pX0fFi4.0

【マスター】
長谷川泰三@銀魂

【能力・技能】
絶望を知っている男の魂は如何なる時でも希望を秘めている。
※つまり、何も持っていません。

【weapon】
無職。

【ロール】
無職。

【人物背景】
まるでダメなおっさん。

【令呪の形・位置】
猥褻物のような令呪が右肩に。

【聖杯にかける願い】
億万長者→ライダーを発見する→もう早く帰りたい……。

【方針】
ライダーに全てを任せるが、彼を許すつもりはない。
止めるつもりで、殺すつもりでいるが、金の前ではあっしなんて無力でゲスよ。

【参戦時期】
少なくとも天人に啖呵を切る前でないと……。


【把握資料】

原作は漫画。準レギュラーなため、適当な巻を取れば出ていると思います。彼が出ているエピソードを読めば大体掴めると思います。
また、実写化の予定あり。アニメと映画(二つ目)に出ていますので、そちらでの把握もありだと思います。


634 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 00:01:50 pX0fFi4.0


【クラス】
ライダー

【真名】
ギルト・テゾーロ@ONE PIECE FILM GOLD

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運C+ 宝具B+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:B

騎乗:C

【保有スキル】
悪魔の実の能力者:A
カナヅチと引き換えに異形の能力を手に入れた者を表すスキル。
ゴルゴルの実を食べたライダーは触れた黄金を自由に操ることが出来る。
ライダーは覚醒者であるため、宝具の行使に補正が掛かり同ランクの魔力放出(黄金)を担う。

黄金帝:EX
黄金を操るライダーの異名。
同ランクの黄金率と戦闘続行を兼ね備えたスキルである。
後者は元々、奴隷だったが最後まで人生を諦めなかった故に付与された。

武装色の覇気:B
覇気と呼ばれる気を纏うことにより戦闘能力を向上させるスキル。
発動することによりいかなる状況であろうと、本来の力を発揮する。

【宝具】

『神に抗いし黄金帝』(ゴルゴルの実)
ランク:C
触れた黄金を操る悪魔の実の能力。
自分をコーティングしたり、武器にしたりと多種多様な扱いを見せる。
弱点は海水であり、海水を浴びた黄金を操れない。

『この世全ての特別無法地帯』(グラン・テゾーロ)
ランク:B
全長10kmにもなる巨大カジノ船を召喚、或いは固有結界として現界させる力。
従業員及び部下も召喚するため大掛かりな術式となるが、悪魔の実である程度補えるため、見た目に反しある程度の連発は可能。
黄金を自在に操れる能力の関係からかグラン・テゾーロ内でのライダーは実質的な数値よりも実力を発揮することが出来る。

【weapon】
宝具

【人物背景】
かつては天竜人の奴隷だったがフィッシャータイガーの解放戦争を機に脱走し、ドンキホーテファミリーから悪魔の実を奪い取った男。
金に異常なまでの執着心を見せるのはとある恋が原因らしいが、この世でそれを知る人間はもう、いない。
ONE PIECE世界における財産の20%を保有し、それを政府や天竜人に献上することで、絶対的な権力を保有している。
常に黄金の装飾を身に纏っているのは能力を如何なる状況でも発動させるため。

【サーヴァントとしての願い】
全てを殺し、優勝。

【運用法】
基本的に全てを殺す。同盟も視野に入れるが、最後は裏切り自分だけが勝者になる。
表へ出るのも、裏へ潜むか気分次第。

【把握資料】

絶賛公開中の映画のため、書いてしまいましたが大変厳しい状況だと思います。

【その他】
公開中の映画のため、ネタバレは一切ありません。公開情報のみで書きました。
そのため、仮に当選いたしましら、ネタバレ用の状態表をwikiに載せたいと思います。


635 : 神に抗いし黄金帝 ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 00:02:18 pX0fFi4.0
投下終了するとともに、wikiの方で一作目の状態表をちゃんとしてものに差し替えます。


636 : 名無しさん :2016/09/04(日) 00:03:18 tND4t68.0
日程を数分過ぎてしまいましたが、前の投下作に続く形で投下します。
アウトならば弾いていただいて問題ありません。


637 : ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:06:31 61lIL25E0
二作ほど投下したいんですけどまだ大丈夫ですかね


638 : ◆ACfa2i33Dc :2016/09/04(日) 00:07:11 tND4t68.0

 冬木市のとある通り。
 開発されている河の東側ではなく、歴史ある――あえて言えば、古臭い――建物が並ぶ西側の地区、深山町。
 立ち並ぶ家々は質素だが、それは静かさを意味しない。
 むしろ早くから諸外国に開かれてきた影響である雑多な人種や、個性様々な住人たちの行き交うこの地区は、賑やかと言っていい。

 その深山町の片隅に、小さな時計店がある。
 普通の時計ではなく、絡繰り細工の時計が並ぶ時計店。
 そのカウンターに、一人の青年がいた。

 鉄色の瞳をした男。顔の左半分を、できそこないのヘルメットのような機械――おそらくはゴーグル――で覆った男。
 今はジャンプスーツをきっちりと着込んだ男は、商品の時計を整備しながら、人を待っていた。
 だが、男が玄関口に目を遣ることはない。無駄だから。待つ相手が玄関からはやってこないだろう事を、男は知っていた。

「……よ、っと。頼まれ事は終わったよ」

 男の背後。入口から見れば影となる位置に、いつの間にか。一人の男が立っていた。
 警官の制服を纏った男。知っている者が見れば、その風貌は冬木の警察署長そのものだとわかるかもしれない。
 だが、真実はそうではない。本物の冬木の警察署長は、今頃は会食を楽しんでいる筈だ。
 ならば、この男は誰なのか。

「そうか。収穫は?」
「特になし。巡回の情報や死体の記録も漁ってみたけど、これは、ってのはなかったよ。……ただ、不審な死は増えてたかな。
 まあ、サーヴァントやマスターの情報に繋がりそうなのはなかった」
「そうか……。ところでローグ。お前いつまでその格好のつもりだ?」
「うん? ああ、そういや警察署の署長の格好のままだっけ」

 そう言って。ローグと呼ばれた、警察署長の姿をした男の姿が、“歪んだ”。

 ――顔が溶ける。
 ――腕が軋む。
 ――胴が歪み、人間の体が『変化』する。

 冒涜的な変身過程に、ゴーグルの男が僅かに顔を歪めた。
 ……ややあって。先程まで警察署長の姿をしていた男は、完全にその姿を別人へと変じていた。
 性別は判然としない。線の細い中性的な顔立ちと、細身の体が合わさって外から判別するのは困難だ。ゴーグルの男も、聞いた事はない。
 警官の制服もいつの間にか脱ぎ棄てられている。今着ているのは、白い、無地の上下だ。

 ――人間離れした『変化』を見せたその存在。
 ――『ローグ(ならず者、或いは盗賊)』と呼ばれた彼は、人間ではない。

 冬木で夜な夜な繰り広げられる、聖杯を賭けた、血みどろの争奪戦。聖杯戦争――
 その魔術儀式によって呼び出される、サーヴァント。

 ――怪盗Xi(サイ)。
 ――ゴーグルの男に呼び出された彼は、そう名乗った。


639 : ◆ACfa2i33Dc :2016/09/04(日) 00:07:33 tND4t68.0

「ねえ、ニコラス」

 怪盗Xi――ローグに名を呼ばれて。
 ゴーグルの男――ニコラス・ハルトゼーカーは振り返る。

「どうした」
「生きてた頃もこういうのはやってたから、そこはいいんだけどさ。
 そういう事をしてた身から言わせてもらえば、化ける相手は予め殺しといた方が楽だよ」
「サーヴァント以外の殺しは無し(ノー)だ。契約した時にもそう話した筈だろ」
「マスター相手に殺すのが憚られる、ってのはまだわかるよ。俺はマスターでも殺した方が楽だと思ってるけどさ。
 でもさぁ。NPCまで殺さないで済ませるのは面倒だし、意味がないと思うよ」
「だとしてもだ。サーヴァント以外の、殺しは、しない。
 ……俺は人間だ。兵器なんかじゃない。だから、殺しはできるだけしない」
「……ふうん」

 なにかを考えるかのように、ローグは言葉を切った。
 口を何事かもごつかせて。その『何事か』を、口の中に押し込め。別の内容を吐き出す。

「……もう一度確認させてくれよ。ニコラス、あんたが聖杯を手に入れて願いたい事を」
「なんでまた? 仕事してるのはわかるだろ」
「いいからさ」
「……まあ、いいか」

 観念したように、ニコラスは義手を整備する手を止める。
 そして、ジャンプスーツの上半身を脱いだ。

「この前も見せたな。……俺が聖杯を求めるのは、これの理由を知るためだ」

 ――鋼の軋む音。
 ――上半身裸のニコラス。その左半身は、金属に覆われていた。

 左腕は、肩から指先まで、全てが機械部品で構成された義手。
 左胸から脇腹にかけてまでも、金属部品が鈍く光る。ところどころの隙間から、歯車やピストンが見え隠れしている。その位置は、本来なら内臓や骨格があるべき場所だった。
 ジャンプスーツに隠れた左脚も――機械化された義足である事を、ローグは既に知っている。

「俺には記憶がない。気がついたら倉庫で寝ていて、とある組織に備品として扱われていた。そして誰も俺の身の上を教えてくれないまま、奴らは消えた。
 だから俺達は奴らを追っている。俺が被害者なのか、加害者だったのかを知るために。俺が人間であるために」
「……人間であるために、ね」
「人は、『喪失』を『喪失』したままじゃいられない。なにかを失って、それを何故失ったのかも知らずに生きるのは、つらいもんだろ?
 だから俺は、それを知りたい」
「……一つ質問なんだけどさ」

 なにかを回想するように。ローグは――X(サイ)は、言った。

「もし、その理由を知る機会があったとして――『お前はただの実験動物で、血も涙もない殺戮機械兵器だ。探すような過去も、元々存在しないのさ』って言われたら、どうする?」
「……だとしても、俺は人間であることをあきらめたりはしない」

 いくらか傷ついたような表情で、ニコラスは、そう答えた。

「そっか」

 その返答に、ローグはただ、そう返して。
 少しの静寂が、工房の中を包む。
 数分の後。ニコラスは、静寂に耐えかねたかのように口を開いた。

「……ああ、そうだ。アイはどうした?」
「あんたの頼み通りに、『調達』に行ってるよ。【重蒸気(ヘビィスチーム)】……だっけ? それの」
「オーケー。……にしても、凄いもんだな。この都市にはミアズマはないってのに」
「まあね。二人で一人の『怪盗Xi』だ。その辺は期待しといていいよ」

 まるで自分の事のように、ローグは自分の相棒を自慢する。

「……そういやさっき、『俺達』って言ってたよね。あんたにも、相方とかいたの?」
「いるぜ。一緒に誕生日を祝うような仲のが」
「誕生日って、あんた自分の誕生日わかんないんでしょ?」
「ま、そうなんだけどな」

 冗談めかすように、ニコラスは笑った。

「相棒と俺で、二人で一人の『道化師(バスカーズ)』だ。演じる物語は、怪人(フリークス)の復讐劇(リベンジプレイ)。
 ……俺にとっては、名前をくれて、機械から人間に戻してくれた恩人だよ」
「……ふう、ん」

 気のないように。そんな風を装って、ローグは霊体化し、ニコラスの視界から消えた。

 ……怪盗、『怪物強盗』Xi。

 元は『絶対悪』に作られた生物兵器である、彼。
 何人もの犠牲者を出した怪人である、彼。

 そんな彼が、何故、聖杯戦争という場であるとはいえ。
 令呪によって縛られている立場であるとはいえ。
 ニコラス・ハルトゼーカーに従っているのか。

 その理由は、彼を知っている者ならば――例えば、生前の彼の『中身』を見抜いた探偵ならば――明らかな、話だった。


 ――それが『共感』であるとなど、彼は口にはしないのだが。


640 : ◆ACfa2i33Dc :2016/09/04(日) 00:07:58 tND4t68.0

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【クラス】ローグ
【真名】怪盗Xi@魔人探偵脳噛ネウロ
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具E
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
盗用:C
盗み。
戦闘終了後、敵サーヴァントもしくはマスターの『なにか』を盗むことがある。
盗む可能性があるのはサーヴァントに付随する武具や所持品、あるいは情報など。武具や所持品を盗んだ場合は、自らの魔力を消費することでサーヴァント消滅後も盗んだ品の現界を維持できる。
【保有スキル】
変化:A
文字通り、『変身』する。
全身の体細胞を変異させて、どのような人物にもほぼ変身することができる。
変身中は『正体隠蔽:D(サーヴァントとしての気配を断つ。変身中は同ランク以上の感知系スキルを持つサーヴァントでないとサーヴァントだと感知されない。攻撃に移ると解除される)』を得る。
体の一部分だけを変化させ、武器として扱うことも可能。
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
魔眼(偽):C
HALの残骸から回収した偽の魔眼。
他人の顔を見ただけでその脳内に流れる電流(記憶)を読み取れる。
また、劣化電子ドラッグを魔眼を通して他人に見せることにより、対象の脳内を掻き回すことができる。
NPC、マスターに対して洗脳を行う事が可能(マスターには抵抗される可能性がある)。サーヴァントには通用しない。
再生:C
細胞変異による急速再生。
たとえ戦闘中であってもダメージを再生し、超スピードで回復する。また、待機中のダメージ回復速度を速め、消費する魔力を低減する。
ただし、戦闘中の再生は魔力の消耗を招く。
人間観察:C
人々を観察し、理解する技術。
自分を知るために人間を解体し、人間を解体してきた怪盗Xは、人間について肉体的にも内面的にもよく知っている。
このスキルと『変化』の組み合わせで、他人に成りすます精度を上昇させる事が可能。
芸術審美:D
芸術作品、美術品への執着心。
芸能面における逸話を持つ宝具を目にした場合、低い確率で真名を看破することができる。
【宝具】
『あなたの隣に(アイ)』
ランク:E 種別:対X宝具 レンジ:- 最大補足:一人
もう一人の『怪盗Xi』、相棒のアイ。
戦闘能力は持たないが、かつて怪盗Xをサポートした逸話から派生し、マスターの魔力を消費することにより『物品の調達』を行える。
この『物品の調達』は世界観を問わず、マスターが(あるいはXが)正確に知っている品ならば調達が可能。
ただし、物品によって魔力の消耗は比例する。
戦闘に役立つ事は無い。けれど『怪盗Xi』が『怪盗Xi』であるために、もっとも必要な宝具。
【weapon】
『変化』する自らの肉体。
【人物背景】
記憶を持たない、最後に自分を見つけた怪盗。
【サーヴァントとしての願い】
願いくらいはもちろんある。が、生前やりたい事は大体やったし、ニコラスに共感する部分もあるので契約には従う。



【マスター】
ニコラス・ハルトゼーカー@スチームヘヴン・フリークス

【マスターとしての願い】
自分の過去を知る。

【weapon】
幾つもの武器を隠し持っている。
小口径の実弾銃や、出力の低い重蒸気を発射するパルス銃などを主に使用する。
火球を発射する火炎放射器なども持っているが、本人は殺傷性の高い武器を使う事を嫌う。

【能力・技能】
《人とクラフトの融合》
左半身が、《クラフト》と呼ばれる《重蒸気(ヘビィスチーム)》で動作する機械に改造されている。
左腕に仕込まれた《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》は生半可な機械ならばスクラップにする火力を持つ。
が、《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》で弾丸とする《重蒸気(ヘビィスチーム)》は左胸の人工心肺の動力と共用されており、《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》の連射は人工心肺の動作不全を引き起こす。
また、容易く人を殺す《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》をニコラスは人に向かって撃つのを嫌う。

機械関連の知識や技術もそれなりに豊富。

【人物背景】
記憶を持たない、自分を探す怪人。

【方針】
聖杯を手に入れる。
サーヴァント以外の殺しは、極力行わない。


641 : ◆ACfa2i33Dc :2016/09/04(日) 00:10:09 tND4t68.0
以上で投下終了です。
『邪神聖杯黙示録 - Call of Fate - 』からの修正・流用です

把握資料:
ニコラス・ハルトゼーカー:ライトノベル、全三巻。
キャラ把握だけならば1巻だけでも可。

怪盗Xi:漫画全23巻。


642 : ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:16:37 61lIL25E0
とりあえず投下しておきますね。


643 : ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:17:04 61lIL25E0








 人は二つに別れる。


 与える者と、奪う者だ。








□ ■ □


644 : フラダリ&キャスター ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:17:32 61lIL25E0


 高層ビルは豊かさの象徴である。
 天に迫れば迫る程、それから誇示される権力は増大する。
 地上より遥か上で酒を嗜む権力者達は、大地にひれ伏す弱者を嘲笑う。
 我こそ天に最も近き者、地を舐める貴様らを支配する王である。
 弱者達はビルの遥か下で、彼等の贅を黙って眺める事しか出来ない。

 こんな話、何もこの街に限った話ではない。
 太古の昔より、人類は権力の象徴として巨大な城を築いてきた。
 王は上方より民を見下し、民は下方から王を見上げる。
 弱肉強食の一種とも言えるそれは、創世記より続いてきたシステムだ。

 そんなシステムの一環で建てられたビルの最上階に、その男はいた。
 赤い毛髪にライオンの鬣の様な髪型。黒い総革に赤いラインのコートには染み一つ無い。
 誰の眼から見ても、彼は高層ビルの住人となるに相応しい男に映るだろう。

 そのビルの正体は、主に高所得者が利用するホテルである。
 男は自室として、このホテルの一角を借りていた。
 彼はそこかしこに気品さを感じさせるその部屋にて、窓に映る夜景を見つめている。

 夜も更けてきたというのに、街の明かりが消える気配はない。
 ペンキをぶちまけた様な黒の中に、散らばった宝石の様な光が輝く。
 それはさながら、地上が星の海と化したのかと錯覚する程だ。

「……この夜景を全ての人に見せる為に生きてきた」

 視線を動かさぬまま、男は呟いた。
 星の海を憂う様な、嘆きの含んだ声。

「貧富の差が消え、誰もがこの美しい世界を目にできるように……私は与え続けてきた」

 男は生涯の大半を、他者に与える事に費やしてきた。
 貧困こそが争いの原因と考え、その貧困を根絶やしにしようと努力してきた。
 全ては誰も争わない、平和な世界を作る為。
 やましい気持ちなど欠片も無い、純粋な願いからの行動だった。

「だが無理だった。与えられるのを当然とし、温情に胡坐を掻き続けた彼等は優しさでは救えない」

 男は当の昔に、与える人生を諦めていた。
 どれだけ弱者に施しを与えても、争いは無くならない。
 それどころか、もっと寄こせと囃し立てるばかりであった。
 弱者の欲望の醜悪さが、男の脚を止めたのである。


645 : フラダリ&キャスター ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:17:53 61lIL25E0

「故にお前は聖杯を求めた。九を殺し一を救う為に」

 男の背中から聞こえてくるのは、己が傀儡の声。
 "魔術師"として召喚された彼に向き合おうと、男は踵を返す。
 男の顔に張り付くのは、強面に似合わぬ涙であった。

「何故に泣く」
「悲しいのだ。何の罪も無く、しかし奪われる彼等が。
 だが彼等を殺さねば、明日は今日より悪くなる他ない」

 最早この世は、殺戮でしか救済できない。
 男が涙を見せる理由は、その事実に対する絶望と哀憫であった。
 彼――フラダリには、涙を流す程度の優しさがまだ燻っていた。

 与えるだけでは決して争いは無くならない。
 その事実の前に絶望した彼は、奪う為に生きると誓った。
 驕りを見せる九割の人類を抹殺し、残された一割で理想郷を造る。
 九割が奪う筈だった資源を、残りの一割だけで分け合うのだ。
 屍の上で生まれた楽園には、きっと貧困の二文字など存在しない。

「……驕り高ぶった愚民は数を増やし過ぎた。増えすぎた個は減らさねばならん」

 それこそ、殺してでもだ。
 キャスターはきっぱりと、己が主にそう告げた。
 言葉を投げられた主は、口を噤んだままである。
 反論する意味も無い、同意せざるを得ない事実だったからだ。

「老若男女一切の区別なく平等に殺す。それこそが世に平定を齎す唯一の術」

 地球に人類が誕生し、その数は鼠の如き速さで増大していった。
 今やその総数六十三億人、一目で膨大だと判断できる量である。
 それだけの個体が、この小さな星で好き放題に貪ればどうなるか?
 そんな事態が起これば、瞬く間に資源は底を尽いてしまうだろう。

 キャスターの目的は虐殺だが、それは同時に救済でもある。
 世界を巻き込んだ最終戦争を起こし、人類の大部分を殺傷する。
 そうする事で、食い潰される資源を少しでも多く減少させるのだ。
 僅かに残された生存者達には、平穏な明日が約束されるだろう。
 それこそ、フラダリの求める理想郷と同じ明日が。


646 : フラダリ&キャスター ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:18:15 61lIL25E0

「闘争こそが救済の術、秩序を齎す絶対の法だ。何を疑問に思う?」

 そう嘯いて、キャスターがほくそ笑む。
 歪む口元を目にし、フラダリは確信する。
 この男はきっと、自分より遥かに強靭な意志を持っている。
 その強固な願いを以て、人類を救済しようとしているのだ。

 彼のしでかす事象は邪悪のそれである。
 全国家を相手取った戦争を勃発させる者など、善人である訳が無い。
 しかし、その根底では人類への慈悲が蹲っているのだ。
 ただ闇雲に協力を謳う輩より、遥かに人類の為に行動しているのは間違いない。

「……そうだなキャスター、我々は人類を救わねばならない」

 軍服に白髪という、魔術師とはかけ離れた出で立ちのキャスター。
 その真名はムラクモ。秘密結社「ゲゼルシャフト」の創設者にして"現人神"。
 この男こそ、自身が共に歩むに相応しい男だ。
 彼の力があれば、聖杯の入手も夢の話ではない。

「その通りだマスター、我らは聖杯を以て人類に救済を齎すのだ」

 価値無き生命に審判を下す、それこそが使命。
 増えすぎたという事実から目を背ける人類には、最早劇薬を用いるしかないのだ。
 そうしなければ、彼等に残されるのは滅亡以外にあり得ない。

 涙こそ流せど、フラダリにも覚悟はできている。
 きっとこの先、多くの無辜の民が死ぬ。
 高級レストランでシャンパンを空ける富豪から、路地裏でゴミを漁る浮浪者まで。
 一人として例外は無い。全員に死が降り注ぐ可能性がある。

 もし聖杯を手に入れれば、更に多くの人間が死ぬだろう。
 子供も、老人も、女性も、男性も、等しく鉄槌が振り落される。
 それでいいのだ。死という厳罰でなければ、人類の罪は贖えないのだから。


□ ■ □








 皆さん、残念ですが、さようなら。


 争いのない、美しき世界の為に。


 皆平等に、殺して差し上げる。







.


647 : フラダリ&キャスター ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:18:39 61lIL25E0
【クラス】
 キャスター

【真名】
 ムラクモ@アカツキ電光戦記

【属性】
 秩序・悪

【ステータス】
 筋力:C+ 耐久:D 敏捷:C+ 魔力:B 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
陣地製作:C
 魔術師として、自らに有利の陣地を作り上げる。
 キャスターは大型の電光機関を製造し、そこを自身の工房とする。

道具作成:C
 魔力を帯びた道具を作成出来る。
 キャスターは生前利用していた複製骸,兵器の量産を得意としている。

【保有スキル】
神性:E-
 神霊適性を持つかどうか。粛清防御と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果がある。
 キャスターは生前"現人神"を自称していた事から、このスキルを与えられるに至った。

カリスマ:D-
 大軍団を指揮する天性の才能。一つの組織を纏め上げるにはDランクでも十分。
 キャスターは部下に反抗される機会が多々あった為、マイナス補正の付加を余儀なくされている。

魔力放出(雷):B
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
 キャスターの場合、放出された魔力が電光機関により電力に変換、電光被服の性能を上昇させる。

軍略:B
 多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。
 自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。

【宝具】
『転生の法』
ランク:A 種別:対己宝具 レンジ:1 最大補足:1
 真理を極めし者「完全者」の秘蹟。擬似的な不老不死。
 キャスターが死亡した際自動的に発動し、他者の肉体に魂を憑依させる事で文字通り"転生"する。
 その際、奪った肉体はサーヴァントのそれに変貌し、元の肉体の魂は跡形も無く消滅してしまう。
 キャスターの場合、憑依可能なのは彼自身の複製骸のみとなっているが、その複製骸をキャスターは無数に造りだせる。
 よって、彼を撃破しようとするのなら、複製骸を全滅させた上で本体を破るか、マスターを殺害するしか手段は無い。

『電光機関(ペルフェクティ・モーター)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1
 チベットの秘境で発掘された古代文明『アガルタ』の超科学技術を元に開発された軍事兵器。
 外見は映画用フィルムのリールに似た円盤形で、一見すると単なる発電機としか見えない。
 だが性能は驚異的であり、強力な電力で敵の装甲を溶かし、発生する電磁波は電子兵器を一切無効化してしまう程。
 その実態は、生体エネルギー源『ATP』を電気に強制変換する装置であり、乱用した者は枯れ死ぬ一種の特攻兵器である。
 此度の聖杯戦争では、ある程度ではあるが生体エネルギーを魔力で補う事が可能となっている。
 道具製作スキルで量産が可能。


648 : フラダリ&キャスター ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:18:56 61lIL25E0

【weapon】
『六〇式電光被服』
 電光機関と組み合わせる事で所持者に超人的な能力を与える服。
 キャスターの保持している電光被服はその中でも最新型のものであり、
 身体能力の増強の他、迷彩や分身など様々な能力の行使を可能としている。

『無銘・軍刀』
 キャスターが戦闘の際に得物とした刃。

『電光地雷』
 キャスターが戦闘中に多用した兵器。
 地面に設置されたそれを踏むと、黒い電撃の柱を立てながら爆発を起こす。

『エレクトロゾルダート』
 秘密結社ゲゼルシャフトの私兵。
 ゲゼルシャフトの幹部をオリジナルとして量産されたクローン兵。
 全員が量産型の電光機関を所有しており、戦闘の際もそれを利用して戦う。
 電光機関の多用は寿命の短縮を招く為、長時間の戦闘は危険であり、最悪の場合死に至る。
 基本的に突出した個性は持たないが、ふとしたきっかけで強い個性が芽生える個体も存在する。
 また、過去にはそうした個性の成長が原因で、上司に反逆を起こす個体が現れるケースもある。
 オリジナルとなった人物はいないものの、キャスターの手により量産が可能。

『電光戦車』
 秘密結社ゲゼルシャフトが使用する、電光機関を動力源とする電動戦車。
 電光機関による強力な電磁波での電子機器の無力化、光学兵器による誘導弾の撃墜が可能。
 電光戦車を動かす電光機関は、先述の通り人間の生体エネルギーが必要不可欠である。
 その為、この兵器には複数人の"生きた人間"が組み込まれている。
 キャスターの手により量産可能だが、製造には"それ相応の材料"が必須となる。
 また、自律駆動するように作られているものの、組み込まれた人間の人格が目覚め暴走する場合がある。

【人物背景】
 自らを現人神と名乗る、秘密結社『ゲゼルシャフト』の創設者にして支配者。
 「増えすぎた人類は殺してでも減らすべき」という考えの元、最終戦争勃発の為の暗躍を続けていた。
 最終戦争こそ悪鬼の所業ではあるが、本人はあくまで人類の救済を目的としている。

【サーヴァントとしての願い】
 最終戦争による人口削減。


【マスター】フラダリ@ポケットモンスターXY

【マスターとしての願い】
 人口削減による世界平和。

【weapon】
 ポケモンを数匹所有していたが、此度の聖杯戦争に持ち込んでいるかは不明。

【能力・技能】
 組織を設立,運用できる程度のカリスマを有する。

【人物背景】
 カロス地方全土で活動する秘密結社『フレア団』の創設者にして支配者。
 「争いを失くすには人類そのものを削減する他ない」という思想の元、目的の為に暗躍していた。
 元々は善人であり、「争いの無い世界を作る」という願いも紛れも無く善意からくるものであった。
 争いの原因が貧困により起こる奪い合いにあると考えた彼は、若い頃から貧しい人々の救済を続けていた。
 しかし、いくら努力しても争いはなくならず、自身に対する要求ばかりが肥大化していくばかり。
 挙句の果てに驕りさえ見せるようになった人類の姿を見て、フラダリは遂に彼等に絶望。
 危険極まりない選民思想に目覚める事となるのであった。

【方針】
 キャスターの準備が万全になるまでは慎重に行動する。

【把握資料】
ムラクモ:格闘ゲーム。wikiに台詞集あり。

フラダリ:ポケットモンスターXYより。台詞をまとめたwikiが存在。


649 : ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:20:05 61lIL25E0
一作目投下終了です。ゴッサム聖杯からの流用・修正となります。

二作目も投下します。


650 : 本田未央&ライダー ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:20:28 61lIL25E0






 私はオペラ座の怪人。思いの外に醜いだろう?



 この禍々しき怪物は、地獄の業火に焼かれながら――それでも天国に憧れる。



                          ――――「オペラ座の怪人」より



☆☆☆


651 : 本田未央&ライダー ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:20:54 61lIL25E0


 居間に置かれたテレビを点けてみると、歌番組の様子が映し出された。
 今週のオリコンチャートの発表する司会者が、高らかに第一位の名を宣言する。
 二位と大差をつけトップに輝いた名曲、それを生み出した歌手の名は、山口百恵と言った。

 テレビをぼんやりと眺めていた少女――本田未央は、彼女の名前くらいなら知っている。
 たしか、1980年代に活躍していた有名なアイドルで、一人で何十億も稼いでいたらしい。
 そして同時に、未央が生きている21世紀では、既に姿を消している存在でもあった。

 高らかに歌うアイドルを見て、否が応でも認識せずにはいられない。
 ここは未央のいる現実ではなく、聖杯戦争の為に造られた虚構の舞台であるという事を。

(キラキラしてるなぁ)

 精一杯歌ってみせる少女の姿は、同じ人間とは思えないくらい眩しかった。
 所謂オーラという奴なのだろうか、常人とは違う輝きを放っている事が嫌でも分かる。

 自分もあんな風にキラキラしたい。アイドルになりたての頃は、そう願っていた。
 そしてその願いは、きっと実現すると根拠も無い自信に憑りつかれていた。
 そんな感情、現実になんら作用する事もないというのに。

(きっと私とは、全部違うんだ)

 テレビの中のトップアイドルは、弱音一つ吐かずに戦ってきたのだろう。
 死に物狂いで努力して、無名時代の頃は必至でアピールを続けて。
 そうする事で、彼女はようやく栄光(キラキラ)を手に入れたのだ。

(やっぱりダメだよ、私……)

 未央が思い返すのは、絶望していたかつての自分自身。
 アイドルになってから二度目の舞台、そこで目にした抗いようも無い現実。
 それを目の当たりにした途端、未央の心はいともたやすく折れてしまった。

 ――もういいよ!私、アイドルやめるッ!

 善意で宥めようとしたであろうプロデューサー、そんな彼に浴びせた罵倒。
 それを思い出す度に、自分がやってしまった事の大きさを嫌でも理解してしまう。
 そしてもう、その過ちは取り返しようがないという事さえも。

 舞い上がっていた。アイドルという夢を叶えた自分自身に。
 思い上がっていた。アイドルになれる力を持っていた己に。

 結局の所、こんな弱い自分は相応しい存在ではなかったのだ。
 シンデレラの舞踏会に挙がるには、本田未央はあまりに脆過ぎた。
 それこそ、落としたら簡単に砕けてしまう硝子の様に。

(……結局、謝れなかったなぁ)

 未央がこの聖杯戦争に巻き込まれたのは、あのライブから数日後。
 自己嫌悪に陥り、自分の部屋に引きこもっていた最中の事だった。
 気付けば自分は、昭和50年にタイムスリップしていて、そこで殺し合いをするよう命じられたのだ。


652 : 本田未央&ライダー ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:21:12 61lIL25E0

 正直な話、意味が分からないとしか言いようがなかった。
 いきなり拉致された上、聖杯狙ってお伴と一緒に頑張って下さいなんて、いくら何でも急すぎる。
 聖杯戦争を知った当初は、タチの悪いドッキリではないのかと、まるでアイドルの様な事を思ったものだ。

 しかし、実際にサーヴァントが現れて、未央はようやく現実を視認する。
 これは決して虚構などではなく、此処で行われる闘争も本物なのだという事を。
 そしてきっと、この舞台で命を落とせば、元の世界に死体すら残せない事も。

 そう、未央は今、聖杯戦争という名のステージに立っているのだ。
 されど、そこでどう動くべきなのか、彼女は未だ決めかねている。
 すっかり弱ってしまった心が、決断を鈍らせてしまっている。

 ――キラキラしてねえな、お前。

 召喚されるなり早々、ライダーに言われたその一言。
 普段なら気にする筈もないそれが、未だ未央の心に張り付いている。

「当たり前、だよ」

 私は最初から、キラキラなんかしてないんだもの。
 それはテレビの中のアイドルの物で、私のものなんかじゃないんだもの。

 山口百恵が、こちらに向けて笑顔を振り撒いていた。
 それは、未央が目指していた輝きで、しかし掴み損ねてしまったもので。
 紛れもなく、彼女が聖杯に託すに相応しい願いでもあった。

 いたたまれなくなって、テレビのチャンネルを変更する。
 アイドルの姿は画面から消えて、代わりに児童番組が映し出される。
 適当に触ってしまったせいで、普段は見ない番組に切り替えてしまったようだ。

 テレビのスピーカーから流れてくるのは、子供達が歌う童謡であった。
 その曲のタイトルは、未央はおろか日本の国民の大半が知っているだろう。
 しかしながら、そのきらきら星という曲を、彼女は久方ぶりに聞くのだった。

 きらきらひかる おそらのほしよ

 まばたきしては みんなをみてる

 きらきらひかる おそらのほしよ

 画面に現れる、星降る夜空のアニメーション。
 子供向けらしくデフォルメされたその景色は、高校生の視聴に耐えうるものではない。
 それなのに、未央にはその夜空の星型達が、あまりに美しく見えてしまって。

 夢遊病の様に手を伸ばして、そして当然の様に宙を掴む。
 そうした直後、自分でも知らない内に、頬に涙が伝っていた。
 落涙の理由が分からない。それでも、無性に泣きたい事だけは確かだった。

 きらきら星が流れる中で、少女は独り泣き続ける。
 その光景は、キラキラとはあまりにかけ離れたものであった。


653 : 本田未央&ライダー ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:21:43 61lIL25E0
★★★



 真夜中の空に煌めくのは、数えきれない星々だ。
 闇の海で一様に輝くそれらは、どれもが宝石もかくやの光を放っている。
 地上全ての民が目にしたであろう芸術、それがこの星空であった。

 その光の群れに、独り手を伸ばす男がいた。
 掴める筈もないのに、渇望するかの如く腕を動かし、やはり掴み損ねる。
 彼とて、夜空の宝玉は手に入れようがない事くらい、当の昔に理解している。
 されど、男は手を伸ばしてしまうのだ――その光こそ、彼が求めたものであるが故に。

「……相変わらず、キラキラしてやがるな」

 うわ言の様に呟くこの男こそ、未央のサーヴァントであった。
 本田未央に召喚された騎乗兵(ライダー)のサーヴァント、その真名は"ゼット"。
 シャドーラインなる組織の皇帝にして、最も強大な闇を抱えた魔王である。

 闇の住人たるライダーの眼差しは、今も星空に向けられている。
 黒色の中で輝く光達を、彼は羨望を込めた瞳で見つめている。
 相反する存在である筈のそれを、幾度も掴もうとして、失敗していた。

「羨ましいぜ。未央にも教えてやりてえくらいだ」

 夜空の星は、お前よりよっぽどキラキラしてやがるぜ、と。
 そう言った後、ライダーは自嘲気味に小さく笑ってみせた。
 彼だって分かっているのだ、この言葉がどれだけ矛盾しているのかを。
 闇の皇帝が光に言及するなど、考えるまでも無く珍妙な話ではないか。

 そう、あろうことか、ライダーは光を渇望している。
 かつて触れた"輝き(キラキラ)"を、己のものにしようと目論んでいるのだ。
 聖杯に叶えてもらう願望も、勿論その"輝き(キラキラ)"の獲得である。

 本来であれば、一度は諦めた願いだった。
 どう足掻いても光は自分のものにならないと、自棄を起こしてかなぐり棄てた願望。
 しかし、その捨てた筈の願いを叶える為に、ライダーは聖杯戦争に降り立った。

 聖杯という万物の願望器は、きっと恐ろしいくらいにキラキラしているのだろう。
 それを使えば、闇の皇帝たる自分にもキラキラが宿るのではないか。
 末期に見たあの虹の様な煌きに、今度こそ近づけるのではないのか。

 求め続け、終ぞ手に入れられなかったキラキラ。
 思い浮かぶのは、戦いの最中に消えていった家臣達。
 彼等の最期の言葉が、"キラキラ"の込められたそれが、今もゼットの心にこびりついている。

 ――私は『キラキラ』を手に入れた!

 ――さよなら、グリッタ……あなたは、もう自由……。

 ――陛下!失った闇はどうかわらわの闇で……!

 ――では陛下。偉大なる闇で、再び。

 何故だ。
 家臣達がキラキラを手に入れて、どうして自分だけそれを掴めない。
 同じシャドーラインの住人が光を手に出来るなら、王たる自分にそれが出来ない訳が無い。
 なのに、どうして。どうして独りだけ、キラキラを手に出来ないのだ。


654 : 本田未央&ライダー ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:22:02 61lIL25E0

 闇は闇に還るべき、闇あってこそのキラキラ。
 そんな事は百の承知だ、それ位痛い程理解している。
 それが分かった上で、なおも諦めきれないのだ――かつて目にした、星の極光に。

 その証拠に、ライダーが召喚に応えたのは、ただの少女だった。
 アイドルを志し、しかし今まさにその夢を捨てんとしている女の子。
 キラキラを抱える者でありながら、闇を生み出さんとしている存在。

 正直に言うと、出会った当初は失望していた。
 せっかくキラキラに惹かれたのに、その光がほとんど消えかけているとは。
 だがそれでも、ライダーが未央を見捨てようとしないのは、まだキラキラが消え失せてないからだ。

(気付けてねえんだろうな……勿体ねえ話だ)

 きっと未央自身でさえ、気付けていないのだろう。
 昭和の古臭いアイドルソングを耳にする時、彼女の瞳は未練がましく光を灯すのだ。
 きっとあれこそ、本来の未央が持っていた心の輝きに違いない。
 故に、ライダーは期待せずにはいられないのだ――自分のマスターが、キラキラを掴むのを。

 ライダーは小さく歌い始める。
 星の歌を、いつか聴いたキラキラの唄を。

 きらきらひかる おそらのほしよ

 まばたきしては みんなをみてる

 きらきらひかる おそらのほしよ

 きらきら星を口ずさみながら、ライダーの姿は虚空へと消えていく。
 彼は帰っていったのだ。自分の宝具にして根城――キャッスルターミナルに。
 柳洞寺の地下に沈む巨大な城に、果たして何人が気付けるだろうか?

 柳洞寺の底に蠢くは、一片の光無き闇の巨城。
 されどこの魔城は、光を掴まんと動き始める。
 闇の皇帝の終着駅は、栄光の証たる光か、それとも――。


655 : 本田未央&ライダー ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:22:24 61lIL25E0
☆★☆






 ――――彼等は未だ、三ツ星に届かない。







【クラス】
 ライダー

【真名】
 闇の皇帝ゼット@烈車戦隊トッキュウジャー

【属性】
 混沌・悪

【ステータス】
 筋力:C 耐久:D 敏捷:D 魔力:A++ 幸運:E 宝具:EX(人間態)
 筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:A++ 幸運:E 宝具:EX(怪人態)

【クラス別スキル】
騎乗:EX
 乗り物を乗りこなす才能。
 ライダーは光に騎乗(しんしょく)する。

対魔力:A
 魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 Aランクであれば、例えどのような大魔術であろうとも、同ランク以下の魔術を完全に無効化する。
 事実上、現代の魔術師では、ライダーを魔術で傷をつけることは出来ない。
 人理の誕生より存在する"闇"そのものたる彼は、破格の神秘を有している。

【固有スキル】
冥闇の化身:EX
 人類が放つ光(キラキラ)と対極に位置する、嫉妬、憎悪、あるいは"悪意"。
 ライダー及び"シャドー"と呼ばれる怪人は、それらの負の感情の源泉――"闇"に住まう存在である。
 闇を取り込む事により、魔力の回復、能力の強化、傷の治癒などが可能となっている。

カリスマ:B-
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
 Bランクであれば国を率いるに十分な度量だが、ライダーは部下に謀反される機会があった為、ランクが低下している。

変化:A
 文字通り「変身」する。ライダーの場合、戦闘に特化した怪人態へと肉体を変化させる事が可能。
 怪人態となったライダーはステータスが上昇し、「皇帝系キラーソード」を武器に戦士達を蹂躙する。

魔力放出(闇):A
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
 禍々しき闇が魔力となって使用武器に宿る他、衝撃波如く放出し敵を吹き飛ばす事も可能。


656 : 本田未央&ライダー ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:23:01 61lIL25E0

【宝具】
『此処なるは終着駅、常闇の魔城(キャッスルターミナル)』
 ランク:EX 種別:対光宝具 レンジ:- 最大補足:-
 ライダーが率いる組織――シャドーラインの拠点となる城型の大型駅。
 内部には人型兵器に変形する烈車「クライナー」が収容されており、内部ではライダーの配下が待機している。
 また、闇を蓄える事も可能としており、ライダーの配下により生み出された闇は、全てこの宝具に蓄積される。
 そして、この宝具はライダー自身の力と連動しており、ライダーは宝具に溜められた闇を自在に活用が可能。
 現在は柳洞寺の下に沈んでおり、宝具としての事実を隠遁している模様。

【weapon】
『皇帝系キラーソード』
 ライダーが愛用する両刃剣。怪人態への変化と同時に出現する。

『クライナー』
 シャドーラインが保有する烈車。人型形態への変形が可能。
 クローズが操縦する量産型の他、皇帝専用機を始めとした亜種も存在する。
 ライダー始めシャドーラインの構成員は、これを用いて地上世界を移動している。
 人型形態への変形及び戦闘には多量の魔力が必要であるが、闇さえ蓄えていれば不可能ではないだろう。
 なお、クライナーは聖杯戦争の関係者、若しくはイマジネーションが豊かな者――主に子供にしか視認できない。

『クローズ』
 闇から生まれるシャドーラインの戦闘員。特定の単語しか話せないものの、知能はそれなりに高い。
 僅かな魔力消費でいくらでも生み出す事が可能であるが、戦闘力自体は低い。マシンガンや斧を得物とする。

【人物背景】
 男は終ぞ、星を掴めなかった。

【サーヴァントとしての願い】
 今度こそ、キラキラを手に入れる。


【マスター】
 本田未央@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
 もし、キラキラを取り戻せるのなら――。

【weapon】
 無し。

【能力・技能】
 アイドルなので、体力には自信がある。

【人物背景】
 少女はいずれ、星を掴むだろう。



【把握媒体】
ライダー(闇の皇帝ゼット):本編第11話から登場。それ以降最終話(第47話)まで登場する。
              展開や台詞等を記録した感想サイトがいくつか存在するので、そちらも参考になる。

本田未央:アニメ版6話からの参戦。


657 : ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:23:38 61lIL25E0
以上で二作目の投下を終了します。期限前後の投下になってしまい、申し訳ありませんでした。


658 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/04(日) 00:25:58 u3uHHp2c0


皆様、たくさんの作品のご投下を本当にありがとうございました!
期限間際の投下についても全て候補作としてありがたく選考させていただきます。
また、まだ滑り込みの方が居るかもしれませんので、一時までは期限超過の投下を認めようと思います。


659 : ◆BNxC/Vtkps :2016/09/04(日) 00:56:43 UzjASscA0
>>658
ありがとうございます。

微妙なところは結構あるが投下


660 : アイハラ・リュウ&アーチャー ◆BNxC/Vtkps :2016/09/04(日) 00:57:44 UzjASscA0
「昭和55年、つまり今年は1980年か…」
夕暮れの町並みを、男がただ一人歩いていた。

「役割ロールに従うのなら、俺はUGMにいなければならないはずじゃねぇのか」
「しかし俺はUGMの隊員ではねぇし、それどころかUGM自体もねぇときた」

20年代最後の怪獣頻出期である1980年に、防衛隊が一切ないとは考えづらい。

「この世界は、一体なんなんだ…?」


立ち止まり、考え込む彼の傍らを、ある兄弟が走りさって行く。
「おーい!早くしろよ!ウルトラマン80が始まっちまうぜ!」
「待って!兄ちゃん!」

「おいそこの坊主、今なんて言った?」

男は兄弟に問う。

「僕たちいま急いでいるんです」
「いや、なんて言った聞きたいだけだ」
「だからウルトラマン80が始まるって…」

「まだ怪獣も現れてないのに、どうしてウルトラマン80が始まるってわかるのか?」

話を終わらせ、帰宅しようとする兄弟を、男の言葉が遮る。

「この人おかしいよ、テレビと現実の区別もついてないんだ」
「ああ、ほおって置いて帰ろうぜ」

呆れた顔をした兄弟は、男――アイハラ・リュウを無視するように、逃げるように走り去っていく。

「ウルトラマンのいない世界はあったんだな、本当に」

ミライから聞いたことがある。
ウルトラ兄弟と同じ名前の人物が人間として生きている世界があって、ウルトラマンはその世界のテレビ番組。そんな世界で、戦った事があると。


661 : アイハラ・リュウ&アーチャー ◆BNxC/Vtkps :2016/09/04(日) 00:58:33 UzjASscA0
「ちょっと!私の事をさっきから無視しないでくれる?」
元の世界での話を思い出し、余韻に浸っているところを、彼のサーヴァントが遮る。

「あいにく俺は生意気なガキは嫌いだ」
「なんですって?」

喧嘩腰で答えるリュウに対し、彼のサーヴァント――陽炎は言い返す。

「なんならここで契約を――」

「でもな、お前も深海棲艦ってーのから地球を守ったんだろ」

「私はそんな目的で艦娘になったわけじゃ――」

いい続ける陽炎の話を遮り、リュウは語り続ける。

「俺の仲間だってそうさ。部隊が壊滅して、入って来たのはただの一般人ばかり。でもな、仲間を、地球を守るために自分にやれることは何でもしてたぜ」

「俺の仕事も地球を守る事だ。俺は今まで何度も命を懸けて戦って来た」

「だから俺は世界を踏みにじるこの下らない戦争が大嫌いだ。お前もそいつらと同じだと、俺は信じている」

そう答えると、リュウは再び歩き始める。

「この世界は人間が守らなければならない。だが、協力してくれる奴がいるなら話はベツだ」

「待ちなさいよ!まだ話は終わってない!」

その後姿を、陽炎は追いかける。
聖杯戦争という悪夢から、人々を守るために。


662 : アイハラ・リュウ&アーチャー ◆BNxC/Vtkps :2016/09/04(日) 00:59:09 UzjASscA0
【クラス】
 アーチャー

【真名】
陽炎@艦隊これくしょん -艦これ- 陽炎、抜錨します!

【ステータス】
 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運C 宝具EX

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失ってから二日間現界可能。

【保有スキル】
艦娘:A
彼女は人間であり、また陽炎型駆逐艦一番艦「陽炎」である。
水上では有利な判定を得、ステータス以上の力を発揮することが可能。

適応力:A
どんな環境下に置かれてもどれだけ適応できるかを示す。
極端な拘束下でなければ、自らのできる最善を積極的に行動に移すことが可能。

【宝具】
「親愛なる仲間たち(フォーティンス・デストロイヤーズ)」
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
かつてアーチャーが率いていた部隊――第十四駆逐隊の仲間たち。アーチャーとは強い絆で結ばれている。
アーチャーは彼女達を統制する事が可能だが、彼女達にも意思があるため、必ずしもうまく動くとは限らない。

【人物背景】
第十四駆逐隊の嚮導艦。負けず嫌い。
特技はギンバイ。

【サーヴァントとしての願い】
今のところなし。


663 : アイハラ・リュウ&アーチャー ◆BNxC/Vtkps :2016/09/04(日) 00:59:22 UzjASscA0
【マスター】
アイハラ・リュウ@ウルトラマンメビウス

【マスターとしての願い】
元の世界への帰還。

【weapon】
無し。

【能力・技能】
防衛隊員である事もあり、一般人以上の体力を持つ。

【人物背景】
CREW GUYSの隊員。
熱血漢だが口が悪く、知らずのうちに人を傷つけてしまう事もある。
パイロット技術は一流。

【方針】
一般人への犠牲は出来る限り出さない。

【把握媒体】
陽炎:ライトノベル全7巻。原作のボイス(wikiに台詞集あり)も参考になる。

アイハラ・リュウ:本編全50話。劇場版及びOV「ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス」。


664 : ◆B7YMyBDZCU :2016/09/04(日) 02:14:38 pX0fFi4.0
>>621の状態表が異なるものだったため、まるまる差し替えます。

【マスター】
耳郎響香@僕のヒーローアカデミア

【能力・技能】
個性:イヤホンジャック
簡単に言ってしまえば彼女が保有する特殊能力のこと。耳たぶがプラグ端子になっておりこれを挿入することによって音に関する力を施行する。
心音を増幅させ衝撃波のような攻撃を行ったり微細な音を聞き取ることも可能である。相手の鼓膜、岩、大地を破壊する威力を持っている。
ハートビートファズという必殺技があり、音波を地面に放ち地割れを発生させる。

【weapon】
上記個性。

【ロール】
学生

【人物背景】
ロックが大好きなヒーロー志望の高校一年生。身体能力及び学力はそこそこ。
一人称はウチ、サバサバした性格であり苦手なものはお化けや幽霊とのことらしい。
ヴィランに襲われた時には恐怖しながらも逃げたりせずに立ち向かっていることから相当な勇気の持ち主。
音楽の趣味は父親譲り。男子を部屋に入れることに拒否感を示す辺り思春期の女の子であることが伺える。

【令呪の形・位置】
ト音記号・右腕

【聖杯にかける願い】
帰る。

【方針】
帰りたい。殺しは絶対にしない。悪(ヴィラン)は出来る限り倒すけど、無理はしない。
(勇気と無謀の違いを理解している)

【参戦時期】
必殺技習得後。

【把握資料】

原作は週刊少年ジャンプで連載中。アニメ化もしている。

【クラス】
ヒーロー

【真名】
ライアン・ゴールドスミス@TIGER&BUNNY -The Rising-

【二つ名】
さすらいの重力王子

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具C

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
正義の味方:C
正義の名の下に平和を守り続けてきたヒーローのアイデンティティとも言うべきスキル。
効果は人命救助や悪人退治などの善行を行う際のパワーアップ……ではない。ヒーローにとって人助けは当然の行為であり、これにわざわざプラスの効果は生じない。
このスキルは、ヒーローが自らのアイデンティティを喪失しかねない場面において発動するマイナススキルである。
悪人に服従する、非道な行為に加担する等といった悪行を強いられ、自らの信念を捻じ曲げられる状況に陥った時、ヒーローは大幅なパワーダウンを引き起こす。
そして、例えばマスターから「聖杯戦争での勝利が最終目的である」と明言されている行動を命じられた場合にも、ヒーローが納得していない限りこのスキルは発動する。
ヒーローを聖杯戦争に投じるとどうなるのか、その答えを示したスキルであると言える。
……なのだが、ライアンは現実的な価値観で物事を判断しているため他のヒーローと比べると影響は少ない。


【保有スキル】
勇猛:C
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

反骨の相:C
ヒーローらしからぬ言動から付与されてしまったスキル。実際の彼は心技体共に立派なヒーローである。
同ランクのカリスマを無効化すると共に、過酷な戦場でも自身のポテンシャルを発揮出来るようになるスキル。

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。敵に捕捉されずに、確実に撤退できる。

【宝具】

『加重課不可侵領域』(グラビティ・ホールド)
ランク:C 種別:対人(界)宝具 レンジ:通常30km 最大補足人数:――
生前のヒーローが保有していたNEXT能力が宝具へと昇華したもの。
一定範囲内(半径30m程度)の重力を増幅させ相手の動きを制限したり、建物の崩壊を阻止することが可能。
加重領域については基本的に円状であるが任意で形を変えることが可能であり、魔力のブーストを掛ければ更に広げることも可能である。

【人物背景】
原作にて劇場版から追加された所謂俺様系ニューヒーロー。
女好きで言動も良い意味で言えば若者らしく悪い意味で言えば礼節を弁えていないが、馬鹿ではない。
物事を広い視野で捉えており、判断能力・適応能力は高い部類である。
ヒーロー番組の数値を気にしたり、相手ヒーローを容赦なく自分の能力に巻き込んだりするものの、ちゃんと市民のことを考えている。
ヒーロースーツは黄金に輝いているためよく目立つ。また今回はバイクも聖杯戦争に持ち込んでいる。

【サーヴァントとしての願い】
特に無し。

【運用法】
マスターの言うことを聞くつもりでいる。

【把握資料】
映画のみに出演しています。


665 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/09/04(日) 10:36:37 d.pid44s0
申し訳ありません、拙作の>>590-599にて把握媒体を書き忘れていたので以下の文をwikiに追記しておきます。


把握媒体
ライダー(スティーブン・アームストロング):
原作ゲーム1本のみ。幹部陣も宝具で召喚できるので別途把握が必要になるかもしれない。
現在はDLCが同梱された完全版がPS3用ソフトで購入できる。
動画サイトには本編及びDLCストーリーのプレイ動画がデモムービー込みで全て上がっているので動画把握も可能。

レオーネ:
原作漫画。参戦時期的に14巻まで。


666 : 名無しさん :2016/09/04(日) 13:00:08 ibc1Bbzo0
>>662
すみません重大な抜け見つかりました…

【weapon】
12.7cm連装砲
61cm四連装魚雷


667 : ◆mcrZqM13eo :2016/09/04(日) 15:10:52 R6tdXH7Y0
二つ修正

>>576
無名の英雄(ネームレス・ヒーローのステ修正
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 幸運:D 魔力:E(A++) 宝具:EX

>>608
【weapon】
鉢金:鋼鉄扉を破壊する牙突の直撃で無傷
手甲:先が尖っていて刺すことができる。
中に火薬が仕込んであり点火すると爆発する。火薬は魔力で幾らでも精製出来る


668 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/15(木) 00:16:40 VT/snnvc0
生存報告します。
リアルの仕事の関係でなかなか思わしく執筆が進められない状況ですが、しかし当初の予想ほどではないので、9月中には投下できると思います。
企画進行が遅れて大変申し訳無いのですが、もう少しお待ちいただけると幸いでございます


669 : 名無しさん :2016/09/15(木) 08:49:24 kMfle.3wO
楽しみにしてます


670 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/24(土) 14:47:28 QXSQRUEE0
長らくお待たせしている当聖杯のOPですが、9/29(木)の午後十一時から投下させていただこうと思います。
まだ数日お待たせしてしまうこと、また平日の投下になってしまうことを心よりお詫びいたします


671 : 名無しさん :2016/09/25(日) 08:54:56 VUDT6WxQ0
おおー ついに


672 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 14:51:26 P4.7FAE60
予定通り、本日十一時に投下を開始します。


673 : 名無しさん :2016/09/29(木) 16:17:22 HprU2QHI0
楽しみにしております


674 : 名無しさん :2016/09/29(木) 17:25:41 LgrI9Gg6O
wktk


675 : 名無しさん :2016/09/29(木) 17:31:59 k/7zBnwA0
やったー!


676 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:00:11 P4.7FAE60
投下を開始します。
また、投下分はかなり長いです。
日を分けようとも思ったのですがこれ以上お待たせするのも申し訳ないと思い全文投下することにしましたので、ご了承いただければ幸いです


677 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:00:37 P4.7FAE60



             君が許さなかった世界はこんなにも綺麗だ



◇◆


678 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:01:22 P4.7FAE60
 荒れ果てた研究施設。床も壁も埃や虫の死骸で汚されきった其処は、囚人が今より遥かに劣悪な環境で贖罪の日々を送らされていた時代の監獄に酷似していた。
 忘却という罰は、時にどんな責め苦よりも苛烈な痛みとなって罪人を襲う。自分の存在が世界から完全に忘れ去られるというのは死にも等しい。
 親も子も友も敵も、自分の脳に残るあらゆる記憶が一方通行のものと化すのだ。自分という存在が世界から弾き出され、歩んできた歳月全てが白紙に還る。
 此処は、そんな罰を科された場所だった。世界を冒涜し続けた者の末路。好奇を拗らせ、触れてはならない領域に触れ、当たり前のように滅んだ科学者達の夢の跡。もはや、彼らの物語が誰かに語られることは決してない。仮に世界が終わろうとも、決して。
 日本生類創研――過去、この場所はそういう名前の研究団体が統べていた。それがかつての話だというのは、今しがた述べた通りである。
 
 彼らは、まずこう願った。
 科学による未知の究明、探求、不安と脅威の除去。我々は人類の存続と新たな可能性を見出す試みの先頭に立たねばならない。
 彼らは、強き人類の創造を目指した。そのためには非道な実験や倫理に背く研究も辞さず、がむしゃらに走り続けた。
 その内いつしか、彼らは狂気の領域に足を踏み入れてしまった。科学とは麻薬だ。進歩を実感する毎に世界が変わる。自分達の知的好奇心が世界の新たな真理を見出す。気付いた時には、彼らはその快楽の虜に成り果てていた。
 当初の目的など忘却し、水槽の前で機械的に命を弄ぶ。発見の恍惚。欲望実現の快感。彼らは興味という名の涎を垂らしながら、可能性という名のガラスパイプを咥えて、その先端から漏れ出る発見という名の阿片に耽溺した。

 そして、ある時彼らは一線を犯した。使命を忘れ去り、分別なく欲望を発露させたことで、それが疑似餌であるということに気付かなかった。
 この世界を俯瞰する高位思念体への接続。もしも成功すれば、それは神という存在の立証に等しい。
 狂気の頭脳は血眼になって研究を重ね、驚異と呼ぶべき速さでその偉業を達成した。彼らが自らの犯した罪の重さに気付いたのは、丁度その時だった。
 科学者にとって固定観念は贅肉だ。肥満が時に死を招くように、凝り固まった考えは不慮の事故、知識の死、あらゆる形で開拓者達に死をもたらす。
 彼らはこの時まで、ずっと決めてかかっていた。
 世界を見下ろす某かは神に等しい神聖存在であり、もしもそれと意思の疎通に成功したならば、必ずや世界には叡智の福音が降り注ぐ――と。

 その果てに何が待っていたのかは、この有様が物語っている。
 彼らはご丁寧に、画面越しに見つめるだけしか出来なかった存在に窓を与えてしまった。
 彼らが自らの知的好奇心を自制し、そしてもっと無能な連中だったなら、この物語はこうして始まりを迎えることさえなかったに違いない。

 もぬけの殻となり、人々からも忘れ去られた研究施設の一室。人型の実験体を収めるのにでも使っていたのであろうそこに、一人の男がいた。
 この世のあらゆるものに対して関心がないような、限りなく虚無に近い双眸を持った青年だった。
 青年の座るベッドは、周囲が埃で惨憺たる有様だというのに不思議とまるで汚れていない。
 陳腐だが、そこだけ時が止まっているようと表現する他ない。比喩でしかないそれが事の真実に思えてくるほど、青年は超然とした雰囲気の持ち主だったからだ。
 ピジョンブラッド・ルビーのように暗がりで妖しく輝く紅眼は、深淵の気配を宿していた。

「――相変わらず、か。つまらん男だ」

 そんな彼の姿を前に、ポークパイハットの男が言葉とは裏腹に口元を歪ませながら口にした。
 色白な肌に整った容貌を持つ、だがどこか見る者へ病的な印象を与える男だ。
 病的といえば寝台の上の彼も負けてはいないが、こちらの男は件の彼には真似のできない奇怪な性質を有していた。
 彼はつい数秒前まで、間違いなくこの空間には存在していなかった。それが、突然姿を現したのだ。何もない虚空から、当たり前のように!

「毎日毎日、よくそう楽しそうにしていられるものですね」

 苦笑交じりに溢すような文面だが、赤い瞳の彼の顔にはやはり表情らしいものはない。底のない虚無。定められた空虚。只管に虚ろな男だった。
 
「死魚のような眼、色を写さぬ顔。ハ、それほどまでに退屈とは、貴様を呼んだ女も浮かばれまい」
「そうでしょうか。僕にはそうは思えませんが。……だとしても。彼女の目論見もこの戦争も、そして貴方も、何もかもが――」
「ツマラナイ、か?」
「はい」


679 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:02:08 P4.7FAE60
 ツマラナイ。そう、彼にとっては、何もかもが――ツマラナイ。
 全能たれと願われ、それを自らの存在を以って達成する。その為だけに生み出された存在、いわば【創られた希望】。それが、彼だった。
 特筆した才能など何もない、文字通りどこにでもいるようなごくごく凡庸な少年を素体に、その脳髄にこの世に存在するあらん限りの才能を詰め込んだ。
 結果として生み出されたのは、虚無。全能故の退屈さだけを抱いた、深淵を擬人化したような男。
 今、彼の右腕には赤い刻印が爛々と輝いていた。閉じた円環のようにも見えるそれが、人外存在……サーヴァントへの絶対命令権・令呪であることはこの期に及んで言うまでもあるまい。その三度限りの手綱で繋がれているのが、他でもないポークパイハットの彼である。
 
「哀れな男、そして愚かな男だ。貴様ほど退屈な男もそうは居るまいに、世を無味と嘯くか」

 この男もまた、深淵を思わせる底知れなさの付き纏う人物だった。
 英雄の高潔さとは縁遠く、その両眼には黒ずんだ感情の炎が絶えず燃えている。
 煉獄に堕ちた罪人を甚振り抜く紅蓮の高熱にも劣らない温度で火粉を散らし続けるその名は、恩讐。
 彼のクラスは、七騎のどれにも合致しない。
 その霊基はエクストラクラス・アヴェンジャー。世界に忘却されて尚、人類史にその名を刻んだ英霊にのみ与えられる復讐者の称号。
 人類史上最も高名な復讐者とされた彼は、まさにこのクラスを代表するような英霊だ。
 にも関わらず彼を呼んだ青年はこの通り、凡そ激情とは無縁の虚ろな実験体。
 何たる数奇かと、アヴェンジャーは嗤った。それと同時に、彼ほどの男が瞬時に悟った。

 これは、世界を取ることすら可能な人間だ。それだけの力を、その殻の中に宿している。
 しかし結局、彼が時代の牽引者となることはないのだろうとも理解させられた。
 何故なら、彼には熱がない。いつの世も時代を取る者には、それに足る熱が必要だ。
 仮に旧知の人物が目の前で惨殺されたとしても、彼は感情はおろか、眉一つ動かしはすまい。まさに、復讐者を反転させたような男だった。 

「その貴様が、聖杯は取ると言う。それが一番解せんよ、オレは。そのガランドウの心、鋼鉄の魂で何を願う? ――熱もない、執念もない。恩讐などある筈もないその精神で如何なる奇跡を望み、如何なる祝福(ワザワイ)で世界に君臨しようという」
「さあ」

 かつて希望たれと願われ、この世に生み出された青年は、その詰問に無味乾燥とした返答で応じた。
 
「僕はただ、彼女を追うだけです。聖杯が結果として何を生もうが、さしたる興味はありません」

 完璧な人類として生み出された日から、口癖のように彼は退屈だけを漏らしてきた。
 生みの親である科学者達は彼の才能以外には何の興味も抱かなかったし、彼の方も別段、青天の霹靂を望んだことはなかった。
 そんな彼に、ただ一度だけ未知を説いた者がいる。俗な外見の内に神話の悪魔ですら裸足で逃げ出すような、悪意ともまた異なったものを秘めた女だった。
 彼女は言った、未知を見せると。そしてその果てに、彼女は世界を滅ぼした。その巨大な絶望を伝染病のように世界へ解き放ち、歴史の中で幾度となく繰り返されてきた戦乱のどれもが軽く見えるほどの流血をもたらして……最後は嵐のような激しさの中で、死んだ。

 ――そう、彼女は死んだ。最悪だったのは、【死】という結末に【その先】があったことだろう。

 彼女が死して尚何かを目論んでおり、その舞台に自分を招いたというのなら、望まれた通りの役目は果たす。それが、今の彼の行動原理だった。
 聖杯戦争。聖杯に選ばれたマスターが集い、最後まで生き残った一主従だけが黄金の奇跡にその手を掛けることが出来る。
 彼女が次の絶望としてその趣向を選択し、世界を脅かすのに飽いて異世界にまで手を伸ばし。役者の一人として、自身を選んだ。
 彼がこの世界に留まっている理由は、それだけだ。
 もし聖杯戦争に彼女が噛んでいなかったなら、彼は速やかに自分のサーヴァントを自害させ、戦争が終わるまで無為に時間を費やしたろう。
 しかし、戦う理由が出来た。彼女は自分にそういうことを望んでいる。


680 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:02:49 P4.7FAE60
 彼は、魔術師ではない。
 数多の才能の一環、あるいは知識の片鱗として道理は理解しているが、実際に魔術を行使して現実に不可思議を引き起こした経験は皆無だった。
 それでもアヴェンジャーは、この男は間違いなくマスターとしては最強の一角だろうと踏む。
 
「ハ――ならば良いだろう。束の間程の時間だが、オレは貴様の走狗として都市を駆ける」

 一つの絶対的な希望を作り出すために、一人の少年にあらん限りの技術と知能を詰め込んだ。
 そうして生み出された希望が、母の胎から生まれ落ちた人間に劣る道理がどうしてあろうか。
 
「だが、お前はまず知っておく必要がある」
「何をでしょう」
「お前が退屈と十把一絡げに切り捨てた、この地に集った願いの全て。その物語を、動機を! 貴様は理解し、既知としておかねばならん」
「……その必要があるとは思えませんが」
「お前は人間として完成されている、それについてはオレも認めよう。だがお前はヒトを侮りすぎている、それではいずれ足下を掬われよう。
 ……願う心が何を生むのか。……強き想いが何処へ至るのか。
 ―――恩讐の炎を! 奇跡を轢き潰すヒトの可能性を! お前は、知らねばならない!」

 地獄の如き監獄島を、絶望を跳ね除け踏破し、遂には凱旋し復讐を遂げたアヴェンジャー。
 彼はこの昭和時代に集まった、全ての願いの持ち主を理解していた。
 監獄の看守が囚人のリストを持つように、彼はそれを承知しているのだ。

「では語ろう。
 ―――全ての願いを。
 ―――全ての祈りを。
 絶望の掌にありながら、希望を追い求めて踊る人間達の序章を」


681 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:03:45 P4.7FAE60
◇◆


「この女は、哀れな小娘だ。彼女ほど、健気という形容の似合う娘はそういない。
 無実の罪で投獄された父を救うために傀儡となり、どんな理不尽も噛み締めながら歩んできた娘」

 アヴェンジャーが最初に選んだのは、如何にも彼が選びそうな女の話だった。
 違うのは冤罪で投獄された側ではなく、冤罪で奪われた側ということだろうか。
 更に言うなら、彼女は復讐しようとも考えていない。性根から優しい人物なのだ、彼女は。
 可能不可能以前に、荒事に訴えるという選択肢がそもそもない。そこに付け込んで利用しようと目論む人間に糸を繋がれ、マリオネットに成り果てても、自分の人生全てを捧げて、いつ届くかも分からない救いの手を先の見えない闇の中へと伸ばし続けている。

「いつの時代も、幼さに付け入る悪意に底はない。
 滅私を貫き傀儡に徹したままでは、伸ばした手は永遠に届かなかったろう――そんな闇の中で、彼女は聖杯戦争という希望を見出した。
 死の神を名乗る剣士を従え、振り翳す大義の剣はさぞかし鮮烈に違いない」

 糸を断ち切ったマリオネットが、奇しくも今度は糸を手繰る側として舞台へ上がった。
 初めて明確な覚悟を――自分の手で大望を叶えるという執念を乗せて振るう剣術の冴えは、アヴェンジャーの言う通り底知れぬことだろう。
 
「そうでしょうか。話を聞く限り、僕には傀儡は傀儡、としか思えませんが」
「然り。だから言ったろう、これは哀れな少女なのだ。絶望に見初められることなく、もう暫し踊り続けていたなら……聖杯などという胡乱な奇跡ではなく、もっと真っ当な希望を背負った人間が手を引いてくれるやもしれなかったというのに」

 奸計の掌を抜けた先で、紋白蝶が止まったのは絶望の掌だった。
 彼女はまだ、そのことを知らない。自分が迷い込んだ場所こそが真の袋小路だなどと、想像すらしていない。 
 故にアヴェンジャーは憐れむのだ、幼い剣士を。希望に出会えなかった、不遇の娘のことを――


                                              (Side:Hope――01:刀藤綺凛&セイバー)


682 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:04:14 P4.7FAE60
◇◆


「綺凛ちゃん、またねー!」
「はい、また明日もよろしくお願いします」

 ぶんぶん手を振って見送ってくれる剣道部の先輩に、愛想よくぺこりとお辞儀を返して帰途に着く。
 今年から発足して結果の積み重ねなどあろう筈もなく、本来ならば目立った結果を残すこともなかっただろう無名校の弱小剣道部。
 口では頑張ろうとお互いを鼓舞し合っていても、心のどこかで誰も期待していなかった。
 二回戦まで進めれば健闘賞、三回戦の土俵を踏むことが出来たなら大勝利。その程度の意気込みでは当然、本気で優勝を志している剣士達に届くわけもなく、彼女達は強豪の荒波に揉まれて一人また一人と脱落していった――ただ一人を除いては。
 その剣士は、決して目立つ人物ではなかった。
 性格は控えめで内気、誰か特別仲の良い友人がいるでもなく、道場の片隅で黙々と自主練をしているような、良くも悪くも印象に残らない人物。
 彼女の人となりをよく知る者は部員の中に一人も居なかったし、好かれているわけでもなければ特別嫌われているわけでもない。
 故に、誰もが予想していなかった。件の彼女が立ち塞がる剣士の全てを寄せ付けず圧倒し、悠々と優勝旗とトロフィーを勝ち取ってくるなどと。

 現金なものと言えばそれまでだが、それから彼女……刀藤綺凛は皆の人気者になった。
 同学年からは天才として持て囃され、一緒に弁当を食べたり、放課後どこかへ行こうと誘ってくれる人が初めて出来た。
 先輩方からは自分達の誇りであり、また可愛い後輩として愛され始めた。綺凛が容姿端麗なことに加えて小動物のように庇護欲を誘う愛嬌のある人物だったことも幸いして、誰も見向きもしなかった少女剣士は一躍部のマスコット的存在に成り上がった。
 綺凛は件の大会で結果を残してしまった時、早まったかな、と思った。 
 セイバーに自分の力量を見てもらうためということもあったが、生来綺凛はそういう質なのだ。
 剣のことになると人が変わる。仮に何の大義名分もなしに大会へ臨んだとしても、綺凛はなんだかんだで同じ結果を収めたに違いない。
 聖杯戦争において、目立つ行動は厳禁だ。どこから足が付くか分からないのだから、極力社会への情報露出は避ける必要がある。
 その点、綺凛の行動はマスターとしては落第もいい所の愚策だったのだが……その愚策の末に彼女を囲むようになった新たな環境は、今まで経験したこともないような新鮮さに満ち溢れていた。

「……随分、ガキらしい顔になったじゃねえか」
「あ……すみません。その、こういうのにはあまり慣れていなくて……」

 父親を救うために、綺凛はこれまでの青春を叔父のプランに従いながら過ごしてきた。
 父が収監されてからというもの、自分のために使える時間はいつも必要最小限のものだけだった。
 だが、今は違う。皆が綺凛を友達として扱ってくれるし、先輩は沢山可愛がってくれる。
 友達に誘われて、初めて学校帰りにファーストフード店に寄った。ゲームセンターなんてところにも連れて行ってもらった。
 今、綺凛はかつてないほどに充実した学校生活を送っている。最初はやはり当惑もあった。こんなことをしていていいのだろうかと焦燥に駆られたことも一度や二度ではない。だが結局彼女は、周りの人達が向けてくれる好意を無碍に出来なかった。
 今日は帰りは一人だが、いつもはクラスメイトの一人二人が隣に居る。霊体化したセイバーとこうやって帰り道で話すのも、数日ぶりのことだ。

「別にダメって言ってるわけじゃねえ。……それに、お前くらいの歳ならむしろそれが普通だろ」

 セイバーはそんな彼女を、一度として咎めたことはない。彼は元々、聖杯に縣ける願いを持たない異端のサーヴァントだ。


683 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:04:39 P4.7FAE60
 聖杯を手に入れるために戦うというのならサーヴァントとしてそれに協力するし、仮に聖杯戦争を許せないというのならルーラーに反逆することも厭わない。
 要するに、彼は善のサーヴァントなのだ。綺凛が無辜の一般人を魔力源にせよなどと命じるようなことがあれば、きっとセイバーは反抗しただろう。しかし綺凛は、間違ってもそういった凶行に走るような人間ではない。
 願いを叶えたいという想いは強く抱いているが、結局のところ手段を選んでしまう。非情になりきれないのだ、綺凛は。何故なら、彼女は普通の女の子だから。
 セイバーは彼女を守るサーヴァントとして、綺凛に与えられた日常をずっと見ていた。自分の前では一度として見せなかった楽しそうに笑う顔や、頭を撫でられてこそばゆそうにする顔を見てきた。そうしている時の綺凛は、本当に幸せそうに見えた。
 
「その――ありがとうございます、セイバーさん」
「礼を言われるようなことをした覚えはねえよ」
「……だってセイバーさんは、私なんかのサーヴァントでいてくれますから」

 セイバーほどの優秀な英霊であれば、新たなマスターに鞍替えすることも難しくない筈なのだ。少なくとも綺凛はそう思っている。
 何より、綺凛は決して良いマスターではない。
 人間相手の剣術も、結局サーヴァントには有効打を与えられない。魔術の知識もない上に、行動も我ながら軽率なものばかりだ。
 頭だってプロの魔術師を出し抜ける程のものじゃない。自分より良いマスターなんてそれこそごまんといる筈。それなのに、彼は自分のサーヴァントでいてくれている。
 そのことが綺凛にとっては、とてもありがたかった。
 どんなにマスターとして駄目でも、根っこの部分は毛ほども揺らいでいない。綺凛は聖杯を求めている。聖杯で願いを叶えるために、自分の命さえ投げ捨てる覚悟がある。
 ただ、どれだけ覚悟があったところでサーヴァントが居なければどうにもならない。
 だからセイバーは、日番谷冬獅郎というサーヴァントは、刀藤綺凛にとって【最後の希望】なのだ。
 
 面と向かってむず痒くなるようなことを言われたセイバーは、やり辛そうに目を伏せ嘆息した。

「……直に、聖杯戦争も始まる。此処までの微温い前哨戦じゃなく、もっと本格的な戦争がだ」
「……はい」
「お前が聖杯を本気で取りたいってんなら、俺はその為に戦ってやる。だが、俺も万能じゃない。常に最悪の可能性は想定して動け」

 セイバーは自分の力を謙遜するような質ではない。
 これは、客観的な視点から語った事実だ。
 生前にもセイバーは、何度も敗戦を経験している。戦場とは常に予想外の連続だ。思い通りに進むことの方が圧倒的に少ないことを、これまで彼は身を以て経験して来た。
 自分が敗れ、綺凛を置いて消え去ることも絶対にないとは言い切れない。
 むしろその可能性は大いにあるだろうとセイバーは踏んでいた。問題は、その後だ。聖杯戦争は個人戦ではない。セイバー一人が大ポカをやらかして消滅する分には自業自得で済むが、残された綺凛は剣と鎧を剥ぎ取られた上で鉄火場に放置されるようなもの。
 願いを叶えることはおろか、生き延びられるかどうかも怪しい――

「――そして、決して絶望するな。最後の一瞬まで、諦めんじゃねえぞ」

 それでも、希望だけは捨てるなと。絶望に落ち、心に抱いた願いを諦めることはするなと、セイバーはそう言った。
 こんな見た目でも、生きてきた時間は綺凛よりもずっとずっと長いのだ。
 失礼な話、綺凛の方もその実感は正直なかったのだが、この時ばかりはそうではなかった。彼の言葉には、数多の苦楽を経てきた先人故の重みがあった。

「……はい!」

 その言葉に、綺凛が在りし日の師であり、父であった男の面影を見てしまったのも――無理のないことだろう。


684 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:05:29 P4.7FAE60
◇◆

 
「一方で、これは傀儡となることを拒んだ娘だ。世の不条理を否と嫌い、それに背いた女。
 敢えて茨の道を進むと決め、ただ一人、求道を続ける兄に殉ぜんとする願いの徒」

 恵まれた、何の不自由もないことを約束された温室――それを自らかなぐり捨て、吹雪の吹き荒ぶ外界へ出る。その決断に如何程の勇気が必要かは想像に難くないだろう。
 彼女は、余人には想像も出来ないような深い愛情の持ち主だった。
 ブラザーコンプレックスと言ってしまえば陳腐だが、彼女は実の兄を心から敬愛し、親愛を寄せていた。一族から見捨てられ、劣等たれと誰もに望まれた兄を。
 一族への背信と取られてもおかしくない言動を繰り返しながらも、しかし彼女が兄のように疎まれるということはついぞなかった。欲すれば与えられる、望めば叶う。その気になればいつでもそんな堕落した生活を送れるほど、彼女は恵まれていた。
 富も名誉も生まれながらに備わっていた名家の娘。今更我欲で聖杯に願うことなどある筈もなく、やはり彼女の願いは兄の為に捧げる祈りだった。

「あらゆる愛情で兄に報いんとする想いは狂気と隣接している。
 兄の味わった絶望を知るからこそ、彼女は決してその愛情を覆さない。故に彼女が聖杯を求む理由も一つだ。――兄に希望を。愛する男に贈り物を。
 如何に思う、マスターよ! この女は自ら望んで、狂気の側へと一歩を踏み出したのだ!」

 彼女は、傀儡になりたくなかったのだ。
 兄を排斥して絶望を与えた、忌まわしい家の人間達と同じになりたくなかった。
 別に、自分が彼と結ばれなければならないというわけではない。
 彼を幸せにしてくれる女であれば、最愛の兄を任せてもいい。
 それが兄の幸せならば、喜んで己は退く。そして事実、今彼の隣にはある女がいる。女の方も兄の方も、とても幸せそうに過ごしている。
 そう――彼らは聖杯などなくても。充分に、救われているのだ。

「救われた者に伸べた救いの手は、どうなると思う?」
「…………」
「取られることのない救いの手はな、悪魔が引くのだ」

 既に戻り道は消滅している。伸ばした手を引き戻す手段はない。
 やはり彼女もまた、虫籠に囚われた白い蝶だ。希望などどこにもないプラスチックの壁に体当たりを続け、いずれは落ちるが定めの小さな命。
 
「この時代は巨大な蜘蛛の巣だ。切なる願い程、麗しい蝶はなかろうよ」


                                              (Side:Dispair――02:黒鉄珠雫&ランサー)


685 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:05:57 P4.7FAE60
◇◆


 『神童現る』『冬木の天才剣士』『現代に蘇った剣聖』――そんないささかセンセーショナルに過ぎる市内新聞の見出しを見つめ、黒鉄珠雫は小さく溜息を吐いた。
 中学剣道といえば、レベルに大体の想像はつく。しかし市大会ともなれば、相応の強豪が並び立っていたのだろう。
 その中でただ一度の不覚も取らず、無名の一年生が全員を圧倒したというのだから、これほどの扱いもされて然るべきなのかもしれない。
 無名の剣士が実力を以って名を上げる。珠雫も、そういうエピソードには覚えがあった。
 世の中に星の数ほど存在するしがらみの鎖を引き千切る上で、実力で掴み取った【結果】を見せ付けることに勝る手段は存在しない。
 彼女の兄、黒鉄一輝もそうだった。自分の置かれた不遇な環境に恨み言の一つも吐かず研鑽を続け、遂には無冠の剣王(アナザーワン)と呼ばれるまでに至ったのだ。
 この少女がどんな人物なのかは知る由もないが、兄の姿を誌面から思い浮かべてしまうのだけはどうにも否めなかった。

 これ以上感傷に浸っていても、単に時間を無駄にするだけだ。
 そう判断した珠雫は新聞紙をテーブルの上に置くと、携帯端末を取り出そうとして、そこでこの時代には携帯電話がまだ普及していないことを思い出した。
 珠雫は生まれも育ちも現代、この時代からすれば近未来の出身者である。
 キーボードの操作一つで大概の情報を得られ、小型端末を持ち歩いていればそれをキーボードの代わりにすることだって出来る。今までどこかで当たり前だと思いながら使ってきた最先端技術の数々が、此処にはない。その不便さと来たら、形容し難いものがあった。
 それは、日常生活を送る上での話だけではない。聖杯戦争を効率的に進めようと思うなら、情報の収集は必須だ。
 使い魔を飛ばす初歩的な魔術の心得さえ持たない珠雫は、その段階でまず一般的な魔術師に対してハンデを背負っていると言って差し支えない。
 ただでさえそんな状況だというのに、携帯電話やインターネットが使えないのは痛すぎる。ままならないものだと、何度も珠雫はやきもきさせられた。

「文句を言っていても、始まりませんか……」

 自分に言い聞かせるこの台詞も、もう何度目だか分からない。覚えている限りでも、この冬木市にやって来てからかれこれ十回は口にしている筈だ。
 そう、今更文句を言ったところで状況は好転も悪化もしない。
 何故よりにもよって昭和の時代で聖杯戦争を行うのか、そこについては生憎さっぱりだ。
 もっと便利な年代が幾らでもあるだろうと、許されるならルーラーに文句を言ってやりたい思いもある。
 だがそれでも、諦めようとは思わない。魔術の心得がなかろうと、珠雫には伐刀術がある。深海の魔女(ローレライ)と恐れられた、戦うための力がある。
 細かい部分や情報面では確かに遅れを取るかもしれない。ならば、正面から力で潰すまで。
 ……どこかの誰かを連想するような脳筋加減で我ながら嫌になる思いだったが、それが最適解だという確信が珠雫にはあった。
 そして彼女のサーヴァントは、そういった単純戦闘でこそ最大限にその力を発揮できる。

「ランサー。居ますか」
「……出撃か」
「聖杯戦争が長引けば、それで痛手を被るのは私達の方でしょう。キャスターのサーヴァントを筆頭とした"入念に準備を整えることで猛威を奮うサーヴァント"を安全に撃破するためにも、此処でペースを上げておいて損はない筈です」
「同感だ。わざわざ不精に走り、小癪な妖術師共に花を持たせてやる義理もない。下衆共が肥え太る前に、我が腕を以って一騎残さず蹴散らすまで」
「期待しています」


686 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:07:01 P4.7FAE60
 槍などどこにも装備していない、まさしく巨人と呼ぶに相応しい剛漢。彼こそが黒鉄珠雫のサーヴァント・ランサーだ。真名を、戦国三英傑が一人――豊臣秀吉と云う。
 彼の拳を受け止められるサーヴァントは存在しない。槍のような鋭さと戦略兵器もかくやといった破壊力でもって、その拳を受けた物体は等しく粉々に砕け散る。
 珠雫はこれまでの戦いの中で、そうなったサーヴァントを何体も見てきた。
 珠雫のランサーは、強い。力こそが究極なのだと言外に知らしめる圧倒的な破壊力を持った彼は、既にこの冬木で幾つもの戦果を上げている。
 ――珠雫達は既に、他人の願いを踏み潰している。どうしようもなくなり、最後の手段として聖杯に縋り付いた哀れな者を蹴散らして、今日この日まで生き延びてきた。
 
 それだけではない。珠雫達が倒したのは何も、サーヴァントだけに限った話ではないのだ。
 宝具でドーム状の障壁を貼り、その中に籠城することでやり過ごそうと目論んだ主従がいた。
 それをランサーは事もなげに自分の拳で打ち砕き、そして――絶望を顔に浮かべたマスターとサーヴァントの両方を、彼は纏めて葬り去った。
 珠雫が直接手を下したわけではない。それでも、珠雫にはあの時ランサーを止めることが出来た。
 そうでなくても事を済ませた後のランサーを叱責し、過ちを繰り返さないように努めることは出来た筈だ。しかし彼女はそれをしなかったし、今もしていない。
 必要がなかったからだ。これは戦争。サーヴァントを失ったマスターが最後に助かるという保障もないし、再契約を行うことでまた自分達の前に立ち塞がってくる可能性だってある。ランサーの行動は聖杯戦争に臨む者としては、至極正しいものなのである。

「行きましょう、ランサー。私達の願いの為に」

 珠雫は、兄の為なら何でも出来る。そう思っているし、事実として今もその通りだ。
 この聖杯戦争に参戦することを決めた時も、そうだった。
 兄の為に手を汚し、そうして勝ち取った奇跡という名の希望を彼に贈ろうと思っていた。
 その想いは、今も変わってはいない。珠雫は勝つつもりで昭和の冬木に立ち、英霊を召喚した。
 私の願望(あい)を以て、全ての願望(ねがい)を打ち破る。
 そう宣言した始まりの日も今となっては大分前のことになるが、あの時と今では、一つ違うことがある。
 
 あの時の珠雫は、まだ綺麗なままだった。兄を愛する一心で戦争に参加することを決めはしたものの、禁忌の一線までは越えていなかった。
 だが、今は違う。直接的か間接的かの違いこそあれど、珠雫のせいで確実に一人の命が失われた。
 もはや黒鉄珠雫は綺麗な少女などではない。純潔を保っているだとか、見目麗しいだとか、そういう以前の問題だ。――人殺し。今の珠雫は、人殺しなのである。


687 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:07:23 P4.7FAE60

 元々、戻り道などどこにもない戦いだ。仮にあったとしてもその道を選びはしなかっただろうが、今となっては珠雫の意思は関係なく、後戻りは許されなくなった。
 仮に珠雫が聖杯戦争に勝利し、自分の願いを叶えて冬木を出ることが出来たとしよう。
 望んだ通りの奇跡を兄へと贈り、彼が誰からも疎まれず、理不尽を科されることもない幸福な世界を作り上げることが出来たとしよう。
 それでも、そこに居る自分は彼らの知る自分ではない。人を殺し、沢山の願いを踏み潰し、誰かの希望を踏み台にして帰ってきた絶望の罪人だ。
 その時私は、今までのように笑えるだろうか。兄やステラ・ヴァーミリオン、ルームメイトの彼へいつも通りに接することが出来るのだろうか。

 そんなことが、許されるのだろうか。

(……構わない)

 弱気を起こしかけた自分を叱責し、止まりかけた足を強引に動かして家を出る。春の冷風が肌に痛かったが、気にも留めない。
 聖杯戦争に参戦した時点で、こうなることは必然だったのだ。サーヴァントなんて存在を呼び出し、互いの願いを懸けて行う殺し合い。
 これで死人が出ない筈がないし、誰かを殺さずに勝利することなど出来る筈がない。遅かれ早かれ、いつかはこうなっていたのだ。自分の場合は、それが少し早かったというだけのこと。聖杯戦争が進行し、重要な局面で要らない迷いを抱くよりはずっとマシに違いない。
 そう自分へ言い聞かせながら、珠雫は今日も戦いへ向かう。
 
 ――そんな彼女の胸には、もう一つ懸念があった。

 穂村原学園。彼女がロールの一環として通っている、こう言っては悪いがありふれた学び舎だ。珠雫は当然、クラスでも目立たないように努めていた。
 別段友人も作らず、登下校は当然一人でする。元々、不登校生は悪目立ちするというだけの理由で通っている学校だ。必要以上のものをそこに望んではいないのだったが、ある日、珠雫は此処にある筈のない名前を見つけてしまった。その時の驚きたるや、言葉にし難いものがある。
 実際に顔を見たわけではない。……もとい、顔を見る勇気がない。
 もし本当にそれが珠雫の知る"彼"だったなら、どんな顔をすればいいのか分からなかったからだ。

 自分のルームメイトであり、姉のような存在でもある"彼"。
 彼は今の自分を見て、どう思うだろうか。――珠雫は、彼の顔と名前を脳裏の片隅に追いやった。今は、何も考えたくなかった。早く帰って眠りに就きたかった。


688 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:07:49 P4.7FAE60
◇◆


「正義とは何だと思う? ――答えは【傲慢】だ。正義などという定義の困難な理屈を並べ、耳障りのいい綺麗事を並べながら悪を誅する。
 更に質の悪いことだが、正義は時に過つ。無実の罪で悪の名を着せられた者は、どれだけの時間が経とうと薄れることのない恩讐を内に飼って生き続けるのだ。
 ……何時か正義に報いを与える日を夢見て、な。これを傲慢と呼ばずして何とする」

 後半の話は、恐らくアヴェンジャーの実体験に基づいた話なのだろうと青年は推察する。
 辛辣な物言いとは裏腹に、彼はこれから語る主従のことを高く飼っているように見えた。
 実際この主従は――特にサーヴァントの方は、今回の聖杯戦争に招かれた全ての英霊を引っ括めても最も異端な在り方の持ち主だ。
 何と言っても彼女は聖杯戦争の原則、神秘の秘匿という概念を完全に無視している。白昼堂々霊体化もせずに人前に姿を現して、何をするかと思えばアメリカンヒーローの真似事だ。悪人は許さないと豪語し、市民の味方を名乗り、挙句の果てに真名を街のド真ん中で高らかに宣言する始末。
 もし頭の硬い魔術師が見たなら卒倒してしまうのではないかと思うほど、そのサーヴァントは人目を憚ることなく冬木の空を飛び回っていた。

「あのライダーは【感染源】だ。断じて、英雄などではない。
 アレが正義を名乗って民衆の前に現れる度に、無知な民の価値観がアレの形に固定されていく。彼女が庇うなら正義、彼女が拳を向けたなら悪――といった具合にな。
 時に希望は伝染する。……だがオレに言わせれば、アレが振り撒いているのは熱病だ。アレが正義の象徴となれば、いずれ監獄のような社会が出来上がるだろう」

 個人の正義が基準点となった世界は地獄だ。
 俗にディストピアと呼ばれる管理社会も、あるいはそういった個人の秩序が感染源となり、それが社会全体に伝染していくのをきっかけに誕生するのか。
 しかし、当の彼女にその自覚はない。彼女にしてみれば、自分に与えられた正義という役目を誠実にこなしているだけに過ぎないのだ。
 だからこそアヴェンジャーは、彼女を興味深い女だと思っていた。志半ばで無謀な行いの報いのように死ぬのか、それとも正義の戦士らしく誰かを助けて力尽きるのか。
 仮に聖杯の前に立ったなら、彼女は聖杯を善悪のどちらに定めるのか。
 興味は尽きないが――、一つ彼には解せないことがあるようだった。

「ライダーのマスターは嘘を吐いている。そしてライダーは、間違いなくそれを認識している。だが、一向にそれを糾弾する気配がない」
「……単に、主従仲を考慮して抑えているだけではないのですか」
「いいや、違うな。奴にそんな利口な真似が出来るとは思えん。……あるとすれば、奴もまた何らかの変化を起こしかけているのか。
 いずれにせよ、確かなことは一つだ。――この主従には先がない。比喩ではなく、文字通りの話だ。人の手によって再現された人格は自壊を引き起こし、遠からぬ内に記憶(データ)が暴走を始めるだろう。そうなれば、正義を従える娘は人間の敵になる。
 正義の使者たるライダーに討たれて然るべき、狂乱した徘徊者(ワンダラー)へと変貌する」

 正義を従える作り物の心は、こうしている今も砂の城のようにボロボロ崩れ続けている。
 今は先延ばしにされていても、タイムリミットは必ず来る。奇跡は決して起こらない。
 あのライダーだ。どんな逆境に立たされようと、どんな悲劇を目にしようと、たとえ自らのマスターを自分の手で破壊する事態になろうとも、決して絶望はすまい。
 では、そのマスターはどうか。
 崩れていく心と思い出の中で、彼女は最後まで微かな希望の光を見続けることが出来るのか。

「……記憶(データ)、ですか」

 完全者の青年が呟いた言葉の意味は、アヴェンジャーにも理解の出来ないものだった。
 いや――彼自身も、それを理解出来ていなかったのかもしれない。


                                              (Side:Hope――03:アイラ&ライダー)


689 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:08:29 P4.7FAE60
◇◆


 盛大に倒壊した建造物を前にして、ライダーのサーヴァント、アースちゃんは顔を顰める。
 まだ警察は駆け付けていないようだが、明日の朝には新聞の一面を飾るだろう。戦車砲か何かを撃ち込んだように派手な倒壊の跡は、明らかに自然ではあり得ないものだ。
 幸いなのは、倒壊したマンションは既に廃墟となって久しかったことか。
 仮に住人が中に居る状態でこれだけの破壊力をぶつけたなら、どれほどの大惨事になっていたか考えただけでもゾッとする。
 大方メディアは過激派テロリストの犯行とでも解釈し、思い思いの憶測で事件を報じるのだろうが、アースちゃんは真相がそうではないことを知っている。
 人間の悪意よりもずっと恐ろしい、巨大な悪の力が影にあることを知っている。

「……サーヴァントめ。なんてやつだ」

 かく言うアースちゃんも、聖杯戦争に際して召喚されたサーヴァントの一騎だ。
 しかしアースちゃんは、善良な市民の生活を脅かして自分勝手な戦いを繰り返す悪いサーヴァントを心の底から嫌悪し、許せないと思っている。
 彼女が人前に堂々と姿を現し、彼らのために戦っている理由はそこだ。
 サーヴァントやマスターの身勝手な都合で傷付けられ、幸せな日常を奪われる悲しい人が生まれない為。彼らを守る為になら、アースちゃんは自分の安全を顧みない。
 街中で魂喰いや戦闘など始めようものなら、彼女は黙っちゃいない。
 威勢よく雄叫びをあげながらその場所へ急行し、許し難い悪の英霊を必ず成敗する。
 ――たとえそれが、聖杯戦争のセオリーに反していようとも。あくまでアースちゃんは、自分の信じる正義を振り翳して戦う。

「許せない。もし私の前に姿を見せたなら、その時は覚悟してもらうぞ」

 アースちゃんは、頭が固い。
 作られた存在だからといえばそれまでだが、あまりにも正義の基準が極端すぎるきらいがある。
 そんな彼女のことだ。――もしもその目に、その心に悪と認識されたなら、たとえ聖杯ですら彼女の成敗対象となり得る。
 彼女は悪が嫌いで、弱い者いじめが嫌いで、嘘つきが嫌いだ。
 聖杯のもたらす奇跡とやらがそれに当て嵌まる【悪いもの】だったとしたら、アースちゃんはそれを許さない。彼女は、そういう英霊なのだ。そう願われた正義なのだ。

「……そろそろ、アイラも帰ってる頃かな」

 そして今、アースちゃんは一人きりではない。
 彼女もサーヴァントである以上、当然の理屈として彼女を召喚したマスターが存在するのは自明だ。
 強く凛々しく戦うアースちゃんとは全く違って、彼女のマスターは"戦えない"マスターである。
 魔術など使えないし、超人のように特別な力を持つわけでもない。ただ一つ人間と違うのは、彼女が人間の手で作られた精巧な機械……アンドロイドであるということ。
 とはいえ、端から見てそれに気付ける者はまずいないだろう。それほどまでに、彼女はよく出来た人工知能(こころ)を持っていた。
 同じ作り物でも、そんなだから彼女は馬鹿正直な正義しか貫けないアースちゃんよりも数段人間らしい。

 アースちゃんの目から見ても、彼女……アイラというマスターは"いい子"だった。
 人に迷惑をかけたがらず、聖杯の為に人を殺すなんてことは考えもしない正しい少女。
 ただ、アースちゃんは時々アイラが分からなくなる。
 ――彼女は自分に、ずっと嘘を吐いているからだ。それが何かは分からない。しかしアースちゃんには分かる。アイラは、自分に何かを隠している。
 昔のアースちゃんなら、その時点で彼女を嘘つきと糾弾していただろう。嘘つきとは仲良く出来ないと言い放ち、マスターそっちのけで自分の正義に没頭していた筈だ。
 そう、昔の彼女ならば。嘘と悪をイコールで結んでいた頃の、あの魔女っ娘に出会う前のアースちゃんならば。
 
「……やっぱり、難しいな……」

 アースちゃんは困ったような顔をして、記憶の中のとある嘘を思い返す。
 あの夜、魔女っ娘に見せてもらった夢。戦いも正義も悪もない、安らぎに満ちた幻想。

 ――アースちゃんというサーヴァントに願いごとがあるとすれば、それはもう一度あの幻想(うそ)の世界に行くことなのかもしれない。


690 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:08:55 P4.7FAE60
「アイラちゃん、今日はもうあがっていいよ」
「……? 退勤時間にはまだ一時間ほど早いですが……」
「いいっていいって、隠さなくても。アイラちゃん、今日あんまり体調よくないんでしょ?」

 そう言われて、動揺の表情を隠せたか分からなかった。
 ぺこりと頭を下げて気を利かせてくれた店長にお礼を言い、足早にその場を後にする。
 制服から私服に着替え直し、無人の更衣室でアイラは自分のこめかみに手を当て、静かに奥歯を噛み締めぎりりと音を鳴らした。
 アイラに与えられたロールは、冬木市に住む大学生というものだ。
 地元のスーパーでアルバイトをしながら一人暮らしをしている、どこにでもいるような普通の娘。
 だが、本当は違う。アイラは人の手によって生み出された心を持ったアンドロイド、"ギフティア"だ。
 ギフティアは、81920時間の耐用期間の間だけは本物の人間のパートナーとして一緒に生きることが出来る。彼らの生活を豊かにし、家族や恋人を失ってぽっかり空いた心の隙間を埋めることが出来る。耐用期間の間だけは、人の心に寄り添うことが出来る。
 ただし、あくまでそれは81920時間という短い時間の内だけだ。
 それが人工の心の限界。それを超過した瞬間に、彼女達は人間の敵になる。

 アイラも、そうなったギフティアを見たことはあった。
 人格と記憶を崩壊させながら暴走する姿はあまりに悲しく、こういう事態を生まないためにも、人間とギフティアの別れは必要なものなのだと強く感じたのを覚えている。
 ――今でも、覚えている。覚えているのに、彼女は今もこうして活動を続けていた。

 耐用期間の終わりを迎え、アイラは機能を停止した筈だった。
 いつの日かの再会を願いながら、未練などなく意識を閉ざした。
 こぼれ落ちて消えていく筈の心はしかし誰かの手のひらで拾い上げられ、【もう一度】のチャンスを与えられることと相成った。
 それが、聖杯戦争。幕を閉じた筈の恋に続きを与えることが出来る、奇跡の行方を懸けた戦い。

「私は……」

 アイラは今でも迷っている。聖杯を手に入れるために戦うべきなのか、それとも潔く恋の続きを諦めて、再び目を閉じるべきなのか。
 ギフティアは人を助けるために生み出された存在だ。そのギフティアが誰かの願いを踏み躙って我欲を優先するなど、本来なら言語道断の行いである。
 しかし、諦めたなら今度こそ此処で終わりだ。"もう一度"は、今度こそない。
 如何に回収部署、ターミナルサービス課の一員として別れを割り切っている彼女でも、こればかりは機械的に選択することは難しかった。
 すぐには決められない。だが、残り時間は着々とゼロに近付いている。

 店長は自分を体調が悪そうに見えると言っていたが、アイラにはその自覚は全くなかった。
 如何なる手段で自分の人格が延命されているのかは、定かではない。
 それでも――遅らされている崩壊が限界に達し、自分が自分でなくなる日は遠くない。そうなった日のことを、アイラは考えたくなかった。
 アイラは、答えを出さなければならない。今ならまだ、答えを選ぶことが出来る。それすら出来なくなる前に、プラスティックのメモリーの行方を定めなければならない。
 更なる希望を求めるか、未来に希望を託したまま消えるか。
 どちらにせよ、確かなことが一つある。
 
 ……アイラは、アースちゃんを裏切ってしまう。それだけは、揺るぎようもなく確かだった。


691 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:09:22 P4.7FAE60
◇◆


「愛する物の堕落――いや、変化を許せないのは全人類に共通した悪癖だ。女であれば容貌の劣化。宗教であれば教義の変遷。国家であれば在り方の変化。
 それが堕落と呼ぶべきものか否かは個人の思想に拠るが、大概は心の中に不満こそ抱けど、時間の経過と共にその変化を受け入れていくものだ。
 だが希に、その"受容"が出来ない人間が存在する。そういう者が怒りと歪んだ使命感を蓄積させていくと、何が起こると思う?」
「革命、ですか。それはまたありふれた話ですね」
「そう、ありふれた話だ。――それだけに恐ろしい。この手の人間の決意は短絡的な手段として外界へ発露し、数多の屍を積み上げるのだ」

 今回は、国だ。自分の祖国が腐敗していく様子を受容できずに、このマスターは立ち上がった。
 ペンの代わりに銃を取り、物理的な力を以って祖国に革命の嵐を吹かせんとしている。……いや。正しくは"していた"というべきだろうか。
 彼はこの冬木を訪れる前に、自分の全てを懸けた戦いに敗れている。
 全てとは、金の話ではない。自分の命すらもチップとした死のギャンブルに難攻不落の嘘(小細工)を抱えて臨み、涎を垂らした死神に喰い尽くされた。
 彼の革命は一度失敗している。無念の内に生涯を終え、そこを聖杯に見初められた。

「先のライダー・アースの話ではないが、極端過ぎる思想は等しく傲慢の領域に達する。
 過ぎた傲慢は狂気だ。この革命家が持つような狂信の思想は、力を持たない人間にとっては災害よりも尚恐ろしい脅威として君臨する。
 ……奴が変わっていない、以前の奴のままであればな。
 果たして絶望の楔を打たれた狂信者は、それでも悟ったような顔で大義を実行できるのか」

 それが分岐点だろうと、アヴェンジャーは言う。
 この革命家は彼の言う通り、力なき者にとっての天敵だ。
 対話の前に相手を殴る、切り札ではなく前提としての暴力行使。
 何の心得もない人間であれば、抵抗することも出来ずに蜂の巣にされる未来さえあり得るだろう。
 そして質の悪いことに、彼の引いたサーヴァントがそもそも兵器、脅威という言葉に人の形を与えたような存在と来ている。
 彼らは間違いなく、この聖杯戦争全体で見ても上位に食い込む戦力を持った主従の筈だ――しかしアヴェンジャーはこうも言った、彼は楔を打たれていると。

 それは死の記憶であり、死の恐怖。克服した筈の感情を、死の寸前で取り戻すという絶望。
 
「それが出来るのならば大したものだ。その狂信は必ずや、他の願いを跳ね除けて進撃するだろう。
 だが出来ぬのならば、奴に未来はない。――何しろ背を預けるサーヴァントが悪い。最悪だ。聖杯の性根の悪さが透けて見える。
 奴の言葉を借りて言うならば、それも天命というヤツなのかもしれんがな」

 アヴェンジャー、復讐の権化をしてこう言わしめる英霊。
 子女の殻を被って妖艶に笑うその鬼は、彼の言葉通りの怪物である。
 常人では、あの大鬼を従えられない。恐れという感情をそもそも抱かない狂人でもなければ、逆に取り殺されてしまうのがオチだ。
 死の峠を乗り越えた革命家は、まだ自分の中の狂気を保っていられるのか。
 万一彼が、彼女の前で恐怖の感情を思い出すことがあったなら――きっと、それが彼の最期の時だ。


                                              (Side:Dispair――04:佐田国一輝&アサシン)


692 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:09:58 P4.7FAE60
◇◆


 革命家のマスター、佐田国一輝を取り囲む環境は元世界のものと然程変わらなかった。
 即ち、国際手配中のテロリスト。佐田国と志を同じくする同志達の顔触れも、佐田国が知るものから誰一人として変わっていない。
 現在は聖杯戦争の舞台である冬木市に潜伏しながら、来るべき聖戦の時を待機している状況だ。
 
「愚かな連中め」

 同志からの報告を受けて、佐田国は心底の軽蔑を含んだそんな台詞を口にした。
 彼らの話によれば、現在冬木市内では聖杯戦争の原則を忘れたマスター達による大規模な戦闘の痕跡が数多く確認されているという。
 廃マンションの明らかに不自然な倒壊。住宅街を襲った原因不明の大火災。
 ――極めつけが、一際異質な威容で冬木郊外に君臨している"城"と、何一つ憚ることなく人前に姿を現し、真名を公開し、勧善懲悪を謳って飛び回るアースなる英霊だ。
 その馬鹿としか形容のしようがない行いのせいで、冬木の警察は警備の目を明らかに強化している。
 この世界に暮らすNPCの安寧など、佐田国に言わせれば視界に入れるにも値しない些事である。だが、彼の戦力の一つである同志達はそうは行かない。彼らはあくまでこの世界の住人なのだ。加えて件の人間衛星アースは、英霊であるだけに無視することも出来ない目障りな存在だった。

「全くだ。自殺願望があるならば、速やかに首でも括ればいいものを」
「同志佐田国、如何にする? アースを落とすことは俺達には出来ないが、愚かなマスターを探るくらいなら俺達にも可能かもしれんぞ」

 佐田国がNPCを軽視しているのは先に述べた通りだが、彼は革命に賛同する同志に限ってはその生命を重んじ、尊重するつもりであった。
 彼は早々に聖杯戦争についてを彼らに打ち明け、それを信じさせることに成功。
 聖杯戦争を有利に進める為の"強力な暴力を持った手駒"を、首尾よく入手することが出来た。
 彼らの協力がなければ、強力な銃器を調達することも難しかっただろう。いざとなればアサシンを使って警察なり暴力団なりを襲撃して入手しようかとも思っていたが、必要最小限の動きで獲得出来るのならばそれに越したことはない。
 優秀な同志に恵まれたことを、佐田国は心の底から感謝する。彼らに報いる為にも、今度こそは必ず革命を遂げねばならぬと兜の緒をより一層固く締め直した。

「そうだな。わざわざあの淫売に暴れる場を与えてやることもない――狙いはマスターに絞る。
 奴らは決まって撃てば死ぬ。どだい俺達の革命を邪魔立てする度し難いゴミどもだ。ガキだろうが容赦をする必要はどこにもない」

 革命の完遂を妨げる障害物は、彼らに言わせれば等しく屑だ。
 掃討されるべき悪であり、のうのうと息をしていることすら度し難い。
 女だろうが子供だろうが、彼らはそれを殺すことに微塵の罪悪感も覚えはしないだろう。
 その程度のことで引き金に乗った指を止められるのであれば、そもそも彼らは革命などという大それた野望を志してはいない。
 敵ならば殺す。聖杯戦争の参加者は皆殺しだ。
 何故なら生かしておく理由がない。彼らにとって他人の願いや希望など、聖杯へ至る道へ敷き詰める肉の煉瓦と何一つ変わらないのだから。

「マスターを狙うというのであれば、穂村原学園への襲撃も視野に入れておくべきだろう。此方から働きかけなくても勝手に人が集まってくれるんだから、それを一網打尽にしてしまえばいい。あれだけの生徒数が居るのだから、一人や二人の当たりはあってもおかしくない」

 同志の提案に、佐田国は頷く。
 本来の形式の聖杯戦争ならば兎も角、今回のような形式であれば、学生のロールを与えられ、日常の中に潜伏しているマスターも一定数存在する筈だ。
 彼らが日常の一環として向かう学校を襲って武力を行使すれば、成程簡単に数が稼げる。
 とはいえそれだけの大事をしでかすとなると、相応の準備は必要だ。
 自分の素性を晒すことなく速やかに、且つ確実に大量の命を殺戮しなければならない。
 この時ばかりは、佐田国が蛇蝎の如く嫌うアサシンも動かす必要があろう。
 だが、あくまでそれは念の為の備えだ。佐田国の予想では、教室内部に向けて機関銃の一丁でも乱射してやれば、殺戮行為自体は恙なく進めることが出来る。
 実際、外国のテロではよくある手口だ。対テロリストの備えが脆弱な、ましてや昭和後期の日本で通用しないとは思えない。

(この戦い、勝つのは俺だ。俺は自分の勝利を信じている。今の俺にはあの時以上に、己の望む天命を引き寄せる力が宿っている。……強いて問題を挙げるならば……)

 佐田国は、自分が遅れを取る可能性など微塵も考えてはいなかった。
 彼がただ一つ警戒している存在を挙げるとすれば、それは――


693 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:10:14 P4.7FAE60
「そんなに怖い目ぇせんと。寄って来る女(もん)も寄って来えへんよ?」
「耳が穢れる。戯言を吐きたければ壁を相手にしていろ、売女が」

 鬼の長角を頭から生やした、露出の多い和装の少女。瑞々しい葡萄の乗った杯と瑠璃色の酒瓶を携えた彼女からは、絶えず果実系の酒気が漂っている。
 これは人の理性を溶かして骨抜きにする、魅了の毒だ。
 佐田国の同志達は既に拠点を出ていたが、もしも彼らの前でアサシンが酒気のスキルを発動したなら、彼らは一秒と保たずに蕩けて使い物にならなくなるだろう。
 佐田国自身、彼女を抑えるのに令呪一画を要した。
 
「もう、親切で声掛けてやっとんのに。……そろそろ本格的に聖杯戦争が始まるさかい、旦那はんにも一応伝えといてやろうと思ったんよ?」

 彼女が強いか弱いかで言えば、疑いようもなく強い。それは、佐田国も認める。
 サーヴァントが彼女だから、佐田国は戦力面では全くと言っていいほど不安を抱かずにいられるのだ。その華奢で弱々しい見た目からは信じられないことだが、彼女を真っ向から打ち倒せる英霊はそうは居まい。聖杯を手に入れようと思ったなら、彼女は間違いなく最上に近いカードだ。
 ……戦力としての側面だけで見たならば、そうなる。
 しかしもう一度サーヴァントを召喚する機会が与えられ、サーヴァントを鞍替え出来るというのなら、佐田国は一瞬も迷わずにこのアサシンを切り捨てる。
 彼がアサシンのように浮ついた人格の持ち主が嫌いだという事情も、確かにある。とはいえ、彼女の本質を理解したならそれしきのことは忽ち些事に成り下がる。

 アサシン――酒呑童子は怪物だ。討伐されるべき魔物であり、英霊などでは断じてない。
 革命家・佐田国一輝ではなく一人の人間として、この鬼がのさばることを許してはならないと本能が警鐘を鳴らしているのだ。
 佐田国にとって、アースよりも他の強力なサーヴァントよりも、自分の呼び出してしまったこの鬼こそが何よりも大きな悩みの種だった。
 
「それを知ったところで、俺の、俺達のすべきことは何も変わらん。
 革命という偉業を成すために、使える力は全て使う。誰でも殺す、幾らでも殺す。
 糞ほどの価値もない余興をとっとと終えて、聖杯を持って我らの日本国に凱旋する。
 ――貴様をこの冬木に参じた者の誰よりも激烈な地獄へと突き落としてから、な」

 泣く子も黙る、とはまさにこのようなことを言うのだろう。
 視線で人を殺せるのではないかと錯覚してしまうほどの殺意を込めた眼光を向けられて尚、アサシンは動じた様子もなくケラケラ笑うだけだった。
 アサシンから見ても確かに佐田国はイカれた狂人だが、鬼の頂点である彼女にしてみれば、狂気など酒のつまみにかっ食らう肴に過ぎない。
 要はこれは、二人の間で繰り広げるゲームなのだ。
 食らうか食らわれるか、滅ぼすか滅ぼされるかのデスゲーム。
 かつて佐田国を恐怖と絶望のどん底に突き落とした"嘘喰い"にも劣らない破滅を背負った酒の悪鬼が、いつでも彼の側で嗤っている。

 楽しそうに、愉しそうに。


694 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:10:35 P4.7FAE60
◇◆


「彼はまさに、この聖杯戦争に呼ばれるに相応しい男だ。かつて希望を夢見て行動し、人の愚かさに絶望し、そうしてこの最果てに辿り着いた。
 悲しいと涙を流し、奪われる者達の胸中を想像して心を曇らせる。それほど人間味を残しておきながら、しかし己の理想を捨て去ることは選択肢に入ってすらいない。
 まさしく此奴はあの女が望む絶望だ。さぞかし期待していることだろうよ、奴も」

 男の心はかつて、若い希望で溢れていた。
 争いのない世界を作りたい。それは真っ当な価値観を持って生まれた人間であれば、誰もが一度は志し、しかし現実を知ると共に諦める夢物語。
 貧困層の救済を続ける中で、彼も例外なくその現実に直面した。
 争いの根絶された世界は、きっと実現できる。そんなか細い希望を胸に、身を粉にして奔走し続けた男の努力が報われることはついぞなかった。
 人類は彼の想像を超えて、どこまでも愚かだったのだ。
 彼はそれを知り、世界に失望し、打ちひしがれて――遂にはその心へと黒い灯火を輝かせるに至った。
 
「……確かに、それは的を射ているかもしれませんね」
「彼が絶望の末に悟ったのは真理だ。世界から争いという名の腫瘍を消し去ろうと思ったなら、真っ先に人類の存在が弾き出される。
 だがその結論へ達した人間は、何も彼だけではない。言ってしまえばこれも、先の革命家と同じでありふれた話だ。救済者の末路としては定番と言ってもいいだろう」

 この聖杯戦争で、彼が立ち止まるきっかけを見出すことはあり得まい。
 聖杯の巡り合わせはかくも悪辣だ。
 失望と絶望の末、世界には選民――淘汰による救済が必要であるとの思想に至った男へ、最終戦争という終わりを望む現人神の英霊をあてがった。
 これではブレーキの壊れた車を、坂道で爆走させるようなものだ。
 勢い付いた絶望は、涙を流して悲しみながら、多くの人々から生きる望みと明日を奪い去るだろう。聖杯の奇跡を死神の鎌に変え、そうして世界を救うだろう。
 ――全ては争いのない、美しき世界のために。癌であり害虫である人類は、死の厳罰を以って犯した罪の全てを清算すべきである。
 彼らは真面目な顔で、そんな狂気を吐き散らす。

「あの現人神が勝利したなら、世界の命運は尽きるだろう。人類は彼らが謳うように、皆殺しという結果で救済される。――もとい、滅ぼし尽くされる。
 それが嫌だというのなら、殺すしかないぞ人類よ。人類の掃滅者を名乗る二つの絶望を撲殺することで、己が希望を、未来を勝ち取るが良い!」


                                              (Side:Dispair――05:フラダリ&キャスター)


695 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:11:17 P4.7FAE60
◇◆


 昭和の町並みを俯瞰しながら、マスター・フラダリは室内灯も点けずに窓際へと立っていた。
 此処は、ポケモンという生き物の存在しない世界。カロスなどという地域は地球上のどこにも存在していない、フラダリにとって全く知慧のない異世界である。
 フラダリの知る世界では、人々の暮らしには良くも悪くもポケモンが密接に関わっていた。
 そのポケモンがただの一匹も存在しないこの世界の有り様は、フラダリの目にはそれはそれは見慣れないものに映った。
 ――だが、根っこの部分では同じだ。
 人間の本質は、世界の垣根を越えた程度では変わらない。この冬木市に住まう者達もまた、かつて己を絶望の淵へと追いやった人類と同質の愚かしさを孕んでいる。
 争いが止むことは彼らが生きている限り決してなく、我欲の為に他者を傷付け蹴落とすことに何の呵責も抱かない邪悪が平気な顔をして彷徨くばかり。
 聖杯戦争の舞台となるこの世界を訪れてから、一体何度そう実感させられたことか。
 
「……やはり君は正しい、キャスターよ」

 いつの世も、あらゆる時代も、どんな世界であろうとも、闘争以外で人は救えない。
 ただの一つの例外もなく、あらゆる生命に下る天誅。
 それは闘争という名の審判であり、虐殺という名の救済である。
 それこそが秩序を齎す絶対の法だと、彼のキャスターはかつてフラダリに言った。
 平等に降り注ぐ死という厳罰でなければ、人類の犯してきた罪は決して贖えない。――その通りだと、フラダリは幾度目かも分からない同意を覚えて一人頷く。

「皆で美しき世界を望めば、世界は――未来は変えられる。
 ……綺麗事だ。それが出来るなら、とっくに全ての争いはこの世から消えていなければならない」

 フラダリには、未来が見える。堕落の未来が、破滅の未来が見える。
 誰かがきっかけを与えなければ、世界に訪れる未来はこの凄惨なる現在さえも遥かに下回る、一縷の救いも存在しない絶望の坩堝と成り果てよう。
 奪い合い、傷付け合い、殺し合い、果てなく汚されていく世界。
 想像しただけでも怖気が走る。拳は出血するほどに握り締められ、胸が義憤の炎で焦がされる。
 
 フラダリがやらなければ、どこかの遠い未来で、誰かが自分以上の悲しみを背負うことになろう。
 自分達の醜さも愚かさも自覚することなく、穢れた現在を当然のものと思い込みながら日々を過ごす人間の数はどこまでも増え続けていくことだろう。
 人間という生き物は、生まれついて絶望の隣人なのだ。
 欲という感情を持っているから、時に人は他者から奪い取る。
 分け合えないから、譲れないから、そうすることで自分を満たそうとする。


696 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:11:48 P4.7FAE60
 ―――歴史とは、一言その繰り返しだ。無限に繰り返されてきた、そしてこれからも永遠に繰り返され続ける絶望のエンドレスループ。
 これまではそれで上手く行っていたかもしれない。だが、そんなものは絶対に長くは続かない。
 少なくともフラダリはそう確信している。このままでは、世界はやがて行き詰まる。
 自分達の罪を認めず、蛮行を重ねてきた報いとして、いつかその未来は閉ざされよう。

「愛するが故に鞭を振るう。痛みと喪失こそ、世界を癒やすことの出来る唯一の特効薬だ」
「然り。そして全てを癒すとなれば膨大な激痛が必要になる。我々は痛みを以って、より大きな痛みを手に入れるのだ」

 命は、選ばれねばならない。
 明日とは、未来とは、平等に訪れるものであってはならない。
 未来へ進む為の切符は限定されるべきだ。
 それこそがフラダリの願い。そして、キャスターの望む景色。
 人類に絶望した男と、人という種を刈り取るために出現した男が抱く人類最後の希望。

 とはいえフラダリの呼び出したキャスターは、神の如く凄まじい権能を持ったサーヴァントではない。
 彼を低く評価しているわけでは断じてないが、仮に彼を何の策もなしに突撃させるような真似を繰り返したなら、フラダリ達の先はそう永くはないだろう。
 万事が整うまでは慎重に、滾る意思の光を押し殺して冬木の闇に潜伏しておく必要がある。
 雌伏の時なのだ、今は。いずれ世界にその願いを届かせるための、大いなる準備期間。
 
「――首を洗って待っているといい、この冬木に集いし全てのマスター達よ」

 世界が生み出せる物には、必ず限りがある。
 それは金もエネルギーも、―――生命でさえも。
 全てを失うか、それとも一握の何かを救うか。
 それを決めていいのは、断じて人間などではない。

「救済の時は―――必ず訪れる」

 聖杯という神の道具によってこそ、世界の行方は真に定められるのだ。


697 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:12:14 P4.7FAE60
◇◆


「時にマスターよ。無間地獄という言葉に覚えはあるか?」
「……讒法、四重、五逆の罪を犯した者が堕ちる八番目の地獄。
 その苦痛は他の七大地獄に存在する全ての苦しみを合計した、更に千倍以上。
 ……間断なく極限の苦痛が押し寄せることから無間の名を与えられた、と記憶していますが――それが何か?」
「地上に居ながらその片鱗を味わったのだ、このマスターは。苦痛の程でいえば比べるべくもなかろうが、幼子にしてみれば大差はあるまい。極限の苦痛と恐怖、一縷の光もない絶望の海から漂着した、この冬木で最も深い闇を知る女だよ」

 彼女は、既に救われている。聖杯を手に入れるまでもなく、彼女の望みは叶えられた。
 鳥籠のように自分を取り囲む苦痛と恐怖。逃げ場などどこにもなく、毎日飽きることもなく、気の遠くなるような回数繰り返された『処置』という名の姦淫。
 ただの一度経験しただけでも一生残る外傷になり得るそれを、檻の中にも等しい狭く無機質で嫌な匂いのする部屋で何度も何度も繰り返す。
 人間という生き物が生きながらに無間地獄の片鱗を味わう方法があるとしたなら、まさに彼女の経験したものこそがそれに違いない。
 そんな地獄の真っ只中に置かれた人間が願うことなど、一つしかないのは明らかだ。
 ここを出たい。自由になりたい。誰でもいいから、助けてほしい――――
 そしてその願いは、サーヴァントという超常存在にしてみれば赤子の手を捻るよりも簡単に叶えられるものでしかない。
 いかに彼女を収容していた『財団』の力が強大であるとはいっても、サーヴァント……まして彼女が呼び出したバーサーカーレベルの存在ともなれば、ウォーミングアップにすらならない。発泡スチロールをカッターで切り割るようにあっさりと、呪われた花嫁を囲む格子は崩れ去った。

「されども、娘は理解していない。自分が解き放たれていることの意味もその重大さも、何もな。
 ――――七つの印、七つの指輪。淫王のための七人の花嫁、その七人目。
 あるいは聖杯を巡る戦いを終わらせるのは、未だ胎盤の内で眠っているだろう『何か』なのかもしれん。だとすれば、それは傑作なことだが」

 いつか必ず、その時は来る。
 それを防ぐために、世界は彼女に地獄を見せていたのだ。
 心を殺して冷淡に徹し、あらゆる罪の意識を消し去って、彼女を収容していた組織は最悪の事態から世界を守ろうとしていた。
 だがその防衛線は呆気なく突破され、花嫁は連れ出された。
 花嫁はまだ幼い。幼い腹を趣味の悪い風刺画のように膨らませ、明らかな心の傷を背負っている彼女の目を見たならば、大概の人物は義憤の心を抱くに違いない。
 それが正常な反応だ。だからこそ、彼女は恐ろしい存在なのである。
 誰かの良心の呵責が、起爆寸前の核爆弾を世界に解き放ってしまう。
 彼女に同情するというそのこと自体が、何よりも大きな災いに繋がってしまう。

「淫王の伴侶は、他ならぬ竜の王によって連れ去られた。
 クハハハハ! こう聞けば、なかなかどうして大衆好みの物語だ! どちらの王が勝ったとしても、世界の先行きが消え去るということを除けば、な!!」


                                              (Side:Dispair――06:SCP-231-7&バーサーカー)


698 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:12:53 P4.7FAE60
◇◆


 テレビも何もない廃墟の一室で、SCP-231-7と呼ばれていた少女は赤く熟した林檎を一口齧った。
 静脈を通じて体内に注入する、単に生命活動を維持するためだけの栄養液とはまるで違う。
 齧った果実の破片を飲み込むたびに、体がその味わいと栄養を喜んでいる実感がある。
 その林檎自体は別段上等なものでもなかったが、こうして普通に物を食べられるというだけのことが、少女には今や新鮮な感覚だった。
 
 この廃墟を仮初の拠点とし始めてから、数日ほど経過しただろうか。
 彼女は学校には通っていない。元の世界と同じく『財団』によって収容されていたところをバーサーカーが連れ出したという設定(ロール)のため、そもそも戸籍が存在するのかどうかからして怪しいし、知り合いのような都合のいいNPCも存在しない。
 手持ちのお金など一銭もなく、この時点で彼女は他のマスター達に比べて結構なハンデを背負わされていた。
 とはいえ、仮初の姿でいる時のバーサーカーは器用だ。このように食料の調達くらいなら魂喰いのついでに上手くやってくれるし、実際少女も特に苦労はしていない。
 朝、昼、晩。流石に三時のおやつまでは望みすぎだが、ちゃんと食事が与えられている。
 
 少女の日常と世界は、この狭く埃の積もった部屋だけで完結していた。
 窓から降り注ぐ光の量で昼夜を判別し、外には出ない。
 廃墟になる前の住人が置いていったのだろう本を読んでささやかな自由を謳歌する。それだけでも、ずっと囚われの身だった少女には十分すぎる幸福だった。
 
「――あ」

 少女の鋭敏な感覚が、自身のサーヴァントの帰還を感知する。
 パッと視線を気配の方向へ向けると、ちょうどバーサーカー――今はキャスターと呼ぶべきなのかもしれないが――が霊体化を解除したところだった。
 その見た目は、人間のものとはかけ離れている。
 奇妙な形に歪んだ頭部。そして、この地球上のどこにも持ち主のいないだろう水色の肌。
 彼の身長ほどの大きさがある長杖を携え、ローブで身を包んだ姿は、童話の世界から抜け出してきた悪い魔法使いのイメージとピッタリ合致している。
 その姿が仮初のものでしかないことを、今は彼女だけが知っていた。

「何か変わったことはあったか?」
「………」

 ふるふると少女がかぶりを振ると、バーサーカーは良しと答えて口を笑みの形に引き伸ばす。
 彼が毎日外で何をしているのか、詳しいことを少女は聞かされていない。聞けば答えてくれるのだろうが、彼女は一度もそういう質問をしたことはなかった。
 特に知りたいとも思わないからだ。
 彼女は今の現状に十分満足している。これ以上を望んで何かが壊れてしまうような事態になるくらいなら、ずっとこのままでいいとすら思っている。
 
「あの時そなたが囚われていた建物は確かに破壊したが、あの場にいた人間を皆殺しにしたわけではない。詳しい理由までは分からぬが、そなたは連中にとって余程重要な意味を持つ存在のようであった。所詮はNPC、しかしされどNPCじゃ。この場所を突き止め、そなたを再び攫いに来る可能性も決してゼロではあるまい」
「……ッ」

 少女の顔が一気に青褪める。小さな歯がカタカタと音を奏で出し、額には脂汗が浮いていた。
 バーサーカーの分析はごくもっともな話だ。NPCは聖杯戦争に参加する権利を持たない、言ってしまえば粗末な木偶である。
 だが、権利の有無以外はほとんどマスター達と変わらない。逆に言えばマスターがNPCに勝っている点など、目立ったものはそれだけしかないのだ。
 大の男数人に囲まれたなら、魔術や異能の心得がないマスターでは打開は厳しいだろう。幼く、それでいて妊婦でもあるSCP-231-7などはなおさらのこと。
 彼女を囚えていた『財団』は巨大な組織だ。万に一つでも発見されたなら、民間の警察とは比べ物にならないほど厄介な障害物となる。
 バーサーカーは他のサーヴァントによる襲撃と同じくらいには、件の組織の追っ手がこの場所を突き止めることを危惧していた。


699 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:13:12 P4.7FAE60

「なに、そう怯えずともよい。そなたのサーヴァントはこのわし―――『竜王』じゃ。同じサーヴァント相手ならばいざ知らず、人間ごときではわしにかすり傷一つ付けることは出来ぬ。……仮にサーヴァントがやって来たとしても、わしは負けぬがな。わっはっはっはっは!!」

 竜王。その名の通り、バーサーカーは竜種の王である。
 かつて一個の世界を恐怖のどん底に突き落とし、世界を掌握せんと駒を進めた最初の『大魔王』。
 
「わしを倒せる者がいるならば、それは『勇者』じゃ」
「勇者……?」
「かつて全世界の支配に王手をかけたわしは、一人の『人間』によって滅ぼされた。その人間はどんな屈強な魔物をも乗り越え、世界の半分を譲るというわしの誘いを蹴り飛ばし、遂には真の姿となったわしの心臓にその剣を突き立てた……
 あの勇者のような英霊がいたのなら、その剣がわしを滅ぼすということも万に一つはあり得よう。……もっとも、そんな人物がいるとは思えんがな」

 ほくそ笑むバーサーカーの顔は、しかし何かを懐かしむようにも見えた。
 自分の野望を頓挫させた勇者を彼は憎悪していないし、復讐しようなどとつまらない小悪党じみたことも考えてはいない。
 仮にあの勇者『ロト』のような……人の身で魔王を滅ぼすだけの勇気と力を持った英霊が現れたとしても、バーサーカーは逃げも隠れもせずそれを迎え撃つ。
 バーサーカー……竜王は破滅を恐れない。大魔王にとって恐怖とは既に克服『し終えた』悩みだ。

「わしは誰にも服従しない。サーヴァントという型に押し込まれてもそれは同じじゃ。
 もしもそなたがわしを手駒として扱うつもりならば、わしはそなたを見限るつもりだったが……聖杯をわしに捧げるというのだ、その考えは取り下げてもよかろう。
 それにわしの真の力をコントロールできるマスターが、そなたの他にいるとも思えんからな」

 バーサーカーに幼子を手篭めにして楽しむ趣味はない。
 聖杯を献上するというのならば、聖杯戦争が終わるまでは自身を従えるマスターとして守る。その後は元の世界に帰るなり、好きにすればいい。
 しかし彼女にバーサーカーを失いたくない理由があるように、バーサーカーにもこのSCP-231-7というマスターを失うのは避けたい理由があった。
 それはひとえに、異常としか形容しようのないその魔力プールだ。バーサーカーの真の姿……対文明宝具『竜王』は猛烈な性能を誇るが、しかしそれだけに膨大な魔力の消費という欠点を持つ。これを賄えるようなマスターはそうそういるものではない。
 あの時、彼女の収容されていた部屋でバーサーカーは宝具を開帳した。
 どの程度力が発揮できるかを試す程度の気構えだったが、動きにくさや肉体の衰えはまるで感じなかった。つまりそれは――バーサーカーの宝具の使用に余裕で耐えられるほどの魔力を、この妊婦の少女は保有しているという事実の裏付けに他ならない。
 魔力の問題さえ解消できれば、バーサーカーは無敵だ。どんな敵が立ちはだかろうとねじ伏せ、乗り越えてやれる自負があった。

「追々拠点をもっと立派な場所に移し、整える必要がある。……それに、何やら町の空気が妙じゃ。戦いの匂いがする―――早ければ今夜にも、聖杯戦争が本戦とやらに移行するやもしれん。気だけは常に張っておくのだぞ、〝キャサリン〟」

 キャサリン、それがSCP-231-7と呼ばれて久しい少女の本来の名前だ。
 そうとだけ言い残すと、バーサーカーは霊体化して姿を消す。
 この冬木市に、彼の思い通りに動いてくれる魔物達は存在しない。
 そのため細かな工作や索敵は、バーサーカー自らが出向いて行う必要があった。
 もっとも、そちらの方が都合がいいのも確かだ。拠点候補となり得る有力な場所に当たりをつけ、いざとなればそこを魔法で占拠してやることも出来る。
 判断して即座に実行へ移せるというのは、バーサーカーが自ら町に赴く貴重な利点だった。

(聖杯戦争が始まるまでに時間はかかるまい。アサシンにマスターの首を取られるような間抜けな事態は避けたいが、それよりも警戒すべきなのは―――)

 部屋を出る前、一度だけバーサーカーは振り返り、少女……キャサリンを見る。
 ……より正しくは、その膨らんだ腹を見る。

「……いたた」

 キャサリンは何も知らずに小さくそう漏らし、膨れた腹を労るようにさすっていた。


700 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:13:31 P4.7FAE60
◇◆


「天使と聞けば、ほとんどの人間は純白の翼を携えた、花のように美しく可憐な存在を連想するだろう。そして事実、それで合っている。

 そうだ、こいつは天使などではない。

 小陸軍省――孤独な軍隊。個にして軍に匹敵する精神性を持つ怪物。狂人だよ、この女は。聖杯はそれを見抜き、彼女へ狂戦士のクラスを与えた」

 この英霊が先天的に狂人となり得る資質を有していたのか、それともかの戦争に従軍してから後天的に狂気が発芽したのか、正確なところは定かではない。
 一つ確かなのは、彼女は自らが看護婦総監督として従軍したその戦争で、想像を絶する地獄絵図を目にしたということ。
 無理解が不衛生を蔓延させ、前時代的な規則の横行が正しい医術の施行を妨げる。
 救える命がゴミのように朽ち果てていく医療現場を前に彼女は奮起し、そして――『一度は戦時医院での死亡率が跳ね上がった』ものの、遂には四十パーセント近かった死亡率を五パーセントにまで落とし込むことに成功した。
 多くの領土を勝ち取ったわけではない。摩訶不思議な聖剣や道具を扱う資格を持っていたわけでもないし、そもそも戦闘の逸話がある英霊ですらない。
 それでも医療現場というもう一つの戦場で八面六臂の活躍をし、数え切れないほどの命を救ってみせた彼女は正しく近代英雄の一人と数えるに値する存在だ。

「……小陸軍省。なるほど、フローレンス・ナイチンゲール。クリミアの天使、ですか」
「違うな。
 言ったろう、この女は天使などではない。何故ならこいつ自身が決してそれを認めない。あくまで自分は人を助けるための存在だとして、数多の喝采を浴びながらもただの一度すら微笑まなかったのだ。―――ならばそれが真実。クリミアの戦地には一人の狂人がいただけだ」
「……………」

「そしてこの女を呼んだ男もまた狂っている。まともな人間ではない」

 鋼鉄の白衣、治療の魔人は自身を呼んだ少年をこう称した。
 病んでいる。治療を受けなければならない―――と。
 その通り。赤銅色の少年もまた、彼女とは違うベクトルで狂っている。
 彼は呪われている。過去という名の傷を胸で膿ませ、今もなお病み続けている。
 自己犠牲の極限。正義の味方という、決して救われない理想を抱えた贋作者の魂。
 それを知ってなお、その道を曲げないと豪語するのだ。
 彼が鋼鉄の白衣(ナイチンゲール)という狂人を引き当てたのと同じく、人の病み/闇に対して鋭敏な直感を発揮する鋼鉄の看護婦もまた、全身に転移した癌細胞のように根深く狂った男を引き当てた。それが、この主従の真実である。

「世界には無数の絶望が在り、それと同じだけ希望が在る。
 錬鉄の魔術師も緋眼の看護婦もそれを知っている。それだけに、彼らは手強い主従となろう。
 何故ならそれこそ、狂人の第一条件なのだから。強さは狂気の同義語だ。いつの世も、最後に栄光を掴み取るのは狂気の羅患者と決まっている」
 

                                              (Side:Hope――007:衛宮士郎&バーサーカー)


701 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:14:15 P4.7FAE60
◇◆


 冬木市。衛宮士郎がずっと暮らしてきた、よく知っているはずの町。
 だがこの冬木には、士郎の知らない景色が溢れかえっていた。
 単純に時代が数十年単位で違うというのもあるが、正確には少し違う。
 冬木は平成に入ってから、大火災によってかなりの範囲が焼き尽くされる運命にある。
 町並みを、人を、あらゆるものを呑み込んで顕現した地獄。――その光景は。今でも衛宮士郎の頭の中に深く焼き付いている。
 しかしこの世界では、そうはならない。何故ならこの冬木市には聖杯戦争の歴史自体がどこにも存在せず、かの大火災が勃発する理由がないからだ。

 ……こっちの冬木に来てから、このことに思いを馳せるのは一体何度目だろうか。
 いつもひとしきり考え終えた後で我に返り、士郎は思わず苦笑してしまうのだった。
 ただ、そうやっていつも町の様子に目を向けているからこそ分かることもある。
 
「バーサーカー。……気付いてるか」
「ええ」

 霊体化を解いて出現したバーサーカー、ナイチンゲールが静かに頷く。
 彼女は職業柄なのか、他人の病みに対して非常に敏感だ。
 ―――聖杯。道理では成らない願いを叶える願望器。そんなものを命を懸けてまで求める者など、病んでいない方が圧倒的に少ない。
 士郎にはそれを感じ取ることは出来なかったが、バーサーカーはそんな願う者達の狂気(病)の気配を冬木の至る所に見出していた。
 士郎も士郎で、町の様子が少しずつ、しかし確実に変化しつつあるのを悟っている。
 正体を隠す気のまるでない連中から、闇に潜んで暗躍している連中まで。
 今の冬木には数多の『不穏』が跋扈している。……士郎が知る第五次聖杯戦争のそれに比べて無法な戦いだからか、あの聖杯戦争よりもそれを感じ取るのは容易だった。

「恐らく、ここまでの聖杯戦争は『前座』なのでしょう。そして直にそれも終わり、本当の聖杯戦争が始まろうとしている。……勘ですが、私はそう推測します」
「……同感だ。だとしたら、本番はこれから―――ってことだな」

 衛宮士郎のこの聖杯戦争における目的は、以前の時と全く同じだ。
 ―――聖杯戦争を止めること。こんな戦争で無用な犠牲が出てしまうことを、彼は望まない。

 対するナイチンゲールの目的は、……やはりというべきか、『救済』である。
 敵であれ味方であれ、負傷者は全て救う。存在するだけで傷病を撒き散らす聖杯を許さない。
 そして最後には、―――この聖杯戦争を生み出した病原を治療する。
 やや認識のズレがあるのは否めないが、それでも聖杯戦争に否を唱えるという点では共通している。
 これから先、聖杯をめぐった戦いは更に激化することだろう。士郎の知る大火災のような大規模災害が起こらないという保証も皆無だ。

 というのも――これは先程も述べたことだが――この聖杯戦争はどこか無法なのである。
 監督役はいまだその姿を見せず、自分の存在や真名、神秘性をあろうことか民間人へ堂々と露出させているサーヴァントに対処をする気配もまるでない。
 ……士郎個人としてはあの『人間衛星』は一度会ってみたい存在だったし、バーサーカーはバーサーカーで彼女に病の気配を見ているのだったが、それは一旦置く。
 とにかく奇妙なのは、聖杯戦争を運営する側の考えがまるで読み取れないことだ。
 民間への隠蔽工作もろくにせず、そもそも運営として機能しているのかからして怪しい。

「―――多分、これに気付いてるのは俺達だけじゃない。頭のいいマスターなんて腐るほどいるんだ」

 言っても、何もかもが見逃されるわけではあるまい。
 極端な話。冬木市を丸ごと吹き飛ばすようなとんでもない真似をしでかすようなサーヴァントが出てきたなら、その時はきっとペナルティが下ることだろう。
 しかし逆にいえば、余程のことでなければ上は動かない。要は、規範が緩い。そのことに気付いたなら、悪用を考えるのが普通というものだ。
 願いに狂い、手段を選ぶことすら捨てたマスターならば……その可能性は十分にある。

 士郎がこの町にやって来てから、既に聖杯戦争による犠牲者は出ている。
 明らかに増加している行方不明者や死亡事故の件数が、そのことを如実に物語っていた。
 ギリ、と士郎は奥歯を強く軋ませる。拳はいつの間にか硬く握られている。
 止めなければならない。そして今回は、前回以上に悠長にやってはいられない。
 ほんの少し出遅れただけで、取り返しの付かない事態になりかねないのだ。そんな『もしも』を想像すると、自然に体に力が入る。


702 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:14:38 P4.7FAE60
「シロウ」
「―――うおッ!?」

 縁側に座り、決意を新たにしていた士郎の真横で銃声が炸裂した。
 ほとんど飛び退くようにその場を逃れて自分のサーヴァントに視線を向ければ、彼女は何事もなかったような顔でそこに座っている。
 ……しかし士郎は見逃さない。彼女の周りに漂う硝煙が、誰が発砲の下手人なのかを示している。

「私との誓約を、忘れてはいませんね?」
「――……ああ。ちゃんと覚えてるさ」

 少々どころかかなり手荒な行動だったが、それは赤熱化しかけた思考に叩きつける良い冷や水となってくれたらしい。頭がクールになっていくのが自分でも分かる。

「俺は生きる。前も言ったけど、絶対に死ぬつもりで戦ったりなんてしない。
 あんたとの約束はちゃんと守るよ。それに―――」
「それに?」
「……あんたを裏切りたくないってことの他にも、それを守りたい理由はあるんだ。
 話せば長くなるけど―――とにかく。俺は絶対死んだりしない。必ず聖杯戦争を止めた後、生きて元の……平成の冬木に帰るよ」

 その時脳裏に過ぎったのは、『彼女』が最後に見せた笑顔だった。
 衛宮士郎が経験した、最初の聖杯戦争。それでいて、あの冬木では最後の聖杯戦争。
 たくさんの戦いがあって、たくさんの別れがあった。許せないこと、楽しかったこと、悲しかったこと、全部今でも手に取るように思い出せる。
 ……二度目でも、やることは変わらない。戦いを止めて、最後は日常に帰る。
 バーサーカーのためにも、あの日離別(わか)れた『彼女』のためにも。

「……当然のことです」

 バーサーカーは士郎のセリフにそう返したが、その時彼女は、この病人の中に別なものを見た。
 何かを懐かしむように言葉を口にした時、衛宮士郎が見せた表情は――健康な人間が過去を懐かしむ時の、病みなどとはかけ離れたものだったから。


 ―――居間のテレビが、何かを告げていた。
 画面には火に包まれた町並みが映し出されている。
 バーサーカーはそれを見て、嫌悪の表情を浮かべる。
 それはこの世に呼び出されるのが遅かった、自分への嫌悪。

 『冬木市住宅街火災』……衛宮士郎が昭和の冬木市で目覚める、二日前の悲劇だった。


703 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:15:02 P4.7FAE60
◇◆


「この少女は、強い娘だ。年端も行かない子女でありながら大の男でさえ瞠目するような行動力を発揮する……現実離れした強さの持ち主といってもいいだろう。
 神秘が廃れ、秩序が支配した温室の時代と世界に生まれ落ちていながら、聖杯戦争という非日常に怖気付かない人間などそうはいない」

 その少女を端的に言い表すならば、アヴェンジャーの口にした言葉が最も的を射ている。
 彼女は強い。
 戦争とは無縁の平和主義国家で十年育っただけの人間としては、破格の度胸を備えているのだ。
 仮にこの世界でどれほどの波乱や悲劇があったとしても、それで彼女を絶望させるのは限りなく困難だ。たとえ、全てを仕組んだ絶望の女王ですらも。正攻法で彼女を堕落させようと思ったなら、相当大掛かりな仕掛けを用意する必要があるに違いない。
 クラスのいじめというありふれた事柄から、年不相応な戦いに巻き込まれた哀れな少女。
 それでも彼女は折れることなく戦うのだろう。元の世界に帰り、4年2組という歪み狂った世界をあるべき形に戻すために。
 聖杯の力にさえ背を向けて、歩むのだろう。

「明らかに弱い立場に立たされていながら、それでも自分の信じた道を突き進む少女。
 それだけに、彼女が今のサーヴァントを引き当てたのは必然に違いない。かのサーヴァントは卑賤から栄光を勝ち取った女――最高峰の『成功譚』の持ち主なのだから」

 少女とそのサーヴァントが生きた時代は違う。
 だが共通していることはある。彼女達は二人とも、自分が底辺だった経験を持っている。
 マスターの少女はクラスを支配していた『白い悪魔』に宣戦布告し、一気にスクールカーストの最底辺にまで落下した。
 サーヴァントの女はそれより更に酷い。生まれた時から奴隷という社会の最底辺に置かれ、そこから逃れるために女としての美貌さえ捨てねばならなかった。
 底の底を知っているのに、彼女達は心の傷で病んだり、蹲ったりはしない。
 彼女達はマスターもサーヴァントも、揃ってひたすらに強い女であった。聖杯がこの二人を主従として引き合わせたのも頷ける話だ。

「この聖杯戦争においても、彼女達が『聖杯への叛逆者』という卑賤から『聖杯戦争からの生還』という栄光に到れるとは限らない。
 強き意思は何も生み出さず、奮闘は徒労に終わり、頂へ続く架け橋を見つけ出すことすら叶わずに朽ち果てたとしても何らおかしなことではない。
 それでも最後まで彼女達は希望を絶やさないのだろうが、そこで叛逆の物語は断絶する。
 ――――だが、もしも。もしも彼女達の足が、見果てぬ絶望の世界を踏破したのなら」

 そういう事態だって、アヴェンジャーの言う通り聖杯戦争では容易に起こり得ることだ。
 数多の世界が交差し、数多の英霊が呼び出された冬木市は群雄割拠の混沌そのもの。
 道理を無理でこじ開けることすら出来ない、打開不可能な詰みの場面はそこかしこに転がっている。
 
「その刃は、さぞ良い音色で未来を奏でるだろう」

                                              (Side:Hope――008:光本菜々芽&アサシン)


704 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:15:51 P4.7FAE60
◇◆


「「「先生、さようならー!」」」
「ああ、さようなら。最近は物騒だからな。寄り道しないでまっすぐ帰るんだぞー」

 帰りの挨拶を終えて、光本菜々芽は真っ先に教室を出る。
 冬木市内の公立小学校に通う小学四年生。それが彼女に与えられたこの世界での役割だ。
 菜々芽はこの学校においてもクラスから浮いている。こればかりは菜々芽の性分の問題で、クラスメイトの子供達には何の非もない。
 ……そう、この『4年2組』は、正しい世界だった。
 いじめは発生しておらず、菜々芽の世界の当該クラスにはあった歪みのようなものがどこにもない。
 何より大きいのは―――やはり、蜂屋あいの不在だろう。
 あれがいないというだけのことで、無味乾燥としたこの学校生活が安らげるものにすら感じられる。
 何せあの女は、NPCだったとしても絶対何かをしでかすタイプの女だ。冬木にもあれが存在していたなら、菜々芽は常に彼女にも気を張っていなければならなかった。

「(で、今日はどうするんだ? いつも通りこのまま直帰か?)」

 念話でアサシン、軀が話しかけてくる。
 それに対して菜々芽は首を横に振った。否定の意だ。
 これまで菜々芽は学校が終わるなり、何の寄り道もせずに家へ直帰していた。
 そうしなければあの母親がうるさいというのが大きかったが、流石にいつまでもあれの機嫌取りに終始しているわけにもいかない。
 菜々芽もまた、最近冬木市に漂う空気がどこか変わってきていることを察していた。
 ……何か、嫌な予感がする。ここで動き出さなければ完全に期を逃してしまうという直感があった。

「(今日は少し町を歩いてみようと思う。……偵察、かな)」
「(それならオレに任せれば、それなりにはこなしてきてやるが)」
「(私も行く。自分の目で、色々見てみたい)」
「(成程な。だが、あのでかい城に近付くのは止めておけよ。詳しくはオレにも分からんが、あの城の主は相当な奴だ。腰を据えて挑まなきゃこっちが殺られかねん)」


705 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:16:17 P4.7FAE60
 城。それは最近、冬木市に現れた異形の建築物だった。
 歴史の教科書に載っていた安土城と瓜二つの外観を持った、しかし明らかにそれとは違う禍々しさを放ち続けている謎の建物。
 調査隊が何度か派遣されたらしいが、続報がない辺り結果は推して知るべしだ。あちらから危害を加えてくる気配は今のところないのをいいことに、対応を先延ばしにしようという魂胆なのだろう。情けないとは思わない。むしろ賢明だと思う。
 菜々芽はあれの正体を知っている。あれは、サーヴァントの宝具だ。
 自分の牙城をあんな目立つ形でそのまま召喚する宝具とは何とも頭が悪いが、馬鹿げた強さのサーヴァントが使ったならその意味は変わってくる。
 馬鹿を引き寄せる誘蛾灯。飛んで火に入る夏の虫の諺が再現される。
 菜々芽は聡明な子だ。
 アサシンに言われずとも、あの城に関わる気はなかった。安土城を宝具に持つという時点で真名には心当たりがあるものの、それを活かす場面は少なくとも今ではない。

「(……例の火事があった跡地に、入れるなら入ってみたい)」
「(例のあれか。サーヴァントを連れてるんだ、封鎖されてたって簡単に入れるだろ)」

 菜々芽達は今日の日まで、ただの一度もサーヴァントと戦闘をしていない。
 そんな有様だからアサシンはともかく菜々芽の方は、サーヴァントがどれほど強いのかを半ば憶測でしか把握していない始末だ。
 危険な賭けだが、撤退戦でもいいから一度はサーヴァントの戦いというものを目にしておきたい。
 今日の放課後にわざわざ自ら出向いてまで偵察をしたがったのは、そういう理由もあった。
 もちろんその他にもサーヴァントの戦いの痕跡から何か分かることがないかだとか、冬木市から脱出する手段だとか、気になることはいくつもある。
 今日だけで全てを満たせるとは思わないが、何事も行動しなければ始まらないのは光本菜々芽が一番よく知っていることだ。

「(……しかし、本当に肝の据わったガキだよお前は。ただ巻き込まれただけの子供にしちゃ、怯えってもんがなさすぎる)」
「(怯えてても仕方ないから)」
「(そういうとこがもう子供らしくないって話だ)」

 念話でサーヴァントと会話を交わしながら、騒がしい放課後の廊下を歩いていく。
 ……と、その時だ。菜々芽は視界の隅に、職員室へと入っていく見慣れない少女の姿を捉えた。
 学校にマスターが紛れている可能性も鑑みて、ここに通う児童の動向にも出来るだけ気を配っていた菜々芽だったが、流石に全員の顔を覚えているわけではない。
 全校生徒どころか、四年生全体にしても怪しいほどだ。では何故その少女を今まで見たことのない人物と判断できたかといえば、一言。その少女は、目立つ外見だった。

 緑髪のツインテールに車椅子。
 人懐っこい性格なのか、一緒にいた教師と楽しそうに会話していた。
 車椅子の児童は、学校内にはいなかったはずだ。となるとさっきの彼女は、転校生と見るのが妥当だろう。

「(どうかしたのか)」
「(……いや、なんでもない)」

 気のせいだろうと、一瞬だけ脳裏に過ぎった不穏なものを拭って菜々芽は再び歩き始める。
 …………何故そんなことを思ったのかは、当の菜々芽が一番分からなかった。
 人畜無害を絵に描いたような無邪気さで楽しそうに話す姿、浮かべる笑顔。
 小鳥が囀っているような綺麗な声の中に隠れた、黒くどろりとしたもの。

 あの一瞬、車椅子の少女の姿が―――『蜂屋あい』と重なって見えた。

 不吉な感覚を杞憂だろうと思考野から追い出して、菜々芽はまっすぐ下駄箱まで歩いていき、靴を上靴から外靴へと履き替え外に出る。
 ……昭和も平成も、空の眩しさや風のにおいまでは変わらない。
 特に意味もなく、菜々芽は一度頭上に広がる青空を見上げて、また歩き出すのだった。


706 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:16:45 P4.7FAE60
◇◆


「海とは歴史の観測者だ。遥かは太古、神々が平然と地を歩いていた頃。
 未開の新天地を求めて冒険家共が船を漕いでいる時代を経て、新しくは近代最大の世界大戦。どんな時も変わらず波立っている海原は、あらゆる物語を見てきた。
 この主従は、海に物語を刻んだ者達だ。片や賊として、片や護国の兵として。海に生き、海を舞い、最後は海で死んだ。そんな連中だ」

 彼女とそのサーヴァントとでは、生きていた世界からして全く違う。
 大航海時代が大海賊時代へと名を変え、海賊活動が全く衰退を見せなかった世界。
 そんな常識の通じない世界から、彼女のサーヴァントはやって来た。
 彼にとって海は冒険の舞台であり、愛すべき世界の象徴だった。
 一方で、マスターの少女にとっては違う。彼女にとって海とは戦いの舞台であり、仲間を自分のもとから奪い去っていく死神のような存在だった。
 
「いつか平和な世界、平和な海を見ることを心の標として、少女は生涯戦い抜いた。
 ―――しかし、その実現には数え切れないほどの犠牲を払わねばならなかった。何かを成すには、何かを失うことが不可欠だ。彼女は、それに納得できなかった。
 平和の代償として水底に消えた家族に、勝ち取った幸福を享受する権利を。一途に願う心に、聖杯は応えた。……正の形かどうかは別としてな」

 いつの時代も、偉業の裏には犠牲者の存在がある。
 影なくして光は存在できないように、いつでも犠牲という名の喪失は決して離れずつき纏う。
 それに納得できたなら、その生涯は満足感と幸福の中で締めくくることがきっと出来るだろう。
 逆に納得できなかったなら、最期を迎えるその時まで、その感情は未練として頭の中に病巣を張る。
 彼女は納得できなかった。そしてその未練を晴らす手段は、聖杯に願う以外にない。だが皮肉なのは、そんな彼女が呼んだ男が『犠牲になった側』ということ。

「そんな切なる願いで呼ばれたかのサーヴァントは、かつて世界の秩序のために犠牲になった。
 犠牲にされた側の彼は何も祈らない。そして、それは平和の踏み台と消えた船の少女の家族も同じだ。犠牲にされた者は皆、満足して消えていった。
 ――未練を抱くのは、生存者の特権だ」
「………」
「さて、お前はどう感じるのかな。希望の犠牲者よ」

 ――――アヴェンジャーは、完全者の青年を見てはいなかった。
 その瞳の奥。奥の奥に眠っている、もうどこにもいない誰かを見ていた。


                                              (Side:Dispair――09:Верный&ライダー)


707 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:17:12 P4.7FAE60
◇◆

 
 船着き場に座り、足を海に向けて伸ばしている少女が一人。
 錨と星のマークをあしらった白い帽子といい白い肌といい、とにかく白っぽい少女だった。
 有事となれば艤装で武装し、軍艦の名を受け継ぐ艦娘に恥じない奮戦ぶりを発揮する彼女だが、今はその艤装も持ってきていない。
 心を休めるために港を訪れたのだ、戦いの道具はなるべく切り離しておきたかった。
 そんな彼女の名前は、響―――今はВерный(ヴェールヌイ)。ヴェールヌイとは、ロシア語で信頼できる、という意味がある。

「気持ちいい風だね、ライダー」

 心地よい潮風に当たりながら、ヴェールヌイはただの少女のように自分のパートナーへ話しかける。
 暁型四姉妹の中でも長女を差し置いて一番大人びた性格の彼女も、やはりまだまだ子供だ。
 こうやってのどかに過ごしている時は、戦場のしがらみや辛いことから逃れることが出来る。
 聖杯を手に入れられなければならない使命感も何もかも忘れて、ただのんびりと過ごす時間。
 ヴェールヌイは定期的にそういった時間を自分に用意することで、願いの重圧に押し潰されないように自分の心をケアすることにしていた。

「そうだな。こればっかりは、平和な海ってやつの特権だ」

 ライダー……『火拳のエース』ことポートガス・D・エースは水平線の向こうを見据える。
 彼は海賊だ。悪魔の実の能力者となった日から海には嫌われてしまったが、それでも海という場所に特別な思い入れがないと言っては嘘になる。
 そしてこの世界の海には、彼の知る海ではあり得なかった平穏があった。
 財宝や未開の地はほぼ存在せず、聞けば海賊活動そのものが世界的にかなり衰退しており、また大戦でも起きない限り海上戦などまず起こり得ないのだという。
 海賊の英霊であるライダーに言わせれば、この海は退屈だ。面白みがないといってもいい。
 ただ、こうして黄昏れている分にはなかなかどうして悪くない。優しく穏やかな風に吹かれながら郷愁に浸るというのも、たまにはいいものだ。

「ライダー」
「なんだ?」
「ライダーは……生き返って仲間のところに帰りたいとか。そういうことは思わないのかい?」

 ヴェールヌイは時折、ライダーから生前の話を聞かされていた。
 地震の力を操る『オヤジ』と、その男気に惚れた息子達(ファミリー)による大海賊団。
 ライダーはその二番隊を任されていて、山ほどの冒険と山ほどの戦いを経験してきたという。
 そして、最期は弟を庇って腹を貫かれ―――死んだ。
 その悲劇的な末路を聞いた時から、ずっとヴェールヌイは思っていたのだ。
 帰りたいとは思わないのか、と。そんなに素敵な家族を残して死んでしまったのに、どうして聖杯はいらないなんて言えるんだろう、と。

 そんな疑問に、ライダーはカラカラ笑って答える。そこには、欠片ほどの逡巡もなかった。

「海賊だって人間なんだよ」
「……?」
「心臓一つの人間一人。どんな大層な名前で呼ばれてたって、いつまでも生きちゃあいられねェ。
 誰でもいつかは死ぬんだ。海賊なんてやってりゃ、当然人よりその時は早いだろうし、布団の上で死ねるだなんて贅沢なこと考えるのはお門違いってもんだぜ。
 死ぬのが怖くて海賊やってる奴なんざ、少なくともオヤジの船には誰もいなかった。
 それに、大事な弟の命を未来に繋げることが出来たんだ。それでお役御免ってんなら文句はねェさ」


708 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:17:31 P4.7FAE60
 海賊と軍隊とでは、まるで話が違う。
 むしろ二つは常に敵対しているのが普通だし、ライダーに引導を渡したのも海軍という軍隊だ。
 しかしながら、ライダーの考え方はヴェールヌイにも覚えのあるものだった。
 軍隊は海賊とはまた違った意味で業の深い組織だ。一隻の船を沈めたなら、それだけで何十人と死ぬ。そんな仕事をしているのだから、いつどんな風に死んだって文句は言えないし――みんなそういう覚悟を決めて海に立っている。
 少なくともヴェールヌイが響だった頃の仲間達はみんなそうだった。姉も妹も、みんな、みんな。

「……なんで私が君を召喚できたのか、少し分かった気がする」

 帽子を深く被り直してヴェールヌイが浮かべた表情は微笑みだ。
 今の対話でしっかり分かった。―――海で戦う人間は、みんな覚悟を決めている。
 覚悟を決めて死んだ者を生き返らせたいと願うのは、残された者のエゴだ。
 暁達はヴェールヌイに誰かを殺してまで自分を生き返らせてほしいとは、きっと思わないだろう。
 それは分かっている。分かっていても、割り切れないものはやはりある。

「イイ目になったじゃねェか。気持ちのいい欲望を見つけた目だ」
「きっと私は間違っているんだと思う。そう思うけど、私は戦いを下りない。
 最初に言った通りだよライダー。私は君と一緒に戦って、なくしたものを取り戻してみせる」
「海軍が海賊の手を借りるなんざ、おれをブッ殺した奴が見たらすげェ顔するぜ」
「私も願いを叶えたら、真っ先に彼女達に大目玉を食らいそうだ。……それでも、やっぱり諦められないんだ。協力してくれるかい、ライダー」

 訊かれたライダーは不敵に笑いながら親指と人差し指を重ね合わせ、パチンと音を鳴らしてみせた。
 ただ指を鳴らしたわけではない。彼こそは『メラメラの実』を食べた火炎人間、『火拳のエース』。
 小気味いい音と共に派手な炎が空中に吹き上がり、潮風に吹かれて散り散りになって消えていく。

「俺は、嬢ちゃんのサーヴァントだからな」

 他人の願いを潰す絶望となってでも、聖杯という最期の希望を手に入れる。
 ―――彼女はまだ知らないことだが、この冬木に呼ばれている艦娘は彼女の他にあと二人いる。
 片方はサーヴァントとして、片方はマスターとして。問題は、このマスターの方だ。
 その顔を見た時、あるいは名前を知った時、ヴェールヌイは一体どんな顔をするのだろう。
 生き返らせねばならないと息巻いている姉妹の一人……自分の姉にあたる黒髪の駆逐艦が、自身の願いの障害となると知っても、彼女は戦う意志を貫いてみせるのか。

 ――――――すべては、まだ見ぬ未来に委ねられている。


709 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:18:10 P4.7FAE60
◇◆


「武器に命を与えるというのは、こうして見ればなかなかどうして悪辣な趣向だ。
 争いの消えた世界で武器に成せる役割など、それこそ狩猟に使う程度しかあるまいに。
 この幼い正義はそれを知った。知らなければ無垢なまま突き進めたろうに、知ってしまった。
 お前はどちらが幸いだったと思う、マスターよ。全てを終わらせた後で現実に直面するか、現実を先に知って大願を遠ざけるかの二択だ」
「……前者でしょう。考えるまでもない話です」
「そうだ。いつ絶えるとも分からない敵軍を一網打尽に出来る好機を、終わった後のことを考えて逃してしまうなど普通に考えればありえない選択に違いない」

 国家間の戦争とは違い、彼女達の戦う敵軍は底が知れない。
 国が相手ならば、どれほどの強国が相手でも必ず枯渇の時はやってくる。
 後はそれをいかに早く使い切らせるかの話。戦争のセオリーの一つだ。
 だが深海棲艦という敵には、どこまで人間同士の戦争の常識を当てはめていいのかすら分かっていない状況なのだ。
 砲撃を当てて耐久値を削り切れば個としては倒せる。しかし群としての打倒手段は未だに知れない。
 どうすれば完全に海から駆逐できるかが分かっていたなら、半年ほどもあれば海は平穏を取り戻していたはず。
 それほどまでに得体の知れない恐ろしい敵なのだ、深海棲艦は。それこそ聖杯に頼りでもしなければ、ただ延々と悲しみばかりが増えていくだけ。
 少女の正解は間違いなく、聖杯で戦いを終わらせることだ。その後のことなど、終わらせてからゆっくり考えればいい。

「それをすぐに選択できないからこそ、この正義は幼いのだ。
 存在意義の消失という今まで考えもしなかった問題を前に、目先の利益を優先するということが出来ない。……無理もないことではあるがな。自分の生まれた意味、生きていた意味が一瞬にして消えてなくなるなど、それほど絶望的なこともないだろう」

 少女は今も迷っている。
 簡単に答えを出せる問題ではない。まだ幼い、駆逐艦の少女にしてみれば。
 彼女のサーヴァントならば合理的に判断し、理屈としての正解を瞬時に導いてのけるだろうが、果たして当の彼女はその答えに納得できるのか。
 暗雲は、立ち込めている。見ないようにしていても、少女の脳裏には自分のサーヴァントに指摘された不安が茨のように食い込んでいる。
 存在意義の消失。それは戦うために生み出された艦娘という兵器にとって、あまりにも大きく、絶望すら通り越した【未知】の話だった。
 それを知ってしまったのは、やはり不運だったというべきであろう。

「聖杯は悲劇という名の喜劇を望んでいるぞ、いずれ護国の鬼となる弓兵よ。
 貴様が主君に殉ずるというのならば覆してみるがいい。希望の雷で絶望へ挑むがいい。
 この冬木に下りた夜の帳を、暁にて晴らしてみせるがいい!!」
 
                                              (Side:Hope――10:暁&アーチャー)


710 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:18:52 P4.7FAE60
◇◆


「……ふあ」

 冬木市に鎮守府なんてものはない。
 まず第一に、ここは深海棲艦のいない世界だ。
 仮に出現することがあったとしても、それは数十年後の未来の話。
 艦娘なんてロールが存在するはずもなく、暁は市内の小さな孤児院から公立小学校に通っているという設定になっていた。
 学校の授業は退屈で眠たくなる。艦娘として学んでいた内容はほとんど授業に出てこないし、割と居眠りがちな暁の成績はそれほどよいものではない。
 それでも学校自体はそこそこ楽しいし、友達も最初から用意されていたから遊び相手にも困らない。
 そんな聖杯の手引きのおかげで、暁はおおむね充実したスクールライフを送れているのだった。
 ……どうもクラスメイトの、いつも仏頂面でいる女の子だけは苦手だったが。

 4年2組と記されたプレートを背に、暁も帰途に着く。
 同じ孤児院から学校へ通っている児童は四年生にはいないため、帰り道は大体いつも一人だ。
 正確には一人ではないのだが―――傍目から見れば、確かに一人で間違いない。

「……アーチャー、いるー?」
「念話になっていないぞ。気を緩めるのも程々にしておけ」
「べっ、別に緩んでなんかないわよー! ……はっ!?」

 つい反射的に大声を出してしまい、周囲の児童から奇異の視線が集中する。
 暁は顔を真っ赤にして小走りでその場を抜け出すと、今度はちゃんと念話でアーチャー、アカツキと会話を始めた。
 
「(だから毎日ついて来なくてもいいってば! 施設と学校はそんなに離れてないし、特に人通りが少ない道を通るわけでもないんだから!)」
「(……サーヴァントにはアサシンというクラスもある。艤装とやらを装備していたならまだしも、丸腰のお前では一瞬で首を取られるぞ)」
「(く、くび……)」
「(この会話もそろそろ最後にしたいところだ。覚えている限りで既に五回は繰り返している)」

 暁は見た目も内面も年相応に幼いが、一方で一人前のレディというものに憧れている。
 子供扱いされることを極端に嫌がるのも、ひとえにその憧れと現実のギャップが許せないからだ。
 そんな暁にしてみれば、小学校への送り迎えと子供扱いが十分イコールで結ばれる。
 ……もちろん暁だってバカではない。ちゃんと理由があることは知っているし、自分を守ってくれていることにはちゃんと感謝している。
 しかし、それとこれとはどうも話が別なのであった。
 
「(ところで、聖杯戦争はどうなってるの? 何か状況が動いたりした?)」
「(今のところは牛歩だ。だが、近々大きく動き始めるだろう。こうして平穏な時間を謳歌していられるのも、今の内だけかもしれん)」


711 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:19:07 P4.7FAE60
 淡々と脳内に恐ろしいワードを打ち込まれ、暁は思わず背筋に寒気を覚えた。
 日常が一瞬で崩れ去ることなど、艦娘として戦っていた頃にはいつも覚悟していたことだ。
 もちろんそうはなりたくないし、そうなるのは嫌だが、心の準備だけはしてあった。
 艦娘は皆、別れを経験するものだ。
 例えば轟沈による死別。そうでなくても敵の攻撃で大破し、重傷を負った仲間の姿を暁もこれまで何度も見てきた。
 この世界でただの小学生として過ごしていた時間の長さが、暁自身も気付かぬ間に、戦場に立つ者としての覚悟を鈍らせていた。
 
「(案ずるな。最初に言ったように、従者としての役目は我が身を賭してでも果たす)」
「(そうね……ありがと、アーチャー)」
「(礼を言われるほどのことではない、サーヴァントとして当然のことだ。―――時に、マスター)」

 答えは出たか。
 アーチャーは静かに、厳かに暁へそう問いかけた。
 暁の足が止まる。それはアーチャーと初めて会った日に、彼から言われたこと。今日までずっと先延ばしにしていた難題。
 まだ答えを出せていないということを、暁の沈黙が雄弁に物語っていた。しかしアーチャーはそれを叱責しようとはせず、彼はあくまで静かに諭す。

「(これは俺の読みだが、この聖杯戦争はそう長く続かない。―――十中八九、短期決戦だ)」
「(ってことは……あと二日とか三日で終わっちゃうかもしれないってこと?)」
「(可能性は高い。それはつまり、残された時間は限られているということを意味する)」

 聖杯を手に入れて願いを叶えることは、艦娘全ての存在意義を消し去ることと同義だ。
 暁の中では、未だに平和な海の実現と自分達の存在が天秤の上で上がり下がりを繰り返している。
 
「(悩める時間は、お前が想像しているよりも遥かに短いだろう。答えを出せとは言わない。だが、悔いなき選択を下せる準備だけはしておくことだ)」
「(ん……わかった。がんばってみるわ、暁も)」

 聖杯戦争が終わってから後悔をしても、取り返しはつかない。
 聖杯を逃してから後悔をしても、やはり取り返しはつかない。
 アーチャーはこう言った。後で悔いるような選択はするな、と。
 ――――自分にとって、悔いなき選択とは何だろうか。どれを選べば、自分は胸を張って笑っていられるだろう?

 司令官なら?
 雷なら?
 電なら?
 ――――あるいは、

「響なら、どうするかなあ……」


712 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:19:44 P4.7FAE60
◇◆


「地獄に堕ちた亡者が、神の慈悲で垂らされた糸なり木片なりを掴む説話は世界中に伝わっている。
 この冬木ならば、最も馴染み深いのはカンダタの末路か。天から垂らされた蜘蛛の糸を伝い極楽へ向かおうとするカンダタは、自分と同じように糸に縋ろうとした亡者達を蹴落としたことで血の池地獄に逆戻りする羽目になった。
 ――――この男は、人の頭上に糸を見る。それが幻覚なのか、はたまた彼にだけ見ることの出来る真理の一つなのかは解らない。
 しかし、一つ確かなことがある。こいつは蜘蛛の糸に縋り救われようとするカンダタでもなければ、それに便乗しようとした亡者でもなく、また糸を垂らす側でもない。彼は糸を切る側だ。ヒトの頭に繋がった糸を断つことを重ね、遂にはこの冬木に招待されるに至った」

 日常に紛れ込んだ悪魔。
 それがこのマスターの本質だ。
 誰も彼もが彼には騙される。彼の狡猾さを理解しないまま、悪戯に死体ばかり増えていくのを指を咥えて眺めているしかない。
 彼は空虚というわけではない。かといって欲深いわけでもない。
 ただ、異質なのだ。普通の優秀な人物の皮を被って日常を過ごし、その価値観も基本的には善性に基づいているからこそ、今まで誰も彼を止められなかった。 
 そんな彼は当然のように聖杯を求めない。 
 そうまでして叶えたい願いなど持ってはいないし、ただ穏便に元の世界に帰れればそれでいいと本気で思っている。

「彼は聖杯の打破、あるいは冬木からの脱出を目論むマスター全てにとっての獅子身中の虫だ。
 頭脳、経験、話術、工作。シリアルキラーに必要な全てのスキルを当然のように有しているのだから、背後から忍び寄られればまず対処は不可能。
 ……そして何より絶望的なのは、奴の呼び出した英霊だ!
 ジョナサン・ジョースター! 百年に渡る因縁の始まりに立つ波紋戦士であり、気高い黄金色の魂を燃やす善性の化身! ――これほど皮肉な巡り合わせもない!!」

 そのサーヴァントは、彼と同じように善性に基づいた価値観を持つ。
 しかしそれ以上に人間離れした勇気と行動力を持ち、その内には欠片ほどの悪性も存在しない。
 彼を連れていることそのものが、カモフラージュとしてシリアルキラーの姿を隠蔽しているようなものだ。
 迷いも怖じもせずに突き進み、己の拳で道を切り開く気持ちのいいヒーロー。そんなサーヴァントだからこそ、かの人物にとって最も都合のいい道具として機能する。
 彼らは当然のような顔をしながら、希望の体内に潜むことだろう。仲間を守り、時には策を案じて過酷な聖杯戦争を生き抜いていくはずだ。
 空から伸びて頭に繋がる、蜘蛛の糸を見るまでは。糸に繋がれていることに気付きもしない、哀れな命を見てしまうまでは。

「……希望を信じるならば見抜いてみせるがいい、隣人の顔をした絶望を。
 その悪行の根本にまで辿り着いて希望の仮面を剥がすことが出来たならば見事。
 出来なければ? 何、奴は全ての命を殺して生き延びようとはせんだろうよ。何食わぬ顔で勝利を喜び、仮面を被ったまま元の世界に帰るだけだ。
 だが―――それはまごうことなく、希望の敗北、だがな」

 

                                              (Side:Dispair――11:八代学&セイバー)


713 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:20:12 P4.7FAE60
◇◆


 放課後の予定や他愛ない談笑をしながら帰途に着く児童達を見送って、4年2組担任、八代学はようやく一息ついた。
 教師は大変な仕事だ。人を教え導くといえば聞こえはいいが、特に担任などは大抵の場合三十人以上の教え子を事実上管理しなければならない。
 中学生や高校生といった大人びてきた頃の子供ならばまだしも、小学校教諭が相手にするのはまだまだ自由奔放に行動したい年頃の本当の『子供』達だ。
 まして八代が持っているクラスは中学年の四年生。よく言えば一番成長が楽しみな時期であり、悪く言えば一番気の抜けない時期である。
 教職に就いてから何年か経つが、慣れてきたとはいえ疲れる仕事なのは変わらない。
 とはいえ、なりたくてこの仕事に就いたのだ。文句や不満を垂れる見苦しい真似をすることはせず、八代は微かに微笑みながら額の汗を拭う。

「(お疲れ様、マスター)」
「(セイバー? 何だ、学校まで来るとは珍しいな。何かあったのか?)」

 八代は魔術師でもなければ、聖杯を使って願いを叶えようとも思っていない。
 要は正真正銘、ただ巻き込まれただけの人間。彼が前線に立ったからといって何かが出来るわけではないし、ただ死のリスクばかり高まるだけだ。
 だから八代は聖杯戦争に関係する全てのことをセイバーの判断に委ね、任せていた。
 余程大きく事態が動くか脱出の糸口が見えるまで、八代は今まで通りの日常を過ごすだけ。
 こう聞けばやや無責任に聞こえるが、これにはこの冬木で暮らす人々を守るためという意図もあった。小学校教員である八代ならば、少なくとも自分のクラスだけは最低限守ることが出来る。学校の襲撃を目論むような輩が出てきても、八代がいれば令呪でセイバーを呼び寄せられる。
 基本昼間は冬木市内を探索しているセイバーが、こうして八代の下へやって来るのは珍しいことだ。
 そしてセイバーは、気まぐれで自分の行動を変えたりするようなタイプの男ではない。そこから導き出される答えは、急を要する報告があるということ。

「(さっきサーヴァントと戦った。クラスはアーチャー。少し傷を負わされたけど、これくらいなら少し波紋を当てていればすぐに直せる。
 ……それよりもだ、マスター。僕の予想が正しければ、今日を境目にして聖杯戦争は急激に加速していくと思う)」
「(それはまた物騒な話だな……根拠はあるのか?)」
「(僕の倒したアーチャーが消滅した時、明らかに町の空気が変わったのが分かったんだ。うまく言えないけれど、まるで『世界が変わった』ようだった。
 ある画家の描いた風景画を違う画家が模写したみたいな、似ているんだけどどこか違う感じ……ただの気のせいだとはどうも思えない)」

 セイバーが以前、この聖杯戦争は形式からして普通じゃないと話していたことを思い出す。
 何十という英霊が一つの町に召喚され、延々潰し合いをする。サーヴァントが与えられた知識によると、本来の聖杯戦争とはそういうものではないらしい。
 サーヴァントの数は七騎。聖杯大戦と呼ばれるものでも、ルーラーを含めて十五騎。
 そう考えると確かにこの冬木で行われている聖杯戦争は、おかしなものということになる。
 門外漢である八代には今ひとつ実感の沸かない話だったが、セイバーはこのことに随分不穏なものを感じているようだった。

「(……よく考えたら、別にそこまで急いで伝えなきゃならない話でもなかったね。すまない、マスター。仕事中に邪魔をしてしまった)」
「(いや、いいんだ。それを早く知れたことで、色々考えることも出来るからね。役に立たない僕なりに、これからのこととかを)」

 謝るセイバーの労をねぎらい、八代は小さく笑う。
 結局未だ、聖杯戦争を脱出する手段の手がかりすら掴めていない。
 そもそもそんなものがあるのかすら怪しいが、それは考えないようにしていた。
 『どうにもならない可能性』の想定は、時に容易く現状を停滞させる。
 ポジティブシンキングの有用性を謳う啓発本ではないが、いい方にいい方にと物事を考えることも時には重要なのだ。
 こういう失敗の出来ない状況に立たされた時などは特に。

「……八代先生」

 その時八代の名を呼んだのはセイバーではなく、また彼の受け持っている児童の誰かでもなかった。
 畏まった礼服に身を包んだ、品の良さそうな中年の女性。
 顔立ちにも老いを感じさせない美貌を湛えているが、目の下には深い隈が刻まれている。
 瞳には、光がない。取り返しの付かない大きな喪失を経験し、絶望した人間の目だった。


714 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:20:48 P4.7FAE60

「娘の遺品を引き取りに参ったのですが……今、よろしかったでしょうか?」
「―――ええ、構いませんよ。こちらで纏めたものをお渡しするので、少々お待ちください」
 

 一礼すると八代は女性を先導して職員室へと向かい、自分の机の引き出しから厚みのある大きな封筒を一つ取り出して彼女へ差し出した。
 中身は写生会で彼女の娘が描いた絵、返却されなかったテスト、作文―――等など、ごくごくありふれたものばかりだ。
 受け取った封筒を胸へ抱き止め、沈痛な面持ちで女性は八代に礼を言う。
 ……あまり長居したい場所ではなかったのだろう。彼女は八代が見送る間もなく、足早に職員室を出ていってしまった。
 それも無理のないことだ。娘を亡くした母親にしてみれば小学校は、ただ哀しい場所でしかない。ここに居ては、彼女は否応なしに娘の顔を思い出してしまう。

「(……彼女は?)」
「(少し前に、誘拐殺人があってね。……僕のクラスの生徒が犠牲になった。彼女はその母親だ)」

 ―――冬木女子児童誘拐殺人事件。その事件では八代のクラスの快活な女子児童が、郊外の茂みの中で変わり果てた姿となって発見された。
 死因は絞殺。スカーフのようなもので首を絞められ、殺した後に遺棄したものと警察は踏んでいる。
 幸いなのは、スカーフに犯人の体毛が付着していたことだろう。その証拠を辿って市内のある若者が逮捕され、今も取り調べ中だと聞いている。
 
「(犯人が捕まったからといって、遺族の悲しみが消えるわけじゃない。僕も悔しい。友梨は……殺された子は、とても子供らしくていい子だったからな)」

 こればかりは八代には、どうすることも出来ない問題だ。
 その心中を察してか、セイバーはそれ以上この話題について話そうとはしなかった。
 セイバーは思う。ああいう悲しい思いをする人を一人でも減らすためにも、聖杯戦争はやはり止めなくてはならない。あの女性は聖杯戦争とは関係のないところで娘を失ったようだったが、聖杯戦争が本格的に始まれば、それによる犠牲者が出てくるのは避けられない。
 そう思えば、自然と拳にも力が入った。

「八代先生、ちょっとよろしいですか? 転校生の塔和さんが、一日早く学校の下見をしたいとのことでさっき来てまして。よかったら会ってあげてください」
「ん、分かりました。彼女は今どこに?」
「前田先生が案内してあげてるはずですね。職員室を出ていってからそんなに経っていませんし、まだ一階にいるんじゃないかなあ」
「ありがとうございました。――セイバー。また夜にね」
「……セイバー?」
「いえいえ、何でもありません。お気になさらず」
 

 職員室を出る八代を見送ったセイバーは、しかしややしばらくその場に立ち止まっていた。

 …………首筋が痛む。首筋に刻まれた、星型の痣が痛んでいる。
 冬木にやって来てからというもの、セイバーは時折痣が痛み出す場面に何度か遭遇していた。
 星の痣はジョースターの血を宿している証。
 それが痛みという形で反応していることに、セイバーは奇妙な予感を覚えずにはいられない。
 霊体のままで職員室の窓を、その向こうに広がる青空を見据える。

「(まさか―――)」

 どこまでも広がる青空は、どうしようもなく少年の日を思わせるものだった。

「(この町には、きみがいるのか? …………ディオ。きみが)」


715 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:21:10 P4.7FAE60
◇◆


「逃げ出すことを悪と呼ぶのは間違いだ。逃避とは、万人に等しく与えられた一つの権利である。
 自分を守るために迫ってくる難題へ背を向けて走り出す。それは咎められることではあるかもしれないが、邪悪として断罪されるべき罪ではない。
 しかし多くの場合、それを罪と決め付けるのは逃げた当人だ。
 挑むことをやめ、絶望に背を向ける――そうして未来を勝ち取った人間は、時に自らを罪人と看做して自罰する。ありふれた話だ」

 裏切りの騎士を従えるかの青年は、かつて絶望的な戦いに背を向け一人で逃げ出した。
 アヴェンジャーの言う通り、それは決して罪ではない。
 むしろ彼我の戦力差を正しく理解した上で取れる最適解と言ってもいい。
 感情に突き動かされて不帰の道に突き進んでいたなら、彼も件の戦いで命を落としていたかもしれない。そう考えると、やはり彼は正しい選択をしたのだといえる。
 ―――そう彼を慰めたところで、その心には何一つ響きやしないだろう。
 
「逃げることは立派な解答の一つだが、同時に重篤な害を自らにもたらす麻薬でもある。
 逃避で得られる安息は続かない。いずれ安息は別な感情に変わり、逃げた臆病者を苦しめる。
 この男も当然のように、それに苦しめられている。逃げなかった仲間の末路を知ったことで絶望に魅入られ、冬木の地へと召喚された。
 逃避の代償に取りこぼした者の為、願望器を求めて戦うかどうかは未だに決め兼ねているようだが……どちらを選んだとしても、奴は既に絶望している。
 奴は自らの手で希望を手放した。『逃げる』ということは、そういうことだ」

 自問の中で過ごす時間の果てに、逃げ出した少年は仲間達の顛末を知る。
 その時彼は、心臓に穴を穿たれたような想いになり……そして絶望した。
 心から絶望して過去の自分の選択を悔やんだ。やり直せたならとイフの可能性に思いを馳せた。
 そうして辿り着いたこの冬木でも、彼はまだ自問と自答を果てなく繰り返している。
 そこに希望の光はない。――――どこにも、そんなものはない。

「裏切りの騎士を従えた、裏切りの末の生存者がどれを選ぶか。お前はどう予想する、マスター。
 過去の逃避を取り返すように戦いへ挑むのか、都合のいい奇跡を嘘だと拒むのか、……それともまた身体を翻して逃げ出すのか。
 いずれにせよ、安息とは程遠い茨道が彼を待っているぞ。逃げた程度では絶望を振り切れない。全ては白か黒に終着するから、この町に灰色は存在しないのだ」


                                              (Side:Dispair――12:パンナコッタ・フーゴ&セイバー)


716 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:21:57 P4.7FAE60
◇◆
 

 微睡みの中で夢を見た。
 それは哀しい男の記憶だった。
 完璧であることが招いた悲劇。
 愛も反目も選ばなかった結果として、自分が何より誇りに思っていたものを壊してしまった男。

 湖の騎士。
 完璧なる騎士。
 そして、裏切りの騎士。

 パンナコッタ・フーゴが見た夢は、彼のサーヴァント……サー・ランスロットの記憶に他ならなかった。

 セイバーは今も霊体としてフーゴのすぐ近くに侍っている。
 しかし彼は、セイバーに夢の話をしようとは思わなかった。
 誰にでも踏み入られたくない過去は存在する。ギャングであったフーゴは、その辺の一般人よりもずっとそのことをよく知っていた。
 ギャングと聞けば大半の人間はろくでなしという単語を連想するだろうし、事実それで合っている。
 ギャングになるような奴にはろくなやつがいない。道を踏み外すに値する過去を持っている人間がほとんどだ。それは、フーゴだって例外ではない。
 フーゴは過去、神童と呼ばれるような天才少年だった。
 幼い頃から徹底的な英才教育を施されて育ってきた彼がそのまま敷かれたレールを辿って歩んでいたなら、きっとさぞかし立派な人間として大成したことだろう。
 だが、そうはならなかった。天才に生まれてしまったがために人生を通して抑圧され続けた彼は、当たり前のようにパンクし―――かくして彼も道を踏み外した。

「ジョルノ……」

 ジョルノ・ジョバァーナ。フーゴ達の前に旋風のように現れたその少年は、ギャングにあるまじき『気高さ』を最初から持っていた。
 純粋な憧れからギャングの道に入り、その頂点……ギャングスターを目指すと豪語する彼と出会ってからのことを忘れた日は一日もない。
 彼はまさに、黄金の風だった。チームに突如として吹き込んだ、眩い輝きを放った風。

「君ならばきっと―――聖杯を拒むんだろうな」

 それは何もジョルノに限った話ではない。
 ブローノ・ブチャラティ。
 グイード・ミスタ。
 レオーネ・アバッキオ。
 そしてナランチャ・ギルガ―――かつてフーゴの仲間だった彼らなら、一人の例外もなくそういう道を選んだはずだ。


717 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:22:26 P4.7FAE60
 彼らは皆『黄金の精神』に目覚めていた。ジョルノという風に感化されるように、気高い魂へと昇華していった。
 しかし誰もがそうなれるわけではない。現にパンナコッタ・フーゴという男は、『黄金の精神』に目覚められずに戦いから逃げ出したのだから。
 そう、フーゴだけが例外だった。ブチャラティチームの中でたった一人だけ、彼は戦いの道を選べなかった―――だから、彼はここにいる。
 フーゴの弱さを裏付けるように、彼はこの期に及んでもまだ自分の方針を決定付けることが出来ずにいる。
 聖杯を手に入れようと思ったなら、当然過酷な戦いをすることになる。それでももし打ち勝てたなら、なくした全ての仲間を蘇らせることが出来る。
 ただ当の彼らがそれを良しとするかというと、フーゴは途端に答えに窮してしまう。

 選べない。
 選ばなければならないのに、こうしてウジウジと迷っている自分がどうしようもなく情けない。
 苦悩するマスターを、セイバーは黙して見守っていた。
 
 助言を請われたなら応えよう。
 彼が泣き言を漏らすのならば、それを聞き受けるのが騎士としての役目だ。
 しかし戦うか否かを選ぶことだけは、騎士に決定できることではない。
 それは主君の役目であり、セイバーには踏み入ることの出来ない一線だった。
 決断を出せずに苦悩する主を見てセイバーがその心に抱く感情は、苛立ちでも同情でもない。
 ……『羨望』だ。ランスロットという騎士は、誰が見ても文句の付けようがない完璧な騎士だった。

 それだけに、彼は悩むことすら出来なかった―――もとい、どれだけ悩んでも結論に達することが出来なかった。

 ブリテンには理想の王が要る。そしてその傍らには、貞淑な后(ギネヴィア)の存在が不可欠だ。
 そう思うならば自分に想いを寄せる彼女を裏切ればよかったという話だが、そうすることも彼には不可能だった。
 何故なら、それは彼の騎士道に悖る行いだったから。ギネヴィアへの想いに殉ずる生き方もまた、彼の騎士道における必定だったのだ。
 何も生み出さない苦悩の末に迎えた結末は、アーサー王伝説に描かれた通りのものである。
 円卓の瓦解と共にブリテンは崩壊し、ランスロットの名は裏切りの騎士という汚名と抱き合わせで後世にまで語り継がれた。

(しかし貴方は―――マスターは、ご自身の決断で何かを変えることが出来る。そして貴方はきっと、いずれは決断することの出来るお人だ)

 フーゴはまだ苦悩している。
 それでも彼はいずれ、自分の答えを出すだろう。 
 完璧であることをずっと前にやめた彼ならば、きっとそれが出来るはずだ。
 セイバーは、ランスロットはただそれを見守るのみ。その決断に従うのみ。それが、サーヴァントとしての彼の騎士道であるゆえに。
 ランスロットは裏切りの騎士だ。当の彼自身、それを認めている。
 姿がどうあれ歴史は変わらない。自分の招いた悲劇が揺るぐことは、決してないのだ。

(それでも、貴方が理想の騎士を望むのであれば……私は騎士として、この湖光を振るうのみだ)

 日の落ちた部屋は薄暗く、マスターの少年の心を暗示しているかのようでさえある。
 彼らの聖杯戦争は、まだ始まらない。
 今は、まだ。


718 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:23:04 P4.7FAE60
◇◆


「彼らは絶望だ。形容するには、その一言で事足りる」

 アヴェンジャーは、今度は多くを語らなかった。
 邪悪の化身と忌まれたサーヴァントを召喚した男は、残忍さだけならば彼を凌駕する域にある。
 欲するままに奪い、情動のままに犯し、激情のままに殺す。
 倫理観というものを母の子宮に置き去りにしてきたのか、あるいは父の悪性のみを受け継いで生まれてきてしまったのか。
 それは定かではないが、彼らが『黄金の精神』などというものに覚醒することだけはあり得ない。
 彼もそのサーヴァントも、徹頭徹尾邪悪であり続けるだろう。そうあることを期待されて見初められたのだから、光に染まるはずがない。
 彼らはただ絶望を振り撒くだけの悪。
 類稀なる悪性を持って産声をあげ、生命の終わるその時まで、ほんの一瞬すらも悪の側から動かなかった生粋の邪悪に他ならない。

「純粋な悪であるがゆえに、その力は強大だ。生半可なサーヴァントではまず太刀打ち出来まい。
 ―――それだけに、彼らは希望を遮る壁として非常に優秀な役割を果たすことが出来る。
 時を支配する帝王と、それを従える悪漢。二つの邪悪を消し去らない限り、晴らしても晴らしても絶望の闇はこの世界に立ち込め続けるだろう」

 邪悪なる帝王は、絶大な力を持っている。
 単なる破壊力でなら対城宝具に大きく劣るだろうが、力の不可侵性で彼の右に出る者はそういない。
 まさにそれは、世界を支配する能力。絶対的な力であり、王を名乗る彼によく似合う力だ。
 世界が彼の手にある限り、その心臓を貫くことは難しいだろう。
 誰かが真実を暴かなければ、絶望の帝王はいつまでも滅ぶことなく悪徳を重ね続けるに違いない。

「悪が正義を名乗る主役に討たれて幕が下りる。物語とは得てしてそういうものだが、しかし今宵の作曲家は悪意に満ちている。
 悪が正義を討ち、哄笑の中で幕が下りる……奴好みの趣向だ。
 彼らが聖杯を手に入れる未来には、さぞかし溢れていることだろう。―――恩讐と絶望と、底のない悪意の海水が」


                                              (Side:Dispair――13:シュラ&アサシン)


719 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:23:29 P4.7FAE60
◇◆


 シュラにとって聖杯戦争とは、心地のいい刺激(スリル)を与えてくれる愉快なゲームだ。
 彼はまだ、自分が召喚した以外のサーヴァントと直接対面したことはない。
 しかしどんなところにも馬鹿というのはいるもので、この聖杯戦争には堂々と拠点だったり姿だったりを衆目に晒し、あろうことか真名を公衆の面前で宣言してのけた者までいる始末だ。そのため、戦わずともサーヴァントという存在がどの程度強いのかを推し量ることはそれなりに出来た。
 結論からいえば、彼ら、彼女らの強さは相当なものだ。
 少なくとも一介の帝具使いなどでは相手にもならず、一撃で倒されるのが関の山だろう。エスデスクラスの達人になれば、渡り合うことも可能かもしれないが。
 シュラも生前は帝具を使っていたが、仮に冬木に帝具を持ち込めていたとしても、それでサーヴァントと戦おうとは絶対に考えない。

 シュラは今日に至るまでの間、時折町を散策して回っていた。
 気まぐれに女を連れ去って犯すこともしばしばあったが、この日本なる国は帝国のように腐敗してはいないようなので、そっち方面の道楽は程々に留めている。
 帝国は権力のある人間が重んじられ、そういうものを持たない人間が軽んじられる分かりやすい社会だった。それほどまでに腐敗していたのだ、あの国は。
 もっとも根っからの悪人であるシュラとしては、あれくらい腐っていてくれた方が居心地がいい。
 まして彼は大臣の息子だ。たとえ警吏の前で堂々と人殺しを働いたとしても、シュラを捕らえようとするものは誰もいなかった。
 そのため、ついいつもの癖で気に入らない相手を殺すかその寸前まで痛めつけてしまいそうになる。彼の悪い癖だった。

 住宅街の大火災、アースとかいう人間衛星、禍々しい瘴気の漂う城。
 立ち会える瞬間には出来るだけ立ち会うようにしたし、行ける場所には全部行った。
 最後の城だけは流石に本能的警鐘に従って遠目から眺めるだけに留めたが、足を使って歩き回ったことで、それなりにサーヴァントの情報は得られている。

「よう、今帰ったぜ」
「シュラか」
「……何してんだ、アサシン?」

 今日の散策では、大して目立った成果は得られなかった。
 久々に女でも呼んで遊ぼうと思い立ち、日が落ちる頃に帰宅した彼。
 そうして自身のサーヴァントの根城である大部屋に踏み入ったシュラが見たのは……首の後ろ側を押さえながら、カーテンを開いて窓の向こうを眺めているしもべの姿。
 アサシン、DIO。彼は吸血鬼の英霊だ。その特性上昼間は出歩くことが出来ず、閉め切った暗い部屋の中で過ごしている。
 日が落ちた今は外に出歩くことも、こうして景色を眺めることも当然出来るのだったが、今の彼の様子はどこかおかしかった。いつもと違っていた。
 まるで何かを懐かしんでいるような、そんな雰囲気を醸しているのだ。

「私の肉体(ボディ)は、古い宿敵から奪い取ったものだ―――という話は以前したな」
「? ああ……そういやそんな話を聞いたっけな」
「肉体を奪うということは、その人物が持っていた身体的特徴をも自分のものにするということだ。
 ヤツの体はその点、鍛え上げられていること以外には大した特徴を持っていない。……この『星の痣』を除いては」

 見れば確かに、アサシンの首筋には星の形をした痣があるのが分かる。
 事情を知らないシュラも、何やらただならぬものをそこに感じ取ることが出来た。
 この痣はある気高き血筋の象徴。百年以上も続く、戦いの歴史そのものといってもいい。
 その時の重みを、シュラは直感的にアサシンの痣から感じ取ったのだ。


720 : カミイロアワセ ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:23:51 P4.7FAE60
「この町に来てからというもの、時折この痣がズキズキと疼くように痛む。
 君には言っていなかったし、事実わたしも気のせいだと思っていた。
 いや、『思うようにしていた』のかもしれないな……『よもやこんな場所でまで、あの忌々しい血筋が出しゃばってくるはずがない』と思いたかったんだ」
「……話が見えねえな。つまりアンタ、何が言いたいんだよ」
「この世界に、わたしの宿敵がいる」

 星の痣を持つ者は、異能の力とはまた別に、お互いの距離や方向をある程度感じ取ることが出来る。
 アサシンを、DIOを襲った痛みは―――示しているのだ。
 本来同族であるはずの、しかしDIOにとっては自身の野望を最後まで阻み続けた嫌悪の象徴である『ジョースターの血統』の存在を。

「このわたしが水底に沈んでいる間に現れた、奴の子孫の気配ではない。
 これはまぎれもなく奴自身―――この肉体の本来の持ち主の気配だ」

 彼の脳内に、去来する景色がある。
 あの屋敷で過ごした青春。少年の日から、ずっと虐め続けていた男。
 誰よりも早く彼の野望に気付き、遂には彼へ百年の眠りという敗北を与えた『黄金の精神』の持ち主。
 
「その名は『ジョナサン・ジョースター』。フフ……よもやこんな場所で再開することになろうとは、思いもしなかった」

 同じ肉体を持つDIOには、それが分かる。
 痛みという形で伝わってきたジョースターの英霊の存在。
 最もDIOと因縁の深い相手。最初に彼を敗北させた宿敵ッ!

「シュラよ、君も気を付けておくことだ。ジョジョ……ジョナサンは一見するとお人好しの紳士でしかないが、体の内にとんでもない爆発力を秘めている。
 曲がりなりにもこのわたしを何度も破った男だ。その意味は、君にも分かるだろう」

 当のシュラはジョナサンの人となりを全く知らない。
 DIOがこれほど評価していることには驚いたが、単に爆発すると厄介なだけの相手ならば大したことはないとすら思ってしまう。
 シュラは今まで、そういう人間を山ほど殺してきた。
 キレるとヤバいと言われているような人間でも、蓋を開けてみれば底は知れている。
 無論相手もサーヴァントである以上、シュラが戦える相手でないのは確かなのだが―――それでも彼には、ジョナサンを軽んじる最大の理由があった。

「でもよ。そのジョナサンとかいう野郎でも、アンタの『世界』の前にはゴミカス同然。……そうだろ?」
「その通り」

 DIOは妖艶に笑って、シュラの言葉を肯定する。
 彼にとってジョナサン・ジョースターは、敵は敵でも特別な意味を持つ相手だ。
 自分を完全に滅ぼした空条承太郎やその祖父のことは忌まわしい怨敵としか思っていないが、ジョナサンに対しては尊敬の念すら抱いている。
 ―――そんな彼でも、今の自分は倒せない。DIOにはその確信があった。スタンド能力を持たずに時代遅れの波紋法だけを抱えて死んだジョナサンでは、逆立ちしても『世界』を超えられない。それはつまり、彼はDIOに絶対に勝てないということだ。

「……おまえもわたしの存在に気付いているのだろう、ジョジョ。
 ならば来るがいい。わたしの下を訪れ、もう一度波紋を練ってみるがいい。
 その時は二人の再会を祝して――――おまえに『世界』を見せてやろう」


721 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:24:23 P4.7FAE60
◇◆


「アリスとは、また因果な名前を持つものだ。
 ルイス・キャロルの童話においてアリスは不思議の国に迷い込み、そこで濃密な物語を繰り広げた。
 さて、此度のアリスが迷い込んだのは不思議の国でもなければ鏡の国でもない。
 彼女にとっての過去、人間の感情が最も白熱していた時代、悪なる魂に見初められてしまった異界――絶望の海。
 生きて元いた家に戻ろうが、志半ばで朽ち果てようが、今回の放浪は決して童話とはなり得ない」

 聖杯戦争にただ巻き込まれただけの参加者は、この冬木にも数多く存在する。
 あるいは、していた。
 元の世界に帰りたいという願い虚しく激戦の中に散ったマスターも、両手の指で数え切れないくらいにはいるはずだ。
 そして彼女もその一人。望まずに絶望の満たす海へと迷い込んだ哀れな哀れなマーメイド。
 歌って踊れることと年不相応な理知的さ以外は何ら抜きん出たところのない少女は、しかし聖杯戦争の『振るい』の段階を見事に生き延びた。
 ……それが『生き延びてしまった』になるかどうかは、今後の成り行き次第だが。
 
「童話に曰く、幼いアリスは白兎を追いかけて不思議の国へと踏み入った。
 ……だが此度のアリスは腕を掴まれた。白と黒の二色で分かたれた絶望という名の兎に連れられて、無理矢理に物語の中へと放り込まれた。
 そこに一切の主体性はなく、戦う覚悟などあるはずがない。
 メルヘンとはかけ離れた退廃の幻想の中で、闇雲に振り回されるだけだ」

 自身のサーヴァントに振り回されている内は、まだいい。
 この冬木には、人の精神を擦り切れるほどに振り回してのける絶望が跋扈している。
 いつまでも迷い込んだ被害者のままでい続けたなら、待っている未来は一つだ。
 ――――すなわち、破滅。現代に生まれたアリスには、ありふれたバッドエンドが突きつけられるに違いない。

「彼女が生き延びるには、良き出会いをするしかない。
 不思議の国に迷い込んだアリスが、時にそこの住人に導かれながら先へと進んだように。
 そして、理解することだ。自分の迷い込んだ世界を、その果てにあるものを」

                                              (Side:Hope――14:橘ありす&ライダー)


722 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:25:03 P4.7FAE60
◇◆


 この昭和においても、橘ありすは346プロダクションに所属するアイドルだった。
 普段は市内の小学校に通っているが、仕事の日程によっては学校より仕事を優先することもある。
 ……つまるところ、ありすの生活は元の世界で彼女が送っていたものと然程変わらない。
 ただ、昭和はスマートフォンすらない時代だ。ありすにしてみれば大昔にも等しい。
 時代の違いからか、ありすの愛用しているタブレットもこの時代に来てからというもの、何の役割も果たすことが出来ないただの板になってしまっている。
 これではただ悪戯に嵩張るだけなのだが、何となく持っている方が落ち着くので、彼女はこれまたいつも通りタブレットを持ったまま行動していた。
 
 今、ありすは割合大きめの車に揺られている。
 新曲の収録を終え、事務所に戻る帰り道だ。
 ありす単独での仕事だったため、車内には運転手と彼女しかいない。
 ……もとい、運転手と彼女と『一体』しかいない。

「(いや〜、驚きました! アリサさんが歌って踊れるということは私も聞いていましたが、まさかあれほどいい声でお歌いになるとは予想の斜め上でしたよ!
 英霊としての知識で知っているだけですが、歌の収録って余程の大御所でもない限り何度もやり直しをさせられるのが普通なのでしょう? しかしアリサさんは……二度ほどリテイクを出されてはいましたが、それでもそのお歳でこれなら十分立派なものだと部外者ながら私は思いますね!
 しかし僭越ながらアドバイスをさせていただくなら、もう少し速い曲を歌うべきだ。そうですね、私ならあの曲を三倍ほどの速度で――……)」

 ……念話を使っている辺りはしっかりしているが、さっきからずっとこの調子だ。
 マシンガントークという言葉は、ひょっとするとこの男のために作られたのかもしれない。
 そんな馬鹿馬鹿しい発想に至ってしまうほど、彼女のサーヴァントはやかましい男だった。
 おまけに何度言っても名字では呼んでくれないし、百歩譲って名前で呼ばれることをよしとしても、その名前まで間違っているのだから始末に負えない。
 いっそ涼しい車内、快適に運転しているドライバーにも聞かせてやりたいと、ありすらしからぬやや剣呑な考えが浮かんでくる有様。
 すっかりただの板になったタブレットを握る手に力を込めて、霊体のライダーが座っているのだろう隣の席をがばっと勢いよく睨む。

「(あ・り・す・です! 何度言えば分かるんですかあなたはっ!!)」
「(おっとこれは失礼! どうもお疲れのように見えましたもので、雑談でもしていれば調子も戻るかと思いましてね! では話題を変えましょう! これは私の速さにまつわる思い出の話なのですがね、えーとあの時は)」
「(もう雑談はいいですから! 疲れてると思うならそっとしておいてください!!)」


723 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:25:32 P4.7FAE60
 ありすが疲れているというのは、実際当たっている。
 収録日にはまだ日数があったのだが、急遽今朝方に、先方の都合で今日行うことに決まったのだ。
 細かいスケジュールで行動するアイドルに関わる者としては、とんでもないミスである。
 ありすはたまたま今日は他の仕事が入っていなかったため対応自体は出来たものの、学校の授業を比較的慌ただしく抜けてこなければならなかった。
 急いで支度をして、収録前に一度だけ練習もして、それから急いで収録へ向かって今に至る。
 もっと活動歴の長いアイドルならばこういう状況にも対応できるのだろうが、ありすはアイドル活動をそう長くしているわけではない。
 これで疲れを見せるなというのは、つい一年前まで一般人だった小学生には少々酷な話だった。

「(アリサさん)」
「(……何ですか)」
「(不安ですか?)」
「(っ……)」

 もちろん、疲労の理由はそれだけではない。
 この聖杯戦争という状況そのものが、ありすの精神を著しく疲弊させていた。 
 馴染みのない時代と町並み。いつ命を狙われてもおかしくない危機感から来るストレス。
 令呪を隠すために長めの衣装を探してもらったり、包帯を巻いたりするのもこう何日も続けばそれだけで大分気が滅入ってくる。
 
「(……正直言えば、不安ですよ。不安じゃないわけがありません)」
「(ですよねぇ。いえ、悪いと言っているわけではありませんよ。むしろ私はホッとしています。
 アリサさんは気丈な方です。強がって不安になんて思っていないと怒られるものかと思っていましたから。素直なのはいいことですよ、ええ)」
「(………)」

 今度は、ありすは何も言い返せなかった。
 今のはいつものマシンガントークとは違う。
 多少文字数が多いのは目を瞑るとして、その内容は自分を案じてくれているそれだったからだ。
 ありすだって、彼が自分を守るために側にいてくれているのは分かっている。
 ……分かっていても、時々ついていけなくなるだけなのだ。
 彼はその、何から何まで忙しない男だから。

「(私、ちゃんと帰れるんですよね?)」
「(それは保証します。……根拠はありませんが。しかしながら、そこは男ストレイト・クーガー。私の威信にかけてでも、貴女を元の世界に帰してみせましょう)」
「(……それなら、いいです)」

 礼を言うのが照れ臭かったのか、ありすはそれきりそっぽを向いてしまう。
 大人ぶっていてもまだまだ子供らしい彼女の様子に苦笑しながら、ライダー、ストレイト・クーガーは一人彼女の前では見せない決意を固めていた。

(―――返してみせるさ。アリサさんは、こんな町で死んでいい人じゃない)

 聖杯戦争を裏から糸引く何者かの存在に、ライダーは既に気付いている。
 それが誰かまではまだ解らない。ルーラーなのか、あるいは全く別な何かであるのか。
 どちらにせよ、やることは同じだ。橘ありすの破滅を願う悪意があるのなら、それを打ち破って彼女をきちんと相応しい場所に送り届ける。
 それこそ、サーヴァントとしての―――彼女の剣として呼び出された男の役目だ。


724 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:26:06 P4.7FAE60
◇◆


「しかしこの世界には、もう一人のアリスがいる。
 偶像のアリスがこれから始まる少女だとすれば、こちらのアリスは既に終わってしまった少女だ。
 とっくの昔に終わりをいながら、終わることが出来ないままさまよい続ける亡霊の一体。
 さしずめ、不思議の国に行き着くことなく死んだアリスとでもいうべきか。
 何故なら彼女は、自分の為の物語に出会えなかった。代わりに出会ったのは、幻想の為の物語」

 彼女には、救われる未来が確かにあった。
 月の聖杯戦争に迷い込み、友人を得て、看取られながら消えていく幸せな終わりがあった。
 ―――はずだった。しかしその未来は、もう選べない。
 電子の亡霊が彼女の為の物語に出会う前に、悪意の手がその魂を冬木へと移し替えてしまった。
 そうして彼女は今、冬木に出現した魔城の中で相変わらず独りで過ごし続けている。
 生者には住めない魔界の中で、冥界から来た君臨者を従えて誰かが訪れるのを待っている。

「魔城に住まうサーヴァントは怪物だ。……いや、魔王と呼ぶべきだろう。
 それに値するだけの力を持っているし、誇張でも何でもなくあれは魔王と呼ばれるべきモノだ。
 冥府の淵から底なしの魔力を吸い上げ、奇跡という酒を求めて刃を振るい続ける。
 先程オレは言ったな、ここは絶望の海だと。奴が聖杯を手にしたなら、それが比喩ではなくなる。そういう男だ―――そうでなければ、第六天魔王の名は名乗れん」

 魔王の天下に人は住めない。
 彼が天下統一を成し遂げたなら、そこから始まるのは全ての滅びだ。
 数々の戦国武将達の奮闘によって阻止された破滅が、またしても彼の手で成されようとしている。
 しかも今度は、もっと致命的な形で。全ての世界を蹂躙する欲を抱き、魔王が鼓動を刻んでいる。

「奴は逃げも隠れもしないだろう。ただ真っ向から戦い、磨り潰す。ゆえに魔王なのだ。
 だが魔王を恐れて隠れていても、事態は何も進展しない。むしろ奴のような存在にこそ、希望の刃を叩き付けねばならない。
 出来なければ? ―――先のアサシン達と同じだよ。世界は恩讐と絶望溢れる地獄になる。それだけのことだ」


                                              (Side:Dispair――15:ありす&セイバー)


725 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:26:25 P4.7FAE60
◇◆


 冬木の安土城。
 神秘の隠匿などとはかけ離れた堂々たるその威容は、目にした全ての人間の心に畏怖を刻んだ。
 城の周囲の空は常に禍々しい紫色に染まって紫電が走り、敷地内はいずれも汚染されきっている。
 放射能のような猛毒とはまた違う、純粋な魔性によってもたらされる冥界の毒素。
 一度だけ派遣された調査隊は、魔王の姿を見る前に衰弱して倒れ伏し、そのまま骸になった。
 城は冬木市民全ての知るところとなり、一人の例外もなく全てのマスターに視認された。

 ……だが、今日まで城に踏み入ろうとしたサーヴァントは今や誰もいない。
 踏み込んで魔王の前に立った英霊は、いずれも塵のように蹴散らされた。
 現時点で生存しているサーヴァント達は、今のところ近寄ろうとしてすらいない。
 城の頂点にいる『王』が、生半可な備えではどうにもならない怪物であることを感じ取っているからだ。そしてそれは的中している。
 玉座に座って時を待つサーヴァントは、消耗という概念を知らない。
 王は無限の供給を受けながら、視界に入る全てを抹殺する殺戮と蹂躙の化身だ。

 その真名を、織田信長。

 冬木市民だけに留まらず、日本人ならば知らない人間はいないだろう戦国の益荒男。
 神秘の薄い時代のサーヴァントでありながら、彼の力は常軌を逸した域にあった。
 彼は自らをこう名乗った。―――余は、第六天より来たりし魔王である。
 人は彼を指差しうつけと笑った。その笑みが恐怖に歪むまで、そう時間は必要なかった。
 自分の宝具であり、居城である城を衆目に晒す『うつけ』としか思えない行為。
 馬鹿に物を見せようと息巻いた命知らずは思い知った、『うつけ』は自分の方だったと。
 
 人間の頭蓋を盃に、魔王は酒を啜る。
 どんな武人でも戦慄を禁じ得ないだろう、殺気に満たされた玉座の間。
 そこに一人、明らかに場にそぐわない装いの少女の姿がある。
 白い西洋風の装いが嫌でも目立つ、小さな少女。
 その手には赤い印が刻まれている―――魔王を従える証の令呪が、紅々と輝いている。

「……つまんないわ、セイバー。誰も遊びに来てくれないんだもの」

 マスターの名前は、ありす。この悪意に満ちた世界に迷い込んだ、二人目のアリス。
 彼女はつまらなそうに外を眺めながらセイバーにそう言うが、彼はただ口を歪ませ嗤うのみ。
 するとありすは、またつまらなそうに唇を尖らせる。……それから名案を思い付いたと手を打てば、城の彼方に見える町並みを見据え、小さく呟いた。

 ―――お外に行ってみようかしら、と。


726 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:26:55 P4.7FAE60
◇◆


「彼らは気高きものだ。その在り方は、紛れもなく希望と呼ぶに相応しい。
 正しき力を正しき者へ。奇跡の杯が悪しき者の手に渡らぬように、彼は王として君臨する。
 先の魔王が闇の王だとすれば、彼と彼女は光の王であり理想の王だ。
 ……それだけに彼らは、全ての聖杯を求める者にとって無視できない敵となるだろう。
 正しき王聖は力そのものだ。そしてそれは、時に希望から形を変える」

 彼も彼女も、正しいことに違いはない。
 彼は世界を保つ王として。
 彼女は世界の美しさを知る、輝きを求める少年のための槍として。
 どんな絶望を前にしても決して挫けず、最果てまで駆け抜けていくことだろう。
 ……それはつまり、願いを持って聖杯を欲する全てのマスターの敵になるということ。
 毀れず折れず迷わず果てず、ただ輝き続ける理想という名の暴力。
 彼らの前に立った者にとってその理想は、光を騙った絶望に見えるに違いない。

「私情を捨て、感情を排し、ヒトではなく装置として国を治めんとする少年。
 かつてそれを目指した槍兵を従えて、正しい結末のために邁進する姿はさぞかし美しいのだろう。
 この世界は悪性に満ちている。求める者も、求められるモノも、全てだ。
 理想の果てに待つのは絶望という名の墜落だよ。―――それを知ったなら知ったで、奴らは聖杯を砕こうと考えるのだろうがな。
 つくづく、どこまでも正道を往く連中だ」

 槍兵のクラスで召喚された騎士王の足は地を離れ、その視点は天の高みにシフトした。
 彼女は今、宝具である聖槍の性質で女神に近しい存在に変質している。
 ――――その槍は、世界の輝きを永久に護り続けるもの。
 なればこそどれほどの絶望があったとしても、彼女はやはり揺るがない。
 それを従える彼も、当然そうだ。彼らは永遠に希望であり、輝きを失うことはない。
 それこそが理想の王聖であるゆえに。彼らは輝きを求め、己の槍を振るうのだ。

「高みに至った者は得てして無機質になるものだ。そう、おまえのようにな、マスター」
「……………」 

                                              (Side:Hope――16:レオナルド・B・ハーウェイ&ランサー)


727 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:27:30 P4.7FAE60
◇◆


 時は黄昏を過ぎ、夕陽の落ちた冬木には夜の闇が立ち込めつつあった。
 一介の地方都市である冬木にはそぐわない豪邸の内から、黒に染まる空を眺める者がある。

 ―――レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。

 世界屈指の大財閥の御曹司というロールを与えられた彼もまた、この聖杯戦争に名乗りを上げたマスターの一人だ。
 前座の予選段階を勝ち抜き、真の聖杯戦争とでも呼ぶべきステージに到達することを成し遂げた万能のウィザード。
 これまでに彼のサーヴァントが撃破した主従の数は七つ。ムーンセルともまた違う『本来の』聖杯戦争だったなら、この時点で既に勝利が決まって釣り銭が出る。
 レオのサーヴァントはそれほどまでに凄まじい存在で、並ぶもののない高みにあった。
 
「まずは一区切り、というところでしょうか――」

 無論、安堵するにはまだ早すぎる。
 いわばレオ達は今、ようやく聖杯戦争の土俵に立ったところなのだ。
 冬木に潜むマスターの残数がどれほどかは不明だが、御し易い敵は一人もいないくらいの認識で丁度いいはずだとレオは考えていた。
 油断の末に無様な死を遂げるくらいなら、過剰に警戒して万全以上の体制で迎え撃った方が余程いい。
 ルールも何もあったものではない、潰し合いに等しいこの形式ならば尚更のことである。


728 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:28:08 P4.7FAE60
「―――アルトリア。どう見ますか」
「やや不自然なのは、否めませんね」

 レオの傍らに立つ鎧兜の女騎士は、冷気を孕んだ声で彼の問いに答えた。
 この騎士こそ、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイが呼び出した至高のサーヴァント。
 およそ人間らしさというものを微塵も感じさせない、そこにいるだけで周囲の気温が冬の日のそれに変わっていくかのような雰囲気。
 レオほどの人物でもなければ彼女に気圧され、主従関係どころではなくなっていたに違いない。
 彼だからこそ、彼女のマスターで居続けることが出来る。聖槍を握り、地から天の英霊へと変質したアーサー王……アルトリアの真名を持つ槍兵の主君が務まる。
 彼女の声は常に冷たく、無機質に近い空虚を湛えている。
 彼女に悪意や敵意があるわけではない。今の彼女には、そうすることしか出来ないのだ。
 そんな聖槍の騎士は、この聖杯戦争に初めて疑念のようなものを示した。
 普段のそれよりも冷たさの度合いが違う―――言うなれば押し寄せる猛吹雪のそれに近いような声に乗せて、そういう所感を口にした。

「同感です。―――あまりにも監督する側の行動が鈍すぎる。
 住宅街の一件といい例の城の件といい、本来ならペナルティを科されて然るべき蛮行のはず。
 特に後者は、周囲への無差別な魂喰いに繋がりかねない暴食の宝具だ。
 にも関わらず、今日この日に至るまで音沙汰なし……聖杯戦争として異質だということは知っていましたが、少々きな臭いものを感じてしまいますね」

 それはつまり、この聖杯戦争自体が誰か個人の欲望によって仕組まれたものである可能性。
 聖杯を正しい形で運用するために戦うレオのようなマスターにとって、それは最も忌むべき事態だ。
 聖杯戦争が終わるや否や、聖杯を強奪して逃亡―――などという落ちも考えられる。
 無論そんなことを許すつもりは毛頭ないが、そうだとしたら事はこれまでの想定を上回る域で厄介なものになってくる。

「……いずれにせよ、私達のやるべきことは変わらない。そうでしょう、レオ」

「もちろんです。真相がいかなるものであろうとも、僕は必ず聖杯を手に入れる。
 そのために僕達はこれまで戦ってきた。仮に糸引く者の姿が裏にあったとしても―――」

「――――ええ。その時は、我が槍で悪しき奸計を刺し貫きましょう。
 聖杯を手にするのは貴方だ、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。
 我が槍、我が馬は貴方の刃として戦場を駆け抜ける。この戦いが最果てに至り、貴方が栄冠を勝ち取るまで、決して止まることはない」


729 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:28:30 P4.7FAE60
◇◆


「彼女達は、紛れもなく希望側の存在だ。
 マスターは未だ無垢だが、サーヴァントの魔女は誰も死なない終わりをこそ望んでいる。
 しかしそれは夢物語、理想論にも程がある考えだ。
 今や冬木は何十もの願いが混在した、希望と絶望が複雑に絡み合った混沌と化している。
 よりにもよってこの戦争に、穏便な終わりだと? あるはずがないし、断じてあってはならん結末だ」

 安易な救いは茶番と同義だ。
 仮に全てのマスターとサーヴァントが願いを諦め、皆で手を取り合って聖杯戦争を脱する未来があったとしよう。―――それで納得する客などいるはずがない。
 願いを叶えるために命まで張った全ての生き様を、その結末は簡単に茶番に変えてしまう。
 ゆえにアヴェンジャーは否定する。そして当の彼女も、そんな簡単なことには気付いているはずだ。
 要は彼女は未熟な英霊なのである。英霊の座に登録されるかどうかすらギリギリの、召喚されたこと自体がほとんどイレギュラーに近いサーヴァント。
 では、何故彼女が召喚されたのか? 星の数ほどいる英霊の中から、この『魔女っ娘』が呼び出されたのか? それにはちゃんとした理由がある。

「『星』だ。彼女達は星を寄る辺に引き寄せ合い、この世界に現れた。
 魔女か姫かの違いはあれど、双方が星に強い因果のある存在であることだけは共通している。
 それだけに、注目すべきはサーヴァントではなくマスターの少女の方だ。
 年端も行かない少女の身で、同じ属性の英霊を引き寄せるほど『星』への因果を持つ娘。では、彼女は一体何者だと思う?」
「……先程貴方が言っていたと思いますが。姫、なのでしょう」
「そう、姫だ。星の姫君たる彼女は、きらびやかな光を放つ緑の星々に愛されている」

 星のお姫様―――彼女を元の世界で収容していた団体は、そういう別名を彼女に与えていた。
 それは実に的を射ている。彼女は姫だから、星々の寵愛を受けている。
 時に求婚しようと星が降り、姫に危険が及べば流星群となって星が姫の元へと駆け付けてくる。
 ……地上の景色を蹂躙し、多くの犠牲を出しながら、精巣を肥大化させて突き進んでくる。
 彼女は今も、空高くに浮遊する緑の星々を自分のための騎士だと信じているのだろう。
 だが現実は違う。そこに希望など、何一つない。あるのはどこまでも、底の存在しない欲望だけだ。

「冬木は絶望に満ちている。今後も数多の人間が絶望し、希望を捨てていくのだろうさ。
 そして彼女が絶望した時、それは更なる絶望の呼び水として冬木に降り注ぐ。
 美しいだろうよ、その光景は。地に赤い花をいくつも咲かせながら、星々は愛する姫を迎えに現れるのだ」
 
 
                                             (Side:Hope――17:SCP-155-JP-1&キャスター)


730 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:29:02 P4.7FAE60
◇◆


 入院生活にも大分慣れてきたのか、キャスター、星野輝子のマスターである少女は毎日を退屈そうな顔をしながら過ごしていた。
 慣れれば慣れるほど、病院暮らしは退屈なものに姿を変えていく。
 そもそも面白おかしい場所では決してないのだが、それでも毎日を不自由な環境で過ごさねばならない病院という場所は、新鮮さの脱落がとにかく早い。
 とはいえ相手は子供だ。扱い方さえ心得れば、機嫌を取るのは容易い。
 なるべくキャスターが一緒にいるようにして、誰にも内緒という条件で簡単な魔法を見せもした。
 そんなマメな努力の甲斐あって、今のところ彼女はわがままも言わず大人しくしてくれている。
 
『しかし限界はあるぞ、ホシノコよ。いつまでも今のままではいられまい』
「……解ってますよぅ、そんなこと」

 キャスターは、自分のマスターを聖杯戦争に巻き込みたくないと考え、行動している。
 聖杯戦争のこと自体彼女には伝えていないし、ステータスが見えることも適当に誤魔化しておいた。
 ……我ながら『魔女っ娘と友達になれた証』という説明はもう少しどうにかならなかったのかと思ってしまうが、それは一旦置いておく。
 右手の令呪も大体似たような嘘を教え、他人に見られてはいけないものと言って包帯を巻かせている。
 こうして並べただけでも、キャスターの手際は完璧には程遠い。
 もしもマスターがもう少し大人びた人物だったなら、今頃はあっさり嘘を見破られていたはずだ。
 宝具、彗星の尾―――『ウル』の言うように、いつまでも隠し通せることではない。
 このまま誤魔化し続けていてもいつか、必ず立ち行かなくなる時が来る。それはキャスターも解っている。

『それだけではない。彼女の両親のことも、だ』
「……………」

 ……少女の両親は、あの日の火災に巻き込まれて焼死している。
 救急隊が救助した頃にはもう誰が見ても死亡していると分かる状態だったと、医師から聞いた。
 聖杯戦争に子供を巻き込みたくないというのはキャスターのある種のエゴだが、両親の死を伝えていないのにはきちんとした理由がある。
 
「多分……ご両親を失ったことを知ってしまったら、あの子は壊れちゃうと思う」

 言うまでもないことだが、死を間近にするということは人間にとって巨大なストレスとなる。
 キャスターのマスターは身動きの取れない状況で、炎が自分に迫ってくる絶望を経験した。
 精神が成長しきっているはずがない年齢でそんな状況に置かれれば、心に傷が出来ないわけがない。
 今の彼女が安定しているのは、キャスター……『魔女っ娘』が甲斐甲斐しく接しているからだ。
 それでもちょっとしたきっかけでフラッシュバックが起こりかねない、危険な状態だとキャスターは医師から聞いている。
 そんな少女に対し、両親が焼け死んだ話など伝えてみろ。
 ……傷の治りきっていない心がどうなってしまうか、分かったものではない。


731 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:29:19 P4.7FAE60
『うむ……確かにそれは否めんな。
 だがホシノコよ、やはりお前は彼女に聖杯戦争のことを教えるべきだ。
 事実上の殺し合いと聞けば動揺はするだろうが、無知なままでいるよりはマシなはずだぞ』
「――……少し考えてみます。なるべく早く伝えられるように」

 しかし、どう説明したものだろう。
 万能の願望器だとかサーヴァントだとか、そういう単語を並べ立てても首を傾げられそうだ。
 分かりやすい言葉に噛み砕くなら、『願いごとを叶える宝物を、私みたいな不思議な力を使える人達が取り合ってるの』というところか。
 ただこれだと、危機感を抱くどころか聖杯戦争を楽しいものだと認識されかねない。
 かと言って真正面から殺し合いだと伝えたなら、怯えられるか冗談と思われるかのどちらかだろう。
 ……やはり多少怖がられるリスクを押してでも、本当のところを伝えるべきか。

 考えられるだけ考えてはみる。いい答えが出せたならそれを伝えればいいし、出てこなくても何かしらの形で……明日にでも彼女に伝えよう。
 そう心に決めながら、キャスターは病院を出るべく霊体化して一階を目指す。
 ずっとマスターの遊び相手をしていては進むものも進まない。聖杯戦争を止めたいと思えばこそ、危険を冒してでも偵察に出向く必要があった。

 それに―――何だか、嫌な予感がする。
 正確には、町全体にどうにも嫌な空気が漂っている。
 星の魔女の資質を持つ彼女だから敏感に感じ取れたものなのか、それとも現実に冬木の中の何かが変わったのかは定かではないが、不吉なものであるのは確かだった。

「……あ」

 不意にキャスターは足を止める。見れば一階の談話スペースに設置されたテレビが、先日の住宅街火災についてを報じていた。
 地方都市を襲った真夜中の悲劇。犠牲者多数、救助の裏には『魔女っ娘』の影。
 流石にサーヴァントが全国ネットで報道されるのはまずいなあと反省しつつ、キャスターはその場を通り過ぎる。

 ――――彼女は気付かなかった。
 画面に映し出されている写真の一枚。その空の部分に、一筋の線が走っていることに。
 緑色の線。自分のマスターと紐付けされた空の蹂躙者の存在を、魔女っ娘、星野輝子はまだ知らない。


「……魔女っ娘さん、早く帰ってこないかなあ」

 
 星のお姫様は、何も知らない。彼女はまだ、変化の少ない穏やかな日常を過ごしている。
 絶望もせず、魔女っ娘という幻想だけを希望にしながら、見せかけの平和に浸かっていた。


732 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:29:32 P4.7FAE60
◇◆


「世界に輝きを取り戻し、それを永久に守らんとする男の話は先程したな。
 この主従もまた、輝きをこそ求めている。とはいえそれは、世界規模の大きな光でなくてもいい。
 光に飢えた心を満たす、一人分ほどの輝きを手に入れたい。
 信じられないだろうが、彼らの願いはそういうものだ。
 小さな願いと思うか? ―――しかし偶像の少女が呼んだ英霊は、生涯を通してもついぞそれを手にすることがなかった。
 少女の方も輝きが消えかけて、今や闇を生み出さんとしている有様だ。
 今の彼らは、あまりにも求める輝きから遠い場所にいる」

 理想と現実の乖離に耐えかね、光を手放した少女。
 本来彼女は自ら光を生み出し、それを万人に届けることの出来る人間だ。
 しかし偶像(アイドル)もまた人間。彼女は現実の過酷さに絶望し、感情のままに光へ背を向けた。
 闇へ堕ちる心をこそ絶望は愛する。彼女もそれに手を引かれ、昭和の冬木で目を覚ました。
 今の彼女にかつて望んだ輝きはない。光る力は持っているのに、自らそれを消してしまっている。

「光があるからこそ闇があり、闇があるからこそ光がある。……しかし二つは決して交わらない。
 光と交われば闇は消える、世界の真理だ。だからこそ闇は闇に、光は光に還るべきだと誰もが言う。
 そう理解してもなお、かの皇帝は輝きへの希望を捨てられない、諦められない。
 末期の時を迎えても諦められず、遂にはこんな場所にまでやって来てしまった」

 ここは絶望の海、悪意の渦巻く混沌の町。
 輝き(キラキラ)なんてものとは限りなく縁遠い場所だ。
 恵まれた世界、救いに溢れた世界で求める輝きを手に出来なかった彼と彼女は、こんな世界で願いを叶えられるのか。
 至難だろうとアヴェンジャーは断ずる。だが、可能性は絶無ではない。
 絶望だけが支配する闇の底でしか生まれない輝きが、この世界にはただ一つ存在する。

「巨大な絶望に抗う時、希望の意思は一際強く輝くものだ。
 ……果たしてお前達は、その輝きを賜るに値する存在か否か。全てはこれより始まる、本当の聖杯戦争で占われるだろう」


                                             (Side:Dispair――18:本田未央&ライダー)


733 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:30:13 P4.7FAE60
◇◆


 今日もこうして一日が終わり、夜が来る。
 本田未央の日常は、時を超えて冬木にやって来た日から何も変わっていなかった。
 学校には行かず、一日中自分の部屋に閉じこもって過ごす日々。
 外出といえば、精々買い物で時たま家を出るくらいのものだ。
 幸いなのは、未央に与えられたロールが親元を離れて一人暮らしをしているというものだったことか。
 誰にも心配されず、誰にも迷惑をかけずに過ごすことが出来る。
 学校は休んでしまっているが、一人くらいいなくたって誰も困りはすまい。

(いつまでこうしてるんだろ、私)

 自嘲するように呟いた言葉に、反応を返してくれる相手はここにはいない。
 彼女をキラキラしていないと称したライダーも、どこかに出ているようだった。
 ……輝き(キラキラ)を羨望する彼のことだ。キラキラしていない自分には、きっと興味がないのだろう。
 聖杯戦争を勝ち抜くための準備でもしているのかもしれない。だとすると、少しだけ申し訳ない思いになる―――マスターとしてしっかりしなければならないのに、自分は未だに何もかもから目を背けたままだ。
 この部屋の中で世界を完結させて、無意味な時間を過ごしながら、だらだら今日まで生き残ってきた。

 聖杯戦争は殺し合いだ。
 願いを叶える願望器を手に入れる戦いなのだから、報酬に見合った相応のものをマスターは賭けなければならない。
 すなわち、自分の命を。
 ライダーに直接聞いたわけではないが、命を落としたマスターもきっとそれなりにいるのだろうと思う。
 自分がこうして何もせずに生き残れているのは、そう考えるととても恵まれた、幸せなことに違いない。

 もしも、失くしてしまったキラキラを取り戻せるのなら――――

 取り戻せるのなら、どうするというのか。
 他の誰かを殺して、そうでなくともその人の願いを蹴飛ばして聖杯を手に入れる?
 …………答えは出ない。そう簡単に出せるものではないし、今の未央には選べない。

 溜息をつきながら未央は不意にリモコンを手にし、テレビを点けた。
 画面に映し出されるのはまたしても、きらびやかなステージで歌って踊るアイドルの姿。
 以前はトップアイドル、山口百恵の姿を見たと記憶していたが、今日は違った。
 
 画面に映っているのは、未央の見知った二人のアイドルだった。

 もしもあの時、シンデレラの舞踏会から逃げ出したりしていなければ―――
 二人の隣にはもう一人、アイドルがいるはずだったのだ。
 本田未央というアイドルが、あのステージでキラキラ輝きながら踊り、歌っていたはずなのだ。
 叩きつけるようにリモコンの電源ボタンを押し、未央はクッションを抱き締めて嗚咽を漏らす。

「っ……う、っ…………」

 抱いた布地の隙間から漏れ聞こえる押し殺した泣き声は、キラキラなどとは到底結び付かない、泥臭いものだった。


734 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:30:34 P4.7FAE60


 ――――所変わって、柳洞寺。
 ごく普通の寺院にしか見えないこの場所の地下には、ライダー、闇の皇帝ゼットの根城が巣食っている。
 『此処なるは終着駅、常闇の魔城(キャッスルターミナル)』 。
 寺の地下に大型駅が沈んでいるという荒唐無稽な絵が、しかし現実のものとしてここにあった。

「未央の奴は、相変わらずか」

 帳の下りた空と寺を背景に、ゼットは星々の浮かび始めた空を見やる。
 この景色は、何度見ても飽きるということがない。
 とうの昔に手が届かないことを知ったというのに、今日もふと気を抜けば、自然と空に手が伸びている。
 聖杯戦争が始まってから今まで、やはり望んだキラキラには出会えていない。
 期待はしていなかった。何せキラキラは、自分が生涯を費やしても手に入れられなかった光だ。
 少し世界が変わった程度で手に入れられるなら、ゼットはこれほど強く欲してなどいない。

 初めて会った時から今日まで、彼のマスターである少女、未央は何も変わらない。
 毎日自分の部屋と自分の殻に閉じこもって、せっかくのキラキラを自分で消している。
 そのことがもどかしく、何故お前はそうなんだと日々失望しながら―――それでも彼女の中にわずかなキラキラを見ているから、彼女を切り捨てないままここまで来た。
 
「まだ、遠いな。俺達が欲しいキラキラには、まだまだ遠すぎる」

 気の遠くなるほど遠い道のり。その先には、聖杯という極上のキラキラが待っている。
 それを手に入れるために、闇の皇帝はこの冬木という町の聖杯戦争に召喚された。
 彼は決して諦めない。狂おしいほどに欲する光を手に入れるまで、絶対に。


735 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:31:00 P4.7FAE60
◇◆


「この男もまた、光に救われた人物だ。
 ……いや。光に触れることで、光を取り戻した人物というべきか。
 幼くして世界の醜さを知り、絶望し、自ら光を消し去った男。
 道徳、倫理、私欲……あらゆる感情を捨て去り道具に徹してきた彼はある時光に出会い、情に絆され、そして叛逆の末に失敗した。
 それほど美しかったのだろう、彼の見たモノは。
 もしも光に絆されていなければ、彼は冷徹な絶望として聖杯を狙ったやもしれないが、救われた男はあくまで元いた場所への帰還をこそ望んでいる」

 彼の生涯は、絵に描いたような波瀾万丈だった。
 物心ついた時から親に捨てられ、ストリートチルドレンとして生活。
 仲間の死をきっかけとして犯罪組織に身を投じ、果てには立派な暗殺者として大成するに至った。
 学友に見せる明るく優しい顔はあくまで表面上のもの、いずれ剥がす乱造品の仮面でしかない。
 ……はずだった。確かに最初はそうだったはずが、いつしかそれは仮面でなくなっていた。
 光を捨て去ったはずの道具は、他人の美しい光に照らされて自らの輝きを取り戻し、『彼女達』の輝きを守りたいと願う。
 その想いが、よりによって聖杯戦争などという殺し合いへ通じたというのは皮肉なものであるが。

「彼の召喚した英霊もまた、一言では語り尽くせぬ壮絶な人生を経てきた少年だ。
 無数の願いを抱えながら、しかしマスターの方針に殉ずる。有り体に言えば、彼は運が良かったのだろう。悪なる聖杯が巡り合わせたにしては、歯車が噛み合っている。
 ―――しかし、しかしだ。彼はやがて知るだろう、絶望的な真実を。
 守りたいと思った『今』。その最も大きな一ピースが、この冬木で絶望の一つと成り果てていることを知るだろう」

 殊勝な想いでしがらみに逆らい、その末に願いを叶える戦いに行き着いた少女がいる。
 たとえ『今』彼が満たされていようとも、それがいつまた理不尽に奪い取られるか分からない。
 聖杯を手に入れる。そしてそんな理不尽が、もう二度と起こらない世界にしてみせる。
 そう願って英霊を召喚した少女。彼女こそ、暗殺者の少年に希望を見せた最初の一人。

「それを知った時、男は彼女を止めるのか。それともその戦いに協力の姿勢を見せるのか。
 光から闇へと道を踏み外した少女を希望が照らすのか、絶望が後押しするのか―――
 ……その答えは、今は存在しない。だがいずれ、必ず誕生する。そう、いずれな」

                                             (Side:Hope――19:有栖院凪&アサシン)


736 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:31:37 P4.7FAE60
◇◆


 聖杯戦争からの帰還。
 それがマスター、有栖院凪の掲げる行動目標であった。
 変えたい過去は無数に存在する。叶えたい願いも同じくらいにはある。
 それでも彼は、あくまで今を愛するのだ。
 過去に背を向けて今を守るためにも、彼は聖杯戦争を脱出し、守るべき人達のところへ帰りたいと願った。
 ―――それから時間は流れ、聖杯戦争は次なる段階へ移行しようとしている。
 
「……はあ。結局ズルズルここまで来ちゃったわね」

 脱出手段の模索。その進捗は、とても芳しいといえるものではなかった。
 空間の綻びのようなものも存在せず、欠陥らしい欠陥がどこにも見当たらない。
 元の世界へ帰る手がかりをほんの一欠片も見つけられないまま、凪達は今日の日を迎えることになった。

「勝負はこれからだ。大勢のサーヴァントがより激しく戦い始めれば、この町は途端に激しい混沌に染まるだろう。
 そういう時こそ、システムは一番ボロを出しやすい。……そういう意味では、やっとスタートラインに立てたというべきかもね」

 凪が召喚したサーヴァントのクラスは、彼らしいというべきか、アサシンだった。
 真名を、天樹錬。幼い外見とは裏腹にひどく優秀な魔法士であり、同時に『悪魔使い』の片割れでもある少年。
 彼は頭のいいサーヴァントだった。いかなる時も冷静に行動し、その明晰な頭脳で状況を見極める。
 凪も感情に任せて戦うタイプではないため、そういう意味でも彼らの性質はよく噛み合っていた。

「ただ、今後も出来るだけサーヴァントとの交戦は控えていくべきだろう。
 僕らの目的はあくまで脱出であって、聖杯を手に入れることじゃない。だからそもそも戦うこと自体が不必要な工程だ。
 戦う機会は最小限に留めて、情報の収集と隠密に徹し続けるのが利口かな」
「同感。あたしらは、あたしらのやるべきことをやるだけってね」

 彼らはあくまで静かに、しかし的確に行動する。
 戦いを避け、表舞台に立たず、目的だけを見据えて動く。
 その過程で人を殺さねばならないというのなら、凪は躊躇なくそれを実行するだろう。
 光に満ちた日常の中で漂白されたからといって、これまで培ってきたスキルを無にするような間抜けではない。
 これまで何度も繰り返してきたことを淡々とこなす、それだけのこと。


737 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:31:53 P4.7FAE60
「願いを持っていないのに聖杯戦争へ巻き込まれてしまった、そういう人間が他にいるなら接触を図ってみるのも一つだね。
 主従の数も、もう相当少なくなってきているはずだ。協力者を探すにはうってつけの時期といえる」
「そうね、それも避けられる戦いは避けるって話に繋がっていくし。……もし交渉決裂で戦闘開始、とかなり出すと少し面倒だけど」
「その時はその時だ」

 回避できる戦いは回避して、無用なリスクは背負わない。
 その一環として同盟を利用、更に戦闘のリスクを減らしつつ、脱出手段を探る人手も確保する。
 とはいえあくまで同盟は利害の一致で結成するもの。
 時と場合に応じて凪は相手を切り捨てたり、弾除け同然の囮として利用することも視野に入れていた。
 生きるということは上手く立ち回るということ。
 悲惨な少年時代を過ごしてきた有栖院凪という男は、そのことをよく知っている。

「何か不安なことや危惧していることはあるかい、マスター」

 アサシンの質問に、凪は最初「そんなものはない」と答えようと思った。
 口を開きかけたところで、しかし彼はそれを噤んでしまう。
 不安要素があるということを、その動作は如実に物語っていた。

「……ただのNPCだとは思うんだけどね。一人気になる娘がいるのよ」
「と、いうと?」
「破軍学園……元の世界のルームメイト。最初に名前を聞いた時は、思わず固まっちゃったわ」

 黒鉄珠雫。
 凪のルームメイトにあたる少女が彼の通う学園に所属していることを知ったのは、なんてことのない偶然だった。
 日常の一風景の中で偶然彼女の名前を耳にし、凪は大層驚いた。
 珠雫は闇の底にいた凪にとって、初めて見えた光だ。
 気高い強さと優しさを小さな体に秘めた彼女。
 彼女が、この冬木にいる。……ただのNPCである可能性の方が高いのは分かっている。それでも、気にするなというのは無理な話であった。

「……もしもその珠雫って子が、聖杯戦争の参加者だったら?」
「その時は助けるわ。あの子が聖杯を求めて戦うというのなら、あたしは全力でそれを助ける」
「言うと思ったよ。……まあ、その辺りは追々調べていく形になるかな。
 きみが気になるというのなら、見過ごしてはおけないからね」
「うふふ、イケメンなこと言ってくれるわね」

 珠雫が何を求めて戦っていたとしても、凪はきっと彼女を助ける。
 たとえその身を修羅に堕とそうと、彼女が日常に戻れるように全力を尽くす。
 ―――彼の聖杯戦争は、あるいはその時から始まるのかもしれない。
 自分が何をすべきなのかを正しく理解した、その時から。


738 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:32:11 P4.7FAE60
◇◆


「女は無力だった。世界を自分の中だけで完結させ、人と向き合うことを放棄していた。
 硝子の靴を履いてその現状を打破し、一つの力を手に入れた彼女は、しかし意図せず昔へと引き戻される。
 硝子の靴は届かず、綺羅びやかなライトが照らすこともない日常に。
 それでも彼女は、もうその日々を満ち足りたものだとは思わない。
 変わってしまった、変えられた日々へと帰るために、女は聖杯戦争に向き合うことを決断したのだ」

 この世界にも、シンデレラの物語は存在する。
 普通の少女達の元に突如舞い込む、綺羅びやかな世界への招待状。
 しかし彼女の元にそれは届かない。彼女の世界は、ここでは変わらないまま。
 スターライトステージを降ろされ、大好きな本に囲まれて静かに過ごす慣れたはずの日常。
 それを女は拒んだ。自分にはとても似合わないと思っていた眩しい世界に帰りたいと、切に彼女はそう願った。

「無力の殻を被っていながら、内には確たる強さを秘めている。
 そういう意味では確かに、彼女とその呼んだ英霊は似た者同士であるのかもしれん。
 ……もっとも、後者のそれは狂える獣としての強さだがな。
 善と悪は切り離されるべきだと考え、その末に眠れる悪を呼び起こしてしまった哀れな男。
 世界で最も有名な二重人格者。ここまで言えば、おまえにもその真名が分かるだろう?」
「成程、ヘンリー・ジキル博士ですか」

 アイドルの少女が纏う無力の殻。
 その内側にあるのが光の強さだとすれば、英霊――ジキルのそれは闇の強さである。
 善と誠実を憎み悪徳を愛する、理性的で聡明なジキルとは正反対の人格。
 まさに魔獣と呼ぶ他ない獰猛(ハイド)を内に飼う、バーサーカーのサーヴァント。
 それが、少女の召喚した英霊の真実だった。

「原典におけるヘンリー・ジキルは苦悩の末に、壮絶な自殺でその生涯を閉じた。
 ならば英霊として、この絶望に満ちた町へ呼び出された彼はいかなる末路を遂げるのだろうな。
 ジキルが望むように正義を果たし、少女を送り届けた後に静かに消えるのか。
 それとも―――ハイドが望むように悪逆を尽くし、狂乱の末に討伐されるのか」



                                             (Side:Hope――20:鷺沢文香&バーサーカー)


739 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:32:47 P4.7FAE60
◇◆


 バーサーカーのマスター、鷺沢文香は聖杯を求めてはいない。
 彼女にはそうまでして叶えたい願いがなかったし、今の彼女の願いを叶えるのに聖杯の力はそもそも必要ないからだ。
 文香は願っている、自分が元いた平成の時代に帰れることを。
 何事もなかったかのように帰り、変わってしまった日常を過ごすこと。
 それが文香の願いである。だから彼女には、聖杯を手に入れる理由がないのだ。

「……ふぅ」

 時刻は夜の七時を少し過ぎた頃。
 書店の仕事を終えた文香は、自分の住むアパートへと向かっていた。
 彼女に与えられたロールは叔父の書店を手伝う文学部の大学生という、アイドルになる前の彼女と同一のもの。
 ただし実家暮らしではなく、安家賃のアパートで一人暮らしをしている状況にある。
 ここは聖杯戦争の舞台になっている町だ。
 日が落ち、辺りが闇に包まれた時間帯に女性一人で外を歩くのはお世辞にも賢い行動とはいえない。
 文香もそれを分かっているため、なるべく人通りが多く、視界の良好な道を使うように努めていた。

 ……聖杯戦争が始まってから、もう結構な時間が経っている。
 だというのに文香とそのサーヴァントはこれまでただの一度も交戦を行っていない。
 ふと気を抜けば戦争のことを忘れてしまいそうなほどに、文香の日常は穏やかに流れている。
 大事なことを忘れてしまわないように、文香は時折敢えてよくない想像をすることにしていた。
 
 今日に至るまでの間に、きっと多くのマスターやサーヴァントが命を落としている。
 自分がここまで生き残れているのは運がいいだけで、いつ自分が戦いに巻き込まれたっておかしくない。
 そう自分に言い聞かせることで、ここは聖杯戦争の舞台なのだということを強く胸に刻みつける。
 そうでもしなければ、本当に気が抜けてしまいそうだった。
 鷺沢文香は戦いを知らず、ごく普通の日常で育ってきた女だ。
 よく言えば恵まれていて、悪く言えば平和ボケしている。
 いつまでも常在戦場の理念さながらに気を張っていることなど、出来るはずがない。


740 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:33:03 P4.7FAE60
 自室の前まで辿り着けば、鍵穴に鍵を差し込んで一気に回す。
 そうしてドアノブを押してやると長いこと油を差していないのか、耳障りな音を立てながら扉が開いた。
 すっかり過ごし慣れた自分の部屋の匂いが鼻に入ってくる。
 部屋に入れば荷物を下ろし、何の気なしにテレビを点けた。
 ここは昭和の町だ。地上デジタル放送なんて上等なものはやっていないし、テレビもブラウン管オンリー。
 最初は思わず見辛さに顔を顰めたものだったが、今となってはもう慣れている。

「……あ」

 点けたテレビに映し出されたのは、歌番組だった。
 画面の中でアイドルたちが歌って踊り、昭和テイストな音楽を奏でている。
 覚えのある顔がいくつもあった。文香と同じ事務所で活動していたアイドル達だ。
 彼女達はこの世界でもNPCとして、立派にアイドル業をこなしているらしい。

 ふと、その中でも特に親交のあった小学生アイドルの姿が目に入った。
 橘ありす。大人びた振る舞いを見せるが、その中には隠しきれない子供らしさが見え隠れしている少女。
 物静かで大人な雰囲気を醸す文香には、ありすは他の人間にはあまり見せない一面を見せてくれた。
 彼女もどうやら、元気にやっているらしい。そのことに不思議と頬が少し緩んだ。

「……帰らないと」

 文香は改めて、強くそう思う。
 人付き合いが苦手な文香にとって、今の生活は居心地だけならものすごくいい。
 それでも、やはりここは『もう』鷺沢文香という女のいるべき場所ではないのだから。
 眩しいステージに帰り、また苦手だったはずのことをしよう。
 ……そのためにも、まずは聖杯戦争をどうにかすることが肝要だ。
 戦闘はバーサーカーに頼るしかないが、文香自身も何か出来ることを探さなければ。

 決意を新たにするマスターを見守る、霊体化したその青年。
 バーサーカー、ヘンリー・ジキルは善性を愛する存在だ。
 聖杯を求めるのではなく単に帰りたいと願う文香の望みを叶えるために、彼は戦うだろう。
 ハイドという悪の想念の一端として召喚されている身だとしても、彼女を導くさきがけとなるために。

(……そう。今度こそ、僕は――――)


741 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:33:30 P4.7FAE60
◇◆


「善悪の概念は主観だ。しかしこの一線を過ぎたならば悪だろう、という線引きは存在する。
 それに当てはめて語るなら、かのセイバーは紛うことなき『悪』に違いあるまいよ。
 数えるのが億劫になるほどの魂を喰らい、犠牲として死なせる世界への、人類への敵対者。
 少なくとも彼女の犠牲となってきた者の大半は、彼女を『善』だなどとは言わないだろうな。
 だが、それでも個人の主観でヒトの善悪は容易く形を変える。
 そして彼女を呼び出したマスターは、彼女のことを『悪ではない』と言った。
 ―――ならばそれもまた、一つの真実なのだ」

 屍者の帝国を統べる彼女は、強い。
 その剣は気高く鋭く、そして怜悧である。
 しかしその強さは踏み台の上にあってこそ輝くもの。
 数多の犠牲を下敷きにすることで初めて成り立つ、失うことによる強さ。
 彼女の周囲で誰かが犠牲になる度、彼女の霊体に力が蓄積されていく。
 ――――どこまでも、どこまでも。
 聖杯戦争が終わるまでに生まれた全ての犠牲が、そのまま彼女の力になる。

「絶望を踏み台にすることで輝く希望。彼女の力はまさにそれだ。
 そして彼女のマスターである少女は聖杯を求めず、誰かを守って脱出することを望んでいると来た」

 冬木の町に迷い込んだ五人の偶像(アイドル)、その四人目。
 何事においても出来のいい彼女は、聖杯戦争においても優等生の答えを導き出した。
 殺すのではなく守るために戦う。聖杯を手に入れるのではなく、この悪夢のような戦いから抜け出す。
 それはまさしく希望の光。強き刃をしもべに携えて、彼女の光は眩く輝くはずだ。

「―――その希望は大きな力となり、人々の頭上に降り注ぐだろう。
 ―――町に絶望が侵蝕していくほどに力を増し、強き英霊が出来上がることだろう。
 ―――犠牲の上に成る光。数多の歴史が交差する聖杯戦争に、これほど似合った言葉もそうはない」


                                             (Side:Hope――21:新田美波&セイバー)


742 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:34:16 P4.7FAE60
◇◆


 昭和時代の冬木市においても、新田美波は変わることなく偶像(アイドル)だった。
 元の世界とそう変わらないロールを与えられたことを、美波は幸運だと思う。
 生活環境の乖離でストレスを感じることがないというのもそうだが、何よりアイドルでいられるということが大きい。
 求められる限りに豊かな色彩を魅せ続ける、今の美波の生活の全て。
 それが、この冬木にはある。
 そのことが聖杯戦争という非日常の中において、美波の心を支える強固な支柱になってくれているのだった。
 
 時計の針が午後八時を過ぎた頃に、今日のスケジュールがようやく終わった。
 売れっ子である美波などはスケジュールも相応に詰まっているが、それにしても今日は別格で忙しかった気がする。
 雑誌のインタビュー、写真撮影、踊りのレッスン、その他諸々。
 テレビ番組のロケがなかっただけ、まだマシというべきだろうか。
 事務所を出た帰り道、春先の涼しい顔が頬を撫でて通り過ぎていく。
 静かで、そして穏やかな時間。この町が戦場になっているなど、こうしている分には信じられない。
 
 しかし、聖杯戦争は確実に進んでいる。
 その証拠に今の冬木では、数々の常識では説明できないような出来事が頻発していた。
 自分達の勝利のためならば、何の関係もない人々を巻き込むことを厭わないマスター、そしてサーヴァント。
 そんな存在を美波は、哀しいと思う。
 憎らしいと嫌悪したりはしない。彼らにも願いがあり、理由があるから全てを懸けて戦っているのだということは知っているからだ。
 そういった戦う意思に理解を示しながらも、同時にやはり彼らの傍若無人な行動は間違いだと思っている。


743 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:34:34 P4.7FAE60
「セイバーさん。セイバーさんは、どうやったらこの町から逃げることが出来ると思いますか?」
「強いて言うなら―――現状では不可能、と考えている」

 何の気なしの質問に返ってきた答えは、美波の予想だにしないものだった。
 何故ならその答えは、美波達の聖杯戦争を脱出するという行動方針を真っ向否定するもの。
 驚いてセイバーの方を見る美波に、彼女は更に続ける。
 
「どのようにしてマスターを、世界の垣根をも超えた範囲から集めているのかは分からない。
 だが、考えてもみろ。お前がこのような戦いを主催するとして、不正な出口の存在を許容するか?」
「聖杯戦争を成功させたい側の立場だったら……そうですね、しないと思います。
 すごく念入りにミスがないかをチェックして、完璧な状態にしてから人を呼びますね」
「つまり、そういうことだ。少なくとも現時点での冬木は、その『完璧な状態』に限りなく近付けられているはず。
 ……聖杯戦争なんてものを仕切れる連中だ。そこから脱出の糸口を模索するのは、少々現実的とは言い難い」

 セイバー、ティア・ハリベルの考察は至極尤もなものだ。
 一組二組の主従が奔走した程度で出口が見つかってしまうような舞台など、欠陥品もいいところである。

「そしてこれは私の完全な勘だが―――この聖杯戦争の裏には、恐らく相当深い闇がある。
 願いを叶えさせてやるという善意で主催されたものでないのだけは確かだ。だとすれば尚更、都合のいい逃げ道があるとは思えん」

 聖杯を望まない美波がこうして招かれている時点で、マスターの選定条件に願いの有無が関わっていないことは明らかだ。
 身勝手とすらいえる別世界からの召喚。冬木という舞台に幽閉し、戦う意思のない者にすら戦いを強要するやり口。
 そこにセイバーは、巨大な闇を見出した。何かがいる。願いを叶えるという魅惑の響きの裏に、大きな何かが潜んでいる。
 
「ただ……これはあくまで今の時点での話だ。今後聖杯戦争が更に活発していけば、いずれは黒幕達の予想だにしない事態も一つや二つは起こるだろう。
 そうなれば、冬木の完全性が揺らぐ可能性は十分に出てくる。……まだ絶望するには値しない」

 つまり、まだまだ先は長いということか。
 セイバーの言いたいことを理解した美波は、改めて気を引き締める。
 残っている主従の数が減ってくれば、当然聖杯戦争は一層活発化していくはずだ。
 今はまだ戦いとは遠い場所にいる美波も、いつかは聖杯戦争の本来の姿を見ることになるのだろう。
 ……そこには恐怖があり、ひょっとしたら膝を折りたくなるような絶望も待っているのかもしれない。
 
「……そうですね。希望をなくしたら、それこそ終わりです」

 ―――戦いを知らない一般人なりに、新田美波は覚悟する。
 この先どんなことが起こったとしても、絶対に諦めないという覚悟。
 どんなに深い絶望に晒されても、希望だけは捨てない覚悟。
 アイドルは、人々に夢と希望を与える仕事だ。
 そのアイドルが悲しい顔をしたり、ステージを降りてしまう。
 それは誰かに与えられるはずの光を自ら放棄すること。だから新田美波は、諦めることだけはしたくないと思う。

 全て終わる、最後の時までは―――絶対に。


744 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:35:11 P4.7FAE60
◇◆


 ……そこまで語り終えて、アヴェンジャーはおもむろに踵を返した。
 マスターの青年は、それを引き止めはしない。
 元々彼はアヴェンジャーに何かを語ってほしかったわけではないのだ、そもそも止める理由というものが存在しない。
 ベッドの上に座ったまま、立ち去ろうとするアヴェンジャーの背中を見送る紅い瞳の完全者。
 霊体となり、またいずこかへ消えるのかと思われたそのサーヴァントは、一度だけ己のマスターの方を振り向いた。

「オレが語った役者が全てではない。……あと四組。イレギュラーを含めれば、そこに更に二組と一人が加わる。
 しかしこれ以上語るのは無粋というものだ。―――何、安心するがいい。おまえはいずれ、必ずそいつらとも出会うことになる」

 強い意思で正義を追い求める鋼鉄の男。
 憎悪の化身と化した聖女を連れる、漆黒の決意を持つ復讐鬼。
 プログラムエラーが生み出した、そもそもからして歴史に存在しない剣士。
 そして―――人々に見果てぬ憧れと希望を与え続け、『平和の象徴』の名を恣にした英雄を従える遊戯少女。
 彼らのことを、アヴェンジャーは語らなかった。
 敢えて。―――語ろうとはしなかった。

「聖杯戦争は歪んでいる。正常に運営できるはずがないし、する気もないのだろうな。
 巨大な悪意と絶望に冒され、未来も希望も既に大半が喰らい尽くされ残っていない。
 ……されどもだ。この世界は決して、おまえを退屈させたまま終わりはしないだろう。
 ――――カムクライズル。人の身にありながら、神の名を冠する哀れな完全者よ。
 今は黙して見ているがいい。奴の奏でる絶望を、悪意を、ヒトの織り成す幻想を」

「……貴方は」

 カムクライズル。
 それは、ある歪んだ悲願(ユメ)の最果てに生まれ落ちた者。
 全ての才能を一人の少年に宿す狂気の人体実験の成果物にして、絶望に魅入られた少年。
 そして今は、忘れ去った者。成したはずの希望を奪われ、完全なる不完全として再構築された存在。

「貴方は、何を知っているんです。巌窟王エドモン・ダンテス」
「知っているとも、全てな。だからこそ、オレは貴様にこう言おう」

 ポークパイハットを深く被り直し、稲妻の走る眼光で真紅の眼差しを然と見据えながら―――


「――――待て、しかして希望せよ、と」


 世界で最も有名な復讐鬼は、静かに哂う。


745 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:35:46 P4.7FAE60
【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
巌窟王 エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷C 魔力B 幸運- 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

復讐者:A
 調停を破る者である。
 莫大な怨念と憤怒の炎を燃やす者だけが得られる、アヴェンジャーというクラスの象徴。

忘却補正:B
 忘れ去られた怨念。
 このスキルを持つ者の攻撃は致命の事態を起こしやすく、容易に相手へ悲劇的な末路を齎す。

自己回復(魔力):D
 読んで字の如く、自身の魔力を自動的に回復する。
 戦闘中でも休息中でも関係なく一定量の回復を続けるため、基本的にガス欠になりにくい。

【保有スキル】
鋼鉄の決意:EX
 地獄の如きイフの塔に投獄されてなお、絶望することのなかった鋼の精神。
 彼の場合は文字通り規格外と呼べる域に達しており、その精神を脅かすことは何物にも叶わない。
 全ての精神効果を自動削除し、更に明確な倒すという意思を持って敵と戦う際、攻撃力に大幅なプラスが加えられる。

黄金律:A
 身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。

窮地の知慧:A
 数多の窮地へその身一つで挑み、脱してきた知慧。
 いわゆる詰みの状況に立たされた場合、瞬間的に敏捷がAランクにまで上昇し、A+ランクの幸運を獲得する。
 ただしこの上昇効果は永続しない。


746 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:36:02 P4.7FAE60
【宝具】
『厳窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
 彼は復讐の化身である。
 如何なるクラスにも当てはまらず、エクストラクラス・アヴェンジャーとして現界した肉体は、その生きざまを昇華した宝具と化した。
 強靭な肉体と魔力による攻撃を可能とし、自らのステータスやクラスを隠蔽、偽の情報を見せることも出来る常時発動型の宝具。
 真名解放の効果も存在するが、今のところ不明。恐らく次のFGOマテリアルで公開されるものと思われる。

『虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)』  
ランク:A 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜100人     
 地獄の如きシャトー・ディフで培われた鋼の精神力が宝具と化したもの。
 肉体はおろか、時間、空間という無形の牢獄さえをも巌窟王は脱する。     
 超高速思考を行い、それを無理矢理に肉体に反映することで、主観的には「時間停止」を行使しているにも等しい超高速行動を実現するのである。
 余談だが、原作ゲームでは高速移動に伴う「分身」による同時複数攻撃といった形を取っていた。

【weapon】
『厳窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)』

【人物背景】
 復讐者として世界最高の知名度を有する人物。
 通称「巌窟王」もしくは「モンテ・クリスト伯爵」として知られる。
 悪辣な陰謀が導いた無実の罪によって地獄の如きイフの塔(シャトー・ディフ)に投獄され、しかして鋼の精神によって絶望せず、やがてモンテ・クリスト島の財宝を得てパリへと舞い降り──フランスに君臨する有力者の数々、すなわちかつて自分を陥れた人々を地獄へと引きずり落としたという。


【マスター】
カムクライズル@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園

【マスターとしての願い】


【能力・技能】
 あらゆる才能を備えた、万能の天才。
 この世に存在する全ての才能を開花させることが出来るが、その代償に才能の獲得に邪魔となり得る思考や感情、感性や記憶といった人間に必要な様々なものが欠如または封印されてしまっている。そのため人格は非常に不安定。

【人物背景】
 かつて様々な天才達が集う高校、『希望ヶ峰学園』によって作り出された存在。
 かの学園はあらゆる才能を備えた万能の天才を人工的に作り出すことを目論んでおり、カムクライズルという名前も希望ヶ峰学園の創設者、神座出流より取られている。
 彼はその計画によって生み出された人工の天才で、元は何の才能も持たないとある少年だった。
 しかしその人格はほとんど消滅してしまっており、人間味を彼から感じ取ることは出来ない。

【方針】
 聖杯戦争を見届ける


747 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:36:49 P4.7FAE60
◇◆


                                             (Side:Avenge――22:笹塚衛士&アヴェンジャー)
                                             (Side:Never――23:岸波白野&ネバーセイバー)



◇◆


748 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:37:24 P4.7FAE60
◇◆


 深夜の冬木市で、二色の火花が散っていた。
 蒼い火花と、朱い火花だ。
 割って入ろうものなら普通の人間はおろか、生半可なサーヴァントでさえも瞬時に肉塊と化すような刃閃の応酬。
 蒼い炎を纏い、燃えているのに冷気を与えるという矛盾した刃を振るうのは、驚くなかれ。
 この世界では新進気鋭の人気アイドルとして名を上げている女子高生、『渋谷凛』と瓜二つの顔立ちを持った少女だ。
 無論『本来の』渋谷凛にこんな力はないし、そもそも彼女はこの世界においてはNPCと呼ばれる何も知らない部外者である。
 ……では、今剣を振るっている少女は渋谷凛によく似ているが、結局のところ別人なのか? それも違う。

 彼女は紛れもなく『渋谷凛』だ。どこにもいない、いるはずのない――夢の世界の『英霊・渋谷凛(ネバーセイバー)』。
 遠く離れた空の世界に住まう人々の大切な記憶が作り上げた伝承に、月の聖杯がオリジナルの心と記憶を当てはめた存在。
 異例中の異例。存在しないはずの剣士。ゆえに、ネバーセイバー。

「ハ――ユメはユメで終われない、ですって?」

 一方でそれを迎え撃つサーヴァントは、蒼く凛々しいネバーセイバーのそれとは全く正反対の熱を帯びている。
 彼女もまた、ありえざる存在だった。ネバーセイバーとはまた違う理由で、存在しないはずのサーヴァント。
 星の数ほどある並行世界の中でただ一つ、魔術王を名乗る英霊が人理の焼却を実行し始めた世界。
 そこには哀れな男がいた。主君の無念を自分の痛みのように抱き続け、祈り、祈り。
 男は魔術王より聖杯を賜り、ありえざる『反転した聖女』を作り上げた。
 彼女というサーヴァントが存在する可能性は、そのたった一つの終わった世界にしかない。
 それが小数点を遥かに下回る、ごくごく微細な確率でこの冬木と結ばれた。
 その結果が、怨念の炎を撒きながら憎悪とともに剣を振るう黄金の瞳を持つこの反転英霊(オルタ)だった。

「それなら私が潰してやるわ。幻如きに出来ることは何もないと、斬首の痛みで教えてあげましょう」

 冷徹な宣言が放たれた途端、ネバーセイバーの足元がマグマでも湧いたようにどろりと歪む。
 次の瞬間、魔力に変換された怨念の炎が勢いよく噴き上がった。
 ネバーセイバーはほとんど反射的に飛び退くことでそれを避けたが、待っていたと言わんばかりに敵の刺突が飛んでくる。

 渋谷凛という少女には決して回避できないはずのそれを―――『この』凛は容易く対処する。
 習ったこともなければ見たこともない、そもそも現実にあるのかどうかすら分からない剣術。
 ………………そう、現実には。

 反転した聖女は言った、幻如きに成せることは何もないと。
 それは彼女自身にも当てはまる言葉だ。
 彼女の真名は『ジャンヌ・ダルク』。言わずと知れた、百年戦争の聖女である。聖女であって、英雄ではない。
 聖女であるジャンヌには本来、別な側面からの召喚という可能性そのものが存在しないのだ。
 そのありえない可能性を体現したこのジャンヌ・ダルク―――もとい『ジャンヌ・オルタ』とでも呼ぶべき英霊は、作られた英霊。
 聖女の無惨な死を嘆いたフランス軍元帥の手で生み出された、復讐(アヴェンジャー)のジャンヌ・ダルク。
 ……消え損ねた、うたかたの幻だ。


749 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:38:13 P4.7FAE60




「……そうだね。私も、夢を見てるって自覚はあるよ」

 ジャンヌの放つ怨念の炎に冷気の炎で食い下がりながら、ネバーセイバーはそうこぼす。
 一見すれば弱気のようにも受け取れる発言だが、『青天に歌え蒼の剣(アイオライト・ブルー)』を握る力は微塵も弱まっちゃいない。
 周囲に漂うあらゆる怨念が熱を帯びて襲い掛かってくるという悪夢のような光景にも、ネバーセイバーは一歩も引かない。
 これが夢だから、ではない。所詮夢と終わらせないからこそ、彼女は今剣を握っている。

「それでも―――諦めたりなんてしない。こんな不確かな私だけど、何故かそれだけは強く言い切れるんだ」

 基礎スペックの利は、ジャンヌ・オルタの側にある。
 防戦一方といえばそれまで。ネバーセイバーは事実、今の時点で結構な疲労を余儀なくされている。
 対するジャンヌ・オルタの方はといえば、まるで攻撃の手が衰える気配がない。
 このまま戦いを続けたなら、先に倒れるのは間違いなくネバーセイバーの方である。

 ……このまま、なら。

 ネバーセイバーは大きく地面を蹴って後退し、ジャンヌ・オルタから一定の距離を確保する。
 その動作を確認した瞬間、ジャンヌはそれ以上近付いてこようとはしなかった。
 聖女だったと同時に優れた武人でもあった彼女は、即座にネバーセイバーの後退の意味を理解したのだ。
 ―――宝具が来る。サーヴァントとしてのスペックでは格上でも、宝具次第では容易に強さの序列が覆るのが聖杯戦争である。
 そして彼女の理解した通り、ネバーセイバーは宝具で戦況を打開しようと目論んでいた。

 懐から取り出す、大いなる力を秘めた石……召喚石。
 これがネバーセイバーの第二宝具、『召喚石・傷ついた悪姫(ブリュンヒルデ)』 だ。
 真名を解放することで、闇の魔力纏いし『覚醒魔王』を召喚することが出来る。

「いいわ。なら、アンタのそのちっぽけな宝具ごと――その下らないユメを焼き尽くすだけよ」

 同時にジャンヌもまた、宝具の解放を決めた。
 先刻から何度も繰り出されている怨念の炎も、元を正せば彼女の宝具によるものである。
 それは竜の魔女として降臨したジャンヌが持つ呪いの旗。
 復讐者の名の下に、自身と周囲の怨念を魔力変換して焚きつけ、相手の不正や汚濁、独善を骨の髄まで燃やし尽くす灼熱の大軍宝具。


750 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:38:48 P4.7FAE60
「『召喚石――』」

 魔力が召喚石に収束していく。
 魔王を呼び出すための真名が、半ばほどまでネバーセイバーの口によって紡がれた。
 魔王の彼女もまた、元は渋谷凛と同じようにアイドルをしていた少女だ。
 それが夢の中、『空の世界』で真の魔王の力を手にした姿。
 

「『吼え立てよ』――」

 怨念が魔力に変わり、それは炎の姿を帯びていく。
 万物を焼き尽くす復讐の炎こそは、憎悪によって磨かれた彼女の魂の咆哮。
 全ての邪悪をここに。今こそ、報復の時は来た。
 辱められ、痛め付けられ、拷問の限りを尽くされて死んだ聖女の復讐劇。


 二つの宝具が闇夜に激突しようとした――まさにその時だった。


751 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:39:09 P4.7FAE60
「ッ!?」

 驚いたような表情で虚空を見上げるのは、今まさに憤怒の炎を放たんとしていたジャンヌ・オルタの方だ。
 それはすぐに苛立ちに満ちた顔へと変わり、盛大な舌打ちと共に掲げかけた呪いの旗を降ろす。
 その予想だにしない展開に、真名解放を先に仕掛けたはずのネバーセイバーも虚を突かれた。
 解き放ちかけた魔力を消し、踵を返した復讐者を黙って見据える。

「命拾いしたわね。今夜はこれまでにしろとの素敵なお達しがあったわ」

 どうやらマスターから念話で撤退を命じられたらしい。
 これ以上戦いを続ける気はないというが、しかし感じる殺気の量に変化はない。
 ……あるいは、これがアヴェンジャーというクラスの特性なのか。
 恩讐を元に英霊となったからには、このレベルの殺意を持っているのはある種の前提条件なのかもしれない。


「―――ネバーセイバーとか呼ばれていたわね。次は殺すわ、覚えておきなさい」


 背筋に氷の棒を突き入れられたかのような寒気。
 あの『空の世界』で戦ったどんな相手とも違う、どこまでも純粋にただ『恐ろしい』相手だった。
 堕ちた聖女、慈悲なき者が霊体になって消えるのを見届け、やっとネバーセイバーはマスター、岸波白野の方を振り返る。


752 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:39:58 P4.7FAE60



 ……アヴェンジャーのサーヴァントが消えるのとを見届け、やっとネバーセイバーはマスターである私、岸波白野の方を振り返った。
 

 >ネバーセイバー、怪我は?

 
「大丈夫。流石に結構疲れさせられたけど、目立った怪我は特にしてない」

 今のアヴェンジャーとの戦いが、ネバーセイバーの……私達の初陣だった。
 この聖杯戦争に呼ばれてから結構な時間が経ち、ようやく現れたサーヴァント。
 ……ひどく、恨みに淀んだ目をした少女。エクストラクラス、アヴェンジャー。
 彼女は、……強いサーヴァントだった。あの月の聖杯戦争を含めても、間違いなく上位に食い込む強者に違いない。
 
「……ずっと押されっぱなしだったのはちょっと悔しいけどね」


 >そんなことはない。君は立派に戦ってくれた


「……ん。ありがと、マスター」

 労ってやると、ネバーセイバーは少し照れたように微笑んだ。
 アイドルとして活動しているこの世界の渋谷凛のことはテレビで見たが、こうして接していると、ネバーセイバーの方の彼女もれっきとしたアイドルなのだと感じさせられる。
 ……ネバーセイバー。アイドル。心に届く歌を高らかに歌い上げる、希望の歌姫。
 初戦はあまり良い結果には出来なかったが、聖杯戦争はまだ始まったばかりだ。そうでなかったとしても、私は諦めない。
 どんなことがあろうとも、何があろうとも。
 たとえどれだけの絶望が、雲となって世界を隠してしまっても。


753 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:40:24 P4.7FAE60





 ――――私は、生き続けることを諦めない。




◇◆


754 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:40:54 P4.7FAE60
「説明してもらえるかしら、マスター?」
「……お前、俺の最初に言ったことを覚えてないのか」

 命ぜられるままに戦いを切り上げてマスターの元まで帰投したアヴェンジャーは、明らかに苛立っている様子だった。
 それに対して彼女のマスターである、どこか冴えない容姿の男性……笹塚衛士は思わず溜息をつく。

「俺がお前に命令したのは偵察だ。仮に戦いになったとしても、相手の戦い方を見る程度で切り上げろと俺は言った」
「……じゃあ何? 確実に葬れる敵だろうと見逃して帰ってこいと、そう言ったってわけ?」

 笹塚は「そうだよ」と言いながら、苦い顔をして煙草の煙を開け放った窓の向こうに吐いた。
 彼はこれまで、復讐のためにあらゆる鍛錬を積んできた。
 テロリストまがいの破壊技術も学んだし、射撃でならその道のプロにも負けない自信がある。
 そんな彼でも、生まれの問題だけはどうにもならない。魔術師の家系の出身者でもなければ、異能を持つわけでもない笹塚。そんな彼にとって目下最大の回避したい事態が、魔力の消耗で思うように戦えないという展開だった。
 自己回復のスキルを持つ彼女はそう燃費の悪いサーヴァントではないが、大火力の対軍宝具を真名解放するとなれば話は変わってくる。
 使用のタイミングはよく見極めて、確実に仕留められる瞬間を狙って行うべきだ。少なくとも笹塚はそう考えているのだが、彼女にはどうも通じていないらしい。
 笹塚に言わせれば、さっきの状況は『確実に勝てる』場面ではなかった。だから大事を取ってヒートアップし始めていたジャンヌ・オルタを撤退させる選択を下したわけだ。主目的の戦力確認は十分達成できたのだし、何の問題もない。彼には、だが。

「……呆れた。そんな考えで聖杯を手に入れようだなんて、大言壮語もいいところね」

 これ以上は無駄と判断したのか、突き放すように言い残してジャンヌが霊体化。
 それを見届けた笹塚はもう一度窓の向こうに煙を吹いて、それから短くなった煙草を揉み消しもせずに投げ捨てた。

「…………手に入れるさ。何を犠牲にしても、な」

 口の中だけで呟いた声に、言葉を返す者はいなかった。


755 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:41:17 P4.7FAE60
◇◆


                                             (Side:Justice――23:柴来人&アーチャー)


756 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:41:41 P4.7FAE60
◇◆


 夜空を見上げる男の姿があった。
 煙草を咥えてたそがれる男の目に浮かぶ感情は、郷愁だろうか。
 ここに来るまで、色々なことがあった。思い出したくもないような、色々なことだ。
 柴来人であることをやめて、自分の正義を貫くために活動している中、彼は聖杯戦争の存在を知った。
 それからの行動は早かった。どうにかして聖杯戦争に接触するため、あらゆる形でアプローチを図った。
 ……その甲斐あって、柴来人―――今は鋼鉄探偵と呼ばれている男は無事、冬木の地を踏むことが出来ている。

 いざ聖杯戦争が始まってみて、自分の想像が甘かったことを思い知らされた。
 サーヴァントは強大だ。話には聞いていたが、精々超人の延長線とどこかで舐めていたのは否めない。
 ましてこの世界には、ライトのようなサイボーグを修復するような施設も技術もない。
 頼れる伝手も皆無に等しい。そんな孤軍の状況で、ライトはいつも以上に慎重に立ち回ることを余儀なくされていた。
 聖杯という、己の正義を世界に示す『切り札』を手に入れるためにも……決して負けるわけにはいかないのだから。

「こちらに警察の追っ手は向かってきていないようです。郊外だったのが幸いしましたね」
「そうか。……くそ、せっかくの拠点を丸ごと吹き飛ばすことになるとはな。だがこれで、奴ももう俺の前には現れんだろう」

 鋼鉄探偵となる前から縁のあった、どうにもいけ好かない男。
 ライトと共に冬木の土を踏んだ彼は、よりにもよって聖杯を破壊すると言った。
 聖杯の存在は間違っている。だから俺が破壊し、聖杯戦争を終わらせてみせる―――と。

「聖杯は必要だ。あらゆる願いを叶える……究極の幻想。
 そんな反則技にでも頼らなければ、俺達の世界を変えることは出来ない」


757 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:41:58 P4.7FAE60
 そうして二人は決別した。
 これまでにもライトの方から関わってくるなと、俺とお前は敵同士だと一方的に絶縁状は突きつけていたのだが、彼は懲りずに何度も現れた。
 どこでどう調べたのかライトの拠点を突き止め、話があると言って乗り込んできたあの男。
 何度自分の考えは変わらない旨を伝えても、彼はライトの説得を諦めようとはしなかった。
 そしてライトもまた、悟ったのだ。―――言葉ではこいつを諦めさせられない。

「悪かったな、アーチャー。俺の身勝手で無茶をさせた」
「謝られるようなことではありません。私は貴方のサーヴァントなのですから、そのご意向に従うのは当然のことです」
「…………そうか」

 それからのことは、ご想像の通りだ。
 ライトがアーチャーを実体化させ、武力でもって完全な決別を告げた。
 結果として拠点を全損させる羽目になりはしたが、追ってこないところを見るに流石の彼も諦めたらしい。
 これで邪魔者はいなくなった。それと同時に、いよいよ後戻りは出来なくなった。

「馬鹿が。最初から、そんなことをするつもりはない」

 ライトは自らを叱咤する。
 鋼鉄探偵ライトは―――柴来人という男は、正義という言葉に取り憑かれている。
 一言ではとても定義し尽くせない正義の概念に苦悩し、迷い、遂には社会の敵になった。
 国家に弓を引いたライトに、ブレーキなんてものは存在しない。
 彼は戦うだけだ。
 自分の信じた正義が成る時まで、地を這い泥を啜ってでも生きて戦い続ける。
 その『正義が成る時』が、すぐそばにまで迫っているのだ。
 聖杯。万能の力があると伝えられる、その『究極の幻想』でならば、きっと正義の音色は世界に響き渡る。

「俺は勝つ。どれほどの願いを踏み台にしてでも、必ず聖杯を手にしてみせる。
 ―――そのために力を借りるぞ、アーチャー。聖杯を掴むのは、お前と俺だ」
「はい。この大和、必ずやマスターの手に聖杯をもたらしてみせましょう」

 たとえ―――全ての希望の敵になったとしても。


758 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:42:14 P4.7FAE60
◇◆


                                             (Side:HERO――24:七海千秋&ヒーロー)
                                             (Side:Phantasm――XX:人吉璽朗)


759 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:42:46 P4.7FAE60
◇◆


「―――Hmm……そりゃまた随分と派手なことをやるご友人だな」
「全くだ。前々から気の短い奴だとは思ってたが、あんなことをしてくれるとは思わなかった」

 あるマンションの一室。
 呆れたようにも苦々しげにも見える顔で、先刻鋼鉄探偵より手痛い絶交の挨拶を打ち込まれた青年はカップ麺を啜っていた。
 春だというのにマフラーを着用しており、それで安物のジャンクフードを食べている絵面はなかなかどうしてシュールである。
 彼の対面に座っているのは、……一度見たら二度と忘れることがないだろう、圧倒的な存在感を放つマッチョマン。
 女の子の部屋らしい穏やかな空気の中、彼の体だけが劇画調に見えている。
 あまりにも存在感が強すぎて、視界の方が彼を勝手に脚色してしまうのかもしれないと、彼のマスターである七海千秋という少女は思った。
 その手はピコピコと、先日発売されたばかりの日本初の携帯ゲーム機『ゲーム&ウォッチ』を遊んでいる。

「えっと……? 人吉さんがそのライトさんって人のサーヴァントに大砲ぶっぱをされたけどなんとかその場を逃げ出して、そこを騒ぎを聞いて駆け付けたオールマイトが見つける。そして人吉さんの話を聞き、ここまで連れてきた……で合ってるよね?」
「うむ、合っているぞ。百点満点の答えだ七海少女」
「悪いな、七海さん。こんな遅くにお邪魔してしまって」
「悪いことなんてないよ? だって人吉さんは、私達と協力できる人みたいだし……」

 聖杯戦争の中には、民間人へ被害を出しながら戦うような傍迷惑な連中が一定数いるものだ。
 特にこういった規模の大きな聖杯戦争ともなれば、必然的に無辜の人々がとばっちりを受けることも増える。
 それを少しでも減らすために、ヒーローのサーヴァント……オールマイトは暇を見つけては冬木市内をパトロールしているのだった。
 鋼鉄探偵ライトの旧知である、このマフラーの青年……人吉璽朗を見つけたのはその最中のことである。
 突如夜の郊外に響いた爆発音。オールマイトが急いで駆け付けると、丁度現場から離れようとしている璽朗と出くわした。
 最初は下手人かとも思ったらしいが、話してみるとどうやら違うことが分かり、より深く話をするためにもこうして七海の部屋まで連れてきたというわけだ。

「ありがとう。……ヒーローもだ。あんな目に遭ったのは不運だったが、貴方のようなサーヴァントと出会えたのは幸運だった」
「HAHAHA、ヒーローと呼ぶのはやめてくれ。オールマイトでいい」
「……だが、真名が……」
「ヒーローの手の内が割れていない時の方が少ないんだ。たかだか名前を知られたくらいで負けるようじゃ、No.1ヒーローとして恥ずかしすぎる」

 平和の象徴。No.1ヒーロー、オールマイト。
 聖杯戦争という間違った戦いを止め、皆を元の世界に返したいと願う少女にはピッタリのサーヴァントだと璽朗は思う。
 その性能も文句なしだ。どんな逆境にも折れず曲がらず突き進む、絵に描いたようなヒーローのお手本。
 ……璽朗もこういうものに憧れていた。天弓ナイトという仮面超人(ヒーロー)の姿を脳裏に過ぎらせながら、彼は話を本題に移す。


760 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:43:00 P4.7FAE60
「俺も七海さんと同じく、聖杯戦争をどうにかして止めようと思っている。
 ………俺にはどうも、この戦争が願いを叶える権利を懸けた儀式だなんて聞こえのいいものには思えない。
 裏で糸を引いて嗤っている黒幕(だれか)がいるようにしか思えないんだ。サーヴァントもいない上に、貴重な武器のエクウスもない。
 そんな有様でも、やれることはやる。あんた達も考えてることは同じ―――でいいんだな」

「……うん。なんとなく分かるんだ。私が呼ばれたってことは、きっとこの戦いはただの儀式じゃないって」

 七海千秋は、絶望に堕ちた少年少女を更生させるために作り出されたプログラムだ。
 データの海に埋没していたはずの自分をわざわざ組み直し、形式は違えどもう一度コロシアイへと放り込む。
 何らかの意図がなければ、これほどまどろっこしい真似はしないだろう。
 悪意があるとしか思えない行動の裏に、七海は絶望の影を見た。
 ―――彼女はそれを倒すためにサーヴァントを召喚し、今に至る。

 人吉璽朗もまた、絶望の影を見た人物だった。
 自分は鋼鉄探偵ライトと共に冬木に招かれたが、ライトはサーヴァントを召喚したというのに自分には令呪すら宿っていない。
 まるで悪意のある誰かが、指を咥えて見ていろと言っているよう。
 影を見ると同時に、彼も決意した―――何としてでも聖杯戦争は止めさせる。そうしなければならないと強く思った。

「……絶望はとても大きくて強いけど、みんなの希望を束ねれば……倒せない相手じゃない。
 私はそれを知ってるんだ。……だからお願い、人吉さん。人吉さんの力を……貸してくれないかな」
「むしろこっちから頼みたいくらいだ。何せこの通り、俺はサーヴァントすら持っていない」

「ハハハハハ!! 何だ何だ、二人だけだと少し寂しいと思っていたんだが、一人増えると途端に気持ちが大きくなってきた。
 人吉青年に七海少女! 絶望だかなんだか知らないが、そんなものに好き勝手されるのはむかっ腹が立つよな!
 ―――だから吹き飛ばしてやろう、我々で。我々の希望で!」

 彼らは、希望のさきがけだ。
 昭和の聖杯戦争、その裏に潜む巨大な悪意と絶望。
 それを打ち砕き、この町を覆う闇を晴らさんとするパズルの一ピース。
 住む世界は違えども、その心に偽りはない。
 強い想いはやがて希望を呼び起こし、束ねた大きな希望はどんな巨大な絶望にも打ち勝って未来を作る―――創る。
 そう知っているから、『超高校級のゲーマー』の少女は目指すのだ。
 あの時。あのジャバウォック島で成し遂げた希望の勝利を、もう一度。


761 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:43:39 P4.7FAE60
◇◆



 誰かが願った幻想を今、Change the World


762 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:44:03 P4.7FAE60
◇◆



 ―――瞳の奥に、底のない淀みを渦巻かせた男だった。

 電子配線が複雑に張り巡らせた部屋の中には、まだ彼女と彼しかいない。
 しかしこれからはもっと増えることになるだろうと、彼は確信していた。
 冬木の町は既に、危険な狂騒の種を芽吹かせつつある。
 人間衛星アースの登場、禍々しい邪気を湛えた安土城、住宅街の大火災に市内で急激に増加した爆発事故。
 聖杯戦争の存在を知らない一般人達も、もう薄々は気付いている頃だろう。
 
 この町で今、何かが劇的に変わろうとしている。
 いや、もう変わり始めているのだ。
 それがあまりにも少しずつだから誰も気付かなかっただけで、世界はいつの間にか全くの別物になっていた。
 そのことを誰もが理解した時、冬木は大きく揺れるだろう。
 とても愉快な形に沸き立って、それはそれは心地よい音色を奏で出すに違いない―――男はそう思っている。


「ところで、なんで昭和なの?」


 思い出したように椅子に座った緑髪の少女がくるっと振り返り、淀んだ瞳の男に質問する。
 それは彼女にとって、最も大きな疑問だった。
 聖杯戦争をやる意味はわかるし仕組みもわかる。何を望んでいるのかもわかっているつもりだ。
 ただ、何だってわざわざこの昭和という時代を使わなければならないのか。
 コンピュータやスマートフォンはおろか、前時代のいわゆるガラケーすらない大昔。
 交通の便もお世辞にもいいとはいえず、こんな時代を使うことへのメリットが少女にはわからない。
 普通、現代に照準を合わせて舞台を設定するものだと思うのだが、何か意図があってのことなのだろうか。
 その問いに、不吉な雰囲気に包まれた男は柔和な笑みで答えた。


763 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:44:35 P4.7FAE60


「この時代は、最も社会が熱狂という病に罹りやすい時代なんだ」


 昭和という時代には、数々の熱狂があった。
 情報の伝達手段がそこまで発展していない時代だからこそ、彼らはその一つ一つに強く心を動かされてきた。
 社会に深い爪痕を残した学生運動の一件が何よりも分かりやすいだろう。
 誰かが起こした暴動がやがて日本中に伝播し、数え切れないほどの学生を狂奔させたように。
 この時代に住む人間は、熱狂という名の熱病に対する免疫が極めて低いのだ。
 そしてそれは、この聖杯戦争の趣旨と見事に合致する。
 ―――彼らには病んでもらわねばならない。この冬木という町を悪意と絶望の坩堝に変えるためには、彼らの存在が必要不可欠なのだ。


764 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:44:56 P4.7FAE60

「かつて彼女は平成の時代で世界を滅ぼした。
 絶望という無形の病魔を伝染させ、それだけの被害を生み出したんだ。
 たかが地方都市一つ、私の見立てでは一日もあれば絶望の底に落とせるだろう」
「へぇー……」
「もちろん、そのためには君にも働いてもらう必要がある。その力は既に持っているはずだよ、私のマスター」
 
 世界は、絶望しなければならない。
 眠れる聖杯英霊が目を覚ました時に、彼女が心地よく絶望できるような世界に仕立てる必要がある。
 言ってしまえば、聖杯戦争など茶番に過ぎない。
 最後の結末は既に決まっているし、途中紆余曲折があろうとも、あるべき場所に落ち着くことを彼らは得心している。
 あとはレシピに従って、ホーリーグレイルを出迎えるための景色を整えておくだけだ。

「ところでアポトーシスのおじちゃんはどうするのー? おじちゃんも何か考えてるんでしょ?」
「なに、見ていれば分かるさ。試したいことも……無数にあるんだ。君にもいずれ見せてあげよう、モナカ」

 
 ―――アポトーシス。それは細胞の自殺を意味する。
 このクラスに適合する英霊は数少なく、そのいずれもが人類を滅ぼすために生まれたとしか考えられない悪性の塊だ。
 その中でも今回冬木に召喚された彼は、一際抜きん出たものを持っている男だった。
 光というものがほんの一欠片さえ入る隙間のない、絶対の悪。
 人類を害する病気(Sick)のような男。
 魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類に続いて人類から分岐し、人類の先を進んだ第六の種族―――ただ一体の新生物。
 
 
 彼の名を――――シックス、といった。


765 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:45:21 P4.7FAE60
【クラス】
アポトーシス

【真名】
シックス@魔人探偵脳噛ネウロ

【ステータス】
筋力A 耐久B+ 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
悪性生命体:EX
 アポトーシスのエクストラクラスを獲得する存在は、人類に害を成すために生まれたとしか思えない害悪の魂を持つ者に限られる。
 その点で悪意の塊であるシックスというサーヴァントは最高クラスの適正を持つ。
 このスキルを持つ者の攻撃を受ける際、対象の耐久値は2ランク低下する。
 更に彼と接していると、深い悪意を持たない者は一定時間経過する毎に精神へダメージを受ける。

【保有スキル】
絶対悪:EX
 人間では絶対に耐えられない、桁違いの悪意を持つ。
 全ての精神効果を削除し、善の属性を持つサーヴァントへ特攻が適用される。
 悪の属性を持つ者に対してはAランクのカリスマと同様の効果も発揮し、更に一定確率で命を投げ打ってもいいと影響を受けた者に思わせるほどの驚異的な効果を生む。
 またその規格外の悪性から、彼に読心系の力を使った場合、術者は精神に大きなダメージを被る。

細胞変化:A+
 自身の細胞を金属に変化させることが出来る。
 怪盗Xの強化細胞と彼自身の家系が開発した特殊合金の結合技術によるもの。
 細胞組織を金属化させることで筋力と耐久を跳ね上がらせ、凄まじい力と剛性を獲得できる。

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
 彼の場合、決定的な致命傷とは頭部の破壊のことを指す。
 そのため体の大半が吹き飛ばされたとしても頭が残っていれば生存可能。

セキュリティコード:EX
 現在、彼への攻撃はいかなる理由か全て無効化される。


766 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:45:37 P4.7FAE60
【宝具】

『第六の種族(シックス)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
 魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類に続いて人類から分岐し、人類の先を行く第六の種族。
 彼の祖先は約七千年前から武器製造を営んでおり、職業柄人を殺傷する手段だけを考え続け、そのために必要な「悪意」の強いものに家督を継がせていった。
 その結果代を経るごとに悪意の定向進化が進んでいき、遂には外見こそ人間だがDNAレベルで人間と異なる、常人には耐えられぬ強い悪意を持った新種が生まれるに至った。
 それこそが彼。彼は生前『新しい血族』と称して悪意の強い人間を集めたが、そのいずれも新人類ではなかった。
 この宝具は世界でただ一体だけの新種、シックスという生物そのものを指す。
 彼自身が宝具化されたことで身体能力や各種ステータスが生前のものよりも上昇、強化されている。
 またその他にも超人的な能力を持ち、水の流れを読む、大地の急所を見抜くなど、かつて配下にした五本指の力も全て使用することが可能。

【weapon】
 変化させた細胞

【人物背景】
 七千年の歴史の末に生まれた、『絶対悪』と称される男。
 人類にとって病気(Sick)のように有害で、常識では考えられないような残忍さを持つ。
 生前は人類を滅ぼすことを目論んで部下を率いり暗躍したが、人間の奮戦で配下の五本指をもがれ、最後は魔人ネウロによって殺害された。

【サーヴァントとしての願い】
 より多くの【悪意/絶望】を見る


【マスター】
塔和モナカ@絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を引っ掻き回す。後はなるようになるなる!

【weapon】
ルーラーの宝具『絶望の象徴(モノクマシリーズ)』を一部使用可能。

【能力・技能】
 『超小学生級の学活の時間』という才能。
 カリスマというよりも人心掌握、マインドコントロールに近い才能で、特に子供に対してよく効く。
 また非常に高いハッキングの技術も持つ。彼女いわく『魔法』。

【人物背景】
 希望の戦士を名乗り、塔和シティを子供に支配された地獄へ変えた張本人であり黒幕。
 希望の戦士の中で最も強い悪意を持ち、彼女は最後まで改心することがなかった。
 本編終了後は召使いの青年によって『超高校級の絶望』を継ぐ者となるべく教育を受け、そこで忌み嫌っていた『大人』になってしまう。
 ……が、今回は彼女がそうなる前に呼ばれているため、精神性は絶対絶望少女の頃のまま。


767 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:45:58 P4.7FAE60
◇◆
 
 

 その日の、午前零時を回った瞬間のことだった。
 自室で、野外で、あるいはそれ以外の場所で各々時間を過ごしている全てのマスターの前に、突如あるものが出現したのだ。
 ―――モニター、である。それも、昭和という時代には今ひとつ合わない未来的なデザインのモニター。
 部屋にいる人物には壁や天井から、外にいる人物には何もない空間から。
 何の前触れもなく生えてきたそれは、しかし聖杯戦争の参加者以外には見えていないようだった。
 繁華街を歩いていたマスターが驚いて周囲を見渡しても、誰もそれに気付いている様子がなかったのが何よりの証拠だ。
 つまり、これは通達―――今までずっと無干渉を貫いていたルーラーから参加者への、初めての接触に他ならない。


768 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:46:30 P4.7FAE60
『テステス、マイクテスッ! あ〜、あー、……聞こえてるよねぇ?
 それでは冬木市にお集まりのマスター、並びにサーヴァントの皆さんへお知らせします。
 これはルーラーから皆さんへの大事なお知らせです。繰り返します、これはルーラーから皆さんへの大事なお知らせです……』


 独特のトーンと気の抜けたような口調。
 それはルーラー、裁定者という単語から連想されるものとはまったくかけ離れていた。
 街宣車か何かのような呼びかけが五、六回ほど続いた後、突然画面にノイズが走り始める。
 ……そこに現れたのは、そもそも人の顔ですらない。
 白と黒のツートンカラー。片方は愛らしいクマのぬいぐるみのようなデザインをしているが、もう片方は体が黒く目が赤くギラついている。
 このクマが、ルーラー? 聖杯戦争を取り仕切る裁定者だって?
 マスター達は皆、異口同音に同じ疑問を抱く。

『えー、それでは皆さんこんばんは。
 ボクの名前はモノクマ。この学園の―――じゃなかった。
 この聖杯戦争を取り仕切る……ルーラーなのだッ! ……って言いたいけど、実はモノクマはしがない使いっ走りなのです。
 ルーラーに会いたいって気持ちもわかるけど、この愛らしいボディに免じて許してね……』

 オヨヨ、とわざとらしく泣き真似をする姿が絶妙に癪に障る。

『うぷぷぷぷ……皆さん今日まで本当によく戦い、よく殺してきました。
 その努力が今、ようやく報われる時なのです。な、なんと! 現時点で生存している全ての主従が、これから始まる『本当の聖杯戦争』に参加することが出来るのです!!
 ……あり? 何だか皆知ってるって顔してるなあ。―――ま、いいや! つーわけでまずは手始めに恒例の討伐令行ってみましょ!!』

 画面の中のモノクマが器用にその場で一回転すると、どこから取り出したのか大きなホワイトボードをモニターへ映し出す。
 そこには討伐令の対象となっているサーヴァントと、そのマスターの名前が記載されている。
 一般的な聖杯戦争の例に漏れず、討伐に成功した者には報酬も与えられるようだ。


769 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:46:55 P4.7FAE60
◇◆


ルーラーからの通達
 ただいまの時刻を持ちまして、以下の主従・聖杯戦争関係者に対し討伐クエストを発布致します。
 見事対象の討伐に成功した主従には、追加令呪を一画とスペシャルな特典を報酬としてお渡しします。
 またこの定時通達終了後、皆様には該当主従の顔写真をお送りしますので、ぜひ役立てていただければと思います。
 皆様、奮ってご参加ください。

1:七海千秋及びそのサーヴァント・ヒーロー
2:人吉璽朗(サーヴァントは召喚できていない模様)
3:岸波白野及びそのサーヴァント・ネバーセイバー



◇◆


770 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:47:28 P4.7FAE60
『えー、討伐クエストは以上になります。
 うぷぷ、名前が上がっちゃった子はご愁傷様でした。
 まあ運と実力があれば案外どうにかなるんじゃない? 知らないけど』

 鼻をほじる真似をしながら、モノクマは適当にそう言った。
 しばらくホワイトボードを表示したままにしていたが、やがて画面の右端からもう一体のモノクマが華麗なドロップキックを決め、ホワイトボードを画面外へ追いやってしまう。
 今回の通達で伝えたかったのは討伐令の件だけなのか、早くもモノクマは締めに入ろうとしていた。

『それでは今回の通達は以上になります。
 一応毎日午前零時に通達を行うつもりだけど、状況を見て早くしたり遅くしたりすることがあるのはご愛嬌ね。
 もしも何か分からないことがあったら、いつでもどこでも気軽にボクを呼んでください。
 みんなのモノクマはどこにいてもすぐに駆け付けるけど、あんまり破廉恥なのはダメだからね……?』

 クネクネと身を捩らせながら顔を赤面させるモノクマの姿が、それから五分ほどアップにされ―――それから唐突に、通達は途切れた。
 どこからともなく出現したモニターは、霧か何かのようにその場で解けて消えてしまう。
 それから、モニターのあった場所からひらひらと舞い落ちてくる三枚の紙切れがあった。

 ……討伐令の対象になった主従の顔写真が、ご丁寧に名前付きで記載されていた。


771 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:47:46 P4.7FAE60
◇◆


 かくして謎に包まれていたルーラーは、マスター達の前にその触覚だけを現してみせた。
 だが討伐令と称して発布された二つの主従と一人の男が、何の悪行にも手を染めていないことに現時点で気付ける人間は少ないだろう。
 彼らは皆、希望の因子となり得る存在だ。
 英雄(ヒーロー)、幻想(ファンタズム)、そして夢幻(ネバー)。
 いずれ絶望に染まる冬木に希望の光を降り注がせる可能性が最も高い三要素を、敢えて絶望の位置に置く。
 絶望の顔をした希望を、希望を名乗る絶望が追い回して殺すとは、なんとも絶望的な光景ではないか。
 
 塔和モナカに対して、アポトーシスのサーヴァント、シックスは言った。
 『彼女』はかつて、絶望という無形の病魔を全世界に伝染させることで世界を滅ぼしたと。
 それは一切の虚飾なき事実だ。彼女は絶望という病でもって世界を蹂躙、人類から未来を奪った。
 しかし彼女は一人の希望とその仲間達の前に二度敗れ、事実上世界から放逐される。
 それでもなお、彼女は見つけた。そして手を伸ばしたのだ、聖杯戦争という新たな儀式(オモチャ)に。


772 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:48:11 P4.7FAE60



 彼女に合わせて世界が変わる。
 現実だったはずのものが、幻想に――電脳に変わっていく。
 昭和五十五年の冬木市は確かに現実のもので、そこに生きる人々もNPCとは呼ばれていても、れっきとした意思のある人間だ。
 だというのに、誰一人気付くことはなかった。
 冬木という小さな世界は、大きな絶望の手によって既にスキャンされていたのだ。


.


773 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:48:33 P4.7FAE60
 ゼロとイチの幻想電脳領域と化した冬木の中枢で、女は笑いながら踊り狂う願い達を眺めている。

 女の名前は、江ノ島盾子。正式名称を、江ノ島盾子・アルターエゴ。

 シックスが悪意を統べる者ならば、彼女は絶望を統べる者。


 ――――全ての願いは絶望に帰結する。



【クラス】
ルーラー

【真名】
江ノ島盾子・アルターエゴ@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園

【ステータス】
筋力- 耐久- 敏捷- 魔力EX 幸運A+ 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:-
 魔術行使に対する耐性スキル―――なのだが、彼女はその性質上このスキルが機能していない。

真名看破:EX
 世界の支配者であるため、サーヴァントのデータを過去の細部に至るまで全て持っている。
 隠蔽能力も貫通することが出来、彼女の前にプライバシーのたぐいは一切ない。

神明裁決:-
 ルーラーとしての最高特権だが、彼女はあまりにもルーラーとして異質すぎるため、このスキルを所持していない。

【保有スキル】
超高校級の絶望:EX
 悪性ともまた違った、絶望をこよなく愛する精神性。
 常人には到底理解することが出来ないという点では、アポトーシスの『絶対悪』スキルに似ている。
 精神効果を自動でシャットアウトし、相手の絶望することを的確に見抜くことが出来る。


774 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:49:09 P4.7FAE60
超高校級の分析力:A+++
 江ノ島盾子が超高校級の絶望として覚醒する前から持っていた、本来の才能。
 非常に高い分析力を持ち、およそあらゆる状況において先を予測することが出来る。
 
電脳英霊:EX
 彼女は電脳世界の英霊であるため、召喚された瞬間に世界と同化してその特性を変容させる。
 今回の聖杯戦争の舞台となった世界は確かに現実世界だが、このスキルによって『江ノ島盾子・アルターエゴが自由に世界を改変できる』擬似電脳世界と化している。
 建造物の構築や地形改変、NPCへの記憶操作、果てには新種の病気のような都合のいいものまで自在に作成可能。
 キャスターのクラススキル二つの適用範囲と応用の幅を馬鹿みたいに広げたスキルと考えれば合っている。
 また、彼女を直接殺傷することは出来ない。

【宝具】
『絶望の象徴(モノクマシリーズ)』
ランク:E 種別:対人・対軍・対世論宝具 レンジ:- 最大補足:-
 一つの世界を絶望のどん底に叩き込んだ、絶望の象徴であるクマのマスコット。
 白と黒のツートンカラーに愛らしい顔立ち、コミカルな言動をするのが特徴。
 この宝具では以下の種類のモノクマを操ることが出来るものとする。

 『学園長』:ルーラーを名乗っている個体。那由多の残機を持つため、正攻法ではまず殲滅できない。
 操っているのはルーラー本人で、声は加工されている。内部に爆弾が内蔵されており、この爆発を受けた対象は必ず死亡する。
 またこの『学園長』に危害を加えようとした場合、宝具『絶望の制裁(オシオキ)』が自動発動する。

 『モノケモノ』:重火器を内蔵した巨大な個体。高い攻撃力を持ち、サーヴァントにも匹敵する力を発揮可能。

 『塔和モノクマ』:厳密には彼女が生み出したものではない、塔和シティに出現した大量のモノクマ。
 様々な種類があり、全員戦闘能力を持つが前述の二種類に比べると弱い部類。現在、操作権は「電脳英霊」スキルで塔和モナカに譲渡されている。

『血戦法廷(スクール・コート)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:50 最大補足:16
 彼女が『コロシアイ』で用いていた、殺人者を暴き出して処刑するための施設。
 発動と同時に彼女に選ばれたメンバーが法廷内に幽閉され、裁判が開始される。
 本来は犯人を暴くためのものだが、今回はそもそも共同生活を送っているわけではないため、そういう用途で使用されることはない。
 あるとすれば、それは最後。ルーラーの前に立った希望達と絶望であるルーラーの最終決戦の時だろう。
 
『絶望の制裁(オシオキ)』
ランク:D++++++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:15
 ルーラーが持つ唯一にして最大の攻撃宝具。
 というよりも、彼女が行う攻撃行動はすべて自動的にこの宝具として定義される。
 非常に高い殺傷能力を持ち、耐久力とその他軽減効果を全て貫通する必殺の『処刑』。
 また『血戦法廷』の内部で使用された場合、『裁判に敗れた対象は必ず処刑される』という概念を帯び、必中の攻撃となる。
 ―――それはルーラー自身であろうと例外ではない。

【weapon】
 『絶望の象徴(モノクマシリーズ)』

【人物背景】
 一つの世界を絶望のどん底に叩き込んだ『超高校級の絶望』。
 死後もなお電脳世界にプログラムとして出現し、登場人物達に絶望を与え続けた。

【サーヴァントとしての願い】
 ??????


775 : 割れる慟哭 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:50:14 P4.7FAE60
◇◆




    これは、『希望』という『幻想』を追う物語――――眠り続ける聖杯に幻想(ユメ)を見せる物語。


    ゆえに、そう。 聖杯幻想、と呼ぶべきだ。




◇◆


776 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:51:39 P4.7FAE60
◆舞台設定

 昭和五十五年の冬木市が舞台です。
 NPC達も全て意思のある人間で、聖杯戦争の運営に支障が出ないような動きだけを続けるわけではありません。
 施設は基本良識の範囲内で自由としますが、昭和に明らかにないようなものを出すのはご勘弁ください。
 NPCを殺しても討伐令は(基本)出ませんが、聖杯戦争自体が崩壊するような大虐殺を行った場合は強めのペナルティが下る可能性があります。

◆定時放送
 毎日午前零時にモノクマからの通達が行われます。
 ただし通達のタイミングは脱落ペースなど、様々な事情で早まる場合があります。

◆サーヴァント、令呪
 令呪を全て失っても、マスターもサーヴァントも消滅することはありません。
 これはサーヴァントを失ったマスターについても同様です。

◆時間の区分
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)

午前開始とします。

◆予約期限
 原則二週間+延長一週間とします。


777 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/09/29(木) 23:52:36 P4.7FAE60
予約開始はとりあえず、明日の深夜0時を目処に考えています。

本当に長くなってしまいましたが、これにてOP投下終了です。
まずはコンペ終了からOP投下までにこれほど時間をかけてしまったことについて謝罪します

wiki収録は流石に疲れたので、明日やります。お許し下さい


778 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/01(土) 00:00:48 3qNHKfzY0
それではこれより予約を解禁します。

佐田国一輝&アサシン(酒呑童子)予約します


779 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/01(土) 01:48:57 woonyKVc0
暁&アーチャーで予約します


780 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/13(木) 15:27:20 Bo.bZ9EY0
投下させていただきます。


781 : 革命の火 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/13(木) 15:27:47 Bo.bZ9EY0


 ―――革命家、佐田国一輝は大変に憤慨していた。何に対してかなど言うまでもない。昨夜ルーラーを自称して姿を現した、ツートンカラーのマスコットに対してである。


 知性や品性というものを全く感じることの出来ない浮ついた態度と達者に回る口。
 おちゃらけた言い回しはその一つ一つが佐田国を苛立たせると同時に、心の底からの嫌悪感を彼に抱かせた。
 生前、堕落したギャンブラーが集う『賭郎』という組織に接触していた時にも何度となく沸き上がってきた感情だ。
 佐田国に言わせればあのモノクマとかいう存在もまた、救いようのない堕落した存在だった。
 生涯を費やす大義も命を投げ捨てる気概もなしに、安全圏でゲスな笑い声を響かせる社会にとっての不要物。
 サーヴァントという存在は、どいつもこいつもこうなのか。
 人類史に名を残した英霊とは、こうも終わった性根の持ち主ばかりなのか。
 チッと吐き捨てるように舌打ちし、佐田国は手元の鈍く光る凶器を机の上へ置いた。
 

 佐田国達がアジトとしている新都のアパート。
 その室内には、方々に手を尽くして調達した重火器がいくつも用意されている。
 ヘッケラー&コッホ社が生み出した、世界で最も殺傷力の強いアサルトライフル――H&K HK416。
 小ぶりで機動性に優れ、なおかつ高い殺傷力も完備したウージー銃。
 百年近く前に開発された短機関銃でありながら、現代でも世界中で使われている傑作、トンプソンM1921。
 ミサイル兵器のように大掛かりなものではないものの、一応は爆発物の備えもある。
 たかだか学校一つを襲撃するには過剰とも思えるほどの備えが、佐田国のもとに結集していた。
 

 それでも、サーヴァントの力というものを正しく理解していれば安心など決して出来ない。
 佐田国とその同志達がいくら素晴らしい武器を集めようと、魔術的な意味を持っていなければただの豆鉄砲も同然だ。
 無論、そんなことは佐田国も分かっている。これはあくまで人間相手の凶器で、サーヴァントを炙り出すための道具。
 もしマスターを殺傷出来れば御の字。マスターを守るためにサーヴァントが姿を現したなら期待通りの展開。
 万が一どちらの当たりもなかった場合でも、義憤に駆られたバカを誘き寄せる誘蛾灯くらいにはなるだろう。


 佐田国を知る人間ならば今更語ることでもないが、彼は罪悪感や倫理観というものを全く持たない狂信者だ。
 それらしいものは常識としてあるのかもしれないが、彼は目的のためならそれらを無視することが出来る。
 聖杯を手に入れるために未来ある若者を何十人とこの世から消すことなど、彼なら眉一つ動かさずに実行出来る。


782 : 革命の火 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/13(木) 15:28:13 Bo.bZ9EY0


 穂群原学園襲撃。
 先日の時点ではまだ〝視野に入れておく〟程度の扱いだったそれを、こうして一気に実行の側へ舵を切った理由は昨夜の放送にあった。
 討伐令の対象として挙がった三人――『岸波白野』『七海千秋』『人吉璽朗』。
 放送の後に与えられた顔写真を見るに、岸波白野と七海千秋の年齢は恐らく高校生程度のものだ。
 冬木市内にある高等学校は何も穂群原のみではないが、最も知名度が高いのは間違いなく穂群原である。
 襲撃するならばここしかない。ここを狙うのが、最も成功率が高い。


 通常、聖杯戦争中に発布される討伐令のクリア報酬は令呪の一、二画が精々だ。
 しかしあのモノクマを操るルーラーは、それに加えて『スペシャルな特典』とやらを提示している。
 聖杯戦争を単なる娯楽としか捉えていないことが窺える物言いに嫌悪を覚えたが、それとは別に興味があるのも確かだ。
 もちろん、それ以上に令呪の追加がありがたいというのもある。
 佐田国はアサシンを召喚してすぐに彼女へ令呪を使っており、その点で他のマスターよりも不利な状況にあるのだ。
 まして彼のサーヴァントは、そんな愚行に出ることを余儀なくさせるような大変な厄ネタ。
 今後令呪を使う機会が、最後の瞬間を除いて来ないとはとても思えない。
 化け物を従順にさせる手綱は一本でも多く、契約という首輪に結び付けておきたい。
 そうでもしなければ―――あのサーヴァントはいずれ、必ず自分を食い殺すだろう。大江山の伝説が如く。


「……同志達に全てを委ねるのは、心苦しいがな」


 苦虫を噛み潰したような顔で、佐田国は呟く。
 聖杯戦争において彼を援助する同志達は、身も蓋もない言い方をすればただのNPCだ。
 頭であり心臓である佐田国が下手に前線に出て死ねば、その時点で革命の大義は潰えてしまう。
 そういう事情から、彼の穂群原学園襲撃における役割は無線での指示役というものに落ち着いた。
 実行役は彼の同志数名とアサシンに。
 佐田国と支援役の同志達は直接学園には赴かず、それをサポートする。


 彼らは皆優秀な革命戦士だ。
 佐田国と同じく、死など恐れない。
 恵まれた仲間を得たことに感謝をしながら、佐田国は時計の針に目を向ける。
 …時刻は午前八時丁度を示していた。実行の時間まであと五時間弱、といったところか。


783 : 革命の火 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/13(木) 15:28:50 Bo.bZ9EY0


 同志達は作戦の前準備のために外出している者、個人の潜伏先として手配してあるホテルで仮眠している者、今の時間から既に下処理の手続きに奔走している者まで様々だ。
 少なくとも今、この部屋に佐田国以外の人間は居ない。
 アサシンは霊体化して近くに居るのだろうが、生憎と彼女には嫌悪以外の感情を覚えたことがない。
 近くに居られることすら吐き気がする思いだというのに、しかし野放しにして彷徨かせるには危険すぎるサーヴァント。
 つくづく厄介だ。これで性能が悪かった日には、佐田国は召喚した当日に自決させていた自信がある。


 大江山の大鬼、酒呑童子。
 酒に酔いながら命を奪い、肌を重ね合いながら騙し合う。
 そんな道楽を重ねた末に討伐の矛先を向けられ、源頼光率いる頼光四天王に騙し討ちという形で討たれた。
 この容姿でそんな末路を遂げたとあれば、同情心を抱く者は少なくないだろう。
 だが、それは間違いだ。酒呑童子は同情されるような子女ではないし、そうでもしなければ殺せないような怪物だ。
 そう、彼女は強い。学校襲撃という無謀な計画をたった一人で支えられるほどには、化け物じみた強さを持っている。


(食い殺したいのだろう。酒に酔わせ、溶かし、より多くの命を踏み潰したいのだろう)


 佐田国一輝の掲げる革命もまた、多くの死の上に成り立つものだ。
 大量虐殺。彼の革命は最後に、そういう言葉をもって達成される。
 だがそこにアサシンが好むような面白可笑しいことや堕落の色が入り込む余地はない。
 そんなものが入れば、それは革命とは言いがたいただの蛮行へと姿を変えてしまう。
 だから、このマスターとかのサーヴァントは相容れないのだ。―――そう、絶対に。


(ならば食らって来るがいい。一人でも多くの命を……)


 どうせあのルーラーは、数十人殺したくらいでは討伐令など出しやしない。
 ならば好きなようにやればいい。我らはただ、鬼の暴力を利用するだけ。
 兵器としてサーヴァントを使い、望む革命を推し進めるのみだ。


 決行の時は十三時三十分。残り―――五時間と三十分。



【一日目・午前(8:00)/B-5・佐田国一派の拠点】

【佐田国一輝@嘘喰い】
[令呪] 残り二画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] ベレッタ92
[所持金] 十万円前後(拠点に保管してあるものも含めれば数百万)
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、革命を成し遂げる
1:穂群原学園を同志達に襲撃させる。決行時には指示役に徹し、計画を導く
※死亡後からの参戦です。


【アサシン(酒呑童子)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 大剣、酒瓶
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:聖杯戦争をやりたいように楽しむ。
1:雇い主(佐田国)はなかなか面白いが―――


784 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/13(木) 15:32:29 Bo.bZ9EY0
投下を終了いたします。次の予約については、また近い内に


785 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/14(金) 01:01:24 pE6zCCdc0
遅ればせながら、企画開始おめでとうございます。拙作の二騎を採用してくださって感謝の極みです!
ではこちらも、ありす&セイバー(織田信長)、橘ありす&ライダー(ストレイト・クーガー)、鷺沢文香&バーサーカー(ヘンリー・ジキル&ハイド)で予約をします


786 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/15(土) 23:56:00 tLhi0jOo0
投下お疲れ様です。
佐田国はやっぱり学園襲撃を決行するようで、あそこには討伐対象だけでなくフーゴや珠雫もいるでしょうから彼の判断は的を得ていますね
襲撃は昼らしいけど、ここあたりが本企画の最初の火種になりそうで、その時が楽しみです
酒呑がそこでどう暴れ回るかも気になりますね!

私も期限ギリギリになりましたが、予約分を投下します。


787 : 時計仕掛けの希望 ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/15(土) 23:56:46 tLhi0jOo0
朝日が空に顔を出し始めてしばらくした頃。
冬木の孤児院、二段ベッドの上で暁は布団にくるまっていた。
窓から零れ出た明るみに寝顔を照らされているというのに、暁は未だ寝息を立てている。
枕に頭を預けながら寝返りを打つと、瞼で閉じられた闇が戻ってくる。
あと5分、あと10分と心の中で呟きながら頑なに目を開けることを拒んでいた。

「…そろそろ目を覚ましたらどうだ?」

実体化したアカツキが、布団の中の小さな体を見つめながら声をかける。

「ぅうん……あと、ちょっと……」
「また奴が来て怒鳴られるぞ」
「――はっ!」

それを聞いて暁は何かを思い出したように寝間着に身を包んだ上半身を起こす。
急いで周りを見渡すが、隣のベッドどころか部屋には人っ子一人いない。
孤児院にいる他の子らは既に起床しており、暁が最後だった。

「また暁が最後…鎮守府の頃と同じだわ」

誰よりも遅起きなだらしなさを嘆きつつ、慌てて寝床から降り、ランドセルに勉強道具を詰め込むなどの支度を始める。
一応、現在は朝7時半前といったところで、小学校には余裕を持って登校できる時間だ。
だが、鎮守府も孤児院も定められている起床時間がそこらの家庭よりはかなり早く、結果として暁は寝坊扱いとなってしまうのだ。

「今日ばかりは無理もない。あのような形でルーラーから通達があればまどろみも醒めてしまうというものだ」
「うう〜…」

昨晩、日付が変わった瞬間に突如時代設定を無視したモニターが現れたのはマスターの間では周知の事実だろう。
それが為された時は暁のみならずアカツキでさえも驚きを隠せなかった。
何せ、直接出向くでもなく使い魔を寄越すでもなく、従来のサーヴァントとはかけ離れた方法で接触してきたのだ。
アカツキ曰く、『まるで世界そのものを牛耳っている』らしい。
そして聖杯戦争の幕開けとその序章となる討伐令が敷かれたわけだが、あの不快感を催すぬいぐるみと間の抜けた声のせいで暁は深夜まで寝付けず、その分起きるのが遅くなってしまったのだ。

「あんな光景、忘れろって言われても忘れられないわよ…」
「とはいえ、討伐令をこなせば令呪が手に入る。勝利を追及するならば、令呪は蓄えて起きたいところだが、どうするマスター?」

討伐令の報酬は令呪一画と「スペシャルな特典」。
令呪一画につき二画分の恩恵を受けられるアカツキとしては、サーヴァントの役目を果たすためにも是非ともほしいところだ。
「スペシャルな特典」はあのぬいぐるみの態度からして碌なものではなさそうだが…。


788 : 時計仕掛けの希望 ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/15(土) 23:57:22 tLhi0jOo0

「司令官が言ってたみたいに、備蓄は大事だものね。でも…本当にいいのかしら」
「…確かに、悪い奴には見えなかったな」

暁はモニターが変化して受け取った討伐対象の写真を思い返す。
人は見かけによらぬことは承知しているが、あのヒーローとは思えない触覚の生えたマッチョで危なそうなオジサンを除いてはそこまで悪どい人物には見えないのだ。
彼らがこちらの感じた通りの人柄だとしたら、気になるのは一つ。
なぜ彼らが指名手配されたか、だ。
仮に、彼らが暁のクラスメートが犠牲になった先日の誘拐殺人事件のような悪事を働いていたというのならば擁護はできまい。
しかし、アカツキも言っていたように討伐対象となった理由が提示されていない以上は彼らが犯人だという確証はどこにも存在しない。

「何かアーチャーにわかることない?」
「従来召喚される7つのクラスに当てはまらぬサーヴァント、そして未だにサーヴァントを召喚できていないことが気になる」

ルーラーとは聖杯戦争を滞りなく運用することを目的に召喚されるサーヴァント。
ともすれば、ルーラーは極力聖杯戦争で生じたイレギュラーを排除したいのかもしれない、とアカツキは考え得る可能性を挙げる。

「しかし、もしそうであればルーラーが出向き、令呪で自害させればそれで済むはずだ。あるいはそれができない理由があるのか?
ともかく、実際に会ってみないことには何とも言えんな。だが、お尋ね者になったからには奴らも警戒しているだろう。
奴らを狙う手合いとぶつかるのも避けられんと思った方がいい。考えも無しに話を聞きに行くというのは些か危険が過ぎる」
「じゃあ…」
「狩るか、会うか。いずれにせよお前が覚悟を決めん限り、この討伐令には乗らない方がいいということだ」

ランドセルに必要なものを全て詰め込んだ暁の手が止まる。
アカツキの見立てでは、聖杯戦争は短期決戦。
それは足踏みばかりしているとすぐに状況が変わってしまうことを意味する。
討伐対象もその過程で命を落とすといった事態も想定でき、聖杯の奇跡の力を取るか否かという難題よりも早く決めなければならない。

「あまり時間は残されてない…のよね?」
「ああ」
「と、とにかく今日は学校に行って様子を見てみるわ!もしかしたらばったり出くわすかもしれないし」
「無論、そうなれば懸念も杞憂に終わるがな。だが、今日だけでも聖杯戦争は自分の想定している以上に進行するだろう。学び舎に行っても決して気を緩めるな」
「わかってるわよ!」

そう言って暁は寝間着から着替えようと、いつものセーラー服を個人用のロッカーから取り出す。
ロッカーを開くと、暁の普段使う物に埋もれて大きな機械のようなものがあった。暁の艤装である。
セーラー服を広げ、暁が少し睨みを利かせてアカツキを見る。数瞬置いた後、アカツキは何かを察して霊体化した。
そろそろ孤児院の面々が一斉に朝食を食べる頃だ。
早く着替えないと、と考えた矢先に不意に部屋のドアが爆発したような音を立てて勢いよく開いた。


789 : 時計仕掛けの希望 ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/15(土) 23:57:53 tLhi0jOo0

「暁ィ!!!また寝坊か!いつになったら直るんだ!」

大きな怒声をぶつけられ、小さな悲鳴を上げてから声のした方へ向く。

「魏さん…き、昨日はたまたまよく眠れなかっただけよ!」

ルーラーのせいでよく眠れなかったのは事実なのだが。
入り口から顔を出していたのは、モヒカン頭をした、2mは届こうかという強面の大男だった。
一応、こう見えても暁の住む孤児院『黒手院』に務める職員である。
外見通り怒るととても怖いのだが、一方でその義に篤い性格から特に男子から慕われている。
アカツキの言う「奴」とは魏のことを指している。
暁は寝坊の常習犯で、一日の始まりは魏に怒鳴られるところから始まるといっても過言ではなかった。

「それは昨日も聞いた気がするんだが?早く用意を済ませて出て来い。みんな食べ始めているぞ」

暁はすぐに返事を返すと、いつものセーラー服に着替えを済ませて食堂へ向かった。

「あらぁ〜、暁ちゃんまた寝坊?いつも通り寝坊助さんだお」
「子供をからかうのも程々にしておけ、マリリン」

魏からマリリンと呼ばれたグラマラスな体型をした女性職員が暁に小言を漏らす。
食卓には、既に暁以外の児童や職員全員が並んでいた。
食堂一帯に立つ食卓はなかなかに大規模で、両端の席にはいつも孤児院で働く大人が座って一緒に食事を摂る。
マリリンの小言にむっとしつつも、暁は他の児童と挨拶を交わしながら空いている席についた。
卓上には、手をつけられていない朝食があった。
「いただきます」と手を合わせてから、一足遅れて食べ始める。

「さて、皆揃ったね。食べながらでいいから、聞いてほしい」

暁が朝食を口の中に入れたところで、食卓の最端、孤児達全員を一望できる場所から声が響く。
他の児童たちと一緒に、暁も声がした方を見る。
そこには、『黒手院』の院長であるインフーという人物が座していた。
銀髪で少々目つきが鋭いが、柔らかい物腰で魏ら職員や児童たちからの信頼は厚い。
まだ新任の院長だが、親のいない子供や仕事のないホームレスを積極的に『黒手院』に招き入れている人格者であり、暁も素直に尊敬していた。

「ここ最近、物騒な事件が相次いで起きている。特に暁の学校では、女子児童誘拐殺人の犠牲者が出てしまった。
知らない人にはついていくな、とはこれまで何度も言ってきただろうが、これからしばらくは今まで以上に気をつけてほしい。
噂をすれば過激派のテロリストも冬木に潜伏しているという話も出てきているからね。
それと、いきなり現れた大きな城にも近づかないように。調査団が派遣されているようだけど、進捗状況は芳しくないようだ。
私は君達を悲惨な事件で失いたくはない。身の危険を感じたらすぐに近くの大人に助けを求めること。いいね?」

インフーの朝礼代わりの注意喚起に、同世代の子供に混じって暁も「はーい」と返事を返した。
自分達のことを気遣ってくれるところから、提督に近しいものを暁は感じていた。

「それじゃあ、ここからは各自で登校してくれ。くれぐれも遅刻しないように」

そう言ってインフーは席を外し、それに続いて他の児童が一人、また一人と席を離れていく。
暁はというと、食べ終わった食器を片づけずにマリリンの所へ持っていき、恥ずかしげに「おかわり」と言って食器を差し出すのだった。

「アンタまたお代わりぃ〜?いい加減大食いも大概にしとかないと、太るよ?」
「よ、余計なお世話よ!暁はまだ食べ足りないんだから」
「んで、一人寂しく部屋で食べてくるんでしょ?レディーが聞いて呆れるねェ」
「い、一人前のレディーは優雅に食事を楽しみたいのっ!」

それを聞いてマリリンは「はいはい」と呆れつつも食器に朝食を入れてくれた。
しっかりとお礼を言ってから、暁は元いた部屋へと戻る。
食器棚を両手に持ちつつドアを背中で押し、誰もいないことを確認して食器棚を床へと置いた。


790 : 時計仕掛けの希望 ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/16(日) 00:00:18 QSGA9ynM0

「はい、朝ご飯。そろそろ時間なくなってきたから、早く食べてよね、アーチャー」
「…いつもすまんな。サーヴァントでありながら、どうも腹が減ってしまう性質は残っているようでな」

アカツキは実体化すると、正座して手を合わせてから朝食を食べ始めた。
食事が必要なのは空腹スキルによるもので、極度に腹が減るとうまく力を発揮できないらしい。
そのため、暁はアカツキが召喚されてからというもの、できるだけご飯を大盛りにしてもらうかおかわりするかして、なんとかアカツキに食事を提供していた。
「太る」「大食い」だと弄られるのはいい気はしないが、必要経費だろう。

「いいのよ。アーチャーにはナイトとして頑張ってもらわないと!」
「こうして飯を出してくれるのはとても助かる。だが、あのインフーという男…」
「インフー院長がどうかしたの?」
「いや…なんでもない」

アカツキは、舌鼓を打ちつつ黒手院で垣間見たインフーの姿を浮かべる。
その姿、顔立ち、声は、自らを陥れ、技術を独占しようとしたかつての上司に酷似していたのだ。
この聖杯戦争に奴もいる、とは考えたくはないが、他のNPCからも認知されており、黒手院の周囲に魔力の気配もないので他人の空似だろうと結論付けた。

(まさか…な)

「――ごちそうさま。うむ、美味だった」
「それじゃあ、暁は学校に行くから。アーチャーは――」
「同行しよう。聖杯戦争も本格始動した。今までのようには済まんと思え」

ランドセルを背負った暁の顔が強張る。
マスターであることを隠す以上、艤装を持って行くというわけにはいかない。
そうなると、暁個人の力などたかが知れており、アカツキだけが頼りとなる。
毎日のアーチャーの送り迎えを子供扱いとも言っていられないことを暁は肝に銘じた。









「それじゃあアニキ、オイラも行ってきやすぜ!」
「おう、気をつけてな」

魏に見送られる穂群原学園に通う年長の少年を尻目に、暁は小学校へ向かうべく歩を進める。
黒手院は、どちらかといえば暁より学年が上の孤児が多い。
もちろん年下もいるにはいるが、そこまで多くはない。
どうせなら高校生のロールがよかったと内心で考えつつも、暁は死んでしまったクラスメート・友梨のことを思い出す。
クラスではあまり目立つ方ではなかったが、暁とも遊んだことのある仲だった。

「友梨…すっかり元気になったのに…」
【友の死を悼むのなら、二の舞にならぬようにな】
【こ、怖いこと言わないでよ!アーチャーがいる間は安心だし…】
【慢心していては駄目だ】
【してないわよ。…あ】

すると、暁は思い出したようにアカツキに話していなかったことを持ち出す。

【そういえば、今日って4年2組に転校生が来るって話だったわね】
【転校生だと?】

4年2組への転校生。
これは友梨の死に沈んでいたクラスを活気づけるには十分な話題であり、暁もよく友人とこれについて話していた。
話によれば、車椅子に乗っているらしい。
アカツキはクラスの事情などには無頓着なようであったが、これには食いついた。

【うん。昨日くらいからこの話で持ち切りだったわよ】
【…マスター。その転校生には細心の注意を払え。】
「え?」

暁は念話ではなく、素で声を出してしまう。
周囲にいる同校の小学生から少しばかり注目を浴びるが、構わずアカツキの念話に耳を傾ける。

【どうしてよ?せっかく新しい子が来るのに、おもてなししなくちゃ――】
【考えてもみろ。ルーラーから通達があった日に転校してくる――あまりにも出来過ぎているとは思わんか?】
【あ…】

暁も合点が行ったという風に驚く。
当時は学生気分に浸っていて浮ついていたが、今日は「本当の聖杯戦争」の一日目なのだ。
そんな日に転校してくる小学生などどう考えても怪しい。

【全くの無害という可能性もないわけではないが…少なくとも、お前の苦手そうにしている小娘よりかは怪しいぞ】
【光本さん…】

悪目立ちしており、常に不愛想な表情を振りまいている暁の苦手なクラスメートよりも怪しいとなると、相当なものだろう。

【関わるなとは言わん。だが、お前に危険が及んだ時は独断であってもこの力を振るわせてもらうぞ】
【…うん】

アカツキと念話をしている内に、いつの間にか小学校の校門前に立っていた。
眼前にそびえる、いつもより不気味に感じる小学校を見上げながら、暁は小さく頷いた。


791 : 時計仕掛けの希望 ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/16(日) 00:00:47 QSGA9ynM0



【一日目・午前(8:00)/C-5・小学校門前】


【暁@艦隊これくしょん】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] ランドセル(勉強道具一式が入っている)
[所持金]孤児院から渡されているお小遣い程度しかなく少ない
[思考・状況]
基本:聖杯で全てを解決していいのか決めかねている。
1:討伐令に関してはとりあえず様子を見る
2:転校生を警戒
3:食事時にはできるだけアーチャーにも食事をさせる
[備考]
・艤装は孤児院のロッカーに隠してあります。


【アーチャー(アカツキ)@アカツキ電光戦記】
[状態] 健康
[装備] 『電光機関』
[道具] なし
[所持金] マスターに依拠
[思考・状況]
基本:サーヴァントとしての使命を全うする。
1:転校生を警戒
2:インフーは奴に似ている…?


792 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/10/16(日) 00:01:07 QSGA9ynM0
以上で投下を終了します


793 : 名無しさん :2016/10/16(日) 00:04:17 ewD6BUjE0
投下お疲れ様です。
魏にマリリン、NPCとはいえとんでもない役になってるなぁ……。


794 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/16(日) 01:26:22 vJ.wiTkw0
投下乙です。

まず圧倒的な文章量のオープニングの投下、大変お疲れ様でした。
各主従の希望サイドと絶望サイドに分け、その全てをアヴェンジャー視点で冷笑的に語っていく流れは斬新で読み応えがありました。
理不尽に討伐対象とされる希望サイドの面々、そして人間性最悪の主催陣営の登場と絶望的な未来を想起させるスタートは掴みとしてまさに抜群。
それと、拙作の採用ありがとうございました。

そして一話目。いきなり学校襲撃が決定され、イベントがどんどん増えていく期待感。
高校生が討伐対象から学校を狙うという判断を、それに伴う犠牲を全く厭わず下せるのはヒールポジションならでは。
ルーラーとアサシンとの対比によって、佐田国という男が反社会的人間なりの思想を持つ人間であると原作未見でも感じ取れます。

怪しさが目立つルーラーの信用の無さ、無理も無し。討伐令に消極的なのは狙われたメンバーからすれば幸運?
災厄の気配は既に市民視点でも理解出来るほどになっていて、さらに妙な転校生が来たりと文章の節々に不穏さを感じさせられます。
前話でのテロ決行確定も含めて、初っ端から色々と慌ただしくなりそうです。


本田未央&ライダー(闇の皇帝ゼット)で予約します。


795 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/17(月) 16:14:59 QyWh/uPI0
投下お疲れ様です!
原作キャラが溶け込んだ孤児院の日常は偽りのものとはいえ微笑ましいですね。
日常がほのぼのとしたものだからこそ、聖杯戦争に言及している部分の異質さが際立つように感じました。
暁ちゃんはやはりまだ子供なので、アカツキのように優秀な頭脳と経験を持つサーヴァントを引き当てられたのは本当に幸運と言う他ないですね。
素晴らしい作品の投下、ありがとうございました。

では一部即リレーを含みますが、
八代学、暁&アーチャー(アカツキ)、光本菜々芽&アサシン(軀)、塔和モナカ 予約します。


796 : 名無しさん :2016/10/26(水) 16:35:59 MtqvnJbc0
躯の参考資料はアニメも入れた方が良い気がする
漫画だと戦闘描写全く無いし


797 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/27(木) 22:00:18 v5FDvwT20
予約延長をします


798 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:01:00 NESp21D60
投下します。


799 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:03:20 NESp21D60

 とんでもない時代だ、というのが本田未央の持つ“この”1980年の5月への印象だった。
 80年代の始まりとなるこの時より数年ほど前、平成生まれの未央も名前くらいなら聞いたことがある大人気アイドルユニット「キャンディーズ」が解散したのだという。「ピンクレディー」は今も活動しているが、時期的には遠からず解散する未来を迎えることになるのだと、誰かから聞かされた曖昧な記憶を基に思い出す。
 ユニットでは無いソロアイドルを見れば、「山口百恵」が今なお人気絶頂である最中、一ヶ月ほど前に発売された「松田聖子」のデビュー曲が着実にオリコンチャート上位へと登りつつあった。
 アイドルという職業を考える上で注目するべき、この業界で過去に築かれた黄金時代。その渦の中に、未央の生きた現代のアイドル達が紛れ込んでいた。
 いつか見たブラウン管テレビの中では、新田美波が歌っていた。
 そして眼前の舞台上では、渋谷凛と島村卯月が躍っている。
 彼女達へと与えられた衣装や楽曲に、ジェネレーションギャップのようなものを感じないと言えば嘘になる。それでも彼女達は着こなし歌いこなし、しかし元来の魅力を曇らせることなく自らの糧としていた。
 本来の昭和時代を生きたアイドル達の世界の中で、平成時代のアイドル達もまた名乗りを上げて競い合う。
 もしも未央が彼女達と同じくあの舞台の上で歌い舞っていたならば、どこまでの高みへと行けたのだろうか。
 そんな仮定をするたび、無意味と気付いて自嘲する。
 「シンデレラプロジェクト」という名の枠組みは存在しない。「ニュージェネレーションズ」は二人組ユニットであると定義された。“この”昭和の世界には、本田未央が輝くための居場所が無い。
 新人アイドルでニュージェネのリーダー。その役割を自ら捨てたではないかというかのように、アイドル業界から一人除け者にされた脇役の役割を与えられてしまったから。
 羨んで見上げる以外に何もしない未央に、凛と卯月が見向きする理由は無い。

「未央。ほら、私達の隣、空いてるよ」
「早く上がってきてください、未央ちゃん!」

 ……とっくに分かりきっている。この世界は、夢。本田未央の見ている幻想。
 現実の有様などお構いなしに、未央の願望通りに創り上げられた世界。
 ただの観衆の中の一人でしかない未央のために呼びかけるアイドル。荒唐無稽も甚だしく、だからこそ嬉しくて、そして馬鹿げている。
 凛と卯月との関係は壊れてしまうのだろうという推測とは別に、三人の関係が壊れてほしくないと未央が心の奥底で願った。
 そのために未央のイメージによって創られた二人はこうして手を差し伸べる。未央の望むままの行動を取る。大方、そんなところなのだろう。

「ごめんごめん! しまむー、しぶりん、すぐ行くね!」

 行くね、なんて平然と吐き出した未央がここにいる。
 人の群れなどなんのそのと軽やかに翔る未央がここにいる。
 魔法少女か何かのように、衣服を一瞬の内にステージ衣装へと変化させる未央がここにいる。
 そんな未央の姿を、浅ましいと思う未央がここにいる。
 勝手に投げ出して、勝手に二人に迷惑をかけて、今度は勝手に二人の姿を弄繰り回している。

「お待たせ!」

 でも、これが未央の願いなのだ。
 間違った選択をした今になってなお、あの輝きを諦められない。三人で成功させようと決めたライブを、失敗のままで終わらせたくない。
 ニュージェネレーションズの三人のダンスとボイスとビジュアルで、目の前の大観衆を震わせるのだ。


800 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:04:07 NESp21D60

「未央ちゃん!」

 私と、しまむーとしぶりんの、三人で。

「行くよしまむー、しぶり」

 取り戻した元気いっぱいの顔を、右隣の渋谷凛へと向けた、その直後のこと。

「未お、」

 ぶしゃああああああああああああああああ、と。
 渋谷凛の肢体に亀裂が走り、真紅の血液が派手に一気に噴き出した。

「え」

 呆けた声を最後に、世界から一切の光が消え失せて聞こえなくなる。
 血が濁流となってステージに激突する音。凛が血溜まりの中に崩れる音。
 聞こえる。でも見えない。
 恐慌一色に染まる卯月。混乱と狂気の中に呑み込まれていく観衆。
 感じる。でも見えない。
 たすけて、とか細く呟くのを最後に、腕が誰に掴まれることも無くぱたりと落ちた瞬間、到来する渋谷凛の最期。
 見えない。
 己の中の失意と悔恨と絶望を、哭き叫んでブチ撒ける本田未央の音。
 見えない。見たくない。

 こんな未来、認めたくない。こんな想像力、働かせたくない。
 早く目を覚まさせて。夢を夢で終わらせて。
 しぶりんのキラキラを、奪わないで。

 こんな闇から、早く私を解放して!






801 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:05:03 NESp21D60



「………………………ぅぅ。夢」

 備え付けの家庭用電話が鳴らすコール音を目覚まし時計代わりとして、夢は一先ずの終わりを迎えた。
 首が軋むような感覚に、未央は自分がテーブルに突っ伏して寝てしまっていたのだと気付く。あの夜の通達を聞かされてから、結局今まで何をすることも無く自室に籠って寝落ちしたのか。
 寝汗が酷い。頭痛が酷い。きっと表情も相当酷い。それでもこんな時くらい、元気な未央ちゃんでいなければ。
 カーテン越しの日差しから察するに今はもう朝であり、そしてこの時間帯にかけてくる相手にも察しはつく。彼女の前では沈痛な姿を晒したくなかった。

『もしもし、未央ちゃん。藍子です。起きてます?』

 電話をかけてきた相手は、予想通り高森藍子だった。

「あーちゃん、おっはよう。いやー、モーニングコールしてもらっちゃってごめんね」
『ううん、好きでやってることですから』

 この冬木で出会った高森藍子は未央と同じ学校、同じクラスに所属する高校生であり、そして友人でもあった。
 理由もろくに告げず不登校を始めたクラスメイトを気に掛ける高校生という役割を与えられた女子高生。
 アイドルではない女子高生。まるで未央のためにアイドルの資格を取り上げられたかのような、ただの女子高生。
 冬木に住む高森藍子は、そういう人間であった。

『……今日は授業も二時くらいで終わりの日だし、久しぶりに』
「あーーーーっと…………あーちゃんゴメン、ちょっと今日もね」
『えっ、うん……』

 もしも出会い方が異なっていたら、「あーちゃん」と呼ぶ度に違和感を覚えたりなどしなかったのだろうか。
 デビューした時期の違いという壁が時間の積み重ねと共に取り払われ、気兼ねなく愛称で呼べるような関係になるのがきっと理想的だったのだろう。
 アイドルの肩書きとは無関係に最初から対等な友情を築いていたことという与えられた事実に頼らずに、だ。

『何があったのかは……やっぱり、教えてくれないかな』
「あー、うん。ほんとゴメンね」
『いいですよ』

 少し前までは学校に通っていた時期もあったという過去が、今の二人を辛うじて繋ぎ止めていた。長くない時間であっても結ばれていた絆が、未央をぎりぎりのところで世捨て人にせずに済ませている。
 本当未央を待っているはずだった二人も、こうして未央を案じてくれていただろうか。それとも理由の身勝手さを知っているから見捨ててしまっていただろうか。
 確かめる方法は、今は無い。

『私、待ってますから』

 こうして心配してくれる友人が一人でもいてくれる時点で、未央は恵まれている。大切な絆を自分から捨ててしまった未央には不釣り合いなほどの境遇だと思った。
 だから、未央はこの友人を頼る以外に無い。友人の前から逃げてしまった未央は、与えられた友人を頼る。

「…………あーちゃんさ、突然だけど、渋谷凛って分かる?」
『えっ? はい。最近デビューしたアイドルですよね。その子がどうかしたんですか』
「その子って、もしかして、もしかしてだけど。今日この街で仕事したりは……」

 それはただ、友人のため。
 どこかにいるのだと思われる友人を追い求めての問い。
 そんな簡単に理想の解答が得られるわけが無いのだと理解はしているけれど、それでも未央は藁をも掴む思いで、


802 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:05:58 NESp21D60

『……確か、今日はロケの仕事があるって私は友達から聞きましたけど。土曜も授業あるから見に行けなくて残念だなあって。でも未央ちゃん、どうして急に』
「――今日!? いつっ!?」
『う、うん、えっと……』

 予想外の返答に、未央の意識が見事に動転する。
 どうにか落ち着かせようと努めつつ、それでも捲し立てるペースを抑えることが出来ないままどうにかこうにか必要な情報を引き出した。
 戸惑わせてしまってばかりの藍子に「ごめん」と謝るのが何度目になるか、自分でも分からない。
 それでも、きちんと「ありがとう」は伝えられた。

「あーちゃん。今日私、ちょっとしぶり……渋谷凛ちゃんに会ってくる」
『……大事なこと、なんですか?』
「まあね。別に遊びに行くとかじゃなくて、もっと大事な理由で……って言っても、学校サボってアイドル見に行くって時点で信用できないか、あはは」
『いいえ。大丈夫です』

 たとえ、それが未央のために演じる姿なのだとしても。
 踏み込まないでただゆったりと待っていてくれるのは、特にこの局面では何よりありがたかった。
 前に一度話をした時から思っていたが、高森藍子は暖かな女の子だ。
 もっと粘り強くあの世界に居続けていたら、彼女の暖かな人柄により近づけていたのだろうか。もしかしたら仲間に、親友になれていただろうか。
 そんな時を迎えるイメージが、もう今は湧かないけれど。

「ありがとう、あーちゃん。来週は、学校行くから」
『来週……うん。待ってますよ、未央ちゃん』
「うん、それじゃ」

 別れの挨拶と共に電話を切る。
 内側に渦巻く感情を気付かれずに済ませられたことは幸いだった。
 来週登校できるかなんて分からないけど、と嘘を吐いたことの罪悪感も、頑張って隠した。
 自分勝手な自分自身の姿にまた心が陰る。でも、今はそうも言っていられない。たとえ闇の中でも、動かないわけにはいかない。
 ……自分はずっと闇の中に囚われているのだろうと思っていたし、正直なところそう言い訳して停滞したままでいたいという気持ちも、無いわけでは無かった。
 しかし、現実が最早それどころではなくなってしまった。
 闇そのものとも言える最悪のイマジネーション。意図せずして見てしまったそれが、結果的には本田未央の肉体を突き動かすこととなる。

「……よし」

 気色悪く纏わりついた汗をさっさと洗い流して。動きやすさ重視の私服へと衣装を変えて。少しだけ汚れの目立つスニーカーを履いて。
 未央はドアの向こう側へと踏み出した。思えば、単なる買い出し以外の理由によって外出するのはこれが初めてと言えるかもしれない。
 アパートの階段を下りて数歩、建物の陰に身を潜めていた何人もの黒ずくめの影が見えた。確か、クローズという名前だったと聞いている。
 少し驚いたが、逃げ出すほどの恐怖は無かった。一度姿を見ていたから人間離れした容貌への奇異は多少克服していたし、何よりライダーが未央の護衛のためにこうして向かわせているという話も聞いていた。
 こうして事情を理解しているから、未央は恐れを抑え込んでクローズ達に近付く。

「……おはよ」

 どう声を掛けたものか迷い、とりあえず挨拶で済ませる。
 潜んでいた二体のクローズは未央の方を向き、帽子を押さえながらぺこりと頭を下げた。
 見た目の割に、こういうところには可愛げを感じないことも無い。そのおかげで、人の言葉を発さない彼等に話しかけることへの抵抗感も大分薄らいでいく。

「しぶりん、いつどこに行けば会えるか分かったよ。友達に聞いた」

 ぴくっと身体を動かしたクローズは、たぶん驚いているのだろう。
 ここにいる三体以外にも既に数十体のクローズが数日前から冬木市内の偵察を行っており、対象には「渋谷凛」も含まれている。が、特に明確な手掛かりも無い状態では人海戦術にも限界があり、また捜索は未だ人間社会の活動しない夜間にしか行われていない。そのために彼等もまだ渋谷凛の情報を得ていないのだろう。
 そんな中で、こうして未央が目当ての情報を掴んだとあっては当然の反応だろうと思う。
 ともあれ、今後のためにも情報共有は必要ということでクローズにそのまま教える。彼等の中の一人が、後でどこかにいるライダーへとそのまま伝えてくれるだろう。


803 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:06:32 NESp21D60

「これもさ、ライダーに言っておいて」

 そうだ。彼にも、未央の意思を伝えなければ。

「私の気持ちも結局は後ろめたさとか、自分本位なのかもしれない。しれないけど……やっぱ、嫌じゃん? 友達が死んじゃう姿見るの」

 テレビの中で憧れの的になる者達のように立派な目標を掲げることなど、今の未央には出来る気がしない。
 一方的に迷惑をかけた相手に会いに行くのだから、「私があなたを救ってあげよう」なんて王子のような台詞を吐ける立場でない自覚はある。
 そして、「渋谷凛」を救うことがライダーにとって何のメリットがあるのか未央には全く説明出来ない以上、ライダーも巻き込んだ取り越し苦労に終わらせてしまうかもしれない。
 誰かの手を引ける人気者では無い、誰かの足を引っ張る日陰者と言うに相応しい自分の姿にまた嫌悪感が湧き上がる。
 それでも。
 未央は、今こうして進むことを選んだ。選ぶ以外に無くなった。

「ニュージェネのリーダー……なんてもう名乗っちゃいけないんだろうけど、それでも、一回は名乗ったんだし、さ」

 会ったところで、何を話せばよいのかイメージ出来ないのだとしても。
 たとえ、もう壊れてしまうのかもしれない関係なのだとしても。
 本田未央は、渋谷凛の仲間だから。

「じゃあ行ってくる。良かったら、ライダーも力を貸してって伝えといて。今の私じゃ、やれることも限界あるし」

 それだけ言って、未央はクローズ達に背を向けた。
 歩きながらちらりと一瞥した先で、三体いたクローズのうち一体が別方向へと離れていくのが見えた。ライダーへの報告に向かったのだろう。
 残る二人もまた身を隠す。恐らく未央について来るつもりだ。丸腰の少女一人を守るための方法であることは理解しているため、そのことを気にすることは無い。
 ライダーの側はこうして準備を整えている。その真意は未だ知らないけれど、多少なりとも彼との間に絆がある。
 となれば、未央も態度を示さなければ。しなければならないという義務的な動機であっても、未央はこうして行動を起こしたのだ。
 数日振りにまともに浴びる日光は眩しくて辛くて、でも、もうあの薄暗い部屋の中に引き返すわけにはいかない。
 形だけでも、元気を出さねば。空元気も、元気の内だ。

「……しぶりんゴメン。やっぱ私、もうちょっとだけリーダーの方は辞めないことにした」

 未央の中に残されたなけなしの輝きの欠片。
 掻き集めて、燃料へと変えて、本田未央はようやく出発する。






804 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:07:24 NESp21D60



 今から八時間ほど前の午前零時過ぎ、久方ぶりにライダー――ゼットは未央の様子を確認するために直接彼女のもとへと出向いた。
 ルーラーを名乗る白黒の不愉快なクマから伝えられた開戦の合図。同時に発せられた、“キラキラ”した者達を標的とする奇妙な討伐令。聖杯戦争を生き残るための方針をより入念に練るためにも、これらは検討するべき課題であった。
 ゼットは既に微量の魔力で召喚可能なクローズを数十体用意し、冬木市内での他主従の動向を探らせるための偵察活動に当たらせている。
 詳細を知るべきと思われる対象は少なくない。多数の人々を犠牲にしたという大火災。逆に無軌道なまでに人々の助けとなる「アースちゃん」を名乗る“人間衛星”。
 そして特に警戒するに値するのは、遠巻きに眺めるだけでもゼットの本能を刺激される、あの度し難い闇を発する“城”。あれは恐らく『此処なるは終着駅、常闇の魔城(キャッスルターミナル)』の同類、要塞型の宝具だ。その城内で待ち構えているだろう親玉がゼットにも匹敵する“闇”の持ち主である可能性を想像するには十分であった。
 対策を考えるべき者が既にいくつも挙げられる状態の中、さらに報酬付きのイベントの開始である。どこから優先的に手を付けるべきか考えねばならない。
 そのためにはパートナーである未央の意見も、まあ、一応は聴いておくべきだろうとの考えであった。
 どうせ今もまだ辛気臭い表情のままだろうなどと思いながらアパートの一室へと侵入したゼットの目に映ったのは、茫然とした表情で一枚の写真に視線を釘付けにされた未央の姿であった。

――これ、しぶりんだよ。

 岸波白野なるマスターに召喚されたエクストラクラスのサーヴァント、ネバーセイバー。
 外見の年齢は未央とさほど変わらないようであるその少女を指して、どういうわけか未央はその真名を言い当てたのだ。
 どういうことだと疑問をそのままぶつけたゼットに、未央は戸惑いを露わにしながらも説明した。
 このネバーセイバーの姿は、未央が元の世界で組んでいたニュージェネレーションズというアイドルユニットのメンバーである渋谷凛という少女とよく似た、いや、全く同一なのだという。
 そこまで言い終えて、今度は未央の方からどうなってるのと疑問をぶつけ返された。未央と同じく十代の少女が、どうしてサーヴァントとなっているのだろうか。
 このサーヴァントを渋谷凛と同一人物と定義した場合に考えられるのは、彼女が未来において歴史に名を残すこととなり、そして過去の時代にサーヴァントして呼ばれた可能性。何らかの逸話に基づく宝具を携え、今の渋谷凛は一人の戦士となっている。
 ……と言っても、そう語るゼット自身ですら懐疑的にならざるを得ない説であった。未央の生きる時代は少なくとも日本に限れば既に平穏なものであり、また女子高生でアイドルである渋谷凛では得られる名声など高が知れているのだ。
 或いは、例えば偶然にも人智を超えた夢幻の力を与えられた渋谷凛が鮮やかに変身しては仲間達と隊を組んで街に襲来する怪人の軍団を毎週のようになぎ倒した姿が数多の人々の間で語り継がれて……などという未来が訪れる話も考えたが、それこそ言い出したらきりが無い。
 いい加減馬鹿らしくなってきて話を切り上げようとしたゼットを、未央は止めた。

――ねえ、討伐令ってことは、このしぶりん……ネバーセイバーも誰かに狙われるってことだよね。
――こいつがそのしぶりんなのかどうかは知らねえし狙うのは誰かどころか俺かもしれねえが、そういうことだ。
――じゃあさ、テレビに出てたしぶりんが、
――こいつテレビに出てたのか。
――あのしぶりんが、このサーヴァントと別人じゃなくて同じだって可能性も……
――ゼロとは言わねえ。まあ、サーヴァントの方は渋谷凛のコピーだって可能性のが大きいだろうがな。
――……本当に、本当に私の知ってるしぶりんとは、関係無いんだよね?
――未央、お前何考えてる?

 頭の中で纏まっていないようなので、ゼットの方で言いたいことを想像する。
 未央が恐れているのはネバーセイバーの渋谷凛、テレビに出ている芸能人の渋谷凛の関係が未央を含めた誰にも説明出来ないこと。そして芸能人の渋谷凛が、ネバーセイバーとの何らかの関係性を疑われてサーヴァント達の標的となることなのだろう。
 芸能人の渋谷凛が「未央の知る渋谷凛」と同一人物か別人であるか、ゼット達に確かめる術は無い。
 しかし「渋谷凛」が脅かされ命を摘み取られるのを恐れることは変わらないというところか。
 たとえ、彼女が「未央の知らない渋谷凛」であったとしても、それでも彼女は確かにこの世界のニュージェネレーションズのメンバーの「渋谷凛」だから。


805 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:08:03 NESp21D60

――お前、んなことに想像力を使ってどうすんだよ。
――……ごめん。でも……
――クローズ達に探させる。と言っても俺の敵になるかもしれない相手なわけだ。都合のいい方向にだけ考えるなよ。

 それきり伝えて、結局ゼットは未央の前を去ることとした。
 キラキラを失いかけている未央は、その想像力(イマジネーション)すら負の方向に向いている。それでいて、想像の先に何かプラスになり得る物を生み出すことも無い。
 予想通り、今の未央はゼットの期待に応えるだけの力をまだ取り戻してはいなかったのだ。こうなると彼女のために過度に時間を割くのも勿体なく思えてならなかった。
 また拠点へと戻ることとしたゼットの胸中には、未央が今後も部屋の中で閉じ篭り続けるものだと半ば諦念の混ざった確信すら生まれつつあった。
 ……と、思っていたのだが。

「未央のやつ、いきなり勝手な真似しやがって」

 朝になって、唐突に未央が行動を起こしたという報告がクローズから伝えられた。偶然にも芸能人の渋谷凛の予定を把握したから、その場所に先回りして彼女を待つのだという。
 ゼットの考えていた方策の中に、また課題が一つ増えた。こうして手間を掛けさせられる未央に対し、ゼットは怒りを抱くべきなのだろう。
 しかし、どういうわけだろうか。

「俺が呼ばれてから初めてか。あいつが太陽の下に出るのは」

 不思議と怒りは無かった。ただ純粋に、驚いていた。
 どんな理由であれ、あの塞ぎ込みの未央が自発的に行動を起こしたのだ。
 今の自分は胸を張れるような人間ではないし、輝かしい未来へのレールを築けるとも思っていない。そんなことを語ったという未央。
 今も闇の中にいる彼女は、それでも渋谷凛に、アイドルに、輝きに近付こうとする。
 友人が脅かされるかもしれないから。たったそれだけの理由で、ゼットの助力を黙って待つという選択を取ることもなく自ら一歩を踏み出したのだ。
 誰かの身を案じ、庇護しようとする。それはまるで、ゼットの知るキラキラを手にした者達の悉くが見せた行動と似通っていた。
 だから、期待してしまう。

「いいぜ未央。こういうのを待っていた」

 ライダーもまた、自らの玉座から発った。
 目的地は当然、本田未央の向かう先。渋谷凛が訪れるという地。
 討伐令の達成、敵対勢力の排除。それらの達成における合理性の有無や程度とは無関係の行動を、ゼットもまた自然と取っていた。
 ただ単純に、未央の瞳に宿っているかもしれないキラキラを今一度確かめるため。
 そして、そんな未央を自らの手でも守るため。

「良かったら? は、俺がてめえを守らないわけねえだろうが」

 未央の中で再び輝き始めるかもしれないキラキラを、他の誰かに踏み潰されるのが気に食わない。
 だから誰にも、未央の中のキラキラを消させない。キラキラが再び露わとなる時を待ち望みながら、未央のための力となり続ける。
 未央の中に燻る光の種。それが実を結ぶ瞬間のために。

「未央。やっぱてめえには価値があるのかもしれねえな」

 そう。本田未央には価値がある。
 期待に応え、闇の皇帝としての力を投じる価値がある。


806 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:09:01 NESp21D60

「――それでこそ、この俺に“喰われる”価値がある」

 ゼットは、未央のために手を尽くす。
 ……しかし、それは純粋に未央の想いを最優先にしてのことでは無い。
 キラキラの持ち主は、どこまで突き詰めてもゼットにとっては吸収(しんしょく)する対象に変わりない。己の中の底無しの闇に消し去られないキラキラであれと願い、そして騎乗(しんしょく)する。
 かつてグリッタのキラキラを取り込んだように、ライトのキラキラを我が物にしようとしたように。
 そして今は、本田未央もまた同じ。
 ゼットが未央を守るのは、聖杯戦争における仮初のマスターだからというだけの理由ではない。

 本田未央に、聖杯にも並ぶ極上の“捕食”対象としての可能性を見出したためだ。

 闇の世界の頂点に君臨する皇帝であるがために、ゼットは他者を尊重することが無い。誰かのために奉仕するという感覚を全く理解出来ない。
 自身より他者を優先することがキラキラを生むのだと知識として理解していても、ゼットは自らキラキラを生み出すことが無い。一見同じような行動を取っても、その根底を為す感情が全く異なってしまっているから。
 ゼットを動かすのは、あくまで自分本位の欲望。
 ゼットは未央のために手を尽くす。そんな行動を通じて、あくまでゼット自身のために手を尽くしている。

 そんな彼との間に絆を見出す者がもしもいたとしたら、その者はどうしようもない愚か者だ。
 ゼットは断じて、本田未央個人を慈しんでなどいない。獲物が成熟し、肥えて、食べ頃となる瞬間を待ち望んでいるから、今は丁重に扱ってやろうというだけ。
 そんな傲慢な考えを根拠に繋いでいる関係など、友情に見せかけた幻想だ。

 故にゼットは、闇の皇帝の英名を掲げるに値するの。
 ……その性分故に終ぞキラキラを掴めなかったのだと、こうして二度目の君臨を果たして尚、一切理解していないから。

「待ってるぜ未央。てめえが俺にキラキラを寄越す、その時を」

 人の輝きを視覚でしか捉えないゼットは、その本質が分からない。
 皇帝は、人の心が分からない。


807 : イマジナリーフレンド ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/29(土) 03:09:48 NESp21D60



【一日目・午前(8:00)/B-2・住宅街(未央の自宅アパート付近)】

【本田未央@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 鞄(私物一式入り)
[所持金] 一万円前後
[思考・状況]
基本:キラキラを取り戻したい。
1:しぶりんを探す。後のことは、会ってから考える。
[備考]
ライダーが召喚したクローズ数体に警護されています。


【一日目・午前(8:00)/B-1・柳洞寺地下】

【ライダー(闇の皇帝ゼット)@烈車戦隊トッキュウジャー】
[状態] 健康、人間態
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:今度こそ、キラキラを手に入れる。
1:未央を守る。今は未央のもとへと向かう。
2:力の源となる闇、または興味深いキラキラをクローズに探させる。
3:闇に満ちた安土城への強い警戒。
[備考]
B-1 柳洞寺の地下に『此処なるは終着駅、常闇の魔城』が展開されています。
数十体のクローズを召喚し、市内の偵察に向かわせています。


[全体備考]
今日の昼頃、渋谷凛(NPC)が市内のどこかでロケの仕事をするようです。
詳細な日時や場所、同行者等については後続の書き手さんにお任せします。


808 : 名無しさん :2016/10/29(土) 03:10:36 NESp21D60
投下終了します。


809 : 名無しさん :2016/10/29(土) 14:21:55 QET/xyvwO
投下乙です

友達が殺されるかもしれないという闇が、未央のイマジネーションを刺激した


810 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/10/31(月) 23:43:46 0KROsepk0
投下お疲れ様です! 感想は投下の際に。
予約を延長します。


811 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:05:28 pTGulN260
期限から少し遅れ、早朝に投下します。どうかご了承ください


812 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:50:53 pTGulN260
宣言しといて恐縮ですが、完成しましたので今から投下します
それと展開に噛み合わないため、橘ありす&(ストレイト・クーガー)は予約から除去して投下をします


813 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:51:45 pTGulN260

カーテンの隙間から漏れる日差し。
四方に敷き詰められた書物の森から香る木の匂い。
数分、時には数十分の間隔の度にめくられる本のページ。
無機質なセピア色の部屋で、手の中の紙から代わる代わる出ては消える、カラフルな物語。
それだけが私の世界の、全てでした。



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814 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:52:43 pTGulN260




書店の会計の椅子に座り、日に十人に届くかも怪しい客が訪れるまで本を読み耽る。
専攻を取っている学部の講義が午後かもしくは休日の朝、鷺沢文香の日常はいつも通りに始まった。
激しい喜びも、深い絶望もない。
時が伸びていると感じてしまうぐらい、緩やかで穏やかな心地よい時間が過ぎている。
そんな安寧の中で聖杯戦争が始まろうとしていると告げられても、とても信じられないだろう。

その認識は誤りであると、文香は知っている。
状況に流されるままでは逃避に転ぶと分かりきっているので、努めて忘却しないように戒める。
始まろうとしているではない。もう始まっているのだ。
読書を切って床につく前の深夜。日付の変わる時刻と同時に出現した文香の時代よりも更に一歩未来的なスクリーンから、この儀式の"開催者"の使いが姿を見せたのだ。
縦に体を白黒色に分けられた熊を模した生物、のようななにか。
裁定者、執行者というよりは道化(ピエロ)じみた造形と挙動の使者は愛嬌たっぷりに、そして聞く者の精神を逆撫でする口調で宣言した。
聖杯戦争の開幕。個人の願いを、多数の願いと命を踏みにじって実現と化す殺し合い。闘技場。

蠱毒の壺は閉められた。どこに逃げても、這い上がっても出口はない。
最後の一人になるまでこの儀式は終わらないのがルールだ。
文香もこのまま、いつまでも無関係を装ってやり過ごすことはできない。
戦う戦わないに限らず、関わらなければいけないのだ。

「―――――――――はぁ」

深く、溜め息。
腹の奥、懐に沈殿する不快な感覚を吐き出す。
浮かぶ疑問をいつも同じだ。悪循環なのに止められない。
それはつまり、関わるといってもどうすればいいのか。そこに尽きた。
戦争を降り元の世界へ帰還したい文香には避けられない主題。文香の綴る物語のテーマ。

混沌の坩堝と化していく戦場に出向き、己の意思を示し、勝利を目指す?
書物を愛するだけのアイドルでしかない、そしていまはアイドルですらない文香に?

出来るかという可能性以前に、やるのかという意志力云々の前に、指向の思考すら浮かばない。
望みこそ捨てないが、その為に他者を犠牲に踏みつけるという行為を、文香にはどうしても想像できない。

なら、待つしかないのだろうか。
目の前の戸を叩き、ガラスの靴を足にはめて、外にそびえる城に連れ出してくれたあの人のように。
誰かが希望を持って来てくれるのをただ待つだけが、文香に残った最善の行動なのだろうか。

それは甘美な選択に思えた。
同時に自ら希望を手放す堕落に感じた。
あの日差し伸ばされた望外の幸運。それによって文香は変わった。
変化を求めながらもきっかけを掴めず、座ったままの日々を繰り返す自分を脱ぎ捨てる事ができた。
魔法がかかったのは衣装だけではない。地に降りた星に触れて文香もまた輝き(キラキラ)を得た。
俯かずに歩き出せた、少しだけ前向きになった心が言う。同じように待つのだけはやめにしようと。
カンダタの蜘蛛の糸の如く。希望が目の前に吊り下げられるまで固く動かないのでは、過去の文香のままだ。


815 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:53:25 pTGulN260



それに、今の文香にはあるのだ。
我が身の危険を忘却する程ではないにせよ、一瞬そうしたくなるぐらいの、思わず動き出さずにはいられない"きっかけ"が。


持っていた本をレジスターを置いた机の脇に置く。代わりに手に取ったのはテレビ雑誌。
記憶するより指が慣れ親しんた分厚いカバーの感触とは違う薄い紙の束。
昨今のアイドル情勢、人気ユニット、歌のチャート別ランキング。
古き良きといえば聞こえはよく、悪く例えればカビの生えかかった古い書店においては、似つかわしくない類のもの。
店が売り物として入荷したのではなく、文香が自ら他の書店で買ってきたアイドル特集の月刊誌だ。
折込を入れた一面を開く。そこには文香も聞いた憶えのある大御所と言うべき存在とは違う少女の集まりが載せられている。
アイドル全盛の時代にあって注目を集める若手の人気ユニットの紹介記事。
見知った、どころか本来は共に肩を並べて歌と踊りを披露していた少女が、一人一人個別に紹介されている。

感じている。
一歩一歩を辿ってきた道を無かった事にされた。
上から塗り潰されて、何もかも白紙にされた痛みを。
でも、今は。より強く締め付けられるものがある。
両面のページいっぱいに、そこそこに簡素な紹介をされてるアイドル達の中で比較的大きく枠を取られている一人。
名前の通りの物怖じしない佇まい。流麗なる装束を身に纏うアイドルの星。ガラスの靴で踊るシンデレラ。

今の鷺沢文香には届くはずもない、なんの関わりもない人物。
かつての鷺沢文香にとっては、接することもできる距離になった人物。



「……凛さん」



呼ぶ。
細く低い、自信の無さの表れのような声。
けれど同じく歌を奏でる仲間からは綺麗だねと褒められた声で。



「彼女が、気になるんだね」



一人も客のいないはずの本屋で、答えはあった。

自分の呟きに応じる誰か。
もっとも声は文香の知る、少し大人びていて芯を感じさせる少女のそれではなく、喉のつくりからして違う音階であったが。
即ち、男性。
文香の背後、叔父の部屋に繋がる通路からの声に反応して振り返る。

「……ああ、ごめん。驚かしてしまったかな。
 断りなく後ろから女性の声をかけるのは、たしかに紳士足り得ない行いだった」

軽く頭を下げるのは、見知らぬ珍客という訳ではない見知った人物だ。
今の鷺沢文香にとっては、もっとも身近な位置に座していると言ってもいいかもしれない。

「バーサーカー、さん」

それは北欧の伝承ベルセルクに端を発する、狂える戦士の名。
神々の宮殿に召し抱えられた戦士の魂。アインフェリア。ヴァルキュリア。
獣の皮を被り、人としての思考を捨てた凶暴性を発露させて戦い、事が終われば虚脱に陥る。
文香が、マスターとして契約したサーヴァントの位(クラス)の名称だ。

極力真名は秘め置くものという、聖杯戦争の掟に従い文香は彼をそう呼んでいる。
しかし文香は慣れなかった。その呼称に。バーサーカーという言葉から彼を連想するのに。
自分と言葉を交わし、明確に意思の疎通を行えている人物を、狂戦士と字することに対しての違和感があった。

金髪に碧眼。
英国人の標準である特徴に、紳士とはかくあるべきと示すような服装。
整った顔立ちから予想する年齢は文香と近いか、それより幾らか上か。
狂える獣も凶暴性も感じさせない、穏やかで優しげな青年だった。


「うん、なんだい?」
「いえ、その…………」

名を呼ばれた事か、じっと顔を見つめていた事にか。
何か求めるものがあるのかと思って、青年が文香に問いかける。

「あの…………」

返事に窮して、伏して黙する。
整った容姿と清涼な印象は、文香よりもよっぽどアイドルとして扱われてもおかしくないものだ。
新都のビルが立ち並ぶ地域にでも出ればスカウトの声が一度や二度はかかってくるぐらいには、と考えている。
面識はないが。男性のアイドルグループの中に混じっていても、おかしいとは思わないだろう。
異性との会話の経験が乏しい、それこそ記憶に残るのでは自分の担当するプロデューサーぐらいの文香にとっては、


816 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:53:58 pTGulN260

それだけで面と向かって話し合うのに気後れしてしまう時も、なくもない。

「…………」

バーサーカーの翠の瞳と文香の蒼い瞳が繋がる。
怒り、威圧、憎悪、負に相当する感情は見受けられない。
文香は気付く。彼は待っている。自分の言葉を。
ゆっくり、じっくりと。今抱えている気持ちを明確に言葉にして出せるようになるまで。
無理に促そうとせず、焦らせる事もなく、落ち着いた心で、文香自身の意思で言える時を待っていてくれていた。

「バーサーカーさん」
「なんだい」

もう一度、彼の名を呼ぶ。
今度は正面に向き合って。

文香は強い人ではない。
戦う力。戦う意思。
聖杯戦争に臨む者なら誰でも身につけている強さというものを、なにひとつ持っていない。
書を嗜み、アイドルの道を踏み出していた、ただの少女以外の何者でもない。
ただ帰りたい。あるのもは奇跡も願望器も必要としないありきたりな希求。


「会いたい人がいます」


そんな小さな声に応えてくれた英霊にせめてもの誠意にと目を逸らさず、偽りない自分の意思を伝えた。

「会って、私は確かめたいです。本当に『彼女』なのかどうかを」

深夜に送られた討伐令という通知。
野に潜む狐を追い立てる狩りのように積極的に討つことを奨励する報せ。
それだけでも文香の普段から白い顔を一層蒼白に染めるに十分すぎる衝撃。
指名手配犯さながらに顔と名前を公開された二組と一人を見た瞬間。今度こそ文香は呼吸が止まった。
肺機能が止まって体が酸素を求めてあえぎ咳き込むまで自失してしまいそうになる理由が、そこには描かれていた。

「私はまだ……信じられません。彼女が、凛さんがここにいるなんて」

聖杯に招かれる因果の所以を文香は持たない。自分は決して選ばれないはずの人間だ。
だから自分がここにいるのは、理論上では間違ってないという確率上の話。それを運悪くも引き当ててしまった偶然のものであると思っている。
その論に照らせば、自分以外のアイドルもこちら側に来ている結果はおかしくはないかもしれないが。


……違う。そういうことではない。
困惑の原因は、文香が心の動揺を抑えられないでいるのは、そこではないのだ。


「それに、彼女が……――――――だなんて」

渋谷凛が聖杯に導かれているとするなら、彼女は今冬木の地で過ごしているはずだ。
テレビに映らない日はなく、雑誌で載らない日はない耳目を一身に受けるアイドルであるはずなのだ。
なのに。受け取った通知に描かれている彼女の下に記されていたのは、彼女の名前ではない、別の名称(クラス)だけだった。

「ああ、確かに奇妙だね。そして不安を煽る情報だ。きみにとっては特にそうだろう。
 見知った人がサーヴァントとして呼ばれている。僕ら英霊でもそう多くない機会だ。
 それが神秘薄れる現代ともなれば、なおさらさ」

渋谷凛は人間(マスター)としてでなく、死者(サーヴァント)として冬木にいる。
にわかには受け入れがたい事実を、あの夜文香は唐突に知らされたのだ。

「バーサーカーさんには、どうしてだか分かりますか……?」

魔術も神秘にも縁遠い文香には、英霊の存在する世界に関して、片鱗すら垣間見れない。
同じ英霊のバーサーカーの知識に依存する他なく、彼の言葉を待つ。
バーサーカーは意識を思考に集中し、脳内で集めた関連する知識を編纂して、一般人である文香にもわかるよう咀嚼してから口を開いた。


817 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:54:31 pTGulN260


「聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは基本的に七つのクラスに分類される。
 剣や槍といった武器の獲物や魔術や暗殺などの個々の性質に準じ、英霊という強大すぎる無色の力の塊を最も見合う形の器に注ぐ事で英霊召喚を可能にしている。ここまでは聞いているね?」
「はい」

誰しもが心の内に抱える悪意を表層化してしまったジキルが、狂気の英霊(バーサーカー)のクラスで召喚されたように。

「そしてその中で、どの器にも属さない特殊なクラスに適性を持つサーヴァントもいるらしい。
 いや、順序でいうなら基本クラスへの適性がないサーヴァントの為に、特殊なクラスをあてがったというのが正しいだろう。
 ネバーセイバー。在り得ざる剣士。僕も内情の全てを知るわけではないけれど、やはり特異な名だろう」

特異であるとバーサーカーは語る。
荒ぶる英霊の魂が渋谷凛の形を取り、通常の形式では起こらない姿で現れた此度の変異を。

「特異……本来の物語の中にあってはいけないもの……ですか」
「うん、そういう解釈も正しいだろう。"在り得ない"事こそがひとつの逸話として昇華され、そういう性質の英霊が生まれたのかもしれない。
 なんにせよこの聖杯戦争で、この儀式を主導する者にとって、彼女達が異分子であるのは確かだ」

文香はイメージする。異分子という言葉から導かれる推察を。
完成された一冊の本に紛れ込んだ別冊のページ。
誤字に脱字。汚れに破損。
編集から外れ紛れ込んでしまった、筋書きを成り立たなくしてしまう矛盾した文章。
それがそのまま世に出されてしまえば作品の価値は崩れてしまう。
破綻したストーリーは誰に目にも留まらず書庫の奥にしまわれて、埃を被るだけの時間を過ごしていく。

「だから……凛さん達に、手配を?」

当然売り手は未完成の作品など望まないだろう。
要らぬ部分を削ぎ落とし、修正せねばならない箇所を書き直そうとする。
では"これ"は、その作業の途中なのかもしれない。
聖杯戦争という物語を想定通りのエンディングへ到達できなくさせてしまう、みっつの異分子(イレギュラー)。

異常であり綻び。聖杯戦争を行うには不都合な要素。
であるなら、そこに穴はあるのかもしれない。殺し合う以外に生きて帰る方法はないと定められているルールを破る穴に。

「そうだね。その可能性も十分ある。
 調合する薬品が1ミリグラム違うだけで実験の結果は大きく違う。ときには爆発したり大変な被害をもたらしてしまう。
 彼らがそんな細やかな作業をしているかは、正直疑わしいけれど……求める結果に何らかの不都合はあるんだろう」

バーサーカーも同意する。薬を用いて研究するのを旨とする錬金術師の面を持つ碩学者の目線で。

「聖杯戦争の破綻、もしくは脱出。その一手になる目はあると僕は思うよ」

それは文香の生還の望みに繋ぐ、光明となるはずの言葉だった。
なのにバーサーカーの静かな表情には僅かに険しさが浮かんでいる。言葉を聞く文香も緊張している。
わかっているからだ。二人がサーヴァントの渋谷凛の情報を入手したのは、"通知"によるものだと。

「彼らは追われる立場で、それも多額の懸賞がかけられている。当然だけど会おうとするのは危険が伴う行為だ」

討伐令の報酬の内訳は、文香にもある全てのマスターに三画与えられた刻印。
いざという局面での切り札になるそれの効力の程をバーサーカーは伝える。

「令呪の使用法は多岐に渡る。己の意に従わないサーヴァントを従わせる強制。逆に転移や強化という通常の魔術師ですら叶わない補助にも使用できる。
 聖杯戦争でこれほど有用な装備はないだろう。それだけ有用で、貴重なものだ。
 切なる望みがあり、勝ちに行く主従は、積極的に討伐に参加するだろう」

それはつまり、ほぼ全てのマスターは凛達を敵として追い狙うという残酷な現状を有り示している。
餌をぶら下げた狐。狩られるだけの獣。
文香にとっての希望の縁は、他者にとってその価値にしか映らない。
彼女の危機に手を差し伸べる者は誰もいない。彼女が死んでも悼む者は誰もいない。
折角見えた光明はその実、嵐の中のいつ消えるとも知れぬかがり火に過ぎなかった。


818 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:54:57 pTGulN260


「君の友人に関わる事は、君自身が戦いに巻き込まれる事になる。
 矢面に立つのはサーヴァントの役目だ。けれど君はマスターだ。近づけば他の参加者にとって同じ敵として映る。
 火の粉がかかる可能性は少なからずあるだろう」

戦い、殺し合う。どちらも大きな争いのない平成に生きる文香には、聞いた憶えはあっても体験などしたわけなどない。
それが間近に迫ると聞くだけで恐怖が豪雨のように全身を打ちのめす。
バーサーカーから教えられる現状を認識するほど、どうにもならない行き詰まりを見せつけられてしまっていた。
戦いになれば自我を失う魔力負担の大きいバーサーカーと魔術の素養のないマスターに、果たしてどこまでの事が出来るのか。
その範囲で、自らの望みに手を伸ばすのはどれほど遠大な距離があるのか。考えるだけで気が滅入ってくる。




「――――……それでも」




陰鬱に沈んでいくばかりだった部屋の中で、二つの声が交ざり合った。

「あ……」

か細くも途切れる事なくどこまでも響いていく鐘の音に似た女のもの。

「……おや」

穏やかさの中に揺るがぬ決意が秘められた男のそれ。

重ねられた声は調和し互いに溶け合った。
示し合わせていたわけでもない。ごく自然に口をついて出た言葉。
なのにその瞬間ピントが重なったように、二人の男女は同じタイミングで同じ言葉を口にしていた。


バーサーカー・ジキルの語った内容に偽りはない。
何を選んでもやはり聖杯戦争から逃れるには困難だ。
文化には終わりが見えない階段を昇り続けるのにも似た心労が募っているだろう。
しかし彼女は自分と同じ言葉を紡いだ。"まだ終われない""諦められない"と。
ページを開かれなければ、新たな物語は大団円にも悲劇にも動き出さない。
それはやがて来る痛みに震えながらも、膝を折らずに先を進む事を望む言葉だ。

マスターが続けようとした言葉、言わずともその心情は理解している。
追われる身の友人を見捨てるのが賢い選択と分かっていても、強い躊躇を抱いている。
脱出の鍵となる因子の可能性。目的の為の打算などはじめからなく、どうすれば助けられるかを考える。
文香の知る渋谷凛でないとしても。
アイドルでない文香の声は届かないかもしれないのに。
善性は聖杯戦争には不要でも、アイドルには必要不可欠の優しさだ。

聖杯戦争にまつわる、ある知識を思い出す。
マスターが召喚するサーヴァントはどこか精神性に似通った部分があるという。
それが共感を呼び良好な奸計を築くか、同種ゆえの嫌悪を抱いてしまうかは時々によるものだが。
そこへいくと、マスターには自分のような狂気の発露は微塵も感じさせない。
英雄の超越性も、戦士の武技も両者は縁遠い存在だ。共感する側面は見受けられない。

ジキルは思い出す。
二度目の生。最初の主。
魔術師の血を知らず継いだ以外どこまでも平凡で、その平凡さのまま善良さと正義感を併せ持った少年。
あの繋がりを忘れない。忘れないからこそ、ジキルは今も再び召喚された。

子供の頃に一度は胸に懐く淡い思い。
美しく尊いが、口に出した途端に雪の結晶のように砕け散ってしまう脆い心。

それは例えば、正義を為そうという若い理想。
悪逆を廃し、欲望を捨て去った、人の心を分断した善のみで満たそうという志。

それはあるいは、輝く舞台に立つという夢。
語り合い、共に並び踊った仲間を救いたいという情。


それでも、私(ぼく)は――――夢(りそう)を捨てられない。


ただ、握りしめて離さないこと。
英雄でも魔術師でもない、平凡な誰彼の願いに、自分は寄り添っている。

これもまた、願いが果たされたと言うべきか。
正義の誓いを共に課し、邪悪な儀式を遂行せんとする魔術師を打倒するのでなく。
罪人を閉じ込める牢獄の塔の囚われの少女を連れ守り、元の自由と平和な居場所へ送り届ける。

「美女と野獣、だったかな」
「……?」
「いや、そういう題名の話があったなと思い出しただけだよ」
「はぁ……」

納得したとばかりに頷いたバーサーカーに、文香は見当がつかず首を傾げるしかない。
僅かに翳っていた気が晴れた少女らしい仕草に微笑みで返す。


819 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:55:27 pTGulN260


「大したことではないよ。ただ―――」





戸のガラスを鳴らす音が、その時二人の会話を打ち切った。
朝早くに、開店間もない時刻の来客。
一応は店番の文香も一日読書に耽っていられるくらいだ。入ってくるのを予想していなかったのは気が緩み過ぎていたのか、張りつめ過ぎなのか。
隣に目線をやると、バーサーカーはその身を霊体に変えていた。善の姿であるジキルはサーヴァントの能力も気配も有さず、それゆえ実体のままでいても魔力の消耗は殆ど無い。
しかし彼はあくまで仮初の住人。この店にいまいるのは文香のみ、留まって姿を見せるものでもないと考えたのだろう。

「……え?」

振り向いた先にあるものを見て、思わず目をこする。
木製の扉が開かれて入ってきた姿。
それは童話の挿絵が切り抜かれて現実に動き出したような、不思議そのものだった。

「……」

おずおずと、扉から誰かが顔を覗かせていた。
白い衣装に身を包んでいるらしき少女。
見える頭の位置からして背丈は小さい。十歳にも満たないのではないだろうか。
文香は何も言わず、少女はじっと文香を窺っている。
外に出るのは怖いが興味を惹くものがあって、遠巻きに観察しているような。
儚い容姿とあいまって、森の木々に潜む妖精にでも見られている感じがした。

「…………あの……」

沈黙に耐えきれず、なるべく脅かさないように声をかける。
少女は驚いて顔を引っ込めるが、すぐにまた覗いてきた。
そしてこちらを、黙って見つめ返す。
文香も視線を逸らさず見つめ合ってると、おっかなびっくりという様子で足を一歩分伸ばし、店の中へ入っていった。

「わぁ……」

入ってすぐ、少女の怯えは薄れていく。
右へ左へと視線を動かすうちに、不安より好奇心が大きくなっていくのがわかった。
全周にくまなく敷き詰められた無数の物語。そのひとつひとつの筋書きを想像しては楽しむかのように。
そしてひとしきり辺りを見回して、改めて文香へと視線を向けて言葉を発した。

「ここ……本屋さんですか?」
「……あ、はい。いらっしゃいませ」

陽光が森の木漏れ日のように差す薄暗い店内。
文香はここで初めて少女の全身像を眺めた。


淡い白と水色の、フリルで彩られたドレス。
帽子に、胸に、背に、結わえた長髪に結ばれたリボン。
スカートは傘を広げたように大きく広がっている。
手も脚も白いタイツと手袋で覆われ、唯一見える顔の肌も陶器のような白さ。

……人形、という言葉が不意によぎる。
小さくて、可愛らしく、浮世離れていて、だからこそ存在感が生身のそれと異なっている。
アイドルがステージの上で着ている衣装に似通っていているが、文香が知る彼女とでは何かが欠けているように感じた。

「えっとね……あたし(ありす)、アリスの本を探してるの。お姉ちゃんはしらない?」

考えに意識を逸らされてる間に近づいたのか、少女は文香の座る会計台の前にいて、そう問いかけてきた。

「アリスの本……ですか?」
「うん。おしろのなかはなんにもないし、おじさんもあたし(ありす)の相手をしてくれなくてつまんないの。
 だからおそとに出てきちゃった。時間におわれたウサギをさがしに穴におっこちちゃったの。
 でね、やっぱりあたし(ありす)はアリスの本が読みたいなって思ったの。あたし(ありす)がひとりぼっちのころから読んでいたわらべうた。
 あたし(ありす)の好きな、アリスの物語。ひとりぼっちでふしぎの国にまよいこんだ、かわいそうなおんなのこ……」


820 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:56:14 pTGulN260

 
謳うような心地。
子供らしい要領を得ない言い回しに理解を投げ出さず、文香は少女の台詞を読み解こうと向きあった。
文脈から想像するに、ありすとはこの少女の名前なのだろう。そしてアリスという少女が登場する本を探している。
アリスの名前の人物など世界中に出て来る。題名も作者も分からないとなると探そうにもお手上げだ。
しかし少女が語って聞かせた内容からして、その作品はやはり、あの有名な作者のものだろうか。

「……ルイス・キャロルの小説ですか?」
「お姉ちゃん、本の名前、わかるの?」

期待を寄せた目で少女が文香を見上げる。

「正しいかはわかりませんが……不思議の国に迷い込む少女の物語でしたら……棚の奥を探せばあると思います」
「ほんとに?やったぁ!」

目当ての品があるとわかった少女はその場で飛び跳ねて喜びを表現した。
とはいえ文香と少女の想像が一致するものとは限らない。その点を念押ししつつ、文香は店の奥へ足を運んだ。


この店に置かれている本は店の大きさに反してかなり多い。
慣れぬ客が目当ての書を探そうとすれば、迷路を彷徨うが如く店内を右往左往するほどだ。
膨大な書の森を文香は迷わず進む。どこにどのジャンルの本があるか。店番である以上当然のごとく全て記憶してある。
高く並ぶ本棚に囲まれて暗い場所にまで来たところで、その時文香の頭の中に直接言葉が伝わった。

『少なくとも、サーヴァントは近くにいないようだね』

霊体化していたバーサーカーからの声。
そうと理解していても、すぐに動揺は拭えなかった。
奇異にも映る少女を彼は、あるいはマスターなのではないかと観察していたらしい。
文香の方はといえば、まったくそこには行き着かなかった。
あんな小さな女の子すらもが聖杯戦争に参加している。
それは街の住民全てを敵と思えという事だ。想像するだけでも恐ろしい話だ。

『そうですか……よかったです』

安堵と共にそう返事する。文香にはそれが精一杯だ。
敵として向かい合う気持ちで、あの少女の顔を見る事などできそうもなかった。

洋書、童話、普段は殆ど誰も手につけない場所から難なく予想した本を抜き出して店頭へと戻った。

「……お待たせしました」

戻ってみれば、少女は備え付けの椅子に座って何かの雑誌を読んでいた。
こちらに気づいた途端、ぴょんと跳ねて文香へ近寄り持った本を覗き込む。

「わあ!アリスの本だ!」

『Alice's Adventures in Wonderland』と題名が書かれた本を見て、満面の笑みで声を上げる。
見ていた雑誌を放り捨て、早速とばかりに文香から受け取って項を開き、そのまま物語を魅入ってしまった。
無邪気に気ままに遊び、自分に刃が向けられる可能性など考えもせず無防備に読書に夢中になってる少女を見て、文香も自然と表情が綻んだ。

「ご希望に添えたようで……なによりです」

やはり、こんな幼子が殺し合いに関わってるとは思えない。
冬木には比較的海外から移り住んだ住民が多い。おそらくはその家系だろう。 
自分たちの心配は杞憂でしかない。文香はそうひとり理屈づけて納得させた。


821 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:57:27 pTGulN260



「ありがとうお姉ちゃん、あたし(ありす)の願いを聞いてくれて。まるで魔法の鏡みたいね!」

少女――――ありすは、そんなことを言ってきた。
一瞬なんのことかと頭を捻って、その意味するところにたどり着く。
魔法の鏡。有名な童話に登場する、悪い魔女が所有する道具だ。
持ち主が問いかければ、どんな質問にも正しい答えを教えるという。なんとも少女らしい喩え方だ。

「そんなことは……私はそれほど物知りではありません。本を読んだだけで得た知識など……小さなものです」
「そうかしら?それじゃあもういちど聞いてみようっと」

ありすは『不思議の国のアリス』を置いて、また別の本の項を開いて文香に見せた。
童話本と比べて分厚いカバーのないぺらぺらとした紙を束ねた雑誌だ。
ありすが尋ねるまで文香が読んでいたテレビ本。文香が童話を探してる間にありすが読んでいたアイドル誌だった。

「かがみよかがみ。あたし(ありす)のもんだいこたえてみせて。
 あたし(ありす)とおなじ名前のこの子はだあれ?」

いまのありすと変わらない衣装で彩られた無数の少女。
見開きで紹介されたアイドル達のひとりを、名前を隠して白い指が示している。
長い黒髪。幼い容貌。大人びようとすましている表情。城に住むお姫様のような、青いドレスの少女。

「……橘ありすちゃん」
「ほら、やっぱり!」
「その本を読みましたから……」

同じ名前(ありす)。同じ少女。
子供のままに無邪気なありすと、理性的であらんと夢見るありす。
接点のない二人を、文香が知ることで互いが繋がった。
なるほど、思ってみれば確かに面白い偶然だ。

「この子もアリスなのね。あたし(ありす)とおなじふしぎのアリス。
 かわいいドレスを着て、おしろでおどってとっても楽しそうだわ。けれどアイドルって、なにかしら?」

小首をかしげて無邪気に、興味深そうに。
ありすはその疑問を口にした。

アイドルという言葉と、概念
それはかつての此処の文香にとっては遥か遠い場所にあった。
今は違う。その言葉の意味も在り方も、既に文香は知っている。



「アイドルは……歌を歌い、舞台で踊って……人に夢と輝きを見せる仕事です」

何の意味もないことを、気がつけば文香は口にしていた。

「おどり……ゆめ?
 シンデレラみたいに、キラキラかがやくの?」

目の前にいる幼い少女。限りない可能性があり、希望ある未来を夢見られる人。
先達の教えなんて偉そうなことは言えない。そもそも自分は此処では外様の人間だ。
無事に事が済ませられても、後は無責任に元の場所に去ってしまうだけ。
それでも残したいと思ったのだ。自分の物語の足跡を。

「ええ、そうです。彼女たちひとりひとりがシンデレラなんです」
「でもシンデレラは十二時になったら魔法がとけちゃうよ?かねがなったらみんなきえてしまうわ。
 おうじさまにあえるまで、ままははにいじめられちゃうの?」
「いいえ……彼女たちは消えませんよ。かけられた魔法は一度だけですが、その一度だけで彼女たちはお姫様に変われたんです。
 時間が来て、姿が戻っても……その時の気持ちを忘れずにいれば、シンデレラで在り続けられます」


822 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:57:54 pTGulN260


閉じられて、開かれず、何も生み出さないと思っていた自分自身。
埃を被ってしまわれていた書を紐解いてくれた手。その手に引かれるままに、自分の物語は世界に向けて紡がれた。
数多の名著のように、己という一冊の詩が人々に受け入れられ、新たなページが記される日々。
いつの間にか、文香はアイドルだった。身も心も磨かれて、眩い光の差す場所に自然といた。

それは誰もが幻想に抱いた夢を叶える御伽噺であり。
ある少女が今も登る、輝く世界の魔法にかかった物語。

全て、あの日から変わった体が憶えている。今も変わらぬこの身に残っている。
この世界ではその記録がないとしても、本当の意味で全てが無くなったわけではないのだから。
こうしている今も膝を折らず立っていられるのは、そういうことだ。
夢を終わらせたくない。その願いが瞳を閉ざさずに前を見ていく力に変わっている。

「えいえん……あたし(ありす)のおはなしもつづくの?あたし(ありす)も……アイドルになれるの?」

仮初の国で偶然出会った、幻想の住人。
理解しているかは分からない。全てが終わってここの人々も同時に消えてしまうのかもしれない。
……ここの世界に関わって、残るものなどないとしても。
彼の人にもあるだろう物語が、文香をアイドルの世界に引き入れたように。
手を引く気軽さで生まれた程度の詩篇でも、物語の大きな変化を生む一片になってくれたならと。

「はい。あなたがその気持ちを忘れない限りは、きっと」

お互いを鏡にして、互いの願いを映し合っている。
言葉は目の前の少女に向けてであり、少女の瞳の中の自分自身にも宛てられている。


「未来は白紙のページのままで、いつでもあなたの物語が記されるのを待っています」


二人共にかかってくれることを願って、ささやかな魔法を口にした。



「……すてきなお話。
 あたし(ありす)はもう不思議の国の少女(アリス)だけど……そんなゆめも、見れたかもしれないんだね」

ありすは感慨深そうに瞳を閉じて、両腕で自分の体を抱きしめた。
愛しい物語を、小さな胸の中にいっぱいしまいこむように。




「たのしいお話いっぱいありがとう、鏡のお姉ちゃん。
 ほんともっといっぱいお話したいんだけど……いまはだめなの。あの子がおなかをすかせてるわ」

それから、幾度かの会話の後にありすは立ち上がった。
外に通じる扉の向こう。遮蔽物で見えないそこには、何かの生物のような気配がするのを文香は感じた。
ペットでも連れていたのだろうか。ここに来たのは散歩の途中だったらしい。
今まで聞こえなかった、扉越しに聞こえる息遣いは犬のようだ。

「聞きたいことができたらまたくるね。あたし(ありす)も遊びを考えておくから、そのときは一緒にお茶会をしましょうね!」

買った童話を持って、ぱたぱたと足を動かして出て行くありす。
扉を締めて完全に姿を消した途端、室内は元の暗い空気に戻った。
童話に出てくる屋敷のような雰囲気もなくなり、今は殺風景なさびれた本屋だ。

不思議な子だった。
ふわふわしてるというか、ぼやけてるというか。
儚い、淡い、夢幻。言葉にすればそうしたイメージの具現。
狭い世界の現れた少女は、それこそ魔法のように立ち消えた。
自分の言葉を、果たしてあの子はどう受け止めただろうか。本気でアイドルを目指そうとするだろうか。
もしそうして同じステージで出会えたのなら――――彼女は、自分はどう思うだろうか。
ありもしないと弁えて、それでも想像する文香は意識せず小さく笑った。現実に起きたならとても希望があり、夢のある話だなと。

「……?」

だからレジスターを整理する指先に感じた不快な感触にも、反応するのが僅かに遅れた。

掌を返して指先を確認する。外に出ず、荒れてない白い指には粉のようなものが付着していた。
ありすが代金に渡した一万円札にも同じ汚れがあった。白く煤けた燃え滓にも見える。

「……灰、でしょうか」

自分で言って、それはないなと改めた。
当然、本屋で火災など起こすわけがない。棚の奥から引っ張り出した本だ。掃除はしたがまだ埃が残ってしまっていたのだろう。
彼女の手も汚してしまっていると申し訳なく思った。
周りを丁寧に掃いて、所定の位置に座り文香は凛を探す方法について思いを巡らした。
手がかぶった灰の汚れなど、とうに記憶からこぼれて消えていた。


823 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:58:36 pTGulN260



【一日目・午前(10:00)/C-5・書店】

【鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具]
[所持金] 個人の所有は控えめ
[思考・状況]
基本:戦うことなく元の世界に還りたい
1:渋谷凛を探す。サーヴァントでもNPCの方であっても、会って確かめたい。
2:ありすちゃん……不思議な子です。
[備考]
ありすをマスターであると認識していません。


【バーサーカー(ヘンリー・ジキル&ハイド)@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ 】
[状態] 健康、ジキル体
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:正義の味方として在る
1:文香を守り、日常へと戻す。
2:渋谷凛(サーヴァント)達が儀式を綻ばせる可能性に期待。ただし接触は慎重に。
[備考]
ありすをマスターであると認識していません(サーヴァント不在のため)。
討伐令をかけられた組を「聖杯戦争の異分子」と推察しています。


824 : ありす イン シンデレラステージ ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:59:12 pTGulN260






 ♥♡ ♥♡ ♥♡ ♥♡ ♥♡ ♥♡



くるくるまわり、くるくるおどる。
つちくれのめいろをかけめぐる。


「ありす(あたし)以外のありす、もう一人のありす」


朝の通路には誰もいない。
誰も少女の姿を見られはしない。
昭和の世界を迷い込んだ場違いな幼子は、あちらこちらへと気ままに飛び移る。
自分を見捨てた世界の法則など知らぬとばかりに。電脳魔は遊び場を渡り歩く。


「あいたいな、あえるかな」


白い衣装を追う、黒い獣。
不浄と汚濁の塊。吐息すらも腐っている魔王の犬。
飼い犬は主人である少女に従いまだ誰にも牙を向けていない。
向けてないだけで、けれど犬は飢えている。目に入る全てを口にしたくてたまらない。
餌を食べる許しが少女から出たなら、有象無象の区別なく食い散らかす本能だけが躍動している。


「あえたらどうしよう。鏡のお姉ちゃんもさそって、お茶会にしちゃおうかな。
 アイドルのこともきいて、一緒に遊んで、それでそれで……」

これらの魔も所詮は爪牙の一欠片。
マスターの自覚もなく外を出歩く虚ろな少女の御守りに過ぎない。
真の主たる六天の王は未だ、地の底より現出した己の居城に座している。
一切万象を己の郷へ落とす王は卑賤に戦功を求めて動くことはない。ただ、釜が開く時を待つのみ。


「あえるのがたのしみね、ありす」


地獄を引き連れる少女は、その時を待っていた。






【一日目・午前(10:00)/???】

【ありす@Fate/EXTRA】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] 魔獣数匹
[道具] 『不思議の国のアリス』
[所持金] それなり(血や灰で汚れている)
[思考・状況]
基本:
1:ありす(あたし)以外のありす(橘ありす)を探して、いっしょに遊ぶ。
2:鏡のお姉ちゃん(文香)ともっと遊びたい。
3;アイドルってすてき
[備考]
文香をマスターとは認識していません。
予選で敗北したマスターからいくつか所持品をもらっています。
安土城で変異した獣を散歩に連れてます。ありすの言うことはいちおう聞いてくれます。



【一日目・午前(10:00)/???(安土城)】

【セイバー(織田信長)@戦国BASARA】
[状態] 健康
[装備] 大剣、銃
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:総てを塵に
1:座して待つ。
[備考]


825 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/11/04(金) 01:59:55 pTGulN260
以上で投下を終了します


826 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:07:24 TW955.oA0

お二方とも、投下お疲れ様です!

・イマジナリーフレンド
未央の夢の描写に始まり、曇っていた彼女が一歩踏み出すまでの緻密な描写が素敵でした。
友達が死んでしまうのが嫌だから、という理由で行動を起こすのがなんとも彼女らしい。
そしてそれを歓迎するゼット様の心理描写もまた素晴らしかったです。
人の輝きを視覚でしか捉えられない彼には、人の心がわからない。

・ありす イン シンデレラステージ
鷺沢さんとありす(Notアイドル)の絡みは、なまじ鷺沢さんが文学少女であることから素晴らしい雰囲気でした。
童話の世界から抜け出してきたようなありすにアイドルの何たるかを教える下りが個人的には好きですね。
その前のジキルと鷺沢さんの対話パートも、原作の結末を述懐しながら交わされる言葉の一つ一つがとても魅力的なものに感じました。
……それでいて、そんな平穏で幻想的な話の中に付きまとうどうしようもない闇の気配。
優しい暖かさと、空寒くなるような不穏さが同居した邂逅話、お見事でした。


遅れましたが、私も投下させていただきます。


827 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:08:08 TW955.oA0

 ねっとりと、絡み付くような陽気だ。
 毎日毎日飽きもせず、元気に微笑みながら通学路ではしゃぎ回る小学生達を横目に、光本菜々芽はそう思う。
 などと言っておきながら菜々芽自身も小学生、それも最高学年ですらないのだが、菜々芽が小学生離れした人物であることは今更改めて語るまでもないことだ。
 今日も今日とて一日が始まり、そして終わっていく。
 何千回と繰り返してきた当たり前の景色は、しかし趣味の悪い風刺画でも見せられているかのようだった。
 その原因が何かは分かりきっている。昨夜の夜遅くに唐突に始まり、そして唐突に終わったルーラーの"放送"。あれが一夜明けた今でも、消えることなく菜々芽の心にこびり付いているのだ。それはさながらコールタール、或いは排水口に張り付いて離れないドロドロとした汚れのように。

『先に言っとくぞ、ルーラーには関わるな。あれは近付く者皆酸の海に引き摺り落とす、煙を上げる食虫植物だ』

 あの放送に現れたツートンカラーのぬいぐるみ、もといルーラーの代弁者……モノクマ。
 あれが口を開いた(文字通りの話だ。信じられないだろうが)時から、菜々芽は多分ずっと眉間に皺を寄せていた。
 無駄に豊かな表情、豊富すぎて呆れ返りたくなるボディランゲージ。おどけた様子の一つ一つが、的確に菜々芽の中のささくれた部分を刺激してくる。
 ……要するに、ひたすら虫が好かないのだ。あれを操っている者が誰かは知らないが、絶対に心根の腐り切った奴に決まってる。そんな菜々芽の予想を裏切らず、彼女のサーヴァントである女アサシンはそう言った。
 菜々芽はアサシンの生い立ちについては一通り聞いていたが、魔界や妖怪などといった分野の話はほとんど聞かされていない。
 それでも、彼女の強さは知っている。ステータスとして可視化されている部分を抜きにしても、アサシンの持つ強さの片鱗を垣間見る場面は幾つもあった。
 その彼女が、そう言ったのだ。心底微妙そうな顔をして、関わるな、と。

「関わるな……か」

 菜々芽の目的が聖杯戦争の打破だったなら、それは出来ない話だと口を返していた。
 だが、別に菜々芽は聖杯戦争をどうにかしたいわけではない。いけ好かないくらいには思っていても、あくまで彼女の目的は元の世界に帰ることである。
 もしもその出口さえ発見できたなら、ルーラーの打倒は必ずしも必須ではないし、十分避けられる。
 ただそれは――あのルーラーが脱走者などという興醒めな存在を、大人しく見逃してくれることを前提にした話なのだが。

 いずれにせよ、今の菜々芽達はそんなことを考えられる段階まで進んでいない。
 聖杯戦争を脱する手段は皆目見当も付いておらず、出口なんてものがあるのかどうかも怪しい。
 それに、菜々芽には一つだけ確かに分かっていることがある。関わらなければそれで済んでしまうような相手は、そもそもこれほどの嫌悪感を人に抱かれない。
 普通は精々嫌な奴だなと心の中で蔑視する程度だ。こんな錆びた釣り針のようにいつまでも心に食い込んでいる時点で、関わる関わらないで済む話ではない。
 菜々芽はそう思っているし、きっとアサシンも本当は分かっているのだろう。……いつでも気は張っておくべきだ。あの手の輩を相手に、油断は禁物なのだから。


 ……考え事をしながら歩いていると、前で立ち止まっていた他の子どもにぶつかってしまった。
 顔を上げた菜々芽の視界に入ってきた人相は、同じクラスの少女。確か、名前は暁。
 ごめん、と軽く会釈をして通り過ぎると、相手は「う、うん」と少し戸惑った様子で何度か頷いていた。
 ……怖がられているのだろうか? そう思ったが、菜々芽にしてみればそういうのは慣れっこだ。今更傷付いたりするほど、光本菜々芽の心は硝子ではない。
 数秒後には今のアクシデントも忘れ、すっかり通い慣れた学び舎の中へと進んでいく。その時、菜々芽は気付かなかった。自分のサーヴァントが、今しがたぶつかった少女の方をやや怪訝そうな顔で見つめていることに。

(これは……進展かもな)

 アサシンは何も、暁の可愛らしい顔立ちに見惚れていたわけではない。
 彼女の視線と注目は、常に暁の片腕に注がれていた。
 火傷でもしたのだろうか、結構な範囲を包帯が覆い隠している。普通なら痛ましいと思うところだが、此処は聖杯戦争。同情の念よりも、疑いの方が勝る。
 菜々芽はあれでも小学四年生、子供と呼んで然るべき歳だ。いきなり彼女に伝えて事態を拗らせるのは、アサシンとしても本懐ではない。まずはアサシンがよく見極め、菜々芽に伝えるのはどうやら確実らしいと分かってからだ。嫌味の一つは覚悟しておこうと、火傷面の暗殺者は爛れた顔面に笑みを貼り付けた。


828 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:08:38 TW955.oA0



 端的に言うと、暁はとても吃驚した。語彙力に欠ける表現とは承知の上だが、その通りなのだから仕方がない。
 自身のサーヴァント、アーチャーと念話をしながらやって来た、見慣れた校舎。
 校門を潜ったところで、彼女は不意に足を止めてしまった。これまでそんなことは微塵も思わなかったが、この学校の中に聖杯戦争に参加しているマスターが居るかもしれないと考えると、得も言われぬ不安感が込み上げてきたのだ。
 それを見て、彼女のアーチャーは眉を顰める。理由は分かりきっている。十中八九、あの放送のせいだ。
 これまでずっとアクションを起こさずに黙りこくっていたルーラーが、あんな衝撃的な形で接触してきた。
 戦場を知るとはいえ、暁はまだまだ幼い。その彼女に、あの放送は確たる現実感を植え付けていった。

『気持ちは分かるが、考えても致し方のないことだ』

 アーチャーが静かに念話で告げると、暁はこくこくその場で何度か頷く。
 見かけだけは上手く取り繕っているが、心の中まではそうではないだろう。
 この小学校は、聞こえは悪いが羊の皮を被った狼が不明な数だけ潜り込んだ狂気の家畜小屋だ。
 その狼が、話の通じる相手であればいいが――そうでなかったなら、子供の笑顔溢れる学び舎は、いつか地獄と名を変えるだろう。

 アーチャーの見立てでは、現在目下最大の『狼』候補は先程暁がぶつかってしまった少女、光本菜々芽である。
 彼女の動向は明らかに不自然だった。暁でさえ、マスターが居るとすれば光本さんだと思うと口にした程である。
 そして、彼女はただ無愛想なわけではない。他人を寄せ付けないクールさを発揮する傍らで、常に他人を観察している。
 まるで、何かを見逃すまいとしているかのように。その様子を見た時から、アーチャーは彼女のことを八割以上の確率で"クロ"だと認識していた。
 だが――実際に姿を見たことのない現時点でも既に、それを追い越す勢いで怪しい人物が居る。
 それが件の転校生。あまりにも都合の良すぎるタイミングで現れる新顔だ。彼、或いは彼女がマスターであるのはほぼ確定。それどころか、下手をすればもっと性質の悪い……聖杯戦争の"運営"に関係した人間の可能性すらあろう。

 アーチャー……アカツキは騎士ではない。騎士道等という拘りは持ち合わせていないし、いざとなれば暗殺者の真似事をすることだって視野に入れている。
 暁に危害を加えてくるのなら、光本菜々芽も件の転校生も、排除することに何の躊躇いもない。 
 子どもを殺すくらいのことに今更躊躇いを覚えるほど、アーチャーは青臭い男ではないのだから。


 暁はやや憂鬱な心境のまま、いつになく緊張して教室の扉を開く。
 気心の知れたクラスメイトから挨拶の声が飛んできたので挨拶を返すが、返された方はきょとんとしていた。
 しまった、と暁は心の中で頭を抱える。いつもの暁らしい行動ではなかったからだ。いつもなら、レディらしく上品に(本人談)朝の挨拶を返す場面。しかし今の暁は、「お、おはよう」としどろもどろになった挙句、やや引き攣った苦笑いを浮かべてしまうという体たらくだった。
 これでは確かに、周りが困惑するのも頷ける。またやってしまった。暁はもうやけっぱちになりたい気分であった。
 「どうしたの?」「どこか具合悪い?」などと体調を気遣ってくれる温かいクラスメイト達に努めていつも通りなことをアピールしながら、後のアーチャーからの小言を覚悟する。まだ一日が始まったばかりだというのにこれでは、余計憂鬱になるというものだ。

「そういえば暁ちゃん、どんな子が来るんだろうね〜」
「ん……ああ、転校生のこと?」
「そうそう! 朝から皆、その話題で持ちきりなんだよ」

 小学校でも中学校でも、果てには高校でも。
 転校生がやって来るというのは、平凡で退屈な学校生活の中に放り込まれる強烈なカンフル剤だ。
 男子達は美少女であることを望み、女子達はその逆に美少年が来ることを望む。
 どこからともなく転校生が来るという噂は流れ出し、当日の朝ともなれば教室のそこかしこで憶測が飛び交っているのが普通だ。
 無論例に漏れず、暁の所属しているこのクラスも同じだった。


829 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:10:13 TW955.oA0
「でもこの時期に転校してくるなんて変だよねえ。もしかしたら訳あり……なのかな」
「もう、やめなよ。これから来る子のことそうやって疑うの。ゲスの……何とかっていうんだよ、そういうの」
「いや、ていうかさー」

 小学生というのは、意外に聡い生き物だ。
 進級が終わったばかりのこの時期にやって来る転校生なんておかしいと、誰に言われるでもなく自分達で気付く。
 
「アイドルなんじゃないの、その子?」
「え、また?」
「だってこの学校、やけにアイドル多いじゃん。ファンの間でも色々噂になってるって聞くよ」

 暁はその手の話題には疎かったが、そんな彼女でも、この学校に何人かのアイドルが居るというのは知っていた。
 とはいえ、暁達のクラスにはいない。
 当然テレビで華々しく活躍するアイドルと同じクラスになりたいというのは誰しもが考えることで、一部の男子などはこのクラスを外れ学級とか呼んでいる。
 
「隣のクラスの雪美ちゃんでしょ、六年生の橘さんに結城さん、櫻井さん、的場さん。あとは低学年の仁奈ちゃん。一つの学校にアイドルが六人って、改めて考えるとヤバくない?」
「あー、そう考えると……確かにある、のかなあ。転校生アイドル説」

 これは暁の知らないことだが、この"一つの学校にやたらアイドルが集まっている"ことにさしたる理由はない。
 アイドル同士が示し合わせて通う学校を選んだ訳ではもちろんないし、たまたま一つの学校から沢山アイドルが排出された、奇跡のような偶然の賜物だ。
 児童の芸能デビューに難色を示す教師も中には居たが、この昭和という時代は、平成に比べてずっとそういったことに大らかな時代だった。
 思うところはあっても酒の席で愚痴る程度に留め、表向きは子供の晴れ姿を応援する。それが大人の役割だと、この学校の教師達は皆そう心得ていた。
 無論、身近な場所からアイドルになった子が居る、それなら自分も――……という流れでスカウトを受けたアイドルも中には何名か居るのだが、それは一旦置く。

(……アイドルかあ)

 暁も一応、ああいう華々しいものに憧れたことはある。
 ただ、露出の多い衣装や子供らしいコスチュームを着て歌って踊るというのは"レディ"のすることではないと思っているのもまた事実だ。
 その点、テレビなどで『クール系』とか言われているタイプの大人な女性達には惹かれることが多かった。
 もしも本当に転校生がアイドルだったなら――とまで考えたところで、ふと浮かんだワードがそれを否定する。

「……でもアイドルってのは流石にないと思うわ。だってその子、車椅子に乗ってるんでしょ?」
「あ、そういえばそっか……」
「でもでも、車椅子に乗ってたって歌は歌えるよ?」
「む……それは、そうだけど」

 でも流石にそれはないだろうと、暁は思う。
 結局子供の間の噂話なんて胡乱げなものでしかなく、実際に顔を見るまで何が正しいかは分かったものじゃない。
 暁も子供ながらにそれを薄っすら悟り、好き勝手に予想を立てる周りに話を合わせつつ、担任……八代学がやって来るのを待つのであった。


830 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:10:53 TW955.oA0
「ほら、皆席に着けー。朝の会を始めるぞーっ」

 そう言いながら八代が入ってきたのは、着席時刻の八時三十分を五分ほど過ぎた頃だった。
 今日も格好いいなあと呟いたのは暁の右隣に座っている女子だ。
 八代学は、男女問わず人気のある教師だった。見た目が整っているから女子達はこぞって構ってもらいたがるし、男子にはどこか父親のような頼れる男として信頼され、好かれている。暁も違うクラスの児童から羨ましがられたことが何度かあった。

「……よし。おはよう、皆。今日の日程だが、放課後に整備委員会の仕事が――」
「八代せんせー! そんなの後でいいから、転校生の紹介やってよー!!」
「ははは、やっぱりもう皆知ってたか。いつの時代も、何でか転校生が来るって話はどこからともなく漏れるんだよなあ」

 男子児童に急かされた八代は参ったように頭を掻くと、観念したように扉へ向かい、それを開いた。
 それから、廊下で待機していた"その人物"の名前を、クラスの皆に聞こえるように呼んだ。

「よし、モナカ。入っていいぞ!」

 ――――モナカ? 変な名前ね……というのが、暁の最初の感想だった。

 それは周りもどうやら同じだったらしく、男なのか女なのかすらもよく分からずお互いに顔を見合わせている。
 やがて聞こえてきたのは、きぃきぃという金属が擦れるような音と、タイヤの回るような音色。
 恐らく車椅子の進む音だろう。少しだけ時間を置いて姿を見せたのは、緑髪をツインで括った、人懐っこそうな顔立ちの少女だった。
 彼女――モナカが教卓の横に車椅子を停めると、八代が彼女の名前を大きく黒板に書いてやる。
 少し前まであれほど騒がしかった教室の中は、いつの間にやら気圧されたように静まり返っていた。
 先程暁の友人が挙げた、この学校に通っているアイドル達。彼女達にも劣らないほどこのモナカという娘は可憐で、堂々としていて、そして……

「初めまして、塔和モナカです。モナカ、皆と早く仲良くなりたいな〜……って思ってます。……みんな、よろしくね?」
「よ、よろしく!」
「うん、よろしくねモナカちゃん!」
「八代先生、モナカちゃんの席どこにするの!?」
「困ったことがあったらなんでも言ってね!」

 驚くほど、人の心を掴むのが上手い娘だった。
 これは、暁が抱いた感想ではない。この転校生を監視するために校内へ入っていた、アーチャーの感想だ。
 暫し静まり返った教室は今や席替えのくじ引きを遥かに凌駕する盛り上がりを見せ、隣のクラスから何だ何だと覗きに来ている子供達までいる。
 アーチャーのマスターである暁の表情には、安堵の色が窺えた。恐らく「なんだ、いい子じゃない」とか思っているのだろうと、アーチャーは推測する。
 一方、要注意人物――光本菜々芽は相変わらず仏頂面を崩していない。何を考えているのかは分からないが、この状況でもいつも通りの調子を崩していない辺り、彼女がマスターである可能性はまた高まったように感じられる。
 だが、やはり今最も注視すべきなのは……塔和モナカ。車椅子の転校生だろう。
 アーチャーには、あれがただの訳ありな転校生だとはどうしても思えない。聖杯戦争の存在も知らないNPCと考えるには、彼女はあまりにも異質すぎた。
 
(カリスマ……という奴だな)

 まだ一言しか発しておらず、笑顔で会釈しているだけなのに、周りからの好感度が自然に上がっている。
 転校生という物珍しさの補正を抜きにしても、この好かれぶりは明らかに異常だ。
 何より件のモナカ自身が、この光景に何ら驚いた様子を見せていない。さも、見慣れているかのよう。それどころか、当然だと思っているようにすら見える。
 ……現状の時点であれを排除すべきと考えるのは早計としても、暁と彼女が接触するのは可能な限り避けるべきだ。
 改めてそう思い直したアーチャーは念話を飛ばし、周りに釣られて盛り上がり始めているマスターにその旨を伝えるのだった。


831 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:11:18 TW955.oA0


 
 一方で担任教師であり、マスターでもある青年……八代学は、塔和モナカに対して然程の危機感は抱いていなかった。
 八代は"蜘蛛の糸"を追っている。人の頭上に見える、天から垂らされた糸を追いかけて生きている。
 それが本当に天上の神が垂らしている糸なのか、それとも精神を病んだ八代が見ている幻覚なのかは、この世の誰も知り得ない――そして塔和モナカの頭上には、この糸が見えなかった。だから八代は彼女に必要以上に干渉するつもりもないし、気にかける必要もないと切って捨てたのだ。
 だが、異常な少女だとは思った。人心掌握術に長けると同時に人間を観察するスキルも高い水準で持つ八代は、モナカを一目見た瞬間そこに気付いた。
 目だ。彼女の目は、普通の人生を生きてきた人間のそれではなかった。
 瞳の奥に深い、深い淀みを飼っている。闇と呼ぶにも生易しい、真実形容のしようがない"何か"を潜ませている。
 
(聖杯戦争の関係者、か。だとすると少し無策な突っ込み方だが……)

 この時期に、ましてルーラーの通達があった次の日に転校してくるなど、あまりにも怪しすぎる。
 もしも意図せずこうなっているのだとしたら阿呆としか言いようがないが、八代はそうは思わない。

(まあ、狙っているんだろうな。わざと分かりやすく自分の異常性をアピールして、敵を誘い出そうとしているんだろう)

 では、何のために? そう問われると、流石の八代もお手上げだ。
 ただでさえ、八代は聖杯戦争に対し消極的なのだ。向こうから向かって来ない限りは放置でいいとすら考えている。
 今無害ならば、別にあれこれ考えて根回しするつもりはない。将来彼女が何か大きな事態を生み出すとしても、その時はその時で対処するまでだ。
 そう、全てはいつも通り。あの街で暮らしていた頃と、何も変わらない。
 自分はただ糸を追い、見たいものを見ながら生きていくだけ。今は傍観者気分で、塔和モナカという異物が巻き起こす異常事態を楽しんでいればいい。
 
 朝の会が終わり、授業が始まるまでの時間。興奮気味な生徒達に対応しながら、八代はそう考えて思考を打ち切った。
 いや、打ち切ろうとした。そこで不意に、件のモナカが周りを囲んでいる級友達に何か質問しているのが目に入った。
 
「あのね? モナカ、実はアイドルに興味があるんだー。モナカは車椅子(これ)だけど、歌うことは出来るから頑張ってみようかなって思って」
「へえ、モナカちゃんもアイドル志望なんだあ!」
「あー、でもなんか納得だよな。モナカちゃん、その……すごいか、可愛――」
「でねー? この学校にはアイドルをやってる子がたくさんいるって聞いたんだけど……皆、その子達についてモナカに教えてくれないかな? アイドル活動の先輩さん達に、お話を聞いてみたいんだー」

 この学校に通う児童には、学業の傍らで芸能活動をしている子供が何人か居る。
 八代もご多分に漏れずそのことは知っているし、そもそもここの関係者でそれを知らない者はまず居まい。
 中には熱烈なファンをやっている教師も居ると聞くが、少なくとも八代は、そういった芸能方面には興味がなかった。
 
 八代学という男にとって興味があるのは、彼女達の頭上にあるものだ。
 この学校に通うアイドルは六人。市原仁奈、佐城雪美、結城晴、的場梨沙、櫻井桃華。そして――

(橘ありす、か)

 八代の口元が、薄い弧状を描いた。
 それは端から見れば転校生に沸く児童達の可愛らしい姿に思わず頬を緩ませたとしか見えない些細な変化。
 八代学の本性を知る人間が誰も居ないこの空間、この世界において、彼の腹の中を理解することは誰にも出来ない。


832 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:12:50 TW955.oA0
 ――八代が橘ありすという少女を初めて知ったのは、冬木の小学校教諭という役割を演じ始めて三日ほど経った頃だった。
 まだ痛ましい事件が起きていない頃。日が傾いて薄暗くなった放課後の廊下で、忘れ物を取りに来たらしい彼女と挨拶を交わしたことがある。
 逆に言えば八代とありすの間に存在する縁は、橘ありすの方にしてみれば"それだけ"。
 しかし八代にしてみれば、それだけではないのだ。彼はその一瞬、確かにそれを見た。夕陽の光に照らされてキラリと輝いた、艶やかな黒髪の天辺から伸びる一本のか細い糸――幾度となく見かけては追いかけてきた、"蜘蛛の糸"を。
 それから八代は、飽きるほど繰り返してきた準備段階に移り始めた。
 今まで担当していた生活委員会を意図的に作り上げた"事情"で他の教師に譲り、橘ありすが所属している園芸委員会の担当教員になった。惜しむらくは彼女の学年を担当できないということだが、それならそれでアプローチの掛けようはいくらでもある。そう、本当にいくらでもあるのだ。
 あとはただ、詰めていくだけ。味方を演じ、関わる機会を増やし、彼女の心の内側に潜り込む。
 そして遠からず全ての警戒心を解きほぐし、その小さな心を手の内に収め、最後に――……

『――マスター。今、少しだけいいかな?』
(……セイバー? どうしたんだ、こんな時間に)
『少し……気になることがあるんだ。だから今日はいつもの索敵ではなく、町の方に探索に向かってみようと思う』
(それは別に構わないが……)
 
 聖杯戦争を脱出するための手がかりでも見つけたのかと思ったが、どうもそういう様子には見えない。
 脳裏に響く念話の声はいつになく硬く、強い覚悟を持って紡がれているように思えた。
 大方"気になること"とやらは彼の私情絡みのことだろうと、八代は声には出さずにそう分析する。
 セイバーは誠実な男だ。もし問い質したなら、自分が何を目的に動こうとしているのかを嘘偽りなく語ってくれるだろう。
 仮にもマスターとして、サーヴァントの動向はよく把握しておくべきかとも思ったが……結局八代はそれを訊くことなく、「わかった。あまり深追いはしすぎないようにな」とだけ答えて念話を打ち切った。
 聖杯戦争自体には興味のない八代は、同時にセイバー……ジョナサン・ジョースターという英霊の過去にもさしたる関心はないのだ。
 それに、彼は馬鹿正直な善人ではあっても阿呆ではない。
 事の引き際は彼なりに弁えるだろうし、まさか無策に突っ込んだ挙句初日で戦死、なんて間抜けな末路は晒すまい。
 
 付け加えるなら――八代に言わせれば、そうなっても別に構わない。
 サーヴァントを失って元の世界に帰れなくなるのは御免だが、いざとなれば他のマスターを見つけ出し、強引にサーヴァントを奪えばいいだけだ。
 確かに、英霊を連れた人間を嵌めるのは多少骨が折れるかもしれない。だが、不可能ではないと八代は思っている。八代学(かれ)ほど、八代学という人間の手際と頭脳を知り尽くしている人間はこの世に一人もいないのだから。
 とはいえ、面倒事な事には変わりない。出来ることなら避けたい手間ではある。にも関わらず八代が場合によってはそれも良しと考えているのには理由があった。
 ひとえにジョナサン・ジョースターという英霊は、八代にとって少々厄介な相手であるからだ。
 重ねて言うが、彼は阿呆ではない。むしろその逆だ。冴え渡る頭脳と窮地における神がかり的な直感、短いながらも波瀾万丈の人生の中で培った多くの経験。
 山程の強みを持ったサーヴァントこそが彼だ。そしてそれだけ、ジョナサン・ジョースターは八代学の"真相"に辿り着く可能性が高いということでもある。
 令呪の束縛にも限度というものはある。後々面倒なことになるくらいなら、八代としては適当なところで彼に退場してもらった方が都合がいい。
 ……流石にこんな序盤も序盤でそんなことになった日には、呆れてしまうが。


833 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:13:10 TW955.oA0
「おっと……さあみんな、席に着けー。モナカと仲良くなるのも大事だが、授業も同じくらいには大事だぞー」

 ちぇっ、と唇を尖らせながら、渋々といった様子で席に戻っていく児童達。
 もみくちゃにされる勢いで囲まれていた当のモナカは、それに疲れた様子もなくにこにこと笑っている。
 ひとしきり教室を見回してみて、さあ授業を始めようと思ったその時だ。ふと八代は、教室の隅の空席に気付く。
 新年度が始まって一ヶ月どころか半月も経てば、教師はクラス全員の名前と座席を暗記しているのが普通だ。表面上は真面目で模範的な教師である八代もご多分に漏れずそうだった。だから誰がいないのかはすぐに分かった。

「ん……菜々芽はどうした?」
「光本さんなら保健室に行ったよ。頭が痛いんだって」
「あの光本がぁ? 仮病じゃねえの?」
「こら、そういうことは言うもんじゃないぞ。……しかし、一言声くらいかけてくれればいいのにな」

 ここで余程体調が悪かったんだろうかと、楽観的な感想を抱く八代ではない。
 大盛り上がりの朝の会の中でも既に、八代は光本菜々芽という少女の様子が"やや"おかしいことに気付いていた。
 苦虫を噛み潰したような顔。そう表現するのがきっと一番正しいだろう、難しい顔をしていた。いつもの仏頂面とはまた違った硬い表情だ。
 
(だとすると、原因は……)

 そんなもの、一つしか考えられない。八代は眼球だけを動かして、一瞬転校生――塔和モナカを一瞥する。
 その後すぐ、何事もなかったかのように手元の出席簿に菜々芽が保健室に行った旨を書き、授業を始めるのだった。


【一日目・午前(8:45/授業中)/C-5・小学校教室】

【八代学@僕だけがいない街】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] ペンや手帳など、教師として必要なもの一式
[所持金] 手持ちは数万円程度。預金も含めれば数十万〜百万弱?
[思考・状況]
基本:"蜘蛛の糸"を追う
1:聖杯戦争に興味はない。様子見をしつつ脱出を狙う。
2:モナカは"異常"。だが、蜘蛛の糸は見えないのでひとまず様子見。
3:菜々芽は少し怪しい。要観察。手を出すつもりは現状ない。
[備考]
※現在の標的は『橘ありす』です。彼女の頭上に蜘蛛の糸が見えています。


【一日目・午前(8:45)/C-5・小学校周辺】

【セイバー(ジョナサン・ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 数万円程度は所持。
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を止める。人殺しは極力控えるが、場合によっては躊躇しない
1:都市部へ出向き、散策する。主目的は『彼(ディオ)』の捜索。
2:もしも本当にディオが呼ばれていたなら、何としてもこの手で討つ。
3:討伐令の対象とは一度接触してみたい。ルーラーのことを信用していない為、直接話をして見極めたい


834 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:13:44 TW955.oA0



 クラスメイトの一人は、菜々芽が保健室に行ったと聞いて真っ先に仮病を疑った。
 担任の八代はそれを窘めたが、事実としてその推測は当たっていた。
 今日の菜々芽は頭痛など抱えていない、すこぶるの健康体だ。ただ、気分まではそうではなかったが。
 保健室に行くと隣の(大して仲良くもない)女子に伝えてから教室を出て、今は保健室のベッドの中にいる。
 
『あまり褒められた行動じゃないな。あれは勘のいい奴なら気付くぞ』
(……解ってる)

 アサシンの呆れたような声を聞きながら、菜々芽は何ともいえない模様が描かれた天井を見上げて念話を返す。
 菜々芽自身愚行だったとは思う。あの状況で教室を離脱するというのは、あまりにも不審すぎる行動だった。
 児童の中にマスターが紛れているかもとかそういう話以前に、あの『塔和モナカ』に何かを気取られる可能性がある時点で落第点必至の行動だと思っている。
 ただ、あのまま教室に居続けたならもっと不審な素振りを見せてしまいそうだというのも確かではあった。
 何が菜々芽をそうさせるのかといえば、やはり言うまでもない。その塔和モナカ、転校生の存在である。

(アサシン。どう思った)
『最近のガキってのは皆お前やあいつみたいにどこかおかしいのか?』
(……)
『……冗談だよ。でも、おかしいってトコは本音だ。特にあのモナカってガキの方はな。白黒付けんなら一対百でクロ。それに、ありゃまず隠す気がないと見える』

 隠す気がない。間抜けだから自分の行動の迂闊さに気付いていないのではなく、あちらは分かりやすい怪しさを疑似餌に、学校の中に潜んでいるであろうマスターやサーヴァントを炙り出す算段なのだとアサシンは分析していた。
 呆気なく殺されて終わる可能性の方が圧倒的に高い、本来賭けと呼ぶにも危険すぎる手。
 それを躊躇なく打ってくるということは、あの娘……塔和モナカには、奇襲の可能性という大きすぎるリスクを帳消しに出来るだけの力があるのだろう。
 どちらにしろ、危険であることには変わりない。
 今の所概ね平凡と呼んでいいだろう進み方をしていた菜々芽達にしてみれば、いきなり頭上に稲光をあげた黒雲が現れたようなものだ。

『それと、もう一人怪しい奴が居た。こっちは……まあ、気付けさえすれば大分分かりやすい奴だったな』
(誰?)
『暁、だったっけ。そんな名前のヤツだよ』

 アサシンが出してきた名前に、菜々芽は少し驚いた。
 名前自体はもちろん知っている。だがその少女は、聖杯戦争なんて物騒なワードとは無縁の人物だったからだ。
 子供らしく些細なことで一喜一憂し、大人のレディぶろうとして空回りし、クラスの誰からも愛されている人気者。
 
『いつもは服の袖で隠れてたみたいだが、片腕に包帯を巻いていた。ただの火傷って可能性ももちろんあるが、令呪を隠すための手段と見るのが妥当だろうな』

 令呪を隠すのは、日常生活の中では結構骨が折れる。そのことは菜々芽も冬木での生活の中で思い知らされていた。
 あの五月蝿い母親に見つかればどうなるかなど言わずもがなだし、クラスメイトや八代にバレても面倒臭い。
 極力袖で隠すようにしたり、着替えの時には人目をかなり気にするようにもなった。菜々芽自身、包帯で隠そうかと思ったことはあったが、流石にバレるだろうと思ってやめた経緯がある。しかし暁は、そのまま案を実行に移したらしい。

『まあ、まだ確証があるってわけじゃない。もう少し観察してみて、大丈夫そうなら同盟を打診するって手もある。
 今は八方塞の状況だが、いつまでもこのままじゃいられないからな。停滞してる現状を動かすって意味でも、早い内に他のマスターに接触したいところだ』
(……わかった)
『で。いつまで寝てるつもりでいるんだ?』
(一時間くらいは。ちゃんと授業に戻るつもりはある)


835 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:14:32 TW955.oA0
 アサシンは菜々芽の答えに呆れたような声を漏らしたが、あまり早く戻っても逆に怪しまれるだろう。
 それに、菜々芽は何も授業をサボタージュしたいから保健室に逃げてきたわけではない。
 こうしてアサシンと、念の為人目のない場所で意見交換をしておきたかったというのもあるし、何より――日常に紛れ込んできた『異物』についてだ。
 
 塔和モナカ。愛くるしい風貌に言動。教室の人気者(アイドル)となるに相応しい輝きの持ち主。
 もしも菜々芽が彼女の『超小学生級の学活の時間』という異名を耳にしたなら、なるほどと肯いたに違いない。
 彼女には、空間を、世界を変える力がある。学校という一つの狭小な世界の中にある、更に更に小さな世界。
 『学級』という最小単位の閉じた世界を、自分の思うがままに変えてしまう力がある。菜々芽にはそれが、あのわずかな時間だけでよく分かった。
 そしてそれには理由がある。光本菜々芽は、そういう人間を一人知っているからだ。愛くるしい容姿で世界を狂わせ、異質化させた"白い悪魔"を知っている。
 ――蜂屋あい。菜々芽が倒すと決めた宿敵の少女に、あの塔和モナカはよく似ていた。
 見た目が、ではない。性質が、だ。天使の仮面を被った悪魔、子供達の学び舎に紛れ込んだ異物。本能の部分が、彼女と蜂屋あいをダブらせてくる。

(……塔和、モナカ――)

 菜々芽は知らず知らずの内に、自分の唇を噛み締めていた。
 それはまるで、絶望色の悪魔が後に引き起こす災厄を、予知したかのような動作だった。
 菜々芽の推測は全て正しい。だが、それが判明するまではややしばらく時間がかかる。そして、明らかになった頃には……もう何もかもが手遅れだ。


【一日目・午前(8:45/授業中)/C-5・小学校保健室】

【光本菜々芽@校舎のうらには天使が埋められている】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康、塔和モナカへの不快感
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 手持ちは数千円程度。自宅には恐らくもう二〜三万はある
[思考・状況]
基本:聖杯戦争からの脱出を目指す。
1:塔和モナカに最大限の警戒。
2:暁についてはひとまず保留

【アサシン(軀)@幽☆遊☆白書】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:菜々芽を聖杯戦争から脱出させる。
1:討伐令には今のところ興味なし


836 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:15:42 TW955.oA0



(……全然いい子じゃない、転校生)

 暁はノートに板書を進めながら、心の中でそうぼやく。
 アーチャーが怪しいと言っていた上に、改めて警告してきたものだから警戒していたが、転校生――モナカは蓋を開ければとても可愛らしく親しみやすい、ごく普通の明るい子供だった。
 車椅子に乗っていて体が不自由だというのに、全然翳りというものがない、そこにいるだけで皆を幸せな気持ちにするような女の子。
 それが、暁が塔和モナカに対して抱いた嘘偽りのない印象である。つまり、好意だ。少なくとも今の時点では、暁はモナカが悪い子だなんてとても思えない。
 ルーラーの通達が行われた日にやって来た転校生。これだけ聞けば、幼い暁でも怪しいと思う。それが普通だ。
 …………しかし実際に彼女と会ってみて、黒い疑念はほとんど掻き消えた。
 その怪しい要素もすべて、間の悪い偶然だったに違いない――仮にモナカが聖杯戦争の関係者だったとしても、ルーラーと内通した悪人ということはないはずだ。
 今、暁はそう思っている。出会って精々十数分しか経っていない相手のことを、既に信頼してしまっている。 
 『超小学生級の学活の時間』という抜きん出た"才能(チカラ)"の傀儡糸を、背中に繋がれてしまっている。

 アーチャーは霊体のまま暁を見つめ、難しい顔をした。このままでは不味い。早急に手を打つ必要があると、サーヴァントとしての本能的なものが告げてくる。
 ……モナカを暗殺するか? そう考えて、しかしアーチャーは自ら頭を振って否定する。
 暁が彼女にある程度の好感情を抱いている以上、強行は主従関係に溝を生む可能性がある。危険への対処としては良案でも、聖杯戦争を勝ち抜く上では愚案だ。
 となれば――彼女を説得しつつ、いざという場面に備えての手札、即ち協力者を得ておく必要があるか。
 静かに、電光のアーチャー・アカツキは思考する。幼い者達が集う学び舎の空気が、確かに変質したのを感じながら。



【暁@艦隊これくしょん】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] ランドセル(勉強道具一式が入っている)
[所持金]孤児院から渡されているお小遣い程度しかなく少ない
[思考・状況]
基本:聖杯で全てを解決していいのか決めかねている。
1:討伐令に関してはとりあえず様子を見る
2:モナカは悪い子じゃない……と思う。
3:食事時にはできるだけアーチャーにも食事をさせる
[備考]
※艤装は孤児院のロッカーに隠してあります。
※塔和モナカに好感情を抱いています

【アーチャー(アカツキ)@アカツキ電光戦記】
[状態] 健康
[装備] 『電光機関』
[道具] なし
[所持金] マスターに依拠
[思考・状況]
基本:サーヴァントとしての使命を全うする。
1:塔和モナカに警戒。早急に排除したい
2:その為にも協力者を確保し、外堀を埋めたい
3:インフーは奴に似ている…?


837 : 希望の歌姫 ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:16:15 TW955.oA0




「あのね? モナカ、実はアイドルに興味があるんだー。モナカは車椅子(これ)だけど、歌うことは出来るから頑張ってみようかなって思って」
「へえ、モナカちゃんもアイドル志望なんだあ!」
「あー、でもなんか納得だよな。モナカちゃん、その……すごいか、可愛――」
「でねー? この学校にはアイドルをやってる子がたくさんいるって聞いたんだけど……皆、その子達についてモナカに教えてくれないかな? アイドル活動の先輩さん達に、お話を聞いてみたいんだー」

 退屈な日常を切り裂くように現れた"転校生"の席は、興奮した様子のクラスメイト達に囲まれていた。
 普通なら気圧されて然るべきだろう絵面であったが、当のモナカは何ら動揺した様子もなく、ただにこにこ笑っている。
 車椅子というアイテムは、差別意識などという薄っぺらな単語よりもずっと深い部分で、見る者にか弱い印象を抱かせる。事実としてモナカの車椅子は、何も知らない無垢な小学生達に強い視覚的インパクトを与えた。
 彼らがもしここで誰かから「モナカは足など悪くない」と聞かされたとしても、嘘をつくなと笑い飛ばされるか、彼女に謝れと怒りを買うことだろう。
 しかし、それが真実だ。モナカは健常者で、車椅子などなくても一人で悠々と歩くことが出来る。
 あの町――塔和シティで一度は降りた筈のそれを再び乗り回している意味は、単なる気まぐれではなかった。
 ひとえに、"焼き直し"をするためだ。一度試してみて、最後には失敗に終わったとある悪巧みの焼き直し。
 とはいえ、ただ馬鹿正直にやり直したのでは、辿る結末を変えることは出来ない。塔和モナカは聡明な娘だ。その程度のことは言われるまでもなく承知している。

 クラスメイト達は、モナカに対してとても親切にしてくれる。そういう風に演じているのだから当たり前だ。
 モナカがアイドルの先輩に会ってみたいと言えば、この学校に通っているアイドル達の情報を懇切丁寧に教えてくれた。
 市原仁奈、佐城雪美、結城晴、的場梨沙、櫻井桃華、そして橘ありす。
 目の前の転校生が何を考えているかに考えを向けることもせず、アイドルになりたいのだという言い分を信じ、それどころか不自由な身体で頑張っていて凄いなと尊敬の念すら抱きながら。彼らは親切心で、偶像(アイドル)達を悪魔に売り渡したのだった。
 
(楽しみだなー、楽しみだなー♪ 希望の戦士は一回やったしー、次は希望の歌姫……とかになるのかな?)

 黒板の内容を写すふりをして、モナカはノートに、ステージの上で歌う自分とまだ見ぬアイドル達の姿を描く。
 皆楽しそうに笑っている。真っ赤に、真っ赤に塗られたステージの上で。バックダンサーのクマ達と歌って踊っている。
 舞台の上に置かれたモニターには、ルーラーの代弁者……モノクマの引き裂いたような赤い眼差しが爛々と輝いていた。
 テレビの影響力は何時の時代も絶大なものがある。特に、この昭和時代は平成に輪をかけてそれが顕著だ。
 モナカの頭の中には既に、そのビジョンがあった。自分がアイドルとして、ステージで歌っているビジョン。
 それが電波に乗って街中に届けられ、無辜の市民達が、令呪を持った異邦人達が、狂ったように踊り喚いている様が。

(それってー、とっても。――ワックワクの、ドッキドキだよね〜♪)
  

【塔和モナカ@絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] ランドセル(勉強道具一式が入っている)
[所持金] 数十万円。手持ち以外を含めれば数千万以上?
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を引っ掻き回しちゃおう!
1:『希望の歌姫』を結成するために、まずは学校のアイドル達と接触したい
[備考]
※小学校に通うアイドル達の名前、学年、大まかな性格を知りました。


838 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:16:50 TW955.oA0
投下は以上になります


839 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/05(土) 19:27:09 TW955.oA0
笹塚衛士&アヴェンジャー(ジャンヌ・オルタ)で予約します


840 : 名無しさん :2016/11/05(土) 21:31:44 Z8kuZ.dM0
お二方とも投下乙です。

・ありす イン シンデレラステージ
まずバーサーカーの名前からアインフェリアに言及する小ネタにグッと来る。
そして物腰の柔らかさ、ペースに合わせてくれる話し方、ジキルと文香の相性の良さが会話から感じられます。
エクストラクラスと討伐令の関係性を打開策の可能性へと繋げる流れも上手い。
幼いありすとの触れ合いパートも含めて終止穏やかな雰囲気に終わる話……と思わせての狂気。
文香たちも戦争であることをいずれ突き付けられるのだろうと思わされ、辛い。

・希望の歌姫
……本当に小学校の教室なの?と言いたくなるほどの、頭の切れるマスター同士の腹の探り合いは読んでいて窒息しそう。
人心掌握に長ける悪を前に、その類の敵を既に知る菜々芽、自らが同類である八代が気付く。
その二人に「自信があるから性根を隠さないのか」と思わせるのだから、さすが黒幕というだけある。
そして二人ほどの疑り深さを持たない暁が陥落寸前であり、アカツキも今後を案じるために手出し出来ないというピンチ。
少しの時間で小さな世界が歪にかき混ぜられた一幕、不穏の始まりというべき話でした。
あ、アイドルの方のありすは強く生きて。


841 : 名無しさん :2016/11/05(土) 22:38:42 pwBq3abA0
御二方とも投下お疲れ様です。
>ありす イン シンデレラステージ
流れるような美しい文章が、物腰のやわらかい文香とジキルにマッチしていて幻想的な雰囲気が感じられた話でした。
やっぱり文香も未央と同じく凛のことが気にかかりますよねえ。
会いに行くのは危険でも、それでも夢(理想)を捨てられず物語を終わらせないためにも進む、まさに光の主従ですが、絶望の権化に打ち勝てるでしょうか?
ありすと文香のやりとりは微笑ましいですね。まるでその空間が実際の童話の世界に入ったかのような感覚が味わえました。
ですが、ありすはマスターで、橘の方も目を付けられてしまってここからどうなることやら…。

>希望の歌姫
小学校組、それも魔境になる前の4年2組の話でしたね。
通達直後から転校生となると怪しいってレベルじゃないから暁含め様々な方面から疑念を持たれてましたが、そこはカリスマともいえる学活の時間で見事にクラスの中心になり、暁も簡単に懐柔されてしまいました。
大丈夫か暁…一応、アカツキは危機感を抱いているため、アカツキ次第ですね
奈々芽の方も、軀のおかげで暁がマスターの可能性も見抜けたし、持ち前の行動力でモナカの企みを打ち砕いてほしいですね!
あとありすちゃん逃げて超逃げて


842 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/08(火) 18:09:43 YsP9OA/k0
予約にSCP-231-7&バーサーカー(竜王)を追加します。


843 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/18(金) 14:52:37 2jrJq2g20
延長します


844 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/11/26(土) 00:25:20 vmpjgaxc0
報告遅れて申し訳ないです。一度破棄します


845 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/12/09(金) 08:27:41 nRicrcKQ0
黒鉄珠雫&ランサー(豊臣秀吉)
レオ・B・ハーウェイ&ランサー(アルトリア・ペンドラゴン)
予約します


846 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/12/09(金) 13:29:39 osVEm3Ms0
笹塚衛士&アヴェンジャー(ジャンヌ・オルタ)、SCP-231-7&バーサーカー(竜王) 再予約します


847 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/12/22(木) 19:47:02 eYI8mC/g0
月曜日までには投下します。もう少しお待ち下さい


848 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/12/23(金) 13:44:19 AOl2FZs.0
連絡が遅れて申し訳ありません。延長します


849 : ◆bPGe9Z0T/6 :2016/12/24(土) 16:36:23 JIvb2jpk0
申し訳ありません、執筆データを保存してあるパソコンが破損してしまったため、再度予約を破棄します。
何度も同じ予約をするのも何ですので、投下は完成次第ゲリラで行おうと思います
書きたいという方がいれば予約していただいて構いません


850 : ◆HOMU.DM5Ns :2016/12/30(金) 10:33:33 PRKUrL6o0
無念ではありますが、一端予約を破棄します。申し訳ありません


851 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/09(月) 01:42:56 tQQmNAgs0
シュラ&アサシン(DIO)
予約します。


852 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/16(月) 23:49:22 51Ikh0mE0
期限に猶予はありますが、念のため予め予約を延長しておきます。
また、予約メンバーにSCP-155-JP-1&キャスター(星野輝子)を追加します。


853 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/25(水) 01:04:35 RjdDxIPE0
明けましておめでとうございます。もうすぐ2月ですね。
改めまして、黒鉄珠雫&ランサー(豊臣秀吉)、レオ・B・ハーウェイ&ランサー(アルトリア・ペンドラゴン)を予約します


854 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/25(水) 23:49:42 dP3.7riE0
投下します。


855 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/25(水) 23:51:26 dP3.7riE0



 この世界は、内側と外側に分けられる。
 というのは観念的な意味合いではなく、文字通りに空間を二分するという意味である。

 内側とは即ち、戦争の舞台指定された冬木市内を指す。今、その内側がいかなる状況にあるかと言えば、数多の「悪性」によって着実に浸食されつつある。
 魔王が牙城を建立し、暴威の群れをなす人間を鬼はただ見つめる。
 こうして闊歩する「悪性」に、アサシンもまた名を連ねる。
 進んで戦争の当事者となることこそ叶わずとも、自らの意思によって日常を過ごすことには変わらない多くの市民達。その彼等の意思が、アサシンによって玩具とされている。
 現界から二週間に足らない期間で、既にアサシンは数十の市民を自らの配下へと変えている。
 塗り潰された自らの意思に変わるアサシンへの忠誠心が、彼の私兵へと変える。彼等を凌辱する凶器とは、脳髄を食らいつくす毒性の腫瘍、肉の芽……だけとは限らない。
 アサシンが肉の芽という支配手段を持つことは、彼がただ超人的な腕力だけに任せて相手の額に肉の芽を捻じ込んだことを意味するわけでは無い。そして、アサシンからすれば下等生物である人間相手に必ずしも吸血鬼の本領を発揮することも意味しない。

 ならばどのような方法を取ったのかと言えば、至って簡単。
 太陽の沈んだ後の時間帯に街中へ赴き、道行く人々へ直接接触を図る。
 それだけ。たったそれだけで、人間達はアサシンに心を射抜かれる。
 美貌で、気品で、洞察で、甘言で。
 平穏に生きることしか頭に無い冬木の民の前に突如現れた、非現実的な魔性。脳が理解を拒むほどの異常性に直面し、しかし正義の意思で反発することは叶わず、そうしてうっとりと立ち尽くすうち、やがて自然に虜となる。ならなかった時には、肉の芽で強引に虜とする。
 肉の芽にも並ぶこの手法に名を付けるなら、悪のカリスマ。
 悪に属する者にしか機能しないカリスマ性。しかし、誰しもの心に根付くほんのちょっぴりの悪意に付け込めば、それはつまり万人に有効であることを意味する。
 百年の時から目覚めた時点では孤軍に過ぎなかった彼が、時を経て世界そのものを牛耳る一大勢力を成したことはシュラも聞いており、どんな魔法を使ったのかと首を傾げたものだ。
 成程、魔法なんて大層なものではない。シュラとアサシンが経験したような邂逅を、ただ何度も繰り返すだけだ。
 簡単な、それでいて今のシュラには到底真似出来ない芸当。
 さらに驚嘆したのは、一度アサシンの方針にデメリットの存在を唱えた時のことだ。サーヴァントが自ら姿を晒しては、思わぬところから素性を知られて足元を掬われるのではないかと。

――シュラ。君の目には、わたしが太陽以外の外敵からも怯え縮こまねばならない脆弱な生き物に見えているのか?
――確かに、憎きジョースターの血筋に不覚を取ったことで命を落としたのは事実だ。だからこそ外敵への適切な対策を取るために諜報の手立てを進めているんだよ。逃げるためでは無い。勝つためだ。それさえ叶えば、このDIOに敵は無い。
――なに、心配は不要だ。わたしを害するような真似に及んでしまう衝動に駆られてしまった時は、最後の忠誠の証として自ら命を絶つ。皆、わたしとそのように約束してくれたよ。

 敗死を経て尚、自らが絶対の頂点に立つ者であることへの確信。
 その意識が、ある種無茶とも言える方法を取ることへの躊躇を容易く捨てさせる。
 そういえば、シュラもまたかつて各地を巡っては有望な戦力を勧誘したことがあった。その頃の記憶を、自ら足を運ぶことによる成果をこうして再び思い出せたのは、やはりアサシンの姿を見たからなのだろう。
 何者よりも上を行く悪性。その末恐ろしさを感じ、そしてアサシンの悪性が冬木の内側を埋め尽くすのも時間の問題かもしれないと、同胞としての高揚感をシュラは抱いた。
 しかし、哀しいことにアサシンにも限界というものがある。
 今のアサシンでは、冬木の外側にはその手を及ばせられない。


856 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/25(水) 23:52:51 dP3.7riE0

 日中、とある市内の大病院の談話室。座椅子に腰掛け、片手には紙パック入りのコーヒー、もう片方の手にはゴシップ中心の週刊誌。窓へと目を向ければ、ガラス越しに外の景色が見える。
 漫然と時を過ごすシュラの姿一つ取っても、世界の内側と世界の外側が挙げられる。
 内側。一つ上げるなら、シュラがこの病院を訪れた事実そのもの。
 アサシンに心酔する市民達の中には、この病院に勤める医師も含まれている。彼から齎されたとある情報を頼りに、日光の下に出られないアサシンに替わってこうしてシュラが訪問しているのである。
 内側なら、アサシンの支配が及ぶ。

 では、支配の及ばない外側とは。挙げればきりが無い。
 たとえば紙パック入りのコーヒー。
 遠く離れた施設で製品化された後に冬木市内で入荷された商品であるが、製造元を訪れることは叶わない。
 たとえば週刊誌。開いた誌面で一際目立つのは『まさか! エンジェルスターズ、346プロに移籍か!?』の一文だ。
 話題の女性達は、東京都内を中心に活動している音楽ユニットであるらしい。そして聖杯戦争中に東京という街へ行くことは叶わない以上、生身の彼女達に会うことは無い。ただ、音楽だけが耳へと届けられる。
 たとえば、病院の外。闇の無い鮮やかな光景を齎す、日光。
 白光を地に注ぐ太陽は、地球の外側でご丁寧に健在だ。この世界は大気圏の上、宇宙の更に先まで広がっており、しかしマスター達は冬木市内に幽閉されている。勿論、気に入らないからと言って太陽を除けることなど出来ない。
 聖杯戦争の舞台として指定された冬木の外側には、干渉出来ない。今回はそういうものなのだと、アサシンが言っていた。その真偽を確かめることも考えたが、急務でもない以上は後回しで良いだろう。
 一つ言えるのは、聖杯戦争の当事者は冬木の内側から外側へと働きかけることが出来ない一方で、それ以外の者達は冬木の外側から内側へ働きかけることが可能とされている。
 不公平にも思える事実だ。
 しかし考え方を変えれば、それらを掌握することはライバルであるマスター達に対して一つのアドバンテージを持てることとなる。
 冬木の外側からは、あらゆる事物が送り届けられる。
 例えば飲食物。たとえば芸能。たとえば光。
 そして例えば、流れ星。

「おう、アンタかい。話は聞いてるだろ。DIOの代理で来てやったぜ。案内、よろしくな」

 ひらひらと手を振る先にいるのは、白衣を着た中年の男が一人。
 親愛と服従の証として一つの有益な情報を提供しシュラを招いた、アサシンの配下の一人である。
 その瞳からは、既に人らしい輝きが失われている。溝川の腐ったような色だった。
 心中に眠らせた何をアサシンに見出されたのかは知らないが、お医者様がこれでは世も末だなとシュラは心中で嘲笑を零した。






857 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/25(水) 23:54:16 dP3.7riE0



 超人達のいるべき世界、いることの許される世界を求めた戦いの果て、人吉璽朗はその存在ごと世界から消え去った。
 いつの日か璽朗との再会を迎えられないかと願ったことは、星野輝子の生涯において一度や二度では無い。
 そして輝子の願いは、結果的には叶えられつつある。輝子は璽朗と同じ地を訪れることとなった。或いは、璽朗の訪れた地に輝子も招かれた。
 但し、星野輝子は一人のサーヴァント――キャスターへと在り方を変えて。人吉璽朗はマスター――一人の生者としての生命を取り戻して。

『ホシノコよ。やはり彼のことを気にかけているのか』
「……かけないわけ、無いじゃないですか」

 昨晩、ルーラーから発せられた討伐令。
 吊し上げにされた五名の討伐対象者の中には、人吉璽朗も含まれていた。
 会えるなら会いたいと願い、しかし会えなくても仕方の無いと思っていた男の生存が突き付けられた時の絶句に値する衝撃を、星野輝子――キャスターは今も忘れられずにいる。
 付言すると、不特定多数に付け狙われるお尋ね者としてのレッテルを貼られている事実もまたその度合いを強めていた。
 理由もろくに理解しきれぬまま、あの頃のように、璽朗はまた孤立している。

「璽朗さんは、またどこかで独りで戦っているに決まってます」

 璽朗を見つめ、そして想ったキャスターは確信を持って言える。彼は聖杯戦争に抗うのだろうと。
 理不尽に排斥される者達を護るため、彼等の生きる世界のため。自由、平和、或いは正義のため。璽朗は、いっそ子供染みたとすら言えるほど愚直に理想を追い求め続けていた。
 加害者、支配者、侵略者。その名を携えて罪無き人々を虐げる者が、璽朗にとっての敵。
 ならば、この地における璽朗の敵はと言えば、それは犠牲を強いる聖杯戦争の仕組みであり、仕組みに則り争いを引き起こす儀式の統制者であり、この幻想の世界そのもの。
 即ち、彼こそ今のキャスターにとって最も頼れる人物である。
 どれほどの血を流させるかも分からない戦争に異を唱える一人として――個人的な感情の介在も、決して否定は出来ないが――、彼とは速やかに接触し、協力体制を築きたいところであった。

『しかし、彼一人を見つけ出すのが容易でないことは、ホシノコ自身も経験で身に染みて理解しているだろう』
「……わかってます。だから」

 肩に乗る『彗星の尾(ウル)』からの指摘に、また表情が曇るのを自覚する。
 その原因こそ先に述べられた通り、璽朗の居所について現時点でまるで当てが無いことであった。
 単純に「璽朗を打倒しようとする者」と「璽朗を保護しようとする者」で分けて考えれば前者の方が頭数の多くなることは容易に想像が付き、それは捜索範囲の広さにも直結する。
 この時点でキャスターは不利に立たされており、更に志を同じくする協力者を未だキャスターが確保出来ていない事実が情報量の不足に拍車を欠ける。
 璽朗との合流にしろ、彼以外との協調にしろ、何よりキャスターの孤立無援の状態の解消を済ませなければ、いよいよ八方塞がりの末路に至ってしまうのも遠くない。
 こんな時、超人課の皆がいれば。
 ……と、当ての無い依存に傾きそうになっていた己を自覚しては、戒める。
 同時に、彼等とは異なる既知の姿を思い浮かべることとなる。


858 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/25(水) 23:55:37 dP3.7riE0

「ウル。私、まずはアースちゃんを探してみようと思うんです」

 人間型衛星(ヒューマンサテライト)・アースちゃん。
 「昭和」とは異なる「神化」の時代を生きた、キャスターもよく知るロボット超人の彼女は、どうやらこの冬木の空の下でも堂々と人助けや悪者退治に精を出しているらしい。
 十中八九、アースちゃんはキャスターと同じくサーヴァントとして召喚されたのだろう。聖杯戦争の当事者であることは明白も同然であり、かつてと変わらず善の側の立場であることも把握できているキャスターとしても接触を図りたいところではあった。
 しかし、璽朗同様アースちゃんの居所もキャスターには分からない。
 どこかに拠点を設けていることは想像が付くのだが、その在処など冬木の住人でも無いキャスターには予想のしようが無い。
 困窮している人の下へと音より速く駆けつけ、その活動範囲も冬木市全域に及ぶとなれば、何かの事件現場に行ってみて偶然ばったり……と期待するのも難しいだろう。
 しかし、創作を続けていれば可能性はゼロではあるまい。
 ならば手掛かりがまるで無い璽朗との再会をただ願うよりは、分かり易い指針を掲げているアースちゃんの方がまだ探しやすくはある。
 加えて言えば、自分達を守ってくれる力の持ち主にいち早く頼りたいというのも実情である。その点で、今は立場こそ違えど人柄と実力の知る所である相手の方がキャスターとしても望ましいところであった。

『だが、そのためにはあの少女にもいい加減現実を理解してもらわないと後々困ることになるな』
「はい」

 協力者と行動を共にする。
 そのためにはキャスターのマスターである少女の存在をいずれ明かす必要があり、そして協力者がキャスターと同様に事実の何もかもをひた隠しにしてくれるとは限らない。
 むしろ、見知らぬ人物が理由も告げずにぞろぞろと雁首を揃えて現れるという構図は、たとえ無垢な少女であってもただただ怯えさせてしまうかもしれない。
 この不安を除去するためにも、今の内に「聖杯戦争とは何か」を伝えてしまった上で偵察に向かっておくべきだとキャスターは判断する。
 それも、仲良しの友達だけを集った楽しいパーティーなどではないことを強調し、しかし死というものを過度に恐怖させることなく、だ。

「子供の扱いだって、ちゃんと熟しますよ」

 幼い少女に最低限の警戒心を持ってもらい、下手な行動を起こさせないようにする。その上で、安心感と共にキャスターの成果を待てるような精神状態でい続けてもらう。
 事態解決の困難性に、繊細さまで加えられるのだ。やりづらいと気を滅入らせずにいられないが、だからと言ってやらないわけにはいかない。

「私はもう、何も知らない子供じゃなくなったんですから」

 少女一人の心と命も守れないで、魔女っ娘を、超人を名乗ることなど出来やしない。
 たとえ戦士として無力も同然であっても、キャスターは自らの志を譲らない。
 そうでなければ、理想を阻む汚れた現実に直面し、それでも最後まで向き合うことを選んだ、人吉璽朗という「大人」には向き合えない。

「だから……あれ?」

 召喚の時から何度目かの決意を胸中で固めた、その直後のこと。
 キャスターよりも前に、少女の眠る病室へと入って行く人物数名の姿を目で捉えた。
 一人は白衣を着た、少女の担当医。もう一人は一目見て分かるほどに軽薄そうな、そして、何となく末恐ろしさを感じさせる若い男であった。






859 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/25(水) 23:57:30 dP3.7riE0



 ルーラーという輩は、決して気質の合わぬ相手ではないようだ。
 一枚の写真をぴんと指で弾きながら、改めてアサシンは思う。
 暑苦しい顔面を爛々と輝かせる男の顔が、宙に舞い落ちていった。ルーラーを名乗る面妖なクマの言葉を信じるならば、彼はヒーローのクラスを冠したサーヴァントであるという。

「……いけ好かない正義気取りの連中が目に入ったら、真っ先に排除するだろう。誰だってそうする、わたしもそうする」

 漠然の一言では片付けられない、ヒーローのサーヴァントに対してアサシンが自然と抱いた不愉快に近い感情。
 敢えて、敢えてアサシン直感のみを根拠に言わせてもらおう。
 ヒーローのサーヴァントは、聖杯戦争それ自体の破壊を目論むだろう。それこそ、あのジョナサン・ジョースターならば取るに違いない正義の選択。彼の黄金の精神にも近しいものを写真越しであっても訴えるこの男は、まさしく同類だ。
 ジョナサンを間近で見つめ続けた、生まれながらの悪であるアサシンであるから、己の審美眼に狂いは無いと確信を持って言えるのである。
 さて、そうなるとヒーローのサーヴァントと共に名を連ねた残りの四人もまた、彼と同じ気質の持ち主である可能性がある。聖杯戦争の完遂を望む運営側からすれば、これほど目障りな連中も無い。
 何故ジョナサンのような聖杯戦争に否定的と目される他のサーヴァントが討伐の対象とされないのかは気にならないでもないが、今は些末なことだ。
 第一に聖杯を望むマスター達が総出で『正義の味方』を排除するよう仕向けるための討伐令。
 それを掲げたルーラーがアサシンに近しい気質と思われるというだけで、十分としよう。

「DIO様。この写真の人って誰なんですか?」
「正義のヒーローといったところかな。人々の憧れであるアイドルの君ならきっと友達になれる相手……しかし、今のわたしからすれば酔った中年の吐き出したゲロにも劣る害悪だ」
「害悪……むぅ」
「そういう顔をするのはよくないな、夕美」

 拾い上げた写真を見つめながら忌々しげに顔を歪めるのは、ショートカットヘアーの少女であった。名を、相葉夕美という。
 彼女がアサシンの側に付きかいがいしく身辺の世話をし始めたのは、つい数日前のことであった。
 偶然、彼女が一人で家路に着く姿をアサシンが見かけて。
 偶然、以前暇潰しに読んだ下らない週刊雑誌にグラビア写真を掲載されていた、アイドルという職業の少女であるとアサシンが気付き。
 偶然、その場にはアサシン達以外に誰もおらず、どのような狼藉を働こうと邪魔される心配の無いタイミングであった。
 連なった偶然を有難く利用し、まずは接触。アサシンの姿に恐怖し腰を抜かしてしまい、しかしアサシンへの嫌悪感だけは確かに抱いたらしく声を張り上げた。
 ただの人間といえど本能で悪と見なしたか、もしくは職業柄自らを脅かす害には敏感だったのか。
 成程、アイドルとは即ち人間の善性のシンボル。悪の身で籠絡しようというのは思い違いだったかと己を恥じつつ、その埋め合わせのように肉の芽を、ずぶり。
 以後、態度をころりと入れ替えアサシンに懐き惚れ込んだ彼女は、自らアサシンへの情報伝達役を願い出た。その奉仕の心掛けを認め、こうしてシュラに替わる退屈凌ぎの話相手として拠点へと招き入れているのである。

「わたしが太陽の下でも歩ける身体であったなら、今すぐにでも捻り潰しにいけるのだがな」
「……吸血鬼って、やっぱり可哀想です。皆に虐げられて」
「ほう。君はわたしを哀れむのか」
「お日様って誰にとっても清々しくなれる大切な物じゃないですか。お花だって、太陽の光を浴びて綺麗に咲けるんです。それが許されないで、ずっとこんな暗い部屋の中なんて……」
「そういえば、夕美は確か花が好きなんだったか? 成程、君らしい例えだ」
「はい。だから、太陽に替わって私が少しでもDIO様に幸せをあげられたら……って、何言ってるんだろ」
「何、恥じることは無い。君のその心遣い、わたしは純粋に嬉しく思うよ。流石は」
「アイドルですから、私。皆の……ううん。今は貴方のアイドルなんですっ。DIO様!」


860 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/25(水) 23:58:54 dP3.7riE0

 太陽のように眩しい笑顔、とはこういうものを言うのだろうかと、日の光を浴びられぬ身なりにアサシンは思う。
 人の潜在的なポテンシャルを潰しかねない肉の芽を、アサシンはさほど好んでいない。これまで多数の市民を相手に肉の芽の力を行使することに躊躇しなかったのは、そもそも尊重するだけの価値を最初から見出していなかったからに過ぎない。
 それ故に、肉の芽の支配下に置かれながら尚己の肩書きを誇らしげに掲げ、倫理観はどうあれ肩書きに見合った行動を選択する夕美の姿に、アサシンは僅かな感嘆を覚えていた。
 アイドルを名乗る少女達、当初は単なる見世物のイエローモンキー風情としか思っていなかったが、どうやらその内面には中々逞しい物を抱えているようだ。
 それこそ、戦争という悲劇にも立ち向かえるだけの精神性と呼べる物が。
 ……尤も、相葉夕美に限って言えば。
 今では捩れ歪んだ形で発揮される彼女本来持っていたはずの魅力は、この地ではもう二度と、その尊厳ごと踏み躙られたきり取り戻されることは無いのだが。

「あっ、ごめんなさいDIO様。私そろそろお仕事の時間で……」
「いいさ。花瓶の花を新調してくれただけでも、十分に感謝しているよ」
「ふふ。ありがとうございます」
「……そうだな。今度会う時には、君の友人のアイドル達の話でも聞かせてくれるかな? もしかしたら、彼女達もまた『わたしと関係のある者』かもしれないからな」
「わかりました。そうだなあ、凛ちゃんに、ありすちゃんに、美波さんに……うん。皆に会えたら、ちょっと頑張って調べてみますね!」

 朗らかな表情を爛々と輝かせ、夕美は部屋を後にする。
 一人残されたアサシンは、グラスに残された紅色のワインの一口でまた喉を潤した。
 まだ正午も迎えていない時間帯から酒を飲む。それだけの余裕が、アサシンにはある。

「……上物の餌をちらつかされたとして、それに今の内から我々自ら必死に飛びつかねばならぬような惨めな鼠に堕ちたつもりは無い。驕るなよ、ルーラー」

 ルーラーの粋な催しに大変感心し、しかしアサシンは敢えて興じない。
 どうせ最後に勝つのはこの自分であると理解しているが、見え透いた餌には飛びつかない。己が強いという事実を知っているが、だからと言って手を抜くことはしない。
 今までアサシンが取った戦略は情報収集。その行程を次の段階へシフトするのは、まだ早急だ。焦る必要も無い。
 今は、情報を集める段階だ。

「これに釣られる様では、帝王の肩書きが廃るというものだよ」

 故に、ルーラーの目論見をアサシンは利用する。
 討伐の対象とされた『正義の味方』達とその敵達の戦いについて当面の間は観察に徹し、慌ただしく踊る者達の姿を盗み見る。
 最後に勝つのは確定にしても、どのような勝ち方が効率的か考えておくのが得策だ。
 ……それに、万が一にも、あの空条承太郎に不覚を取って敗死した苦々しい過去の二の舞を演じてしまっては、まさしく間抜けというもの。
 今なお揺るがぬ自尊心。それを覆された、たった一度限りの失態。この二つを重ね合わせ、アサシンは防戦の構えを解かない決断を下したのだ。


861 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/26(木) 00:00:46 VO6Fh7/Y0

「さて、シュラは今頃お目当ての姫君と対面している頃かな」

 今日に至るまで続ける情報収集活動。あくまでその一環として、数日前、アサシンは一人のサーヴァントを消滅へと追いやった。
 強者を切り伏せ血の海に突き落とすことを至極の愉悦とする緋色の剣士――セイバーのサーヴァントとの出会いは、瞬く間に仕掛けられた袈裟切りであった。月夜の下で姿を捉えたアサシンもまた、彼にとっては優れた獲物であったというところか。
 不遜ではあるがセイバーがアサシンへの正しい評価を下した事実を僅かに喜ばしく思い、しかし、それだけ。彼の享楽に付き合う義理などアサシンには無い。
 故に、『世界』は時を止めた。瞬く間すら、彼に与えない。
 主観計測で十秒にも満たない時間で十分。一方的に繰り出す拳で剣を砕き、筋を裂き、骨を割る。
 そして時が動き出せば、アサシンの足元には虫の息となったセイバーが一人。無様な姿を晒しながら、しかしその瞳は未だ死なず。
 これは勧誘するには少しばかり骨が折れるかと判断したアサシンが言葉に替えて繰り出したのは、肉の芽。
 誇り高き意志の持ち主であるならば抗えた可能性のある精神への侵略は、所詮は一端の戦闘狂に過ぎないセイバーでは防げず。結果、セイバーはアサシンの忠実な下僕と化し、己の持つ知識と情報の全てをアサシンへと献上するに至った。
 彼の働きに感心しつつ、さて次は別の戦場で兵士として働いてもらおうか……などど考えたアサシンであったが、現実はままならず。突如、セイバーは折れた剣先で己の喉笛を裂き、その与えられた命を自ら散らしてしまった。
 何事かと周囲を見回せば、後方にいたのは若い女が一人。アサシンを見据えながらも、その呼吸は乱れ、ぎょろぎょろと動く眼球は発狂寸前の有様であると訴える。着衣は大いに乱れ、左の手の甲には、今しがた輝きの一部を失った令呪。
 アサシンが彼女の真意を問いかけるよりも前に、彼女は思い切り空中へと跳躍した。そのまま姿を消し、数秒の後に下方から乾いた音が一つ鳴るのを聞いて、そういえばここはビルの屋上だったかと思い出す。
 こうして、一組の主従がアサシンの前で脱落した。遅れてアサシンの前に寄ってきたシュラが「きちっと犯されてから死ねっての」と毒づくのを尻目に、アサシンは手駒を入手し損ねて尚満足感を抱いたのであった。

「街を焼くヒトデ……流星の群れ。ふふ。同じ『星』でも、一つ違えばただの災厄というわけだ」

 セイバーが齎した情報の一つに、冬木の一角で発生した大火災の件があった。
 その場で別のサーヴァントと交戦していたというセイバーは、「ヒトデの群れが流れ星のように降り注いだ」光景を目の当たりにしたという。ヒトデ自体は残らずセイバーが駆逐したと言っていたが、正体は分からず終いだったそうだ。
 しかし、大衆に知られていないらしい謎のヒトデの存在をいち早く知れただけでも十分。
 どのような活用が出来たものだろうかと思案していたアサシン達の下へと別経路での情報が辿り着いたのは、昨晩のこと。
 先日新しく迎え入れた一介の医師が言った。例の火災での生存者が一人、市内の病院に入院している。その少女の怪我自体は軽度であるが、身体に奇異な点が見つかったために自分も含めた医師達が一様に混乱している。
 少女の腹部には、「星型の口」がある。そして手の甲には「奇妙な痣」がある。
 ……非凡と述べるのすら憚られるその少女が、異なる世界から招かれた聖杯戦争のマスターであると察するのに時間は全くと言えるほど要しなかった。


862 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/26(木) 00:01:35 VO6Fh7/Y0

 ほぼ間違いなく、降り注ぐヒトデの群体は少女の呼び出したサーヴァント、或いは少女自身が持つ力によるものだろう。
 少女の無垢さを良いことに思うが儘に破壊を楽しむサーヴァントがいるのか、はたまた少女が己の犯した所業を認識しない程に無垢であるのか。
 どちらであるか、今のアサシンには断言出来ない。代わりに言えるのは、その意思に関わらず一つの力としては恐るべきものであること。
 そして、聖杯戦争の場に閉じ込められた者達では干渉の叶わない空間――宇宙から齎される暴威は、見方によっては利用価値があるということ。
 根本的解決を図るための群体の根絶が不可能となれば、受動的な対応にならざるを得ない。ヒトデの群れが襲来した分だけを追い払うことは出来ても、その先の解決方法には至れないのだ。
 冬木の内側にいるマスターの少女を排除しない限りは、であるが。
 少女の持つ無軌道な破壊力。他のマスターが災厄を齎す者の真実に辿り着く前に、この自分達が手中に収める、その絡繰りを解き明かす。それだけの魅力を、アサシンは見出している。
 サーヴァント相手の飛び道具としては、恐らく力不足であるだろう。しかしマスターを爆殺ないし轢殺するには十分に見所はあり、そして自衛の手段もまともに持たない市民達を殺すには十二分の価値がある。
 力無き人々を死傷する無数の小さな流星。
 『正義の味方』ならば、決して放ってなどおけない事態の引鉄。

「一刻も早く駆けつけねば、数え切れぬ屍の山が生まれる。解決は急を要する。お前達ならそう思うだろう? そしてお前も……なあ、ジョジョよ」

 ――『ヒーロー』の討伐に関わる者達を、そして、アサシンの良く知るもう一人の『ヒーロー』を誘き寄せるため、ルーラーとは別にアサシンが用意する罠。
 アサシンは、吊るされた餌に飛びつく側ではなく餌を吊るす側。いいや、餌に見せかけてすらいない毒だ。
 支配される側ではなく支配する側。
 世界は、わたしを中心に回るべき。
 正義の味方は、わたしに手玉に取られて死んでいけ。ヒーローも、超人も、黄金の血統も絶やされてしまえばいい。
 悪の権化も、わたしと並び立つのではなく頂点と崇めよ。王も皇も、悪のカリスマを気取る気概に限っては一流のシュラも、等しくわたしに平伏せばいい。
 皆がその自覚を持てるよう、もうすぐわたしが、世界を星屑煌めく絶望の海に変えてあげようではないか。

「ああ、早く夜になってくれないものか」

 訪れるにはまだ早く、しかし決して遠くない闇の時間。
 待ち望みながら、アサシンはまた艶やかに笑った。


863 : 星屑を斬る ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/26(木) 00:02:14 VO6Fh7/Y0



【一日目・午前(10:00)/C-8・総合病院】

【SCP-155-JP-1@SCP Foundation】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康(怪我は軽微)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:お父さんとお母さんに早く会いたい。
1:魔女っ娘さんはまだかなあ。
2:この男の人(シュラ)は誰だろう。
[備考]
※聖杯戦争に関係する一切の情報を理解していません。
※両親の死を知りません。

【キャスター(星野輝子)@コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜】
[状態] 健康
[装備] 『彗星の尾』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を穏便な形で終結させる。
1:マスターの安全が第一。まず聖杯戦争に関する基礎的な知識を伝える。
2:聖杯戦争に否定的な人物との協力関係を作る。
3:人吉璽朗またはアースちゃんを探して接触する(現在はアースちゃん優先)。
4:この男の人(シュラ)は誰だろう。
[備考]
※変身していない状態のため、ステータスを視認されません。

【シュラ@アカメが斬る!】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 潤沢
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を楽しむ。
1:討伐令は一先ず見送り。他マスターの動向を眺める。
2:このガキ(SCP-155-JP-1)に探りを入れる。
[備考]
※DIOの配下からの情報により、SCP-155-JP-1がマスターであると考えています。
 冬木市住宅街火災、正体不明のヒトデとの関連性を想定しています。


【一日目・午前(10:00)/B-6・マンション最上階】

【アサシン(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 健康
[装備] ナイフ
[道具] 『鮮血の継承』
[所持金] 潤沢
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を勝ち残る。
1:討伐令は一先ず見送り。他マスターの動向を眺める。
2:少女(SCP-155-JP-1)に強い関心。
3:ジョナサン・ジョースターとの再会に期待。焙り出す手段が欲しい。
4:日中は待機。日没後は自身も街へと向かう。
[備考]
※数十人のNPCを自らの配下とし、情報収集をさせています。
 配下には【SCP-155-JP-1の担当医】【相葉夕美@アイドルマスターシンデレラガールズ】等が含まれます。
※DIOの配下からの情報により、SCP-155-JP-1がマスターであると考えています。
 冬木市住宅街火災、正体不明のヒトデとの関連性を想定しています。


[全体備考]
※「星降る夜に」にて登場したセイバーのサーヴァント及びそのマスターは、数日前の時点でDIOに敗北し脱落しました。


864 : 名無しさん :2017/01/26(木) 00:03:02 VO6Fh7/Y0
投下終了します。


865 : ◇HOMU.DM5Ns :2017/02/08(水) 04:26:13 3byg4plQ0
泣きの再延長を願います。度重なる怠慢、遅延、申し訳ありません


866 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:03:36 mnuIKrZs0
此れより投下します


867 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:10:20 mnuIKrZs0




今日もまた、求めなくてはならない。

見上げた昏い漆黒の空には、清い月が漂っている。
細い身を震わす、五月にしては冷たい風。
夜を通して熱を放ち続ける情動の時代にあって、今見る場所はあまりに静かだ。辺りの人の気配の無さも物寂しさを助長している。
しかし騒ぐ。冷水のように醒めた顔に、炎熱の如し焦がれた想いを胸に秘めたままに夜を往く。
誰かの血を欲して。落とせる首を探して。
まるで町を彷徨い歩く辻斬りのよう。
そんな昂ぶりと今の自分は無縁の筈だが、何も知らない余人からしたら同じ事でしかないだろうと省みる。
始まりの夜から同じ事を繰り返しているこの行為は、どう繕おうともやはり殺人でしかないのだから。


聖杯戦争。黒鉄珠雫の愛(ねがい)を押し通す為の殺し合い。
その本戦の幕開けがついに始まった。不快を煽るばかりの、しゃがれた声で告げられた宣戦によって。
裁定者を名乗るサーヴァントの使いに似つかわしくないゆるい姿勢、なにより舐めきった態度に早速不満が募るが、今そこを気にしてもしょうがない。
やることは変わりないのだ。誰が相手であろうと、儀式を誰が仕組んだものだろうと。
戦い、勝つ。倒しては進み、頂に立つ。
試合と違うのは、その相手は自分で見つけ出す点。上が仕組むのではなく自らの足で対戦者を特定し、対峙しなければならない。

特別今までの予選段階からこの本戦で、ルールが新たに変更されるわけではない。
留意せておくべき事項は当然ある。ルーラー側からの通達。三組のマスターとサーヴァントの討伐令。報酬に与えられる令呪と謎の特典。
旨味のあるタスクであるのは確かだ。令呪という、サーヴァントを強制的に従え時には強化にも用いられる装備は珠雫にも有用だ。
自分のサーヴァントとの関係は険悪でもないしある程度協調し合えているが、良好かといえばそうでもない。
二人の目指す地平、聖杯に託す願いはまったく重ならないものだ。だからこそこうして足並みを揃えていられるわけだが。
配られた顔写真のマスター達を頭の片隅に留めつつ、そうした関係性を考慮しても今すぐ今回の指令に関わるべきものではないだろう。

『今夜は新都方面を回ります。それで構いませんね、ランサー』
『承知しているわ。鼠を追い立てるのは小物共に任せればよい。我らは餌に寄せ集まった輩を見つけ次第、餌諸共に踏み潰すのみよ』

実体の解かれた霊基状態のランサーの声は、珠雫だけに届いた。
木々も揺るがす迫力を持った一声だが、霊体化している今では聞こえるのはマスターのみだ。

珠雫はまだその手の令呪を一画たりとも消費してはいない。
ランサーを戦わせるだけの魔力も、今までの戦いでは支障が出るだけの問題はなかった。
つまり補給に急を要する必要はないのだ。今までの備蓄でも十分戦えていける。功を焦るだけの切迫した事情はこちらには存在しない。
無論、装備の重要性を理解していないわけではない。
追加された令呪の重ねがけや、特典とやらの効果次第ではランサーとの実力差を埋めてくる危惧もある。むざむざ有利を与えてやる義理は一切ない。
そもそも討伐令に乗りこそしないとはいえ、それは珠雫達は消極的な姿勢を取るという意味にはならない。
せっかく盤面が動いたのだ。積極的に利用していけばいい。
開幕と同時に命ぜられた討伐令。手配されたホシや、それを狙う相手の動きも活発化するに違いない。そこが付け目になる。
動き出した状況に浮き足立ち積極的に動いた陣営ならば補足も容易になる。追い回している背後から乗り込んで、各個叩いていけばいい。
そうした力押しの戦法も、今現在の手持ちの戦力には適ったやり方だ。珠雫のサーヴァント、ランサーの実力は既に証明済みだ。


868 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:11:14 mnuIKrZs0


豊臣秀吉。日本史上で轟く威名の大きさが、そのまま体躯の巨大さに表れたかのような英霊。
直接勝負でこのサーヴァントに並び立てる英霊など、果たしてこの聖杯戦争に存在し得るか。
およそ武の面においてのみなら、珠雫は自分のサーヴァントを信頼し始めていた。
ありとあらゆる障害、奸計を二の拳で粉砕し、己の覇道を邁進する。
自分の足跡を振り返らず、轍に踏み潰された花を一顧だにもせず。
今の珠雫にはそういう強さこそが相応しい、求める強さの形だった。
しかし如何に無敵のサーヴァントであろうと、肝心要のぶつける敵と相見えなければ話にならない。
業腹ながら珠雫に敵勢探索のあてはない。騎士と呼称される通り、代刀者(ブレイザー)として魔力の扱いこそ練達してるが、基本戦闘特化の能力だ。
ランサーも一国の主だけにそうした情報戦には知悉しているだろうが、生憎彼の手足となる兵は此処にはいない。
知識にある限りでこうした諜報に向いていそうなのは、影への潜行を可能とする黒き隠者(ダークネスハーミット)の代刀者だが……思考を止める。それは考える意味のない事だ。
とにかく、少なからず陣営が活発化するだろうこの討伐令は渡りに船なのだ。
キャスターなりが地盤を固めて行動が沈静化する前に踏み込んで仕留める。そうした速攻勢が、一番手持ちの札を活かせると理解している。


『ランサー、例の城についてですが―――』

そう―――陣地といえば、見過ごせない件がひとつあった。
今やこの地の誰もが知る怪現象。突如として街に突き出た天守閣を備えた名城。
魔術師ではない珠雫にも感じ取れた邪悪な波動。サーヴァントの宝具であるのは明白だ。

『無用だ』
『は?』

速攻で提案を切り伏せられた。珠雫の声に、自然と棘が立つ。

『……それはどういう意味ですか、きちんと説明してください』
『今は捨て置けという事だ。あれは暫くは動かぬ。
 あのうつけめは逃げも隠れもせず、ただ待ち受けるのみ。自ら参じるのは、総てを灰燼に帰さんとする段になった時であろうよ』

まるで城の主が誰であるか、その性質まで知っているかのような口ぶりだ。……しかし考えてみれば、それも当然だろう。
『豊臣秀吉』が『安土城』を見て、そこに座する者の事を何も思わないはずがないのだ。

『……あそこにいるのは、あなたが知っている織田信長なのですか』
『左様。あれこそは我のいた日の本を腐らせた根源にして具象。国を蝕む病魔の一匹、征天魔王よ。
 ……今一度、冥底より迷い出て来るとはな。黄金の盃を収めた祭壇が、根の国に続いていようとは笑い話にもならんわ』

それは珠雫でもすぐに思い当たる日本の英雄の名前。
尾張の大うつけ、あるいは第六天魔王。戦国三英傑の一人。
織田信長が、サーヴァントとしてこの地に顕現している。それも自分のランサー、豊臣秀吉と同一の世界の姿として。
宝具を隠匿もせず開放し、マスターどころか一般人にも視認させてしまうところなどは確かに大馬鹿者だ。
信長に見出され農民出から武将に成り上がり、後の本能寺の変で急死した信長の残した成果を継いで天下を収めた、というのが一般的な歴史での記述だ。
だがどうやらあちら側では、信長と秀吉は不倶戴天の敵として対立していたらしい。この分では残りの三英傑である徳川とも良い関係ではなさそうだ。

『城の優位など今の我なら容易く破れるが、あれ滅するにはこちらにも相応の準備がいる。
 暫くは手慰みに雑魚を蹴散らし、機が満ち次第に撃ち落とすとしよう』
『そうですか』


869 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:11:56 mnuIKrZs0


ランサーは自らの領土内で自身を強化し、逆に敵陣地の恩恵を無力化するスキルを持つ。
日本にいる限り常にランサーは戦闘力を高められ、逆に敵は丸裸にされるのだ。過去のサーヴァント戦でも無双を誇ってきた一因もそれにある。
その男がここまでの警戒を張るのを、珠雫は初めて目にした。
手を休めぬ前進制圧を至上としているランサーにしては、異例の慎重を期した方針。
生前に直接対決した相手への評価とあれば、珠雫にも異論はない。やはり単なる猪突猛進ではない、この先の戦いの展望をも見据えているのだ。


『それに夢幻を見るにはまだ早い。
 今はただ、目の前の敵を屠る事にのみ専心せよ』


その言葉に、心臓が鼓動を早め、体の熱が上がった。
何かされたものではない。一喝でもないただの声。
しかし念話で伝わった王の言葉は珠雫の意識を瞬く間に切り替えさせた。
まるで指揮官に出陣の号令をかけられた兵士のように、戦場に臨む際の精神に変化をもたらす。


――――――居る。


空気が痛む。
風が肌を刺していくと感じるほどに、触覚が鋭敏化している。
珠雫は覚えている。知っている。
この威圧。自分より遥かに格上の存在からの戦意を受けた、肉体の神経が軋む微細な反応を。
たったそれだけの事で珠雫は把握、いや確信してしまった。
これから挑む事になる相手。
それは苦もなく撃破してきた英霊達とは字義通り―――次元が違うのだと。



新都の郊外にある丘の上には教会が建っている。外来居留者も多い冬木に合わせて本場の西欧と遜色ない本格的で壮麗な造りになっているらしい。
そこに繋がる道の下側に立つ珠雫が見上げる先に浮かぶ、二人分の影。
ひとつは黄金。明けの空に昇る、夜にあるはずのない灼光の日輪。
ひとつは白銀。空けた上の視界に浮かぶ円と同じ、陽に寄り添う月の冷光。
対極し、されど常に隣り合う魂の色を背負って、彼等はいた。

「こんばんは。今夜はいい月ですね」

まだ年若い少年が、微笑みを浮かべながら柔和に語りかけてきた。
金の髪。真紅の服。成人も越えていない年の瀬。
けれどその表情、佇まいはあどけなさとは無縁の穏やかさ。
大人、というのとも違う。どれだけ年月を積み重ねてもあれと同じ格調には至れないだろう。
目にしただけで理解させられる。実感を強いられる。恐らくは年齢など関係なく……あれはもう、今の時点で完成しているのだと。

特別な存在、選ばれた者。そんな陳腐な表現も、彼には違和感なく当てはまってしまう。始めからそう設計されたパズルのピースらしく。
王、という単語が直感的に珠雫の脳内に浮かんだ。

「……いまの、殺し文句のつもりですか?別に全く何も感じませんけど。賛美が陳腐です、下手に過ぎます」

一切の要求も交渉も歓談も受け付けない、冷血の態度で対応する。
珠雫は今までの戦場でもそうしてきたし、実際和やかに談笑する必要性なんて感じていないのもあるが……今優先する理由は一つだ。
この男に気を許してはいけない。弱みを晒してはいけない。
柔らかな口調。敵意も嫌悪もない表情。殺し合いの場であることすら忘れさせてくる引力。
知らず気圧されている自分を叱咤する為に、常に神経を尖らせていなくてはならなかった。


870 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:13:16 mnuIKrZs0


「おや、これは手厳しい。では何か、他に言葉を贈らせてもらっても?」
「要りません。私達の間で交わされるものなんて、これだけで十分でしょう」

珠雫は片手を挙げ、その手の甲にある令呪の輝きをひけらかした。

「率直な人ですね、あなたは。けれど、うん……確かにこれ以上に僕らの自己紹介に相応しいものはない」

少年も同じように手を掲げ、珠雫と同じ色の光を顕にした。
彼我の距離はそれなりに離れているが、不思議と珠雫には王冠の形状がはっきりと視認できた。

「この場所で本来の姿を知る者は少ないでしょうが―――西欧財閥筆頭ハーウェイ家次期当主、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイです。
 あなたと同様、今回の聖杯戦争に招かれたマスターの一人として此処にいます。
 そちらの名を伺っても?」
「これから倒される人に名乗っても、意味がないでしょう」
「なるほど、倒す相手の名を憶えるのは無駄な思考、ただの障害として見做すのみ。
 それもひとつの主義でしょうが……僕としては残念です。この手で奪う事になる命の名前を胸に刻めないのは」

なんでもないように紡がれた言葉を聞き、視界に熱がこもった。
自分の勝ちを疑っていない。勝利を前提のものとして戦いを捉えた上での話しぶり。有り体に言って、舐められている。
向こうはそうとは思っていなくとも、いや、そうであればなお腹立たしい態度だ。
珠雫も沸点が低い方ではない。膨らみかけていた敵意が先鋭化されていく。
ランサーに指示を下すまでもなく自ら固有霊装(デバイス)を手元に引き出そうとして―――頭の熱を冷やす氷血の声が周囲に伝播した。

「それはアナタには不要な感傷です、レオ。王でありながらアナタは他者を立てすぎだ」

レオナルド―――レオの傍らで彫像のように静止していた金髪の女だ。
格別着飾られてはいないが、高貴さを全身に纏わせるマスターといてもぴったりと違和感なく似合う荘厳さがある。
人間離れした美貌。隠しもせず漏れ出る、超越の魔力の波動。あれこそがレオのサーヴァントに間違いなかった。

「そうでしょうか?アルトリア、貴女も騎士達に対しては同じように在ったと思っていたのですが」
「それは誤認です。かつてはそうであったのでしょうが、今の私にはそのような感傷も、記憶も希薄です。
 そして私は今の在り方こそを王として相応しいとしていますので」

思考が一瞬、空白に呑まれた。耳に入ってきた音を脳が必要な情報に解体して、そこで表れた意味を理解して。
二人の会話の中で、あまりにもさらりと流されて出てきた言葉。
いま何を、何の名前を言ったのか。自分のサーヴァントに向けて、聖杯戦争の原則に触れる事を言わなかったか。

「……ああ、僕とした事が失念していました。アルトリア、彼らにも挨拶を」

主に促されて、感情を窺わせない声で麗人が応えた。

「契約者の命により、名乗らせてもらいましょう。
 ―――サーヴァント、ランサー。アルトリア。我が主の道を輝き照らし、これより貴女達を貫く槍として在る者です」

堂々とした名乗り。真っ向から下される死刑宣告。
物語に登場するそのものの、騎士と呼ぶに相応しい立ち振る舞い。だがここでは、そのどれもがあまりに場違いだった。


871 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:15:05 mnuIKrZs0


頼まれもしないのに、駆け引きでも何でもなく自らサーヴァントの真名を明らかにする。
本当に予選を勝ち抜いたマスターなのかと疑わざるをえない馬鹿げた行為。
ブラフ、虚言と受け止めるのが自然だろうに……珠雫は疑う事ができなかった。
こちらを惑わせる意図が一切感じられない。珠雫がそう思ってしまうほどに。
絶対の自信の表れ、明かすものはすべて明かした上で、当然のように勝利するのが自らの責務と課しているのだと。

「アルトリア……あるいはアーサー。
 南蛮より音の聞こえし王侯、円卓の騎士とやらの首魁の名か」

急速に背後に現れた大質量と声。
実体化した珠雫のランサー、秀吉は公開した真名を疑う様子もなく、その英霊の遍歴の一端を辿っていた。
アーサー王。それはイングランドに伝わる伝説の王の名だ。
円卓の騎士と呼ばれる、いずれも超常の戦士を束ねし、あの聖剣の使い手―――!

―――いや、それにしても……

成人は超えているとはいえ、見目麗しい女性の顔。
伝聞にあった英霊の実像が、まさか性別すらもが別のものだとは。
猿どころか象もかくやの巨体である珠雫のサーヴァントもそうだが、歴史というのは案外当てにならないものらしい。

「騎士共の王などと絆された英雄がどれほどのものかと思えば……かような小娘とはな。失望させてくれる。
 しかも件の聖剣も携えぬ槍兵として顕れるとは、夢心地のまま召喚されでもしたか」
「好きに言うといい。私も貴殿もサーヴァントとしてここに在る以上、言葉ではなく己が武を以て語るのみ。
 だが、我らの誇りに不躾にも触れたのだ。その巨躯に虚ろな孔が穿たれる程度の代償は覚悟の上とみるが」
「ふん……吠えるではないか。確かに問答など我には無用。是非もなしよ」

ランサー、アルトリアは眉一つ動かさず、憤りも見せない。
代わりに、その身の威圧が実体を以て膨張し颶風が発生する。全身を包んだ風が晴れれば、そこには白銀の鎧を纏う一体の騎士が現れていた。
獅子の鬣を模した飾りの豪奢な仮面を被り、麗しい容貌は覆い隠されている。
手にはかの英霊の代名詞ともいえる聖剣ではない。
英霊にあつらえられた器(クラス)の名前を見よとばかりに誇示する、一振りの騎乗槍(ランス)。
そして股にかけるは白毛の駿馬。どこまでも正道を往く、英霊の戦装束が展開されていた。

「―――では、レオ」
「ええ、悔いなき戦いを」

レオの一言に、アルトリアが馬の蹄を鳴らして進軍する。王の号令に淀みはない。騎士の英霊を信じ、彼女が切り拓いた道を歩むのみ。

「下がれ、マスター。奴の言う通り、ここより先は闘争の時間よ」
「……わかりました。お任せします」

珠雫はマスターの持つ透視能力で相手のステータスをとうに把握している。
総ての能力値が一流の水準を越えている。総合値でいえば秀吉をも上回る。
難なく撃破してきた過去のサーヴァントとは比べ物にならない、極めて強敵だ。
しかしそれはこちらの不利を意味しない。拳の届く近距離戦であれば勝利を得るのは秀吉だと眼前の戦いを見てきた珠雫は自信を持って言える。
その為の土壌を整えるのが、マスターとしての役割だ。伐刀者(ブレイザー)の技は戦いの中でこそ光る。呑気に観戦に興じる気はない。
サーヴァントを従えるマスターであり、相手を屠る立場である以上は、怠慢に浸らず戦いを見据えるのが最低限の責任だ。
いざという時の援護の為にも、戦況をつぶさに観察していなくてはならない。


872 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:16:11 mnuIKrZs0


「下がれ、と言ったのだ」

既に十分な距離と判断して立ち止まった珠雫に、更なる声がかかった。

「この戦いに、貴様の出る幕は無いと弁えよ」

蚊帳の外に追い出されたような感覚に憮然としながら、珠雫は黙って止めた足を再び後ろに下げた。
……彼女とて理解している。対峙する二人のサーヴァントが発する闘気と、その緊張に張り詰めた大気の唸りを。
既に秀吉は珠雫を見ていない。破壊槌さながらの腕(かいな)の拳を握りしめて、突撃の合図をいまかと待ち受ける騎馬の上の獅子面の騎士にのみ注力している。
爆発寸前の火薬庫を目にしている危機感は根源的な畏れとなって部外者を押し出させていく。

何歩目かの後退で鋼の巨躯も遠ざかってきた距離にまでなって、そこで―――――――導火線は零になった。



聖杯戦争本戦、本来の意味での始まり。

希望の開闢。絶望の開門。

奪い合い、踏み躙り合い、殺し合う最悪の奇跡を求めた儀式が――――ここに。





先に駆け出したのは騎乗のランサー、アルトリア。
アーサ王の愛馬が一騎ドゥン・スタリオン。騎士王の伝説を共に駆け抜けた英馬は主を乗せて猛然と疾走する。
アスファルトの道路を砕き、草原と変わらぬ速度を保ち、馬上の騎士槍の威力を存分に発揮せしめる。

対して出遅れた巨漢のランサー、豊臣秀吉は変わらず不動のまま。
地に足を着け、右の拳を下げ、迫り来る槍撃を迎え撃たんと構える。
そう、これは出遅れでなどではない。機先を制そうと後に繰り出す圧倒的な力で打ち砕かんとする覇王の絶対的な自信。

瞬きの間に距離は縮む。
進行の変化は有り得ず。槍と拳の衝突は不可避の相克となって――――――



「――――――オォォッ!」
「ハァ―――――!」



咆哮は激震となって世界を揺るがす。
埒外の魔力が熱量を生み、暴風を生み出して地表を弾き破砕する。

散る火花。巻き上がる、街を構成している破片。
たった一合で世界がめくれ上がり、僅か一撃が雌雄を決さんと激震させる。
一秒経つ毎に路面の抉れる範囲が増していく。流れる余波だけで街頭の電灯が割れていく。
軋むような壊音は、人間の世界に固着した物理法則が悲鳴を上げている音だ。
世界に敷かれた薄い織物(テクスチャ)を剥がれ、神秘あふるる人知未踏の現象が起きていた。


873 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:17:04 mnuIKrZs0


成熟したアルトリアの肉体を包む魔力の波濤は、彼女が保有する魔力放出スキルの賜物だ。
ブリテンを守護する赤き竜の血を継ぐアルトリアは体内に竜の炉心を備える。
その膨大な魔力をエンジンとして、自らの身体能力の総てを飛躍的に引き上げているのだ。
そしてその恩恵は彼女が装備する全てに与えられる。身を固める甲冑。握られる聖槍。そして颯爽と跨る騎馬にもだ。
馬の持ち前の突進力に魔力放出をかけ合わせた突撃(チャージ)。これを全力で行えばそれだけで並のサーヴァントは蹴散らされるだけの威力を誇る。
その必殺の槍を真っ向から受け止めているのが、戦国を統べる烈界武帝、豊臣秀吉である。

確かに星の神秘を一身に受け取ったアルトリアと違い、秀吉にはそうした背景はない。
あるのは生来の体躯と、それを極限まで磨き上げた武力により日本を統一したという偉業だ。
偉業は功績として後世に称賛され、英霊と昇華された今や宝具という一個の奇跡という形で秀吉の内にある。
聖剣魔槍の如き物質ではない。身一つで並み居る武将を打ち払った伝説は、肉体そのものを宝具とし改めたのだ。
巨大にして頑強たる秀吉の拳は、肉体や武器という枠を飛び越えて一個の戦略兵器だ。
ひとたび『射出』されれば、それは大砲の砲撃にも匹敵する破壊をもたらす。

人馬と合わせて繰り出される槍の突撃と拮抗する拳か。
居並ぶ英霊達を粉砕してのけた拳に些かも折れぬ槍か。
永遠にぶつかり続けるかに思えた矛と矛の均衡。
それが余人の誤りと知るのは、衝突の最中にあるサーヴァントのみだった。


異変を察知したのは騎乗の槍者、アルトリアの方だ。
結果だけが先に出た、なんら根拠に基づいたものではない直感。
だがその直感が未来予知にも等しい精度となれば疑う余地もあろう筈がない。

秀吉が、巨大化している。
衝突の火花と暴風で視界も利かない中、目の錯覚と捉えるのが自然の反応だ。
しかし直接拳を受けている槍から伝わる手応えの変化は、騎士に視覚より如実に起きている事態を教えていた。
増していく重み。突き出した槍が徐々に押し戻されていく。そして、輪郭を増していく影。
只でさえ雲を突かんとする巨漢が、目の前で文字通り山の如く屹立している光景が霞んで見える。
まさか本当に、肉体が拡大してるとでもいうのか。それこそ錯覚と捉えたくもなるが、今更何の意味もないと平静に受け止める。
英霊の身はあらゆる超常を実現せしめる。起こる現象にいちいち取り合ってはきりがない。
現に敵の筋力は確実に増しているのだ。騎馬と合わせた刺突の質量を上回る程に。

迫る脅威に対し、アルトリアは冷静に対処する。
継続していた魔力放出の方向を変更。敵の筋力向上に伴い崩れた力の均衡に沿って、穂先をうねるようにして回し拳をいなす。
百を越えた樹齢の巨木さながらの腕の太さと重量だ。槍は耐え切れず砕け、そもそも女の細腕では一秒とて支え切れもしないのが常理。
その不可逆を可たらしめてこその英霊だ。
世界を縫い止める柱は軋みの音すら立てずに剛拳の進行を押し留めている。
そこに注力された魔力のジェット噴射が、アルトリアの胴へ向かう拳の軌道を強引に逸らした。流れた巨拳は騎士を通過し、不可視の怪物の足跡じみた破壊を地面に齎す。
いなし切った勢いのまま騎馬が脇をすり抜ける。横目で殺気孕む視線が重ね合う。

身を翻し、振り向きざまに槍が脇を薙ぎ払う。秀吉も同じく反転して裏拳で応じる。
弾き返されるのはやはり騎士王。僅かであるものの、繰り出した槍は武帝の拳に押し戻されていた。
騎乗しているアルトリアが見上げてしまうほどの巨体。槍のリーチを素手が上回るという非理論。馬上の優位をものともしない規格外の膂力だった。
すかさず放たれる秀吉の二撃目。本来であれば態勢が崩れた隙に撃ちこまれ銀の鎧を散らしていた筈だが、その終幕は訪れない。
振り下ろされる拳に重ねるように槍を置くと同時に、半身を預ける馬が地から四肢を離した。
接触した瞬間、弾かれた空気と共に騎兵が吹き飛んだ。大きく後方へ遠ざかっていく騎士を眺める秀吉は、しかし勝者の面持ちとは到底言い難い憮然な顔でいる。
拳のあまりの手応えの無さから、敵はわざと打たれたと見抜いたのだ。
秀吉自身の力をまんまと利用して飛び退き、再突撃に最適な距離を稼いでいた。


874 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:17:51 mnuIKrZs0


危なげなく着地した槍の騎士を睨む。
あの一瞬の間に、凄まじい密度のつまった攻防が繰り広げられていた。
英霊にとって、振るう一撃一撃全てが既に必殺の領域にある。だが相手も英霊である限り当然のようにそれを捌く。
凡百な兵士が相手では即座に決着の一撃も、両者にとってはなんでもない、相手の力量を計る一刺しに過ぎない。
故に、決め手は決め手にならず不発に終わり、必殺は必殺足り得ない。

またとない強者との邂逅。生粋の英霊であれば己が武練を誇る好機と心躍らせ闘志滾らせる状況でも、二人の王の精神には些かの漣も起こさない。
戦士たる者、武器を打ち重ね合い、披露された技巧を観察すれば、相手の力量は自然と推し量れる。
まして歴戦の英雄であれば、一度の接触でその"底"までもが把握できる。
器に溜まった水に小石を投げ込むのと同じだ。水面に広がる波紋は、器の大きさと深さを如実に語る。

万軍無双の槍拳をいなしてみせた名槍と、それを完全に操る技量。
幻想の極地にありし聖槍を真っ向から打ち合ってみせた豪腕と、底を感じさせぬ膂力。
秀吉もアルトリアも共に理解していた。
今見えている相手こそ、聖杯戦争での至上の強者。
予選にて屠ってきた英霊達を歯牙にもかけぬ、己の大望を塞ぐ障害に他ならないと。


そう、障害。
脅威の程に因らず、強さの大小に関わらず、二人にとって対峙する者は全て聖杯の獲得を阻む狼藉者でしかない。
共に我欲を捨て去り、己が完全と信ずる考えを持つ者同士。抱くのは戦いの喜悦などではなく、その終局に願望器を手にする結果のみ。
その意味では、二人の姿はどこか相通じていた。
覇王の夢を実現した未来のみを見据えている秀吉。
その身を理想の執行装置として完成させているアルトリア。
共に祖国の衰亡を憂いし王。秘めた志こそ対極であれ、起こした行動は同じだったのだ。

だからこそ、この王達は相容れない。
自らの理想の為に、向こうの理想を否定しなければならない。国が、王が道を貫くとはそういう事だ。そこに慚愧も憐憫もない。
屍山を築きその上を踏みしめて昇る事を覚悟の上で両者は戦っている。
我らの王道の妨げになる存在に容赦はない。ただ前進し、制圧するのみで終始する因縁だ。

何事もなく互いの槍を構え、すぐさま二度目の相克を開始する。
たかだか一度きりの交錯で萎縮するような英霊はここには存在しない。武器を置くのはどちらか一方が倒れた時にのみ。
王は畏れず、将は驕らず、ただ闘気と魔力を凶器に乗せて、目の前の標的を粉砕すべく――――――。




            ×      ×


875 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:18:32 mnuIKrZs0





自分の目の前で巻き起こる二体のサーヴァントの対決を、珠雫は立ち尽くして見守っている。
周囲は崩落の一途を辿っていた。暴力的な魔力で岩盤は局所的な大地震幾多もの亀裂を作りやがて奈落の穴に広がっていく。
昭和という時代に産まれた文明が砂になっていく。まるで時の流れを逆しまに回しているかのように塵に帰る。
英霊達の戦いが続く程に、この一帯すらもが過去の戦場に巻き戻る。殺人が日常だった時代。大戦よりも更に昔。
生きる為、敵ごと未来を切り開いていく群雄割拠の頃に。
この時代にいてはいけない筈の存在が、逆に世界を我が物に侵食していく様にも見えた。

時折、英霊の衝突の余波に破壊された木々やコンクリートの破片が風に舞って傍を掠めていく。
いつ流れ弾が当たっても不思議ではない危険域だ。マスターであるという身の上を鑑みればすぐにでも避難をしていなければならない。
それでも珠雫は、怖気づいて引き下がろうとは思わない。と言うより退くわけにはいかなかった。
ここで足を下げてしまえば、これ以後、もう前に進み出せなくなる気がしたから。


聖杯戦争が如何なる領域で繰り広げられる戦いであるかは何度もこの目で直に確かめた。
人類史に刻まれた英霊の具現化という、サーヴァントの強さ。魔力の質量の絶対の違い。残像を追う事も許さない身体能力。伝説を象徴する宝具。
代刀者(ブレイザー)として稀有なる才能を持つと褒めそやされた珠雫が―――いや、珠雫が知るほぼ全ての騎士が指をかけるのも叶わない高みに座した戦技。
畏敬を抱いた。これから挑みにかかる全ての敵は、油断も慢心も捨てねばならないと腹を決めていた。
契約した己のサーヴァントの、敗けはおろか苦戦の色も見せない、傷一つ負わず屠り続ける覇王の強さを間近にしていても、気を緩みはしなかった。
所詮、今までは予選の段階。掃討してきた相手と違い、本戦には自分達と同じように勝ち抜いてきた猛者でひしめきあっている。
強力無比なサーヴァントを得たからこそ、その強さを傘に着てはならない。虎の威を借る狐、それでは珠雫が軽蔑してきた大人達と同じだ。
繰り返しそう言い聞かせて、決死の覚悟を貫くと志したのだ。


それすらも、英霊同士の戦いの真髄を知らぬ女の浅はかな驕慢に過ぎなかったのか。

一挙動の度に迸る熱量が違う。桁が、次元が、過去の記憶、見識とは比べ物にならない。
槍と拳の応酬で散逸する魔力の波だけで卒倒しそうになる。
これはもう社会への蹂躙だ。
昭和の世の者にとっては、かつての大戦で目の当たりにした兵器の再現にした見えないだろう。
街を覆い尽くした爆撃と同等の破壊が、ふたつの人間大の存在によって引き起こされてるものと、どうして思おうか。
その吹き荒ぶ爆発的奔流の発生地点で、未だ二体のサーヴァントは互いを譲らずに獲物を突き付け合っていた。

一刻も早く逃げ出したいと喚く本能をうるさいと一喝して黙らせる。
理性とプライドでギチギチに緊縛して、震える体を押さえ込む。
震えは恥辱の念だ。戦場で何も出来ず痴呆のように立ち尽くす自身への怒りだ。
戦いとは別種の感情が、珠雫を今もこの鉄火場に留まらせている……。




残像すら目で追えない絶影の速度で、烈風が廻る。
眼前に台風が停まっているとしか感じられない威圧と迫力。
道を舗装する煉瓦がひとりでに弾け飛ぶ。次の瞬間には別の地点で同規模の爆発が起こった。残されるのは地面を踏み抜いた不可視の足跡だけだ。
中心に立つ秀吉を取り囲む配置で打たれていく蹄。
それでかろうじて、これが人の目には映らぬ速さで駆け抜ける槍騎兵が生み出している風の檻だと判断できた。


876 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:19:59 mnuIKrZs0


嵐に飲み込まれその只中にいる秀吉は、涼風でも受け流して、不動明王の如き泰然さで佇んでいる。
耳を抜ける風切音も意に介していない。嵐などこの腕ひとつを振りかざせば吹き飛ぶ木枯らしに過ぎぬ。
自然の猛威すら恐るるに足らない覇王が注視しているのは、ただ一つ。
逆巻く天変においても見失いようのない、一点の銀の光のみだ。

「ぬん!」

襲いかかる風斬の穂先。
嵐を手繰る騎士王の風圧を纏った刺突を、裂帛と共に拳にて打ち払う。
槍は方向を逸れて秀吉を掠めて行き……だがすぐに先程とはまるで違う方角から槍が飛び込んで来た。
伏兵が潜んでいたわけもない。輝きの槍を得物に持つはやはり同じ獅子面の騎士。
理屈は単純極まりない。狙いを通り過ぎた後に音速の壁を取り払って突き進み、回り込んで再動しただけの話。
死角からの穿ちも秀吉は難なく弾く。三度四度の矢継ぎ早に続く乱気流の如き勢いにも同様だ。
下位の英霊の武具をも砕く剛拳は怒涛の連撃にも揺らがずに全てを叩き返していく。
……それは同時に、四方八方から囲み撃つ騎士が健在である状況も意味する。


初撃の時点で、アルトリアは既に戦法を切り替えていた。
敵は巨大にして強大。特筆すべきは拳の攻撃。そして最初の激突で見た体躯の拡大変容。
如何なる逸話に因む能力によるものなのか、その筋力上昇率は今でも底を測れない。
得物を持たないランサー。その所以を知る。
あれは人の腕(かいな)の延長などではなく、腕に備え付けられた長大な攻城兵器と捉えるべきだ。
取得した情報を値踏みし、戦闘を継続しながらもアルトリアは瞬時に纏めあげる。
一発一発の破壊力は相手が上回っている。
ならばこちらの最大の利点―――乗馬による機動力の差を活かして俊敏に立ち回る。
当たれば必殺を約束する剛掌も、当たらなければ無駄打ちの大砲だ。
必要なのは技巧だ。簡単に押し負けないだけの威力を保持しつつ、針の穴に糸を通す精密性を両立させた槍捌き。
不可能ではない。一瞬の気の緩みが許されないなど前提条件。見出した勝機に飛び込む大胆さは無謀に非ず。
鎧も、槍も、彼女の誇りの総算だ。己の心に一点の曇りもない限り敗北はあり得ないという貴き信仰。
故に自らの誇りが砕かれる幻想など微塵も抱かない。
これこそが先の交錯で見えし必勝の策であると直感し、攻めの手を絶えず繰り返していく。

アルトリアの連撃は秀吉に届いていない。
白熱する魔力と物理法則の作用で竜巻を生み出すほどの超加速に撹乱される事無く、的確に捉えて迎撃している。
秒を刻むより速く駆る穂先が胸板に届くより先に拳が阻む。
劣っているのは総合的な敏捷性の話。身体のこなし、振りかざす拳は鈍重とは程遠い砲弾の発射口だ。
そしてその繰り手が戦いに膂力にのみ身を任す愚物であるはずもなく。生死を競り合う闘技で培った動体視力と洞察力は、常人では目にも映らぬ銀の機影をも見逃さない。
対手に巨大化したと錯覚させる闘気は、武器の差位程度の間合いを零に埋める。

だがそれが幾百幾千と続けば、如何な牙城とて罅割れ崩される。
例えるならば、巨岩が流れる河水に打たれ丸くなり、吹き荒ぶ風に擦り削られる光景だ。
延々と続く自然の猛威は容易く地形を変形させる。物質が悠久の時を不変のまま過ごす事は地球の環境では難しい。
これが人工物なら尚更だ。積み上げた石垣、天を貫くほどの王城だろうとも、百年も野晒しにされれば元の原型を留めまい。
膨大な年月の後に訪れるそれを、アルトリアは身一つで具現しようとしていた。
今の彼女は嵐の化身。彷徨える亡霊達の王であるワイルドハントの首領だ。馬が駆けた後に残る衝撃で舞い上がる砂埃すら、彼女に引き連れられる霊魂の群列であるかのように彩られる。
一迅の風が爪となって剛体を引き裂いていく。それらが絡まり連なれば牙となって噛み砕く。
意志持つ嵐が渦巻き刃で構成された喉元で獲物を嚥下する。
大渦を巣にして住まう一匹の竜は、暴虐の荒波となって王城を蹂躙していた。


877 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:22:43 mnuIKrZs0


かつて栄華を極めた古代の都市が、天の怒りを受けて一夜にして滅んだとされる逸話がある。
波にさらわれる砂の城も同然に、灼熱の一滴で溶ける泥の玉座。そんな焼け爛れた幻想が、一個の存在に対して放たれている。
人の心を滅した騎士王の攻撃は徹底して容赦がない。肉を削ぎ、骨を削り、臓腑を燃やし尽くすまで止まることはない。
天を支える巨人のごとき身が徐々に縮み、最後に脳と心臓が粒子の一片まで消えて失せたのを確かめてやっと槍を下ろす。
そこに残虐的な意味はなく、この場で相対して敵というただ一点のため。放つ意志はシンプルに冷たく恐ろしい。だからこそ振るわれる槍に微塵の鈍りも混ざる余地はない。


「下らぬ児戯を使うものだ。ただ埃を巻き上げるだけの技か?」


全身を刺し貫かれるだけの殺気に当てられていても、その声は翳ることなく厳粛に響いた。
状況にそぐわない硬い声。竜鱗の嵐に飲まれ姿は見えずとも、そこにいるという存在感に疑いはない。
豊臣秀吉の覇気は荒波に消えることなくいまだ戦場に健在していた。

槍を受ける度に篭手が軋む。だが知らぬ。効かぬと頑健に耐え忍ぶ。
国を平定し強兵を配下に収めた伝説、英霊にとっては身に揃える具足ひとつまでもが、覇王の偉業の一端として統合されている。

「元寇を追い返した神風にも劣るわ。斯様な下策が、我に通く夢でも見たか」

巨大が轟く。不動であった脚を上げ勢いを以て真下に落とすだけで、岩盤を突き破る衝撃が走る。
これまで槍の的に甘んじていた腕が、何もない虚空を掴む。五指には本当に空間を握り潰しているかのように力が込められており、

「その甘き夢ごと、塵となれィ!」

そしてそのまま、紙を引き裂くかのような動作で思い切り振り払った。
瞬間、真実"握力で千切られた"大気が信じ難い痛みに泣き叫んだ。周囲を囲む竜巻を凌駕する勢いの烈風が突然発生し、辺りの全てが吹き飛ばされていく。
風の檻で凶獣を収められるはずがない。日本という島全てを領土にする男の前には木の柵にすらなりもしなかった。
渦を巻いていた風向きが、一方向に転化される。今まさに数百度目の突撃を敢行するべく駆け走っていたアルトリアに向けてだ。
向かってくるのは風だけではない。コンクリート、岩石、木材……戦闘の余波で破壊され尽くした大小様々な破片も巻き上げられて飛来してきていた。
ただの街を構成する一部とはいえそのスピードは銃弾と同等。さらに弾き出された欠片ひとつに秀吉の覇気が込められている。
乱れ散り騎兵を穿つ散弾の群れ。逃げ場なき死の洗礼に、騎士王は減速を選ばず更なる前進に打って出た。

「風よ―――!」

背面からの噴流。現行のあらゆるバイクマシンを凌駕する魔力が騎馬を押し出す。
それを受けたドゥン・スタリオンもまた、躯を押す魔力の圧力に身を任せた。
英霊に随伴した騎乗物がただの馬であるはずもなし。命を待たずして主の判断を野性で悟った人馬一体の境地を以て全身を踊らせる。
額の前に表れる透明の鏃。野を駆けてきた『彼』にとっては懐かしい古代に浴びた風。
これこそアーサー王のもうひとつの宝具。収束した風が光の屈折率を変え武具を包む不可視の鞘となる『風王結界(インビジブル・エア)』。その変化系。
圧縮した空気を解き放ち、再加速を可たらしめる物理法則の限界を突破した絶技だ。
生み出された風の笠が向かい風を切り裂く。飛び跳ねて追突してくる瓦礫の雨の起動は捻じ曲がり、一片たりとて鎧に触れることなく虚しく流されていく。
敵の手中に収まった暴風を再び味方に引き戻し、手綱を取られることもなく秀吉へと肉薄する。

しかし、さしものランサーとて今の風害には加速の伸びを失った。風王結界の加護でも完全に防ぐには至らない。
せいぜいがコンマ数秒、一足踏みしめるタイミングが狂うのみの誤差。だがその僅かな減速がこの戦では生死の分け目となる。

地平の果てまで届くほどに、広げられし両の腕(かいな)。
金剛すらも滅ぼす剛腕が唸りを上げる。
アルトリアは見た。今度こそは、見間違えようがなかった。
両脇を覆う二つの掌。アルトリアをゆうに超える、列島そのものを掴み上げてしまう程巨大で、圧倒的というイメージ。
目前に立つ秀吉の体が、以前にも増して膨れ上がっているのを。
実際に巨大化しているわけではない。
魔力の吸収、放出。それらの見せかけの類ではない。
理由なく、理屈なく、この男と敵対する者は皆すべからくこの光景を目の当たりにすることになる。
裂界武帝、その威名の根源。
群雄割拠、魑魅魍魎渦巻く戦国を強きを持ちて平伏させた、天地をも睥睨する威風万丈の肉体を――――――!。


878 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:24:11 mnuIKrZs0


「潰れるがいい。我が治める地に、貴様らが如き蛮族が住まう場所は無い!」

合わされる掌と掌。
かつて聖者に連れられた流浪の民は奇跡に導かれて新天地へと渡った。
今起こる光景は、割断された海原の壁が閉じられていく様にも似ていた。あるいは、小蝿を叩き殺す動作か。
その中心に残されていた者がいたら、結末はひとつしかない。左右から襲い来る壁に挟まれ、最早原型を留めず圧壊させられる。
例外があるとすれば。
その者もまた、奇跡を起こす伝説の担い手である場合だ。

秀吉は上空を仰いだ。
夜天に煌々と広がる月を背にして映る騎影。掌圧に潰されたと思えたアルトリアの姿を双眼に然と捉えていた。
左右から迫り、前後にも長く広がる障壁より逃れるならば上しかない。予め当たりをつけていればこそ苦もなく発見できたのだ。
元から、攻めの用を為していた魔力放出と風王結界の重ね合わせで十分に加速がついていた。
そこからすんでの判断で急速に方向を修正し、ドゥン・スタリオンの跳躍に乗せて秀吉の頭上を跳び越えたのだろう。
絶命の場面乗り越えた機転。しかし、窮地を越えた訳ではない。
重力に従って落下するアルトリアを秀吉は睨めつける。平手から握りに拳を戻し後ろに引かれ、残る片手は前に突き出される。
意図するところは明白歴然。千騎万軍蹴散らす王の拳気、その二撃目が振るわれようとしている。
彼我の距離の差などという問題が全く無意味なのは既に証明済みだ。そして遮蔽物のない中空は、存分に威力を発揮出来る絶好の位置でもある。

いかに超人的な身体能力を有するとはいえ、サーヴァント単体に浮遊能力は付与されていない。風を操作し魔力によるジェット噴射を行うアルトリアもそれは同様だ。
砲塔の照準が合わせられる。装填されるのは一握りの拳。城門はおろか支柱にまで届いて城の形そのものを崩落させてしまう破壊槌。
正真正銘の逃げ場なし。退避を優先して上方へ跳んだ分、滞空時間も伸びてしまっていた。空にいるのにも関わらず袋小路に追い詰められている。



そして、この段になって、彼女にとっての光明が遂にここに機した。



予測は結果に収束する。
この瞬間、この槍が解き放たれる未来を現在は待っていた。
過程を無視した直感、未来予知にも等しい超感覚が導き出した解答。この敵を討つに能う方法。
彼女の今までの戦舞、舞闘は全て、この場面を現実に引き降ろす為にあった。

「■■■■■■■■■、第一段階限定展開」

手の内に輝きが増す。月光よりなお眩しく、神々しさをも伴って空を染め上げていく。
夜の帳を焼き焦がし、満天を背負い、蒼銀の女神はそれを掲げる。
地に作る柱。空を裂く独角。海を割る錨。
世界の最果てから人の営みを眺むべく佇む塔。


879 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:24:59 mnuIKrZs0


「解き放て、爆ぜ散らせ、嵐の錨」

それは、槍の形状をしていた。
それは聖槍だ。聖なるもの。清らかなるもの。
アーサー王物語。騎士道の在りし日の伝説を紡ぐ証明。
星の内海で鍛えられ人の王に渡された聖剣と同様の、神代の香り残る神秘の結晶。
だがこの形は仮初の影に過ぎない。本体たる『塔』は、今も地球の何処かに突き刺さっている。
何故ならば、この槍は敵を穿つ武器ではなく、表層を縫い止める為のもの。
表と裏。現実と幻想。物理と神秘。人と神。
同じ世界を共存できぬふたつが別れ隔てられた薄皮の境界線を維持する、そのが役目を負う一こそが、この槍の形状をした柱に他ならない。

文字通り世界が覆るこの大宝具には、厳重な封印が掛けられている。
アーサー王に仕えた騎士。円卓に座る栄誉を許された騎士の数になぞらえられた、十三の拘束。
解かれた拘束の数は少ない。ただ強大な敵を倒すだけでは聖槍は真の力を顕さない。
真名解放にすら至らない、紐解かれるは片鱗のみ。全開のそれに比ぶれば残滓に過ぎないもの。
それでも――――たかが一国の王相手には十分過ぎる、神霊魔術の領域に届く暴威である。

馬上に身を委ねていた躰が、跨る倉からずり落ちる。
姿勢を崩し馬に振り落とされて泣き別れになったか。それは違う。手綱を離し両手で握られた槍の穂先は、眼下の秀吉の心臓を指し示している。
膝を屈めた具足の足裏が硬質なものに触れる。踏みしめる地のなき宙で具足が足場にしたのは、背を降りた主の意に阿吽の呼吸で合わせたドゥン・スタリオンの蹄だった。
人間の頭蓋骨を砕き、繋がる首まで千切り飛ばす筋力の馬の後ろ脚が、墜ちるだけの定めであった王の台座へと変わる。


『――――――――――――ッッッ!』


耳をつんざく嘶きは号砲の合図か。
蹄から撃ち出された槍は持ち主ごと灼熱の魔力を纏い、燃え尽きるない流星と化して空を裂いた。




光が廻る。
星が螺旋を描いて燃えながら墜ちる。
この瞬間、珠雫は死を意識した。
自分が標的にされてないという認識も無関係に、肉体と精神への滅びが概念的に叩きつけられていた。
人はおろか神すら定義があやふやで形が固まらなかった白亜、その時代の覇者たる竜を滅ぼした終わりとは、このような様だったのではないか。
英霊とは過去の再現。宝具とは伝説の再現だ。
ならばこの墜落こそは過去の情景。遥かな太古、原始の星に打ち込まれた、"終わり"を有り示す火の矢に他ならない。

かつて、人類の祖たる哺乳類は、隕石の衝突による滅びを免れ、繰り上がる形で生態系の上位に昇った。
しかしそれは必然の生存ではなく、幾つもの環境と要因の堆積が生み出した偶然に過ぎない。
生き延びた彼らの子孫の遺伝子には刻まれている。地を焼き、森を抉り、生命を吹き飛ばした衝撃波。
ひとつ歯車が違えば自分達も迎えただろう。生命種にとって最大の恐怖である絶滅の感情を。

人も兵も軍も国も、万象を燃やし滅ぼす光の炎。
ならば、今それに臆せず立ち向かう巨大なる影の持ち主は、果たして何者であるのか。
問うまでもない。
絶望をねじ伏せる、希望を謳う勇姿。泡沫の幻想を現実に変える力。
人を統べ、兵士を率い、軍を纏め上げ、国の全てを両肩に背負う。
古今東西人外神魔に関わらずして、その責を負う者は皆等しくこう呼ばれているのだ。



王と。


880 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:27:44 mnuIKrZs0




「――――かァァァァァッ!!!」

眼が見開かれる。
溜めに入っていた拳の覇気を更に高め膨らませる。
墜ちる聖槍の轟音に劣らぬ雄叫びと共に、堕つる巨星を掴まんとする一極巨拳が天へと衝き上げられた。

蹂躙には蹂躙を。星の聖槍に王の槍腕が対抗する。
互いを食らわんと広がり合う光と光。
そのふたつに挟まれた世界は超質量の魔力に圧縮され、反発する力の行き場を無くし―――――――――




            ×      ×




世界が滅び、生まれ変わった。
夜の闇をかき消す太陽にも等しい光量に、珠雫も思わず顔を伏せる。
誇張でも何でもなく空間が捻じれる破滅的な音を、耳鳴りがする中で用を為す耳が拾っている。
やがて光も風も止み、覆った腕を下げて再び視界が開ければ、広がる痕にただ愕然とした。

大きく陥没した地面は隕石の落下跡と疑われても仕方あるまい。旧大戦における戦車の砲弾、爆撃機の空爆でもこうなるものなのか。
事実今しがた目にしたそれは、紛れもなく天よりの災いだ。
地下の水道管にまで被害は及んでしまったのか、崩落跡から勢いよく水流が噴出している。
これまでの戦闘跡を丸ごと塗り潰してしまうほどの、圧倒的な破壊。
その発生点。爆心地の中心に、彼女のサーヴァントは立っていた。
天災の後であろうとも、その姿、変わらず威風万丈。剛体の四肢が損なわれる事なく豊臣秀吉はここに在る。

しかし―――

「……ランサー!?」

珠雫が叫ぶ。驚愕の色と感情をありありと乗せて。
彼女は見つけてしまったのだ。背後からでも分かってしまうその変化に。幾ら信じられずとも目に入ってくる色は誤魔化しが効かなかった。
秀吉の足下は水気にぬかるんでいた。破裂した水道管のせいではない。
身に着けた鎧より鮮烈な、男の掌から今も滂沱と流れ落ちるアカイロによってだ。

「狼狽えるな、掠り傷だ」

一言で切って捨てた秀吉は、痛みに顔を歪めもせず血濡れの我が手をまじまじと眺めた。
宝具の一端である篭手は粉々に砕けていた。鋼鉄を超える硬度の皮膚は光の槍に貫かれ、焦熱の魔力で爛れている。
骨にまでは届いていない。肉の何層かを融かされながらも表面までで侵攻を遮っていた。神経はまだ繋がっており、拳は握れる。戦闘続行そのものには何の支障もない。
だがそれでも、自らの肉体(宝具)を疵つけられた憤怒は隠せずに露わにされていた。


881 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:28:26 mnuIKrZs0


「貫いたな―――我が拳を」



「防いだか―――我が聖槍を」

清涼な声がした。
渓谷に流れる澄み渡った冷水のように淀みなき声だった。
奇しくも初めて見えた際と同じ、教会に続く坂道の上。
マスターである少年を守護するように前に出る槍騎士、アルトリアもまた健在であった。

二極の槍の衝突。振り上げた腕は傷つけられたものの、最終的な力勝負は秀吉に軍配が上がっていた。
穂先が身に食い込み肉が断裂しておりながらダメージに頓着する間もなく、天をも支えんばかりの筋力で落ちてきた槍を吹き飛ばしたのだ。
押し上げられたアルトリアも、先んじて着地していたドゥン・スタリオンが主の落下場所に馳せ参じ危なげなく背に乗せた。
追い返しながらも手傷を負った秀吉。ならば騎士王の損害は皆無か。これもまた否だ。
風にたなびく金砂の髪と、夜に映える翠色の瞳が物語っている。

王としてだけでなく、美の領分まで人を域を超すほどに成長した、女神の如き麗貌。
その顔が夜気に晒されてる。先程まで覆われていた獅子の造詣をした兜が割れているという事である。
直撃こそしなくとも、至近で浴びた豪腕の衝撃波は甲冑を震わせ、額から落ちるだけの亀裂を与えていた。


「よくぞ―――それだけの域まで高めたものだ。 
 神代の魔力も用いず、幻想の血を受けずにおりながら、ただ人の身のままで超常を貫いた。
 貴殿の肉体は、既に伝説の具象たる宝具と合一している。それこそが徒手にして槍兵として顕現した証左か」

面が割れても、頬には破片が掠った傷すらも見受けられず今なお美しさを保っていた。
滔々と覇王の強さの秘密を看破して語る。

「成る程。蛮族とはいえ英霊、小蟻ではないという事か」

並み居る英霊を相手取っても欠片ひとつ毀れなかった絶対不壊の肉体。
その無敵の伝説に一片泥をつけられても、豊臣秀吉の自信の根本が折られはしない。

「聖剣ならぬ聖槍、星の槍ロンゴミニアド。騎士王という大層な称号も、名前負けしてはおらぬらしい。
 その力、認めよう。時代が違えば恭順を証に我が軍に迎え入れもしただろう。だが許されぬ。此れは聖杯戦争であり貴様は国敵であるが故に」

傲岸不遜なる態度は虚勢ではない。
天下統一を為した宝具そのものである肉体には筋力の上限というものがない。意気を漲らせればまだまだ奥底から力が溢れ出る。
雲を割る巨拳も、引き出せる全開に比べれば程遠い、虫をはたくのも同様の児戯に等しい。

アルトリアにとっても、そこは同様の事が言えた。
山を切り崩す魔力の奔流も、限界はおろか真名解放すらしていない末端の威力だ。魔力放出と風王結界の展開で叶う範疇でしかない。
十三拘束が解かれずとも。更に倍する力で拳が振るわれようとも。常勝の王には敗北への怯えなどない。

「我が前に立ち塞がる以上は、どれほどの力があろうと路傍に敷かれた石と同様でしかない。
 次はその纏う威光ごと、木っ端の如く微塵に砕き尽くしてくれようぞ」
「それは不可能な話だ。散るのはそちらだ、護国の王」


882 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:30:13 mnuIKrZs0




つまりは、ここまでの戦いはただの前座でしかなく。
周囲が裂け散り、削り落とされる街の残骸もついでの余興のような彩りであり。
二人にとっては本気の殺り合いの準備が整った段階だった。
体の"慣らし"でこれならば、全力を投じた際に訪れる破壊はどれほどの爪痕となるのか。
今でも一区画が廃墟同然の有様なのに、これ以上の戦闘が続行されれば、新都方面全土が呑み込まれかねない。
ここから始まる相克の規模は、推し量るだけで寒気立つ光景だ。

水流がスプリンクラーのように舞って、荒れ果てた地面を柔く濡らしてく。
局所的な雨が降る中。水煙を隔てて二者は動かず対峙する。
静寂などすぐの内に終わる。極限の緊張。余人を卒倒させる濃密過ぎる闘気。
一秒、いやそれより短い、人間が知覚できる限界を超えた時間の後に来るかもしれない爆発に今かと構え、



「―――時間ですね」



薄氷の上での静寂が、真の意味で静けさを取り戻す。
王の勅命にも等しい声が、充満していた殺伐な空気を一瞬で別のものへ変えていた。
敬虔に祈りを捧げる信者が乱れのない列をなしている、神聖にして荘厳なる聖堂の中にいるような錯覚をもたらした。

「どうかしましたか、レオ」

アルトリアもまた振り返り背後のマスター―――レオに疑問を投げかける。

「言葉の通りです、アルトリア。今宵の戦いはここまでです」
「怖気づいたか、小僧」

侮蔑と怒りの混じった秀吉の声にもまるで恐れを見せずに、レオは両者を宥めるように言葉を続けた。

「お二人の気持ちはごもっともですが……どうか槍を収めて下さい。これ以上長引くようであれば、被害はこの区画ひとつでは済まないでしょう。
 これほど戦いが続く事は今までなかったものだから、サーヴァントが及ぼす市街への被害の規模を考慮していませんでした。僕にとってもこれは失態です」

挙げられた片手の示す先に広がるのは、ほんの数分の時間で破壊され尽くした、閑散たる平野となった街の一部だ。
レオの言う通り、この規模の戦いが続いていけば更地になる範囲は住宅街にまで及ぶだろう。
……珠雫にとっては、それがどうしたと思うしかない事柄だが。

「……ここは聖杯戦争の為の舞台でしょう。そこの街や市民をいちいち気にする意味があるとでも?」

この冬木は聖杯戦争を進行するだけのフィールドに過ぎない。
架空の街に架空の住人。元来異なる世界から聖杯戦争の為に招かれた珠雫にしてみれば、彼らの平穏も安寧も気に留めるに値しない。
理由もなく直接手にかけるとなれば気も咎めるかもしれない。兄と一部の親交ある者以外には酷薄という自覚はあるが、猟奇趣味があるでもない。
逆に言うなら、偶然『事故』に巻き込まれてしまったであるのならば、簡単に割り切れた。
これでは秀吉の言う通り怖気づいたと言えばまだ納得できる分の言い訳だ。
そして……それが本心だと理解せざるを得ないほど裏表の差を感じられないのが、益々珠雫の頭を混乱させるのだ。


883 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:31:40 mnuIKrZs0


「あなた方も、この戦争の異常性は既に理解しているでしょう?
 情報統制も戦いを管理する気も感じさせない、放置にも等しい措置。それどころか参加者を追い立てる真似までして状況の加熱を招かせる。
 底の見えぬ悪意を仄めかす、裁定者という名の玩弄者を」

レオが話したのは、思ってもない切り口から来た内容だった。

「この聖杯戦争には異常がある。何かが致命的に捻れ狂っている。
 主催する側に信が置けず、それでいて奇蹟の存在だけが強く主張されて、聖杯という光で奇蹟を望む者の目を眩ませている。
 これらから彼らの望む儀式の形態が推測できます。
 徒に戦火を拡大し、混沌にかき乱された中で犯される戦争。一点の希望を、無数の血で濡らしていくコロシアイ。
 それこそが、ルーラーが管理する形態での聖杯戦争です」

不徳。不精。監督不届き。
それは聖杯戦争を主催する相手への糾弾であり、盲になって奇蹟に飛びつく参加者への戒めの諫言だった。

「ですが、それは僕の王道ではありません。自らの信ずる道に反する行いで得た勝利では、進みに迷いが生じる。いずれ足を踏み外すでしょう。
 上が管理しないのであれば、当事者である僕達が自制を持って行動するのみ。聖杯戦争の本戦は今宵始まったばかり。
 今回の戦いが全てではないのですから、住民への配慮は当然の対応です」

正気を疑う発言に、聞き取った脳が不意にぐらついた。
今彼は自らを招いた主催者へと、不信と叛意をはっきりと表明した。

「馬鹿、じゃないですかあなた、本気で」

心の底からの本音だった。正直過ぎて罵倒というより感想みたいになってしまった。
ルーラーが信用できないのは分かる。あんな不出来な即興劇を見せられて真面目に言葉を受ける者がいるとは思えない。
だがかといってこうも真っ向から逆らう意思を見せていけるものなのか。
聖杯戦争ではなく自分の規範(ルール)に則って戦う。
即ち、自らの行いの方が正しく、誇れると信じているからこその迷いの無さ。

「戦いの結果で誰かが命を落とすのは当然の事。それは理解してます。ですがそれを最小に抑え、死を無意味なものと終わらせないのも王の務めというものです」
「だったら、聖杯はどうするつもりですか。支配者気取りがやりたければ好きにやればいいですけど、」
「もちろん聖杯は手にします。想定とは違いますが僕にとってもこの儀式は見過ごせない。
 僕がこれまで倒してきた相手、これから倒すことになる相手。全てが得難い好敵手です。妥協なく敵を討ち、最後まで勝ち残ります。
 たとえ、その性質が悪に浸っているとしても―――纏う穢れごと払う光となることが、僕に課せられた役目なのですから」

珠雫とて名家である黒鉄に生を受けた女。幼少の頃から他家の長や権力者と会った機会も多くある。
才媛である自分を褒めそやし、何をしても許すだけの大人達。強者に如何に媚びへつらい、欠片も抱いてない賛辞を舌に乗せるかしか考えない、くだらない人間。
それらと比して見ても……あの少年とは圧倒的に隔てた格の差が実感できた。
組織の掟に固執して兄を切り捨てた父とも隔たり過ぎている。いや記憶にある全員を揃えて並べても二割に届くまい。

無差別な破壊をよしとせず、勝利より被害の拡大を防ぐ方を優先する。
管理者の手際が杜撰で信用できないのならば、代わりに役目を取って代わる。
いや、先の発言からすれば、そうしたやり方でなければ本人にとって勝利と受け止められないのか。
それは世を治める者、王の考えだ。混沌渦巻く闘争の中でもその考えを遵守する。
誰にも毀損される事のない正道を突き進む、生まれながらの君臨者の思想が描かれていた。

心の中にささくれだったものが立つ。
不快ではない。恐れ怒りとも、きっと違う。
口にするほど感情が湧くほどでもなく、言葉にできるほど固まっているわけではない。
水と油が決して混じらないような、磁石のN極とS極が決して繋がらないような、根源的なレオへの反発だ。
その清廉潔白さに、燦然さに、何故だか自分は許せないと思っている。
それは、何故――――――?

「我の前で王道を語るか、小僧」

王、という名乗りに聞き捨てならぬものがあったのか。秀吉が割り込んできた。
そういえば、相手方のランサーも王族であったのを思い出す。
レオとアルトリアには明かされずとも同質な気を感じるが、相対する秀吉は同じ王でもその在り方について大きく違っていた。

「はい。僕は既に王として在り、斯く在るべき行いをしています。あなたも一角の、恐らくはこの国に根ざした名のある王なのでしょうが……」

レオはそこで一端言葉を切り、

「それでもここで告げましょう。あなたの掲げる王の強さでは僕に―――いえ、僕達には勝てません」


884 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:33:13 mnuIKrZs0


先程までと何も変わらぬ口調。なのに今までと違いレオの言葉には力が満ちていた。
増上慢なる物言いにも関わらず不快感が混じらないのは、清浄な雰囲気を携えた少年故なのか。

「人々が望むものは常に秩序と安寧。資源が行き届き、飢餓もそれに誘発される争いもない、理不尽な死が訪れない世界です。
 あなたの覇はひたすらに戦禍を招き寄せるもの。乱世の時代を切り開けても、その先の平和を続く術にはなり得ません」

「――――――」

噴水の流れ落ちる音しかしない静けさが痛い。
返答はない。激昂するでも反論するでもなく秀吉は黙っている。
時間の経過毎に周囲に剣呑さが充満する。このまま穏便に済むはずもない、筋力と魔力との爆発に晒されると空気が怯えている。
いつ均衡が破れて雪崩かかってもおかしくない緊張が肌を刺していく状況で。

「よかろう。此度に限り貴様らを見逃してやる。早々に背を見せて立ち去るがいい」

ややあってから申し出を了承する声が上がった。

「ランサー、何を勝手に」
「だが―――」

自分を置いて話を進める秀吉に珠雫は異を唱えた。戦闘を専門であるサーヴァントに任せるのはともかく、交渉事でならマスターの意も通すのが自然ではないかと。
だが抗議の声は途中で遮られた。挟まれた秀吉の声に秘められた溶岩の噴流にも等しい感情が、それ以上の続きを許さなかった。
あるいは言葉としては出ていたが、男の声の重みに押し潰されて音としては聞こえなくなったのかもしれない。

「"ここ"からは逃さん。貴様らだけは、決して。
 忌まわしき英国(ブリテン)の象徴。国土を焼き払い、我が民に地獄の苦悶を負わせた悪魔の同類共。
 そして小さき王。民の牙を抜き首輪を繋ぎ餌を撒いて、飼い慣らす……人を家畜に貶めても管理するその思想こそ、国を弱らせる病の根源よ。
 外海からの夷狄に、この肉身は砕ける道理は嵌まらぬ。焼かれた大地の怒りを代行して、必ずや誅を下す」

白銀の騎士王と黄金の少年王に向け、覇王はレオと同じ静かな―――だが温かみとは断絶した永久凍土の殺気で告げた。
その言葉だけで骨肉を凍りつかせて、氷海の深き底に沈めさせてしまう。そんな響きだった。

豊臣秀吉の人生とは富国強兵を為さんとした道程であり、人々もまたそうして彼を評価した。
諸外国からの植民地支配に備え、内乱に明け暮れる戦国の世を平定した英傑。
その彼が今、この地に降り立っている。大戦に敗れ大国の差配を享受した、この昭和の日本に。
敗戦の記憶薄れぬ民衆にとって、これ以上の『希望の象徴』があろうか。
強き国を。負けぬ兵を。陸の外の脅威に対抗する力を。
彼はこの聖杯戦争の舞台である日本、その全てに期待されている。歴史にて叶わなかった欧米諸国への勝利という、熱狂的なほどの信仰が後押ししている。

秀吉はそれに応える。
この国には、声なき怨嗟が溢れている。
祖国を蹂躙され弄ばれる屈辱の叫び。強き力を、豊かな実りを、古来より紡がれてきた誇りを奪われた、この国そのものの嘆きを聞いた。
立ち上がらねばならぬと憤った。今こそ捲土重来の時来たれり。日ノ本の在るべき姿を取り戻せという天命を見た。
故に、ここに召喚された彼こそは護国の鬼将。
御旗の下で戦い、無念に散った英霊の魂が呼び寄せた、救国の荒御魂に他ならない。

「ハーウェイは日本の難民も受け入れているのですがね……ですがそれもあなたからすれば侵略ですか。
 世界は違えど、その強靭な愛国心には素直に敬意を評します」

物質的な重みすら伴う凄烈な殺気を浴びても、柳に風かのごとくレオは揺るぎない。
傍らのアルトリアは何も言わない。主と理想を同一としている以上、語るべきものはないとでもいうように、ただ槍に徹していた。

「それでは、また。次の聖杯戦争の夜にお会いしましょう。
 その時には、あなたの名前を教えてくれることを願っていますよ」

最後まで、晴れやかな笑顔を消さないまま。
まるで逢引きの別れ際に残すような文句を残し、レオは踵を返した。
背を向け、鮮やかに去りゆく後ろ姿はどう見ても臆病な敗走者ではない。騎士を伴って凱旋する様はまさしく王そのものの堂々さだ。
まるで、取り残されるこちらが負けた気分になるぐらいに。そしてそれは違ってもいない。
いま珠雫の胸を焦がす苦い思いは、目につくもの全てに八つ当たりしたくなる衝動は、敗北感と呼ばれる悔しさから来るものだから。


やがて二人の後ろ姿が完全に消えて見えなくなるまで、珠雫は遠ざかる影を見続けていた。


885 : 激突する裂槍 ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:36:34 mnuIKrZs0



【一日目・未明/&Ccedil;-9】


【レオ・B・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[令呪] 残り三画
[状態] 魔力消耗(小)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 大富豪並
[思考・状況]
基本:聖杯の確保
1:暫くは、周囲の街の被害に配慮して行動する。
2:ルーラーに不信感。
3:聖杯が悪しきものであるならば破壊も検討。
【備考】
ランサー( 豊臣秀吉 )のステータスを確認しました。

【ランサー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/Grand Order】
[状態] ダメージ(極めて軽微)
[装備] 『最果てにて輝ける槍』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:レオ従い、その願いを叶える。
1:主の命のまま、立ち塞がる敵を討つ。




【黒鉄珠雫@落第騎士の英雄譚】
[令呪] 残り三画
[状態]
[装備] なし
[道具] なし
[所持金]
[思考・状況]
基本:聖杯を手にし、兄が幸福になれる世界を
1:討伐令を利用して敵主従を見つけて叩く。
2:レオに対し、理由の分からない反発。
【備考】
ランサー(アルトリア・ペンドラゴン)のステータスと真名を把握しました。

【ランサー( 豊臣秀吉 )@ 戦国BASARA 】
[状態] 右掌に損傷(戦闘に支障なし)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:聖杯を手にし、日ノ本を救う
1:覇王に後退はない。あるのは前進制圧のみ。
2:レオとアルトリアに対し、強い敵愾心。
3:魔王(信長)を討滅する備えをする。
【備考】
ランサー(アルトリア・ペンドラゴン)の真名を把握しました。
安土城のサーヴァントを自身の世界の織田信長だと確信しています。



※C-9教会に続く道周辺が大きく破壊されています。住民への被害は確認されてません。


886 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/02/11(土) 01:38:12 mnuIKrZs0
投下を終了します。


887 : 名無しさん :2017/02/12(日) 13:48:19 KN55mbLc0
投下乙です。
風の如く駆けるアルトリアと、城の如く構える秀吉との激突。圧巻の迫力でした。
王として求める国や民の在り方に差異があれど、その正しさの追及を今更舌戦に求めない両陣営の意志の固さ。
その勝負がいかに超人的であるか、常人の延長線上の立場でしかなかったと自覚する珠雫の思考と重なるように思えます
宝具と言うべき秀吉の肉体と渡り合ったアルトリアの聖槍を前に認識を改め、それでも尚向ける怒りを絶やさない秀吉。
模範的な正義の味方には不似合いな苛烈さを持ちながらも、彼が一国の王であることを訴えかけるやり取りが“らしい”。
本人たち曰くこれは前哨戦でしかなく、現に第三者が並大抵の力で彼等を破ることは叶わないと想像ができるから恐ろしい。
見事なバトル回の執筆、改めてお疲れ様です。


888 : 名無しさん :2017/02/17(金) 23:18:10 JN00ig1M0
投下おつー
この秀吉もまた確かに王か
舞台が昭和だからこその背負うものの重さと気迫には圧倒された
アルトリアがブリテンだから英国扱いな絡め方されてるのも面白かった
とにかく秀吉がかっこいいなーって思った


889 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/04/29(土) 16:06:59 0n3A44Ek0
衛宮士郎&バーサーカー(ナイチンゲール)
アヴェンジャー(巌窟王 エドモン・ダンテス)
予約します


890 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/12(金) 07:08:24 n8n9S86Q0
延長します


891 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/05/13(土) 01:54:20 3S/q.bJE0
新田美波&セイバー(ティア・ハリベル)
アイラ&ライダー(アースちゃん)

予約します。


892 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:07:06 NRVT3cCY0
お待たせしました・これより投下します


893 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:09:17 NRVT3cCY0



「―――傲慢さを抱いたコトはあるか?」


「己の為す行いこそが最善にして最高であり、世界の真理に達したが如き絶対の正しさに満ちていると思い上がった事は?」 


「他者の反論にも説得にも耳を貸さず、自己完結してるが故、一分の隙も無い完璧な理論であると酔いしれた経験は?」


「人間の悪性を腑分けした七つの業の形。他者を見下し、驕り、屈辱の涙を導くもの。
 傲慢の罪――――――」


「陳腐な表現と思うか?だがそれこそ、人間が全体として抱える普遍的な概念である証左ともいえる」


「お前達が誰しも備える精神の淀み。高潔さを嘲笑し、病原のように醜悪に爛れさせる甘き毒。
 人生において辛酸を舐める度に沈殿し、逆に悦楽に肥え太る毎に膨れ上がる。生きている限り、地上の汚濁に塗れる以上、決して逃れられるものではないだろうよ」


「この地に集められた者もそうだ。無辜の命を食らい悪の味を知る、腹はおろか魂まで罪に塗れた人間で溢れかえっている。
 奴という病原に蝕まれた街は最早あの監獄にも等しい孤島だ。奴好みの魂を引き寄せて手足を封じ牢に押し込め、万象に及ぶ苦痛を与えその絶叫を堪能する」


「まさに地獄だ。例え罪知らぬ善良な魂だとしても、公正な裁きなど望めるはずもない。何故ならば、此処においては奴こそ法の執行者なのだからな。
 悪辣なる罠にかかり虚偽の罪を被せられ、無念の涙を流すしかない」


「中でも多いのが『傲慢』の化身だ。実に多様な形でこの罪を体現している者が占めている」


「正義。信奉。革命。救済。統制。ははは!まさに傲慢の典型にして境地ではないか!」


「どれも単体としては好まれる要素だが、いざ現実に起こすとなれば即座に火種をばら撒く爆薬と変わる!
 古今これらを掲げた指導者は尽く混沌と戦乱を招いた!先人の教訓を活かし、今度こそは自らが使命を全うするのだと高尚に謳いながらなぁ!」


「絶頂の只中から断崖の淵に叩き落とされた者の見せる、絶望の一瞬を何よりも好むあの女の趣向か?
 それとも正義を名乗り悪を起こす在り方に、自らの傲慢さをこれ見よがしに披露する男が感じ入るものがあったのか。いずれにしろ―――」


「戦い、殺す。つまるところ、起こるものはそれだけだ。
 罪と悪が引き連れる結果は、必ず殺戮に収束する。戦争と名がつくのなら、なおさらな」




◆――――――――――――――――――――――――――――――――――――


894 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:10:50 NRVT3cCY0



一日目 夜/炎、炯々と吼え浸る




靴を履き、道場から持ち出した木刀を一本袋にしまって肩にかける。
玄関を開けて外に出ると、体が僅かに強張ったのを感じた。
緊張とはまた違う、内に異物を収めた感触。まるで背筋に一本の鉄柱が差し込まれたような気持ち悪さがある。
けど同時に、それにもう慣れているという実感もあった。

しっくりくる、というか。
収まりがいい、というのか。
抱えて前に進むのにさっきまで疑問を持たないでいた。快か不快かどちらといえば不快である筈なのに、平然と受け入れていられる。
まるで、始めから自分にあるものだったように。


これは―――懐かしさ……だろうか?
一体、何の?


「シロウ」

呼ぶ声に呆けた状態から復帰する。

「準備は済みましたか」

「ああ、待ってくれ。すぐ行く」

未明の静寂を揺らす風が心地よい。いつの間にか体温が上がっていたらしい。
これから街の見回りをしようとする時に、どうしてこんな気になってしまうのか。
聖杯戦争はもう始まっているのだ、油断なんかしてる暇はない。意識を切り替え、一歩を踏み出す。

敷地の外ではバーサーカーが待っていた。
赤い軍服。緋の瞳。目の前の女性の性質の苛烈さを端的に顕す色が映り込む。

「これより巡回を始めますが……その前に、健康状態に異常はありませんか?栄養補給は万全ですか?脈拍は乱れていませんか?外傷は隠していませんね?」

……そんなに重症に見えるのだろうか、俺。

「異常が見受けられたら速やかに処置をして家に帰します。貴方は、我慢できない人ですので」

「我慢できないんなら、すぐに痛みを訴えるんじゃないか?」

「いいえ、いいえ。そうではありません。貴方は他者の苦には鋭敏に働きますが、自身の痛みとなると鈍感になります。
 それではいけません。疵口は放置されて化膿し更に広がるばかり。快癒の兆しも見えてきません」

ずいっ、と赤い看護師は前に乗り出してくる。


895 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:11:37 NRVT3cCY0


「先の通り、共に動向する事には同意しましたが、それは貴方を司令官と認めた事とはまた別の話です。
 独断専行、暴走しないよう矯正は続けますから、そのつもりで」

「暴走っていうならそっちも大概変わらない気もするけどな……」

「なにか?」

「なんでも!」

「よろしい。ではこれを」

左手で腰の銃を握りながら、右手で肩に提げていたバッグを差し出す。

「……救急バッグ?」

いつも彼女が身に着けているバッグに近いが、見れば素材が新しい。どうも一般販売されてるのを買ってきたらしい。

「私達はこれから戦場に向かいます。そこには銃弾砲弾が飛び交い、無数の死傷者が待っている。
 私は彼らを救わねばなりません。常に貴方の傍にいられるとは限らない。
 最低限の装備ですが、速やかな応急処置は生存率を大幅に上げます。その為にも、これは必要なものです」

半ば押し付けられるようにして受け取る。
持ち運びやすさを重視したのか、手で持っても意外と見た目ほどの重さはない。

「悪いな、こんなものまで用意してもらって」

「現代の設備……コンビニエンスストアとは素晴らしいですね。食料衣服衛生医療……生活に必要な物資が市民の手に届く距離に常設されてるとは。
 シロウの時代には既にどの地域にも普及されているそうですが、私にとってはこの時代でも喜ばしい環境です」

そうしみじみと感慨にふける狂戦士(かんごし)。
……どうあれ、その行為は全てこちらの身を案じている事には違いないのだ。感謝の念こそあれ、邪険にするのもお門違いというもので。
我が家の家計簿に赤い線が引かれるぐらい、軽いものである。うむ。

「よしっ行くか」

荷を肩に提げて、改めて前へ。
そこでふと、何でもないのに空を見上げた。
雲一つない、とはいえないが、覗く濃藍には散らばる光砂と、巡る月舟がある。
それで、違和感の謎は解けてくれた。


ああ―――そうか。


雰囲気に馴染みがあるのは当然だ。
誰かを隣に夜の街を往くのは初めてではなく。
あの時はずっと、こうしていたのだから。

きらびやかな月下の邂逅。
半月とない時の中、血肉から骨に至るまで染み付いた経験。
今も色褪せない、鮮烈な記憶。
重くのしかかる死があり、纏わりつく闇があっても、その輝きに偽りはない。

十年前の始まりと、半月前の始まり。
衛宮士郎の運命となった聖杯戦争の舞台に、俺は帰ってきた―――




◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


896 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:12:36 NRVT3cCY0





「巡回ルートは決めてありますか?」

「ああ、まずは教会に行こうと思う」

家の付近……深山町周りはここ2日間で何度か夜回りはしているので、自然と次の目的地は決まっていた。
中央の未遠川を挟んだ反対方面の新都。といっても、元いた時代から十五年以上も前では記憶にある風景とは似ても似つかない。
まだまだ工事途中のビル群も多く、会社員やデパートの買い物客よりも作業員の方が目にする機会が多いかもしれない。

……そんな逆光故の齟齬を食らっていてなお、変わらないとされている場所がある。

丘の上に立つ教会。実際に足を運んだ機会はまだ無いが、その建物は確かに記憶にある通りの場所に建てられているらしい。
聖杯戦争で戦いを見届ける監督役がいる。サーヴァントを失い、戦う力の無くなったマスターを匿う中立の土地としての役割もある。

……思えば、なんてタチの悪い冗談だろう。
あそこで待つものと、あの地下に沈めてあるものを考えると、今でも吐きそうになる。
同じものがまた待っているかもしれないと想像するだけで、骨の髄から震えてしまう。
あらゆるものが違ってる場所で、そこだけが俺の知る時間のまま留まっているのだとしたら――――――いや、考えるな。そんな思考(きょうふ)は今は不要だ。

「教会ですね。分かりました。
 貴方の知る聖杯戦争では監督役が待機している地点でしたね。
 ならばそこに、あの病悪を生み出す根源もいると。そうお考えですか?」

急に出てきた物騒な単語に、ぼやけた思考が立ち切られた。
沸いた疑念を振り払って、聞かれたものを想像してみる。

「―――ああ、それってルーラーのことか。
 確かにあいつらがいるとしたら思いつくのはそこだけど……だからこそそんな分かりやすく居るわけないよなあ。
 それにルーラーなんてクラス、初めて聞いたぞ。バーサーカーも知らないのか?」

番外のサーヴァントという存在は知っているが、あれは前回の聖杯戦争を生き残ったアーチャー。
これはクラスそのものからして規格外(エクストラ)だ。

「私の方はまったく。ルーラーというクラスはそれそのものが、固く情報の公開を封じているようです。
 聖杯戦争を統括する者。その為の絶対権限を有している。拾える情報はその程度です」

「つまり、教会がやっていた監督役を、サーヴァント自体が担当するって事か」

普通、監督役は教会の人間が就いて執り行う。
だが七人だけでも街中を容易に破壊できてしまうのがサーヴァントの強さだ。
令呪、マスターという魔術師の抑制がいてこそ、ようやく管理が成る。
力で押されてしまう状況になれば、とても人間では太刀打ちできない。
ならば同じくサーヴァントを監督役に据えるのは、なるほど合理的だ。

「けどそれなら、何で冬木じゃルーラーがいなかったんだ……?」

もし、抑止力にサーヴァントがいたのならもっとまともに運営できていたのではないか。
あんな街一つを飲み込む最悪の事態になるより前にもっと対策が……。
そんな嫌な風にも考えてしまう。

聖杯戦争を始める……つまり英霊をサーヴァントとして呼び出すには長い時間が必要だと言っていた。
そこに一騎分余分に召喚するのは魔力が足りないからルーラーが現れなかった?
理屈上では間違いはない。万能の願望器を謳うにしてはずいぶんとケチになってしまうが。


897 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:13:44 NRVT3cCY0


いや、第一詰まってた中身が悪意の塊みたいな泥の聖杯にそんな機能があったのか?
こういう時に知識の差というものは出てくる。魔術を詳しく解析できる技術なんて俺にはない。
聖杯の性質は知っているものの、その正体については遂に分からずじまいだったのだ。


「仮定ですが、ルーラーは異常事態にのみ現れる救護班のようなものなのでしょう」

終わらぬ問いの答えは隣の方から返ってきた。

「通常であれば適用される事のない保険の機能。実際に使われるという事、それ事態が危険という信号。
 痛みが生命活動の証であるように、人間の体に免疫という機能があるように、一刻も早い治療が必要な疾患を生んでいる知らせとなる。
 私はそう考えます」

言葉は膿を掻き出し、適格に患部を執刀していく。

「今回のケースでは更に顕著でしょう。肉眼でも分かるほどに深く、病はこの街に根付いています。シロウは既に理解しているはずです」

「ああ、そりゃあな。まともなマスターならあんなの信じられなくて当然だろ」

まして一度同じ形で経験していれば、嫌でもこの戦争の歪みに気づく。

日の切り替わりと同時に舞い込んだ通知(ニュース)を思い出す。
突如浮かんだ画面で、左右が中心で白黒に塗り分けられた、ルーラーの使いを名乗る、クマに似たなにか。
そこから始まるやりとりはコミカルで、芝居じみていた。
緊張感の欠片もない口調でコロシアイを名乗る。ふざけ合いながら戦争を告げる。
あまりにもちぐはぐで、分かりやすく狂気を演出している光景。

答えは始めから明白だ。
聖杯戦争の調停役など偽りの名。
危険要素が見つけられたからルーラーが召喚される?いいやこれは前提が逆だ。
あのルーラーそのものが、この異常な形態を生んだ元凶に他ならない―――。


「間違ってもアレを裁定者(ルーラー)と呼べはしないでしょう。完璧に詐欺の類です。
 管理は雑。精神衛生への配慮は論外。配布する情報には信用性の欠片もない。
 人の上で統べるに足る資格を、何一つ有していない。
 人の体を内側から蝕む死の病、肉を侵し崩しながら無限に増え、宿主を殺す癌細胞(キャンサー)とでも名を改めるべきです」

今度は、物騒だとは思わなかった。むしろ言葉には同意する部分すらもあるくらいだ。

……あの時沸いた感情は、まだハッキリ憶えている。
聖杯戦争は魔術師同士の殺し合いだ。それは分かっている。
奇跡を叶える願望器を求めて、『根源の渦』という悲願を懸けて戦う。
その過程で生まれる、何の関係もない人たちが犠牲になる事は決して許せないし、認める事は絶対にできない。
できないが……少なくとも、あそこでは誰もが真剣に戦っていた。

何年も前から勝つ為の準備を重ねてきた遠坂も。
幼い姿でも凍てつくほどの聖杯を手に入れる意志を持っていたイリヤも。
学校の人間を容赦なく生贄にしようとした慎二も。
娯楽といいながら本気でそれを突き詰めていた、言峰でさえも。
直接出会わなかった他のマスターであっても、きっと。

根源を目指す魔術師達の願望。只の一個人の願い。
何であっても、そこには命を懸けるに足りる理由を持っていた。
だから放送を目にしてる間、意識せず手は握り拳になっていた。
彼らやこの場所にもいる参加者の決意すらも穢され嘲笑われているようで……無性に腹が立ったのだ。


898 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:15:10 NRVT3cCY0



「やはり許されない。これほどまでに疾患まみれだとは、最早許されざる進行度です。
 これは治療には微塵の躊躇のない迅速な患部の切除が必要不可欠です。その後徹底殺菌し……いえそれでも足りない、隔離もしなければ―――」

進む歩を速める鋼の看護師。意志が体に引っ張られてるのか、ほぼ競歩の域だ。
こういう時、彼女の言葉は全て「自分に向けて言っている」為、横から口を挟んでも無駄である。

「シロウ、進みが遅れていますよ。もう少しペースを上げて下さい。私達が早く現場に着くほど、負傷者の生存率は高まります」

こっちが遅くなってるのではなくそちらの歩きが……いや、言うまい。
素直に頷いてペースを上げて隣に並ぶ。少しだけ高い目線からちらりと横顔を覗いてみる。

「どうしました。私の顔に何か?」

「いや……なんか意外だなって。こういうのは全部自分で決めるもんだと思った」

実際理由があったわけじゃない。咄嗟に口にしただけだったのだが、耳ざとく聞き咎めたバーサーカーは小さく溜息をついた。

「貴方は、自分の立場をしっかりと認識すべきですね。
 貴方が何よりもすべき事は、他の参加者と戦うのでも負傷者に奉仕するものでもありません。
 疾患部位―――ルーラーを名乗る病原菌を見つけ出し根本的治療に向かわせる事です。
 サーヴァントを知り、聖杯戦争を知る貴方にしかできない重要な任務です」

「俺にしかできないって、治療がか?」

「この場所が貴方の生地を模しているなら、ある程度土地勘も働くでしょう。
 何より、貴方は既に一度聖杯戦争を経験している。この戦争の形態の前例を知っている。
 初見とそうでない症例とでは状況の対処も予測も、精度に明白な違いがあります。
 前例があれば過去のケースを参照し比較ができる。そこから統計が取れれば全体の傾向が掴める。
 そして確かな客観的事実を証明できれば、後はもう誰がなんと言おうと納得するしかならなくなります」

かつん、と音がする。
バーサーカーは進む足を止め、強い理性の灯った瞳で訴えるように俺を見て言葉を続ける。
これだけは憶えておきなさいと、窘めるような調子で。

「貴方は、貴方の持つ知識を数多の人々に発信しなければならない。
 新たな犠牲者を生むのを阻止する礎を築く事。受けた傷の痛み、死への恐れ、戦いの無意味さ、齎される災害を教え、二次被害を防ぐ予防措置とする。
 真に争いを止めようと願うなら、剣を取るよりも口を動かすのが最も確実に進展する手段です」

「……」


聖杯戦争を止めるという事は、相手と戦う覚悟を持つ事だと思っていた。
望んで参加したマスターが言葉で止められるなんて、安易な楽観だと思い知っている。サーヴァントは言うに及ばずだ。
最低でも、サーヴァントは倒し無力化させるまでは……そういう思考、方針を前提にして今まで動いていた。

「そうか。そういう見方もあるのか」

魔術師としてはまだまだ一人前には程遠いと自認しているが、経験は肉体に蓄積されている。
この足で駆けて、腕を振るい、血を流して、生き残った。
他にいるマスターにとって、俺は貴重な情報源でもあるわけだ。
せっかくの始めから持つ優位、それを活かすべきだとバーサーカーは言っている。

「上手くやれば、マスターを説得できるかもしれないのか」

その可能性も、見えてくる。目は決してゼロじゃない。

「差し当たっては、与えられた情報の精査と洗い出しからですが。顔が判明している組は最低三組いるわけですし。
 懸賞の実態はまったく信用なりませんが実在しない参加者を選んでいるわけもないでしょう」

激情な性格に見えて、いや実際そんな性格だが、バーサーカーの思考は俺よりもずっと計算高い。
ただ指向性が一方向に定まっている。人を救う、という命題を解決する式に常に挑み続けている。


899 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:18:26 NRVT3cCY0


「ああ、時間をかけてしまいましたね。巡回を再開します」

バーサーカーは話は終わりと、踵を返して背中を見せる。
そんな先を行く姿を見て、いま出てきた話題について言わないでいた事を思い出す。
討伐令、と銘打ってルーラーから配布された顔写真付きの手配書。二組のマスターとサーヴァントと、一人のマスター。
その内の一枚に描かれていた、ある少女の顔。
言わないでいたのは、無論隠す意図があったわけではない。
記されている最低限の―――名前とクラスだけの情報でも、混乱をきたす食い違いがあったからだ。
ただ情報の重要さを聞かされたばかりなのだし、ここは意を決して包み隠さず話しておくべきだろう。


「ところでさ。あの手配書にあった中で、一人知ってるやつがいたんだけどさ」

「―――なんですって?」


……なるべく、深刻さを出さないような口調にしたたのだが。
瞬間、ぎゅるんとバーサーカーの首が凄い勢いで半反転して、こっちを睨みつける。

「なぜ言わなかったのです。そんな大事な情報を、もっと早くに伝えなかったのですか」

「待った。説明、説明を聞いてくれ。そしたら分かる!」

ずかずかと踏み込んでくるが、手前上退いてかわすわけにもいかず止まって待つ。
何か、眼が、怖い。今すぐ銃を引き抜きそうな剣幕をしている。

「それは弁明ですか?」

「違うぞ。言わなかったのは悪いと思ってるけど、ただの勘違いかもしれないし、おかしい部分だらけで俺も分かってないというか」

「意味が不明瞭です。説明は要領よく、はっきりと言いなさい」

「……サーヴァントの方にさ、いたんだよ。学校で会った女の子と同じ顔で――――――」


全てを告白しようとした、寸前。

あらゆる選択肢が、その時意味を消失した。


声が止まった。息すらも忘れた。
代わりに思い出す、蒼銀の鎧を着た騎士の顔。
今までの残滓とは比べ物にならない感情が胸を焼き焦がす。
なぜ急にと戸惑う間もなく―――その光を、見る。


900 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:19:23 NRVT3cCY0


「シロウ?」

話している間に、目指していた教会も近づいてきていた。
神の家を表す十字架もうっすらと見えかけてきた小高い丘。
その上空に、星が浮かんでいた。
夜を彩る星々の瞬きが、小石程の価値に墜ちるほど一際輝く、黄金の光。
それはこの世で最も貴く在るべき、振り下ろされる剣にも似ていて―――――

「――――――――――」

流星(ほし)が墜ちる。
その価値(いみ)を燃やし尽くす事なく、空を裂いて行く。
地を照らし揺らすこの距離まで届く衝撃も、この胸に懐く感情の前には遠く感じる。

聖杯戦争の兆候。サーヴァント同士の戦闘。

「戦闘行為を確認―――。現場に急行します。話はその後で」

こちらが我に返るより先んじて、バーサーカーは駆け出していた。
見た目に見合わぬ加速、サーヴァントの持ち前の脚力で一気に教会へと直行する。

「あ、しまった……!」

遅れ出たのに気づく頃には、もう後ろ姿も遠目に映るほど離れていた。
もう追いつけはしないが教会の道は憶えている。全力で走れば5分かそこらの誤差で辿り着ける。

「くそ、追いつけるか……!?」

体内の魔力を意識し肉体を活性化させて走り出す。
先行したバーサーカーを追うのと、自分でも分からない、急くような衝動に引っ張られて。






◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


901 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:22:18 NRVT3cCY0





戦場となったのは、教会に続いている坂道の上だった。
ここで起きた戦闘は、過去の記憶に残っていた。
アインツベルンのマスター、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
その従僕である、死を具現した威容を誇るサーヴァント、バーサーカー。
今俺が契約している英霊とは多くの意味で違う、暴風雨を思わせる狂乱の戦士だった。

聖杯戦争の概要を知り、戦う決意を決めたばかりで何もかもおぼつかなかった頃に現れた相手だ。
そのまま起きた戦いは、絶望そのもの。巨塊を握った腕を振るうだけで地面が削られ、壁が吹き飛ぶ神話の再現。
サーヴァントの戦いの圧倒的な格差を思い知らされた記憶だった。

そして現在の丘で起きた被害は、それを上回る規模のものだった。
地面は巨人の持つスプーンで掬われたみたいにあちこちが抉られた虫食いになっている。
地下の水道管が破裂したのか至る所で水溜りができている。

「―――っなんだこれ」

特に目を引く陥没跡は、まるで小隕石でも墜落してきたかのようだ。
あまりの破壊で丘が切り崩されて、少しだけなだらかになってしまっている。
これじゃあ、ほとんど天変地異の規模だ。前の戦いだってこれだけの破壊は滅多になかった。
イリヤのバーサーカーと同じだけの力を持っていて、なおかつそれと互角の相手が真正面からぶつけ合えば、こうもなるかもしれない。
荒廃した跡地には誰もいない。敗退したサーヴァントは消失し姿も残さないが、両方共相打った甘い考えは抱かない。
最低でもどちらか一方が、まだ近くにいる―――想像だけで戦慄してしまう。


無人の場所でただ一人立つ赤い背中を見つける。バーサーカーだ。
対峙する者もいない中で、虫の羽音すら聞き逃さないとつぶさに観察している。

「来ましたか。ここまでに誰かと遭遇していませんでしたか?」

「俺は会ってないけど……誰かいたのか?」

「いえ。既に戦闘は終了していました。戦った人も、敗れた人も、それらしき影は見受けられません」

「じゃあ、入れ違いか」

……どうして俺は、その言葉に少し残念に思ってしまったのか。
マスターと接触できるチャンスを逸した。それはもちろん、残念に思うべきなのだけれども。
なんだって、あんな、ただの破壊跡に惹きつけられてしまうのだろう。

「ですが、まだどこかに負傷者が残ってる可能性があります。
 私は周囲を見て回ります。シロウは救急隊員を要請してください。この時代には通信装置もあるのでしょう?」

「通信……ああ電話か。けど公衆電話なんてどこにも……」

「坂道に入る小道の脇に緑色の受信機が置いてありました。電話ボックスというのでしたね?それを使用してください」

そんなところまで気が回っていたのか。
おそらく、ここに向かう過程で使用する可能性を含めて目ざとく発見したのだろう。

「ではこれより救助活動を開始します。本職ではないですが、人員不足は否めません。
 命ある限り、私は見つけ、救ってみせる」


902 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:25:15 NRVT3cCY0


そうして坂道を昇って行き、独り取り残される。
ここで止める意味はない。怪我人がいたら事だし素直に役割分担に準ずるのがいいだろう。
いま来た道を蜻蛉返りで戻って坂を降りる。

「あれか」

言った通り、電話ボックスは坂を降りたすぐ横にあった。
急いでドアを開け、小銭を入れて受話器を取る。番号を入れ返事を待つが……一向にかかる気配がない。

「……?なんだこれ、かからないぞ。壊れてるのか?」

何度かかけなおしてみても結果は同じだった。
こんな状況で故障機を掴まされるなんて、運のない。
けどそれならそれで、やりようもある。

「同調、開始(トレース・オン)」

電話機に手を置き、魔術回路を起動。
意識を集中させ、自己を変革させる呪文を紡ぐ。
物質の基本骨子、構成材質の情報を解析する。これぐらいならもう訳はない。
解析は成功。内部の情報はくまなく把握できた。

「……あれ、どこも壊れてない」

なのに結果は、故障箇所なし。まったく問題なく使用できるという矛盾だ。
繋がらない原因は、内部(これ)には一切ない。つまり外部の――――



「サーヴァント戦の現場で第一にするのが、電話で救助の要請とはな。
 超常舞う幻想の舞台でその現実的な手段。呑気なのか。それとも迅速に過ぎるのか」


「!」


何処からも分からない、しかし確実に聞こえた『声』に、全身のスイッチが切り替わった。
撃鉄が上がる。非常時から戦闘時に、思考は燃え上がりながらも鉄の硬度に冷え込む。


叩き割る勢いでドアを叩き外に出る。狭いボックス内ではいい的だ。出た途端、五月に似合わぬ夜気が肌を触る。


903 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:26:10 NRVT3cCY0


「どちらにせよ虚しい行いには違いあるまいよ。
 この地獄の如き監獄街で、あらゆる救いは意味を持たない。
 喉が枯れるまで悲鳴は続き、命の火種が尽きるまで責め苦は終わらない」

見上げた先。ボックスの上に立つ電柱の天頂。
そこには"影"があった。それは"闇"でしかなかった。
姿形もはっきりとしない影法師。しかしそこから発せられる魔力の密度。威圧の濃さは紛れもなく―――

「サーヴァント……!」

すかさずバッグを下ろし、木刀を袋から引き抜く。
サーヴァントとの遭遇、しかも自分のサーヴァントが傍にいない状況。
強化の魔術をかけようが、そんなもので埋まるほどサーヴァントとの差は浅くない。
サーヴァントにはサーヴァントをもってぶつけるしかない。骨身にまで教え込まされた当然の不文律だ。

勝とうなどとは考えてはならない。重要なのは生き延びる事。バーサーカーが事態を察し戻るまでこの場を切り抜ける。
手の甲の令呪を意識しつつ、対峙した影を強く見据えた。

「―――ホウ。判断が早いな。流石に場馴れしている。
 その通り。俺はこの戦場を踊るべく駆り出された演者。
 貴様らが踏破すべ地獄よりの亡者、その数多の荒ぶる魂のひとつだ」

声からして、男というのだけは分かる。
月の後光を背負ってもないのに顔は見えない。それどころか体格の輪郭すらはっきりとしていない。
視界に収めても、ぶれて霞み、かろうじて長いコート……のようなのを着ているらしい。
幻朧と思うほど現実味がないが……一点だけ、この世に確たる存在感を放っている。

眼だ。
赫く、炯々と光る眼。林から獲物を狙う虎じみた獰猛性。
凄絶な意志がこもっている瞳には、まるで世界に己を刻みつけられた疵痕のよう。
それこそが己の証だと語るかのように誇示された緋眼は、このサーヴァントの印象を決定づけていた。


「……ここで戦ってたのは、お前か」

時間稼ぎも兼ねて、言葉を投げかける。
本当に、この跡を残した片割れなのかを確かめたい思いも、少なからずあったが。

「いいや?此処で起きた出来事に俺は関知していない。立場でいえば貴様らと同じさ。
 ふん……二振りの剛槍の衝突を見物しに来たつもりだったが、その結果見える第一の敵が貴様とはな。
 皮肉だ。実に気の利いた意趣返しだ。復讐者と同じ読みをする、正義の味方とはな」

「え――――?」


904 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:32:19 NRVT3cCY0


完全に虚を突かれた。
何を言ったのか、何を言われたのかすぐに理解が追いつかない。

「どうした。何を呆けている。
 今しがた言ったろう。貴様がかつての相棒と共にこれまで殺し、死に様を見てきた六騎……いや七騎か?
 それと同じ倒すべき敵(サーヴァント)だぞ。"五度目の聖杯戦争"の勝利者よ」

五度目の聖杯戦争。
今度こそ聞き逃せない単語だった。

「俺を……あの聖杯戦争を、知ってるのか?」

「はは、はははは。
 ははははははははははははははははは!」

何とか絞り出せた言葉に対し、男はさも上機嫌に哄笑を上げた。

「ああ、知っているとも!知らいでか!
 たとえ俺が始めから知っておらずとも!貴様のような男を俺が見過ごす道理がない!」

男を纏っていた、あるいは男そのものだった闇が厚みを増して噴出された。
闇は男を覆い、男は闇となり、だが内にある眼光の鋭さはまるで失われず俺を睨む。

「邪悪なる企みに巻き込まれただけの一般人。罪を負う謂われもないまま幸福を、過去を奪われながらも、貴様は恩讐の念を抱かなかった。
 地獄の中にあっても生きる希望を与えられ、その全てを悪業の報いにつぎ込んだ男の人生とは余りに違う道を選んだ貴様が――――」


「堪らなく、忌々しい!」


叫びと共に、男の胸に吸い込まれるようにして闇が晴れる。
現れたのはコートを羽織り、ポークパイハットを被る白髪の青年。

「さあ、眼を開け。俺を見ろ。
 怒りがないというなら、せめてその具現を知れ。絶望の化身を刻み込め。
 滾々と無限に湧き出る底なしの憎悪。触れるもの全てを蝕み溶かす毒の黒炎。
 "正義の味方(クライムアヴェンジャー)"等とは比べようのない、本物の復讐鬼の忌み名」

隠されたヴェールを脱いだサーヴァント。息が詰まりそうになるほどの波動の濃さを伴って、その姿と座(クラス)を堂々と晒す。


「我が名はアヴェンジャー!エクストラクラスを以て現界せし復讐の化身!
 貴様が斃した人の性を笑う悪とは違う、人の性を笑いし黒き怨念なり!
 果たして貴様は、我が姿に何を見る?」


―――――何処か遠くの塔で、扉の開く音が聞こえた。


905 : 904訂正:絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:35:00 NRVT3cCY0


完全に虚を突かれた。
何を言ったのか、何を言われたのかすぐに理解が追いつかない。

「どうした。何を呆けている。
 今しがた言ったろう。貴様がかつての相棒と共にこれまで殺し、死に様を見てきた六騎……いや七騎か?
 それと同じ倒すべき敵(サーヴァント)だぞ。"五度目の聖杯戦争"の勝利者よ」

五度目の聖杯戦争。
今度こそ聞き逃せない単語だった。

「俺を……あの聖杯戦争を、知ってるのか?」

「はは、はははは。
 ははははははははははははははははは!」

何とか絞り出せた言葉に対し、男はさも上機嫌に哄笑を上げた。

「ああ、知っているとも!知らいでか!
 たとえ俺が始めから知っておらずとも!貴様のような男を俺が見過ごす道理がない!」

男を纏っていた、あるいは男そのものだった闇が厚みを増して噴出された。
闇は男を覆い、男は闇となり、だが内にある眼光の鋭さはまるで失われず俺を睨む。

「邪悪なる企みに巻き込まれただけの一般人。罪を負う謂われもないまま幸福を、過去を奪われながらも、貴様は恩讐の念を抱かなかった。
 地獄の中にあっても生きる希望を与えられ、その全てを悪業の報いにつぎ込んだ男の人生とは余りに違う道を選んだ貴様が――――」


「堪らなく、忌々しい!」


叫びと共に、男の胸に吸い込まれるようにして闇が晴れる。
現れたのはコートを羽織り、ポークパイハットを被る白髪の青年。

「さあ、眼を開け。俺を見ろ。
 怒りがないというなら、せめてその具現を知れ。絶望の化身を刻み込め。
 滾々と無限に湧き出る底なしの憎悪。触れるもの全てを蝕み溶かす毒の黒炎。
 "正義の味方(クライムアヴェンジャー)"等とは比べようのない、本物の復讐鬼の忌み名」

隠されたヴェールを脱いだサーヴァントは、息が詰まりそうになるほどの波動の濃さを伴って、その姿と座(クラス)を堂々と晒す。

「我が名はアヴェンジャー!エクストラクラスを以て現界せし復讐の化身!
 貴様が斃した人の性を笑う悪とは違う、人の性を怒りし黒き怨念なり!
 果たして貴様は、我が姿に何を見る?」



―――――何処か遠くで、扉の開く音が聞こえた。


906 : 絶望都市に復讐鬼は哭く ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:43:55 NRVT3cCY0
【一日目・未明/C-9 破壊跡】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[令呪]残り三画
[状態]健康
[装備]木刀
[道具]救急バッグ
[所持金]一般よりは多め
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を止める
1:教会に向かう。
2:ルーラーを元凶と認識。居場所を突き止める。
3:自分の経験を伝え、マスターを説得する?
【備考】


【バーサーカー(ナイチンゲール)@Fate/grand order】
[状態]健康
[装備]銃
[道具]救急バッグ
[所持金]緊急時に衣料品を買える程度には所持
[思考・状況]
基本:全ての命を救う。
0:現場での救命活動。
1:傷病者の治療。
2:ルーラーをこの病の根源と認識。速やかに場所を突き止め殺菌する。
【備考】
※現在の治療対象:衛宮士郎
※現在の殺菌対象:ルーラー


【アヴェンジャー(巌窟王 エドモン・ダンテス)@Fate/grand order】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本:"―――待て、しかして希望せよ。"
1:???
【備考】


907 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/05/20(土) 18:47:10 NRVT3cCY0
投下を終了します


908 : 名無しさん :2017/05/20(土) 19:43:41 U8HZGZ/IO
投下乙です

悲劇の体験者の責務とは、その経験を活かして更なる悲劇を防ぐこと


909 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/05/22(月) 00:42:06 SSq7tRis0
投下乙です。
言い回しでの各々のキャラクター性の表現が巧みだなあと思わされました。
行動パターン自体もそうですが、相変わらずの正義の味方の面と普通の少年らしさを両立している士郎、
整然と自説を並べていくナイチンゲール、それにどの台詞も厳かなエドモン・ダンテス。
何といいますか、「今、自分がFate/SNの続きを読んでいるんだ」というのが伝わって来るようです。


それと、少し早いですが予約期間を延長しておきます。


910 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/05/31(水) 20:57:06 h6A8hwMU0
申し訳ないですが、期限内の完成が難しいと思われるため今回の予約を破棄します。


911 : ◆As6lpa2ikE :2017/09/10(日) 17:46:51 4.dsVv.g0
パンナコッタ・フーゴ&セイバー(ランスロット)で予約します


912 : 名無しさん :2017/09/12(火) 19:10:42 T00tE20M0
おお、久しぶりの予約だ!


913 : ◆As6lpa2ikE :2017/09/23(土) 22:13:07 p.oGfk6Y0
予約にヴェールヌイ&ライダーを追加して、予約を延長します


914 : ◆As6lpa2ikE :2017/10/02(月) 10:14:13 o7zxuPd20
すいません、もうちょっとだけ遅れます


915 : ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:29:20 WhRsG40c0
投下します


916 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:30:09 WhRsG40c0
これは、一歩を踏み出した者と、一歩を踏み出すことができない者の物語である。
将来に確かな展望もなく、希望もない。やり直したい過去を後悔し、波乱の現在を進む覚悟を完了した者と、未だそうなれない者──そんな彼らについての奇譚である。
一歩を踏み出したのは、闇の水底へと沈んでいった姉妹の為に、希望を掴まんとする少女。
一歩を踏み出すことができないのは、光の旋風と共に怒涛の戦いへと命をかけた仲間たちに付いて行けなかった自分に絶望する青年。
彼らが足掻いた先に何があるかは、分からない。もしかすれば、一歩を踏み出した先は崖っぷち、という事もあり得るのだ。
はっきりしていることはただ一つ、彼らが立ち、戦い、踊る舞台は実に虚飾に塗れたものであり、一切信用ならないということだけ。
確かに頼れるものはなく、一瞬先の未来さえあやふやな中、曖昧な希望を目指す戦い──そう、つまり。
これは、単なる普通のごくごく一般的な、なんて事はないよくある戦争の話である。

◆◇◆◇◆◇◆◇


917 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:31:15 WhRsG40c0
どうしてこんな場所に来たのだろう――と。
学園の校門を目の前に、パンナコッタ・フーゴは自分の行動に呆れていた。
門は固く閉ざされており、鍵も掛けられている。現在時刻は真夜中なのだから当然だ。
つい数時間ほど前、聖杯戦争の監督役(ルーラー)の使いっ走りを名乗る者――モノクマからホログラムを通じた連絡を受けた。
不気味な熊のぬいぐるみのようなそれが告げたのは、これまで聖杯戦争に対するスタンスに悩み迷う生活を送っていたフーゴに対して、聖杯戦争が本番へと突入するという現実を、否応なしに突き付ける情報であった。
そんなものを見て、心中穏やかでいられるフーゴではない。しばらくは自宅で悶々と過ごしていたが、それでも気が晴れず、気分転換にと少しばかり散歩をすることに決め、気が付けば、まるで引力で引き寄せられたかのように学園の前に着いていた、というわけだ。

「まさか、この世界における僕の日常の象徴とも言える学園に着くことを、僕は無意識の内に望んでいたのか?」

 まさかそんなわけ――と、続けて吐き捨てつつも、それを完全には否定できない自分がいる事が心底嫌になるフーゴであった。そもそも散歩をした理由からして現実逃避のようなものである。ならば、彼の心が、日常の象徴という『戦争』とは真逆の場所を求めるのも無理のない話なのだ。
 溜息を吐きつつ、フーゴは門に背を向け、凭れ掛った。あまり手入れがされてないらしくキィと錆びついた音が響く。
 季節の変わり目を感じさせる夜風を頬に受けつつ顔を上げ、視線を上に向ける。そこにはまるで天の神々が描いたかの如く美しく神秘的な夜空が広がっていた。これが、これから戦争の騒乱に塗れていく運命にある街の夜空とは、とてもではないが信じられない。フーゴの心中で渦巻くネガティヴな感情も、この絶景を見上げれば、少しは晴れそうであった。少し、だが。
 フーゴのすぐ傍には、騎士のセイバー、ランスロットが仕えていた。
月光を受けて光り輝く白銀の鎧は目に眩しい。その上にある整った顔面が放つ美の輝きは、それ以上だ。しかし、その表情には、輝く星空の元に居るとは思えないほどに、暗い翳りが見える。その翳りですら端整な顔立ちに魅力を加える要素となるのだから、全く、美男子というのは得なものであった。
翳りの原因は、マスターであるフーゴが今になっても明確なスタンスを持たないから――ではない。元よりランスロットは己が主が悩み迷うことに、自分がとやかく言うべきではないと一線を引いている。
湖の騎士の美貌に見える翳りは、先ほど『モノクマ』と名乗る監督役(ルーラー)の使いっ走りが出した討伐令に原因があった。


918 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:31:58 WhRsG40c0
 討伐令の対象になった二組と一人を見て、ランスロットが抱いた感情は二つ。 
一つは驚き、そしてもう一つは『何故この者たちが討伐令の対象になるのか』という疑問であった。
 正義を愛し、邪悪を憎む清廉にして浪漫に溢れた理想の騎士たるランスロットであれば、相手の悪性程度、姿かたちを一目見るだけで分かる。
けれども、彼は討伐令の写真を見た瞬間悟ったのだ――『彼らは討伐されるような悪の者ではない』、と。それどころか、討伐令の対象者たちの姿から、善の輝きさえ感じられたのだ。
そんな人物たちを討伐対象者にするルーラーは、実にキナ臭い。信用に欠けるというものである。
こんなルーラーの元でマトモな聖杯戦争など行えるのか。そもそも勝ち進んだ先に本当に聖杯はあるのか?

(この聖杯戦争は、何かがおかしい――)

元より、昭和という舞台にその未来に生きるマスターが呼ばれている時点で今回の聖杯戦争かマトモなわけがないのだが。
ともあれ、そこまで考えて、ルーラーどころか聖杯戦争全体に不信感を抱いたランスロットは、それまで張っていた警戒の思いをますます強めた──本来の聖杯戦争ならば参加者の頼りとなる存在であるはずのルーラーからして怪しいのだから、当然の行動である。
今の彼にとってはルーラー──どころか、それが用意した舞台であろう昭和の冬木の街ですら簡単には信用できないのだ。
そんな風に思考を外に向けたからだろうか──ランスロットは、ある気配を感じ取った。

「この気配は──」

騎士が感じ取った気配は、人の形をした魔力の集合体、超常の力を感じさせる霊基──それ即ち。

「──サーヴァント……!」

その言葉を聞いたフーゴは目を見開き、ランスロットの方に顔を向けた。

「いるのか、セイバー」
「はい」

肯定の言葉と共に頷くランスロット。
気晴らしの散歩に出た先で他のサーヴァントと遭遇するとは、フーゴは運のない男であった──否。
運命から逃れられない男、と言うべきだろうか。
戦いの運命。それは聖杯戦争の参加者ならば、誰もが背負うものである。未だに聖杯戦争に対するスタンスを決められていないフーゴでさえも、それの例外ではない。
ランスロットはサーヴァントの気配のする方向──学園の門を越えた先、グラウンドの方へと視線を向ける。
其処の中央には、橙色の炎がぽつんと空中に揺らめいていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇


919 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:33:29 WhRsG40c0
フーゴは、セイバーと共に校門を飛び越え、敷地内に侵入し、炎の元に近づいていた。
逃げようかとも一瞬考えたが、その考えはすぐさま棄てた。今ここで逃げた所で、そこを追われれば意味がないからである。
夜の学園のグラウンドは当然ながら無人であった。日が出ている間は体育や部活動の生徒達でさぞかし賑っているであろうこの場所も、深夜の今ではがらんと物寂しい雰囲気となっている。
其処に、一人の男が立っていた。
オレンジのテンガロンハットという実に目立つ被り物をしている彼は、しかし、上半身に布一枚たりとも纏ってない。半裸である。もう少し近づくと、彼の頬にそばかすがあるのが目に見えた。見た目からして、歳は二十を超えるかどうかといったところか。
フーゴの視界には『ライダー』という単語を始めに、いくつかのステータス情報が現れる。それが目の前の青年に関するものである事は、言うまでもあるまい。フーゴは視認したライダーの情報を、ランスロットに念話で伝えた。
テンガロンハットのライダー──エースの手元にはフーゴたちを招き寄せた橙色の炎があった。ライターや松明で点けている──のではない。
エースは己の掌から炎を出していた。いや、正確に言えば、掌の一部そのものが炎と化している。何らかの超能力であろうか。スタンド使いとして数多の『奇妙』を目にして来たフーゴであっても驚くほどの超常が、其処にはあった。

「よォ、来てくれたかい」

炎が照らす範囲内にフーゴたちが入った時、エースは口を開いた。何処か愉快げな口調である。
実際、現在の彼の感情は快か不快かで言えば前者であった。何かと退屈な昭和の時代で、ようやく面白そうな相手を見つけられたのだ。仕方のない事である。

「こんなあからさまに誘ったら、てっきり逃げられると思ったが……。そうはならなくてありがたいぜ。追う手間が省けたからな」

笑うエース。その表情から放たれる雰囲気からは、とてもではないが敵意や殺意は感じられない。寧ろ、友好的な感情さえ感じられる。フーゴは、ライダーが纏う穏やかなオーラに、波一つ立たぬ海面の風景を連想した。
しかし、だからと言って気を抜くランスロットとフーゴではない。
目の前のライダーが、ほんの一瞬後には自分たちに刃を向けられる者──戦士である事を、ランスロットは騎士としての直感で、フーゴは元ギャングとしての観察眼で見抜いていた。
明らかな異能。穏やかさの中に潜む凄味──フーゴとランスロットは確信した。
ライダーが手強いサーヴァントである事を。

(ついにこの時が来てしまったか──)

と、フーゴは思った。
自分が聖杯戦争への答えを得る前に、強敵が現れる──前々から心の何処かで危惧していた事。
それが実際に起きてみると──怖い。
恐ろしい。
ギャングとして、一般人では恐怖のあまり失禁してしまうであろう体験も数えきれないほどに経験してきたフーゴですら、現在の状況には恐怖を覚えていた。
やっぱり逃げていれば良かったのかもしれない──と、今更になって後悔しそうになる。そんな思考から、ますます自己嫌悪が進むフーゴであった。


920 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:34:24 WhRsG40c0
(元を辿れば、あの時逃げた事を後悔して、僕は今ここに居るんじゃあないか。だったら、ここでもまた逃げてどうするんだ)

必死に己に言い聞かせ、震えそうになる膝を抑えるフーゴ。
彼は一度深く息を吸い、ゆっくりと吐いて、そして言う。

「消してくれないか」
「ん?」
「その炎を消して欲しい。どういう理屈で体が炎になってるかは分からないけど、点けられるなら消すことも可能だろう? 手元に炎という『武器』がある相手と、マトモな話し合いなんて出来るはずがない」

実に落ち着いた声であった。ディベートにて推奨されるのは、このような喋り方なのだろう。
自分の感情を相手に悟らせず、かつワンクッションを挟み、会話の流れを話し合いに持って行こうとする──現時点でフーゴが出せる最良の言葉であった。
けれども、ここまで来てまさか話し合いに持っていけると思っているほど、フーゴはアマちゃんではない。だが、ここで敢えてその話を出す事で、相手の戦闘意欲を少しでも削ぐ事が出来れば万々歳、という考えが彼にはあった。
エースはフーゴの要求を無視した。
聞こえなかった──わけではあるまい。彼はフーゴの言葉を聞いてなお、炎という『武器』を仕舞わなかったのだ。
その行動が意味する事──それはつまり。

「どうやら、戦いは避けられないようだな」

ここで、ランスロットはフーゴよりも一歩前へと踏み出した。己の主人を守る盾となるような立ち位置である。
彼は残念そうに言いつつ、剣を抜く。月光を受けたアロンダイトは、澄んだ湖の水面のように光り輝いていた。
完璧な騎士たる彼の瞳に迷いはない。マスターに害を為そうとする敵は全て斬り伏せる。ただそれだけであった。

「プハハハ、そういう事だ」

その科白と同時に、エースは拳を構える。彼の拳に灯った炎は、熱量を上げた。まるで、彼の戦意を象徴しているかのようであった。
湖光と炎光が、夜闇の中で対峙する。その空間だけ昼間になっているのでは、と錯覚する程の眩しさであった。

「おれのマスターは聖杯を望んでいるんでね。その為には、おまえたちにここで斃れて貰わなくてはならん」

構えを崩さぬまま、火拳のエースは一歩距離を詰める。

「そうか──」

同じくランスロットも更に一歩前へ出た。両者の距離が二歩分縮まる。
場の空気は先程のそれからは一変し、剣呑極まるものと化していた。対峙する二名の戦士を前に、フーゴは思わず後退っていた。それは、これから始まる戦いでセイバーの邪魔にならないように、という配慮故の行動か、それとも、生物的な本能で命の危険を察知したからか。

「──生憎、手加減出来るほどの器用さはない。覚悟しろ、ライダー」

ランスロットが宣戦布告の言葉を投げ掛ける。その瞬間だった──場の緊張が最高潮に達したのは。
開始のゴングが鳴り響くまでもなく、それは戦闘開始の合図であった。
エースとランスロット、両者は完全に同じタイミングで動き出す──が。

「!」

ここで、ランスロットより後方五メートル程の地点まで退がっていたフーゴは驚愕した。動き出したランスロットが走り向かったのは、敵対者ではなく、フーゴがいる方向だったからだ。

「セイバー!? いったい──」

何をしているんだ──と。
そう続けようとしたフーゴであったが、その言葉は右方から響いて来た轟音によって掻き消された。
ドォン! という、まるで花火を打ち上げた時に鳴り響くような音である。
音に釣られ、フーゴはそれが鳴った方向へと目を向ける。
砲弾だ──野球ボールくらいのサイズの砲弾が、フーゴ目掛けて高速で迫っていた。

「何ィーッ!?」

何故ここで砲弾が飛んで来るんだ。まさかあのライダーの能力なのか。
そんな思考を一瞬の内に巡らせるフーゴだが、先程エースが口にしていた言葉を思い出し、答えに行き着いた。

『おれのマスターは聖杯を望んでいるんでね』

あのテンガロンハットのライダーには当然ながらマスターが居る。それも、聖杯を求めているマスターだ。そして、もしもそのマスターに戦える能力があれば、こうしてライダーとセイバーが戦おうとしている間に、無防備なフーゴを不意打ち気味に攻撃する事は十分にあり得る話なのではないのだろうか──こんな風に。


921 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:35:44 WhRsG40c0
あわや、フーゴは砲弾に撃ち抜かれ、彼の聖杯戦争は始まらないまま終わりを迎える──のかと思われたが、円卓最強の騎士であるランスロットが付いていながらそんな結末はありえない。
ランスロットはほんの一呼吸する間にフーゴと砲弾の間に割り込むようにして躍り出て、フーゴの命を喰らわんと迫る凶弾目掛けて剣の側面を真正面から叩きつけた。宛ら、ベースボールのバッターのようである。
側面から砲弾を受けても、アロンダイトは『無毀なる湖光』の名に相応しく刃毀れ一つしなかった。打ち返された砲弾はランスロットたちから十メートル離れた地点に鋭い角度で着弾。次の瞬間には爆発し、黒煙を上げた。
これら一連の行動を、ランスロットはアロンダイトを握った右手だけでやってのけた。
では、もう片方の左手では何をしていたのか?──エースの攻撃を受け止める為に使っていた。
ランスロットがこれまでの行動をしている間、エースはただ棒立ちしていたわけではない。湖の騎士が見せた隙を目掛けて、飛び蹴りを放っていたのである。

「くっ──!」

歯を食いしばるランスロット。『メラメラの実』の炎によって上昇したエースの推進力は、最強の騎士であっても、受け止めるのが簡単ではないものとなっていた──否。
最強の騎士であるランスロットだからこそ、片手でも何とか持ち堪える事が出来たと言うべきか。

(その気になれば辺り一帯に炎を撒けるであろうライダーを、ここに留めて置くのはまずかろう)

すぐそばに居るマスターを視認しつつ、そう判断したランスロットは、自分の脚力にエースの推進力を足した勢いで、グラウンドの端までわざと吹っ飛んで行った。当然、足を受け止めている左手は離さない為、エースも引っ張られる形で吹っ飛ばされて行く。
砲撃手がいる中、マスターを一人残すのが気掛かりであったが、炎を扱うライダーに比べれば、砲撃という物理的な攻撃手段を使ってくる相手は危険度が低い。スタンドという超常の能力を持つフーゴならば、不意打ちでも受けない限り大丈夫だろう──そこまで考えたが故の行動であった。
ランスロットたちが動き出してから、ここまでにかかった時間、五秒弱。
流星のような勢いで彼方に飛んで行ったランスロット達を目で追うフーゴ。しかし次の瞬間、彼の視線は別の方角に移される──先ほど弾丸が飛んで来た方向だ。
視線の先──グラウンド端の茂みの中からは、煙が上がっていた。砲弾を撃った際に生じたものだろう。そこに、先程の砲撃を放った何者かがいる事は間違いない。
茂みの中から、ガサガサと音を立てながら人影が現れた。砲撃手の登場に、フーゴは身構える。
人影の正体は、少女──白い少女だった。
その肌は、服は、髪は、透き通るように白い。まるで、純度の高い石英で作り上げた彫刻のようだ。夜闇の黒の中で、その白さは尚更際立っていた。
砲撃という破壊力極まる攻撃をして来た者の正体が、こんな人物だった事を、フーゴは意外に思った。
そして、それと同時に。

(こんな幼い女の子でも、聖杯に託したい願いがあるのか──その代償に殺し合いに身を投じても構わないと思える程の願いが)

とも考える。
白い少女の瞳──其処に宿る意思に、フーゴは見覚えがあった。
その意思の名は、覚悟。あの時ボスを裏切り、ボートに乗って行ったブチャラティ達全員の目にあったものである。
かつての仲間達と似た意思を持つ少女を目の前に、フーゴの喉は「くっ……」という声を漏らした。『どうして今ここで、こんな目をした人と会ってしまうんだ』──とでも言いたげな声である。
少女──ヴェールヌイの腰と背中の周りには、戦艦の艦砲のような物体が装備されていた。少女が装備するには重たげなそれが、先程の砲弾を放ったものであるのは、間違いなかろう。


922 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:36:21 WhRsG40c0
「блин……」

ヴェールヌイが呟いたその言葉が、ロシア語で『くそっ』『しまった』を意味するものであると理解出来たのは、フーゴが幼少期から英才教育を受けていた神童であるが故に、語学への造詣が深かったからに他ならない。

(不意打ちは最初の一発で勝負を決められなければ意味がない。だから、彼女はここで茂みに隠れるのをやめて、ぼくの前に姿を現したんだろう)

そんな推察をするフーゴ。彼の考えは当たっていた。
そして、フーゴはヴェールヌイが次に何をするかについても、大凡のアタリを付けていた。

(不意打ちは、最良のタイミングに最低限の力で相手を斃す方法だ。ならば、次に彼女がやるとすれば──)

持っている力を隠さずに、正面からぶつける──だろう。
ヴェールヌイの腰回りの艦砲のような形をした艦装が金属的な音を立てながら動き始める。砲口は、フーゴに照準を合わせようとしていた。

「ぐ……うぅぅぅぅ……」

奥歯を噛み締めて、呻き声を漏らすフーゴ。
こうして敵が目の前に現れた今、スタンドパワーが備わっていないただの砲弾を相手にフーゴが恐れる部分は何処にもない。彼には、それらを迎撃出来るだけのパワーがあるのだから。
では何故、フーゴが辛そうな様子を見せているのかと言うと、ヴェールヌイが放つ覚悟のオーラに気圧されているからに他ならない。
ただの幼子が見せるには、あまりにも重い覚悟──それを少女が完了するに至るまで、どのような経緯があったのだろうか。きっと、フーゴでは想像にも及ばない事があったのだろう。
そして、フーゴは更に考える。
こんな風に覚悟を持って戦いに臨んでいる彼女を相手に、聖杯戦争の方針すら決められていない自分が戦っても良いのか──と。
それはなんとも自虐的な思考。
自分より年下の少女と己の間にある覚悟の差を思い知ったフーゴの精神は、言うならば『戦う前から負けていた』も同然であった。
──しかし。

(それでも……!)

それでも、フーゴはここで負けを認め、ヴェールヌイに殺されるわけにはいかない。
死にたくは、ないから──生き延びたいから。
そこには、フーゴ個人の何かしらの願いに基づく理由など無く、単なる原始的な生存本能によって構成された感情だけがあった。
けれども──いや、だからこそ。
原始的で単純な感情がフーゴの精神を占めれば占めるほど、『それ』の力はより高まる。

「ぐあるるるるる……」

フーゴの体から生き霊のようにして分離した『それ』は、現れた途端、歯軋りを鳴らしていた。
ツギハギだらけの体。見開かれた眼。口端から止め処なく溢れる涎──およそ知性など感じさせられない、その姿。
『それ』は、フーゴの精神が形(ビジョン)を持った存在──スタンド。
その名は──。

「──『パープル・ヘイズ』ッ!」

フーゴは、叫んだ。叫ばずにはいられなかった、己の能力(ちから)の名を。
そうしなければ、彼の心は耐え切れなかったのだ。覚悟を持った者に自分が反撃するという、あまりにも『恥知らず』な行為に。
フーゴは己の心の弱さを、叫び声で誤魔化したのであった。
ヴェールヌイは艦娘という特殊な存在であるが、それがスタンド使いへの適性とイコールであるわけではない。
彼女にはスタンドは見えない。
しかしながら、突然フーゴが上げた叫びから、『彼が何かした』という事を察する事は出来た。
リアクションとして、ヴェールヌイは瞬時に艦装から砲弾を発射する。
ドドンッ!──次は、二発同時に放たれた。
迫る砲弾。その威力は、戦艦の装甲を貫通出来るほどのものである。人に当たればどうなるかなど、言うまでもあるまい。
しかし、フーゴに着弾するまであと五メートルとなった瞬間、それらの進行方向は急に逸れた。

「なっ──!?」

信じがたい現象であった。まるで、『砲弾が不可視の力で横から思いっきり殴られた』かのような不可思議である。
進行方向が逸れた弾丸は、そのままフーゴが存在しない方向へと直進。彼から離れた場所へと着弾し、爆音を鳴らす。
着弾地点から上がる黒煙は、これから始まるスタンド使いと艦娘の戦いの狼煙のようであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇


923 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:37:38 WhRsG40c0
ポートガス・D・エースは、ランスロットに対し驚いていた。
現在、エースはランスロットに足を掴まれ、彼と一緒に空中を吹っ飛んでいる──そう、足を掴まれているのだ。
エースの『メラメラの実』の能力は自然(ロギア)系であり、体そのものが炎と化すものである。当然ながら、先の飛び蹴りの時も、エースは己の体を炎へ変えていた。
だというのに──だというのに、だ。
ランスロットは、それを片手で受け止め、どころか不定形の炎と化したエースの足を掴んだのである。
そんな芸当が出来るのは、『覇気』の使い手しかあり得ない──そう、ランスロットは『覇気』の使い手であった。
ランスロットが生きた時代に『覇気』なる概念は存在しないし、彼にはそれを習得しているという自覚はない。
しかし、ランスロットはスキル『無窮の武練』を所持している。
それは、ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練の証──『覇気』の習得に武を極める必要があるというならば、ランスロット以上にそれを所持するのに相応しい英霊は存在しないだろう。
また、ランスロットの宝具のひとつである『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』 の、『武器と認識した物体にDランク宝具相当の神秘を付与する』という効果が、『覇気』の一種『武装色の覇気』に酷似しているのも、彼が『覇気』の使い手であると考えれば、すんなりと納得のいく話であった。
相手は自然(ロギア)系の長所を無効化する『覇気』の使い手──だからと言って、焦るエースではない。
そもそも、彼が白ひげ海賊団の一員として戦っていた頃は、そんな相手との戦闘など、両手で数え切れないほどあったのだ。
己に不利な相手でも、泥だらけで戦い、打ち負かす──それが、『海賊の誉れ』である。
エースは両手の人差し指を交差(クロス)させ、叫んだ。

「『十字火』!!」

途端、十字型の炎熱のビームが発生し、ランスロットの顔に向かって直進する。
エースが十字を作った時点で嫌な予感を感じていたランスロットは、首から上を動かす事でビームを避ける事が出来た。湖の騎士の美貌を汚す事が叶わなかった『十字火』は、そのまま天高くまで昇っていった。
回避に意識を向けた一瞬の隙を狙い、エースはランスロットの左手の拘束から逃れる。そのまま流れるような動きで炎を噴射し、彼我の距離を離す事に成功した。
空中にて離れ離れになった両者は、数メートルの距離を置いて、別々の位置に着地する。
地面に両足をつけた瞬間に、ランスロットは気付く。自分の周囲の空間に、いくつもの小さな光が浮かんでいる事を。それは、まるで夏の風物詩である蛍が飛んでいる風景みたいであるが、実際はそんな趣深いものではない。

「『蛍火』──」

光の正体は、火の玉──つまり、これは『メラメラの実』の能力者であるエースの攻撃である。
己の掌から今もなお火の玉をポポポポ……と放出するエース。『蛍火』の群は、ランスロットの周りを完全に包囲していた。

「──『火達磨』!!!」

エースの声を契機に、火の玉は一点──ランスロット目掛けて殺到する。
四方八方、全方位から迫ってくる火の玉。これをまともに食らえば、火達磨と化し、死は免れず、仮に免れたとしても、戦闘の続行は不可能となるに違いない。
『無毀なる湖光』は閃いた。

「はっ!」「とうっ!」「せいっ!」

ランスロットが掛け声ひとつあげる間に、剣閃が十、二十と描かれる。常識を遥かに上回る剣速である。
時に体を捻らせ、時に死角にも剣を届かせながら、アロンダイトを縦横無尽に走らせるランスロット。
彼は『蛍火』を次から次に斬り刻んだ。
やがて十秒が経ち、火の玉による怒涛の猛撃は終了する。
ランスロットは、当然のようにダメージひとつ負っていなかった。
しかし、エースの攻撃はまだ終わっていない。


924 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:38:51 WhRsG40c0
「消えた!?」

『蛍火』を全て斬り刻んだ事で晴れた視界に、エースの姿はなかった。
次の瞬間。ランスロットは上空に気配を感じ、顔を上げる。
そこには、星々が浮かぶ夜空を背に、高度十メートルの高さまで跳び上がっているエースがいた。
彼にとって、『蛍火』が防がれる事は想定内。あくまで次の本命を確実に当てる為に、ランスロットの視界を防ぐ弾幕の役割として放った技だったのである。
では、本命とは何か?
エースは右拳を上空に向かって突き上げた。

「『大炎戒』──」

そう口にした瞬間、彼の右拳が膨張し、半径五メートルの巨大な火の玉と化した。

「──『炎帝』!」

『大炎戒・炎帝』とは、エースが使う技の中でも最大級の威力を誇る必殺の一撃──そして、今彼が放ったのは、それのスケールを小さくしたものである。
本来のスケールでこの技を放てば、グラウンド全域を飲み込む火球を生み出せる。しかし、そうすればマスターのヴェールヌイまで巻き込んでしまう。そうしない為の、やむを得ないスケールダウンであった。
けれども、スケールが小さくなったからと言って、その火球が下級の物であるわけでは断じてない。
現にランスロットは、太陽のようなその火球に、太陽の騎士、ガウェインのイメージを錯覚した。
エースはランスロット目掛けて、火球を撃ち放つ。
夜空の下で太陽が落ちるという、現実では起こり得ない光景が見られるこの状況は、まさに伝説と幻想入り混じる聖杯戦争ならではのものであった。
ランスロットは考える。これからどうすべきかを。
今から火球の範囲外へと走って逃げる?──否。現時点での火球との距離とその大きさ、その速度から考えて、回避は不可能である。

「ならば……!」

ランスロットは両手で握ったアロンダイトを下段に構える。
エースが今し方放った技は、高ランクの対軍宝具のレベルの代物。ならば、それに対しランスロットが切るカードも当然ながら宝具である。

「最果てに至れ──」

詠唱を呟きながら、アロンダイトに魔力を込める。
生半可な宝具であれば、耐え切れず破壊されているであろうほどの魔力を込められても、アロンダイトは煌々とした輝きを放つだけであった。

「限界を超えよ──」

太陽と湖の騎士の距離が五メートルを切った。
アロンダイトの輝きは詠唱が進むにつれて増して行く。

「彼方の王よ、この光をご覧あれ!」

そして、火球が触れるまであと一メートルとなった瞬間、ランスロットは下段に構えていたアロンダイトを振り上げた。今にも爆発せんばかりの光を纏ったアロンダイトは、残像を描きながら走る。

「『縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)』!!」

そして、『大炎戒・炎帝』と『無毀なる湖光』は衝突。
その勢いのまま、ランスロットは剣を振り抜いた。正面から真後ろへと流れるように、剣を振り上げ、振り下ろしたような動きである。
かくして、ランスロットの宝具を受けた火球はどうなったか。
一瞬後、剣が通った跡に、青い筋が生じた。
更に一瞬後、筋から青い光が漏れ出した。溢れ出る魔力。それは、まるで湖のようであった。
紅球が青光に蹂躙されて行く──!

「なっ……!?」

と、あり得ないものでも見たかのような顔をしながらそんな声を漏らしたのは、エースであった。
無理もない。彼が放った『大炎戒・炎帝』が、まるで包丁を落とされたトマトのように真っ二つにされたのだから。
アロンダイトの斬撃は、見事太陽に勝ってみせたのである──と言いたいところだが、何もこれはランスロットの実力だけで成功した芸当ではない。
ランスロット──湖の騎士。
彼は、幼少の頃から湖の乙女に育てられ、その事から『湖の騎士』という異名を持つ男である。また、彼が持つ聖剣『アロンダイト』も、湖の乙女が直々に作り上げた物である。
つまり、ランスロットとアロンダイトは、『湖』という水場の性質を有しているのである。
そんな存在が、『悪魔の実の能力者』という水に弱い性質を持つエースが放った火球に斬りかかればどうなるか──有利な判定を得ないわけがない。
つまるところ、ランスロットが『大炎戒・炎帝』を真っ二つに出来た理由は、彼とアロンダイトの出自に大きく依存していた。
もしも、彼とアロンダイトに湖の性質が無ければ、こうはならなかっただろう。いや、エースが『大炎戒・炎帝』のスケールを小さくせずに、本来の威力で放っていれば、流石に真っ二つには出来なかったはずだ。
詰まる所、ランスロットは相性と偶然でこの場を潜り抜けるのに成功したに過ぎない──もっとも、それらを掴む時の運こそ、戦争では重要視されるものなのだが。
真っ二つにされた事で、火球の中心には、隙間が生じた。
それを潜り抜けるようにして、エースがいる上空へと飛び上がるランスロット。彼の真下にて、半々になった火球は着地し、轟! という音と共に、爆炎を噴き上げた。


925 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:40:26 WhRsG40c0
(勝った!)

そう確信し、エースの首を断ち切らんと、剣を閃かせるランスロット──だが。

「────」

空中に飛び上がった事で、遥か遠くまで見渡せるように開かれたランスロットの視界──その一点、教会がある地点に突如出現した、光の柱。湖の騎士の視線は、あまりにも目立つそれに向けられた。
柱はあまりにも神々しく、力強い光であった──そう、それは。

「最果ての光……」

ランスロットはどこかの特異点で、あるいはあり得たかもしれないイフの歴史で、その光を見た事があった──その光の所有者についても知っている。

「まさか、我が王が……いや、そんな……まさか……」

ランスロットは、所有者がいかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力の発揮を保証するスキル『無窮の武練』を所持している。
そんな彼であっても、光の柱を目にしてから数瞬の間は、動きが鈍っていた。それ程までに、今ランスロットが見た光景は、彼にとって相当ショッキングなものだったのだ
結果、エースは寸でのところでアロンダイトを回避するのに成功。それと同時に、『火拳』をランスロットの腹に叩き込もうとした。
ここに至って、ようやくランスロットは意識を戦闘へと向け直し、エースの拳をアロンダイトで受け止める。しかし、足場のない空中では踏ん張れず、その勢いのまま地面目掛けて落下して行った。
危うく先程火球が落下し、今も炎が轟々と燃え盛っている地点に落ちかけたランスロットだが、空中で魔力を放出する事で落下する方向を修正し、炎に侵されていない地点へと着地した。遅れてエースも着地する。

(さて、次はどうする……?)

ハンドスナップと共に周囲の火の海を消しつつ、エースは次の攻め手を考えていた。最大級の技は先程攻略されたばかりだが、それで諦める彼ではない。他の手を考えるまでだ。
一方ランスロットも戦闘に関する思考をしていたかと言うと、そうではない。
現在、彼の思考は先程目にした光の柱一色に塗りつぶされていた。
あの光は本当に自分が知っているものだったのか。ただの見間違いではないのか。その地点に己の王は居るのだろうか。
そんな思考が、ランスロットの脳内をぐるぐると駆け回る。
気になる。気になる。気にせずにはいられない。今すぐにでも教会に向かい、真実を知りたい。

「────くっ!」

苦悩の末、ランスロットは高速で駆け出した。ただし、エースがいる方角ではなく、フーゴとヴェールヌイがいる方角である。

「なっ、まさか……!?」

ここで突然マスターたちがいる方向へと駆け出したランスロットに度肝を抜かれるエース。
ここでマスターを狙われたらマズイ──そう考えたエースは、僅かに遅れてランスロットの後を追うのであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇


926 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:41:04 WhRsG40c0
ただならぬ雰囲気で始まったフーゴとヴェールヌイの戦闘だが、残念ながら彼らの戦闘はおよそ戦闘と言うにはあまりにも酷いものとなっていた。
一言で言い表すなら、泥仕合である。
フーゴの『パープル・ヘイズ』の射程距離は五メートル。それ以上外には害を与えられない。範囲外にヴェールヌイに対して、フーゴが出来る行為など、皆無に等しかった。
一方、ヴェールヌイもヴェールヌイで、フーゴが使う不可視の力を警戒し、彼に近づこうとせず、逆に近づかれたとしても離れるだけ。未知の危険に無闇に突っ込んでいかない慎重性と冷静さこそ、ヴェールヌイを不死鳥の戦艦たらしめる要素であった。
元ギャングのスタンド使いとは言え、身体能力はゴロツキに毛が生えた程度であるフーゴが、艦娘として鍛錬を積んでいるため身体能力の高いヴェールヌイに、グラウンドという開けた場所で距離を詰めるのは難しい話である。
一応、ヴェールヌイは数秒毎に砲撃を放ってはいる。が、放った砲撃は全て不可視の力(スタンド)で弾かれていた。
両者の距離は常に一定であり、特に面白みのない膠着状態。
すぐ近くで剣撃と炎熱の派手な戦闘が起きている中、そんな地味な戦いが繰り広げられていた。

「ねえ──」

何度目かの攻防を終えた後、フーゴはふと口にした。
聞きたいことがあったのだ。

「良ければでいいんだけど、きみが聖杯に託す願いを教えてもらってもいいかい」
「それを教えれば、貴方は私に道を譲ってくれるのかな」
「…………」

沈黙するフーゴ。
ヴェールヌイは一度深い溜息を吐き、続けた。

「亡くした姉妹を、取り戻すためだよ」

フーゴは息を飲んだ。
ヴェールヌイが口にした願い──亡くした誰かを取り戻す。
それは、フーゴが選び掛けていた願い──チーム全員が生き残る結果が欲しい──と、願いの種類としては似たものだったからだ。

「き、きみは……」

震える声で、フーゴは言葉を紡ぐ。

「その願いを叶えるのが、正しい事だと思っているのか? 他者がそれを『良し』とすると……?」

それだけ見ればヴェールヌイの願いを非難するような口調だが、フーゴからしてみれば、それは自分の願いが正しいのか間違っているのか分からずに混乱したが故に出てしまった言葉である。
彼の言葉を受け、ヴェールヌイは少し悲しそうな表情を見せた後、口を開いた。

「……きっと私は間違っているんだと思う。この街にやって来てから、何回そう考えたか数え切れないくらいだ。だけどね、それでも……間違っていると分かっていても、私はこの願いを叶えたいんだ──叶えなくちゃならないんだ」

『割り切れないもの』をなくすために──と。
そう答えるヴェールヌイの瞳に、迷いの色はない。

「…………『割り切れないもの』をなくすために……」

ヴェールヌイの言葉を復唱するフーゴ。
そうすれば、自分も何か答えが得られるような気がして──そして。


927 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:42:51 WhRsG40c0
「マスター!」

そして、彼の思考は突如高速で駆け寄って来たランスロットによって、中断させられた。
残像が見える程のスピードで地を駆ける湖の騎士は、その速度を緩めぬまま、フーゴを抱き抱える。
ランスロットの接近にヴェールヌイは身構えたが、ランスロットは彼女に目もくれず、付近のフェンスに向かって跳躍。
後から遅れてやってきたエースは、ヴェールヌイの無事を確認した後、両手を指鉄砲の形に曲げ、

「逃すかよぉ! 『火銃』!!」

と叫んだ。すると、指鉄砲の銃口部分から火の弾丸が音速を超えたスピードで飛び出し、ランスロット達目掛けて飛んで行く。逃走しようとしているランスロットの背中はガラ空きだった──が。
不思議なことに、火の弾丸は悉くあらぬ方向へと飛んで行った。『この美男子は幸運の女神すら虜にさせているのでは?』と思わずにはいられない現象である。
ランスロットが湖の乙女の加護によって危機的な局面で幸運を呼び寄せるスキル『湖の騎士』を所持していなければ、今頃彼は焼けた蜂の巣となっていただろう。

「せ、セイバー!?」

ランスロットに抱き抱えられるというこの世全ての乙女が羨み嫉妬するであろう格好のまま、フーゴは困惑した口調で言った。

「すみません、マスター。貴方に刃を向けた者たちを倒してもいないのに、戦闘の場から離れて行くという、騎士道にあるまじき行動を、どうかお許しください。けれどもそれには深い理由が──たった今、私にはやらなくてはならない事が見つかったのです」

申し訳なさそうでそう言うランスロットだが、彼の足は目的地に向かって一つの迷いもなく進んでいた。
こうして、聖杯戦争におけるフーゴの初戦は、泥仕合の末の逃亡という、まあ、人類の戦争史を紐解けば大して珍しくもない結末を迎えたのであった。


928 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:43:19 WhRsG40c0
【一日目・未明/C-2】

【パンナコッタ・フーゴ@恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] スタンド『パープル・ヘイズ』
[道具] なし
[所持金] そこそこ
[思考・状況]
基本:どうすれば……?
1:割り切れないもの、か……
2:セイバー!?
[備考]
※ヴェールヌイ&ライダーと接触。彼らの戦闘能力を把握しました。

【セイバー(ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態] 魔力消費(小)
[装備] 『無毀なる湖光』
[道具] なし
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本:騎士としてマスターに仕える。
1:この聖杯戦争は何かがおかしい
2:あの光は……!?
[備考]
※ ヴェールヌイ&ライダーと接触。彼らの戦闘能力を把握しました。
※ C-9地点にて発生した『光の柱』及びそれに関わる人物を知っているかもしれません。誰なんでしょうかね。

【Верный@艦隊これくしょん】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] そこそこ
[思考・状況]
基本:姉妹を、取り戻したい。
1:願いのために、戦う。
[備考]
※パンナコッタ・フーゴ&セイバーと接触。フーゴの能力については、完全には把握できていません。

【ライダー(ポートガス・D・エース)@ONE PIECE】
[状態] 魔力消費(小)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本:マスターのために戦う
1:セイバーを逃しちまった……
[備考]
※ パンナコッタ・フーゴ&セイバーと接触。セイバーの戦闘能力を把握し、彼を聖杯戦争の参加者の中で間違いなく上位に位置するサーヴァントだと認識しました。




※ C-2地区で大きな破壊を伴う戦闘が行われました。


929 : 拍手喝采ディストーション ◆As6lpa2ikE :2017/10/09(月) 22:43:48 WhRsG40c0
投下終了です


930 : 名無しさん :2017/10/10(火) 23:12:08 UYEr4hpA0
投下乙です。無窮の武練+騎士は徒手にて死せず≒武装色の覇気という論理でエースを掴む妙意といい、ランスロットの戦上手さが光る
そしてあと王の気配感じたので即帰るランスロットお前、お前……w
一方で覚悟が決まらないフーゴ、ヴェールヌイに勝負の前から圧されてしまう。ウイルスも飛ばさないあたり恥パより悩みが強そう。鍵になるサーヴァントは王に走って行っちゃうし……キレてもいいんだよ?


931 : 名無しさん :2017/10/11(水) 03:49:46 kZg2d3qs0
正気でも狂気でもやる事変わらんな此奴


932 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 00:50:56 pZeS9CnI0
>>891の内容で再度予約します。


933 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:32:22 uv2EP3kY0
投下します。


934 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:33:36 uv2EP3kY0
 




 犠牲無き世界など ありはしない

 気付かないのか

 我々は

 血の海に 灰を浮かべた地獄の名を

 仮に世界と

 呼んでいるのだ








935 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:34:20 uv2EP3kY0



 悪しき魂は、正しき魂の全てと共存出来ない。何故ならば、一方が悪であるから。
 悪しき魂と悪しき魂の間ですら、共存は叶わない。何故ならば、一方が弱者であるから。
 虚(ホロウ)とはこの世界における悪であり、異種も同種も喰らって強さを得る怪物だ。その在り方の到達点の一つが最上級大虚(ヴァストローデ)であり、ティア・ハリベルという名の虚(ホロウ)もまた最上級大虚(ヴァストローデ)の一体であった。
 数え切れぬ魂を犠牲にして確立された彼女の自我が、無為な犠牲を生む行為への忌避感などという自らのアイデンティティに反するに等しい思考を何時、何故抱くようになったのかは定かでない。
 ただ事実として言えるのは、彼女はある時期から仲間を作り、無用な争いを避けるようになり、統率者として模範的な姿となったということだ。
 しかし、それは決して彼女が恒久的平和や博愛の素晴らしさに目覚めたことを示すのではない。
 彼女は知っている。犠牲無き世界など存在しないことを。
 己と、己の愛する者達を犠牲としないためにはより強大な力が必要であり、それは犠牲を生み出す結果を容易に招く。己を中心とする小さな集団の外側に位置する大多数の者達からすれば、唾棄すべき蛮行だ。
 その事実を理解していながら、しかしティア・ハリベルは犠牲を否定しない道を選択した。
 彼女の愛する者達を護るため。護られる者達から愛された彼女自身を、護るために。
 それが、彼女の意志。虚(ホロウ)としては実に正当な力の使い方。齎されたのは、清らかさとは対極と言うべき、血と死に塗れた永い記憶。

――奏さん……同僚の子に言われたことがあるんです。「あなたが優しいから、みんなが優しくしてくれるのよ」って。
――自分では当たり前のことをしているつもりだったんですけど、こうして誰かから大切に想われているんだって改めて伝えられると、嬉しいですよね。
――だから思うんです。こういう私の一面も、大事にしていきたいなって。

 ティア・ハリベルを僕として呼び出した少女と交わした、何気ない会話の一端を思い起こす。
 一時の主となった少女――新田美波は温かな情の持ち主であり、それ故に周囲からの思慕を獲得しているという点では、新田美波とティア・ハリベルは近しい性質を持っているのかもしれない。
 しかし、同じではない。
 人々の夢と理想を演じる新田美波の愛が万人へと向けられるのに対し、ティア・ハリベルの愛が向けられる範囲は有限だ。
 新田美波が「可能な限り犠牲を避けたい」と考えているのに対し、ティア・ハリベルの思考は「犠牲は避けられるなら避けるに越したことはない、しかし避けられない場合において自らの手で犠牲を生み出すことに臆する気など無い」という段階へと踏み込んでいる。
 何より、虚(ホロウ)は人間を斬り伏せたところでいちいち心を痛めはしない。人間の習慣に例えれば、雑草を刈り取るか羽虫を叩き潰すのと同程度の行いでしかないのだから。
 ティア・ハリベルは正義の味方ではない。世界に求められた守護者でもない。新田美波の愛する世界を、ティア・ハリベルは愛していない。己の意思一つ次第で何時でも無辜の者達に害を、悪を為せる。
 それでも、ティア・ハリベルは民衆に刃を向けない。魂魄を喰らい尽くすことによって持てる力を際限なく高められる己の性質を理解しながら、それを実行に移さない。
 理由は一つ。世界における二者の立場の隔絶を知った上で、ティア・ハリベルが剣を手に取った動機への共感と敬意を示した新田美波の人間性が好ましかったから。
 新田美波のため、彼女の愛する者達のためならば、再び剣を振るうのも悪くないと思えたのだ。
 かくして『悪霊』ティア・ハリベルはこの戦争において守護者たらんとする。己が虚(ホロウ)であることを否定はせず、しかし虚の敵を守らんとする。
 守護するべきは、新田美波。新田美波を取り囲む世界。新田美波に慕われたティア・ハリベル自身。

「セイバーのサーヴァントで合っているな」

 彼女のためにも、選択を誤ってはならない。
 避けられる限りで犠牲を避けようとした、遠い記憶の中の己へと再び近づかねばならない。

「答えろ、お前は『悪い奴』か」

 民衆が崇める希望の象徴が、正しき魂と言うべき英霊の写し身が、目の前で敵意をむき出しにしている。
 その名はロボット超人・アースちゃん。
 可能ならば、彼女とも敵対せずに済ませたいものであるのだが、どうにも難しそうだ。






936 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:36:20 uv2EP3kY0



 昭和の街を生きる上での困り事の一つが、記憶の混濁であった。
 美波が本来の記憶を取り戻したのは、確か2週間ほど前のこと。その後、美波が本来生きていた21世紀の時代の中で染み着いた癖が、美波自身を悩ませたのである。
 例えば、冬木に突如現れた『安土城』について大衆がどのような印象を抱き、考察しているのか知ろうと考えた時、まず「インターネット上のSNSを調べてみよう」という発想に至る。勿論、昭和の時代にそんな物は無かったんだっけと数秒後に気付かされた。
 例えば、約束を取り付けた友人との合流のために現在位置を知らせようとする時、鞄からごく自然とスマートフォンを取り出そうとしてしまい、その仕草が不自然では無かったかとそっと周囲に目配せする羽目となった。
 こういった時代錯誤が直接的な原因となる例に留まらない。冬木市民としての肩書きもまた同様だ。
 この昭和の世界における364プロダクションは、まだ老舗と言えるほどの歴史は無くとも芸能事務所としては既に大手と言えるほどに成長しており、さらなる事業展開のために東京都内の本社とは別に支社を設立している。その活動拠点として選ばれたのが、西日本においてある程度の隆盛を見せている冬木市であった。
 加えて、346プロは本来であれば確か21世紀に入ってからアイドル事業に着手していたはずだったが、この世界ではどういった経緯からか昭和におけるアイドル黄金期到来前の段階で既にアイドル事業に着目していたようだ。そして既にアイドルのスカウトとメディア展開を行っており、346プロ冬木支社を中心に活動する新田美波もその一人であった。
 この事実がどう厄介なのかと言えば、人間関係が様変わりしてしまっていることだった。
 「346プロで出会えるアイドル」と言われて連想する顔触れは、元の世界ではおよそ200人近くに上っていた。それが昭和の冬木では精々が20人以下と言った程度。アイドル文化が21世紀の頃ほど定着していないせいか頭数自体が美波の記憶よりも少なくなっていて、そしてその殆どが東京都内の本社に所属している状態であった。確か、神谷奈緒や北条加蓮などは向こうの本社所属だったか。
 当然、ユニット活動の様相も別物だ。「ニュージェネレーションズ」と言われたら島村卯月・渋谷凛・本田未央の3名を思い浮かべるのが当然で、しかし実際にはこの世界のアイドル業界に本田未央はいないらしい。
 「ラブライカ」や「≪蒼ノ楽団≫」のように美波の関係するユニットは結成自体が最初から無かったものとなっており、美波はデビューから今日までずっとソロ活動のアイドルという経歴の持ち主ということになっていた。「アインフェリア」で共演したこともあったはずの鷺沢文香にしても、今はアイドルではない単なる学友だ。
 事務所のスタッフと交わす会話で、存在していないはずのアイドルの名前をうっかり口に出さないようにと情報を整理し直すことに少しの時間を要したものであった。
 人間関係の話で言えば、アイドル業界以外も同様だ。家族はともかくとして、大学で出会う友人の半分以上が、元の世界では全く会ったことの無かった人物だ。彼等と友人として一緒に過ごした“こととなっている”記憶は脳内に残されているからまだ良いものの、どうにも違和感が拭えないのも事実だ。
 しかし、だからと言って冬木市内限定の人間関係に対して嫌悪感があるというわけでは無い。人間として好感を持っているのは事実であり、たとえ別世界の人間であったとしても彼等には犠牲になってほしくないとも思っている。

「あら、アイラちゃん。おはよ」
「おはようございます、美波さん。ここにいたんですね」
「うん。ちょっとね。あ、前の席空いてるよ」

 久々に訪れたオフの日、大学構内の大食堂で朝の時間を過ごしていた美波の前を、一人の少女が通りかかる。冬木における美波の学友の一人、アイラだった。
 椅子に座ると共に微かに揺れた鮮やかな銀髪と、数年前に海外から日本に移住しているという経歴を持つ彼女は、改めて見るとこの街にいないアナスタシアを思わせる。

「新聞……何か気になるニュースでもあったでしょうか?」

 アイラが持っていたのは一部の新聞紙。美波がテーブルの上に広げているのもまた、数部の新聞紙。二人が考えていることは奇しくも同じであるようだ。
 いや、同じということにしなければ。


937 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:37:39 uv2EP3kY0

「うん。ほら、この前の社会学の講義でレポートの課題出されたじゃない? それに関係しそうなニュースを見てたの」
「じゃあ、その付箋を付けてるのは」
「これ? アースちゃんの活動について、ってテーマにしようと思ってて。関係しそうな記事のチェック」

 語った言葉の半分が真実で、残り半分は嘘だ。
 レポートの課題を出されたのは事実であるが、アースちゃんを対象として情報を集めていたのは大学生では無く聖杯戦争のマスターとしての方針故のことだった。
 爆発事故、大火災、殺人事件、正体不明の建造物と、この冬木市では既に幾つもの異常事態が発生している。これらの中には人間社会では決して起こり得ない、人間を超越した力による凶行も含まれていることは想像に難くない。
 こうした負の方向へと力を向ける者達がいる一方、アースちゃんという少女は別方向で異端な存在だった。
 その人間離れした容姿や身体能力だけを指しているのではない。大衆が何の抵抗も無く彼女を受け入れていることこそが特異なのだ。
 誰がどう見ても普通の人間では無いどころか、自分がロボット超人であると公言している彼女に対して、誰もが奇異の視線を向けないのだ。少数ならともかく全くのゼロというのは、彼女が讃えられるべき善行を積んでいるからというだけでは説明が付かない。
 それこそが彼女の持つ異能の力の一端なのだろうと、セイバーがいつか美波に語っていたのを覚えている。暗示か、或いは一種のカリスマか。
 しかし、そういった事情を知って尚、美波はアースちゃんに対して特に疑いの目を向けているわけでは無い。
 彼女が善意によって人助けに勤しんでいるのは決して嘘ではなく、それならば聖杯戦争で生じる犠牲を可能な限り避けようとしている美波と協力体制を敷くことも可能であると考えられた。
 ……尤も、アースちゃんのパートナーとなる人物の人柄までは把握していないし、そもそもこうして美波がアースちゃんに対して肯定的評価を下していること自体が彼女の異能の影響ではないかと言われたら、完全に否定することも出来ないが。
 それでも、美波は出来ることなら人の善意を信じていたい。人々を救うアースちゃんのエネルギー源が、嘘偽りの無い想いであるのだと。

「何か法則性でも見つかればレポートの方向も定まるんだけど、なかなか見つかりそうになくて」
「苦労しそうですね……」

 だから。
 新田美波は、平気な顔で嘘を吐く。

「何かヒントになりそうなもの貰えたら嬉しいけど」
「……すみません。私もアースちゃんについてはよく知らないので」
「そっか。ううん、いいの」

 聖杯戦争における敵対者になるかもしれず、そうでなかったとしても巻き込んで被害者にしてしまうかもしれない相手を無闇に関わらせるわけにはいかない。そんな理由で、美波は自らの抱えた事情をアイラに隠している。
 記憶の混濁には、既に再度の適応を済ませている。演技だって、それなりに出来る方だと思っている。
 だから、怪しまれること無く嘘を吐くことが出来る。
 嘘の無い善意によって人の希望となるアースちゃん。彼女と手を取り合うために、新田美波は希望を胸に、人に嘘を吐く。
 たとえ、少しの後ろめたさがあろうとも。

「あの、」
「アイラちゃんは」
「……お先にどうぞ」
「ううん、アイラちゃんから」
「はい、では……美波さん、きちんと休めているのでしょうか」

 ぎくり、と一瞬だけ身体が固まった。


938 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:38:56 uv2EP3kY0

「って言うと……?」

 実の所、昨晩は普段と比べると明らかに睡眠時間が足りていなかった。
 無理も無い。ルーラーを名乗る白黒の熊から告げられた聖杯戦争の本選開始、そして討伐令の内容が内容だ。倒すべきとされた数名のマスターとサーヴァントの中に、あの渋谷凛の顔があったのだ。それも、マスターでは無くサーヴァントとして、だ。
 この冬木市でも渋谷凛が高校生兼アイドルとして生活していることは既に把握している。その彼女との関係がいかなるものであるか、今の美波には知る由も無い。無いということは、万が一にも「渋谷凛」という少女の身が脅かされる可能性も否定出来ないということであった。
 露骨なまでの悪意を振る舞いから感じさせるルーラーの甘言に乗せられる者が、いないとは限らない。そもそもが奇跡の成就を懸けた争いの渦中なのだ、誰もが美波と同様の倫理感だけで己を律するなどと言い切れない。
 ……どうにかして、「渋谷凛」を守らなければ。
 同僚として、年長者として自然と浮かぶ発想は次に打つべき行動への思案となり、それには仲間を想うがための心労も伴う。結果として、それは睡眠不足という負担を生むこととなってしまった。
 まさか、この僅かなコンディションの違いをアイラに見透かされたのか。そうだとしたら、これ以上を下手に勘ぐられないようにしなければ。

「近頃はずっと働き詰めで、休みもなかなか取れていないと聞いたので」
「え? あ、そういう……」
「昨日の講義で隣に座っていた人達が話しているのを聞きました。たぶん、美波さんのファンクラブの会員の人達です」

 ……というのは、杞憂だったようだ。
 アイラは単に美波の多忙さを憂えていただけであった。

「あまりに根を詰め過ぎて、身体を壊してしまっては元も子も無いと思います」
「……うん。気を付けてはいるんだけどね」
「すみません。出過ぎたことかもしれませんが、仕事と勉学でそうして忙しくしているのを見てると、どうしても気になってしまうので」
「ありがとうね。アイラちゃん。でも」

 純粋に美波を労わっての言葉であることも、声色に心配の感情が宿されていることも十分に理解出来て、その優しさが身に染みるようだ。
 しかし、いや、だからと言うべきか。

「ファンの人達の声が嬉しいから、どうしても応えなきゃって思っちゃうの」

 それは、美波が平常通りに過ごすための重要なファクターであった。
 新田美波は、己がどのような人間であるかをいつも気にかけていると言っても良い。そして、どんなことも万全にこなせる人間でありたいと絶えず心掛けている。
 それ故だろう。新田美波の活躍を望む声が聞こえてくるなら、それに応じるのが美波の務め。時代の違いのために歌や衣装の傾向が違ってしまっていても、求められる姿に合わせて、適応して、自分の物とする。
 こうして立ち振る舞う自分自身を見つめて、変わらぬ己を再確認する。
 勿論、突然に生活スタイルを一変させることで周囲から下手に疑われないように、という懸念が普段通りの生活を続ける第一の理由ではあるが、こういった動機があることもまた事実ではあった。

「……それに、最近物騒なことが続いてるから、尚更アイドルの私が頑張らなきゃなって」

 だから、そんな美波を見つめてくれた人達のために、美波なりに手を尽くしたい。
 大きすぎる脅威が皆に迫っているなら、美波の得た剣の力で被害を食い止めたい。どうしようも無い暴威で皆が傷付いてしまったなら、美波の培った魅了の技術で励ましたい。
 聖杯に懸ける願いの全てを否定しようだなんて思い上がるつもりは無い。美波はただ生きて帰りたいだけ。それと同時に、望んだわけでも無い誰かが争いの炎に晒される未来は防ぎたいと思っただけのこと。
 だって、新田美波はアイドルだから。一人のマスターである前に、皆の希望で憧れだから。


939 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:39:48 uv2EP3kY0

「凄いです」
「そうかな」
「はい。でも、だからこそ美波さんは自分のことを大事にしてください。もし大学を休むにしても、その間の講義ノートくらいなら私が貸しますので」
「ふふ。ありがとう、アイラちゃん……実はね、もしかしたらこれからはちょっと大学を欠席するかもしれないって思ってた頃なの」
「そうなんですか……だとしたら、少し寂しいですね」
「うん。色々あるだろうから、ね。あ、今話してたレポートは勿論ちゃんと完成させるけどね?」

 現実的な問題として、これまで通りの日常を過ごすことは最早難しくなっているだろうということは理解している。現に犠牲者が出てしまっている今、そう言わざるを得ない。
 聖杯戦争で発生した事態への対応のためにも、それ以外の事柄に費やす時間は減らさざるを得ないだろう。まずは大学への出席を減らし、可能ならば事務所の人間にもアイドル活動の仕事量の減少……場合によっては一時的な活動休止も頼んでおきたいところである。
 美波が今日大学の敷地内に訪れたことにしても、元はと言えばその旨を知人の誰かに伝えておきたかったという事情もあってのことだったのだ。

「だからアイラちゃん。さっきの言葉に甘えさせてもらってもいいかな?」
「はい、勿論ですよ」
「ありがとう。それと、嬉しかったよ。私のこと気遣ってくれて」

 やはり今日こうして大学を訪れたのは正解であった。
 失いたくないと思える人と、こうして言葉を交わせたのだから。

「伝えたいことを伝えられるうちに伝えておかないと、後悔しそうだと思ったので」
「……ふふ。アイラちゃんのそういうところ、すごく立派」
「そう、でしょうか」
「うん」

 彼女にとっては至極当然の行いだったのかもしれないし、もしかしたら何らかの経験に基づいての考えだったのかもしれない。
 その辺りの事情まで知らないにしても、大切なのは彼女が美波に意思を伝えてくれたこと。ならば当然、こちらも伝えたいことを伝えるまで。
 僅かに頬に朱が差すアイラの姿が、なんとも愛らしい。こう思っていることも、いっそ伝えてあげようかな。

「――……ん?」
「今、何か音がしなかった? 地震、なのかな……?」

 そんな思考は、周囲が妙に騒がしくなり始めたことで隅に追いやらざるを得なくなった。

「おい、なんか落ちて……」「……あれ、人か……」「ヤバそうな武器持って……」

 聞き取りづらい雑言の数々の中、その一言はやけにはっきりと聞こえた。

「アースちゃんだ、アースちゃんが戦ってるんだ!」
「…………え」

 美波が探し求めていた正義の超人との対面の時は、美波の想像よりも遥かに速く訪れたようだ。







940 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:41:29 uv2EP3kY0



 ライダーのサーヴァント、アースちゃんは正義の味方だ。困っている人を助け、困らせるような人を退治する。
 そのためには物事を『善』と『悪』に二分する必要があり、そしてアースちゃんはいかなる状況でも『悪』の判定を速やかに下してきた。己の経験と価値観に裏打ちされた見識に基づいて、である。
 ……その判定基準の精度はともかくとして。少なくとも、一切の非の無い者を『悪』と判定することは基本的に無いと言えた。
 そんなアースちゃんであるから、彼女は今回の聖杯戦争の関係者の何名かを既に『悪』と見なしている。
 ふざけた態度で人の正義感を逆撫でするルーラーは、『悪』だ。来訪者を生きて帰さないと評判の奇妙な城の主も、『悪』だ。目に見える『悪』がこうも揃っているとなれば、目に見えない『悪』はその何倍も蠢いているに違いない。
 ならば、速やかに対処しなければならない。そして出会う者達の悉くが『悪』に手を染めているとなれば、最早聖杯戦争そのものを『悪』と見なす以外に道が無い。
 そして、今回の『悪』はアースちゃんが過去に対峙してきたそれらと比べてもあまりに異質であった。
 その代表的な例が、奇妙な城、もとい「安土城」の存在だ。
 アースちゃんは一度だけ、観察または鎮圧のために「安土城」への入城を試みたことがあった。しかし、結論を言えばその土を踏むことも無く退却する羽目になった。

 ――これは、駄目だ。

 理由など、その時アースちゃんの感性を刺激した気配だけで十分に過ぎた。
 「安土城」から、その城壁を介して発せられる城主の存在感、魔力の性質から察せられるそれが。重く、どす黒く、あまりにも禍々しい異質なそれが。アースちゃんに搭載されたレーダーを強く刺激し、鋼鉄のボディにすら“悪寒”などというものを感じさせるほどであったのだ。
 同時に、それは神化の時代を生きたアースちゃんにとって未知の体験であった。
 アースちゃんがこれまで成敗してきた『悪』は、ただの人間か超人、或いは怪獣であった。いずれも社会を揺るがすことはあるが、それだけだ。
 姿を晒しただけで迫力によって弱者を卒倒させるだとか、国一つを容易く破滅させらせる実力を持つだとか、そんな芸当を可能とする大悪党など所詮は子供騙しの創作物の中にしかいないものとされていた。
 人知を超えた力を持つ超人が、怪獣が存在する。彼等の持つ異様さに、しかし人々は、社会は慣れてしまう。その結果、人類史に刻まれるべき英雄譚など有り得ないと冷笑されるのみとなった。怪獣は超人によって排斥され、やがて超人もまた人間によって淘汰されていく。
 神化とはそういう時代、そういう世界であった。
 しかし、「安土城」は違う。数多の超人達とは最早別格と言える真の『悪』、存在それ自体が既に邪悪。神化にはいるわけがない、しかし昭和では甦ってしまった、正真正銘の絶対悪。

 ――あまりにも、違う!

 その時アースちゃんが一目散に撤退を選んだのも無理からぬ話であった。過去に類を見ない強大な『悪』を前に、無策で突撃する程アースちゃんは愚かではない。理性の上では、アースちゃんは自らの判断を正しいものであったと考えている。理性の上では、だ。
 しかし、アースちゃんの正義感は己を許さない。放置すればどんな被害を生み出すかも分からない『悪』を前に、おめおめと逃げ帰った自分自身が情けなくて堪らない。
 その屈辱は根深い。マスターであるアイラに出迎えられて帰宅した時も、「安土城」は危険だから近付くなと警告するしか出来なかった時も、ただ耳を傾けて「そうですか」と相槌を打つのみで、未だに何かを隠し続けるアイラに歯痒さを感じた瞬間も。ずっと、心に巣食っていた。


941 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:42:20 uv2EP3kY0

「……あれは」

 そして、今日も。
 市内の偵察の最中、いかなる原理かブースターの装着も無しに空中で佇んで人々の喧騒を見下ろす、白装束に褐色の肌の女を捕捉した今この時だって、アースちゃんはあの日の屈辱と怒りを忘れていない。
 だから、それは無理も無い話であった。
 白装束の女の発していた魔力――或いは、霊圧と言うべきだろうか――の質が、「安土城」のそれと近しい物であったがために。
 本人の価値観の如何以前の問題、存在すること自体が『悪』。サーヴァントが霊であるなら、その中でも奴は紛れも無く悪霊であると悟ったために。
 アースちゃんは、正義の遂行のための行動へと移ったのだ。

「『悪い奴』か!?」

 本能が告げる。
 正義の使者としての直感が訴えている。
 この女は正義の反対側にいるのだと、強く訴えかけている!

「……お前は、っ……!?」
「おおおおぉぉっ!!」

 標的へと向かって、ジェット噴射でひとっ飛び。
 白装束の女の腰には、一振りの剣を納めた鞘。クラスは恐らくセイバーか。その得物を抜かせる暇など、アースちゃんは与えない。
 両拳を突き出す。咄嗟に肢体を庇った女の両腕へと、ぶち当てる。
 突撃の勢いはまだ死んでいない。さらに加速、そして二人揃って下方へと直行。地面へと墜落した。







 アイラと美波が学生達の集まる中庭へと駆けつけた時に目にしたのは、二人のサーヴァントが睨み合う姿だった。
 一人はアイラのよく知るアースちゃん。もう一人の白装束の女は初めて見る。見て、思わず目を背ける。
 何も彼女の姿が醜悪だったというわけでは無い。ただ、本能的に恐怖を感じたのだ。ただの印象だけで人を竦ませるあのサーヴァントは、いったい何者だというのか。
 周囲へと目を配れば、大抵の者が声も上げずに事の行く末を見守っている。いや、アースちゃんの雄姿を前にしても尚、白装束の女が恐ろしくて声も上げられないのか。アイラと同じく、皆が恐れているのだ。
 ただ一人の、例外を除いて。

「……美波さん?」

 隣に立つ新田美波は、真っ直ぐに二人のサーヴァントを見つめていた。
 その顔は、どういうわけなのだろう、他の者達と比べれば恐怖心を強く抱いていないようにも見えた。
 まるで、白装束の女の発するプレッシャーに既に慣れているかのように。ただの小市民が持つはずの無い何か強い心構えを、既に得ているかのように。
 そのことを不思議に思った瞬間、白装束の女がちらりと目配せし、美波の視線と交錯したような気がした。






942 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:43:06 uv2EP3kY0



 激突と共に巻き上がる土煙の中、女の姿を再び捉えるよりも先に腹部に衝撃を感じた。視界が晴れるにつれて、アースちゃんは自分が蹴飛ばされたのだと理解する。
 周囲には既に人々が集まり始めている。十代の若者ばかりであることから察するに、どうやらアイラが通っているらしい大学の庭にでも落下したらしい。
 彼等の向ける恐怖の視線にも構うことなく、アースちゃんから一度距離を取った白装束の女からの視線がアースちゃんに刺さる。

「随分な挨拶だな」

 不遜に、臆さず、女はアースちゃんを睨む。その眼に込められた敵意は、アースちゃんにも劣らない。
 ボディをひりつかせる威圧感は、未だ消えない。自らの直感の正しさを再確認するに十分だ。

「セイバーのサーヴァントで合っているな。答えろ、お前は『悪い奴』か」

 投げつけた詰問は、決まりきった答えの再確認を目的としているようなものだ。
 ……いきなり殴りつけられたことを責めることから返答を始め、自分の悪性を誤魔化すための理屈をこねる可能性も考えられた。その場合、確かにアースちゃんが責められる謂れが無いとも言えないため多少は困ったことになるのだが。
 しかし、セイバーらしい白装束の女からの返答はまた別種の問い掛けであった。

「人目に付く場所で殺り合うなど……という話を聞く気は無いか」
「今すぐにお前を倒せば済む話だ」
「……アースちゃん、だったか。お前にとっての『悪』とは何だ」
「人を困らせたり苦しめたりする奴のことだ。他に何がある」
「ならば、今は『悪』ではないのだろう。見ての通り、人々を苦しめるような真似には及んでいない」

 淡々と答えるセイバーは、次の瞬間には自らの右手を振り上げていた。音速を超える動きでセイバーに掴みかかったアースちゃんの左手を制するためにだ。

「先に言っておくが、私のマスターはこの聖杯戦争に対して否定的だ。志はお前とかけ離れてはいない」
「だったらお前はどうだ? お前自身は、お前のマスターと同じく正義の人間なのか」
「……少なくとも、人間ではないな」
「私には分かるぞ。今までやっつけてきたどんな悪者よりも、お前が恐ろしい奴だってことが」
「随分と乱暴な理屈だな。子供の見識と同程度だ」
「正義の超人だから当然だ……いや、私だってお前みたいな奴には会ったことが無い。そのくらいお前はおかしい奴なんだ」

 片腕をアースちゃんの五指でぎりぎりと固く握られ、膠着状態になりながらも互いの目は怯まない。冷めた目つきでこちらを見つめ返すセイバーを、焼き殺さんばかりに目で射抜く。
 その痩身に反し、セイバーの筋力はロボット超人の誇る剛腕にも決して負けていない。こんな力を、無力な人々に暴威としてふるったらどうなるか、想像するまでもない。
 アースちゃんの運動性にも対応出来る瞬発力ならば、僅かな時間で一体何人を切り伏せられることが可能なのだろうか。そして、彼女は何度それを実践したのだろうか。

「たくさん悪いことをしてきた奴を、私が信じると思うのか」
「……」
「沈黙は否定と同じだ」
「そう言われてもな」
「……気に入らないな」
「私が『悪』であることを否定しないことか?」

 ああ、気に入らない。お前のその態度が、全く気に入らない。
 怒りのまま、先程のお返しとばかりにセイバーを蹴り飛ばした。数メートルは弾き飛ばされてなお、生意気にもその剣を抜く素振りを見せない。


943 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:44:18 uv2EP3kY0

「私に罪を突き付けられても、そうやって涼しい顔を崩さない、自分の悪行を全く悔いていないお前の態度がだ!」

 吠えるアースちゃんの記憶を過るのは、ジュダスという名の少年だった。とある事情により悪事に手を染めることとなってしまったが、そのことを反省して自らの力を正義のために役立てようと決めた超人だった。
 彼の場合は、やむを得ず『悪』の側に立ってしまったこと、そんな自分を否定的に見ることが出来ていたから、アースちゃんも信用してみようかという気になれた。
 一方で、このセイバーはどうだ?
 アースちゃんの知るどんな悪党共とも比べ物にならない、悪辣な存在感。その性分に従って引き起こしただろう非道を責められても、まるで罪悪感を抱いていないのがよく分かるその冷血な目。
 ……ああ、分かっている。お前は確かに、嘘を吐いてはいないのだろう。
 だから、お前を信じろと?
 もう絶対に悪いことをしませんだなんて「嘘」を?
 悪いことをするのに何の抵抗も無いような、生まれながらの怪獣を?

「今更正義のために戦うなんて私は信じない、信じたくも無い。お前みたいな奴は、結局何かあったら平気で人間を切り捨てるに決まってる!」

 展開させていた外部パーツのスティックを両手に取る。このスティックは、人型形態時には『悪』を成敗するための武器にもなるのだ。
 尤も、全ての『悪』を根絶するまで折れること無く使い続けられる保証も無いのだが。
 目につく連中が『悪』ばかり。監督役もまともじゃない。『悪』ではないと期待出来そうな人吉璽朗と魔女っ娘は、行方知れずで助けにも行けやしない。マスターの少女は、理由も告げずに「嘘」を吐いてこちらを悩ませる。
 頭を悩ませる事案ばかりでふつふつと募った怒りが、セイバーという絶対的な『悪』のせいでいよいよ暴発寸前だ。
 ……結局は、単なるタイミングの問題だったのだろう。『善』と出会うことなく『悪』ばかりを認識してしまったことで、達成感や安堵感よりも怒りが勝ることとなっただけのこと。
 しかし、アースちゃんには最早些細なことだ。『悪』を許さず、『悪』に屈することを許さないアースちゃんが、目の前の『悪』を前に落ち着いてなどいられようか。
 そうだ、最早語り合う間すら惜しい。
 どうせ決まっている。
 この女は『悪』だ。
 いいや、それだけじゃない。こんな奴を従えている時点で――

「お前なんかと一緒にいるマスターだって、どうせお前と同じくらいの嘘つきで卑怯者な――」

 追撃しようとブースターを働かせると同時、激情のまま罵倒の言葉を吐き出したその瞬間。
 アースちゃんの頭部の僅か1センチ左側の空間が、ごう、と灼けた。

「――ん……だ……」

 はらり、と。アースちゃんの頭髪が焦げ付き舞い落ちる気配。ざらざら、と。風圧の余波だけで木々が揺れる音。一瞬の内に完全に静まり返った空間一帯を満たす、死の気配。
 齎されたのは、セイバーの片手から瞬時に放たれた極光であった。
 放たれた一閃は、単なる威嚇だったのだろう。それだけの行動でありながらアースちゃんの思考を一瞬でもホワイトアウトさせるまでに、疾く、重く。
 思わず、セイバーへの敵意によって固く握られていた拳も弛緩する。
 観衆と化していた人々が堪らず恐怖の悲鳴を上げる。その中でも、セイバーの声は怜悧な響きでアースちゃんへの聴覚へと届く。


944 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:45:45 uv2EP3kY0

「私が敢えてお前に虚閃(セロ)を撃った理由が分かるか。自分が何を言ったか、誰を侮辱したのか、思い返せ」
「あ……」
「他人を侮るのも大概にしろ、堅物の機械人形が」

 すうと細められたその双眸が。ただ佇んでいた時とは異なる、刺々しい激昂を纏った威圧感が、アースちゃんへと突き刺さる。
 次は確実に撃ち落とすと、言外に訴えている。
 鋼鉄のボディが、また強張ったのを自覚する。
 しかし、二人の間の緊張感が炸裂することは無く。

「……場所を変えるぞ」

 ちらりと、大衆の方を一瞥して。次の瞬間、セイバーの姿は消えていた。
 どこへ行ったのかと見回せば、いつの間にかセイバーは学舎の上に立っているではないか。そう思った瞬間、またセイバーが消える。
 気配は感知出来る。追うことは十分可能だ。
 周囲の人間を巻き込まない場所へと移動するからついて来いというところか。
 ……彼女がそんな判断基準を持っていると思われたことが、今更ながら意外だった。







 人の敵が、人と容易に分かり合えるわけが無いことは理解していた。ただ、第一歩の時点でここまで不都合な状況に陥るというのは流石に予想外であった。
 恐怖に呑まれる無力な大衆、怒れるのは猪突猛進を地で行くような正義の使者。ハリベルの言葉で場を収めるのは困難に過ぎる。
 ……本心を言えば、沈静化のために自らを取り巻く生命全てをいっそ殲滅してしまっても構わないとは思っていた。まさしくアースちゃんに糾弾された内容そのもののやり方だ。
 アースちゃんの見識は正しい。ハリベルは『悪』だ。
 しかし、新田美波という人間はそうではない。
 あの善良な気質の少女は、人の死を悲しむだろう。人が物言わぬ骸と成り果てることを、彼女は望まないだろう。
 そして、美波の心が傷を負うことをハリベルは望まない。だから、ハリベルは殺人を選ばない。
 敵意を向けるアースちゃんに可能な限りで対話を持ちかけたのは、偏に美波のため。
 そして力の片鱗を見せたのも、やはり美波のため。
 怒りによる一撃は、アースちゃんに多少の落ち着きを取り戻させた。不本意な形であったが、改めて対話を持ちかけることは可能だ。

「……やはり、難しいか……」

 護衛のために美波の通う大学の敷地内で待機していたのは、不運と言うべきか幸運と言うべきか。ともかく、結果的には美波が事態の把握をするのにそう時間を要さずに済んだ。ならば、取るべき次の一手はこうなる。
 響転(ソニード)の連続によって喧騒の中を離脱し、アースちゃんを適当な場へと誘導する。しかし、あまり遠ざかるわけにもいかない。アースちゃんが追いつけるのは当然として、念話で交信できる彼女が辿り着ける程度の距離にある場所にしなければ。






945 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:47:01 uv2EP3kY0



 セイバーによって誘導されたのは、人気の無い一棟のビルの屋内であった。辿り着くまでに要した時間は、一分弱程度であっただろうか。
 壁に背を預けて立ちながらアースちゃんの到着を待っていたセイバーは、腕を組んだまま佇む。刀は、やはり鞘に収められたままだ。

「戦うんじゃないのか」
「こちらの話を聞く余裕くらい持て」
「……私と、何を話すことがあるんだ」
「人類にとっての守護者なのだろうお前と、人類からすれば悪性の怪物に違いない私との間の隔絶について、今更認識を改めろと言うつもりは無い。私の存在自体を『悪』と見なすのは、お前の勝手だ。好きにすればいい」

 だが、と。セイバーはそこで一呼吸置いた。

「私のマスターの志を嘘と貶めることまで認めるつもりは無い。私の話を聞くつもりが無くとも、私のマスターの話にくらい耳を傾けろと言っている」
「お前の、マスター?」
「そこにいる」

 セイバーの瞳がちらりと動く。その先を目で追ってみると、そこにはセイバーでもアースちゃんでも無い第三者がいた。
 いた、と言うよりも現れたというべきか。十代にしては大人びていて、しかし二十代にしてはまだ顔に幼さの残る一人の女性が、額に僅かな汗を滲ませ、ぜえぜえと荒く呼吸する姿があった。
 ……まさか、二人を追ってここまで全速力で走って来たのだろうか。

「あ、のっ。あなた、アースちゃんさん……で合ってます、よね?」
「……お前は?」

 息も切れ切れのまま、しかし疲労感への弱音なんかを吐くよりも先にその女性はアースちゃんに問う。
 「アースちゃんさん」なんて妙に畏まったその呼び方は、在りし日の魔女っ娘を思い出させた。

「私、新田美波っていいます。そこのセイバーさんのマスターで……出来れば、あなたの味方でありたいと思っています」
「お前が……」
「お前の信念とやらにそぐわずとも、私は私のマスターの道を切り開き、犠牲を避けるためにこの力を振るうと決めている」

 真っ直ぐに、アースちゃんへと向けられる眼差し。籠っているのは、きっと誠意。
 それに合わせるように、彼女の側へと立ったセイバーからの視線にも不思議と敵意が感じられなくなっていた。

「たとえ私がお前にとっての『悪』だろうとも、私は……『私』が、マスターに願われた。この願いさえ否定するなら、それこそが私にとっての『悪』だ」

 正義の側にいるのは自分であるはずなのに、今の状況はどこか居心地の悪いもののように思えた。






946 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:47:35 uv2EP3kY0



 アースちゃんが、空の彼方へと飛び去って行く。
 その様を見届けてようやく、全力疾走の疲れと交渉の気疲れで美波の身体は脱力し、地面に尻餅をつく。
 一先ず、落ち着く時間は得られたようだ。

「大丈夫か?」
「私の方は全然平気ですよ。それよりセイバーさんの方こそ、怪我とかしてないですか?」
「あの程度で傷を負うほど弱い肉体ではない。案ずるな」
「なら、良かったです」

 唐突に接触することとなったアースちゃんがいきなり敵対心をぶつけてきたことは、その対象とされたハリベルから見ても流石に短慮が過ぎないかとは思ったが、残念ながらそれを責めたところで通じる相手にも見えない。
 ならばこのまま応戦してやるべきかと思考したハリベルは、騒ぎを聞き付けたのだろう美波の姿を捉えると共に方針を転換、アースちゃんとの対話を試みた。
 正確には、美波とアースちゃんの対話だ。そのために大学敷地内から離脱しつつ念話にて美波に合流地点を伝え、その場に美波が到着した時点でいよいよ交渉ということであった。
 その結果、アースちゃんが現時点で美波達を標的としないとこと、確実に害悪であると見なせる相手が現れた場合には共闘も視野に入れること等が取り決められた。
 アースちゃんは美波の提案を呑んだのだ。あれだけハリベルを目の敵にしていたこととは不釣り合いなほどに、あっさりと。

「一体どういう気の変わり方をしたんだ、あのアースという奴は」
「でも、いいじゃないですか。このまま仲間になってくれるなら、良いことです。この街のヒーローが一緒に戦ってくれるなら、心強いことですよ」
「ヒーロー、か」
「……セイバーさん?」

 暫くの間、何かを思案していたハリベルはやがて口を開く。

「大切なことだから先に言っておく。マスター。万が一の時には、私を切り捨てることを考えろ」

 それは、自らの死を予見したも同然の発言であった。

「……………………それ、どういう意味ですか」
「生まれながらの『悪』である私は、今回のように無条件で敵意を向けられてもおかしくない立場にある。その私と行動を共にすること自体が、お前の立場を悪くすることだって有り得る。今回にしても、運が悪ければお前があのアースちゃんとやらに殴り掛かられていたかもしれないんだ」

 アースちゃんとの交渉の中で、覚悟の表明として言わざるを得なかったことがある。
 もしもハリベルが『悪』であると本心から確信したら、美波諸共討伐されても決して文句は言わない。だから、じっくりと見極めてほしい。
 こうして美波が自分の身を危険にさらしたのを、ハリベルは面白く思わなかったのだろう。

「だから、必要ならセイバーさんとは別れてほしいって……私に、セイバーさんを見捨てろって言うんですか?」
「言っておくが、お前が気に病むことではない。サーヴァントなど所詮は並み居る英霊の複製のようなもの、遅かれ早かれ消え去る運命が定められている幻想の産物だ。私の消滅は決して『悪』ではないし、お前の負うべき責任でもない」

 またも、ハリベルは美波を突き放す。
 人間と共存出来ない自分自身の性質を理解しているがために、美波との別離を全く躊躇わない。
 ハリベルはただ、美波の損得のみで物を言っている。


947 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:48:16 uv2EP3kY0

「元より虚(ホロウ)としての自己の死など惨めなものだ。だから」
「嫌です」
「……拒絶を口に出すのは簡単だろうな。しかし、本当に必要な局面となったらもう一度私の言葉を」
「嫌ですって言ってるじゃないですか……!」

 体力がまだ戻らない身体の、それでも出せる限りで反発の声を上げる。
 地面に腰を下ろしたままの美波をハリベルが立ったまま見下ろしている構図は、まるで我儘を言う子供に呆れる親のようにも思えた。

「そうやって私を気遣ってくれる人だから尚更見捨てたくないって、セイバーさんも分かってますよね。だから、そういうことをもう言わないでください」
「もし言ったら?」

 でも、我儘だから何だというのだろうか。
 本当の気持ちを誤魔化さなければならないくらいなら、子供みたいな態度と揶揄されて十分だ。

「怒ります。いっぱい!」
「……………………マスター。お前、意外と強情なんだな……いや、負けず嫌いか?」
「それも、たまに言われます」
「……まあ、覚えておく」

 それきりこの悲嘆しか生まない会話を続けようとはせず、代わりにセイバーは美波に手を差し伸べた。
 その手を掴み、なんとか立ち上がる。脚にも少しずつ力が戻りつつあるから、ゆっくり歩くくらいなら支障はない。肩を貸そうかとの提案は、やんわりと断った。
 こんな風に何のことはないただのお喋りが出来なくなるのは、やっぱり嫌だなと思いながら。

「そうだ、セイバーさん」

 忘れてはいけない、悲しい別れを迎えたくない相手がもう一人いる。

「あの、私の体力が戻ったら凛ちゃん達のロケ地に行きませんか? もう少しすれば凛ちゃん達も現場入りするでしょうし」
「そうだな。急ぐか」
「え? はい、出来れば……」
「そうか」
「へ? ひゃっ!?」

 言うが早いが、美波の身体はハリベルに抱え上げられた。いわゆる、世の中の少女達が憧れるというあの体勢であった。
 突然の狼藉への意見とか抗議とかそういう感じの色々なものを唱えるよりも先に、ハリベルが美波と共に空へと駆け出す。
 僅かに火照りの残る肌を叩く冷風が妙に心地良く感じられて、やっぱり今はこのまま身を委ねることにした。






948 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:48:49 uv2EP3kY0



――ごめんねアイラちゃん。私、ちょっと見てくる。
――美波さん、もしかしてあの二人を追うんですか? 危ないですよ! というか、追いつけるわけが……
――うん、分かってる。でも、ちょっとどうしても気になることがあるの。大丈夫、変に深入りはしないから。じゃ、また今度ね!

 美波は大丈夫と言っていたが、それでアイラが納得出来るわけではない。
 大学の中庭からぱたぱたと駆けていく美波を見送ってから、やっぱり放っておけないと追いかけることにしたのはただ単純に美波の身を案じてのことであった。
 走り出して暫く経ってから息が上がり始め、体育会系人間との体力の差を痛感させられたこともあったりしたが。天運が味方してくれたのか、どうにか美波の姿をその目に捉えることは出来た。身体機能が衰え始めているギフティアのアイラからすれば、最早奇跡と言っても良い成果だ。
 勿論、その時その瞬間までアイラは予想していなかった。あの二人のサーヴァントの対峙した場面で美波が無意識に見せていた表情に、こんな意味があったなんてことは。

「――美波さんが、マスター……?」

 どこかの廃ビルの中から姿を見せたのは、白装束の女のサーヴァントだった。その時ようやく、彼女のクラスがセイバーであることをアイラは視認した。
 そして、セイバーのサーヴァントの隣を歩いていたのは他でも無い新田美波であった。柔和な表情で何かを話す様は、美波とセイバーが良好な関係を築いていることの表れとしか思えなかった。
 思わぬ光景に言葉を失うアイラの前で、美波はセイバーに抱きかかえられたまま空へと消えていった。距離が空いていたためだろうか、アイラがいたことには最後まで気付かなかったようだった。
 そして一人置いてけぼりとなったアイラの嗜好は、程なくして新田美波が抱えている秘密へと辿り着いた。

「美波さんも、私と同じなんですね」

 新田美波がマスターであるとして、彼女もまた聖杯を求めているのだろうか。アイラのように、どうしても掴み取りたい未来があるのだろうか。そのためならばと、他者と敵対することを躊躇わない程の願いというものが、彼女にもあるのだろうか。
 ……いや、どうにもアイラの知る彼女の人物像とは結びつかない。
 美波が無欲な人間であるという話ではない。人々を笑顔にすることが彼女の望みであり、そのための手段として彼女は今日まで多様な技術を磨き上げていて、そして彼女は彼女の出来る限りでの行いをしようと心がけている。
 アイドルとしての新田美波を鑑みれば、そもそも願望器としての聖杯を欲する理由が無いのではないかと思わされるのだ。
 彼女が無害な人間であることは、アイラの右手首に刻まれた令呪が未だ消えていないこと――美波の従えるセイバーのサーヴァントが結局アースちゃんを倒すことは無く、恐らくはそもそも交戦すらしなかったことからも察することが出来た。
 つまり、美波はアイラと同じスタンスを持つことを意味する。正確に言えば、アイラの“表向きの”スタンスと一致しているに過ぎないのだが。

「なら、私は……?」

 聖杯戦争のマスターとしてのアイラは、新田美波と敵対しなければならない。
 マスターであることを一方的に把握したアドバンテージを活かすなら、このまま彼女を欺き続け、貶めなければならない。
 綺麗事も誤魔化しも許されない。戦争に勝つとは、汚泥に塗れた忌まわしい記憶を頭に刻むことを意味しているのだと、アイラだって理解している。
 ……可能、なのか?
 アイラは知っている。誰かの人生に残された時間を、少しでも長く幸福で彩ろうとすることの素晴らしさを。大切な人との別れに嘆き悲しむ人々の心を癒そうとすることの尊さを。
 アイラは知っている。知っているだけではない、今も鮮明に覚えているのだ。
 ターミナルサービス課の一員として培った大切な記憶が、新田美波のアイドルとして成し遂げようとすることの価値を知らしめる。立場は違えど、目指すものは近しいのだと訴えかける。
 ツカサと。ミチルと。カヅキと。皆と共に歩んだ『過去』の続きを、『未来』をアイラは欲している。そのために誰かを傷付けて泣かせようとする『現在』のアイラの姿を、他でも無いアイラの『過去』が否定する。この齟齬がアイラを苦しめて悩ませる。
 ……もう、迷うための時間すら、満足に残されていないというのに。
 決断を遅らせた先の末路など、全ての幸福を忘れ去った徘徊者(ワンダラー)への変貌だけだというのに……!

「アースちゃん……私、困ってますよ」

 今もどこかで人々を救わんと奮闘しているのだろうアースちゃんへと、呼びかける。
 その声はアースちゃんへと届かず、アースちゃんは今のアイラを救いに駆けつけたりはしない。
 二人の間には、遠い距離があった。
 悲しいのと同じくらい、ほっとしている自分がいた。






949 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:50:17 uv2EP3kY0



 新田美波という少女と交わした会話は、特に拗れるようなものでもなかった。
 美波がマスターであると同時に、アイドルと呼ばれる職業に就いていること。聖杯戦争には乗り気でなく、平和的なやり方で生還出来れば十分と考えていること。セイバーの素性は理解しているが、美波の方針に従う意思を既に確認していることを聞き出した。
 その上で、アースちゃんは美波に頼まれた。自分達と協力し、害意のある者達から身を守る手助けをしてほしいこと。悪の属性を持つセイバーを信じられなくとも、美波のサーヴァントとしてのセイバーを見定める時間を設けてほしいこと。
 そして。

――アースちゃん……でいいですよね。貴方のマスターにも伝えてもらえませんか。一緒に、皆の希望を守りませんかって。それと、よしよかったら一度会いたいということも。
――私のマスターに?
――だって、アースちゃんのマスターだっていうくらいなら、その人も私達やアースちゃんと同じように、この戦争にも否定的なんですよね?

 新田美波は、アースちゃんとアイラの主従が共に聖杯を求めていないのだろうと予想していた。
 その予想が真実であるならば、美波とアイラを対面させることには何の問題も無いことであった。
 そう考えようとして、アースちゃんはアイラの「嘘」に秘められた可能性の一つに思い至った。
 彼女は、願いはあるが人を傷つけてまで聖杯を求める気は無いと言った。その言葉こそが「嘘」で、本当はどうしても聖杯を獲得しなければならないほどの切迫した事情を抱えているのだとしたら――?

――分かった。伝えておく。
――良かった。私達のこと、信じてくれるんですね。
――……。

 もしもアイラが『嘘つき』であり、もしも『悪い奴』になり得るのだと露呈したら、アースちゃんが取るべき道は一つしかなくなってしまう。

「何が、嘘つきは許さないだ」

 互いを信頼し、共に『善』を為そうとしている新田美波達との対話を続けるのが、正直に言ってしまえば、苦痛だった。
 後ろめたい事柄を抱えたまま、それを悟らせること無く自分達のことを信じさせ続けるだけの優れた弁舌をアースちゃんは持っていない。自分の主の隠された真意を放置したまま、得意顔で他人の害意の有無を問い詰められるほどの面の皮の厚さも持ち合わせていない。
 だから、会話を早々に切り上げた。決して嘘を吐くことなくアースちゃんに向き合おうとする美波達の姿に背を向けて、広大な空へと逃げ出した。
 美波達に本当のことを言わないままに。吐いた「嘘」を、そのままに。

「私の方が嘘つきじゃないか」

 人にはやむを得ず嘘を吐かなければならない局面もあるのだと学んだ。
 アイラがアースちゃんに嘘を吐くのも、彼女なりの理由があるのだろう。嘘を吐いているからと言って、決して彼女の気質は悪であるというわけでもないのだろう。そう考えたから、アースちゃんは未だアイラを討つべき敵と見做していない。
 そんなアイラの身を守る為に、アースちゃんは嘘を吐いた。仕方なく、やむを得ず。

 ……実の所、アースちゃんとて「美波達と交流させる方がアイラの真意をスムーズに聞き出せるのではないか」ということを考えなかったわけでもない。
 それでもアイラ一人で問題を抱え込むことを選んだのは、アースちゃんなりの責任感故か。或いは、助けを求める声に応えることを得意とする一方で、自分から助けを求める声を上げることには不慣れであったためか。
 その理由を明確化出来ないという苦悩すら、アースちゃんは美波達に打ち明けられないままだった。

「なあアイラ」

 美波達とは、いずれまた会うことになる。
 今日の夜、アースちゃんは自らのマスターを連れて改めて美波達との対面の場を設けることを約束した。その時間を迎えるまで、渋谷凛という少女の護衛をしたいという美波達とは別行動でアースちゃんは市内を巡回することとなっている。
 アイラとの合流は、巡回を終えた後だ。

「……もう、迷ってる時間は無いぞ」

 アースちゃんは正義の味方だ。より正確に言えば、アースちゃんは困っている人の味方だ。
 だから、困っている人の味方であろうとする新田美波に拳を振るいたくはない。
 同じくらい、未だ本心を誰にも打ち明けられず困っているアイラにも拳を振るいたくないのだ。

「助けを求める電波を、受信」

 また誰かの困っている心の声が聞こえた。声の主が誰かは知らないけれど、早く駆けつけなければ。
 それは、待ち受ける辛い現実と直面する時を少しだけ先延ばしにする口実としては十分だった。






950 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:52:13 uv2EP3kY0



 突如として大学構内に姿を現したアースちゃん、そして白装束の女の二名。彼女達が対決の現場から立ち去ってから少しの時間を要した後、学生達はようやく散り散りとなって去っていく。
 彼等が口々に語り合うのは、勿論アースちゃんとは険悪な関係にあったと思しき白装束の女であった。

 それにしても白装束は本当に恐ろしい奴だった。見ただけで震え上がりそうな雰囲気を出していただけでなく、光線まで発射していた。明らかに人間ではない。
 アースちゃんが白装束に掴みかかって何かを言っていた。言葉の意味は俺にはさっぱり分からないが、何かを責め立てていることは何となく理解出来た。白装束は、大方アースちゃんに突き付けられた正論に逆上したというところなのだろう。

 ああ、つまりあの白装束はアースちゃんの敵か。アースちゃんの敵ということは、つまりあの白装束は『悪いやつ』なのか。
 そうに決まっている。だってアースちゃんは正義の体現者で、白装束はアースちゃんの反対側。いつもボク達を助けてくれるアースちゃんこそ、ボク達を正しい方向へと導いてくれるんだ。

 こうして、あたしの中の善悪の判定はアースちゃんのおかげですんなりと決まってくれた。
 だったら次は、力の無いあたしなりに声の限りアースちゃんを応援しよう。そうだ、まずはあの白装束がどんなに危険な奴なのかをみんなに伝えなきゃ。

 俺が/ボクが/あたしが、アースちゃんを助けるんだ。あの白装束の女を、一緒にやっつけるんだ!



 ……アースちゃんの持つ宝具、『奇準点』。
 対世論宝具とも称されるそれは、「アースちゃんの側に正義があるのだ」と大衆に無条件で信じ込ませる力を持つ。
 「アースちゃんと敵対していた人物がいた」という事実があれば、「どういう事情があってのことかは知らないが、アースちゃんの敵であるならば当然そちらが悪者なのだろう」という結論へと導かれ、誰も異を唱えたりはしない。
 故に、ティア・ハリベルの存在は恐怖心と正義感を推進力として冬木の市民達の間で早急に知れ渡る。たった一度、たった数分間のアースちゃんとの衝突だけを根拠として、ティア・ハリベルという化物は絶対的な『悪』へと貶められることとなる。
 ティア・ハリベルの誓いも、新田美波の想いも、アイラの願いも、そしてアースちゃんの迷いすらも問うこと無く。



 彼女達はいずれ知ることになる。
 時間は、もう残されていないのだ。


951 : ピュアホワイトメモリーズ ◆T9Gw6qZZpg :2017/10/15(日) 21:53:17 uv2EP3kY0

【一日目・午前(10:00)/C-10・大学から少し離れた地点】

【新田美波@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 鞄(私物一式入り)
[所持金] 数万円程度
[思考・状況]
基本:冬木から生還する方法を探す。
1:協力出来そうな相手を見つけたい。
2:凛ちゃんのことが心配。守らなければ。
[備考]
アースちゃんと接触しました。今日の夜にどこかで改めて合う約束をしています。
渋谷凛(NPC)のロケの仕事現場に向かうつもりです。今回は一緒の仕事というわけではないため、あくまで観衆の一人です。

【セイバー(ティア・ハリベル)@BLEACH】
[状態] 健康
[装備] 斬魄刀
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:マスターを守る。
1:聖杯戦争に潜む危険因子を取り除く。
2:渋谷凛を監視し、聖杯戦争との関係性の有無を見極める。危険が及ぶなら保護する。
[備考]
美波と共に渋谷凛(NPC)のロケの仕事現場に向かうつもりです。

【アイラ@プラスティック・メモリーズ 】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康、疲労(小)、活動限界まで残り■■時間
[装備] なし
[道具] 鞄(私物一式入り)
[所持金] 数万円程度
[思考・状況]
基本:聖杯戦争に勝ち残る――?
1:早く、決めなければ。
[備考]
新田美波がセイバー(ティア・ハリベル)のマスターであることを知りました。
ギフティアとしての活動限界がいつ訪れるかは不明です。アイラ自身も把握していません。

【アースちゃん@コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の善悪を見極める。
1:当面は市内を巡回し、危険因子が無いか確認する。
2:安土城に対する強い警戒。いずれ制圧しなければならない。
3:アイラの「嘘」に隠された真実を知りたいけど……
[備考]
宝具『奇準点』の保有を自覚していません。
新田美波及びセイバー(ティア・ハリベル)と接触しました。今日の夜にどこかで改めて合う約束をしています。


[全体備考]
市内の大学構内にて、ハリベルとアースちゃんとの衝突が学生達に目撃されました。
『奇準点』の効果により、ハリベルの目撃情報は強い否定的なイメージを伴って伝播されていくことになると思われます。


952 : 名無しさん :2017/10/15(日) 21:54:02 uv2EP3kY0
投下終了します。


953 : 名無しさん :2017/10/17(火) 00:47:28 vXR/7Zhs0
投下乙です。最善を目指しているようでどんどん拗れていく……


954 : ◆bKNVLRztCM :2017/10/17(火) 16:48:07 CgB4Fsbo0
笹塚衛士&アヴェンジャー(ジャンヌ・ダルク・オルタ)予約します


955 : 名無しさん :2017/10/23(月) 18:16:11 nF88t9bQ0
 投下乙です
ハリベルが、かっこいい、だと……?
美波への侮辱に本気で怒るハリベルがかっこよかった
アースちゃんが思ったように美波とハリベルは信頼しあっているよい主従だよな
アースちゃんも頑固ではあるんだけど、全く聞く耳ないわけではないようで。
皮肉にも正義を唄う自分の方が嘘つきでマスターが嘘をついているのも自覚しているからこその迷いがあるのは安心できるけど。
宝具を自覚していないのヤバ過ぎるというか奇準点こええよ。やべえよ


956 : ◆As6lpa2ikE :2018/03/23(金) 09:06:40 N93JJ5Og0
橘ありす&ライダーで予約します


957 : ◆As6lpa2ikE :2018/04/10(火) 13:19:01 CgFXMhGU0
予約を取り消します


958 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/06/24(日) 23:51:04 ZW5xVRtY0
衛宮士郎&ナイチンゲール
巌窟王 エドモン・ダンテス
パンナコッタ・フーゴ&ランスロット
その他 で予約します


959 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/08(日) 16:42:20 BMiXneUg0
延長します


960 : 名無しさん :2018/07/08(日) 17:54:07 lYUBUScE0
あれ?6月中に投下なかったから過去ログ送りじゃないの?


961 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:38:47 n2D.6og60
遅れすぎてごめんなさい。これから投下します


962 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:40:07 n2D.6og60




「世に七つの罪ありき!
 選り抜かれた大いなる一こそは傲慢。罪人の名は衛宮士郎!
 ここは監獄の都市、恩讐の彼方なればこそ、お前のような魂はさぞ囚われやすかろう。
 あの地獄を乗り越え精練された鉄の精神。されど不道徳と悪逆が満ちながら君臨する現実という炎にあっては焚べられる薪と変わらん」


雷条を帯びたダークグリーンのロングコートが、夜を裂く爪牙の如くはためく。

第八の器。エクストラクラス。
復讐者(アヴェンジャー)と名乗った男は、電柱の上から見下ろしながら声を上げる。
瞳に宿らせた色は憎悪。
地獄から漏れ出た炎の如く、見るものを炙る炯眼が総身を射抜く。
……サーヴァントが相手でも、ここまで苛烈な意志を叩きつけられたことはない。
ただ敵である、というだけでは説明しきれない。じりじりと焦がすような感情が眼には映っている。

「どうして―――俺のことを知っている」

第五次聖杯戦争の経緯を、どういう理由かこいつは知っている。
始めから知っていたとは考えづらい。調べる時間があったとも思えない。誰かから聞いていたというのが妥当な結論。
そしてマスターの個人情報を詳細に知っている相手なんて、ごく一部に限られている。
この聖杯戦争の裁定を司る者、あのふざけたサーヴァントに違いない。

「おまえは、ルーラーの仲間なのか……!」
「アレは恩讐を持たぬ存在だ。怨念と憤怒によって動かぬ者に俺が手を貸してやる道理は無い。
 俺が此処に在るのは、強いて言えば義務か。この霊基の奥底に刻まれた昏き想念、渦巻く妄念。
 俺が復讐者(オレ)の形を成すことによって課せられた責務。英霊というこの世に陰を落とす呪いとして現界したが故に、お前達を殺すのだ」

言葉には知っている事自体は否定しない含みがあった。
やはりこいつはルーラーと関わりがある―――と聞き出す事を思案したと同時。

「……!」

男の腕から暗黒の炎が燃え上がる。
敵対者を殺す意志、それのみが凝縮されたような昏き陽炎が。


963 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:41:33 n2D.6og60


「どうした、武器を構えろ。魔術回路の存在に意識を傾け、力を出すがいい」
 それとも、そのまま棒立ちで我が炎を受けるのが望みか。ああそれも構わんぞ?
 サーヴァントを供につけず無様にも首を刈り取られる。騎士の誓いは脆く破れる。貴様にはお似合いの、いいや慣れた結末だろうさ!」

炎は男の腕を発射台にして、とうに俺を狙い定めている。
込められた魔力、装填された殺意は、この身を焼き尽くして余りあるだろう。

令呪を使う―――駄目だ。距離が近い。そんな素振りを見せれば即座に踏み込んでくる。
迂闊にも声を上げようとした瞬間、喉元を掴まれる―――――確信にも似たイメージが浮かぶ。

奴の嘲笑は正しい。
向こうの意志一つで容易く摘み取られる、いまや淡い命脈でしかない。
けれど、


『どうか、生きて―――』


思い起こされるのは誓約の言葉。
天使の叫びが頭蓋を反響する。

それだけで、自然と精神は統一に向かっていく。奴の炎に負けぬよう意志に火を灯す。
こいつが誰であれ、目的が何であれ。死ねば正体を知ることもできないし、目的を聞き出すこともできない。
死ぬわけにはいかない。なんとしてもこの場を切り抜け、バーサーカーが来るまで持ち堪えなければいけない。
戦うべき時は今。こんなところで誓いを無にしない為に。



「―――そうだ、それでいい。聖杯戦争で語り合いなど笑止。
 お前は正しい選択をしたぞ?ここで下らぬ言葉に訴えかけようとというなら、躊躇なくお前の魂を引き裂いていたところだ」

復讐者は高らかに笑う。
呼応するように手の中の炎は昂り荒ぶって。

「ここに集うのはみな魂を絶望の牢獄に囚われた罪人。誰もがお前を殺そうとし、お前もまたその全てを殺さなければ生き残れない!
 戦え!殺せ!出来ることはそれのみだ!」

戦端の口火を切る審判(ジャッジ)が如く、振り下ろされる拳。
拳を離れた炎が軌跡を描いて飛来する。

「――――――っっ!」

即座、後ろに向けて走り出す。体は始めから避ける姿勢でいた。サーヴァント相手にとってはただの木刀など無手同然だ。
初動が功を奏して、炎は足元の一歩後に着弾し、コンクリートを叩き尽くし、蒸発させた。

一発目は牽制だ。始めから本気で狙う気でいたなら、こうも容易くかわせるはずがない。
炎は両手から上がっていた。おそらく連射だって効くだろう。
俺を動かし、体勢が崩れたところで本命の次弾が来る。


964 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:42:45 n2D.6og60


「同調、開始(トレース オン)―――――――――!」

だから後ろへ駆けた。逃げた方向には放り投げていた荷物がある。
鞄に手で触れ、魔力を流し込む。
間に合うのは外側のみ。『強化』で即席の盾にした鞄を抱えて炎弾に備える。

「ぐ―――あ、が……………っ!!」

瞬間、衝撃で不明になる感覚。
痛みや熱さの前に、全身の骨が砕けてしまうような振動でおかしくなりそうだ。
手を離すな。意識をずらすな。流す魔力を途切れさせるな。
それのみに専心し、破砕の責め苦に耐え続ける。

盾がついに耐久限界を超えて燃え尽きる。
俺自身の魔力が足りないのもあって中身の医薬品や道具までもが灰と化す。
引き換えに、この身に炎が届くことは免れ、流れた衝撃で地面を転げ回る。


「―――ッ!同調、開始(トレース オン)!!」


間髪入れず、次の詠唱。
鋼鉄並の硬さまで『強化』した木刀を、向かってくる「死」に振り下ろした。
なんら予測情報のない中での、出鱈目な一撃。
それは過たず、肉薄していたアヴェンジャーの黒炎を孕んだ拳を受け止めた。

見えていたわけじゃない。こちらへ疾走する挙動も音も捉えるには覚束ない。
根拠は、まだ覚えている体の実感。そう―――彼我の差からして、反応できる限界で動いて速すぎるということはない。
聖杯戦争を生き抜いた直感に生死を委ねる。自棄ではなく、これが選択した最善だ。

だが幸運はそれまで。
サーヴァントの拳を、いつまでも受け止めていられるわけがない。
拳の重さ。魔力の重さ。存在規律(かく)からして重みが違う。
受け止めた時点で獲物はひび割れて、補強しようにも侵食する炎がそれを許さない。
結果木刀は砕け、体は面白いように吹き飛ばされる。

「…………ッ!!は―――――――――」

背中が地面で跳ね上がり息を吐き出す。受け身が上手に取れなかった。未熟の証だ。
おかげで距離は稼げたが、これじゃあ即座に走り出せない。
どの道、あの速度と炎の前には距離など大して意味をなさないだろう。

……間近で見た黒炎は、視覚化された怨念そのものだった。
憎しみ、恨み、怒りが混じり合い、濁りきって出来た感情の果て。
人から生まれたものでありながら、もはや人が耐えられる圧ではなくなっている。
その熱量は火山から溢れる溶岩の波濤にも等しい。触れただけで毒される劇物だ。
我が毒を喰らえと、我が怒りを飲めと、声なき呪怨はそう喧伝している。

これがアヴェンジャーのサーヴァントの性質なのか。
地の底から滲み出てくるような、際限なく溢れ出てくる黒い思念。それらが凝り固まって出来た魔力。
この世に永劫に消えない染みを残していく、あってはならない存在。
こんなものを生み出すのが、人のままで在り続けていられるのか。
世を呪い、人に災いを起こすカタチ。そのように始めから設計された、根底からして狂った器。


965 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:44:42 n2D.6og60



「中々どうして粘るじゃあないか。単身サーヴァントに追い詰められながら、マスターの身で我が炎を前にして。
 過去の経験で学び、培われた貴様にも"窮地の智慧"は働くと見た」

歩いてくる死の足音。
動かなければ死ぬしかないと分かっているのに、立ち上がるだけで精一杯。

「だが脆い脆い!その肉体も、その信念も、鋼鉄の悪意を前にしては紙片一枚にも満たぬ!
 それがこの世界のルールだ。希望を食らう絶望の虜共の頤(おとがい)だ。
 マスターはサーヴァントには到底敵わない。過去の教訓を活かせぬようであれば――――――此処で朽ち果てるのみだ」

知っている。それは嫌というほどに思い知らされてる。
これは分かりきった結末だ。マスターとサーヴァントとの圧倒的な力の差。
人の臨界を極め、そして超えた究極の"一"。何らかの形でその域に至ったからこそ英霊と呼ばれ、昇華される。
こんなふうに一対一で挑むような事自体が、そもそも馬鹿げているのだ。


衛宮士郎では奴には勝てない。
戦う手段も、立ち向かう武器も持ち合わせていない。
当然の帰結であり、変えようのない事実。







ならば、造ればいい。
自身が勝てないのならば、勝てるモノを作り出せ。


「―――――――――投影、開始(トレース オン)」


詠唱(ことば)を紡ぐ。
難しい筈はない。不可能な事でもない。
たとえ自身が届かずとも、天に届く光を目にしているのならば。
その幻想を結びここにカタチと成す事こそが俺の戦い。


奴が拳を振るう。
一秒後の死、自らが焼け落ちるイメージも今は目に入らない。精神はひたすらに自己に埋没し、望む設計を引き摺り出す。
外敵との戦いではなく、自身を賭けた生と死の境界線で幻視する。

目指す形は剣。記憶を通して夢に見てきた美しい黄金の装飾。
……ある少女が独り誓いを立て、ひとりの王を生んだはじまりの選定。
あの日を美しいと思った心が覚えてる限り、この記憶も色褪せない。

「お―――――――おお!!」

そうして手の中に生まれた柄の感触を強く握り。
迫りくる現実に、描いた空想を叩きつける―――!


966 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:46:26 n2D.6og60





「ぐ――――――ッ!?」
「ぬ――――――――っ!」




驚愕の声はふたつ。
防げぬ筈の拳を止められたアヴェンジャーと、折れぬ筈の剣が砕け散った俺の声。
投影した剣は奴の拳の勢いと纏う炎をかき消したに留まり、その役目を十全に果たせずに消えてしまった。

完璧な投影であればあの剣が、セイバーの剣がこの程度で砕けるわけがない。
原因は明白。投影の読み込みの甘さ。時間の不足が焦りを生み精度を鈍らせた。
剣の存在強度への信仰が足りなければ即座にイメージは綻び崩壊する。
空想を現実に通用させるには微細なズレも許されない。あらゆる要素を再現しなければ真に模倣たりえない。

「―――なるほど。これが貴様の異能か。本来この場にあり得ざる物質をその手に産み出す。投影の術。
 己が想像力だけで空想を創造に至る―――などと。ははは、つくづく貴様は俺を苛立たせてくれるな、贋作者(フェイカー)」

アヴェンジャーに損傷は見られない。
腕をひと払いするだけで炎は元の勢いを取り戻す。
対してこちらは体が処理が追いついていない。久しぶりの宝具の『投影』に魔術回路が痙攣している。
先を取るのは完全にあちら。今度こそ免れようのない。

「!」

向かってくる死の形は、しかし、彼方から響いた銃撃音によって霧散された。
一斉に射出された銃弾は寸前まで男のいた場所に複数の点穴を穿つ。
軽やかに飛び上がり電柱に着地したアヴェンジャーも銃撃があった方角を見返した。

「来たか。傲慢の罪人。全ての命を救おうとする者よ」 




「――――――あなた。いま、人の命を脅かそうとしましたね」




それは、聞き慣れているのに、ぞっとするほど冷ややかに射抜かれる声だった。


「この方は治療を必要とする患者です。それを害する者の一切を、私は赦しはしません」

静かな声は淑やかな貴人のそれ。
内に秘められた意志は、狂気にも等しい苛烈さが漏れ出している。
男の纏うのが無数の激情が混沌とした毒炎なら、彼女が備えるのは燃え盛る烈火の質だ。
淀む毒を焼き払う浄化の天使。たとえ彼女がその諱を厭おうとも、イメージがついて離れない。
恐らくは、彼女に看取られた患者達がその感想を同じくしていたように。
ナイチンゲールという英霊の一部、生涯にその呼称は刻まれているのだろう。あるいは呪いのように。


サーヴァント同士の対峙。
記憶に新しい、聖杯戦争本来の構図がここにようやく成立する。
バーサーカーは敵に後ろを向けたまま、無言でづかづかとこちらに近づいていき。


967 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:47:36 n2D.6og60

「バーサー―――、……!?」
「動かないで。あなたは傷ついています。まずは診察をしないといけません」

声を出そうとしたら、両腕をがっちりと拘束されてしまった。
近い。あまりにも近い。鼻孔をくすぐるのは花の匂いではなく染みるような刺激臭。
目の前でつぶさにこちらの体を観察する姿は真剣そのものであり、反論の隙を与えない。なすがままにされる。

「背中に擦過傷、そにれよる出血。ほか打撲傷を確認。そちらの治療を優先します」
「え―――――と、なに、を?」
「大人しくして。大丈夫、痛みは生命活動の証です。感じているのなら、死にはしません」
「ま、まって、待ってくれって!」
「待ちません。傷病者の手当てよりも大事など存在しません。致命傷でないとはいえ、放置しては悪化しやがて死に至ります。
 まったく、まだ自身の状態に自覚が足りないようですね」

有無を言わさず脱がされた事も、傷に直で注がれた事への文句も許されない、迅速かつ丁寧な処置であった。
手際よく上着を脱がされ、遠慮なく傷口に消毒液を塗布され、きれいに包帯を巻かれてしまう。

「それと、特異な神経系に異常反応を検知。こちらは筋肉痛のようなものでしょう。急速に負担を与えて痙攣状態にあります。
 しばらく安静にしておくこと。いいですね?」
「わかった、わかったからとにかく前を見ててくれ、危ないから……!」

治療してくれるのは有り難いのだが、こうして敵に背中を見せたまま処置する無防備さは、あまりに危なっかしくてたまらない。
戦闘の真っ最中でこんな隙を見せればいいようにされて――――――




「―――――――――」




……と。
晒した背を撃つ事もせず、ずっとこっちのやり取りを見ているだけだった男の含み笑いが聞こえた気がした。

「……何だよ」
「いいや。聞きしに勝る鋼の献身だな、バーサーカー。
 マスターとはいえ、敵サーヴァントに背を向けて治療に専念する英霊などお前ぐらいのものだろう。
 記憶と、貴様の根幹になっている信念を抜き取りでもしない限りは変わろう筈もないか」
「……誰ですかあなたは。私はあなたと会った記憶などありませんが」
「バーサーカー、こいつは俺たちの情報を始めから持ってる……ルーラーと繋がりがあるかもしれない」

そう言ったが、不思議な事に、アヴェンジャーの台詞は、ただ此方の素性を知っているからだとは思えなかった。
バーサーカーに語りかける声には―――本人すらも気づいてないところで―――どこか懐かしむ韻が含まれてる気がしたからだ。
刻み付いて生涯消えないだろう憤怒の顔からは、険が幾分か取れているように見える。
情報だけではない、もっと間近で直に触れ、言葉を交わしあった者同士の間でしか生まれないものを。


968 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:49:58 n2D.6og60



「……成る程。分かりました。この街の病を知りながら放置し、周囲にばらまいている感染者という事ですね。
 ならば一刻も早い抹消を。キャリアーの駆逐は病の根本を断つのに必要な措置です」

記憶にないのか、本当に知らないのか。判然としない関係性など意に介さずバーサーカーが男に向き直り、緋色の瞳をこちらに向ける。

「人の命を奪う者。彼という病原を、この場で徹底的に粛清します。宜しいですね、シロウ?」

その目は既にサーヴァントのそれに立ち返っていた。
方向性は違えど戦う事を決め、自分に指示を求めている戦士の姿だ。
例え彼女がどう思おうとも、戦う事を認めない、病人と扱われても。
この身はとうにマスターだ。戦うと決めたのは同じ。ならばその責務を果たさなければ。
告げる事は決まっている。あの時と同じように、信頼を込めて一声と共に送り出す。

「―――頼む、バーサーカー」
「了解」


声を合図に一気に駆け出した。
見た目からは想像だにしない運動力は、サーヴァントとして肉体が強化された賜物か。
弾倉と銃身が一体化して連続発砲を可能とする、所謂ペッパーボックスピストルの銃弾が抜き放たれる。

「戦うか、そうだろうな。お前はそのあり方故に足を止める術を持たぬ。あらゆる病、あらゆる害を癒やさんとする、その強固な信念。
 それがお前を狂戦士の器を持つサーヴァントとして構成した。
 そして俺も同じく。復讐者として固定された霊基はこの世の憎悪と怨嗟を一身に受け―――」
「黙りなさい」

無視して警告も無く銃撃した。言葉の時間はとっくに終わっているのだという、明白な意思表示。
一度の引き金で全弾が発射され標的目がけて飛んでいく。
しかし射貫いたのは飛翔した影の跡だけ。
言葉だけを置いて、コートの男の姿はかき消え、まったく別の方角に現れていた。

「ああそうだとも。もはや言葉は無用。ならばここからはマスターを持つサーヴァントの立場を通すとしよう」

再度、隠れていた男の殺意が膨れ上がる。
バーサーカーの激情に呑まれまいと燃え盛る炎に、空気がチリチリと音を鳴らす。
黒い魔力が濃度を増していき世界にひずみを生む。纏うコートすらもがその一部のようだ。

「慈悲の時間は終わりだ。朽ち果てるがいい、英雄の残滓」

自らを黒い影として、復讐鬼が電柱を蹴った。
その速度、瞬間の移動距離でいえばほぼ飛翔に等しい。
今までと比べものにならない。明らかに手加減されていたのだと思い知る。こちらの目にはもう線が走っているようにしか見えていない。

轟々たる炎。
自らに火を灯し、しかし延々と燃え続ける黒い流星が戦場を駆け巡る。
縦横無尽に高速で、時に鋭角にすら曲がる埒外の軌道は、中心に立つバーサーカーを逃がさぬと包囲網を敷いていた。

「ぜぇいッ!」

肉食獣の熟練の狩りの手並みでも見ているかのような容赦のなさ。
檻に閉じ込められた獲物に突き立てられる致死の爪牙。
四方八方から襲い来る驚異の嵐。



その中で、彼女は臆する事なく戦っている。
紅の服を血に染めるのを厭いもせず。
天使と形容される表情を修羅に変えてでも。
その姿から、美しさが翳りはしなかった。


969 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:50:59 n2D.6og60



今戦っているのは、ただの人間である筈だ。
剣を取り戦場を馳せる騎士ではない。魔術師でもない。
背中に天使の羽が生えているような、神秘とは程遠い。
表の世界で、武勲ではなく医療において功績を残した偉人。それが俺の知るナイチンゲールという人間であった。


「―――――殺菌っ!!」


猛獣が爪を振り下ろすかのような勢いの拳を、避けるのでも防ぐのでもない、敵を真っ向からの殴打で迎え撃つ。
ぶつかって起きる衝撃音、舞い散る残骸。セイバーの剣の斬り合いと大差がない。
本当に、鋼で出来ているのではないかと疑ってしまうほど、彼女の腕は炎を払いのける。

……信じがたい事に、単純な力の比べ合いでは、バーサーカーの方が勝っていた。
全身から魔力を放出している、というわけでもない、紛れもない素のままでこれだ。ではその力はいったい何を源にしているのか。
まるで、今まで救ってきた命が、人を救おうとする信念が、そのまま彼女に力を貸しているようだ。

けど、それはこちらの優位を意味していない。
一見対等に渡り合えてるようだが、実態は防戦一方だ。
力は勝っていても、それを相手に当てるだけの速さが足りなかった。

「フッ……ハハハハハハ!」

いや……そうじゃない。遅いのではない。敵が速すぎるのだ。
全てを吹き飛ばす暴風に、影すらもが置き去りにされる。
まさか、まだスピードが上がっているのか。加速の際限がないにも程がある。
アレはもう、空間に囚われていない。その壁すら超えている。
森羅万象に遍く降り注ぐ、物理法則の縛りからすらも、アヴェンジャーは脱しているのだ――――――

バーサーカーの対応が遅れてきている。炎を捌き切れていない。
助けに行こうにも、どうしようもない。サーヴァントの戦いに以降した時点で、マスターが出る幕ではないのだ。
そして、閃影がついに護りを抜けて頭部を捉えた。上半身が大きく仰け反られる。

「バ―――――――」

駆け出そうとした体が、直前で止まった。
肉眼ではっきりと捉えた光景に、言葉が見つからない。
動きの止まったアヴェンジャーも目を見張る。何が起きたかを一瞬理解出来なかっただろう。
頭を打たれ顎が上がったバーサーカーはその体勢から手を伸ばして、通り抜けようとしたアヴェンジャーの足首を掴み取っていたのだ。

超音速の疾速すら止めた握撃。五指は関節部分に食い込んでいる。それだけでも悶絶する痛みだろうに狂戦士(バーサーカー)は止まらない。
あろう事か大の男を掴んだままの細腕を、前後に勢いよく地面目がけて振り落とした。
自然、繋がれたままのアヴェンジャーも引きずられ――――――


970 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:54:04 n2D.6og60



「……………ッ!!」


響く怪音。
二度。
三度。
四度。
陥没し破片が吹き飛ぶコンクリートの惨状が威力を物語る。
本当に容赦なく何度でも叩きつける。動かなくなるまでとばかりに。
アヴェンジャーは脱出出来ない。手は完全に固定されている。足ごと切断しない限りは拘束は外れない。


だというのに。


「な―――――――――」

ヤツは何の躊躇いもなく身を捻った。
しかも、よりにもよって掴まれた足を軸にして。
ペンチで壁に打たれた釘を曲げるみたいに、あっけなく足首の骨が割れた。
それでも回転を止めない。スーツごと肉が雑巾絞りにされるのも構わずに、聞くだに恐ろしい破裂音を上げてなお回し続ける。
そうして可動域が上がった逆の足でバーサーカーを蹴りつけて指を強引に引き剥がした。


「一度摑んだら壊すまで離さない、などと。古代ギリシャでの格闘技でもあるまいに」

顔に玉の汗を流してこそいるが、アヴェンジャーからはまだ余裕を感じる。
捻れた足がぎゅるりと巻き戻り、元の足の構造に直る。傷まで元通りになってるわけではないだろうがいずれ治癒するだろう。
だとしても……正気ではない。いずれ治るからといって自分から手足を壊して拘束から外れる、なんて。

「あいつ………………痛みを感じないのか」
「笑止!肉体の痛覚が俺の足を止める枷とたり得ようか!
 そもそも貴様が言えた口ではあるまい。そこの女共々、立ち止まる理由を捨てている。
 自身の負傷を躊躇う可愛さなど灰になっていよう」

完治していない足で、力強く一歩を踏み出してくる。
虚勢でなくそれは痛みの制止を超克している証だ。

「ならば俺も止まるまいよ。根比べで負けるようではクラスの文字通りの名折れ。
 全てを忘れず、意志を折らず、憎悪により完遂する。それでこそ復讐鬼の偶像たる俺の――――――」



「―――――――――――やはり」



何かの、硬い意志が決まったような声が、街を静寂に戻した。


971 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:55:28 n2D.6og60



「理解しました。ここまでの会話から予測していましたが、今では疑いようがありません」
「ンン―――?」
「意味が不明瞭な言動の繰り返し。患者への乱暴な傷害行為。時折呟く妄言は現実と虚構の区別がついていない兆候です。
 貴方は精神を負傷しています。適切な措置を受けなければなりません」
「――――――――――――」

言い放った言葉は、これ以上なく正気で、そしてこの上なく狂気的に聞こえた。

「な……何言ってんだバーサーカー、それってこいつを治すって事か?敵のサーヴァントだぞ!?」
「……そこの男と同じくするのは癪だが、同意見だ。俺はサーヴァントであり、この姿として現界している以上、治療など不要だ」
「二人共黙りなさい。貴方達はどちらも負傷者。病人です。
 大人しくすることこそが快復の兆しでありこれ以上の進行を防ぐ予防策となります」

叱られてしまった。それも一緒くたに病人扱いされて。
向こうの方も、なんとも渋い顔をしているのがわかってしまう。

「けれど貴方がこの街に巣食う病原の保菌者であるのも事実。ですので」

左手にメスを、右手に銃を構えて踏み出す。
後ろから見る姿は、今まで見てきたどんな相手とも異なる威圧がある。

「完全隔離。そののち徹底した治療と殺菌を。
 安心してください。どれだけ汚染された箇所を切除しても、残るのは人である貴方です。
 これは治療です。今の貴方を殺してでも、貴方を快癒させてみせる」

そんな、とんでもない宣言をぶちかましたのだ。
せめてメスは利き手に持ったほうがいい。でないと患部を上手く切り取れないのではないか。
いや、違う、そうじゃない。逸しすぎていて思考がひとりでに脱線してしまった。

バーサーカー―――狂戦士のクラスで彼女が召喚された意味を、改めて思い知らされる。
制御不能。ブレーキが利かない。傷病者の治療の一点に固定された思考行動。どんな障害も押し退け突き進む聖人(きょうじん)。
救いの手は敵味方の垣根を超える。それは敵になるマスター、サーヴァントにも及ぶのだと。

―――皮肉といえば、そうだろう。
他人の言葉に耳を貸さない強情さに引っ張られる苦労を、こうして実感してしまうのは。


972 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:56:29 n2D.6og60




暫く沈黙していたアヴェンジャーは、ただ一言を吐き捨てるように呟く。

「―――莫迦め。それこそ、俺にとっては死と同義だ」

一足で飛び跳ねて電柱の上に立つ。
その身体からは殺意が引っ込み、闘争の気配は薄れていた。

「聖杯戦争という舞台ですら、お前にとっては病める者が増える戦場でしかないのだな。
 その眩さ、真っ直ぐな在り方を知れただけでも収穫となるか。
 今宵はここまでとしようか」
「いいえ。逃しません。貴方はここで捉える。そして看護します」
「そうはいくまい、鋼の看護師。如何に激務をこなすのが習慣づいてるとはいえ、俺ひとりにかかずらってる暇があるのか?」

なおもにじり寄ろうとするバーサーカーから視線を外して、周囲に目線をやる。

「言ったろう。これは聖杯戦争。ありとあらゆる欲望の渦巻く監獄の街。罪の名を持つマスターとサーヴァントなぞ山ほどいる。
 各々の考えと行動で冬木という街を本物の地獄に作り変えていく。
 中には、他者の財産を掠め取る、強欲の竜が如き者も出てくるという事だ」

次第に、アヴェンジャーの姿が漆黒の靄に包まれていく。
最初に現われた時と同じだ。あのまま煙のように消えるというのか。
止める時間はない。バーサーカーでも間に合いはしない。
この街で起こる聖杯戦争の鍵を握る存在を、みすみす逃してしまうと分かっても、どうしようもない。


「――――――――――――待て」

―――――その前に。
最後にひとつだけ、聞かねばならない事があった。

「お前はいったい誰だ。どうしてそこまで、俺を憎む」

マスターというだけでない、衛宮士郎という個への並々ならぬ執着。
今までずっと疑問だった問いを、ここで投げかける。

「それについて俺から語る言葉は今はない。貴様自身がその手で探り当てるべき真実だ。
 故にその問いには、ただ一言をもって返すとしよう」

闇に溶けるコートを翻し、男は煌々と、高らかにこう言った。






「『待て、しかして希望せよ』―――――――――とな」






それで最後。
黒い炎も、大気を淀ませる怨念も薄れ去り、英霊の痕跡は完全に感じられなくなった。


973 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:57:06 n2D.6og60




「……逃げられてしまいましたか。せっかく病の感染源を突き止められたというのに」

表情は苦痛に歪んでいた。
救うべき命を守りきれていない自分への苛立ち。街に被害を生む存在を見逃さなければならない自分への怒り。
痛みではなく、誰かが傷を負う事に、彼女は何より傷つくのだ。

「彼を逃してはならない。彼を治療しなければいけない。それがこの街に張り巡らされた病の根絶に繋がると、そう私は規定します。
 ええ、そうですね。やるべき事は多い。あの様子では他の方々にも顔を見せていそうですし」

アヴェンジャー。復讐者。
世界の全てを憎む為に在るが如き男は、不釣り合いな言葉を残して消えた。
希望――――――暗黒の中に在って眩く輝くもの。
炎と廃墟に独り取り残されようと、手を伸ばせる空の星。
どうしてそんな言葉を、願いを籠めるように口にしたのか。


「シロウ、聞いていましたか?」
「えっああ――――――大丈夫だ、聞いてるよ。あのサーヴァントを追おうって話だろ?」
「……もしや傷を隠していませんか?頭部への障害は時間差で表れるといいますし、もう一度見せてください」
「いやほんとに何でもな――――――」

頭を問答無用で掴まれる直前、バーサーカーが背後に振り返る。
そこで、こちらに近づいてくる、無数の気配に気づいた。

「なんだ……?」

誰かが、近づいてきている。
数は多い。十や二十ではきかない。
ひょっとして近所の住人が集まってきたのかと思い―――現われた者の格好を見て予想は覆った。
ダークグリーンの軍服。
腕にかけられた腕章。
それらの特徴は、既存の知識からある存在を指し示していた。

「ドイツ軍……?」

この時代、この国には、決していてはいけない軍隊の名を零す。
かつて同盟国だったとはいえ、戦後から四十年経った日本にこれだけのドイツ兵がいる筈がない。
月明かりと電灯に照らされて全体の輪郭が見えてきて―――その異様さに絶句した。

一団が皆一様に軍服を身に纏っているのはいい。
一糸乱れぬ規律の取れた歩行も軍人なら当然だ。
だがその顔が全員、ブロンドヘアを両に分けた、まったく同じ骨格の男だけなのはどういうことなのか。

男達の表情は、どれも「無」だった。
感情がない。情緒がない。
画一的で、あれだけ数がいながら各々の個性がまるで見えない。

「標的を補足した。マスターとサーヴァントの一組。
 マスターは日本人。サーヴァントの方は軍服の女。軍人の可能性アリ。即座に情報の精査に回せ」

平坦な声もまた無機質。
機械、あるいは人形か。造形も合わせてそんな印象を決定付けた。

「マスターを優先して狙え。愚かな劣等人種一人を消せばサーヴァントも労せず自動で消滅する」
「了解(Jawohl)」

前列の兵士が揃えて手を前に出す。
指先からは淡く電光が表れ、たちまちに球状に収束される。
それが炸薬に着火し、銃口から発射される直前の弾丸そのものだと気づいた時。

「掃討、開始!」

一斉に打ち鳴らされる雷の砲火が、夜の静寂を揺らし、轟かせた。


974 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/16(月) 21:58:14 n2D.6og60
前半投下終了です。残りレスと相談しつつ、近日中に後編を投下したいです


975 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:02:18 gS3QNtmU0
投下します


976 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:08:16 gS3QNtmU0



連射。連撃。連砲。連弾。
あらゆるそれらは殺意の表明。
無私にして傲慢なる強制力。
鉛とは違う実体なき現象、球状に加工された雷撃の弾丸が、雨嵐となって間断なく襲いかかる。

突然の謎の集団の来訪と奇襲。
大量に降り注ぐ先制の雷弾は、本来なら衛宮士郎には回避も間に合わない。
それをどうしてかわせているかというと、理由は一つ。
寸前に察知し駆けたバーサーカーに両手で抱えられ、範囲内から離脱したためだった。

「撃ち落とせ!マスターを狙い続けろ!」
「アーイ!」

高圧的に叫ぶ一人の命令に、大量の兵士が腕から雷撃を発射して追撃してくる。
抱えたままでバーサーカーも走り抜ける。走り抜けた背後を雷撃が着弾して地面を溶かす。

「ちくしょう、なんだこいつらは……!」

敵サーヴァントの襲撃。それは疑いようもない。
アヴェジャーが去り際に残した通りの伏兵。サーヴァント自体ではなくその使い魔だ。
しかし―――かつてのキャスターが呼び出していたような骸骨兵などとは違い、これは人間の姿をしている。
その服装も、髪型も、顔の造形も、何もかもが一致している、鏡合わせのようの異様な軍隊。
それは銃のイメージだ。規格化され、量産された同一モデルの銃を揃え、殺意の兵器を手に握っている構図。
襲い来る集団はまさしく軍隊の兵隊そのものだった。


977 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:08:51 gS3QNtmU0


「バーサーカー……!」
「喋らないで、口を噛みます」

後ろから、横から、前からも到来する電気の兵士(エレクトロゾルダート)。
弾を避け、打ち落とし、時に蹴り倒して包囲網を突破しようとする。

一発の威力はさほど高くない。
アヴェンジャーの炎に比べればてんで驚異には及ばない。バーサーカーの片手で問題なく弾ける程度だ。
個体能力もさほどではないようだ。先程からバーサーカーの一振るいで木っ端の如く吹き飛ばされる。

問題はその数が多い事。
集団で束ねられ矢継ぎ早に撃ち出される雷電の連射速度は機関銃に匹敵する。
サーヴァントならそれも迎撃出来るだろうが、今はマスターという最大の枷を嵌められてしまっている。
バーサーカーに遠距離から複数の敵を無力化する手段がなければ、ひたすら逃げ続けるしかない。

掃討は止む気配がない。
銃ならば弾が尽き、銃身が焼け付けば補填に時間を要するが相手は電撃だ。
どういう絡繰りかも読めない上数も揃えている。間隙を見切る事は難しい。
バーサーカー一人ならどうとでもなる。だったら。

「バーサーカー、離してくれ!俺に構わずあいつらを―――」
「いいえ。この状況で私が手を離せば貴方は命を落とす。死なないまでも傷つきます。それは決して容認出来ません」

胸の中でばたつくが一向に力の緩む気配はない。むしろより強く抱きしめられ動きを封じられてしまう。

「―――っこれくらい一人でもなんとかなる!今は俺よりも自分をだな……!」
「看護師よりも患者です。私の傷はどうにでもなりますが貴方は傷つけばすぐには治らない。優先順位は明白です。
 いいから、今は黙ってしがみついてなさい」

やっぱり、頷かないのか。
常に他人の救助を最優先の事項にしているから、俺を置いていけない。攻める手を二の次にしてしまう。
……もどかしさに歯を軋る。
戦力と認められず、足を引っ張るしかないなんて。それじゃああの頃と同じじゃないか。
前とは別の無力感が胸中に渦巻く。


978 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:10:20 gS3QNtmU0



「――――――隙間を発見、突破します」

突風じみた速度が、より一層段階を上がる。風圧で息が詰まりそうになる。
その先は確かに敵の密集が少なかった。包囲を抜ける突破口になり得る。



しかしその瞬間に。
耳を劈く爆音と衝撃が、足元から湧き上がった。

「づ……………っ!?」

五体が投げ出される。
またも地面に投げ出され転がる……が痛みは薄い。

今のは、地雷か。
噴出したのは赤黒い稲妻のような色だったが、性質としては同じだ。
地盤に設置された兵器が接近した熱源に反応して炸裂した。

「いや、それよりも――――――」

見渡して煙が晴れた前に、傷ついたバーサーカーがいた。
体は健在だが、煤で汚れ、制服の箇所が破けている。
傷を負ってない自身の体を見て嫌でも理解してしまう。
爆発の瞬間まで被害を抑えようと、自分に構わず俺を庇っていたのだと。

「Sterben(死ね)!」

その隙を待っていたと、死の宣告が下される。
電気弾は集約され溜められている、大玉が来る……!


バーサーカーは立ち止まった。俺を背にして、無数の雷弾を正面に迎える。
両手を広げて、胸を晒し、迫り来る光の雨を全て受けとめんと仁王立つ。

「バーサーカー…………!」

無茶が過ぎる。
今度の攻撃は先程より溜められ、数倍威力が高まってる。
それも複数。そのまま食らえばサーヴァントでもただでは済まない……!

「我は全て毒あるもの、害あるものを絶つ―――――――――」

視界が光に染め上げられる。
それは着弾し炸裂する雷弾の閃光なのか。
あるいは、それより先に輝きを表出させた立ちはだかるバーサーカー自身からなのか。


979 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:11:32 gS3QNtmU0











答えはそのどれでもなく。
月より注ぐ星の光を照り返す、水面に凪一つ立たない湖のような刀身からだった。





思考が傾く。
目が奪われる。
飛来した雷弾は全て消えていた。
バーサーカーのさらに前に颯爽と現れた騎士。
その男の握る剣が輪郭を無くす速さで振っただけで、全て余さず切り落とされていた。


ああ、そんなことよりも。視線はあの剣に吸い付いて離れない。
ひと目で理解する。
アレは聖剣だ。輝く星、そのものだ。
その造り、その想念、ヒトの手では絶対に辿り着けない幻想の果て。
アレを真似ようなど愚かしい。アレこそは星(かみ)の手による武器。
再現しようと思うなら、この身を炉に焚べてでも不出来な贋作がせいぜいだろう。


そのカタチを知っている。
そのヒカリを憶えている。
それはまさしく、この場に足が引かれたのと同じ。身体に染み付いて離れない、『彼女』の持つ聖剣と相通ずるものだったのだから。


「何故――――――貴方から……」
「え?」

振り返った騎士が、不思議そうにこちらを見る。
有り得ぬものを見たような。焦がれたものに再び出会ったような。

「……いや、今は問うまい。これもまた主の導きということでしょう」

そこで初めて、騎士の姿をしっかりと認識した。
誰にも使われず時間に忘れ去られて錆び付いた華美さもなく。
戦いにのみに注がれた武骨さとも無縁。
豪奢と機能美とが絶妙なバランスで和合した完璧な鎧。

纏う者も精悍にして優美。
花の妖精も恥じらう柳眉の眼差しの内には、悪鬼も竦む勇猛な闘志。
騎士とはかくあるべきを体現した、眩く輝く無双の姿。


980 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:12:41 gS3QNtmU0


「馬鹿な、セイバーのサーヴァントだと!?」
「監視役は何をしていた!」

同音の声で狼狽する兵士達。
これだけ荘厳壮烈の剣気を見れば佇まいだけで分かるのだろう。
サーヴァント。並み居る英霊のうち、最優の名を戴くに最も相応しい器(クラス)……!

「それらは既に切り伏せている。数の利を活かした戦術は見事だが、隠匿の術を持つ者への対策を怠ったのは失策だったな」
「……!?」

兵士を一瞥した後、騎士は背に守っていた無傷のバーサーカーに僅かに視線を向ける。


「かの光の落ちた跡に向かった先で、身を挺して主を守護せんとする貴婦人とまみえたのならば、これを助くのが騎士の本懐。
 このセイバーのサーヴァント、義によって貴方がたに助太刀致しましょう」


堂々とした宣言が戦場に行き渡る。
戦いの趨勢を決定づける、鬨の声の如く。


「……!ふざけるなよ、たかがサーヴァント一騎の分際で!」
「取り囲め!包囲射撃だ!」

一時臆された兵士だが、すぐに気勢を取り戻し陣形を構築する。
最低限の指示と無駄のない隊の組み換え。個体差の無い使い魔ならではの拙速さ。
単機を相手に周囲を塞いでの一斉射。ああ、取り得る術で最も効果的だろう。

「遅い」
「――――――ギッ!?」

それすらも置き去りにして、剣は既に陣に楔を打ち込んでいた。
胴を裂かれ倒れ伏す兵士を尻目に、一気呵成に攻め立てる騎士に包囲網がまたたく間に崩れていく。


981 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:13:30 gS3QNtmU0



一閃の度に地に落ちる骸。
一合切り結ぶ余裕すらなく、斬滅される電兵。


……巧い、という感慨が剣舞を見て始めに浮かぶ。
強い、や疾い、とは少し異なる。
行動に一切の悩み逡巡がない。剣の振る速度、身体のこなし、次の標的に向かう間の「つなぎ」がひたすらに巧みだ。
隔絶した技量。そしてそれを十全に発揮する肉体。
才気と経験が共に最高値で融合しなければとてもこうはならない。
一人倒されたと思った時にはもう新たな相手が同様の目に遭っている。対峙する兵士達の驚愕はひとしおだろう。
サーヴァントと使い魔との能力の差というだけではない。
全ての戦士が憧憬する無双の武錬。目の前で繰り広げられる剣舞にはそれがあった。

それにも増して一際目を引くのが、あの聖剣だ。
あれはまだ、その本領の一分も発揮していない。
魔力の猛りが感じられない。光の迸りがまるで見られない。
アレがあの剣と出自を同じくするものならば、その真価はここで起きている戦闘と比較にもならない。
未だ見せないのは切り札は秘めおくもの、という戦術的な心理ではなく。
単に本領を振るうまでもない、それだけの話なのだろう。事実そうだ。

人造の光の増長を嗜めるかのように、空より落ちた月光が閃く。
既に敵の数は半数を割っている。この場に彼が現れる前に決めきれなかった時点で、もはや勝負は着いていた。



「お、おのれ……!こうなれば特攻だ!その間にpanzer(戦車)を要請する!」
「アーイ!」

窮した残存兵が一人を置いて突っ込む。
いずれも全身に稲妻を帯び、火達磨になったかのように火花を散らしている。
明らかに過剰な出力だ。自身の損壊を厭わない神風行為。その狙いも明白。
特攻。自滅。それによって僅かなりとも時間を稼ぐ算段。


「ア"…………ッッ!?」


それを無駄と嗤う事無く、騎士は真正面から受ける事で応じた。
両者が交差し、すれ違う一瞬。
雷条迸る人間大の榴弾を、一体ずつ的確に急所を狙う斬撃を当て機能を停止させる。
電位の壁など刃先に触れた瞬間霧散した。


982 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:14:42 gS3QNtmU0


それを無駄と嗤う事無く、騎士は真正面から受ける事で応じた。
両者が交差し、すれ違う一瞬。
雷条迸る人間大の榴弾を、一体ずつ的確に急所を狙う斬撃を当て機能を停止させる。
電位の壁など刃先に触れた瞬間霧散した。

「我等に……栄光あれぇぇぇ!!」

時間を与えず壁を抜け、最後の一体を唐竹に割る。
抵抗など出来なかった。雷を充填する暇もなく末期の叫びを上げるまでが限界だった。
一拍置いて爆散する兵士。
機密保持か、何らかの機能が破壊されたことで暴発したのか。
爆煙の中で剣を止め、騎士は涼しげに立ち、油断なく残心している。




蹂躙。
結果だけを表せば実にその通りの、一方的な瞬殺劇。
けれど反してその跡地は血に濡れる荒涼さとは程遠い。
騎士の鮮やかな戦いぶりがあまりに清廉過ぎたからか、英雄譚の一節を見ていたかのような華々しさすらもある。

解析(よ)み取った要素と目にした技巧が、真名に至る情報を自動で検索させる。
携えた聖剣。湖の精霊に預けられたもう一振りの星の武器。
無双を誇る騎士。浮かぶのは『彼女』に縁深い、ある名前。

伏兵はいないか確認したか、剣を鞘に収めた騎士が向かってくる。
戦意を解き、緊張の抜けた姿勢でバーサーカーに。


「ご無事ですか、レディ。まずは我が身の無作法をお許しを。
 貴女の肌が雷に晒され傷つくのをあのまま見過ごすのはあまりに心苦しく、このように不躾にも前に出てしまいました」
「………………は?」


歯の浮くような美辞麗句をつらつらと並び立てる。
しかも口にするのは涼し気に微笑む麗人だ。気障な物言いは気取った様子もなくごく自然と滑り落ちた。
ちょっと、腹立たしいほど似合ってしまっている。

「私が尋ねる事はひとつのみです。貴方は傷病者ですか。それとも病気を広げる者ですか」
「む……?いや、これといって負傷は皆無ですが。それと病とはどういう意味で――――」


983 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:16:09 gS3QNtmU0


これで相手がバーサーカーでなければ話も色めき立ったことだろう。しかしまあ、あいにく相手はバーサーカーなので。

「そうですか。健常であれば結構。どうか息災のままで。それでは失礼します」
「い、いや待ってくれ。健康第一は同意見だが私は貴女のマスターに少し話が」
「彼は患者です。そして今は負傷しており治療を要します。邪魔をするなら貴方も処置します。
 確かに近親者との面会は患者の精神を良い方向に立ち直らせ根治にも繋がりますが、貴方はそうなのですか?」
「そんなつもりは……彼とはまったくの初対面ですとも。しかしその内に眠るものに並ならぬ縁を感じたといいますかなんというか」
「意味が不明瞭です。もっとはっきり言ってください」
「あの、そのですね」
「何か」

ずんずんと詰め寄られている。うん、あれをやられると怖い。
論で折られるというより、気力で先に押さえつけられるというべきか。どうにも逆らいづらい迫力がある。
泳いでいた目がこっちと合った。視線は助けて欲しいと、切実な応援を求めている。 

「ともあれ、彼には不用意に触れさせません。私は傷を癒やす者であり、同時にこれ以上傷つくのを防ぐ役割もあります。
 安静を疎かにさせる真似を認めはしません」
「いや、バーサーカー。俺もそのサーヴァントには聞きたい事がある」
「シロウ、貴方はまた……」
「大丈夫だよ、俺達の敵にはならない」

そこは確信があった。
目の前の男は、決して自分達に害なす存在ではないと。
つい、と視線が下に落ちる。鞘込めの刀身に目が惹きつけられる。

「アロンダイト――――――」

呟いたのは無意識だった。
その名を耳にしても騎士はさほど驚きもせず、どこか納得した様子で。

「……やはり、貴方は知っているのですね。我等の王を」
「分かるもんなんだな」
「はい。今の貴方からは我が王の聖剣の気配を感じます」


984 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:17:07 gS3QNtmU0


聖剣の気配……か。そう見せてしまっていたなら、少し申し訳ない気になる。

「いや、さっきのは失敗だった。正直言って見せられるもんじゃないよ」
「複製であったとしても、本物を視ていなければこれだけ明瞭な魔力は残りますまい。
 円卓の同胞であれば誰であろうと気づくでしょう」

流石は本家か。ただ読み取るよりもよほど本質を理解している。
あの剣は王を選定するための剣。人に向けるのでなく、所有者に向けられたもの。
持ち主が王として正しく、また完成した時、その威力は聖剣に相応しいものとなる。
それを資格ごとそっくり真似て持ってきたのだ。単なる形だけの模倣でないと気づくのも当たり前だ。

円卓。花のキャメロット。白亜の城の座に揃う、騎士道の物語。
ああ、やはり、彼は―――――――――――ー


「誰ですか。出てきなさい」

そこで、バーサーカーが路地裏に目を向ける。
誤魔化せないと観念したか、ややあって一人の少年が所在なさげに顔を出した。
詰め寄ろうするバーサーカーを騎士が手で制する。状況からして彼のマスター、という事だろう。


「セイバー、彼が……君が探してた相手なのかい?」

自分と同い年か、それよりも年下かもしれない。
利発そうだだが、神経質さも漂う異国の顔立ちをしている。

「いいえ、マスター。ですが徒労ではありませんでした。
 こうして出会いはありました。私にとって、恐らくはひとつの運命の標となる――――――」

マスターを招いて、騎士は改めてこちらに向き直る。


「さて、宝具の真名を知られた以上、名を隠すのも不要でしょう。
 最果ての光を追った先で、聖剣の輝きを見たのならばこれも天運。
 かつての円卓の騎士、サー・ランスロットとして問いましょう。その手に握られていた剣はどういう事なのか。
 ブリテンの騎士王、アーサー・ペンドラゴンと如何にして縁を繋いでいるのか。
 貴方が知る、王の話を聞かせて欲しい」


サー・ランスロット。
アーサー王に仕える円卓の騎士。聖剣アロンダイトの使い手。
円卓で最も誉れ高き騎士にして、王妃ギネヴィアと密通し円卓を二つに割いた裏切りと字名される騎士。
それが、俺の前に現われた剣の英霊(セイバー)の名前だった。


暗躍する復讐者。
大挙する電気兵士。
そして湖の騎士。

炎と雷と閃きと銃弾が奔り抜ける中で、今日もまた生き延びた。
運命の夜の続きは、そんな風にして一夜目を迎えた。


985 : プライド・シン ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:20:13 gS3QNtmU0
【一日目・未明/C-9 破壊跡】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[令呪]残り三画
[状態]ダメージ(打撲、背中に擦過傷)、魔力消費(小)、魔術回路の一時的な不調
[装備]木刀
[道具]
[所持金]一般よりは多め
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を止める
0:教会に向かう。
1:ランスロット―――
2:ルーラーを元凶と認識。居場所を突き止める。
3:自分の経験を伝え、マスターを説得する?
4:アヴェンジャーを追う。
【備考】
アヴェンジャー(巌窟王)がルーラーに関わる存在であることを知りました。

【バーサーカー(ナイチンゲール)@Fate/grand order】
[状態]ダメージ(中)
[装備]銃
[道具]救急バッグ
[所持金]緊急時に衣料品を買える程度には所持
[思考・状況]
基本:全ての命を救う。
0:現場での救命活動。
1:傷病者の治療。
2:ルーラーをこの病の根源と認識。速やかに場所を突き止め殺菌する。
3:アヴェンジャー(巌窟王)を傷病者と認定。隔離かつ徹底消毒を。
【備考】
※現在の治療対象:衛宮士郎、アヴェンジャー(巌窟王)
※現在の殺菌対象:ルーラー、アヴェンジャー(巌窟王)


【パンナコッタ・フーゴ@恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] スタンド『パープル・ヘイズ』
[道具] なし
[所持金] そこそこ
[思考・状況]
基本:どうすれば……?
1:割り切れないもの、か……
2:このマスターとセイバーの関係は……?
【備考】
※ヴェールヌイ&ライダーと接触。彼らの戦闘能力を把握しました。


【セイバー(ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態] 魔力消費(小)
[装備] 『無毀なる湖光』
[道具] なし
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本:騎士としてマスターに仕える。
1:この聖杯戦争は何かがおかしい
2:この少年が我が王と――――――
【備考】
※ ヴェールヌイ&ライダーと接触。彼らの戦闘能力を把握しました。
※士郎から王の聖剣の気配を感じています。プライスレス。




【アヴェンジャー(巌窟王 エドモン・ダンテス)@Fate/grand order】
[状態]ダメージ(中)、片足首が捻れてる、いずれも回復中
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本:"―――待て、しかして希望せよ。"
1:???
2:傲慢の罪。とくと味わうがいいさ。
【備考】
マスターとサーヴァントそれぞれの情報を大凡把握しています


986 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/07/30(月) 22:26:55 gS3QNtmU0
投下終了です
続いて岸波白野&ネバーセイバー(渋谷凛)で予約します


987 : 名無しさん :2018/08/06(月) 22:58:07 jfZGCZtw0
投下乙でした。
全編に渡って士郎の一人称視点で語られるからこそ、本当に笛SNの世界観の延長線上の物語であるのだと思わせられる。
サーヴァントとの戦いに士郎では渡り合えないいというわかりきった話の再演、しかし今回は神代とは程遠い時代のサーヴァント同士の戦い。
なのに、人間業とは思えないシーンの連続。そんな風に人の体が機能するのかと言いたくなるけど、実際にさせてしまうのがサーヴァント。
思考の方もまた常人には理解できない組み立てであり、そこがまた二人だけの世界であることを際立たせる。
そして厳窟王が去った後にはゾルダード軍団の介入、そしてそして助太刀ランスロット卿のワンサイドゲーム。
雑魚は技量だけで凪ぎ払えると実践で証明する相変わらずの最強っぷりを存分に見せつけ、今回の戦いは一旦の終わり。
最後に残るのは、救われなかった騎士王を知る一人と、救われた騎士王を知る一人との邂逅。
この面子なら見てみたかったという展開で続きが楽しみで仕方なしです。


988 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 02:00:11 BicVRJc60
感想ありがとうございました。では投下します


989 : アイドリング・アイドルズ ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 02:03:32 BicVRJc60



大変なことになってしまった。

昭和冬木、聖杯戦争開始時の岸波白野の心境は、おおむねそのようなものといえた。



「うん、こんな事になるなんてね。思ってもみなかったよ」

隣に座るネバーセイバーも同じ気持ちのようだ。
どこかの学校の制服に身を包んだ格好は街で見る女子高生と変わりない。同じ部屋で隣にいると、友達同士にも見えそうだ。
制服姿の彼女はあまりにも当たり前でいて、まったく違和感がない。
『鎧姿よりかはこっちの方が楽かな』とは本人の弁だ。
ネバーセイバーという特殊性故か。本来戦いに身を置く筈のない少女だったサーヴァントにとっては、今の格好の方がしっくりくるということだろう。

よし、少し落ち着いた。
もう一度冷静になって、今の状況をまとめてみよう。



「聖杯戦争の本戦まで生き残ったと思ったらいきなり討伐令の標的に手配された」



…………やっぱりまるで意味がわからない。



「物騒な響きだよね、討伐令ってさ。マスターはこういうのもう経験あるんだっけ?」

討伐令というのは、行き過ぎたルール違反を犯したマスターへ与えられる聖杯戦争の運営側からの罰則だ。
ムーンセル校舎―――SE.RA.PHでの戦闘行為をしたサーヴァントには、ステータスにペナルティが与えられていた記憶がある。
2回戦で戦ったマスター、ダン・ブラックモアのサーヴァント、ロビンフッドがこれに当たる。
決められた標的を取り合うというのは、4回戦でのハンティングクエストに似ているといえるだろう。
その時戦った相手は――――――誰だっただろうか。
………………………………………いけない、うっかりど忘れしてしまったみたいだ。

「ど忘れって、大丈夫?先にちょっと休む?」

いや、大丈夫だ。
本当にすっぽり記憶から抜け落ちちゃっただけだ。
続きになるが、ペナルティのかかる事例はムーンセルでもあったが、排除に等しい罰則が与えられるのは今回が初めてのはずだ。

「けどさ、今のはそれと違うよね。私達、何かしたわけじゃないのに、いきなり指名手配までされてさ」

ネバーセイバーの言う通りだ。
少なくとも、自分達は運営に目をつけられてるような事をした憶えは一切ない。
大それた動きはしてないし、戦闘だってこの前とのアヴェンジャーとが最初だった。何か違反となる行いをしたわけではない、と今は断言していい。
そもそもこの討伐令が出されたのは如何なる理由なのか。
運営への反逆なり、過度の一般人(NPC)の殺傷なり、糾弾する理由ぐらいは書いておいてもいいだろうに。
どうしてこうなったのか、という経緯が、この文面からは抜け落ちてる。

通信で現われた、裁定者(ルーラー)のサーヴァント。
ムーンセルでの上級AIに代わって聖杯戦争を運営していくのだろう存在は、明らかにその配役を間違えていた。
公正に進行させていくという気を微塵も感じさせない小馬鹿にした態度。
白黒のずんぐりむっくりした体型の後ろにはきっと、悪魔の羽と尾が隠されている。

しん、と頭の奥が痛む。何も置かれていない場所に、無くしてしまったものを見るような。
窓の外で風に吹かれて飛ぶ木の葉が、桜の花びらにでも見えたのだろう。


990 : アイドリング・アイドルズ ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 02:05:53 BicVRJc60



ともかく、何の理由もなく無作為に狙われたとは思えない。
行動が原因でないとしたら、後はそう、自分達がここにいるという事実そのものについて。
ならそれは――――


  きっとネバーセイバーの存在だ 
 >きっと岸波白野の存在だ


「うーん、どうかな。ムーンセルから送られたっていうなら私も似たり寄ったりだし。あり得ない存在なのは私も大概だよ?」

ネバーセイバー。夢幻の剣士。
ムーンセルが観測した夢の世界での物語から編まれたサーヴァント。彼女もまた、特異といえばそう言える存在だ。
そんなサーヴァントだからこそ岸波白野が引き合わせたのか。逆に岸波白野が選ばれたからこそ彼女があてがわれたのか。

ムーンセルに聖杯戦争の抗体として送り込まれた岸波白野。
ルーラーがそれが運営の不都合になると気づいて、対抗手段を打ったということだろうか。
直接的な排除に出ると他のマスターに不審を与える。だから討伐令という形で参加者に自発的に襲わせ、こちらの動きに制限をかけた……?
因果関係はまだはっきりしていない。ネバーセイバーもさっぱりだという顔をしている。
 


……腕を組んで今後の方針を考える。
ムーンセルが自分を送り込んだ目的はどうあれ、まずは生き残らなくては話にならない。そして現在の状況は開始直後にして四面楚歌という絶体絶命だ。
ルーラーに直接物申す?………いやいや、それは流石に自殺行為だ。
ネバーセイバーは、何か気にすることはないのだろうか?

「私?んー……特にはないかな。
 指示とか戦術とか、そういうのはマスターに任せるよ」

と、無関心ともとれる言葉を返された。

「あ、言っとくけど投げやりってわけじゃないよ?
 ほら、私ってサーヴァントとしては新人みたいなものだし。まだふわふわしてるっていうか、形が定まってないのかな。地に足がついてない感じでさ。
 どこかで気が抜けちゃうって心配があるんだ」

申し訳なさそうに、自分でも情けないと心底自覚しながら弱音を吐いた。

「けどマスターは私と逆で、聖杯戦争を経験してるんだよね。しかも優勝までしちゃったんでしょ?
 だったら、あなたの指示や判断の方がよっぽと正確で、信頼もできると思うんだ。
 新米のサーヴァントと、ベテランのマスター。あべこべだけど、そういう関係は私も慣れてるんだ。見出すプロデューサーと、それに導かれるアイドル。
 そうすればきっと、戦うべき時に私は戦える。今の私は、あなたのサーヴァントだからね」

英霊として不確かな状態であり、願いと呼べるほどはっきりとしたものは持っていないネバーセイバー。
夢の中の自分が夢を見ている。彼女はそんな蝶のようにあやふやな状態のままでいる。

炎を纏う黒衣のサーヴァント、アヴェンジャー。
あの夜での戦いが、ここにいる彼女にとって初めての戦いだった。
そこにどれだけの不安があったのだろう。たとえ技術や能力が備わっていても、それを振るう記憶があっても、それを現実に起こした過去が欠けている。
知っていることと実際に使えるかは別の話だ。
戦いを重ねることによって、ようやくネバーセイバーはサーヴァントとしての力を自ら把握していける。
本来只の少女の身でしかない上で。岸波白野を信頼すると告げる。

不確かな記憶。心許ない肉体。けれど消えない魂の想い。
未熟っぷりはお互い様だ。優勝者だなんだといっても魔術師としてへっぽこなのは残念なことに変わらない。

マスターとサーヴァントは支え合ってこそと誰かは言っていた。
意思と力。どちらかにしかないものを補完し合って進んでいく。
彼女が力を貸してくれる信頼に、自分は意志を示すことで応えたい。
希望を持って未来を望みたいと、そう思った。


991 : アイドリング・アイドルズ ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 02:07:06 BicVRJc60




「それとさ、マスター。敵がいない時くらいは真名呼びでもいいよ?私自身馴染まない感じだし。
 なんなら私も白野って呼ぼうか?」

なるほど。ネバーセイバーという呼称は慣れないし、凜のことも考えれば本来の名で呼んだ方がいいかもしれない。
しかし、これは個人的な問題なのだが、凜、と聞くと、目の前の人物とは別の顔がイメージされてしまう。

「そっか、マスターの友達にも凜って人がいるんだっけ」

月に向かったマスター。その優勝候補の一角でもある少女、遠坂凜。
記憶が無くて右往左往していた頃の自分を見かねて、本来敵である立場でありながら助言をくれたりと世話を焼いてくれた。
その実力といい、気持ちのいい性格といい、荒廃した地上でも見る者の記憶に残りやすい、鮮烈な人間だ。

「そんなに凄い人と一緒の名前だと、余計な気を遣わせちゃうか。ごめんね、今のはなしで」

いや、そんなことはない。
凜という名前はとてもよく似合ってると思う。

「………………っ!」

率直な気持ちを伝えると、凜は口を手で抑えて暫くわなわなと震え、

「マスターってさ、たらしとか言われたことない?」

と、ジト目で返された。
よく分からないが、なにか良くない評価を受けてしまったらしい。

「そっかぁ、天然かぁ。そういうとこは卯月と似てるか。隣にいる人は苦労するだろうな……あ、今は私か」

奈緒みたいに突っ込み役になるのかな……などとぼやく凜。
結局その後、ふたりきりの時は名前を呼び合うということで話は落ち着いた。



「――――――ああ、さっきのだけど、やっぱり気にしてるのはあるよ。 
 討伐令でさ、私の顔写真が配られたじゃん。あれって、他のマスターにも届いてるんだよね?
 それが多分、困っちゃうだろうなって……」

アイドル的に、写真写りが悪いと宜しくないとか?

「そ、そんなんじゃないって、もう……!
 ほらいるじゃんこの街にも……『渋谷凛』がさ」


あ―――――――――


そうだ。そこに行き着かなかった。
サーヴァントであるネバーセイバーとしてではない、生身の渋谷凛。冬木の街でアイドルとして活動している少女がNPCとして存在している。
大衆が想像する渋谷凛とはこの方のイメージだ。そしてそれはマスターだって同様だ。
討伐令の手配書に書かれたサーヴァントと同じ顔の人間が、テレビや雑誌で引っ張りだこのアイドルとして顔を出しているのだ。
彼女の方をサーヴァントだと勘違いしたマスターが襲ってくる可能性がある。
そうでなくとも、同じ顔というだけで関係性を疑われるのは十分にありえる…………!


992 : アイドリング・アイドルズ ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 02:08:09 BicVRJc60

大変なことになってしまった。
まさか自分達への討伐令で関わりのない人に矛先が向かってしまうとは。
このままでは無関係の渋谷凛が聖杯戦争に巻き込まれてしまう。なんとかして守るか、遠ざけられるようにできないものか。

「いいの?私の我が儘みたいなものなのに。あんまり意味があることじゃないよ?」

でも、凜は向こうの凜を助けたいと思っているのではないのか。
だから自分にこのことを伝えたのでは?
 
「そりゃあ、自分が殺される場面なんて見たくないけどさ……それで白野が危険な目に遭ったら本末転倒っていうか、私の立つ瀬がなくて……」

ならそれでいい。
それにこれは凜だけの都合じゃない。

「え…………」

ここにいる凜はサーヴァントだが、それと同時に渋谷凛だ。
英霊として生涯を終えたのではない、普通の少女の魂を持っている。冬木の街を踊る、アイドルの『渋谷凛』の記憶と心。
夢の中の自分が、夢を見ている自分自身を守りたいと思う。伝え、残していくことを無意味だと、わたしは断じられない。

自分を殺されたくない。動き出す切欠なんてのは、その程度の理由で十分だ。
そしてわたしはそう願う人の手を取って、できるだけの手助けをしてあげたい。
――――――どこまでも伸ばせる腕なんてないから、せいぜい届くのは隣の人くらいだけど。



「……………そうだった。一緒にいて分かってきたけど、意外と白野って頑固だもんね。こうと決めたらてこでも動かなくて、どんどん限界に向かって突き進んでいくの。
 それじゃあ改めてお願いするね――――――マスター。『私』を助ける方法を、一緒に考えてくれる?」

もちろんと頷く。
どうするか考えるとはいったものの、まずは向こうの凜の居場所を知らないことには始まらない。
自宅、あるいは芸能事務所。それから各収録のためのスタジオ。候補はこれだけ絞れる。
ならばここは――――――


 <私がアイドルになる
  ネバーセイバーを事務所に向かわせる


「え?あんたがアイドル?ふーん……悪くないかな」

なんと。あっさり許可が降りるとは
しかも本家本元のアイドルからのお墨付き。これはひょっとしてデビュー、いけるのでは?

「冗談だよ。あっそんな落胆した顔しないで。悪くないのはほんとだよ?
 先輩目線で偉そうに聞こえそうだけど、飾り気は少なくても綺麗に咲いた満開の花みたいでさ。
 あとは愛想があればもっといいと思うな。とりあえず『笑顔です』なんてしきりに言われちゃいそうだよ」

……そんなに表情が固いだろうか、わたし。自分でほっぺをむにむにしてみても実感はない。
教室だと友人からはぼんやりしてるとか言われるのが多かった気もするが。

「事務所へは私が行くよ。私が『私』のままなら、どうやって過ごすのか予想もつくしね。
 ふふっ変装してるわけでもないのに怪盗みたいに潜入するなんて、ちょっとワクワクするかも」

そうやって割とノリよく今後の計画を練っていく凜。凝り性というか、真面目にのめり込むタイプのようだ。
凜も心配だが自分達の身の回りも考えなくてはいけない。夜が更けるまでには方針を固めておこう……


993 : アイドリング・アイドルズ ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 02:09:25 BicVRJc60
【一日目・未明/C-9】


【岸波白野@Fate/EXTRA】
[令呪] 残り三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] コードキャスト複数
[所持金] 一般学生並
[思考・状況]
基本:諦めず、とりあえずは前へ進む
1:渋谷凛(NPC)に危険が及ばないようにしたい。
2:討伐令を警戒。その理由が気になる。
3:自分達の安全もしっかり。
【備考】
どれだけのコードキャストを保有しているかは後の書き手にお任せします

【ネバーセイバー(渋谷凛)@アイドルマスター シンデレラガールズ(グランブルーファンタジー】
[状態]健康
[装備] 蒼身の剣
[道具] 召喚石・傷ついた悪姫
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:夢のまま終わらず、立ち向かう
1:渋谷凛(NPC)に危険が及ばないようにしたい。
2:基本的な指示はマスターに任せる。


994 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 02:12:38 BicVRJc60
投下終了です


995 : ◆HOMU.DM5Ns :2018/08/11(土) 16:16:46 BicVRJc60
上記の現在位置を【B-9】に変更します


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