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BASARAロワ

1 ◆Wv2FAxNIf. :2015/06/28(日) 01:45:49 ID:42T2Ahto0
 

「聞こえないのか?」


 時代が終わる。


「疑問に思わないのか。
 本当に気づかないのか」


 風の民が一人、青い衣を身に纏い、砂漠の空を見上げた。
 彼の内では、警報が鳴り響いている。


「徳川幕府は、大日本帝国は。
 ヒトラーは、フセインは。
 本当に気づかなかったのか」


 時代を担う者たちに知らされる危険信号を、この風の民は確かに感じ取っていた。




 神代の時が一つ、遠のく音。
 そして世界は新たな担い手のもとへ、滑り落ちようとしていた。






68 天凌府君、宣戦布告す ◆Wv2FAxNIf. :2016/09/14(水) 04:21:01 ID:p2UZm2gw0
 テレビ局の非常階段。
 その道半ばで黄天化は細く、煙草の煙を吐き出す。
 煙の行先を目で追えば、晴れ渡った青空が見えた。
 まだ途中階とはいえ二十階建ての建物だけあって、地上から見上げた時よりも視界が拓けている。
 ぼんやりと過ごすには悪くない天気だった。
 下さえ見なければ。
 自身の足元に広がる死体の残骸も、街を覆った死体の群れも見ぬふりをしていられれば、悪くない天気と言えた。
 もっとも、どの道むせかえるような独特の臭気までは誤魔化せず、天化はもう一度、溜め息とともに煙を吐くのだった。

 建物の最上階を目指すことになってから暫し経つが、道は遠かった。
 二十階分の階段も、道を塞ぐ死体の群れも、天化一人なら大した障害にはならなかったはずだ。
 だが今は同行する少年――最上階に行きたいと言い出した張本人、ルルーシュと歩調を合わせる必要があった。

 天化の煙草が燃え尽きかけた頃、ルルーシュはようやく追いついてきた。
 初めのうちこそテレビ局やビデオカメラというものについて天化に語って聞かせていた彼だが、その余裕は見る影もない。
 肩で息をしている彼に、天化はチラと目を向ける。

「あんた、ひょっとしなくてもすげー運動音痴さ……」
「お前みたいな……体力馬鹿と、一緒にしないでくれ……」

 ルルーシュの額には汗が浮き、足は少し震えている。
 その様子は演技には見えない。
 だが彼をおぶって進んだ方が早いと分かっていても、天化はルルーシュと一定の距離を保ち続けていた。
 ルルーシュの足音が途切れず追ってきていることだけ確かめつつ、天化はまた歩を進める。

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア――数分前に出会ったばかりのこの少年について、天化は未だ信用できずにいた。
 出会ってすぐに起きた自身の記憶の欠落が、ルルーシュによって引き起こされたものなのではないかという疑いが拭えない。
 しばらくの間は協力することにしたものの、気を許せない。
 それ故に天化は振り向かないまま、探るように声をかけた。

「……そういや、さ。
 あんた王様なのか?」
「〈喰らい姫〉にあれを見せられた以上、隠しても無駄だな。
 確かに俺は、神聖ブリタニア帝国の皇帝だ」

 こんな状況でもルルーシュは落ち着いていた。
 冷静で、受け答えはしっかりしている。
 とはいえ天化から見たルルーシュはその程度のものだった
 どこにでもいる少し聡い少年であり、〈喰らい姫〉に見せられた光景はこうして話している今も半信半疑である。
 国どころか世界をも手中に収め、人々の言論の自由さえ奪った悪逆皇帝。
 眉一つ動かさずに人々を虐げる様はまさしく極悪人であり、ここにいる少年とは結びつかなかった。

「協力する気が失せたか?」
「……いーや。
 あんたの国とか世界のことには口出ししねぇ。
 俺っちはそーゆーの、あんまキョーミねぇのさ」

 民を苦しめる王というものに、良い感情を抱けないのは事実だ。
 自身の過去を――王の振る舞いにより家族を失った苦い思い出を、嫌でも想起してしまう。
 しかし、それだけを理由にルルーシュを見放すほど狭量でもない。
 そもそも天化にとっては国も世界も単位が大きすぎて、どうにもピンとこないというのが素直な感想だった。
 よって天化が気にするのはただ、この場でルルーシュを信用してもいいのかという一点のみである。

「俺っちが聞きてえのはさ。
 王様ってことはやっぱ、〈赤の竜〉をどうにかしたいのか……ってことさ」

 十五人を殺して〈契りの城〉へと至り、〈赤の竜〉を討てば世界を変える力を得るという。
 天化には実感の持てない話であり、他人を押しのけてまでそれが欲しいとは到底思えない。
 個人的な望みは無いでも無いが、殺人への動機にはなり得なかった。
 だがそれは天化にとっての話であり、国を統治する者にとっては人の命よりも重い――かも知れない。

「俺が〈竜〉の力欲しさに人を殺そうとしてるんじゃないかって、天化はそれを気にしてるんだろ?」
「……ま、早い話がそうさ」

 迂遠な問いになった天化とは反対に、ルルーシュの返しは率直だった。
 そして笑いを含んだ声音でこう続けた。

「俺にはこんなところでは死ねない理由があるが、〈竜〉に興味はない。
 仲間と一緒に生きて帰れればそれでいい。
 ……と言えば、信用できるか?」
「……あー、こっちから言い出しといてわりーんだけど。
 やっぱ会ったばっかじゃ何とも言えねーさ」
「そうだろうな」

69 天凌府君、宣戦布告す ◆Wv2FAxNIf. :2016/09/14(水) 04:23:46 ID:p2UZm2gw0
 「殺し合う気はない」と言われても、それで終わる話ではない。
 天化はそこで、言葉に詰まってしまった。

 いくらここで話しても、仮に記憶の欠落の一件がなかったとしても、完全に信用することはできない。
 当然の結論に落ち着いてしまったのだ。
 それはルルーシュを警戒している天化にとっては、無難な結論に誘導されてしまったように思えた。
 とはいえここからさらに踏み込もうにも、元々頭脳労働は専門外である。

「こんな状況なんだ、信じられないのは仕方ない。
 だけど俺がまともに戦えないのは見てて分かっただろ?
 俺一人じゃ人殺しなんてできない。
 そこは信じられるんじゃないか?」
「……ま、確かにそりゃそうさ」

 結局、ルルーシュが上手く話をまとめて終わった。
 釈然としない思いで、天化はがしがしと乱暴に頭を掻く。

「やっぱこーゆーのは、俺っちより師叔の方が向いてるさ……。
 親父とさっさと合流して、師叔んとこに戻んねーと」
「親父……?」

 天化が独り言のつもりで呟いた言葉に、意外にもルルーシュが反応した。
 後ろからついてきているルルーシュの表情までは、天化からは見えない。

「そういえば言っていたな。
 開国武成王黄飛虎、だったか」
「そーさ、俺っちの親父はちーっとだけすげーのさ。
 王様のあんたほどじゃあねぇけどよ」
「尊敬してるんだな。父親を」

 何気ない会話ではあった。
 だがルルーシュの口から出る父親という単語には、確かな負の感情が滲んでいた。
 父親「なんかを」とでも言いたげな、含みのある声音だったのだ。
 それが気になって、思わず天化は口にしてしまう。

「そういうあんたの親父さんは――」

 言ってから気付いても、遅い。
 ルルーシュはこの若さで、皇帝に即位している。
 ならばその父親の存在は、どういった事情があるとしても気分の良い話にはならない。

「わり、ちょっくら聞きすぎたさ」
「いいさ、減るものでもない。
 父親なんて――」

 天化は振り返らなかった。
 振り返れなかった。
 ルルーシュがどんな表情でそれを口にしているのか、知りたくなかった。



「殺したよ。とっくに」



 それまで冷静だったはずのルルーシュが、色濃い感情を見せた。
 そしてそれは、悲しみとは違う。

 ルルーシュを信用できるかできないかは、まだ分からない。
 しかし天化はここではっきりと知った。

 彼と信頼関係を築き上げられたとしても、互いに理解し合うことはない。
 父親を心から慕う天化にとって、ルルーシュはまさしく異世界の存在だった。



【一日目昼/九段下 テレビ局 非常階段】

【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]健康
[その他]
・携帯電話を紛失

【黄天化@封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]健康
[その他]
・ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明)



 建物の一階正面口から、婁震戒は最上階を睨み、目測を立てる。
 そして呼吸を整えて気を練り、跳ぶ。

 《軽身功》。
 羽毛のように、木の葉のように身を軽くする技術である。
 長く暗殺者として活動し、単身で難攻不落の城塞すら踏破してきた婁にとって、ただ高いだけの建物など障害物のうちに入らない。
 一度の跳躍で、およそ十四メートル。
 途中階の窓を蹴破って内部に侵入し、還り人の群れの隙間を縫って進み、吹き抜けを利用してさらに跳ぶ。
 そうして婁はルルーシュら二人と接触することなく、悠々と最上階へ足を踏み入れた。

 ルルーシュらの会話を還り人の耳を介して聞いた限りでは、ここは映像を発信する施設なのだという。
 街頭で見かけた映像機器はテレビといい、ビデオカメラで撮影した映像を受信して映しているとも言っていた。
 収集した情報を踏まえ、婁はこの階で最も大きな部屋へ向かう。

70 天凌府君、宣戦布告す ◆Wv2FAxNIf. :2016/09/14(水) 04:25:05 ID:p2UZm2gw0
 還り人を送り込んだ際、利用価値があると判断して破壊を避けた部屋である。
 天井は高く、数百人は収容できる広さがある。
 部屋の奥には落ち着いた色調の舞台と、人の背丈ほどの黒い機器が設置されていた。
 街にいる還り人の視界で確認すると、その舞台の様子と、外に配信されている映像が一致した。
 恐らくこの黒い機器がカメラであり、部屋の映像を外部へ届けているのだろう。
 婁にとっては信じがたいことだが、ここでは大規模な通信用魔術結界を用いることなく、僅かな機器のみで広域に映像を送れるらしい。

 だが婁は、そうした機器とは無関係なものに注意を奪われた。
 舞台の脇に立つ『それ』と、対峙する。

「……これは」

 婁が息を呑む。
 既に還り人たちの目を通して、中の様子を知ってはいた。
 それでもなお、未知の映像機器などよりも驚嘆に値する品だった。
 舞台脇の壁に聳える『それ』は、妖剣の他への関心が薄い婁ですら目を見張った。

 それは甲冑のように見えた。
 婁の持つ知識では、それ以上にふさわしい比喩は浮かばない。
 兜を含めた全身鎧――ただしその大きさは、人の身長の四倍近い。

『兵器であることに間違いはなかろう。
 あのルルーシュとやらなら、詳しく知っているだろうがの』
「……ひとまず、動く様子はありませんな」

 妖剣・七殺天凌の囁きに応えながら、注意深く観察する。
 この大きさの鉄の塊が戦場に出て自由に動くとなれば、厄介と言う他にない。
 〈赤の竜〉にも対抗できる戦力になるだろう。
 とはいえ今すぐ破壊するには骨が折れる。

「……であれば、あの二人が来る前に済ませておきましょう」
『ほう、何かあると?』
「ええ、少々宣戦布告を」

 巨大甲冑から目を離し、改めて舞台とカメラを確認する。
 舞台の背景にはこの国の全域を示す地図が示されており、一人の女性がそれを指して天気の説明を行っている。
 他にもカメラを操作する者たちが数名控えており、黙々と作業に専念していた。

 婁はまず舞台上の女性を手刀で刺殺し、彼女に代わって機器の前に身を乗り出す。
 突然の乱入ではあったが、カメラを扱っている者たちの表情は微動だにしない。
 ただ映像を撮るという役割だけを与えられた人形は、至極使い勝手が良かった。

「声も――問題ないらしい」

 外に配信されている映像から、自身の姿と音声が届いていることを確かめる。
 そして婁は声を張り上げた。

「〈喰らい姫〉に選ばれし、親愛なる同士諸君!」

 両手を広げ、堂々と言い放つ。
 既に還り人たちの侵略は進み、配信を見る余裕のない者もいるだろう。
 この宣言は、十九人全員に確実に届くものではない。
 だが届かなければそれはそれでいい――妖剣を愉悦させる為の余興として、婁は続ける。

「この『東京』をこれより、大いなる〈天凌〉に捧ぐ贄とする!」

 背に負った妖剣から漏れ出た感嘆の声に、婁は酔いしれる。
 血を求める妖剣の存在こそが婁の原動力であり、他に求めるものは何もなかった。

「いずれ諸君ら全員が目にするであろう、還り人が軍勢。
 これこそが〈天凌〉の威光なり!」

 剣に血を捧げ、肉を捧げ、それだけでは到底足りないのだ。
 どうすれば剣をより満足させられるかを考え抜き、より残虐に、凄惨に、状況を掻き回す。

「私こそは〈天凌〉に仕えしもの、私の名は――」

71 天凌府君、宣戦布告す ◆Wv2FAxNIf. :2016/09/14(水) 04:26:11 ID:p2UZm2gw0
 ニル・カムイの時と同じように宣言する。
 死んだ『婁震戒』に代わる、新たな死人の王の名――――



「スアロー・クラツヴァーリ!!!」



 婁は嗤う。
 七殺天凌の哄笑に脳を揺さぶられ、人生の絶頂を味わった。




【一日目昼/九段下 テレビ局 最上階スタジオ】

【婁震戒@レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話(故障中)
[状態]健康(還り人)
[その他]
・七殺天凌は〈竜殺し〉
・還り人たちを通して会場全域の情報を得る。



 演説を終えた婁はカメラを破壊し、舞台を降りる。
 既に用済みとなったスタッフたちは、婁も七殺天凌も特に興が乗らなかったこともあり見逃された。
 それが図らずも、婁にとって都合よく作用したのだった。

 カメラからテープを回収した彼らは、映像の編集と配信を行った。
 結果――ライブ配信が終わった後も、婁震戒の演説は繰り返し放送される。

 屋内でも、屋外でも、婁の宣戦布告の声が響く。
 名を騙られた黒竜騎士の都合にお構いなく、何度でも何度でも――




投下終了です。再度ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、婁震戒を予約します。

72 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:12:53 ID:b5j36Zbk0
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、婁震戒を投下します。

73 婁震戒攻略 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:14:11 ID:b5j36Zbk0
 ルルーシュの指示に従い、長い廊下を駆け抜ける。
 そうして二人は遂に目当てのスタジオに辿り着き、天化がその入り口を蹴り開けた。

 途端、視界が拓ける。
 行く手を阻み続けていた死体の群れが、ここにはいない。
 だが緊張は解けるどころかさらに高まった。
 入り口から十メートル以上進んだ先の撮影用スタジオに、一人の男が立っていたのだ。

 黒と赤の派手な仮面で顔の上半分を隠した、黒マントの男。
 ルルーシュと天化がいる入り口の方を向いてはいるが、仮面のせいで視線の先は判然としない。
 不自然なまでに目立つ姿の男を前に、天化は反射的に剣を構えた。
 目を凝らし、集中し、どんな動きにも対応できるよう足に力を籠める。
 だがその集中を、ルルーシュの声が破る。

「天化、その男は『違う』!」
「!!」

 天化が前面に絞っていた感覚を広げる。
 視線を左右に配り、耳を澄ます。

「…………そこさッ!!!」

 微かな空気の流れを肌で感じ取り、天化は振り向きざまに莫邪の宝剣を振り下ろした。
 ルルーシュの首筋めがけて伸びていた黒い影は、宝剣を避けて飛び退さる。
 影がそのまま天化たちから距離を取り、仮面の男の隣りで立ち止まったところでようやく、人の形を成して見えた。
 戦いに慣れた天化の目をもってしても、その男の気配は捉えがたかったのだ。
 対面で向き合ってなお、男の後ろの景色が透けて見えそうなほどに気配が薄い。
 ルルーシュと同様、その輪郭は淡く光って見えているというのに、それをまるで感じさせなかった。

「天化、助かった……」
「助かったのはこっちさ。
 俺っちだけじゃ騙されてた」

 仮面の男の隣りに並び立った、黒い皮鎧の男。
 顔は死体のように青白く、目の下の濃い隈が一層不健康な印象を強めている。
 天化は黒衣の男から仮面の男の方へ、ちらと視線を移した。
 輪郭の光はなく、よく見れば首を絞められた痕がある。
 恐らく、そこらにいた死体のうちの一体に目立つ衣装を着せて立たせていたのだろう。

「死体にこんなことができるってことは、あんたが親玉だな?」
「…………」

 黒衣の男は答えない。
 仮面の男と違って顔がはっきりと見えているというのに、感情はまるで読み取れなかった。

 死体を操りながら天化たちの先回りをし、罠を張って待ち受けていた男。
 その存在は、『ルルーシュの読み通りだった』。



 天化と出会い、一応の安全を確保して以降、ルルーシュは思考し続けていた。
 主に街を覆わんとしている死体の群れの正体や思惑についてだ。
 しかし仮説を立てようにも、死体が動き回るという荒唐無稽な状況を前に手詰まりを起こしかけていた。
 だが天化がもたらしたある情報がそれを打ち破り、ルルーシュは一つの結論に行き着いたのだった。

「高継能、っつったかな。
 そいつと戦った時と、ちょいと似てるさ」

 非常階段を進む間、天化はそう呟いた。
 天化本人は状況の打開までは期待しておらず、雑談のつもりだったのだろう。
 その人物はフェロモンを操る宝貝で遠距離から蜂の群体を支配し、蜂たちをミイラのように仕立てあげて襲ってきたのだという。
 確かにその話は、現状とは異なる点を多く含んでいた。
 だが「ギアスをもってしても実現不可能な事象を可能にする道具」の存在が、ルルーシュが立てる仮説の幅を大きく広げた。

 階段で天化が戦う間、ルルーシュは集まった情報から四桁に及ぶ可能性を列挙し、さらにその中から一つの答えを導き出す。
 そして最上階に着いたところで、それを天化に告げたのだった。

「天化、振り返らなくていいから聞け。
 恐らくこの先、俺たちは待ち伏せされている」
「んなことどーしてわかるさ?」

 スタジオは既に目と鼻の先であり、ルルーシュは手短に説明した。
 まず、天化が戦った宝貝使いの時と同様、この死体の群れにも指揮官がいるのは明らかだった。
 一見すると死体それぞれに知性は見られないが、火や車両を扱って建物を破壊している個体がいる。
 ルルーシュがバリケードを築いていたこのテレビ局への侵入も極めて手際がよく、ただ機械的に人を襲うだけの群れには不可能である。

 また二人が非常階段にいる間、群れの中にはわざわざ各階の頑丈な扉を破って襲ってくる者たちもいた。
 恐らく、二人がそこにいるという情報が群れの間で共有されているのだ。
 そしてそれにも関わらず、二人が身動きできなくなるほどの数が殺到することはなかった。
 統率が取れており、かつ相手を行動不能にするという点については消極的である。

74 婁震戒攻略 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:14:56 ID:b5j36Zbk0
「死体の群れの使いようによっては、俺たちを完全に進めなくすることもできたはずだ。
 つまりその指揮官は俺たちを妨害し、時間稼ぎをしている。
 そして最上階を目指すこと自体は阻止しようとしていない」
「あー、あるかもしれねーさ。
 こいつらみょーにばらけて出てくるから、進みにくい割に大したことねーんだ」

 天化にも心当たりがあったようで、話はすんなりと伝わった。
 天化は頭脳労働は不得手だと自称していたが、戦いの最中でも敵をよく観察している。
 剣を振るだけが能ではないらしい。

「それでそいつに待ち伏せされてるって話になったわけか。
「そうだ。
 俺たちが外の階段を上がっている間に、建物の中を通って先回りしている」
「はー、なるほどなぁ。
 中は死体まみれっつっても、操ってる本人なら関係ねーわけだ」

 天化は感心した様子で納得していた。
 そしてルルーシュはもう一つ、推測を付け加えた。

「どうやらそいつは、俺たちと直接会いたがっているようだ」
「死体どもがあんまやる気ねーからか?」
「それもあるが……この建物だけ、火が回っていないからだ」

 ルルーシュが非常階段から観察した限り、周囲のどの建物にも火が放たれていた。
 群れが暴れた結果燃えているのではなく、車両を建物に突っ込ませたり、可燃物を使用したりと、意図的に燃やされている。
 目的は参加者を炙り出す為だろう。
 二十人の参加者に対してこの街は広大すぎるが故に、隠れる場所を大胆かつ効率よく奪っているのだ。
 しかしこのテレビ局だけは、未だ出火した様子がない。

「死体に人海戦術で囲まれて、身動きできなくなっているうちに火を使われたらひとたまりもなかった。
 まぁ、お前の力があれば突破できたのかもしれないが。
 殺せる機会をあえて見過ごして、わざわざ待ち伏せている」

 合理的ではないが、あらゆる可能性を加味していった結果残った結論だった。
 殺人に快楽を見出す人種なのか。
 二対一でも勝てる自信があるのか。
 何らかの理由があるのだろうが、そこまでは読めなかった。

「んー……ま、着いてからも用心しろっつーこったな」
「そういうことだ」

 やる気があるのかないのか、天化の軽口からは判断が難しい。
 だがその腕が確かであることも、意外に真面目で誠実な男であることも、短い付き合いではあるが理解できた。
 まだ信頼には及ばないが、信用はできる。

 そうして二人はスタジオに辿り着き、天化はルルーシュの期待を裏切る形で豪快に扉を蹴破ったのだった。



 還り人となり新たな能力を得たものの、婁の本分はあくまで暗殺者である。
 奇襲が失敗したことは少なからぬ痛手であったが、さりとてそれで撤退する婁ではない。

 これまでの経験でも、対象に初手を防がれるのは別段珍しいことではなかった。
 まして今回に至っては配下の還り人たちの耳でルルーシュと天化の会話を聞き取っており、読まれていることは折り込み済みだった。
 待ち伏せが不発に終わったならば、正面から斬るのみ。
 武芸の達人として研鑽を積んできた婁は、天化が相手でも敗北はないという自信があった。

『……使って来んようだな』

 妖剣が囁く。
 婁と七殺天凌が真に警戒していたのは天化ではなく、ルルーシュの方である。
 この男の能力について未だ多くが推測の域を出ないが、捨て置くには危険過ぎたのだ。
 最初の奇襲で天化ではなくルルーシュを狙ったのもその為である。

 他人へ命令を強制する力。
 それを行使する直前の所作から魔眼と推察したものの、効果を確認できたのは一度きりだった。
 判断材料が限られる今、魔眼ではなく言霊によるものだという仮説も立てられる。
 ただ黄天化に一度使用してからは、天化本人の自由意志に任せているように見えた。

『だが実際にあの小僧を見て分かったことがある』
「ほう?」
『あの程度の生体魔素では、強力な魔眼など扱えまいて。
 あれでは幼子のそれと変わらんな』
「ならばあの力は……」
『暗示か、催眠術の類と見た。
 あの黄天化の言った宝貝のような、わらわの知識の外のものでない限りはの』
「…………」

 妖剣との念話を続けながら、婁は思案する。
 魔眼でないならば、少なくとも相手の視界に入っただけで術中にはまることはない。

75 婁震戒攻略 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:15:24 ID:b5j36Zbk0
 ルルーシュの発声と視線に注意を払っていれば回避できるはずである。
 未だ憶測をはらみ、賭けになる――だが婁は自ら仕掛けることを決めた。

「来ないのか」

 婁が念話をやめ、ルルーシュと天化に向けて口を開く。
 ルルーシュから天化への「生け捕りにしろ」という命令が耳に入り、やはり能力を使う様子は見受けられない。
 そこで婁は、剣を抜いた。

 意志を持ち、人の血を啜る妖剣・七殺天凌。
 この剣を抜くことは特別な意味を持つ。

「これでも……来る気はないか?」

 息を飲んだのはルルーシュだった。
 目を見開き、目眩を起こしたように数歩後ずさる。
 そして陶酔しきった声で呟いた。

「う、美しい……」

 婁は口の端を吊り上げ、さらに見せつけるように赤い刀身を掲げた。
 七殺天凌は、ただ美しいだけではない。
 その魔力によって人を魅了し、「己のものとしたい」という欲望で染め上げるのである。

「よこせ……その剣は、俺のものだ……!」
「あんなに立派な持ち物があるのにか?」

 ルルーシュの目からは知性も理性も剥がれ落ち、ぎとついた欲望だけが映っていた。
 そんなルルーシュの前で、婁は大袈裟な身振りをもって巨大甲冑を指す。
 恐らくはルルーシュが目的としていた、切り札となりえる兵器である。
 婁の挑発を受けたルルーシュは、その表情を憤怒に塗り替える。

「こんなもの……!!」

 ルルーシュは懐から取り出した『鍵』のようなものを床に叩きつけた。
 兵器を使うのに必要なパーツであることは想像に難くない。
 七殺天凌へ心酔しそれまでの価値観が壊れる様を目の当たりにして、婁は一層笑みを深めた。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!!
 その剣を、――っ!」

 ルルーシュの声が途切れる。
 婁は囮に使った仮面の還り人の背後に回り、耳を塞いだのだ。
 だがその還り人の五感を利用し、ルルーシュが命令を取りやめたことは把握できた。

「貴様、まさか俺の力を知って……!」

 ルルーシュのその反応から、婁は確信を得る。
 声だけで能力が発動するのなら、そのまま命令を言い切っていただろう。
 やはり危険なのはこの男の眼である。
 ここまで分かれば、対応のしようがある。

 だが七殺天凌とルルーシュの間に割って入る者がいた。

「あんたの剣、やべー力があるみてえだな。
 俺っちも、ちっとだけくらっときちまったさ」

 七殺天凌の魅了跳ねのけるには、強靱な意志と運を必要とする。
 黄天化にはその両方が備わっていたらしい。
 
「ま、俺っちは魔剣ってーのにイヤな思い出があっからよ。
 ルルーシュほど夢中にはなれねーみてえさ」
「天化、そう言ってあの剣を独占する気だろう!」
「あー、もう、あんたしょーがねえ人さ……」

 妖剣に魅了されたルルーシュが食ってかかるが、相変わらず天化は煙草をふかし、飄々と受け流している。
 天化の余裕の態度に、七殺天凌が震えた。

『やはりどちらも面白い……前菜と呼ぶにはもったいない輝きよ……!
 早く、早く食ろうてやりたいわ!』
「お任せ下さい、媛」

 婁は掲げていた妖剣を構え、臨戦態勢に入る。
 同時に天化も口論を切り上げ、纏う空気を一変させた。

「こいつはマジにならなきゃやべー相手さ。
 剣は取ってきてやっから、あんたは下がってな……っと!」

 婁が音もなく地面を蹴る。
 天化も遅れず前へと進み出て、広い部屋に剣戟の音を響かせた。

76 婁震戒攻略 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:16:01 ID:b5j36Zbk0



 高継能を相手にした時とはまるで違う。
 莫邪の宝剣を握る天化の手に、わずかに汗がにじんだ。

 人に戦わせ、本人は高見の見物をしているという点では、この黒衣の男は高継能と同類だった。
 ルルーシュの推測を聞いている間、天化は密かに「そんなやつには絶対負けねぇ」と意気込んでいたぐらいだ。
 危険とあっては逃げ隠れし、姑息に待ち伏せして罠を張るような卑怯者は、純粋に嫌いだった。
 だがこうして本人と対面し、天化は己の浅慮を恥じる。
 手段を選ばないという意味で、この男は確かに卑怯者と言えるだろう。
 しかし同時に、卓越した剣客だったのだ。

 立ち振る舞いに服装、それに最初にルルーシュを狙ったことからも、この男が暗殺に特化していることは確かである。
 そして暗殺者であるならば、待ち伏せによる奇襲の失敗は大きすぎる痛手だったはずだ。
 にも関わらず、男の表情にはまるで焦りがない。
 奇襲は手段の一つに過ぎず頼りにしてもいない、天化はその在りようの裏に確かな研鑽を見た。
 天化も努力を重ねてきた身であるが故に、それが理解できたのだった。

 さらに驚嘆すべきはその手数である。
 天化が大振りの一撃を繰り出そうとすれば、この男はその間に四度五度と正確に急所を狙った乱舞を見せる。
 その精緻な動きはまさしく達人――否、超人の境地であった。

 その極められた身体能力は、攻撃のみに留まらずあらゆる動きに反映される。
 天化の剣が如何に鋭くとも、黒衣の男の体は柳か羽毛のようにするりとすり抜けていく。
 そして初めに見せられた気配の薄さも健在だった。
 身軽さと素早さが加わって、至近距離にあってもなお、油断すれば見失いそうになるほどだ。

「あんたはめっちゃ強え!
 たぶん技量なら俺っちより上さ、けどな……!」

 敵が強いからと、諦める天化ではない。
 むしろ敵が強ければ強いほど、闘志を燃え上がらせる男である。

 頸動脈を掻き斬ろうとした妖剣を、莫邪の宝剣が受け止める。
 急所を狙う技術が正確であるが故に、天化にもその一手が読めたのだ。
 鍔迫り合いに持ち込み、なおも無表情を貫く黒衣の男に向かって吼える。

「黄飛虎譲りの腕力と!!
 負けん気だったらぜってーに負けねえさ!!!」

 その言葉通り、押しているのは天化だった。
 黒衣の男も単純な力比べを不利と悟ったのか、剣の角度を僅かにずらした。
 莫邪の宝剣を妖剣の上で滑らせ、切っ先を逸らそうとしているのだ。
 それに気づいた天化は逸らされる前に、『宝剣の刀身を消した』。

 莫邪の宝剣は柄が本体であり、刀身は任意のタイミングで出現させられる。
 鍔迫り合いの状態から唐突に相手を失い、さしもの黒衣の男の体幹が微かに揺れる。

「ッらぁ!!!!」

 再び発現させた莫邪の宝剣も、羽毛の如く逃れる男にはやはり届かない。
 紙一重、黒衣をわずかばかり裂いて終わり、距離を取られてしまう。
 だがそこで天化は驚き、目を剥いた。
 黒衣が裂けた箇所から覗く腹部には、真一文字の生々しい傷があったのだ。

「あんた、その怪我でよく生きて…………っつーよりあんた、ホントに生きて――」
「それはお互い様だ」
「!!」

 天化の足下に包帯が落ちる。
 腹部に巻き付けていた包帯が、距離を取られる間際に斬られていたようだった。
 そうして天化の左の脇腹の、出血し続ける傷口が露わになる。

「あんたのに比べりゃこんなもん……あっ」

 天化の話途中で、黒衣の男は背を向けて走り出した。
 向かう先にあるのは窓である。

「逃がすか!!」

 街の騒ぎの元凶でもある危険人物を、みすみす逃がす理由はない。
 天化が勢いよく歩を進め、そしてすぐに止まる羽目になった。

「天化、早く追いかけろ!
 あの剣を必ず奪うんだ!!」
「……そーだったさ、この人がいるんだったさ……」

 妖剣に魅了された今となっては、完全にお荷物となってしまったルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 彼を置いていくか否か、しかし悩んでいる間にも黒衣の男は逃げていく。

77 婁震戒攻略 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:16:29 ID:b5j36Zbk0
 男が窓を叩き割ったところで、天化は覚悟を決めた。

「えーーい、ここまできて置いてけるか!
 舌噛んでも知らねーさ!」
「ほわぁ!?」

 ルルーシュを肩に担ぎ上げ、天化は男の後を追う。
 割られた窓から下を覗くと、数十メートル下の大通りを走る影が見えた。
 天化は躊躇なく窓から飛び降り、外壁に剣を突き立てて減速しつつ落下していく。
 そして適度な高さで外壁を蹴り、大通りを跋扈していた死体のうちの一体の上に着地した。

「わり、今は相手してる時間ねーさ」

 ルルーシュを抱えたまま、黒衣の男が逃げた方角に向けて天化は走る。

(……あ、背負っちまった)

 非常階段を移動していた頃は、ルルーシュが如何に足手まといであっても直接手を貸してやることはしなかった。
 底知れず、どこか信用し切れなかったからである。

(急いでたっつーことでまぁ……)
「天化、早くあの剣を……!」
「あんたってホント残念な人さ……」

 思考が剣一色になったことで、ある意味御しやすくなったとも言える。
 何とか納得できるだけの理由付けをしつつ、天化は呆れと諦めの混じった煙をふかした。



(何故俺の能力に気づかれた……?
 いや、今はそれよりも……)

 天化に運ばれながら、ルルーシュはいつものように策を講じようとしていた。
 だが全ての優先順位が魅了によって上書きされ、普段の思考力は見る影もない。

(死体どもの破壊が都心部に収まっている今ならまだ、電波が届く。
 そこらから携帯を奪ってスザクたちに連絡を……。
 違う、今はまずあの剣だ……!!)

 スザクやジェレミアが焦りとともに動き出した頃。
 彼らの声の届かぬ場所で、ルルーシュは魔剣に深く囚われていた。



【一日目昼/九段下 テレビ局付近】

【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
・携帯電話を紛失


【黄天化@封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷
[その他]
・ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明)




「……さて」

 婁は元の最上階へ舞い戻っていた。
 逃走に見せかけてルルーシュたちを撒き、堂々とやり過ごしたのである。

「申し訳ございません、媛。
 天化とルルーシュの両方を見過ごすことになろうとは」
『構わん、一筋縄でいかない連中とは承知の上よ。
 焦らずともまた機会はあろうさ。
 あやつらのさらに上の極上の獲物も控えておる以上、戦いを長引かせる方が愚策と言えよう』

 妖剣の囁きを受け止めながら、婁はあるものを回収した。
 ルルーシュが捨てた、巨大甲冑の鍵である。
 婁自身がこれを扱うことはできなくとも、知謀に長けたルルーシュにこれ以上の戦力を与えるべきではない。

『とはいえ婁よ。
 そろそろわらわも渇きを覚えるぞ』
「ええ媛、次こそは。
 それまではどうかこの身を――」

78 婁震戒攻略 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:18:15 ID:b5j36Zbk0
 婁はうやうやしく七殺天凌を掲げ、そして自らの脇腹に突き立てた。
 己が食われる感覚にすら、婁は酔う。

『くくっ……おぬしの味は、未だ飽きることがない』
「恐悦至極に存じます」

 婁は妖剣に生体魔素を吸わせながら、街全体に張り巡らせた『目』を凝らす。
 愛しい妖剣が上機嫌でいるうちに、次なる標的を捜す為に。



【一日目昼/九段下 テレビ局 最上階スタジオ】

【婁震戒@レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話(故障中)、蜃気楼の起動キー
[状態]健康(還り人)、生体魔素を消費(媛は空腹であらせられる)
[その他]
・七殺天凌は〈竜殺し〉
・還り人たちを通して会場全域の情報を得る。
・ルルーシュの能力についてほぼ把握




投下終了です。更紗、アーロンを予約します。

79 ◆Wv2FAxNIf. :2016/11/15(火) 03:19:01 ID:b5j36Zbk0
月報です。よろしくお願い致します。
話数(前期比):10話(+ 1) 生存者(前期比):20/20 (- 0) 生存率(前期比):100.0

80 ◆Wv2FAxNIf. :2017/01/15(日) 03:49:56 ID:.FkwQdNA0
更紗、アーロンを投下します。

81 英雄(ヒーロー)の条件 ◆Wv2FAxNIf. :2017/01/15(日) 03:51:10 ID:.FkwQdNA0
 「〈竜殺し〉ではない」と宣告されて、その男は「その通りだ」と応えた。
 強大な力を受け継ぐ器などあるはずがない。
 次の時代を担うどころか、今の時代に無理矢理しがみついているだけの身だ。
 こんなところに招かれる謂われすらない。
 それでもできることがあるとするなら――



 更紗は深く息をついた。
 突然の出来事の連続で、冷静になる時間が必要だった。
 剣を振り続けていた手も、まだ疲労と緊張で震えている。
 愛馬の夜刀も落ち着かない様子で部屋の中を何度も見回していた。

 更紗は数刻前に焼けたばかりの、石造りの建物の一室に身を潜めていた。
 地上三階にある部屋であり、街中に蔓延る死体の群れの目は誤魔化せているようだ。
 火こそ消し止められたものの焦げついた臭いは未だ強く、更紗が腰掛けている椅子にも炎が這った痕が残されている。

「タタラと言ったか。
 これからどうする?」

 赤い着物の男――アーロンと名乗った彼が、窓の外の様子を窺いながら問うてくる。

 状況を打開できたのは彼のお陰だった。
 何人斬っても次が湧いてくる、切り開いた道はその端から塞がれていく絶望的な事態の中で、彼はその剣をもって竜巻をつくりだした。
 比喩ではなく竜巻そのものを――人の身で災害を起こしてみせたのだ。
 その風は死体の群れは勿論、彼らが周囲の建物に放った火すらも消し飛ばす。
 余りの光景に、更紗は腰を抜かしかけた。

 だがそこで建物の中に逃げ込むという判断をしたのは更紗だった。
 群れを観察した限り彼らは道を進軍し、生きた人を襲い、家屋に火を放っている。
 同士討ちこそしないものの、決められた動作をしているだけに見えて知性は感じられない。
 これらから「既に焼かれた建物の中は安全なのではないか」と考えたのだ。
 少なくとも逃げ込む姿を見られなければ捜しにくることもないと推測し、アーロンが敵を一掃したタイミングを狙ってこの建物に転がり込んだ。
 彼らについての推論がどこまで合っていたのかはともかく、結果としてこうして一息つけたのだった。

「俺についてきたければ勝手にしろ。
 これ以上休んでいる暇はない。
 お前がいつまでもそうしていたいなら、それもいいだろう」

 沈黙していた更紗に、アーロンが重ねて言う。
 突き放した言い方をするアーロンに、更紗はもう一度呼吸を整えた。
 彼の人を試すような言動は、今に始まったことではなかった。
 それは決して悪意によるものではないのだろうと、更紗は解釈している。
 出会って間もない相手ではあるが、梟・新橋の求めに応じて助けにきてくれた彼のことを、今は信じていたかった。

「……私にもあなたにも、捜している相手がいる。
 お互い、急いでいる。
 でも少しだけ時間を下さい」

 忌ブキと決裂してしまった時のことを思い返す。
 どうすればよかったのかと改めて考えても、忌ブキも更紗自身も主張を譲りようがなく、避けられない結果だった。
 だがそれで終わりにしていいとも思えないのだ。

――何故私は〈竜殺し〉なのだろう。

 アーロンと話している今も、更紗は疑念を抱き続けていた。
 力ではアーロンの足下にも及ばない。
 一人ではこの地で生き残ることもできない。
 だからこそ、こんな自分が選ばれてしまった意味を考える。

 忌ブキがそうであったように、〈赤の竜〉の力を切実に求める者がいる。
 それでも戦いを止めたければどうすればいいのか――自分にしかできないことを、自分だからできることを考える。
 考えて、それを口にした。

「私はあなたのことが知りたい。
 それに私のことも、知って欲しいんです」

 話し合うことを諦めたくなかった。
 その為には遠回りだとしても、悠長に思えても、自分と同じく巻き込まれた者たちのことを知りたかった。
 人は一度会っただけでは分からないと、更紗はこれまでの旅でよく分かっていたからだ。

 ただし、これではアーロンにとってのメリットがない。
 交渉を成立させる為のもう一押しを、更紗は模索する。
 だがアーロンは外を一瞥してからその場を離れ、更紗の正面の椅子に腰を下ろしたのだった。

「いいだろう、付き合ってやる」

 アーロンの黒眼鏡の奥の表情は窺いにくい。
 バイザーで顔の下半分をが隠れていることもあり、感情が読み取れなかった。
 
「確かに偽名を使う小娘が後ろにいては、俺も気が散るからな」
「……!!」

 自分の頬がカッと紅潮したのが分かる。
 まだ更紗という名を使っていない、タタラとして振る舞った初対面の相手に看破されるのは初めてだった。
 運命の少年などではなく――少女であると。

82 英雄(ヒーロー)の条件 ◆Wv2FAxNIf. :2017/01/15(日) 03:51:40 ID:.FkwQdNA0
「気付いて、いたんですか」
「今までそれで通用していたのか?
 随分、不注意な連中に囲まれていたと見える」

 仲間について悪く言われ、更紗はわずかに眉を顰めた。
 しかし見抜かれてしまったことは事実で、更紗は観念して額に当てていた布を解く。
 髪を下ろし、張り詰めさせていた神経を少しだけ緩めた。
 そして頭を下げ、改めてアーロンに求める。

「更紗……です。
 話を、させてください」



 歳は、ユウナたちと同じか少し下ぐらいだろうか。
 初めに助けた時は、非力な小娘程度にしか思わなかった。
 世界を左右するような話に何故巻き込まれたのかと、疑問すら覚えた。

 その彼女の言い分に従う気になったのは、彼女の眼を見てしまったが故だった。
 多くの人間を突き動かすだけの熱を宿した眼。
 自分にも――ブラスカにもジェクトにもなかったものだ。
 それは『英雄』と呼ばれるものなのだろう。
 その後で彼女の話を聞かされても、作り話とは思わなかった。

 運命の子どもという予言、日本の現状、そして「誰も殺されない国」という理想を、更紗は語る。
 その理想を耳にして、アーロンの肩は僅かに揺れた。

「……なるほどな」
「笑いますか?」
「いいや。
 ただ、似たようなことを言う連中を知っているだけだ」

 『シン』を倒して、でも誰も死なせない。
 そんな青臭い理想を掲げた者たちと更紗を、重ねずにいる方が難しいだろう。
 そして重ねたからこそ思うのだ。
 自分とは違う。
 彼らは次の時代を担う――

「〈竜殺し〉、か」
「……〈赤の竜〉にそう言われました。
 でもあたしにはまだ何も分からなくて……。
 アーロンさんの方がずっとずっと、強いのに」
「そんなものは関係ない」

 〈赤の竜〉や〈喰らい姫〉は明確な意志をもって二十人を選定したのだろう。
 国や世界を変えようとする者、それに連なる者。
 或いは時代に選ばれた者。
 その基準であれば、力の強弱など些末な問題に過ぎない。
 だが更紗は悔しげに唇を噛んでいた。

「あたしが本当に、選ばれるような人だったら。
 本当に力があったら、この街の人たちは……」

 青い理想を持つだけあって、割り切れないものが多すぎる。
 アーロンは更紗について心中でそう評してから口を開く。

「下の連中のことなら諦めろ。元より人の形をしていただけだ。
 死体になって動き回っているものにも、意志も感情もありはしない」
「……何か知ってるんですか?」
「俺が知っているものと似ているだけだ。
 本質はまるで違う」

 街についても、死体の群れについても同じことが言える。
 似たようなものを知っている。

 眠らない街、ザナルカンド。
 アーロンの友とその息子が生まれ育った街であり、アーロン自身が十年間過ごした街であり――『夢』のような街。
 それは〈喰らい姫〉がこの東京を『夢』と呼んだことと、無関係ではないのだろう。

 そして動く死体。
 それはアーロンにとってごく身近なものである。
 「他人事ではない」と、言ってもいいほどに。

「……いいだろう。
 お前には教えておいた方がよさそうだ」

 とはいえアーロンが知る全てを教えるつもりはなかった。
 ただスピラについて語る。
 『シン』が街を襲い、人が死ぬ。
 死んだ者たちが無念のあまり魔物となり、人を襲う。
 人が、死に続ける。
 人の死が連なり『シン』だけが永遠に残る。

 アーロンは死の螺旋に囚われた世界と、それを変えようとする者たちのことを伝えたのだった。



 更紗は悲しみに打ちひしがれていた。
 今のスピラには戦争はないという。
 だがそれは『シン』という脅威がいるからであって、戦争などなくても人は死ぬのだ。
 日本の外、別の世界ですら人の死が満ちていて、更紗はただ悲しかった。

83 英雄(ヒーロー)の条件 ◆Wv2FAxNIf. :2017/01/15(日) 03:52:09 ID:.FkwQdNA0
 泣きそうになるのを堪え、更紗は思考を切り替える。
 アーロンの話を咀嚼しながら遡り、話のきっかけとなった部分へと戻っていく。

「さっきあなたが言っていたのは、その死人(しびと)のことですよね」

 人が無念のうちに死ぬと魔物になり、その中には死人と呼ばれる存在になる者もいるという。
 それは確かに、外で蠢いている死体の群れと結びつけたくなるものだった。
 もしかしたら名簿にある「四道」は同姓同名ではなく本人なのではないかと、そうした考えも浮かび上がる。
 だがここで気にかかるのは、アーロンが「本質は違う」と説明していたことだ。

「どうして違うと言えるんですか?」
「死人は幻光虫という……光の粒子のようなものが結合して人の形を成したものだ。
 斬れば結合が解けて霧散する。
 外にいるのは斬っても消えることがない、生身の死体だ」

 幻光虫、というものは、更紗が理解するには難しいもののようだった。
 何しろ更紗にとっては聞いたこともない物質だ。
 だが〈竜〉がいる、死体が起き上がる、人が竜巻を起こすような現実を前に、今更気にしているわけにもいかなかった。
 更紗が少し時間をかけて納得すると、これまで向き合っていたアーロンが僅かに視線を外した。

「それに死人は、未練があるからこそ人の形を残す。
 生前の人格まで維持することは稀だが、いずれにせよ強い執念があるのは確かだ。
 この街にいた連中に、それはないだろう」

 更紗が何度話しかけても、同じ言葉を繰り返していた人形のような人々。
 殺されるその瞬間すら、表情一つ変わらなかった。
 それは確かに、無念や未練とは縁のない者たちと言えるだろう。

 ここで更紗は、別の疑問を抱いた。

「死んだ人が死人になるのは、スピラではよくあることなんですか?」
「多くはないな。
 少なくとも下の連中のような群れにはならない」
「いえ、その……あなたが詳しいようだから。
 スピラの人ならそれぐらい知ってるものなのか……。
 それともあなたの身近に、そうなった人がいるのかも知れないと思って」

 アーロンが答えを逡巡した。
 常に余裕のある話ぶりをしていた彼にしては、珍しい反応に思える。
 人の死に関わる話に深入りしすぎたと、更紗は少し後悔した。
 余計なことを言ったと謝ろうとしたが、少し間を置いてアーロンは言う。

「確かに、身近だな。
 お陰で俺は、そこらの連中よりは死人に詳しくなった」

 踏み込みすぎたと、そう思った矢先ではある。
 だが更紗にはどうしても知りたいことがあった。

「失礼でなければもう少し、聞いてもいいですか」
「……好きにしろ」

 アーロンは投げ捨てるように言った。
 快くは思われていないのだろうが、更紗は意を決して尋ねる。

「……身近な人が還ってくるのは、どんな気持ちですか」

 どうしても聞きたかったのだ。
 今までに失ってきたものが、どうしても忘れられなかったから。
 兄に、父に、祖父に、幼なじみに、仲間に、敵に――
 親しい人もそうでない人も簡単に死んでいく国の中で、例え中身が別だと言われても、彼らにもう一度会えるとしたらと。
 そう思っただけで目が熱くなり、胸の内が焼けるように痛むのだ。

――あたしが勝手にタタラを名乗って怒ってない?

――みっともなくてイヤじゃない?

――あたしのしてきたこと……タタラとして間違ってないのかな。

「もう一度会えたら……声が聞けたらって、いつも……」
「思うだろうな。
 親しい者を失って、それを割り切れないこともあるだろう」
「アーロンさんは……?」
「聞いてどうする」

 厳しい言葉だったが、そこで会話を断ち切られることもなかった。
 真剣に答えようとしてくれていることは伝わってくる。

「過去は過去だ。
 既に終わった物語に過ぎん。
 死んだのならさっさと未練を捨てて、異界にでも引っ込んでいればいい。
 正者に口出しする資格もない」

 相変わらず乱暴な物言いだったがこれまでよりも饒舌で、やはり彼にとって深い縁がある話なのだろう。
 嫌悪のようでいてそれ以外の感情も含んでいるような、複雑な感情を押し込んだ声に聞こえる。

「お前こそ、会ってどうする。
 未来の道を決めるのに、過去の力を借りるのか?
 運命の子どもとやらが過去に『諦めろ』と言われれば諦めるのか」

 突き刺すような言葉だった。
 痛んでいた胸のさらに奥、自分でも気付いていなかったところまで、深く沈み込む重さがこもっていた。

 ずっと不安で、がむしゃらだった。
 「間違っていないよ」と背中を押して欲しかった。
 朱理が己に「負けるな」と言い聞かせていたように、更紗はそれを求めていた。
 アーロンにしてみれば、過去に縋っていたということなのだろう。

84 英雄(ヒーロー)の条件 ◆Wv2FAxNIf. :2017/01/15(日) 03:54:13 ID:.FkwQdNA0
「……強いんですね」
「強いものか。
 俺がお前の年の頃は、何も知らないガキだった。
 先に生まれて、先に生きただけのことだ」

 心も、技も、体も兼ね備えているというのなら、それは『英雄』と呼べるのではないか。
 だが彼は謙遜でも何でもなく、それを否定するのだろう。
 「ただの年の功だ」とでも言いそうだと、更紗には思えた。

「あの頃なら、〈赤の竜〉に選ばれるようなこともなかっただろう」

 そこでアーロンが呟いたことで、更紗は思い立つ。
 アーロンは当然のように助けてくれた、会話にも応じてくれたが、ここは殺し合いの舞台なのだ。

「あなたは、〈赤の竜〉の力で『シン』を倒そうとは思わないんですか?」
「それを決めるのは俺ではない」

 返ってきたのは意外な言葉だった。
 「興味がない」、「強制されるのが気に入らない」と言うのなら、彼らしいと思っただろう。
 だが結論を他人に委ねるような姿勢は、ここまで見てきた彼の性格と上手く繋がらなかった。

「あなたはそんなに強いのに……?」
「そうだ。俺が決めても意味がない」

 彼は頑として彼は意見を曲げない。
 そしてそれ以上の答えを口にしようとはしなかった。

「回り道はもういいだろう。
 ここを出た後のことを考えろ」

 露骨に話を切り上げられたところで、更紗も納得することにした。
 これ以上尋ねたところで彼は答えないだろう。
 ただ彼の人となりに触れられたこの時間は、意味のある回り道に思えた。



 鼓膜に叩きつけられるような轟音、そして突風と粉塵が襲ってきた。
 逃げ回る途中で確保した地図をテーブルに広げながら、行き先を話し合っている最中の出来事だった。
 窓の外を見ると、建物を幾つか隔てた先で巨大な土煙が立ち上っている。

「どうする?」
「……行くしかないと思います」

 異常な事態が起きている。
 そこには浅葱がいるかも知れない。
 朱理がいるかも知れない。
 忌ブキがいるかも知れない。
 アーロンの探し人がいるかも知れない。
 危険を冒してでも、進むしかないのだ。

 眼下の死体の群れ、そしてその先の脅威に向けて、更紗は安全地帯を背にして歩み出した。



【一日目昼/新宿】

【更紗@BASARA】
[所持品]白虎の宝刀、新橋、夜刀
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉です。


【アーロン@FINAL FANTASY X】
[所持品]正宗
[状態]健康
[その他]
・特記事項なし




投下終了です。紅月カレン、朱理、四道、婁震戒を予約します。

85 名無しさん :2017/01/15(日) 03:54:48 ID:.FkwQdNA0
月報です。よろしくお願い致します。
話数(前期比):11話(+ 1) 生存者(前期比):20/20 (- 0) 生存率(前期比):100.0

86 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:30:22 ID:th8INWPw0
紅月カレン、朱理、四道、婁震戒を投下します。

87 光芒 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:31:05 ID:th8INWPw0
 眼下には、黒く蠢く亡者の群れ。
 それをモニター越しに睥睨しながら、紅月カレンは操縦桿を傾ける。
 先刻のように遠距離からの奇襲を避けるべく、真紅の機体の高度は極力下げ、ビルの合間を縫うように進んでいた。

「逃げ隠れしているみたいで、性に合わないわ」
「消耗は避けるべきだと、お前も納得しただろう」

 カレンが独り言のように呟いた声に、同乗している男が応えた。
 極めて狭いコックピットの中、操縦者に接触しないよう無理な姿勢を長時間強いているが、さして苦ではないようだ。
 そんなことよりも未知の乗り物への好奇が勝る――朱理はここにきてもなお、相変わらずの様子だった。

「操縦もそろそろ疲れてきたんじゃないか?
 いつでも代わってやる」
「ダメに決まってるでしょ!
 紅蓮は私にしか動かせないんだから」

 無駄な口論を交えつつ、進路は東へ。
 東京の中心部、死体の群れの発生源と思われる方角へと向かっている。
 そんな中、異変に先に気づいたのは朱理だった。

「……カレン、二時の方角だ」

 朱理の指示に素直に従いつつ、カレンは街の様子を注視する。
 そして、群れの流れに変化が起きていることに気づいた。
 東京の中心から外側へ向け、放射状に広がるように進軍していた群れの一部が、別の目標に向けて動いているように見える。

「何かいる……?」
「分からん。が、急げ」
「いちいち偉そうなんだから!」

 操縦桿をいっぱいに握り、紅蓮が速度を上げる。
 赤い流星のように軌跡を残しながら、死体の群れを追い越していった。



 四道はひたすらに走り続けていた。
 軍師として、将として華々しく活躍してきた彼にはおよそ経験したことのない逃走だった。
 指揮する兵も弾薬の一つもないのでは、いかに戦い慣れた彼でも逃げる他になかったのだ。

 死体の群れの速度そのものは、そう速くはない。
 だが問題は、死体であるが故か彼らに疲労というものがないという点にある。
 疲れを知らず、補給すらも必要としない軍勢は決して止まることがなく、四道は早々に逃げ切れないことを悟った。
 息を切らして篭城に適した建物を探すが、それすら間に合いそうにない。
 ここで死ぬわけにはいかないという焦りが、胸を支配する。

――千手……!

 帰りを待たせている者の名を、胸中で叫ぶ。
 不本意ながら拾った命を、ここで失うわけにはいかないと奮い立たせる。
 そしてもう一つの名が、四道の心を支えていた。

――タタラ!!

 死の間際、四道は強く思ったのだ。
 もしももう一度生を得られるなら――タタラを殺す。
 赤の王の敵、朱理の道を阻む存在を抹殺する。
 それは千手姫を想うように強く、四道の心に刻まれていた。
 窮地に立たされた今も、その信念には乱れ一つない。

 背後には多数の足音が迫り、独特の臭気が鼻をつく。
 篭城の暇すらないと悟った四道は唯一の武器である剣を抜き、迎え討つ覚悟を決めた。

 振り返り。
 剣を構え。
 群れの先頭をひた走っていた亡者に一閃、剣を振り抜こうとした。


 だがその亡者の真上から<赤>が降ってきた。


 「それ」を正しく表現する言葉を、四道は知らない。
 ただそれに近い形容が、かろうじて脳裏をよぎった。

 死体の群れを薙ぎ払う巨体、目を焼くかのような鮮烈な<赤>。


「悪魔……?」




88 光芒 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:31:50 ID:th8INWPw0
 
「朱理、あれ!!」

 街を見渡していたカレンは群れに追われている男に気づき、その方角を指した。

「助けないと――……朱理?」

 同乗している男の反応がないことを訝しみ、カレンはモニターから目を離さずに呼びかけ直す。
 「聞こえてる」と、この男にしては何とも覇気のない声が返ってきた。

「ぼんやりしてる場合じゃないでしょ!? こんな時に!」
「四道……」
「え?」
「本当に、あいつが……」

 それは、朱理との雑談のような情報交換の中で聞いた名前だった。
 名簿の中に、知り合いの名前がある。
 とっくに死んだ男なのだから、同名の別人だろう――と。
 そんな分かりきったことをわざわざ口にしたのは、それだけその名が特別なものだったからだろう。
 そう察しても、その時のカレンはそれ以上追及することはしなかった。

「死んだって言ってた……」
「死んだ。死体も確認した。墓も建てた。
 だが、あそこにいるのは……四道だ」

 紅蓮を上空に留まらせ、様子を窺う。
 このままではあの男は数分ともたずに群れに追いつかれるだろう。

「……大事な人だった?」
「従兄だ。部下でもあった。一緒に育った……兄みたいなもの、だったのかもしれない」

 カレンが息を飲む。
 そして操縦桿を握る力をより強くした。

「だったら、さっさと助けるわよ!!」

 衝撃に惚けていた朱理を引き戻すように声を張る。
 エナジーウイングで機体を包み、急降下させる。

 カレンには兄がいた。
 今はいない兄の無念を晴らしたくて、レジスタンスになった。
 もしもう一度兄に会えるとしたら――

「舌、噛まないでよね!!」

 急激に操縦桿を傾けられた機体は鋭角に曲がり、赤い軌跡を描きながら死体の群れへ突進した。



――隙を見てハッチを開けるから、行きなさいよ。

 大波のごとく押し寄せる群れを、紅蓮はまるで蟻の相手をするかのように軽々と打ち破っていく。
 それを操縦するカレンは一度も朱理の方へ振り返らずに、強い口調で言った。

――大事な人なら、話したいんでしょ! しっかりしなさいよ!

 最愛の従兄だった。
 会いたかった。
 話したかった。
 だが同時に、合わせる顔がなかった。
 彼が死んだ原因は、他でもなく――

――あの連中の相手なら私と紅蓮に任せて。誰にも邪魔させないわよ!

 今更、彼に向かって何が言えるだろう。
 朱理の思考はそこで止まり、情けなくもカレンに後押しされるまで身動きが取れなかった。

 まだ何も決めてはいない。
 ただ追い出されるように、朱理は紅蓮を降りた。
 鎧、マント、全てが赤づくめで、下がり気味の目尻の優男と対峙する。

「……朱理なのか?」
「阿呆め、他の誰に見える」

 目の前の男に向けて、朱理は反射的に憎まれ口を叩く。
 近くで見てもやはり記憶の中にある姿と相違なく、戸惑いは大きくなるばかりだ。
 対する四道は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔した。

「ああ、どう見ても朱理だ。
 少し痩せたんじゃないか?」
「誰のせいだと思ってる。
 お前がいなくなってから散々だったんだぞ、オレは」

 口が勝手に動く。
 もうずっと話していなかった相手のはずなのに、あの頃に戻ったかのように思えた。

「錵山は死んだ。亜相もオレを裏切った挙げ句野垂れ死にだ。
 オレは沖縄まで逃げる羽目になるわ、死にかけるわ、奴隷商人に売り飛ばされたことまである」
「何だそれは。ぜひ詳しく聞きたいな」

 『仏の四道』と呼ばれた頃のまま、四道は目を細めて笑っている。

89 光芒 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:32:22 ID:th8INWPw0
 周囲に殺到していた死体の群れは縦横無尽に跳ね回る紅蓮によって残らず砕かれて、四道と朱理の周りだけが台風の目の中のように穏やかだった。

「朱理、あれは?」
「簡単に言えば乗り物だ。ここに来てから知り合った女が操縦している。
 今は信用していい」
「そうか、それはよかった」

 四道がそう相槌を打った途端、朱理の背筋が総毛立った。

「なら、気にするのはタタラのことだけでいいな」

 四道は何も変わっていない。
 死体の山、仏の山を築き上げる男は健在だった。
 四道は和やかといってもいい調子で、タタラへの殺意を露わにする。

「朱理、あれからどれぐらい経った?」
「……オレは一つ年を取った」
「そんなものか。お前の顔つきが随分違ったから、もっと経っているかと思ったよ。
 それで、タタラはまだ生き残っているんだろう?」

 それは、執念と呼ぶべきものなのだろう。
 四道の最期を思えば、当然あってしかるべきものだ。

「……ああ。生きてるさ。
 そんなことよりお前こそ……死んでるのか?」
「生きてるとはいえないが、機会が与えられたということらしい。
 もう一度、お前と走るために。
 今度こそ、タタラを殺すために」

 四道は決して矛先を変えない。
 仏の柔和な笑みは、とうに鋭い武人のものに変わっていた。

「なぁ、朱理よ」

 聞き分けの悪い子どもを諭すように、四道は続ける。
 無理や無茶を言い出すのはいつも朱理で、四道はそれを支え、時に誤りを指摘して正したものだった。
 子どもの頃からずっとそうだったのだ。

「オレはあの桜島で思い知ったんだ。揚羽の忠告の意味も今なら分かる。
 時代はタタラを味方していた。
 武器もない、力もない、負けるはずのない相手だったのに負けたのは、そういうことだ。
 だから、今なら殺せる」

 紅蓮が群れを蹴散らしたところでまた新たな波が襲ってくる。
 それを残らず迎撃する紅蓮は、朱理の肉眼では捉えきれないほどの速度で戦場を蹂躙する。
 間断なく生み出される暴風の中、四道はなおも落ち着き払っていた。

「ここはオレたちの日本じゃない。
 タタラを守るものはここにはない。
 オレたちはもう一度――」
「四道!!」

 たまらず朱理が声を上げる。
 あの頃のまま――時代に置き去りにされて、時間が止まったままの従兄の姿を見るのが耐えられなかったのだ。
 言葉を遮られた四道は、呆れたように首を振った。

「……その様子だと、お前ももう知ってるんだな」
「タタラは、更紗だ。
 ああ知ってる、オレだって思い知ったさ!
 だが今はそんなことはどうでもいい!」

 最愛の従兄の命を奪ったのは、煮え湯を飲まされ続けてきた仇敵は、朱理が心を通わせた最愛の少女だった。
 それが、どうでもいいはずがない。
 それによって朱理と更紗は苦悩し、今なお決着はついていない。
 だが二人が抱えた矛盾は、日本にとっては重要ではないのだ。

「お前が言った通りだ四道。
 時代が選んだのはタタラだ。お前じゃない。
 そして……赤の王でも、ないんだ」

 その一言で、四道は呆気にとられたようだった。
 何度か瞬きし、ゆっくりと口を開く。

「お前が……そんなことを言うのか。
 そんなことを……言えるようになったのか」
「失礼なやつだな。オレだって変わる。
 ……日本だって、変わろうとしてる。
 変わらんのは京都でふんぞり返ってる連中だけさ」

 かつての朱理は暴君だった。
 欲しいものは奪い、気に入らない者は殺した。
 己の愚かしさに気づいたのは、いつのことだったか。

「殺されたから殺す。奪われたから奪う。
 そんな時代は……終わろうとしてるんだ、四道」

 四道に説教する資格などないと、朱理自身が感じていた。
 だがかつて自分がいた場所に置き去りにされた四道を止めるために、朱理は言葉を投げかける。
 タタラのためではない。

90 光芒 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:32:53 ID:th8INWPw0
 更紗のためでもない。
 ただかつてそうだったように、四道とともに走りたかった。
 そのために、朱理は四道に一つの事実を伝える。

「お前は知らないだろうが、千手姫は身ごもっていたぞ」
「何……?」
「オレはしばらく会っていない。
 だが、強い女性だ。
 今頃はもう、子どもが生まれているはずだ」

 四道がタタラ討伐に出る前、太宰府で過ごした最後の晩に残した子だと聞いている。
 四道の子であるということは朱理にとっても我が子に等しく、いつも気にかかっていた。

「お前は生まれてきたその子に、血生臭いものを残したいか。
 憎しみを、禍根を、因縁を、次の時代に残すのか!」
「オレが終わらせればいい!」

 朱理の叫びにも一歩も退かず、四道が吼え立てる。

「タタラも、その仲間も、全て殺す!
 タタラこそ、我が子の代に残すべきではないのだ!」

 四道が、遠い。
 かつては誰よりも朱理の傍にいて、どんなことでも打ち明けられた。
 今はただ、平行線を辿る。

「タタラを殺したいか、四道」
「当然だ」
「それならオレは、お前を止めなきゃならないな」

 朱理は剣を抜いた。
 体を動かすのは好きだったが、年上の四道にはいつも剣の稽古で負けていたことを思い出す。

「お前は……オレよりも、タタラを取るのか」
「……そうだ、とは言いたくないがな」
「あの娘が、オレを殺したんだぞ!」
「それは違う!」

 朱理は叫んだ。
 それこそが朱理の後悔であり、四道に告げなければならないことだった。

 タタラに――更紗に四道が殺せたのは、四道に隙があったからだ。
 更紗と朱理が惹かれ合っていることを知っていた彼は、タタラの正体を知って躊躇してしまった。
 ならばその死の責任は、朱理にある。
 そうとも知らずに朱理は彼の死後も更紗と逢瀬を重ね、体を重ねた。

「お前を殺したのは……オレだろう、四道」
「違う……やめろ。
 悪いのはタタラだ」
「お前はそう言うだろうな。
 ……だからこうするしかないんだ」

 朱理が剣を向けても、四道は剣を収めたままだった。
 だが四道から相手を射殺さんばかりの殺意を向けられるのは初めてで、朱理の額に嫌な汗が浮いた。

「朱理……お前は本当にそれでいいのか」
「言っておくがタタラのためじゃあないぞ。
 今の日本には、あれが必要だからだ」
「お前がそれを、選んだんだな」
「くどいわ! お前もとっとと抜け!
 いつまでもオレだけ阿呆みたいじゃないか!」

 ただ四道を止めるだけなら――殺すだけなら、朱理が紅蓮とともにここを離脱するだけでいい。
 ここに置き去りにすれば四道は瞬く間に死体の群れに襲われて、朱理が手を下すまでもなく二度目の死を迎えるだろう。
 だが朱理に逃げるつもりは毛頭ない。
 過去に取り残された従兄をこの上、こんなところに捨て置けるはずがない。

「オレが直々に引導を渡してやるんだ。いい加減――」

「オレは抜かないよ、朱理」

 優しい声が朱理の耳朶を打ち、構えていた切っ先がブレた。
 四道の鬼気迫る表情は既に、町づくりを愛した『仏』のものに戻っていた。

「お前は変わった。
 変わったが……朱理のままだ。安心したよ」

 蘇芳を緑に囲まれた都にしたいと、そう語った時と同じ柔らかな笑顔だった。
 桜、梅、桃、楓。
 棗を植え、ブドウの林をつくり、砂漠の中でも栄える美しい国。
 国の真秀ろばを夢見た男の顔だ。

「そう思うか。
 オレは多分、王ではないぞ。
 お前が忠誠を尽くした赤の王は、もういない」

 それでもいいんだと、四道は穏やかに言う。


「オレが見たかったのはお前自身だよ、朱理。
 赤の王じゃない。お前だ。
 お前の走る姿が見たかったんだ」

91 光芒 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:33:27 ID:th8INWPw0
 

――ああ。


 四道は死んだ。
 時代に置き去りにされて、取り残されて、いつまでも過去に囚われている亡霊のようだ。
 何もかもがあの頃のままで。
 あの頃のまま――朱理の最大の理解者であり、味方だった。

「四道、オレを試したな?」
「一皮剥けてもまだまだってことだな、お前も」

 いたずらっぽく笑う四道に呆れ、朱理は剣を収めた。
 まだ積もる話はあるが、まずはこの場を離脱するべきだろう。

「それにしても千手とオレの子どもか……。
 今度こそ、帰らなければな」
「当たり前だ。これまで苦労させた分……」


 「何が起きたか」など、四道には分からなかっただろう。
 四道と向かい合わせで立っていた朱理にすら、分からなかったのだから。


 『四道の背後に立つ黒衣の男が、いつからそこにいたのか』。

 『いつ剣を抜いたのか』。



 『いつ、四道の首を刎ねたのか』。



 四道の首が落下していく。
 彼の体も力を失い、崩れるように傾いていく。
 
「ぁ…………」

 朱理の喉から勝手に音が漏れた。
 「逃げろ」と全身が叫んでいる。
 しかし蛇に睨まれた蛙のように一歩たりとも動けず、黒衣の男は不気味に口角を吊り上げた。
 黒衣。黒髪。血のように赤い瞳。そして――

――美しいだろう?

 男の口が、そう動いたように見えた。
 同時に男は『それ』を高く掲げたのだ。

 朱理がこれまでに見たこともない、赤い刀身――


『お前がぁぁぁぁああああああああああああああああッ!!!!』


 機械によって拡大された音声が辺りをつんざくと同時に、紅蓮の大きな左手が黒衣の男の顔面めがけて飛来した。
 跳びすさってそれを避けた男は小さく一つ舌打ちし、さらに大きく後退する。
 既に逃走する算段であることは朱理にも分かった。

『許さない!! 許さない、許さない、絶対に殺してやる!!!』
「カレン、待て! 落ち着け!!」

 朱理とて冷静とはいえない。
 だが完全に怒りに我を失っているカレンを前にして、踏みとどまらざるを得なくなったのだ。

『逃がさないわよ!!』

 紅蓮は朱理を無視して突っ込もうとしている。
 朱理とてここで男を逃がしたくはない。
 だが一つの出来事が朱理の注意を奪った。
 そしてそれはカレンにとっても同様である。
 黒衣の男が数秒前に立っていた場所――即ち四道の死体が、目映く光り出したのだ。

 その光は花火のような音と衝撃をもって空へ打ち上げられ、彼方へ消えた。
 その光を、朱理はただ見送った。

「四道……」

 光が飛び去った後、死体は消えていた。
 黒衣の男もこの隙に乗じてとうにいなくなっており、残るのは死体の群ればかりである。
 紅蓮から、すすり泣く声が木霊した。

【四道@BASARA 死亡】



92 光芒 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:33:56 ID:th8INWPw0
 
 赤い「鎧」は、追ってこないようだった。
 放送局で確保した黒い鎧とは類似点が多くあり、恐らくはこれが本来の能力なのだろう。
 婁の肉体など一撫でしただけで消し飛ばしかねないほどの破壊力を有しており、早々に撤退したのは正しい判断だったと言える。

『…………』

 走ってより遠くへ逃れる中、婁震戒は口を閉ざしていた。
 念願の参加者を斬ったというのに、七殺天凌が沈黙していたからである。
 常であれば玉が転がるような喜悦の笑いが聞けるところであり、婁も当然それを期待していた。
 普段との様子の違いに、婁は黙して彼女が話すのを待った。

『……どうやら、魂魄に逃げられたらしい』
「魂魄?」
『生体魔素は食ろうてやったわ……だが所詮それはうわべだけよ。
 わらわが求めるのは悲哀に、痛みに、絶望に、希望に……何もかも!
 それが、滑り落ちるように離れていきよった……!』
「では、あの光は」

 赤い鎧から離れるため、よく観察していたわけではない。
 だがあの四道という男の死体に何かが起きていたのは確かだ。

『まだ分からん。
 確かなのは、わらわの食事に邪魔が入ったということよ』
「……申し訳ございません、媛。
 このような小細工があろうとは」

 能面のような表情を張り付けながら、婁は内心で怒り狂っていた。
 七殺天凌に血と魂を捧げ、悦ばせることこそ生き甲斐。
 それを妨害されるのは、魂を踏みにじられるのに等しい。

『よい。しばし様子を見るとしよう。
 腹もそれなりに満たされておるのでな』
「御意……」

 煮えくり返るような怒りを抱えたまま、婁は次なる獲物を求め奔走する。



【一日目昼/目黒】

【婁震戒@レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話(故障中)、蜃気楼の起動キー
[状態]健康(還り人)
[その他]
・七殺天凌は〈竜殺し〉
・還り人たちを通して会場全域の情報を得る。
・ルルーシュの能力についてほぼ把握
・四道の生体魔素を得る



「……もういいだろう、カレン」
「…………」

 朱理が紅蓮の手に抱えられる格好で離脱した後、二人はまだ被害を受けていない建物の屋上に降り立った。
 カレンは先ほどの狂乱は既に治まっていたが、代わりに大粒の涙をこぼし続けていた。
 それを朱理がなだめているが、厳しく睨まれるばかりだった。

「お前が泣くことはないだろう」
「っ……だって!
 朱理だって、悔しいでしょ……!」
「オレは悔しい。ああ、正直どうかしそうだ。
 だがお前は関係なかっただろう?」
「でも、……朱理の、お兄ちゃんだったんでしょ!?」

 部下であり、兄のようであり、幼い頃から一緒に育った四道。
 その「兄」という言葉は、カレンにとって特別な響きを持っていたようだった。

「死んだと思ってて……でも、また会えて……話せて……っ!
 なのにあいつが!!」

 四道との邂逅は、他人事には思えなかったのだろう。
 カレンは目蓋を腫らし、またはらはらと涙を落とした。

「……ありがとうな、カレン。
 オレの分まで泣いてくれて」

 泣きたい気持ちはあったが、そうしている場合ではないと、カレンのお陰で少しは冷静でいられた。
 胸の内側は、燃えるような憎悪で満たされている。

 殺されたから殺す、そんな時代は終わろうとしているのだと、どの口が言ったのか。
 最愛の従兄をもう一度奪われた男は己の言葉を噛み締めながら、天を仰いだ。

――お前なら、どうするんだろうな。

 こんな時なのに。
 決着の時を目前に控えていたのに。
 自分ではないもう一人の運命の子どもに、思いを馳せずにはいられなかった。

93 光芒 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:34:55 ID:th8INWPw0
 

【一日目昼/目黒】

【紅月カレン@コードギアス】
[所持品]紅蓮聖天八極式、ポーチ、財布等
[状態]健康
[その他]
・紅蓮は〈竜殺し〉


【朱理@BASARA】
[所持品]剣
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・七殺天凌の【魅了】に抵抗







投下終了です。浅葱、ユウナ、紂王、エィハ、枢木スザク、黄飛虎、ジェレミア・ゴットバルトを予約します。

94 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:35:37 ID:th8INWPw0
月報です。よろしくお願い致します。
話数(前期比):11話(+ 1) 生存者(前期比):19/20 (- 1) 生存率(前期比):95.0

95 ◆Wv2FAxNIf. :2017/03/15(水) 07:38:17 ID:th8INWPw0
>>94 の訂正です。失礼致しました。
話数(前期比):12話(+ 1) 生存者(前期比):19/20 (- 1) 生存率(前期比):95.0

96 ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:12:41 ID:H/vvqeA20
浅葱、ユウナ、紂王、エィハ、枢木スザク、黄飛虎、ジェレミア・ゴットバルトを投下します。

97 竜殺しを探して ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:15:36 ID:H/vvqeA20
 空の黒煙の合間を縫いながら、二つの歪な影が通り過ぎていく。
 一つは人型でありながら翼を持った白いKMF、ランスロット・アルビオンである。
 七メートルにも及ぶその巨体は、そこにあるだけで空を圧迫していた。
 そしてもう一方は同じく翼を生やした、犬のような姿のつながれもののヴァルだった。
 ランスロットに比べれば小さいが、人ひとりを丸ごと飲み込めるだけの巨躯を持ち合わせている。
 その上にヴァルと繋がれた少女・エィハ、それに巨漢の黄飛虎を乗せているため、シルエットはますます奇妙なものになっていた。

 ランスロットが先行し、目指すのはルルーシュが消息を絶った九段下だ。
 そこに向かう道中、そのパイロットである枢木スザクは少々困惑していた。
 集音マイクと外部スピーカーでエィハらと会話しながら進んでいたのだが、いつからかスザクの耳にはすすり泣きが聞こえてきている。

「そ、そいつぁ……悪いこと聞いちまったなぁ……うっ」
『ど、どうして飛虎さんが泣くんですか……?』
「バカ野郎、これが泣かずにいられっか!」

 飛虎が熱の入った様子で反論してくる。
 初対面の印象通りの人柄だった彼は、誰に聞かれるでもなく自分の素性について語り始め、そしてエィハとスザクにも尋ねたのだ。
 どこから来たのか、どんな生活をしていたのか、家族はどうしているのか――と。
 結果、飛虎は泣き出したのであった。

「オレんとこは家族が多くてよ……こういう話に弱えんだ……」
『あの、僕は気にしてませんから。
 エィハもそうだろ?』

 スザクは黙ったままでいるエィハに水を向けた。
 エィハとは短い付き合いだが、ドライで達観しているようにすら見える彼女が動じているとは思えなかったからだ。

「そうね。いないのが当たり前だと思っていたから」

 スザクが思っていた通りの乾いた反応があった。
 何とも思っていない――スザクは彼女に家族がいないことではなく、それ自体に無関心であることに胸を痛めた。

 家族がいないのはスザクも同じだ。
 元より一人っ子で、幼い頃に母を亡くし、父が死んだのももう随分前のことになる。
 しかし、少なくともスザクが父を失ったのは自業自得だったのだ。
 誰のせいでもない、自分のせいだった。
 対するエィハは何も悪くない。
 ニル・カムイという土地に戦火が絶えなかったから、貧しかったから。
 そんな外の環境に歪められてしまったエィハが、それを当然として受け入れてしまっていることが悲しかった。
 スザクの世界にも戦争はあり、孤児もいるが、割り切れるものではない。

「よーし分かった。オメーら二人、今日からオレが面倒見てやるぜ!!」

 スザクを考え事から引きずり戻すほどの大声で、飛虎はそう宣言した。
 何が分かったのかは分からないが、飛虎は深く頷いている。

『それってどういう……?』
「オレを親父だと思って頼っていい、ってこった!」

 父親、と、スザクはマイクに入らない小さな声で呟く。
 突然の申し出でも、嫌味や不快感を全く感じさせないのは飛虎の人柄故か。
 胸を張る姿には威厳と包容感が見えて、まさに「理想の父親」と言える男なのかも知れない。
 だがスザクの答えは歯切れの悪いものだった。

『いえ、僕には……その資格は』
「家族に資格も何もあるか!
 なっ、嬢ちゃんもそう思うだろ」

 「そうね」とか、「そうかしら」とか。
 これまで通りの、無味乾燥な返事があるものと思っていた。
 だがエィハの反応は、スザクが初めて見るものだった。

「……ごめんなさい。分からないわ。
 私は家族を知らないから」

 慎重に言葉を選んでいる様子で、エィハは言う。
 大抵の物事に無関心に見えていたエィハの、珍しい姿だった。

「私には友達しかいないと思っていたわ。
 だけど……家族も、新たに得られるものなのかしら」
「あったりめえよ!
 嬢ちゃんだってもう少し大きくなったら、好きな男と結婚すんだろ?
 そうすりゃそのうちガキもできるし、家族ってのは増えてくもんなんだよ」
「そう……だったわね」

 エィハは思案しているようだった。
 彼女の乏しい表情からは、何を考えているかまでは分からない。

「後でうちの次男坊も紹介してやりてえが。
 ま、今はここを何とか出ねーことにはな!」

 黙り込んだエィハの様子を見てか、飛虎は話を切り上げた。
 スザクとしても反応に窮していたので、失礼とは思いながらも安堵する。
 自分がかつて壊したものを、奪ってしまったものを、嫌でも思い出してしまうから。

『……あっ』
「どうした、スザク」
『知り合いが、近くにいるみたいです』

98 竜殺しを探して ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:16:20 ID:H/vvqeA20
 
 九段下まで間もなくという地点で、ランスロットの敵味方識別装置に反応がある。
 友軍機、即ちジェレミアの機体である。
 ランスロットよりも早く現地に到着していると思っていたのだが、どうやらその地点で停止しているらしい。
 スザクは九段下に向けていた進路を僅かに逸らした。

『すみません、行き先を変更します!』
「おうよ、嬢ちゃんとヴァルも頼むぜ!」
「分かった」

 ルルーシュの安否がかかっている時に、ジェレミアが足を止めている。
 悪いことが起きていなければいいがと、スザクはランスロットの速度を上げた。



 オレンジ色のその巨体は、嫌でも人目を引いた。
 鮮やかなカラーリングに加え、十メートル四方の立方体にも収まるかどうかという圧倒的な大きさ。
 KMF――ランスロットが人型であるのに対し、KGFという「要塞型」として設計されたこのサザーランド・ジークは隠密には不向きだった。
 そんなサイズのものが自動車以上の速度で空を移動するのだから、無理からぬことである。
 だがジェレミア・ゴットバルトには外敵に見つかるというリスクを負ってでも、急がねばならない理由があった。

「ルルーシュ様……」

 主君であるルルーシュが消息を絶って以降、何度か携帯に掛け直してみてはいるものの、未だ繋がらない。
 焦燥に駆られながら、ジェレミアは九段下へと急ぐ。

 その行く手を阻むように、その女は現れた。

 サザーランド・ジークの前方、数十メートル先に突如現れた「それ」を前に、ジェレミアは急遽減速した。
 女といっても姿形がそうであるだけで、全く異質なものであることは考えるまでもなかった。
 空中に足場でもあるかのように、真っ直ぐに立つ女。
 その着ている服も、髪も、肌すらも、全てが深い青色だった。
 そしてその美貌と視線は、この世のものとは思えない。

 女は何を言うでもなく、ある一点を指差した。
 下方、サザーランド・ジークが通り過ぎた地点である。
 ジェレミアが機体の向きはそのままに、モニターを切り替えて集音マイクで音を拾う。
 三人の人影が映り、機体の中には場違いといってもいい少女の声が飛び込んできた。

「お願いしまーす!
 話を、させてくださーい!!」

 必死に呼びかけてくる少女と、急ぐべき理由。
 ジェレミアはここで、選択を迫られた。

▽ 

 初めに「休みたい」という紂王の泣き言を聞き入れたユウナは、とある建物を丸ごと一つ氷付けにした。
 見上げれば首が痛くなるほどの、浅葱が住む日本では考えられないほどの堅牢な建物が、一瞬でである。
 召喚獣は一度に一体ずつしか呼べないそうだが、その分一体ごとの能力は凄まじいもので、浅葱はしばらく声も出せなかった。
 氷の塊となった建物に侵入できる者はおらず、死者の群れが溢れ返った地上を尻目に、三人は屋上で一呼吸ついたのだった。
 三人の頭上を影が通り過ぎたのは、それから間もなくのことである。

 ユウナはそれを見上げて「飛空艇」と呼んだ。
 操縦している人がいるに違いないと、ユウナはシヴァを召喚してこれを呼び止めた。
 浅葱が空飛ぶ巨大な鉄塊というものを目の当たりにし、呆気に取られている間の出来事だった。
 そうでなければユウナを制止していたに違いない。
 ただでさえ紂王という信用ならない荷物を抱えている時に、敵が増えたらどうするつもりなのかと。
 ユウナが呼び止めてしまった後も、鉄塊にはそのまま無視して通り過ぎて欲しいという思いでいっぱいだった。
 だがそれもあっさりと打ち砕かれて、その巨体は緩やかに高度を落としたのだった。

「来て下さって、ありがとうございます。召喚士のユウナです」

 丁寧に頭を下げるユウナの姿に、浅葱は軽い目眩を覚える。
 浅葱の懸念には気付いてすらいないらしい。

「誰か……乗っているんですよね?」
『いかにも。
 礼儀として名乗っておこう。
 私はジェレミア・ゴットバルト。
 さる高貴な方にお仕えしている』

 低い、男の声が鉄塊のどこからか聞こえる。
 周囲の建物にぶつからないギリギリの高さまで下りてきてはいたが、その鉄塊から人が出て来る気配はなかった。

『手短に済ませて頂こう。私は急ぐ身だ』
「人捜しでもしてるわけ?」
『……』

 上からの物言いが癇に障り、浅葱は間髪入れずに嫌味を言う。
 この状況で急ぐことといえば、おおよそ絞られる。
 浅葱はその一つを口にしたに過ぎない。
 反応からして正解だったらしいが、ユウナからは窘めるような視線を投げられた。

「私たちは、二十人全員でここを出る方法を探しています。
 そのために協力して欲しいんです。
 あなたが人を捜しているなら、そのお手伝いもできると思います」
『それが見返りというわけか』
「はい」

99 竜殺しを探して ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:16:56 ID:H/vvqeA20
 
 しばしの沈黙が流れる。
 そしてジェレミアと名乗った男が切り出した。

『その方法が見つからなかった場合、君はどうするつもりだ?』
「それは……」
『そして、私には君たちを信用するに足る理由がない。
 信用ならない者に、協力などさせられん』

 ユウナが答えに窮する。
 言わんこっちゃないと、浅葱はやむなく口を挟んだ。

「本気で言ってるのかい、それ。
 少なくとも、あんたは急いでいたのにここにやってきた。
 協力者が欲しいのはそっちだったんじゃない?」

 わざわざ呼び掛けに応じた以上、理由があるはずだ。
 こうして話していても、ジェレミアが人助けをしようとしているお人好しとは思えない。
 何らかの打算あっての行動だろうと、浅葱は読んでいた。

『誤解があるようだな』
「へえ?」
『私は君たちを見定めに来た』

 肌に冷気が刺さる感覚がある。
 鉄塊に取り付けられた巨大な銛状の武器が、今にもこちらを狙ってくるのではないかと、浅葱の額に汗が浮く。
 相手の顔は見えなくても、殺気に近いものは伝わってくる。

「僕らじゃ不合格ってこと?」
『それは――』

 まだ本気で殺す気ではないはずだと、浅葱は交渉の余地を探す。
 だがそこで唐突に、ジェレミアが黙り込んだ。

 白い鎧が現れたのは、それから間もなくのことだった。
 その鉄塊の主は枢木と呼ばれ、ジェレミアとの再会を喜んでいた。
 そのお陰で剣呑な空気は霧散し、浅葱は止めていた息を深く吐き出す。
 だがこの二人の合流は、もう一つの予期せぬ再会を生んだ。

「武成王……?」

 それまで黙って様子を窺っていた紂王が、口を開いたのだった。



 それは、間が良かったと言えるのかも知れない。
 痩身の、人の良さそうな三人組。
 この場で始末しておくべきかと、ジェレミアが思案していた矢先の出来事だった。
 口減らしの機会を逸したとも思えたが、ルルーシュの安否が掴めない以上、事を急ぐべきでもない。
 結果としてこれで良かったのだろうと納得することにした。

 黄飛虎と紂王が知り合いだったということで、二人はしきりに話し込んでいた。
 その間にジェレミアもランスロットとのチャンネルを開き、二人だけで会話をする。

「随分、大所帯になったようだな」
『……それなんですが。
 彼らを残して、僕らだけでルルーシュを捜しに行きませんか?』
「……ほう。君がそんな提案をするとはな」

 彼らだけで残した場合――もしその中に一人でも不穏な動きをする者がいれば、集団は瓦解する。
 それを防ぐためにここに残ると、スザクならそう言い出すと思っていた。

『僕に考えがあるんです』

 ジェレミアとしては、一刻も早く出発できればそれでいい。
 彼らを半ば見捨てるようで多少の良心の呵責はあるが、ルルーシュの安全には代えられないのだ。

 氷漬けになったビルの屋上に残るのは、五人。
 スザクは彼らを残していくことを説明すると、彼らの方もあっさりそれを承諾した。
 「すぐには戻れないかも知れない」と、それだけ言い残して、ランスロットとサザーランド・ジークはその場を離れていった



「召喚士、というのね。凄いわ」
「えへへ……」

 エィハはユウナの隣りで、熱心に話を聞いていた。
 その会話を聞いていた者には、この二人が姉妹のようにも見えただろう。
 エィハの視線の意味に気付いている者は、まだいない。

――〈竜殺し〉。

 〈喰らい姫〉から受け取った、〈竜殺し〉を判別する能力。
 エィハの目が、スザクのランスロットに続く次の〈竜殺し〉を見つけたのだ。
 だからエィハはずっと観察していた。
 ユウナの召喚獣が氷漬けにしたという建物を見て、そしてユウナ本人を見る。
 その細い首筋を、腕を、見極める。
 自分とヴァルの力で、殺せるかどうかを。

 召喚獣を出していない今なら殺せるのではないか。

100 竜殺しを探して ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:17:30 ID:H/vvqeA20
 もし殺すなら、その後に残った面々はどうするか。
 エィハは必死に考えながら、ユウナの話を聞いていた。
 横で面白くなさそうに不満顔を見せている浅葱のことも、全く気にならなかった。

 そうしてユウナのことばかり見ていたからだろう。
 それ以外の者たちが何を話しているのか、エィハはまるで聞いていなかった。
 故に、その事態に気付くのが一歩遅れたのだ。



「紂王陛下!」
「おお、本当におまえだったか……!」

 飛虎は紂王の姿を前にして、素直に喜んでいた。
 かつて紂王が原因となって妻が、そして妹が死んでいる。
 飛虎自身は殷を裏切って他国の将となってしまった。
 しかしかといって、かつて仕えた王の不幸を願えるはずもない。
 紂王の無事を確認して、飛虎は心底安堵したのだった。

「して、武成王。今までどこに?」
「品川、とかいう地名だったかと。
 エィハとヴァルのお陰で――」
「いや、そうではない。
 予が政をしている間、おまえはどこに行っていたのだ?」

 「武成王」、という呼び名に違和感を覚える。
 飛虎は殷の鎮国武成王から、周の開国武成王となった。
 紂王から「武成王」と呼ばれることは、もうないと思っていたのだ。
 そして何より、話が噛み合わない。

「それは……西岐に」
「西岐だと? 何故今の時期にそのような」

 まるで、本当に何も知らないかのようだった。
 次第に紂王の顔に不安の色が広がり、視線を彷徨わせ始める。

『――なので飛虎さん、ここをお願いします!』
「あ、……ああ、分かった。
 気をつけてな」

 スザクが何か話していたようだったが、飛虎にはほとんど聞こえていなかった。
 この時点で、スザクをを引き止めておくべきだったのかも知れない。
 だが飛虎にはその決断ができなかった。

「……そう、だ。何故殷に、武成王がいなかった?
 いや……何故予は、武成王の不在をおかしいと思わなかった?
 帳簿の数字が全く合わなかった。
 合わなかったことを、おかしいとも思わなかった。
 何かが足りなかったはずなのに。
 そういうものだと思ってしまったのは何故か?
 民の様子が妙だと思ったはずではなかったか?
 そうだ聞仲は?
 聞仲はどこだ?
 聞仲に聞けば分かるはずだ。
 聞仲を捜さなくては
 聞仲。
 聞仲!!
 聞仲はどこに!!!」

 独り言を続ける紂王の視界に、すでに飛虎の姿はなくなっていた。
 肌がざわつく感覚に、飛虎は紂王の両肩に掴みかかるようにして前を向かせる。

「しっかりして下さい、陛下!
 オレはあの時――――」

 飛虎の手首に強い力が掛かった。
 紂王に掴まれたのだ。


「そうだった。
 おまえは予と殷を裏切ったのだったな、武成王」


 違う。これは紂王陛下ではない。
 彼の濁った目を見て、飛虎は確信する。
 そしてそのまま、細身の王によって投げ飛ばされた。



「ヴァル!!」

 飛虎のただごとではない声で、エィハはようやく視線をそちらに向かわせていた。
 そしてエィハの倍ほどもある背丈の男が吹き飛ばされたのを見て、咄嗟にヴァルに指示したのだ。
 ヴァルが体を浮かせ、飛虎の体を受け止める。

「あ、ありがとよ……だが……!!」

 エィハの視線の先で、紂王が縮んでいた。
 エィハとそう変わらない、少年のような姿をしている。
 会った時は間違いなく、スザクと同じかそれ以上の上背があったはずだ。

101 竜殺しを探して ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:18:05 ID:H/vvqeA20
 飛虎を屋上に下ろすと、エィハとヴァルが臨戦態勢を取る。

「予は寛大である。
 それ故に武成王よ、機会を与えよう。
 殷に戻り、これまでのように予に仕えよ。
 おまえの家族も悪いようにはすまい」

 エィハは初めて、生まれながらの「王」の声を聞いた。
 王になるべくして生まれ、なるべくしてなった王。
 忌ブキとはまた違うその威厳を前にして、阻んではならないように思えて、口を閉ざしてしまった。

「……陛下、オレぁ……戻れません。
 オレは周の開国武成王だ!
 それに、賈氏と黄氏のことを忘れたとは言わせねぇ!!
「そうであろうな。
 故に……予は、悲しい」

 紂王が涙を浮かべる。
 事情を知らないエィハには、飛虎の方こそ間違っているのではないかと思えてしまう。
 そしてその感情は、打ち破られた。


「おまえを殺さねばならないとは、予は、悲しいッッ ッ ッ! ! !」


 声の波が周囲に叩き付けられる。
 それだけで氷漬けになっていた建物が崩れ出す。
 エィハはヴァルに飛虎の襟首を咥えさせて飛び上がり、僅かに残った足場でユウナが叫んだ。

「召喚します……!」

 そこでエィハの脳裏に、一つの考えが首をもたげた。
 今なら。
 スザクがしばらく戻らないと言っていた今なら。
 全員の注意が逸れている今なら。
 ユウナが召喚しようとしている今なら。
 あの細い首が無防備に見える今この瞬間なら。

 〈竜殺し〉を討ち取れるのではないか……?

 ユウナの杖から火の玉が滴るように落ちる。
 建物の足場に魔法陣が広がり、魔素の流れが変わる。

 今――

 ヴァルが口を開け、飛虎を離す。
 地上まで落下していく彼を気にも留めず、ヴァルが加速する。
 だが一層激しくなった音の波が、エィハとヴァルに襲いかかった。

「っく……!!」

 呼吸を乱される。
 召喚の方が速い。
 炎を宿した召喚獣がユウナと浅葱を守り、加速していたエィハとヴァルはバランスを崩した。


『エィハ――――――――!!!!』


 紂王とは別の声が、音の波を突き破った。
 一本の光の筋に見えるほどの速度で、彼は戻ってきたのだ。
 地上に落ちかけていた飛虎を拾い、建物の壁面に打ち込んだ銛を巻き取って機体を屋上まで引き上げ、エィハとヴァルを手の中に収めた。
 回収した者たちを守りながら、白い騎士は地上へ着地する。
 そして還り人の群れを踏み散らしながら、屋上を睨むように顔を上げた。

「スザク、オメーどうしてここに……」
『飛虎さん、話は後です!
 エィハも手伝ってくれ!』

 あの紂王の存在以上に。
 助けられたこと以上に。
 〈竜殺し〉を仕損じた事実が、エィハの脳裏で渦巻いていた。
 だがそんなエィハに耳打ちするように、スザクの呟きが届いた。

『君もだ、エィハ。後で話そう』

 その口調は優しく、そして声は厳しかった。
 スザクには既に気付かれているのかも知れない。
 もしそうなら――



「僕は、戻ります」

 それがジェレミアへの提案だった。
 一度二人で抜けた後、スザクだけが戻る。
 その回りくどい方法は、エィハの様子を見るためだった。
 エィハを信じたいと思いながらどこかで、彼女が何かをしようとしているように思えたからだ。
 そのことをジェレミアにも説明し、納得してもらえた。

102 竜殺しを探して ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:19:27 ID:H/vvqeA20
『了解した。ルルーシュ様の捜索は私一人で行う。
 だが枢木、その少女についてだが』
「何か?」
『危険だと判断した時は、確実に始末したまえ』
「……ええ」

 スザクも最近になって知ったことだが、普段のジェレミアは人好きのする人物である。
 主君への忠誠心は言うまでもなく、部下や身内へはお節介なまでに世話を焼く、人間味に溢れた男だった。
 だが仕事として割り切って「必要」と断じた時、彼は冷淡なまでに最善手を打つ。
 特にそれがルルーシュの身に関わるとなると、彼には一切の迷いがない。

『万一討ち漏らした時、彼女がルルーシュ様に危害を加えないとは限らない。
 もしも君にできないなら、私が代わろう』
「いえ、大丈夫です」

 それはジェレミアなりの気遣いだったのかも知れないが、スザクは断った。
 今さら、綺麗事が通るとは思っていない。


「もしもエィハが彼らを殺すなら。
 その時は、僕がエィハを殺します」





【一日目昼/九段下付近】

【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス】
[所持品]サザーランド・ジーク、携帯電話、手甲剣
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない。
・四道から情報を得る。
・ユウナから情報を得る。


【枢木スザク@コードギアス】
[所持品]ランスロット・アルビオン
[状態]健康
[その他]
・ランスロットは〈竜殺し〉


【黄飛虎@封神演義】
[所持品]棍
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない


【エィハ@レッドドラゴン】
[所持品]短剣
[状態]健康(還り人)
[その他]
・ 特記事項なし


【浅葱@BASARA】
[所持品]剣
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない


【ユウナ@FFX】
[所持品]ニルヴァーナ
[状態]健康、イフリート召喚中
[その他]
・特記事項なし


【紂王@封神演義】
[所持品]
[状態]健康、服の袖が破れている、少年の姿
[その他]
・記憶障害




投下終了です。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、シーモアを予約します。
投下終了です。

103 ◆Wv2FAxNIf. :2017/05/15(月) 04:20:42 ID:H/vvqeA20
月報です。よろしくお願い致します。
話数(前期比):13話(+ 1) 生存者(前期比):19/20 (- 1) 生存率(前期比):95.0

104 ◆Wv2FAxNIf. :2017/07/15(土) 02:29:35 ID:BWlLKfSo0
予約を変更してスアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモアを投下します。

105 スアロー・クラツヴァーリの場合 ◆Wv2FAxNIf. :2017/07/15(土) 02:31:00 ID:BWlLKfSo0
 焼け落ちた廃墟の煤けた屋上に、二人の男。
 一人は柵を乗り越えて、落下する危険など気にも留めない様子で縁に腰掛けていた。
 一人は屋上の真ん中で、両足を投げ出すようにして座り込んでいる。
 縁に座るのは細身の少年、ティーダ。
 中心にいるのがスアロー・クラツヴァーリという青年である。

 二人はともに金髪碧眼、話し方も緊張感の薄いものではあったが、似た者同士とは言えなかった。
 身軽さを武器にしたティーダに対し、黒い鎧を着込んだ重装備のスアロー。
 日焼けしたティーダが太陽に好かれているのだとすれば、色白のスアローは太陽に嫌われているのかも知れない。

 ティーダとスアローは似ていなかった。
 否、スアローと似ている者など、どこにもいないのである。

 とはいえお互い単独行動に向かない性質を自覚していることもあり、一緒に行動することで同意した。
 そしてまずは魔素の消耗で休養を必要としていたスアローの為、還り人に追い回されながらようやくここに腰を落ち着けたのだった。

 ひび割れた、今にも砕け散りそうな脆い空に浮かぶ雲が、ゆっくりと移動していく。
 地上から立ち上っていた黒煙は次第に薄れていく。
 焼かれていた周囲の建物には、もう燃えるものが残っていないのだろう。
 燃えていく。壊れていく。自分が触れるまでもなく。

 沈黙の中、漫然と浮かんでいたスアローの思考を、か細い旋律が破った。

「♪――――」

 それを耳にしたスアローは立ち上がり、ティーダが座る屋上際に近づく。
 上手いとは言えない鼻歌だった。
 だが異国の響きのあるそれに、スアローは耳を傾ける。

 スアローは音楽が好きだった。
 触れられないがそこにあるもの。
 スアローが触れて壊れてしまうものとは違う、触れられないが故に壊せないもの。
 あるいは、生まれるのと同時に壊れていくもの。
 その音色がふと途切れた。

「……何ッスか」
「いやぁ、邪魔するつもりはなかったんだ。続けて続けて」
「するわけないだろ」

 ティーダが頬を膨らますのが見えて、少年らしさを感じる。
 育ってしまったがもう育たないという少年の姿を、スアローはしげしげと眺めた。

「それ、君の国の曲なのかい?」
「……オレのザナルカンドで、ブリッツボールの勝利のおまじないってやつ。
 親父が歌ってたんだけど、オレよりへったくそでさ」
「父親かぁ。でも、嫌いじゃないんだろう?」
「……別に、好きでもないけどな」

 それは曲のことなのか、父親のことなのか。
 ティーダの照れ隠しのような返事に、スアローは深く頷いた。
 それはスアローにとって、全く関係のないことではあったのだが。

「そんなことよりアンタ、もういいのか?」
「あー、万全にはほど遠いんだけどね。
 もう行こうか。
 これ以上足止めってわけにいかないんだよね?」

 ティーダはユウナという少女を捜しており、その足をスアローが引っ張る形になっていたのだ。
 かといってそれを気に病むスアローではないのだが、スアロー自身にもゆっくりしていられない事情があった。

「婁さん、じっとしててくれてるといいんだけどなぁ」
「アンタが言ってるそれ、ホントに信じていいのか!?」
「はっきり言って僕には婁さんが今何を考えているのか全く分からないが、ここに来て何をしたのかは大体分かる。
 後は、僕を信じてくれとしか言えないな」

 無駄に胸を張って言い切るスアローに対し、ティーダの表情は半信半疑といったところである。
 こうして不信を買ってしまった経緯を思い返し、スアローは改めて「参ったなぁ」とぼやくのだった。



 聞仲から逃れ、まだ還り人に破壊されていない地域に着いた頃。
 年齢こそ一回りは違った二人だが、年の差を気にしない気さくな幼年はスアローにとって話しやすい相手だった。
 ティーダの出自に関心があったこともあり、スアローは何かとティーダの話を聞きたがった。
 それが唐突に、ティーダの焦りの声で現実に引き戻される。

「なぁ、あれ!」

 大きな建物の壁面に設置されたパネルに、映像が流れている。
 この国の文明はドナティアのそれを遙かに超えており、映像のやり取りに通信用魔術結界を必要としないらしい。
 そこに映った一人の男の姿が、そんなスアローの思考を瞬時に吹き飛ばした。

「ぶふぉおっ!!?!?」

 初めに映し出されていた女性を、仮面の男が手刀で刺殺した。
 それは紛れもなく、スアローがよく知る男であった。

 仮面を用いるようになってからの彼のことは、羊皮紙に描かれた肖像でしか知らない。
 それでも分かるのだ。
 どうしようもなく、あの男は変わらないのだと。

106 スアロー・クラツヴァーリの場合 ◆Wv2FAxNIf. :2017/07/15(土) 02:31:58 ID:BWlLKfSo0
 
『この「東京」をこれより、大いなる〈天凌〉に捧ぐ贄とする!』

 衝撃のあまり息も絶え絶えになっているスアローに構うはずもなく、パネルの中の男は朗々と演説を続ける。

『私こそは〈天凌〉に仕えしもの、私の名は――』

 男がにんまりと笑う。
 まるで、見せつけるかのように。


『スアロー・クラツヴァーリ!!!』


「……………………………………は?」

 そこで映像は終わったが、再び女性が刺殺される場面が映し出された。
 どうやらこの演説は、ひたすらリピート放送されるようである。
 二周、三周と見終わった頃、ティーダがようやく口を開いた。

「……なぁ、これ」
「ち、違う!! 断じて違う、僕じゃない!! 濡れ衣だ!!!
 ほら、声が全然違うだろう!?
 顎のラインとか、ほら! 体格も!」
「オレだって疑いたくないんだけどさ……」

 婁がどういった人物なのか。
 この地で起きている還り人の発生とどう関係しているのか。
 時間をかけて、何とかティーダに納得させたのだった。

「婁さん、僕のことがよほど腹に据えかねていたと見える。
 僕が婁さんのことを尊敬しているのは、本当なんだけどなぁ」

 そんなぼやきが婁に届くはずもなかった。
 もっとも届いたところで、火に油を注ぐ結果になっただろうが。



 婁震戒は恐らく東京の中心部で〈死者の王〉として活動を始めた。
 婁の性格、それに還り人たちの活動域の拡大の様子などから、スアローとティーダはそう結論づけた。
 そしてティーダはユウナならそれを止めるために中心に向かうはずだと主張し、スアローはそれを受け入れた。
 道という道を埋め尽くした還り人の群れを迂回するルートはなく、二人は還り人たちの頭や肩を踏み越えて、一息に移動を始める。

「地図を見た限りかなり広いと思うんだよねぇ、東京って」
「仕方ないだろ!
 乗り物はどれも、こいつらのせいで使えないんだからさ!」

 今いる新宿から中心部までの距離は、地図で位置を確認した際に計算しようとしてすぐにやめてしまった。
 ユウナのことで焦りを募らせているティーダに言ったところで、止まりはしないだろう。
 「楽をしたいのになぁ」と一人ごちて、スアローはなくなくティーダの後に続いた。

 爆発音を聞いたのは、その道中のことだった。
 初めのうちは何かの燃料に着火したのだろうと、スアローもティーダも気に止めなかった。
 だが同じ方角から断続的にその音が続き、二人は尋常でない事態を感じ取った。

「さて、どうする?
 はっきり言って僕は、嫌な予感しかしない!」
「だけどもしかしたら、ユウナがいるかも知れない……!」

 既にティーダは進路を変え、爆発音がする方へ足を向けていた。
 仮にスアローが説得したところで、その足を止めることはないだろう。

「うーん、仕方ない。付き合おう。
 子どもを守るのは、大人の役目だからね」

 スアローはいつも通り、どこまで本気なのか分からない乾いた笑みを作る。
 彼の従者が「悪い癖」と称す性質は、ここにきても変わることがなかった。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【スアロー@レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×4
[状態]軽傷
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・婁の宣戦布告を目撃



【ティーダ@FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]健康
[その他]
・婁の宣戦布告を目撃



「……さて」

107 スアロー・クラツヴァーリの場合 ◆Wv2FAxNIf. :2017/07/15(土) 02:34:15 ID:BWlLKfSo0
 
 死体の群れを戯れに逐一相手にするのにも飽いて、シーモアは魔法を用いて一掃した。
 エボンの老師として四属性の魔法を自在に操るシーモアは、その膨大な魔力によって連続魔法を可能にする。
 彼にしてみればそう協力でもない、中位程度の威力のファイラも、彼の魔力で連打すれば辺りを火の海に変えられるのだ。

 魔法を使用した直後こそ、新たな群れがそれまでに倍する数で襲いかかってきていた。
 だが二度三度と重ねると、死体たちはシーモアから距離を取り、遠巻きに観察してくるようになった。
 そうした動きから、シーモアはこれらを操作する者がいることを察する。
 魔物の創造と使役に長けたグアド族だからこそ、容易にその結論に行き着いたのだった。

「やはり避けられないものらしいな」

 グアドとは、異界を守る民である。
 それ故に幻光虫との関わりは深く、敏感にその気配を感じ取る。
 だからこそ、ここに向かってくる者が誰なのかも気づいている。

「救ってやろう。
 おまえも、おまえの父も」

 焼け爛れた大地に立ち、シーモアは待ち受けていた。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【シーモア@FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]健康、死人
[その他]
・〈竜殺し〉ではない



投下終了です。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモアを予約します。

108 ◆Wv2FAxNIf. :2017/07/15(土) 02:34:45 ID:BWlLKfSo0
月報です。よろしくお願い致します。
話数(前期比):14話(+ 1) 生存者(前期比):19/20 (- 0) 生存率(前期比):95.0

109 ◆Wv2FAxNIf. :2017/09/15(金) 03:06:13 ID:oYnVsEo.0
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモアを投下します。

110 望まぬ再会 ◆Wv2FAxNIf. :2017/09/15(金) 03:06:54 ID:oYnVsEo.0
 ある程度走ったところで、黄天化は足を止めた。
 片腕は肩に担ぎ上げたルルーシュを支えるのに塞がっているが、残る一方の手で器用に莫耶の宝剣を操って四方の死体の群れを片付ける。
 そして手近な死体を踏み台にして跳躍し、街灯の上へ飛び乗った。

「っちゃー……わり、見失っちまったさ」
「何だと!?」

 肩に担がれた姿勢のまま、ルルーシュがキャンキャンと騒ぎ出す。
 予想通りの反応だったので、天化はそれを軽く受け流し、代わりに周囲の様子を観察した。
 黒衣の男を見つけるのは早々に諦め、代わりに死体の群れの方を注視する。

 相変わらず死体の群れは多いが、一時ほどの密度ではないように思われた。
 この「東京」全域に手を広げるべく、拡散していったためだろう。
 胸の悪くなる話ではあるが、死体たちの服装などを見るに元は街の住人だ。
 それは街の人口以上の群れにはならず、無限に増え続けるものでもないということだ。
 道端には天化が斬ったものとは別の死体も多数転がっており、全ての住人が群れになったというわけでもないらしい。

 また、先程までと少々状況が変わったことに気付いた。
 街灯の上などその場しのぎの逃げ道に過ぎなかったのだが、死体の群れが追いすがってくる様子がないのだ。
 少々遠巻きに、何体かが様子を窺っているように見えるだけだ。
 それは放送局の中で、群れが天化らを積極的に殺そうとしてこなかったことと無関係ではないように思えた。

「連中はどーにもやる気が足りねぇみてえだったけど、赤い剣のあいつだけは本気でオレっちたちを殺しにきてたさ。
 んで、こいつらはまたやる気なしときた。
 どういうことさ?」
「それは。……。
 あの剣を手に入れるのが先だ!!」
「ほんっっと役に立たねぇさあんた!!」

 黒衣の男は既に影も形もなく、行き先の手がかりもない。
 頭脳労働の面に関して頼みの綱ともいえたルルーシュはこの有様である。
 天化はやむなく、一人で今後の方針を思案する。

「……しゃーない。
 どっかでちょいと休んだら、また捜すさ」
「そんな悠長なことを!」
「あんた一人じゃあいつは捕まえられっこないって分かってるはずさ。
 オレっちだって無理はしたかねぇのさ」
「む……」

 ルルーシュはしぶしぶではあるが納得したようだった。
 そうして天化は足場にしていた街灯を蹴り、移動を再開する。

 だが低い建物の屋上に跳び移ったところで、また足を止める。
 視線の先は別の建物の外壁で、奇跡的に稼働している電光掲示板があった。
 殷にはなかった代物への好奇心――だけではない。
 そこには見知った男の姿が映っていたのだ。

『私こそは〈天凌〉に仕えしもの、私の名は――』

 天化もルルーシュも、思わず前のめりになる。
 その男の挙動に釘付けになった。


『スアロー・クラツヴァーリ!!!』


 リピートされる映像を何度か眺めた後、テレビ局から数キロほど足を伸ばしたが収穫はなく。
 ルルーシュと出会って以降戦い通しだった天化は、廃ビルの一角で腰を落ち着けた。
 煤けたソファに寝転がり、煙草をふかす。
 ルルーシュはといえば、「俺が使うはずだったのに」と一人愚痴を零していた。
 メッセージを不特定多数に向けて発信することで、何らかの優位に立てる策を考えていたのだろう。
 この「東京」の土地勘があることもあって目の付け所は決して悪くなかったが、運は徹底して向かなかったようだ。

「さーて、どうしたもんかねぇ」

 意識を手放さない程度に体の力を抜き、緊張をほぐす。
 その束の間の休息は、遠く離れた地から轟音が響く時まで続いたのだった。



 進むにつれ、周囲の気温が上昇していく。
 嫌な汗をかき始めたティーダは死体の群れを足場にするのをやめ、地面に着地する。
 そして群れを斬りつけながら、再び速度を上げる。
 これはティーダにとって助走のようなものだ。
 強力な一撃を叩き込むために、必要なプロセスである。

「あー。ごめん、それ僕は手伝わなくていい?」

 後ろから緊張感のない声がかかる。
 スアローの性質――というより『呪い』について既に聞かされていたティーダは、それをあっさり了承した。

「いいっスよ。
 その代わり、肝心な時に武器がないとかやめてくれよな」
「肝に銘じておくよ。
 今は怖いメイドさんもいないしね」

 スアローは普段は武器の管理をそのメイドに任せているらしく、余計に不安が煽られる。
 とはいえ出会って間もないティーダにはそれ以上言えることもなく、進行方向に注意を戻した。

111 望まぬ再会 ◆Wv2FAxNIf. :2017/09/15(金) 03:07:32 ID:oYnVsEo.0

 死体が焼ける臭いに顔を顰める。
 視界が拓けた先の広場には、見知った男の姿があった。

「やはりお前が来たか」

 グアド族の族長にしてエボンの老師、シーモア=グアド。
 その声は、何も知らぬ者が聞けば妖艶と称したかも知れない。
 魔力を使うまでもなく人を心酔せしめる、艷やかにして色を帯びた声だ。
 行く先々で道を阻まれてきたティーダにとっては、不快なものでしかなかったのだが。

「えーっと、知り合い?」

 ここにきてなおスアローは呑気な様を見せており、相変わらずであった。

「嫌いなやつ」
「なるほどねぇ」

 興味があるのかないのか、人当たりがいい割に分かりにくい男である。
 対するシーモアは、スアローにはまるで感心がないようだった。

「念のため聞いておこう。
 知りもしないだろうがな」

 ねっとりと勿体ぶるような口ぶりで、シーモアは言う。
 こうしてただ話しているだけでも胸が悪くなり、ティーダはますますこの男が嫌いになるのだ。


「私の花嫁は、今はどこに?」


 全身が総毛立つような不快感と怒りが、ティーダから噴き上がる。
 ベベルで見せつけられた結婚式を、嫌でも想起させられた。


「知ってても教えねーよ!!」


 事情を一切知らぬスアローを置き去りにしたまま、ティーダはアルテマウェポンを構える。
 ルカに始まり、ミヘンで、グアドサラムで、ベベルで、ガガゼトで、シーモアとは繰り返し顔を合わせてきた。
 だが次はないと、ユウナには決して近づけまいと、ティーダは両足に力を込める。

 一撃の重さだけを比べるなら、ティーダよりもスアローの方が優れているかも知れない。
 だがティーダの最大の武器は手数である。
 ヘイスガとクイックトリックの併用は、相手に息をつく暇さえ与えない連続攻撃を可能にする。
 味方全体に効果を及ぼすヘイスガによってスアローの速度も上昇しているものの、ティーダはそれよりも更に速い。
 なお、ついでではあるが、ティーダの連撃の合間にスアローは剣を二本ほど壊していた。

「はぁあああああああああああ!!!!」

 圧倒的な速度に加えて、ティーダが持つアルテマウェポンには「回避カウンター」「魔法カウンター」のアビリティが付いている。
 シーモアがブリザラやサンダラを使えば、ティーダが意識する必要すらなく反撃の一手となるのだ。
 ティーダが回避した連続魔法が周囲の建物を次々と破壊していくも、ティーダ自身にダメージはない。
 幻光異体による全体魔法・ブリザドでティーダとスアローの動きが一時止まったが、ティーダの準備は既に済んでいた。

「派手なのを一発、ぶちかます!!!」

 姿勢を低く落とす。
 地面を強く蹴って体を押し出し、一息にシーモアの目前まで距離を詰め、八連撃。
 袈裟懸けに、横一文字に、或いは真下から切り上げ、必殺ともいえる一撃を矢継ぎ早に叩き込んでいく。
 そして剣を地面に突き立て、それを踏み台にして跳ぶ。

「スアロー! それ、投げてくれ!」
「え、何これ。いつの間に!?」

 ティーダはスアローの手の中にあったブリッツボールを投げるよう促す。
 ティーダのオーバードライブ技、エース・オブ・ザ・ブリッツ。
 これは最後に、宙高く上げられたボールを蹴って敵に見舞うことで完成するのだ。

「よーし、よく分からないが任せろ!」

 スアローの手を離れたボールが、丁度ティーダが飛び上がった最高高度に到達する。
 完璧なタイミングだった。
 ティーダは空中で上下に体を一回転させ、頭を下にした姿勢のままボールを蹴り抜いた。

 パァン、と甲高い破裂音が響く。

「……えっ」

 その声はティーダのものだったか、スアローのものだったか。
 ティーダ愛用のブリッツボールはティーダの蹴りの威力に耐えきれず、弾け飛んでしまったのだ。
 蹴りがほぼ空振りとなったティーダはそのまま落下し、バランスを崩しながらもかろうじて着地した。

「……その。
 今回は運が悪かったみたいだ」

 スアローがきまり悪そうに言う。
 スアローが触れたものは休息に劣化し『粉砕』される――ティーダはそれを改めて実感させられたのだった。

 それでも、シーモアへのダメージは過剰なほどのものとなっていたはずだ。

112 望まぬ再会 ◆Wv2FAxNIf. :2017/09/15(金) 03:08:06 ID:oYnVsEo.0
 ティーダが視線を戻すが、そこに期待したものはなかった。
 シーモアは未だ健在で、そこに立っていたのだ。

「この土地はいい。
 何もかもが私の糧となる」

 周囲に転がっていた死体が瞬時に形を失い、幻光虫となって霧散した。
 のみならず遠巻きに広場の様子を窺っていた死体の群れさえも崩れ、それらの幻光虫はシーモアの内へ取り込まれていく。
 幻光虫の扱いに長けたグアド族の血を引いた優秀な召喚士であったシーモアが、死人(しびと)となったことで新たに得た力である。

「これで終わると、思ったわけではあるまい?」 
「……しつこいっつーの」

 ティーダの眼前にまず現れたのは、巨大な甲虫のような姿である。
 シーモアが使役する、幻光異体。
 そしてその背後に立つのが、人の形を失ったシーモア:異体だった。
 ベベルで対峙した時のままの姿である。

 その姿に、物言いに、ティーダは一層の苛立ちを募らせるのだった。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【スアロー@レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×2
[状態]軽傷
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・婁の宣戦布告を目撃


【ティーダ@FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]健康、オーバードライブ使用直後
[その他]
・婁の宣戦布告を目撃


【シーモア@FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]健康、死人
[その他]
・〈竜殺し〉ではない




「スアロー、ね」

 ティーダたちの頭上高く、建物の屋上から、その二人は戦いの推移を見守っていた。

「どうやらまた、ややこしいことになってるみてぇさ」
「あの男がいない。
 さっさと次に当たるぞ」
「言ってる場合じゃないさ!
 手を貸してやろうにも、困ったもんさ」

 ルルーシュの言葉を聞き流しながら、天化は新たな煙草に火をつける。
 見た目で善悪を決めていいのなら、助けに入るべきは金髪の二人の方だろう。
 とはいえ込み入った事情はまるで分からず、一方の名は「スアロー」であるという。

 煙草が短くなっていく。
 静観していられる時間はそう長くはないだろうと、天化は予感していた。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
・携帯電話を紛失
・婁の宣戦布告を目撃


【黄天化@封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷
[その他]
・ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明)
・婁の宣戦布告を目撃





投下終了です。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモアを予約します。

113 ◆Wv2FAxNIf. :2017/09/15(金) 03:08:54 ID:oYnVsEo.0
月報です。よろしくお願い致します。
話数(前期比):15話(+ 1) 生存者(前期比):19/20 (- 0) 生存率(前期比):95.0

114 ◆Wv2FAxNIf. :2017/11/20(月) 00:50:02 ID:sa0vMcwg0
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモアを投下します。

115 ◆Wv2FAxNIf. :2017/11/20(月) 00:51:16 ID:sa0vMcwg0
 今のティーダにとって、シーモアは脅威足りえないはずだった。
 倒す都度復活と強化を果たし道を阻んでくるシーモアは厄介ではあったが、ティーダの成長速度はそれを遥かに上回る。
 まして最強武器の一角のアルテマウェポンを手に入れた後となっては、軽く一蹴してしかるべき相手である。
 不完全とはいえ大技エース・オブ・ブリッツも決まり、本来であればとうに決着がついている戦いだ。

 だがシーモアはまだ立っている。
 どころかまだこれからとでも言うように、余裕の表情を浮かべている。

「グアドサラムでもこうはいくまい。
 まるで私の為に用意されたかのようだ」

 人とのハーフではあるが、シーモアはグアド族だ。
 その土地に異界を擁する彼らは幻光虫の扱いに長け、幻光虫で構成される魔物を使役した戦いを得意とする。
 幻光虫で満たされた異界で真価を発揮する種族と言える。
 その部族を治める長であるシーモアにとって、この「東京」は考えうる限りで最高の環境だった。
 仮初めの住民たちは幻光虫で形作られ、死人(しびと)のように街中を徘徊している。
 彼らを消滅させればさせるほど気体中の幻光虫の濃度は高くなり、シーモアの一部として吸収される。

 そして魔物を活性化させる空気が、この土地にはあった。
 それがニル=カムイという土地と酷似したものであることは、ティーダもシーモアも知るよしもない。
 唯一気付く可能性のあるスアローもそうした知識に疎く、気付くことはなかった。

「ここで死ねば、苦しみから解放される。
 父親を殺すことに悩むこともなくなるのだ。
 私はお前もお前の父親も救ってやろう」
「いちいち!! うるっせえっての!!!」
「ちょっと、僕がちっとも会話についていけてないんだけど!
 何でそんな物騒な話をしてるのかな!?」

 ティーダと並ぶスアローはこの状況でなお緊張感がない。
 或いは「持てないのではないか」とさえ、ティーダには思えた。
 シーモアは未だスアローに関心を見せる様子はなく、会話の矛は絶えずティーダへ向いている。

「私が父ジスカルを殺めた時もそうだった。
 あの男も、過去に己が犯した罪に苦しんでいたのだ。
 私はそれを解放したまでのことで――」
「いい加減――」

 ティーダがシーモアの言葉を遮ろうとして、止まる。
 一瞬、陽光が遮られたのだ。
 シーモアに斬りかかろうとしていたティーダが咄嗟に後退すると、幻光異体めがけて影が落ちた。
 黒髪の青年が建物の屋上から飛び降り、剣を突き立てていた。
 青年は幻光虫を散らしながら剣を引き抜き、ティーダの隣りへと飛び退る。

「親を殺すとか殺したとか、ここにきてから嫌な話ばっかさ!
 俺っちが加勢してやっから、とっとと片付けるさ!」
「誰だよあんた! 助けてくれるのか!?」
「俺っちは黄天化。助ける理由は、俺っちが気に入らねえからさ!」

 破壊された幻光異体はシーモアの体力を吸い上げ、瞬く間に元の形状を取り戻す。
 そしてすかさず全体魔法のファイアを放った。
 アルテマウェポンのカウンターアビリティが発動するのは個人に向けられた魔法のみであり、三人はまともに攻撃を受けてしまう。

「ッ、あいつのこと嫌いだってんなら、気が合いそうだな!
 このまま一気に三人で――」
「あ、僕は下がるよ」
「はぁ!?」
「剣があと二本しかないんだ。いやー、援軍がきてくれてよかった!」

 スアローは悪びれもせずに、本当に戦線から退いてしまう。
 この男の剣の事情を知っているティーダでも絶句する呑気さである。

「あの兄さんがスアローってのかい?」
「ん、そう言ってたっス」
「へぇ……ま、後で確認するさ!」

 ヘイスガ、クイックトリックによる加速。
 ティーダの戦法はスアローが抜けても変わらない。
 例え周囲の幻光虫を取り込んで強化されるとしてもそれは無限ではないはずだ。
 それ以上の速度で倒せばいいと、ティーダの剣は勢いを増していった。



116 シーモア、一策を講じる ◆Wv2FAxNIf. :2017/11/20(月) 00:52:26 ID:sa0vMcwg0
 シーモアはここまでの応酬で、ティーダの武器が持つアビリティを確かめていた。
 回避カウンターと魔法カウンター。
 ティーダ個人に向けた攻撃は尽く回避され、斬撃によるカウンターが行われる。
 加速したティーダに更なる手数を与えることになるため、シーモアが得意とする連続魔法は逆効果である。
 ブレイクによる石化も防具によって弾かれているようだ。
 そうなればシーモアは当然、戦法を変える。
 ティーダを無視し、新たに加わった天化という青年へ連続魔法を集中させる。
 天化の身体能力がいかに高くとも、ティーダのように武器や防具のアビリティがなければ魔法の回避は不可能である。
 ティーダが援護としてバファイを初めとした耐性魔法を使用しても、幻光異体の全体魔法とデスペラードなら解除できる。
 攻撃に集中する分シーモア自身もダメージを受けはするが、周囲の幻光虫で回復することで一方的に天化を消耗させていく。
 更に耐性魔法を使わせ続けることでティーダの手数を削り、結果として防御を兼ねた攻撃となった。

「きったねえ……そんなに俺が怖いかよ!」
「安い挑発はよせ。
 だが私はお前も救ってやらねばならない。
 この私と幻光異体が相手をしてやろう」

 ティーダは耐性魔法の他にも白魔法を獲得しており、天化の傷もある程度回復させてしまう。
 周りの死体を使い切れば不利になるのはシーモアの方であり、どこかでアルテマウェポンを突破しない限り勝機はない。
 故にシーモアは斬りかかってきたティーダと天化に、幻光異体の全体魔法をぶつける。
 そしてその勢いで正面の建物の一階へ叩き込んだ。

 連続魔法でサンダーを打ち込む。
 対象はティーダでも天化でもなく、建物の支柱だ。
 これまでにティーダに躱された魔法はこの建物に集中させていたので、下準備は既に終わっている。
 傍に人が通れるような大きさの窓や出入り口がないことは確認済み、叩き込んだ入り口は幻光異体が塞いでいる。

「ご自慢の武器も、これでは役に立つまい?」

 建物が崩壊する。
 回避カウンターも魔法カウンターも発動しようがない大質量が、二人の頭上に降り注いだ。



「やばっ……」

 天化は体を起こし、人の体ほどもある石片が落ちてくるのを躱しながら走る。
 使えそうな窓や扉はない、逃げ道があるとすれば正面の幻光異体。
 強引に突破する他にない。
 できなければ死ぬだけだ。
 隣りにいるティーダも考えは同じようで、目が合い、頷き合う。

 「負けてたまるか」という負けん気は、天化の中に常にある。
 だが同時にそれで周囲を見失わない程度の冷静さも併せ持っている。
 この時も間に合わせる為の道筋を見極めようとしていた。
 幻光異体に剣を届かせるまでの歩数、それを越えた後のシーモアを掻い潜るのに必要な時間。
 その計算の最中、天化とティーダの目の前に上階の壁が落ちてきた。
 それが視界と道を同時に塞ぐ、致命的な数秒の空白を生む。

 死んだ母と、どこにいるのかも分からない父と、故郷の兄弟たちの顔が浮かんでしまう。
 天化とティーダはそこで、闇に飲み込まれた。



「だからやめておけばよかったんだ、あの馬鹿……!」

 ルルーシュは息を切らしながら階段を駆け下りていた。
 制止を振り切って飛び出していってしまった天化への悪態は尽きない。
 とはいえ隣りの建物が倒壊したとあっては、ルルーシュも動き出す他なかった。

(考えろ、俺がやるべきこと……あの剣を手に入れる為の最善手を……!
 まずは現状の確認だ、あのシーモアとかいう化け物はまだ俺の存在に気付いていない。
 そしてあの連中は――)

 途中階の窓から、ルルーシュは様子を窺う。
 崩れ去った建物による粉塵で地上は白く染まっている。
 時間が経つにつれてそれが晴れていき、影が見えてきた。

「……何だ、生きてるじゃないか」

 生きていればまだ利用できると、ルルーシュは笑う。
 この笑みにそれ以上の理由はないと、己に言い聞かせながら。

「仮は返してもらうぞ。
 この俺を巻き込んだんだからな」

 シーモアの立つ広場。
 倒壊した建物。
 周囲の建築物の位置関係。
 魔法の威力。
 残った三人の戦闘力。
 ルルーシュが導き出す答えは――




117 シーモア、一策を講じる ◆Wv2FAxNIf. :2017/11/20(月) 00:53:13 ID:sa0vMcwg0
 シーモアは顔を顰めていた。
 相手にしていなかったイレギュラーによって計画を崩されたのだから、それも当然だろう。

「使いたくなかったんだけどなぁ」

 倒壊した瓦礫の下から出てきたのは、漆黒の塊だった。
 影そのものが形を成したようなそれが解けると、ティーダ、天化、そしてスアローが姿を見せた。

 崩落が始まった時、スアローは残る二本の剣のうちの一本で外壁を叩き壊した。
 細い剣で分厚いコンクリートの壁を崩す、常人には到底成し得ない行動である。
 そして瓦礫の前で動きを止めていた二人を、〈黒の帳〉で包んでやり過ごしたのだった。

「頼りねえ兄さんかと思ってたのに、あんたやるなぁ」
「いやぁ。たまには働かないと怒られるからね」

 悠長な会話がシーモアの神経を逆撫でる中、ティーダが剣を構え直す。

「これで、仕切り直しだ……!」



【一日目昼/渋谷(東部)】

【スアロー@レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×1
[状態]軽傷、魔素を消費
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・婁の宣戦布告を目撃


【ティーダ@FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]MPを消費
[その他]
・婁の宣戦布告を目撃


【シーモア@FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]シーモア:異体、死人
[その他]
・〈竜殺し〉ではない


【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
・携帯電話を紛失
・婁の宣戦布告を目撃


【黄天化@封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷、軽傷
[その他]
・ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明)
・婁の宣戦布告を目撃






投下終了です。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化、スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモアを予約します。


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