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モバマス・ロワイアルpart2 1 : ◆UcWYhusQhw :2013/01/20(日) 01:26:43 ID:/CwUzSKg0 このスレは、アイドルマスター・シンデレラガールズ(通称モバマス)を題材にバトルロワイアルの物語をリレー形式で進めてくという企画のスレです。 【参加キャラ】 18/18【キュート】 ○島村卯月/○三村かな子/○小日向美穂/○緒方智絵里/○五十嵐響子/○前川みく/○双葉杏/○安部菜々/○輿水幸子 ○水本ゆかり/○櫻井桃華/○楊菲菲/○小早川紗枝/○道明寺歌鈴/○榊原里美/○栗原ネネ/○古賀小春/○佐久間まゆ 18/18【クール】 ○渋谷凛/○多田李衣菜/○川島瑞樹/○藤原肇/○新田美波/○高垣楓/○神崎蘭子/○北条加蓮/○白坂小梅 ○相川千夏/○神谷奈緒/○佐々木千枝/○三船美優/○松永涼/○和久井留美/○脇山珠美/○塩見周子/○岡崎泰葉 18/18【パッション】 ○高森藍子/○姫川友紀/○大槻唯/○及川雫/○相葉夕美/○向井拓海/○十時愛梨/○日野茜/○城ヶ崎美嘉/○城ヶ崎莉嘉/○諸星きらり/○市原仁奈 ○木村夏樹/○赤城みりあ/○小関麗奈/○若林智香/○ナターリア/○南条光 6/6【書き手枠】 ○佐城雪美/○本田未央/○喜多日菜子/○大石泉/○星輝子/○矢口美羽 【基本ルール】 1.とある島にアイドル65人放り込み、一人になるまで殺し合いを続ける。 2.開始時間は午前0時から。制限時間は無制限。二十四時間以内に誰も死なないならば、強制的に全滅。 3.参加者の首には首輪がつけられて、爆弾がつけられている。無理に引っ張ったり、主催が命令などあると、爆破される。 4.ゲーム開始後、六時間毎に、放送が流され、そこで直前で死亡した人物の名前が読み上げられる。 また、次の6時間以内に進入禁止になるエリアを読み上げる。禁止エリアに入った参加者の首輪は警告の後爆破される。 5.参加者には、武器になったりならなかったりする不明支給品が1〜2支給される他に、以下の基本支給品が支給される。 荷物を入れるデイバック、情報端末(時計磁石入り)、参加者名簿、地図、筆記用具(鉛筆やメモなど)、懐中電灯、食料(水と軽食) 6.各アイドルのプロデューサーは主催によって人質にされている。アイドルと同じ首輪をしており、主催の判断で爆破される事がある。 ※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。 また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。 【アイドルについて】 アイドルはソロで活動しているか、参加者非参加者問わず他のモバマスアイドルとグループで活動しているかはお任せします。先に書かれたSSに準拠してください 【プロデューサーについて】 アイドル一人ひとりにつき、それぞれのPがいます。ただし、全員が別人ではなく、複数のアイドルを掛け持ちしているPもいます。仔細は先に書かれたSSに準拠か、書き手にお任せします。 【予約について】 スレにトリップ着きで、予約キャラを明記してください。 期間は5日間。延長は5作投下した人から、2日出来ます。 ※地図 ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0157.png ※まとめウィキ ttp://www58.atwiki.jp/mbmr/
2 : ◆yX/9K6uV4E :2013/01/20(日) 01:27:50 ID:/CwUzSKg0 失礼、鳥ミスです
3 :名無しさん :2013/01/20(日) 01:30:59 ID:zoqLjDgM0 スレ立て乙ですー。
4 :名無しさん :2013/01/20(日) 01:46:43 ID:zoqLjDgM0 予約まとめです。 01/13(日) 17:18:37 ◆44Kea75srM 前川みく、及川雫 01/14(月) 01:04:39 ◆yX/9K6uV4E 藤原肇、榊原里美、岡崎泰葉、市原仁奈、白坂小梅、喜多日菜子、諸星きらり 01/18(金) 01:49:16 ◆kiwseicho2 神崎蘭子、輿水幸子、星輝子、水本ゆかり 01/19(土) 06:31:43 ◆ltfNIi9/wg ナターリア、南条光
5 : ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:44:04 ID:7GRiFo0A0 おまたせしました。投下します。
6 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:44:51 ID:7GRiFo0A0 「でっかぁ――――――――――――――――――――いにゃっ!」 【B-2】エリア、屋外ライブステージの中央で前川みくは盛大な鳴き声を上げた。 楕円形に広がる広大な観客席を望みながら、両腕を翼に見立てて広げる。 そのままじっとしていることができず、ステージの上をどたばたと駆け回った。 「すっごいにゃ! みくもいつか、こんなステキな場所でライブしたいなあ……はあ〜、夢が広がるにゃあ〜」 どたばたと駆け回った後は、夜の空気で冷たくなった板張りの床をごろごろと寝転がる。 「はにゃ〜。朝の日差しが気持ちいいよぉ……」 「みくさ〜ん。気持ちいいのはわかりますけど、はしたないですよー?」 「誰も見てないからモーマンタイにゃ。雫ちゃんも一緒にゴロゴロするにゃ♪」 「でもー。これがドッキリなら、どこかでカメラが回ってるんじゃないでしょうかー?」 「…………ハッ!?」 ステージの端で姿勢正しくしている牛さん衣装のアイドル、及川雫にたしなめられ、みくはバッと起き上がる。 時刻は五時を回り、もうすぐ六時。既に夜は明け、温かい朝の日差しがステージ上にも降り注いでいた。 ホテルから移動することに決めたみくと雫は、のらりくらりと島を南下し、ここ【B-2】エリアの屋外ライブステージまでやって来た。 道中、波乱らしい波乱もなく、他のアイドルと出会う機会もなかった。 仕掛け人として『ドッキリ大成功〜☆』とやるシーンもなかったわけだが、みくは出番を焦らない。 「ふふふ、みくにはぜぇ〜んぶお見通しなのにゃ。ドッキリが終わったら、締めのイベントとしてここで全員集合ライブをやるのにゃ」 屋外ステージの舞台裏は既にチェックして回ったが、設備に不足な部分はない。 スタッフとアイドルさえ揃えば、すぐにでもライブを行うことが可能だろう。 だからこそ、みくは自分の中で生まれた仮説を信憑性の高いものとして捉える。 つまりここを訪れたのは、下見の意味もあったのだ!(単に鉛筆が倒れた先がここだっただけ) 「そうだ雫ちゃん! なんかぜんぜん他のみんなと会わないし、リハーサルも兼ねてここで少し踊ってみるのはどうかにゃ!?」 「いまここで、ですかー? でも私、こんな広いところで踊ったことってないですしー」 「弱気はめっ! みくにゃんパンチ!」 大舞台に怖気づく雫へと、みくにゃんが必殺の拳(という名のねこぱんち)を叩き込んだ! ぼよよん。みくにゃん必殺の拳は雫の豊満な胸に弾かれ無効化される。ぼよよん。 「…………」(←あまりのビッグ・バストに声も出ないみくにゃん) 「みくさんー? どうかしましたかー?」 「…………」(←手に残る柔らかな感触を思い出し、かあ〜っと顔を赤くするみくにゃん) みくは踊った。満員の観客席をイメージしながら歌って踊った。「ミルクがナンボのもんにゃ!」とときどき叫んだ。 みくの陽気さに釣られ、雫も踊り出した。踊るたびぶるるん、ぼよよん、ぼよんぼよ〜んと胸が弾み、みくは血を吐いた。 「いい汗かきましたー」 「ひ、貧困層にはわからぬ落差社会……上には上がいる……戦わなければ生き残れない……」 「みくさんー?」 みくは生きる屍と化した。実力……いや、格の違いというものを思い知った女の顔をしていた。 一方の雫はどこまでもマイペースである。悲壮感に襲われるみくを見ながら「?」と首を傾げていた。
7 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:46:14 ID:7GRiFo0A0 ――そうこうしているうちに、時計の針は六の数字を指し示す。 《はーい、皆さん、お待たせしました!》 ライブステージ上部のスピーカーから響いてきた突然の声に、みくと雫はビクッと身体を震わせる。 聞こえてきたのは二人が所属するアイドルプロダクションの事務員、千川ちひろのアナウンスだ。 「い、いったいなにが始まるのかにゃ?」 「放送ですよー。最初に言ってたじゃないですか。六時間ごとにやるってー」 「あっ、そういえばそうだったにゃ! でも放送って、なにを――」 「それは、たぶん……もうすぐわかります」 戸惑い顔のみくとは対照的に、雫はキリリとした表情で頭上のスピーカーを眺めやる。 その先に放送の主であるちひろの姿はない。 だけどもスピーカーの奥、どこかから声を送っているイベントの裏方へ、警戒の念を込めて。 しばらくすると―― 《皆さん――――最期まで、生き延びて見せなさい》 スピーカーは声を発さなくなった。 放送が終了してしばらくの間、ステージ上は静寂に満たされる。 みくも雫もなにも言わぬまま、ただ物言わないスピーカーから視線を逸らすことができなかった。 「……終わったみたいですねー」 「にゃあ…………」 ほどなくして雫が声を発し、みくはぺたんとその場に脱力する。 放送。そこで読み上げられた内容は、この六時間で十五人ものアイドルが死んだのだという事実。 さらに禁止エリアの発表。そしてアイドルとしてこの殺し合いを生き抜こうという千川ちひろからの激励。 すべてが、ふざけた冗談のように聞こえた。 「まったくも〜。ちひろさんも演出凝りすぎにゃ! みく、けっこう本気でドキドキしちゃったにゃん」 「演出……本当にそうなんでしょうかー?」 「そうに決まってるにゃ! そうじゃないとおかしいにゃ!」 「でも、もう十五人も死んでしまったってー……」 「そ、それはきっと……そうにゃ! みんなはみくたちみたいな仕掛け人に、ゲーム的な意味で殺されちゃったのにゃ!」 「ゲーム的な意味で、ですかー?」 みくは握りこぶしを作って力説する。 「そうにゃ。このイベントに参加しているアイドルの中にはみくたちみたいに何人か仕掛け人がいて、 その人たちはウォーターガンとか小麦粉爆弾とかパイ投げのパイとかパーティー用のクラッカーとかで武装してるのにゃ。 仕掛け人じゃないアイドルは、その人たちに驚かされたら即アウト……ゲームから退場処分を受けるのにゃ! これはドッキリだけど、名目上は殺し合いだから……だからちひろさんは、退場者を死亡者だなんて言い換えてるのにゃ!」 みくは「どや!」とでも言いたげな顔で決して貧しくはない(むしろ豊かな)胸を張る。 だが聞き手である雫の表情は晴れなかった。普段ののほほんとした彼女らしからぬ、真面目な顔つきを維持している。 「じゃあ、さっき読み上げられたみなさんは死んだわけじゃないんですねー?」 「あたりまえにゃ! いまごろどこかに集められて、みくたちの様子をカメラで見物しているに違いないのにゃ!」 「みくさん――」
8 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:46:54 ID:7GRiFo0A0 雫は張るまでもなくみく以上に豊かな胸を前に、 「それは違うと思います」 毅然と自身の考えを言い放った。 「仮にみくさんの言うとおりだったら、楽しそうですけど……これはやっぱり、ドッキリじゃないと思うんです。 殺し合いなんて、ウソだったとしてもアイドルにやらせるイベントとしては悪趣味すぎますし。 私たちはもちろん、ファンのみなさんや企業のみなさんも誰も得をしないと思うんですよね。 そもそも最初に誰かのプロデューサーさんが殺されたあの映像……あれも作り物には見えませんでした。 さっきのちひろさんの放送も、ウソを言っているようには思えなかったっていうか……洒落になってないと思いますー」 雫が指摘するポイントを、みくはみくなりに受け止め、改めて考える。 確かに、この企画は悪趣味極まりない。倫理的も社会的にも、冗談の域を超えているような気がする。 それにプロデューサーの死亡映像やちひろの放送内容も過激すぎる。 もし真に受けたアイドルが絶望し、助からないと悟って自殺に踏み切りでもしたらどうするのか。 「にゃ、にゃ……」 雫の考察は『アイドルを集めて殺し合いなんて、現実的に考えてありえない』という点を除けば概ね理に適っている。 現実的に考えてありえないというただ一点で否定することは、もちろんできた。 だがみくは口ごもり、反論をやめてしまう――それは自分自身、心のどこかで『ドッキリは無理がある』と思っていたからにほかならない。 「で、でも……でもだからって……!」 みくは『なるほど。これはやっぱり殺し合いだったんだにゃ!』と雫の発言を受け入れることはできない。 「だってみくには……みくのバッグには、こんなものが入っていたんだにゃ! 雫ちゃんが言うとおりこれが本物の殺し合いだっていうんなら、こんなものは必要ないはずにゃ!」 そう言ってみくが取り出したのは、『ドッキリ大成功』と書かれたプラカードとビデオカメラだった。 これはみくに与えられた支給品であり、彼女がドッキリの仕掛け人として選ばれた唯一の証拠品でもある。 ――と本人は思っているが、雫は違う。むしろこれらの支給品は、疑念を駆り立てる材料となるのだ。 「実を言うと……放送を聞く前から、薄々感づいてはいたんですよねー。でも、みくさんが動揺すると危ないと思ってー」 「し、雫ちゃん?」 「でも言わせてもらいますー。ここで勘違いしたまま進んでいったら、もっと危ないと思いますからー」 「な、なにを言ってるんだにゃ……?」 「それに支給品の話を持ち出すんなら……私のバッグには、こんなものも入っていたんですよー?」 雫に配られた支給品は、彼女がいま身に着けている牛さん衣装の他にもう一つある。 雫はバッグからそれを取り出し、みくに手渡した。 両の掌で受け取ったみくは、それをしげしげと眺める。 「これは……」 黒く無骨なそのフォルムからは、ずしりとした重みを感じる。 それは漫画やテレビの中など目にする機会は多いが、実物にはそう滅多にお目にかかれないもの。 名称をS&WM36『レディ・スミス』――つまり、拳銃である。 がくがくがくっ、とみくの両足が震え始めた。 掌の中の武器、凶器、『人を殺せる道具』が、現実というものを突きつけてくる。
9 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:48:05 ID:7GRiFo0A0 「これがドッキリなら、素人の私たちに本物を渡しちゃうのは……さすがにまずいと思うんですよねー」 「にゃ、にゃんで……」 「どんな事故が起こるとも限りませんしー。事故が起こらないとしても世間体的に考えて大問題ですよー」 「う、ウソにゃ……そんなことないにゃ……」 「嘘じゃなくて本当なんです。ドッキリじゃなくて現実なんです。その銃も……偽物じゃなくて本物なんですよー」 本物? この拳銃が? みくがいま持ってるこれが? これに弾が入っていて? 引き金を引くと飛び出る? どんな風に? ドーンって? それともバーンって? え? え? 本当に? ウソ? これで人が殺せる? そんなわけない。そんなわけない。そんなわけない。 だってこれはドッキリなんだから。殺し合いなんてウソなんだから。 そんなわけない。そんなわけない。そんなわけ―― 「これは、本物の殺し合いですー」 「そんなのっ、ウソっぱちにゃ!」 パン、とみくの手の中で音が弾けた。 どたん、とみくがその場に尻餅をつく。 「あいたたにゃ……」 たまらず、お尻をさするみく。ステージ上で転んでしまったことは初めてではないが、いまの転び方は強烈だった。 いったいなにが起こったのだろう。手を起点にものすごい反動のようなものを感じて、気づいたら尻餅をついていた。 掌がじんわりと熱い。両肩も痛い。さっきから心臓の動きも早い気がする。先生、この症状はなんなんですかにゃ? 博識の雫なら知っているかもしれない。みくは床にお尻をつけたまま、視線をついっと上にやった。 「えっ」 目の前には雫が立っている。それは先ほどから変わりない。 しかしどうしたことだろう。 雫の胸元は赤く変色していて、彼女の着ている衣装を盛大に汚している。 白と黒の見事な斑模様が……赤く、汚れている。 「も、もう! 雫ちゃんってばなにしてるのにゃ! せっかくの牛さん衣装がだいなしにゃ!」 「あー、えっとー」 みくがあざけるように言うと、雫はへなへなとその場にへたり込んだ。 そしてそのまま、ゆっくりと横になる。 みくには雫がなにをしているのかわからなかった。 胸元が赤くなっている理由も、彼女の顔から生気が失せようとしている理由も。
10 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:48:51 ID:7GRiFo0A0 「わたしー……撃たれちゃったみたいですー」 いつになく弱々しい声。 撃たれた。なにに。誰に。どこに。 胸を? 銃で? 誰に? え、みくに? 手元の銃を眺める。 弾が減ってる? 見てもわかんない。 手が震えているのは? この肩の痛みは? 銃を撃ったから? 雫ちゃんを撃ったから? 違う! つい、引き金を引いちゃっただけなんだ! 撃つ気なんてなかった! だけど引き金を引けば、弾は出る! 偶然、本当に偶然! たまたまそれが雫ちゃんに当たっちゃっただけで! たまたまだから! 「ハー、スハー、ハー」 呼吸は乱れ、両の眼はギラギラと血走っている。みくの頭の中が真っ白になった。 落ち着け。落ち着いて。これはなにかの間違い。落ち着いてリセットボタンを押そう。 大丈夫。きっと自分には秘められた力が眠ってる。少しだけ時間を巻き戻すことができる。 クイックセーブしたから。したはずだから。クイックロードなんてお手の物だから。やり直し。 ……早くっ。早くやり直して。雫ちゃん。雫ちゃんの身体から血が。手遅れに。手遅れになる―― 「――しっ、しし、雫チャン!」 現実逃避は長くは続かなかった。 気づけば、みくは雫のもとに駆け寄っていた。 だって、このまま現実逃避を続けていたら本当の意味で手遅れになってしまうから。 でも、たぶんもう手遅れだった。 医者でも保健委員でもないみくに雫の怪我の度合いを見ることなんてできない。 だけどこれだけはわかる――雫の出血具合が『ものすごい』ということだけは。 「待っててにゃ! いま、いま救急車呼んであげるからっ!」 傷口を手で押さえつけ、息荒く呼吸する雫。 そんな彼女の目の前で、みくは必至に荷物を漁った。 鞄を逆さにして食料や名簿などを床にバラ撒き、携帯電話を探す。 だがどこにもない。 藁にも縋る思いで情報端末を操作した。 これでは電話はかけられない。 スマートフォンっぽいからいけるかと思った。 駄目だった。 「大丈夫ですよー……心臓には届いてませんからー」 「えっ……ホントかにゃ?」 「はいー。ほら、私って、胸に脂肪が集まってるのでー……」 「って、自慢かにゃ!」 案外、大丈夫なのかもしれないとみくは思った。 雫は苦しそうな顔を浮かべてこそいるが、このように軽口を言える余裕は残っているらしい。 ならたぶん大丈夫だ。きっとこの出血だって、時が経てば自然に止まるに違いない。
11 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:49:49 ID:7GRiFo0A0 「けふっ」 雫が口から血を吐いた。 血は胸の穴からいまも流れ続けてるのに、口からも出た。 大丈夫なんかじゃなかった。 雫は助からない。 雫ちゃんは……死んじゃうんだ。 「ごめんなさいっ。ごめんなさいにゃ」 …………みくが、殺しちゃったんだ。 「そんなつもりじゃなかったんだにゃ。あれは本物なんかじゃないって。そう思っただけでぇ……」 逃れられない現実を思うと、目から涙が溢れてきた。 もう終わりだ。なにもかも終わりだ。アイドルとしての人生も。真人間としての人生も。 この島から出たら裁判にかけられて、刑務所に入れられて、雫の家族にいっぱい謝って、それで死刑にされるんだ。 いや、その前にここで死ぬ。誰かに殺される。だってこれは殺し合いだから。ドッキリなんかじゃない本物だから。 「ごめんなさい、ごめんなさいにゃあ……」 ぼろぼろと泣きながら、みくは必至に謝り続けた。 謝ったってしょうがないのに、それでも謝るしかなかった。 「……みくさんはー」 雫が、血まみれになった唇を動かし言葉を紡ぐ。 「みくさんはー……命が消える瞬間を見たことがありますかー……?」 唐突な質問に、みくは「えっ」と間の抜けた声で返す。 命が消える瞬間を見たことがあるか。 その質問の意味を分解し、咀嚼する―― 「……そんなのないにゃ。人が死ぬところなんてっ」 「私は、たくさんありますー」 予想外の言葉が返ってきた。 えっ。だって雫はアイドルだ。みくと同じ女の子だ。なのにそんな、たくさんだなんて。 「し、雫ちゃんの家は葬儀屋さんかなにかなのかにゃ?」 「違いますよー。ほら、言ったじゃないですか……私の家は、牧場なんです」 そういえばそうだった。 ホテルで出会ってからの六時間。時間はたっぷりあったので、お互いのことをいっぱい話した。 アイドルとして主にどんな活動をしているか。影響を受けた人は誰か。目指すものはなにか。 好きな食べ物はなにか。プロデューサーはどんな人か。趣味とか特技とか、家族構成とかも。 「実家では、たくさんの死を見てきました。牛さんの、豚さんの、鶏さんの……命が、消えっ、けふっ」 「雫ちゃん! 無理して喋ることないにゃ!」 「……平気ですよー。それよりも、みくさん――」
12 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:50:19 ID:7GRiFo0A0 雫はみくの手を握り、とろんとした眼差しを向けてくる。 「命あるものは、いつか死にます」 いままさに命を落とそうとしている者の、あまりにも重い言葉だった。 みくは、雫の手を両手でぎゅっと握りしめる。 「だから、私ももうすぐ死ぬと思います」 ――どうか。 どうか神様。 現実逃避はもうしません。 奇跡を、奇跡をください。 奇跡を起こして、雫ちゃんを助けてください。 どうか―― 「神様に祈っても……どうにもなりません。奇跡なんて、起こりません。生き物の命って、そういうものです」 雫は、達観していた。 ただ死にゆく自分に絶望しているわけではない。 命というものを、死というものを、そして生きるということを知っている者の風格があった。 「わかんないんにゃ……だって、雫ちゃんの言ってる命は家畜のことにゃ!? 人間とは違うにゃ!」 「それはー……そのとおりなんですよねー。でも、命は等しいものだと私は思いますー」 「違うにゃ、ぜーんぜん違うにゃ! みくだってそれくらい知ってるにゃ!」 「違いませんよー。牛さんも豚さんも、生きるために一生懸命で……でも」 「でも人間の都合で死んじゃうにゃ! 食べるために殺されちゃうにゃ! 食べられないのも殺されちゃうにゃ!?」 「ですねー。食用にできなかったり、ミルクの出ない牛さんは、処分されてしまいますしー……」 「そういうことにゃ! つまり無駄死にってことにゃ! 雫ちゃんも、みくが殺しちゃったから――」 「無駄じゃありませんよ」 雫の声は、依然として弱々しい。が、みくの手を握る力はだけは強く。 懸命に、残りの命をすべてこの掌に込めようと、そんな想いが感じられる。 「無駄じゃありません。ううん……無駄に、しないでください。みくさんが、私の命に意味を持たせてください」 「みくが……?」 「はいー……ほら、私って見てのとおり牛さんですからー。きっと食べたらおいしいですー」 「カニバリズムにゃ!? 雫ちゃん、どこまでが冗談でどこまでが本気かわかんないにゃ!」 「ごめんなさいー。私も、なんだか意識が朦朧としちゃってー……カルシウムが足りてませんねー」 「足りてるにゃ! むしろ足りすぎにゃ! こんだけ育っててミルクが足りないなんて言わせないにゃ!」 みくが雫の乳房をわしづかみにする。その柔らかさは健在だった。だが掌は血で濡れた。 熱くぬめっとした感触。ああ、紛れもない人の血だ。みくは唇をきつく噛み、涙をのむ。 「……みくは」 もし、みくが本当に牛だったならば。 せめてもの供養として、おいしく食べてあげるのが正解なのだろうか。 だけどそれはできない。だって雫は人間だから。食べてあげることは供養にはならない。
13 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:50:54 ID:7GRiFo0A0 「勘違いで雫ちゃんの命を奪って……みくはこの先どうしたらいいのかにゃ……?」 雫の命に意味を持たせる。 与えられた命題の答えは、一人では見つけられない。 困り顔のみくに、雫は笑みを浮かべる。 「私……みくさんが『これはドッキリだ』って言ってくれたとき、すごくホッとしたんですー」 出血の影響だろう。顔面は蒼白だ。 ただその笑みは、とても胸に風穴を開けている人間のものとは思えない。 「でも……でもでもでも! これは雫ちゃんの言うとおり、ドッキリなんかじゃなかったにゃ!」 「そうですねー。だけど、これが本当にドッキリだったら……殺し合いにはならないんじゃないかって」 「なっ……なにを言ってるのにゃ?」 「私、思ったんですー。みくさんが――ガハッ! ゲェっ!」 そこで、雫が盛大に血を吐いた。仰向けの彼女の口から噴き出る鮮血。それはもう噴火のようだった。 唇はもちろんのこと、頬が、目元が、おでこまでが血しぶきに見舞われる。 胸の出血は一向に止まる気配がない。いつの間にか、雫とみくの足元には血だまりのプールができあがっていた。 「……ご、ごめんなさい。えーっと……ああ、そうそう。ドッキリでホッとしたって話でしたー」 もはやかける言葉も見当たらない。そんなみくに、雫は語り続ける。 「もし、私が余計なことを言わなかったら……みくさんと私は、きっとドッキリだと思い続けてましたよねー?」 「雫ちゃん……もう」 「他のみんなも、そうだったらー……みんなが揃って、これをドッキリだと思い続けていたらー……」 「もう……お願いだから、喋らないで……」 「……殺し合いには、ならないんじゃないかって。そう思うんですー」 雫の言いたいことは充分に伝わった。 要するに、みんなが勘違いをすれば。 島に集められたアイドル60人、死んでしまったアイドルを除いて45人、みくと雫も除いて43人。 その43人に『これは殺し合いじゃなくてドッキリなんだ』と勘違いしてもらえれば。 この殺し合いは成立しなくなる。 理屈はわかる。 だけど。 「――無理にゃ!」 みくは声を張り上げた。 雫の発案は、否定するしかない無理難題だった。 「みくは……みくはもう、これをドッキリだなんて思えないにゃ! だって、目の前で雫ちゃんが死にそうなのに! みくがこの手で、雫ちゃんを殺してしまったのに! それなのに、他のみんなにドッキリだったなんて言えないにゃ! それに、他にも死んじゃった子はいるにゃ! 誰かを殺しちゃった子もきっといるにゃ! いまさらドッキリはないにゃあ!」
14 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:51:50 ID:7GRiFo0A0 後悔と懺悔の慟哭が、屋外ステージ上に響き渡る。 みくの涙を見ながら、雫は考えるように「んー」と唸った。 やがて「あっ」と声にする。 「みくさん……私、ひらめきましたー」 「……えっ?」 「私が死んじゃったのは、撮影中の不幸な事故なんですよー」 みくには、雫がなにを言っているのかわからなかった。 「撮影用の小道具に、偶然ホンモノの拳銃が紛れててー……それが偶然、暴発しちゃってー……それで死んじゃったんです、私」 「……ありえないにゃ」 「他のみんなも、きっとそんな感じでー……運がなかったんですよー。みくさんに責任はありません。スタッフさんのせいにしましょー」 「ありえないにゃあ! そんな作り話でっ、そんな屁理屈でっ、命を奪うことが許されるわけないにゃあ!」 「みくさんって、すごいですよねー」 ……うん? あれ? なんか、唐突に褒められた気がした。 会話の流れにおかしさを感じながら、みくは雫と見つめ合う。 「なにがすごいのかにゃ?」 「みくさんって、こんなときでも語尾に『にゃ』をつけるんですね」 言われて気がついた。 目の前で、雫が息絶えようとしている。なのに自分は、不真面目に語尾に『にゃ』なんてつけて。 このわざとらしい口調は、アイドル前川みくとしてのキャラ作りのためのものだ。 半ば口癖になってはいるが、絶対にオフにできないというわけではない。それなのに。 「だいじょうぶ……みくさんの心は、きっとまだアイドルでいれてるんです」 みくの、アイドル。 みくのアイドルってなんだろう? アイドルの前川みくってどんな子だろう? 「みくは、殺し合いが嫌で、ドッキリだったらいいなって思って、みんなにも安心してもらいたくてっ」 「できますよー、みくさんならー……ああ、そっかー」 その答えは、目の前の女の子が持っていた。 及川雫が、前川みくの前で想いを口にする。
15 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:52:41 ID:7GRiFo0A0 「ドッキリって言われて、ホッとして……私たぶんあのとき、みくさんのファンになっちゃったんですねー」 どんどんか細くなっていく声を聞き取ろうと、みくは雫の口元に顔を寄せた。 荒い息遣いどうしようもなく心を乱す。 この期に及んでまた、自分にできることはなにもないのかと嘆いた。 「みくさん。命の話なんてしてごめんなさい。私の言いたいことは、もっと単純だったんです」 掌から伝わってくる熱は、弱く。 込めれた力も、弱く。 だけど最期の想いだけは、強く。 「アイドルでいてください。みくさんの思うアイドルで、みんなを安心させてあげてください……ファンからの、ささやかなお願いです」 雫は。 及川雫という女の子は、そうやって死んでいった。 言葉を口にする体力もなくなって、しだいに呼吸も途切れていった。 最終的には血も吐かなくなり、出血もいつの間にか止まっていた。 穏やかな死だった。 みくは。 前川みくという女の子は、大いに泣いた。 血塗られたステージの真ん中で、雫を抱えながらわんわん泣いた。 身体と服は血まみれになり、死に逝く者のにおいが染みついてしまった。 生きてる実感がした。 どうしようもないにゃあ。 でも。 だけど。 それでも。 生きないといけないんだにゃあ。 生きようと思った。 思いながら泣き続けた。 ◇ ◇ ◇ 「にゃん♪ にゃん♪ にゃん♪」
16 :みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:53:49 ID:7GRiFo0A0 あれからたっぷり二時間は経過したと思う。 一時間ほど泣き続けて、もう一時間は事後処理に奔走した。 事後処理なんて書くとまるで事件の犯人みたいだが、それは誤解である。 及川雫は前川みくが撃った銃が原因で死亡した。 でもそれは不幸な事故だった。 そういうことにする。 ――そういうことにすることこそが、雫への贖罪だから。 「プロデューサーチャン! みくの新しい衣装がセクシーにカワイクなったにゃあ☆」 泣き終えたみくはまず舞台上を離れ、ライブステージ備えつけの更衣室へと脚を運んだ。 そこのシャワー室でシャワーを浴び、身体にこびりついた汗や血やにおいを洗い流す。 隅々まで綺麗になった後は、更衣室に置いてあった衣装を拝借しそれに衣装チェンジ。 纏うネコさん衣装はセクシー系で露出が多い。なんと胸元がぱっくり開き、谷間が見えてしまっていた。 黒をメインに、赤のリボンやピンクのフリル、ネコっぽい鈴で飾ったスタイルはかなりアダルトチックと言える。 そして頭にはカチューシャタイプのネコミミ。おしりにはネコしっぽ。完璧なまでのセクシーキャットがここに顕現した。 「見せすぎかにゃあ? プロデューサーチャンに怒られそうにゃ……でもみくはこれでいくにゃあ!」 出発の準備を終えたみくは、最後にステージの上にのぼった。 ステージ上には、依然として雫の遺体が置かれたままである。 寒くないように、更衣室にあったブランケットをかけてあげてはいるけれど。 いまのみくに、彼女を真っ当に葬ることはできない。 そのすべを持っていないから――という理由の他にも、優先してやるべきことがあるから――という理由が一つ。 「いってくるにゃ、雫ちゃん。セクシーキュートなみくの魅力で、みんなをいっぱい安心させてあげるんだからっ」 『ドッキリ大成功』と書かれたプラカードを胸に抱き、いまはまだデイパックの中にしまっておく。 無茶かもしれないけど。無謀かもしれないけれど。 それでもやってみようと思った。なによりも彼女のために。アイドル前川みくを応援してくれるファンのために。 「さ〜て、いっくぞー!」 みくは駆け出した。 この殺し合いは現実で、みんなはきっとつらい想いをしている。 だから『これはドッキリだよ』って教えてあげるんだ。そして安心させてあげるんだ。『もう大丈夫だよ』って。 それが、みくのアイドルだからっ! 「みくは自分を曲げないよ!」 【B-2 屋外ライブステージ/一日目 午前】 【前川みく】 【装備:セクシーキャットなステージ衣装、『ドッキリ大成功』と書かれたプラカード、ビデオカメラ、S&WM36レディ・スミス(4/5)】 【所持品:基本支給品一式】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:みんなを安心させて(騙して)、この殺し合いを本物の『ドッキリ』にする。 1:みくは自分を曲げないよ! ※雫の基本支給品一式と牛さん衣装は、彼女が持ったままB-2の屋外ライブステージに放置されています。 【及川雫 死亡】
17 : ◆44Kea75srM :2013/01/20(日) 07:55:20 ID:7GRiFo0A0 投下終了しました。
18 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/01/20(日) 11:56:31 ID:MOUi2Xes0 スレ立て&投下乙ですー いやぁ、私の作品含めて三作で三人死亡……ってペース早っ!? >彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ スイーツ(恐怖) 姉ヶ崎さん、絶対立ち直って主人公的オーラ纏うと思ったのに…こうもあっさり…… まぁ確かにかな子に目を付けられたら逃げるのも難しいですよねー… でも最期に「ごめんね」って、もう……もーう! かな子……SJ恐ろしい…… >みくは自分を曲げないよ! うわぁぁまた誤射だぁぁぁぁ! 雫ちゃんが人間的にできてたおかげでなんとか道を踏み外さずに済んだとはいえ…… 死の表現生々しすぎてもういい…休めっ…!ってなったよ… しかしドッキリにして救うっていうのは……いや、凄く良いんだけど、なんか誤解生みそうなんだよなぁ……w では、私は双葉杏を予約します
19 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/20(日) 22:33:04 ID:EXCncW6Y0 三村かな子、十時愛梨 予約します
20 : ◆John.ZZqWo :2013/01/20(日) 23:27:29 ID:zoqLjDgM0 >みくは自分を曲げないよ! う、お……え? まじで? あぁ……ここはまだまだ愉快な組だろうと思ってたからショックだにゃん。 しかし、雫ちゃんは最初から最後までしっかりした子だったな。惜しい子を亡くしました。 みくにゃんは、その雫ちゃんのおかげで恐慌はしなかったけど、うん、しかしその方針は……次に出会う相手次第だろうけど怖いなぁ……w 予約がばんばんきて、いい感じですね。私も、 相葉夕美 を予約します。
21 : ◆yX/9K6uV4E :2013/01/22(火) 00:57:07 ID:M2UlmJkY0 すいません、期限勘違いしていました……連絡遅れて御免なさい。 今晩中には投下できるので暫し猶予お願いします
22 : ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:42:19 ID:ccnYHvHI0 投下乙&新スレ乙ですー! >彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ かな子の料理描写上手いなあって思ってたら……お姉ちゃんんん! 奇しくも今日発表された新カードと同じ髪おろした状態での死にいろいろと感じざるをえない 料理っていう日常描写と殺人っていう非日常描写がするっと同居してる怖さがえぐい。すごい……。 >みくは自分を曲げないよ! みくにゃん放送でどうなるんだろうって思ったけど、考えうるかぎり一番悲惨な展開にー!? 雫ちゃんの母性というか包み込むような優しさにうるっとくるSSでした。 アイドルであることを曲げないみくにゃんがそのスタンスを曲げずに通せるのか、さらなる悲劇を生むのか、注目だなあ。 自分も遊園地投下します―。
23 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:43:28 ID:ccnYHvHI0 シャワーノズルからお湯が咲き。 46℃の熱湯が今、ボクの美しい肌を雨のようにまんべんなく打っています。 (シャワーを浴びる輿水幸子の図) 動物園のスタッフルーム裏にあった簡素なシャワールームで、 ボクこと輿水幸子は体についた汚れやニオイを落とし、 すっきりピカピカの輿水幸子へと返り咲こうとしているところです。 できればゆったり湯船につかりたいところでしたが、 この刺すようなシャワーのお湯もこれはこれで湯治みたいで……、 (46℃のシャワーを浴びる輿水幸子の図) ……すっごい熱いですね。 いや、え? 46℃? なんですかそれ、温度高すぎないですか? (さらに熱くなるお湯) 絶対熱いですよこれ! ちょ、ちょっと待ってください止め――あツぅっ!? 痛い! 熱い! 熱すぎで痛いっ! バルブ、バルブバルブッ! (キュッとバルブを閉める幸子) ……はぁっ、はぁーっ。な、なんなんですかねっ? ボクは41℃のとこに合わせてたはずなのに、 いつのまにか46℃になってるじゃないですか。 安いホテルのシャワーなんかは温度調節が効きづらいって聞いたことはありますが、 これはそれ以前の問題ですよ! ホラ、ノズルが緩んで勝手に温度が変わる! 遊園地のアトラクションなんかキレイで新品に見えたのに、 ここはずいぶんと安普請な設計ですね。仕方ないのでぬるめで我慢しましょう。 (温度調節ノズルをぬるい方に合わせる幸子。これなら熱くなっても安心である) いちおう手でお湯の熱さを確認して……そうだ、 外で待ってる蘭子さんたちに今の醜態、聞かれてないと良いですけど。 うん――だ、大丈夫そうですね。 よ、よし、OKです。仕切り直しましょう。どこにカメラを仕込んでるのかは知りませんが、 映像編集で使う部分は今からでお願いしますよ、プロデューサーさん。 あ、もちろん大事な所は湯気エフェクトで隠す感じで。 ---- はい、では改めまして、39℃の。 39℃の! あったかーいお湯が春先の雨のように、ボクの身体を打っていきます。 フフ、どうです画面の前のみなさん。 液晶に貼り付いてくれていいんですよ? ほうら、普段はぴょんとはねてる両サイドの髪の房が濡れてぺたん、 としなだれていて、珍しい印象になってるはずです。 暖かいお湯で上気した肌のちょっと湿った感じも今でなければ見れませんし、 そしてなによりボクのこの、恥じるところのない体のライン! (シャワールームの鏡に向かってポーズをとる輿水幸子の図)
24 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:44:27 ID:ccnYHvHI0 ……ひ、貧相だとか言わないでください。ボクはまだ成長期なんです! こ、これからですよ。 サービス描写はこの辺までにしておきましょうかね。 みなさん、カワイイボクの新たな魅力を感じてくださったでしょうし。 (シャワールームの鏡に向かってポーズをとってたけど寂しくなってやめた輿水幸子の図) こほん。 突然シャワーシーンなんて何事だって方のために、優しいボクが今の状況を説明しましょう。 あの後――蘭子さんと輝子さんと一緒に飲食店を出たボクたちは、 動物園をぐるっと回って散策してみることにしました。 けっこうな数の動物がいました。ウサギ、ハリネズミ、レッサーパンダなんかの小動物から、 トラやライオンみたいに中〜大型のも居ましたね。 鳥コーナーや爬虫類コーナーなんてのもありましたが、 全体を見ると動物園は遊園地にくらべると小規模で、散策に時間はかかりませんでした。 まだ朝早くで、ほとんどの動物は寝てましたし。 輝子さんはキノコ園はないのかなあとか変なこと言ってましたし。 一通り見たので戻ろうかとなったんですが――そのとき蘭子さんがこんなことを言ったんです。 「囚われし魔物達に誰が供物を与えん?(そういえばこの動物さんたち、誰がエサをあげるんでしょう?)」 ちょっと理解に時間はかかりましたが、その発想は盲点でした。 言われてみればこの企画、おそらく何日も何日も休憩なしでやるわけです。 動物園の檻の中にいる動物たちがその間ずーっとエサ無しで過ごせるわけがありません。 地図を見れば水族館なんてのも北東にありますが、 生命を扱う施設である以上、誰かがエサをあげないと大変なことになってしまいます。 そこで動物園をさらに散策。すると案内所の裏手にスタッフルームを見つけまして、 さらにその奥に一か月ぶんはありそうな各動物のエサが格納された倉庫を見つけました。 ただ、やはりスタッフルームには誰も居ず、誰かがいた痕跡もありませんでした。 (シャワーを流しつつボディーソープを手に取る輿水幸子) ……うーん、安物の泡ですね。 まあこんなところに高級なボディーソープが置いてあったらボクが驚きます。 泡立てて、肌につけて、伸ばしてこすって――。 それで――そう、ボクたちは大量のエサ入り段ボールを前に、そこからどうしようか相談し合いました。 輝子さんは言いました。 「誰かがエサをあげないと、動物たちが死んじゃう」と。 蘭子さんもそれに続いて言います、 「生きとし生けるものに贄を捧げん(私たちでエサをあげましょう)!」と。 ボクは最初反対でした。だってボクたちは仮にも殺し合いの企画をやってるわけで、 アイドル動物ふれあい体験記をやってるわけじゃないからです。 エサは、やっぱりスタッフがどこかにいて、 動物園に誰もアイドルがいないときにあげる手はずなんだろうと思ってました。 そうでないと困りますよね? スタッフが全くいなくて、これが本当の殺し合いで――かつ動物園に誰も来なかったら、 ライオンもトラもウサギもレッサーパンダも、誰にも見られずに飢え死にしてしまうじゃないですか! 殺し合いだからって――いくらなんても命を粗末にしすぎです。 まあでも結局、多数決を取れば負けますし、 お腹をすかせた動物に施しをしないなんてアイドルとしても人間としてもどうかと思いますし。 他に何をやるかといっても何もなく、「電話待ち」の状態でもあったので。
25 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:45:43 ID:ccnYHvHI0 仕方なく、仕方なく。 今シャワーを浴びてることからも分かるように、 ボクは蘭子さんや輝子さんと一緒に動物たちにエサをあげることにしました。 備え付けの作業着を着て、アイドル動物ふれあい体験記。 本来の趣旨とは違うでしょうが、良い絵が撮れたのではないかという自負がありますよ? 何日分かのエサを檻の中に運んでおいた上、起きてた動物には直であげましたからね! ライオンとか、本気で死ぬかと思いました。とくにあの吠えてきたときなんか……。 ま、まあカワイイボクがあの程度でびびるわけがないんですけどね? そこはこう、絵的にも演技しておいてあげたわけですよ。うん。本当ですよ? 「まったくしょうがない人たちですよね、今回の企画の企画者さんたちも。 妙にリアルな人形とか。怖い鉈持った女の人とか、電話の件とか、 いろいろ手を尽くしてボクたちを怖がらせておきながら、 最初にボクたちにやらせるのが動物のエサやりだなんて――ふざけてますよ」 体を洗い終わって、 髪の毛をわしゃわしゃと備え付けのシャンプーで洗いながらボクはひとりごちます。 洗ってる間はシャワーは止めてもいいんですが、 お湯の温度がまた変になると困りますから、 とりあえずざーざー! と大きな音を立てて流したままにしておいてます。 電話の件と言うのは、動物園に来る前の出来事です。 トイレから戻ってきた輝子さんがえらく切羽詰まった様子でボクと蘭子さんに語った話。 ボクには見せていなかった携帯電話で、栗原ネネさんと電話していたという話です。 栗原ネネさん。彼女と輝子さんはいろいろ話をして――輝子さんは彼女を遊園地に誘って。 でも返事を聞く前に通話の向こうで嫌な物音がして、ネネさんはあわてて電話を切ったそうです。 「せ、迫る災害に救いの手を!(ネネさんは危険な目に合ってるのかも。助けに行かなきゃ!)」 そして、輝子さんからの話を聞いた蘭子さんが発した言葉はこれでした。 救いの手。まあ要は助けに行こうとかそんな感じでしょう。 いまだに謎言語とはいえ、カワイイボクにはすでに、 蘭子さんの言葉もニュアンスくらいは伝わってくるようになりました。 もしかするとカワイイ上に天才的な環境適応力も持ってたのかもしれません。 で、蘭子さんのこの意見にボクは同意かというと、同意でした。 話の状況から鑑みるに何かあったことは明白ですし、 危険な目に遭っているのであれば助けない道理がありません。 ですが――いざ彼女のもとへ向かおうとしたところで重大な事実が判明します。 「あっ……ね、ネネさんがどこにいるのか、訊いてなかった……」 なんと輝子さんは、自分の場所だけ伝えておいて、ネネさんがどこにいるのかを聞いてなかったんです。 これではボクたちは待つしかありません――もちろんその後、輝子さんの電話からリダイアルは何度もしました。 エサやりの最中も、何度も。ですが再び電話が繋がったことはありませんでした。 (ざーざー、シャワーの音はテレビの砂嵐の音みたいだと思いながら、幸子は髪の毛を洗い流す) 電話が繋がらない理由はいくつか考えられます。 リダイアルに気付いていながら気持ちが決まらず通話ボタンを押せないでいるか。 あるいは通話ボタンをもう押すことができないか。 前者だったらいいな……と思いますが、ボク個人の願望を言うならば、 電話そのものが仕掛けで、あくまでボクたちをビビらせるための仕込みだった、とかなら。 だったら、ボクらの平和で安全な世界が保たれるのになあなんて、つい思ってしまいます。
26 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:47:10 ID:ccnYHvHI0 さて。 (キュッ、とシャワーのバルブを閉める音) ずいぶん、さっぱり、しました。 ボクの身体は隅から隅までキレイになって、アイドルオーラが戻ってきた感じです。 安普請で簡素なシャワールームにはシャワーが二つしかなかったので、 気配りのできるアイドルであるボクは、蘭子さんと輝子さんに先にシャワーを浴びてもらっていました。 彼女らは一足先に服を着て、スタッフルームの休憩スペースにいるはずです。 「この作業服ともお別れですね」 着替えを終えて。休憩スペースへ続く扉を開けながら。 狭い脱衣所に引っかけた泥まみれの作業服を見て、ちょっとだけ想いを馳せます。 ピンク色でツナギに似たその作業服は、 いつぞやスカイダイビングした時にボクが着ていたものに似ていました。 ――いっつもいっつも、ボクのことをちゃんと褒めてくれないボクのプロデューサー。 意地悪きわまりないあの人が、一回だけ。 スカイダイビングからステージのセットに引っかかったまま歌ったあのLiveのあとに、 初めてボクを素直に褒めた言葉、ボクは忘れずに覚えていますよ。 「がんばったな、幸子。やはりお前が一番だ」 ……ねえ、ボクのプロデューサーさん。 今、ボク、あのときよりもっと頑張っているつもりなんですけど。 服が汚れようと命の危機だろうと、身体を張って頑張っているつもりなんですけど。 どうしてでしょう? 本当に頑張らなきゃいけないところから目を背けてる感じがしてしまうのは。 こんなのドッキリだって思いたいのに。殺し合いだなんてぜったい認めたくないのに。 暖かいシャワーを浴びても、悪寒がぬぐえないんですよ。 どうしてなんですか? なんでなんですかね? 早くボクのところに帰ってきて、教えてください、プロデューサー。ねえ。 ねえ、どうして――――蘭子さんと輝子さんが泣いていなきゃいけないんですか? 「・……ほ、放送が……雪美が、トモダチが、死んだってっ・……。 蘭子のトモダチも、……イマイカナちゃんも最初に名前、呼ばれて……っ!」 休憩スペースに戻ったボクは、安全世界に悪夢が訪れたのを見ました。 温度調整をさぼって、シャワーを大音量でずっと流していたのが仇になったようです。 ボクがのんきにシャワーを浴びている間に時計は回り、いつの間にか時間が進み、 浴び終えたときにはもう、ちひろさんの放送が島中のスピーカーから流されたあとでした。 たぶん取り落したのでしょう、割れこそしてないものの、 床に落ちて土をばらまいてるツキヨタケの植木鉢が輝子さんのショックの大きさを表しています。 それでもまだ比較的顔色とかはよかったし、話しかけたら反応は返ってきました。 問題は、蘭子さんの方です。 蘭子さんは――あきらかに深刻でした。 「……、…………?」 もともと色白な顔が、さらに血の気の通ってない病人みたいな白になっていました。 唇は紫色にふるえて。 赤い目はさらに充血していて、ちょっと焦点が合ってなくて。 そして、自分でもなんでそうしてるんだか分からないって顔で、 ただ、ただただひたすらに、両目から涙だけを流し続けて、ぼうっとしているんです。
27 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:48:33 ID:ccnYHvHI0 今井加奈さんが。おそらく彼女の真の理解者のひとりだろうアイドルが死んだ。 その現実に対して「悲しい」って思うこともできなくなってしまってるくらい、悲しんでるみたいな。 どれだけ傷ついてるのか外野からは把握できないような。 そういうレベルの、リアクションでした。……でもボクは、言葉をかけます。 「ら、蘭子、さん。だ、だいじょうぶ、ですよ。嘘です。ぜんぶ嘘なんです。 放送だって呼ばれた死者だって、嘘にきまってます。ドッキリなんですから。心配すること、」 「嘘……? ……う、そ?」 「そうです、嘘なんです、ハッタリなんです、驚かせるためのっ。 名前を呼ばれたみんな、いいシーンが撮れなかったから脱落しただけで、 呼ばれただけで生きてて、 どこか別室でボクたちを見て笑ってるんですよっ! 今井加奈さんだって――ドッキリなのにおおげさだなあって笑ってますよきっと! だからしっかりしてくださいっ! 落ち込むことないんです、ねえ、蘭子さん!」 ボクは言葉をかけました。 いつもの調子にすがるようにして、口から言葉を紡ぎだしました。 この悪夢が現実だって認めたらダメだったんです。 もしそれを認めようものなら、ボクがふるえて崩れて、こわれてしまいそうだったんです。 ぜんぶ嘘だと言って慰めようとしました。 でもそれは蘭子さんを慰めようとしてるのか、 自分を慰めているのか、もうボクには分からなくなっていました。 「嘘……つき……?」 「そ、そうです、嘘つきです。みんな嘘つきなんです――」 だから神崎蘭子さんの瞳にもとの色が少しずつ戻ってきて、ボクはとにかく安堵しました。 ああ。よかった。信じてくれたんだ。 そしたらまだボクは、ぬるい湯船につかったままでいられる。 生々しすぎたあの首も。シャワーみたいに飛び散る血の非現実感も。 薬で眠らされるなんてTVの企画にしても酷すぎる仕打ちも。支給された拳銃も。 鉈を持った殺人鬼も、急に人がいなくなったみたいな施設も、 電話の向こうの安否不明のネネさんも、エサをあげる人がいない動物たちも、 全部ネタで、タチのわるい嘘なんだと思って、安全世界に住んでいられる。 ――立ち上がった蘭子さんがボクの頬に平手打ちを入れるまで、傲慢なボクはそう思ってたんです。 「いっ! ひぁ……! な、何を」 「論、ざれしは、罰・……(そん、なの、絶対違う)」 その平手のあまりの勢いにふらつき、 気の抜けたコーラみたいな声を出してボクは尻餅をつきました。 見上げると蘭子さんは、泣きながら怒っていて。 感情の雨を降らすように、ボクに言葉を浴びせます。
28 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:49:52 ID:ccnYHvHI0 「加奈、ちゃんは――そんな嘘は、つかないっ」 「……あ」 「あ、雨を連れ行く我が身に、傘をっ、差し……。(――――) 私の石造りの弾丸をっ、……魔道書に、認め続けて……。(――――――) 孤独で、孤独に……濡れていた私を晴らしてくれた、(――――) 今井加奈を、かの少女を、お……貶すことだけは、成らないっ!(――許しません!)」 「ひ、ひぃっ」 ボクはあまりのことに頭が回りませんでした。 だから蘭子さんが泣きながら、何度も嗚咽しながら、 まくしたてるように放った石造りの弾丸を、難解な言葉の砂嵐を、ほとんど理解できませんでした。 ただどうやら許されないことをしてしまったのだということだけは分かって。 息を荒くした蘭子さんがまるでボクを殺そうとしているようで。とにかく怖くて、震えました。 震えて丸まりました。床にだんごむしみたいに体育座りで。 そのあと耳を塞ぎました。そうしてじぃっと、時が過ぎていくのをただ待ちました。 ……。 どれくらいそうしていたのか。 ボクがおそるおそる顔をあげると、蘭子さんはその場から消えていました。 隣で星輝子さんがさびしそうな顔で、ツキヨタケを植木鉢に戻していました。 「蘭子、さんは」 「……行っちゃった……幸子、だめだよ。 励ますにしても……。トモダチのトモダチを悪く言っちゃ、ダメだよ……」 聞いて返ってきた、当たり前の言葉。 「ああ……そう、ですね。ボクは……そうか。そんなことを言ってたんですね」 ボクはきっとひどい顔をして、輝子さんの言葉に答えたことと思います。 そうだ、いくら嘘だと信じたいからって、それを相手に押し付けて、 しかもそのために相手の友達を悪く言うなんて――ボクはいったいどうしてしまったのでしょう。 輿水幸子は、たった今、最低でした。取り返しのつかないことをしてしまいました。 これからボクはどんな顔をして生きてけばいいんでしょう。 つまらない意地のせいで、仲間を悲しませてしまったボクは……輿水幸子はアイドル失格です。 「謝りに、いこう」 「え」 ――しかし。そんなボクの手を、星輝子さんは握ってきました。 「わ、私……このまま蘭子と幸子が離れるの、ダメだと思う。 仲間って、仲がいいから仲間だよ。……仲直りしに、い、行こう? いまならまだ、間に合うよ」 「で、でも」 「……わ、私、クリスマスのとき、雪美にたくさんキノコ送りすぎちゃって。嫌な思いさせた。 でも三船さんに言われて……あとで、ちゃんと謝った……。 そしたらね、雪美は許してくれて。……もっとトモダチになってくれたよ。 ら、……蘭子もきっと、幸子に悪気がなかったの、分かってると思う。出てくとき、寂しそうだった」 赤くなった鼻をすすりながら。 雪美さんを、トモダチを失ったばかりだというのに、輝子さんは必死にボクを励ましてきます。 相変わらずおどおどして、暗いオーラを漂わせていて、 キノコも大事そうに抱えたまんま泣いていて、どこから見ても変な子。 でも「ネネさん」との電話を通して何かを掴んだのか。 ボクの隣にしゃがんでいる彼女はいつのまにか、ボクの後ろで震えてた当初より、 ほんのちょっとだけ強くなっていました。そのまま手を引いて、ボクを立ち上がらせます。
29 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:51:28 ID:ccnYHvHI0 「ちょ、ちょっと」 「蘭子……ひとりで出ていっちゃった。さっきまでに殺されたのは、15人。 ……ボッチじゃ、ひとりじゃ、ぜったいに危ないよ。幸子はこのまま、蘭子を見殺しにする?」 「み――見殺しになんかしませんよ! ……」 「じゃあ、助けに行かなくちゃ。蘭子のわすれもの……これで、場所は分かるみたい。ね、行こう?」 輝子さんは蘭子さんが忘れていったらしい、 テーブルの上の情報端末をとってボクに見せます。 するとピコンと光る星みたいな点が画面をすーっと動いていました。 周りには「鳥コーナー」とか「バイキング」の文字。 十メートル単位くらい? この端末、わりと詳細に持ち主の現在位置が分かるらしいです。 それによると蘭子さんはいま、動物園を出て遊園地へ戻ったあたり。 絶望的には離れてません。まだ間に合うという輝子さんの言葉は嘘ではありませんでした。 あとは、ボクがうんと言うか言わないかです。 「……わ、分かりましたよ」 ボクは。ぐちゃぐちゃの顔を無理やりいつもの自信ありげな顔にしようとして、 たぶん失敗して、笑えるくらい変な顔になりながら、震えた声で輝子さんに言いました。 「蘭子さんが――他のアイドルがいなくなっちゃったら、ボクも困りますからね。 そ、そうですっ。ボクは他のみんなを蹴落として、殺して、一番になるんじゃない。 みんなに愛されて、カワイイって言われて、認められて一番になるんです。 だから。い、いずれボクのファンになるはずのみんなを殺すなんてありえません。 一番カワイイボクは……蘭子さんに嫌われてる場合なんかじゃ、ないんですよ、ええ!」 「おお。そ……その調子、だよ。 だ、だいぶいつもの幸子に……でも幸子、フヒヒ、そ、その顔」 「わわわ笑わないでくださいよ!」 こうして。下山のときとは逆の形。輝子さんにボクが先導される形で、 ボクたちは動物園のスタッフルームから出て、蘭子さんを追って走り出しました。 情報端末に映る蘭子さんの星はまだ動き続けています。 ですがエサやりのときに、ボクたち三人ともそこまで体力がないのは確認済み。 蘭子さんもじきにどこかで休むはずで――きっと追いつけるはず。 いまだ続く悪夢の前に、 その推測はあまりにも頼りないものだと言うのは分かっていましたが。 とにもかくにもやるしかないんです。支給されたおもちゃみたいな拳銃を握りしめてでも。 ……ボクたちが生きる現実(ライブ)にはリハーサルなんてない。なにもかもが本番なんですから。 【F-5 動物園・案内所前/一日目 朝】 【輿水幸子】 【装備:グロック26(15/15)】 【所持品:基本支給品一式×1、スタミナドリンク(9本)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:ボクが1番になるのに比較対象がいないなんてありえません! 1:だから、殺し合いなんて…… 2:蘭子さんにごめんなさいを言います 3:輝子さん、ありがとうございます。 ※神崎蘭子、今井加奈と同じプロダクションです
30 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:52:43 ID:ccnYHvHI0 【星輝子】 【装備:ツキヨタケon鉢植え、携帯電話、神崎蘭子の情報端末】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0〜1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:友達を助けたい。どうすればいいのかは分からない。 1:とにかく、蘭子と幸子を仲直りさせる 2:雪美が死んじゃった…… 3:ネネさんからの連絡を待つ ☆☆☆ 「堕天使の溜め息……(どうしよう、幸子ちゃんに酷いことしちゃったよ……)」 朝を迎えた遊園地。私、神崎蘭子はひとりきりです。 ほんの数時間前、闇の中にぽつんと取り残されていた私に話しかけてくれた、 さらに「仲間」にしてくれた幸子ちゃんから私は逃げ出して、 誰も居ないのに軽快なBGMが鳴り続けている、この場所へと戻ってきました。 「ゴーレムの細脚に花束を……。(走りすぎて足が棒みたいだし、とにかく、座らなきゃ)」 すでに走り続けるのは疲れてきて、頭もだいぶ冷静になってきていました、 でも、デイパックだけ掴んで飛び出してきてしまった私には、行く当てはありませんでした。 視線を上に向けると、回り続ける観覧車が私を見下ろしています。 誰も乗せずに、何にも干渉されずに、ひとりきりでぐるぐると無慈悲に回っています。 ふと、私はそれに乗りたくなりました。 地上から離れたい、いろんなしがらみから逃れたい、そんな気持ちが働いたんだと思います。 加奈ちゃんが放送で名前を呼ばれてしまったこと。 それを加奈ちゃんがついた嘘だと言われて、カッとなって幸子ちゃんに怒ってしまったこと。 パニックになって、ここにいちゃいけないような気がして。 二人から離れてしまったこと。逃げないって決めたのに、私はまた――――。 何も考えたくありませんでした。 でも、思考を放棄するのがダメなことも分かってます。 だから考えなきゃいけない。でも一気に考えることは難しそうで。時間が――必要でした。 「明けの空へと私を運んで……(お願い、私にもう一度結論をください)」 ヴヴヴと機械音を立てて回ってきたゴンドラの扉をどうにか開けて、私は観覧車に乗りました。 きっと一周回る間にすべてが上手くいくことを願って。 【F-4 遊園地・観覧車/一日目 朝】 【神崎蘭子】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0〜2】 【状態:健康、疲労(小)】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いの打破? 1:観覧車に乗ってる間に、どうすればいいのか考える 2:加奈ちゃんが死んだ……。 3:幸子ちゃんに酷いことをしちゃった ※今井加奈と同じプロデューサーです ※輿水幸子、今井加奈と同じプロダクションです
31 :安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:55:43 ID:ccnYHvHI0 ★ そのころ――神崎蘭子が観覧車に乗ったころ、 少し前に幸子と輝子が下ったハイキングコースをなぞるように下って、 ひとりの少女が、純白のドレスを身にまとったアイドルが、遊園地へと到着しようとしていた。 「……さすがに“足跡”はここで途切れていますか。 まあ、きっとこの先にいるでしょうし、いいでしょう。さっさと探して、殺します」 朝になって視野が広くなることで分かることもある。 ゲーム開始当初に放たれた拡声器に引かれて山頂へ向かった彼女は、 そこで一仕事を終えたあと、少し戻って途中にあった休憩所で休息をしていた。 ベンチと屋根だけの東屋で充分に休憩をとっていると、辺りは徐々に明るくなっていった。 そして明るくなって地面がよく見えるようになるとー―。 少女は東屋の外に、“自分以外の足跡”があるのを発見した。 キノコが群生するような山の土は基本的に苔むして湿っている。 もちろんハイキングコースの道自体は簡単に地ならしされているが、しかしそのせいで逆に、 キノコを採ったり電話をかけるためにたびたび脇道へとそれていた星輝子が靴の裏につけた、 苔や腐葉土の汚れが目立ってしまっていた。 目印はさらにあった。 ほんの少しコースから逸れれば、枯れ木に生えたキノコが無造作に採取されている跡が。 また、道にときどき落ちていたキノコ片はまるで自分はこっちに行きましたとアピールしているようだった。 結果として水本ゆかりは、 キノコを取っている謎のアイドル――1人か、同行者がいたかは不明だ――が、 自分と入れ違いに山を下って遊園地の方向に向かったという結論に簡単に至ることが出来た。 「もう少しで着きますね。さて」 充分に休んで、体力も気力も回復した。 これから辿り着く舞台(ライブ)では再び全力のパフォーマンスが出来るだろう。 視界の先に姿を現した観覧車を見ながら、水本ゆかりはそんなことを思っていた。 「私の帰りを待っているファンのために。プロデューサーさんのために。 ――――水本ゆかりは、笑顔でこの鮮血を奏でましょう」 観覧車に銀髪の少女が一人乗っていることを彼女が発見するのは、この少し後だ。 【E-5 遊園地付近/一日目 朝】 【水本ゆかり】 【装備:マチェット、白鞘の刀、純白のドレス】 【所持品:基本支給品一式×2、シカゴタイプライター(43/50)、予備マガジンx4、コルトガバメント+サプレッサー(6/7)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助ける。アイドルとして優勝する 1:キノコのアイドルを追って遊園地へと向かい、殺害する。
32 : ◆kiwseicho2 :2013/01/22(火) 22:56:27 ID:ccnYHvHI0 投下終了です。
33 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 16:59:02 ID:4rWjitkw0 >みくは自分を曲げないよ! 二人のほのぼのした感じが好きだったんですが… 相棒を失ってもみくにゃんは強く生き抜いて欲しいです >安全世界ナイトメア >>道にときどき落ちていたキノコ片は それなんてヘンデルと(ry それにしても輝子も幸子もいい子だなー 二人ははたして間に合うのか、楽しみです では、三村かな子と十時愛梨 投下します
34 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:04:31 ID:4rWjitkw0 三村かな子は温泉に向かっていた。 ホテルでもよかったが、かな子のいるG-3からホテルは直線距離で5km弱。 長距離移動するのは精神的疲労を考えても、リスクが大きい。 疲労したところを大勢で襲われたら、不覚をとるかもしれない。 襲撃された場合を考え、薄暗く物陰多い山中を行くほうが良いと判断した。 勿論、山中だろうと可能性はいくらでもあるのだが。 “訓練(レッスン)”は受けていたが、殺し合いである以上、 自分自身が背後からの不意打ち・だましうちで殺される可能性は充分あるのだ。 現に殺し合いに“乗っている”アイドルはいる。 不利なことばかりではない。 “乗っている”アイドルがいるのなら、四十三人全員殺す必要はない。 極端な話、無力を装い他のアイドル達に助けられながら、 最後に裏切って殺してしまってもいい。 誰も自分の正体をまだ知らない。顔を見られた三船美優はすでに殺した。 病院では一人取り逃がしたが、相手も逃げている以上、いくらでも言い訳はできる。 この先他のグループに合流するに支障はない。 好ましくないが、今後のことを考えればそういうなりふり構わぬ手段も考えておくべきか。 半数以上残っている現状では他人に足を引っ張られ、殺されることもありえる。 まだ、その時ではない。
35 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:08:31 ID:4rWjitkw0 あくまでも、今はスタンダードな“悪役”。命乞いされようと、罵られようとも、 速やかに、確実に、殺す。 どれだけ卑劣でも外道でも… プロデューサーを救うためなれば。 温泉までの道のりは分かっている。図書館を経由し、市街地を抜けていくコースが最短だ。 山中に入れば舗装された道路もある。 そんなことを考えている間に市街地にたどり着いた。 「…………行こう」 十時愛梨はそう呟いて、立ち上がった。 放送は終わった。やはりあの後、多田李衣菜と木村夏樹は死んだようだ。 城ヶ崎美嘉と三船美優はまだ生きている。そして高垣楓も。 放送によれば、美嘉の妹の莉嘉は死んだらしい。美嘉が必死だったのは 恐らく妹の莉嘉のためだろう。その莉嘉が死んだと聞けば彼女はどうなるのだろう? 怒り狂って仇討ちに奔るだろうか?絶望し生きることをやめてしまうだろうか? そんな相手を前に彼女たちは…? (楓さん… あなたは…) 彼女は今何処で何をしているだろう。 高森藍子や日野茜と同じく殺し合いを止めようと奔走しているのだろうか。 それとも、プロデューサーを殺した自分に復讐するため、島を駆け巡っているのだろうか。 普段の彼女からは考えられないが、人殺しなど考えたことのないであろうアイドル達が こうして今、殺し合っているのだ。絶対なんてありはしない。 もし生きて彼女に会えた時、彼女は自分に何と言うだろうか。
36 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:13:21 ID:4rWjitkw0 (もう…関係ない…) 殺して、生き抜くと決めた。他人の想いを考える余裕はない。 自分のことで精一杯なんだから。 愛梨は北の遊園地へ向かうことにした。 藍子と茜はより人の集まりやすい街の中心部へ向かうだろう。 逆方向へ行けば会うことはあるまい。 二階の窓から外を確認する。 放送も終わり、そろそろ皆動き出す頃だろう。 いつもなら、仕事に向かう時間だ。休憩としては充分だろう。 すでに六人と遭遇していることを考えると、いつまでも留まるわけにはいけない。 この辺一帯にはかなりの人数が集まっている可能性がある。 『十時愛梨は危険人物』と御布令がでているかもしれない。 大勢で殺しにこられたら、殺されてしまうだろう。 いくら銃があっても所詮、扱いは素人にすぎないのだ。美嘉の時のように爆発物を使われたら 為す術がない。クレー射撃のように撃ち落とせればどれだけいいか。 少しだけ空いたカーテンの隙間から周囲を探る。 「あ-------------」 愛梨のいる民家の後方に人影を発見した。 「かな子………ちゃん………」
37 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:17:06 ID:4rWjitkw0 かな子は周囲に身を隠しながら進んでいた。 何度か来たことがあるとはいえ、市街地の隅々まで把握しているわけではない。 下手を踏めば袋小路や、入り組んだ裏路地から抜け出せず、時間の無駄になるかもしれない。 なるべく横道に入らず、最短ルートで温泉に向かう。 これから山道を登ることを考えれば、無駄な体力消費に繋がりそうなことは避けておきたい。 登山はトレーニングの一種として取り組んだが、ダンスやランニングとは違った疲れがあった。 やっぱりホテルに行こうか… 一瞬そう考えたが、ホテルに向かうとしても緑に多い島を縦断するのはどのみち同じことだろうと考え直し 温泉へ行くことを改めて決めた。 温泉が既に他のグループの拠点となっていた場合、ホテルに向かうことも考えおこう。 (温泉…かぁ…) 前に来た時は仕事に追われ、ゆっくり楽しむ暇もなかったのを思い出した。 そういえばシャワーも浴びていない。 かな子は周囲に身を隠しながら進んでいた。 何度か来たことがあるとはいえ、市街地の隅々まで把握しているわけではない。 下手を踏めば袋小路や、入り組んだ裏路地から抜け出せず、時間の無駄になるかもしれない。 なるべく横道に入らず、最短ルートで温泉に向かう。 これから山道を登ることを考えれば、無駄な体力消費に繋がりそうなことは避けておきたい。 登山はトレーニングの一種として取り組んだが、ダンスやランニングとは違った疲れがあった。 やっぱりホテルに行こうか… 一瞬そう考えたが、ホテルに向かうとしても緑に多い島を縦断するのはどのみち同じことだろうと考え直し 温泉へ行くことを改めて決めた。 温泉が既に他のグループの拠点となっていた場合、ホテルに向かうことも考えおこう。 (温泉…かぁ…) 前に来た時は仕事に追われ、ゆっくり楽しむ暇もなかったのを思い出した。 そういえばシャワーも浴びていない。
38 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:24:25 ID:4rWjitkw0 十時愛梨にとって三村かな子は友達だ。 一緒にお菓子を作り、学校の、仕事の、家族の、友達の、話をした。 そしてプロデューサーの話も。 彼女もまた、プロデューサーに対し、尊敬や信頼以上の想いを抱えている。 でもやさしい彼女は他人を殺せないだろう。 彼女は今の自分をみたらどう思うか。 驚く?悲しむ?それとも怒る? ぐっとカーテンを握り締める。こちらに来るか、それとも別の方へ行くか。 ある意味一番嫌な相手だが生きると決めた以上、来るならやるしかない。 たとえ仲のいい友達であっても。 階段を下り、裏口から外へ出る。スコーピオンを両手に構え、正面の玄関へまわり、道路を覗いた。 彼女はこちらに背を向け、前方の様子を窺っていた。 殺れる-----------
39 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:28:23 ID:4rWjitkw0 多田李衣菜を殺した時と目測で同じか少し遠いくらいの距離だろう。しかし、長時間狙いをつけてはいられない。 勘づかれるかもしれないし、移動されるかもしれない。 もし仕留めきれなかったら、一転自分が大ピンチだ。 塀の内側にいるため、玄関に向かって撃たれ距離を詰められたら裏口から家内に逃げるしかない。 塀は高く、素早く跳び越えるのは無理だろう。 ごくりと喉を鳴らす。今まで感じたことのない、不気味な緊張感が愛梨を襲う。 (なんだろう……この感じ………) 隠れながら移動するのは当たり前だろう。 しかし動きが“自然”すぎる。銃の構え方から走り方まで無駄がない。 いくら修羅場をくぐり抜けてきたとしても、一晩でこうも変わるものか? 自分の知る彼女とは明らかに異なる。 顔は無表情で、怯えている様子はない。 まるで別人のようだった。 頭の中で考えが巡る。
40 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:32:36 ID:4rWjitkw0 “撃つ必要があるのか?” “これを逃せば次はない” “殺してしまえ” “ここは逃がしたほうがいい” “外れる もっと近づけ” “お前の覚悟はその程度か” “脅威ではない ほうっておけ” “今しかない” “二人殺してる 今更戻れない” “君子危うきに近寄らず” “殺さねば禍いとなる” 考えがまとまらない。 撃つか、見逃すか。 十時愛梨はスコーピオンを構えトリガーに指をかける。 決断の時が迫っていた-----------------------
41 :ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:35:50 ID:4rWjitkw0 【G-3・市街地/一日目 午前】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 0:--------- " 1:殺して、生き抜く " 2:遊園地へ行く ※まだ発砲していません。構えてトリガーに指をかけている状態です。 ※藍子と茜は中心部(G-4、F-4)に向かうだろうと考えています。 ※かな子に対して得体の知れない“何か”を感じています。 【三村かな子】 【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11 コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1) 医療品セット、エナジードリンクx5本】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。 1:温泉あるいはホテルに向かい、そこを拠点とし余分な荷物を預け、場合によってはまとまった休息を取る。
42 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:41:39 ID:4rWjitkw0 以上、投下終了です。
43 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:44:02 ID:4rWjitkw0 >>37 修正 かな子は周囲に身を隠しながら進んでいた。 何度か来たことがあるとはいえ、市街地の隅々まで把握しているわけではない。 下手を踏めば袋小路や、入り組んだ裏路地から抜け出せず、時間の無駄になるかもしれない。 なるべく横道に入らず、最短ルートで温泉に向かう。 これから山道を登ることを考えれば、無駄な体力消費に繋がりそうなことは避けておきたい。 登山はトレーニングの一種として取り組んだが、ダンスやランニングとは違った疲れがあった。 やっぱりホテルに行こうか… 一瞬そう考えたが、ホテルに向かうとしても緑に多い島を縦断するのはどのみち同じことだろうと考え直し 温泉へ行くことを改めて決めた。 温泉が既に他のグループの拠点となっていた場合、ホテルに向かうことも考えおこう。 (温泉…かぁ…) 前に来た時は仕事に追われ、ゆっくり楽しむ暇もなかったのを思い出した。 そういえばシャワーも浴びていない。
44 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:50:05 ID:4rWjitkw0 状態表修正 【G-3・市街地/一日目 午前】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 0:--------- 1:殺して、生き抜く 2:遊園地へ行く ※まだ発砲していません。構えてトリガーに指をかけている状態です。 ※藍子と茜は中心部(G-4、F-4)に向かうだろうと考えています。 ※かな子に対して得体の知れない“何か”を感じています。 【三村かな子】 【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11 コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1) 医療品セット、エナジードリンクx5本】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。 1:温泉あるいはホテルに向かい、そこを拠点とし余分
45 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/01/23(水) 17:52:18 ID:4rWjitkw0 我ながらミス多すぎましたorz では失礼しましたー
46 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/01/23(水) 22:37:34 ID:rasCh1fA0 申し訳ありませんが、私事により予約を破棄します。
47 :黒点 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 06:55:29 ID:9zGc75XA0 南条光、ナターリア、投下します
48 :黒点 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 06:57:18 ID:9zGc75XA0 ガチガチと、カチカチと、空港の片隅で一人少女は震えていた。 寒い、寒いヨ。 少女を少女たらしめていた情熱はそこになく、心にぽっかりと空いた穴から吹きこむ風が、今も彼女を蝕んでいる。 少女は、ナターリアの頬は真っ青だった。 褐色の肌が今は青白く見えるまでに、少女は色を失っていた。 ああ、ああ、あ”あ”あ”。 どうしてだろう、どうしてこんなことになってしまったのだろう。 みりあを手にかけて以来何度も、何度もしてきた自問が、少女の中で渦を巻く。 答えは出ていた。 とっくに出ていた。 本当なら、みりあを殺してしまった時に、出しておかなければならない答だった。 もしもその答えに行き着いていたのなら、ナターリアは少なくとも、まゆを殺すという形で、過ちを犯さないで済んだのに。 過ち、そう、過ちだった。 ナターリアは間違っていた。徹底的に誤ってしまった。 ……何を? それは、佐久間まゆに糾弾されたように、アイドルである以前に、一人の人間であることを選んだ者達の心を鑑みていなかったことか。 違う、そうじゃない。 確かにそれも過ちと言えなくも無いかもしれない。 既にしてナターリアは、みりあから、そのことを指摘されていた。 みりあが放った〝わからずや〟という言葉。 少女が口にしたことを悔い、謝ることもできぬまま死んでいったその言葉は、しかし、酷い言葉ではあっても、不当な言葉ではなかった。 ナターリアは分かっていなかった。 アイドルに理想を抱いているあまりに、みりあの言葉を聞くこともなく、ただただ自分の想いを押し付けようとしてしまった。 プロデューサーを助けたいという気持ちも、死にたくないという気持ちも、痛いほどに伝わってきていたのに。 おかしいと、違うと、頭っから頑なに、みりあの想いを否定してしまった。 似合ってなくとも、間違っていても、ナターリアに銃を向けてまで、生きたいと、プロデューサーを助けたいと願ったのも、紛れもなくみりあなのに。 だから、それもナターリアにとっての間違いだ。 みりあを殺した時点で、そのことに気づいていれば。 或いは、ゆまに怒りをぶつけられた時点でそのことを思い出せていれば、ナターリアは二度目の過ちを犯すことはなかった。 でもそれは、あくまでも、“二度目の”過ちだ。 “二つ目の”過ちだ。 いや、考えようによっては、過ちということさえ酷だろう。 ナターリアは確かに分からず屋であったが、人殺しを否定したその意思自体は、彼女にとっての間違いではなかった。 佐久間まゆが一人の人間としてそうしようとしたように、ナターリアもまた、アイドルとして以前に人としてやってはいけない事だとして人殺しを止めようとした。 みりあの時だってそうだ。 人が人を殺す、それが酷いことだと分かっていたからこそ、ナターリアはみりあを止めようとした。 その事自体に過ちはない。
49 :黒点 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 06:57:50 ID:9zGc75XA0 ならば、であるなら。 少女が犯した過ちとはなんだ? 意思の食い違いや、浅慮などではない、もっと根本的な過ちとは。 “最初の”過ちとは、“一つ目の”過ちとはなんだ? みりあを殺したことか? そうとも言えるし、違うとも言える。 根本的なことだ、もっと根本的なことだ。 ナターリアは赤城みりあを殺した。 何故? ナターリアは佐久間まゆを殺した。 どうして? 人殺しを止めようとしたから。 どうやって? “力づくで”止めようとしてしまったから。 言葉でも、歌でも、ダンスでもなく。 アイドルとしてではなく、一人の人間として止めようとしてしまったから。 それが、答え。 ナターリアが犯した“最初の”過ち。 少女は、アイドルとして、殺し合いを止めようとした。 歌で、踊りで、アイドルで、みんなを熱くさせようとした。 その願いは綺麗すぎて、みりあやまゆのように、一人の人間であることを選んだ少女たちからは拒絶されるようなものであったかもしれないけれど。 でも、ただの一人の少女にアイドルになりたいと思わせた熱さこそ、ナターリアが抱いた“アイドル”なのだから。 もし本当にナターリアが“アイドル”だったのなら、“アイドル”であり続けたのなら。 みりあの、ゆまの心にも、届いたかもしれない。 少女たちの心の“アイドル”を、ナターリアが願ったように、思いださせることができたのかもしれない。 だけど、そうはならなかった。 ほかならぬナターリアが、“アイドル”であれなかったから。 誰よりも信じていたはずの“アイドル”の力を、土壇場で信じられていなかったから。 ナターリアは願っていた。 歌で、踊りで、アイドルで、殺しあいとか難しいことを全部、全部吹き飛ばして、凶器を手に取るよりもマイクを手にして踊りたいと思わせたいと。 アイドル達だけじゃなくて、ちひろ達にもそう思わせたい、熱くさせたいと、ライブを開くことを決意していた。 しかし実際はどうか。 殺し合いにのったみりあを、ゆまを前に、ナターリアは何をした。 歌を口ずさんだか? 否。 ダンスを舞おうとしたか? 否。 およそ考えられる限りのアイドルらしい何かをしたか? 断じて否。
50 :黒点 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 06:58:12 ID:9zGc75XA0 少女は何もしなかった。 少女が願っていたような、そうでありたいと想っていた“アイドル”を何一つ貫徹できなかった。 みりあの時も、まゆの時も、我慢できずに、焦ってしまい、歌でも踊りでもなく、強硬手段に打って出てしまった。 アイドルとして心に訴えるのではなく、力で訴えてしまった。 それでは届かない。 アイドル達にも、ましてや殺し合いという暴力の法を布いているちひろ達には届かない。 「……そっかぁ、ナターリア、汚れちゃったんだネ」 ううん、違うか。 悲しそうに頭を振る。 「ナターリアが、汚しちゃったんだネ」 ナターリアの夢を、アイドルを。 プロデューサーと一緒に抱いた、彼女たちの“アイドル”を。 「ダメ、ダメダヨ。ナターリア、アイドルを汚しちゃっタ。こんな汚れたナターリアじゃ、もう、アイドルでいられないヨ」 ぺたりと座り込んだ少女の心を絶望が支配する。 誰よりもアイドルに憧れていたからこそ、自分の手でアイドルを汚してしまったことに少女は耐えることができなかった。 「だから、見ないで、プロデューサー。こんな汚れたナターリアを見ないでヨ。お願い、ナターリアを、見ないデ!」 ずっと見ていてっていう約束も、取り消すから。 どうか、神様、お願い、ナターリアを誰にも見つからないようにして。 プロデューサーだけじゃない、ファンのみんなにも、他のアイドル達にも、誰にも。 そう願っていたのに、少女は強く、強く、願っていたのに。 現実はいつだって残酷だ。 「見つけた、ナターリア!」 罪を犯した咎人は、正義の味方から逃れられない。
51 :黒点 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 06:58:57 ID:9zGc75XA0 * * * 南条光がナターリアに追いつくのに、それほど時間はかからなかった。 いくら空港が広いとはいえ、閉ざされた環境だ。 道行は限られているし、ナターリアにしても見つからないように逃げるとか隠れるという発想はなかった。 だから、当然のように、行き場をなくし震え立ち止まる少女に、放送後すぐ、南条光は追いついた。 追いついて、声をかけて、だけど、そこまでだった。 (……アタシは) 目の前で震える少女がいる。 こんな時、ヒーローなら取るべき行動は決まっている。 手を差し伸べること。抱きしめること。 もう大丈夫だと笑みを浮かべ、後は任せろと励ますこと。 いくつも、いくつも、いくつも。 憧れてきた物語の数々から、類似したシーンが思い浮かぶ。 そんな記憶の中のヒーロー達に導かれるように、光もナターリアに駆け寄って手を差し伸べようとした。 けれど、物語は物語だ。 全てを教えてくれるわけではなく、たとえどれだけ読み込もうとも、当事者になってみなければ分からないこともある。 ナターリアは、震えていた。 その震えは、光を前にしてより大きくなっていた。 少女の瞳に浮かぶのは、恐怖。 それは、正義の味方が護るべき少女から向けられるには到底相応しくない感情だった。 「見ないで、来ないでヨ。ナターリアを、見ないデ!」 「……っ!」 いや、果たして、ナターリアは護るべき少女と言えるのだろうか。 確かに彼女は怯えている。 黒幕であるちひろ達に殺し合いを強要された哀れな被害者だ。 だが、同時に加害者でもあった。 ナターリアは、命を奪った。 その理由がなんであれ、彼女は、一人の少女の命を奪ったのだ。
52 :黒点 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 06:59:28 ID:9zGc75XA0 そしてそれは光も同じだった。 正当防衛とも言えなくもないが、しかし、彼女は人を一人殺した。 安部菜々を、心が通じ合った人間を、死に至らしめたのだ。 間違いだったとは思わない。思いたくない。 光も、菜々も、自分が正しいと思ったことを成し、彼女達の中に存在するワンダーモモを信じた。 納得なんかしてやりたくない結末だったけれど、それでも、自分は菜々に応えることができたし、菜々も満たされていたとそう信じることが出来る。 光はヒーローとして、ワルデモンの改造人間ウサミンを倒し、人間である安部菜々の心を救った。 けど、今回は? 光に、ナターリアを救えるのか? 悪を、ウサミンを殺し、少女を、まゆを救えなかった光に。 悪<<加害者>>であり、少女<<被害者>>でもある少女を救うことはできるのか。 無理だ。 弱音が鎌首をもたげそうになる。 菜々の時と違って、ナターリアの中にワンダーモモはいない。 たとえ悪を倒したとしても、少女が救われることはない。 一人、寒い寒いと震えたまま、満たされることなく死んでいくだけだ。 思わずイメージしてしまった光景が、光を躊躇させてしまう。 ヒーローとして菜々に死を選ばせてしまった記憶がリフレインし、最悪の想像に現実を持たせていく。 光は身動きが取れなくなってしまった。 駆け寄ろうとした身体は、差し伸べようとした手は、一向に、ナターリアへと近づくことはなかった。 「そうダヨネ、ナターリアは人殺しだもんネ。ナターリアのこと怖いヨネ?」 そのことが、ナターリアからすればどう映るのか。 気付いた時にはもう遅かった。
53 :黒点 〜てのひらのたいよう〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:01:47 ID:9zGc75XA0 ✳ ✳ ✳ 「そうダヨネ、ナターリアは人殺しだもんネ。ナターリアのこと怖いヨネ?」 「ち、ちが!?」 ナターリアの手には拳銃が握られていた。 みりあの、ゆまの命を奪ったものではない。 彼女本来の支給品であるワルサーP38だ。 アイドルとして使うものかと決めていて、でも、誰かに拾われることを考えたら捨てるわけにもいかなかった凶器を、ナターリアは手にしていた。 「ナターリアは怖いヨ。ワタシはワタシが怖い」 みりあを殺した自分が怖い。 ゆまを殺した自分が怖い。 「こんなはずじゃなかったナ。ナターリアはみんなを熱くしたかっタ。みんなで、熱く、なりたかっタ。 みんながアイドルでいられるよう、ナターリアは太陽になりたかっタ」 だからお願い、近付かないで。 近づいたら、今度はあなたを殺してしまう。 「ナターリア、おっきなライブがしたかったヨ。みんなに、届くくらいおっきなライブ。みんなは、みんなダヨ。 キラキラでピカピカなアイドルのみんなにも、大好きなプロデューサーたちにも、そして、ちひろにまでも届く、そんなライブ」 正義の味方に追い詰められた悪人は懺悔する。 夢を汚してしまったことを、叶わぬことにしてしまったことを涙する。 「あの日憧れたアイドルみたいに、みんなを熱くできれば、こんな、こんな寒いこと、ちひろも止めてくれるってそう、信じてたヨ」 涙したまま、のろのろと、腕を上げる。 拳銃のグリップを祈るように、懺悔するように両手で握りしめ、トリガーに手をかける。 「でも、ナターリア、あんまり頭良くないカラ。間違えちゃっタ」 今度は、間違えない。 「やめろ、駄目だ、そんなの絶対に駄目だッ! そんな素敵な夢を抱けるなら、そんな悲しい選択しちゃダメだッ!」 銃口は自分自身の顎下に向けられていた。 これでいい。これでもう、誰も殺さない。 太陽になりたかった少女は力のない冷えきった笑みを浮かべる。
54 :黒点 〜てのひらのたいよう〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:02:06 ID:9zGc75XA0 「ううん、こうするしかないんダヨ。 ナターリア、汚れちゃったカラ。ナターリア、汚しちゃったカラ。 ナターリア、もうアイドルとしていられないカラ」 それが、彼女に死を選ばせた絶望。 みりあを死なせてしまっても、少女が歩いてこれたのは、頑張ってこれたのは、しなきゃいけないことがあったからで。 でも、それがもうできないんだって思ってしまった時に、少女の心も折れてしまった。 「みりあ達を死なせちゃったワタシの歌は、もうみんなには、届かな「……ふざけるな、ふざけるなよ」……え?」 ああ、だから。ああ、ならば。 「アタシが、アンタが、アタシたちが憧れたアイドルは、ヒーローは……」 まだアイドルでいられるというのなら。まだ頑張れるというのなら。 「そんなちっぽけなものじゃ、ない!」 少女は、絶望なんかしなくたって、いい。
55 :黒点 〜それでも太陽信じてる〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:03:10 ID:9zGc75XA0 ☀ ☀ ☀ 南条光は踏み出していた。 あれほど進むことを躊躇っていた足が、今は動く。 ゆっくりと、でも一歩一歩確実に、光はナターリアへと近づいていく。 恐怖は未だある。 ナターリアへの、ではない。 ナターリアが抱いていたのと同様の、自身への恐怖。 相手を死なせてしまうんじゃないかという恐怖は、きっと、この先も光に付き纏うことだろう。 光は安部菜々を死なせてしまった。 その事実は失くならない。 ずっとこの先も光が背負って行かなければならない罪の十字架だ。 でも、だけど。 光は、そのせいで自分がヒーローになれないなんて思ってはいない。 それだけは違うと、ナターリアの絶望を断固として跳ね除けられる。 (一人殺したら、ダメなのか。二人殺したら、もう戻れないのか) そんなんで、あってたまるか。 「アタシが、アンタが、アタシたちが憧れたアイドルは、ヒーローは……」 一人の少女に、ああなりたいと、あんなふうに可愛くなりたいと思わせたアイドルは。 一人の少女に、ああなりたいと、あんなふうに誰かの力になりたい思わせたヒーローは。 「そんなちっぽけなものじゃ、ない!」 きっと、今も何人ものアイドルたちが、そう思い込んでいる。 殺してしまったから。 自分の手は血で汚れてしまったから。 もうアイドルではいられないのだと、諦めている。 それを、その絶望を、南条光は否定する。 光だからこそ、誰よりも強く、真正面から否定できる。 「友だちの、小春の受け売りだけどさ。アイドルって、ファンに応援されてこそなんだって。 ファンに応援してもらえるのがアイドルなんだって。アタシも、そう思う」 「だったら、やっぱり無理ダヨ。ナターリアはもう、ファンのみんなのお嫁さんには、なれないヨ」 「なれるっ!」
56 :黒点 〜それでも太陽信じてる〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:03:44 ID:9zGc75XA0 ナターリアの目の前で歩みを止め、光は被っていたマスクを脱ぎ捨てる。 今だけは、ヒーローである二代目ワンダーモモとしてではなく、ヒーローに憧れた一人の少女として言葉を紡ぐ。 「知ってるから。アタシは知ってるから。 ヒーローだって……ヒーローだって、みんながみんな、綺麗なだけじゃないんだ」 思い出の中のヒーローたちは、輝いてばかりじゃなかった。 時に血に汚れ、罪に涙し、悪を背負って生きていた。 「ヒーローにだって色んな人たちがいる。 罪を犯した人もいる。悪の手先だった人もいる。悪を倒す――悪人を殺すことに悩んでる人だっている」 そんな彼らに、自分たちは、子どもたちは何をした? 後ろ指を指していたか。 石を投げて拒絶したか。 こんなのヒーローじゃないって、弾劾したか。 違う、そうじゃない。 (そうじゃ、なかったろ!) 「でも、それでも。そんなヒーローたちを、みんなは応援してくれるんだ」 (あたしは、応援してきたんだ!) 「たとえそれまで、どれだけ悪いことをしていようとも。 力に溺れ、人を殺していたとしても。復讐に呑まれ、多くの罪なき人を傷つけていたとしても。 大切な人以外の、全てを犠牲にしようとしていたとしても」 それでも! 「彼らが、ヒーローになろうとした時に、ヒーローになった時に、あたしは、あたしたちは応援した! 応援してきたんだ!」 テレビにかじりついて、時には涙さえ流しながらも、本気の本気で彼らを応援し続けてきたんだ。 (頑張れって! 負けるなって! いっけええええええ、って!) 「誰もがヒーローになれるんだ。誰だってヒーローになっていいんだ!」 熱い心と奮える勇気さえあれば、誰だってヒーローだって認めてもらえる。応援してもらえる。 「そんな、そんな世界だからこそ、アタシも、あんたも、ヒーローに、アイドルに、憧れたんじゃなかったのか!?」 そんな夢と希望に溢れた世界をこそ愛したんじゃなかったのか。 「太陽になりたかったんだろ? なれるよ、アンタならきっとなれる。 だってアタシも、アンタの夢、素敵だって想ったから。 アンタの夢に、アイドルに、憧れたんだ」 ちひろのことは倒すしかないんだって、ずっとずっと、思ってきた。 倒すべき悪だとしか思って来なかった。 でもナターリアは、ちひろにさえも、夢と希望を届けようとした。 ちひろにも、アイドルに、ヒーローになりたいと思わせて、みんなを、文字通り、みんなを、救おうとしていた。 その夢を、その理想を、光は素敵だなって思った。 そうなればいいと本気で、応援したくなった。 だから! だから!
57 :黒点 〜それでも太陽信じてる〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:04:13 ID:9zGc75XA0 「だから、今日からアタシとアンタでダブルヒーローだ!」 あの忘れえぬ日に、プロデューサーがそうしてくれたように、光は今度こそ、ナターリアへと手を差し伸べた。 それは、泣いている少女を救おうとしてのものだけじゃない。 ヒーローに憧れた少女から、アイドルに憧れた少女へと、一緒に戦おうと、そんな熱さを込めた掌だった。 「ダブル、ヒー、ロー?」 「ユニットともいう!」 「でも、でも、ナターリアは、ナターリアは」 ナターリアの手が未だ銃を握りしめたままでいるのを見て、光は更なる言葉を紡ぐ。 それはいつかどこかで聞いたヒーローの決め台詞だった。 「ナターリア! アンタ、アンタは! 心に太陽<<アイドル/ヒーロー>>、当ててるか!!」 「心に、太陽?」 ナターリアがきょとんと首をかしげる。 光にだって自分が無茶苦茶なことを言ってるんだっていう自覚はある。 それでも勢いのままに、光は、差し伸べた右手を、掌の太陽を、銃を握ったナターリアの両手ではなく、冷えきった少女の胸へと押し当てた。 「太陽になりたいなら、まずは自分の心に太陽当てなきゃダメだろ! アタシたちが憧れたヒーローは、アイドルは、こんな時こそ勇気をくれる存在だろ!」
58 :黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:05:20 ID:9zGc75XA0 ☀ ☀ ☀ とくり、と。 冷えきっていた、少女の身体に、拳を通して、光の熱が伝わってくる。 最初は少しずつ、ほんの掌の熱さだったそれは、心臓が脈を打つのに合わせて、血潮とともに全身へと循環していく。 その熱さに、冷えてカチカチに固まっていたはずの両手が解け、手から拳銃が滑り落ちた。 「……そっかあ。ナターリア、忘れてたヨ。自分がアイドルになろうなろうってばっかり思ってて、アイドルを、忘れてタ」 歌を、届けたいと願った。 踊りを、届けたいと祈った。 ライブを、届けたいと誓った。 その届け先は、人殺しをしないと決めたアイドルへだけだったか。 綺麗な、汚れていない、ピカピカで、キラキラな、そんな人達だけが救われたらそれでいいと、そう思っていたのか。 違う、そうじゃない。 人を殺そうとしている人にこそ、熱くなって欲しかった。 人を殺してしまった人にも、アイドルを思い出して欲しかった。 ナターリアが抱いた夢は、理想は、みんながみんな、ハッピーになる、そんなものだった。 みんなはみんな、みんななんだ。 恐怖に震えるアイドルたちに、誰かを殺してしまった人に、人殺しを強要するちひろたちに、殺されてしまって死んでしまった天国のみんなにさえも。 届くような、そんなライブ。 アイドルにはそれだけの力があるって信じてた。 今だって、信じてる。 誰よりも、その力を信じていて、だからこそ、自分はもうアイドルになれないことに絶望していた少女は。 かつて自分が抱いた理想のその熱さに、今、こうして救われた。 「やっぱり、アイドルって、すごいネ」 あの日テレビで見たアイドルを思い出すだけで、冷えきっていた心が、身体が熱くなっていく。 熱くなって、熱くなって、いっぱいいっぱい、熱くなって。 身体に収まり切らない熱が、瞳から零れ落ちてしまう。 「ねえ、えっと」 「光。アタシは南条光だ」 「うん、それじゃ、ヒカル。ナターリア、頑張るカラ。今度こそ、アイドルになってみせるカラ。だから」 その熱を逃したくなかった。 取り戻した熱さを、胸の内に留めていたかった。 「今だけは、甘えて、イイ?」 光が無言で頷くと、ナターリアは、そのちっちゃな身体を力いっぱい抱きしめた。 止めどなく溢れ出る涙を押し留めるように、ワンダーモモの衣装に顔を押し当て、声を上げて泣き続けた。
59 :黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:06:28 ID:9zGc75XA0 【ナターリア】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、確認済み不明支給品×1、温泉施設での現地調達品色々×複数】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして“自分も”“みんなも”熱くする 1:B-2野外ライブステージでライブする 2:でもまずは、ちゃんと、さっき殺してしまった子に謝りたい 【南条光】 【装備:ワンダーモモの衣装、ワンダーリング】 【所持品:基本支給品一式】 【状態:全身に大小の切傷(致命的なものはない)】 【思考・行動】 基本方針:ヒーロー(2代目ワンダーモモ)であろうとする 1:楓のもとにナターリアと一緒に戻る 2:仲間を集める。悪い人は改心させる ☀ ☀ ☀ 「……プロデューサー。プロデューサーはダメじゃないって言ってくれたけど」 掌の太陽は、今や両手に余る太陽になっていて、光はロビーの外で輝く本物の太陽を見上げながら悔しげに呟いた。 「やっぱり背の低い女子はダメだよ。泣いている女の子一人、ちゃんと抱きしめられないもん」
60 :黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:07:58 ID:9zGc75XA0 投下終了しました タイトルはWIKI編集時には 黒点 でお願いします
61 :黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg :2013/01/24(木) 07:11:16 ID:9zGc75XA0 と、失礼。 ナターリアの状態表を以下のように修正します 【ナターリア】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、温泉施設での現地調達品色々×複数】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして“自分も”“みんなも”熱くする 1:B-2野外ライブステージでライブする 2:でもまずは、ちゃんと、さっき殺してしまった子に謝りたい ※ワルサーP38はナターリアのすぐ傍に落ちています。
62 :名無しさん :2013/01/24(木) 13:24:51 ID:f5qcU6vEO 投下乙です。 太陽は明るすぎて、ほんのちょっとの黒点も目立ってしまうけど……まだまだ熱いんだぜっ!
63 : ◆U93zqK5Y1U :2013/01/24(木) 16:03:06 ID:.mrMQvew0 島村卯月を予約します
64 :名無しさん :2013/01/24(木) 18:39:56 ID:Th70LYXE0 投下乙です! 良かった…いったんは立ち直ったか。 ナターリアにアイドルを思い出させた南条君がGJすぎるぜ 「力づく」も手段としては有りなんだよ、ワンダーモモも戦いで会話しているし… そういう意味では、ナターリアも岡崎さんとは違う意味で理想が高いのかな 考え方が柔らかい南条とはいいコンビになりそうだ 何はともあれ、楓さんのもとへ戻れそうですごい安心しました でもナタちゃん、今からライブステージに行くと死体が一つ …しかも他のみんなは地図の北西部から遠ざかりつつあるから、 ライブが成功するにせよ失敗するにせよ、ライブステージまで他の皆が駆け付けるまでが時間かかりそうw
65 : ◆John.ZZqWo :2013/01/24(木) 18:50:38 ID:nywqFpPo0 >安全世界ナイトメア か、辛うじて死者は出なかったか……けど、ロックオンされちゃってるよぅw おもしろアイドル3人組はだんだんキャラとグループらしさが立ってきましたね。今後にも期待……ってあぁロックオンされてるぅw >ファイナルアンサー? おう……こっちもまたギリギリのところで。この後がどうなるかは全く読めないけど、すごい緊張感でしたね。 んで、とときん遊園地行く予定かーw どんどん遊園地組が危機に!w >黒点 そうだねぇ、ナターリアは最初に決めたことを全然実行できてなかったね。南条くんはヒーローの仕事ごくろうさま。 これで一度飛行場に帰るんだろうけど、全員が全員が振り出しだね。さて、みんなどういう方向に進み出すのか……。 で、予約延長します。
66 : ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:32:15 ID:aa41WXMs0 連絡が遅れて申し訳ありません………… やっとこさ完成したので、投下させていただきます。
67 : ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:33:54 ID:aa41WXMs0 ――――いつだって、傍にある。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 朝になって放送がありました。 とても、とても哀しい放送が。 呼ばれたのは15人のアイドルでした。 それには、私――岡崎泰葉の縁者と、私達のグループ――諸星きらり、藤原肇、白坂小梅、市原仁奈、喜多日菜子に関係する人物も含まれていてました。 正直言うとショックでした、こんなに死んだのかと。けれど私達は哀しんでる暇などありませんでした。 死者の発表とともにあった禁止エリアの発表。 そこには今私達がいるエリアも含まれていて、早急に対策しなければいけませんでした。 そこで私達はグループを分割する事を決めたんです。 杏さん探しと、自転車を回収したいきらりさんが小梅さんと供に灯台に向かう事になりました。 何故そうしたかというと、きらりさんか遭ったというアイドル二人――古賀小春と小関麗奈の事です。 きらりさんによると、二人は街の方には向かわなかったそうなんです。 なら灯台にいるのは、自然なのですが、一つ問題がありました。 それは次の放送でB−7のエリアがされてしまったら彼女達は閉じ込められてしまう。 千川ちひろがそうするとは思いませんが、そうなった後では遅いんです。だから私達は彼女達を迎えにいく事にしました。 実際元々向かいにいくという話も出ていましたし。 禁止エリア指定までに間に合わなければ、合流は水族館として。 迎えにいくメンバーは彼女と面識があるきらりは当然として、放送で起き出した小梅さんでした。 どうやら私から離れたい感じだったのともう一つ大きな要因があったのもあり、彼女になったのです。 まあ、それに不服は無く彼女達は出発しました。 一つ心配だったといえば…… 「……きらりは、きらりは大丈夫だにぃ」 と、放送直後に、きらりさんが言った言葉でした。 何が大丈夫なのか、私にはさっぱり解からなかったけど。 何処かその呟きが、寂しく響いて、何処か哀しい音色だったのが、とても印象的だったのです。 【C-7・港/一日目 朝】 【諸星きらり】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:杏ちゃんが心配だから杏ちゃんを探す☆ 0:今度こそ杏ちゃんを探しに行くにぃ☆ 1:自転車取りにいくー☆ 2:小春ちゃん達迎えにいくー☆ 3:(大丈夫だにぃ……) 【白坂小梅】 【装備:無し】 【所持品:基本支給品一式、USM84スタングレネード2個、不明支給品x0-1】 【状態:背中に裂傷(軽)】 【思考・行動】 基本方針:死にたくない。 0:きらりについていく 1:やっぱり泰葉には逆らえない。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
68 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:37:05 ID:aa41WXMs0 そして今に到って私達はきらりさん達を待っています。禁止エリアになるまえに間に合わないのであれば水族館にまちあわせ、という事で。 大人しく待っていればいいんですが、そうもいかない理由があって。 それは小梅さんがきらりさんについていった要因でもあるんです。 「美波さん、そんな……」 肇さんが新田美波の死によるショックで落ち込んでいる事だったんです。 もう塞ぎこむぐらいで動くのもままならないぐらいに。 だから、きらりさんと行動を供にしていた肇さんがきらりさんといけなかった理由が其処にありました。 新田美波、サマーライブで輝いていた一人。 アイドルとしても輝いていた彼女は、肇さんと同じプロデューサーで、特別仲が良かったようです。 私としても彼女の死はショックでたまりません。 ……もう一人しか残っていないなんて。 栗原ネネ、彼女だけ生き残って欲しい。 あって輝くアイドルの姿を見せて欲しい。 それが私の願いでした。 「こんな所で死んでしまうなんて……」 まず肇さんを励まさないと。 こんな哀しんで落ち込んでしまうなんて。 アイドルらしくないというのも酷かもしれませんね。苦楽も全て共に過ごしてきたのなら。 泣かないだけ立派かもしれません。 ですが、私はどう慰め、はげませばいいか解らなかった。 だって私はずっと今まで一人で頑張ってきた。 苦しい時も哀しい時も全部一人で乗り越えてきたのだから。 誰かに励まされるなんてなかった。あるのは蹴落とそうとしてくることぐらい。 だからどう励ませばいいかなんて解る訳が無かった。 自分の事ながら、いえ自分の事だからこそ哀しいですね、本当。 本当……悲しすぎる。 こんな言葉が全くでて来ないなんて。 どうしましょう……私は………… 私がそう戸惑っている時、ふと彼女に寄ってくる人がいました。 いつの間に起きたのか。 しかしその女の子は誰よりも輝いてみえたんです。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
69 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:37:41 ID:aa41WXMs0 「哀しいですか?」 「……ぇ?」 怖かった。 ずっとずっと怖かった。 皆、目が怖くて、ずっと泣いてばかりだったのごぜーます。 仁奈は嫌で嫌で嫌で、たまらなかったですよ。 逃げて逃げて、そして今起きて。 目の前で、哀しんでやがるんですよ少女が。 何があったか仁奈には解かりません。 でも、あいつ……仁奈のプロデューサーから、教えられた事があるのですよ。 ――哀しんでる人がいたら、喜ばせる って。 だから、仁奈は頑張ってこの人を喜ばせないといけねーんです。仁奈はアイドルですから。 「どうしたんでごぜーますか?」 「えっと……大切な友人がとても遠く行ってしまったの」 「……肇さん」 「……こう言った方がこの子にとっていいので」 この女の人は肇というらしい。 大切な友達が遠くに行った。 何だかそれは…… 「もう……会えない……の」 仁奈にそっくりで。 仁奈は、会えない訳じゃないけどパパは遠くにいやがるのです……。 とてもさみしくて、さみしくてたまりません。 でも! 「仁奈と同じでごぜーますよ」 「え?」 さみしくても、さみしくても。 さみしくて、仕方なかったけど 「仁奈のパパも遠くに……でも!」
70 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:38:17 ID:aa41WXMs0 ――は教えてくれてやがったのです。 「遠くにいても、思ってくれる。頑張れって、応援してくれるって」 「……っ!」 「だって大切な人なんだから、絶対いつでも応援しくれるんでごぜーますよ」 大切な人だから。だからこそ。 いつでも応援してくれる。 だってパパは……パパは。 「仁奈はパパが大好きで、パパも仁奈が大好き……おねーさんの大切な人はちがうです?」 「……きっと……そんな……事は……ない……です」 「じゃあ、きっと……心の底から、応援してる……そう思うんで……ごぜーます」 仁奈の事が大好きで。 きっと応援してくれる、仁奈のことを。 だから、 「頑張れる……おねーさんは違うです?」 「………………ううん。私も……私……頑張ろう」 頑張るんでごぜーます。 おねーさんは泣きそうな顔から、笑い始めて。 握りこぶしを作って、また開いて。 そして、 「仁奈ちゃんも………………頑張ったね」 「………………えっ」 ぎゅっと。 仁奈は抱きしめられた事に気付くのに、大分時間がかかったのです。 「怖かったでしょう……辛かったでしょう」 「そ、そんなことはねーで……」 「小さいのに頑張ったね、本当頑張った」 「…………あ…………う…………」 抱きしめられると、安心するんでごぜーます。 ママに抱きしめられるみたいで、嬉しくて。 「ほら震えてる…………もう大丈夫だから……寂しかったでしょう」 「ぅぅ……ぁぁぁ……」 「よしよし……頑張ったね……仁奈ちゃんはいい子だ」 これが、温もりで、久々……温もりが………… 仁奈には、とても………………嬉しかったんでごぜーます。 だから、仁奈は、ぎゅっとぎゅーーーと抱きしめ返しました。 ――――ほら、希望はいつでも、すぐ傍にある。
71 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:39:20 ID:aa41WXMs0 素晴らしい、素晴らしいとしか言えない。 これが、アイドルの……いえ、藤原肇と市原仁奈持つ輝きだろうか。 余りにも輝き過ぎて少し眩しいとさえ。自然と頬が緩んでしまうぐらいに、温かくもあった。 「仁奈ちゃんありがとう」 「いえ、仁奈もありがとうごぜーます、肇おねーちゃん」 「は、肇お姉ちゃん!? ふふっ、それもいいですね」 ふふっ、本当いいですね。 こういうのに満ち溢れているなら、私達は絶対負けません。 そう思えてしまうぐらいに。 ……ええ、負けてたまるものですか。 「えへへー肇お姉ちゃん……」 「て、照れますよ…………そうですね、何かご褒美ほしいですか?」 「ご褒美?」 「ええ、頑張ったご褒美です」 しかし、ほほえましいですね。 本当姉妹みたいで、少し妬けます。 私は妹はいませんし………… ………………妬いてないですよ? 「…………そうでごぜーますね……仁奈、できるならケーキ食べたいでごぜーます!」 「ケーキ?」 「ほっとしたら、甘いものたべたくなったのですよ」 「……なるほど……そうですね……でも此処甘いものないし……ううん」 肇さんが少し迷った表情を浮かべて。 仁奈ちゃんが困惑した表情を浮かべ始めました。 無理なお願いいったのかなと言いたいように。 …………やれやれ、仕方ない。 少しは、お姉ちゃんらしいの、させてあげますか。 「……直ぐ近くにケーキ屋さん見かけましたよ」 「岡崎さん……?」 「二人でいってきたらどうです? 折角ですし」 「……でも、岡崎さん一人で」 「構いませんよ。ですが禁止エリアなるのに間に合いそう出なければ、水族館集合で」 「……解かりました」 「詳しい場所は…………ここら辺です」 「なるほど、ありがとうございます」 と言う訳で、肇さんに助け舟です。 どうせ、私を一人にさせるとか不安がってそうでしたし。 まあ、別にそれはよかったですし。 二人に元気になってもらう方が先です。 「じゃあ、いきましょうか、仁奈ちゃん」 「わーい♪」 ふふ……やはり、良かったかもしれませんね。 喜んでる様子みると、こっちも嬉しくなります。 そうして、二人はケーキ屋に向かっていきました。 元気になるといいですけれど。
72 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:39:50 ID:aa41WXMs0 ……………………まあ、勿論それだけで二人を出発させた訳じゃないんですけどね。 ええ、当然の事ながら、裏があります。 何故なら一人で処理しないといけない問題がありますから。 誰かが帰ってくる前に早くしなければ。 これは他の誰かに見られては困るし、処理しきれないだろうですし。 それは、未だに眠り続けている眠り姫。 私たちに襲い掛かり、小梅さんを傷つけた張本人。 喜多日菜子。 妄想姫とも、名高きアイドル。 さてはて、彼女はここでもいつも通り妄想して、それが爆発したのでしょうか? それとも、狂気に染まった上、妄想の世界に逃げ込め、世界から目を背けたのでしょうか? どっちでしょう? 前者なら、まあ色々更正はあるでしょうか? 後者なら………………………… 「さて、そろそろ目覚めの時でしょうか。色々なものから、目覚める時間ですよ、喜多さん」 私は彼女のナイフをくるくると回す。 喜多さんは手首を縛って、更に脚も縛って身動きの出来ない状況になっている。 彼女の所持品も回収した。 さあ――――目覚めましょう。 今こそ――――目を向ける時です。 【C-7・港/一日目 朝】 【C-7・港/一日目 早朝(放送間近)】 【岡崎泰葉】 【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(10/11)、軽量コブラナイフ】 【所持品:基本支給品一式×2 不明支給品x0-1(喜多のもの)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとしてあろうとしない者達、アイドルとしていさせてくれない者達への怒り。 0:喜多日菜子を対処 1:禁止エリアになる前に水族館に移動 2:今井加奈を殺した女性や、誰かを焼き殺した人物を探す。 3:佐城雪美のことが気にかかる。 4:古賀小春や小関麗奈とも会いたい。 ※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれた彼女達のことを強く覚えています。 【喜多日菜子】 【装備:無し】 【所持品:無し】 【状態:睡眠(麻酔銃)、手首&脚を縛られている、妄想中】 【思考・行動】 基本方針:王子様を助けに行く。 0:………………zzz 1:邪魔な魔物(参加者)を蹴散らす。 2:迷子の仁奈を保護者の元へ送り届ける。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
73 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:40:56 ID:aa41WXMs0 逃げた。 逃げて、逃げて。 怖い。 怖くて、怖くて。 だれも、だれも、私を護ってくれません。 だれも、だれも、私を助けてくれません。 私――榊原里美は独りでした。 どうして? どうして? 私が悪い子だから、いけないから? いやだ、いやだ。 逃げた、逃げた。 山の中、ずっとずっと。 斜面を駆けずるように。 見失った島村さんを探すように。 樹の枝が引っ掛かって痛い。 でも、気にせず逃げた。 なんでって、怖いから。 ただ、怖いから。 ――放送が流れました。 新田さんが死んだそうです。 あのゆかりさんに殺されたんだろうと思います。 怖い、怖い、あの人から。 ………………嫌。 嫌、怖い。 だから、逃げました。 なんで、嫌か、何で怖いかわかりません。 でも、怖いんです。嫌なんです。 だから、逃げました。 斜面を転がって、やがて、林になりました。 服も土に汚れて、腕とか傷ついて。 息も絶え絶えになって。 それでも、気にしません。 誰かに会いたかった。 誰かに縋りたかった。 でも、誰も会えませんでした。 島村さんは何処にもいませんでした。 ねえ、私を独りにしないでください。 あの時………………みたいに。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
74 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:41:58 ID:aa41WXMs0 私は厳格ながらも裕福な家に生まれました。 とても、幸せだったと思います。 お父様とお母様と……お兄様と。 お兄様。 大切なお兄様でした。 いつもいつも、傍に居てくれて。 ドンくさい私をずっと支ええてくれて。 優しくて、優しくて、素晴らしいお兄様でした。 大好きでした。 大好きでした。 それは、恋をするくらいに。 ――けれど、その恋は実りませんでした。 本気だったのに、本気だったが故に。 あのお父様はお怒りになって。 あのお母様は酷く哀しんで。 それはいけないことだ。 それは駄目だ。 間違った育て方をした。 ちゃんと育てなおさないといけない。 そうやって、私を隔離させました。 全寮制のお嬢様学校に。 そして、お兄様は私に対して冷たくなって。 あんなに、あんなに優しかったのに。 まるで、他人を見るみたいに。 誰も、私を護ってくれませんでした。 だから、私は独りで。 そして、お兄様を、探して。 ――さんに出会って、私はアイドルになりました。 彼は、私に優しくて。 まるで、お兄様のように。 私は嬉しくて、嬉しくて。 甘えて、甘えて、甘えて。 色々打ち明けて。 それでも、彼は優しくて。 そして、彼は言ってくれました。 ――里美を、この世のすべてのものから、護ってあげるから……のびのびやるんだよ。 嬉しかった、だから、もっと頑張ろうと。 護られてる事がこんなに嬉しかったなんて。 だから、護られる事が、幸せでした。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
75 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:42:34 ID:aa41WXMs0 逃げた、逃げた。 怖いから、怖いから。 走った、走った。 嫌だから、嫌だから。 どれ位走ったのでしょう。 日はもう大分高くて。 それでも、私は走って。 走って、走って。 林を駆け抜けて、街が見えてきて。 それでも、走って、ずっと、ずっと走って。 そして、 「あ…………」 街の道で、歩いてる二人の少女を見つけました。 少女が小さな女の子と手をつなぎながら。 とても、とても、幸せそうで。 まるで、姉妹に見えました。 にっこり笑いあって、羨ましい。 ……羨ましい? 何が? そうこうしてるうちに、二人はお店に入っていきました。 小さなケーキ屋さんでした。 楽しそうにケーキを選んでいます。 とても、幸せに微笑んで。 とても、楽しそうに、女の子はコレが良いと指をさして。 少女は、じゃあ、器に入れて……そうだ、ちょっと待ってねと厨房に向かっていきました。 姉妹みたいです。 幸せそうです。 いいなぁ、いいなあ。 ……何が。 何で、何でだろう。 なんで、こんな感情沸くんでしょう。 あの女の子が羨ましい。 どうして…………どうして………… そして、何かに引っ張られるように、私もケーキ店に入りました。
76 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:42:57 ID:aa41WXMs0 「だ、誰ですか……?」 「……はぁ……ふぁ……里美と……いいますぅ……」 「……大丈夫でごぜーますか? 息が荒いですよ」 女の子は椅子にちょこんと座りながら、私に問いかけます。 でも、もうそんな事は私はきになりませんでした。 「………………どうして、怖くないんですか?」 私にとって当たり前の問いでした。 こんな怖い島なのに、どうして。 この子は、笑ってるの? 「……肇おねーちゃんが護ってくださるんですよ」 「…………えっ」 護ってくれる。 護る? 「色んな人が、護ってくれるんです」 「護る…………?…………そんな訳ないですぅ」 そんなの嘘だ。 そんなの嘘だ。 みんなこの島なんかで、優しくなんていてくれない。 「違うでごぜーますよ?…………きっと手を差し伸べて、抱きしめてくれる人がいるんです……仁奈がそーでごぜーましたから」 「……そう」 「おねーさんも、きっと……」 居ない、居ない。 そんな、人居ない。 絶対に。 「……そんなのありえないですぅ」 「ありえない……なんて、ないでごぜーますよ」 「……私はそんな風に笑えないですぅ」 もう、笑えない。 もう、あの時みたいに。 もう、あの頃には、戻れない。 「大丈夫でごぜーますよ……仁奈は、肇おねーちゃんのお陰で笑えるようになりましたから……だって――」 だって? 「肇おねーちゃんが、護ってくれるから。――が応援してくれるから、遠くにいるパパも、頑張れっていってくれるから」 そんな……そんな…… 「仁奈は、幸せでごぜーます」 そんな訳、無い!!!!!!!!!! ぶつんと 心の糸が、切れる音が、しました。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
77 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:43:20 ID:aa41WXMs0 「そんな訳無い!」 ギリ。 「誰も、誰も、護ってくれない!」 ギリギリ。 「じゃあ、あの時どうして、島村さんは手を差し伸べてくれなかった!?」 ギリギリギリ。 「じゃあ、どうして、あの時、お兄様は、私を護ってくれなかった!?」」 ギリギリギリギリ。 「どうして、お父様も、お母様も、私を追い詰めた!?」 ギリギリギリギリギリギリギリギリ。 「誰も、誰も、誰も! 護ってくれないんですよ! 私はいやなのに、独りはいやなのに!」 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。 「幸せなんて、ない。怖いのに、怖いのに、護ってくれない! 護ってくれない!」 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。 「嫌ですよぉ、いやですよぉ、いやですよぉ、独りはいやですぅ!」 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。 「お願いだからぁ、おねがいだからぁ―――さぁん、早く、私を護りに来てください!」 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。 「どうしてぇ…………護ってくれないんですかぁ!」 ――――ギリ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
78 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:44:21 ID:aa41WXMs0 気がついたら、感情が爆発していた。 気がついたら、目の前の女の子の首を絞めていた。 「…………………………え?」 ―――そしたら、女の子は死んでいた。 私が殺した。 恐らく首を絞めて。 そんなつもりは……なかったのに。 いや……いや…………いや。 「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」 そして、私は、また、逃げ出しました。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
79 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:45:18 ID:aa41WXMs0 「これでよし……待たせたけど……いいものができました」 仁奈ちゃん待たせてしまいました。 でも喜んでくれるはずです。 ……ん、騒がしい……? 「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」 店から、聞こえる叫び声。 仁奈ちゃんじゃない、何があった? 私は急いで店の方に行きます。 ケーキを持ってることに気付かずに。 「…………………………え?」 其処に広がってたのは、哀しみでした。 「えっ……ぅ……ぁ……?」 仁奈ちゃんが倒れてました。 目を閉じたまま、苦しそうな顔で。 そっと、脈をとる。 「…………ぁ…………っ……ぅ……」 ―――亡くなっていました。 「ぁ…………っぁ……ひぃ……ぁ……ふぁ……ぅ」 あんなに、さっきまで、元気だったのに。
80 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:45:53 ID:aa41WXMs0 ――――仁奈は、おねーちゃんができました。 あんなに幸せそうだったのに。 「ぁぁ……ぁ……っ……ぁー……」 ――――えへへ♪ たのしーでごぜーますよ。 あんなに……あんなに……あんな……にぃ 「っっ…………く……ぁ………………ぁ」 駄目だ、幸せなことを……はぴはぴな……ことを……かんがえ……わらえ……
81 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:46:13 ID:aa41WXMs0 ――――仁奈は、幸せです、肇おねーちゃんといられるから! 「ぁ……ぁっ……くぅ……ぁ、ひぁ……あぁぁ――――」 ――――これからも、一緒にいましょうね、肇おねーちゃん♪ 「ぁぁあぅぁああああああああああああああぁぁあああああああああっああああああああああっぁああああああああああああああああああぁ あぁああああああああああああぅッあああああああああああああああああああああああっぅつああああああああああああああああああああ っぁあっあッあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ケーキがのった皿が、地面に落ちた。 皿が、割れた。 綺麗な器でも、一度、割れたら、もう二度と、戻らない。 ケーキには、砂糖細工が乗っかっていた。 羊、狼、ペンギン。 仁奈が好きな、動物だった。 喜んでもらえると、肇が、用意したものだったのに。 【市原仁奈 死亡】
82 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:46:37 ID:aa41WXMs0 【C-6/一日目 午前】 【藤原肇】 【装備:ライオットシールド】 【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】 【状態:絶望】 【思考・行動】 基本方針:?????????????????? 0:?????????????????????? ※仁奈の遺体の前に仁奈の荷物が広がっています 【榊原里美】 【装備:なし】 【所持品:なし】 【状態:疲労(極大)】 【思考・行動】 基本方針:死にたくない 1:?????? ――――ほら、絶望はいつでも、すぐ傍にある。
83 :Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E :2013/01/25(金) 03:48:15 ID:aa41WXMs0 投下終了しました。 このたびは大変お待たせして、かつ連絡が途切れ途切れになってしまい大変申し訳ありませんでした。 今後ないように気をつけます
84 :名無しさん :2013/01/25(金) 20:35:21 ID:37mzN6CU0 投下乙です! これは……これは……。 パートがパートだけに覚悟してたが、それでも堪えた 今まで怖がってた仁奈ちゃんが輝いた! こんな小さいのにアイドルしてるすごい! と思ってたら… 最後に出てきた砂糖菓子の動物が卑怯だわ。これ、肇ちゃんすっごい自分を責めそう
85 : ◆44Kea75srM :2013/01/26(土) 06:31:10 ID:ber51hwg0 みなさま投下乙です! >安全世界ナイトメア ほんわか……ではないけど、独特の空気を放っていたこの三人組も放送で一波乱。蘭子の反応がすごくいい! 酷いこと言っちゃってその後ひとりで自己嫌悪しちゃうところとかさらにいい! ってそうこうしている間に拡声器の覇者がー!? >ファイナルアンサー? まさかこの二人が出会ってしまうとは! とときん、覚悟は立派だがその子はただのアイドルじゃないから逃げてー! しかしさすがのスペシャリストかな子も不意打ちには対抗できない……? これはもしかして大金星ワンチャン……? >黒点 ナターリア――っ! どうなることかと思ってたパート。なんとか自分の『アイドル』を思い出せたようでよかったよかった。 そしてなにげに南条くん側から小春へのラインも見えてニヨニヨ。いいなあ。ちゃんとヒーローしてる。 >Two sides of the same coin ほわあ……美しい……。なんて綺麗な『上げて落とす』でしょう。仁奈ちゃん死んじまったよ……orz 読後感がなんともいえない。心地良い虚脱感。肇ちゃんとさとみんも心配なんだけど、日菜子もどうなるよこれ!? そして自分は和久井留美予約します。
86 : ◆yX/9K6uV4E :2013/01/26(土) 12:47:46 ID:cqojxZdw0 投下乙です! >彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー 歌鈴がいいなぁ、とてもらしい。 歌鈴の純粋な気持ちがやっと楓さんを動かしたかな? 美羽がくすぶってそうなのがどうでるか。 >希望 -Under Pressure- 茜ちんが本調子取り戻したかなあ。 藍子はなんというか、強い子だw フラワーズのリーダーらしい考えで、さてどうなるかなーw >晴れ ああ、塩見ん…… なんだろう、この凄く胸が切なくなる読後感。 とても、とても、哀しい感じがする話で素敵です。 奈緒加蓮も塩見、小日向もせいっぱいいきてるだけにせつない >彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ おねーーーちゃーーーん! あ、あっけなさすぎる。 最後にあんな思いを抱いて死んでいってよかったのかなあ 切ない >みくは自分を曲げないよ! 雫さんがー! 死に行く雫さんがちょっとくるなぁ みくにゃん立ち直ってよかったけどそのスタンスはやべえw >安全世界ナイトメア 三人が仲たがいしても、皆歩み寄ろうとしてるのが素敵…… が、あかんターミネーターが目をつけた!w あかんすぎる!w >ファイナルアンサー? おう、この二人が遭遇しそうだw とときんが狙えるけどどうなる? 凄いどきどきするw >黒点 ナターリアが自分を取り戻したかw 南条君はらしく説得できてよかったw しかし、空港面子は皆振り出しに戻って、さてどうなるかなあw そして、こちらは小日向美穂、栗原ネネ、高森藍子、日野茜で予約します
87 : ◆ncfd/lUROU :2013/01/26(土) 13:14:24 ID:z.5A2MD60 皆様投下乙です! >みくは自分を曲げないよ! みくの定番セリフとも言えるタイトルから一転、こんなことになるとは…… それでも自分を曲げないのはみくの強さでもあるけど、曲げられなくなりそうでもあって怖いなぁ >安全世界ナイトメア 幸子なりに励まそうとしたんだけど裏目にでちゃったなぁ 血染めの花嫁の襲撃をどう凌ぐのか、というより凌ぎきれるのか >ファイナルアンサー? かな子ととときん、二大マーダーが最接近か 50:50もテレフォンもなく、さらには正解があるかすらわからないこの状況で、はたしてとときんはどう動くやら >黒点 ううん、熱いなぁ。太陽になりたかったナターリアが、太陽みたいな熱さを持った光に当てられて立ち直る、か まさにヒーローに、光という名に相応しい輝きだなぁ >Two sides of the same coin 肇と仁奈の触れ合いにほんわかしたと思ったら、ああ、こうなっちゃうか…… さとみんを一方的に責められるかというとそうではないんだけど、これではもうただ悲惨だとかは言ってられないぞ そして、双葉杏を予約します
88 : ◆n7eWlyBA4w :2013/01/27(日) 03:11:35 ID:xk4y/Kao0 皆様投下乙です! >みくは自分を曲げないよ! おおう、ほのぼのチームだと思っていたのに一転…… 本当を嘘に、できるといいけどなぁ。果たして上手くいくんだろうか。 >安全世界ナイトメア さちこは悪い子じゃないんだよなぁ、うん。今回は色々と噛み合わなかっただけで。 ただそれが致命傷になりそうな人が近づいてるのが、おう。 >ファイナルアンサー? 読みながら胃がキリキリしました。ここで遭遇は怖い…… 南市街は危険人物だらけでいろいろと危なっかしいなぁ。 >黒点 ナタはようやく再起のチャンスって感じかな。 今まで以上に茨の道だろうけど、真っ直ぐ進めるといいねえ。 >Two sides of the same coin に、ニナチャーン!上でも言われてるけど砂糖菓子の下りがエグい。 そして書き手陣総出でいたぶられる里美の明日はどっちだ。もういっそ落ちるとこまで(ry では大石泉、姫川友紀、川島瑞樹、予約しますね
89 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/01/27(日) 10:37:56 ID:43QJH8VY0 どーも、インフルでブッ倒れてました。 リアルマーライオン状態で死ぬかと思いました。 皆様投下乙ですー、感想! >安全世界ナイトメア 一体どうしてこうなった 別に幸子だって悪気があって言った訳じゃないのにこの食い違い…… 悲しい、やっぱり放送はとても影響力があるんだな、蘭子ちゃんってすっごい不幸なポジなのかも いやしかし、蘭子ちゃんが激昂する所の演出?良いなぁ、その感じ >ファイナルアンサー? 寸止めかよ!どうすんの?どうすんのとときん!? かな子もプロだなぁ…っていうか、書き手から引っ張りだこ状態じゃないすか! で、これから一体どうするのだろうか…続きが超気になるー >黒点 さっすが俺たちのヒーロー南条光! でもナターリアを救うにはヒーローとしてじゃなく、南条光として救ったんだよな、良いねぇ ずっと迷走していたけど、これからはアイドルとして行動できるのかな… 空港に改めて集合できそうで何よりっす >Two sides of the same coin にっ、仁奈ちゃぁぁぁぁんっ! うわぁ…肇ちゃんを救えたあとにこれだよ…あっけなさすぎるぜ… 他の皆はそれぞれいろんな場所へ行動してるけども、これちゃんと合流できんの…? 絶対うやむやになるパターンやで…そしてさとみん…嗚呼、悲しきかなここもすれ違い。 で、私は水本ゆかり、神崎蘭子、輿水幸子、星輝子予約しまっす
90 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/01/27(日) 11:46:49 ID:43QJH8VY0 連レスすいません、島村卯月も追加予約します。
91 :名無しさん :2013/01/27(日) 12:09:52 ID:2ZAPY87c0 >>90 島村さんは>>63 で予約されてますよー
92 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/01/27(日) 12:45:53 ID:cTXuLgsI0 おっと、失礼しました。 では追加予約分は無かった事にお願いします
93 : ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:23:00 ID:OUw.yCpU0 島村卯月、投下します
94 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:24:56 ID:OUw.yCpU0 ――憧れてた場所を、ただ遠くから見ていた。 どうして、あんな歌を歌うことができたんでしょう。 ――隣にならぶみんなは、まぶしくきらめくダイヤモンド もう歌う資格なんかないのに、どうして思いだすんでしょう。 もう、隣にならんで歌ってくれる人もいないのに。 ――スポットライトにDive! 私らしさ光るVoice! 私らしさって、何ですか? ――聞いてほしいんだ。 おっきな夢とメロディ みなさんはアイドルに大事なものって、なにかわかりますか? 容姿? スタイル? 歌唱力? ――それとも、未央ちゃんが言っていた、ゆかりちゃんが言っていた、『笑顔』? がんばればいつか見つかったのかもしれないけど、私は自分で壊してしまいました。 私は、汚くなってしまったから。 もう、歌えません。 ☆★☆★☆ 歌っている。 小鳥が、歌っている。 チチチ、と舌ったらずな輪唱が森のそこかしこから聞こえてきて、それが朝を告げる歌なのだと分かる。 この小鳥になれたらいいのに、と島村卯月は思った。 踊ることも、レッスンに通うことも、休日に街に遊びに行くこともできないけれど、歌うことはできる。 何より、自分の醜さに気がつかないでいられる。 友だちを見捨てたり、幸せだった毎日のことを思い出したりせずに済む。 泣いて泣いて、喉が痛くなるぐらい、泣き声をあげて。 うずくまっている間に、どのぐらい己を責めただろうか。 こんなに汚い『島村卯月』が嫌なのに、どうして死ねないんだろう。 自分のせいで皆が死んでしまったのに、どうして日常に帰りたいなんて思うんだろう。 いっそのこと、このままずっとじっとしていたら飢え死にできるだろうか。 ゆるやかに、死ねるだろうか。 けれど、そんなささやかな希望さえ、『殺し合い』は許してくれなかった。 ゴポッと濁ったような雑音が、森に据えられたスピーカーを鳴らした。 それを先触れとして、島じゅうにその声が響き渡る。 千川ちひろの、うるさいほどに元気なアナウンスが。 『はーい、皆さん、お待たせしました! 第一回目の放送です!』
95 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:25:47 ID:OUw.yCpU0 鞭で打たれたように、卯月の体がびくんと震えた。 朝六時の放送。 色々なことがあって、その存在をすっかり忘れていた。 『皆さん、頑張ってますねー。 アイドルとして、ヒロインとして、精一杯生きてます。 ええ、実に素晴らしいと思います!』 頑張ってる? 精一杯生きてる? 素晴らしい? どこが。どこがなの。 叫び声が、卯月の心中でこだまする。 友だちを死なせて、友だちを裏切って、もう幸せになることも、笑うこともできないのに。 『プロデューサーの為に。 自分自身の為に。 ファンの為に。』 包丁で心臓のあたりを刺された気がした。 違う、そんなんじゃない。 プロデューサーの為とか、ファンの為とか、そんなことも考えられなかった。 自分自身の為に。 自分が、可愛かったから。 私は、凛ちゃんを――。 『……さて、ではお待ちかねの死者発表ですっ! 今回死んでしまった皆さんは……』 『死者』という言葉に、身がすくんだ。 死者を告げることが、そのまま罪を糾弾を意味するかのように。 『今井加奈。 城ヶ崎莉嘉。 佐城雪美。 佐々木千枝。 大槻唯』 知っている名前。 よく知らない名前。 アイドルになる前から、知っていた名前。 同じライブステージの上で、一緒にきらきらしてた憧れの先輩。後輩。ライバル。 『本田未央』 ――未央ちゃん! 悲鳴をあげそうになり、しかし続く名前を聞けない恐怖から思いとどまった。 卯月が拡声器を使ったから、死なせてしまった親友。 島村卯月による、最初の被害者。 そう、卯月の被害者は、まだ2人いる。 呼ばれる順番があいうえお順じゃないということは、きっと『死んだ順』に呼ばれているということで。 呼ばれる。 卯月の罪が、呼ばれる。
96 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:26:34 ID:OUw.yCpU0 『新田美波』 新田さん。 『もう一人の親友』と一緒に、見捨ててきてしまった人。 とても、優しくてしっかりした人だったのに。 そして、きっとこの次だ。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれる。 呼ばれ―― 『多田李衣菜』 ――え? 『木村夏樹 佐久間まゆ 以上、15名です!』 呼ばれ、ない。 呼ばれて、ない。 呼ばれ……なかった。 …………どうして? 卯月の頭を、ぐらぐらするほどの不可解が占めた。 あんな恐ろしい場所で、生き延びられるわけがないのに。 ただのアイドルの女の子が、銃を向けられて敵うわけがないのに。 親友が、渋谷凛が、助かっていた? まず思ったのは、信じられないということ。 卯月の眼に、水本ゆかりという『アイドル』は阿修羅か何かに見えたから。 そのゆかりから生き延びたなんて、信じられない。 ちひろの放送が嘘ではないのか。しかし、それならどうして未央と新田の名前は呼ばれたのか。 さっきまで、未央も凛も天国にいるはずだと疑っていなかったのに。 凛が生きているとしたら、どうなる? 凛が生きていて、逃げのびていて。そうしたら卯月は、どうする? 凛を探して、謝るのか? そして2人で生き延びるのか? 榊原里美というアイドルは、見捨てたのに? 助けを求められていたにも関わらず、無視したのに? 何より当の親友であり凛を、見捨てて逃げ出してきたのに。 どうやって助かったのかは分からない。 けれど、助けようとした友だちから我先にと逃げ出され、命からがら生き延びたはずだ。 どんなに凛が優しくたって、卯月を恨んでいないはずがない。
97 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:27:14 ID:OUw.yCpU0 どうして見捨てたの。どうして裏切ったの。あなたのせいで、未央も死んだのに。 凛の少しハスキーな声が、憎悪をともなって卯月を糾弾する。 あのそっけないけれどいつも可愛らしかった目つきが、鬼のように鋭く卯月を責め立てる。 そんな凛が待っているに違いないと思うと、友だちを探すという発想さえ怖かった。 けれど、糾弾されるのが怖いから、友だちの無事を確かめることすらしないなんて、そんな『島村卯月』も嫌だった。 生きているかもしれない。 もしここで卯月がじっとしたまま、その次の放送で凛が呼ばれたとしたら。 そんなことがあったら、もう死んでも死にきれない。 拡声器でゆかりを呼んでしまった卯月を、それでも凛はかばってくれた。 そんな凛が、こんな卯月より先に死んでしまっていいはずない。 無事を確認するだけだ、と言い聞かせて己を納得させる。 卯月が疫病神で、卯月では友だちを助けられないなら、せめて。 自分が死ぬ前に探しだして、姿を見るだけでもして、無事でいることを確かめるだけ。 ――凛ちゃんを、探そう。 少しだけ勇気を振り絞ろうと、卯月はそう言葉にしようとした。 「――」 あれ……? 最初は、何が起こったのか分からなかった。 ただ、友だちの名前を口にしようとしただけだったのに。
98 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:28:08 ID:OUw.yCpU0 「――――」 口を開き、声を出す。 そんな簡単なことをするだけのはずだった。 口は開けた。 声が、出てこない。 そう言えば、と気付く。 泣いている時に、最後に声を出したのはいつだったのだろう。 最初は、泣き叫んでいた。いつしか、しくしくとすすり泣くだけになった。 最後に言葉を発したのがいつのことか、思い出せない。 「――! ――!! ――!?」 人目も気にせず、声を出そうとする。叫ぼうとする。 それもできないなら、持ち歌を歌ってみようとする。 いつも歌っていたのに、できない。 喉の内側がひきつるような違和感と。 かすれた呼吸音のような呻きが、口からこぼれていくだけだった。 声が出せない。 叫べない 歌えない。 「――――!!」 あれだけ歌う練習をしたのに、あれだけ声を出すことは得意だったのに。 方法を忘れてしまったみたいに、口から音が奪われていた。 養成所でトレーナーさんから教えてもらった、声を響かせる為の発声方法なのに。 「――――――――」 何度も、何度も、声を出そうとして。 のどからすぅすぅと吸い込まれて吐き出されていく、冷たい空気がのどに痛かった。 「――――――――――――」 あまりに、ストレスを受けたせいかもしれない。 泣いて泣いて泣いたから、のどを痛めたのかもしれない。 あるいは、あまりに己を責め続けたせいかもしれない。 あるいは、もしかしたら。 「……………はっ」 こぼれたのは、声ではなく吐息だった。 あるいは、もしかしたら、罰なのかもしれないという諦めだった。 こんな痛みに比べたら、未央の方がずっと痛かったのだろうけど。 友だちを見捨てるような女の子になってしまったから。 きっと、歌うことも声を出して笑うことも、その権利を奪われてしまったのかもしれない。
99 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:28:53 ID:OUw.yCpU0 こうして、彼女は声を出す努力をやめた。 これが罰なのだと思うことで、少しでも罰を受けている心地になれるなら。 それが自己満足だとしても、歩き出す力になるのなら。 その身を持って、凛と一緒には戻れないと諦めがついたから。 卯月はもう少しだけ、歩き続けることを選んだ。 未来の見えない、贖罪を始めるために。 ☆★☆★☆ こうして私は、歌えなくなりました。 ――Fly!「今さら」なんてない ずっと Smiling!Singing!Dancing!All my love! でも、でも、おかしいのです。 私は、汚いのに。キラキラする資格なんてないのに。 どうして、“歌えなくなった”ことが、こんなに辛いんでしょう。 どうして、“歌えない”だけで心がすごく痛くなって、取り戻したいと願ってしまうのでしょう。 それはまるで、思い出せない大切なことがあったみたいに。 【E-5 山間部/一日目 朝】
100 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:29:17 ID:OUw.yCpU0 【島村卯月】 【装備:拡声器】 【所持品:基本支給品一式、包丁】 【状態:失声症、後悔と自己嫌悪】 【思考・行動】 基本方針: ?????? 1:凛ちゃんが生きているかだけでも確かめる 2:歌う資格なんてない……はずなのに、歌えなくなったのが辛い
101 :S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U :2013/01/27(日) 16:29:38 ID:OUw.yCpU0 投下終了です
102 : ◆44Kea75srM :2013/01/27(日) 16:56:26 ID:blbVcKBc0 インフル明けで予約に踏み切るj1氏に敬意を表するッ!お大事に。 そして投下乙です! >S(cream)ING! タイトルウメェ!と思ったけど、よくよく意味を考えてみたらあれこれやばいんじゃないの……?と不安がってたらギィエー!? ある意味では命を奪われるよりもむごい、むごすぎる……。しまむーは凛ちゃんの生存知って素直によかったねできると思ったのに!? しかしあれですね、放送のライブ感といいますか、一人一人名前が読み上げられていく子の心情描写っていいものですね……ニヨニヨ 未だに持ち続けてる未央ちゃんの拡声器がなんだか壮絶な皮肉に……しまむーがまた歌える日が来るといいなああああ! 投下します。
103 :夢は夜に見ろ ◆44Kea75srM :2013/01/27(日) 16:58:51 ID:blbVcKBc0 今井加奈の名前が読み上げられても、和久井留美は表情を変えなかった。 努めて無表情のまま、目的地への移動を続ける。 歩みを止める理由はない。 放送の内容は後からでも確認することができる。 そして午前六時を回った頃、和久井留美は目的のキャンプ場に到着した。 ◇ ◇ ◇ キャンプ場に点在するいくつかのテント、管理棟と銘打たれた木造の建物を回ってみたが、めぼしいものは発見できなかった。 ターゲットとなるアイドルも、武器として活用できそうなものも、少なくとも和久井留美の視点では見つけることができなかった。 カセットコンロや木炭を見つけはしたが、肝心のライターやマッチがない。 テントを解体すれば長くて丈夫なロープが調達できるが、そんなものがあっても荷物になるだけだろう。 バーベキュー串は刺殺に使えそうでもあったが、強度はそれほどではないしこれで人を殺すのは現実的ではないのでやめておいた。 日光浴に打ってつけと思える林も調べてみるが、どの木々も痩せていて人が身を隠せそうな箇所はない。 ふと空を眺めてみる。空気はまだ冷えていたが、澄み渡る空が今日は快晴であることを告げていた。 子供が遊ぶためだろう。アスレチック木とロープで作ったアスレチック場を見つけもしたが、だからどうしたという話である。 (キャンプ場――うん。真の意味でのキャンプ場ね。あたりまえだけど……特別なところはなにもない、か) 散策を終えると、備えつけの水場に趣き蛇口を捻る。 流れ出る水で顔を洗った。気持ちいい。清々しい朝だ。 (ふぅ……) キャンプ場には誰もいなかった。人がいた形跡もこれといってない。テントはスタッフが最初から張っていたと見るべきだろう。 あてがはずれたのか、それともたまたまなのか。どちらにせよ、和久井留美が得た収穫は無尽蔵に使える水だけだった。 水道から流れ出る水は冷たくて気持ちがいい。朝の陽気も相まって、いっそ水浴びでもしたいくらいだ。 (……こんな状況だもの。女は捨てなきゃね) 化粧を落としたすっぴんの顔で、そんなことを思う。 殺し合いの最中に屋外で水浴びだなんて、自殺行為もいいところだ。 これ以上の収穫はない。ならば早々に場所を移すべきだろう。 だがその前に、誰もいないならいないで新たに得られるものがある。 それは情報吸収のための時間だ。 (さて……) 和久井留美はキャンプ場の管理棟に入り、もうしばらく足を止めることにした。 窓のカーテンを閉め、外からは絶対に覗き込めない死角へと身を置き、情報端末を手に取る。 端末は数十分前に流れた放送の内容を受信していた。 照明のない、明かりはカーテンから漏れる陽光のみという薄暗さの中で、和久井留美はじっと情報を閲覧する。
104 :夢は夜に見ろ ◆44Kea75srM :2013/01/27(日) 16:59:28 ID:blbVcKBc0 注目するべきポイントは三点あった。 ひとつ、死者の数。 ふたつ、禁止エリアの位置。 みっつ、千川ちひろの言動。 (十五人……か。私が殺した彼女を除いたとしても、十四人……誰かに殺された) これは殺し合いだ。死因として、交通事故や病死、凶悪な通り魔による犯行などは考えられない。 アイドルによるアイドルの殺人。 この島内における死の原因は、すべてこの一言で説明できる。 (気になるのは『アイドルを殺したアイドルが何人いるのか?』という点ね) 単純に死者が十五人だから殺害者も十五人……とは断定できないだろう。 一人の殺害者が複数の死者を出すことは充分に想定できる。現に留美も『二人目』として白坂小梅を狙った。 また『アイドルがアイドルを殺す』とはいってもそれが他殺一本であるとも限らない。 血を見たこともないような少女たちに殺し合いを強いるのだ。 悲惨な現況を鑑みれば、絶望に落ち自殺に踏み切った者がいたとしても不思議ではない。 (複数人を殺せる強力なライバルが少人数ながらいるのか、それとも単純にライバルの数が多いのか) 和久井留美の懸念はそこだ。前者と後者、どちらもライバルの存在を重く捉える彼女にとっては好ましくない。 これで今井加奈を除く十四人の死者が全員自殺だというなら警戒するだけ損なのだが、そんなうまい話もないだろう。 (答えはわからない。でもどんな答えだったとしても……十五人という数は、あまりにも多い) 情報端末を眺めながら、憂鬱に頭を抱える。 弱気な仕草だとは自分でも思ったが、誰も見ていなければいいと甘やかした。 和久井留美という『人殺し』を自己評価した上で、一番の強みと言えるポイントは『決断力の早さ』だと思っていた。 彼女はこの殺し合いが始まって早々に人を殺すことを決意し、実際すぐに一人の少女を殺してみせた。 ただの女の子に、それもアイドルなんて輝かしい仕事をやっているような女の子にできることではない。 だからこそ、この速攻はライバルと比した上で相当なアドバンテージになると考えたものだが。 (ちょっとだけ、自信をなくすわね。最近の子は私が思っているよりも死生観がドライなのかしら?) 名簿に名を連ねるアイドルたちは、全員把握しているわけではないがほとんどの子が彼女よりも年下のはずだ。 やはり10代後半の子が多い。先の放送では10代前半の子が多く読み上げられた気もするが、これも弱肉強食か。 しかし自分よりも年下の女の子たちが、殺し合えと言われてすぐに『殺そう』と決断できるだろうか。 仕事柄、若い子の感性というものには敏感だ。経験則で話すこともできる。10代の女の子に殺し合いなど不可能であると。 (考えられるとしたら……運営が撒いたエサが、彼女たちにとってそれだけ美味しそうに映ったということなんでしょうね) さすがは六十人以上の現役アイドルを抱える大手プロダクションといったところだろうか。 仕事のできすぎる人間というのも考えものである。と、和久井留美はため息をついた。
105 :夢は夜に見ろ ◆44Kea75srM :2013/01/27(日) 16:59:57 ID:blbVcKBc0 続いて、禁止エリアについて。 侵入すれば即時退場というデッドゾーン。 今回の放送では、区分された地図の中から禁止エリアが二箇所指定された。 地図上の西端にある【E-1】と、和久井留美も足を運んだ北東の町がある【C-7】だ。 (なぜ、この二箇所なのかしら?) 【C-7】はわかる。ここは爆弾による火災が発生し周辺地域への被害も考慮した結果、封鎖せざるをえなくなったといったところだろう。 だが【E-1】は些か意図が掴めない。地図を見る限りここは建物らしい建物も置かれていないし、あっても林か野原なのではないか。 禁止エリア最大の目的――と推測できる『殺し合いをしない者への籠城禁止策』としては、適した場所ではないように思える。 だって、こんな開けた場所では隠れ潜むことも難しい。そもそも公道からも外れているため、人すら寄りつかなそうだ。 (あるいは、それが狙い……? 他のアイドルの移動に差し障りのない場所を、面目程度に指定してみただけ?) そんな馬鹿な。それでは禁止エリアというシステム自体が無駄ではないか。本末転倒もいいところである。 (いえ、でも……これが運営側にとっても『想定外』の事態だとしたら?) 禁止エリア本来の目的――引きこもっているアイドルを燻り出す。 もし、その必要がなくなったとしたら……? 禁止エリアの指定枠は二つ用意していたが、実際には【C-7】だけで充分だったとしたら。 (この無駄な禁止エリア指定。これは『運営の予想以上に殺し合いをするアイドルが多かった』という証明になるんじゃないかしら?) だとしたら、先の十五人という死亡者の多さにも頷ける。 今井加奈、白坂小梅、市原仁奈――和久井留美が遭遇したアイドルはことごとくがターゲットだったが。 本当はもっと多くのライバルが、この島内にはひしめきあっているのかもしれない。 そして、これらの考察にも関係する無視できない要素が――放送を担当した事務員、千川ちひろの言動だ。 (社交辞令の可能性もあるけど、あの嬉々とした口ぶり……イベントは順調に進行していると見て取れるものだったわ) 放送では、殺し合いの進捗状況に対する彼女の所感のようなものを感じ取ることができた。 ちひろは十五人の死亡者に『少ない』と嘆くでも『多い』と舞い踊るでもなく、功労者を『さすが』と褒め称えたのだ。 (『アイドルの死』自体が目的ではない……彼女たちにとっては『アイドルがアイドルを殺すこと』こそが本来の希望?) 想像する。このような陰惨な催しを企画した意図について。 ただ単に特定の人物を殺したいだけならば、このような周りくどい方法を選ぶ必要はない。 システムやルールの面から見ても、ゲーム性とサバイバル性に満ちたこの殺し合い……やはり本質は『イベント』なのではないか。 (だとしたら顧客がいると考えるのが妥当よね) そう――たとえばアイドル同士の殺し合う様を観覧することを望む、悪趣味な大富豪が裏に潜んでいたり。 その富豪がスポンサーとして億単位の出資でもすれば、この非現実的なイベントを現実のものとすることも不可能ではない。 (倫理や法律を無視できるなら、だけれど) そこはいかんともしがたい。 しかし唯一、倫理や法律の網を掻い潜れる手段がないわけでもない。
106 :夢は夜に見ろ ◆44Kea75srM :2013/01/27(日) 17:00:18 ID:blbVcKBc0 (まさかとは思うけど……国や政府が関わってる?) それならば、あるいは。 いや、まさか。 (……それこそ、ありえないわ。いいえ。真実がどうであろうと、私には関係のないことよ) ちひろの言動について、いま考えなければいけない点は他にある。 それは、人質であるプロデューサーの処遇についてだ。 (プロデューサーは、殺し合いを拒む子たちへのエサ。放送でそれに触れていないということは、上手く機能しているということかしら?) 反抗的な態度を取れば、担当プロデューサーの首輪を爆破する――プロデューサーを救いたければ、従わざるをえない。 その気持ちが動力源となり、みんながみんな、揃って殺し合いに励んでいるのだとしたら。 (人質は、殺してしまえばそこでおしまい。言うなれば切り札なのだから、向こうも簡単に切りはしないでしょう) 人質の件について触れなかったのは、アイドルたちの不安を煽るためか。 それともそんな必要がないくらい、アイドルたちが殺し合いに対して意欲的なのか。 (駄目ね……) 和久井留美は、再度頭を抱える。 死亡者数、禁止エリアの指定位置、千川ちひろの言動――放送の内容は、どれを取っても裏付けとなっている。 『殺し合いをしているアイドルが運営の想定以上に多かった』という事実の裏付けに。 ライバルは自分が考えているよりもずっと多いのかもしれない。 このままここで息を潜めていれば、ライバルたちがアイドルの数を減らしてくれるのでは? いや、もしライバルも同じ考えでいたら、結局は数が減らない。 自分と同じ思考に考え至ったライバルが、弱者狩りにキャンプ場を訪れる可能性も? こちらが様子見しているうちに、有益な武器を根こそぎ持っていかれるというのもリスキーだ。 (……これ以上の守りは、ただの弱気だわ。運営にも誤解されかねない。従来の方針通り、攻めていきましょう) 和久井留美は地図に目を通し、次なる目的地を検討する。 目指すのは弱者が引きこもっていそうな場所だ。 キャンプ場では当てがはずれたが、怪しい場所はまだある。 (私の考えているとおり、そんな弱者はほとんどいないというのであれば、無駄足だけど……) 白坂小梅や市原仁奈のように、錯乱気味にあちこち逃げ回っているアイドルのほうがずっと多いのではないだろうか。 そもそもこの状況についていけない弱者は、どこか一箇所に隠れるという発想すらないのではないか。 逆に頭の働く子なら、ランドマークになりそうな特定の場所……地図上で施設名が明記されている場所は避けるのではないか。 だとすれば、山中の洞穴や町にある名もなきビルなどのほうが隠れ潜みやすいのではないか。 僻地である【E-1】が禁止エリア指定されたのは、そういう知恵の働く弱者が隠れていたからではないか。 (考えが……まとまらない) ここにきて、和久井留美は方針は見失う。 考えれば考えるほど、自身の打ち立てた戦略は欠陥があるように思えた。 そんなことはないさ――そう背中を押してくれるプロデューサーは、いまはここにはいない。 (……待って。ここなら、あるいは……私の悪い考えすべてを肯定したとしても、獲物がいる可能性がある)
107 :夢は夜に見ろ ◆44Kea75srM :2013/01/27(日) 17:02:56 ID:blbVcKBc0 ふと思いつき、和久井留美は地図上のある一点に視線を向けた。 そこは、ここ【D-5】のキャンプ場より西に位置する地点。 ――飛行場だ。 (素人考えで『飛行機があればこの島から脱出できるかもしれない』と考えつく子がいないとも限らない) それでなくても、飛行場の敷地は広い。隠れ潜むには打ってつけの場所とも思える。 (反対に『飛行機があったところで操縦できないのだから、飛行場に行ったところで意味はない』と考える子もいるでしょう) だから獲物など集まらない――多くのライバルたちは、そう考え至るのではないだろうか。 (運営側としても、ここは封鎖しづらいはず。港が見当たらない以上、ここは私たちにとって唯一の『島の出入り口』なのだから) こんなにも早い時期から、希望を摘むことはしないはず。そう、たとえここに殺し合いに否定的な弱者がいたとしても。 ターゲットとなる弱者が隠れ潜んでいる可能性があり、 ライバルが弱者狩りを目的に立ち寄るとは考えづらく、 それでいて禁止エリア指定を免れたと仮定できる場所。 (決まったわね――次の目的地は、ここ) 位置的にも近い。 さっそく足を運ぶべきだろう。 飛行場へ。 ◇ ◇ ◇ 和久井留美は情報の吸収と整頓を終えた後、お腹に軽く食べものを入れて、キャンプ場を発った。 情報端末を手に取りながら、目指すは西。目的は狩りだ。 脱出は……やはり無理だろう。 昨今のアイドルは一芸に秀でていたりする子も多いが、さすがにパイロット技能を持つアイドルなど聞いたことがない。 希望的観測など無駄なだけだ。 もう夢を見る歳でもない。 和久井留美は一人の実直な人間として、現実を見る。 この業界は辛く厳しいところだから。 アイドルは、夢見がちでは生きていけないのだ。 【D-5 キャンプ場/一日目 朝】 【和久井留美】 【装備:ベネリM3(6/7)】 【所持品:基本支給品一式、予備弾42、ガラス灰皿、なわとび】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える。 1:その為に、他の参加者を殺す。 2:飛行場へ移動する。 3:弱者がひきこもってそうな場所(MAPの端や行き止まり)を巡り、その相手から使える武器を奪う。 4:『ライバル』の存在を念頭に置きつつ、慎重に行動。無茶な交戦は控える。 5:『ライバル』は自分が考えたいたよりも、運営側が想定していたよりもずっと多い……?
108 : ◆44Kea75srM :2013/01/27(日) 17:03:46 ID:blbVcKBc0 投下終了です。
109 : ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:07:24 ID:Ca6tBg6A0 投下乙です! >S(cream)ING! 彼女の歌をもじったそのタイトル、そして拡声器を使った彼女が声を失ってしまうという展開……これも因果応報なのかな。 先の話に続いてただ自分を責めるばかりだけど、果たして次は……誰かに会えば彼女の声も戻るのかな。 >夢は夜に見ろ さすがわくわくさん、我らの(早さ的な意味で)トップマーダー。 最初以降、惜しいところで星を逃し続けているけど、その度に考えて、少しずつ方針を定めていくのが頼もしい。 ちひろの言葉を拾っての考察とか、感情的なヒロインが多いなかわくわくさんは冷静でまさにクールの鑑ですね。 では、私も相葉夕美ちゃんを投下します。
110 :彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:08:27 ID:Ca6tBg6A0 「す………………ご――――いッ!」 晴れ渡る空、真っ白で大き雲、そして青く透き通りどこまでも続く大海原。 あばら家から出て砂浜まで来た相葉夕美はその光景に思いっきりの歓声をあげた。 「うわぁ……すごく南の海って感じ。すごいなぁ、実際にこんなに綺麗な海を見るのははじめてかも」 寄せる波音も耳に心地よい。相葉夕美は荷物を置きミュールを脱ぎ捨てると、まだひんやりとした砂浜を海に向かって走った。 きゅっと音の鳴る白い砂の上を駆けぬけ、きらきらと光を反射する水の中に素足を踏み入れ、そして―― 「うわ、つめっ……冷たい冷たい!」 悲鳴をあげて取って返した。 この季節、布団を被らずに一晩を過ごしても風邪をひかない程度には暖かいが、日が上ったばかりの海の水はまだまだ冷たい。 「ひゃあ……、さすがに泳ぐってのは無理かもだね。でもこんなに綺麗な海なのにもったいないなぁ」 相葉夕美は未練がましく海を眺めながら荷物を置いた場所へと戻る。 今がオフで観光中というのならばこのまま海を眺めていてもよかったが、しかしそうではないし、彼女にはやることが多かった。 「まずはボートを膨らまそう。そして朝ご飯を食べたらもう一度この島の調査!」 リュックとは別に抱えてきた萎んだゴムボートを相葉夕美は砂浜に広げてゆく。 うんしょうんしょと広げてみれば意外とそれは大きく、意外なおまけもいくつかついていた。 「なんだ、こういうのついてるんだ」 畳まれたゴムボートの中に一緒に入っていたのはまず、小さな空気ポンプ。子供が使うようなものだが、当然と言えば当然の付属品だ。 そして2本のオール。樹脂製で折りたたみ式のものが入っていた。これもついてて当然だろう。なければボートは進まない。 「こっちの小さなバックの中にはなにが入っているのかな」 ファスナーで閉じられたビニールのバックには大きく『救命』と書かれていた。このゴムボートは簡易ながら救命ボートであったらしい。 開くとまず出てきたのが赤い十字印の書かれたプラスチックの救急箱だった。 中には包帯や絆創膏、消毒液、針と糸、ビタミンなどの錠剤、後は胃腸薬や熱さましなどがが少しずつ用意されている。 「サプリはありがたいな。自由な食事ができないと栄養は偏っちゃうもんね。それでこっちは何かな……」 次に出てきたのは簡単な釣具セットだった。先っぽに糸と針がついただけの細い釣竿に、タッパーに入った餌がついている。 餌は扱いやすさが考慮されているのか、つみれ状のなんらかのお肉のようだった。もしかすればいざという時の非常食にもなるかもしれない。 「おー、これで釣りができるねっ!」 そして最後、一番奥に入っていたのはペットボトルに入った水と折りたたまれたライフジャケットだった。 「あ、貴重な真水が増えてラッキー。それと……こっちは海に落ちても溺れないやつだよね。あってよかった」 ペットボトルの水をリュックのほうに移すと、相葉夕美はさっそくオレンジ色のライフジャケットを膨らませて身につけた。 これでなにがどうなったというわけでもないが、なぜかサバイバルに対する自信みたいなものが湧いてくる。
111 :彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:09:01 ID:Ca6tBg6A0 「よし、じゃあ早速ボートを膨らませちゃおう!」 おー! とひとり拳を突き上げると相葉夕美はポンプを萎んだゴムボートに挿してペコペコと踏み始めた。 ■ 「あ、足が…………」 子供用の小さなポンプをペコペコと踏むこと1時間と少し、平べったかったボートは大きく膨らみその存在感をアピールしていた。 全長はおよそ2メートル半といったところで、中で相葉夕美が寝転がったとしても若干の余裕がある。 チューブ径――空気を入れて膨らんでいる部分は35センチで、この大きさならば海に出てもよっぽどでなければひっくり返らないだろう。 立派なボートだと言える。つまり常識的に考えて、およそ子供用の空気ポンプで膨らませるものではない。 「ぜ、絶対いやがらせだ……。でも、よかった。先に確認しておいて……禁止エリアになってからじゃ間に合わなかったよ」 実際に支給した何者かの思惑はさておき、膨らませ終わった相葉夕美はボートの中にごろんと寝転がって息をついた。 床面を通して伝わる砂浜のひんやりとした感覚が気持ちいい。もうこのままお昼まで寝ちゃおうかという誘惑にかられる。 だがその誘惑の手はきゅ〜というお腹の音で振り払われた。 「おなかもペコペコだよー……」 相葉夕美はボートから出るとリュックを開いてその中身を砂の上に並べてゆく。 彼女に支給された食料はビニールの袋に入った乾パンと缶詰がみっつ。 それと500ミリリットルの水が入ったペットボルが3本――と、ゴムボートについていた2リットルの水が入ったペットボトルが1本だ。 新しく食料を調達しない限りはこれらだけでこの先の数日をすごさないといけないことになる。 「今は、食べ物を調達できてないから、今朝だけは手をつけちゃおう。でも、どれを食べてどれを残したほうがいいかな」 手に取り食料を詳しく調べてゆく。 まず乾パンだが、嬉しいおまけがついていた。少量だが金平糖が小袋に入って同封されているのだ。サバイバルでは貴重な甘みと糖分である。 「これはルールを決めて食べないといけないね。金平糖は一度の食事で2個だけ食べる。うん決めた」 そして次に缶詰を見る。鈍い銀色の缶に文字だけ書かれた缶詰は大きいものがひとつと小さいものがふたつあった。 大きいほうを手に取って見てみると側面に『とりめし』と書かれている。反対側を見るとお湯で茹でて温めてくださいともあった。 「これは、ご飯だねー。この大きさだったら2食分くらいにはなりそう。それでこっちは……」 小さいほうの缶詰の片方を見ると『コンビーフベジタブル』と書いてある。そのままでもいいが、お湯に溶かすとスープになるらしい。 そしてもう片方を手にとって相葉夕美は怪訝な顔をし、そして『固形燃料』の文字の意味を理解してあっと声をあげた。 「燃料だ! これで火が起こせる!」 最後の缶詰は食料ではなかった。しかしサバイバルにおいてはある意味それ以上に重要な“火”だ。 上蓋を開くと中には平べったい蝋燭のようなものが入っていた。よく料理屋などでお一人様用の鍋を温める時に使うものとよく似ている。 それでこの燃料に火をつけるものは? と探すと、缶の底に油紙に包まれたマッチがくっついてるのが見つかった。
112 :彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:09:23 ID:Ca6tBg6A0 「マッチの数は5本……つまり、5回まではなにかに火をつけられるってことなんだよね」 相葉夕美は想像して考える。もしここで朝ご飯のために固形燃料にマッチを1本使って火をつけたらどうなるか。 缶詰を温め終わると同時に燃料は底をつき、ただマッチだけが4本残されるだろう。 「これ絶対罠だよ。この燃料はそのまま使っちゃいけないんだ。きっと削って少しずつ使うのが正解」 実際にそういう罠だったのかはともかく、相葉夕美はなかなか冴えた発想を見せた。これもサバイバルという極限状態のおかげかもしれない。 「これを火種にするってことはやっぱ燃やすものは自分で調達しないといけないよね。まぁ、予定通りかな」 とりあえず火を起こす際に木で木をこする必要がなくなったと理解すると、相葉夕美は固形燃料の缶に蓋をしてそれをしまう。 そして結局朝ご飯はどうするのか? うんうんとしばらく悩んだ末に彼女は『コンビーフベジタブル』を選んだ。 付属の小さな缶切りを使ってスチール製の缶を開く。けっこう力のいる作業だ。 そしてようやく中身を見てお腹の減っていた相葉夕美は、しかしなんとも微妙な表情をして「あぁ」とため息のような声を漏らした。 「非常食だしね。こんなものこんなもの」 正直、おいしそうな見た目ではない。缶詰一杯の茶色のコンビーフの中にポツポツとグリーンピースやにんじんの欠片が入っているだけだ。 しかもコンビーフの油は白く固まっており、そのままで食べられるとあってもどう考えても温めること前提の一品だった。 燃料を使っちゃおうか。一瞬考えて相葉夕美は首を振る。そんな甘い考えではサバイバルを生き残れない。 決心すると、これも一揃いだけついていた金属製の箸をコンビーフの中に突き刺した。 「しょっぱぁ〜い…………」 一口食べて相葉夕美はうぇ〜と舌を伸ばす。味の感想はただ「しょっぱい」だけだった。 お湯に溶かすとスープにできますというのも間違いだった。これは元々お湯に溶かしてスープにして食べるものに違いない。 つまり今、相葉夕美はそのスープの素を固まりで食べていることになる。 「でもサバイバルだもんね。我慢するしかないよね。貴重なエネルギー源だし」 相葉夕美としては、元々ある食料はいわゆる自分へのご褒美として存在するものだと思っていた。 自然から調達する食事はきっとおいしくない。だからこそ温存しておくべき食料は逆説的においしいものだと、そんなイメージだった。 しかし現実は非常だ。彼女に支給されたサバイバル用糧食においては栄養が第一、味は第二か第三くらいだった。 相葉夕美はコンビーフを箸でつついて崩しながら少しずつ食べる。味はともかく貴重な塩分と脂分の摂取にはなっている。 そして半分ほど食べたところで彼女は気づき、ペットボトルをひとつ開けて缶の中に水を少し注いだ。 「あ、これなら食べられるや」 あったかくはないので油は溶けず見た目はより悪くなったが、塩辛さは大分抑えられようやく料理らしい味の範疇におさまる。 それがただの気のせいであることに理性が気づく前にと彼女は素早く箸を動かし、そして一日目の朝ご飯を完食した。 「ごちそうさまでした」
113 :彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:09:43 ID:Ca6tBg6A0 ■ 砂浜で朝食をとった後、島の再調査に出るはずであった相葉夕美はしかしまだその砂浜におり、なにか作業をしていた。 「うんしょ、うんしょ…………」 口の中でふた粒の金平糖を転がしながら彼女は缶きりで『コンビーフベジタブル』が入っていた缶の側面を切っている。 斜めに切り口を入れて少しずつ力をこめて切り裂く。缶がスチールなのもあってかなり苦労するが、なんとかそれは完成した。 「さ〜ば〜い〜ば〜る、な〜い〜ふ〜♪」 どこかで聞いたような物まねをしながら彼女が手にかまえたのは缶を切り裂いて作った簡易のナイフ……のようなものだった。 作り方は簡単。缶を切り裂いて短冊状にしたら一辺を数回折って背にし、手を切らないように持ち手の部分も折る……だけである。 サバイバルに必要な刃物を作り出す。相葉夕美が最初の食事に缶詰を選んだのはそんな理由もあったのだ。 「切れ味はどうかな……」 近くに落ちていた細い枯れ枝を拾い、できあがったばかりのナイフの刃をあてがう。 缶切りで切り取ったので断面はギザギザだが、むしろノコギリみたいでよく切れそうな印象があった。 「ん……っ! ん……っ! んん〜……?」 だがそれは印象だけだった。所詮素人の、しかもありあわせで作った刃物……らしきもの。刃は枯れ枝の表面をただこするばかり。 しかしそれでも格闘すること数分、力をいれるコツを掴むと彼女の小指よりも細い枯れ枝も遂にはポキリと折れ――切れた。 「……ふう。切れ味はカッターナイフくらいかな。ないよりかはましだよね」 なにも切るものは硬いものとは限らない。例えば釣った魚や果実の皮なんかにはこの刃物っぽいものでも十分だろう。 そう納得すると相葉夕美はナイフをリュックにしまい、そのリュックを背負って再調査へと出発した。 本当はこのナイフもどきをブッシュナイフの代わりにして探険家気分を味わうつもりだったがそれはもう永遠の秘密である。 砂浜を出発した相葉夕美が最初に向かったのは、やはりあの睡蓮の花が浮かぶ池だった。 上ってきた太陽が眩しいのか、昨晩あれほど咲き誇っていた花はもうその花びらをほとんど閉じようとしている。 「んー……」 相葉夕美は顎に手を当てて考える。 昨晩は雨水が溜まっているだけの場合もありえると考えたが、水位の上下に敏感な睡蓮が咲いている以上水源がある可能性も高い。 単純にこの池の底から地下水が湧いているだけかもしれないが、それでもと相葉夕美は池の周りを回ってみることにした。 そして半周、ちょうど最初にいた場所の対岸にたどり着いたところで彼女は足元がかなりぬかるんでいることに気づく。 「これはもしかすると……」 池から水があふれているということではない。だとするとこのぬかるみはとても浅い川なのかもしれない。 相葉夕美は地面のぬかるみを頼りにその水源の根元に向かって歩き出した。
114 :彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:10:08 ID:Ca6tBg6A0 「ここまでか」 残念ながら彼女が期待していたような、直接水を取れるような水源はそこになかった。 そこにあったのは、辛うじてそこが水源だとわかる程度の洗面器ほどの大きさの水の溜まったくぼみだけだ。 指を差し込むとあっという間に底の泥が浮かんできてしまう。これではとても飲み水を採取できそうにはなかった。 「これだったらあの池で水を汲んだほうが早いかなぁ。でも蒸留するなら海の水でも同じだし……塩が取れる分お得かも……?」 少し悩んで相葉夕美はリュックから紙の地図を取り出すと、水の湧いている場所に「水:△」と書き込んだ。 そして来た道を戻る。やることは多い。今度は食べられる植物の調査と焚き木になる枯れ木拾いだ。 1時間後、相葉夕美の姿はまたあの砂浜にあった。そしてその両手は空――収穫はゼロである。 「この島、狭すぎるんだよ」 一周しても1キロメートルもない狭い島である。まず調査の対象となる植物の数が少ない。 その中に食べられると判断できるものはなかった。「おいしく」という条件を外しても結局見つからなかった。 もしあばら家の傍に生えていたバレリーナツリーが実をつけていたのならよかったが、しかしそんな時期でもない。 花が咲き乱れる季節とは、つまりまだ実がつく前の季節だということでもある。 そして島の小ささゆえに高い木というのもそうなく、その上で地面のほとんどが湿気を帯びているので枯れ枝も見つからなかった。 むしろそれは砂浜でのほうが見つかるだろう。 とはいえ波で流れ着いて長い時間をかけてできたものだろうから、その数はほんのわずかだろうが。 「気をとりなおして……次の島に行ってみようーっ!」 ないものはしかたがない。これも想定のうちだし、まだお昼までにやっておかないといけないことはある。 できることなら2食続けて支給品の食料に手をつけることはしたくなかった。 相葉夕美は忘れ物がないことを確認すると、リュックをボートの中にのせ、ロープを引っ張ってざぶざぶと海の中へと進んで行った。 ■ 「うぅ……腕がぁ…………」 大海原の上でオールと格闘することおよそ1時間。島の間を渡るという500メートルほどの冒険はようやく終わった。 たかが500メートル。歩けばせいぜい10分から15分だが、ボートを漕ぐとなるとそれは全然違った。 しかもプールや流れに沿うだけの川ならばともかく波の立つ海である。 本日は太陽の眩しい快晴で、風も無風に近く波も比較的穏やかなほうではあったが、それでも小娘一人を翻弄するには十分だった。 「うっく……、ハァハァ…………ちょっと、休憩…………」 なんとかボートを波の届かないところまで引き上げると相葉夕美はそのまま前のめりに砂浜に倒れこむ。 服や髪の毛が砂だらけになってしまうがそんなことにかまう余裕も今はない。
115 :彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:10:34 ID:Ca6tBg6A0 「ライブでもこんなにきつかったことないよ……ハァ」 砂はほどよくあったまっていて心地いい。だけどやっぱりここで寝てしまうわけにもいかないので相葉夕美は身体を起こした。 ぺたりと座り込み、懐から情報端末を取り出す。時間はもう少しで11時だった。どおりで太陽の位置も高いはずである。 「あぁ、放送までに一回りしなくちゃ……」 放送が流れればまた新しい禁止エリアが発表される。 自分が禁止エリアで追いたてられる可能性は少ないと考えたが、ただの思い込みで偶然の可能性もゼロじゃない。 それに一応は最初の島から隣のエリアへと移動はしたのだ。 運営は相葉夕美が実際にボートで移動できるかどうかを確認するまで待っていた――なんて可能性もまた、なくはなかった。 なんにせよ次の放送までには一区切りつけておきたい。 およそ1時間。島中を探索するのは無理なのでせめて外周は回ろうと相葉夕美は重たい身体を引きずって砂浜を歩き出す。 相葉夕美がボートを乗りつけたのは「G-7」にある大きな島の北東の端だったのだが、島の北側は一辺全てが砂浜だった。 なのでとりあえず彼女は砂浜にそって西へ――半時計回りに島を巡ってゆく。 ここも白い砂なのは同じで踏むときゅっきゅと音が鳴って心地よかった。そして前の島とは少し違う点もある。 「こっちのほうが本島に近いからなのかな……」 漂流物が多い。多いと言っても前の島に比べればという話でそう色々流れ着いているわけではないが、それでもあるにはある。 例えば海草の塊だったり、乾いた流木など。これらはこの島と本島の間の海流が速いことを意味してるのかもしれない。 そして自然の中では生まれない、人間がどこかで捨てただろうゴミもいくつか発見できた。 錆だらけの空き缶やビニールの破片、かたっぽだけの足ヒレなど、ほとんどはやっぱりただのゴミだったが、お宝もあった。 「これとこれはは使えそうかなっ!」 ひとつは透明なビニール傘だ。フレームはところどころ錆びているがビニールはどこも破れていない。まだ十分に使える。 もうひとつはブリキのバケツである。どこかで誰かが花火でもしたのかもしれない。これも穴も開いておらず使用に耐えそうだ。 「やっぱり移住するならこっちの島かなぁ〜♪」 ふふっと笑って相葉夕美は砂浜を歩く。片手にビニール傘、片手にブリキのバケツ。少し滑稽な姿だったが本人は楽しそうだった。 砂浜を辿って西端まで着くとそこから先は岩場になっていた。相葉夕美は足を滑らせないよう注意して歩く。 ふらふらと腕を振るとバケツの中でガラガラと音がする。中には途中で拾った貝がバケツの半分くらいまで入っていた。 砂浜の端らへんは干潟になっていて、そこで見つけた『アカガイ』である。今日の昼食になる予定だ。 彼女の専門は植物だったが、『アカガイ』が毒をもってないことくらいは知っていた。 「後で釣りもしてみようかなっ! こういうところっていかにも釣れそうな気がするし」 岩場から岸壁を叩く白波を見て相葉夕美はそんなことを言う。波と泡に隠れて海の中は覗けないが確かに魚が潜んでいそうではあった。 ついさきほどまでは疲労に顔をしかめっぱなしだったというのに、いくつか収穫があれば見ての通りに上機嫌。 女の子らしく現金なものだ。しかし、そんな彼女の笑顔もあるものを見るとふっとかき消えた。
116 :彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:11:00 ID:Ca6tBg6A0 「…………………………」 対岸の島になにか細くて高い建物が見える。そこには牧場があったはずだからおそらくは牧草を貯蔵するためのサイロだろうか。 初めて直接目にする、自分とは隔絶された向こう側。あそこで、ほんのすぐ向こう側では自分以外のアイドル同士が殺しあいをしている。 FLOWERSのみんなも殺しあいに怯え、逃げ回るか、それとももう誰かを殺してしまったかもしれない。 そして、それでも絶対に希望を諦めないだろう彼女がこの波で隔てられた向こうにいる。 「……仕方ないよ。だってみんなは助からないんだもん」 相葉夕美は“向こう側”から視線を振り切ってまた歩き始める。 バケツの中でガランガランと寂しい音がした。 【G-7 大きい方の島/一日目 昼】 【相葉夕美】 【装備:ライフジャケット】 【所持品:基本支給品一式、双眼鏡、ゴムボート、空気ポンプ、オールx2本 支給品の食料(乾パン一袋、金平糖少量、とりめしの缶詰(大)、缶切り、箸、水のボトル500ml.x3本(少量消費)) 固形燃料、マッチ5本、水のボトル2l.x1本、 救命バック(救急箱、包帯、絆創膏、消毒液、針と糸、ビタミンなどサプリメント各種、胃腸薬や熱さましなどの薬) 釣竿、釣り用の餌、自作したナイフっぽいもの、ビニール傘、ブリキのバケツ、アカガイ(たくさん)】 【状態:疲労(大)】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ。万が一最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する。 0:放送までに島を一周。 1:しばらくは今いるあたりを中心に、長期戦を想定した生活環境を整えることに専念。 ※金平糖は一度の食事で2個だけ! ※自分が配置されたことには意図が隠されていると考えています。(ただし興味無し)
117 : ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 19:11:17 ID:Ca6tBg6A0 以上で投下終了します。
118 : ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 21:33:59 ID:Ca6tBg6A0 予約まとめです。 2013/01/26(土) 12:47:46 ◆yX/9K6uV4E 小日向美穂、栗原ネネ、高森藍子、日野茜 2013/01/26(土) 13:14:24 ◆ncfd/lUROU 双葉杏 2013/01/27(日) 03:11:35 ◆n7eWlyBA4w 大石泉、姫川友紀、川島瑞樹 2013/01/27(日) 10:37:56 ◆j1Wv59wPk2 水本ゆかり、神崎蘭子、輿水幸子、星輝子
119 :名無しさん :2013/01/27(日) 21:50:26 ID:R35FtL5Y0 みなさん投下乙ですー。か、感想書こうと思う間に新たな話が投下されている! 予約もいっぱい来てるしラッシュですね以下感想 >ファイナルアンサー? それぞれ思いつめたものを抱えたマーダー二人がまさかの接近! 本来ならお菓子作りつながりでほんわか要因のはずの二人なんだよなあ……。 とときんの緊張感が伝わってくるような>>40 の思考の渦に思わず読みながらどきどき。 しかし、ここを経過したらとときんまで遊園地にいくのかーw >黒点 あーそうか、想いや目的は崇高なれど、ナターリアが間違えてたのは手段だったのか! 登場話のすごいアイドルらしいナターリアからその後の転落っぷりにもやもやしてたけど納得した 南条くんに太陽を点けてもらって、今度こそアイドルらしいやり方を見つけて欲しいなあ リトル・ヒーローらしい南条の最後のセリフが好きだ >Two sides of the same coin すでに他の方も感想で言われてるけど、ニナちゃんがー!! 希望が見えたかと思えばすぐ絶望。肇ちゃんの心情を思うと辛いのに非常にパワーのある話でした。 ついに「愚鈍な被害者」から「加害者」へ変わってしまったさとみんも、 アイドル審問官に目を付けられた日菜子も、きらりすら不穏な感じになってきて、先がいい意味で怖い。 >S(cream)ING! 小鳥は歌ってるのに、しまむらさんは歌えなくなってしまった……うわあ…… 笑顔だけでなく声まで。これは大変だ。このロワにおいて、 誰かに思いを伝える手段のひとつが奪われたってことはあまりにも重いよなあ。 それでも行動で、凛を探すと決めたしまむらさんはまだ負けきってない。報われて欲しいがさて >夢は夜に見ろ 放送から得られる情報ってこんなに多かったんだと感心させられる考察回。 出された情報だけじゃなくて、Pの情報が出されてないことやちひろのテンションからも読み取れるんだな 和久井さんは試行錯誤しながら着実に冷静に進んでて、いろいろと隙がない。 向かう先となった空港の振り出しに戻った少女たちが心配だー >彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン 放送を超えてサバイバルのための調査のターン。すらりと読めるのに細かい描写の書き込みがすごい! ちらほら支給品に「罠だよこれは!」ってツッコミいれたり、相葉ちゃんは本当にコミカルだw ただ、これがひとりアイドル漂流記ならともかく、ロワの最中にこのテンションなんだよな……。 エンジョイしてればしてるほど、彼女の内面を勘ぐって悲しい気分になってしまうという。最後の下りも象徴的。
120 : ◆John.ZZqWo :2013/01/27(日) 23:20:48 ID:Ca6tBg6A0 岡崎泰葉、喜多日菜子、榊原里美 の3人を予約します。
121 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/27(日) 23:23:03 ID:f2WfPPEc0 十時愛梨、三村かな子を予約します 初めてなので申し訳ないのですが予約して5日以内に投下という解釈で宜しいでしょうか?
122 :名無しさん :2013/01/27(日) 23:57:25 ID:43QJH8VY0 >>121 はい、そうですよー 金曜日の23時頃までにお願いします……だよね? しかし予約が止まらないどころか、新しい書き手まで参加しちゃうとかどんだけこのロワ盛況してんの…
123 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/01/28(月) 07:18:36 ID:qs5pa00E0 おっと、失礼しました。 では追加予約分は無かった事にお願いします
124 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/01/28(月) 07:22:30 ID:6GRhNqwg0 >>123 ミスです、すいません
125 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 21:50:54 ID:Jtl1M9to0 後10分程で十時愛梨、三村かな子を投下します
126 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 21:59:59 ID:Jtl1M9to0 十時愛梨は迷う―――― それは、前方の三村かな子から感じる得体の知れない「何か」の所為かもしれない。 それとも、今までの三度の襲撃で二度も相手を仕留め損ねている「不安」の所為かもしれない。 あるいは、彼女の奥底に僅かに残っている「躊躇い」の所為かもしれない。 いずれにせよ、決断の時は迫っていた。 三村かな子は十時愛梨に気付くことなく前方を窺い続けていた。 訓練(レッスン)を受けているとは言え、実戦の経験が皆無である彼女には 後方に注意を残しつつの前進は余りにも高度すぎた。 彼女は襲撃者に気付かないまま前進を続ける―――― 十時愛梨は三村かな子に狙いを定める。 心の僅かな迷いを振り切る事が出来ないままに。 その雑念が絶対的な命取りになる事を平和な時代を生きていた彼女には想像が及ばなかった。 ただシンプルに、いずれは殺さなければならない相手なら殺すべき。 そう彼女は決断して指先に力を込めた――――
127 :午前0時のシンデレラ ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:02:08 ID:Jtl1M9to0 「―――――あうっ!?」 後方から破裂音がした瞬間、左足にハンマーで殴られたような衝撃が襲った。 かな子は左足を庇いつつも咄嗟に振り向く。 ―――――そこには儚げな笑みを浮かべたシンデレラガールが居た。 人は笑うのは楽しい時だけでは無い事を示すかのように、どこか色気さえ感じる表情で。 その手には訓練で目にしたことがあるスコーピオンだっただろうか、が握られている。 「……やっぱり私って駄目だなぁ、また一発で仕留め損なっちゃった」 「愛梨さん……」 「ごめんね、かな子ちゃん。私は生き残らないといけないから」 愛梨は再びスコーピオンに引き金をかけ、今度こそかな子の急所に狙いを定める。 どんなに血に染まろうとも、罪を重ねようとも、プロデューサーの最後の想いの為に。 「……愛梨さんが殺す側に回るとは思いませんでした、貴女は誰よりもアイドルである筈なのに」 「……違う、私は最初からアイドルなんかじゃなかった。ただ魔法をかけられてただけなの」 「だからですか?その魔法をかけていた人が―――――」 「やめて」 愛梨の顔が悲しげに歪む、やはりあの惨劇が原因なんだろうと確信する。 しかしまだ腑に落ちないことがある、救うべき対象が居ないのなら何故彼女は戦うのか。 他の子のプロデューサーが生きていることに嫉妬している? 全てを失って自暴自棄になっている? 違う、少なくとも私の知っている彼女はそんなネガティブな人間じゃない。 とするとこの状況で錯乱しているのだろうか。 「どうして殺す側に回ったんですか?正直凄く驚いてます」 「……私はアイドルでもシンデレラでもない、ただの女の子だから」 「……だから、私はプロデューサーさんの最後の想いの為に全員殺して生き残るって決めたの」
128 :午前0時のシンデレラ ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:05:12 ID:Jtl1M9to0 ―――――かな子はそれを聞いて確信した ―――――彼女は、十時愛梨は、とても哀れな存在なのだと ―――――やはりあの時彼女のプロデューサーは何かを言ったのだろう ―――――しかし彼女はそれを履き違えてしまっている ―――――いや、分かった上で目を背けてしまっているのだろうか とはいえそんなことを考える以前にこの状況は余りにも危機的だった。 相手は塀に近く、こちらが咄嗟に銃を構え、撃ったとしても避けられる可能性が高いだろう。 一撃目を外すと足を撃たれた自分が物陰に身を隠す前に確実に止めを刺される。 とするとこの状況を打開するには…… かな子には一つだけ当てがあった、それはあまり使いたくない最低かつ下劣な手段、 しかし他に妙案があるかと言えばある訳も無く、彼女は「それ」に賭けることにした。 「愛梨さん、実は私少し前からこの戦いに備えて訓練してたんです、ちひろさんの指示で」 「……やっぱりそうだったんだ、かな子ちゃんの動き、凄く様になってたから」 「ありがとうございます、だから私はアイドルの皆が最初に集められてた時も隣の教室で見てました」 「……かな子ちゃんは裏切り者だったんだね、皆を見捨てたんだ」 「私だって半信半疑だったんです、けどあの惨劇を見て私も覚悟を決めるしかなかった」 「そうなんだ、どうしてそんな話をするの?」 「……私は皆の目覚める前に貴女のプロデューサーさんと同じ部屋に待機していました」 「!?」 「少しだけ話したんです、まさかあの後あんなことになるなんて想像してませんでしたけど」 「っ、プロデューサーさんはどんな様子だったの!?教えて!」 「びっくりするくらい落ち着いてました、今思うともう覚悟してたんだと思います」 「……愛梨さんや楓さんのことを話してましたよ」
129 :午前0時のシンデレラ ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:06:05 ID:Jtl1M9to0 完全に彼女は動揺している、狙い通りこの状況を切り抜けられるかもしれない。 しかしかな子はここから先を話すのを少し躊躇っていた。 彼女がプロデューサーの言葉を自分の都合の良いように解釈しているのなら、 この事を聞かせると彼女は壊れてしまうかもしれない。 しかしかな子は迷っていられなかった、自分の大切な人を助けるために。 「何て言っていたの!?教えてかな子ちゃん!」 「……愛梨さんのプロデューサーさんは―――――」
130 :午前0時のシンデレラ ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:08:03 ID:Jtl1M9to0 かな子は愛梨が出てきたであろう民家で左足の応急処置をした、無視できるほどの浅い傷ではなかった。 幸い銃弾はかすっただけで終わったが、肉が僅かに抉れてしまっている。 もう少し痩せていたら当たらなかったのかな、と少し落ち込んだ。 「それにしても……愛梨さんがこっち側になってたとはなぁ……」 彼女が彼女のプロデューサーに恋心を抱いているのは勿論知っていた、 しかし彼の言葉の影響とは言え、彼女があっさりと殺す側に回るのは少々意外ではあった。 その理由は先程分かった通り、彼女はただ絶望から目を背けていただけなのだけれど。 そして彼女が彼女のプロデューサーの理不尽な死を自分が最初にこの殺し合いへの参加を拒絶したから、 ただそれだけが理由だったのだと考えていたのだったらとても気の毒な事だった。 私は余計な事まで話してしまったから、 彼女のプロデューサーは最初から――――― 「よしっ、応急処置終わりっ。けどこれからどうしようかなぁ……」 足を負傷してしまった為に移動が制限されてしまった、この状態で温泉を目指すのは困難だろう。 訓練を受けていたとは言え、先程撃った時の痛みを考えると激しい戦いは出来そうもない。 根本的な所から方針を練りなおさないといけない、この状況だと誰かと合流も視野に入れるべきなのだろうか。 「しかし、悪い事しちゃったな……もうどうしようも無いけど……」 全てを話した後の愛梨の顔はとても直視出来る物ではなかった、 手段が無かったとは言え、少し心が痛む。 しかし生き残る為には仕方のないことだった、そして狙い通りあの状況を切り抜けられた。 そもそもあの後背を向けた彼女に銃を向けておいて後悔も何もない。 自分にはまだプロデューサーが居る、ここで立ち止まる訳にはいかないのだから。
131 :午前0時のシンデレラ ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:08:53 ID:Jtl1M9to0 「あああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」 「いやあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
132 :午前0時のシンデレラ ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:10:04 ID:Jtl1M9to0 ―――――十時愛梨は走っていた、ただ泣きながら走っていた ―――――彼女は絶望していた、後悔の念に身悶えていた ―――――知らなければ目を背けたままでいられた、けど知らなければいけなかった ―――――プロデューサーが残した真実の想い、そして悲しすぎる事実 ―――――魔法が解けた今、彼女はどう変わっていくのだろうか ―――――シンデレラガールの物語は、まだまだ続く
133 :午前0時のシンデレラ ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:11:18 ID:Jtl1M9to0 【G-3・市街地/一日目 午前】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(7/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:恐慌状態につき、不明 ※完全にパニックを起こしており、南に向かった後海岸沿い(G-2)方面に走りだしています。 ※かな子が背を向けた彼女に撃った描写がありますが、負傷で標準が定まらず外しています。 【三村かな子】 【装備:US M16A2(24/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11 コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1) 医療品セット、エナジードリンクx5本】 【状態:左足を負傷】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。 1:足を負傷した事により全て白紙へ、所持品の対処次第では他のグループに合流の可能性有り。 ※愛梨達のプロデューサーと生前最後の会話をしています。 ※彼が最初から待機していた理由も知っています。
134 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 22:14:22 ID:Jtl1M9to0 以上で投下終了です。 実を言うとモバマスを本格的に知るようになってまだ数日なので 彼女たちの性格、呼称等で何か目につく点があれば ご指摘を頂き次第修正しようと思います。
135 : ◆John.ZZqWo :2013/01/28(月) 22:42:50 ID:UDbdOYF60 投下乙です。 性格や呼称などは特におかしいことはないと思います。話運びもおもしろいと思いました。 ですが、かな子の登場話で 私は“悪役”だから、自分が“悪役”だと他のアイドルに知られてはいけない。 きっとそれはちひろさんにも都合が悪いんだと思います。 もし誰かに話したり、(だまし討ちする程度にはかまわないけど)殺し合いの中で仲間を作ったらプロデューサーさんを殺すと脅されました。 とあるので、残念ながらこの話が根本的な部分で矛盾を抱え成立していないと言わざるをえず、その点を指摘しておきます。 この話を取り下げるか、もしくはどうにか修正するのかの判断は、氏本人か、もしくはスレ主の◆yX/9K6uV4E氏に委ねたいと思います。
136 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/01/28(月) 23:35:50 ID:Jtl1M9to0 ご指摘感謝致します、まずかな子の設定についてのご指摘ですが >私は“悪役”だから、自分が“悪役”だと他のアイドルに知られてはいけない この点に関しては、どうやら推敲の段階で失念していたらしく、実際は「それ」の部分でハッキリ話さず 上手く誤魔化しを入れる予定でした、しかし愛梨への揺さぶりに彼女のプロデューサーの話を持ちだしたのは ちひろに対する間接的な反逆行為とも取れ、かな子があのままだと確実に死んでいた状況だったとはいえ グレーゾーンではないかと個人的にも自信がないので、そこの判断は他の方に委ねます。 >もし誰かに話したり、(だまし討ちする程度にはかまわないけど)殺し合いの中で仲間を作ったらプロデューサーさんを殺す これに関しては現在負傷している、及び「ファイナルアンサー?」においてグループへの合流を示唆していたために問題無いと判断しました。 しかしそれだけではなく、先程確認したところどうやらかな子は愛梨に対してちゃん付けで呼んでるようなので いずれにせよ大幅な修正は不可避かと思われます、個人的に尺の都合でかなり投げっぱなしになっている部分も 多く、修正を許して頂けるか、それとも取り下げを選ぶかはスレ主様の判断にお任せします、スレ汚し失礼しました。
137 :名無しさん :2013/01/29(火) 00:39:58 ID:06Wdl4C.0 投下乙…… だけど、違う部分の指摘になるけど 殺意高くて戦力もあるかな子から、錯乱状態の子が逃げ切れる部分の説得力が乏しいかなあ 肝心なとこ描写しないで足の傷だけから各自補完して下さいって格好だし あと「修正するか取り下げるか判断願う」ってのは、悪意はないんだろうけど、言っちゃダメな、ある意味卑怯な申し出だと思うよ それで「修正しといで」って言わせたら、もし修正後がダメダメでもさらなるダメ出ししにくくなるじゃん 修正して待ってもらってでも通したい・通すことが先々のためになるんだ、って熱意も確信も感じられないし 取り下げになっても仕方ないって程度にしか思ってないなら、せめて自分の判断で取り下げなよ。スレ主に責任投げるんじゃなくて
138 : ◆yX/9K6uV4E :2013/01/29(火) 18:34:31 ID:LJ171pfU0 投下乙です。 緊張する一瞬の間、十時が聞いた言葉はなんだったんだろう。 先が気になる話でした。 ですが、既に指摘されている場所も含めて、話の根幹の部分で矛盾が生じていると思います。 大幅な修正になると、話そのものが大きく変わりそうな感じもしますし、申し訳ありませんが、今回は取り下げという形でお願いします。 またの機会、お待ちしております。
139 :名無しさん :2013/01/30(水) 22:22:19 ID:BWDMGXY60 まず書いてみる、そして投下して誰かに見てもらう その第一歩を踏み出すことは一番むずかしいことでもあります ですから、一度書ききり投下できたことは、必ずや氏にとって大きな意味を持つことかと 投下お疲れ様でした 既に指摘された通り、矛盾や読み込みの甘さもありますが、しかし、リレーしようとしているタイトルや、プロデューサーが生きているものと死んでいるものの差、 ともすればえげつない手を使いつつも、未だ人間味や、一週間だけのトレーニング故の完璧じゃなさが見れるかな子など、良い点もありました 性格や呼称にも違和感はなかったかと
140 : ◆ncfd/lUROU :2013/01/30(水) 23:47:35 ID:HwW8Mc5I0 予約延長します
141 : ◆yX/9K6uV4E :2013/01/31(木) 12:12:09 ID:/DWOX7VY0 予約延長します
142 : ◆n7eWlyBA4w :2013/02/01(金) 09:16:53 ID:F1Qv6BAAO 書き込んだつもりで忘れてた……自分も延長します
143 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/01(金) 17:17:19 ID:QvKsS6Ms0 遅くなりました、予約延長しますー
144 : ◆John.ZZqWo :2013/02/01(金) 20:29:40 ID:v/EGx./c0 この延長ラッシュ!? 私も延長しますw
145 :名無しさん :2013/02/01(金) 20:47:44 ID:zTyiQbVM0 これは…この土日物凄いことになりそう…w 超期待!
146 : ◆GOn9rNo1ts :2013/02/01(金) 22:58:21 ID:20UJlvig0 はじめまして。いつも皆さんのお話を楽しく読ませてもらっております。 五十嵐響子、緒方智絵里を予約させていただきます。
147 : ◆ltfNIi9/wg :2013/02/02(土) 03:42:53 ID:Yo3vR7Tw0 十時愛梨、三村かな子、予約します
148 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/02(土) 12:30:27 ID:3AysmL/c0 ごめんなさい今晩中に投下しますので、しばし猶予をください
149 : ◆ncfd/lUROU :2013/02/02(土) 13:10:30 ID:AMC9hIoQ0 申し訳ありません、私も猶予をいただきたいと思います 本日中には投下できますので
150 : ◆ncfd/lUROU :2013/02/02(土) 21:16:38 ID:AMC9hIoQ0 双葉杏、投下します
151 :寝ても悪夢、覚めても悪夢 ◆ncfd/lUROU :2013/02/02(土) 21:17:40 ID:AMC9hIoQ0 ピピ、ピピ。 聞こえてきた目覚ましのアラームに、双葉杏は気だるげに体を起こした。 窓からは陽光が差し込み、杏に朝が来たことを教えている。 アラームを止めようとして、自分の部屋には目覚まし時計なんてなかったことに杏は気付く。 『自然に目が覚めるまでぐっすりと眠らないのは睡眠に対する冒涜だよっ!』とはかつて杏がプロデューサーに熱弁した言葉だ。 大方、隣の家の人がアラームを消し忘れていったのだろう。杏はそう結論付け、再び布団に潜り込もうとした。 そこで携帯が鳴らなければ、杏はいつも通りに二度寝をしていただろう。もちろん遅刻してプロデューサーに怒られるまででがワンセットだ。 布団から動かず腕だけを伸ばして、携帯を手に取る。画面にはプロデューサーという文字。 杏は一つため息をつき、しぶしぶその電話に出ることにした。 ピピピ、ピピピ。 通話を終えて、杏は布団からもぞもぞと這い出した。譲歩案としてプロデューサーに迎えに来させることには成功したし、飴を一袋まるごとくれるとなっては働かないわけにもいかないのだ。 アラームはまだ鳴っていた。既に隣人は家を出てしまっているのだろう。 パジャマ代わりにしていた『だが断る!』と書かれたTシャツを脱ぎ捨てる。その小さな身体が外気に晒される。 小柄すぎてブラジャーなどというものとは無縁のその上半身に冷たい朝の空気が触れ、杏は思わず身震いをした。 身震いといってもある部分が揺れることはない。ちなみに、大事な所は陽光さんが遮ってくれている。 十七歳にあるまじき身体を見て杏は嘆息した。別に胸の無さを気にしているわけではない。パンツを見られても気にしない花も恥らう乙女座が、そんなことを気にするはずもない。 ただ、欲を言えばもう少し身長が欲しかった。もう少し体重が欲しかった。 そうすれば、きらりに抱きかかえられることも、プロデューサーに強制連行されることもないからだ。 その流れできらり並に大きくなった自分を想像して微妙な表情を浮かべながら、杏は仕事着に袖を通す。 『働いたら負け』と書かれたそのTシャツを仕事着にしているのは世界広しと言えども杏だけだろう。そう言う意味ではこのTシャツも立派な個性である。 ピピピピ、ピピピピ。 食事や歯磨き、仕事の準備などを粗方終えた杏は、何の気も無しにテレビを付けた。 何やら大きなドラゴンが悪魔と戦っている。最近流行りの携帯ゲームのCMだろう。見知らぬ女性にレアカードを貸し出すメガネの男は心が広いなぁと杏は思った。 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。プロデューサーだ。以前は杏に電話をかけてから慌てて家にきていたプロデューサーも、最近は慣れてきたのか杏の家に向かいながら電話をかけてくる。 パートナーとして仕事をしていくうちに培われた、杏が時間通りに起きるはずがないというプロデューサーからの熱い信頼の賜物だ。 はいはいー、とチャイムに答える杏の後ろで、テレビがCMからニュースへと切り替わる。 鞄とぬいぐるみを拾い上げる杏の耳に、ニュースキャスターの第一声が飛び込んできた。
152 :寝ても悪夢、覚めても悪夢 ◆ncfd/lUROU :2013/02/02(土) 21:18:38 ID:AMC9hIoQ0 『本日未明、●●県の民家にて、アイドルの城ヶ崎莉嘉さんの遺体が発見されました。死因は頭部を何者かに鈍器で殴られての失血死と見られ、警察は殺人事件の線で捜査を――』 ぬいぐるみが床に落ちる。聞こえてきた名前は、たしかに同じプロダクションに所属するアイドルのものだった。 振り返って画面を凝視しても、二度見しても、そこに踊る文字が変わることはなかった。 ピピピピピ、ピピピピピ。 アラームが、五月蝿い。今はそんな場合じゃないのに。知り合いが死んだっていうのに。 昨日莉嘉の顔を見たばかりだというのに。いつものようにカブトムシを捕まえて自慢していたのに。 そんな莉嘉が、死んだ。鈍器で何度も何度も殴られて。綺麗な金髪を血に染めて。 呆然とその場に立ち尽くす。さしもの杏も、身近な少女の訃報に何のショックも受けないわけはなかった。 ピピピピピピ、ピピピピピピ。 いつの間にか、隣にプロデューサーが立っていた。鍵を渡してあるのだから、家に入ってこれるのは当然だ。 だから、別にそれは驚くことではない。いつものことだから。けれども、杏は驚いた。プロデューサーがいたことに。プロデューサーが、”笑って”いたことに。 「プ、プロデューサー!?」 「おはよう、杏。ほら、仕事行くぞ」 そう言って杏の手を引き歩き出そうとするプロデューサーはいつも通りだ。 それが、怖い。莉嘉が死んだというニュースを、プロデューサーも見ているはずなのに。 「何言ってるのさ! 莉嘉が、莉嘉が!」 「知ってるさ。というより、杏も知ってただろう? だって……」 そこでプロデューサーは言葉を切って。表情を崩さないまま、言った。 「杏が殺したんだからさ」 ピピピピピピピ、ピピピピピピピ。 プロデューサーが何を言っているのか、杏には理解できなかった。 杏が殺した? 誰を? ……莉嘉を? 「……あはは、やだなぁプロデューサー。そんな冗談、おもしろくないよ?」 「冗談なんかじゃない。莉嘉を殴って殺したのは杏だよ。何度も何度も殴って、さ。 なあ杏。ニュースではただ殴られたとしか言ってなかったのに、どうしてお前は何度も何度もなんて思ったんだろうな?」 変わらぬ笑顔でプロデューサーが問いかけてくる。それに答えようとして、杏は答える術を持たないことに気がついた。 なぜなら、ニュースを見て、杏は自然とそう思ったからだ。自然とその光景が、莉嘉が何度も殴られる光景が、脳裏に浮かんだから。 何故なのか、なんてわからない。だって自然に浮かんだんだから。まるでそれを実際に見たかのように、自然に。 黙りこくる杏を見て、プロデューサーはさらに言葉を重ねた。 「それにさ、杏。人を殺して、しかも『寝て忘れよう』なんて、許されるわけがないんだよ。……ほら、莉嘉もそう言ってる」 そう言って、プロデューサーが何かを指差した。釣られてそっちを見てみると、そこにはテレビがあった。 その画面には、寝ている誰かが映しだされていた。いや、寝ているのではない。 倒れているのだ。金髪をところどころ赤く染めた少女が。 その少女が、ゆっくりと上体を起こし、杏の方を向いた。 血に濡れて、目を濁らせて、それでも杏を見据えて、少女は――城ヶ崎莉嘉は、口を開いた。 「許さないよ、杏っち」
153 :寝ても悪夢、覚めても悪夢 ◆ncfd/lUROU :2013/02/02(土) 21:19:26 ID:AMC9hIoQ0 ぽつりと、一言。普段の莉嘉からは想像もできない、ぞっとするほど冷たい声が、スピーカーを通して聞こえてきた。 そこで、テレビの画面は暗転した。テレビの音声が途絶え、アラームだけが部屋に響いていた。 その音は、初めよりも大きくなっていて。そこで杏は、ようやく気付く。 いつも通りのプロデューサーの、いつも通りじゃない部分。首元で輝く、金属質の光沢に。 「なぁ、杏――」 プロデューサーが、何かを言いかけた。言いかけて、爆音と閃光に遮られて、消えた。 後に残ったのは、崩れ落ちる首のない死体と、転がるプロデューサーの頭。 その頭がころころと転がって、杏の足にぶつかった。杏と頭の目があった。その顔は笑っていた。 アラームは、鳴り止んではいなかった。 ---------------------- ピピ、ピピ。 聞こえてきた目覚ましのアラームに、杏ははっと体を起こした。 窓からは陽光が差し込み、杏に朝が来たことを教えている。 嫌な夢だった。恐ろしい夢だった。いつもの杏なら、嫌な夢を見た後は寝直すのだが、そういう気分にもなれなかった。 人を殺したという罪悪感と、自身もプロデューサーも死ぬかもしれないという不安があんな夢を見させたのだろうと杏は結論付けた。 夢は夢でしかない。現実において杏がするべきこととは関係がない。生き残るためには、印税生活のためには、こんなところで死んでいられない。 そう考えていても、悪夢は悪夢だ。見せつけられたプロデューサーの死は、聞かされた莉嘉の怨嗟の声は、杏の頭に引っかかり続けていた。 アラームを止めて、ベッドから這い出る。這い出て、杏の動きが止まる。ギギギ、という効果音がしそうな動きと共に、杏はゆっくりと、おそるおそる目覚まし時計を見た。 杏は、血の気が引く音というものを初めて聞いた気がした。そして、思わず叫んだ。 「……寝過ごしたーっ!?」 目覚まし時計の短針と長針は、午前九時半を示していた。 【C-7/一日目 午前】 【双葉杏】 【装備:ネイルハンマー】 【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品(杏)x0-1、不明支給品(莉嘉)x1-2】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:印税生活のためにも死なない 1:寝過ごしたーっ!? ※放送を聴き逃しました。また、レイナ様のように情報端末で放送の内容を確認できることを覚えているかは不明です
154 :寝ても悪夢、覚めても悪夢 ◆ncfd/lUROU :2013/02/02(土) 21:19:46 ID:AMC9hIoQ0 以上で投下は終了です。 遅れて申し訳ございませんでした
155 :名無しさん :2013/02/02(土) 21:47:57 ID:AER4j1tQO 投下乙です。 杏の殺人は、それこそ二時間ドラマみたいなんですよね。
156 :名無しさん :2013/02/02(土) 22:31:38 ID:Yo3vR7Tw0 投下乙〜 どういう状況なんだろと訝しんだが、なるほど、夢か 心霊現象ってわけじゃないんだけどほのかにホラーチックでもあり怖かった 杏が感じている恐怖でもあるんだろうなー
157 :名無しさん :2013/02/03(日) 15:41:25 ID:k2LgHBE60 投下乙ですー 本人気にしないようにつとめてるけど、やっぱやってしまったものは残るよなあ
158 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:02:35 ID:KWdTzbII0 皆様投下乙です! >S(cream)ING! うわわわ……ガンガン堕ちていくなぁ…… ていうか声出なくなるとかアイドルとして致命傷じゃないですかやだー! 悲しい……拡声器使ったがゆえの結果だから心身ともにボロボロだなぁ これ合流できるのかな、できたとしてもひと悶着あるよなー…… >夢は夜に見ろ いずみんとタメを張れる考察回!流石大人の女性は格が違う! 彼女の考察の中に真相は隠れているのかね………。 ていうか空港向かっちゃうの!?ヤバい向こうの人達ピンチ! >彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン ホント一人だけ別ゲーやってるなぁ…… コミカルな感じがまったくロワだと言う事を感じさせないw それにしても、おそらくこれで第二回放送まで誰かと接触する事は無いんだよなぁ……ある意味ラスボスかもしれぬ >寝ても悪夢、覚めても悪夢 ホラーだこれー!? しかし寝過ごすとは安定の杏chang。しかしその深層心理にはマイナスな感情があるんだろうな…… ………ていうかこのままだと禁止エリアで爆発してしまうじゃん! 残り時間30分……果たして気づけるのか、そして逃げられるのか。 では、大分遅れてしまいましたが神崎蘭子、輿水幸子、星輝子、水本ゆかり投下します
159 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:04:39 ID:KWdTzbII0 観覧車は、ゆっくりと回る。 例え誰も乗っていなかったとしても。 ……例え、誰かが乗っていたとしても。 * * * 一番高い所…この遊園地を、島の遠くまで見渡せる場所まで上った。 日も昇り、状況が状況で無ければ、この絶景に素直に感動出来たのだろうか。 光に照らされながらも、中に居る少女――神崎蘭子はそんな事を考えていた。 「出口の見えぬ迷宮…(私は、どうしたら…)」 その言葉は取り繕っていても、本音は未だに迷っている。 彼女は友人が死んで、その友人を侮辱され、激昂して……逃げてきてしまった。 侮辱、と言っても侮辱した相手に悪気が無かった事は蘭子自身も理解している。 ただ…それでも、あの時感じた怒りを、悲しみを、絶望を止めることはできなかった。 ゴンドラは既に半周した。その間、神崎蘭子は何かを考えていたわけでは無い。 ただずっと、特に何かを考えることなく過ごしていた。 ただ、疲れた。思考を放棄して、ゆっくりと過ごしたかった。 考えてみれば、真夜中から始まって六時間も立っている。 睡眠時間は取れていない。その事実に気づいた時から、蘭子は眠気に襲われた。 ――ただ、この眠気に任せてしまっても良いかもしれない。 一瞬だけ、蘭子はそう思った。 (――駄目、こんな所で寝たら、きっと危ない……) 頬を思いっきりつねる。鈍い痛みが彼女を襲う。 その痛みが彼女を現実へと引き戻す。 ……この辛く悲しい、絶望的な現実へ。 「………」 涙が頬を伝う。 今井加奈は死んだ。蘭子の数少ない理解者で、輝く笑顔を持っていた今井加奈は死んだ。 それはもはや変えようのない事実だ。今井加奈を信じているからこそ、それが事実だということが重くのしかかる。 あの時、一緒に居た人――輿水幸子は誰でも無い蘭子自身の為に、傷つけない為にあんな嘘を付いたのだ。 全てが嘘だという、嘘を。 だが、蘭子はその優しさを払い除けて、それなのに結局逃げて来てしまった。 現実を自らの手で受け入れたのなら、それに正面から向き合わなければいけないはずなのに。 それなのに、逃げてしまっては結局無駄だ。全てが振り出しに戻ってしまう。 「………愚者の、帰還(………戻らないと)」 だから、逃げてはいけない。どれだけ辛くとも、自ら理解した以上は向き合わなくてはならない。 何をすれば良いのかは分からない。今井加奈の死にどう向き合えば良いのかわからない。 ただ一つだけ、どうしてもしなければいけない事があるのはわかった。 「我が名を以て、再契約を……(幸子ちゃんに、謝らないと……)」 優しさで嘘を付いた輿水幸子に悪気は無い。蘭子を思っての行為に蘭子は怒ってしまった。 ここで仲違いしている場合じゃない。だから蘭子は、幸子に謝らなければならない。 そして、また三人で一緒に。 (一緒に…反抗の道を探そう) 涙を拭いて、顔を上げる。 その決意はあまりにも脆く、具体的なものは何も無い決意であったが、 それでも、ほんの少しだけでも自分の行く道を示す事に意味があった。 一人では分からない事なら、三人で考えれば良い。 外の光景に目を向ける。 太陽の光が差し、この島全体を照らている。 先程に比べればゴンドラの高さは大分落ちてはいるが、それでもこの島の遠くまで見渡せる。 「煩わしい太陽ね……」 ぽつりと一言、ただ呟いた。 * * *
160 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:07:05 ID:KWdTzbII0 「こ、ここら辺に、いるみたい……」 「…………」 気弱そうな少女は携帯端末を見ながら、そう呟く。 その携帯端末は彼女の物では無く、またそれに付き添う少女の方でもない。 それは二人から逃げ出した少女、神崎蘭子の物であった。 星輝子と輿水幸子。彼女達は蘭子を探す為、この遊園地を探索していた。 それはつい先程の事、意思の食い違いが二人を絶ってしまったのだ。 幸子もまた、蘭子に言ってしまった事への後悔の念があった。 「ねぇ、幸子……大丈夫?」 「えっ……な、何がですか!? カワイイボクに大丈夫じゃない事なんてあるわけないじゃないですか!」 幸子はそう取り繕う。 いつもの様に強気な態度で返答するものの、その表情は芳しくない。 (幸子…………) そして、その事は輝子にも伝わっていた。 この『イベント』が始まってから既に六時間。短いようで、とても長い時間。 最初に恐怖を感じ、合流の安心を感じ、そして再度くる恐怖と、絶望に揺さぶられた時間。 輝子もそうだが、それ以上に幸子は疲れている筈だ。 「………ボクだって、やらないといけない事ぐらい分かりますよ」 「えっ?」 「殺し合いに乗らないで生き残る為にも、こんなところで手間取っている暇は無いんです。 また三人で、これからの方針を決めないといけないんですから! だからその為にも…早く蘭子さんを探し出しますよ!輝子さん、反応はここら辺にあるんですね?」 「……う、うん」 しかし、それでも幸子はその弱さを見せる事はない。 彼女の内心は確かに恐怖し疲労している。 それでも彼女は、現実を実感しても尚、そのスタンスを崩さない。 幸子は、アイドル『輿水幸子』として戻る。その為にも、彼女はいつもの様に強気な態度を取る。 反抗する為に、もう一度あの舞台に立つために、弱さを隠して振舞っていた。 しかし、彼女はまだ気づいていない。 まだ、『ぬるま湯』の中から抜け出せていないことを。 まだ、淡い希望を捨てきれていない事を。 現実を、未だに完全に理解していない事を。 「………っ! 幸子、人が……!」 「えっ…!?」 その時、向こう側から人が歩んできた。 この場所に居る人というのはつまり、このイベントの参加者。 十分警戒の対象になり得るものと、思わず身構える。 「……輿水、幸子さん」 「あ……なんだ、ゆかりさんでしたか」 だがその姿を見た途端に、その警戒は薄れた。 水本ゆかり。彼女の事を幸子はある程度知っている。 純粋奏者として、清純令嬢として人気を博したアイドル。 ……何故彼女がウェディング風のドレスを着ているのか分からなかったが、 彼女の普段の人格を知っていた幸子にとって、彼女が殺し合いに乗るとはとても思えなかった。 その印象が幸子に安心感を与え、気を許す。 「さ、幸子……」 「大丈夫ですよ、輝子さん。ゆかりさんは殺し合いに乗るような人じゃないです」 幸子は自分の後ろに隠れる輝子を諭す。 目の前の少女はとても落ち着いている様に見え、その姿が普段と同じだと感じていた。 確証は無いが、殺し合いに乗ってはいなさそうだと結論を下した。 話が通じるのならまずは聞きたいことがあると、幸子は問う。
161 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:12:03 ID:KWdTzbII0 「丁度良かったです、ゆかりさん。ここら辺で神崎蘭子さんを見ませんでしたか? ゴスロリファッションに身を包んだ人なんですけど、先程はぐれてしまって……」 「……ええ、見ましたよ」 「ほ、本当!?」 想定外の頼りになる言葉に、質問した幸子よりも先に輝子が反応した。 実際、幸子もまさかこうもあっさり返答されるとは思っていなかった。 「というより、今も見えてますよ。ほら、あの観覧車……」 「え?………うわ、居ましたよ」 上を見上げてみれば、観覧車のゴンドラの一つに人が乗っていた。 光に反射して銀髪が揺れる。遠目でも目立つ姿をしたアイドルは現時点で一人しか知らない。 「……なんで、観覧車なんかに乗っているんですか……」 その姿を見て、幸子は真っ先にそう思った。 ここが殺し合いの場だと言う事は理解している筈だ。それなのに何故あんなところに居るのか。 (……元はといえばボクのせい、なんですかね) いわば彼女に、現実を認識させたのは、ひとえに輿水幸子の言葉が原因だ。 それも、最悪の方法で、幸子が逃げ場を塞いでしまったのだ。 元々彼女は深い哀しみに包まれていた筈だ。それを無理矢理引き裂いてしまって、その先のフォローは何も無い。 考えてみれば、そんな彼女が逃げる事を責める事など、今の幸子にできるはずがない。 「私もそう思います」 「………はい?」 「何故観覧車になんて乗っているのか……。理解に苦しみますね」 「あ……まぁ、確かにそうですね」 その時、唐突にゆかりが口を開く。 その言葉の意味を幸子は一瞬理解するのが遅れたが、それがつい先程自分が言った事に対する返答だと気づいた。 その冷静な言葉に意外な印象を受けたが、それがある意味頼りになりそうでもあった。 「ええ、観覧車なんて出入り口が一つしかない物に乗るだなんて……自殺行為としか思えません」 「……そ、そこまで言いますか」 「言わざるをえませんよ……もしそのたった一つの出入り口に殺し合う人が居たなら、袋の鼠です」 だが、何か様子がおかしい。 冷静に語る彼女の目には何か違和感があった。 それを言葉で説明することはできなかったが、一瞬でも感じた違和感はそのまま膨れ上がっていった。 「ゆ……ゆかり、さん?」 「そう、例えば………」 もしかして、とんでもない勘違いをしていたんじゃないのか。 そう思ったときには既に遅かった。 「………私みたいに、ね」 刀が、振り下ろされる。 「い…………っ!」 咄嗟に後ろに下がる。 しかし完全には避けきれず、体に赤い線が刻まれた。 「幸子っ!」 輝子が叫ぶ。 幸子の体から血が滴り、地面を点々と赤く染めてゆく。 それが、彼女に凶刃が襲いかかったという事実を証明していた。 「……避けられてしまいましたか。 さすがに、アイドルなだけはありますね」 先端から血が滴る刀を振るい、ゆかりは淡々と呟く。 その姿は先程までとあまり変わりは無い。冷静さも、その余裕を持った笑みも崩してはいない。 それはつまり、今のが何かの間違いでも何でもなく、彼女が意図して行ったという事だった。 「そんな……どうして……!」 「どうして、ですか………。同じ様な質問ばかりで嫌気がさしますね」 そう溜め息をつく。 同じ様な質問……と言っても、幸子達には心当たりは無い。 一体それがいつの事なのか。その質問は誰が言ったのか。 ……その質問の答えは分かっていた。 彼女は幸子達と会う以前に、誰か別の人と会っていたのだ。 そして、おそらく彼女は――― 「他の人を殺さないと生き残れないのなら、殺してでも生き残るしか無いでしょう? ファンの為に、プロデューサーさんの為に……私が、アイドルである為に」
162 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:13:47 ID:KWdTzbII0 そう語る少女はただ淡々と、冷静に言葉を連ねて行く。 その姿は正に狂気。この場所において彼女は分かりやすく狂っていた。 ――おそらく彼女は、既に人を殺している。 きっと彼女が純白のドレス風の衣装に包まれているのは、元の服が返り血で汚れた為だ。 その確証は無い。しかし彼女の気迫はそれを想像させることに難くなかった。 「ですから……貴方達はここで死んでください」 「ひっ………!」 再び刀を構える。 その姿はとても素人とは思えない、様になったものだった。 彼女は最初の六時間で『レッスン』を積んでいる。生き残る為に、勝ち残る為に努力を怠っていない。 ただ逃げて、励ましあっていただけの少女達とは違う。彼女は『プロ』だった。 「い、嫌………っ!」 幸子はもたつきながらも、背を向け逃げ出そうとする。 出だしこそ遅れたものの、その後のスピードは流石にアイドルと言うべきか、中々に早かった。 「あっ…!」 その後を追いかける輝子。 彼女は運動神経が良い方とは言えない。しかし、死への恐怖が普段以上に体を動かした。 「……ここで逃がすと思いますか……っ!?」 その後を追いかけて、刀を振り下ろそうとする。 しかし彼女の視界入ったに、ある黒い物が彼女の動きを止めた。 それは、拳銃。輿水幸子が持っていた、グロッグ26の銃口が向けられていた。 「この………っ!」 パン、と乾いた音が響く。ゆかりはその音に思わず体を逸らす。 しかし、その後彼女に痛みが襲う事は無かった。 銃弾はあらぬ方向へ飛んでいき、虚空へと消えていった。 それでも、その銃声には意味はあった。ゆかりが視線を戻した時には、二人はかなり距離を離していた。 「くっ……逃しません!………っと」 それを追いかけようとして、しかしその足を止める。 彼女は少し考える様に首を捻り、その後空を見上げた。 その目線の先にあるのは、ゆっくりと回る観覧車。 彼女はその内の一つあるゴンドラに目を付けて、 「その前に、先にあちらからの方がより確実ですね。 ……少し、順序を焦ってしまったみたいです」 その黒き天使に、狙いを定めた。 * * * 「はぁ……はぁ……追って、こない……?」 息切れしながら後ろを振り返る。 そこには後ろから遅れてついて来た星輝子以外、動く物は無い。 撒いた、のだろうか。幸子は地面に腰をおろして息を吐く。 胸からは血が滲み出る。薄い切り傷であり、命に別状はなさそうだった。 「はぁっ……まさか、ゆかりさんが……」 刀を構え襲ってくる水本ゆかりの姿がフラッシュバックされ、思わず目を塞ぐ。 元々幸子とゆかりは仲が良い…というわけでは無い。そもそも話した事すらあまりない。 しかし、あの凛として芯のしっかりとした女性が、こんな殺し合いに参加する事がとても意外だった。 (………………) 違う。芯がしっかりしているからこそ、彼女は殺し合いに乗っているのだ。 狂っている…と先程は思ったが、それは語弊があるかもしれない。 彼女は狂ってなどいない。彼女は彼女であるまま、この殺し合いに参加している。 アイドルとして戻る為に、一切の躊躇無く、一切の迷い無く自分を信じて殺し合いに乗っているのだ。 二回目にしてより具体的な死への恐怖が、彼女の更なる恐怖を呼び起こす。 体が無意識に震えている。だがとりあえず今は命を拾った。 その事にとりあえず一安心し、心を落ち着かせる。 しかしその時、後ろの少女の様子がおかしい事に気づいた。
163 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:16:07 ID:KWdTzbII0 「……輝子さん?どうかしたんですか?」 おどおどと、幸子の顔を伺っている。 いや、その仕草自体は最初からよくしていたことなのだが、それにしたって何か様子がおかしい。 言葉を投げかけて、それでも遠慮するように俯き、やがて呟きだした。 「幸子…逃げてきて、よ、良かったの……?」 何故か不安そうな顔でこちらを見る輝子。 幸子は一瞬だけ、その質問の意味が分からなかった。 「逃げてきて良かったの……って、何を言っているんですか!? あそこで逃げなかったら、ボク達は今頃……!」 そう、もしあそこで逃げていなかったら今頃はあの刀の餌食になっていたことだろう。 抵抗しようにも、躊躇無く刀を振るう彼女に抵抗できるとは思わなかった。 何も間違っている事は無い。生き残る為に、最善の選択をした筈だ。 ……それなのに、何故だろうか。 何か、大事な事に目を逸らしているような気がするのは。 今までみたいに、見なければならない現実から逃げている気がするのは。 「違う…そ、そうじゃなくて……!」 その正体は、薄々感づいている。 自分が取り返しのつかない事をしたのでは無いか、と。実感してきている。 確かに、あれは生き残る為に最善の行動だった筈だ。なら何故後悔の念の様なものが、焦りが生まれているのか。 その理由は一つしかない。それは自らの命とは無関係の話、また別の何かがあるのだ。 そう、自分の保身に必死で記憶の隅へ追いやった、彼女の存在を。 「蘭子、が……」 その言葉を聞いた瞬間に、全てが止まったような錯覚に陥った。 ……あの場所にはもう一人、仲間が居た筈だ。 その人を探して、謝って、またもう一度やり直そうとした筈なのに。 それを放り捨ててただ逃げて来てしまった。 水本ゆかりは殺し合いに乗っている。それも生半端な気持ちでは無く、一切の躊躇も無い。 そんな彼女が追ってこないという事は、別のアイドルに標的を定めた可能性が高い。 ……もしもこの推測が当たって居るとすれば、狙われているアイドルというのは十中八九…… 「あ…………」 「……ねぇ、幸子……も、戻ろう。早く戻らないと、蘭子が…こ、殺される」 「……………」 観覧車に乗る蘭子には逃げ場は無い。 このままでは、彼女はあの少女によってあっさりと殺されてしまうだろう。 彼女が乗っているゴンドラが下に降りてくるまでに、戻って何としてもその凶行を止めなくてはならない。 その為の武器はある。手に持つ拳銃を使えば、少なくとも動きを止めたりする事は出来る筈。 ……最悪の場合は、水本ゆかりを殺せば、蘭子は助かる。 今からもう一度戻って、蘭子を助ける為に銃を向ける。 そうすれば、少なくとも助けられる見込みはある。今からならまだ間に合う筈。 (………………ボクは) しかし、それでも、幸子の足は動かなかった。 ――――何故? 「い、嫌です」 ぼそりと、ただ呟いた。
164 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:17:21 ID:KWdTzbII0 その言葉は他の物音が聞こえない施設の中で、小さくともしっかりと響いた。 そして、一度漏れた『弱音』は止まる事は無い。 「幸子……?」 「ぼ、ボクはっ!こんなところで死にたくなんてありません! またあそこに戻ったらっ、今度こそ殺されてしまうかもしれないんですよ!? 確かに、蘭子さんを見殺しにする…なんてっ、酷いかもしれませんけど…! でもっ、ボクの命の方がっ、大事です!死にたく…ない……っ!」 目から大粒の涙がこぼれ、思いの丈を吐き出していく。 このイベントが始まってから、認めずに目を逸らし続けた現実。 それを精神が認め、そして肉体的にも実感された。 そして逃げ場の無くなったネガティブな感情は、唯一のはけ口から止めどなく溢れる。 「そうだ…あなたは傷を負っていないからそう言えるんですよ…! ボクは、あの時死にかけた……あなたとは違うんですよっ!」 「ひっ!?」 声を荒げて主張する。その勢いに思わず輝子は短い悲鳴をあげる。 彼女の主張はあまりにも醜いものだ。とてもアイドルとして褒められたものではない。 しかし、だからといって生きようとする事の何が罪になろうか。誰が責める事ができようか。 少なくとも、輝子にそれ責める事はできない。 彼女もまた足がすくんでいた。それは怒鳴られたから…ではない。 もしも何が何でも助けたいと願うのならば、一人でも向かうべきなのだ。 しかし彼女が動けないと言う事は、彼女自身も恐怖しているからだ。目の前まで迫っていた死への恐怖に。 そんな彼女に目の前で怯える少女を責める権利は、ない。 「………あ」 そしてただ涙目で震える少女を目の前にして、幸子の体は迫力を無くしていった。 「……ごめんなさい……でも、ボクは…怖くて……もう、嫌……!」 そして、彼女はとうとう地に伏せすすり泣いてしまった。 彼女を支えていた物は全てこの場には無く、無防備な彼女を狙う者たちはあまりにも多い。 そんな世界に、もう耐えられない。しかし逃避できる手段ももはや無い。 絶望的な悪夢は尚その恐ろしさを増し、未だ続いていく。 もはや抵抗も逃避も出来ずに彼女はただ、絶望に震えてうずくまるだけだった。 * * * 観覧車はゆっくりと回る。 例え誰も乗っていなかったとしても。 ……例え、誰かが乗っていたとしても。 (――――……………)
165 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:18:45 ID:KWdTzbII0 数多くあるゴンドラのうちの一室。そこは血生臭く、凄惨な場所になっていた。 その中でただ一人、血に塗れ横たわる少女がいた。 現実を直視出来ずに逃げ続け、覚悟を決めた矢先に襲いかかる凶刃。 逃げ場の無い一室で彼女はあっさりと追い込まれ、そして――― (…………あ………) 彼女は、即死ではなかった。 しかしその傷は確実に致命傷である。もう助からず、ただ死を待つだけなのは変わらない。 その事実は彼女に襲いかかった少女、水本ゆかりも知っていたから、それ以上の追撃はしなかった。 観覧車が一周する頃には間違いなく死んでいる。そんな相手にこれ以上構っている暇は無かったのだ。 『死にゆく中で、自分自身の愚かさを後悔しながら逝きなさい』 離れていく地上に居た人物からかけられた最期の言葉。だがその言葉は蘭子には届いていなかった。 (………ここ………ど、こ……) 彼女は現実を知らない。 もう手遅れであるという事を、彼女自身は理解できていない。 残り少ない力を振り絞り、ただ前へと手を伸ばす。 ゴンドラは狭く、出口までの距離はほぼ無いに等しい。 加えて、扉は閉まっておらず、目の前には外への光景が広がっていた。 (……早く……向かわないと………) ゴンドラの端に手を掛けて、体を這って進む。 その姿は酷く惨めで、とても『アイドル』だった人物とは思えない。 でも…それでも、彼女は前へ進む事を止める事は無い。 (……幸子…さんの……所、に………) ただ、後悔していた。 観覧車へ逃げ込んだ愚かさに対してでは無い。 ただ、酷い事をしてしまったと、もう一度謝りたいと。 その後悔の念が彼女の中を圧迫して、ただ突き動かす。 後悔を晴らす為に…あるいは償う為に、決して進むことをやめなかった。 (私……謝って………) だが、もう全てが遅かった。 扉から見えた光景は、全てを一望できる『あの』光景。 彼女の意識が朦朧としていた間に、観覧車はずっと動き続けていた。 もう感じることは無かったが、高所からの風がゴンドラの中に吹き荒れていた。 (もう、一度…………――――) その光景を見た瞬間に、彼女の体を支えていた力は全て失われて―― ――――堕ちていった。 * * *
166 :私はアイドル ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:20:20 ID:KWdTzbII0 「…………?」 遊園地を歩く水本ゆかりの耳に、音が響いた。 しかしそれは銃声のような乾いた音ではなく、もっと生々しい衝撃音。 一体何が起こったのかと、後ろを振り返る。 ふと空を見上げてみると、観覧車のゴンドラの一つが大きく揺れていた。 そのゴンドラは遠くから見ても分かる程赤く染まっており、さらにドアが開きっぱなしになっていた。 その光景は、傍から見れば明らかに異常だと思うだろう。 しかし、それを見てもゆかりは動じる事は無い。……なぜならば、その元凶こそが彼女自身だからだ。 (あぁ……成程。蘭子さん、落ちたんですね………) そのドアの開いたゴンドラを見て、先程の音の正体が分かったような気がした。 確証は無い。あくまで推測であり、万が一何か別の何かの音かもしれない。 しかし、それをわざわざ確認にしに行くつもりはなかった。 もしもその予想が当たっていると思うと、気が引けた。 (きっと、無残な事になってるでしょうし……それに、まだ私にはやる事がある) そう思い、あっさりと踵を返す。 彼女が次に狙いを定めるのは、先程逃した二人のアイドル。 錯乱した状態の彼女達はそう遠くまで行かないだろう…と、そう踏んでいた。 おそらく、まだこの遊園地に居るはずだろう。 殺せる段階で殺せなかったのは手痛いミスだった。少し行動が早かったかもしれない。 とはいえ、未だ致命傷ではない。失敗からは学べば良い。それもまた一つの『レッスン』だ。 そしてその『レッスン』の締めに、逃した少女達を殺す。そうして彼女はまた一つ成長出来る。 「彼女達は『弱い』……生き残るには、不相応です。 私がアイドルとして生き残る為にも……不相応なあの人達には、ここで終わってもらいましょう」 彼女は歩き続ける。 自らを血で濡らしながら、アイドルであるために。 ただ唯一、アイドルであるために殺し合いを続ける少女の目に迷いはなく、 そして、ただ狂う事も無かった。 【神崎蘭子 死亡】 【F-4 遊園地・観覧車/一日目 朝】 【水本ゆかり】 【装備:マチェット、白鞘の刀、純白のドレス】 【所持品:基本支給品一式×2、シカゴタイプライター(43/50)、予備マガジンx4、コルトガバメント+サプレッサー(6/7)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助ける。アイドルとして優勝する 1:輿水幸子と星輝子を探し出し、殺害する。 【F-4 遊園地/一日目 朝】 【輿水幸子】 【装備:グロック26(15/15)】 【所持品:基本支給品一式×1、スタミナドリンク(9本)】 【状態:胸から腹にかけて浅い切傷】 【思考・行動】 基本方針:こんな所で死にたくない 1:殺し合いなんて…… 2:蘭子に対する後悔の念 【星輝子】 【装備:ツキヨタケon鉢植え、携帯電話、神崎蘭子の情報端末】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0〜1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:友達を助けたい。どうすればいいのかは分からない。 1:蘭子を助けに行きたいけど…… 2:雪美が死んじゃった…… 3:ネネさんからの連絡を待つ ※神崎蘭子の支給品は観覧車のゴンドラに放置されてあります。 また、神崎蘭子の死体は観覧車下に落ちました。原型を保っていません。
167 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/03(日) 21:22:05 ID:KWdTzbII0 投下終了しました。 あと、取り下げになったお話の作者さんも駆け引きや葛藤等、引き込まれるものが多くて素敵でした。 また機会があれば是非!
168 :名無しさん :2013/02/03(日) 21:50:27 ID:yre77La60 投下お疲れ様でした 衝撃的な展開もなのですが、何よりも、「煩わしい太陽ね……」の使い方がうまいなあっと 所謂熊本弁なだけじゃなくて、素の本音ともとれる素敵な一文でした
169 :名無しさん :2013/02/03(日) 22:07:55 ID:4d6M412.0 戯曲を紡ぎし者よ、闇に飲まれよ! ああ、Vollkommenheit! 血塗られた花嫁の手により天使を自負せし者と菌糸類は混迷へと誘われ、堕天使は翅をもがれて地へと墜つ。 審判は下り、されど暴威は未だ止まず。楽園は地獄と変わるか否か、次なる戯曲に委ねられん。
170 :名無しさん :2013/02/03(日) 22:18:16 ID:3m18pgZw0 闇に飲まれよ!(投下乙です!!) 散りゆく華は冥界を誘う。(とうとう遊園地組から死者が出てしまったかあ……) ハデスの目覚めは今ここに。(それにまだまだ惨劇が生まれそうだしなあ、とときんもやってきそうだし) 夢に生きた少女たちもまた、目覚めの刻が足音を刻む。(幸子もとうとう、殺し合いに直面して、実際に殺されそうになっちゃたし) 花嫁が詠うは翼もぎ取る鎮魂歌。(ゆかりも本当容赦ない) 笑顔を咲かし、命を散らす。(これでいて笑顔でいなければならない、とか言っちゃうこの。) 彼岸花の繚乱に神々の目が眩む(生生しい蘭子の最後が軽くトラウマだった……) 堕落する天使に悲哀の唄を。(文字通り、最期は墜落してった蘭子にご苦労様の一言を) [自称]と囁くは天使か悪魔か。(恐怖心に負けてしまった幸子とかどうなってしまうんだろうなあ、楽しみだ) 揺れる胞子もまた、神々もを仰ぐ(ここで、頑張れるかなー、輝子ちゃんは) 蘭子ちゃんの最期と言うことで熊本弁の感想をば! と思ったら先を越されてしった>< これから先どうなるんだこれ!? とかさっきも言ったけど蘭子ちゃんの最期の生々しさとか、 いろんな魅力が詰まった一作でした、最後にもう一度、闇に飲まれよ!!(投下乙でした!!)
171 :名無しさん :2013/02/03(日) 22:32:16 ID:Kntuvp7Y0 闇に飲まれよ! 冥府に裁かれし堕天使に鎮魂歌を。 血染の花嫁に神々の抱擁を。 神威の自縛に囚われし双輪の花に、やがて訪れるであろう天使の白き翼を。
172 : ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:09:41 ID:YVH6HMSo0 皆さん投下乙です! >寝ても悪夢、覚めても悪夢 プロデューサーさん!ホラーですよホラー! と思ったら杏ちゃーん!寝坊だー!? 携帯端末のおかげで禁止エリアの場所は分かるとは言え、これは手痛いミスだなあ >私はアイドル 分かってた、分かってたけどやっぱり…orz 蘭子ちゃんの死に様は太陽つながりでイカロス思い出して鬱になる… 煩わしい太陽ね、のセリフが後々の展開読むと効いてくるなあ では、私も投下します
173 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:10:56 ID:YVH6HMSo0 はあ、はあと。荒い息遣いは、どちらの物だっただろう。 ごくりと唾を飲み込んだのは、どちらの方だっただろう。 頬を赤く白く染め上げたのは、どちらの側だっただろう。 ただ一つだけ、分かるのは。 負けたのは、私だということ。 ――――死ぬ。 ひんやりとした病院の床。 ズキズキ痛む背中とお尻。 頭を打たなかっただけ良かった、と。 未だ現実を受け入れていない頭のどこかが呑気に呟いている。 ――――どうしてこうなっちゃったんだろう。 地図に示された病院という施設ならば目立つから『あの子』がいるかもと思ったからだろうか。 焦りを隠せぬまま、不用心に足音を潜ませ切らなかったからだろうか。 銃という強力なアドバンテージを持っているから自分は狩人の側だと思っていたからだろうか。 遠距離から近距離までが自分の距離だと、勝手に思い込んではいなかっただろうか。 ――――至近距離からってのは予想外だよ。 今、倒れこんだ私に馬乗りになっている彼女は、丁度曲がり角のところで音をたてぬよう獲物を待ち受けていたのだろう。 もう少し耳をそばだてていれば、コツコツと響く私の足音に隠れるようにして小さな息遣いが聞こえていたかもしれない。 結果として私はそれに気づかぬまま、角を曲がったところで体当たりを食らい、無様な状況に陥っているわけだが。 映画に出てくるようなプロの殺し屋じゃないんだから、人影に気付いて0.1秒での早撃ちなんて望むべくもなく。 わけがわからないうちにタックルで押し倒され、アイスピックを突き付けられて。 ――――絶体絶命ってやつですか。 かろうじて武器である銃は手放していない。 安全装置を外し、狙いを定め、引き金を引けば。 その弾丸は躊躇なく敵の胸を貫き、頭を撃ち抜き、命を奪う。 だけど今回に限って言えば、その三行程をこなす前に私は目の前――正しく瞳の十数センチ手前にある切っ先の餌食になるだろう。 ――――でも、まだ、終わりじゃない。 この状態からどのくらい経ったのか、全然分からなかった。 もう一分は経っているよ、と言われれば納得できるし、まだ数秒も経っていないよと言われても、驚きつつも「これが極限状態での人間の力ってやつですか」と納得してしまいそう。 どっちにせよ、このままの状態から何もせずに状況が好転する可能性は万に一つもない。 だけど、まだ私は生きている。鋭い針が一瞬後に私を仕留めることになろうとも「今は」まだ生きている。 これは僥倖だった。何も分からないまま死ぬよりも、百倍マシな状況だ。 ならば、せめてもの抵抗を行うのが最善手であるだろう。 暴れれば、狙いは定めにくくなるだろうから仮に顔面を刺されても致命傷となる傷は避けられるかもしれない。
174 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:11:30 ID:YVH6HMSo0 ――――アイドルは顔が命、なんていってられないよね。 覚悟は決まった。後は実行に移すだけ。 足掻け。 愛する彼のために。 動け。 生き残るために。 …………あれっ? 動けなかった。 相手の武器を振り払うはずの腕が、彼の大好きな鍋物にいつも入れている糸こんにゃくのようにふにゃふにゃになっている。 相手の背中を蹴り上げるはずの脚が、立て付けの悪くなった網戸のようにギシギシと軋んだまま止まってしまっている。 相手の身体をどかすための腰が、お腹が、全身の筋肉が、一斉に「実家に帰らせていただきます」したみたい。 おかしいな。 ――――腕が、ブルブルと。 おかしいな。 ――――足が、ガクガクと。 おかしいな。 ――――身体が芯から、震えていて。 ああ、 そうか。 わたし、 こわいんだ。
175 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:12:01 ID:YVH6HMSo0 自覚した途端に、ソレは全身から、髪の毛の先から心臓の奥の奥まで、私の心に一斉に襲い掛かってきて。 ガチガチ、ガチガチと。歯が噛み合わなかった。 目頭が熱くなる。世界が霞んで、ぼやけて、上から下へと一筋に涙が流れていく。 声がかすれて、情けない悲鳴未満の音を喉が絞り出していく。 ――――ナターリアを殺しに行かないといけないのに。 頭に浮かんだ私の目的も、今は場違いな現実逃避でしかなくて。 そんな現実逃避も、永遠に続くような死の恐怖から私を遠ざけてくれるわけではなくて。 終わらない恐怖は、私の持つ自信を、活力を、希望を、ギリギリと搾り取っていくようだった。 自信があった。彼を一番愛しているというという自信が。 彼のためならば、それこそ人殺しもいとわないという活力があった。 恋する乙女は無敵なのだと。絶望的な状況の中でも皆殺しという希望を持って良いのだと。二人のアイドルを見事に殺してみせたことで証明したつもりだった。 私は気付いておくべきだった。 人は簡単に死んでしまう生き物で、私もそうなのだと。 昨日までアイドルをしていた私が、簡単に死という恐怖から逃れられるわけがないのだと。 殺す側の覚悟はちひろさんのおかげでばっちりと決まっても。 殺される側になるということに対して、私はあまりに、それこそ意識的に、考えていなかったということに。 おかしいよね。 さっき千夏さんに銃を向けられた時の方が、客観的に見れば危ない状況だったというのに。 銃という、現代日本ではまずお目にかかれない「人を殺す道具」の脅威にさらされていたというのに。 ものすごいスピードで迫りくる銃弾は、私がそれこそ漫画のキャラクターでもないと避けられない。 当たり所が悪ければ即死。そうでなくとも手足に受けてしまえば、お医者さんなんていないこの島じゃ絶望的だ。 それでも私は、冷静に彼女と話を出来ていたような気がする。 それに比べれば、まだ今の方が。 探せばどこかのホームセンターで見つかりそうなアイスピックを突き付けられている、今の方が。 どう考えても現実的で、まだどうしようもありそうな状況だというのに。 今回の方が、死を近くに感じている。それこそ動けなくなってしまうほどに。 そのギャップはさながら、光り輝くステージから、ドジを踏んで雰囲気の悪くなった楽屋に引き戻された気分。 嘘のような、悪夢のような、愛を試される舞台の上で孤軍奮闘するヒロインチックなアイドルから。 味気なく、色あせた灰色の現実で、今にも殺されそうになっている一人の女の子に戻ってしまったよう。 だって、仕方ないじゃないか。 焼けるよう、と形容される拳銃で撃たれた時の痛みよりも、全然。 お裁縫で針を誤って指にプスっと刺してしまった時の痛みの方が。 あの鋭利な切っ先で肉を抉り取られる時の痛みの方が。 分かってしまう。理解できてしまう、想像できてしまう。 分かるというのは、こわい。 理解できるというのは、おそろしい。 時間が経てば経つほど想像が膨らんでしまって、どうしようもなくなってしまう。 先端恐怖症の人の気持ちが、今だけならほんのちょっと分かるような気がする。 アイスピックという名の現実の仮面をかぶった死神が、私を木偶の坊に変えてしまっていた。
176 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:12:26 ID:YVH6HMSo0 「どうして」 そんな死の化身が。 今にも襲い掛かってきそうな現実的な凶器が。 私を舞台から降ろそうとする小道具が。 「どうして、あなたなの……?」 からんと、床に投げ出された。 ♪ ♪ ♪ 「どうして、あなたなの……?」 ようやく、殺せると思ったのに。 私だって出来るんだってことを、証明できると思ったのに。 丁度廊下の角を曲がろうとした時に、誰かが病院に入って来る音が聞こえて。 混乱して、焦って、どうしていいのか分からなくて。 それでも、なけなしの知恵を絞って「待ち伏せ作戦」を決行して。 緊張で漏れそうになる、吐き出しそうになる息を必死の思いで殺して。 口から飛び出しそうなくらいバクバクと鳴っている心臓の音が、相手に聞こえていないか不安で不安でたまらなくなりながらも。 あの人のことを、大好きなあの人のことを想って、死ぬ気で集中して。 一か八かの作戦は、見事に成功を収めることが出来たというのに。 あと少し頑張れば、どこかで監視しているのであろうちひろさんに私のやる気を見せることが出来るのに。 無理でした。 どれくらい時間が経ったのでしょう。 私は未だに、彼女を殺すことが出来ません。 物理的な理由ではありません。 彼女は怯えているのか、涙を流して、全身を震わせて、無抵抗のままです。 あと少し手に力を入れて、尖った針を振り下ろしてしまえば。 難なく殺してしまえるでしょう。呆気なく命を奪うことが出来るでしょう。 それでも、無理でした。 遂に、私は自分の武器であるアイスピックを、廊下に放り出してしまいます。 「殺せ、ないよ」 だって、私が馬乗りになって殺そうとしているアイドルは、五十嵐響子ちゃんだから。 本当に数少ない、残り少ない『殺してはいけない』アイドルだったから。 神様は、ほんとうに、ほんとうに、意地悪です。
177 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:13:01 ID:YVH6HMSo0 ♪ ♪ ♪ やる気のない、泣き出しそうな顔だった。 おどおどとした、腑抜けの、腰抜けの顔だった。 『あの子』のように、太陽みたいな明るさを持っているわけでもなく。 ただ、逃げて逃げて、逃げ続けてきた、臆病者の顔だった。 ――――――――ふざけるな。 ♪ ♪ ♪
178 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:13:50 ID:YVH6HMSo0 「どいて、くれませんか」 容赦のない、冷たい声でした。 何が起こったのか理解できませんでした。 響子ちゃんが、上に乗っかっている私に拳銃を向けている。 刑事もののドラマで良く見るような、他者を害する武器を、向けている。 そんな事実を飲み込むのに数秒の時間を要しました。 「な、なんで」 「なんではこちらのセリフですよ」 涙の痕も拭わないまま、響子ちゃんは棘を隠す気もなく言葉を刻みます。 天敵に狙われた小動物のように、先ほどまで恐怖に縮こまっていたか弱い少女は、いつの間にか消え去っていました。 今ここにいるのは、怯えた心を奮い立たせ、敵意を丸出しにしている、殺し合いを是としたアイドルでした。 変貌の理由は、私がアイスピックという武器を、優位性を捨ててしまったからでしょうか。 いいえ、それだけではないような気がします。 だって私は、彼女の目をどこかで見たことがあったのです。 「どうして」 私を見下している目を。 私を見限っている目を。 「どうして、殺せないんです?」 私のことを。 使えない人間だと。 いらない人間だと。 どうでもいい人間だと。 邪魔な人間だと、思っている目を。 昔から、ずっとずっと、何処ででも。 私は、その目に晒されてきました。 それは、私がダメな子だから。 期待に応えることが出来ない人間だから。 アイドルになって、ようやく見なくなってきた「蔑みの視線」 それは相変わらず、私の心に突き刺さります。慣れることなど、有り得ません。 「あなたは、あの人のことを助けたくはないんですか?」 誤解されているのだと、私はようやく気づきました。 「ち、違うの……」 取り返しのつかないことになる前に、必死で声を絞り出します。でも、続きません。 なんとかしなくちゃと焦る気持ちとは裏腹に、私の口はパクパクと動くだけで上手く言葉を紡いでくれません。 理由があるんです。殺し合いをする気はあるんです。その一言が、言い出せません。 静かに激昂している響子ちゃんと、しっかり向き合うことが出来そうにありません。
179 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:14:19 ID:YVH6HMSo0 「何が違うんですか。殺せないやる気のない貴女のせいであの人が死んじゃったらどう責任とってくれるんですか」 弱虫な私は、彼女の放つ狂気じみた熱に、気圧されていました。 やっぱりこの子は、私とは違う。 失敗して、めそめそして、ようやく動き出そうとしていた私なんかとは、全然違う。 きっと、さっき呼ばれた15人のうち、何人かは彼女が手にかけたのでしょう。 今、私を狙っている拳銃で殺したのか、それともストロベリーボムで殺したのかは分かりませんが。 既に、体験済みなのでしょう。だからこんなに、やる気のない私を怒っているのでしょう。 「違うの、違うの」 一方の私と言えば、昔の私と、同じでした。 昔の私。 失敗に失敗を重ね、言い訳さえ出来ず、見捨てられて、苛められて、逃げて、泣いて、閉じこもる。 今の私。 出会ったアイドルを殺せず、知り合いの死体の冷たさにめげて、思い出ばかりにすがって、挙句の果てにベッドの上で放送まで過ごして。 変わっていません。 私は、何もできていません。 「…………もういいです」 カチリと、安全装置を外す音がやけに大きく聞こえます。 タイムリミットだと、裁きの時間だと、そう告げている気がしました。 走馬灯のように駆け巡る想い出は、あの人のことばかりで。 あの人は、私の恋したあの人は、助けに来てはくれません。 当たり前です。今回は私があの人を助ける立場なのですから。 私が、助けなければならないのですから。 ……そうです。 逃げずに。泣かずに。 助けなきゃ、いけないんです。
180 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:14:45 ID:YVH6HMSo0 「しょせん、貴女の想いなんてその程度だったんですね」 ――――――――そんなこと 「さよなら」 「――――――――そんなこと、ない!!!」 自分でも驚くような大声でした。 どんなライブの時よりも、お腹に力を込めて、はっきりと。 魂だといっても過言ではない熱い迸りを、叫んでいました。 「私だって、あの人のこと好きだもん!」 止まりません。恥ずかしいなんて考える間もなく、私は「告白」をしていました。 私の「好き」をその程度と切り捨てた響子ちゃんを、許せませんでした。 何も知らないくせに、私が抱く彼への恋慕を踏みにじった彼女を、許すことなど出来ませんでした。 「だから!」 堰を切ったように、溜め込んでいた感情を吐き出していきます。 それは、あの企画を聞いた時から密かに心に秘めていた、考え。 誰にも言えなかった、言えるはずもなかった、弱音です。 「もし私が死んでも、生き残った誰かがあの人を幸せにしてくれるならいいなって!」 そうです。 死は元より、覚悟の上です。想定済みです。 私は、こんなダメな自分に絶対的な自信なんて持てません。 59人を蹴落として最後の1人になれるなんて、そう簡単に思い込めるはずがないのです。 あの人さえ生きていれば良い、なんて思える聖人とは程遠いけれど。 臆病だからこそ。失敗ばかりしてきたからこそ。 失敗した時のことも、自分の死さえも計算に入れて。 もしも私が死んでも、こんな私を救ってくれたあの人には、幸せになってほしいと願っているのです。
181 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:15:08 ID:YVH6HMSo0 「でも、もう2人も死んでるんだよ!?」 放送で、唯ちゃんと智香ちゃんの名前が呼ばれました。 もう彼女たちは、あの人を幸せにすることが出来ません。 一緒に買い物に出かけることも、キスをすることも、出来ないのです。 「あと3人しかいないんだよ!?」 だから私は響子ちゃんを殺せませんでした。 もちろん、最終的には殺しあわなければなりません。分かっています。 私にだって、親しい彼女を殺す覚悟くらいはとうに出来ているつもりです。 だけど、今はまだ早すぎるのです。 ストロベリーボムという強力なご褒美を持っていても、たった六時間で2人も死んでしまうこの殺し合いの中では。 まだ45人も残っている状況で。私や千夏さんが最後まで生き残れると全く確信できない状況で。 五十嵐響子という、あの人のための「幸せのクローバー」を私自らの手で摘み取るのは、早すぎると言わざるを得ません。 そんな決断をやすやすと下せるほどの自信は、持っていませんでした。 「私たちは、誰かが、最後まで、生き残らなきゃいけないんだよ。だから私は、今はまだ、響子ちゃんを、殺したくなくて……」 最後の言葉は、途切れ途切れの小さなものになってしまいました。流石に、疲れてしまったのです。 こんな限界まで大声をずっと出し続けていたのは生まれて初めての経験でした。 上手く伝えられたとは、思いません。 軟弱な意見だと言われれば、何も言い返せません。 あの場にいた残りの四人は、響子ちゃんも含めて自分こそが彼の愛を勝ち取るに相応しいと信じ切っていたのでしょうし。 私だって、あの人を想う気持ちは負けていないつもりです。 が、それでもネガティブに悪い方向に考えてしまうのです。これはもうサガとしか言いようがありません。 こんな鬱屈とした話を、愚痴にも似た感情の羅列を聞くのは、とっても意味のない疲れるものだと思います。 それでも、響子ちゃんは律儀に私の話を、叫びを、聞いてくれていました。 目を逸らさずに、耳も塞がずに、受け止めていてくれました。 「あなたなんかと、一緒にしないでください」 その上で、すっぱりと私の意見を切り捨てました。
182 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:15:28 ID:YVH6HMSo0 響子ちゃんは相変わらず、怖い顔で私のことを睨んでいます。 怒っています。当然です。 私は彼女を殺しかけた張本人なのですから。一歩間違えれば殺していた相手なのですから。 いくら運が悪かったと言っても、実際には私が彼女を殺さなかったと言っても。 感情とはそういう理屈めいた、言い訳めいたところから切り離されたところに存在するのです。 それに、私にとって彼女はまだ必要な存在ですが、彼女にとって私がそういう存在であるという保証はありません。 他の二人に依存している私の保険的発想を認めてくれるとは、同意をしてくれるとは限らないのです。 既に一線を超え、ヒロインとして、戦士として、競争を勝ち抜く心づもりならば。 「相手が何を考えていようと、ライバルはここで潰しておく」という結論に至る可能性の方が高い気もします。 いつ引き金を引かれてもおかしくない状況。仕方がない状況。 今更ながらそのことに思い当たり、顔が青ざめます。 キーキーとヒステリックな獲物だと。 叫びの途中で頭に風穴をあけられていても、文句は言えなかったでしょう。 「どいてください」 慌てて彼女の上から退きました。イライラした口調は、やっぱり苦手です。 緊張と焦りからか、足がもつれてぺたんと床に尻もちをついてしまいます。痛いです。 そんな私を、響子ちゃんは呆れた半目で見下ろしながら 「あなたの考えは分かりました。今は殺さないでおいてあげましょう」 銃口を、外してくれました。 ほっ、と息をつきます。 どうやら、私が殺し合いをする気がないという誤解は、解けたようです。 そのうえで、彼女が私を殺さないのは。 彼女にとって害のない人間だと思われたのかもしれません。 彼女にとって益のある人間だと思ってくれたのかもしれません。 あの人に恋する気持ちを、あの人への献身を。 ライバルとして汲んでくれたのかもしれません。 私は今、彼女を殺す気などありませんでしたから。 彼女も私を今は殺さないというのは、とてもとても助かります。 何もできずに死ぬなんて、やっぱり嫌です。
183 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:15:50 ID:YVH6HMSo0 「この病院に生きている人間は?」 「た、多分いないと思います……」 「そうですか」 用は済んだとばかりに、響子ちゃんは踵を返します。 出口へと進む迷いのない歩みは、とても様になっていました。 殺し合いの場へ、向かうというのに。堂々とした物腰でした。 おっかなびっくり病院内を歩き回っていた私とは、全然違います。 私と彼女で覚悟に差は、ないと思いたいのですけど。 やっぱり未経験者と経験者には、越えられない壁というものがあるのでしょうか。 蹴落としあう運命にある相手だというのに。 羨ましいと。憧れちゃうと。 素直に、感じてしまいます。 「あ、あのっ!」 私は、急いで立ち上がりながらバタバタと彼女を追いかけます。 ちょうど、思いついた考えがありました。 ここを逃すと、もう二度とチャンスがないように感じたのです。 「なんですか」 私の方から話しかけるなんて、とても珍しいことです。 それを良く知っている響子ちゃんは、ちらりとこちらに目線を流しながら歩くスピードを落としてくれます。 どんなに悪ぶっていても、冷酷になろうとしても。 やっぱり、彼女は根が優しいのです。良い子なのです。 「えっと、ですね」 なけなしの勇気を振り絞ります。 いつもは出さない、出せない想いを叫んで、スッキリとしたせいもあるのか。 相手が、あの人以外に初めて本音を打ち明けた友人だということもあってか。 私は、これまでになく積極的になっていました。 真面目に、必死に、誠実さを伝えられるように響子ちゃんの目をじーっと見て。 お願いを、してみます。 「私もついていっちゃ、ダメですか?」 彼女と一緒ならば 頑張れる気が、したのです。
184 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:16:14 ID:YVH6HMSo0 ♪ ♪ ♪ 「…………は?」 「私、その、一人じゃちゃんと殺せるか自信がなくて」 やっぱり、ここで殺してやろうかと思った。 無様を晒され、殺されそうになった恨みが、怒りが、ふつふつと再沸騰しそうになる。 最後の一人にならなきゃいけないというルールで、他者に殺人の助けを求める? あまつさえ、つい先ほど殺しかけ、殺されかけた人間に対して? 馬鹿にしているのだろうか。私だっていっぱいいっぱいなのだ。 放っておけば勝手にのたれ死にそうな緒方智絵里なんかよりも。 私を殺せないと馬鹿な宣言をしている気弱な少女なんかよりも。 優先すべき対象があるから、弾の無駄遣いををしなかっただけなのだ。 得もないのに、こんな状況で足手まといのお守りなんてまっぴらごめん。 こんなダメダメ人間の世話を焼けるほど、私はお人よしじゃない。 『響子の料理は美味しいなあ!特にこの煮付け、お袋の味って感じだ』 『ぼ、僕のデスクがこんなに綺麗に片付く日が来るなんて……!』 『服がピシッとしていると心も引き締まるよ』 『……でもパンツまで見られるのはちょっと恥ずかしいかなぁ』 『響子にはいつも世話になっているね』 『ありがとう』 そうだ。世話を焼くのは、あの人に対してだけで、良いんだ。 『響子は良く気が付くし、スタッフのお手伝いをしたり、さりげなく他の皆のフォローもしたりして、いつも人一倍頑張っているね』 『僕は、君のそういうお世話好きなところ、良いと思うな』 良いはず、なのだ。 「邪魔だと思ったら切り捨てますよ」 だというのに。 私は、肯定と取られてもおかしくない言葉を返してしまっていた。
185 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:16:36 ID:YVH6HMSo0 「か、かまいません」 ……そうだ、弾除けだ。 成す術もなく殺されかける、という貴重な体験を得て、私の殺し合い経験値は大きく上昇した。 今回だって、先行する囮、壁がいれば不覚を取ることはなかったのだ。 攻めの姿勢だけではなく、守りも固めなければならない。 何人殺そうが、生き残れなければ意味がない。 不安げな表情で私の出方を窺っている「これ」をうまく使えば、私の生存率は大きく上昇するのではないだろうか。 我ながらグッドアイデアだと思った。 それに、このボンクラにも一つくらいスコアをあげないと、ちひろさんが「やるきなし」と見なしてあの人を危険な目に遭わせるかもしれない。 これが死ぬのは知ったこっちゃないが、何の役にも立たずに、それどころか知らないうちに頑張っている私の足を引っ張っていくのは我慢ならないことだった。 「勝手にしなさい」 そうだ。グダグダにならないようにしっかりとルールを決めておこう。 『緒方智絵里は参加者が残り半分を切ったら消費期限が来たとして殺す』 『私の足を引っ張ったり反抗的な態度を取ったり反逆の兆候を感じたら期限内でも殺す』 さっきの口ぶりからするに、彼女のような臆病者はきっと残り人数が十人を切ったりするまでは安心して私を殺せないだろう。 私は違う。メリットとデメリット、リターンとリスクを冷静に考えて行動できる。 私の中の天秤を動かしてみるに「囮、壁」という右側に乗せたメリットは、今のところ「足手まとい、殺される危険性」という左側に乗っているデメリットを少し上回っている形になる。 特に、殺される危険性というデメリットは、今回は実際に殺されなかったのだから考えなくとも大丈夫。 (あくまでも、今はだけどね) 今は羽毛のように軽いこの分銅は、しかしアイドルの人数が減れば減るほど重みを増していく。 見積もりを甘くしてはいけない。「恐らく十人くらいになるまでは大丈夫」などという軽率な憶測は計算に入れてはいけないのだ。 厳しく見極めを行う私の頭の中で、殺される危険性を含んだデメリットが壁役、囮役というメリットを超える重さになるのは「残り30人」と算出された。 この人数を切ったならば、私の中の緒方智絵里天秤はデメリットの方にどんどん傾いていく。
186 :熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:17:11 ID:YVH6HMSo0 「あ、ありがとうっ」 その時が来たら、私の目の前で無警戒にお辞儀しているこの頭を容赦なく後ろから撃ち抜こう。 間の抜けた彼女のようにわざわざ「残り10人」という極端な傾きになるのを悠長に待っているのは馬鹿のすることだ。 もう少しだけなら大丈夫。この発想ほど人を堕落させるものはない。 たとえどれだけ便利な消耗品として使える道具だったとしても。 爆発の危険性が0.1%でもあるのならば。加速度的に危険性が増加していくのならば。 容赦なく、捨てる。 少しでもいらないと思ったら捨てる。 これが、掃除の鉄則。 最後の一人になるのは、他の誰でもなく私でなくてはならないのだから。 デメリットを考慮せずに緒方智絵里を残すことに、必要性は全く感じない。 私は、甘っちょろい彼女とは、違うのだ。 「これから、どうするんですか?」 どうするか、なんて決まっているじゃないか。 でも、困惑する顔を見るに、緒方智絵里は本当に最優先事項を分かっていないようだった。 同じプロデューサーの元にありながら、今も『あの子』の危険性に気付いていないなんて。 私はわざとらしく溜息をつきながら、デメリットのお皿に考えなしという分銅を追加した。 こんな調子じゃ、次の放送を待たずして私の中の天秤は悪い方向に傾き続け、彼女を殺してしまうかもしれない。 一度しか言う気はありません。絶対に忘れないように。 「ナターリアを、殺しに行くんですよ」 【B-4 病院/一日目 午前】 【五十嵐響子】 【装備:ニューナンブM60(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×9】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:ナターリアを殺すため、とりあえず西へ向かう。 2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。 3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。 4:緒方智絵里は邪魔なら殺す。参加者が半分を切っても殺す。 【緒方智絵里】 【装備:アイスピック】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 0:とりあえず響子ちゃんについていく 1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。 2:響子ちゃんと千夏さんは出来る限り最後まで殺したくない。
187 : ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 00:18:01 ID:YVH6HMSo0 投下終了です 修正点や矛盾点、口調がおかしいなどありましたらご指摘お願いします
188 : ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:38:27 ID:D1lJjev.0 やみのまです! 感想はひとまず置いておいてこちらも投下しますね!
189 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:39:07 ID:D1lJjev.0 「さて、そろそろ目覚めの時でしょうか。色々なものから、目覚める時間ですよ、喜多さん」 岡崎泰葉の前で喜多日菜子はすやすやと小さな寝息を立てて眠っていた。 ソファへ横たわる彼女の前にしゃがみ、岡崎泰葉は彼女の前髪を目からよけ、軽く頬を撫でる。 「どうしてあんなことをしたんですか? いつもの妄想ですか? 今日の妄想のテーマはなんです? 助けを待つお姫様……じゃない? もしかして“私達”のプロデューサーを助ける秘密のエージェントだったりしたんですか?」 そう、岡崎泰葉と喜多日菜子は同じプロデューサーの元で活動するアイドルなのだ。 だからこそ彼女は喜多日菜子への対処をひとりで買って出たのだし、みんなも彼女に任せてここを立ったのだ。 そして彼女は喜多日菜子を“現実”へと帰還させる方法については手馴れているつもりだった。 「ねぇ、そろそろ起きてくれませんか? 私もあなたを縛ったままなのは心苦しいんです。それに朝ご飯も用意しているんですよ」 ソファに囲まれたガラステーブルの上には菓子パンやおにぎり、スクランブルエッグ、カリカリのベーコンなんかが並んでいる。 皆のリュックの中に入っていた食料を持ち寄って、この事務所に備え付けられていた小さなキッチンで作ったものだ。 もうほとんどが手をつけられてしまっているが、しかしちゃんと喜多日菜子の分は残されている。 暴れる彼女を取り押さえてここまで来たわけだが、かといって彼女を放っておこうという子はいなかったし、岡崎泰葉も同じだった。 「ほら、目覚める時間ですよ」 ゆるく頬を撫でていた掌がパシパシと音を立てて頬を叩く。……しかし、なかなか彼女が起きだす気配はない。 「……………………」 パシパシと頬を叩きながら岡崎泰葉は事務所の壁にかかっている時計を確認する。もう時間は8時前だった。 およそ後2時間と少しでここら一帯が禁止エリアに指定されてしまう。 もし、そうなるまでに喜多日菜子が起きてこなければ、寝ている彼女を背負うなりして移動しなくてはならないことになる。 「二人はもう水族館でしょうか……」 ケーキ屋へと送り出した二人は結局ここには戻ってきていない。おそらくは打ち合わせの通りに水族館へ向かったのだと推測できる。 となれば、やはりここにいるのは自分ひとりで、タイムリミットが迫れば喜多日菜子を運ぶのはひとりだけでということになる。 「困りました……」 岡崎泰葉は喜多日菜子の頬を叩くのを止めると、自分のリュックを開いてその中から麻酔銃の取扱説明書を取り出した。 何度も確かめたことだがやはりそこに麻酔が切れるまでの時間は書いてない。書かれているのは銃を撃つ操作についてだけだ。 ため息をついて説明書をしまい、そして情報端末で正確な時間を確かめ、なにか方法はないかと彼女は考える。 「………………………………そうだ」 立ち上がると岡崎泰葉は事務所の出口へと向かい、そしてそのまま扉を開いて外へと出た。 別に喜多日菜子を見捨てたわけではない。ここへと来る途中、どこかで台車が置かれているのを見たことを思い出したのだ。 それがあればなんとか人間ひとりくらい運べるだろう。 無論、喜多日菜子自身が起きて歩いてくれるのが最上だが、最悪の場合を考えて彼女はそれを取りに行くことにした。 扉を閉める前に、岡崎泰葉はもう一度事務所の中を振り返る。 ソファの上の喜多日菜子はまだ幸せそうにすやすやと眠り、やはりすぐには起きてきそうにない。 眠ったまま一人にするのは躊躇われたが、他にいい案も浮かばない。少しの逡巡の後、岡崎泰葉は扉から離れ、港の中を走り始めた。 @
190 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:39:29 ID:D1lJjev.0 「…………うぁッ!」 とうとう言うことを聞かなくなった足がもつれ、身体が灰色のアスファルトに叩きつけられる。 榊原里美は立ち上がろうとして、しかし諦め、倒れたままの姿勢で荒い息を吐き、朦朧とした頭で周囲とそして自分を観察する。 「……ぅ、……うぅ………………」 気づけば街の中にいた。見たこともない通りで、どこを辿ってここまでやって来たのかも思い出せない。 服はボロボロでいつの間にかにスカートが大きく裂けている。膝から下は泥だらけで、お気に入りの靴も乾いた泥で真っ白になっていた。 じくじくと痛むと思えば肘から血が滲んでいる。今転んだ時に擦り剥いたのかもしれないが、もっと前からだったのかもしれない。 「ハァ…………ハァ……………………」 貧血のような眩暈を覚えながら榊原里美はよろよろと立ち上がる。ガクガクと膝が笑っていた。足は文字通り棒のようだ。 暖かい陽の光さえ今は鬱陶しい。彼女はそれから逃げるようにふらふらと歩き出すと、すぐ傍にあった喫茶店の中へと入ってゆく。 重たいガラス戸を身体全体を使ってなんとか押し開け、薄暗い店内を奥へ奥へと進み、ボックス席の中へと倒れこんだ。 「ううぅ……、ううぅう……………………」 身体は限界を訴え、意識を手放せと繰り返すのに、しかしなぜか意識だけははっきりとしてて休むことができない。 寝転んだ革張りのソファはひんやりとしていて、初めは気持ちよかったが、冷たさが身体の芯にまで達すると、今度は震え出すほど寒い。 どうしてこんなことになっているんだろう? 混濁する記憶を手繰り寄せようとすると、途端に気持ち悪さが大きく膨れ上がった。 「うぉえ、ぅぅおぉおえぇぇえええええええええええええ…………ッ!」 胃がぐるりとうねり、喉が焼け、そして口から吐瀉物があふれ出し、床の上でびしゃびしゃと汚らしい音を立てる。 「えええぇぇぇぇ、…………げぇえ、…………おげっ、…………ハッ……ふ、…………ハァハァ…………、…………」 全てを吐き出してもしかし吐き気は治まらず、喉は繰り返し蛙の声のような濁った音を鳴らした。 「ごぇぇ……、…………ハ、…………ハァハァ……、ぅぅううぇ…………げぇ、…………」 榊原里美は身体を起こしソファの背に体重を預ける。そして口をわななかせ、涙で滲んだ瞳で自分の両の手を見つめた。 記憶の中にあったのはこの白い芋虫のような指で人の――まだ子供だった子の首を絞めて、そして、殺し、顔が真っ赤に――…… 「うぇああああぁぁわあぁああああぁぁあぁぁああぁぁぁああああああああああっ!!!」 バンッ!と大きな音を立てて榊原里美は両手をテーブルに叩きつける。悲鳴をあげながら何度も何度も叩きつけた。 「ああっ! あぁぁぁぁああああああっ! あああっ! ああっ! ああああぁぁぁぁあああああっ!!」 爪が割れて血が流れても、痺れて痛みもなにも感じなくなるまで、気持ちの悪いそれが自分のものでなくなるまで何度も何度も叩きつけた。 そして気が済むと、糸が切れた人形のようにソファの中で崩れ落ち、そのまま吐瀉物が広がったままの床の上に落ちる。 「ヒュ…………、ハッ、ハッ…………助け……、誰か……、助けて……助けて…………助け、………………」 頭の中には怖くて気持ち悪いものしかなかった。 いくつも死体があって、何人も殺されて、血が流れていて、身体の中身が見えていて、死に顔は蒼く、赤黒く、気持ち悪かった。 出会う人は誰もが怖くて、嘘つきで、言うことを聞いてくれず、追い回し、置いてけぼりにして、嘲り、殺そうとする。 どこを歩いても安らぐ場所なんかなくて、暗くて、疲れて、どっちにいったらいいのかもわからず、知らない景色ばかり。 そして自分自身ももう知らないうちに自分自身ではなくて、なにもかもがわからなくて、ただただ気持ち悪く、怖い。 まるで身体中のどこもかしこに毒をもった毛虫が詰まっているようだった。 頭はぐるりぐるりと回り、目の奥はズキズキと痛み、耳は聞こえているのかわからなく、鼻は冷たく、口の中が乾きすぎて舌が痛い。 青黒くなった指はじくじくと痛み出し、足は自分のものでないように言うことを聞かず、心臓は目覚ましのベルのように鳴り続けている。 「助けて…………、助け………………」 けど、誰に助けを求めればいいのか、もうそれすらもわからない。なぜなら、それはもう否定してしまっていたのだから。 榊原里美の声はただただ虚しく響く。 @
191 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:39:49 ID:D1lJjev.0 「ん……、んんん…………」 頭の鈍い痛みに喜多日菜子はうめき声をあげ、そしてようやく目を覚ました。 身体はぐったりと疲労が溜まっており妙に重たい。 いったいなんでだろう? と疑問に思いながらも起き上がろうとして喜多日菜子は自分の手足が自由にならないことに気づく。 「なん……なんですかぁ、これぇ……?」 手足を縛られているのを確認し、寝転がったままに回りを見る。どうやら事務所の応接間のような場所に自分はいるらしい。 どうしてなのかはよくわからなかった。こんなことは今までになかったわけではないが、しかしいつもとはかなり違う気がする。 その時、ガチャリと扉が開く音が聞こえた。 「ふぅ……、どうやら間に合ったようですね」 ガラガラと音を立て、台車を押しながら入ってくる人物を見て喜多日菜子の頭の中で火花がバチバチと散った。 そして少しずつ記憶の断片が浮かび上がり、ひとつの形を成そうと組みあがり始める。 「起きて…………、……………………わ……………………か?」 入ってきた人物がなにか声をかけてくるが喜多日菜子にはよく聞き取れない。 誰なのか、知っている相手で、それもとてもよく知っている相手だった気はするが……、しかしどうにもはっきりしない。 「まだ………………、み……を…………………………」 その人物は寝ている喜多日菜子を抱え起こすと、テーブルの上にあったペットボトルを取ってその口を開いた。 そしてそれを喜多日菜子の口に当てると飲むように促してくる。喜多日菜子はまだよくわかっていなかったが、促されるままに従う。 水だ。そう理解すると液体はするりと喉を滑り落ちた。乾きが癒されることで次第に頭の中もクリアになってくる。 「朝食を用意してあるので食べててください。もうあまり時間もないですから手短に……ああ、そうだ。そのままじゃ食べられませんよね」 手首を縛っていたビニール紐がナイフを使ってぶちぶちと千切られていく。 喜多日菜子はナイフなんかが出てきたことにひどく驚いたが、そのおかげで自分が何者で今がどういう状況なのかを思い出した。 「コーヒーを淹れてくるんで少し待っててくださいね。…………砂糖2つとミルクでしたよね?」 喜多日菜子は頷き、そして離れていくその人物の背を見送る。 そしてその姿が壁の向こうに消え、コンロの火がつく音が聞こえたところで行動を開始した。 目の前に用意された朝食――菓子パンやおにぎり――に手をつけるのではなく、置きっぱなしになっていたナイフを素早く手に取る。 それで足を結んでいた紐を千切ると、音を立てないようゆっくりと立ち上がり、扉のほうへと歩き始める。 早くここから逃げなくてはいけない。早く、この“魔女の住処”から逃げ出さなくては自分は彼女らに食べられてしまう。 そういう風に喜多日菜子はこの状況を理解した。 自分はあの戦いの中で魔女らに敗れて囚われの身となり、餌を与えられ太らされ、しまいには食べられてしまうのだと。 もうあの聖剣は手元にない。だが他の魔女らの姿も見えない。これは千載一遇のチャンスだと喜多日菜子は魔女の住処からの脱出を試みる。 魔女がかがせた眠り薬のせいだろう、足は半分痺れているようでうまく動かせない。 それでも慎重に、間抜けな魔女がうっかりと置いたままにしたナイフを握り締め、外へとつながる扉へと向かう。 あの羊の子供はどうしたんだろう? もしかすれば、かわいそうなことにもう先に食べられてしまったのかもしれない。 そう考えながら扉を潜ると、喜多日菜子は陽の光に照らされる午前の港の中を走り出した。 喜多日菜子は走る。足の痺れは走り出すと少しずつ和らぎ、そのうちに気にならなくなった。 港にはいくつもの船が停泊している。大きな客船もあったが、一番多いのはクルーザーやヨットの類だった。 その中に逃げ込もうかと一瞬考える。だが乗り込んでも船を操縦した経験があるわけでもない。それではただの袋小路だ。 海に背を向けると喜多日菜子は急な石段を登り、幹線道路の上へと出る。 そして、そのまま道路を渡ると、喫茶店やそば屋などが立ち並ぶ通りに入り、未だに薄く黒煙が煙る街の西側へ向かい進んでいった。 @
192 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:40:13 ID:D1lJjev.0 榊原里美はあれから床に寝転がったまま、自らが吐き出した汚物の上に横たわったまま、そこからただ外の明るさだけを見ていた。 あの明るさの下にはもう二度と立ちたくはなかった。もうずっと一生、暗がりの中で隠れ続けていたかった。 お兄様とだってずっと暗がりに秘めた関係だったなら、壊されはしなかったはず。 明るさが気持ちいいのは最初の一瞬で、明るさの中にい続ければ、それは全てを暴きズタズタに切り裂いてしまう。 アイドルとしての榊原里美には他のアイドルとは違う性質がひとつあった。 それは、榊原里美はスポットライトの当たるステージの上にいる時よりも、そこから舞台袖の暗がりに戻ることに幸せを見出していたこと。 暗がりの中で彼女を待つプロデューサー。彼の元へと続く、ステージから舞台袖までの数歩こそが彼女にとっての至福の時だった。 だから彼女はもうあの明るさの中には立たない。あそこから戻ってももう出迎えてくれる人はいないのだから。 そうならばもうずっと薄暗がりの中にいればいい。明るさの中に我が身を曝し無駄に傷つくこともない。 「どうして……、どうして取り上げるんですかぁ…………」 榊原里美は震える身体でただ時計の音だけを聞く。 「お兄様も……、あの人も……」 壁に掛けられた鳩時計の針は、今が9時半を過ぎていることを示している。 「私はそんなに悪い子でしたかぁ…………?」 答える者はいない。そして彼女自身、それを誰に問いかけているのかは定かではなかった。 @
193 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:40:39 ID:D1lJjev.0 岡崎泰葉はそれに気づくと、火にかけたままの薬缶をそのままに自分の荷物だけを取って事務所を飛び出した。 港の中を走り、彼女の姿が見えないと知ると今度は石段を上がって街のほうへと出る。 だがどこにも喜多日菜子の姿はなかった。 「私としたことが……ッ」 焦りに眉間の皺が寄る。いくら相手がよく知った間柄だったとはいえ、あまりにも簡単なミスで、らしくない油断だ。 麻酔が残っていて朦朧としていたことをもう妄想が終わったのだと勘違いしたこと。 禁止エリアの発動までに時間がなくて、すぐにでも移動させたかったこと。 言い訳ならできるが、そんな言い訳で人の命は救うことはできない。 岡崎泰葉のしたことは、正気を失い人を殺そうとする人物をまた解き放ってしまったということに他ならない。そして―― 「もう時間が……」 この失態で一番死ぬ可能性があるのは逃がしてしまった喜多日菜子自身だ。 彼女は放送を聞いておらず、また自分の荷物も置き去りにして出て行ってしまった。故にこの近辺が間もなく禁止エリアになることは知らないはずだ。 もし彼女が一目散にこの場を離れようと遠くに行ってるならばいいが、もしそうでなければ、彼女は首輪の爆発によって死んでしまう。 「どこに…………?」 街の中へと入り小洒落た喫茶店の前で岡崎泰葉は唸る。 商店が立ち並ぶその通りは見通しがよかったが、しかし喜多日菜子の姿は見当たらない。通りはただただ無人だ。 だったら一軒一軒しらみ潰しに回るかと考え、だが彼女はすぐに首を振った。とてもそんなことをしている時間はない。 入れる店や建物の数は無数にある。通りの数も数え切れない。ひょっとすればまだ港に隠れているかもしれない。 なによりもう時間がない。情報端末に表示された時刻はタイムリミットまでもう20分もないと示している。 「嫌だ……絶対に死なせたくない」 ギリと歯を噛み締めると、岡崎泰葉は通りを西へと駆けはじめる。 当てはない。しかしそれでもギリギリまでこのエリアに残って彼女を探そうと決心していた。 禁止エリアの端のほうへと向かいながら岡崎泰葉は喜多日菜子の姿を探す。 交差点の真ん中で四方を確認し、また次の交差点へと走りそこから四方を確認する。だが彼女の姿は見つからない。 彼女ならどう逃げるだろう? 逃げたい人はどちらの道を選ぶのだろう? 考えながら道を選び、その度にその先に彼女がいると期待する。 しかし、やはり彼女の姿は見当たらない。そして情報端末を確認する度に残り時間は減っていく。 「後、5分…………」 呟いて、背筋に寒気が走った。もしかすれば、この5分後になにもしなくとも一人の人間が死んでしまうのだ。 「どうして……私は…………」 悔やむ。そして悔やみながら喜多日菜子の姿を探す。残り時間はもうない。 岡崎泰葉は自分も死んでしまわないよう、情報端末を見ながら禁止エリアの境界となるギリギリの位置を目指して走る。 大きなお皿の滑り台がある公園を通り抜け、二車線の道路を渡って、クリーム色の外壁のマンションの足元へと立つ。 そこがちょうど禁止エリアとなる『C-7エリア』とその隣の『C-6エリア』の境だった。 そして、その場所に喜多日菜子の姿はない。二度三度と回りを見渡し、禁止エリア境界のラインに沿って走るも彼女の姿は見えない。 残り時間は1分を切っていた。 「喜多さんが死んだら……私は……」 岡崎泰葉の顔から色が失われる。 アイドルとは何かを偉そうに説き、怖がっている者を脅しつけ、それでも生き残らせて、いつか笑顔にしてみせると言ったのにこれはなんだ。 結局はただの背伸びした子供でしかない。プライドばかり高く、その積み上げたプライドに足を乗せないと目線も合わせられない子供。 「いやだ……、私は『アイドル』でいたい」 情報端末の画面が涙で滲み、そしてその滲んだ画面の中で時計の表示が『09:59』から『10:00』と変化した。 ――その瞬間、ピッという音がした。一度、あの教室で聞いたのと同じ音が岡崎泰葉の耳に届いた。 @
194 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:41:02 ID:D1lJjev.0 聞こえた音に岡崎泰葉は顔を上げる。するとその正面、細い道路の先に探していた喜多日菜子の姿があった。 「あ…………ッ!?」 まだ、死んではいない。まだ彼女は死んでいない。禁止エリアの中で立ち止まっている彼女はまだ死んではいない。 「喜多さんッ! こっちにッ!」 ピピピピ……と音が断続的に鳴っている。それを聞いて岡崎泰葉は思い出す。首輪はスイッチが入ってから爆発までに猶予があったことを。 だが、その時間は長くなかったはずだ。せいぜいが30秒か、長くとも1分くらいしかなかったはず。 「こっちですッ! そこにいると死んじゃいますよッ!」 呼びかける。だが当の喜多日菜子はきょとんとしている様子だった。首輪が音を鳴らしていることの意味がわからないのかもしれない。 岡崎泰葉は大きな声で繰り返し呼びかける。両手を広げて、こちらに来てと大きな声で呼びかける。なのに―― 「喜多さんッ!!」 彼女は背を向けた。 「あ…………………………」 背を向けてまた逃げ出そうとする。 ピピピピピピ……と音の間隔が少しずつ短くなってくる。猶予は後どれくらいあるのだろうか? 「……………………ッ」 待ってと言おうとして喉が詰まる。そんなことを言っても逆効果だ。では、だったらなにを言えば、なにをすればいいんだろう? 走って捕まえて引きずってこようか? そんなことできるはずがない。二人とも死んでしまうに決まっている。 じゃあ、どうすればいいんだろう? じゃあ、どうすればいいんだろう……? 私になにができるんだろう? 背を向けた彼女の向こうに太陽が見えて―― その眩しい光が、あの夏をここに呼び戻す。 岡崎泰葉は息を吸い、そして――…… @
195 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:41:28 ID:D1lJjev.0 延々と走ってきた喜多日菜子はフェンスに身体を寄せると激しい息を整え、少しそのまま身体を休めた。 走り続けてきたせいで身体中から汗が吹き出して服がぐっしょりと濡れている。それに喉がカラカラに乾いていた。 しかし逃げてくる際に自分の荷物を忘れてきてしまったせいで、持っているのは一本のナイフだけだ。 このままでは砂漠で迷った旅人のように喉を嗄らして死んでしまうかも。 どこかにオアシスはないかと喜多日菜子はまた歩き始め、その先にお皿の滑り台がある公園を見つけた。 公園の中なら水飲み場があるはず。そう考え、そこに向かおうとして彼女はその道の先に“魔女”が立ちふさがっていることに気づいた。 すると、どこからかピッという音がする。 それはどこからなのか? すぐ近くから聞こえて、気づいてみればそれは自分に嵌められた首輪から鳴っている音だった。 そして、音が鳴ると同時に“魔女”の両目が自分を捉える。 これは罠だ。 喜多日菜子はそう考え、水場に未練を残す身体を反転させて逃げ出そうとする。一歩二歩、踏みしめるたびに音の間隔は短くなってゆく。 そして、三歩目を踏み出した時―― 不安な気持ち 隠してついた ウソさえ好きと 伝わる距離 ――歌が聞こえた。 果てしない闇を 抜けて出会った 僕らは二度とは 離れないよ 振り返ると、そこに“岡崎泰葉”が立っていた。 悲しい時に 笑って 嬉しい時に 泣くんだ 喜多日菜子のよく知る岡崎泰葉が道の先で手を広げて歌を歌っていた。 閉ざされた 日々にだって 君の光が 差すんだ 「ああ、そっか……」と理解して、彼女はその胸の中に向かって走る。 目を閉じて ねぇ 感じるよ 二人の鼓動を ピピピピピピピピピ……と首輪が鳴る。 わすれまいと わすれまいと 何度も 胸に刻む 首輪の音が急き立てる。 過ぎ行く時の 終わりに 二人出会えた 奇跡を 一心不乱に自分の足で走る。 想うでしょう 想うでしょう すでに疲れきった身体は悲鳴をあげて、でもそれは自分自身の痛みで、 キラめく笑顔も こぼれる涙も きっとそれは妄想の中の快楽より心地よかった。 全てつながって ステキな未来は続く @
196 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:41:52 ID:D1lJjev.0 ――そして首輪は爆発した。 @
197 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:42:18 ID:D1lJjev.0 「ハァハァ、ハァハァ、ハァハァハァハァ……、ハァハァ…………」 「よかった……、喜多さん……よかった。よかった……よかった…………」 「……ッハ、…………泰葉、ちゃん…………泰葉……ちゃん……泰葉ちゃん! 泰葉ちゃん!」 「うん! うん……! よかった……よかったぁ…………」 禁止エリアの境界線上――そのわずかに十数センチの向こう側で、 岡崎泰葉と彼女に向かって飛び込んできた喜多日菜子は勢いのままに路上に倒れこみ、そのまま抱き合って喜んでいた。 喜多日菜子の首輪はギリギリのところで爆発はしなかったし、岡崎泰葉が彼女の死を目の当たりにすることもなかった。 「ハァ……ハァハァ、ありがとう。泰葉ちゃん…………」 「もう、いつも……、目を覚まさせるほうのことも考えてくださいよ……まったく……」 「うん……、ごめんなさい。そして……“ただいま”」 「………………………………はい、“おかえりなさい”」 喜多日菜子の瞳から大粒の涙が落ち、岡崎泰葉の頬の上で彼女の涙と混じる。 「私の好きな歌、覚えてくれてたんですねぇ〜」 「そうしないと……、もう無理だと思いましたから……」 「いつもは引っ叩くだけなのにぃ、今日はずいぶんとやさしいんですね。むふふ♪」 「なんなら、今から叩いてもいいですよ? いえ、叩かせてください。どれだけ迷惑したか――」 きゃあと悲鳴をあげて喜多日菜子は立ち上がって岡崎泰葉から離れる。岡崎泰葉も立ち上がり彼女を追って、しかし叩きはしなかった。 今度は岡崎泰葉が喜多日菜子を抱きしめる。 「ありがとうございます」 「……? なにがですか……?」 「私を『アイドル』でいさせ続けてくれたことです」 「おかしなことを言いますねぇ。泰葉ちゃんはずっとアイドルだったじゃないですか」 「ええ。でもそれを今は失いかけてたから」 「ふむ♪ まぁいいです」 どれほど抱き合っていたのか、しばらくして身体を離すと岡崎泰葉は喜多日菜子の手を取って歩き始める。 「あれれ? どこに行くんですか?」 「水族館です。そこで待ち合わせの約束をしているんで」 「ああ、そういえば泰葉ちゃんの他にもいっぱいいたような……」 「みんなと合流したらちゃんと“落とし前”とってもらいますから、覚悟しててくださいよ」 「そんな、巴ちゃんみたいなぁ〜……」 喜多日菜子の泣き声に岡崎泰葉はくすりと笑う。 「それよりも喉がカラカラなんですけどぉ……」 「コーヒーを飲んでいかなかったからですよ……」 そして喜多日菜子もつられて笑う。 それは、『岡崎泰葉』の笑顔であり、『喜多日菜子』の笑顔だった。 【C-6・マンション近く/一日目 昼】
198 :彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:42:36 ID:D1lJjev.0 【岡崎泰葉】 【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(10/11)、軽量コブラナイフ】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:疲労(大)】 【思考・行動】 基本方針:『アイドル』である者への畏敬。『アイドル』でない者への憎悪。 0:もう知りません。 1:水族館へと移動し、皆と合流する。 2:今井加奈を殺した女性や、誰かを焼き殺した人物を探す。 3:佐城雪美のことが気にかかる。 4:古賀小春や小関麗奈とも会いたい。 ※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれた彼女達のことを強く覚えています。 【喜多日菜子】 【装備:無し】 【所持品:無し】 【状態:疲労(大)】 【思考・行動】 基本方針: 0:意地悪言わないでぇ〜。 1:岡崎泰葉について行く。 2:羊の子(仁奈)がどうなったか気になる。 ※喜多日菜子の荷物(基本支給品一式×1、不明支給品x0-1)は港の客船乗り場受付事務所の中に放置されています。 @ そこにはもう誰もいなかった。 結局、彼女が言うように、あるいは彼女が全てを否定したからこそ、彼女を救う者はそこに現れなかった。 最後の瞬間になにがあったのだろう。 カウンターの上に並べられていたシュガーポットやグラスは散乱し、椅子は蹴倒され、テーブルには血の手形がいくつも残っている。 そして床には吐瀉物が撒き散らされており、その上に首を失った死体と、壁に首だった赤色が張り付いているだけだった。 暗がりの中に隠れ潜み、そしてそのまま消えてしまった彼女。 もう誰も彼女のことを見ることはできないし、護ることもできない。 【榊原里美 死亡】
199 : ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 00:42:50 ID:D1lJjev.0 投下終了しました!
200 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/04(月) 00:51:54 ID:B3QuWkuc0 皆様、乙であります。あまりの投下ラッシュに感想が追いつきません。 向井拓海、松永涼、小早川紗枝 予約します
201 : ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 02:28:03 ID:D1lJjev.0 投下乙です! >寝ても悪夢、覚めても悪夢 やっぱり杏ちゃんとは言え、というよりもだからこそ? 罪悪感からは逃れられないよね。 夢、なわけだけど、その中で杏ちゃんと彼女のPとの関係とか、夢だからこそ彼女の頭の中にあるものがわかって面白かったです。 でもって時間ぎりぎりの起床。これはどうとでも動かせてこの後も楽しみですね。 >私はアイドル 闇にのまれよ>< うわー、蘭子ちゃんが死んだ……w 私も熊本弁書きたかったですw さておき、血にまみれたゴンドラというシーンの鮮烈さがすごい。氏は前の作品もそうでしたが、インパクトのある1シーンを作るのが巧みですよね。 幸子と輝子はやや前進。けどゆかりさんがまだ近くに残ってるんだよなぁ……うーん、この遊園地編どうなる? >熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) 「ナターリアを、殺しに行くんですよ」 ← こ わ す ぎ る やばい、響子ちゃんキレッキレや……w たった数話で、苺ズの中でも跳び抜けた凄みの持ち主に……w 戦闘力的なことで言うとマーダーしてる子の中では低いほうだと思うんだけど、この精神的なもので言うとかなり上位よね、この子……w
202 : ◆John.ZZqWo :2013/02/04(月) 02:28:43 ID:D1lJjev.0 で、 島村卯月 を予約します。
203 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:15:06 ID:0DsT.wx.0 大変お待たせしました。投下します
204 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:15:58 ID:0DsT.wx.0 ずっと、前の事。 思い出すのも辛い事。 「大丈夫だって、頑張ろう! ねえ、笑って!」 いわれてしまったこと。 「×××××××××××××××!」 今も、忘れられません。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
205 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:17:52 ID:0DsT.wx.0 「そんな……」 悪夢をみているようだと、ネネは思う。 たった六時間、六時間の間に十五人も死んでしまった。 嘘だといいたい気持ちも充分ある。 けれど、間近に命の危険を感じた現状、事実として受け止めるしかない。 「新田さん……多田さん」 同じサマーライブの舞台で輝いていた二人。 もう、もう死んでしまった。 胸が、心が苦しくなる。 あんなにも輝いていたのに、死んでしまった。 もうその輝きを見ることが出来ない。 そう考えると、ただ苦しかった。 歩みが、遅くなってしまう。 なんで、どうして殺してしまうの? そんな問いが心の中で渦巻くのを感じる。 けれど、その答えは明瞭で、ネネ自身にも解かっている。 ――皆、ヒロインでいようとしたんだ。 だから、こんなにも死者が出た、出てしまった。 プロデューサーの為に殺して。 あるいは、アイドルでいようとしたが故に殺されてしまって。 そう考えると胸がギュ―と締め付けられる感覚にネネは襲われる。 「迷ってる暇すら、無いの?」 自分が進む道、星のようにぼやっと光っている道。 光の道か、闇の道か。 決めなければ、いけないのだろうか。 いつまでも、淡い日の出の光の中、いてはいけないのだろうか。 あの光とも闇ともとれない薄明るい時間のように。 そのように、留まる事すら、できないのか。 選択しなければ……決断の時は近いのだろう。 ネネは、どうすればいいかと迷い、そして 「ねえ…………えーと、ちょっとそこの貴方!」 まるで、アイドルの勧誘をするような気軽な話し方。 ネネはそんな声にびくっとしながら振り返ると。 其処には、太陽のような少女――日野茜と、日だまりの笑顔を浮かべる少女がいた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
206 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:18:44 ID:0DsT.wx.0 栗原ネネが、日だまりの笑顔を浮かべる少女――高森藍子の事で思い出す事がある。 それは、ほんの一ヶ月も経たないぐらい前の事だったろうか。 あるひと時の休憩時間の時だっただろう―――― 「お疲れ様です、プロデューサー」 「おう、ネネか…………げっ」 「げっって……なんですか……って、あー!」 栗原ネネが、雑誌のインタビューを済まして、事務所に帰った時の事だ。 予想より早く終わったから、プロデューサーに挨拶しようと休憩室に寄ってみたら 「また、タバコ吸ってる! 健康によくないですよ!」 「いやいやいやいや、わかってんだがよー! それでも、美味しいんだって、解かるか、ネネ!」 「ちっとも解かりません!」 「だーーっ! だからさぁ、仕事終わりで、ブラックコーヒーと一緒に一服……たまんねえだろう! 格別の上手さなんだよ、と俺は思うんだよ!」 「全く解かりません!」 「けっ……これだから、子供はよー……黄昏る大人のひとときがわからんだろうに」 「はぁ…………」 「呆れんなよ!」 何時ものように、タバコを吸ってるぼさぼさの髪で、しかも無精髭のプロデューサーが居た。 ぼけーとスポーツ新聞片手にテレビを見ている。 まるで駄目なオッサンであった。 こんなだらしないプロデューサーがネネのプロデューサーである。 そして、タバコを注意するが、まあ止めないだろうなとネネは思う。 何度、健康に悪いと注意しても全くきかないのだ。 半ばネネも諦めモードだが、ネネの前では全く吸わない。 今も火をつけたばかりだろうに、直ぐに消した。 そういう優しさを持ってるプロデューサーでもあるのだけど、やっぱりタバコはやめてほしい。 長生きしてほしいからと、ネネは心の底から思う。 そんな思いを持ちながらふと休憩室のテレビから聞こえる音に耳を澄ませると 『ALRIGHT* 今日が笑えたら ALRIGHT* 明日はきっと幸せ』 そう、あるアイドルの曲をカヴァーを歌うアイドルグループが映っている。 見るまでもない、フラワーズだろう。 うちの事務所の出世株なのだから。 テレビに出ない日はないぐらいに。 羨ましいなと思う。 あんな風に輝けるなんて。
207 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:19:16 ID:0DsT.wx.0 「あー、震災被災地で、復興を願ってのチャリティーライブ、だそうだ」 「へぇ……最近うちで、良くやりますよね。震災関連のチャリティー」 「ああ。ちひろが強く推してるんだと、あのスーパー守銭奴が珍しいんだよなぁ」 「……それ本人の前で言わないでくださいね」 「いわねえよ!」 大震災から、もう一年経つ。 忙しくてすっかり忘れていたが、あの時の事をネネも忘れてない。 凄惨な出来事だった……本当に。 『皆……笑顔をありがとう! 私も笑って、皆を幸せにするから!』 歌が終わり、リーダーの藍子の声が聴こえる。 フラワーズの最も輝いてる花。 十時愛梨と同じく、シンデレラガールだろう。 「凄いですよね彼女……半年でこんな人気なんて」 「いや……高森藍子に限っては違うはずだと思うぜ」 「えっ?」 「彼女は……下積みそのものはクソ長いはずだ」 そうは見えないけどとネネは思い、テレビに映る彼女を見る。 やっぱり輝いていた、驚くぐらいに。 「それも、一度ユニットの話ぽっしゃったと聴くしな」 「へぇ……」 「まあ、俺も入った当初見たけど、一見ただの普通の女の子にしかみえなかったしなぁ」 「ふむふむ」 「引退しない方がビックリだったぞ」 そんな彼女が下積みが長いとは思えない。 ある意味自分より下積みが長いなんて。 ネネは驚嘆するしかない。 「ま、執念じゃねーの」 「執念?」 「アイドルに絶対すると言うプロデューサーと、なりたい、戻れないという高森藍子の執念じゃねえのかなあ」 そう言って、プロデューサーはブラックコーヒーを思いっきり飲み干した。 うわ、にげえと言っていたが当たり前だろうにとネネは苦笑いを浮かべる。 大人はブラックだろうと意味のわからないこといっていつもブラックなのだ。 甘いのものが好きなくせに。 「……さて、仕事きてるぞ」 「わぁ、なんですか」 「水着だ!」 「……えーそういうのはでっかい人に任せましょうよ」 お仕事、なんだろうと目をキラキラさせたネネはあっと言う間にジト目に変わる。 成長中のネネはまだ水着での撮影とはいわれても、ピンと来ない。 「何言ってんだ、お前肌が白いんだから絶対似合うって!」 「そうですか?」 「そうそう! 乙姫がイメージらしいぞ! 水彩の乙姫だそうだぞ!」 「乙姫かぁ」 「だから、受けようぜ!」 水彩の乙姫と言う響きに、ネネはまた目をキラキラさせる。 なんだか、ワクワクさせる響きだ。 だけど、 「で、その本心は?」 「俺が水着みたいに決まってるからだろー!」 「……………………えっちです、すけべです」 「ぐっ……いいから受けろ、というか受けた! はい、けってーい!」 「ちょ、ちょっとぉ、プロデューサーぁ!」 いつもこう。 こういう人だとネネは思う。 でも、だから、だからこそ―――― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
208 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:20:22 ID:0DsT.wx.0 「そう、多田さんは……」 ネネは、そのまま茜と藍子と着いていく事にした。 警察署に向かうらしいので、とりあえずは。 邪険にする必要も無いし、迷う中、話を聞いてみたいなと思ったから。 遊園地からはなれてしまうが、仕方ない。 その中で、多田李衣菜の死に様を聞いた。 苦しまずにいけたと言えば、いいのだろうか。 何も残せず逝ったといえば、いいのだろうか。 解かる事は、哀しいという事ぐらい。 「だから、私達は彼女達の思いを継いでいこうと思っています」 そう藍子はいって、笑う。 力強い言葉だった。 凄い強い、言葉で。 「小さな希望が、集まって、大きな希望に……それが花束で」 希望。 希望ってなんだろう? 放送でも言われた言葉だ。 ネネは疑問に思いながら、彼女の言葉を待つ。 「その為に、一緒にきてくれませんか?」 それは、勧誘。 差し出された未来の道。 希望に溢れるだろう道。 それが、正しい道。 (……そうなの?) けれど、それが正しい道なんて解かるはずもない。 少なくともネネにはそうだと断定できるとは思えない。 さしのばされた手をとることなんて、出来ない。 どうする? どうすればいい? 「……ねえ! あれって!」 「…………あれは!」 そう、迷ってる時だった。 見えてきた警察署に、駆け込む少女がいて。 それは、ネネにとっても既知の人物で。 「美穂さん!」 恋に揺れる少女、小日向美穂だった。 そして、それがもう一つの道だった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
209 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:21:01 ID:0DsT.wx.0 「チョコの作り方?」 「はい」 「誰かに送るんですか?」 「う、うん……変かな?」 「いえ、別に」 「笑わないでよぉ」 そう、小日向美穂が栗原ネネに尋ねたのはいつ頃だったか。 割と昔の話だったなとネネは思う。 兎も角チョコを送るイベントが近い日の時だという事だ。 「いいですけど、道明寺さんにきいてみては?」 「あの子はドジが多いし……」 「……ああ」 「それに…………」 「…………まあ、いいですよ」 そして、ネネは美穂と道明寺が親友同士であることも知っている。 且つ、恋愛で微妙な事になってることも。 ネネはどっちかを応援するつもりは無い。 どちらも、大切な友人ではあるから。 「じゃあ、調理室で試しに作ってみましょうか?」 「はい!」 「まずはチョコクッキーとかどうでしょう?」 「何でもいいですよ」 「じゃあ買出しに行きましょうか」 ……そうして、買出しに行って。 クッキーを焼いてる最中に。 「送る人は、いうまでもないですよね?」 「うう、ネネちゃん意地悪いよぉ」 「うふふ、御免なさい」 「……うぅ……でも」 彼女はエプロンをぎゅっと握って。 「贈りたいから……この想いごと」 「……私達はアイドルですよ?」 「それでも! 私は女の子だから。伝わらなくても贈りたいなって」 だって、と彼女は紡ぐ。 顔を真っ赤にしながら。 「大好きだから」 そういう美穂は、ネネから見えてとても輝いてみえて。 素敵だな、と思ったのだ。 「……さて、出来ましたよ」 「わぁ、美味しそう」 「でしょう」 「あ、この別に作られてるのは?」 「そ、それは……」 チョコクッキーにトッピングされてる特別製が少しだけあって。 ネネは急に顔を赤くして。 その様子に美穂は納得するように。 「なあるほど」 「な、なんですか!」 「べーつーにー」 「ひ、酷いです」 「ひーとーのーことーいえないんじゃないかなーってー」 「うぅ」 ネネは更に顔を真っ赤にして、その時
210 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:21:29 ID:0DsT.wx.0 「おーなんだークッキーやいてたのか。ネネ」 「プ、プロデューサー!」 「どれどれ」 「あ、それは……」 突然現れたネネのプロデューサー。 ネネが驚くまもなくクッキーをつまむ。 それは、ネネが作った特別製で。 「…………んー」 「ど、どうでしょうか?」 「いや、甘すぎね?」 「……っ!? プロデューサーが甘いのがいいといったんでしょう!」 「いや、いったけどさ、コレ甘すぎね!?」 「もう、知りません!」 「はあ!?」 そう、首を捻るプロデューサーを無視して、ネネは顔を真っ赤にして調理室からでていく。 困ったプロデューサーは美穂の方を向いて。 「なあ、俺のせいなのか!」 「はい」 「マジで!?」 「マジです、大マジです」 「うぉぉおぉ!? ちょっと待って、ネネぇぇぇぇ!?」 そうして、プロデューサーはネネを追っていく。 美穂はそんな二人を見て。 「可笑しな二人……でも……いいな」 そう、そんな、ネネが正しく恋する少女だった頃の話。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
211 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:22:21 ID:0DsT.wx.0 「そう…………塩見さんと言う人が」 「……………………私のせいで」 半ば恐慌状態だった美穂を、ネネが落ち着かせるのに、大分時間がかかってしまった。 その後、美穂が語った話は壮絶で。 同行者が殺されて、一目散に自分がもといた場所に戻ってきたという事だ。 ここなら安全だと思ったらしいから。 「………………大丈夫です?」 「……はい、其方も大変だったみたいで」 「いえ……」 藍子も心配するように声をかける。 藍子が辿った道も、美穂にやんわりと説明した。 ただでさえ、恐怖に怯えてる状態だった彼女を安心させるためには、腹を割って話すしかない。 そう判断したネネは藍子に説明してもらったのだ。 幸い藍子は、有名人ではあるので、美穂も顔を見たことがあった。 「あの……美穂さん」 「……なんでしょう?」 「話を聞いて、くれますか?」 藍子が、そう切り出した時。 ネネは、ただヤバイとだけ思ったのだ。 何故ならば、 「私達も仲間を失いました……大切な……仲間を」 「……はい」 「でも、生き様を引き継いで、生きようと思います」 ネネは、藍子と少し話しただけで解かる。 藍子は、強い。真っ直ぐなアイドルだ。 「貴方も塩見さんの気持ちを受け継いで、生きませんか?」 「……えっ」 「小さな希望も束になれば大きな希望に……花束に」 「………………」 誰かの死を受け止めて。 沢山泣いて、哀しんで。 それでも、前を向いて生きていける少女だ。
212 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:22:54 ID:0DsT.wx.0 「そう…………塩見さんと言う人が」 「……………………私のせいで」 半ば恐慌状態だった美穂を、ネネが落ち着かせるのに、大分時間がかかってしまった。 その後、美穂が語った話は壮絶で。 同行者が殺されて、一目散に自分がもといた場所に戻ってきたという事だ。 ここなら安全だと思ったらしいから。 「………………大丈夫です?」 「……はい、其方も大変だったみたいで」 「いえ……」 藍子も心配するように声をかける。 藍子が辿った道も、美穂にやんわりと説明した。 ただでさえ、恐怖に怯えてる状態だった彼女を安心させるためには、腹を割って話すしかない。 そう判断したネネは藍子に説明してもらったのだ。 幸い藍子は、有名人ではあるので、美穂も顔を見たことがあった。 「あの……美穂さん」 「……なんでしょう?」 「話を聞いて、くれますか?」 藍子が、そう切り出した時。 ネネは、ただヤバイとだけ思ったのだ。 何故ならば、 「私達も仲間を失いました……大切な……仲間を」 「……はい」 「でも、生き様を引き継いで、生きようと思います」 ネネは、藍子と少し話しただけで解かる。 藍子は、強い。真っ直ぐなアイドルだ。 「貴方も塩見さんの気持ちを受け継いで、生きませんか?」 「……えっ」 「小さな希望も束になれば大きな希望に……花束に」 「………………」 誰かの死を受け止めて。 沢山泣いて、哀しんで。 それでも、前を向いて生きていける少女だ。 「貴方と塩見さんの希望を……かしてください」 けど 「…………ないで」 誰もが、その強さを、持ってるわけじゃないんだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
213 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:24:12 ID:0DsT.wx.0 「…………ないで」 自分が出したと思えないぐらい低い声だと美穂は思う。 なんで、こんな声を出してるんだろうと。 哀しいのに、苦しいのに。 「……え?」 「…………ざけないで」 いや、わかっていた。 目の前の少女に対して。 美穂は、溢れ出る激情を抑えることが出来ないのだ。 「ふざけないでっ!」 それは、ほぼ絶叫だった。 溢れる感情が発した言葉。 「生き様を継ぐ……………………そんな事……簡単にできないよっ!」 目に浮かぶのは一人の少女。 塩見周子。 飄々としていたけど、優しかった。 きっと彼女にも、背負ってるものが、背負ってる人が居たのに。 それなのに、美穂を護って一人逝った。 「彼女だって、沢山やりたいことあったのに、伝えたい思いもあったのに、逝っちゃった」 悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。 哀しくて、哀しくて仕方ない。 でも、
214 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:24:53 ID:0DsT.wx.0 「私は、もう、精一杯なんですっ! ただでさえ、大好きな、大好きな人の命が危ないのに!」 大好きな、大好きな人。プロデューサー。 その人の命が天秤にかけられて。 しかも、そのプロデューサーと付き合ってる親友がいて。 自分の事でもう苦しい事のに。 「継ぐ事なんて、重すぎるよぉ……辛い……よぉ」 誰かの生き様を継ぐなんて、もう、重たい。 そんな事なんて、できない。 辛すぎた。辛すぎた。 涙が溢れて、止まらない。 「ねえ、藍子さん……貴方は? 貴方だってプロデューサーの命がかかってるのに」 「……私は…………私は」 藍子は迷いながら、それでも、口にする。 視線は迷い、手を合わせて。 それでも、伝えなきゃ。 自分の気持ちを。 「それでも…………私はアイドルだから」 それでも、アイドルだから。 高森藍子は、アイドルだから。 真っ直ぐに、愚かしいほどに。 「………………強いね、藍子ちゃん」 美穂は、ぽつんと呟く。 本当に強いアイドルだと思う。 それは美穂にも驚くぐらいに。 「そんな事無いです……」 「そんな事無いわけが、無い。きっと貴方だってプロデューサーのことが好きなんでしょう?」 「……どうして?」 「さっきの反応見れば解かるよ」 想いを潰して。 アイドルであろうとするなんて。 「ねえ、美穂ちゃん……私は強くなんかないよ……みんなに支えられてる……だから、ね?」 それでも、藍子は手を伸ばして。 「一緒に頑張ろう? 皆が幸せになれる方法をみつけよう?」 彼女に問いかける。
215 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:25:16 ID:0DsT.wx.0 美穂は――― ねえ、神様――― 「あ゛な゛た゛の゛つ゛よ゛さ゛を゛お゛し゛つ゛け゛な゛い゛で!」 ―――弱い事は罪ですか? ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
216 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:25:51 ID:0DsT.wx.0 涙も。 鼻水も。 哀しみも。 沢山溢れていた。 美穂は気がついたら、駆け出していた。 ただ、あの場所に居たくなかった。 自分の弱さがまざまざと見せ付けられるようで。 本当に、嫌だった。 だから、逃げた。 走って。 走って。 「……はぁ……はぁ……ひぐ……うぁぁ」 疲れて。 涙も溢れて。 立ち止まって。 「やーっと捕まえた」 「……え?」 ぽんと、肩を掴む人がいる。 振り返ると藍子と一緒に居た茜が傍に居た。 どうしようと悩み、逃げようと想っても、疲れて逃げれない。 「逃げないでいいよ。連れ戻したりもしない」 「……えっ」 かけられたのは思いのほか優しい言葉。 「私たちが軽率だったね、御免」 「……そんな事無いです」 「そんな怯えないでいいよ……何もしない」 「あっ」 それは塩見周子がかけてくれた言葉。 優しい言葉だった。 「私が言えることは一つ」 「なんでしょう」 茜が息を吸って言う。 それは美穂を解放する一つの言葉だ。
217 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:26:24 ID:0DsT.wx.0 「泣いちゃえ」 「えっ」 「塩見さんの為に泣いちゃえ。もう泣いてるけどさ……大声で泣く事は、また別だよ」 泣けばいい。 泣いて、気持ちをリセットできるなら。 きっと、それが、前を向くまずいいことなんだから。 「立ち止まってさ、泣くんだ……それが出来るのは女の子の特権だ!」 「あ……う…………」 そっと抱き抱えられる。 優しくて。暖かくて。 「うぁぁ……あぁぁああああああああ――――」 小日向美穂は、塩見周子の為に泣く事ができました。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「落ち着いた?」 「はい」 「藍子ちゃんとこ、いく?」 「…………いきたくないです」 「そっか」 泣き終えて、美穂と藍子二人、地面に座って。 今後の事を話し合う。 藍子のところに戻るのは、美穂は絶対に嫌だった。 藍子の言ってる事は、正直受け付けない。 嫌悪感すら、未だにある。 藍子の言葉は、強いから。 そして、アイドル過ぎるから。 今の美穂には強すぎて。眩しすぎて。 そんな生き方できやしない。 「じゃあ、私も暫く付き合うよ」 「いいんですか?」 「一人に出来ないっしょ」 「……ありがとうございます」 「……ここから、近いのは牧場だね、ちょっと行ってみよう!」 そして、周子に手をひかれたように、また茜に手を引っ張られる。 つられるまま、歩き出す。
218 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:26:45 ID:0DsT.wx.0 ふと、美穂は思う。 親友はどうしてるのだろうか? 解からない。 藍子はどうして、あんなに強くて、アイドルに拘るんだろう。 普通の少女、恋する女の子に、戻れないのだろうか? 私はどうするの? 大好きな人の為に。 私は、本当にどうしたいの? やっぱり、解からない。解かりたくない。 そんなことをとりとめもなく考えて。 彼女は手を引っ張られ続けたのだった。 【G-5・分かれ道/一日目 午前】 【小日向美穂】 【装備:防護メット、防刃ベスト】 【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌、毒薬の小瓶】 【状態:健康 哀しみ】 【思考・行動】 基本方針:殺しあいにはのらない。皆で幸せになる方法を考える? 1:茜についていく 2:藍子の考えに嫌悪感。 【日野茜】 【装備:竹箒】 【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いには乗らない! 0:美穂を励ますために、牧場に。 1:他の希望を持ったアイドルを探す。 2:その後藍子に連絡を取る。 3:熱血=ロック! ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
219 :水彩世界 ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:28:22 ID:0DsT.wx.0 「あはは……駄目だな、私」 そうして、警察署に取り残されたのは、藍子とネネだった。 茜は、警察署の電話番号だけさっさと調べて、美穂が心配だから行く!といってそのまま出て行った。 連絡するからと言葉を残して。藍子も茜に行くように頼んで。 結果として二人が残される事になった。 「……きついなぁ……やっぱり……もう二度と聞きたくなかったのに」 そう呟く藍子は元気なさそうだった。 それも当然かなとネネは思う。 美穂の事も、気になるがやっぱりまずは藍子の事を。 「ネネさんは私の傍に居るの?」 「…………はい」 そして、ネネは藍子の傍に居る事を今は、選ぶ。 未だに心は迷い、揺れる。 悩んで、悩んで、悩みきってる。 けれど、二つの鍵となる人物がいた。 アイドルたるアイドル、フラワーズのリーダー、高森藍子。 ヒロインたるヒロイン、親友との恋に揺れる少女、小日向美穂。 アイドルとして、彼女がどう思うのか。 ヒロインとして、彼女がどう思うのか。 藍子はそのまま、アイドルで居続けられるのか。 美穂はもしかしたら、殺す側に回るかもしれない。 どちらにしろ、プロデューサーが人質になってるのだ。 その上で、どう歩むのか。 二人の行く末を、そして、自分の道を。 彼女達を通して、見つけたい。 それが、日の出の光とも闇とも取れないそんな淡い世界に居る。 そうそれは、まるで。 ――――水彩の位置にいる栗原ネネの決断だった。
220 :水彩世界 ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:29:05 ID:0DsT.wx.0 【G-5・警察署/一日目 午前(昼間際)】 【高森藍子】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×2、爆弾関連?の本x5冊、不明支給品1〜2】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。 0:きっついなぁ…… 1:他の希望を持ったアイドルを探す。 2:愛梨ちゃんを止める。 3:茜の連絡を待つ 4:美穂は…… 5:爆弾関連の本を、内容が解る人に読んでもらう。 ※FLOWERSというグループを、姫川友紀、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいて、リーダーです。四人同じPプロデュースです。 【栗原ネネ】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、未確認支給品0〜1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:自分がすべきこと、出来ることの模索。 1:高森藍子と話してみる。 2:小日向美穂が心配。彼女の生き方をみたい 3:決断ができ次第星輝子へ電話をかける。
221 :水彩世界 ◆yX/9K6uV4E :2013/02/04(月) 03:29:29 ID:0DsT.wx.0 投下終了しました。 このたびも時間がかかり申し訳ありません。
222 : ◆GOn9rNo1ts :2013/02/04(月) 11:27:16 ID:YVH6HMSo0 遅れてしまいましたがお二方投下乙です! >彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン 良い話ダナー(里美ちゃんから目を逸らしながら) 先輩と日菜子ちゃんのやりとり、特に先輩の歌で悪い魔法から解き放たれる日菜子ちゃんというシチュはグっときました おかえり、ただいま、から再開する二人の関係がこれからどうなるのかwktkが止まりません! 里美ちゃんは…いつかあの世でお兄様と再会できたらいいね…お疲れ様 >水彩世界 ネネさんのPがノリノリである。この人も捕まっているのか…w アイドルたちの色々な繋がりが見えてきてる中で、ネネさんは彼女たちを通してどんな決断を下すのか気になります 水彩の乙女という最近の呼称を上手く絡めた彼女のスタンスはタイトルと相まって今後、特別なものになりそう そして、アイドルを貫いていく藍子ちゃんとそこまで強くなれなかった小日向ちゃん、この二人の対比も「アイドル」という大きなテーマに影響を及ぼしそう
223 : ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:49:16 ID:qkumnMyU0 遅れてすみません、投下します
224 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:52:23 ID:qkumnMyU0 「……これからの話を、しましょうか」 川島瑞樹がそう切り出したのは、あの忌まわしい放送が終わってからいくらかの時間が過ぎた後のことだった。 瑞樹と大石泉、姫川友紀の三人は、あれから慎重に慎重を重ねて北西市街の南端にまで到達していた。 そして放送に差し掛かる頃合いを見計らって無人の民家を仮の拠点とし、落ち着いて情報を整理する態勢を整える。 ここまではよかった。少なくとも隙も落ち度もありはしなかった。 十分な覚悟を持ってその時を迎えることができたし、そのまま得られた吟味に移行できるはずだった。 しかし、現実は苛酷だった。淡々と告げられた事実は、三人にとってあまりに容赦がなかった。 内容とは裏腹に、時には喜色混じりにすら感じる口調で平然と進行する千川ちひろに対して感じた得体の知れない畏れ、 それも確かにあった。特に彼女を知る瑞樹にとっては、本当に同一人物とにわかには信じがたいぐらいに。 とはいえ一番の戦慄は、読み上げられた十五人に上る死者の数をおいて他にない。 十五人。この島にいたはずのアイドルの実に四分の一。 多い、あまりにも多すぎる。自分達の中の倫理観が崩壊しかねないほど現実離れした数。 そして死ぬアイドルがいるということは、殺したアイドルもいるということ。 まさか全員が絶望のあまり首を吊ったなどということがあるはずもない。被害者がいれば、加害者もいる。 そしてその少女達の多くは、きっと今も生き延びて次の機会を伺っていることだろう。 幸いと言っていいものか友紀の仲間であるFLOWERSのメンバーをはじめとして三人にとって親しい人物の名は呼ばれなかったが、 しかし皮肉にも、そんなことは何の解決にもならないこともまたこの放送で証明されてしまっていた。 この島には人殺しがいる。 今生き残っているアイドルも、次の放送の時にはどうなっているか分からない。 時が経つにつれて生存者の数は確実に減っていくだろう。同じアイドルの手に掛かって。 アイドルがアイドルを殺す。それはもはや、まぎれもない現実なのだ。
225 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:53:23 ID:qkumnMyU0 (それにしてもまずいわね。事態の進行が速すぎるわ……) 三人でテーブルを囲みながら、瑞樹は内心焦りを隠せずにいた。 放送後、それぞれの考えに没頭してしまっていたところをなんとか意見交換という形に漕ぎ着けられたのはよかったが、 本当なら瑞樹だって自分の世界に閉じこもっていたいぐらいだった。 沈思黙考という名の現実逃避で、このまま外の世界の趨勢から目を逸らし続けていたい。 考えなければならないことは山のようにあるのだ、時間がいくらあっても足りないくらいだろう。 しかしそんなことをしている場合ではないと弁えられるぐらいには彼女は分別のある大人だったし、 年下の二人をこのまま放っておくわけにはいかないと考えるだけの責任感もまた備えていた。 「私は、焦って方針を転換すべきではないと考えるわ。状況は変わっても、やることは変わらないはずだもの」 そう口にした自分の言葉がいやに空々しく感じてかなわない。 アナウンサー時代にカメラの前で原稿を読んでいたのと変わらない、自分と地続きでない世界の話のよう。 無理矢理にでも自分を奮い立たせていかなければ、現実に立ち向かうことすら出来そうにない。 川島瑞樹はこんなにもヤワな女だっただろうか。そう思うと憂鬱になった。 「うん、あたしもその方がいいと思うなって」 向かいの椅子に腰掛けて足を所在無げに揺らしながら友紀が答える。 しかしその口調もまたどこか上の空で、心ここにあらずといった様相だ。 彼女の心に先刻の放送が陰を落としているのは考えるまでもない。仲間が今は生きているなんて気休めにもならない。 その自分の大事な友達が、今この時にでも十六人目の死者にならない保証なんてどこにもないのだ。 それでも努めて明るい声を出していこうとしているのが、瑞樹にはやりきれなかった。 「こんな時だからこそ、みんなで協力しないとね。殺し合いなんてつまらないぞーってみんなに伝えなきゃ」 「そうね。あの放送にショックを受けた子は多いでしょうけど、早めに合流すれば手遅れにならずに済むはず」 「うんうん。ね、泉ちゃんもそう思うでしょ?」 そして、もうひとり。 友紀が話題を振ったのにも気付かず、大石泉はじっと何かを思案していた。 元々色の白い子ではあったけれど、明らかに血の気が引いていると分かる蒼白な頬。 その唇はぎゅっと噛み締められ、ともすれば血が滲みそうにすら思えるぐらいだった。 利発な輝きを湛えているはずの双眸はうつむいてテーブルを睨みつけたまま、本当はどこか遠くに目を向けているようだ。 一言で言ってしまえば、それは自分の中に爆発しそうな何かを抱え込んでいる人間の表情だった。
226 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:54:40 ID:qkumnMyU0 「泉ちゃん……?」 友紀の口から漏れた戸惑いの言葉に、泉がはっと顔を上げる。 席に座ってはいたもののほとんど話を聞いていなかったのだろう、左右に視線を彷徨わせてから縮こまる。 彼女らしくない。なにか漠然とした不安すら感じるぐらいに。 今までの泉なら、理路整然と自分の考えを述べていく場面のはずなのだから。 どうしていいか分からないのか、友紀は助けを求めるように瑞樹へ視線を送ってきた。 瑞樹は迷う。その年齢に似合わないほど聡明な泉のことだ、結論の出ない問題に頭を悩ませているわけではないはず。 だとすると、今彼女を悩ませているのは、きっと自分の考えを口に出すべきかどうかだろう。 それを後押しするべきか、否か。瑞樹は僅かに逡巡し、決断した。 「……泉ちゃん。何か気付いたことがあったのなら、教えてもらえないかしら」 泉の全身がびくりと震えた。 その反応だけで、自分の推測が正しかったのだと瑞樹にも分かってしまう。 彼女らしからぬ困惑の仕草を経て、泉は弱々しく力に欠ける口調で話し出した。 「……ほとんど勘みたいなものです。ここで口にするには、あまりに根拠が足らなくて。その、混乱させるだけです」 「どんなことでもいいの。泉ちゃんが見過ごせないことなら、きっと私達のためにもなる」 「裏付けが少なすぎるんです。余計な先入観を植えつけるだけで、何のプラスにもならないかも」 「構わないわ。私も、きっと友紀ちゃんもその覚悟があるはず」 彼女の迷いを断ち切るように、瑞樹は言い切る。 勝手に代弁された友紀が泉の隣で「えっ」と声を上げかけたが流し、真っ直ぐ泉を見据えていく。 彼女が言いよどむであろう事柄。瑞樹にはひとつだけ心当たりがあった。 それはまだあの放送が流れる前、同じようにテーブルを囲んでの検討会の時のこと。 その時は何の益もないから、不安を生むだけだからと、あえて触れないようにした可能性。 当たって欲しくはないが、もしそのことなら、確かにここで話させるのはプラスになるとは限らない。 しかし、それでも。泉がその胸の内に、抑えきれない葛藤を秘めているというのなら。 「起こりうることなら、私達は可能性と向き合う必要があるわ。私達は、現実に立ち向かうためにここにいるんだから」 泉の肩がまた小さく跳ねた。 その瞳は少しだけ躊躇に揺らぎ、しかし数瞬ののちにはその奥に決意の光があった。 肩を大きく上下させて深呼吸し、彼女は決然と口を開いた。
227 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:55:34 ID:qkumnMyU0 「分かりました。これはあくまで私の考えで、絶対の事実とは言い切れないと前置きします」 そこでもう一度大きく息を吸い込む。 それからまたほんの一瞬だけ言い淀み、しかし今度は決然と言葉を発した。 「結論から言います。私達60人のアイドルの中には、主催者による干渉を受けた人間がいる。 何らかの形で主催者はそのアイドルをこの殺し合いへ積極的に参加するよう働きかけ、 そしてそのアイドルによる死者の数を前提としてこの企画を進行していた。私はそう推測します」 空気が凍り付く。 「……えっ? え、ちょっと待って、えっ」 「落ち着きなさい友紀ちゃん。……泉ちゃんは続けて。根拠を聞かせてほしいわ」 混乱する友紀が辛うじて口をつぐんだのを確認し、瑞樹は話を続けさせる。 その内心では、当たって欲しくない考えが当たってしまったことへの苦々しさがあった。 しかしここは泉の考えを汲むべき場面だ。あの時とは状況が違う、と自分を納得させる。 瑞樹の言葉にはいと頷き再び口を開く泉。話すごとに言葉に力が戻ってきたようだ。 「とは言っても、根拠と言えるほど確かなものではないんです。ただ、あのちひろさんの余裕……。 私には、あの時の言い回しは、思ったよりも殺し合いが順調で嬉しいと、そう言いたげに感じました。 ……そう、思ったよりも、です。まるで、ある程度は死んで当然だと思っているような口振りでした。 確かに、確率論として追い詰められて一線を越えるアイドルが一定数いると考えるのは当然でしょう。 でもそれは絶対じゃない。一人も乗らないってことも有り得たはずです」 瑞樹は頷いた。 「それはそうね。つまり、アイドルの側に主催者側の刺客がいて、死者数を底上げしているっていうこと?」 「はい。最低限のボーダーラインとして、ある程度の死者を確保しているということはありうるかと」 「……話としては分かるわ。だけど、あくまで今は可能性の話だということよね?」 「そうですね。現時点ではそうとしか言えません」 瑞樹の疑念を泉はあっさりと肯定しながらも、そこで語るのを止めはしなかった。
228 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:56:42 ID:qkumnMyU0 「確かに裏付けのない推論なんです。ただ……」 「ただ?」 「ただ、そうですね――川島さんは、この企画は何のために行われてるんだと思いますか?」 その問いは、瑞樹が言葉に詰まるには十分だった。 もちろんこの殺し合いの大元の理由について、今まで一度も考えなかったわけではない。 しかしこの非常識過ぎる現実に納得のいく説明なんて付けられるはずもなく、今に至るまで留保してきたのだ。 試しに友紀のほうに視線を送ってみたが、目が合うなり「お手上げ」とばかりに大げさに首を振られてしまった。 無理もない。彼女を軽んじるわけではないけれど、自分にも見当もつかないのだから。 しかし年長者だからと見栄を張る場面でもない。瑞樹は正直なところを口に出す。 「はっきり言って、理解不能ね。これだけ残酷なことをしなければならない理由なんて、思いつかないわ」 「そうですよね。実を言うと私も、この企画そのものの目的は理解も推測もできません。 ただそこに至る過程に関してだけは、少しずつ、見えてきたように思うんです」 そこに至る過程。マクロ視点の目的そのものではなく、どうやって目的に近付かせようかということか。 「あの放送を振り返ると……ちひろさん、いえ主催者は、何か私達に目的意識を持つよう仕向けてるように感じます。 誰かの為、自分の為、希望の為。そう繰り返していましたし、そうやって行動を起こすことこそを望んでいる。 そしてそのためにあらゆる仕掛けを総動員して、私達を行動させようとしているんじゃないかな、と」 「その推測通りなら、まるで心理学の実験ね。少なくとも悪趣味な見世物というわけではないのかしら」 「そうですね……嫌な仮定ですけど、仮に単なる娯楽とすると手が込みすぎているように思えますよね」 少なくとも少女達が殺し合うのを見物して愉しむためだけの催しではないことであるように思える。 だとすると一層目的に想像が及ばなくなるが、これに関しては今考えても仕方ない。 「改めて考えてみても、この企画はぞっとするくらい綿密に計算されて作られています。 島という閉鎖空間、爆薬内蔵の首輪による管理、人質のプロデューサー、自分以外が全て敵である状況。 私達を間接的に追い詰め、殺し合いを強要しようとするためのお膳立てのフルコースです。 ただ、これだけ周到に準備された計画の、肝心な殺し合いの部分だけは自由意思に委ねられているように見える。 だから自発的に殺し合わせるのが目的だとしても、最後の仕掛けが実は用意されてるように思えてしまって」 最後の仕掛け。参加者内部からの殺し合いへのアプローチ。 それは単純に他のアイドルを間引かせるだけでなく、同時に『殺し合いが確実に進行している』という実感を、 放送による死者の発表やあるいは直接的な接触によって他の参加者に与えていくということ。 「ですから私が主催者なら……そう、恐怖と敵意を煽るために、『悪役』を用意するくらいはすると思うんです」 そこで泉は言葉を切り、言うべきは言ったとばかりに大きく息を吐いた。
229 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:57:33 ID:qkumnMyU0 悪役。 自分達60人の中に、本当にそんな存在がいるというのか。 泉自身が言うように根拠には乏しいが、下らないと切り捨てるには不気味な存在感を持った考えだった。 重苦しい沈黙が部屋全体を包む。 放送前の話し合いでは深読みに近かった裏切り者の存在。それがより確かな可能性として存在している。 泉も、あの時瑞樹にたしなめられたからこそ、口に出すのを躊躇っていたのだろう。 一歩間違えば、足元を支えているものが残らず瓦解してしまいかねない発想。 しかし無視するには仮に真実だった場合のリスクが大きすぎる仮定。 自分達の存在が、揺れるロープの上でふらつきながら歩く綱渡りの道化師のように不確かなものに思える。 瑞樹は口の中が乾くのを感じながら、泉にねぎらいの言葉をかけた。 「……ありがとう、泉ちゃん。よく言ってくれたわね」 「すみません、本当はもっと確証を得てから話したかったんですが」 「いいのよ。それに、きっとこの先ずっと一人で抱え込むつもりだったんでしょう?」 泉のハッとした顔。やっぱりね、と思う。 この聡明すぎる十五歳の少女は、きっと一人であらゆる不安を背負っていこうとするのだろう。 他人を巻き込みたくないと思うくらいにの優しさと、自分自身で結論を見つけたいという責任感で。 コンピューターのような頭脳を持ちながら、しかし機械のように冷たくはなれないだろう彼女。 きっと誰かが隣で支えてあげなければ、彼女はその賢さゆえに永遠に傷つき苦しみ続けるに違いない。 だからこそ、この健気な女の子の背負うものを少しでも分かち合いたいと、そう思う。 泉のぎこちなく震えるその指先を、瑞樹はそっと両手で覆った。 「大丈夫、貴女一人の不安くらいなら受け止めてあげられるから。大人の女の特権よ、任せなさいな」 そう言っていたずらっぽく笑ってみせる。 あまり弱みを見せることに慣れていないのだろう、泉のあからさまな動揺が微笑ましくすらあった。 「あっ、あたしもあたしも! 難しいことは分かんないけどさ、あたしはずっと泉ちゃんの味方だから!」 「あら、友紀ちゃん話ちゃんと聞いてたのね。ずっと静かだったからてっきり」 「ひどいっ!?」 「うふふ、冗談よ」 「ふふ……ありがとうございます。少しだけ、気が楽になりました」 泉の笑顔はまだまだぎこちないものだったけれど、それを向けてくれるだけで今は十分だと瑞樹は思った。
230 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:58:04 ID:qkumnMyU0 ▼ ▼ ▼ (やっぱり不器用すぎるかな、私) 泉は再出発の支度をしながら、ひとり思う。 自分の強みは考えること。それを自覚している以上、一人で何もかも抱え込むのは当然と思っていた。 だから、瑞樹達が支えてくれることには感謝しているし、心強さも感じた。 でも、本当に分からないのだ。どうやって頼っていいのか、どう力を抜けばいいのかが分からない。 親友達と一緒の時はいつも泉がまとめ役だったし、普段から誰かに甘える生き方はしてこなかったつもりだ。 だからこういう時、どんな顔をして頼っていけばいいのかが分からない。 瑞樹や友紀の気持ちは痛いほど嬉しい。しかしそれとは別に、本当に甘えてしまっていいのかとも思う。 それに、今日までずっと三人で、今は一人だけだからこそ、誰かと一緒にいることに怖さもあるのだ。 その人の存在に甘えてしまったら、また一人になったときに辛い思いをするかもしれない―― (……そんなこと、考えてもしかたないよ) 首を振って弱い考えを吹き飛ばす。 今はやるべきことをするだけだ。ネガティブな事を考える場合じゃない。 これからどうやって生き抜いていくのか、その思考に切り替えていかないといけない。 先ほどの話し合いの結果、ひとまず方針としては今までのものに大きな修正は加えないという結論になった。 今まで以上に慎重に動かなければならないのは確かだとしても、猜疑心は結局自分達の首を絞めかねない。 今必要なのは全てを敵とみなすことではなく、敵の存在を考慮してなお信じられる味方を探すことなのだ。 それに、仮に敵役として動いているアイドルがいたとして、その少女が最初から殺人者のはずはない。 この殺し合いが始まる前までは、その子も確かにアイドルだったのだから。 それならば、この殺し合いの大前提を崩してしまえば、その役割は意味を為さなくなるかもしれない。 それだけのことを、これから泉達三人は成し遂げようとしている。 必要なのは最悪の可能性を知ること。有りうるかもしれない、という事実を認識すること。 しかし、それがきっかけで泉達が敵意を抱えてしまってはいけないのだ。 (……かな子さん、どうしてるかな) ふと、泉はこの島で唯一の知人らしい知人である少女のことを思う。 三村かな子。泉、さくら、亜子の三人がプロデュースを経てユニット『ニューウェーブ』としてデビューした時、 初めてのLIVEにゲストとして参加してくれたアイドルだ。 泉達にとっては、右も左も分からない新人の時にアイドルとしてのあり方を教えてくれた恩人であり、 後発のアイドルユニットゆえ事務所や芸能界に馴染み切れていなかった自分達を支えてくれた大事な先輩だった。 彼女は今、どうしているだろうか。 自分達とこの殺し合い全体のことで精一杯で気を回す余裕がなかったけれど、彼女も過酷な今を生きているだろう。 でも、例え自分達アイドルの中に本当に悪役が紛れ込んでいるとしても、彼女だけは信頼できるように思える。 だって自分達の憧れの、あの優しくて穏やかで人を傷つけるなんてこと考えもしないような先輩が、 率先して他のアイドルを殺して回っているだなんて想像もできなかったから。 もちろんそんなに甘い話ではないのは分かっている。可能性を排除しては生き残れないかもしれないことも。 だとしても、あの柔らかい笑顔だけはあの日のままであってほしいと、泉はそう願った。 彼女だけは味方であってほしいと、そう願った。
231 :シンキング・シンク ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:59:10 ID:qkumnMyU0 【C-4(民家)/一日目 朝】 【大石泉】 【装備:マグナム-Xバトン】 【所持品:基本支給品一式×1、音楽CD『S(mile)ING!』】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。 1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。 2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。 3:漁港を調査して、動かせる船を探す。 4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 5:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 6:かな子のことが気になる。 ※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。 【姫川友紀】 【装備:少年軟式用木製バット】 【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。 1:他のアイドル達(特にFLOWERSの仲間)を探しながら南の市街へと移動。 2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。 3:漁港を調査して、動かせる船を探す。 4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 5:仲間がいけないことを考えていたら止める。 6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 ※FLOWERSというグループを、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。 【川島瑞樹】 【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。 1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。 2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。 3:漁港を調査して、動かせる船を探す。 4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 5:大石泉のことを気にかける。 6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 7:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。 ※千川ちひろとは呑み仲間兼親友です。
232 : ◆n7eWlyBA4w :2013/02/04(月) 16:59:36 ID:qkumnMyU0 投下終了です。重ね重ね、遅れてすみませんでした。
233 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/04(月) 22:52:56 ID:B3QuWkuc0 乙です。 実はそのかな子が悪役とは夢にも思わないでしょうね… >.>200に加えて、相川千夏も予約します ルール違反の場合は相川千夏の予約は無効でお願います
234 :名無しさん :2013/02/04(月) 23:39:03 ID:o3/MuoXcO >>233 ルール的には問題ないと思いますよ。 ただ千夏は前の回で「東に向かう」と明記されているのですが、そこは大丈夫でしょうか?
235 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/05(火) 02:46:50 ID:HPmVEzi60 皆様投下乙です! >寝ても悪夢、覚めても悪夢 杏はやっぱ殺した事に凄い悩んでるよなあ。 悪夢が本当リアルで、悩むことに…… そして、間に合ってよかった!w >私はアイドル トゥ=ウクァ混沌の中、安息という時の宿命を貪りなさい。です。そして天は鳴き、大地は震えるだろう・・・! 切望のフリージア、蘭子聖域(ここ)でおちたか――闇に飲まれよ。 学園最上位の能力者ゴンドゥ・ラーのヴォルサハイトから出ようと古代種ヒッシだけを付け狙う暗殺者に我が血を以って火薬となすのが至ってパージして……真実我が手を下すには及ばない 裁判の手サ・ティコ、即ち“断罪のマリア”は追い詰められてる…だが、どう刻むか換え難い言葉 ユ=クァリスは終わりなき人の世を象徴するかのように恐ろしい…フ、アハハハハ! 熊本弁が上手く使えないので野村Pにノムリッシュに翻訳してもらいました。 ※原文 投下お疲れ様です! ああ、蘭子ここでおちたか……お疲れ様。 ゴンドラから出ようと必死になるのがわかって墜落して……本当切ない 幸子は追い詰められてるけど、どうなるかなぁ ゆかりは相変わらず恐ろしいw >熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death)、 響子ちゃん恐ろしい……w 凄みがぱねぇw 智恵里は本とう流されてるなぁw まあ、ナターリア殺しちゃってるけど!w >彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン いい話だなー?(里美は目にをそむけて、いやごめんなさい……w) 岡崎先輩の意思がすげえ、でてよかった。 里美は本当せつなくて、ごめんなさい……w >シンキング・シンク 泉が気付くか! しかも、その敵がかな子だじぇ! これは、本当先が楽しみだなあ。 というわけで? 大石泉、姫川友紀、川島瑞樹で予約します
236 : ◆BL5cVXUqNc :2013/02/05(火) 15:26:27 ID:IUcP8V0g0 投下お疲れさまです! >寝ても悪夢、覚めても悪夢 相変わらず杏はブレないなあ……wと思いきや生々しい悪夢に苛まれるあたり何かしら心境に変化がありつつあるのかな それでも目覚めた後の第一声はやはりAnzuchangであるw >私はアイドル 黒キ天使はその翼をもがれ地に堕ちた 血染めの花嫁は魔剣を携え浄罪の調を口ずさみ、さらなる死と混沌を大地に振りまく 神の御業に翻弄されたさまよえる子羊たちに安息の日を >熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) 千夏さんもドン引きさせる響子のキレっぷりがますます研ぎ澄まされておりますのう。 ゆかりやかな子とはまた違った方向で凄みが感じられます ちえりゃーは……うん、練乳なみの甘っちょろい考えでまったく現実がみえてねーw >彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン 岡崎先輩も喜多ちゃんも助かってなにより。特に岡崎先輩はずっとピリピリしてたけどやっと心から笑顔になれたかなあ さとみん? 残念だが当然。彼女らしい最期といえる >水彩世界 ネネさんのPが愉快すぎるwこの人なら一人でちひろさんの所から脱出できそうなんですけど…w 藍子は強いよなー。だからこそこれからその強さを拒絶されることに耐えていられるか みんなの『アイドル』であることにある意味で囚われている藍子はこの強さに今後足を掬われそうな気がしないでもない そしてその強さを拒絶した小日向ちゃんだが、日野ちゃんが何とかフォローに回ってくれたおかげで何とか最悪の事態は避けられそうかな >シンキング・シンク そこに気がつくとはやはり泉は天才か……わかるわ しかしの大切な先輩こそちひろさんに仕立て上げられた最凶マーダーなんだよなあ それでは五十嵐響子、緒方智絵理を予約します
237 : ◆John.ZZqWo :2013/02/05(火) 18:01:50 ID:vIorhLMk0 投下乙です! >水彩世界 同じアイドル側でも見事に四者四様ですね。 やっぱり藍子ちゃんのアイドルというあり方はこんな生死のかかった状況じゃ負担になるよね。 さて、危ないところから遠ざかり二手に別れたわけだけど、もうしばらくは危険なことはないのかな……? そしてこの別れた組み合わせ、よく見たらキュート&パッションx2組だw バランスがいいw >シンキング・シンク かな子と泉ちゃんのラインがつながったー!? かな子も、もし悪役じゃなかったら頼るのはって泉ちゃんを挙げてたけど、 泉ちゃんは悪役を想定しながらも、まさかその悪役がかな子本人だとは思わないよねぇ。 これ、もし出会ったら互いがどんな反応するのか……かなり楽しみだなぁw
238 : ◆John.ZZqWo :2013/02/05(火) 18:02:29 ID:vIorhLMk0 予約まとめです。 02/02(土) 03:42:53 ◆ltfNIi9/wg 十時愛梨、三村かな子 02/04(月) 00:51:54 ◆u8Q2k5gNFo 向井拓海、松永涼、小早川紗枝、相川千夏 02/04(月) 02:28:43 ◆John.ZZqWo 島村卯月 02/05(火) 02:46:50 ◆yX/9K6uV4E 大石泉、姫川友紀、川島瑞樹 02/05(火) 15:26:27 ◆BL5cVXUqNc 五十嵐響子、緒方智絵理
239 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/05(火) 19:16:20 ID:jAI17sKM0 投下乙ですー! >熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) 怖い!響子ちゃん怖すぎるっ! ホントむちゃくちゃ狂ってるなぁ…マジPさんLOVEすぎるでしょう でも、所々に素の等身大の少女が見え隠れするのが良いなぁ そして新たなマーダーコンビ誕生か……どうなる!? >彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン いやぁ……これは超名作ですわ。これぞアイドル!正にパロロワ! 歌で呼び戻すとは鳥肌もん。先輩にしか出来ない偉業ですぜぇ そしてさとみん……ご愁傷様。悲しい上に悲惨な最期はパロロワらしくてゾクゾク来ますねー。 まぁ、終わってしまった物は仕方無いとしても、輝く二人のこれからが気になるぅ >水彩世界 コメディでダンディなP……この人も捕らえられてるのかー 美穂ちゃんがほんとに精神的に見ても一般人だから…ある意味一番辛いよなあ 皆悪気は無い筈なんだけど、ここでもどっかズレが…… そして重要なアイドルとヒロインの対比、ネネさんは果たしてどちらを選ぶのかな 早く選ばないと遊園地組危ないすよ! >シンキング・シンク なんかもう一周回って友紀が愛らしく見えてきた……w でも川島さんも大人らしくフォローも行き届いてるし、いずみん頭が良い で、そうか…アイプロで共演したんだよなSJかな子と……これは面白くなってきた では、私は藤原肇、双葉杏を予約します。
240 : ◆n7eWlyBA4w :2013/02/06(水) 20:35:55 ID:TFUD.KNw0 皆様投下乙です!ここ最近のラッシュは凄まじいな…… >S(cream)ING! 島村さん、前話時点でボロボロだったけど更なる追撃が……あわわわ こんなに苦しんでるんだから報われて欲しいけどそううまくいかないのがロワの常、果たして >夢は夜に見ろ この冷静さは他の殺しに乗ったアイドルにはない和久井さんならではの武器だなあと そして行き先が空港となると……間違いなく波乱あるよなぁ、楽しみ楽しみ >彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン そういうゲームじゃねえからこれ!(もう何度目か分からない突っ込み) しかし完全に別ゲー状態でいながらも、最後は救われない感じなのがまた…… >寝ても悪夢、覚めても悪夢 Anzuchang、さすがにこのまま目を逸らし続けることはできないかー というか禁止エリアとか大丈夫なんですかね……w >私はアイドル えと、堕天せし黒翼が、因果の鎖に引かれて……熊本弁で感想とかむーりぃー というかゆかりさん怖すぎる……蘭子の死に方が切なすぎて、もう、もう >熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) あ、あかん……響子ちゃんの精神がどんどん極まっていく…… 同行者獲得したのに智絵里の詰んでる感がハンパないんですがそれは >彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン 綺麗な岡崎先輩に感動しました。喜多ちゃんが救われてホントよかった…… え、裏で爆死してる人がいる?まあ、なんというか、インガオホーみたいなアレ >水彩世界 藍子の在り方に全ての子が同調できるわけがないよなぁ、良くも悪くもアイドルそのもの過ぎて 一大集団になるのかと思ったけれどうまい具合に別れたのも今後が気になる感じ 関係ないけどPのキャラが濃いので今後の出番に期待したい() そして渋谷凛を予約しますね
241 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:32:02 ID:3DDKSSh60 遅くなってしまい申し訳ありません 十時愛梨、三村かな子投下します
242 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:33:15 ID:3DDKSSh60 どれだけ“訓練(レッスン)”をつもうとも、三村かな子は兵士ではない。 その“訓練(レッスン)”にしたってたかが一週間程度の付け焼刃。 プロデューサーを人質に取られていたとはいえ、実際にこの殺し合いが始まるまでは半信半疑だった少女は命がけで訓練に勤しんでいたわけでもなく。 銃を撃つ術や筋力・体力は身につけられても、人の気配を察するなどという達人技を会得しているはずもなかった。 少女もそのことは自覚しており、背後からの不意打ち・だましうちを受けにくい山中へと向かいはしていた。 けれども、ここは未だ街中だ。 周囲に身を隠しながら歩いているとはいえ、一度補足されてしまえば、凶弾から逃れるすべなど少女にはなかったであろう。 しかし、それはあくまでも、三村かな子が一週間“訓練(レッスン)”を積んだだけのただの少女だった場合の話だ。 彼女は、アイドルなのだ。 人の気配を察することはできなくとも、人一倍、見られることには慣れていた。 見られることには敏感なアイドル故に、誰かが、自分を見ていることを察することができた。 察した瞬間には、視線から逃れようと、一息で身をかがめ、地面を転がっていた。 直後、かな子の耳が銃声を拾い上げ、先程までいた場所に数発の弾丸が叩き込まれる。 もしあと少しでも気付くのが遅かったなら。 もしあと少しでも射手が早く引き金を引いていたのなら。 少女は命を奪われていたことだろう。 だが、かな子は生き残った。 咄嗟の判断で命を繋ぎ、どころか、返り討ちにしてやろうと素早く振り返りつつ、取り回しに優れたカーアームズの方を突きつける。 後は引き金を引けばそれで終わり。 そう、かな子は思っていた。 「……え?」 かな子は驚愕する。 振り返りみた下手人が十時愛梨だったから――ではない。 シンデレラ・ガールである少女が殺し合いに乗る訳がないだとか、友だちである自分を殺しに来るはずがないだとか。 そんな甘い考えは疾うの昔に捨て去っていた。 それに、少女にこの殺し合いがドッキリではないと思い知らせたのが、他ならぬ十時愛梨のプロデューサーの死だったのだ。 かな子は友だちであったこともあり、愛梨が彼女のプロデューサーに、信頼を超えた感情を抱いていたことを知っている。 いや、たとえ知らなかったとしても、もし、自分のプロデューサーが代わりに殺されていたとしたら……。 そうならぬようにとただの少女一人に人殺しの道を歩ませたほどの存在が、死んでしまったとしたのなら……。 この世に絶望し、何をしたとしてもおかしくはなかった。 自暴自棄、プロデューサーが生きていることへの八つ当たり、ちひろ達と再び相見え復讐するためにまずは優勝を目指す……。 考えれば考えるほど、愛梨が人を襲う理由なんて思い浮かべられた。 だからかな子が驚いたのは、愛梨が自分を殺そうとしたことではなく。 自分を撃ったはずの愛梨が、もう人一人分もない距離まで迫ってきていたからだった。
243 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:34:11 ID:3DDKSSh60 結局、十時愛梨は自分の手で決断をすることができなかった。 少女が引き金を引いたのも、かな子が急に視界から消えたこととその意味を理解してからだった。 バレた、気付かれた、殺される――。 焦りと恐怖がごちゃまぜになった感情が、今更ながらに愛梨を行動へと移させた。 しかし時既に遅く、少女は労せず狩れたかもしれない獲物を取り逃がしてしまう。 どころか、このままでは、一転して自分が窮地へと追い込まれてしまう可能性は極めて高い。 塀の内側にいるため、玄関に向かって撃たれ距離を詰められたら裏口から家内に逃げるしかない。 塀は高く、素早く跳び越えるのは無理だろう。 先程思い描いた最悪の未来絵図。 それが今度こそ、少女に無謀とも取れる一手を選択させた。 (やるしか、ない。私は、私は生きるんだ!) 今度は、迷わなかった。 (生きろ……生きろ……) 最愛の人からもらった最後の魔法を抱いて、愛梨は銃を撃ち終わるやいなや走りだした。 本当なら走りながら撃ちたいところだったけれど、足を止めずにぶれる体で狙いをつけて撃つことなんてできそうにない。 それに今は距離を最速で距離を詰めるのが最優先なのだ。 速度を少しでも落としかねない動作を挟む余裕はなかった。 (生きろ……生きろ……生きろ……生きろ……!) 自らの身体をまるごと弾丸とかし、かな子へとぶつかる。 反撃を許し、屋内へと追い込まれれば逃げ場を失い、背を向けることも論外な以上、唯一の退路はかな子のいる方向しかなかった。 「……え?」 振り向いたかな子が呆けた声を上げる。 だけど、その驚愕とは裏腹にぴったりと狙いをつけて構えられた拳銃が更に愛梨の恐怖を煽り、少女は、叫んだ。 「うああああああああああああああああああああああああっ!!」 それは悲鳴か。恐怖を振り払うための雄叫びか。 自分でも分からなかったけれど、でも、そうやって無理にでも気合を入れなければこの相手には呑み込まれる。 自身の知るかな子には抱くはずのない感情を、最早一切疑いもせずに愛梨は受け容れて。 一刻も早くこの恐怖を、自分の命を、自分の、彼の魔法を脅かす存在を排除することに全霊を賭ける。
244 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:34:48 ID:3DDKSSh60 「かっ、は!?」 引き金が弾かれるよりも早くかな子にぶつかり押し倒す。 マウントポジションを取ることに成功した愛梨だが、彼女を襲う不気味な緊張感は一向に消え去りはしなかった。 (早く、早く、早く!) 今にも震えてしまいそうになる身体を魔法でねじ伏せ、手に握りしめたままだったベレッタを突きつける。 かな子も身を捩らせるも、この状況に持ち込むべく行動した愛梨のほうがワンテンポリアクションが早い。 ただしそれは互いに銃と銃で撃ちあった場合に限るのだが。 (!? あれって!?) かな子が手にしたものを眼にし、愛梨ははっとなる。 “それ”にしてやられたのはつい数時間前のことで、だから咄嗟に愛梨はかな子から飛び退いていた。 その判断が少女を救う。 銃と違って狙いを付ける必要もなくその動作分愛梨に先んじてピンを抜かれた赤色の発煙筒。 視界を奪われるのは互いに同じながらも、仕掛け人であるかな子は動揺することもなく、生じる隙に乗じてカットラスを振るい上げていた。 目に見えずともすぐ近くを通り過ぎていった風圧を感じ、愛梨は冷や汗を流すも、そのまま大きく後退する。 煙が長く残るようならそのまま逃げるのもありだったのだが、屋内で使用された前回とは違い、今は屋外。 すぐさま赤い煙は晴れ、視界はクリアーになっていく。
245 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:35:21 ID:3DDKSSh60 そして――。 「どうも、シンデレラ・ガールさん。三村かな子です」 「……おはよう、かな子ちゃん。お久しぶりだね」 十分に距離を保ちながらも、銃を突き付け、“最後のアイドル”と、“最高のアイドル”が、今この時、対峙する――。
246 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:35:52 ID:3DDKSSh60 (久しぶり、かあ) 本当に、本当にその通りだと、かな子は心の中で苦笑する。 日にちにすればわずか一週間だけど、その一週間で彼女を取り巻く世界もかな子自身も随分と変わってしまった。 きっとそれは目の前の少女も同じなのだろう。 恋したプロデューサーを失ったシンデレラ・ガールは、かな子がよく知る少女の笑顔とはかけ離れた空虚な笑みを浮かべていた。 「愛梨ちゃん、殺し合いにのったんですね」 撃ってきたのが愛梨からである以上、確認するまでもなくそのことは明白だ。 それでもこうしてどちらが死ぬとも知れない状況に陥ってしまった以上、下手に動いて膠着を崩してしまえば共倒れもありうる。 最後のアイドルとしてそれだけは避けねばならぬ以上、かな子は愛梨との会話をしながら何とかして殺すか、逃げるかの糸口を探ることにした。 それはかな子が愛梨を一筋縄ではいかない相手だと認識したからでもあった。 「かな子ちゃんこそ。……それ、美嘉さん達が使ってたものだよね? どうしてそれをかな子ちゃんが持っているのかな? もらったの? ……ううん、違うよね。だってかな子ちゃんの動き、おかしなくらいすごく様になっていたもの。 さっきだって躊躇なく、私を殺そうとしていたよね」 ああ、やっぱりかと、かな子は嘆息した。 通りで手強いはずだ。 十時愛梨は、何度か他のアイドルたちと戦ってきていたのだ。 くぐり抜けてきた戦いの激しさは頬に残る腫れ痕からも見て取れる。 美嘉と美優を殺したのがかな子である以上、愛梨は彼女たちを取り逃がしたというわけになるのだが、それは別に二人の優劣を決めはしない。 煙幕で反撃されたということは愛梨が戦ったのはまだ妹の死を知らず塞ぎ込んでいなかった頃の美嘉だ。 対して美嘉の時をはじめ、かな子がこれまで上げてきた勝ち星はどれも一方的な不意打ちによるものだ。 かな子は一週間分戦闘訓練を受けている点では他のアイドルたちに優っていたが、正面からの戦闘経験はここまで全くなかった。 それが“訓練(レッスン)”の差を縮め、この拮抗状態を作ったものの正体だった。 「はい、美嘉ちゃん達を殺して奪わせてもらいました」 (彼女たちのアイドルと一緒に) 後半は胸の内でだけ呟く。 自分が愛梨の変化を感じ取ったように、愛梨もまた自分の変化を感じ取っているらしい。 まさかそれだけで自分がちひろ達に用意された悪役だとばれることはないと思うが……。 念には念を入れるに越したことはない。 「やっぱり、かな子ちゃんが殺し合いにのったのもプロデューサーさんを助けたいから?」 「それ以外にないじゃないですか。今の愛梨ちゃんなら私のこの気持も分かりますよね」
247 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:36:26 ID:3DDKSSh60 だから愛梨に疑われないようかな子は自然に話を逸らしていく。 たとえ、自分の気持ちの全てが、愛梨には分かるわけがないと思っていても。 他のアイドルたちとは違い、“悪役”を強いられ、一週間も前からアイドルを殺すことを求められ、その苦しみを誰に話すことができない身であったとしても。 かな子はおくびにも出さずに、ただの殺し合いに巻き込まれたアイドルを装って、愛梨の同情を引き出そうとする。 分かるでしょう?と。 プロデューサーを失って、そこまで苦しむあなたなら。 プロデューサーを失わないようあがく私の気持ちも分かるでしょう、と。 「……そうだね。今なら分かるよ。私はあの時、アイドルとして殺し合いなんてできないって声を上げたけど。 私がアイドルでいられたのは、あの人が魔法をかけてくれたからで、あの人のいない私はただの女の子でしかなくて。 あれ、でもそれなら、私、何度やり直しても、あの時にはあの人がいてくれてるから、殺し合いなんてできないって言っちゃうのかな? ひどいよね、そんなの。私は、何度も何度もあの人を殺してしまう。私が、私が!」 狙い通り、愛梨はかな子に感じた不自然さどころではなくなっていた。 ただただ自分を責めながら、どうあっても代わらなかった現実に絶望していた。 そんな友だちの姿を前にしても、もう一押しかなとしか思えない自分の乾いた心にかな子は自嘲する。 「なら、愛梨ちゃんはもう死ぬしかないじゃないですか。 私のためにも死んでください。知ってますよね? 私がプロデューサーさんをどれだけ想ってるのか。 愛梨ちゃんのような恋心とは違うかもしれないけれど、それでもあの人は私にとって大切な人なんです。 私はプロデューサーを助けたいんです」 「ダメだよ、かな子ちゃん。これだけは、この魔法だけは、譲れない」 けれども、かな子の意図に反して、彼女の提案は断固たる意志で否定された。 あれ、とかな子は首を傾げる。 (魔法……?) それはかな子にも覚えのある言葉だ。 誰よりも彼女こそがずっと口にしてきた言葉だ。 でも、どういうことなのだろうか。 もしもかな子の魔法と愛梨の言う魔法が同じ意味なら。 プロデューサーが死んでいる以上、愛梨の魔法はとっくの昔に解けているはずじゃ。 「どうしてですか? もう愛梨ちゃんのプロデューサーさんは死んじゃったじゃないですか。 生きてるんです。私のプロデューサーさんは生きてるんですよ。 まだまだいっぱい、沢山の女の子たちに魔法をかけてあげることができるんです」 「いいなあ、私も、もっとずっとかけていてもらいたかった」 通じているらしい会話にますますかな子は疑問を持つ。 愛梨の口ぶりからして彼女たちの言う魔法は同じもので、しかも魔法使いがもういないことは向こうもちゃんと認識している。 絶望のあまり狂って知ったわけではなさそうだった。 わけがわからないままかな子は、そのことを口にする。
248 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:36:49 ID:3DDKSSh60 「そうですね。でも、私達の魔法はもう解けちゃったじゃないですか」 「……え? 私達って、でも、かな子ちゃんはプロデューサーさんを助けるために殺し合いにのったはずじゃ」 ああ、なるほど、そういうことか。 かな子は納得した。 自分は勘違いされているのだ。 プロデューサーを助けて、そのままこれからもずっと一緒に生きていくものだと勘違いされているのだ。 (それはあなたの未練ですよ、愛梨ちゃん) 自分は違う。自分はそうじゃない。 自分の中のアイドルは、“アイドル”はもう、 空から落ちて土に汚れて、きれいな星では、なくなってしまったから。 プロデューサーと一緒にアイドルとして生きていくことはできない。 何よりも、何よりも。 プロデューサーが許してくれない。 例えこんなことで生き残っても絶対に殺し合いに参加した私を許さないぞって。 そんな彼の言葉を、祈りを、願いを、訴えかけを、かな子は裏切ってしまったのだ。 裏切ってまで、彼を助けると選んだんだ。 なればこそ、その決意に後悔はなく、よどみなくかな子は己が願いを口にする。 「私の願いはですね、愛梨ちゃん。 プロデューサーさんに生きて、生きて、生きてもらって。私みたいなバカじゃない、もっと綺麗な子たちを。 あの空へ、あの輝かしい舞台へと、連れて行ってもらうことなんです」
249 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:37:10 ID:3DDKSSh60 「何それ」
250 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:37:34 ID:3DDKSSh60 「何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ 何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ 何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ 何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ 何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ 何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ 何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ なにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれ なにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれ なにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれ なにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれ?」 愛梨にはかな子の言っていることの意味がわからなかった。 理解さえしたくなかった。 プロデューサーさんを助けたい。 その為に殺し合いにのった。 そこまではいい。そこまでなら理解できる。 自分以外の人殺しに出会うのは初めてだったけれど。 でも、藍子に希望を託したアイドルとしての愛梨とは違う、普通の少女としての愛梨にはそんな子達の方が、ずっと、ずっと、共感できた。 自分がプロデューサーさんに抱いていた想いは、誰にも負けるものなんかじゃないけれど。 だけど、かな子がプロデューサーに抱いていた好意の大きさもまた、友だちだからよく知っていた。 知っていたが故に、理解できなかった。 「なん、で? だって、まだ生きてるんですよ!? かな子ちゃんのプロデューサーは生きていて、くれてるんです! なのに、どうして、そんな簡単に諦められるの!? 他の誰かに、顔も知らない誰かに譲ってあげられるの!?」 「っ! 簡単になんかじゃない! 愛梨ちゃんは、何も知らないからそんなことが言えるんです! プロデューサーさんがもう死んでいるから、大好きな人の中で、ずっとずっと綺麗なままでいられるから! その点だけは私は、あなたのことが羨ましいです」 羨ましい? どこが? プロデューサーを、最愛の人を失ったこんな自分が? 愛梨はあまりの妄言に怒りでどうにかなりそうだった。 何をバカなことを言ってるんだろ。 ああ、確かにさっきかな子自身が言った通りだ。 かな子は馬鹿だ、大馬鹿だ。 馬鹿だから、自分がどれだけ幸せなのか気付いていないのだ。 「羨ましいのは私の方です。私はあなたが羨ましい。妬ましい。そして許せない」 「許せない? 何が? プロデューサーさんが生きていることがですか?」 「何度も言わせないで! かな子ちゃんが魔法を手放そうとしていることが、私には許せないんです! かな子ちゃんはもっとこれから先も魔法をかけていてもらえるのに。 私にはもう最期の魔法しかないのに!」
251 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:37:51 ID:3DDKSSh60 時よ止まれ時よ止まれ時よ止まれ。 魔法を、愛する人が最後にかけてくれた魔法を手放さないために、進むことも戻ることもできず留まり続けるしかないシンデレラの目の前で。 かな子は、シンデレラになれる少女は、あろうことか王子様より差し出されたガラスの靴を履こうとせず他の誰かに譲るという。 なにそれ、あんまりだ。 自分がどれだけ欲してももう手に入らないものを、かな子は、自ら振り払うと言うのだ。 「最後の、魔法……?」 「生きろって、言ってくれたんです。あの人が私に、生きろって。 だから、だから――奪わせない」 奪わせてなどやるものか。 生きろと願われた。生きるんだと彼に誓った。 それでも、アイドルになら。最後の希望を託した藍子になら。 殺されてもいいかもしれないと心の何処かでは思っている。 自分と彼が望んだシンデレラ。 魔法の解けてしまった自分にはもうなれない存在に、今一番近いだろう彼女になら。 自分の代わりを押し付けた少女になら殺されてしまったとしても、それはどこか希望のある死だ。 けれど、かな子は逆だ。 三村かな子は、十時愛梨にとっての絶望だ。 こいつにだけは、殺されてやるわけないはいかない。 「私の、彼の、この魔法だけは、あなたに絶対奪わせない!」
252 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:38:11 ID:3DDKSSh60 「いいえ、奪わせてもらいます」
253 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:38:55 ID:3DDKSSh60 三村かな子は自らに誓った。 十時愛梨は、この少女だけはなんとしてもこの手で殺さなければならない。 自身が悪役だからか。 それもある。 “59人のアイドルを敵に回す最後のアイドル”として、最高のアイドルであるシンデレラ・ガールは避けては通れない敵だ。 彼女を自分の手で殺すことが出来れば、かな子はこの上なく悪役としての任を果たしたことになるだろう。 だがそんなことは、そんなことは些細な事なのだ。 今、少女の胸を焼きつくさんとするこの憎悪の炎に比べたら。 「あなたは、あなたはいつまで縋ってるんですか。いつまで魔法に、彼に縋ってるんですか」 生きているのに、と愛梨は言った。 ならば問い返したい。 生きているからこそ辛いということに、何故、お前は気付けないのかと。 許せないと言われた。 大好きな人にそう言われてしまった。 もしかしたら、罪を犯させないためだけに言った言葉で、いざ自分のためにかな子が罪を犯したのなら、あの優しいプロデューサーは許してくれるかもしれない。 でも、他ならぬかな子自身が、自分の罪を許すことができそうにない。 プロデューサーは素敵な魔法使いなのだ。 そんな彼を、自分のせいで、悪の魔法使いになんてしたくない。 (“悪役”は私一人で十分なんです。私一人で、私、独りで……) だからこそ願った。 私のことなんて忘れてくださいと。 素敵な魔法を他の子たちにかけてあげてくださいと。 その願いに嘘はない。偽りのない本音だ。 けど、だけど。 (……独りは、嫌だなあ) 寂しくも、悲しくも、ある。 地に落ちようと、汚れようと、冷酷な人殺しであろうとも。 三村かな子も少女なのだ。 ただ一人の大好きな人を助けたいだけの少女なのだ。
254 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:39:20 ID:3DDKSSh60 「もういないんです。あなたのプロデューサーはもういないんです。なのに、なのに、どうして」 分かってる、分かってる。 愛梨に言われなくとも、自分の選択がどれだけ馬鹿なのかは、誰よりもよく理解している。 もしもかな子がこの殺し合いを勝ち残れたとして、プロデューサーを救い出せても。 もう二人の影が重なることはない。 同じ世界で、同じ空の下で生きているのに、かな子は彼と共に生きてはいけない。 そのことがどれだけ辛いことか。 生きているのに、触れ合えない。会いたいのに、会いに行けない。 それが罰だ。 プロデューサーを裏切り、人を殺した少女に待ち受ける罰だ。 「愛梨ちゃんはプロデューサーさんと一緒にいられるんですか!?」 そんな想いをしてまで、顔も知らない誰かに自分は魔法を譲ったのに。 どうしてこいつは、それに縋り付いているのだろう。 どうして、プロデューサーの願いをどんな形であれ、叶えられるのだろう。 自分は裏切ったのに。裏切るしか彼を生かす道はなかったのに。 愛梨は違う。 彼女は最愛の人に願われた。 生きて欲しいと願われた。 その願いを胸に抱いた生きている限り、彼女は死に別れたとしてもプロデューサーと“一緒”なのだ。 たとえその生き方が、彼女のプロデューサーの願ったものに反していたとしても、愛梨の視点では彼女はプロデューサーの想いを抱いて生きていけるのだ。 「何度だって言ってあげます。私はあなたが羨ましい。妬ましい。そして許せない」 許せない以上、この手で、消すしかない。 この偶像を。未だにシンデレラ<プロデューサーさんに愛してもらえる少女>であろうと魔法をかけ続ける少女を、この手で、殺す。 他の誰かに殺されるのでは駄目なのだ。 顔から“アイドル”を剥がして、笑顔も泣き顔も、嫌な顔も驚いた顔も全部奪って、誰でもない誰かにして殺すのだなんて自分くらいだろうから。 (私が、あなたを殺します) プロデューサーが何人だって何十人だってアイドルを連れて行くあの輝かしい舞台に、自分はもう登れない舞台に。 シンデレラ・ガール“十時愛梨”などという“偶像”を残してなどやるものか。 「あなたの魔法<アイドル>奪わせてもらいます」 「三村、かな子おおおおお!」 「十時、愛梨ッ!」 「私は生きる、生きるんだああああ!」 「あなたは死ね、死んでください!」 そうして、膠着が崩れる。 どちらも相手に決定的な隙は見いだせないままに、それでも、ただ一念に従ってトリガーを引く。 ““こいつは私の敵だ””。 奇しくも重なった想いは、これほどまでになく、この二人を表していた。 悪役とシンデレラ・ガール。 ちひろの犬とちひろに最愛の人の命を奪われた少女。 魔法を手放したものと、魔法に縋り付く者。 そして、“殺す”者と、“生きる”者。 全てが正反対で、敵対するのも当然で、どこまでも矛盾していた。
255 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:40:38 ID:3DDKSSh60 なればこそ、この悪趣味な奇跡めいた結末も必然だった。 互いに互いを狙い合い、解き放たれた弾丸は、そうなるのが当然のように両者の中心でぶつかり、“相殺”し、二人の少女を“生かした”。 殺すという願いの通りに殺し合い、生きるという願いの通りにどちらも生かした。 故にその先の行動を分けたのもひとえに両者の願いの差だろう。 自分で考えるという冷静さが何が起きたのか分からない事態に裏目に出てしまい、かな子は訓練により染み付いた反射も相まって周囲を警戒してしまった。 対して愛梨は、どうにかしてか命を拾ったことを察すると、それだけでよしとしてし脇目もふらず一目散に逃げ出していた。 かな子がありもしない脅威への警戒を解いた時にはもう遅かった。 愛梨は十字路の角を曲がり、かな子の前から姿を消していた。 「……」 それでもかな子はしばらく手にした銃を下ろすことはなかった。 愛梨が消えた道筋を、負の感情で煮詰まった目で睨みつけ続ける。 「ごめんなさい、プロデューサーさん。 彼女だけは、あなたを助けるためでなく、私の感情で殺します」 ――ああ、そのこともまた、憎らしい
256 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:40:59 ID:3DDKSSh60 【G-3・市街地(遊園地方面)/一日目 昼】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(10/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生きる。特にかな子にだけは絶対に殺されたくない 1:殺して、生き抜く 2:遊園地へ行く ※藍子と茜は中心部(G-4、F-4)に向かうだろうと考えています。 ※かな子に対して感じた得体のしれない“何か”はひとまず怒りで上書きされました 【G-3・市街地/一日目 昼】 【三村かな子】 【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(6/7)、カットラス】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11 コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(黄×1、緑×1) 医療品セット、エナジードリンクx5本】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。愛梨は最優先。 1:温泉あるいはホテルに向かい、そこを拠点とし余分な荷物を預け、場合によってはまとまった休息を取る。
257 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 06:41:13 ID:3DDKSSh60 投下終了です
258 :名無しさん :2013/02/07(木) 08:40:32 ID:yx24Zhs20 投下乙です 同じ殺す者でありながら、魔法をかけられたって言い回しをした共通点、 でも魔法を手放したかな子と魔法にすがりつく愛梨は対極なんだよなと、 二人がぶつかったら、そこを語ることになるだろうなと思ってはいたけど、 こうしてみると魔法に対する扱いだけじゃなく、いろいろと決定的なまでに異なってて、 その想いのたけをぶつけあう姿が悲しくも熱い……! 殺すアイドルと生きるアイドル、今回は相殺で両者生存。もしもう一度相対したらただじゃすまないだろうなあ。
259 :名無しさん :2013/02/07(木) 13:20:08 ID:HlkLtvQQO 投下乙です。 同じだからこそ、決定的に違う2人。 今回は、反発しあい両者生存。 次の邂逅は有り得るのか。
260 : ◆ltfNIi9/wg :2013/02/07(木) 14:02:38 ID:3DDKSSh60 と、すみません タイトルを間違えていました 誤)Dies Irea 正)Dies Irae で
261 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/07(木) 21:04:55 ID:dbQMwdbc0 書き手の皆さん乙です! まとめて感想をば! >寝ても悪夢、覚めても悪夢 杏ちゃんの日常・回想編かと思いきや……! そしてこのタイミング・この状況下で寝過ごしとは。さてどうなるっ!? >私はアイドル うわぁぁぁぁぁ! 闇に飲まれよ! 蘭子の悲劇、ゆかりの怖さもさることながら、幻想を壊され動けなくなってしまった2人が……! ……それにしても感想書いてるお前ら、熊本弁好き過ぎるだろうw いいぞもっとやれw >熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) これはまた恐ろしいマーダーコンビ誕生……! 苺組はホント同じ状況からの進み方の違いが凄いぜ…… >彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン 妄想姫の魔女裁判かと思いきや、これはいい不意打ちな展開。いいなぁ2人の絆が。 ……なんかその一方で大変可哀想な終わり方をしてる人もいらっしゃいますが、この対比が実に見事。鬼だけど。 >水彩世界 「あなたの強さを押し付けないで」……これはキツい一言だなぁ。 しかし強さに背を向けた2人も、決して弱いとは思えないこの不思議な読後感。両チームの今後が楽しみです >シンキング・シンク このチームの頭脳派っぷりは安定感あるなー。苺組やかな子の存在に、詳細は不明ながらも勘付くとは…… って、よりによってその2人に親交があるのー!? なんかもう今からgkbrなんですけど! >Dies Irae なんという偶然! でも双方の強い想い、譲れない気持ちの果てに起こった奇跡として、説得力がハンパねぇ……! まさかの撤退・仕切り直し展開だけど、さて次の邂逅はありうるのか。対照的な2人のこれからの行方が気になります。
262 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/07(木) 21:05:34 ID:dbQMwdbc0 そして、 水本ゆかり、輿水幸子、星輝子 以上3名予約します
263 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/08(金) 06:31:47 ID:VZj7LuEU0 投下乙です! おおう、凄い会話の応酬。 かな子も生死の危険を感じたか 両方とも悲愴だなぁ。 ……ですが、すいません指摘点があります。 幾つか違和感があるのですが、 大まかに分けると 遭遇して、会話するまでの所で一点。 かな子が煙幕手榴弾を使ったところなのですが、かな子の前の話で荷物が沢山で取り出しの問題が触れられていました。 それを考えると、今回直ぐに使われたことに違和感を感じられます。 また、その直後の殺害に及ばなかったのも同様です。 そして、会話そのものに一点。 これまで黙々と相手になにも主張してこなかったかな子ととときんが急に饒舌になって語りだした点です。 かな子は黙々と会話をせず、また主催からも無駄に喋らぬようにいわれています。 とときんは、特別視している藍子以外は、喋らずにいました。 この点に違和感を感じられます。 その大きな二点らを踏まえて、また以前破棄になった作品の指摘理由をと似通っているのもあり、指摘させていただきました。 返信おまちしております。
264 :Dies Irea ◆ltfNIi9/wg :2013/02/08(金) 21:32:11 ID:kC0S6pCY0 >>263 了解しました 会話の方はこの話の核ですし、荷物に関してはなるほど、どうにもデイパックも一般人仕様という認識が抜け落ちていたようです あの場面で煙幕が使えないとなると、かな子は為す術なしですし、会話の応酬の方は言わずもがな どちらにせよ、少し修正するだけとはいかず、大幅な改稿となるでしょう ですので、今回は修正ではなく破棄させていただきます 結果的に長期に渡る拘束となってしまい申し訳ありません
265 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:40:20 ID:V9lBvhjc0 向井拓海、小早川紗枝、松永涼、相川千夏 投下します
266 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:41:13 ID:V9lBvhjc0 数分後に迫った放送を前に、向井拓海・小早川紗枝・松永涼の三人は今後の方針を話し合っていた。 「もしここが禁止エリアになったら何処に行くんだ?東か南の方へ行ってみるか?」 「人を探すんなら、それがええかもしれへんなぁ」 涼の提案に紗枝も頷く。 現に明け方から早朝にかけての捜索では誰も見つからなかった。 といっても完璧にエリア全体を捜索しきったわけではないし、明るくなるまで隠れていた者もいるかもしれない。 「引きこもって隠れてた奴もいるかも知んねーけど、どのみちアタシらだけじゃ全部探し切んのは無理かもな」 拓海は手に持った地図を、テーブルに広げた。 大雑把にいえばこの島は、北東・北西・南の“街”、温泉や遊園地のある“山間部”、 ホテルや牧場のある“小島”の三つに分けられる。 最北端、最南端にある灯台や山頂の天文台などは籠城するには最適だが、禁止エリアのルールがある以上は 身動きできなくなる前に街の方へ向かわざるを得ない。 ホテル・牧場付近にある小島はおそらく誰もいないと考えた。わざわざ好きこのんで行く物好きはいないし、 アイドル同士の殺し合いが目的なら、そんなところに配置する意味はない。 皆で潰しあって最後に残りました… なんてことは主催側も望んではいないはずだ。 以上の理由から、上記の山間部や小島は後回しにして街の方を捜索しながら道中の施設 (ダイナー、キャンプ場、遊園地・動物園、飛行場)を周ることにした。 方針としては、『人を探す』ということに変わりはない。
267 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:41:56 ID:V9lBvhjc0 「近いのは東の街だな」 「博物館の方はいかんでもええの?」 「あー…そっちか」 先の捜索では南側を重点的に行ったため、B-4北側の映画館や博物館は捜索していなかった。 B-4が禁止エリアに指定された場合は別としてそうでない場合、このままB-4に留まり、北西部の捜索を続けるか。 それとも東か南へ向かうのか。 「そろそろ始まるぞ…」 時計をみた涼はそういって話を遮った。拓海と紗枝もそれを聞いて話を止める。 民家の一室で彼女達はカーテンの隙間から次第に強まる日差しを感じていた。 時間に近付くにつれて三人の緊張が高まっていく。 (小梅……!) 涼は顔の前で祈るように手を組み、島内にいるであろう相棒へ呼びかけていた。 大丈夫。きっと大丈夫。あいつにも同じように心優しく強い仲間がいる。そうに違いない。 だから必ず見つけ出す。 ----------------アタシが小梅を護るんだ。 はたして想いは届くのか。 『はーい、皆さん、お待たせしました! 第一回目の放送です! 』 遂に、その時が来た。
268 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:43:12 ID:V9lBvhjc0 # 『では、また6時間後、生きている人達は会いましょうね 皆さん――――最期まで、生き延びて見せなさい』 「---------------マジかよ」 予想外の犠牲者の数に三人は驚きを隠せなかった。 十五人。つまり全体の四分の一はすでに殺されたということだ。 ある程度の数は覚悟していた。しかし六時間で十五人ということは自分達が考えていた以上に “殺し合い”が進んでいる。 やたらと楽しそうな口調の千川ちひろに怒りを感じたが、同時に力不足を思い知らされた。 (夏樹、李衣菜… お前ら逝っちまったのかよ) 名前を呼ばれたアイドルの中に、木村夏樹と多田李衣菜がいた。 二人は拓海の友達だった。 夏樹とはバイクという共通点からツーリングに行ったこともある。 強面の拓海が事務所に馴染めたのも夏樹が積極的に話しかけてくれたおかげだ。そこから李衣菜とも話すようになり、 皆と打ち解けて話せるようになった。
269 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:44:47 ID:V9lBvhjc0 最高に楽しい、いい奴らだった。 二人がどんな最後を迎えたかはわからない。わからないが、 きっと二人とも、こんなクソッタレな殺し合いなんかに負けず最後まで“ロック”を貫いたのだろう。 (夏樹…李衣菜… お前らの“ロック”はアタシが引き継いでやる) 二人だけではない。全員の魂を引き継いでいくのだ。 呑気にふんぞり返っているような奴らのいいなりになど、なるものか。 (よかった…) 涼は小梅が生き残っていることに一先ず安堵した。 しかし、状況は何も変わってはいない。 あくまでも今回名前を呼ばれなかっただけだ。今だって何者かに狙われているのかも知れない。 それに加えて、同じ事務所の仲間が大勢死んだということもある。 ともに切磋琢磨してきた仲間達が死んでしまったという事実を前に、喜ぶことはできない。 (情けねぇのはわかってるさ、けどよ…) もちろん小梅さえ無事ならと考えたわけではないが、 知っている奴も知らない奴も命は平等だ。人が死んでいいことなど何もない。 小梅だって自分だけ助かれば他人はどうでもいいなどと考えてはいないはずだ。
270 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:46:34 ID:V9lBvhjc0 (ごめんな。夏樹、リーナ。お前らとはもっと話したかったよ) バンドをやっていた涼とロック好きな夏樹と李衣菜とはすぐに仲良くなった。 孤立しがちな涼にとって二人と話すのは小梅と話すのとはまた違った楽しさがあった。 (リーナ、約束は守るよ。夏樹の分までたっぷり聞いてやる) 李衣菜のCDを買ってやると三人で約束した。CDデビューを報告しに来た時の彼女の嬉しそうな姿は今も忘れていない。 名簿と地図に印を付けていく。一番最後に、彼女らの名前に線を引いた。 「ほな、続けよう」 静寂を破ったのは紗枝の一言だった。 亡き友を偲ぶ二人の気持ちは痛いほどわかる。 今は何も考えたくないかもしれない。同じ立場にならきっとそうなる。 出会って間もないが、二人に“心”を救われている。今度はこちらの番だ。 もし二人が立ち止まってしまったのなら、自分が手を引いて前へ進ませてみせる。 拓海と涼は顔を上げた。 「…そうだな、さっさと決めちまおう」 「どこまで話したっけか?」 「博物館の方は行かんでええのかってところまでやけど-----------ちょいええかな?」 紗枝はずっと考えていた疑問とそれに対する答え合わせを二人に求めた。
271 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:47:42 ID:V9lBvhjc0 「禁止エリアって何を基準に選んどると思う?」 「さっきも話したじゃん。一箇所に固まられるのを防ぐ---------------」 言いかけたところで涼と拓海も気がついた。 籠城を防ぐために封鎖するのだとしたら、裏を返せば人が集まっている可能性があるということだ。 「つまり、指定されたとこには誰かいるっつーわけか」 「せやね、わざわざ街ん中を選ぶちゅうことはこん辺の子らはここに集まっとるんやないかな」 そういって地図上の『C-7』を指差した。 「人がおるんなら、時間前に移るはずやろ?こことかどうやろ?」 紗枝は『C-7』を指差したまま左へスライドさせた。 「C-6か。その辺なら移動してきた奴らと会えるかもな」 「行くか?」 「ああ、行こうぜ」 ------------行き先は決まった。 # 「まさか使えるとはね…」 相川千夏は事務所の一室で呟いた。 彼女は東にあるスーパーマーケットへと到着した後、事務所へと向かった。 事務所には誰も居なかったが、奥に部屋を発見し中を覗くと、 多数のモニターが店内の様子が映し出していた。 どういうわけかは知らないが、監視システムは生きているらしい。
272 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:48:45 ID:V9lBvhjc0 (使えるんなら有効活用させてもらうけど) 防犯カメラで見る限り店内が荒らされた様子はない。 数あるモニターの中から一番重要な映像を探す。 (入口と…裏口にもカメラは付いてるのね) ここさえ見張っておけば誰が何人入ってきたか解る。 分が悪ければストロベリー・ボムで一気にやって仕舞えばいい。 (ここで張ってみる…か?) 病院の遠いこのエリアなら、薬や医療品を求めてくる者もいるだろう。 唯一怖いのは近くでおきている火事だけだ。火はおさまってきているがこちらまで延焼してくるようなら早めに逃げるとしよう。 (“お客さん”…来るかしら?) 千客万来か、門前雀羅か-------------- 答えは誰にもわからない。 【C-6・スーパーマーケット内事務所/一日目 午前】 【相川千夏】 【装備:ステアーGB(19/19)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:対象の捜索と殺害、殺し合いに乗っていることを示すため、東へ向かう。 2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。 ※店内から事務所に通じる通路がいくかあります ※まだ店内の構造をよく把握していません
273 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:49:25 ID:V9lBvhjc0 # 「やっぱり誰もいねぇな」 端末の位置情報を頼りに東へ歩を進める。 拓海の提案で、最後に移動しながらこれまで行けなかったところを捜索してみたが 結果は変わらなかった。 「わりいな。道草食っちまってよ」 「気にすんな。戻ってこないかもしれないんだし、やれることはやっといたほうがいいだろ」 「ちゃんと道に出たし、これでええんやないの?」 三人は東へ続く一本道を歩きながら話をしていた。 「姉妹みたいだな。お前ら」 「仕方ねぇだろ。これしかねぇんだからよ」 拓海は青のジャージを、紗枝は紺のジャージを着ていた。 色とサイズは異なるが同じメーカーのもので、タンスにしまってあったものを拝借した。 血塗れの特攻服や着物よりは動きやすいジャージの方が都合がいい。 着物は必要ないとして置いていくことにしたが、特攻服は持っていくことにした。 血塗れた特攻服が要らぬ誤解を生む危険があるが、 この特攻服には仲間との絆が、想いが、たっぷり詰まってる。そして“アイツ”の分も。 過去に縋り付くわけではない。 染み付いた血は、“アイツ”-----------いや、六十人の無念の代弁だ。 自分は託されたのだから。全部、背負ってみせる。
274 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:51:12 ID:V9lBvhjc0 一本道を進むとダイナーが見えた。 その時ふと、街の方から煙が上がっているのに気がついた。 「もしかして…火事か?」 「行くぞっ!」 拓海は走り出した。 考えるより早く体が動いた。脳裏に思い浮かんだのは最初に出会った少女の無残な姿。 また誰かが危機に晒されている。十六人目なんて必要ない。 (もうごめんなんだよ…!) 「向井はんっ!待ち!」 「拓海!一人で行くな!」 後ろからの静止の声を聞き足を止めた。 ----------なぜ止めるんだ、また誰かが傷つこうとしている。今行かずにいつ行くのか。 「早くしねぇと間に合わねぇだろ!?」 紗枝は拓海を真っ直ぐ見つめて、言った。 「うちら、仲間やろ?一人で行かなあかんくらい頼りにならへんの?」 「あ-----------------」 紗枝の言葉を聞いて炎のように熱くなった心が涼しくなっていく。 熱くなって、一番大切なこと忘れていた。 「すまねぇ」 無茶な走りに仲間はついて来ない。
275 : RESTART ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:53:14 ID:V9lBvhjc0 「落ち着いたか?罠かもしれないし一人じゃ危ねぇよ」 「ああ、もう大丈夫だ。行こうぜ、皆でな」 再び走りだした。今度はお互い速さをあわせて。 三人は知らない。 最後の捜索の間に、火事の原因を作った五十嵐響子が病院へ入ったことも、 その病院に涼を襲った緒方智絵里がいることも、 北に同じ志を持った大石泉・川島瑞樹・姫川友紀がいたことも、 尋ね人・白坂小梅が港から灯台へ向かったことも、 ------------すでに“十六人目”がいることも。 【B-5(道路)/一日目 午前】 【向井拓海】 【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)】 【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2、特攻服(血塗れ)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生きる。殺さない。助ける。 1: 引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する) 2: 東(C-6付近)へ向かう 3:涼を襲った少女(緒方智絵里)の事も気になる 【小早川紗枝】 【装備:薙刀、ジャージ(紺)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。 1:引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する) 2: 東(C-6付近)へ向かう 3:少しでも拓海の支えになりたい ※着物はB-4の民家においてきました 【松永涼】 【装備:イングラムM10(32/32)】 【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:小梅と合流。小梅を護り、生きて帰る。 1:小梅と合流する。 2:他の仲間も集め、この殺し合いから脱出する。 3: 東(C-6付近)へ向かう
276 : ◆u8Q2k5gNFo :2013/02/08(金) 22:56:20 ID:V9lBvhjc0 投下終了です ありがとうございました
277 : ◆John.ZZqWo :2013/02/09(土) 01:12:46 ID:JL7ozSWs0 投下乙です。 >RESTART ちなったんは新しい拠点を見つけたようだね。完全に拠点に網を張るのが戦法になってるw しかも今回は獲物期待できそう。 姉御組はバランスいいなぁ。前に出る姉御、唯一の頭脳の紗枝ちゃん。割と冷静な涼……って、ああそうか、北東の街に来たってことは……ふむふむ。 まだまだ北東の街はにぎやかなことになりそうですね。そしてちなったんの活躍?に期待! で、予約延長しますー。
278 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/09(土) 03:02:42 ID:DxWky3HE0 投下乙です! >RESTART あーもうこの三人組すき。紗枝ちゃん可愛いし姉御かっこいいし、涼も人間味があって素敵。 このチームいいなぁ、いつか困難が立ちふさがるだろうけど、頑張って欲しい。 ちなったんも……まるで蜘蛛のよう。大人らしく立ち回ってて良いなー ………サラマンダー化だけが危惧かな では、藤原肇と双葉杏を投下します
279 :トリップ・アウト ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/09(土) 03:03:42 ID:DxWky3HE0 一度壊れたモノは、もう戻らない。 「はぁ………はぁ………っ!」 似たモノを作り直す事はできる。 かけらを集めて、もう一度組み直せば良い。 でも、そこに同じ魂が戻る事は無い。似たモノは所詮模造品であり、それ自体にはもうなれない。 「嫌………!」 彼女の着ぐるみを脱がして、出来うる限りの思いつく限りの処置を施してみた。 心臓マッサージだとか、人工呼吸とか、冷静に考えれば意味が無いような事さえ試した。 少しでも可能性があるのならすがりたかった。 あんなにも輝いて、綺麗な顔をしている女の子が死んでいるなんて、信じられなかった。信じたくなかった。 「仁奈ちゃん……もう一度………もう一度、肇おねーちゃん、って、言って、ください……!」 だが、どれだけ抵抗した所で現実は変わらない。希望なんて、何処にも無い。 少女…と言うにも幼い女の子は、市原仁奈は死んだ。 もう二度と動く事は無いし、生き返る事も無い。それが現実だった。 「私のせいだ……私が、目を離したから……!」 その事を認識すると、彼女は自分自身を責め始めた。 ここは殺し合いが行われる危険な場所。それは理解していたし、放送で尚感じた筈だ。 なのに、何故……何故危険な場所に仁奈を一人にさせてしまったのか。 呑気にケーキの飾り付けなんてして、そんな可能性さえ忘れて……。 「……………ッ!」 力の限り、感情の限り地面を殴る。 肉が剥がれようと、血が滲もうとも止めるつもりは無かった。 それが、自分への罰なのだとばかりに。ただ殴り続けていた。 ――彼女は、仁奈を殺した人物を恨む…と言うような発想が無かった。 それほどまでに彼女は優しく、そして真面目すぎる人物だった。 彼女はずっと、ずっとずっと………自分を責めていた。
280 :トリップ・アウト ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/09(土) 03:04:07 ID:DxWky3HE0 * * * 「うわ………」 その光景を見て、杏はちょっと引いていた。 * * *
281 :トリップ・アウト ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/09(土) 03:05:12 ID:DxWky3HE0 九時半まで寝過ごしてしまった杏は、普段なら「まぁいっか」の精神で寝直す所だが、 後味の悪い悪夢を見てしまってそんな気分にはならなかった。 別に寝過ごしたからといっても、スタンスがスタンスなのでだらだらしていても良かったのだが、 何故か彼女の心に彼女らしくない焦りが生まれ、とりあえず一度周辺の様子を見てこようと動いた。 ……その焦りは、あの悪夢の他にも放送を聞き逃したが故の不安も相まって起こったものだが、 結果的にその直感にも近い焦りが彼女の命を救う事となる。 彼女の居たマンションは禁止エリアに指定され、しかも後残り30分で変わるという所だったのだ。 だが彼女はそんな幸運に気づかず、憂鬱な気分でエレベーターのボタンを押した。 「………誰も、いないかな」 下まで降りて、恐る恐る入口から顔を覗かせる。周りに人が居る気配は無い。 目の前で勢い良く燃えていた建物も、時間の経った今では流石に弱まっていた。 あれからかなりの時間が経っている。少なくとも爆弾魔が留まっている可能性は低そうだった。 「う………」 だが周りの安全を確認しても、杏はあの悪夢を見た場所にもう一度戻るという気は無かった。 エレベーターへ向かう道に振り返ると、その暗がりに二人の人間が立っているように見えた。 『人を殺して、しかも『寝て忘れよう』なんて、許されるわけがないんだよ』 『許さないよ、杏っち』 夢なんて、普通は起きたら大体忘れている筈なのに、それは脳裏にこびり付いている。 気を紛らわそうとしても、そのための手段が何も無い。寝るということさえ、許されない。 見て見ぬふりをしていても、寝て忘れようとしても。杏自身の深層心理がそれを妨害する。 杏に、逃げ場は無い。 『なぁ、杏――』 「あー、もう…うるさいなぁ!」 存在しないはずの幻影を払い除けて、彼女らしくもなく声を荒げる。 気が狂ってしまいそうだった。だから彼女は気を紛らわせる何かを探せることにした。 眠気はすっかり覚めてしまい、じっとしていると罪に押しつぶされてしまいそうになる。 危険なのはわかっているし、最初に決めたスタンスとは矛盾している。 それでも、杏はもう心の奥底に眠る罪の意識と向き合いたくなかった。 (何処かゆっくり寝られて、襲われる心配も無くて、……あんな夢見ない所……!) 杏は町へ飛び出し、隠れながらも恐る恐る進み……
282 :トリップ・アウト ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/09(土) 03:06:29 ID:DxWky3HE0 「うわ………」 ……で、今に至る。 (………お取り込み中みたいだね) 一人の少女が女の子にすがり肩を震わせている。 その状況だけで、中で何が起こっているのかは理解出来た。 ただ一体何が原因で『そうなった』のかは分からない。だが、それも特に興味の無い事だった。 「杏には関係無いし、巻き込まれる前に退散しよう……」 杏はめんどくさい事が嫌いだ。 あそこで誰がどのような思考をして、一体何が起こったのかは知らないが、面倒事には巻き込まれたくない。 安全な場所が一番だ。そういう意味ではやはりあそこが一番だったろう。 幻に惑わされてはいけない。杏は杏の道を貫こう、と。 踵を返し、来た道を戻ろうとして。 ―――そこにもまた、『彼』が居た。 「うわぁっ!?」 大きく音を立てて尻餅をつく。 それはただの幻、悪夢の一部であり、改めて意識を向けるとそこには何も無い。 しかし、彼女のたてた音は現実であり、そしてそれはあまりにも大きかった。 「…………ぁ」 「あ゛っ」 店の中の少女は、まっすぐにこちらを見ていた。 * * * 「仁奈………」 中に居た少女――藤原肇は双葉杏が現れた事により少しは冷静になることはできた。 杏の方も最初こそ警戒していたものの、危害を加えない事が分かると観念して店内に入った。 杏は、事切れていた少女に見覚えがあった。 その少女はいつも着ぐるみを着ていたから、その姿は新鮮だった。 いつも着ぐるみを着て、皆から可愛がられていた少女――市原仁奈が、死んでいた。 「私が、目を離したから……っ」 肇は俯き、悔やむ様に言葉を噛み締める。 彼女が殺したわけではない。彼女も知らずのうちに、仁奈は死んでいたらしい。 殺した犯人は分からずじまい。彼女はその感情を何処にもぶつける事が出来ずに、自分を責めつづけていたらしい。 (……まぁ、杏がどうこう言える立場じゃないけど) 杏には、仁奈の死を悲しむ事が出来なかった。 薄情になったわけでは無い。だが結局こうなる事は当然なのだと、そう思っていた。 人を殺すのは罪だ。しかし、この世界においては話は別。生き残る手段として正当化されている。 事実、杏自身も殺人を犯している。 あの頃の思い出と自ら『決別』したからこそ、仁奈の死を悲しむ事は出来なかった。
283 :トリップ・アウト ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/09(土) 03:07:47 ID:DxWky3HE0 「………あ……」 杏が物思いにふけっている時、肇は不意に立ち上がった。 「ど、どうしたのいきなり」 杏はいきなりの行動に呆気にとられる。 先程までずっと俯いていたのに、思い立った様に立ち上がる彼女の姿はある意味不気味だった。 「……水族館に、行かないと。そこで、待ち合わせているんです。私………」 「いや、ちょっと………」 ふらふらと歩き去る肇を見て、杏は悩んでいた。 今の彼女はどうみても不安定だ。 しかし、彼女にはどうやら仲間が居るらしい。そこが気にかかっていた。 集団に紛れられれば、一人よりも生存確率は上がる。 その考え方は当初とはまた変わってきていたが、その事に杏は気づいていなかった。 「……こっそりついていこうかな。 楽できそうだったら、そこに私も合流。うんうん、名案だね」 ……本音は、一人でいることに耐えられなかったから、かもしれない。 その真実は本人含め、誰も知らない。 【C-6/一日目 昼】 【藤原肇】 【装備:ライオットシールド】 【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】 【状態:絶望、手から出血】 【思考・行動】 基本方針:?????????????????? 0:水族館へ向かう 【双葉杏】 【装備:ネイルハンマー】 【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品(杏)x0-1、不明支給品(莉嘉)x1-2】 【状態:健康、幻覚症状?】 【思考・行動】 基本方針:印税生活のためにも死なない 1:肇について行き、楽できそうならその仲間と合流 2:自分の罪とは向き合いたくない ※放送の内容を聞いていません。また、情報端末で確認もしていません。 また、悪夢の幻覚がたまに見えています。
284 :トリップ・アウト ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/09(土) 03:08:11 ID:DxWky3HE0 投下終了です
285 : ◆John.ZZqWo :2013/02/09(土) 12:18:20 ID:JL7ozSWs0 投下します。
286 :彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/09(土) 12:19:11 ID:JL7ozSWs0 思ってたよりも狭い場所だったんだ――というのが山頂の見晴台に戻ってきた島村卯月の抱いた感想だった。 最初に辿りついた時は真っ暗な夜で、闇に半ば溶けた木々に囲われ、その闇そのものが無限に広がっているようにも感じられたのに、 太陽が昇って全てを照らし出してしまえば、木々の向こうまで見晴らしもよく、そこにあるのはただの小さく柵に囲われただけの広場だった。 恐る恐る踏み入ると島村卯月は親友の名を呼ぼうとし、しかし声が出せないことを思いだす。 それが無性に悲しく、情けなかった。 深呼吸をし、喉に手を当ててみたり、ボイストレーニングのことを思い出してみたりしても声は出ない。 ただ掠れた声とも呼吸音とも判別のつかないただの音が少しだけ漏れるだけだ。 親友の名前すら呼べないことにまた落ち込み、しかたがないと踏み出した島村卯月は、しかしすぐに足を止め、息を飲んだ。 「――……ッ」 そこにあったのは新田美波の死体だった。 彼女はまるで誰かに懺悔しているかのように身体を丸め、芝生の上に蹲っている。額は地面についていて、その表情は伺えない。 そして彼女の死体の傍には、なぜか脱ぎ捨てられた血塗れの衣服が落ちていた。 もしかすれば親友のものかと島村卯月はそれを確かめ、しかしそれが親友のものではなくあの水本ゆかりのものだと気づく。 いったい、ここで何があったんだろうか。そしてこの服を脱いでいった水本ゆかりはどうしたんだろうか。 探しに来た渋谷凛の姿もこの見晴台には見当たらない。逃げた彼女を水本ゆかりが追っているんだろうか。 色々と疑問は思い浮かぶがその答えは出ない。 「…………………………」 少しだけ迷って、島村卯月は蹲る新田美波の死体へと手を伸ばした。 放送は確かに聞いた。そこで彼女の名前が死者として呼ばれたことも忘れてはいない。 けれどもしかすれば、もしかすればまだ生きているんじゃないか。そう思い。肩を揺さぶろうとその手をのせて―― 「――ッ! ……ぁ…………ハ…………」 そのあまりの冷たさに島村卯月は声のない悲鳴をあげ、慌てて死体から離れ、そのまま芝生に尻もちをついた。 ひやりとした体温のない人の身体はひどく気味が悪かった。 人がただの肉塊に――死体になっていることは気が狂いそうなくらいにおぞましく、そしてやはり彼女は間違いなく死んでいた。 いやいやと頭を振り、ガチガチと歯を鳴らしながら立ち上がると、島村卯月は目を瞑りながらその場を離れた。 そしてそのすぐ奥――そこから遊園地と山のふもとまでがよく見渡せる見晴台の端に、本田未央の死体は転がっていた。 島村卯月は逡巡し、けれど決心して足を震わせながら近づく。 緑の芝生は彼女の周りだけ真っ赤に染まっていて、それはまるで悪趣味なスポットライトのようにも見える。 そして死体には首がなく、その首は少し離れた場所で半ば草の中に埋もれるようにして落ちていた。 島村卯月は土を蹴らないようにゆっくり近づき、そして両手でそっと拾い上げる。 その顔は――本田未央の、彼女の表情は最後に見た時と同じで、少しだけ戸惑い気味な、でも彼女らしい明るい笑顔だった。 「ぁ…………――、――――ぉ、……ッ」 じわりとその目に涙を浮かべると、島村卯月は彼女の頭を胸元でぎゅうと抱きしめる。 そして、上着を脱ぐとそれを地面に広げ、彼女の頭から丁寧に泥と草を払ってその上へと置いた。 それから胴体のところへ向かうと、島村卯月は自分の服が血で汚れるのにもかまわずそれを抱えあげ、引きずりはじめる。 両手にかかる重さと冷たさはどうしようもなく死体のもので、けれどもこの時だけは嫌悪をよりも親友への気持ちのほうが上回った。
287 :彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/09(土) 12:19:40 ID:JL7ozSWs0 「………………ハァ、ハァ」 血で濡れていない芝生のところまで引きずると、島村卯月は広げた上着を今度は枕になるように畳み、本田未央の首をその上に置いた。 再び胴の上に首が戻ってきた親友に島村卯月は語りかけようとして、けれどやっぱり声は出なくて、 なので、冷たくなった手を握り、心の中でただ「ごめんなさい」と言う。 「ぅ……ぁ、ぁ――――――ぁ、ぁ、あ………………ぁ、あ、ぁあ、ぁ…………」 すると、途端に嗚咽と涙が溢れ出し止らなくなった。 本田未央を、――彼女を殺してしまった。 彼女はもうなにもできない。 楽しいことも嬉しいことも恋をすることもできず、アイドルとしてステージに上がることもなく、歌を歌うことだってもうできない。 いっしょにトレーニングすることも、苦しい時に励ましあうことも、失敗した時にいっしょに泣くこともできない。 島村卯月は思い出す。 @ ……――私と未央ちゃんと、そして凛ちゃんとで『ニュージェネレーション』というユニットとして売り出されることになったけれど、 でもなにかかもが三人いっしょというわけじゃなかった。 三人の中では凛ちゃんがダントツの人気で、いち早く彼女のCDデビューが決まった時は、未央ちゃんと次は私たちだと励ましあった。 その次に私のCDデビューが決まった時、未央ちゃんは自分のことのように喜んでくれた……けど、私は、いや他のみんなも知っていた。 未央ちゃんがその笑顔の裏で本当はひどく落ち込んでいたことを。 でも未央ちゃんはそんな落ち込んでいる部分を決して私や凛ちゃん、プロデューサーさんの前でだって見せなかった。 それよりもトレーニングに打ち込むようになり、小さなイベントやコンパニオンの仕事なんかもそれまで以上に精力的にこなすようになった。 事務所の中にいる人の中には未央ちゃんのことをこれといった特徴がないだとか、引き立て役にすぎないって言う人もいる。 けど、そうじゃない! 未央ちゃんは誰よりも努力家だったし負けず嫌いだった。 初めて私たち三人が顔をあわせた時、 書類審査の合格通知をもらって集まった私たちだったけど、それは実は手違いで本当は失格だということで、 悲しくてすごく残念で、それでも私はしかたがないと諦めて帰ろうとしたんだけど、そこで食い下がったのが未央ちゃんだった。 未央ちゃんがあの時、社長に食い下がらなかったら今の私たち――『ニュージェネレーション』はなかった。 未央ちゃんがいなければ辛いトレーニングや、いつまでもアイドルになれない焦りや苛立ちを乗り越えることはできなかった。 未央ちゃんは空回りすることも多いけれど、それは私や凛ちゃんの分もがんばってくれてたんだねって今ならわかる。 そしてとうとう未央ちゃんもCDデビューが決まって、そして三人で、ちっぽけなイベントだけど、三人いっしょのイベントも決まってたのに。 プロデューサーさんからその報告を受けた晩は二人だけでお祝いしようって家に呼んで、お菓子もジュースもCDも全部用意して、 でもいざ二人で顔をあわせたら涙が止まらなくなって、朝までずっと諦めなくてよかったって泣いて、それなのに―― 殺しちゃったよ! 未央ちゃんが死んじゃったよ! 真っ赤に染まった芝生の上にぽつんと拡声器が残されてる。未央ちゃんの拡声器。私が使った拡声器。 思いついた時は名案だと思った。実際に里美ちゃんと美波ちゃんが来た時にはみんなで歓声をあげて、これで全部が解決するんだと思った。 けれどそれはただの現実逃避で、今思えばもっとよく考えればよかったんだなってわかる。 もっと慎重に行動していれば……、せめてみんなには隠れていてもらえば、死ぬのは馬鹿な私だけですんだのに。 なのに未央ちゃんはそんな馬鹿な私の代わりに死んで、なのに私は自分だけ逃げ出して、凛ちゃんも未央ちゃんもここに置き去りにした。 寂しかったよね。死んじゃう時に誰もそばにいないなんて。 ごめんね。ひとりにしてごめんなさい。 私たちは三人いっしょの『ニュージェネレーション』なのに、バラバラにしちゃってごめんなさい。 @
288 :彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/09(土) 12:20:00 ID:JL7ozSWs0 「…………――――、――――――ぁ、――、――――――――――――――――――ぁ、――――――――――――――」 ここに戻ってきてからどれくらい経ったろう。 あれからずっと本田未央との想い出に浸っていた島村卯月は、日差しに暑さを感じてようやく顔をあげた。 太陽はもうかなり高いところまで昇っていて、周囲を見渡せばこちらは逆になんの変化もない。 島村卯月は握っていた手を離すと、目元をごしごしとこすって立ち上がる。 「(またここを離れるけど、今度は凛ちゃんを連れて戻ってくるから。 戻ってきたらまた三人でお話して、歌を歌って、それからいっしょにごはんを食べよう。 だから、それまで少しだけ待っててね)」 泣きはらした目は真っ赤で、でも芝生の上に横たわる彼女と同じ笑顔を浮かべて、島村卯月は心の中で彼女に約束する。 そして普段となにも変わってないように手を軽く振ると、踵を返しゆっくりと歩き出した。 その身体がふらりと揺れ、足がたたらを踏む。 「(ううん、こんなことでへこたれないよ)」 スカートのポケットに手を入れると島村卯月はそこから一本のチョコバーを取り出した。 そのもう半分かじられたチョコバーは昨晩、本田未央が元気付けるために食べさせてくれたものだ。 島村卯月は半分になったチョコバーを更にもう半分だけかじる。 「(未央ちゃんにまた元気もらったよ)」 そして半分の半分になったチョコバーをまたポケットに入れると、また歩き出す。 ふらり、ふらりと身体を揺らしながら、ゆらゆらとした足取りで、島村卯月は三人いっしょだった見晴台を離れてゆく。 【E-6・山頂・見晴台/一日目 昼】 【島村卯月】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、包丁、チョコバー(半分の半分)】 【状態:疲労(大)、失声症、後悔と自己嫌悪に加え体力/精神的な疲労による朦朧】 【思考・行動】 基本方針:『ニュージェネレーション』は諦めない。 1:凛ちゃんを探して、未央ちゃんのところに連れて帰る。 2:そうしたらまた三人でいっしょにいたい。 3:歌う資格なんてない……はずなのに、歌えなくなったのが辛い。 ※上着を脱ぎました(上着は見晴台の本田未央の所にあります)。服が血で汚れています。 ※拡声器は本田未央が首を落とされた場所に置かれたままになっています。 ※山頂の見晴台には、新田美波の支給品(基本支給品一式)と本田未央の支給品(基本支給品一式、救急箱)が放置されています。
289 : ◆John.ZZqWo :2013/02/09(土) 12:20:13 ID:JL7ozSWs0 以上で投下終了です。
290 : ◆John.ZZqWo :2013/02/09(土) 12:26:06 ID:JL7ozSWs0 続けて感想! >トリップ・アウト 杏の少し引いて見てる感じが実に杏だなって思いつつ……うわ肇ちゃんの精神がヤバい。完全に茫然自失してるよね彼女。 思ってみれば、彼女ほど死体を発見した子はいないんじゃないかな(しかも小さい子ばっかり)。殺してまわってる側の人は別として。 今まではけっこう気丈だったけど、やっぱりさっきまで生きていた子がわけもわからないうちに死んじゃってるってのは堪えるよねぇ。 で、続けて、 三村かな子、十時愛梨 の予約をします。
291 : ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:30:29 ID:L8YZi7T60 投下お疲れさまです。 >RESTART なつきちとだりーなの想いがここでも受け継がれたことで二人は少しでも浮かばれるかなあ 北東組はまだいろいろ燻っているから気は抜けない。そして……ちなったんはまあ頑張れw >トリップ・アウト 肇ちゃんの精神状態がヤバい域に。ひとりだけロケットで駆け抜けたさとみんは面倒な置物を残して逝きやがって……w Anzuchangが清涼剤になりそうだけど、白昼堂々幻覚を見るあたりこちらも精神状態は芳しくなさそうだなあ >彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン しまむらさんようやく立ち直れるきっかけを掴めたかな…… しかしちゃんみおの死体をきれいにしてあげる姿は端からみるとホラーそのものであるw それでは五十嵐響子、緒方智絵里を投下します。
292 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:32:53 ID:L8YZi7T60 「ナターリアを、殺しに行くんですよ」 「えっ、あ……ナターリアを殺す……?」 小動物のように縮こませてぴくりと肩を震わせる智絵里。 その仕草がに癪に障る。 相変わらずこの娘は現実を理解していない。理解しようとしない。 プロデューサーの命がかかっていて、すでに智香と唯が死んでいて、私たちもいつ死ぬか分からない状況で ナターリアを殺さないといけない理由も察することもできない愚鈍な彼女。 ああ――本当にイライラする。 なんでちひろさんはこんなやつを私たちのひとりに選んだのか。 喉から出てしまいそうになる智絵理への殺意を押し込んで私は言った。 「……智絵里。あなたはちひろさんから何を聞かされたの?」 「ひっ……ご、ごめんなさい……わ、わたし……」 なんで謝る。 そうやって本能的に謝れば私の機嫌が収まるとでも思ってるの? この愚図は。 「あの人からプロデュースされたのは私たち五人だけだったかしら」 「う、ううん……ナターリアを入れて六人……」 智絵里は怯えた表情で首をふるふると横に振る。 私、智絵里、千夏さん。そして死んだ智香と唯。 あの人の元でアイドルして羽ばたいたのはこの五人だけじゃない。 ナターリアを含めた六人だ。 だけど、ナターリアはちひろさんからの呼び出しを受けなかった。 「智絵里、私たちが殺し合いに乗る理由はなに?」 「そ、それは……ちひろさんにプ、プロデューサーを人質に取られてるから……っ」 「質問を変えるわ。もし、昨日私たちはちひろさんの呼び出しにあっていなかったら殺し合いに乗っていたかしら?」 「……たぶん、乗っていなかったです」 智絵里は私の顔色を伺いながら蚊の鳴くような声で言う。 彼女の言うとおりだ。前日にあんなことを言われたからこそ私たちは武器をとってこの殺し合いに応じる決意を固めた。 もし――事前に何も話を聞かされずにこのイベントに参加させられていたら素直にこうしていただろうか。 否、できていなかっただろう。 きっと困惑したままで素直に殺し合いなんてできなかったはず。
293 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:34:05 ID:L8YZi7T60 「もうひとつ質問。昨日呼び出されなかったナターリアは私たちのようにすぐに行動を起こせたかしら?」 「……ナターリアに限ってそんなこと……絶対に殺し合いに乗らないです」 「だから危険なのよ。ナターリアは殺し合いに乗らない。私たち六人のうち、一人でも殺し合いに乗らなかったらプロデューサーは死ぬ。だから殺すの誰よりも優先して」 そう、ナターリアの性格からして絶対に殺し合いには乗りそうもない。 『主役』に選ばれなかったナターリアは私たちにとってもっとも危険な存在。 あの人の命を救うためには目の前のお荷物を殺すことよりも優先しなければならない。 『主役』――――…………? 何か、ひっかかりを、感じる。 なに? この違和感。 私たちは『主役』に選ばれた。 ナターリアは『主役』に選ばれなかった。 『主役』に選ばれたから、私たちは率先して殺し合いに乗っている。 「あの……響子ちゃん……」 「…………」 「響子、ちゃん……」 なんだこの気持ちの悪さ。 なにか重要なことを見落としている気がする。 根本的なところを見逃している気がする。 ああ、智絵里が何度も私を呼んでいるうるさい。うるさい。
294 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:35:08 ID:L8YZi7T60 「な、によ……う、るさいな……」 「ご、ごめんなさい……あの……」 だからなんで謝る。ウザいウザいのよあんたは。さっきから人の顔色ばかりうかがって。 「どうして――ナターリアはちひろさんに呼ばれなかったのかな……」 智絵里の一言がさらに違和感を加速させる。 そんなの決まってるじゃない。ナターリアを呼んだところで素直に従うとでも? 本当に? 本当にそれだけの理由で呼ばなかった? あのちひろさんが? 「あの……響子ちゃん」 「なによ……言いたいことあるならさっさと言ってよ」 「わ、わたし思うんです。ナターリアはナターリアで別の役割を与えられているんじゃないかって……だ、だって不自然じゃないですか。 同じプロデューサーの元でデビューして、そ、その私たちと同じようにプロデューサーに恋をしているはずなのに……呼ばれなかったって」 「――――ッ!?」 違和感がさらに膨れあがる。 あのちひろさんが何も考えずにナターリアだけ放置するわけがない。 『選ばれた』私たちに役割が与えられたように、『選ばれなかった』ことで何かしらの役割を与えられているのだろうか? じゃあ何? 主役に選ばれなかったナターリアに割り振られた役って何? ――そもそも私たちは本当に『主役』なの? ぐにゃりと視界が歪む。 胸の奥から苦くて酸っぱい液体が込み上げそうになって私はたたらを踏み、白い壁に据え付けられた手すりを掴む。
295 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:36:52 ID:L8YZi7T60 「響子ちゃん!?」 「……なんでもないわ」 「で、でも……」 「なんでもないって言ってるでしょッ!」 「ひっ……!」 ぐるぐると回る視界の中で私は思考を巡らせる。 『私たち』はちひろさんに召集され、このイベントを進める『主役』に選ばれた。 『主役』に選ばれたからこそ、ストロベリーボムという凶悪極まりない爆弾を与えられた。 もし『主役』に選ばれなかったら私たちは本当に殺し合いに乗っていたか疑わしい。 逆に言うなら――事前に何も伝えられなかったアイドルたちは素直に殺し合いに乗る可能性は高くないということ。 私たちが率先して殺していくことでイベントは円滑に進んでいく。そのはずだ。 しかし――実際にはすでに15人が死んでいる。 たった六時間で15人が死んで、その15人の中には『主役』であるはずの智香と唯も含まれている。 『主役』が殺せたのは私が殺した2人だけ――智絵里も千夏さんも放送の時点では誰も殺せていない。 だけど、実際には13人が私たち以外の手によって殺されている。 そして同じ『主役』であった智香と唯は私が殺した2人を差し引いた9人のうち何人殺せたか。 まさか2人で9人殺せたなんて考えられない。よくて2人、もしかしたら誰ひとりと殺せず逆に殺されてしまったかもしれない。 私たち5人以外に率先して殺し合いに乗ったアイドルが確実にいるということ。 そ れ は つ ま り――――………… 「ふふ……あはは……くすくすくす……あっははははは」 「きょ、響子ちゃん……?」 「ねえ……智絵里……おかしいと思わない? どうして唯も智香も死んでしまったのか。こんなに優遇されている私たちなのにあっさりと死んでしまったのか」 「それは……」 智絵里はわかるかしら。わからないよねあなたじゃあ。 「いるのよ。きっと私たち以外に」 「え、あ、な、何が……」 「私たちと同じく事前にちひろさんと何らかの接触があってこのイベントに参加しているアイドルが。そして私たちと違う役割を与えられて殺し合いに乗っている。 ――ううん、違うわ。きっとこの島に集められたアイドルの全てが何らかの役割をちひろさんに割り振られている。本人が自覚するしないに関係なく演じるように仕向けられているとしたら?」
296 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:38:24 ID:L8YZi7T60 私たちはアイドルだ。 誰かが望む偶像であり続けなければならない。 それはきっとこのサバイバルゲームでも同様に誰かが私たちにそうあれと望まれている。 ここは劇場だ。 何者かによって作り上げられた悪趣味な恐怖劇。 その舞台に立つ60人の踊り子たち。それが私たち『アイドル』 ちひろさんにとって最期の一人まで殺し合うというのはあくまで結果だ。 きっと――このイベントの真意は彼女の描いた筋書きの中で、私たちが何を演じていくのか、なのだろう。 そして、ひとつの疑念が浮かぶ。 ちひろさんの言動はすべて計算ずくの上で行われているのだとしたら。 この島のアイドルたちに大まかな指向性を与えているのだとしたら。 そう――例えば最初にみせしめとして殺されたプロデューサー。 彼は適当に選んだ人間から従わなければこうなる例として処理されたのか。 「ねえ智絵里……いちばん初めに殺されたプロデューサーって誰の担当だっけ? ……って聞かなくてもさすがにあなたもわかるわよね」 こくんと頷いた智絵里。 彼の担当アイドルは――私たちなら誰もが知っている人。 すべてのアイドルの頂点に選ばれ、シンデレラの称号を受けた女の子――十時愛梨。 彼女も彼に想いを向けていたことは私もよく知っていた。 だからこそはたして彼女のプロデューサーの死は偶発的だったのかと思う。 たまたま選んだみせしめが彼だっただけなのか。 それともちひろさんはシンデレラたる十時愛梨に一定の役割を演じさせたいがために意図的に彼を選んだのか。 …… ………… ……………… 妄想。そう、これらは私の空想で妄想なだけだ。 ちひろさんが十時愛梨に何を望んでいるかなんて知るはずないし、ナターリアが呼び出されなかった理由も知るはずもない。 そして私たちが真に求められている役もわからない。 だけどこのイベントの観客が私たちに何かの役割を求めているのだけは確信めいた予感があった。 だけど――だから何なのだ。 私たちがちひろさんの掌で踊らさせていようが関係ない。そんなの知るものか。 私はプロデューサーを救い、想いを伝える。それだけだ。 そのために私はただひとり生き残る。
297 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:39:48 ID:L8YZi7T60 なのに……それなのに傍らにいる愚図は信じられない一言を言った。 ◆ 「もうやめようよ……響子ちゃんの言うようにわたしたちみんなちひろさんの筋書き通りに動かされてるなら……殺し合いなんてやめようよ……」 「は? ――あんた今なんて言った?」 「こ、殺し合いなんてやめて……みんなでここから逃げ――」 「ふ、ざ……けるなぁッ!」 私は怒りに身をまかせ智絵里の胸倉を掴みそのまま白い壁に背を叩きつける。 何を言っているんだこのバカは。まだ私たちが置かれている状況を理解できていないのか。 「あんたいいかげん現実見なさいよ! プロデューサーが捕まっていることに変わりはないでしょうがッ! 私たち殺し合いやめました。それをちひろさんが黙って見てるとでも思ってんのこのバカっ!」 「響子……ちゃん……くるし……」 私は何度も智絵里の背中を壁に打ちつける。 許せなかった。甘い考えだけでなくどこまでも人ごとのように事態を傍観してるだけの愚かな智絵里が。 「智絵里……私はねあなたを今ここで殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてたまらないの。ここであんたが脱落すればそれだけ私は目的達成に近くなる。 なのにそれをしないのはなぜか分かる!? 囮? 弾避け? ええ、それもあるわ。でもねそれ以上にあなたは同じプロデューサーを好きになったライバルだから! ずっと一緒にアイドルとして頑張ってきた友人だからなのよっ!」 いずれ殺すのにライバルだとか友人だとかいうのもちゃんちゃらおかしい話であることに違いない。 だけど同じ男の人に恋心を抱いたひとりの女の子としての矜持と敬意が智絵里への殺意を押さえ込めていた。 だからこそ、私に残った唯一の良心を踏みにじられているようで智絵里が許せなかった。 「なぜ殺さないの! なぜ殺せないの! もう私たちは綺麗なままでいられないのよっ!」 「だって……唯さんが死んで……智香ちゃんも死んで……それに千枝ちゃんがここで死んでて――」 「千枝……? なんでそこで千枝の名前が出てくるの」
298 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:40:43 ID:L8YZi7T60 智絵里は思わず漏らした名前にはっとしたような顔になり、私から目を逸らす。 佐々木千枝――小学生ながらしっかりものの女の子。 確か智絵里は京都で一緒に仕事をした関係もあって仲も良かったことを思い出す。 「……ち、千枝ちゃんが、ここで死んでいたんです。……かわいいあの子があんなひどい姿で」 「智絵里……千枝のところへ案内しなさい」 私は胸倉から手を離し智絵里を解放する。 けほけほと咳き込む智絵里は私から目を逸らしたままだ。 「で、でも……わたし……」 「いいから案内しなさいっ!」 私は嫌がる智絵里の腕を引いて無理矢理案内させる。 今まで気が付かなかったのだが、廊下には赤茶けた血の跡が点々と続いていた。 なるほど、智絵里はこれをたまたま見つけて千枝の死体と遭遇したのだろう。 血の跡を辿って私はひとつの病室にたどり着いた。 白いベッドが並んだ六人部屋の病室。その一角に佐々木千枝は横たえられていた。 その小さな身体の左半身は何かの爆発物による損傷か、まさしく『削られ』たように赤黒く染まっている。 右半身は可愛い死に顔を残しているがゆえにさながら理科室の人体模型のような姿を晒していることが一層の悲惨さを際立たせていた。 ――悪いけど、あなたの身体。智絵里の覚悟に使わせてもらうわ。 「う、うぐ……」 千枝の死体を再び目の当たりにした智絵里は口元を抑え目をそれから逸らす。 私は視線を逸らす彼女の髪を掴み強引に千枝の死体の側に顔を寄せる。 「い、いやぁ……響子ちゃん……い、痛いよぉ」 「智絵里……櫻井桃華を知ってるよね。彼女の……千枝の友達だった櫻井桃華」 「き、響子ちゃん……?」 「私が殺したのよ。ストロベリーボムで無惨に焼き殺した。可愛らしい女の子がまるで黒焦げのマネキンのようになって死んだわ」 「――ッ!?」 「いい加減現実を見て。私はもう戻れないのよ。智絵里、あなたがいつまでも私の陰に隠れて綺麗なままでいるなんて許さない。 自分は手を汚さず、でもプロデューサーを助けたいなんて都合のいい考えなんて許されない」 「うう……」 だから、智絵里の覚悟を問う。 なけなしのストロベリーボムひとつと拳銃を取り出して私は言った。
299 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:41:22 ID:L8YZi7T60 「な、何を……」 「これで、この部屋ごと千枝の死体を燃やし尽くすのよ。それができないなら――私はあなたを殺す」 「そ、そんな……」 「もし――殺し合いを止めてプロデューサーも助けたいと本気で思うのなら……私を殺しなさい」 究極の選択を智絵里に突き付ける。 そうでもしないと彼女は絶対に自分から行動を起こそうとしないだろう。 状況に流されるままの愚か者に強引に選択肢を選ばせる。 だけど……智絵里は前者しか選ばないだろう。それはほぼ確信している。 私を殺す覚悟があれば出会った時点で私を殺しているし、私に付いていくなんて絶対にしない。 選択肢と言いつつ、智絵里はただ自らが楽な道に逃げているだけなのだから―― ◆ 私と智絵里は病院を後にする。 俯いたままの智絵里は一言も言葉を発しようとはしない。 ふり向いた先、病院の一角の窓から炎が吹き上がり火災報知器が鳴り響く音が聞こえていた。 スプリンクラーの水にも負けず炎上し続けるなんてまったく大した火力である。 結局――智絵里は千枝の死体を病室ごと焼き払う道を選んだ。 少しでも智絵里に覚悟を決めさせてやろうと発破をかけたのだが、どこかがっかりしている私自身がいた。 予想通り智絵里はあらかじめ敷かれたレールを選んだだけだった。 ほんの少しだけ予想を裏切る展開を期待してみたが、彼女には無理な話だった。
300 :グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:42:19 ID:L8YZi7T60 智絵里、あなたはそうして状況に流されるまま死ねばいいわ。 あなたではプロデューサーを救うことなんて出来やしない。 あなたはでは『主役』になれやしない。 くすっ……もしかしたらこれこそがちひろさんがあなたに望む役割かもしれないわね。 例え私の行動がちひろさんの筋書き通りだったとしても私のやるべきことは変わらない。 アイドルの役割なんてどうでもいい。 智絵里を殺し、千夏さんを殺し、ナターリアを殺し、そして生き残る。 私はひとりの人間としてプロデューサーを助けるため他者を殺し続けるんだから。 【B-4 一日目 午前】 【五十嵐響子】 【装備:ニューナンブM60(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:ナターリアを殺すため、とりあえず西へ向かう。 2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。 3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。 4:緒方智絵里は邪魔なら殺す。参加者が半分を切っても殺す。 5:この島の『アイドル』たちに何らかの役割を求められているとしても、そんなこと関係ない。 【緒方智絵里】 【装備:アイスピック】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 0:とりあえず響子ちゃんについていく 1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。 3:響子ちゃんと千夏さんは出来る限り最後まで殺したくない。 4:もしも全てがちひろの筋書き通りに動かされているならこんな殺し合いは……
301 : ◆BL5cVXUqNc :2013/02/09(土) 21:42:45 ID:L8YZi7T60 投下終了しました
302 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/10(日) 01:46:56 ID:ciXHxfBA0 出先なので取り急ぎ延長申請おこないます
303 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:10:27 ID:JDYlkUMo0 みなさま、投下乙です! >RESTART この対主催チームは安定感あるなぁ。痛みを忘れたわけじゃないけれど、しっかりとやるべきことを…… って、なんてところに待ちマーダーがっ!? 果たして遭遇することはあるのか。実に楽しみです。 >トリップ・アウト ま〜た危うい状況だなぁ、杏ちゃん……。 のんびり寝て過ごせる状況は果たして訪れるのか。うん、ちょっとしばらくは無理っぽいねw >彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン 言葉を失った少女の、死と敗北に向き合うお話……丁寧な描写と掘り下げが光ります。 どうしようもない状態の彼女だけど、思わず応援したくなるなぁ >グランギニョルの踊り子たち こちらは……ヒィッ! 怖いよ怖いよやっぱり怖いよ! 限られた情報から、スーパージョーカーの存在に勘付くとは流石。この2人組、今後の戦果にも期待ですな
304 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:10:54 ID:JDYlkUMo0 さて、それでは、私も以下、予約分を投下します。
305 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:11:23 ID:JDYlkUMo0 ……薄暗い廊下の片隅、すり切れたベンチの上に、彼女は1人座っていた。 遊園地の華やかさから隔絶されたような、裏方のスタッフ用のエリアの一角。 彼らの休憩スペースだったのか、廊下の壁際につけられたベンチの傍には、吸い殻満載の灰皿も置かれている。 等間隔に並ぶ扉のいくつかは開いたままで、ここからでも部屋の中が少しだけ見える。 着ぐるみの頭が転がっていたり、パレードの時にでも使うのか派手な衣装が大量に並んでいたり。 「たのしい遊園地」を演出するのに必須な、しかし来場客にはとても見せられないような、遊園地の「はらわた」。 ここは、そんな場所だった。 ホコリっぽく、すえたタバコの匂いがかすかに鼻につく、静かな廊下。 頭上には、ときおり間をおいて明滅する、切れかけた蛍光灯。 今をときめくアイドルには不似合いな、そんな空間で。 輿水幸子は、ただぼんやりと1人、見るともなく床に視線を向けたまま、座り込んでいた。 そう。 幸子は、1人きりだった。 およそ表情というものは全て抜け落ちて、その口は中途半端に開いたままで。 涙さえも、枯れ果てて。 自信も、強がりも、オーラもなく。 ただ、糸の切れた操り人形のように、壁に背を預けてそこにいる。 刀傷を受けた胸部には、裂けた服の下に真白い包帯が覗き、ほんの僅かな血の色をにじませている。 水本ゆかりの襲撃を受け、神崎蘭子を置き去りに逃げ出してしまった後―― 打ちひしがれる輿水幸子と星輝子の2人は、それでも最後の理性と気力を振り絞り、手近な建物へと避難していた。 引き返して蘭子を助けに行くだけの勇気はない。 どうしようもない形で、その現実を突きつけられてしまった。 けれども、だからといって道の真ん中で立ち尽くしてもいられない。 いずれ襲撃者が追い付いて、2人の命も刈り取ってしまうことだろう。 だから2人は声もないまま、気まずい沈黙のまま、それでもなんとか立ち上がって、重い足を引きずって歩きだして、 そして――見てしまった。 いや、見えてしまった。 ……遠くからでも赤く染まっているのが分かってしまう、 不自然に大きく揺れ続けている、観覧車の、ゴンドラが、見えて――しまった。 それは2人の少女の、臆病と、保身と、決断の遅れと、現実逃避の果てに起きた、大罪の証明。 その光景に崩れ落ちる幸子を、あわてて支え、肩を貸し、引きずるようにしてココまで連れてきたのは、星輝子だった。 幸子の服を脱がせ、不器用に応急処置を施し、また元通りに着せ直したのも、輝子。 今いる廊下に繋がる扉がいくつか開きっぱなしになっているのも、彼女が救急箱を探し回って歩いた痕跡だった。 そんな輝子も、少し前にお手洗いに行くと言って離れてから、戻ってはこない。 ただ用を足すだけにしては長すぎる不在。 ……見捨てられた、かな。 幸子はぼんやりと考える。 無理もないな、と思いつつ、そのことに対して自嘲の笑みさえも浮かばない。
306 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:12:20 ID:JDYlkUMo0 残酷な現実に、強いショックを受けたのは輝子も同じであったろう。 脅威に立ち向かうだけの勇気が持てなかったのも、同じだ。 むしろ幸子以上に蘭子のことを気にかけていた彼女のこと、受けたショックはより大きかったに違いない。 それでも、輝子はギリギリのところで動けた。崩れ落ちなかった。 それも輝子1人ではなく、幸子を引きずって避難し、傷の手当までして。 そこまでしてもらっても感謝の言葉1つ言えない幸子は……だから、見捨てられても仕方ない。そんな風に思う。 まったくもって、普段の幸子らしからぬ弱気さだった。 似たような2人、どうしてこうも差がついたのだろうか。 薄暗い廊下の片隅で、青空から隔離された空間で、幸子は一人、考えるともなく考える。 いや――果たして、本当に「似ていた」のだろうか? 「似ていた」と言ってしまって、いいのだろうか? 輿水幸子は……逃げ続けてきた。 負け続けてきた。 ほんとうは負け続けて、でも負け惜しみを口にし、言い訳で誤魔化して、敗北からも目を背け続けてきた。 それでも、何とかなってきた。 何とか、なってしまっていた。 なまじ、外見も頭脳も音感も、さりげなく高いスペックを秘めているだけに。 なまじ、才能にも育ちにも幸運にも、こっそり恵まれていただけに。 なまじ、腕のいいプロデューサーに巡り合い、絶妙のサポートを受けてきただけに。 逆説的に、「ほんとうに追い込まれたこと」がなかった。 ほんとうに逃げ場なんてない状況を、ほんとうに覚悟を決めるべき状況を、知らずに過ごしてきた。 なにせ、彼女のこれまでの人生で「最大の危機」が、ライブのための「スカイダイビング」なのだ。 確かに怖かっただろう。危険もあっただろう。 パラシュートが引っ掛かって宙吊りになるなんてトラブルも、実はただ笑ってもいられない深刻な事故ではある。 彼女のプロデューサーでなくとも、大いに褒めるに値する奮闘ではあった。 けれど――結局。 輿水幸子の人生経験なんて、所詮は、その程度だ。 スカイダイビングの件だって、幸子が強がりすら言えないほどに怖がっていたのなら、中止になっていただろう。 なんだかんだで彼女のプロデューサーは、そのあたりの見極めが上手い。 またギリギリで中止となった時の挽回策も、きっと並行して用意してあったはず。 逆に言えば、フォローの余地も逃亡の余地もない仕事は、そもそも受けないように立ち回るのが基本だったのだ。 負け続け、逃げ続け、そのついでに、小器用に成功と栄光を掠め取るだけの、基本的に『イージーモード』な人生。
307 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:13:20 ID:JDYlkUMo0 ひるがえって――今ここにいない、星輝子はどうか。 つきあいの浅い幸子にもわかる。幸子にも断言できてしまう。 星輝子は、不器用な少女だ。 キノコへの偏愛だとか、ボサボサの髪だとか、そういう表層的な所で済まないレベルで、深刻な欠陥を抱えている。 根本的なところで、他者とのコミュニケーションに必要な「なにか」が欠損してしまっているタイプの人間。 だが、そういう能力こそ、アイドルとして世を渡っていくのに必須とも言える能力であるはずだ。 才能の面でも、アイドルとしては及第点なのかもしれないが、目を引くほど突出したものでもないのだろう。 彼女のライブを見たことはないが、超一流の表現者が隠し切れずまとう「オーラ」のような凄みは、感じられない。 着ていた服ひとつとっても、生地は安物・縫製も適当。洗い古して襟もヨレヨレ。 いくら私服とはいえ、いつどこでファンやマスコミに見られるか分からない現役アイドルの姿としてひどすぎる―― そして、その自覚すらない。そのことを恥じる素振りすらない。 必然的に、星輝子の育った環境、経済状況のほどが想像できてしまう……。 おそらくは――アイドルどころか、ただ生きるだけでも『ハードモード』と呼んでよいほどの、星輝子の人生。 彼女のプロデューサーが何を考えて彼女をスカウトしたのか、輿水幸子には見当もつかない。 けれど、星輝子のアイドル生活が順調なもので無かったことは、容易に想像がつく。 きっと敗北続きだったはずだ。 勝利や栄光からは縁遠い道を歩んできたはずだ。 そもそも同じ業界で仕事をしていたというのに、幸子は輝子の噂さえロクに聞いたことが無かったのだ。 ――そして、それでも地道に、諦めずにここまで歩み続けていたのだ。 敗北にさえも慣れてしまった、中途半端なアイドル2人。 一瞬、勝手に「似た者同士」と思ってしまったのは、きっとその部分。 しかし、そんな2人の敗北の内実は、大きく異なる。 同じ光景を目にした2人のうち、1人が崩れて1人が耐えきれたのは、きっとその違い。 輿水幸子はある意味において、頭のいい少女である――それこそ、本人のうぬぼれ以上に。 その才能は残酷にも、この殺し合いの極限状態において、長年目をそらしてきた真実に彼女自身を導いてしまっていた。 そう。 このイベントが始まってからの、わずか数時間分だけではない。 彼女の人生にも等しいほどの、十数年分のもの時間こそが…… 十数年分の「ツケ」こそが、今の彼女にのしかかる重みと疲労感の、正体だった。
308 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:14:26 ID:JDYlkUMo0 「ボクは……もう、疲れましたよ……」 振り払って再び立ち上がるには、あまりに重すぎる重荷。 破滅への誘惑が、彼女の全身に絡みつく。 比較的見つかりにくい奥まった場所に入ったとはいえ、いつまでもこうしていられるとは思わない。 きっと遠からず、水本ゆかりは猟犬のように居場所を嗅ぎ付け、その凶刃を振りかざすのだろう。 1度目は皮一枚斬られただけで済んだが、あんな幸運が何度も起きるとは思えない。 あるいは、あの殺人者が気まぐれに見逃してくれたとしても…… このイベントに課せられた残酷なルールは、身動きしないものを長く生かしてはおかない。 遠からず立ち入り禁止の指定がなされ、そして、立ち上がる力もない輿水幸子の、かわいい頭部が宙を舞うのだろう。 そして幸子は、それでもいいかな、と思って、やっぱり自嘲の笑みすらうまく浮かべることができなかった。 あれからどれくらい経ったのだろう。 ほんの僅かな時間なのかもしれないし、数時間ほども経ったのかもしれない。 時間の感覚すらあいまいで、この窓のない空間には日差すら差さず、もはや時計を確認する気すら起きはしない。 ――そんな時間の止まった薄暗い廊下に、やがて聞こえてくる硬い足音。 水本ゆかりか、それともほかの誰かか。 それが彼女の知る星輝子でないことは、足音で分かる。 友好的な未知の人物なら、まずは動かない幸子に驚き、声をかけてくるのが筋だろう。 大きくなっていく足音に重なる、じゃらり、と謎の金属音。 無言の接近が、幸子の甘美な絶望を静かに高めていく。 思い出したかのように、切れかけた蛍光灯がまばたきをする。 『その人物』はそして、幸子の正面、至近距離に黙って立つと―― じゃらんッ! ひときわ耳障りな金属音を響かせて、一呼吸で幸子の首に「鎖」を巻き付けて……力づくで幸子を引き起こすっ! 「…………え?」 もはや何ものにも反応しないのだろう、と自分でも思い込んでいた幸子の口から、ほうけたような声が漏れる。 暴力的に無理やりに顔を上げさせられて、『その人物』の顔を至近距離で突きつけられて―― 幸子の思考が、停止する。 そんな幸子に対し、『その人物』は、楽しそうに、実に楽しそうに。 絶叫した。 .
309 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:15:34 ID:JDYlkUMo0 「…………フヒヒヒフハハハアーッハッハァッ! まったく見損なったぜェ、輿水幸子ォ!! ここらで軽く死んどくかァ!? ヒャーッハァ!!」 ======================================= 閑散とした遊園地を、ウェディングドレス風の衣装をまとった水本ゆかりは、1人歩いていた。 華やかな装飾の園内ではあるが、しかしこの手の施設につきものの歓声も、さりげないBGMもなく…… 青空の下、だだっ広い通路はただ寂しさしか感じさせない 自動制御によるものか、定期的に無人のジェットコースターが発進し、頭上高くを巡るレールを疾走していく音が響く。 夜間は大人しくしていたアトラクションたちも、「営業時間」を迎え、おのおの勝手に「仕事」をしているようだった。 「なかなか見つからないものですね……」 大きく園内を一周してきた格好のゆかりは溜息をつく。 あの後、逃げた2人を追って動き出した彼女は、しかし、最初の分岐路で選ぶ道を間違えたのだろうか。 動物園になっているあたりに向かい、人がいた様々な痕跡を見つけ、すわ獲物は近いとぬか喜びしたものだったが。 どうもそれは、あの3人が「ゆかりと遭遇する前に」残した痕跡であったらしい。 動物園の裏手のシャワー室まで踏み込んでみても、人っ子1人いなかった。 そうしてこの、動物園と遊園地が一体化したような複合遊技施設を、ほぼ一周してきた彼女は。 入り口・兼・出口の門の近く、大きなメリーゴーランドが見えるあたりに辿り着いていた。 ここも自動で制御されているのか、警告のブザーがひとしきり鳴った後、ゆっくりと木馬たちが回りだす。 キラキラと光る照明、高らかに流れ出す楽しげな音楽。 いかにも遊園地、といった舞台装置を横目に、ゆかりは周囲の建物を見回す。 来場者を迎え入れる、玄関口近く。 そこには当然、券売所がある。案内所がある。迷子や落し物を扱う窓口がある。売店もある。 そして、それらに付随して広がる、裏方のスタッフたちのための建物がある。 大雑把に園内を回ってきた彼女だが、あと探していないのはこのあたりくらいのもの。 ここを一通り調べても見つからないようなら、園外に逃げ出してしまったと見ていいだろう。 「既に逃げていたなら無駄になってしまいますけど……でも、ここまで来たら着実に調べ尽くすべきですよね」 建物の方に歩を進めながら、ゆかりはひとり小さく頷いた。 水本ゆかりは、努力の人である。 世間知らずのお嬢様のようにみられることも多い彼女ではあるが…… なかなかどうして、地味に汗をかくことの価値を理解している人間だ。 特技のフルートにしたって、幼い頃から重ねた練習と勉強の賜物。 絶対音感という強力な武器を持っていても、けっして慢心することなくレッスンを重ね。 芸風を広げる上で必要と思えば、演劇などの新しいことにも進んで挑戦する。 それも、一足跳びに結果を求めるのではなく、着実で王道な努力の上で。 焦らず地道にコツコツと。それが成果につながる最良の方法なのだと、信じているのだ。 「この『イベント』だって、きっとそう……コツコツと、1つずつ成果を積み重ねていけば、きっと……!」
310 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:16:36 ID:JDYlkUMo0 それが、逃がした獲物がいても彼女のスタンスが乱れない理由。 ちゃんと結果は出している。「学習」も重ねている。細かい失敗は沢山あるけれど、1つずつ修正していけばいい。 それはあの見晴台での襲撃でも、観覧車前での襲撃でも。 ブレることなき、水本ゆかりの軸であった。 「そして、普段から積み重ねてきたものに乏しいから……いざという時、はしたない姿を晒すのです。 笑顔1つ維持することも、その場に踏み止まることも、できないのです」 脳裏に浮かぶのは、滑稽なほどに取り乱していた、犠牲者たち。 友情もプライドも人間性も全て放り出して逃げ去っていく、少女たちの背中。 辛い時でも悲しい時でも、笑ってみせる。 そんな『アイドル』の基本中の基本、一番最初に誰もが習う基礎ですら、投げ捨ててしまった者たち。 日々積み重ねていくことを怠り、そしてそのことに反省すらしない者たち。 その程度の連中を斬るに当たって、痛む良心など残ってはいない。 せいぜい、自分が前に進むための「踏み台」になってもらおう――! メリーゴーランドの奏でる軽快な音楽が終了し、規定の一連の動作を終えた木馬たちがゆっくりと止まる。 どこかから、ぶしゅーっ、と機械のつく大きな溜息が聞こえる。 再び静寂を取り戻した、だだっ広い屋外空間に――じゃらんっ! 「――ッ!!」 鎖のような金属音が響くのと、水本ゆかりが振り返るのと、腰の刀に手を伸ばすのがほぼ同時。 第三者からの襲撃や、逃げた2人のヤケクソな反撃も想定していたゆかりは、何があっても驚かない―― ――驚かない、はずだったのに。 「え……ちょっ、だ――誰?!」 「ハッピーナイトメア、ウッェディ〜ングッ!! ベニテング! ニセクロハツ! ドクササコ! ツキヨタケッ! 地獄の使者がァ! 血塗れ花嫁にィ! 悪夢のプレゼントをお届けだぜェ!! フヒヒヒ、フハハハ、ヒャーッハッハ……げほ、ごほごほっ」 振り返った先にいたのは――哄笑の途中で、不恰好にむせ返っている怪人物は。 髪の幾筋かを、色鮮やかに染め上げ。 どぎついメイクの上から、顔面に大きく派手な原色のペイントを施し。 鋲やスパイクの目立つ、攻撃的なファッションに身を包み。 見るからに禍々しい印象の『鎖鎌』を両手で構えた―― ヘビメタ、あるいはパンク、とでも表現したくなるような(?)、ド派手な姿の少女だった。 =======================================
311 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:17:39 ID:JDYlkUMo0 「輿水幸子は……始末した……! 次はお前だァ! 水本ゆかりィ! ヒャッハァ!」 「まさか……あなた、星、輝子さん!?」 狂笑を上げ、威嚇するように鎖分銅を振り回し始めた怪人の登場に、ゆかりは動揺しつつも刀を構える。 口調こそ激変しているものの。見た目こそ激変しているものの。間違いない…… 声といい、体格といい、間違いない。 先ほど観覧車の前で出会った、 輿水幸子の後ろに、半ば隠れるようにしていた、 ともすれば見落としそうになるほど印象の薄い、あの少女だった。 ゆかりとて、彼女のことをそれほど知っている訳ではない。 プロフィール上の年齢が自分と同じだったので、辛うじて記憶の片隅に名前が残っていた……その程度の相手だ。 先の出会いにおいても、ゆかりは彼女の名前を呼んですらいない。 しかし、それでも。 「少し見ないうちに、ずいぶんと変わられましたね」 「ツキヨタケは……置いてきた……フフ……!」 「方針を変更――いいえ、違いますね。 おそらく、こちらが本性。これまでの擬態を、脱ぎ捨てただけ。 きっと、そういうことなのでしょうね」 噛み合わない会話を交わしながら、油断なく身構えながら、ゆかりは自らの認識を修正する。 逃げる獲物の背中を討つだけの、ラクな戦いのイメージを振り払う。 舌なめずりせんばかりの表情で構えられた、鋭い鎌。 唸りを上げて回転を続ける、分銅つきの鎖。 傲岸不遜に放たれる、純然たる殺気。 あまりにも馴染んで見えてしまう、そのメイク、その衣装。 そして先ほどの、「輿水幸子は始末した」という発言。 ゆかりは確信する。 星輝子は――豹変したこの星輝子は、ヤる気だ。 本気で、自分の、水本ゆかりの命を奪いに来ている。 羊の毛皮を脱ぎ捨て、その手を鮮血に染め上げ、アイドル同士本気の殺し合いのステージに、上がってきている。 「驚きました……でも、素晴らしいです。 あなたは今の方が、よほど、『アイドルらしい』」 じりじりと距離を測りながら、思わず笑みが零れる。 あと数歩ほど飛び込めば互いの武器が届く、この状況。 メリーゴーランドの騒音に紛れ、この間合いに入り込まれてしまったこと自体が、失策ではある。 できればここまで近づかれる前に、銃を撃ち放って終わらせたかった。 なんとか刀を抜くのは間に合ったが、今から武器を持ち替えているだけの余裕はないだろう。 理想とは程遠い、厳しい現実を前に――それでも、ゆかりは楽しくって仕方がない。 だって、
312 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:18:26 ID:JDYlkUMo0 「だって、あなた……『笑ってる』」 水本ゆかりの定めた『アイドルの定義』そのままに――山頂で少女たちに向けて断じた言葉、そのままに。 星輝子は、笑っていた。 一点の曇りもなく、あけっぴろげに笑っていた。 本当の命のやり取りを今から始めようというのに、笑っていた。 そしてゆかりは、そんな星輝子を肯定的に認めた上で。 これまでこの島で出会ったあらゆるアイドルたちの中、最高位の尊敬を捧げた上で。 「敬意は抱きますが……それでも。 ライバルとして、あなたには、ここで終わって貰います!」 「ヒャハッ……キノコパワー、全開だぜぇぇぇぇ!」 青空の下、高らかに警告のブザーが鳴り響く。 無人のメリーゴーランドが、定められたプログラムに従って再び動きだす予告の叫び。 その音に背を押されるようにして、2人は共に、それぞれの武器を振り上げ突進する! 「マイタケきくらげエリンギなめこホゥワイトマッシュル〜〜ムっ、ぶっなしっめじィっ!」 「着実に、確実に……はぁっ!」 じゃららんっ! ひゅんっ! ラップのような絶叫と共に振り下ろされた分銅鎖が、身を捻ったゆかりのすぐそばを通り過ぎていく。 不十分な体勢から突き出された刀が、のけぞる輝子の髪をかすめてその数本を宙に舞わせる。 どちらも素人同士。もしも本職が見たら、あきれるであろう無様な攻撃と回避。 しかし、そこに込められた殺気は、互いに本物。 場違いなほどに軽快な音楽が流れる中、背後で機械仕掛けの馬たちが跳ね回る中、2人の影が交差する。 分銅が舞い、鎖が鳴り響き、白刃がきらめき、そして。 ガキィッ! 全身で飛び込むようにして振るわれた星輝子の鎌の刃が、水本ゆかりの刀の根本近くで受け止められる。 ゆかりの整った顔に触れるまであと数ミリ、というところで鋭い切っ先が止められる。 さすがに一筋の脂汗が額を伝うが、それでもゆかりは笑みを深くする。 ギリギリと鍔迫り合いのような恰好で、押し返していく。 「素晴らしい思い切りの良さですが……少しっ、筋トレが足りてないんじゃないですかっ!?」 「フハッ……『トモダチ』の力を借りれば……百人力…………あっ、ちょっ、待ってっ、」 片手で鎌を、片手で鎖を扱う鎖鎌の戦闘スタイル。 いくら素人同士とはいえ、両手でしっかり構えた日本刀相手に押し勝てるものではない―― ましてや上げ底ブーツで補ってみても、元々の体格に頭1つ分ほども差があれば。 みるみるうちに均衡は崩され、そして、 「……ヒャッハァ!」 「…………ッ!!」 押し負ける、と見た星輝子は、あっさり鍔迫り合いを諦めると、奇声を上げつつ後方へと跳ぶ! そのまま華麗にバク転1つ、ギリギリの所でゆかりの振り下ろした刃を回避し―― 「び、ビックリした……じ、人生初めての、宙がえり成功……フハハハ………………あっ」 「…………」 こてんっ、と。 哄笑を上げようとした星輝子は、しかし、バク転の勢いを殺しきれずに、そのままその場に尻餅をついた。 思わず動きを止める両者。 メリーゴーランドの奏でる、不快なまでに陽気な音楽が、変わらず2人の間に流れ続ける。 そしてそこから、ゆっくりとゆかりを見上げた輝子の顔には―― 派手なメイクとペイントの、その下には。 もはや、素のままの呆然とした表情しか、残っていなかった。 さっきまでの狂ったような『笑顔』は、ゆかりが賞賛したあの見事な『笑顔』は。 たった一度の失態で、綺麗に消え去っていた。
313 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:19:10 ID:JDYlkUMo0 ======================================= 変わらなければならない。 そう思ったのだ。 強引な手段を取ってでも、自分は変わらなければならない。 その方法を思いついたのは、手当のために救急箱を探している最中のこと。 パレードやイベントの時にでも使うのか、様々な目立つ衣装が並んでいた暗い一室。 そこに、まるでそれが運命であったかのように、その服は彼女を待っていた。 それはかつて、夢に見たことがあるような、衣装。 それはかつて、クリスマスのイベントで披露し、プロデューサーに「やりすぎだ」と怒られた、あの時のような衣装。 (一部では、あの時の印象の強烈さに、「そういう風な芸風一本槍の」アイドルだと思われているようだが……) ともあれ、あちこちのバンドを少し調整すれば、小柄な彼女にも無理なく着ることができるサイズ。 少し探せばメイクの道具も見つかったし、髪の一部を染めるためのヘアスプレーだって見つかった。 全てのお膳立ては、綺麗に揃っていたのだ。 あと足りなかったのは、彼女の覚悟1つ。 自分を追い込み、最後のハードルを飛び越えるためには、生半可な手段では足りなかった。 だから彼女は―― 星輝子は、輿水幸子に、あんな、あんなにも「思い切ったこと」を。 「……どうやら、私の買い被りだったようですね。あなたには、本当に失望しました」 「あ…………」 尻餅をついた星輝子の頭上から、冷たい声が浴びせられる。 見下ろす水本ゆかりの視線も、声と同様、すっかり冷え切っている。 おそらく……見抜かれてしまったのだ。 星輝子の、必死の演技を。 なりふり構わない、必死の虚勢を。ドーピングのような、短時間水増しのハイテンションっぷりを。 「ち、違……その……!」 「見事な変わり身でしたけれど…… すっかり騙されてしまいましたけれど――それを徹底できないのなら、意味などありません」 不機嫌そうな表情を浮かべ、水本ゆかりは悠然と刀を収めてみせる。 輝子は、しかし動けない。 攻めるべき好機、体勢を立て直す絶好の機会に――すばやく立ち上がることすら、できない。 そして、そんな仮面の剥がれ落ちてしまった格好の輝子に、ゆかりは。 「一瞬尊敬してしまって、損しました。あなたは特に、ゴミのように、確実に死んでください」 背負っていた銃を、トミーガンを、先ほどは持ち替える隙もないと思っていた兵器を、しっかり構えて、 数発の銃声が、響いた。
314 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:19:42 ID:JDYlkUMo0 「あ……え……?」 「ちぃっ……!」 死を覚悟した輝子の口から、驚きの呻きが上がる。 瞬時に身を翻したゆかりの口から、お嬢様らしからぬ舌打ちが上がる。 そして―― 2人の視線の先には。 銃声が放たれた、その方向には。 遠目にも大きく震えているのがはっきりとわかってしまう、 そしてなぜか小脇にキノコが満載の植木鉢を抱えた――第三の、人物。 「さ……幸子っ!? なんでっ!?」 「こ、こ、こんな所で、ぼ、ボクの『ファン』に勝手に死なれても、こ、困るんですよっ!! てててて、手間をかけさせないで下さいっ!」 そう、メリーゴーランドの音楽を掻き消すように叫んだのは。 涙目で拳銃を構える、輿水幸子だった。 やけっぱちで放たれた数発の弾丸は明後日の方向に飛んでいき、ゆかりにはかすりすらせず。 ゆかりの手には見るからに凶悪な短機関銃。 輝子は尻餅をついた姿勢のまま、とっさには戦力になりそうにない。 それでも――そんな危険な状況だというのに安全圏から飛び出してきた、この乱入者に、ゆかりは。 「なるほど……輿水さんを『始末した』、というのも『嘘』でしたか。 とことん、舐められているようですね。 私が見逃して立ち去る展開でも、期待していましたか?」 「……ッ!」 「でもいいでしょう。ここで出てきてくれたのは、手間が省けました。 どっちにしろ……全員殺すんですからッ!!」 「ま、待ってっ! 幸子はっ!!」 ゆかりは輝子の叫びを無視して、楽しげに笑うと――銃口を幸子の方に向けて、乱射する! 「ヒィッ! うわ、ひや、ひゃぁっ!?」 幸子は無様な悲鳴を上げながら、転がるように逃げ回る。 メリーゴーランドの影に、とっさに飛び込む。 それでも『シカゴタイプライター』とも呼ばれたトミーガンの軽快な発射音は途絶えない。 木馬が次々と打ち砕かれていく。 ペガサスが、ユニコーンが、カボチャの馬車が。 回り続ける舞台の動きに合わせて次々と登場し、次々と砕かれていく。 「し、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ〜〜!! ヒィッ! ひ、ヒィッ!!」 砕かれた木馬の破片が、色とりどりの破片が、次々と降り注ぐ。 必死に身を小さくしてうずくまりながら、幸子は恥も外聞もなく絶叫する。
315 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:20:25 ID:JDYlkUMo0 おもむろに銃声が途絶え、破壊の嵐が止んだ。 木馬の数をだいぶ減らしたメリーゴーランドの音が、何事もなかったかのように耳に戻ってくる。 「……弾切れですか」 ゆかりは溜息をつく。 溜息をついて、まだ数に余裕のある予備の弾倉と交換しようとして――そこで、はっとした。 視界の片隅。 尻餅の姿勢のまま、動けずにいたもう1人。 動きがなくて、呆然としていて、だから僅かに、ほんの僅かに警戒を弱めてしまった相手。 星輝子が、体勢だけはそのままに、しかし、いつの間にやらその手に握られていたのは、鎖鎌ではなく―― 「しまっ――!」 「フヒッ……じ、地獄の劫火に、焼かれやがれーー! ヒャッハーッ!」 右手には、喫煙コーナーに落ちていたのを拾った、100円ライター。 左手には、髪を染める際にも使った、ヘアカラー用のスプレー缶。 それは――誰もが一度は聞いたことのある、危険な火遊び。 火の玉にも見間違うような、爆発的な、一瞬限りの炎が、水本ゆかりに襲い掛かった。 「…………! …………!」 一気に燃え上がる。 声にならない。 水本ゆかりが奪い身に着けていた、ウェディングドレス風のステージ衣装。 フリルが多用され、軽い化学繊維が多用されたその服は、あまりにも容易く燃え上がった。 純白の布地の上を炎の帯が走り抜け、見る間に彼女は、炎に包まれていく。 「…………! …………!」 もはや2人への攻撃どころではない。 自慢の長い黒髪にまで火が燃え移る。全身くまなく炎に巻かれる。踊りたくもない火踊りを強要される。 バランスを崩して倒れ込み、荷物を振り捨てながらのたうち回る。 穴だらけの木馬たちが駆け回る光景を背景に、水本ゆかりは、ただ独り炎の中に奇妙に踊る。 「なん、で……」 全身の肌を焼かれる痛みに苦しむゆかりの頭上に、小さな影が差す。 トゲだらけの肩当て。威圧的なメイク。そしてそれらとは裏腹に、妙に自信なさげな微笑み。 そんな星輝子の手元には、ゆかりにも見覚えのある、一挺の拳銃。 いましがたゆかりが投げ捨ててしまった、荷物の中に死蔵されていたはずの、コルトガバメント。 あっさり奪われてしまった、自分の武器。 「なんで――わたし、頑張ったのに、地道に、積み上げていったのに――」 「 」 呆然とうめくゆかりに、輝子は銃を向け、何かを呟いて―― その意味を理解するよりも早く、サイレンサーを走り抜けた拳銃弾が、少し間抜けな、決定的な音を立てた。 =======================================
316 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:21:01 ID:JDYlkUMo0 輿水幸子は、ぼんやりと思い出す。 あの時、あの薄暗い、蛍光灯が明滅する廊下で交わされたやり取りを、ゆっくりと思い返す。 あの時――別人のように変わり果てた、星輝子に吊し上げられた時。 確かにその姿に驚きもしたが、幸子の胸によぎったのは、奇妙な安堵感だった。 ここでキレた輝子が殺し合いに乗ることにしたのなら――幸子を「軽く殺してくれる」というのなら。 もう、これ以上苦しむ必要もない。 もう、これ以上逃げる必要もない。 その刹那に幸子が感じたのは、恐怖よりもはるかに強い、安らぎだった。 「殺すなら……せめてひと思いにお願いします。ボクはもう……疲れました」 強がりの笑みすら浮かばない。どうしようもなく零れた弱音が、埃っぽい天井に吸い込まれる。 鎖鎌の鎖で首を絡めとられ、眼前に鋭い刃を突きつけられ。 それでも幸子には、抵抗する気力すら残っていなかった。 保護したつもりの少女に裏切られて終わるのも、なんだか自分にお似合いの最期のようにも思えた。 けれど。 「フヒヒヒ……! じ、『地獄の使者』が『天使』を連れてって、いったいどーするってんだ! 大体どこに連れてきゃいいんだァ? ゴートゥーヘヴン(天国)? それとも、ゴートゥーヘル(地獄)? どっちだっておかしいだろうが! ね、寝ぼけてんじゃねぇぞ! フハハハハハハッ!」 けれど――そんな幸子の懇願は、鼻先で笑い飛ばされた。 自称『地獄の使者』は、自称『天使』にさらに顔を寄せると、低い声でささやいた。 「徹底しやがれ。 お前は『天使』なんだろ? 『カワイイ』んだろ? なら、いっそのこと、それを徹底しやがれ!」 「……!」 「虚勢でも偽装でもいいじゃねぇか! 笑いたい奴には笑わせときゃいいじゃねぇか! みっともなかろうがミジメだろうが、最後まで貫き通せば、それがお前の真実だ! …………と、わ、私は思う、んだけど…………」 ガクッ。 あまりにもギャップのある、唐突なトーンダウン。 幸子はその場でずっこけそうになって、そして叫んだ。
317 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:21:23 ID:JDYlkUMo0 「あ、あなた自身、そのキャラ徹底できてないじゃないですかっ!! そこで急に尻すぼみにならないで下さいよっ! ホントがっかりですよ、もうっ!」 「と、トークは苦手……フハハッ……!」 「苦手とかそういう問題ですかっ!!」 「こ、これでも頑張った……は、ハイテンションの維持、過去最高記録を更新……フヒヒ」 「何の記録なんですか、何のっ!!」 輝子は奇抜なメイクの下、いつものように笑って見せるが、いったん口を開いた幸子の気持ちは収まらない。 感情が暴走する。見栄を張る余裕もない。虚脱状態からの反動か、言葉を止めることもできずにただぶちまける。 「だいたい、これが『本当の殺し合い』だっていうなら、ですよ! プロデューサーさんも動けない! ボクを崇めるファンもいない! ドッキリじゃないってことは、撮ってるカメラだってない! こんな状況で、誰に、どうやって意地を張れって言うんですか! どこに向けて、どうすれば虚勢を張れるって言うんですか!」 八つ当たりなのは分かっている。輝子にぶつけても仕方がないことくらい分かっている。 頭の良い輿水幸子は、本当は、こんな言葉に意味がないことくらい知っている。 けっして誰も幸せにならない、醜悪なだけの、魂の叫び。 そのはず、だったのに。 「……なら。 私が、『ファン』になる。 幸子にそれが必要なら、私が、いま、ここで、輿水幸子のファンになる」 けっして頭が良いとは言えない、星輝子は。 アウトロー丸出しのファッションそのままで、こんなことを真顔で言い始めるのだ。 かと思うと急に、にへらっ、と脱力しきった笑みを浮かべて、視線を逸らして、こんなことを言うのだ。 「だ、だから…… 私が勝手に、さ、幸子のことを、『トモダチ』だって思うの、許して欲しいかな……なんて……フヒヒ」 じゃらんっ。 もはや言葉もない幸子の首から、するりと鎖がほどかれる。 輝子がゆっくりと、身を離す。
318 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:21:50 ID:JDYlkUMo0 「うん、こ、これで大丈夫……。 これで、最後まで頑張れる……頑張れる、と、いいな……!」 何やら呟きながら輝子が取り出したのは――あの、キノコの鉢植え。 ここまでずっと、肌身離さず持ち歩いていた、あの山盛りのツキヨタケ。 幸子にはその価値がまったく分からない、しかし、大事に思っていることだけは伝わる、輝子の宝物。 「こ、この子たちのこと、お願い……! さ、幸子になら、任せられる……!」 差し出すその手は、滑稽なまでに震えている。 過激で攻撃的なファッションにはまったくそぐわないほどに、震えている。 思わず反射的に受け取ってしまった幸子は、そのまま身を翻す輝子の背中に、慌てて声をかけた。 「な、何をする気なんですか!? どこ行くんですかッ!」 「……き、決まって、る」 輝子は振り返らない。 幸子に背中を向けたまま、再びじゃらり、と支給品の鎖鎌を手にしながら、しかしはっきりと言い切った。 「幸子という、大切な『トモダチ』を守りに。 そして――とうとう『トモダチ』って呼べなかった、蘭子のカタキを」 「…………ッ!」 「そ、そのためにも……む、無理やりテンション上げてくぜー! ヒャッハー! ゴートゥーヘールッ!」 景気づけのつもりか奇声を上げ、鎖を振り回しながら、輝子は駆け出していく。 その背中を見送りながら、幸子はようやくにして、あの奇矯すぎるファッションの真実を知る。 あれは、攻撃的な本性の表れなんかじゃない。 臆病で内気で、他者とのコミュニケーションに多大な困難を抱える少女の…… 思いっきりズレまくった、精一杯の、痛々しいほどの、それでも一歩でも半歩でも前に進むための、覚悟の戦化粧! そして、そこまでの覚悟を見せられて。 いまだ答えなんて出ない幸子も、 いまだ迷い続ける幸子も、 震えながら、涙を目尻に溜めながら、それでもなお、自分の足で立ち上がっていて――! =======================================
319 :魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:22:16 ID:JDYlkUMo0 愉快で能天気なBGMが終了し、壊れかけたメリーゴーランドが軋みを上げつつ停止する。 星輝子の足元で、いまだ服の一部が燃え続けている少女が、動きを止める。 「…………」 それを遠くから眺めながら、輿水幸子は、静かに悩む。 あの時、星輝子がなけなしの勇気を振り絞って踏み出した「ほんの一歩」の結末が、この眼前の光景だ。 額に穴を開け、整った顔を中途半端に炎に焙られた、水本ゆかりの屍。 拳銃を片手に飛び出したことは、後悔していない。 あそこで幸子が加勢しなければ、ここで倒れていたのは輝子の方だったろう。 火だるまになったゆかりにトドメの銃弾を撃ち込む行為も、むしろ苦しむ彼女をラクにする、介錯のようなものだ。 そこれらを責める気には、とてもなれない。 けれど――本当に、これしか方法は無かったのだろうか。 もっと上手いやり方が、どこかにあったんじゃないか。 蘭子も死なずに済む、ゆかりも死なずに済む、そんな、夢みたいな方法が、いつかどこかの時点で。 そんな幸子の迷いをよそに、星輝子は、静かに微笑む。 それは大声で甲高い笑い声を上げていた時の笑顔ではなく。 夜道を静かについてきた時のような、つまり、いままでとまったく変わりないような、そんな笑顔で。 つぅっ、と虚空を見上げると、 『地獄の使者』の姿にはとても不似合いな、祈りの言葉をつぶやくのだ。 「――蘭子。 もう、今更だけど。 こ、こんなことに、意味なんてないって、わ、わかってるけど。 それでも――これで、蘭子のこと、『トモダチ』って呼んで、いいですか――」 輝子の言葉に、答える者はいない。 2人の視線の先、観覧車の血染めのゴンドラは、青空の下。 何事もなかったかのように、静かに回り続ける―― 【水本ゆかり 死亡】 【F-4 遊園地・入場門近く/一日目 午前】 【星輝子】 【装備:鎖鎌、コルトガバメント+サプレッサー(5/7)】 【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、神崎蘭子の情報端末、ヘアスプレー缶、100円ライター、メイク道具セット】 【状態:健康、いわゆる「特訓後」状態】 【思考・行動】 基本方針:トモダチを守る。トモダチを傷つける奴を許さない。 1:守るためなら仕方ない。そして、トモダチのカタキも……! 2:雪美のカタキも、探した上で……!? 3:ネネさんからの連絡を待つ 【輿水幸子】 【装備:グロック26(11/15)、ツキヨタケon鉢植え】 【所持品:基本支給品一式×1、スタミナドリンク(9本)】 【状態:胸から腹にかけて浅い切傷(手当済み)】 【思考・行動】 基本方針:輝子を守りたい、けど…… 1:輝子を守る。でも…… ※水本ゆかりの死体と2人のそばに、マチェット、白鞘の刀、基本支給品一式×2、 シカゴタイプライター(0/50)、予備マガジンx4、 が散らばって落ちています
320 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 22:22:36 ID:JDYlkUMo0 以上、投下終了です
321 :名無しさん :2013/02/10(日) 23:38:48 ID:E02usojI0 投下乙! まさかの大金星!きのこすげぇw ひとつ疑問ですが、 鎖鎌とコルトガバメント+サプレッサーって輝子の支給品ですか? 支給品は一人につき1〜2つだったと思いますが、もし鎖鎌と銃、さらに携帯電話と合わせると 3つになります。 BRのルールから外れていることになりませんか?
322 :名無しさん :2013/02/10(日) 23:43:35 ID:E02usojI0 失礼、コルトガバメント+サプレッサーはゆかりが持っていたものでしたね。 大変失礼しました。
323 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/10(日) 23:43:38 ID:JDYlkUMo0 >>321 鎖鎌は0〜1という表記で可能性の残っていた輝子の最後の支給品、 コルトガバメント+サプレッサーは、ゆかりが過去の襲撃で奪い、装備欄に表記があった装備です。 使用のシーンでゆかりのものである、火踊りの過程で投げてしまった荷物から、と書いたはずですが……
324 :名無しさん :2013/02/11(月) 18:21:39 ID:hUuJLn0YO 投下乙です。 地獄の使者と天使が一緒にいられるのは地獄でも天国でも無い場所、この世だけ。
325 : ◆n7eWlyBA4w :2013/02/11(月) 20:32:29 ID:YIntBd3k0 皆様投下乙です!流れが早い早い >RESTART おお、だりなつの死が意外なところに波及を。 ちなったんの待ち戦法は今度こそ成果を発揮するのか……人多いしありうるなぁ >彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン しまむらさんはようやく前向きに進めるのかなぁ。 ここ数話ひたすら自分と向き合い続けた彼女、報われて欲しいね >グランギニョルの踊り子たち 響子ちゃん怖い! どんどんメンタルが極まってく! 千枝ちゃんの踏んだり蹴ったりっぷりに合掌。……智絵里? うん、頑張れ >魔改造!劇的ビフォーアフター ゆかりさんの躊躇のなさ、逆転のあっけなさ、幕引きの切なさ。 今まで内面が見えなかった彼女のことが死に際で一気に好きになりました そして予約延長しますー
326 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:44:56 ID:ITJUVmkc0 投下開始します。
327 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:45:21 ID:ITJUVmkc0 投下開始します。
328 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:47:35 ID:ITJUVmkc0 ―――少女と大人の境目に咲く花。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 悪役。 あたし――姫川友紀は言葉を心の中で、反芻する。。 先ほどの泉ちゃんが言った言葉だ。 今は、飛行場の隣を歩きながら、南に向かっていながら歩き、その言葉を考える。 推論だと彼女は言った。 「すいません、川島さん……」 「何かしら?」 でも、推論ではない、と思う。 恐らく事実だと思う。多分。 理由はまあ、色々と。 うん。 「ちひろさんについて何か知ってることありませんか?」 「ちひろ……ちゃんについてかしら」 「ええ、はい」 ねえ、泉ちゃん。 ねえ、川島さん。 あたしはそんなに頭がよくないけど、流石に解かった事があるよ。 「色々解かるかもしれないので」 「……そうねえ」 目を背けてる? それとも、本当に知らないの? どっちだろう。 「神戸出身の……26歳か27歳ぐらい」 「神戸?」 でも、普通、考える筈だよ。 悪役って事は敵。 説得も出来る訳がないアイドルとは程遠い敵。
329 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:49:05 ID:ITJUVmkc0 「ええ、10歳前後で東北に移ったらしいけどね」 「へえ……なるほど」 「あとは……」 いつかはぶつかり合う。 つまりそれってさ、殺しあわないといけなくなる。 ねえ、あたし達はアイドルだから、さ。 皆は……絶対殺し合いなんてしてない。 『アイドル』だから。 けどさ、敵に当たった時。 どうにも、説得できない人がいた時。 ――――あたし達は自覚的に、その人を殺さないといけないかもしれないんだよ? ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
330 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:52:10 ID:ITJUVmkc0 あたしが大学をいかなくなった切欠を、ふと思い出す。 都会に出てきて大学デビューに失敗したからという、ざっくばらんに言うとまあそうかな? あははっ、ちょっと可笑しいね。 まあ、でもそんなもんだった。 十九歳になって、色んな責任が増えて。 同級生も、なんか大人びてきて。 皆、なんというか大人にならないといけないと思うように。 妙に大人ぶってきてさ。 あたしは外見が大分幼かったもあったけど、幼い少女のままでいて。 子供のままで居たいとかは思わなかったけど。 でも、急に大人になるなんて、あたしには無理だった。 入ったサークルだって、そうだった。 あたしは野球サークルに入ったけど、なんというか空気に慣れないままだった。 あたしは、野球が大好き、キャッツが大好き! 子供のまま、純粋な思いの丈を叫ぶなんて、恥ずかしいとか言われて。 野球をそんな風に楽しむって変なのかなってうじうじ悩んで。 サークルであるのは、飲み会と下らない合コンだった。 何か……こう、耐えられなかった。 馬鹿みたいに騒いでるのは本当子供と変わらないのに、ね。 でも、やっぱ、皆一線引いて生きていて。 それが賢い、大人の生き方というものなんだろうけど。 責任が沢山背負いながら、生きていく。 そういう大人となっていかないといけない。 解かってる、解かってるよ。 けどさ、解かんなかったんだ、そういうの。 大人になるって事が、どうしても。 いつまでも子供のままでいられない。けど、どうやったら大人になれるんだろう? ……そんな、悩みを抱えながら、そういう温度差を感じながら。 あたしは大学に行かなくなった。 行かなくなって、何か変わるかはさっぱり解からなかったけど。 けど、行かなくなかった。 んで、その後はまぁ川島さんに言った通りの駄目な人生。 結局大人になって覚えたの酒の上手さだった。 大好きになったのはビールで。 なんといってもスーパードライが最高なんだよ。 あの苦さが、大人、って感じ。 大人ぶりたいだけ、だったりかも。 ……っていう、話。 面白くない話。 けど、それは、アイドルになったからも、影響あったりして。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
331 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:53:40 ID:ITJUVmkc0 アイドルになって。 フラワーズが結成となって。 あたしの生き方は一変した。 誰かを応援する喜び。 ファンから応援を受ける喜び。 いつだって、全力で駆け抜けて、楽しんだ! うちのプロデューサーは、最高で、最強で。 アタシ達はあっと言う間にスターダムを駆け上った。 踊ることなんて興味なかったのに、あっと言う間に心惹かれて。 全力で踊り続けた結果、アタシの踊りは恐ろしいほど褒められたんだ、これが。 嬉しかった。 楽しかった。 最高だった! 藍子ちゃんはなんたって、素晴らしいアイドルで。 本当輝いていて女の私でさえ、魅了された。 夕美ちゃんの歌声は透き通るぐらい美しくて。 本当綺麗で聞き惚れていた。 美羽ちゃんは、何でもアグレシッブで。 そのチャレンジ精神は凄かった。 その中で、私は、なんと一番年上だった。 まあアイドルとしては割といい年齢だったのは否めないけれども! だから、リーダーやらないかという話は、一回聞かされた。 まあ、一番の年長者なんだから、ある意味当然かもしれない。 けど、あたしはさ、怖くなったんだ、情けないぐらいにさ。 リーダーという重圧に、責任に。 あたしは、目を背けて、全力で逃げた。 だって、無理だし、アイドルとしてもあたしはまだまだだしさ! そう言って、逃げて。 結果として藍子ちゃんがなった。 彼女はぴったり過ぎるので、当たり前に、リーダーと言うものにはまった。 だって彼女はアイドルだったし。 あれ? あたしだってアイドルなんだけどな? あれ? 何か言ってる事変だな、まあいいや。 ……でも、さ。 本来は、あたしがやるべきだったんだよ。 実力やアイドルとしては藍子ちゃんには及ばないだろうけど。 たった十六歳に背負わせる責任じゃ、決してなかったんだよ。 だって十六とか高校生で、子供だよ? そんな子が、大人気グループのリーダーという重みを双肩に感じながら生きるなんて。 ……ないって、よくないって。 ……そんなのって、堅苦しすぎるって。 少女は、少女らしく、してなきゃ、駄目なんだよ! そこからだった、あたしは大人の責任について、何となくおぼろげに思ったのは。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
332 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:56:09 ID:ITJUVmkc0 フラワーズがそれこそ、もうテレビに出ない日が無くなるぐらい人気になって。 アイドルとして最高潮で。 その中で、バッシングは当然、受ける。 ありえないぐらい早かったし。 ごり押しという言葉は、聞き飽きた。 スキャンダルには大分気を使うはめになった。 行きつけの居酒屋には、少なくともアイドルで居る限り行けないだろう。 マスターが注ぐ生ビールは、暫く無理かな。 ああ、あのスーパードライが飲めないなんて。 それでも、あたし達は笑ってた。 だって、凄い楽しかったんだから! アイドルがこんなに楽しくて、嬉しくて、ワクワクするなんて思わなかった! 本当に、楽しくて、夢中で、夢中で、サイコーで! まるで子供のようにはしゃいで、いきている事が幸せだった。 そんなもの前には、そんなバッシング、ゴミ箱にホームランだった。 けど、そんな中で、あたしは護らないといけないと思った。 十四歳と十六歳、一七歳の少女を。 色んな悪いものから。 あたしが防波堤になればいい。 彼女達はアイドルとして笑っていられるように、さ。 それが、大人の責任って、何となく思って。 ――――まあ、それも、なんとなく、いいものかなって、思ったんだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
333 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 00:57:50 ID:ITJUVmkc0 「そう、なんだよね……結局」 「……うん、友紀ちゃんどうかした?」 「ううん、なんでもないよ! もう直ぐ昼だね、がんばっていこー!」 「……元気ですね」 「そんなことないよ! 泉ちゃんもおー!」 「お、おー」 大人としての責任か。 ……わかってるつもりだけどなんとなく、やっぱおぼろげにしか解からないや。 けど、何となく解かるようになってきたのは確かで。 泉ちゃんはあたしと違い独りだ。 それが羨ましいような不思議な感じがするのも確かだけど。 もう、流されちゃ駄目だと、何となく流されそうになった時決めたんだよね。 自分で何か考えてやるようにしないとね。 ―――悪役、敵。 誰かが殺さないといけないというならば、さ。 それは、絶対藍子ちゃんや美羽ちゃん、夕美ちゃん、泉ちゃんみたいな子がしちゃ駄目なんだ。 当然だもん。 だからさ、まあその時になったら、ね。 うん、そういう事だよ。 そのときこそ―――あたしが少女を完全に卒業する時なんだ。 【D-4とE−4の境目/一日目 昼】 【大石泉】 【装備:マグナム-Xバトン】 【所持品:基本支給品一式×1、音楽CD『S(mile)ING!』】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。 1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。 2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。 3:漁港を調査して、動かせる船を探す。 4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 5:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 6:かな子のことが気になる。 ※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。 【姫川友紀】 【装備:少年軟式用木製バット】 【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。 0:そういう時は、ね。 1:他のアイドル達(特にFLOWERSの仲間)を探しながら南の市街へと移動。 2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。 3:漁港を調査して、動かせる船を探す。 4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 5:仲間がいけないことを考えていたら止める。 6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。悪役を……? ※FLOWERSというグループを、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。 【川島瑞樹】 【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。 1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。 2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。 3:漁港を調査して、動かせる船を探す。 4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 5:大石泉のことを気にかける。 6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 7:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。 ※千川ちひろとは呑み仲間兼親友です。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
334 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 01:00:02 ID:ITJUVmkc0 「友紀ちゃん、お疲れ様」 「あ、ちひろさん、おつかれー!」 「ふふ、元気ですね。フラワーズの皆さんは?」 「直帰したよ! あたしは、まだやることあったし」 「なるほど、そうですか……ねえ、友紀さん、ちょっと質問です」 それは、ちょっと前の会話だったかな。 「何々!?」 「もし、フラワーズのメンバーが苦難に襲われたとき、貴方はどうします?」 「……は、はあ?」 「誰かの助けが必要な時、どうしようもならない時、貴方はどうします?」 「助けるに決まってるじゃん!」 「それが、誰かを犠牲にしても?」 何なのか、よく解からない会話。 「そんな事しないよ! あたし達はアイドルだもん!」 「ふふっ……流石ですね。でも貴方は助けるんでしょう?」 「うん! 大切な仲間だよ」 「仲間がアイドルで居られるために、貴方は護るでしょうね」 「……?」 「それが、大人の役目ですから」 「うん……!」 何かの確認? 何かの通過事項? 解からないけど。 「なら、貴方はきっと、アイドルとして、どうにもならないところで、貴方の手で犠牲を出しながら、それでも、護るでしょうね」 その言葉は重みだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
335 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 01:01:16 ID:ITJUVmkc0 ――――悪役、敵。 それも、やらないといけないのも、大人なのかな? そんなのわかりっこしないや。 でもさ、でもさ。 もう、十五人も死んでる。 いつフラワーズの面々が死ぬかわかりっこない。 そんなん駄目だよ、やっちゃいけないんだよ。 彼女達はあんなに輝いてるんだから、アイドルでなくちゃ駄目だ。 皆は『アイドル』だから。 絶対に殺し合いなんちゃ、しちゃ駄目なんだ。 したら、全力でぶん殴ってとめてやる。 けど、どうにもならないところで、どうしようもない所で。 仲間を護るなら、護らないといけないのならば。 アイドルとして護るなら。 あたしが仲間からぶん殴られるとしても。 大切な仲間を、何としてでも、護る。 それは例え――であっても。 それはきっと、 ――――どうしようもないけど、大人の責任、なんだ。 【姫川友紀】 【装備:少年軟式用木製バット】 【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する? 0:大人の責任だから。 1:他のアイドル達(特にFLOWERSの仲間)を探しながら南の市街へと移動。 2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。 3:漁港を調査して、動かせる船を探す。 4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 5:仲間がいけないことを考えていたら止める。 6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。悪役を……? 7:仲間をアイドルとして護り通す? その為には犠牲を……?
336 :スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 01:02:04 ID:ITJUVmkc0 投下終了しました。
337 : ◆John.ZZqWo :2013/02/12(火) 12:15:32 ID:5gaI.P320 投下乙です! >グランギニョルの踊り子たち 「ナターリアを、殺しに行くんですよ(凄み!)」 響子ちゃんが怖すぎます>< でも、そんな響子ちゃんちょっと察したところもあるみたいで……、けどだからどうしたァー!なって跳ね返す感じがますます凄みを出すなぁ。 ヒロインの中でもこと気迫に関しては彼女を上回る子はでてこなさそうw 着実にナターリアに近づいていってるけど、さて遭遇はあるのか!? >魔改造!劇的ビフォーアフター 想像以上のクライマックスだー!? ビジュアル的な意味でも、意外な脱落者的な意味でも衝撃的だわ。 いやぁ、まさか……でもメリーゴーランドが決着の場となるのはすごくかっこいい。前回といい今回といい舞台が上手く使われているわ。 そして+化した輝子ちゃんと幸子が残ったわけだけど……なんというか、あんまりよかったという雰囲気ではないよね。 現実を飲み込むしかなかったということだけど、さてこの後はどういう道を向かうのか……。 >スーパードライ・ハイ ユッキはアサヒビール派だったかー。は、ともかくとして、ようやく友紀主役回ですね。よかった、ずっとアホの子役じゃなくて。 けどなんというかこのスポットの当たり方はやばいっていうか、悪い意味で暴走しないといいなって心配になるなぁ……w でも、頭は回らなくても大人の責任なんだって言える友紀はかっこいい。 では、私も投下します。
338 : ◆John.ZZqWo :2013/02/12(火) 12:16:44 ID:5gaI.P320 蠍の尻尾が――十時愛梨の構える機関銃の銃口が、三村かな子の背中を狙い、しかしふるふると震えている。 撃つべきか、撃たざるべきか? 迷うことなく撃つべきだし、撃って殺してしまうべきだ。殺してしまうのは恐ろしいことだが、それを厭ってはいけない。 実際、これまではなにも厭わずに引き金を引くことができたではないか。ならばどうして迷うのか。 殺人に対する禁忌? いざ人を殺してしまいもう怖気づいたのか? それとも反撃が怖いのか? 違う。それはどれも十時愛梨の心の中にあるものだが、今引き金を引かない理由としては正しくない。 十時愛梨が三村かな子の背中に銃弾の雨を浴びせないのは、その理由はただ“なにかがおかしい”からだ。 そして、そのなにがおかしいのか? それすらも霞を掴むがごとくに不明瞭で、故に結局引き金は引かれないのであった。 @ 十時愛梨は、震える銃口を三村かな子の背中に会わせようと両手で機関銃を保持し、それでも上手くいかないことに焦りを感じていた。 そうしているうちに三村かな子は道を先へと進んで行ってしまう。次の曲がり角までもうそれほどの距離もない。 いっそ身体を道の中に出してやたらめったに撃とうか。 そう考えた時、十時愛梨はこの機関銃に十分な弾丸が入っているのか、それが気にかかった。 城ヶ崎美嘉と三船美優を襲った時、あの時は全て撃ち尽くしたのでその後で弾倉を交換した。弾倉の交換は銃をよく知らなくとも簡単にできた。 そしてその後、木村夏樹と高森藍子を追い詰め、彼女らの前で多田李衣菜を撃った後は? 交換――していない。 では、今この機関銃にどれだけの弾が残っているだろう? あの時は特に後先を考えずに連射したが、かなりの弾を撃った気がする。 「――――――ッ」 十時愛梨は構えていた機関銃を地面に置き、自動拳銃を取り出した。 こちらの弾は十分に残っているはず――だがしかし、もう一度銃を構えなおした時、目の前の道に三村かな子の姿はなかった。 ため息を吐き、機関銃の弾倉を抜いて残弾を確認する。まだ弾は半分ほど入っていて、十時愛梨は繰り返しため息を吐いた。 十時愛梨は民家の中に戻り、また同じ場所で毛布を被って壁にもたれていた。 一度張り詰めた緊張の糸が切れ、自身の拙さを目の当たりにすると、去って行った三村かな子の後を追おうという気にはなれなかった。 身体の疲れも取れ切っておらず、それどころか時間を追うごとに増していくばかり。 1時間は身体を休めたはずで、いつものハードスケジュールに比べればこんなくらいなんともないはずなのにどうしてだろう? そんなことは決まっている。 プロデューサーさんがいないから。 なによりちっとも楽しくないから。望んだことではないから。希望はもうすでに他に託したのだ。故に前に進む力があるはずもない。 ぐらぐらと頭を揺する眩暈すら覚える。 そういえば朝食もとってない。それを思い出すと、十時愛梨はリュックから水と与えられた食料を取り出して気だるげに食事を始めた。 ブロック状の栄養食を齧り、口の中でただもさもさと広がるそれを機械的に水で胃へと流し込む。 味気なく、とてもおいしいとは言えないのに、身体が欲しているのか、普段の習慣の賜物か、それが滞ることはなかった。 作業のような食事をしながら十時愛梨が考えるのは、さっき見た三村かな子のことだ。それだけが頭の中でぐるぐる回っている。
339 : ◆John.ZZqWo :2013/02/12(火) 12:17:18 ID:5gaI.P320 おかしい。不自然だ。どうしても納得できない。 三村かな子はあんな風に――そこは憶測でしかないが、他人を積極的に蹴落とそうとする人間だったろうか? とてもそうは思えない。命がかかってなくても、人と競争するなんて苦手――記憶の中の三村かな子はそんな人間だ。 けれど、それはなんとでもなるだろう。 人間の本性なんかわかったものではないし、なにより他の人間からすれば十時愛梨が人を殺すなんてことも信じられないはずだ。 知ればきっと、「そんなまさか」「信じられない」「そんな子じゃない」と皆、口を揃えるはずである。 だから、彼女が急な決断を下せるかはともかく、絶対にここで人を殺すことを拒否できるんだとは言い切れない。 問題は――問題となった発端はあのきびきびとした、まるで映画の中の兵士みたいな動きだ。彼女はあんな風に動けただろうか? そんなわけがない。アイドルだからダンスもするし、なにをするにしても体力勝負なところはある。 けれど、それでも三村かな子は決してあんな動きはできなかったはずだ。 これも人の本性、あるいは裏の顔なんだろうか? 彼女は本当はミリタリマニアで、そういう趣味を隠し、見てない場所で練習したり、知識を蓄積していたんだろうか。 メンタルにしてもフィジカルにしても、実はそうだったんだと言われればどうしようもない。そんなものなのだと受け止めるしかない。 しかし、けれどやっぱりあれは不自然すぎる。まるで、犬が空を飛んで、鳩が海を泳いでいるかのようにありえない。 ひょっとしてさっきのは夢だったんだろうか。それとも頭が朦朧としてるせいで、誰かと見間違えたのだろうか。 十時愛梨はペットボトルの水を一気に飲み干し、思考を続ける。 あんな風に動けそうな子は知らないけれど、じゃあ誰と見間違えたんだろう。 城ヶ崎美嘉か、三船美優だろうか。いや、そんなわけがない。じゃあ、高森藍子だろうか。違う。彼女だけは見間違えない。 ここには他に誰がいただろうか。記憶を順に遡る。 あの教室のような部屋で、……そう渋谷凛がいた。高垣楓の後ろ姿も見た。諸星きらりがいることはすぐにわかった。 そういえば、諸星きらりと仲のいい双葉杏が床に寝そべっていたのも印象に残っている。 矢口美羽、五十嵐響子、ナターリア……他にもたくさんのアイドルがそこにいた。 けれどやっぱりあんな風に動けそうな子はいなかったように思う。 じゃあ、 ――三村かな子はどこにいたっけ? 「あれ……?」 十時愛梨の口から声が漏れる。なぜか急に違和感が不安に変わったような、世界が傾いだような気がした。 三村かな子はあの教室のような部屋のどこにもいなかった……気がする。少なくともあそこで見たという記憶はない。 それは……、しかし、いや、そんなわけがない。ただ見ていないというだけだ。あそこにいなかったはずがない。 床の上で目を覚ましてから千川ちひろが話を始めるまでには少し時間があって、だから誰かに話かけようとして、 これはなんなんだろうって聞きたくて、でも高垣楓の姿は離れたところにあって、なので今度は友人である三村かな子の姿を探そうとした。 でも、結局、彼女の姿は千川ちひろが話をはじめるまでには見つからなかった。 「まさか……、あそこにいなかったなんてことは…………あれ?」 そういえば、三村かな子の姿を見ていないのはいつからだろう。確か、長くロケに出ると聞いてそれっきりだ。 およそ一週間前。 ロケに行く準備があるんで今日はたいしたものは作れなかったんですけどねって彼女は言って、そして大量のドーナツを持ってきた。 そのあまりの量に事務所のみんなは驚いていて、けど彼女は気にした風もなく、いない間はみんなでこれを食べてくださいねって言ったのだ。 結局、そのあまりに大量のドーナツは、しかし不思議なことに2日ほどでなくなったのだけど……その日から彼女の姿は見ていない。 ロケに出てからメールは一切こなかった。帰ってきたという報告もなかったし、会ってもいない。 だとすると、もう一週間は会っていないことになる。 「え……?」 行ってくるよと言った彼女はよく知る彼女で、今ここにいる彼女は全然知らない彼女で。 一体なにがあったのだろう? 彼女――三村かな子に。いや、それだけじゃなく事務員の千川ちひろにしたって今はもう知らない彼女だ。
340 : ◆John.ZZqWo :2013/02/12(火) 12:17:38 ID:5gaI.P320 思い返してみればここ数日、事務所で他のアイドルと会う回数が減っていたような気がする。 あまりに忙しいのでせいぜい一日の始めか終わりくらいにしか事務所には顔を出さないけれど、そこにいるのは千川ちひろだけだったような。 昨日の晩に事務所に戻った時、そこには千川ちひろしかいなかった。 一昨日の朝には市原仁奈と挨拶を交わした記憶がある。彼女をクッションと間違えて以来、ソファには気安く飛び込めなくなった。 その前の日はどうだろう? 確か、移動中にちょうど水本ゆかりといっしょになった記憶があるが、……事務所には誰かいただろうか? 「なんだろうこれ……?」 ぐらぐら、ぐらぐらと地面が揺れる。 床が波打ち、なにもかも足場が消えていくようで、今にも天井が覆いかぶさってきそうで、十時愛梨は毛布を被ったまま床に伏せた。 「どうしてこんなに気持ち悪いの?」 なにかがおかしい。なにかが食い違っている。なにかを勘違いしている。そんな不安が十時愛梨を揺さぶる。 それは私だけ? それともみんな? 元々、前に進むことも、出口にたどり着くことも期待していないけれど、でもこのままでいいのかな? 誰か、本当のことを知らないですか? ねぇ、プロデューサーさんは知っていたんですか? どうしてあの時、私に「生きろ」って言ったんですか? プロデューサーさんは何を知っていて、私に「生きろ」って言ったんですか? どうして「生きろ」って言ったんですか? どうして「生きろ」って…………? 私、生きてないといけないんですか…………? 【G-3・市街地・民家の中/一日目 午前】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:疲労、不安】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 1:?????????????
341 : ◆John.ZZqWo :2013/02/12(火) 12:17:58 ID:5gaI.P320 @ やや古びた図書館の前を通り過ぎ、三村かな子は市外の中を北進していた。 そして、このまま道なりに進めば島を南北に縦断してる道路に続く――というところで、なぜか角を左に曲がり西へと進路を変える。 左右にほとんどの店がシャッターを下ろした商店街。この道の先は彼女のスタート地点である学校へ続く道だった。 緩やかなカーブを描き少しずつ角度を増していく坂道を、三村かな子は来た時とは逆に上っていく。 学校になにか目的があるのだろうか? しかしそうではないらしい。 三村かな子は校門を潜ると、周囲を警戒しながらグラウンドを渡り、そのまま校舎の脇を抜けてその裏側へと進んでいく。 影が落ちひんやりとした校舎裏の、更に奥まったところ。学校の敷地の一番奥には錆の浮かんだ鉄扉があり、白いペンキで登山道と書かれている。 それに鍵がかかっていないことを知っているかな子はそのまま押し開け、その向こう、まるで獣道のように細い山道を上り始めた。 「………………疲れるなぁ」 でこぼことした道を上り始めると途端に息が荒くなる。 5分も経たないうちに三村かな子は、やっぱり舗装された道を行けばよかったかと後悔しはじめた。 しかしこの学校の裏から通じる登山道なら歩く距離そのものは半分以下になる。 それにゆるやかな坂道ときつい坂道、上る高さは結局変わらない。だったら、歩く距離が短いほうが疲れない……はず。 加えて、地図に載ってないこの山道を他のアイドルは知らないだろうから不意に遭遇することもなく、道中は安全だと言える。 なにより今更また道を戻る気にもなれない。 この山道を上り切ればすぐに温泉だ。今回こそは入ろう。 三村かな子はそう自分を元気づけると、トレーニングで幾度か上った時のことを思い出しながら重たい足を進めた。 【F-3・登山道/一日目 午前】 【三村かな子】 【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11 コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1) 医療品セット、エナジードリンクx5本】 【状態:疲労】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。 0:温泉に入りたいよぉ……。 1:温泉に向かい、そこを拠点とし余分な荷物を預け、できればまとまった休息を取る。
342 : ◆John.ZZqWo :2013/02/12(火) 12:19:24 ID:5gaI.P320 投下終了。 タイトルは 「 彼女たちは孤独なハートエイク・アット・スウィート・シックスティーン 」 です。 そして、 神谷奈緒、北条加蓮 の2人を予約します。
343 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/12(火) 17:56:49 ID:zJKvT7Yo0 投下乙です! >彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン いやいやうづきん怖いし……いや、立ち直ったと言えるのかな? 危うい感じだけど、またニュージェネ「三人」で笑える日がくるかな… ……いやこれしぶりんと合流しても絶対一悶着ありそう >グランギニョルの踊り子たち とても十五歳の少女とは思えない狂いっぷりにドン引き(褒め言葉) 智絵里は…まぁ、悪いとは言わないけど…うーん。 この苺コンビ、どう扱えばいいものかね! >魔改造!劇的ビフォーアフター しょーこ覚醒キター! そしてまさかの大金星!いやぁリレーされて良かったぁ でも最期に虚しさが残るのはやっぱり犠牲が出たからなんだよな…… 彼女たちのこれからに期待 >スーパードライ・ハイ 友紀のキャラ掘り下げだー!カワイイ! 彼女も彼女なりに考えてるんだなー。大人になりきれてない感じが好き そしてちひろ……一体何を考えてるんだ……何を意図しているんだ…? >彼女たちは孤独なハートエイク・アット・スウィート・シックスティーン ある意味対極な彼女達は結局接触する事無く幕を閉じたか まぁ穏便に事が進んで何より……と、とときんが何か感づいたか? かな子もなんだかなれている感じだけども…ロワの核心に迫ってきているかな では、 前川みく、南条光、ナターリア、高垣楓、矢口美羽、道明寺歌鈴、 和久井留美、五十嵐響子、緒方智絵里で予約します
344 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/12(火) 18:34:47 ID:TfkbPiGw0 出先なので、高垣楓、矢口美羽、道明寺歌鈴、和久井留美.南条光、ナターリアで取り急ぎ予約します
345 :名無しさん :2013/02/12(火) 18:37:35 ID:qwZlw6QIO >>344 もう予約されてますよ。
346 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/13(水) 02:04:05 ID:vcP6CuXE0 申し訳ないのですが、五十嵐響子、緒方智絵里、前川みくの予約を破棄します 残りの六人で書き上げますので、本当にすいませんでした
347 : ◆44Kea75srM :2013/02/14(木) 01:48:40 ID:M1drr2Zk0 投下乙です! 久々の書き込みなのでまとめて感想です >彼女たちの朝に奏でられるピアノソナタ・サーティーン いやー、孤島での暮らしも楽じゃない! サバイバルってとっても大変なんですね!(バトルロワイアルの感想です) 限りある資源と体力で相葉ちゃんがどこまでサバイバルを続けられるか、今後も要注目ですね!(バトルロワイアルの感想です) >寝ても悪夢、覚めても悪夢 早く起きてよAnzuchang! なんてツッコミしながら読んでいったら本当にギリギリなところで起きたー!? 悪運が強いというかなんというか、でも人を一人殺したっていう咎はきちんと残ってて、それがシリアスにもなってるんだよな……。 >私はアイドル 闇に飲まれよ!(投下乙です!) 我が半身が冥府へと誘われたか……ってうわあわあわあ無理!w ふざける余裕すらなく落ち込むorz ゆかりさんを前にしての、このどうしようもない感。これぞバトルロワイアルっていうか、ああ、蘭子死んじゃったよOh……orz >熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) やーん響子ちゃんがキレッキレで素晴らしいw この日本刀のようなキレっぷりには別の意味で惚れてしまうw しかしようやく立ち上がれたちえりゃーの第一遭遇が同じ苺組の彼女だったのは、はたして運が良かったのか悪かったのか……どうなんだろうw >彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン 最後までどうなるのかハラハラさせられたw このライブ感たっぷりの演出と構成、グム−と唸らされます。 いっぱいハラハラしたけど、最後はイイハナシダナーで終わってよかったよかった。……と思ったらラストひっでぇ――!?w >水彩世界 うわあ、小日向ちゃんと藍子の衝突いいなあ。とときん相手にあれだけ芯の強さを発揮していた藍子だけど、さすがにいまの彼女はね……。 で、そこでポジティブシンキングを貫くんじゃなくて一旦落ち込んじゃってるところがさらにいいw にしてもネネさんのP、キャラ濃いなあ……w >シンキング・シンク さっすが泉ちゃん! モバマスロワの考察担当は一回目の放送からバンバン推理しよる! これがズバズバ当たっていたとしたらすごいことなんだけど、そうは問屋が卸さない……彼女が気にかけているかな子がまさに、だもんなあ。 >RESTART 拓海さんのところは一般人ロワの一般人組って感じで王道に一般人やってるなあ。放送後の反応も実にナチュラル。 そしてちなったん! これは出番っていうか見せ場きたんじゃないでしょうか!? 響子ちゃんにハッパかけられてるし後に引けませんよ! >トリップ・アウト は、肇ちゃんになにやら危険な兆候が……!? 仁奈ちゃんの死の衝撃が危機感を覚えるレベルで悲しみを生んでいる……!? で、でも彼女のそばにはAnzuchang! 杏ちゃんならきっとなんとか………………なるはずねぇ――! 岡崎先輩早く来て――!w >彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン なんかもう見ていられないorz しまむーの辛さとか苦しさとか、それでもがんばろうとうする気持ちが伝わってきてなんだか、痛い。 未央ちゃんはもう死んじゃったけど、いまさらになって「未央ちゃん死んじゃった……」と思わされるこの話。うーん。へこむ。 >グランギニョルの踊り子たち おかしいな。この二人、表面上は同じ目的を持っていてさらに同じ役割を担っている良マーダーコンビのはずなのに……なぜこうも読んでいて緊張してしまうのかw や、そりゃまあキレキレ響子ちゃんがあまりにもキレッキレでちえりゃーがいつ食い殺されるんじゃないかと気が気じゃなく、どうしてこうなった!? >魔改造!劇的ビフォーアフター しょーこ覚醒! 温存させていたネタがここにきて爆発しましたよ! でもゆかりさん相手じゃなあ……本人もまだ自我は保ってる(?)し。 と思ったらカワイイ輿水幸子ちゃんがファインプレーを見せましたよ! さすがですね! なにより内包された『トモダチ』のテーマがいいなあ。 >スーパードライ・ハイ これまで泉ちゃんと川島さんの話の聞き役だった姫川友紀ちゃん(20)に急に大人の魅力が!? なんともタイトルとビールが似合う話。 そういやこの人もFLOWERSだったね、とか思っててごめんなさい。それにしても、大人の責任。危うさを感じるフレーズではあるけど、がんばってもらいたいなあ。 >彼女たちは孤独なハートエイク・アット・スウィート・シックスティーン ふたりとも、これまで立場は違えどアイドルを殺すヒロインとして猛威を振るっていただけに、この話から伝わる『疲れてる感』が身に染みる思い。 温泉に入りたいよぉなかな子はまだしも、とときんはここにきて足踏みか……? この子たちも無敵じゃないんだよなあ。
348 : ◆44Kea75srM :2013/02/14(木) 01:49:08 ID:M1drr2Zk0 そして自分は小早川紗枝、向井拓海、松永涼、相川千夏予約します。
349 : ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:01:59 ID:gVhKZnOw0 遅くなりました、投下します。
350 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:02:55 ID:gVhKZnOw0 この遺跡の名前は、なんといっただろう。 どこかで聞いたことのある名前。遠い言い伝えに出てくる名前。 そうだ、思い出した。『BABEL』。この遺跡の名は『バベルの塔』。 昔、驕った人々が建てたという天まで届く塔と同じ名前。 だけどお話の中では、その塔は神様の怒りに触れた。 大地に満ちる人間ごときが天に並ぼう、天を超そうだなんておこがましいと。 だから神罰は下された。塔はばらばらに崩され、人々は散り散りになった。 かつて一つだったはずの言葉を分かたれるという、重い罰を背負ったまま。 だけど、おかしいと思うのだ。 人はみんな、手の届かないところへ憧れを抱くものだと思うから。 誰よりも上へ。誰よりも高く。誰よりも遠くへと。 憧れの先へ、少しでも近付きたくて、ただ、ただ手を伸ばし続けて。 そうやって、天を目指したことの、いったい何が罪だったというのだろう。 ▼ ▼ ▼
351 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:03:39 ID:gVhKZnOw0 バベルの塔の頂に、風がそよぐ。 まるで別の世界にいるみたい。辛い現実から切り離された場所、そんな風に思える。 私――渋谷凛は、そんな隔絶された場所で、ひとり、こうして風に吹かれていた。 心まで大気に溶けて宙を舞っているみたいで、いつまでもこの無重量に身を任せていたいくらい。 だけどこれは、きっと現実逃避。私らしくないな、と思う。 でも、今日は色々なことが、本当に色々なことが、起こりすぎたのだ。 痛いこと。辛いこと。悲しいこと。苦しいこと。 理不尽な現実。理不尽な脅威。理不尽な、本当に理不尽な別れ。 目にも耳にも心にも蓋をして閉じこもっていたいと思ってしまうのは、きっと自然な形なんだろう。 それを自分で受け入れられるかどうかは、別として。 塔の上のブロックが平らになっているところへ、私は体を横たえた。 人ひとりぐらいは十分収まる余地のあるその空間に、ディパックを抱くようにして転がる。 固く冷たい床すら心地よく感じるくらいに、私の体は疲れ果てていた。 こうしていれば下から見つかることもないだろう、そう頭の片隅で考えながら、本当の心配事に思いを巡らす。 「卯月は無事みたい、かな。良かった……」 良かった。あの放送を聞いてそう思ったのは、間違いないことのはず。 卯月が生き延びていてくれてよかった。私にとって卯月は、掛け替えのない仲間で、親友だったから。 もうひとりの仲間には……未央には、もう、もう二度と会うことなんて出来ないから。 だから、卯月が生きていてくれるのは嬉しい。偽りのない私の気持ち。 それなのに、どうしてこんなに、胸にしこりが残ったままなのだろう。 (私は、卯月が無事で嬉しい。……卯月は、私が無事で、嬉しいのかな) ずっと心の隅に刺さったままの、小さな小さな棘。 いつもなら、吹けば飛ぶくらいに些細な疑念。そのはずなのに。 卯月にとって私がそんな軽い存在なわけないって、胸を張ってそう言えるはずだったのに。 あの後ろ姿が、私を置いて逃げていく背中が脳裏にちらついて、そのたびに心が疼く。
352 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:05:07 ID:gVhKZnOw0 未央も、それから新田さんも死んでしまった。 一緒に逃げていった榊原さんも、どうなったか分からない。 私も、ただ死にたくないの一心で、必死にここまで走ってきたから。 だから卯月も、ただ必死なだけだったんだと、そう信じたい。 でも……一度でいい、私のほうへ振り返って欲しかったと、そう思うのはおかしいことだろうか? そこまで考えて、改めて実感する。 (……いつの間にか、こんなに私の中で大きな存在になってたんだ、卯月) 最初は、たまたま同じ時に居合わせてユニットを組むことになっただけの子だと思ってたのに。 あの笑顔に癒されて、希望を感じて、居場所だと思うようになってどれくらい経つだろう。 彼女が変わったのだろうか。ううん、私が変わったんだろう。 そう考えて、いつか同じようなことを言われたのを思い出した。 (奈緒、加蓮……どうしてるかな) 今も生き残っているはずの、私のもう二人の大事な存在。 彼女達は今どうしているだろう。今の私を、どう思うのだろうか。 卯月達と出会って変わったと言われた私の、今の姿を見て。 駄目だ、思考がまとまらない。あまりにも頭の中が疲れ果てている。 今すぐ考えないといけないのに、そんなにうまく体は動いてくれないみたい。 観念して目を閉じる。そして混濁していく意識の中で、私は私のこれまでをおぼろげに思い出す。 ▼ ▼ ▼
353 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:05:43 ID:gVhKZnOw0 最初は、ほんの小さな約束だった。 事務所の手違いで合格を取り消されそうになって、それから抗議とか署名とか一悶着も二悶着もあって、 なんとかアイドル候補生という形で事務所に残ることができた私達。 いつ来るかも分からないデビューを目指して、ただひたすらにレッスンに打ち込む日々。 努力することは嫌いじゃないし、真っ直ぐに目標を目指すことには生き甲斐を感じる。 だけど、出口が見えないとなると、穏やかにはいかないことも少なくはなくて。 少し鬱屈してたそんな頃、私は彼女達とレッスン場で出会った。 神谷奈緒と、北条加蓮。 彼女達と私は同じアイドルデビューを控えた候補生だったのだけど、不思議と気が合って、 いつの間にか一緒に過ごす時間が少しずつ増えるようになっていった。 なんというか、すごく居心地が良かったんだと思う。 卯月や未央といるのがつまらないとか、そういうことじゃない。 最初は戸惑いも大きかったけど、卯月の爛漫さや澪の溌溂さには私自身惹かれるようになっていたし、 一緒にいると楽しいと感じるようになってきたと思う。 だけど三人は、三人それぞれがバラバラの個性の持ち主で、それが持ち味でもあったのだけど。 だからこそ、なのかもしれない。私は、他の拠り所を無意識に欲しがっていたのかも。 つまり、私が私らしく振舞っていられる、そんな人の輪を。 ぶっきらぼうで無愛想な私。跳ねっ返りの奈緒。どこか斜に構えた加蓮。 早い話が私達三人はアイドル候補の問題児で、実際トレーナーさんも手を焼いていたように見えた。 そんなはぐれ者同士の連帯感みたいなものが、私達を引き寄せたのかもしれない。 レッスンが上手くいかなかった時、将来に不安を感じた時、ただなんとなく一緒にいたい時。 そんな時、私達は一緒につまらないことを話したり、話さずにただ同じ時間を過ごしたりした。 だけど、そんな時間も永遠じゃなかった。 だって、私達はアイドル候補生だったのだから。 いつまでも、蛹のままではいられなかったのだから。 「私、今度、本当のデビューが決まったから」 私がそう口にしたのは、その日のレッスンが終了してシャワーで汗を流した後の、ロッカールームでだった。 卯月はプロデューサーに用があるとかで先に行き、未央は自主トレで居残るというので、 私だけロッカールームに戻ってきたところで奈緒と加蓮に出くわしたのだ。 これを口にしてしまえば、私達は今までと同じ横並びではいられなくなる。そう考えると躊躇いもあった。 だけど、私達の間で隠し事なんて無しにしたいと思ったから、私は包み隠さず話した。
354 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:06:18 ID:gVhKZnOw0 「まずは小さなイベントからだけど、ユニットとして出番があるって。ステージで歌も歌えるって」 「そっか。まぁ、オーディションあったのだいぶ前だしな」 「ホントにアイドルになっちゃうんだね。なんか実感沸かないなー」 口調は平静を装ってるけど、二人が内心で動揺していたのは見れば分かった。 加蓮は座ったまま二つ結びの髪の先をしきりに指先でいじっているし、奈緒に至っては空のペットボトルに口を付けてる。 それでいながらいつも通りを取り繕っているのが、なんだか不自然で、少し寂しくも感じて。 でも、私が同じ立場だったらやっぱり落ち着かないだろうから、余計な詮索はしなかった。 「二人も、きっとすぐだよ。レッスンの成果、出てるじゃない」 向けられた言葉にそう返したのは、お世辞なんかじゃなく本心だった。 自分だけ先にデビューが決まったという慢心とか見下しとかじゃなくて、私の本当の気持ち。 いつも口をつくのは文句ばかりだけど、二人がそれぞれに努力を重ねているのはよく知っていた。 それが思うように身を結ばない苛立ちとか不安とか、そういうものを抱えているから、 一層真っ直ぐに夢を見るのが怖くなっていたのかもしれない。 「あ、あたしはさ、わざわざあたしをスカウトしたプロデューサーの面子を立ててやってるだけだって」 「そうそう。それにアイドルとか、改めて考えると疲れそうだし。アタシまだまだ体力ないからさ」 ほら、素直じゃない。 本当は、ずっとずっとずっと、ずっと憧れ続けているはずなのに。 悔しさに真正面から向き合うのすら怖いくらいに、夢に身を焦がしているはずなのに。 だって、私も少し前までは、同じだったかもしれないから。 そう、だから。 「奈緒、加蓮。私、先に行ってるから」 私の言葉に、えっ、と声を漏らしたのは二人のうちのどっちだったろう。 戸惑いを含んだ二人の視線から顔を背けずに、私はただ前を向いていた。 だって私達は本当に似た者同士だったから。 馴れ合いと言われれば、そうかも知れない。 傷の舐め合いと言われれば、違うとは言い切れない。 だけど、私はそのままでいたくなかった。 自分が上を目指すのと同じくらい、二人にも上を見て欲しかった。 「私は、先に行く。もっともっと輝いて、昨日の自分が羨むぐらいの私になるために。 だから、追いかけてきて。私、待ってるから。先に行って、待ってるから」 だからこうして、私は初めて二人の前で夢をはっきりと口にした。 奈緒も、加蓮も、私がこういうことを言うなんて思ってなかったのか、呆気にとられていたけど。 だけど、馬鹿みたいって笑ったりはしないと、私には分かってた。 近くにいたから分かる。どんなにひねくれて見せたって、私達はずっと、同じものに焦がれていたんだから。 だから二人が照れ臭そうに、きまりが悪そうに、だけどまんざらでもないように頷いた時、 大げさかもしれないけど、その時本当の意味で私たちは友達になったんだと、そう感じた。 これが私が初めてステージに立つ前の、誰も知らない小さな出来事。
355 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:07:12 ID:gVhKZnOw0 ▼ ▼ ▼ その日から、いくらかの時間が流れた。 『ニュージェネレーション』は無事デビューを果たして、最初は順風満帆とは行かなかったけど、 徐々にファンも増え、知名度も上がって、ユニットとしてのアイドル活動も軌道に乗り始めていた。 仕事が増えてからは忙しくなって、奈緒や加蓮とも昔のようには頻繁に会えないぐらいだった。 特に私は運にも恵まれたのか、ソロCDまで出すことができて、人気も本格的に出始めて。 自惚れるわけじゃないけど、「ニュージェネの一番人気」と見出しを付けられることも多くなった。 嬉しいことだと思った。少しずつ私が夢見た場所に近づいているような、そんな実感が確かにあった。 だけど、それと同時に、どこか満ち足りない気持ちもあった。 それが何かはっきりと気付く暇もないまま、私は加速する時間の中で慌ただしさに忙殺されていった。 そんなある日。ここ数日、事務所の中は軒並み浮き足立っていた。 シンデレラガールズ総選挙という今まで類を見ない大規模なイベントがまさに開催中だったからだ。 私も中間発表が近付くにつれて、誰にも言わないけれど眠れない日々を過ごしていた。 もっとも結果的には、その結果は予想をいい意味で裏切る形になったのだけれど。 ――渋谷凛、中間18位。 自分でも、思わず目を疑った。 ただでさえ票が割れるユニット所属のアイドルとしては、快挙と言っていい順位。 特に、既に人気グループとなっていたFLOWERSの面々よりも上に行けるなんて自分でも驚きだった。 暫定一位の十時さんとは尋常じゃないレベルの差がついているけれど、絶望感は感じなかった。 次は今よりも少しでも上を目指していけばいい。そういう実感が湧いてきていたから。 自分のやってきたことは無駄なんかじゃなかった、それだけで震えるほど嬉しい。 だけど、そんなことを無邪気に喜べるほど私は能天気でもなかった。 「おめでとう、凛ちゃん! 18位だって、凄いよ!」 「ありがとう、卯月。こんなのまぐれみたいなものだから」 卯月との会話も、どこか白々しい。 彼女の中間順位は29位。公開される順位は30位までだから、崖っぷちで引っかかっている状態だ。 だけど、卯月の心を波立たせているのは自分のことではないだろう。卯月はそういう子だから。 その証拠に、ちらちらと彼方に向ける視線が隠せていない。その先にいるのは、言うまでもなく。 「あはは、流石しぶりん! 私なんかじゃ全然かなわないなーっ」 空元気でなんとか場を和まそうとする未央の姿がそこにあった。 彼女の名前は、ランキング表にない。三人中一人だけ、30位以内に入れていなかった。 気丈に振舞ってはいるけれど、それがどんなにショックで辛いことなのかは伝わってくる。 そもそも、未央はまだソロCD発売の目処すら立っていないのだ。 一人だけ大きく出遅れていることがどれだけ彼女の重圧になっているのか、想像するとやり切れない。
356 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:08:06 ID:gVhKZnOw0 「いいよいいよ、二人とも! 私に気を使ったりしないでさ、もっと喜ぼうよ」 だからこうして自分を押さえつけながら、周りに気を使おうとする未央の姿が痛々しく思えて。 私は、そんな未央の姿は見ていたくなかった。未央には、元気でいて欲しかったから。 自分を犠牲にするところなんて見たくないし、犠牲になるべき子でもない。 「私の友達が二人もランクインしたんだよ、私だって嬉しいよ。そもそも私の出る幕なんてなかったな、なんて」 「み、未央ちゃん、そんなこと――」 「ううん、あたしよくパッとしないなーって言われるし。そもそもあたしに取り柄なんて……」 「そんなことないっ!!」 突然の声が、事務所のフロア内に響き渡った。 叫んだのが他ならない自分だったってことに、最初は私自身も気がつかなかった。 未央も、卯月も、ぽかんとした顔でこっちを見つめている。 急に何やってるんだろ、私。そう思うと急に勢いが萎んでいって、 「わ、私は未央のいいところ、知ってるから。私だけは、ちゃんと……」 そう言い終える前に顔が耳まで赤くなったのを自分でも感じて、 「……やっぱり知らない」 そのまま椅子にすとんと腰を落として、真っ赤な顔のままうつむいた。 二人の視線がなんだか痛くて、視線を所在なく彷徨わせる。 あーあ、本当に何言ってるんだろ。こういうの、私のキャラじゃないのに。 もっとクールなビジュアルイメージで売ってるのに、こんな簡単に熱くなるなんて。 でも、どうしても我慢できなかったから。 私にとって未央はそんなつまらない人間じゃない。そう思ったから。 未央が誰よりも頑張り屋で一生懸命で負けず嫌いだってことは、よく知っているから。 だから、他ならぬ彼女自身にだけは自分を卑下して欲しくなかったのだ。 そんなことを考えながらちらっと目を上げたら、目の前で卯月がぼろぼろ涙をこぼしていた。 「…………」 「う、ううっ、凛ちゃぁん」 「な、なんでそこで卯月が泣くの!?」 「だ、だって凛ちゃんの優しさが心にしみたんだもん、ぐしゅっ」 「あーあー鼻水垂れてる。ほーらしまむー、ちーんしましょーねー」 「うー……」 未央が手際よくティッシュを用意して、卯月に鼻を噛ませる。 そのまま卯月を子供相手みたいにあやしながら、未央は私だけに聞こえるように言った。 「ありがとね、しぶりん。ホント言うと、ちょっと楽になった。 しまむーも言ってたけどさ、やっぱりしぶりんは優しいよ」 優しい、のかな。自分では分からないけど、二人にそう思ってもらえたのは、純粋に嬉しい。 それと同時に、二人の好意を嬉しく感じる自分自身に、少し驚いた。 いつの間にか、卯月と未央の存在は、私の中で凄く大きなものになっていたみたい。 私ひとりの夢は、私ひとりでは叶わない夢になっていたんだ。 そのことが自分でも意外なくらいに幸せに思えた。 もう、これからずっと、私はひとりじゃない。今ならそう信じられるから。 だから私達は、これからもっともっと幸せになるだろう。 この時の私は、疑いようもなく、そう思っていたんだ。
357 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:08:43 ID:gVhKZnOw0 ▼ ▼ ▼ 「おーし、お待たせ。注文持ってきた」 「ご苦労さま、奈緒」 「ほら凛、ハンバーガーのピクルス抜き。加蓮のコーヒーは砂糖で良かったよな?」 「ん、ありがと。それにしても奈緒、また追加でアップルパイ? 太るよ」 「体調管理もアイドルの基本ってな。大丈夫だって」 「そんなに幸せそうな顔されたら、止められないけどね」 「な、なんだよ。笑うなよ」 「ふふ。二人とも、元気そうで良かった」 穴場のハンバーガーショップで私と奈緒、加蓮が顔を合わせたのは、総選挙が明けた次の週。 総選挙自体はあの後大きな波乱もなく(雑誌には『川島瑞樹、謎の大躍進!?』とか書いてあったけど)、 むしろ私達にとっては次のステップのための決意を固めさせてくれたイベントだった。 奈緒や加蓮はランクインを逃したけど、それで落ち込んでいる様子もない。 むしろ前向きに捉えているその姿勢からは、訓練生時代の面影は伺えなくて。 「……変わったね、二人とも」 ふと、そんな言葉が口に出た。 「な、なんだよ急に。気持ち悪いな」 「奈緒はだいぶ、素直になったよね。加蓮はひねくれたこと言わなくなったし」 「あ、あの頃の話はしないでよ……私だって封印したいんだから」 「いつの間にかアタシじゃなくて私って言うようになったしね」 「だーからやめてってばぁ……」 「そのへんにしとけって、加蓮泣いちゃうぞ?」 奈緒が諌めると見せかけて追い討ちをかけ、加蓮がわざとらしくむくれる。 久々に会ったけど、この空気はやっぱり落ち着く。 でも、デビュー前とは同じようで違う空気。 それぞれが目標を見据えているからこその前向きさが、一層居心地を良くしてるのかも。 そうしてひとしきりみんなで笑った後で、加蓮が言った。 「でもさ、変わったって言ったら、やっぱり凛だよ」
358 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:09:52 ID:gVhKZnOw0 急に意外な形で振られたので飲んでたジンジャーエールを吹き出しそうになった。 変わった? 私が? 自分では、全然そんな気がしないけど。 戸惑う私を見て加蓮が微笑む。奈緒もそれを見て、何かを察したような顔をした。 「凛は、最近のアイドル活動どう?」 「えっ? とりあえず、今の目標は今度のLIVEかな……私達の単独LIVEは久しぶりだし」 「ほら。今、『私達』って言った」 ようやく加蓮の言うことが飲み込めた。 私の中のウェイトは、確かにあの時から変化していた。 大事な仲間の存在が、いつの間にか私の中の多くの部分を占めていたから。 そしてそのことを恥じることなく誇れるぐらいには、私は変わったのだろう。 「……ふふ。そうだね、『私達』はまだこれからだから。もっと、先に行くよ」 「なんか妬けちゃうなぁ。まぁ、私には奈緒がいるけどね」 「バカ、別にユニット組んでるわけじゃないだろ。それを言ったらアタシ達だってライバルだ」 それもそうか、と加蓮が照れ笑いをして、釣られて私達も笑った。 笑いながら考える。確かに私は、変わったのかもしれないと。 今の私は、自分だけが上に行ければいいだなんて思わない。 卯月と、未央と、それから私。三人揃ってトップアイドルにならなきゃ意味がない。 三人で同じ夢を目指し、三人で駆け上がっていくんだ。 「私も、卯月も未央も、負けないよ。『ニュージェネレーション』は諦めない。 三人で一緒に頂点に立ってみせる。私達になら出来るって、そう思うから」 「はは、でもアタシだっていつまでも下から見上げてると思ったら大間違いだからな?」 「私だって。いつか言われたこと、忘れてないからね」 「うん。何度でも言うよ、私達は先に行って待ってる。追いかけてきて、絶対だよ」 誰からともなく、私達は手に持った紙コップを掲げた。 そしてその縁と縁をぶつけて、形ばかりのささやかな乾杯をした。 奈緒が紙コップじゃカッコつかないなと言い、加蓮が私なんて中身コーヒーだしと言い、また笑った。 笑いながら、いつか本当に『私達』と『彼女達』が同じ舞台に立つ日が来たらいいなと、そう願った。
359 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:10:28 ID:gVhKZnOw0 ▼ ▼ ▼ 最初は、ほんの小さな夢だった。 だけどいつの間にか、ひとりの夢は、三人の夢になっていた。 それは、私と、卯月と、未央の、終わらない願いであり。 それは、私と、奈緒と、加蓮の、叶えたい約束であり。 そうして私は、私を取り巻く大事な人達の中で、少しずつ空を目指していった。 誰よりも上へ。誰よりも高く。誰よりも遠くへと。 憧れの先へ、少しでも近付きたくて、ただ、ただ手を伸ばし続けて。 そうやって、天を目指したことの、いったい何が罪だったというのだろう。 私達の目指した夢は、こうして罰を受けるほど、おこがましい夢だったのだろうか。 ▼ ▼ ▼
360 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:11:15 ID:gVhKZnOw0 私はゆっくりと体を起こした。 昔のことを思い出している間に、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。 確かに体の疲れはいくらか取れていたけれど、そんなことよりも、 今この瞬間が紛れもない現実であるということが、改めて私を打ちのめした。 目覚めたら事務所のソファーで居眠りしていただけとか、そんな期待をしてたわけじゃないけど。 無意識に顔を手でこすった私は、寝ている間に涙を流していたことに気が付いた。 ああ、夢を見ていたんだ。夢というにははっきりとした、今は遠い日々の思い出を。 そしてその日々が、今や夢の中にしかないということを、私は知ってしまった。 もうあの楽しかった日は、過去でしかないんだ。夢の中でしか逢えないんだ。 もう、あの日の約束は、永遠に叶うことがなくなってしまった。 だから夢が幸せであればあるほど、その夢は寂しくて。 希望に満ちていればいるほど、その夢は絶望に覆われていて。 願いに溢れていればいるほど、その夢に溢れるのは呪いだから。 だから私が見たのは、本当に悲しくて寂しい夢だった。 「卯月……もう私達、元に戻れないのかな」 独り言めいて口から漏れた呼びかけは、十年も年を取ったように疲れ果てていた。 「奈緒……加蓮……ごめん、約束、守れなくなっちゃった」 その酷く乾いた響きが、自分自身の心を逆撫でするみたいで。 ただ私は、塔の頂から見える景色を視界に収めていた。 私は、どうすればいいんだろう。 私は、どうするべきなんだろう。 私は、本当はどうしたいんだろう。 未央は死んでしまった。卯月は自分を捨てていなくなってしまった。 奈緒も、加蓮も、今はどこにいるのかわからない。 私一人で、どうするのか決めなくちゃいけない。 だから思い出す。私の歩いてきた道を。 私が歩いていこうとしていた道を。
361 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:11:52 ID:gVhKZnOw0 ……ううん、違う。私じゃない、「私達」だ。 私と卯月と奈央の描いた夢の形。私と奈緒と加蓮が願った夢の形。 私達が目指していた、天へと続く道。 どれだけの思いを重ねて、どれだけの努力を重ねて、どれだけの日々を重ねて、 少しずつ、ほんの少しずつ、でも確実に前へ進んで、ここまで来た。 その全てが無駄だったっていうのだろうか。 こうして殺し合いの泥沼に放り込んでしまえば、そんなものは沈んで消えてしまうと。 そんな無価値でつまらないもののために、私達はずっと…… 違う。そんなこと、あっていいわけない。 だって私達が、私達の夢が、これまでの全てが、こんな理不尽に潰されるなんて―― 嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。 「……諦めたくない」 ぽつりと。 言葉が、零れる。 「諦めたくない……諦めたくない……」 ぽろぽろと。 言葉が、溢れ出す。 「諦めたくない、わ、私、まだ、諦めたくない……!」 そうして生まれ落ちたのは、自分でもどきりとするぐらいに、純粋な叫びだった。 一度形を得た言葉は、自分自身を衝き動かすぐらいの力を持っていた。 いつか卯月に、諦めないのが私らしいと言われたからってわけじゃない。 諦めない、それが、私の心の奥底から湧いてくる、一番真っ直ぐな想いだった。 「私達の今までを、私達のこれからを……無駄だなんて、もう終わったことだなんて、 そんなの許せない……やだよ、私は、まだ諦めない! 私達は、もう終わりなんかじゃない!」 私は、あんなにたくさんの絆に囲まれて、ここまで来たんだ。 あんなにたくさんの夢と願いと約束を重ねて、今まで歩いてきたんだ。 辛いことはたくさんあった。苦しいこともたくさんあった。 でもそれ以上に、嬉しいことがあった。楽しいことがあった。 幸せと信じられる時間が、確かにあった。 今の私を形作るその全てを、もう無駄なものだと切り捨てることなんて出来はしない。
362 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:12:40 ID:gVhKZnOw0 ごめん、未央。私、当分そっちには行けないかもしれない。 だって私には、まだやらなきゃいけないことがあるから。 確かに失ったものはある。取り返しのつかないこともある。 もう二度と未央の笑顔を見ることが出来ない、そのことが辛くてたまらない。 だけど、まだ手が届くものだってある。 私はもう一度、卯月と話がしたい。 卯月が私をどう思っているかなんて、もう関係ない。 私が卯月から、卯月の口から話を聞きたいんだから。 ただ、私は納得したい。納得して、卯月と一緒に前を向いて進みたい。 私は卯月と一緒にいたい。例え卯月にとっての私がそうでなくても構わないから。 卯月を見つけたら、奈緒と加蓮を探しに行こう。 初めて一緒に立った「ステージ」がこんなところだなんて、悔しくてやり切れないけど。 もう一度会うって約束したんだ。離れ離れのまま終わるなんて、絶対に嫌。 会ったら卯月のことも紹介しよう。死んでしまった未央のことも、いっぱい話そう。 二人の話も聞きたい。それがどんなに辛く、残酷な話だったとしても。 一生分の話をしよう。そして、もう二度と離れ離れになったりはしない。 私はもう一度涙の跡を拭うと、ディパックを背負い直した。 隣に転がしていた支給品の円筒も、一瞬迷ったけれど持っていくことにする。 そうして私は、一つまた一つと塔の段々を降りていった。 降りるのに掛かったのはそれほど長い時間ではなかったはずだけど、 久し振りの地面の感触は、私が今生きているという事実を実感させるに十分だった。 私はもう一度だけ塔の頂を見上げた。長すぎるようで短い、そんな時間を過ごした場所を。 そして、決別するように前を向く。もう、振り返らない。 馬鹿げてるかな? 今も殺し合いが続くこの島で、友達を探しに行くなんて。 だけど、この世の全てとも釣り合うくらいに大事な人を、私はこれから探しに行くんだ。 下らないだなんて、世界中の誰にも言わせたりなんかしないから。 私はバベルの塔に背を向けて、もう一度歩き始めた。
363 :バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:14:17 ID:gVhKZnOw0 ▼ ▼ ▼ バベルの塔が崩れた後、人は一つの言語を失って、世界に散らばったという。 天を追われた私たちもまた、通わない言葉を胸に抱いて、この箱庭に散りばめられている。 それでも、届く想いがあると信じて。 繋ぐ絆があると信じて。 【E-6・遺跡『バベルの塔』/一日目 午前】 【渋谷凛】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】 【状態:全身に軽〜中度の打ち身】 【思考・行動】 基本方針:私達は、まだ終わりじゃない 1:卯月を探して、もう一度話をする 2:奈緒や加蓮と再会したい 3:自分達のこれまでを無駄にする生き方はしない
364 : ◆n7eWlyBA4w :2013/02/14(木) 04:14:40 ID:gVhKZnOw0 投下終了しました。
365 :名無しさん :2013/02/14(木) 13:48:02 ID:9B5wjvRcO 投下乙です。 卯月は言葉を奪われ、奈緒と加蓮は二人だけの言語を話してる。 果たして、四人で語らうことはできるのか。
366 : ◆John.ZZqWo :2013/02/16(土) 10:51:37 ID:EWvTPsWY0 投下乙です! >バベルの夢 うーん、◆n7eWlyBA4w氏の文章は詩的でそこが羨ましいw そしてしぶりん立ち直った! なおかれとの間もぐーっと近づいて、これから先が俄然楽しみになってきましたね。一躍主人公って感じ。 しまうーとは距離的には近いところにるけど、あっちはちょっとあーだし、うーん、どうなるんだろう。なおかれと会った時もどうなるのか気になる! では、そのなおかれを投下しますねー。
367 :彼女たちがページをめくるセブンティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/16(土) 10:52:20 ID:EWvTPsWY0 あれから後、ファーストフード店を出た神谷奈緒と北条加蓮は汚れた服の代わりを探して街の中を歩いていた。 日は十分な高さまで昇り遠くを見渡すのにも不自由はしない。ゆえに、彼女たちのその“汚れ”もまたよく目立ってしまう。 そして、その赤い血は彼女たちの行動と結果を雄弁に語り、出会う者に全てをあからさまに知らせてしまうだろう。 「うーん……、ここにも私たちが着れるようなものはないね」 「そうだなぁ。さすがにこんなんじゃな」 だが、彼女らの新しい衣装選びははかどってはいなかった。 街中に洋服店はあまり見つからなかったし、見つかったとしても彼女たちのようなティーン向けのお店でもない。 実際、今二人が出てきた店もいかにも年配の――ようするにこのしなびた港町の客層に合わせただろう服しか置いてなかった。 色使いは地味だし、なによりデザインが古い。昭和のセンス、などというのはまさしく彼女らからしたら原始時代にも近い。 「学校があるから私たちくらいの子もいるはずなんだけどね。みんなどこで服を買ってるんだろう?」 「さぁな。すくなくともこの店じゃないってはわかるけど」 更に探してみると、今度は通りの中に小さなスポーツ用品店が見つかった。 店先のショーウィンドウには野球道具やバスケットボールなんかといっしょにスポーツウェアが並んでいる。 こちらは色使いも鮮やかでセンスが古いということもない。いつも二人が養成所で着ているレッスン着とほとんど変わらなかった。 「奈緒。あれだったらいいんじゃない? 別にそんなに変でも………………ん、奈緒?」 「…………………………」 だが、すんなりそれでいいとは決まらない。 神谷奈緒にはどうやら不満があるようで、そしてしばらく逡巡した後、彼女は北条加蓮が思ってもみなかった答えを口にした。 「も……」 「も……?」 「………………あ、あたしは、も、もっとかわいいのがいい!」 「え、え、…………えぇ!?」 神谷奈緒の顔が真っ赤に染まり、そして北条加蓮の表情も驚いたままで固まってしまった。 まさか、彼女がかわいいほうがいいと言い出すなんて。 いや、勿論、かわいいほうがいいに決まってるし、彼女だっていつもは口にしないだけでそう思っているんだろう。 でも、まさか、あの照れ屋で意地っ張りな奈緒が自分からかわいいのがいいと言い出すなんていったいどういう風の吹き回しなのか? 北条加蓮は恥ずかしさで半分泣きそうになっている奈緒の顔をまじまじと見ながら思う。 しかし、理由を聞いてみればそれは至極納得のいくもので、彼女を茶化そうなんて気持ちも吹き飛ぶものだった。 「…………これが、あたしたちの最後のステージだろ?」 「あ…………」 そうだ。ここでは生き残れるのは最後のひとりだけで、そして互いが互いを生き残らせようと考えていたし、無理なら渋谷凛をと願った。 ゆえに、少なくとも神谷奈緒と北条加蓮、二人の“LIVEステージ”はここで終わりだ。そしてほぼ間違いなく二人ともが終わりを迎えるだろう。 「あたしはもう加蓮といっしょだって誓った。だから覚悟は決めたし……その、もうこれが最後ならひとつも悔いは残したくない」 「奈緒…………」 「それに、さ。この殺しあいはきっとスタッフが監視してるんだろ? だったら、もしかしたらプロデューサーも見てるかもしれないし……」 「プロデューサーが、私たちのことを…………」 「も、もう愛想尽かしてあたしたちのこと嫌いになってるかもしれないけどさ……」 「そんな、ことないよ。……でも、すごく心配してるんだろうな。あの人」 「きっとそうだな。俺が加蓮の代わりに殺しあいをするー! とか言ってるかもしれないぞ」 「……うん、言いそう」 二人の顔にゆるやかな笑みが浮かぶ。暖かくなったと感じたのはまた少し昇った太陽のせいだろうか? 「それで、さ。あたしとしては、もし見ていてくれるなら一番のあたしたちを見て欲しいし、そうでなくても一番の格好でいたい……んだ」 「うん。私も賛成だよ奈緒」 いまだ顔が真っ赤な神谷奈緒に北条加蓮は笑顔で答える。 そこに夜が明けるまでのぎこちなさはなくて、どう考えても今が人生で一番ひどい時だというのに、なぜか一番輝いてるんだと思えた。
368 :彼女たちがページをめくるセブンティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/16(土) 10:52:40 ID:EWvTPsWY0 「でも、それじゃあどうしようか……? ここらへんには――」 しかし、と北条加蓮は辺りを見回す。先ほどから探し続けているとおり、とてもこの近辺でかわいい服は見つかりそうもない。 海辺に漁港と魚市場、そして役場と山の麓に学校を置くこの街はいかにも田舎という風情だ。 「あのさ、北のほうに行ってみないか?」 「北?」 北条加蓮の疑問に頷くと神谷奈緒は情報端末を取り出し、そこに地図を表示させた。現在位置からスライドさせて北西の街を画面に映す。 「こっちって、カジノとかビーチとかあるだろ? だからリゾートエリアってやつだと思うんだ」 「そっか、それだったらかわいい服とかも見つかりそうな気がするね」 「うん。それにライブステージもその向こうにあるだろ? だったら、ここになにか衣装があるかもしれないって思わないか?」 「どうだろう……? 衣装はいつも持ち込みだし……でも、まだ返却してないのとか、先に送ったのがあるかも……」 「だろ!」 うん、いいよ。じゃあそっちに行こう。そう北条加蓮が同意すると神谷奈緒は顔を喜色に染め、そして二人は笑いあって歩き出した。 「おしゃれするなら完璧にしないとね。ネイルは私が塗ってあげる」 「あ……、うん。よろしく……って、笑うなよ!」 「いいじゃない。私、奈緒のそういうところかわいいって思うよ」 「い、意味わかんないし!」 @ そして歩き出してしばらく、神谷奈緒は隣の北条加蓮の様子を伺い、ここであることに気づいた。 「なぁ、加蓮。その荷物、パンパンになってるけど何が入ってるんだ?」 今の今まで気づいていなかったが、気づいてみればそれはあからさまだった。 神谷奈緒の背負っているリュックに比べて、北条加蓮の背負っているリュックは明らかに大きく膨らんでいる。 「ああ、これは……多分、爆弾かな?」 「なんだ爆弾か、それなら別に…………って、えぇ!?」 「ちょっと奈緒、大きな声を出しすぎだって」 「でも、なんでそんなものが……」 聞かれて、北条加蓮は渋い顔をして言いよどむ。だが、言わないわけにもいかないかと観念し、爆弾の出所を神谷奈緒に打ち明けた。 町役場の前で殺害した若林智香――彼女の持っていたものを立ち去る前に拝借してきたのだと。 「そっか……あたし、気づいてなかったな……」 神谷奈緒は北条加蓮から爆弾をひとつ受け取り、手の平にのせて観察する。 ちょうど彼女の手の平にのるサイズのそれは黒くてまるっこくてレバーがついててピンで押さえられていて、間違いなく爆弾そのものだ。 しかもその爆弾は10個以上もあった。ひとつひとつは小さくて軽いが、さすがにこんなにあると荷物になる。 「でも、なんでこんなに数があるんだ……?」 「……さぁ?」 「まぁいいや。じゃあそっちの荷物はあたしが持つよ」 「いいって、私だってこれくらい平気だから」 「遠慮しなくていいって」 「遠慮なんかしてないってば! そりゃあ私は身体が弱いけど、でもそれでも奈緒といっしょだって決めたんだから。こんなこと……」 「でもそれで肝心な時にヘバったら最悪だろ! だから――」 「私、足手まといのはなりたくな――」 「そういう意味で言ってんじゃ――」 「そうだもん――」 「なんでいじけて――」 「いじけてなんか――」
369 :彼女たちがページをめくるセブンティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/16(土) 10:53:02 ID:EWvTPsWY0 ……………… ………… …… 「ハァハァ、わかった……じゃあ半分こな?」 「……ハァハァ、……最初からそうればよかったね……」 長い押し問答の末、結局は半分ずつ持つということになり、そしてずっと往来の真ん中に棒立ちだったことに気づくと二人は狭い路地に駆け込んだ。 そしてそれぞれに荷物を下ろし、中身の移動を始める。 「そういえば、加蓮のもらった武器ってそのボウガンの他はなにだったんだ?」 「…………私の武器はこれだけだけど?」 北条加蓮は神谷奈緒の質問にクエスチョンマークを浮かべ、地面に置いていたピストルクロスボウを拾う。 リュックの中に入っていた武器らしいものはこれだけだ。強いて言うならピストルクロスボウと矢のセットだが、それはわざわざ言うことでもない。 「あ、そうなのか」 「じゃあ、奈緒はその斧以外にもなにかあったの?」 「うんまぁ、一応。武器じゃないけど」 首肯して神谷奈緒は上着のポケットからなにかを取り出す。手の平の中に収まるほど小さくて四角いそれは、デジタルカメラだった。 「フラッシュを使えば、目くらましくらいにはなるかもしれないけど」 「それだったら、爆弾は防犯ブザーといっしょだった」 「武器といっしょにおまけがついてるのかな?」 「ちょっと待ってて……」 言われて北条加蓮は自分の荷物を漁り始める。爆弾を横に置いて、食料や水を確かめ、リュックのポケットになにか入ってないか探す。 だがしかし、最終的にはリュックを空にして振ってみるまでしたものの特にそれっぽいものは出てこなかった。 「やっぱり私にはこのクロスボウだけみたい」 「まぁ、そういうこともあるか」 納得し、二人はまた荷物の整理に戻る。そして11個ある爆弾をどちらが6個持つかでまた少しもめた後、北条加蓮はあることに気づいた。 「ねぇ、そのデジカメって写真は撮れるよね?」 「まだ試してないけど撮れるんじゃないか? デジカメだし」 「じゃあ動画は撮れる?」 「うん、撮れるよ。録画に切り替えるスイッチついてるし」 「じゃあさ――」 北条加蓮は神谷奈緒の両肩に手をのせ彼女の目をまっすぐに見て言う。 「かわいい服が見つかったらさ、それで二人で歌って踊ってるところを撮ろう」 「はぁ……?」 神谷奈緒は突拍子もない提案に呆れた顔をしたが、しかし彼女を見る北条加蓮の目は真剣そのものだった。 「奈緒は言ったよね。最後だって。だったら私は何かを残したいよ」 「加蓮……」 「何か形にすればさ。届くかわからないけど、でも、もしかしたらプロデューサーの手にそれが届くかもしれない。 私たちがここで終わっても、誰かが、それがプロデューサーでなくても、私たちがいたんだってこと、知ってもらえれば……」 「…………そうだよな。あたしたちは『アイドル』で、ここにいたんだ」 神谷奈緒は涙ぐむ北条加蓮の背に手を伸ばし、そして優しく抱き寄せる。 「これで最後だもんな」 「……だから、私と奈緒の形、ここに残そ?」 ああ。と神谷奈緒は力強く頷く。そして二人はこの時、抱きあいながら二人ともが同じことを考えていた。 もしここに『アイドル』としての最後の姿を残せるというのならば、そこに渋谷凛がいることは叶わないだろうかと。 二人に追いついてきてと言った彼女と、もしここでいっしょに『アイドル』としての姿を残せるというのならそれはどんなにいいことだろう。 だが同時にそれは叶わないだろうとも二人は考える。 なぜなら二人はもう汚れてしまったからだ。渋谷凛に同じ汚れを被せるわけにはいかない。 そして二人には確信できる。神谷奈緒と北条加蓮が互いにそうしたように、事情を知れば彼女もまたこちら側にくるだろうと。 であるならば、やはりそれは叶わぬことだ。 ただ願うならば、二人が残した形がいつか彼女にも届けば、彼女に“追いつければ”いい。それがせいいっぱいだった。 @
370 :彼女たちがページをめくるセブンティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/16(土) 10:53:30 ID:EWvTPsWY0 「じゃあ行こうか。大分時間くっちゃったしさ」 「そうだね……っと、と」 荷物を背負い、立ち上がったところで北条加蓮の身体が揺れた。神谷奈緒は咄嗟に支えると、彼女の白い顔を心配そうに覗きこむ。 「大丈夫か? 顔色がよくないぞ?」 「平気だってば、ちょっと太陽が眩しかっただけだって」 北条加蓮は神谷奈緒から離れて先を行こうと歩き出す。が、2,3歩もしないうちにまた足がもつれてしまう。 「おいッ!?」 「…………あ、あれ? おかしいな」 どうしてこんな急に? それは北条加蓮自身にも謎だった。いくら身体が弱いといってもまがりなりにアイドルだ。今はもうそこまで虚弱じゃない。 少し辛そうな気配があるとすぐに奈緒やプロデューサーが飛んでくる。そこまでするのは大げさだ。と、いつもそう思っている。 それはともかくとして、今はどうしてこんなにふらふらとしてしまうのか? その彼女自身すらも自覚していない謎はしかしすぐに解けることになる。 く〜……という、かわいらしいお腹の音によって。 「加蓮、お前…………」 「ごめん。よく考えたらさっきのハンバーガー食べずに出てきちゃってた……あはは」 「あ〜、もう…………」 盛大にため息をつくと神谷奈緒は時計を見て、それから通りを見渡し、そして北条加蓮に肩をかして立ち上がらせる。 「もうお昼も近いしさ。ここらへんでご飯食べていこう。北の街までも距離あるしさ」 「うん、ごめんね……。足引っ張っちゃって」 「いいって別に。あたしだって加蓮がいなくちゃ……」 「何?」 「なんでもないよ! それよりも食べたいもの決めてくれよ。でないと鞄の中の非常食になるぞ」 「それは嫌かな。でも、奈緒がつくってくれるならなんでもいいよ」 「あたしが作るのは決定なんだ。まぁ今はいいけど。……でも、何にしようかなぁ」 神谷奈緒は改めて通りを見渡す。幸いなことにこの通りにはいくつかの飲食店が並んでおり、選択肢があった。 とれたての魚が食べられると――もっとも今はそれは期待できないだろうが――と張り紙のしてある年季の入った定食屋。 かしこまった風格のあるちょっとお値段も高そうな――この状況で値段なんて関係ないが――お蕎麦屋さん。 そして、壁にコーヒーの香りが染みついてそうな喫茶店と、ウィンドウの中にオムライスの食品サンプルが並んだ洋食屋さん。 他にも通りを進めばまだいくつかのお店があるらしい。 「うーん…………」 北の街までの道なりはそれなりに遠い。途中で誰に会うかもわからないし、場合によっては飛んだり走ったりもするだろう。 街中とは違い身を隠す壁も期待できないわけだし、できるだけ素早く通り過ぎたくもある。 そのためにはここで十分な体力を蓄えていく必要があるだろう。 とはいえ、倒れそうなくらい空腹の彼女に無茶な暴飲暴食はさせられないし、好みだって考慮する必要がある。 「じゃあ、あのお店に入ろうか。あそこでお昼ご飯作ってあげるよ」 神谷奈緒が指差した先、そこにあったお店は――――…… 【G-4/一日目 昼】
371 :彼女たちがページをめくるセブンティーン ◆John.ZZqWo :2013/02/16(土) 10:53:48 ID:EWvTPsWY0 【北条加蓮】 【装備:ピストルクロスボウ、専用矢(残り20本)】 【所持品:基本支給品一式×1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×5】 【状態:空腹】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 0:奈緒のつくるものならなんでもいいよ(奈緒は私の好みを知ってるし)。 1:北西の街まで移動して、そこで“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。 2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 4:事務所の2大アイドルである十時愛梨と高森藍子がどうしているのか気になる。 【神谷奈緒】 【装備:軍用トマホーク】 【所持品:基本支給品一式×1、デジカメ、ストロベリー・ボム×6】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、加蓮と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 0:よし、お昼はあそこで食べよう。 1:北西の街まで移動して、そこで“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。 2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 ※二人とも服が血で汚れています。 ※北条加蓮はストロベリーボムについていたメモを読んでいません。 ※塩見周子の持ち物は彼女といっしょにファーストフード店に置き去りになっています。(基本支給品一式×1、洋弓、矢筒(矢x25本)、防護メット、防刃ベスト)
372 : ◆John.ZZqWo :2013/02/16(土) 10:54:02 ID:EWvTPsWY0 以上で投下終了です。
373 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/17(日) 18:15:32 ID:xB1LH7TA0 投下乙です! >バベルの夢 既に言われていますけど、ホント美しい文章で読んでて引き込まれるなぁ 丁度奈緒加蓮との間も埋めてくれて、いい仕事してくれます。 ニュージェネも、目の前で一人殺されてしまったからこそ結束が強まった気がする ……ただ悲しきかな、どっちに合流しても一悶着ありそうなのが……仕方無いか、ロワですもの >彼女たちがページをめくるセブンティーン そしてその直後にこのお話、極限状態でもう引き返せない場所の友情はやっぱり良いなぁ ホント一心同体というか、良いコンビ。綺麗に繋いでいただいてありがたい限りです これからどうなっていくのやら、ひとまず息抜きですが、どうなっていくか凄い楽しみ… 後、予約延長します
374 : ◆John.ZZqWo :2013/02/18(月) 23:18:40 ID:tzQMQfiQ0 ちょっと特殊な予約しますねー。◆yX/9K6uV4E氏には了承済みです。 ということで 佐々木千枝 を予約します。
375 : ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 01:20:38 ID:h7QNc0Us0 予約延長させていただきます。
376 : ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:35:43 ID:h7QNc0Us0 おまたせしました、投下します。
377 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:36:55 ID:h7QNc0Us0 【スーパーマーケット店内警備室】 モニターの中に映る、四分割された映像。監視カメラを通して映し出される、スーパーマーケット内の光景である。 モニターの数は大小合わせて計六台。チャンネルを切り替えることで映像を変えることができる。 それら、機械による“監視の目”に這うような視線を送り続けるのは、双眸を眼鏡の輝きで隠した女性だった。 相川千夏は警備室にいた。 スーパーマーケットの入り口から店内に入り『お客様の立ち入りはご遠慮願います』と書かれたバックドアを潜る。 そこから階段を上がり、従業員専用の更衣室や食堂、事務所や会議室、在庫商品や消耗品が置かれたスペースを探索。 そして目をつけたのがこの警備室だ。事務所内にも監視モニターはあったが、売り場の主たる場所しか見ることができなかった。 対して、さすがは警備室。ここにある監視モニターは、店内――いや“店外も含めた店内”の様子を隈なく確認できる。 たとえば、一階の食料品売り場。 たとえば、一階の日用消耗品売り場。 たとえば、一階のフードコート。 たとえば、一階のバックヤード。 たとえば、二階の通路。 たとえば、二階の会議室。 たとえば、二階の事務所。 たとえば、二階の在庫置き場。 たとえば、従業員用エレベーター付近。 たとえば、裏手の搬入口。 たとえば、店外備え付けの駐車場。 たとえば、店外備え付けの駐輪場。 たとえば、店の入口……東と西の両方。 その他、細かい部分まで挙げればキリがない。 素人の感想ではあるが、この店はセキュリティがしっかりしているに違いない。 相川千夏は自らが“陣地”とした建物を高く評価し、同時に欠点も認識する。 (覗けない場所は……更衣室に、トイレ。この二つは仕方ないわね。二階に上がるための階段にカメラがないのは、少し不安かしら) 店内の見取り図と相互確認。プライバシーの侵害に繋がる場所や、階段のスペースには監視カメラが設置されていないようである。 もちろん、出入り口付近にはきちんとカメラが設置されている。目を離しさえしなければ、中に誰が入り外に誰が出ていったかは確認可能だろう。 その他、エレベーター内など死角と呼べる場所は多々あるようだが“移動する人間”を捉える分には不足なし、と判断した。 (“かくれんぼ”をやられると困っちゃうけど、“おにごっこ”ならこちらに分がある……といったところかしら) ここは既に、相川千夏の領域だ。 侵入者が踏み入れば、即座にその動きをキャッチすることができる。 このアドバンテージを駆使すれば、相手の行動を先読みし迎撃することも容易に違いない。 (問題は“どうやって誘き出すか”なのだけれど) 市街に存在するスーパーマーケット。常ならば多くの人がこの地を訪れるだろうが、いまは常ならざる状況だ。 殺し合いを肯定するヒロイン、殺し合いを否定するアイドル、どちらの立場でもわざわざ足を運ぶ場所とは思えない。 ただ、周辺の立地状況も加味すれば――可能性はゼロとは言えなかった。
378 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:37:36 ID:h7QNc0Us0 (なにせ、隣はもうすぐ禁止エリア。逃げ出してくる子もいるでしょう……“その逆”も、もしかしたら) 禁止エリアでの爆死を恐れ、近隣のエリアに逃げ遂せようとする者。 そういった弱者を助けて合流し、力を合わせようとする者。 もしくは、それらをまとめて狩ろうと企む同業者。 (火事場には人が集まるものよ。それにその気になれば、自分で火事場を作ることもできるのだし) 手持ちの武器は拳銃が一丁と爆弾が11個だ。威力を考慮しても、籠城戦をするには充分な数と言える。 しっかり計画を立て、そのとおりに動けば負けはない。 あとは天の采配を待ち望むばかりといったところである。 「ふぅ……」 たくさんのモニターに囲まれながら、千夏はため息をついた。 チェアに大きく背中をもたれ、疲れ気味に天井を仰ぐ。 獲物を待つその時間、千夏があてた作業は――自己分析だった。 (遭遇戦を避けて、陣地を作って、策を練る……結局、私はこういう女なのよね) 頭の中に巣食っているのは、ある一人の女の子。 五十嵐響子という、先ほど出会ったライバルの存在だ。 (彼女はいまもナターリアちゃんを捜しているのかしら……そうして、障害になるような子がいたら殺して……) 同じプロデューサーのもとで仕事をし、同じプロデューサーに恋をした女の子。 彼女は普段からして積極的、そして行動的な少女だった。 仕事に関してもそう。レッスンに関してもそう。プロデューサーへのアプローチに関してもそうだ。 自己鍛錬を怠らず、いつだって健気に、アイドルとしても女の子としても、高みを目指そうとしていた。 (そんな響子ちゃんに比べて、私は――) アイドルとしても女としても、劣っているとは思わない。 だけど“想い人のために行動する女の子”としては。 完全に、負けてしまっている。 現状はそう判断せざるをえなかった。 (がむしゃらに暴れ回って、それで一度でも失敗してしまったら終わりなのよ。無茶はできないわ) ――そのブレーキが、相川千夏の弱さなのかな、と自嘲気味に思う。 響子は、想い人のために親友を殺すとまで言ってみせたのに。 千夏は、親友の死に心を痛めて、足踏みをして。 それで『なにをやってるんですか』と叱咤までされたのに、まだ慎重な道を選んでいる。
379 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:37:52 ID:h7QNc0Us0 「……これが私のやり方よ。まさか私にジェイソンやプレデターをやれというの? 適正や効率の面で見ても、これが最上なの」 そんな風に、誰にぶつけているわけでもない言い訳を吐露する。 もどかしい。 実績を作れば――このもどかしさからは解放されるのだろうか。 ――さっさと一人殺しちゃえば、楽になりますよ? 頭の中の響子が、悪魔の囁きをこぼす。 なにを馬鹿な、と思うと同時。 そのとおりかもね、またため息をつく。 「アイドルが悩んで、躓いているっていうのに……あなたはなにをしているのよ」 プロデューサーは――一見頼りなさそうな顔をして、その実かなりデキる男性だった。 相川千夏という女性の魅力を正しく認識し、それを伸ばそうと努力してくれた。 敏腕という肩書きは似合わないが、相川千夏のプロデューサーとしては彼こそが最強だった。 「声を聞かせてよ――――さん」 この人となら、人生のパートナーとしても一緒にいたい。 そう思った矢先に、同じ想いを抱いているライバルがいることを知って。 負けられない――ならば先手必勝。彼に、想いを伝えようとしたのに。 (ちひろさんに例の話を振られて……明日、想いを告げようって思い立って……それっきりなんて、笑えない) ――あの人の顔が、また見たい。 あの優しくも心強い声が聞きたい。あの愛嬌に満ちた微笑みが欲しい。あの無防備な頬にもう一度、触れたい。 あの人に――好きと伝えたい。 「……………………あっ」 倦怠感に包まれながら、ふとモニターを見てみると――そこに動く人間の姿があった。 スーパーマーケットの入り口に設置されたカメラの映像だ。 距離はあるが、店の付近で三人の少女たちが言い合いをしているように見える。 希望的観測かもしれないが、店内に入ってきそうな雰囲気も感じられた。
380 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:38:27 ID:h7QNc0Us0 「賽は投げられたみたいね」 相川千夏は食い入るようにモニターを眺める。 まずは相手がどんな人物なのか、それを見極める必要がある。 はたして、彼女の領域に踏み込んだ三人の少女とは――? 【スーパーマーケット店外】 「向井はん、そこまでや!」 先陣を切っていた特攻隊長――向井拓海は小早川紗枝の声を受けて、足を止めた。 東の市街、煙の上がる火災現場を目指して移動している最中のことである。 現在地は市街地の入り口付近だろうか。なんにせよ、足を止めるにはまだ早い。 「なんだよ紗枝、バテたか? まあそんな長いもん持ってりゃ走りにくいかもしんねーけどよ」 鉄芯入りの木刀をハンドバッグ気分で持って走る拓海に対し、紗枝は自分の身長ほどもある薙刀を担いで走っている。 日々レッスンを積んでいるアイドルとはいえ、さすがに疲れは出てくるか――と拓海は思うが、紗枝が呼び止めた理由は別にあった。 「……そうやない。これ以上は進まんといたほうがええ。ううん、ちゃう。進まれへんのよ」 「ああ? なんだってんだよいったい」 「そうか……禁止エリア。このあたりが境界線か」 訝しむ拓海より先に、紗枝の言いたいことに思い至ったのが松永涼だ。 「あそこ、見てみなって。スーパーあるよな?」 「見りゃわかるが……それがどうかしたってのかよ?」 「この島の地図、思い出してみなよ。あそこにスーパーがあるってことは、この道の先は禁止エリア……進入禁止のデッドゾーンだ」 涼が指で示す先、道沿いにある大きな建物は、確かに一目でスーパーマーケットだということがわかる。 拓海自身、島内の地図と建物の配置はおおまかにではあるが覚えていた。 スーパーマーケットは市街地の入り口を示す目印。 エリアでいうと【C-6】に位置し、ここからさらに東へ進んだエリアは【C-7】に区分される。 「ちっ……つまりこれ以上進むのは危険って言いたいわけか、おまえら」 「せや」 「だけど、禁止エリアになるまでまだ一時間ばかしあるだろうが! なのにここで立ち止まんのか!?」 「落ち着きなよ。そもそも、アタシらの目的はなんだい?」 「そりゃ、仲間になれそうなヤツを探して……」 「“一時間ばかし”。そんな爆死ギリギリの時間まで“アタシらの仲間になれそうなヤツ”が危険地帯に踏みとどまる理由はないよな?」 「これ以上進んでも、誰もいないって言いてーのか?」 東の方角に視線をやる。煙はだいぶおさまったようだが、119番も期待できない場所での火事だ。 自然鎮火するまではまだまだ時間がかかるだろう。不用意に近づくのは危険極まりない。 しかし、だからこそ――火事に巻き込まれた少女が、誰かの助けを待っている少女がいるのではないか?
381 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:39:00 ID:h7QNc0Us0 「酷なことを言ってるかもしれないけどさ……仮に逃げ遅れた人がいたとしたら、たぶんもう手遅れだ」 「ンなもん、まだわかんねーだろうが!」 「向井はん、冷静になっておくれやす。うちら、素人なんよ? そんな消防隊の真似事なんてできへん」 「あそこにまだ人が残ってるって確証もないんだ。だったらむしろ、あそこから逃げてきた人を探すほうが懸命だろ?」 紗枝と涼の説得を受けて、拓海は落ち着きを取り戻す。 そのまま軽く頭を掻き、反省するように目を伏せるのだった。 「……すまねぇ。煙が間近で見えるようになったせいか、また気が焦っちまった」 「気にせんといて。うちら、持ちつ持たれつやろ?」 「ああ。まったく頼りになる相棒だぜ」 「ふふふ。うちら、意外といいコンビかもしれまへんなぁ」 「とにかく、このまま街の周辺をぐるっと回ってみよう。そうすりゃ誰かしら見つかるさ」 【スーパーマーケット店内警備室】 (遠い……) 監視カメラの映像とはこうも見えにくいものなのか、と相川千夏は警備員の苦労を知った。 モニター上、店の入り口付近で話をしている少女たちは、三人ともボケボケで素顔が窺えない。 カメラとの距離が遠いのだ。わかるのは全員同じくらいの背丈だということ。そして服装くらいである。 (この子はジャージよね。彼女、やけに丈の長い服を着ているように見えるけど……どういうファッションなのかしら?) アイドルの中でも、ファッションへの関心は特に強いほうだと自負している千夏である。 だからこそまず三人の服装に着目してみたのだが、いまはライバルの格付けをしているときではない。 重要なのは“あの三人が誰か”ということ。 パッと見た印象ではあるが、三人とも顔見知りではない――と、千夏はそう判断した。 (そして、おそらく私や響子ちゃんの同業者というわけでもないでしょう。三人でいるのがなによりの証拠だわ) 殺し合い――“勝者は一人”というルールのゲームを勝ち抜くうえで、三人という数はあまりにも不合理だ。 なぜなら割り切れない。仮にいっとき徒党を組む契約だったとしても“一人が二人に裏切られるリスク”が高すぎる。 ならば殺し合いを拒み生きて帰るため、平和的に協力を結んだ間柄と見て間違いないだろう。 つまり、相川千夏が狩るべき獲物である。 (あんなところで足を止めているということは、店の中に用事? いえ、でもそれならすぐに入ってきてもおかしくないはず) まさか、既に中に誰かがいて、罠が張られている可能性を危惧している……? いや、千夏が店内にいるヒントなどどこにもないはずだ。 姿は見えども声は聞こえず。千夏はカメラの映像をもどかしく感じた。 (いえ――待って。この位置なら、もしかして……) なにかに思い至った千夏は、席を立つ。 警備室を出て、そのまま事務所内の廊下を全力疾走。 大急ぎで従業員食堂に駆け込んだ。 そして、壁際の窓を開け放つ。
382 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:39:40 ID:h7QNc0Us0 (見えた――! 確かに三人いる!) 二階にあるこの従業員専用の食堂は、ちょうど店の入り口の真上に位置している。 ここからなら店外の様子が肉眼で目視可能だ。三人の姿もしっかりと目に映った。 だが、 (それでも、遠い……っ。向こうもこちらには気づいていないみたいね) 店のそばで言い合いをしている三人。二階食堂の窓からその様子を窺っている千夏。 お互いの距離はまだ遠く、そして斜めの位置関係にある。 声は放れば届くだろうが、なにかしらの物体を届かせるのは意外と難しそうな、そんな微妙な距離感。 (銃を使っても……無理ね。拳銃の射程距離なんて知らないし、そもそも当てられる自信がない) となれば、残された武器は千川ちひろから支給されたストロベリー・ボム――あれを投擲して爆殺するというのはどうか。 うまくいけば、三人まとめて一網打尽にできる。 (でも意外と重いのよね、あれ。三人のところまでは……やっぱり無理ね。届かない) 斜めの位置関係を考慮すると、窓から半身を乗り出した無茶な体勢で爆弾を投擲する必要が出てくる。 これがゴムボールならまだしも、ずっしり重たい手榴弾をそんな風に投げるのはリスクが高すぎた。 なにせ取り扱いに注意を要する爆発物である。投げ損ねて自滅なんて結果になったら笑えない。 (絶好のチャンスなのに――いいえ、焦っては駄目。あの三人がこちらまで来るのを待って) 冷静沈着に、状況判断。チャンスとピンチは表裏一体。功を焦ってしくじることだけはしてはならない。 ここで待ち伏せを決めた矢先、早々に人がやって来たのだ。 ツキは自分に向いている。なればこそ、さらなる追い風が吹くのを期待して―― 【スーパーマーケット店外】 「……走りながら少し考えたんだけどさ。あの火事ってなにが原因だと思う?」 スーパーマーケットをすぐ隣に置いた往来で立ち話をする三人。 松永涼のふとした質問に、向井拓海は柄にもなく考えるような仕草を見せた。 「なにって、そりゃ放火だろ放火。古新聞に灯油とかガソリンとか撒いてよ、あとはライターでちゃちゃっとな」 「……向井はん、火遊びはあきまへんで?」 「バッ、アタシはそんな馬鹿なことしねーよ!」 「わかっとりますわ。ほんの冗談どす」 からかうつもりで言ったのだろう。独特の茶目っ気を見せる小早川紗枝に、拓海はおもしろいくらい反応した。 しかし、話を振った当人である涼は深刻な顔だ。 「火遊び程度ならまだいいんだけどさ……ひょっとしたらアレ、もっとヤバイものなんじゃないかって思ってね」 「もっとヤバイもの?」 「なんどすか、それ?」 「たとえば……爆弾とか」
383 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:40:17 ID:h7QNc0Us0 思い浮かべたのは、数時間前――深夜の頃、気弱そうな少女が涼を殺すために落としたあの爆弾だ。 この殺し合い、支給されている凶器は銃や刃物、鈍器だけではない。 中にはああいった強力な武器、街を火の海に変えてしまう規模の“兵器”を持つ者もいる。 そして、拓海はそういった“兵器”がもたらした悲劇を知っている。 「……ああ、チクショウ。胸くそワリィ。そういうことかよ」 涼の発言で、拓海も思い出してしまったようだ。隣の紗枝も沈んだ表情を浮かべている。 「誰の仕業かは知らねーが、アタシらアイドルには過ぎた火遊びだ。どこぞの馬鹿はアタシがぶん殴って、爆弾は海にでも捨てさせてやる」 「……その“どこぞの馬鹿”も、ひょっとしたらまだこのあたりにおるかもしれまへんなぁ」 「だとしたら、グダグダしてもいられねぇ。いくぜ紗枝、涼」 【スーパーマーケット店内従業員食堂】 (動いた――!) 窓から三人の様子を窺う相川千夏。その双眸が次なる襲撃の機会を捉えた。 が、無常にも三人の進路は店とは逆方向。 どうやらこのままスーパーマーケットから離れるつもりのようである。 (……チャンスは得られず。仕方がないわね) 去りゆく三人を眺めながら、千夏はそんな風に思う。 手には投げるべきか投げざるべきかと考えた末、とりあえず準備だけはしようと握りこんでいたストロベリー・ボム。 結局は投げる機会を逸し、殺人者としての実績を築く機会もフイにしてしまった。 (彼は……大丈夫よ。響子ちゃんががんばっているもの。それに、ちひろさんだって私のやろうとしていることは理解しているはず) まだ焦るような段階ではない。ここで無理にあの三人を追いかけ、殺害する必要性もない。 第一、一対三というのは分が悪い。数が多いというのはそれだけで厄介だ。 相手のスペックによっては返り討ちに遭う危険性だってある。敵を知らずに戦いを挑む策士はいない。 だからここは見送ろう。次の機会を待とう。確実に殺害でき、確実に生き延びられる、より確実な機会を―― ――――――――ドンッ! そのとき、食堂内で大きな物音がした。 千夏は驚き、バッと後ろを振り返る。 ここには自分しかいないはずだ。 まさか、自分の他に既に潜伏していた者が!? 最悪の可能性を頭の中に、じっと食堂内を見渡す。 机や椅子は物を言わない。厨房も変わりなし。自販機もただそこにあるのみだ。 誰もいない。 じゃあ、いまの物音はいったい……? 「あっ……」
384 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:40:39 ID:h7QNc0Us0 そして、千夏は気づいた。 ストロベリー・ボムを持っていないほうの手が、グーの形を作っていることに。 そのグーが、すぐそこの窓に触れていることに。 物音の正体は、千夏が窓ガラスを叩いた音だった。 「……わかってるわよ。あなたに言われなくても、わかってる」 憤りを感じる。 いつも冷静な自分らしくない、焦燥と怒り。 なにをそんなに憤っているのか。 答えはわかっている。 きっかけが五十嵐響子との再会だということも。 「……私が誰かを殺さなければ、彼が殺される。彼を守るために、私たちは殺人を犯すの」 でも、きっと彼はそんなことを望んでいない。 そんなことはわかっている。 それでも、彼には生きていてほしいのだ。 「身勝手な想いよ。利己的で自分勝手な、一方通行の想いよ。自分でも馬鹿だと思ってる。でも、これが女なのよね」 彼を失わないために、彼が望まぬ殺人をする。 決して褒められた愛ではないだろう。 だけど、仕方がないのだ。 彼を守るためには、人を殺すしか。 「彼を守るために咎を背負う――――なんていうのは“綺麗事”」 “彼さえ生きていればそれでいい”。 いまさら、そんなことは思わない。 それなら早々に自殺でもしてしまえばいい。 千夏を動かすのは、献身的な愛ではなく。 極めて自己中心的な、一人の女性としての想い。 「生きて、彼に想いを伝える。彼と添い遂げる。彼を生かすのは、あくまでも最低条件……なら」 響子にばかり任せてはいられない。 志を同じくするライバルとして、自らも張り合う姿勢を示さなければならない。 彼女と同様に殺人という咎を背負い、その上で彼と再会し、秘めていた想いを告げる―― 「そうでなくちゃ、私に“資格”はない……そうでしょう、響子ちゃん」 アイドルにとって、チャンスとは宝だ。 チャンスをものにできないアイドルは、生き延びられない。 相川千夏は、いつだって貪欲にチャンスを追い求めた。 手元から離れようとしたチャンスは、懸命に繋ぎ止めた。 そして、掴み取ったチャンスは必ずモノにした。
385 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:40:59 ID:h7QNc0Us0 「それが、相川千夏というアイドルなの」 窓の向こう、標的と定めた三人はスーパーマーケットを離れつつあった。 もはや声の届く距離ではない。 だが、千夏の視線は既に別のものを捉えていた。 二階の食堂から見下ろした先、入り口そばの“駐車場”に停められた――一台の乗用車である。 【スーパーマーケット店外】 けたたましい爆発音が、三人の耳朶を打った。 背後には足を止める際の目印としたスーパーマーケットがある。 そのスーパーマーケットの入り口付近――客用の駐車場スペースだろうか――が、炎上しているのだ。 「なっ……」 それは誰のつぶやきだったか。 向井拓海か、小早川紗枝か、松永涼か。 おそらく、三人全員のものであったに違いない。 「な、なんだってンだよ、いったい! いまなにが起きた!?」 「わ、わかりまへん。急に爆弾が爆発したみたいな音が聞こえて、振り向いたら……」 「みたいな、じゃないよ。爆弾だ……誰かが爆弾を使ったんだ!」 既に爆弾の存在と危険性を思い知っている三人だ。爆発音の正体にはすぐに察しがついた。 問題は、爆破された場所が三人のすぐ背後、五十メートルもない位置であるという事実。 「クソッ!」 拓海は走り出した。紗枝と涼はそれを止めるでもなく、少し遅れて後に続く。 スーパーマーケット入り口の駐車場。なぜそんなところで爆弾が爆発するのか。 まさか拓海が看取ったあの少女のように、爆弾による自殺を図った者でもいたのか。 もしくは単純に、“なにかを爆破すること”を目的に、誰かが爆弾を使ったのか。 走りながら考え――松永涼はハッとする。 「……っ! 気をつけろ、上から来るぞ!」 足を止め、先を駆ける拓海に注意を促す。 真っ先に気づいたのが涼だったのだ。 誰もいないはずの駐車場を爆破した意味。 誰が、なんの目的で、爆弾を使ったのか。 その最もありうる可能性を考慮し。 野生の勘から視線を送った先の――人影。 建物の二階から爆弾を放ろうとする人影。 涼は、眼鏡をかけた殺人鬼の姿を捉えた。 「あア!? 上――」
386 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:41:32 ID:h7QNc0Us0 危機感を煽る声に、拓海も自然と視線をそこにやっていた。 その頃にはもう、爆弾は宙を舞っていて。 拓海は、滑りこむような体勢で前方に伏せた。 「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」 高校球児のヘッドスライディングよりも激しい、地面への特攻。 特攻隊長の勇ましいブレーキを、天の神様も高く評価してくれたようだ。 爆弾が爆発する。 拓海が伏せた遥か前方で。 身を伏せているにもかかわらず、爆風に吹き飛ばされた。 射程外にいた紗枝と涼も吹き飛ばされそうになる。 埒外な威力が三人を襲った。 二度目の爆発は、入り口手前の地面を焼き削った。 「向井はん! 無事どすか!?」 拓海は答えない。 地面に突っ伏しながら、苦しそうに呻いている。 その位置と泥だらけの特攻服を見るに、だいぶ地面を転がったようだ。 顔を青くする紗枝と涼。 そして次の瞬間、 「クッソいってぇえええええええええええええええ!!」 拓海が起き上がった。 起き上がってすぐに叫んだ。 「テメェいきなりなにしやがんだゴラァ! いますぐそこいってぶっ飛ばしてやるから覚悟しとけやぁあああああああああ!!」 咆哮の矛先は、もちろんスーパー二階の窓辺である。 爆弾を投げた張本人である眼鏡の女性は、表情一つ変えることなく室内に消えた。 「お、おい。なんともないのか……?」 「誰にもの言ってんだ!? あんなもん根性で避けたわ! 地面転がされてあちこちすりむいたけどな!」 「さすがと言うべきやろか……ああ。でも、ホッとしはりましたわ」 胸を撫で下ろす紗枝と涼。 しかし拓海の怒りは収まらない様子だ。 「噂をすればなんとやらってやつだぜ。探していた爆弾魔がまさかこんな近くにいたとはよ!」 「あの人……ひょっとして、うちらが話しているときから店の中にいたんやろか?」 「たぶんそうだよ。それで機会を疑っていたんだ。でもなかなか近づかないから……」 「テキトーに爆発させておびき出そうって魂胆か! おちょくりやがって……おもしれェ、乗ってやるよ!」 両拳をボキボキと鳴らし、拓海はスーパーマーケット内への突入を決意する。 爆弾魔は危険な存在だ。その凶器もろとも、ここで無力化しておかなければ大きな被害が出てしまう。 これ以上の被害を食い止めるために――拓海は死地への一歩を踏み出した。 その肩を、紗枝が掴む。
387 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:41:56 ID:h7QNc0Us0 「……向井はん、待っておくれやす」 「なんだよ、止める気か紗枝?」 「ちゃいます。落ち着いて、みんなで足並み揃えよう言いたいんやわ」 「はあ?」 「アタシらも一緒に行くからさ、一人で先走んなって話さ」 紗枝が拓海の右肩を掴んだまま、涼が左肩を掴む。 そうして、同時に一歩。 三人が横一列に並ぶ。 そして、決意と覚悟を胸に眼前の建物を睨み据えるのだ。 その心情を読み取った拓海は、嬉しそうに頬をゆるめ。 「……へっ。ほんっとーに頼りになるヤツらだな、おまえらよ!」 今度は三人同時に、一歩。 【スーパーマーケット店内従業員食堂】 賽は投げられた。 いや、違う。 賽は自らの手で投げなければいけないものだ。 「必ずものにしてみせるわ――このチャンスをね」 食堂の窓から、スーパーマーケットに向かってくる獲物を見下ろすのは――自ら賽を投げた相川千夏である。 去りゆく三人の注意を誘うため、駐車場に停めてあった乗用車をまず爆破。 誰であっても振り向くだろう。そこから怯えて逃げるか、逆に近づいてくるかは賭けだった。 逃げるようならそれまで。しかし近づいてくるようなら、再度爆撃の機会を得る。 結果、狙いどおり近づいてきた標的に爆弾を投下できたが、これは不発に終わってしまった。 これで賭けは一勝一敗といったところだろうか――そして、勝負はまだ続いている。 「爆弾を持っている私にわざわざ向かってくるということは、戦う意志アリってことよね」 望むところだ。 店内の構造は既に把握している。相手の行動も予測しやすい。動きを知る術もある。 地の利はこちらにあった。ストロベリー・ボムがあれば物量戦になっても押し勝てる。 「しっかり見ていなさい」 迎撃に移るその直前、千夏は誰もいないはずの虚空に向けて、意志ある言葉を発した。 それは、プロデューサーの命を握り、どこかでこの模様を観察しているだろう黒幕に宛てたメッセージ。 それは、いままで爪を研いでいた獣が、いよいよ狩りを始めるという決意表明。 「皆殺しにしてみせるわ」 相川千夏は、迫り来る三人を迎え撃つ――殺すために。
388 :賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:42:27 ID:h7QNc0Us0 【C-6・スーパーマーケット内2階食堂/一日目 午前】 【相川千夏】 【装備:ステアーGB(19/19)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×9】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:地の利を活かし、誘いに乗った三人を迎撃する。 2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。 【C-6・スーパーマーケット内1階入り口/一日目 午前】 【向井拓海】 【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)】 【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2、特攻服(血塗れ)】 【状態:全身各所にすり傷】 【思考・行動】 基本方針:生きる。殺さない。助ける。 1:スーパーマーケットに入り、爆弾魔を無力化する。 2:引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する) 3:涼を襲った少女(緒方智絵里)の事も気になる 【小早川紗枝】 【装備:薙刀、ジャージ(紺)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。 1:スーパーマーケットに入り、爆弾魔を無力化する。 2:引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する) 3:少しでも拓海の支えになりたい 【松永涼】 【装備:イングラムM10(32/32)】 【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:小梅と合流。小梅を護り、生きて帰る。 1:スーパーマーケットに入り、爆弾魔を無力化する。 2:小梅と合流する。 3:他の仲間も集め、この殺し合いから脱出する。 「……向井はん、待っておくれやす」 「なんだよ、止める気か紗枝?」 「ちゃいます。落ち着いて、みんなで足並み揃えよう言いたいんやわ」 「はあ?」 「アタシらも一緒に行くからさ、一人で先走んなって話さ」 紗枝が拓海の右肩を掴んだまま、涼が左肩を掴む。 そうして、同時に一歩。 三人が横一列に並ぶ。 そして、決意と覚悟を胸に眼前の建物を睨み据えるのだ。 その心情を読み取った拓海は、嬉しそうに頬をゆるめ。 「……へっ。ほんっとーに頼りになるヤツらだな、おまえらよ!」 今度は三人同時に、一歩。 【スーパーマーケット店内従業員食堂】 賽は投げられた。 いや、違う。 賽は自らの手で投げなければいけないものだ。 「必ずものにしてみせるわ――このチャンスをね」 食堂の窓から、スーパーマーケットに向かってくる獲物を見下ろすのは――自ら賽を投げた相川千夏である。 去りゆく三人の注意を誘うため、駐車場に停めてあった乗用車をまず爆破。 誰であっても振り向くだろう。そこから怯えて逃げるか、逆に近づいてくるかは賭けだった。 逃げるようならそれまで。しかし近づいてくるようなら、再度爆撃の機会を得る。 結果、狙いどおり近づいてきた標的に爆弾を投下できたが、これは不発に終わってしまった。 これで賭けは一勝一敗といったところだろうか――そして、勝負はまだ続いている。 「爆弾を持っている私にわざわざ向かってくるということは、戦う意志アリってことよね」 望むところだ。 店内の構造は既に把握している。相手の行動も予測しやすい。動きを知る術もある。 地の利はこちらにあった。ストロベリー・ボムがあれば物量戦になっても押し勝てる。 「しっかり見ていなさい」 迎撃に移るその直前、千夏は誰もいないはずの虚空に向けて、意志ある言葉を発した。 それは、プロデューサーの命を握り、どこかでこの模様を観察しているだろう黒幕に宛てたメッセージ。 それは、いままで爪を研いでいた獣が、いよいよ狩りを始めるという決意表明。 「皆殺しにしてみせるわ」 相川千夏は、迫り来る三人を迎え撃つ――殺すために。
389 : ◆44Kea75srM :2013/02/19(火) 05:44:36 ID:h7QNc0Us0 投下終了しました。 すいません>>388 コピペミスです。 本文は状態表までとなります。
390 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/19(火) 08:15:21 ID:oHY/.kN60 前回は初歩的なミスをしてしまい申し訳ありませんでした。 十時愛梨、予約します
391 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/19(火) 18:36:50 ID:BQFf4E8c0 すいません、投下遅れます 今夜中には投下しますので、少々お待ちください
392 :名無しさん :2013/02/19(火) 19:28:39 ID:IrhuUJE6O 投下乙です。 爆弾魔相手に屋内戦は危険だなあ。 どうなることやら。
393 : ◆44Kea75srM :2013/02/20(水) 00:12:43 ID:36U5Aujs0 なにか忘れてる……と思ったら感想投下するの忘れてた。投下乙です! >バベルの夢 うわああああああちゃんみおが喋ってるぅうううううう(狂乱) 回想とはいえニュージェネ三人が仲良く喋ってるのを見ていいなー!いいなー!となったり。 でも奈緒加蓮とも良い感じのしぶりん。ロワ内での彼女たちを見ていると、どことなく修羅場の香りもしますやねえ……。 なにはともあれ、まずしまむー。本人いま大変なことになっているだけに、この二人の再会はぜひとも期待したい。 >彼女たちがページをめくるセブンティーン そしてしぶりんの流れからこの二人ですよ! やっぱり奈緒加蓮はいいなあ。 一修羅場くぐりぬけたところで今回はなんとなくのほほんとできたけど、見ているこっちもほんわかします。 というか一修羅場くぐり抜けた後にしてはのほほんとしすぎててデートのようにしか見えないんですけど!? ともあれもうしばらくは二人一緒の仲良しマーダーが期待できそう。
394 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:36:09 ID:HEKlPlY.0 遅くなってしまい申し訳ありませんでした。投下します
395 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:37:37 ID:HEKlPlY.0 「はぁ………」 コーヒーを口につけて、矢口美羽は息を吐く。 差し込む太陽と熱いコーヒーが彼女の体を暖めた。 横で道明寺歌鈴が同じくコーヒーを飲んで、熱さに思わずカップを落としそうになっていた。 「……苦いけど、美味しいね」 「……まぁ、美味しいんだけど。これからどうしよう……」 そう言って美羽は俯く。 この殺し合いには彼女と同じユニットのアイドル達がいる。 最初こそ、彼女達を生存させようと……殺し合いに乗ろうと動いていた。 しかし、彼女は普通の少女だった。自分の気持ちから目を逸らしても、無駄だった。 絶好のチャンスが目の前にあったのに、それを実行出来なかった。 彼女の心は、殺し合いを否定してしまった。それしか手段は無いというのに、ギリギリの所でそれをできなかった。 「……ごめんなさい。私、取り乱して……」 「ううん……私も結局、殺し合いなんて出来そうになかったから。 でも、このままだといけないのも事実……うー、どうしよう。何も思いつかない」 横で謝る歌鈴にフォローを入れつつ、頭を抱える。 今でも、自分より他のメンバーを生き残らせたいという気持ちはある。が、その手段が見つからない。 その現実と、先程の放送にて知った現状が、彼女を焦らせていた。 何せ既に十五人も死んでいる。あまりにもペースが早い。 そりゃあ少しは同一犯によるものや、自殺の類もあるだろう。 しかし、全てがそうだという希望的観測は出来ない。確実に複数人のアイドルが殺し合いに乗っている。 美羽に出来なかったことが、他の誰かにできている。 他のメンバーの現状は分からない。命の危機に晒されている事を否定出来なかった。 (……ここの人達は、どうするのかな) ふと、すぐ近くの喫茶店にいる高垣楓の事を考える。 彼女自身は『見せしめ』としてプロデューサーが殺されて、ほぼ意思は無い、流されるままになっている。 ではその彼女と一緒に居た人達はどうだろうか。 南条光とナターリア。二人の事は良く知っていた。 お互いテレビで活躍しているし、ナターリアとは話した事もある。 その時のイメージで考えるなら、まず殺し合いには乗らないだろう。 しかし、それと同時にそれ以上の事を考えていないような気もした。彼女達は純粋だし、幼い。 おそらく策も何も無いが、それでも反抗の意思だけは確かに示す。 そんな姿が容易に想像できて、そしてその思考には少し気が引けた。
396 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:38:44 ID:HEKlPlY.0 (私がどうこう言える立場じゃないのは分かってるけど……) 殺し合いなんてしたくない。それは彼女の本音であるし、それが一番良いに決まっている。 しかし、それで解決する事は何も無い。未来の無い綺麗事など、意味が無い。 (………ちょっと待ってよ) ふと、美羽の頭の中で何か引っかかったような気がした。 彼女の頭の中ではナターリアのイメージは完全に固まっていた。 しかし、それはあくまで彼女の中のイメージだ。確実にそうだと決まっているわけではない。 この場所で、本当に彼女が彼女でいるという保証はない。 何より彼女は既に人を――すぐ近くにいる寝ているように横たわっている少女――を手にかけたらしい。 彼女の心情はより正常ではなくなっている筈だ。なら……… 「コーヒーのおかわりはいる?それとも、ジュースの方が良かったかしら」 そうやって思考している内に、また喫茶店に向かっていた高垣楓は瓶を一本抱えて戻ってきた。 その瓶の中に満たされた液体は鮮やかな色をしていて、ラベルは英語で書いてあった。 それはいかにも怪しげというか、ジュースとは思えない雰囲気を醸し出していた。 「いや楓さん、それお酒ですよね……」 そりゃそうだろう、それはジュースじゃないのだから。 彼女の天然なのかどうかは分からないが、それは未成年の美羽が見ても分かるぐらいにお酒だった。 所謂カクテルであり、確かに子供ならジュースと間違えてしまうかもしれない物だが、それを大人である楓が間違えるのかと。 ……この際何故こんな所にそれがあるのかというのは気にしないことにする。 「……本当ね。ごめんなさい」 「いや、別にいいんですけど……ところで楓さん。 さっきナターリアを待つって言ってましたけど、もうどれくらい待ってるんです?」 そんな他愛の無い話題を早々に切り捨てて、気になっていた問いを聞く。 最初からナターリアの事を決め付けていたが、この状況ではそもそも前提が違う。 ここは殺し合いの場で、彼女は既にその手を血に染めている。 ……ならば、もう一つの可能性が存在するのではないか。 彼女が彼女ではなくなっている可能性。ひいては…… 「そうね……あれから、二時間は経っているかしら」 楓は少しだけ考えてから、そう答える。 二時間……どんな状況から追いかけて行ったのかは分からないが、どうも長く感じる。 その事実が、彼女の考えを更に大きくした。 「そうなんですか……」 そして美羽はただそれだけ答えて考え込む。 考えれば考える程、思い浮かんだもう一つの可能性が大きくなっていく。 その可能性が正しければ、彼女は……。
397 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:40:33 ID:HEKlPlY.0 ごめんなさい訂正 所謂カクテルであり、確かに子供ならジュースと間違えてしまうかもしれない物だが、それを大人である楓が間違えるのかと。 ↓ 所謂ワインであり、確かに子供ならジュースと間違えてしまうかもしれない物だが、それを大人である楓が間違えるのかと。 以下本文 「もし、ナターリアが戻ってこなかったら……」 そしてその考えはふと口からもれる。 その言葉に、楓よりも横の歌鈴の方が早く反応した。 「えっ?」 「あ……えっと、ナターリアは楓さんを助けようとしたからとはいえ、人を殺してしまった……。 ナターリアはそれを重荷に感じない性格じゃない。きっと、今も苦しんでると思う」 向こうのソファで寝ている様に死んでいる少女、佐久間まゆがどのように殺されたのかは分からない。 だが、少なくともナターリア自身に殺す意思はなかったはずだ。 根拠はない。彼女の性格からそう思っただけだが、今の彼女がそれでも自分の知る彼女なら、確かに確信はあった。 「だから、もしかしたら戻ってこないかも……ううん。むしろもう戻って来ないような気がします。 もしも私だったら、きっと耐えられません。多分、そのまま殺し合いに乗ると思うんです。だから……その」 考えていた事を続けていく内に、段々と語尾が弱くなっていく。 これははたして言っていいことだったのだろうか。あくまで仮定に過ぎない話なのだ。 光も一緒にいる筈、説得して戻ってくる可能性だってあるはずだ。 ……それでも、頭の中に浮かぶ最悪の事態が脳裏から離れなかった。 「そうね……もし戻ってこなかったら、その時は……」 その先を言おうとした矢先、足音が建物内に響いた。 「………!」 その音に思わず美羽は身構える。 普通に考えればそれはナターリアと光のものだろう。 しかし、ここは殺し合いの場だ。そうでない可能性も十分にありえる。 例えば……『一線』を超えた、殺し合いに乗るアイドルとか。 「…………」 歌鈴は不安そうにこちらを見上げる。 対して楓は、何も動じずに音のする方向を見続けている。 もう死を恐れない彼女の目には、何の感情も無い様に見えた。 そして、足音の発する方向から、二人の少女の姿が見える。 その姿は見覚えがある。テレビで見た、アイドルの姿だった。 「楓さん、待たせた……そっちの人は?」 そして、彼女達は合流する。 * * *
398 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:41:46 ID:HEKlPlY.0 「………ッ」 目の前にいる少女は、正に眠っているようだった。 しかし、その周りを染める赤色が、この現実を全て物語っていた。 今、確かに形として残っている『罪の証』。 彼女がもう一度アイドルになるために、向き合わなければならないモノだった。 「……ナターリア」 辛かったら……と、南条光は声をかけようとして、しかし思いとどまった。 うやむやにしてはいけない事だとこの場の全員が理解していた。 例えそれがどれだけ辛い事でも、彼女は目を逸らしてはいけない。 あれから五人は合流して、南条光とナターリアが戻ってきて最低限の自己紹介をした。 その時に居た二人の姿が光にはちょっとだけ気になったが、それもあまり対した事ではない。 それは、戻ってきた二人が真っ先にやらなければいけない事に比べれば些細な事だった。 「……………」 彼女が間違っていたが故に、終わってしまった短い命。 どう謝れば、どう償えば言いのか……ナターリアには全く分からなかった。 いや、本来ならば謝る言葉などないのだろう。それだけこれは大罪である。 それでも、彼女は一歩を踏み出さなければならない。過ちを『精算』して、尚且つ『決別』するために。 「……ごめんなさい」 長く続いた静寂は、彼女の一言で終わりを告げた。 しかし、それ以上何か言葉が繋がれる事は無い。 言葉が見つからない。 元々言葉を多く知っているわけでは無い彼女には、これ以上どのような言葉を言えば良いか分からなかった。 だから、彼女はそれ以上言葉を紡ぐのを止めた。 本当ならどれだけ謝っても足りない事だが、彼女は一言で済ませた。 どれだけ悔やんでも、過ぎた事は戻らない。 だが、それは決して忘れる事では無い。全てを背負って、また彼女はアイドルになる。 「ナターリア、これ以上なんて言ったらわからないけド……でも、 きっト……ううん、絶対に皆を笑顔にするアイドルになって見せるかラ」 ナターリアが『そこ』へ行くのは、きっと遠い遠い未来になるから。 その時に、どれだけだって謝るから。どんな罰でも受けるから。 だから。 「だから……見てテ。ナターリアはゼッタイ、皆に歌を届けるヨ」
399 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:42:21 ID:HEKlPlY.0 そして、それは簡素に終わった。 もしもこの場に親族か、あるいは親しい者が居たならば、なんて淡白なのだと怒るのだろうか。 しかし、ここは死を悲しむ場所じゃない。今なお人の命が危ぶまれている殺し合いの場なのだ。 届かない謝罪よりも、どこまでも響いていく筈の歌を届けたかった。 その想いを誰かが異常だと笑ったとしても、怒ったとしても。ナターリアは本気だ。 アイドルとして、一度道を踏み外したからこそ強い決意を持っていた。 「ナターリア……」 「うん……ごめん、これくらいしか言えないヨ」 その背中に光が声をかける。 呆気なく終わった謝罪を咎める者はだれもいない。 「いや……ここで立ち止まっている場合じゃない。全てが終わってから、もう一度謝ろう。 それじゃあ、一度皆でこれからどうしようかを話し合おう。アタシ達の道をはっきりさせる為に」 そういって光は全員の方向を向く。 ここに集まった五人は殺し合いをしないという事は共通していても、それぞれ秘めた思いがある。 それを一纏めにしないと、この先の脅威には到底太刀打ち出来ないだろう。 間違いは繰り返さない、繰り返させない。光もまた、強い決意を持っていた。 彼女達の思いが、今ここに交差しようとしていた。 * * *
400 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:43:07 ID:HEKlPlY.0 「………想像以上の成果ね」 弱者を狩る為に飛行場へ来た和久井留美は、その人数に驚いていた。 五人。この殺し合いの場で五人も集まっていたのである。 (ええ、想像以上……多すぎるわ。あの中に突っ込んでいくのは危険すぎる) だが、五人という数はむしろ不都合だった。 例え彼女達が弱者だったとしても、数が多いとそれだけで驚異だ。 何を支給されているかも分からない。どんな状況なのかも分からない。 そんな中、ショットガン一つで突っ込んでいくのは難しそうだった。 (と、なると……数が少なくなった所を狙う……?) 物陰に隠れながら、様子を伺う。 ここからでは話の内容など伝わらない。だが、そのうち誰かしらが動くだろう。 もしもあの五人が何らかの理由で分断されるならそれがチャンスだ。 (……焦らない、焦ってはいけない。 最悪の場合、待っているのは死……私自身の命が危ういわ) 長い時間になるかもしれない。何の成果も生まれないかもしれない。 それでも、死ぬよりかはマシだ。焦って命の危機に見舞われるよりかは、着実に動いた方が良い。 誰かが動いて、チームが分断されたなら少ない方を狙う。 多くても二人なのだから、手に持つ武器で一瞬で決まるだろう。 一人だけなら、弾薬を温存する為に灰皿と縄跳びで一瞬で決める。 どちらにしろ、そのチャンスが来るまで待つ。ただ、じっと待ち続ける。 五人がこれからも共に行動していくのなら、諦めるか、あるいは………。 (難しい事ではないわ……私はあの人の為に、どんな事だってやり遂げて見せる) その目は、怪しく輝いていた。 * * *
401 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:43:45 ID:HEKlPlY.0 (……あぁ、私の知ってるナターリアなんだ) 哀しくも強い決意を持った背中を見て、美羽は確信した。 結局のところ、彼女達は確かな意思を持って殺し合いに反抗しようとしていた。 それは、『普通の女の子』である矢口美羽とは大きく違っていた。 彼女達はアイドルだから、皆の憧れだから。例えどんなことがあっても綺麗事を貫いてゆく。 その姿は、正に美羽の知っているナターリアそのものであった。 (私には……そんな勇気は無いよ) そんな彼女の姿が、他のFLOWERSのメンバーの姿と重なって、そして彼女は俯く。 あの場所に私は立っていたのだろうか。 ナターリアのように、皆と同じように私は居られただろうか。 どう考えても、自分の姿は見劣りしていた。 彼女と自分は根本的に違うのだ。どれだけの困難が、どれだけの危険があろうと、彼女は立ち直り、前へ進んでいく。 もしもあの場所に美羽が居たならば、おそらくそのまま堕ちていっただろう。 それが、彼女達と自分の決定的な違い。『アイドル』と、『普通の女の子』の違いだ。 殺し合いは出来ない。かといって反抗する意思を示す事も出来ない。 隣の歌鈴や向かいの楓がどう思っているかは分からないが、少なくとも彼女は『普通の女の子』であった。 『アイドル』と『ヒロイン』。 そしてそのどちらにも属さない……どちらにもなる事が出来なかった者達。 彼女達の思いが今、ここに交差しようとしていた。 【D-4 飛行場/一日目 午前】
402 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:44:40 ID:HEKlPlY.0 【高垣楓】 【装備:ワイン】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x1〜2】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:まゆの思いを伝えるために生き残る? 1:これからの行動方針を話し合う。 【矢口美羽】 【装備:歌鈴の巫女装束、タウルス レイジングブル(1/6)、鉄パイプ】 【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:フラワーズのメンバー誰か一人(とP)を生還させる。 1:これからの行動方針を話し合う。 【道明寺歌鈴】 【装備:男子学生服】 【所持品:基本支給品一式、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残る。 1:これからの行動方針を話し合う。 【ナターリア】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、ワルサーP38(8/8)温泉施設での現地調達品色々×複数】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして“自分も”“みんなも”熱くする 。 1:B-2野外ライブステージでライブする。 2:これからの行動方針を話し合う。 【南条光】 【装備:ワンダーモモの衣装、ワンダーリング】 【所持品:基本支給品一式】 【状態:全身に大小の切傷(致命的なものはない)】 【思考・行動】 基本方針:ヒーロー(2代目ワンダーモモ)であろうとする。 1:仲間を集める。悪い人は改心させる 2:これからの行動方針を話し合う。 【和久井留美】 【装備:ベネリM3(6/7)】 【所持品:基本支給品一式、予備弾42、ガラス灰皿、なわとび】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える。 1:行動が起きるまで様子見。 2:『ライバル』の存在を念頭に置きつつ、慎重に行動。無茶な交戦は控える。 3:『ライバル』は自分が考えたいたよりも、運営側が想定していたよりもずっと多い……?
403 :千夜、舞姫 ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 00:45:09 ID:HEKlPlY.0 投下終了しました
404 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/20(水) 01:28:19 ID:HEKlPlY.0 あと、投下乙です。感想です >賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 相変わらずこの三人はいいトリオだなぁ……と、スーパーマーケット内で全面戦争か。 ちなったんはこの状態から誰か殺せるかなー。まぁ十中八九全員無事とはならないだろうけど 千夏の心情もただ冷静なだけってわけじゃない。恋する乙女なわけで…… この先どっちが勝つか……ナイスなプロローグです
405 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/20(水) 02:25:34 ID:dDjFZFjY0 皆さん投下乙です! >RESTART なつきち達の思いが此処にもつながれてるんだなあ。 そして、ちなっちゃんは此処を基準に……さてどう動くか。 >トリップ・アウト 肇ちゃんがヤバイなあ……もう心が壊れてる感じ。 杏も変な夢見てるし、此処は怖いな…… >彼女たちは硝子越しのロンリーガールフィフティーン しまむらさんが元気に放ってるけど、こっちも怖いなぁ。 ちゃんみお死んでるし…… 誰がこんな事に(ry >グランギニョルの踊り子たち 響子ちゃんKOEEE! 恐ろしいな……これはw 智恵里は、本当頑張れ……w >魔改造!劇的ビフォーアフター ゆかりさんが此処で落ちるとは…………orz 鮮烈な生き様だったなぁ。 きのこも友達のためにと頑張った >彼女たちは孤独なハートエイク・アット・スウィート・シックスティーン 接触はならず、けど。 なんか、困憊具合の描写が流石だなあ。 とときんとかな子は果たしてどうなるかな。 >バベルの夢 ううん、凛が素晴しい。 奈緒加蓮を思い、ニューじぇねを思い、さすが凛や。 どうなるか楽しみ >彼女たちがページをめくるセブンティーン 奈緒加蓮がいいなあ。 この二人だけの世界で、そしてもう戻れない二人。 まるでしに行くようで、哀しい。 >賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 おお、全面的に戦う? こういう振りは此処では斬新だなぁ。 結果はどうなる? 武装は千夏がいいとはいえ…… >千夜、舞姫 和久井さんは、さすが冷静だなあ。 4人が集まって、さてどうなる? …………というわけで、予約ミス気付かなくてすいません。 早速ですが、高垣楓、和久井留美、道明寺歌鈴、矢口美羽、ナターリア、南条光で予約します。
406 : ◆John.ZZqWo :2013/02/22(金) 22:34:14 ID:Dce5lolY0 投下乙です。 >賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 ついにちなったんの初仕事……だけど、どこか焦りが見えるような。クールに、クールにがんばって! そして対する姉御チームも頭に血が昇ってそうというか、非殺傷の精神で対するには相手の武装は過剰だぞー? この後、どうなるのか! >千夜、舞姫 こちらはうってかわって、まだ静かですね。わくわくさんもそろそろ仕事の成果が欲しいけど、どうするのかな。 そして集合した5人が選ぶ新しい道は……。うーん、こっちも後が気になる! で、予約延長しますね。
407 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/22(金) 23:09:28 ID:jsEmRA/o0 >スーパードライ・ハイ 何気に「ちひろさんの背景や思想に」注目したのはこのチームが初めてじゃないか? しかしそんな面白いとこに注目したユッキがなんだかヤバげなんですけど!? >彼女たちは孤独なハートエイク・アット・スウィート・シックスティーン 緊張感のあるニアミス、とときんが勘付いたかな子の不在、 戦闘にならずにすれ違っただけの話のはずなのに、存在感あるお話。さらっと上手いなぁ >バベルの夢 ここまでおおむね混乱して流されるだけだった凛の、静かな回想と決意のお話。 落ち着いた中にもこの先への希望と期待を感じさせる良いエピソードです >彼女たちがページをめくるセブンティーン その凛が気に掛ける2人は……お着換え希望!? と一瞬びっくりしたけど、そこに込められた想いに納得 なんだかこの2人はどこまでも危うくて、日常への未練と殺し合いへの踏ん切りの間で揺れてる感じでハラハラする >賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 慎重路線に徹してた人が、ついに勝負に出たー! そこに挑む3人組も戦意は十分ながら果たしてどうなることやら……次の話が気になって仕方ないっ! >千夜、舞姫 ナターリアの輝きの強さ、それを直視できない美羽。この集団は先が楽しみだけど同時に危ういなぁ そして大集団に行き会っちゃった和久井さんは、さて、成果を出せるのか……?! さて、ではこちらも。 諸星きらり、白坂小梅、以上2名予約します。
408 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:12:05 ID:.R9DGCys0 投下開始します。
409 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:13:07 ID:.R9DGCys0 ――――――答えなんていらなかったのに ――――――どうして今更、私はそれを欲してるんだろう 十時愛梨は、ぼんやりと毛布を被ったまま壁にもたれていた。 先程までの酷い気分も今は少し落ち着き、なんとか平常心を取り戻していた。 しかし依然として頭は重く、身体の疲労はむしろ休息前と変わらないくらいだった。 早朝は突然誰かがやってくる可能性を考えると充分休めたとはとても言えず、 その上行動を起こして早々に強い緊張を強いられ依然として身体は休息を欲している。 そういった事情だけでなく、愛梨は今現在別の理由で無駄に疲労してしまっていた。 些細なきっかけで芽生えた小さな疑念はまた新しい疑念を生み、頭はそれで埋め尽くされている。 三村かな子のこと、この殺し合いが始まる前にあった小さな変化、プロデューサーの真意。 先程まではこれらがぐるぐると頭の中を渦巻き、軽いパニックを起こしてしまっていた。 しかし、落ち着いた今でもそれらは答えを出せるような問いではない。 結局堂々巡りになってしまった疑念を一旦頭の隅に追いやって、一息ついた。 しかし一旦物思いに沈んだ頭は簡単に切り替わってくれず、今愛梨が思う事は…… 「楓さん……藍子ちゃん……どうしてるのかな」
410 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:14:56 ID:.R9DGCys0 今の愛梨にとって自分以外のアイドルは殺戮対象であり、興味のない存在だった。 正確に言えばそう思わないと耐えきれないというのが理由ではあったが、いずれにせよこの二人は特別だった。 高垣楓は同じプロデューサーを殺されてしまった、そして多分恋敵でもあった。 一体今はどうしているのだろうか、先程の放送で名前を呼ばれなかったということは間違いなく生きているのだろう。 ふと気付くと昨夜から何度も彼女のことを考えてしまっている、罪悪感がそうさせるのだろうか。 プロデューサーを殺してしまったことで、かつて楓を出し抜くような真似をした事実が愛梨により重く圧し掛かる。 もしシンデレラガールになったあの時彼にキスをしなければ、自分が抜け駆けをしなかったら。 もしかすると、あの教室で立ち上がって声を荒げたのは楓だったのかもしれない。 彼に最後の言葉をかけられていたのは楓だったのかもしれない。 もしそうなっていたら自分は今頃どうなっていただろうと愛梨は思う。 今自分を支えてる言葉が無ければきっと抜け殻になっていただろう、誰かに襲われても抵抗しなかっただろう。 いや、おそらく自らの手で命を絶っていたに違いない。 もしかすると楓も抜け殻のようになってしまっているのかもしれない、そう考えると更に気が重くなる。 生きていればいずれ対峙する時が来るだろうけどできれば会いたくはなかった、合わせる顔なんて今の自分にはないのだから。 そう、今の自分はもうアイドルでも、ましてやシンデレラでもない。 アイドルである前に一人の女の子である事を肯定してしまった自分にその資格はない。 その代わりに身勝手な、かつてシンデレラだった少女はアイドルという役割を別の女の子に押し付けてしまった。 高森藍子、彼女は自分が望んだように今もアイドルで有り続けているのだろうか。 きっとそうだろうと思う、どんなに辛くても藍子が簡単に折れることはないだろうから。 もし私が彼女のように誰かとユニットを組んでいればプロデューサーが死んでも折れなかっただろうか、 逆を言えばもしFLOWERSのプロデューサーが死んでしまったとしたら、彼女は折れてしまうのだろうか。 もう何があっても関係ないと思ってはいるものの、少しだけ気がかりだった。 もし藍子まで自暴自棄になったり、抜け殻になってしまったらきっとこの島にアイドルは居なくなる、 これが物語だったら自分が劇的な展開でシンデレラへと戻り、絶望に沈む藍子を救うのだろう。 最もそんな事は絶対にありえない、もう魔法をかけてくれる人は居ないから。
411 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:16:22 ID:.R9DGCys0 一旦考え込んでしまうと今までは関係ないと切り捨てていた筈の事が一気に噴き出てしまっていた。 例えば、もし自分が他の方法を取っていれば。 正解なんて欲しくはない、前になんて進めない、けれどどうして自分は殺す事を選んだのだろう。 愛梨にとってプロデューサーの言葉だけは貫かないといけない事、だが生きるために取ることのできる方法は他にもあった。 どうしてここまで辛く、残酷な道を選んだのだろう。 生き抜く、けれど何故殺してまで生きる事を選択したのだろう。 方法だけなら他にもあったはずだ、最初に藍子に会ったとき、 彼女と共にアイドル達の殺し合いを止め、力を合わせて脱出する方法を探すことも出来たかもしれない。 あるいは山中にでも身を隠し、茂みの中で一人絶望に沈むことも出来たはずだ。 それなのにどうして自分はそれらを拒んだのだろう。 「……そんなの、決まってるよね」 「……私の所為で死んじゃって、もっと強い何かで上書きしないと耐えられなくて」 「……皆が羨ましかった。妬ましかった。そして、許せなかった」 「……魔法をかけてもらえる人達が、一緒に生きていけるかもしれない人たちが」
412 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:18:09 ID:.R9DGCys0 口から自然に零れた言葉の意味に気付き、自嘲気味に愛梨は笑う。 自分はもうアイドルとして、それどころか一人の人間としてどうしようもなく、醜い。 自分自身がここまで酷い人間だなんて数日前までは思いもしなかった。 こんな風に歪んだ想いを抱え続け、破滅へと向かうなんて思いもしなかった。 両親や秋田の友人、仕事で関わっていた人達が今の自分を見たらどう思うだろう、 何かの間違いだろうと信じないだろうか、それとも恋に狂った愚かな女だと軽蔑するだろうか。 そんな事ばかり考えていると段々頭がぼうっとして、動こうとする意志まで失せてくる。 こんなに考え込んでしまうなら朝食なんて摂るんじゃなかったと後悔する。 もう少し休んでから行動するべきだろうか、しかしもう太陽は登っている。 民家にこれ以上留まるのも危険だが、かといって疲労が行動に影響しないとは限らない。 何より、今の状態で外に出れば無意識に考え事をしてしまいそうで危険だった。 愛梨は思考ですっかりぼやけてしまった頭で、もう少し休もうと判断した。 幸い出入り口は全て施錠しているから誰かが来ても確実に気付くだろう。 少しでも眠れば頭も切り替えられる、そう思って。 ――――――彼女はそれを、酷く後悔することになる。
413 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:19:17 ID:.R9DGCys0 私……なんで生きたいんだろう……私……どうしたいんだろう…… わからない、何もわからない。 さっきまでは全く気にならなかったのに、答えなんていらなかったのに。 ただ、プロデューサーさんの言葉を信じてればよかったのに。 ただ「生きる」ためだけに動いてればよかったのに。 私、なんで生きていないといけないんですか?プロデューサーさん? 生きるために殺してた、生き抜くために殺してたはずなのに。 じゃあなんで私は生きてるの?なんのために殺してるの? プロデューサーさんの言葉のために? じゃあどうしてプロデューサーさんは私に生きてほしかったの? どうして、どうして、どうして…………
414 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:21:30 ID:.R9DGCys0 ――――――昔の夢を見た。 それは、十時愛梨が「シンデレラガール」になる前の年のクリスマスに近づいた日だった。 偶然その日は収録が早く終わり、テレビ局を出たのはまだ夜に差し掛かった頃で、 折角だから家に帰って早めに休むようにと言うプロデューサーに愛梨は少し我儘を言った。 その頃彼は新たに担当する女性アイドルが一人増えて、時折その女性の話をするようになっていた。 駄洒落の対応に困った事、基本的には大人なのにちょっぴり子供っぽいところがある事、 彼女の話をする時の彼の表情はちょっと困った風で、けれど少し楽しげで。 このままだと鈍い彼はずっと自分の気持ちに気付かないまま彼女に惹かれていくんじゃないか、 自分にない面を持った彼女の話を楽しげにする彼に愛梨は焦燥感を抱いていた。 だから彼を少しだけでいいから独占出来る、そんな我儘を言う機会を窺っていた。 けれど僥倖に気の利いた対応をできる筈もなく、「少し歩きたい気分なんですっ」と強引に彼を連れ出し、 彼は困ったような表情だったけれど結局最後には折れて付き合ってくれることになった。 一緒に歩く街並みはいつもより少し特別な物に見えて、凄くドキドキしているのに、 彼は愛梨の体調の心配などをしたりして、いつも通り仕事の話ばかりだった。 時折見かけるカップルの話題を出しても特に気にした風もなく、自分だけが空回りしてるのかと少し悲しかった。 やっぱりどんなに頑張ってもそういう風に見て貰えないのかな、そう思ってると少し早い雪が降り始めた。 それはあの地方のあの時期にはちょっぴり早めの雪だった。 まるで、諦めかけた少女の背中を押してくれているみたいで、 だから例え届かなくてもいい、少しでも彼に意識して欲しくて、女の子として見て欲しくて、 勇気を振り絞って手を繋ごうとした―――――― あの日繋がれた手を見た彼は凄く照れくさそうな顔で、けれどそれを拒むことはなかった。 表情に出さなかっただけで本当は意識してくれてたのかなと家に帰った後嬉しくて眠れなかったのを覚えている。 十時愛梨の、彼と積み重ねたもう増えることのない大切な思い出の一つ。 ――――――けれど、たった今愛梨が伸ばした手が何かを掴むことはなかった
415 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:23:11 ID:.R9DGCys0 彼は愛梨が手を伸ばした瞬間立ち止まってしまった、彼女の手は空を切る。 不意に恐ろしくなり、愛梨は彼の顔を見上げると―――――― 彼は、とても悲しげに愛梨を見つめていた。 まるで今の彼女の姿を嘆いているかのように、これ以上に無いほど悲痛な表情を浮かべていた。 愛梨は胸を抉られるような痛みを感じた、どうしてそんな顔をするのだろうか。 頭ではもうほとんど分かっていた、ずっと前からそんなの分かっていた。 けれど、彼がこんな表情を浮かべるのを分かった上で選んだ筈なのに。 やっぱりそれは彼女にとって耐えきれないほどの痛みだった、彼にこんな表情をしてほしくなかった。 俯く愛梨に、彼は何処か悔やんでいるような声で言った。 「……愛梨、生きて。――――――――。」 愛梨は彼が言った言葉に気付くと、はっと顔を上げた。 けれどやっぱり、最も彼女が欲していた部分は聞こえなかった、 彼はもう一度辛そうに愛梨を見つめると、ゆっくりと歩き出す。 追いかけたいのに、彼女の足はぴくりとも動かなかった。 行かないで、愛梨がそう言っても彼は振り返ってくれない。 縋るように、叫んだ――――――
416 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:23:55 ID:.R9DGCys0 「――――――私はどうすればいいのっ!?――さん!」 「……っ……うぅ……あぁぁ……」 「…………あはは…………ひどいよ、私はただプロデューサーさんが好きだっただけなのに」 「確かに自分勝手な事をたくさんやったけど、それだけあなたが好きだったからなんだよ?」 「今だってそう……藍子ちゃんに私がやらなきゃいけなかった役割を押し付けて……」 「…………あなたが今の私を絶対に望まない事だって分かってるのに」 「……うぅ……ぐすっ……うわぁぁぁぁぁぁっ……」
417 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:25:21 ID:.R9DGCys0 自分自身の声で目覚めた彼女は、すっかり弱ってしまっていた。 悲しみに悶える彼女に周囲への警戒など出来る筈もなく、ただ衝動のまま泣き続けた。 彼の悲痛な表情は、あれだけ頑なだった愛梨を確かに揺さぶっていた。 しばらく泣き続けて、泣き止んだ後の表情は今まで以上に暗い物だった。 毛布を脇に置いてふらふらと立ち上がり、荷物を整理して外へと出ていく。 今の状態でやる気の人間と遭遇する危険性は充分分かっていた、 けれどこれ以上この場所に居ると二度と立ち上がれなくなってしまいそうだった。 愛梨は予定通りに遊園地へと向かうことにした、しかしそれはほとんど惰性に近いものだった。 【G-3・市街地/一日目 午前】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:やや疲労、憔悴】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 1:生きる、けれどどうやって……? ※冒頭の疑念に関しては一旦脇に置いています。
418 :揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:27:15 ID:.R9DGCys0 十時愛梨は消防署を抜け、遊園地の南の辺りまでたどり着いた。 ここまで来る途中誰とも遭遇することもなく、憔悴している彼女にとってそれは幸運な事だった。 市街地を歩いていた時になにやら人が言い争うような声が聞こえたような気がしたが、 建物の多さもあって鈍い動きではあったものの、身を隠しながら進むうちにあっさり通り抜けてしまった。 彼女は遊園地の入口の方向へと少し足を進めたものの、少し考え込む素振りを見せると背を向けた。 今の気分ではとても入りたい建物ではなかったし、何より誰かに遭遇したくなかった。 相手がやる気ならこちらも戦うつもりではあるけれど、勝つ自信はなかった。 もしそうじゃなくても、今躊躇いなく銃の引き金を引く自信はなかった。 きっとあの夢は自分の心の奥を映し出していたのだろう、と愛梨は歩きながら民家で眠った事を悔いる。 どんなに絶望と悲しみと覚悟で覆い隠しても、躊躇いは容赦無く彼女を揺さぶる機会を狙っていた。 ただの悪夢なら揺らぐ事なんてなかった、けれどプロデューサーだけは別だった。 どうすればいいか、わからない。 目的は変わらないけれど、手段はあやふやになってしまった。 愛梨の足は自然と遊園地の敷地を沿って山へと向かっていた。 今はもう誰とも話したくなかった、山の中に入ってしまえば簡単には遭遇しないだろうと思って。 【F-5・山間部/一日目 昼】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:やや疲労、憔悴】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 1:生きる、けれどどうやって……? 2:誰かに遭遇したとしても引き金を引く自信がない。 3:誰とも会いたくない、会っても話したくない。 ※冒頭の疑念に関しては一旦脇に置いています。
419 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/23(土) 00:27:49 ID:.R9DGCys0 投下、終了しました。
420 :名無しさん :2013/02/25(月) 19:37:24 ID:9BI6HB..0 投下乙です! ふーむ、そうなんだよなぁ…キル数2つとはいえかな子程覚悟が決まっている訳じゃないんだよなー、盲点だった。 無理矢理巻き込まれて、最愛の人を失って……悲しいけど魅力的。 そして遊園地はギリ避けたのか……さて一体どうなるやら
421 :名無しさん :2013/02/25(月) 19:40:12 ID:3rHqx55w0 投下お疲れさまです とときんいよいよ限界が近づいてきたなあ…… 今までPの言葉で何とか生かされていたけど、生きてどうするの? という問いに自分で至ってしまったらなあ……
422 : ◆John.ZZqWo :2013/02/25(月) 22:49:13 ID:E7e2Y6SY0 投下乙です。 >揺らぐ覚悟、果ては何処に 冒頭の答えなんて――がまさに、ですね。なにも考えなければきっと楽だったろうに……。 この後は、どうなるのかな? 良作をありがとうございます。 では、私も投下しますね。
423 :彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo :2013/02/25(月) 22:49:46 ID:E7e2Y6SY0 ガチャリ、そしてバタン。事務所のドアが開いて閉じる音に、事務員である千川ちひろは書類から顔を上げる。 フロアはプロダクションの規模の割りに狭く見通しがいい。彼女はドアを潜って入ってきた女の子の姿を見ると顔の表情をゆるめた。 「ただいま戻りましたっ」 元気よく声をあげて戻ってきたのは佐々木千枝だ。 11歳と幼いがもう立派なプロで、アイドル暦はまだ短いながら歌やモデルなどと仕事もそれなりに増えてきている。 入社した頃はまさに大人の中に混ざった子供という風で、事務所の中にいるだけでおっかなびっくりといった風だったのだが、 今ではまったくそんなことを感じさせず、むしろこちらがどきりとするような大人びた面も見せ始めている。 「おつかれさま。千枝ちゃんひとり?」 彼女からタクシーの領収書を受け取りつつ、千川ちひろは尋ねる。 「はい。プロデューサーさんは打ち合わせがあるから、また事務所でって」 「なるほどね。じゃあ。莉嘉ちゃんは? いっしょの仕事だったわよね」 頷き、もうひとつ問いかけながら千川ちひろは壁際のホワイトボードへと歩み寄る。 そこに書かれた予定表によると、彼女は城ヶ崎莉嘉といっしょにティーン向けアパレルブランドの撮影モデルに出ていたはずだ。 「莉嘉ちゃんはお姉さんとそのまま帰るって言ってました」 「ああ、そういえば今日はお姉さんのほうも同じスタジオで撮影だったわね」 千川ちひろは赤色のペンを取り、スケジュールの佐々木千枝と城ヶ崎莉嘉の欄に『了』と書き込む。 そして城ヶ崎莉嘉の欄には更に『直帰』と書き足した。その上、姉の城ヶ崎美嘉の欄にはもうすでに『了』『直帰』と書かれている。 彼女からは直接連絡を受けていたが、おそらくその後で妹と合流したのだろう。 「千枝ちゃんはここでプロデューサーさんを待つのかしら?」 「えぇと……はい、そうです」 仕事場で大人相手にハキハキと応答できるようになった彼女も、ことプロデューサーのこととなると途端に舌足らずになる。 確認するまでもなく、プロデューサーに直接家まで送ってもらうのは彼女と彼の間の約束だ。 どうして彼女と彼の間で、そして彼女がその約束をとりつけたのか、それも今更あえて推測するものでもない。 千川ちひろは顔を赤らめる佐々木千枝にくすりと笑い、受け取った領収書の額を確認して状差しに刺した。 彼女が直接自分で家に帰るようになればこのタクシー代金も浮くわけだが、千川ちひろは事務員であって経営者ではない。 だったら、たとえ経費の無駄であろうと、プロデューサーを待つ間そわそわとする女の子を見れるほうがいい。 むしろ彼女が女の子として、そして結果として『アイドル』として輝くのならば、この機会と時間は十分に経費に見合ったものだとも言える。 「じゃあ、なにか飲みながら待ちましょうか」 そう言って、千川ちひろは佐々木千枝をソファに座らせ、給湯室へと入った。
424 :彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo :2013/02/25(月) 22:50:20 ID:E7e2Y6SY0 @ 窓の外の風景は夕方の茜色から少しずつ夜の深い藍へと色を変えつつある。 プロデューサーからの連絡がメール一通すらこないことにやきもきしながら、佐々木千枝は千川ちひろとソファの上でテレビを見ていた。 「今日はなんだか人がいないですね」 「そうねぇ、みんな忙しくなっちゃってきたし、たまにはこういう日もあるわね」 あれから後、誰か他のアイドルが顔を出すということもなく、佐々木千枝はずっと千川ちひろと事務所でふたりきりだった。 普段だと必要以上に個性的なアイドルが何人かはいて、それぞれに賑やかにしているものだが、今日は誰もいない。 それどころかプロデューサーや事務員の姿も千川ちひろ以外は見えず、広いフロアはがらんとしていて――どこかそら寒い。 「(プロデューサーさんまだかな……)」 テーブルの上の生八つ橋を一口食べて、自分用のマグカップに注がれた緑茶を飲む。 マグカップに緑茶というのはおかしいが、かといって飲み物にあわせてカップを用意できるほど給湯室の棚は広くはない。 生八つ橋は事務所の中でじみーに定番化しているお菓子で、今では事務所の毎月のお菓子代の中に八つ橋枠が設けられていたりもする。 最初に持ち込んだのは京都出身の塩見周子だが、大阪でも割りと定番らしく主に関西出身のアイドルを中心に食べられていた。 味や食べ方にも色々なバリエーションがあり、佐々木千枝は川島瑞樹が八つ橋をオーブンで焼いて食べているのを見たことがある。 今、佐々木千枝が食べているのは定番のニッキ――いわゆるプレーンな生八つ橋と、これも定番の抹茶の生八つ橋だ。 余談はさておき、今テレビの中ではサバンナに生きるライオンがインパラを襲い、食べようとしているところだった。 メスのライオンが鹿のような生き物であるインパラの群れにそっと近づき、間近までくると猛然と飛びかかる。 インパラの群れは散り散りに逃げ出しライオンとの決死のおいかけっこが始まった。 ほとんどのインパラは無事に逃げ切るも、しかし一頭の、しかも子供のインパラがライオンに噛みつかれ地面に押さえつけられている。 おそらくは母親なのだろうインパラが遠巻きに伺うが、間もなく子供を見捨てて逃げ出してしまった。 後はもうライオンにつかまった子供のインパラが食べられてしまうだけ――というところで番組は区切られCMが流れ出す。 口の中に入れた生八つ橋を噛むのも忘れるほどの緊迫した光景だった。 「よく言われることだけど、自然の中というものはやっぱり怖いものね」 「はい、子供のインパラもお母さんのインパラもかわいそう……」 佐々木千枝の頭の中にはライオンに噛みつかれて血を流すインパラの子供の姿が残っていた。 もし自分があんな風にと想像すると背筋が寒くなるし、母親のインパラのことを考えるとやはり同じように悲しくかわいそうだと思える。 「――じゃあ、ライオンがインパラを襲って食べることは悪いことかしら?」 「え?」 千川ちひろはテレビの方を向いたまま問いかけてくる。テレビの中では『TERRAZI』という車メーカーのCMが流れていた。 「ライオンは悪者だって思う?」 「それは……、しかたないことだと思います。ライオンだって食べないと死んじゃうし、それが自然だってことだから」 「そうよね。生き物はなんだって他のなにかを奪ったり食べたりしてるわけだもの。かわいそうだけど、しかたないことよね」 じゃあ、と千川ちひろは言葉を続ける。 「人間が他の人間を襲ってお金や食べ物を奪うのはどうだと思う?」 どきりとするような、いつもの彼女らしくない物騒な話だった。 「それは悪いことだと思います。他の人を叩いたり、お金を取ったり……そういうのは、社会のルー……法律に違反してますから」 「そうよね。千枝ちゃんの言うとおり。人間はルールを作って自分達の世界からできるだけ嫌なことを取り除いているわ。 だから私は勝手にみんながさしいれしてくれたお菓子を食べないし、千枝ちゃんのプロデューサーさんをデートに誘ったりしません」 「ち、ちひろさんッ!」 冗談よと笑う千川ちひろに佐々木千枝は「もうっ!」とふくれてお茶を飲み干す。 いつの間にかにCMは終わっていて、今度は一面真っ白の氷の世界でペンギンの群れが海に飛び込んでいる光景が流されていた。
425 :彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo :2013/02/25(月) 22:50:41 ID:E7e2Y6SY0 「でも、もし……そのルールがなくなったら千枝ちゃんはどうする?」 「…………え?」 千川ちひろはテレビではなく佐々木千枝のほうを向いていた。そしてその顔にはいつもの彼女からは想像できない厳しさが浮かんでいる。 「ある日、戦争とか、もしくは大きな“災害”が起きて、この人間の社会が一瞬で壊れちゃうの。 もしそうしてこの世界からルールが消えてしまったら、千枝ちゃんは誰かを襲ったり、奪ったりすることができるかしら?」 「そ、そんなこと……しません。ルールがなくなって、お巡りさんが見てなくても、悪いことは悪いことだし……」 「社会が消えるってことは自然に戻るってことよ。自然の中だったらそれは悪いことじゃないんじゃなかったかしら。 それに自然の中じゃ、なにも奪わずに生きていくことはできないし、家族や大事な人を守ることだってできないかもしれない」 「…………でも、そんなの、……怖い」 世界がグラグラと揺れ出す。 千川ちひろの言葉に揺さぶられて? いや、そうではなく、また比喩でもなく佐々木千枝の世界は――視界はぐらぐらと揺れていた。 「よく覚えておいてね千枝ちゃん。あなたはライオン? それとも食べられた子供のインパラ? それとも子供を食べられた母親の――……」 全ての感覚がしだいにぼやけ、そして薄まって遂には消え、佐々木千枝の世界は闇の中へと落ちていった。 @ そして、闇の中から二度目の覚醒を経て、佐々木千枝は見覚えのない夜の街(ステージ)へとその身を現していた。 街頭が作る小さなスポットライトの中に彼女の小さな姿はあり、そしてその小さな手には、ただ無骨な手榴弾だけが握られている。 わけのわからないことばかりだ。だがしかし、彼女はただひとつのことだけは強く理解していた。 自分達を守る世界(ルール)は崩壊し、自然(サバイバル)の中に落とされた。 「……………………千枝、プロデューサーさんを守らないと」 手榴弾を強く握る。それは彼女にとってライオンの牙だった。 【B-4/一日目 深夜】 【佐々木千枝】 【装備:US M61破片手榴弾x1】 【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーさんを守る。 1:やらなくちゃいけないんだ。
426 : ◆John.ZZqWo :2013/02/25(月) 22:50:58 ID:E7e2Y6SY0 以上で投下終了です。
427 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:18:31 ID:8m638D020 投下乙ですー >揺らぐ覚悟、果ては何処に うわぁ、揺らいでるなぁとときん……。そうだよなぁ、そんなに強くないよなぁ 時間が経ったからこそ見えてくることってあるよねぇ。 さて、この先彼女はどこに辿り着くのか……心理的にも場所的にも。 >彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ちひろさんの鬼ー! 悪魔ー! 守銭奴ー! まったくなんてことをー! 千枝ちゃん登場話の思い込みの強さに対する、上手い補完話ですわー。 これは確かにあんな行動にもなるよ! さて、ではこちらも、予約分を投下致します。
428 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:19:10 ID:8m638D020 『タレント』という言葉は、本来、生まれついての才能・優れた天分のことを指す。 持てる才能に見合った場を得られることは――おそらく、幸運、なのだろう。 少なくとも、一般論としては。 =============================================== 残酷なまでに明るい、朝の陽射しの中。 「それ」は現場に戻った彼女たちの眼前に、見覚えのある姿そのままに残されていた。 「うゆ……」 文字通りの超大型アイドル・諸星きらりが、彼女らしくもなく言葉に詰まる。 その背後に半ば隠れるように張り付く白坂小梅も、普段にも増して蒼白な顔で「それ」を見つめる。 黒焦げの、顔の造作どころか年齢性別すら判別できないであろう――かつて、人間だったはずのモノ。 ドラッグストアで起きた大火災の場で、ついつい乗り捨ててしまった折り畳み自転車を回収にきた2人。 だから、この「再会」は必然でもあった。 既に最初の火災現場そのものは、自然鎮火しつつあるようだった。 煙はいまだ細く上ってはいるが、むしろいまなお燃えているのは延焼した近くの建物の方。 遠目に見ていた時には分からなかったが、近づいてみれば分かる。 その延焼も、あまり派手なものではない。 火に巻かれる心配は、とりあえず無用のようだった。 そのことを確認し、おおむね安全だと見極めた上で歩み寄った彼女たちの眼前で。 ビルの正面から少し離れた所、以前、藤原肇が思わず駆け寄ろうとした「彼女」の骸は、変わらぬ姿でそこにあった。 あまりにも小柄で。 あまりにもまっ黒で。 まるで大地に口づけでもするかのような格好で、身を丸くして蹲った遺体。 夏の日にいつか見たセミの抜け殻を思い起こさせる、そんな、魂の抜け殻。 名前を推し量る材料すら残っていない、それでも集められたアイドルたちの1人だったに違いない、少女。 夜、最初に見つけた時には既に手遅れで、その後もトラブル続きで、礼を尽くす余裕もなかった相手。 「ごめん、にぃ……きらりんたちには何もできないけど、せめて……」 「…………」 ナムナム。 諸星きらりは神妙な面持ちで、青い空の下、両手を合わせて首を垂れた。 口を突いて出た念仏(?)は適当だったし、こういう場での作法もよく知らない彼女ではあったが…… 込められた祈りの気持ちだけは、真摯だった。 隣に並んだ白坂小梅も、無言のままにそれにならう。 誰が見ている訳でもないこの場において、それでもそれは、きらりの精一杯の誠意であり、弔いだった。 ===============================================
429 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:20:23 ID:8m638D020 「みーっつけたーっ! きゃっほー! ちょぉ〜っと汚れちゃったけど、やっぱこの子きゃっわうぃー☆」 数分後。 お目当てのモノを瓦礫の影に発見したきらりは、その場で派手に飛び跳ねる。 彼女の支給品である、折り畳み自転車。 あの混乱の中、爆発や崩壊・周辺の建物の延焼に巻き込まれた可能性も危惧されていたが…… どうやら幸運にも、無事であったようだ。 ボディ部分には細かい傷や汚れがついているが、タイヤやチェーンなど重要な部分は特に問題もなさそうである。 きらりはヒョイ、と自転車を持ち上げて一通り検分すると、安堵の溜息を漏らした。 「良かったにぃ! ささ、小梅ちゃん乗って乗って☆ きらりんぱわー・ふるすろっとるで…………って、どうかしたにぃ?」 喜び勇んで小ぶりな自転車にまたがったきらりは、そして同行者に後ろに乗るように促そうとして、首を捻った。 見れば、彼女は――白坂小梅は、きらりに横顔を見せたまま、動こうとしない。 彼女の視線の先を追ったきらりは、少し困ったような、彼女には珍しい曖昧な笑みを浮かべる。 小梅が見ていたもの、それは。 「みゅう……。 んー、気持ちは分かゆけどぉ……」 「…………」 じっと見つめる先には――先ほどの、黒焦げの遺体。 きらりは困り果てる。 後ろ髪引かれる想いなのは、きらりも一緒だ。 正式なお葬式なんてできる訳もないけれど、こんな場所に野ざらしにしておくのが望ましいとは思わない。 とはいえ、じゃあ、どうすればいいというのか。 自分たちに、何ができるというのか。 時間の余裕だって、あまりないというのに。 「その子は、もう……」 「……ち、違う……そうじゃなくて……」 言いよどむきらりの言葉に、しかし小梅は小さく、はっきりとかぶりを振って。 つぅっ、とその細い腕を挙げると、呟いた。 「『あの子』だけじゃなくて……き、きっと、『もう1人』、いる……!」 彼女の指した先には―― 地に伏せた格好の黒焦げの少女が、頭を向けるその先には。 かつてのビルの、おそらく入口付近。 ひときわ大きく山をなした、瓦礫が積みあがっていた。 ===============================================
430 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:21:06 ID:8m638D020 「――――にょ、っわーーーーっ!」 ガラン! ガラランッ! 青空の下、きらりの咆哮と共に、盛大な騒音が響き渡る。 もうもうと粉塵が舞い上がり、慌ててきらりは跳ぶように離れる。 積みあがっている瓦礫の大半は、高熱に炙られ剥がれ落ちたビルの外壁。 流石に鉄筋コンクリート製のビル本体はそうそう易々と崩れたりはしないが、その外装部分となると話は別だ。 壁面に貼り付けられていた構造物が、不規則な形で剥がれ、落下し、積み上がり。 さらに何度かの爆発に煽られ、飛んできた雑多なものと一緒に、絡み合うように大きな塊となっていた。 いま、きらりが渾身の力でひっくり返したのは、そんな塊の1つ。 規格外に大柄な彼女が、全身の力を込めてようやく一瞬だけ持ち上げられるような、そんな重量。 果たして舞い上がった粉塵の下から、陽光の下に姿を現したのは。 「あ…………」 「やっぱり……!」 虚空を掴もうとするかのように伸ばされた――まっ黒な、細い腕だった。 口元に手を当てたきらりが、思わず目をギュッとつぶって顔を逸らす。 白坂小梅が、前髪の下で目を見開く。 そこにあったのは、先に見つけたあの遺体よりもなお痛々しい、少女の亡骸だった。 人相も分からぬほどに黒焦げになっていたのは、さっきと同じ。 おそらく死因は同じなのだろう。 しかし、そこに加えて鋭利なガラス片が無数に突き刺さり、見るからに痛ましい。 さらにその下半身は、巨大なドラッグストアの看板に完全に潰されてしまっている。 建物の高いところに突き出していた看板が、骨組みごと火災で落下したものだろうか? ともあれ一見しただけでも相当な重量で、引っ張り出すことさえ難しそうだった。 きらりは涙ぐむ。 いくらなんでも、可哀想過ぎる。 こちらも髪も服も燃え尽きて、顔の造作も判別できず、それが誰なのか見当もつかない。 けれど、小柄な体格だけは隠しようがない。 先ほどの身元不明の子と同様の、子供のようにしか思えない身長。 ちっちゃくて可愛い子が2人、犠牲になったのは間違いなくて――それだけできらりには、とても哀しい。 これが大人だったら悲しみが和らぐとは思えないけれど、それでもこの惨状には、涙せずにはいられない。 と、そんなきらりの、すぐ脇で。 「ひどい……にぃ…………って、小梅ちゃん!?」 「…………」 小さな影が――白坂小梅が、こちらも目の端に涙を溜めつつ、そっと新たに見つかった死体に歩み寄って―― ゆっくりと、時間の止まった黒い手を、握りしめる。 煤で汚れることも厭わず、その場に片膝をついて、両手で包み込む。 そして、そのまま数十秒の後。 きらりの方を振り向くと、小首を傾げてこう言った。 「……き、きらり、さん。 その……『そっちの子』を、つ、連れてきて、貰えますか……? 『この子』のすぐそば、手が届くくらいのところまで……!」 ===============================================
431 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:22:08 ID:8m638D020 傍目には何があったということもない、ただ静かなだけの時間が流れた。 小梅の指示に従って、きらりは、先に見つけた方の遺体を丁重に運ぶ。 路上に丸まった姿勢のまま炭化した身体は、うっかりすると手足や頭がもげてしまいそうで。 おっかなびっくり、ゆっくりと持ち上げ、移動させる。 小梅の無言のジェスチャーに合わせ、再び慎重に地面に降ろす。 ちょうど、頭を伏せた黒一色の少女の背に、瓦礫に半ば埋まった黒一色の少女が手をかざす恰好になった。 まるで相手に向かって土下座しているような姿の、1人目と。 それを労わるかのように片手を伸ばす、ガラスだらけのもう1人。 小梅はそして、小さく頷いた。 「が……頑張った、んだね……2人とも……!」 ささやくような声が、じんわりと溶けていく。 静かに太陽の光が降り注ぐ。 風すらも動きを止めた、穏やかな沈黙に満ちた空間で。 たっぷりの間を置いて、小梅が再び口を開く。 「大丈夫……きっと誰も、恨んだりしないから……! 届かなかったかもしれないけど…… 間違えたかもしれないけど…… でも、『許されない』なんてこと、ないから……!」 もちろん、答える者はいない。 誰もいない空間に向かって、小梅は真顔で言葉を紡ぐ。 そんな小梅を前に、きらりは珍しく黙ったままだった。 いつでも元気でハイテンションな彼女でさえ、自然と見守るしかないような、それは、確かに祈りの言葉だった。 ふと、小梅が視線をゆっくり、虚空へと上げる。 きらりもつられて、一緒に見上げる。 晴れ渡った青空。 遠くを流れる白い雲。 そして、くすぶり続ける火災跡から、まっすぐ静かに天へと昇っていく煙。 きらりの目には、そこには薄い煙以外、まったく何も見えはしなかったのだけど。 寂しい気持ちのまま、神聖な気持ちのまま、それでも、きらりも小梅も、共にかすかに微笑んでいた。 名前も知らない2人を見送るには、たぶんきっと、相応しい朝だった。 ===============================================
432 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:23:05 ID:8m638D020 「あ、あの……ご、ごめんなさい……!」 「んー!? にゃんのことかにぃ?」 「その……あ、あんまり時間なかったのに、あんなこと…… そのせいで、こ、こんな……予定台無しで……!」 あれから、しばらくして。 市街地を自転車に乗って駆け抜けながら、2人はやや声を張り上げながら言葉を交わす。 あの後――静かに2人で、改めて黙祷を捧げた後。 予定通りに自転車にまたがった2人は、予定していた灯台へ直進するコースではなく、進路を西に向けていた。 少しだけ西に向けて進んだ後、交差点で90度曲がって北へと向かう。 その最大の理由は、時間。 当初の想定よりも余計な手間をかけてしまった2人。 それでも自転車のスピードがあれば、C−7が立ち入り禁止になる前に北東に抜けることはできただろう。 ただしそれは、この先一切のトラブルなく順調に進むことができれば、の話。 逆に言えば、あと1つ「何か」に出くわせば、きらりと小梅、2人揃って爆死しかねないということでもあるのだ。 そこで、こう見えて意外と良識派の2人は、安全策を取ることにした。 ドラッグストア跡から一番近い「エリアの端」は、西の端。 ゆえにいったん西側のC−6との境界付近に出て、立ち入り禁止の予定区域からたっぷり余裕をもって脱出。 そこから北回りにC−7エリアに沿うよう迂回して灯台を目指すのだ。 確実な分けっこう遠回りになるし、山裾に一度昇ってからまた降りる、という手間をかけることになるのだが。 「きらりんのぱわーなら、だいじょーぶ☆ おっ任せ〜!」 きらりはニッコリと笑うと、ペダルを踏む足に力を込める。 小さな折り畳み自転車に2人乗り。それでもそのスピードは驚くほど速い。 ちなみに後ろにしがみついた格好の小梅は、情報端末を片手に拡大地図を見つつ、ナビの担当。 とりあえずあとは街外れまでまっすぐで、しばらくは指示の必要もない。 「そっ、れっ、にぃ!」 市街地の外れに向かうにつれ、道はゆるやかな登り坂になっていく。 ひときわ気合いを入れて漕ぎながら、きらりは後ろの小梅を少しだけ振り返って答えた。 「きらりんには、ちょぉ〜っと良くわからにゃかったけどぉ…… でも、『あの子たち』に必要なコトだったんだよねっ?」 「…………っ!!」 「なら小梅ちゃんも、もっと胸を張るー☆ ハピハピしたんだから、スマイルスマイル☆ ねっ☆」
433 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:23:44 ID:8m638D020 あけっぴろげに笑うきらりの言葉に、小梅は息を飲む。 息を飲んで、そして思わず、泣き笑いのように表情を崩す。 きらりは、小梅に尋ねなかったし、今もってなお尋ねようとはしなかった。 なぜ、あの場で完全に隠れて見えなかった『2人目』の存在に気づいたのか、とか。 なぜ、『1人目』を『2人目』のそばに持ってくるように言ったのか、とか。 なぜ、あの2人にあんな言葉を投げかけたのか、とか。 なぜ、あの時急に虚空を見上げたのか、とか。 小梅の目に映った一連の『出来事』は、いったいどんなものだったのか、とか。 誰もが聞きたがる、その手の問いかけ。 そして、自分から聞いておきながら、小梅が素直に答えれば微妙な表情を浮かべるのが常な、そんな問いかけ。 うんざりするほど繰り返して、今なおもってどういう対応が正しいのか、小梅にも分からない、そんなやり取り。 きらりはしかし、そういうことを一切口にしなかった。 きらりには分からない、と率直に認めた上で。 根掘り葉掘り確認したりもせずに。 なおその上で、小梅の判断と希望を全面的に支持したのだ。 支持して、尊重して、手助けしたのだ。 そのまま自転車を走らせながら、きらりは喋りだす。 「これは、Pちゃんからの受け売りなんだけどー☆ 『たれんと』って、もともと『才能』って意味なんだってー☆」 「……?」 「きらりんは、Pちゃんにみんなをハピハピ☆にする『たれんと』を認められて、 それで『あいどる』することにしたのですー☆ きゃー☆ 改めて言うと恥ずかすぃー! うぇへへー☆」 いやんいやん。 大きな身体をブンブン振り回して、きらりは大袈裟に恥じらってみせる。 それにつられてハンドルもブンブン振れて、登り坂を走行中の自転車は大きく揺れる。 慌てて必死にしがみつく小梅に、きらりはまったく変わらない調子のまま。 「だから……小梅ちゃんの『たれんと』も、その使い方も、りっぱに『あいどる』な気がすゆー☆」 「…………っ! わ、私も……『アイドル』……で、いいの……? だって……でも……!」 「もっちろんだにぃ! きらりんが太鼓判押してあげちゃう☆ きらりん印のハピハピアイドルッ!」
434 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:25:01 ID:8m638D020 きらりは断言する。 満面の笑みで、きっぱりと断言してしまう。 そのまっすぐな言葉は、暗い闇を晴らす、まばゆいまでの光。 超大型アイドル・諸星きらりが全身全霊で放ち続ける、きゅんきゅんするような、圧倒的パワー。 誰かを幸せにする、ただそれだけの、そのために授かった『タレント』。 純粋な想いと、才能の結晶。 奇跡のような、ともすれば悪い冗談のようにも見られかねない、危ういバランスの上にしっかり立った『アイドル』。 「『誰か』をハッピーにするためにいっしょーけんめーなのが、『アイドル』だにぃ!」 怪談話にはまるで向かない、燦々と降り注ぐ光の中。 白坂小梅は――ここ半日で自らの『アイドル』像に疑問を抱かざるを得なかった、ホラー系アイドルは。 きらりの大きな背中にしがみつきながら、霜が溶けるように、不安が消えていくのを感じていた。 諸星きらりと、白坂小梅。 それぞれ違う意味で「ふしぎ」なアイドルは、いまは共に前だけを見据えて、坂道を登っていく。 =============================================== ――そして、それは何の前触れもなく。 まったく異質な覚悟に基づく爆音が、幸せなサイクリングの時間を、乱暴に引き裂いた。 .
435 :哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:25:27 ID:8m638D020 「のわーっ!?」 「い、今の……っ!!」 最初に感じたのは、2人の背中を打つような爆発音と、衝撃波。 即座にきらりは、山道の途中でドリフト気味に急ブレーキ。 半ば宙に浮くような体勢で、それでも小梅はきらりの背に捕まったまま。 一挙動で自転車ごと振り返った2人は、そして見た。 いまさっき2人が抜けてきた街、2人が後にした火災現場から、向かって右側、西寄りの方―― 街の中から天に向かって燃え上がる、炎の柱。 さらに続けて爆音。一瞬だけ上がる、もう1本の火柱。 こちらはすぐに消えて見えなくなったが、最初の方の炎は轟々と燃え続けている。 ……まるで、夜、ドラッグストアで見た火災のように。 2人が今いる現在地は、地図上で言えばB−6の右下の隅に入ったばかり、といったところか。 そろそろ右折して東進する頃合いかな、と思っていたタイミングである。 ここからだと建物や木々が邪魔になって火元はよく見えないが、そう遠い距離ではない。 何より目立つ目印が絶賛炎上中なのだ。場所があいまいでも、迷う要素がない。 引き返せばすぐに現場に直行できるだろう…… が、その場合、彼女たちが受け持つことになった、灯台にいるはずの2人はどうなるのか。 ただでさえ時間に乏しいこの状況。 これ以上の寄り道は、本来の目的――次の放送で禁止エリアが増える前に避難誘導する――に支障を来たしかねない。 引き返すべきか、それとも、先を急ぐべきなのか。 諸星きらりと白坂小梅は顔を見合わせ、そして…………。 【B-6・南東の隅/一日目 午前】 【諸星きらり】 【装備:折り畳み自転車】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:杏ちゃんが心配だから杏ちゃんを探す☆ 0:今度こそ杏ちゃんを探しに行くにぃ☆ 1:あの火は何だにぃ?! 2:小春ちゃん達迎えにいくー☆ 【白坂小梅】 【装備:無し】 【所持品:基本支給品一式、USM84スタングレネード2個、不明支給品x0-1】 【状態:背中に裂傷(軽)】 【思考・行動】 基本方針:こんな自分にも、できることがあるのかもしれない 0:きらりについていく 1:新しく見えた炎に恐怖 2:泰葉に対する恐怖は、もう……? 備考:2人が目撃した新しい火災は、C−6の『スーパーマーケット』の駐車場の車が燃え上がったものです。 (『賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気』参照) 2人の現在地からでは障害物に視線を遮られ、上がった火柱しか見えず、詳しい状況が分かりません。
436 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/26(火) 19:25:52 ID:8m638D020 以上、投下終了です。
437 :名無しさん :2013/02/26(火) 21:22:04 ID:mjpAYFg6O 投下乙です。 きらりんの懐の深さに小梅もハッピ☆ハピー!
438 : ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:00:47 ID:BfLfjpvY0 お待たせしました、投下開始します。
439 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:03:07 ID:BfLfjpvY0 ―――ずっと想い続けるの 誰にも負けないほど君のそばにいたい ずっと ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 【集合】 空港の一室に、五人のアイドルが揃っていた。 亡くなった一人アイドルが横たわるソファの隣で、彼女達は話を始めようとする。 生きるために、生き残る為に、彼女達は、方針を定めるのだ。 それが生き残った者の定めだから。 「殺し合いはしない……その前提でいい?」 年長者の高垣楓の確認の言葉に、残りの四人の少女が一斉に頷く。 楓は返事を受けて、じゃあと言葉を紡ぐ。 「これまでの事とこれからの事を話しましょう。昼の放送までかかるだろうし」 まずは、これまで五人がどういう風に生きてきたか。 そして、これからどう生きるのか。 大事な、大事な一歩だ。 リスタートする五人にとっては。
440 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:03:39 ID:BfLfjpvY0 ……いや、 「…………私も加えてもらって良いかしら?」 「……誰!?」 「和久井留美よ。ナターリアちゃんは久しぶり」 「留美さんっ!? 生きてたんだネ!」 「ええ……私も殺し合いはしてないわ……信じてもらえるか解からないけど」 『6人』だった。 ヒロインである筈の和久井留美が姿をさらし、話し合おうとしている。 その意図はわからないけど、この輪に加わろうとしている。 「……いいわ、どうせ皆同じようなものだし」 楓は、留美を一瞥し、ふうと溜め息をついて、笑う。 この際一人増えた所で大きくは変わらない。 兎に角、もう一度、始まるためには、話さなければならないのだ。 これまでの事、これからの事を。 そうして話し合いは――始まる。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
441 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:04:03 ID:BfLfjpvY0 【ナターリア】 「まずは、ナターリアから話すネ……」 まず、口火を切ったのは、異国の少女、ナターリアだった。 胸に手を当て、深呼吸をして。 「ナターリアは……もう、二人も殺しタ」 「……え、二人?」 自分の罪の告白をした。 その言葉に、驚きの声を上げたのは、フラワーズの一人矢口美羽だった。 一人は美羽にも解かる。 今もソファーで横たわっている佐久間まゆだろう。 じゃあ、その前にも一人居るという事だ。 恐らく放送で呼ばれた十五人の中に。 「……ミリアを、撃ってしまっタ」 「みりあちゃんが……」 「事故と言えば良いけド……そんなので逃げちゃ駄目だヨ」 赤城みりあ。 天真爛漫の可愛らしい女の子。 美羽は彼女の事を知っている。 その彼女をナターリアが撃ったという。 信じられないことを言うが、こんな冗談を言う訳もない。 「つまり、そこで死んでいる彼女も、貴方が?」 「うん……そうだヨ」 何も知らない留美が、まゆの死もナターリアの手によるものかと訊ね、ナターリアは素直に首肯する。 なるほどとだけ留美は言い、続きをナターリアに促す。 その態度に、美羽は少しだけ違和感を示した。 この人はなんで、生々しい死体にこんなにもドライなんだろう? 幾ら年上とはいえ、明確な死に何も反応しないなんて。 「ナターリアがしてしまった事は許されなイ……きっと重い罪だと思ウ」 「……ナターリア」 「御免なさい……御免なさい……」 そして、ナターリアは謝罪を繰り返す。 きっと、謝っても許さない人は絶対に居る。 みりあとまゆの両親とかは絶対にそうだろう。 でも、それでも、ナターリアは謝る。 自分が犯した罪は罪なのだから。 「……でも……ナターリアは、それでも、歌を、皆に、届けるヨ」 それが、ナターリアのこれまでの事。 そして、ナターリアのこれからの事だ。
442 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:04:42 ID:BfLfjpvY0 「殺してしまったケド……それでも、心に燃える太陽は、想いは、冷めない……熱いままデ」 心に太陽を。 太陽は、冷めない。 熱く、熱く、燃えるように。 「亡くなった人に想いヲ……生きている人に応援ヲ……そして、殺してしまった人にモ……」 すべての人に 「熱い歌を、届けるんダ! それが、ナターリアがやるべき事……ウウン……したい事ダヨ!」 心の太陽を燃やせるように。 ナターリアは歌を歌う。 そう、決めたのだから。 「……流石ナターリアだね」 「そんな事無いヨ、ミウ」 「ううん、きっとそう」 「ミウもライブ会場で、一緒に歌おう! フラワーズのミウなら、届くヨ!」 そして、美羽はまざまざとナターリアの、アイドルの強さを見せ付けられたような気がする。 なんで、そんな罪を犯したのに、貴方は強いの? そう問いかけたい気持ちで一杯で。 ナターリアの強さを感じる一方で。 ――ねえ、殺したしまった人の言葉なんて誰が聞くの? そう、問いかけたい。 何もかも詭弁の聴こえて。 美羽は、不思議な気持ちで、ナターリアを見つめていた。 それが、ナターリアのこれまでとこれからだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
443 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:05:42 ID:BfLfjpvY0 【南条光】 「じゃあ、次はアタシ」 そう言って、ナターリアの次に手を上げたのはヒーローに憧れる少女、南条光だった。 一同が光に視線を集め、光は少したじろぎながら、言葉を紡ぐ。 「これまで……そうだな、アタシは……菜々さんとあって」 紡がれた名前。 安部菜々。 おっさん臭い、けれど可愛い少女だった事を道明寺歌鈴は覚えている。 でも、彼女は確か…… 「彼女はプロデューサーを助ける為に、殺しにかかってきた、アタシを」 もう、放送に呼ばれていて。 それはつまり。 「そして……アタシは菜々さんを倒した」 光が殺してしまったという事。 この事を光はどう受け止めているんだろうか。 正当防衛といってしまえば、その通りだろう。 素直に殺されれば言いとか、誰が言えるものか。 「正当防衛かもしれない……けど、それしか方法が無かった……というより、わからなかった」 それが正しいのか。 そんなもの解からない。 正しい方法なんて、誰が判断するのか。 「そういう意味では手を汚してしまったのはナターリアと変わらない。罪を背負ってる」 だから、光は臆せず罪を背負ってると素直に言う。 ヒーローがいつも正しいとは限らない。 ヒーローだって沢山罪を背負って、それでも自分が信じる何かの為に戦っている。 これが、南条光のこれまで。
444 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:06:55 ID:BfLfjpvY0 「だからはアタシは……まあ、ナターリアと変わらないんだけど、さ」 そして、南条光のこれからの事。 「アタシはヒーローであり続ける。間違ってるかもしれない。正しくは無いかもしれない……けどっ」 南条光は、ヒーローでいたくて。 それが間違いや正しくないとしても。 「アタシが憧れたヒーローとして、太陽として燃え続けるよ!」 憧れたヒーローとして貫く。 迷っても、苦しんでも。 いつまでも真っ直ぐに。 ヒーローで居るんだと、光は誓う。 太陽は不変に燃え続けるんだから。 「だから、ナターリアについていく。そして心の太陽を……見せ付けるんだ!」 それが、南条光のこれから。 ヒーローであり続けたい少女の思いだった。 けれど、光は、ヒーローで、いられるのだろうか? いつか、背負った罪に押しつぶされないのだろうか? だって、光は、所詮―――十四歳の少女でしかないのだから。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
445 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:07:27 ID:BfLfjpvY0 【矢口美羽】 「……次は私、かな」 そうして、フラワーズの矢口美羽の番が回ってきた。 歌鈴と一緒に行動していたし、これまでの事は二人ほどしてる事は無い。 「まあ、単純に言うと、殺し合いに乗ってました。歌鈴ちゃんと」 ただ、決定的に違うのは、殺し合いに乗っていたという事だけ。 二人で話し合って、決めた事だ。 「集団に潜り込んで、こっそり殺して……なんて、考えていたんですけど」 美羽は其処まで言って、ちらっと歌鈴を見る。 歌鈴は気まずい笑みを浮かべていて。 はあと心の中で溜め息をつきたくなる。 「まあ、楓さんに歌鈴ちゃんがぶっちゃけたので、ご破算です」 「……ご、御免なさい」 「流石に、もうあの死体みて誰か殺したいとか思いません」 これが、私のこれまでの事ですと美羽は簡潔に言う。 前の二人ほど、壮絶な経験した訳でもない。 けど、大事なのは。 これから。 「私は、フラワーズのメンバー誰か一人を生かしたい……その考えで、殺し合いに乗って……それは、全く変わっていません」 大切な、フラワーズ。 その誰かを生かすという事。 それは全く変わってない。 だって、自分には何も残っていないから。 自分はきっと輝けないから。 あんなにキラキラ輝いたフラワーズ。 そんな、フラワーズの希望なんて、アイドルの希望なんて。 「だから、どのように……彼女達を生き残らせるか……それだけを考えています」 私には、似合わない。 私は、ただの女の子だから。 何も決まってない。 何も定まらない。 そんな、矢口美羽のこれから。 いつかは覚悟を決める。 未だにポケットに入っている拳銃の、たった一つの銃弾が。 いつまでも、心に残っていた。 それを、和久井留美は静かに聴いていた。 ああ、この子はいいと思う。 とても、聡い。 誰かと協力し、そして潜り込む。 殺し合いに乗った留美だからこそ、彼女の考えは正しいと思う。 間違いはパートナーは選び間違ったぐらい。 なら、パートナーを変えればいい。 今は殺し合いは出来ないし、実際したくないだろう。 最初に一線を越えないまま死体を見ればそうだろう。 だけど、それは、いつかこちら側に立てるという事。 後は切欠さえ、あればいい。 (ねえ、美羽ちゃん。貴方の覚悟を……私は楽しみにしてるわ) そしたら、きっと、私達は――― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
446 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:08:34 ID:BfLfjpvY0 【道明寺歌鈴】 「じゃあ、美羽ちゃんに続いて……」 4番手は、巫女の道明寺歌鈴だった。 立ち上がる時、全力でこけそうになったが、それもいつも通りだった。 歌鈴のこれまでは………… 「……といっても、はい美羽ちゃんと大体一緒です」 えへへと恥ずかしそうに歌鈴は言う。 先程まで一緒に行動していたのだから、美羽と被るのは当然だった。 「でも、私は楓さんが死んでもいいと言った時、何処かでわたしが変わったと思うんです」 けど、楓と会った時、歌鈴は変わったのだろう。 楓にあって 「楓さんがずるいと思って……皆、皆、怖いのに死にたくないのに」 皆、怖くて。絶対死にたくないのに。 彼女は死んでもいいといって。 「私は大好きな人が居ます。プロデューサーさんです」 大好きな人。 自分のプロデューサー。 「その人の為に殺そうと思って……でも、殺そうと思って、殺せと言われたら何もできなくって……わたし、駄目駄目ですね」 その人の為に殺そうと思った。 けど結局殺し合いなんて出来なかった。 それが、道明寺歌鈴のこれまで。 これまでを経験して、歌鈴はこれからを語る。 それは、道明寺歌鈴のありのままの心だった。 「………………わたし、プロデューサーと結婚の約束をしているんです」 「……えっ」 「どうしました? 留美さん」 「……なんでもないわ。続けて」 歌鈴は、プロデューサーと婚約をしている。 大好きな人と約束しあった。 「トップアイドルになってからって……大切な夢なんです、絶対に無くしたくない夢なんです」 「……っ」 「だから、わたし、絶対に死ねません、死にたくないです。生きたい。生きてプロデューサーに会いたい。それが本心です」 大切な夢。 絶対に無くしたくない夢。 だから死ねない。 それが偽りざる本音で。 何故か言葉を紡ぐたび、留美が歌鈴を注目していたが、歌鈴はきにしない。 「でも、気付いたんです。アイドルとして、会わないと駄目だって」 「……どうして?」 「だって、そう約束したから。アイドルとしての歌鈴が好きで、そしてそれが、私と彼との約束だから」 「……っ!?」 そして、歌鈴はいう。 アイドルとして彼に会うと。 彼と交わした約束だから。 そういう夢だから。 「それに美穂ちゃんに……大切な親友の小日向美穂ちゃんに、会いたい。言葉を交わしたい」 小日向美穂。 大切な親友。 そして、裏切ってしまった親友。 「奪ってしまったから……ちゃんと、話し合いたい。彼の事を……どうなるか、解からないけど」 話したい。 話し合いたい。 「話さなきゃ…………駄目なんです。それが、わたしのこれから、です」 それが、恋に生きる少女の、これから。
447 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:09:05 ID:BfLfjpvY0 (ああ…………なんて、眩しいの) そんな、彼女をみるのは、和久井留美。 彼女もまた将来をプロデューサーと誓った人。 眩しい、眩しすぎる。 道明寺歌鈴が。 (……私も彼女のようにならなければならなかった?) だって、そういう約束を自分もしていたのだから。 アイドルとしてならなかったのは、留美だって一緒だというのに。 でも、でもだ。 そこまで、愛してる人が居るのに。 ―――どうして、貴方はアイドルでいられるの? 問いかけたい、言葉。 そんな 対極の位置に、道明寺歌鈴と、和久井留美は、居た。 アイドルとヒロインは、交差するのだろうか? ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
448 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:09:46 ID:BfLfjpvY0 【和久井留美】 「じゃあ、先いわせてもらおうかしら」 そうして、声を上げたのは、ヒロイン和久井留美。 彼女は五人を様子見していて。 そして、決めたのだ。潜り込むと。 どうやらこれから、話し合いをするらしい。 ならば、何かしらの情報などが沢山はいるだろう。 そう思ったから。 幸いナターリアがいたから、信じてもらえる。 だから、留美は行動をおこし、偽り合流した。 「これまでのこと……遺体になった今井加奈さんをみたわ……その後北東の町で火事があったのを見て避難してきたわ」 嘘は言っていない。 彼女を遺体にしたのは、自分自身だが。 それで、空港に着てみたら貴方達がいた。 そう伝えて、これからの事を話すと留美は言う。 「貴方達と行動したいわ。ちひろさんが何したいか解からないしね」 それも事実だ。 ただし、殺す隙を窺いながらという条件で。 内部に居て信頼を得れば、分断することもできるだろう。 そういう判断を下し、留美は此処に身をおく事を決めた。 勿論信頼はしない。殺されるかもしれないのだから、危険を察知したら直ぐ見切る。 そういう判断だった。 幸い収穫はあった。 矢口美羽と、道明寺歌鈴。 この二人は面白い。 特に前者は、興味深い。 さて、どうなるか。 (どうでても……私は優勝を目指すだけよ) どうなろうとも、留美は、あの人の為に、戦うだけ。 それだけ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
449 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:10:53 ID:BfLfjpvY0 【高垣楓】 「………………私ね」 そして最後に回ってくるのは、高垣楓。 「わたしのこれまでは……死んでもよかった。それで終わってしまうわ」 呟く言葉は簡潔で。 死んでもよかった。 だって、 「私のプロデューサーが死んだ。それが理由だった」 プロデューサーが死んだ。 それだけで充分だったから。 「なのに、まゆちゃんがついてきて……そして、ナターリアちゃんの事があって、今に至るわ」 楓は大分はしょって言った。 まゆのことは語りたくなかった。 だって、それは楓とまゆの事だから。 「それで、これからの事か…………ふふっ、言っておいてなんだけれど、何も考えてないのよ」 これからの事。 何にも考えてなかった。 色々託されたものがあった。 でも、解からない。 言葉も想いも出ない。 だって、 「私はプロデューサーに恋していた……それだけで、もう叶わない思いを抱きしめているのよ」 楓を未来に連れて行く風は吹いてない。 それだけ。 未だに時が止まっている。 動かすとならば 「………………死んだプロデューサーは、貴方のプロデューサーでも会ったのね。シンデレラガールズだけじゃなくて」 「……ええ、そうよ、留美さん」 「なら、彼が最後になんて言ったか聞いてないの?」 「――――え?」 それは、 「――――生きて」 こいという、かぜだろう。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
450 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:11:54 ID:BfLfjpvY0 ああ。 ああ……ああ。 なんて、なんて、あの人は。 出逢いは本当偶然で。 本当なんで好きになったかなんて。 解からない、けど。 でも、私は、出逢って。 初めて、恋をしたんだろう。 それなのに、彼は死んで。 私は、苦しくて、痛くて。 言葉にできない痛みを きっと恋と呼ぶのでしょう。 感じてる 初めて恋して生まれたこの瞬間を。 声が、リフレインする。 あの人が、私の名前を呼ぶのをリフレインしている。 楓さんと優しく呼ぶのが忘れられない。
451 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:12:51 ID:BfLfjpvY0 ああ、なんで、今になって、こんなに溢れるの? 苦しいほど、想いが、言葉が溢れていく。 ねえ、貴方は、どうして、そんな言葉を残したの? ――――生きて。 そんな言葉を。 私は、私は。 どうかかれば、生きていけばいいの? ねえ、何でそんな言葉を? ――――まゆは……かえでさんに、いきていてほしいんです……。わがまま……かも、しれませんけど……しんで、ほしくない…… ああ、どうして、皆、私に生きることを望むの? どうして? ねえ? まゆちゃんも、あの人も? おしえ…… ――天国に行っても、ずっと見ていますから…… ……不意にリフレインする言葉。 あぁ……あぁ、そうなのか。 そうか、そうなんだ。 死んでも、死んだとしても、あの人も、いろんな人が、私を見ている。
452 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:14:26 ID:BfLfjpvY0 高垣楓を。 自分をプロデュースしたアイドルを、ずっと見守っている。 だから、生きてと言った。 どうして? そんな簡単だ。 彼がプロデューサーだから。 私がアイドルだから。 そんな関係でも。 私達にとって、絆で何処までも行ける『翼』なんだ。 彼は言っていた。約束すると。 素晴らしいアイドルにするって。 何処までも、何処までも飛んでいくアイドルにと。 あぁ……ああ……ぁあ…… じゃあ、私は。 いつまでも、見守られて。 そして、生きてという言葉を、残してくれて。 そんな彼だから私はついていって。 だから、私は、彼に恋をして! 私は――― ―――アイドルになったんだ!
453 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:14:46 ID:BfLfjpvY0 今も、想いで胸が痛い。 苦しくて、苦しくて仕方ない。 これが、恋で、愛なのでしょう。 でも、だから。 君だけを 想う気持ち 伝えられる勇気が、 私にあれば切ない夜にさよなら出来る。 願いを込めて 私の愛を願って。 ――――さん、 踏み出す力下さい。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
454 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:15:49 ID:BfLfjpvY0 気がつけば、涙が溢れていた。 それでも、立ち上がっていた。 哀しいけれど、苦しいけど。 それでも、前に歩けていた。 ちょっとした、広い場所に出て。 楓は、ステップを踏んでいてた。 彼が私にくれた曲。 どこまでも風が感じられるような曲。 手を翼のように振るう。 脚は風のように舞って。 まるで、『神秘の女神』のようなオーラを放ち。 其処に居たのは、紛れも無い『アイドル』だった。 「ココロ風に 溶かしながら 信じてる未来に つながってゆく」 翼に恋という風を受けて。 「満ちて欠ける 想いはただ 悲しみ消し去って しあわせへ誘う」 この想いを抱えながら。 「優しい風 包まれてく あの雲を抜け出して鳥のように like a fly 」 高垣楓というアイドルは、 こいかぜを受けて、翼を羽ばたかせて。 ――――生きることを決めた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
455 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:16:32 ID:BfLfjpvY0 そして、溢れるのは拍手だった。 割れるばかりの拍手。 楓が振り返ると、其処には彼女を見ていたアイドル達がいて。 「…………ありがとう」 楓は微笑んで、お礼を言って。 「これからの事を宣言するわ」 太陽は昇っている。 空は何処までも、蒼い。 風は、いつまでも、吹いている。 「高垣楓は、生き続けるわ。アイドルとして、あの人が育ててくれたアイドルとして!」 風は、いつまでも、吹いている。 「どこまで、飛んでいってみせる!」 なら、何処だって、飛べる! それが、あの人に恋して、生きることを望まれた楓なのだから。 アイドルとして。 生きるんだ。 こいかぜは、いつまでも、楓の心に、吹いている。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
456 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:17:19 ID:BfLfjpvY0 「さて、放送まで休憩ね」 「ええ」 そうして、その後、6人は放送まで休憩することを決めた。 その後、ライブ会場に向かう事に決めた。 もう楓は迷わない。 生きる、生きて生き抜いてみせる。 そう決めたから。 「まゆちゃんのプロデューサーにも伝えないと……ね」 「何かしら?」 「女の約束よ」 「そう」 留美に言おうかと思ったが、それは内緒にすることにした。 だって、それはまゆとの約束だから。 生きると決めた以上、約束は、絶対護る。 「まずはお昼ご飯ね」 「……私に作れるかしら」 「まぁまぁ肩肘張らず、和久井さん、これもワークです」 「そ、そう……(駄洒落?)」 そして、みんなでお昼を作ろうと決めた。 生きるためには、ご飯だ。 そうして、二人は喫茶店に向かう。 四人はちょっと前で先に歩いている。 「―――さん、生きますから……だから、見守って」 返事は無いけど。 うんといってくれたはずだ。 だから。 「恋して、ました、大好きでした」 想いを伝えて、前に、行こう。 優しいかぜが、吹いていた。
457 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:18:24 ID:BfLfjpvY0 【D-4 飛行場/一日目 昼】 【高垣楓】 【装備:ワイン】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x1〜2】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして、生きる。生き抜く 1:アイドルとして生きる。 2:まゆの思いを伝えるために生き残る 3:今はご飯ね。 【矢口美羽】 【装備:歌鈴の巫女装束、タウルス レイジングブル(1/6)、鉄パイプ】 【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:フラワーズのメンバー誰か一人(とP)を生還させる。 1:とりあえずフラワーズの誰か一人は絶対に生還させる 【道明寺歌鈴】 【装備:男子学生服】 【所持品:基本支給品一式、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーの為にアイドルとして生き残る。 1:プロデューサーに会うために死ねない。 2:美穂と話し合いたい。 【ナターリア】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、ワルサーP38(8/8)温泉施設での現地調達品色々×複数】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして“自分も”“みんなも”熱くする 。 1:B-2野外ライブステージでライブする。 2:心に太陽を。 【南条光】 【装備:ワンダーモモの衣装、ワンダーリング】 【所持品:基本支給品一式】 【状態:全身に大小の切傷(致命的なものはない)】 【思考・行動】 基本方針:ヒーロー(2代目ワンダーモモ)であろうとする。 1:仲間を集める。悪い人は改心させる 2:ナターリアについていく。 【和久井留美】 【装備:ベネリM3(6/7)】 【所持品:基本支給品一式、予備弾42、ガラス灰皿、なわとび】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える。 1:潜伏し、機会を窺う。 2:『ライバル』の存在を念頭に置きつつ、慎重に行動。無茶な交戦は控える。 3:『ライバル』は自分が考えたいたよりも、運営側が想定していたよりもずっと多い……? 4:矢口美羽の動向に興味。 5:道明寺歌鈴に対して……?
458 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:19:17 ID:BfLfjpvY0 ――――カツン。 「あら、楓さん、何か落としたわよ」 「あら? 何かしら?」 「バッグからおちたみたいだから、支給品かしら」 「確認していてなかったから……SDカードみたいね」 楓はSDカードをまじまじと見て、留美がふと気付く。 「そういえば、情報端末に入れるところがあったわね」 「……そうなの? じゃあいれてみようかしら」 そう言って、楓はSDカードを端末に入れる。 そして―――― 「えっ」 「……えっ」 二人は絶句する。 うつされたのは 『今計画について vol1――千川ちひろ パスワードを入力してください』
459 :こいかぜ ◆yX/9K6uV4E :2013/02/27(水) 04:20:31 ID:BfLfjpvY0 投下終了しました。 最後の状態表の以後のパートの是非について、意見をください。 具体的には、パスワードはいるのか。そもそもリレーできるのか。 このパートはいらないなど、意見をお願いします
460 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/02/27(水) 20:20:01 ID:D53.6sHo0 投下乙です。 特に差し支えある部分が無ければ採用でいいのではないかと思います、 ただパスワードの有無については結構難しい扱いになるのではないかと思いました。 有りになると他の伏線もいくつかある為今後の展開がより複雑化して回収出来るのか、 無しになると何故SDカードが支給されたのか、何故パスワードを設定しなかったのか。 どちらの展開になっても楽しみではありますが悩ましいですね。
461 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/02/28(木) 01:48:54 ID:2lR8i7pU0 投下乙ですー >揺らぐ覚悟、果ては何処に とときん……嫌な所にはまっちゃったな…… 他のジョーカー組とは違って覚悟もできてなかったわけだし、そりゃこうなりますよなー これからどうなっていくのか、楽しみな繋ぎです! >哀(愛)世界・ふしぎ発見 きらりんのきらりんらしさがまんべんなく出てて素晴らしい。 小梅ちゃんも、単純に怯えるだけじゃなくなっているのが成長してきてるなー それでアイドルとして認められて、一歩踏み出した! ……んだけど、そっちは危ない!けど、涼との再会も期待したい……w >こいかぜ 楓さん覚醒ktkr! まゆちゃんの言葉と、プロデューサーさんの言葉が相まって、やっと翼を手に入れられたんだな… るーみんもステルスとして不安因子だし、元ステルス組も未だ不安定だし、 でもナタと南条は強い。粒ぞろいで、面白いチームになってきたなぁ! SDカードに関しては、俺ロワなので最終決定権は氏にあると思います ただ個人的な意見を言わせていただくなら、中身に対する考察や確認を他の方がするのは難しいかなぁ…と
462 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/02/28(木) 08:52:42 ID:nap9qSmM0 >こいかぜ 各人の告白と、それに対するリアクションのパート。 特にナターリアの罪と意志の噛み合わなさに違和感覚える子がいる、ってのがいいなぁ これだけ人数いれば、同じモノを見てても聞いてても見方が違ってくるのは当然だよねぇ…… しかしそんなことよりも楓さん。遅まきながらも再起動って感じですな! さて、問題の最後のパートですが……うーん。 そういう種類のアイテムがあってもいいとは思うのですが、情報端末を使うってのはどうなんだろう……? それと、そういう形で切り落とせる格好のパートに押し込まれたこと自体、yX/9K6uV4E氏の躊躇いを感じてしまいます。 今後一切その手のネタを差し込むチャンスが無くなるような話でもありませんし、 迷ったり意見募ったりするくらい不安なら、今回は見送っては?と思ってしまいます。
463 :名無しさん :2013/02/28(木) 11:28:27 ID:o.rA6pSU0 ただのsdカード+パス付きでよいのでは? もし中のデータを『計画』の核心に迫るものとするのであれば、書き手の皆さんでどういった内容か ある程度は話し合って、共通認識を持っておいた方がリレーしやすいのではないですか?
464 : ◆U93zqK5Y1U :2013/02/28(木) 19:40:55 ID:U3Bx/VLI0 >揺らぐ覚悟、果ては何処に 辛いよなぁ、とときん……生きたくないのに、生きろの一言で生かされ続けて Pが人を殺せという意味で言ったんじゃないことも分かってるのに モバマスロワは本当に罪なPが多い >彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ うわあ…ここから「セカンドストライク」に繋がると思うとやり切れない こんなこと言われなきゃ別の道もあっただろうに… >哀(愛)世界・ふしぎ発見 小梅ちゃんすごい! きらりんすごい! あの2人に起こったことを察したうえで、「許される」と言ってあげられるのは本当にすごい 薬局の悲劇が報われたようで、じーんとなりました >こいかぜ 全員の方針がゼロに還ったところを、不穏ながらも個性のあるチームになってきましたなー そして楓さんはようやく女神オーラを取り戻せた! ダジャレが聞けて嬉しいようなほっとしたような パスワードについては、決定はyX/9K6uV4E氏にお任せしますが、リレーする難易度は高そうかと思いました
465 :名無しさん :2013/02/28(木) 23:21:10 ID:fB19QTtw0 パスワードはメタ的に言えば設置されていることを理由に氏以外の方がその中身を書かないという選択肢が与えられるのでよろしいかと ただ、私的にはむしろ、『vol1』というのが気になりますね これは他の書き手或いは氏自身が2や3を出すということですよね? その場合だとその2や3の内容も俺ロワの都合上氏に一存することになりかねませんが 勿論逆に、1だけでは内容がわからない、或いは1で出た他の書き手による氏に都合の悪い計画書も2や3で修正するなどいい方向にも持っていけそうですが
466 : ◆John.ZZqWo :2013/03/01(金) 08:26:28 ID:vutI1s6g0 投下乙です! >哀(愛)世界・ふしぎ発見 きらりんもはぴはぴなんだけど、それよりも小梅ちゃんだなぁ。これまでは怯えるばかりだったけど、やっぱり彼女もアイドルなんだねぇ。 「あの子」ネタが飛び出してくるとも考えてなかったので驚いたw >こいかぜ タイトルどおり楓さんの話でしたね。みんな一度落ち着いて前を向いたんだけど、一番凪の状態だった楓さんが前に出てきたのは驚き。 わくわくさんもさすがにこの人数相手には無茶はしないようだし……、もう少し彼女たちがロワに対してどう向き合うかを見守れるかな? 件のカードですが、氏以外が内容に触れられないとするとこの後のリレーも難しいですし、 まだこの6人はそれぞれを書きこむべきだという点で話の焦点をもっていっちゃうアイテムがあるのも勿体無いかな。 このアイテムだったら主催者が意図していようがいまいが、支給品とは別に荷物に紛れ込ませることも可能だと思うので、今回は見送ったほうがいいのではないでしょうか?
467 : ◆yX/9K6uV4E :2013/03/02(土) 01:58:30 ID:QUjZQiFo0 意見有難うございます。 まず感想を。 >揺らぐ覚悟、果ては何処に とときんつらいなぁ。 危ないボーダーラインに居ながら、それでも頑張るなぁ。 遊園地にいくけど、さてどうなるか。 >彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ちひろさーん!あんな小さな子なんてこというんだよ!w そしてあの悲劇になるのは哀しいなぁ。 いい補完話でした。 >哀(愛)世界・ふしぎ発見 ああ、いいなあ小梅ちゃん。 あのふたりも救われると、いいなあ。 きらりんと小梅がいい感じで……そっちにむかうか?さてどうなるかなあ さて、拙作こいかぜの後のパートですが、意見を鑑みて、リレー難易度が大分あがりそうなの危惧されている意見も大分多いので、 状態表以下の該当箇所を破棄したいと思います。 沢山の意見有難うござました。 それと、別の件なのですが、JhonPの千枝ちゃん補完話のような話の予約に関する規定を作りたいと思います。 生存者以外のみ、つまり死者だけがでる補完話は、 「投下数5作以上の作者のみ、そういう補完話のみを投下した場合、本編2作投下するまで、予約できない」 という規定を設けたいと思います。 補完話ばかりだと、本編が進まないなどの点がありますので。 急な追加規定ですが、よろしくお願いします。 最後になりますが、三村かな子予約します。
468 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/02(土) 04:15:36 ID:fFl7Le1I0 把握しました、物語の核心に迫るには良いパーツだと思うし案自体を廃棄するのは勿体ないかもしれませんね。 証言に基づく推理だけになると関与出来るアイドルも明かせる範囲も限られますし、しばらくは難しい展開になりそうです。 ついでになりますが、高森藍子予約します
469 :名無しさん :2013/03/02(土) 11:28:04 ID:MTnx3Ar.0 こいかぜの件及び補完話について了解しました 補完話に関する規定というのは、「補完話を書いていいのは本編を5作以上書いた作者のみで、かつ、一度補完話を投下したならその後本編を二作投下するまで次の補完話は予約できない」ということでよろしいのですよね? また、別件ですが>>468 ネネが欠けているのはうっかりでしょうか? 現在共に行動していることもあり、藍子一人というのは疑問なのですが 藍子の回想話か何かにしても冒頭や状態表でネネについて触れておかなければ不自然かと
470 :名無しさん :2013/03/02(土) 11:52:32 ID:XwIYyQ160 >>467 パート破棄と規定制定、乙ですー 死者オンリーの話は誰でもいつでも投下できる状態だとリレーにならないですもんね>>468 既に指摘されてますがネネが抜けてますよ 状況的に単独予約はありえないところだと思うので、予約するのであれば訂正を
471 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/02(土) 13:55:42 ID:fFl7Le1I0 おっと、確かに抜け落ちてたようです。 という訳で予約の方を高森藍子、栗原ネネに訂正させていただきます。 ご指摘いただいた方、ありがとうございます。
472 :名無しさん :2013/03/02(土) 15:11:44 ID:MTnx3Ar.0 いえいえそういううっかりは誰にでもありますし、私も覚えがあるのでw 予約楽しみにしています。頑張ってください
473 : ◆n7eWlyBA4w :2013/03/03(日) 20:25:24 ID:SM5uWwvk0 皆様投下乙です! >彼女たちがページをめくるセブンティーン 凛の話の直後に奈緒加蓮の話とはいい流れ……! この二人は行き着く先に希望が全くないのに刹那的な希望を抱いてるというのが凄くいい。 他のロワではまず見ないような関係性がすごくいいなあ。 >賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 さあ盛り上がってまいりました! こういう戦闘直前でパスというのはなかなか見なかっただけに続きが楽しみ。 後述のきらりん組も乱入ありそうだし……? >千夜、舞姫 空港もどんどん混沌としてきたなぁ。 各キャラの思考は割と危険でないだけに、わくわくさんの冷徹さが怖いところ。 ふとしたきっかけでどうにでも転がりそうなんだよなぁ。 >揺らぐ覚悟、果ては何処に とときんのメンタルはもうボロボロ。 今までずっと張り詰めてきた分の反動が来てる感じだよなぁ。 とはいえもう退路はないんですけどね……行くところまでいけるのかどうか。 >彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ まさかの死者過去回。その発想はなかった。 この時のエピソードがあのセカンドストライクの展開につながると思うとやり切れない。 しかしこういう形式の掘り下げは色々可能性がありそうだなぁ。 >哀(愛)世界・ふしぎ発見 小梅ちゃんときらりんの優しさに全米が泣いた。本当に。 珠ちゃんと桃華ちゃまの死がこういう形で悼まれる事になるとは……感慨深いです。 次の話への引きも含めて、いろいろと唸らされる話でした。 >こいかぜ 今まで空っぽだった楓さんがついに……! しっとりとした文章がマッチしてていいなぁ。こういう大人の女性書くの上手いですよね。 とはいえわくわくさんがグループに入り込むのは想定外。まだ波乱はありうるか。 そして藤原肇、双葉杏、予約しますね
474 : ◆ltfNIi9/wg :2013/03/04(月) 12:03:25 ID:gBDdw.ws0 輿水幸子、星輝子、予約します
475 : ◆ncfd/lUROU :2013/03/04(月) 21:26:26 ID:N3wE.QjQ0 小日向美穂、日野茜、予約します
476 :名無しさん :2013/03/05(火) 21:26:45 ID:2.eigjkg0 現在の予約まとめ 2013/03/02(土) 01:58:30 ◆yX/9K6uV4氏 三村かな子 2013/03/02(土) 13:55:42 ◆p8ZbvrLvv2氏 高森藍子、栗原ネネ 2013/03/03(日) 20:25:24 ◆n7eWlyBA4w氏 藤原肇、双葉杏 2013/03/04(月) 12:03:25 ◆ltfNIi9/wg氏 輿水幸子、星輝子 2013/03/04(月) 21:26:26 ◆ncfd/lUROU氏 小日向美穂、日野茜
477 :名無しさん :2013/03/05(火) 22:04:03 ID:xwLmmtvg0 藍子ネネの期限は2013/03/02(土) 04:15:36じゃないか
478 : ◆yX/9K6uV4E :2013/03/07(木) 01:52:08 ID:EYSLjjaM0 >>477 今日の04:15:36ですね。 此方予約延長します
479 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:06:05 ID:N3CprSXg0 投下開始します。
480 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:08:26 ID:N3CprSXg0 高森藍子は椅子に座ってぼんやりと扉の外を眺めていた。 この状況でも彼女の最大の魅力である見る者を癒すようなふんわりとした雰囲気は失われておらず、 少しでも外を歩けば容易に死の気配を感じられる状況でも、彼女の周りだけは時間の流れが緩やかになっているかのようである。 ここは警察署の一階にあるロビー。 比較的外を確認しやすい位置を選んで彼女はカウンターにいくつかある椅子の内一つを選んで腰かけた。 その視線は誰かを待っているかのように外に注がれている。 しかし先程から外の様子は全く変わる事なく、彼女の落胆をより色濃くしていた。 落胆の原因は、言うまでもなかった。 三十分ほど前、小日向美穂に偶然遭遇した藍子は当然彼女を仲間に入れようと勧誘した。 しかし、美穂は藍子の言葉にハッキリとした拒絶反応を見せて再度飛び出して行ってしまった。 拒絶された衝撃に動けずにいた藍子の代わりに彼女を追って行ったのは日野茜。 追いかけようにも追いついた所で美穂を引き留める術が思いつかなかった藍子は、 結局茜に尻拭いを任せるような形になってしまい、不甲斐無い思いで彼女を見送った。 去り際に連絡するとの言葉を茜が残したのもあって、共に残った栗原ネネと警察署に留まる事にし、 署内で連絡を待つために彼女たちはロビーへと足を踏み入れた。 念の為に誰か居ないか一通り建物を回り、ついでに屋内の確認もした。 給湯室に割と最近食事をしたであろう食器類が置いてあったが、恐らく美穂ともうこの世に居ない塩見周子が摂った物だろう。 念のために地下や二階も回ってロビーに戻った辺りで藍子はある事に気付いた。 それは、同行していたネネが疲労を滲ませている事だった。
481 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:10:35 ID:N3CprSXg0 考えてみれば当然の事である、藍子もネネも一睡もしてないのだから。 藍子も彼女の様子を見て初めて自分が少し疲労していることに気付いた。 署内に入ってからネネの口数が減っていたのは恐らく自分を気遣っていたというだけではなかったのだろう、 仮眠室が二階にあったものの、あまり離れるのは危険だと判断して捜査課の来客用であろうソファで休むように勧めた。 当然押し問答になったが、結局先に折れたネネが少し休むことになった。 藍子自身は普段から過密スケジュールである程度眠らないのには慣れていたというのも理由の一つ。 しかし、藍子は少しあの時の彼女の様子に引っ掛かる物があった。 自分だけ休むのは不平等だ、その理由は自然なのだが他にも訳があるようなそんな素振りだった。 今ネネが休んでいるであろう捜査課への入り口を見つめる。 何かあればすぐに呼ぶと約束はしたが、幸か不幸か今の所そんな前兆は特に無かった。 ネネが殺し合いに乗るとは思えない、しかし何やら彼女から距離を置かれているような感覚があった。 まるで自分を見定めてるかのような、そんな視線を感じていた。 「…………はぁ」 藍子は外から一旦目を離すと、もう何度目か分からない溜息をついた。 二人が戻ってくる気配どころか連絡の電話が鳴り響く気配も無い、雰囲気とは裏腹に彼女は落ち着かない気分だった。 茜は美穂に追いつけたのだろうか、はたして美穂を仲間に入れる事は出来るのだろうか。 いざ腰を落ち着けると考えるのはそんな事ばかりで居ても立ってもいられなくなりそうだった。 けれど今の自分に何が出来るのだろうという葛藤もあって、結局出来る事は二人の帰りを待つことばかり。 このままではいけない、何か出来る事を探そうと彼女は周りを見渡す。 すると、傍らに置いてあった二つのバッグが目に入った。 一つは開始時点から背負っていた自分自身のバッグ、そしてもう一つは――――――
482 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:12:12 ID:N3CprSXg0 「……夏樹……さん……」 「……そうですよね、一回駄目だっただけでくじけてちゃいけませんよね」 「夏樹さんの託してくれた思い、絶対無駄にはしませんから」 木村夏樹が託した「希望」がそこにはあった。 本が何冊も入っていて重かったけれど、絶対に手放すつもりはなかった。 もう並んで歩くことは出来ない、それでも最後に託してくれた小さな「希望」の最初の一輪。 それだけは、無駄にしたくなかった。 不思議と気分も落ち着いてきて、彼女はまず朝食を摂ろうと前向きに考える。 行動する為にはまず栄養をしっかり摂らないと話にならないと普段の経験上分かっていたから。 食事を終えた所で、ペットボトルの水をバッグに戻した藍子の指が何かに触れた。 そういえばまだ支給品の確認をしていなかった事を思い出す。 頭の隅には引っ掛かっていたのだけど今まで確認する気は起こらなかった。 もし武器が入っていても使うつもりなんて毛頭無かったし、見るだけで嫌悪感を抱きそうだったからだ。 しかし冷静に考えると入っているのは武器とは限らない、もしかすると何か役に立つ物かもしれない。 少し躊躇したものの、女は度胸とばかりに藍子は思い切って指に触れた物を引っ張り出した。 ――――――それは、ケースに入ったCDプレイヤーだった。
483 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:13:50 ID:N3CprSXg0 武器が出てくるのか、それとも思わぬ便利アイテムかもしれないと、 多くの緊張感と少しの期待感を持って引っ張りだした藍子は少し拍子抜けしてしまった。 気を取り直して、藍子は注意深く半透明で頑丈そうなケースを観察した。 一見ごく普通のCDプレイヤーだが、もしかすると爆弾でも内臓されてるのかもしれない。 そうでなくとも何か特殊な仕掛けがあるのかもしれないと思って慎重にケースを持ち上げる。 すると、ケースの底に貼り付いていたらしい紙がひらりと膝の上に落ちてきた。 拾い上げるとそこにはどこか見覚えのある字でこう書いてあった。 これは何の変哲も無いCDプレイヤーです、ちなみにCDは入ってません♪ 電池で動くタイプなのでオマケに電池も付けておきましたから安心してくださいね! 追伸:実は爆弾が仕掛けられているとかそんなオチは無いのでご安心を☆ 藍子は更に困惑したままケースを開くと、CDプレイヤーを改めて観察した。 どうやら小型ながらもかなり高性能な代物らしく、耐久性も高そうだった。 イヤホンも素人目に分かる程に高級品で、本体にはスピーカーまで付いていた。 実際音楽に精通している人間が満足するくらいの代物であったが、 肝心のCDが付いてない時点で、それ以前にこの状況下では全く意味の無い物だった。 藍子は先程とは違ったベクトルで溜息をつきながらプレイヤーをケースから取り出すと驚いた。 ケースの底には電池がぎっしりと詰まっており、大きさも様々であった。 それどころか明らかにこのプレイヤーでは使わないであろうボタン電池まであった。 通りでケースが異常に重いと思っていたが、これだけ入っていれば当然だろう。 藍子はプレイヤーをケースの中に戻すとバッグの中に再び突っ込んだ、 他に何か入っているかもしれないという発想が思い浮かぶ心境でもなく、 普通の人間ならからかわれていると怒る所であったが、気の優しい彼女は首を捻っていた。 いわゆるハズレという奴なのかな、と少し冷静になった頭で考える。 実際藍子でなくともこれを活用する方法を見つけるのは困難だろう。 誰かが何かに使えるだろうCDを持っている、もしくは電池が必要な状況でなければ。
484 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:15:22 ID:N3CprSXg0 やや気の抜ける出来事があったものの、藍子は依然として椅子に座っていた。 もう美穂と茜が出ていって一時間程になるだろうか、しかし二人が戻ってくる気配はない。 ついさっきまで藍子は夏樹のバッグから爆弾関係と思われる本を取り出し読んでいた。 しかし教養は当然ながらごく普通の一般人レベルである彼女には、夏樹と同じく内容は全く理解出来なかった。 真面目な彼女はなんとか少しでも理解しようと努力したが、いかんせん専門用語が多くて無駄な努力に近かった。 諦めてバッグに本を戻すと再び外の風景を眺める。 他の事をやりつつも外に関しては意識を向け続けていたが、全く変化は無い。 しかし藍子は茜と美穂がきっと戻ってくると信じていた。 美穂が戻ってきたらどう声をかければいいのだろうと考える。 あの時の拒絶の言葉は、やっぱりきつかった。 それはきっと同じような拒絶を一度受けているから。
485 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:17:19 ID:N3CprSXg0 『アイドルだって、アイドルである前にひとりの女の子なんですよ?』 同調することは出来ないけれど、理解することは出来る複雑な言葉だった。 シンデレラガール……いや、十時愛梨という一人の少女の心の叫びだったのだろう。 それは今回の事とは関係無く、戸惑い続けたままに周りに祭り上げられた彼女の本音だったのかもしれない。 そしてそんな愛梨の「希望」は理不尽な形で踏みにじられ、奪い去られてしまった。 愛梨の決意がどれだけ固いのかは分かっていた、果たしてそんな彼女を変える事が彼女のプロデューサー以外に出来るのだろうか。 二度目の邂逅では説得らしい事すら出来なかった、三度目の正直はあるのだろうか。 藍子には一つだけ当てがあった、それは十時愛梨だけに問う事の出来る言葉。 だったら貴女は、シンデレラで在ることは出来ないのか。 彼女は確かにヒロインである事を選んだ、だからアイドルに戻る事は出来ないのかもしれない。 けれど彼女はたった一人のシンデレラでもあるのだ、この名を冠したお伽話がどんな物語なのか誰でも知っているだろう。 灰かぶり姫は、魔法をかけられて―――――王子様と、恋をする。 彼女がプロデューサーへの想いを貫くために悲劇のヒロインで在ろうとしているなら、それはきっと違う。 だって、シンデレラは同時にヒロインでもある筈だから。 詭弁かもしれない、けれどこれが今の藍子に出来る精一杯だった。 後はただ一つ、彼女に与えられる何かが欲しかった。 愛梨は決して自分から望んで殺し合いをしているわけじゃない。 彼女の空白を、絶望を覆い隠す事の出来るガラスの靴さえあれば、きっと止められる。 例えアイドルに戻れないとしても、せめて殺す事だけは止めなければいけない。
486 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:18:35 ID:N3CprSXg0 『『生きて』……と、――さんがいったから』 そう言った彼女の表情は悲痛な覚悟に満ちていて。 だからこの言葉を聞いた時、私は確信した。 ああ、彼女はきっとプロデューサーの最後の「魔法」に縋っているのだと。 だから私は、彼女にこだわっているのだろう。 少しだけ、昔の話。 高森藍子は、どこにでも居る普通の女の子だった。 小さな頃にテレビで見たアイドル達。 彼女達はとても輝いていて、小さな少女をあっという間に魅了し、笑顔にさせた。 自分も同じように見る人達を笑顔にしたい、幸せな気持ちにしたい。 そう思って、藍子は同じ世界へと飛び込んだ。 けれど、高森藍子は普通の女の子のままだった。
487 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:20:16 ID:N3CprSXg0 FLOWERSが結成される少し前、その頃が私にとって一番苦しい時期だった。 アイドルを目指してこの業界に飛び込んで。 入った当初は光るものがある、素質があるなんて言われていた。 だからボーカルのレッスンも、ダンスのレッスンも、表現力のレッスンも。 頑張って、頑張って、苦しくてもとにかく頑張った。 それなのに、結果が付いてこない。 今ならハッキリと言えるけれど、私は伸び悩んでいた。 そんなある日、私は握手会のイベントに居た。 業界に入ってから、ずっと変わらない営業の一環。 何人かのアイドルの中の一人で、勿論人の姿もまばらで。 それでも精一杯レッスンで教わった笑顔で少ない人数と握手を交わす。 私の運命が変わったのは、その時に会場に居た柄の悪そうなファンの一言だった。 その人は他のアイドル達の列にも並んでいて、彼に言葉をかけられたアイドル達は一様に顔を引き攣らせていた。 たまに居る、あえて酷い言葉をぶつける悪質なファンなのだろうと察しがついた。 けれど私の憧れるアイドルはどんな時でも笑顔だから、そう思って笑顔のまま順番が来た彼と握手を交わそうとして―――――― 「お、結構顔可愛いじゃん。あーけど胸ペッタンコかよ、ドラム缶みてーだな」 「しかも笑顔がわざとらしいし、君アイドル向いてないから辞めた方がいいよ、ギャハハ」
488 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:22:18 ID:N3CprSXg0 気付くと、泣きながら握手会の会場を飛び出していた。 体型を笑われたのが悲しかったわけじゃない。 それとなく似たような事を言われたことだって何度もあった。 私は御世辞にもグラビアで映えるようなスタイルじゃなかったから、時には悩んだりもした。 けれどそれが理由で諦めようと思ったりしたことなんてなかった。 私が何より悲しかったのは、今までの努力を全否定するかのような彼の心底馬鹿にした口調だった。 その時の私は伸び悩むあまり不安定で、なのに周りにそれを隠していたのもあんなに簡単に取り乱した原因だったんだと思う。 もうあんな風に言われるのにはとても耐えられない。 人気の無い場所に座り込んで溢れ出てくる涙を拭いながら、やっぱり自分は憧れのアイドルにはなれない。 そう思っていた時、前から人の気配を感じて顔を上げるとスーツ姿の男性が立っていた。 おぼろげに、同じ事務所に居るプロデューサーの一人だと思い出す。 私のプロデューサーの代わりに叱りに来たのかなと思っていると、彼は私に近づいてきた。 仕事を投げ出したのだからと引っぱたかれるの覚悟で俯いていると、何も言わずに私の前でしゃがみこんだ。 その表情は優しげで、まるで私の悩みを全部理解してくれてるようで。 戸惑う私に、彼は言った―――――― それから間もなくして、私は彼のプロデュースするユニットのメンバーに選ばれた。 実は少し前にもユニットの話はあったものの、以前も候補に居た私が伸び悩んでいたのもあって一度駄目になっていたらしい。 けれど彼は諦めずに粘り強く話を進めて、後は一人のメンバー候補のプロデュース権を譲ってもらうだけだった。 私が逃げ出した日は、最後の関門であった私の元プロデューサーと交渉していたのだと後で聞かされた。 そんな時に私が飛び出してしまい、慌てる元プロデューサーを尻目に真っ先に私を追って飛び出したとの事だった。 結局その後何を思ったのか、元プロデューサーはそれまで強硬に反対していたというのに、 あっさりとプロデュース権を譲ってしまったらしい。 理由を聞くと苦笑するばかりで、結局最後まで教えてもらえずじまいだった。 確かに言えることは、あの日、とある言葉で私の運命が大きく変わったことだけ。
489 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:22:56 ID:N3CprSXg0 『泣くなよ、君は笑顔が一番素敵なんだから』 『俺には君の笑顔が必要だ』 『レッスンで習った笑顔じゃなくて、自然な君のままの笑顔でいいんだ』 『周りを幸せにさせるような、ふんわりとした笑顔だよ』 『もう一度、最初から一緒に頑張ろう』 『絶対に、トップアイドルになろう』 『どうしても不安なら、俺が――』
490 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:24:45 ID:N3CprSXg0 外を見つめながら藍子は呟く、覚悟に満ちた表情で。 「……ねぇ、愛梨ちゃん」 「あなたは私に強いって言った、みんなも私が強いって言う」 「けどね、違うんです」 「私も愛梨ちゃんと同じだから」 「普通の女の子でしかなかった私を、変えてくれたんです」 「『君を支えてみせる』」 「『絶対に、どんな時でも君がアイドルで居られるようにしてみせる』」 「だから、絶対に愛梨ちゃんを止めます」 「――――――きっと同じ、魔法をかけられたアイドルだから」
491 :Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:28:08 ID:N3CprSXg0 【G-5・警察署/一日目 昼】 【高森藍子】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×2、爆弾関連?の本x5冊、CDプレイヤー(大量の電池付き)、未確認支給品0〜1】 【状態:疲労(小)】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。 1:絶対に、諦めない。 2:他の希望を持ったアイドルを探す。 3:自分自身の為にも、愛梨ちゃんをとめる。 4:茜の連絡を待つ 5:爆弾関連の本を、内容が解る人に読んでもらう。 ※FLOWERSというグループを、姫川友紀、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいて、リーダーです。四人同じPプロデュースです。 ※元プロデューサーが現在も誰かを担当しているのか、元々兼任していたのか等は後続の方にお任せします。 【栗原ネネ】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、未確認支給品0〜1】 【状態:睡眠中】 【思考・行動】 基本方針:自分がすべきこと、出来ることの模索。 1:高森藍子と話す、はずだったけど…… 2:小日向美穂が心配。彼女の生き方をみたい 3:決断ができ次第星輝子へ電話をかける。
492 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/07(木) 02:28:54 ID:N3CprSXg0 投下、終了しました。
493 : ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:02:11 ID:z45ATRU.0 投下乙ですー! 藍子がいいなあ。踏み込んだ藍子の過去は初めてだけど、こう藍子を作ったものがわかる。 苦労して、そしてアイドルになって、とときんをとめようとする。 頑張ってほしいなあ。 此方も投下します
494 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:03:07 ID:z45ATRU.0 ――――そっと瞳を閉じるから、魔法をかけて! ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
495 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:03:35 ID:z45ATRU.0 私が、アイドルになった時の事を思い出していました。 たしかクレープの食べ歩きをしていた時だったと思います。 あの頃の私は普通の少女だったと思う。 ちょっとスイーツが好きなだけの女子高生でした。 ケーキを食べ過ぎて体重を気にしたりするだけの、そんな当たり前のようにある普通の生活。 変わった所は無くて。 だから、スカウトされた時、本当ビックリしたんです。 だって、私はそんな特徴ある子じゃなくて。 むしろ少しちょっと太めで…… こんな取り柄のない私がアイドルになるなんて思わなくて。 でも、なれたんです、アイドルに。 プロデューサーがかけてくれた『魔法』で。 私は、皆の応援されるアイドルになれたんです。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
496 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:04:41 ID:z45ATRU.0 「ふう、これで……入れるかな」 裏道を使って、お昼にかかる頃、私――三村かな子は温泉に無事たどり着く事ができました。 その後は温泉施設の探索に時間を費やしました。 誰か潜んでいるかもしれないので、一部屋一部屋しっかり確認しながら。 幸い誰も居なく、殺すことせずにすんだのです。 ……ただ、誰が居たという事は食堂と女風呂のものがなくなっていたことから解かりました。 一旦此処を出ているだけかもしれない。 単純に去ったと楽観視することはできないでしょう。 なにせ、私はこれから温泉に入るんです。 ある意味無防備になるので、準備は怠る事はできません。 まず、私は管理室に言って、施設のマスターキーを回収しました。 そして、幾つかの非常口を封鎖して、入り口を限定します。 といっても、玄関のみですが。 玄関は逆に閉まっていたら不自然すぎるので。 玄関から、入浴場から少し離れた所にあるので、まあ直行する人はいないでしょう。 そして私は、『男湯』に向かいました。 何で、男湯かというのは、心理的要因を利用した保険です。 参加者は言うまでも無く女の子しかいません。 ので、あえて男湯を好き好んで入る……というのはないでしょう。 だって、参加者はアイドルで女の子なんだから。 普通は嫌がります。 ので、探索の目的以外でこちらに来ることはない。 そう踏んだのです。 男湯の入浴場に入り、露天風呂からの非常口があることを確認して、私は一安心しました。 脱出する時があったら、此処から出ることができるので。 そして、男湯の脱衣所の入り口に入ったら、音がなるように、施設のお土産コーナーから鈴を拝借してつけました。 しかも、3つほど。これで、戸を開ければ入浴場にも音が聞こえるでしょう。 呼び鈴代わりなので、不自然には見えないので大丈夫です。 そうして、下準備が終わったので、ようやく入る事ができる。 ふうと、私は大きな溜め息をついて、服を全部脱いで、それを脱衣籠にいれるのではなく、デイバッグに。 勿論このデイバッグも入浴場にもっていくつもりです。 だって、そんな全部の装備を外に置くなんて自殺行為できるわけがありません。 服をつめたのも、脱衣場に置く事で、誰かが居ると言う証拠を残すわけにもいかなかったが一つ。 もし露天風呂の非常口から逃げ出す事になっても、着る服が亡くなるという事がないようにする。 その二点を考え、私は服をつめました。 これで、準備オッケーです。 ……ふう、ちょっと疲れました。 でもやっと、お風呂に入れる。 少しは疲れがとれるかな。 そう思って、入浴場に向かおうとして。 ふと目に入るものがありました。 それは、変わり果てた自分――――三村かな子の姿だったのです。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
497 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:05:42 ID:z45ATRU.0 そう、私の姿が、映っていました。 大きな鏡に、変わり果てた自分が。 別に、何かが変わった訳……でもないんです。 二の腕や、太腿、それにお腹周りが……すっきりと引き締っている。 ちょっとぽっちゃりした私の姿では……もうありませんでした。 何でこうなったかって……基礎体力をつけるための運動を一週間続けたんだから、そうなるのも当たり前でしょう。 ある意味ダイエットと変わらないんだから。 それだけ、それだけのことです。 ですが、それは、私にとって『消失』でした。 ……私はアイドルとしては……そのちょっと、丸めだったんです。 それはコンプレックスだったのだけど、やがてそのコンプレックスは無くなっていきました。 なんでって……それがいいと応援してくれるファンやプロデューサーが居たから。 自分が駄目だと思った欠点でさえ、それはアイドルの個性だったんです。 嬉しかった。嬉しくて、涙が出てきたことさえ。 こんな自分でさえ、ファンは受け入れて、私を見て笑ってくれる。 だから、私も笑顔になれる。それに応え、もっと頑張ろうと。 みんなを幸せにする『魔法』をもっとかけようと。 だって、ファンが、プロデューサーが、みんなが、私をアイドルにする『魔法』をかけてくれたんだから。 私は、ファンを、プロデューサーを、みんなを、幸せに出来る『魔法』をかけることができるんです。
498 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:06:17 ID:z45ATRU.0 ……そう、だったんです。 ……でも、でも、もう……無理なんですね。 だって、私は、もう変わり果ててしまったんだから。 私は、『アイドル』じゃなくなってしまったんだから。 みんなが褒めてくれたものすら失くしてしまって。 私は、あんなにもアイドルだったのに。 『魔法』は解けて、『魔法』をかけることなんて、もう出来ないんですね。 あぁ……そうです。 だって、私は…………『敵』なんだから。 こんなにもすらっとした身体になって。 こんなにも、運動するのにも苦じゃなくなって。 アイドルだった時は、踊りは苦手だったのに。 今じゃ、上手くできそう。 えへ……えへへ……うぅ……うぅ……ぁ。 鏡に映る私は、泣いてました。 笑おうと思って…………笑えませんでした。 いつかファンのライブで見せた時のように、幸せで、泣きながら、笑う事なんて、出来ませんでした。 幸せにする権利も、幸せになる権利も何もかも捨ててしまったんですから。 ……ぁ、うぁ…………ぁあ。 気がついたら、涙が止まりませんでした。 其処に移る顔は、アイドルでの私ではありません。 当然、アイドルに戻る事ができない、ただの、敵。
499 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:06:44 ID:z45ATRU.0 ……そう。そうなんだ。 私は、自分の顔を見ながら、他の人達の顔を奪ってた『本当の理由』に気付いてしまった。 トレーナーさんに言われたからじゃない。 自分が敵だという証明したかったんじゃない。 アイドルを奪って、アイドルを殺したかったんじゃない。 本当は…………ただ、羨ましかった。 きっと、こんな状況でも、参加者のアイドルは、笑うでしょう。 哀しみで、泣くでしょう。 笑って、泣いて。 でも、それでも光輝くアイドルなんです。 それが堪らないぐらい、羨ましかった。 悔しかった、嫉妬していた。 ねえ、なんで、なんで。 ――――――私と、貴方達は違うものになったんですか? 『アイドル』と『敵』というものに。 なんで、私が『敵』にならないといけなかったんですか? 誰か別の人になっていたかもしれないのに。 どうして、どうして、私だったんですか。 貴方達も私になっていたかもしれないのに。 「……ぁ……っー」 そう思うと悔しかった。 だから、アイドルの人達のアイドルを奪いたかった。 アイドルを否定しかった。どうしても否定したかった。 貴方達も、私のようになったんだと認めさせたかった。
500 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:07:23 ID:z45ATRU.0 そんな、醜い私が居たんだ。 ファンを幸せにする魔法もかけらない、ただの魔女になった、私。 幸せになれない、ただ輝くアイドルを不幸にする魔女になった、私。 そんな、私が、今の私でした。 「……ぁあぁあ」 泣いた、涙が溢れた。 そんな自分が嫌だった。 違う、違う、こんなものになるためにアイドルになりたかったんじゃない。 こんなものの為にプロデューサーは魔法をかけたんじゃない。 ファンが、みんなが、応援した、私はこんなんじゃない。 私がなりたかった私はこんなんじゃない。 そう、思ったら、もう、無理でした。 私は、もう顔をとるなんて、出来やしない。 醜い私なんて、もう閉じ込めたい。 そう思ったんです。 私は、『敵』 でも、私は、私は。 笑えなくても、笑う事ができなくなった私でも。 こんなにも変わってしまった私だけど。 みんなを幸せにする魔法をかけるように。 笑いたいと思う事は、ちゃんとあるんです。 だから、ねえ……私。 泣かないで。 ――――笑って、魔法をかけて!
501 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:07:49 ID:z45ATRU.0 【F-3・温泉 男湯脱衣所/一日目 昼】 【三村かな子】 【装備:無し】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11 コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1) 医療品セット、エナジードリンクx5本、US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス かな子の服】 【状態:疲労】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。 0:魔法をかけて。 1:温泉に向かい、そこを拠点とし余分な荷物を預け、できればまとまった休息を取る。 2:もう二度と顔はとらない。
502 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:08:23 ID:z45ATRU.0 涙を止める魔法を知らない少女が居なくなって。 笑える魔法を失くした少女が移していた鏡は。 ―――こなごなに割れていました。
503 :魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E :2013/03/08(金) 02:09:00 ID:z45ATRU.0 投下終了しました。 続けて、前川みくにゃん予約します
504 :名無しさん :2013/03/08(金) 13:56:17 ID:Sx4psLEEO 投下乙です。 特訓で、ファンに笑顔の魔法をかけた自分で無くなってしまったかな子。 心の醜さにも気付いてしまって、自分に笑顔の魔法をかけられない。 誰か、かな子に笑顔の魔法をかけてくれるアイドルは現れるのだろうか。
505 : ◆ltfNIi9/wg :2013/03/08(金) 19:49:55 ID:Yvxz4JjE0 私用につき予約を破棄させて頂きます 申し訳ありません
506 : ◆n7eWlyBA4w :2013/03/08(金) 23:26:55 ID:x0.wkACkO 予約延長させてもらいますー
507 : ◆ncfd/lUROU :2013/03/09(土) 18:33:42 ID:MUJ3jEsY0 予約延長させていただきます
508 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/10(日) 23:40:56 ID:nQCUpY0k0 投下乙ですー! >Another Cinderella おう悪質なファン、屋上な(威圧) でも、いつだって諦めない姿勢がホントとときんと対になってて面白い。 まさにアナザー、そして自分のPと重ね合わせる表現でより強調されてるなー 氏は前の作品といい、深層心理の表現が上手い……流石です >魔法をかけて! 変わっちゃったよな…うん。悲しすぎるほどに。 いかにジョーカーとして仕立て上げられても所詮一週間だけだし、根は普通の女の子のままなのが辛い。 そりゃ不条理だよなぁ、嫉妬したくなるよなぁ……それを無理矢理にでも押さえ込めるのは恐い。どうなるかなぁ で、岡崎泰葉と喜多日菜子を予約します
509 : ◆John.ZZqWo :2013/03/10(日) 23:58:59 ID:2Uc54qG60 投下乙です! >Another Cinderella うーん、藍子ちゃんはどんどん内側からフォローされてくるな。今回ので名実ともにシンデレラと対抗するロワの主人公(希望)になったって感じ。 しかしドラム缶……いや、ドラム缶でもいいんじゃないかなw >魔法をかけて! タイトルがりっちゃんだー……って、かな子がやせてるぅー!? いや、本人自己申告なんで、他から見るとまだふんわりなのかもだけどw いやそれよりも、なるほど『アイドル』の顔を奪うという行動にはそんな理由が……と納得。 いやだけど悲しいけど、でも覚悟だけはブレないかな子。放送の後はどうなるかなぁ。(それと、この後の温泉描写に期待です!) では、 輿水幸子、星輝子 で予約します。
510 : ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:08:38 ID:ak3eV0Xk0 遅くなりました、投下します
511 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:09:35 ID:ak3eV0Xk0 (…………いい天気) 肇は顔を上げた。 いつの間にか日は高く、穏やかな日差しをさんさんと降らせていた。 海の向こうからやってきたのだろうか、東からのそよ風が彼女の長い黒髪を揺らす。 本来ならば、きっと心地いいと感じるはずの好天。 仕事の日なら心も軽く、オフならば釣り糸を垂らしながら緩やかに時を過ごしていただろう。 だけど、この日光もそよ風も、時にはしなやかさを土から奪っていくのだ。 肇はまた無意識に、その右手で何かを包むように握った。 そこには何もないのに。彼女が手に取るようなものは、もう何もないのに。 ほんの僅かな時間だけその手の中にあった、小さくて柔らかくて温かい天使のような手のひらは、もうないのに。 その小さすぎる歩幅に合わせて肇自身の歩速を落とすことも、もうない。 愛らしい大きな二つの瞳で上目遣いに覗き込まれることも、鈴のような声でお姉ちゃんと呼ばれることも。 (仁奈、ちゃん……) 有り体に言えば、それは喪失だった。喪い、失い、うしなうこと。 彼女を喪失して、どれだけの時間が経ったのか。時計を見ていないから分からないが、かなりの時が過ぎたはずだ。 その間にどれだけの涙を流し、嗚咽を漏らしたのかも、彼女には分からなかった。 そして、そうやって体から水分が離れていくたびに、心の中は空虚になっていった。 打ち水が路面を冷やすように、涙が蒸発したあとの心は熱を失っていった。 そして、今。肇の心は、固く、冷たく、鈍く、醜いものになってしまったように感じた。 (ああ、私、もう乾いてしまったんでしょうか。なんの形にもなれないまま、ただ潤いだけを失って) それは肇にとってきっと耐え難いことだった、と思う。 だけど、今の肇には、自分を慕ってくれたほんの小さな命すら守れなかった肇には、 晴天に喜び、微風に微笑むような感受性など残されていないように思えた。 ただ、ただ、空っぽだった。世界はモノクロームのように単調で味気なく、退廃的に見えた。 仮に今この時、轆轤に向かったとして、きっと何も生み出せないのではないだろうか。 こんな渇いた心では、見る人の心を潤すような器など、何も。 アイドルとしての肇も同じだった。誰かに夢を見せたいと、あんなに願ったはずなのに。 気付いたら、自分自身の夢がどこかに行ってしまった。見失ってしまった。 こんな自分が、いったいどんな夢を見せることができるというのだろう。 誰の心を動かし、誰に生きる希望を与え、誰に願いを伝えることができるというのだろう。
512 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:11:03 ID:ak3eV0Xk0 (いっそ、仁奈ちゃんを死なせた人を恨むことができたら……もっと、楽なんでしょうか。 そういうものの考え方をするのが、普通なんでしょうか。情のある人間の在り方なんでしょうか) 肇は、何度目になるか分からない問を己に課した。 実際、それは自然な考え方のように思えた。 きっと自分にとって大事な人が殺されたら、残された人は、今の肇と同様に大いに嘆くだろう。 だけどそれと同じくらい、殺した人間を憎み、恨み、呪って、報いを与えたいと思うのではないだろうか。 罰してほしい。裁いてほしい。出来ることなら同じ目に合わせてやりたい、とまで思うのかもしれない。 それは決してプラスへ向かう感情ではない。どす黒く濁った、報復の願い。 だけど、それもまた人間の心の営みには違いない。そうせざるを得ないほど、喪った人を愛した証だから。 憎しみが愛の結露なら、仁奈を殺した人間を憎むのは当たり前の事のはずだと、肇は他人事のように思った。 だけども、それは頭の中で考えるだけの現実離れした概念で、肇の心と交差したりはしない。 (……雪美さん) 肇は、僅か半日前に“出会った”少女の名前を胸中で呼んだ。 あまりにも美しくあまりにも清い願いを胸に、ただ美しく清いままの姿で死んでいった彼女。 (雪美さん……私、貴女と出会って感じたこと、間違っていたなんて思えないんです。 私達は一つだって、その思い、今でも真実だと感じます。でも、だとしたら……) 肇は思い出す。この島で目覚め、何を想ってこの半日を生きてきたのかを。 思い出す。森に閉ざされた小さな小屋で、静かに眠る雪美の姿を。 思い出す。二目と見れないほどに黒く焼け焦げた、名も知らぬ少女を。 思い出す。再会することも叶わぬまま死んでいった新田美波、その記憶を。 思い出す。仁奈の声を、その手の感触を、その温もりを、確かに感じた愛情を。 彼女達は、その一人ひとりが、昨日までは同じ夢を目指して輝いていたもうひとりの肇だったはずだ。 だからこそその死は、肇に身を切るような傷みを与えていった。 だけど、彼女達を殺した少女達だって、昨日までは同じ場所で笑っていたはずなのに。
513 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:12:29 ID:ak3eV0Xk0 もし殺す側に回った少女達に、自分は何と声を掛けられるのだろう。 殺すことはいけないと、言うのだろうか。人を蹴落としてまで生き残るなんて間違ってると、諭すのだろうか。 そう、そうかもしれない。少なくとも、理屈としては間違っていない。 だけど、最後の最後の部分で、自分に彼女達を説得することはできないのではないかと感じてしまうのだ。 殺すこと、それ自体は理解も共感もできない。おぞましい、冒涜的な行いだと思う。 ただ、何故殺そうとしたのか、きっとそれだけは肇にも分かってしまう。 一人ひとりが別の理由を抱えているのかもしれない。簡単な話ではないかもしれない。 だとしても、きっとそのどれもが肇にとっても他人事ではない、地続きの想いに違いない。 自分と彼女達、あるいは殺す少女と殺される少女、その違いは一線を踏み出したかに過ぎないのではないか。 かつて、願いは同じところにあったはずだから。形を変えても、元は同じ純粋なものだったはずだから。 そして、きっとその純粋さゆえに、肇は彼女達に憎しみを向けることができないでいる。 (私達は同じだから……ひとつのものだから。その想いだけは、痛いぐらいに分かってしまうから。 どんなに許しがたい行いをしたとしても、自分自身を憎むなんて、願いを否定するなんて……) 肇にとって、それこそが絶望だった。 今なお互いに敵意を向け合い殺し合うそんな現実の中で、誰にも憎しみを抱いてほしくないと思ってしまっている。 それが彼女の優しさであり、生真面目さであり、純粋さであり……彼女が苛酷な今を受け入れられていない証だった。 誰にも傷がつかない結末、そんなものはありえないと、一番最初に分かっていたはずなのに。 どうしようもなく不器用過ぎて、そんな絵空事を捨て去ることすら出来はしない。 他の生き方を選べないのに、進んでいく先にはほんの僅かな光すら見えない。 これが絶望でなくて何なのだろう。 仁奈を殺した名も知らぬ少女すら慈しむその優しさが、肇自身の願いを破綻させている。 人殺しにすら傷ついてほしくない、憎まれてほしくない、殺されてほしくない……。 そう感じてしまうこと自体が、もはや出口の見えない迷宮に閉ざされることなのだろうか。
514 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:14:54 ID:ak3eV0Xk0 (それでも、私は誰にも苦しんでほしくない……夢を忘れてほしくない……。 みんなに幸せでいてほしいんです。笑顔でいてほしいんです。それだけが願いなんです。 その願いを叶えるために、私、アイドルになって今まで頑張ってきたんです……!) ひび割れつつある心の中だけで、肇は誰にともなく叫んだ。 そうせざるを得なかった。叫ばずにいられなかったし、押し込めることしか出来なかった。 (それが、それだけが、藤原肇の全てなんです。私を支えてきたのは、そんなちっぽけな願いなんですよ。 それすら間違っているのだとしたら、私は……私のこれまでは……私、いったい何のために……) 私は、いったい何のために。 それは肇にとってこの世のどんなことより恐ろしい考えだった。 なのに、涙は流れなかった。 そんな当たり前のことすら出来ない乾き切った自分が、肇は他人事のように悲しかった。 (……私はただ、人殺しになってしまった“彼女”にだって、悲しい顔をして欲しくないだけなんです) その願いはあまりに清冽過ぎて、きっと誰の心にも届かないだろう。 だけど肇は、この何も見えない絶望の中で、それでも誰かの支えになりたいと思った。 そうすることでしか、藤原肇は、生きる意味を見出すことができずにいた。 だから彼女は、最後に残った願いを胸に、絶望の底でひとつの決断をした。 もしかしたら愚かなことかもしれないと、頭の片隅で思った。だけど、そうすることしか、できなかった。 ▼ ▼ ▼
515 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:15:35 ID:ak3eV0Xk0 (…………やな天気) 杏は忌々しげに空を睨んだ。 元々引きこもり気質の杏にとっては、外出日和だからといって心が弾むわけでもない。 いっそ雨でも降ってくれた方が、堂々と部屋にこもっていられるというものだ。 こんな殺し合いのことなんて忘れて、心穏やかにダラダラと……。 『アタシのこと殺しといて、まだ逃げるつもりなワケ? 杏っちのズルっ子』 (うるさいなぁ……ほっといてよ、杏は働かないの) そうだ、こいつらのことを忘れていた。 もうだいぶ頭もはっきりしてきたと思ったのに、どういうわけか未だに視界から消える気配がない。 これでは呑気に引きこもることすら出来ないではないか。杏は頭を抱えた。 (働かずに生き残れたらいいんだけどなぁ……代わりに頑張ってくれる人ならいいなぁ) 自分よりしばらく先を歩く藤原肇の背中を眺めながら、溜息をつく。 彼女が仲間と合流するというから、こうして杏は重い足を引きずって歩き続けているのだ。 もっとも杏自身は彼女の名前は知らなかったが(事務所で見かけた程度で名前を覚えるような社交性はない)、 この僅かな時間でも彼女の人となりはなんとなく分かっていた。 死を割り切れずにひたすら自分を責め続けるような生真面目過ぎるタイプ。 はっきり言って杏との相性は、主に一方的に良くないと言えるだろう。 それでも本来ならば信頼の置けるタイプだろうし、彼女の仲間ということなら結構楽が出来そうではある。 ……そう、本来ならば。 (なんか危なっかしいように見えるんだよね……杏には関係ないけど) うまく言葉にはできないが、どこか普通じゃない雰囲気が彼女にはあるような気がする。 最初は精神の均衡を失していたようにも見えたが、今はむしろやけに落ち着いているように見える。 別に彼女がどうなろうが杏としては構わないのだが、なにか不安になる感じがあった。 (だいたい、仁奈のこと引きずったってしょうがないじゃん。生き返ってくるわけでもないのにさ) 『かわいそうな仁奈。杏は本当に薄情だな、自分だって人殺しなのに』 (……あれは自業自得だって。杏は悪くないし) 『ひっどーい。そうやって自分を正当化しようっていうんだ。ヒキョー者』 (だいたいなんで死んだヤツが普通に話しかけてきてんのさ。ダメじゃん、死んでなきゃ) 『おいおい、俺はまだ死んでないぞ? あっそうか、杏は働かないからな。人質の俺は死ぬわけか』 「だから! 横からいちいち口挟むのやめてって――ふぎゅっ」
516 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:16:00 ID:ak3eV0Xk0 あまりにも煩いのでついつい本当に声を張り上げかけて、杏は不意に何かにぶつかった。 鼻をさすりながら恐る恐る見上げると、目の前にあったのは前を歩いていたはずの肇の背中だった。 いつの間にか立ち止まっていたのに、杏は茶々入れの相手に必死で気付かなかったらしい。 肇が、ゆっくりと振り向く。別に隠れて付けてきたわけではないが、無意識に杏は体を縮めた。 (…………っ) そして、僅かに呻く。 肇の姿は、同性の杏から見ても、不思議な妖しさを纏っていた。 ただそれは、きっとアイドル藤原肇が本来持っていたはずの輝きとは別のもので。 例えるなら蝋燭の火が消える直前に一際明るく燃えるような、そういう美しさがあった。 なんというか……終わりとか、この世の果てを見たような、奇妙に悟った表情がそこにあった。 彼女が、静かな口調のまま、口を開く。 「……双葉、杏さん、でしたね?」 「う、うん」 なんで自分のことを知っているんだろうと思ったが、考えてみれば当然のことだった。 他のアイドルに比べてデビューも人気が出るのも早かったし、CDだって出してるのだから。 杏は出歩かないので自分が有名人だという自覚があまりなかったというだけだ。 ただ、肇は杏が何者であるかには関心を抱いていないようだった。 「杏さん。ひとつ、不躾な質問をさせてもらっても構いませんか」 「えっ、え? めんどくさいのはやだよ」 「大丈夫、単純ですから。……杏さんは、もしこの島で人を殺してしまったとしたら、どうしますか?」 心臓が跳ね上がった。 まさか自分の莉嘉殺しに感づいたのかと思ったが、どうやらただの例え話のようだ。 内心胸を撫で下ろす。そもそもバレるはずがないのだ、大胆に行けばいい。 杏は極力平静を装いながら、白々しく答えた。 「や、やっぱり辛いんじゃないかなー。人殺しはいけないことだし、ほら、良心のカシャクとかさ」 ギャラリーが「嘘つき」とか「人でなし」とかうるさいが全力で無視して、当たり障りのないことを言う。 好感度が上がるようなことを行っておけば、のちのちプラスに働くかもしれない、そういう打算も忘れない。 自分自身のことであるせいか、気持ちばかり饒舌になってしまいそうなのを杏は堪えた。 「それに人殺しってバレちゃったら、きっと誰も信用してくれなくなるしね。 誰にも言い出せずに一人で悩むんじゃないかなあ。ほら、杏はこう見えて根が繊細だし」
517 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:16:36 ID:ak3eV0Xk0 本当は悩んでもいないし呵責を感じてもいない。ただ単に目を背けているだけだ。 体のいい理由を与えて正当化し、上っ面の理屈で蓋をして見て見ぬふりをしているだけだ。 そんなことはおくびにも出さないし、杏自身が認めるようなこともしない。 それでも、肇はその答えに満足したようだった。少なくとも、そう見えた。 「ありがとうございます。やっぱり、みんな同じなんですね。……少し、吹っ切れました」 「えっ?」 「いえ、こちらの話です。……杏さん、ひとつだけ、お願いがあります」 肇は何かを決心したような表情をし――ふと真剣な口調で、語りかける。 杏の直感が、何かを察した。 なんだろう、聞いちゃいけないことのような気がする。 今までの人生経験からして、これはきっと、すごく面倒なことだ。 肇が体ごと杏の方へ向き直る。彼女の真っ直ぐな瞳が正面から杏の目を見据える。 杏は動けない。蛇に睨まれた蛙のように微動だにできない。 「私、水族館で待ち合わせをしています。そこで彼女達と合流したら、私、話さないといけません。 どうして仁奈ちゃんがいないのか。どうして、仁奈ちゃんが死んでしまったのか」 だけど、杏には肇が何を言わんとしているのか分からなかった。 待ち合わせをしているのは知っている。だけどそれは、杏とは関係のないことだ。 確かにおこぼれをもらえたらいいなとは思っているが、肇に頼まれる道理はない。 というか、仁奈の話? 仁奈の話に、どうして杏が関係あるんだろう。 「私が本当のことを話したら、みんなは仁奈ちゃんを殺した子のことを憎むでしょう。 だけど、私にはそれが辛くて。もうこれ以上、誰かが憎まれるのも、誰かが憎むのも嫌だから」 何か、理解できないことを言ったような気がする。 人殺しが憎まれるのが辛いとか、そんなことを言っていたような。 なにそれ。そりゃ、人殺しは憎まれるよ。だから杏はこうして、こそこそしてるんじゃない。 杏は肇の中に広がる絶望に思いが至らないから、当然次の言葉も予期できない。
518 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:23:21 ID:ak3eV0Xk0 「だから、仁奈ちゃんは、私が殺したことにします。そういうことに、しようと思います」 え、と間抜けな声が杏の口から漏れた。 私が殺したことにする? よりにもよって仁奈を殺した人間を庇って? いよいよ杏の理解の及ばない世界だ。どこの世界に見ず知らずの人殺しの罪を背負う人がいるものか。 理解できないというより、理解したくない。 なんで、背負わなくてもいい罪を背負うの? 目を背けていれば楽なのに。 黙っていれば誰も気付かないのに。誰も悪者扱いしたりなんてしないのに……! 「私、仁奈ちゃんが死んだのが辛くて、悲しくて、やり切れなくて仕方ないんです。 だけどそれと同じように、仁奈ちゃんを殺した人のことも責めたくない。誰にも憎まれてほしくない」 自分と同じ言葉を話しているはずなのに、ほとんど頭に入ってこない。 彼女は、杏とは違いすぎる。違いすぎて、分からない。彼女のことがわからない。 「自己満足かもしれません。私の卑怯さかもしれません。でも、誰にも傷ついて欲しくないの、ほんとです」 そんなのおかしいよ、という言葉が杏の頭の中でぐるぐると回転する。 だけど自分の罪にすら向き合えない杏が、彼女に対して何を言えるのか。 だから杏は口を挟めなかった。彼女の言うことを、ただ耳から脳へ流すことしか出来なかった。 「だから、お願いです。本当のこと、黙っていてください。“彼女”に、憎しみを向けさせないでください」 そう言って彼女は切なそうに微笑んだ。 そして空を眩しそうに見上げ、それから何かを吹っ切るように前を見た。 そのまま、一度も振り返ろうともしないで、また歩き始めた。 しばらく杏はその場で立ちすくんでいた。 頭の中ならず全身がフリーズしてしまったような感覚が彼女を包んでいた。 それでも自分がこのままでは置いていかれるのを悟って、杏は慌ててその後を追った。
519 :孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:24:00 ID:ak3eV0Xk0 小走りになりながら、やっぱりそれは変だと、杏は心の中で思った。 いくら他人を庇おうと、それじゃ自分自身が独りぼっちになってしまうじゃないか。 だけどそもそも、独りぼっちなのは杏も同じだった。杏の周りには初めから誰もいなかった。 だから一人と一人は、独りと独りのまま、ただただ前へ進むしかなかった。 【C-6/一日目 昼】 【藤原肇】 【装備:ライオットシールド】 【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】 【状態:絶望】 【思考・行動】 基本方針:誰も憎まない 0:水族館へ向かう 1:仁奈殺害の罪を被り、殺人者を庇う 【双葉杏】 【装備:ネイルハンマー】 【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品(杏)x0-1、不明支給品(莉嘉)x1-2】 【状態:健康、幻覚症状?】 【思考・行動】 基本方針:印税生活のためにも死なない 1:肇について行き、楽できそうならその仲間と合流 2:自分の罪とは向き合いたくない 3:肇の決断が理解できない ※放送の内容を聞いていません。また、情報端末で確認もしていません。 また、悪夢の幻覚がたまに見えています。
520 : ◆n7eWlyBA4w :2013/03/11(月) 00:24:51 ID:ak3eV0Xk0 投下終了しました。
521 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/11(月) 01:10:47 ID:fqxPr5Nk0 投下乙です〜 >魔法をかけて! 巡り合った素敵な王子様の為にかな子は戦い続ける…でしょうか。 それにしても近頃はヒロインが軒並み方針変更したりブレたりするのが目立つ感じです、 響子、智絵里から始まり留美さんは一旦様子見、愛梨は態度が曖昧に。 その上最も危険であろうかな子までが綻びはじめて…血なまぐささが薄れたものの重苦しい展開ですね。 >孤独のすゝめ これは肇が冷静に決断しているように見えて、実際は危ういはずの杏の方が正論と言った感じかなぁ。 彼女の自己犠牲を周囲が冷静に受け止められる状況でもありませんし、結構危険な気がします。 もしヒートアップでもすれば、杏は真実を話すより保身に走って見捨てる可能性が高いですし。 そういった状況でストッパーになりうるだろうきらりが合流に遅れそうな今、どうなっていくのか楽しみです。
522 :名無しさん :2013/03/11(月) 14:31:37 ID:wWdH2tz6O 投下乙です。 人殺しを庇う肇と、人を殺したことを隠す杏。 こんな場所でこんな大きな秘密を持ったら、それは心の壁にしかならない。
523 : ◆ncfd/lUROU :2013/03/11(月) 22:10:09 ID:I0f6kHn.0 投下乙です! ・Another Cinderella 藍子の過去に踏み込んだ話がきて、藍子本人にも深みが増したなぁ 回想を経て決意を固めるのも王道で、アイドルの象徴とも言えるこのロワの藍子にはぴったりだ ・魔法をかけて! アイドルでいられなくなってしまったかな子にとって鏡とはなんとも残酷な かな子が心の底から笑えるときは来るのだろうか ・孤独のすゝめ 肇ちゃんも杏も別ベクトルで危ういなぁ 矛盾なく罪を被り切ることの難しさに気づいてなさそうで、かつバレた際に理由を理解もされなさそうで。波乱の予感。 それではこちらも日野茜、小日向美穂、投下します
524 :てぃーえぬけーとのそうぐう ◆ncfd/lUROU :2013/03/11(月) 22:11:43 ID:I0f6kHn.0 沈黙。無言。静寂。 それらはどこにでも存在するものであり、決して珍しいものではない。 しかし、『日野茜がいる場所で』という前置きを付けた場合はどうだろうか。 茜の人となりを知る者なら、十人が十人、一言一句違わず同じことを言うだろう。 『あり得ない』と。 日野茜という少女を一言で表すならば『熱血』という言葉がもっとも相応しい。 それは茜の信条であり、象徴であり、傾向であり、性質であり。 茜を語る上で、熱血は切り離すことが出来ない要素だろう。 そんな茜の周りはいつも賑やかだ。沈黙も静寂も、茜の熱血が吹き飛ばしてしまうのだから。 まさに熱い太陽のような、そんなアイドル。故に、茜がいる場で静寂は、沈黙はあり得ない。 それなのに、だ。その茜が人を励ますために同行しているにもかかわらず、その場は沈黙に支配されていた。 茜が、足を止める。手を引かれていた小日向美穂も、つられて足を止める。 伏し目がちだった美穂が目線を上げた先には、木材の表面に牧場と彫り込まれた看板と、木でできた簡素な柵があった。 その先はもう放牧地なのか、まばらではあるものの牛の姿も見ることが出来た。 「ほら、着いたよ!! どうする、牛とか撫でてみる!? それとも休憩入れたほうがいいかな?」 「……少し、休みたいです」 茜の言葉に美穂はコクリと頷いて、それから返答をする。牧場に向かうと決めてからは、お互い初めて発した言葉だった。 「そっか。じゃあ、あの高い建物に行ってみよう! ああいうところには牧草が貯めてあるってFLOWERSが出てた番組で……っ」 牧場の奥のサイロを指差した茜の声が唐突に途切れる。FLOWERSという言葉を聞いて、美穂の表情が変わったのを見たからだ。 理由は言うまでもなくFLOWERSリーダー、高森藍子のことを、ひいては先ほどの藍子との会話を思い出したからだろう。 俯いた美穂に小さく「……ごめん」と呟いてから、茜は仕切りなおすように言葉をかける。 「ほら、牧草の上で寝たらきっと気持ちいいよ! 私もまだ一睡もしてないし、寝ればスッキリするかもしれないし!」 美穂の返答は無く、コクリと頷くだけで。それ以上は茜も言葉が紡げず、黙って美穂の手をとって。 柵を越えて、牛の横を何頭か通りすぎても、二人は再びの沈黙に包まれたままだった。 ――――――――――
525 :てぃーえぬけーとのそうぐう ◆ncfd/lUROU :2013/03/11(月) 22:12:24 ID:I0f6kHn.0 『だけど、私は『アイドル』なんだよ!! プロデューサーが信じてくれた私を、熱く燃える私を曲げちゃダメなんだよ!!!!』 この殺し合いの中で、多田李衣菜に向けて茜が言った言葉だ。 熱く燃える私を曲げちゃダメ。その考えは今だって変わっていない。 それでも、だ。普段のように熱く接して励ますことは、美穂に熱血を、茜の持つ強さを押し付けることになりかねない。 藍子に向かってあなたの強さを押し付けないでと叫んだ、美穂に。 熱く燃える私を曲げない、曲げたくない。でも、私を貫けば美穂を傷つけるかもしれない。 普段の茜ならばそれでも熱血を貫いたかもしれない。傷つけてしまうことを恐れて何もしないなんて、茜には似合わない。 しかし、もう既に一度、茜達の言葉は美穂を傷つけてしまっているのだ。そして、茜自身もそれを軽率だったと認めている。 だから、茜は簡単には貫くことを選べない。曲がらず、されど貫けず、立ち止まることしかできない。 それが、茜が美穂に声をかけられなかった理由。沈黙していた理由。 沈黙に支配されるまま、美穂の手を引いて歩き続けることしか、茜にはできなかったのだった。 (こんなとき、プロデューサーならどうしたんだろう) 閉塞状態の中、茜の脳裏にふと、プロデューサーの顔が浮かんできた。 こんなときでもプロデューサーに頼りたくなってしまうのは、それだけいつもプロデューサーを頼ってきたからか。 情けないなぁと思いながらも、茜はプロデューサーとの日々を想起する。 (……そういえば、プロデューサーもこういうことは苦手だって言ってたっけ。たしか、あれは――) ○ ○ ○ 「プロデューサーって、私以外のアイドルを担当したことあるんですか?」 まだアイドルになってから日が浅かった、そんなある日の昼下がり。営業が思ったよりも早く終わった私とプロデューサーは、事務所の一室でお茶を飲んでいた。 仕事の方針を確認したり、最近の流行をチェックしたり、単なる世間話をしたり。 そんな心地よい時間の中で、ふと浮かんだ疑問を、プロデューサーに投げかけてみたのが始まりだったと思う。 「ん、ああ。あるけど、なんで突然そんなことを?」 「いや、プロデューサーってイメージと違ってなんか仕事に慣れてるなぁって思いまして!」 「お前、それは俺が仕事が出来なさそうなイメージだったと言いたいのか?」 「はい!!」 「そこは否定しろよ!? ……まあ、担当していたと言っても一人だし、その期間もそう長くなかったんだけどな」 「へぇ……その子、どんなアイドルだったんですか?」 「ああ、そうだな……笑顔が素敵な奴だったよ。お前みたいに元気爆発! って感じではないけど、優しい笑顔だった」 そう言うプロデューサーの顔は、すごく懐かしそうで、でも悲しそうでもあって。 それが気になったから、その話の続きをせがんだんだった。 でも、プロデューサーはなかなか話してくれなくて。結局その話の続きが聞けたのは、それから数週間後のことだったんだよね。
526 :てぃーえぬけーとのそうぐう ◆ncfd/lUROU :2013/03/11(月) 22:13:27 ID:I0f6kHn.0 ある日プロデューサーのデスクで見つけた、二冊のスクラップブック。片方には私の名前が、もう片方には意外な名前が書いてあった。 プロデューサーが個人的に私の記事をまとめてくれているのが嬉しくて、ちょっぴり照れくさくて。それと同時にもう片方の名前が気になって。 だから、照れ隠しも兼ねて、プロデューサーに聞いてみたんだ。 プロデューサーは観念したようで、いろいろなことを話してくれた。 その子こそプロデューサーが昔担当していたアイドルであること。 握手会の日に、その子が飛び出して行ってしまったこと。 突然の事態に慌てるばかりだったプロデューサーの代わりに、別のプロデューサーがその子を探しに行ったこと。 後日、そのプロデューサーにプロデュース権を譲渡したこと。 その後、私をプロデュースすることになったということ。 「繊細な奴だったからな。ガサツな俺とは多分、合ってなかったんだろう。あいつが伸び悩んでたのは俺にもわかってたけど、効果のあることは何も言ってやれなかった。 熱血一本で通してきたから、タイプが合わない子を励ましてやるのは苦手だって気づいてなかったんだな。 それでもあいつをトップアイドルにしてやる! って気持ちだけはいっちょまえにあったから、プロデュース権を渡したりはしたくなかった。 結局、俺がつまらない意地をはったせいで、あいつの才能が花開くのが遅れちまったんだけどな。あいつに必要だったのはあのプロデューサーみたいな接し方だったってのに。 それにやっと気づいて、プロデュース権を譲渡して。……なんともカッコ悪い話だ」 そう言うプロデューサーの顔は、やっぱり悲しそうで。 それが嫌で嫌で、私は―― ○ ○ ○ 日野茜は気付けなかった。プロデューサーとの過去に想いを馳せていたから。 小日向美穂は気付けなかった。自分はどうしたいのか思い悩んでいたから。 背後からのそのそと近付く存在に、彼女たちは気付けなかった。
527 :てぃーえぬけーとのそうぐう ◆ncfd/lUROU :2013/03/11(月) 22:14:13 ID:I0f6kHn.0 「きゃ、きゃああっ!?」 茜を現実に引き戻したのは、背後から聞こえてきた美穂の甲高い悲鳴だった。 反射的に振り返った茜の目に飛び込んできたのはこちらへと倒れこむ美穂と、その後ろの大きな何か。 何があったのか。背後のものは何なのか。そんなことを考える前に、茜の身体は動いていた。 美穂の手を引いていた手を離し、空いていたもう片方の手とともに抱え込むように受け止める。 しかし、茜がいくら体力自慢のアイドルと言っても、その体格と腕力は少女の範疇を出ない。 さらには突発的すぎる状況、振り向いた直後という悪条件、その他もろもろが重なった結果、茜はバランスを崩してしまう。 バランスを崩した状態で少女一人を受け止めきれるはずもなく。 ――ドッテーン! 小日向美穂は日野茜を巻き込んで、盛大にズッコけたのだった。 「あいたたた……。あ、大丈夫!?」 下敷きになりながらも美穂に声をかける茜の身体に怪我はない。下が牧草であったことが幸いしたようだ。 茜としても、ここで自分の身体の心配などする気はない。倒れただけの自分よりも悲鳴を上げた美穂の方が深刻な事態にあるのはわかりきっているからだ。 「うん、大丈……ひゃあぁっ!?」 返事をしかけた美穂の身体がビクンと震え、続いて火を吹かんばかりに顔全体が朱に染まる。 ジタバタと暴れ始めた美穂の下、茜は自分がまだ美穂を抱き止めたままだということを思い出した。 慌ててその腕を緩めると、美穂はそのままゴロゴロと脇に転がって行く。美穂の身体で覆われていた視界が開けたその時、初めて茜は美穂の背後にいた大きな何かの姿をはっきりと見ることが出来た。 美穂を見て、茜を見て、もう一度美穂を見て、そちらに向かってのそのそと歩いて行くその姿は。 またも悲鳴をあげる美穂に構わず、その頬をぺろぺろと舐めるその姿は。 大きな角と鼻水が特徴的な、牧場には似つかわしくないその姿は。 「……ブ、ブリッツェン!?」 この場にはいないイヴ・サンタクロースのペット(?)であるトナカイに、他ならなかった。 【G-6・牧場/一日目 昼】 【小日向美穂】 【装備:防護メット、防刃ベスト】 【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌、毒薬の小瓶】 【状態:健康 哀しみ】 【思考・行動】 基本方針:殺しあいにはのらない。皆で幸せになる方法を考える? 1:茜についていく 2:藍子の考えに嫌悪感。 3:やめてぇえっ!? 【日野茜】 【装備:竹箒】 【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いには乗らない! 0:美穂をどう励ますべきなのかが、わからない。 1:あの高い建物(サイロ)で休む 2:他の希望を持ったアイドルを探す。 3:その後藍子に連絡を取る。 4:熱血=ロック! ※牧場には牛やブリッツェンがいました。他にもいるかもしれません。 ※茜のプロデューサーは『Another Cinderella』で語られた藍子の元プロデューサーです
528 : ◆ncfd/lUROU :2013/03/11(月) 22:15:27 ID:I0f6kHn.0 以上で投下は終了です
529 : ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:48:15 ID:rl1zRanU0 投下しますー
530 :おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:49:03 ID:rl1zRanU0 ―――――ララララご飯!ララララ食べよう! ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
531 :おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:49:26 ID:rl1zRanU0 ぐぅぅぅっと物凄い鈍い音が、青空の下、盛大に響く。 朝も終わり、そろそろお昼に差し掛かる頃だった。 その音を出したのは、勿論――― 「にゃ、にゃ!?」 猫型アイドル、前川みくの可愛いお腹であった。 大きく響いた音に思わず、みくは顔を紅く染めてお腹を抑える。 思えば、殺し合いが始まって以降、何も食べては居なかった。 そんな余裕は無かったし、朝以降は……勿論そう。 そうなれば、当然お腹は減る。 朝ご飯は、元気の源なのだ。 「そんにゃこともあろうかと、みくはちゃんと用意したんだにゃあ!」 だから、みくはきちんと遅すぎる朝食を用意していたのだ。 とはいっても、ライブステージにあった売店からハンバーグ弁当を拝借しただけなのだが。 ついでにミルクも拝借した。三本も。 目指せ、雫並みの胸である。 みくはトップアイドルになる為なら、努力は惜しまないのである。 それが、雫に対しての贖罪にもなるから。 あれは不幸な事故だった。 でも、だからこそ、それをきっちり受け止めて生きていく。 「……とりあえず、食べるにゃ」 兎も角、今は朝ご飯である。 みくは、空港へ向かう道の傍にあったベンチに座った。 とりあえず、南……牧場に行ってみようと思ったから。 何故牧場なのかって……まあ色々思うところがあったから。 その最中で、人がいそうな空港に言ってみようとみくは思ったのだ。 「……いただきますにゃ!」 そして、弁当のプラスチックの蓋をとる。 弁当は何処にでもありそうなコンビニ弁当で。 白米に梅干、ポテトサラダにハンバーグ。 それになんかのフライだ。 朝に食べるには、少々ヘビーだけど、お腹が減ってるからきっと大丈夫だろう。
532 :おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:49:44 ID:rl1zRanU0 「まずはお肉……美味しいにゃ〜♪」 まずはハンバーグを口にする。 その瞬間溢れ出る肉汁が、堪らなく美味しい。 ちょっと冷めてるのはいただけないが、仕方ない。 程よく柔らかくて、簡単に切れる。 「サラダもおいし……」 そのままポテトサラダもつまむ。 ちょっと辛めの味付けがご飯を進ませる。 白米も食べて、次はフライをと、噛んだ瞬間 「にゃ!?」 サクッと衣が柔らかいのはいい。 ちょっとしなっとしてるのは冷めてるから仕方ない。 問題は、中身だ。 「さ、魚……にゃーー!?」 そう、魚のフライで。 みくにとっては猫型アイドルの癖に、魚は大の苦手なのだ。 どうしても、ぱさぱさしたあの身は許せないのである。 食うのも、苦痛で。 どうしても、無理で。 「の、残すにゃ……」 残そうと、そう思った時。
533 :おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:50:30 ID:rl1zRanU0 ―――無駄じゃありません。ううん……無駄に、しないでください。みくさんが、私の命に意味を持たせてください 不意にリフレインする言葉。 雫が残そうとした言葉。 難しい、命の話だった。 ―――命は等しいものだと私は思いますー 命は、等しいものだと彼女は言った。 あの時みくには、解からなかったけど。 でも、今は理解しようと思う。 「…………食べよう。そのほうがいいにゃ」 そうして、みくは意を決して目を閉じてフライを飲み込む。 相変わらず美味しくないし、味も超絶に苦手だ。 でも、残してはいけない。 無駄に、してはいけない。 命を、みくが繋げなければならない。 みくも、魚も、雫も、牛も命は等価値だ。 それを、みくは魚の命を食べて、生きる。 魚も牛も、人間の都合で、殺す、食物だ。 等価値じゃないかもしれない。 けど、それは違うんだ。 みくが、魚の命を貰って、それを糧にして。 魚の命を貰う。 それが、循環する。 いわば、命の循環だ。
534 :おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:50:56 ID:rl1zRanU0 誰かが奪ってしまった命を、いただく。 そうして、自分の糧にする。 そうすれば、奪った命は、エゴかもしれないけど。 奪った人間の為に、なるのだから。 だから、みくが、魚の、雫の命の意味を持たせる。 それが、大切な事だから。 「―――いただきます」 命に、感謝を。 いただきますと言葉を重ねて。 みくは、米も、牛も、梅も、芋も、魚も。 一杯食べた。 一杯命をいただいた。 そうして、命は巡る。 「――――ごちそうまでした」 ごちそうさまと。 命をごちそうまと言葉をかけた。 こうして、食事を終えた。 満足だった。とても美味しい。 そうやって、命は無駄にしないこと。 きっと、雫が言いたかったことはそれで。 そうして、雫の命も、繋げよう。 いただきますから、ごちそうままで。 そうやって。 命は、巡る。 【D-3 北部/一日目 昼】 【前川みく】 【装備:セクシーキャットなステージ衣装、『ドッキリ大成功』と書かれたプラカード、ビデオカメラ、S&WM36レディ・スミス(4/5)】 【所持品:基本支給品一式】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:みんなを安心させて(騙して)、この殺し合いを本物の『ドッキリ』にする。 1:ご馳走様でした。
535 :おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:51:24 ID:rl1zRanU0 ―――好き嫌いは仕方ないけど 食べ残しは絶対ダメ すべてのものに感謝忘れず、両手合わせていただきます!
536 :おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/12(火) 00:51:54 ID:rl1zRanU0 投下終了しました。 そして、北条加蓮、神谷奈緒予約します
537 :名無しさん :2013/03/12(火) 13:53:37 ID:ZL56wCogO 投下乙です。 食事は、弔い。
538 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/15(金) 23:18:27 ID:eKJV1DVM0 予約延長しますー
539 : ◆John.ZZqWo :2013/03/16(土) 07:28:03 ID:vZw491U.0 投下乙です! >孤独のすゝめ は、肇ちゃん……。これも彼女の心が綺麗すぎるからなんだろうか。でも、逃避な気もあり……実際これでこの後なおのこと悪くなるような気も。 このまま水族館で集合できたら、逆にすっきりした岡崎先輩と再会することになるだろうけど、別行動した経緯が経緯だけに……うーん、怖い!w >てぃーえぬけーとのそうぐう ……ブ、ブリッツェン!? >おはよう!!朝ご飯 朝ご飯を食べました! だけなんだけど、雫さんや命をってことを考えると、ちょっとしんみりするワンシーンでしたね。 すいません、体調と週末の予定が入ったので>>509 の予約をいったん取り下げます。
540 : ◆yX/9K6uV4E :2013/03/16(土) 13:35:43 ID:uHcMmmnQ0 遅れてすいません、延長申請します
541 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/16(土) 16:24:18 ID:7xY7Dlio0 投下お疲れ様です。 >てぃーえぬけーとのそうぐう 茜のプロデューサーは藍子の元プロデューサーだったのか……意外な繋がりもあったものです。 上司と部下?の相性が重要なのはこういった業界でも同じなのかもしれませんね。 そしてここでまさかのブリッツェン登場、これは流石に予想出来なかったです。 ここからどういった風に展開していくのが凄く楽しみだなぁ。 >おはよう!!朝ご飯 前半はほのぼのとした展開で、重苦しい展開が続く中での清涼剤といった感じでしょうか。 しかし後半はみくのこれから背負っていくものを感じさせて、なんというか深いなぁ。 彼女自身も成長していく中で、今後が気になるお話でした。 最後に、小関麗奈、古賀小春、五十嵐響子、緒方智絵里を予約します。 ちなみに、響子の前回の方針に関しては承知しております。
542 :名無しさん :2013/03/17(日) 14:10:07 ID:kFkrSlmI0 >>541 了解しました 西へ向かうという方針を承知した上で距離がかなり開いている二組を予約するということは、なにか考えがあるということでよろしいんですよね? 一緒に予約しているとはいえ、別々の場所の組みも描けますし
543 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/17(日) 22:37:10 ID:ypocpkyw0 投下します
544 :彼女たちの幕開け ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/17(日) 22:38:08 ID:ypocpkyw0 フィルターの外れた世界は、とても残酷だった。 * * * 水族館の一室、目の前には大きな水槽が出迎える様に鎮座していた。 その中には、大小様々な魚が悠々と泳いでいる。 そしてその水槽の前に二人――岡崎泰葉と喜多日菜子が居た。 「誰もいませんねぇ……」 「そうですね……私達が一番最初みたいですが」 既に彼女達はその水族館の奥まで探してはいたが、そこには人の姿は無い。 彼女達は……と言うより泰葉は、この場所で集合の約束をしていた。 しかし現在、島の端へ行った二人もケーキ屋へ向かわせた二人も未だに戻ってきていない。 もしや――と、最悪の可能性が頭をよぎる。 その可能性がないとは言い切れない。あの火事の原因が、白坂小梅を襲った人物が近くにいるかもしれない。 しかし、それを今考えても仕方無いと頭から考えを追い出す。 待つ場所であるここから離れても入れ違いになるだけだろう。まだ焦るような時間ではない。 「どうするんですかぁ?」 「下手に探しに行っても仕方ありません。 当初の予定通りここで待ちましょう……とりあえず、次の放送まで」 そう言って、泰葉は近くのソファに手をかける。 大きい水槽の目の前に置かれたそれは、休憩しつつも水中の絶景を楽しめる設計になっていた。 「放送……ですかぁ」 日菜子はいまいちピンときていない顔で言葉を繰り返した。 彼女は最初の放送があった時には麻酔が効いて寝ていたから、それに実感がわかないのだろう。 そう、彼女はただ妄想にとらわれていただけだ。 それが現実から逃げた結果だったのかどうかは分からないが、少なくとも本来の彼女は進んで殺し合いに乗るような人物ではない。 それは断言できる。彼女は純粋で、優しい少女だ。アイドルとしても輝いていた。 だが、悪意が無いから許されるというものではない。 彼女は他の人間を傷つけたのは事実であって、それは間違いなく罪だ。 ならば、泰葉はその罪をどうするのか。どう償わせるのか。 どちらにしろ、泰葉にはやらなければいけない事がある。
545 :彼女たちの幕開け ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/17(日) 22:39:05 ID:ypocpkyw0 「さて……喜多さん。落ち着いた所で聞きたい事があります。 この先何をするにしても、あなたに確認しなければならない事が」 手をかけたソファに座ることなく、ただまっすぐと日菜子を見つめる。 それがこれからに関わる大事な話だと言う事を日菜子は理解して、緊張した面持ちで身を引き締める。 そして、その内容も概ね分かっていた。いつまでも目を逸らしてはいられない事だということも。 「喜多さんの今までの行動について、です。 ここに連れられて来てから、どのように行動したか、いつ仁奈ちゃんと合流したか……そして」 ―――あなたが、他に誰かを傷つけたか。 「………っ」 彼女は、そう言葉を続けた。 泰葉が彼女をどう判断するにしても、まずはその罪を整理しなくてはならない。 彼女は既に泰葉の目の前で人を切りつけている。 『殺す』事より『倒す』事を考えた攻撃は命を断つ事はなかったが、同じ様な状況が前になかったとは限らない。 考えたくない事だが、その凶刃が他のアイドルを傷つけた可能性がある以上は、それを確認しなければならない。 だが――それは責める問いではない。 「正直に話してください。 私は……できればあなたを傷つけたくはない」 それは偽りでも何でもない泰葉の本心。 彼女はアイドルでは無い者に、特にアイドルを傷つける者に確かな憎悪を抱いているが、 しかし泰葉に目の前の少女を心から憎むと言う事は無い。 それが真実だ。彼女は『動く夢の腐乱死体』ではないから。 救えない相手には躊躇はしないだろうが、日菜子はそうではない筈だ。 彼女がもう戻れないほどの罪を背負ってしまっていない限りは、まだやり直せる。 そう考えるのは、彼女が同じプロデューサーのもと育んだからでは無い。 「私は、アイドルとして絶対にこの殺し合いを止めたい……いえ、止めてみせる。 でも、きっとそれは一人では成し遂げられないから……協力が必要です」 自分のためでは無く、しかし日菜子のためだけでもない。 この気持ちはどんな状況でもアイドルとして輝く皆の為に、決して負ける事無く抵抗する為に。 「だから……あなたの今までを包み隠さずに話してください。 『アイドル』としてこのイベントに終わらせるには、それが必要です」 『アイドル』として、彼女はその先を見つめていた。 * * *
546 :彼女たちの幕開け ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/17(日) 22:40:24 ID:ypocpkyw0 日菜子は、今までの事を包み隠さず話した。 とはいえ、その量は決して多くは無く、何の変哲も無い話だった。 ただ表現豊かな少女が怯え、震えて、やがて現実から目をそらしただけの話。 そこに一人、妄想の世界で『魔女』と認識されなかった少女がいただけ。 泰葉はその一部始終をただ無言で聞いていた。 「……分かりました、信じます」 そして、それはあっさりと終わった。 それは当事者である日菜子にとっても意外だったようで、疑問符を浮かべる。 「あれ?意外とあっさりなんですねぇ」 「信じないことには何も始まりませんし………それに」 言葉を続けようとして、少し詰まる。 その間に日菜子は首を傾げるが、その間は短かった。 彼女は少し照れながら、しかしはっきりと。 「喜多さんは優しいですし、自分に嘘はつきません。それくらいを見極める目はあるつもりです」 まっすぐと、そう言った。 「……むふふ♪ありがとうございますぅ」 「…あ、でもちゃんとやった事の落とし前は付けてもらいますよ?」 「さっきから言ってますけど、一体何をするつもりなんですかぁ……?」 泰葉の思わせぶりな発言に、日菜子はただおろおろするばかり。 その光景に笑顔を見せながら、泰葉は確信していた。 彼女は一度妄想に逃げたが、その根は心優しい少女だ。 彼女がまだ『アイドル』として輝けるのなら、きっと大丈夫だと。 そして、まだこの会場にも強く抵抗するアイドル達が居るはずだ。 彼女達と合流できれば、できないことは無い。漠然としていても、夢を目指していたい。 「まぁ、その事に関してはちゃんと小梅さんに確認して……ふぁ……あ」 そう思ってソファに腰かけて――――自然にあくびが出ていた。 「……泰葉ちゃん、眠たいんですかぁ?」 「いえ、そんなことは……ふぅ」 口では否定するが、実際そうだろうと冷静に判断している部分もあった。 この殺し合いに巻き込まれてからもうすぐ半日が経とうとしている。しかもスタートが真夜中だ。 極限状態が続けば眠気が襲う事もなかっただろうが、 心の中で隙ができてしまった今、体が休憩を求めているのに気づいてしまった。 「……だったら休憩してても良いんですよぉ」 「何を……まだ休んでる暇はありません」 「でも、今は待つだけですよねぇ?日菜子はもうぐっすり寝ましたから、後は休んでてください」 その言葉を皮切りに、自然と瞼が下に降りてきてしまう。 信頼していないわけではないが、だからと言って休むには気が早い。起きていないといけない。 そう思っていても体は抵抗出来ない。ソファの柔らかさが体を包んでいく。 「大丈夫ですよぉ、放送はちゃんとメモを取っておきますから」 そんな気の抜けた声が頭に響く。 その優しさが、彼女をアイドルとしてもう一度輝かしてくれるのならまあいいか、なんて。 うつらうつらした頭はぼんやりとそんなことを考えていた。 * * *
547 :彼女たちの幕開け ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/17(日) 22:40:56 ID:ypocpkyw0 少女は静かに寝息をたてている。 この広い水族館で、意識が覚醒しているのは日菜子ただ一人となった。 「むふ……泰葉ちゃん、寝顔も可愛いですねぇ」 そんなことを言いながらも、撫でる手は震えていた。 ここは殺し合いの場なのだと、その体が恐怖を示している。 フィルターの外れた世界は、とても残酷だった。 救いのない殺し合いの世界。容易に自分の死ぬ姿が想像できる、『死』が目の前にある世界。 一度折れた心が、もう一度逃げ出そうと警鐘を鳴らしている。 (大丈夫ですよ……日菜子は、もう逃げません) しかし、あの時とは決定的に違う。彼女はもう逃げ出さない。 自分が変わったわけでは無い。弱い心は確かにある。恐怖している自分は確かに居る。 それでも、今の彼女は心が落ち着いていた。 (泰葉ちゃんが……支えてくれましたから、今の日菜子は日菜子で居られるんです) ――彼女の歌が、日菜子を『救った』から。 そして今もなお、フィルターの外れた異常な現実に恐怖を覚える日菜子に勇気を与えている。 それはまさに、この異常な殺し合いの場でもはっきりと『アイドル』として存在している何よりの証拠だった。 「泰葉ちゃんは流石です……日菜子も負けてられませんねぇ」 そう言っていつものようにむふふと笑う。 その中身は普通の少女。お姫様でもなければエージェントでも無い。 特殊な能力は何一つないただの少女―――それでも。 (必ず、あなたを助けます) その気持ちだけは、本物だ。 * * * 彼女達は現実を見て、それでも『アイドル』として、この現実に立ち向かう。 しかし、現実は等しく牙をむく。現実はそう甘くは無い。 とても残酷で、無慈悲な世界。 彼女達の進む道は例え正しくとも、未だ暗く前は見えなかった。
548 :彼女たちの幕開け ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/17(日) 22:41:24 ID:ypocpkyw0 【岡崎泰葉】 【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(10/11)、軽量コブラナイフ】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:睡眠中】 【思考・行動】 基本方針: 『アイドル』として、このイベントに抵抗する。 1:次の放送まで水族館で待機。 2:今井加奈を殺した女性や、誰かを焼き殺した人物を探す。 3:『アイドル』である者への畏敬と『アイドル』でない者への憎悪は確かにある。けど……? 4:佐城雪美のことが気にかかる。 5:古賀小春や小関麗奈とも会いたい。 ※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれた彼女達のことを強く覚えています。 【喜多日菜子】 【装備:無し】 【所持品:無し】 【状態:疲労(中)】 【思考・行動】 基本方針:『アイドル』として絶対に、プロデューサーを助ける。 1:次の放送まで水族館で待機。 2:羊の子(仁奈)がどうなったか気になる。
549 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/17(日) 22:41:41 ID:ypocpkyw0 以上で、投下終了です
550 : ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:40:00 ID:3yvXn2JM0 遅くなってすいません、投下開始します。
551 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:40:19 ID:3yvXn2JM0 ―――いつだってこの自転車で 好きな所へ連れて行くよ どこまででも だってキミが好きだ!! ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
552 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:41:28 ID:3yvXn2JM0 「お待たせ」 「ううん、たいして待ってないよ、大丈夫」 「けど……」 「レンジでチンじゃん。奈緒」 「ま、まあそうだけど」 湯気が沸き立つ皿を二つ抱えながら、神谷奈緒は北条加蓮が待つテーブルに向かう。 少し早めの昼食をとるために、二人が入ったお店は小さな洋食店だった。 洋食店とはいっても、何処かのフランチャイズだったのだろうか。 奈緒が冷蔵庫と冷凍庫を確認すると、冷凍の洋食に溢れていた。 あまり材料も揃っておらず、料理を作るのには向かないようで。 冷凍ものを食べるのはなんだかなと奈緒は思い、加蓮に場所を変えようと提案した。 けれど、加蓮はここでいいよと強くねだりそのまま押し切られて、現在に至る。 「なあ、これでよかったのか?」 「『これ』が良かったのよ」 椅子に座った奈緒が、もう一度確認をとったけど、加蓮は柔らかく笑ったままで。 そして、美味しそうに温泉卵のドリアを口にする。 ただの冷凍ものなのに、本当美味しそうに。 折角だから栄養あるものを食べて欲しかったのに。 何か釈然としないものを感じながら、奈緒は自分のカルボナーラをフォークにまいた。 これも、冷凍ものだ。味は何処にもであるカルボナーラ。 美味しいことには変わりないが、やっぱり手作りにはかないやしない。 「美味しいね」 「……ああ」 ドリアが加蓮の好物だって事ぐらい奈緒は覚えている。 よく食べていたし、色んな種類のドリアを頼んでいた。 いつだったかは忘れたけれど、食べきれないのに、一度に二つ頼んだ時だってあった。 その癖、食べきれず、結局プロデューサーが残りを食べたのだけど。 「本当……おいし」 なんで、加蓮はこんなにも、一口一口噛締めるように食べるのだろう。 忘れないように、一つ一つ心に刻むように。 ただの冷凍のドリアなのに。 まるで、最期の――――
553 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:41:58 ID:3yvXn2JM0 「……あっ」 そして、奈緒は理解してしまう。 理解してしまった。 簡単で、とても哀しい事。 本当に、最期のドリアなのだ。 もう二度と、食べる事は出来ない。 だって、自分達は殺して、殺して。 そして、凛に願いを託して、果てるだけ。 加蓮はそう思っている、そう考えている。 もう二度と、帰る事は出来ない。 あの時に帰る事は――もう二度と。 「……どうしたの? 奈緒?」 「な、なんでもないよ」 ああ、くそ、泣きたくなってしまう。 何もかも投げ捨てて、自分達は此処に居る。 どんなに願っても、どんなに祈っても。 ただ、好きなことをしたいだけの少女には戻れない。 加蓮はドリアを食べるのが好きだった。 加蓮はカラオケで歌い明かすのが好きだった。 加蓮はプロデューサーの半歩後ろで歩くのが好きだった。 加蓮は、三人で居る事が好きだった。 けど、けれど。 そんな、好きなものすら、かなぐり捨てて、置き去っていて。 此処で、終わることを、選んだ。
554 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:42:23 ID:3yvXn2JM0 「……なあ、加蓮」 「なあに?」 「こうやってさ、よくファミレスで二人で食べたよな」 「あったあった」 「凛がいつも待ち合わせに遅くてさ、こう二人でだべってて」 「うんうん」 だから、奈緒は何時ものように話を振った。 何もかも最期なのかもしれない。 こうやって、話すことも。 涙が溢れそうになるけど、頑張って抑えた。 「そんでさ、いつも加蓮が待ちきれなくなってデザート追加するんだよ」 「う、五月蝿いよ」 「そうやって、太るよといってるのに食べて、やっぱ太るんだ」 「いうなー、奈緒だって同じだったくせに」 ――食べる事は、想い出を作る事だった。 好きなものを食べて、好きな人達と過ごして。 その中でかけがえのない想い出を作っていく。 だから、ドリアの中に、奈緒と加蓮は沢山の想い出を持っている。 そうして、人は人と絆を作っていく。 今だって、そう。 それが、最期の想い出だったとしても。
555 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:42:50 ID:3yvXn2JM0 「あはは、折角だしアイスもあったから食べよう?」 「そうする?」 「美味しいしなっ」 「うんっ」 食べる事は生きることだった。 医食同源という言葉もあるけど、その通りで。 食べる事は生きることに繋がるのに。 なんで、私達は死ぬ為に食べてるんだろう。 最期だと思って、食べるんだろう。 何もかもの事が最期に感じられて。 私達は必死に笑いながら、その下で。 沢山、泣いているようだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
556 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:43:15 ID:3yvXn2JM0 そして、ご飯を食べて。 放送まで、休憩するかという奈緒の意見を跳ね除けて。 私達は北に向けて出発していた。 「ぬぉぉ……なんでいきなり坂道なんだよ」 「……降りようか? 奈緒?」 「いいっ!」 そこら辺にあった自転車に乗りながら。 無茶をしている私に対して奈緒の譲歩がこれだった。 奈緒が運転するから後ろに乗れって。 大変だからいいといったのに、聞かないから本当参った。 「じゃあ、頑張れっ、奈緒!」 「任せろっ!」 こういう時の奈緒は話を聞かないから、任せるしかない。 だから、私は奈緒を応援して、頑張ってこいでもらうのを期待しよう。 じりじりとした太陽の光をうけながら、奈緒は汗を額一杯に浮かべて、漕いで。 私はその後ろで、奈緒の背を見つめていた。 何か、こういうのいいなと思う。 例え、最期でも、素敵な青春な想い出だった。 ――そういえば、前もこういう事があった気がする。 最も奈緒じゃなくて、プロデューサーだった。 仕事が終わった後、私は捻挫をして。 歩くのもできなくて、プロデューサーが背負ってくれて。 怪我している私より彼の方が真っ青で。 そのくらい彼は必死で。 私は真っ赤になりながら、その背に縋った。 嬉しかった、何か幸せに感じた。 こんなにも、私に一生懸命になってくれる人がいてくれて。 本当に嬉しかった。最高の想い出だった。 私は感謝と思いを告げようとして。 結局出来なくて、私はぎゅっと抱きしめた記憶がある。
557 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:44:21 ID:3yvXn2JM0 プロデューサー怒るかな? 怒るよね、当然だよね。 御免、御免ね。 でも、私は…… ねえ、プロデューサー。 私はね―――― 「よし、上り終わった!」 「えっ……きゃっ!」 「しっかり捕まってなよ、加蓮!」 その言葉と共に、自転車は急加速する。 上りがあれば、下りがある。 当然のように、自転車は、ぐんぐんと加速して。 ちょっと怖くて 「きゃー!? きゃー!?」 「ははっ、凄いだろ!」 「もー! 奈緒の馬鹿!」 上げた悲鳴に、奈緒は心の底から笑っていた。 私も、心の底から笑っていれあ。 そのまま、自転車は加速して、進んでいく。 その時、私は道から外れたところに三人組を見つけた。 彼女達は私達に気づいていないようだ。 襲うことも出来たけれど…… 「……楽しいね、奈緒」 「……そうだなっ」 私は見逃した。 今はこのまま、自転車に揺られていたい。 最期の最高の想い出になりそうだったから。 やがて、三人組は見えなくなって。 私は奈緒のお腹を抱きしめながら、自転車は行く。 「ねえ、奈緒」 「何だ?」 「……ううん、なんでもない」 「そう」 今の感謝と思いを彼女に伝えようとして。 やっぱり伝えられないから、ぎゅっと抱きしめて。 私と奈緒を乗せた自転車は、何処までも、行った。
558 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:44:52 ID:3yvXn2JM0 【F-1 北部/一日目 昼(放送直前)】 【北条加蓮】 【装備:ピストルクロスボウ、専用矢(残り20本)】 【所持品:基本支給品一式×1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×5】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 1:北西の街まで移動して、そこで“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。 2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 4:事務所の2大アイドルである十時愛梨と高森藍子がどうしているのか気になる。 5:三人組は見逃す 【神谷奈緒】 【装備:軍用トマホーク】 【所持品:基本支給品一式×1、デジカメ、ストロベリー・ボム×6】 【状態:疲労(少)】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、加蓮と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 1:北西の街まで移動して、そこで“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。 2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 ※すれ違った三人組は泉達です。泉達は奈緒達に気付いていません。
559 :自転車 ◆yX/9K6uV4E :2013/03/18(月) 18:45:19 ID:3yvXn2JM0 投下終了しました。此度は遅れてしまってすいませんでした。
560 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/19(火) 23:35:43 ID:nEys4BbA0 すっかり感想を忘れていました。ごめんなさい。改めて感想です >孤独のすゝめ 肇ちゃん……その道を選んだか。優しすぎるぜ…… そしてその提案にごもっともな反応をする我らが杏Chang。大変ですな…w さて、このままいけば順当に合流するわけだけど、はてさてどうなる? >てぃーえぬけーとのそうぐう まさかのブリッツェン。……こいつがどう影響するのやら。そもそもついてくるのかな? そして回想で意外な事実。成程、そこでつながるんですかー。 茜ちゃんも精神的に大分参ってる模様、何気にここも期待できるなぁ >おはよう!!朝ご飯 ただご飯を食べるだけ。ただそれだけなんだけど……うーん、重い。 これも雫ちゃんが必死に命の大切さを伝えた賜物ですね! そしてみくにゃん自身も放送を聞いてどうなるか、そしてどこにつながるか……そろそろ何処かに合流しないとね。 >自転車 なおかれはホントに悲しいコンビ……待つ先は破滅しかないのに、二人とも健気で、ホント悲しい。 そして前に続いて食事から伝わる思い。みくにゃんとはまた違うベクトルで、いつもと違う食事を噛み締めてるのが良いですね。 そして何気にいずみんグループもいかん、危ない危ない……。ここで衝突すれば確実に両方無事じゃすまないから、賢明な判断だ! では、 相川千夏、向井拓海、小早川紗枝、松永涼、白坂小梅、諸星きらりを予約します
561 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:12:48 ID:2ftwUwHQ0 投下、開始します。
562 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:14:38 ID:2ftwUwHQ0 ――――傍に居ることはできないけれど ――――ずっと、ずっと、見守っているから 「――――ッ」 「ひっ!」 僅かな爆発音が聞こえてきたのは、行く手に映画館が見えてきた時だった。 身体を縮こまらせる同行者を横目で見ながら音のした方向を凝視する。 ここから東の方向は、確かもう一つの市街地だった筈だ。 五十嵐響子は端末を取り出し、その記憶が確かだったことを確認すると再び同行者を一瞥する。 すっかり怯えた様子の彼女に苛立ちを隠せなかったが、それはともかくとして声をかけた。 「多分、千夏さんだと思いますよ。あの爆発は」 「えっ……どうして、分かったの?」 「さっき言ったでしょう、私が櫻井桃華を殺したこと」 「あの時も凄い爆発があったから。それくらい危険な代物ですよ、これは」 そう言って、響子は自らのバッグを指し示す。 ストロベリーボムという名のついた、強力な殺傷兵器。 智絵里も気付いたのか、自分のバッグに視線を移す。 更に怯えが強くなってしまったようだけど、こればかりは仕方のないことだろう。 正直言って響子もあれほどの威力を持つ爆弾を手元に持っているのは少し怖かった。 万が一、投擲ミスを犯してしまえば一巻の終わり。 それだけではなく、さきほど智絵里に襲い掛かられた時のように相手に接近された時には使えない。 出来れば銃を一度使っておきたいところだったが、生憎その機会が今までなかった。 次に誰かと遭遇した時に試し撃ちをしておくべきかもしれない。
563 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:16:15 ID:2ftwUwHQ0 「……さ、もう原因は分かったのだからいいでしょう。早く行かないと」 「あっ……」 そう言うと響子はさっさと歩き出す。 早くナターリアを見つけ出して始末しなければ。 「き、響子ちゃん待って!」 「……っ」 そう思った矢先、智絵里が響子の服の袖を掴んだ。 ゆっくりと振り返ると、慌てたように智絵里は手を離して俯く。 どうやら焦りと苛立ちが顔に出ていたらしい。 自分の態度に非があるのは分かっているけれど、煮え切らない様子が癇に障る。 「何よ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」 「あ……う……」 「もしかしてボムを捨てるなんて言うんじゃないでしょうね」 「誰に拾われるか分かったもんじゃないのに。だったら私が全部持ちます」 「そ、そうじゃないの!」 智絵里が慌てたように言葉を紡ぐ。 その表情は確かに怯えが混じっていたものの、響子が思っていたよりも落ち着いたものだった。 「もしかすると、こっちの方向に誰か逃げてくるんじゃないかなって」 「確か音のした方向って、もうすぐ禁止エリアになるはずだから」 その言葉を聞いて、響子は考えこんだ。 確かに智絵里の言う通り、C-7は間もなく禁止エリアになるはずだった。 千夏さんはそこから逃げ出そうとした相手を待ちかまえて襲い掛かったのかもしれない。 そして、二度爆発が起きたということは、相手が複数居た可能性も充分にある。 方向を考えると、その相手は元々こちらに向かっていたのだろうか。 もしそうだとしたら、千夏さんを振り切った後こちらに猛スピードで移動しているだろう。 それが、ナターリアかもしれない。
564 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:17:59 ID:2ftwUwHQ0 「……そう、ですね。その通りかもしれません」 「それで……えと、どうするの?」 「……ダイナーの方まで行って様子を見ましょう、それなら時間を使わないだろうから」 「確か……B-5の辺りにあったよね?」 「ええ、そうと決まれば早く行かないと。キャンプ場の方向へ取り逃がすかもしれません」 「そうだね、曲り道がすぐ近くに……あっ、待ってよ響子ちゃん!」 智絵里の言葉を最後まで聞かずに、響子は走り出す。 その足取りに、躊躇いはなかった。 五十嵐響子と緒方智絵里がそういったやり取りを交わしていた少し前。 B-6の丘沿いを二人の少女が周りを警戒しつつ自転車で駆け抜けていた。 正確に言うならば、警戒をしているのは後方に居るガンベルトを身に着けた少女だけなのだが、それはともかくとして。 言うまでもなく先程から周りを少々過敏に窺っているのが小関麗奈。 前方を進んでいる、ヘルメットを被った少女が古賀小春である。 見事に寝過ごして放送を聞き損ねた二人は、ひと騒動の後に今後の相談をした。 その結果、とりあえず灯台から離れようという結論に至った。 理由は二つ。 まず最初にC-7が間もなく禁止エリアになるということ。 市街地であるこのエリアが封鎖されれば、そこに潜んでいるかもしれない人間は移動せざるを得なくなる。 その人間が次に選ぶのは間違いなく灯台だろう。 夜中に起きた爆発が人為的に起こされたのが間違いない以上、移動してくるアイドルが信用できる保障はない。 そのため、逃げ場のない灯台は危険だろうと麗奈は判断した。 二つ目の理由は、このまま引き籠っているのは得策ではないだろうということ。 麗奈が放送の内容を告げた時、あの小春ですら少なからずショックを受けた。 そう、思ったよりもかなりハイペースでアイドル達は死んでいる。 けれども、確実に殺し合いに乗っていない(と思われる)諸星きらりと南条光はまだリストに載っていない。 この二人が生存しているならばどうにか合流しようと小春が提案すると、麗奈は割と簡単に受け入れた。 流石にこの状況で強がれるほどに彼女は現実の見えないタイプではなかったから。
565 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:19:24 ID:2ftwUwHQ0 そこまで方針を決めたところで、二人は禁止エリアの刻限が近づいているのに気付いた。 そのため移動しながら、改めて具体的な行き先を決めることにして。 不測の事態が起こったのは、その直後。 迅速に移動するため灯台に停めてあった自転車を拝借し、今まさに出発しようとしていた二人は驚く。 南東の方向から、ハッキリとした爆発音が聞こえてきたのだ。 正直言って麗奈はこの時点で灯台に戻りたい気分だったが、ここが危険だと自分が言いだしただけに引っ込みがつかず。 結局小春が平然としていたのもあって、とりあえず周囲を警戒しながら進むことにした。 「さっきの音凄かったね〜、れいなちゃん」 「……っていうか、やっぱり移動しない方が」 「けど〜、それじゃあ何も変わらないと思うよ〜?」 「……アンタ、ホントに緊張感が無いわね」 「れいなちゃん、これからどうするの〜」 「無視かよっ!……あのデカ女といい子ちゃんは何処に居るのかしら」 「ん〜、わかんないです〜」 「アンタには最初から期待してないわよ、けど……ホントにどーすればいいのよ」 二人は途中まで道路を進んだ後、道を外れて草むらを突っ切りB-6の丘沿いを進んでいた。 自転車で進むにはやや強引すぎるような気もしたが、そのまま進むと禁止エリアまで一直線だから仕方ない。 最初は運転できるか不安だったけれど、草の高さがくるぶしくらいだったのは幸いだった。 緊張感……いや、危機感の薄い小春に溜息をつきながら、麗奈は器用に片手に持った端末で地図を眺める。 移動先を考えると言っても、今まで北東の果てに居た二人の選択肢は少なかった。 南の市街地か、もしくは西の市街地に向かうかの二択。 無論前者は禁止エリアに接触していない部分に限られるが、比較的移動は容易に済む。 実際のところ、最初に出会った場所を考えるときらりもこちらの方向に向かった可能性が高い。 「やっぱりあのデカ女はここから街の方に行ったのかしら」 「けど〜、きらりちゃんも自転車があるから速く移動できるんじゃないかな〜」 「そうねぇ……もう市街地を南に通り抜けてるかもしれないし……」 「それに火事が起こってるところに近づいたりはしないと思うよ〜」 「そっか……ああもう余計わかんなくなったじゃない」
566 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:20:45 ID:2ftwUwHQ0 少し焦りつつ、前方に注意しながら地図をちらりと見る。 もし南に通り抜けたとしたらきらりは一体何処に向かうのだろうか。 「ん……そういえば通り抜けた先に水族館があるわね」 「わ〜、水族館行きたいです〜」 「バカ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが」 口ではそう言いつつも、割とここに居るのも有りうるのではないかと考える。 確かに読めないところはあるものの、きらりと言えど全く常識を持ち合わせていないわけではないだろう。 ならば、まだ禁止されていない市街地付近に居る可能性も充分にあるのではないだろうか。 もし彼女が他に信頼できるアイドル達と合流しているのであれば万々歳だ。 「っと……小春、もうB-6が近いから降りるわよ」 「は〜い、了解です〜」 B-6が近付いたところで二人は一旦自転車を下りる。 無論自転車はその場に置いていくしか方法はなかった。 所有者には気の毒なことだが、この状況なら流石に許してもらえることだろう。 何故こんな中途半端な場所で下りたのかと言うと、さっきの爆音が何処で起こったのか確かめるためだ。 丘の中腹には茂みが広がっていて、場合によってはしばらくそこに潜むことも出来るだろう。 念の為に周囲に人の気配が無いことを確かめつつ、二人は丘を登って行く。 爆音が聞こえたのは、ここから更に南東の辺りだったはずだ。 そして茂みに入ってその方向に目を向けた瞬間、麗奈と小春は息を呑んだ。 爆発が起こったのは思ったよりもすぐ近くだった。 地図で確認すると、どうやらスーパー付近らしい。 「な、何よアレ……火柱が登ってるじゃない……」 「あぅぅ……昨日見た火事みたい〜」 小春の何気ない一言に麗奈はハッとした。 そう、あの光景は昨日見た火事の炎によく似ている。 ――――つまり、昨日の犯人がすぐ近くに居る。
567 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:21:47 ID:2ftwUwHQ0 「小春っ!すぐに移動するわよ!」 「どうして〜?」 「バカっ!昨日の火事を起こした奴があっちに居るのよ!」 「あ〜、なるほど〜」 「感心してる場合じゃないでしょ!近くに居たらアタシ達まで気付かれる!」 小春の腕を掴むと、麗奈は西の方向へと走り出した。 南は論外として、これ以上島の北東に居るのは余りにも危険すぎる。 もう二人が選べる方向は一つだけ、このままではそれすらもいつ塞がれるか分かったものではない。 丘の木陰に身を隠しつつ、麗奈はここから逃れることだけを考える。 何やら小春が叫んでいるような気がしたけれど、ただ走り続けた。 様子を見ようと何の警戒もせずに危険な場所に来たことを後悔しながら。 ――――もし、このとき麗奈に小春の声を聞く余裕があったならば。 小春の視線の先に居た、あれほど探していた自転車の彼女と合流出来たかもしれない。 「ハァ……ハァ……ガッ…ゲホゲホ……ッ」 「ふえ〜、もう走れないよ麗奈ちゃん〜」 こんなに走り続けたのは人生で初めてではないかと言うくらい走り続けて、ようやく小関麗奈のペースが落ちた頃。 ずっと腕を引っ張られるまま走り続けた古賀小春はそう言って麗奈の腕を引いた。 ペットのヒョウくんも、上下にガクガクと揺れ動かされてすっかり辟易した様子だ。 出発してからずっとヘルメットの上に居たのだから、それも当然だろう。 しかしまさかれいなちゃんの体力がここまで続くとは思ってもみなかった。 火事場の馬鹿力という奴だろうかと小春は思った。
568 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:22:49 ID:2ftwUwHQ0 「ハァ……ハァ……ここ、何処かしら……」 「えっとぉ〜、結構移動したんじゃないかな〜」 端末を取り出すれいなちゃんを横目に見ながら、今走ってきた方向を振り返る。 腕を引っ張られた時に爆発の方向を見ていると、視界の端に何かが見えた。 視線を移すと、なんとそこには自分が合流しようと提案した諸星きらりが居たのだ。 慌ててれいなちゃんに声をかけたけれど、逃げるのに精いっぱいで聞こえなかったようだった。 仕方ないのできらりちゃんに気付いてもらおうと声をかけたけれど、彼女の注意も爆発に向いていて結果は同じ。 結局声が届かないほど遠ざかってしまったので、諦めた。 今疲れてるれいなちゃんにそれを伝えてもしょうがないだろうと黙っていることにした。 「あっちに建物があるわね……ってことはここはB-5かしら」 「ダイナー……確か飲食店みたいなもんだったわね」 そう呟くと、れいなちゃんは端末をしまった。 「だったら〜、そこで休憩しましょ〜」 「そうね……ずっと走りづめで疲れたわ……」 提案すると、れいなちゃんは気だるげに歩き始めた。 丘を下りて少し歩くと、すぐに建物が見えてくる。 確かだいなー、と言っていただろうか。馴染みのない名前だった。 疲れ切って少しぼんやりとした頭で後をついていく。 建物の裏を回って、表の入り口に行く。 れいなちゃんも随分疲れてるみたいで、足取りが重かった。 ゆっくり休んで、ごはんを食べて、それからまたどうするか考えよう。 そう思った瞬間、乾いた音が周囲に響き渡った。 さっきの爆発とは違ってずっと小さい、文字にするなら「パンッ」と言った感じの音。 何の音だろうと思いながられいなちゃんに声を掛けようとした瞬間。 前を歩いていたれいなちゃんの体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。 倒れた衝撃でガンベルトから二丁あった銃の片方が飛び出して、虚しく音を立てて転がった。
569 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:24:32 ID:2ftwUwHQ0 それは折よくダイナーの駐車場に止まっていた軽トラックの陰に隠れて結構な時間が経った頃のことだった。 首尾よくここまで辿りついたまでは良かったのだが、残念ながらダイナーには人の気配が無く。 そのため五十嵐響子と緒方智絵里は誰かが来た時、すぐに対応出来るように外で待ち構えることにした。 しかし待てど暮らせど人の来る気配は無く、諦めて移動しようと腰を上げかけた瞬間。 あの二人が北東の方向から斜面を下って来た時は、少々驚いた。 銃を構えたまま響子はゆっくりとトラックの陰から出て、智絵里もその後に続く。 突然現れた二人を見て、小春はかなり驚いているようだった。 そんな彼女にふと憐みに似た感情を抱く。 ついこの前まで同じアイドルだった人間に突然、死を突きつけられるのはどんな気持ちなのだろうと。 けれど躊躇いはなかった、譲れないものがあるから。 「小春ちゃん、ごめんね」 「あ……きょうこ、ちゃん?」 「恨みはないの……けど、死んで」 銃口を小春に向ける。 目を見開いたその無垢な表情に、ほんの少しの痛みを覚えながら、響子は引き金を―――― 「ッ!?響子ちゃん、危ないっ!」 「えっ?」 突然横から衝撃が走り、響子は派手に転倒した。 その瞬間、先程自分が撃ったそれとは明らかに違う重みのある銃声が響き渡る。 音のした方向に視線を移すと、目を剥いて驚いた。 そこには苦しげな表情を浮かべながら膝立ちで銃を構えた小関麗奈が居たから。 その銃口はさっきまで響子の頭があった場所に向けられていて、思わず悲鳴を上げそうになった。 恐らく智絵里がそれに気付いて押し倒してくれたのだろう。 しかし恐怖以上にどうして?という疑問で頭がいっぱいになっていた。 だって、麗奈は確かにさっきの銃撃で――――
570 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:25:26 ID:2ftwUwHQ0 「こ、これで終わりです!」 凍りついたかのように動けない響子を尻目に起き上がった智絵里が叫ぶ。 その手に握られていたのは銃撃を外した時の為に持たせていた、ストロベリーボム。 しかし、それよりも先に再び信じられない光景が響子の目に飛び込んでくる。 小春が、いつの間にやら麗奈の落としたもう1丁の拳銃を拾い上げて、銃口を智絵里へと向けていた。 「智絵里ーーーーッ!ダメーーーーー!」 「ッ!?」 恥も外聞も無く、響子は叫んだ。 撃たれて投擲に失敗したら間違いなく死ぬと思考が辿りつく前に言葉が口から出ていた。 智絵里がびくっと体を震わせてこっちを振り向く。 その一瞬の間が、彼女達の運命を分けた。 「きゃっ!」 「あああああああーーーーーーーっ!」 もう一度腹に響くような音がすると、智絵里が叫び声を上げた。 持っていたストロベリーボムを取り落とすとその場にうずくまる。 何かがパラパラと降ってくるのも構わずに響子は慌てて駆け寄った。 ストロベリーボムの事が一瞬頭をよぎったけれど、そんなの関係ない。 智絵里は左腕を抑えて苦悶の表情を浮かべている。 しかしどうやら怪我はそれだけのようで、安心して息をついた。 「小春っ!逃げるわよ!」 その声にハッと顔を上げると、麗奈が小春の手を取って走り出していた。 逃がすわけにはいかない。 響子は智絵里に押し倒された時に取り落とした銃を勢いよく拾った。
571 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:26:22 ID:2ftwUwHQ0 「あうっ!」 しかし、その瞬間右手首に凄まじい激痛が走って再び取り落とす。 どうやら倒れた時に変な風に下敷きにしてしまったらしい。 左手で銃を拾いなおすも、もう既に二人はかなり遠ざかっていた。 追いかけるにしても、利き手を使えない自分は圧倒的に不利だろう。 この距離から撃ったとしても命中させるのは無理だと、唇を噛むしかなかった。 「はい……響子ちゃん」 「……どうも」 氷の詰まったビニール袋を差し出され、響子は視線を逸らしつつ受け取る。 右手首を酷く捻挫しているのに気付かれていたらしく、少し居心地が悪かった。 結局二人を取り逃がした響子と智絵里は、ダイナーで傷の治療をすることにした。 と言っても先程の銃声を聞きつけた誰かが来るかもしれないので、長居は出来ないのだが。 智絵里の左腕は出血していたけれど、幸いなことに銃弾が原因ではなかった。 銃弾はトラックのガラスに当たったらしく、そのとき割れた大きめのガラス片が智絵里の左腕、二の腕辺りを切り裂いたらしい。 あの時響子に降りかかったのは細かい破片だったのだ。 しかしどちらにも命中しなかったのは本当に幸運だったとしか言えない。。 車のガラスが粉々になるのならば、左腕などかすっただけでも吹き飛んでいただろうから。 それと治療の途中、結構深く切っていたのに泣き言一つ言わなかった彼女を内心少し見直した。 けれど今回は明らかにこちら側の油断だ、と響子は再び唇を噛みしめる。 相手が二人でも小春なら何も出来ないだろうと判断した為に、銃を試し撃ちしようと考えたのがそもそもの間違いだった。 思わぬ反撃を食らい、それどころかこちらが返り討ちにあっていてもおかしくなかった。 逃げる二人を撃つのを諦めた後に転がっていたストロベリーボムが目に入った瞬間、間違いなく寿命が五年は縮まった。 遅れて気付いた智絵里が真っ青になっていたということは、レバーを引く直前だったのだろうか。 傍から見ればさぞ面白い絵だったのだろうが、当事者としては全く笑えなかった。
572 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:27:17 ID:2ftwUwHQ0 「ホ、ホントに危なかったね……」 「……そのことだけど、一つだけ納得できないんです」 「え……何かあったの?」 「小春ちゃんが銃を撃った時のことです」 「銃が2丁あったのに持っていたのは小関さん……彼女だけだった」 「それが、どうかしたの?」 「つまり小春ちゃんは細かい銃の扱い方を知らなかったはずなんです」 「……智絵里は銃の安全装置を知ってますか?」 「えと……確か暴発?を防ぐ為にあるんだよね」 「ええ、私も説明書を読んで初めて場所を知ったんです」 「あっ……じゃあなんで小春ちゃんは撃てたんだろう」 「分かりません、けど考えられるのは二つ」 「小関さんが最初から安全装置を外していたのか」 「それとも一度銃が落ちた時に弾みで偶然安全装置が外れていたのか」 結局真相がどちらなのか、響子には分からない。 しかし、後者なのだとしたら運命のいたずらと呼ぶべきだろうか。 「それと……あの……」 「……?どうしたの、響子ちゃん?」 「庇ってくれて、ありがとう」 「智絵里が押し倒してくれなかったら、きっと死んでたから」 「……ううん、私こそ助けてもらったからおあいこだよ」 「ありがとう、あと……あの二人を逃がしちゃってごめんなさい」 「いいえ、それはいいんです」 「でも……」 「だって……片方はもうじき死ぬでしょうから」
573 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:28:12 ID:2ftwUwHQ0 必死で逃げて、やっと道の脇にログハウスが見えてきた。 小春はそこでようやく一息ついた。 さっきは本当に死んじゃうんじゃないかと思って、怖かった。 きょうこちゃんを押し倒したちえりちゃんが身体を起こした時。 その手に何かを握ってるのに気付いた瞬間、れいなちゃんの落とした銃に飛びついてた。 思った通り、ちえりちゃんは立ち上がると振りかぶったから。 無我夢中でテレビドラマに出てくるおまわりさんのように撃鉄を起こして引き金を引いた。 両手でしっかり握りしめてたのに、物凄い衝撃で心臓が止まっちゃいそうで。 呆然としたまま、れいなちゃんに手を引かれて逃げ出した。 「あれ〜?れいなちゃん、あのログハウスに入らないの?」 どういうわけか、れいなちゃんはログハウスのすぐ近くで道の脇に入った。 焦っているようにずんずんと歩いていって、小春は歩調を合わせるのに苦労した。 そのまま道路とは反対側の場所まで進んだ。 そこには芝生が広がってて、大きな木が1本だけ生えていた。 突然繋いでいた手を離すと、れいなちゃんはその木に背を預けて座った。 その瞬間、小春は絶句した。 だってれいなちゃんの胸には、ぽっかりと穴が一つ空いてて。 そこから下が、真っ赤に染まっていたから。
574 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:29:18 ID:2ftwUwHQ0 麗奈はガンベルトを外し、握ったままだったもう1丁の拳銃の安全装置をかけると一緒に脇に放った。 こうすれば後で小春が身につけるときに苦労しないだろう。 「れ、れいなちゃん〜!?」 「っ……うっさいわね……傷に、響くでしょうが」 「早くおいしゃさん呼ばないとれいなちゃんが死んじゃう〜!」 「バカ、もう手遅れに決まってるわよ」 「そもそもここまで走れたことにビックリよ、人間って案外頑丈なのね」 「平気だよ〜、だってきらりちゃんすぐ近くに居るよ〜!」 「何言ってんだか、火事の起こってる場所に近付かないって言ったのはアンタでしょーが」 「だってさっきの爆発の時にきらりちゃん居たんだよ〜!」 「れいなちゃんが走るのに夢中だったから声かけられなかったけど、きっとまだ近くに居るから〜!」 「あぁ、そうだったのね……アタシまた一つドジっちゃってたか」 「ホント……自業自得って奴ね」 自嘲気味に麗奈は笑う。 やっぱり自分たちには緊張感が足りなかったらしい。 だからこそ疲れ切っただけで周囲の警戒を怠ったのだし、こうなったのも当然だ。 それどころかたった今、自分の冷静さが足りなかった事まで指摘されてしまった。 余りにも馬鹿馬鹿しくて笑える話だ。 「小春、さっさとベルト付けてアンタが持ってる銃もしまって安全な場所に行きなさい」 「いやだ〜!れいなちゃんも行くの〜!」 「だから……無理って言ってんでしょーが」 「アタシはもう死ぬの!わかる?」 「わかんない〜!一緒におうち帰るの〜!」 「……お願いだから逃げて、アンタまで巻き込みたくない」 「れ、れいなちゃ〜ん!」 「アンタには死んでほしくないから……もう行きなさい」
575 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:30:12 ID:2ftwUwHQ0 小春が銃を取り落とす。 そして、泣きながら抱きついてきた。 本当に最後まで変なところで融通の利かない子だ。 どうして自分はこの子を助けたいと思うのだろうか。 麗奈は、ぼやけ始めた頭で考える。 きっと最初に会った時からほっとけなかったからだろう。 それに自分が冷静だったら、小春まで危険に晒されなかった。 だから、せめて彼女だけは巻き添えにしたくなかった。 思えば最初は殺そうとしていたというのに、変な話だ。 結局自分は善人になることも、悪人になることも出来なかった。 大口を叩くだけで、中途半端なままだった。 けれどそれでも良かったかな、と麗奈は考える。 自分は最後まで中途半端だったけれど、小春を危機から救うことは出来た。 撃たれた時、もう駄目だと諦めかけて。 けれど小春のことが頭に浮かんだ瞬間、体が勝手に動いていた。 きっとカミサマが居るのだとしたら、自分に最後のチャンスをくれたのだろう。 そして麗奈は見事、自分にとっての善を貫く事が出来た。 小春の為に残り少ない命を使うことが出来たのが、せめてもの救いだった。 ありがとう、カミサマ。 もうアタシに悔いは、ありません。
576 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:31:05 ID:2ftwUwHQ0 「アタシね……なんだかんだで小春が居たから怖くなかった」 「小春が落ち着いてたから……アタシも最後まで正気で居られた……」 「アンタ、絶対イイオンナになるわ……アタシが保障してあげる」 遺言のつもりで、麗奈は笑いながら、最後の力を振り絞って言葉を口にした。 小春が濡れた顔を上げる、そして麗奈を見つめて。 吹き出しそうなくらいぐしゃぐしゃに歪んだ笑顔を作って、言った。 「っ……レイナサマはぁ……っく……世界でっ、一番、カッコいいよっ……えぅぅ……」
577 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:31:51 ID:2ftwUwHQ0 ごめんなさい、カミサマ。 さっきの言葉、やっぱり撤回します。 アタシに、少しだけ。 あと少しだけ、時間をください。 「いっ……しょに……いられ……なくて……ご……めん…………ね」 「ア……リ……ガト……こ……は…………る」
578 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:32:46 ID:2ftwUwHQ0 間もなくして小関麗奈は、古賀小春の腕の中でその命を終えた。 けれどその死に顔は、満足げで、安らかな表情をしていた。 小春は麗奈の体を抱きしめたまま、体を震わせて声をあげずに泣き続けた。 そうしないと、泣き叫んでしまいそうだったから。 麗奈はきっと、それを喜ばないから。 いつの間にか地面に降り立っていた1匹のイグアナが、二人を静かに見つめていた。 【小関麗奈 死亡】 【C-6・ログハウス南/一日目 昼(放送直前)】 【古賀小春】 【装備:ヘッドライト付き作業用ヘルメット】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:疲労(大)、悲嘆】 【思考・行動】 基本方針:不明。 ※小関麗奈のガンベルト、拳銃二丁が遺体の傍に転がっています。 ※ペットのヒョウくんもすぐ近くに居ます。
579 :あと少しだけ、時間をください ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:33:24 ID:2ftwUwHQ0 【B-5・ダイナー/一日目 昼】 【五十嵐響子】 【装備:ニューナンブM60(4/5)、氷袋】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】 【状態:右手首を捻挫(比較的重症)】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:今度こそ、西へと向かう。 2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。 3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。 4:緒方智絵里は邪魔なら殺す。参加者が半分を切っても殺す。 5:この島の『アイドル』たちに何らかの役割を求められているとしても、そんなこと関係ない。 6:……ありがとう、智絵里。 【緒方智絵里】 【装備:アイスピック】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】 【状態:左腕に裂傷】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:とりあえず響子ちゃんについていく 2:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。 3:響子ちゃんと千夏さんは出来る限り最後まで殺したくない。 4:こんな殺し合いは……けれど響子ちゃんを見捨てたりは出来ない。 ※響子は治療と回想していますが、傷口を洗ってきつく布で縛っている程度です。
580 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 00:33:53 ID:2ftwUwHQ0 投下、終了しました。
581 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/03/20(水) 09:47:40 ID:K19Fdcy60 申し訳ないですが取り急ぎ最新話についてのみ。他の作品にも後々ちゃんと感想つけます。 投下乙です……しかし申し訳ないですが、予約時の懸念がまさに的中といったところで、少し厳しい見方をせざるを得ません。 端的に言って、やりたい結末・やりたい展開のために無理を重ねすぎている印象を受けます。 他のエリアの連中も気づかない訳がないほど、あまりにも遠くまで響き渡る爆弾の音、 これまでの呑気さから一転、急展開で大急ぎで走り始める灯台組の思考の飛躍、 やはり不自然さが強い移動方法の変遷(自転車現地調達→乗り捨て→作中キャラさえ不審がる火事場の馬鹿力的疾走) ありえないことではないとはいえ、近距離でのきらり・小梅組との擦れ違い、 そしてあの戦闘の結果 個々の要素はそれぞれ丁寧に丁寧に掘り下げれば偶然や幸運にも持っていけそうですが、現状ではちょっと無理を感じます。 そして個々の問題を掘り下げていけば、もう1つ1つの課題だけで軽く1本ずつ話が書けてしまうでしょう。 数話分のリレーの先で似たような展開が起こる可能性は確かにありますが、たった1話でココまで持ってくるのは無茶です。 正直、ちょっとこれはリレーになってない、とまで思えてしまうのですが、いかがでしょうか。 少なくともこれに対して、書き手の1人としても、読み手としても、GJ、とはとても言えません。 厳しい指摘になってしまいましたが、p8氏に期待しているからこそ、でもあります。 期待がなければ、予約時の懸念でもっと大声を上げています。たぶん他の皆さんも大声あげています。 そこを踏まえたうえで、ご一考下さい。
582 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/03/20(水) 12:47:12 ID:2ftwUwHQ0 レスありがとうございます。 正直、今回の展開は自分自身でも割と無理を感じていたので、これは取り下げさせていただきます。 だったら投下するな、という話ではありますが本当に申し訳ありません。 スレ汚し、失礼しました。
583 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/24(日) 21:10:35 ID:VLAKe8dw0 破棄ですかー……残念ですが、まぁ仕方無いところはありますね ですけど氏の作品は今までも素晴らしいですし、これにめげずに頑張って欲しいです! で、私のほうは延長させていただきます
584 : ◆yX/9K6uV4E :2013/03/25(月) 18:52:35 ID:tAAS6EEg0 皆さん投下乙ですー! 破棄は残念ですが、またの機会楽しみにしていますです。 >孤独のすゝめ 肇ちゃん……せつないなあ。その覚悟は。 岡崎先輩が彼女をどうするのか。 そして、杏の動向が凄い気になる。 >てぃーえぬけーとのそうぐう ブ、ブリッツェンがでるとは……w 茜と藍子の繋がりもでて、どうなるのかなあ。 此処の関係は楽しみ。 そして、此方は榊原里美、予約します
585 : ◆John.ZZqWo :2013/03/25(月) 19:10:41 ID:eumXnuIw0 投下乙です。 >彼女たちの幕開け うん、綺麗なリスタート。……なんだけど、この水族館に集まるべき他の面子が相当に不穏なんだよなw せっかくかわいくて綺麗なアイドル状態に戻れたのだからふたりにはもっとこのままでいて欲しいんだけど、放送後が怖すぎるw >自転車 こちらもリスタート。でも、綺麗なんだけど悲壮。すごく楽しそうな分、こっちはどんどん悲しくなる。 最後の女の子として、アイドルとしての時間だけど……こちらはどうなるのかな。 では、改めて 輿水幸子、星輝子 の二人で予約します。 あ、それとwikiを改装しました。ノーマルからレア仕様に変化です。
586 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:10:13 ID:8.grwvlw0 予約分、 諸星きらり、白坂小梅、相川千夏、向井拓海、小早川紗枝、松永涼を投下します
587 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:11:43 ID:8.grwvlw0 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あ、あの、涼さん」 まだ、平和だった頃の話。 仕事を終えてさぁ帰ろうかというところで、そいつは声をかけてきた。 「ん…どうした?」 その声にアタシは反応する。 その姿はおどおどしていて、今にも潰れてしまいそうなほど小さい。 でも、前の姿を知っているアタシからすれば大分マシになっていると思う。 「あの…この前、涼さんに言った映画、持ってきた……んだけど」 そう言いながら、そいつはDVDを取り出す。 パッケージだけでも怖がりな奴は拒絶しそうなそれは、正にアタシ達に合うジャンルのものだった。 そして、そのパッケージのタイトルには聞き覚えがある。 「あぁ……そういや、そんな事言ってたな」 「その、涼さんが良かったら……今から、見たい…」 聞き覚えがある、なんて当たり前だ。小梅が前から言っていた作品だったから。 その前からオススメしていた作品を持ってきて、遠慮がちに一緒にみたいと言っている。 別に断る理由は無い。 「ああ、良いよ。今から着替えてくるから、準備して待っててくれよ」 「………!」 パァッとでも効果音が聞こえてきそうなほどにいい笑顔をする。 アタシは、その笑顔が好きだった。 最初は全く合わないだろうと思っていたのに、ここまで印象が変わるなんて自分でも驚く。 それでも、結果としてここまで気が合っているのだからさして気にしない事にする。 さっさとみたいという思いを胸に秘めて、更衣室のドアを開けた。 すると、そこには待ち構えていたかのように人がいた。 「本当に仲が良いんですね、二人共」 「……まぁ、な」 更衣室の仲でロッカーのチェックをしていたちひろが声をかける。 なんともムズ痒い言葉だったが、まぁ事実だし悪い気はしなかったので肯定する。 「ていうかよ、盗み聞きなんて趣味が悪いな」 「別に潜んでた訳じゃないんですよ?ただ聞こえてきて、純粋にそう思っただけです」 「……ま、良いけどさ」 そんな大した事の無い世間話。 本来ならそこで終わっただろうが、その日のちひろは違った。
588 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:12:20 ID:8.grwvlw0 「……ところでですね、松永さん」 「ん?」 「いえ、大した話ではないんですけど……小梅ちゃんは、少し人見知りなところがありますね」 「あぁ……少しどころじゃないとは思うけど」 いきなり声をかけて、事実確認。 それには否定しないし、むしろもっと強調するべきだろうとは思った。 最初見た時も怯えていたし、実際知らない人には未だに怯えている節はある。 ……で、一体何が言いたいんだろう。 「この業界、そんな中で気を許せる人がいるのはとても力強いことだと思います」 「お、おぅ………」 どんどんと言葉を続けていく。 正直、だんだん小っ恥ずかしくなってきた。一体何を言おうとしているのか。早く結論を言ってほしかった。 「……でさ、何が言いたいんだよ」 「是非、力になってあげてくださいね。ってことです♪ プロデューサーさんもいつも気を配れる訳ではないと思いますので」 で、その結論がそれだった。 まぁ確かに分かる。この業界には何が起こるかわからない……とは言われている。 その危機から守るのは信頼できる人間の役目だろう。 で、プロデューサー以外ならという事で、アタシに白羽の矢がたったってワケらしい。 「……言われなくてもわかってるよ」 口でいうのはやっぱり恥ずかしかったけど、でもそれが真実だった。 そもそも、小梅はアタシが居ることが嬉しいんだろうけど、その逆だってそうだ。 今のアタシにも、小梅が居ることで成り立っている。 だから、言われなくても分かってる。 「用事はそれだけ?ならアタシは戻るけど……」 それを確認して、さっさと戻ろうとする。 今、小梅が待っているのだからさっさと戻りたかった。 「―――ええ、力になってあげてください。どんな状況でも、どんな事をしても……ね」 その時、ちひろが何か小さく呟いた。 「………?」 「いえ、何でもありませんよ。お邪魔してすいませんでした。遅くならないようにしてくださいね」 その言葉の真意はさっぱり分からなかったが、それよりも優先するべきことがある。 言われた通り、気にせず踵を返して扉へ向かう。 そして扉をあけて、アタシはあいつの待つ場所へ向かった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
589 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:13:36 ID:8.grwvlw0 「うゆー………あの炎、心配だにぃ……」 未だに燃え続ける炎を見て、自転車に跨る二人の少女は長く悩んでいた。 あの爆発は、どう考えても只事ではない。確実に危険な何かが起こっている。 誰かが危機に瀕しているのなら、それはとても心配だ。それは、二人とも共通している。 しかし、それと同時にとても危険な場所と言う事にもなる。何も分からなくともそれは理解できる。 そして何よりも、彼女たちには目的地がある。それが彼女達を悩ます最大の問題だった。 もうすぐ禁止エリアにより道が塞がれてしまい、険しいルートしかなくなってしまう灯台。 そこへの確認に向かわなければいけないのだ。より道をしている時間はあるのだろうか。 二者択一。 片方を選べば、もう片方を一時見逃す事になる。どちらに行こうともおそらく多くの時間が消費されるだろう。 その時間が何を変えるか。それは知るものは居ない。ましてや彼女達にわかるはずもない。 だが、この決断には誇張表現ではなく人命がかかっている。成人すらしていない少女達にはあまりにも厳しい選択だった。 「んー……ねぇねぇ、小梅ちゃんはどうすりゅー?」 後ろで震える少女に意見を求める。 彼女は明らかにあの炎に恐怖していた。無理もない。詳細は分からないがあそこは間違いなく危険地帯だ。 だからこそ、自転車を運転しているきらりの独断で決めるわけにはいかない。 それに、単純にきらり自身も悩んでいた。 どちらが正しいかなどわかるはずもないからこそ、もう一人の意見も純粋に聞きたかった。 「わ、私は………」 その問いに、小梅は答える。 散々悩み、苦悩したが、既にこの時点で彼女の答えは出ていた。 はっきりと、相手の目を見て、自分の意思を伝える。
590 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:14:26 ID:8.grwvlw0 「私は、あの場所に、い、行きたい……! これ以上……あんな人達を増やしたく、ない…から……! な、何もできない……かも、しれないけど……それでも……!」 小梅が選んだのは、未だ煙の上がる危険な方だった。 確かに彼女は恐怖している。あの炎は怖いし、何があるか分からない。 でも、それでも。また『あの人達』のような人がでてしまうとしたら。 それを、見逃したくない。もうそんな人達は見たくない。 こんな自分にも、できる事があるのなら。ずっとついてくるだけだった少女に『アイドル』としての心が、確かに芽生えていた。 そしてその言葉に対し、諸星きらりは。 「……おーけー!じゃあ一気にほーこー転換しちゃおー☆」 迷う事無くさっきまで通った道を戻る。 その足に迷いは無く、自転車は快調に進む。そのあっさりとした決断に小梅は戸惑った。 「あ、あのっ、きらりさん……!?」 「だいじょーぶ☆きらりもねぇ、気持ちはおんなじなのー!」 先程と同じ調子で小梅に答える。 結局の所、不安要素は小梅だけだったのだ。 灯台は言ってしまえばそこまで急を要する用事でも無い。 禁止エリアになってしまったとしても彼女達がそれを認識していない……という事は無い、と思う。 放送はちゃんと聞こえているはず。だからそちらはそちらの方で対処してくれている筈だ。 それより問題なのが炎の上がった方向であり、こちらは一刻を争う可能性が高い。 誰かが命に晒されている可能性が高いのだから、その本心は炎の方を選んでいた。 そして何より、同じ気持ちだったから。 もう、動かない人を見たくは無い。その名前だって聞きたくない。 (……大丈夫、きらりはまだ大丈夫) 下手すれば普通の成人男性よりも高い身長を持っているとはいえ、本質は17歳の少女である。 死にたくないし、死なせたくない。夢を見るお年頃だし、人の気遣いもできる優しい少女。 それが、目立つ体の奥の方に隠れたきらりの気持ち。 だからこそ、危険な場所にいる危険に晒されている人を救いに行きたいと。彼女は決意をした。 紛れもない、小梅の発言で。彼女は踏ん切りがついた。 「小梅ちゃん!フルスロットルで飛ばすよぉーーーーっ!!」 「は……はい……っ!!」 彼女たちはその場所へ向かう。 その胸に、確かな綺麗事を、確かな『アイドル』としての決意を抱えながら。 * * * There is nothing for us to lose. Sure, I can say. I can say. * * * スーパーマーケットの2階、警備室。そこに彼女は居た。
591 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:15:23 ID:8.grwvlw0 「さて、もう引き返せないところで……どう攻めるべきかしら」 彼女――相川千夏は思考していた。 目の前に置かれているのはデイバッグ。この中に、人を殺傷できる武器が入っている。 その後ろに広がるのは大小様々なモニター。これがあれば、スーパーマーケット内の状態はおおよそ分かると言っても良い。 そしてその画面の一つに映る三つの人影。これは『獲物』だ。自らが引き寄せた、倒すべき獲物。 警戒しながら、尚且つ足を緩めずに進んでいく。行き先は二階……おそらく先程狙った場所、食堂に向かうつもりだろうか。 (既に、『ストロベリーボム』を二つ消費した……できれば、無駄な消費は避けたいところね) その姿を見ながら、相川千夏は口に手を当て考える。 殺すだけなら至極簡単な話だ。中にある爆弾を死角から投げつければ、ほぼそれで全てが決まるだろう。 数も十分にある。殺す事だけを考えれば確実にこちらに分があると言っていい。 しかし、まだまだ先は長い。消耗はできるだけ避けたい。 11個という十分すぎるほどの数も、長期戦ではいつ切れるか分からない。 できるかぎり消耗を避けるためにも、チャンスを見極めなければならない。 (ただ、悠長に考えてる暇もない……迷いは、自分の身を危険にさらす) 今、この警備室には鍵をかけている。 相手はこの部屋を見つけて、どういう反応をするだろうか。 そういうものかと別の場所の探索に向かう可能性もあるだろうし、無理矢理にでも開けてくる可能性もある。 機を伺うにしてもあまりじっとしてはいられない。決断もまた大事だ。 つまり、大事なのは計画だ。入念な計画を持って臨まなければ無駄な消耗、そして最悪の場合、死に繋がる。 (あと一回の『ストロベリーボム』で三人を殺せれば三つで三人殺害した計算になる。 それでプラスマイナスゼロってところね。できればそれで決めたいところだけど……) 名前とは裏腹に無骨な爆弾を手に握り締め、彼女は更に思考する。 モニターに映った少女達は階段への道を一直線に突き進んでいる。 時間はあまりない。少なくとも彼女達が少し前まで自身がいた食堂に到達するまでには思考を固めておきたい。 より確率の上がる場所、より彼女達を確実に殺せる場所を。 一階の食料品売り場。 一階の日用消耗品売り場。 一階のフードコート。 一階のバックヤード。 二階の通路。 二階の会議室。 二階の事務所。 二階の在庫置き場……… (そうね……できれば逃げ場が少なくて、尚且つ火のまわりが早そうな場所……ここなんか良さそうね) 数多くの選択肢から一つを選ぶ。 前提条件をクリアし、尚且つ場所も悪くない。彼女はそこを勝負の場所に決めた。 (後は、どうやってここに誘導させるか……なんて、考えるまでも無さそうね) 爆弾をしまい、デイバックを背負う。 誘き寄せる方法は直ぐに思いついた。『餌』を撒けば、間違いなく寄ってくるだろう。 (彼女達は非常に分かりやすいわ。おそらく、誘うのに苦労はしないだろうし……うん、おそらくこれがベスト) その餌の準備の為にも、早急に行動に移さなければならない。 彼女は腰を上げて、自らが移動する準備を完了させる。 計画は決まった。後はそれを実行に移すだけだ。 迷いはない。無駄も減らす。彼女にしかできない戦い方で、獲物を討つ。 「ここで私の命運は決まる……決めてみせるわ」 モニターは、食堂に入る獲物の姿を移していた。 * * *
592 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:15:54 ID:8.grwvlw0 勢い良くドアが開かれる。 スーパーマーケット内の食堂。先程の人影があった場所に着いたが、そこは蛻の空だった。 「くそっ……どこに行きやがった!」 向井拓海は部屋をすみずみまで見渡すが、人の気配はなく、隠れられそうなところも特に無さそうだった。 となれば、この部屋にはいない。相手は別の場所に移動したと考えるべきだろう。 「ここには居ないみたいだな……何処か、別の場所に逃げたか」 「せやなぁ……そもそも、じっとしとるとは思えへんし」 「でも、まだこの建物の中には居るはずだ……あっちから誘いだしたんだからな」 相手は、まだスーパーの中からは出ていない。 それはほぼ確実だ。相手には、拓海達を始末しようとする意思がある。 その為に爆弾を使っておびき寄せたのだ。だから、この建物から逃げるとは思えない。 「気をつけろよ……どこから襲ってくるかわかんねぇんだからよ」 「わかってるよ、とりあえず近くにも居ないみたいだ」 扉から顔を出して廊下を確認する。 人の存在は確認できない。だが、どこから攻めてくるかは分からない。 誘い出した時点で、言わばこのスーパーは相手の拠城と言える。 だからこそ、最大限の警戒をして探し出さなければならない。 (上等じゃねぇか………突き崩してやるよ) なんとしても、彼女を止めなければならない。 綺麗事を実現させる為にも彼女を『止める』。 それがどれだけ難しい事かは理解している。傍から見れば愚行だと言う事も全員がわかっている。 それでも、彼女たちは真剣だ。綺麗事だとしてもそれを実現させる為に、確固たる意思を持って――― その時、何かが崩れる音がした。 「………?今、何か」 そしてその言葉が終わるよりも早く、続けざまに弾けるような音が響いた。 「ッ!?」 その音に思い当たりはある。と言うよりも、この異常な世界でなら真っ先に思いつくであろう可能性。 それは――― 「今のって……銃声!?」 静かだったスーパーマーケットに響いた音は、三人に更なる緊張感と焦燥感をうむのには十分だった。 「待てよ……一体なんだって銃声が響くんだ!?」 「もしかして、うちら以外にも誰かおったんやろか……」 「だとしたら……くそっ、まずいぞ!」 涼の疑問に、紗枝が自らの考えを言って、そして三人の思考が固まる。 何の理由も無く銃声がなるとは思えない。 その銃があの爆弾魔が持っていた物かも分からないし、そもそも何に向かって放たれたのかも分からない。 しかし、この建物の中でなったのだから無関係とは考えにくい。間違いなく関わっていると言っていい。 どちらにし放っておくことはできない。あの銃声が誰かを傷つけた可能性がある以上は、野放しにはできない。 ドアを開け、廊下の両端をみわたす。その部分では異常は見られない。 「あっちかっ!」 銃声のした方向へと、三人は駆ける。 その道中、拓海が勢いに任せ突っ込みそうになったところを何回も紗枝が止める。 その引き金となった人間がいるかもしれない可能性を考慮して、ある程度は冷静に。 と言うよりも、そもそもの可能性として誘い出す為の銃声の可能性もあるのだ。 しかし、例えそうだとしても足を止めるつもりはない。むしろ好都合だ。 変に時間をかけて探し出すよりも場所を知らせてくれた方がいい。 三人の気持ちは重なり、突き進む。 そして、一つ不自然にドアの開いた部屋があった。
593 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:17:12 ID:8.grwvlw0 「あそこか……?」 「向井はん、気をつけぇや。何があるかわからへんよ」 「あぁ……大丈夫だよ」 拓海達はその扉にそっと近づく。 特攻服を扉の前にたなびかせて様子を伺う。反応はない。 取り敢えずの安全を確認して、扉からおそるおそる覗く。 中は在庫置き場のようだった。 棚が並び、商品と思われる物が積まれている。それだけなら何ら違和感はない。普通の光景だろう。 しかし、その奥は様子が違うようだった。 商品が崩れて山になっている。おそらく最初に聞こえた物音はこれが崩れた時の音のものと思われた。 一体何があったのかは分からない。だが問題は最初の物音より銃声の方だ。 それにより何かが傷つけられたのか。―――その答えは商品の山にあった。 「なっ―――!」 その光景を見た瞬間に、拓海は駆けていた。 「えっ…ちょっと、向井はん!?」 その突飛な行動に思わず驚く。 後ろから付いていた二人には、何があったのかは理解できていない。 止める間も無く中に入っていった理由。 それを二人は部屋を覗いて、直ぐに理解した。 ―――手だ。 商品の山の下敷きとなっている、………血塗れの手。 「―――ッ!」 それに思わず二人も駆け寄る。 その光景が目の前に広がった瞬間、三人の頭を最悪の可能性がよぎる。 やはりあの銃声で誰かが犠牲になっていたのか。 怪我の状態、そしてその安否は遠目からは分からない。 しかし確実に無事でもない。 それを確認しようとして。しかし拓海は動きを止めた。 「ちょっと待て、これ………」 その拓海としては不可解な動きに、残りの二人は疑問に思う。 しかし『それ』を間近に見た瞬間に、その場にいた全員が『それ』が何なのかを確認し、そして理解した。 「………マネキン?」 あまりにも無機質な手は、人間の物ではなかった。 マネキンがあるのは不思議ではない。ここはスーパーなのだからおそらくここにも一つくらいはあるだろう。 しかし問題は血だ。これが三人が見間違えた最大の原因となったものだ。 マネキンから出るはずもないし、しかし他の商品の中からから出ているというわけでもない。 ここで、確実に誰かが傷ついたのは事実の筈だ。少なくとも、傷ついた誰かがいた筈。 これは一体誰の血だ? その問いの答えが出るよりも先に―――後ろから、物音。 「………?」 その音に振り返る。 そして、そこにいたのは――― 「――――――」 あの時の女性が、こちらに黒い物体を投げる姿だった。。 * * *
594 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:18:35 ID:8.grwvlw0 全速力で、走る。 その後ろからは、地を震わす轟音と熱風が迫っていた。 「………ッ」 その豪風に思わず体がぶれる。 後少し逃げるのが遅れていたならば、あの爆風に巻き込まれていたかもしれない。 その威力の凄さと恐ろしさを改めて体感した千夏は、階段でひとまず足を止める。 「少し賭けだったけど……これで、一気に三人」 息を整える為、体を少しだけ休める。 その間にふと、自らの手を見つめ……その手は、血に濡れていた。 (ここまで徹底すれば、流石に何の問題もないわね) 最初は、銃声だけでもおびき寄せようと思ったのだ。 しかし、それだけではどうも不十分に感じられた。大体、音だけでどうやって部屋の中まで誘導するのか。 何か使えるものはないかと在庫置き場を物色し、そしてそれは直ぐに見つかった。 あの時三人を誘き寄せる餌に使った手はマネキンだ。商品を崩し、手だけを露出させる。 (自分を傷つけてまで作った餌は、想像通りの成果を発揮できた訳だし) ならば、あのマネキンの手に付いていた血は誰の物か。 徹底する思考の彼女は、これでも心配だった。マネキンの手と言うのは、意外と遠くからでも認識ができる。 出来れば部屋の奥まで引き寄せたかった。だからよりリアリティが欲しい。あの無機質な手をどうカモフラージュするのか? ―――答えは簡単だった。より人間に似せようとするならば、人間のものを使えば良い。 自分を傷つけて、餌を完成させた。そして、その時に使用した銃の音が彼女たちを誘き寄せる。 全ては、上手くいった。不意を突かれた三人は間違いなく豪炎に巻き込まれて死んだだろう。 (響子ちゃん……これで、良いんでしょう?私も、もう戻れない……) しかし、それに後悔はしていない。するものか。 彼女は直ぐに歩みを進める。その足は真っ直ぐに、そして留まる事無く進んでいく。 例えどれだけ自分勝手なエゴだとしても、どれだけ間違っていると感じても、止まるつもりはない。 決して譲るつもりはない。どれだけの存在を蹴落としてもあの人の元へたどり着いてみせる。 彼女の眼鏡の奥に、冷静さと共に確かな決意があった。 ――気がつけば、スーパーマーケットの入口を通り抜けていた。 太陽はもうすぐ真上に到達しようとしている。それだけの時間が経ったという事だ。 出来れば外からあの場所の確認もしたい。万が一無事なら窓から脱出される可能性もあるし、万全を喫したい所だが。 (……少し休みたいわね。この爆発の関連性を疑われる前に離れようかしら) 大した事はしていないが、どうも疲労が抜けていない気がする。 もうすぐ放送があるのなら、『ファイブデイウイーク』……そろそろ休憩に移りたい。 まだまだ先は長いのだ。体力は温存し、常に万全の状態でいたい。 休憩する場所をまたダイナーにするか否か……どちらにしろこの場所の近くは避けたかった。 近くにいるというだけで関連性を疑われる。出来ればそういう悪印象な接触はしたくない。第一印象から、勝負は始まっているのだ。 「……ここに移動しようかしら。誰もいなければ良いけど」 そう決めて、その方向へ歩き出す。 彼女は決して歩みを止める事は無い。あの人の為に……そして、自分自身の為に。 身勝手だとか愚かだとか、そんな事はどうだっていい。自覚はしているし、自覚しているからどうというつもりも無い。 眼鏡をかけ直して、彼女は進む。その道に決して迷いはなかった。 【C-6/一日目 昼】 【相川千夏】 【装備:ステアーGB(18/19)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】 【状態:左手に負傷】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:爆発の関連性を疑われる前に、別の場所へ移動。 2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。 ※スーパーの入口と在庫置き場の前は位置が離れており、向井拓海、小早川紗枝、松永涼の安否を確認していません。 彼女が何処へ向かうかは、後続の人に任せます。 * * *
595 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:19:37 ID:8.grwvlw0 全てがスローに見えた。 それほどまでに、彼女の反応は早かった。 その恐ろしさを彼女が一番知っている。だからそれが目に映った瞬間に、ヤバいと言う事を最も早く理解した。 今までの彼女だったら、それで終わりだろう。認識して、それで終わり。 しかし、今の彼女は違う。頼れる仲間と共に、確固たる意志を持った彼女は違う。 こんな所で死ぬわけにはいかないという意思が、彼女をほとんど反射で突き動かした。 ストロベリーボムが地面に落ちるその瞬間。彼女は誰よりも早く近づいて―――― 「…………ッ!!」 ―――力の限り、蹴った。 その衝撃で爆発するかもしれない、という考えは蹴り終わってから思いついた。 しかし、どちらにしろあのままでは全員が巻き込まれてしまうのだから、例え危険だとしてもしなければならなかった。 そして、結果として爆発はしなかった。爆弾はまた宙を飛び、扉の方向へと飛んでいく。 そして、その爆弾が扉に当たるか否か…というところで、それは爆発した。 彼女が咄嗟にとった行動により、爆弾は元届いたであろう位置よりかなり離れた。 しかしその勢いは凄まじい。例え離れようともそれは正しく威力を発揮した。 周りの棚もなし崩しに崩れていって、引火し、燃えてゆく。 初めから、これが狙いだったのだろう。 この場所は狭い。そしてそれ以上に所謂『火気厳禁』の場所でもあったのだ。 そこで起こった爆発は近くにある全てに引火し、炎を巻き起こす。 そして、その爆発に彼女たちは――― * * * 全てが、いきなりの出来事だった。 気づいた時には、あの時とは比べ物にならない熱風が三人を襲っていた。 「うあッ……!!」 罠だったと気づいた時には、全てが終わっていた。 彼女達はその勢いに吹き飛ばされ、拓海は壁にぶち当てられる。 あの爆弾魔の計画通りに進んだ場所で、しかし拓海たちに大した怪我は無かった。 それが何故なのか、彼女達は直ぐには理解出来なかった。 「うぅ………」 「な……なんだ、何が起こったんだ……?」 近くでうめき声が聞こえる。だが何かの衝撃で視界が定まらない。 存在と無事を確認できない。それが一層拓海の焦りをうむ。 「おいッ!二人共大丈夫か!?」 拓海が確認の為に声を張り上げる。 「う、うちは大丈夫……やけど………」 それに直ぐ反応する声が一つ。 そのおっとりとした声は紗枝のものだ。 徐々に視界もクリアになり、実際に無事だということを目視できた。 しかし、それで安心はできない。まだもう一人居るはずだと。 そう、もう一人の存在は………涼は?
596 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:20:26 ID:8.grwvlw0 「ぐ……クソ………っ」 「大丈夫か涼………ッ!」 その存在の声があがり、拓海は周りを確認する。 そして拓海は涼の姿をすぐに確認する事ができた。ならそれは幸運なのか。 ――拓海は、理解してしまった。 何の犠牲も無しには進めないという現実を。辛すぎる、非情な現実を。 「あぁ……拓海か……無事、みたいだな………」 結論から言えば、彼女もまた致命傷は逃れた。 彼女が全力で蹴ったその距離は、なんとか炎の射程距離ギリギリまで離すことに成功した。 そしてどちらにしろ爆発の風圧を受けて、炎の直撃はしていない。彼女もまた、炎を避ける事は出来ていた。 ……しかし、その牙は未だに少女を捉えている。 「正直、全然大丈夫じゃないよ……痛すぎて、泣けてくる」 棚が崩れて、片足が巻き込まれてしまっている。 数多くの商品と思われる物が積まれ、掘り起こすのも非常に困難になっている。 そして、一つ一つが重い。棚自体も複雑に絡み合って持ち上げられる気配が無い。 ………そして、何より――― 「棚が………」 「火が迫って来てやがる……クソッ、やっちまった……」 ―――時間が無い。 勢い良く燃える炎は全てを巻き込み、こちらへと近づいてきている。 あとどれくらいでここまで来るだろうか。5分?3分?……直ぐにでも燃え移るかもしれない。 また近づいてくる炎はただ燃え移ってくるだけでは無く、充満する煙もまた彼女たちを追い込む。 体力も奪われ、正常な思考もままならなくなってくる。 「涼……ッ!………駄目だ、抜けねぇっ!」 「松永はん………そんな………」 彼女達がどれだけ力を入れても、足を押しつぶす山々はびくともしない。 単純にそれだけではない。熱が伝わり、鉄の部分が非常に高熱になっている。 持ち上げるどころか、そもそも持つ事すら困難な状況。絶望的だった。 「なんで……なんで、こんな……!」 もはや打つ手がない。打開策が思いつかない。 思考が袋小路に追い詰められる。何故、こうなってしまったのか。 ――もはや、考えるまでも無い。それは全て、自分のせいだ。 ただ前を見て突っ切っていたから、後ろを突かれた。 そして、その後ろからの攻撃に後ろにいた仲間が犠牲になってしまった。 そして彼女の思考はどんどんと後ろの方向へ、闇の方へ―― 「……自分のせい、だなんて思うなよ……」 それを止めたのは、他でもない当人の言葉だった。
597 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:21:23 ID:8.grwvlw0 「アタシは…アンタらが手を差し伸べてくれたから、救われたんだ………。 正直、言ってることは綺麗事だって思ってたけど……それも、悪くなかった……、 信じてみたい、って……思ったんだよ………小梅と、皆と一緒に……帰れる道を……」 拓海の心を読んだかのように、彼女は今までを振り返り、感謝している。 彼女がいきなり語る事に、拓海は理解ができていない。 本来なら、もっと焦って、脱出する為に尽力するのが普通じゃないのか。 それを何故、こんなに落ち着いて、悠長にしているのか。 ……彼女がそうしないその理由はもう、うっすらと分かっていた。 ただ、それを認めたくなかっただけだったのかもしれない。 どうしようもない事実から、ずっと目を逸らして。 「………何言ってんだよ」 「それを先導するのは……アンタらだろ……?こんな所で、死んだらいけないだろ……。 アンタらがアタシを助けようとして全員死んだらそれこそ意味がねぇよ………。 あそこの窓から飛び降りれば………そんな高くないから……行ける、筈だ……。 もう、アタシの事は良いから……行ってくれ……二人共…………」 そして、彼女は事実と最悪の解決案を伝える。 その瞬間の涼の姿は極限の状況に似つかわしくない程落ち着いていた。 まるで―――いや、違う。まるで、などではなく間違いなく『諦めた』表情をしている。 拓海にはその姿が、その表情が、その瞳が―――自らの心に突き刺さっている気がした。 「何言ってんだよ……っ!そんな、そんな―――」 自分が、死ぬことを想定しているような。 その瞳に、拓海には既視感があった。 死を覚悟して、希望の道を開こうとする目。かつて、後ろにいる少女がしたような。 あの時と同じ、しかも状況的には更に確実な死が近づいている。 拓海は、その目を見るのが嫌だった。暗に答えを、どうしようもない現実を告げられているようで。 「小梅に会えたら、伝えてくれよ……ごめんな、って。 ……小梅だけでも、生き残ってくれ……なんて。ハッ、こんなこと言う日が来るなんてよ……」 後ろで、一瞬炎の勢いが強くなる。 涼はその炎を背に受け途切れとぎれの声を出す。 その顔に伝うのは汗だけでは無い。自分の現実を冷静に理解したからこそ頬をつたう、雫も混じる。 「本音を言えば死にたくねぇ……けどよ……あんたらになら、託せるんだ……! 頼む……こんなふざけたイベントぶっ壊してくれ……そして、小梅を……頼む……」 もうすぐ死ぬというのに、涼は不思議と満ち足りた気分だった。 後悔も未練もあるけれど、小梅にももう一度会いたかったけど。 それ以上に――託す事ができた、遺す事ができたという気持ちが上回っていた。 嗚呼、良かった。そう思えるほど、彼女の心は穏やかだった。 ―――――これが、ロックってやつなのかな。 夏希や梨衣菜がいつも口ずさんでいた言葉が頭をよぎって、彼女はそっと――――
598 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:22:14 ID:8.grwvlw0 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― それは、最初の放送が流れる少し前の出来事だった。 放送が迫る中、ベランダから戻ってきた涼と少し話す機会があった。 対して当たり障りの無い、ちょっとした話であったが。 拓海にはほんの少し気になる事があった。小梅の事だ。 涼は小梅の事を第一に考えて行動している。一体何が彼女をそこまで突き動かしているのだろう。 「それでさ、あいつは遠慮がちにアタシと映画見ようって言うんだよ。断る気なんてないのにな」 実際にその疑問を口に出したわけではないが、その理由はあっさりと分かった。 小梅の話をする涼は、本当に楽しそうだった。 か弱い妹の話をしているようで、可愛いペットの話をしているようで、趣味の合う友人の話をしているようで。 そして………涼自身が救われている、親友――白坂小梅の話をしている。 本当に、深い友情で二人は繋がっていたのだ。 そしてそこに紗枝が割り込んで、さして話題は大きくならないまま今後の方針へと移っていった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― そして―――今、あいつは命の危機に晒されている。絶望的な状況に。 その状況であいつは、自らを諦めてアタシ達に託そうとしている。 あんなに楽しそうに話していた小梅の事も諦めて――――いるのか。 ――――いや、違う。断じて違う! 彼女はずっと、あいつに会いたかったんじゃ無いのか。 それを会えないまま、ここで死なせるのか。皆を助けるって、誓ったはずじゃないのか。 こいつが、ここで死んでいい道理は―――無い!! * * * Nobody knows what it means, "Hung in there!" * * * 「……ざけんなよ……」 彼女は迷いを振り切って、小さく呟いた。
599 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:22:49 ID:8.grwvlw0 ぼそりと、それは本当に小さく言った声だったが。 その信念の篭った声は確かに二人に届いた。 「……え?」 「ふざけんな―――って言ったんだよ!! アタシは誰も見捨てるつもりはねぇんだ、てめぇも一緒に来なきゃ意味無いだろッ!!」 「……拓海」 「てめぇはまだ生きてんだろうが…なのにそんな諦めた口聞いてんじゃねぇよ!! 死にたくねぇんだろ!?アタシは絶対に譲らねぇ、何としてでもてめぇを助ける!」 そう言って、高熱になった棚を何とか掴みあげようとする。 拓海は、怒っていた。 涼に、この世界に、上で見ている奴らに………そして、自分自身に。 口に出した信念は、もはや留まる事を知らない。 例えどれだけ不可能だと分かっていても、自分の信念は曲げるつもりは無い。 「言いたい事があんなら好きなだけ言ってろ……! けどよ……それはてめぇ自身がそいつの前で言え!!アタシが言ったって意味無いんだよ!! いいか!?てめぇが何言ってもアタシは止めねぇからなッ!!」 一つ叫ぶ度に、汗が飛び散る。煙の影響か、目がかすむ。 炎はかなり近くまで迫って来ている。一刻を争う自体だという事は、この場にいる全員が理解していた。 だが、例えそうだとしても絶対に諦める訳にはいかない。絶対に見捨てる訳にはいかない。 彼女の硬い信念は、ある意味ではその心の支えになっていた。 決して曲げない意志があるから、それについてきてくれる仲間がいるから前へ突き進める。 それを失ってしまえば、きっともう前に進めなくなってしまうから。 「向井、はん……」 「……悪い、紗枝。アタシはもう誰も死なせたくねぇんだ。紗枝だけでも先に早く脱出してくれ」 その信念がひどく無茶で、自分勝手で、そして涼の決意を一種裏切る行為になるのは分かっている。 だからそれを仲間にも強制する事はできない。そんなものを他の仲間にまで背負わせる事はできない。 「……何言っとるん。うちら、仲間やろ? うちも横に並んどるんやから一緒に手伝いさせてぇな」 だが、彼女もまたそれを背負う事に決めた。 紗枝も一歩、前へ出る。 彼女もまた、拓海に道を示してもらったから。思わず笑ってしまうような、綺麗事に救われた一人だから。 「堪忍な、松永はん。 でもなぁ、うちらのやりたい事実現させる為には、やっぱり諦める訳にはいかへんみたいやわ」 拓海の道は、自分の道だ。 ずっと彼女は、拓海の支えになろうと思い続けていた。 拓海がとても重い、困難を極める信念を背負うのならそれをも共に背負いたい。 いつの間にか、拓海の意思が彼女自身の意思になっていたのだ。 「……そうかよ、分かった。だったら………アタシも覚悟決めてやる」 どれだけ言おうとも、二人は絶対に自分を見捨てないだろう。 それを聞かずとも理解した涼は、先程までとは違う、力の篭った目でもう一度顔を上げる。 そして、その目に映った物を見て、彼女は一つの可能性を思いつく。 「紗枝、お前あれ持ってたよな……なんて言うんだっけ、薙刀?」 「……これ?」 「そう、それだよ。それでよ―――」 その可能性は低い訳ではない。それだけを聞けば悪い案ではない。 なら何故今まで思いつかなかったのかと言えば、それは覚悟が足りなかったからだ。 現実を直視する覚悟が足りなかったから。でも、それが今はある。 だからこそ今、その可能性に賭けられる覚悟があるから、涼は二人にそれを委ねる。 「―――アタシの足、ぶった切ってくれ」 何の犠牲も無しには進めない。紛れもない、現実。
600 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:23:43 ID:8.grwvlw0 「な……っ!」 「……多分、もうこの足は使い物にならねぇ……だから、こんな足は捨ててやる。 助かるには、もうこれしかない……痛そうだし、したくねぇけどよ。もうこれしかねぇんだよ」 そう語る顔には、とても辛そうな顔をしていた。 今の痛みや熱さもそうだろうが、それ以上の試練を今からしようとしている事を自覚していた。 あまりにも非情な決断。五体の内の一つを捨てようとしている。 しかし、実際にはこれが確実だ。手段も時間もない以上、もう何かを犠牲にしなければ生きられない。 その事は三人が理解していて、だからこそ戸惑われた。 「………」 「で、でも松永はん……っ!」 「……貸せ、紗枝」 「あ……っ」 決めあぐねる紗枝の薙刀を拓海が掴み取る。 その顔は、紗枝からは全く読み取れなかった。 「涼……本当に良いんだな?」 「時間が無い………早く――――やってくれ」 目をつぶり、恐怖と痛みに耐えようとしている。 そして、それを上から見下ろす拓海の手も震えている。 彼女もまた、自分がこれからやろうとしている事に恐怖していた。 しかし、火は目前まで迫って来ている。どかす暇も無いし、おいて逃げる事はしないと誓ったのだ。 そして、もうこれしか手段は無い。 それを理解しているからこそ、紗枝から無理矢理薙刀を取り、目の前まできた。 やらなければ、ここで終わる。決断は―――早かった。 「…………―――――ッ!!」 意を決して、不格好に薙刀を振り下ろして――― 「あ……ぎ―――ッ!!」 想像以上に生々しい音が、彼女達の脳に響いた。
601 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:24:33 ID:8.grwvlw0 「ああッ――ア――が―――あッ!!!」 普通に生きていったなら間違いなく経験しなかったであろう行為。 そのもはや痛みとも呼べぬ試練が、涼の足を破壊し、体力と精神をすり減らしていく。 そして、それは当人の拓海にも想像以上の罪悪感と、嫌悪感のある行為だった。 素人であり、心の奥底で未だ躊躇していた一撃では終わらない。 何回も、何回も何回も――――突き刺していく。 ぶちぶち、と肉を潰し、ちぎる音。 骨に当たっても、それを砕くか折るかのように『破壊』していく。 「う………っ」 その光景を、ただ見ることしかできない少女が一人。 目を閉ざせば、その凄惨な光景を拒否する事ができる。 しかし、彼女はその光景から逃げる事はしない。 二人が頑張っている中で、一人だけが逃げる事はできない。 「………ぁ゛………っ」 涼の息も絶え絶えになり、ほぼ声もあがらなくなってくる。 彼女の体力的にも、そして残る時間的にもこれ以上は長引かせられない。 躊躇はできない。拓海は彼女の足を……潰さなければ、いけない。 もはや足とは呼べぬ程に醜くなった『それ』を見下ろしながら、拓海は 「涼……ッ、くそっ……クソッ! クソォォォォォォォォォォォォォォッ!!」 汗とも涙ともつかぬ雫が一粒落ちて、 全体重を乗せた薙刀が、『それ』を切断した。 * * * 現場に駆けつけた時には、その建物から煙がもくもくと出ていた。 初めは、何が起こっているのか分からなかった。……今でも、よく分かっていないのだが。 中に誰かがいるという保証はないが、誰かいるのなら危険であろう。 中に入るべきか否か?ときらりと小梅が相談しようとした、その時だった。 「おらあぁぁぁぁッ!!!」 窓から、人が飛び出してきた。 「あうっ!」 「ぐっ……!いってぇ……」 飛び出してきたのは二人……いや、正確には三人だ。 一人は背中におんぶされている。 偶然か狙ったのかは分からないが、着地地点の道路の脇には丁度車のボンネットがあった。 車が大きく音をたてて、そして彼女達は地面へと転がり落ちる。 衝撃がいくらか緩和されたようで、今の衝撃で大きな怪我はしていないようだった。 「えっ、なになに!?いきなり何が起こって………!」 「……っ、てめぇらは………?」 隣で大きく驚くきらり。小梅も声には出さないものの、いきなりの出来事に呆然としていた。 その声でこちらの存在に気づき、彼女達は体制を整える。 しかし敵意が無い事を察したのか、単純に疲労していたからか、直ぐに警戒を解いた。
602 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:25:17 ID:8.grwvlw0 「……殺し合いには乗ってなさそうだな。 わりぃけど、ちょっと待ってくれ。今アタシ達には怪我人が……」 「む……向井はん、あの子………」 背負った人物を地面に下ろそうとする。 しかし、その動作が完了するよりよりも早く隣の少女が止めた。 彼女はこちらをみて唖然としていた。それが何故かはきらりには分からなかった。 しかし、隣にいる少女はその事に意識を向ける事はなかった。 彼女は、背負われた少女の事を知っていた。誰よりも、知っていた。 「涼、さん………?」 彼女は遂に気づいた。気づいて、しまった。 * * * But I'll be right beside you from now on. so,on――――― * * * 「―――――――――」 声が聞こえる。 一つや二つでなく、もっと多くの数がいる。 だけど、その言葉を認識する事が出来なかった。 精神的にも肉体的にも大分参っている。このまま意識を放棄したい気分だ。 だが、そうもいかなくなった。霞んだ目に、あいつが映ったから。 「………こ、うめ?」 そこに立っていたのは、間違いなくアタシがずっと探していた白坂小梅本人だった。 「涼、さん………?」 彼女は怯えた表情でこちらを見ている。 見た感じはどうやら無事な様だ。アタシはそれに安堵した。 もし体が完全に無事だったなら、駆け寄って抱きついていたかもしれない。 恥ずかしいけど、それくらい嬉しかったし、安心したんだ。 「ああ――――」 ――でも、それも出来そうにない。今のアタシは、歩く事すらままならないから。 「よかった」 だから、たった一言だけ、呟いた。 * * *
603 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:26:19 ID:8.grwvlw0 「あ………」 ―――あの人は、私の姿を見て何と言ったか。 自分自身のボロボロの体も気にせずに、何と。 「………あ………っあ………!」 ―――私は、馬鹿だ。 その人はずっと、ずっとずっとずっと、私の事を思ってくれていたのに。 それなのに、私はただ恐怖で逃げ続けて、あまつさえ大切なその人さえ信じられなくなって――! 「嫌……!涼、さん……!やだ、やだぁ……っ!」 「あ……っ」 小梅は脇目もふらずに涼の元へ駆け寄った。 その行動に押される二人。しかし事情を知っているからこそ対応が出来なかった。 声をかけても、なにも反応がない。 それが、小梅の嫌な予感を更に加速させる。 彼女の顔には生気が無い。目の前にいるのに、そこに彼女が居る気がしない。 まるでその手から離れていくような崩れていくような、そんな焦燥感がある。 彼女からだんだんと魂が抜けていく。止めたいのに、止められない。 「やだっ、死なないで……涼…さん……っ!!」 後悔の念が、小梅の中を渦巻く。 あれから、自分は何かをしたのか。その答えは直ぐにでた。 そして今、彼女に何かできるのか。 助けたい。こんなところで、お別れなんて嫌だ。 そう思っても、何も変わらない。答えは否。彼女は何もできない。 そして彼女はただ、目の前で『消えていく』大切な人を見ていることしかできなくて――― 「―――ばーか、誰が死ぬかよ」 そんな思考を、他でもないその人自身が止めたのだ。 「え………あ……っ!」 「はっ……小梅を置いて…逝けるか、ってんだ」 「涼さん……涼さ……ん……!!」 その、もう二度と聞けないと思っていた優しい声が聞こえた。 それだけで、彼女はどれだけ救われた事だろう。 今まで押し殺されていた感情が溢れ出していく。 言葉にならず、行動にならなくても、その想いはその場に居る全員が理解できた。 「悪いな、ちょっと…疲れててよ……少し、休ませてくれ……」 しかし、まったくの無事ではない。実際に彼女の傷は深く、喋るだけでも精一杯のようだった。 「え……そ、そんな……っ」 「大丈夫……アタシは、小梅をおいていったりは…しねぇよ。約束する」 掴んだ手を力強く握り返す。 それは、彼女の確固たる意思の現れだった。 そして、その覚悟。例え体がどうなろうとも生を掴み、一緒に帰るという心も。 その全てを手に込め、握り返して。 「……ありがとう、小梅。無事でいてくれて」 そして、彼女はもう一度目を閉じた。 * * *
604 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:28:44 ID:8.grwvlw0 「……さて、じゃあそろそろアタシ達も行くか」 あれから暫くの時が流れ、向井拓海はそう言った。 涼の足には本来あるべきものはなく、そこには赤い布が巻かれているだけ。 その布は拓海の特攻服と一緒に付いていたサラシであり、応急処置と呼ぶには不十分すぎた。 だから、彼女を治療できる場所へ連れて行かなければならない。 しかし近場にそれができそうな所がないから……彼女達はもう一度、病院へ向かう。 できれば合流した二人にも同行してほしかったが、そうも行かなかった。 既に別の集団と水族館で集合の約束をしているらしい。 具体的には灯台に残っているアイドルを迎えに行ったが、既に時間は無く、仕方なく一度戻ろうと考えてたという。 この場所で同じ様な意志を持つ集団がいるという事を知れたのは収穫だったが、そこへは今すぐには向かえない。 灯台も水族館も非常に気になったが、それ以上に優先すべきことがある。 だから同行はできないと言っていた……が。 『わ、私は……涼さんと、一緒にいきたい』 その中で一人、決意した少女がいた。 自分の無力さはわかっている。 ずっとただ怯えていただけ。一歩踏み出すことさえ遅れて、ずっとついていくがままだった。 でも、それもここで終わりだ、と。彼女は決意する。 大切な人が危険な状態にある現実を認識したからこそ、彼女はやっと一歩を踏み出せた。 今度は自分の意思で。大切な人に勇気づけられた心を持って。 そしてその言葉を聞いて、きらりは大きく頷いたのだ。 『……ん!おーけー☆だったら、きらりは一度しゅーごーして、泰葉ちゃんたちに伝えてくりゅー☆ それでぇ、きらりんたちの方がびょーいんに向かえば涼ちゃんも動かなくて良いと思うの!どぉ?』 その言葉から、きらりは独特な言葉を流暢に使って提案した。 その勢いに二人は押されたが、実際その提案自体は悪くなかった。 怪我人を動かすことは出来れば避けたい。そちらの方から来てくれるのならその方が良いに決まっている。 方針は決まり、きらりは自転車に乗ってその場所へ向かっていった。 そして未だ煙の出るスーパーから出発するのは拓海に紗枝、涼。……そして。 「えーと……小梅?」 「は、はい」 声をかけると、小さい体をビクリと震わして反応する。 ……拓海には正直に言えば苦手なタイプだった。 何故彼女が涼と仲が良いのかが不思議だったが、結果として二人は硬い絆で繋がっているのだ。 それを不思議に思っても仕方がない。彼女もまた守ると決めている。 それが自分の信念であり、そして……今、背負っている彼女の想いだからだ。 「よろしくな」 「よろしゅう申し上げます」 「……よ、よろしくお願いします」 彼女達は集まった。 それぞれの、しかし同じ道へ向かう思いが、そこに集まっていた。 * * *
605 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:29:33 ID:8.grwvlw0 例えどれだけのものを無くしても、本当に失うものはそこには無いと思う。 ”頑張れ、あきらめるな” その言葉の本当の意味は今でも、分からないけど。 それでも、これからはずっとそばにいる。ずっと、ずっと―― 【C-6 スーパーマーケット前/一日目 昼】 【向井拓海】 【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)】 【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2、特攻服(血塗れ)】 【状態:全身各所にすり傷】 【思考・行動】 基本方針:生きる。殺さない。助ける。 1:涼を治療する為に、病院へ向かう 2:引き続き仲間を集める 3:涼を襲った少女(緒方智絵里)の事も気になる 【小早川紗枝】 【装備:ジャージ(紺)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。 1:涼を治療する為に、病院へ向かう 2:引き続き仲間を集める 3:少しでも拓海の支えになりたい ※薙刀は在庫置き場に置きっぱなしです。おそらく焼失しました。 【松永涼】 【装備:イングラムM10(32/32)】 【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】 【状態:全身に打撲、左足損失(サラシで縛って止血)、気絶】 【思考・行動】 基本方針:小梅を護り、生きて帰る。 0:――――― 【白坂小梅】 【装備:無し】 【所持品:基本支給品一式、USM84スタングレネード2個、不明支給品x0-1】 【状態:背中に裂傷(軽)】 【思考・行動】 基本方針:涼の事が心配 1:拓海達についていく 2:泰葉に対する恐怖は、もう……? 【諸星きらり】 【装備:折り畳み自転車】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:もう人が居なくなるのは嫌だから、助けたい。 1:きらりは一度水族館に向かって、皆に説明して病院に向かうー☆ 2:杏ちゃんが心配だから杏ちゃんを探す……んだけど、後回しになっちゃう…… 2:小春ちゃん達迎えにいきたいけど、今は難しそうだにぃ…… 3:怪我した人のことが心配……
606 :ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 :2013/03/26(火) 19:30:04 ID:8.grwvlw0 以上で、投下終了です
607 :名無しさん :2013/03/26(火) 20:49:14 ID:UYuBj8LQ0 乙です 生き残ったのはよかったが代償が大きすぎる 千夏のルート次第ではまた遭遇するかも…
608 : ◆n7eWlyBA4w :2013/03/29(金) 01:31:44 ID:0XVN5/E20 皆様投下乙です! 大きなイベントも消化されて、いよいよ放送の足音が聞こえて来ましたね >てぃーえぬけーとのそうぐう 茜Pとか気になる伏線も撒きつつ、遂にモバマス世界屈指の謎生物が……w でもあいつ何気に泳げたりするからなぁ。役に……立つんだろうか(不安) >おはよう!!朝ご飯 言ってしまえばご飯を食べるだけの話なんだけど、リレーとしてすごく綺麗な流れ。 みくにゃんの魚嫌い設定をうまく持ってきたなーと感心しました。 >彼女たちの幕開け 最近岡崎先輩のヒロイン度(ロワ的な意味にあらず)がどんどん上がってて嬉しい。 喜多ちゃんもだんだんキャラが立ってきて、応援したいなぁ。 >自転車 この二人の組み合わせはロワ開始直後から一貫して凄く良いなぁ。 しかし今を楽しんでいればいるほど、今後の闇が深まるように思えるのがまた…… >ああ、よかった 放送直前の山場であるスーパー戦、まさかこういう結末になるとは……! これまでの流れを生かしながら壮絶かつ胸に響くラストへ繋げるそのアイデアに敬服です。 では小関麗奈、古賀小春、予約します
609 : ◆John.ZZqWo :2013/03/31(日) 03:16:30 ID:KQze9D160 投下乙です。 >ああ、よかった ああ、姉御の道行きは過酷だなぁ。でも、姉御が、姉御以外のみんなも必死なのがいい。 まだ進めた距離は短いかもだけど、それでも着実に前進して周りに気持ちが伝わっているよね。 そしてちなったんも、結果的には(現時点では)星を得られなかったわけだけど、覚悟を決めてやってみせた。 放送の後はまた休憩タイムになると思うけど、知的なマーダーとしてこれからに期待です。 で、予約延長します。
610 :名無しさん :2013/04/01(月) 00:30:34 ID:n.3pa3Z.0 モバマスロワはエイプリルフール無いのかな 本家はちひろさん来たけど まあここは俺ロワだから1の人以外はやりにくいか
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614 : ◆John.ZZqWo :2013/04/01(月) 15:51:10 ID:cU/DRxno0 すいません、期限を超過していまいますが、今日は投下を控えます。
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616 :名無しさん :2013/04/01(月) 23:46:42 ID:6XzAGDh60 おう
617 : ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:27:42 ID:8FlL0emI0 投下します。
618 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:28:26 ID:8FlL0emI0 それは一瞬のことだった。 炎が閃き、炎は膨らみ、炎に包まれて、水本ゆかりは踊る。 まるで蝋燭の炎に近すぎた羽虫のように。 今生で最後の憐れな死の舞を踊る――…… “彼”は、一言で言ってしまうと不器用な人でした。 その時はまだ小さかったこの事務所のアイドルオーディションを受けて、意外なほどに難なく合格した私の前にその人は現れました。 年齢は、もしかしたら父親よりも上かもしれないと思わせる白髪混じりの頭に、首には結びなれてないだろう曲がったネクタイ。 風采の冴えない人だというのが最初の印象で、 「……水本ゆかりと申します。幼少のころよりフルートをやっていましたから、音感は良いんですよ。 人前で歌ったことはありませんけど……プロデューサーさん、ご指導、よろしくお願いします」 などとは言ったものの、内心はひどくがっかりしていて、 これはアイドルデビューをちらつかせてレッスン料を巻き上げようという詐欺の類なのでは? とすら思っていました。 しかしそうでないことは……少なくとも、この人は私の担当を任せるに相応しいと事務所側が考えた結果なのだということはすぐに判明しました。 彼もまた音楽の経験のある人だったのです。 以前はピアノの先生をしており、その楽器教室が潰れてしまった時にここの社長と縁があったことでトレーナーとして受け入れてもらえたとの話でした。 とはいえ、元々から人には強く言える性質ではなく、音楽は好きだけれども先生としては不適格ということで今はプロデューサーをしてるとのこと。 それもまた実態とは違い、この事務所の中で彼にできる仕事はないから、 一応プロデューサーという扱いにして普段は楽器の手配をしてもらったり、もっぱら雑用をこなしているというのが正しいらしいです。 そして、私が彼にとっての最初の担当アイドル候補生であり、彼からすれば初めてのプロデューサーとしての仕事なのだとも最初に聞きました。 正直、その話を聞いた時に私が気落ちしたことは否めません。 なにもトップアイドルを目指してオークションを受けたわけではありません。 ただ、私は私自身の実力と才能で一度、社会の上に立ちたいと思ってこの事務所の戸を叩いたにすぎません。 しかしそれにしても、もう少し、なんというか……指導を受けるなら、きちんと成功している自立した大人の人が相手で欲しかった。 今思えば、大人や社会に対して高望みしすぎて―― いや、大人も子供からの成長の延長線上にあるものだという認識の不足した、それこそ子供のような私の思いでしたが、 無論、彼を前に口に出せるわけもなく……、しかし、それでも彼はなにか感づいていたかもしれません。 口数は少なくとも心の機微には敏い人でしたから。 それからのアイドル――それ以前のアイドル候補生としての日々はその心配とは裏腹に順調と言えました。 お互いに音楽という共通の話題があったおかげで、親子ほどの年の差がある彼ともすぐに打ち解けることができましたし、 彼自身が行ってくれるレッスンは、彼を独り占めしているのがもったいないと思うほど的確なものでした。 それはおそらく、私と彼がどちらともアイドルというものを意識せず、あるいはまだアイドルというものがなんなのかを掴んでなかったからこそで、 故にただの音楽を学ぶ子弟として私と彼はゆるやかで、しかし一日一日が充実した日々をすごせたのだと思います。 慣れてしまえば彼の不器用さも愛嬌で、私は少しずつですが魅力すら感じ始めていました。
619 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:29:22 ID:8FlL0emI0 いくらか月日が経ち、少しずつ実際の仕事の話をどうしようかという話になると、 事務所としても、私の適正を見てポップさやキャラクター性で推していくのではなく、音楽経験とスキルを活かした仕事をさせようということになりました。 クラシック音楽の番組でアシスタントをしてみたり、実際に地方のクラシックコンサートではMCを任されてみたり、 あるいは楽器メーカーのキャンペーンに登場してみたり、――どれもちっぽけな仕事でアイドルとしての実感はまだ遠かったけれども、 彼と一緒に事務所を出て、そして一緒に事務所に帰ってくる日々は以前にも増して楽しいものでした。 そしてまた月日が流れ、遂に私が『アイドル』としてデビューする日がやってきました。 私が、私が着るためにあつらえられた衣装を纏い、私が立つために用意された舞台に立ち、私が歌うために作られた曲を歌う。 かわいい、まるでお姫様みたいな衣装を着た私は緊張するどころか子供のようにはしゃいで、まだ少ないけれど私の歌を聴いてくれる人のために歌いました。 客席の一番奥に彼が立っていて、私が歌い終わった時に彼が私を見て頷いてくれた時、私は本当に、ああこの人でよかったと思ったんです。 私自身の適正やプロデューサーである彼の希望もあり、私はアイドルとして硬い仕事ばかりを選んでいたのですが、 そのせいか評価はともかくとして、人気という面では同期の子らからも置いていかれていました。 彼女たちのスケジュールがいつもいっぱいなのに比べて、私のスケジュールはデビューから時が経っても白い部分が目立ちほとんど埋まらない。 私としては、その間は彼とレッスンができるのだし、私は私のジャンルの中で確かな評価を得ているのだからと、なんら気後れすることはありませんでした。 むしろ、周りの子らが私に一目置いてくれることに誇りさえ感じていたほどです。 けれど、彼はそうは思っていなかったようです。 私はもっと評価されるべきだというのがこの頃の彼の口癖だったし、彼は苦手な営業活動にも精力的になっていました。 彼が事務所にいない時は、私はひとりで、あるいは他のトレーナーにレッスンを受けていましたが、そういった時間はひどく味気なく、またひどく寂しさを感じて、 そうしてようやく私は彼に仕事のパートナーとして以上に好意を抱いているのだと……そう自覚したんです。 もしかすれば、彼もそれには気づいていて、だからこそ私をもっと大きな舞台に――自分の手の中から飛び立たせようとしていたのかもしれません。 そしてある日、事件が起きました。 あるクラシックコンサートに歌手として参加することになっていたのですが、同日同時間にまた別のコンサートにも参加することになっていたのです。 所謂、ダブルブッキングというもので、彼の手違いから起こってしまったことでした。 その上、どちらの仕事も社長の顔を使って半ば強引に取ってきたようなもので、更には専門性があることから簡単に代役が見つかるようなものでもありませんでした。 私はどうしていいのかわからず、しかしそれ以上に彼もどうしていいのかわからない様子でひどく狼狽していましたが、 結局は社長が片方に詫びを入れ、私は片方の仕事だけをするということに落ち着きました。 その後、私が舞台の上に立っている時に彼の姿はその場にはありませんでした。謝罪のためにもう片方の現場へと社長と出向いていたのです。 私は私自身より、目の前のお客様のことよりも彼のことが気がかりで、当然ながら仕事が十分にできたかというとそれは首を横に振る結果にしかならなくて、 この日に与えられた大きな機会は結局どちらも不意にしてしまいました。 その仕事の後、事務所に帰ってきた私が見たのは、床に頭をこすりつけている彼の姿でした。 彼は自分より二回りも下である私に対し土下座をして、この日のことを謝るんです。何度も、私がそんなことしなくても言いといっても、やめてはくれなかった。 私はそんな彼を見て泣きました。いたたまれなくて、どうしようもない私自身が情けなくて。 そしてもうプロデューサーを辞退するとまで言い出した彼の背を抱いて私はこの時、決心したんです。 私が守ろうって。私が彼を守れるくらいに強くなろう。高みを――トップアイドルを目指し、彼もまた私のプロデューサーであることに誇りが持てるように、と。
620 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:29:43 ID:8FlL0emI0 その翌日から私は気持ちを切り替え、今までアイドルの仕事をどこか現実的ではない軽い気持ちで挑んでいたその心構えを改めました。 『アイドル』であること、仕事をするということは責任を伴うことだと自覚し、ただ彼や事務所に用意された舞台で歌ったり踊ったりしているだけでは駄目だと。 元々は私自身が私が社会で通用するかを確かめるために始めたことなのに、私はそれを彼との楽しい時間に耽っている内に忘れてしまっていました。 それが遠因となり、彼の焦りを生み、そしてあの日の事件を起こしてしまったのだとするなら、その全ての原因は私自身でしかありません。 故に、私は『アイドル』であることを自覚する私に変わったのです。 事務員のちひろさんからは「変わったけれど、今のほうがいい」と言われました。 彼はというと、少し戸惑いがあったみたいですけど、私の決めた覚悟に応じてプロデューサーを続けてくれると約束してくれました。 それからは、私も積極的に仕事選びに意見を出し、舞台演劇の世界にも足を踏み入れました。 楽器や声ではなく、しぐさと台詞でなにかを表現するというのは単純なようでいてすごく難しいことでしたが、 新しい世界でまたそこから上を見上げると、まだこれだけ自分には成長する余地があるのだと思うことができました。 見上げ続け、私は『アイドル』として、二度と挫けず、折れず、彼とこの世界の天元へと到達してみせよう―― それが、私の『約束』。私が『アイドル』になったというお話。 なのに、炎が私の身体を焦がす。 見上げる空には白い太陽。巨大で揺るがず、どこまで手を伸ばしても遠い天元の光。 ふと、太陽に近づきすぎて羽を失った者の物語を思い出す。私もそれと変わらない愚か者だったのだろうか……? これは身の丈に余る分不相応な願いを抱いた結果でしかないのだろうか? あるいは、方法が間違っていたのか……。 しかし、そんなことは今となってはもうどうでもよくて、 私はただ、 私が死ねば彼はきっと泣くだろうから、それを慰めることができないのが、ただ辛い―― @
621 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:30:03 ID:8FlL0emI0 やり遂げたという陶酔に浸っていた星輝子だったが、輿水幸子が血相を変えてこちらへと駆け寄ってくると、ぱっとそれは霧散した。 「あ……、あの、…………なに、……なに? …………なにして、るの?」 輿水幸子はびくりと身構えた星輝子の脇を通り過ぎ、そして今は彼女の目の前で横たわる水本ゆかりの遺体に向けて繰り返し上着を叩きつけている。 なにをしているの? とは聞いたが、答えを聞く必要もない。未だチロチロと水本ゆかりの身体を炙り続けている火を消そうとしているのだ。 派手に吹きつけた炎だが、燃やしたものは揮発性のガスであるし、燃え移ったドレスもレースの部分があらかた燃えてしまえばもう燃える部分もそうない。 なのでそれは、星輝子が見ている前でまるで魔法が解けるようにあっさりと消えてしまった。 「ハァ……、ハァ…………」 そして火を消し終わると輿水幸子は路上に膝をついて水本ゆかりの顔を覗きこみ、僅かに身体を震わせた後、その顔に上着を被せる。 火に炙られた顔を隠し、そして輿水幸子はうつむいたまま動かない。 銃弾の雨あられを受けて乗り物が粉々に破壊されたメリーゴーランドがまた自動で動き出し、また止まってもまだ動かない。 星輝子はなにか不安を感じ取って、そして彼女のことが心配になり、おずおずと小さな声を、遠慮気味に、しかし勇気を絞ってかけてみた。 「…………大丈夫?」 小さな声は確かに届いたようだ。ぴくりと反応すると彼女はうつむいたまま聞き返す。 「大丈夫ってなにが大丈夫なんですか?」 予期せぬ棘のある口調に星輝子は怯む、すると彼女は追い討ちをかけるように言葉を重ねてきた。 「じゃあ、あなたは大丈夫なんですか?」 星輝子は素直に頷く。 「……こ、転んでおしりは打ったけど、……怪我はしてないから、わ、私は大丈夫」 へへへと息を漏らして少し強がったポーズもとってみせる。相変わらず彼女はうつむいたままなのでそんなことには―― 「そうじゃありませんよッ!」 急に顔を向けて怒鳴った輿水幸子に星輝子は驚き、そのポーズのまま3歩後ずさり、目を見開いて固まった。 不安が華奢な身体の中で膨らみ始める。なにか怒らせることをしてしまったのだろうか。なにもかもはうまくいったはずなのに。 一度くらいは褒められるものだと、そんな期待すらしていたのに、自分を見つめる彼女の目に滾っているのは怒りだと星輝子は悟ってしまう。 「あなた、人を殺したんですよッ! なのにどうしてそんな平気そうなんですか! ゆかりさんを……人を殺しておいて、どうして、そんな……どうかしちゃったんですか!?」 「え? …………え?」 口を金魚のようにパクパクとさせながら星輝子は更に後ずさる。 人を殺した? 人を殺した……、私が、人を、殺した……? それって、どういうこと……? 輿水幸子の前に横たわった水本ゆかりの身体を見る。火に炙られ、路上に血を滲ませて、拳銃で撃たれたままの姿勢でもうぴくりとも動かない。 そこにあるのは人間の女の子の、『アイドル』の死体だった。 「あ、れ……?」 膝の下から震えが上がってくる。 途端に左手が重たくなった。ゾンビにでも引っ張られているのかと思ったが、そうではなく拳銃を握ったままだったことを思い出しただけだった。 輿水幸子はこちらを睨みつけたまま泣いていた。 彼女がいる場所は日の光の中にあって、後ずさった自分はいつの間にかに影の中にいて、 どうしてか、その光と影の境界線はなにか決定的なもののように思える。
622 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:30:38 ID:8FlL0emI0 「……………………ぁ」 どうして殺したんだろう? 人殺しなんかできるわけないのに。 もしかして自分の中に人殺しの本性が眠っていたのだろうか? 例えば、ジェノサイダー・ショウコだとか、キノキノちゃんだったりとか。 違う。そうじゃない。相手が、水本ゆかりじゃなくて、“カタキ”の“サツジンキ”だったから、“ユウキ”を振り絞って、“ヤッツケ”たんだ。 だからその瞬間はキノコが傘を開いた時のように、ライブで一曲終わった瞬間に歓声があがった時のように晴々としてて、達成感があって、 でも、気づけば輿水幸子は泣いていて、『アイドル』が一人死んでいて、“ワタシハヒトヲコロシテシマッテイテ”、どうしてこんなことになっているんだろう? 「いつか、ボクのことも殺すつもりですか?」 そんなわけがないと首を振る。 「でも、殺していけばいつかは最後のひとりになるためにボクを殺さなきゃいけなくなるでしょう!」 「ち、ちがう…………、ランコの、カタキ…………」 「ボクを守るため、蘭子さんの仇を討つため、それはいいですよ。ボクだってゆかりさんに向けて銃を撃ちましたから」 輿水幸子は袖で涙をぬぐい、そして言葉を続ける。 「でもね……、あなたはゆかりさんに火をつけた後、その隙に彼女の荷物から銃を抜き取って、苦しんでる彼女に向かって止めを刺したじゃないですか! なんなんですあれは!? ドンくさそうにしてるくせにあんな……最初から計算してたんですか? あなたこそ殺人鬼じゃないですか!」 たじろぐ。あの瞬間に感じていた正しさが全て反転してしまう。 「人を……、ボクたちは人を殺しちゃいけないんです!」 ぬぐったはずの涙がまた輿水幸子の目に浮かぶ。 「ボクたちはひとりひとりじゃ脱出なんかできっこなくて、だから仲間を集めないと……、力を、あわせないといけないのに、 なのに、ボクは馬鹿なことを言って蘭子さんをひとりにして……、あなたはボクを守るためだと言ってゆかりさんを殺して……、 こんなの、きっと思うがままですよ! この企画のお偉いさんは今頃ボクたちを見て笑っていますよ! 所詮、アイドルといってもこんなものだって」 輿水幸子はぼろぼろと涙を零しながらまくし立てる。 もはや星輝子の中に勝利の余韻は、熱狂は一片も残っておらず、全身は震えに包まれ、ただ取りかえしのつかないことをしたという恐怖だけが、 冷たくて重たい水のように満ちているだけだった。 殺しあいを否定はしていたけど、それは殺す側と殺さない側という区分でしかなく、殺す側の人間は殺さない側の人間でも殺していい。 いつの間にそんな風に考えていたのか。人を殺すことができるだなんて、そんなことを。 「ボクはあなたが言ったようにボクらしくここで生きぬいてみせます!」 言って立ち上がると、輿水幸子は自分の拳銃をボロボロになったメリーゴーランドに思い切り投げつけ、遊園地の奥へと走り去ってしまう。 彼女のいた場所には預けていたツキヨタケの鉢植えが残っていて、ポツンと残されたそれはなによりの決別の証だった。
623 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:30:54 ID:8FlL0emI0 星輝子はフラフラと影から出て、鉢植えを抱え上げてまた影の中に戻る。 「だ、大丈夫……ボッチは慣れてる、し。……あなたがいるし」 けれど、ツキヨタケの声は聞こえない。 「フェ……、ヘ、ヘヘ……ヘヘヘ………………」 一生で一番勇気を振り絞ってしたことは殺人で、そのせいでトモダチはいなくなって、なのに一時でも得意げになって、自分にもできると確信してしまった。 壊れたメリーゴーランドの中の鏡に映る自分はひび割れだらけで、無様な格好で無様な表情を浮かべている。 その姿はひどく滑稽で、やっぱり自分はポーズだけなんだと改めて思って、やることなすこと裏目に出て、それは案の定で、情けなくて、笑えてきて、 泣けてきて、 でも、それでも―― 「フッ、フハハハハハハ……ッ! 元より我が身は光と相容れぬ闇の眷属なれば、ジューダスと罵られようともただこの晩餐を地獄の業火で満たすものなりッ!」 なにも間違ってはいないのだ。 これは殺しあいなんだから、どうしても誰かを殺すことを避けられない場面がやってくる。 それは正しくも間違ってもいなくて、ただ悲しいだけで。 でもそれを自分が肩代わりできるというなら上出来で、むしろなにもできないと思っていたのだから、できたのだから例えトモダチに嫌われても、それでもいい。 これはきっと私には向いているから。嫌われるのも、気味悪がられるのも、ボッチなのも慣れている。 それでも、トモダチを、彼女を守ることができるのなら、 「幸子が最後までかわいいまでいられるように、がんば……ろう」 覚悟を決めて星輝子は日陰から光の中へと一歩踏み出す。頂点まで上った太陽は白く眩しく、そして化身の身を焼くように熱かった。 水本ゆかりの遺体の傍により、手をあわせて……何を言っていいのかわからないので「南無阿弥陀仏」とだけ言って拝む。 そして彼女が撃ちまくっていた機関銃を拾い上げて肩にかけ、荷物を漁ってマガジンをベルトに挿した。 「刀は……やめとこう。なんだか、怨念がこもってそうだし……、振り回すの怖いし」 星輝子は輿水幸子が走り去った方向を見る。その視線の先にあるのは、この遊園地のどこからでも見える、平凡だが大きな観覧車だ。 彼女は神崎蘭子の元に行ったに違いない。神崎蘭子はもう……、でも最後になにか言葉をかけたかったのかもしれないし、弔いたかったのかもしれない。 その気持ちは星輝子も同じだ。星輝子もちゃんとお別れをしたいし、仇を討ったことも報告したい。 そして、輿水幸子とも仲直りを。もう越えられない壁が二人を阻んでいるとしても、その壁越しでいいから彼女と一緒にいたい。 星輝子はポケットから情報端末を取り出してスイッチを入れた。 「ヒャッハー! どれだけ離れようとも、我が魔眼からは…………って、あれ?」 しかし、地図は表示されたものの、そこに名前は――神崎蘭子の名前はどうしてか浮かんでいなかった。 「こ、こけた時に壊しちゃったかな……? で、でも……場所はわかってるし、フ、フハハー」 気を取り直すと、星輝子はツキヨタケの鉢植えを胸に抱いて観覧車の足元へと走り出した。 @
624 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:31:42 ID:8FlL0emI0 「ボクはなんて馬鹿なんでしょうか……」 この悪趣味な企画が始まってから半日。輿水幸子は後悔することばかりだった。なにもかも、一挙一動のその全てが後悔することばかり。 神崎蘭子が死んでしまったこと、星輝子が水本ゆかりを殺してしまったこと。どちらも元をただせば自分のせいに他ならない。 なのに、星輝子に対してあんなにも辛く当たってしまった。 どうして? 自分を守るため。ちっぽけな自分を正当化するためだけに責任を全て他に押しやった。 いつもの負け惜しみ、いつもの自己正当化、そしていつもの敗北。 「いい加減、情けないですよ……。もう、嫌になっちゃいますね」 走ってきた後ろを振り返る。だが遊園地の通りはがらんとしていて誰の姿もない。 「さすがにもうついてきませんか。まぁ、彼女もボクみたいな疫病神がいなければひょっとしたら最後まで生き残れるかも……いや、さすがに無理ですかね」 自己嫌悪の上に乾いた笑い声を滑らせ、輿水幸子は神崎蘭子が乗っていた観覧車へと足を進める。 ひとつだけ赤く染まった観覧車のゴンドラ。それを見ればもはや手遅れなのは明白で、行ったところで悲しい思いをするだけだろう。 しかしそれでも、輿水幸子は彼女に一言謝ってから行きたかった。 ほどなくしてその観覧車の足元へと辿りつく。 輿水幸子はずっと、回っていて、今は頂点にあるゴンドラを見上げながらだったので目の前に来るまで“それ”に気づかなかった。 「ヒ、ヒィ……ッ!」 乗り場はどこかと視線を地面に下ろした時、そこにあったのは真っ赤な死の河だった。 「あ……、あ………………」 それがなにかというのはすぐに理解できた。 真っ赤な河の上に飛び石のように浮かんでいる白と黒の破片。原型は留めていないが、それは神崎蘭子の成れの果てだった。 輿水幸子の視界の中、神崎蘭子の部分だったとわかるのは観覧車のちょうど真下。彼女の視線の真ん中にある神崎蘭子の腰から下だけだ。 そしてその下半身にしても、左足のほうは膝から下が見当たらない。 震える歯をカチカチと鳴らしながら輿水幸子は上のほうで回っているゴンドラを見上げ、また視線を下ろす。 「なんで……」 落ちたのか、落とされたのか? いや、わざわざ水本ゆかりが観覧車で一周することにつきあったとも思えない。 おそらくは神崎蘭子は彼女に襲われた後にまたゴンドラの中に逃げ込み、朦朧としていたのか扉に寄りかかったまま力尽きたのか、上から落ちてしまったのだ。 「もう……、こんなのどうすれば…………」 血の気が急速に引いていくのを感じる。 立て続けに見た人の死体は、片方は炎に炙られ眉間に穴を空けられていて、もう片方は床に落としたオムライスみたいになってしまっていて、 自分が生きているこの世界はこんなにも現実味のないものだっただろうか? 眩暈を覚えて後ずさると、靴の裏がなにか固いものを踏んだ。 「ひゃ!」 ドキリとして、バランスを崩して輿水幸子はそのまま後ろに倒れこむ。 したたかに打ちつけたおしりをさすりながら見れば、そこに落ちていたのはなにか銀色の環だった。 どこかで見覚えがある。なのにぱっとは頭に浮かんでこない。これはなんだろう? まじまじを見つめ、手にとったところで彼女ははっとした。 「首輪……!」 チョーカーのように細いこの銀色の環は紛れもなく自分や他のアイドルたちに嵌められた首輪に違いない。 その首輪にはうっすらと血がついており、よく見ると細かい文字が打ってあるのが見えた。 「……RANKO KANZAKI。これって」 そしてそれは神崎蘭子の首輪だった。 どうしてこんなところにこれだけが? 想像しようとして、輿水幸子はぶんぶんと首を振って想像しかけた恐ろしい光景を頭から追い出す。 荒くなりかけた息を整え、また首輪だけをじっと見て、見続けて、それから……、 「ごめんなさい」 輿水幸子は掌の上の首輪にそう謝った。 もうなにもかが遅く、どれも取りかえしがつかないけれど、せめて自分が愚か者だということくらいは自覚できるように。 「本当に……ごめんなさい」 首輪の上に雫が落ちる。雫は首輪の上できらりと光を反射し、空を見上げればなにもかもを無常に乾かす白い太陽が浮かんでいた。 【F-4 遊園地/一日目 昼】
625 :彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:31:59 ID:8FlL0emI0 【星輝子】 【装備:鎖鎌、ツキヨタケon鉢植え、コルトガバメント+サプレッサー(5/7)、シカゴタイプライター(0/50)、予備マガジンx4】 【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、神崎蘭子の情報端末、ヘアスプレー缶、100円ライター、メイク道具セット】 【状態:健康、いわゆる「特訓後」状態】 【思考・行動】 基本方針:トモダチを守る。トモダチを傷つける奴は許さない……ぞ。 0:幸子を追いかけてもう一度いっしょにいさせてもらう。 1:ランコにカタキを討った報告を。 2:マーダーはノーフューチャー! ……でも、それでもしなくちゃいけないことなら私がするよ。 3:ネネさんからの連絡を待つ 【輿水幸子】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、スタミナドリンク(9本)、首輪(神崎蘭子)】 【状態:胸から腹にかけて浅い切傷(手当済み)】 【思考・行動】 基本方針:かわいいボクを貫く。 0:と言っても具体的にはなにをすればいいのかわかりませんよ……。 ※神崎蘭子の情報端末に彼女の位置情報が表示されなくなっています。 ※メリーゴーランドの中に、輿水幸子の投げ捨てた「グロック26(11/15)」があります。 ※水本ゆかりの死体の傍に、「マチェット」「白鞘の刀」「基本支給品一式×2」が散らばって落ちています。
626 : ◆John.ZZqWo :2013/04/02(火) 12:32:18 ID:8FlL0emI0 以上で投下を終了します。
627 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/03(水) 00:05:14 ID:AYQj4ZSE0 放送待ちの段階にも関わらずすみません、予約延長します
628 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/05(金) 18:49:03 ID:dL0vxVK20 報告遅れてすみません……期限内に完成させられなかったため、予約を破棄します このたびは長時間キャラクターを拘束してしまう結果となり、すみませんでした……
629 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:47:16 ID:aS5D28uM0 連絡が途切れていてすいません。 取り急ぎ、里美投下します。
630 :sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:48:03 ID:aS5D28uM0 ――――だから、甘く、甘く、切なく。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「みんな〜ありがとうですぅ〜!」 割れんばかりの拍手と喝采を背に、私――榊原里美はステージを後にする。 眩いばかり明かりから、ぼんやりとした暗さの舞台裏へ。 けれど、私はその暗がりが大好きだった。 もっと言えば、暗がりの先に居る人が。 一歩、一歩ずつ。 明るい所から、暗がりへ。 どんどん暗くなるけど、その先に明るい笑顔があるから。 笑顔が明瞭に見えてくるにつれ、私は幸せになっていくんです。 「お疲れ、頑張ったね。里美」 その人は、私に優しく微笑んでくれます。 線の細い男の人、私のプロデューサー。 そっと頭を撫でてくれて、ちょっと嬉しい。 「今日のライブを切欠にもっと里美は上にいける」 そんな事は、思ってない。 ファンの声援は嬉しい。 けど、けれど、それ以上に目の前の人の声援が嬉しい。 だから、私はこうやって、アイドルを続けたいと思ってるんです。 そして、この人の望みをかなえてあげたい。 それだけでいいんです。 「そうだねぇ……里美は頑張ったし、僕から、ご褒美をあげよう」 「ほぇぇ〜本当ですかぁ〜?」 「うん、何がいい?」 ご褒美。全く考えて無かったです。 いつも、彼から何かプレゼントは貰うけど、私から希望する事は無かった。 だから、どういうものがいいか考えたけど直ぐに浮かばない。 う〜んと悩んで、そして思いついたんです。 「そうですねぇ〜……じゃあ―――」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
631 :sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:48:25 ID:aS5D28uM0 「……そろそろかなぁ」 それは、それは甘く幸せな休日でした。 私は腕時計を何度も見ながら、人を待っています。 この日の為に準備するのに、時間がかかったけど、それも楽しかった。 お気に入りの彼から貰った可愛い靴。 ふわっとした柔らかいスカート。 髪をすべて覆い隠すような、白い帽子。 蒼いビーズで出来たブレスレット。 練りに練った私の勝負服でした。 だって、初めての『デート』なんだから。 「あ、居た居た……里美!」 呼ばれて、振り向いて。 私は見慣れた笑顔を見て、笑ってパタパタと駆け寄る。 そして 「えへへ」 「え、ちょっと」 「……今日ぐらい、いいでしょう〜?」 「……しょうがないなぁ」 「はいですの」 私は思いっきり、腕を組んで歩き出す。 彼は照れたけど、許してくれた。 アイドルとしては駄目だけど、でもとても嬉しいんです。 「デートがご褒美なんて、ビックリしたよ」 「これがよかったんですぅ」 「そっか。里美は何処にいきたいかな?」 「そうですねぇ、美味しいチョコレートを出す店があるそうなんですぅ」 「じゃ、そこにいこう」 だって、デートだから。 これが私が希望したものでした。 私とプロデューサーとの、二人きりでのデート。 ずっと、ずっとしたかったんです。 私の希望を言うと、彼はそっと手を引いてくれました。 そうやって、いつも私を導いてくれて。 いつも、私を護ってくれて。 私は幸せを感じるんです。 今も、手のひらに感じる温もりが幸せでした。
632 :sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:48:43 ID:aS5D28uM0 「ほわぁ……甘くて、幸せですぅ」 「うん、美味しい」 チョコレートは絶品でした。 甘くて、ほろ苦くて。 並んだけど、そのかいがあるぐらい。 こういうのを、私はお兄様とやりたかった。 でも、出来なかった、させてもらえなかった。 そのことを思い出すと、哀しい。 けど、今は彼がいて。 私を護ってくれる。 幸せでした。 「ねぇ――さん」 「なぁに?」 でも、彼は、お兄様の代わりじゃない。 最初はそうだったかもしれない。 けど、もう違うと思うんです。 今は、心の底から、幸せで。 こんな幸せな時間をくれる、彼の事が―――― 「だいす――」 「っと電話だ……御免ね」 「い、いえ、大丈夫ですぅ」 大好きだといいかけて。 けれど、其処で途切れて。 言葉を続ける事ができなくて。 そして、彼は電話をでに外に出て。 私はカフェに独りになって。 解かってます。 解かってる。 私は――――アイドルだから。 でも、それでも、私は、ただの女の子なんです。
633 :sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:49:05 ID:aS5D28uM0 好きな人と、ずっと一緒にいたい。 甘くて、甘くて、幸せな時間を過ごしたい。 大好きな人に、護ってもらいたい。 そう願うのも、罪なんですか? そう思ったら、切なくなって。 きゅっと、胸に手を当てて。 『きゃー!?』 『交通事故だ!……人が巻き込まれてるぞ!』 そんな声が聴こえて。 えっと思って、窓の方をむうとして。 むく事が出来なくて。 最悪な事しか考えられなくて。 また―――遠くにいってしまう。 また―――だれも、護ってくれない。
634 :sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:49:46 ID:aS5D28uM0 いやだ、甘くて、幸せだったのに。 ほろにがくて、切なくても。 幸せだったのに。 大好きだったのに。 幸せな時間が終わってしまう。 いや―――― そこで、私の意識は途絶え―――
635 :sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:50:01 ID:aS5D28uM0 幸せな休日は、夢だったのか。 それとも今起きようとしてることが。 「とても簡単ですっ! 此処に居るアイドルみんなで、殺しあってもらいます!」 ――――悪夢なんでしょうか? いや、いや、いやだ。 助けて、助けて、助けて! 私を護ってください。 お兄様。 大好きな―――プロデューサー。
636 :sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E :2013/04/06(土) 06:50:50 ID:aS5D28uM0 投下終了しました。このたびは遅れた挙句、連絡も無しで申し訳ありませんでした。 また、そろそろ放送が近いので、そのアナウンスを近々連絡したいと思います。
637 : ◆John.ZZqWo :2013/04/07(日) 18:53:24 ID:v1g4JiOc0 投下乙です。 >sweet&sweet holiday さとみんはこんな瞬間から……って、主催側もアイドルを浚うのに手が込んでるなw ゆるくて、甘くて、弱くて、さとみんはどこまでもアイドル以前のただの女の子だったんだねぇ。あの結末もさもありなん。 そしてもう第2放送か。放送の後はどうなるか妄想しながら、ちょこちょここっちはこっちでなにかしていましょう。
638 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/08(月) 23:45:19 ID:prvjJH7w0 皆様投下乙ですー。 >ああ、よかった ああ、よかった。その言葉が出る話だなあ。 結果だけ見ると決していいものだけではないんだけど、それでもよかった。 そういう言葉がでる話でした。 >彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ゆかりさんの回想がいい感じだなぁ きのこと幸子も簡単に割り切れなくてぶつかり合って。 さて、二人がどうなるか……楽しみだなあ
639 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/08(月) 23:53:31 ID:prvjJH7w0 そして、 古賀小春、小関麗奈で予約します。 そして、放送そのものもほぼ完成しているので、この組が投下した後、直ぐ投下したいと思います。 それを踏まえた日程を告知&提案しますので意見をどしどしくださいです。 何時もの企画として、 まず①として、第二回放送までの作品の人気投票を考えています。 【総合】、【繋ぎ】の二部門を、五票ずつ投票していく形を考えています。 書き手、読み手気軽に投票できたらなーと思っています 投票期限は一週間ぐらいを考えています 期間は4/10(水)0時から、開始を考えてます。 その②として、放送開け記念雑談チャットを考えています。 打ち合わせなどではなく、各々のモバマスとのふれあいとか、モバマスロワの作品の裏話、感想の言い合いなど 色々な雑談を書き手と読み手とわず、きがるに出来たらなーと思っています。 これは今週の金土日を考えているので、都合のいい日時を意見してください。 放送解禁は、土曜か日曜。もしくは人気投票終了時を考えているので、意見をください。 それでは、よろしくお願いしますー
640 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/09(火) 00:12:16 ID:EHwEN82Q0 投下と連絡乙です! 後wikiも凄く更新されてますねぇ。こちらも毎度乙です!凄い良い仕事ですよ!ありがたい限りです! >彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン むむむ……その感情は仕方ないんだけども、悲しいすれ違いだわ。 そしてある意味では水本ゆかりの補完話かぁ。そうだよな、並々ならぬ思いがあったはずなんだよな。 それがこんな結末になってしまったのは……ホントロワって悲しいですわ。 そしてそこに一人決意をする輝子……なんだけど、その決意はなんだか死亡フラグな気がしてならないのですw その後の行動が楽しみですねぇ >sweet&sweet holiday おおう、さとみん……悲しすぎるわ。こんなタイミングで連れてくるとか……鬼!悪魔!ちひろ! こんな事情もあればあのメンタルも仕方が無いし、いい補完話なんですが……。 正直運が悪すぎたんだよなぁ。他の人は少なからず救われている筈なのに、彼女にはそれがなかった。 結局誰も正すことも救う事もできずに……結末を知っているからこそ、更に哀しみが引き立つ感じがします。 そして今回も来ましたね。いつも俺ロワの>>1 としての業務お疲れ様です。私個人の意見としましては、 ①に関してはそれで問題無いと思います。 ②のチャットの日時に関して言えばこちらはその三日のいつでも都合が付くので私は大丈夫です。 で、放送解禁は前の時と同じくチャットを行う日の日を跨ぐ0時くらいの頃が盛り上がるし、 ある種書き手の都合もつくのではないでしょうか。
641 : ◆John.ZZqWo :2013/04/09(火) 00:21:01 ID:Y8QRxrf60 乙です。 ①ですが、このロワの場合「繋ぎ」とそうでないものの判別が難しい気がします。どれも山場であり繋ぎでもあり、みたいな。 なので死亡話だとか、はっきりと区別しやすいもののほうが投票しやすいかなと思います。 ②は、とりあえず週末であればどの日でも参加できると思います。
642 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/09(火) 12:45:23 ID:wg0O7pAM0 乙です! ①に関しては、確かに繋ぎ回の定義が。死亡回以外という解釈でいいんでしょうか? そういうことなら、死亡回に票が集まるばかりではなくなって良さそうだと思います。 ②は……日はいいとして金土は難しいかもなんですよね。 都合が合わないようなら他の人を優先していただいて結構ですー。
643 : ◆ncfd/lUROU :2013/04/09(火) 19:19:59 ID:z3ggdbR20 乙ですー ①は上でも言われていますが【繋ぎ】の定義が曖昧で少々わかりにくいかなぁと思います ②については、自分は土だと厳しいですね。もちろん都合が合わなければ他の方優先で構いません
644 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/09(火) 19:27:37 ID:RzKhUb4w0 まとめ役、乙です。 ①については、「回想話部門」という括り方はいかがでしょう? 時系列遡行の回想話が入ってればOKという扱いで。 これなら、「繋ぎ部門」という枠でスポットを当てたいであろうあたりの話がかなり含まれることになると思います。 ただ総合部門との重複投票OK、と改めて確認しておいた方が無難かもしれませんね。 同じく既に意見に上がっていた死亡話部門、も合わせてやっても面白いかもしれません。 ちょっと無責任な提案になりますが(部門増えると集計も手間ですし) ②は了解です。現時点では特に希望はありません。
645 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/09(火) 23:35:57 ID:sK/jTm.o0 投票テンプレです。 予定スケジュール 投票期限:4/10(水)ー4/17(水)まで 「第一回放送」〜「sweet&sweet holiday」まで。 投票形式 上位5作まで選出可能(必ず5作選出しないと駄目、という訳では無い。一位のみへの投票なども可) 1位を5P、2位を4P、3位を3P、4位を2P、5位を1pとして計算する。 総合部門、回想話部門の二つで投票してください。 重複オッケーです。 感想がありますと、書き手が幸せな気分になります。 勿論、投票だけで構いませんので、気軽に投票してくださいねっ 投票例
646 : ◆John.ZZqWo :2013/04/11(木) 00:47:29 ID:4GKCPz9Q0 投票一番のり! 【総合部門】 1位 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 凛の中でのニュージェネレーションと奈緒、加蓮との対比、それがどれだけ大事なことなのか、 静かに綺麗な文章で綴られていて、投下された時からお気に入りです。この作品を1位に置くことは迷いませんでした。 2位 113話 自転車 ◆yX/9K6uV4E氏 逃れられない悲しい運命を受け入れ、ただ楽しい日常を再現して演じる彼女たちに一票。 彼女たちが楽しそうに笑えば笑うほどとても悲しい。 3位 106話 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E氏 タイトルどおり、楓さんが覚醒したこの話に一票。 Pを同じくする彼女ととときんがこの後、どう動いて、どう対比させらるのかその点にも大きく期待です。 4位 114話 ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2氏 修羅場ではあったけど、タイトルどおりの読後感を得られるこの話に一票。 涼の覚悟と結果としての再会にほっとしますが、彼女の覚悟を汲んだ拓海もかっこいい。 そして、スマートでないよい意味での無様さが彼女たちの魅力ですよね。この後がすごく心配ですが、動向に注目です。 5位 112話 彼女たちの幕開け ◆j1Wv59wPk2氏 読んでほっとした、彼女たちが仲良くしているところが見られて嬉しいという正直な気持ちで一票。 いや、ほんとによかったw 放送後はちょっとあれっぽいので、今はつかの間の休息ですね。 以上、5作投票しましたが、遊園地リレーや響子ちゃんリレーとか、他にも投票したい作品がいっぱいありました。 これらはリレーの中のどれに入れるか決められなかったからだけど、やっぱり5作は少なすぎるw 次は部門分けずに総合10作でもいいんじゃないかなぁ……w 【回想部門】 1位 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 回想部門でもむしろだからこそ、またこの作品を1位で投票します。 凛がニュージェネレーションを大事にしていること、奈緒、加蓮を大事にしていること、すごく伝わってくるんですよね。 2位 097話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E氏 ユッキのお話。大人と子供の境界、大人としての責任のお話。 確かに、ユッキの思うとおりに大人は子供の前に立たないといけないと思うけど……、すごく不穏。 彼女の成長とこれからの更なる成長に期待の一票です。 3位 116話 sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E氏 ロワの開始から最期までいいところのなかったさとみんの前日譚。 この話が投下されたことで、彼女の一連の流れが綺麗につながったと感じます。ただの女の子だった彼女に一票。 4位 073話 wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E氏 回想を通じて、藍子が絶対に諦めないゆえに諦める夕美ちゃんのお話。彼女の、乾いた明るさが好きです。 5位 090話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E氏 ネネと彼女のPとの回想を通じて、集まった女の子たちのそれぞれに表明されるPへの想いへ一票。 それぞれ、アイドルであって恋する女の子であり、けどその割合は女の子それぞれで、ギャップにすれ違う。 ここで一度拒否されてしまった藍子ちゃんと、拒否した美穂。曖昧な位置に立つネネと、裏表のない茜。 彼女たちの行く末もまた大きく気になるところですね。
647 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/11(木) 01:28:19 ID:VAowh9HA0 くっそ、一番取られた!私も投票しますね! ホント今回に関しては優劣付けがたい作品が多すぎて丸一日悩みましたですハイ 他に投票する皆様は期間に遅れないよう、じっくりと投票先に頭を悩ませて置いてくださいね! 1位 099 バベルの塔 ◆n7eWlyBA4w これぞ氏の真骨頂、だと私は思います。 一切派手なことは起こらない。結果だけ見れば一人の少女が苦悩して、そして決意しただけ。 しかし、そんな事をここまで心打たれるように書けるという事が素晴らしいと思います。 ニュージェネレーションの三人と、トライアドプリムス(名目上そう呼びます)の三人。 その二つを掛け合わせた渋谷凛という個人。そしてバベルの塔という名前まで上手く使ったこの作品を一位に選びました。 2位 089 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo 正直、凄く悩みました。一位とは全くベクトルの違う凄さで、一概に比べようが無かったからです。 あちらが「静」ならこちらは「動」。こちらも負けず劣らずの素晴らしい作品です。 誰かが救われるという「アイドル」としての観点と、誰かが救われないという「バトロワ」としての観点。 その二つが混ざり合い、昇華されたこの作品は正に「モバマス・ロワイアル」を象徴しているのではないでしょうか。 3位 106 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E 大切なものを失った高垣楓が遂に決意する話。 それは、そのプロデューサー自身の言葉と、目の前で逝ってしまった佐久間まゆの言葉によるものでした。 何が凄いのかと言えば、その両方が別の方の作品からの出典だという事。 他の人が作り上げたピースを組み合わせて、この結果に持っていったのが見事としか言い様がありません。 投下時点では別の事で正当な評価がくだされていなかった感がありますが、かなりの名作だと私は思います。 4位 096 魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w 遂に星輝子覚醒。しかし中身は変わらず。 そういう子なんですよ輝子は。それを分かって書いてるのが流石です。 そして決着からの、虚しい終わり。それに限らず、全体にわたって救われない空気が流れているのが悲しい。 彼女達の思いがにじみ出る表現もまた見事でした。 5位 071 いねむりブランシュネージュ! ◆44Kea75srM 可愛い。この一言につきますね(キリッ 実際一般人のみのロワである以上、このような雰囲気になる事は殆どないんですよねぇ。 だからこういう話は凄く貴重。それでいてここまで可愛くかけているのは流石です。 回想 1位 099 バベルの塔 ◆n7eWlyBA4w 回想部門ならより一層これが一番と思います。 ニュージェネレーションの三人とトライアドプリムスの三人の回想を上手く合わせた上での決意、素晴らしいです。 概ね同じなのでこれ以上は割愛させていただきますが、改めて素晴らしい作品でした。 2位 116 哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w これを回想……と言っていいのか微妙かもしれませんが、前の話の補完とプロデューサーの言葉からの引用があるのでこちらで。 きらりと小梅、二人が二人、違う優しさを持っていてそれが両方とも綺麗に輝いている。 報われなかった二人が弔われて、そして小梅自身に道を与えた。 ロワが始まる前の話と、ロワが始まってからの話が上手く絡み合って彼女達が成長するこの話、好きです。 3位 097 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E 友紀が決意をする話。子供と大人の境目にいる彼女がした決意はある意味悲壮感が漂って哀しみがあります。 回想も含めて、今まで後回しにされていた彼女の心とその決意がこれからの波乱を予想させそうなんですよねぇ。 そういう可能性も含めて、素晴らしい回想、繋ぎ話だと思います。 4位 107 Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 あのファンは許さん(断言) とまぁ冗談は置いといて、主役級の高森藍子の心情描写が丁寧に書かれている様は流石です。 かなりデリケートな部分でしたが、それを書ききる実力が伺えます。 氏は最近このロワに書いていただいているので、これからも良作を期待しています! 5位 115 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo 死んだ後に補完されるのはやっぱり物悲しいんだよなあ……しかも、彼女は純粋だったし。 その行動が褒められたものではないのはそうなんだけど、でも彼女も必死だったのは間違いないのがひしひしと伝わる。 残された少女達もまた追い込まれているし、つい先程も言われてましたけどホント遊園地組は揃えて投票したいなぁホント(しろめ)
648 :名無しさん :2013/04/12(金) 16:48:59 ID:SWl/v20s0 投票いたします。 総合部門 一位 089話 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo氏 悲劇のヒロインという妄想から目覚め、アイドルとしての自分を取り戻した日菜子。 一方、状況に流され感情に流され、何者にもなれずに無惨に死んでしまったさとみん。 「アイドル」として友人を救うことが出来た先輩。その影で誰にも助けられず、静かに息を引き取る里美。 これらの対比的な関係をより一層際だたせる、どちらの首輪が爆発したのか!?とハラハラさせられるシチュ。 全ての要素が合わさり最強に見える、という言葉はこのSSのためにあると言っても全く過言ではありません!文句なしの一位! あと、こういう言い方は少しニュアンス違うかもしれないけど岡崎先輩がとっても格好良かったです! 二位 081話 黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg氏 殺し合いという残酷な舞台で、何度も過ちを繰り返してきたナターリア。 凍えた彼女を救うのは……太陽を背負ったヒーロー、南条光しかいない! 光はテレビに出てくるような力のある正義の味方とは違い、力なき少女として今を必死に生きている現実の人間です。 だけどそんな彼女だってヒーローとして、アイドルとして、ナターリアに手をさしのべることは出来る!燃える! 心に太陽<<アイドル/ヒーロー>>、当ててるかっ!!この響きにやられました。堂々の二位! 三位 082話 Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E氏 個人的繋ぎ部門一位の作品です!この作品あってこそ、一位の「彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン」と四位の「孤独のすゝめ」という名作が誕生しました。 集まった参加者を散らし、仁奈ちゃんと肇ちゃんの心温まるやりとりを描いて、いい話だなー かーらーのー さとみいいいいいいいいん!?なにしてんのおおおおおおおおおお!!?? 思わず悲鳴が上がってしまう、第二放送前における再鬱作品だと思います。なんて綺麗な上げて、落とす。鬼!悪魔!ちひろ!うわーん! 四位 109話 孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w氏 肇ちゃんならではの、感じ方。肇ちゃんならではの、考え方。肇ちゃんならではの…生き方。 あまりにも悲しい自己犠牲の精神。自らの絶望さえも自分だけで抱え込もうとする優しさ。 誰にも、殺人者にさえも幸せを与えたいと願う彼女の聖人ぶりに、圧倒されました。 「天使のような」なんて比喩表現は似合わない、人間として私達と何も変わらない地続きの心の揺れ動き、その末の決断。 それなのに、彼女がずっと遠くにいるように感じてしまいます。これからどうなってしまうんだろう…… 五位 096話 魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w氏 モバマスロワに一石を投じた作品。丁寧な描写に裏打ちされた手に汗握る展開に目が離せなくなりました。 台詞、シンデレラガールズ劇場などの数少ない情報を元に、ここまで納得の出来る輿水幸子、星輝子という人間を書くことができるなんて…! なんといっても、まさかのゆかりさん脱落にすっごく驚きました!これはビビる! 殺し合いとは誰が死んでもおかしくない状況である、という大前提をどーん!と放った氏の英断に、敬意を表します!
649 :名無しさん :2013/04/12(金) 16:49:48 ID:SWl/v20s0 回想部門 一位 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 タイトルと凛の現在地と彼女を取り巻く環境とが、かっちりと綺麗に嵌った作品。 回想部門の投票作品を考える際に、真っ先に思い浮かびました。それだけ「静かなインパクト」を読者に与える作品だと思います。 ヒロインとして、奈緒と加蓮が凛のために戻れない道を進んでいるからこそ。 アイドルとして、ニュージェネの三人がもう二度と揃うことがないからこそ。 凛本人が語る彼女たちの軌跡に思わず涙が…凛だけでなく、彼女と関わるみんなを愛するが故のお話だと感じました。 「孤独のすゝめ」でも感じましたが◆n7e氏の一人称は水が土に染み入るようにゆっくりと、確実に心を満たしてくれます。 二位 115話 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo氏 輝子と幸子という不器用な少女たちの物語でもありますが、あえてゆかりさんのための回想話としてこちらの部門に投票を。 阿修羅として容赦なく殺人を犯していく鮮烈なイメージに目がいきがちですが 彼女だってヒロイン、愛する彼のためのお姫様だったのだと思い出させてくれたお話です。 最初はそこまで興味の無かったPに様々な出来事を通して女としてじょじょに惹かれていく彼女の人生は、まるで少女漫画のよう。 最期の思考までもがどこまでも彼を一途に想う少女だったことは、殺し合いの救われなさを強調するようでした。 三位 090話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E氏 ネネさんの回想話であると同時に、意志を継ごうとする強い藍子とそんな力のない弱い美穂の過去話でもあるお話。 回想の中で彼のためにチョコを作ろうとしていた美穂もFLOWERSとして輝いていた藍子も生き生きとしていて、だから彼女たちの決別は悲しい。 そんな彼女たちを見ながら未だ道を見つけられないネネさんの不安定さが、人間らしくてグっときます。 今後どんな道を選ぶのだろうと、迷い考えた末の決断は強固なものになりそうな予感。 余談ですが、彼女の愛する力強いPさんは囚われながらも一筋縄ではいかなそうなキャラだなあ、と思ったりw 四位 108話 魔法をかけて!◆yX/9K6uV4E氏 かな子が鏡の前で変わり果てたことを自覚してしまったお話。 少し迷いましたが、昔の自分を大事な要素としたお話だと思うので回想部門に。 スーパージョーカーとして恐れられている彼女だって、一週間前まではアイドルだったしもっと以前はただの女の子だった。 だけど幸せだった過去に戻ることはもう出来ず、今はもうPのために敵として生きるしかない。 タイトル、そして状態表後の割れた鏡もあわせて彼女の悲痛な叫びが伝わってくるようです。 五位 069話 それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM氏 ストロベリーPー!あんたって人はー!(鈍器を振りかざしながら) これぞまさしく回想話!アイドルじゃなくてプロデューサーの回想だけどな! 今のところ唯一のP視点という珍しさも相まって、コミカルささえも感じさせる軽快な文章に思わず笑いが。 だけど、彼が本当に智絵里を大切に思っていることはその真摯な紳士な態度でよーく伝わりました。 ストロベリーズもこんなPだからこそ、本気で好きになって本気で殺し合いを勝ち抜こうとしているんだろうなあ。 今回投票したもの以外にも、合計十作までしか投票できないのが本当に残念なくらい魅力的な作品が沢山ありました! いよいよどの子もどのグループも煮詰まって来ている今後のモバマスロワ、ハラハラドキドキしながら応援したいと思います!
650 :名無しさん :2013/04/13(土) 14:17:49 ID:QvAmJ/SE0 いつもドキドキしながら読ませていただいてます! 正直順番付けするのが難しく、影響を受けた順番で並べさせていただきました! 【総合部門】 1位 96話 魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w氏 それまでただ逃げてばかりだった輿水と彼女につくことが多かった輝子が自分達の過ちで死なせてしまった命を引き金に覚醒する王道展開に惹かれたので総合部門はこちらを押させていただきます。 輝子はキャラ的にノーマークだったのですが、トモダチへの思いの強さが輿水に向けた「私がファンになる」発言や蘭子に放った言葉などから強く感じ、そのために苦手なトークと恐怖を克服して相手に立ち向かう姿が素晴らしかったです。輿水も逃げてばかりの自分を振り返り、そこから前に進もうとする姿が非常に輝いていました。水本さんは終始ペースを乱さなかったのに最後に見せた自問する姿がこの悲劇をより際立たせていました。キャラ考察が丁寧で、私が輝子に惹かれるきっかけにもなりました。 2位 114話 ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2氏 涼、拓海の心理描写と、その行動に強く惹かれました。 最初は千枝を救えず、己の無力さと理不尽に腹を立てるしかなかった拓海が、いざ同じように命の危機に晒された涼を命を賭けて助け、生きて大切な人に会えと知ったする姿はまさに「姉御肌」でした。遂に行動で体現できたというのも素晴らしく、拓海を見直すきっかけになりました。 涼も小梅はじめ友達のことを思い、覚悟を決める姿が素晴らしかったです。最初は死ぬ覚悟だったのが、拓海の叱咤によりどんなに苦しくても生きる覚悟に変わったところに希望を感じました。 考えを行動で体現した2人が輝いている「アイドル」な話でした。 3位 90話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E 氏 アイドルであろうとする藍子ちゃん、恋に、友情に悩む小日向さん、そのどちらなのか答えの出ないネネさんと三者三様の姿勢が出た話でした。 藍子ちゃんは愛梨に続いて2人に拒絶されてしまい、未だになつきちの言う「生き様」を上手く見せられていないように感じました。相手に共感できるからこそその気持ちも汲んでしまう。でもそんなことをする余裕のないほど繊細な小日向さんやネネさんにはどうしても自分の弱さを見せられているようで拒絶したくなる。3人とも皆が幸せになって欲しいという思いのもと動いているのに、その表現の仕方がわからずすれ違ってしまう悲しさがありました。それぞれの生き様が何なのか、その答えを見つけられた時3人の道が再び交差して欲しい、そんな今後を期待したい話でした。 4位 89話 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo氏 岡崎先輩の奮起と日菜子の覚醒回と言うことで、明暗の分かれる話でした。 アイドルであろうとしながらもアイドルの死を目の当たりにし、近い人間まで失いそうになり、無力さに歯噛みしつつも諦めず日菜子を助けようとする先輩の心境が胸に刺さりました。一方でかつて切り捨てた榊原さんが誰にも看取られることなく悲惨な最期を迎えたと言うのが、先輩が間接的に追い込んでしまったこともあり対比になっていました。声をかけたのではなく、救った鍵になったのは「歌」と言うのもアイドルらしくてよかったです。この「歌」による救出は、未だに迷う「アイドル」達が生き様を伝える鍵になるのではないかと思い、そう言う意味でもアイドル達が見出す活路の一つにも思えた話でした。 5位 106話 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E 氏 紆余曲折を経た6人の決意を感じたターニングポイントのような話でした。 特に注目が強かったのが絶望から希望を見出した楓さんと、対照的に「自分」には希望を持っていない美羽でした。恋い焦がれていたPと自分に思いを託したまゆ、死んだ人達は今でも自分を見ている、見られている以上自分はアイドルだ。だから恋する女として、アイドルとして生きる。その姿は一枚の絵画のようでした。 逆に美羽はフラワーズさえ生きればいい、アイドルでもヒロインでもない自分はその花を残すための人柱になる、そんなあまりにも自分に気付けていない迷える少女故の哀しい覚悟を感じました。他のメンバーが美羽の良さを分かってるのがその覚悟の悲しさをより引き立てており、今後の運命が非常に気になる覚悟でした。
651 :名無しさん :2013/04/13(土) 14:18:52 ID:QvAmJ/SE0 【回想話部門】 1位 107話 Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2氏 藍子ちゃんが明確に「愛梨を止める」と決め、決意を新たにした理由の回想に惹かれました。 自分もなかなか芽が出ず、頑張ってもそれを嘲笑うような人間もいる、だから自分はアイドルにはなれない。そんな中で愚直なまでに自分を信じてくれたPが自分に愚直なまでにアイドルで言させる魔法をかけた。そんなように感じました。尖った所が無く、普通だった藍子ちゃんが認められるまでに時間が掛かったと言うのがひしひしと伝わって来ました。この話と、愛梨の回想を見て、この二人の3度目の邂逅を望まずにはいられなくなる程になりました。 余談ですが、藍子ちゃんの笑顔を否定された時は流石に怒りを抑えるのがきつかったです(笑) 2位 73話 Wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E氏 いつも大事なところを隠す夕美ちゃんと思いをストレートに告げる藍子ちゃんの対比、藍子ちゃんがずっとアイドルであると信じる夕美ちゃんの藍子ちゃんへの思いが和むと同時に悲しい話でした。 夕美ちゃんのスタンスが今までの楽しかった思い出を思い出として片付け、全てを諦める悲しい明るさなので、その一方で藍子ちゃんを信じる姿には悲しさを感じずにはいられませんでした。そして、フラワーズの回想で毎回思うのはお互いがお互いの良さを凄く分かっているなあと言う所でした。だからこそ唯一自分の良さを信じない美羽の悲しさも出てきて、団結力の強い、仲の良いチームであるはずなのに、悲しさが滲み出る4人だなあと思いました。 3位 103話 揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 Pが最後に言った「生きて」と言う言葉に過去の思い出とともに苦しめられる愛梨の悲哀が伝わってくる話でした。 彼女がPの言葉に強く重きを置くのは愛していたからと言うのは勿論の事、横取りの形で奪ってしまった楓さんにもう罪滅ぼしをする機会もなくしてしまい、アイドルとしての生き方を放棄してしまった以上かつて光っていたものが全て無くなってしまったから、と言う事もあるように感じました。もう戻れない、そんな悲しみが強く出ていた話でした。 4位 97話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E氏 大人の責任についてメンバーへの思いを振り返りながら考え、覚悟を決めようとするユッキの思いが強く出ていました。 大人になる事を否定し、逃げて、年下の子に責任ある立場を任せていた事の対比として、絶対に避けては通れない敵を倒さなければならない、手を汚さないといけないの大人の責任があり、その二つの間で揺れ動くユッキの心情の複雑さが滲み出ていました。そこに大人なのに、大人が何なのか分かっているのにそうは振舞わないユッキの今までが出ていて、これからのユッキの動向に期待が掛かる一話でした。 5位 99話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 凛のもう戻らない過去、そこから決意を固めるに至るまでの流れに見惚れてしまいました。 苦しい時を共有した卯月と未央との日々はもう戻らない。だけどまだ卯月とこのまま終わりたくない。奈緒、加蓮は今どうしてるかもわからない。だけどかつての約束を簡単にあきらめたくない。まだこんな所で終わりたくないと凛に言わせる思い出が、一つはもう二度と紡がれないと言うのが悲しく、それでもあきらめない凛の仲間と今までを大切にしたいという思いが伝わって来ました。そんな諦めず立ち向かう事を決めた凛と奈緒、加蓮が対極の位置にいるのが心苦しい所ですが、まだここにも希望はある、そんなことを感じさせてくれました。
652 :名無しさん :2013/04/13(土) 19:00:56 ID:PSMlwlXU0 どんどんと投票が来てますねぇ。皆様選考に四苦八苦しているようで……w まだ投票していない方も来週の水曜(4/17)までありますので、トリ無し感想無し大歓迎、気軽にご参加ください! そしてもう一つの企画として、放送明け記念雑談チャットを明日の晩から開催します。 行う場所は前と同じく、 ttp://mobarowa.chatx2.whocares.jp です。 書き手の皆様も読み手の皆様も、都合の良い時間に入ってごゆるりと楽しみましょう! 以上、業務連絡でした。
653 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/13(土) 20:51:31 ID:65MTV0FE0 私も投票させていただきます。 総合部門 一位 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 実を言うと、もし投票が始まったらこれを1位にしようとずっと考えていました。 なので最初のお二人が連続で1位に投票された時はああ、やっぱりなという感じでこっそりと笑っていたり。 本編の内容もさることながら、バベルの塔のお話を凛と重ねながらの描写に胸が締め付けられるような切なさと少しの希望を感じます。 届く想いがあると信じて、繋ぐ絆があると信じて、これからの凛がどう生きていくのか期待したいところです。 二位 076話 晴れ ◆j1Wv59wPk2氏 どちらかと言うと奈緒と加蓮が中心のお話ではありますが、私が一番印象に残ったのは周子の最後でした。 警戒もせずに店に入るというところで僅かな違和感がありますが、実はいくつかの伏線があったのではないかと勝手に解釈しています。 美穂と周子はそれまで危険な状況に遭遇しておらず、なおかつ実は意外と判断力の高い周子が直前に死体を見て動揺していました。 これらのことから周子の死は偶然ではなく必然だった、というのを感じさせて見事な話の組み立てだと感服しました。 最後に死ぬと分かった上で美穂を逃がす周子の姿にも悲壮感があって、読後になんとも言えないやりきれなさを感じます。 三位 090話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E氏 美穂とネネ、二人の心情がそれぞれ描かれているこのお話は結果も題名のように何処かハッキリしない感じに終わります。 個人的には比較的傍観に徹していた茜がどう思っていたのかが気になったり。 やはり彼女達二人にとっては藍子の強さが少し不気味に思えたのではないかと思います。 けれどネネ自身も藍子の傍を離れていないところを見ると、決して彼女の言っていること全てを否定しているようには見えません。 ネネが行きつく先には何があるのか、とても気になるお話でした。 四位 078話 みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM氏 数少ない和やかな雰囲気が壊れてしまうこのお話、読んでいて中々ショッキングな展開だなと思いました。 どちらかと言うと場所は離れていますがそれまで幸子と似たようなスタンスを取っていたみくが現実を見てしまいます。 雫の命に対する価値観は、実際に考えさせられた方も多く居るのではないでしょうか。 誰もがアイドルであることや、ヒロインであることに目が向きがちな中で少し雰囲気の違ったお話といった印象です。 五位 095話 グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc氏 このロワイアルでは比較的ヒロイン、つまり一般的なロワイアルで言うマーダーが多く居ます。 それは主催者側の事前工作によるものが多いのですが、そんな中で自らの役割に疑問を持つ二人がこのお話の主役。 一見、響子の方が決断力に富んでいるように見えますが、実は冷静なのは智絵里の方ではないかと感じたりも。 このまま彼女達二人は主催者達の描いた筋書き通りに動いていくのか、それとも筋書き自体が…… 読後の何処かぼんやりと感じる不安な感覚がこのお話の魅力だと思います。
654 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/13(土) 20:51:54 ID:65MTV0FE0 回想部門 一位 097話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E氏 友紀は比較的二次創作では面白い性格だったり、中にはとんでもないキャラ付けをされていたりするのが多いと感じます。 しかしこの作品においてはそういった要素はほとんど排除されているので、このお話の友紀は意外な一面があるなぁと思ったり。 これは彼女に限らず他のキャラもそうなのですが、毎回真新しさを見つけられて凄く読んでてワクワクします。 さて友紀はここで重要な決断をしたわけですが、ある意味一人で抱え込んで暴走しているような気も。 これがロワイアルの流れにどう影響していくのか楽しみです、大人の責任なんだという言葉は凄く心に残りました。 二位 106話 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E氏 集まったメンバーが懺悔や決意の表明など様々な思いを吐露する中、留美の一言でとうとう楓さんが始動。 なんというかどんどん愛梨と楓さんのプロデューサーが発した最期の言葉が重みを増してきています。 果たして彼の真意が何処にあったのかは今現在では不明ですが……それはともかくとしてやっぱり格好いい。 全くやる気のない状態かつ人の集まりやすい飛行場に居ながらここまで生き残っていた強運は今後発揮されるのか。 今の彼女が愛梨に遭遇したら一体どんな反応を見せるのか、これから注目しておきたい人物です。 三位 073話 Wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E氏 夕美を通してFLOWERSのメンバーについてより深く掘り下げたお話といった感じでしょうか。 ロワイアルにおいてそれぞれが選んだスタンスにも納得が行くような見事な描写でした。 個人的には藍子のメンタルの強さが他にアイドル達に過大評価されすぎな……と思っていたり思っていなかったり。 しかしそれも信頼関係あっての確かな評価であり、彼女達の結束の強さが窺えます。 最後に、私は未だに夕美があそこに配置されている理由がさっぱり思いつきません……一体なんなのやら。 四位 069話 それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM氏 あえて言うまでもありませんが冒頭のプロデューサー視点でつい壁を殴ってしまった方も多いのではないかと思います。 という冗談は置いておいて、初にして唯一?のプロデューサー視点であり新鮮味がありました。 やはり多くの人間から思いを寄せられるだけあって人格者と言った感じです、改めて考えると本当に題名通り…… 今現在、プロデューサー達は一人を除いて全員監禁されているはずですがほとんど情報がありません。 ふとこのお話を読んでプロデューサー達に思いを寄せたりするのも良いのではないでしょうか。 五位 110話 てぃーえぬけーとのそうぐう ◆ncfd/lUROU氏 私個人としても、一人の読者としても色々意表を突かれるお話でした。 回想は主に茜とそのプロデューサーについての物なのですが、まさか藍子の元プロデューサーが彼だったとは…… 個人的な理由で申し訳ないのですが、色々な兼ね合いで元プロデューサーの設定を出したのは私だったのでかなり意外ではありました。 最後に回想とは別の部分で驚くような展開もあったりして、とても楽しく読ませていただきました。
655 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/13(土) 21:56:34 ID:7IYig7zs0 こちらも投票させて頂きます。それにしても激戦区、5票ずつとか足りなすぎるよ! 総合部門 1位 114話 ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2氏 タイトルに偽りなし。どう考えてもこの先は厳しいのに、ひとまず、この一言しか出ない。 2位 108話 魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E氏 かな子の体形変化という何とも絶妙なポイントから攻めたいぶし銀のお話。 ここまで迷いなき殺戮者を演じていた彼女が揺らぐ、その説得力がすごい。 3位 115話 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo氏 個人的な事情も入ってしまいますが、遊園地の激動の「後」を書いたこのお話に1票。 調子に乗りかけた所に冷や水を浴びせられる輝子、輝子を拒んでしまう幸子が絶妙です。この塩梅は地味にすごい 4位 088話 熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts氏 次の『グランギニョルの踊り子たち』とどっちにするか悩んだのですが、最後の一言の凄みを考えてこちらに。 ストロベリーボム組は瞬殺された子も含めてほんと同じスタートなのに違いが際立って凄い。 5位 109話 孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w氏 その発想は無かった。激しい展開に振り回されてばかりだった肇ちゃんがようやく根性据えた感触のお話 どう考えてもその先はまた大波乱ですが、少なくともその魂の高貴さを称えるくらいは許されるはず。 回想部門 1位 104話 彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo氏 千枝ちゃん補完話にして、「死後補完話」という新システムを文句なしに追認させちゃうパワーのあるお話。 そりゃ千枝ちゃんもヤる気になりますわー、ちひろさんの鬼ー! 2位 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 主人公、始動。そんな感じのお話。回想中の「先に行ってるから」、という一言の凛々しさが素晴らしい。 必ずや2人も追い付いてくる、そんな信頼がなければ出てこないでしょう、これは。 3位 097話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E氏 ようやく友紀の内面が垣間見えたお話。そしてここでも暗躍するちひろさん。 いい感じに危ういよなァ 4位 069話 それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM氏 ほんとなんてエロゲだよ! でもこのPには確かに惹かれるだろなァっていう説得力満載です 5位 073話 wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E氏 夕美ちゃん回想話。ほんといい感じのグループだったんだなーとひしひしと。
656 :名無しさん :2013/04/14(日) 23:54:53 ID:GL6EqwOk0 コメント等なしで申し訳ないですが投票させて頂きます 総合部門 1位 081 黒点 ~心に太陽当ててるか~◆ltfNIi9/wg氏 2位 089 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン◆John.ZZqWo氏 3位 114 ああ、よかった◆j1Wv59wPk2氏 4位 105 哀(愛)世界・ふしぎ発見◆RVPB6Jwg7w氏 5位 078 みくは自分を曲げないよ!◆44Kea75srM氏 回想話部門 1位 107 Another Cinderella◆p8ZbvrLvv2氏 2位 082 Two sides of the same coin◆yX/9K6uV4E氏 3位 099 バベルの夢◆n7eWlyBA4w氏 4位 092 水彩世界◆yX/9K6uV4E氏 5位 069 それなんてエロゲ?◆44Kea75srM氏
657 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/16(火) 20:38:11 ID:Gi4Vhr8o0 遅くなりましたが、自分も投票させて頂きますね。 今回は枠の少なさはもちろん、選んだ作品間のランクも自分の中で拮抗していてなかなかハードな投票でした。 【総合部門】 一位 096 魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w氏 覚悟を決めた輝子も、勇気を見せた幸子も、そして死んでいったゆかりも、誰もがカッコよくなんてない。 だけどそれぞれがそれぞれなりに、無様なぐらい一生懸命で、そのカッコ悪さにこそ惹かれる話でした。 ゆかりの最期の台詞「なんで――わたし、頑張ったのに、地道に、積み上げていったのに――」 は今回の個人的ベストフレーズです。 二位 076 晴れ ◆j1Wv59wPk2氏 奈緒加蓮の破滅的な友情が、ある意味で転機を迎えることになった話。 殺害方法の生々しさ、周子の死に様、そして奈緒と加蓮がついに"対等"になってしまう展開。 まさにモバマスロワらしい、等身大の少女達の絶望的な現実をまざまざと魅せつけられました。 三位 089 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo氏 練り込まれたプロットに唸らされます。二転三転する状況と最後まで引き込む緊迫感は凄い。 そして岡崎さんと喜多ちゃんがアイドルとしての輝きを見せる一方、誰にも看取られず何者にもなれないまま死んでいく里美。 希望や温かさと無常感が表裏一体となった、ただどちらか一面だけでは語れない読後感もお気に入りです。 四位 082 Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E氏 ラストの砂糖菓子の下りが本当に好きです。静かに心奥を抉ってくる感じ。 話全体としてはそれぞれの状況整理と集団分割が中心でどちらかというと繋ぎ的な展開であるだけに、 最後の急転直下の絶望感には打ちひしがれつつも惹かれるものがありました。 五位 105 哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w氏 これは読者目線というよりも一作者としての感想なんですが……ありがとうございます、二人を救ってくれて。 登場話を手がけて思い入れがあったのか、二人がもう一度寄り添う場面では不覚にも目頭が……。 投票の動機としてはいささか不純かもしれませんが、それでも一票を投じさせていただきます。 【回想部門】 104 彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo氏 記念すべき過去エピソード第一弾に敬意を表します。こういう話が出てくるのがモバマスロワの良さだなぁ。 ちひろが各アイドルに接触していたという過去の設定を踏まえつつ、自然にセカンドストライクに繋がる見事な補完。 それだけに本編での彼女の死の呆気なさが一層際立つという、巧いとしか言えない話ですね。 115 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo氏 前話で散っていったゆかりの補完回想回ということでこちらの部門でエントリー。 まさに純粋奏者というべき清冽な願いが彼女を阿修羅姫へと駆り立てたと思うと、やり切れないものがありますね。 それにしてもタイトル秀逸だなぁ。数字縛りでタロットカードという発想はなかった。 090 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E氏 ネネPの次の出番はいつですか!……というのはさておき。 出番の割に妙にキャラ立ってるPとの回想を挟みつつ、それぞれのアイドルのスタンスの違いを際立たせる展開。 それぞれの先が気になる話でした。ところでネネPの(ry 073 wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E氏 藍子が希望を捨てないからこそ自分達に救いはない、というこのロワの相葉ちゃんを象徴する思い。 全てを諦めながら明るく笑う彼女はもうどこにも迎えないのか。不思議な寂しさのある話です。 107 Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2氏 アイドルの中のアイドル、希望の象徴、高森藍子、そのルーツ。 今までその内面が深く語られることはなかっただけに、一層人間らしい深みが出たように思います。 そしてこうなると十時との再びの対峙が期待されるところ……果たして。
658 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/16(火) 23:58:40 ID:UozH1vS20 遅くなりましたが、投票を。 放送と、灯台は期限オーバーですが、投票明けでもいいでしょうか? 一位076 晴れ ◆j1Wv59wPk2 奈緒加蓮の綺麗な流れ、そしてシオミーの思い。 それが、本当綺麗に書かれていて、素晴らしかった。 拙作のタイトルの連動もあって、本当震えました。 二位 089 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo氏 岡崎先輩の心理が本当いいなぁ。 歌によって、救って、彼女はアイドルで居て。 その先で、報われないさとみんがいて。 その対比が本当、綺麗でした。 三位 088 熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts氏 響子こわっ!w 煮え切らないちえりんとその響子の思いが鮮烈。 怖さの中に、響子の人間らしさも感じられて、素敵な作品でした。 4位 哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w氏 きらりと小梅の描写が素敵で。 そして、あの二人も救われたなあと考えると、心がほっとしました。 そんなかなしながらも、幸せに慣れる感じでした。 5位 095 グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc氏 響子の狂気が凄まじい。 3位の作品が一言の凄みなら、これは全編に感じる壮絶さ。 鬼気迫る響子が流石でした。 回想部門 一位104話 彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo氏 千枝ちゃんが凶行に走った理由が、切なく。 そして、追い詰めたちひろがえげつない。 補完話として、素晴らしかったです。 2位 099 バベルの夢◆n7eWlyBA4w氏 凛ちゃん再始動! 奈緒加蓮やニュージェネの関連を整理して、そして一歩踏み出させた。 凄まじく存在感がある話でした。 3位115 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo氏 ゆかりの補完として素晴らしかった。 阿修羅姫は、こういう理由で阿修羅になって。 そして、イカロスとして散っていた。 哀しいなあ 4位Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2氏 藍子ちゃんの補完話として。 彼女がアイドルとして、芯が通るようになった事。 彼女の補完話として、とても綺麗になっていたと思います。 5位 069話 それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM氏 Pはしんでしまえ。 ちえりんとPの関係が、こうしてなったんだなあと。 とても、解かりやすく、いい補完でした。 でも、やっぱりPはしんでしまえ(ryw
659 :名無しさん :2013/04/17(水) 21:09:19 ID:AYsn24v20 k
660 :名無しさん :2013/04/17(水) 21:10:14 ID:AYsn24v20 コメント等なしですが投票させて頂きます 総合部門 1位 106 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E氏 2位 109 孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w氏 3位 113 自転車 ◆yX/9K6uV4E氏 4位 105 哀(愛)世界・ふしぎ発見◆RVPB6Jwg7w氏 5位 108 魔法をかけて!◆yX/9K6uV4E氏 回想話部門 1位 097 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E氏 2位 104 彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo氏 3位 099 バベルの夢◆n7eWlyBA4w氏 4位 092 水彩世界◆yX/9K6uV4E氏 5位 073 wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E氏
661 : ◆ncfd/lUROU :2013/04/17(水) 22:46:59 ID:.RAUgB4E0 遅れましたが投票させて頂きます 総合部門 1位 089話 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo氏 日菜子と泰葉というモバマスロワならではの組み合わせ、先の読めない展開、多くは書かれず、けれどそれゆえに心を抉ってくる里美の最期。 全てが素晴らしい作品でした。日菜子を救ったのも里美を追い詰めたのも泰葉なことを考えると、何ともやるせない気持ちになったりも。 2位 081話 黒点 〜心に太陽当ててるか?〜 ◆ltfNIi9/wg氏 まさしくヒーローの面目躍如といったところ。 ナターリアだけでなくこちらの心まで明るく照らして熱くする口上はまさに光と言う名にふさわしいものだと思います。 3位 114話 ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2氏 混迷が予想されたスーパーを見事に書ききった一作。登場アイドル全員が主人公と言っても差し支えないのではないでしょうか。 中でも逃げろと言う拓海に対する紗枝の返答は、彼女たちの友情と結束の強さをこれ以上無く表している名台詞だと思います。 4位 105話 哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w氏 弔いによって二人の死者が救われた気がするし、きらりの言葉で小梅も救われた。 死者にしても生者にしても、救いがあるって素晴らしいことですよね。故にこの話も素晴らしい。 5位 096話 魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w氏 ゆかりの悲痛な最期の言葉と、残された幸子と輝子の間の微妙な雰囲気。結果だけを見るならマーダーが対主催に返り討ちにあっているのに、微塵も喜べる話ではなくて。 虚しさを抱えた彼女たちの関係は、きっと出会った直後のようには戻れないんだろうなぁ。 回想話部門 1位 107話 Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2氏 Pの言葉に縛られる愛梨を、Pからもらった言葉をもってして止めると決意する藍子。 まさにもう一人のシンデレラにふさわしい王道の中の王道だと思います。 2位 082話 Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E氏 仁奈に癒されたかと思いきや、まさかの…… 最後の砂糖菓子の描写がぐいぐいと心を抉ってきます。 3位 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 流されるばかりだった凛の、静かながらも強い決意。 彼女が積み重ねてきたものがしっかりと描写されているからこそ、その決意に重みと凄みが感じられます。 4位 092話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E氏 藍子の強さは本人が自覚してなくても眩しすぎるもので。美穂との決裂は避け得ぬものだったのかなと。 藍子の強さと美穂の弱さはどちらも危うく、今後どうなるのかが気になります。 5位 069話 それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM氏 よし、とりあえずプロデューサーは爆発四散しようか。 それでも感じられる人柄の良さは否定できず、いちご組が彼と共にあるために殺し合いに乗っていることが否応なく納得できてしまいます。
662 :名無しさん :2013/04/17(水) 23:26:07 ID:hkT4MdvM0 タイトルのみとなりますが、投票させていただきます。 どの話もそれぞれ思い入れがあり、選出が難しかったです。 ・総合部門 1位 081話 黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg氏 2位 089話 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo氏 3位 109話 孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w氏 4位 088話 熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts氏 5位 083話 S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U氏 ・回想部門 1位 106話 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E氏 2位 115話 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo氏 3位 108話 魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E氏 4位 116話 sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E氏 5位 103話 揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2氏
663 :名無しさん :2013/04/17(水) 23:56:59 ID:Ggi/1thc0 【総合部門】 1位 081話 黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg氏 2位 096話 魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w 3位 070話 Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2 4位 075話 希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w 5位 079話 安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 【回想部門】 1位 115話 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo 2位 073話 wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E 3位 069話 それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM タイトルだけの投票で恐縮ですがよろしくお願いします。
664 : ◆44Kea75srM :2013/04/17(水) 23:58:39 ID:Bfn0TKkw0 滑り込みにつき感想カットでご容赦ください! 総合部門 1位 089話 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo氏 2位 111話 おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E氏 3位 106話 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E氏 4位 097話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E氏 5位 076話 晴れ ◆j1Wv59wPk2氏 回想部門 1位 097話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E氏 2位 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w氏 3位 090話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E氏 4位 116話 sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E氏 5位 104話 彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo氏
665 :名無しさん :2013/04/18(木) 00:17:02 ID:PlEQMZ3s0 以上で投票締め切りです! 投票ありがとうございました! 急いで集計しますんで、少々お待ちを〜。
666 :名無しさん :2013/04/18(木) 02:38:16 ID:PlEQMZ3s0 モバマス・ロワイアル第2回人気投票。結果を発表します! 多数の投票、コメント、ありがとうございました! 【総合部門】 【1位】 36点 089話 彼女たちの向かう先は死を免れぬフォーティン ◆John.ZZqWo 1位は、岡崎泰葉がアイドルとしてひとりの友を助け、また同時にその裏側で迷走する榊原里美の末路が描かれたこの作品となりました。 歌で人を助けるというアイドルとしての光と、誰からも見られることのないところに逃げ込んだ闇の対比、 そして最後まで結末を読ませないシーンの切り替えが多数の評価を得た模様です。生き残った二人は今後も要注目ですね。 【2位】 23点 081話 黒点 〜心に太陽当ててるか〜 ◆ltfNIi9/wg まさにパッション! 2位にはザ・パッションとも言える「黒点 〜心に太陽当ててるか〜」が入りました。 誤殺を繰り返し、もはや心の太陽から光と熱は失せた。そんな間際に同じく傷という経験を負ったヒーローの登場! どちらも幼く力はないけれど、でも前を向くことだけはやめてはいけない。そんな情熱の兆しがこの大きな評価につながったのだと思います。 【3位】 18点 096話 魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w 3位には遂にこの時が来た! 星輝子オンステージだぜええええええ……って、あ、そんな注目されると怖い。なこの作品です。 タイトルからして星輝子の覚醒が印象的ですが、やはり評価を得たのは彼女のトモダチである輿水幸子の内面に踏み込んだ部分も大きいでしょう。 結果として彼女たちは阿修羅姫を落とすという大金星を得ますが、結末のシーンに虚しさが漂うのが彼女たちの弱さを現していいと思います。 【4位】 17点 114話 ああ、よかった ◆j1Wv59wPk2 ああ、よかった。読後の感想はそれにつきる。4位にはスーパーマーケットでの対決を描いたこの作品が入りました。 爆発と炎が包みこむ緊迫した展開。誰が死んでもおかしくないという状況に、読んでいてはらはらした人は多いと思います。 結果的に死人は出ませんでしたが、代償は大きく、結果はよかったとは言いづらい。でも、よかったと言える。それがこの作品の魅力ですね。 これからも苦難が続くのだと思いますが、彼女たちには今回と同じように決して諦めずにがんばってほしいものです。 【5位】 15点 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w 【5位】 15点 106話 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E 5位には同点で「バベルの夢」と「こいかぜ」の2作が入りました。 実はこの2作、続く回想部門でも少なからず点数を得ています。どちらも想いに焦点を当てている分、納得の結果かもしれません。 どちらも周りに自分を想ってくれる人がいること、だから自分はまだ想えるのだということが描かれていて素敵な話ですよね。 以下、総合部門の獲得点数はこのようになりました。 14点 076話 晴れ ◆j1Wv59wPk2 10点 109話 孤独のすゝめ ◆n7eWlyBA4w 9点 105話 哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w 7点 088話 熟れた苺が腐るまで( Strawberry & Death) ◆GOn9rNo1ts 7点 113話 自転車 ◆yX/9K6uV4E 6点 090話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E 5点 082話 Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E 5点 108話 魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E 4点 111話 おはよう!!朝ご飯 ◆yX/9K6uV4E 3点 070話 Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2 3点 078話 みくは自分を曲げないよ! ◆44Kea75srM 3点 115話 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo 2点 075話 希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w 2点 095話 グランギニョルの踊り子たち ◆BL5cVXUqNc 2点 097話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E 1点 071話 いねむりブランシュネージュ! ◆44Kea75srM 1点 079話 安全世界ナイトメア ◆kiwseicho2 1点 083話 S(cream)ING! ◆U93zqK5Y1U 1点 112話 彼女たちの幕開け ◆j1Wv59wPk2
667 :名無しさん :2013/04/18(木) 02:39:06 ID:PlEQMZ3s0 続けて、回想部門の結果です。 【回想部門】 【1位】 37点 099話 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w 1位には総合部門でも5位を獲得した「バベルの夢」です! ひとりぽつんと塔の上で動くことのできなくなってしまった渋谷凛。彼女が周りにいる友人を今一度想い返す。その様が綺麗な文章で描かれました。 舞台と人々が交わす言葉を奪われた逸話、彼女の状況をうまくリンクさせたことも見事の一言に尽きます。 【2位】 27点 097話 スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E 2位には、ユッキこと姫川友紀に焦点を当てた「スーパードライ・ハイ」! 彼女がアイドルになるまでを通して、子供と大人の境目って何?を描き、そこからまた少しずつ彼女が大人というものを掴んでいくところが魅力的です。 ただ、彼女が掴んだ大人というものは、少し以上に不穏を感じてしまうものですが。……どうなるかな? 【3位】 21点 115話 彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン ◆John.ZZqWo 3位には先の話で死亡した水本ゆかりの死に際の回想と、彼女を殺してしまったことでブレてしまう二人を描いたこの作品が入りました。 阿修羅姫として死んだ彼女は一体どんな約束を守っていたのか。明かされて、納得したからこそのこの評価だと思います。 また登場する3人が煩わしい太陽の下で、それぞれに自らの失敗を自覚する点も評価された点でしょうか。 【4位】 20点 104話 彼女たちを悪夢に誘うエイティーン・ヴィジョンズ ◆John.ZZqWo ちひろさんの鬼! 悪魔! 4位には、初の死者回想のためだけの話であるこの作品が入りました。 死んだ人物の、更にはバトルロワイアル開始前のエピソードを書くというのはパロロワでは珍しいことなのですが、 こういった過去や設定を膨らませる余地と機会が与えられるのがこのモバマスロワイアルの懐の深いところですよね。 【5位】 20点 107話 Another Cinderella ◆p8ZbvrLvv2 5位には絶望したシンデレラと対になる存在である高森藍子の彼女らしさを過去回想を通じて描いたこの作品が入りました。 タイトルも含めて彼女たちの対比がより強くなったこと、なにより彼女の彼女らしさを支える部分が説得力をもって描かれた点が大きいでしょう。 ◆p8ZbvrLvv2氏は新しくこのロワの仲間となった書き手さんですが、さっそくの入賞おめでとうございます! 以下、回想部門の獲得点数はこのようになりました。 17点 073話 wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E 16点 090話 水彩世界 ◆yX/9K6uV4E 11点 069話 それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM 9点 106話 こいかぜ ◆yX/9K6uV4E 8点 082話 Two sides of the same coin ◆yX/9K6uV4E 7点 116話 sweet&sweet holiday ◆yX/9K6uV4E 5点 108話 魔法をかけて! ◆yX/9K6uV4E 4点 103話 揺らぐ覚悟、果ては何処に ◆p8ZbvrLvv2 4点 105話 哀(愛)世界・ふしぎ発見 ◆RVPB6Jwg7w 1点 110話 てぃーえぬけーとのそうぐう ◆ncfd/lUROU 【作者別得票数】 133点(44+89) Ave.(2.96) ◆yX/9K6uV4E 80点(39+41) Ave.(3.80) ◆John.ZZqWo 64点(27+37) Ave.(3.56) ◆n7eWlyBA4w 34点(34+0) Ave.(3.09) ◆j1Wv59wPk2 31点(27+4) Ave.(2.58) ◆RVPB6Jwg7w 24点(0+24) Ave.(3.00) ◆p8ZbvrLvv2 23点(23+0) Ave.(4.60) ◆ltfNIi9/wg 15点(4+11) Ave.(1.50) ◆44Kea75srM 7点(7+0) Ave.(2.33) ◆GOn9rNo1ts 2点(2+0) Ave.(1.00) ◆BL5cVXUqNc 1点(1+0) Ave.(1.00) ◆kiwseicho2 1点(1+0) Ave.(1.00) ◆U93zqK5Y1U 1点(0+1) Ave.(1.00) ◆ncfd/lUROU 以上、結果発表でした。
668 :名無しさん :2013/04/18(木) 03:36:38 ID:tAvfsQ8w0 投票及び集計ありがとうございました&お疲れ様でした!
669 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:04:57 ID:2siIETiA0 投票及び集計ありがとうございました&お疲れ様でした!
670 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:06:15 ID:2siIETiA0 ミスです…… 投票及び集計ありがとうございました&お疲れ様でした。 また、皆様投票ありがとうございます。励みになります! 此方も灯台投下します
671 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:07:18 ID:2siIETiA0 ――――ちっぽけで、でも、とっても優しくて。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
672 :ちっぽけでさ、でも、とっても、大きいんだよ ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:09:23 ID:2siIETiA0 「う〜そんな強く引っ張らないでよう」 「うっさい、急がないと駄目なの! 解かる!?」 「あう〜れいなちゃんいじわるです〜」 日が昇り、すっかり明るくなった林道をひたすら、麗奈と小春を急いで歩いていた。 麗奈が小春を叩き起こしてから、地図を確認してある事に気付いたからだ。 気付いた時、麗奈はさーっと血の気が引いたのを忘れる事ができない。 「下手したら、閉じ込められるかもしれないのよ」 「……?」 「はぁ……」 小春は全く気付かない様子で、首を傾げている。 その様子に麗奈は呆れながらも、わざわざ説明するのも面倒なので、そのままにした。 10時に禁止エリアに指定されるのが、C−7だ。 それはいい。けど、次の放送の後に、B−7が指定されたら、自分達はどうなる。 灯台に閉じこめられてしまう。 そして、灯台が禁止エリアに指定されたら、 (――ボンッだ。そんなのアホじゃないの) 首輪が爆破されて、呆気なく死ぬ。 そんなのは絶対駄目だ。 直ぐに指定されるとは思わないが、念には念を置かねば。 だから、未だ眠たそうな小春を引っ張りながら、麗奈は急いで出発したのだ。 小春を置いていくとは、意識の外だった。 「一先ず、スーパーか……ダイナーか」 新たな拠点作りではないが、一息つける場所に行きたい。 灯台から、慌てて出てるせいで、少し息が切れている。 麗奈自身はそうでもないが、小春の方が割と深刻そうだった。 ともすれば、また休む場所が必要かもしれない。 「施設は目立つし……街中でもいいかも……」 「あーーーー!?!?」 「っ!? 何よ!」 「無い……どうしよう、忘れてきました……」 突然、大声を上げた小春に麗奈は振り返ると、泣きそうになってる彼女がいて。 一体どうしたと眉を顰めて、小春の言葉を待って。 「プロデューサーから貰ったリボン……灯台に忘れてきちゃいました」 「……って、それだけの事で騒がないでよっ! バッカじゃないの!」 たいした事でもない理由に、麗奈は声を荒げて、そして呆れる。 そんな事で、騒いで泣きそうになっているなんて。 大方、寝るときに外して慌てて出てきたから、忘れたんだろう。 命かかってる場所にいるのに、小春はどうしてこうも緊張感が無いんだと、麗奈は苛立って。 「取りに行ってる時間はないわよ!」 「で、でも〜あれは……プロデューサーが小春に初めて買ってくれたリボンで……あぅ、うぅぅぅ」 小春は、そう言って、ぼろぼろと大粒の涙を流し始める。 泣いたって、どうにもならないのに。 泣きたいのは、こっちなのに。 「ああ、もう!」 麗奈はぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き毟って。 はーっと大きな溜め息をついて。 「いいわよ! 解かったわよ! 今から取りに言ってくるから此処を絶対に動くな!」 「本当……ですか?」 「慈悲深いレイナサマに感謝する事ね!…………ったく」 麗奈は小春のリボンを取りにいくにした。 泣かれたら堪らない。 今から走れば、直ぐ取りにいけるだろう。 幸い灯台から其処まで離れてる訳じゃない。 待たせることも、無い筈だ。 だから、取りにいく。 此処で駄々っ子され続けてたら、時間を食うだけだ。 そう、麗奈は理由つけて、 「絶対まってなさいよ!」 急いで駆け出していったのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
673 :ちっぽけでさ、でも、とっても、大きいんだよ ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:10:20 ID:2siIETiA0 「……ゼェ……ゼェ……ゲホッ」 灯台に全速力で、駆け込んで。 水玉模様のリボンを見つけて、引っ掴んで。 そして、灯台を出て、真っ青な青空を見た瞬間。 安心して、やっと大きな息を吐いた。 ついでに咳き込んだ。 「なんで、このレイナサマが……ゲホッ……やんなきゃ……」 なんで、こんなことしてるんだ。 こんなことしなくてもいいのに。 無視すればいいのに。 そうだ、このまま、見捨てればいいのに。 「ゲホッ……ゴホッ」 なんで、それが出来ないんだ。 甘いのか。甘すぎるのか。 小春が、自分が。 「……ふんっ」 甘くない、自分は甘くない。 小春が甘いだけだ。 そのせいで、こんな目にあってるのだ。 そうだ、そうに決まってる。 今もぼんやりと待って……………… ――――本当に? 今、小春は、独りで、居る。 たった独りで。 直ぐ帰るといったけど。 確実に、独りで。 「…………はっ……はっ……ゼェ……はっ!」 気付いていたら、駆け出していた。 甘いのは何より自分だった。 緊張感をなくしすぎていた。 取りに行くなら、小春と一緒じゃないと駄目だった。 「……はっ……ゼェ……はっ」 息を切らして、全速力で。 よく解からないくらいに、全速力で。 何でこうなったのかよく解からない。 何もかもから逃げてるのかもしれない。 「はっ…………はっ!」 でも、少なくとも。 今度は、ちゃんと向き合おう。 小春と、自分自身に。 小春の甘さ、小春のアイドルとして矜持。 自分の甘さ、自分のレイナサマとしての矜持。 どれも、見て、感じて、想って。 それでも、結論を出さなかった、出せなかった。 きっと逃げていたのかもしれない。 互いに甘さがあって、譲れないものがあって。 でも、それを認めるのが怖くて。 だから、目を背けていた。 その結果が、此処までの迷走っぷりなんだろう。
674 :ちっぽけでさ、でも、とっても、大きいんだよ ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:10:46 ID:2siIETiA0 今度は、ちゃんと、ちゃんと、見よう。 だから、 「小春……ッ!」 無事で、居て。 思いっきり、リボンを握り締めながら。 アタシは駆け出している。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「やっぱり、れいなちゃんは優しいです〜」 やっぱり、れいなちゃんは優しい。 諦めようとした。 こんな状況でリボンに拘るなんて、駄目だ。 解かってた、解かっていた。 でも、何だか哀しくて、涙が出ていた。 涙が止まらなかった。 だから、私は悪い子だと思いました。 そしたら、麗奈ちゃんが駆け出していた。 とても、優しい人でした。 「でも〜」 でも、その優しさに、甘えちゃいけないんだと思います。 れいなちゃんは、優しくて、とても甘い。 だから、私はれいなちゃんに甘えてる。 けれど、それだけじゃ駄目だ。 こんなにも、れいなちゃんは頑張ってる。 だったら、私も頑張らないといけないと駄目なんです。 甘さに甘えるだけでなく。 優しさに甘えるだけじゃなくて。 「れいなちゃん、わたしも頑張ります〜」 れいなちゃんに、応えないと。 向き合って、 「ちゃんと、おはなししましょう〜」 そして、れいなちゃんが戻ってきて。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
675 :ちっぽけでさ、でも、とっても、おっきいんだよ ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:12:34 ID:2siIETiA0 「ほら、リボンッ!」 「れいなちゃん、ありがとうです〜」 「……よかった」 だから、小春はにっこり笑って。 麗奈は、泣きそうになるのをこらえて、そっぽを向いて。 小春のてのひらに、大きなリボンをのせた。 そのてのひらは、ちっぽけで。 でも、とっても おっきいものだった。 【B-7/一日目 昼】 【小関麗奈】 【装備:コルトパイソン(6/6)、コルトパイソン(6/6)、ガンベルト】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:疲労(大)】 【思考・行動】 基本方針:生き残る。プロデューサーにも死んでほしくない。 1:……疲れた。 2:小春と向き合ってみる。 【古賀小春】 【装備:ヒョウくん、ヘッドライト付き作業用ヘルメット】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:れいなちゃんと一緒にいく。 0:ありがとうです〜
676 :ちっぽけでさ、でも、とっても、おっきいんだよ ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 21:12:57 ID:2siIETiA0 投下終了しました。 この後、少しだけ間を置いて、放送投下したいと思います
677 :名無しさん :2013/04/18(木) 21:24:05 ID:yLoie42I0 投下乙です! タイトルからにじみ出る麗奈様と小春ちゃんのお互い大事に思ってるオーラにニヤニヤ 遂に灯台から出てこれから大変な目にあいそうだけど、大丈夫かなあ
678 :名無しさん :2013/04/18(木) 22:10:37 ID:PlEQMZ3s0 投下乙です。 うーん、この二人のやりとりはなごむw 一瞬、別れちゃうのかなと思ったけどそんなこともなくてひと安心。 けど、進む先には危険人物がいるかもなんだよなぁ……。ようやくロワに本格参戦って感じだけど、果たしてきらりとは再会できるのか。 放送の投下も待っています。
679 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:06:54 ID:2siIETiA0 感想ありがとうございます。それでは放送とうかしますね
680 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:07:18 ID:2siIETiA0 ――――可哀想にねぇ……辛かったでしょう。 『あの時』から、ずっとかけられ続けた言葉。 私から、大事な人と大事な場所と大事な思い出を奪ったあの時から、かけられた言葉でした。 忘れもしないあの光景が、ずっと脳裏を過ぎってるんです。 潰され、飲まれて、何もかも無くなって。 私は独り、知らないところに移って。 励まし、慰みの言葉を沢山聞いて。 それこそ、腐るほど聞いて。 でも全然心は動くなくて。 私はただただ泣いて。 私は独りで。 えーん、えーん。 そうやって、独りで部屋の隅で泣き続けて。 涙もかれて、それでも泣き続けて。 救いはあるわけが無いと思って。 そうやって、閉じ篭って。 独りで居続けて。 そんな時。 ―――――希望失って悲しみにくれるなか、空から注ぐ光 暖かく差しのべる 何よりも、輝く絶対的な『希望』を見つけたんです。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
681 :第二回放送 ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:08:04 ID:2siIETiA0 「っ……!」 ダンと思いっきり、机を叩く音が、モニタールームに響く。 オペレーターはビクッとし、その音の方向を向いた。 音を出したのは、千川ちひろだった。 感情をむき出して、怒りの表情を出すのは珍しい。 それに何処か青ざめているようにも見える。 「ど、どうしました?」 「……別に。此処で死んでしまうとは思っていもいなかったので」 「あ、ああ……彼女ですか……水本ゆかりちゃん」 「……ええ」 そう、たった今、紅蓮の炎に焼かれたヒロイン。 水本ゆかりの事だった。 かなり有力なヒロインで装備も充実し、尚且つ戦果もあった。 それが不意に殺されるとは、オペレーターとしても意外だったが。 「……それでも、危惧するほどでは……他にもヒロインは沢山」 「……そういう問題じゃないんですよ。何の為に、彼女にあえて『強力な装備』を持たせたか、解かります?」 「い、いえ」 「でしょうね……ったく、あの子の装備を拾ったせいで……ほんと」 「は、はあ……」 そう、他にも強力な殺し合いに乗ってるヒロインは多い。 特に南部の街は敵であるかな子もいるのだ。 なのに、彼女は別の問題があるという。 オペレーターには理解できないが、由々しき問題なのだろう。 「………………ちょっと休憩します。貴方達は監視を続けて」 「は、はい」 そう言って、千川ちひろは部屋をあとにする。 よっぽど気に喰わなかったのだろうか。 いや、違う。何かに逃げるように、去っていた。 そういえば、第一回放送の前もあった筈だとオペレーターは思う。 あれは確かドラッグストアが燃えて…… 「――火が何かを生み出すって? 冗談じゃない。火は何もかも奪い取り、侵略するしかない、忌々しきものなんです」 そう、彼女は、千川ちひろが呟いて、去っていたのだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
682 :第二回放送 ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:09:13 ID:2siIETiA0 ちょっと驚きです。。 予想外だとしか言うしかないですね。 此処で『駒』が一つ欠けるとは思わなかった。 重要な駒だと言うのに。 全く役に立たない女のせいで、大事な駒が一つとられた。 私は静かに、盤面を眺める。 ――――『絶望』 これは、大丈夫だ。 十時愛梨にしろ、あの島は絶望の在り処なのだから。 幾らでも補充出来るし、十時愛梨が充分な駒として動いてくれている。 ――――『敵』 これも大丈夫だろう。 揺れているとはいえ、淡々と役割をこなしている。 それでいい、それこそがポーンである敵の役目だ。 ――――『愛』 ぼろぼろと散っていた時は流石にビックリしたが、まあ大丈夫だろう。 五十嵐響子の狂気が思う存分役に立っている。 それに和久井留美がいるし問題ない。 彼女は『夢』でもあるのだから。 そして、今取り除かれた、大事な大事な駒。 ――――『希望』 そう、『希望』に相対するのは、またもう一つの『希望』が必要なのだ。 哀しみと絶望と愛に囚われない最高の希望を持つヒロインが。 私は水本ゆかりが、それを兼ねそろえていると思った。 約束を大切にし、そして自分を磨き、邁進していく彼女が、相応しい。 そう思って、装備を強くしたのに、こんなにも早く死んでしまうとは。 これが誰が死ぬか解からない殺し合いなのだ。 ゆかりを殺した輝子と幸子。 彼女達も希望になり得る存在になるのか。 けど、その後の反応を見る限り、まだ、足りない。 注目は多少するが、まだだ。 これだからこそ、殺し合わせる意味がある。 結末が想定通りがないのも、想定済みだ。 だから、解かっている、解かっています。 それでも、此処で、死んでしまうのは、正直に言って―― ちょっと、困る。 希望と希望が殺しあわなければならない。 絶対的な、希望になるには、どうしても、それが必要だ。 「そのためには……」 大丈夫、種はもう既にまいてある。 タイミングを見て、自ら、行動すればいいんです。 幸いその権利は与えられている。 これはチェスではなく将棋なんです。 駒が、無いと言うなら。
683 :第二回放送 ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:09:45 ID:2siIETiA0 ――――アイドルから、奪い取ればいい。 「……さて、そろそろ放送ですね」 私は自室を出ようとして。 脳裏に浮かぶのは 紅蓮の炎に飲まれた人。 伸ばした手にも、炎が纏っていて。 そして、その人は―――― 「つっ!?」 私は、直ぐに戻り、慌てて自分の机から薬箱を取り出す。 ただの安定剤で、飲めば、落ち着く。 フラッシュバックしたものから耐えるにはこれが一番いい。 こう何度も、見る羽目になるとは思わなかった。 ストロベリーボムは、私が意図した武器じゃないんです。 強力な武器をよろしくとは言ったが、まさかあんなものになるとは。 本当に忌々しいです。 「……大丈夫、大丈夫です」 薬を飲んで、息を大きく吸って。 そして再び歩き出す。 何もかも奪った炎。 何もかも奪った水。 何もかも奪った倒壊。 それを、忘れない。 そして、それを色んな人が乗り越える為に、必要なのは―――― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
684 :第二回放送 ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:10:09 ID:2siIETiA0 こんにちは、お昼の時間ですね! 皆さんもお昼ご飯でしょうか? そんな感じで、二回目の放送を始めたいと思いますー! 皆、頑張っていますね! 自分が信じた心のままで、生きていますね。 素晴らしいと思います! それが例え人殺しでも、私は歓迎します! だって、貴方達はアイドルなんだから。 だって、貴方達はヒロインなんだから。 自分が信じる“希望”を持って、強く生きなさい。 たとえそれが絶望の中での希望だとしても。 たとえそれが希望の中での絶望だとしても。 貴方達は、そのまま輝き続けなさい。 ……では死者の発表に入りますね! 今回死んでしまった皆さんは…… 三船美優。 城ヶ崎美嘉。 塩見周子。 神崎蘭子。 水本ゆかり。 及川雫。 市原仁奈。 榊原里美。 の七名です! ちょっとペースは落ちたものの、いい感じだと思います! この調子で頑張ってくださいね! ヒロインの皆さん、流石です。 プロデューサーの為に、もっともっと頑張ってくださいね! そして、次は禁止エリアです。 14時にF−1 16時にD−2 ちゃんと覚えてくださいね。 うっかり死んでしまったお馬鹿な人が今回居るので…… そうならないよう、頑張ってください! さて、これで放送終わりです。 アイドルの皆さん、ヒロインの皆さん。 精一杯頑張ってくださいね。 貴方達の希望はこんなものではない筈。 プロデューサーの為に。 貴方達の為に。 ファンの為に。 ひいては、希望の為に。 精一杯、輝きなさい。 それでは、六時間後、また生きていたら、あいましょう。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
685 :第二回放送 ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:11:10 ID:2siIETiA0 さて、と。 放送を終えて、私はモニターを見る。 先程考えていた事の為に、種に水をまく準備をしましょう。 いえ……もう、花は開いてるのかしら? だって、あの子達は希望の花束なんですから。 けど、モニターに移るのは、絶望の花、希望の花。 まずは、絶望の花を見る。 彼女は、キキョウ? 彼女は、コスモス? 両方とも、彼女に与えられた花だ。 それはどれも、愛を謳った花。 彼女に相応しい花。 今はその相応しさゆえに絶望に染まっているみたいだけど…… ねえ ――――貴方の絶望は、希望たりえるものになるんですよ? そして、本命の希望の花。 彼女は、向日葵? 彼女は、櫻? 彼女は、その二つに例えられる。 向日葵は、正義の象徴で、光輝の花とも例えられるますね。 櫻は、高潔な花とも言われます。 そんな、正義と純粋な気持ちを持つ花に例えられる貴方は ねえ、貴方なら。 『希望』として、動いてくれるでしょうね。 貴方は大人だから。 大人の責任を持って。 私の側で。 凛とした、目が移っている。 ほら、こんな希望に溢れている。 ―――燦燦と輝く、希望の花。 貴方がそちら側に移る事を――― 【残り37人】
686 :第二回放送 ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:11:25 ID:2siIETiA0 投下終了しました。
687 :第二回放送 ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:16:18 ID:2siIETiA0 解禁は今日24時か明日24時どちらが宜しいでしょうか?
688 : ◆John.ZZqWo :2013/04/18(木) 23:29:05 ID:PlEQMZ3s0 放送投下乙です。 ちひろさんも色々と思惑があるのだな……。ロワを開催した目的もおぼろげながらに見えてきた? しかし、なにかすごく深刻な理由があるように見えて、かわいそう……というのとは違うけど、うーん。色々と気になります。 予約解禁は、個人的には今日24時でもかまいませんが、他に都合の悪い人がいたり、今反応できる人が多くなければ明日でもいいと思います。
689 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/18(木) 23:30:05 ID:zusaAL6.0 投下乙です。 ふむ、意味深な内容……成程、ちひろさんにも何かワケありなご様子ですな。 そしてアイドル達に振り分けられた『役割』……、本命の希望の花とは、あの人の事か、想像が膨らみますねぇ。 >ちっぽけでさ、でも、とっても、おっきいんだよ やっぱりこの二人癒し系……! しかし、ちゃんと現実は理解している。二人共必死で、そして切っても切れない良い関係なのがひしひしと伝わりますわ。 いろいろあった二人だけど、でもいつまでもこんな雰囲気は続かない。北東の町は波乱だけども、さて……? 予約に関しましては、私は今日の24時でも準備万端です。 ただ、いきなりすぎるかなぁという気持ちもありますので、それは他の書き手の人の意見に任せます
690 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/18(木) 23:33:00 ID:spCoeb1c0 投下乙です! とうとう灯台組もこの状況に向き合い始めて放送へと続いていく。 しかしレイナサマも小春ちゃんもお互いを思いやっててホッコリします。 この小さな一歩がどこへと続いていくのか凄く楽しみですね。 そして第二回放送。 少しずつこのロワイアルの背景も見えてきたような感じですね…… アイドル達の役割も少しずつ明かされてきました。 さてさてどうなっていくのか。 予約に関しては個人的な事情もありなんとも言えませんがワンクッション置いても問題はないと思います。
691 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/18(木) 23:47:37 ID:2siIETiA0 それでは、今日24時からでよろしくお願いしますー
692 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/18(木) 23:47:59 ID:HlUucBsI0 投下乙ですー 2人いいなぁ。 放送も……思惑が見えてきた感じ? 取り急ぎ予約解禁について。今夜でも構いませんよー。明日なら明日でも結構ですけども
693 : ◆ncfd/lUROU :2013/04/18(木) 23:48:50 ID:cjEZ3uT60 投下乙ですー。 ・ちっぽけでさ、でも、とっても、おっきいんだよ のほほんとしていて、けど物事はしっかり考えていて。 その上でお互いがお互いのことを想っている関係がとっても素敵だなって。 ただ、それでも灯台にずっといた二人が他よりも悪意にさらされていないのはたしかで、ようやく動き始めた二人のこれからはどうなるやら。 ・第二回放送 ちひろさんのバックボーン、参加者の役割。 いろいろな事柄が見えてきたけど、どれも一筋縄ではいかない感じ。 予約に関しては、本日24時でもいいかと思います。 ただ、早すぎるという意見ももっともなので、一人でも明日がいいという方がいたらそうしたほうがいいかと。
694 : ◆John.ZZqWo :2013/04/18(木) 23:59:56 ID:PlEQMZ3s0 自己リレーとなりますが、 相葉夕美 を予約します。
695 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/19(金) 00:00:03 ID:Pp0.W0SI0 双葉杏、藤原肇、岡崎泰葉、喜多日菜子を予約します。
696 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/19(金) 00:00:12 ID:eQ4efVXk0 五十嵐響子、緒方智絵里予約します
697 : ◆John.ZZqWo :2013/04/19(金) 00:00:43 ID:nOoxcwEU0 あ、ちょっと早かった。改めて、 自己リレーとなりますが、 相葉夕美 を予約します。
698 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/19(金) 00:00:49 ID:QrjrgOUY0 栗原ネネ、高森藍子を予約します
699 :名無しさん :2013/04/19(金) 18:22:17 ID:VX9u633AO 絶対的希望の為のふるい、まさにアイドルロワイアル。 イチゴは発注ミス。 一般人に使える強力武器頼めば、爆弾は想定内でしょ。 銃剣類は能力依存なんだし。
700 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/20(土) 00:06:36 ID:3hAQmRw.0 向井拓海、小早川紗枝、松永涼、白坂小梅、予約しますねー
701 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/20(土) 14:05:05 ID:1HrOja3k0 渋谷凛予約します。
702 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:19:47 ID:e2gzUtnY0 まずは一通り、溜まってしまった感想から。 放送を含む最新2話は簡単に触れましたし、人気投票とかぶってしまうものもあるのですが。 >Another Cinderella 藍子の掘り下げがいいなぁ。以前に少しだけ触れられていた、高森藍子の下積み時代。 そこから改めて示される覚悟。いい回想話です。 >魔法をかけて! 投票の時にも触れましたが、着眼点がすごい。 >孤独のすゝめ 投票では肇ちゃんへのコメントだけで終わってしまいましたが、杏ちゃんも危ういよねェこれ。 アブない化学反応の予感に震えます。 >てぃーえぬけーとのそうぐう ちょwwww ブリッツェンwwww 思わず草生える予想外のゲスト登場 ひとまず拠点を得た2人、これから何を目指すことになるんだろう。 >おはよう!!朝ご飯 その発想はなかった、と何回言えばいいんだろうこのロワはww はい、食事って大事ですよね。ええ。 >彼女たちの幕開け 冒頭の1話がまさに端的に日菜子の状況を表してるのがすごい。 事実上、「一周遅れてのスタート」にも等しい素の彼女の、「1話目」に相応しいお話。 >自転車 最後のドリア。それ自体はつまらない冷凍食品だけど、これが最後。その気づきがどうしようもなく悲しい。 自分ではなく誰かのために殺し合いに乗るって、そういうことなんだよねと改めて突き付けられました。 >ああ、よかった 自分が投票で1位を投じたお話。感極まってしまいかえってコメントに困ってしまう程の作品です。 >彼女たちの心を乾かすXIX(太陽)――ナインティーン 投票では総合部門で一票を投じましたが、回想話としても見事な一話。ゆかりさんも切ないなぁ >sweet&sweet holiday さとみ……これは、確かに可哀想。 こんな状況から連れ去られてきたのなら、そりゃああもなっちゃうよなぁと。 >ちっぽけでさ、でも、とっても、おっきいんだよ この2人、ほんと良いコンビです。思慮の足りなさにヒヤヒヤして、互いを思う気持ちにほのぼのして。 それだけに、今まで試練から遠ざけられていた2人の今後が気になって仕方がない。ほんとどうなるんだろう >第二回放送 だんだん見えてきたちひろさんの背景、ちひろさんの願い。計算通りの部分もあり、計算違いもあり。 次あたりで積極的な介入があったりするんだろうか? とワクワクしますね〜
703 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:20:15 ID:e2gzUtnY0 続いて、予約していた2人のお話、投下します。
704 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:20:58 ID:e2gzUtnY0 家事は――楽しい。 少なくとも、彼女はそう思う。 掃除は、分かりやすい達成感がある。 頑張れば頑張っただけ綺麗になる空間。片付いた後のすがすがしい雰囲気。 汚れたり臭かったり疲れたりするけれど、それに見合うものが必ず待っている。 洗濯は、ココロまで洗い清めてくれる。 ぽかぽかと気持ちいいお日様の下、広げる洗濯物。肺を満たす柔軟剤の香り。 アイロンが走るたびに皺が消えていくのも、素直に楽しい。 きちんと畳んで仕舞い込めば、その服を着て出かける時を思って早くもワクワクしてしまう。 そして――料理。 ある意味、家事の中でも特に考える要素の多い仕事だ。 材料や調理道具の確認。その選択肢の中から作れるレシピの脳内検索。 必要な作業時間を逆算しながら、何をどの順番でやるべきか考える。 調理の合間には、汚れた器具を随時洗って片づけていかねばならない。片づけ上手は料理上手だ。 高度な先読み能力と、段取り能力と、細やかな手先・舌先を駆使した複合作業。 そうやって作り上げた先には、幸せな食事の時間が待っている。 たとえ、アイドルになっても。 いや、アイドルとしてデビューし、忙しくなった今こそ、改めて分かる。 家事は、大事だ。 少なくとも、彼女にとって。 特に仕事場とは全く違うアタマの使い方を要求される厨房という場、料理のための時間は―― 五十嵐響子というアイドルにとって、貴重な「癒し」の場であり、「回復」の時間だった。 * * * ビーチを見渡す絶好のロケーションに建つ、一軒のレストランの中。 その厨房に、フライパンを振るう少女の姿があった。 「さっすが、プロの厨房は違うなァ……♪ 家庭用とは、火力が段違い♪」 サイドに束ねた髪を揺らしながら、五十嵐響子はフフッと笑う。 熱せられたフライパンの上に踊るのは、刻んだベーコンに玉ねぎ、そして炊飯器に保温されていたご飯。 店のメニューにはカレーライスなどもあったから、そのために炊いてあったものだろうか? 何にせよ少しばかり時間が経ちすぎて、そのまま食べても美味しくなさそうな古めのご飯。 とはいえ、食べられない程には痛んでない。 そこで響子は冷蔵庫なども軽く漁って材料を揃え、自分の得意料理に仕立てることにしたのだった。 「うん、こんなもんかな。んじゃ、ケチャップ投入〜♪」 塩コショウだけで炒めていたフライパンの中に、遠慮会釈なく真っ赤な調味料を投入する。 焦げ付かないよう、フライパンは絶えず小刻みに動し続ける。 ちょっと首を捻って、火力調整。 どうも『プロ仕様』のコンロは普段の感覚よりもやや強めだったらしい。 「ま、多少のオコゲはむしろ美味しいくらいでしょ。気にしない、気にしない」 ニコニコ微笑みながら、1人分にはあまりに多すぎる量のケチャップライスをいったん大皿に移す。 そうして空になったフライパンをザッと洗って布巾で拭いて、再びコンロの上へ。 新たに引いた油が十分に温まるまでの間、大きなボウルに卵を立て続けに割り入れ、菜箸で素早く溶く。 「〜〜〜♪」 ボウルの中の卵液の、およそ半分ほどを一気にフライパンに投入。 盛大な音と共に、卵と油のいい匂いが立ち上る。みるみるうちに焼きあがる薄焼き卵。 手慣れた様子で調理を進める彼女は、いつしか鼻歌さえも漏らしていた。
705 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:21:52 ID:e2gzUtnY0 * * * 「あ……美味しそうな匂い……!」 その、レストランの客席の方。 入口に近いところの席に座る緒方智絵里は、厨房の方から漂ってきた香りに思わず表情を綻ばせた。 耳を澄ませば、油が跳ねる音に混じって鼻歌までもが聞こえて来る。 笑顔を浮かべそうになった智絵里は、しかし、すぐに思い出したかのように表情を曇らせる。 悲しそうに眉を寄せて、窓の外、店の前の通りに視線を向ける。 こんなところで智絵里がただ待っているのは、別に響子の好意によるものではない。 五十嵐響子は、緒方智絵里に対して今もなお厳しい姿勢を崩してはいない。 いや――だがしかし、この僅かな休息のひとときそのものは、好意と呼んでもいいのかもしれない。 佐々木千枝の遺体を焼いて病院を出た2人は、その後、その足をビーチの方へと向けていた。 ナターリアを見つけて、殺す。 そのためには、「ナターリアが居そうな場所」を考えなければならない。 あの病院から近いランドマークで、あの異国から来た南国娘イメージに重なる場所となると―― まあ、深く考えるまでもなく、海水浴場はまず候補に上がることになる。 少なくとも博物館やカジノなどよりは、よっぽど「それらしい」。 その程度の期待でやってきた2人は、だから、無人の浜辺を目にしても大して落胆しなかった。 むしろ智絵里は内心、安堵の溜息をついたくらいだった。 そして少しだけ、ほんの少しだけ、この「空振り」に安心した智絵里は……無意識のうちに、緊張も緩んだのか。 ぐぅぅ〜〜〜っ。 大きく、お腹の鳴る音を鳴らしてしまい。 振り返って憤怒の形相を見せた響子も、釣られたのか、即座に同様に腹の虫の音を立ててしまっていた。 考えてみれば、2人ともこの一連の『イベント』が始まって以来、ろくに食事も休憩も取っていない。 アイドルという仕事をしていれば、長時間ぶっつづけでロケなどを頑張ることも珍しくはないが…… 元気なキャラで売っている響子は元より、大人しい印象のある智絵里でさえ、それは例外ではなかったのだが。 流石にこの辺で一息入れないと、この先、持たない。 響子は冷静に冷酷に、そう判断してみせた。 いったん決めてしまえば、後の行動は早かった。 ビーチの近くあったこのレストランを見つけると、内部に侵入し。 2人分の食事を用意するのは響子。 その間、見張り役として店外を警戒するのは智絵里。 そんな役割分担を一方的に決めて、響子は厨房に引っ込んでしまった。 もちろん、智絵里にも異論はない。 響子の料理の腕は智絵里だって知っている。自分などが手伝おうとしても邪魔にしかならないだろう。 それに、奥まった厨房にいる間は、外部への警戒が難しくなるのも確かなことで。 だから今は「見張り」の仕事に忠実に、レストラン周囲の景色をぼんやりと眺めているしか、ない。 いちおうテーブルの上に出してあるストロベリーボムを、ギュッと握りしめる。
706 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:22:32 ID:e2gzUtnY0 出歩く者が誰もいない以外は、呑気な風にさえ見えてしまう、観光向けの街並み。 シチュエーションのせいか、やや強めに感じる日差し。 漂ってくる匂い、リズム良く刻まれる作業音、そして少し調子っ外れの鼻歌。 不意に、智絵里の胸の内に、激しい感情の渦が巻き起こった。 「う……あ、あれっ?」 一瞬、その感情を、恐怖だと思った。 次に、その感情を、悲しみだと思った。 少しだけ、その感情を怒りなのかもしれない、と思ってしまった。 最後に、それが言葉にできない、怒りも恐怖も悲しみも全て混じり合った、ぐちゃぐちゃの混乱だと気が付いた。 身体が震える。 涙が溢れそうになる。 思わず叫びだしたくなる。 聞いているだけなら楽しそうにも思える響子の鼻歌。それに気づいただけで、なんで、こんなに。 「ああ……そっか。 響子ちゃんは――響子ちゃんの、ままなんだ」 独り言として声に出して初めて、智絵里は気づく。 ようやく、自らの発見、その悲しすぎる真実に到達してしまう。 殺しかけた。 殺されかけた。 吊し上げられた。 千枝の遺体の破壊を強いられた。 今まで見たこともないような、響子の怖い顔。聞いたこともないような、響子の怖い声。 まるで別人を相手にしているような恐怖が、これまではあった。 でも。 五十嵐響子は、やっぱり五十嵐響子だった。 智絵里の良く知る、同じプロデューサーの下にいる、仕事仲間であり親友の、響子のままだった。
707 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:23:21 ID:e2gzUtnY0 むしろ響子が別人になっていたのなら、怖がるだけで済んだかもしれない。 むしろ響子が狂ってしまっていたなら、恐れるだけで済んだかもしれない。 むしろ響子が壊れてしまったというなら、憐れむ余地だってあっただろう。 けれど。 智絵里には分かってしまったのだ。 五十嵐響子は、まったくの「正気」だということに。「普段通り」だということに。 普段ならありえないシチュエーションに置かれて、 普段なら見せずに済んだ側面を見せていただけで、 あれは、 あれは紛れもない、五十嵐響子。 キュートな笑顔が魅力的な、家事万能の家庭派アイドル・五十嵐響子のまま、だった。 掃除する時のように、要るもの・要らないものの選別を手早く済ませて―― 洗濯する時のように、きれいさっぱり、頭をリセットして―― 料理をする時のように、必要な手順を考え、要領よく「やるべきこと」を詰めていく。 そこには何の違いもなかった。 家事も殺し合いも、要求される能力に大差はなかった。 全ては、智絵里もよく知る五十嵐響子の延長線上にあるものでしかなかった。 気づかなければ良かった。 分からずに居た方がマシだった。 智絵里の身体が震える。 漏れそうになる嗚咽を、口ごと自分の両手で抑え込む。 涙がこぼれそうになって、ギュッと両目を閉じる。 響子が狂ったと思えば、被害者意識に浸り続けることもできただろう。 響子が壊れたと思えば、壊れる前の彼女との思い出を大事に慈しむこともできただろう。 響子が別人になったと思えば、理不尽と思いこそすれ、こんな感傷を覚えることもなかったろう。 たぶん、あの病院で同行を申し出なければ、そういう逃げ方ができたはずだ。それで済ませたはずだ。 でも、知ってしまったことは、もう取り返しがつかない。 知らないフリを押し通せるほど、自分を騙し続けられるほど、緒方智絵里という少女は器用ではない。
708 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:24:17 ID:e2gzUtnY0 智絵里は恐怖した。親しい友人と思っていた少女の、これまで伏せられていた一面の苛烈さに。 智絵里は悲嘆した。あんなに明るく優しい(と見えていた)少女をここまでゆがめる、今の悲劇的状況に。 智絵里は激怒した。少女をそんな所にまで追い詰めた、この企画を進める者たちに。主に、千川ちひろに。 智絵里は憎悪した。この殺し合いそのものを。 そして、智絵里は混乱した。これほどまでの激情が、自分の中にあることに。その発見そのものに。 荒れ狂う感情に翻弄される中、智絵里は思う。 なら――自分も。 こんな状況になっても、変わることのできない自分も。 変われないまま、それでも頑張ってみよう。 自分も普段の延長線上のまま、やれることを、やらなくちゃ。 響子は言っていた。智絵里をすぐに殺さないのは、囮や弾除けの意味もある、と。 友人であることも理由に挙げつつ、それらの打算があることを決して否定しなかった。 いま思えば、その不器用な誠実さは、普段通りの響子らしいとも言える。 なら、いまは、それでもいい。 怖いけど、死にたくはないけど……響子の盾となり、囮となろう。 響子が頑張るのを、身体を張って支えよう。 あのときアイスピックを振り下ろせなかった自分が「覚悟」を示すには、たぶん、それしか方法がない。 それと同時に、智絵里の中に、彼女らしくもない叛意が湧き上がってくる。 この、残酷な『リアル・シンデレラ・ロワイヤル』。 本当に命じられたままに従うしかないものなのだろうか? 自覚してしまった、イベントそのものへの憎しみ。ちひろに対する怒り。今の状況への悲しみ。 みんなで頑張ればうまくいくかもしれない、程度では方針転換できない。 殺し合いたくないからみんなで考えよう!という程度では、心は動かない。 たぶん、その程度の想いで群れているアイドルたちも、きっと島のどこかにいるはずだ。 その程度の細い希望に賭けるには、智絵里にとってのプロデューサーの存在はあまりに重い。 臆病で内気で自己主張の下手な彼女だけども、そこだけは譲れないと思っている。 けれど、もしも。 勝算の高い反逆への道があるのなら。プロデューサーを救える「他の方法」があるのなら。 その時は、きっと彼女は……! キッチンから聞こえる調理の音が、調子を変える。 カチャカチャと皿らしき音が響くのは、盛り付けの作業に入ったからだろうか。 慌てて智絵里は自らの感情と思考をねじ伏せる。 にじむ涙をぬぐい、大きく深呼吸。そして無人の街に視線を向ける。 すぐに予想通り、食器の鳴る音と足音とが近づいてきた。 「……できたよ。ちゃんと見張ってた?」 「も、もちろんっ!」 「……まあいいけど。あくびでもしてたんでしょ。目、赤いよ」 溜息混じりにトレーを置いて、料理を並べ始める響子は、言葉も表情も少しだけ和らいでいる。 料理という馴染みのある仕事をして、多少なりとも普段の調子を取り戻したのだろうか? テーブルに並べられたのは、小ぶりな鉢に盛られた簡単なサラダ、野菜たっぷりのスープ、そして…… 「えっと、これって……歯車?」 「…………い、いちおう、クローバー、のつもり……四つ葉の」 「そ、そうなんだ…………」 ケチャップで何やら模様が描かれた、大きめのオムライス。 智絵里の分には、四つ葉のクローバー……と、響子が主張する謎のマークが。 響子自身の分には、詳しく尋ねるのもためらわれる、謎の動物の顔が。
709 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:25:07 ID:e2gzUtnY0 ああ。 やっぱり、響子ちゃんは響子ちゃんのままなんだ。こんなところまで。 智絵里は心の中でつぶやきながら、思わず微笑んでいた。 * * * 「……ホテル?」 「そう。あっちの窓の向こうのアレ」 ブランチがてらの作戦タイム。 普通に美味しいオムライスを食べながら、智絵里は首を傾げる。 響子がスプーンで指す方向(お行儀悪い!)を見れば、そこには確かに、海を挟んで大きな建物が見える。 確か地図によると、小さな島がいくつか並んで、このビーチを囲むような輪になってるんだっけ。 「そ、そんなところに何の用があるの……?」 「正確には、ホテルの本館じゃなくて、こっちから見て右隣。あそこに十字架が見えるでしょ?」 言われてみればなるほど、少し小高い所に礼拝堂のような可愛い建物がある。 ホテルに付随する施設のようだし、結婚式専用の教会か何かだろうか? あそこから見下ろしたら、確かに素晴らしい景色が広がっていることだろう。女の子の憧れの舞台設定だ。 「ナターリアの行きそうな場所を考えた時に、思い出にちなんだ場所ってのは有力な候補だと思うの」 「そっか。一緒にブライダルショーの仕事、したって言ってたもんね」 「彼女は殺し合いに乗らないにせよ、プロデューサーのことは想うだろうし、あの会話を思い出すかもしれない。 思い出したら、足を運ぶかもしれない。 まあ、あの教会も暗いうちなら目立たないし、ほとんどダメ元なんだけど……」 「うん……」 サラダをフォークでつつきながら、智絵里は曖昧に相槌をうつ。 響子はやはりナターリアのことしか考えていない。ナターリアをいかに最速で排除するか、ただそれだけ。 普段の様子に近い今の表情や態度と、出会った時から一貫したその熱情とのギャップに、軽く混乱してしまう。 「でも、けっこう遠いんじゃ……?」 「自転車を使えば、そうたいした距離じゃないはず。ビーチのすぐそこに、レンタサイクルもあったしね」 「……あったっけ? そんなの」 「見落とすのが難しいくらいな気がしたんだけど?」 「ご、ごめんなさい……!」 一瞬だけ険悪な表情を浮かべた響子は、萎縮する智絵里に溜息をつくと。 スープを一口飲んで喉を潤し、言葉をつづける。 「店の前の看板には、奨励のサイクリングコースも描かれてた。 橋を渡って、ホテルと屋外ステージの前を通って、飛行場のあたりに出て、ビーチに戻ってくる周回コース。 かなり走りやすい道が整備されてるみたい」 「ええっと、そのコースだと……うん、この辺にある施設は大体回れるね……」 切り捨てられたくない一心で、智絵里は乗り気になれない計画を必死で考える。 人が立ち寄りそうなのは、やはり地図に描かれたランドマークの数々。 カジノ、映画館、博物館、ホテル、ライブステージ、飛行場。そして現在地のビーチ。 地図の北西部にあるポイントを全て繋げば、確かに海岸に沿って一周できる。 「北回りと南回り、どっちがいいのかな……教会以外も気になるよね……」 「…………」 「とりあえず、動きだすには時間が中途半端かな? 眠気覚ましにコーヒーでも飲んで、トイレとかも済ませて。 次の放送が済んだら、すぐに出掛けられるようにすること。わかった?」 自分の分のオムライスを食べ終えた響子が、厳しい口調で一方的に仕切る。 智絵里は慌てて何度もうなづきながら、自分の分の残りを口に運んで、すこしばかりむせた。 * * *
710 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:25:41 ID:e2gzUtnY0 湯気を立てるコーヒーカップを前に、響子は情報端末を眺めつつ頭を抱える。 目の前の席は空席で、そちらの方にもコーヒーカップが1つ。 砂糖とミルクがたっぷり入った、お子様向けの味覚の一杯だ。 智絵里は馬鹿正直にもお手洗いに立っていて、だから沈黙の中に響子は1人、取り残されている。 「たとえ近くに居たとしても、今から走り回っても間に合わない。 うん、それは分かってる、分かってるけどッ……!」 時間が刻一刻と迫る。定期放送の時間が。 響子の顔に、焦りの色が浮かぶ。 ここは肝を据えて待つしかない。 頭ではそう分かっていても、恐怖と最悪の想像が抑えきれない。うっかりすると手が震えだしそうだ。 こんな姿、とてもではないが、智絵里には見せられたものではない。 6時間ごとの、定期放送。 人質であるプロデューサーの処分が決められ、告げられるのは、おそらくこのタイミングをおいて他はない。 逆に言えば、放送間際に必死に探し回っても得るものは少ない。 見つけた相手を追っている最中などならともかく、手がかりの1つもない現状では。 ここさえ乗り切れば、また6時間の「猶予」が得られるのだ。 ならば、ハンパな残り時間を「次の6時間」のための準備と休息に充てるのは、効率的な方法でさえあるはずだ。 そう考えた上での、この食事休憩。 「次の6時間」に勝負を賭け、今度こそナターリアを見つけて殺すための、もっとも賢いやり方。 特に、智絵里は気力・体力の面でもやや不安がある。 「今はまだ」切り捨てる判断を下していない以上、この辺でケアしておくのは正しいことだろう。 考えなしのあの子のこと、響子が配慮しないことには、実際にぶっ倒れるまで無理を重ねるに決まっている。 総合的に俯瞰すれば、この休憩は考えられる限りで最善の一手。 ――それでも響子は、次の放送が怖くって仕方がない。 どこか遠いところで、ナターリアが勝手に死んでいてくれたら、それが最善。 ちひろが何も告げず何も触れず、ふつうに放送を終えてくれたら、とりあえずは響子の希望の範囲内。 仮に不機嫌そうに警告を発してきたとしても、まずは時間が稼げる訳で、上々の結果と言えるだろう。 でも、もしもちひろが『ナターリアちゃんが殺し合いをしてくれないので〜』とか言い出したら?! 「っ……!」 最初の教室で見せつけられた光景が、脳裏にフラッシュバックする。 食べたばかりの食事を戻しそうになり、必死に飲み下す。 喉を焼く激しい酸味に、思わず涙がにじむ。 「お願いですっ、神様っ……! 頑張りますから、『次』までには絶対なんとかしますから、絶対殺しますから、だからっ……! だから、今だけはっ……!」 とても天国の神様が聞いてくれるとは思えない、鮮血にまみれた邪悪な願い。 そうであっても響子は、智絵里が戻ってくるまでの間、ひたすら愛する人の無事を祈ることしか、できなかった。
711 :姫様たちのブランチ ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:26:18 ID:e2gzUtnY0 * * * 気まぐれな神が祈りに応えた訳でもなかろうが、かくして二回目の定期放送は過ぎ去って―― 降り注ぐ日差しの中、観光用の貸し自転車屋の前に、2人の少女が歩み寄る。 それぞれ異なる覚悟を内に秘め。 それぞれ異なる思惑を胸に秘め。 それでも今は、共に前を向く。 「あ……2人乗りの自転車も、あるんだ……」 「そんなもの、どうするのよ」 「いやこれ、2人で乗る分、ラクだったりするのかな、ってちょっと思って……」 「馬鹿なことを――って、あれ? でも確かに、普通の自転車2台分よりは軽いはずだよね。それを2人分の力で漕ぐわけだから……? いやいや、でもないって、それはないって――」 そして彼女たちは、ヒロインたることを強いられたお姫様たちは、走り出す。 【B-4 ビーチ付近・レンタサイクル貸し出し所/一日目 日中(放送直後)】 【五十嵐響子】 【装備:ニューナンブM60(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:ナターリアを殺すため、とりあえず自転車を確保し、海辺を一周するサイクリングコースを巡ってみる。 2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。 3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。 4:緒方智絵里は邪魔なら殺す。参加者が半分を切っても殺す。 5:この島の『アイドル』たちに何らかの役割を求められているとしても、そんなこと関係ない。 【緒方智絵里】 【装備:アイスピック】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。次善策として、同じPの仲間の誰かを生き残らせる。 0:とりあえず響子ちゃんについていく。 1:今は響子ちゃんの盾となり囮となる。さすがに死ぬ気はないけれど。 2:響子ちゃんと千夏さんは出来る限り最後まで殺したくない。 3:この『殺し合い』そのものが……憎くて、悲しい。
712 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/21(日) 18:26:49 ID:e2gzUtnY0 以上、投下完了です。 彼女たちが北回り・南回りのどちらを選ぶのか、自転車の選択をどうするのかは、後続にお任せします。
713 :名無しさん :2013/04/21(日) 23:13:20 ID:Jhugfg2MO 投下乙です。 こんな状況でなければ知らなかった側面。友達の、自分の。 異常な状況では、異常な反応こそ正常。
714 :名無しさん :2013/04/22(月) 18:03:39 ID:xDim5hXI0 投下乙です。 知ってしまって温かくなって、けど今後の事を考えると切なくなるお話し。 むーん、このまま行けば北か南かでナターリア達はみくに会うのが先か響子達に会うのが先か。 どっちにしろ場が混乱しそうだなあ… 今回の放送で禁止エリアが南西寄りになったのもあって、さらに人が来る可能性も…?
715 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 01:57:54 ID:QnY9ajF60 投下乙です。 智絵里のやりきれない想いと、響子の揺らがない姿勢。 互いの気持ちが理解できるからこそ、辛いものがありますね。 さて、選ぶコースによって全く展開は変わりそうですがどうなるか。 それでは、予約分投下します。
716 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:00:03 ID:QnY9ajF60 ――――――己を守るため、自分が自分であるため、誰かを護るため ――――――あなたはどんな「嘘」を付いたことがあるだろうか <Anzu> 双葉杏は少し前に終わりを告げた放送について振り返っていた。 と言っても彼女には言外に含められたニュアンスを考察するほどのやる気も洞察力もない。 感想を抱くとすれば死亡者と禁止エリアくらいのものだろう。 「禁止エリアは……うん、特に関係なさそうだな」 杏は放送が終わってすぐに禁止エリアを確認するためにデイバックを探っていた。 そこで地図を発見すると、先程の記憶を辿りながら確認する。 どうやら指定されたのは杏の現在地とはかなり離れているようだ。 「そういえば……最初の放送の禁止エリアってどうなってんだろ」 島全体の図を眺めていた杏が思い出したように呟く。 一回目の放送を聞き逃したため、既に禁止されているエリアが分からないのだ。 杏は何か手がかりがないかと再びデイバックを探る。 すると、何やら親しみのある形状をした機械が目に入った。 「お、もしかしてこれで色々確認出来たりして」 「えーっと……よし、ビンゴ!」 「やっぱり杏は天才だねー、第一回放送っと……」 「んーっと、禁止エリアはE-1……ここはあんまり関係ないな」 「それと……C-7!?」 「ってことは……まさか」 不吉な予感に襲われた杏はもう一度地図を引っ張り出す。 本来なら第二回の内容を確認するだけで済んでいたはずなのだが、勿論それどころではない。 「……うぞっ、あっぶなあああああ!」 地図の区域を確認した杏は真っ青になる、なぜならそこは先程まで自分が居たと思われる区域である。 今更ながら放送内容を確認することになった彼女にとっては非常にショッキングな知らせだった。 「時間的にも……うわぁ、下手したら死んでたってこと……?」 特別な意図もなく移動しようと思い立った自分を杏は全力で称賛した。 あのまま留まっていたら間違いなく首が飛んでいたところだろう。 虫の知らせと言う奴はなかなかどうして馬鹿に出来ないものだと杏はしみじみと実感した。
717 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:00:41 ID:QnY9ajF60 「……で、あの人は相変わらずか」 端末で第二回放送の内容を改めて確認すると、先程より少し悪くなった気分のまま杏は顔を上げる。 前方に居る誰かさんは放送が始まっても歩みを止めることはなく、 おかげで先程は放送に意識が向きすぎて見失ってしまうところだった。 水族館も大分近づいてきて、もう既に前方にはその姿が小さく見えている。 仲間が先に着いているのならば、放送の少し前に言っていた通りに彼女は殺人の罪を被るのだろうか。 (やっぱり、おかしいよ……あんなのただの自己満足じゃん) あの時の彼女の言葉に、杏はやっぱり納得がいかなかった。 本当の殺人者を庇ったところで、何の意味があるというのだろう。 下手をすれば激昂した仲間に殺されてしまうかもしれないというのに。 (良くてもひとりぼっちになるだけ……自分が辛くなるだけなのに) 流石に仲間がどんなにお人よしだろうと人を殺した人間を受け入れてくれるわけがない。 少なくとも杏だったら絶対に願い下げだ。 けれど歩みを止めない彼女の後ろ姿は杏に決意を語った時よりも落ち着いて見える。 放送で更に人が死んだことが分かったというのにどうしてあんなにも平然としているんだろうか。 杏にはその姿が不気味にしか映らなかった。 けれど心の底ではそれに相反するものを感じていた。 (杏は……どうなんだろ……) (この人と逆で、ずっと隠したままでいるのかな) (このまま働かずに済むんなら別にそれでいいんだ……けど……) 本当は前方の少女に羨望を感じているのかもしれない。 自分の罪を告白し、懺悔をする。 例えそれが偽りであろうと、杏にとってはほんの少しだがまぶしくも見える。 けれどその強さは、杏にはない。 だから決意を固めることもなく、このまま少女の後を追うことしか出来なかった。 『よくもアタシの妹を……絶対に許さない』 『お姉ちゃんも杏っちに怒ってるよ?なのにまだ平気なの?』 『杏は最低だな、あーあ俺死んじゃうよ』 だから、新たに増えた幻聴も、消えることはなかった。 ――――――そして杏は知らない。 ――――――放送直後に、前方を往く少女が小刻みに震えていたことを。 ――――――しばらくして、不気味と形容するほどの平静を取り戻したことを。
718 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:01:19 ID:QnY9ajF60 <Yasuha> 岡崎泰葉が叩き起こされたのは、つい先程のことだった。 同行していた喜多日菜子の勧めもあって、しばらく眠るつもりだったのだ。 だから鬼気迫る声で自分の名前を呼ぶ声と共に体を揺すぶられたとき、 何か急を迫られる事態があったのだとすぐに認識した。 「そんな……嘘……」 「本当、ですよぉ」 「市原さんが、死んだ……?」 しかし状況は想定している中でも最悪のものだった。 暗い顔をした日菜子に市原仁奈の死を告げられた泰葉の頭は真っ白になってしまった。 その報告で、やはり眠ってからほとんど時間が経っていないことが分かったけれど、 そんな事はどうでもよくて。 「けど、肇ちゃんの名前が呼ばれなかったんですよぉ」 「…………」 「だからこれからどうするのか相談しようと思って……」 「…………」 「……泰葉ちゃん」 突然ぎゅっと手を握られて泰葉は驚いた。 慌てて視線を合わせると、日菜子の顔は今までに見たことがないほどに真剣で。 「辛いとは思います、けれど今は肇ちゃんのことが先ですよぉ」 「喜多さん……」 「後でいっぱい泣いてもいいですから、まずはこれからのことを考えないと」 そう言われて、泰葉は少しずつ落ち着きが戻ってくるのを感じた。 今は悲しんでいる場合じゃない、肇のことの方が優先だ。 自分が諭される側になるのは少しばかり意外であり、同時に恥ずかしくもあった。 けれど冷静さを取り戻したからこそ見えてくるものもあって。 「貴女も我慢しなくていいんですよ」 「え?」 「市原さんを気にかけてたのは藤原さんだけじゃない、それを忘れるほど冷静さを欠いてはいませんから」 「あ……」 今度は逆に、目を伏せかけた日菜子の手をぎゅっと握る。 お互いに抱え込みすぎないように。 もう届かない場所へ彼女の心が行ってしまうことのないように。 「さて……とりあえず他の内容についても教えてもらえますか?」 「っ……はい、了解ですよぉ」
719 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:01:53 ID:QnY9ajF60 「……うっかり死んでしまったお馬鹿さん?」 「ええ、そこは引っ掛かったから間違いないですよぉ」 とりあえず肇のことについて相談するならば現状を把握することは必須。 だからこそ放送内容については情報端末で確認したけれど、何かヒントになることを話しているかもしれない。 そう考えて泰葉は改めて放送の内容について特に細かい部分を日菜子から聞いていた。 その話によると、どうやら死亡者の中に禁止エリアに引っ掛かったアイドルが居るらしい。 「まさか……それが……」 「可能性はゼロじゃないですねぇ」 「けど、藤原さんも居るのにそんな初歩的なミスはありえない……」 「……そう考えると確かに、一緒だから片方だけ無事なのはおかしいですねぇ」 「ええ、だったら別の人が……?」 気は急いていたが、泰葉はあくまで冷静に考える。 何故ならそれはすぐそこにあるC-7エリアで適用された可能性が高いからだ。 もう片方のエリアは僻地で、そもそも近づく人間すら居ないだろうから。 あえてここに隠れるという手もあるのだが、それほどに慎重なら余計禁止エリアに引っ掛かるのはありえないだろう。 しかしそうなると一つの仮説が現実味を帯びてくる。 「私があれだけエリアを駆け回っていても誰とも遭遇しなかった……」 「つまり、その人はどこかの屋内に居たんですかねぇ……」 「その人と言っても死んだのはこの8人の中の誰かですけど―――ッ!?」 何気なく端末に目を落とした泰葉は驚きの余りに取り落としそうになってしまった。 どうして今まで気付かなかったのだろう。 自分はそんなに遠くない場所で、彼女を見かけたというのに。 ――――――榊原里美を。 「泰葉ちゃん?また何かあったんですか?」 「……いえ、やっぱり市原さんの名前を見ると辛くて」 (彼女は、あのとき私が見捨てたから……?) 「本当ですかぁ?それにしては随分反応が……」 「……流石に気にしすぎですよ」 (まだ決まったわけじゃない……そんなの分からないけど) 「無理しちゃ駄目ですよぉ、何かあったんなら……」 「本当に大丈夫ですから」 (もし、これで藤原さんまで失ってしまったら……全部私の所為だ) 泰葉は結局、里美の件に関しては話さないことに決めた。 まだこの状況に向き合い始めた日菜子には負担が大きすぎると思ったから。 そして、こんなに弱気な自分を素直に晒すことなんて出来なかったから。
720 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:02:14 ID:QnY9ajF60 気を取り直して、泰葉と日菜子は水族館から一旦離れて捜索へと向かうべきか相談していた。 そんな時、唐突に水族館内で足音が鳴り響いて。 反射的に日菜子を庇いつつ泰葉は持っていた麻酔銃を掲げた。 そしてしばらくして―――――― 「……良かった、もうお二人は到着してたんですね」 姿を現したのは二人。 言葉を発さずに黙っているのは泰葉にとって少しばかり相容れないタイプのアイドルでもある、双葉杏。 「嘘…………」 「偽物じゃ、ないですよねぇ?」 もう一人は、今まさに最大の気がかりであった少女。 泰葉自身の為にも、絶対に見つけなくてはいけなかったアイドル。 「……心配しなくても、間違いなく本物ですよ」 そう言って、藤原肇は薄く笑ったように見えた。
721 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:02:40 ID:QnY9ajF60 <Hinako> 放送でその名を告げられた時、喜多日菜子は目を見開いた。 妄想に囚われてしまっていた頃に一緒だった羊の子。 市原仁奈の死が、ようやく現実に目を向け始めた少女に重くのしかかる。 (やっぱり夢じゃないんですねぇ……これが現実) ここまで目を背けてきたツケを払わなければいけない時が来たのだ。 プロデューサーを助ける為にも、泰葉を支える為にも成すべきことを成さなければいけない。 (大丈夫ですよぉ……泰葉ちゃんが居るから日菜子は向き合えます) だからそのためにはまず、何故仁奈の同行者である藤原肇の名前が呼ばれなかったのか考えなければいけない。 それが何を意味するのか考えるには日菜子だけでは手が余るのは間違いないだろう。 場合によっては水族館を離れなければならないかもしれないのだ。 自分から眠ることを勧めておきながらすぐに起こしてしまうこと。 更には仁奈の死を告げなければならないこと。 二つの意味で気が重くなるのを感じながら日菜子は泰葉に呼びかけたのだった。 その後少し取り乱した泰葉を励まして、そしてなんだかんだで自分も励まされてしまって。 時折彼女の様子がおかしいのが気になったけれど、これからのことを相談していた。 肇を探す為に一旦ここを離れるべきか、それとも諸星きらりや白坂小梅らの帰りを待ってから動くべきか。 どちらも一長一短と言える選択であり、時間の余裕がないというのに議論は平行線を辿っていた。 そんな時に館内で人の足音が聞こえてきて、二人の間に緊張感が走った。 丸腰である日菜子は泰葉の後ろについていざという時に備えていた。 けれど現れたのはあまりに予想外の二人組で。 まず最初に目に入ったのは藤原肇。 驚きと喜びで戸惑ってしまい、最初日菜子は思わず偽物かと疑ってしまった。 けれどそこに居るのはまぎれもなく本物で。 あの泰葉ですらはっきりと安堵の表情を浮かべるほどだった。 もう一人同行していたのは双葉杏。 小柄な彼女は一瞬居なくなってしまった少女を思い起こさせて、少し悲しみがぶり返してきた。 けれど特に敵意がある風にも見えず、新しい仲間が増えたのだと解釈していた。 この時は確かに日菜子も泰葉も安堵の余り気が抜けていて。 何故肇だけが無事に帰ってきたのかまでは意識が向かなかった。 彼女が最初に一言発してからずっと、割って入るタイミングを計るように黙っていることにも何の疑問も持たず。 ――――――これから待ち受けることを、全く予期などしてはいなかった。
722 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:03:08 ID:QnY9ajF60 「……岡崎さんと喜多さんにお話があります」 「もう知ってるとは思いますが、仁奈ちゃんは……死んでしまいました」 「……殺したのは、私です」 日菜子はその言葉の意味を理解するのに、しばらくの時間を要した。 余りにも突然すぎて、頭が全くついていかなかった。 それはどうやら泰葉も同じだったようで。 「……どういう、意味ですか?」 かろうじて、日菜子とまったく同じ感想を口にしていた。 「言葉通りの意味です、仁奈ちゃんを……殺してしまったんです」 分からない。 意味なんて、分かるはずない。 どうして肇がそんなことしなければいけないのか。 混乱しながら、日菜子は口を開く。 「そんなの嘘ですよぉ、だって肇ちゃんにそんなことする理由が……」 「ない、とは言い切れない状況ですよね」 「…………!?」 暗い表情でそう言葉を紡いだ肇に強くショックを受ける。 何も言えずにただ、見つめることしか出来ない。 「私は怖かった……あの子があまりにも純真無垢に見えたからこそ理解が出来なかった」 「信頼を寄せるフリをして、私を殺そうとしているんじゃないかって、恐ろしくなって」 「気付いたら……あの子の首を絞めていたんです」 肇の顔は、まるで許しを乞うているようで。 すっ、と心が冷えてくるのを日菜子は感じていた。 彼女が、恐ろしい。 ただ、恐ろしい。 「あの子の息が止まってることに気付いた時、ハッと我に返ったんです」 「次の瞬間、罪悪感で気が狂いそうになって」 「だって、あの子は抵抗しなかったんです」 「あの子の信頼は本物で、私はそれを酷い形で踏みにじってしまった」 「だから……あなたたちにはちゃんと、私の罪をお話しないといけないって思ったんです」 怖い。 この人が、怖い。 日菜子はもう聞いているのに耐えられなくて。 やめてくださいと言おうとした瞬間。 「――――――出ていけっ!!」 水族館中に、少女の怒鳴り声が響き渡った。
723 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:03:35 ID:QnY9ajF60 「岡崎さん……」 肇がポツリと呟いて、自らに銃口を向けている泰葉へと視線を向けた。 その顔は、救われたような顔で。 日菜子は何も言えず、ただただ呆然と二人を見ていた。 「私は今まで、貴女がそんなことをする人間だとは思わなかった」 「…………」 「今でもそれは変わりません、けれど」 「……何ですか?」 「市原さんが実際に死んでいる以上、そのようなことを口にする貴女を完全に信用するわけにはいかない」 「…………」 「だから、ここから立ち去りなさい」 そう言って、泰葉は引き金に指をかける。 しばらく肇はその様子を見つめて。 「分かり、ました」 そう言って、背を向けた。 「杏……ここに残ってもいい?」 肇の姿が見えなくなった頃、それまで黙っていた杏が遠慮がちに口を開いた。 泰葉は俯いていて何も言わない。 ようやく少し平静を取り戻した日菜子が代わりに答えることにした。 「一応確認しておきますけど、杏さんは殺し合いに乗ってないんですよねぇ?」 「そ、そりゃ当たり前だよ!そんな面倒なことするわけないじゃん」 「あ〜……ある意味納得なんでしょうかぁ」 「正直心細くてさ、迷惑かけないからお願いっ」 「多分問題はないと思いますよぉ」 「ホントっ!?良かったぁ〜」 ほっと息をつく杏を、静かに見つめる。 そして視線を横に戻して、泰葉に問いかける。 「泰葉ちゃん……やっぱり肇ちゃんは仁奈ちゃんを殺してなんかないですよぉ」 「…………」 「だって肇ちゃんがあんな疑心暗鬼になるとは思えないし、 第一武器を持ってない上にあんなに小さい仁奈ちゃんを恐れるなんておかしいです」 「…………っ」 「だから、きっと何か嘘を付かないといけない理由が……」 「……ってます」 「え?」 それまで下を向いていて、表情が見えなかった泰葉が顔を上げる。 日菜子はそれを見て少しばかり驚いた。 それは、岡崎泰葉という「アイドル」にとって似つかわしくないものだったから。 身体が小刻みに震え、表情は不安に怯えている。 「私だって分かってるんです……藤原さんの言ってることは明らかにおかしい」 「泰葉ちゃん……」 「ただ……もし市原さんが別の人に殺されていたとしたら」 「…………」 「私の所為でまた、誰かが死んでしまったのかもしれないと思うと……!」 「それって、どういう」 「だから怖くて問い詰められなかった……嘘であることを疑えなかった」
724 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:04:00 ID:QnY9ajF60 (どういう、事なんでしょう) 色々と様子がおかしくなってきた、と日菜子は思う。 やっぱり泰葉が隠し事をしていたというのはなんとなく察した。 これに関しては落ち着いたらゆっくりと聞いてあげるべきだろう。 けれどとりあえず今は他のことも考えなければならない。 肇がまさに去ろうとしたあの時までは、日菜子とて冷静ではなかった。 とにかく目の前に居る彼女が怖くて居なくなってほしいと思っていた。 けれど、自分達に背を向けかけた瞬間。 (凄く儚げだったけれど、日菜子の知ってる肇さんでしたねぇ) 彼女は、まるで重荷を降ろしてほっとしたように見えた。 それは罪悪感や自責の念を感じさせるようなものでもなくて。 だからこそ、それまで抱いていた恐怖心が薄れたのだった。 (それだけじゃありません……きっと肇ちゃんは最初から無理矢理押し切るつもりだったんですよぉ) 更に疑念を深めたのは、肇以外の要因だった。 いくらなんでも心細いと言っていた杏が、殺人者と行動を共にするだろうか? もし知らなかったのだとしたら、ずっと黙ったまま驚く素振りを見せなかったのは明らかに異常だ。 考えれば考えるほど怪しい部分が次々と思い浮かぶ。 それは喜多日菜子という少女の意外な素質と言えるだろう。 時に、妄想をする子というのは時に情報の欠片から物語を創造する力に優れていたりする。 また、周りをよく見ているから視野が広かったりすることもある。 だからこそ、日菜子はこの状況でもいつもの癖でどんどんと頭の中で想像が形を成していき、 そして真実へと辿りつこうとしている。 (うーん……あの時驚かなかったってことは杏ちゃんは何か知ってるのかもしれませんねぇ) (泰葉ちゃんが落ち着くまでにやんわりと知っていることを話すように促すべきかも) (それだけじゃない、早く追いかけないと肇ちゃんも見失ってしまいます) (これまで日菜子は迷惑かけっぱなしでしたからねぇ……今のうちに"落とし前"の前払いですよぉ) いくつかの嘘が入り乱れる中で、一人の少女が正しい道を見出そうとしていた。
725 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:04:29 ID:QnY9ajF60 <Hajime> 水族館の入り口で、一人の少女が立ち尽くしている。 その表情は、何か大切なことを成し遂げた顔だった。 その表情は、何か大切なものを失ったような顔だった。 少女の手には何も握られてはいない。 ついさっきまで持っていた盾は、館内を入ってすぐ横に立てかけてある。 もう、自分には必要ないだろうから。 だから、せめてこれから来るであろうかつての仲間の役に立って欲しかった。 あれさえ目に入れば、要らぬ警戒をせずに奥へと進むことが出来るだろう。 殺意ある者に見つけられやしないかという心配はあった。 けれどそれを目にする時点で、恐らくその人物はここに目的があってやってきてるのだから。 だから、このままでもいいだろうと思った。 水族館への道を歩いているとき、少女はどうやって嘘をつくのか考えていた。 殺意ある者を装うのか、恐慌状態に陥った愚か者に見せかけるか、疑心暗鬼に呑みこまれた罪人になるか。 一つ目はあまりにも危険が大きすぎた。 何かの弾みで事故が起きてしまえば嘘をつくどころの話ではない。 誰かが傷つく可能性のある道だけは選べなかった。 二つ目は自分自身が最後まで演技をする自信がなかった。 その上同行者が居たために、あまりにも無理があると判断せざるを得なかった。 三つ目も決して褒められた案ではなかった。 状況的にも、客観的に見た自分自身の人柄を考えても他の二つと同じように苦しい。 しかしこれが恐らく自分以外の人間が最も安全に済む方法だった。 だから少女は無理矢理押し通すのを覚悟でこの方法を選んだ。 水族館に居た片方の少女の憤怒の形相を思い返す。 自分が最低な行いをしている自覚があったからこそ、それは辛いものだった。 けれどその怒りが自分に向いていることは、自分にとって大きな救いであったのだと思う。 もう片方の少女の怯えた顔を思い出す。 自分が卑劣な人間を装っている自覚があったからこそ、それは悲しいものだった。 けれどその恐れが自分に向いているからこそ、なんとか押し通せたのだと確信出来た。
726 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:05:05 ID:QnY9ajF60 (これで、全て終わって私は孤独へと落ちた) (なのに、どうしてこんなにも空虚なんだろう) (ほとんど満たされるものはない、孤独すらも辛いわけじゃない) (もう、感情を失くしかけているのでしょうか) 少女は想う。 かつて人々を夢へと誘う使者だった少女にはもうその資格はありはしない。 幸せも喜びも感じなくなってしまったから。 (美波さんも……そして、周子さんまで逝ってしまった) (だから、心の何処かで縋っていた希望すらも失くしてしまった) (壊れてしまった私に、もう誰かを笑顔にする資格はない) 先程の放送で、塩見周子の名が呼ばれたとき。 僅かに残っていた希望すらも奪い去られてしまった。 もう失うものなどないから、誰かに悪意を向けられることも辛くはなかった。 殺人者の汚名を被り続けることができた。
727 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:05:38 ID:QnY9ajF60 少女は天を仰ぐ。 この空は太古の昔から人が生まれて、生きて、そして死んでいくのを見てきたはずだ。 気が遠くなるほど昔、きっと誰もが孤独だった。 心を通わせることが出来ないなら、誰かと一緒でも「独り」のままだから。 だからこそ人は言葉を覚え、文字を考えたのだ。 ひとりぼっちは寂しいから。 わかってもらえないのは悲しいから。 だから、人は言葉で自分の気持ちを伝えて、そして繋がっていく。 けれど。 誰かと繋がるためにあったはずの言葉で、少女は孤独へと落ちた。 それは代償だった。 誰かを憎まない代わりに、自分自身を犠牲にしてしまった少女に対する仕打ち。 だから、いくら言葉を叫べても、文字で想いを伝えられても。 もう少女が誰かと繋がっていくことは、ない。 藤原肇が、それを望み続ける限りは。 【D-7・水族館/一日目 日中】 【双葉杏】 【装備:ネイルハンマー】 【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品(杏)x0-1、不明支給品(莉嘉)x1-2】 【状態:健康、幻覚症状?】 【思考・行動】 基本方針:印税生活のためにも死なない 1:一応信用できそうなので、泰葉達と共に行動する。 2:自分の罪とは向き合いたくない。 3:肇の選択は理解できない、けれどその在り方に……? ※二度の放送内容については端末で確認しています。 また、それにともなって幻覚に城ヶ崎美嘉が現れるようになっています。 【岡崎泰葉】 【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(10/11)、軽量コブラナイフ】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:動揺】 【思考・行動】 基本方針: 『アイドル』として、このイベントに抵抗する。 1:もし、二人の死が自分の所為なら…… 2:今井加奈を殺した女性や、誰かを焼き殺した人物を探す。 3:『アイドル』である者への畏敬と『アイドル』でない者への憎悪は確かにある。けど……? 4:佐城雪美のことが気にかかる。 5:古賀小春や小関麗奈とも会いたい。 ※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれた彼女達のことを強く覚えています。 また、榊原里美と市原仁奈の死に自分が間接的に関与しているのではと考えています。 【喜多日菜子】 【装備:無し】 【所持品:無し】 【状態:疲労(中)】 【思考・行動】 基本方針:『アイドル』として絶対に、プロデューサーを助ける。 1:とりあえずは泰葉を落ち着かせて、事情を聞く。 2:杏に対してそれとなく探りを入れて、場合によっては問い詰める。 3:その返答によっては追いかけて肇を連れ戻す。 【D-7・水族館入口付近/一日目 日中】 【藤原肇】 【装備:無し】 【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】 【状態:絶望】 【思考・行動】 基本方針:誰も憎まない、自分以外の誰かを憎んでほしくない。 1:??????????? ※ライオットシールドは、水族館を入ってすぐの場所に立てかけてあります。
728 :嘘 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/23(火) 02:06:16 ID:QnY9ajF60 以上、投下終わります。
729 :名無しさん :2013/04/23(火) 19:07:28 ID:ddnA6YbU0 投下乙です! みんなが嘘をついていく中で、かつて妄想という名の嘘に囚われてた日菜子ちゃんが真実を見据えようとしてるのが感慨深い でも、たとえ引き留められても肇ちゃんは孤独を貫いていくんだろうなあ…
730 :名無しさん :2013/04/23(火) 20:11:54 ID:KUZeVlz.O 投下乙です。 幻覚メンバーにお姉ちゃんが参戦。 やったね杏ちゃん!観客が増えたよ! 肇と泰葉は、どうなっても悪化しそう。 肇が庇ってる殺人犯は既に死んでて、更にその殺人のきっかけの一つは泰葉かもしれなくて。
731 :名無しさん :2013/04/23(火) 23:48:17 ID:WQYljuqE0 お二方投下乙です! ……放送明けのっけから凄いの飛ばしてるなぁ。後続のハードルがグングン上がっていくんですが(しろめ) >姫様たちのブランチ ある意味モバマスロワ一番の被害者かもしれない(キャラ改変的な意味で)五十嵐響子。 でもその実態は間違いなく普通の女の子。彼女も勿論奉仕型マーダーであり、特に顕著なだけ。 あくまで普通の延長線上にあるわけで、ただプロデューサーが好きすぎるだけなんだよなぁ。 そしてそれを見て、気づいたちえりん。いやビビるのは当たり前なんだけど、それ以上に同じユニットだったが故のショックもある。 ルート次第ではお目当てのナターリアに会えるかもしれないけど、はてさて彼女達はどう動くのか。 >嘘 水族館、波乱の幕開けだああああああ(ry ここを捌ききる難易度は高かっただろうに、それを悲壮感と共に捌ききったp8z氏に感服。 いつも通りなんだけど、哀しみと危うさを持った杏と、罪に苛まれる泰葉ちゃん。 現実を直視する強さを手に入れて、鋭い考察を持った日菜子ちゃんに、同郷で唯一人取り残され吹っ切れてしまった肇。 その全てが主人公だと言わんばかりにスポットをあてて書ききったのが凄いなぁ。 勿論、全てが解決したわけじゃない。まだまだ水族館の波乱は続くだろうけど、その幕開けは綺麗に決まった。お見事です。 ではでは、これ以上ハードルが上がる前に私も投下させていただきますです。
732 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/23(火) 23:48:52 ID:WQYljuqE0 失礼、鳥付け忘れました。改めて投下します
733 :差しのべてTenderness ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/23(火) 23:50:09 ID:WQYljuqE0 優しさを、差しのべて―――《Tenderness 差しのべて》 優しさを、捧げたい――――《Kindness 捧げたい》 * * * 「おはようございます」 「おう、おはよう」 気持ちの良い風と朝の光を浴びながら、あの人の待つ事務所へと入る。 ドアを開けてあいさつとともに微笑み、それに一人身を飾らない男性が挨拶に答える。 そんな何気ない日常が、栗原ネネは好きだった。 ――でも、今日はちょっとだけ違う。 「………なんだよ」 「今日は、タバコ吸ってないみたいですね」 デスクの周りを回って、隅々まで確認して、そして無いことを確認する。 そう、いつもなら申し訳程度に隠してある灰皿(吸殻入)が今回は何処にも無い。 彼なりに気を使っているとはいえ、いつもは隠れて吸っているのもまた日常だった。 でも今日は、それが無い。灰皿すらない。 「……たりめーだろ、今日はネネの晴れ舞台なんだからよ」 そう目を逸らしながら、照れながら言ってくれた。 それでネネは『思い出す』。今日という日はいつもの日常とは少しだけ違う特別な日。 数日前のオーディションで勝ち上がって、今日は大きなライブ、『サマーライブ』に出演する日だ。 それまでに苦労は経験してきた。その全てが報われる日。 だから、いつもは隠れてタバコを吸っているこの人も、今日に限っては一切すっていないのだろう。 変なところで律儀な人だと、ネネはそう思った。 「ふふっ、ありがとうございます」 でも、それと同時に心は温かい気持ちに満ち溢れていた。 その妙に意地っ張りで、子供っぽくて、そして頼りになる。そんなプロデューサーの事が好きだった。 「でもそう言えるんでしたら、ちゃんとやめてくれればいいのに…」 「ばっかお前、禁煙がどれだけ辛いか知らねぇからそう言えるんだよ。あれが無けりゃ今頃ストレスで死んでるわ」 そして彼女が身を案じれば、彼は軽く返してくれる。 大した事のない、答えの分かっている問答。ネネがアイドルになってから、変わらない関係と変わる世界。 そんな平和と変化が、ネネはやはり好きだった。 そんな平和で、そして楽しい日常がずっと続けばいいと思って―― 「………え?」 世界に、『ひび』が入った。
734 :差しのべてTenderness ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/23(火) 23:52:23 ID:WQYljuqE0 そう表現するしか、無かった。 平和な日常な筈なのに、その空間に不自然なひびが入る。 なのに誰も気づかない。目の前のプロデューサーも、周りの皆も、誰も。 まるで、テレビの画面が割れていてもずっと日常を流し続けるドラマのように。 皆が皆、ひび割れていく世界で最早『不自然な』日常を演じ続けていた。 「な………何、が………」 そうして、平和だった日常がメッキのように剥がれていく。 その裏にあったのは――いや、何もなかった。 不自然なほどの黒。闇と言ってもいいかもしれない。正に何もなかった。 日常が崩れて、周りが全て黒に支配されていく。 「い、嫌………っ」 そうして平和な日常は崩れて、最後に残ったのは――― 「…………あ」 完全な黒と、あの人の姿。 「 」 目の前にいるあの人は、口を動かしている。なのに、何も聞こえない。 何かを言い聞かせているように動かしているのに、何も聞こえない。 ずっと、無音の世界。これがずっと続くのかと、そう思い始めた矢先に。 ―――――ピ。 「え………」 なにか、聞きなれない音が。 いや――聞いた事は、あった。『あの時』に、響いた機械音だ。 「ま……まって………」 喉から声が出なくなる。絞り出した声も、かすれている。 目の前で、音の鳴る彼は未だに口を動かし続ける。でも、何も一切、届かない。 ただネネの頭の中にあったのは、焦りと、絶望だ。 この先に起こる結末を知っているから、彼女は焦って、そして何も変わらない事実に絶望する。 駆け寄って、何をしても、変わらない。声も聞こえず、意思疎通もできずに、 「 」 余りにも軽快な音と共に、目の前で、彼は死んだ。 「………ぁ………」 その血飛沫が、目の前に広がる。自らに降りかかる。 目の前にいたのは血の池と、首の無い、あの人の『死体』。 「なん、で…………」 全てがあっさりと終わって絶望と虚無の中に浮かぶのは、疑問。 何故、彼が死ななくてはならなかったのか。 何も悪いことはしていない。それ以前に、『私たち』は何もしていない。 それなのに、何故プロデューサーが。何故、なぜ、なんで―― 『何故?』 後ろから、不意に聞こえる女性の声。 『あなたが、誰も殺さないからでしょう?』 訳もわからないまま、事実を宣告された。 ―――そう、理由なんて最初から分かっていた。 栗原ネネが『あの場所』で、誰も殺すそぶりを見せないから、『殺し合い』をしなかったから。 何もしなかったから、人質のプロデューサーが、死んだ。 「い、や……なんで………いや…嫌………!」 頭で結論がでても、言葉は否定と疑問を繰り返す。 しかし、もう後ろから返答はない。 たった一人になって、救いの手も何も無い。 完全な暗闇の世界、救いの無い、ただ絶望のみが広がる世界の中で。 彼女はずっと、マイナスの感情に囚われ沈んで行く。 ずっと、ずっとずっとずっとずっと――――
735 :差しのべてTenderness ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/23(火) 23:53:36 ID:WQYljuqE0 * * * 「―――!――さん、ネネさんっ!」 誰かが呼ぶ声がする。 その声を直ぐには認識できない。一体何があったのか。 ぼんやりとした頭で、ふと触れた自分の額はびっしょりと濡れていて、でも頭の整理はつかない。 目の前には何やら心配そうに焦る少女の顔があった。 「………藍子、さん?」 「大丈夫…ですか?なにか、とてもうなされてて……」 その言葉を聞いて、栗原ネネはようやく現状を理解する。 色々とあって、高森藍子と合流し、いつの間にかネネ自身が休憩する事になっていた。 疲れていたのは自覚していたが、それを言うのは迷惑だと思っていた。 しかし、彼女にはお見通しだったらしい。結果、好意に甘え休んでいた。 そして、あの光景を経験して……今に至る。 あれは、夢だったのか。 冷静になってみれば当たり前の事、あまりにも非現実的すぎる光景だ。 あれはただの悪夢。輝いたあの日を織り交ぜた、たちの悪い夢。 (そう、なの?) ……いや、違う。あれは悪夢では無い。 自分の心を的確に写した夢。そしてあの夢よりも救いようの無い現実。 ただ夢と、一言で片付ける事はできない。 「……ご、ごめんなさい。ご迷惑を……」 未だ落ち着かない心を無理矢理引っ込めて、冷静を装う。 そうだ、あれは夢でも何でもない。いずれ起こりうる現実になるかもしれない。 いくつかの道の先にあるであろう、いくつかの結末の一つ。そして、最悪の結末。 考えたくもないことなのに、考えなくてはならない。 どれだけ辛くても、直視しなければならない。先の見えない、道を選択しなければならない。 ずっと悩んできた事、ずっと選べなかった事が、改めて事実としてのしかかっていた。 「……いえ、大丈夫でしたら……良いんですけど、その」 「どうかしたんですか?」 「放送が流れてから、様子がおかしかったので……」 彼女は遠慮がちにそう言う。 放送と聞いて、頭がまた回りだす。 突然すぎたあの夢は、あれが節目になっていたのだろうか。 ネネは近くにあった自分の荷物を探り、携帯端末を取り出す。 放送の内容は逐一、この端末に保存されているという。 そして、直ぐにそれを確認する。 「…………」 そして内容は、なに一つとして救われない。現実を、確かに映し出していた。 その人数は、8人。前より少なくなった……なんてことは言えない。 その一人ひとりが全員、今を輝くアイドルだった筈だ。誰一人として聞いた事の無いアイドルはいない。 しかし、そのアイドルが死んだ。魅力的で、輝いていた皆が、もうこの世にはいない。 現状は何も変わらず、悪化していくばかりだった。 「あの……私はまだ大丈夫ですから、もう少し休んでいても……」 その思考からくる疲労が顔に出ていたのか、同行していた藍子に心配される。 それに申し訳なさを感じる反面、ネネは彼女の事も気にかかった。
736 :差しのべてTenderness ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/23(火) 23:55:03 ID:WQYljuqE0 「いえ、もう大丈夫です。次は私が待ちますから、藍子さんは休んでいてください」 「……なら、いいんですけど」 荷物を持ち、ソファから立ち上がる。 そして、半ば押しつけるように藍子をソファに座らせる。 ―――彼女は、どうなのか。 彼女も状況はまったく同じで、むしろ背負うものの重さで見れば彼女の方がずっと上の筈なのに。 放送だって、彼女に縁のある人こそ呼ばれなかったろうが、その人数は彼女の道を揺さぶるのに十分すぎるほどのはずだ。 彼女はアイドルとしては完璧だろう。完成されていると言ってもいい。 しかし、一人の少女としてはあまりにも不自然だ。 ユニットのリーダーとして、こんな殺し合いの場でさえ16歳の少女が背負うには余りにも不相応な重圧を担って。 それでも、そんな辛さを乗り越えてでも、彼女は目に映るもの全てを『束ねる』というのか。 『アイドル』たるアイドル、高森藍子。 彼女の存在は、間違いなく栗原ネネが行く道へのキーの一つだ。 一体何が、彼女を『アイドル』たらしめているのか。 どれだけ辛い事があっても、拒絶されようともアイドルでいられる理由。彼女の心。 その想いを知る事が彼女の、水彩のようにぼかされた道をはっきりとさせていくのだろう。 それが白か黒かは、わからない。 (………輝子、さん……) こっそりと、荷物から携帯電話を取り出す。 開けば、複数件の不在着信。それらが何かは確認するまでもなかった。 切り方も問題があった事は自覚している。せめて無事だということぐらいは伝えるべきだったかもしれない。 それでも、電話をかける勇気がない。意思を決められないまま、電話をかける事が、できない。 藍子達にはまだ携帯電話の事は話していない。 もし話せば間違いなく彼女達は疎通して、同行の道を選ぶ。断言してもいいし、それが悪いことだと言うつもりも無い。 でも、もしここで彼女達が合流してしまったら、自分の意思がうやむやになってしまうような、そんな怖さがあった。 周りの人に流されて選択してしまって、後悔したくはない。 勿論、あまり時間をかけるわけにはいかない。彼女達を待たせる訳にはいかないし、いざというときの決心が、できないから。 だから、彼女へと……高森藍子へと、その想いを聞かなければ始まらない。 既に半日も悩んで、でも出ない答え。その答えを彼女が持っているとまではいかないまでも、何かを握っているはずだと。 長く、深い悩みへの光明が差すと信じて、藍子へ声をかけようとして、 「ぁ…………」 しかし、その言葉は届かない。 「…………?」 聞こえない程の、自分でも驚く程の小さな声。 何故、こんなか細い声しか出ないのか。 声が出ない訳じゃないのに。いつでも、想いを口にできるはずなのに。 もう長く迷っている暇はない。だから早く彼女の心の内を聞かなければならない、筈なのに。 (怖、い…………?) 結論を出すことの、恐怖。 彼女の中身を聞く事への恐怖、その先電話先へ意思を伝える恐怖、 そして……自分自身と、あの人の命が晒されている恐怖。 あの悪夢は、的確に自らの心を写していた。栗原ネネの弱さをはっきりと。 後回しにしても何も解決しない、むしろ悪化していくかもしれない。それはもう分かっている。 それでも、彼女はそれを直視できるほど強くない。彼女は、どこまでも『ただの少女』だった。 「……どうか、しましたか?」 「……………いえ、なんでも、ありません」 未だ電話はならず、未だ電話はならせない。 先延ばしにした―――してしまった『決断』。 迷走する心《迷走mind》は、彼女を締め付けていた。 * * *
737 :差しのべてTenderness ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/23(火) 23:56:14 ID:WQYljuqE0 (………ネネさん) ソファに座る高森藍子には、彼女が何かを思い詰めて、隠していることは察していた。 その隠し事、この場所ならば、おおよその予想はできる。彼女から、まだ『返答』は聞いていないから。 そして、彼女がそれを隠す理由もなんとなく察しはついている。 彼女もまた、高森藍子の『強さ』に悪い意味で影響されているのだ。 そんな事を、望んでいる訳ではないのに。 彼女だって先程の放送で尾を引かない程強くはない。 8人のアイドルが死んだ。それが誰であろうとも、その命の重さに変わりは無い。 一度共演したこともある及川雫も、同じくらい有名になっていた神崎蘭子も、もうこの世にはいない。 戻ってくることはない。それが想像以上の哀しみであることはもう知っているし、体験している。 でも、そんな弱さをもう見せる事はしない。 結果として、それは裏目にでてしまったのか。支えきれない強さが、また少女を追い込ませているのか。 (それは、違う) そう、それは違う…と藍子は思う。 藍子の持つ強さは、押し付けるものではない。 なぜならば、その『強さ』自体が、彼女一人のものでは無いから。 自分のプロデューサーから、あの時逝ってしまった木村夏樹から、道を違えた十時愛梨から。 そして、数え切れないほどのファンと、一緒に頑張る皆で作り上げてきた強さだから。 ―――この『強さ』は、皆で支え合うものなんだ。 (花束に、優劣なんてない。 私だけの強さじゃないから、あなたにも、みんなにも支えて欲しい) しかし、ここで藍子がそれを説く事はできない。それもまた、自分の『強さ』の押し付けになってしまうから。 揺れる少女をあとひと押しできる力は確かに持っている。けど、きっとそれは強すぎる。 彼女が望まぬままに押す形になれば、良くない結果になるのは明白だった。 だから、いずれ彼女から聞いてくれることを願う。 例え自分自身がどう思っていても、自分から切り出すことはできない。 彼女が向き合う時にこそ、力になれる、力を貸せる筈だから。 その時が来るまで、彼女からは話は切り出さない。時間があるわけではないが、きっと今はそれが最善だ。 ソファに体を預けて、しかし意識は休息する事を望んでいないようにはっきりとしていた。 彼女自身の意思がはっきりとしていても、現実は未だ、上手くいかないようだった。 【G-5・警察署/一日目 日中】 【高森藍子】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×2、爆弾関連?の本x5冊、CDプレイヤー(大量の電池付き)、未確認支給品0〜1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。 0:睡眠をとる………? 1:絶対に、諦めない。 2:栗原ネネの想いを聞く。 2:他の希望を持ったアイドルを探す。 3:自分自身の為にも、愛梨ちゃんをとめる。 4:茜の連絡を待つ。 5:爆弾関連の本を、内容が解る人に読んでもらう。 ※FLOWERSというグループを、姫川友紀、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいて、リーダーです。四人同じPプロデュースです。 ※元プロデューサーは現在日野茜を担当しています 【栗原ネネ】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、未確認支給品0〜1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:自分がすべきこと、出来ることの模索。 0:しかし、結論を出すことへの、それ以上の根本的な恐怖? 1:高森藍子の想いと、その本心、そして理由を知る。 2:小日向美穂が心配。彼女の生き方をみたい。 3:決断ができ次第星輝子へ電話をかける。
738 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/24(水) 00:03:01 ID:CegJp2dA0 投下終了です。
739 :名無しさん :2013/04/24(水) 00:25:30 ID:V3cv/AL20 投下乙です! ネネさんの曖昧な立ち位置をぐらつかせるかのような悪い夢、残された時間の少なさを否が応でも意識してしまいそう 藍子ちゃんはどこまでも優しいけれど、やっぱり無理をしてるんだなあ。彼女自身が強いからこそ、余計に色々抱え込んでしまって。 彼女と支え合ってくれるアイドルと出会えれば良いけれど…
740 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:29:52 ID:0lzSkP660 皆様投下乙です。 >姫様たちのブランチ やっぱ響子ちゃんは響子ちゃんなんだなあ。 それに気付いた智恵里も、素敵。 狂気じゃなくて、彼女達もそこにいるんだなあと。 行き先がどうなるか。さてw >嘘 うわあ、これは凄い。 肇ちゃんが儚げで。 岡崎先輩の出て行けって言葉が凄く響く。 難しいパートを四者四様でかききって、素晴らしい。 肇ちゃんのパートは本当お気に入りです。 >差しのべてTenderness ネネさんが悩むなあ。 簡単に割り切れる事が無くて。 そして、藍子の存在が彼女を悩ませて。 でも、その悩みこそ彼女の強みでもあると、思いました。 さて、此方も少々遅れましたが、投下しますね。
741 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:30:49 ID:0lzSkP660 ダビデの塔は、崩壊して、人々は散り散りになった。 そして、統一の言葉と文字を失い、分かり合うのでさえ、手探りになったという。 言葉にならない、声を上げて。 人は、人と繋がり合おうとして――― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
742 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:31:15 ID:0lzSkP660 『精一杯、輝きなさい』 そんな声が、響いて。 長いような、短い放送が終わった。 私――渋谷凛は、ペタンと地面に座り込む。 もう、何度座り込んだのだろうか。 正直、良く覚えていない。 じめっとした地面の感触が太腿に伝わるが、気にしない。 気にする余裕なんて、無かった。 内容といえば、禁止エリアは遠くが指定された程度で。 最も気になった死者は、八人。 多いとか少ないとか、そんな事はいい。 八人、死んだ。 その事だけが、悔しいし、哀しいんだ。 城ヶ崎美嘉、水本ゆかり、榊原里美。 呼ばれて、心が引っ掛かった名前。 まさか、と思った。 信じられないとは言わないけど、ただ驚き、哀しくなった。 美嘉。 私と卯月、美嘉の三人でラジオをしていて。 ギャルと言う割には、しっかりとしたお姉ちゃんで。 トークも上手で、単純に凄いなと思った。 けど、逝った。 妹の後を追うように。 妹の死を聞いて、彼女はどう思ったのだろう。 哀しんだろう、苦しんだろう。 だけど、それを私に解かる術は無い。 解かりたくても、解かる事が出来ないのだ。 それが、この島のルールで。 哀しいぐらい、私は縛られている感じする。 だから、二人の死んでしまった人の事について、こんなにも戸惑ってしまう。 水本ゆかり。 未央と新田さんを惨殺したあの人が。 こんなにも、あっけなく呼ばれている。 何があったんだろうか。 解かりっこないけど…… でも、あんなにも覚悟を解いて。 殺し合いの中でも笑い続けた、彼女が。 こんなにも、あっさりと死んでしまった。 ……仇と言える彼女が。 …………仇といっていいのか解からないけど。 でも、未央を殺したのは彼女で。 でも、彼女はやっぱり『アイドル』で。 でも、何処までも普通の少女で。
743 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:31:32 ID:0lzSkP660 ……ああ、もう、簡単に割り切れっこないって。 仇とか何とかかんとか。 だって、私達は同じアイドルだって言うのに。 ……本当、頭痛くなる。 それで、榊原里美。 ……正直混乱させてる要因。 彼女は卯月と一緒に逃げて。 卯月を追って、あの時生き延びた筈なのに。 どうして、彼女だけが、死んじゃったの? あの状況で、はぐれた? そして、死んだ? ……そんな、馬鹿な事は無いって。 あんなにぴったり追っていたのに。 もし、あの状況で、はぐれたというなら。 ――――卯月が故意にはぐれたか。 もしくは……………… ―――卯月が、同行した榊原里美を殺してしまったか。 そんな疑問が、頭を過ぎって。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
744 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:31:56 ID:0lzSkP660 『あははーないって、凛ちゃん!』 『そうかなぁ……? 面白いと思うけど』 『確かにねー、さて次のお便り言ってみよう!』 ――――凛さん、卯月さん、美嘉さん、でれっす! 突然ですが、私好きな人が出来たんです。 でも、その人はイギリスの人で、上手く日本語が伝わらないんです。 思いを伝えようとしても、上手く伝わるか不安です。 私の思いは、伝わるんでしょうか……? 『わー、わー、凄い国際恋愛だよ!? きゃー、あっこがれるー☆』 『……美、美嘉、騒ぎすぎ……』 『何言ってるの、凛ちゃん! ラブロマンスだよ! すっごーい!』 『卯月まで…………それで、伝わるかな?』 『うーん、どうだろう? 言葉が通じるか解からないんだよね。でも思いが通じるんじゃないかな 全力でやれば!』 『言葉が通じるか解からないのに……?』 『う、うーん』 『何言ってるの、二人とも!』 『え?』 『お便り見る限り、交流はあるみたいんだよね、だったらさ』 『そうみたいだけど、美嘉……だったら……?』 『私は、こう、アドバイスするよ! それは―――― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
745 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:34:22 ID:0lzSkP660 「――――――――『貴方が大好きな人のイメージのまま、その人の事を、信じろ!』」 それは、美嘉から、聞いた言葉。 美嘉がラジオで、伝えたアドバイス。 自分自身が好きになった人のイメージのまま。 その人のイメージを信じればいい。 例えそれが、自分自身の思いこみでもいい。 だって、それがさ 「――――――――『絆ってものでしょ!』」 絆って、ものなんだ。 そうだ、亡くなった美嘉の言葉だけど、その通り。 私が、私が信じたい卯月を信じればいい。 だから、卯月は里美を殺してない、絶対に、絶対に! だって、私が好きな卯月はそうだから。 「――――――――『だから、信じろっ!!!!』」 だから、私は、この絆を信じる。 言葉が無くても。 きっと其処に想いが残るから。 其処に、絆があるから。 だから、そうやって、生きていく。 さあ、行こう。 休憩なんて、してられない。 私は、また歩き出して。 そして、目の前に、一つの施設を見つけて。 其処に向かって歩いていく。 心に、美嘉との絆を感じながら。 私は、信じていくんだ。
746 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:34:55 ID:0lzSkP660 【D-7・水族館/一日目 日中】 【渋谷凛】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】 【状態:全身に軽〜中度の打ち身】 【思考・行動】 基本方針:私達は、まだ終わりじゃない 1:卯月を探して、もう一度話をする 2:奈緒や加蓮と再会したい 3:自分達のこれまでを無駄にする生き方はしない ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
747 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:35:48 ID:0lzSkP660 傷つけあって。苦しんで、哀しんで。 言葉が通じなくても、想いが通じなくても。 大切な、絆があるから。 人は、人を信じて、そして、いつまでも、分かり合おうとしていくのだろう。 それが、人というものだから。 ――――人は、何処までも、人を、信じていく。
748 :バベルの果て ◆yX/9K6uV4E :2013/04/24(水) 01:36:03 ID:0lzSkP660 投下終了、しました。
749 : ◆John.ZZqWo :2013/04/24(水) 08:24:28 ID:pycQeZ.s0 投下乙です! 上げ続けられるハードルに戦々恐々? >姫様たちのブランチ うーん、丁寧でバランスのよい作品だ。 もともと料理好きな女の子が多いからか、料理するシーンが多いのはいいですね。こういう1シチュ話は個人的にかなり好みです。 響子ちゃんのあくまで今の響子ちゃんも普段の響子ちゃんの延長線上にあるものと示されたこと、彼女が焦る理由が改めてここで確認できたのはいいですね。 これから先、どちらに向かうにしてもその先には血を見る結末がありそうですしw >嘘 タイトルどおり、彼女の嘘が話の焦点になるとは誰もが予想してただろうけど、この流れと結末は意外だったと思う。 そしてそんな流れと結末なのに、それぞれの子がらしさを十全に発揮してるからすごく納得するというのがすごい! 岡崎先輩の隠し持つ傷であったり、目を覚ました日菜子の今の彼女だからこその視点だったり、肇ちゃんの必要以上の強さだったり。 すごいの一言。 後、杏がすごい杏w それと盾に出番があったのににやりw >差しのべてTenderness 藍子とネネさんは順番こ? 不安と強さのかけ違いというか、なかなか藍子ちゃん周りはもどかしい状況が続きますね。 こんな時、茜がいれば熱血だー!ロックだー!と言ってくれそうなんだけど……早く帰ってきてw >バベルの果て でれらじ! そうしまうと凛と美嘉はでれらじしてたんだなぁ。あっけなく逝ってしまった美嘉だけど、凛の心を後押しする想いになったんだね。 夜が開けて前向きになってきた凛ちゃんだけど、たどり着いたのは今話題騒然の水族館か! これで岡崎先輩に彼女を通してさとみんのその後が伝わりそうなんだけど……今、それを離したら先輩が危ない気がする……w 私も続く……と言いたいですが、まずは延長しますw
750 : ◆ncfd/lUROU :2013/04/24(水) 19:58:56 ID:GTAfJ82w0 皆様投下乙です! ・姫様たちのブランチ 変わってなんていない、だからこそ悲しいし怖い。 料理の描写などで響子らしさが全面に押し出されているからこそ、智絵里パートでのその気付きの説得力がすごい。 ・嘘 やはり肇ちゃんと泰葉は決裂してしまったか。 日菜子が違和感を抱いてはいるけど、発覚したらしたで火種になるのが怖いところ。 ・差しのべてTenderness 藍子は自身はブレなくてもその強さ故に他のアイドルにかなりの影響を与えてしまう。 でも、それを受けてネネがどうするかは藍子と関係ないネネ自身の問題なんだよなぁ。 ・バベルの果て 揺れはしても諦めないことが凛の強さだなぁ。 その足が向かったのは偶然にも混沌としそうな水族館……さて、どうなる。 そして、島村卯月 予約します
751 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/24(水) 23:03:23 ID:bW6Y2oQo0 皆様投下乙です!感想は投下時にまとめるとして、ひとまず延長しますね
752 : ◆John.ZZqWo :2013/04/25(木) 22:42:44 ID:/TmkW4..0 投下します!
753 :彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ ◆John.ZZqWo :2013/04/25(木) 22:43:36 ID:/TmkW4..0 誰からも知られ愛される存在になる道を選んで 苦労は絶えないけれども後悔してない 毎日が楽しいから @ 「みんな、ありがとぉ――――っ!」 アンコールを歌い終え、私たちは割れるような喝采を背に舞台袖へと走る。 最後のこの瞬間のために残しておいた一呼吸分のスタミナを燃焼させて他の三人よりも一秒でも早くあそこにゴールしたい。 みんなも考えていることは同じだ。特に話題に出したことはないけれど、この競争はステージ毎のお約束だった。 なぜなら、そこに“彼”がいるから。 「がんばったな、お前た……うぉっと!?」 やった! 今日の一等賞はFLOWERSの月見草こと相葉夕美――つまり私です! 他の三人には悪いけど、ダンスレッスン中にトレーナーさんに言ってポジションを変えてもらったのがきいたね。 藍子ちゃんはもっと体力つけたほうがいいかな。美羽ちゃんはもっと遠慮しなくてもいいんだよ? 友紀さんは案外こういう時はシャイだよね。 男の人の匂い、花のようないい匂いじゃないのに、どうして嫌じゃなくてこんなに安心するんだろう。 これが生き物のフェロモンなのかな? だったら人はどうして花の香り(フェロモン)をよい匂いだと思うんだろう。花も人に惹かれることがあるのかな。 「がんばったよプロデューサーっ」 「ああ、お前たちが一番だ」 そこはお前がって言って欲しいんだけどね、まぁ頭を撫でてくれるからそんな些細なことは帳消しかな。 ふふふ、見えないけれどきっと藍子ちゃんは私の後ろで羨ましそうにしているよ。 藍子ちゃんはアップで整えていることが多いからあんまり頭は撫でてもらえないんだよね。とはいえ…… 「あー、もうっ、頭ぐしゃぐしゃになるよ」 くしゃくしゃもいいんだけど、それはまた私の期待しているのとは違うんだよね。 「夕美ちゃんおつかれっ!」 「サンキュー友紀さん」 彼から離れて友紀さんから受け取ったスポーツドリンクを飲む。全てを発散した後の冷たい飲み物は格別においしい。 一息つくとすぐにその場でプチ反省会。 始めるのはいつも美羽。今日はあそこのステップを間違えちゃったとか、振りがワンテンポ遅れちゃったとか。 それを皮切りに、藍子ちゃんが緊張しすぎてMCの段取り飛ばしちゃったとか、友紀さんがあっけらかんと歌詞を間違えたとか言い出して、 でも毎回、プロデューサーがとってもいい顔をして―― 「問題ない。がんばれるところはまた次によくすればいいんだ。今日のお前たちは今までの中で最高のお前たちだ」 って、言ってくれるんだ。 そしたら今度は逆にプロデューサーも交えての褒めあい合戦。 友紀さんのアクロバットすごく決まったねとか、美羽ちゃんのフォロー完璧だったよとか、藍子ちゃん今回は一番ハードなパートなのにやりきったねとか。 「夕美ちゃんのソロ、何度も練習で聞いてるはずなのに聞き惚れちゃった」 とか、藍子ちゃんに言われて……わー、なんかあの笑顔で言われると恥ずかしい! 赤面しちゃう! でも別にそういう意味じゃないから! 「歌は私の取り得だからねっ。そこはもう誰にも譲る気はないんだから」 それでも藍子ちゃんの笑顔には勝てない気がする。もしかしたらこれはコンプレックスなのかな? 顔を隠すように振り替えると、ステージの方からはまだ客席からの歓声が聞こえた。寄せては返すそれはまるで―― 「どうしたんだ夕美?」 「え? ……あ、あぁ、また歌いたいなって思ってただけ、だよ。プロデューサー」 私がそう言うとスポーツドリンク(だよね?)を片手に顔を真っ赤にしていた友紀さんが「えー!?」とか大きな声を出した。 「そうじゃないって。今日は私も限界までがんばったよ。またっていうのはまたこんな機会があればなって」 そうですね。と、真っ先に同意してくれるのはいつの間にかにプロデューサーの隣にいる藍子ちゃん。そして美羽ちゃんも友紀さんも気持ちは同じだ。 勿論、彼も。 「じゃあここからはまた俺の仕事だな。今回は四都市でツアーだったから、来年は倍で組めるようにしてやるぞ」 「それって日本縦断になるかな?」 「すごい……ですね」 「今回もぎりぎりだったのに大丈夫かなー……」 「だったら特訓するしかないじゃない!」 特訓かぁ。そうだよね。今日の私たちが今まで最高だったんなら、明日の私たちはもっと最高で、一年後の私たちはもっともっと最高じゃないとね。 「そうだねっ! 特訓するしかないねっ! 例えば――」 ――無人島でサバイバルとか! @
754 :彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ ◆John.ZZqWo :2013/04/25(木) 22:43:55 ID:/TmkW4..0 「うわああああああああああああああああああああああっ!!!」 悲鳴をあげて私は目覚め、る……目覚める? それは、それはつまり今見てたのは夢で、どうしようドキドキが止まらない。 私、砂の上で寝て、そう、ここは砂浜だ。寄せては返す波音が耳に心地よい砂浜。 近くには大きなゴムボート。その向こう側に薄い煙が立ち上っているのは穴を掘って作った即席のコンロだ。すぐ傍にはバケツが転がってる。 そう、私は無人島でサバイバルをしているんだった。 「………………ねぇ、誰かいる? 誰か、いるー?」 反応はない。そりゃそうだよ無人島なんだもの。……そして、殺しあいの最中だから。最悪なことにそれは夢でもなんでもなく。 首に手をやると指先が硬いものに触れる。これ、私が買った首輪じゃないかな? なんて考えてもそんな記憶は一切掘り起こせない。 「あー……」 ヘコんでる。あんな夢を見たからかな? あんな夢? あんなってことはないよ、生まれて今までで最高の記憶だよ。 去年の今と同じくらいの季節の頃、私たちFLOWERSは始めての単独ツアーライブに挑んだ。 モールのイベント会場、街のライブハウス、TVスタジオでしか歌ったことのない私たちが、初めてホールやドームって名前のつく場所で歌ったツアーライブ。 今までとは比べ物にはならない会場の広さに圧倒されて、とても埋まるとは思えない客席の多さにすごく不安になった。 ツアーの初日まで、レッスンやリハを繰り返しながら、私たちは湧きあがる不安を抑えることができず、4人で怖い怖いと毎日言いあってた。 美羽ちゃんは私が抜ければいいんじゃないかとか訳のわからないことを言い出して、友紀さんは負けても次があるとか前向きなのか後ろ向きなのかわからなくて、 藍子ちゃんはすごく思いつめた顔をして「私は私ができることをするだけです」ってまるで特攻隊みたいな悲壮な決意を滲ませて、 私はあの頃は部屋に花が増えたなぁ。生花もそれ以外もいっぱい。ひとつの不安を紛らわせるためにひとつの花を買って部屋に帰ってた。 今思えば、すごくおもしろおかしいよ。 だいたいプロデューサーが意地悪なんだ。チケットがどれくらい売れているとか全然教えてくれないんだもの。 後から聞いたら、そのほうがお前たちは団結するって、まぁそれはそうかもしれないけれど、やっぱり意地悪だよね。女の子を泣かせていたんだし。 そしてそんな不安は全くの杞憂だった。ツアーは初日からまさかの満員御礼。 これはこれで逆に今まで見たことのないファンの多さに私たちはガッチガチに固まっちゃったんだけどね。 でも、いざ最初の曲が始まってみれば、そんな緊張とは裏腹にレッスンの成果が私たちを自然に導いてくれて、いつもよりも声は遠くまで広がって 楽しいって気持ちだけが私たちの中でいっぱいになった。 ツアー初日の最中のことは今ではよく覚えていない。ただ覚えているのはずっとすごくハイになっていたって記憶だけ。 ライブが終わっても楽屋で、ホテルに戻ってからもみんなで同じ部屋に集まって、次の日のことも考えず寝ちゃうまでずっとはしゃいで笑いあってた。 「あー、そっかー……」 私、生きたいんだ。もう一度、FLOWERSのみんなとプロデューサーといっしょにライブしたいんだ。 @
755 :彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ ◆John.ZZqWo :2013/04/25(木) 22:44:40 ID:/TmkW4..0 「サバイバルしなくっちゃね」 砂を払って立ち上がり、まずは火の確認。……うん、うっかり寝ちゃったけど、がんばって起こした火はまだ残ってる。 寝る前、島を一周して戻ってきた私はまずランチをいただくために火を起こすことにした。 特訓するぞって半分冗談で集めた知識がこんなところで役に立つんだから人生はわからないっていうか、あの時ちひろさん聞いてたのかな……? ともかく、まずは砂浜を掘ってくぼみを作り、そこに広い集めた石を敷き詰めた。 そしてこれも拾い集めた細かい枝やなんかをそこに敷いて、更に少し迷ったけどありったけのメモ用紙を雑巾みたいに絞って、そこに並べる。 それで固形燃料を少し取ってマッチを一本使って火をつけた。 で、ここからが肝心なんだ。私はちろちろとした火が大きくなるまで何もせずにじーっと待った。じっとね。 火が燃えやすいものから燃えにくいものへ、小さな破片から大きな破片へと少しずつ移っていくのを辛抱強く(しろと本に書いてあったので)待った。 それから、火が大きくなってきたらその火を壊さないように砂浜で見つけた流木を薪として足していったんだ。 今、私の目の前ではその薪の端っこが赤くなって小さいけど確かな火となって燃えている。 「とりあえず放っておいても大丈夫かな」 ちなみにランチは午前中に採ってきたアカガイだったよ。バケツに海水を汲んで火の上で煮てみたんだけど、これがまたしょっぱーくてね。 やっぱり真水を使っておけば……というのはできあがった頃には後の祭りで、でもそれなりにおいしくもあったかな? なにより、元からある食料には手をつけなかったからサバイバルとしては大きな前進だよっ! (金平糖は舐めたけどね) その後、砂浜に寝転がって……よく覚えてないけどそのまま寝ちゃったのかな。 「そうだ。放送……」 だから、放送を待っていたはずで、でも結果として聞き逃していたので、気づいた私は急いで端末のスイッチを入れた。 「………………………………」 放送の内容はいいことと悪いことが半分ずつ。いいこととも悪いことともとれることがひとつずつ。 ひとつは――真っ先に確認した禁止エリアのこと。 とりあえずは私と関係ないところだったのでセーフだ。もしここがひとつめの禁止エリアに指定されていたら、私はさっきの夢を見ながら死んでいたことになる。 そして、もうひとつは8人という死者の数。 前回よりかは減ったけれど8人という死者の数は多いよ。みんなまだ殺しあいをしている。だから私の目的が達成されるまではまだ遠い。 でも、多いけれど減ってはいる。きっとこれからはもっと減るだろう。だから私の目的が達成されるまでに近づいたのかもしれない。 どっちが正しいのかはわからないけれど、ただ、今はこんなことを考えるのがちょっとだけ虚しいかな。 「及川さん死んじゃった……」 画面に並ぶ死者の名前をひとつずつ見て、つぶやく。 及川雫。実家が酪農家をしていて、私たちFLOWERSの4人は番組でそこに行ったことがある。 彼女は少し不思議な人だったな。作業服を着てる時は完全に酪農家の娘なのに、アイドル衣装に袖を通すと途端に目を離せないアイドルになる。 極端な二面性が、すごく自然に共存しているアイドルっぽくないのにアイドルでしかない不思議な人だった。 番組でいっしょになったことがあるのは彼女だけじゃない。周子ちゃんや、前の放送で呼ばれたナナちゃんもだ。 それだけでなく、仕事がいっしょになったとか関係なく仲良くしている子はいっぱいいるし、親しくない子でも同じ事務所なんだから仲間意識はある。 みんな同じ事務所の同じアイドルで、大輪を飾るひとつひとつの花で、――そしてこれからもひとつひとつと枯れ落ちていくんだ。 そして最後の花だけが残って、そんなものが残ることに意味があるの? その花は強くてもきっと悲しい花だ。だって、その花は自分以外の全ての花が枯れてしまったと知っているんだから。 今回も、FLOWERSからは誰も死者はでなかった。 もしこのまま藍子ちゃんが最後まで残ったら、彼女はそれでも笑うと思う。でもその心には悲しみが押し込まれている。 高森藍子という花は今もここで悲しみという水を根から吸い上げているんだ。だから、例え花が咲いたとしてもその花の色は悲しみの色になるんだよ。 そんな花を作ることにどんな意味があるの? 私はないと思う。いや、認めない。私たちは悲しみで咲く花じゃない。 だから絶ち切るんだ。 どれだけ願ってもこれは終わっていく途中で、その終わりの後に悲しいひとりを残さないために、叫びたいくらいに悲しいけれど、私は――…… 「さぁって、次の放送まではとりあえずセーフだし。夕ご飯のために釣りでもしようかなっ!」
756 :彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ ◆John.ZZqWo :2013/04/25(木) 22:44:55 ID:/TmkW4..0 【G-7 大きい方の島/一日目 午後】 【相葉夕美】 【装備:ライフジャケット】 【所持品:基本支給品一式、双眼鏡、ゴムボート、空気ポンプ、オールx2本 支給品の食料(乾パン一袋、金平糖少量、とりめしの缶詰(大)、缶切り、箸、水のボトル500ml.x3本(少量消費)) 固形燃料(微量消費)、マッチ4本、水のボトル2l.x1本、 救命バック(救急箱、包帯、絆創膏、消毒液、針と糸、ビタミンなどサプリメント各種、胃腸薬や熱さましなどの薬) 釣竿、釣り用の餌、自作したナイフっぽいもの、ビニール傘、ブリキのバケツ、アカガイ(まだまだある?)】 【状態:疲労(小)】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ。万が一最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する。 0:とりあえず釣りでもしようかなっ! 1:サバイバルを続行っ! ※金平糖は一度の食事で2個だけ! ※自分が配置されたことには意図が隠されていると考えています。(もしかしてサバイバル特訓するって言ったから?)
757 : ◆John.ZZqWo :2013/04/25(木) 22:46:03 ID:/TmkW4..0 以上で投下終了です。 続けて、 大石泉、姫川友紀、川島瑞樹、三村かな子 の4人で予約します。
758 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/25(木) 23:12:18 ID:Te9vecCA0 投下お疲れ様です。 ・差しのべてTenderness なかなか最初の一歩を踏み出せないネネちゃん。 そして踏み込むことの出来ない藍子ちゃん。 もどかしい二人の距離ですが、果たしてどうなっていくか。 この重苦しい状況だけに簡単にはいかないような…… ・バベルの果て 凛ちゃんは完全に始動した感じ。 彼女が信じる絆の先にあるものを是非見てみたいです。 それと向かった先にあるのは水族館。 これは……全く展開が予想出来ないですね。 ・彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ 夕美ちゃんの視点から語られる在りし日のFLOWERS。 ここまでは一貫して諦観と言った態度ですが、その心の奥では…… 更にここでも某事務員の影が、一体何の意図があるのでしょうか。 しかしなんというか完全にサバイバルが板に付いてきた感がw さて、輿水幸子、星輝子を予約します。
759 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/26(金) 01:01:15 ID:.orYZ.vs0 皆様投下乙です!予約も続々……なんかやっばい予約もありますね…… >バベルの果て 美嘉の言葉がここで彼女を支えるのか……! でれらじを拾ってくるとは流石ですねぇ。盲点だった。 そして上手く繋いで……行き先は波乱の水族館!ますますカオスになりますね…! >彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ サバイバルが最早プロレベルにてきぱきしてらっしゃいません……?w しかしその裏には輝かしい過去と悲しい今。私も書きましたが、やっぱり楽しかったあの頃っていうのは、キツいですねぇ 前々から思ってたけど、このままだと彼女キツくて、やばいんだよなぁ……救える人がいつか表れるのだろうか では、私は十時愛梨を予約します
760 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/26(金) 21:43:49 ID:.yiobADc0 >嘘 これは……素晴らしい。GJです。 嘘がバレるか? バレないか? の二択と考えがちな状況で、まさかの第三の選択肢・『押し通す』。 それに至った背景、それが押し通せた背景も素晴らしい説得力で示され、文句なしの傑作です。 寂しさの残る余韻も透明感があって見事。ほんとうにみんな、これからどうするんだろう……! >差しのべてTenderness この幻覚は怖い。ネネさんかなり追い詰められてるなー 藍子の側も、その自覚があるのが余計に辛い……理想が高いからこその苦しさだよなぁ 藍子が勘付いてるネネさんの秘密(携帯電話の存在)など、この先が気になりますね >バベルの果て ラジオかー! いやまた面白いモノを持ってきたものです 疑心暗鬼を一蹴する思い出の一言。 倒れていった子らも、人の心に残るアイドルだったんだなぁと再確認させられる良いお話です。 >彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ フラワーズの活動していた頃の思い出。 あまりに輝いていたからこその、今の諦観が改めて悲しい。 しかし火を起こすの上手ですなーw ところで野暮なツッコミになりますが、フラワーズって結成してから確か半年程だったのでは……? ちょっとそこだけ気になりました。 さて、私も、小日向美穂、日野茜、以上2名予約します。
761 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/26(金) 21:44:21 ID:.yiobADc0 っと一行目抜けてた、改めて皆さん、投下乙です!
762 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/27(土) 00:29:56 ID:frv8kbrg0 皆さん灯花おつです! まずは感想から。 >彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ 相葉ちゃんがフラワーズの皆を思ってるのが解っていいなあ。 だからこそ、こんなに絶望して。 そして、死を望みながら生きることを望んで。 せつないなぁ、うん。 次に訂正ですが、バベルの果ての現在位置を 【D-7・水族館/一日目 日中】 を【D-7・水族館付近/一日目 日中】 に訂正します。 最後に、五十嵐響子、緒方智絵里で予約します。
763 : ◆John.ZZqWo :2013/04/27(土) 00:33:02 ID:Alpgnpsg0 予約ラッシュですねー。勢いがあるのはいいこと。>>760 >ところで野暮なツッコミになりますが、フラワーズって結成してから確か半年程だったのでは……? 確かに……w 次の投下の前に該当部分を修正したものを出します。
764 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:26:36 ID:FnBU1Owc0 予約分、投下します
765 :悪魔のささやき ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:27:32 ID:FnBU1Owc0 何かを望むなら、代価が必要。 供物が多ければ多いほど、得られるものは、大きい。 これは、普遍的な真実だ。 「ドリンク、いかがですか?」 * * * 「移籍……ですか?」 その日、事務所でプロデューサーとの合流待ちをしていた小日向美穂は、予想外の言葉に首を傾げた。 ソファの向かい側の席にいたのは、既に馴染みの事務員の1人。 黄緑の制服も眩しい、千川ちひろだった。 それぞれの前には、湯気を立てるマグカップ。 これを持ってきたということは、ちょっと腰を据えて話したい事があるということなのだろう。 そこに来て、この単語。 強張った表情を隠しきれない美穂に、ちひろは落ち着いて、とばかりに微笑んで見せる。 「あ、今すぐって訳じゃないですよ。 というか、別に具体的な話があるって訳じゃないんです。 それに、美穂ちゃんだけに限った話でもなくって…… そうですね、これは所属アイドルに対する、ちょっとした意識調査みたいなもの、と思って下さい」 「はぁ…………」 一瞬身構えてしまった美穂は、溜息のような声を漏らして肩の力を抜く。 そんな美穂に、ちひろは自分の分のコーヒーで唇を湿らせ、言葉をつづける。 「それで、美穂ちゃん。 もしこの先、なんらかのお話があったとして―― 『小日向美穂が欲しい』、という人が現れたとして。 プロダクションの移籍や、プロダクションはウチのままでも、担当プロデューサーの変更とか。 受けるつもりって、どれくらいあります?」 「ない……です……」 言葉は消え入りがちだったが、迷いなく即答だった。 少し上目づかいにちひろの顔をうかがいながらも、はっきりと言い切る。 「わたしは、今のプロデューサーさんのお蔭で、今の自分があると思っています。 まだまだ学ぶことは沢山ありますし、とても、移籍とか考えられないっていうか……正直、イヤです」 「イヤ、ですか……うーん……」 ちひろは少し思案する素振りを見せる。 騒々しい事務所の一室、遠くで電話が鳴り、誰かがそれを取る。 電話越しに何か話している。 自分たち2人の話を気にしている者はいない。 考え込むちひろの沈黙に、美穂も不安になってくる。 「あ、あのっ……! こ、これって、プロデューサーさんがわたしのこと要らないとか、そういうことじゃ、ないんですよね?」 「ええ、そういうことじゃないんですよ。 ただ事務所全体で、ちょっと所属アイドルの再編も考えるような時期でして…… ほら、プロデューサーさんごとに、担当してる子の人数ってずいぶんと違うじゃないですか」 確かにそうだ。 同時に10人ほどの面倒を見てる人もいれば、ほとんど一人のアイドルにつきっきりの人もいる。 もちろんアイドルごとに事情は大きく異なるから、ある程度の差がつくのは当然でもあるのだが…… それでも、どうしても歪みというのは出てくる。 そして歪みは、何らかの形で直していく必要がある。 今まで、我が身に起こる話として考えたことはなかったけれども。 別の事務所への移籍は極端としても。 担当プロデューサーの変更くらいなら、美穂もすでに何例か見聞きしている、そう珍しくもない話だった。 「美穂ちゃんのところは、まあ、平均的ではあるんですけど…… 他のプロデューサーの調整の関係で、影響を受ける可能性がありますから。 こう、玉突き式に、ね。 それでこうして余裕のあるうちに、ちょっと聞いておこうってだけなんです。 もちろん、美穂ちゃんの意志を無視して無理やり進めることはありません。そこは信じて下さい」 「そういうことですか」
766 :悪魔のささやき ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:28:23 ID:FnBU1Owc0 懇切丁寧な説明に、美穂はホッと安堵の溜息を吐く。 どうやら、切羽詰まった話でも、断り切れない話でもないようだ。 ちひろが断ったように、あくまで、意識調査くらいの位置づけの話。 なら――心配することはなさそうだ。 デビュー以来、ずっと美穂を支えてくれたプロデューサー。 さきほどは『まだまだ学ぶことは沢山ある』と言ったが、それを抜きにしても、離れたくはない。 恋する乙女として。 1人の女の子として。 小日向美穂には、今のプロデューサー以外、ちょっと考えられない。 そんな美穂の心中をよそに、ちひろは一口コーヒーをすすると、軽く小首を傾げてみせた。 「ただ……美穂ちゃんは本当に、今のままが一番いいんでしょうか。 事務所としては、その辺も気になっちゃうんですよ」 「それって――どういう、意味ですか」 「『小日向美穂』というアイドルは、『もっと上』を目指せる逸材なんじゃないか、って話です」 「え」 思わず声が掠れる。 しかしちひろは微笑みを崩さない。さらに畳みかけてくる。 「例えばそう、美穂ちゃんは、素質としてならFLOWERSの高森藍子ちゃんにも匹敵すると思っています。 もちろん方向性は、少し違いますけどね」 「そんな……言い過ぎです」 たった半年ほどでスターダムに駆け登った、4人組アイドルグループのリーダー格。 シンデレラガール・十時愛梨とも並ぶほどの存在感を放つ、この事務所の出世頭の片割れ。 急にそんな大物と並べられて、美穂は戸惑う。 喜びよりも先に、困惑が来る。 「確かに美穂ちゃんの今のプロデューサーさんは、良いお仕事をしてくれています。 特にデビュー前後の働きは、たぶん、彼ほど上手くやれる人はそういなかったんじゃないでしょうか。 でも―― そろそろ経験豊富な別の人に、バトンタッチしてもいいのかな? って。 ドラマや演劇の方面に強いベテランの方は、何人もいらっしゃいます。 美穂ちゃんさえその気なら、担当になりたいって人はいくらでも手を挙げるでしょう。 きっと、選び放題ですよ?」 「…………」 ちひろの言葉に、美穂は下唇を噛んでうつむいた。 美穂とはそう年齢の離れていない、彼女のプロデューサー。 この業界では、まだまだ若手の部類。 まだまだ、経験不足。 ドラマに演劇にと活躍の場を広げつつある小日向美穂を、扱いきれなくなってきているのは否定しきれない。 彼のためにと頑張れば頑張るほど、彼の負担になりかねないという矛盾に、突き当りつつある。 彼のお蔭でここまで来れた。 彼への恩返しとして、一緒にさらなる高みに行けたらいいな、とも思っていた。 けれど、千川ちひろは、さらなる高みを目指すためには彼では足りないと言う。難しいと言う。 数多のアイドルとプロデューサーを間近で見てきた事務員の言葉は、重い。 「さっき名前を挙げた、高森藍子ちゃんですけど…… 彼女も実は、大ブレイクしたのは担当のプロデューサーさんが替わってからなんです。 FLOWERSになる前を知る人は、あまりいませんけどね」 「…………」 「そういう例を、何度も見ているから――だから、つい、こんなことを言っちゃう訳ですけど」 しばしの沈黙。 事務所の喧騒が、どこか遠いもののような気がする。 美穂は両手で自分のカップを抱えるようにして、しばし悩んだ末に口を開く。 「……それでもわたしは、今のプロデューサーさん以外、今は考えられません。 あの人を裏切って、わたしだけ先に進みたくは――ありません」 「『裏切る』ってのは違うと思うんですけど……。 うーん、そうですねぇ。これは、『恋』みたいなものと思って下さい」 「――恋?」
767 :悪魔のささやき ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:28:56 ID:FnBU1Owc0 ちひろの唐突な言葉に、美穂は心臓を鷲掴みにされた気がして、顔を挙げる。 まさかとは思うが、自分の秘めている感情を見透かされているのだろうか? しかし、ちひろの表情に変化はない。 ちひろの表情からは、その真意が読めない。 相変わらずの調子のまま、ちひろは自説を披露する。 「そう、恋です。 人は誰でも恋をしますし、でも、初恋が叶うことって正直、稀です。残酷なことですけどね。 けれど、人は失恋を乗り越え、何度でも恋をします。 何度でも、恋ができます。 それって別に初恋を『裏切った』とかいう話じゃないですよね?」 「…………」 「女の子には『幸せになる権利』があって、だから何度でも恋ができるように…… お仕事上の関係も、何度だって移り変わっていいんです。 手続きさえちゃんと踏めば、別に不義理なことじゃないんです。 初恋の思い出は、それはそれで大事にして構わないんです。 むしろ、初恋のドキドキを覚えていればこそ、次の恋ができるんです。 同じように、最初の志があればこそ、アイドルだって頑張れるんです。 例えば藍子ちゃんだって、最初のプロデューサーさんとも、関係をこじらせたりしてません。 会えば挨拶もしてますし、ちょっとした立ち話くらいはしてますよ。 ただし――」 そこで彼女は一旦言葉を区切って、美穂の目を見つめ直して言い切った。 「ただし。 それはあくまで『幸せになりたいと願うなら』―― つまり、『アイドルとして高みを目指したいと願うなら』、という条件付きですけどね」 ニッコリ笑って、ちひろはマグカップ片手に立ち上がる。 彼女の視線を追えば、そこには事務所の扉を開ける、美穂の「今の」プロデューサーの姿。待ち人の姿。 ちひろは呆然とする美穂に向けて、悪戯っぽく微笑んだ。 「あ、今の話は彼にはナイショですよ。変なこと吹き込むな、って怒られちゃいますから。 それから、別に今すぐでなくても構いません。どれだけ先でも構いません。 ほんとうに、どんな状況になってからでも、構いません。 でも、もしも『その気』になったなら、いつでも声をかけて下さいね。 ぜったい、美穂ちゃんに悪いようにはしませんから!」 邪気の欠片も見えない、いつもの笑顔。 その笑顔が、逆に美穂には辛かった。 * * * 千川ちひろとそんな会話を交わした、その翌日。 小日向美穂は、道明寺歌鈴と腕を組んで楽しそうに歩く、自らのプロデューサーの姿を目撃することになる。 それが大体、一週間ほども前のことだった。 * * * 「――――ッ!!」 声にならない悲鳴を上げて、小日向美穂は跳ね起きた。 脂汗を滲ませながら、周囲をあわてて見回す。 周囲を取り巻く、円形のレンガの壁。 高いところにある、ドーム状の屋根。 広く空虚な空間には、牧草の1本も落ちてはいない。 そして……すぐ傍には、さっきまでの自分と同様、寝ている者が1人と1匹。 大の字になって小さなイビキを立てている日野茜と。 足を曲げて床に腹をつけ、ウトウトと大きな鼻ちょうちんを膨らませている、ブリッツェンだった。
768 :悪魔のささやき ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:29:53 ID:FnBU1Owc0 ようやくにして、小日向美穂の記憶が現実に追い付いてくる。 そう、ここはサイロだ。牧場で見かけた一番手近な建物。 ふわふわの牧草のベッドを期待して入ってみたはいいけれど、中身はまったくの空っぽ。 実はこの種の塔型のサイロ、入れるにも出すにも手間だということで、最近はあまり使われないのだが。 頑丈過ぎて壊すのも手間、あればあったで観光用にもなると、放置したり転用したりといった例も多いのだが。 そんな事情を知らない2人(と一匹)は、大いに落胆した。 しかし2人とも、いい加減に疲れ果てていたのは事実。 遠くに見える別の建物まで、また歩いていく気力もない。 ひとまず日差しは避けられるし、次の放送の時間も近いし、ココで少し休んで、放送を聞いてから考えよう。 そう茜が提案し、共に床に腰を下ろしたところまでは覚えている。 どうやら、自覚以上に疲れ切っていた2人は、ついそのまま眠ってしまっていたらしい。 硬い床に寝ていたせいか、身体のあちこちが痛い。 茜もブリッツェンも、良く寝ていられるな、と美穂は呆れる。 というかブリッツェンはなんでこう一緒についてきてるんだろう。付き合う義理もなかろうに。 溜息をつきつつ、とりあえず美穂は時計を確認する。 ……どうやら、少し寝過ごしたようだ。放送を聞きのがしてしまった。 重要事項は後から確認できるはずだから、まだいいにしても…… あんなイヤな夢を見てしまったのも、きっと、放送のせいだ。 寝ている間に聞いた音が夢の内容を左右してしまうような、たぶんそんな感じの―― 「あ……。 ゆ、夢……?」 そう――あれは夢。 過去のワンシーンを再現した、リアルな夢。 すっかり忘れていた記憶。 無意識のうちに封印していた会話。 翌日に見た親友と想い人の逢瀬の衝撃が強すぎて、深層意識によるブロック機構が働いていたのだろうか。 だって、あの時のちひろの誘いは。 2人の恋仲に気づいてしまった時点で、まったくその意味が変わってくる種類のものだったから―― 今更ながらに、美穂の身体が震える。 恋の話。 女の子には幸せになる権利があるということ。 初恋が実ることなんて稀だということ。 次の恋を探すことは、決して初恋を裏切ることではないということ。 むしろ初恋のトキメキを知っていればこそ、次の恋もできるのだということ。 移籍の話。 美穂にはさらなる高みを目指せるだけの素質があること。 残念ながら、経験不足な彼の下ではこれ以上を望むのは厳しいということ。 担当を換えることで、さらなる先に進める可能性が十分にあること。 他ならぬFLOWERSの高森藍子こそ、その良い実例であること。 美穂さえ望むなら、ちひろたち事務所はそのバックアップを買って出るということ。 それは、つまり―― 「わ、わたしに、『諦めろ』、っていうんですか――!? この気持ちを諦めて、それで代わりに、夢を掴め、って――!」 そして、さらに重ねて、この悪趣味なイベントだ。 高森藍子のような強さが美穂にないことは、嫌でも思い知らされてしまった。 塩見周子の救助待ち戦略がいかに頼りないものかは、彼女の命をもって示されてしまった。 なら、他に取れる道といったら――?!
769 :悪魔のささやき ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:31:00 ID:FnBU1Owc0 「…………ッ!」 全て分かってしまった。 ポケットの中に入っている、強力で使いやすい毒薬の意味。 それが自分に――自分のように、誰からも無害と思われがちな印象の者に渡された意味。 それは千川ちひろからの、無言のメッセージ。 あの恋を諦めろ。 失恋を受け入れて、夢を選び取れ。 あらゆる手段を尽くして、己の意志を示してみろ。 首尾よく生き延びた暁には、ちひろたちは、小日向美穂の栄光を、全力をもってサポートし保障してみせる。 「あ……悪魔ッ……!」 それはまさしく、悪魔のささやき。 弱った心に忍び寄る、誘惑者の声。 条件が整った時に初めて効果を表す、遅効性の猛毒。 何より恐ろしいのは――それがあまりに、魅力的に聞こえてしまうこと。 もう自分の初恋には望みがない。 美穂だってそれくらいのことは勘付いている。 最悪の想像ではあるが、仮にこの場で歌鈴が「居なくなった」としても、彼は美穂を振り返らないだろう。 彼の傷ついた心につけこむような真似は、美穂だって望むところではない。 ならば美穂は彼の全てを諦めるしかないのか。 彼との出会い、彼と過ごした日々の全てが無価値だったと認めるしかないのか。 違う。 恋は実らずとも、彼と共に見た夢は、まだ、手が届く可能性が残されている。 アイドルとして成功する夢。 さらなる高みへと登っていく夢。 美穂を見出した彼の眼力が、美穂を育て上げた彼の実力が、正しかったと証明する夢。 彼の手元を離れたとしても、彼のことを肯定できる、そんな道。 そしてちひろは、それが可能だと断言する。 数々のスーパーアイドルを育て上げた事務所の実績をもって、不可能ではないと太鼓判を押す。 美穂がそれを望むのならば、今よりも高いところに連れていけると言い切ってみせる。 悪魔は決して、安易な嘘はつかない。 そこに悪意はあるかもしれない。 邪な意図もあるかもしれない。 けれど、契約だけは、何があっても裏切らない。 「…………ッ!」 美穂は両手で自分の身体を抱きしめる。 言いようのない寒気に、襲われる。 すぐ傍には、いまだに呑気に寝息を立て続ける、日野茜とブリッツェン。 枕替わりにしていた荷物の中には、鋭い草刈り鎌。 それはきっと、すごく簡単なコトだ。 あるいは血を見るのがイヤなら、ポケットの中の毒薬を使ってもいいだろう。 この状況下、目が覚めたら軽く食事でもしよう、という提案はそれほど不自然なものではないはずだ。 「わ、わたし、は……っ!」 言葉が出ない。 思考がまとまらない。 思わず、ごくり、と唾をのみ込む。 夢と現の狭間で、確かに聞いた気がする千川ちひろの言葉が、耳の中でリフレインする。 『 それが例え人殺しでも、私は歓迎します! 』 『 自分が信じる“希望”を持って、強く生きなさい。』 小日向美穂の瞳が、揺れる。
770 :悪魔のささやき ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:31:23 ID:FnBU1Owc0 【G-6・牧場、サイロ内/一日目 日中】 【小日向美穂】 【装備:防護メット、防刃ベスト】 【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌、毒薬の小瓶】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:…………。 1:…………。 2:藍子の考えに嫌悪感。 【日野茜】 【装備:竹箒】 【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】 【状態:健康、熟睡中】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いには乗らない! 0:美穂をどう励ますべきなのかが、わからない。 1:あの高い建物(サイロ)で休む 2:他の希望を持ったアイドルを探す。 3:その後藍子に連絡を取る。 4:熱血=ロック! ※2人のすぐ傍では、ブリッツェンも眠っています。 ※2人とも、眠っていて放送を聞きのがしました。禁止エリアや死亡者リストもまだ確認していません。 夢うつつの間に、断片的にその内容を聞いている可能性はあります。
771 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:31:43 ID:FnBU1Owc0 以上、投下終了です。
772 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/04/27(土) 20:38:55 ID:FnBU1Owc0 っと失礼、日野茜の状態表の、行動方針の欄を以下のように修正します。 【思考・行動】 基本方針:殺し合いには乗らない! 0:美穂をどう励ますべきなのかが、わからない。 1:他の希望を持ったアイドルを探す。 2:その後藍子に連絡を取る。 3:熱血=ロック! 以上、スレ汚し失礼しました。
773 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/27(土) 23:59:49 ID:b.38G2uM0 毎度毎度、盛大に遅刻してすみません……。 向井拓海、小早川紗枝、松永涼、白坂小梅、投下しますね
774 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:01:25 ID:j9Kb.UMU0 ――その心臓に火を入れろ。 ▼ ▼ ▼ 昼過ぎの太陽が地上に降らす直射光が、路面に三人分の影を落とす。 だが、陰こそ三つでも、そこにいるのは四人。四人分の命が、今もなお道を急いでいる。 額を流れる汗を拭おうともせずに、ただただ前に足を進め続ける向井拓海。 その背に負われ、未だ目覚めることなく、時折苦しげな呻きだけを漏らす松永涼。 自分と拓海、二つのディバッグの重みに耐えながら、時折拓海達に不安げな視線を送る小早川紗枝。 そして一歩遅れて、拓海の木刀をお守りのように胸に抱きながら必死に付いてくる白坂小梅。 目指すべきは北西市街の救急病院。救うべきは重傷を負い気を失ったままの涼。 絶対に死なせはしない。絶望に抗って生きるという覚悟を見せた彼女を、絶対に助けてみせる。 彼女達の決意は固かった。確かな結束があった。だからこそ、行動を躊躇わなかった。 しかし、道のりは遠く、肩には命の重みがのしかかり、足は思うほど早く動いてくれるわけでもなく。 ただ想いだけで、軽々しく状況を覆すようなことができるというわけでもなく……。 ▼ ▼ ▼
775 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:03:33 ID:j9Kb.UMU0 《――それでは、六時間後、また生きていたら、会いましょう》 その最後のフレーズが、未だに頭の中で反響している。 二度目の放送が八人の死を告げてからどれだけの時間が経っただろうか。 ろくに時計を確認する余裕もないまま機械的に一歩を踏み出し続けているせいで、時間の感覚が麻痺している。 いつになったら辿り着くのか、そもそもどこへ向かっているのか。それすら曖昧になりそうなのが恐ろしい。 (ふざけんな、アタシたちは助けるんだ……! それだけは見失ってたまるか!) 拓海は歯を食いしばって、自身の弱い考えを頭から叩き出した。 背中に今もずしりとのしかかる人ひとり分の重みが、拓海達の目的であり現実そのものだ。 拓海におぶられたまま未だ意識を取り戻さない彼女――松永涼が片足を失うこととなった、スーパーマーケットでの一件。 あれからきらりと別れた拓海、紗枝、そして小梅の三人は、涼を救急病院に搬送すべく道を急いでいた。 行きは自分と紗枝と涼、三人の足で歩いたこの道を、今は足を失った涼をおぶって、新たな同行者と共に三人の足で引き返している。 ほんの数時間前までは、こんなことになるなんて思っても見なかった。だが、これは確かに自分達の意志で選んだ道だ。 葛藤はあった。迷いもあった。しかし、この選択に後悔はない。自分達の心に従い、生きるために戦った。その結果だ。その心に嘘はない。 だからこそ、生きるためにあえて苦難の道を選んだ涼に、その魂に報いなければならない。絶対に助けるんだ。絶対に、絶対に…… (……だからなんでそんなこと、自分に言い聞かせてんだよアタシは……!) 拓海は自分自身の考えに舌打ちをした。 本来ならば考えるまでもないことだ。涼を助ける、その目的がぶれることなどありえない。 どうやら思った以上にナーバスになってしまっているのかもしれない。冗談じゃない、そんな向井拓海は願い下げだ。 こんなザマでは、涼にも、小梅にも、そしてずっと行動を共にしてくれている紗枝にも示しが付かないじゃないか。 拓海はその紗枝の横顔をちらりと盗み見た。 最初こそは、いつものはんなりとした口調でまだぎこちない拓海と小梅の間を取り持っていた彼女だが、 今はほとんど言葉を発することなく、ただ黙々と歩みを進めている。 流石に延々と続く道中で話題が枯渇してしまったか? いや、きっとそうではない。 あの放送が、何か紗枝の心に影を落としているのだろう。ほとんど直感だが、拓海はそれが間違っているとは思わなかった。 誰か友人が死んだのかもしれないし、そうではないのかもしれない。少なくとも紗枝から知り合いの話を聞いたことは無い。 ずっと一緒にいるような気がするが、拓海は紗枝のことを思ったよりも知らないということに改めて想い至った。 いつも一歩引いたところから、しかしすぐそばで自分を支え続けてくれた、小柄な体躯に見合わないほどの意志の強さと気丈さを持つ彼女。 そんな紗枝が今も心を痛めているのなら、なんとか支えになってやりたい。 彼女が拓海の側にいてくれているように、拓海も紗枝の背負うものを分かち合いたい。 (とはいえ、あいつがそれを表に出さないっていうのなら、アタシが詮索することじゃねえか……) それは諦めではなく、尊重だった。 少なくとも、この地獄の半日を共に過ごす中で紗枝の人格は理解してきたつもりだし、信頼があるからこそ拓海は踏み込まなかった。 彼女が彼女なりの考えであえて弱さを見せまいとするのなら、今の拓海に出来ることはその気持ちを汲んでやることだけだ。 だから待つ。彼女が自分の内面を打ち明けてくれる時を。もちろんその時まで絶対に死なせたりはしない。 そう思えるぐらいには、拓海にとって紗枝の存在は大きく、そして確かなものになっていた。
776 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:04:08 ID:j9Kb.UMU0 むしろ拓海にとって未知の存在なのは、二人の後を一歩遅れて付いてくる新たな同行者だ。 白坂小梅は、あれ以来ほとんど自分から口を開くことなく、拓海の(正確には拓海が背負う涼の)背中を追いかけている。 紗枝に話しかけられた時はおどおどした口調ながら答えていたが、どうも拓海に対しては萎縮してしまっているのか、 未だに会話は長続きせず、お互いに距離を測りかねている感じがあった。 見た目やイメージで敬遠されるのは正直言って慣れているので別に傷つくわけではないが、いつまで経ってもこれではやりづらい。 その小梅だが、どうも見るたびに顔色が悪くなっているように思える。いや、少なくとも気のせいではない。 もともとあまり活発なタイプではないようだし、この半日の強行軍で疲弊しているのかもしれない。それはあるだろう。 だが、それが全てではない。もっと重大な理由を、拓海は知っている。 紗枝だってそうだ。口数が減っているのは、放送だけが原因ではないのは間違いない。 こちらに向けられる不安げな視線、その頻度が事実を物語っている。 そして、他ならぬ拓海が誰よりもその事実を理解している。 だからこそ、こうして焦りを感じている。焦りだけが、今もなお肥大し続けているのだ。 耳元で規則的に響く荒い吐息が、ジャージに染みこむ脂汗の雫が、気のせいではなく上昇しているように感じる体温が。 それら全てが、拓海達をじわじわと追い詰めている。 そう、それはもはや誰の目にも明らかだった。松永涼の容態は、確実に悪化している。 足一本を失い、ろくに手当ても出来ないままこうして負担の掛かる長距離移動を敢行しているのだ。 客観的に見ても、体調が安定するというほうが自然の摂理から反している。 だが、それでもこうする以外にはどうしようもないのだ。北東市街のドラッグストアは禁止エリアで封じられているし、 有り合わせの物品だけで適切な処置ができるほど拓海たちは医術に長けているわけでもない。 彼女を救うための唯一の選択肢。それが彼女の肉体を消耗させ続けている。 いや、消耗するだけならいい。よくはないが、まだマシと言える。 もしも、この傷跡からバイ菌が入って、何かの感染症に掛かったりしていたら。想像するだに恐ろしい。 そして何よりも恐ろしいのは、そういった悪い想像を打ち破るためにできることが、ただ前に進むだけだということだ。 (仮に病院に辿り着いたとして、涼が保っている保証はねえ……! クソッ、どうする? どうしたらいい!?) 考えたところで答えは出ない。足を動かす以外に術はない。 それがどうしようもなく歯がゆくて、拓海は涼の体重を全身で支えながら目を伏せて歩き続けていた。 「っ……! 向井はん、あれ!」 だから紗枝が突然声を上げるまで、拓海はその施設のことをすっかり忘れていた。 確か前回にここを通った時は、直後に北東市街から立ち上る火の手に気付いたせいでろくに調べないまま通り過ぎたのだ。 印象に残っていないのも、ある意味では当然かもしれない。 真昼間から煌々とネオンをギラつかせている、アメリカンスタイルのありふれたダイナー。 しかしそれは今の拓海たちにとって、砂漠のオアシスも同然だった。
777 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:05:17 ID:j9Kb.UMU0 ▼ ▼ ▼ ボックス席のテーブルの上に、涼の体を横たえる。 サラシで締め付けて止血しただけの痛々しい傷痕が視界に入るが、しかし目を逸らしてもいられない。 ずっと背負い続けていたせいで久々に涼の姿を直接目にした拓海は、思わず呻いた。 「まずいな、こりゃ……」 思った以上に顔色が悪い。呼吸も荒く、どこか不規則にすら感じる。 全身にはびっしりと珠のような汗が浮かび、衣服が肌にぴったりと張り付いてしまっているほどだ。 そのうえ、恐れていた通り、発熱しているのは気のせいではなかった。体力を消費したせいでの一時的なものだと信じたいが。 拓海自身もまた嫌な汗が首元を流れ落ちるのを感じていた。 これは、まずい。担いでいくなんて無理だ。これ以上無理はさせられない。させるわけにはいかない。 「確かにこのまま、病院まで連れて行くわけにはいきまへんなぁ……」 「そ、そんな……! りょ、涼さん、助けるって……!」 拓海と同じことを考えていたであろう紗枝の深刻な声色に、小梅が裏切られたとでも感じたのか悲痛な声を上げる。 だがこれ以上の強行が涼にとってよくないことぐらい小梅にだって分かっているだろう。だからこそ焦っている。 そして焦るだけではどうにもならないからこそ、気持ちだけがぐるぐると回っている。 それは恐らくは紗枝も、また拓海も同じだった。 「見捨てるわけねえだろ。何か、これ以上涼に負担かけねえで済む手を考えねーと……」 「た、助けられる……?」 「助けるさ。こうして目の前にいるヤツの命ぐらい、助けられないなんてことがあるもんかよ……!」 そうだ。考えろ、考えろ、考えろ。 いつも考えるより先に体を動かしてきた自分だが、今だけは頭から動かなきゃいけない時だ。 苦手だからと甘えて、それで片付く問題じゃない。自分の弱点から目を逸らして、仕方ないと言えるわけがない。 拓海は自分のお世辞にも自慢とはいえない脳を叱咤して、打開策を必死に探す。 例えば、そう、目的地を変更するという手がある。 病院に連れてくのを諦めて、このダイナーの備品で介抱するか? そうすれば涼の容態も少なくとも一時的には持ち直すかもしれない。このまま無理な移動をするよりは体に良いだろう。 しかし、それはただのその場凌ぎでしかない。まだ調べてはいないが、あくまで料理屋程度の設備でしかないここでは。 清潔な水ぐらいはふんだんに手に入るだろうが、今よりはまだマシというだけでは心許ないにも程がある。 結局最後に待っているのは、想像したくもないような最悪の結末。 行き先を変えるにしても、この付近の地図には他に施設らしい施設は載っていない。 もっとも全ての建造物が地図に載っているわけではないだろうが、そんなあるかどうかも分からないものを探しにいくなど、 砂漠で古代文明人が落とした針か何かを探すようなもの。それは冒険ではなく、無謀などと呼ばれるものだ。 やはり病院に行かなければ何も始まらない。しかしどうやって涼を連れて行く? 自分の体力には自信があるとはいえ、流石に涼を背負ったまま全力疾走で何キロも走れる自信はない。 認めたくはないが、道のりのちょうど半ばに辿り着いた今でさえかなりの体力を消耗してしまっている。 今以上に移動速度が落ちてしまうだろうことは間違いない。 紗枝に手伝ってもらうという手もなくもないが、二人で担ぐとすると今度は別の問題が立ちはだかってくる。 体格に差がありすぎるのだ。十センチも身長が違えば、左右から支えるだけでも一苦労となってしまう。 そもそも涼の体調があの調子では、運び方如何でどうにかなる問題でもないだろう。
778 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:08:22 ID:j9Kb.UMU0 考えが完全に袋小路に嵌ってきてしまっている。 必要なのはブレイクスルー。この手詰まりの現状を根っこからひっくり返せる何か。 そう、例えば他の移動手段があれば、話は変わってくるのだが……。 俯いて堂々巡りの思考を巡らせる拓海の隣で、紗枝がぽんと掌を打ち合わせた。 「そう言えば、表に車が停めてありはりましたなぁ。あれ、動かないやろか」 「……なんだって?」 紗枝のつぶやきにハッとして、拓海は顔を上げる。 車……そんなものがあっただろうか? 涼を担ぎ込むのに必死で、見落としていたのか? いや、あった、確かにあった。見るからにオンボロでサビだらけの、白い軽トラが。 確か店の脇の駐車場に放置してあったはずだ。あまりに風景に溶け込んでいて逆に見落としていた。 考えもしなかったが、動かせるのだろうか。キーとガソリンさえ入っていれば、あるいは。 もしも動かせるなら……これまでの前提が全てひっくり返る。 すなわち、涼を救うための、ブレイクスルーだ。 「アタシは単車の免許しかもってねえが、単純に動かすだけならできないことはねえだろう。 涼を荷台に載せれば、背負っていくよりは負担をかけずに早く着くだろうし……。 それでも駄目そうなら、アタシだけが病院まで往復して必要なもん取ってくるって手もある……!」 頭の中でピースが音を立ててはまっていく。 調べてみないと分からないが、これこそが今思いつく唯一の打開策だ。 賭けてみるしかない。 駄目なら他の手を考えなければならないが、どちらにしろ確かめなければ動けない。 「ありがとな、紗枝。決まりだ、アタシはあのオンボロが動くかどうか調べてくる。 人ひとりの命が懸かってるんだ。動きそうになきゃ、蹴飛ばしてでも動かしてやるよ」 希望が全身に充足していく感覚。まだ皮算用に終わる可能性もあるとはいえ、価値のある賭けだ。 拓海は腰掛け代わりにしていたテーブルから、弾みをつけて立ち上がった。 「ほな、うちはお昼の用意でもしてきますわ。腹が減っては戦は出来ぬ、言いますからなぁ」 紗枝もまた今後に少なからず希望が見えたのだろう、心なしか固さの取れた表情でそう言う。 拓海は視線を合わせて頷いた。 「ああ、台所は頼んだ。支給の食料じゃあどうも力出そうにねえしな」 「ふふ、なら腕に寄りをかけんとあかんかなぁ」 紗枝が微かに笑うのを見て、拓海は少しだけ安堵した。 彼女には頼りっぱなしだが、あまり根を詰めるところは見たくないから。
779 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:10:43 ID:j9Kb.UMU0 そして、もう一人。 小梅は、所在無さげにおどおどとしながら、何をすべきか図りかねているようだった。 拓海と視線が合うと一瞬びくっと震え、それから縋るような目を向けてきた。 だから、拓海は何か小梅に役割を与えてやろうとした。少なくとも、与えようとした。 そうしようとしたのだ。きっと、何か役目があれば、安心するだろうから。 何かに打ち込んでいれば、不安を忘れられるかもしれないから。 しかし、実際に拓海の口を突いたのは、もっと漠然とした、だけど重みを持った問いかけだった。 「お前は、これからどうしたい?」 なぜ自分の口からそんな言葉が出てきたのかは、拓海自身にもわからなかった。 本当に自分がそう言ったのか、直後にはピンと来なかったほどだ。 今、小梅に適当に指示を与えれば、小梅はその通りに一生懸命頑張るだろう。 小梅とはまだ短い時間だけしか一緒にしていないが、彼女の健気さに関しては漠然と理解していた。 だけど、いや、だからこそ。彼女の一生懸命さを分かっているからこそ。 拓海は、小梅自身の口から、想いを聞きたかったのかもしれない。 彼女が涼のパートナーだというのなら、その想いを彼女の言葉で。 白坂小梅の、本当の意志を。 予期せぬ質問に虚を突かれたのか、小梅はその視線を忙しげに左右に彷徨わせた。 その同年代と比べても明らかに小さい体を小動物のように震わせて、なんと答えるべきか迷いながら。 それでも、最後には拓海の目を見据えて、彼女は―― ▼ ▼ ▼
780 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:11:26 ID:j9Kb.UMU0 まだ、殺し合いなんてホラー映画の中の出来事でしかなかったあの頃。 仕事終わりに事務所で、前から見たかった映画を涼と二人で見た時のことだ。 見たかったとはいっても、小梅自身はもう何度も見たことのある映画。 それでも楽しみで仕方なかったのは、それを初めて涼と一緒に見るからだ。 自分の好きなものを一緒に分かち合ってくれることが、本当に嬉しくて、嬉しくて。 自分をそうやって受け入れてくれる彼女の存在が、小梅にとって本当に幸せで。 だから二人で過ごす時間は、小梅にとって本当に掛け替えのないものだった。 ラストの急転直下のどんでん返しが終わり、スタッフロールに突入したのを見計らって、小梅は席を立った。 涼の方をちらりと見ると、どうも予想外過ぎる結末に放心しているらしい。 小梅のお気に入りの映画だけに、驚いてくれているのは自分のことのように嬉しかった。 既に他の人が帰ってしまい所々電気の消えた廊下をトイレ目指して歩く。 怪談では定番のシチュエーションだが、それだけに小梅には耐性のある状況だ。 特に怖がるでもなくドアを開けて入り、済ますものを済まして外に出る。 だけど、そこにさっきまではいなかったはずの人がいたのには心臓が跳ね上がった。 「ずいぶん遅くまで見てたのね。映画、面白かった?」 千川ちひろ。 彼女こそなんでこんな時間まで事務所に残っていたのだろう。 小梅が知らなかっただけで、いつもこんなに遅くまで仕事しているのだろうか。 そんな疑問が生まれたが口には出さず、小梅はただこくこくと頷いて問いに答えた。 ちひろはそんな小梅を見て微笑み、口を開いた。 「本当に仲がいいのね、涼ちゃんと小梅ちゃん。いつも一緒にいるみたい」 「……? あの、えっと」 言わんとする意味がよく分からない。 なんで今、呼び止めてまでわざわざそんな話をするのだろうか。 確かに涼は今の小梅にとって大事な人で、こういうのをきっと仲がいいというのだと思うけど。 でも、それが一体なんだというのだろう。 しかしそんな不信感は、ちひろの次の言葉で吹き飛んだ。 「――ねえ、小梅ちゃん。もしも、涼ちゃんと離れ離れになるとしたら、小梅ちゃんはどうする?」 「……っ!?」 「もしもある日突然、独りぼっちになっちゃったとしたら。誰も小梅ちゃんを助けてくれないとしたら」
781 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:12:12 ID:j9Kb.UMU0 いつもの温和な雰囲気とはどこか違う口調で、淡々と言葉を口にするちひろ。 その唇から零れた仮定は、小梅にとって恐怖以外の何物でもなかった。 ただの喩え話だと頭の片隅では分かっているのに、それでも考えたくないほど恐ろしい仮定。 「や、やぁっ……やだっ、一人はやだっ、涼さんと離れ離れはやだっ……!」 ホラー映画を見ている時は何ともなかったのに、体がぶるぶると震え、目には涙が滲んでくる。 なんでちひろはそんな酷いことを言うのだろう。 涼さんはずっと一緒にいてくれるはずなのに。そのはず、なのに。 「ごめんね、怖がらせちゃったかしら?」 いつの間にかちひろは元の雰囲気に戻っている。それとも気のせいだったのだろうか。 まだ涙目の小梅に向かって済まなそうな表情を浮かべながら、彼女は最後に一言だけ付け加えた。 「でもね、これだけは覚えておいて。いつか、自分だけでどうするか決めなきゃいけない時が来るってこと。 その時、小梅ちゃんはどうするの? 何を選ぶのか、それとも選べないのか……なんてね」 それから「気をつけて帰ってね」などと大人らしいことをいくつか言って、ちひろは立ち去った。 小梅はしばらく放心したように立ち尽くしていたが、はっと我に返って涼の待つ部屋に戻った。 涼は小梅の青ざめた顔を見て何を勘違いしたか、まだまだ子供だなと笑っていたけれど。 小梅の中では、さっきの言葉がぐるぐると回り続けていた。 とはいえ、次の日からのちひろは今まで通りで、あの日のことは変な夢だったように思えて。 そのうち小梅は、そんなことがあったなんてことは忘れつつあった。 そう、今日までは。 殺し合いの中に投げ出された。 今まで作り物の中だからこそ楽しかった血と死の世界が目の前に広がることに、心の底から恐怖した。 そして、あの日のことを思い出したのだ。 だから本当は涼に助けて欲しくて、守って欲しくて、大事にして欲しくて。 なのに、信じ切れなかった。涼も自分を見捨てるんじゃないか、そう思ってしまった。 ちひろが言う離れ離れになる日が、とうとう来てしまったのかと思った。
782 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:14:54 ID:j9Kb.UMU0 そして、それから。 幾人ものアイドルと、小梅は出会った。 殺そうとするもの。しないもの。アイドルであろうとするもの。その過去を捨てるもの。 小梅の鋭敏な感受性はその中で揉まれ、傷つき、それでも何かを求めて藻掻いて。 それでも必死に、ただ懸命に、ここまで生きてきた。 “……あなたは、もう『アイドル』じゃないみたいね” 銃を構えた大人の女性、小梅はその名を知らないアイドルを捨てたアイドル、和久井留美の姿が浮かぶ。 迷ってばかりの自分に顔色一つ変えず銃口を向けた彼女の、迷いのない視線が頭をよぎる。 “私は、アイドルで在り続ける。だからこそ、いずれ必ず、あなたも笑顔にしてみせます” 穏やかそうな外見に似合わない苛烈なまでの意志を秘めた少女、岡崎泰葉の言葉が蘇る。 最初は恐怖の対象でしかなかった彼女の、しかしその真っ直ぐさは、今なら理解できるかもしれないとぼんやり感じる。 “『誰か』をハッピーにするためにいっしょーけんめーなのが、『アイドル』だにぃ!” 今まで見たことないほど大きくて、そして体だけじゃなく心まで大きく輝いていたアイドル、諸星きらりを思い出す。 アイドルってなんなのか、悩み続けていた小梅に光を与えてくれた。あんな人になれたらいいなと、そう思う。 ――そして。 “……ありがとう、小梅。無事でいてくれて” 松永涼。 彼女は、自分を見捨ててなんかいなかった。その当たり前のことが当たり前であることが、こんなにも嬉しいなんて。 だけど、今までの二人の関係でいちゃいけないということを、小梅は確かに感じていた。 彼女のためにできること。そのために、今、小梅はここにいる。
783 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:19:05 ID:j9Kb.UMU0 この半日間、いろんなことがあった。 目を背けたいこと、逃げ出したいこと、そんなことばかりだった。 怖かった。寂しかった。辛かった。泣いて、泣いて、それでも何も変わらなかった。 だけど、だからこそ、今、自分は変わらなきゃいけない。 小梅は意を決して顔を上げた。 こちらを真っ直ぐに見据える拓海の視線と正面からぶつかって、思わず目を逸らしそうになる。 だけどそんなことはしない。するわけにはいかない。譲れないものが、あるのだから。 口を開く。声を発するのにすら勇気が必要で、小梅はその小さい手のひらをギュッと握り締めた。 そして、心の奥からの、本当の思いを。 「わ、私、今までずっと、涼さんの影に隠れてばっかりで、その、頼ってばっかり、だからっ」 辿々しい口調でしか言えないけれど。そんなにすぐには変われそうにないけど。 自分の意志を言葉にするのが、こんなに難しいことだと感じる自分には、かっこいいことなんて言えそうにないけど。 それでも、どうしても口にしたい言葉がある。 「だけど、私、私は……私は『アイドル』なんです……涼さんと、二人で一人の、アイドル、今までずっと、これからも……!」 『その言葉』を口にした時、微かに声が震えた。 だけど、留美に怯えた時とは違う。泰葉の一途さに応えられなかった頃とは違う。そして、自分を認めてくれたきらりの為にも。 小梅ははっきりと、アイドル、と口にした。そして。 「だから……だから! 私、私は……涼さんの相棒だって、胸を張って言えるようになりたい……! 今度は私が、涼さんを守らなきゃって……そして、絶対、絶対に、二人一緒に……っ!」 それが今の小梅の、本当の願いだった。 いつもこそこそと影に隠れてた自分ではなく、対等に、涼と並んで立ちたい。 まだ何も分からないけど。アイドルとは何か、完全に答えが出たわけではないけれど。 だけど、なりたい自分が、進みたい道が、それだけはおぼろげに見えていた。 拓海は、黙って小梅の話を聞いていた。 そして、おもむろに手を伸ばすと、小梅の髪をくしゃくしゃと撫でた。
784 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:21:12 ID:j9Kb.UMU0 「涼の相棒、か……すまねぇな、アタシ、お前のこと見くびってたかもしれねー。 それだけ言えりゃ十分だ。誰がなんと言おうと、お前は涼の相棒だよ。アタシが保証する」 ぽかんとする小梅ににやりと笑いかけてみせながら、拓海は続ける。 「だったら、涼のそばにいてやってくれ。涼のために出来ること、全部任せるぜ。いいな?」 小梅が頷くのを見ると、拓海は何か布のようなものを広げて、小梅の背に掛けた。 それがいわゆる特攻服というものだということに、小梅は遅れて気がついた。 「景気付けだ。アタシが背負ってきたもの、少しだけ貸してやるよ。血まみれで気持ち悪いかもしれねーけどな」 確かにそれは乾いた血で赤黒く染まっていて、それにそうでなくてもあちこち擦り切れてボロボロで、 それに小柄な小梅とはまるでサイズが合っておらず、袖も裾もだぼだぼになってしまっていたけれど。 だけど、小梅は不快とは思わなかった。拓海の言う、背負ってきたものが、何となく分かった気がしたから。 「き、気持ち悪く、ない、ないです。想い、感じます」 「……そうか。だったら、今度はお前が走る番だ。自分の道が見つかったんならな。 その心臓に火を入れろ。エンジンが掛かったら、あとは脇目振らずに真っ直ぐだ」 「……はいっ」 拓海の言葉を、胸の奥で反復する。 最初は怖い人だと思ったけど、涼が信頼している理由が分かった気がした。。 今度こそ車の様子を見るべく立ち去ろうとする拓海の背中に、小梅は最後に聞きたかったことを投げ掛けた。 「あ、あの……た、拓海さんにとって……アイドルって、なんですか?」 「……さぁな。走り続けりゃ、そのうち見えんだろ」 手をひらひらと振りながら、店内にいやに大きなベルの音を響かせて、拓海は出て行った。 「おっきい人やろ?」 いつの間にそばに立っていた紗枝が、慈しむような目で拓海の出て行ったドアを見る。 小梅が頷くと、一転いたずらっぽい口調で付け足した。 「でも、あれで結構突っ走りがちだったりするんよ?」 「そうなんですか……?」 「ふふっ。放っとけへん人やね」 そう語る紗枝は、本当に拓海のことを信頼しているようで、自分にとっての涼のような人なのかなと思う。 きっと小梅が知らない間に育んできた絆があるのだろう、そう感じる。 「ほな、涼はんのこと、頼みますえ。小梅はんが支えてくれはるんなら、松永はんも安心やろ」 「は、はい、頑張る、頑張ります」 大きく頷く小梅を見て紗枝はもう一度微笑むと、調理場の方へ足を向けた。 立ち去る時に、「周子はんのことで、泣いとる場合やないな……」と呟く声が聞こえた気がした。
785 :KICKSTART MY HEART ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:22:21 ID:j9Kb.UMU0 一人きり、いや涼と二人きりになった小梅は、大きく深呼吸した。 涼は未だに意識を取り戻さず、何からしてあげたらいいか分からないぐらいだ。 自分なんかが満身創痍の涼のためにしてあげられることが本当にあるのか、不安だらけで潰れそうになる。 だけど、守ると決めたから。背負うと決めたから。自分だけの道を、走ると決めたから。 だからもう、怯えてなんていられない。 「ま、まずは……、汗、拭く、拭いてあげないと……!」 小梅はだぼだぼの特攻服の裾を翻らせながら、洗い場に走った。 武器はなく、戦意もなく、今も殺し合いが続く島では場違いとしか言えない姿。 だけど、彼女の本当の戦いは、ここから始まる。 【B-5 ダイナー(駐車場)/一日目 午後】 【向井拓海】 【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)】 【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2】 【状態:全身各所にすり傷】 【思考・行動】 基本方針:生きる。殺さない。助ける。 1:駐車場の軽トラックが動くか確認する 2:軽トラックが動くようなら、涼を助けるための方法を考える 3:引き続き仲間を集める 4:涼を襲った少女(緒方智絵里)の事も気になる ※拓海が調べに行った軽トラックは、046話『彼女たちが選んだファイブデイウイーク』で千夏が発見したものです。 【B-5 ダイナー(店内)/一日目 午後】 【白坂小梅】 【装備:拓海の特攻服(血塗れ、ぶかぶか)】 【所持品:基本支給品一式、USM84スタングレネード2個、不明支給品x0-1】 【状態:背中に裂傷(軽)】 【思考・行動】 基本方針:涼を死なせない 1:涼を介抱し、ずっとそばにいる 2:胸を張って涼の相棒のアイドルだと言えるようになりたい 【小早川紗枝】 【装備:ジャージ(紺)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを救い出して、生きて戻る。 1:ダイナー内を調べて、皆の分の昼食を用意する 2:引き続き仲間を集める 3:少しでも拓海の支えになりたい 4:(周子はん……) 【松永涼】 【装備:イングラムM10(32/32)】 【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】 【状態:全身に打撲、左足損失(サラシで縛って止血)、気絶】 【思考・行動】 基本方針:小梅を護り、生きて帰る。 0:――――― ※放送前よりも消耗しています。 ※千夏がダイナーに仕掛けたベルなどの仕掛けは、そのままになっています。
786 : ◆n7eWlyBA4w :2013/04/28(日) 00:22:39 ID:j9Kb.UMU0 投下終了しました。
787 :名無しさん :2013/04/28(日) 22:51:35 ID:9KVolGFU0 投下乙です 小梅ちゃん、なんて健気なんだ…!涼とまた映画を見ることは出来るんだろうか…… ちひろさんは神出鬼没な悪魔っぷり。もう全員にあらかじめ何か言っててもおかしくないよこれ!
788 :名無しさん :2013/04/28(日) 23:04:23 ID:8UABj.HkO 投下乙です。 小梅のアイドル始動!
789 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/28(日) 23:58:43 ID:dFyUQ7.U0 えー、あろうことか感想を失念していたので後で改めて書かせていただきます申し訳ない。 というわけで、予約分投下します。
790 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:00:06 ID:WTPzNYJU0 ――――それでは、六時間後、また生きていたら、あいましょう。 そんな言葉を残して、放送が終わる。 輿水幸子は座ったまま膝を抱えて、ばんやりとその声を聞いていた。 また新たな禁止エリアが増えて、何人かの人間が死んで。 そのことが恐ろしくもあり、悲しくもあった。 (蘭子さんと……ゆかりさん……) 二人の名前が呼ばれることは当然のことだった。 けれど呼ばれた瞬間、やっぱり身体の震えが止まらなかった。 肌で感じた死が、無機質な何かに決定付けられるようなおぞましい感覚だった。 (死んで、しまった) (あの二人が死ぬことの無かった道が、あったのかもしれないのに……) (それでも、死んでしまった) (少なくとも、蘭子さんは死ななくても済んだはずなんです) (ボクが、逃げたりしなければ……) 事実、幸子すらしっかりしていれば神崎蘭子が命を落とすことはなかったのかもしれない。 分岐点はたった一度きりではなく、二度あった。 一つ目は、不用意な発言で蘭子と決裂してしまったとき。 あのときにすぐ謝っていれば、彼女も立ち去るまではしなかっただろう。 なのに臆病な少女はその怒りを直視することができなかった。 ただ、目を背けてやりすごすことを選んでしまった。 二つ目は、水本ゆかりに危うく殺されそうになったあのとき。 確かに直接救うなんて大それたことは難しかっただろう、それでもチャンスはあった。 せめて銃で牽制を続けていれば、蘭子が異変に気付いたかもしれない。 ゆかりに対して、せめて立ち向かう覚悟を固める時間を稼げたかもしれない。 幸子がもう少し周りを見ることさえ出来ていれば、この状況に早く向き合ってさえいれば。 (ごめんなさい……ごめんなさい……) (もう、救えない、もう、償うこともできない) (こんなボクに、何ができるって言うんですか……) もう涙すらも出てこない。 さっきは自分らしく生きると、そう宣言したはずなのに。 ここから一歩も動ける気がしなかった。 罪悪感が、幸子自身をがんじがらめに縛りつけていた。
791 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:00:42 ID:WTPzNYJU0 罪の意識に縛り付けられた輿水幸子へ、一人の少女が様子を窺っている。 少女の名前は、星輝子。 先程は水本ゆかりの襲撃に立ち向かい、そして相手を殺害することでこれを退けた。 しかし今は、極度の興奮状態がもたらしていた高揚感は嘘のように消え去っている。 それは、単純に自分の行った行動に対して冷静になっただけではない。 (し、死んじゃった……美優さん、まで) また、大切なトモダチを失ってしまったから。 このことが、より死というものの重みを思い出させたから。 自分は人を殺してしまった。 輝子が美優の死を嘆くのと同じように、ゆかりの死を嘆き悲しむ人間はきっと居る。 その気持ちが分かるから、共感できてしまうから。 仇を討った満足感なんて、消え失せてしまった。 (け、けど……後悔はしてない、よ) (だ、大事なトモダチに、あんなヒドイことした、から) けれど、だからこそ、ゆかりが蘭子を殺めたことは許せなかった。 死んでしまえば多くの人間が悲しむというのに、そんな酷いことをするなんて。 自分自身の取った行動がその考えに矛盾していることは分かっている。 だからこそ、それが輝子の偽らざる本音だった。 (幸子……お、落ち込んでる……声、掛けられない、な……) しかしそんなこともあって、今の輝子はすっかり変身?が解けてしまった。 今もこうやって物影からコソコソと観覧車の下を窺うことしか出来ない。 実際のところ、放送が始まる前に余裕をもって合流は出来たはずなのに輝子はそれをしなかった。 逆を言うならばそれは、彼女自身の本質が変化したわけではないという証明でもあった。 (け、けれどこのままじゃ……また危ない人が来るかもしれない) (と、とりあえず仇討ちの報告、しなきゃ) いくつもの強い悲しみを抱えながら、輝子は手元にあるツキヨダケの鉢植えを抱きしめる。 もう、これ以上トモダチを失いたくないから。 だから輝子は、物陰から一歩を踏み出した。
792 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:01:08 ID:WTPzNYJU0 後ろから足音がした時、輿水幸子は少し驚いた。 もう、とっくに見捨てられたものだと思っていたから。 けれど自分はさっきもまた、酷い言葉をぶつけてしまっていて。 だから合わせる顔もなく、俯いたままだった。 「…………ぅ」 流石にこの光景は星輝子にとってもかなりの衝撃だったらしく、息を呑む気配が伝わってきた。 自分の横まで歩いてきて、そしてそこで立ち止まった。 幸子は声をかけられた時どう反応すればいいのだろうと迷っていた。 けれど、その考えは無用だった。 「ら、蘭子……仇討った、よ」 「助けられなくて、ごめん、ね」 「――蘭子。 もう、今更だけど。 こ、こんなことに、意味なんてないって、わ、わかってるけど。 それでも――これで、蘭子のこと、『トモダチ』って呼んで、いいですか――」 そう言って、輝子は寂しそうに笑う。 それが、なによりも幸子の心を抉った。 (ボクさえ……ボクさえ足手まといにならなかったら) (きっと輝子さんも蘭子さんも今頃二人で強く生きてたんだ) (それを……全部台無しにしてしまうなんて) 幸子はとうとう、組んだ腕に顔を突っ伏す。 責められてしまうんじゃないかと、怖くて仕方なかった。 結局何一つ変わらない自分に、少し嫌気が差していた。
793 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:01:38 ID:WTPzNYJU0 「さ、幸子……あの、さ」 「…………!」 とうとう来たか、と思う。 せめて耳だけは塞がずに最後まで聞こう。 それが怒鳴り声だろうと、冷ややかな失望に満ちた声であろうと。 何も出来ない自分の、せめてもの償いなのだから。 「さ、幸子が望むなら、もう私はついていかない、から」 「……え?」 思わず顔をあげて輝子の顔を見る。 その表情は、幸子の想像していたものとはいずれも違うものだった。 普段と変わることのない気弱で、どこかぎこちない笑み。 「どう……して?」 「フヒ……だって、私……人殺した、から」 「それは……」 確かに、許されないことだと思う。 アイドルである以前に、人間として当たり前のことだから。 けれど幸子は、言葉ほど輝子を責めていたわけではなかった。 それは結局、自分の弱さが言わせた八つ当たりに近いものなのだ。 元を辿ればほとんど全てが幸子の招いた結果であり、輝子はその尻拭いをしたに過ぎない。 その結果として殺人を犯したというのは正しい行いではないけれど、 自分にそれを咎める権利があるとも思えないから。 「だから……もう幸子が嫌なら、ぼ、ぼっちに戻ってもいいかなって……」 「あ……」 駄目だ。 それじゃあ、自分は堕ちていくだけだ。 責任を全部他人に押し付けて、ただ悲しむだけ。 それじゃ、駄目なんだ。 だって、その行きつく先にある現実逃避と言う忌まわしい行いの果てに、蘭子は死んでしまったのだから。 ――――また意気地のない自分の所為で大切なファンまで失う、そんなのは嫌だ。
794 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:01:59 ID:WTPzNYJU0 「そんなわけ……ないですっ!」 「えっ……あっ……さち、こ?」 気付いたら輝子を引き寄せて思いきり抱きしめていた。 かなり不意を突かれたらしく、輝子は目を白黒させながらされるがままになっている。 けれど幸子はそんなことも気に留めず、ただ感情のままに叫んだ。 「むしろアナタの方がボクを責めるべきでしょう!?」 「えっ……な、なんで、殺したのは私なの、に」 「原因を作ったのはボクなんですよ!全部ボクが居たから……」 「幸子……」 「ごめん……ごめんなさい……許して……許してぇ……」 枯れてしまったはずの涙が再び溢れてくる。 ただ子供のように輝子に縋って、嗚咽を漏らす。 そうすることしか、出来なかった。 「幸子……それは……違う、よ」 「えぐっ……ううっ……ああっ……」 「だって、あの人に襲われたとき……私だって逃げちゃった、から」 「ひぐっ、うっく」 「だから……お、おあいこ、だよ」 「…………おあい……こ?」 「う、うん、だから悲しいのも……苦しいのも、半分こ」 喪失感も、罪悪感も二人で分け合う。 幸子にとってそれは救いでもあり、思ってもみない提案だった。 けど、不思議と抵抗はない。 だって輝子とはずっと一緒に居たから、信頼できると思えるから。 けれど。 本当にそんなに甘えてしまっていいのだろうかと少し躊躇いがあった。
795 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:02:22 ID:WTPzNYJU0 「輝子さんはっ……それで……いいんですか?」 「べ、別にいい、だって、だって……」 「輝子、さん?」 「私だって……悲しいから……苦しいから……! ら、蘭子が死んじゃって、人を殺しちゃって……! トモダチの美優も居なくなって……! も、もうやだ……幸子まで、居なくなっちゃヤダ……!」 いつのまにか、輝子も泣いていた。 幸子は当たり前のことを忘れていたのを思い出す。 輝子だって、辛いんだ。 一人で抱え込むことなんて出来ない、だから誰かと気持ちを分け合いたい。 そんな簡単なことにすら、気付けなかった。 「だったら……一緒に泣きましょう」 「え……?」 「もうこんな思いをしないように、蘭子さんのことを思って泣くんです!」 「あ……」 「そうすれば……この悲しさも無駄にならないから……きっと蘭子さんも喜んでくれるから……っ!」 「さち、こ……さちこぉ!」 輝子と幸子は抱き合って、声をあげて涙を流す。 救うことの出来なかった少女のために。 それが一番の弔いになると信じて。 異国の地に、こんな風習がある。 大切な人が亡くなってしまったとき、大声で泣き声をあげるのだ。 きっとそれは、死んだ人が寂しくならないように。 絶対にその人を忘れないという気持ちを込めて、最後の別れを告げているのだろう。 そうやって、人の生きてきた時間や想いを背負っていくのだろう。 だから二人は、蘭子のことを絶対に忘れてしまわないように。 彼女の生きてきた時間を無駄にしないためにも。 ただ、力の限り泣き続けた。
796 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:02:41 ID:WTPzNYJU0 それから、しばらくして。 泣き止んだ二人は改めて蘭子に懺悔と報告をした。 それが届くのか、分からないけれど。 今の二人に出来る限りの気持ちだった。 その後、少し迷ったけれど血の河はそのままにしておくことにした。 申し訳ない気持ちはあったが、こういった時の専門的な作法は二人の知識にはなかったから。 だからせめてと思い、原型を留めている部位は二人で拾い集める。 なんとか服を汚さずには済んだが、靴に血が染み込んでしまった。 そして輝子がどこからか見つけてきた緊急搬送用のストレッチャーにそれらを乗せて、運んでいく。 少し前まで居たスタッフ用のエリアの特に誰も立ち入らなそうな部屋まで。 そこに下ろすと、布を被せて誰にも見られないようにした。 「終わった……ね」 「……そう、ですね」 虚しく、物悲しい作業だった。
797 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:03:05 ID:WTPzNYJU0 「しっかし……前から思ってたけどアナタ結構抜け目がないんですね」 「フヒ……こ、この状況なら仕方、ない」 いたたまれなくなったのもあり、二人は休憩スペースまで移動していた。 ようやく少し調子を取り戻した輿水幸子が、腫れぼったい目で呆れたように星輝子を見やった。 輝子の手には、返り血に染まったデイバック。 無論それは輝子のものではなく、蘭子の血であった。 「あのゴンドラが来た時にスッと居なくなったと思ったら、こんなもの持ってきてたんですか」 「ら、蘭子の残したものは……無駄に、したくないから」 「確かに……そうですね」 幸子が吐き気を堪えながら死の河に踏み入っている時、輝子は血染めのゴンドラに向かっていた。 そして、見当たらなかった蘭子のデイバックを回収して今に至る。 「そういえば……ボクもこんなものを見つけましたよ」 「……?そ、それ……首輪?」 「ええ、ほぼ間違いなく、蘭子さんのものでしょうね」 そう言って幸子は首輪を掌に乗せてよく見えるように示した。 いつの間にかポケットに入れていたそれは、幸子にとっては戒めでもあると言う。 だから、これからも持ち歩いていくつもりらしい。 「そ、そういえば……これがこんな風になってるのも、それが原因?」 「それは……蘭子さんの?」 「フヒ……分かんないけど、光、映らなくなった」 「確かに……」 輝子の方も端末を取り出して、差し出す。 持ち主を示していた筈のポインタが、消えてしまっていた。 どうしてだろうと二人は考え込む。 首輪が壊れたのか、端末が壊れたのか、それとも。 「蘭子さんが死んでしまったから、でしょうか」 「く、首から外れたから……かな?」
798 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:03:23 ID:WTPzNYJU0 情報量が少ないだけに、判断が難しかった。 色々と頭を捻った結果、どちらかが故障した可能性と言うのは片方否定された。 流石に地図はちゃんと表示している以上断定は出来ないが、端末が壊れたということはないだろう。 だったら消えた理由があるはずだ。 「いずれにせよ、この首輪が関係してるんでしょうね」 「き、機械に詳しい人が居れば、分かる……かも」 「アイドルで機械の詳しい方なんて……そんなマニアじゃあるまいし」 「け、けど……こ、これがあれば私たちのも外せる、かも」 「……流石に難しいと思いますけど、首輪が無いよりは可能性があるでしょうね」 双方これからどうするかと迷っていたのもあって、この話題は貴重だった。 もしかすると、この首輪が何かの役に立つのかもしれない。 とりあえずは襲い掛かってこなさそうなアイドルを探して慎重にアテを探ろうということになった。 輝子はともかくとして、幸子は機械に詳しいアイドルが居るかについては半信半疑の様子だったけれど。 「って言うか、アナタいつまでそんな恰好してるんですか」 「フヒ……いざという時に備えて、もうこのままでもいい……かな」 「……まあ、それならもう何も言いませんけど」 また襲われるようなことがあるかもしれないからと、輝子の恰好は変身後のままだった。 流石にテンションは既にいつも通りだけど、これなら上げていけないこともないだろう。 と思う輝子であったが、幸子は溜息をつきながら呆れ混じりな様子で苦笑していた。 (よ、良かった……幸子、なんとか元気になってくれた) けどそんな幸子を見ながら、輝子は密かに安堵していた。 物陰に潜んでいたときはもう立ち直れないようにも見えたからだ。 けれど今は気を取り直して、前に進もうとしているように見える。 (これで……ずっと心配しなくても、済んだ、かな) 幸子についていかないと言ったのは、半分嘘だった。 もし拒まれたときは離れるフリをして、こっそり後からつける予定だった。 トモダチを傷つける奴は許せないから。 だからもし誰かに襲われそうになったときは飛び出して庇うつもりだった。 そうせずに済んで、ほっとしている。 だから、これからも守っていきたいと、思う。
799 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:03:50 ID:WTPzNYJU0 「ふう……これで、よしっと」 「フヒ……や、やっぱり、大変だった、ね……」 外に出ようとした二人であったが、まだやらなければいけないことがある。 入口近くのメリーゴーランド付近に、もう一人の少女が居るから。 輿水幸子と星輝子は水本ゆかりの死体をすぐ傍の死角へと運んでいた。 その傍らには場に残っていた刀などの武器や支給品もある。 流石にこちらは五体満足で運ぶには労力が必要で、裏方用のエリアも遠かったからあらかじめ相談済みだった。 そして用意していた布で彼女をすっぽりと覆う。 やっぱり、虚しい気分だった。 「蘭子さんのことはボクも許せませんけど……今はゆっくり眠ってください」 「……幸子と、お、同じ」 二人で、手を合わせる。 手段は認められなくとも、ゆかりとて生き残りたい理由があったのだろう。 だから責めるだけじゃ可哀想だと幸子は思う。 輝子は自分が殺したと言っているけれど、結局は自分も加担したようなものなのだ。 悲しみも苦しみも分け合うのなら、罪も半分負わなければいけない。 今度からは、そう在りたいと思う。 「それじゃあ行きます……っと、ちょっと待っててください」 「え……幸子?」 「……あった……ボクもなんだかんだで、抜け目はないんですよ」 「あ……フヒ……」 輝子を呼び止めて、メリーゴーランドの中へ幸子が入っていく。 少しして出てきた幸子の手には、かつて自らが投げ捨てた拳銃が握られていた。 何もこれを使おうというわけではない。 ただ、万が一誰かが拾ったときにまた悲劇が起こってしまうのは嫌だから。 「さて……それじゃあ今度こそ行きましょうか」 「う、うん……ゴートゥーヘル?」 「ま、まぁ地獄と言えば地獄ですけど……縁起悪いしやめてくださいよ」 グロック26の様子を確認しながら、幸子は顔をしかめる。 二人は今でこそ安全なこの世界を抜け、再び危険へと身を投じる。 輝子は鼓舞するつもりで言ったのだろうが、やっぱり何処かズレていると思った。 そして幸子は、そんな彼女に言わなければいけないことがある。
800 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:04:14 ID:WTPzNYJU0 「……輝子さん、もうアナタに人殺しなんて絶対させません」 「幸子……?」 出入り口の門に差しかかった時、幸子は輝子にそう宣言した。 まず、最初にやるべきことだと思ったから。 「ゆかりさんを殺したのは、ボクの罪でもあるんです」 「そ、それは違う、よ」 「いいえ、だってボク達は悲しみも苦しみも……罪も、半分こなんでしょう?」 「それ……は……」 「ボク自身の罪を重ねないためにも、これ以上殺人なんて繰り返しちゃいけないんです。 だから、もう軽々しいことはしません。 これからは目を背けたりせずに、ちゃんと相手を見極めようと思います。 だから、人を傷つけるのはやめましょう」 「…………うん」 輝子はそう頷いたけど、納得したようには見えない。 今はそれでもいいと思う。 大切なのは、抵抗せざるを得ない状況を避けることだ。 それを自分に言い聞かせるための宣言だった。 (蘭子さん……ゆかりさん……ごめんなさい) (ボクの所為で二人は……死んでしまった) (だけど、このまま嘆いてても何も変わらないんです) (それは、二人の生きてきた時間を無駄にすることだから) (輝子さんと泣いて、やっと気付くことが出来ました) (だから、ボクはボクに出来ることをやろうと思います) まだ支え合ってくれる友が、ファンが居る。 だから、輿水幸子はもう一度立ち上がって、進んでいく。 もう間違えない、もう現実から目を背けたりはしない。 それが、過ちを犯してしまった己への償いだから。
801 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:04:33 ID:WTPzNYJU0 幸子はもう一度だけ、後ろを振り返った。 絶対に、忘れない。 カワイイ自分でいるのと同じくらい、大切なこと。 命を、生きてきた時間を、背負っていくこと。 (……さようなら、またいつか) そして、前を向いた幸子は、もう二度と振り返らなかった。 ――――――歩んでいく二人の姿を、堕天使の少女が少し寂しそうに。 ――――――けれど、とびきりの笑顔で見送っていた、かもしれない。
802 :さようなら、またいつか ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:04:57 ID:WTPzNYJU0 【F-4 遊園地入場門/一日目 日中】 【星輝子】 【装備:鎖鎌、ツキヨタケon鉢植え、コルトガバメント+サプレッサー(5/7)、シカゴタイプライター(0/50)、予備マガジンx4】 【所持品:基本支給品一式×2(片方は血染め)、携帯電話、神崎蘭子の情報端末、 ヘアスプレー缶、100円ライター、メイク道具セット、未確認支給品1〜2】 【状態:健康、いわゆる「特訓後」状態】 【思考・行動】 基本方針:トモダチを守る。トモダチを傷つける奴は許さない……ぞ。 0:幸子が元気になって……良かった。 1:機械に詳しい人……だれかいないかな。 2:マーダーはノーフューチャー! ……それでも幸子が危ないなら、しなくちゃいけないことなら私がするよ。 3:ネネさんからの連絡を待つ。 【輿水幸子】 【装備:グロック26(11/15)】 【所持品:基本支給品一式×1、スタミナドリンク(9本)、神崎蘭子の首輪】 【状態:胸から腹にかけて浅い切傷(手当済み)】 【思考・行動】 基本方針:かわいいボクを貫く。 自分に出来ることをやる。 0:機械に詳しい人を探す……って、ホントに居るんでしょうか? 1:もう輝子さんには、人殺しなんてさせません。 2:今度からは、他の人をちゃんと警戒しましょう。 3:……もう、現実から目を逸らしたりはしませんよ。 ※神崎蘭子の死体の原型を留めている部分は、スタッフ用エリアの部屋に布を被せて安置されています。 なお、集める際に幸子と輝子の靴底に血が染み込んでいてそのままです、そのため遊園地内に靴跡が多少残っています。 ※水本ゆかりの死体と散らばっていた残りの所持品は、メリーゴーランド近くの物陰に蘭子と同じようにして安置されています。
803 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:05:34 ID:WTPzNYJU0 投下終了です、問題なければ後で感想を書かせていただこうと思います
804 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/29(月) 00:22:30 ID:WTPzNYJU0 それでは改めまして、投下お疲れ様です。 ・悪魔のささやき 最早鬼畜という言葉が失礼なくらいの某事務員。 この状況だからこそ、真意に気付いて揺れ動く美穂。 今後どうなるか……ハラハラドキドキで楽しみにしております。 そしてブリッツェン兄貴がいつも通りで凄くほっこり。 ・KICKSTART MY HEART 小梅のハートに火が付いた。 まさにこの一言で表せるくらい静かな熱さを感じました。 この4人組は皆で戦う、と言った意志を感じて本当に少年漫画みたいなワクワク感。 さて車は無事に動くのか、動いたとしたらどうなるか。
805 : ◆John.ZZqWo :2013/04/29(月) 01:08:25 ID:K2sXk0LE0 良作の投下ラッシュ! 乙です! >悪魔のささやき まさに、タイトルどおり。この思いやっている風を装い、そして気づけば悪魔の選択になっているというこれはまさにちひろさんの仕事。 こんな内容を思いついちゃう氏も悪魔ですね! ……そして、小日向ちゃんはどうなるんだろう。けど、なにをどう選んでもその先に平穏はない気がする。 >KICKSTART MY HEART タイトルかっこいい……。そしてこれもタイトルどおりかっこいい話。姉御、またひとり間に合った。 問題は涼のことだけど、うーん……病院は火事になってるし、車が動いたとしても……どうなってしまうのだこれは。 >さようなら、またいつか 幸子と輝子の駄目な子コンビが……! うーん、綺麗! 先の話を書かせてもらったわけだけど、この決着にただ嬉しい。よかった、ふたりともw 前途はずっと大変だと思うけど、この二人なら失敗しながらもなんとか乗り越えていくんじゃないかなって期待したいです。>>760 >>763 指摘されてた件(と誤字脱字)はwikiのほうで修正しましたので報告します。
806 : ◆ncfd/lUROU :2013/04/29(月) 18:47:16 ID:Dmt9F0OI0 皆様投下乙です! そして此方は予約延長させていただきます 感想は投下時に
807 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:37:07 ID:FmizeneY0 >悪魔のささやき 悪魔や! ちひろも、書き手も(ry 揺れる揺れる小日向ちゃん……どうなるかなあ。 どきどきです >KICKSTART MY HEART 姉御カッコイイなあw そして、小梅はやっと歩き出して。 小梅が前を向いてどうなるか。続きが楽しみ。 >さようなら、またいつか 幸子ときのこがいいなあ。 傷つけあって。 それでも、前を向いて。 また向かい合って。いい話でした。 此方も投下しますね
808 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:37:54 ID:FmizeneY0 と、言葉が抜けていた、皆さん投下乙です! 此方も改めて投下しますね
809 :Life Goes On ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:38:41 ID:FmizeneY0 ――――本当の哀しみを知った瞳は、愛に溢れて ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
810 :Life Goes On ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:39:14 ID:FmizeneY0 「居る訳が無いと、思ったけど……実際いないとヘコむわね」 「ふぁいと、です!」 「……貴方も、頑張るのよ?」 「は、はい!」 日が昇りきり、暑くなった昼下がり。 厳かな教会の入り口で、五十嵐響子と緒方智絵里は、やや気落ちした表情を浮かべていた。 バージンロードに、腰を降ろしコンビニで拝借したスポーツドリンクを飲んでいる。 響子達はサイクリングロードを北回りで、回る事にした。 先に行き辛い場所を優先して回ろうと。 自転車は普通に一人乗りを選んだ。 二人乗りを選ぶ事を響子は一瞬考えたが、直ぐに思いなおした。 何故なら、智絵里はいずれ切り捨てる存在なんだから。 切り捨てて、二人乗り自転車乗れないとか馬鹿すぎる。 そう響子は思い、シティサイクル型の自転車を選び、ホテルの教会に向かった。 そして、今に至り、結果として探し人であるナターリアは見つからなかったという。 「流石にあの子でも居ないか……地図に書いてなかったし」 「……次はホテル見ます?」 「そうね……いや、止めましょう」 ペットボトルのドリンクを半分ほどまで飲んだ所で、次に向かう所を決めようとした。 智絵里はホテルを指差し、響子も同意しかけるが、首を振って止める。 その視線の先には、何十階にもなるホテルのビルがあって。 「あそこ全部調べるのはきりが無いし、ナターリアが篭ってるイメージがある?」 「……ないかな」 「でしょう。あそこに誰か篭ってるとしても、地の利的に無理はする必要はない。まずはナターリアよ」 あんなホテルにナターリアは篭ってる訳が無い。 響子はそう核心めいたものがあり、ホテルは探索はしない。 たとえ他の参加者が居たとしても、だ。 ホテルに篭ってる参加者が居るとするなら、それはもう探索した結果、篭っているのだろう。 だとしたら、探索もすんでいない響子達が入っても、不利は否めない。 そう、智絵里に遅れをとった時の様に。 だから、 「ライブステージに向かいましょう……ああいうとこのほうが、ナターリア好きそうだし」 「……確かに」 「……そういうこと、行きましょうか」 そう言って響子は静かに、バージンロードを立ち上がる。 振り返ると、教会が日の光で、輝いていて。 キラキラと光るステンドグラスが綺麗だな、と思う。
811 :Life Goes On ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:39:38 ID:FmizeneY0 大分前、こういうところで。ブライダルショーをやった。 ナターリア、和久井留美、此処には居ない松山久美子と一緒に。 あの時は、各々がウェンディングドレスを着て。 そうして、目一杯輝いていて。 目一杯笑っていて。 「……懐かしいな」 ナターリアは笑って、プロデューサーは皆の嫁だって言っていた。 なんか、可笑しい。笑えてくる。 懐かしくて、ナターリアらしくて。 でも、そんな、ナターリアだから、殺さないといけないのだ。。 「……ナターリア呼ばれてませんでしたね」 「ええ……」 「悪い知らせなのかな?」 「え? なんで? いい知らせの……私達がころさな……え?」 「…………?」 智絵里の悪い知らせという言葉に、響子は反論しようとして。 自分が言おうとしたことが、可笑しい事に気付く。 そうだ、ナターリアが死ねば、プロデューサーが助かる。 だから、呼ばれたほうがいいに決まってる。 なのに、なんで、反論しようとしたのだろう。 なんで、自分で殺さないと、と言わなきゃいけなかったんだろう。 (………………ああ、そっか、『自分で、殺したかったんだ』) そこで、自分の矛盾に気付いて。 自分の答えを、響子は見つける。 あんなにも輝いてるナターリアだから。 大切な友人だったナターリアだから。 誰かに酷い目にあう前に。 ナターリアが苦しむ前に。 早く、自分の手で殺してあげたかったんだ。 それは、狂気でも何でもなく。 全員殺さなければならない中で。 五十嵐響子が親友を思い、恨み。 その中で、見つけた、哀しい答え。 プロデューサーの為。 自分の為。 ナターリアの為。 ストロベリーボムで焼かれたあの二人のような、無残な死を迎える前に。 優しく、哀しく、それでも、穏やかな死を。 五十嵐響子は、無意識の内に望んでいた。 響子は、薄く笑って。 髪を梳いて。 教会を、ずっと見ていた。 あの日の思い出を。 あの時の親友を。 そして、その親友を、殺す事になって。 空を、思わず、見た。 それは、蒼く、儚く、滲んでいた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
812 :Life Goes On ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:40:14 ID:FmizeneY0 「ひっ」 「……雫さん」 そして、やや日が傾いて。 ペットボトルのスポーツドリンクが無くなった頃。 響子達は、ライブステージにたどり着いた。 其処に居たのは、ナターリアではなく、物言わぬ屍になった及川雫だった。 「放送で呼ばれたけど……こんな所で、死んでいたのね」 そう言って、響子は静かに手を合わせる。 どうか安らかに。 そう願うように。 (そういえば、一緒の仕事していたんだっけ……) 響子のその様子に、智絵里はふと思い出す。 そういえば、雫と同じ仕事をしていた筈だ。 雫だけではない、蘭子とも。 確か三船美優もそうだった筈だ。 「先に、人魚姫になって……死んじゃったね」 そう、寂しく呟いていた。 他の人の死に、興味はない。 響子は智絵里に放送の前に言っていた。 実際、放送あった後もなんの反応もしめさなかった。 本当に、興味はないのだろう。 (でも、哀しいんだ……) でも、哀しいと言う感情そのものは、響子は全く否定していなかった。 知ってる人の死は哀しい。当たり前の事。 でも、それに泣いて、立ち止まってる暇はない。 プロデューサーの為に。 彼女は一刻も早く殺していかないといけないのだ。 それが、五十嵐響子が考えた事なのだろうと、智絵里は理解して。 (哀しいな……哀しい……な) 五十嵐響子が、選んだ道が哀しすぎて。 強すぎて、とても哀しく見えてしまう。 傍から見ると狂気しか、見えないだろう。
813 :Life Goes On ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:41:08 ID:FmizeneY0 それでも、響子は本当の自分を見失わないで、戦っている。 プロデューサーの為、自分の為。 護る為に、必死に戦って、殺していく。 それが五十嵐響子の選んだ道なんだ。 「……早く、早く終わらせよう」 「えっ?」 「早く終わらせようって、言っただけよ。この殺し合いをね」 響子はそう、つまらなさそうに言う。 違う、それはつまらないとかそういう感情じゃない。 急ぐとかそういうのじゃない。 これ以上、哀しむのを長引かせたくないから。 哀しみたくないから、早く終わらせたいんだろう。 そうすれば、哀しまなくていいんだから。 なんて、哀しい考えだろう。 「……うん」 けど、何となく、理解も出来て。 そういう響子の考えが痛ましいほどわかって。 でも、それと同時に。 (やっぱり……そういうの、哀しいよ) 哀しい。 そんなの、哀しすぎる。 哀しみの果てまで戦うなんて。 五十嵐響子の一生がそんな哀しいものでいいの? 響子だけじゃない。 ―――アイドル……皆の一生が哀しいものでいいの? よくない。 いい訳が無い。 絶対に駄目だと思う。 こんな哀しいものでいい訳が無いんだ。 じゃあ、どうすればいい? 緒方智絵里はどうすればいい?
814 :Life Goes On ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:41:37 ID:FmizeneY0 (解からない、まだ、解からない) 殺し合いを止めればいい。 そう、言い切れない。 解からない。 何が正しいかなんて、解からない。 今もプロデューサーの命を人質にされている。 その為に、戦ってる。 それは否定したくない、まだ戦わなきゃ。 でも、それと同時に、この殺し合いそのものが哀しい。 哀しくて、憎くて。 まだ、解からない。 「ナターリアは此処に来ると思う? 待つというの手もだけど」 「うーん、でもこのまま此処で待っても」 「そうねえ……どうしようかしら」 ―――でも、智絵里の目には、意志が溢れ始めて。 (哀しい……けどっ!) ―――本当の哀しみを知った瞳は、愛に溢れて。 【B-2 ライブ会場/一日目 午後】 【五十嵐響子】 【装備:ニューナンブM60(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 0:どうしようかしら 1:ナターリアを殺すため、とりあえず自転車を確保し、海辺を一周するサイクリングコースを巡ってみる。 2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。 3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。 4:緒方智絵里は邪魔なら殺す。参加者が半分を切っても殺す。 5:この島の『アイドル』たちに何らかの役割を求められているとしても、そんなこと関係ない。 6:一刻も早く終わらせないと。 【緒方智絵里】 【装備:アイスピック】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。次善策として、同じPの仲間の誰かを生き残らせる。 0:哀しい……でもっ……! 1:今は響子ちゃんの盾となり囮となる。さすがに死ぬ気はないけれど。 2:響子ちゃんと千夏さんは出来る限り最後まで殺したくない。 3:この『殺し合い』そのものが……憎くて、悲しい。
815 :Life Goes On ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 00:42:04 ID:FmizeneY0 投下終了しました。
816 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/30(火) 20:43:21 ID:eV/kJyII0 投下乙……放送明けの良作ラッシュ!勢いの凄い事凄い事…… モバマスロワはがんがんエンジンがかかっていきますね……感想です! >悪魔のささやき 鬼悪魔ちひろがまさか現実のものになろうとは…… まさに繋ぎのお手本みたい、というか、すっごい繋ぎたくなるところですねぇ……! あくまで普通の一般人である美穂ちゃんがこの非常な決断をどうするのか……怖い、怖いなぁ。 どうにでも転がる下地になったわけだけど、どうなるのかなぁ >KICKSTART MY HEART 遂に……ついに小梅ちゃんの覚醒が来たーーーっ! 非情な現実から、一筋の光が見つかって、希望の物語になっていって、そして最後に、今まで揺れていた少女の決意。 物語として綺麗に広がってて、凄く好きです!難しいところであったというところもあって、凄い。 自分の作品がここまで綺麗に繋がれると凄く嬉しいっていうかもう泣けてくるなぁ……!お見事です! >さようなら、またいつか この哀しくて辛すぎて、でも前を向いている仕切り直しの話。 虚しさと、それに伴う読後の爽やかさ…といえるのでしょうか。 あの争いの後をまとめて、そして少女達もぎこちない和解、決意させる。 その心情と風景描写が素敵です。その後の期待も含め、素晴らしいと思いました。 >Life Goes On 響子がそこまでナターリアに固執する理由。 成程、彼女は確かに褒められてものではなくても、ちゃんとナターリアに対する友人としての想いはあるのですね。 彼女が悪くないとは言わないけど、この異常な状況が一番悪いのであって、彼女もまた犠牲者に過ぎない。 そして、その隣で段々と主人公オーラが出てきた智絵里。このチームもまた愛おしくなってきたぞ……! では私も予約分、十時愛梨を投下します。
817 :another passion ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/30(火) 20:44:23 ID:eV/kJyII0 『―――そんな感じで、二回目の放送を始めたいと思いますー!』 頭に、女性の声が響き渡る。 その言葉に、彼女はもはや何の感情もわかない。ただその内容を機械的に認識するだけだった。 そんな事に意識を回せる程の余裕がなくて、山の中で、何も考えられる事もなく彷徨っていた。 『―――自分が信じる“希望”を持って、強く生きなさい』 『希望』。希望とは、なんだろうか。 彼女――十時愛梨が持つ希望とは、何か。 そんなものはもう、ない。自分の持っていた希望は、全て託してしまった。 これ以上考えれば、今度こそ上がってこれなくなりそうだったから。 そこに答えなんてない。そう割り切って、彼女は目的地もないまま惰性で足を動かす。 『今回死んでしまった皆さんは……』 死者の名前が呼ばれていく。 淡々と、最初の放送と何も変わらずに名前が呼ばれていく。 変わったのは、自分自身だ。周りは何も変わっていなくても、自分はこの六時間で変わってしまった。気づいてしまった。 8人の人間が死んだ。アイドルとして輝いていた少女達が、死んだ。 聞いた事の無い名前はなかった。全員が少なからず、名前に聞き覚えのある――それくらい、輝いていた。 でも、死んだアイドルなんてどうでもいい。『希望』を託したあのアイドルが生きている事さえわかれば、それでいい。 彼女がその代わりに感じるのは――死んだ数が少なくなった、という事。 8人、たったの8人。死ぬペースがおおよそ半分も減っている。 まだ、まだこの島には多くのアイドルがいる。まだこの殺し合いは終わらない。 この悪夢は終わらない。命の危機は未だ去らず、そして――まだ手を汚さなければならない。 「…………ッ」 その事実が、彼女に重くのしかかる。この悪夢の時間には、未だ終わりが見えない。 もう自分を騙し続けるのも限界なのではないか。 ギリギリの所で留まった魔法では、誤魔化しきれない自分がいる事を感じていた。 辛い。殺すことが辛い。逃げる事が辛い。ごまかす事が辛い。思い出すのが辛い。考えるのが辛い。 ―――生きるのが、辛い。 いっそ全てを投げ出したいのに、それもできない。するわけにはいかない。 ただ理由も無くそれだけを認識して、いつの間にか放送が終わっていることにも気づかずにふらふらと歩き続けた。
818 :another passion ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/30(火) 20:45:12 ID:eV/kJyII0 「あ…………」 不意に、口から声が漏れる。 行くあてもなくただ足を動かして、気づけば開けた場所にいた。 この山の頂上だろうか。随分と見晴らしが良い。この島のある程度遠くまで見えそうな場所だ。 しかし、そんな光景よりも目を引くようなモノが、そこにあった。 彼女の目の前に広がっていたのは。 「―――――」 凄惨な、生を感じさせない光景だった。 * * * そこで、一体何があったのか。 分かる事は、ここで争いがあって、命が二つ、失われたという事。 「……………」 彼女の直ぐ目の前にあったのは、前のめりになって倒れている人の姿。 その姿に生気は感じられず、広がっている血が死体であることを証明していた。 触らなくても、わかる程に。その現実を確かに証明していた。 十時愛梨は死体を見るのは初めてではない。 むしろ自分が、人を『死体』にしたこともある。慣れたとは言わないが、衝撃はそこまでなかった。 ただ、彼女が死んでいるという事実を淡々と受け入れただけだった。 もう彼女は動かない。決して喋る事も無く、想いを伝えることもない。 それが、そんな単純で当たり前のことが、今の彼女には何か重く感じられた。 死んでしまえば、全てが終わる。ここで何があったのかも、『彼女』は語らない。 だから、もう彼女から伝わる事は無く、故にもう興味もなかった。 愛梨はそれが死体であることを確認して、もう一つある人影の方へと向かう。 「ぁ…………っ」 しかし、その人影が。 奥にあったもう一つの『死体』が。 その姿が、彼女の心に引っかかった。 「………何、で」 その少女も、間違いなく死んでいる。 頭と体を繋ぐ部分には一本の線が通り、繋がっていない事を証明している。 だから、彼女も生きてるはずがない。事実、彼女は死んでいる。 しかし、だからこそ。この彼女の姿が、愛梨の心に引っかかる。 彼女は死んでいる。さっきの死体と同じ、動かないし喋らない。何も、語らない。 この少女は終わってしまった。友人に、大切な人に。どんな想いを持っていたとしても、全てが終わっている。 だというのに、この少女は。何で、なんで、何故、この少女は。 「あなたは………っ」 ―――なんで、あなたは笑っているの?
819 :another passion ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/30(火) 20:46:03 ID:eV/kJyII0 なんでこの少女は、こんな場所で、無残に死んでいるのに。 なんでこの少女は、笑っているのか。 愛梨自身、そんな疑問を持ったこと自体おかしなことだとは分かっていた。 彼女は死んでいる。 だから、『彼女』はここにいない。愛梨の問いには、一切答える事は無い。 何があって、何故彼女がこんな所で死んで、何故笑っているのか。 その疑問は解決されることはない。それは分かっている。だからこそ。 ――生きている自分がこんなにも辛くて、哀しいのに。 彼女の心に渦巻く感情が暴れている。 それがどれだけ醜くて隠したい感情であろうとも、一度出た感情をごまかす事はできない。 アイドルとして、余りにも自分勝手で我が儘な、黒い感情を。 ――死んでいるあなたがなんで、幸せそうに笑っているの? 死んでいる彼女にどんな感情を持とうとも、それは全く意味は無い。 理屈では分かっていても、頭の中には誤魔化しようのない悪意が巡り廻る。 考える事に疲労した頭は、あっという間に感情に支配される。 疑問は怒りに、疑問は嫉妬に、疑問は■■に。 それぞれの形を変えて、認識されていく。 なんで?なんで、何で、何故、どうして、なんで―― 「――――――っ!」 ―――あなたは、死んでいるのにっ!! * * * 朦朧とした、しかし確かな憎悪に満ちた頭に。 余りにも軽い、連続した破裂音が響いた。 「あ…………?」 それが、一体何なのか。すぐには判別できなかった。 「………ぇ……」 腕が痺れている。体が震えている。何故? 「ぁ………あ……っ」 その答えは、目の前にあって。 そこには、さっきまであったはずのモノが無くなっていて。 その代わりに、広がった血と、それに混じる、■■。 「う………あ………!!」 目の前の少女の頭が、無残に破壊されていた。
820 :another passion ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/30(火) 20:46:59 ID:eV/kJyII0 無意識だった。 ただ頭に浮かぶ自分勝手な憎悪と疲労からくる朦朧とした思考が、彼女の行動を勝手に決めてしまっていた。 そして、その結果が、目の前に広がっていく。 「お……うえぇぇぇっ……!!……げ…っ……ゴホッ……ぅ……」 それを理解してしまった瞬間に、体の奥から、のどを通ってせり上がってくる。 彼女はそれを必死で止めようと身をかがめても、その勢いは防げるものではない。 あっという間に通り道を焼き付けながら、嘔吐物が溢れ出していく。 つい先程に補給した消化しきれなかったモノまでまみれて一緒におちる。 べちゃり、と。ぼとり、と。とどまることを知らずに全てが戻されていく。 「はぁっ………はぁ………っ……」 逆流するモノが何回にも渡って彼女の喉を侵して、落ち着いた頃には焼けるように痛みを訴えていた。 そして思考も段々とクリアになっていく。 何故こんな事をしたのか。まったく意味の無い行動を。 弾数を消費するし、音が誰かを引き寄せてしまうかもしれない。 そんな行動を、何故してしまったのか。 おとぎ話では決して語られる事のない、裏の感情。 嫉妬とそれに伴う激情が、その銃弾を放った。 ただ、これ以上自分の内面を見たくなかっただけなのに。 目の前にいた少女が。何かに――願いに、想いに、生に――縛られなくなった、少女が。 許せなかった。 生きている自分が辛くて、哀しくて、壊れてしまいそうで。 だから、死んでいるのに……いや、死んでいるからこそ、彼女の事が許せなかった。 もう、なにも背負わなくても良い彼女のことが、許せなくて……そして、羨ましかった。 全てが終わって、落ち着いて。 憎悪と後悔が入り交じった思考には、しかし最後に一つの結論にたどり着いていた。 (引き金が、引けた) 死体相手だろうと、引き金は引けた。人間を破壊する事はできた。 それは撃てないと思っていた自分自身の大きな一歩であり、まだ『魔法』が続く証だった。 自分自身がどんな意志をもっていようとも、まだ人を殺せる。まだ自分は殺せる。 まだ自分は、生きていける。 そう、理由なんていらない。 死んでしまえば、全てが終わってしまうから。 あの人が何を託したのかはわからなくても、死んだらそこで終わってしまう。 だから、『生きる』。意味や理由なんて知らない。知らなくて良い。考える必要もない。 ただ、彼が与えてくれた言葉だけを胸に生きていく。 希望も絶望も全て託した今、ただそれだけをもって。 それは最初から決めていた事で、そして――決して揺るがない。揺らいではいけない。 (私は、あなたのようにはならない) 目の前の少女は、何も語らない。 それが『死ぬ』という事だ。 何度も実感して、そして改めて認識した事実。 ここで死ぬわけにはいかない。何も残さぬまま、この少女の様になるのは御免だ。 辛くて、哀しくて、楽しくなくても。 ここで立ち止まるわけにはいかないのだから。 それが。 (―――私の) 壊れた少女の、選んだ道だった。 【E-6/一日目 日中】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(0/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:疲労(小)、憔悴】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 1:意味なんてどうだっていい。殺して、生き抜く。 2:死への恐怖。死んでしまえば全てが終わる。だから『生きる』 ※本田未央の死体の頭部が破壊されました
821 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/04/30(火) 20:47:18 ID:eV/kJyII0 投下終了しました
822 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/04/30(火) 22:24:52 ID:T4qgmszE0 投下お疲れ様です、感想はまた後ほど機会がある時に。 というわけで高垣楓、矢口美羽、道明寺歌鈴、南条光、ナターリア、和久井留美、前川みくを予約します。
823 : ◆yX/9K6uV4E :2013/04/30(火) 23:55:50 ID:FmizeneY0 投下乙ですー! ああ、とときん…… 切ないなぁ。笑顔を見て。 そして、壊して、なお生きることに縋って。 彼女の道は……また笑えるのかなあ。 さて、此方も小日向美穂、日野茜、高森藍子、栗原ネネで予約します
824 : ◆ncfd/lUROU :2013/05/01(水) 01:18:39 ID:0EAcbjW60 皆さん投下乙です! ・彼女たちは遠き日のトゥエンティースセンチュリーボーイ 夕美の回想は輝いているからこそ切ないなぁ。 サバイバルっぷりが板についてきているのはいいけれど、それは一人でいるから。 このままだといつか壊れてしまいそうで…… ・悪魔のささやき 鬼! 悪魔! ちひろ! 気づかぬうちに毒を仕込んで、気づいた時には逃れられない。 美穂はその毒を甘受するのか否か。 ・KICKSTART MY HEART 小梅の小さな、けれど力強い宣言。 最初は流されるばかりだった小梅が少しずつ変わっていってたのがよくわかるなぁ。 それでも涼の状況が好転したとは言い難い。これからの小梅の頑張りに期待です。 ・さようなら、またいつか いいコンビだなぁ。掛け値なしに。 状況に振り回されていた感の強い二人が決意を固めて、振り返るのをやめて。 そんな二人を見送る堕天使……綺麗な情景だ。 ・Life Goes On 智絵里もようやく自分の足で歩きはじめた、のかな。 響子も自分の思いをより明確にして。 ナターリアを殺そうとしてるけど、それも友情がたしかにあったからこそなんだなぁ。 ・another passion 死してなお笑う死者が理解できなくて、咄嗟にとった行動から生きる動機を見出したのか。 でもそれは死にたくないから生きるってだけで。 悲しいことだけど、それでもどうやって生きるのかさえわかってなかった頃よりはよくなった…のかなぁ。 そして、こちらも予約分を投下します
825 :今はただ、それだけを ◆ncfd/lUROU :2013/05/01(水) 01:21:40 ID:0EAcbjW60 凛ちゃんを探すと決めた私――島村卯月だったけど、凛ちゃんがどこにいるのかの手がかりなんてなくて。 それでももう山の中にはいないだろうと考えて下山を選んだ私。 何度も木の根に躓いて転んだりもしたけれど、無事に海に面した道にでることが出来ました。 もう日も高く昇り、暖かい春の陽光が私に降り注いでいます。 それは、昨日も一昨日もその前も変わらずにあったもので。 けれども、そんな光がいつもより、どこか眩しく思えてしまって。 私は思わず顔をしかめてしまいました。 『こんにちは、お昼の時間ですね! 』 ノイズ混じりの音声が響き渡ったのは、丁度そのときで。 春のうららかな陽気にはよく合う、だけど殺し合いには場違いな、ちひろさんの明るい声。 下山しているうちに、放送の時間になっていたみたいです。 慌てて名簿と筆記用具を取り出す私の心は、不安と恐怖でいっぱいでした。 凛ちゃんの名前が呼ばれてしまうかもしれない。 凛ちゃんが既に死んでしまっていると、突きつけられてしまうしまうかもしれない。 でも、そんな私の感情など関係ないかのように、放送は進んでいって。 ちひろさんが投げかける言葉も、どこか上の空のまま聞いていて。 そして、死者の発表が始まりました。 一緒にラジオに出ていた美嘉ちゃんの名前が呼ばれました。 未央ちゃんを殺したゆかりちゃんの名前も呼ばれました。 私が見捨ててしまった里美ちゃんの名前も呼ばれました。 他にも、いろんなアイドルの名前が呼ばれました。 けれど、凛ちゃんの名前は呼ばれませんでした。 そうして、禁止エリアを発表して、それから少しお話があって。 放送は、終わりました。 ふーっ、と大きく息を吐いて、私はその場に座り込みました。 凛ちゃんの名前が呼ばれなかったから。凛ちゃんがまだ生きていてくれていたから。 吐いた息はまさしく安堵の溜息で。座り込んだのは安心して力が抜けてしまったからで。 心情が行動に表れて、だからこそ、私はすぐにそのおかしさに気づきました。 だって、八人もの人が死んでしまったのに。その中には私が見捨ててしまった子もいるのに。 それなのに、凛ちゃんが生きていたから、安堵した? でも、だって、そんな、それじゃあ、私は、まるで―― 凛ちゃんの命に比べたら、放送で呼ばれた八人の命なんて重要なことじゃないと――そう、思っているみたいじゃないですか。
826 :今はただ、それだけを ◆ncfd/lUROU :2013/05/01(水) 01:22:09 ID:0EAcbjW60 「――――っ!?」 手に持っていた筆記用具がぽとりと地に落ちて、でもそれに構わず私は、自分の頭に浮かんだその言葉を追いだそうと首を振りました。 それはきっと、傍から見たらいやいやをしている幼子のような有様なんだろうと思います。 自分の思うようにならないことを否定して、駄々をこねる小さな子供。 でも、私はもう高校生で。だから、思うようにならなくても否定できないことがあることぐらい、知っています。 でも、これは違うのだと、否定できることなのだと、そう思いたくて。 それなのに、私の過去は、それを許してくれなくて。 だって、だって、だって。 だって、最初の放送の時、私は美嘉ちゃんのことを気にもしなかったから。 莉嘉ちゃんが死んで一番悲しむのは、美嘉ちゃんなのに。 もしかしたら、それが引き金になって死んじゃうかもしれないのに。 だって、山頂から逃げた後、里美ちゃんの声に気づくまで、私は凛ちゃんのことしか頭になかったから。 山頂に置き去りにしたのは、凛ちゃんだけじゃなかったのに。 私の呼びかけに応えてくれた里美ちゃんと美波ちゃんも、あの場所にはいたのに。 ただ凛ちゃんのことを心配するだけで、美嘉ちゃんのことも、里美ちゃんのことも、美波ちゃんのことも、何一つ考えていなかったから。 無意識であっても、私の中で、たしかに優先順位は存在していたのだから。 私は、認めざるを得ないのです。凛ちゃんの命に比べたら、放送で呼ばれた八人の命なんて重要なことじゃない、そう思っているのだと。 こんなとき、プロデューサーならこう言ってくれるのだと思います。 『誰にだって大切なものはある。それに優劣をつけてしまうのは仕方ないことだ』って。 私も……殺し合いが始まるより前の私も、同じ事を思ったでしょう。思えたでしょう。 でも、初めて人が死ぬ瞬間を見て、目の前で未央ちゃんが死んで、暗闇の中で恐怖と心細さに押しつぶされそうになって、数時間まで話していた美波ちゃんの死体を見て。 そうして命の重さを、その大切さを本当の意味で知ったから。痛いほど実感したから。 だから、その優劣を比べるなんてできません。したくありません。しちゃいけないんです。 なのに。それなのに。私はそれをしてしまったんです。 そんな私は、やっぱり私自身をずるくて汚いとしか思えなくて。 それが嫌で嫌で、でも否定はできなくて。 こんなに汚くなんて、なりたくなかったのに。 私がこんなにずるくなんて、知りたくなかったのに。 なんで、こうなってしまったんでしょうか。 意味のない自問自答を続けるうちに、情けなくなって、涙が出そうになって。 それでもそれを我慢できたのは、きっと山頂で未央ちゃんに元気をもらったからで。 (ごめんね、未央ちゃん。未央ちゃんにもらった元気、こんなことで無駄使いしちゃった) こんなずるくて汚い私でも、『ニュージェネレーションズ』は支えていてくれました。それを壊してしまったのは、私なのに。
827 :今はただ、それだけを ◆ncfd/lUROU :2013/05/01(水) 01:22:58 ID:0EAcbjW60 危険性も考えずに皆が助かることを望んで拡声器を使って、その結果『ニュージェネレーションズ』を壊してしまった私。 きっと、どこまでいっても普通でずるくて汚い私が、皆を助けるという大それたことを望むなんて、間違いだったんです。 未央ちゃんと、美波ちゃんの死はその罰で。 皆を助けたいという思いが間違っていたとは思いたくないけれど。 それでも、多くを望んだ結果大切なものを壊してしまったから。 私にはもう、身の丈に合わないことを望んだりはできません。したくありません。 する資格も、ありません。 それでも、ひとつだけは諦めたくないんです。 多くのことなんて望みません。たったひとつでいいんです。 『ニュージェネレーションズ』だけは望ませてください。 諦めないでいさせてください。 『ニュージェネレーションズ』だけは諦めないということ。 それがどんなことを意味するか、わかっています。 美嘉ちゃん。初めて会った時はちょっと怖い人なのかなって思ったりもしたけれど、話してみれば全然そんなことはなくて。 妹想いの、とっても優しいお姉ちゃんでした。 ラジオをやることになってからは一緒にいる時間も増えて、オススメのショップを教えてもらったりもして。 大切な、大切な友達でした。大好きでした。 (ごめんなさい) 里美ちゃん。ほんわかとした雰囲気の、とっても可愛い女の子でした。 もし話をしたのが殺し合いの中じゃなかったら、きっと友達になれたと思います。 ……なんて、見捨ててしまった私が言えることじゃないけれど。 (ごめんなさい) 美波ちゃん。私とあまり年は離れていないのに、すっごく落ち着いていて。 雰囲気もまさに大人って感じで、あんな風になれたらいいなって思いました。 でも、そんな美波ちゃんを置いて逃げ出したのは、私なんです。 (ごめんなさい) ゆかりちゃん。未央ちゃんを殺した張本人だけど、恨む気にはなれません。 だって、ゆかりちゃんは自分の信じたことのために、自分の信念のままに動いてて。 ゆかりちゃんの言葉に反論できずに逃げ出した私には、その信念を、その行動を否定することなんてできないから。 (ごめんなさい) 私は、『ニュージェネレーションズ』を諦めません。 だから、それ以外――この島にいる、他の皆のことを諦めます。 後悔も、友達も、何もかもを諦めて、『ニュージェネレーションズ』のためだけに行動します。 もし凛ちゃんと誰かが襲われていたら、私は凛ちゃんだけを助けます。 もしここから抜け出す手段がないのなら、きっと私は凛ちゃんと未央ちゃんのために、皆を殺すんだと思います。 だから、ごめんなさい。
828 :今はただ、それだけを ◆ncfd/lUROU :2013/05/01(水) 01:23:20 ID:0EAcbjW60 失ったものは多くて、取り返せないものもいっぱいあって。 ずるくて汚い私に、多くを望む資格なんてないけれど。 それでも『ニュージェネレーションズ』だけは諦めたくないから。 私はただそれだけを願うのです。 凛ちゃんがこの空の下で、笑顔でいてくれることを。 『ニュージェネレーションズ』がまた、笑顔で向き合えることを。 ○ 空を見上げると、やっぱり太陽はまだ眩しくて。 それでも、凛ちゃんがこの空の下にいるとまだ信じられるから、この広い空を嫌いにはなれません。 そんな空に、かすかに、でも間違いなく銃声が響き渡って、それは私がさっきまでいた山頂の方面から聞こえてきて。 だから私は、不安を隠せませんでした。 もし凛ちゃんが、私がそうしたように山頂に戻ってきていたら。ちょうどそこに、別の参加者が居合わせて、その結果が、今の銃声だったなら。 私は―――― 【E-7・道/一日目 日中】 【島村卯月】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、包丁、チョコバー(半分の半分)】 【状態:疲労(大)、失声症、後悔と自己嫌悪に加え体力/精神的な疲労による朦朧】 【思考・行動】 基本方針:『ニュージェネレーション』だけは諦めない。 1:凛ちゃんを探して、未央ちゃんのところに連れて帰る。 2:そうしたらまた三人でいっしょにいたい。 3:歌う資格なんてない……はずなのに、歌えなくなったのが辛い。 4:今の銃声は…… ※上着を脱ぎました(上着は見晴台の本田未央の所にあります)。服が血で汚れています。
829 : ◆ncfd/lUROU :2013/05/01(水) 01:23:49 ID:0EAcbjW60 以上で投下は終了です
830 : ◆ncfd/lUROU :2013/05/01(水) 19:22:59 ID:0EAcbjW60 拙作に修正すべき点があったので報告させて頂きます 本文中に出てくる『ニュージェネレーションズ』を全て『ニュージェネレーション』に修正します
831 : ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:27:46 ID:K5R6K1QQ0 投下開始します。
832 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:28:44 ID:K5R6K1QQ0 「ん〜……、いいお湯♪」 三村かな子はなみなみと湛えられた湯に身体を沈めると、その染み入るような温かさに喜びの声を漏らした。 薄く湯気が立ち上る水面は陽光を跳ね返してきらきらと輝き、とくとくと流れるお湯の音は耳をくすぐる。 身体を自由に、手足を伸ばして首筋まで湯につかると、彼女は繰り返し深く息を吐いてその心地よさに目を細める。 「……極楽、極楽♪」 念願だった温泉の気持ちよさは想像の何倍も上だ。それはまるでこのまま身体が湯の中に全て溶けてしまうのではなかというほどに。 入るまでにあった緊張や感情、今も維持しておかなくてはいけない警戒心。それらも全て流れ出てしまいそうになる。 ああ、ずっとこうしていられればどんなにいいことだろう。 とろけ、そしてそのまま寝入ってしまいそうな自分に気づき、三村かな子はゆっくりと身体を起こした。 「いい景色だなぁ……」 湯船の中で膝立ちになり、そしてどうせ誰も見てはいないのだからと腹をくくると思い切って立ち上がり、露天風呂の縁へと近づく。 山の中腹から突き出した形になる露天風呂からの、それも覗き防止の壁もない男湯から見る眺めは最高のものだった。 空は晴れ渡り緑は鮮やか。視界をさえぎるものは一切なく、山の麓までが一望でき、その向こうにはここからだと玩具のような細かさの遊園地も見える。 とても――とても、殺しあいが行われている舞台だとは思えないのどかさだった。 「…………………………」 露天風呂の縁。少しひんやりとする岩に腰掛け、膝から下だけを湯につけながら三村かな子はそんな風景をただぼうっと見続ける。 この時だけはなにもかもを忘れて。 桜色に火照った肌の上に浮かぶいくつもの透明な雫は山から下りてくる風に冷やされ、彼女の膨らみにそって滴り落ち少しずつ熱を奪っていく。 そんな身体をなぞる気持ちよさだけを感じながら、彼女はただただ視線を遠くにやり、何もかもを忘れて変わらない風景だけを見続けていた。
833 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:29:07 ID:K5R6K1QQ0 @ 「やっとついたねー」 「やっと、じゃありませんよ……」 太陽が真上へと位置する直前。姫川友紀を先頭に、大石泉、川島瑞樹の三人はようやく目的地である学校の前へとたどり着いていた。 北西の市街からかなりの距離を歩き、直前には長い坂道を上ってきた彼女たちの顔には疲労の色と大粒の汗が浮かんでいる。 そして明るく笑う姫川友紀を見る大石泉の目は少しばかり剣呑だ。 「姫川さんが途中で情報端末を落としたりするからこんなにも時間がかかったんじゃないですか」 「あはは……、それは面目ない」 「全く、近道になるはずがとんだ遠回りになっちゃったわね」 胸元を開き手で風を扇ぎ入れながら川島瑞樹が言う。 北西の市街から南の市街まではゆるやかに蛇行する一本の道でつながっているが、なにもそれ以外の場所が歩けないというわけでもない。 道の脇はほとんどが背の低い草原か雑木林だ。「だったらショートカットもできるね!」と提案したのが姫川友紀だった。 そしてその案自体は問題なかったが、方向を誤らないようにと手にしていた情報端末を彼女がどこかに落としてからが大変だった。 なくしてしまえば大きな問題になる。なので彼女たちは足元の見えない草原の中で端末を探し回り、結局は大幅に時間をロスしたのだった。 「だいたい、なんで落としてすぐに気づかないんですか」 「だからさ、それはポケットに入れたつもりだったんだってば」 「まぁ、無事についたんだしそれでよしとしましょう。友紀ちゃんにも悪気があったわけじゃないしね」 実はそのおかげでひとつの危険な遭遇を免れているのだが、しかし彼女たちがそれを知るよしもない。 「いつまでもこんなところに立っていたんじゃ危ないわ。中に入りましょう」 川島瑞樹に促され、彼女と二人は校門を潜りグラウンドを横切って校舎の中へと入っていく。 入ってすぐのそこは大きなロビーになっており、壁に案内図を見つけた三人はそれを見ながら思案しようとする。 だが、そこで急に聞こえてきたノイズに身体がびくりと反応した。 「なにっ!?」 「静かに。放送の時間です」 砂を擦りあわせたような異音を吐いたのはそのロビーにあるスピーカーだった。三人はそれに注視し、流れてくるだろう放送に身構える。 また誰かの名前が呼ばれるだろう。それは仲間であったり親しい人の名前かもしれない。 そしてそれだけではなく、まだ殺しあいをしようとしない者のプロデューサーの名前が呼ばれ、新しいみせしめとなってしまうかもしれない。 もしそんなことになれば? きっといかに自分たちを支える理性や道徳心がか弱いものかと知ることになるだろう。 『――こんにちは、お昼の時間ですね!』 そんな恐怖とは裏腹に、スピーカーから聞こえてきたのはいつものように明るい千川ちひろの声だった。 そして二回目の放送は終わり、スピーカーは最後にノイズを吐いてまた沈黙する。 死者の数は8人。前回よりも半減はしたが、人が8人も死んだとなればやはりあまりにも多すぎる数だ。 「蘭子ちゃん、死んじゃったんだね……」 少し震える声で姫川友紀が言う。 神崎蘭子――今、事務所の中で十時愛梨やFLOWERSと並んで推されていて、それ相応の人気のあるアイドルだ。 彼女の言葉には、言外にそんな事務所にとって大事な子でも死んでしまうのかというニュアンスがあった。 まだ、人気のあるアイドルは最後には保護されるんじゃないか――そんな気持ちがどこかにあったのかもしれない。 「ゆかりちゃんもまだこれからだったのに。それに、仁奈ちゃんみたいな子まで……」 川島瑞樹は沈痛な面持ちで呟く。 キグルミ少女である市原仁奈の愛らしさとあどけなさは事務所の中でも――いや、業界の中でも随一だ。 彼女はどんな風にして死んだのだろうか。しかしそれがどんなものであっても悲痛だと、想像して川島瑞樹は首を振る。 「今回の禁止エリアは、外れた位置にありますね。前回のでは亡くなった方がいるみたいですけど……」 大石泉は冷静な口調で自分らしい発言をする。だがその顔は青ざめていた。 まるで生死を決めるルーレットが自分の周りを回っているような。そんな錯覚を覚える。 いつ死んでもおかしくないということ。いつか死んでしまうということ。死んでいく子がいる中で取り残されること。どれもが怖い。 いっそ考えることを放棄して殺しあいに没頭できればどんなに楽だろうと、そう思えるくらいに。
834 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:29:36 ID:K5R6K1QQ0 「あたしたち、こんなことしてていいのかな?」 不安げな表情で姫川友紀が言う。 「ちひろさんを探したりとかする前に他の子らを探したほうがいいんじゃない……?」 「それは……」 彼女の言葉に大石泉は口ごもる。だが、川島瑞樹は萎縮する二人に対し優しく口を開いた。 「友紀ちゃんは仲間のことが心配なのね」 「それは、勿論そうだけど。そうじゃない子も。……それに、今やってることだって3人じゃできっこないよ。だったら……!」 「ですけど、それは……!」 大石泉は言いかけようとして、姫川友紀の顔を見て口を閉じてしまう。そして彼女の言葉は川島瑞樹が引き継いだ。 「他の子を探すといってもこの広い島だもの。当てもなく探したところでうまくはいかないわ。 だったら、私たちは自分たちでできることをしながら、その途中で誰かと出会えることを期待するしかない。……そうだったわよね?」 姫川友紀は諭す言葉に小さく頷き、そしてもう一度大きく頷いて、それからいつもの表情で顔を上げた。 「うん。そうだった。ごめんね川島さん。それに泉ちゃんも」 「いえ、私は別に……」 「さぁ時間がないなら、私たちが巻きで動くしかないわ。がんばりましょう」 促され、そして三人はまた壁に張られた案内板を見る。 「私たちはあの“教室”を探しにきたわけですが……」 「当たり前だけど、けっこうあるね」 「ひとつずつ当たっていくしかないかしら。手分けして回ればそんなに時間はかからないと思うけれど」 首をかしげながら、腕を組んで、顎に手を当て――と三者三様にポーズを取りながら思案する。 「……あの時、窓の外に地面が見えなかったように覚えています」 「相変わらずすごい冷静さだねぇ」 「じゃあ少なくとも二階以上ということね。だったら上から見て回りましょう」 今度は三人同じように頷くと、ロビーの端から階段を上がり、最上階を目指し始めた。
835 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:29:55 ID:K5R6K1QQ0 @ 「川島さん、さっきはありがとうございました」 「なによあらたまっちゃって」 トイレの中、洗った手をぶらぶらと振って乾かしながら姫川友紀は川島瑞樹に言う。 大石泉は外で見張りをしているのでここにはおらず、彼女たちは二人きりだ。 「いや、なんかあたし暴走しかかってたかなぁって……」 「そんなこと別にいいのよ。私たちは仲間でしょ。それに、あなたにはFLOWERSという大切な仲間もいる。気持ちはわかるわ」 最上階に上ったところで姫川友紀はトイレに行きたいと申し出て、そして、その時に目配せをして川島瑞樹についてきてもらった。 用を足したかったのは嘘ではない。でも、彼女には川島瑞樹に聞きたいことがあったのだ。 「…………“大人”ってなんですか?」 「なぁにそれ。急にどうしたのかしら。らしくないわよ」 しおらしい態度に川島瑞樹は笑う。だがそれは嘲笑ではなくて、気に病むなという意味のこもった優しい笑みだ。 だからこそ姫川友紀はそういうのが大人なんだなと思い。どうすれば自分もそういう大人になれるのかと思う。 そんな姿は、きっと大人からすればとても子供っぽく見えるだろう。 「みんなにしてあげたいことがあるのね」 「うん、具体的なことじゃないけど。あたしも法律で言えば成人だしさ。けっこう事務所の中じゃ上なわけだし……」 「だったらね。なにもしなければいいんじゃないかしら?」 「ええっ!?」 突拍子もない答えに姫川友紀は川島瑞樹の顔を見る。その顔は、変わらず大人の笑みを浮かべたままだ。 「大人って、きっと……受け止められるってことじゃないかしら」 「……受け止める?」 「そう。だからなにもしないの。 子供たちがぶつかってきた時に受け止める。どこかに行ってしまいそうなら止めてあげる。寂しそうなら一緒にいてあげる。 時にはその子が傷つくこともあるかもしれない。でもむやみに危険から遠ざけることもしない。 でも、その後で安心させてあげることができればそれは貴重な経験になる……のかしらね? 私にもまだよくわからないのだけど」 「そっか……、あぁなんだかそれってあたしたちのプロデューサーみたいだ」 姫川友紀は何度も頷く。もやもやとして定まらない“大人”というものが少しずつ形になってきているような気がしていた。 「じゃあ行きましょうか。泉ちゃんが待ってるわ」 「うん、ありがとう川島さん。なんだか私も川島さんみたいなかっこいい大人になれそうな気がしてきた」 「んー、私、本当はかわいいって言われたいのよねぇ……」
836 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:30:14 ID:K5R6K1QQ0 @ 「ゆかりちゃん、死んじゃったんだ……」 食事をとりながら放送を聞いていた三村かな子は、箸を進める手を止めて食堂の天井に取りつけられたスピーカーを見る。 水本ゆかり――清楚でいて凛とした、いつもどこか張りつめた空気を漂わせるアイドル、というよりもむしろ音楽家?というような女の子。 三村かな子は、自分では決してああはなれないだろうという存在である彼女に、かつては憧れを抱いていたりもした。 今は自分らしさを見つけたのでその気持ちは薄らいでいるが、しかし放送で呼ばれたことに反応したのはそれが理由ではない。 「本命……だって、言ってなかったかな……?」 一週間前よりこの島に滞在している三村かな子は、その間に千川ちひろから何度か企画について話を聞いている。 その内容はあくまで三村かな子の役割についてが主で、所謂この企画の肝や真相めいたことについては聞かされていないが、 参加者の名簿を見せられた後、雑談めいた会話の中で水本ゆかりの名前を千川ちひろは何度か口にしていた。 彼女の予想する最終的な生き残り候補の内のひとりで、特に本命、あるいは期待していると、そんなことを聞いた記憶がある。 “敵”として参加する三村かな子はそんな話をかなり微妙な気持ちで聞いていたのだが……。 「…………まぁ、いいか」 事故か偶然か、どっちにしろライバルが減ることはいいことだ。会えば殺しあいになってたのだから、知らないところで死んでくれたていたほうがよほどいい。 三村かな子は止めていた箸を動かし食事を再開する。昼食のメニューは豚のステーキと焼いたロールパン。それとカップのヨーグルトだ。 この旅館の食堂は純和風で、目の前にあるメニューはどれもそれっぽくはなかったが、彼女は栄養と安全性を重視した。 ここには港から運ばれてきた海の幸など、舌を誘惑するものは数多い。 どれもまだ一応は食べれるはずだが生物、特に魚は足が早い。なので三村かな子はそれを避けた。食べるものは全て火を通すようにとも指示されている。 「でも、お寿司も食べたかったなぁ」 向かいのテーブルに乗った空の寿司桶を見て三村かな子は言う。誰かは知らないが、先にここに居た人物が食べていったものらしい。 おそらくはメニューの一番上にある特上寿司。一番大きなお札のいる、普段じゃ中々手の出ない代物だ。 「おいしかったんだろうな……」 空になった寿司桶を見ながら三村かな子はロールパンにかじりつく。少し焼きすぎたパンは苦い味がした。
837 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:30:33 ID:K5R6K1QQ0 @ 「ここに間違いないわね……」 「そうですね……」 学校の最上階にあるとある教室で、川島瑞樹と大石泉の二人はあの惨劇のスタート地点である教室を発見していた。 乱雑に押しのけられた机。そして教卓の前にあけられたスペースには大きな血痕が残っている。 もうすっかり乾いてしまっているが、これはあの時にシンデレラガールのプロデューサーが流した血に間違いない。 「あの時、私たちがいたのはここだったということになるけど……」 言って、川島瑞樹は教室を見回し、大石泉は無言で入念に隅々を観察する。 「直接的な手がかりは残ってないかもしれませんね……」 だがここに残っているのは大きな血痕だけだ。その上に倒れていたプロデューサーの遺体はもちろん、他に手がかりになりそうなものも見つからない。 「まぁ、当然よね。私たちを運ぶ手間を考えてここにしたんでしょうけど、だからこそ足がつくようなものは残さないわよね」 「えぇ……」 落胆してないかというと嘘になる。だが、少なくとも大石泉の推測が当たり、足取りがつながったことに間違いはない。 二人はもう少し丁寧に捜索しようと床に屈み、または机の中を覗きこむ。その時、隣の教室を見に行っていた姫川友紀が声をあげて戻ってきた。 「二人とも! カ、カメラ……じゃなくて、モニター! 隣の部屋にモニターがあるよっ! ……って、なにこの血っ!」 ガタと音を立てて大石泉が立ち上がる。川島瑞樹も同じだ。 姫川友紀の顔を見て、次に互いの顔を見て頷きあうと二人は姫川友紀の案内でその隣の教室へと足早に移動した。 「これは……チェック用の小型モニタね。でも、どうしてこんなものが……?」 隣の教室にあったのは彼女らの期待したほどのものではなく、ただひとつの机の上に小さなモニタが乗っているだけというものだった。 延びたコードは教室のコンセントにつながっている。川島瑞樹がスイッチを入れると黒い画面に別の教室の映像が映った。 「隣の、あの時私たちがいた部屋ですね」 「誰かがあの時の私たちの様子をここで見ていた……」 カメラの位置は高く、教室の隅まで画面の中に収まっている。ここに座っていた何者かはあの時の一部始終をここから見ていたのだ。 「ここに黒幕がいたのかな?」 姫川友紀が言う。惨劇が開始される現場を別室でモニター越しに見る。確かにそれはいかにも黒幕というイメージに違いない。 「かもしれないわね。あるいはこの企画のディレクターみたいな人物か。……泉ちゃんはなにか考えがある?」 「少し、不自然な気がします」 大石泉は机の上に置かれたモニターを見ながら言う。なにが不自然なのか。それはこのモニターの存在自体だった。 「隣の教室は血痕こそ残っていますが綺麗に“掃除”されています。落し物のようなものも見つかりませんでした。 つまり、ここを引き払う際にスタッフはできるだけ痕跡を残さないようにとしたはずなんです」 「なのに、ここにはモニターがひとつ……いや、隣の教室に仕掛けられているカメラとあわせてふたつも残っているわけね」 「これだけ忘れていった……とかはないよね」 「引き払う時にこれも一緒に回収すればよかった。けれど回収されてはおらず、今もここにある。この企画がスタートしても……」 大石泉の視線は動かない。そこに答えがあるのだろうかと、二人もモニターに注目する。 「そう……、ここに座っていた人物はこの企画が始まるまで“ここにいた”んです。だからモニターは回収されなかった」
838 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:30:56 ID:K5R6K1QQ0 @ 食事を終えた三村かな子は、ここに来た本来の目的である装備の整理と保管をロビーにあるフロントの奥で行っていた。 預かった貴重品を保管したり、郵送する荷物を置いておくためのスペースだ。 そこで一度全ての装備を広げ、すぐには使わないものは金庫に、使うものは取り出しやすさを考えてリュックに戻していた。 「これは……やっぱり持っていこう」 悩みに悩んだ末に三村かな子はカットラスを持っていくことにした。 もう、アイドルの顔を奪うということはしないが、無音で、また殺傷力の高いこの剣は非常に有用な武器だ。 “わざわざ千川ちひろがトレーナーの指示で大槻唯に持たせたもの”なのである。 教えられた戦闘スキルもこれがあることを前提にしている以上、ただの感傷で手放すわけにはいかない。 「拳銃は……、こっちにしておこう」 三村かな子は城ヶ崎美嘉の荷物から見つけたコルトSAAを金庫の中に仕舞う。 元から持っていたカーアームズK9とどちらにしようか悩んだが、最終的には小さくて軽いことと慣れていることを優先した。 「あんまり荷物減らないなぁ……」 結局、金庫の中に入ったのは途中で誰かから奪ったものばかりだ。 多すぎるストロベリーボムと殺傷力のない発煙手榴弾。そしてコルトSAAとその弾丸。 リュックの重さは大分減ったが、身軽になったというほどでもない。 「よいしょっと」 改めてリュックを背負いなおすと、三村かな子は最後にもう一度チェックしてから金庫の扉を閉め、そこに鍵をかけた。 @ 「――それって、“悪役”のこと!?」 大石泉の推論に姫川友紀が声をあげる。だが大石泉は素直にそうだとは答えなかった。 「わかりません。“悪役”というのもそもそも仮定の存在なんです。仮定の上に仮定を重ねていくのは危険だと思います」 「そう、ね。あまり見えないものに対して深く考えこんだり決めつけるのは問題だわ」 「……そっか。うん、そうだね」 三人は口を閉ざし、モニターと机を見る。 では、ここに座っていたのは一体何者なんだろうか? それは本当にこの島の中にいるアイドル――“悪役”の少女だったのだろうか。 もしそうだとするならば、その少女はどんな気持ちでこの部屋にいて、このモニターを眺めていたのだろう。 「でも、なんだかかわいそう……」 ひとりだけで部屋に残らされていたなんて、それはまるで居残り授業みたいだなと、姫川友紀は思った。
839 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:31:19 ID:K5R6K1QQ0 @ 結局、血痕のあった教室とその隣のモニターのあった教室ではこれといった手がかりは得られず、三人は探索の手を校内全体に伸ばすことした。 60人のアイドルとそのプロデューサーたち、千川ちひろを始めとする運営スタッフ。あの時、100から200の人間がこの学校の中にいたはずである。 ならばなにも痕跡が残ってないわけがない。そう考えて三人は学校の敷地内を隈なく歩き回る。 スタッフが宿泊や機材置き場に使ったかもしれない講堂。利用したかもしれない食堂。校長室や職員室。それに保健室。 一応と、図書室や理科室なんかも回り、少し躊躇ったものの男子トイレにも入ってみた。 「あんまり人には話せない経験しちゃったわね」 「別になんでもなかった気もするけど」 「……………………」 そして、一通り校内を回り終えた三人は学校の屋上へと上がった。 コンクリートが剥き出しの屋上からグラウンドのほうを見下ろせばそこにうっすらといくつものタイヤの跡が見える。 これは大きな手がかりかと一瞬湧き立つが、しかし校門の外は舗装された道路で、その興奮はまた一瞬で立ち消えた。 「ここにスタッフがいたってことはわかるのにね……」 「今はどこに隠れてるのやら……」 川島瑞樹がため息を吐き、姫川友紀が屋上にぺたんと腰を下ろす。手ごたえのない捜索は彼女たちから活力を奪っていた。 「あー、お腹減ってきたよー」 「確かにそうね。休憩もとってなかったし、次の方針を考えながらここで食事にしましょうか」 言いながら姫川友紀の隣に座ろうとして、川島瑞樹ははたと気づく。 大石泉はどうしたのだろう? 屋上を見渡すと彼女の姿はグラウンド側とは反対の縁にあった。彼女はそこから下を見下ろしてぴたりと動きを止めている。 「そこに、なにかあるの……?」 もしかして、よからぬことを考えているのでは? 川島瑞樹は刺激しないようそっと近づくと彼女の肩に優しく手をのせた。 声は聞こえてなかったのだろう。大石泉はビクリと身体を震わせると驚いた顔で振り返る。 「なにかあったの?」 もう一度、問いかける。すると大石泉は神妙な顔で「ありました」と答えた。 それはなになのか? そこに異変に気づいた姫川友紀も駆けつけてきて、彼女も察すると今度は三人で並んで屋上から下を見下ろした。 「駐車場? どこかおかしい……?」 「車の数が多いわね。ほぼ満車だわ。それにバンばかり。全部がこの学校の先生のものとは考えづらいわね」 「それもあるんですが、あの端に止めてある白いバンを見てください。一見わかりにくいんですが……あれ、“中継車”です」 一度、大石泉を襲った衝撃が残りの二人にも走る。手がかりというにはあまりにもダイレクトなものだった。 駐車場の端に止まっている、他よりも天井の高い白いバン。アンテナは収納されているが、知っている人間ならわかる。あれが中継車だと。 それは、つまり、なにを意味するのか……? 「あの中にスタッフがいるなら捕まえて……」 「駄目です。首輪があることを忘れたんですか? 下手をすれば近づいただけで……」 「泉ちゃんの言うとおりね。無闇に手を出さないほうがいいわ。とはいえ、このまま見逃していいものか……」 三人の身体の中で今までになく心臓が跳ねる。目の前にあるのは千載一遇の機会か、それも最悪の罠なのか……?
840 :彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:31:35 ID:K5R6K1QQ0 @ 装備の整理を終え、また出発する用意を整えた三村かな子だったが、その姿はまだ温泉旅館の中にあった。 入口より一番奥の客間で壁にもたれかかり、スカートより伸びる足を畳の上に投げ出している。 とても疲れていたこと、それに温泉と食事。一度気が緩んだことで彼女は睡魔に襲われ、そして今その歯牙に陥落させられようとしていた。 「せっかくだし、休憩してからいっても…………ん?」 しかし、ゆっくりと下りてきた目蓋を懐から伝わる振動が持ち上げる。なにか、と思うこともない。情報端末に新しいメッセージが届いたのだ。 もしかすれば休もうとしたことに叱責を受けるかもしれない。でも休息もまた必要だと教えられているのだから休んでも悪くはないはず。 そんなことを考えながら三村かな子は端末を取り出してスイッチを入れ、そして表示されていたメッセージに目を見開いた。 画面にはこんなメッセージが表示されていた。 【学校に戻れ】 【3人殺せ】 【F-3・温泉 客間/一日目 日中】 【三村かな子】 【装備:カットラス、US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2 ストロベリー・ボムx3、医療品セット、エナジードリンクx5本、金庫の鍵】 【状態:健康、眠気】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。 0:学校に戻らなきゃ。 1:そのために眠気をとろう(エナジードリンクを飲もう)。 2:もう二度と顔はとらない。 ※【ストロベリー・ボムx8、コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1)】 以上の支給品は温泉旅館の金庫の中に仕舞われています。 【f-3・学校 屋上/一日目 日中】 【大石泉】 【装備:マグナム-Xバトン】 【所持品:基本支給品一式×1、音楽CD『S(mile)ING!』】 【状態:疲労・空腹】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。 0:中継車を調べてみる? しかしそれは危険かもしれない。 1:漁港を調査して、動かせる船を探す。 2:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 3:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 4:かな子のことが気になる。 ※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。 【姫川友紀】 【装備:少年軟式用木製バット】 【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】 【状態:疲労・空腹】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する? 0:中継車に突っ込む? でも首輪を爆破されたらどうしよう? 1:漁港を調査して、動かせる船を探す。 2:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 3:仲間がいけないことを考えていたら止める。 4:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。悪役を……? 5:仲間をアイドルとして護り通す? その為には犠牲を……? ※FLOWERSというグループを、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。 【川島瑞樹】 【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。 0:中継車を調べたほうがいい? でも先に他のことを進めたほうがいいかも。 1:漁港を調査して、動かせる船を探す。 2:その他、脱出のためになる調査や行動をする。 3:大石泉のことを気にかける。 4:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 5:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。 ※千川ちひろとは呑み仲間兼親友です。
841 : ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:31:55 ID:K5R6K1QQ0 以上、投下終了です。
842 : ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 01:53:47 ID:K5R6K1QQ0 そして感想も。 >Life Goes On 放送後は続けて響子の彼女らしさ、それと智絵里の想いが描かれて、彼女たちの魅力が高まってすごくよい感じ。 殺しあいの中で、自覚的な覚悟はあるけど、不意に無意識に出る普段の優しさ……すごくいいです。 しかし、ライブ会場……! これは遂に遭遇しちゃうのか? >another passion 所謂、マーダーという存在が最後まで生き残る為に越えないといけない壁の高さ。やはり、女の子には無理という話ですよね。 壊れた、というよりも壊れるという姿を装うことで楽なほうに逃げたようにも見えるけど、絶望シンデレラが向かうのはどちらなのかなぁ。 >今はただ、それだけを しまうはいい子すぎる。何も悪気があったわけでもなしに、友を失って声を失ってそれなのに謝ってばかりで、ほんとに不憫な子だなぁ。 では、私はGW中は南の島に行って相葉ちゃんの気持ちを考えてくるでごぜーますよ。
843 :名無しさん :2013/05/03(金) 02:15:15 ID:rKjYjtHA0 投下乙です でもあれ? 学校の屋上って唯ちゃんの死亡場所じゃないですか?
844 : ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 03:04:25 ID:K5R6K1QQ0 >>843 その通りですー! ごめんなさい、忘れてました。帰ってきたら修正します。
845 : ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 03:37:03 ID:K5R6K1QQ0 修正できました! >>839 を以下に差し替えます。
846 : ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 03:37:24 ID:K5R6K1QQ0 @ 結局、血痕のあった教室とその隣のモニターのあった教室ではこれといった手がかりは得られず、三人は探索の手を校内全体に伸ばすことした。 60人のアイドルとそのプロデューサーたち、千川ちひろを始めとする運営スタッフ。あの時、100から200の人間がこの学校の中にいたはずである。 ならばなにも痕跡が残ってないわけがない。そう考えて三人は学校の敷地内を隈なく歩き回る。 手始めに向かったのはスタッフが宿泊や機材置き場に使ったかもしれない講堂だ。だが芳しい成果は得られなかった。 次に彼女たちは職員室へと行ってみた。そこにあるFAXやコピー機になにかしらの痕跡やこの企画の真相に迫るヒントがあるかもと思ったのだ。 だがここも空振りだった。隣の校長室も、近くにあった図書室も覗いてみたがこれといった発見はなかった。 そのまま手当たり次第に保健室や理科室、音楽室などを見て回り、しまいには葛藤の末に男子トイレの中まで調べたりもした。 「あんまり人には話せない経験しちゃったわね」 「別になんでもなかった気もするけど」 「……………………」 しかし結局、ここにスタッフがいたというはっきりとした痕跡や、スタッフがどこに消えたのかそれを示すような手がかりは得られなかった。 歩きつかれた三人は今は校舎の一番端にある食堂へと来て、疲れた身体をプラスチックの椅子に預けている。 「ここに大勢のスタッフがいたらしいってことはわかるのにね……」 「どこに隠れたのかなぁ、もう……」 川島瑞樹が溜息を吐き、姫川友紀がテーブルへと突っ伏す。手ごたえのない捜索は彼女たちから確実に活力を奪っていた。 「あー、お腹減ってきたよー」 「確かにそうね。休憩もとってなかったし、次の方針を考えながらここで食事にしましょうか」 言うと、川島瑞樹は背中のリュックを下ろし、中から食べ物を取り出そうとして――そこではたと気づいた。 大石泉はどうしたのだろう? 食堂の中を見渡すと彼女は窓辺に立ち、ぴたりと動きを止めてその窓の外をにらみつけている。 もしかすればなにか発見をしたのか。それともその不穏さはまさかそこに死体でもあるというのか、川島瑞樹は席を立って彼女の傍に向かった。 「そこに、なにかあるの……?」 彼女の反応に穏やかではないものを感じた川島瑞樹は、刺激しないようにとそっと近づくと肩に優しく手をのせる。 声は聞こえていなかったのだろう。大石泉はびくりと身体を震わせると驚いた顔で振り返った。 「なにかあったの?」 もう一度、問いかける。すると大石泉は神妙な顔で「ありました」とだけ答えた。 それはなんなのか? 異変に気づいた姫川友紀も駆けつけてきて、彼女も様子を察すると今度は三人で並んで窓の外を見る。 「駐車場……? どこかおかしいところがある……?」 「……車の数が多いわね。ほぼ満車だわ。それにバンばかりなのも不自然よ。全部がこの学校の先生のものとは考えづらいわね」 「それもあるんですが、あの一番奥に止めてある白いバンを見てください。一見わかりにくいんですが……あれ、“中継車”です」 一度、大石泉を襲った衝撃が残りの二人にも走る。手がかりというにはあまりにもダイレクトなものだった。 駐車場の奥に止まっている、他よりも天井の高い白いバン。アンテナは収納されているが、知っている人間ならわかる。あれは中継車だ。 中継車とは文字通り、電波を中継することで現場からTV局へ映像を送ったり、コンサート会場に曲を送ったりすることができる。 それがここにあるということは、つまり、なにを意味するのか……? 「あの中にスタッフがいるなら捕まえて……」 「駄目です。首輪があることを忘れたんですか? 下手をすれば近づいただけで……」 「泉ちゃんの言うとおりね。無闇に手を出さないほうがいいわ。とはいえ、このまま見逃していいものか……」 三人の身体の中で今までになく心臓が跳ね、様々な選択肢が浮かび交差する。 これは好機なのか、あるいは罠なのか。 もしかすればスタッフと直接接触できるかもしれない。そうでなくとも、調べればどこと通信しているのかはわかるかもしれない。 しかしまだ手を出すには早いかもしれない。もしこれが直接、主催者へとつながるのなら彼らは首輪のスイッチをいれるのを躊躇わないだろう。 あるいは、あのバンはもうすでに用を終え、なにも手がかりは得られないのかもしれないが……。 姫川友紀、大石泉、川島瑞樹――三人が選んだ答えは……?
847 : ◆John.ZZqWo :2013/05/03(金) 03:37:48 ID:K5R6K1QQ0 以上。では改めて行ってきます。
848 :名無しさん :2013/05/03(金) 20:50:29 ID:Xvyu.e9YO 投下乙です。 屋上はまだ調べていないという事ですね。 学校、どうなるのだろうか。
849 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/03(金) 21:38:03 ID:rKjYjtHA0 皆様投下乙です! >KICKSTART MY HEART 小梅ちゃんいいなぁ。今までの蓄積がやっと花開いた感じ。 遅咲きながらも一生懸命に胸張って生きる彼女の姿に目頭も熱く。 しかし涼はどうなるのか……っ!? 軽トラは動くのかっ……!? >さようなら、またいつか 清算して、歩き出す。不器用な2人、妙なとこでちゃっかりしてる2人の、互いを思いやる姿が寂しくも美しい。 とても綺麗な再始動のお話だと思います。 蘭子も、きっと許すよ。うん。 >Life Goes On 丁寧に2人の内面に踏み込んで自覚を深める、そんな心理描写の達人な書き手の面目躍如といった感じのお話。 悲しくない訳ではない響子。悲しみから一歩踏み出そうとしている智絵里。 どちらもこの先に待ち受けるであろう波乱が楽しみな感じです。さてそれぞれどんな結論を出していくのか。 >another passion 痛い……死者の微笑みにすら嫉妬してしまう、その人間らしさが痛々しい。 そして、「それでも動ける」ことに救いを見出してしまうのがさらに痛ましい。 この先も心から血を流し続けながら歩き続けるんだろうなあ、と思える哀しいお話です。いや見事。 >今はただ、それだけを ついに気づいてしまった卯月ちゃん。 誰もが博愛主義者になれる訳ではないとはいえ、この局面この状況でのこの気づきは、実に苦しい。 その苦しみを感じてしまう感性もまた、彼女の魅力なんだろうけども……これもまた、この先が気になります。 >彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) ついに掴んだ主催側の尻尾、ついに指令が下った主催側の猟犬! いやぁ、精緻な描写で良い繋ぎだなーと思っていたらなんという爆弾投下。 血を見ることなくして終わりそうにないけれども、さて、どうなってしまうのだこれはっ。 あ、ちなみに素早い修正乙ですw
850 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/03(金) 21:39:50 ID:rKjYjtHA0 続けて、こちらも。 相川千夏、予約します。
851 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/04(土) 14:46:06 ID:yqZhxyxI0 投下乙です! >今はただ、それだけを しまうー……優しい。けどその優しさが自分を追い詰めてておぉ、もう…… それはPの言うとおり仕方ないこと……というとあれなんですが、そんな思考に追い詰められるのはキツい。 そして銃声が聞こえてしまったかー。アナザーシンデレラとの邂逅、あるのだろうか。 >彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) そしてこちらも……重要なファクターが出てき……うわぁぁぁジョーカーに命令がくだされたーっ!? 確かにこれは爆弾だわ。一体どうなってしまうんだー…… その繋ぎに隠れがちかもわからんですが、何気に頭脳のいずみんと大人の川島さん、そして悩む友紀。それぞれやっぱり魅力的だなぁ では、私は北条加蓮と神谷奈緒を予約します。
852 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:17:31 ID:YIMQB.vA0 予約分、投下します。
853 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:18:25 ID:YIMQB.vA0 * * * ――選び出した衣装は、ちょうどサイズがピッタリ合った。 背中に手を回して、ファスナーを上げる。胸元のボタンは飾りの役目しか果たさぬフェイク。 続けて、黒の長手袋を両腕に。 左手にきつく巻かれた包帯が隠れ、一見しただけでは分からなくなる。 最後に鏡の前で、くるりと一回り。 うん、完璧。 スリットから大胆に覗く、黒のガーターベルトとストッキング。 肘上までを覆う、これも黒一色の長手袋。 そして、身体にぴっちりフィットした、袖なしの薄ピンク色のチャイナドレス。 自分で言うのも何だけども、この私、相川千夏に似合ったコーディネートと言えるでしょうね。 まぁ…… 洋風・中華風の違いはあれど、いつかの桜祭りの時の衣装の再現な訳で、似合わない訳がない。 ほんと、こんな業界に首を突っ込んでいなければ、こんな服とは一生縁が無かったことでしょう。 そういえば、チャイナドレスって和製英語よね。 確か、英語ではマンダリン・ガウン。直訳するなら「高級官僚のガウン」。 もしくは……う〜ん、ちょっと思い出せない。 もう1つ、中国語の響きをそのままアルファベットに置き換えた呼び方があったはずだけど。 中国関係は、ちょっと専門外。咄嗟に出てこない。 まあただ、ここまでスリットが深いのは日本独自のアレンジだとも聞くし、やはりチャイナドレスで正しいのかしら。 「初めて着たけど、意外と動きやすいわね……。 騎馬民族の乗馬服由来の服。流石といったところね」 靴も地味に、ヒールが低めのものを選択。動きやすいってのは大事なこと。 特に、こんな状況においては。 それにしても――この島の観光協会。 こんなステキな服を着たコンパニオンに、こんなセンスの悪いビラを配らせるつもりだったのかしら。 私は着替えに使ったロッカーを閉めながら、視線を近くのテーブルに向ける。 そこに積まれていたのは、ちょっとした紙の山。 『 屋台通り名物! 海鮮・島ラーメン! 』 売りたい商品は分かるわ。 小エビに海藻にイカの切り身に、これは貝とかも入ってるのかしらね。 ともかく具だくさんで野菜もたっぷりの、あんかけ風のラーメン。 味の方向性としては、長崎チャンポンに近い感じなのかしら。 この島で取れた新鮮な魚介類がいっぱい! という売り文句だけど…… 写真が悪い。 構図が素人くさい。 キャッチコピーが凡庸。 どんな具材が入っているのか分かりにくい。 正直、呑気な観光客としてこの島に来ていたとしても、私はコレは選ばないわ。 大量に印刷してチャイナドレスのお姉さんに配らせたところで、このビラじゃあ効果は薄かったでしょうね。 「放送まで、あとわずか、か……。 当面の用事は済んだけど、このまま軽く腹ごしらえをしておくべきかしらね」 海鮮島ラーメンは御免だけども。 屋台通りというだけあって、探せばきっと食べられるものが見つかることでしょう。
854 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:19:11 ID:YIMQB.vA0 * * * スーパーマーケットを素早く離れた後。 私、相川千夏は、地図の上で『屋台通り』と記されているあたりに足を向けることにした。 本当はもっと物理的な距離を稼ぎたかった。 もっと遠くに離れたかった。 例えば一足跳びに北東の灯台あたりに至れる手段があったのなら、喜んでそうしていただろう。 しかし。 いくつかの要因が、私にこの妥協を選ばせた。 1つ目。 左手に負った傷のこと。 血による偽装のために自分でつけた傷だったけれど、少し深すぎたらしい。 痛みはさほどでもなかったが、じわじわと血がしみ続けてなかなか止まらない。 家庭用の救急箱程度でも構わないので、とにかく早急に、きっちり手を打っておく必要があった。 2つ目。 これは1つ目に含めてしまっても良いのかもしれないが。 その左手からの血が、慌てる中で自分の服にもついてしまっていた。 血痕というのは遠目にも目立つもの。 不意打ちなどの余地を残すためにも、綺麗な服に早めに着替えなければならない。 3つ目。 血痕の問題を抜きにしても、あのスーパーマーケットで、私は一瞬ではあるが姿を見られている。 個人識別ができるほどの情報を与えたつもりはないけれども、それでも、パッと見の印象というのは残るもの。 こちらだって、3名中2名がジャージ姿であったことくらいは分かっているのだ。 あの3人が生き残るとも、生き残った上で再会するとも思わなかったけれど…… それでも、一見したときの印象は変えておいた方が無難だろう。 4つ目。 時間の問題。 放送までに残されていた時間が、ちょっと微妙だった。 できれば放送までには、傷と服の問題をなんとかしておきたい。 そう考えると、遠方まで足を延ばす余裕は、ほとんどなかった。 加えて、この屋台通り。1つの利点がある。 それは、なかば禁止エリアに飲み込まれた場所だということ。 地図の上でもほぼ境界線上。 より厳密に言えば、東西に走る通りの東半分ほどは立ち入り不可能な領域となっている。 おそらく、好き好んで人が集まる場所ではない。 おそらく、あえて近づこうとする場所ではない。 待ち合わせ場所としても、拠点としても、もう少し安心感のある場所を選びたくなるのが人情というもの。 スーパーマーケットから見て、物理的な距離は近くとも、心理的な距離としては「遠い」場所。 これが、あの戦場を脱出した時点での、私の見立てだった。
855 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:19:41 ID:YIMQB.vA0 そして……現地に到着した私が見た街並みは。 第一印象を率直に言うなら、「中途半端な町おこしを試みて失敗した田舎町」、だった。 屋台通り、という名前を見た時点で、何パターンかあり方を想像していたけれど…… 予測した中でも、ちょっと正直、がっかりする光景ではあった。 大雑把に言えば―― 飲食店を中心に構成された商店街を、恒久的な歩行者天国にして。 丸テーブルと椅子、パラソルをいくつも並べて、食事のできるスペースを路上にしつらえ。 そこに面したいくつもの店舗が、通りに向けて間口を広げて、テイクアウトメニューなどを提供している。 あとは、申し訳程度に、ちらほらと屋台の姿も。 中華料理に定食屋に、海鮮丼にハンバーガー。 屋台の方では、ホットドッグに焼きそば、たこ焼き、アイスクリームなど。 食べ物以外では、貝殻のネックレスを売る屋台あり、安っぽいゲームコーナーあり。ガチャガチャが並ぶ一角もある。 たぶん、好きな店で好きなメニューを頼み、みんなで路上のテーブルを囲むのが想定された使い方なのでしょうね。 フードコートと似た形態。 通りに向けてお盆の返却口が設置されている店もあるので、出来立てアツアツの丼や皿なども持ち出せるんでしょう。 天気にさえ恵まれていれば、悪くない発想だと言える。 ただ、それにしても。 「それにしたって……全般的にセンスなさすぎでしょう……」 思わずため息が漏れる。 そう。 あちこちに立っているのぼりといい、張られているポスターといい、並んでる店といい…… 見るからに、イマイチ。 どこか、活気に欠けた印象を受ける。 日に焼けて黄ばみかけた、白いテーブルと椅子。古びたパラソル。 やる気のなさそうな店舗。 色あせたのぼり。 無駄に溢れる手作り感。 都会のオープンカフェのセンスを求めるのは酷にしたって……あまりにも、酷いと思ってしまう。 「どうも、古い商店街を無理やり転用したみたいな雰囲気ね……。 島の観光地化に合わせて一念発起してみたけれど、予算も能力も足りなかった、ってとこかしら」 とはいえ、幸運もあった。 屋台通りの片隅にあった、観光案内所。 それは禁止エリアには含まれておらず、そして、中に踏み込めば救急箱も服も見つかって。 とりあえずの目的は、首尾よく済ませることができた。 そして、今。 * * *
856 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:20:27 ID:YIMQB.vA0 『――それでは、六時間後、また生きていたら、あいましょう』 「ふぅ……」 放送が終わる。 マスタードたっぷりのホットドッグを片手に、私は溜息をつく。 「流石に、これはショックよ……。 あれだけ手を尽くして、まさか『殺しそびれていた』なんて」 情報端末で再確認してみても、間違いない。 そこに、期待した名前は――ない。 向井拓海。 小早川紗枝。 この2人の名前が、死亡者リストに、ない。 けっきょくのところ、あの3人の正体の手がかりをほとんど掴むことなくあの場を離れた私だったけれど―― 解像度の悪い監視モニタのせいで、誰が相手なのか分からないままに戦っていたけれど。 たった一言、彼女たちの声が私の耳にも届いていた。 標的たちがマネキンのトラップに引っかかる直前、切羽詰まったような叫び。 『えっ…ちょっと、向井はん!?』 これだけで、3人のうち2人分の正体は知れていた。 おそらく叫んだのは、京都弁の和装少女、小早川紗枝。 呼ばれたのは、いまどき絶滅危惧種にも近い不良娘、向井拓海。 どちらも個人的な親交の無い相手だったけど……それぞれ、違う意味で存在感のある子たちよね。 「最後の1名はとうとう分からずじまいだったから、1人は殺れている可能性はあるけど……。 それにしても信じられないわね。あの状況から、どんな魔法を使ったら逃れられるというのかしら?」 想像を逞しくするなら―― 死亡者8人の中に「3人組の最後の1人」が含まれていて。 あの2人を守るため、咄嗟にストロベリーボムの上に身を投げた。 仲間の犠牲に涙しながらも、泣く泣くその場を離れる2人……といったところだろうか? 何にしたって無傷で3人、あの場を脱することはできなかったと思うのだけど。 下手したら、大きな怪我を負いつつも、3人とも生き延びている可能性だってある。 ここは安易な楽観に走らない方が良さそうだ。 「やはり、数というのはそれだけで脅威ね……。 相手だって、立派にアイドル。 それぞれ強運や決断力に長けていても当然だものね」 私だって1対1ならそうそう遅れを取る気はないけれど。 数人がかりでは、どうしても厳しい。 何人もいれば、1人くらいはこちらの予想を上回ってくる可能性がある。 「そうなると――取れる手としては。 真っ先に思いつくのは、こちらも『数で対抗する』、という策なんだけども」 ぱくり、とホットドッグを一口噛み切って、咀嚼しながら考える。 本当はもう少しマシなものを選びたかったのだけど、そうそう手間もかけていられない。 頼めばすぐに美味しいクラブハウスサンドが出て来る、行きつけのカフェじゃあないのだし。 屋台の小さな冷蔵庫にあったものを、これまた屋台の中のトースターで焼き上げた、お手軽な昼食。 これも商品として用意してあったペットボトルの紅茶で唇を湿らせ、考えを詰めていく。 「殺し合いに乗った者同士、信頼なんてできっこない。 仮に同盟がありえるとしたら、一緒に『シンデレラ・ロワイヤル』の話を聞いた他の4人だけど……」 彼女たちなら、同じ境遇の仲間同士。一時的に手を組む余地がある。 いつどこで寝首を掻かれるか分かったものではないけれど、たぶんかなりの間、肩を並べて戦える。 共通の障害を前に、きっと共闘することができる。 でも、唯ちゃんと智香ちゃんは早々に脱落してしまった。 響子ちゃんは狂ってしまって、ナターリアのこと以外は見えていない。 残る選択肢は智絵里ちゃんだけど……ダメね、悪いけど、とても戦力になる気がしないわ。 というか、まだ生きてるのよね、彼女。 正直、真っ先に返り討ちにあってしまうと思っていたのだけど。やはり怯えてどこかに引き籠っているのかしら。 ナターリアよりもこっちが優先じゃない、響子ちゃん?
857 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:21:57 ID:YIMQB.vA0 ――唯ちゃんを早々に失った影響は、大きい。改めて自覚する。 響子ちゃんは私が見せた弱気をあっさりとなじってくれたけれど。 私自身、彼女を殺してでも想いを遂げるのだと、つぶやいてはみたけれど。 殺し合いという状況に抵抗したのではないか、とも推測してみたけれど。 いつか、どこかの時点で、唯ちゃんと巡り合い。 どっちが生き残っても恨みっこなしとか、そんな軽い口約束で共同戦線を張る。 そういった展開を、きっと私は無意識のうちに、夢見ていたのだろう。 積極的な彼女と、慎重な私。 ひらめきと行動力に長けた彼女と、知識や冷静さを強みとする私。 きっと、最高のコンビとなったはずだ。 きっと、主役に相応しい働きができたはずだ。 おそらく、あの仕留め損ねた3人くらいなら、余裕で圧倒できるくらいに。 無意識のうちに手の内のホットドッグを齧ろうとして、既になくなっていることに気づく。 ああ、やっぱりダメね。これは考えるべき話ではなかった。 頭を振って、弱い考えを振り払う。 「失われた可能性を妄想してみても、仕方ないわ。 それこそあの子に笑われちゃう。 『ヒロイン同盟』の結成が難しいことを前提として、その上でどんな手が取れるか、でしょう?」 そう。今考えるべきはそれだ。 数の力は侮りがたい。 しかし、数の力で対抗することもできない。 ならばどうするか。 甘ったるい紅茶を一口飲んで、あえて声に出す。 「やはりここは――危険を承知で、羊の群れに紛れ込む。 その上で、最高のタイミングで華麗に裏切ってみせる。 これしかないでしょうね」 上手くいけば、一挙に大量の戦果が見込める大作戦。 油断させておいて罠を張り、ストロベリー・ボムを適切に使用すれば、一つのグループ丸ごと一網打尽も夢ではない。 ストロベリー・ボムもかなり浪費してしまった以上、これまでよりも効率を求めるのは当然の帰結。 安全性を考え、各個撃破に徹してもいいかもしれない。この辺は実際に遭遇してから考えるところだろう。
858 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:23:04 ID:YIMQB.vA0 同時にこれは、情報という面でも優位を得られる可能性がある。 人が多ければそれだけ見聞きした物事も増える訳で、ライバルたちの動向の一端でも掴めるかもしれない。 次なる標的の目星も立てられるかもしれない。 一匹狼を気取って放浪を続ける場合と比べれば、得られる判断材料はケタ違いなはず。 それに先に定めた自分の方針からすれば、次の6時間は「休息の予定」。 とはいえダイナーできっちり仮眠を取った関係上、眠気の面では差し迫ったものはない。 休息と一言で言っても、その休み方も様々。 集団の中に紛れ込み、情報を引き出し、保護を受けつつ一休み。 次の放送あたりまでを「様子見の時間」と定め、「その次の6時間」でしっかりと「収穫」する。 そんな腹積もりで動くのも、悪くはないんじゃないかしら。 もちろん、危険はある。 例えば、集団が外部から襲撃される可能性。 続々と増え続ける死者の数は、やる気になっている子たちが一定数いることを示している。 上手いこと集団を盾にできればいいけれど、もろともになぎ倒される危険もない訳ではない。 例えば、スーパーマーケットで遭遇した、向井拓海と小早川紗枝(+、ひょっとしたら生き残った謎の人物X)。 このあたりとも、再度接触してしまうかもしれない。 服を替え、印象を替えたつもりでも、こちらの正体を看破されてしまうかもしれない。 少なくとも、いきなりあの2人(+α?)と「こんにちわ」、というのは避けたいところよね。 「スーパーマーケットから、さらに遠ざかる方向で……人が集まりそうな所。 すぐそこの禁止エリアから追い出された人たちが、とりあえず腰を落ち着けようと思える場所。 何らかの事情で別行動をして、待ち合わせようと思った時に間違いのなさそうなランドマーク。 そう考えると、最有力の候補は――」 丸テーブルの上に広げた地図の上を、私の指が滑る。 屋台通りからつうっ、と指を動かして、ぴたり、と止まったのは。 「――水族館。 仮に誰もいなかったとしても、しばらく待つ価値くらいはありそうな場所よね」 私は立ち上がり、ホットドッグの包み紙を手近なゴミ箱に放り込む。 元々、この屋台通りで長い休憩を取るつもりはなかった。 当座の方針が決まれば、あとはすぐ動くに限る。 水族館を目指し。 そこに『アイドル』の集団があれば、人畜無害な存在を装って仲間入りして。 次の放送まで、うまいこと庇護を受けながら休憩。 日が暮れる頃を目安に、裏切りの算段を立てておく。 もしもアテが外れたら……ま、その時はその時ということで。 「カバーストーリーとしては――偽りの自己申告としては。 慎重さと臆病さを取り違えて、ひとり誰とも接触せずに潜んでいた愚か者、でも騙ってみせようかしらね。 市街地であれば、その気になれば不可能な話でもないでしょうし」 増え続ける死者の数に、今頃になって不安に駆られた臆病者。 考えすぎて身動きが取れず、完全に出遅れてしまった頭でっかちな大人。 このあたりを演じてみせれば、お人よしな子供たちを納得させるのは難しくないはずよね。 おそらく、侮られるくらいが丁度いい。 集団に入り込むにも、後から集団を葬る上でも。 「私はひとりでも大丈夫だけど――でも、そういう子ばかりでもないはずだものね」 * * *
859 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:23:51 ID:YIMQB.vA0 「――いやよ。私はひとりでも大丈夫だし」 「そんな〜。 冷たいこと言わないでよ〜、ちなった〜ん。 ゆいとちなったんが組んだら、きっとぜったい、誰にも負けないんだからさっ♪」 ……あれは、いつのことだったろう。 あまりにいつも通りの日常すぎて、明確な日付が思い出せない。 よくある事務所での、仕事に出かける前の時間調整の、ちょっとした待ち時間だったはず。 その日、分厚い洋書に没頭していた私にまとわりついてきたのは、大槻唯ちゃん。 太陽のような笑顔の、女の子。 私自身、そう愛想の良い方ではないという自覚はあったけれど…… そんな私に物怖じせずに語りかけてくれる彼女は、年こそ離れていたけれど、親友と呼んでもいい相手だった。 もちろんこんなこと、面と向かって口にしたことはなかったけれどね。 「確かに、桜祭りの時は楽しかったわ。それは認める」 「それじゃぁっ!」 「でも、ああいうのは『たまに』だから良いんでしょう? ユニットとして恒常的に活動するというのは、また違うと思うのだけど」 「ぬぇ〜。 ちなったんったら、いけずだにぃ〜!」 そっけなく言い捨てる私に、唯ちゃんはソファに寝転んでジタバタと不満を露わにする。 その口真似は、諸星きらりさん、だったかしら。 ほんと、交友関係の広い子よね。 だからこそ、なんで私なんかを相手にしてくれていたのか、いまでもよく分からないままなのだけど。 そんな唯ちゃんが私に持ちかけていたのは、ユニット結成のお誘い。 互いに異なる個性を持つ2人、グループを組んで売り出すというのは1つの方法ではあるだろう。 上手くいけば、それぞれの個性を際立たせ、新たな境地に突破することもできるはず。 ただそれは、諸刃の剣でもあるわけで。 互いに個性を潰し合ってどの方向にアピールするのか分からなくなってしまったり。 互いに互いを縛りあって、活動の自由度が無くなってしまったり。 臆病な私は、言い訳を重ねつつ、まずデメリットに目が行ってしまう。 慎重を期すつもりで、なかなか最初の一歩が踏み出せない。 だからこそ私には、プロデューサーさんのさりげない一押しが必要なのだ。 この話だって、プロデューサーさんから持ち掛けられていたなら、きっと……! 「よーし、じゃあ、まずはユニット名を考えようかっ! カッコいい名前があったら、ちなったんもその気になるっしょ!」 「ならないってば。 あと、テーブルの上に足を載せない。お行儀悪いわよ」 「やっぱ、ゆいとちなったんのイメージって言ったら、桜だよね! 一年中桜祭りって感じでっ! 女の子2人で、花盛りなワケ!」 「季節感ないわねぇ」 唯ちゃんがこういう風に暴走している時は、止めても無駄だってことくらいとっくに学んでいる。軽く流すに限る。 それに、不思議と不快ではない。 こういう業界に入らなければ接点も無かったであろうタイプ。知りあうこともなかっただろう相手。 私みたいな女と一緒にいて、何が楽しいのか。 仏蘭西の恋愛小説から抜け出してきたような金髪碧眼の少女は、天真爛漫にニコニコと笑っている。 「だから、うーんっと、『サクラフラワー』! ねえ、なかなか可愛くない? 我ながらナイスアイデアだよねっ☆」 「……恰好いい名前を探すんじゃなかったの?」 「あー、でも、これだと『 FLOWERS 』と被っちゃうかー。 まあ、ゆいたちならすぐに追い抜いちゃうけどねっ♪」 「被るとかいう以前に、『 flower 』ってのは草のように咲く花のことよ。樹に咲く花はまた別。 広義の意味でなら、花全般を指すけれど。 それでもちょっと違和感のあるネーミングじゃないかしら」 「あー、そうだっけ。ゆい、ちょーっと英語ってニガテなんだよねー☆」 悪びれもせずに、舌を出してみせる彼女。 そういえば……くだらない話なら沢山したけれど、彼女の家庭の話を聞いた覚えはない。 欧米人の血が混じっていても不思議ではない、その容姿。 ご家族からそっちの言葉を習っていたりはしないんだろうか。 とうとう、尋ねそびれたままになってしまった。 「で、何て言ったっけ、樹に咲くお花って?」 「それはね――」 あの時、私は彼女にちゃんと答えられたのだろうか。 どうにも肝心のところの記憶が曖昧だ。 ちょうどそのタイミングでプロデューサーさんがやって来て、いつの間にか次の仕事の予定も迫っていて。 ユニット結成の話も、英単語の話も、すべてひとときの馬鹿話として、うやむやになってしまったから――
860 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:24:28 ID:YIMQB.vA0 * * * 「もしも、生きて帰ることができたなら――そして、その上で可能なら」 あの子との思い出を、まぶたの裏側に映しながら。 私は、独りつぶやく。 まずその前提からして容易でないことは、嫌というほど分かっている。 あの子も早々に脱落した、この殺伐とした高難易度イベント。 策を弄し自らを傷つけても、3人も殺せない厳しいイベント。 けれどもし、この島から生きて戻れたとしたならば。 「再び、ステージに立ちましょう」 私は、誓いの言葉を口にする。 現実的には厳しいことは分かっている。 ただ生き残るだけでも難しいのに、さらに加えて。 人を傷つけ、殺し、数多のアイドルを踏み台にした者が、再び光り輝くステージに? どう考えても簡単なことではない。どう考えても許されることではない。 けれど。 それでもなお、あのスポットライトの下に戻れる日が来るとしたら。 あの子が信じてくれた、私の才能。私の魅力。 私の一存だけで、埋もれさせるわけにはいかない。 「その時には……ソロユニット。 そう、相川千夏、ただ1人きりのグループとして名乗りを挙げてみせるわ」 珍しい話ではあるけれど、音楽界の先例ならある。 たった1人のユニット。たった1人で構成される、音楽プロジェクト。 芸名とはまた意味の違う、もう一つの名乗り。 おそらく私には「この名前」が必要だ。 この厳しい戦いを勝ち残るに。 弱く安易な考えに流されないために。 何より、あの子のことを忘れないために。 「名付けて――『サクラブロッサム』。 私はこの名を掲げて、再び、あの舞台に立ってみせる。 夢も、恋も、愛する人も、全てこの手に掴んで見せる。 大人の女は、貪欲なのよ」 あの子の分まで、生きると決めた。 あの子の分まで、幸せになると決めた。 あの子の墓前に捧げるに相応しい花は、きっと、天国にも届くくらいの歓声くらいしかない。 あの子の死を告げられて、こんなにも経ってからその大事さに気づくなんて。 まったく私は、火の付きが悪いにも程がある。 こんなことだから、あの3人を仕留め損なったりもするのだろう。 さあ、出陣だ。 次こそもっと、上手くやってみせる。 寂れた屋台通りから、ゆっくりと歩き出す。 桜色のチャイナドレスの裾が、静かに揺れる。 次の6時間、隠れ潜んで欺いて、侮られた上で偽りの絆を結ぶ、地味な戦いを挑む計画だけど…… けっして、流されたりはしない。 けっして、ミイラ取りがミイラになったりはしない。 情を移すことなく、振り回されることもなく、時と機会が巡り来たら、鋭くすっぱりと切り捨ててみせる。 だって私は。 あの子に先立たれてしまった私は。 もう、ひとりでやるしかない――いや、きっと、やれるはずなのだから。 .
861 :ひとりでできるもの。 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:24:53 ID:YIMQB.vA0 【C-6 屋台通り/一日目 日中】 【相川千夏】 【装備:チャイナドレス(桜色)、ステアーGB(18/19)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】 【状態:左手に負傷(手当ての上、長手袋で擬装)】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。生還後、再びステージに立つ。 1:水族館を目指し、そこに集団がいれば紛れ込み、情報と安全を確保。次の放送までは様子を見つつ休息。 2:1が上手くいったら、さらに次の放送後、裏切って効率よくグループを全滅させる策を考える。 3:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。
862 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/04(土) 21:25:14 ID:YIMQB.vA0 以上、投下終了です。
863 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 21:57:18 ID:D/DsLhzY0 >Life Goes On もう帰ってこない日常を思い返す響子の姿に切なさを感じます。 特にナターリアへの思いは矛盾していないから一概に否定できない。 プロデューサーが危険だから殺す、けれど親しいからこそ苦しまずに死んでほしい。 なんというか本当に人間らしい子だなと思いました。 >another passion より迷走し始めたようにも見える彼女。 立ち上がったのはいいけれど、もう自分の精神を痛めつけて無理矢理動いてるみたいな。 アイドル達の中でも特に心が破綻しかけてるように見えます。 これからどうなるのかなぁ。 >今はただ、それだけを 同じように精神的にかなり辛くなってるような卯月。 向いている方向は凛に近く見えるのに、どうにも痛々しく思えるんですよね。 行動への活力が前向きなのか後ろ向きなのかが違いなのかな。 更に物理的な意味でも何処へ向かうのか楽しみにしたいところ。 >彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) これはまたハラハラドキドキする幕引き。 学校に停まっている車たちは一体なんなのか。 そしてまるで狙ったようなタイミングで飛んでくる指令。 これは一体どんな風に進んでいくのでしょうか。 >ひとりでできるもの。 休息しながら少し感傷に浸っている千夏。 ヒロインの側もやっぱり思うところはたくさんある様子。 それでも目的の為に揺らぐことのない彼女は魅力的です。 最後に……次の行き先は凄いことになりそうだなぁ。 それでは、予約分投下します。
864 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:00:00 ID:D/DsLhzY0 食事が終わった後、あの忌まわしい放送が始まった。 幸いにして、南条光に近しい人間の名前が呼ばれることはなかった。 例えばずっと心配している小関麗奈、古賀小春。 この二人が呼ばれなかったことで、正直光は安堵していた。 けれど、それは光だけの事情に過ぎなかった。 「雫さんが……雫さんが死んじゃった……」 「美羽ちゃん……泣かないで……ぐすっ」 美羽と親交のあった及川雫が死んでしまった。 その名前を聞いた後に、美羽はぽろぽろと涙を零している。 慰めている歌鈴も、いつの間にか同じようにもらい泣きをしていた。 「ニナ……ニナッ……どうシテ……なんデ……」 「ナターリア……」 ナターリアと親しかった市原仁奈もその一人。 一緒に日本語の勉強だと笑っていた二人の姿を、見た事があった。 だから仁奈の死を嘆く姿に、光にはかける言葉が思いつかなかった。 泣くなと言うのは残酷すぎる、だけど根拠もないのに大丈夫だとは言えない。 ただ背中に手を当てて、悼むように撫でることくらいのことしか出来なかった。 「留美さん……元気、出してください」 「ええ、分かってるわ、大丈夫よ」 大人の二人も、泣いたり取り乱したりはしなかったけど悲しそうな様子だった。 多分年の近い三船美優が死んでしまったのもあるんだろう。 特に留美は仲が良かったはずだ。 楓が心配そうな顔で留美を気遣っているけれど、比較的両者ともに落ち着いてるみたいだ。 (また、死んでしまったのか……) (理想のヒーローみたいに上手く行かないのは、分かってる) (けど……けど……やっぱり無力だよ) 周りの空気は先程明るくなったように見えたというのに、今ではすっかり元通り萎んでいた。 こんな時、光の知ってるヒーローなら気の利いた言葉で慰めて、鼓舞するのだろう。 けれど現実はそんなに甘くない。 人が死んでしまうということは、そんなに簡単に整理出来ることじゃない。 簡単に諦めるな、乗り越えろなんて言えない。 この殺し合いに巻き込まれるまでの光なら、違ったのかもしれないけど。 死というものに直面し肌で感じた今、そんな無神経なことは出来なかった。 けど、このままでいいのだろうか。 操縦する人を失った、翼のない飛行機のように。 プロデューサーという羽根を失ってしまった自分たちは、世界の底でもがくことしか出来ないのだろうか。 もう、二度と羽ばたくことなんて敵わないのだろうか。 もう、ヒーローで在り続けるなんてただの絵空事に過ぎないのだろうか。 心の太陽は、ただ自分を慰めるためだけに存在してるのだろうか。 「……違う」 思わず零れてしまった言葉に、全員が光の方を向く。 光は顔を挙げて、それを真正面から受け止める。 たとえ意味不明であろうとも、この想いを示したいから。 「確かに、アタシたちには翼がないのかもしれない」 「でも……でも、まだ足があるんだ!」 「翼がないなら、世界の底を全力で駆け抜ければいい!」 「もう届かないかもしれない、飛べなくなるのかもしれない……」 「けれど……アタシの空にある太陽は、絶対にまやかしなんかじゃない!」 翼を奪われた少女は、世界の底を駆け抜ける。 その背にある太陽が、決して偽りでないことを示すために。
865 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:00:28 ID:D/DsLhzY0 そんな光の叫びに、歌鈴の心は動かされていた。 誰もが落ち込んでいて、暗い雰囲気の中で。 彼女が紡ぐ言葉は、今の自分を励ましているように感じたから。 「悲しんでばかりじゃ……駄目なんですよね」 「え……歌鈴ちゃん?」 普段はそこまで積極的な方ではない歌鈴が最初に反応を返したのはその証。 先程は美羽を慰めていて、いつの間にか一緒に泣いていた。 それと同時に、名前の呼ばれなかった彼女のことを考えてもいて。 小日向美穂。 名前が呼ばれなかったのには、本当にほっとしていた。 そんな自分に心の何処かで疑問を感じたのはその時だった。 (私は……無事を祈ってるだけ?) そう、今までは漫然と「会いたい」と思っていただけ。 自分から状況を変えようなんて思ってなかった。 けれどこのままみんなと一緒に居ても、会うことは難しいんだと思う。 だからこそ、迷っていた。 思考停止してしまっていた自分を変えて、たとえ一人になったとしてもここから飛び出すべきか。 それともあくまで生きる事を優先して僥倖を望み続けるのか。 このまま流されてライブ会場に向かってしまえば、探しに回ることさえ難しくなってしまう。 だからこそ、躊躇していた。 そんなときに光の言葉に勇気づけられたから。 歌鈴は思い切って一歩を踏み出そうと決意する。 「そうね、このまま落ち込んでばかりじゃ居られないわ」 「楓さん……」 戸惑った風に歌鈴へ声を掛けた美羽とは違い、楓は微笑みながらそう言ってくれる。 その表情に、更に勇気づけられた。 アイドルたちが死んでしまっている中で、今の歌鈴の考えは狂気の沙汰と受け取られてしまうかもしれない。 それでも、たった一人でも、美穂ちゃんに会いに行きたい。 自分から、探しに行きたい。 次こそは、ちゃんと向き合いたいから。 「あのっ!私……」 「……みんな、提案があるんだけどいいかしら?」 思い切って主張しようとした瞬間、その言葉は楓に遮られる。 このときは、それをもどかしく感じていた。 けれど彼女の提案が思わぬものであったことを、歌鈴は間もなく知る事になった。
866 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:01:16 ID:D/DsLhzY0 歌鈴が何かを言おうとした瞬間に、楓がそれを遮るようにして呼びかけた。 矢口美羽はその様子を見て少し違和感を感じる。 しかし一面的には大いに尊敬している彼女に提案があると知って、是非知りたいと思った。 「どうしたの?急に」 「カエデ……何か考えがあるノ? 「よく分からないけど、是非聞かせてくれ!」 さっきの光の主張は抽象的で難しかったけれど、あの熱さには少し元気づけられていた。 それは留美やナターリアも同じみたいで、話に耳を傾ける余裕が出来たようだだ。 光もこのチャンスを逃してはいけないとばかりに、空気を変えようとしている様子。 ……どうやら歌鈴には自分以外気付いてないみたいだ。 「あ、あのっ!その前に私のはなしゅ!?」 「歌鈴ちゃん!?」 慌てたように再び声を上げた歌鈴が不自然を言葉を切って俯く。 どうやら思いきり舌を噛んでしまったようだ。 気持ちは分かるけれど、やっぱりドジな部分があるみたいで目が離せないと思う。 「……とりあえず、落ち着くまで楓さんの話を聞こう?」 「えぅ〜……」 涙目になっている歌鈴の頭を撫でつつ、目で続きを促した。 少し和やかになった空気の中、対称的に少し硬くなった表情で楓が言葉を紡ぐ。 「さっきまではみんなでライブ会場に行こうって言ってたけど……今の放送を聞いて思うところがあって」 「……私たち、二手に分かれるべきじゃないかしら?」 呆気に取られたのは美羽だけじゃなかっただろう。 何故なら他のみんなも歌鈴を含めて驚いたように口を開けていたからだ。 折角全員で決意表明して、そんな時にこの提案? 戸惑いながらそう考えていると、留美が重々しく言った。 「……それは、本気?」 「ええ、勿論」 「理由が聞きたいわね、というかそれ次第に尽きるわ」 「そうですね……ハッキリとした理由はたった一つ。 この大人数だとあまりにもデメリットが大きすぎる、でしょうか」 「……なるほど、確かに見方によっては一理あるかしら」 納得しかけた留美に、慌てた風に光とナターリアが割って入る。 美羽はむしろこの二人がそう語る理由が知りたかったけれど、あえてそれを止めなかった。 「ま、待ってくれ、折角みんなで団結しなきゃいけない時にそれはあんまりな気が……」 「そうだヨ、それにいっぱい居た方が安全だと思うナ」 「いや、それは違うわ」 そう言って楓は少し考えてから言った。
867 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:02:27 ID:D/DsLhzY0 「さっきの放送で分かった通り、他の子たちはどんどん死んで行ってる。 全員が自殺なんて希望的観測を除くなら、確実にやる気になってるアイドルが居るの。 だからこそ、これからは襲われたときのことも念頭に入れなければいけない。 今の人数だと、素人揃いの私たちでは襲われたときに全員の安全を確認しながら抵抗は出来ないわ。 だから一旦別行動を取った方が逆に安全だと思ったのだけれど、どうかしら?」 美羽はその言葉を聞いて感心してしまった。 この状況に向き合い始めたことで、楓の落ち着きはむしろ更に研ぎ澄まされているようにも見える。 確かに大人数だから有利というのは、あくまで個々が訓練された人間であって初めて成り立つことだ。 自分の身すら守る自信がないのはきっと美羽だけじゃないから、これは正論だろう。 光もナターリアも思うところがあるのか、少し落ち込んだ風な様子で引き下がった。 すると留美がもう一度口を開く。 「それで、分かれるとしてもどういう行動を取るつもりなの?」 「とりあえず、片方はあまり離れずに飛行場付近にいるべきじゃないでしょうか。 流石にこれでさようならというわけにもいかないですし……」 「それは確かに……いずれはまた合流しなければ意味がないものね」 どうやら片方が飛行場近くに残って、もう片方は外へ向かう流れらしい。 ふと疑問に思って、美羽は口を開いた。 「だったら、外に行く人達はライブ会場へ向かうんですか?」 「そうでもいいし、そうでなくてもいいかもしれないわね」 「どういう……ことですか?」 「要するに、明確な目的地を決めたらそこに行った後に戻ってこなければいけないでしょう?」 「ちょっと待って、それだったら再合流するのはいつにする予定なの?」 「区切りとしては……次回か次々回の放送ですね、その時の状況次第です」 「つまりはその時間まで外に居るってことですか……?」 「そうなるわね」 それだけ長時間外に居るということは、危険に晒されるかもしれない。 流石にそれは無茶が過ぎると思った。 さっきは悪くないと考えていたけれど、今度は美羽が割って入る番だった。 「そんな……いくらなんでも危なすぎますよ!」 「けど、このまま留まっていても状況は変わらない」 「う……」 「確かに危険は付きまとうけど……このままじゃ徐々に打つ手が無くなるのは目に見えてるの」 「私は楓さんに賛成ね、取れるうちに打開の可能性がある手段は取っておくべきだわ」 「それに、外に出れば他のアイドルたちを保護できるかもしれないわ」 「は……い……」 結局美羽もあえなく撃沈。 年長者だけあって2人はよく考えてるし、年下の少女たちにもちゃんと考えを示してくれている。 それは分かってるけど、感情的にはやっぱり不安だった。 折角みんなで集まったのに、ここでバラバラになってしまうのだろうか。 「善は急げと言いますし、早速メンバーを分けましょう」 「残留組と……外出組とでも言うべきかしら?」 「ええ、言いだしっぺですし外出組には私が入ります。 だから留美さんはここに残ってもらえますか?」 「分かったわ……後は4人、ね」 少し落ち込んでいる美羽を他所に、2人はどんどん話を進めて行っている。 留美は、残りの振り分けについて少し迷っているようだった。 外出組は危険が大きいから躊躇しているのもあるのだろう。 しかし楓は、ここで思わぬ人間の名を出した。
868 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:02:49 ID:D/DsLhzY0 「……歌鈴ちゃん、一緒に来る?」 「…………??」 「強制はしないけど……やっぱり怖いかしら?」 「…………ええっ、私ですか!?」 「か、歌鈴ちゃんを?」 思わず美羽はツッコミを入れてしまう。 指名された歌鈴も、まさか呼ばれるとは思ってなかったらしく一瞬意味が分からないという顔をしていた。 これは流石に……と思ってしまい。 「あの、楓さん……歌鈴ちゃんは……えーと、ちょっと……」 「私はなるべく連れて行きたいのだけど……」 「……分かりました、行かせてください!」 「ちょっとドジな……ってええええええええ!?」 あんまりハッキリ言うのも失礼だからと言葉を濁していると、なんと歌鈴が承諾してしまった。 しかも決意に満ちた様子だったから、尚更驚いてしまう。 ただ、本人が受け入れてしまった以上口を挟むことは出来ず。 「これで……後一人ね」 「ええ、美羽ちゃんと光ちゃんと……ナターリアちゃん」 「……アタシたちか」 「どう、しようカナ」 「……あー……」 結局最後の一人を決めることになり、美羽は同じ候補である二人を見る。 さっきは一緒にやってきた二人だし、やっぱりバラバラにしてしまうのは可哀想だろうか。 それに歌鈴は……なんというか凄く心配だ。 確かに外へ向かうのは怖いけど、誰かが引き受けないと困ったことになるのは事実。 だから美羽は、腹をくくることにした。 「だったら……私も行きます!」
869 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:03:24 ID:D/DsLhzY0 最後の一人に美羽が名乗りを上げてから更に話が続いていく。 ナターリアは、どちらかと言うとほとんど聞き役に徹していた。 本当は今でもバラバラになってしまうのは反対だ。 けれど、みんなを納得させる理由もないし仕方ないかなとも思っていた。 「……それじゃあ、万が一襲われたときの為に武器が必要ですね」 「ええ、そういえば美羽ちゃんと歌鈴ちゃんの支給品は何だったのかしら?」 「私は……今歌鈴ちゃんが着てる制服と、後はこのしびれ薬です」 「この黒い煙がもくもくって出る奴と、後は……バナナです」 「折角だからアタシたちの分も確認しとこう、アタシはこの服とリングだ」 「ナターリアは……この拳銃だヨ」 とりあえず4人がそれぞれの支給品を並べる。 中には役に立つのか疑問なものもあるのだが、情報交換は重要だろう。 しかし、どういうわけか今まで先んじていた年長組が動かない。 何故か楓は呆然とした表情で何かに気付いたようだ。 ナターリアは、ふと近くに居た留美の様子がおかしいことに気付く。 表情は変わらないけどなにやら焦っているような、そんな気配がするのだ。 「そういえば私……今までバッグを開けたことすらなかったわね」 「そ、そうだったんですか?」 「あ……けどこのままじゃ私と歌鈴ちゃんの武器じゃ身を守れないから」 「何か役立つものが出るかもしれないな!」 歌鈴たちに促され、楓がバッグを開いた。 しばらくごそごそと探ったのち、出てきたのは。 「……これは、なんだ?」 「栓抜き……じゃないよね」 「いや、だったら色々付いてるのはおかしいんじゃ」 「なんか……ゴテゴテしてるヨ」 何やらT字型の、下の部分を長くしたようなものだった。 レバーのようなものと、ツマミが付いている。 楓もしばらくそれを興味深げに見つめていたけれど、ふと説明書が同封されていることに気付いて目を通し始めた。 しばらくすると、何やらその目がキラキラと輝き始めて。 すっくと立ち上がると、周りと少し距離を取る。 そして持ち手に付いているレバーを握りながら、勢いよく、かつ大きくそれを振るった。 「はあっ?」 「ひゃっ!? 「ええええええ!?」 「おお、凄いヨ……」 すると、ジャキン!と言う音と共にT字の先から何段かに分かれて金属の棒のようなものが飛び出した。 そうなると楓が握っている物は何やらお洒落な雰囲気の紳士が持つ、アレに似ていて。 驚く4人を尻目に、楓はニッコリと笑って言った。 「このステッキ……とても、素敵」 一瞬空気が凍りついたのは、最早言うまでもないだろう。
870 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:03:56 ID:D/DsLhzY0 楓がもう一度説明書を精読している間、折り畳み式?のステッキは4人の手を渡っていた。 ナターリアが手に取ると、持ち手の部分が独特の感触を返してきた。 どうやら、伸びる前の黒っぽいこれはゴムで出来ているらしい。 「けど……どうしてこんなもの支給したのカナ?」 「何段もの折り畳みになってるから、伸びても中はスカスカだな」 「うーん……パッと見は鈍器に見えなくもないけどね」 「あっ……このツマミってなんだろう」 ふと、持ち手に付いているもう一つのギミックに気付いた歌鈴が手を伸ばす。 美羽が何かを察知したかのように、ギクリと反応する。 しかし、歌鈴がそれを手にする前に、楓が言った。 「待って……そのツマミを動かしたらステッキの先で催涙ガスが噴射されるらしいわ」 「うひゃあ!?」 「おっと!」 歌鈴がビックリしたようにステッキを放り出したのを、美羽がキャッチする。 何やら先程から慣れてる様子だけど何があったんだろうとナターリアはそれを見ていた。 「どうやらそれって……仕込み杖に近いものみたいね」 「あっ、そういう用途なのか」 光が感心したようにうなずく、ナターリアも気付いた。 これは相手の動きを止めるための道具だ。 一見危険そうに見えないから、不意を突く状況を想定しているのだろうか。。 「それと……バッグの中にもう一つ何か入ってるわ」 そう言って楓はもう一度探り始める。 今度は何が出るのだろうと、4人は戦々恐々としていた。 正に某猫型ロボットのポケット、パンドラの箱とでも言うべきだろうか。 「お、今度はそんなにおかしくないな」 「サングラス……にしてはちょっと仰々しいね」 「これも何か仕掛けがあるんじゃ……」 「カエデ、説明書はあるノ?」 やっぱり付属していた説明書をナターリアたちも覗き込む。 とは言えナターリアは日本でそこまで長く過ごしてきたわけじゃないからあまり読めなかった。 しかし、また変わった道具らしいという雰囲気は伝わってきた。 「サーモ……スコープ?」 「どんな道具なんだろう」 「サーモグラフィーなら聞いたことあるけど……」 バッグから更に6つほど長方形のバッテリーのようなものが出てきた。 楓は両脇にそれぞれ一つずつそれを嵌め込むと、サーモスコープなる道具を被った。 そして上を向いていたスポーツ選手がかけているサングラスのような部分を目まで下げる。 しばらくキョロキョロと周りを見回した後に一つ頷いた。 「要するに、熱を発している部分が変色するみたいね。 テレビでよく見るサーモグラフィーの小型版かしら」 「へぇ……これも便利な道具だな」 「なんか……両方とも一見まともに見えないよね」 「あ、あはは……」
871 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:04:14 ID:D/DsLhzY0 結局、身を守るための道具探しが主旨だったものの結果はイマイチだった。 楓の支給品だが、片方は銃を持っている相手に対しては効果が期待できず。 もう片方に至ってはどんな状況で役に立つのか分からない。 とりあえず装着はしておくものの、電源を入れずにサングラス部分も上げておくことにしたようだ。 「このままじゃ危ないヨ、ナターリアの銃持って行っテ」 「えっ……けど、それじゃあこっちが危なくなるんじゃ……」 「心配ないよ美羽さん、アタシが二人を守ってみせる!」 「……悪いけど、お言葉に甘えていいかしら」 銃を差し出したナターリアに、楓が申し訳なさそうな顔でそれを受け取る。 どうやら武器的な意味での戦力分散までは頭になかったようだ。 それでもこちらに残るよりは危険だから当然だろうとナターリアは思う。 そこで美羽が思い出したようにポツリと言った。 「あれ?そういえば留美さんの支給品は?」 「あっ……そういえば」 歌鈴の言葉を皮切りに、先程からずっと黙っていた留美へ視線が集まる。 その視線を受けて、少し苦笑しながら彼女はおどけたように持っていたものを掲げた。 「悪いわね、私の支給品はこんなものなの」 「灰皿と……縄跳び?」 「ええ、こんなものじゃ何の足しにもならないと思って恥ずかしくて」 珍しく落ち込んだ風に言う留美の様子に、軽い笑いが起こった。 それはきっと、これからの別れを惜しんでいるのもあるのだろう。 これが、今生の別れになるかもしれないのだから。 そして立ち上がった楓が、真剣な顔で言う。 「それじゃあ留美さん、最後に一つだけ。 もし、次の放送で私たちのうちの誰かが死んでしまったら合流は諦めてください。 逆に私たちもここに残る誰かが死んでしまったのを知った場合は、もうここには戻ってきませんから」 「えっ!?楓さん、そんなの私聞いてな……」 「やっぱりそのつもりだったのね、分かってるわ」 ビックリしたように反応する美羽や光たちを横目に、留美は頷いた。 「それだけの覚悟は必要、だものね」 「そっか……そうだったんだネ」
872 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:04:35 ID:D/DsLhzY0 ナターリアは、留美が珍しく表情豊かだったのはそれが理由だったのだと気付いた。 多分、心の底では楓と留美は最初からそのつもりで話してたのだろう。 だからこそ最後は良い雰囲気にしたかったのだ。 オトナってすごいな、と思う。 とても他の4人だけでは、そこまでの覚悟が必要なことを自覚出来なかっただろう。 本当に、頼もしい人たちだ。 「それでは留美さん……行ってきます」 「なるべくドジはしないから……心配しないでね!」 「光ちゃん、ナターリア!また会おうね、絶対だよ!」 大人たちの覚悟を知って、心もち目を潤ませながら美羽と歌鈴が手を振る。 楓自身も、何処か名残りを惜しんでいるようだ。 飛行場の見回りのついでに少し先まで見送ると言う光と共に、三人は飛行場を出て行った。 「行っちゃったネ……」 「そうね……」 それから二十分ほどして、大分寂しくなった気配の中二人はソファに座っていた。 一気に半数の欠けた飛行場は、前よりも増して広々と感じてしまう。 ナターリアはなんとなく、ソファの上で膝を抱える。 「ルミ、これからどうするノ?」 「とりあえず、少しの間は定期的に周囲を見回ることね」 「誰か、来てくれるとイイナ」 「そうね……楓さんたちも誰かを見つけて戻ってくるかもしれないわ」 あるいは残った側の方が心配で辛いのかもしれないな、とナターリアは思う。 本当はライブ会場に向かいたいという気持ちはあったけれど、迷ってるうちに美羽に先を越されてしまった。 それにもう、再合流の約束をしてしまった以上仕方ない。 そういえば楓は何故最初に歌鈴を連れて行こうとしていたのだろう。 そうボンヤリと考えていたナターリアの視線の端に何かが引っかかった。 視線の先には留美の傍にある彼女のデイバッグ。 ジッパーが少しだけ開いていて、そこから中身が僅かに覗いている。 留美が身じろぎをしたときに触れて、一瞬何やら黒くて細長いものが見えたのだ。 (あんなモノ、ナターリアのバッグにはなかったと思うケド……) 留美の支給品は灰皿と縄跳びだ、それ以外の基本支給品にもあのような形状をしたものはなかったはず。 道中で何かを拾ったとも聞いてないけれど、一体あれは何なのだろうか。 何気なく、ナターリアは留美に問いかける。 「ねえ…………ルミ?」
873 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:05:14 ID:D/DsLhzY0 和久井留美は、ソファに腰掛けながら心の中で嗤っていた。 何故ならば事態は思っても見ないほどに理想通りに進んでいる。 高垣楓が二手に分かれようと提案したときには思わず動揺が顔に出てしまいそうになったほどだ。 (これで……私を含めて三人) (さて、どう始末したものか……) 表面上はいつも通りを装いつつ、留美は作戦を練っていく。 次の見回りの時、片方を誘って建物を離れたところで隙を突いて殺す。 その後迅速に引き返してもう一方も殺してしまうのがベターだろう。 (そうなると……出て行った三人をどうするか) (この子が拳銃なんて渡してしまったから、下手に追いかけるわけにはいかなくなったわね) 現状では首尾よく二人を手にかけることが出来たとしても、楓たちまで葬り去るのは難しいだろう。 けれどその辺りは妥協することにした、下手に分かれることを反対すればむしろ怪しまれてしまうと思ったからだ。 高垣楓は見た目通り、本腰さえ入れてしまえば中々に頭の回る人物のようだったのもある。 それに、先程の放送を聞く限り殺し合いに乗っているアイドルが複数人居るのは間違いない。 ならば焦らずに光とナターリアだけでも確実に始末することが最善だろう。 無理をして違和感を感じられては元も子もない。 (それと……先程の支給品でも危ない橋を渡ってしまった) (流石に一発撃った銃を持ってるのを見られるのは不味かったとはいえ、ね) 銃をデイバックに隠していた留美にとって、あの時は流石に動揺してしまっていて。 けれど楓の支給品が珍妙なものだったのが幸いだった。 他のアイドルたちの注意が向いている隙になんとかダミーである今井加奈の支給品を取り出して騙しとおせた。 少し大袈裟な態度を取ってしまったが、怪しまれなかっただろうか? (まあいいわ……とりあえず今は目の前の仕事に集中ね) (楓さんたちのことは、また改めて考えましょう) 頭の中でそう考えた瞬間だった。
874 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:05:34 ID:D/DsLhzY0 「ねえ…………ルミ?」 「……なにかしら?」 考え事をしていた所為か、一瞬反応が遅れてしまった。 また寂しさを感じて話しかけてきたのかと、何気なくナターリアの顔を見る。 すると、その視線は留美でなくその横の。 僅かにジッパーの開いたデイバックに、注がれている。 (しまった――――――) かろうじて、歯噛みしかけるのを堪える。 先程慌てて灰皿と縄跳びを取り出した所為か、最後に気を抜いてしまったらしい。 留美は固唾を飲んで、ナターリアの次の言葉を待つ。 まだ中に隠しているショットガンを見られたとは限らない。 しかし、もしそうなのであればどうするべきか。 流石にこの状況で上手く誤魔化す自信はなかった。 それならば、作戦を前倒しにしなければ。 「ねえ……ルミのバッグにあるその細長いのッテ……」 「「おーい!」」 留美がナターリアの顔面を狙うために手元の灰皿を掴もうとした瞬間。 入口から二人の大声がした。 ナターリアが振り返ってそちらに向くと、嬉しそうに頬を緩めた。 対して留美は今度こそ苦虫を噛み潰したような顔になる。 流石に今までのツケが回ってきたのだろうか、と考えながら。 (さて……どうやら今の私は中々に不運みたいね) (けど、ここまで来たなら腹をくくって最後まで綱を渡り切って見せましょう) (後戻りは……出来ないのだから) そう決意して、留美は近づいてくる光と。 共に歩いてくる前川みくを、見据えた。
875 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:06:00 ID:D/DsLhzY0 その少し前、高垣楓は二人の同行者を連れて飛行場の南端を目指していた。 光とは建物を出てほんの少しで分かれ、もう振り返ってもその姿は見えない。 いつまでも惜しんでばかりではいられないと思って、見送りは早めに終わらせた。 (まゆちゃんの為にも……生き残らないと、ね) (本当にどうして……ここまで生き長らえてしまったのかしら) 佐久間まゆのことは、やっぱり少し心に引っ掛かっていた。 もう命なんてどうでもいいなんて言っていたのに、今では方向性はすっかり逆だ。 そうなってしまった以上、やる気のなかった自分のせいで死んでしまったのは少し重い。 けれど、本当に申し訳ないと思っているのなら尚更生きなければと思う。 罪悪感から逃げることと、償うことをすり替えてはいけないから。 (きっとまゆちゃんも、死んで償うくらいなら生き残れって言うでしょうし) (ちゃんと、貴女の想い人に伝えられるように頑張るわね) こっそりと建物の方向を振り返って、小さく拳を握る。 そんな楓におずおずと、同行者の一人が声を掛ける。 「あの……楓さん、ちょっといいですか?」 「あら、何かしら?」 「どうして、私を連れて行きたかったんですか?」 歌鈴の問いを受けて、楓は少し考え込む。 確かにあの中で歌鈴を名指しで指名したのは少し意外に思われたのかもしれない。 かといって、そこまで深い意図があったわけでもなかった。 「そうね……強いて言うなら、誰かに会いたそうだったから」 「えっ……」 「もし違ったのなら、余計なお世話だったかも」 「いえ……実はその通りなんです」 そう言って、歌鈴は少しはにかんだ風に笑う。 楓はほとんど確信してたのもあって、それほど大袈裟に反応は返さなかった。 あのタイミングで居ても立っても居られないような素振りをしていれば、誰だって勘づくだろう。 正直に言えばそこに付け込んだというのもある。 楓がそこまでして策を弄したのにも理由がある。 二手に分かれようと提案したのは、個人的な事情もあるのだ。 流石にこれは我が儘にも程があるから口に出すつもりはないのだけれど。 「さて、話してるうちにもう南端ね」 「ずっと飛行場に留まってたから……やっぱり怖いな」 「そういえば……どうしてわざわざここに?」 今度は美羽が問いかけてくる。 これに関しては二人の意見も聞きたいので、楓はあっさりと口を開いた。 「実は……行き先を改めて考えようと思って」 「そういえば、最初はライブ会場に行く予定だったんですよね」 「そうね、けれどあの頃とは事情も変わってしまったし」 「事情……あ、そういえば……」 「ええ、ナターリアちゃんが居ないからイマイチ必要性が薄れてしまったでしょう?」 最初に行き先を決めた時は全員で行動することが前提だったので、明確な目的地のあったナターリアの意見を尊重した。 しかし、今は同行していないのもあって絶対的な拘束力がないのも事実だった。 それに理由は一つだけではない。 「それと、歌鈴ちゃんの尋ね人を探すなら端の辺りまで行くのは……」 「もし居なかったら引き返さないといけないですもんね」 「そういうことね」 美羽が納得したようにうなずく横で、歌鈴が表情を引き締める。 もしライブ会場の方向に居なければ引き返さないといけない。 それならばまずは中央へ行くというのも手の一つ。 そういった選択肢を明確に示す為に、あえて南端まで進んだのもあった。
876 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:06:26 ID:D/DsLhzY0 「けれど、あちらの方面を先に探すのもそんなに悪くはないかも」 「えと……どうしましょう」 「楓さんとしては、どう思います?」 美羽が考え深げにそう問い返してくる。 どうやら年長者としてだけでなく、何か理由があって尊重してくれてるのかもしれない。 とは言え、これに関しては歌鈴に委ねても構わないかなとも思っている。 自分も同じ尋ね人が居る身なのに、それを隠している負い目もあったから。 しかし、思わず気になっていた場所が口に出てしまった。 「灯台は……どーだい……」 「ええっ、流石に遠すぎませんか?」 「あ、今のはなんとなく思いついただけだから気にしないで」 そう、本当にただなんとなく思いついただけなのだ。 あの子の性格なら、誰も来ない場所で膝を抱えているんじゃないかと思っていたから。 (一体……何処に居るのかしらね……愛梨、ちゃん) 同じプロデューサーの元にいた、その少女を。 (今までは周りを気遣う余裕なんてなかったけれど、ね) 食事の用意の前に楓は間違えて持ってきたワインを元の場所に戻そうとしていた。 そんな時に、隣に置いてあったラム酒が目に入って。、 昔、彼女が読んでいたお菓子のレシピに載っていたから思い出してしまったのだ。 ラム酒をふって、レモン汁……だった気がする。 (けれど……あんな顔してたのを思い出したら、ほっとけるわけない) いつも太陽のような笑顔を浮かべていたあの子。 プロデューサーが死んでしまった時、周りなんて見えなかったはずなのに。 あの子が絶望に染まった顔で叫び声をあげていた光景が、頭のどこかに焼き付いてしまっていた。 それが妙に引っ掛かってるうちに、気付いたら外へ出る口実を考えてしまっていて。 そして、今に至る。 一体今はどうしているのだろうか。 きっと、今は元気を出して気丈に生きているというのはありえない。 同じプロデューサーの元に居たからこそ、他の人間よりは十時愛梨という子を知っているつもりだ。 あの子は周りが思っているほど、強い子じゃない。 周りが思っている以上に、繊細で……抱え込みやすい子だった。 人気が出るうちに、段々と周りに気を使って後ろ向きな発言をしなくなってしまった。 だからこそ、彼女にとって唯一弱音を吐いて寄りかかれるのが、彼だった。 そんな人を失って、それでも前を向ける人間が居るはずがない。 (一人になれる場所で自分を責めてるのか……それとも) (不安なのは……あの言葉、ね) プロデューサーが遺した、最後の言葉。 絶望に染まって、悲しみにのたうちまわって。 「生きて」という彼の最期の願いを思い出した愛梨はそれをどう考えるだろうか。 あまり信じたくはないけど、可能性としては排除出来ない。 抱え込みやすいあの子が暴発してしまうのが、むしろ自然に思えてしまう。 (とは言え、私も似たようなものかしら) (ただ……私の場合、やっぱり今でもそこまでの自信はないかな) (留美さんは、ああ言ってくれたのだけど)
877 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:07:00 ID:D/DsLhzY0 留美は恐らく、あの言葉が愛梨と楓の二人に掛けられたものだと思っていたのだろう。 けれどあの言葉に動かされた楓は、心の何処かでは今でも冷めた風に考えている。 あの言葉は、やっぱり愛梨だけに向けられた物ではないかと。 無論そうあって欲しくはないのだけど。 恋心を自覚出来なかったのも、指摘されるまで彼の言葉に自分が含まれてると考えられなかったのにも。 ちゃんと、そう思うに足る理由があるのだから。 (多分、心の底で諦めてたから気付けなかったのね) (私がアイドルになった時から、もうあの二人に割って入る隙なんてなかった) (それだけ、あの二人の絆が強いものだったから) 楓は知っている。 愛梨が思っている以上に、彼は愛梨のことを大切に想っていた。 果たされることのなかった飲みに行こうといったあの日も、もしかしたら愛梨の話が出ていたのかもしれない。 今考えると、惚れられてる相手に別の女性の相談をするなんてとんでもない人だった。 その所為で無意識に自分の感情に蓋をしなければいけなかったのというのに。 (とは言え、愛梨ちゃんに会えても私に出来る事なんてほとんどない) (精々、あの子のやりきれない気持ちを受け止めるくらいかな) それと、死んでしまった彼が直接口に出せなかった愛梨への気持ちを伝えるくらいだろうか。 結局のところ、励ましたり叱ったりすることは出来ないと思う。 自分の柄ではないし、きっと愛梨が欲しているのはそんなものじゃないだろうから。 (本当に……ばかみたい) (なんで何も出来ない癖に探そうなんて思っちゃうんだろう) (――さんの、所為です) (きっと貴方が喜んでくれるだろうから、そうしてるだけ) (これでも私……尽くす女なんですよ?) (例え叶わないって分かってても、何だってしちゃいます) 楓が突然押し黙り、微笑むのを見て美羽と歌鈴は首をかしげる。 その視線を気にすることなく、彼が見守ってくれているかもしれない天を見上げる。 穢れのない空の下、翼を失いながらもその高さを思い出した楓の行く末は何処へ繋がっているのだろうか。
878 :under the innocent sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:07:27 ID:D/DsLhzY0 【D-4 飛行場/一日目 日中】 【ナターリア】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、温泉施設での現地調達品色々×複数】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして“自分も”“みんなも”熱くする 。 1:ひとまず待機。 2:B-2野外ライブステージでライブする。 3:心に太陽を。 【南条光】 【装備:ワンダーモモの衣装、ワンダーリング】 【所持品:基本支給品一式】 【状態:全身に大小の切傷(致命的なものはない)】 【思考・行動】 基本方針:ヒーロー(2代目ワンダーモモ)であろうとする。 1:ひとまず見回り……のはずが。 2:仲間を集める。悪い人は改心させる 3:ナターリアと一緒に居る。 【和久井留美】 【装備:ガラス灰皿、なわとび】 【所持品:基本支給品一式、ベネリM3(6/7)、予備弾42】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える。 1:隙を突き、飛行場に居るアイドルを殺害する。 2:『ライバル』の存在を念頭に置きつつ、慎重に行動。無茶な交戦は控える。 3:『ライバル』は自分が考えていたよりも、運営側が想定していたよりもずっと多い……? 【前川みく】 【装備:セクシーキャットなステージ衣装、『ドッキリ大成功』と書かれたプラカード、ビデオカメラ、S&WM36レディ・スミス(4/5)】 【所持品:基本支給品一式】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:みんなを安心させて(騙して)、この殺し合いを本物の『ドッキリ』にする。 1:???????? 【D-4 飛行場南端/一日目 日中】 【高垣楓】 【装備:仕込みステッキ、サーモスコープ】 【所持品:基本支給品一式×1、ワルサーP38(8/8)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして、生きる。生き抜く 1:アイドルとして生きる。 2:まゆの思いを伝えるために生き残る。 3:……プロデューサーさんの為にちょっと探し物を、ね。 【矢口美羽】 【装備:歌鈴の巫女装束、鉄パイプ】 【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬、タウルス レイジングブル(1/6)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:フラワーズのメンバー誰か一人(とP)を生還させる。 1:とりあえずフラワーズの誰か一人は絶対に生還させる。 2:これからのことを相談する。 【道明寺歌鈴】 【装備:男子学生服】 【所持品:基本支給品一式、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーの為にアイドルとして生き残る。 1:プロデューサーに会うために死ねない。 2:美穂を自分から探し出す、そして話し合う。 ※次回、もしくは次々回の放送を区切りに飛行場へ戻る約束をしています。 ただし、放送の際に双方一人でも欠けていた場合は再合流を断念するようです。
879 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/05(日) 22:08:31 ID:D/DsLhzY0 投下、終了です。 最初にすっとばしてしまいましたが、皆さん投下お疲れ様です。
880 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/07(火) 01:01:17 ID:WMKtPNto0 皆様、投下乙です! ではまず感想から。 >ひとりでできるもの。 彼女の小休止、そして少女との回想と繋がる決意。鳥肌ものですわ……。 今まで彼女が辿ってきた上の小さな穴が埋められていくというか、丁寧で良い仕事です。 というか、私が書いてきたものが雑だったような気すらしてきますわ(しろめ) そして、決意したちなったんが向かう先もまた混沌としてきた水族館。うーむ、どうなるのだろうか。 >under the innocent sky また放送後の状況整理をうまく書き上げていて、流石です。 全員が主人公だと言わんばかりの、全員の魅力がピックアップされた作品。 こちらもおおよそ拾うべきところは全て拾って整理してますぇ……。 二手に別れる、というのは面白そうで。前向きで、ちょっと影のある楓組と、打って変わって、なんだか不穏な留美組。 どちらも気になる幕引きで、取り敢えずその前段階を書ききっていて、お見事でした では、私も予約分を投下します
881 :凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/07(火) 01:03:07 ID:WMKtPNto0 どこまでも広がる青空の下。 自転車の後ろに友達を乗せて。 吹き抜ける、気持ち良い風。 友達は優しくも、しっかりとしがみついていて。 自転車はどこまでも、進んでいく。 * * * 静かな―――いや、『静かになった』草原を、私達は進んでいく。 あれから、特に何かに出会うこともなく時間がすぎていった。 その間、私達の間に特に大した言葉が交わされる事はなかった。 多分、今の私達に言葉なんていらなかったんじゃないかな、って思う。 ……なんて、そんなこと言ったら奈緒は絶対誤解するだろうから言わないけど。 閑話休題。要するに、こんな状況でも奈緒が近くにいてくれるのが嬉しかった。 最悪の状況でも、近くに友達がいてくれるだけで、こんなにも頼もしくて。 私達のやっていることが間違っていて、先に終わりしかなくても、ただこの瞬間だけは好きだったんだ。 ついさっきまで、この静かな草原に女性の声が響きわたっていた。 第二回目の放送。つまり、あれからもう十二時間も経ってる。 前の放送はそれどころじゃなかったけど、今回は冷静に、ちゃんと禁止エリアも確認した。 ……まぁ、今回は全然関係なさそうだったんだけど。 だからその放送で、特に私達の方針を変える必要も無く、そのまま進んでいた。 ――――塩見周子。 それは、『私達』が殺した少女の名前。 私が、弱いところを見せちゃって、奈緒が私の事を思って、切り捨てようとして。 そして、『二人』で殺した、あの時の少女。 やっぱり、というか何というか。彼女の名前も、あの放送で呼ばれた。 きっと、彼女にも譲れないものがあったはずなんだろう。 彼女の目も、私達とは違う、輝きをしていたから。 私達と似ていて、そして、もう絶対に私達には届かない輝き。 きっと彼女にも、譲れない想いとか、守りたい人とか。 それ以上に、生きていたかったんだと思う。 彼女だけじゃない。さっきの放送で呼ばれたアイドル達も、それぞれの想いがあったはずで。 でも、私達はそんな想いも全て踏みにじって、彼女を殺した。 私達はそういう決意をして、そういう覚悟だったから。 どんな想いがあったのかも知らず、彼女は死んだ。 その罪は、きっととても重い。
882 :凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/07(火) 01:05:06 ID:WMKtPNto0 「…………」 私は、最初その重さに負けてしまった。 自分から付き合うって言ったのに、凄く自分が情けなくなった。 そんな姿を見た奈緒も、私の事を凄く心配してくれて。 結局、その重さを肩代わりしようとしてたのに、余計彼女の重みになってしまった。 あの時の自分が惨めで、悔しかった。 まるで昔の頃のように、何もできない、無力な自分を認識してしまうのが嫌だった。 だから、途中から私のわがままみたいになっちゃったけど。 でも、それでも奈緒は認めてくれたんだ。 私がついていく事に、私も一緒に堕ちていくことに。 ……うん。だから、もうそんな重さに負けたりしない。 元々自分から言い出した事だし。そんないちいち落ち込んでたりするわけにはいかない。 もう、弱いあの頃の私は卒業したから。 せめて最期の最後は、どんな道でも、支えられるだけじゃなくて支えたいから。 それに。 多分、今回は奈緒の方が辛いと思うから。 今はまだ落ち着いているけど、あの時の奈緒は心ここに在らずみたいな、そんな感じだった。 私が『した』時は、それ以上の決意と興奮……みたいなものがあったから気にならなかったけど。 本来はそれが普通のはずなんだ。人を殺して、その罪に苛まれる。 きっと今の奈緒も、そんな辛さが、『あの時』のような感情があるはずで。 だって、本当は心優しいから。その内面を、私はそこらへんの他人よりも良く知ってる。 だから、今回は私が支える番だ。 もしこれからどれだけ辛くても、私が肩代わりをする。 そもそも、これが私のしたかったことの筈なんだ。彼女だけに罪を背負わせない。 ……前は、私が弱かったから、奈緒に心配をかけすぎちゃったけど。 でも、もしも今、奈緒が罪の意識の重さに悩まされているのなら。 今度こそ、私が支える。もう、あの頃の私とは違う。 自転車の後ろで、抱く腕に力を込めた。 彼女の想いが伝わるような、そんな気がした。 * * * (はぁ…………) 放送が終わって、あたしは心の中で一人ため息をついた。 あれから、十二時間経ったのか。色々な事があって、長いようで、短かった。 放送の中で、凛の名前は呼ばれなかった。 それさえ分かれば、後は問題無い。あたし達は目的を見失わず、今まで通りにやることをやるだけだ。 禁止エリアも問題は無い。……けど、かなり辺境の場所のようで、もしかしてそこに誰かがいるのだろうか。 あくまで仮定にすぎなくて、確実なものも無いから向かうつもりは無かったけど、それだけがちょっとだけ気になった。 だから、どちらにしろやることは変わらない。 このまま北西の町にいって、あたし達がおそらく最期に着るであろう『可愛い』服を探す。 ……正直、こんな事を言ったらバカにされるかもしれないとは思ったけど、加蓮は素直に承諾してくれた。 こんな事、他の奴には流石に言えないから、嬉しかったけど。 で、その道中か、やりたい事を全てやった後は、この島にいる他のアイドルを……殺していく。 それは、たった一人で背負おうとしていた事。ただアタシがやることで、二人の代わりにやろうって、思っていた事。 ……まぁ、結果的に言ったら、多分一人じゃ無理だったんじゃないかな、って思う。 だって、たった一人殺しただけでも、こんなに苦しいんだから。 当たり前だ。人の人生を勝手に終わらせると言うことが、重くない筈がない。 それは覚悟していたつもりだったんだけど、実際してしまうと、何というか、言いようのない喪失感があった。 役場前で加蓮がくる前も、かなりひどい傷を与えたけど、比べ物にならないほどの実感が確かにあった。 人殺しに実感がわかない、なんていうのは嘘だ。すぐにそれはやってきた。 さっきの放送には、確かにあたし達が殺したアイドルの名前が呼ばれた。 彼女の事は、あまりよく知らない。京都で仕事した時に、少しだけ会ったけれど、逆に言うとそれくらいだろう。 しかし、それだけでも心に傷をつけるには十分だったと思う。 あの時話した少女がもういない。という事だけで、それはさらに現実感を増して、実感を重くした。 でも。
883 :凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/07(火) 01:06:08 ID:WMKtPNto0 「…………?」 ふと、その時。 後ろで掴んでいる加蓮の力が心なしか強くなったような気がして。 「大丈夫」 それが、一体何に言ったものなのかはわからない。 あたしに気遣って言ったのか、あるいは自分に言い聞かせたのかもしれない。 ―――でも。 加蓮も同じ気持ちだった……いや、きっとそれ以上だったんだ。 加蓮は、あたしを想うその気持ちだけで、その一線を越えた。 多分、あたしがいなかったら越えなかった筈の一線。 だから、ただ殺し合いに乗ろうと少しでも決意していたあたし以上にいきなりで、そして辛い実感があった筈なんだ。 そして、加蓮はそんな辛さがあってもなお、その道を進むあたしと居る事を望んでくれた。 最初の放送で、それを確かに実感して、心を傷つけて、それでも、一緒に居る事を選んだ。 それが彼女の救いなら、それが彼女の望みなら。あたしも、もう迷ったり、悔やんだりしない。 ―――二人なら、きっとそんな痛みも分け合えるんじゃないかな。 そう言うあいつが、一番辛かった筈だから。 だから。 「……あぁ」 あたしはその言葉に、ただ一言返した。 それだけで、きっと今のあたし達には十分だった。 * * * 「……さて、と。言うほど派手でもないなぁ、ここ」 「うん……でも、あそこよりかは大分いろいろありそうだね」 あれから特に言葉も交わさず、長い道のりを自転車で快調に進んでいって。 そして二人は北西の町にたどり着いた。 この瞬間が終わる事に、二人とも名残惜しさを感じてはいたが、しかし一歩を踏み出さない事には何も変わらない。 自転車から二人共降りて、周りを見渡す。……特に人の居る気配は無かった。 「さて、それじゃあ……加蓮」 「ん、何?」 「……今更言う事でもないけどさ、油断するなよ」 手に持つトマホークを握りしめて、奈緒はそう言う。 そう、もはや言うまでも無い事。 ここは殺し合いの場であり、この町で、誰がいるかも分からない。 既に23人ものアイドルが死んでいるこの場所は、常に命の危機に晒されている。 「分かってるよ、奈緒」 その言葉に、加蓮はピストルクロスボウを持ち上げて答える。 彼女も勿論、その覚悟ははっきりとしていた。 もしも次に会うアイドルが、殺し合いに乗っていようとも乗っていなくとも、やること自体は変わらない。 もう彼女達は覚悟を決めていて、それを曲げる事は、もう許されない。 殺す。渋谷凛以外の、全てのアイドルは殺害対象だ。 乗っている奴は凛に会えば危険だし、そうでなくとも殺さないと、今度はプロデューサーが危機に晒されてしまうかもしれない。 だから、たとえ次に会うアイドルが何だろうと、渋谷凛以外なら誰だって殺す。 それが、彼女達の覚悟。 「……じゃあ、行くか」 「うん」 自転車を引いて、二人並んで町の中へ進んでいく。 その決意はもう、決して揺らぐ事は無く、彼女達はしっかりと進んでいって、そして。 「………?」 目の前の建物から立ち上る煙が、目に付いた。
884 :凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/07(火) 01:07:01 ID:WMKtPNto0 「病院か………」 その建物が何かは、見れば分かる。 本来ならば清潔感を保つその白い建物は、地図が正しければ病院という事になる。 そう、本来ならば。 「何か起こってたのかな……」 「わからないけど、少なくとももう『終わってる』みたいだな」 一部分が、黒く変色している。 その場所だけどう見ても周りとは場違いで、違和感の塊だった。 一体何が起こっていたのか。それを彼女達が判断する手段はないが、予測はできる。 理由がわからなくとも、そこで火事が起こっていたようだった。 今はもう火事といえる程の勢いはなかったが、未だ遠くからでも煙が視認できた。 「まぁ、あたし達には関係のない事か………」 だが、そんな事は今関係ない。 もしかしたら中にその当事者がいるかもしれないが、今は優先順位がある。 できれば、先に『形』を残しておきたい。二人がまだ終わっていない、今のうちに。 だから、ここで足を止める必要は無い。そのまま目的の物を探して、目的の場所に行くだけ。 「…………」 「……加蓮?」 ―――だが、隣の少女はすぐには動かなかった。 加蓮は、病院をずっと見ていた。 その理由――いや、そもそも理由らしいものがあるのかはわからないが、なんとなく彼女がこの場所を嫌っている事は分かった。 『ここ』にいた彼女は、弱かったという。昔の自分を思い出してしまうのだろうか。 北条加蓮は、あれから大分変わった。 最初の頃を知っていれば、その変化は驚くべきものがあるだろう。 最初の頃はただ自分の弱さを枷にして、高い場所から目を逸らして。 今は違う。弱さはしっかりと直視して補うように努力し、高い場所もただ一直線に目指す強さを手に入れた。 そして、多分その変化に一番戸惑っているのは加蓮自身だと思う。 戸惑っている、というよりかは、嫌悪している、というべきか。 昔の自分の姿が、何より自分自身だからこそ、その姿に良い印象はなくて。 だから……その弱い記憶を象徴するようなこの場所は、加蓮にとっていろんな意味で特別な場所なのだろう。 「……そろそろいくか、加蓮。 可愛い服を探して、色々準備しないとな。ここで立ち止まったらいけないだろ?」 「えっ……あ、うん」 何か上の空だった彼女は、少し遅れて返事をする。 結局、実際に彼女がどう思っていたのかは分からない。 しかし、例え昔の事を今どう思っていたとしても、昔は昔だ。 もう、昔には戻れない。 今のあたし達に、昔を想うひまはなくて、多分……そんな資格ももう無いと思う。 ただ、前を向いてなすべき事をするだけだ。昔を想うより、今をしっかりと生きていたかった。 それは、当たり前の事のはずなのに。 「……行こっか」 そんな事でさえ、ままならないなんて。
885 :凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/07(火) 01:08:30 ID:WMKtPNto0 ―――それが例え人殺しでも、私は歓迎します! 放送の言葉が、不意に頭で繰り返される。 ちひろは、一体何が目的なのだろうか。 こんな悪趣味な、大荒れ必死のストーリーは、彼女が考えたものなのだろうか。 一体彼女が何を知っていて、何を伝えようとしているのか。 例え人殺しでも、歓迎する。 その言葉はあたしの思いを揺さぶって、でも確かな決意を与えて、そして。 (……そんなこと、言われる筋合いはねぇよ) 確かな憎悪を抱かせるには十分だった。 【B-4 病院前/一日目 日中】 【北条加蓮】 【装備:ピストルクロスボウ、専用矢(残り20本)】 【所持品:基本支給品一式×1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×5】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 1:“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。 2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 4:事務所の2大アイドルである十時愛梨と高森藍子がどうしているのか気になる。 【神谷奈緒】 【装備:軍用トマホーク、自転車】 【所持品:基本支給品一式×1、デジカメ、ストロベリー・ボム×6】 【状態:疲労(少)】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、加蓮と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 1:“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。 2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 4:千川ちひろに怒り…?
886 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/07(火) 01:08:52 ID:WMKtPNto0 投下終了です
887 : ◆John.ZZqWo :2013/05/07(火) 07:53:30 ID:TLeBQOsc0 南の島から帰ってきたらいっぱい投下があるでごぜーますよ。 >ひとりでできるもの。 装いを新たにしたちなったんのクールな現状認識。そしてゆいちな。サクラブロッサムの誓い。淡々とした感じがちなったんの話らしくてグッド。 現状、誰かを殺せたということはないのだけど失点は少ない彼女。これから先に期待かな? 水族館はたくさんアイドルがいるけど……どの子も一筋縄でいかないのが、やや不安かも。 >under the innocent sky 目覚めから年長者として采配を振るう楓さん。お茶目さも戻ってきて頼もしい。 懐に想いを隠して誘導する楓さんと、腹に一物を隠して応じるわくわくさんの大人な対比がグッド。 とはいえ、人数を分けるのはやはり危険な気がするし、ろくな武器もないし、道明寺ちゃんがどんなドジするかわからないし(ry 逆に残されたほうもわくわくさんが超狙ってるし、みくにゃんとか来ちゃったし、遠からず苺の二人もきそうで怖すぎw 南条君もナターリアも太陽の子だけど、やはり子供なのだよねぇ。 >凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 タイトルがトライアドプリムスw なおかれ話だー! なおかれが思い思われ支えあいでほっこり……というかしんみりというか、殺す側なのにがんばってねと応援したくなる気持ち。 北西の街に到着して、つまりは次こそ新しいかわいい(重要!)衣装を選ぶターンですか? 俄然期待しちゃいます。 では、 島村卯月、十時愛梨 の2人を予約しますね。
888 :名無しさん :2013/05/07(火) 23:41:43 ID:L7CC4yzkO 投下乙です。 空港の4人が全員殺人経験者だー!? ドッキリ大成功しそうにないよみくにゃん なおかれは淡々と、前向きなのか後ろ向きなのか分からない覚悟を持って。 それを嘲笑うようにも聞こえてしまうちひろの発言に……?
889 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/08(水) 20:19:15 ID:qnY6zxlk0 遅れたのに連絡なく申し訳ありませんでした。予約は一旦取り下げます。
890 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 01:44:57 ID:lMKufPkY0 完成したので、再度、予約しなおして、投下しても問題ないでしょうか? また、詰めていたら、美穂と茜のみの予約になったのでこの二人での予約になります
891 : ◆John.ZZqWo :2013/05/09(木) 01:47:04 ID:5tEKb1tA0 問題ないですよー。
892 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/09(木) 01:47:47 ID:aQxcfzxs0 いいんじゃないでしょうかー 予約切れの時のルールなど、後でまた詰め直しておいた方が良さそうですけどね 取り急ぎお返事のみ、感想等はまた後ほど
893 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 01:55:21 ID:lMKufPkY0 ありがとうございます。それでは、投下始めます
894 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 01:55:56 ID:lMKufPkY0 ――――スキ スキ スキ あなたがスキ だって運命感じたんだもの ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ サイロの中で、ふらふらと揺れる人影。 手には、一振りの鎌。 けれど、それは草を刈る為ではなくて、命を刈る為にあって。 逡巡するように、ふらふらと揺れていて。 そして、覚悟が決まったように、ぴたりと定まって。 命を刈る鎌は。 ――――静かに、けれど、確実に振り落とされた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
895 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 01:57:43 ID:lMKufPkY0 目の前にあるのは、一杯のコーヒー。 あの人の真似をした、砂糖もミルクも入っていないブラックの。 わたしはそれをぼーっと眺めながら、椅子に深く腰掛けて居ました。 わたし――小日向美穂は、今サイロを離れて一人、牧場の食堂に居ました。 そこは、軽食やソフトクリームなどがメインのフードコートみたいな場所です。 折角だから何か食べようかと思ったけど食べる気が起きなかったので、結局コーヒーだけ。 しかもそのコーヒーすら飲んでいません。 ただ、こういう時間が欲しかったからだけかもしれない。 だって、未だにあの時の記憶が頭の中で消えないから。 あの悪魔の囁きが。 初恋を諦めて、夢を掴めと言った声が。 それこそが希望だと言いたいように。 その囁きが、ずっとずっと響いているんです。 封を閉じていた記憶だった筈……だったのに。 今になって、こんなにも、記憶が鮮明になるなんて。 あはは……は…… 初恋を諦めて、夢に手を伸ばせと。 誘惑は、余りにも蠱惑的で。 それに、手を伸ばしたくなると同時に。 ――――馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にして! そんな、強い感情が湧き上がって、仕方ない。 何もかも解かったような彼女に対して。 怒りだろうか? 哀しみだろうか。 解からない、解かりません。 ねえ、ちひろさん。 貴方、恋をした事、ないよね? きっと……ううん、絶対、そう。 初恋が叶わない。 初恋が実らない。 そんなの、知ってる。 そんなの、解かってる。 何度でも、恋をすればいい。 うん、きっとそうやって強く、なっていくのかもしれない。 でもね。 初恋ってのは―――― ――――諦めたくても、諦められないものなんですよ。
896 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 01:59:10 ID:lMKufPkY0 叶わないとしても。 無理だとしても。 諦めるのが、当たり前でも。 どんなに実る事が見えなくても。 どんなに、情けなくて、どんなに、惨めで、どんなに、ちっぽけでも。 その、恋に縋っちゃうんです。 叶うかなって。 叶ってほしいなって。 それが、初恋だから。 どんなに傷ついても、想っていたい。 彼と見た夢と同時に。 わたしの恋も、想いも、『夢』なんです。 簡単に諦められるなら……初恋なんてしない。 「だから――――馬鹿にして。わたしの恋も、わたしの夢も……何もかも知った風に言って」 そう言って。 わたしはポケットから、小瓶を出す。 毒が入った瓶です。 簡単に、人が殺せるもの、でしょう。 「わたしは、高森藍子みたいに、なれません、なりたくありません」 高森藍子。 恋を秘めながらも、ずっと閉じ込めて。 ひたすらアイドルで居る少女。 いや、『アイドルの少女』 きっと彼女は、夢は必ず叶うって言うと思う。 満面の笑みで、頷くでしょう。 でも、それって、本当に貴方の夢なんですか? 恋を封じた貴方の夢は本当に叶ってるの? 自分の気持ちに正直にならないで。 解かるようで、でもやっぱりわたしは彼女のような考えは、嫌いだ。 絶対に認めてたまるものか。 だって、わたしは。
897 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 01:59:46 ID:lMKufPkY0 「初恋をして、そうやって、わたしはずっと磨かれた、糧にした、それが小日向美穂で、『アイドル』小日向美穂なんです」 初恋をして強くなった。 そうやって輝き始めた。 ちひろさんは、初恋が実らなくても、それを糧にしていけばいいといった。 ねえ、ちひろさん。 貴方はあるかもしれない『未来と希望』を見て、 何よりも大切な『今』を見てないんですね。 あはは……馬鹿にして。 手にした小瓶を、傾けようとする。 コーヒーに入れる。 だから、私は、死を選ぶ、ことにしました。 正直疲れてしまった。 人の感情を何でも知ってるようにちひろさんは馬鹿にして。 周子さんも死んで。 同じ出身だった蘭子ちゃんも死んで。 そして、わたしには、初恋を諦めろといって。 そんな、用意された夢を。 私は、選び取らない。
898 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 02:00:31 ID:lMKufPkY0 「さよな―――」 ――さん。 「だぁああああああ! そんな事駄目だ!」 耳に、劈く声。 「もう二度と、傍に居るのに、助けられないなんて、御免だ!」 殺しきれなかった少女。 情熱に燃える少女、日野茜が、わたしの手を、掴んでいました。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
899 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 02:02:03 ID:lMKufPkY0 夢を見ていた。 それは、傍に居た少女が、あっと言う間に死ぬ夢。 リーナが死んだ時の記憶が見せた夢だった。 私――日野茜は隣に居ながらも助けられなかったんだ。 リーナはあっと言う間に穴だらけになって。 そうやって、救えなかった夢。 私は飛び起きて、私の隣には鎌が突き刺さっていた。 ゾッとしたけど、そうやって居るべき少女が居ないことに気付いて。 私は駆け出した。牧場の敷地を探し回った。 そして、食堂に入った先に居たのは、今にも死にそうな美穂ちゃんで。 「どうして……?」 「どうして、もないです」 彼女は死のうとして。 私は止めていて、彼女は私を非難するように睨んでいました。 「死ぬなんて、駄目だ、死ぬなんて、よくない」 「……それだけ、ですか?」 「違う! 違うよ!」 「もう、疲れたんです。ねえ、茜さん?」 そう言って、彼女は私を見つめて。 その瞳は哀しみに濡れていて。 「貴方は、ちひろさんに、好きに操られていると思わないんですか?」 「……え?」 「アイドルとか希望とか……そんな言葉で縛られて……疲れました」 「……違うっ! 私達は……私達は……!」 すーっと、息を吸って。 私の思いを伝えなきゃ。 「私たちのまま、生きている! リーナは最期までリーナだったよ!」 「……」 「ロックのまま、ロックを貫いてさ……でもね」 リーナはリーナだ。 吹き込んだ言葉はとってもリーナらしかった。 でも、でもね。 それでも、あんな簡単に。
900 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 02:03:03 ID:lMKufPkY0 夢を見ていた。 それは、傍に居た少女が、あっと言う間に死ぬ夢。 リーナが死んだ時の記憶が見せた夢だった。 私――日野茜は隣に居ながらも助けられなかったんだ。 リーナはあっと言う間に穴だらけになって。 そうやって、救えなかった夢。 私は飛び起きて、私の隣には鎌が突き刺さっていた。 ゾッとしたけど、そうやって居るべき少女が居ないことに気付いて。 私は駆け出した。牧場の敷地を探し回った。 そして、食堂に入った先に居たのは、今にも死にそうな美穂ちゃんで。 「どうして……?」 「どうして、もないです」 彼女は死のうとして。 私は止めていて、彼女は私を非難するように睨んでいました。 「死ぬなんて、駄目だ、死ぬなんて、よくない」 「……それだけ、ですか?」 「違う! 違うよ!」 「もう、疲れたんです。ねえ、茜さん?」 そう言って、彼女は私を見つめて。 その瞳は哀しみに濡れていて。 「貴方は、ちひろさんに、好きに操られていると思わないんですか?」 「……え?」 「アイドルとか希望とか……そんな言葉で縛られて……疲れました」 「死んじゃった……何にもしてないのに、死んじゃった……」 「……そう……ですか……」 「そんな、リーナが操られた、縛られていたというの? 違う……違うって、そんなの哀しすぎるって……そんな事……言わないでよ」 「……でも」 「私も、リーナも、自分らしく生きてる、生きてた。ねえ貴方は違うの!? 恋をして、それで、生きたいんでしょ!」 美穂ちゃんの瞳が揺れた。 だから、私は言葉を繋げる。 「何者でもない、貴方の意志で恋したんだ! だったら、その意志を貫いてよ!」 「わ、わたしは……」 「見返してやるんだ、ちひろさんに、私らしく、何処までも私らしく生きるんだって!」 「わたし、らしく」 「だから……!」 だから、ねえお願い。 「死ぬなんて、選ばないで……! 死って辛くて、哀しいんだ……だからさ、生きてよ……」 生きて。生きて。 もう、誰も死なせたくないんだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
901 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 02:03:40 ID:lMKufPkY0 わたしの意志。 あの人に恋して。 わたしは、今も此処に居る。 この初恋を諦めたくない。 わたしは、今を生きていて。 浮かんだのは、やっぱり、大好きな人。 ああ、わたしは、生きたいのかな? 生きて、生きて。 たとえ断れると解かっても。 伝わらないと解かっても。 好きと伝えたい、のかな。 そういえば、周子さんが言ってたなぁ…… 死んだら無駄って。 周子さん…… なら、私は……………… 「……生きます。生きてみようと思います」 生きていようと思う。 この想いを、無駄にしない為に。 私の意志で生きようと思ったんです。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
902 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 02:04:33 ID:lMKufPkY0 「……じゃあ、藍子ちゃんのところに行くけどいい?」 「いいですよ……話さなくてもいいなら」 「……いいよ」 「……色々御免なさい」 「生きてくれるなら、いいよ」 美穂ちゃんが生きることを選んで。 私はとりあえず、藍子ちゃんの元に一緒に戻る事を伝えた。 心配しているだろうしね。 相変わらず美穂ちゃんは藍子ちゃんを嫌ってるみたいだけど…… (救うのは、任せたからね……藍子ちゃん) 私は、美穂ちゃんを助ける事はできた。 けど、それは生きる事を強引に選ばせただけ。 彼女の心を救えちゃいない。 私は恋愛とかまだ良くわからないし。 ……だから、恋する少女を救うのはさ、やっぱ恋する少女に任せるのがいいと思うんだ。 だから、私はこの子を藍子ちゃんの元へ連れて行く。 それが彼女を救う切欠になると思うから。 ねえ、リーナ、私は助けられたよ。 傍に居た子を。 だからさ、私。 リーナの分まで、色んな人。 助けるから。 うーーっし! 燃えて来た! 私らしく……皆を助けるんだ! 【G-6・牧場、食堂/一日目 午後】 【日野茜】 【装備:竹箒】 【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】 【状態:健康、熟睡中】 【思考・行動】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いには乗らない! 0:藍子の所に戻る 1:他の希望を持ったアイドルを探す。 2:美穂を救うのは、藍子に託す。 3:熱血=ロック! ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
903 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 02:05:09 ID:lMKufPkY0 けれど、悪魔は消えない。 いつまでも、何処までも囁き続ける。 生きる事を決めても、なお。 美穂が、初恋を諦めない限り。 夢を諦めない限り。 いつまでも、悪魔は、囁いている。 【小日向美穂】 【装備:防護メット、防刃ベスト】 【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌、毒薬の小瓶】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:とりあえず、生きて見える。 1:いきてみよう 2:藍子の考えに嫌悪感。 3:囁きが、消えない。
904 :first love ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 02:06:38 ID:lMKufPkY0 投下終了しました。 このたびは連絡遅れ&投下が大分遅れてしまいました。 以後ないように気をつけます。
905 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 22:00:16 ID:7X74xN6c0 改めて皆さん、投下乙です―! >今はただ、それだけを しまうー……せっつないなぁ。 気づいて、そしてどこにたどり着く。 そして、そっちはあかん!w 悲劇の予感… >彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) 幾つかヒントがでてきましたねえ。 そして、綺麗につながれていく中、ついに露骨な命令が。 さあ、どうなる? >ひとりでできるもの ここで、チェリーブロッサムを拾ってくるとは。 単独なら巧みな心理描写でいいなあ。 そして、そちらにいくとなると、壮絶なことになりそうだなぁw >under the innocent sky おお、丁寧なつなぎだ。 楓さんも調子を取り戻してきて、大人二人での会話がいいなあ。 分割して、どうなるだろうか? 残されたのは、和久井さんが狙ってるし…どうなるかなあw >凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 なおかれんはいい雰囲気がつづくなあ。 殺しながらも、まっすぐ進んでいて。 もの悲しくも、力強い話でした。 こちら投下したものの修正を。 状態表をこちらに修正します。 【日野茜】 【装備:竹箒、草刈鎌】 【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いには乗らない! 0:藍子の所に戻る 1:他の希望を持ったアイドルを探す。 2:美穂を救うのは、藍子に託す。 3:熱血=ロック! 【小日向美穂】 【装備:防護メット、防刃ベスト】 【所持品:基本支給品一式×1、、毒薬の小瓶】 【状態:健康】 そして、再予約などのルールを定めようと思いますが、どのような感じがよろしいでしょうか? 意見をお待ちしています。 最後に、 姫川友紀、大石泉、川島瑞樹、三村かな子で予約します
906 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/09(木) 22:41:38 ID:5BCIyrOQ0 皆さん投下お疲れ様です、感想は次の機会に。 補完エピソードで多田李衣菜、予約します。
907 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/09(木) 23:01:21 ID:nK3mnW520 投下乙です。 感想は予約の際に行いますので、まずは意見を。 まず、予約期間を伸ばした方が良いのではないですかね。他のロワに比べると短いようなきがしますので。 具体的には一週間+延長三日とか。 再予約は少なくとも一週間ぐらい間を開けるとかですかね
908 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/09(木) 23:11:48 ID:7X74xN6c0 あ、再予約関連の雛形として、自分の意見かいてませんでしたね……w ①もうちょっと待ってルール(仮) 7日の期限内に間に合いそうがなくその一日中に投下できそうであるなら、一言言ってもらえれば、そのまま継続と言う形の。 まあ、以前から私も含め行われてたのの明文化です。 ②再予約 もうちょっと待って(ryでも、間に合いそうもなく、破棄した場合。 出来上がったら再予約して、投下しても構いません。 ただし、再予約する場合は、なるべく早く投下してください。 ③ もしくは、もう7日の期限にして、一日だけ延長の権利を作るか。 です。これでいいなど、こうしたほうがよくないかなど、意見をどしどしくださいー
909 : ◆John.ZZqWo :2013/05/09(木) 23:22:12 ID:5tEKb1tA0 投下乙です! >first love 熱血インターセプトきたー! ナイス! 茜ちゃん! しばらく茜ちゃんの活躍がなかったからね、それだけで嬉しいw 美穂ちゃんは……けど、まだ救われてはいない、ね。自殺を選択したのは彼女らしいというか初恋の少女らしいと思う。 彼女の救いは藍子ちゃんに託されたわけだけど、でもどうなのかなぁ。毒薬も結局残ったままだし……。 予約期限と再予約ですが。 まず予約期限は今のままでいいかなと思います。 再予約に関しては、予約取り下げを宣言、あるいは本来の予約期限を越えたところから1週間経っても別の人の予約が入らなければOKでいいんじゃないかと。 再々予約も同じルールで。 また、予約取り下げ後にまだ別の予約が入ってなければ1週間経つ前でもそのまま投下できていいと思います。
910 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/09(木) 23:30:18 ID:aQxcfzxs0 皆様投下乙です! >under the innocent sky 楓さんダメなトコも復活しちゃったー!?w でも本当、一気に積極的になってすごく頼もしい。 しかし同時に和久井さんもワルいこと考え始めて…… ナターリアといい、みくにゃんといい、トラブルメーカーばかり集まって残留組がすっごくヤバいよ! 放送への丁寧な反応といい、面白そうな次へのパスといい、良い仕事です。 >凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 タイトルがすごいなぁ。そしてそれに負けない繊細でしっかりした内容。 互いに思いやるその姿勢が悲しくも美しい。そうだよね、病院がそこにあるというだけでも思うものあるよね。 そしてちひろさんの言葉に怒りを覚えるあたり、すごい頷いてしまう。 >first love おおお……! そういう答えを出したか……! 拙作の後となったお話ですが、実に納得な反応、そしてしっかり自分の仕事をする茜ちゃん。 なんだかちひろさんがひどい推測されてますがw、まあ自業自得デスヨネー 不穏の種もまだ燻ってて、どうにも手放しで喜べないあたりが絶妙ですな。 予約関係ですけど…… いちばん厳しい案としては。 再予約そのものは無しで、延長しても間に合わない(または延長権利がない)場合は期限切れと同時に権利喪失。 その後、他の人の予約がない状態であれば、その場で宣言してのゲリラ投下(予約期間なしで即投下)のみOK。 まあ、今回 ◆yX/9K6uV4E 氏がとった行動そのままですけれど、これが最も厳しい案になると思います。 ま、これは極端にしても。 いちばん問題なのは、ある書き手が延々特定のキャラを囲ってしまう恰好になることでしょうから…… そこさえ防げるのなら、新たなルールを定めることに反対はありません。 予約期限そのものは、現行のモノで良いのではないでしょうか。とはいえ、変更すべきというのであれば、強く反対はしません。 ただ最近、延長宣言すること自体を忘れてる例も多いようなので、 期限を変えるにせよ、変えないにせよ、そこだけは注意喚起しておきたいです。
911 : ◆n7eWlyBA4w :2013/05/10(金) 01:25:51 ID:Dzq15zwA0 皆様投下乙です!溜まっていた感想消化タイム! >さようなら、またいつか 彼女たちの等身大の健気さ、等身大のしたたかさ。いいですよねえ。 割り切れないままに立ち向かおうとする二人の今後に期待です。 >Life Goes On 丁寧な繋ぎ回。ここ最近、響子の人間的な面がプッシュされて嬉しいです。 いよいよナタとの接触もありそうな気配だけれど……? >another passion 立ち止まっていたシンデレラが、ようやく前に。彼女にとって良いことなのかはともかく。 むしろ追い詰められて行ってるようにも見えるだけに、今後どうなってしまうのか…… >今はただ、それだけを しまむらさんは良い子すぎるよねえ……その一方で普通の子であるがゆえの限界があって、 それで一層苦しむというスパイラル。救いはあるのかしら。 >彼女たちが引き当てたBLACKJACK(トウェンティーワン) 相変わらずタイトルが巧いw ……と思っていたら指令きたー!? かな子といずみんには面識があるし、一波乱も二波乱もありそうな緊迫感ある引きですね! >ひとりでできるもの。 最新ツアーユニットのサクラブロッサムをこう引っ張ってくるかー。 ちなったんの冷静さと柔軟さは、たとえキルスコア挙げてなくても存在感ばっちりですね。 >under the innocent sky 大集団の分断というイベントをこなしつつ個々のキャラクターのフォローもとは。 そこかしこに危険なフラグが撒いてあったりもして、いい仕事です。 >凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 再三言われてますがタイトルが上手い。そして安定の奈緒加蓮。 本当に応援したくなりますよねこの二人。やろうとしていることは殺人なのに……。 >first love 茜ちゃん回きたー!だりーの想いを継いでいてくれてるのが嬉しい。 とはいえ小日向も救われたわけではないわけで、火種は燻ったままですねえ。 予約に関しては、毎度迷惑書ける側なので何とも言い難いですが、最初から一週間だと間違えにくくていいかもですね。 最後になりますが、岡崎泰葉、喜多日菜子、双葉杏、諸星きらり、渋谷凛、予約します。
912 :名無しさん :2013/05/10(金) 23:28:51 ID:5jTVMsbcO 投下乙です。 ちひろは、今に絶望してるから、希望に縋ってるのかもしれませんね。
913 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 01:57:16 ID:.mQThvA60 お疲れ様です、少し早いですが感想を。 >凛として、なお力強く、かれんに咲いて。 放送後に少しの動揺を挟みながらも互いに支え合っている二人。 諦観にも近いその落ち着きは良いのか悪いのか一概には言えなそう。 そしてタイトルがまた上手い、とても真似できないセンス。 >first love 疲れ切った美穂と、それをなんとか繋ぎ止めたい茜。 なんとか今のところは平穏に終わりそうですが、果たして本当の意味で美穂を救えるのか。 それでブリッツェンは一体どうなるんでしょうね…… それでは予約分、投下します。
914 :Twilight Sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 01:59:59 ID:.mQThvA60 ――――――忘れないこの気持ちを、忘れないこの痛みを。 ――――――ずっと、感じていたいから。 「Shooting the star 闇を切り裂いて 進むよ」 「ふふふ……うーん、やっぱりロックだね!」 「きっとなつきちもこれを聴いたら驚くぞ〜」 そろそろ陽も沈もうかという黄昏時の空の下、小柄な少女が人気の無い住宅街を歩いている。 ヘッドホンを付けて、時折何かを口ずさみながら楽しげに。 これが中年の男性なら間違いなく不審者として通報されるだろうが、可愛らしい風貌をしていたのがせめてもの救いだった。 最早言うまでもないかもしれないが、少女の名前は多田李衣菜という。 自称、ときどき他称ロックなアイドル。 時に彼女を表す単語に失敬な三文字のワードがあったりするが、それについては割愛。 事務所の期待株でもあり、将来を嘱望されているアイドルの一人だ。 そんな彼女がいつにも増して機嫌が良さそうなのにも理由がある。 先日、かねてより熱望していたCDデビューが決まったのだ。 彼女はその知らせに独特な叫び声をあげることで喜びを表し、そして俄然張り切った。 普段肌身離さず持ち歩いているプレイヤーで、届いたデモテープを何度も繰り返し聞くほどに。 しかし、やる気も方向を間違うと周囲に迷惑をかけるということがしばしばある。 李衣菜にとってのそれは、例えば場所を選ばずに歌詞を口ずさみ始める。 そして、突如悦に浸った様子でニヤニヤと笑みを浮かべたりすると言った行動に現れた。 現に数日前、事情を知らない岡崎泰葉がその姿を目撃して大いに気味悪がったのだがそれはまた別の話。 結局最後はプロデューサーにご注進が及んだらしく、案の定叱られて仕事中は自重することになった。 「最近は仕事の調子も良いし〜、あ〜薔薇色の人生だなぁ〜」 「この調子でロックを極める……なんてね!」 とは言えデビューが決まった後の李衣菜のモチベーションの高さには、目を見張るものがあったのも事実。 表情も言動も生き生きとしていて、彼女の魅力がより一層引き出されているのだ。 プロデューサー曰く、「なんかめっちゃ輝いてるなー」とのこと。 その上、時折目立っていた歯切れの悪さがなくなったと評価する関係者も居た。 「さーて、レコーディングの日も決まったし気を引き締めないとなー」 「……って、そういえばこの前のちひろさん何かあったのかな」 「ちょっと雰囲気がいつもと違ったけど……体調不良とかじゃないだろうし」 仕事への意欲に燃える李衣菜だったが、数日前に気になることがあった。 学校の放課後、今後の詳しいスケジュールを確認に行ったときのことである。 いつもそれらを担当してくれている頼もしい事務員の様子が少しおかしかったから。 気のせいだったらいいなと思いつつ、その日のことを思い返す。
915 :Twilight Sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 02:00:36 ID:.mQThvA60 「李衣菜ちゃん、最近随分調子が良さそうね」 「……えっ、何がですか?」 スケジュールを確認し終わって、ちひろの勧めもあり少し休んでいたときのこと。 これからCDショップにでも寄って帰ろうかと考えていた時に、唐突に声を掛けられた。 視線を移すと、千川ちひろが事務員のデスクから李衣菜に笑いかけてきた。 「仕事のことよ、プロデューサーさんも随分褒めてたでしょう?」 「あっ……はい、実は自分でもそう思ってるんです」 「あらあら、確かに表情もいつも以上に可愛らしいわね」 「ホントですかっ!?……っと、私はロックを目指してるから可愛いより格好いいの方が……」 「ふふ、そう言われるとちょっと格好よくもあるかしら」 ちひろは作業する手を止めずに、クスクスと笑った。 正直可愛いと言われたことは満更でもない、のだが少し緩みそうになった表情を引き締める。 「そこ笑うトコじゃないですっ、真面目に目指してるんですから!」 「別に冷やかしたわけじゃないのだけど……」 「ホントですかぁ〜?みんなそう言って笑うんですよ〜」 「本当よ、李衣菜ちゃんならきっとロックなアイドルになれると思ってるわ」 「えへへぇ……」 引き締めたはずの表情があっという間にだらしなくなる。 しかし、人によっては単純と表現するであろう彼女の純粋さは美徳でもある。 その豊かな感受性こそが、多くの人を魅了する第一歩なのかもしれない。 ロックを含めたあらゆる芸術というのは、皆それらが根底にあるのだろうから。 「そういえば……李衣菜ちゃんにとってロックはカッコいい、なのね」 「……??どういうことです?」 「いえ、ロックってどういうことなのか気になっちゃって」 「そ、そうなんですか……」 「李衣菜ちゃんはその道の先達でもあるのだし、良かったら教えて貰えないかしら?」 いつもなら威勢よく何かしらを答える李衣菜なのだが、今回は珍しく言いよどんだ。 最近好調なのはCDデビューが決まったというだけではない。 けれど、まさかこんなに早くそのことに関係する質問をされるとは思ってもみなかった。 本音を言えば、誰かに聞いてほしかったのも事実ではあったのだけど。 心の準備が出来てなかったのもあり、少し緊張した様子で李衣菜は言う。 「あの……ちひろさん、私が何を言っても笑わないって約束してくれます?」 「どうしたの?急に改まって」 「ああっ、やっぱり何でもないです!」 「…………ふふっ、約束するわ」 「……え?」 「李衣菜ちゃんにとって大切なことなんでしょう?絶対笑ったりしないわ」 微笑みながらちひろは続きを促す。 その表情は先程の苦笑気味だったそれとは違って、妹の話を聞く優しい姉のようだった。 だからこそ、ほんの少しあった躊躇いも少しずつ溶けていって。 李衣菜は思っていたよりも滑らかに、口を開くことが出来た。 「……ついこの前までは、私もロックは上手く言えないけどカッコいいことだって思ってたんです」 「そうね、事務所に入ったときもそんな感じだったわね」 「はい、けれどちょっとキッカケがあってそれだけじゃないって思えるようになって」 「…………」 「この前新曲の歌詞を初めて見た時、凄く心に響いた部分があったんです」 「どんな詞なの?」 少し考え込んだ後、李衣菜は歌うようにその部分を諳んじた。
916 :Twilight Sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 02:01:04 ID:.mQThvA60 「巧く歌うんじゃなくて 心を込めて歌うよ」 「世界でたった一人の 君に伝わりますように」 「一度きりの旅だから 自分だけの旅だから」 「好きなもの集めるんだ 間違ったっていいんだ」 李衣菜は口を閉じると、おそるおそる反応を窺う。 子供っぽいと笑われてしまうかもしれないと思っていたから。 けれど、ちひろは感じ入ったように溜息をつきながら呟く。 「素敵な歌詞ね……」 「ほ、ホントにそう思いますか!?」 「ええ、心に沁みるというか……純粋で真っ直ぐな気持ちが伝わってくる」 「良かった……笑われちゃうんじゃないかって思ってたんです」 それは李衣菜にとって、本当に嬉しいものだった。 「私、ロックシンガーが何でカッコいいのかこの言葉で分かった気がするんです」 「もしかして、それが最近の調子が良かった理由?」 「はい!巧くやることを意識するより、心を込めることが大切なんじゃないかって思って」 「そうなの……」 「たった一人の誰かの為じゃないけど、見てくれる人達全員に私の熱い心を伝えられたらいいなって……」 それが前の二つの歌詞。 勿論だが後の二つにも理由はある、それは李衣菜自身の在り方を変えるくらいの。 流石にこれは事務員だろうと姉だろうと、言うつもりはない。 口に出すことばかりがロックというわけでもないだろう。 例え有名人でも噂は気にする、李衣菜とてそれは変わらない。 だから、自分がその道の造詣が深い一部の人に苦々しく思われているのは知っていた。 それも含めての魅力だと言ってもらえたりしても、それは密かな傷なのだ。 もちろん知識を付けることを放棄しているわけではない。 けれど知らない語句が出るとどうしても分かったふりをしたり、誤魔化したりするのは事実だった。 自分自身に責任があるからこそ、人には言えない負い目となってしまった。 それ故に間違ってもいいという言葉は、李衣菜にとって凄く新鮮に聞こえた。 少しでもボロを出さないように、そんなことばかり考えてた自分が馬鹿馬鹿しく思えるくらいに。 だからこそ間違ってもいい、とにかく自分の真っ直ぐな気持ちを主張しようと意識が変わったのだ。 失敗して、失敗して、失敗して。 けれどその分、学べばいいじゃないかと思えるようになって。 今はまだ見えなくとも、その先に皆が認めてくれる自分自身の「ロック」があると信じられるようになった。 CDデビューのレコーディングも小手先の技術に頼らず、心を込めて歌おうと思う。
917 :Twilight Sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 02:01:32 ID:.mQThvA60 「……そういえば、有名なロックシンガーに銃で撃たれて亡くなった方が居たわね」 決意を改めて噛み締めていると、ちひろが突然そう呟いた。 次いで彼女が言った人名には、李衣菜にも聞き覚えがあった。 それは、遠い異国であるこの国ですら知らない者は居ないであろう偉大なロックスター。 「えーっと、確か熱心なファンに撃たれちゃったんでしたっけ?」 「確かそうだったわね、本当に理不尽な話」 「けど、急にどうしてそんな話を?」 そこで、李衣菜は少し違和感を感じる。 今まで話を聞いてくれていた彼女の姿が、そこにはなかったから。 「もし、李衣菜ちゃんがロックなアイドルになって、そんなファンが出てきたらどうする?」 「えっ……」 「もしかしたら、ある日理不尽に殺されてしまうかもしれないわ。 それは有名人だからだとか、特別な人に限った話じゃない。 思わぬ事態が起こって、何が何だか分からないまま死んでしまう人だっている。 そんな『理不尽』がまかり通ってしまう状況が、世の中にはあるの。」 「ちひろ……さん?」 そうやって言葉を紡ぐちひろさんは、いつもの優しげな表情じゃなくて。 何かを押し殺しているような、そんな顔だった。 「……ごめんなさいね、変な話しちゃったから忘れて頂戴」 「いえ……」 「まだ時間も早いし、何処かへ寄って帰るつもりだったんじゃない?」 「ええと、CDショップに行こうかと……」 「だったらそろそろ行かないと、家に着く頃には外が真っ暗になっちゃうわ」 「ホントだ……それじゃあ失礼します!」 「ええ、お疲れ様」 違和感を抱えたまま、李衣菜は頭を下げて事務所を出た。 だから、ドアを閉める音でちひろが最後に呟いた言葉は聞こえなかった。 「そしてその『理不尽』は、すぐ目の前にあるのかもしれないのよ」 「…………っ!?」 突然すぐ横で、自動車の強いブレーキ音が鳴り響いた。 先日の出来事を思い返していた李衣菜の意識は、あっという間に現実へ引き戻される。 間もなく住宅地を抜けて、自宅にかなり近い場所。 不意に強い悪寒が体を突き抜け、走り出そうとしたその瞬間。 突然背後から腕のようなものが首に巻き付けられ、ガッチリと身体が固定される。 反射的に叫び声を上げ、もがこうとした時に何かが顔に吹き付けられた。 もっともそれを認識した頃には既に意識は遠のいていて、身体から力が抜けていった。 デモテープはとっくに終わり、次の曲が鳴っている。 それが、李衣菜が最後に知覚した日常だった。
918 :Twilight Sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 02:02:13 ID:.mQThvA60 時は進んで、今よりもほんの少し前。 多田李衣菜は十時愛梨に狙撃され、銃弾の雨を浴びて倒れこんだ。 駆け寄った日野茜と高森藍子の呼びかけにも一切反応を返さない。 それを見た二人は、李衣菜が即死したのだと思っていた。 (そっか……私、撃たれたんだ……) だから、その場に居た人間は少女の"ロスタイム"に誰も気付かない。 銃弾を受けた時に大事な神経が切れてしまったのか、意識はあれど身体が動くことはない。 呼吸すら傍目から見たら見落としてしまうくらいに細く、儚かった。 それが、多くのものに縛られながら得た最期の時間。 (ごめん、茜さん……もうここで死んじゃうみたい) 泣きながら必死に体を揺さぶる茜を見て、酷く悲しくなる。 置いていかれる彼女もそうだけど、置いていってしまう自分だって辛い。 少しの間だけど確かに仲間だったその少女に、別れの言葉すら告げられないのだから。 (この人……FLOWERSのリーダーだっけ……何であんなことしてたんだろ) もう一方で、自分の手を握り必死に呼びかけてくる少女を見てぼんやりと思考する。 最早ほとんど機能していない頭でかろうじて誰なのかは認識出来た。 どうしてあの時、人を庇っていたのかは分からない。 けれど、優しい性格だというのは見てるだけで伝わってくる。 それでもこの手を取る事は、もう出来ない。 (私を撃った人……十時さん、だっけ) 正直今でも信じられないけれど、先程自分を撃ったのは間違いなくあのシンデレラガールだった。 つい先日まであんなにも輝いた笑顔を浮かべていたあの人が、殺し合いに乗ったのはどうしてだろう。 もうそれを確かめる術はないけれど。 望んで人を殺しているわけではないだろう彼女が、少し可哀想に思えた。 撃たれた側の自分が妙に冷静なのもおかしな話だと思う。 段々薄れていく意識の中で、二つ心残りだったことを思い出していた。 一つはもうすぐレコーディングする予定だった「Twilight Sky」のデモテープ。 ここに来てからは悲しくなるだけだと一度も聴いていなかった。 たったそれだけのことが、無性に引っ掛かる。 (結局大切な物が分かった気がしてたのに、ここじゃいつも通りだったなぁ) (理不尽だよ、本当に) もう涙を流したり、自嘲気味に笑う力も無い。 そんな李衣菜の僅かに開いた双眸の端に、何かが映った。 誰かが棒のような物を杖にして歩いてくる。 近くへ来ると、それを放って這いながら目の前に来た。 銃弾を浴びる直前に一瞬見えたあの後ろ姿。 李衣菜はそれが誰なのか、この場に居る誰よりもよく知っている。 (なつ…………きち) 足を怪我しているだろう彼女は、よりによってこの場で一番そうあって欲しくない人だった。 木村夏樹は片腕を支えにしながら、もう片方の手で李衣菜の肩を掴む。 泣きそうな顔で、半ば怒鳴るようにして呼びかけてくる。 けれど、やっぱり体は何処も言うことを聞かなかった。 (ごめん……私まだ生きてるけど、もう声すら出せそうにないんだ……ごめん) (なつきち……怪我してる……しかもそんなに真っ青になって、重症なんだ) (どうして私の周りだけこんなことばっかり……) もう一つの心残りは、まだほとんど想像の出来なかった夢物語。 自分が本当のロックアイドルになれたとき、夏樹と共にステージに立ちたいという目標。 密かに尊敬していた彼女に認めてもらえるような、熱いものを見せたかった。 けれど結局、まともにギターの演奏も出来ないまま終わってしまった。 泣きたくても、涙が出ないことがこんなにも残酷なことだと初めて知った。 (もう、やだな……) (みんなが泣いてる……なのに何も出来ない) (こんな思いするくらいなら……頭を打ちぬかれた方がマシだったよ) 誰もが自分の死を嘆き、信じまいと抗っている。 まだ生きている自分がそれを見るのが、どんなに苦しいことか。 もう、何も見たくない。 残り僅かになった時間、三人を見る事がないよう視線の端に意識を移す。 そして、自分の手の中にあるものに気付いた。
919 :Twilight Sky ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 02:02:43 ID:.mQThvA60 『ろ、ロックに行くぜ――――ッ』 (……そっか、大事なこと忘れてた) (無我夢中 きらめいて) (まだ最後の瞬間まで、出来ることがあるよね) 恐竜の形をした、録音した声を吐き出すだけの他愛のない玩具。 それがロックの道を目指す雛鳥に、最後の魂の煌きを宿した。 紛れもなく、偽りのない真っ直ぐな熱い心は伝わったのだ。 誰でもない自分自身に。 李衣菜は想う。 死ぬときだからと言ってカッコつけたりしなくてもいい。 どんなに無様でも良いんだ。 例え最後の別れを告げることが出来なくてもいい。 掴んだ大切なものをしっかりと握りしめて、逝こう。 見栄を張らず、飾ったりせず、心から真っ直ぐに願う。 きっと、それが私にとって「ロック」であることなんだ。 (なつきちと、茜さんと、高森さんと……十時さん。) (どうか、アイドルのみんなが、これ以上傷つかずに済みますように) (どうか、無事で……あります……よう…………に) 多田李衣菜は最期の瞬間まで、そう願い続けていた。 ――――――We call you "Rock"
920 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/12(日) 02:03:04 ID:.mQThvA60 投下終了です。
921 : ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:30:15 ID:P0V9FPi.0 投下乙です! こちらも続けて投下いきますねー。感想はまたのちほど。
922 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:31:26 ID:P0V9FPi.0 【軍規 22項】 精神に異常をきたし狂気に陥った者は自らが請願すれば除隊を許可される。ただし、自らの異常を認識できる者はこれをまだ狂気に陥っているとは認めない。 @ ゆるやかな風が島村卯月の長い髪をなびかせる。 彼女は今、島の東端を走る道路の上に立ち、下りてきたばかりの山を見上げていた。 頂点へと昇った太陽に照らされる山は青々とした緑も鮮やかで、透き通る空や白い雲とあわせて見ればまるで絵画のようでもある。 その光景にはどこも不穏なところはない。――先程聞こえた銃声を除けば。 「(………………どうしよう)」 銃声は一度聞こえたきりだ。爆竹のように連続した破裂音が鳴り響き、その後はなにも音は聞こえてこない。 本当に銃声だったのだろうか……? 島村卯月はそんな風にも考えてしまう。本当は銃声以外の可能性など思いつかないのに。 山には戻りたくない。そんな気持ちがどこかにあった。 今下りてきたばかりなのだ。時間をかけずに上れる小さな山だとはいえ、また上ってそれから下りてくることを考えると億劫にもなる。 だがそれよりも、時間や疲労なんてものは些細な問題で、本当は……戻りたくない本当の理由は怖いからだ。 あの恐怖。人が死に、死の切っ先を向けられる恐怖。水本ゆかりは死んだけれども、だからといって癒えるでも消え去るものでもない。 「(……戻らなきゃ)」 しかしそれでも島村卯月は山に戻ることを選択した。 そこに渋谷凛が戻ってきているかもしれない。お婆ちゃんからは迷子になったらはぐれた場所に戻るんだよとよく聞かされてもいた。 だから、それを確かめに戻る。なによりも、もう後悔はしたくなかった。 例え、山の中にいるのが彼女でないとしても、これを無視して次の放送でもし彼女の名前を聞くことになれば……。 「(凛ちゃん……!)」 それこそ今度こそ立ち直れなくなるだろう。その恐怖を思えば、今一度自らを危険に、銃口の先にさらすこともいといはしない。 もしかすれば次は本田未央の隣に彼女の死体を見つけ、自分も殺されてしまうかもしれないとしても。 「(でも、それは……“いっしょ”だよね……)」 島村卯月は下りてきたばかりの獣道にまた踏み込み、確かな足取りと爛と輝く瞳でその先へと歩き出した。
923 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:31:56 ID:P0V9FPi.0 @ 気分は最悪だった。 心も、身体も、悲鳴をあげて、目に映るなにもかもが理解しがたく、耳に届く音は自分を責めたてるようで、なにもかもが辛い。 それも当然のことだ。王子様は死んでしまい、灰かぶりは決して終わりのない絵本のページをずっとめくり続けなければいけなくなった。 いっそ悲劇に酔いしれ死ぬことができればどんなに楽だろうか。けれどもそれだけが残された魔法は、ただひたすらに終わることだけを否定する。 「……はぁ、……はぁ、……っ」 十時愛梨は荒い息を吐きながら山を下りる。いや、本人にはもう山を下りているのか同じところを回っているのかすら定かではない。 悪夢の中に放り込まれ、ろくな休みもなく歩き続けていた彼女の身体はもう限界を訴えていた。 けれど、止まってしまえばそれは彼の言葉を裏切るような気もして、彼女は、新しく魔法をかけなおした彼女はただひたすらに歩こうとする。 「……生きろ……生きろ……生きろ……生きろ……」 ぬかるんだ道に足をとられ、張り出した根に躓き、石や先の尖った葉でいくつも傷を負い、それでも彼女はのろのろと前へと進もうとする。 その片手に機関銃を強く握りしめ。殺意――というよりも破滅願望をその手にこめて、彼女は進む。 靴の裏が土を擦る音で、進まない時計の針を刻みながら。 @ そして彼女と彼女は出会う。ただの少女だからこそ、翻弄され続ける二人の少女が。 @ 見覚えのある景色にそろそろ山頂かなと情報端末を確認し、そして顔を上げたところで島村卯月は目の前に十時愛梨がいることに気づいた。 驚いた――のだろう。10メートルもない先にいる彼女はまるで幽霊でも見たというような目をしている。 十時愛梨。シンデレラガール。事務所の誰もが知っている今をときめくナンバーワンアイドルで、そしてもうプロデューサーを失った女の子。 「……………………ぁ」 大丈夫?と、声をかけようとしてできない。心がちくりと痛む。 しかたがないので島村卯月は両手を広げて敵意がないことを示した。できるだけ自然な“笑み”を浮かべることを意識して。 きっと彼女はなにかから逃げてきたのだからと思ったからだ。 それくらいに十時愛梨の表情は恐怖に強張り、瞳は揺れていたから。そんな女の子をもう二度と見殺しにすることはできない。絶対に。 「こないで……!」 足を踏み出そうとして声をぶつけられる。十時愛梨は握った機関銃をこちらへと向けていた。 しかし、島村卯月は一瞬だけひるむも、そのまま足を踏み出す。 怖い。けれどももっと怖がっているのは彼女なのだと、銃口の先が震えるのを見れば理解できたから。 手を広げたまま、脅かさないようゆっくりと、もう一歩踏み出す。そしてもう一歩。彼女の顔を見つめながらもう一歩。更にもう―― 「ど、どうして笑ってるの……?」 問われ、足が止まる。どうして笑ってるんだろう? それはもう何も失わないため。もう命を失ってしまった彼女からもらった、なけなしの前向きさだから。 「卯月、ちゃんも……大切なものを失ったんでしょ……? だって、さっき未央ちゃんの……、なのに……どうして……」 その彼女の名前が出てきて、刺すような痛みが胸に走る。 身体中が痺れるみたいに、顔がくしゃくしゃになってしまいそうな悲しみが――けれど、島村卯月は微笑んだ。それを命綱とするように。 これを手放したら自分の中に残ってる彼女の思い出や元気も消えてしまいそうだとそう思ったから。 「(私……がんばるからね!)」 もう一歩踏み出す。 十時愛梨との距離はもう最初の半分もなくて、互いに手を伸ばせば届きそうなくらいで、だから手を伸ばしながらもう一歩踏み出した時、 まるでカチリとスイッチが入ったように全然震えていない銃口がこちらを向いて、それから驚く間もなく――――
924 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:32:18 ID:P0V9FPi.0 @ 自分のものとは違う足音に気づき、顔をあげるとそこにいたのは島村卯月だった。 島村卯月。ニュージェネレーションのひとり。がんばり屋さんでよく動き、かと思えばすぐにへこたれもする。そういうのが傍から見てもよくわかる女の子。 そしてすでにもう仲間を失った子。十時愛梨がその笑顔を破壊してしまった本田未央の仲間だった子。 「……………………ぁ」 殺さないといけないと思った。殺さないと、彼女はこの先で仲間が壊されたことを知ってしまう。だから殺さないといけない。 もし知られれば、彼女はひどく悲しむだろう。そしてこちらを恨むだろうか? そうではない。そんなことではなくて――と、十時愛梨の思考は混乱する。 意識と、理性と、心とがかみ合わない。殺そう。彼女を殺すの? そうするしかない。ごめんなさい。そんなの関係ない。私を見ないで。 「こないで……!」 両手を広げ、微笑みながら足を踏み出した島村卯月を見て反射的に銃を持った腕が上がる。 一瞬、木村夏樹を庇った“彼女”の姿が重なった。 身体が震えて、銃口が逃げるように踊る。 「ど、どうして笑ってるの……?」 島村卯月の足がぴたりと止まる。彼女をその場に縫いつけるようにもう一度、言葉をかけた。 「卯月、ちゃんも……大切なものを失ったんでしょ……? だって、さっき未央ちゃんの……、なのに……どうして……」 死んだ本田未央も、彼女を失ったはずの島村卯月もどうして笑っているのだろう? どうして笑っていられるのだろう? だって、こんなにも失うことは辛いのに。 島村卯月は、なのにまだ笑顔で。笑顔だけで近づいてくる。それがなになのか、全く理解できなかった。 「(私は……私は……私は……私は……私は……)」 本田未央の笑顔を破壊した時と同じ感情が頭の中で膨れ上がる。それは他の感情を全て頭の中から押し出して。 あれだけあった身体の震えがその瞬間だけはぴたりと止まって。 引き金を引いた瞬間――全てがブラックアウトした。
925 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:32:45 ID:P0V9FPi.0 @ 「…………愛梨ちゃん。…………愛梨ちゃん?」 「あ、れ……?」 目を覚ますと、いや眠っていたのだろうか? ともかく、気づくと事務所の談話スペースにいて、テーブルを挟んだ向こう側で友達の三村かな子が心配そうな顔をしていた。 「大丈夫?」 「あ、ごめん。ちょっと疲れてたかな」 最近忙しいもんねと三村かな子は苦笑する。 そう、確かに最近はとても忙しい。そろそろ私も『アイドル』かな?と思いきやなんだか急に仕事が入り出して、毎日毎日やることが尽きない。 けれども学業もおろそかにはしたくはなく、仕事から帰ってから勉強をすると結局、そのしわ寄せは睡眠時間によってしまう。 「ごめんね。私のほうから誘ったのに」 「いいよ。それよりもちゃんと目が覚めているうちにケーキを食べよう」 言いながら三村かな子はかわいい柄のトートバックから白い箱を取り出す。開けば、そこに入っていたのはシフォンケーキだった。 たっぷりの生クリームとアンバランスなほどの大きな苺がのっているのが実に彼女のものらしい。 「やっぱり、かな子ちゃんのほうが作るの上手だなぁ」 「愛梨ちゃんは今日は何を作ってきたの?」 私はと、十時愛梨はクリーム色の箱を取り出してテーブルの上で開いた。途端に広がる甘い香りに三村かな子の表情がゆるむ。 「わぁ、アップルパイだ。私、愛梨ちゃんの作るアップルパイが一番好き」 「ワンパターンかなって思っちゃうんだけど、最近新しいレシピを仕入れる時間がなかったから……」 こうやって作ったケーキを持ち寄って食べるのはこの事務所の中では恒例で、三村かな子を中心に週に1回か2回は行われている。 お菓子作りが趣味だと自称する十時愛梨もその常連だ。これほど忙しくなる前はこれを目当てに事務所に通っていたと言っても過言ではない。 さて、では互いに取り分けて口に運ぼうとした時、十時愛梨はテーブルの上にお茶がないのに気づいた。 それと同じタイミングで談話スペースの前を人が通りかかる。水本ゆかりと、傍目には付き添いの父親にも見える彼女のプロデューサーだった。 「あ、おつかれさま。ゆかりちゃんもよかったらケーキどうかな? 私たちで作ったんだけど」 「ケーキですか? えっと……」 三村かな子がお茶会に誘うと水本ゆかりは少しだけ戸惑った表情をし、それから彼女のプロデューサーを振り返った。 そういう姿を見ると、やっぱり彼女たちはどこかの箱入り娘とそのお父さんみたいだなと十時愛梨は思う。 彼女のプロデューサーは優しい表情で頷く。そして社長に報告があると言うと、彼女をここに置いて事務所の奥へと歩いて行った。 その後姿を見えなくなるまで追うと、ようやく彼女はこちらの方を振り向く。 「では、お相伴にあずかりますね」 お嬢様然とした彼女の笑顔に少しドキリとする。切れ長でいて優しげな目と、柔らかく癖のない髪の毛。どちらも自分にはないものだ。 「あ、お茶が出てないから私淹れてくるね」 「それでしたら私が――」 十時愛梨が腰を浮かせると、水本ゆかりがそれを制す。 「先日、お仕事先でもらったものが給湯室にあるんです。ですから、それを淹れてきますね」 鞄だけをソファに下ろすと彼女はそう言って踵を返した。 そして、十時愛梨と三村かな子が目の前のケーキに手をつけずに我慢すること数分。今度はお盆の上にポットとカップを乗せて戻ってくる。 彼女が上品な所作でそれぞれの前に出したカップには少し色の薄い、どちらかといえば赤よりも黄色に近い色の紅茶が注がれていた。 「なんでも、中国の紅茶らしいです。名前は失念してしまいましたが……」 「すごい香り。なんだかお花みたい」 「じゃあ、ケーキをいただこうか」 そうしてお茶会が始まる。ケーキはどちらも美味で、紅茶には不思議な味わいがあった。 勿論、おいしいものを食べれば会話も弾む。まずは互いにケーキやお茶の味を褒めあい。それがすむと、日常や仕事の話へと話題は移っていく。
926 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:33:06 ID:P0V9FPi.0 「私、ゆかりちゃんとはあまり話したことないけど、ずっと憧れてたんだ」 「そうなんですか……?」 カップを両手で持ちながら三村かな子は恥ずかしげに微笑む。意外な言葉だったのだろうか、水本ゆかりのほうはきょとんとした表情をしていた。 「ゆかりちゃんはどこにいても存在感があるっていうか、きちんとまっすぐ立っててかっこいいなぁって……。 私はこんなに普通というか、よく『アイドル』っぽくないなぁって自分でも思っちゃうから」 「それは……私もよく思いますよ。それに三村さんの柔らかな雰囲気も、私からすればちょっと羨ましいです。 私は壁があるというのか、あまりみんなからは気安いとは思われていないみたいで……」 「なんだか二人ともないとこねだりって感じなのかな。 でも、ほんわかしたゆかりちゃんは想像できても、かっこいいかな子ちゃんってあんまり想像できないなぁ」 十時愛梨がいたずら気に笑うと三村かな子は少しだけ頬を膨らませ、それを見て水本ゆかりは楽しそうに笑う。 「でも、不思議ですね」 「不思議?」 水本ゆかりの言葉に、今度は十時愛梨がきょとんとする。 「家に帰ってTVの中で見る人とこうお話しているというのが……、なんというか、これが『アイドル』になったってことなんでしょうか?」 「愛梨ちゃん、最近ほんとによく見るようになったよねぇ。番組だけじゃなくCMも入ってるし」 「CMはまだローカルなのだけどね。でも、私も不思議かな。私がTVの中にいたり、ラジオで喋っていたり。 ああ、これが『アイドル』になったってことなのかなって思うけど、でも家でそういう自分を見てるとこれってすごいドッキリなんじゃないかなとも思っちゃう」 十時愛梨の言葉に水本ゆかりは神妙に頷く。 「私も、そういう時があります。お仕事に行って、帰ってきてみても、どうにもまだ自分は『アイドル』になったんだという実感は薄くて」 「わ、私はまだまだお仕事が少ないからそういうのもまだまだかな……。あ、そうだ。今度グラビアを撮ることになったんだよ」 「それって大丈夫なの!?」 思わず口をついて出た言葉に三村かな子の頬がさっきの倍に膨らむ。十時愛梨は苦笑すると、目の前のパイを彼女にもう一切れ進呈した。 そして、そんな風に楽しい時間は過ぎていき、紅茶が冷めた頃になって、事務員の千川ちひろが談話スペースへと入ってきた。 「愛梨ちゃん、プロデューサーさんが下で待ってますよ」 「あっ、もうそんな時間?」 スケジュールは分刻み……というほどはまだ忙しくないが、時間単位というほどには忙しい。 十時愛梨は荷物をまとめて、忘れ物がないことを確認するとソファを立った。 「じゃあ、私は行ってくるんで後は二人でゆっくりしててね。そうだ、ちひろさんもよかったらケーキ食べてくださいね。今日のもおいしいですから」 そう言い残して足早に事務所を出る。 途中、3人いてもあの量のケーキだともてあますかなと思ったが、ちょうど事務所の出入口で仕事から帰ってきた子らとすれ違ったのでその杞憂は消えた。 「智絵里ちゃん、響子ちゃん、おつかれさま! 今日はケーキあるからね」 「あっ、おつかれさまです」 「愛梨ちゃんおつかれっ! いつもありがとうねっ!」 そのままエレベータに乗り込み1Fのボタンを押す。扉が閉まると、奥の鏡へと向いて1Fにつくまでに髪の毛や服がおかしくないかチェックする。 「クリームとかどこにもついてないよね……?」 ティンと音がしてエレベータの扉が開くと、また早歩き。 仕事に遅れるといけないから? それもあるし、そうじゃない理由もあって、そうじゃない理由のほうが彼女の中では大きい。 「プロディーサーさんっ! おまたせしました!」 事務所の入ったビルの前、会社のロゴが入ったバンの運転席に彼の姿を見つけると十時愛梨はいつものように助手席へと飛び込んだ。 プロデューサーにせいいっぱいの明るい笑顔を見せて、慣れた手つきでシートベルトを締める。 互いに慣れたもので、シートベルトの閉まるカチリという音と同時に車は走り始めた。 ・ ・ ・
927 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:33:29 ID:P0V9FPi.0 プロデューサーの運転する車が道路を走る。そういう時間帯なのか道はすいていたが、しかしよく信号に引っかかってしまい目的地にはなかなかつかない。 そして、続けて赤信号に引っかかった時、気を紛らわせようとしたのかプロデューサーが口を開いた。 「みんなとは仲良くしてるか?」 「はいっ、さっきも事務所でかな子ちゃんとケーキを。今日はゆかりちゃんもいっしょだったんですよ」 そうか。と答えながらプロデューサーは車を発進させる。次の信号がもう先に見えているからだろうか、速度はいつもより少しだけ速い。 「最近、元気がないんじゃなかなって思っててさ」 「それは……、そんなことないですよっ」 元気がない……なんてことはない。けれども、彼から元気がないように見えるのだったら、それについては心当たりのある十時愛梨だった。 気づき始めた想い。 でも、それが確かなものなのかはまだ不明で、そんなうちに新しいライバル(?)も登場して、最近は彼の前では歯切れが悪いところもある。 「別に無理しなくていいからな。……って、こんなに仕事を入れてくる俺が言えたことじゃないんだが」 「ふふっ、仕事も楽しいですよ」 軽く笑うプロデューサーにつられて十時愛梨も笑う。そして仕事が楽しいというのも本当だった。 レッスンの成果がライブステージや、テレビ、ファンの視線の中という枠に収められて、それがひとつのシーンになる瞬間にはえも言えぬ快感がある。 そして仕事と仕事の合間のこんな時間。彼といっしょにいられる時間はそれと比べても変えがたい幸福があった。 「愛梨は、自由でいいからな」 前を見たまま、プロデューサーは言い聞かせるように言う。 「『アイドル』である前に、『十時愛梨』という女の子だっていうのが大事なんだ。 俺は、愛梨を既製品の『アイドル』という型にはめたくはない。……だから、つまり、そう。いい意味で『アイドル』を意識しなくていいんだよ」 「それで……いいんですか?」 「ああ。俺は『十時愛梨』って女の子の魅力を見込んでプロデュースしてるんだからな。それで――」 プロデューサーがなにかを切り出そうとしたところでまた車が止まる。つくづく今日は赤信号が多い。 「シンデレラガールを狙うぞ、愛梨」 「ええっ!?」 思わず大きな声が出る。『シンデレラガール』――それは、事務所を上げてナンバーワンアイドルを決める一大イベントだ。 もしそのトップに輝くことがあれば、それは『アイドル』の中の『アイドル』であり、そこから続くサクセスストーリーはまさに『シンデレラ』となるだろう。 けれども、十時愛梨はまさか自分がその頂を狙うだとかは全く想像すらしていなかった。 「驚いたか?」 「それはそうですよっ! だって、私なんてまだそんな……それに事務所には蘭子ちゃんとか仁奈ちゃんとか、もっと人気のある子がいるし。 かな子ちゃんやゆかりちゃんだって魅力的だし、楓さんとか…………だから、私なんて、普通の女の子ですよ」 確かにメディアへの露出は増えた。知名度という点では先に挙げた神崎蘭子や市原仁奈なんかと同じくらいにはあるかもしれない。 けれど、十時愛梨はやはり自分がその横に並び立つのか、彼女らほど『アイドル』らしいのかというと自信は……これっぽちもなかった。 プロデューサーの言うとおりに、ただの『十時愛梨』という女の子であるならばなおさらに。 「いや、いける。俺が愛梨を『シンデレラガール』にしてみせる」 告白めいた言葉に愛梨の頬が赤くなる。しかし、けれど疑問は消えなかった。どうしてそこまで彼は自信を持って言えるのか。 その理由は、彼がプロデューサーとして野心家だからなのか、それとも『十時愛梨』という女の子をそれほどまでに評価しているからなのか、 あるいは――と、疑問は渦巻く。そして、身体の中で渦巻く疑問がひとつだけ口からこぼれ出た。 「――『生きろ』ってどういう意味ですか?」 ぴたりと車が止まる。また赤信号だった。 ・ ・ ・
928 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:33:49 ID:P0V9FPi.0 その言葉に空気も凍りついてしまったようだった。プロデューサーはずっと前を見ているだけで、十時愛梨はどんどんと不安になっていく。 その不安が、後悔が彼女に悲鳴をあげさせようとした時、ようやくにプロデューサーは口を開いた。 「……それは、もうわかっているはずだ」 それだけを言うと、彼はハンドルから手を放し十時愛梨を置いて車から下りてしまう。 「待ってくださいっ!」 追おうとして、シートベルトに阻まれる。焦った手つきで不器用に外して下りると、車の外に彼女の探すプロデューサーの姿はもうなかった。 それどこかしんと静まり返る街中の交差点には他の誰も見当たらない。人の気配どころか、どんな音すらも聞こえてこない。 「…………っ!?」 振り返るともう乗ってきたはずの車でさえそこにはなかった。 そこにあるのは十字路と、その真ん中に十時愛梨という女の子がひとりだけ。 「どこですかっ!?」 十字路の先を見る。ひとつの道の先には華やかなステージがあった。そのステージの上で十時愛梨は大勢のファンの前で歌を歌っていた。 別の道の先には自宅の机で受験勉強をしている十時愛梨の姿があった。机の上には彼とアイドル姿の自分の写真が名残のように置かれていた。 また別の道の先には誰か見知らぬ男性と手を組んで歩いている十時愛梨の姿がった。その姿はとても楽しそうで恋をしているのだなとわかった。 それだけでなく、道は進んだ先でいくつにも分岐し、その分岐の数だけ違う十時愛梨の姿があった。 道の先にいる十時愛梨の姿は、どれもが幸せそうだった。 わかっているはずだ――と、再び彼の声がリフレインする。そうなのかもしれない。しかし、けれども、十時愛梨は、十時愛梨というただの女の子は。 「いやなんですっ! 私はずっとここにいたい。ここから離れたくない! あなたを置いてはいきたくない……私ひとりでは“いきたくない”…………!」 しがみつくように地面へと蹲り、十時愛梨はただただ彼の名前を呼び続ける。そして名前を呼ぶその度に一粒ずつ涙を零した。
929 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:34:16 ID:P0V9FPi.0 @ 目を開くと、最初に映ったのはこちらを心配そうに覗きこむ島村卯月の顔だった。 「…………っ!?」 驚き、反射的に飛び上がって距離を取る。 島村卯月? 島村卯月、そう、確かにさっきまで……、山の中で出会って、彼女が笑うから殺してしまおうと、いや、確かに銃の引き金を引いたはずだった。 なのに、彼女は生きている。それどころか自分はさっきまで寝ていて、それも彼女の膝の上で……? いや、そもそもとしてここは山の中ですらなかった。 空は赤く、世界はオレンジ色の光に包まれている。いつの間にこんなに時間が経ったんだろう? 頭は、目覚めたばかりの頭は混乱するばかりだ。 そんな十時愛梨を島村卯月は芝生に座ったまま、まるで懐かない犬を相手にするかのように見つめ、苦笑を浮かべている。 一体、あれから何があったのだろう? いやそれどころか、どこからが本当でどこまで夢、だったのか……? 夢といえばなにか大事な夢を見たような気もする。 しかしそれも思い出せない。頭は今までにないほどにクリアで、なのに思考がこんがらがって意味のあることが考えられない。 「えっと、私…………」 周りを見渡す。場所は、もう記憶より大分時間が経っているようだが、あの山頂にまた戻ってきてる。 いつの間に? どうやって? まるで今見ている光景も夢のようだ。 『大丈夫?』 島村卯月が取り出して見せた紙にはまるっこい字でそう書かれていた。そしてもう一枚紙を取り出すと、そこには今度は『もう怖くないよ』と書かれている。 一体どういう意味だろう? 十時愛梨が混乱していると、島村卯月はペンを取り出して紙になにかを書き足した。 『大変だったんだね』『でも、もう大丈夫だよ』『私がいっしょにいてあげるからね』 ますます意味がわかなかった。本当にいったい、意識を失っている間になにがあったのだろう。確かに、彼女を殺そうとしたはずなのに。 それとも、あれは夢の一部だったのだろうか? どこからどこまでが夢でなのだろうか。どうして彼女は笑っていられるのか? 『私もあいりちゃんと同じだから』 島村卯月は少し悲しげな瞳をわずかにそらす。その先を追えば、芝生の上に本田未央の死体が横たわっていた。 もしかすれば彼女の顔を破壊したのは夢だったのかもしれない。そんな“期待”をするも、しかし彼女の顔は破壊されていて、それだけは現実だとわかる。 もう一度、島村卯月の顔を見る。その顔はやはり笑っていたけれど、目元は真っ赤に腫れていた。 「…………卯月ちゃん、は」 彼女は頷く。ただそれだけでわかってしまう。紙に言葉を書いて見せられなくとも、彼女がすでに十時愛梨を許してしまっているということを。 それはつまり、十時愛梨がどんな罪を犯したのかも彼女は知ってしまっていることを意味している。 「どうして……?」 殺せばいいのに。殺してくれればいいのに。許せることじゃないのに。どうしてそんなことができるの? 十時愛梨は心の中で問う。 すると、島村卯月は後ろに手を回し機関銃を取り出した。十時愛梨が使っていたものだ。そして本田未央の笑顔を消し去った銃だ。 やっぱり殺すのだろうか? しかしそうではなく、また苦笑すると島村卯月は銃を地面に置いた。そしてまた紙にペンを走らせる。 『弾が入ってなかったよ』 ああ、と十時愛梨の口から声が漏れる。その声は安堵か、嘆きか、諦めか、その意味は本人にもわからなかった。
930 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:34:53 ID:P0V9FPi.0 それから、島村卯月はこれまでのことをペンとメモを使って十時愛梨に説明した。 最初は、十時愛梨は銃を向けるとそのまま倒れて気絶してしまったこと。 それから倒れた彼女を引きずって山頂に戻ると、そこで本田未央の顔が破壊されていたのを発見したこと。 島村卯月はすぐにそれをしたのが十時愛梨だとわかり、きっと“十時愛梨はすごく寂しくて悲しいからこんなことをした”んだと思った。 でも、本田未央が“いなくなってしまった”ことはものすごく悲しくて、十時愛梨が目を覚ます直前までは泣いてらしい。 十時愛梨が聞いても、恨みを晴らそうだとか殺してしまおうなんてことは思いもしなかったという。 更に彼女は、元々3人がいっしょにいたことと今は離れてしまっていること、その原因は自分にあることも説明した。 そして、その罰として自分はもう声を失っていると。 考えなく声をあげてその結果、本田未央は殺されてしまった。だから、声を失ってしまったのはその罰に違いにないと。 十時愛梨はそれは私も同じだと思った。考えもなく声をあげ、そしてその結果、一番大切な人を失ってしまった。 十時愛梨はプロデューサーを失い、島村卯月は仲間と声を失った。 比べられはしないけれど、もしかすれば島村卯月のほうが失ったものは大きいかもしれない。なのに、どうして彼女は笑えるのだろうか? 「卯月は、どうして笑っていられるの? どうして、そんなに優しいの……?」 『私にはまだ凛ちゃんがいるから』『元気は未央ちゃんにもらった』『ニュージェネレーションもあきらめていないよ』 諦めないとは、どういうことだろう。十時愛梨はそれを問う。 『凛ちゃんと未央ちゃんとでまたニュージェネレーションをする』 「どうやって? 未央ちゃんはもう……」 十時愛梨には彼女が言ってることがわからなかった。しかし、彼女は笑顔で、ニュージェネレーションを思う時は本当に楽しそうにする。 『私にもどうすればいいかわからない』『けど、あきらめない』『また3人でいっしょになる』 そう。とだけ十時愛梨は声を出す。島村卯月は今も笑っている。けれどその笑みに黒い気持ちは沸いてこなかった。 なにか自分の中で張り詰めていたものが霧散したような気もするが、それよりもただ、本田未央の笑顔と島村卯月の笑顔は別物のように感じる。 そして、高森藍子の前に立っていた自分もこんな顔をしていたのかもしれないと思い至った。 「(やっぱり同じなんだ。……私も、卯月ちゃんも大切なものを失って、でも……)」 似ているようでいて、それは紙一重の差で全く別物のような気もする。しかし、十時愛梨には自分と彼女のどこにどんな差があるのかまではわからない。
931 :彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:35:15 ID:P0V9FPi.0 『お腹減ってる?』 メモを差し出すと、島村卯月は返事も待たずにバックを漁り食料を芝生の上に並べ始める。 『食べたらまた凛ちゃんを探しにいくから、あいりちゃんもいっしょにいこうね』 彼女のバックの中から出てきたのはいくつものパステルカラーの箱で、開けてみるとそれぞれに違う味のパウンドケーキが入っていた。 「いっしょにいて、いいの……?」 言外に殺すかもしれないのに、と滲ませるも、しかし島村卯月はそれをわかっているだろうにはっきりと頷いてしまう。 『私はもう誰ともはなれないって決めたから』 きっと、なにかまだ話してないことのうちにその理由があるのかもしれない。そしてそれも彼女の罪の一部なのだろうか。 「わかった……、ありがとう」 頷き、十時愛梨はパウンドケーキのひとつを手に取る。かじると、口の中に林檎の味が広がった。 涙が一粒、頬を伝う。けれど、その意味は考えてみてもわからなかった。 【E-6・山頂/一日目 夕方】 【島村卯月】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、包丁、チョコバー(半分の半分)】 【状態:失声症、後悔と自己嫌悪に加え体力/精神的な疲労による朦朧】 【思考・行動】 基本方針:『ニュージェネレーション』だけは諦めない。 0:まずはお腹をいっぱいにするよ。 1:それから愛梨ちゃんといっしょに凛ちゃんを探して、また戻ってくる。 2:そうしたら、どうしようかな? 3:もう誰も見捨てない。逃げたりしない。 4:歌う資格なんてない……はずなのに、歌えなくなったのが辛い。 ※上着を脱ぎました(上着は見晴台の本田未央の所にあります)。服が血で汚れています。 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(0/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 0:ケーキがおいしい……。 1:卯月といっしょにいるのかな……? 2:生きる……けど、どうしてだろう、前みたいな気持ちがわいてこない。 3:私は、どうしたいのか。
932 : ◆John.ZZqWo :2013/05/12(日) 02:35:28 ID:P0V9FPi.0 以上で投下終了です!
933 :名無しさん :2013/05/12(日) 19:17:44 ID:95xoNv4AO 投下乙です。 プロデューサーは、愛梨に未来を生きてほしいのかもしれない。 けど、愛梨はプロデューサーの魔法を解きたくなくて。
934 : ◆John.ZZqWo :2013/05/13(月) 09:42:05 ID:BqnFJNxk0 投下乙です。 >Twilight Sky りーなのTwilight Skyはいい曲ですよね! 曲もいいんだけど歌詞が最高だし、りーなの歌声がうひょーだし! そしてりーなの補完話がきてうひょー! りーなの最期の瞬間、彼女の想いと、彼女にかけよるみんなの想いがひしと伝わってきて……最高ですっ! りーなの思いのかいなくなつきちも死んじゃったけど、ロック魂は不滅。まだ途切れてないよ!
935 :名無しさん :2013/05/14(火) 08:48:48 ID:7EKusW1A0 投下乙です、 二人の命と大事なものを未央がギリギリのところで繋ぎ止めてくれたのかな… それでも島村さんは頑張ったなあ…よかった
936 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/14(火) 22:15:20 ID:YMSZW3vg0 すいません、ひとまず延長します。
937 : ◆n7eWlyBA4w :2013/05/14(火) 23:12:49 ID:M.gZvk5s0 同じく延長しますね。感想はまた後ほどー
938 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/16(木) 22:32:30 ID:S6rgiv8U0 ごめんなさい、今晩中に投下しますのでしばしの猶予をください
939 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/17(金) 08:42:39 ID:nooUqNsU0 しっくはっくしながら、朝になってしまいました……すいません一旦破棄します。 申し訳ありません
940 : ◆n7eWlyBA4w :2013/05/17(金) 09:57:33 ID:akU2OMvw0 予約期限を過ぎてしまい申し訳ありません。 今日中に投下できるよう全力で努力しますので、もうしばらくお待ちいただけると助かります……
941 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/17(金) 19:57:11 ID:qnG5LKiI0 投下乙です! >Twilight Sky やっぱりいい歌詞で、いい曲なんだよなぁ。後りーな可愛い。 補完話だと、何というか虚しさもありますねぇ あの時点では詳しく書かれていなかった最期、それもそれで乙なものでしたが、 こうやって書かれると更に味が付きますねえ。ナイス仕事です。だりー可愛い。 >彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー 大天使ウヅキエル。というか軍規こえぇ!?なんとも理不尽な…… そしてそれを含めて考えると……うーむ、不安定なコンビ。 しかし途中の独特な雰囲気を持った回想といい、とときんも相変わらず危ないなぁ。 取り敢えず落ち着いたみたいだけど、このままうやむやにはできなくて……はてさてどうなるか。 そして…予約取り下げの件、残念です。 やはり予約期間を伸ばした方が良いのではないでしょうか…? で、最後に古賀小春と古関麗奈を予約します。
942 : ◆n7eWlyBA4w :2013/05/18(土) 03:31:23 ID:mBDTh5Nc0 すみません、時間的にも文章量的にも収拾がつかなくなってきました…… これ以上パートを拘束するわけにはいかないので一旦破棄します。ご迷惑をお掛けしました
943 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/18(土) 13:09:40 ID:uDI1aFkk0 みなさま投下乙です! >Twilight Sky 日常パートのだりー可愛いなぁ。そしてちひろさん冷血すぎだろオイ。 そして明かされた死に際のもう1つの真相。ほんと、いい子や……! >彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー なんとも不安を煽る冒頭の一文。そして天使のような卯月の抱える狂人さえもひるませるある種の狂気。 これはほんと、少し揺れただけで暴発しかねないニトログリセリンのようなコンビが成立してしまったなあ……! 過去回想のほのぼのした雰囲気、そこで出て来るパウンドケーキと、細かい配慮も巧みでニクい出来です。 さて、そして予約破棄は残念ですが……そういうことであれば。 渋谷凛、諸星きらり、藤原肇 以上3名予約します。
944 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:30:32 ID:O2QNYU.o0 予約分、投下します。
945 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:31:10 ID:O2QNYU.o0 * * * ……大柄な少女は、そして泣きそうな顔のまま、倒れた自転車を引き起こした。 誰もいない街角。 けだるい昼の空気。 終わったばかりの定期放送の放送の余韻が響く、街外れの道路。 「…………ちゃん」 少女は口の中で、捕らわれの人の名を呼ぶ。 また8人。 名前が呼ばれてしまった。 その中には、知った名前も含まれている。 そしてたぶん――またこれから先も、同じように。 引き起こした自転車にふたたびまたがる気力もなく、手で押しながら歩き始める。 うつむいたその顔は、長い髪に隠されたまま。 それでも、のろのろと歩を進める。 そう。 それでもなお、彼女は前に進まなければならない。 もはや自分だけのことではないから。 伝えなければならない伝言があるから。 探したい子、気になる子、彼女には気に掛けねばならない相手がたくさんいて―― たくさん、抱え込んでいて。 だから、足を止めて泣いているヒマなんて、ない。 励ますべき相手もいない孤独の中、見ている者もいないひとりきり。 だからいつも通りの底抜けの笑顔は出てこないけれど……。 それでも、涙をこらえて。 彼女は。 前に。 前に。 前に。 ふと、ふわりと風が吹き抜けて、彼女は顔を上げる。 かすかな予感に誘われて、周囲を見回す。 現在地は街の外れ、いちばん外側の太い道路。 行く手の右手、南南西の方には山裾まで広がるなだらかな丘陵地。そこに広がる畑と果樹園。 ちらりと一瞬、人の影が見えた。 「あれは……?」 見えたのは一瞬きり。すぐに木々に隠れて見えなくなる。 青々と繁った無数の果樹は、かなり視界を遮ってしまう。 それでも。 知った人物の後姿に、見えた。 あまりに不意打ちの一瞬過ぎて、本当に彼女だったのか確信も持てない。 彼女が向かったはずの水族館からは、むしろ遠ざかる方向。 本来の目的地は水族館。 集団で移動していたならともかく、彼女1人きりということは、他の子たちはそちらにいるはず。 理性的に考えれば、あの人影に不審を感じたとしても、優先順位は明らかだ。 けれど。 だからといって。 諸星きらりは、がっし、と折り畳み自転車を肩に担ぎ上げると、畑を突っ切るように駆け出した。
946 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:32:18 ID:O2QNYU.o0 * * * 行くあてなんてなかった。 それでも、人の営みの匂いの残る街中には、なんとなく留まりたくなくて。 気が付いたら藤原肇は街の外、畑や果樹園が入り混じる丘陵地をさまよっていた。 自らの望みは叶った。 誰とも知らない殺人者は、これで憎まれることなく済んだはず。 ……それで? ……だから? それでは、これから、どうすればいいのだろう? 今更ながらに、彼女は自分の行動方針が無くなってしまったことに気づく。 水族館に戻る訳にはいかない。 戻って嘘に嘘を重ね、どこかでボロを出して。すべてを台無しにしてしまう訳にはいかない。 そこは分かっている。 だからこうして足を動かし続けている。 1歩でも離れるべく、あてもなく歩いている。 ――あては、ない。 なんとはなしに街中に居づらさを感じて、こうして緩やかな坂を登ってきたけれど。 畑や果樹園中心の丘陵部にも、当然ながら人の日々の生活の跡がある。 綺麗に植えられた野菜。 丁寧に手入れされた果樹。 農具を載せたまま放置されている手押し車。 何気ない景色の隅々に人間の生活の息吹を感じて――つらくなる。 そんな感性、とっくに擦り切れきったと思っていたのに。 悲しいとか嬉しいとか、もう、自分の中には残っていないと思っていたのに。 ただ畑のそばに突き刺さっている鍬1本の姿に、こんなにも染み入る想いを感じている。 「ヒトはひとりでは生きられない生き物……そういうことなんでしょうか」 いつだったか、そんな話をプロデューサーとした記憶もある。 ひとりでは何もできない。 みんなが居るから。 だからアイドルも、続けられる。 他ならぬ、自分自身の口から出た言葉だった。 見栄も虚飾もない、心の底から出た、本音だった。 だとしたら。 自分の行為は間違っていたのだろうか。 こうして絆を断ち切る方法は、選ぶべきではなかったのだろうか。 分からない。 分からない。 何も分からない。 それでも分かっているのは、ただ1つ。 たとえ間違っていたとしても、もはや取り返しなどつかないということだけ。 もうこのまま、この嘘を最後まで抱いたまま、朽ち果てていくしかない。
947 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:32:57 ID:O2QNYU.o0 「私は……誰かに、殺されてしまいたいのでしょうか……?」 声に出してみて、それも何か違うなと思う。 殺人者の汚名を背負うことも厭わない、今の彼女。 自分の命までもが、どうでもよくなっているのは事実だ。 死という究極の終焉は、正直、魅力的だった。 けれど―― 誰かに罪を背負わせてしまうのは。 誰かに悲しみを押し付けてしまうのは。 やっぱり、望ましいとは思えない。 ならば、自殺してしまえばよいのか。 微笑みすら浮かべて終わりを選んだ、佐城雪美のように。 あの、美しく純粋な少女のように。 ……それも違う。 きっと放送で自分の名前が呼ばれてしまったら、水族館で別れを告げた子たちは、ひどく傷つく。 真相がどうあれ、伝わる情報がどの程度であれ。 強く優しく潔癖な彼女たちは、自責の念に駆られる。彼女たちの重荷になってしまう。 それはそれで、藤原肇の望むところではない。 行くあてはない。 死ぬことすらできない。 このまま、ひとりきり。 さまよい続けるしか、ない。 藤原肇が擦り切れきって、後のことなど考えられなくなって無様な終わりを迎える、その時まで。 「それが……たぶん、私の背負うべき罰。受け入れるべき、苦しみ」 肇は天を見上げる。 そう。 その孤独さえも、その虚しささえも、きっと受け入れなければならないのに。 なのに、どうして。 「…………肇ちゃんっ!!」 なのにどうして―― こんなところで、追い付かれてしまうんだろう。 悲しみに満ちた微笑のまま、肇はゆっくりと振り返る。 しばらく前から、聞こえていた物音。聞こえていた足音。 感じていた、近づく人の気配。 身体のあちこちを煤で黒く汚した、諸星きらりが、何故か自転車を担いだ姿で、そこにいた。 * * *
948 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:33:54 ID:O2QNYU.o0 諸星きらりは、思わず大声で呼び掛けてみたものの、二の句が継げずにいた。 あまりに透き通った、藤原肇の微笑。 すべてを諦めきったかのような、その瞳。 下手に触れれば蜃気楼のように消えてしまいそうな……そんな雰囲気すらあった。 いったい何があったのか。 駆けてきたきらり自身の荒い息だけが響く。 今頃になって、肩に担いだ自転車の重みを感じる。 がちゃん、と地面に降ろすと、きらりは改めて肇と向き直る。 「その……肇ちゃん? だいじょう……ぶ?」 「…………」 ためらいがちな問いかけに、肇は答えない。 ただ、黙って視線を伏せるのみ。 柔らかな風が2人の間を通り抜けて、周囲の木々を揺らす。 きらりの胸のうちに、よく分からない焦燥が湧き上がる。 「と、とりあえず良かったにぃ。怪我とか、してないみたいだし……」 「…………」 「ほ、ほら、仁奈ちゃんとか、なんか、大変だったみたいだし……」 「…………」 「な、なんだろ、きらり、話しかけちゃ、いけなかったかな? な、何か邪魔してりゅ?」 「…………」 「げ、元気ないよー☆、き、きらりんぱわー、注入ー♪ ほら、きーらりんっ☆ ……って……」 「…………」 肇は動かない。肇は応えない。肇はきらりの目すら見ない。 きらりの舌がもつれる。きらりの笑みが引き攣る。なぜだか嫌な汗が吹き出す。 届かない。 すべてを拒絶する不可視の殻に遮られて――届かない。 不意に、肇が顔を挙げる。 強い意志のこもった視線に射すくめられ、きらりは思わず、ビクッと震える。 「……きらりさん」 「な、なにっ?!」 「……水族館で、岡崎さんたちが待っています。行ってあげて、下さい」 そのままぺこり、とお辞儀をすると。 藤原肇は、諸星きらりに背を向けた。 もう話は終わった、とばかりに、静かに歩き出す。 「ちょっ、待つにぃ、肇ちゃんっ!」 反射的にきらりは飛び出していた。 背後で倒れた自転車が大きな音を立てるが、気にしている余裕はない。 大股に駆けよって、背を向けた肇の手首をがっしと掴む。 「……離してください」 「だめだよ、肇ちゃん……! きらり、よく分からないけど……それはきっと、ダメだよ……!」 肇は振りほどこうともしない。 畑と果樹園の中を突っ切る、農道の真ん中。 振り返ろうともしない少女と――その片手を掴んでうなだれる、大柄なはずの少女。 2人とも、動けない。 からからと、倒れた自転車の車輪だけが回っている。 「……いいんです。詳しい話は、みなさんから聞いて下さい」 「良くないっ……良くないよっ……!」 「きらりさんも、伝えなきゃならないこと、あるんですよね。 小梅さんは、どうしました?」 「ッ……!」 「きらりさんには、水族館に行く理由が、あるはずです」 逆に断言されて、きらりの指の力が思わず緩む。 すっ、と肇の手が抜け出す。 そのまま、振り返りもせずに歩き出す。 言いようのない無力感に襲われて、きらりはその場に両膝をつく。 ゆっくりと、でも確実に1歩ずつ、長い黒髪の揺れる背中が遠ざかっていく。 自分の言葉は届かない。 力づくで無理やり、など考える気にもなれない。 けれど、ここで行かせてしまったら、どうしようもなく後悔してしまう確信がある。 どうすれば。 何を言えば。 自分は―― きらりでは―― * * *
949 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:34:25 ID:O2QNYU.o0 ――ザッ。 それは、不意に。 背後で、砂を蹴る音が聞こえた。 「――ひとつ、お節介を焼かせてもらうけど」 のどかな農道に、凛とした声が響く。 呆然としていたきらりは、立ち上がれないままに、振り返る。 そこに居たのは…… 腰に手を当て、仁王立ちした、こちらも長い黒髪の、新しい少女。 「詳しい事情は知らない。けれど、これだけは言える」 その乱入者はまっすぐに、遠ざかろうとする少女の背中を睨みつけ。 鋭い口調で、はっきりと言い切る。 「――友達に、背を向けるな」 その、一言に。 無言のままに遠ざかろうとしていた少女の足が、止まる。 いや、言葉に込められた意志の力に、止められる。 「たぶんきっと……後で、死ぬほど後悔するから。 だから――別に、振り返らなくてもいい。 顔も見せられないってなら、顔も見られないってなら、それでも、いい。 でも、友達を置いて、友達から、逃げるな」 声の印象そのままの名前を持つ第三の少女、渋谷凛は。 ぶっきらぼうな口調の中に微かに苦みと実感を滲ませて、断言した。 藤原肇は、その場に足を止め、俯いたまま、もう、それ以上、動けなかった。 * * *
950 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:35:05 ID:O2QNYU.o0 お互い、自己紹介は必要なかった。 直接的な親交はほとんどなかったけれど、ともに事務所の中でもそれなりに売れた有名人同士。 大きなイベントで共演した経験もあった。 堅苦しい挨拶などをすっ飛ばし、単刀直入に本題に入る。 山の中で朝を迎えて、半日かけて道なき道を降りてきた。 そして街に入ろうとしたあたりで、遠くに道を外れて畑を突っ切るきらりの姿がチラリと見えた。 その切羽詰まった様子に、何かあるな、と思って来てみた。 渋谷凛は、そんな風に自分のこれまでの経緯を説明した。 山の中でいったい何があったのか。 夜が明ける前に、何が起こったのか。 表情や、言葉の濁し方で「何か」があったのは勘付いたきらりだが、あえてそこに触れはしなかった。 「卯月を探してるんだけどさ。島村卯月。 あの子も山から降りたと思うんだけど、どっちの方に降りたかまでは分からない。 2人とも、会ってない?」 凛の問いかけに、きらりは首を振った。 肇は背中を向けて立ち尽くしたまま、何の反応もしなかった。 その無反応こそが、1つの答えだった。 「そっか。ならいいや。 で、2人の話、途中からしか聞いてないんだけど。そっちは、水族館に行くんだっけ?」 「うん……。 水族館で、待ち合わせって約束で……。 ねえ、肇ちゃん……? 何があったか知らないけど、きらりたちと一緒に、行こう……?」 きらりの弱々しい問いかけに、肇は振り返ることなく、静かに首を振った。 それだけはできない。 そんな、精一杯の意思表示。 譲歩の余地はないという、無言のアピール。 凛は溜息をつく。 「……わかった。 きらり、これまでの話を聞かせて。伝言とかあるなら、私が伝えるから」 「……凛ちゃん、いいの?」 「こっちにも目的はあるけど、それくらいの寄り道はたぶん大丈夫だから。 どのみち、話の通じる人がいるなら寄っておきたいとこだし」 島村卯月を探しているという、渋谷凛。 ならば確かに、水族館に人々が集っているとなれば、向かうだろう。 黙って立つの少女の背中をチラリと見て、凛は言葉と続ける。 「それよりその子、たぶん、1人にしちゃだめだと思う。 さっきは勢いで『友達』でしょ、って言っちゃったけどさ。 任せちゃって、いいんだよね?」 「分かったにぃ」 きらりはうなづくと、これまでの経緯を語り始めた。 水族館に集合する約束で一旦別れたこと。 自転車を探しに行ったドラッグストア前での、死体発見。 迂回した先で遭遇したスーパーでの争い。 そしてその顛末。病院に向かった4人のこと……。 * * *
951 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:36:06 ID:O2QNYU.o0 「水族館に行くなら、『この子』いる〜?」 「……いいの? 貰っちゃって」 「うんっ☆ お使いをお願いしちゃう、そのお礼っ☆ きっと凛ちゃんには必要になると思うしっ♪」 「なら、遠慮なく」 きらりの話の穴を凛の質問が補い、大体の経緯を伝えきった後。 いまだ棒のように立ち尽くす肇を横目に差し出されたのは、可愛らしくも小型の折り畳み自転車だった。 有難く受け取った凛は、軽くサドルの位置の調整を始める。 さすがに、規格外の身長を持つきらりとでは、体格が違いすぎる。そのままでは乗れない。 そんな凛の横顔を眺めながら。 「凛ちゃん……。凛ちゃんは――大丈夫?」 「……えっ?」 きらりは心配そうに、凛を見つめて、つぶやいた。 凛は一瞬、素で驚いたような顔になって…… そして、ふっ、と弱々しく微笑んだ。 「そうだね。 本当は、暗い部屋の片隅で膝を抱えていたい気分かな。 ペットのハナコの背中でも撫でながら、ずっと、ひとりと一匹で」 「なら――」 「でも」 サドルの調整を終えて、凛は立ち上がる。 そこには先ほどの微笑は、もう残っていない。 その目線は、既に遥か遠くを見ていて。 「でも――まだ、虚勢を張れるだけの元気は、残っているみたい。 なら、顔を上げて前を向くしかないんじゃないかな」 「そっか。 凛ちゃんは……強いにぃ」 いつも元気なきらりが珍しくもらす、弱々しい言葉。 しかし凛はかぶりを振る。 「強くないよ。 私は脆くて、弱い。 だけど、私は十分、泣いたから。 違いがあるとしたら――きっと、それだけ」 そのまま颯爽と自転車にまたがると、その場でグルリと回転し。 ハンドルを東の方に――水族館のある方角に向けて。 「最後に一言、これもお節介かもしれないけど。 たぶん、ちゃんとしっかり、泣いておいた方がいいと思うよ――2人とも。それじゃね」 背中越しに言い残して、そのまま振り返ることなく、走り去っていった。 農道の真ん中には、とうとう最後まで凛の方を向かなかった肇と、きらりだけが残された。 * * *
952 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:36:56 ID:O2QNYU.o0 「卯月が既にそこにいるなら、それが一番なんだけど」 渋谷凛は農道を自転車で駆け抜けながら、考える。 山を降りたとして、そう遠くまでは行ってないだろうとは思う。 なので、こっちの方に降りていたなら、手がかりくらいは掴めるはず。 もし、手がかりも何もなかったら……その時は。 「もしも空振りなら、ぐるっと迂回して南の方にも足を伸ばすしかないかな。 日のあるうちに辿り着ければいいんだけど」 その意味でも、この新しい「足」、折り畳み自転車を譲渡されたのは有難かった。 だから最低でも、これを貰った分の働きくらいはしよう。 きっちりメッセンジャーの役目は、果たしてあげよう。 きらりの伝言を届けて。 きらりのこれまでの経緯を伝えて。 きらりと肇が一緒にいることを伝えて。 卯月の情報が得られればよし、そうでなければこの島を一周するくらいの気持ちで―― 「……まさかとは思うけど、まだ山の中にいるとか……ないよね?」 渋谷凛は、小さく口の中でつぶやいた。 * * * 「……肇ちゃん」 そして、畑と果樹園ばかりが広がる郊外に残された、2人は。 「逃げるなら……逃げてもいいよ」 「……えっ」 たっぷりの間を置いて放たれたきらりの言葉に、藤原肇は思わず振り返った。 もはや先の乱入者・渋谷凛の姿は、背中すらも見えない。 彼女が現れる前と同じように、きらりと肇、2人きりが向き合っているだけなのに。 なぜだろう。 背が高く大きいはずのきらりが、肇の目には、とても小さく見える。 「凛ちゃんはああ言ってたけど……きらりは、辛かったら、逃げてもいいと思うにぃ。 水族館に戻りたくないなら、それでもいいよ。 喋りたくないなら、何も話さなくてもいいよ。 きらりは、責めないから。 お話をせがんだりも、しないから」 「…………」 さわさわと、果樹園の木々が風に鳴る。 羽虫が一瞬だけ、ぶうん、と唸りを上げる。すぐに畑のそばに生える雑草の上に落ちる。 中天高くに昇った太陽だけが、2人を静かに見つめていて。 「でも。 きらりは、肇ちゃんのこと、ずっと追いかけるから。 きらりが勝手に、そうするから。 肇ちゃんに嫌われても、憎まれても、ぜったい1人にはしないからっ!」 諸星きらりは、叫ぶ。 何の計算もない。 何の勝算もない。 それでも。 他にも気になる子たちを、すべて一旦脇に置いて。 真摯に、藤原肇を、藤原肇だけを、見つめている。 思わず、肇の口から、溜息が漏れる。 「……いいんですか?」 「……何が?」 「殺されるかも、しれませんよ。……仁奈ちゃんの、時みたいに」 ビクッ。 流石のきらりも一瞬、震える。 震えて、でも、それでもなお。 「もし、そうだとしても……それでも、だよ」 太陽の下、諸星きらりはニッコリと、儚げに、微笑んだ。
953 :傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:37:20 ID:O2QNYU.o0 【D-7 北西部/一日目 日中】 【渋谷凛】 【装備:折り畳み自転車】 【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】 【状態:軽度の打ち身】 【思考・行動】 基本方針:私達は、まだ終わりじゃない 1:水族館に向かい、きらりからの伝言を伝える。 2:卯月を探して、もう一度話をする 3:奈緒や加蓮と再会したい 4:自分達のこれまでを無駄にする生き方はしない ※諸星きらりから、きらりのこれまでのおおまかな経緯を聞きました。 【D-6 北部・畑と果樹園が広がる丘陵地帯 /一日目 日中】 【諸星きらり】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×1】 【状態:健康、疲労感】 【思考・行動】 基本方針:もう人が居なくなるのは嫌だから、せめて。 1:肇ちゃんを、ひとりには、しないよ。 2:気になる子はたくさん、いるけれど。 【藤原肇】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】 【状態:絶望】 【思考・行動】 基本方針:誰も憎まない、自分以外の誰かを憎んでほしくない。 1:…………。 2:…………いまさら泣けとか、言われても。 ※藤原肇もまた、諸星きらりのこれまでのおおまかな経緯を聞き、理解しました。
954 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 12:37:41 ID:O2QNYU.o0 以上、投下終了です。
955 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 16:51:52 ID:VcXoTkBA0 投下乙です! >Twilight Sky だりーいいなあ。 そして、ちひろさんがひどすぎる。 死に際が本当いい子で切ないなぁ。 >彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー とときんとしまむー……壊れかけた二人が此処でつながるか。 回想といい、切ない雰囲気が漂い続けて素敵でした。 二人はどうなるかな。 そして、こちら完成したので再予約しとうかしてもいいでしょうか?
956 : ◆John.ZZqWo :2013/05/19(日) 16:53:30 ID:96od4/z20 いいですよー。お待ちしてました。
957 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/19(日) 16:53:46 ID:O2QNYU.o0 いいと思いますよー。期待してます
958 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:03:35 ID:VcXoTkBA0 ありがとうございます、それでは投下します
959 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:04:43 ID:VcXoTkBA0 ――――絆という、鎖。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「ふう、もうちょっとかな」 三村かな子は一息ついて、そして、目の前に広がる校舎を見つめる。 命令があるなんてビックリしたが、まあ守る必要性があるから。 ちょっと急ぎ目に歩いてきた。 そこで、三人殺す。 「……頑張らなきゃ」 あんまり、気乗りがしないといえばしないが、しなければならない。 プロデューサーを守らないといけないから。 だから、よいしょっとリュックを担ぎなおして、かな子は再び歩き始める。 ―――知らぬ誰かを殺す為に。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
960 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:05:10 ID:VcXoTkBA0 「…………まあ、そんなものですよね」 「そうね……アンテナも立っていないし」 「……残念だなぁ」 学校の探索を終えて、泉と瑞樹、友紀は駐車場のなかに停められていた、一つのバンの中に居た。 泉が中継車とメドをつけて、彼女達は向かうことを決めた。 何か少しでも、手掛かりがあると信じて。 そして、中継車とメドをつけたバンに泉達は侵入することにした。 「当然、誰も居るわけないですし」 「居たら、居たで困ったけどね」 結局の所、中継車だと思っていたバンは、やはり中継車であった。 ただ、泉達が期待した首輪に対する電波の中継などに使う中継車ではなく 「音声中継車……か」 「……へぇ、川島さんはしってます?」 「まあ、アナウンサーだったからね……ちょっと特殊な中継車よ」 「ふぇー……流石川島さん」 「……友紀ちゃん、その流石って何かしら」 音声中継車といわれる、特別な中継車だった。 バンの扉を開けると、左右には、テープなどが収まっている棚がある。 その奥には、つまみが沢山ついているコンソールとモニターが鎮座していた。 つまみだけでも、沢山あって少し異様で、泉達が見た事がある中継車と全然違う。 「レコーディングとかで、声の調整したり、音楽のバランスを整えるのを、ここでできるわ」 「ふむふむ……」 「それを、リアルタイムで流したり、ライブ会場で音楽を流したりできるわよ」 「……成程」 「友紀ちゃんなら、ライブ会場でライブした事あるから、リハーサルの時とかに、音楽を途中から流してもらったりした事あるでしょ」 「うん!」 「それをやってくれる車よ」 言ってしまえば、収録スタジオが丸ごと車の中に入ったようなものだった。 そんなものが、こんな学校の駐車場に無造作に置かれている。 「……なんでこんなものが?」 「さぁ……何かに使う予定だったとか?」 「なるほど……でも、まだその何かは、解りませんね」 何故、と言うのは泉達には判断できる材料は存在せず。 結果として、わざわざ調べた労力に見合う収穫は無かった。 だからと言って、落胆してる余裕なんて瑞樹達にはない。 「……ねえ、泉ちゃん」 「何でしょうか?」 「……話したい事が、あるんでしょ」 「……そ、それは」 「言ってしまいなさい。その為に入ったんでしょ」 この車にそこまで泉が期待していない事は瑞樹は解っていた。 それは泉がこの車に入った時の素っ気無い反応から、理解できる。 だとするなら、わざわざ入った理由がある訳で。 「話し辛い事なんでしょ?」 「そうなの?」 「それは……そうですけど」 「観念しなさいな……そうでなきゃ何時までたっても進まないわよ」 瑞樹が思うに、話し辛い事だと思ったがドンピシャだったようだ。 泉は観念したように、おどおどと慎重に話す。
961 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:06:11 ID:VcXoTkBA0 「まず今後の事ですが……学校離れ当初の目的通りの場所にいきます」 「そうだね、大体一通りみたし」 「だから、そろそろ次の目的地にいこうと思います」 「目的地は変わらないとすると……なら、其処に新たな目的が加わるって事かしら」 「その通りです……最初にあった放送の時、話した事覚えていますか?」 泉は、中継車の中にある椅子に、腰掛け語りだした。 少し、長くなると言う事なのだろう。 瑞樹は意図を察し、続いて隣の席に座る。 どっこらしょと言いかけたが、寸前で止めた。 それに、友紀が笑いそうだったが、瑞樹は思いっきり睨んでおいた。 「……悪役が居るかもしれないって話?」 「そうです。今、八人の人が亡くなって……今居るのは私たち含めて、残り三十七人。まだ……この中に居ると思っています」 「確かに、まだ半分は切っていないし……それがどうかしたのかしら?」 「そろそろ、私達も、目的地を巡る上で、、もうそろそろ、誰かと会うかもしれないので、他の参加者と積極的に接触を図りたいと思います」 「具体的には?」 「危険も高まりますが、進路にある施設をみてみたりとかですね」 「成程、いいかもね!」 悪役。泉が示した仮定だ。 主催からの刺客と言える、参加者が居ると泉は考えて。 その悪役は依然生きていると思う。 だからこそ、 「……できる事なら、絞り込みたい。誰が『悪役』かを」 「成程ね……とはいえ、殺し合いに反対している参加者の中に紛れ込んでいるって可能性もあるけれどどうなのかしら?」 「あるとは思いますけど……積極的に参加者を殺していくならその可能性低いと思います。そうでなきゃ、刺客としてなりたちませんから」 「ふむ……とはいえ、他のアイドルとあって何か解るのかしら?」 「はい……ねえ、姫川さん……姫川さんは何時頃、この島に連れて来られたか覚えてます?」 何時頃……と聞かれて、友紀はうーんと頭を抱える。 そして、瑞樹も考えて。 「……あれ、よくわかんないや。あやふやな感じ……?」 凄くあやふやな気がして。 そもそも、今が何月何日すら解らない事実に今更ながら驚く。 そうだ、何時つれて来られたか……なんて考えなかった。 「……言われてみれば。そうね」 「私が最期に覚えてる曜日は……水曜日だったかな。で、それ以前に地方に営業に言ったアイドルが居るのも覚えています……姫川さんは?」 「そうだね、私達の中でピンでの仕事が会った子…………が…………」 「……つまり、全員が一気に連れ去れた訳じゃないと考えてるわけね」 「まあ、ある意味当然ですし……その上で、誰が、一番最初に、居なくなったかを考えたいんです」 「成程……そういうことね」 「そういうことです」 その上で、参加者に会っていく。 会って、話をして、出来る限り此処に連れて来られる前の事を思い出してもらう。 そうして、辿った末に……『一番最初に居なくなったアイドル』がいるとするなら。 泉はそのアイドルこそが、悪役だと、考える。 刺客として訓練する時間を考えるなら……それが、一番ありえると思うのだ。
962 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:07:03 ID:VcXoTkBA0 けれど 「悪役探しをして、何か得るものがあるのかしら?」 「……それは。色々対策できるかも知れないじゃないですか」 「ふぅん……まぁ、いいわ。他の参加者と情報を交換しないといけないと言うの事実でしょう。 いいわ……私達が第一目的とするものを忘れない上で、なるべく無理しない程度であって行きましょう」 「……はい」 瑞樹にとって純粋な疑問だ。 悪役を探して、何の得になるのか。 確かに対策が出来るかもしれない。 かといって、対策した所で、訓練をした刺客相手にどれ位意味を成すのか。 果てしなく、疑問で。 実際泉も口を濁していた。 つまり、彼女には何か確信めいたものがあるのだろう。 そう、瑞樹達に隠しておきたい程の、答えがだ。 具体的には (……もしかして、目星がついているのかもね) 悪役が、誰かという事に。 あくまで推論程度の目星かもしれないのだろうけど。 ある程度、候補は絞っている。其処まできているのだろう。 そして、今、『友紀に話を振った理由』が、其処にある。 友紀も何かを察して、押し黙っている。 「……泉ちゃん」 「はい?」 瑞樹は、くしゃっと泉の頭をなでる。 なるべく、優しく。 出来るだけ、丁寧に。 「な、なんですか?」 「ううん、別に……そんなに悩まなくていいからね」 「……はい」 もしかしたら、言いたかったのかもしれない。 けれど、恐ろしい考えだと自覚してるからこそ、言えなかった。 間違えの可能性が大いにあるから、言えなかった。 彼女は、まだ子供なのだから。 小さい過ちで、何もかも崩したくないと思ったのかもしれない。 (フラワーズ……確かに、一番遠い所で、長くロケしていても違和感が無いアイドル達だからねぇ……) フラワーズ、それと並ぶくらい人気のアイドル達。 多分、泉が考える候補はその辺り、だろう。 実際まだ、誰も死んでいない。 それが何を意味するかは解らないが。 ただ、友紀も思い当たる事があった。 恐らく誰か前に友紀の前に離れた人がいるのだ。 だからこそ、こう黙っている。 「さて、もう此処には用がないし、行きましょう」 「はい、次は漁港ですね」 「ええ」 とりあえずは目の前の目標をこなして行くしかないのだ。 どんなに辛いものが待っていようと、受け止めるしかないのだから。 立ち上がって、前を進む泉を見る。 やっぱり、瑞樹にとってその背はとても小さく見えて。 (まだ、何か抱え込んでるわね……きっと、これは殺し合いと近くも遠い事で) 泉がまだ悩みを抱えている事に、なんとなく気付く。 だからこそ、支えなきゃいけない。 小さな、子供を。 (やれやれ……苦労を背負い込むのは大人の役目でしょう……なら、私が頑張るしかないわね) その背中を優しく、抱きしめるかわりに、今は自分が頑張ろう。 それが、大人である瑞樹が出来ることなのだから。 ため息一つ、ついて、瑞樹はその背を追った。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
963 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:07:51 ID:VcXoTkBA0 私は上手く、喋れたのだろうか。 ちょっと、自信が無いな。 もしかしたら意図そのものも、完全読まれたかも知れない。 それなら、それでいいと思った。 考えてるのはあくまで仮定の話だ。 口には、出来ないなと思う。 姫川さんには、断定で言っちゃいけないと思う。 フラワーズ。 今を時めくアイドルグループ。 素晴らしい花達。 ………………………………私達の憧れだった。 というと、どうなんだろうか。 一種の目標だったかもしれない。 ニューウェーブとして、さくらと亜子でグループ組んでいた私達にとって。 あんなにも輝ける花は、希望に違いなかった。 同じアイドルとして羨ましくて、何処か悔しくて。 私達が持っていない何もかもを持ってるような気さえしたのだ。 だから、かな。 私が姫川さんに会った時、意地悪めいた事を言ったのは。 案の定、完璧な答えがかえってきて、打ちのめされたのは私だけれど。 仲間、仲間か。 さくらと亜子はどうしているのだろうか。 解らない、解りたくないかもしれない。 でも、もし、此処に彼女達が居たら、私はどうしたんだろうなって。 解らないや。彼女たちがどうしたかとか……考えたくない。 解るのは、今、独り、私は此処に居る。 たった独りで、居る。 そのことがどうしようもなく、怖い。 今、思い出せば、あの囁きは自分でなくて、千川ちひろの言葉から引き出されたものだった。 ちょっと前に、偶然、立ち話で聞こえたのだ。 ―――泉ちゃんが、足を引っ張ってるんですよねぇ……勿体無い。 私達、グループに対して言っていた言葉なのだろうか。 それとも、さくらや亜子に対して? 扉越しだから、解らなかった。 知りたくなかった。 ―――自然な笑顔が、まるで、出来てない。 知っている。 知っていた、けど、どうすればいいかわからない。 ―――二人で、売り出したほうが、いいと思いますよ? そんな、声が、最後に聞こえて。 私はそのまま、駆け出して逃げた。 だから、今でも、自分の声で聞こえてくる。
964 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:08:12 ID:VcXoTkBA0 ―――お前は親友から、捨てられたんだって。 ……違う、違う! 私は捨てられたんじゃない。 あの二人は捨てる訳がないゃない! 仲間だもの、友達だもの……! ……信じたい。信じたいよぉ。 仲間を、仲間達を。 なのに、言葉が出ない。 姫川さんはどうして、そんなに信じられるの? 誰かが殺し合いに乗ってるかもしれないのに。 仲間を、友達を。 私はこんなにも不安でたまらないのに。 ――――これが、アイドルとそうでない少女の差? 違う……違うっ! 私は、私はっ! わ……たし……は…… いいな、羨ましいな。 私は、私も、あんなふうに信じたかった。 仲間も信じられない私が………… 『アイドル』で居られるというの? 私が生きて……何になるの……? ねぇ……私は『アイドル』なの……? 応えてよ……そうだと言ってよ……さくら……亜子。 あぁ、堪らない……な。 私は――――独りだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
965 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:09:08 ID:VcXoTkBA0 あたし――――姫川友紀は校門を出て、二人の一歩後を歩いて。 そうして、うつむきながらと自分の考えを纏めていたんだ。 纏まったかって? 纏まるか。 纏まったら、欝めいてなんてしてないし。 胸のどきどきがとまらないんだ。 フラワーズの仲間は全員生きてる。 誰一人欠けちゃいない。 それは、いい。 それは、いいんだけどっ……! けどさ、けどさ……だったら。 あのメッセージはなんだったの。 校門を出た時に、端末が震えた。 其処に書いてあったのは一つのメッセージ。 【希望の花束の中に、絶望の一輪が混じっている。 正義の花は、何の為に咲き誇る? 咲き誇るための力が欲しいなら――――】 なんだ、何がいいたいの。 こんなんじゃ、全然解りっこないよ。 でもさ、でもさ……バカだけど解るよ。 花束は、藍子ちゃんが好んで言う言葉で。 きっとアタシ達のことだ。 それはいい、でも。 正義の花……向日葵。 アタシがそういわれる事ぐらいちょっとは理解している。 という事はアタシに当てたメッセージ。 それで……絶望の花って…… ねえ……私達の中に、絶望した子がいるっていうの? 藍子ちゃん? 夕美ちゃん? 美羽ちゃん? それが、フラワーズの一人が、早くからいなくなってた事に影響するっていうの? もしかして、もう……そういう絶望にあったというの? ねえ………………ねえ! そんな……そんな、バカな事ってあるというの? 嘘だ……嘘だっ。 だって、藍子ちゃんも、夕美ちゃんも、美羽ちゃんも。 そんな子じゃない、そんなのあたしが誰よりも知っている。 こんな所でへこたれる子じゃない。 ねえ、どうして……こんな言葉送ってくるのさ。 あたしに力をって、何を。 ちっくしょう、訳がわからない。 嫌だ、皆が絶望に染まるなんて、絶対に嫌だ。 フラワーズは笑って咲き誇ってないと駄目なんだよ。 皆が笑顔で、アイドルでいて。 それなのに、どうして。 あたしは、あたしは…… あたしに力が………… ……力があれば? 力があれば、なんて。 なんで、そんな事考えるの? 惑うな、戸惑うな、あたし。
966 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:09:33 ID:VcXoTkBA0 ……大人、なんだから。 大人にならなきゃいけないんだから。 川島さんが言っていた、大人になるって事は受け止める事。 だから、皆がどうであれ、アタシは……受け止めなきゃ。 そう、でなきゃいけないん……だ。 ……本当に? 大人って、それでいいの? ねえ、子供が傷ついてさ、子供が疲れてさ。 そんな事になる前に、あたしは何かしなきゃ駄目なんじゃないのかな? 子供か大人、どちらかが疲れないといけないなら、傷つかないといけないなら。 まず、大人からじゃないかなって。 あたしは思うけど、やっぱり違うのかな。 ちょっと前にちひろさんと交わした言葉がリフレインする。 ――――なら、貴方はきっと、アイドルとして、どうにもならないところで、貴方の手で犠牲を出しながら、それでも、護るでしょうね。 そう言って、彼女はもっと言葉を続けて ――――――――――――――――といった。 そうやって、彼女と少し話を交わしてさ…… 解る、解ってるよ。 あたしの立場ぐらい、役目ぐらい。 大人として、私がやるべきことは。 でも、あたしはさ。 まだ、よく解らないんだよ。 悩んで、苦しんで。 でも、そうやって、見つけたくて。 でも、皆に絶望なんてして欲しくなくて。 あたしは皆を守りたくて。 あたしは…… あたしの希望は――――― 「……姫川さん?」 「……っ!?」 「どうしました?」 「んやー、なんでも……いこいこ!」 「……そうですね」 気がついたら立ち止まっていた。 二人に呼びかけられて、すぐに駆け出した。 そこで、思考は途切れた。 悩みは消えないけど。 大人って。 あたしがすべき事って。 あたしの答えは――――― ねえ、皆はどうしてる? あたしは、今、こんなにも……皆が、気になって仕方が無いよ。
967 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:10:02 ID:VcXoTkBA0 【G-3/一日目 午後】 【大石泉】 【装備:マグナム-Xバトン】 【所持品:基本支給品一式×1、音楽CD『S(mile)ING!』】 【状態:疲労・空腹】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。 0:私は独りだ 1:漁港を調査して、動かせる船を探す。 2:その他、脱出のためになる調査や行動をする。その上で参加者と接触したい 3:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 4:かな子のことが気になる。 ※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。 【姫川友紀】 【装備:少年軟式用木製バット】 【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】 【状態:疲労・空腹】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する? 0:私は……? 1:漁港を調査して、動かせる船を探す。 2:その他、脱出のためになる調査や行動をする。その上で参加者と接触したい 3:仲間がいけないことを考えていたら止める。 4:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。悪役を……? 5:仲間をアイドルとして護り通す? その為には犠牲を……? ※FLOWERSというグループを、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。 ※スーパードライ・ハイのちひろの発言以降に、ちひろが彼女に何か言ってます 【川島瑞樹】 【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。 0:色々大変ね。 1:漁港を調査して、動かせる船を探す。 2:その他、脱出のためになる調査や行動をする。その上で参加者と接触したい 3:大石泉のことを気にかける。 4:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。 5:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。 ※千川ちひろとは呑み仲間兼親友です。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
968 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:13:02 ID:VcXoTkBA0 「………………あれ?」 三村かな子が、伝令に従って、学校に戻り、すぐさま探索を開始して。 そして、真っ先に探索するべき場所に、誰も居なくて、彼女はきょとんとした。 可笑しいなと首を捻りながら。 「此処に居ると思ったんだけどな……」 去った後かと思ったが、居た痕跡も無い。 となると、此処の近くまで着ただけなのだろうか。 ちょっと拍子抜けしてしまった。 (急なメッセージだったし……誰を殺せ……というメッセージでもなかったし……んん?) かな子は首をかしげながら、ずっと此処にあるものを、眺めていた。 それは、かな子の二倍以上もある、ものものしい、金属でできた扉 電子ロックでもかかっているように、画面がついたのが扉の前についていて。 何かを差し込むような口が、三つついていて。 ピッピッと、電子音を奏でてているソレこそが。 千川ちひろ達にとっての、『致命的』な、喉笛だった。 【F-3・学校 ???/一日目 日中】 【三村かな子】 【装備:カットラス、US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2 ストロベリー・ボムx3、医療品セット、エナジードリンクx4本、金庫の鍵】 【状態:健康、】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。 0:あれれ? 1:もう少し学校を探索かな? 温泉に戻ろうか? 2:もう二度と顔はとらない。 ※【ストロベリー・ボムx8、コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1)】 以上の支給品は温泉旅館の金庫の中に仕舞われています。 ※学校内に、不釣合いな金属な扉が設置されている場所があります。(簡単には見つからない場所にあります)
969 :エネミー・ラプソディ ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 17:13:32 ID:VcXoTkBA0 投下終了しました。このたびはまた遅れて申し訳ありません
970 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/19(日) 23:57:40 ID:VcXoTkBA0 高垣楓、道明寺歌鈴、矢口美羽で予約します
971 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/20(月) 18:49:27 ID:nYGguEc.0 皆さん投下お疲れ様です、感想は後ほど。 北条加蓮、神谷奈緒を予約します。
972 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/22(水) 22:00:19 ID:OUyBWDYA0 皆様投下乙です。感想は後ほど。取り急ぎ延長します。
973 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/24(金) 20:59:39 ID:7EENof2k0 改めまして、皆さん投下乙です! >傷だらけの天使 か、かっこいい……!凛ちゃん正に主人公の風格が出てきたね…… そしてきらりと肇の意識のすれ違い…… きらりも大分辛くなってきてるというか、きらりはきらりとして人間味が溢れてきていいなぁ。 で、肇ちゃんは確かにこれからやることはないんだよなぁ。果たしてどう動くのか…… >エネミー・ラプソティ ちひろ……駒を調達するために動き出したか…… 何気に痛いところついてきやがるし……いずみんも含めてこのチームは色々と不安定だなぁ そしてかな子は何気に気になるところに……ふむ、どうやら学校には謎があるみたいだけど、どうなるのか そして、遅れてしまい申し訳ありませんでした。 これより予約分を投下します。
974 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/24(金) 21:01:20 ID:7EENof2k0 ――あれから暫くの時がたって、しかし彼女達は動いていなかった。 古関麗奈は肩で大きく息をしていて、時々咳き込んでいる。その横からは、古賀小春が心配そうに覗き込んでいた。 麗奈は、正に限界を突破していた。ただでさえ行きで消耗していた体に鞭をうってまで走ってきたその状態は、すぐには立ち直らなかった。 「はぁ、はぁっ、はぁー………」 「だ、大丈夫……?」 「……こ、これが大丈夫に見えるの……アンタは……」 小春の言葉に、麗奈は精一杯の悪態をつく。 そんな事を言う少女の頭は未だ上がらなかった。 ただ疲れたから……だけではなく、もっと別の理由が少女の心にあった。 (ああもう……こんなこと言ってる場合じゃないのに……!) 小関麗奈はその実、小心者である。 例えば自分が悪いとわかっていても自分から謝ることはしない、というかできない。 そんな彼女が自分と、目の前の少女と真撃に向き合う……という事を素直に行動に移す事ができなかった。 あの時、自分の失敗に気づいた瞬間に、頭の中が真っ白になったような錯覚に陥った。 最悪……本当に最悪の場合、古賀小春は知らないところで死んでいた。ここは、そんな事さえありえる場所の筈だ。 それなのに、彼女を一人にしてしまった。本当に最悪な状況なら、あそこで小春との最期の、永遠の別れになってしまったかもしれない。 そんな事を思ってしまうと、どうもちゃんとそこにいた小春の事を直視できない。 安堵の気持ちが溢れてしまいそうで、それを抑えこめるのに必死だった。 「ご、ごめんね。ごめんなさい…」 目の前には無事で、そして随分と呑気ないつもの少女がいる。 彼女はあれから一歩も動けていない麗奈を心配して、自分が原因であるが故に謝っている。 ――彼女と、このままずっといられたらどれだけ楽だろう。 不意に、頭はそう考えていた。 ここから灯台の往復は大変だった。だがそれでも、殺し合いなんてするより遥かにマシだ。 ずっとこんな事を続けていられれば。死にたくないし、殺すことだってしたくない。 あの時、頭によぎったような『甘え』が今一度、少女の頭をよぎる。 それが、そのなりきれずに決断を先送りにしてしまうことが、麗奈の甘さだった。 そう、ひいてはどちらかだ。殺すか、殺さないか。 麗奈の本心は一つだ。殺したくない。それが自身の気持ちであるし、それが通るのなら間違いなくそちらを選ぶ。 だが、全てはそう甘くない。この場所は勝ち上がって、一人にならないと帰れない。 もし抵抗すれば、死ぬ。首に巻かれたモノが、いともたやすく麗奈の命を断つ。 だから、殺さないといけない。そうしないと自分は死ぬし、『アイツ』も死ぬ。 だから彼女は、震えた手を抑えて、涙で滲んだ目をギュッとつむって、しっかりと銃を握って。 精一杯の虚勢をはって、たった一人になるまで精一杯頑張るつもりだったのに。 そのはずだったのに。 そうならなかったのは、間違いなくすぐ近くにいる少女のせいだ。 状況を実感していないいつもの雰囲気の、呑気な少女。 そんな彼女の姿だけを見れば、まるでいつもの日常のような感じがして。 結局は、そんな現実逃避をしていただけだ。こんな世界にも、彼女は彼女として存在していた事に、甘えていただけだ。 なら、どうする。殺すか? そんな問いが頭をよぎっても、とっくにそれを実行するような気持ちににはなれなかった。 だがだからといって、いつまでも目を背けてはいられない。 それは、彼女の為でもある。もう決断を先送りにする暇はない。 どちらに行くにしろ、最終的に小関麗奈は逃げたり、目を背けずに覚悟を決めなければいけない。 「…………小春」 少女はようやく声をだして、これからの話をしようとして。 『こんにちは、お昼の時間ですね! 』 しかし、それを嘲笑うかのように言葉が遮った。 * * *
975 :iDENTITY ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/24(金) 21:03:03 ID:7EENof2k0 『それでは、六時間後、また生きていたら、あいましょう』 言いたい事だけを言って、放送は終わった。 その後は、ただ沈黙だけが場を支配する。 (何てタイミングで流れるのよ……まぁ、禁止エリアも死んだ奴もまだ関係なさそうだけど) それは、麗奈の率直な感想だった。 まるで測ったかのような放送タイミング。人が折角決意して話しかけようとした瞬間に流れるとか……と、心の中で悪態をつく。 で、それとは別に、その内容に関しては概ね問題はなさそうだった。 取り敢えず禁止エリアで閉じ込められる事も無く、光もきらりも死んではいない。 安堵した……とは言えないが、とりあえず当面の問題はない。 そう思って、改めて小春へ向き合う。 「……………」 だが話を続けようとして、近くの少女に違和感を感じた。 そこには唖然とした顔の少女がいた。 一体どうしたのかと思い、麗奈は少し戸惑う。 そういえば、小春が放送を聞くのは今回が初めての筈だ。前回はぐっすりと寝ていたし。 と、なると。初めての放送に彼女は一体何を思っているのか。 今までずっと甘い感情が目立っていた古賀小春がこの放送を聞いて、何を感じるのか―― 「……ちょっと、小春?」 それがとても不安になって、不意に声をかけていた。 「……? どうかしましたか〜?」 「いや、どうかしましたか、っていうか……アンタ、大丈夫?」 声をかけた後何を言うべきか分からず、自分で言った言葉に、自分で疑問に思う。 大丈夫って、何が? ただ放送があって、小春がそれを聞いただけ。それだけの事で何かが起こる訳がない。 だというのに、感じたこの危うさは何だろう。 「……やっぱり、麗奈ちゃんは優しいです」 ぼそりとつぶやいた彼女の言葉は、間違いなく弱音だった。 彼女が一体この放送で何を感じたのかは麗奈にはよく分からない。 でも、確かにあの放送が彼女にとって何かしらを感じ取ったのは事実なのだろう。 そもそも、アイドルが、人が死ぬなんて事がつらくない筈はない。 特に『あの』古賀小春なら尚更、初めて聞いた放送に、思うところはあったはずだ。 本当なら、当面の問題はないだとか、そんな言葉で片づけられるような事じゃないんだ。 甘い、本当に甘い―――けど、その思いは、きっと捨てたらいけないものだ。 「……小春、あんた」 「でも〜」 その次の言葉を発した彼女には、その時の面影は無かった。 先程までの、幼く弱かった言葉とは変わって。まるでいつもの彼女のような口振りで。 でも、その目は確かに、目の前の少女を見て。 「でも、今はれいなちゃんがいます」 はっきりと、そう言った。 「………い、いきなり何言ってんのよ」 「それに、ヒョウ君もいますから、わたしは大丈夫です〜」 次の言葉を紡いでいた時には、もういつもの彼女だった。 彼女が何を思っていたか、麗奈には最後まで分からずじまいだったが、結局、それでいい。 あんな姿の古賀小春なんて、ファンもプロデューサーも、きっと誰も望んでいないだろうから。 あまあまで、危機感が足りないとは今でも思うけど、でも、やっぱりその方が安心する。 矛盾してる考えだとはわかっていたが、それでもそう思わざるをえなかった。 「あ……そう。大丈夫ってんなら別に良いけど……。 それより、これからの話よ。アンタもさっきの放送聞いて分かったでしょ?アタシ達もいつまでも―――」 タイミングの悪い放送だったけど、皮切りに話は進んで。 先程までの、幼く弱かった言葉とは変わって。『アイドル』として、彼女達は意思を見つけた。 * * * たくさんの人が死んだ。 それを聞いたとき、少なくとも、小春はそう理解した。
976 :iDENTITY ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/24(金) 21:05:01 ID:7EENof2k0 八人の命が失われた、なんて言われても実感がいまいちわかない。 ただでさえ『あの光景』を見ていない上に、今までろくに危機に見舞われなかったから、かもしれない。 そういう事が行われていると理解はしていても、実感がなかった部分はあっただろう。 だから……というわけではないが、確かに甘い考えは、そこにあったかもしれない。 誰もそんな事はしていないって、そんな想いがあったのは、否定できない。 でも、現実は違うらしい。実際に人は死んで、人は殺しているのだという。 なら、どうして、『その人たち』はそんな事をしてしまっているのだろう。 それを考えた瞬間に、頭の中をあの放送がよぎった。 その女性は、言っていた。 プロデューサーの為に。 貴方達の為に。 ――――――。 (それは、ぜったい違うよ) その続く言葉を、彼女は否定する。 誰かの為に、そんな事をしているのなら、それは絶対に、違う。 (そんな事をしても、ファンのみんなは喜ばないよ) そう、その人が大切に思っている人なら、そんな事をしても絶対に喜ばない。 そんなのは、ダメだ。 悲しくて、辛くて、救われない。 みんなから嫌われて、自身も辛くて。そんな道が、正しいはずがない。 だから、もしもその人にであったら、その道を正そう。 あの時、小関麗奈を説得した時のように、間違った道を進もうとしているなら、そして既に進んでいるとしても。 そんな事をしている『アイドル』は違うんだよ、って教えよう。 具体的にどうすれば良いのか、よくわからないけど。 現実を理解していない、甘い考えなのかもしれないけど。 それが、きっとここにいる古賀小春に出来ることだから。 アイドルとしてこの場所で、できることだって、そう思うから。 ギュッとヒョウ君を強く抱く。そのつぶらな瞳はじっと小春を見つめていた。 (アイドルは、楽しいもんね) 胸に秘めた想いは変わることなく、むしろ強固なものになっていた。 * * * 禁止エリアぎりぎりを通った先にあった光景は、異様なものだった。 「………また、建物が燃えてる……」 目の前の建物からは煙が出ている。 だが、あの時灯台から見た炎のように激しくはない。 建物の状況から見て、強い火が弱まった…とも考えにくかった。 その事実と考察から導き出されるのは、また新しく火を点けられた、という事。 よくもまぁそんだけ熱心に放火するもんだと、麗奈は恐れを通り越して半ば呆れていた。 「……とりあえず、ここは論外ね。そうなると後はダイナーか……」 流石に煙が出ているような建物に入り、しかも休もうなんて気にはなれない。 となると、目的地にここは選択できない。そうなると、彼女の中の選択肢ではダイナーしか残っていない。 勿論、他の場所もないことはないだろう。そもそも休むだけならそこらへんの建造物でも事足りる。
977 :iDENTITY ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/24(金) 21:09:05 ID:7EENof2k0 (でも、地図に乗ってる建物の方が人は来るでしょうね……) だが、そんな場所では彼女達の『目的』は果たされない可能性が高い。 あれから彼女達が腰を落ち着けて話し合った結論、それは当面は他の参加者を探す、ということだった。 幼く、弱い彼女達だけでは何かをする事はできない。 だから、彼女達が殺し合いをできない――しないと決めた以上は、仲間を集めないといけないだろう。 会っていない残り全員が殺し合いに乗っている……というのは考えにくい。 当てはなくとも、すぐに決意できるものでもない。少なくとも麗奈が思い当たるアイドルは、誰も殺し合いに乗るようには思えなかった。 人を殺すということが、そう簡単に決意できるものじゃない。 だから、ひとまずは必ずいるであろう殺し合いに否定的なアイドルと合流をする。 二人では具体的な案は浮かばなくても、大勢いれば何かいい案が浮かぶ筈だ。 「……よし、次はちょっと遠くなるけど、いいわよね?」 「うん。大丈夫だよ〜」 同行人に同意を求めて、いつもの雰囲気で返される。 もう彼女にあの放送後のような陰りは見当たらない。 結局あれが何だったのかはわからなかったが、少なくとも彼女の中では踏ん切りはついたらしい。 大して何もしてない麗奈からしてみれば、先ほどまで心配していたのがアホらしくなってくる。 「ふ、ふんっ。下僕はいつでも命令を聞けるようにしておくものよ!」 しかし、彼女自身にとっては癪だがそれも含めて『古賀小春』なのだろう。 彼女が彼女であり続けるように、また自身もまだ自身でいられる。 それがどれだけ幸運なのかはわからないが、だがいつまでもこのまま……というのも難しいだろう。 彼女達の進む道には、それだけ多くの困難が待ち受けているだろうから。 「だから……その……気遣いとかしないで遠慮なく言いなさいよ!? 内緒にされる方がむしろ迷惑なのよ!分かった!?」 「は〜い」 それでも、彼女達は進んでいく。彼女達が彼女達であるために。 【C-6 スーパー近く/一日目 日中】 【小関麗奈】 【装備:コルトパイソン(6/6)、コルトパイソン(6/6)、ガンベルト】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残る。プロデューサーにも死んでほしくない。 1:ダイナーに向かって、殺し合いに乗らない人を探す。 2:小春と向き合ってみる。 【古賀小春】 【装備:ヒョウくん、ヘッドライト付き作業用ヘルメット】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:アイドルとして、間違った道を進むアイドルを止めたい。 0:麗奈についていく。 1:ダイナーに向かって、殺し合いに乗らない人を探す。
978 :iDENTITY ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/24(金) 21:09:56 ID:7EENof2k0 投下終了しました。 何か問題等ありましたらご指摘お願いします
979 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/25(土) 01:35:43 ID:WsxwEM/g0 連絡遅れてすいません、ひとまず延長申請します。
980 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:08:37 ID:mm2AIAdc0 予約分、投下します
981 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:09:17 ID:mm2AIAdc0 「さて、これで後は服を探すだけだな」 「そうだね、いい"小道具"が見つかってよかった」 島の北西部に広がる市街地、多くの店が並ぶ中で雑貨屋から二人の少女が出てきた。 いかにも気が置けない間柄と言った風情で、互いに顔を見合わせて微笑みあっている。 休日に街を歩けばいくらでも見かける、そんな光景。 そんなありふれた日々を、数日前の彼女達は確かに過ごしていたはずだった。 「けど、ネイルとか化粧品ならライブステージにでも行けば残ってるんじゃないか?」 「うーん、まあ見つかったんだからいいじゃない」 けれど、今の彼女達は違う。 お洒落なハンドバッグの代わりに、何の色気もないデイバッグ。 時にはクレープやアイスクリームでも握られていたであろうその手には、あまりにも不釣り合いな武器。 可愛らしい服は血に染まっていて、まるで性質の悪い夢でも見ているかのようなアンバランスな光景だった。 そして何より異様なのは、何かを諦めてしまったような彼女たちの雰囲気。 例えるなら余命を宣告されてしまった患者のような、そんな落ち着き。 それでも、彼女達は一緒の時間を噛みしめるようにして笑っている。 そして、歩いていく。
982 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:09:42 ID:mm2AIAdc0 ほんの少しの寄り道を終え、神谷奈緒と北条加蓮は目的である服を探していた。 二人の予想は結果的には当たっていて、こちらの市街地は若者向けの店も点在していた。 その中には勿論服屋も含まれており、早速"かわいい"服を探す為に、自転車を停めていくつかの店に入った。 そこまでは良かったのだが。 「うーん……確かにかわいい服と言えばそこそこなんだけどな」 「折角歌って踊ってる姿を残すならこの辺りの服だとちょっと……かもね」 「やっぱりライブ会場まで行ってみるかぁ」 流石に彼女達とて普段ステージで着ているような衣装を望んでいたわけではない。 それでも都会の流行とこの島の流行には隔たりがあるらしく、満足するには至らなかった。 結局何軒目かの店を出た後、揃って溜息をつくことに。 「まぁ……仕方ないよな、まだ次があるさ」 「いやいや、諦めるの早すぎだって奈緒」 「けど妥協したくはないだろ?だったら見切りを付けるのも大事だって」 「それはそうだけど……」 分かりやすい生返事をしながら、加蓮が通りを見回しつつ歩いている。 そういえば普段の買い物も似たような感じだったな、と奈緒は思う。 早く次の店に行こうと急かす自分を宥めながら、店の商品をじっくりと見ている加蓮。 二人のやり取りを少し楽しげに眺めながら、黙って待っているもう一人の親友。 そんな光景を思い出して、慌てて首を振る。 (今更そんな事思い出したってしょうがないだろ……) (もう帰ってこないものなんて、思い出しても辛いだけだ) 心の中で舌打ちをしながら、頭の中を想像を振り払う。 気を紛らわすために、奈緒は何気なく今まで歩いてきた通りを眺めた。 そして水着を売っているダイバーズショップをまで視線を移したときに、少し引っ掛かるものがあった。 (そういえば……あの店って潰れてんのかな?) 隣にある、店頭のブラインドが降ろされている店。 先程は他の開いている場所に目を奪われてなんとなく見逃したのだが、いざ目に付くと妙に気になる。 加蓮がすぐ傍の店内で服を摘みあげているのを横目で確かめつつ、その店の前まで移動する。 立ち止まっているよりも、何かしら動きたい気分だったのもあった。 (んー、なんでここだけ閉まってんだろ?) (元から何も入ってなかったのか……近くの店の物置なのか) (まあいいや、今となっては不法侵入とかどうこう言えた義理でもないしな) 半ば開き直りつつ、入口に近づいてドアノブを握る。 そこで、微妙に違和感を感じた。 妙にドアの隙間から冷気が漏れている気がする。 嫌な予感がして、一旦手を離した後に距離を置いた。 (なんだこれ……空調が利いてる?) (……まさか、誰か居るのか?) 無意識に斧の柄を握り、感触を確かめる。 全く気配を隠してなかった自分達の前に現れないとしたら、ずっと潜んでいるつもりだろうか。 それにしては空調をそのままにしているのはあまりにも軽率すぎる。 だとしたら、場を離れる時に不意を突くつもりだろうか。 (どうする……加蓮を呼んだ方が良いよな?) (クソッ、本当に潜んでるなら不気味な奴だ) 奈緒は不自然にならない程度にその場を少し歩き回った後、加蓮の方向へと戻る。 それはまるで、運命に引き寄せられるような行動だった。
983 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:11:06 ID:mm2AIAdc0 奈緒がドアノブを握り、アイコンタクトを送ってくる。 ボウガンを構えながら加蓮はぎこちなく頷きを返す。 先程、突然腕を掴んできた時は何事かと思ってびっくりした。 けれどその表情を見て、なんとなく状況を察することが出来た。 確かにドアからは微妙に冷気が漏れているのが肌で感じる。 両脇を二人で固めているのだから当たり前ではあるのだけど。 もし、中に誰か居るのなら殺すしかない。 そうするしか、ない。 「ふっ!」 合図通り、奈緒が勢いよくドアを開ける。 出会いがしらに銃を乱射されるのを警戒して、お互い脇に隠れたままだ。 しかし、反応はない。 それどころか物音一つしない。 「…………」 「…………」 お互いもう一度頷きあって、少し警戒を解く。 何も起こらない時は奈緒が先に踏み込む手筈になっていた。 本当ならそこで言い合いになるはずだったけど、そんな時間もなかったからやむを得ない。 そして――――奈緒が動く。 斧を構えながら室内へと入っていく。 何もなければ、声を掛けると約束していた。 だから、入っても平気だという言葉を待ち望んでいたのに。 「……なんだよ……これ……」 耳に飛び込んできたのは、呆然とした声だった。 警戒を促す声でもなく、解く声でもなく。 ただ、目の前の事態に戸惑っているようなそんな声。 「……奈緒?入って大丈夫なの?」 「…………」 「ねぇ、奈緒ってば……?」 「……あぁ」 かろうじて、と言った風に奈緒が返事をする。 一体どうしたのだろう、と訝りながらも加蓮は続いて室内へと入った。 そして、目の前の光景に目を見開くことになった。 「え……?これって……嘘」 「嘘じゃ、ねえよ」 「だって、これって……」 「事務所の……衣装じゃない」
984 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:11:33 ID:mm2AIAdc0 外からでは気付かなかったけれど、思ったより奥行きのある店内。 そこには、所狭しと服が掛けられたり並べられたりしていた。 加蓮はふと、手前に置いてある四体のマネキンに気付く。 テレビで見た事のある、メンバーそれぞれの花のイメージを思わせる衣装。 間違いなく、FLOWERSのものだ。 「どうしてこんなものが……」 「わからねえ、とりあえず見てみよう」 二人は物陰に注意しながら慎重に店内を進んでいく。 こうして見てみると、間違いなく見た事のある衣装ばかりだった。 一番奥の試着室の前まで進むと、奈緒が少し気を緩めた様子で呟いた。 「誰も居ないみたいだな……つまり空調は元から利いてたってことか」 「多分、衣装の状態を調整してるんだよね」 「そうだろうな、けど何のためにこんな回りくどい……」 そこまで言うと、奈緒は何か思いついた風に辺りを見回した。 しばらくするとカウンターの方向に歩み寄る。 加蓮もそこに、順番待ちの最後尾に置いてあるような立て札を見つけた。 「それ……もしかして」 「あぁ、ここまでセッティングしておいて何の説明もなしってことはないだろ」 そう言って、奈緒は用意されたそれを読み始めた。 わざわざ一緒に読むこともないので、その間に衣装達を眺める。 ここから選ぶのも良いかもしれない、という考えもあった。 この際、自分達だけのものを求めるのは贅沢だろう。 そこまで考えていると、突然派手な音が店内に響いた。 咄嗟に振り向くと、立て札が横に倒れてしまっている。 「奈緒、どうしたの?」 「……あぁ、悪い」 「別にいいけど……蹴り倒すような内容だった?」 「大したことじゃねえよ、ここを見つけたご褒美に好きな奴を持っていけってさ」 冷たく、吐き捨てるような口調だった。 奈緒はそのまま言葉を続ける。 「クソッタレが……最後のステージだからしっかり着飾れってか? 人の苦しみを、痛みを、何だと思ってやがるんだ…… 絶対許せねえ……あの事務員だけは、許せねえ」 最後は呻くような、絞り出すような声だった。 しばらく放心したように黙っていたけれど、こちらに視線を向けると慌てたように優しい表情になる。 きっと、心配が表情に出てしまってたんだと思う。 「悪い、加蓮は何もしてないのに嫌な気分にさせちゃって」 「ううん……いいの」 「良くないよ、早くこんな場所出て忘れよう」 「あっ、待って!」 出口まで向かおうとした奈緒を、慌てて呼び止める。 一秒でも早く出ていってしまいたそうな顔をしていたけど、それでも立ち止まってくれた。 「どうしたんだよ、こんな場所に居たくないだろ?」 「違うよ、ここで服を探していこうと思って」 「……なっ、何のつもりだよ!?」 予想通り、顔を歪めて詰め寄られた。 当然そうなるだろうな、と思っていたから気にしない。 それでも、伝えないままよりはずっと良いから。
985 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:11:51 ID:mm2AIAdc0 加蓮がここから服を選ぼうと言った時、奈緒は信じられない気持ちだった。 あの事務員の思い通りになるなんて絶対ごめんだと思っていたから。 だから、さっき反省したばかりだというのに食って掛かってしまった。 「あの立て札……アタシ達は馬鹿にされてるんだぞ?」 「そうかもしれない……けどね、奈緒」 「加蓮……?」 「そんなの、関係ない」 キッパリと言う加蓮に、思わずたじろいだ。 どうしてそこまで言い切れるんだと驚く。 そして、言葉は続いた。 「だって、私達の最後のステージだよ? 好きな物を持って行けって言うなら持っていこうよ。 馬鹿にされたくらいで、私は可能性を捨てたくない。 だってここに、凄く良い服があったなら後悔しちゃうから」 その言葉にハッとする。 妥協しないと言ったのは自分だったはずなのに、忘れてしまっていた。 そうだ、例えこれが全部計算されていたとしても。 影で笑われていたとしても。 自分達の意志だけは、決して誰かの物なんかじゃない。 「……加蓮、探そうぜ」 「奈緒!」 「そうだな、ここにかわいい服があったら後悔しちまうとこだった」 「うん……うん!」 加蓮が安堵した風に頷く。 それを見て、意地になっていた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。 さあ、仕切り直しだ。 「……と言っても、ここの服はサイズが決まってるんだよなぁ」 「うん……まあ、探してみないと分かんないし」 訂正、やっぱり少し締まらないみたいだった。 けれど、雰囲気はいつもの自分達に近付いた気がする。 少しだけ明るくなった気分で、沢山の衣装に近づいた。 「うーん……やっぱりアタシ達のとはサイズが違うのが多いな……」 「確かに、せめて身長順に揃えてくれれば良かったのに」 「わざわざ空調利かせてる癖に、妙なところで気が利かないっていうか」 「あはは、文句言っても仕方ないかもしれな……」 顔を向けて笑いかけた加蓮が、ふと何かに気付いた様子で固まる。 その視線は自分を飛び越えたその先に注がれているようだ。 一体どうしたのだろうと奈緒は振り返る。 そして、その原因に気付いた。 「あれ……そうだよね」 「そう、だろうな」 その先にあったのは、いつか見たことのある衣装。 凛がいつかのソロステージで着るんだと言っていた時のもの。 嬉しいような、悔しいような、複雑な気分で試着した姿を見たのを思い出した。 だから、ハッキリと覚えている。 「あの時の凛……カッコよくて、かわいかった」 「だよな、正直言って羨ましかった」
986 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:12:33 ID:mm2AIAdc0 二人で、近くまで歩み寄る。 凛の衣装を中心に、三つのマネキンが並んでいた。 どれも同じテーマの衣装なのに気付き、首を捻る。 「あれ、これってニュージェネレーションの衣装だったのか?」 「いやいやそれはないでしょ、凛と他の二人はイメージが離れてるし」 「だよなぁ……その割に随分雰囲気が似てるような」 どうにも腑に落ちない気分で両サイドの衣装を観察する。 島村卯月と本田未央。 あの二人が着るにしてはクールで、落ち着いた印象を感じるのだ。 それだけじゃない、なんとなく違和感がある。 「……あの二人が着るには妙にサイズが小さくないか?」 「そういえば、卯月と未央もこれよりは身長が高かったよね」 「だよな、この衣装ならアタシ達くらいの……ん?」 奈緒と加蓮は顔を見合わせる。 まさか、という予感。 もしかして、という予感。 「……ここまで計算されて……いやそんなわけ」 「それに私達は凛とステージになんて……そうだ、立て札に何か書いてなかった?」 「あ……そういえばサプライズもありますよとかいうふざけた文面があったような……」 「だったら……着てみる?」 加蓮が遠慮がちに言いながらも、既にマネキンに手をかけていた。 無論、奈緒の手もとっくに動いている。 数分後、二人の姿はそれぞれ試着室の中にあった。
987 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:13:00 ID:mm2AIAdc0 加蓮はゆっくりと店内を歩いている。 どうやら奈緒はまだ初めて着る衣装に苦戦しているらしく、まだ出てこない。 助け舟を出そうかと思ったけれど、本当に困っていたら向こうから声を掛けてくるから心配はないだろう。 結論から言うと、衣装は怖いほどにぴったりのサイズだった。 それが何を意味するのかは、多分ずっと分からないまま。 この為だけに作られた特注なのか、それとも一切自分達とは無関係の偶然なのか。 確かめる術もないし、興味もなかった。 (そんなの知っても、何も変わらないから) (だってこのステージが終わる時、それが私達の……) 物思いに沈みながら、何気なく視線を泳がせる。 ふと、並べられている衣装にいくつか欠けがあることに気付いた。 自分達より先にここに立ち寄った人間が居るのだろうか。 それとも、一度運ばれた後にまた移動されたのか。 (ここにない衣装は……ライブステージにでもあるのかな?) (それとも遊園地とか……ふふっ) 想像してみると、なんとなくおかしくなった。 ばらばらに散らばった衣装をここに集めれば、神様が出てきて。 全部元通りにしてくれる、日常へと帰ることが出来る。 そんな馬鹿馬鹿しい空想を思いついたから。 とりとめのないことを考えながら、寂しい気持ちになる。 こういった感情のことを何と言うんだったか。 ホームシック……いや、意味としては近いかもしれないが違う。 昔入院先で見たテレビ番組に、外来語の方が定着してしまった言葉特集みたいなのがあった。 確かその時に同じ意味の言葉が……そう、懐郷だ。 綺麗な響きの言葉だと思った、どうして皆は使わないんだろうとその時思った。 (故郷を懐かしむ……ちょっと、今の私に近いかも) (そっか、まだ私は……元居た場所に帰りたいんだ) 輝くステージ、熱狂してくれるファン、一緒に居てくれる親友達。 ただ、それが欲しかっただけなのに。 もう二度と手に入れることが出来ない。 そう思うと、心にぽっかりと穴が空いてしまった気分だった。 「…………加蓮?」 後ろから声がして、奈緒が試着室を出ていたことに初めて気付いた。 さりげなく目元を拭って、振り返る。 「わぁ……すごく似合ってるじゃない」 「お、おう……加蓮も良い感じだな」 少し不意を突かれた風に、奈緒が笑う。 本当はもっと明るく褒めてあげたかったのに。 それでも喜んでくれる親友に、救われた。 「……ね、ここで一枚撮っていこうよ」 「ここでか?別にいいけどもっと良い場所を探しても……」 「ううん、だって外に出たら何があるか分からないじゃない」 「……だな」 二人は適当な場所を探した後、カメラを構える。 ほんのすこしの間を置いて、店中にフラッシュが瞬いた。 「……どんな感じ?」 「悪くないんじゃないか?まだメイクとかはしてないけど」 「どれどれ……うん、まあまあかな」 顔を寄せ合い、撮ったばかりの写真を見つめる。 試着室を出てからのやりとりは、まるで出来の悪い劇を演じているようにぎこちない。 けれどそれは、気持ちを整理する為に必要な時間だった。 失った日常を目の前に突き付けられて、たった一つ衣装の残ったマネキンがぽつんと立っていて。 いつも通りでいるには、余りにも厳しすぎる光景だった。 だから、これから外に出ればきっと元に戻れる。 そう信じて、加蓮と奈緒は少しの間だけ、わざとらしい演技を続ける。
988 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:13:18 ID:mm2AIAdc0 ――――――"ここに……凛は居ないんだな" ――――――"そうだね……ただ、凛だけがいない……凛だけが" ――――――心に、大粒の雨を降らせながら
989 :心模様 ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:13:36 ID:mm2AIAdc0 【B-4 店内/一日目 午後】 【北条加蓮】 【装備:ピストルクロスボウ、専用矢(残り20本)、アイドル衣装】 【所持品:基本支給品一式×1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×5、私服、メイク道具諸々】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 1:しばらくしたら、動画を撮るのに相応しい場所を探しに行く。 2:デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 4:事務所の2大アイドルである十時愛梨と高森藍子がどうしているのか気になる。 【神谷奈緒】 【装備:軍用トマホーク、アイドル衣装】 【所持品:基本支給品一式×1、デジカメ、ストロベリー・ボム×6、私服】 【状態:疲労(少)】 【思考・行動】 基本方針:覚悟を決めて、加蓮と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく) 1:しばらくしたら、動画を撮るのに相応しい場所を探しに行く。 2:デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。 3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。 4:千川ちひろに明確な怒り。 ※自転車は店外の近くに停めてあります。
990 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/25(土) 18:13:51 ID:mm2AIAdc0 投下終了しました。
991 :名無しさん :2013/05/26(日) 11:49:58 ID:p2GyzTeIO 衣装ってトライアドプリムスの奴?
992 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/26(日) 14:19:07 ID:qH937qLk0 皆さん投下お疲れ様です。 >iDENTITY 小春ちゃんいい子だなぁ。 ぼんやりしてるようで色々考えてるねぇw 麗奈様はいつも通りといえばいつも通りだけど……そしてダイナー行くか。 どうなるか楽しみ。 >心模様 おおう……こんな所に衣装がw 渋りんがいないと自覚して、それがまた切ないなぁ。 奈緒の怒りもどうなるか。>>991 と思いますー。 そして、こちらの作品ですが、今晩新スレを立てて、投下したいと思います。 ので、いくつかテンプレのミス(名簿のアレとか)、追加規定(補完とか)について直そうと思います。 ですので、埋め用にでも、テンプレに何か提案などあるようでしたら、書き込んでください
993 : ◆John.ZZqWo :2013/05/26(日) 14:42:56 ID:K5semBuo0 投下乙です。 >傷だらけの天使 ついに動き出した凛ちゃんが主人公している! 一度落ち込んでるからこそ芯の強さがあらわれてて頼もしい。 彼女が水族館に向かうことで、浮き足立っているアイドル達も落ち着くことができる……のかな? そしてきらりんと肇ちゃん。よくよく考えるとコンビ再結成だね。行く当てはないけど……んーと、どうなるんだろ? >エネミー・ラプソディ 3人組は直接的な危機は回避したけど……、すごく不穏な勘違いを!? 近くにFLOWERSの面々がいるだけに、またユッキが変な覚悟を決めようとしてるだけにあぶなっかしいというか、 対主催筆頭なはずのこのチームが破滅をもたらしてしまう可能性も……なので、この後の接触が気になりますね。 >iDENTITY 本当にずっと二人だけでいられたらいいのだけど……、少しずつだけどバトルロワイアルの中に踏み込んできてますね。 このまま進むとダイナーで姉御らと会うことができるのかな? 会えばまた否応なく現実を直視することになるけど……。 二人は支えられあっていけるかな? >心模様 なおかれはいい。(毎回言ってる気がする) 当座の行動方針としては衣装を探したり撮影したりとそれだけを見ると穏やかで楽しそうなんだけど 実際にはすごくぴりぴり緊張してたり、憤ったり、悲壮な覚悟が見え隠れしているのがせつなくて 二人と凛との絆が強いんだなというのが見えて……まぁ、ようはなおかれ(+凛)はいいですねってことですね。 >テンプレ案 名簿のミス修正と補完話のルール追記だけでいいんじゃないかなと思います。 で、 櫻井桃華、神崎蘭子 の二人で予約しますね。(補完話)
994 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/26(日) 14:59:51 ID:FwCqvK7U0 みなさま投下乙です! >エネミー・ラプソディ おおう、遭遇は回避か……って、なんかすごいヤバそうな扉出てきたー!? あの3人が見逃す位置となるとどこになるんだろなぁ。普通に校舎の中にある訳ではなさそうだが そして今回血は流れなかったけども、なんとも不穏な先行き。未だ緊張は続きますな >iDENTITY この2人はいいなぁ。互いに補い合ってる感じがする しかし、遅れて来た感すらある2人も、いよいよ現実と向き合うことになるわけで。 放送はなんとか乗り切ったけど、さてこの先……その進路だとさらに……! >心模様 これは上手い。隠し施設発見の経緯から緊張、そして中に踏み込んだ時の納得感。 2人の心情と意識が、どんどん研ぎ澄まされていくなぁ。凛のために。でもちひろ許すまじ、と……! あ、ちなみに、wiki上での修正でもいいんで、状態表のあたりに衣装名とか明記した方が良いかと思います 作中キャラには分からない名前ですけど、書き手・読み手の情報共有の意味でも。想像はつくんですけどね >テンプレ案 気になるとこはだいたい既に言われてますし、特に問題はないかと。 あえて追加して言うなら、予約期限ですかね。 以前いろいろ意見出てましたし、あとはスレ立て主が鶴の一声で決めちゃっていい部分でしょう。 もし変更するのであれば、この新スレ移行のタイミングが一番ではないかな、と思います。
995 : ◆p8ZbvrLvv2 :2013/05/26(日) 16:19:36 ID:8x9Jl52Q0 >彼女たちが陥ったキャッチ=トウェンティートゥー 特に精神的にボロボロになっている二人の邂逅。 ある意味卯月を仕留めきれなかったことで愛梨の殺意にブレーキがかかった印象ですね。 互いに不安定なところがありますが、逆に一緒に居ることで安定しそうな気も。 まずこれからどうするかが以降のテーマになりそうで、凄く楽しみです。 >傷だらけの天使 独りで歩いていく肇にそれぞれアプローチをかける二人。 それでも余り響くものはなかったようで、変わる事のない彼女はどこへ向かうのか。 同行するつもりのきらりも随分この状況に参ってしまっているようで心配。 凛は肝心の尋ね人と行き違いになって……もう一度会えるのでしょうか。 >エネミー・ラプソディ 少しずつ疑心暗鬼になっていく泉と友紀。 この二人にとって最大の敵はもしかしたら自分自身……かも。 あまり表に出さないだけに川島さんも扱いかねている様子。 そしてかな子は……一体何の前に居るのでしょうか。 >iDENTITY 互いに思うところがありながらも、ブレることのない二人。 支え合って無事に行きたいところですが……どうなることやら。 ダイナーに先行している四人と合流出来るのか、行き違いになるのか。 これまで離れた場所に居ただけに、今後が楽しみですね。 >テンプレ案 特に自分から指摘する部分はないかと。 最後に衣装についてですが、トライアドプリムスの衣装であることは事実上明言しているような物なので…… 公式で既出のどちらかであるのか、それとも違う物なのかは今後の展開に影響しそうなので後続の方に委ねるつもりでしたが。 問題があるようでしたら個人としても一応考えてはいるので、指摘していただければ折を見て書き込ませていただきます。
996 : ◆RVPB6Jwg7w :2013/05/26(日) 18:54:32 ID:FwCqvK7U0 >>996 なるほど、納得です。そういうことであれば構わないと思います。
997 : ◆j1Wv59wPk2 :2013/05/27(月) 01:16:19 ID:kwl61xbQ0 >心模様 なおかれはいい(同調) 二人の友情とか、凛に対する想いとか、ちひろへの怒りとか、衣装とか。 やっぱり彼女達……凛を含めて三人は凄くいいキャラしてる。 穏やかな光景の中にある哀しさとか、怒りとかそんなマイナスな感情がやっぱりいいなぁ。 相変わらず虚しさだけが残る二人、ここからどうなるんですかね。乙でした。 そしてテンプレ案は…名簿修正と補完話ルール追加で良いと思います。 後は先に言われていますが予約期間の修正も良いタイミングなのではないでしょうか。 個人的には前も言ったとおり「一週間の延長三日」がいいんじゃないかなー、と思います
998 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/27(月) 02:06:45 ID:Q1.JTz7o0 意見ありがとうございます。 新スレ立てました。 ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12648/1369587861/ また新スレのほうで少し遅れましたが、投下開始します
999 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/27(月) 02:12:12 ID:Q1.JTz7o0 「はいっ、オッケーです!」 パシャとという音と共に、撮影終了の合図がかけられた。 雑誌に載るグラビアの写真の撮影で、何故か学生服を着ている。 いや、そういうテーマなのだけれど。 「お疲れ様でしたー!」 「はい、お疲れ様です!」 「お疲れ様でした」 結構長時間の撮影だったけれど、愛梨ちゃんは元気良く挨拶している。 二人での仕事だったけれど、セーラー服が良く似合っていた。 流石ちょっと前まで現役だったけあるのかな。 ちょっとだけ、眩しい。 「はぁ」 「どうしました?」 「別になんでもないわ、似合ってるわ」 「ありがとうございますっ、楓さんも似合ってますよ」 そう言われて思わず自分の姿を見る。 ブレザーの制服をきた……女性? それは正直…… 「……どうなのかしらね」 「あ、あはは」 お互いに苦笑いを浮かべて、そしてバツの悪そうな表情を浮かべる愛梨ちゃんをみて、私はクスッと改めて笑った。 そしてそのまま、撮影スタジオを後にして、私達は楽屋に向かう。 「あ、そういえばエクレア作って持ってきたんですよ」 「わ、嬉しいわね」 「えへへ」 彼女が作るお菓子は本当美味しい。 流石趣味にするだけのものだけある。 ケーキ、アップルパイなどなど、どれも美味しくて、思い出して微笑んでしまう。 「……貴方が作るお菓子は、可笑しいくらい美味しいわ」 「……ふぇ?」 「いえ、なんでもないわ」 「そうですかー……今日は、エクレアを作ってきました!」 「わぁ」 そうして、楽屋に入って、愛梨ちゃんは冷蔵庫からエクレアを出す。 飲み物を用意して、私はエクレアにかぶりつく。 その瞬間、ふわっと香りが広がった。 「あ、珈琲味ね……でも市販の味と違うわ……美味しい」 「はいっ、ちょっと隠し味入れたんですが解ります?」 「……うーん、何かしら?」 「コーヒーリキュールです、大人の味ですよ」 確かに、普通の珈琲味とはちょっと違う。 お酒が入っている分癖があるけど、何処か深い感じがする。 癖になりそうな大人の味で。 「ふふっ……いけない味ね」 「えへへ……」 そう、愛梨ちゃんは、はにかむ。 朗らかな笑顔が、本当素敵だ。 この子は、自分のお菓子を食べてもらうと、本当に幸せそうな笑顔を浮かべる。 ここら辺、年頃の少女ね。 「けど、楓さん。長時間の撮影だったのに、こなれてますね」 「ええ……まあ、モデルだったからね」 「えっ!? 初耳です!」 「言ってなかったっけ……? だからグラビアは慣れてるのよ」 ふぇーと驚いたように、愛梨ちゃんは私を見つめる。 私はそんな珍しいかしらと思う。 まあ、珍しいのかな? この年だと。 「なんで、モデルからアイドルに?」 「……うーん、なんででしょうね」 「解らないんですか?」 「熱心にスカウトされたのが大きいからね」 そう、本当に熱心なスカウトだった。 こんなモデルをアイドルにしようとするなんて、驚きである。 ビジュアルだけじゃない、歌やダンスでも貴方は人を魅了できるって。 はぁと軽く流し続けていたのに、プロデューサーのしつこいの域に入りかけた熱心なスカウトに見事に負けてしまった。 「でもまぁ……これでよかったわ」 「よかった?」 「ええ、よかった、うん」 多分よかったのだ。 踊って、歌って。 そして、いろんな人に出会って。 楽しい、今、とても楽しい。 だから、これがいいのだ。
1000 : ◆yX/9K6uV4E :2013/05/27(月) 02:31:56 ID:Q1.JTz7o0 盛大な誤爆です……orz 埋めもかねてに、一つぬけていた感想を! 申し訳ないです >傷だらけの天使 肇ちゃんが……きらりもゆれてる中 凛ちゃんかっこいい! もう、名の通り凛としていて素敵。 水族館いっても、まっすぐなんだなーと思います
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