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モバマス・ロワイアル
1 ◆M097k4ybAc:2012/10/15(月) 23:50:22 ID:l5E9cfNI0
このスレは、アイドルマスター・シンデレラガールズ(通称モバマス)を題材にバトルロワイアルの物語をリレー形式で進めてくという企画のスレです。

【参加キャラ】

18/18【キュート】
○島村卯月/○三村かな子/○小日向美穂/○緒方智絵里/○五十嵐響子/○前川みく/○双葉杏/○安部菜々/○輿水幸子
○水本ゆかり/○櫻井桃華/○楊菲菲/○小早川紗枝/○道明寺歌鈴/○榊原里美/○栗原ネネ/○古賀小春/○佐久間まゆ


18/18【クール】
○渋谷凛/○多田李衣菜/○川島瑞樹/○藤原肇/○新田美波/○高垣楓/○神崎蘭子/○北条加蓮/○白坂小梅
○相川千夏/○神谷奈緒/○佐々木千枝/○三船美優/○松永涼/○和久井留美/○脇山珠美/○塩見周子/○岡崎泰葉

18/18【パッション】
○高森藍子/○姫川友紀/○大槻唯/○及川雫/○相葉夕美/○向井拓海/○十時愛梨/○日野茜/○城ヶ崎美嘉/○城ヶ崎莉嘉/○諸星きらり/○市原仁奈
○木村夏樹/○赤城みりあ/○小関麗奈/○若林智香/○ナターリア/○南条光

6/6【書き手枠】
○/○/○/○/○/○


【基本ルール】

1.とある島にアイドル65人放り込み、一人になるまで殺し合いを続ける。
2.開始時間は午前0時から。制限時間は無制限。二十四時間以内に誰も死なないならば、強制的に全滅。
3.参加者の首には首輪がつけられて、爆弾がつけられている。無理に引っ張ったり、主催が命令などあると、爆破される。
4.ゲーム開始後、六時間毎に、放送が流され、そこで直前で死亡した人物の名前が読み上げられる。
  また、次の6時間以内に進入禁止になるエリアを読み上げる。禁止エリアに入った参加者の首輪は警告の後爆破される。
5.参加者には、武器になったりならなかったりする不明支給品が1〜2支給される他に、以下の基本支給品が支給される。
  荷物を入れるデイバック、情報端末(時計磁石入り)、参加者名簿、地図、筆記用具(鉛筆やメモなど)、懐中電灯、食料(水と軽食)
6.各アイドルのプロデューサーは主催によって人質にされている。アイドルと同じ首輪をしており、主催の判断で爆破される事がある。


 ※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。
   また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。

【アイドルについて】
アイドルはソロで活動しているか、参加者非参加者問わず他のモバマスアイドルとグループで活動しているかはお任せします。先に書かれたSSに準拠してください

【プロデューサーについて】
アイドル一人ひとりにつき、それぞれのPがいます。ただし、全員が別人ではなく、複数のアイドルを掛け持ちしているPもいます。仔細は先に書かれたSSに準拠か、書き手にお任せします。

【予約について】
スレにトリップ着きで、予約キャラを明記してください。
期間は5日間。延長は5作投下した人から、2日出来ます。


※地図
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0157.png

まとめウィキは現在誠意作成中です。

2 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:51:29 ID:l5E9cfNI0
トリップは此方で。続いてOP投下します

3オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:53:03 ID:l5E9cfNI0
トリップは此方で。続いてOP投下します

4オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:53:43 ID:l5E9cfNI0

その日はいつもと変わらない日になるはずだった。
ロケバスに乗って、地方へミニライブを行う。
ちょっと大変な事ではあるけど、それでもファンの笑顔を見れることは楽しみであったから。
そんな、忙しくも充実した日になるはずだったのに。

ねぇ、どうして。


「……う……そ……なんで……なんで……死ななきゃならないのよぉ!?!?」


響く、絶叫。
錆びた鉄のような、血の臭い。
横たわる首のない、人の身体。

出来の悪いドラマみたいな舞台にも感じて。
けれどそれがどうしようもなく現実に感じてしまう自分が居て。
その中で、私達が存在していて。


まるで、醒めない悪夢の中、私達は踊らされていた。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「………………んん?」

少女重たい瞼を開けて、まず感じたのは酷い倦怠感だった。
身体が石の様に重い。まどろみが凄く気持ち悪い。
変な寝方でもしたのかなと上体を起こすと、何故か机の上に寝ていた。
可笑しいと思って辺りをキョロキョロと見渡すと、其処は真っ暗な学校の教室で。
同じように起きて戸惑っているアイドルや、未だに夢の中にいる仲間達が居た。


「………………どういうこと?」

確かロケバスに寝ていた筈だと、少女――渋谷凛は不思議に思うしかなくて。
何故、自分がこんな所に居るのか理解できなくて。
夢でも見てるのかと思うけど、そんなことは無くて。
イライラして自分の長い黒髪を強く梳いてしまう。

可笑しい、可笑しいのは言うまでも解かる。
でも何故こんな事になっているのが解からない。
解からない事が腹立たしくて、其処で凛はふと首に感じる違和感に気付く。

「チョーカー?……なんだろう、これ」

凛の細い首に巻きつけられた、シルバーの輝きを放つチョーカーみたいなもの。
少しきつめに巻き詰められており、少し息苦しい。
弱めに引っ張ってみるが、取れる気配は無かった。
触ってみた感じだとプラスチックかな、と凛は思う。
そしていよいよ解からなくなってきている。

何かのドッキリなのかなと思うけれども、それにしては気味が悪い。
真っ暗い教室で、椅子に座らせれて寝ていた。
何の冗談なのか、さっぱり解からないし笑えもしない。
センスが悪いってもんじゃない。悪趣味でしかない。
だから、凛は苛立って思いっきり机を蹴飛ばす。
けれど、何も変わる訳が無かった。
変わりはしなかったのだ。



「はいっ、皆さんそろそろ目覚めた頃だと思います。気分はいかがですか?」

5オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:55:28 ID:l5E9cfNI0

そして、凛の苛立ちが頂点に達し始めた頃に、唐突にそれは始まった。
教壇にだけ明かりが灯り、其処に不釣合いの笑顔を浮かべる人が居た。
凛もよく知っている人物で、満面の笑顔がチャームポイントの女性。

(ちひろさん……なんで、そんな所に?)

千川ちひろ。
凛が所属するプロダクションの事務員の女性だった。
プロデューサーを影ながらサポートする役割の人であり、表立って行動する事はないはず。
それなのに、今は教壇に立って、視線を一身に集めている。
凛にとってこれだけでもう、異常と呼べる事態であった。
この異常事態に気付いてか、回りのアイドル達も何事かと騒ぎたて始めている。

「はい、皆元気そうですね。それじゃあ、今回のイベントについて説明しますねっ!」

ちひろは全体を見回して、一際大きな声で全体を静かにさせる。
ざわめきが徐々に無くなっていく中、凛は疑問を抱えたままだった。

(イベント?……なんで、プロデューサーじゃなくてちひろさんがやってるの?)

何かイベントに参加する時は、プロデューサーがいつも教えてくれたはずだ。
事務員であるちひろがアイドルに直接教えるなんて、今までは無かったしありえない事なのに。
今、平然と彼女は教壇に立って説明しようとしている。
もうどう考えても可笑しい。
凛がそう思った瞬間だった。


「とても簡単ですっ! 此処に居るアイドルみんなで、殺しあってもらいます!」


その言葉に、頭が真っ白になった。
絶句するしかなかった。
流石に冗談だろうとしか思えなかった。

「……え、冗談でしょ……それかドッキリよね?」

誰かが即座に否定する声を上げる。
そう、だって、可笑しすぎる。
ちひろさんはとても物騒な事を言ってるのに。
どうして、そんなに笑っているんだろう。笑っていられるんだろう。

「冗談でも嘘でもないですよー、本当に殺しあってもらいます。うーん、どうも信じてもらえないみたいですね……」

そんな事を言いながら、ちひろはしゅんとした表情をしてみせる。
元々感情豊かなちひろらしいのだが、この場にいたっては妙に不気味にしかうつらなくて。
凛はちひろの姿に狂気すら感じて、思わず身震いをしてしまう。

「そうですねぇ……まぁ、どうせ後で本当だという事を知るんだし……今は先に説明を終わらせちゃいましょう!」

ちひろは少し考えながらも、両手を合わせまた笑顔で話し始める。
凛はその様子を見ながら、彼女が話した言葉に引っ掛かりを覚えた。

(え……『どうせ後で』って……それって……?)

つまり、説明の後に何かがあるという事。
彼女が言った殺し合いが冗談でも嘘でもない真実だという事を知らしめる何かがあるのだ。
もはや嫌な予感しかしないが、それでも今はちひろの説明を耳を傾けなければいけない。
凛は不服そうに、それでも真っ直ぐ射抜くようにちひろを睨みつける。

「やってもらう事はとっても解かりやすいですよ。ここに居るアイドル全員で、たった一人になるまで殺しあうんです」

6オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:56:46 ID:l5E9cfNI0

ね、簡単でしょう?と千川ちひろはいとも容易く言ってのけてしまう。
けれどそれは簡単でもなくて、ただ、ただ残虐で悲惨極まりないもので。
今、教室にいる人が、一人しか生き残れない事を示していて。
凛は愕然として、ちひろを見ることしか出来なった。

「どうやって殺すかは不問です。武器を使って殺してもよし。だまし討ちにしてもよし。漁夫の利を得るのもよし。
 もしくは一人になるまで逃げ回ってても、まあ構いません。ですが、それでは終わるのが遅くなるだけなので気をつけてくださいね」

つまり、それはどうあがいても、一人しか残す気がないという宣言。
アイドルだけで、一人になるまで散々殺しあえというのだ。
ちひろの言葉一つ一つに、凛の背筋が凍りついていく。

「開始時間は、0時から。制限時間は無制限です。けれども、二十四時間以内に誰も死なないと……全員死んじゃうようにするので、注意してくださいねー」

殺しあわなきゃ、何れ全員死ぬ。
ちひろに対する激情は薄れ、やがて恐怖が襲い掛かってきた。
怖い。ただただ、今の状況もちひろも何もかもが怖い。

「そして、貴方達には武器などの支給品が一つか二つ渡されます。
 銃や刃物……はたまた全然使えないものか。それは人それぞれなので、自分の運を信じてくださいっ!」

もはや、激情は見る影も無く。
心は恐怖に支配されながらも。
何故か冷静に、説明だけは頭に入っていた。

「それらは、食料とかと参加者名簿、地図、筆記用具、懐中電灯など一緒に、ディバックに入れておきますので、開始した後、確認してくださいね」

それは死にたくないという生存本能のせいなのだろうか。
人間が誰しも持つ本能ゆえなのだろうか。
そんなの凛には、解かる訳も無かった。

「最後にゲーム開始後6時間ごとに放送を流させて貰います。放送する内容については二つあります。
 一つは、その六時間内で死んだ人達を読み上げます。そしてもう一つは禁止エリアです。
 ある場所一箇所に篭られるとつまらないので、6時間以内に進入禁止にする場所を数箇所設けさせて貰いますね」

だから、凛は呆然しながらも、恐怖しながらも。
ゆっくりと説明を咀嚼し、そして理解していく。
ただ、自分自身が生きて行くために。

「さて、とりあえず説明はこのぐらいですね。皆さん、殺し合いできますか?」

ちひろの問いかけに、あちらこちらからできないという否定の声が飛びかう。
納得できないという怒り声も聞こえてくる。
それはそうだ、できないし納得できない。
凛も何か声をあげようとした時、

「ですよね。そんなの知ってます。貴方達は『アイドル』ですからね」

ちひろの底冷えするような声が聞こえて来たのだ。
凛はそんなちひろをみて、ゾクリとした嫌な感覚がして、口を紡ぐ。
明らかに今まで違うちひろの冷たい態度に戸惑い、嫌な予感しかしなかった。

7オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:57:38 ID:l5E9cfNI0

「ファンの皆を笑顔にして、幸せにする『アイドル』が殺し合いなんて出来る訳がない」

プロダクションの裏方としてアイドルを見続けていたちひろ。
そんなちひろがアイドルの事を理解してない訳が無いのだ。
理解してるのに、それでも彼女は殺し合いを強制する。

「でも、だからこそ、『アイドル』の皆さんに殺しあってもらわないといけないんですよ」

その言葉は強い意志が篭った断言で。
ちひろはその言葉を告げながら、ポケットからなにやら機械を取り出した。

「さて、皆さんのポケットにも、この機械が入っていると思います。これで地図や時間が確認できますよ」

凛はちひろの言葉を聞いて、ポケットに手に入れる。
何か入っている感触がして、取り出すとそれはスマートフォンみたいなものだった。
画面に触れると、白の無地の壁紙しかなかった。
この後、時計や地図が表示されるのだろうかと凛は疑問に思っていると。

「ついでに此方から送信した映像や音も受信できるんですが……今試しに送ってみますね」

ちひろが画面を操作してると、凛が持っていた機械に映像を受信していますとのメッセージ入ってきた。
何が送られてきたのだろうかと不安と恐怖に襲われながら、凛は恐る恐る確認する。
すると、其処には信じられない映像が映っていて。

(プ、プロデューサー!?)

ちょっと頼り無さそうな大人の男性。
けれど凛が最も頼りにしている男性。

凛のプロデューサーが、椅子に縛り付けられている映像が映っていた。
手は縛られて、映像越しに見える表情でも冴えないようで。
凛の心を一気に恐怖に陥れるには充分すぎて。

「はい、貴方達のプロデューサーが映ってますねっ。貴方達を従わせるために……ちょっと預からさせてもらいました!」

その言葉で、凛は理解してしまう。
自分達が積極的に殺し合う理由や切欠なんて無い。
ならば、理由や切欠を作れば良いのだ。
そう、アイドル達が最も信頼している人物を人質に取れば良い。
最も簡単でシンプルな手段だ。

「今は何もしないですけど……貴方達が殺し合いをしないという反抗的な態度をとれば……言わなくても解かりますよね?」

むしろ、言って欲しくない。
凛には嫌な位予想できてしまった。
人質に取るという事は、命を握っているという事。
そしてそれを自由に出来るという事だ。

「だから、皆さんはやっぱり殺し合いをするしかないんです。皆さんが自分のプロデューサーを大切に思っているなら、です」

だから、私達は殺し合いをしないといけない。
そう、大切な人を護るならば。

「勿論、貴方達が殺し合いをしてくれるなら、そのままプロデューサーの皆さんは解放するので心配なくですっ」

アイドル同士で殺しあわないといけない。
最も人殺しから、遠い存在で無いといけないアイドル達同士で。

殺しあえといわれてしまった。

8オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:58:33 ID:l5E9cfNI0


「…………できない!」

それでも、出来ないという声を上げたアイドルがいた。
凛の位置から姿は見えないが、否定の声を上げた人が。
凛も感じている恐怖から、立ち向かうように。
自分を振るいたてながら声を上げたアイドルがいた。

凛は、純粋に凄いなと思って。


「……まだ、そんなこと言ってるんですか……丁度一人、見せしめが欲しかったから、まあこの人でいいでしょう」


底冷えするような冷たく、突き放した声。
ちひろの張り付いたような笑みが失せ、表情がなくなっていた。
そして、凛は理解してしまう。
ちひろが言っていた『どうせ後で本当だと知る』という意味。
殺し合いが本気だと見せるために。

誰か生贄を出すというのだ。
恐らく否定の声を上げた、アイドルが。

死ぬというのだ。


「…………ああ、貴方じゃないですよ。折角の『アイドル』減らす訳にはいきませんから」


誰しもが、声を上げたアイドルが死ぬと思った時。
予想外にも、ちひろ自身からそれは否定される。
じゃあ、誰がという疑問が湧き出た瞬間、教室の扉が乱暴に開けられた。
そして、扉から押し込まれてきたのは手と足が縛られた一人の男性だった。

「はい。貴方のプロデューサーです。さっき言いましたよね? 反抗的な態度をしたら……と」

男の人は人質になっているプロデューサーで。
声を上げてしまったアイドルのプロデューサーで。
つまりアイドルの変わりに死んでしまう人だった。

「まあ、殺し合い中はあれぐらいの反抗で殺すかはまだ解かりませんけど、始まりで躓く訳にもいきませんから。最後の説明がてらです」

最後の説明という言葉と共に、ちひろは男の首を指差す。
其処には細いチョーカーのようなものが巻きつけられていて。

(あれ、それって私も…………)

凛も自身の首につけられた首輪に手を当てた時

「皆さんもお気づきでしょうが、貴方達と貴方達のプロデューサーに首に首輪をつけさせてもらいました。これはなんと爆弾がついています!」

9オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/15(月) 23:59:18 ID:l5E9cfNI0

そんな物騒な言葉が聞こえて、さっと手を離す。
こんな首輪に爆弾というのが信じられなかったが、もうそんなのばっかりだったから信じるしかない。
信じなければ、死ぬのは自分なのだから。

「人一人は簡単に殺せるので。これを爆発させるには、無理に引っ張ったりする以外にも、もう二つあります。
 一つは先ほど言った禁止エリアに入った時、警告に無視して居続けた場合爆破させます。
 そして、私達が、爆弾を操作した時……そう、つまり」

二つ目の条件を次げた瞬間、ピピピという電子音が教室に響いてくる。
何事かと思って、凛は辺りを見回し発生源を探す。
すると、鳴っていた場所は、蹲ってる男の首輪からで。

「今、試しに爆発させます。このプロデューサーさんの首輪をね」
「……っ!? やめて!!!」
「やめませんよ。これが始まりなんですから」

アイドルの悲痛な叫びが聞こえるが、ちひろは気にしない様子で平然としていた。
まるで、これから起こる事何もかも理解しているように。
凛は心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、ただ殺されるプロデューサーを見つめるしかなくて。

ピピピピピピピピ。

音が早くなっていく。
ああ、死んでしまうのか。
ここで、誰かが死んでしまう。
日常が、遠く感じてしまう。


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ。


音がもう隙間無く響き続けて。
プロデューサーの男の人が、口を開いて、何かを告げた、瞬間。


ボンッ。


そんな余りにも軽い音が響いた。

けれど、それで、人が死んでいた。

大量の血を噴出させながら、首が無くなっていた。
むせ返る血の臭いが充満していた。


「……う……そ……なんで……なんで……死ななきゃならないのよぉ!?!?」


響く絶叫で、凛ははっとする。
人が死んだという事実を見せ付けられて、心が空っぽになりそうだった。
頭が真っ白になった。何もかも信じたくなかった。
でも、これが残酷なまでに現実でしかなかった。
ああ、死んだのだ。人が、死んだのだ。


「死ななきゃならなかったからですよ。それだけです」


ちひろは人が死んだというのに、やっぱり表情は変わってなくて。
死んでしまった男を見下ろすだけで。
そして、何の感情も見せなくて。


「貴方達も、貴方達のプロデューサーも、こうなりたくなかったら殺し合うしかないんですよ。やっと理解できました?」

未だに、納得はしたくない。
殺し合いなんて、したくない。
でも、理解はしてしまった。

この殺し合いは、本当の出来事なんだということを。
生きたかったら、プロデューサーを助けたいなら、アイドル同士で殺しあわないといけないことを。

渋谷凛は、理解してしまったのだ。


「それじゃあ、そろそろ開始しましょう! 皆さんのスタート地点は公正にランダムで決めさせてもらいます」

ちひろのその言葉と共に、凛に眠気が襲い掛かってくる。
色々な思いと感情が心の中で混ざって、酷く、気持ちが悪い。
納得も出来ないし、未だに信じられない事がある。

10オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:02:44 ID:h/4Jpmpo0


それでも、


「では、『アイドル』の皆さん。頑張ってくださいね。自分の為にも、プロデューサーの為にも……生き残ってみせなさい」



生き残らなくちゃ、生き残ってやる。



そんな思いは、確かに心に灯り続けていたのだった。



【????のプロデューサー 死亡】


【バトルロワイアル開始】
【残り60人】

11オープニング ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:05:04 ID:h/4Jpmpo0
OP投下終了です。続きまして、第一話投下します。

12DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:09:43 ID:h/4Jpmpo0
最初はとても頼りなさそうな人としか思わなかった。
第一印象だけでいうなら、仕事がまるで出来そうな男でしかなかった。
外見もとてもひょろいと感じてしまうほど細身で、正しく頼りなさそうな男を具現化した人。

そんな人が、私を、和久井留美をアイドルとしてスカウトしたプロデューサーだった。

しかも、仕事をやめた直後に。
笑える、本当に笑える話だった。傑作でしかない。
人生とは何があるか解からないという言うけれど本当に傑作のような話だった。

私はある人の秘書の仕事をやっていて、まあ何というかそれしかやる事しかなかった。
仕事が趣味というか……まあそんな人種だったのよ。
だから、仕事が楽しかったしそれなりに充実していたと思う。

けれど、辞めざる終えなかった。
あの時の事は思い出したくも無いが、上司の不祥事の尻拭いといえばいいのだろうか。
トカゲの尻尾切りとも言えばいいのだろうか、まあそのような状況だった。
だから私自ら辞めるしかなかった。依願退職という形で。
晴れて無職になってしまった私は、仕事が無くなった事に愕然としてしまった。
ああ、何もする事がない、と。

蒼天の霹靂のような衝撃だった。
和久井留美という人が此処まで仕事しかなかった事に、ただ驚くしかなかった。
何をしようと思っても何も思いつかない。
趣味なんて、当然ない。
愕然として、やけになった。
やけになって、酒を沢山呷った。
行った事も無いバーで、自棄酒を呷ってる時に。

私は将来の自分のプロデューサーに出会ったのだ。
多分、私は派手にあの人に絡んでいたと思う。
盛大に愚痴をこぼしていた気がする。
嫌な酔っ払いでしかないだろうに。
何故か、彼は言ったのだ。

アイドルにならないかと。

下らない冗談かと思った。
こんな酔いどれを捕まえて何を言ってるのかとしか思わなかった。
けれど彼は至って真面目だった。
熱心にアイドルを勧めて来る彼は何故か素敵に見えて。
酔いはどんどん醒めていって。
いつしか私は彼の話を聞き入っていた。

彼の説明が終わった後、改めてならないかと聞かれて。
一日待ってと私は答えたのだ。
所詮お酒が入った席でしかなく。
そして、何よりも私はアイドルになれるような歳でもなかった。
だから断るつもりだった。

13DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:10:43 ID:h/4Jpmpo0

けれど。
何故か、何故だか解からないけど。
とても彼の言葉に惹かれている自分がいて。
半ばやけになっていて。
でも、それが何処か楽しくて。

だから、私は彼にあってみることにした。
そしたら、驚き呆れたことがある。
私は未だ名乗ってなかったのだ。
それなのに彼は私を必死に口説いてたのだ。
可笑しくて、でも楽しくて。
そして、私はこういってやった。

「和久井留美よ。趣味は仕事…と言いたいけど、昨日仕事を辞めたばかりだから、趣味すらない女よ。
 そんな私にアイドルを勧めるだなんて…君、悪趣味ね。こうなったらヤケだわ。付きあってあげる」


そして、それが私の、私達の。



――夢の始まりだったのだ。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







まんまるい月が爛々と夜空に輝いていました。
わたしはそれを座りながら、ただゆっくりと眺めていて。
ただ綺麗だなと思いました。
こんな殺し合いの現場の風景じゃないなって、わたしは思ったんです。

わたし――今井加奈がアイドルになってどれ位たったんだろう。
随分長い気もするし、あっという間な気もする。
そんな時間でした。けれど、とても楽しかったんです。

けれど、こんな事になるなんて思わなかった。
まさか、まさかアイドル同士で殺しあえなんて。
そんな可笑しい事になるなんて……。

わたしは正直、ちょっと泣きそうになってしまいました。
なんだかとっても心が苦しくて、痛くて。
そして、とっても哀しくて、怖くて。

こんな事をするために、アイドルになったんじゃない。
誰かを哀しませるために、苦しませるためになったんじゃない。
誰かを喜ばせるために、楽しませるためにアイドルになったんです。

それなのに……それなのに……こんな事…………

そう思って、哀しくて怖くて……泣きそうになって。

14DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:12:01 ID:h/4Jpmpo0


わたしは、それでも泣きませんでした。


だって、わたしは教えられたんです。


プロデューサーさんに、『アイドル』は簡単に泣いちゃいけないって。
だから、私は泣かないで、堪えました。
笑おうと思って笑顔を作ったけど、笑えたかな?
泣かなかったこと、褒めてくれるかな? 褒めてくれるといいな、えへへ。

そう、わたしは『アイドル』なんです。


「だから、だから、わたしは殺し合いなんてしません……わたしは『アイドル』なんだから」

だから、わたしは決意をあえて口にする。
解かっている、これがわたし自身とプロデューサーさんの命を危険に晒すことってぐらい。
でも、わたしはそれでも、殺し合いに参加する事なんてできない。
沢山のこと教えてもらったんだ、プロデューサーさんから。
アイドルの事、沢山沢山。
わたしのメモ帳には教えてもらったことが沢山書かれてるけど、その教えてもらった事はきちんと覚えている。


メモ帳の一番最初に書かれてる、アイドルの大事な基本。

「アイドルは人を幸せにするんだから……」


アイドルは人を幸せにするものなんだって。
だから、私は他の人を哀しい思いにさせたくない。不幸にさせたくない。
それが、アイドルなんだから。

だから、わたしは殺し合いはしない。


だって、わたしは大切なプロデューサーさんに育ってもらったアイドルなんですから。


胸を張っていたいんです。
うん、それでいい。



「……人を幸せにするか…………立派ね」


その言葉に、わたしはビックリして振り返る。
振り返った先にいたのは、切れ目が特徴的な大人のひと。
いかにもアダルティって感じがする女性が、わたしを見つめていたんです。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

15DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:13:25 ID:h/4Jpmpo0





そして、私は彼の勧めるままアイドルになってしまった。
こんな年がいっている女が通用するのかと思ったが、予想外にも何とかなっていた。
プロデューサーである彼は、更に予想外な事にビックリするほどやり手だった。
あの見た目から想像できないぐらい私をアイドルとして仕立て上げていったのだ。

彼は、私をモデルや芝居を中心としたプロデュースをしていった。
若い子に出来ない雰囲気を、私が見せ付けて欲しいと。
だから、私はその言葉に乗って、言ってやった。

「いいわ。魅せてあげる」

ファンを、そして彼を魅了できるように、私は頑張った。
自分を魅せる為のレッスンは言うまでもなくきつかったけれども、とても充実していた。
不得手だったダンスのレッスンでさえ、楽しさを感じるほどに。
仕事が趣味だといったけれど、今までやっていた仕事と全然違う。

仕事に縛れるんじゃなくて、自分を解放できるという楽しさがあって。

自分が頑張るたびに、ファンが魅了されていったのが正直嬉しくて。
そんな自分自身に驚きすら感じながらも。

私は『アイドル』の仕事にもっともっとのめりこんでいった。

彼も、そんな私に応えてくれた。
辛い時は私を励ましてくれて。
大成功した時は、二人で祝杯をあげて。

二人三脚で、私達は夢を向かっていて着実に歩いていった。

やがて、きつかった私の目つきは柔らかくなっていて。
それに釣られるようにアイドルとしての私の知名度は上がっていて。

私は色んな人を魅了している存在になっていた。
けれど、それと同時に最も魅了したい人が出来ていた。

魅せられたのは、私のほうだった。

あんなに、頼り無さそうな男の人だったのに。
何時の間にか、誰よりも頼りがいある男の人になっていたのだ。

それに気付いた瞬間、私は何よりも幸せを感じた。
ああ、私も誰かを想う事が出来るんだって。

その幸せを抱えながら、私はある仕事のヘルプに入った。

未婚の妙齢の女性に対して、残酷すぎる仕事というか。
なんとブライダルショーの仕事で。
まさかの花嫁衣装を着る羽目になるとは想わなかった。
最高に複雑な気分だった。
婚期を逃したらどうするのよとついぼやくぐらい。

そして、ブライダルの仕事を始まる直前。
一人、ウェンディングドレスを纏いながら黄昏ていると。
彼が隣にやってきたのだ。

色々愚痴ってやった。
何が哀しくて想い人の隣で、こんな姿をしてないといけないのか。
そう思うと、不満が噴出した。
さりげなくアピールしている自分自身に驚いたけれど。

そして、彼は言ったのだ。

今はまだ、貴方をトップアイドルにしたい夢があると。
けど、トップアイドルになったら、ずっと自分の傍に居て欲しいと。


―――驚いた。涙が出そうになった。

告白されるなんて想ってなかった。
私はこくんと頷くしかなかった。
人生とはなんて面白いものなんだろう。
私がアイドルになって、そして幸せが待っているとは。

だから、私はこう言ってやった。

彼を君から、さんと呼び始めて。


「和久井留美はずっと貴方のそばにいると誓うわ。それがプロデューサーとアイドルの関係でも、それ以上でも………」



それが、私の、和久井留美個人としての夢の始まりだった。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

16DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:13:56 ID:h/4Jpmpo0




私は夜風を感じながら道なりに歩いていると、道なりのちょっと外れの草むらでしゃがんでいる少女が居た。
セーラー服に黒髪をピンクのリボンでツインテールにしている女の子。
確か……今井加奈といったはずだ。

彼女は一見ただの普通の女の子だ。
けど、彼女のプロデューサーが腕利きで。
彼女をあっという間にアイドルに仕立て上げた。
彼女自身も、凄く飲み込みの早い子だと聞いていた。

老若男女、誰にも愛されるお茶の間でよく見るアイドルに成長していると聞いたことがある。
正しく、アイドルといった子だろうか。

さて、私、和久井留美は彼女に対してどうしようかと考えている時、

「だから、だから、わたしは殺し合いなんてしません……わたしは『アイドル』なんだから」

そのような決意の言葉が聞こえてきた。
何故か、胸を裂くような言葉で。
私は動きを止めていた。


「アイドルは人を幸せにするんだから……」

ああ、そうだ。その通りだ。
その通りしか言い様が無い。
それこそ、アイドルなのだから。
解かっている。解かっているけど。

お願いだから、今、これから、私がやろうとしている事を止めないでほしい。


「……人を幸せにするか…………立派ね」


けれど、私は、彼女に対して言葉を返していた。
立派なアイドルに対する彼女に対して。
言葉を返さざるおえなかった。

「えっ……えっと、貴方は確か……」
「和久井留美よ。私も一応アイドル」
「あ、よろしくです。留美さん……えへへ」

アイドルという言葉を紡ぐ時、胸がとてもちくっと刺す様な痛みに襲われてしまった。
それをおくびに出さずに、私は微笑んでみせる。
すると彼女も微笑んでくれた。

こんなやり取り、いらない筈なのに。

「改めてみると留美さん、本当綺麗な人ですね」
「そう? ありがとう。人に観られると綺麗になるものよ」
「そうなんですかなるほど……あ、メモするのがないや……残念」

そう、観られると綺麗になる。
観てもらいたい人がいると、綺麗になるのだ。
彼女も可愛いけれど……彼女もそうなのかしら。
今、私が言った事をメモしようとした彼女はとても可愛く見えた。
きっと彼女もそうなのだろう。
彼女にも大切なプロデューサーがいて。


そして。



「御免なさいね……お喋りしてる暇なんて……無いのよ」
「え……留美さん……?……な……んで……」


私はバックから支給された銃を取り出して、それを彼女に向けた。
愕然とする彼女を見ながら、私は言葉を紡ぐ。


「人を幸せにするものがアイドルなら…………私はきっともう失格ね」




そう、私は、もう二度と、『アイドル』という夢を見れないのだろう。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

17DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:15:11 ID:h/4Jpmpo0






二つの夢は続くはずだった。
この上無く、幸せな夢が。
けれど、それは悪夢のような出来事で引き裂かれるなんて想わなかった。

プロデューサーを人質にした殺し合い。
それに私も巻き込まれるなんて。
誰が予想出来るだろうか。
出来る訳が無い。

苦しみと哀しみで、叫びそうになった。

けれど、叫んだって何も変わりはしないことぐらい解かっている。

用意されてるのは、二つの答えだけ。

従うか、刃向かうか。

それは、もっと極端に言えば、

アイドルで居続けるか否か。


その選択を突きつけられて。


私は、彼を取るしかなかった。
アイドルという夢をかなぐり捨ててまでも。
彼の傍に居たかった。
例え彼が望んだことではなくても。


和久井留美として、彼の隣として居続ける事を選びたかった!


たとえアイドルとして、失格でも。
たとえ人として、最悪でも。


彼の隣でいる夢だけは、夢で終わらせたくなかった!
夢が夢じゃ、終わらせたくないから。
私のモノになりなさい。


それだけだった。



それだけで、私はもう一方の夢を捨てようとするのだ。


でも、それで、充分だった。


だから、私はアイドルの彼女に銃を向ける。
向けなければ、ならないのだ。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

18DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:15:45 ID:h/4Jpmpo0





「それが、留美さんの選択なんですか?」
「ええ、そうよ……御免なさいね」

わたしは、銃を向けて留美さんに問う。
留美さんの意志は固かったようで、わたしの言葉で動じる様子はない。
瞬間、終わりなんだなって理解できた。
なんか、とても澄んでる気持ちだった。
可笑しいね、これから死ぬというのに。

「どうして……貴方はそんなにやすらかでいられるの?」
「……だって、わたしは『アイドル』だから」

だって、アイドルだから。
どんなに哀しくても。
どんなに怖くても。


「笑顔で、居たい。そう想ったんです。だってプロデューサーさんが教えてくれたことだから」


そう、きっと、プロデューサーさんさんも、私を褒めてくれるよね。
わたしは、わたしは、貴方の理想のアイドルで居たって事を。
こんなにも普通の女の子をアイドルにしてくれた事を、感謝しても、しきれないんです。


だから


「だから、早く……終わらせてください!」


早く終わらせて。


「最期まで、アイドルで、居させてください! お願い……だから……」


アイドルで居たいの。
死ぬときまでアイドルで。
あの人がわたしをアイドルにしてくれたんだから。


「もう、怖くて、哀しくて、苦しくて、泣きそうなんです……でも、わたしは、『アイドル』で居たいから」


普通の少女に戻りたくないから。
このままでは恐怖で怯える少女にしかならないから。
早く、ねえ、早く!


「早く、『アイドル』で、終わらせてください」
「……っ!」



その言葉を、紡いだ時。
終わりは、訪れました。
ドンという音が響いて。


ふと、想ったのは、大切なメモ帳。
あそこには、大事な大事な思い出が書かれてる。
今から、未来まで続くはずだった、教えが書いてあるメモ帳。


ああ、もう、書かれないんだ……御免ねプロデューサーさん。


でも、わたしは、わたしは、アイドルでした。


それだけは、胸を張って言えます。えへへ。



【今井加奈 死亡】







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

19DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:16:20 ID:h/4Jpmpo0





殺した。
殺してしまった。
アイドルだった彼女を、この手で。

「アイドルのままか……敵わないわね」

アイドルを捨てた私にはきっと叶わない。
けれど、それでいい。
それでいいと想わなきゃ、やっていけない。


だから、諦めてはダメだ。
だから、逃げてはダメだ。

そう奮い起こす。

どんな罪でも、罰でも、来なよ。


私は、私は、アイドルを捨てでも。




――――和久井留美の幸せという夢を、叶えてみせる。




【D-7/一日目 深夜】

【和久井留美】
【装備:ベネリM3(6/7)】
【所持品:基本支給品一式、予備弾42 不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える
1:その為に、他の参加者を殺す

20DREAM ◆yX/9K6uV4E:2012/10/16(火) 00:17:24 ID:h/4Jpmpo0
以上で、投下終了します。状態表のテンプレは上の話のようにしてください。
続きまして、松永涼予約します。

21 ◆ncfd/lUROU:2012/10/16(火) 00:30:52 ID:daxXFqB.0
OPと第一話の投下乙です!
ああ、今井ちゃんがなんともいじらしい……

双葉杏、城ヶ崎莉嘉で予約します

22 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/16(火) 00:56:43 ID:GqmmYJHo0
スレ立て&投下乙です!
盛り上がる企画になるといいなぁ。

木村夏樹で予約しますー

23 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/16(火) 01:01:01 ID:GqmmYJHo0
そしてテンプレの体裁が整ったので投下させていただきます

24ROCK YOU  ◆n7eWlyBA4w:2012/10/16(火) 01:03:41 ID:GqmmYJHo0
 ロックとは『音楽による反抗』だ。
 社会への、ルールへの、押さえつけてくる奴らへの、反抗。
 下らないことにこだわる連中に一発ブチかましてやる、そういう音楽だ。

 そういう熱く燃える自分を叩きつけるような生き方に憧れた。
 人を惹きつけ、魂に火を付けるような存在でありたいと願った。
 だから、ロックアイドルとしてトップスターになりたいと思ったのだ。

 最初は途方もない夢だった。文字通り、星に手を伸ばすようなものだった。
 それでも、着実にその星への距離は近づいていった。
 自分のこの背中を任せてもいい、そう思える人に巡り合えたから。

 夢は、ただ見ているだけの夢ではなくなった。それが嬉しくて、ひたすら手を伸ばした。
 そして何時の間にか自分達は目指す場所まで後一歩の距離まで来ていた。
 後一歩踏み出せば、いつか仰いだ星に手が届くはずだった。

 手が届くはず、だったのに。


  ▼  ▼  ▼
 
 
 とあるコンクリ三階建ての建物の屋上で、木村夏樹はぼんやりと座り込んでいた。
 月明かりがあるとはいえ、辺りは目を凝らしても地図すら読めないぐらいには暗い。
 街灯の無機質な明かりで照らされている地上とは一種の隔絶すら感じる。
 この闇に紛れている限りは現実から切り離されるような、そういうおぼつかなさがあった。
 
 夏樹は自分に支給品と称して渡されたバットを眺めた。
 プロ野球チーム『キャッツ』のロゴがプリントされたその金属バットは、
 他のアイドルの頭蓋を粉砕するには十分過ぎる凶器であるように見えた。
 そういうことを考えると、嫌でもしばらく前に体験したばかりの鮮血の記憶が蘇る。
 爆散する血と肉。拡散する悲鳴と絶望。忘れられるわけがない。


(殺らなきゃ、殺られる。アタシも、プロデューサーも。そういうことかよ)


 耳にこびりつくぐらいに聞いたUKロックの名曲のフレーズが、不意に思い出された。
 "Another one gone,and Another one gone,Another one Bite the Dust."
 誰かが死ぬ、また誰かが死ぬ、また誰かが負けて死ぬ。
 そういえばこの歌の主人公はどうして命の危機に見舞われているんだったろう。
 どうせ今の自分達を取り巻く理不尽に比べれば、大した理由ではないに違いない。
 だが結局は同じだ。負けた奴から順々に死ぬ。アナザーワン・バイツァダスト。

25ROCK YOU ◆n7eWlyBA4w:2012/10/16(火) 01:04:52 ID:GqmmYJHo0
 

(……ふざけんな。ふざけんな、ふざけんなよ)


 夏樹は歯を食いしばった。自然とバットを握り締める手にも力がこもる。
 しかし殴りたい相手はこのバットの届く距離にいないというその事実が、
 一層彼女の中の憤りを袋小路に追い込んでいた。


(死にたくなけりゃ他のアイドルを殺せって? 仮に首尾よく皆殺しにしてさ、
 それでどのツラ下げてプロデューサーのとこに戻れって言うんだよ……!)
 

 バットの先で足元のコンクリートを八つ当たり気味に突くと、鈍い音がした。
 その音で一瞬我に返る。幸い、誰かに聞かれている様子は無いようだったが。
 バットを横たえてから忌々しげに睨むと、夏樹はもう一つの心配事に思いを巡らせた。
 

(それにあの場所には、間違いなくだりーもいた。アタシにアイツを殺せっていうのかよ。
 それが嫌ならアイツに殺されるしかないってのか? 冗談キツいぜ)
 

 自分で考えたことに反吐が出そうだ。
 同じ事務所の多田李衣菜。彼女と殺し合いを演じるという想像もそうだが、
 一瞬でもこの現実を冗談だと言いそうになったこともだ。
 これは間違っても冗談じゃなく現実だ。あの時の血の匂いだって覚えている。
 

(だからって、はいそうですかと言いなりになってたまるもんかよ……。
 そんなのはロックじゃねえ! 全然アタシらしくねえ! そんな生き方は望んじゃいねえ!)
 

 もしも自分が言いなりになって殺し合いに身を投じたとしたら。
 確かにそれは結果的にはプロデューサーを助けることになるかもしれない。
 しかしそれは、そんな自分は、あまりにも「ロック」からかけ離れてやいないか。
 木村夏樹の在り方を曲げてしまっては、結局それは裏切りに等しいのではないか。
 

(プロデューサーは、こんなアタシのやり方を信じて支えてくれたんだ。
 だからこそアタシも、この人になら背中を任せていいかもなって思えたんだ。
 ……そうだ。アタシは、アタシを信じてくれたプロデューサーを裏切らない。
 そしてプロデューサーが信じたアタシ自身を裏切らない……裏切ってたまるか!)

26ROCK YOU ◆n7eWlyBA4w:2012/10/16(火) 01:05:43 ID:GqmmYJHo0
 

 夏樹は弾みをつけて立ち上がった。
 このままじっとしていたら、どんどん暗い考えに呑まれてしまいそうだ。
 ロックの精神は反抗の精神だ。何か、何か反抗の手立てを見つけなければ。
 人を実験動物みたいに見下す奴らに、一泡吹かせてやらなければ。
 そうでなければ、死んでも死にきれない。生き残るつもりなら尚更だ。
 ディパックとバットを手にした彼女は反抗への大いなる一歩を踏み出そうとして、
 不意に、その足許をふらつかせた。
 

(…………っ?)

 
 疑問は一瞬だけ。夏樹はすぐにその原因を自覚した。
 何のことはない。両の膝頭が、面白いように震えていた。それだけのこと。
 そのくだらない事実に気付き、自分で自分に呆れ返る。
 頭の中ではどんなに勇ましいことを考えていたところで、結局体が付いてきていないのだ。
 早い話が、自分はビビっているのだ。この異常な現実に。目前の脅威に。
 

「はは……こんなんじゃ、だりーに笑われちまうな」


 思わず自嘲が口に出たが、すぐに自戒を込めて表情を引き締める。
 そういう甘えは無理やりにでも押さえ込んでいかなければ、きっと生き残れない。
 何より、こんな軟弱な姿はまるでロックじゃない。そんな自分は許せない。


「口先だけのガキで終わったら、何のために生きてきたか分かんないだろ!
 今こそアタシのこれまでが試される時だ! しゃんとしろ、アタシ!」


 両腿を手のひらでぴしゃりと叩き、自分に喝を入れる。
 そして内なる恐怖に打ち勝とうと、夏樹は李衣菜のことを思い浮かべた。
 彼女は今、どうしているだろうか。何を感じているのだろうか。
 

(アイツ背伸びばっかりしてるけど、勇ましいのはアイツのガラじゃないからな。
 一人でベソかいてるかもしれないな……迎えに行ってやらねーと)
 

 李衣菜のことを考えると、体の芯から泉のように力が湧いてくる。
 あの可愛い妹分が今も危険に晒されていると思うと、怒りと焦りで喉が焼け付くようだ。
 夏樹は拳を握り締めた。
 彼女を犠牲に生き残るなど真っ平だ。そんなことは最初からわかっていたことじゃないか。


(よし決めた。だりーは見つけ出す。その上で、アタシと、アイツと、プロデューサーと、
 誰も切り捨てないで脱出してやる……方法は分からないが見つけ出す、絶対にだ!)

27ROCK YOU ◆n7eWlyBA4w:2012/10/16(火) 01:06:42 ID:GqmmYJHo0


 やるべきことは見えた。
 夏樹は大きく息を吸い込み、そして吐いた。

 何時の間にか震えは収まった。単に表には出ていないだけかもしれないが。
 少なくとも、両の足で自分の体重を支え、自分の意志で前に進むことはできそうだ。
 それだけで今は十分。そう思うしかない。

 片肩にディパックを引っ掛け、反対側にバットを担いで、夏樹は真っ直ぐ前を見据えた。

 この先、きっと平坦な道ではないだろう。
 生きるために、嫌でも戦わなければならないこともあるはずだ。
 このバットを血で濡らすか、あるいはこの身が血に沈むか。
 充分起こりうることだ、そう思うと身震いがする。

 それでも、前進すればいつか目指す光にきっと辿り着く。辿り着いてみせる。
 希望を背負い反抗する――自分は、木村夏樹は[ロッキングアイドル]なのだから。
 


「“We Will Rock You”……必ずアッと言わせてやるぜ、だ」
 


 高みの見物を決め込んでいる奴らに自分なりの宣戦布告を口にして、
 夏樹は夜の街へと続く階段へその足を進めていった。




【G-3(建造物内)/一日目 深夜】

【木村夏樹】
【装備:金属バット】
【所持品:基本支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:自分と李衣菜とプロデューサー、三人で脱出する方法を見つけ出す
1:まずは李衣菜の捜索が最優先
2:やむを得ない場合は覚悟を決めて戦う

28 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/16(火) 01:07:26 ID:GqmmYJHo0
投下完了しましたー

29 ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 00:59:26 ID:CsvcM/zA0
投下乙ですー

こちらも双葉杏、城ヶ崎莉嘉、投下します

30……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:01:32 ID:CsvcM/zA0
「ねぇ莉嘉、そろそろ休憩にしない?」
「まだ十分くらいしか歩いてないじゃん! 杏っち疲れるの早すぎだよー!」
「失礼な。杏は莉嘉の体を心配してるんだよ?」
「そんなこと言って、本当は自分が休みたいだけでしょ!? 駄目だからね!」

夜空の下、街灯に照らされた道を歩く二人の少女。
正確には手を引く一人と引っ張られるもう一人と言うべきか。
彼女たちの気の抜けたやりとりからは、まるでしっかり者の姉と面倒くさがり屋の妹であるかような印象を受けなくもない。
もっとも、彼女たちは別に姉妹というわけではないのだが。
手を引く金髪の少女撿撿城ヶ崎莉嘉は実の姉が別に存在する妹であるし、引っ張られる小柄な少女撿撿双葉杏は一人っ子だ。
それに、ちんちくりんと形容するのがふさわしい容姿を持つ杏は実のところ十七歳であり、十二歳である莉嘉よりもはるかに年上である。

「じゃあ、支給品の確認をするべきだよ! ほら、莉嘉もまだ確認してないよね!?」
「たしかにまだだけど……もう、杏っちは仕方ないなぁ」

なおもあの手この手で休憩を要求する杏に、ついに莉嘉も折れた。
これを断っても、杏は再三休憩を要求してくるだろう。
ならばここで承諾しておいたほうが杏も不満を感じないはず。
そう考えてのことだ。
子供とはいえ、莉嘉はアイドル、しかもカリスマちびギャルとして絶大な人気を誇っている売れっ子だ。
芸能界で過ごしていれば自然と年齢に不釣り合いな考え方も身に付くものである。
ちなみに、杏も莉嘉に負けず劣らずの人気を誇っているのだが、その割にはあまり成長が見られないことは気にしてはいけない。

31……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:02:45 ID:CsvcM/zA0
「ねー、ついでに少し仮眠とっていかない? ほら、寝る子は育つって言うよね!」
「ダーメ!」

莉嘉と杏は連れ立って付近の家屋へと歩いていく。
先ほどとはうって変わって杏が先行して莉嘉の手を引いているのは、杏の休憩への情熱故か。

(まあ、これが杏っちの魅力だよね☆)

芸能界にいても、殺し合いに巻き込まれてもなおブレることのない、そんなマイペースさ。
それは間違いなく杏の強みだと莉嘉は考えていた。……それでも、印税が出たら即引退はどうかと思うが。

門をくぐり、遠慮の欠片もなくドアに手を伸ばす杏。
鍵などはかかっていなかったようで、すんなりとドアは開かれた。

「そういえば、さ」
「んー?」

玄関内に座り込んだ杏が呟く。

「莉嘉はなんで杏に声をかけてきたの?」
「なんでって、起きたら近くに杏っちが寝てたからだよっ☆」
「そうじゃなくて、杏に殺されるとか杏を殺そうとか考えなかったの?」
「そりゃ少しは思ったけど……杏っちだし?」
「なんだよそれー……」
「それに、殺し合いなんて間違ってるって思うから! 皆だって絶対こんなことしたくないって思ってるはずだしっ!」

皆。一緒に仕事をしたり、Liveバトルで戦ったり。
日々切磋琢磨するアイドル仲間たち。
幼く、それでいて古株である莉嘉だからこそ、彼女たちを信じる気持ちは強い。

32……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:04:30 ID:CsvcM/zA0
「だから杏っちや皆と協力して、なんとかここから逃げ出すんだっ! 杏っちも手伝ってくれるよね?」
「……」

莉嘉の宣言、そして問いかけに対して、杏は沈黙する。
どこか伏し目がちな杏の顔を、莉嘉は心配そうにのぞきこむ。

「……杏っち?」
「あ、あーっ! ごめん莉嘉、杏ちょっとトイレ行ってくるよっ!」

しかし、杏は急に立ち上がると、そう言って家屋の奥へと駆けていってしまった。
あっという間に廊下の角を曲がり、姿を消す杏。

「莉嘉は杏を気にせず先に支給品の確認をしてくれてていいからね! なんなら杏の支給品も確認していいんだよ!?」
「……もう、しょうがないなぁ杏っちは」

ドアを開く音とともに聞こえてきた杏の声に、思わず苦笑する莉嘉。
要するに、トイレに行くついでに莉嘉に仕事を押し付けたのだ。
突然立ち上がったのは莉嘉をびっくりさせてツッコミを入れられないようにするためだろう。
そう考えながら、莉嘉は自分のデイバッグを開く。

(名簿や地図は杏っちのリュックにも入ってるだろうし、後で杏っちと一緒に見ればいいよねっ。
 ……あれ、そういえば杏っち、見といてって言ってたのにリュック背負いっぱなしだったような撿撿)

突如襲い来る、鈍い音と妙な浮遊感。

(撿撿くん……お姉ちゃん……?)

自らの意思とは関係なく閉じられる瞼の先に、莉嘉は大切な人の姿を見た気がした。





33……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:06:14 ID:CsvcM/zA0


声もあげずに倒れた莉嘉。
その側頭部から流れ出た血が、綺麗な金髪を濡らしている。
トイレに行ったフリをして、支給品の確認を始めた莉嘉にこっそり近づき、背後から殴る。
そんな一仕事を終えた杏は、血に濡れたネイルハンマーを片手に身動ぎすらしない莉嘉を見下ろしていた。
おそらく先の一撃で気絶したのだろう。
それなら楽でいいな、と杏は思った。
このまま気絶していてくれれば逃げられることも抵抗されることもない。
つまり、確実に莉嘉を殺すことができるのだから。
杏はネイルハンマーを振りかぶる。
振りかぶりながら、莉嘉の言葉を思い出す。

『だから杏っちや皆と協力して、なんとかここから逃げ出すんだっ! 杏っちも手伝ってくれるよね?』

先ほど莉嘉が言った言葉だ。
そして撿撿杏が莉嘉殺害に至った、その原因となる言葉でもある。
この言葉を聞いたとき、杏の心に浮かんだのは憤慨、そして憎悪だった。
杏も莉嘉も、ちひろさんに逆らったらどうなるのか、その結果をあの部屋ではっきりと見ている。
反逆は、即ち死なのだ。死ぬのはプロデューサーなのかアイドルなのか、はたまた両方なのか、それはわからない。
とにかく、逆らったら誰かが死ぬ。
それは莉嘉もわかっているはずだ。
それなのに、具体的な策もないままに脱走を考える莉嘉に、杏は憤慨していた。
とはいえ、杏は憤慨のみで人を殺せる人間ではない。
杏を殺害へと踏み切らせたのは憤慨とは別種の、たしかな憎悪。
その発生理由は、発言者が莉嘉であったということ。
発端はある日の些細な撿撿そして今となっては重大な出来事。
CDデビューを果たした杏に渡されるはずだった印税、それを莉嘉が勝手にスタミナドリンクに変えてしまったという、漫画のような出来事。

34……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:07:30 ID:CsvcM/zA0
「……お前があんなことをしなければ」

ネイルハンマーを振りかぶった杏が、ぽつりと呟く。
先ほどの莉嘉の言葉を聞いてから、今の今までは喉元で止まっていた言葉。
それを口にした今、杏の感情はダムが決壊したかのように溢れだすしかない。
杏の呟きに反応したのか、意識を微かに取り戻した莉嘉の体がピクリと動いて、そして。

「私も!!」

激情と共にネイルハンマーが降り下ろされる。
鈍い音と莉嘉の悲鳴が部屋に響く。
もしあのとき、莉嘉が何もしなかったなら。
杏は印税を受け取って計画通りアイドルを引退、悠々自適なニートライフを送っていたかもしれない。
そうなっていれば、杏はアイドルとしてこのような殺し合いに参加させられることなどなかったはずだ。
そんなやりきれない想いを乗せて、再びネイルハンマーは振りかぶられる。

「……プロデューサーもッ!!」

鈍い音と莉嘉の呻き声が部屋に響く。
もしあのとき、莉嘉が何もしなかったなら。
杏の引退により杏のプロデューサーは別の、今回の殺し合いに参加させられなかったアイドルの担当になっていたかもしれない。
そうなっていたら、杏のプロデューサーが人質に取られることはなかったはずだ。
そんなやりきれない想いを乗せて、再びネイルハンマーは振りかぶられる。

「こんなことに巻き込まれなかったかもしれないのにッ!!」

鈍い音が部屋に響く。
そして、静寂。

「……お前のせい、で」

ゴトリ、とネイルハンマーが床に落ちる。
杏の呟きは、まるで自分自身に言い聞かせているかのようで。
それは杏自身が自分の感情の理不尽さに気づいていることの証拠にほかならならなかった。
莉嘉が何もしなかったところで、杏の引退は社長に、プロデューサーに、ファンに許されかったかもしれないし、杏が引退したところで杏のプロデューサーは別の殺し合いに参加させられたアイドルの担当になっていたかもしれない。
全ては仮定に仮定、もしもにもしもを重ねた出来事。
そんなものの責任の所在を莉嘉に求めるのは酷だということは、杏にもわかっていた。

35……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:08:16 ID:CsvcM/zA0
しかし、それでも。
杏とプロデューサー、そのどちらもが殺し合いに巻き込まれない可能性が存在していたというのも、それが莉嘉によって閉ざされたというのも、間違いなく事実なのだ。
だからこそ、可能性を閉ざし、さらには危険すぎる殺し合いからの脱走に杏を巻き込もうとし、無自覚ながらも再び杏とプロデューサーを危機に陥らせようとした莉嘉に対して、杏は憎悪を、殺意を抱いたのだった。

「杏、殺したんだよね……」

杏の呟きに答える者はいない。
しかし、答える者はいないという事実が、 杏にその答えを教えていた。
それにたとえ今莉嘉が生きていたとしてもそのうち莉嘉が失血死するのは、出血量からして明らかだった。
人を殺したという実感が、今さらながらに杏を襲う。
元々杏はこの殺し合いに積極的だったわけではない。
しかし、優勝を狙うつもりではあった。
莉嘉のあの言葉を聞くまでの杏のスタンスは、ひとまず隠れるなり集団に紛れるなりして人数が減るのを待ち、あわよくば漁夫の利を狙って優勝しようというものだったのだ。
莉嘉はそんな考えを持つ杏のことをこんな状況でもブレないと評してしまっていたが、それも当然である。
杏は『楽をしたい』という、その一点においては一切ブレていないのだから。
『印税生活のためにもこんなところで死ぬわけにはいかない。
 ここで死んだら何のためにアイドルをやってきたのか』
杏が殺し合いに乗ったのもこのような考えが元だし、莉嘉に再三休憩を要求したのも楽がしたいからだ。
杏と言えばサボりや怠けであり、実際にその点については一切ブレていないのだから、莉嘉が杏のスタンスに気付けなかったのも仕方のないことだろう。
消極的とはいえ殺し合いに乗る気である以上、杏は最終的に人を殺すことになることを覚悟していた。
だが、激情に駆られた杏は想定よりもはるかに早い段階で人を殺すことになった。
だからこそ、平静を取り戻した杏には、人を殺したという実感が重くのしかかっていた。

36……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:10:10 ID:CsvcM/zA0
「……寝よう。寝て忘れよう」

莉嘉のデイバッグを拾い上げ、家屋を後にする。
莉嘉に言った仮眠を取りたいという言葉は本当だったが、莉嘉の死体の近くで寝るのはさすがに気が引けた。

「どこか寝られるところ探さなきゃ……」

数分前に二人連れ立って入った門から、一人出てくる杏。
あの頃の二人には戻れないように、私ももう引けない。戻れない。
そんな漠然とした予感を感じながら、杏は一人夜の町を歩いていった。



【城ヶ崎莉嘉 死亡】


【C-6/一日目 深夜】

【双葉杏】
【装備:ネイルハンマー】
【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品1~5】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:印税生活のためにも死なない
1:どこか寝られる場所を探す

37……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU:2012/10/18(木) 01:11:19 ID:CsvcM/zA0
投下終了です
所々にある文字化けはダッシュになります

38名無しさん:2012/10/18(木) 12:29:41 ID:S8K2PZkwO
投下乙です。

39名無しさん:2012/10/18(木) 15:28:40 ID:dZZbFE4M0
新ロワ始まったーって思ったらいきなり投下ラッシュですげえ。みなさん投下乙です!
モバマスユーザーなんでこのロワが始まったのかなり嬉しい

>オープニング
げぇっ、ちひろ! 一体何が目的なんだ!
見せしめになったプロデューサーは誰のプロデューサーなんだろう、
というかプロデューサーの扱いどうするんだろう、と思ったら人質とは上手いなあ
凛ちゃんはどっちに転ぶのか……

>DREAM
モバマスアイドル界でも1、2を争う思いの重さの和久井さん、順当にマーダーかー
と思ってみてたらこのプロデューサー、出来る男(プロポーズ済)だと!?
うーん。こういう背景があると、「アイドル」を捨てて「和久井留美」を取った和久井さんの気持ちも納得だなあ
そして「アイドル」を捨てずに死ねた今井ちゃんとの対比と。
このへんがテーマになっていくのかしら。今井ちゃん乙でしたー

>ROCK YOU
なつきちにバットは拓海の次くらいに似合うなあw
そして本物のロックを分かってるなつきちはやはり熱くてかっこいい。
でもそれでいて少し足が震えてしまうあたり、彼女もひとりの少女で、等身大の人間なんだなー
こういう描写があるとないとで一気に共感度が変わるよね。なつきちにはがんばってほしい
そして妹分として示唆されてるだりーなが今からすこし不安である

>……という夢を見たかったんだ
正直予約メンツ見た時点ではおおCD組によるお気楽コンビ結成かーとたかをくくってました
フタを開けたらこれだよ! 純粋すぎる妹ヶ崎にはロワはまだ早かった……。
てかまさかあの劇場からシリアスが生まれるとは思ってなかったのですごいびっくり
杏は怠惰キャラで通ってるけどやるときはやるキャラなのも、莉嘉に恨みを持つのも確かに分かるけど、
何とも切ない展開になってしまったなあ。こりゃあ杏chang寝てばっかりはいられないぞ

40 ◆6MJ0.uERec:2012/10/19(金) 16:35:26 ID:lCJBigZ.0
佐城雪美(書き手枠)、市原仁奈、予約します

41 ◆ncfd/lUROU:2012/10/19(金) 19:52:48 ID:4MBZe/Vw0
南条光、予約します

42 ◆ncfd/lUROU:2012/10/21(日) 01:43:05 ID:2x3u.M5o0
南条光、投下します

43リトル・ヒーロー ◆ncfd/lUROU:2012/10/21(日) 01:47:23 ID:2x3u.M5o0
いつだって、アタシはヒーローに憧れていた。
いつから憧れていたのかなんて、もう覚えてないけれど。
皆に夢と希望を与えるヒーローになるのが、アタシの昔からの夢だった。
ヒーロー番組を見たりグッズを集めたりして、少しでもヒーローに近付こうとした。
『中学生にもなってヒーローだなんて子供っぽい』
『ヒーローになんてなれるわけがない』
『そもそもヒーローなんて実在しない』
そうクラスの皆に馬鹿にされたりもしたけれど、アタシは変わらずヒーローを目指し続けた。
たしかに、ヒーローがいるのは特撮やアニメの世界だけで、この世界にはいないかもしれない。
でも、それがヒーローになれない理由にはならない。
ヒーローがいないのなら、アタシが最初のヒーローになってみせる。
アタシならそれができると、愚直なまでに信じていた。

そんなある日、アタシに転機が訪れた。
『アイドル、やってみないか』
後にアタシの相棒《プロデューサー》となる人の、そんな言葉。
平凡な主人公がある日突然特別な力を手に入れヒーローになる。
そんなヒーロー番組みたいな出来事に、アタシが食いつかないわけがなかった。

『アイドルになれば歌って踊ってテレビデビューしてあのヒーロー番組の主題歌ゲットしてそれつまりヒーロー南条光の誕生じゃないか!!』

そんな考えを抱いて、アタシはアイドルの世界に身を投じた。
デビューしたアタシに待っていたのは、相棒との特訓《レッスン》やLiveなどのお仕事をこなす充実した毎日だった。
チョイ役とはいえヒーロー番組への出演のオファーが来たときの喜びは今も心に残っている。
そんな日々の中で、アタシは夢を叶えることができたと。
憧れていた『皆に夢と希望を与えるヒーロー』になれたと、そう思った。
……この殺し合いが始まるまでは、そう思っていた。

44リトル・ヒーロー ◆ncfd/lUROU:2012/10/21(日) 01:48:07 ID:2x3u.M5o0
殺し合い。ヒーローとして到底看過できるはずのない残虐な催し。
アタシの知るヒーロー達なら、間違いなくいの一番にそれを否定し、黒幕を倒し、皆を救ってみせたはずだ。
勿論、アタシは特別な力を持っているわけではないから、彼らのように戦うことはできない。

それでも、ヒーローなら何かできることがあったはずだ。
それなのに、アタシは殺し合いという現実に震えるだけで、ちひろさんに異議を唱えることもできず。
反抗したら殺されるという宣告に怯えるだけで、あのプロデューサーを助けることもできず。
目の前で人が死んだという事実に打ちのめされるだけで、周りの皆を落ち着かせることもできなかった。

ヒーローになるという夢。
ヒーローであるという自負。
ヒーローであろうという想い。
ヒーローとしての正義感。
アタシが積み重ねてきたと思っていたそれらは全て、殺し合いに、殺し合いというものが与える恐怖感に、ただただ押し潰される程度の脆いものでしかなかった。
ヒーロー失格という言葉が脳裏をよぎって、すぐに消えた。
だって、それは間違っているから。
ヒーロー失格ということは、つまり元はヒーローだったということだ。
でも、アタシはそうじゃない。
……ヒーローになんて、なれていなかったのだ。

45リトル・ヒーロー ◆ncfd/lUROU:2012/10/21(日) 01:49:18 ID:2x3u.M5o0
アタシは今、山の上、天文台の脇に立っている。
そこから見える景色は夜景というほど大層なものではないけれど、とても平和なものだった。
でもこの景色のどこかで、きっと誰かの血が流れている。
相棒や、他のアイドルのプロデューサーが捕らえられている。
守りたいと思う。助けたいと思う。
夢と希望を与えるヒーロー……いや、アイドルが、こんなところで殺し合うなんて、絶対間違ってると思う。
でも、アタシに何ができるのか。
ヒーローじゃない、アタシに。
……ヒーロー、じゃない?

「は、ははは……アタシは何をバカなことを……」

思わず苦笑してしまう。
たしかに、アタシは自分がヒーローになれたと思っていて、それは間違っていた。
アタシはヒーローじゃない。それは事実だ。
でも、それがなんだというのか。
アイドルになる前、アタシは自分がヒーローだと思っていたか?
違う。あの頃のアタシはヒーローじゃなかった。
でも間違いなく、アタシはヒーローになろうと、ヒーローであろうとしていた。
簡単なことだったのだ。
ヒーローになれたと思ったけど、それが間違いだった。
ならば、もう一度ヒーローを目指せばいい。ヒーローであろうとすればいい。
そう、あの頃のアタシと同じように。

アタシが憧れたヒーロー達が困難を前にして屈したか?
何もできないと弱音を吐いて、そのまま逃げ出したりしたか?
答えは否。彼らはどんな困難にも臆さず立ち向かった。
何度傷付き倒れようとも、諦めることなどなかった。
アタシが目指すのは、そんなヒーローだ。
ならば、こんなところで立ち止まるわけにはいかない!
後悔するよりも手を、足を動かせ!
正義の味方は挫けない、そう言ったのは誰だ? アタシだ!
萎えていた心が、嘘みたいに勢いを取り戻す。
ヒーローに魅せられ、憧れ、ヒーローを目指すアタシは、きっと単純な人間なんだろう。
でも、それでいい。単純だから、アタシはまたヒーローを目指すことができる。
この殺し合いに立ち向かうことができる!

46リトル・ヒーロー ◆ncfd/lUROU:2012/10/21(日) 01:50:01 ID:2x3u.M5o0
「アタシはヒーローじゃない。……でも、ヒーローであろうとすることならできる!」

なんでちひろさんがこんなことを始めたのかはわからない。
でも、止めてみせる。アイドルたちを、プロデューサーたちを助けてみせる。
それが、ヒーローを目指す者の役目であり、アタシをアイドルにしてくれた相棒への恩返しだと思うから。
そして何より、アタシがそうしたいから!

下山し、市街地へと向かうべく一歩を踏み出したアタシの心に、ある言葉が浮かぶ。
それはお仕事のときに気合いを入れるために相棒に言っていた言葉。
アタシはその言葉を胸に刻み、決意を示すために高らかに告げる。

「さぁ、みんなに夢を与えるスーパーお仕事タイムだ!」




【F-2 天文台付近/一日目 深夜】

【南条光】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ヒーローであろうとする
1:まずは下山し、市街地へと向かう

47 ◆ncfd/lUROU:2012/10/21(日) 01:52:10 ID:2x3u.M5o0
投下終了です

>>37の杏の状態表にミスがあったので以下のように修正します
不明支給品1~5→不明支給品1~3

48 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/21(日) 02:50:46 ID:tlugOVAQ0
皆様投下乙です。
>ROCK YOU
さすがなつきちはにわかだりーと違って実にロック。
なつきちには頑張って欲しい所だけど、だりー大丈夫かなぁ。
なつきちらしい登場話でした!

>……という夢を見たかったんだ
まさかの杏マーダー。
妹の劇場ネタも取り入れて、上手いなぁ。
選んだ道に悲壮感が漂ってこれからどうなるか楽しみだなぁ。

>リトル・ヒーロー
ところどころに特撮ネタがあるのが、さすがナンジョルノ。
カッコイイけど、14歳なんだよなぁ。
此処から堕ちないか心配だ。らしいSSでGJでした。


此方も、松永涼投下します。

49揺れる意志、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/21(日) 02:52:24 ID:tlugOVAQ0
始まりは何時だって唐突だ。
ホント、アタシの都合なんてお構いなしにやってくる。
けれど、その度にアタシはアタシの決断をしてきたはずだった。
無くしたものもあったけれど、後悔はしなかった筈。

アイドルになった時だってそう。
其処にはアタシの確固たる意志があったはずだから。
スカウトされたとはいえ、最終的に決めたのは自分自身。
だから、ただアタシは前を向いていればいい。向いてるだけでいい。

そう思ってアタシは進んできた。
思いっきりアタシの歌を歌ってきた。



けど、けれど、これは、流石に迷うしか無かった。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あークソッ」

無数の星を散らばせた夜空の下、一人の少女が苛立っているように髪を掻き毟っていた。
薄い茶色の長い髪が乱暴に揺れて、さやさやと夜風に舞う。
少女の開始場所だった雑居ビルの屋上からは、むかつくくらい綺麗な星が見えて。
一瞬だけ見とれて、見とれた自分がなぜか許せなくて舌打ちを打つ。
そして、少女は屋上のフェンスに思いっきり寄りかかった。
なんか無性に身体がだるい。
気分はとっくに最悪で。
はーっと少女は思いっきり溜息をついた。

「何だってんだよ……ちっ」

少女――松永涼は自分自身が苛立ってる事に理解しながらも、苛立ちを隠すことなんて出来なかった。
余りにも巫山戯た殺し合いなんかに巻き込まれて、苛立たない訳が無い。
言われてることはとても単純だ。
自分のプロデューサーを人質に取ったから、殺し合え。
最後に残った一人だけが生き残れる。

「ああ、実に解りやすいルールだよ。単純だ……けどな……悪趣味すぎんだろうが」

単純明快で、だからこそ悪趣味としかいえない。
よりによって、アイドル同士なんて考えた奴の気が知れない。
知りたくも無いけどと涼は呟いて、更にフェンスにもたれかかった。

「銃とか支給されても……上手く使えるか分かんないね」

涼に支給された銃はイングラムというものらしい。
短機関銃らしいが、果たして上手く使えるかどうか。
武器としては当たりだからいいと言えばいいのだろう。
けれど、だからこそ涼の決断を鈍らしてしまう。

「解ってる……生き残るにはやらないといけないって」

悪趣味な殺しあいだ。
巫山戯るなと思う。
生き残るためには殺さないといけない。
ほかのアイドルを、だ。
生き残るためには一人にならなければならない。

50揺れる意志、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/21(日) 02:53:14 ID:tlugOVAQ0

「………なら、なんであいつがいるんだよっ!」


ずっと感じていた苛立ちを篭めるように、涼は吼えた。
怒りと悲しみと苦渋に満ちた表情で。

今も、怯えてるかもしれない少女のことを考えながら。


涼は思いっきり、地面を蹴りつけたのだ。


地面を蹴ったって、何も変わりはしないのに。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







アイドルになってプロデューサーから、一人の少女を紹介された。
アタシよりも、大分年下の少女……というより子供の女の子。
プロデューサーの背に隠れた臆病そうな子。
面倒くさそうな子だなと思って。

一緒に組む子だと紹介された時、なんの冗談かと思った。
相性だけ言ったら、多分最悪に近いだろうと思ったし。
オドオドして、プロデューサーの背に隠れたまま、顔を出そうとしない。
アタシを怖がってるというのぐらいは直ぐに解かった。
まあ、バンドやっていた頃からそういう顔だってのは知っていたし。
不良っぽいと言われてたのは事実だ。

だから、こういう大人しい子に怖がれるのは知っていたし、慣れてた。
アタシはこれ位普通だったんだけど、一緒に組むとなると話は別。
とても、やっていける気が自信が無い。
アタシは正直な気持ちをプロデューサーにぶつけた。
けど、プロデューサーはアタシに向かって、殆ど挑発する言葉を投げ方のだ。


――――また、独りになるのか?

51揺れる意志、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/21(日) 02:53:37 ID:tlugOVAQ0


投げつけられた言葉。
私のトラウマを刺激するには充分すぎて。
衝動的な怒りと恐れに動かされて、プロデューサーの胸倉を思い切り掴んでいた。
その事は、アタシにとっても禁忌だったというのに。
プロデューサーの後ろで、紹介された女の子が震えていたけど、気にもせず。
そして、アタシは言ってやった。

「上等だ、やってやるよ」

今思えば、発破をかけられたんだろう。
それに私はまんまと乗せられたようなもんだった。
カッとしてたのも正直ある。
けど、後悔はしてなかった。
見返してやると思っていたから。

そうして、アタシは背中で怯えている少女――白坂小梅と組む事になったのだ。

――――で、組んでみて。

思いのほか、馴染んで、しまった。
アタシ自身が正直ビックリした。
一緒に歌を歌ったり、ダンスを踊ると、驚くくらい息が合うのだ。
小梅がアタシに合わせたり、アタシが小梅に合わせたり。
小梅と一緒にやってると、とても楽しかった。
もっともっと先までいける。
そう、思うぐらいに。
まんまと、プロデューサーの思惑通りになったわけけど。
楽しいから、いいやと思ったから。


それと、意外な共通点があった。
それは趣味で、ホラー映画鑑賞というものだった。
一緒にみたりで楽しかったさ。
……まあ、小梅はもっとガチで若干引きそうになったことがあったけど。


……そう、楽しかったのだ。
トラウマがどうでも良くなるくらい。
小梅は、可愛い子だった。
最初怯えていて、懐こうとしなかったけど。
それでも趣味が一緒で、その話で盛りあがったりすると、懐き始めて。
優しくて、恥ずかしがり屋で。
それでも、笑顔がいい子だった。
だから、護ってやりたいと思った。


そう、アタシにとって。
小梅という存在は『アイドル』としての松永涼の大切なピースになっていたのだった。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

52揺れる意志、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/21(日) 02:54:06 ID:tlugOVAQ0





「小梅……ちっ、何で居るんだよ」

涼は、大切なパートナーの名前を呼ぶたびに、思わず舌打ちしてしまう。
逡巡して、それでもなお自分の行く道を定められない原因の少女。
今もきっと怯えているだろう。
お化けよりよっぽど死が近いこのリアルに。
そう思うと、涼は段々苛立ってきてしまう。

「護らなきゃ……小梅は……アタシが……」

そう、小梅は涼自身が護らなきゃいけない。
自分の手で護らないといけない。
そう誓ってるし、そうしたいと思う。

「けど、生き残れるのは、一人だ」

そう、生き残れるのは一人だけ。
小梅と自分が生き残ったとしても、最終的に殺しあわないといけない。
解かっている。解かっているがそれを口にして確認したかった。
口にした所で、何も変わらないだけど。

「ふざけんなよ……ふざけんなよ」

何度も納得しようとして、結局できやしない。
ぐしゃぐしゃと髪を乱暴にかいて、落ち着こうとする。
涼は、思いっきり息を吐いて、前を向く。


そして


「とりあえず……小梅を探そう」


涼は、初めて決断を鈍らせたのだった。
何にせよ、小梅と合流できなければどうしようもないと思って。
そういう言い訳をして居る事から、目を背けて。

「選べないよ……選べる訳ないだろ」

護る事、殺す事。
握ったイングラムをくるくると回して。


「出来る訳が無い、出来る訳がないだろ!」

生き残るためには、小梅を殺さないといけない。
そんな事出来る訳が無い。出来る訳が無い。


だから、


「なんで……なんだよ……なんで、なんだよぉおおおおおお!」



どうにも、ならない思いを、叫ぶしか、出来なかった。


涼の叫びが、夜空に響き続けて。


けれど、空は変わらず、星が輝き続けてるだけだった。

53揺れる意志、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/21(日) 02:57:44 ID:tlugOVAQ0
【B-4 雑居ビル屋上/一日目 深夜】

【松永涼】
【装備:イングラムM10(32/32)】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:小梅と合流 小梅を護る?
1:小梅と合流する。

54揺れる意志、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/21(日) 03:01:57 ID:tlugOVAQ0
投下終了しました。

いくつかテンプレのミス抜け、修正があったので、此処で、書いておきます。

ルール1、とある島にアイドル65人放り込み、一人になるまで殺し合いを続ける。→60人

参加者名簿 楊菲菲→今井加奈

書き手枠について。
一羽に着き、書き手枠の使用を1キャラでお願いします。
また、トレーナーの類は遠慮願いします。

以上よろしくお願いします。

そして、小日向美穂、塩見周子を予約します。

55 ◆BL5cVXUqNc:2012/10/21(日) 21:37:08 ID:U1Wi6xWs0
高垣楓、佐久間まゆを予約します

56約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:34:33 ID:Ht2cdZuY0
佐城雪美、市原仁奈、投下します

57約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:35:16 ID:Ht2cdZuY0

                      黒い黒い、どこまでも黒い森の中。
 
                      どこからが闇で、どこからが夜空なのかもわからない場所。

                      その闇の中に一人の少女がいる。

                      蒼黒の髪をたらして、白と青で彩られて。
 
                      一人静かに、待ち人が迎えに来てくれるのを待っている。



息の詰まるような恐怖に、市原仁奈は堪らず目を開けた。
目を閉じたままだったなら、瞳に焼き付いた意識を失う直前に見せつけられた光景が、何度も何度もリフレインしてしまいそうだったからだ。
だが、開けた瞳が明るい世界を映すとは限らない。
光を求めたはずの彼女の瞳に映ったのは、変わらず深い闇の世界だった。
無理もなかろう。
今はもう夜なのだ。
しかもそれが深い森の中だろ言うのなら、その暗さは常の夜闇と比べても更に深いものだ。
もっとも、当の仁奈にはそんな当たり前のことさえも、当たり前のこととして受け入れることができなかったのだが。
眠らされ、攫われ、また眠らされ、時間感覚をめちゃくちゃにされた状態で、突如場所も告げられず森の中に放り込まれたのだ。
冷静に自身の状態を把握し、まずはデイバックの中身を検分しろというのは酷な話であろう。
況や、それが年端もいかない幼子ならば、むしろ冷静に現状を見極め、自分の成すべきことを見極めている方が、よっぽど狂っていると言えよう。
だがこの場合、狂っていないというのは果たして幸せなことなのか。
闇から逃れようとして目を覚ました先にまで、闇に追われるなどと。

「あ、いっ、あ。プ、プロデューサー。プロデューサー、どこ、ですか? どこにいやがりますか……」

仁奈は、悪夢覚めぬ現実でも、逃げることを選んだ。
森の中をただ闇雲に走って、彼女を置いて行ってしまった誰かを探し続けた。
それは、いつかの約束。
置いて行ったら食べに参上すると笑い合ってた日々の約束。
けれども、今の彼女は狼ではない。
孤独の闇に迷える子羊にすぎない。
狼の餌食となる哀れな赤ずきんにすぎないのだ。
当然の帰結として、狼の待つ家へと辿り着いてしまった。

58約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:35:47 ID:Ht2cdZuY0
「に、仁奈はここでごぜーますよ? プロデューサー、プロデューサー、いやがりますよね……。そこに、いやがりますよね?」

木々が途切れ、開けた森の一角に月光が降り注ぐ。
照らしだされたのは、一軒の古惚けた丸太で組まれたログハウスだった。
藁にもすがる想いで逃げ込もうとした少女は、後一歩のところであることを思い出してはたと立ち止まった。

「だ、誰もいやがらねーですよね……?」

玄関に通じる樹でできた階段を忍び足で踏みしめながら、先ほどまでとは一転した願いを口にする。
迷子の末に家に辿り着いたというあまりにも出来過ぎた状況に、仁奈の記憶が警告を発したのだ。
読み聞かせてもらった絵本では、こういう一軒家には決まって人食い魔女の老婆が住んでいた。
包丁を研ぎ、獲物が飛び込んでくるのを今か今かと待ちわびていてもおかしくない。

「いやがらねーですよね、いたりしねえですよね……」

ドアノブにかけた手の震えが止まらない。
子どもじみた幻想の恐怖は、体感した恐怖と結びつき姿を変えていく。
悪夢の中の魔女は千川ちひろの顔をしていた。
骨と皮だけにまで痩せこけて、脚に至ってはむき出しの骨だけの姿をした老婆は、しかし顔だけは若い女のものを貼り付けて迫ってくる。
獲物がかかったと喜びながら、両の手で這いずって扉を開け仁奈の前で満面の笑みを浮かべ直前まで食べていた首のない誰かの――

「…………いるわ……ここに……。……私…ここにいる……」

囁かれたピュアボイスに、幻想が霧散する。

「だ、誰でごぜーますか!? 魔女じゃねえですよね!?」

扉は開け放たれてなどいなかった。
声がしたのは正面玄関からは死角となっているロッジの側面。
軒下のウッドデッキで、揺り椅子に声の主は座っていた。

「……魔女? ……私……違う。……まほうつかい……レナ………」

歳の頃は仁奈と同じか、少し上辺りだろうか。
少なくとも想像していたような老婆の姿には程遠い。
長い青髪に、透き通るような白い肌、ヨーロッパの貴婦人を思わせる幻想的な装いも相まって、人形じみた美しさを感じさせる少女だった。

「…………?」

仁奈と目線を合わせた少女が椅子に座ったまま小首を傾げる。

「……羊……」

言葉足らずな呟きからは、いまいち意図が読めなかったが、仁奈は少女の表情が僅かに緩んだのを見逃さなかった。

「モ、モフモフ……モフモフしやがりますか? そんなにモフモフしてーのでごぜーますか?」
「…………」

59約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:36:10 ID:Ht2cdZuY0

こくり。
恐る恐る尋ねた仁奈に、少女が頷き、ロッキングチェアが大きく揺れる。
少女が身を起こしたのだ。
肩にかかっていた髪を払いのけると、少女は音もなく仁奈の方へと歩み寄る。

「仕方ねえですね。プロデューサーが選んでくれやがったキグルミですが、特別にモフモフしてもいいでごぜーます」

それほどまでにモフりたいのか。
そう解釈した仁奈は、大好きな人が選んでくれた着ぐるみの良さを分かってもらえたことが嬉しくて伸ばされた少女の左手を甘んじて受け入れた。

「…………もふもふ」

少女の片手が仁奈を抱きしめ力の限り抱え込み、首の後に回される。
もふもふというにはあまりにも強い力の込めように、仁奈は苦痛を訴える。

「い、いてえです! もっと優しくしてくだせー!」

その叫びが受け入れられることはなかった。

「……あなた……猫の着ぐるみだったら……本当にもふもふして……友だち……なってた……」

辺りが一瞬、僅かに暗くなった。
風が雲を運んできて月を覆い隠したのだ。
暗い森の中を風が過ぎ去り、木々の梢を揺らして行く。
ざわめく葉の音は、まるで何かの予感に脅え、森が震えているようだった。

「よかった………あなたで…………猫じゃなくて。私…………………待ってた………」

再び月が出たその時には、少女の手に“それ”は握られていた。

60約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:36:38 ID:Ht2cdZuY0

「な、なんでごぜーますか、それは……」

“それ”を目にした仁奈の表情は恐怖に引き攣っていた。
月光を反射し、少女の手の内で輝く“それ”は、子どもにとっては銃や包丁といった凶器よりも怖い、現実的な恐怖の象徴だった。
何度も怯えながらもお世話になった、ポンプに接続された銀色の針を見紛おうことはない。
注射器だ。
注射器を持った少女の姿をした魔女が、ふふ、うふふっと微笑みを浮かべながら月を背に仁奈を見下ろしていた。

「…………………安心して………痛く……ない」

ポンプの中に何が入っているかなんて仁奈は知らないし、そもそも考えもしなかった。
ただ疑うことも知らない仁奈は、幼い故に誰よりもその恐怖を知っており、ひたすら暴れて逃げようとした。
開いている両の手で突き飛ばし、首に回されていた拘束を振り払う。
魔女もまた追いすがり払いのけられた左腕で仁奈の右手首を掴み引き寄せ、利き腕で注射しようとするが、幸い仁奈は左利きだった。
右手を魔女の左手で捕まえられていようとも、開いた左手で魔女の注射器を持つ右手の侵攻を封じることができた。
ならばとばかりに魔女は身長差を活かし、ありったけの力と体重を載せて抑えこむようにのしかかる。
たまらず、短い悲鳴と共に仁奈がバランスを崩す。
尚も抵抗するも、デイバックの紐がちぎれ落ちるくらいに激しく揉み合いながら地面を転がった末に、組み敷かれてしまった。

「……私……信じて……大丈夫…」

互いに両の手が塞がっていることには変わりはしないが、馬乗り状態である以上、魔女の方が力をかけやすく有利となる。
徐々に、徐々に、拮抗が崩れて、注射器の針が、仁奈へと近づいていく。

「何を」

しかし、間もなく命を奪われるという窮地にもかかわらず、仁奈の内側からは恐怖が消えていた。

「何をしやがりますか……」

いや、違う。
消えたのではない。別の感情に上書きされたのだ。
初めに抱いたのは悲しみだった。
魔女と揉み合っている内に、プロデューサーからもらった大切な羊の着ぐるみは無残にも汚れぼろぼろになってしまった。
そのことがとても悲しくて、まだお礼も言えていなかったことを思い出して、悔しくなって。

「プロデューサーが選んでくださりやがったキグルミに、プロデューサーに、何をしやがりますかああああっ!!!!」

次に抱いたのは怒りだった。
もう二度と、プロデューサーに会ってお礼を言うことができないかもしれないという理不尽への怒りだった。
目の前の少女への怒りだけではない。
一緒にいようというただそれだけの、細やかな約束さえも叶えさせてくれない、ありあとあらゆる不条理への怒りだった。

「約束したのでごぜーますよ! これからもずっと仁奈のそばに居やがってくださいって!
 もし置いてったら食べに参上しやがりますって! それを、その約束を、汚すんじゃねーですよ!」

キグルミアイドルは伊達ではない。
掴まれていた部分を素早く脱ぎ去ることで右腕の自由を取り戻すした仁奈は、傍らに転がっていたデイバックを掴み全力で魔女へと打ち上げる。
倒れた状態で利き腕でもなかったが、デイバック分の質量と振り回す遠心力を味方につけた一撃は十分な勢いを誇っていた。



十分、過ぎた。

61約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:36:59 ID:Ht2cdZuY0
「……あ」

呆然と呟いたのはどちらだったのか。

――とっさに、魔女は利き腕を盾に襲い来るデイバックを防ごうとして
――かざした手には注射器を握ったままで
――衝撃に耐えられなかった細腕は魔女自身へと向かって押し切られてしまって
――そのまま、そのまま、そのまま

勢いを減じること能わず、吸い込まれるように主自らの首元へと銀の針は突き立てられてた。

「……え?」

少女から力が抜け崩れ落ちたその意味を、仁奈は理解できなかった。
だけど、自分が何か、取り返しの付かない何かをしてしまったことだけは、誰に言われるまでもなく分かってしまった。
ピピピという幻聴が仁奈の脳裏に鳴り響く。

「何でごぜーますか、これは」

誰かのプロデューサの首がなくなった時の光景が、蹲る少女へと重なっていく。
それはつまり、この幻聴が鳴りきった時、またあの光景が繰り返されるということで。

ピピピピピピピピ。

その引鉄を引いた魔女は、他ならぬ自分自身だった。

「えぐえう、なんなんでごぜーますか、この今はああああああっっっ!!!!」

ちひろ、少女と移り変わっていた魔女は、今度は仁奈の顔で嗤っていた。

「……あなた………あなた……」
「来やがるな、来るんじゃねえです! わあああああああ! 来るな来るな来るな来るな来るなあああああああああっっっ!!!!」

ふらふらと起き上がり呪詛か何かを吐き出そうとしていた少女を、有らん限りの力で突き飛ばした。
大きな音を立て、少女がロッジの壁に激突したのを見届けることなく、仁奈は背を向け再び走りだす。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピと鳴り響く幻聴と直後に訪れる悪夢の再来から逃れるために。
仁奈は涙を浮かべながら狂乱のままに、月明かりの舞台から森の奥へと、更なる深き闇へと呑まれていった。


【C-6/一日目 深夜】

【市原仁奈】
【装備:ぼろぼろのデイバック】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2(ランダム支給品だけでなく基本支給品一式すら未確認)】
【状態:疲労(中)、羊のキグルミ損傷(小)、パニック状態】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーと一緒にいたい
1:怖い。寂しい。プロデューサー、プロデューサーはどこにいやがりますか。プロデューサー……ッ!

62約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:37:21 ID:Ht2cdZuY0

「………………っあ」

僅かに荒い息遣い、激しい心臓の鼓動、全身が僅かに汗ばみ、頬が上気している。
不意に頭の芯を走った鈍い痛みに、少女は、佐城雪美は端正な眉を顰めた。

(………………痛い………苦しい……)

自分の身に何が起きているのかは、文字通り、痛いほどに理解している。
雪美に支給されていたのは注射器と毒薬だった。
ご丁寧に取り扱い子どもでも読んで分かるよう端的に書かれた取扱説明書までついており、それによるとこの毒薬を注射されれば大人でも数分足らずで死に至るらしい。
ただし、若干の苦痛はあれど、肌の色を変色させるなどの外見的な影響は全くないそうだ。
事故死にも見せかけられますね☆と見覚えのある女性の字で追記されていた。

(………でも………………これで………いい……)

雪美が抱いたのは別の感想だった。

ああ、これなら、綺麗に死ねる、と。

相手がではない、自分自身がだ。
佐城雪美には最初から最後まで、誰かを殺そうとする意思なんてなかった。
悩まなかったわけではない。葛藤しなかったといえば嘘になる。
少女には約束があったから。大切な人との約束があったから。

大好きなあの人とずっと手を繋いでいたかった。いつも一緒にアイドルでいたかった。

でも、約束は一つだけじゃなかったから。
一方通行なものではなかったから。
少女のプロデューサーが少女に約束してくれたように、少女もまたプロデューサーに一つの約束をしていたから。

(……これで……いい……? …………私…………あなたの……望み……私が……叶えた……?)

少女の望みをプロデューサーは知っている。
プロデューサーの望みを少女が叶える。
それが、約束。
二人で交わし合った何よりも、大切な約束。

けど、だけど。

(………きっと………よくない……あなた……悲しむ……私…わかってる……心…通じるから……)

雪美はその約束を二つ共自らの意思で破った。
プロデューサーは雪美が自分と一緒に居続けるために人を殺すことなんて望みはしなかっただろう。
あの人が見たかったのは他者を拒絶する殺戮者ではない。
人々と心通じてみんなを笑顔にするアイドルだ。
雪美だって、あの人に血に塗れた姿なんて見せたくなかった。
けれども、だからといって雪美に死んで欲しいとも望むはずもない。
他の誰をも騙せても、あの人までも欺けるとは思えない。
きっと気付かれてしまうと雪美は信じている。

63約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:37:48 ID:Ht2cdZuY0
それでも、この道しか選べなかった。
生きて、生きて、また一緒に、手を繋ごうと、あの人の方も願っていてくれていると断言できるのに。
約束よりも、もっと叶えたい想いを抱いてしまったから。

生きて欲しい。あの人に生きていて欲しい。

ただそれだけの切なる願い。
その願いが故に、雪美は自らの死を選んだ。
千川ちひろは実演した。
殺し合いに反抗的な態度を取れば、プロデューサー達の命はないと。
同時にこうも言っていた。
殺し合いさえすれば、そのままプロデューサーの“皆”は解放すると。
生き残った最後の一人のプロデューサーをではない。
殺し合いに従った全てのアイドルのプロデューサーを解放すると口にしたのだ。
おそらくその言葉に嘘はないと雪美は捉えた。
もしも、自分が死ぬことでプロデューサーも死ぬというのであれば、誰もが死ぬ可能性を恐れて命を賭けられなくなるからだ。
返り討ちのリスクや魔女狩りの恐れのある襲撃など、自分ならもっての外だ。
それでは殺し合いどころではない。
誰も彼もが他人を殺すよりも我が身を生き残らせることを優先してしまい、殺し合いを促すはずの人質が却って殺し合いを硬直させてしまうこととなる。
ばれないようにこっそりと始末するという手もあるが、それだと万一バレた時にやはりアイドル達の殺し合いへのモチベーションを下げることとなる。
雪美の知るあの千川ちひろなら、そんな不利益に繋がる方法は選ばないだろう。

だからこそ、これが雪美の願いを遂げうるたった一つの冴えたやり方になり得るのだ。
殺し合いに乗ったと思わせさえすれば、雪美の生死に関わらずプロデューサーは開放される。
殺し合いに乗ったふりをして返り討ちにあったように見せかけて自殺すれば、あの人の願いどおり誰も殺さないで済む。

もしかしたら他にもっと上手なやり方があるのかもしれない。
誰も殺さず、プロデューサーと再び手を繋げる日も来るかもしれない。
そんな甘い幻想を抱かなかったわけではないけれど。
きっと、時が経てば経つほど、決心は鈍ってしまう。
あの人と会いたいという一心で、この手は誰かを殺してしまう。

それは、駄目だ。そんなことをしたら、本当の本当に、あの人と一緒にいられなくなってしまう。
二人を結ぶアイドルという名の絆の魂の繋がりが断ち切られてしまう。

そうなる前に。決心が固い内に。

私は、私を殺そう。

64約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:38:46 ID:Ht2cdZuY0
一度決めてしまえば、少女に迷いはなかった。
繋いだ手の温かさを覚えてた。
その温かさが力を貸してくれた。

少女は見事にアイドルとして、舞台を演じきった。

(………来てくれたのが………あなたで……よかった……)

ふらつく足を動かしながらも想い描くは、騙す形でゲスト出演させてしまった一人のアイドル。
その姿を一目見た時から、彼女しかいないとそう思ったのだ。
何故なら少女が着ぐるみを着ていたから。
全身を毛で覆われたあの服の上からでは、もし何かの弾みで誤って注射してしまっても、肌にまで届くことはないと踏んだのだ。
着ぐるみ相手に注射器を穿つという愚行も、自分の年齢を鑑みれば、子どものやることだと嘲笑されることはあっても不可思議とはとられまい。
ただ一つ心傷んだのが、その着ぐるみが相手にとって大切なモノだったということだ。
着ぐるみを傷つけられた時の、少女の怒りと悲しみが入り混じった顔が、今もありありとリフレインする。
たかが着ぐるみと千川ちひろならせせら笑うかもしれない。生きて返り討ちにできたのですから安い犠牲ですよとほざくかもしれない。

黙れ

プロデューサーからもらった服は、ともすればあなたなんかには計り知れない。

雪美も同じだった。
服をもらった時、嬉しかった。新しい服をもらった時は、もっともっと嬉しかった。
包丁でもなく、銃でもなく、毒薬を支給されてよかった思ったのは、これなら服を血で汚さずに死ねるからだ。
結果的には、雪美の服も少女との揉み合いで土に汚れてしまったけれど。
少女の大切な着ぐるみを意図して汚してしまった以上、嘆く資格はない。
嬉しそうにプロデューサーが選んでくれたのだと語る様子から、着ぐるみを傷つけたなら少女が反撃してくれると狙ってやったのだ。
そこに一切の疑いはなかった。
自分だってこの服を汚されたのなら、どんな相手にも、どんな凶器にも、立ち向かったことだろう。

(……そう……きっと……私……あなた…………似ていた…………)

多くが偽りだったあの舞台で、少女にかけた言葉だけは全て、本物だった。
自分と少女は、こんな殺し合いの中でなければ、友だちになれていたに違いない。
ようやっと辿り着いた揺り椅子にもたれかかるように腰を下ろし、幸せなifを幻視する。

(………新しい服……新しい友達……ちゃんと…綺麗に……撮って……)

自分もあの子も、猫の着ぐるみを着ていて、それは、ああ、なんて、幸せな夢。
そういえば、誰か猫っぽいアイドルもいた気がする。
メアリーにでも紹介してもらって、その人も一緒に撮ってもらえたなら。

(……そうだ……メアリー……ペロ……お願い…………ペロ……ごめんね…………)

夢の中で友人に、置いてけぼりにしてしまう飼い猫を託す。
本格的に夢と現が混じり始めたことで、残された時間があと僅かなことを察する。
それならと、最後は大好きな人のことだけを思うようにする。
ずっと一緒にいてくれると約束してくれたあの人を。
置いて行ってしまうあの人を――否。

(………私…あなた……魂…繋がってる……離れても…ずっと…)

死すら二人を分てない。
約束は破られてなどいなかった。
約束は永遠だった。

「いつも……私を……感じて……私を……覚えてて……――」

最後に音ならぬ声で大好きな人の名前を読んで、雪美はそうして目を閉じた。
張り詰めていた少女の神経が全てを成し遂げたことにやっと安堵する。
ことりと、少女の頭が揺り椅子に寄りかかる。
自然と口ずさむは、あの人に教えてもらったミステリアスソング。
自身を送るレクイエム。
少女の頬に、涙の雫が伝った。

65約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:39:07 ID:Ht2cdZuY0



                      黒い黒い、どこまでも黒い森の中。
 
                      どこからが闇で、どこからが夜空なのかもわからない場所。

                      そこにはもう誰もいない。

                      覚めぬ眠りへと誘われた眠り姫に抱かれて。

                      約束だけが遺されていた。






【佐城雪美 死亡】

※雪美の死体の傍に基本支給品×1、注射器が転がっています。毒薬は使いきりました

66約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/21(日) 23:43:25 ID:Ht2cdZuY0
投下終了です
ルール上は問題ないはずなのですが、書き手枠の使用的にご意見のある方もいるかと思われます
その場合は破棄いたしますので、指摘・感想共によろしくお願いします

67約束  ◆6MJ0.uERec:2012/10/22(月) 00:10:48 ID:GlRF0ozg0
と、一部だけ修正
>>64

(……そう……きっと……私……あなた…………似ていた……)

……そう……きっと……私……あなた…………似ていた…………あなた……約束……叶うと……いい……)


仁奈パートでの「……あなた………あなた……」にかかる心情ですので

68 ◆44Kea75srM:2012/10/22(月) 01:14:28 ID:DnYSFoJQ0
みなさん投下乙です!

>揺れる意志、変わらぬ夜空
荒っぽい言葉の中に見える少女の葛藤がよくわかるSS
そして小梅と絡めてきたかー。予想外の組み合わせ
涼にイングラムってなんか似合うよねマーダーっぽいよね、
と思う一方で結局指針定まらず……これは危なっかしい

>約束
おおう……雪美視点にシフトしてからの切なさがすごい……。
というか考えてること深いよ、この子!w
ちひろさんのルール説明からこんな切ない解を導き出すとは……
仁奈視点では絶対に気付けない切なさと心理、堪能させていただきました

69 ◆44Kea75srM:2012/10/22(月) 01:15:53 ID:DnYSFoJQ0
そして
島村卯月、渋谷凛、書き手枠で本田未央を予約します。

70 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/22(月) 08:51:45 ID:2fEj/rK60
お二方とも投下乙です!
涼さんは不安定さがヒヤヒヤするな……
雪美ちゃんはまさかこういう展開になるとは。盲点でした

ついでに 神谷奈緒、北条加蓮 予約しますねー

71名無しさん:2012/10/22(月) 20:39:30 ID:bnE3Y4jw0
みなさん投下乙です!

>リトル・ヒーロー
どこまでも前向きにヒーローたろうとする南条がかっこかわいい!
この子は暗くなりがちなロワを照らす光になれるのか
しかし、opで主催に反抗してプロデューサーを殺されたの、南条じゃなかったんだな…あれは誰なんだろう


>揺れる意志、変わらぬ夜空
劇場でのいじられっぷりに定評のある松永さん、小梅ちゃんとコンビ組んでる設定で登場かー
なにげにこの人、バンドのボーカルからアイドルに転身してきた特異な経歴持ちなんだっけ
外見で避けられることにトラウマがある?らしき設定も加わって色々想像できそうな。

>約束
うわああ、(結果的に)ニナちゃん羊が雪美ちゃんを永遠の眠りに!!
ルール上、Pを助けるために死を選ぶアイドルは居そうだと思ってたけど、
拙いとはいえ悪役覚悟で、きっちり殺し合いを演出した上で自殺するとか10歳にしておそろしい子だ…
ミスリードも上手くてすごい引き込まれました。綺麗なのに後味の悪い最期を久々に見た。

72 ◆ncfd/lUROU:2012/10/22(月) 21:10:01 ID:GWuJzeoM0
皆さん投下乙です

・揺れる意思、変わらぬ夜空
こんな状況でも他人の心配ができるのはひとえに小梅との絆故か
しかしそうだよなぁ、簡単になんて選べないよなぁ
迷った末に決断を先伸ばしにしたことが不幸を呼ばなければいいんだけど

・約束
雪美こわっ!と思ったら実はそんな想いが……
誰にも知られず、最期に会った仁奈には魔女と呼ばれて、それでも納得して逝ったのだなぁ
仁奈には強烈なトラウマが植え付けられたが、はたしてどうなるか

そして書き手枠で喜多日菜子、予約します

73 ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:29:26 ID:cieAfxhI0
島村卯月、渋谷凛、本田未央投下します。

74私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:30:08 ID:cieAfxhI0
 みなさんはじめまして! 私、島村卯月といいます。
 さっそくですが、みなさんはアイドルに大事なものってなにかわかりますか?
 容姿? スタイル? 歌唱力? きっと人によって答えは様々だと思います。

 実のところ私にもまだわかりません。
 事務所の審査に合格してアイドルになって、レッスンを受けてライブをして、それでも答えは見つかりません。
 でもいつか、同じ事務所の仲間やプロデューサーさんと一緒にがんばって、トップアイドルになれば!
 きっと、きっと答えは見つかるはずだから……だから――!

「私、もっと輝きたいんです!」

 アイドルらしい、大きな声で!
 私、島村卯月は自分の主張を高らかに宣言するのです!
 あ、別にひとり言じゃありません。ちゃんと聞いてくれている仲間たちがいます。

「……うん。わかった。しまむーの言いたいことはよくわかったから」

 私のことを『しまむー』と呼ぶこの子は、本田未央ちゃん。
 いつも明るくて元気いっぱい……なんだけど今日はちょっとだけ元気がないみたい。
 外側にちょっとだけハネてる髪がチャームポイントで、白のブラウスに合わせたピンク色のパーカーがとっても似合ってます。
 未央ちゃんは同じプロデューサーさんのもとでお仕事をしている、大切なお友達なんです。

「どうしたの未央ちゃんテンション低いよ!? ほらおなかから声出して、元気も出していこーっ!」
「あ、うん。しまむーのそういうところ立派だなって思うけど、さすがにポジティブシンキングがすぎるっていうか、現実逃避がすぎるっていうか……ねえ、しぶりん?」
「うん……ちょっと、元気出せないかな」

 未央ちゃんが『しぶりん』と呼ぶ隣の彼女は、渋谷凛ちゃん。
 黒のロングヘアはいつ見てもつやつやです。服装は白のブラウスと黒のカーディガン。
 耳にはピアスをしてて、初めは怖い人なのかなって思っちゃったけど……中身はとってもかわいい人なんだよね。
 そんな凛ちゃんも、私や未央ちゃんと一緒にお仕事をしているアイドルの仲間です。

 私、島村卯月と、本田未央ちゃん、渋谷凛ちゃんは、三人一組のアイドルなのです!

 アイドルの女の子が三人揃ってやることといえばなにか……そう、それはもちろん、アイドル活動です!
 歌やダンスを披露するライブはもちろん、ファンのみんなと触れ合うためのイベントなどなど……熱湯コマーシャルだってやっちゃいます!
 まだまだ駆け出しの私たちは、とにかく経験あるのみ! だからどんなお仕事だってやってのけちゃうのです!


 そう、たとえば殺し合いとか!


 ………………とかー。
 …………とかー。
 ……とかー。

75私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:30:41 ID:cieAfxhI0
「………………ど、どどどぉおおおおおおおしよぉおおおおお未央ちゃああああああん」
「あ、戻ってきた。よしよーしお帰り卯月。私が抱きしめてあげるから思いっきりお泣き」
「うわーん!」

 ……そうでした。
 テンションで無理やり忘れようとしましたが、だめでした。
 私たちはいま、殺し合いを強要されているんです。
 やらなきゃ殺すと脅されて、プロデューサーさんを人質に取られて。
 アイドルが、アイドルを殺せって、そんなことをしろって。
 私、誰かを殺すかもしれないし、誰かに殺されるかもしれないんです。
 どうしよう……自分が置かれている状況を改めて自覚したら、涙が出てきたよ……。

「ぐすっ……未央ちゃん、紙とペン、取ってもらえる?」
「うん。いいよいいよ。はい」

 面倒見のいい未央ちゃんが、私のバッグからメモ用紙と鉛筆を取り出してくれます。
 つらいけど……現実はしっかり受け止めないとだめだよね。
 だから私は、いま自分にできることをしよう。

「……ねえ、しまむー?」
「なに、未央ちゃん?」
「なに書いてるの?」
「遺書」

 未央ちゃんの視線を感じながら、私は一人粛々と遺書をしたためます。
 私がアイドルになるって決まったとき、家族の誰よりも喜んでくれたおばあちゃん。
 ごめんなさい、卯月はアイドルのお仕事で先に天国に行くことになりそうです……。

「うぅう、ねえねえ未央ちゃん、遺書ってどう書き始めればいいの……? 拝啓? 敬具?」
「あぁう……わかった、わかったよ卯月。いろいろ間違ってるけどとりあえず落ち着こう。ね?」

 未央ちゃんは私から鉛筆とメモを取り上げ、遺書を書いても家族の人に届くかどうかわからないこと、
 生きてるうちから死んだ後のことを考えちゃだめだってこと、アイドルが鼻水垂らしちゃだめだってことを教えてくれました。
 あぅうう、さすが未央ちゃんだよぉ。優しくて頼りになって……と、私は未央ちゃんのくれたティッシュで鼻をかみつつ思うのでした。

「ところで、しぶりんはさっきからなにを見てるの?」

 未央ちゃんが凛ちゃんに聞きます。
 私が遺書を書こうとしていた間、凛ちゃんはずっとなにかの紙を眺めていたみたいです。

「このあたりの地図……私たち、いまこのへんにいるみたい」
「おお〜、さすがしぶりんだ。そっかそっか、遊園地の観覧車があっちの方角に見えるから……」

 凛ちゃんが見ているのは、私たちがいまいる島の地図でした。
 未央ちゃんはコンパスを片手に、周囲の景色と地図を見比べて現在位置を確認します。
 未央ちゃん曰く、南西の方角に遊園地の大きな観覧車が見えるから、私たちがいるのは【E-6】の山の頂上みたいです。

「でも広いよねー、この島。私たちが無事に会えたのって、ものすごく運がよかったんじゃないかな」
「私もそう思う。でも、ちひろさんの言ってたことを信じるなら偶然っぽいけど……本当に偶然なのかな」
「ちひろさん……」

 ――私と、未央ちゃんと、凛ちゃん。
 同じユニットで活動している三人が見知らぬ土地でこうして合流できたのは、幸運以外のなにものでもありませんでした。
 三人とも最初は山の中にいて、それぞれバラバラに歩いていたんだけど……五分か十分くらいで、すぐに再会することができて。
 そのときはちょうど頂上付近にいて、上のほうに見晴台があるのを見つけた凛ちゃんの提案で、そこまでダッシュして現在に至るわけです。
 とにかく、まずは落ち着いて。三人で、これからのことを話し合おう、って。

76私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:31:12 ID:cieAfxhI0
「あぅうう……なのに私、いきなり取り乱しちゃったよぉ〜……」
「って、しまむーがまたへこんでる! ああもうほら、お菓子入ってたからこれ食べて元気復活だよっ」

 あ〜んと開けた口に、未央ちゃんがチョコバーを入れてくれます。うぅう、おいしいよぉ……。
 でもこれ、中に入ってるナッツが細かくて歯に引っかかる。そういえば歯ブラシって入ってたかな。
 なんて私がそんなことを考えていると、凛ちゃんが自分のバッグからがさごそとなにかを取り出して見せてくれました。

「それより二人とも、これ見てくれるかな。私のバッグに入ってたんだけど」

 私、未央ちゃん、凛ちゃん、見晴台の上で輪になって座る三人の中央に置かれたのは――なんだろう、これ。
 すごく長い、鉄の棒みたいなもの。先端が菱形になってて、真ん中の辺りに革製のベルトが付いてる。

「これ、なに?」
「わからない。武器だとは思うんだけど……」
「あ〜……なんか、っぽくはあるよね」

 拳銃……? でも、それにしては大きすぎるよね。警察の人もこんな重たいものは持たないと思う。
 それに弾が出てくる穴も見当たらない。引き金はついてるけど……わからないや。

「こんなの持ってても、使えないし……」

 いつも落ち着いた声音の凛ちゃんが、堪えるような涙声で言います。
 これが、凛ちゃんに支給された武器。一人一人別々のものが配られるって、ちひろさんが言っていたもの。
 これで、殺し合いをしろって……でもこんなの、凛ちゃんはもちろん私も未央ちゃんも使えないよ。

「げ、元気出しなよしぶりん。ほら、こんなの持ってたってどうせ使わないんだし」
「でも、誰かに襲われたら……自衛のための手段は必要だと思うし……」
「そうだよね……せめて防犯ブザーとかだったらよかったのにね……」
「いやいやしまむー。そんなの鳴らしたって誰も助けに来ないって」
「助け……そう、だよね。誰も助けになんか、来ないよね……」

 凛ちゃんが自分の首筋にそっと手を触れる。釣られて、私と未央ちゃんも同じような仕草をした。
 私たちの首には、おしゃれなチョーカー――なんかじゃない、首輪型の爆弾が嵌められている。
 こういうアクセサリーをつけたことがないわけじゃないけど、でもあれは中に爆弾なんて入ってなかった。
 これが爆発したら、私たちの首はパーンって弾けて……弾けて……。

「「「…………」」」

 気づけば、私も未央ちゃんも凛ちゃんも無言になっていました。
 私たちはみんな、殺し合いをするつもりなんてない。
 誰かを殺すのも、誰かに殺されるのも、絶対にイヤ。
 だけど、それでプロデューサーさんを殺されちゃうのも……イヤ。
 プロデューサーさんにはいっぱいお世話になったんだもん。
 絶対、絶対助けたいって、そう思うけど……私たちにそんな、ヒーローみたいな力はない。

「ねえ……これからどうする?」
「どうしようか……」

 こういうとき、私たちの先頭に立ってくれるのはいつも未央ちゃんか凛ちゃんだった。
 その二人が『どうしよう』って言ってる。二人が『どうしよう』なのに、私が『どうしよう』じゃないわけがなかった。
 本当に、どうしよう。どうすればいいんだろう……?

「あ、あの、さ。しまむーにはなにが配られてたの?」

 沈黙を破ったのは、未央ちゃんからの質問でした。
 そういえば、私はまだ自分のバッグの中身を確認していません。
 そうだ。なにか役に立つものが入っていれば、助けを呼べるかも……!?
 たとえば、スマホとか! 取り上げられちゃったけど、電話があれば110番できるもんね。

77私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:31:46 ID:cieAfxhI0
「これ……」

 そして、私はそれを探り当てたのでした。
 カッコイイ革製の鞘に収められたそれは……包丁。
 うちのキッチンにもある、いたって普通の、包丁でした。

「…………」

 再び無言になっちゃう私。未央ちゃんも凛ちゃんも、かける言葉が見つからないみたいでした。
 ううん。だめ、だめだよ、こういうの。黙ってたら暗くなっちゃう。アイドルはいつだって明るくなきゃ。
 私なんて、二人に比べたら明るさだけが取り柄みたいなところあるしっ。話題……なにか、話題……。

「あ、なんかこれあれだよね。サスペンスもののドラマみたい!」

 私がおもいっきり明るくしたテンションで言うと、未央ちゃんが反応してくれました。

「サスペンスって……ああ、そうだね。殺人事件とかで定番の凶器だよね」
「そうそう。ついカーっとなっちゃった私が、これで未央ちゃんをブスーッと」
「私が被害者なの!?」
「未央ちゃん……私、昨日見ちゃったんだ。未央ちゃんが凛ちゃんと二人で町を歩いてるところ」
「えっ……? 昨日?」
「昨日は私と約束してたよね。私というものがありながら、未央ちゃんは凛ちゃんと……」
「あっ。ああ〜、なるほど。そういう設定」
「未央ちゃんを殺して私も死ぬー!」
「や、やめてしまむー! わ、わ……ぐわー!」

 グサーッ!
 ……なんてことはさすがにしませんが。
 私が包丁をちょっと前に突き出すと、未央ちゃんしっかり死んだフリをしてくれました。

「み、未央ちゃんが悪いんだからね……」

 意識して震えた声を出す私。鏡はないけど、きっと顔は真っ青に違いありません。
 す、すごい……自分の演技力が恐ろしい。
 まだ舞台やドラマ出演の経験はないけど、いつかそういうお仕事もしてみたいなあ。
 もちろん、そのときは犯人役じゃなくてヒロインで!

「卯月。それ、危ないから早くしまおうよ」
「あ、うん。そうだよね」

 凛ちゃんがクールに注意してくれる。そうだよね、これは遊ぶものじゃないもんね。
 せっかく鞘がついてるんだから、これにしまって〜……と。
 プッ。

「指切ったーっ!」
「わー!」


 ◇ ◇ ◇

78私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:32:15 ID:cieAfxhI0
 未央ちゃんが、左手の人差し指に絆創膏を貼ってくれました。
 絆創膏は未央ちゃんの支給品。木製の可愛らしい救急箱に入ってたみたいです。

「二人とも、ふざけすぎ」
「「ごめんなさい」」

 凛ちゃんの前で正座して反省する私と未央ちゃん。
 たしかにいまのはふざけすぎでした……いまはそんな場合じゃないのにね……あはは。

「……ねえ、そろそろ真剣に話し合おうよ」

 凛ちゃんの声。
 抑揚のない、真剣って感じがひしひしと伝わる……そんな声。
 私と未央ちゃんは正座のまま、ぎゅっと手のひらを握り込みます。

「私たち、いま絶体絶命だよ。助けも呼べないし、自分の身を守る手段もない。プロデューサーも人質に取られて……どうするの?」
「そんなの……私だってわからないよ。しぶりんもわからないし、しまむーだってわからないでしょ?」
「……うん。包丁なんかあっても、自分が怪我するだけだし……もし誰かに襲われたら……」

 冷静に考えて、逃げるしかない。
 逃げても、誰も助けてくれない。だから逃げ続けるしかない。
 でも逃げ続けたって、事態が好転するわけじゃない。
 この島からは逃げられないし、プロデューサーさんも助けられない。
 こんな絶望的状況の中で、私たちにできることって……なんなんだろう。

「私は、戦おうと思う」

 言葉を探している私の耳に、凛ちゃんの声が届いた。
 私と未央ちゃんは、戸惑い顔で凛ちゃんと向き合う。

「た、戦うって……しぶりん。それって、ちひろさんの言うとおり殺し合いをするってこと? ほ、他のアイドルのみんなと……」
「そ、そうじゃないよ。襲われたら、戦うってだけで……だってそうしないと、一方的に殺されるだけだし」
「で、でも凛ちゃん! それでもし、相手の子が死んじゃったりしたら……」
「それは、正当防衛ってことになるから……たぶん」

 凛ちゃんらしくない、弱々しい声が胸に響く。
 わかる……わかっちゃうよ。
 いつもクールで大人びてる凛ちゃんだけど、不安な気持ちは私や未央ちゃんと同じなんだ。

「私は、プロデューサーが死ぬのも、卯月や未央が殺されちゃうのもイヤ。自分が死ぬのも。
 だから、なにもしないでいるのが耐えられない。意味もなく殺されるくらいなら、いっそ……っ」

 吐き捨てるように言って、凛ちゃんがきつく唇を噛む。
 悲しそうに、悔しそうに。
 隣を見ると、未央ちゃんも同じような仕草をしていた。

 私も……ううん。
 私『も』じゃ、だめ。
 私『が』、二人を――

79私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:32:53 ID:cieAfxhI0
「――大丈夫」

 ほにゃ、と。
 私は、二人の前で笑ってみせた。

「諦めなければ、きっとなんとかなるよ。……って、これ凛ちゃんの受け売りなんだけどね。ほら、覚えてる?」

 凛ちゃんがきょとんとした顔を浮かべる。その目には涙が見えた。
 さすが凛ちゃん、泣き顔もすっごく様になってるけど……けど、凛ちゃんには笑顔のほうが似合うと思うから。

「私たち、三人一緒に事務所の書類審査に合格して……だけど本当は手違いで、落とされそうになったでしょ?」
「あ、覚えてる。私たちそこで知り合って、トレーナーさんの計らいで追試を受けることになったんだよね」
「うん。街頭で100人分の署名を集めるってやつで、通りがかった人とかにいっぱい声かけたりして……」
「でもぜんぜんだめで、私もしまむーも諦めかけたんだよね。あっ……そっか、そのときだ」

 私たちがアイドルになる前の話。私たちがアイドルになれるかどうかの瀬戸際だったとき。
 私たち三人の中で、最後まで諦めなかった子。他の二人に『がんばろう』って励まし続けてくれた子。

「諦めるなんて、凛ちゃんらしくないよ。私たちは、殺し合いなんてしたくない。
 みんなと一緒に、プロデューサーさんも一緒に、生きて帰りたい。
 だから、そのためにできることを探そう。みんなで、がんばってみよう。
 私たち、いつだって力を合わせてがんばってきたんだもん。それでなんとかなったんだもん」

 凛ちゃんのやわらかほっぺに手を伸ばす。

「だから、ほら! 笑顔、えーがーおー」

 左右でつまんで、ブニーっと引っ張って。

「う、うりゅき。ひゃ、ひゃい」
「うりゃうりゃうりゃ〜」

 凛ちゃんの表情が、しだいにほぐれていく。
 その様子を見ていた未央ちゃんの顔も、見慣れた笑顔に戻っていった。
 二人の笑っている姿を見て、私もまた笑みがほころぶ。

 プロデューサーさんもトレーナーさんも、所長さんやちひろさんだって言っていた。
 アイドルに大切なものはいろいろあるけれど、つらいときはなによりも『笑顔』だって。
 だからこんなときこそ、私たちは笑っていようと思います――だって、私たちはアイドルだから!

「……ありがとう、卯月」
「こちらこそだよ、凛ちゃん」
「ぶー。なんか二人だけで通じあってるー」
「そ、そんなことないよ。未央ちゃんと私も、ほら、通じあってるー」

80私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:33:21 ID:cieAfxhI0
 未央ちゃんの手を握ってバンザイ。
 もう片方の手で凛ちゃんの手を握って、バンザーイ。

「う、卯月……これ恥ずかしい」
「恥ずかしくないよ。ほら、バンザーイ」
「えへへっ。なんか楽しいよね、こういうの」
「み、未央まで……」

 未央ちゃんが凛ちゃんの手も握って、三人でバンザーイ!
 よーし、元気出たぞーっ!
 私たち三人、こうやって手を取り合えば、できないことなんてないよねっ。

「……なんか私だけ思いつめてたみたいで、馬鹿みたい」
「あははっ、凛ちゃんが一人でがんばりすぎなんだよ」
「卯月なんて、最初の説明のとき教室で熟睡してたものね」
「えっ!?」
「あ、見てた見てた。ちひろさんが現れたところで、ようやく『ぴゃ!?』とか言って飛び起きたんだよね」
「机によだれも垂らしてた」
「え、えぇえええ〜っ?」

 あ、あれっ。なんか急に、私がいじられる流れに?
 あっ、でもでも、こういうのって、いいかも。
 なんだか、いつもの日常が戻ってきた感じで。
 うん……絶対、取り戻そう。私たちの、日常。

「よーし、がんばるぞーっ! ……あれ?」

 大きな声で大きく意気込んで――そのとき視界の端に入ったあるものが、私をハッとさせました。
 未央ちゃんのバッグからはみ出て見えた、ラッパみたいな機械。
 どこかで見たことがあるような、でも日々の生活じゃあんまり見ないような、これってもしかして。

「未央ちゃん、これって……」
「ああ、それ? なんか救急箱と一緒に入ってたの。そんなのなにに使うの〜!?って感じなんだけどね」
「ううん……これ、使えるかもしれないよ!」

 頭の上で『?』マークを浮かべる未央ちゃんと凛ちゃん。
 そんな二人に、私は得意満面な笑みを見せます。
 島村卯月――グッドアイディアをひらめきました!


 ◇ ◇ ◇

81私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:33:51 ID:cieAfxhI0
 私の手にあるもの……それは『拡声器』と呼ばれるもの。
 学校の集会なんかで、先生が大きな声を出すために使うあれです。
 マイクとは違うからこれで歌うことはできないけど。
 けど……みんなに『呼びかける』ことはできる!

「これで、みんなに殺し合いをやめてもらうよう呼びかける。みんな私たちと同じくらいの女の子なんだもん。
 きっと、私たちみたいに戸惑ったりしてる子が大勢いるはずだよ。
 まずはそういうみんなで集まって、それから助けを呼ぶ方法を考えよう。一人より三人、三人より十人だよ!」

 私がそう提案すると、二人も快く賛同してくれました。
 そうだよね。冷静に考えてみれば、ここにいるのはみんなアイドルなんだもん。
 殺し合いをしろって言われて、すぐにできる子がいるはずないよ。

「すー……はあ〜……」

 見晴台の中央に立って、深呼吸。
 そう、ここは山の頂上。
 麓までは届かないかもしれないけれど、私たちみたいに山の中にいる人になら、きっと声は届くはず。
 ここはアイドルとしての声量の見せ所。日々のレッスンの成果を活かすときです!

「いくね、未央ちゃん凛ちゃん」

 頷く二人。
 私は拡声器のスイッチを入れて、大きく口を開いて、広大な山々に向かって――

『――み、みなさん! 私の声が聞こえまひゅはっ!?』

 噛んだ。

82私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:34:36 ID:cieAfxhI0
「……………………orz」
「ど、ドンマイしまむー!」
「テイク2いこう、テイク2!」

 あんまりな失敗に膝をつく私。
 未央ちゃんと凛ちゃんが励ましてくれなかったら立てなかったかも……。
 ううん、弱気はだめだよね。
 改めて、深呼吸……すぅ…………はー…………よしっ!

『みなさん、私の声が聞こえますか? もし私の声が聞こえたら、山頂の見晴台まで――』



【E-6/一日目 深夜】

【島村卯月】
【装備:拡声器】
【所持品:基本支給品一式、包丁】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:みんなで一緒に助けを呼ぶ方法を考える。
1:拡声器で参加者を呼び集め、みんなで力を合わせる。

【渋谷凛】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:みんなで一緒に助けを呼ぶ方法を考える。
1:拡声器で参加者を呼び集め、みんなで力を合わせる。

【本田未央】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、救急箱】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:みんなで一緒に助けを呼ぶ方法を考える。
1:拡声器で参加者を呼び集め、みんなで力を合わせる。

※本田未央の支給品【救急箱】の中身は以下のとおりです(どれも少量)。
絆創膏、消毒液、風邪薬、胃薬、目薬、軟膏、包帯、カット綿、滅菌ガーゼ、眼帯、ピンセット、爪切り、
ナイロン袋、ソーイングセット、三角巾、はさみ、綿棒、電子体温計、虫よけスプレー、かゆみ止め、
リップクリーム、ポケットティッシュ、テーピングテープ、瞬間冷却パック、ポイズンリムーバー

83 ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 00:36:04 ID:cieAfxhI0
投下終了です。

84 ◆6MJ0.uERec:2012/10/24(水) 03:00:20 ID:54G4ZSng0
皆さん感想有難う御座いました
今のところ書き手枠の使い方も問題ないようですし、後は1さん次第でしょうか

そして、ニュージェネチーム投下お疲れ様です!
島村さん可愛い、マジ可愛い
あれ、こいつら殺し合いさせられてるんだよね?
でも、この空気を出せるのは島村さんの、いや、この三人が三人揃えたからこそなんだろなあってのが伝わってきました
すごく自然でいつもな感じのやり取りで、みんないきいきしていて、凛はいわずもがな未央ちゃんも魅力的だった
しかし、最後の拡声器以上に、凛に支給されていたものが何だったのか状態表で分かった時のインパクトやばかったw
それ鈍器にしちゃったらだめえええ!

85 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:41:17 ID:eVYxs0i20
皆様投下乙でした!
>約束
雪美……聡い子だ。
聡い子すぎて、哀しい結末で。
本当しっとりした、哀しい話でした。
書き手枠については問題ないですよー。

>私たちのチュートリアル。
まさかのニュージェネ揃い踏み。
けど、色々爆弾抱えて大変だー!w
ニュージェネ三者らしいキャラしてて、とても素敵でした。
今後が楽しみです。

それでは、美穂と周子投下します

86 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:41:55 ID:eVYxs0i20




―――どうして、私じゃ駄目なの? どうして、貴方でなくちゃ駄目なんだろう?








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

87 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:42:49 ID:eVYxs0i20




わたし、小日向美穂は、とっても恥ずかしがり屋でした。
自分でいうのも恥ずかしいけど、本当にそうで。
そんな、わたしがアイドルになるか不安で仕方なかったけれど。

わたしの担当プロデューサー……とても優しい人。
優しい目をして、穏やかな人。
常に、わたしの隣で見守ってくれた人。
わたしとそんなに年が離れてないのに、落ち着いた人でした。

その人が、ゆっくりと、わたしを見守ってくれて。
わたしが、辛くて泣いたときでも。
わたしが、幸せで笑っていたときも。
傍に居てくれた人でした。

だから、わたし、頑張ろうと思ったんです。

わたし、あの人の笑ってる姿が好きだったから。
だから、あの人の為にも、アイドル投げだしちゃいけないなって。

とても恥ずかしかった事もあったけど、とても充実したアイドル生活を送れたのは……


きっと、あの人のお陰でした。


そんな、あの人に、私は、生まれて初めての恋をしていました。


自分でも不思議なぐらいに。
あの人に惹かれていて。
あの人は私のプロデューサーなのに。
駄目なのに、駄目なのに。
どうしても、心が惹かれていました。
その想いが、恋なんだなと気付いた時は恥ずかしくて、何か爆発しそうでした。
顔を真っ赤にして、枕に思いっきり顔を埋める始末で。
でも、それがとても幸せで嬉しかったんです。

そして、その恋がアイドル生活にも良い影響を与えていました。
ドラマや演劇で、演技が上手くなったと評判になったけれど、きっとそれは想いのお陰で。
その想いが私を昇華させて、くれたんだろうと想います。

88 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:44:10 ID:eVYxs0i20


――――だけど、それは、きっと叶わぬ、初恋になるのでしょう。



偶然、偶然でした。
オフの日に、プロダクションの近くを歩いていたら。
あの人を見かけたんです。
お似合いの彼女と一緒に腕を組んで歩くあの人を。
どう見ても、カップルでした。
ただ、絶句しました。

お似合いの彼女も――私にとって大親友のアイドルだったから。

どうして、なんで。
そんな言葉ばかり浮かびながら。
でも、それよりなによりも。
わたしの前では見せる事無い笑顔を浮かべていたのが悔しくて。

もう、どうにもならない気持ちが溢れてきて。


ただ、苦しくて、息も出来なくて。
でも、わたしは、親友を恨む事もできなくて。
けれど、祝福なんて出来るわけなくて。


何度も 諦めようとして
何度も 嫌いになろうとしてみたけど

そんなの無理に決まっていて。

だから、わたしはいつも、呟いてしまうんです。





―――どうして、私じゃ駄目なの? どうして、貴方でなくちゃ駄目なんだろう?





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

89 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:45:02 ID:eVYxs0i20





「……って、ちょっと聞いてるー? 美穂ちゃーん?」
「って、は、はい、きいてますよっ、なんでしょう?」
「……はぁー、聞いてないよね」
「……ご、御免なさい」
「ま、いいけどー」

唐突に呼びかけれて、私は現実に戻ってくる。
思いっきり、思いふけていた。
いけないなと思っても、あんまり現実をみたくないかも……
だって、こんな状況だから……

「お腹すいたーん」
「は、はぁ?」
「だから、お腹すいたなーって折角街にいるんだから、ご飯でも、漁ろ?」
「そ、そうですね」

そういって、わたしが出会った妖精のような少女は小悪魔的に笑う。
少女……塩見周子は本当にお腹すいてそうで。
私は困ったように笑い、彼女に追随する。

この肌がとても白い……というより色素の薄い周子ちゃんと出会ったのは偶然で。
たまたま街がスタートだったわたしが歩いていたら、出会っただけ。
最初はびくびくして不安だったけど、彼女はこのように呑気だったから、わたしもすっかり気が抜けてしまった。

こんな場所で、抜けてしまったら困るのに。
でも、殺し合いなんて、絶対出来ない。
それがわたしのアイドルとして矜持でもあったから。
周子ちゃんも、

――殺し合いなんて、やんなーい。だるいでしょ

といって乗り気じゃなかったから、一緒に行動する事にした。
ただ、それだけといえば、それだけの関係なのかも。

90 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:45:35 ID:eVYxs0i20

「和食、洋食……やっぱ、洋食かなぁ」

そんなことを呟いてる周子ちゃんを見ながら、わたしは独り考える。

それは、あの人と親友の事だ。

あの人は当然人質に取られていて。
且つ、親友のあの子も此処にいる。

あの子は、どうするんだろう。

恋人であるあの人の為に、殺し合いをするのかな。
最も殺し合いなんて似合いそうもない子なのに。
わたしすらも殺そうとするのかな。
……わかんないや。解かりたくないや。


そして、わたしはどうするんだろう。
あの子にあったら、わたしは何を言うんだろう。
笑顔で居られる自信が、無い。
プロデューサーをとったあの子に。
こんな狂いそうな殺し合いの状況で。
わたしはどうするんだろう。


そして、プロデューサーに、わたしはどうすればいいんだろ。
わたしと彼が残っても。
彼の恋人が死んでいたら。
あの人は、泣くのかな。
わたしを見ないで。
そしたら、わたしはどうするのかな。


どうするの――

91 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:46:25 ID:eVYxs0i20


「ちょっとー、何か考えすぎじゃない?」
「ふ、ふぇ!?」
「何、考えてるか解からないけどさ、こんなところで考えても気が滅入るだけだって」
「……そうですね」
「もっと気楽にいこうよー。あたしみたいにとはいわないけどさ」

周子さんは笑って、私を励ます。
励ましてくれてるんだろう。

うん、考えすぎなんだろう。


今はただ、皆が幸せになる方法を考えよう。
それがアイドルのわたしが出来る事なんですから、ね。
うん、そうしよう。

「じゃあ、ご飯ご飯! 美穂ちゃんゴー!」
「わわ、背中押さないでくださいよぉぉ〜〜!?」

わたしは背を押される感じで、歩き出す。



でも、遠い所で、もう一人の自分が囁く。





―――あの人とあの子が幸せになって……わたしは幸せになれるの?




それを、わたしは聞かない振りをしたんです。




【G-6/一日目 深夜】

【小日向美穂】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らず、皆と幸せになる方法を考える
1:腹ごしらえする
2:親友に対して……?

※小日向のプロデューサーは、小日向とその親友をプロデュースしています。他にも担当アイドルが居るかはお任せします。
 親友が誰については後継にお任せします。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

92 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:46:51 ID:eVYxs0i20





(本当、考えすぎだよねー……そんなんじゃ、いつ死ぬか解からないよ?)

あたしは、美穂ちゃん見て、まずそう思った。
何か考えてるか解からないけど、まあどうでもいいかなー。
興味ないし。御免、ほんのちょっとあるかな。

幸せになれる方法ね。

……流石に、あたしはそんな日和見にはなれないかな。
とはいっても、殺し合いする気もなれないけどー。
だから、精々自分の命を無くさないように気をつけるだけ。

プロデューサーの命がかかってる。
そんなのは知ってる。
知ってるけど、限界まで見極めないとねぇ。
これ自体日和見なのかな。
美穂ちゃん笑えないや。


ま、でも賢い選択じゃないかな。
最期にどうすれば自分がどうすればいいか決める。
それが出来ればいいというわけで。

まあ、そんな感じでいきましょー。


(そういう風に、やっていかなきゃ、やっていけないよ、まったく)

心中毒づいて、あたしは無理に笑う。
あたしにプロデューサーの命がかかってる?
……笑えないなぁ、笑えない。
笑えなくて、震える。


らしくないから、とりあえず、ご飯にしよう。
美穂ちゃんの悩みも気になるし。


……あれ、結局、興味あるじゃん。


やれやれ、可笑しいの。
色々、あたしがさっ。

結局、世話焼きなんだよねーあたしも。
自分で言ってて、世話ないや。

あはは、まあ、それがあたしのとりえだしー。

プロデューサーも苦笑いしてそう。
ま、それがあたしなんで。

だから、そんな感じでいくんでよろしく。
待っててね……――さん。




【塩見周子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに一旦乗らず、ギリギリなるまで見極める
1:腹ごしらえする
2:美穂に着いていく

93 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/24(水) 03:48:36 ID:eVYxs0i20
投下終了しました。

そして、纏めウィキができました!
此方になります
ttp://www58.atwiki.jp/mbmr/

最期に、姫川友紀、川島瑞樹、大石泉(書き手枠)予約します。

94 ◆6MJ0.uERec:2012/10/24(水) 04:10:08 ID:54G4ZSng0
こちらの疑問にお応えいただきありがとうございます
通しになって嬉しい限りです
WIKIもご用意感謝。ロゴがそれっぽくてっかっこいい!

投下もお疲れ様でした。
何やらまた爆弾が一つ。
Pになんでアイツが死んでお前が生きてるんだと言われちゃう小日向ちゃんが思い浮かんでしまった…w
しかし周子、いい性格してるなーw
だるいってのにすごい納得しつつも、ちゃんと色々考えていて、その上だるがってるけど世話好きという



俺もナターリアで予約します

95 ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 17:23:25 ID:cieAfxhI0
投下おつです!

>恋
これはいきなり愛憎劇が始まってしまうのかー!?と思ったら、周子がうまい具合に防波堤になりそう?
いやいや本人も爆弾抱えてそうで、傍目からすれば平和なんだけどなんだか危なっかしいふたりw
美穂ちゃんの相方はまだ不明だけど、この先の修羅場が容易に想像できてしまってなんともおそろしい。

>wiki
乙です! ロゴ格好いい! 見やすい! あとところどこに小ネタが仕込まれてるページがwww

そして
安部菜々で予約します。

96名無しさん:2012/10/24(水) 18:38:21 ID:kTbG.1PM0
とりま、予約まとめです。


■まだ未予約のアイドル達

 【キュート】
 ○三村かな子/○緒方智絵里/○五十嵐響子/○前川みく/○輿水幸子
 ○水本ゆかり/○櫻井桃華/○今井加奈/○小早川紗枝/○道明寺歌鈴/○榊原里美/○栗原ネネ/○古賀小春

 【クール】
 ○多田李衣菜/○藤原肇/○新田美波/○神崎蘭子/○白坂小梅
 ○相川千夏/○佐々木千枝/○三船美優/○和久井留美/○脇山珠美/○岡崎泰葉

 【パッション】
 ○高森藍子/○大槻唯/○及川雫/○相葉夕美/○向井拓海/○十時愛梨/○日野茜/○城ヶ崎美嘉/○諸星きらり
 ○赤城みりあ/○小関麗奈/○若林智香

 【書き手枠】
 残り2枠 (投下済み:佐城雪美 予約中:本田未央、喜多日菜子、大石泉)


■予約中のアイドル達

 ◆BL5cVXUqNc 高垣楓、佐久間まゆ
 ◆n7eWlyBA4w 神谷奈緒、北条加蓮
 ◆ncfd/lUROU 喜多日菜子(書き手枠)
 ◆yX/9K6uV4E 姫川友紀、川島瑞樹、大石泉(書き手枠)
 ◆6MJ0.uERec ナターリア
 ◆44Kea75srM 安部菜々

97 ◆John.ZZqWo:2012/10/24(水) 18:41:05 ID:kTbG.1PM0
んで、水本ゆかり、輿水幸子、星輝子(書き手枠)の3人を予約させてもらいます!

98名無しさん:2012/10/24(水) 19:08:04 ID:54G4ZSng0
>>96
未央はもう投下済みですよー。
今井加奈も死亡済みですし、下手人が和久井さんです
新しい予約も踏まえると、以下のとおりでしょうか?


■まだ未予約のアイドル達

 【キュート】
 ○三村かな子/○緒方智絵里/○五十嵐響子/○前川みく/○櫻井桃華/
 ○小早川紗枝/○道明寺歌鈴/○榊原里美/○栗原ネネ/○古賀小春

 【クール】
 ○多田李衣菜/○藤原肇/○新田美波/○神崎蘭子/○白坂小梅
 ○相川千夏/○佐々木千枝/○三船美優/○脇山珠美/○岡崎泰葉

 【パッション】
 ○高森藍子/○大槻唯/○及川雫/○相葉夕美/○向井拓海/○十時愛梨/○日野茜/○城ヶ崎美嘉/○諸星きらり
 ○赤城みりあ/○小関麗奈/○若林智香

 【書き手枠】
 残り1枠 (投下済み:佐城雪美、本田未央 予約中:喜多日菜子、大石泉、星輝子)


■予約中のアイドル達

 ◆BL5cVXUqNc 高垣楓、佐久間まゆ
 ◆n7eWlyBA4w 神谷奈緒、北条加蓮
 ◆ncfd/lUROU 喜多日菜子(書き手枠)
 ◆yX/9K6uV4E 姫川友紀、川島瑞樹、大石泉(書き手枠)
 ◆6MJ0.uERec ナターリア
 ◆44Kea75srM 安部菜々

99名無しさん:2012/10/24(水) 19:08:53 ID:54G4ZSng0
◆John.ZZqWo 水本ゆかり、輿水幸子、星輝子(書き手枠)

100 ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 23:27:37 ID:cieAfxhI0
安部菜々投下します。

101ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です! ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 23:28:48 ID:cieAfxhI0
 ※イメージです。


 ◇ ◇ ◇


「――ナナが伝説の勇者、ですか!?」

 薄暗い研究室。椅子の上にちょこんと座った少女、安部菜々は信じられないという瞳を浮かべた。
 彼女にその正体を教えた研究員、秋月博士は眼鏡を光らせながら続ける。

「そう。あなたはウサミン星から派遣された特使であり、そして重大な使命を負わされた伝説の勇者でもあるの」
「突然のことで戸惑うかもしれませんけど、取り乱さずに聞いてください。まず、封印された聖剣を探すんです」

 秋月博士に続き、萩原助手が伝説の勇者ナナにはかつて愛用していた聖剣があることを伝えた。
 安部菜々はウサミン星から地球にやってきたアイドルだ。しかし同時に、伝説の勇者でもあったらしい。
 その記憶は本人から失われ、取り戻すには封印されし聖剣を手に入れる必要がある、と秋月博士と萩原助手は告げた。

「わかりました。そういうことなら、ナナがんばっちゃいますっ!」

 そうして、アイドルナナは伝説の勇者ナナとして旅に出た。目的地は火星だ。

「ナナ、火星には行ったことがあります。ウサミン星からの観光ロケットで、三泊四日の自分探しの旅でしたっ☆」

 菜々の乗ったロケットが突如爆散した。宇宙空間に放り出された菜々はウサミンパワーでなんとか肉体を維持する。
 ロケットを攻撃したのは伝説の勇者を復活させまいとする魔王の手先だった。襲い来る魔王の手先は全部で四人。
 高槻軍団長に水無瀬将軍、我那覇戦闘員、双海1号と双海2号から成る四天王だった。四天王なのになぜか五人いた。

「にしし! あんたがウサミン星の勇者ね。悪いけどあんたの冒険はここまでよ!」
「うっうー! 生け捕りにしてもやし入りのウサギ鍋にしちゃいますー! 皮は高く売りますー!」
「イーだぞー!」
「2号! いまがそのときだ!」
「オーケーだ、燃やすぜ1号!」

 しかし四天王は連携が取れていなかった。お互いの必殺技がお互いにぶつかりお互い大爆死だった。
 菜々はロケットがなくても火星にたどり着けた。そういえば菜々は宇宙水泳検定1級の資格を持っているのだ。

「わー、ここが火星かー! 一度来たことがあるはずなのに、なんだか初めて来た気がするよぉ!」

 それもそのはず。火星は度重なるテラフォーミングの末、菜々の知るそれとはまったく別の惑星と化していた。
 大地は荒れ、花は朽ち、空気は汚れ、火星開拓民の三浦チーフは造花を売っていた。

「お花、お花はいりませんか……?」

 かわいそうに思った菜々は、造花を全部買ってあげた。三浦チーフは大いに喜び、お礼に聖剣のある場所を教えてあげた。
 聖剣は大火星大陸の中央にそびえ立つ巨塔、グレートマーズタワーに封印されているらしい。
 目的地がものすごく遠いところにあるのを知った菜々は、歩いて行くのが嫌だったので飛行機をチャーターすることにした。
 菜々の借りた飛行機はF-15Eストライクイーグルだった。パイロットは如月操縦士だ。

「くっ……」

 如月操縦士はなぜか菜々の胸を見て悔しそうに声を漏らした。菜々はどやっと勝ち誇った。
 よそ見をしていたら雷雲に突っ込んでしまった。荒れ狂う天候に負け、ストライクイーグルは大破してしまう。
 如月操縦士はパラシュートでなんとかなった。菜々は自力で飛んだ。そういえば菜々は自力飛行検定1級の資格を持っているのだ。

102ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です! ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 23:29:28 ID:cieAfxhI0
「あっ、目的地が見えてきました! よーし、いっくぞーっ!」

 菜々は音速の壁を越え、グレートマーズタワーに突っ込んだ。グレートマーズタワーは衝撃に耐え切れず倒壊した。
 しまったなぁ、と菜々は少し後悔した。瓦礫の中から目的の聖剣を探し出すのは非常に困難だ。だから菜々は業者を呼ぶことにした。

「あった、あったよ! えへへ、やりぃ!」

 聖剣は菊地作業員が掘り当てた。しかし聖剣は封印状態のままで、伝説の勇者である菜々が握ってもなにも反応を示さなかった。
 聖剣の封印を解くにはどうすればいいのか。困った菜々は、大火星大陸の奥地に住むという星井賢者を尋ねることにした。
 星井賢者の家はすぐに見つかったが、どうやら就寝中のようだった。菜々は構わず叩き起こした。

「あふぅ……それで魔王をやっつければいいと思うの……」

 魔王を倒せば封印が解ける。なんとわかりやすい説明だろう。菜々は星井賢者にお礼を言い、朝ごはんとしておにぎりを握ってあげた。
 おにぎりのおいしさに感動した星井賢者は、お礼のお礼とばかりに菜々を魔王城までワープさせてあげた。
 いきなり魔王城の、それも謁見の間まで躍り出た菜々は、そこで天海魔王と対面を果たした。

「ええっ!? ちょっと段取り早くないですか!? っていうかどこから入ってきたんですか!?」

 天海魔王は突然現れた菜々に面食らっていたが、菜々は構わず聖剣を振るった。
 伝説の勇者ナナと天海魔王の対決は熾烈を極めた。星は消え、銀河は崩壊し、ビッグバンが三回ほど起こった。
 それでも、菜々は勝った。なぜなら菜々はただのアイドルではない。伝説の勇者でもあるのだから。

「そうか……ナナ、思い出しました。ナナの使命、ナナがアイドルとしてやるべきこと……」

 聖剣の封印は解け、菜々は本来自分が背負っていた使命を思い出した。
 そのときである。菜々を神々しい光が照らし、天から麗しい姿の女性が降り立った。

「安部菜々……安部菜々……魔王を倒したからといってあなたの旅はまだ終わりません……」

 語りかけてきたのは四条女神様である。菜々は聖剣を強く握りしめ、真剣に耳を傾けた。

「あなたは伝説の勇者として、そしてなによりもアイドルとして、新魔王千川ちひろが送り込む59人のアイドルをやっつけなければなりません。
 そうしなければ、あなたはアイドルとしての資格を失い……さらにはあなたの大切なプロデューサーも失うこととなるでしょう」

 菜々は驚愕した。菜々を立派なアイドルとして育て上げてくれたプロデューサー。彼を失う恐れがあるというのだ。

「ナナが、ナナが生き残るためには、他のアイドルをやっつけてプロデューサーを助け出せばいいんですね?」

 四条女神様は頷いてくれると思った。しかし四条女神様はらぁめんを食べるのに夢中だった。そのまま天に帰った。
 答えはもらえなかった。しかし菜々は理解したのだ。アイドルとして生き残るためには、戦うしかないと。
 だから菜々は、聖剣を握りしめる。迫り来る59人のアイドルをやっつけるため、自らの意思で武器を取ったのだ。


 ◇ ◇ ◇


 ――君にはキャラ作りの才能がある!

 アイドル・安部菜々の方向性を模索していた時期、プロデューサーが言った一言だった。
 様々なアイドルがしのぎを削るこのアイドル戦国時代、『インパクトの強いキャラクター』はなによりも重要なポイントだと。
 その日以来、安部菜々は東京から電車で一時間のウサミン星と交信を始め、プロフィールの年齢欄に『永遠の17歳』と書くことにした。

103ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です! ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 23:30:00 ID:cieAfxhI0
 ……しかしだ。

 そうやって作り出したアイドル・安部菜々の像は、所詮演技。冷静に考えれば誰もがそう捉える、作り物でしかないのだ。
 ウサミン星との交信は菜々が意識してやっていることだし、意識しなければ菜々はウサミン星との交信なんて行わない。
 つまり、キャラを作る余裕がなくなってしまったとき。安部菜々はアイドルではない、ただの少女・安部菜々に戻ってしまう。

 ここに『殺し合い』というシチュエーションがある。

 菜々の所属する事務所、そこの事務員である千川ちひろに、アイドル同士で殺し合いをしろと強要された。
 冷静に考えて一大事である。いつもみたいに『ナナはウサミン星からやってきたんですよぉっ!キャハっ!』とかやってる場合ではない。
 素に戻って、冷静に現実を受け止める。そしてどうすればいいかを考える。これが常人の取るべき行動だ。

 ……でも、それって『誰』なの?

 菜々は考えた。同時に思い出した。プロデューサーが言っていたのだ。
 個性(キャラ)で売っているアイドルは、いついかなるときでもキャラを崩してはならない、ブレてはならない――と。
 これはアイドルのイベントだ。ウサミン星との交信をやめた菜々は、はたして本当にアイドル・安部菜々といえるのか……?

 ――プロデューサー。ナナのためにいつもがんばってくれた、プロデューサー。

 アイドル活動はプロデューサーとの二人三脚だ。特に意識してキャラを作っている菜々にとって、プロデューサーはなくてはならない存在だった。
 そんなプロデューサーが、囚われている。菜々が殺し合いをしなければ殺される、そんな脅しをかけられている。
 菜々はプロデューサーを失いたくなんてなかった。自分が死ぬのも嫌だった。だから答えは、これに決めた。

 ――やろう、殺し合い。

 同じアイドルのみんなを殺すのは、つらい。だけどきっと、自分とプロデューサーが死んじゃうのはもっとつらい。
 だからつらさの少ないほうを選ぶ。菜々の思考は至って単純だった。至って普通の、力を持たない少女の発想だった。
 でも、考えて、選ぶだけじゃ足りない。菜々には力が必要だった。殺し合いを遂行するための、力が。

 相手の子が泣き叫んでもやめない力。相手の子がヤル気でも泣かない力。罪悪感や後悔に押し負けない強い力。

 菜々はよく、たくましい、と評価される。それはどんな状況でも絶対にブレない完璧なキャラ作り、そこに起因している。
 だからといって、それが殺し合いをやり遂げるための力に繋がるわけではない。
 いま菜々が求めているものは腕力だ。胆力だ。不遜さだ。脚力だ。ふてぶてしさだ。でも菜々が持っているのは……。

 ――君にはキャラ作りの才能がある!

 プロデューサーの言葉を思い出す。それは唯一無二、菜々が初めから持っていた、菜々にしかない絶対の武器だった。
 キャラを作ってこそのアイドル・安部菜々。キャラを作れば、菜々はなんでもやりこなせる。
 そうだ。だから、たとえ殺し合いでも、キャラさえ作ってしまえば。

 同じアイドルを殺しても、痛くない。同じアイドルに殺されそうになっても、負けない。

 菜々は天啓を得た。そして決めた。キャラを作ろう。キャラを作り、アイドル・安部菜々として戦い抜こう。
 そして生き残るんだ。プロデューサーも助け出して、アイドルとしても人間としても生き残るんだ。
 最終的には、他のアイドル59名が死んでしまっているかもしれないけれど……それは、あとで考える。

104ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です! ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 23:30:26 ID:cieAfxhI0
 だから菜々はキャラ作りに必要な設定を即興で作り上げた。
 菜々はウサミン星からやってきたアイドルであると同時に、一度魔王を倒したことがある伝説の勇者。
 今回の敵は新魔王千川ちひろと、その手先のアイドル59人。彼女たちをやっつけて囚われのプロデューサーを救い出す。

「ナナはアイドル。ナナはウサミン星の使者。ナナは伝説の勇者。みんなは敵。みんなは悪いアイドル。ちひろさんは黒幕。
 これは聖剣。ナナは正義。ナナは戦う。ナナはプロデューサーを救う。ナナは永遠の17歳。ナナは、菜々は、ナナは……」

 暗示をかけるように。ようにではなく、暗示をかけて。キャラ作りを徹底して。
 菜々はデイパックの中にあった聖剣を握った。レプリカではない、本物の刃がついた西洋風の剣だ。
 これがあるから、菜々は伝説の勇者になりきれた。ファタンジー世界のアイドルに浸り切れた。

「……プロデューサー」

 キャラを完成させる寸前、菜々は普通の少女として泣いた。いつだって自分の行く道を示してくれた彼に、想いを馳せた。
 すぐに涙を拭って、決意を固める。聖剣は専用の鞘にしまい、それっぽく肩にかける。気分は本当に、伝説の勇者だ。
 聖剣の重さはたぶん2キロとちょっとくらい。がんばれば持てない重さじゃない。それに、菜々には秘密兵器もある。

 デイパックの中の、爆弾である。

 正しくは、マークⅡ手榴弾。アニメで見たことがある。ピンを抜いて投げればそれが爆発する、お手軽な武器だ。
 菜々は声優アイドルを目指している。こういった漫画やアニメに引っ張りだこの武器はお手のものだ。
 それに、菜々は伝説の勇者で、他のアイドルは単なる新魔王の手先。主人公が雑魚キャラに負ける道理はない。

 ――キャラは完成した。

 行動方針。他のアイドル59名の駆逐。新魔王千川ちひろの討伐。プロデューサーの奪還。自分とプロデューサーの生還。
 出発地点は森の中。目的地は定めない。見敵必殺。敵とはエンカウント次第即バトル。迷いや戸惑いは、いらない。
 あっ、でも――アイドルとして一番重要な『かわいらしさ』は忘れないように。基本のキャラは、やっぱりいつものとおり。


「ピピピッ! ウサミン星からの電波受信です! わるいアイドル59人、サクッとやっつけてプロデューサーをお助けですっ☆」


 アイドル・安部菜々の素敵な冒険が始まった。



【E-2/一日目 深夜】

【安部菜々】
【装備:ツーハンデッドソード】
【所持品:基本支給品一式×1、マークⅡ手榴弾】
【状態:健康、キャラ作り完了】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして生き残る。アイドルとしてみんなを殺す。アイドルとして作ったキャラは絶対にブレない。
1:ピピッ! 他のみんなを探します! 探してナナがやっつけます!
2:アイドルとしての顔も忘れません! いつでもどこでもかわいくスマイルっ! キャハっ!
3:絶対に助けてあげますからね、プロデューサー! プロデューサーに届け、ハートウェーブ送信ーっ! ピリピリンッ!

105 ◆44Kea75srM:2012/10/24(水) 23:31:25 ID:cieAfxhI0
投下終了しました。

106 ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:33:23 ID:hHNqT2ao0
投下お疲れさまでした!
なんという電波な冒頭で度肝を抜かれましたw
しかしこれもウサミンのキャラ作りがゆえの行動……最後までそのキャラを維持できるのか

それでは高垣楓、佐久間まゆを投下します

107愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:35:47 ID:hHNqT2ao0









 きっと私は彼に恋をしていた――









 ◆





 高垣楓はふらふらとゆくあてもないまま街をさまよい歩いていた。
 月明かりと街灯にぼんやりと浮かび上がる夜の街を虚ろな表情で歩く。
 すべてがゆめまぼろしのようで現実感がない。
 
 すべてが遅かった。
 遅すぎたのだ。
 彼女が本当の気持ちに気づいたときには彼は遥か遠いところへ去ってしまった。

 口べたな楓の前に突然現れた男。
 顔立ち自体は整っていて、女性受けはしそうなのに冴えない風貌が台無しにしていた男。
 彼は楓を『アイドル』にしたいと。真顔で言ってのけたのだ。
 
 二十も半ばの女性にアイドルとはいったい何の冗談だろうか。
 口説き文句にしてはあまりにお粗末で、そうでなかったら宗教の勧誘か。
 断ろうとする楓に男は必死に食い下がり。土下座も辞さない勢いの男の情熱に負け、楓はアイドルになる道を選んだのだった。

108愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:36:43 ID:hHNqT2ao0
 
 新しく始まったアイドルとしての生活
 楽しいことだけでなく辛いこともあったが、そのたびに彼――プロデューサーが楓を元気づけてくれた。
 そして楓と同じように彼に見初められたアイドルの卵たち。
 年長組である楓は一回り年が下な彼女たちに引け目を感じることもあったが、お互い切磋琢磨してトップアイドルを目指していた。

 いつしか彼は楓のもっとも良き理解者となっていた。
 年も近いこともあって、酒の付き合いに繰り出すこともあった。
 レッスン後、プロデューサーや他の年の近い同僚と居酒屋で世間話をするのが楽しみだった。

「……そういえば、今度いっしょにお洒落なバーにいく約束してたっけ」

 ふと足を止めた楓。その視線は一軒のバーに注がれていた。
 落ち着いた大人な雰囲気を醸し出すお洒落なバー。
 何かに導かれるかのように楓は店の扉をくぐる。
 本当ならば今日、楓はプロデューサーと二人でこのような店で飲みに行くはずだった。
 普段はもっと地味な――仕事帰りのサラリーマンが行くような居酒屋ばかり利用していた楓。
 彼は一緒にお洒落な店に行ってみようと誘いをかけてくれたのだ。

 『それって……デートのお誘いですか?』と悪戯っぽく笑う楓にプロデューサー慌てた表情で否定する。



 まさか――それが彼と最後の会話になるとは誰が予想しただろうか。



 誰よりも信頼していたプロデューサーは楓の目の前で死んだ。
 真っ赤な血を桜の花びらのように散らせて彼は彼女の元からいなくなってしまった。
 そして彼が死んで初めて、楓は彼に恋をしていたのだと気がついた。
 信頼する仕事のパートナーではなく、ひとりの異性として好きになっていたのだと。
 自らの想いを永遠に伝えることができなくなってやっと本当の気持ちに気がつかされるとは皮肉にもほどがある。

「プロデューサー……」

 カウンターに置かれていたグラスを手に取り、注いだ日本酒を一気に呷る。
 冷たくて熱い感触が喉を通り過ぎてゆく。

「……これ一気飲みすればプロデューサーのところに行けるかな」

 まるでぽっかりと大きな穴を開けられたように空虚な楓の心。
 それほどまでに彼の存在は楓の中で大きなものとなっていた。

109愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:37:51 ID:hHNqT2ao0
 
 かたん、と店の奥の方で物音がした。
 楓は視線だけをそちらに移す。
 闇の中にうすぼんやりと浮かぶ人間のシルエット。
 窓から差し込む青い光にその姿が露わになる。


 一人の少女がいた。楓よりもずっと年下の――高校生ぐらいの少女。
 おびえた表情でナイフを握りしめて、守るべき人間のため狂気と正気の狭間で揺れ動く少女が――






 ◆


 




 佐久間まゆは暗い部屋の中で一人、震えながらサバイバルナイフを手に取った。
 外からわずかに漏れる月の光を反射してきらりと輝く白刃。
 同じ刃物であっても料理に使う包丁とは全く違う禍々しさ。
 同じナイフという名があっても果物ナイフとは似ても似つかぬ鋭さ。
 ほんの少しその切っ先に指を這わしただけで赤い筋が走り、真っ赤な液体がにじみ出る。
 これを人の身体に突き立ててしまえばどうなるか想像に難くない。

「――――さんはまゆが……まゆが守らないと……」

 震える声でまゆはうわごとにように人質にされたプロデューサーの名を呟く。
 今も目を閉じれば数十分前の惨劇が現実のように脳裏に浮かぶ。
 首から上を破裂された男の死体。ドラマの撮影でもドッキリでもないただの事実。
 テレビ越しにしか見たことも感じることもなかった人間の死。
 
「まゆが……まゆがなんとかしないと……」

 あの日――読者モデルをやっていたまゆの元に現れたひとりの男。
 それはまさしく彼女にとってまさしく運命的な出会いだった。
 理屈も感情をも超越した運命が、まゆとプロデューサーを引き合わせてくれたのだろう。
 彼女はその日のうちに所属していた事務所を辞め、今の事務所に移ることとなった。

110愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:39:00 ID:hHNqT2ao0
 
 無論、プロデューサーはまゆ一人のものではない。
 事務所には彼を慕うライバルが何人もいて、自分だけを構ってくれないことにやきもちすることもあった。
 でもそれは本心で妬みの感情を持っているわけでなく――いや、まゆにとっては彼がふり向いてくれることが重要ではなかったのだろう。
 彼女自身が彼を愛することに意味があって、それに彼が応えることとはまた別問題だった。
 歪んだ一方通行の感情であることはまゆ自身も自覚はあった。
 だがそれもひっくるめて彼女の愛なのだから。

 そして今、そのプロデューサーに命の危機が訪れている。
 冗談のような殺戮ゲーム。人間としての倫理も道徳も捨て去るデスゲームへの参加こそが彼の命を救いうる唯一の方法。

「――!?」

 かちゃんと扉を開く音が聞こえる。
 誰かが中に入ってきた。覚悟を決めるなら今しかない。
 入ってきたのはまゆよりも年上の女性だった。まゆは物陰に息を潜めてじっと様子をうかがう。
 どくどくと聞こえる自らの心音。まるで心臓が破裂するのではないかと思うほど。
 女性は暗闇に潜むまゆに気づかずにカウンターで酒を飲んでいた。

(今なら……今のうちなら……)

 ナイフを握りしめる手に力がこもりさらに心臓が激しく脈打つ。
 こっそりと忍び寄り、ナイフを背中に突き立てるだけ。
 ライブの本番よりもずっとずっと簡単だ。それをたった59回繰り返すだけでプロデューサーの命は救われる。

 気が遠くなる数字。
 思わず眩暈を感じたまゆは身体を軽くぶつけてしまう。
 かたんと小さな音、だけど静かな部屋に響くには十分すぎた。





 ◆





「あ、あなたには恨みはありません……でも、こうしないと……こうしないと……プロデューサーが……」

 上ずった声。
 ナイフを握りしめ震える手。
 怯えた瞳でナイフの切っ先を向けるまゆの姿を楓は遠い目で見ていた。

111愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:39:45 ID:hHNqT2ao0
 
 
 ――ああ、彼女にはちゃんと守りたい人がいる。


 怖くはなかった。
 自分の想いを告げる相手がいて、それがまだ生きている。
 その人のために殺人者になることも厭わない。そのまっすぐな想い。
 自分は内に秘めた想いを伝えることもなく愛は腐り果ててしまった。

 くすりと笑みを浮かべる楓。
 もうこのゲームに参加する意味も理由もなくなった彼女。
 プロデューサーがいなくなった今、生き残ることになんの価値があるのか。
 痛いのも、死ぬことも怖いけどプロデューサーの元へ逝けるのならば目の前の凶刃に斃れてもかまわなかった。

「……?」

 しかし――いつまでもたっても楓に死は訪れなかった。
 からんとまゆの手からナイフが滑り落ちる。

「できない……できないよぉ……こんなことしてもあの人は喜ばないよ……」

 まゆは床に蹲りすすり泣く。
 こんなことをして何の意味があるのか。
 これで生き残ったところでプロデューサーが喜ぶわけがない。
 でも、殺し合いに参加しなくてはプロデューサーは死んでしまう。
 
 正気を保ってプロデューサーの命を危険に晒すのか。
 狂気に囚われてプロデューサーの命を救うのか。

 誰よりも一途にプロデューサーを愛していたがゆえに苦悩する。
 そんな究極の選択をたかだか16歳の少女に選べるわけもなかった。

「……教えてください。まゆはどうすればいいの……」

 そんなことを言える立場ではないことはわかっている。
 だけど問わずにいられなかった。

112愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:40:28 ID:hHNqT2ao0
 



「……もう、あなたの答えは出てるじゃない」
「え――」
「……プロデューサーが好きだから。愛しい人が悲しむようなことはしたくないって。それがあなたの答えじゃないかしら」
「あ……」
「私だって女の子だから……あなたがどれくらい彼のことを好きだってことわかるもの」
「……どうして」
「……?」
「どうしてあなたはそんなに諦めたような顔してるんですか……っ。あなたも大切な人を人質に取られているのに……っ」

 きっと、この島に呼び寄せられたアイドルはみんな多かれ少なかれ彼女のような葛藤に苛まされているだろう。
 楓はそんな葛藤でさえ持ち合わせていない。ただ生きているだけだった。

「……あの教室で死んだ男の人覚えてる?」

 ぴくりとまゆの肩が強張る。
 忘れようにも忘れ得ない悪夢の光景。
 まゆを凶行に駆り立てたもの。

「彼……私のプロデューサーだったの。私のとっても大切な人。でも最後まで想いを伝えることができなかった人」
「そ、んな……」
「だからね、彼のところへいけるなら……いまここであなたに殺されるのもよかったの」

 誰よりも早く絶望に囚われた者の言葉はただ淡々としていた。




 ◆




 それから二人は無言のまま時間だけが流れてゆく。
 時計の秒針の音だけが二人の耳に響く。

「……そろそろ私行くから」
「行くって……どこにですか」
「さあ……? 適当に死ぬまでこの島を歩いてみようかな。もう、私には何もないから。月並みな言葉だけど……あなたもがんばって」

113愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:41:36 ID:hHNqT2ao0
 
 楓は自殺をする気はなかった。
 ただ静かにこの島を巡り、そして誰かの糧になって死ねればいいと思っていた。
 楓はそっと出口の扉に手をかけようとしたとき、背後から声をかけられた。

「あの……まゆもついて行っていいですか……? そんなこと言える立場じゃないことはわかってますけど……っ」
「…………」
「まゆはプロデューサーが好きです。心の底から愛してます。だからあの人が悲しむことはしたくない、でもあの人のためならどんなことだってしたい気持ちもあるんです……っ! ひとりでいたら今度こそおかしく……」

 かろうじて正気が狂気に打ち勝っている状態のまゆ。
 いまひとりにされたらきっと心が闇に飲み込まれてしまうだろう。

「そう……私といっしょにいることであなたが正気でいられるなら、私もまだ生きている意味があるかもしれない。いつまでいっしょにいられかわからないけど」

 正気と狂気の狭間でゆれる少女の寄る辺となれるのなら、まだこの命も使い道があるだろう。
 心はからっぽになってしまったけど、そこに何かが入ることができるのならば――





【B-4/一日目 深夜】

【高垣楓】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゆくあてもなく島を巡る


※オープニングで死んだPの担当アイドルが楓以外にいるかどうかは後の書き手さんに任せます。



【佐久間まゆ】
【装備:サバイバルナイフ】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:楓についていく
1:プロデューサーを悲しませたくはない。でも……

114 ◆BL5cVXUqNc:2012/10/25(木) 01:42:01 ID:hHNqT2ao0
投下終了しました

115 ◆44Kea75srM:2012/10/25(木) 22:48:52 ID:UzebalIM0
投下乙です!

>愛しさは腐敗につき
楓さんから漂う未亡じ(ゲフンゲフン)大人の女性オーラ! お酒の話を絡めてるのがとてもらしい気がします。
Pさんに先立たれちゃってある種覚悟完了しちゃってる人に迷いを抱えたまゆが出会えばそりゃ、惚れる。とりあえずついていってしまう。
本人、態度は冷たいけどなんだかんだでいろいろと面倒見てくれそうな雰囲気もあり、今後楓さんの周りにどんな人間が集まるのかが気になります。


そんでもって新たに
小関麗奈、古賀小春、諸星きらりで予約します。

116 ◆ncfd/lUROU:2012/10/26(金) 01:21:44 ID:nZtEOVxM0
皆様投下乙です!

・私たちのチュートリアル
ニュージェネ三人揃い踏みとはなんとも豪華な。
殺し合いの最中なのに見ていて微笑ましいのは、彼女たちのアイドルとしての素質故かな。
位置関係や支給品には恵まれていた三人だけども、拡声器を聞いてやって来る参加者にまで恵まれるのかどうか見物だなぁ。

・恋
アイドルであっても、やっぱり芯は普通の女の子なんだよなぁ。
相方の周子が若干ドライだから尚更その点が際立つ。
殺し合いに色恋が混ざると悲惨なことになりがちだけど、果たして報われるのやら。

・ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です!
なんというネタのオンパレードw
これが電波系アイドルの力か……!
キャラを作るということにここまで熱心なのも、プロデューサーへの信頼あってこそか。

・愛しさは腐敗につき
他のアイドルはプロデューサーのために行動できるけど、楓さんにはもうそれすらできないんだよな……
虚無的な雰囲気がなんとも物悲しい。
まゆはまゆで健気だなぁ。楓さんに影響を受けるのか、それとも楓さんの心を動かすのか。

私も喜多日菜子、投下します

117LET'S むふむふっ ◆ncfd/lUROU:2012/10/26(金) 01:24:22 ID:nZtEOVxM0
昔々、あるところに一人の女の子が住んでいました。
王子様に憧れる、ちょっぴり夢みがちな、普通の女の子でした。
女の子はいつも、白馬の王子様を待っていました。
そんなある日、女の子の前に魔法使いが現れます。

お姫様にならないか。魔法使いはそう言いました。
お姫様になれば、王子様は迎えに来てくれますか? 女の子はそう聞き返しました。
魔法使いは優しく微笑んで、きっと来るさと答えました。
それを聞いて、女の子も微笑みます。

魔法使いは女の子に魔法をかけました。
そしてその日から、女の子はお姫様となったのでした。

それからというもの、お姫様は色々なお仕事をし、色々な所に旅をしました。
お仕事も旅も大変でしたが、とてもとても楽しいものでした。
そんなお姫様の隣には、いつも魔法使いの姿がありました。

お姫様は毎日を楽しんでいましたが、一つだけ不満に思っていることがありました。
お姫様になったのに、いつまで経っても白馬の王子様が現れないのです。

ある日のことでした。
お仕事を終えたお姫様は、いつものように魔法使いを待っていました。
けれども、魔法使いはなかなか現れません。
魔法使いを待つ中で、お姫様はあることに気がつきます。
魔法使いが隣にいないということを意識すると、なんだか胸の奥がざわざわするのです。

118LET'S むふむふっ ◆ncfd/lUROU:2012/10/26(金) 01:26:03 ID:nZtEOVxM0
しばらくして魔法使いがやって来たとき、お姫様は驚きました。
なぜなら、魔法使いは馬に乗っていたからです。その馬は、とても立派な白馬でした。
さらには、服装もいつも着ていた簡素なローブではなく、きらびやかな装飾があしらわれたものになっていました。
その姿はまさに、白馬の王子様と呼ぶにふさわしいものでした。
驚きの中で、お姫様はざわざわが消えていることに気がつきました。
お姫様は理解しました。白馬の王子様は、既にお姫様を迎えに来てくれていたのです。
ただ、お姫様が気づいていなかっただけで。
女の子をお姫様にしてくれた魔法使いこそが、王子様だったのだと。

その後、お姫様と王子様は仲睦まじく暮らしていました。
王子様に迎えに来てもらうという夢を叶えたお姫様には、新しい夢ができていました。
それは、海の見える教会で王子様と結婚式を挙げること。
お姫様はその夢も叶うのだと、強く信じていました。

しかし、その夢に思わぬ邪魔が入ってしまいます。
悪い魔女が、王子様を連れ去ってしまったのです。
王子様を助けたいのなら、邪魔な魔物を全て倒しなさい。魔女はそう告げました。
だから、お姫様は王子様を助け出すために旅立ちます。
その手に光の剣を持ち、強固な鎧に身を包んで。
かつて王子様がお姫様を迎えに来てくれたように、今度はお姫様が王子様を迎えにいくのです。




深く深く、そして暗い森の中を、一人の少女が歩いていた。
その足取りは安定せず、その目はどこか遠くを見ているようで。
その姿には、心ここにあらずという言葉が似つかわしかった。
いや、似つかわしいというのは少し語弊があるかもしれない。
彼女の、喜多日菜子の心は、実際にここにはないのだから。
彼女の目には、殺し合いという現実は映っていない。
彼女の心は理想的な世界に。
全てが叶う、妄想の世界の中にあった。

119LET'S むふむふっ ◆ncfd/lUROU:2012/10/26(金) 01:27:05 ID:nZtEOVxM0
殺し合い。その現実を告げられたとき、彼女がまず妄想したのは、彼女自身が殺される光景だった。
常日頃から妄想をしている彼女の妄想力は、当然常人のそれよりも遥かに高い。
それ故に、彼女の妄想は他者よりも鮮明で残酷なものになる。
自らが刺され、撃たれ、殴られ、潰され……。
彼女の脳内で、それらは何度も繰り返された。
そしてそれは、止めようにも止められなかった。
まるでドミノ倒しのように、妄想が次の妄想を産んでいって、その連鎖が終わることはなかった。
だから彼女は、妄想を止めるのではなく、別の妄想に切り替えた。
殺し合いという事実から逃げ、別の妄想の世界に閉じ籠ったのだ。
殺し合いが都合よくねじ曲げられ、もはや別物となった、そんな優しい妄想の世界。
そこに彼女は逃げ込んだ。

つらい現実に立ち向かうことは、彼女にはできなかった。
彼女が弱いからではない。
彼女は、妄想の世界に入り込むことに慣れすぎていた。
妄想することは、彼女にとって当たり前のことだった。
だから、彼女は現実に立ち向かうことを考える前に妄想をした。
そして、戻ってこなかった。

「むふっ、むふふ……むふふふふ……」

彼女は歩く。
その手に握られているのは、鈍い輝きを放つ両刃のナイフ。
その身を包むのは、現実と妄想を隔てる強固な不可視の壁。
優しい妄想の世界に身を浸し、残酷な現実を彼女は歩いていく。
その歩みには、乱れはあれど迷いはない。
妄想の世界では全てが叶うのだから、彼女は迷う必要も悩む必要もない。
ハッピーエンドに向かって、邪魔者を蹴散らし進めばいいだけだ。

「むふふ……プロデューサーさん、今から日菜子姫が迎えに行きますからねぇ……むふ、むふふふふふふふふ……」



お姫様の旅は、こうして幕を開けました。
出だしはとっても順調です。
でもでも、困ったことが一つだけ。

お姫様には、鎧の脱ぎ方がわからなかったのです。



【B-6/一日目 深夜】

【喜多日菜子】
【装備:両刃のナイフ】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0〜1】
【状態:健康、妄想中】
【思考・行動】
基本方針:王子様を助けに行く

120 ◆ncfd/lUROU:2012/10/26(金) 01:31:18 ID:nZtEOVxM0
以上で投下は終了です

121 ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:55:08 ID:tLOUHU.60
投下乙です!

>LET'S むふむふっ
ぎゃーす!いつもなら「妄想乙」の一言で済む日菜子の妄想具合がたいへんなことに……w
セリフだけ抜き取るともう手遅れな感じの猟奇マーダーなんだけど、『妄想中』の状態表記がどう活きるか
いまは妄想の世界に逃げ込んでいる段階だからこそ、現実で他の子に会ったらどうするのか……気になるなあw

そしてこちらも
小関麗奈、古賀小春、諸星きらり投下します。

122悪者とプリンセスのお友達なカンケイ ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:56:14 ID:tLOUHU.60
 暗い夜道を、一筋の光が照らしていた。
 くっきりとした人工の光源は、イグアナを抱えて歩く少女の頭部にある。
 ヘッドランプ付きの作業用ヘルメット。少女、古賀小春に与えられた支給物であり、彼女のゆく道を照らす道標だった。

「これでくら〜い夜道も安心ですー」

 周囲は草むらで、風の音しか聞こえない。小春以外の人間はおろか、動物や鳥もいないことだろう。
 年齢12歳。まだ小学生の小春にとって、真っ暗な夜道というのはそれだけでも脅威だった。
 でも、被ったヘルメットから発せられるあたたかな光と、大親友のヒョウくん(イグアナ)が一緒なら怖くはなかった。

「不安なときは、ヒョウくんぺろぺろです〜。これで安心になりました〜」

 ピンクのワンピースを着たかわいらしい女の子が、作業用ヘルメットを被り抱いたイグアナを時折ぺろぺろしながら夜の草むらを歩く。
 奇妙な光景ではあったが、60人のアイドルが殺し合いをさせられているという現況を考えれば、それほど異質とも言えない。

「あ、道が見つかりました〜。ヒョウくん、こっちを歩きましょ〜」

 やがて小春は草むらを抜け、整地された道に出た。生い茂った草むらを歩くよりは、こちらのほうが歩きやすい。
 ヒョウくんと会話(?)をしながら、小春は行くあてもなく歩いていく。
 地図は確認したが、近くに目印らしい目印が見当たらないので小春にはここがどのあたりなのかわからなかった。
 とりあえず歩いて、ふかふかのベット……もとい、ゆっくりと睡眠を取ることができる建物を探そうと思った。
 だっていまは夜だから、子供の自分は寝ておいたほうがいい。じゃないと、お昼くらいには眠くなってしまう。

「待ちなさい、古賀小春!」

 道に出てしばらく歩いたところで、聞き慣れた声が小春の名を呼んだ。ハッとした小春は、緩慢な動作で後ろを振り向く。
 そこにいたのは、小春と同じくらいの背丈の女の子だった。
 カジュアル系のファッションに、おでこを広く出した長めの髪が特徴的な女の子。そして口調が攻撃的で小生意気。
 小春はすぐに思い至った。この子は、同じ事務所でアイドルをやっている小関麗奈だと。

「あ〜、れいなちゃんだぁ。こんばんはですぅ〜」
「まぶしっ!? ちょっとあんた、それ、ライト! 一旦消しなさいよ!」

 小春のヘッドランプが麗奈の顔面を直撃していた。
 小春は言われたとおりスイッチカチッ。ライトの電源を切った。

「ったく、妙なもの持ってるんだから……そんなの、たいして役に立たないでしょ」
「そうでもないよぉ〜。これがバッグに入っててとっても助かったもん。れいなちゃんはなに持ってるの〜?」
「アタシ? アタシの支給品を聞いたの? このレイナサマが引き当てた武器がなんなのか知りたいって、そう言ったのね?」

 麗奈は得意げに鼻を鳴らし、腰のあたりに手を当てた。

「いいわ、教えてあげる。それはね……これよ!」

 そして――バッ!
 腰に巻いたベルトから一気に引き抜いたそれは、西部劇などでよく見るリボルバー式の拳銃だった。

「わ〜、かっこいいですー」
「ふふん、そうでしょう? アタシもこれを引き当てたときは『やった!』って思わず――って、違うわよ!」

 急に麗奈が怒鳴った。小春は小首を傾げる。

「アンタねぇ、いまの状況がわかってんの? レイナサマの銃口は、いまアンタの眉間を狙ってるのよ……?」
「眉間ですかぁ〜? でも小春ヘルメット被ってますから、たぶん大丈夫ですよぉ〜」
「大丈夫じゃないわよ! そんなもん一発でこっぱみじんのこなごなよ!」

123悪者とプリンセスのお友達なカンケイ ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:56:46 ID:tLOUHU.60
 拳銃を小春に向けたまま、麗奈は地団駄を踏む。
 傍目から見れば仲の良い女の子二人がふざけあっているようにしか見えないが、麗奈の握る拳銃は紛れもなく本物である。
 命を奪う道具が目の前にある。だというのに、小春は涼しい顔だった。

「わかってないようだから教えてあげる。アタシはね、この銃でアンタを撃つわ。そしてアンタを殺す。
 泣き叫んで助けを呼んでもいいけど、無駄よ。ザコはザコらしく、このレイナサマの築く伝説の礎となりなさい!」

 かちり、と麗奈が引き金に指をかけた。
 小春は動じない。ぎゅっとヒョウくんを抱きしめたまま、銃口の前に立つ。
 一秒、二秒、三秒と時間が流れ――そのときだった。

 チリンチリーン。

 どこからともなく、自転車のベル音が鳴り響く。
 麗奈は銃を構え直し、姿勢を周囲への警戒にスイッチ。
 自分の背後、小春の背後、その場でぐるりと一周、異音の正体を目で探った。
 そしてほどなくして、

「にょわー!」

 草むらから、猛然とした勢いで自転車が飛び出してきた。小春も麗奈も驚きに言葉を失い、その自転車を目で追う。
 整地された道に出た自転車はドリフト気味に地面を滑り、麗奈の背後三メートルくらいの位置でストップ。
 間近に捉えた自転車の乗り手は……ものすごく、大きかった。なんていうか、すごく大きい女の子だった。

「うきゃきゃー! この子ヤバーい! たのすぃー! きらりんドキドキでルンルンだよー☆」

 ここが街中だったら近所迷惑間違いなしのテンションで、自転車の彼女、諸星きらりは楽しさを表現する。
 ピンク色のワンピと薄手のカーディガンを合わせた服装は自転車が似合わないくらい女の子らしく、
 星型のアクセサリーをワンポイントに添えたゆるふわヘアーは彼女の陽気な性格にもマッチしていた。

 しかし――きらりの身長180センチオーバー。140センチ台の小春や麗奈では、見上げざるをえない高さである。
 同世代の女の子はもとより、プロのスポーツ選手や外国の俳優でもなかなか見ないほどの身長だ。

「みゅ?」

 そんなきらりが、二人に気づいた。

「にゃっほーい! きらりだよ☆ あれあれ? お返事がないよ? お仕事でおつかれなのかな?
 それならきらりんのきゅんきゅんぱわーで心も体もスッキリさせちゃうよ! せーの、きらりん☆」

 きらりは自転車を降りるなり二人の前に立ち、アイドルらしい極上スマイルでポーズを決めた。
 小春と麗奈は、ただただ呆然。
 いや、麗奈は呆れ気味に黙していたが、小春はどちらかというと「すごーい」と感嘆しているようだった。

「……ふざけたザコがいたものだわ」

 きらり独特の挨拶から十秒ほど遅れて、麗奈が反応を示した。

「アンタも状況が理解できてないみたいだから教えてあげる。アタシは小関麗奈。世界的トップアイドル(予定)レイナサマなのよ!」
「にょ? きらりはきらりんだよ☆ きらりんみんなをハピハピにしちゃうきゃー☆」
「小春は小春ですよぉ〜。こっちはお友達のヒョウくんですぅ〜」
「ええい、ザコがレイナサマの前でさえずってんじゃないわよ!」

 怒鳴った麗奈は再び腰――専用のガンベルトに手を当て、そこから一丁、新たな拳銃を引き抜く。
 右手と左手、合わせて二丁の拳銃。これが小関麗奈の引き当てた武器である。

124悪者とプリンセスのお友達なカンケイ ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:57:21 ID:tLOUHU.60
「いい? アタシはレイナサマなのよ! 殺し合いだかなんだか知らないけど、これがアイドルのイベントだっていうんなら!
 いずれ世界ナンバーワンアイドルの座をものにするレイナサマにザコザコアイドルが敵うわけないでしょ!?
 わかった? わかったんならいますぐ命乞いしてアタシの下僕になりなさい! アーッハッハッハガッ……ゲホゲホ……ッ!」

 麗奈は言葉の途中でむせた。地面に膝をついてゲホゲホしていた。心配した小春ときらりは背中をさすってあげた。

「ええい、寄るなー!」

 麗奈はそれを、拳銃を握った両手で振り払う。
 そしてクルクルと拳銃を指で回し、小春ときらりにひとつずつ銃口を向けた。

「まったく緊張感に欠けるヤツらね! アタシはアンタたちを殺すって言ってんの! わかったんならもっと怖がるなりなんなり――」
「にぃー?」

 麗奈の言葉の途中だったが、きらりは構わず彼女に歩み寄った。
 自分より40センチ近く高い巨体に眼前で見下され、麗奈は思わず口ごもった。

「な、なによ……」

 銃口は依然としてきらりを捉えたままだが、彼女の口元はいつもどおりのねこ口のまま。
 にぃ☆と笑って、ガッ☆と麗奈の手を掴み、バッ☆と片方の拳銃を奪い取った。
 続いてその拳銃を、

「こういうのは危ないから……お空の彼方にきらりんぱぁ――――すっ!」

 投げた。
 本人の言うとおり、お空の彼方に。
 しかし空まで届く勢いだった拳銃は徐々に失速し、暗黒の草むらへと落下する。

「なっ、なっ、なぁ――――っ!?」

 頼りの二丁拳銃が片方紛失した。というか投げ捨てられた。あまりの事態に麗奈は叫び、すぐさま草むらに飛び込んだ。

「あああアンタ、なんてことしてくれたのよ! ぐぬぬ……っ、覚えてなさいよね――ッ!」

 きらりにはそんな捨て台詞を残して、銃はまだ一丁残っていたにも関わらず、麗奈は走り去った。
 あとに残されたきらりと小春は「あー……」と麗奈の背中を眺め、やがて見えなくなると、お互いに目配せをする。

「あのあの、ありがとうございましたぁ。その自転車かっこいいですねぇ〜」
「うぇへへ☆ そう思う? 思う? きらりもこれ、ちっちゃくてきゃわいくてとってもお気にぃー!」
「ちょっとだけ乗ってみたいかも〜」
「乗る? 乗っちゃう!? きらりんと一緒に乗ればきっとハピハピでたのすぃよー☆」
「でも〜、小春はれいなちゃんのことが心配なので、また今度にしますね〜」

 そう言うと、小春は自分のデイパックの中をガサゴソと漁り始めた。
 そして30センチ大ほどのくまのぬいぐるみを取り出し、きらりに手渡す。

「これ、助けてくれたお礼ですぅ〜」
「うぴゃー! ありがとー☆」

 このぬいぐるみは小春の支給品であり、中には小型の爆弾が仕掛けられている。
 裏側のカバーをはずしたところに手動で設定できるタイマーがあり、そこをいじって時限式に爆発させることができるのだ。
 ……が、その機能はカバーを開けてみないと気付けないため、この時点では二人ともただのぬいぐるみとしか認識していなかった。

「それでは、失礼しますぅ〜」

125悪者とプリンセスのお友達なカンケイ ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:58:07 ID:tLOUHU.60
 小春は丁寧にお辞儀をし、きらりに背を向けた。そしてパチリとヘルメットのライトをつけ、草むらに入っていく。
 きらりはその背中を眺めながら、少しだけ迷った。追いかけるべきか、追いかけないべきか。

「……あの二人はだいじょーぶな気がすりゅー☆」

 結果、きらりは小春や麗奈とは別の道を行くことに決めた。
 ちっちゃくてかわいい二人は気になるが、きらりはきらりでやりたいことがある。

「きらりはPちゃんも心配だけど、杏ちゃんも心配だから杏ちゃんを探すなりぃー☆」

 きらりがPちゃんと呼ぶ人物は、囚われのプロデューサーだ。運営に命を握られ、いつ殺されるともわからない。
 だがきらりはこうも考える――『人質となっている間は、逆に安全なんじゃないか?』と。
 だって、殺してしまったら人質としての価値がなくなってしまい、ますますアイドルたちが殺し合いをしなくなってしまう。
 そういう可能性を考慮してみれば、ひとまずは安心かもしれない。心配なのはむしろ現地にいるアイドルたち……つまり、きらりの友達だ。

 特に仲良くしている子、双葉杏はきらりと比べるととっても小さくてかわいい女の子である。
 きらりは杏のことが心配でたまらなかった。
 だからなにをするにしてもまず、杏を見つけてからにしようと決めた。

 支給された折りたたみ自転車は一般のサイズよりずっとコンパクトなものだ。
 きらりはだからこそ「きゃわわ!」と気に入り、これで杏を捜そうと街を目指している最中だったのだ。
 再び自転車に跨り、自分の選んだ道を進みだす。きっと、小春と麗奈もそうすることだろう。

「しゅっぱつしんこー☆ にゃっほーい!」


 ◇ ◇ ◇


「あった! あったー!」

 暗闇の草むらを探すこと数十分。
 麗奈はきらりが投げ捨てた拳銃をようやく見つけ出し、再びガンベルトに戻した。
 支給された二丁拳銃。おまけのガンベルト。元の装備が戻り、麗奈は安堵の息をつく。そして怒り出す。

「あのデカ女ぁ……次また会ったら、ギッタンギッタンのメッタンメッタンにしてレイナサマ専用の奴隷にしてやるんだから!」

 麗奈がきらりへの怒りをあらわにした直後――付近の草むらが謎の光源に満たされる。
 一瞬のことに驚く麗奈だったが、光源の主はすぐに判明した。ヘッドライト付きヘルメットを被った古賀小春である。

「あっ、いた〜。れいなちゃ〜ん」
「……小春。アンタ、なんでここにいんのよ」
「れいなちゃんが大変そうだったから〜。お手伝いしようと思ってぇ〜」

 草むらをかき分け、とてとてと近づいてくる小春。
 あまりにも平和ボケした行動に麗奈は呆れ、吐き捨てるように言う。

「アンタまだわかってないの? アタシはアンタを殺す気なのよ? なのにどうして、のこのこアタシのところに来るのよ」
「だって、れいなちゃんはお友達だし……それに、麗奈ちゃんはそんな危ないことしないって思ったから〜」

 小春の言葉に、麗奈は「はあ〜……」と深いため息をついた。

126悪者とプリンセスのお友達なカンケイ ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:58:35 ID:tLOUHU.60
「ぽわぽわしたヤツだとは思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ。いい? アタシたちは殺し合いをさせられてるのよ?
 逆らえばプロデューサーを殺される。みんなが逆らわなかったら、今度は自分が誰かに殺されるかもしれない。
 いや、プロデューサーなんてアタシにとっちゃ下僕みたいなもんだけど……そ、それでも死なれたら困るしっ。
 小春だって、その、アレ、見たでしょ? 誰かのプロデューサーの首が、あれ、パーン、ドッパーンって…………」

 徐々に語勢を弱くしていく麗奈。思い出すだけでも吐き気がする。あの映像は13歳の少女には鮮烈すぎた。
 彼女は気丈に振舞おうとして、その実しっかりとダメージを受けていたのである。
 しかし小春は、見せしめの話を振られても笑みを崩さない。

「実は、小春見れなかったんだぁ〜」
「……へ?」
「そういうことが起きたっていうのは、なんとなくわかったんだけどぉ〜」
「ちょ、ど、どういうことよそれ!?」
「えっと、ヒョウくんがね、いきなり小春の顔のところにきて、目が塞がれちゃって〜」
「ま、まさか……それで見れなかったっていうの!? 誰かのプロデューサーが、見せしめに殺されたところが!?」

 誰かのプロデューサーが殺されたあの瞬間――小春はイグアナのヒョウくんに視界を塞がれ、決定的瞬間を見逃した。
 だからなのかもしれない。みんなの阿鼻叫喚は聞こえたが、実際に人が死ぬ瞬間は目撃せずに済んだ。
 だから小春には、自分が殺されるという話も、プロデューサーが殺されるという話も、いまいちピンとこない。

「小春にはぁ、ずっとヒョウくんがついててくれたから……なのでまだ大丈夫なんだと思います〜」
「だ、大丈夫って……じゃ、じゃあ! アンタはいまここでアタシが殺す! ほら、銃! う、ううう撃つわよ!」

 麗奈はまた、小春に拳銃を向けた。
 それでもやっぱり、小春は動じなかった。

「アンタ、これがおもちゃかなんかだと思ってんの!? 大間違いよ! これはれっきとした本物で――」
「本物でも〜、れいなちゃんは小春を撃ったりしないよ〜」
「撃つって言ってんでしょ! ちゃんと人の話聞きなさいよ!」
「だって、そんなので撃たれたら小春死んじゃうし〜……」
「死ぬわよ! 殺すって言ったでしょ! ああもう……わかった、じゃあアンタは下僕! アタシの下僕よ!」
「うん。いいよ〜」
「即答!? じゃ、じゃあアタシのことちゃんとレイナサマって呼びなさいよ!?」
「はーい。わかったよれいなちゃん」
「レ、イ、ナ、サ、マーっ! 復唱しなさい! レ、イ、ナ、サ、マァー……ゲホゲホッ!」

 麗奈はまたむせた。小春は麗奈の背中をトントンと叩いてあげた。
 回復した麗奈は、そんな小春をキッと睨みつける。しかしすぐに、ほんわりとした笑顔で返された。
 そしてまた突拍子もなく、

127悪者とプリンセスのお友達なカンケイ ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:59:02 ID:tLOUHU.60
「お姫様だね〜」
「はあ?」
「囚われのお姫様ぁ〜」
「なに言ってんの!?」
「お姫様は悪役にさらわれるんだって、前にれいなちゃんがぁ……」
「あ、アンタは本当に……うぅううう、わかったわよもう! アタシの負けよぉ!」

 麗奈は疲れ果てた声を出し、拳銃をガンベルトにしまった。
 この子にはもう、なにを言ってもだめだ。一大決心で挑んだのに、殺す気も失せてしまった。
 諦観の念に膝を折る麗奈。一方、小春はヒョウくんの背中をなでながら、やっぱりにこやかに言うのだった。

「がんばろうねぇ〜、れいなちゃん」
「なにをがんばるってのよ……」

 彼女たちもまた、自分で選んだ道を歩き始めようとしていた。



【A-8/一日目 深夜】

【諸星きらり】
【装備:折りたたみ自転車】
【所持品:基本支給品一式×1、くまのぬいぐるみ(時限爆弾内蔵)、不明支給品×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:杏ちゃんが心配だから杏ちゃんを探す☆
1:きゃほーい! 自転車であっちの街まできらりんだっしゅ☆

【小関麗奈】
【装備:コルトパイソン(6/6)、コルトパイソン(6/6)、ガンベルト】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残る。プロデューサーにも死んでほしくない。
1:こーなったら小春をこき使ってやるー!
2:殺し合いをする。しなきゃいけないんだけど……。

【古賀小春】
【装備:ヒョウくん、ヘッドライト付き作業用ヘルメット】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:れいなちゃんと一緒にいく。
1:れいなちゃんと一緒にいく。



※小関麗奈の支給品は二丁拳銃一式という形式で、ガンベルトはおまけです。
※イグアナのヒョウくんは古賀小春の私物扱いであり、支給品ではありません。

128 ◆44Kea75srM:2012/10/26(金) 01:59:36 ID:tLOUHU.60
投下終了しました。

129 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:10:30 ID:Q6NHjh020
皆様投下乙です!ペース早いなぁ……!

>LET'S むふむふっ
あわわわ、完全に喜多ちゃんが現実逃避の道に……
今後のリレー次第でどっちにも転びそうなだけに、これからが気になりますねぇ

>悪者とプリンセスのお友達なカンケイ
きらりんじゃあ仕方がないな!w
しょっぱなから悪役キャラにボロが出てるし、小春ちゃんはマイペースだし、レイナサマの明日はどっちだ


続いて自分も、北条加蓮・神谷奈緒 投下しますねー

130邂逅、そして分たれる道  ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:15:17 ID:Q6NHjh020
  <北条加蓮>


 深夜の住宅地は光を掻き消しそうなくらい暗く、底冷えのする空気を湛えている。
 間隔の広い街灯から投げられる無機質な光は、闇を照らすどころか引き立て役に甘んじている。
 普段なら決して近付かないような場所、出歩かないような時間帯。
 それを恐ろしいと思えないのは、それ以上の異常さに私の心が麻痺してしまったからだろう。

 私は今まさに自分が握り締めている、見慣れないものに改めて目を遣った。
 残念ながら、マイクみたいなアイドルらしいものじゃない。
 それは人を殺す道具。こんなものを手にする日が来るなんて思いもしなかった。
 
 グリップはいわゆるピストルに似ていて、引鉄もちゃんと付いている。
 銃と違うのは、銃身の前の方のところに弓が水平に付いているのと、
 撃鉄(だったっけ?)の代わりに変な形のレバーみたいなものがあるところ。
 実際に見るのは初めてだけど、ボウガンの一種みたい。
 ボウガンと言ってもロビン・フッドとかウィリアム・テルが持っていそうな
 仰々しくて重そうなのじゃなくて、片手でも持てるような小ぶりのものだ。
 ピストルクロスボウという種類らしい。説明書の受け売りだけど。
 後ろに生えてる変なレバーは弦を小さい力で引っ張るためのテコらしく、
 実際に押し下げてみたら、少し力は要ったけど問題なく矢を番えることはできた。
 
 でも、アイドルになろうとする前の私なら、たぶんこの程度の力もなかっただろう。
 ということは、こうやって人殺しの準備が出来るのも日々のレッスンのおかげなのかな?
 なんだか複雑。ううん、冗談にしたって笑えない。
 ほんと、これがいつものマイクならどんなに良かったか。

131邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:16:18 ID:Q6NHjh020
 ディパックを背負ったまま、クロスボウを構えてみる。
 なかなか様になってるんじゃないかな? 自分じゃよく分かんないけど。
 これで迫り来る敵をバッタバッタとやっつけて、最後まで生き残る私。
 そして悪の黒幕も打ち倒し、プロデューサーを救い出すんだ。
 きっと感動の再会なんだろうな。二人共わんわん泣いちゃったりしてね。
 でもそうすれば元通り、あの輝くステージを目指して頑張る日々が戻って……。
 
 
 
 …………。
 
 
 
 バカみたい。
 
 
 
 現実逃避めいたその想像は、実際なんの現実味もなくて。
 本当の私の心は、その下らない妄想に目もくれずに膝を抱えて震えている。
 本当は、もう分かってる。頭の片隅では理解してる。
 こうやって戦う準備をしても、私は、きっと――
 
 
「――きっと、生き残れないな、私」


 その呟きは諦めの言葉というよりも、ただの現状認識。
 自分の置かれている状況にもうひとりの自分が客観的な評価を下しただけ。
 私はどこか他人事めいて、いずれ来る自分の死を認識してしまっていた。
 まるで何もかもを諦めていた昔の自分に戻ってしまったように。

 昔の私は、自分の力じゃ何もできないと思ってた。
 病室のベッドに横たわったまま、テレビの歌番組で輝きを振りまくアイドル達を、
 憧れと羨望と諦めと無力感が綯い交ぜになった目で眺めるだけだったあの頃。
 このベッドの周りをぐるりと囲んでいる真っ白いカーテンみたいに、
 私とあの人達の間は見えないカーテンで区切られているんだ、そう信じてた。
 なんてつまらない人生。なんてつまらない世界。
 頑張ったって仕方ない。夢を持つなんて下らない。
 カーテンの向こう側なんて無いのと同じなんだから。
 そう思おうとしていた私を、目をつむったままうずくまっていた私を、
 凛が、奈緒が、そしてプロデューサーが、向こう側に連れていってくれた。
 そして知ったんだ。信じればきっと、夢は叶うんだって――
 
「……その先に待っていたのが、これ? いくらなんでもあんまりじゃない」

132邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:17:06 ID:Q6NHjh020
 乾いた笑いすら出てこなかった。
 この殺人ゲームの企画者はあまりにも悪趣味だ。
 私たちが必死で勝ち取ろうとした夢を、抱き続けてきた想いを、嘲笑っているの?
 お前らの世界なんてこんなに簡単に潰されてしまうほどちっぽけだって、そう言いたいの?
 悔しい。私たちの全てをドブに蹴落とすようなやり方が、たまらなく悔しい。
 それでも今の自分はあまりにも無力で、ただ言いなりになることしか出来はしない。
 プロデューサーが人質に取られている以上、何もかも投げ出すわけにもいかない。
 そうなれば嫌でも殺し合うしかなくて――きっと、私は生き残れない。
 
 ずっと入院してたんだから言うまでもないけど、私は元々体が弱い。
 最近は欠かさずにレッスンしてるからそれなりに体力は付いてきているはずだけど、
 あいにくこの場にいるのは全員アイドル。それくらいは基礎の基礎だろう。
 運動能力で他の人に勝てるなんて到底思えない。
 
 それに、どのみち、私に「彼女たち」が殺せるわけがない。
 
 渋谷凛と、神谷奈緒。
 デビュー前のほんの駆け出しの時から、一緒に夢を追い続けてきた私の親友たち。
 
 凛は一見ぶっきらぼうで取っ付きにくい雰囲気だけど、本当はひたむきで真っ直ぐで、
 アイドルって仕事に本当に誇りを持ってるんだってことを私は知ってる。
 私や奈緒よりも一歩早くユニットとしてデビューした彼女の姿を街で見かけるたびに、
 いつか必ず同じ舞台に立ってやるんだって思ってたっけ。
 アイドル界のニュージェネレーション。その称号は、凛にこそふさわしいと心底思う。
 そんな凛の存在は、私たちの目標であり誇りだった。
 
 奈緒はそんな凛とは正反対に、感情豊かで親しみやすい性格の持ち主だ。
 気持ちに合わせてコロコロ変わる表情は見ていて飽きない。じっと見てると怒るけど。
 そんな彼女のカメラやファンを前にしても物怖じしない舞台度胸は、私も見習いたいと思う。
 舞台の上ではあんなに堂々としてるのに、普段はすぐ動揺が顔に出るのが奈緒だけど。
 プロデューサーのこと気にしてるの、バレバレなのに必死で隠そうとしたりね。
 全然素直になろうとしないから、ついつい後押ししちゃったりもしたなぁ。
 ……本当は私もプロデューサーのこと、ちょっと気になってるんだけどね。
 奈緒があんまりいじらしいから、ずっとこの気持ちは仕舞っておくつもりだけど。
 
 ……プロデューサー、か。
 
 
「こんなことならお見舞いに来てくれた時、もっと甘えとけばよかったかな……」
 
 
 私が無意識にそう呟いたのと、私の耳が背後からの物音を聞き付けたのは殆ど同時だった。

133邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:18:02 ID:Q6NHjh020
 無意識にクロスボウの銃把を強く握り込む。
 心臓を絞り上げられて血が逆流しているような戦慄が、私の皮膚を内側からささくれ立たせる。

 こんな時に、私は何を呑気なことを考えていたのだろう。
 いつどこから襲われるかも分からない、そんな単純なことを忘れていたなんて。
 自分は生き残れないだろうというぼんやりとした実感。
 自分の周りに再び見えないカーテンが引かれているような隔絶感。
 それでもそれは、自分がいつ死んでも構わないと自棄になれるほど確かなものではなくて。
 生きられるものなら生きていたい。死にたいなんて思うわけがない。

 背後の気配に全神経を集中させる。
 幸い向こうも余裕がないのか、微かな物音や息遣いまで伝わってきそうなぐらいだ。
 振り返りたい衝動を堪えて、気取られないように振舞う。
 相手が襲いかかってくるのなら、その瞬間に合わせて先にこの矢を撃ち込むしかない。
 人を射ることへの抵抗はある。殺してしまうかもしれない、そのことへの怖さもある。
 それでもこんなところで、何もできずに死んでしまうのは、そんなのは嫌だ。
 せめて、せめて二人ともう一度会いたい。会って話がしたい。
 それが今の私のささやかな願い。それを果たすまでは、死ぬものか。
 大丈夫、やれる。銃身をまっすぐ向けて引鉄を引くだけ。難しいことは何もない。
 襲撃者に気付かれないよう、私は大きく深呼吸した。

 そして、何分、いや何秒だろうか。
 感覚も曖昧になるような粘つく時間が過ぎていった。

134邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:18:37 ID:Q6NHjh020
 不意に背後の気配が大きく動いた。
 自分の斜め後ろから、殺意が足音と共に一気に近づいてくる。
 間に合うだろうか? ううん、間に合わなかったら終わりだ。
 私は意を決して振り返り、ピストルクロスボウの先端を相手に向けて突き出した。
 相手が一瞬怯むのが分かった。それでも止まる気配はない。もうこちらも躊躇えない。
 私はただ無心に引鉄を引き絞ろうとして――


 そこで初めて、相手の顔を視界に収めた。


 
 「…………奈緒?」

 「加蓮…………?」



 それは会いたくて仕方なかった、だけどこの状況では一番見たくなかった顔。
 私の視線、そしてクロスボウの射線の先には凶器を振り上げたまま硬直する私の親友。

 神谷奈緒が、そこにいた。



 
  ▼  ▼  ▼

135邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:19:40 ID:Q6NHjh020
 


  <神谷奈緒>


 どうして、こんなことになってしまったんだろ。
 何度この問いを繰り返したか分からない。
 いくら考えたって絶対に答えが出るわけがないんだってことは、あたしにも分かってる。
 それでも問い続けざるを得ないくらいに、この現実は狂い切っていた。

 あたしが誰かを殺さなきゃ、プロデューサーは死ぬ。
 プロデューサーを助けようと思えば、凛や加蓮はあたしの手によって死ぬ。
 凛や加蓮を救おうとすれば、少なくともあたしは死ぬ。そして親友のどちらかも死ぬ。
 何もしなければプロデューサーは死ぬ。ただしそれであたし達が助かるわけでもない。
 あたし達が、今まで通りの幸せな世界に戻れる見込みは、ない。

 なんだよこれは。
 なんなんだよこれは。
 
 これがアニメなら大荒れ必至のシナリオだ。ただひたすらに絶望的なだけ。
 バッドエンドを回避する手立てが、初めから何一つ用意されていない。
 視聴者からは「製作者の醜悪な人間性が透けて見えるようだ」とか言われたりしてな。
 全くもってその通りだ。こんなことを考えるヤツが、まともな人間な訳はない。

 それでも、あたしは僅かな希望に縋っていたかった。
 あたし達がみんなで笑って迎えられる、そんなグッドエンドがあると信じたかった。

 そのためには、覚悟が必要だった。
 単に、決着を先延ばしにするだけかもしれない。
 その結果、もっと残酷な結末になるかもしれない。
 それでも、凛も加蓮もプロデューサーも、みんなを少しでも生き永らえさせるためには、
 『あたし自身がそれ以外を殺す』という選択以外思いつかなかったのだ。

 先にデビューした凛は別だが、あたしと加蓮は同じプロデューサーに担当されている。
 つまり今この状況では、プロデューサーはあたし達二人にとっての人質ということだ。
 これだと、あたしがいくら殺し合いに協力しようが、加蓮が仮に反抗的だったとしたら、
 結局プロデューサーは見せしめとして殺されてしまうことになってしまう。
 でも、それはたぶん逆だ。あたし達両方を上手く殺し合いに乗せたいのなら、
 片方だけのために一枚しかない切り札はそう簡単に切れはしないはずだ。

136邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:20:38 ID:Q6NHjh020
 つまり、あたしが殺し合いに乗りさえすれば、プロデューサーは少なくともすぐには死なない。
 そして、加蓮が無意味に手を汚す必要もなくなる。
 返り血を浴びるのはあたし一人でいい。加蓮にはそんな役は似合わない。


(プロデューサー……素直でなくてごめんな。かわいくないアイドルで、ごめんな。
 それでも、あんたはあたしが守るから。あんたも、加蓮も、殺させてたまるもんか)


 今までのプロデューサーとの関係を思い出して、後悔が洪水となって押し寄せそうになったので、
 あたしは頭を振って無理やりにそのことについて考えるのをやめた。
 今あたしに出来ることをしなかったら、きっともっと後悔するだろうから。

 ディパックから引っ張り出した支給品を強く強く握り締める。
 あたしの武器は、アメリカ軍が使ってるとかいう片手サイズの斧だった。
 兵隊さん方がこんなちっぽけな武器で戦ってるっていうのなら頭が下がる限りだ。
 せめてナイフなら、もうちょっと気休めにもなったかもしれないのに。
 それでも、あたしには余裕がなかった。更に言うなら選択肢もなかった。
 得物がどんなに不利で頼りなくても、やるしかなかったのだ。
 あたしの大事な人たちのために。
 

  ▽  ▽  ▽


 最初の相手は、あたしが決意してからほどなくして現れた。
 しかし暗くて様子は見えなかったけど、あまり周囲を警戒してるみたいには見えない。
 しばらく住宅の隙間を縫って後をつけたが、少なくとも気づかれてはいないような気がした。
 少しずつ相手との距離を詰めるたび、比例するように心臓の音が自分で聞こえるほど大きくなる。
 トマホークを握る手が汗ばんでグリップが滑りそうになり、慌てて服で拭った。
 自分がどれだけ動揺しているか、嫌でも実感してしまう。
 初めて殺人を犯そうとするのに、動揺しない方がどうかしてるんだろうけど。
 改めてこれからやろうとしてることを考えると、全身に鳥肌が立つ思いだった。
 それでも、やると決めたんだ。もう、躊躇うわけには行かないんだ。 


(プロデューサー、凛、加蓮……軽蔑してくれていい、今だけはあたしに勇気をくれ!)


 意を決して、あたしはトマホークを振りかぶり一気に物陰から飛び出した。
 こんな小さい刃でも、背後から全力で殴りつければ十分。そのはずだった。
 誤算は二つ。相手の反応が予想よりだいぶ早かったこと、相手の武器が銃のようなものだったこと。
 一瞬無意識に怯んでしまったが、今更止まれない。もうここまで来たら躊躇えない。
 私は全力で凶器を振り抜こうとして……




 本当に、どうして、こんなことになってしまったんだろ。

137邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:21:51 ID:Q6NHjh020



 気がついた時には、あたしは転がるように走り出していた。
 もつれそうになる両足で強引に大地を押さえつけて、ただ不乱に走っていた。


(殺しかけた……殺しかけた、殺しかけた、殺しかけた、殺しかけた……ッ!)


 北条加蓮。あたしの、大事な、大事な親友を。よりにもよって、このあたしが。
 少しでも死から遠ざけようとして、死なせまいとして、その結果がこれか。
 絶対に死んで欲しくない相手を自分の手で。バカじゃないのか、あたしは。
 自分の愚かしさを、間の悪さを、事前に気付けなかった迂闊さを呪った。

 背後で加蓮が何か叫んでいる。聞こえない。聞こえちゃいけない。
 親友を殴り殺そうとしたあたしに、応える資格なんてもうないんだ。
 加蓮はきっと、私を許そうとするだろう。一緒に生き抜こうと願うだろう。
 でも、それに甘んじてしまったら、あたしは自分自身を許せなくなりそうだった。

 何時の間にか、自分が泣いているのに気付いた。
 今のあたしの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってるんだろう。
 とてもファンには見せられない。もちろんあたしの、大事な人たちにも。
 いや、今のあたしそのものを、誰にも見られたくなかった。 

 こうなった以上、加蓮のもとには戻れない。
 もちろん素知らぬ顔で凛に会うなんてことも出来ない。
 そして、ここで挫けたら、自分の決意の何もかもが無駄になってしまう。
 僅かに残っていた退路は完全に断たれてしまった。

 もう、進み続けるしかない。

138邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:22:36 ID:Q6NHjh020

 加蓮の死のイメージが脳裏に焼き付く。もしあたしでなく、他の人間が同じことをしたら。
 その想像はさっきまでと比べ物にならないほど鮮烈にあたしの脳を支配している。
 皮肉にも、自分の手で殺しかけた経験が、彼女を死なせたくないという想いを強めていた。
 絶対に死なせない。もちろん凛もだ。
 そして、プロデューサー。あたしが乗れば、死なずに済むんだよな?
 もう同じ間違いはしないから。絶対にうまくやってみせるから。
 だからさ……絶対に、あたしの前で死んだりしないでくれよ……。

 次第に加蓮の声が背後に置き去りにされていく。
 気付かないふりをして走った。必死で走った。
 その先に辿り着くだろう場所にも幸せなんてないと知りながら、ただひたすらに。


(死ぬなよ、加蓮……死ぬなよ、生きろ、絶対に死ぬな……!)


 せめて、ささやかで自分勝手な願いだけは彼女に届いてくれることを祈りながら。




【神谷奈緒】
【装備:軍用トマホーク】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0〜1(武器ではない)】
【状態:健康、混乱】
【思考・行動】
基本方針:もう後には引けない。プロデューサーと親友を死なせないため戦う。
1:凛と加蓮以外の参加者の数を減らしていく
2:もっと強い武器が欲しい
3:凛や加蓮とは出来ることならもう会いたくない、巻き込みたくない


※明確な目的地を持たずに移動している状態です。

139邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:23:44 ID:Q6NHjh020


  ▼  ▼  ▼



「奈緒! 待って、待ってよ奈緒!」


 逃げるように走り去る奈緒の背中に少しでも近付こうと、私は必死で追いながら彼女の名を呼んだ。
 それでも一歩を踏み出すたびに二人の距離は確実に遠ざかっていく。
 自分の体力のなさを今ほど呪ったことはなかった。

 奈緒に殺されかかったという事実は、実のところ私にとって重要ではなかった。
 信じている親友の手に掛かって死ぬところだったのに、その衝撃は頭の隅に追いやられていた。

 だって、それよりもずっと辛いことに私は気付いてしまったから。
 目と目が合った時の、奈緒の表情――くしゃくしゃになった泣き顔を見た瞬間、分かってしまったから。
 奈緒は、私を殺すつもりなんてなかったし、これからもそうしたくないんだって。
 プロデューサーと、それから私達のために、殺し合いに身を投じようとしてるんだって。

 きっと私たちの誰にも知られたくなかったんだろう。だから振り向いてもくれないんだ。
 奈緒は優しいから。いつもの態度も、本当の気持ちを表に出せない裏返しだって分かってるから。
 だから今も本当の気持ちを隠して、強がっているんだろう。
 こうするしかないんだって歯を食いしばって、戦おうとしてるんだろう。
 でも……私は、奈緒にそんなこと望んでいない。


「奈緒ーーーーーっ!」


 きっと奈緒の耳には届かないだろうと心の何処かで理解しながら、私は叫ばずにいられなかった。
 奈緒に、私の大切な親友に、人殺しなんてして欲しくない。
 それに殺し合いに加わったら、きっと奈緒自身も危ない目に遭うに違いない。
 死んでしまう。殺されてしまう。それが怖くて、私は声を振り絞った。
 それでも、奈緒の背中はどんどん小さくなっていく。私の存在を振り切ろうとするように。
 あんなにずっと一緒にいたのに、今はただの言葉一つも届かない。

140邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:24:20 ID:Q6NHjh020
 私の心を覆っていた見えないカーテンは、今や皮肉にも引き裂かれていた。
 今の自分は、このどうしようもなく残酷な現実に素肌を晒していた。
 奈緒の、ここにいない凛の、そしてプロデューサーの、掛け替えのない未来が切り刻まれていく、
 その事実が確かな実感として私を押し潰そうとしていた。
 それは自分自身の死よりも確かで、どうしたって堪えようのない恐怖。



「うっ……うう、ううっ……奈緒っ……」



 それでも私は、自分ひとりではどうしようもなく無力で。



「凛……どこにいるの凛? 奈緒が、奈緒が死んじゃうよぉ……」



 ただ子供のように泣きじゃくることしか出来ないのが、私にはたまらなく悔しかった。



【北条加蓮】
【装備:ピストルクロスボウ】
【所持品:基本支給品一式×1、専用矢(残り24本)、不明支給品0〜1】
【状態:健康、精神的ショック】
【思考・行動】
基本方針:自分の身よりもまず、親友を危険に晒したくない。
1:奈緒を探して、無茶を止めさせたい
2:凛に会いたい

141 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 02:24:53 ID:Q6NHjh020
投下終了しましたー

142 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/27(土) 10:23:02 ID:Q6NHjh020
すみません、時間と場所の表記を忘れていました。
二人とも【G-4/一日目 深夜】でお願いします。

143 ◆ncfd/lUROU:2012/10/27(土) 13:16:54 ID:CyaFo5TY0
投下乙です!

・悪者とプリンセスのお友達なカンケイ
レイナ様はやっぱり悪党になりきれてないなぁw
小春はまだ殺し合いしてる自覚がないからブレないんだけど、それが不安要素でもある
きらりはもう……きらりだなぁとしかw

・邂逅、そして分たれる道
親友同士が最悪のシチュエーションで遭遇しちゃったか
誤解こそしなかったけど、それでも加蓮にはつらい状況だな
奈緒はもう止まれないだろうし、どこまで行ってしまうのか

神崎蘭子、赤城みりあ、予約します

144名無しさん:2012/10/27(土) 17:37:15 ID:ak.GCILo0
投下乙〜
キャラ作りやら妄想やらブレねえなあ、こいつら
いや、ブレないためにキャラ作ってる子と、自然としてしまった妄想に引きづられてる子は別なんだが
そしてそっか、P殺されたのは楓さんだったかー。このもう地に足ついてないような幽幻な雰囲気いいな〜
きらりんはなんか見てて安心するぶれなさ。にょわー☆ 
光帝もなんだかんだで悪党には成りきれない子やのー
奈緒の殺し合いにのった理由が切ない。P人質ってのが本当にスタンスに影響するロワだよな、ここ

145名無しさん:2012/10/28(日) 14:50:48 ID:XQ/Fg86E0
わくわく

146 ◆n7eWlyBA4w:2012/10/28(日) 21:06:31 ID:tt7Ll4560
感想ありがとうございますー
脇山珠美、新田美波、櫻井桃華、予約しますね

147名無しさん:2012/10/29(月) 02:12:48 ID:daQ5Eog60
テス

148 ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:32:12 ID:daQ5Eog60
しまった、小文字打てるか確認した後に寝落ちしてた!
遅れてしまい申し訳ありません
ナターリア、投下します

149太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:35:01 ID:daQ5Eog60
やっぱり、あったかいほうがいいヨ




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





暗い、暗い、夜の中において、その場所だけが、白き大気に覆われていた。
視界を遮る白い靄。
規則的に繰り返す水の音。
空気が白い。
無色無臭であり、夜の黒を写すはずの大気が、色と匂いを伴っている。
夜の闇とせめぎ合うは不透明な白。
香り漂うは独特な硫黄の臭気。
本来大気中にあるはずのない異物があるというこのできすぎた状況は、何かの暗喩か。
夜より切り離された白い世界で、ただ一人、少女だけがその身に闇を帯びていた。
否。
それは黒であっても闇ではあらず。黒でありながらも水滴を湛えた彼女の肌は、太陽のごとく輝いて見えた。
赤みを帯びた黒茶色い肌、即ち褐色。
この島に幾多ものアイドルが連れ去られて来ているとはいえども、そのような肌の色をしているのは、ただ一人しかいまい。
ナターリアだ。
褐色の肌に、薄羽蜻蛉色の髪、紫がかった黒の瞳を持った彼女が、一人、露天風呂へと入っているのだ。

「ん〜ッ、温泉はやっぱり気持ちいいネ」

湯船の中で、ぐぐーっと少女は背伸びする。
つられて、衣服の拘束から放たれた彼女の体が開放感に身を震わせた。
発達途上にあるはずの、しかし既にして十分すぎるほどの扇情的なスタイルを備えた身体。
官能的な首筋により下、不透明な水面から覗くのは、子どもならではの華奢な肩。
水滴を湛えた鎖骨の溝には、黒陽の髪がへばりついている。
湯気に当てられ、髪から滴り落ちる水滴は、そのまま朱を帯びて水面に浮き出ている胸の谷間に落ちていく。
今は白き水面の中に隠されているが、ダンスによって引き締まったお尻や太股も、少女の放つ無防備な色気と相まって見る者を千夜一夜の夢へと誘うだろう。
惜しむべくは、この場にて、少女に夢見るものが誰一人としていないことか。
ついてきてくれるファンも、三人で結婚しようと笑いあった親友も、一緒に日本語を勉強した後輩も、ナターリアのNo1であるプロデューサーもいない。
ナターリアは、一人ぼっちだった。

「でも、どうしてだろナ。いつもより、ずっと大きなお風呂なのに、なんでかあんまり暖かくないヨ」

ゆったりと湯につかって薄紅色に染まった頬が、ぶくぶくとお湯の中に沈んでいく。
全身を包んでくれるお湯はこんなにも温かいのに、心の中まで満たしてくれない。
なんでだろ。夜で、露天風呂だからカナ。
首を傾げながらも、ナターリアはひとしきり入浴を楽しんだので、ほかほかに温まった身体で脱衣所へと戻ることにした。
ひたひたと足音を立て、石畳の床を歩いていく。
他に客はいないけれど、ナターリアはタオルを身体に巻くことを怠りはしなかった。
恥ずかしいからではない。
その方が、暖かいからだ。

150太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:35:34 ID:daQ5Eog60
「せっかくなら、シロムクがあればよかったのにナー」

湯冷めに注意しながらも脱衣所に辿り着いた少女は、用意されていた新品の下着を着こみ、『ユカタ』なる服へと着替える。
ブラジル生まれのナターリアには馴染みの薄い服だが、他のアイドル達がこの服で、お仕事していた姿を何度か見たことがあった。
もちろん、あの時アイドル達が着ていた服に比べれば、温泉施設に据え置きの浴衣なんて安物で、可愛さは少し足りなかったけれど。
同じ浴衣ならだいたいこんな感じだろうと、ナターリアは適当に着替えていく。
結果、だぼだぼに着崩れてしまっているが、入浴ついでに洗っておいた衣服がまだ乾いていない以上仕方がない。
とりあえずは紐で結んでおけばオーケーだナと一人大きく頷き、着替えを終える。

「あ、忘れてタ。ニュウヨク後といえば、これダヨ♪」

ふと、思い出したことがあり、長い裾をずるずると引き摺りながらも、ガラスケースの前に立つ。
中から取り出したのは、キンキンに冷えたフルーツ牛乳。

「うんっしょッ、うんっしょッ」

苦戦しつつも、何度か指を滑らせてようやく蓋をあける。
メインディッシュがあるとはいえ、日本といえば温泉で、温泉といえばフルーツ牛乳だ。
少女はちゃんと、作法に則り、腰に手を宛て、こくこくと喉を鳴らしながら牛乳を飲み進めていく。

「ぷは〜ッ、このイッパイのために生きている〜?」

生きている。少女は今も、生きている。
でも、何かが足りない。いつもなら、ここで、親友の叫び声が木霊するはずなのだ。
ナターリアニコンナコトオシエタノダレーと何故か友人はよく頭を抱えていた。
今も自然と思い浮かべてしまったほどだ。

「あ、そっか♪」

ぽんと手を打ち納得する。
そういえば、日本では浴衣の時はハイテイナイでないといけなかった。
ナターリアはいそいそと着たばかりの下着を脱いでいく。
これでよし、と心の中の親友へとガッツポーズ。

「キョーコはオレのヨメー」

151太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:36:03 ID:daQ5Eog60

満足した少女は和食堂へと向かうことにする。
この施設に辿り着いてすぐに迷い込んだそこには、大漁の食材と出来合いの料理が保存されていた。
わざわざ賞味期限まで書かれている念の入用だ。
もっとも、ナターリアは賞味期限など気にも留めずにそれを目にした瞬間、入浴後に食べようと強く心に決めていたのだが。
少女の心をそれほどまでに囚えて離さない料理など、後にも先にも一つしかない。
お寿司だ。
冷蔵庫を開け、極上と書かれたシールが貼り付けられた容器を確保するナターリア。
そのままウキウキと畳の間へと歩いて行くと寿司を置いて戻り、今度はお湯を沸かしてお茶を作って持っていく。
食堂の常として、並べられた机の上には、ちゃんと割り箸入れも醤油を始めとした各種調味料も用意されていた。
これなら、存分にお寿司も楽しめる。

「イタダキマス」

ぱちんっと、両手を合わせる。
ぱちりっと割り箸を割る。
かぱりっと蓋を開ける。

「おお〜」

目に飛び込んでくるのは色とりどりのお寿司達。
お寿司自体は仕事帰りにプロデューサーに連れて行ってもらって何度か食べたことがある。
が、大体いつも、お世話になったのは、回転する寿司ばかりだった。
今少女の眼の前にある寿司は、出来合いといえども、極上ものだ。
回転寿司などと比べ物にならない品質のお寿司であることは、目に見えて明らかだった。
少女の見たことがない具材や、見知ったお寿司でも明らかに艶と大きさの違うそれに、思わずよだれが垂れそうになる。

「ジュルリ」

訂正、既に垂らしていた。
きっと、これは、今まで食べた如何なお寿司よりも美味しいに違いない。
もはやナターリアには、欲望抑える理性など存在していなかった。
ただ食欲だけに支配されていた。
そこから先は言うまでもない。
ナターリアは食べた。ひたすらに食べた。
ちょうどお腹が空いていたことも相まって箸の歩みは止まらない。
次から次へとお寿司は少女の口の中へと消えていき、遂には空の容器だけが残った。

「ふ〜、ごちそうさまなんだ゙ヨ〜」

上機嫌でお腹をさすって、空の容器の蓋を閉じる。

「あー、美味しかったナー」

152太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:36:41 ID:daQ5Eog60

そのまま、満足気に呟いて、呟こうとして、でも。

「……プロデューサーやキョーコ、ニナと一緒なら、もっと美味しかったんだろナー」

そこが、少女の限界だった。
ぱたりと、大の字で床に寝そべる。
あー、あーっと、意味もないうめき声を何度も上げた後で、絞りだすようにぽつりと呟く。

「……暖かく、ないヨ」

下町の小さな銭湯だったけど、響子と仁奈と一緒に入った銭湯はもっともっと暖かかった。

「……美味しく、ないヨ」

プロデューサーが奢ってくれたお寿司は回ってて100円だったけどずっとずっと美味しかった。

「……楽しく、ないヨ」

銭湯も、お寿司も、すごく、すごく、大好きなものなのに、一人だとちっとも楽しくない。
そのことが、とても辛かった。くしゃりと、表情が歪む。
慌てて左手で顔を抑えようとするも、ナターリアはそのまま、ぴたりと動きを止めた。
少女が凝視するは左手の薬指。
いつか指輪をはめたいと願っているその場所を、今は約束が護ってくれていた。

約束。ナターリアはプロデューサーとずっと一緒という約束。

既にして約束は破られた。
ナターリアとプロデューサーは引き離され、どちらの命もいつ潰えるか分からない。
それでも、一度契った約束なのだ。
叶えるために、言われるがままに人を殺すべきなのか。
ナターリアにとっての一番であるプロデューサーのために、響子を、仁奈を、他のアイドル達を殺すべきなのか。
そうすれば、ナターリアとプロデューサーはハッピーになれるというのか。

「……なれないヨ。きっと、それは、とても寒い。寒い、ヨ」

自問自答するまでもなかった。
身体の震えこそ、答だった。
寒いのは苦手だ。誰かとくっついていなくちゃ耐えられない。
思い起こすは、誰かのプロデューサーが殺されたあの光景。
それだけで、ナターリアの身体は震え出して止まらなかった。
目が覚めた時のように、胃の中の物を吐き出したりはしなかったけれど、それでも震えは止まらない。
震えが止まらないというのなら、きっと、そう、誰かを殺すのは、誰かが殺されるのは。

とっても、とっても、寒いことなんだ。

153太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:38:10 ID:daQ5Eog60

「ナターリアは嫌、寒いよりも、やっぱり、あったかいほうがいいヨ。熱いくらいがちょうどいい」

かざしていた掌をぎゅっと握りしめて、拳を作り、少女が上半身をはね起こす。
寒いのは嫌だ、寒いのは苦手だ、寒いのは一人じゃ耐えられない。
一人になっちゃ、ダメなんだ。

「ナターリアはミンナのお嫁さんで、イチバンなんだから」

他のみんなを押しのけるて一番になるのではなく、みんなの一番になる。
自分で口にして、それこそが自分のやりたいことなんだって、そう気付けた。
ずっと、ずっと、悩んでいた。
人殺しなんてしたくない。誰かに殺されたくもない。プロデューサーにも死んでほしくない。誰にも死んでほしくない。
あんまり頭は良くないけれど、それでも必死に考えて、考えて、考え続けていた。

でも、ようやく分かった気がする。

殺し合いは寒いことで、寒いことが嫌ならば、暖かいことをすればいい。
みんなを熱くしてしまえばいい。
そうしたら、寒いの反対なのだから、誰も殺したり殺されたりしないはずだ。

そして、ナターリアがしたくて、誰かを熱くできることなど、ただの一つしかない。

アイドルだ。

「プロデューサー、見てて。 ナターリア、アイドルになるカラ! あの日テレビで見たようなアイドルになるカラ!」

アイドルには力がある。
そのことを少女はこの島にいる誰よりも知っている。
多くがスカウトされたことをきっかけにアイドルを目指した中、少女ははじめからアイドルみたいになりたいと願っていた。
かつて少女が見たテレビの中で、アイドル達はどこまでも輝いていた。
ただの一人の少女に、ああなりたいと、あんなふうに可愛くなりたいと思わせ、行動させた。

もしもそのアイドルと、同じことが自分にできるなら。

殺しあいとか難しいことを全部、全部吹き飛ばして、凶器を手に取るよりもマイクを手にして踊りたいと思わせることができさえすれば。
アイドル達だけでなく、ちひろ達にも届いて、熱くさせさえすれば。

それは、聖夜の奇跡をも超えたハッピーだ。

「ナターリア、やるヨ! 情熱なら負けないカラ!」

地図を広げて、目を通すと、目的の場所はすぐに見つかった。
野外ライブステージ。
そこで一世一代のLIVEを開く。
単にLIVEを開くだけなら時と場所を選びはしないが、みんなをハッピーにしたいと願う以上、尽くせる手は尽くしたかった。

154太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:39:37 ID:daQ5Eog60
本気なのだ。
少女は、いつでも、どこでも、どこまでだって、本気なのだ。
本気でアイドルに夢を見ているのだ。

一度決めてしまえば少女の行動は速い上に遠慮がなかった。
温泉施設を物色し、重くならない範囲で色々拝借すると、洗濯し終えて綺麗になったワンピースに袖を通す。
靴も履き、扉を開け、少女は大きな声で叫んだ。

「今まででイチバンの盛り上がりにするカラ! プロデューサーも応援しててネ!
 お返しにプロデューサーはナターリアが応援するノ! ガンバレ! ガンバレ、ダーリン!」

ガンバレと。
囚われている大好きな人に、寒さに負けないでガンバレと。
声と想いを振り絞ってエールを送って、ナターリアは走りだした。
また一緒に、みんなで、温泉行ってお寿司を食べに行ける暖かいその日まで。


【F-3 温泉/一日目 深夜】

【木村夏樹】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、確認済み不明支給品×1、温泉施設での現地調達品色々×複数】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして自分もみんなも熱くする
1:B-2野外ライブステージでライブする

155太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 07:40:04 ID:daQ5Eog60
投下終了です

156太陽のナターリア  ◆6MJ0.uERec:2012/10/29(月) 10:12:37 ID:daQ5Eog60
あ、すみません
最後の状態表、名前がナツキチになってます
コピペして名前だけ変え忘れた模様
最後の最後にポカミスしてしまい申し訳ありません


【F-3 温泉/一日目 深夜】
【ナターリア】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、確認済み不明支給品×1、温泉施設での現地調達品色々×複数】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして自分もみんなも熱くする
1:B-2野外ライブステージでライブする

157 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/29(月) 14:16:59 ID:o96mk.GU0
皆さん投下お疲れ様です。
>ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です!
凄いネタ……アイマス本家の愛に溢れているw
しかしながら、ウサミンのキャラを綺麗に捉えていて素敵でした!


>愛しさは腐敗につき
楓さんが……哀しそうで、実に未亡人っぽ(ry
ままゆは殺しきれないか……うん、いいなあ
しっとりとした雰囲気でしんみりでした。


>LET'S むふむふっ
おおう、妄想世界に入り込んでいる……
結局逃げ込むしかないのか現実を見るしかないのか。
今後が凄い気になるなあ

>悪者とプリンセスのお友達なカンケイ
きらり〜んパワー☆
と言う感じのきらりんである。
小関さんはまあですよねーw
小春は可愛い。

>邂逅、そして分たれる道
奈緒…………
加蓮と最悪なすれ違いをして。
ああ、哀しい。出来る事なら和解して欲しいけど……苦しいなぁ


>太陽のナターリア
ナターリア全開!
ナターリアらしさが溢れた素敵な話でした。
ああ、もうナターリアだとしかいえないw

此方も期限を勘違いしておくれましたが投下します。

158少女/大人 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/29(月) 14:18:11 ID:o96mk.GU0
私がまず確認したのは名簿であった。
焦りながら名簿に目を走らせ、何度も、何度も、確認する。
そうして、列挙された名前の中に、二人の名前が存在しない確認し、私は安堵した。

そう、私――大石泉にとって大切な親友の名前がない事に。

私にとって、大切な、大切な、親友。
さくらと亜子。ずっと一緒だった友達。
こんな私に、友達で居てくれた二人だ。
アイドルだって、二人が居るからなろうと決めたんだ。
三人でなれるなら、いいと思えたから。
大切な二人が、もしこの場にいるのなら……そう考えるだけでも恐ろしい。
だから、私は二人が巻き込まれてなくて、本当に安心したのだ。

けれど…………まだ、安心できない。
プロデューサーが人質になっているのは知っている。
でも、私みたいにグループで活動しているアイドルだって居るんだ。
そのグループの誰かが人質になっている可能性だってある。
さくらや亜子が人質になっていない……なんて、誰が否定できるものか。
だから、安心なんて出来ない。

他に考えることだって沢山ある。
何で、私が選ばれたんだとか。
三人のグループの内で、私だけが何故?
自分で、頭がいいというのは気が引けるけれど、その頭脳を期待されて?
これでも留学の誘いが来る位にできるんだもの。
それはありえる筈だ。

……けど、考えたくないけど。
論理として、当然考えなければならないことがある。
さっきの逆だ。

私が、全く、期待されてないから。

アイドルとしての素質が、全くないから。
こんなところで殺し合いをして、果てても構わないから。
三人の内で、最も要らないから。


そう、思われたんじゃないかと思う。

違う、違うと頭を振って否定したいけれど。
私を励ましてくれるプロデューサーも、親友も居ない。
だから、そうなんじゃないかと思ってしまう。


そして、思いたくないのに。
考えたくないのに。
冷静な所で、自分を分析してしまう自分がいて。

その自分が囁くのだ。



―――お前は親友から、捨てられたんだって。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

159少女/大人 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/29(月) 14:18:51 ID:o96mk.GU0






「さて、まあ、情報交換は終わったわね」
「交換する情報も殆ど無かったですけれど」
「とりあえず、現状を確認するだけでも意味があるのよ」
「そういうもんですか」
「そういうものよ」

ある一軒家で、黙々と話あってる三人が居た。
まるで、家族会議のように顔に突き合わせて。
テーブルにはお茶と名簿などが載せられていた。

「……状況は良くないけど、三人合流できただけでもよしとしましょう」

そう溜め息を吐きながらも、あえて明るく言った女性は、川島瑞樹といって。
落ち着いた妙齢の女性なのだが、何故か可愛さを売っているアイドルになっていた。
それが瑞樹と話をしていた少女――大石泉にとって非合理的に見えてしょうがない。
二十八歳という年齢なのだから、それに似合う売り方をすればいいのにと思ってしまう。

「果たしてそれがいいことか解からないですけど」

集まったことで、見つかりやすいデメリットだってある。
淡々に泉は事実だけを述べて行くだけだが、それに瑞樹が噛み付く。

「こら、若い子がそんなに悲観的にならないの!」
「それはそうですけど……」
「あ、私まだまだいけるわよ!」
「……もう、いいです」

瑞樹の言う事は最もなのだが、その後の言葉で台無しだ。
泉はそう思って、思わず溜め息を吐いてしまう。

「まぁー川島さんも、泉ちゃんもそんなカッカしないでさ、ちなみに川島さんはまだまだいけると思うよ!」
「貴方が言うと嫌味しか聞こえないわよ……」
「へ? そう?」

二人をフォローするように言うのが、家に集まった最後の一人であった野球のユニフォームを来た、姫川友紀だった。
彼女は二十歳なのだが、外見は十五歳の泉と同じぐらい幼く見えて、瑞樹にとっては羨ましくて仕方ない。
それに友紀は気付く訳も無く、きょとんとするばかり。

「……ま、いいわ。とりあえず今後の予定を確認しましょう……大前提として殺し合いはしない。いいわね」
「はい、勿論」
「うん、当たり前だね!」

偶然にも、スタート地点から早々と合流できた三人だが、目的は既に決まっていた。
アイドルとして、人として、殺し合いはしない。
それは大前提として、アイドルとして、やってはいけない事であることを理解していたから。

「まず泉ちゃんは首輪を解除……だったかしら?」
「ええ、まずこれを何とかしないと、幸いそういう知識はありますので」
「そう、若いのに凄いわね。負けてられないわ」

泉が考えたのは、自分達を縛ってる一つである首輪を解除する事だ。
自分はプログラミングや、機械には強いという自負がある。
どんな難しい仕組みでも出来る、やらなければいけない。
そういう自負があったのだから。これは自分の仕事だと言い切れる。
まるで、自分の存在を示すように。
そんな泉は、瑞樹は何か思いながら見つめて、友紀のほうを向く。

160少女/大人 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/29(月) 14:19:21 ID:o96mk.GU0

「まず、友紀ちゃんは、グループのメンバーと合流……いいわね?」
「うんっ! 皆……絶対殺し合いなんてしてない……そう信じてる。皆で脱出したい」

友紀は胸に手を当て、祈るようにそう呟く。
彼女が所属しているグループ――FLOWERS。
花が似合うアイドルと言う事で、結成されたグループだが、あっと言う間にスターダムを駆け抜け、今や一大グループになっている。
プロダクションを代表するグループの一人が、友紀だった。

「……誰かが、グループの皆を生かそうと殺し合いに乗ってるかもしれないですよ」
「泉ちゃん!」
「有り得なくない、でしょ」

泉から友紀に出される、疑問。
瑞樹の制止の声にも泉は止めなかった。
当たり前の論理でしかない。
泉だって三人グループの一人なのだから。
親友が居たのなら……乗っていたかもしれないのだから。

「ううん……あたしはそうだとしても、皆を信じたい」
「そうですか」
「だって、『アイドル』だから。もし乗っていたりしたら……ぶん殴って、止めさせるよ……だって」

それでも、友紀はみんなを信じると言って。
乗っているなら、止めると言い切って。

「アタシ達は、大切な、仲間なんだからっ!」


仲間だから。
大切な仲間だから。
みんなを信じて、信じるからこそ、乗っているのなら止めてみせる。
止められると信じているから。
そこにあるのは、ただ、仲間への絶大な信頼。

それだけだった。それだけでいいのだから。

「…………仲間、か」

泉は、呻くように呟いて。
心の中のモヤモヤがどんどん広がっていて。
信じ切れない自分が、悔しくて。
どうしようもないくらい自分が矮小に見えてきて。
泣き出しそうなぐらい哀しくて。


「――ストップ。泉ちゃん。これ以上は考えない方がいいわよ」


そんな負の思考の連鎖を止めたのは、瑞樹だった。
泉を見つめる視線は正しく大人で。


「こんな状況なんだから、駄目な方ばかり考えてしまうのは当たり前。解かる?」
「…………はい」
「自分を責めては駄目よ。誰も悪くない。そうに決まってるんだから」

誰も悪くない。
そうだ、そうに決まってる。
泉もそう思いたい。
瑞樹は泉を優しく抱きしめて、囁く。

161少女/大人 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/29(月) 14:21:42 ID:o96mk.GU0

「難しく考えるのは大人の役目よ……任せなさい」
「川島さん……」
「私も……あの馬鹿な子に真意を聞きたいわ」
「馬鹿な子?」
「大人の話よ」

そう言って、瑞樹の呟きを追究する事はできなかった。
憂いの篭った言葉だけれど、きっと何かあるのだろう。

「あははっ! 川島さん、お母さんみたいだねっ!」
「ちょ、ちょっと友紀ちゃん、冗談きついわよ!」
「そっくりでしたよ!」
「ま、まだまだ若いわよ!」

友紀の茶化しで、場は和んで。
泉自体も何故か、心が落ち着く。

(誰も悪くない、か)

誰も悪くない。
そう、きっと、悪くない。

(今は信じるしかないよね、皆を)

泉は心の中で呟いて。

思うのは、二人の親友の事だった。
帰らなきゃ、二人のもとへ。


大切な、大切な親友なのだから。


【A-4/一日目 深夜】

【大石泉】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らず、親友の下へ帰る。
1:そのためには首輪を解除
2:難しい事は…………考えないようにしないと

※さくらと亜子(共に未参加)とグループを組んでいます。

【姫川友紀】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らない。
1:仲間を信じる。
2:万が一乗ってたら、止める


※FLOWERSというグループを、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人同じPプロデュースです。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

162少女/大人 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/29(月) 14:23:47 ID:o96mk.GU0




そう、やるのはあくまで大人よ。
あの馬鹿な子……ちひろは何を考えてるのか。
それを知るのは大人だけでいい。

誰も悪くないと考えるなら。

ならば、そうせざる終えなかった状況が、あるのだ。

誰も悪くない、けどこんなことやらなければならない。

そういった事情があり、そしてその事情は残酷でしかないのだろう。
理不尽で、哀しすぎる事情が。
きっと子供には聞かせられない事情があるのだろう。

だから、それを知るのは、私だけでいいだろう。

そのためにも、ちひろから聞く。
それがあの子の親友としての使命だろう。

さあ、頑張りましょ。


自分の為に。
泉ちゃんたちの為に。
プロデューサーの為に。

そして、大切な親友の為に。


【A-4/一日目 深夜】

【川島瑞樹】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らず、親友に真意を聞く。
1:泉をよく見る

※千川ちひろと呑み仲間兼親友です

163少女/大人 ◆yX/9K6uV4E:2012/10/29(月) 14:24:30 ID:o96mk.GU0
投下終了しました。このたびは遅れて申し訳ありませんでした。

そして、十時愛梨、高森藍子予約します。

164 ◆John.ZZqWo:2012/10/29(月) 18:31:20 ID:5EQEQc4I0
すいません。初っ端なのに遅れちゃいます。今晩中には投下するのでご容赦をー。

>◆yX/9K6uV4E氏
投下乙です! 感想はまたのちほど。

165彼女たちのためのファーストレッスン  ◆John.ZZqWo:2012/10/29(月) 22:53:51 ID:5EQEQc4I0
「そもそもおかしいんですよね」

青白い月明かりで照らされる山の斜面、丁寧に整備されたハイキングコースをトコトコと靴音を立てて下りるひとりの少女がいた。

「ボクみたいなかわいくて可能性のある女の子が殺されちゃうかもしれないってことが」

月があるとはいえ不確かな足元に、慎重に慎重にと歩を重ねている彼女の名前は輿水幸子という。
誰よりも自分の可愛さに自負のある彼女は、この“アイドル同士の殺しあい”について非常に懐疑的であった。

「もしボクがプロデュサー……いえ、もっと偉い立場の人だったとしたら、絶対にボクをこんなことに参加させません。
 だって、そうじゃないですか。そんなことありえないんですよ。人類史にとっての大いなる損失なんです」

故に、この殺しあい云々というのは所詮“ドッキリ企画”だ――というのが彼女の考えであった。

「あの……、あのスプラッタなのだって、きっと人形かなんかですよ。VFXです。CGとかスペシャルエフェクトです」

と強がってはいるものの、不安もなくはない。
例えドッキリ企画だとしてもこんな山中にほったらかしにされるのは怖いし(本当にドッキリならスタッフが見守っているはずだが)、
その他にも懸念することは色々とあった。なのでその不安を少しは紛らわそうと彼女は後ろを振り返り――

「ねぇ、聞いてるんです……あれっ!?」

”同行者”の顔を見ようとしたのが、そこには誰もおず、見えるのは彼女が降りてきたハイキングコースの道程のみであった。


 @

166彼女たちのためのファーストレッスン  ◆John.ZZqWo:2012/10/29(月) 22:54:47 ID:5EQEQc4I0
「えっ、どうしてですか? なんでいなくなっちゃうんですか?」

いつの間にだろう、彼女と一緒に山を下りてきていたはずの少女の姿がどこにもなかった。
その少女とは共に山の中でばったり出くわし(かつ、互いに死ぬほど驚いた後)、2人とも殺しあいをしようなどという気は毛頭なく、
だったらどこか明るい場所でゆっくりしようと、煌々と明かりを灯す遊園地のほうへと一緒に山を下りていたのだ。
なのに、(輿水幸子としては)一緒にお話しながら歩いていたはずなのに、その少女の姿はどこにも見当たらない。

「こ、これもドッキリなんですか?
 ボクを驚かそうと隠れて……、でもお生憎様ですね。ボクはこんな幼稚な脅かしには――」
「わ、私ならここにいますけどー……」
「うんにゃあああああああああああああああああああああッ!!」

獣も寝静まった夜の森に輿水幸子の乙女らしからぬはしたない悲鳴が――もとい、“可愛らしい悲鳴”が響いた(※輿水本人チェック済み)。

「ど、どこから出てくるんですかぁ……じゃなくて、どこにいってたんですか」
「どこにも……でも、そこで新しいトモダチを見つけたので力になってもらおうと……」
「え、誰かいたんですか?」
「…………これ」

輿水の目の前、色素の薄い長い髪を整えることなく方々に散らしたままの一見すればお化けと見間違えても無理はない陰気な印象の少女。
一応はアイドルであるらしい彼女――星輝子が新しいトモダチだと目の前に差し伸べたのは1本の“キノコ”であった。

「これ……って、なんですかこれ?」

しかもそのキノコは微妙に発光していた。ちょっとどころか相当に普通じゃない気がする。

「ツキヨタケ」

ツキヨタケというらしい。
星輝子は普通に手のひらにのせているが、自分は触りたくもないなぁというのが輿水幸子の率直な感想だった。
それはともかく――

「トモダチっていうのは?」
「これ」
「そんな気はしてたんですけどね……」
「今から新しいトモダチ」

……ともかくとして、ツキヨタケ?を大事そうにしている星輝子を促すと輿水幸子は再び山を下り始めた。


 @

167彼女たちのためのファーストレッスン  ◆John.ZZqWo:2012/10/29(月) 22:55:25 ID:5EQEQc4I0
「あー、お気に入りの靴が泥だらけになってるじゃないですか」

あれから十数分、2人はハイキングコースの途中にあった休憩所――とはいってもベンチと屋根だけの東屋の中にいた。
例え十数分にすぎなくとも彼女たちの細足に山歩きは過酷で、座れる場所を見つけるやいなやに吸い込まれるのも致し方ない。
それから一息、彼女たちは――いや、輿水幸子はひとりで配られた鞄の中身を改めて検分していた。
星輝子のほうはというと、東屋の外に置いてあった鉢植えにさっき拾ったキノコを移植するのに夢中のようだ。

「うーん……」

輿水幸子の手の中には一丁の拳銃があった。
彼女の小さな手でももてあますことのないコンパクトな拳銃で、重さもそれほどでもない。
一緒に添えられていた説明書によるとこの拳銃の名前はグロック26というらしい。

「おもちゃ、ですよねこれ。なんかプラスチックみたいですし、軽いですし」

彼女にとっての懸念のひとつがこの銃だ。もしこれが本物の銃だとしたら、この殺しあい企画も本当のことだとなってしまう。
確認することは容易い。一度撃ってしまえばそれが本当か嘘かがわかる。
しかし、それを確認する勇気はなかったし、あったとしても実行できたかどうかはわからない。

「この首輪だって、どう考えてもおもちゃっぽいですし……」

もうひとつこれが本当かどうかを確認する方法がある。爆弾入りだという首輪を外そうとしてみればいいだけの簡単なことだ。
だがこれも、いやこちらは死んでしまうと警告されているだけにより、とても到底には確認するなんて勇気はもてない。

「……………………」

もしドッキリなら(ドッキリに決まっているけど)、こんな屈辱的なことはない。
真夜中にどこともしれない場所に放り出されて、恐怖に震え泣きそうになったりしてるところをいろんな人に見られてしまうのだ。

「まぁ、本当でも嘘でもこのステージで一番になるのはボクなんですけどね!」

どこかで自分を撮影しているはずのカメラにむかって嘯く。
本当はプロデューサーの名前を呼びたかったがそれはしない。仕事中に身内の名前を呼ぶのはNGだ。画を使ってもらえなくなる。
鼻の頭が熱く目もしぱしぱするけどそれも我慢。月明かりがあるとはいえ、現場が夜で暗いのは幸いなことだった。


 @

168彼女たちのためのファーストレッスン  ◆John.ZZqWo:2012/10/29(月) 22:55:51 ID:5EQEQc4I0
「あ、真っ暗」

そろそろ出発しようかと鞄を背負ったところで東屋の中が停電のように真っ暗になった。いや東屋の中だけでなく周囲一帯がだ。
どうやらわずかな明かりとなっていた月に雲がかかってしまったらしい。

「もう、しかたないですね」

目の前すら見えない闇の中(正確には星輝子のもってるツキヨタケだけは光って見えるので彼女の場所だけはわかる)、
輿水幸子は懐中電灯を取り出すべく背負いなおした鞄をもう一度降ろした。
そして、ほどなくして闇の中にちかりと白く眩しい光が点る。
だがしかし、それは輿水幸子の持つ懐中電灯からではなく、ましてや星輝子のものからでもなかった。

「(誰!?)」

光が浮かび上がったのは彼女たちが下りてきたほうとは逆で、その人物はわざわざ山を登ってきたらしい。
その何者かが持つ懐中電灯は何かを探すかのように右往左往し、輿水幸子らが潜む東屋へと近づいてきていた。
すぐに東屋がそこにあることに気づいたのだろう。揺れていた光はぴたりと東屋のほうへと固定されるとどんどんと近づいてくる。

「(か、隠れないと……!)」

何故かはわからないけど(無論、彼女は怖かったのだが)、輿水幸子は光を避けるよう、咄嗟に柱の影へと身を隠した。
柱は細く小柄な彼女といえどもその姿を隠しきれてはいない。しかしそれでも彼女は必死にその柱へと身をしがみつく。
額を柱につけると頭の中にドクンドクンという心臓の音が響きだす。
地面を通じて近づいてくる人物の足音が届き、更に懐中電灯の光が柱の上を舐めると心音は激しさを増した。

「(だ、誰……?)」

光が身を隠している柱の前を通り過ぎた隙に、輿水幸子はほんの少しだけ顔を出して近づいてくる人物の姿を確認しようとした。
だがしかし、逆光の中にいる人物の姿はよく判別できない。
わかるのは長い髪がなびいているから自分たちと同じこの殺しあい企画に参加している女の子だろうということ、
そして片手に懐中電灯、もう片方の手に――“大振りの鉈”をゆらゆらぶら下げているということ!

「サ、サツジンキ」
「のひぃ!」

喉の奥から変な声が出る。
気づけば、いつの間にか星輝子が背中にぴたりとつくように身体を寄せていた。声の振るえからして彼女も相当にビビっているようだ。
ゴリゴリと背中に押し付けられる鉢植えが痛いが、そんなことよりも今はどうすべきか。
少しだけ冷静になった彼女の脳みそがそれを計算し始めた。

「(れ、冷静に……殺しあいなんて嘘、誰も信じてない。驚かさないよう冷静に話しかければいいだけ)」

そして、意を決して柱の影から身を出そうとし――ようとしたが何もできなかった。
両手は柱からはがれず、足はガクガクと震えだしてとてもいうことをききそうにはない。輿水幸子は柱の影で涙を零しながら震えていた。

「(ボクはこんなところで死んじゃいけないのに……なんで、なんで……ッ!)」

彼女の一番の懸念は“もしその気になっている人がいたら?”ということだった。
例えこれがドッキリ企画だとしても嘘だと保証する何かがなければ本当のことだと思いこみ実際に誰かを殺す人が現れるかもしれない。
いや、そもそもとして輿水幸子はもうすでに気づいていた。

「(どうしてプロデューサーさんは助けに来てくれないんですかぁ……!)」

自分のプロデューサーがこんな企画を了承するはずがない。自分のことを一番だと言ってくれたあの人が。
他のアイドルたちにしてもそれは同じはず。だからみんな最初から全部気づいているにちがいない。
死体が本物にしか見えなかったとか、薬で眠らされるなんて尋常じゃないとかそんな些細なことが問題なんじゃなく、
プロデューサーを信じるからこそこの殺しあい企画はドッキリなんかじゃないんだってことを。

「(ボクは……ボクは……)」

近づいてくる足音がはっきりと耳にザクという音を刻む。
柱の影に隠れた輿水幸子からは直接姿は見えないが、しかしおそらくもう“射程距離内”だろということを彼女は確信していた。

「(ボクが一番に決まってますよね……!?)」

もう“そうする”しかない。彼女は後ろ手に鞄を探るとたどたどしい手つきで“それ”を取り出し胸の中に抱いた。
そして、今度こそ柱の影から身を出そうとした、その時――


『――み、みなさん! 私の声が聞こえまひゅはっ!?』


何か大きな声がその場に流れた。
しかも噛んでた。


 @

169彼女たちのためのファーストレッスン  ◆John.ZZqWo:2012/10/29(月) 22:56:24 ID:5EQEQc4I0
「はぁ〜〜〜〜〜〜……」

輿水幸子は東屋の床にへたりこむと大きなため息を吐いた。
“あの女”も立ち去り、彼女に襲い掛からんとする危機は当面のところ見当たりはしない。

「こ、今回のところは見逃してあげますよ……へへ」

言いながら彼女は山頂の方を見上げる。
そこから聞こえてきた声は、殺しあいをやめてみんなで協力し、プロデューサーを助けて逃げよう……そんなことを言っていた。
それについては、なんならボクが協力してあげてもいいんですよ――と彼女も思わなくもない。
だがしかし、今回に限ってはパスするしかない。
下りてきた山をまた登る(しかも山頂まで! 待ち合わせ場所は選んで欲しい)のはとても億劫だし、
その後にまた山を下りることなんか考えたくもない。
もう休みたい時間だし、シャワーを浴びたいし、あったかい飲み物が欲しいし、他にも色々ある。
しかし、そんななによりも優先しないといけない問題がある。

「“殺人鬼”を倒す手柄は“あなたたち”に譲ってあげます」

鉈を持った“あの女(結局後ろ姿しか見てない)”は山頂の彼女らの呼びかけを聞くとくるりと踵を返し山道を登って行ったのだ。
あの躊躇のなさはそれこそ“やる気”になっている証拠だろう。
しかしその上、背中を見せた彼女はそこに大きな銃を背負っていたのだ。おそらくはマシンガンという種別のものである。

「ボクが倒しちゃってもいいんですけどね。他人の“フリ”を奪ってまで出番を取るほどボクはおこがましくないですから、ハハ……」

へたりこみ、今しばらく立ち上がれそうにない輿水幸子。その手には間違えて取り出していたスタミナドリンクが握られていた。






「ツキヨにツキヨを浴びてツキヨタケー……フフ……この力、強い……」

星輝子は輿水幸子の葛藤をよそに、ただ新しい友人であるキノコを愛おしそうに愛でていた。






【E-5/一日目 深夜】

【輿水幸子】
【装備:スタミナドリンク】
【所持品:基本支給品一式×1、グロック26(15/15)、スタミナドリンク(9本)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:1番になるのはボクって決まってますよね!
1: 本気を出すのはよく休んでからです。

【星輝子】
【装備:ツキヨタケon鉢植え】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x1-2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:???
1: ???






 @

170彼女たちのためのファーストレッスン  ◆John.ZZqWo:2012/10/29(月) 22:56:49 ID:5EQEQc4I0
水本ゆかりは特殊な女の子ではない。暴力も血なまぐさいことも苦手でできるだけなら遠ざけたいと思っている。
控えめで我侭を言わず、清楚なお嬢様として周りから羨まれることもある。
本当なら、こんなシチュエーションの中に放り込まれたらただの犠牲者にしかなりえない。そんな女の子でしかない。

しかし、彼女にも譲れないものがある。絶対に譲れない約束がある。

「私が守らないと……」

木々の深みを増していく山の中、水本ゆかりは山頂への道をゆっくりと上って行く。






【E-5/一日目 深夜】

【水本ゆかり】
【装備:マチェット】
【所持品:基本支給品一式×1、シカゴタイプライター(50/50)、予備マガジンx4】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助ける。
1: 山頂に向かう。

171名無しさん:2012/10/29(月) 22:58:26 ID:5EQEQc4I0
以上で投下終了です。遅刻してすいませんでした。

>少女/大人
 真面目な話だと思うんだけど、川島瑞樹さんがいるだけでなにか面白く感じるのはなぜだろうw

172名無しさん:2012/10/30(火) 19:54:27 ID:aAiOB2mw0
>少女/大人
言われてみれば参加していないアイドルってどうなってんだろ?
単に選ばれなかっただけかもだけどグループ系は気になるよねw
そして川島さん結構ちゃんと大人やってるんだけどところどころネタ臭いのはさすがだなーw

>彼女たちのためのファーストレッスン 
そりゃ輿水ちゃんじゃなくても逃げますって!?
なんすかその装備は! まあ純粋奏者的には納得の攻撃力なんだけど
そして輿水以上にいつもどおりな輝子はほんと何考えてんだかw

173名無しさん:2012/10/30(火) 20:09:53 ID:81s.rQpc0
皆様投下乙です!

■まだ未予約のアイドル達

 【キュート】
 ○三村かな子/○緒方智絵里/○五十嵐響子/○前川みく/○小早川紗枝/○道明寺歌鈴/○榊原里美/○栗原ネネ/

 【クール】
 ○多田李衣菜/○藤原肇/○白坂小梅
 ○相川千夏/○佐々木千枝/○三船美優/○岡崎泰葉

 【パッション】
 ○大槻唯/○及川雫/○相葉夕美/○向井拓海/○日野茜/○城ヶ崎美嘉/○小関麗奈/○若林智香

 【書き手枠】
 残り1枠 (投下済み:佐城雪美、本田未央、喜多日菜子、大石泉、星輝子)


■予約中のアイドル達

◆ncfd/lUROU 神崎蘭子、赤城みりあ
◆n7eWlyBA4w 脇山珠美、新田美波、櫻井桃華
◆yX/9K6uV4E 十時愛梨、高森藍子

174 ◆John.ZZqWo:2012/10/30(火) 23:54:58 ID:w65nneVg0
小早川紗枝、向井拓海、佐々木千枝の3人を予約します。

175 ◆6MJ0.uERec:2012/10/31(水) 19:47:07 ID:hTzq03S.0
岡崎泰葉、榊原里美予約します

176 ◆6MJ0.uERec:2012/10/31(水) 21:27:29 ID:hTzq03S.0
失礼します。
このトリでぐぐってみたところ、トリキーがすでに使われていたため、トリ変えさせて頂きます

177 ◆ltfNIi9/wg:2012/10/31(水) 21:30:07 ID:hTzq03S.0
以後このトリで

178 ◆GeMMAPe9LY:2012/11/01(木) 03:44:48 ID:CLnv5WiA0
城ヶ崎美嘉、三船美優予約します。

179 ◆ncfd/lUROU:2012/11/01(木) 16:54:53 ID:0YTfmtjg0
神崎蘭子、赤城みりあ投下します
遅れて申し訳ありませんでした

180すれ違いし意思よ! ◆ncfd/lUROU:2012/11/01(木) 16:56:12 ID:0YTfmtjg0
遊園地。本来ならば大衆が集い様々な娯楽に興じる夢の園だ。
しかしながら、この殺し合いの中では夢の園などそれこそ夢物語。
賑やかな音楽も動き続けるアトラクションも、殺し合いの最中とあってはただ見るものに場違いだという印象を与えるだけだ。
そんな場に、一人の少女がいた。
その身に纏いし黒は夜の闇のように深く、その身を染めし白は日の光のように眩しい。
まさに陰と陽、闇と光。
そのような相反する二つの要素を統べる魂は、混沌すらも魅了し従える。
瞳に映るは地獄の業火。髪に宿るは無慈悲なる銀光。
少女を構成する様々な要素が、まるで少女が常世とはかけ離れた存在であるかのような印象を周囲に与えている。
それでも、少女は普通の女の子だった。
そう、殺し合いに苦悩し目に涙を浮かべる、普通の女の子。
その名を、神崎蘭子といった。



「光無き世界よ!(どうしよう……!)」

私は、どうしたらいいんだろう。
ベンチに座り込んだ私は、ただそれだけを考えていました。

「殺戮の宴に躍り狂うか(殺し合いに乗るべきなのかな……)」

私はプロデューサーを助けたい。
プロデューサーと一緒にいたい。
そのためには、殺し合いに乗って、優勝しなくちゃダメで。
だって、そうしなきゃプロデューサーが殺されちゃうから。
プロデューサーに死んでほしくない。
もっとずっと、私を見守っていてほしい。
それに、私だって死ぬのは怖い。死にたくなんて、ないんです。

181すれ違いし意思よ! ◆ncfd/lUROU:2012/11/01(木) 16:57:22 ID:0YTfmtjg0
「望まれざる鮮血の結末(でも、誰も殺したくなんてないよぉ……)」

私はプロデューサーの期待に答えたい。
そのためにも、なおさら誰かを殺すなんてできなくて。
だって、プロデューサーは優しいから。
自分のために私が誰かを殺すことを、誰が殺されることを、プロデューサーはきっと望まない。
それに、誰かを殺すなんて人として、アイドルとして間違ってるって、そう思うんです。

殺し合いに乗らなくちゃいけないと思う私も、誰かを殺すなんてできないと思う私も、どっちも本当の私です。
だから、どっちか一つだけなんて選べなくて。

「明日見えぬ我が旅路よ……(プロデューサー、私、どうしたら……)」

ぽつりと漏れた呟きは、この場にいないプロデューサーに頼ろうとしているもので。
プロデューサーの助けになれるアイドルになってみせると誓ったのに、結局プロデューサーを頼っている自分が情けなくて。
気がつくと、頬を涙が伝っていました。

「大罪抱きし我が身に戒めを……(ダメ……こんなことじゃまたプロデューサーに迷惑かけちゃう……)」

そう思うけれど、拭っても拭っても涙は止まってくれなくて。

「ううぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

私は泣き続けることしか、できませんでした。



182すれ違いし意思よ! ◆ncfd/lUROU:2012/11/01(木) 16:57:55 ID:0YTfmtjg0
赤城みりあはじっと息を潜めていた。
幼いみりあにとって、暗闇とはすなわち恐怖そのものだった。
だから、見えた明かりに向かって必死で走った。
そうしてたどり着いたのは、遊園地。
普段のみりあならばおおはしゃぎするであろう場所だ。
しかし、彼女ははしゃがなかった。声さえ上げなかった。
何故なら、先客がいたから。
みりあに背を向けベンチに座る、ひらひらとした黒い服を着た少女。
アトラクションの影から顔を出して様子を伺うみりあは、その少女を知っていた。

(あれって……蘭子ちゃんだよね?)

神崎蘭子。何を言ってるのかよくわからないから会話したことはあまりなかったが、間違いなく知り合いだ。
声をかけようと足を踏み出したところで、みりあの脳裏にある光景がフラッシュバックする。
それは誰かのプロデューサーの首が爆発して、その体が血溜まりの中に倒れ込む、そんな光景。
人が死ぬ瞬間。頭のない死体。断続的に溢れ出る大量の血。
どれもこれも、みりあにトラウマを刻み込むには十分すぎる出来事だった。
もし蘭子が殺し合いに乗っていたら、みりあ自身もあのような目に合わされるかもしれない。
そう考えると、声をかけるなんてできない。
だからみりあは、何をするでもなくただじっと息を潜めているのだった。

「殺戮の…………狂うか」

そのとき、蘭子が呟いた。
賑やかな音楽に一部がかき消された言葉は、なんとも物騒な意味を持っていて。
幼く、蘭子との交流も少ないみりあには、その言葉の真の意味などわかるはずもなくて。
だからそれらは、怯えるみりあにさらなる恐怖と、蘭子が殺し合いに乗っているのだという誤解を与えるには、十分すぎた。

「……ざる鮮血の結末」

そしてそれは続けて呟かれた言葉も同様で。
だからみりあは、その場から逃げ出した。
足音は音楽に紛れて蘭子には届かない。
遊園地を出て、再び夜の闇の中へ。
先ほど恐れた夜の闇も、殺されるかもしれないということに比べれば大したことなんて、なかった。


【F-4/一日目 深夜】

【神崎蘭子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:どうしよう……

【赤城みりあ】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0~2】
【状態:健康、恐慌】
【思考・行動】
基本方針:逃げる

※蘭子が殺し合いに乗っていると思っています

183 ◆ncfd/lUROU:2012/11/01(木) 16:58:27 ID:0YTfmtjg0
以上で投下は終了です

184名無しさん:2012/11/01(木) 19:32:14 ID:70fBYAikO
投下乙です。

普段から誤解されやすいのに、こんな状況では尚更……。

185 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:10:35 ID:JgEO/7a20
遅れてすみません……
脇山珠美、新田美波、櫻井桃華 投下します

186それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:13:06 ID:JgEO/7a20


「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……!」



 深夜の雑木林に、少女の荒い息遣いが響く。

 櫻井桃華は、今この時、生命の危機にあった。

 背中のディパックが、抱えている武器が、自分の体そのものすらいつもより重く感じる。
 必死に走っているはずなのに、背後の気配が全く引き離されている気がしない。
 それを確認するために振り返るような勇気はとても持てなかった。

 
「――きゃっ!?」


 明かりもなしに夜の林を走ればこうもなるか。
 桃華の右足は張り出した根っこに取られ、その小さな体躯は堆積した腐葉土の上に投げ出された。
 全身をしたたかに打ち、桃華の口から声にならない呻きが漏れる。

 転んだ拍子に桃華の手から放り出された拳銃が、数メートル先に転がった。
 コルトガバメントという名で呼ばれるその大型自動拳銃は、桃華の武器として支給されたもの。
 誕生以来数十年にわたって生産されている、オートマチックの傑作と呼ばれた名銃である。
 しかし、銃身だけで1キロ以上、それに弾倉と追加装備のサプレッサー(消音器)まで加えたその重量は、
 サプレッサー装着による重心のズレも相まって、とても12歳の少女に扱いうるものではなかった。
 つまるところ、この銃は元々桃華の身を守る役には立たず、襲撃者には完全に無力だった。


「くうっ……痛っ……足が……!」


 木の根に引っかかった時に捻ったのか、立ち上がろうとすると鈍い痛みが右足首に走る。
 それほどひどい捻挫ではないはずだが、今この時においては文字通り致命的な負傷だった。
 そう、致命的。このままでは、死に至ると、肌を通した実感として分かる。
 これでは逃げ切れない。追いつかれて、殺されると。

187それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:13:45 ID:JgEO/7a20


「ふふっ。追いつきましたよ」


 その声を聞いた瞬間、桃華の背筋がぞわりと粟立った。
 なけなしの意地を込めて襲撃者を睨む。その視線の先の女性は、意に介したようもなく歩み寄ってくる。

 新田美波。そう彼女は名乗っていた。

 つい数分前まで、桃華と彼女は普通に接していたはずだ。
 殺し合いなど野蛮だと主張する桃華の言葉に、微笑みながら相槌をうっていたはずだ。
 自分の銃を見せたのだって、彼女を信頼しようとしたからだ。
 それが、間違いだったのだろうか? みすみす付け入る隙を与えてしまったから?

 美波が握る凶器が、木々の隙間から僅かに差し込む月光を浴びて光る。
 それは布の裁断に使うような大振りのハサミだった。
 その煌めきには、人の生き死にに関与しない道具だからこその、猟奇的な恐ろしさがあった。

 その刃が自分の体に食い込めば、どれだけの痛みと流血をもたらすのか。
 それを想像するだけで、挫いていない方の足まで力が抜けていくような感覚があった。。
 死は痛みの後にあった。死そのものを恐怖として捉えるには、櫻井桃華は少しだけ幼すぎた。


(なんで……こんなに震えが止まらないんですの? このわたくしが、こんなに無様な姿を……)


 自分の意志とは無関係に体が竦んで動けない。無意識に滲む涙で視界が霞む。
 そのことが、優雅であれとする心に幼い体がついて来れていないことが、悔しくてたまらない。

 それでも、桃華は相手を睨みつける目を逸らさなかった。
 それが彼女を支える最後の矜持であり、生まれ持った気高さ、今彼女に出来る唯一の抵抗だった。
 せめて、せめて心だけは、立ち向かうことを辞めないまま終わりたかった。


(――ちゃま、わたくしは、わたくしは最後の最後まで気高くありましたわ……
 きっと、きっと桃華のこと、褒めてくださいますわよね? ねえ、――ちゃま……)


 美波が最後の一歩を踏み出す。
 桃華はぎゅっと目を閉じた。誇り高き12歳の少女の、これが限界だった。
 凶刃が、振り下ろされる。

188それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:14:47 ID:JgEO/7a20


「その子からっ! 離れろぉぉぉーーーーーっ!」


 振り下ろされる、その直前だった。
 烈昂の気合と共に、小さな剣風が両者の間に飛び込んできたのは。


 ▼  ▼  ▼


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 相手の凶器を払い落とすべく振るったゴルフクラブは、しかし軌道と間合いの狂いで当たらない。
 使い慣れた竹刀や木刀とは重心もリーチも違う。自分の剣の腕を活かすには拙い武器だ。
 それでもこの場はなんとかこれで切り抜けるしかない。
 脇山珠美は、その高校生らしからぬ小柄な体には長すぎる獲物を構えて、金髪の童女を庇うように体を構えた。


「かような狼藉、もはや見過ごせませぬ! 懲りぬと見えるなら、ここから先はこの脇山珠美がお相手つかまつる!」


 咄嗟によくもこんな口上がすらすら出てきたものだと自分自身に場違いな関心すら覚えてしまう。
 まるで、いつも憧れていた時代小説の女剣士のようではないか。

(……ええい、酔うな酔うな! これは小説でもなんでもない!)

 改めて言い聞かせるまでもない。
 これは絵空事のチャンバラではなく、今まさに自分の命を左右する現実だ。
 生きるか死ぬか。真剣勝負という言葉に唾を吐きかけるような、冒涜的な現実だ。
 それを自覚しながらも、珠美の心は信念の炎に燃えていた。


 実際のところ、この僅か数分前までの珠美は、今の気勢が嘘のように途方に暮れていた。
 凛々しい女剣士を目指しているとは言うものの、元々調子に乗りやすいが臆病なのが彼女である。
 加えてオカルトめいたものには滅法弱く、この闇の中では文字通り疑心から暗鬼を生み出しかねない勢いだ。
 彼女が一人ぼっちで真っ暗な林の中に置き去りにされ、今まで自棄にならなかったのが奇跡だった。

189それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:20:30 ID:JgEO/7a20
 そんな珠美が、この一部始終を目撃したのは殆ど偶然だった。
 こそこそと隠れるように動いていたのが功を奏したか、二人のどちらにも珠美の存在は気付かれていなかった。
 そして木々の影から、、丸腰の幼い少女が今まさに刃によって倒れようとしているところを目にしたのだ。

 それは、許されない行いだと思った。
 この理不尽極まる「イベント」は、あろうことか殺し合いをその趣旨とするのだという。
 珠美自身は納得できないが、プロデューサーの命を盾にされれば、殺し合いに乗るアイドルがいてもおかしくはない。
 それでもこれは、弱き者が一方的にその命を奪われるというのは、珠美の価値観に反していた。
 更に言うなら、珠美が憧れ、信じ、そして今も進んでいる剣の道に、珠美の在り方に、反していた。

 それでも最初は迷っていたのだ。
 自分の中で燃え上がる正義感の疼きと戦いながら、必死で冷静になろうとして。
 お話みたいにかっこよくはいかない、下手を打てば死んでしまうと自分を戒めて。
 自分が生き延びなければいけないと、これは間違った自己満足なんだと、そう納得しようとして。

 次の瞬間、珠美は一瞬前までの自分を恥じた。

 誰かに話せば、気のせいだと笑われるかもしれない。
 だがその時の珠美は、振り上げられた凶刃が血とその先を求めて煌くその瞬間、
 死に瀕しているはずのあの金髪の少女の瞳に、矜持と気高さの輝きを見たのだ。


 迷いは一瞬で吹き飛んでいた。気付いた時には気合の叫びを上げて飛び込んでいた。
 死なせてはならないと、救わなければならないと、そう感じた時には動いていた。
 軽率さはあったと思う。それでも、今この瞬間もその決断に後悔はない。


(プロデューサー、申し訳ありません……しかし珠美は、剣を振るう意味を見つけました!
 アイドルとしてではなく、剣士として戦うことを、今だけはお許し下さい……!)

 背後に少女の気配を感じながら、珠美は眼前の敵を睨みつける。
 相手の武器はハサミのようだ。間合いならこちらに完全に分がある。
 後の先を取れば負けはないはず。可哀想だけど、腕か肩を砕いて再起不能になってもらうしかない。
 珠美はじりじりと、その瞬間を待つ。
 

   ▼  ▼  ▼

190それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:22:35 ID:JgEO/7a20
 新田美波の中に、確かに焦りはあった。
 乱入者の存在そのものはもちろん、明らかに武器に慣れた相手だったということにも。

(うん、これはもう勝ち目がないかな……) 

 しかし、そう判断してからの美波は素早かった。
 握っていた裁ちバサミを振り上げ、しかし切りつけるのではなく、勢いをつけて投げつける。
 その先には無防備な桃華がへたり込んでいる。とても避けられる状態ではない。

「そんなものーっ!」

 珠美と名乗った少女がゴルフクラブを振るい、ハサミを弾き飛ばす。
 ハサミは狙ったところに刺さることなく、吹き飛ばされて茂みに落ちる。
 しかし、それで十分だった。一瞬だけでも、注意とクラブの動きを引きつけてくれさえすれば。

「……しまっ、囮――――!?」

 意図に気付いた珠美が声を上げた時には、もう美波の体は二人のそばをすり抜けて飛び出していた。

 飛び出した先にあったのは――大型自動拳銃M1911、通称コルトガバメント。

 先ほど桃華が放り出した、彼女の手に余る、しかし彼女以外には扱い得る凶器だった。


   ▼  ▼  ▼


 桃華の目には、美波の動きがスローモーションのように見えていた。

 いけない、と叫んだような気がする。自分の声すら自分に届かない、嫌な感覚。

 美波が銃を拾い上げた。バランスを崩しながらも、銃口をこちらに向ける。

 彼女もまた素人なのだろう、その動きに映画のような華麗さは見当たらず、
 代わりに必死でチャンスを拾おうとするなりふりの構わなさがあった。

 素人目にも無茶な体勢で、それでも強引に撃とうとする美波。

 もう、今度こそ駄目だと思った。
 顔も知らない乱入者によって死が先延ばしにされた時は確かに希望を感じたけれど、
 結局自分はここで死んでしまうんだと、前より確かに実感してしまった。
 
 ただ、自身の危険すら顧みずに助けようとしてくれた彼女まで巻き込んでしまうことへの、
 申し訳なさと謝罪の念が新たに加わっていた。 

 しかし次の瞬間、桃華の目は驚愕に見開かれた。

 珠美と名乗った少女が、自分を庇うように立ちはだかったのだ。

 どうして、と問いかける時間さえなかった。全ては一瞬の出来事だった。

 だから、桃華にはそのあと起こったことをただ見ているだけしかできなかった。

 不格好な消音器の付いた銃口が、真っ直ぐに珠美へと向けられた。
  
 そして引鉄が躊躇なく引き絞られる。
 

 銃声は、聞こえなかった。


 ………………。


 …………。


 ……。

191それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:23:31 ID:JgEO/7a20


   ▼  ▼  ▼


 ……。


 …………。


 ………………。


 珠美は、冷たい地面に仰向けに倒れ伏していた。
 自分は撃たれたのだという事実が、彼女の心を支配していた。
 痛みは感じなかった。弾が当たったという実感もなかった。
 死ぬ時というのはこんなものなのか、それとも当たり所が悪かったのか。
 そう言えば、銃声も聞こえなかった気がする。あれが消音器というものなのだろうか。
 つまり珠美は、死の実感とは遠いところにいた。なんというか、確かな感触がなかった。
 それでも、きっともう長くはないのだろう。そんな気がした。

 薄く目を開けると、金髪の少女が不安げな顔でこちらを覗き込んでいた。
 見る限りでは、どうやらどこも撃たれてはいないらしい。
 ああ、よかった。咄嗟に体を張った甲斐があった。
 珠美は弱々しく彼女の方を見やり、最期の言葉を託そうと口を開いた。

「珠美は、珠美は幸せです。こうして信念に殉じることができたのですから……」

 少女は神妙な面持ちで珠美の方を見つめている。 

「死ぬのは怖くありませぬ。ただ、心残りはプロデューサー殿に御恩返しが出来なかったこと……。
 しかし、人を守って命を落とすというのは、剣士としての本分。悔いはありませぬ。
 願わくば、この脇山珠美の生き様を、後世の者たちに語り伝えて頂きたく存じます……」 

 それは、珠美にとっての嘘偽りのない遺言だった。
 カッコつけすぎかとも思ったが、悪くない気持ちだった。
 珠美は満ち足りた気持ちのまま、そっと目を閉じた。

192それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:24:43 ID:JgEO/7a20


 ………………。


 なかなか死なないのでもう一度目を開けてみた。


 おや、急に少女がどことなく呆れ顔になっている。
 これは何か変だぞと珠美の中の警報装置が鳴り始める。
 そう言えば自分はあとどれくらいで死ぬのだろうか。
 なんだか、全然、そんな気配がないのだけど。


「死ぬ気になってらっしゃるところ申し訳ないのですけれど、あなた、どこも撃たれてませんわよ?」

 
 少女の言葉を聞いた珠美の頬を冷や汗が伝い落ちた。
 慌てて上体を跳ね起こし、試しに全身をぺたぺたと両手で触って確認してみる。
 確かにどこにも傷跡がない。出血もない。あとついでに胸もない。

 事実を認識した珠美はゆっくりとぎこちない動きで少女のほうに顔を向けた。
 それからその姿勢のまま硬直し、そのまま一瞬青くなり、今度は赤くなった。
 そして最終的には、頭を抱えてその場に倒れ、そのままごろごろと地面を転がり回り始めた。

  
「……えーと、なんでしたかしら? 脇山珠美の生き様を、後世の者たちに、語り伝えて頂きたく」
「わ、忘れてくださいいいいい! お願いします後生ですからあああああ!」


 さっきまで自分が死ぬと思い込んでいたとは思えない勢いで足をバタバタさせる。
 そのまましばらく七転八倒したあげく、おとなしくなったと思ったら今度はすんすんと泣き始めた。
 逆に少女の方が狼狽して、恐る恐る声をかけてくる始末だった。

 
「あのー……、珠美さん、でよかったかしら?」
「くすん。現在進行形で生き恥を晒している珠美に何か御用でも?」
「お、落ち着いてくださいまし! わたくしの命の恩人なのですから、胸をお張りになって!」
「胸……起伏が少なくて面目次第もございませぬ……ぐすっ」
「そういう話ではありませんわ……」

 なおもうなだれている珠美に、少女――桜井桃華というらしい――は今までの流れを説明してくれた。
 肝心の「どうして珠美は撃たれずに済んだのか」の部分はいまいち要領を得なかったが。
 どうやら弾が出なかったのは襲撃者の女性、新田美波にも想定外だったらしく、
 こちらにとどめを刺すことなく逃げていったらしい。
 撃たれたものと勝手に思い込んでひっくり返った自分が滑稽過ぎて珠美は一層落ち込んだが、
 桃華は(多少の呆れはあるように見えるけれど)大いに恩を感じているようだった。

193それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:26:50 ID:JgEO/7a20

「あなたがわたくしの命を救ってくださったのは本当のことですもの。恥じる必要なんてないですわ」
 
 桃華は珠美の手を取ると、今まで見せたことのない柔らかな表情を浮かべた。
 幼さの中に気品と育ちの良さを匂わせるその笑顔は、その名に違わず華のように可憐で。
 ああ、これがアイドルなのだと見る者を納得させるような魅力を湛えていた。

「そこで、ぶしつけなお願いなのですけど……珠美さん、わたくしのナイトになってくださらない?」

 だから、その彼女流の同行の誘いに珠美が必要以上に取り乱したのも、きっと無理ないことに違いない。 


【櫻井桃華】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(コルトガバメント)×4】
【状態:右足首に軽い捻挫(処置次第で治る範囲)】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いなんて野蛮な手段以外でPを助けたい
1:信頼できる仲間を集めなくては……
2:珠美には是非同行してほしい


【脇山珠美】
【装備:ゴルフクラブ】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:非道は見過ごせない。正しい剣の道を貫く。
1:な、ナイトよりはサムライがいいです!(混乱)


※美波の支給品である裁ちバサミは近くに落ちています。

194それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:29:35 ID:JgEO/7a20

   ▼  ▼  ▼


 空気の抜けるような奇妙な音と共に、樹皮に銃創が穿たれる。
 全身を駆け抜ける反動を押さえ込むと、新田美波はその場にへたり込んだ。
 たった今初めて銃を撃ったという衝撃で上気した顔のまま、気だるげな溜め息をひとつつく。

 今の試し撃ちではっきりした。
 このコルトガバメントという銃は、グリップを強く握り込むことでセーフティが解除される仕組みなのだ。
 先ほどあの二人を仕留め損ねた理由は、不安定な握り方で撃とうとしたからに違いない。
 銃を入手するという目的こそ果たしたものの、こんなにも銃を知らない自分が使いこなせるだろうか。
 どうしても、この先のことが不安になってしまう。
 加えて弾数も心許ない。今1発撃ったから、残りはマガジン内の7発のみだ。
 予備の弾丸は全部あの子が持っているはずだが、引き返す気にはなれなかった。
 代わりに今できる最善の手立てを、冷静に考えていく。

(私の腕前、弾の数、そして消音器。絶対に当たる距離から『暗殺』するのがいいかな……)

 思考の組み立てに淀みはない。
 勉強も、スポーツも、あるいは趣味の資格所得にしても、もちろんアイドルの仕事もそう。
 何をやってもそれなり以上にこなしてしまう、適応力と要領の良さが新田美波の武器だった。

 しかし、いくら思考を切り替えられても、彼女も元は一人のアイドルに過ぎない。
 人殺しなんかとは無縁の生活を送ってきた、普通の19歳に過ぎない。
 むしろ切り替えられることが一つの悲劇なのかもしれなかった。
 恐怖、あるいは倫理観というものを捨て切れているわけではないのだから。


 だからこそ、割り切るしかない。余計な感傷は、意識して封じ込めるしかない。



 例えば――さっき出会った少女達を殺さずに済んで、本当はほっとした、とか。



 そういった感情は、押し殺すしか、ない。


(――これからは、今まで以上に慎重にならないと。他の人達の動向も気になるし……あら?)

 良くない方向に流れそうになった考えを無理矢理に押し込めようとしていた美波は、
 遠く、山頂の方角から響く掠れ気味の声に現実に引き戻された。




『みなさん、私の声が聞こえますか? もし私の声が聞こえたら、山頂の見晴台まで――』




 拡声器を使っているのか、ところどころ不鮮明ではあるけれども遠く離れたここまで聞こえる声。
 いったいどういうつもりなのだろう。参加者を集めて一網打尽にでもするのだろうか。
 一瞬そういう考えが浮かんだが、それにしては無警戒な感じの声に聞こえる。
 意図は分からないけれど、きっとこの呼び掛けがきっかけで事態が動く、そういう予感があった。
 呼びかけている子の思惑に沿うかは別として、きっと何かが起こるはず。
 危険に近付き過ぎさえしなければ、有利に立ち回ることができる可能性は十分にあるだろう。

 
(よし、決めました。待っててくださいね、プロデューサーさん……みなみ、頑張りますっ♪)


 ディパックを背負うと、美波は山頂に向かって歩き出す。



【D-6(林)/一日目 深夜】

【新田美波】
【装備:コルトガバメント+サプレッサー(7/7)】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:他の参加者と接触しつつ、可能なら暗殺する
1:拡声器の声を目指して山を登る
2:可能な限り慎重に行動したい

195 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/02(金) 23:30:56 ID:JgEO/7a20
投下終了しました。
貼り忘れましたが、桃華たちの位置も【D-6(林)/一日目 深夜】でお願いします。

196名無しさん:2012/11/03(土) 00:15:08 ID:OAU4ohic0
投下おつ〜
>>すれ違いし意思よ!
そういえば今井さんも死んじゃったし、蘭子語翻訳できる人って誰か居るのだろうかw
誤解道は始まったばかりだ?w

>>それぞれの本分
お姫様とないとだなーってのは最後まで読む前に浮かんだことだったんだけどほんとにそうだったw
珠ちゃんの一般人的な弱さや、恥じた後のかっこ良さ、そしてうっかり悶絶やら、落ち込んでるさまがマジ可愛いw
しかし新田しゃんそっちにいくかーw

197名無しさん:2012/11/03(土) 11:27:37 ID:osI3NiFU0
投下乙です!
気高い桃華ちゃんがかっこ可愛い!
恥じ入る珠美ちゃんがかっこ可愛い!

美波ちゃんの暗殺戦法は、一般人ロワのここじゃなかなか有効そうだ…

198名無しさん:2012/11/03(土) 18:53:13 ID:rmT5T4bEO
投下乙です。

山には結構な人数がいるみたいで、山頂は大荒れ模様。

199 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/03(土) 22:21:13 ID:6nNB7//U0
>>すれ違いし意思よ
ああ、蘭子ちゃん早速勘違いされておる……w
みりあ幼いだけに仕方ないか……しかしその近辺はあぶねえ!w

>>それぞれの本分
三者が三者らしいなあ
いいコンビになりそうな桃華と珠ちゃん。
新田さんそっちに向かうと……混戦になりそうだなあw

連絡遅れてすいません、延長申請します

200 ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:17:39 ID:G2sOJLFE0
今回は間に合った!ということで投下します!

201彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:18:45 ID:G2sOJLFE0
「ん…………、ここは、どこだ……?」

向井拓海が気だるげな眠りから目覚めるとまたしても周囲の様子は一変していた。
さっきまではアイドル候補生らがひしめきあう教室の中だったというのに、今はどうやらどこかの公園の中のようだ。
深夜の公園には当然にように人気はない。
ベンチの上に横たわっていた向井拓海がただひとりぽつんと存在するだけだった。

「あれは、夢じゃなかったんだよな……」

つるつるとした首輪の感触を確かめ向井拓海はため息を漏らす。
アイドル候補生の中で殺しあいをする。
生き残らなければ勿論自分は死んでしまう。
それどころかプロデューサーも死んでしまう。
逃れる術はなく、殺しあいをしなくては死んでしまう。否定すれば死ぬし、諦めればやはり死ぬ。

「………………マジかよ」

もう一度眠れば今度こそ夢かもしれない。そんな未練を振りきりると向井拓海はゆっくり立ち上がった。


 @


夜の風に特攻服の裾がはためきバタバタと音を鳴らす。
あの後、一通り荷物を確かめた向井拓海は公園を出てあてどなく街中を歩いていた。
特攻服はその荷物の中から出てきたものだ。どうやって用意したものなのか、それは彼女自身のものであった。
そして左手に鞄をぶらさげ、もう片方の手には木刀が握られている。

「なんでなんだよ……」

普通のよりも重いそれはおそらく鉄芯が入っているのだろうと向井拓海は察する。
ただの木刀でさえ打ち所が悪ければ死にかねないというのに、これならばどこを打っても骨を砕けるだろう。
ましてや、相手はアイドルになろうという女の子ばかりである。
特攻隊長として“普通の女の子”よりかははるかに喧嘩の経験がある自分ならそれはとても容易いに違いない。
特攻服に鉄芯入りの木刀。つまりは、向井拓海はそうであることを期待されているのだ。
この殺しあいを企画した何者かに。

「なんでなんだよ……」

ただ彼女はその言葉だけを繰り返しながら夜の街中を歩いてゆく。
自分の中ではっきりとしない漠然としたなにかをいくつも抱えながら、わからないことそのものを問いながらゆく。

そして、彼女はひとりの小さな少女と往き遭った。


 @

202彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:19:44 ID:G2sOJLFE0
意外なことに声をかけてきたのはその小さな少女――佐々木千枝のほうからだった。

「あ、あのっ! すいませんっ!」

夜の住宅街。街頭の明かりもまばらな所で不意に後ろから声をかけられれば小学生としか見えない子供がそこにいる。
実際に彼女はまだ小学生なわけだがともかく、向井拓海の印象としては迷子の子供?というものだった。

「お、おう……なんだ?」

なので、こんな歯切れの悪い言葉を発してしまう。
もし、相手がこんな子供ではなく、
例えば拳銃をかまえ、目を血走らせていたのであれば向井拓海はなんの躊躇もなく最初の“ふんぎり”をつけられただろう。
だがしかし、実際に目の前に現れたのは集められた中でも特に小さく気弱な少女で、その現実は向井拓海に非情さを要求する。

「本当に、本当にごめんなさい」
「……あ?」

そこで向井拓海はようやく目の前の小さな少女が両手でしっかりと何かを握っていることに気がついた。
なんだ? と思っている間に少女はそのまるっこいものから苦労してピンを抜き取る。
爆弾――所謂手榴弾というものか? そんなものもありなのかと彼女は虚を突かれ、ただ少女の様子を見守るだけしかできない。

「おい、待てよ……お前、何考えてんだよ? ダメだろ……そういうのはよ。お前みたいなのはよ」

届けようとした言葉ではない。ただ気持ちが漏れただけだ。しかし少女はその言葉に応えた。

「約束したんです。……今度のオフに一緒に服を選んでくれるって! だから、ごめんなさいっ!」

馬鹿かよ――その言葉を発しようとして向井拓海はぐっと飲み込んだ。
多分、一番馬鹿なのは自分自身だ。
この状況をただこのまま見守っていてはいけない。自分がなんとかしなくてはいけない。なのにどうしていいのかわからない。

「千枝が死んだらプロデューサーさんも死んじゃうから……っ!」

夜闇に澄んだ音が鳴り、少女の手からレバーが落ちた。もうここまでくれば手榴弾が爆発するのは防げない。
ただ手をこまねいているうちに事態は一瞬でこんな逼迫したところまできてしまった。
あの手榴弾が爆発すれば死んでしまう。
少女はボールを投げるように手榴弾を片手に持ち上げ――

「馬鹿ッ! やめろッ!」

向井拓海の一喝にビクリと震え、自分の足元へと――アスファルトの上へと落とした。
コツンと音が鳴り、まるっこい手榴弾はころころと道の端へと転がってゆく。
ころころ、ころころと。
少女の足元から離れ、向井拓海からも離れて、ふたりともから離れた舞台の端へと。

転がる手榴弾を見送り、危険が離れていくことに向井拓海はほっと胸を撫で下ろした。
そして、やはり自分は人を殺すことなんてできないということもここではっきりと自覚した。
それはある種、彼女にとってこの場で与えられた最初の救いだった。

まずは少女を落ち着かせてどこか安全な場所に避難させておこう。
プロデューサーはアタシが助け出してやるからと言えばいい。
きっと他にも、いやほとんどの奴がこんな殺しあいはしたくないと思っているはずだ。
だったら大丈夫。“最初の間違い”さえ起こらなければ、みんな冷静でいられるはず。

そこまで考えて、向井拓海は視界の中に“ぞっとするもの”を見る。

203彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:20:25 ID:G2sOJLFE0
「な……なにして、……あ、………………」

“少女がアスファルトの上を転がる手榴弾を追いかけていた”。

「馬鹿…………よせ…………」

もしかして少女は手榴弾を拾いなおそうとしているのか。いや、もしかではなくそうなのだ。
そして少女は拾ったそれをまた投げつけようとするだろう。
彼女が自分のプロデューサーを助けるために見つけた標的を殺すために。
しかし、

「やめ…………」

しかし、しかし、

「は…………、あ………………」

しかし、しかし、しかし、

「…………………………………………ッ」

それは――



ころころと転がる手榴弾が道路脇の側溝の中に落ち、コツンと音を鳴らした。
そして、たどたどしい足取りでそれに追いついた少女が側溝の中を覗き込もうとしたその瞬間――

夜をつんざく爆音が鳴り響き、彼女たちにありえたかもしれない未来をひとつ奪い去った。


 @

204彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:21:25 ID:G2sOJLFE0
その瞬間は向井拓海が予想していたものよりもはるかに地味だった。
映画で見るような爆炎は巻き上がらず、まぶしくもなく、ただ黒い煙が噴出したようにしか見えなかった。
だから、案外これを喰らってもたいしたことはないのかもとその瞬間は思った。
確かに音は相当なものだ。まるでなにか見えない壁にぶつかったような衝撃があった。
だから側溝を覗き込んだ少女が激しくのけぞったのもその音のせいだと、そう彼女は思った。

もっと、大きな爆発が起きて辺り一面が吹き飛ぶような、そんなイメージがあったのだ。
だからこれぐらいならば、まだ致命的なことはまだ起きていないとそんな風に思おうとしたのだ。
しかし、

「あ、あ、あああああああああああああッ!!」

現実に起きた予想よりも地味なはずの爆発は、いたいけな少女の身体を紛れもなく正しい威力で削り取っていた。

「なんでなんだよ馬鹿ッ! お前そんな……どうしてわかんないんだよ……どうして……」

胸から上、特に手を伸ばそうとしていた右半身がひどい傷を負っていた。
右腕はまんべんなく裂傷が走りぬらぬらと光る真っ赤な血でべったりと塗れ、抉れた肩からは白い骨が覗いている。
顔は、幾度かの修羅場に遭遇したことのある向井拓海でも目をそらしたくなるようなむごたらしい有様だった。
どうしてそうなったのか、小さな口のあった場所は唇も歯もないぽっかりとした穴と化しており、
鼻は削ぎ落とされ、右の眼窩に沈んだ眼球はくしゃりと萎んでいる。

「服とかいつでも買いにいけんだろうがよォ……、なに考えてんだよテメェは…………」

ぷつぷつと血の珠が浮かび上がり、見る見る間に少女の身体を赤く染め上げてゆく。
染めきってしまえば次に、血は少女から命を奪い去ってゆくように地面へと広がっていった。
それは確実にこの少女は絶命したと判ずるに足りるほどのおびただしい量であったが、しかしその小さな命はまだ潰えてはなかった。

「ガッ! …………ハ、……ハ」
「おい、生きてんのか? おいッ!?」

まだ少女は死んではいなかった。だがしかし、放っておけば間もなくそうなることは簡単にわかる。
助けなくてはいけない。
向井拓海は少女を抱き上げようとし、しかし寸でのところで伸ばした手を引いた。下手に動かせば危ないというのも明らかだからだ。

「なにかないのかよ……」

鞄を開いて中を漁る。しかし中にあるのは筆記用具や紙ばかりだ。水はあるが、これをどう使っていいのかわからない。
次に周囲を見渡す。だがなにが見つかるわけでもない。ここはただの住宅街の一角である。

「おい……おい……おい…………」

なにか、なにかないのか? 逡巡している間にも少女の命の灯火はかき消えようとしている。
向井拓海は顔を蒼く染め、涙をこらえながらなにかを探す。
しかし、探せど探せどそのなにかは見つからない。
自分には少女を助ける術がない。ここには少女を助けるなにかがない。確信に至ると、彼女は空に向かって大声を上げた。

205彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:21:47 ID:G2sOJLFE0
「頼むッ! 助けてくれ!」

ここを見ているはずの、この殺しあいを企画運営しているスタッフたちに向かって向井拓海は懇願する。

「見てるんだろう!? だったらコイツを助けてくれッ!
 もうコイツは無理だ。わかるだろう? だからギブアップだよ。助けてくれよッ!」

ちらりと見やった少女の姿はもはや壊れてしまったなにかモノのようであった。
自らを追い詰めてくる恐怖に身体を震わせ、向井拓海はなおも絶叫する。

「本当に死ななくてもいいだろッ!? コイツはもう殺しあいなんかできない! リタイアなんだよ!
 だから助けてやってくれッ! 頼む! ここに来てくれ! 早くしないと死んじまう!」

だが、彼女の言葉に応えるような反応はない。
鞄から情報端末を取り出して操作してみるものの、そちらにもやはり反応らしきものは見当たらない。

「頼むよッ! お願いします! 助けてくださいッ!」

もはや声は悲鳴とかわらなかった。
もしこの時、助ける代わりにと何か条件を提示すれば彼女はどんなことだったとしてもすぐに首を縦に振っただろう。
だが、そんな可能性すらも彼女には与えられなかった。

「う、うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」

言葉にならない声を喚きちらしながら向井拓海は再び自分たちを救うなにかがないか探す。
ふらふらと辺りを歩き回り、そしてしばらくして何かに気づいたのか再び鞄へと手を伸ばした。

「地図に病院が…………あった、病院」

地図上に病院を確認すると彼女はくしゃくしゃに丸めた地図をポケットにつっこみ横たわる少女の元へと駆け寄る。
そしてまだ微かに息があることを確かめるとその小さくて軽い身体を抱き上げ、病院のある方へと全力で走り出した。

「助けるから、なぁ! まだ死ぬなよ、なぁ!?」






 @

206彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:22:08 ID:G2sOJLFE0
「…………もう1時間も経ちはりましたか」

小早川紗枝は病院のロビーにかけられた時計を見て、目覚めてから何度か目のため息をついた。
これからここでどうすればいいのか?
その問題は至極単純で、思い浮かぶ選択肢の数も決して多くはない。
だが彼女はそのどれも選べないでいた。

「殺せへんでもええんのやら簡単なんやけどなぁ……」

壁にたてかけられた薙刀を見る。
鞄の中に入っていたわけではないが、この場所で目覚めた時近くにあったこと、
なにより普通は病院にないものということもあって彼女はあれが説明を受けた支給品――つまり武器だと了解していた。
その切れ味がどれほどのものか、それは試し切りの相手に選ばれた椅子が証明している。

「ドッキリやいうたらなおのこと簡単でええんやけど……」

彼女の目の前、真っ二つになった椅子はこの薙刀が凶器であり、この殺しあいが本気であることの証明だった。

「うち、どないしたらええんやろ」

もうひとつ彼女の口からため息が零れる。


 @


「あ、これ意外とおいしおすなぁ」

それからしばらく、食料として入っていた缶詰パンを口に含み小早川紗枝はそんなことをひとりごちた。
およそ二日分だろうか、3種類の缶詰パンはそれぞれ2缶ずつ計6缶が入っている。
味付けはバニラミルクとレーズン入りとコーヒー味の3種で、今食べているのはレーズン入りのものだ。
パンはふかふかと柔らかく、レーズンもたくさん入っていて実においしい。
これは災害時用の備蓄食に対する認識を改めんとあきしまへんなぁ――などと小早川紗枝は考える。

「……うち、自分で思うてたよりもあかん子やったんやろうか」

しかしこれは現実逃避でしかない。
彼女はまだ、諦めることも、流されることすらも決断できないでいた。

「死にとうはない。せやけど、うちは――」

椅子の上に並べた缶詰を片付け小早川紗枝は壁に立てかけておいた薙刀を手に取る。
このままではらちが開かない。せめて外を歩こう――と、そう考えた途端、

「た、助けてくれッ!」

彼女に選択を迫る場面が現れた。


 @

207彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:22:30 ID:G2sOJLFE0
「ど、どないしはりました……?」

ガラス戸を突き破りかねない勢いで病院内に飛び込んできたのは、胸に小さな女の子を抱えた大柄な女性だった。
確か、向井拓海といったはず――と、小早川紗枝は彼女の特攻服という独特なスタイルから思い当たる。
そのイメージからすればこの殺しあいの中ではできるだけ対面は避けたい相手だろう。
しかし、今はどうやら状況が違うらしい。

「こいつ、もう死んじまいそうなんだよ。アタシじゃもう無理なんだ。だから助けてくれよ」
「そないなこと言われても……、……ッ!」

こちらが薙刀を持っているにも関わらず、向井拓海は無防備に近づいてくる。
その胸に抱かれた少女を見て小早川紗枝は口元を着物の袖で押さえた。

「頼むよぉ、こいつ死んじまうんだよ……」
「そ、その子……」

どうすればこんなひどい傷を負うことができるのか。小早川紗枝はその有様を見て全身の血が引いていくのを感じていた。
いや、それよりもまず、

「……もう死んでるんと違う?」
「え?」

そもそもとしてこんな風にまでなってどうして生きているのだと思えるのだろう。
もしかしたら傷を負った直後はまだ息があったのかもしれない。
けれど、今は――もうただの動かない真っ赤なグロテスクと化したそれは、どう見ても――

「………………嘘」

ただの死体だった。





 @

208彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:22:53 ID:G2sOJLFE0
「――そう、そないなことが」

涙声で語られる向井拓海と死んでしまった少女との顛末を聞き、小早川紗枝は沈痛な面持ちで頷いた。

「向井はんは優しいんどすな」

もはや誰とも判別のつかない少女が死んでしまったのは、話を聞く限り少女自身の自業自得でしかない。
だが向井拓海はそれを自分のせいだと言って聞かず、病室のベッドの上に寝かされている少女へと向かい
今もうわごとのように「アタシが悪いんだ」と謝罪の言葉を繰り返している。

「その優しさは辛いやろ?」

小早川紗枝は薙刀の刃をうなだれる彼女の首筋へと静かに当てると、できる限りの優しい言葉でそっと呟いた。

「楽にしたろか?」

うなだれたままの向井拓海はしかし、小早川紗枝としては意外なことに力強い言葉で答えを返してきた。

「駄目だ。アタシは死ねねぇ」

小早川紗枝は彼女の首に薙刀を当てたまま次の言葉を待つ。それは彼女にとってどうしても聞きだしたい答えだった。

「けじめがついてねぇんだ。アタシはこいつの親とプロデューサーに頭を下げにいかなきゃならねぇ。
 それに、アタシが死んだら“アイツ”も死んじまう。だから死ねねぇんだ」
「それやったら、殺すほうに回るん?
 そして、殺した相手のプロデューサーと親にひとつひとつ頭を下げに回るん?」

向井拓海はうつむいたまま頭を横に振る。刃に振れた後ろ髪が何本か切れてはらりと床に落ちた。

「殺しもしねぇ。それだけは絶対にできねぇ。“アイツ”との約束だ」
「約束……?」
「“アイツ”はアタシをテッペンに……一番の女にしてやるって言った。
 アタシはそれもいいなって思ったんだ。だから、喧嘩だとかましてや殺しあいなんか絶対にできねぇんだ」
「一番の女……」
「べ、別に変な意味じゃないぞ。トップアイドルにしてやるってアタシは言われたんだ」
「とっぷあいどる……」

その約束は小早川紗枝もしていた。
約束というほど確かな言葉ではなかったかもしれないが、それが夢なのだと彼女は言葉にして伝えていたのだ。
“彼”はそれを叶う夢だと言ってくれたと記憶している。だからこその迷いだった。

「でも、それやったらどないしはるんやろう?」
「“アイツ”を助ける。他のプロデューサーもみんな助ける」
「できる算段があるん?」
「ねぇよ。でも、考えりゃいいんだよ」

つきつめれば、殺すか殺さないか。それを小早川紗枝はずっと悩んでいた。どちらも決心できないでいた。

「この首輪はどないしはる? 逆らったらいつでもボンどすえ」
「アイドルの中にひとりくらい機械に詳しい奴がいるんじゃねぇか?」
「ここは島や。どないして逃げるつもりやろ?」
「島だったら船の一隻や二隻あんだろうがよ。それにいざとなったら海を泳げばいいじゃねぇか」
「海を、泳ぐ……?」
「おかしいか? 隣の島があんならそれぐらいは泳げるつもりだぜアタシは」

その迷いが今、綺麗に晴れた。

「う、海を泳ぐて……は、あはははは……あかん、そんなこといわれたらうち、あはははははははははは」
「うわ、あっぶねぇ!?」

手の中から薙刀がするりと落ちて、床の上でカランカランと音を鳴らす。
首筋をかすった刃に向井拓海はひどく驚いたが、そんな様すら今の小早川紗枝にはおかしかった。
こんなわかってしまえば簡単なことに今の今までうじうじと悩み続けていた自分自身がおかしくてしかたなかった。


 @

209彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:23:16 ID:G2sOJLFE0
「海を泳ぐて……あー、おかし」
「面白いことを言ったつもりはねぇよ……」

二人は揃って病院の外へと出てきた。するべきことが決まればもう足を止めている必要も暇もない。

「とりあえずはどないしようか」
「他の奴らを探そう。まだ“間に合う”奴がいっぱいいるはずなんだ」
「せやね。うちみたいにうじうじしてる子を笑わしてあげんと」
「……とりあえず歩こうぜ。考えるのは後だ」

二人は歩き出す。
その道はまるで先を見通せない闇に沈んでいたが、しかしこの二人はもう行き先に迷うことはなかった。






「うちら、海を泳げるふたりになれる思う?」
「ちげぇよ、みんなで泳ぐんだよ」






【B-4/一日目 深夜】

【向井拓海】
【装備:鉄芯入りの木刀、特攻服(血塗れ)】
【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる。殺さない。助ける。
1: まずは仲間を集める。

【小早川紗枝】
【装備:薙刀】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。
1: まずは仲間を集める。

※B-4・病院の病室のベッドに佐々木千枝の遺体が寝かされ、その近くに彼女の基本支給品が置かれています。
 彼女の支給品だった手榴弾の残りは向井拓海が回収しました。
 彼女の身体は主に右腕と胸から上が激しく損壊しているため人相がわからなくなっています。

210 ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:23:51 ID:G2sOJLFE0
以上で投下終了です!

211 ◆John.ZZqWo:2012/11/04(日) 23:26:43 ID:G2sOJLFE0
すいません1行抜けていました。状態表の前に、
【佐々木千枝 死亡】
です。

212 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:08:18 ID:jjRRoXds0
投下乙です。
うっわーこれはえぐい……千枝ちゃん。
かわいそうに……幼いから仕方ないね……
拓海は重いもの背負ったけど、紗枝ちゃんと一緒に頑張って欲しいなw

それでは此方も投下します。

213Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:09:36 ID:jjRRoXds0



――――まるで、太陽のように輝きを放つアイドル達が居た。


世界を照らすように、燦々と。
その笑顔は人を明るくさせて、楽しくさせる、そんな、素敵なもの。
最高の笑顔を放ったアイドルの中のアイドル。

世界中の希望を一身に集めた、女の子。


その子の名前は、十時愛梨と言った。


沢山のアイドルから選ばれたシンデレラ中のシンデレラ。



普通の女の子が魔法で、シンデレラに変わって。



普通の少女達の『希望』だった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

214Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:10:14 ID:jjRRoXds0







Distorted Pain/十時愛梨




私にとって、プロデューサーさんは、王子様でした。
こんなにも普通な私をシンデレラに変えてくれた人。

大切に、大切に、アイドルとして、育ててくれた人。


―――私の、大好きな、人でした。


だから、私も彼に見合うアイドルになるって決めた。
だから、私は頑張って、みんなに振り返ってもらうために。
私は、アイドルとして頑張って生きてきた。
辛い事も苦しい事も全部耐え切って。
楽しい事も嬉しい事も大切にしながら。

そして、私はシンデレラガールに選ばれて。

沢山の人に祝福されて。
沢山の人に賞賛されて。

そして、私の大好きな人が一番喜んでくれて。

私は嬉しかった。

何かご褒美が欲しい?と聞かれて。
私はたまらず、頬にキスをしました。


彼は驚いたけれど、お返しは、愛梨がアイドルとしてもっと輝いた後で、と照れて言ってくれました。
私は嬉しくて、涙を流して、もっと頑張ろうと思ったんです。

アイドルとして、皆の希望であるために。



――だから、殺し合いなんて、絶対出来なかった。


反対した、声を荒げた。
アイドルとして、死ぬなら、それでもいい。
そう、思ったのに。



死んでしまったのは、私の大好きな人でした。

215Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:10:42 ID:jjRRoXds0



声にならないなにかを、叫んで。
何もかもから、逃げたくなって。
絶望しか、なくて。


苦しくて、哀しくて、壊れそうになって。





私は、死を選ぼうとしたんです。




―――破滅へ向かう毎に少しの希望と、憧れ抱いて悲劇めいた少女は―――







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






――――そのアイドルは、まるで陽だまりのような、少女だった。


世界を温かにするように、ぽかぽかと。
その微笑みは朗らかで、優しくさせる、そんな、綺麗なもの。
最高の微笑みを放ったアイドルの中のアイドル。

世界中の優しさ一を身に彩った、女の子。


その子の名前は、高森藍子と言った。


FLOWERSという、トップアイドルグループのリーダーで。
一見取り得も無い女の子のように見えて、誰よりも、輝いている少女。
アイドルに囲まれていても、輝きを失われず、いつまでも輝いていて。



いつでも、彼女は優しくて、最高のアイドルだった。


そんな彼女は


普通の少女達の『希望』だった。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

216Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:11:14 ID:jjRRoXds0





日向の花/高森藍子




殺し合いが始まって、直ぐに出会った少女が居ました。
その子は、私もよく知っていて、テレビとかでも競演する機会が多い子でした。
気性もあって、仲がいい子です。
お菓子の食べ歩きとかしたり。
最近は忙しくて、あえなかったりしたけれども、大切な友人です。
まあ、誰でも知ってると思いますけど。
だって、一番取った子ですから、
最高の笑顔を放つアイドル……愛梨ちゃん。


「――――藍子ちゃん」
「愛梨ちゃん」


その子が、哀しい笑みを、向けていたんです。
手に不釣合いすぎる銃を握りながら。

「久しぶり……元気にしてた?」
「はい、互いに忙しかったみたいですけど、私は元気です」
「さすが、今を翔けるグループのリーダー」
「いえ、たいした事じゃないです」

違う、話したいことはそんな事じゃない。
今あることから、互いに目を逸らしてるだけだと思う。

「ねえ、愛梨ちゃん……つら――」
「言わないで」

それは、十時愛梨のプロデューサーさんが命を落としたこと。
なんて、声をかけていいかわからなくて。
つきなみな言葉を紡ごうとして、止められた。


「プロデューサーさん死んじゃった……わたしのせいで」


否定は出来ない。
否定してしまったら、それこそ彼女が不憫だから。
だれのせいでもないなんて、言えない。

「私が『アイドル』になったから? 身も丈も知らない夢を抱いたから?」
「違う、それは否定しちゃいけないです!」

それは、否定しちゃいけない。
だって……だって……


「私達が、アイドルになったことで、笑顔になったファンが沢山居るんです! 苦しい事、悲しい事を忘れるぐらい優しい気持ちになった人達が!」


私達がアイドルで、それで幸せになった人がいるから。
だから、絶対にそれは否定しちゃいけないんです。

「強いね、流石フラワーズのリーダー」
「ねぇ、愛梨ちゃん……笑って。そんな哀しい笑みを浮かべないで……貴方はシンデレラでしょう?」

茶化すように言う愛梨ちゃん。
私は見てられず、言葉を紡ぐ。
だって彼女は最高の笑みを浮かべる希望に満ち溢れた子だったから。


「――笑い方なんて、忘れちゃいました」


へへ、と言って。
彼女は困ったように、笑う。
それは、哀しい笑みでしかなくて。
絶望に染まってるような笑みで。

217Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:11:35 ID:jjRRoXds0


「だから、きっと、アイドル……『失格』なの」


そう言って、彼女は私に銃を向けた。
どうして、なんて言葉は言えなかった。
きっと、彼女は………………


「殺し合いに……乗っちゃったんですか?」
「はいっ」

不釣合いな、明るい返答。


だって、と彼女は言って。



「『生きて』……と、――さんがいったから」


シンデレラは、泣いていた。
大事な王子様の最後の言葉を呟いて。
その言葉だけに縋って。
何も残ってないシンデレラは生き残る為に、最も辛い道を選んだ。



「それは、違います。愛梨ちゃん。プロデューサーはきっと……そんなつもりで、その言葉を紡いだんじゃないんです!」


でも、それは違う。
きっと、いや、絶対違う。


「アイドルとして、愛梨ちゃんが笑顔を忘れないように、優しい気持ちで居られるように、ファンの皆を忘れないために……そして何より……」


答えは、一つでしょう?


「愛梨ちゃんに、アイドルでいてほしいから!」



そして、渇いた銃声が鳴った。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

218Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:12:10 ID:jjRRoXds0





言葉が、反芻する。


――――愛梨ちゃんに、アイドルでいてほしいから!



――――お返しは、愛梨がアイドルとしてもっと輝いた後で




でも、十時愛梨は、普通の女の子なのです。




ただの、普通の、恋していた、少女、でしかないのした。



だから、私は大好きな人の最後の言葉を大切にして、生きていくしか、無い。


だから、だから、私はどんなに絶望しても。



殺して生きていくと決めたのだ。





―――――破滅へ向かう毎に少しの希望と憧れ抱いて悲劇めいた少女は



――――あの時貴方がくれた一言だけを大事にしてたと思い出して生きてく!




【G-2/一日目 深夜】
【十時愛梨】
【装備:ベレッタM92(15/16)】
【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン×5 不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる。
1:殺して、生き抜く。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

219Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:13:23 ID:jjRRoXds0





―――流石、藍子ちゃんは、『希望』のアイドルだ。


愛梨ちゃんの言葉が響く。
銃弾は、私の顔の横を通って、消えた。
狙って外したのか、解からない。
そうだと、思いたい。


――――そんな、同じ高みに立ったアイドルだから、お願いするね。


彼女は、言葉を残して去っていた。
それは、私にとっても重みで。




――――最後まで、私の代わりに輝いた最高の『アイドル』で居てください



そんなお願いだった。
今を翔けるFLOWERSのリーダーとして。
いつまでも、輝き続けてと。

彼女は言った。


「当然です……だって、私はアイドルだから」

歌が上手い夕美ちゃん。
ダンスが上手い友紀ちゃん。
魅力的な美羽ちゃん。

その中で、私はアイドルに向かないかなと思った時もあった。
それでも、みんなは私にリーダーであるように願った。

貴方が、相応しいからと。

プロデューサーも応援してくれてるから。
私の……私の……大好きな人。
恋してる人の為にも。

だから、私はアイドルだ。

ファンのすべてが。
今のすべてが。

私にとって宝物だから。

だから、

「愛梨ちゃん……でもね、自分がアイドルじゃなきゃ……いけないんです」


私は


「殺し合いを止めて、皆がアイドルで居られるように……私は頑張ります」



頑張ると、決めたのだから。





【G-2/一日目 深夜】
【高森藍子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。
1:愛梨ちゃんも止める。

※FLOWERSというグループを、姫川友紀、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいて、リーダーです。四人同じPプロデュースです。

220Distorted Pain/日向の花 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/05(月) 02:14:32 ID:jjRRoXds0
投下終了しました。
とときんの状態表の後に

※楓と同じPです。またOPで声を上げたアイドルです
を追加します

221 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/05(月) 02:56:39 ID:itE37SHk0
皆様投下乙です!

>彼女たちがはじめるセカンドストライク
うああああキツい……しかしキツい話をキツいままに終わらせないのが凄いなぁ
重いものを背負ってしまった分、姉御には頑張って足掻いて欲しいな

>Distorted Pain/日向の花
OPのアイドルはとときんだったかー
シンデレラガールが殺し合いに乗ったとなると、他のアイドルにも影響出そうだなぁ

藤原肇、単独で予約しますねー

222 ◆44Kea75srM:2012/11/05(月) 04:18:44 ID:aZ7v9Tlk0
皆様まとめて投下乙ですー

>邂逅、そして分たれる道
奈緒おおおおおおお!加蓮んんんんんんん!と叫びたくなるようなド修羅場。
悲劇的なファーストコンタクトから二人がどこに転がり落ちるのか、見ものです。

>太陽のナターリア
ナターリアかわいい! ナターリア天使!
他のアイドルが苦悩しつつ殺し合いに殉じようとする中、ナターリアの思想はアイドルとして純粋だ。マジ天使。

>少女/大人
川島さんと姫川さんがいるせいか、会合の場所がまるで営業中の居酒屋のように思える不思議w
泉ちゃんもがんばろうとしてるんだけど、やはり気になるのはちひろの飲み友達設定の川島さん。どこへ行く。

>彼女たちのためのファーストレッスン
やっぱり輿水ちゃんは登場話からしてかわいいですね!
っていうかキノコといいこの山爆弾だらけですよどうしましょう! ゆかりさんの武装が凶悪性抜群w

>すれ違いし意思よ!
いつもどおりの中二病全開な言葉とは裏腹に内心ビクビクしてる蘭子ちゃんかわいい!
そしてロワにはつきものの誤解が、まさかこんなカタチでw 蘭子ちゃんの明日はどっちだw

>それぞれの本分
こえー! 新田ちゃんこえー! あのとろんとした顔で桃華ちゃま追いかけてる場面想像するとかなり怖い。
それだけに珠ちゃんのかっこよさが際立った。その後の恥ずかしい一面も含めて、微笑ましいw

>彼女たちがはじめるセカンドストライク
おに!あくま!えーんこんな話あんまりだ>< ここはロリっ子にやさしくないロワですね!
千枝ちゃんの顛末が悲惨で目を引くんだけど、拓海さんのテンパリ具合も素晴らしい。これが普通の反応だよなーって。

>Distorted Pain/日向の花
総選挙1位のトップアイドルが、まさかの……。劇場での扱いからのOPと思うとなんとも言えない。
そしてそんなトップアイドルに真っ向から言葉をぶつける藍子ちゃんが超格好いい。主人公の風格を感じる。


そして自分は
相川千夏、大月唯、緒方智絵里、若林智香、道明寺歌鈴で予約します。

223 ◆44Kea75srM:2012/11/05(月) 04:20:49 ID:aZ7v9Tlk0
■まだ未予約のアイドル達

 【キュート】
 ○三村かな子/○五十嵐響子/○前川みく/○栗原ネネ

 【クール】
 ○多田李衣菜/○白坂小梅

 【パッション】
 ○及川雫/○相葉夕美/○日野茜

 【書き手枠】
 残り1枠 (投下済み:佐城雪美、本田未央、喜多日菜子、大石泉、星輝子)


■予約中のアイドル達

◆6MJ0.uERec 岡崎泰葉、榊原里美
◆GeMMAPe9LY 城ヶ崎美嘉、三船美優
◆n7eWlyBA4w 藤原肇
◆44Kea75srM 相川千夏、大月唯、緒方智絵里、若林智香、道明寺歌鈴

224 ◆FGluHzUld2:2012/11/05(月) 17:42:35 ID:UkU1d9jg0
皆様投下乙です。
自分も多田李衣菜、日野茜を予約させていただきます

225名無しさん:2012/11/05(月) 18:56:33 ID:F7YEiOHM0
投下乙です

>彼女たちがはじめるセカンドストライク
おに! おにー!! ああ、また1人幼女がこんなことに
手榴弾を追いかけちゃうっていうのが、いかにも”子どもがやりそうなミス”って感じで生々しくて…
しかし、それでも”間に合う”子がいるはずだと行動する向井さんは強いなぁ
「海を泳げるふたりになれると思う?」「みんなで泳ぐんだよ」というやり取りがすごい好き

>Distorted Pain/日向の花
とうとうOPで反抗してたアイドルが来たか…
うん、自分のせいで好きな人が死んだら笑い方なんて忘れるよ
悲惨な話だけど、皆に影響力のあるシンデレラガールが殺し合いに乗って、
普通の人代表の女の子がそれを止めようとしてって言うのは王道っぽくて熱かった

226 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 19:31:18 ID:JU8F7j4Q0
失礼します
期間中に書き上がるめどが立たないため、予約を破棄させて頂きます
申し訳ありません

227名無しさん:2012/11/05(月) 23:01:41 ID:h7i8KNqM0
トリップに間違いなどはありませんか?
今一度確認をお願いします

228 ◆6MJ0.uERec:2012/11/05(月) 23:21:08 ID:JU8F7j4Q0
>>177
ぐぐるとトリバレしているとの報告があったので、以前トリの変更を申請させていただきました

229 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:21:55 ID:JU8F7j4Q0
ところで、ようやく完成したのですが、破棄した分再申請及び投下しても構わないでしょうか?

230 ◆John.ZZqWo:2012/11/05(月) 23:27:18 ID:uMFYuc2w0
全然問題ないと思いますよー。私が言うのもなんですけど、多少の遅れなら一言あればみんな待ってくれると思いますw

231 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:49:42 ID:JU8F7j4Q0
それではお言葉に甘えさせて頂きます
岡崎泰葉、榊原里美投下します

232夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:53:01 ID:JU8F7j4Q0
眩しかった日のこと……そんな夏の日のこと――





私、岡崎泰葉は子どもの頃からずっと芸能界で生きてきました。
だからこの世界が華やかなだけの世界じゃないということも分かっていました。
舞台で輝ける芸能人は、たったの一握りで。
誰からも見向きもされない陰で、いつも誰かが泣いていました。
その誰かになりたくないなら、勝ち続けるしかないとそう思っていました。
たとえそれが、誰かを蹴落とし、より多くの涙を流させることになろうとも。
勝つか負けるか、それこそがこの世界の全てなのだと、私はずっとそう信じていました。

モデルからアイドルになってもその考えは変わりませんでした。
誰にも負けたくないと願っていました。
誰にも負けてはダメなんだって思い込んでいました。
一番になれるのは一人だけだから。
これは私一人の戦いで、そうでなければいけなくて、独りになりに行くのだと。
ずっと、ずっと、ずっと、そう勘違いしていた私は、なんでも一人でできるのだと強がっていました。
頼れるのは自分だけなのだと思い込んで。
今更教えてもらうことなんてないってプロデューサーのことさえも、最初は軽んじていて。
信じてくれますかと問いかけながらも、結局は、私は自分のことしか信じきれていなかったのです。
……いいえ、自分のことさえも信じていたかと言えば、語弊があります。
大丈夫、ひとりできると。
ステージには慣れてるから平気だと。
経験で優っているのだから同時期にデビューしたライバル達に負けはしまいと。
何度も何度も自分に言い聞かせてはいたけれど、でも、本当は、不安だったんです。
私なんかがアイドルとしてみんなに認められるのかな、って。
こんな子どもぽくなくて、普通の人の幸せも知らないで、芸能界の汚いところばかり見てきて、笑い方さえも忘れてしまった私が。
誰かを蹴落として泣かせていた私なんかが。
ファンの皆を笑顔にして、幸せにする『アイドル』に、本当になれるのかって、心の底では不安だったんです。

きっと、プロデューサーにはそんな私の奥底も見ぬかれていて。
ようやく私がプロデューサーに心を許し始めて、あの人に興味を持って欲しいと思い出した頃に、突然一つの仕事を言い渡されたんです。
それはサマーライブのお仕事でした。
しかも単なるサマーライブではありません。
アイドル同士がライブでファンの心を掴み合う、アイドルサバイバルと称される大勝負の舞台だったのです。

あの舞台が私を変えてくれました。
当初私は、誰にも負けられないと最初から本気でところ構わず数多のアイドル達にライブを挑みました。
そんな中、彼女たちに出会ったのです。

233夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:53:27 ID:JU8F7j4Q0
彼女たちは輝いていました。
経験だけでは補えない輝きを私は彼女たちから感じました。
きっと、私は不覚にも、自身もアイドルでありながら、いいえ、自身もアイドルだからこそ、彼女達に魅了されてしまったんです。
ああ、これこそがアイドルなのだと。私が目指すものなのだと。
もちろん、負けることを自分によしとしていなかった私は、最初は素直に自分の敗北を認めることはできませんでした。
負けたことが受け入れられなくて、何度も、何度も、彼女達に挑んで。
いつしか相手に勝ちたいという想いは、自分に負けたくないという求道へと変化していました。
私がアイドルになりきれてないのならば、このLIVEを通じてきっかけを掴んでみせると。
学んだことを私のものにするために…このLIVEで私はアイドルになってみせると。
私の全力に真剣に応えてくれる彼女達に、幾度と無く胸を貸してもらいながら、私はついに彼女達にあって私にはなかったものを掴み取ることができました。

それは、笑顔でした。
勝ち負けに拘らず、心からLIVEを楽しむという、私も最初は持っていたはずの、ずっと前に置き去りにしてしまっていた気持ちでした。

そして、私は実現しました。
私も、応援してくれるファンの皆さんも楽しめるLIVEを。
全力を出し尽くした私にとって最高のLIVEを。
それでも私は負けてしまったのだけど、でも、心からの感謝を彼女達に伝えることができました。
だって、あの時ようやく私は、アイドルになることができたから。
勝っても負けても笑い合える世界で、自分もファンも笑顔にできるそんなアイドルに。


それからの日々は、とても充実したものでした。
モデルの頃よりお仕事が楽しくなってきたのかなってそう思えて、この気持ちがプロデューサーにも伝わってくれればなって願ってました。
私にとっての幸せが、アイドルのお仕事を楽しめる今の環境なんだって気付かせてくれるたのはあの人だから。
だから、私は、今度は私がプロデューサーを幸せにしたいとそう願うようになり、ある日問いかけました。

プロデューサーにとって幸せってなに…?

と。プロデューサーは笑ってはぐらかすだけで答えてはくれませんでした。
でも、相変わらず今も負けず嫌いな私は、その時に誓ったんです。
だったらいつか、私が、プロデューサーさんをも幸せにできるようなそんな輝く笑顔のアイドルになろう、と。
それがずっと探し続けていた私にしかできないことで、私の夢なのだと。
今はまだ自然に笑えるようになってきたばかりだけれど。いつかは、いつかはきっと。
あの日相見えた彼女達にも負けないそんなアイドルに――。

234夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:53:54 ID:JU8F7j4Q0
そう、思っていたのに。

なんだろう、これは。なんなんだろ、この状況は。

アイドルが、死んでいました。
私の目の前で、アイドルが死んでいました。

「…………え?」

おかしいですよね。そんなはずはないですよね、プロデューサー。
いいえ、アイドルだって人間だもの。
いつかは死にます。だから、アイドルが死んでいることがおかしいんじゃありません。
アイドルが、殺されていることが、おかしいんです。

「なん、で」

愚問です。
殺されているからには殺した誰かがいるのでしょう。
じゃあ、誰が、なんのために?

ストーカーという言葉が、まず真っ先に浮かびました。
それもまた華やかさの裏に隠れた、芸能界の闇の一つです。
アイドルの輝きを自分のものだけにしたい、そう思っての犯罪は後を断ちません。
でも、この場に、ストーカーなんているのでしょうか。
この、アイドルのみが集められ、殺し合いを強要された島に。

「なんで、なんで、アイドルが……っ」

だったら、答えは一つしかありません。
凶器らしきものが見当たらない以上、自殺でもありえなくて。
それなら、それならこれは――。

「なんで、アイドルが、アイドルを殺してるのっ!?」

アイドルが、アイドルを殺したと、それ以外にはありえない!
なんで、なんで、なんで……!?
アイドルは、みんなを幸せにするんじゃなかったの……?
勝っても負けても笑い合える、そんな誰もが楽しめる世界で輝いているのが、私達じゃ、あなた達じゃなかったんですかっ!
私、名簿を見た時に、ほっとしたんですよ。
ああ、ここに載っている人達なら、私に真のアイドルを教えてくれたあなた達なら大丈夫だって。
誰も殺したりしないって。
それなのに、それなのに!

所詮私があの夏に見たのは幻想なの……?
この世界は、誰かを蹴落とし、誰かを笑顔にする傍らでライバルを泣かすしかない世界なの……?
一人ぼっちの頂点に、たった一人に、なりにいくしかない世界なの……?
アイドルなんて、アイドルなんて、その程度の存在なの!?
教えて、教えてよ、教えてください、プロデューサー。

「教えてください、今井かな!」

縋るように、私は彼女の遺体を抱き起こしました。
私は彼女を知っていました。覚えていました。
私に楽しむ気持ちを思い出させてくれた彼女達の一人である少女のことを、どうして忘れることができるの?
そして彼女は死して尚、私にアイドルを教えてくれました。

235夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:54:28 ID:JU8F7j4Q0

「……あ」

ああ、そうか。
そうなのかと。
自分がとんだ思い違いをしていたことに、その死に顔を見た瞬間気付かされました。

「……ああ、あなたは。最後まで、アイドルでいようとしたのですね」

少女の死に顔は安らかでした。
誰かに殺されたのだと思えないほど、安らかなものでした。
それは単に、自分が殺されたことに気づいていないが故の無垢な笑顔じゃありませんでした。
自然と笑えないで長いこと苦しんでいた私だから分かるんです。
彼女の笑顔は、怖さと、哀しさと、苦しさが入り交じった泣きそうなものでした。
つまりそれは、少女が殺されるのを分かっていながらに、笑顔を浮かべていたということです。
笑顔で死ぬことを選んだということです。
だからでしょう。
その笑顔は無理矢理のはずなのに、どこまでも誇らしげで、輝いていました。
あの夏のように。私が魅了された笑顔のように。

「そう、ですよね。アイドルが、自分も相手も楽しく幸せにするアイドルが、人殺しなんて、するわけ、ない、ですよね
 私の夢であるアイドルが、私とプロデューサーの幸せであるアイドルが、こんな、こんな、こんな……」

私は懺悔しました。
思い違いも甚だしいと、この尊敬すべき、アイドルの先輩に頭を下げました。
勝負の世界で生きていようとも、真のアイドルは誰かから笑顔を奪ったりしません。
だったら、彼女を殺したのは、アイドルなんかじゃないんです。
ただの人殺しなんです。

ふつふつと怒りが湧いて来ました。
どうして、どうしてなんだろうと。
どうして彼女のような最後までアイドルたろうとした人が死んで、ただの人殺しが今ものうのうと生きているのだろうと。
許せない、許せない、許せな……「ひぃっ!?」
暗い感情に沈み込みかけていた私を引き戻したのは、聞きなれない誰かの悲鳴でした。
振り向けば、そこには髪を後ろで二つに分け、独特なボリュームのある編み方をした女性がいました。

「あなたは……」

確か、榊原里美と言ったでしょうか。
あの夏の日々より少し前の、アイドル水泳大会にてとても目立っていたアイドルです。
ただ私自身があの頃は、自分以外のアイドルを倒すべきライバルとしてしか見ていなかったので、あまり良く知らない相手なのですが。

「あなたは……アイドルじゃないの?」
「ひっ! い、いや、こ、こな、こな、あ、あああ、ぃぃいあああああ!」
「あなたは……人を殺すの?」

私は怒りのままに悪鬼もかくやという表情をしていたのでしょう。
その上死体を抱いているのです。
榊原里美が恐らく私を人殺しと勘違いしたことも当然のことでした。

236夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:54:55 ID:JU8F7j4Q0

だから、これは、この感情は。

「助けて、助けてくださぁいっ」

私の中で鎌首をもたげぬまま消えぬ怒りは。

「お兄様、助けてください、助けてください、お兄様、お兄さまぁ〜!」

人殺しなんかと間違われたことへの怒りではなく。

「プロデューサーさぁん、プロデューサーさぁあああああん!」

ただ、ただただただただただ――アイドルなのに、泣いてばかりで何もしようとしない榊原里美への怒りでした。

「いやああああああああああ!」

ゆらりと、私が突き付けた凶器に、榊原里美が一際大きな悲鳴を上げました。
ぱっと見拳銃にしか見えないこれが、殺傷力ゼロの麻酔銃だなんて、彼女は知るよしもないでしょう。
私はそれを無言のままに、彼女へと向けました。
彼女はやはり、悲鳴をあげるだけで、笑顔を浮かべようとはしませんでした。
ロケットを握りしめ、いもしない誰かに、彼女以上に助けを求めているはずのプロデューサーにただ、助けを求めているだけでした。

「あなたは……何もしないの?」

私はすうっと心が冷めていくのを感じました。
燃え上がっていた殺人者への激情とは正反対のこの感情は、きっと、怒りであると同時に、失望と呼ばれるものでした。

「そう……。あなたは……アイドルでも殺人者でもなく、ただの普通の人なんですね」

私の吐き出すかのような呟きに、ぴたり、と。
泣き叫ぶだけだった女性の動きが止まりました。

「ち、ちがぁう。私は、私は、私は、わた、わた」

きっとその辿々しい声が、揺れ動く瞳が、彼女のアイドルとしての最後の矜持だったのでしょう。
でもそれは、今井かなの死体を安置し、私が取り出した第二の凶器――ナイフの前に消え去りました。
……その程度の、ものだったのです。

「もういいです。あなたなんかがアイドルを騙らないでください。……あなたは、負けたんです。千川ちひろが用意した、この世界に」

千川ちひろは言いました。
ファンの皆を笑顔にして、幸せにする『アイドル』達だからこそ、殺しあってもらわなければならないと。
もしかしたらそれは、この殺しあいこそが私達、アイドル業界の縮図なのだと思い知らせたいのかもしれない。
アイドルに夢を見る私達に、所詮はアイドルの世界も、頂点を目指して他の全てを蹴落とすだけなのだと、大人の厳しさを教え込みたいのかもしれない。

巫山戯るな。

「私は、負けない。あなたみたいに負けたりしない。千川ちひろにも、殺人者にも、負けたりしない。私は、私は――」

私は、アイドルだ。
その最後の一言だけが、どうしても、言葉にはできませんでした。
アイドルは自分も相手も笑顔にするもの。
けれど、私は笑顔には程遠く、榊原里美を泣かせるだけでした。
それを認めたくないから、私は泣き崩れる榊原里美を今井かなの死体の傍らに置いたまま、立ち去ることを選んだのです。
私はこれから先も、アイドルか否かを出会う人出会う人へと問うていくのでしょう。
その中でもしもまた負けた人に、或いは千川ちひろや殺人者に出会ってしまったなら。
私は、アイドルとして輝こうとしない、輝かせようとしない彼女達への怒りのままに、何をしでかすか、分かりません。

「ごめんなさい、プロデューサー。ごめんなさい、今井かな。ごめんなさい、あの夏の日々……」

私はぼうっと空を見上げました。
今は夜で、眩しかったあの夏の太陽は見る影もありません。

「こんなのちっとも楽しくない」

そのことが悲しくて堪らないのに、負けないと誓ってしまった私は涙一つ流すことができませんでした。

237夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:56:49 ID:JU8F7j4Q0
【D-4/一日目 深夜】
【岡崎泰葉】
【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(11/11)、軽量コブラナイフ】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:怒り】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとしてあろうとしない者達、アイドルとしていさせてくれない者達への怒り。
1:私は、負けない
2:アイドルに、逢いたい
※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれ彼女達のことを強く覚えています。


【D-4 今井かなの死体の傍/一日目 深夜】
【榊原里美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1 不明支給品×1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:???
1:???

238夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/05(月) 23:57:40 ID:JU8F7j4Q0
投下終了です
遅れてしまい申し訳ありませんでした

239感情エフェクト  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/06(火) 00:07:39 ID:8juPLOP60
城ヶ崎美嘉、三船美優,投下いたします。

240感情エフェクト  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/06(火) 00:09:57 ID:8juPLOP60
G-3ブロック。
この島に三つある市街のうちの一つ。
近辺に町役場や図書館、学校などの施設があるそこは、現代日本における一般的な住宅街そのものであった。
そして慄然と立ち並ぶ住宅のうちの一つ、何の変哲もない民家のリビングにその少女の姿はあった。
安物の人工革のソファに身を沈めるのは、髪を派手なピンク色に染め上げた少女――城ヶ崎美嘉である。

「ジョーダンキツいって……」

いつもなら快活でテンションの高い彼女であるが、今やその表情には暗い影が落ちている。
当然だ。彼女の脳裏にこびりつくのは先ほど見せられた趣味の悪いホラー映画のようなワンシーン。
集められたアイドルたち。場違いなほどに明るい事務員。

そして――爆発。

崩れ落ちる男の体。絹を裂くような女の子の叫び声。ちらりと見えた赤黒い断面。

「うぇ……」

脳裏に再生された光景に思わずえずき、喉元までせり上がる酸味に口を押さえる。

――初めての経験だった。
先ほどまで動いていた"ヒト"が一瞬にしてただの"モノ"になる。
その光景は平和な日本にごく普通に生きてきた17歳の少女にとって、あまりにショッキングなものであった。
そして吹き飛ばされた見知らぬ誰かの顔は、いともたやすく身近な誰かに置き換わる。

「莉嘉……プロデューサー……」

城ヶ崎莉嘉。
家族でありアイドルとしてのパートナーでもある大事な妹。
『もしかしたらここにはいないんじゃないか』……そんな一縷の望みをかけて開いた参加者名簿にも、しかしその名前は載っていた。
プロデューサー。
普段はちょっと頼りないけど、やるときはやる男だってアタシは知っている。
さっきはよく見えなかったけど、あの事務員が言うことが真実ならアタシ達のプロデューサーだってあそこにいるはずだ。
……そう、あの、人質の中に。

241感情エフェクト  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/06(火) 00:10:40 ID:8juPLOP60

「……あんな光景を見せられたら、誰か、一人ぐらいは、もしかして……」

思わず口をついて出た想像に冷たい汗が背中を伝う。

死。
普段なら別段意識することもないその言葉の意味を、美嘉は改めてかみ締める

死ぬのが怖い。
家族と会いたい。
莉嘉を守りたい。
プロデューサーと会いたい。
莉嘉と三人でまた一緒にトップアイドルを目指したい。

死にたくない理由なんていくらでも挙げられる。
でも、そのためにアタシは……誰かをコロせるんだろうか?

喉がからからに渇く。
心臓が破裂しそうなほどにバクバク言っている。
自分がつばを飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
その時、美嘉の全感覚は自分の内部へと向けられていた。
そう、だから気づくのが遅れたのだ。


――ゴトリ


物思いにふけっていた美嘉は背後の物音にはっと振り返る。
ソファのすぐ近く……そこには女の人がいた。
年齢は……プロデューサーと同じぐらい。
髪を後ろ手にまとめた気の弱そうな、でも綺麗な女性。

その顔には見覚えがある。
少し前、動物園のキャンペーンか何かで莉嘉が一緒に仕事をしたことがあったはずだ。
優しくしてもらったって話を聞いた覚えがある。
確か三船美優さん、だっけ。

彼女もアイドルなのだから、この場にいてもおかしくはない。
互いに不幸な目にあってしまったというだけのことだ。
だから問題はその手に鈍く光る包丁が握られていることだ。

242感情エフェクト  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/06(火) 00:11:51 ID:8juPLOP60
「え……」

いきなり現れた他人。向けられた刃。
過剰な情報量に体が強張り、息が詰まる。
思考が停止し、美嘉の体はマネキンのように動かなくなってしまう。

「ごめんなさい……ごめんなさいっ!」

女はそういって包丁を振りかざす。
月明かりを反射して、包丁が鈍く光る。

一瞬遅れて、脳が逃げろと必死の叫び声をあげる。
しかし脳から送られた信号は、混乱で詰まった神経で塞き止められ、美嘉の体は反応しない。

(うそ、アタシ、死ぬの?)

妙にゆっくりと進む時間の中、意思とは関係なく、反射として体をかばうように左腕が上げられる。
それだけでは体重をかけた刃は止まるはずもない。
しかしそのとき視界に入ったのは左腕につけられたシュシュ。
妹と一緒に買った、お気に入りのワンポイントアクセサリ。

『えへへー、お姉ちゃんとおそろだー! へへへっ!』
『喜び過ぎだって! ほんとにしょうがないなー、莉嘉は』

瞬間、体のこわばりが消えた。
それは実際の時間にすればほんの瞬きのような時間。
その間にできたことといえば、体の片方に体重をかけソファに倒れこむことだけだった。
だが美優が包丁を振り下ろす瞬間目をつぶっていたことや、ソファの背後からという変な体勢で突き刺そうとしたこと。
そういった複数の要因が手伝って、銀色の刃はギリギリのところで美嘉の体を掠め、ソファに深々と突き刺さった。

「えっ、あっ、えっ!?」

ソファに深々と突き刺さった包丁は、表面の人工革に引っかかり上手く抜くことができない。
それどころか焦れば焦るほど抜けなくなっていく。
パニックの連鎖に囚われた美優は、美嘉から目を離し、ただ包丁を抜くことだけに専念してしまう。
その隙に、美嘉は次の行動を開始した。

「うっ、あああああああああっ!!」

何も考えない、がむしゃらな体当たり。
二人の体格はほぼ同じだが、ぶつかった方とぶつかられた方では覚悟と体勢に雲泥の差がある。
美優が一方的に吹き飛ばされ、フローリングの床に叩き付けられる。

243感情エフェクト  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/06(火) 00:13:25 ID:8juPLOP60
(アレを渡しちゃいけない!)

ソファに刺さりっぱなしの包丁を見た瞬間に美嘉の脳裏によぎった考え。
その閃きに従い、包丁の柄に手をかけた。
散々引き抜こうとして引っ掛かりが取れたのか。それとも美嘉の力の入れ方が良かったのか。
あれほど抜けなかった包丁はアッサリと抜けて、美嘉の手に収まった。

ずしりとした重みと共に手に握られた無骨な出刃包丁。
その切っ先を向けられた女の顔が恐怖に歪む。

(何よ、その顔は。殺されるのはコッチのほうだったってのに……!)

そう、これは正当防衛ってヤツなんだ。
殺されるならいっそ、こっちから……!

『お姉ちゃん。美優さんって人がね! とっても綺麗でね! 優しくしてくれて、いっしょに"がおー☆"ってやってくれて――』
「〜〜ッ! ああ、もうっ!」

けど、できなかった。
苛立ちをぶつけるように、思い切り背後に包丁を投げ捨てる。
直後背後で金属音が響く。何かにぶつかったみたいだが確認する暇は無い。
呆然としている美優から視線をはずさないまま、息を整え、両手をゆっくりと挙げる。
敵意が無いことを示す、最も分かりやすいジェスチャー。

「アタシはさ……殺されたくもないけど……殺したくなんて、そっちのがないわけよ。
 ……アンタは……どうなの、美優さん……」

名前を呼ばれ、ビクリと震える体。
こちらをじっと見る動揺した視線に真正面からただまっすぐに視線を返す。
絡み合う二つの視線。
全ての動きが消え、備え付けの時計の音だけが月明かりの差し込むリビングに響く。

停止した空間――だが、変化は時計の針が一回りもしないうちに訪れた。
ポタリ、ポタリと、フローリングに小さな水滴が落ちる。
美優の頬を一筋の涙が伝っていた。
一度流れ出した涙は止まらず、関を切ったように美優の頬を濡らした。
その後はもう言葉にならなかった。
美優はその場に崩れ落ちて嗚咽をあげ始める。

「ああ、もう……泣きたいのはコッチのほうだよ……」

緊張が解けた美嘉も、支えを失った操り人形のようにソファに倒れこんだ。

244感情エフェクト  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/06(火) 00:14:02 ID:8juPLOP60
*   *   *


バカなことしたなって、自分でも思う。
こんなのはたまたま運が良かっただけでしかない。
世の中こんな人ばかりじゃないし、さっきアタシが死んでた可能性だって十分にある。

でもさ、アタシってさ……ほら、"お姉ちゃん"だから。
莉嘉に顔向けできない生き方だけは……どんな場所でもできないんだ。


【G-3/一日目 深夜】

【城ヶ崎美嘉】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺されたくはないが、殺したくない。
1:莉嘉を探す

【三船美優】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:???
1:???

※ 民家のリビングに包丁が落ちています

245感情エフェクト  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/06(火) 00:14:23 ID:8juPLOP60
以上で投下を終了いたします。

246夏の残照 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/06(火) 00:52:47 ID:N7R701Kw0
皆様方投下乙です!

>>彼女たちがはじめるセカンドストライク
千枝ちゃんが、千枝ちゃんがああああ!
手榴弾思わず追いかけなんて姉御じゃなくてもおいバカやめろだよ
そりゃそんなことするなんて思わないよ!
主催者に思わず助けを求めちゃう姉御にもすごく共感できたけど、でもそこで終わらないで、最後にこの流れで笑えるのがすごい
いいなって思った。そんなみんなで泳いで大脱出なエンディングも、きっと明るい未来なんだって

>>Distorted Pain/日向の花
希望たろうとして絶望を招いてしまったこの皮肉
もしかしたら生きてっていうPの最後の一言は、彼女にとって縋れる最後の希望だったのかな
でも、このPが楓さんのPであることも考えるとこの先どうなるんだろ
そしてアイドルを託されてしまった少女の願いは、自分が、じゃなくて、みんながアイドルでいられるようにとでっかいなー

>>感情エフェクト
もしかしたら、お姉ちゃん頑張ってって、妹が助けてくれたのかもなあ
所々に挟まれる回想が、莉嘉の死を知っているだけに俺らには切ない
もうねえ、お姉ちゃんもだけど三船さんも本当にアイドルで、でも一般人なんだよなあ
包丁引っかかって戸惑っったり、形勢逆転で恐怖したり
誰も彼も殺し合いなんてしたくなくて
それを止めてくれたのが、もう死んじゃったけど、殺し合いは間違っているからみんなで逃げようと夢見ていた少女だってことが
たまんなく、涙でた。夢、少しだけかなったんだな、莉嘉

247 ◆44Kea75srM:2012/11/06(火) 02:40:26 ID:JEgMeIPk0
>夏の残照
前回のナターリアもそうだったけど、◆ltfNIi9/wg氏(◆6MJ0.uERec氏)は『アイドル』の魅せ方がうまいなあ……。
ただの殺し合いに放り込まれた人間ではない、ただの女の子ではない、『アイドル』としての生き様が輝いて見える。
しっかし里美ちゃんは災難なw 泰葉の芯がしっかりしているだけに、なんかアイドルとしての弱肉強食を見せつけられた感。

>感情エフェクト
ギャルギャルしてない姉ヶ崎ちゃんというのもなんだか新鮮w それどこではない、が、きちんとお姉ちゃんはしている。
妹がすでに死んでいるということを踏まえて読むと、なんかこう、くるものがあるなあ……二人のモノローグとか。
三船さんのどうしようもない感じと、美嘉の凶行を止めたけどだからどうしようという感じが、なんともいえない絶望感。


そしてすいません。>>222の予約なんですが、
【道明寺歌鈴】から【五十嵐響子】に変更させてください。


■まだ未予約のアイドル達

 【キュート】
 ○三村かな子/○前川みく/○栗原ネネ/○道明寺歌鈴

 【クール】
 ○白坂小梅

 【パッション】
 ○及川雫/○相葉夕美

 【書き手枠】
 残り1枠 (投下済み:佐城雪美、本田未央、喜多日菜子、大石泉、星輝子)


■予約中のアイドル達

◆n7eWlyBA4w 藤原肇
◆44Kea75srM 相川千夏、大槻唯、緒方智絵里、若林智香、五十嵐響子
◆FGluHzUld2 多田李衣菜、日野茜

248 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/06(火) 03:29:36 ID:PeoTCJgM0
>夏の残照
ああ、岡崎先輩がいいなぁ。
アイドルとして、しっかりして。
それゆえに里みんが許せなくて、こうなってしまう。
最後のフレーズが素敵です

>感情エフェクト
お姉ちゃんが素敵。
三船さんを殺そうとして殺せない。
泣きたいのは自分だけど泣けない。
妹が死んでるのがまた哀しいなぁ

こちら、書き手枠で矢口美羽、道明寺歌鈴を予約します

249 ◆MmI69YO1U6:2012/11/06(火) 11:33:01 ID:EyN0rY7.0
皆様投下乙でした…!

>>彼女たちがはじめるセカンドストライク
なんてことだ…なんてことだ…
目の前で自分より小さい子がこんな事になったらそりゃきっついよなぁ
必死で助けを求めて叫ぶ姐御の姿が辛くて、もうね
…それでも、間に合う子の為に立ち上がる姿はホントにグッときました…!
>>Distorted Pain/日向の花
うあー…とときんがこうなっちゃったかぁ
でも、そうだよなぁ…シンデレラだって、普通の少女なんだから
大切な人を失って、それに縋らなきゃどうしようもない気持ちが痛いって程伝わってくる…
藍子ちゃんは重たいものを託されてしまったけど、負けずに頑張って欲しい
>夏の残照
ホントに、『アイドル』であることへプライドを持ってるんだね
こんな状況でも、こんな状況だからこそ『アイドル』であることに拘って…
里美ちゃんは悪くないし泣いちゃうのも仕方ないんだけど、運が悪かった
>>感情エフェクト
ああ…お姉ちゃんだ…
勿論自分だって誰かを殺したくないのもあるんだろうけど
それ以上に妹の言葉を思い出して、お姉ちゃんだから踏み止まれるってのが素敵
三船さんも、立ち直ってくれるといいなあ

そして及川雫、前川みくで予約させていただきます

250 ◆D.qPsbFnzg:2012/11/06(火) 22:51:29 ID:vcEyEIII0
はじめまして。
早速ですが、栗原ネネ、予約させていただきます。

251 ◆04Bxyher2I:2012/11/06(火) 23:34:57 ID:6njKeB2g0
相葉夕美、予約させていただきます。

252 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/07(水) 00:33:06 ID:74qabho.0
始めましてトリップテスト

253 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/07(水) 00:42:38 ID:74qabho.0
sage忘れ済まぬ…
そして白坂小梅、和久井留美予約です

254名無しさん:2012/11/07(水) 01:45:46 ID:V5FoyvIo0
何だか一気に新しい書き手の方々と予約が来てくれて嬉しい限りです!
楽しみにさせて頂きます

■まだ未予約のアイドル達

 【キュート】
 ○三村かな子

■予約中のアイドル達

◆n7eWlyBA4w 藤原肇
◆44Kea75srM  相川千夏、大槻唯、緒方智絵里、若林智香、五十嵐響子
◆FGluHzUld2  多田李衣菜、日野茜
◆yX/9K6uV4E 矢口美羽、道明寺歌鈴
◆MmI69YO1U6 及川雫、前川みく
◆D.qPsbFnzg  栗原ネネ
◆04Bxyher2I  相葉夕美
◆j1Wv59wPk2 白坂小梅、和久井留美

255名無しさん:2012/11/07(水) 01:46:32 ID:V5FoyvIo0
現状、かな子以外投下或いは予約済みということでいいのでしょうか
驚きの好スペースですね

256名無しさん:2012/11/07(水) 02:13:19 ID:V5FoyvIo0
スペースってなんだ、ペースだw

257 ◆John.ZZqWo:2012/11/07(水) 06:11:52 ID:.xWki7kQ0
んぎゃー、起きたら予約ラッシュという嬉しい悲鳴!

み、三村かな子ちゃんを予約します!

258 ◆John.ZZqWo:2012/11/07(水) 08:20:49 ID:.xWki7kQ0
報告です。今月26日より行われる@wikiのデザインテンプレート仕様変更に対応してwikiのデザインを新しいものに更新しました。
加えて、あちこちデザインを新しくしました☆ 以上、よろしくです。

259 ◆04Bxyher2I:2012/11/07(水) 09:46:15 ID:alGJJB9A0
投下します

260目に映るは、世界の滅亡 ◆04Bxyher2I:2012/11/07(水) 09:47:35 ID:alGJJB9A0
小さな池を埋め尽くすように、睡蓮の花が咲いている。
地面から一番近い花を摘み取り、綺麗なその花を眺めながら彼女は笑う。
「綺麗な花、だなあ」
笑顔を崩さず座り込んで、その花を見続ける。
すると彼女はただ眺めていただけだというのに、手に持っていた睡蓮の花がはらりはらりと散っていった。
それでも、彼女は笑顔を崩さなかった。
まるで、それが分かっていたかのように。



散った花は戻らない。

壊れた物は戻らない。

当たり前の事なんだよ。



一人の人間が死んだ。
まるで呼吸をするようにいとも容易く。
今回のイベントは、命の奪い合い。
仕事なのかなんなのかはわからないが、他者の命を奪うことを目的としている。
「……くだらない、な」
ふざけてる、何が悲しくてそんなことをしなければいけないのか。
無闇に命を奪うことなど、許されるわけがないと。
殺し合いになど、興じるわけにはいかないと。
今までどんな辛いことも乗り越えてきた。
体力的にもキツい営業や、死にたくなるようなバッシング、体調不良を押し切ってまでライブをしたこともある。
そんなアイドルたちが集まれば、こんな殺し合いだってどうにかできる。
何をどうすればいいかなんて、全く分からないけれど。
とにかく、そんな殺し合いになんて従うわけにはいかない。
初めはそう思っていた。
きっと、ここに来る前の自分でもそう思っているだろう。
「人を殺してはいけません」
幼稚園児でも知っているような当たり前のこと。
そう、初めはそんなことできるわけがないと思っていた。

だが、どうだ?
実際にその場面に出くわしてみれば、自分の気持ちなんてのは面白いほどに変わるものだ。
誰のプロデューサーかどうかは知らないが、あの時一人の人間が死んだ。
日常生活の一環のような当然の振る舞いで、人一人分の命が奪われた。
何人かは顔を見たこともあるあの場に集められた他のアイドルたちは、その光景に絶望することしか出来なかった。
「他人を殺さなければ生き残れない」
突きつけられた単純かつ分かりやすい仕事。
この仕事に失敗すればどうなるか?
給料が下がるだとか、世の中の評判が下がるだとか、そんな生易しいことではない。
死ぬ。
自分の命が無くなり、自分の人生はそこで終わり。
こんなくだらない出来事に巻き込まれて終わり。
誰しもが望まない、最悪の結末だろう。
だからそんな結末は認めないと、動く者たちが大半だろう。
自分達の日常を手に入れるために戦い、傷つき、生きて行く。
他者を蹴落とすものや、計り知れない脅威へ立ち向かうもの。
それぞれに、それぞれの選択がある。
この場にいるアイドル達は、選択を迫られているのだ。

261目に映るは、世界の滅亡 ◆04Bxyher2I:2012/11/07(水) 09:47:50 ID:alGJJB9A0

呼吸を一つ置いて、考える。
どんな形でもいい、もし「自分が最後まで生き残ったら」という世界を考える。
数多の屍の上に勝ち取った勝利だとすれば。
何食わぬ顔で元の日常に戻り、プロデューサーと共にアイドルの生活へと戻れるだろう。
今日日普及しているインターネットやらなんやらで真実を知り、自分を批判するものも現れるだろう。
それでも、自分だけはアイドル業を続けるという人生を歩める。
脅威への反逆の末に勝ち取った勝利だとすれば。
恐らく、アイドルとしては戻れないだろう。
これだけの狂気の祭典を開催する存在から、逃げ切れるとは思えない。
上手いこと逃げ出したとしても、逃走に逃走を重ねる安らぎの無い生活だろう。

どちらにしても、つい昨日まで当たり前にあったはずの"日常"は失われる。
自分の今まで歩んできた人生、出会い、生活、友達、家族、仕事仲間。
ありとあらゆるものが崩れ去り、元の形すら保つことすら許されない。
ここでどうあがこうと、この場で死んでいったもの達とはもう会えない。
当たり前であったはずの光景は、もうどうやっても戻らない。

そう、あの時誰かのプロデューサーが死んだ時に。
この場にいる人間たちの"日常"は崩れ去ったのだ。

もし、あの時誰も死ななかったら。
もし、全員が全員この殺し合いをくだらないと思っていれば。
もし、"日常"がそのまま取り戻せたというならば。

……なんて事を考えても、もうどうしようもないのだが。

崩壊した日常は戻らない。
もう、花は散り始めているのだから。
ここで、誰が、どうしようが、元には戻らない。

何者かの手によって作られた"日常"は、自分には必要ない。
何者かの手によって崩された"日常"は、もう一生戻らない。
何者かの手によって示された"日常"は、絶望しかないから。

生き残るつもりなど、毛頭ない。
自分がどうしようが、何を為そうが"日常"はもう手に入らないのだから。
他者の血に塗れてまでアイドルを続けようとも思わない。
毎日逃亡生活に明け暮れる人生を続けようとも思わない。
どうあがこうと、絶望の未来しかないから。
私はそんなものいらない。

ああ、そうだ。
そんな絶望の未来、誰も味わう必要は無い。
血に塗れたステージも、逃亡生活というロードも、誰も知る必要は無い。
誰が生き残ろうと、待っている日常と未来は一緒だから。
そんなものは、知らなくていい。

262目に映るは、世界の滅亡 ◆04Bxyher2I:2012/11/07(水) 09:48:05 ID:alGJJB9A0

――――けれども、二十四時間以内に誰も死なないと……全員死んじゃうようにするので、注意してくださいねー。

ふと、その一言を思い出す。
ああ、簡単じゃないか。
ここにいる全ての人間が、用意された道を拒否する方法。

この場で、全員死ねばいい。
そうすれば、誰も絶望の未来を知らずにいられる。
日常を失い、用意された日常を受け入れずに済む。

どんな手段を使ってもいい。
自分が最後まで生き残り続ければ。
二十四時間のルールに引っかかって、全員が死ぬ。

それでいい、それなら未来を知らずにいられる。
失われた日常に焦がれることも無い。
手に入れた現実に悩まされることも無い。
これ以上無い、救いの道。

だったら、やることは一つだ。
幸運にも配置された場所は離島だ。
ここでじっとしていれば当分は誰にも会わずにすむだろう。
禁止エリアとやらに指定されてから、支給されたゴムボートで移動することを考えればいい。
自分が生き残り続ければ、ルールに引っかかって全員死ぬ。
最後の二人になっても、自分さえ生き続けていれば共に死ねるのだから。
生き続ければいい、皆平等に死ぬために生き続ければいい。

殺し合いが進んで自分が最後の一人になったら。
差し出された日常は絶対に拒否する。
彼らが着けたこの首輪を使ってもいい。
自ら殺されるような真似を取ってもいい。
その時はどんな手段を取ってでも、死んでやる。

もう戻らないのだから、やることは決まっている。



きょうは、みんなにおねがいがあります。

わたしといっしょに。

しんでください。



【G-8(大きい方の島)/一日目 深夜】
【相葉夕美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、ゴムボート、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ
1:しばらくは動かない
2:もし最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する

263 ◆04Bxyher2I:2012/11/07(水) 09:48:25 ID:alGJJB9A0
投下終了です。

264名無しさん:2012/11/07(水) 11:17:04 ID:V5FoyvIo0
投下乙です!
殺しあっても反逆しても、もう日常は戻ってこない、故に滅亡、か
確かにそれなら、みんなで死ぬってのも一つの救いのように感じるのかもなあ
花は一度枯れ果てたなら止まらない。人間であり、花である彼女はどうなってしまうんだろ

265名無しさん:2012/11/07(水) 12:12:07 ID:RazxKR9.0
投下乙です!
日常には戻れない相葉ちゃんが…
二十四時間ルール活用するのは斬新ですね。

気になったところといえば、フラワーズの面々について触れてない事でしょうか?
グループを組んで活躍してるわけでありますし、相葉ちゃんの方針なら何かしら触れておいた方がいいかと

266名無しさん:2012/11/07(水) 14:19:01 ID:.8pp6VYQ0
その辺りはいくらでも後から補えるのではないでしょうか。
そもそもがオリジナル設定ですし、現状では書きにくい、触れにくい、ピンと来ない書き手もいるかと。

投下乙でした。
もしかしたら十時以上にこの人は絶望してしまってるのかもしれませんね。

267 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/07(水) 16:57:50 ID:74qabho.0
投下乙ですー
ところで一つ和久井留美の居場所について質問があるのですが、
二話ではD-7ということになってますがWikiのマップや岡崎泰葉の出る話ではD-4になってます
どっち順序で行けばいいのでしょう?

268 ◆ltfNIi9/wg:2012/11/07(水) 19:16:36 ID:V5FoyvIo0
>>267
言われてみれば。
岡崎泰葉の話ですが、自分はWIKIのマップ準拠で書きました。
しかし、これは、話の都合上今井かなの死体がある位置での話でなければならなかったからです。
ですので、WIKIのマップが単なる収録ミスということであれば、私の話もD-7での物語であると状態表を修正させて頂きます

269名無しさん:2012/11/07(水) 20:37:05 ID:p2GmvOc60
>>266
オリジナル設定だからこそ、登場話で触れていたほうがやりやすいのではないかと思ったんですが
>>1の書き手さん自体オリジナル推しですし

270 ◆John.ZZqWo:2012/11/07(水) 21:57:15 ID:.xWki7kQ0
>>267-268
すいません。現在位置を作った時に間違えていたみたいです。
なので、正しくは【D-7】になるので対応お願いします。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。

wiki内のことに関しては私が全て請け負っているので、なにか間違いや不具合が見つかれば御報告お願いします。

271 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 00:01:09 ID:4qHrbQ9o0
了解しました!ではD-7で対応します

では白坂小梅、和久井留美投下します

272悪夢かもしれないけど ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 00:02:15 ID:4qHrbQ9o0


私はこの殺し合いが始まってすぐに一人のアイドルと出会った。
そのアイドルは最後までアイドルであろうとして、アイドルとして散った。
一人の女として自らの夢を叶えるために殺し合いに乗る私とは真逆の存在で、
そして、その少女の存在とその死は、私の決意を固めた。


もう後戻りはできない、するつもりもない。

私は生き残らなければならない。…どれだけのものを失っても。





「場所が近くて助かったわ」

和久井留美は北東の街に向かっていた。
おそらく街ならば人が集まる可能性が高いと思ったからだ。
あの時、あの瞬間に自分は殺し合いに乗り、一人になるまで勝ち残ると決めた。
最初に殺した少女が持っていたデイバックからはたいしたものは出なかったが、元から支給されていた銃がある。
銃の殺傷能力は既に実証済みである。多少重いものの、いざという時は鈍器にでもすればいい。
支給品の価値としては当たりといっても差し支えないだろう。
勝ちあがれる可能性は、充分にある。

――――たとえ可能性が無くても、私は諦めないけど

もはやその眼に迷いはない。
あの人のために、自分の夢のために。自分の道を行き続ける。
たとえそれが、どれだけ険しい道でも…。


と、不意に道沿いの茂みが動いた音がした。


    *    *    *

273悪夢かもしれないけど ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 00:04:29 ID:4qHrbQ9o0
「やだ……し、死にたくない…」

この異様な殺し合いが始まって数十分、白坂小梅は一歩も動けずにいた。
所謂ホラーやスプラッタ映画を趣味として見ていた小梅にとって、その恐怖はより鮮明に理解できた。

刺されて血が止まらない者、
鈍器で頭を何回も殴られる者、
爆発に巻き込まれる者、
毒薬でもがき苦しむ者、
はらわたを抉りだされる者、
燃やされる者、裏切られる者…

画面の向こう側で凄惨な死体となった姿、それが自分の姿と重なる。
そしてそれは空想上の話ではなく、今現実として突きつけられているのだ。

「うぅ…涼、さん…」

松永涼、名簿の中で最もよく知っている名前。
彼女は小梅の仕事上のパートナーであり、自分の大切な人の一人だ。
その彼女が殺し合いに参加していることは決して喜ばしい事ではなかったが、
小梅にとってはこの現状で唯一の希望になっていた。



会いたい。
自分一人では潰れてしまいそうで、壊れてしまいそうで。
守ってほしい。救ってほしい。
彼女は、自分の大切な人に大きく依存していた。

小梅の知る涼は、怖い所があって、
でもそれは自分の意思をしっかり貫いているなによりの証拠で、いつだって前を向いて導いてくれた。
だから、たとえこんな理不尽な殺し合いに居たって、自分の道を信じて、正しい方へ進んでいるはずだ。



もう一度会いたい。こんな所で死にたくない。
小梅は自分のデイバックに手を伸ばした。
死にたくない、死にたくない。具体的な方法は何もない。でも死にたくない。
何か入っていないのか。小梅はデイバックを漁る。

「こ、これ…は……」

バックの中から出てきたのは…



    *    *    *

274悪夢かもしれないけど ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 00:05:27 ID:4qHrbQ9o0



彼女たちの頭の中には、大切な人の「笑顔」が浮かんでいた。


「これで二人目、ね」

「え……」


守るために。
守ってほしくて。



    *    *    *



留美の聞いた音の方向、そこには参加者と思われるアイドルが居た。
その特徴的な姿を見て彼女が白坂小梅であるということを理解するのは容易かった。

「あなた、確か白坂小梅ね?あのコンビの片割れの…」
「あ……やぁ……!」

質問の答えは帰ってこなかった。元々留美にはさして興味の無いことだったが。
小梅は留美に過剰なほど怯えていた。
今の留美は先の殺人で返り血で染まり、冷淡な眼で怯える少女を見つめている。
小梅のその姿は最初に出会った少女とは違う、まさしく『恐怖で怯える少女』の姿だった。

「…あなたは、もう『アイドル』じゃないみたいね」
「い、嫌……!」
「別に責めるつもりは無いわ。そっちの方がやりやすいから」

そういって留美は銃を向ける。
もはや彼女の中で戸惑いや躊躇はない。…そんな感情はもう、捨てた。
あとはもう、銃の引き金を引くだけだ。


「いきなり、ごめんなさいね」

「そして」

「さようなら」

275悪夢かもしれないけど ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 00:07:25 ID:4qHrbQ9o0
「………ッ!」

その言葉を言い終わるか否か、小梅から筒状の何かが投げられる。


「何!?」


それと同時に小梅は茂みの奥の方へ逃げ出す。だが留美は投げられた何かの方に意識が集中していた。
…完全に怯えきった少女に油断していた。何も抵抗出来ないものかと思っていた。
留美にはそれを短時間で完全に認識することは出来なかった。

その筒状の物体は留美の方向へ放物線を描く。


(まず――)


あたりは閃光に包まれ、留美の思考はそこで途切れた。


    *    *    *

「はぁっ……はぁっ……」

白坂小梅は走った。すぐに後ろから閃光と爆音が発せられた。
彼女自身にも目眩と耳鳴りが襲うが、足を止めるわけには行かなかった。
足を止めたら待っているのは、死。
ごく単純で、無慈悲な結末だ。



もはや彼女の頭の中に頼れる笑顔をした人の姿は無かった。



代わりに浮かぶのは、銃をこちらに向ける松永涼の姿。

そして撃たれて、死ぬ自分の姿。


刺されて血が止まらない私、
鈍器で頭を何回も殴られる私、
爆発に巻き込まれる私、
毒薬でもがき苦しむ私、
はらわたを抉りだされる私、燃やされる私、


裏切られる、私。


当たり前の事だ。この殺し合いで生き残れるのは一人。
最初の時点でちひろがそう宣言したはずだ。
何故そんな状況で、彼女が守ってくれる保証がある?

自分の知っている相手が全てとは限らない。こんな状況なら、人間はなんにでもなる。

一度考えてしまった可能性はもう止まらない。
もう松永涼の存在は彼女にとっての希望では無くなった。
小梅の命を狙う、たくさんの参加者の一人になった。


――――私は、独りだ。


「嫌……嫌……」


彼女は、ただ泣いた。



    *    *    *

276悪夢かもしれないけど ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 00:09:34 ID:4qHrbQ9o0

「…………?」

耳鳴りがする。眼の前が真っ白になる。
周りの状況が何も理解できない。
だが、直撃したはずの体の感覚はあるように思えた。

(どういう事…?)

感覚が戻ってくる。そこには投げ込まれたモノ以外、何も居なかった。
体に損傷があるようには見えない。
てっきり投げ込まれたモノが爆発したのかと思ったが、少し違うようだ。

「…足止め目的の武器、って事ね」

留美には知る由もないことだが、この武器は所謂スタングレネードと言われるもので、
ピンを抜いておよそ三秒後、爆音と閃光により一時的に相手の行動を止められる。
だがこの武器自体に殺傷能力は無く、あくまで足止め目的だけ。
事実至近距離から受けた留美の体には大した怪我は一つも無かった。

だが、もしこれが殺傷目的の手榴弾だったら今頃私は死んでいただろう。
今回は完全に自分自身の油断から招いた事だ。
自分の夢のために、こんな所で終わる訳にはいかない。
殺す相手と語る必要は無い。無駄な行動があれば、死ぬのはこちらだ。

「さて、と…どうしようかしら」

先ほどの彼女はおそらく茂みの向こう側に逃げて行ったのだろう。
今からでも追いかければ追いつくのは不可能ではない。
だが、見失ってしまえば自分の現在位置さえも分からなくなってしまう可能性もある。

私の目的は生き残り、あの人の元へ戻ること。それが私の誓いであり、夢。
参加者を殺すのは過程だ。
彼女の動転具合から見て、おそらく長生きはできなさそうだ。
今、深追いする必要もないように思える。

「……よし」

彼女は歩きだす。その道は未だ長く、険しい。

【D-7/一日目 深夜】

【和久井留美】
【装備:ベネリM3(6/7)】
【所持品:基本支給品一式、予備弾42 不明支給品0〜1、
     今井加奈の基本支給品一式と不明支給品1〜2(武器の類では無い)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える
1:その為に、他の参加者を殺す
2:白坂小梅を追う?街へ向かう?

※どちらへ向かうかは後の書き手さんに託します。

【白坂小梅】
【装備:無し】
【所持品:基本支給品一式、USM84スタングレネード2個、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:死にたくない、誰も信用できない
1:とにかく逃げる

277悪夢かもしれないけど ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 00:10:44 ID:4qHrbQ9o0
投下終了です。

278名無しさん:2012/11/09(金) 00:27:06 ID:.3bQjsEE0
投下乙です!
和久井さんは躊躇いがない上に今回の一件で慎重になるだろうから他のアイドルにとっては脅威だな
小梅は涼と完全に想いがすれ違っちゃったなぁ
もう少しメンタルが強ければまた違ったんだろうけど、このままだともし再会しても一波乱ありそうだ

279名無しさん:2012/11/09(金) 00:30:39 ID:oxPD0KE20
投下お疲れ様です
助けたい、助けて欲しい
その二つの差というか、関わった結果が、助けて欲しいと誰にも願えなくなったというのがなんか悲しいな、小梅

280 ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:34:34 ID:hicZ0R420
投下乙です!

>目に映るは、世界の滅亡
うわっ。のっけから絶望感たっぷりな子がきちゃったぞこれ……花が散るくだりがまさに絶望感。
このままひとりきりの絶望描写を見ていたい気もするし、誰かに会って浮上したりさらに落とされたりする姿を見てみたいとも思ってしまう。
しかし相葉ちゃんがこんなことを考えている時点でもう殺し合いは始まっちゃってるんだよな……そう考えるとさらに絶望感。

>悪夢かもしれないけど
和久井さんのフットワークが軽快すぎて早くも二人の犠牲者が――!?と思ったら持っててよかったスタングレネード。
しかしよくよく弱者が追い詰められていくロワだなあ。今回は難を逃れたけど、小梅ちゃんもまた別の意味で爆弾を抱えている。
相方の涼さんとの位置も近いようで遠い……このまま二人はどこに向かうのか。


そして自分は
相川千夏、大槻唯、緒方智絵里、若林智香、五十嵐響子を投下します。

281アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:35:33 ID:hicZ0R420
 その日は奇妙な一日だった。

 仕事のため事務所に寄った五人のアイドル、相川千夏、大槻唯、緒方智絵里、若林智香、五十嵐響子は、揃って顔を見合わせる。
 所内は閑散とし、なぜか誰もいない。五人が集められたここ会議室にも、事務員の千川ちひろが一人残っているのみだった。

「――そういうわけで、みんなにもぜひ『シンデレラ・ロワイアル』に協力してほしいの」

 ホワイトボードの前に立つちひろが、両手を合わせての笑顔でそう告げた。
 シンデレラ・ロワイアル――それは、五人の所属事務所が立ち上げるという新たな番組企画である。
 企画概要はおおまかに説明して『数十人のアイドルたちによる殺し合い』をテーマにしたドラマということだ。
 出演者は五人のみならず、同じ事務所に所属する選抜されたアイドル計60人。女優経験を持つ者から持たない者まで様々である。

「ほら、最近他社の超大型アイドルグループが、アイドル同士のガチンコバトルを題材にしたドラマをやったじゃない。
 ああいうノリで、うちもなにかできたらなーって。それで持ち上がったのがこの『シンデレラ・ロワイアル』なの」

 アイドルたちは脱出不可能の孤島に連れて行かれ、そこで最後の一人になるまで殺し合いを強いられるのだという。
 もちろんアイドルが理由もなく殺し合いをするはずがない。なので動機として、とある設定を付け加えるらしい。
 そのとある設定というのが、アイドルたちの想い人であるプロデューサーが企画運営者に人質として囚われているというものだった。

 アイドルたちは殺し合いをしなければならない。
 もし拒否するようなら、人質となっている想い人が見せしめに殺されてしまうのだ。

「殺し合いということでグロテスクな感じのサスペンスを思い浮かべているかもしれないけど、
 要するにこれは恋愛モノ。ラブストーリーなのよ。女の子なら一度は経験してみたいでしょ?」

 恋愛モノのドラマ。それはアイドルとして、女の子として、ぜひとも経験してみたい舞台ではある。
 しかし、愛する人のために戦う……友達、あるいはライバルとも呼べるアイドルを、殺す。とは。
 これは些かどころではないハードな話だ。求められる演技力も並大抵ではない。ハリウッド級のラブストーリーである。

「しつもーん」

 手を上げたのは五人の中の一人、17歳の大槻唯だ。
 ウエーブのかかった明るめの髪、それにぱっちりとした瞳が快活な印象を漂わせる。実際、五人の中では目立って快活な女の子だった。

「内容はわかったけど、なんでそれをちひろちゃんが説明してんの? あと、どうしてゆいたち五人だけ?」

 唯の質問はもっともだった。
 本来、こういった企画概要を説明するのはプロデューサーや番組関係者の務めであり、ちひろのような一事務員の仕事ではない。
 それにシンデレラ・ロワイアルの参加アイドルは60人だが、いまここに集められているのはなぜか五人。
 説明するならもっと人数を集めていっぺんにやったほうが効率的ではないか。それとも単純にスケジュールの都合か。
 首を傾げる唯に、ちひろは手を合わせながら言った。

「私が説明するよう、社長に言われたのよ。それと、あなたたち五人だけを集めたのには三つの理由があります。
 一つ目は、あなたたち五人を担当するプロデューサーさんが同じ人だっていうこと。そして二つ目は――」

 ちひろの言うとおり、唯たち五人の担当プロデューサーは同一の男性が務めている。
 唯たちは別段ユニットを組まず個々に活動しているが、まだまだ専属のプロデューサーが付けられるほど売れっ子ではない。
 それでも最近は活躍の機会が増え、プロデューサーの負担も大きくなってきていた。
 近頃など仕事がブッキングし、『五人で一人のプロデューサーを取り合う状況』が生まれたりということもあったのだが――


「あなたたち五人みんな、プロデューサーさんに恋してるってことです!」


 ドクン、ビクリ、ガタン、と――五人全員の心臓や身体が跳ね上がった。
 満面の笑みで現役アイドルの恋愛事情を暴く事務員に、唯をはじめとした五人はどう返せばいいのかわからなかった。
 そのまま数十秒。沈黙に耐えられなくなった一人のアイドルが、ちひろに向けて言葉を返す。

282アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:36:09 ID:hicZ0R420
「――否定はしないわ」

 ショートカットにフレームのはっきりとした眼鏡の容貌。五人の中では最年長の23歳、相川千夏だった。
 千夏はクールな外見に違わず落ち着いた声を紡ぐが、その内心は自身の恋心を暴かれ揺れていた。

「他のみんなはともかく、私はたしかに、彼を一人の男性として見ている。
 まだ想いを告げたわけではないけれど……いい機会だから、ここで先に宣言しておくとしましょう」
「ちょ!? ちなったん、それってもしかして宣戦布告ってやつ!?」
「そういう反応を返すということは、唯ちゃんもあの人を慕っているのね?」

 千夏の言葉に、唯は「しまった!」という表情を浮かべていた。
 この二人のやり取りを見て、他三人の心も揺れる。

「え、と、あの、あの……わたしも、プロデューサーの、ことが……すっ……」

 おどおどとみんなの顔色を窺いつつも発言したのは、16歳の緒方智絵里だった。
 幼さの残る容姿と、それを強調させるかのようなツインテール。上気した頬は恥ずかしさの表れか。
 智絵里のそんな姿を見て焦ったのか、隣に座っていた若林智香が続く。

「あ、アタシも! アタシ、若林智香もプロデューサーさんのことが好きです! 恋してます!」

 年齢17歳。髪型は跳ぶと元気に跳ねるポニーテール。
 チアリーダーらしく弾んだ声で自分の感情を主張する彼女に、智絵里は最後まで言えず萎縮してしまった。

「わ、私もです! いつかプロデューサーみたいな優しい人を旦那さんにって……ああうあ! みたいな、じゃなくて!」

 唐突に始まった大告白大会、最後に口を開いたのはまだあどけなさの残るサイドポニーの少女だった。
 15歳最年少の五十嵐響子。表情にも語調にもかなりの動揺が出ているが、それでも黙ってはいられなかったのだろう。
 五人全員が自身の想いを告げ終えた頃には、千夏以外の四人全員の顔が真っ赤に染め上がっていた。
 いや、時間差で千夏の頬も朱色を帯びてきた。そしてしばらく無言になる。

「みんなかわいいわ〜。恋する女の子って、本当にステキ」

 羞恥による沈黙の会議室。
 その光景を見て、ちひろはにっこりと笑った。

 そうなのだ――この五人のアイドルはみんな、同じ男性に恋をしている。

 自身を担当するプロデューサー。仕事上のパートナー。
 でも、一緒に仕事をしている内にだんだん……という、よくある流れだ。

 五人とも本人に想いは告げていないが、ライバル同士の気持ちは思わぬ場で明るみに出てしまった。
 負けられない。みんながみんな、恋する女の子として闘志を燃やす。

「そんな恋するあなたたちだからこそ、シンデレラ・ロワイアルの『主役』になってほしいの」

 火花を散らす五人に、ちひろはさらなる説明を加えた。
 シンデレラ・ロワイアルの魅力は、愛する人のために戦う少女たちの『強さ』を描くことにある。
 いくら想い人を人質に取られようと、誰もが意気揚々と殺し合いに興じられるわけではないだろう。
 それは『やらなければプロデューサーが死ぬ』という前提条件を置いたとしてもままならない、倫理観の問題である。

「でも、私は確信しているの。あなたたち五人なら――ためらわずに、やってくれるって」

 ちひろの言葉を受け、恋する五人は自分の胸に手を当てて考える。
 もし、本当にそんなことになったなら……きっと私は、アタシたちは、愛する人を守るために殺し合いを行うだろう。
 その結果、生き残れるかどうかはわからない。だけど、とりあえずはやる。抵抗の意思を見せれば、プロデューサーは殺されてしまうのだから。

283アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:36:45 ID:hicZ0R420
「いいえ、違うわ。あなたたちは殺し合いをして、尚且つ優勝を目指すはず。だって、そうじゃなければあなたたちの恋は叶わないのだもの」

 全員、ハッとした。
 生死のかかった戦場のラブストーリーなどでは、愛する人が生きてさえいればそれでいい――なんてシーンをよく見る。
 だけど実際問題、ここにいる五人は現実を生きる女の子なのだ。恋する女の子なのだ。
 愛する人には生きていてほしいし、自分も生きたい。そしていちゃいちゃしたい。恋人になりたい。好きと言い合いたい。
 それは少女として当然の欲求だった。片方が生きていればそれで満足――なんて選択肢は、聖人にしか取りえないだろう。

「……まじめに殺し合いをして、それで優勝すれば、プロデューサーと一緒に生きて帰れるんですか?」
「ええ」

 響子の強張った質問に、ちひろは即答で返した。

「だったら……うん。やる、かも。なんていうのかな。そのほうが自分っぽい気がする」

 うん、うん、と。唯は何度も何度も頷きながら、確かめるように言葉を紡ぐ。
 智絵里や智香、千夏に響子も――「そんなこと、絶対にしない!」と強く否定できる者はいなかった。

「シンデレラ・ロワイアルはラブストーリーよ。だからこそ、主役にはとびきりの恋をしている子が相応しいの」

 ちひろのいう主役とは、要するに『自分から率先して殺し合いを進める、大量殺戮者』の役だった。
 映像映えする派手で強力な武器を与えられ、殺し合いに否定的なアイドルを積極的に殺していく。
 死んだらゲームオーバー、つまり出番終了と考えれば、なるほど殺人者こそが本作の主役と言えなくもないだろう。

「でも、わたしなんかが、その……うまくできるかな……?」
「アタシも不安だなあ。ダンスなら自信あるけど……プロデューサーさん、この前アタシがお芝居やりたいって言ったら苦笑いしてた」

 智絵里は見るからに、いつも元気で自信満々な智香ですら、今回の話には尻込みしているようだった。
 十代の女の子に殺人者の役。しかもアイドル。これはなかなかに要求レベルの高い仕事である。
 恋する女の子であるところは否定しないが、だからといってやりきれるだろうか、皆の心を不安が侵食する。

「その前に、この企画は本当に実現するのかしら?」

 と言ったのは千夏だ。
 他の四人が早くもやる気になったり自信をなくしたりしている中、一人冷静に意見を述べる。

「いくらなんでも、イメージというものがあるでしょう。アイドルが殺し合いというのは、問題だと思うの。
 事務所の方針というのなら従うしかないけれど、私はこの企画コンセプトには首をひねるし賛同もしたくない」

 誰もが我に返るような顔をした。それくらい、千夏の言ったことは正論だったのだ。
 そういう内容の映画があって、その中の一人にアイドルが女優として出演するのなら問題はない。
 しかしちひろの言う企画は、事務所を上げてのアイドルによる殺し合い。
 歌って踊ってみんなに笑顔を振りまくはずのアイドルが、殺し合いなのである。
 ファンはなにを思うか。業界はどう解釈するか。
 一部の人間以外は……もちろん、悪趣味としか思わないだろう。

「そうね、そのとおりだわ」

 千夏の指摘に、ちひろはうんうんと頷いた。
 そして、

「じゃあこの話は聞かなかったことにして。ね?」

 あっさりと。
 常の微笑みを纏いながらながら、簡単に話題を流してしまった。

284アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:37:21 ID:hicZ0R420
「えっ。いや、でもやるってことは決まってるんじゃ? ゆい、主役ならやりたいかなーって」
「ところで、この中でプロデューサーさんのことが一番好きなのって誰なのかしら?」

 食い下がろうとした唯の発言は、ちひろの思わぬ問いによって掻き消される。
 動揺したのは五人全員だ。それぞれが顔を見合わせ、牽制し合うように喉の奥に言葉を溜めている。

「……私、彼の唇を奪ったわ」
「「「ええっ!?」」」
「彼が居眠りしている間に……その、頬にだけど」
「「「それって唇じゃないじゃん!」」」

 先制したのは千夏である。
 それくらいは当然、と言わんばかりの大人びた声調で、尚且つインパクトが出るように事実を誇張して口にする。

「私だって、いつかプロデューサーと結婚しようねって約束したことがあります!」
「「ええっ!?」」
「……な、ナターリアと!」
「「紛らわしいよ!」」

 反撃したのは響子だ。彼女はプライダルショーのイベントの際、仲の良いアイドルのナターリアとそんな会話をしたことがある。
 もちろん、プロデューサー本人にそんな約束というか想いを伝えたことなんてなかったが、口に出さずにはいられなかった。
 他の四人よりも一歩先へ、リードしたい。そんな気持ちを、ここにいる誰もが抱いていた。

「そ、それならあれだ! ゆいなんかプロデューサーちゃんと一緒にお風呂入ったことあるし! しかも露天風呂!
 も、もうあれだから! ツルツルお肌いっぱい見られたりしちゃったから! あのときのプロデューサーちゃんちょーかわいかったから!」

 負けじと、唯が爆弾発言。実際は仕事で一緒に温泉へ行ったことがあるだけで、混浴したわけではない。
 しかし、話を盛らずにはいられないのだろう。ここで引いては女が廃る。そんな目をしている。
 いまの時代、恋する女の子はガツガツ主張する肉食系でなければいけないのだ。

「じゃ、じゃあ……! アタシは、プロデューサーさんに着替え覗かれたことがあります!
 チアの衣装に着替えてるとき、プロデューサーさんがいきなり楽屋に入ってきて……っ」

 このまま遅れを取るわけにはいかない、と自身の中で一番恥ずかしかったエピソードを告白する智香。
 だがこれは悪手だったようで、千夏、唯、響子の三人が一斉に目を光らせた。

「それなら私もあるわ」
「ゆいもあるよ!」
「私もあります!」
「ええっ!? ひ、酷いですプロデューサーさーん!」

 着替えを覗かれる、なんていうのはこの五人の中では序の口レベルのハプニングだったらしい。
 まずい。一人だけ負けている。競争なら一周半くらい差をつけられている気分だ。智香は勇気を振り絞り、

「だ、だったら……アタシはプロデューサーの生着替えを覗いちゃったことがあります!」

 会議室内に衝撃が走った――!
 唯と響子はもちろん、平静を保とうと努めていた千夏までもが、驚愕のあまり表情を歪める。

「き、着替えって……! それってつまり、プロデューサーちゃんの裸を見たってこと……!?」
「あら、唯ちゃんは一緒にお風呂に入ったんでしょ? ならそれくらいで動揺するのはおかしいんじゃない?」
「ぐっ、ぐぅぅ! そ、それは……うぅうう、ちなったんがドSだよぉ……!」
「ふふふっ。悪いけど、相手が唯ちゃんでも一歩も譲る気はないわよ……!」
「裸……プロデューサーの裸……下着くらいなら見たことあるけど、裸は……」
「って、ちょっと待って響子ちゃん! いまのセリフなに!? 聞き捨てならないよ!?」
「ぷ、プロデューサーの部屋に行ったことがあるんです! お部屋の掃除して、ごはんも作りました!」
「通い妻!? 響子ちゃんがそんなに積極的な子だったなんて……智絵里ちゃん! 智絵里ちゃんはなにかないの!?」

285アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:38:17 ID:hicZ0R420
 智香に話を振られ、智絵里の肩がビクゥ! と震え上がった。
 もともとがおとなしい少女である。恋するライバル四人の迫力にあてられて、自分からは発言できずにいた。
 しかし智香のアシスト(本人にその意図があったかどうかは不明だが)を受け、一同の視線がいま、智絵里に集まる。
 ごくん、と唾を飲み込み、ライブのときの挨拶を放るように、思い切って言い放った。

「わっ……わたし! プロデューサーさんと一緒に寝たことがあります!」

 唯が椅子から転げ落ちた。千夏がわけもわからず立ち上がった。
 響子は追い詰められた子犬のような涙目になり、話を振った智香はカチコーンと凍結した。

「わたし、その日はなかなか寝つけなくて……でも、プロデューサーさんが隣にいてくれると安心するんです。
 プロデューサーさんの背中、とっても大きくて……えへへっ。ぎゅって手を握ると、心も身体もぽかぽかって」

 智絵里が幸せいっぱいのとろけたスマイルを見せたことで、会議室は宴会場のような盛り上がりを見せる。
 まずなんで一緒に寝るようなことになったのか、一緒に寝て具体的になにをしたのか、追求したりされたり曲解しちゃったり。
 やいのやいの、桃色の騒ぎ声に満たされる室内の隅で、ちひろは楽しそうなつぶやきを漏らした。

「恋する女の子って、やっぱり素敵だなあ〜」

 ――結局、その日は仕事もなく解散となった。
 あとでプロデューサーにシンデレラ・ロワイアルについて訊いてみよう。
 誰もがそう思いプロデューサーに連絡を試みたが、電話も繋がらずメールの返信もなく、そして翌日。

 相川千夏、大槻唯、緒方智絵里、若林智香、五十嵐響子の五人は何者かに拉致され。
 千川ちひろから『60名のアイドル同士による殺し合い』の概要説明を受け。
 決してテレビ番組などではないシンデレラ・ロワイアルの主役となったのである。


 ◇ ◇ ◇


 愛する人に死んでほしくない。
 他の四人にも負けたくない。
 生き延びて想いを伝えたい。

 だからやろう、殺し合い。
 だから勝とう、殺し合い。

 ルール説明を聞き終え、舞台となる孤島で目を覚まし、己の置かれた現状を正しく理解した五人のアイドルは、そう決めた。
 おそらく十分とかからなかったと思う。
 少しは悩んだりもするかと思ったが、それ以上に、悩むだけ時間の無駄だとすぐに悟ったのだ。

「とびきりの恋をしている私たちだからこそ、ゲームの切り札(ジョーカー)として相応しい……なるほどね」

 エリア【B-5】のダイナーに配置された相川千夏は、カウンター席に座りながら前日のちひろの話を述懐していた。
 あれは冗談でもなんでもなかった。しかし番組企画などでもなかった。
 ちひろは自分たちに悟らせるため、事前にあんな話をしたのだ。

「わたしたちはみんな、プロデューサーさんに恋してる。逆らったら、そのプロデューサーさんが殺されちゃう……って」

 エリア【B-4】。ただ予告映像だけが流れる映画館のシアター内にて、緒方智絵里はカップルシートの左側に座りながらそうこぼした。
 プロデューサーが人質に取られている。担当アイドルが殺し合うことを拒めば、そのプロデューサーが代わりに殺される。
 説明されたルールは、ちひろが話したシンデレラ・ロワイアルと同一のものだ。

286アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:38:53 ID:hicZ0R420
「でも、なんでちひろさんはわざわざアタシたちに、そんなことを……?」

 若林智香は首を傾げる。彼女が座るのはエリア【G-4】、町役場内にある待合用のソファーだ。
 当日にきちんとルール説明をするのに、前日にも同じルール説明をするだなんて、よくよく考えれば変な話である。
 いや、あのときはまさかシンデレラ・ロワイアルが『本物の殺し合い』だなんてことは思いもしなかったが……だからなのだろうか。

「うん、だからだ。ちひろちゃんは、ゆいたちに自覚させたんだ。ゆいたち五人、みんながプロデュサーちゃんを大切に思ってて――」

 ――殺したくない。死んでほしくない。そう願っている、ということを。
 エリア【F-3】学校の屋上で星を見上げながら、大槻唯はちひろの思惑を考察する。
 彼女はきっと、自分たち五人に目星をつけたのだ。あのシンデレラ・ロワイアルの『主役』として。つまり……。

「殺し合いって言っても、みんな女の子だもん。そんなことできるはずない……だから私たちにやれって、そういうことなんだよね」

 エリア【D-6】水族館内。悠々自適に泳ぐ魚たちを見ながら、五十嵐響子は自分たち恋する女の子の運命を呪った。
 他のアイドルたちは、人質であるプロデュサーを仕事上の関係としか見ていないかもしれない。
 でも自分たち五人は、プロデューサーを愛している。殺人という罪を背負ってまで、生きてほしいと願ってしまっている。
 それが皆の共通認識であることは、前日集まって行われた大暴露大会で痛いほど思い知った。

「……私たち、五人は」
「きっと、みんな、殺し合いをする」
「誰も拒めない……ううん、拒もうとしない」
「絶対に、プロデューサーちゃんを助けようとする」
「それで、たぶんみんながみんな――」

 ――最後の一人に、なろうとする。

 優勝して、プロデューサーと一緒にアイドルを続けようとする。恋する女の子の悲願を果たそうとする。
 ここで自分一人だけ剣を取らないのは、裏切りだ。みんなへの、だけじゃない。恋する自分への裏切りでもある。
 プロデューサーは望まないだろう。彼は優しい人だから。でも、優しいだけじゃその生命は救えないから。

「ごめんなさい」

 同じ時間、同じ島、同じ舞台の上で――恋する五人は、想いを寄せる男性に自分の愚かさを謝った。
 許してくれなくてもいい。怒ってくれてもいい。だけどわかってほしい。
 私たちは、こうするしかないんだということを。

「誰かは知らないけれど、殺し合いが滞ることは『黒幕』にとっても望まないのでしょう」
「で、ゆいたちに配られたのがこれ……ってわけね。嬉しくないけど、特別扱いってことかな」

 それぞれ別の場所にいる千夏と唯が、シンクロするようにデイパックからそれを取り出した。
 『ストロベリー・ボム』――と通称された、千川ちひろお手製のスペシャル手榴弾である。
 詳しい構造は不明だが、殺傷力は一般的な手榴弾の1.5倍ほどらしく、ピンを抜き安全レバーを倒すことで炸裂する。
 抜いて、倒して、投げるか転がすか設置するかして、自分は離れれば――それだけで、人が殺せてしまうというお手軽武器だ。

「それが……11個も」

 シアター内ペアシートの傍らに、ゴロゴロと黒い塊を並べる智絵里。支給された手榴弾は全部で11個もある。
 さらにはちひろからのメッセージと思われるメモ書きもあり、文面には『恋する女の子へのサービスです☆』とあった。
 どうやらこれ11個の手榴弾でワンセット、一つの支給品という扱いであるらしい。その証拠に、別途二つ目の支給品も確認できている。
 しかもこの手榴弾、11個もあるが、ひとつひとつが軽いのでデイパックに詰めてもそれほど重くはない。
 いや、重ければさっさと使えということなのか。しかし気になってくるのは、この11個という数である。

287アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:39:45 ID:hicZ0R420
「ちひろさんの話を聞いたアイドルは、私たち五人。他のアイドルは55人だから……一人11人、これで殺せってこと……?」

 水族館内を歩いていた響子の横を、ホオジロザメが通り過ぎる。その瞬間、11個の手榴弾の意味にも気づいてしまった。
 この爆弾で、殺し合いをしない『恋しないアイドルを殺せ』と。つまりそういうことなのだ。

「こんなの……これじゃまるで、アタシたちがちひろさんたちの手先みたいじゃない」

 智香の嘆きは、誰にも届くことはない。無人の町役場には、プロデューサーが応援してくれる声もないのだ。
 でも、だからといって――このままここに留まってはいられない。
 燻っていては、ちひろに『殺し合いをする意思なし』と見なされプロデューサーを殺されてしまうかしれない。

 早急に、殺し合いをするという意思を見せなければ。
 早く、誰かを殺さなければ。

「ごめんね、唯ちゃん。あなたといると退屈しなかったけど……これだけは、絶対に譲れないのよ」
「ちなったんだろうと、誰だろうと……! プロデューサーちゃんは殺させないし、渡さない!」
「智香ちゃん……こんなわたしと仲良くしてくれて、ありがとう。でも……わたしは……!」
「わかる、わかるよ智絵里ちゃん。きっとたくさん謝ってるよね。だけど――アタシだって!」
「ナターリア……ごめん。あの約束、たぶん果たせないや。でも、これが私のスキって気持ちだから」

 相川千夏と五十嵐響子には銃が支給された。
 それぞれ付属の説明書をよく読み、初めて銃の使い方というものを学ぶ。
 射撃に自信はないが、問題ない。近づいて撃てば当たる。それくらいは小学生でもわかる。

 緒方智絵里にはアイスピックが支給された。
 武器というには貧弱だが、智絵里の腕力を考えればこれくらいの軽さが逆に好ましい。
 先端部分の鋭利さは、女の子でも体重を乗せて刺せば容易に皮膚を貫通するだろう。

 大槻唯にはカットラスという刀剣が支給された。
 刃が湾曲した変な形の剣だったが、すぐに映画の中の海賊がこんなのを使っていたな、と思い出す。
 鞘付きであるため持ち運びも用意。試しに振ってみたが、それほど重くもなかった。

 若林智香には防犯ブザーが支給された。
 ハート型のかわいらしいネックレスタイプで、ボタンを押すことによりブザーが鳴動、さらに強光明滅で周囲へ危険を通知する。
 直接の殺傷力はないのでハズレかとも思ったが、上手く使えば他人をおびき寄せたり追い払ったりできるかもしれない。

 これらの支給品と合わせて、11個のストロベリー・ボム。
 殺し合いを行うために必要な道具は充分すぎるほど揃っている。
 あとは覚悟を決め、飛び出すだけ――いや、覚悟ならもうとっくに決まっていた。

 あのとき、見せしめで誰かのプロデューサーが殺される姿を見たときから。
 自分たちのプロデューサーを絶対にあんな風にはさせない、と。
 覚悟し、決心し――だからこそアイドルは武器を取る。

288アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:40:34 ID:hicZ0R420
【B-5 ダイナー/一日目 深夜】
【相川千夏】
【装備:ステアーGB(19/19)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。

【F-3 学校屋上/一日目 深夜】
【大槻唯】
【装備:カットラス】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。

【B-4 映画館/一日目 深夜】
【緒方智絵里】
【装備:アイスピック】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。

【G-4 町役場/一日目 深夜】
【若林智香】
【装備:防犯ブザー】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。

【D-6 水族館/一日目 深夜】
【五十嵐響子】
【装備:ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。


【ストロベリー・ボム(千川ちひろお手製スペシャル手榴弾)】
千川ちひろが制作した(?)特性手榴弾11個セット。
炸裂には『安全ピンを抜く→安全レバーを倒す』という手順が必要。
威力は一般的な手榴弾の1.5倍。

289 ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:41:32 ID:hicZ0R420
投下終了しました。
半ばオリジナルっぽい支給品やら設定やら出してしまっているので、
これはマズいんじゃないか?という意見をいただければ反映したいと思います。
よろしくお願いします。

290 ◆44Kea75srM:2012/11/09(金) 00:57:50 ID:hicZ0R420
すいません、一個訂正です。

>>281
「私が説明するよう、社長に言われたのよ。それと、あなたたち五人だけを集めたのには三つの理由があります。
 一つ目は、あなたたち五人を担当するプロデューサーさんが同じ人だっていうこと。そして二つ目は――」

「私が説明するよう、社長に言われたのよ。それと、あなたたち五人だけを集めたのには二つの理由があります。
 一つ目は、あなたたち五人を担当するプロデューサーさんが同じ人だっていうこと。そして二つ目は――」

291 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/09(金) 01:42:54 ID:nqmhs7BE0
投下乙です!
うおぉ…ジョーカー×5!殺し合いが加速するな…

オリジナル武器は個人的にはアリだとは思います
ただ11個は多いかなーとは思ったかも

292 ◆John.ZZqWo:2012/11/09(金) 08:20:17 ID:GJfr/ISA0
書き手Pのみなさん投下乙です!

>目に映るは、世界の滅亡
まさかそんなところにアイドルが。そして自分だけでなく全員巻き込んでの自殺を図るだなんて……ある意味、一番心が強いのかもしれない。
でもけっこうな人数が最初の放送で呼ばれそうなんだよなぁ。多分、2回目や3回目の放送でも。その時の彼女の心境がどう変化していくか興味あります。

>悪夢かもしれないけど
もはや生存は諦めるしか……だったけど、辛うじて逃げれたかw でも北東のらへんってきけ〜んなアイドルがいっぱいいるんだよなぁw

>アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ
あー! これは予想外すぎるwww そして5人とも理解力がありすぎるwww 恋するジョーカーユニットとか!
あーん、場所が被っちゃった><



ということで、大槻唯ちゃんを追加予約しますね! うちのかな子ちゃんどうなってしまうのか……。

293名無しさん:2012/11/09(金) 19:31:07 ID:oxPD0KE20
>>292
追加予約了解しました
場所が大事な話もありますものね
急なプロット変更だと思われますが、応援します!

それと投下お疲れ様です!
前半の誘導のお陰でどんな話か先は読めてたんだけど、しかしなんともすごい発想だw
5人全員同じPに恋してて…ってのはこのロワならではだろなー
しかしこれ、前半だけでもわいわいしてて楽し過ぎるw

294 ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:10:11 ID:DpUTHvgc0
投下乙ですー。
とりあえず近いのを一つ。

アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ>
こうきたかwwwww という第一印象。
マーダー不足感は確かにあったけどそれでもwww だがこれがいい!
5人ジョーカーという比較的珍しい体制となった今ロワですが、しかし『アイドル』たちのロワだからっていうと妙に納得できるから不思議。
序盤のほのぼのとした感じが、今後の作品でどのような転がり方を見せるのかとても楽しみです。

それでは自分も 多田李衣菜、日野茜 の二名を投下させていただきます。

295ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:11:06 ID:DpUTHvgc0
現実逃避をしたいときは誰にだってあるだろう。
皆が知ってる有名人でも、強大な現実を前に屈した事ぐらいある。
――アイドルだってまた同じ。
絶望的な現実に、負けたくなるときだって、あるだろう。

鬱葱とした森の中。
月明かりも満足には届かない、黒き光に包まれた舞台。
ここではヘッドフォンから音が流れている。
雑駁とした、荒々しくも人の心を奮い立たせるような、炎のような音楽――ロックであった。
バイオリンやピアノの曲のような精緻な美、というものはそこにはない、けれどそんなものなど気にならなくなるほどの魂がこもっている。
彼女は、そんなロックの素晴らしさに惹かれたのだ。
――確かに、聞いているだけでも、活力がみなぎってくる。


「……」


この場合の彼女はどうなのだろう。
今の彼女は別に、元気を出そうと音楽を聞いている訳ではなかった。
いや、間違いなく元気は欠けている。
だが目的は違い――早い話が、現実逃避なのだろう。

――殺し合い。
彼女はその単語に対して、純粋に恐怖心を抱いた。
理不尽さを呪うでもなく、ただ、怯え、ただ、震えている。
やり場のない恐怖心を、無理矢理ロックと言う音楽で紛らわそうとしていただけ。

ヘッドフォンは。
耳を塞ぐことはできても、目を覆うことはできない。
いくら音を流しても、視界は律義に現実を映すだけなのだ。
音が遮断された世界を生きようとも、過酷な運命にはいずれ到達するであろう。
五感のうちの一つを封じようと、世界を回る。
そこに何ら意味がなかろうが、重大な意味を秘めようが、それでも世界は回り、時は刻まれる。
今この瞬間にも誰かが死んでいるかもしれない、そんな現実に変わりはないし――彼女もまた、理解している。
故の、現実逃避。
現実ならざるものに、意識を投げ入れた甘くも苦しい考え方。


結論を早めに出しておくと、恐怖心は消えることはなかった。
むしろ、辺りの音が消えただけ――誰が何時近づいてくるのか分からないだけに、恐怖心は増す一方。
第一首に嵌められた異物が、現実逃避を由としない。

それでも彼女は音楽を止めようとはしなかった。
今、音楽を聞かなくなったら――いよいよ彼女は真剣に現実と向き合わなければいけなくなる。

嫌だった。
考えたくもなかった、それが彼女の本心であった。
さもありなん。
――彼女はアイドルと言えども、突き詰めれば一般人でしかない。
人前に上がる度胸は身につけれど、人と殺し合うなんて度胸はない。
故の、現実逃避であり、彼女なりに自我を保とうとしてるのだろう。


(……プロデューサー)


ふと、心中で漏れる愛しき人。

296ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:12:03 ID:DpUTHvgc0
彼女を育て、彼女が信じ、彼女を信じてくれた一人の人間。
――そして囚われ身であり、彼女の人質。


「……!」


詰まる声。
プロデューサーの顔を思い浮かべると、一気に流れ出す感情。
音楽でせき止めていた、現実と言う水流はいとも容易く、現実逃避という壁を崩して、彼女の心を犯す。
感情の氾濫状態。
溢れ出た感情は――涙と化して、現に姿を出す。


「……プロデューサー……」


声に出すと、脳裏の中は自然と輝かしき日々に彩られる。
舞台に立って、様々なアイドルと我一番と戦ったり。
部隊の裏では、プロデューサーといろんなお喋りをしていたり。
そんな他愛もない、されど今となっては手の届かない場所にいってしまった日常を、思い返す。


「…………」


嗚咽が止むことはない。
既に耳に入っていないロックを流しながら、彼女は泣く。
大好きなロックを聞いても、心が休まることはなかった。
泣くと言う行為で、現実から背けていた目。
それが半ば強制的に、現実に向けさせられる。


「…………」


楽しかった思い出が、泡沫(ナミダ)となって、零れ落ちる。
「ROCK OF MIND」――心のロック。
それなりの膨らみで該当部の布地が前に出る形となっており、その文字を濡らす。

死にたくない、ならばアイドルたちを殺す?
殺したくない、ならばプロデューサーを見殺す?
何遍も繰り返される自問自答。
解が得られない無理難題を、それでも、何遍も何遍も繰り返しては、滂沱として流れる。

涙を拭うのに、手首では足りなくなって手のひらを使い。
手のひらで足りないから、乱暴に服の袖で拭い――それでも拭い足りなくなったから、木に背中を預け、体育座りになって顔を伏せた。



音楽が音楽としての役割を果たさなくなって、どれぐらい経っただろうか。
彼女が涙を流してから如何ほど時は流れただろうか。
ふと、彼女に近づく人影があった。

地面を踏む音が聞こえる。
ヘッドフォンを付けたまんまの彼女は、周りの音を聞きとれない。
そんなこんなで、近づいてきた少女の存在に気付いた彼女は、嬉しそうに彼女に近づいた。

297ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:12:29 ID:DpUTHvgc0
ポニーテールが激しく踊るのを本人はものともせずに、素早く彼女の元へと辿りつく。


「――――――!」


なにか言った。
彼女は気付かない。


「――――――!!」


もう一度言う。
彼女は気付かない。


「――――――!!!」


再三言う。
彼女は気付かない。

近づいてきた小柄な少女はしばし腕を組み悩んだ素振りを見せると、
しばし経った後、彼女は頭上に電球を浮かばせると、怪しい笑みを浮かべる。

行動は早かった。
息を大きく吸い、顔をヘッドフォンの辺りに寄せる。
小柄な彼女は、顔を伏せる少女から、ヘッドフォンを奪い去り――高らかに叫ぶ。



「こーんばんはーー!!!!」
「ん、んん○△%&××××―――――――!!??」



大音量の挨拶と、声にならない叫びの交差。
それが、ロックなアイドル「多田李衣菜」と、パワフルなアイドル「日野茜」のファーストコンタクト。
ロックで慣らした耳でも耐えきれないほどの声量は、心臓を撃ち抜いた。
数秒、口から魂の抜けている少女の姿が、そこにはあったという。



 △ ▽ △



場面転換。
さりとて時が流れたわけではない。
――ここでいう場面は、言うなら李衣菜の「幻想」、殺し合いと言う「現実」を指すのだろう。
幻想から、現実へのシフト。故に、場面転換。


さて。
ヘッドフォンを外され、強制的に現実と向かい合わなくちゃいけなくなった今。
魂の戻った彼女は、改めて来訪してきた少女を見る。

明るい茶髪の、可愛らしいリボンで結ばれた肩より僅かに下まで伸びるポニーテール。
既に「如何にも活発ですよ、いえーーーーい!!」とでも言いたげな雰囲気は、服装の着こなし、態度の節々によって助長され、
「ああ、彼女はこういう『アイドル』なんだな」とは軽く想像ついた。
とっても元気な、向日葵のような太陽のような『アイドル』なんだろう。

「大丈夫? 元気なった!?」

ただ、そんなことはどうでもよかった。
彼女にとっての問題はそこではない。
――問題と言うより、疑問。


「んー、驚かしちゃったね! ごめんね!! 私は日野茜、はじめまして!! あなたの名前は? ほら、仲直り(?)しよっ!!!」


片手でヘッドフォンの繋がる端末を操作し、音を止める。
続けざま、座っていた李衣菜に、ヘッドフォンを握るとは反対の手を差し伸べた。
茜には李衣菜と違い、怯えなどの様子はない。

298ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:13:35 ID:DpUTHvgc0
手を差し伸べているとはいえ、威風堂々とする振る舞いに変わりはない。
張りのある声は、さっきまで垂れ流していたロックよりもよほど耳を良く通る。

「……あ、うん。私は多田李衣菜。よろしく」

対して、彼女は声が出ていたのだろうか。
震えた声は、隠せただろうか。
涙を拭き切ることはできたのか。
不安になる。ドキドキする。
その裏では、今こうしている間にも、殺されるのではないか、恐慌が先走り、まともな思考が断たれる。
ヘッドフォンが、茜の手に渡った今、現実逃避に逃げることもできない。
――この場に招かれたアイドルとして、彼女と接していかなければいけないのだ。



差し出した手は宙に浮く。
奇妙な気まずさを抱きつつ、茜は「あはは」と笑いつつ、会話を広げる種を探す。
彼女も空気の読めない人間ではない。
いつも馬鹿みたいに騒いでいるとはいえ、彼女が何故、ここに座り、何故泣いていたのか、察するのは簡単だった。
容易に伝わっていたからこそ、何から切り出せばいいのか、その取捨選択に悩んだ。

しかし、茜の心中とは裏腹に、意外にも会話を切りだしてきたのは、李衣菜の方からだった。
先と同じく、震えた声であった。
それでも、その問いは確かに茜の鼓膜まで届く。


「茜さんは、怖くないんですか……?」


当然の様な問い。
別段答えを用意していたような問いでもなかったが、それでも答えるのはあまりに簡単だ。


「ううん、怖いよ」


当然の様な問い、の返歌は当然の様な答え。
当たり前だ。
怖くないわけがない。
何時殺されるのか分からない――今こうしている間にも、どこかで暗殺を目論んでいる奴が近くにいるかもしれない。
こう見えて、多田李衣菜がそういう人間であると言う可能性だって、重々にある。

けれど彼女は既に意を決していた。
彼女、日野茜は『アイドル』である。ならば、するべきことは――。


「だけど、私は『アイドル』なんだよ!! プロデューサーが信じてくれた私を、熱く燃える私を曲げちゃダメなんだよ!!!!」


迷う理由など、ない。
プロデューサーとの絆。
その絆が――彼女を毅然として奮い立たせるのだ。


「プロデューサーは、こんな私でも信じてくれてる。だから私は、その期待に応えたい。きっとこんなことで、めそめそする様な私を、プロデューサーは望んでなんかいない!!!!」


続けざまに言い連ねる。
本心を。本音を。
いつもの様に、何事にも本気で――穢れなき本性を隠すこともなく晒す。


「雨の日も、風の日も、例え槍が降ろうとも私は屈しない!! それが、私なりの『アイドル』なんだから!!」


――それが、彼女なりの『アイドル』。
プロデューサーと共に築きあげてきた、彼女の流儀。
パワフル街頭まっしぐら。
全身全霊。全力全身。
だからこそ彼女は、誰よりも輝いて、誰よりも明るくて、誰にも負けないほどに、魅力的に観衆に映るのだろう。

実際。
多田李衣菜は、彼女の輝かしさに目を奪われた。
だから羨ましく、同時に恨めしく思える。

「……凄いんだね、茜さんは」
「私は凄くなんかないよ! あなただって、できるはずなんだよ」
「それは……」

できるわけがない。
言葉を続けようとして、詰まる。
けれど止まった。
馬鹿みたいに、李衣菜を信じる瞳が彼女の言葉を停滞させる。
言葉に続いて息までも詰まるようだった。
その代わりに、茜の言葉が、穂を繋ぐ。

「だったらさ、あなたにとっての『アイドル』ってなんなの!?!」
「……」

唐突な質問だった。
されど意味が通じないわけではない。

299ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:14:09 ID:DpUTHvgc0
むしろ彼女が『アイドル』であるならば、答えるのは簡単な質問だったと言えよう。

――みんなを笑顔にしたい。そんなアイドルだっている。
――みんなに我がポテンシャルを披露したい。そんなアイドルだっている。
――みんなとか言う前に私だって何で働いてるか分かりませんよ。……まあ、そんなアイドルだっているだろう。

各々が各々で各自の目標がある。
そして、多田李衣菜だって、目標とする『アイドル像』がある。
否、彼女は他人よりもその傾向は強いとも言える――。

彼女は、答えようとして、それでも言葉が絞り出せなかった。
『ロックなアイドルになりたい』。その言葉を放つことが出来なかった。

――どの口が、『ロック』になりたい、だなんて言えるのだろうか。

今の彼女の様子に、『ロック』な様子など、何処にあっただろうか。
なかった。
何にでも『ロック』に結びつけたがる癖のある彼女でも、
幾ら贔屓目で見たところで、こんな自分を――『ロックなアイドル』だとは言えなかった。
よもや『ロックなアイドル』の卵としても、現実に抗いもせず、屈するのはあってはならないことだろう。

「……」
「……」

僅かな沈黙。
思えば茜と李衣菜が遭遇してから、初めての間の長い沈黙だった。
それだけに気まずい雰囲気が漂う。
見かねたのか、茜が声を張って――とあることを主張した。


「――そうだね。じゃあ、さ。まずはじめに、ヘッドフォンを現実逃避に使うぐらいだったら、こんなヘッドフォンなんていらない!! それはあなたのためにならないよ!」


言って、ヘッドフォンを地面に叩きつけんと振りかぶる。
その突発的な行動に、李衣菜は目を丸くした。
同時に。

「や、やめてよ!」

声を上げざるを得ない状況に瀕したことは本能が察した。
――彼女が何を思って、何を言ったのか分からない。
けれどそんなことは瑣末なこと。
『ヘッドフォンに何かしらしようとしている』その事実が――大事なのだ。


「それは……それは! プロデューサーに買ってもらった大事なヘッドフォンなんだ!!」


高音の出が悪い。
最初はそんな一言だった。
それから数日後。
『このお仕事成功したら新しいヘッドフォン買っていいですか?』
ふと漏らしたそんな呟き。
彼女も、まさか本気で訊いている訳ないだろう。と軽い調子で言ったつもりだった。

予想は大幅に外れた。
彼女のプロデューサーは気に留めていたらしく、彼女が勝利を収めた次の日に、新たなヘッドフォンを買ってきたのだ。
真っ黒の、シックな――いや、如何にもロックなヘッドフォン
無論、前のヘッドフォンも大事なものだ。とある歌手からの貰いもので、裏にはサインがあったという。
けれどそんな貴重なものと遜色がつかないほど、プロデューサーからプレゼントされたそれは、とってもとっても、大事なもの。宝物。

だからこそ、他人の手によっては何かされようと言うのなら――許せるはずがない。
思わず立ちあがり、茜の振り上げた手を掴みとる。

「…………あ」

そこまでして、我に帰る。
乱暴に掴んだ手を、気まずそうに離す。
茜の手には、握られた跡が、薄く赤となって染まっていた。
慌てて謝罪を言葉にする。

「ご、ごめん……」
「いや、大丈夫!! なんたって私には元気があるからね!!」

柔和な笑み。
きっとこの笑顔は、たくさんの人の心を癒してきたのだろう。
李衣菜の心もその笑顔を見て、少し落ち着いた。
乱暴な行動をしてしまった李衣菜を責め立てようとはしない。
この温かさは、まるで太陽の様である――。

笑顔を浮かべたまま。
されど温度は急上昇。

300ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:14:42 ID:DpUTHvgc0
さながら真夏の太陽のように瞳が燃える彼女は揚々と言葉を吐き出した。


「あなたにとってさ、音楽――そしてプロデューサーがどんなに大事な存在か分かった」


今までのそれに比べて、幾らか静かに感じた。
腕を組み、頷きを数回しながらしみじみと言う。

「でもね」

と。
頷きを止めると、一転。


「現実逃避だけじゃ――あなたも、そして誰も彼も救えないんだよ!!!!」


野性的な咆哮が轟く。
声にも風圧があるのなら、きっとそこには突風が巻き起こっていただろう、叫び。
叫びは、次なる風を呼ぶ。


「泣くのは、責められることじゃない。……泣くのはね。確かにあなたを救うよ。――だけど、泣き続けて、何もできないのは、誰も救わない!
 あなたも、ファンも、私たちアイドルだって! もちろんプロデューサーも!! そんなのって悲しいよ!!!」


突風を継ぐ暴風。
北風を模すかのような疾風。
太陽を模すかのような灼熱。
多田李衣菜の心に襲来した、災害的な力を秘めた言葉は、突き刺さる。
弱気になっていた彼女の心を、乱暴に切りつける。
ズバッ、と切り裂かれた弱気という心の殻の下には――一体何色の本心が垣間見れるのだろうか。


「『アイドル』はね、不可能を可能にするんだよ!! あなたはそれを諦めちゃうの!!??!!」


日野茜。
彼女の信条は、簡単に言うなら『熱さ』だ。
天元でも貫くのではないかと言うほどの『熱さ』。
ずばり熱血。
それでも熱血。
どうしようとも熱血である。
恐らく並大抵の人は付き合うにしても気疲れするような性質の人種だ。
彼女自身暑苦しい女であるとは理解を得てる。

別に李衣菜に彼女の考え方を強要させようだなんて考えてはいない。
それでも――まだこの少女が、『アイドル』であり続けるのであれば、彼女としてはなんとかしてあげたかった。
正義の血、とまでは言わないが、それが彼女に流れる、熱き血統。
彼女を『アイドル』として生き抜かせる。
みなを笑顔に、みなを元気にさせる『アイドル』として、彼女はこの殺し合いを往く。

「…………」

多田李衣菜。
彼女の信条は、繰り返すが『ロック』である。
社会への反逆。
纏めてしまえば、そんな音楽だ。
少なくとも、李衣菜とよく顔を合わす木村夏樹というヤンキー然とした彼女なら、そんな風に定義づけるだろう。


『――――ロックなアイドル目指して頑張ります!』


蘇る、プロデューサーとの出会い。
あの頃の自分は、そう宣言した。
ところが今はどうだろう。

――ロック? いやいやいや。
泣きべそかいている自分に、何処にロックの要素がある?

――だったらアイドルやめるのか? いやいやいや。
そんなプロデューサーを見殺すような真似もしたくないし、何より彼女だって、仕事が楽しいのだ。
やめたくない。
率直な気持ち。それはヘッドフォンを外そうが揺るがない気持ち。

「……そうだね」

なら。
今こうして現実逃避をすることが、彼女のしたいことだったのだろうか。
よもやプロデューサーからの大切なプレゼントであるヘッドフォンを、そんな情けない理由で使っていいのか。彼女のプライドが許すのか。
答えは、決まっている。


「……茜さんはロックだね」
「……?」
「とってもイケてるよ」
「よくわかんないけどありがとー!」


「いえーい!!!」と片腕を天に掲げ、目一杯に喜びを表す。

301ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:15:41 ID:DpUTHvgc0
オーバーアクション。
のつもりは彼女にはないのだろうけれど。

「ちっちゃいのに本当羨ましいよ」

李衣菜が言った小さな一言に反応。
日野茜は固まった。

「ぐはっ!!」

遅れて吐血でもするような呻き。
日野茜は倒れた。

「中々言うね!!」

約一秒後。
日野茜は蘇生した。
苦しそうにも爽やかな笑顔。実にアイドル。
一通りの華麗なる流動を視認した後、多田李衣菜は「気にしてたんだ」と、微かに微笑むと話を戻す様に言葉を紡ぐ。



「だけど、例え茜さんがロックなアイドルであろうとも、私は、あなたに負けるつもりはない」



一言。
だけどその一言を皮きりに――李衣菜の表情が変わった、かのように見える。
見ただけでは、恐らく、一般人なら大半の人間ではその際に気付かないだろう。
その程度の、微々たる変化。

されど、自ずと茜の表情が引き締まる。
『アイドル』として、彼女の意識の変化を感じ取ったかもしれない。
李衣菜から漂う、敵意を、対抗意識に気付いたのだろうか。


「だって私は、『ロックなアイドル』になるんだから。茜さんに負けたくないです」


敵意。
決してそれは殺意ではない。
むしろその敵意には、ある種の尊敬の念が混ざっている。
『アイドル』としての、誇り。プロデューサーと共に歩んできた『アイドル』としての想い。
そんな当たり前だけど、忘れかけていた想いを、思い出させてくれた彼女に対する純粋な感謝。


「そっか! なら私も全力で応えるね!!! 簡単には負けないぞーっ!!!」


彼女の全力は、言葉通りに全力であるのだろう。
会ったばかりの李衣菜でさえ、容易に想像ついた。

「私だってプライドがあるよ」
「私だってあるよ!!」
「負けませんから」

何時の間にやら乾いた瞳。
李衣菜は泣いていない。
あったのは、彼女本来の、やんちゃさ薫るあどけない笑顔。

302ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて  ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:16:05 ID:DpUTHvgc0
『アイドル』多田李衣菜、再誕の瞬間だった。


されど。
不安は、一抹どころになく、山積みになって残されている。
今はまだ、立ち直ることができるほどには、精神は比較的壊されてはいなかった。
だけどもし、彼女に身に何か起きたら。彼女の周りで何かあったら。プロデューサーに何かあったら。夏樹をはじめ知り合いに何かあったら。
彼女の精神は、どのような変貌を遂げるのだろう?

そしてそれは、日野茜にも言えることだ。
彼女だって、『アイドル』とはいえ人の子である。
今現在に至るまで、――最初、プロデューサーが囚われてると聞いて、誰かの首がとんだことを見た以外には、特別心が揺れるような出来事があった訳ではない。
もしも、李衣菜のような方針の人間ではなく、殺し合いに乗ってるものを見たら、誰かが死んでいるのを見たら、何を思うのだろう。
彼女の信念に、亀裂ははいるのか。

両者共々、それはまだ分からない。
それを知るには、彼女たちはあまりに平和すぎた。
殺し合いに置いての北風に反する太陽は――メリットにもなるが、デメリットにもなる。
彼女たちはそれを知らない。
知ろうとも、思ってなかった。


「あ、そういやヘッドフォン返してなかったね!!!! とっちゃってごめんね!!!」
「いや、気にしてないよ」
「はい、多田さんってヘッドフォン似合うね!!」
「ありがと、嬉しい。……あとはそうだね、私の事はリーナって呼んでください」
「ん? どうして!?」
「いや、そっちの方が……『アイドル』としての私っぽいから」
「そっか、じゃあリーナさん!!!」


それでも、彼女らは往く。
その様が無知の知だとしても、構わず進む。


「これからどうしよっか!?」
「そうだね……とりあえず一緒に行動してくれると心強いかな」
「そうだね! じゃあこれから私たちは一緒だよ!!!」
「よろしくね」
「よろしくね!」


『ロックなアイドル』と『パワフルなアイドル』
これから、二人の前に立ちはだかるものが何であるかを知らず。
それでも、この先に輝く希望があると信じて。



「それじゃあ全力でいくぞーー!!!!」
「行くぞーーっ!!」



洩れた一縷の月明かりが二人をスポットライトの様に照らす。
前を向く。
顔には意志が滲みでる。
そうして二人は初めの一歩を、踏み出した。
二人はただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて。




【G-2 森/一日目 深夜】
【多田李衣菜】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない
1:日野茜と行動
2:ロック!


【日野茜】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない!
1:多田李衣菜と行動!!!!
2:熱血!

303 ◆FGluHzUld2:2012/11/09(金) 23:17:17 ID:DpUTHvgc0
投下終了です。
登場話から妙に長くなってしまい申し訳ありません。
指摘感想等ありましたらよろしくお願いします

304名無しさん:2012/11/09(金) 23:28:23 ID:oxPD0KE20
投下おつかれさまでした〜!
なんだろ、こう日野ちゃんが両拳を胸の前に握りしめて心からの声をりーなに届けるシーンが自然に浮かんだ
暗雲をも吹き飛ばすかのような様は確かにパワフルで、もうなんだろ、太陽なのに嵐だw ハリケーンだ!
リーナもロックなアイドルとして再び立ち上がったけど、立ち直るだけじゃなくて負けたくないってのが良かったなあ
殺意じゃない敵意か。殺し合いの場じゃ珍しいようにも思えるけど、でも、アイドルの世界でのライバルとのライブっていつもそんな感じなんだろうなあ
まだまだ余談も許さないし暗雲も道先には立ち込めてるけど、それでもなんか最後は希望を感じさせる話しでした!

305名無しさん:2012/11/09(金) 23:52:28 ID:tZcJcvsQ0
投下乙です!

>アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ
これは半端ないわ〜。
ほのぼのした仮定の話をしてるように見えて、殺し合いに乗るしかないと思考を傾ける仕組みになってるのがえぐい
「プロデューサーを恋愛感情で死なせたくないと思ってるのは自分たち5人だけなんだ」と刷り込ませたり
「自分以外の4人はやる気になってる」と思いこむ仕組みになってたり
覚悟の決まり切ったキャラがまだ少ない分、この5人は猛威をふるいそうだ…!

>ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて 
こっちは正統派熱血コンビが結成されたかー。
「熱血」と「ロック」というそれぞれの在り方を極めた上でのアイドルというのがいいね
夏樹とダリーのロック師弟は、ひとまずどっちも安定か、こうなると先輩の夏樹の方が心配かもしれないw

306 ◆44Kea75srM:2012/11/10(土) 01:09:03 ID:gDvywp6s0
投下乙です!

>ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
予約時点ではこの二人の組み合わせにピンとこなかったのだけれど、なるほど茜ちゃんは『ロック』だぜ……。
ロックで売ってるだりーがなつきちとも違う別のアイドルの『ロック』を見せつけられて再起する、上手い話だなあ。
そしてなにより、茜ちゃんのセリフのひとつひとつが耳に響くw これは確かに、殺し合いの欝ムードまでどこかに吹き飛んでしまいそうな『熱血』だw


そしてすいません、「アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ」の修正についてなんですが、
>>291で『手榴弾11個支給は多すぎ』という意見が出たのでいくらか数を減らそうと思うのですが、
嬉しいことに>>292でさっそく唯が予約されてしまったので、どう修正したものかと迷っている次第です。
こちらが勝手に数を減らして◆John.ZZqWo氏の予約に支障をきたすのも問題だと思いますし、
ここは氏に『11個のままがいい』か『数を減らしてもいい』かお伺いしたいのですが、どうでしょう?

また、数を修正する場合、>>292で意見をいただいた◆j1Wv59wPk2氏には手榴弾の個数を修正するにあたって
『だいたいこれくらいの数がいいんじゃない』という具体的な数を挙げていただけるとありがたいです。
こちらとしましては11個という数にはきちんとSS内で意味を持たせているつもりですし、逆にそれ以外の個数だと意味はなくなってしまいます。
数が多すぎるというのは、単純にロワ全体のパワーバランスを考慮して指摘されているというのもわかるのですが、
『だったらどのくらいの数が適切か?』という部分で迷ってしまっているところもあるので。
ただ要望としましては、主催側の新たな意図を生まないという意味でも五人の手榴弾の数は全員同じにしたいところです。

一応投下から24時間ほど経つのでこのように考えてみました。
その他の方からも意見いただけたらありがたいです。
お騒がせな話で申し訳ありません。お手数かけます。

307 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:21:25 ID:eoP2aSWk0
皆様、投下乙です!
期限が差し迫ってはいますが、自分も藤原肇、投下しますねー

308眠る少女に、目醒めの夢を。  ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:23:58 ID:eoP2aSWk0



 深い森の中。
 その開けた一角に建つ、古ぼけた小屋の中で。 


 藤原肇は、ただ、石像のように立ち尽くしていた。


 今の彼女からは、その十六歳という年齢に似合わないほどの落ち着きも、
 あるいは穏やかな物腰の影に隠れている強い意志も、感じ取ることは出来ない。
 代わりにあるのは、年相応の少女の、相応の心の揺らぎに他ならなかった。
 知りたくもない現実を突きつけられて受け入れられずにいる、それはありふれた恐慌だった。


 肇の手から、ポリカーボネート製の大盾が滑り落ち、床に倒れて音を立てた。
 それは彼女の支給品だったが、暴徒鎮圧用の盾などこの殺人ゲームでどれほどの役に立つものか。
 現に今この仰々しい盾は、心に食い込む見えない楔から、肇を守ってはくれない。
 第一その透明な素材は、心の痛みどころか、視界を遮ることすら許してはくれなかった。


「――どう、して……そんな……」


 辛うじて口に出せる言葉は、しかし何の意味もありはしないもの。
 いったいどれくらいの時間をこうしているのか。数秒か、数分か、数時間か。
 時間の流れなどもう自分でも分からない。
 ただ目の前のある一点を見つめたまま、そんな呟きを漏らすだけ。


 深い森の中。
 その開けた一角に建つ、古ぼけた小屋の中で。 
 ロッキングチェアの背もたれに寄りかかって静かに睡る、幼い少女。
 いや、正しくは、かつて少女と呼ばれていたもの。
 その、清らかな魂の抜け殻。


 佐城雪美の傷一つない亡骸を前にして、肇は金縛りにあったように動けずにいた。




   ▼  ▼  ▼

309眠る少女に、目醒めの夢を。  ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:29:14 ID:eoP2aSWk0

 パキリ、という小さな音で肇は我に返った。


 ハッとして視線を床に落とすと、自分の踵が何かを踏み砕いているのに気付いた。
 自分では全く気付いていなかったが、無意識に後ずさりしていたのだろうか。
 しかしそんなことは、些細な出来事だった。問題は、たった今踏み潰したものだった。


 それは、すでに原型を留めてはいないけれど、注射器に見えた。 
 何故そんなものがここにあるのか。その小さな疑問は、しかし僅かな時間で霧消する。

 少女の、外傷の見当たらない肢体。ならば、一体何が死を招き寄せたのか。

 考えるまでもないことだった。足元の、これが真実だった。

 誰かが、このいたいけな少女に、この注射器の針を残酷にも突き立てたのか。
 中に封じられていた毒薬をこの少女の中に送り込み、酸鼻極まる死を与えたのか。
 そう考えるのが自然なのだろう。特に、今この状況では。
 誰が誰を殺すのか分からない。それがこの島を支配する理不尽な現実なのだから。

(……違う。きっとそうじゃない)

 しかし、肇にはそうは思えなかった。

 だって、少女の顔は、あまりにも安らかで。
 何かをやり遂げて、充ち足りたまま幸せな夢を見ているような、そんな姿に見えたから。

 失意と絶望がなかったとは思わない。それと同時に、それだけにも見えない。
 直感めいた薄弱な根拠だったが、しかしそれは肇には確かなことに思えた。

 だとすると、この注射器の意味は、ただひとつ。



 彼女は、もしかしたら、自分自身の意思で、自分自身の命を、奪ったのではないか。


 瞬間、肇の心を、幾多の感情が嵐となって吹いた。
 彼女が死を選ぶ理由が、おぼろげに見えたような気がした。
 それまでは考えもしなかったのに、奇妙なほど当たり前に感じられた。
 しかし、そんなことが。だとしたら、あまりにも。
 それはあまりにも純粋で、あまりにも過酷すぎるのではないか。
 この幼すぎる少女には、あまりにも重すぎる選択ではないか。

 ほとんど推測に推測を重ねただけの想像。
 しかし、肇の勘は、それが真実であると告げていた。
 ならばその勘に根拠を与えるものは何か。
 肇には分からなかった。何が確信を与えているのか、理解できなかった。

310眠る少女に、目醒めの夢を。  ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:30:24 ID:eoP2aSWk0

 肇は震える手で、自分のディパックを開けた。
 自分のもうひとつの支給品が、この気持ちに光を当ててくれるのではないかと思ったのだ。
 肇自身にも、この気持ちが何なのかは分からなかった。
 ただ、自分はこの少女のことをもっと知りたいと思った。
 知らなければならないと、知ればこの違和感の答えも出ると、そう思ったのだ。

 ディパックから引き出されたそれは、一冊のアルバムだった。

 表紙に『CINDERELLA GIRLS ALBUM』と記された、一見すると何処にでもあるようなアルバム。
 しかし武器を支給されなかった肇の、恐らくは切り札となりうるものだった。

 肇は逸る手を宥めながら、一枚また一枚とページを繰っていく。
 その中には、ここ最近デビューした150人以上のアイドルの写真やプロフィールがファイルされていた。
 まだ確認してはいないが、恐らくは肇自身のページもあるだろう。
 あるいはこの島に集められ殺人イベントを強いられている、ほかのアイドルたちのものも。
 そうであるなら、目の前で永遠の眠りに就いているこの少女も、例外ではないはずだ。

 ほどなくして、ページをめくる手が止まる。

「見つけた……佐城、雪美……さん」

 口の中でその名前を復唱する。
 アルバムに綴じられている写真の中の少女は、その黒髪といい顔立ちといい服装の雰囲気といい、
 亡骸の少女と瓜二つだった。
 念のため名簿も確認したが間違いない。彼女は、この60人の中のひとり。
 佐城雪美。それがこの少女の名前で間違いないだろう。

 肇は固唾を飲んで、そのページに目を走らせた。
 大した文章量ではないものの、アルバムにはちょっとしたプロフィールや略歴も記載されていた。
 佐城雪美の人となりを把握するには少なすぎる、しかし推測する手がかりにはなる情報。


 だが、否応なしに、その僅かな情報は、感傷を呼び覚ましてしまうもの。
 いけないと思いながらも、どうしても彼女のことを考えてしまう。
 そんなものは、なんの慰めにもならないと分かっているのに。

311眠る少女に、目醒めの夢を。  ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:31:29 ID:eoP2aSWk0

 
 ――名前、佐城雪美。年齢、10歳。


 やっぱり、自ら死を選ぶには幼すぎる。まだ十分に生きてすらいないのに。
 一方で、年齢を重ねて現実の汚れを知る前だからこそ、純粋な願いを保てたのではないか、とも思う。


 ――身長、137cm。体重、30kg。


 本当にお人形さんのよう。こうして椅子に体を預けているのを見ると、そう錯覚しそうになる。
 ただ、ここから先、彼女が成長する日は、もう二度と来ない。


 ――出身地、京都。趣味、ペットの黒猫と会話。

 
 実家のご両親は、愛娘の身に起こった悲劇をいつか知るのだろうか。
 残された猫はどうなるのだろう。大事な友達の帰りを、これからも待ち続けるのだとしたら……。



 いけない。こういう考え方は、いけない。
 それは、死者に対する勝手な感傷で、自己満足めいた感情移入に過ぎないはずだから。
 本当は自分は彼女のことなど何も知らない。何もわかるはずもないのに。

 
 そこまで考えて、肇は、ようやく気がついた。


(あ、れ……どうして……?)


 いつの間にか、自分の頬を温かいものが伝っていることに。

 どうして自分は泣いているのだろう。
 こんな想像、断片的なプロフィールから生まれた、ただの一方的な感情移入に過ぎないのに。
 自分は結局のところ、生きていた頃の彼女と言葉を交わしたことすらないというのに。
 それなのに、なぜ涙が止まらないのだろう。なぜ心が締め付けられるのだろう。


(ああ、分かった……彼女は、私だから。私と同じように、一人の人間で、女の子で、アイドルだから)


 そう、ふと気付いてしまえば簡単なことだった。
 雪美にも、自分と同じように、大切な人が、叶えたい夢が、目指したい場所があったはずなのに。
 写真の中で彼女が見せているはにかんだ微笑みは、もっとたくさんの人を幸せにするはずだったのに。
 彼女の選択は、尊いと思う。清いものだと思う。
 それでも、他のあらゆるものと天秤に掛けるその選択を、彼女がしなければならなかったことが。
 そのことが、この世のどんなことより哀しいと、肇は思った。

 そして、それが他人事ではないと、自分自身にも繋がることであると、そう気付いた。
 先ほどから雪美に対して感じていた奇妙な感傷の正体に、肇はようやく思い当たったのだ。

312眠る少女に、目醒めの夢を。  ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:34:20 ID:eoP2aSWk0

 死んでしまった彼女と、生きている自分。
 両者はいまや地続きだった。分け隔てるものなどなかった。
 佐城雪美も、藤原肇も、このアルバムの一ページなのだ。


 彼女は、自分だ。もうひとりの自分だ。
 彼女だけではない。たぶん、この閉ざされた島にいる全員が。
 それどころか、このアルバムに綴じられている少女達は、誰もがもうひとりの自分なのだ。




(同じ夢に憧れ、そうありたいと願い、そして目指した。私達は同じ土から生まれた器なんだ……)





 肇は、溢れ出る涙を拭うことすら出来ずにいた。
 この幼い少女の決意が、自分自身の痛みとして感じられたから。
 そしてこの先、この島で殺し合い続ける誰もが、同じ痛みを感じるだろうと想像したから。
 この殺し合いの、真に残酷なことが何かを、目の当たりにしたからだった。


 気付くと、肇は雪美へと歩み寄っていた。
 初めてその姿を目にした時のような畏れは無かった。
 彼女の純粋な願いに報いるために、今なにが出来るだろう。その思いだけがあった。

 何かがしたい。何かを、しなければならない。
 自分が、自分らしく、為すべきこと。
 心は、決まっていた。


「……雪美さん」


 肇は、雪見の亡骸に語りかけた。
 返事はあるはずもない。それでも続ける。
 今必要なのは、彼女への意思表明と同時に、自分の心への決着だった。


「私は、貴女のことをよく知りません。貴女も、私のことを知らないでしょう。
 だからきっと、私のこの気持ちはただの勝手な感傷なんだと思います。
 それでも私は、貴女の願いを無駄にしたくない。他の誰かに悲しい思いをして欲しくもない。
 みんなに笑顔でいて欲しいんです。私は、私達は、そんな夢を一緒に見ていたはずだから」


 口に出すごとに、心の奥に掛かっていた靄が晴れていくような感覚があった。
 彼女の魂に、届いているだろうか。そう信じながら、誠の言葉を伝える。


「だから、私、決めました。大それた考えかもしれないけど……お節介、焼かせてもらいますね」

313眠る少女に、目醒めの夢を。  ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:35:27 ID:eoP2aSWk0

 晴れていく。心が晴れていく。
 今の肇には、透き通った目で物事が見えるような気すらした。
 そして、自分の為すべきこと、本当にやるべきだと思うことも、見えるような気がした。


(プロデューサー……今この時も、心配、掛けてしまっているのでしょうね。
 それでも……ごめんなさい、私、やっぱりおじいちゃん似です。頑固なんです)


 きっとプロデューサーは、肇が生きて帰ってきてくれさえすればいいと、
 その過程で手を汚すことになっても受け入れると、そう言ってくれるだろう。
 それでも、仮にプロデューサーだけでなく、世界中の誰もが受け入れてくれたとしても。
 自分だけは、自分の本当の心だけは、どうしても曲げられない。そういう性分なのだ。

 自分でも、本当に不器用な性格だと思う。
 そのせいで、今もまた、きっと敢えて過酷な道を選ぼうとしてしまっている。
 それでも、肇は悪くない気持ちだった。奇妙な誇らしさがあった。
 大好きな祖父が自分の意志に力を添えてくれているような、そんな気さえした。 


(高みを目指すため他の誰かを蹴落とすのが、アイドルの定めだとしても……
 それでも、頂点の座は、己を磨き、高め、究めた果てにあるもの。
 不断の努力とたゆまぬ歩みを重ねた、その先に輝くもののはず……)


 この殺し合いは、冒涜だ。
 肇の、肇と同じ夢を目指す少女達すべての、汚してはならない願いを辱めることだ。
 そう、感じてしまったから。


(殺さなければ生き残れない。生き残るために、同じ夢を見ていたはずの誰かを殺す。
 でもそれは、きっと鏡に映った自分を殺すこと。自分自身の心を殺すこと……)


 私はアイドルだからこそ、その道は選べない。
 私達はアイドルだからこそ、他の誰かにその道を選んで欲しくない。
 その思いが、ひとつの芯になる。だから、もう、曲がらない。


(私の、私達の夢を、こんな次元に貶めさせない。願いをこれ以上踏みにじらせない……!)


 肇の心は、もう完全に定まっていた。

314眠る少女に、目醒めの夢を。  ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:36:06 ID:eoP2aSWk0
 きっとこれは途方も無い我が儘で、救いようの無い綺麗事なのだろう。
 『誰も殺さず、誰も死なせず、誰も悲しませない解決』なんて有り得ない。

 分かってはいるのだ。それでも、何かしなければならないと思った。
 誰だって、そんなどうしようもない夢を、きっと見ていたいはずなのだから。



 そう、どうしようもない夢だからこそ。
 誰もが、見ることすら躊躇うような夢だからこそ。

 藤原肇は、今この時、[夢の使者]でありたいと思った。

 それが自分とプロデューサーの描いた、アイドル・藤原肇の姿だったから。
 一人のアイドルとしてこの現実に向かい立つための、自分らしい形だから。

 我が儘でいい。綺麗事でもいい。
 それでも、人に幸せな夢を見せようとすることを辞めたら、自分は自分でいられなくなる。
 それはアイドルとして歩んできた自分達のこれまでに対する全否定に他ならない。

 轆轤(ろくろ)に乗った粘土は、触れる手の僅かな力の狂いで、歪み、崩れ、そして戻らない。
 だからこそ、自分を完成された器として焼き上げるその時まで、愚かなほどに真っ直ぐでいたい。
 アイドルとして、自分自身として、藤原肇として、生まれてきた意味全てを今使おう。


「さようなら、雪美さん。もう、会うことはないでしょう。……だけど、忘れません」
 

 肇は、感傷を振り切るように踵を返した。
 落としていた盾を拾い上げ、ディパックの紐を強く握った。
 そして、一歩を踏み出す。
 決して足取りは軽くなかったが、その一歩には意志の力があった。
 大丈夫だ。歩いていける。前に進んでいける。
 その事実に僅かに安堵し、しかしその緩みを戒めるように肇は大きく深呼吸した。


「気取らず、気負わず、私らしく……藤原肇、参ります!」


 そして彼女は、決然と前を向く。


【C-6(ログハウス内)/一日目 深夜】

【藤原肇】
【装備:ライオットシールド】
【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】
【状態:健康、決意】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを回避するために出来ることを探す
1:他のアイドルと接触したい
2:アイドルを殺すことは、自分自身を殺すこと
3:プロデューサーを危険に晒さないためにも、慎重に……


※仁奈がログハウスを飛び出してから、それなりの時間が過ぎています。


<アルバムについて>
 福岡開放時点での(765プロ所属を除く)全アイドルの写真とプロフィールが収録されています。
 プロフィールの内容は「ゲーム中のアルバム機能で閲覧出来るもの」+「デビュー後の略歴」で、
 公にされていないデータ(プライベート情報や杏の3サイズなど)は記載されていません。

315 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/10(土) 01:36:39 ID:eoP2aSWk0
投下終了しましたー

316 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/10(土) 01:55:55 ID:CMqVIVu.0
皆様投下乙です!

>>306
具体的な数字も出さず申し訳ありませんでした
ちひろさんもまさか他のアイドル全員が殺し合いに参加しないとは思ってないだろうし、
例えば参加者の半数を削るという意味で一人6個、合計30個ぐらいとか良いかもとは思いました
ですがあくまで一個人の意見ですので参考程度に捉えて頂くとありがたいです
お騒がせしました

317 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 02:01:54 ID:rxmPEto60
皆様投下乙です!

・アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ!
五人予約で果たしてどうなるやらと思ってたけど、完全に予想もしてなかった展開で脱帽です
いくつか刷り込まれているとはいえPへの恋心は本物な以上、彼女たちが揺らぐことはそうそうなさそうだ
支給品については半ばジョーカーですし、11個であることに意味があるのでしたらそのままで問題ないと思います

・ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
それぞれの信条が伝わってきていいなぁこれ
日野ちゃんの『熱血』とそれによって復活しただりーなの『ロック』、どちらにも信じるものがあるのは強いよね
タイトルに名前を仕込んであるのも上手い

・眠る少女に、目醒めの夢を。
真っ直ぐで、凛として、頑固な肇ちゃんが素敵です
それにしても、私達は同じ土から生まれた器なんだ、って想いにはグッとくるものがあるなぁ
そして[夢の使者]へと繋がるのもお見事


榊原里美、新田美波、予約します

318 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/10(土) 02:06:15 ID:H3MRNJqA0
連投すいません
読み返してみると、55個あることが彼女達の殺し合いへの促進や思い込みがある訳だし、
単純に支給品だけで決まらないのがロワの特徴かもですので
数調整が無くても良いかもしれないです
コロコロと意見を変えてすいませんが、よろしくお願いします

319 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/10(土) 03:39:40 ID:TSFx3dJg0
投下乙ですー!
>目に映るは、世界の滅亡
何処か退廃的な感じがする儚い感じ。
絶望してしまった彼女は何処に行くのだろうか……

>悪夢かもしれないけど
こっちもこっちで小梅ちゃんが追い詰められている……
どうなるんだろう。涼は見つけられるのか
和久井さんは油断がなくなったしこっちも怖いなぁ

>ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
茜が茜で、だりーがだりーらしいなあ。
王道なコンビで先が本当楽しみです

>眠る少女に、目醒めの夢を。
ああ、肇ちゃんが素敵。
なんというか、らしさが溢れてて実にいい
愛を感じるなぁ

>アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ
ジョーカー5人とか予想外wwww
しかも、皆のりきだしw
流れも自然ですごい

爆弾に関しては、修正するならば、個数は6個程度がよろしいかと

320 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/10(土) 04:12:06 ID:nSEczvl20
投下お疲れさまでしたー

>アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ
まさかのジョーカー五人、しかしそれ以上にそこに至る前日譚たる前振りが素晴らしい!
そして予想外にみんな乗り気な五人wそう誘導させるちひろさんの鬼畜ぶりがひどいw

>ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
日野ちゃん暑苦しいわー(褒め言葉)。でもその暑苦しさこそこの絶望的な状況を打開できるかもしれない。
現にそれがだりーなを立ち直らせることになったわけだし。日野ちゃんは全力熱血でがんばれ!

>眠る少女に、目醒めの夢を。
一人の少女を絶望に追い落とした雪美の死が今回は一人の少女を希望に導いた。なんとも因果な出来事だなあ……
肇ちゃん『私の、私達の夢を、こんな次元に貶めさせない。願いをこれ以上踏みにじらせない……!』
この一文がロワに抗おうとするアイドルたちの希望を象徴してるかのように思えます


では櫻井桃華、脇山珠美、五十嵐響子を予約します

321名無しさん:2012/11/10(土) 12:35:31 ID:MU0n3tpM0
投下乙です!
肇ちゃんの感じ方がいいなあ、すごくいい
そっか、この島にいるアイドル達って誰もが知り合いってわけじゃないけど、他人じゃないんだな
みんな同じ夢を追う女の子で、アイドルなんだな
夢の使者へのつなげ方にも感服

322 ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 13:37:22 ID:BIQWbu..0
各Pの皆さん、投下乙です!
やっぱ体制への反抗(対主催)と言えば「ロック」ですよね! そしてなによりこのロワならではなのが「アイドル」!w
これがストリームになるのかそれとも相容れない互いの壁になるのか今後が楽しみです。

で、とりいそぎ返答を。
>>306
唯ちゃんを予約しましたけど、ストロベリー・ボムの数はそのままでも全然問題ないです。というよりも、そのままのほうがいいかなw

323 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 19:14:29 ID:hCI5b.6g0
榊原里美、新田美波、投下します

324蜘蛛の糸 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 19:15:39 ID:hCI5b.6g0
横たわる亡骸の側で、ただただ泣きじゃくる少女がいました。
彼女は何故泣くのでしょう? 亡骸と成り果てた、一人のアイドルの死を悲しんでいるのでしょうか?
そうではありません。
彼女はただ恐れていたのです。ただ怖がっていたのです。
それは純粋な感情でした。彼女自身が死ぬことに対する、殺されることに対する、ただただ純粋な、人として当たり前に感じるであろう恐怖でした。
先刻彼女と邂逅した岡崎泰葉は、そんな彼女の姿を見て言いました。

『そう……。あなたは……アイドルでも殺人者でもなく、ただの普通の人なんですね』

ただの普通の人なんですね。
遠回しにアイドル失格だと彼女を糾弾するような、そんな言葉。
彼女はそれに反論しようとしました。
辿々しくも言葉を紡ごうとしたのは、彼女にも自分がアイドルであるという自負が、矜持がたしかにあったからでした。
けれども、その言葉はかき消されます。
岡崎泰葉が取り出したナイフによって。
ナイフが持つ恐怖によって。
それは彼女の『アイドル』が恐怖に敗北した、紛れもない証でした。
だから、岡崎泰葉は続けて言ったのです。

『もういいです。あなたなんかがアイドルを騙らないでください。……あなたは、負けたんです。千川ちひろが用意した、この世界に』

アイドルを騙らないでください。
アイドルにとって、これ以上に反論したくなる言葉もないでしょう。
けれども、アイドルであるはずの彼女は反論しませんでした。できませんでした。
泣きじゃくっていたから、というのもたしかにあります。
泣き崩れていたのだから、想いを言葉にすることなどできるはずもありません。
しかし、それだけではありませんでした。

彼女を満たす恐怖。それは人間には当たり前のもので。
けれども、アイドルには、人気者であると同時に偶像となることを求められる者には、それは相応しくないもので。
その相応しくないものに、彼女の『アイドル』は負けてしまいました。
そして、その恐怖はこの殺し合いに、岡崎泰葉が言うところの『千川ちひろが用意した世界』に与えられたもので。
それに負けた彼女は、即ち千川ちひろが用意した世界に負けたのでした。

325蜘蛛の糸 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 19:17:04 ID:hCI5b.6g0
つまり結局のところ、『アイドル』として敗北し、千川ちひろが用意した世界に敗北した今の彼女は、榊原里美はアイドルなどではなく。
岡崎泰葉の言うように、普通の人でしかなかったのです。
普通の人なのですから、彼女が反論できる道理はどこにもありませんでした。
もっとも、仮に今の彼女に反論することができたとしても、岡崎泰葉はそれを容赦なく切り捨てていたでしょうが。

岡崎泰葉が立ち去ったあとも、彼女は泣き続けました。
この場では殺されずに済んだという安心感も、アイドルであることを否定されたことの前ではあってないようなものでした。
彼女が持っていたアイドルとしての矜持は、例え微かでも彼女を支えていたのでしょう。
しかし、アイドルであることを否定された今、その支えは既に跡形もなくて。
このようなとき、普段ならばプロデューサーが、そしてかつては兄が、彼女を支えたのでしょう。
けれども、この場にいるのは彼女ただ独り。
プロデューサーや兄に支えてほしくても、すがりたくても、それは叶わぬ願いです。
かつて彼女は言いました。

『ロケットを身に着けてればプロデューサーとずっと一緒ですぅ〜』

彼女が握りしめているロケットの中には、たしかにプロデューサーがいました。
あるライブイベントの際に会った高森藍子に頼んで撮ってもらった、笑顔のプロデューサーの写真です。
普段ならば、彼女はその微笑みを見ただけで幸せな気持ちになれたのでしょう。
いつでもプロデューサーが隣にいるような気分になれたでしょう。
けれども、今彼女が求めているのは支えでした。
隣にいるような気分ではなく、実際にプロデューサーが隣にいて彼女を支えてくれることが、彼女の願いでした。
けれども、そのプロデューサーはただ彼女に微笑むだけで、彼女を支えてはくれません。

326蜘蛛の糸 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 19:18:05 ID:hCI5b.6g0
兄もまた同様です。

『どこかでお兄様も見守って下さってると信じてますの〜』

アイドルとしてライブなどをしていたから、彼女は兄が見守ってくれていると信じられました。
しかし、この殺し合いの中で、どうすれば兄が彼女を見守ることができるというのでしょうか。

プロデューサーは隣に居らず、兄に見守られることもなく、アイドルとしての矜持も失って。
今彼女を支えているものは、何一つありませんでした。
彼女にあるのは恐怖だけ。
だから、彼女はただただ泣き続けました。


それからしばらくして。
未だ嗚咽が止まらぬ彼女は、移動することもできずその場に座り込んでいました。
このとき彼女が冷静になって辺りを見回したなら、今井加奈の亡骸に違和感を感じることができていたかもしれません。
岡崎泰葉が持っていた武器だけでここまで遺体が損壊するわけがない、と。
しかし、彼女に冷静になれというのも酷な話でしょう。
彼女を襲う恐怖は、殺し合いという世界自体から常に与えられ続けるものなのですから。
亡骸について意識を向けることもなく、座り込んで震えていた、そのときのこと。

『撿撿み、みなさん! 私の声が聞こえまひゅはっ!?』
「ひぃっ!?」

突如聞こえてきた声に、彼女は思わず身をすくませました。
誰かが来た。今度こそ殺されてしまう。嫌だ。怖い。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い怖い撿撿!
彼女の心を恐怖が包み込みます。
けれども、誰かが来訪する気配は一向にありません。
その代わり、続けて声が聞こえてきます。

『みなさん、私の声が聞こえますか? もし私の声が聞こえたら、山頂の見晴台まで撿撿』

その声は、拡声器を使って目の前の山の頂上から呼び掛けているものでした。
声の主は島村卯月。
渋谷凛や本田未央と一緒にいるという島村卯月は、みんなで一緒に助けを呼ぼうと、みんなで助かろうと、そう呼び掛けているのです。
それは、彼女にとってはまさに天恵でした。
恐怖の中という地獄にいる彼女に垂らされた、一本の蜘蛛の糸でした。
恐怖から逃れるために。死なないために。
彼女は山を登っていきます。
その先にすがれるものがあるのだと、支えてくれるものがあるのだと、信じて。




ブッタがジゴクからある男を助け出すため、切れやすい蜘蛛の糸を垂らした。ナンデ?

327蜘蛛の糸 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 19:18:45 ID:hCI5b.6g0


新田美波は山の中を歩いていた。
既にあの拡声器による声が響き渡ってから数十分が経っている。
それでも山頂にたどり着く気配がないのは、やはり今が夜だからだろうか。
照明が月明かりしかない山道を歩くのは、日頃からラクロスをやっている美波であっても非常に体力を消耗するものだ。
とはいえ、美波はさほど焦っているわけではなかった。
拡声器の声の主が数十分程度でその場を離れるわけがないし、いくら時間がかかっていると言っても美波が今歩いているのは登山道だ。
どれだけゆっくり進もうが、いずれは頂上にたどり着くことが定められた道。
だからこそ、美波が今気にするべきは撿撿

(……誰かいますね)

声の主ではなく、他の参加者だ。
暗くて見えないが、たしかに荒い息遣いと、木の枝が踏みしめられる音が聞こえてくる。
その音の発生源は登山道ではなく左手に広がる木々の中だ。
つまり、その人物は山の中をつっきってきたことになる。

(殺し合いに乗り気な人が、わざわざ無駄に体力を消耗するとは思えないけど……まずは様子見ですね)

静かな夜とはいえ息遣いが聞こえるほどの距離なのだ。その人物が登山道に現れる可能性は十分にある。
そう考えて、美波は音が聞こえてくる方とは逆、右手の木々の影に身を隠す。
数十秒後、美波の予感通りにその人物は登山道に姿を表した。
ボリュームのある特徴的な髪には木の葉が引っ掛かっており、良家の子女のような印象を与える服はところどころが土で汚れてしまっている。
髪型や服、存在感抜群の胸から、美波がその人物を榊原里美だと知るのにそう時間はかからなかった。
美波は里美と密接な親交があるわけではなかったが、それでも里美の人となりぐらいは把握していた。
ぼんやりおっとりとしていて、どこか甘えたがり。
それだけで判断するならば、里美は殺し合いに乗ることはないだろう。

(でも、それは早計ですよね)

そう、早計だ。
美波が把握しているのは殺し合いが始まる以前の、平和な日常の中の人となりでしかない。
既に一人のプロデューサーが死に、おそらくは何人かのアイドルも死亡しているであろうこの島で、どれだけの人間がいつも通りの自分を保てているのか。
重要なのは今の人となりであり、過ぎ去った日常のものではないのだ。
だからこそ、確認すべきなのは今里美が浮かべている表情。
誰もいないと思っているからこそ表に出てくる、偽りのない今の本心だ。

328蜘蛛の糸 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 19:19:47 ID:hCI5b.6g0
辺りを警戒してか、キョロキョロと辺りを見回している里美の表情。
そこに浮かんでいるのは撿撿紛れもない怯え。
それを確認した美波は、里美の前にその身を晒す。

「ひぃっ!?」

里美がもらした悲鳴には、隠そうともしない恐怖がありありと見てとれた。
それほどまでに恐怖を感じるということは、『他の参加者がいた、殺そう』ではなく、『他の参加者がいた、殺される』という発想に至ったということ。
つまり、里美は殺し合いには乗っていない。
美波はそう確信し、里美に声をかける。

「大丈夫、私はあなたを殺したりなんてしません」
「い、いやっ、来ないでくださぁい!」

イヤイヤと赤子のように首を振る里美は、美波の話など聞こえていないかのようで。
それならば、と美波は一歩、二歩と里美に近付いていく。
来ないでくださいと言いつつも里美が逃げないのは、恐怖で足がすくんでいるからか。
難なく里美の目の前に歩を進めた美波は、里美の体を撿撿抱き締めた。
腕の中で暴れる里美に、諭すように美波は囁く。

「落ち着いてください。私は里美さんの味方です」
「ふぇ……え……?」
「怖かったんですよね。でももう大丈夫です。安心してくださいっ」
「本当、ですかぁ……?」
「ええ、勿論です」

泣きはらしたのであろう赤い目で美波を見上げる里美に対して、美波はニッコリと微笑む。
里美を刺激しないように配慮した、優しい笑顔。
それは里美に久方ぶりの安堵を覚えさせるのに十分なものだった。
安心したためか、美波の胸に顔を埋めて泣き始めた里美の頭を、美波は優しく撫でる。
撫でながら、逡巡する。
里美を殺すか、否かを。

(さて、どうしましょうか。今なら問題なく里美さんを殺せますが……)

手にいれた拳銃は、いつでも取り出せるようポケットに入れてあった。
泣いている里美に気づかれずに銃を取り出し、撃つことなど容易いことだ。
実際には返り血があることを考えると密着状態で撃つのは得策ではないが、それでも撃つ機会なんて里美が落ち着いた後にいくらでもあるだろう。
しかし、弾に限りがある現状で、まず間違いなく美波と敵対しない里美を殺すことにどれだけの意味があるのか。
同行者がいるだけで他者に信頼されやすくなるだろうし、いざとなったら囮としても使える。
そうしたメリットを捨ててまで、里美を今殺すことに意味があるとは、美波には思えなかった。
だから、まだ里美は殺さない。
利用価値があるから。……他意があるわけでは、ない。

「……ううっ、ぐすっ、怖かったですぅ……」
「ふふっ、そんなに泣いたら可愛い顔が台無しですよ。私が一緒にいますから」

里美の頭を撫でながら、美波は微笑む。
しかし、その笑みは先程のように優しいものなどでは、決してなかった。

(……あなたが邪魔になるまでは、ね)



【E-6・山中/一日目 深夜】

【榊原里美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1~2】
【状態:健康、安堵】
【思考・行動】
基本方針:死にたくない
1:怖かったですぅ……

【新田美波】
【装備:コルトガバメント+サプレッサー(7/7)】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:他の参加者と接触しつつ、可能なら暗殺する
1:拡声器の声を目指して山を登る
2:可能な限り慎重に行動したい
3:里美は利用できるだけ利用する

329 ◆ncfd/lUROU:2012/11/10(土) 19:21:59 ID:XUaNU5L60
以上で投下は終了です
私の環境だとダッシュが撿になってしまうようなので、wikiに収録された際に修正させていただきます

330 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/10(土) 20:46:03 ID:rggmtFDE0
投下乙です!
新田さんステルスマーダー化か!これはどうなるか見ものですね
さとみんもとりあえず死なずに済んだかー

>ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
日野茜ちゃん熱いよー!流石というか何と言うか…
この王道主人公コンビの先が楽しみだ

>眠る少女に、目醒めの夢を。
肇ちゃんカッコイイ…
茜ちゃんや他の人もそうだけど、
他のロワに比べるとやっぱり『アイドル』っていう部分な所重要なのかな

あと、神谷奈緒、若林智香、北条加蓮予約します

331 ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:54:04 ID:3OP4TpJg0
投下乙です。
新田さんがステルスってなんだろう、前回の鋏といい妙にハマってるようなw あの涼しげな目のせいかなw
なんにせよ、山頂のこの後が楽しみだw

では、大槻唯と三村かな子を投下しますね。

332彼女たちに忍び寄るサードフォース  ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:55:10 ID:3OP4TpJg0
その満天の星空は大槻唯がいつかステージの上で見たいと夢想していたものの様に力強く美しい輝きだった。
見つめているだけで心の中から不安が流れ去り、決意が強まっていく。
静かに、静かに大槻唯の決意を強くしていく。

これから同じ事務所で仲良くアイドルとして一緒に切磋琢磨していたみんなを一人残らず殺害する。

言葉にすればこんなにも恐ろしいことなのに、彼女の中に恐れるという感情はなかった。
大槻唯はそれほどまでに薄情な人間だったのだろうか。
それとも、やはり他人の命よりも自分の命だからだろうか。
いや、そうではない。

きっと、これが“ラブストーリー(愛の物語)”だからだ。

だからこそ彼女はヒロイックになれる。ステージの上の“主役”になることができる。
最高のハッピーエンドを得るために自らが悲劇を演出しそれを踏み台にしてゆく決意ができる。
同じプロデューサーに恋する他の4人を殺すことも厭わない。
一緒に仕事をして事務所の中で、またはプライベートで友達つきあいをしている子も犠牲にできる。
それ以外の、中には口をきいたこともない子であっても、むしろだからこそなんの呵責もなく蹴落とすだろう。

大槻唯は“主役”なのだから。






「じゃあ、そろそろ行こうかな。ずっと星を見ててもプロデューサーちゃんは救えないしね」

大槻唯は星空に向かってうんっと背伸びすると、自分に言い聞かせるように台詞を口にした。
ことさら軽く、なんでもないようなことのように。
そして星空への名残を切るように目を瞑る。
そのまま振り返ろうとして――

パパパッ!と爆竹が破裂するような音を聞いた。

「ん…………………………」

最初はどこで音がなったんだろうと大槻唯は思った。そんなに遠くではないが、まさかすぐ近くでもないだろうと。
しかし無視することはできない。もしかしなくても本物の銃声だということもあるのだ。
本物の銃声なんて聞いたことはないけど、でも気をつけなくてはいけない。
そう思って、誰かいるのか見渡そうと屋上の手すりによりかかろうとして、そこまでを最初の一瞬で思考して――

その次の瞬間に膝から崩れ落ちた。

ごつんと額を床で打つ音がエコーして頭の中に響く。
大槻唯が最期に思ったのは「額に傷をつけたらプロデューサーちゃんに怒られる」ということだった。
まさか、もう自分が“死んでしまう”なんてことは思いもよらなかった。

なんの疑問もなかった。ただ、急に全てが遠くなっていくようだった。

みんなを殺すという決意も。みんなの中で自分ら5人が主役に選ばれたことに対する密かな興奮も。
プロデューサーに対する恋心も。アイドルとして自分に見出していた価値も。
本当はとても怖かったということも――

333彼女たちに忍び寄るサードフォース  ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:55:38 ID:3OP4TpJg0
なにもかもが急速に遠くへ去り、そして意識が死に追いつかれるよりも早く、彼女はそっと心を伏せた。






【大槻唯 死亡】


 @


あのシンデレラガールに選ばれた十時愛梨ちゃんのプロデューサーさんが首輪の爆発で殺されてしまった時、
私――三村かな子はその隣の教室で小さなチェック用のモニタ越しにその光景を見ていました。

飛散した血と頭だったもの、そしてその場に残され力なく崩れ落ちる身体と頭部を失った首の断面。
それらはとてもリアルでこれが作りものだなんては簡単に否定はできなくて、いえそんなことよりもなにより、
それを目の前で見ているアイドルのみんなの表情を見れば本当のことなんだっていうのは一目瞭然でした。
プロデューサーさんが一人殺されてしまったんです。とてもひどい方法で。
私はここでようやく全てを理解し、これは全部ドッキリなんだって考えを捨て、そしてとても大事なことをひとつ諦めました。

もう、私は、私と同じようにトップアイドルとして活躍することを夢見ているみんなを殺さなくてはいけないんだと。






私がこの島に来たのはちょうど一週間前のことでした。

ある新しく開発中のリゾートアイランドのPRの為に、島に作られたライブ会場で単独ライブをしないかというのが本題で、
今回はそのライブに向けての下見を兼ねて、まずはライブ告知用のスチールとCM用の映像を撮影するという説明を受けていました。
プロデューサーさんからは漁港と大きな魚市場があって海の幸をはじめとしたごちそうがたくさん出ること、
なによりそのリゾートアイランドにオープンする遊園地の目玉商品となる“スイーツ”の選評会にも招待されていて、
そこで趣向を凝らした新しいスイーツを食べ放題……ではなく、
私がその遊園地で一番に売り出すスイーツを決めることになっていると聞いてものすごく浮かれていたことを覚えています。

島へと向かう当日。私は島へと向かうセスナ機の中でひとりでした。
当日の朝に届いたプロデューサーさんからのメールによると、別の仕事が長引いたので少し遅れて合流するとのことでした。
それを見た時は少し不安になったんですが、でもただ移動するだけなのにグズってたらプロデューサーさんにもスタッフにも迷惑なので、
私は素直に――私ももう一応一人前のアイドルですからね――ひとりで飛行機に乗ったんです。
到着までの時間はかなりあって、プロデューサーさんと一緒に食べようと用意してたお菓子は結局私ひとりで食べてしまいました。

綺麗なブルーの海の中に浮かぶ島に到着した私を待っていたのは感動と、それ以上にいっぱいの仕事の山でした。
空港につくなりホテルのチェックインはスタッフに任せて最初の撮影場所であるビーチに移動。
バンの中で水着に着替えて(そこでスタイリストさんにお小言をもらい)まだ少し肌寒い砂浜で宣材用の水着スチールの撮影をし、
いっしょに今後制作する予定があるという島のPRミニドラマの企画イメージ用の撮影も少ししました。
それは本当にスチール撮影のおまけって感じで簡単だったんですけど、撮影が終了すると休憩する間もなく設営中のライブ会場へ移動、
まだステージ以外は骨組みしかない会場で、そのステージの上に立ちながら選曲と演出の方針や色んな難しいことを色々と打ち合わせました。
本当はこういうことはプロデューサーさんの仕事で、
私はいつもとなりでうんうんとうなづくしかないんですけど、プロデューサーさんはまだ到着してしなくて、
やっぱり私はよくわからないので、代理店の人や現地のディレクターの人の前でいつもどおりにただうんうんとうなづいているだけでした。

334彼女たちに忍び寄るサードフォース  ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:56:07 ID:3OP4TpJg0
その後は車の中で遅い朝食をとりながらプロデューサーさんが言っていた魚市場に移動し、そこでレポート映像を撮りました。
私が来るのにあわせて新しく作ってくれたという海鮮七種盛りレインボー丼はとってもおいしかったです。
けれど、次の撮影があるからとカットした瞬間に手を引っ張られて次の撮影場所に。
……あの食べかけだったレインボー丼はどうなったのかな?

次は牧場です。この後も撮影スケジュールは詰まっているということでスタッフのみなさんは大慌て。
到着したらソフトクリームを持ったスタッフさんが駆けてきて今度はこれを食べてくださいって言われました。
この牧場の牛から絞ったミルクから作ったそうなんですけど……すっごく驚くほどに濃厚で!
なんだろう? コクのある甘みっていうのかな。とにかくおいしくてやっぱり牛乳は無調整が一番だなって再確認できました。

その後は待望のスイーツ選評会。
候補は4つあったんですけどどれもおかわりしたい……ではなく甲乙すけがたくとにかくすごく悩みました。
時間が押しているということで結局、色づけしたタピオカをふんだんに使ったギャラクシーマリンに決めたんですけど、
今思うとマンゴーとパッションフルーツをふんだんに使ったダブルパッションも捨てがたかったかなぁって思ったり。

そしてその後は温泉でパンフレット用の撮影をしてそれがその日の最後の仕事となりました。
温泉の仕事なのに温泉に浸かることはなくて残念。(結局、今にいたるまで温泉には一度も入ることができませんでした)

ホテルへと到着した私は部屋に運んでもらってそのままだった荷物を開いて、シャワーを浴びて倒れこむようにベッドに飛び込みました。
いつもお仕事は忙しいけれど、この時にあんなにも疲れていたのはやっぱりプロデューサーさんがいっしょじゃなかったからだと思います。
普段、どれだけプロデューサーさんに頼っていたのかよくわかり、そして寂しさもいっぱいでした。
けれど、メールをチェックしてもプロデューサーさんからのメールは出発前に受け取ったものしかなくて、
私はお仕事の報告とおやすみなさいのメールを送った後、プロデューサーさんのメールが返ってくるのを待って……結局そのまま寝てしまいました。

そして次の朝。
ノックの音でめざめた私がドアを開くとそこにいたのはプロデューサーさんではなく、いつもの事務員の制服を着た千川ちひろさんでした。






それからはもうわけがわかりませんでした。あまりに混乱しすぎて私はその日一日食事をすることすら忘れてしまったくらいなんです。

どうしてここにちひろさんがいるんだろう? しかもいつも事務所で見かける姿のままです。
ここはどこか南の島で撮影のお仕事中なのに――あまりにも状況とかみあわなくて、最初は自分が夢を見ているのだと思いました。
しかしそれは紛れもなく現実で、いつもどおりにお茶を淹れてくれる彼女にうながされて私はそのお話を聞いたんです。

『アイドル・リアル・サバイブ』

その企画(と言っていいのかな?)のことをちひろさんはそう言いました。
内容はとても単純です。この島にアイドルが数十人集められてサバイバル競争をする。最後までリタイアしなかった人が優勝。
この時はまだちひろさんの言うサバイバルの意味を正しくとらえていなかったからなんですけど、納得はしました。

割と私が子供の頃からもTVでよく見る企画でした。無人島にアイドルやタレントを閉じ込めて「とったどー!」させたりとかなんとか。
でも、私はそんな番組を見つつ絶対にあんなことはしたくないなと毎回思っていました。
なによりご飯が自由に食べられないのは辛いですし、私には海に潜って魚をとったり山の中で飲み水を探すなんてできっこありませんから。
一応アイドルとして活動し始めてからはあんなことしたくないって気持ちは、あんな仕事がきませんようにに変わりました。
しかしその仕事がきてしまいました。
昨日あんなにおいしいものばっかりだったのは、もしはじめからこの話をしてたら私が逃げ出すと思ったから? と想像もしました。
でも、そうじゃなかったんです。

ちひろさんの言う”サバイバル競争”とはアイドル同士での”殺し合い”のことでした。

335彼女たちに忍び寄るサードフォース  ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:56:36 ID:3OP4TpJg0
それを聞いた時、私はやっぱりよくわからないといった顔をしてたと思います。
殺し合いだなんて想像の範疇の外というか理解の届かない場所にあるシチュエーションなんだからしかたありません。
ちひろさんもそれは承知してたんだと思います。なので、ちひろさんは私にとってとってもわかりやすいものを見せてくれました。

昨日から連絡の取れなかったプロデューサーさんの姿がちひろさんの持つスマホ(今思えば情報端末)の中にあったんです。
しかもどうやらリアルタイムの動画のようで、プロデューサーさんは椅子に縛り付けられていて口に猿轡を噛まされていました。
誘拐されてる!? と慌てました。
でも、じゃあどうしてちひろさんは平気な顔をしてるんだろう? 私が混乱している内に画面の中に変化が起こりました。
銀行強盗のようなマスクを被って棒を持った人がフレームインしてきたんです。
そして現れるなりプロデューサーさんをその棒で思いっきり殴りつけました。
プロデューサーさんは椅子ごと床に倒れて、多分この時私はものすごく大きな悲鳴をあげていたと思います。
でも私がどれだけ悲鳴をあげようとも画面の中ではマスクを被った人がプロデューサーさんを殴ったり蹴ったりし続けるんです。
私はわけがわからなくなって、ちひろさんに向かってやめさせてくださいと言いました。
するとちひろさんはスマホを少し操作して、もう一度画面を私のほうに向けるとあの恐ろしいマスクを被った人はいなくなっていました。
でもプロデューサーは倒れたままで、顔中から血を流していて……あの姿は今も思い出したくありません。

ちひろさんはあらためて私に『アイドル・リアル・サバイブ』の説明をしました。
それは今さっき、教室の中で他のアイドルのみんなが聞いたものとほとんど同じです。
ただ少しだけ違うのは、それは60人のアイドルで行われるのではなく、59+1人のアイドルで行われるということでした。
そして、ちひろさんは言ったんです。私がその59人の後に加わる特別なひとりなんだって。

“59人のアイドルを敵に回す最後のアイドル”なんだって。






それから殺し合いが始まるまでの日数は全て“訓練(レッスン)”に費やされました。
レッスンといっても、いつものようなボイストレーニングやダンスレッスンなどではなく、殺し合いをするための訓練です。
私はM16という機関銃やK7という拳銃を持たされ、毎日射撃の練習を何時間もさせられました。
体力をつけるためのランニングや水泳もいつもの倍以上はしていたと思います。
それはとても――この成果をどう活かすかと考えるとより――辛いものでした。
ただその中でも幸いなことがあったとしたらカロリーを得るためにと食事だけは豪華だったことかな。
こんな時にまでそんなことが嬉しいだなんてどうかしてるとは思うけど……。

そして、これが私が59人のアイドルを敵に回すことになる理由です。
他のアイドルにも、いえほとんどのアイドルに対してちひろさんはそれとなくこの殺し合いのことについて話しているそうなんです。
例えば、それは番組の企画案としてもしこうなればあなたたちはどうする? だとか、
レンタルして見た映画の内容だとして話したり、今読んでる本だったり、
あるいはもしひとりしか生き残れない状況ならどうする? なんてもしも話だったりと曖昧に、あるいははっきりと。
本当にいきなりだとしたら、ほとんどの子がこの状況に順応できないから――というのがちひろさんの語った理由です。
それでも殺し合いの訓練を受けているのは私だけなんです。

ちひろさんは私の役割をはっきりと“悪役”だと言いました。

アイドルのみんなのほとんどはそのままでは殺し合いなんてできないとちひろさんは言います。
例えば目の前で誰かが死んで、殺さなければ殺すと脅され、プロデューサーさんを人質にとられて、それでもできない子がいる。
臆病だから――そんな子もいるけど、“アイドル”だから、“アイドル”を信じているからこそ殺し合いなんてできない子がきっと現れる。
その”アイドル”を言葉にする時、ちひろさんは本当に嬉しそうにします。じゃあどうして殺し合いなんかさせるの? と思うほどに。

そして、その”アイドル”を殺して殺し合いを進めていくのが私の役割なんです。
殺し合いを企画した側の用意した、武器も情報も優遇されている、59人の“アイドル”候補とは相容れない私です。

336彼女たちに忍び寄るサードフォース  ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:57:03 ID:3OP4TpJg0
その殺し合いというステージの上で”アイドル”は次々と蹴落とされていく。けれど、最後に残るはやはり“アイドル”だともちひろさんは言いました。

私には結局ちひろさんの考えていることはぜんぜんわかりませんでした。彼女が本当にいつもお茶を淹れてくれていたちひろさんなのかも。
ただ私もみんなといっしょに殺し合いをするしかない。いえ、たったひとりでみんなを殺していかなければいけない。
私は“悪役”だから、自分が“悪役”だと他のアイドルに知られてはいけない。
きっとそれはちひろさんにも都合が悪いんだと思います。
もし誰かに話したり、(だまし討ちする程度にはかまわないけど)殺し合いの中で仲間を作ったらプロデューサーさんを殺すと脅されました。

私は私のために“悪役”に徹して“アイドル”を全滅させなくちゃいけないんです。





いつの間にかに、モニタの中では教室に集められたみんなが床の上や机に伏せて眠ってしまっています。
ちひろさんはというとガスマスクを被って教室の端に立っていました。
ほどなくして、たくさんのスタッフが入ってきて眠っている女の子たちを運び出して行きました。
もし自分があんなことをされると思うとゾッとする光景です。

それからしばらく、遠ざかっていく車の音を耳に時計を見ると、まだ午後10時くらいでした。殺し合いが始まるまでには時間があります。
時間があると色々と考えてしまいます。

例えば、私があの59人の中にいたとしたら?

多分、大石泉ちゃんを頼るんだろうなって思います。
彼女は今売り出し中の新人ユニットの中のひとりで、そのライブに同じ事務所の先輩として参加したことがあるんですけど、
泉ちゃんはあんまりアイドルっぽい子ではないんです。いえその、悪い意味じゃないですよ。
私みたいに目の前のことだけにいっぱいいっぱいなんでなく、ずっと先まで冷静に見ることができる頭のいい女の子なんです。
それが少し客観的すぎるというか、不意に他人事みたいに考えているようで私なんかは心配になったりもして。
こんなことを言ったらきっと、それは私が考えなさすぎみたいに怒られちゃうんだろうけど……。
ともかく、泉ちゃんは頼りになる……と思う。もしかしたら得意のパソコンで全部なんとか……というのは言いすぎかな。






 @


12時になると同時に情報端末に【その学校の屋上に大槻唯がいる】と知らせがきたので私はそれに従い、さっそく彼女を殺しました。
屋上に出る扉からは彼女の背は10メートルもなくて、ただぼうっと立ってるだけの彼女を撃つのは今の私にならとても簡単です。
狙いをつけてトリガーを引くと、パパパッ!と3発の弾丸が飛び出して(三点バーストというらしいです)彼女はそのまま崩れ落ちました。

顔を合わせずに殺すことができほっとしました。今の、私の顔は絶対に誰にも見られたくはなかったから――。






【F-3・学校/一日目 深夜】

337彼女たちに忍び寄るサードフォース  ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:57:27 ID:3OP4TpJg0
【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり)
     M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。
1:次に殺す相手を探す。






 @


12時になる直前、真っ白な情報端末の画面を見ているといきなりプロデューサーさんの姿が画面に映りました。
しかも、姿だけじゃないんです。プロデューサーさんの声も聞こえるんです。

プロデューサーさんは事情を把握しているようで、私に殺し合いなんかやめろって言ってくれます。
自分の命なんかいいから逃げろと。どうにかして警察に保護してもらえと――痣だらけの顔で、必死に、画面の向こうで。
何度も何度も大きな声で言うんです。
例えこんなことで生き残っても絶対に殺し合いに参加した私を許さないぞって、そんなことも言うんです。

そうですよね。プロデューサーさんならきっとそう言うんだと私信じてました。
だから、私はこの時ようやく一番最後の決心をできたんです。

こちらからの音声も、きっと姿も見えてはいないだろうけど、私は画面の中のプロデューサーさんに語りかけます。


「……じぇ、じぇったいに……たす、け、ますね。……ッく。……だから、待っててくだざいねッ!」

338 ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 21:57:51 ID:3OP4TpJg0
以上で投下終了です!

339 ◆D.qPsbFnzg:2012/11/10(土) 22:25:28 ID:/EsRb8n.0
投下乙です。
うはー、まさかの+1陣営。しかも殺し合いから一番遠そうな子が……。
これは予想外ですよ。やられました。


では私も、栗原ネネ、投下します。

340捧げたいKindness  ◆D.qPsbFnzg:2012/11/10(土) 22:27:16 ID:/EsRb8n.0

 
 ――私に出来る事はなんだろう。

 私の中で、ぐるぐると渦巻いていた問いかけ。
 ずっと遠い昔から――物心ついたときからずっと、私は答えを探していた。

 病弱な妹のために、私に、私だけにできること。
 幼い私には、一緒にいてあげることとくらいしか、思いつかなくて。
 だから、私は、ずっとあの子と一緒に過ごした。
 いつか、もっと、私に出来ることが見つかるだろうと信じて。

 でも、その答えは、幾年が経っても見つからなかった。
 妹を治せるように、お医者さんになりたいと思ったこともあった。
 妹を見守れるように、看護師さんになりたいと思ったこともあった。
 それでも、幼かった私は、健康に詳しいだけの、普通の女の子でしかなかった。

 他に何も出来ないのかと、自分を責めた時期もあった。
 考えて、悩んで、実践して、失敗して。
 でもあの子は、ありがとうって言ってくれて。
 だから私は、まだまだがんばれて。
 そうやって、探して、探して、たどり着いたのが、アイドルだった。

 外ではあまり遊べない妹と一緒に、私もテレビをよく観ていた。
 それはあるとき。ふと観た番組に映った。アイドルの姿。
 仲間と手を取り合って、お互いを信じ、決して諦めず、伝説にまでなったアイドルたち。
 彼女たちの姿は、とっても眩しくて。今まで見てきたどんな人たちよりも、輝いていて。
 そんなアイドルの仕草に、歌声に、ダンスに、一つ一つ――妹と、私。二人で心を躍らせた。
 面白かったね、すごかったねと、二人で笑いあった時に、私は気づいた。

 アイドルは、あの子の憧れで、
 アイドルは、あの子を元気にして、
 アイドルは、あの子を笑顔にした。

 だから、私に出来る事は、アイドルだと、思った。

 あの子の憧れになって、
 あの子を元気にして、
 あの子を笑顔にして、

 そういうアイドルに、なりたいと、思った。


 アイドルは、決して楽ではなかった。
 でも、私は他の人よりも早く、陽の目を見ることができたと、思う。
 プロデューサーさんの手腕は確かだった。
 あの人と仕事をしていると、私も元気になれる気がした。
 あの人に全てを任せられる、そういう存在だった。
 そして、私がアイドルとして目指す目標は、いつしか大きくなっていた。
 妹だけじゃない、私を見てくれる人は、もっと大勢いることを知ったから。
 妹も、プロデューサーさんも、他のアイドルたちも、ファンの皆も、私の事を見ていてくれるから。

 みんなの憧れになるような――
 みんなを元気にするような――
 みんなを笑顔にするような――

 そんなアイドルに、きっと、なってみせると、誓った。



   >>>>

341捧げたいKindness  ◆D.qPsbFnzg:2012/11/10(土) 22:28:29 ID:/EsRb8n.0


 薄暗く、けれど辺りを把握するに十分な照明が、建物の中を照らしている。
 長い廊下を、小さな人影が、ゆったりとしたペースで歩く。
 背中まである長い黒髪がふわりと揺れ、靴底が床を叩く音が響く。
 少女は、楽屋からステージへ向かう通路のように、淡々と歩を進めていた。
 ただ違うのは、遠くの喧騒が聞こえなくて、高揚感もなくて、
 ――彼女が、ぽつんと、一人きりだということだ。
 
 ここは、総合病院の二階。
 清潔感のある白い壁が、ずっと向こうまで続いている。
 僅かに鼻腔をつく、薬品の匂いが漂う。

 彼女は、病院は、嫌いではなかった。
 白い壁に囲まれて、白衣を着て走り回る、そんな将来を夢見ていたこともあるくらいだ。
 少なくとも彼女には、それなりに縁の深い場所に思えていた。

 それでも、

「誰もいない病院って……こんなに怖かったんですね。
 暗いし、静かだし、肌寒いし――。なんだか、健康によくなさそうです」 

 少女――栗原ネネは、悪寒に身を震わせずにはいられなかった。


 彼女は、気づいているのだ。
 いつもは、気づかないフリをしていたそれに。
 病院という場所の持つ、死の香りに。
 病弱な妹がいたために、無意識の下でその存在から目を逸らしていたのも、
 健康に気を遣い、それから距離をとるように生活していたのも、
 それが恐怖の対象であるという、証左に他ならない。
 
 ――今、彼女に与えられたこの場所では、死の存在はそれまでとは比べ物にならないくらいに大きく、
 それは、彼女の喉笛を噛み千切らんと、すぐその背後まで迫っている。 

「殺し合い、なんて。どんな悪夢でだって、見たことないのに――」

 足を止め、華奢な身体を両腕で抱える。
 この場で意識を戻してから、ずっと、頭の中をぐるぐる回る感情。
 戸惑い。恐怖。不安。身を切るような、心の痛み。

 囚われの身になっているであろう、プロデューサーの姿が、頭に思い浮かぶ。
 椅子に縄で縛りつけられ、身動きもとれず、それでも私の身を案じてくれている――。
 痛々しい想像をしてしまった自分を、思わず叱りつけたい気分だった。
 思わず、泣き出しそうな表情になる。
 自分が辛いだけなら耐えられるのに、あの人や、妹のことを思うだけで、ひどく悲しい気持ちになった。

 駄目だ。こんなことでは、いけない。
 このままでは、心が沈んでいく一方だ。
 身体を抱えていた腕を下ろして、拳をぎゅっと握った。 

 廊下の窓に、向き直る。
 窓ガラスに映る自分の顔は、暗く憔悴しているように見えた。
『笑顔でいると、寿命が延びるって言いますし、ねっ』
 自分があの人に言った言葉を、思い返す。
 あの人はそれを聞いて、笑ってくれた。
 今、その言葉は、自分にこそ、必要なものなのだろう。
 いつも心がけている、皆に癒しの笑顔だと褒めてもらえる、そんな笑顔を作ろうとした。

 ――だが、出来たのは歪んだ笑顔だった。
 いや、それはきっと、誰が見ても笑顔には見えなかった。
 彼女は、――笑えなかったのだ。

 窓に映る、自分の首のチョーカー……首輪が目に入って、
 嫌でも、あの教室での出来事がフラッシュバックして、目の前が真っ赤になって、
 それだけで足も震えて、汗が出てきて、視線が定まらなくなって――

 どんなに気を強く持とうとしても、
 怖いという気持ちは、少しも消えなくて。
 
 どうしよう。死んでしまったら。
 それがとっても、怖くて。

342捧げたいKindness  ◆D.qPsbFnzg:2012/11/10(土) 22:29:47 ID:/EsRb8n.0



 深く、深呼吸をする。
 恐怖を振り払うように、ぶるぶると頭を振った。
 
 このままじゃいけない。
 怖がっているだけじゃ、何も始まらない。
 アイドルは、皆を元気にしなきゃいけない。怯えていたって駄目なんだ。
 辛い時、大変な時、いつだって考えてきた。自分の一番安心できる立ち位置。

 ――私に出来る事はなんだろう。

 その問いかけだけが、彼女を支えていた。
 この、恐ろしい場所で、自分が、栗原ネネが出来ること。
 それは、変わらないはずだから。

 皆の憧れであるために。
 皆を元気にするために。
 皆を笑顔にするために。

 それだけを考えていれば、いつもと同じだ。
 死ぬことなんて、考えてはいけない。
 考えていい事は、一つだけだ。

 彼女は、栗原ネネは、自分の出来ることを――
 
 ……

 窓に映る自分の視線が、揺れた。
 身体が、硬直したまま動かない。
 心も、奮い立たそうとしても、動かない。
 何分、経っただろう。彼女の表情は、少しも和らがない。

「駄目……駄目……! 何も、何も……!」

 思わず叫ぶと、両手で顔を覆った。

 駄目なのだ。
 わからないのだ。
 出来ることは、あるはずなのに、
 どうありたいかは、はっきりしているのに。
 あんなに真っ直ぐに見えていた道なのに、
 その行き先が、濃い靄の中に溶けてしまって、見えない。

 この、殺し合いの舞台で。
 この、与えられた世界で。
 アイドルとして出来ることなど何も無く、自分の全ての行動は、
 誰かの、笑顔を、元気を、奪ってしまうと、感じてしまっていた。

 殺し合いに乗ってしまえば、その血で穢れた身でステージには二度と立つことはできない。
 それは、アイドルの自分を応援してくれた妹、自分をここまで育ててくれたプロデューサー、ファンの皆への、裏切り。
 人に元気を与えたい、そんな想いでアイドルになった彼女には、彼らを悲しませることなどできない。
 それに、自分が他のアイドル達を殺すなんて、想像だってしたくない。
 彼女たちに申し訳なくて、彼女達を待っていた人たちを悲しませたくなくて――
 その人たちの笑顔を、元気を、奪ってしまうことなんて、できる筈も無い。
 だから、自分は、誰かを殺すなんて、きっと出来ない――。

 殺し合いに反逆すれば、彼女のプロデューサーの命は断たれてしまうことになる。
 間接的にとはいえ、あの人を殺してしまうことになる。
 ここまで自分を導いてくれたあの人を。妹と同じくらい、大事に思っているあの人を。
 そんな道は選択、したくない。いや、できない。できるわけがない。
 それだけの重みを背負う、そんな覚悟など、15歳の彼女にはできるはずもない。 
 それに、仮に足掻いたところで、自分にも待っているのは死だけだという気がしていた。
 自分の命は、あの人の手の中にある。それこそ、今すぐにでも首輪を爆破されるかもしれないのだ。
 他のアイドルだって――もちろん、手を取り合うことのできる人もいるだろうけれど、
 きっと、中には、この殺し合いに乗ってしまう人だっていて、その人を相手にする覚悟なんて、きっと半端な気持ちでは出来ない。
 そんなことで自分が死んでしまったら、妹も、あの人も、ファンの皆も、自分を待っている全ての人を悲しませてしまう。
 自分が笑顔にしたい人たち。元気にしてあげたい人たち。彼らがいるから、こんなところで死ぬわけにはいかない――。

343捧げたいKindness  ◆D.qPsbFnzg:2012/11/10(土) 22:31:16 ID:/EsRb8n.0
  >>>>


 彼女は、癒しの女神とさえ呼ばれた。
 にこりと微笑めば、全ての人を笑顔に出来た。
 その歌声は、全ての人に元気を与えた。

 でも、それは、そんなものは、この場所で、栗原ネネという個人を支えるには、ひどく不安定で、脆い。

 彼女は、自分の取りうる行動の全てが、彼女の想いに基づいたものだとしても、
 決して、この場所では、それが想いを叶えてくれるはずが無いと、気づいてしまっている。

 出ない答えを延々と求め続ける。
 彼女は天井を見上げた。
 胸に当てた両掌が、自分の鼓動だけを刻む。聞こえる音は、それだけだ。

 白く薄暗い世界で、スポットライトのような照明の下、
 15歳のアイドルは問われている。

 ――君に出来る事はなんだ?
 
「出来ないこと、ばっかり、なんです。
 私には、何が、出来るんでしょうか――?」

 今まで繰り返してきた問い。
 それに対する答えは、今は霞んで見えない。

 誰かを傷つけなければ、何かを切り捨てなければ何も出来ない、それがこの殺し合い。
 どの道を進むとしても、アイドル・栗原ネネの想いは、穢されてしまう。
 皆の憧れである、皆を笑顔にする、皆を元気にする、その想いの欠片を、

 ――割り切るには、切り捨てるには、彼女はあまりに、優しすぎた。

 誰かのために出来ることを探し、そのためにアイドルとなった彼女は、
 見失ったその道を、手探りで探し始める。

 その手を引いてくれる人は、その姿を見ていてくれる人は、ここには、いない。


【G-3(総合病院)/一日目 深夜】

【栗原ネネ】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、未確認支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:自分がすべきこと、出来ることの模索。

344 ◆D.qPsbFnzg:2012/11/10(土) 22:31:54 ID:/EsRb8n.0
以上です。
ご指摘等お待ちしております。

345 ◆John.ZZqWo:2012/11/10(土) 23:26:03 ID:3OP4TpJg0
投下乙です。
スポットライトの下で笑うことが出来ない女の子……すごく情景が絵になってて、ネネちゃんの追い詰められている感がひしと伝わってぐっとくるものがありますね。
すごくいいシーンだと思いました。



そして、安部菜々、南条光の2人を予約させてもらいますね。

346 ◆yOownq0BQs:2012/11/11(日) 00:45:04 ID:ouKsJBQ.0
投下乙です。
>彼女たちに忍び寄るサードフォース
ジョーカーを屠るジョーカーとは発想の予想外。
まさか、このポジションに入るのがこの子とは……。

>捧げたいKindness
優しすぎる故に進むべき道がわからない。
だけど、その優しさが何かを生むのかもしれない。
これから先が気になる話でした。

そして、緒方智絵里、松永涼を予約します。

347 ◆RyMpI.naO6:2012/11/11(日) 01:06:28 ID:/XtmBQQM0
二作、投下乙です!
迷いのない姿勢と、迷い続けながらも進もうとする二者の対比がいい。
しかし、リレーだからこれ相談して投下したわけじゃないんだよなぁw タイミングの妙か。
どれもこれも続きが気になりますな。


そしてナターリアと赤城みりあを予約させていただきたいです。
大丈夫でしょうか。大丈夫でしたら頑張りたいと思います。

348名無しさん:2012/11/11(日) 01:17:00 ID:DwGAOVvo0
>>347
ナターリア書かれてから日も経っていますし、特に問題も指摘されていないので大丈夫かと

349名無しさん:2012/11/11(日) 01:19:08 ID:DwGAOVvo0
あ、ナターリアも、ミリアも、ってことですw
位置もそんなに離れてませんし大丈夫かと

350 ◆RyMpI.naO6:2012/11/11(日) 01:23:47 ID:/XtmBQQM0
ご返答ありがとうございます。頑張ります!

351 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:01:43 ID:3rHQBGsk0
投下おつかれさまでした!


>蜘蛛の糸
とりあえずさとみんは持ち直したか……
しかしステルスマーダーと一緒では一息つけねーw

>彼女たちに忍び寄るサードフォース
まさかのジョーカーキラーをかな子を演じるとは……
しかし五人をジョーカーに仕立てあげつつさらにかな子をも切り札にするとはちひろさん鬼畜すぎるw

>捧げたいKindness
ネネさんは優しいなあ。
その優しい気持ちを踏みにじられることがありませんように


それでは櫻井桃華、脇山珠美、五十嵐響子を投下します

352真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:03:50 ID:3rHQBGsk0

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ! た、珠美があなたのナイトにですかぁぁぁっ?」
「はい、そうですわ」
「し、しかし珠美はまだ未熟者……っ、誰かを守るなんてそんな思い上がったことなど……っ! それに……」

 消え入るような声を残し珠美はうつむいた。
 弱き者を守る騎士になる。それは珠美にとって己が剣の在りよう示す絶好の機会であった。
 剣道とは剣の道、決して人を殺す殺人術ではなく、己を守り他者を守るもの――すなわち人を活かす術
 そのためには鍛え抜かれた肉体と、己に打ち克つ精神が必要と珠美は思っていた。

 物心ついた時より剣を振るい己が腕を磨く日々。その技術と実力は折り紙付きなのであるが、
 生来の臆病な性格が邪魔をして、自分の思うような試合をできなくなることも少なくはなかった。
 それが珠美にとってひとつのコンプレックスとなっていた。

「珠美には……誰かを守る資格なんてありませぬ。さっきまで怖くて寂しくて木陰で震えて泣きそうになっていた臆病者の珠美は――」
「珠美さん――」
「は、はいっ!?」

 声を詰まらせた珠美の声を桃華が遮った。

「珠美さんはそんな臆病な自分に打ち勝つために剣を振るっていらっしゃるんですの?」
「それは……」

 それもあった。無心で剣を振るえば弱い心を克服できると。
 でもうまくいかなかった。

「わたくし、武道の心得については素人も同然ですが……武道というものは自分の弱い心と向き合い、それを受け入れることも大事だと思うんですの。ただ克つことだけにこだわっていてはうまくいかない、そう思いますわ」
「あ――」
「も、申し訳ありませんっ、素人がこんな差し出がましいこと言ってしまって……でも、あなたはわたくしの命を救ってくださったんでしょう? 怖くて怖くてたまらなかったのにそれでも勇気をふりしぼって。そして……こうして自分の弱さと向き合えている。それで十分ではないですの?」

 それは真夜中にかかわらず太陽のように暖かい笑顔で。
 道に迷った者の足下をほのかに照らす月のようで。
 桃華のその徳のあるたたずまいは自然と跪いてしまう高貴なる者のようで。
 だから、そんな彼女の真っ直ぐで邪念のない言葉に目の覚めるような思いをして、己の未熟さを噛みしめる珠美だった

「……こんな珠美でいいんですか? こんなちっちゃくて頼りない珠美を頼りにしてくれて」
「もちろん、あなただから――あなたでないとダメなのですわ」

 桃華はにっこりと微笑むと珠美の右手を両の手のひらで握りしめる。
 小さくも温かい桃華の手のぬくもり。
 珠美の正義、珠美の勇気、そして珠美の弱さも認めた上で桃華は弱きものを護る騎士になって欲しいと願う。
 剣士にとって最高の誉れ。ここまで信頼を寄せられて断る理由など珠美にはなかった。

353真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:05:43 ID:3rHQBGsk0

「わかりましたーーこの脇山珠美、全身全霊をもってこの命にかえてでもあなたを護るナイトになりますっ!」

決意を秘めた眼差しと共に桃華の手を握り返す珠美。しかし、桃華は少し不服そうな表情で言った。

「命にかえて、はダメですわ。自己を顧みない者が誰かを護るなんてできっこありませんもの。決して自分の命を粗末にしてはいけなくてよ」
「ご、ごめんなさい……うー、やっぱり珠美は未熟者です……」

 この少女には敵わないな。と珠美は思った。
 似たような年なのに彼女はこうも強く凛々しい。きっと誰もが彼女に惹かれて傅くだろう。

「この不肖脇山珠美! あなたを護る剣と盾になりますっ!」
「ふふっ……ならば騎士としての誓いの口づけをお願いしますわ」
「えっ……えぇぇぇーーーっ!?」

 予想外の桃華の言葉に耳まで真っ赤に染める珠美。

「何か問題があって?」
「だだだだだって、珠美は女の子で桃華さんも女の子ですよっ! 女の子同士でキスなんてきゃぅぅ……」
「……あなた何を勘違いしてるんですの」
「はいぃ?」
「中世の騎士が王女の手の甲に口づけをするようにですわ……そ、そのわたくしだって同性同士でキ、キスなんてする趣味なんてもってませんことよっ」
「えっあっ、そ、そうですねっ。珠美ったら何を勘違いしてるんだろあははは……」

 恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻く珠美。
 忠義を示す騎士と王女のキス。
 以前見た映画の主役とヒロインを思い出す。
 いつかあのような舞台に立ってみたいと思った憧れのシーン。

 桃華はほんのりと顔を染めて右手の甲を差し出した。
 二人の視線が交差する。珠美は静かに首を縦に振る。

(プロデューサー……珠美はこの島で生きる意味を見つけました。今だけはアイドルではなく弱き者を護る騎士となります――!)

 跪き、桃華の手をそっと取りその手の甲に口づけを交わす。
 小さな騎士は今、太陽の姫君に神聖なる誓いを立てたのだった。


「これで――あなたはわたくしだけの……いえ、この島で迷い苦しむ全ての者を護る騎士ですわ――」
「はい――!」

354真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:06:55 ID:3rHQBGsk0
 



 ◆




「さてと……これからどうしませんこと?」
「うーん……」

 誓いを交わした二人。
 まずは殺し合いには絶対に乗らない。これだけは全てに優先されることであろう。
 そして共に力を合わせられる者を、そして己が歩む道に迷った者と合流する。
 これらが当面の目標とした桃華だったが、具体的に何をするかまでは考えてはいなかった。

「ま、悩むより歩めですわ。珠美さん、いきますわよ」
「はいっ!」

 新たなる一歩を踏み出す桃華。しかし足元に走った痛みで思わずふらついてしまう。

「――っ!」
「桃華さん!」

 とっさに倒れそうになった桃華を抱き止める珠美。
 
「申し訳ございません……先ほどの一件でちょっと足をくじいてしまったようですの」
「だ、大丈夫!?」
「ご心配いりませんわ。少し痛むだけですから」
「桃華さん。ちょっと見せてください」
「だ、大丈夫ですわ……」
「捻挫を甘くみたらダメですっ! 最悪骨折よりタチが悪くなるんだから」

 剣道というスポーツに熟知しているからこそ、小さな怪我も見逃せない。
 素人判断の結果が選手生命を絶たれてしまうことも十分あり得るのだ。

「はぁ……しょうがありませんわねえ」

 真剣な珠美の視線に桃華は地面に腰を下ろし、靴下を脱いで珠美に右足を見せる。
 くるぶしあたりが熱を持ち、赤く腫れていた。
 珠美は桃華を痛がらせないようにそっと足首に触れる。
 桃華は少し顔をしかめ身をよじらせる。

「どう……ですの?」
「たぶん少し捻っただけかな。きちんと冷やしてテーピングしておけば大丈夫」

 だがここは林の中。家や道場に常備してある応急処置のための救急箱なんてあるはずもなく。
 当然のごとく二人の荷物の中にも桃華の捻挫を治療できそうなものはなかった。
 もしあるとすれば――林を北東に抜けた市街地のドラッグストア。
 珠美はスマートフォン状の端末の地図アプリにそれが表示されていたことを思い出していた。

355真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:08:03 ID:3rHQBGsk0
 
「桃華さんっ、ちょっとごめんなさい!」
「えっ――? きゃっ!?」

 小さな悲鳴を上げた桃華の身体が宙に浮く。
 否、珠美に抱え上げられたのだ。しかもいわゆるお姫様抱っこの姿勢で。

「ちょっ、何を――」
「林を抜けた先の街に薬局があるんですっ、そこなら桃華さんの足を治せますから!」
「そ、それならわざわざこんなことしなくてもっ」
「桃華さんはそんな足でこんなまっくらな林を歩けるんですか?」
「う……それは……」
「でしょ、それに珠美は鍛えていますからっ。これも鍛錬のひとつです!」

 自分と同じ体格の桃華を軽々と抱え上げる珠美。
 どうやら鍛えているのは伊達ではないようだ。

「しょ、しょうがありませんね……目的地までしっかりエスコートお願いしますわ。ナイト様」
「おまかせあれー」
 


 ◆




 桃華を抱え上げた珠美は月明かりにうっすらと浮かび上がる林を駆け抜ける。
 人ひとりを抱えているのにも関わらず息切れ一つしないで木々の間を縫って駆ける。
 それはまるで野生のカモシカのような足取りだった。

 やがて一面漆黒の緑に覆われていた視界が開け、灰色の世界が飛び込んでゆく。
 人っ子ひとりいない灰色の街並みは緑に覆われた林と違い、無機質でより一層この島に蔓延る死の空気に満ちているようだった。

「桃華さん、方向はこちらであってる?」
「ええ、このまままっすぐ行って大通りを右に曲がれば目的地ですわ」

 お姫様抱っこ状態の桃華は支給された端末の地図アプリを眺めながら珠美のナビを勤めている。
 この端末は自分の現在位置もきちんと表示してくれる便利な物だった。

(他の参加者の位置も表示してくれるともっといいのですけど……)

 ぼやいても詮無きこと。
 しかし自分の位置を把握できるということは自然と人が集まりそうな場所に参加者が集まりだすということ。
 もちろんそれが共に協力し合える者だけではないということも承知しているのだが――

「とーちゃーく。降ろしますよよー」

 ようやく目的地のドラッグストアにたどり着いた珠美と桃華。
 無人の街に門を構えるそれは照明が落ちていることを除いては普段街中で見るものとなんら変わりはなかった。

「よっと……歩けますか?」
「そんな大げさな……歩くことぐらいはじめからできますわ」

 足に負担をかけないようにそっと桃華を地面に降ろす。
 彼女の足首はまだ熱を帯びて腫れてはいるが悪化してる様子はない。
 適切な処置を施せばなんら問題はないだろう。

356真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:09:34 ID:3rHQBGsk0
 
「それじゃあちょっと待っててくださいねー」

 笑顔で手を振って店内に駆けてゆく珠美。
 その背中を見送った桃華はアスファルトの地面に腰を下ろす。
 地べたに直接座るのは少し気が引けたが、そもそも一度土の上で大きく転んで服は泥だらけ。今さら気にするべくもない。

「やれやれ……ほんと騒がしいナイト様だこと……」

 夜空に煌々と輝く月と星を見上げてくすりと笑みを漏らす桃華。
 これまでのたった数時間の出来事がまるで何日の出来事のよう。
 そんな中でようやく訪れた安堵のひととき。
 昂ぶった精神が落ち着きを取り戻しつつあると同時に、戻れない日常の光景がふつふつと浮かび上がってくる。

 両親の温かい笑顔。
 仲の良い学校の友人との会話。
 そしてアイドルとしてレッスンや仕事に励む日々。

 それらがもう戻ってこないと考えてしまうと涙がぽろぽろこぼれてくる。

「ぐす……あれ……どうしてわたくし……泣いて……まだ泣いたらいけないのに……」

 この狂気に満ちた世界に抗おうと気丈に振る舞っていたしてもまだ12歳の子ども。
 両親に甘えたい年頃の娘にはあまりにも過酷すぎる世界だった。

「助けて……お父様……お母様……ぐすっ……プロデューサー」

 一度揺らいだ感情は堰を切ったかのように溢れ、涙と嗚咽の声が止まらない。顔を両手で覆いむせび泣く桃華
 恐怖と哀しみで震える身体。しかし――そんな彼女の背中を温かい感触が包み込む。

「――大丈夫だよ。桃華さん……あなたは珠美が護るから」
「た……まみ……さん」
「だって珠美は桃華さんのナイト様、そうでしょ?」

 はっと首だけを動かした先には戻ってきた珠美の優しい笑顔。
 桃華を怖がらせまいとそっと背中を抱きしめる珠美はまるで母親のようで。
 その温もりは凍てつきそうに桃華の心を溶かしてゆく



「はい……これからもよろしくお願いしますわ。素敵な騎士様――……」


 
 珠美と一緒ならまだ頑張れる。
 くじけるのはまだ早いと涙をぬぐって自分に言い聞かせる桃華だった。

357真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:10:27 ID:3rHQBGsk0
 



 ◆




「これでよしっと。桃華さん足はどう?」

 桃華の足首に湿布を貼り、その上からテーピングを施して包帯を巻く。
 簡易な応急処置ではあるが現状もっとも効果的な治療である。

「……おどろきましたわ。全然痛くないですの」

 治療を行うまでは足首に体重がかかる度に走っていた痛みもほとんど感じない。
 患部に巻いた伸縮性のテープがしっかりと関節を固定しているため、余分な力が伝わらなくなった結果である。
 その反面足首の可動域は狭くなったものの、普通に歩くことに関しては痛みが気にならないほどである。

「ふふっ、これで櫻井桃華完全復活ですわっ」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねてみるがさすがにそれは関節に負担をかける行為。
 電撃のように走る足首の痛みに思わず涙を浮かべてしまう。

「だ、だめだよ! まだ飛んだり走ったりしたら……」
「ううっ……申し訳ありません……でも……珠美さんはすごいですの……わたくしと同じ小学生なのに剣道を嗜みこんな医療の心得もあるだなんて」
「えっと……珠美、高校生なんですけど」
「えっ?」
「えっ?」

 素っ頓狂な声をあげる桃華。
 それに釣られて珠美もまた変な声を出してしまう。
 おかしい、なにか大切なことを勘違いしている。
 非常に重大な認識のズレを二人は感じていたようである。

「も、もうしわけございませんっ! ま、まさかわたくしよりずっと年上だなんて……!」
「いいもん……高校生に見られないのはなれてるもん……」

 がっくりと肩を落とす珠美。
 小学生と勘違いされたことよりも、ずっと年下の桃華のほうが大人びていてしっかりとしていることのほうがショックだった。

「ほ、ほら珠美さんだってまだ成長期ですわっ。毎日牛乳飲んでればきっと大きく――」
「うー……それフォローになってないですよぉ……」

 ひとときの和やかな空間。
 まるで仲の良い友達か姉妹のような桃華と珠美。
 そんなムードに気が抜けていたところがあったのかもしれない。

358真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:11:57 ID:3rHQBGsk0














 からん。









 




  



 
 だから、足元に響いた金属音が何なのか気づくのに遅れてしまった。










(え――……?)

359真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:13:19 ID:3rHQBGsk0
 



 
 


 
 ほんの少しだけ桃華が先にその変な音に気がついた。
 肩を落としている珠美はそれに気がついている様子はまだない。

 黒く塗られた金属の缶。
 少し小ぶりなスプレー缶のようにも見える物体。
 桃華は少し前に事務所に置いてあった小道具にそれと似たようなものがあったことを思い出していた。

(まさか――――っ)

 それが足元に転がって何秒たった?
 一秒?
 二秒?
 三秒?

 桃華の頭の中にあったのは少しでもそれを珠美から遠ざけようと。
 自分を護ると騎士の誓いを立ててくれた珠美を救いたいと。

(動け動け動け動け動けぇぇぇぇぇわたくしの身体ぁぁぁぁ! でないと珠美さんが――っ!)

 極限まで研ぎ澄まされた思考に身体がまったくついてこれない。
 周囲の景色も、自分の動きもスローモーションになった世界で桃華は足元に転がるそれを拾い上げる。

 もう、どこかに投げる余裕も残されていない。
 桃華に出来たことはたったひとつ。それの威力が珠美に届かなそうな場所に運ぶことだけ。

(う、ご、けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーッ!)

 捻挫した足首が激痛が走る。
 まるで足が千切れてしまったのかと錯覚させるほど。
 目的地はたった数メートル先のドラッグストア。
 ただ無我夢中で。
 素敵な小さなナイトを死なせたくない一心で。
 ぽっかりと口を開けた店舗の暗闇の中に転がり込んだ。




 そして――夜の闇を白く照らす閃光が桃華の全身を灼く。
 その光と炎はまるで真夜中の太陽のようだった。

360真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:14:37 ID:3rHQBGsk0






 ◆





「え、あ……? も、も……かさん……?」

 突然桃華が足元に転がっていた『何か』を拾ってドラッグストアの中に駆け込んで行った瞬間。
 建物の入り口から凄まじい光があふれ炎が吹き上がった。
 赤ではなく黄色い炎を噴き上げ炎上するドラッグストア。
 地獄の炎が建物全体を舐め尽くす。

 あまりにも突然の出来事は珠美の脳は完全にフリーズしてしまっていた。

 なんでここに桃華はいなくて。
 どうしてドラッグストアは激しく燃えていて
 じゃあ桃華はいったいどこにいったのだろう。

 ややあって、轟々と燃え盛る建物入り口にゆらめく黒い影。
 炎を纏った人のようなもの。
 襤褸布を巻き付けたマネキンようなものがぎこちないロボットのような足取りで近づいてくる。
 そこには目も口も鼻も髪もなくて代わりにガラスの破片の様なモノを全身にびっしりと生やして珠美の下へ。

 想像を絶する人でない何かがゆっくりと焼け焦げた枝のようなものを珠美へ伸ばす。

「い、や……こないで……こないでぇばけものっ! ばけものぉぉぉぉぉっ!」

 あらん限りの声をあげて珠美は叫ぶ。
 ぴくりとそのばけものが伸ばした枝が止まる。
 目も口も鼻もないのにばけものは少しだけ哀しそうな表情を見せたような気がしてその場に崩れ落ちた。
 黄色い炎はいまもなお倒れたばけものを焼き続けている。もうぴくりとも動かないばけもの。

「いやあぁぁぁ……助けて……助けてよプロデューサー……桃華さぁん……――あ」

 気づかなければよかった。
 気づかなければまだ珠美の心はかろうじて平衡を保っていたのかもしれない。
 今ここに桃華はいない。じゃあ桃華はどこに行った?
 そう、ドラッグストアの中に行ったはずだ。
 だったらそこから出てきたものは――桃華以外にありえない。

361真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:15:44 ID:3rHQBGsk0
 
「あ、あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!」

 喉の奥から絞り出すような珠美の慟哭。
 桃華は珠美を助けたいただ一心で放り投げられたものを持って建物の中に駆け込んだのだ。
 そして爆発。しかし桃華はその瞬間即死ではなかった。
 全身を炎に灼かれ、鋭い破片を浴びてもなお生きていて最後の力を振り絞って珠美の無事を確認したかったのだ。
 その桃華に対して珠美は何と言った?

 ――ばけものと。

「あは……はは……あはははは……」

 力なく嗤う珠美。
 何がナイトだ。
 何が誓いだ。
 何が弱き者を護るだ
 自分は桃華の最期の想いを無惨に踏みにじったのだ。
 なんのために自分は今まで剣を振るってきたのか。

 ――信じた道の結末はあまりにむごく、みじめなものだった。



「あはは……はは……は」



 からんと再び音がした。
 黒いスプレー缶が転がる。
 ああ、これはさっき桃華が持って行ったものだ。
 その桃華は目の前で黒い塊となって今もなお燃えている。

 誰もそれをどこに持ってゆく者はいない。
 閃光と炎が炸裂する。

 これは罰なのだ。
 王女の想いを踏みにじった裏切りの騎士への――


(やっぱり――珠美はナイトにはなれませんでした)


 二つ目の太陽は白い炎を噴き上げて珠美の何もかもを飲み込んでいった。

362真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:17:06 ID:3rHQBGsk0
 




 ◆





「……ちひろさんはなんてものを私たちに持たせるのよ」

 すべてが終わった後で、五十嵐響子はぽつりとつぶやいた。
 千川ちひろ謹製手榴弾『ストロベリー・ボム』それは通常の破裂し爆風と破片をまき散らすものではなく、
 起爆の瞬間凄まじい高温の熱量を発生させる焼夷手榴弾タイプであった。
 化学反応によって発生する炎は生半可な水では決して消すことのできない炎。
 対象を燃やし尽くすまでその炎は消えることがない。

 現にドラッグストアは今もなお炎上し続けている。
 そしてその傍らに転がるふたつの黒い塊。
 髪の毛を燃やした臭いを何倍にも強めたような異臭が漂っている。

「うぐ……」

 その臭いとストロベリー・ボムの犠牲者の惨状に思わず口元を覆う。
 死体は完全に焼け焦げておりもはや元の顔はおろか性別すらも判別できないほど炭化しきっていた。
 ここまで燃やし尽くさないとこの手榴弾の炎は消えることがないということだった。

 始めて人を殺した――
 しかし響子は罪悪感よりもどこかやり遂げた達成感のほうが強かった。

「そっか……これって告白といっしょなんだ」

 大好きな人に想いを告げる。
 その過程で結果を予想して悶々とする少女の想い。
 もし断られたらどうしよう? 受け入れられてもらったらどうしよう?
 顔を真っ赤にして枕に顔を埋めた時の気持ちと一緒。
 そして想いを告げたい人を呼び出した時の感覚はきっと手榴弾のピンを抜いた時と同じ。



 呼び出してしまえば/ピンを抜いてしまえば。
 もう後戻りはもうできない。後は突っ走るだけ。



「だったら――もっと早くプロデューサーに告白しておけばよかったな」

 抜け駆けとだと他の四人から後ろ指指されようとも自分の想いに素直になっておけばこんなことになることもなかったかもしれない。
 が、そんなことを考えても全てが遅い。

「戦わなければ、生き残れない……か」

 もはや響子は自分自身がシンデレラ・ロワイヤルの主役になるしか道が残されていない。
 そして――今まで一緒にシンデレラを目指していた四人はこの瞬間、互いを蹴落とす宿敵となるのだ。

 たったひとつの椅子取りゲームの勝利者となるために――

363真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:18:03 ID:3rHQBGsk0
 




【櫻井桃華 死亡】
【脇山珠美 死亡】


【C-7 ドラッグストア前/一日目 深夜】
【五十嵐響子】
【装備:ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×9】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。




※ドラッグストアは炎上中です
※ストロベリー・ボムは焼夷弾タイプの手榴弾です
※桃華と珠美の荷物は焼失しました

364 ◆BL5cVXUqNc:2012/11/11(日) 08:19:27 ID:3rHQBGsk0
投下終了しました。
あとストロベリー・ボムの個数については11個とさせていただきました

365 ◆44Kea75srM:2012/11/11(日) 09:59:14 ID:o/4iwzXg0
>眠る少女に、目醒めの夢を。
肇ちゃん愛というかなんというか、バトルロワイアルという境遇に置かれた一個人として非常に丁寧に描写されている
セリフのひとつひとつや表現のひとつひとつに彼女の陶芸家としてのキャラクターが出ていて、ただひたすらにすごいと思いました

>蜘蛛の糸
蜘蛛の糸というか、蜘蛛の意図と言うべきか……里美ちゃんそれ安心しちゃだめだーw この子本当についてねーw
しかも新田さん本性を隠したまま里美ちゃんを盾にできるような状態で拡声器向かうとか、山頂はどうなってしまうのか……w

>彼女たちに忍び寄るサードフォース
殺し合いに望む決意をした唯ちゃんが即効で死んだwww ジョーカーの中でも上には上がいたwwwww
いやー、書き手目線で感想言うとこれは非常に愉快なリレーですね。たまんないわ。ゾクゾク。

>捧げたいKindness
ピンでのアイドル登場話は本当にキャラの芯に迫ってる感じが出てていいなあ。やはりこの人を語る上で妹エピソードは外せない。
それだけに現在の境遇が涙を誘う……できることを模索中のネネさん、出会う人によってどの方向にも転びそう……。

>真夜中の太陽
「からん」の瞬間キタ――!と震え上がった。なんという上げて落とす。予約の面子と序盤のあまりにも平和なやり取りで、うん……。
しかしながらこれ本当に容赦がないなー。あまりにも容赦がなくて清々しさすら感じてしまう。そして急転直下が気持ちいい。うん。


皆様投下乙でした!
わたしは高垣楓、佐久間まゆで予約します。



■予約中のアイドル達

◆yX/9K6uV4E 矢口美羽、道明寺歌鈴
◆MmI69YO1U6 及川雫、前川みく
◆j1Wv59wPk2 神谷奈緒、若林智香、北条加蓮
◆John.ZZqWo 安部菜々、南条光
◆yOownq0BQs 緒方智絵里、松永涼
◆RyMpI.naO6 ナターリア、赤城みりあ
◆44Kea75srM 高垣楓、佐久間まゆ

366 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/11(日) 10:29:15 ID:jtpBkcE6O
皆様投下乙です!

>蜘蛛の糸
こわい!新田ちゃんこわい!
何も知らず山頂に向かうさとみんのノーフューチャー感と来たら……

>彼女たちに忍び寄るサードフォース
これはひどいwww
まさかジョーカーを上回る真ジョーカーが出るとは……予想外すぎてもうw

>捧げたいKindness
針の振り切れてるキャラが多いせいか、ネネさんのニュートラルさが逆に新鮮。
どっちに転んでも葛藤がありそうで、続きが楽しみだなー

>真夜中の太陽
おに! あくま! えーんあんまりだ><
まさかあのほのぼのからここまで容赦ない展開になるとは……脱帽です!

自分は岡崎泰葉と白坂小梅で予約しますー

367 ◆JxZtJW5LII:2012/11/11(日) 11:09:07 ID:wMRvVASw0
皆様投下乙です!

>彼女たちに忍び寄るサードフォース
まさかのジョーカー六人目!ちひろさん鬼畜すぎですw
そして有望株がさっそく落ちるとは…

>捧げたいkindness
ネネさんはやっぱり天使だった
一体どっちに転ぶんだろう…

>真夜中の太陽
おに!あくま!ちひろ!
ついにロワイアルの本領発揮か…
こんな理不尽さは流石、としかいいようがない

あとすいませんが木村夏樹追加予約します

368 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 11:40:28 ID:bpBEXF/M0

申し訳ありません
パソコンの調子が悪いため、もう少し安定するのを待って投下したいと思います

369 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/11(日) 12:07:36 ID:unsYtxVY0
>>367
あれ、トリップ入力間違えてる…
申し訳ありません、改めて木村夏樹追加予約です

370 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:12:05 ID:rUsvWPng0
遅れてしまい申し訳ありませんでした
予約分これより投下しますねー

371 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:12:42 ID:rUsvWPng0

人が、死んだ。

こうやって口に出してしまえば、不思議と空気に溶けてしまう。
ただの言葉な筈のそれは、空へ溶けてしまってもずっと、心を縛り付けるくらい、重たい。
想像してしまうだけで、ずぶずぶと暗い何かに意識が沈んでしまうようで。
背後から迫ってくるような恐怖感をふるりと体を揺すって考えないようにする。

本当の本当に当たり前のお話で、今更言うようなことじゃないけれど。

命は尊くて、大切なモノだ。
何にも変えられない、大切なモノ。
失うなんて出来ない、大切なモノ。

アイドルとか、プロデューサーとか、そんな立場なんて関係なく。
お金持ちも、貧乏な人も、そんな付加価値なんて関係ない。
誰もみんな命が大切で――死んでしまうのは、怖い。

死ぬ、ということは命が消えてしまうということ。
命が消えてしまったら、もう何も、ない。
死んでしまったら、命が失われてしまったら、全部が終わり。

誰かと喜んで、笑顔になることも出来ない。
誰かに怒って、喧嘩をすることも出来ない。
誰かを哀しんで、涙を流すことも出来ない。
誰かで楽しんで、怒られることも出来ない。

死んでしまったら全部全部、おしまい。

思い出や、絆、或いは血縁関係や、そんなものを超えた感情。
後に残されるであろう誰かには、そんな、自分が生きていた証が刻まれるのかもしれない。

でも、死んでしまった人には何も残らない。
これまで誰かと共に創り上げた笑顔も。
これから誰かと共に上っていく舞台も。
過去と未来が別け隔てなく、失われてしまう。

だから、死ぬのは、怖い。
無くなってしまうのは、怖い。
無かったことになってしまうのは、怖い。

言葉にしなくても、心の底ではそんな当たり前が存在していて。
他の皆にも、当たり前が確かにあるんだって思っていて。

『……う……そ……なんで……なんで……死ななきゃならないのよぉ!?!?』

けれど、その命は呆気無く、いとも簡単に、容易く失われてしまった。
お腹が空いたからご飯を食べるくらいの気軽さで、人が、死んだ。
目の前で、当たり前は当たり前じゃなくなった。

――認めたくなんて、ない。

それを認めてしまったら、
それが当たり前になってしまったら、

そしたら、きっと――――

372 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:14:41 ID:rUsvWPng0



星一つない真っ暗な夜空も、星々の光に照らされてきらきらと輝くように。
完全に消灯されて明かり一つない漆黒の空間を、小さな円形の光がぴょこぴょこと跳ね回る。

「にゃーん♪にゃにゃにゃにゃーん♪」

光源である懐中電灯の持ち主は、自身の置かれた状況にはとてもそぐわないような。
およそ場違いと言っても過言ではない軽い声音で、呑気に鼻歌を辺りに響かせる。
殺し合いを強制された『イベント』とは思えない、軽やかな声音。

「あっかり、あっかり、あかりチャンはどっこに隠れてるのかにゃー☆」

自らの目の前ですら把握することが困難な、重苦しい暗闇。
その中をぱたぱたと、せわしなく歩き回る足音と同時に聞こえる彼女の声だけが、しんとした静寂を破る。
どうやら電灯のスイッチを探しているらしい、警戒なんて言葉は欠片も感じることが出来ない物音。
わたわたと紡がれるそれは、時折何かがぶつかる音と重なりつつもやがて乾いた音と共に静まることになる。

「あ、いたたた……やぁっと発見にゃ!」

同時。
天井に設置された電球に淡い光が灯り、空間が眩く照らされ暖かな光に包まれる。
漸く周りを視認することが出来るようになった彼女――前川みくは、にゃうぅ、と目尻に大粒の雫を浮かべて恨めしそうな視線をどこへやら送っていた。

「どうせなら、電気も点けといてくれたら良かったのににゃあ」

四苦八苦している時にでもぶつけたに違いない、恐らくたんこぶが出来ているであろう頭を片手で撫でつつ、ポツリ。
ジトリと、しかし深刻さを余り感じさせないそれをこれ以上重ねることはない。
すぐに気を取り直したような、いつも通りの無邪気な笑顔を浮かべて明瞭になった視界を確認する。

暗闇の中周りが見えないというのは、想像以上にストレスが溜まるものである。
何かにぶつかったり、うっかり物を落としてしまったり、或いは言いようのない恐怖を感じたり。
そんな様々な不安を掻き立てる何かが心の奥底に潜んでいたからだろうか。
いくつも並ぶ電灯のスイッチを発見した彼女は、特に意識することもなくスイッチを全てオンにしていた。
故に、一般的にフロントと呼ばれる位置に立っていた彼女は電灯に照らされる周囲の状況を用意に把握し、明かりを求めてなんとはなく飛び越えて進入した其処を、今度は正式な出入り口から脱出する。

若しかしたらスカートの中が見えてNG?

などと、腕を組んでうにゃうにゃ思案しながらも、背負っていた鞄をぎゅっと背負いなおして暗闇に阻まれた目的地であるエレベーターへと歩き出す。


「よーし、いっくにゃー!!」


咆哮一閃。
彼女の物語はここから始まる。

373 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:15:34 ID:rUsvWPng0



目を覚ました時、最初に感じたのは強い、強い、恐怖。
妙に重たい瞼も、身体を襲う倦怠感も、不思議と気にはならなかった。

心の中心にあるのはたった一つ。

「なんで、なんで、なんで、にゃあ……」

かたかた、と理由もわからず小柄な身体が震えている。
――否、理由を理解しているから、震えは止まらない。
意識が途切れる寸前まで彼女の視界を占めていた光景。
無論、今は瞳に映る筈もないソレが、瞼を閉じると鮮明に浮かび上がる。

鈍いあかいろ。
錆びたにおい。
訪れたおわり。

考えると同時に喉下まで昇ってくる不快感を、必死に堪えて唾液を飲み込んだ。
ぽたぽたと、両の瞳からは涙が流れ落ち視界がぼやける。
飲み込んでも飲み込んでも、押さえた口から嗚咽が零れる。

じわり、じわり。
お気に入りの衣装の胸元が滲む。

無理だ、と。
心の中で何かが悲鳴をあげている。
無理だ、と。
心の外で何かが悲鳴を上げている。

なのに、そんな意志に反して身体はむくりと起き上がり、両足で地面を踏ん張り立ち上がる。
ちひろさんは言っていた――これは殺し合うイベントだと。

無意識に首元へと手が伸びていた。

触れるとひんやり冷たい首輪は、文字通りの意味を与えていて。
逆らったら死んでしまうと、言葉なく伝えてきていて。
だとしたら、こんな所で寝転んで泣きじゃくっている自分も若しかしたらあの人みたいに――

そこが、限界だった。

「う、え、ぇ……! えほっ、えほっ……ッ、ひっ、ぐ……ふ、う」

すっぱい液体がとめどなく地面に零れ落ちた。
でも、そんなことを気にしている余裕なんてあるわけがない。

怖くて、怖くて、怖くて、怖くて、怖くて、怖いから、怖かった。

他のことなんてなにも考えられない。
たった一つの感情だけが全部を支配して、他のものは壊れてしまう。
恐怖に震えて、涙を流すことしか出来ない。

そう、思っていたのに。
意識も、身体も、止まってはくれない。

いつの間にか背負っていた鞄の紐を、落とさないようにしっかり握り締める。
寝転んでいた道は舗装されていて、周りからは丸見え。
せめて誰にも見付からない所へ行こうと、ゆっくり歩き出した。

忍び足のつもりの足取りには震えが幾分も混ざり、押さえようもなく地面を踏みしめる音が聞こえる。
静寂に包まれ、月の光が辺り照らす光景は何処か幻想的だと場違いなことを思うけれど。
いまはその静寂が、どうしようもなく嫌だった。
一歩踏み出す度、鼓膜を震わす音に、心臓はばくばくと脈打っている。
口から漏れる吐息は不規則で、上手く呼吸ができているのかわからない。
握った拳がじんわりと汗ばんで、きもちわるい。
涙と、汗と、体液で全身はぐしょぐしょだ。

けれど、そんな状態でも歩き続けていれば、なんとか人気のない路地裏へと辿り着くことが出来た。
誰にも見付からなかったことに対する安堵と、いつまでも終わらない恐怖に対する不安。
膨大な感情に靄がかかる思考は、何も考えたくないという意思とは裏腹に目まぐるしく脳裏を駆け巡る。

374 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:16:18 ID:rUsvWPng0

プロデューサーが死ぬのは、絶対嫌だ。
それなら言われるがままに、誰かを殺すのか。
それとも殺されないように、何処かへ隠れるのか。
どうすれば皆と離れずに、また一緒に帰ることが出来るか。
家に帰ることが出来たとしても、またトップアイドルを目指せるのか。

形にならない乱雑な思考は次々湧き上がる、が。

――このまま死んでしまうのは、嫌だ。

結局、彼女の答えは一つ。


「死にたく、ないにゃあ……」

死んでしまったら、大好きなプロデューサーといられなくなる。
死んでしまったら、彼の傍を誰かに獲られてしまうかもしれない。
死んでしまったら、一緒に頑張ってきた日々がなかったことになるかもしれない。
死んでしまったら、二人で描いてきた夢は別の誰かと叶える夢にすり替わるかもしれない。
死んでしまったら、心から忘れ去られてしまうかもしれない。


そんなのは、絶対に、嫌だ、


でも、だからといって他の誰かを殺すなんて、出来ない。
このイベントに集められたのは、皆アイドルである仲間だ。
頂点を目指して頑張る仲間を、ライバルを殺すなんて出来るワケがない。

この手は、誰かの笑顔を作るもので。
この目は、誰かの笑顔を見るもので。
この身は、誰かの笑顔を守るもので。

誰かの笑顔を壊す為にあるんじゃないから。

でも、殺さなければ殺されてしまう。
死ぬのも殺すのも、怖い。
だったら、どうすれば、

と。
そこまで考えたところでふと、今更のように自身が背負った鞄の存在を思い出す。

ずるりと肩から滑り落ちる紐を、勢いに任せて下へと引っ張る。
さして抵抗もなく地面に落ちたソレを、縋るような手つきで検分していく。
何を求めているのか理解しないまま、一心不乱に。

そうして暫く、懐中電灯や名簿といった品々を指先で掴み取るのだが、その次に触れた物が中々取り出せない。
震えた指先では上手く掴むことが出来ず、それに苛立って強引に引っ張り出そうとしても引っかかって顔を出さない。
プラスチックのような、チャチな材質の何かをカリカリと爪先で引っ掻いている状況にやがて痺れを切らすと、鞄をさかさまにして上下に振りたくる。
一瞬遅れて聞こえる、荷物がばら撒かれる音。

そして、漸く何かの正体が瞳に映る。

苦労して取り出した、何か。
蛍光色で塗られており、薄暗い路地裏でも容易く目に入る何か。

ソレが何であるかを確認した瞬間、全身から力が抜けペタンとお尻から崩れ落ちる。

375 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:18:09 ID:rUsvWPng0

「はぁぁぁあ……プロデューサーチャンも冗談キッツいにゃあ
 ……ドッキリならドッキリって言ってくれなきゃ、困る、にゃ」

彼の名前は呼ばない、公私混同は駄目なことくらい理解している。
ごしごしと、充血して真っ赤になった目元を拭って涙を隠す。
近くにあった紙でちーん、と鼻をかんで小さく咳払い……そのまま投げ捨てるのはご愛嬌だ。
そして、改めて取り出したプラカードを確認する。

『ドッキリ大成功』

テレビでもよく見掛ける小道具を前にして、やっと彼女に小さな笑顔が戻る。

そう、よくよく考えてみれば可笑しい話だ。
誰かを集めて殺し合わせるイベントなんて、そんなの誰も認めるわけがない。
警察が、そんな大掛かりな事件を見過ごす筈がない。
それ以前に、自分達は『アイドル』なのだから、殺し合わせる理由なんてあるわけがない。

ちょっと考えれば、こんなにも当たり前なことだったのに。

簡単に騙されて、アイドルらしからぬ醜態を晒した自分が急速に恥ずかしくなってくる。
頬が熱くなるのを感じつつ、さり気なくを装って周りを見渡すが、どこにもカメラは見当たらなかった。
きっと、見付からないように此方の反応を窺っているのだろう。
だが、ドッキリの醍醐味ともいえる、リアクションを浮かべた表情を撮り逃す筈がない。
今度こそアイドルらしい自分を表現しなくてはと、満開の笑顔を咲かせようとするが、どうにも表情が強張って仕方がなかった。

「でも……なんで、みくにコレが……?」

ふと、脳裏を過ぎる疑問も、最早敵ではない。

きっと、ドッキリの種明かしをする立場――所謂仕掛け人に選ばれたのだ。
きっと、これまでの努力が実を結んで自分はその立場に選ばれたに違いない。

「うーん? あっちの方に、みくのセンサーがビンビンでギンギンなのにゃ☆」

そう、いつも通りに声を張った視線の先には、豪勢なホテルの一室が映っていた。
建物全体が消灯している中に一室だけポツンと明かりが灯る様子は、暗い恐怖の中で芽生えた一つの希望のようで。
ホテルを介して自らの希望を再度認識しながら、あそこにいる誰かにも希望を早く分けてあげようと即座に立ち上がる。

不安も、恐怖も、もう終わりだと何度も心の中で呟いて。
この震えは嬉しいからだと身体に言い聞かせて。

そして彼女は建物に灯る希望へと歩き始める。


「怖いのは、ぜーんぶおしまいっ! 後はみくチャンにまっかせっにゃさぁーい!!」


咆哮一閃。
彼女の物語はここから始まった。

376 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:22:37 ID:rUsvWPng0



大きく息を吸って、大きく息を吐く。
その度に胸がたゆんと上下に大きく揺れるが、彼女にとっては今更なことであり気にする素振りはない。
吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吸って、吸って、思い出したように吐いて。
いくら落ち着こうと意識してはみても、流石に恐怖は拭い去ることが出来ないのだろう。
深呼吸を何度も繰り返した結果、余計に心拍数は上昇し頭に血が上るのを自覚する。

「これからどうしましょうかー」

先程から奇妙な行為を至極真面目な表情で行っていた及川雫は小さく呟きを漏らすと、部屋に備え付けられたベッドに寝転んでぎしりと身体を沈める。
雫が目を覚ましてから既に一時間は経過しており、自分の置かれた状況は嫌という程理解させられていた。
理解はしていても、そう簡単に答えが出るような甘い状況に雫はいなかった。
勿論、雫の思考速度が些か以上に緩慢なのも原因の一端ではあるだろうが。

「誰かを殺すなんて、そんなの絶対駄目ですー」

何をどうするか答えは出なくともその一点だけは、雫の中の確固たる意志として答えが存在していた。
目の前で人が殺されて、死へ誘う首輪を嵌められ殺し合いを強制されて猶、その選択肢を選ぶことだけは絶対に、ない。

「私達はアイドルですからー、誰かを悲しませるようなことはしちゃ駄目なんですよねー?」

人を殺してはいけない。
そんなのは小学生でも理解している、当たり前の事実だ。
殺人を犯せば罪になり、罰を与えられる。
例えそれ抜きにしても、倫理観という感性が人間には備わっていて、忌避感が働く。
法であり倫理であり、あらゆる理屈を以って殺人は罪とされる。

とかなんとか。
そんな上辺だけの論理以上に、及川雫はアイドルだった。

彼女の中のアイドルとは、誰かに夢を与え、誰かを癒すことの出来る存在で。
自分自身がそう在れていると、断言出来るような自信と実績は未だないが。
それでもそう在ろうと、アイドルでい続けることは今の彼女にだって出来る。
きっと、雫が誰かを殺したと知ったら――さんの笑顔が曇ってしまう。
今まで応援して来てくれたファンの方々も、家族の皆も笑ってはくれない。
そうなってしまったら、もう、雫はアイドルでなくなってしまう。
誰かの笑顔を奪うアイドルなんて、アイドルである筈がない。

こんなことを考えていて、人質になった――さんが死ぬのは怖い。
誰かの命を、こんな所で終わらせてしまうのは怖い。
ゆっくりと、一歩ずつ歩いてきた道が途切れてしまうのは、怖い。
どれ程決意していても、その感情は常にじくじくと彼女の身体を蝕んでいく。

377 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:23:12 ID:rUsvWPng0

けれど。




こんな怖さ、とっくの昔に乗り越えてきていた。




目を瞑り、恐れに震える手できゅっとシーツを握り締めて、心に仕舞った大切な思い出を頭に浮かべる。

――さんと出逢ったあの日、アイドルにならないかと言われたあの日、確かに雫の胸には恐怖が在った。

男の人に可愛いと言われたのは初めてで、こんなにも胸がどきどきするのは初めてで、嬉しいのに震えてしまうのも初めてで、風邪でもないのに顔がぽかぽかするのも初めてで。
嬉しいと思う反面、その言葉を自分自身で汚してしまうのが怖かった。
自分の性格をわかっているからこそ、アイドルなんて無理なんじゃないかと弱音が零れた。
人前に出て、何かをするのは緊張して無理だと、彼の言葉を否定した。
期待を裏切るのが怖いと、諦めようとした。

そんな自分に“大丈夫”だと言ってくれたのは――さんだ。

大好きな牛さんのように、ゆっくりでも一歩ずつ前進していけば良いと。
自分は雫のそんな姿に癒されていて、きっとファンになるであろう皆を癒す存在になれると。
雫のソレは、コンプレックスでもマイナスでもないんだと。
皆恐怖を感じてる……でも、それを乗り越えられるのがアイドルだと。
諦めずに頑張れば、どんな夢だって叶えられる――それがアイドルなんだと。

語っても語り尽せない言葉の数々に励まされたから、雫は此処まで辿り着くことが出来た。
他人から見れば小さな一歩でも、雫にとっては大きな百歩だから。

アイドルになったあの日、雫の胸にあったのは夢に対する希望だ。

そんな、自分を助けてくれた全部を裏切るわけにはいかないから、この場所でもそれを貫こうと決意する。
雫がプロデューサーを通して、癒しを感じていたように。
今度は雫を通して、皆に癒しを与えられるようここで頑張るのだ。

「アイドルは、誰にも負けませんからー
 大丈夫、どんな夢だって叶えてみせますー」

大丈夫、は魔法の言葉。
いつの間にか震えの止まった手を、今度はぎゅっと力強く握り締める。
今は何をどうして良いかわからないけれど、諦めずに一歩ずつ歩いていけばきっと道は開ける。
一人じゃ駄目なら二人で、二人じゃ駄目なら三人で、三人で駄目なら皆で。
叶えられない夢はなく――不可能なことなんて何もない。
きっと皆が笑って、またトップアイドルを目指す生活に帰ることが出来る。
何の恐れも躊躇なくその意志を、その想いを、アイドルの皆を信じる。
及川雫というアイドルの生き方を、ここでも歩き続ける。

378 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:24:55 ID:rUsvWPng0

「まずは衣装から、ですー」

アイドルは衣装も大事、それも雫の心に刻まれた大切な教えだ。
何故だか――さんが顔を赤らめていたのは不思議だけれど、きっとその言葉には間違いない。

うんうん、と頷きながらゆっくりと起き上がって、ベッドの傍に置いてある鞄を開ける。
迷いない手つきで取り出されたのは、雫が良く着ていた衣装の一つ。
――さんがデザインしてくれたらしいオリジナルの衣装で、大好きな牛さんをイメージした可愛らしい衣装。
大好きと大好きが合わさって、もっともっと大好きになった、雫を象徴するような衣装。
これでもっと頑張れる、と満開の笑顔を咲かせると緩慢な速度で脱衣を始める。

衣擦れの音共に晒される肢体。
ゆっくりとしたペースであるが故に見るものの心を惹きつけて止まない絶妙な速度。
徐々に晒される少女の柔肌は、微かに日に焼けて健康的な色を醸し出し、思わず指先で触れたくなるような瑞々しい張りと潤いを、瞳に映すだけで理解させられる。
ほっそりとした鎖骨から胸元まで均等に魅力は配分され、童顔であることも合わさり年齢相応の幼さを存分に放ち少女の価値を引き立てている。
だが、その未成熟な果実が少しずつ成長していく様を見守るような微笑ましい感情は、視線がずれる度に少しずつ削り取られていく。

牛が好きだからか、はたまたこう在るから牛が好きなのか。

胸元で柔らかく揺れながらも、破壊的な凶器としか表現しようのない二つの果実は、圧倒的な質量と存在感を以って立ち塞がるあらゆるものを崩壊させんとしている。
熟した果実のように濃厚な旨みを保ちつつ、驚くなかれ未成熟な果実のように成長する余地すら残している。
未完成であるが故に完成しているそのアンバランスな破壊力を余すことなく引き継ぐのは、程よい肉付きながら決して下品にはなりえない臀部のまるみ。
低いものを用意するのではなく、高いものを超える高いものを用意することで産み出されるギャップは、天性の財であると言わざるを得ないだろう。

そんな、アイドルになる為に生まれたと言っても過言ではない肢体を惜しげもなく晒しながら雫は丁寧に脱衣した服を畳んでいく。
窮屈だと訴えるかの様に胸元のロゴはくたびれ、はちきれそうな身体を包んでいたシャツはもう汗に濡れていて気持ちが悪い。
下着まで濡れてしまっていて、出来るなら洗濯したい程だが、いくら雫とはいえそこまで愚かではない。
用意されている衣装には下着もちゃんと付いているのだと、プロデューサーの準備の良さを誰にでもなく胸を張って誇っていると、不意に足音が聞こえる。

その迷いない足取りはこの部屋の前で止まり、一瞬の間の後にドアノブが動く。
早速一人目に出逢えたんだと無邪気に喜ぶと同時、雫の意識から自らの格好は消えていた。

そして扉は開かれる。


「〜〜〜〜〜っ!!? ……!?!?」
「いらっしゃいませー! 及川雫ですー」
「――――――――――お」
「お?」
「おっぱいはいくらなんでも駄目にゃーーーー!!」


咆哮一閃。
彼女達の物語は、ここから始まる。



【A-3 ホテル内部/一日目 深夜】
【及川雫】
【装備:ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:何をしていいかわからないけど一歩ずつ前に進んで、アイドルとしてこんなイベントに負けない。

【前川みく】
【装備:『ドッキリ大成功』と書かれたプラカード】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ドッキリの仕掛け人として皆を驚かせる。

379 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 12:26:19 ID:rUsvWPng0
以上で投下終了ですー
タイトルは『彼女達の物語』で

380 ◆John.ZZqWo:2012/11/11(日) 13:22:01 ID:QOldPpGs0
各Pさん投下乙です。

>真夜中の太陽
私がいうのもなんだけど、小さい子から無残に死んでいく法則でもあるのかしら……w
まさか立て続けにとはストロベリーボムの恐ろしさを思い知りました。

>彼女達の物語
ある意味最強の支給品きたwwwww さすがみくにゃん、私たちの期待を裏切らない!w
この二人はそうとうにおもしろくなりそうな予感。今後が楽しみですw

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■予約中のアイドル達

◆yX/9K6uV4E 矢口美羽、道明寺歌鈴
◆j1Wv59wPk2 神谷奈緒、若林智香、北条加蓮、木村夏樹
◆John.ZZqWo 安部菜々、南条光
◆yOownq0BQs 緒方智絵里、松永涼
◆RyMpI.naO6 ナターリア、赤城みりあ
◆44Kea75srM 高垣楓、佐久間まゆ
◆n7eWlyBA4w 岡崎泰葉、白坂小梅

381 ◆MmI69YO1U6:2012/11/11(日) 13:33:07 ID:rUsvWPng0
>目に映るは、世界の滅亡
悲しいなあ…まさか、こんな方法で自殺を図ろうとするなんて…
でも、それくらい死とか殺人ってのは重いんだよね
なんていうか、こうなってしまうくらい彼女にとって日常が大切だったんだって伝わってくる

>悪夢かもしれないけど
小梅…助けて欲しかったからこそ、依存していたからこそ
それが叶わないかもしれないと理解したときの落差が強いんだよなぁ
希望から絶望に変わる瞬間がありありと想像できて泣けてきた

>アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ
ジョーカーが五人もww
プロデューサーとの出来事を自慢する彼女達はほんと恋する乙女で
だからこそソレを利用されるってのはなんか、悲しいやらむかつくやら

>ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
熱ゥい!!
絶望なんて吹き飛ばすようななんて熱い風が確かに吹き抜けていった気がする
ロックなアイドルとパワフルなアイドルがこれからどんな嵐を巻き起こすか本当に楽しみ!

>眠る少女に、目醒めの夢を。
肇ちゃんが凄い綺麗だ…
他人だけど、同じアイドルとして頑張る、一緒って言うのが凄いグッと来る…
同じ土から生まれた器って表現が似合ってるし素敵過ぎてヤばいのです

>蜘蛛の糸
美波ちゃんの最後の笑顔が凄い怖い…
この状況で、冷静に損得を判断して相手を篭絡してるのが凄いなぁ
里美ちゃんの恐怖が少しでも収まってよかった気持ちとこの先に起こるであろう更なる恐怖にgkbr

>彼女たちに忍び寄るサードフォース
ええええええええええええええええ!!?
ジョーカーを屠るジョーカーとか怖すぎるw
急転直下過ぎてもう何がなにやらなのに、面白いから困るのですw

>捧げたいKindness
自分に出来ることを探すってのがいいなあ……。
どれを選んでも何かを失う袋小路で、それでも足掻く姿は正にアイドルだと思う

>真夜中の太陽

え?……あ、え?
おかしいな…ほのぼのした騎士と姫のお話を読んでいた筈なのにどうしてこんな事に…?
う、うわああああああああああああああああん

っと最後に一つ
拙作の及川雫の状態票が少し間違っていたので訂正を

【及川雫】
【装備:なし)】
【所持品:基本支給品一式、牛さん衣装、不明支給品0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:何をしていいかわからないけど一歩ずつ前に進んで、アイドルとしてこんなイベントに負けない。
正しくはこうなります

382名無しさん:2012/11/11(日) 15:02:45 ID:DwGAOVvo0
皆さんとうかおつです!



>蜘蛛の糸
新田しゃん恐るべし
意外と今のところステルスとして働いている娘ってほぼいないんだよな
そんな中で冷静に現状見極めてやがる
里美ちゃんもなあ、形ある支えが欲しいのは分かるんだが
つくづく出会いに恵まれねえw


>彼女たちに忍び寄るサードフォース
タイトルそういうことかああ!
でも実際には第三勢力というかむしろ、本命の第一勢力だよ!
しっかし、ジョーカーをわざわざ鍛えあげて準備するとは
ちひろさん、鬼、悪魔ー!
唯もそんな悪魔の犠牲に…

>捧げたいKindness
おおう、なんかこの静まり返った世界での描写いいなー
このロワじゃ意外と自分をすべきことを決めていない人は珍しいんだけど
できることを探すと決めたってことではあるんだよね
彼女はどんな答えを見つけるんだろ、楽しみ

>真夜中の太陽
うん、正直タイトルから展開は予想できてたんだが
それでも、運命の瞬間までの明るさとほのぼのっぷりがこれでもかと描写されてたせいで、どっちかは助かるかもと思っちまったw
そんなことはなかったけどね!
桃華ちゃんがぼろぼろになってそれでも無事かと珠ちゃんに歩み寄ってきて拒否される一連の流れが特に心に来たなあ


>彼女達の物語
まじである意味最強だwww
やっぱえげつねえよ、ちひろさん!
これはみくにゃんだけでなく、他のアイドルへの影響も心配だなあ
雫のゆっくり歩いてなアイドルとしてのあり方とスタンスは好きなんだが、ううん、怖いw

383 ◆John.ZZqWo:2012/11/11(日) 17:06:12 ID:QOldPpGs0
予約状況を反映させた現在位置図です。参考にどうぞー。

ttp://www58.atwiki.jp/mbmr/?cmd=upload&act=open&page=%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81&file=m00.png

384名無しさん:2012/11/11(日) 18:53:56 ID:DwGAOVvo0
おおう、枠やら矢印やらあって分かりやすい!
これは予約執筆が更に加速しそう!
管理人さん、いつもありがとうございます!

385 ◆FGluHzUld2:2012/11/11(日) 20:49:31 ID:.npcoxwE0
皆様投下乙ですー。
早速ですが自分も神崎蘭子、輿水幸子、星輝子 の三名を予約します。

386 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:32:12 ID:5fTHS3C20
皆様投下乙です!
>>蜘蛛の糸
ああ、さとみんはそっちの方向に……
新田さんに拾われたといえ……本当蜘蛛の糸だなあ

>>彼女たちに忍び寄るサードフォース
唯にゃーーん!w
速攻で死んでしまった……w
かな子がジョーカーとは……ちひろさん怖いなぁw

>>捧げたいKindness
ネネさんマジ女神。
凄い綺麗な描写で心がかかれてて素敵。
彼女がどうなるか非常に楽しみ。

>>真夜中の太陽
ギャー!
上げて落とすの素敵なSS
恐ろしきストロベリーボム……w
うついなぁw

>>彼女達の物語
みくにゃんwwww
なんで、彼女は……w
いやぁ、ビックリした、これからどうなるか楽しみな二人です。

それでは此方も投下します

387さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:38:02 ID:5fTHS3C20





――――さあ、愚かしくも、哀しくも、美しいくも、愛おしい劇が、始まるよ





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







――――誰もが、みんな、輝ける訳じゃない。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

388さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:39:05 ID:5fTHS3C20








「知ってますか? 身の丈に合わないものを背負された時、どう思うかを」


それは殺しあいが始まって初めて会った少女の呼びかけ。
直接話したことは無いけれど、わたしはその少女のことを知っていた。
あの有名グループの一人だもの……知らない訳が無い。
フラワーズの一人――矢口美羽ちゃん。
今を時めくアイドルグループの一人だ。

「どうしよう、どうすればいい?って自分を見失うような感じになっちゃう」

そんな彼女の独白めいた言葉。
わたしは困惑しながら、受け取る。
何故、それをわたしに言うのか解からない。
行きずりのわたしなんかにと思って、その時ふと考え付いたのがあった。
誰かに、言いたいのかなって思う。

「とっても歌が上手な夕美ちゃん。ダンスが凄い友紀ちゃん」

その二人も勿論、知っている。
夕美ちゃんの歌声は、透き通る綺麗なもので。
友紀ちゃんのダンスは、見る人を元気にさせるものだった。

どれも、魅力的で、どれも輝いていたといえる。

「そして、自然と人を惹きつける藍子ちゃん。わたしと同じ普通の子に見えるのに」

高森藍子。
…………わたしの友人です。
ドジなわたしを助けてくれる優しい人。
一緒に、歩幅をあわしてくれる人。

何処にでも居そうな子なのに、あの子はリーダーとして輝いている。
凄いなって思います。


「その中で、わたしは輝いてるのかなって、思った時……そうじゃないと思ってしまう」

そんな輝いてる三人がいて、そこに居た少女。
今を時めくフラワーズの中で、居た彼女。
きっと、悩んで、苦しんで。


「フラワーズは今も輝いてるのに、ねえ、わたしは輝いていますか?」


それに、わたしはどう返事すればいいか、解からなかった。
答えなんて、ないのかも知れない。
だって、それは彼女が出さなきゃ意味が無い。


「ずっとどうすればいいか解からなかった。自分で自分の方向性を探して」


そして、わたしたちは


「この殺し合いに巻き込まれて、しまいました」



悩んでいる中、殺し合いに、巻き込まれてしまったのです。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

389さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:40:06 ID:5fTHS3C20







――――なんで、あの人に恋したんだろう









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「知ってますか? 恋って、勝手に心が想っちゃうんです」

私の問いかけが終わって、巫女服の少女が語りかけてきた。
藍子ちゃんから、聞いていた少女……道明寺歌鈴って子。
知ってたから、私は話しかけたんですけれど。

「好きになっちゃいけない……そう思ったのに。わたしは、好きになってしまった」

彼女が、語る独白。
それは、恋の話で。
でもそれは、甘くて優しいのではない。

「こんなドジなわたしにいつも優しくて、優しくて」

愛おしく語るのに。
何処か辛そうで。

「そんな人にわたしは恋して……でも、それは…………」


決意するように、彼女は言う。
誰にもいえなかった、告白で。



「大切な、親友の、想い人でした」



彼女は、苦しそうに言った。
ずっと悩んでいた事。

「こんな駄目なわたしをずっと傍で励ましあってた、親友なのに……あの子が好きな人だってわかってたのに!」


でも、でもと言葉を重ねる姿は、言い訳を重ねるんじゃなくて。
それは、まるで謝罪を重ねる姿だった。


「駄目なのに、駄目なのに、駄目なのに! 好きに、なってしまった!」


ほぼ、絶叫でした。
後悔。
親友への友情。
そして、それでも止まない想い。
涙が流れていたかは……解かりませんでした。


でも、自然と、私と彼女が重なって見えたんです。


「抜け駆けをして……わたしはっ……わたしはっ……」


それは、『負い目』というものだろうと、自然と理解する事が出来ました。
方向性の違いとはいえ、きっとそう。
だから、わたしは―――


「そんな状況で……わたしは、ここにつれてこられてしまいました」






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

390さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:40:59 ID:5fTHS3C20





「手を組みませんか?」
「……え?」


それは、美羽から、さしのばされた、手。

「私は、殺し合いに、乗ります」
「……っ」

解かりやすい、とても解かりやすい宣言。
シンプル且つこの殺し合いの目的に沿った宣言。

「けれど、それはフラワーズの為」

けれど、美羽が殺し合いに乗るのは、決してプロデューサーの為ではない。
大切な、大切な仲間の為。

「輝いてる三人の為に……あの三人の内、一人でも生き残ればいい」

それは、負い目を感じてるからこそ、願い。
自分が輝いてると思えない美羽だからこその、願い。


「あの三人が、生きて輝いて『アイドル』をやればいい……そう思ったんですよ」


そう、自分は運が良かっただけだ。
たまたま、光り輝く花達の中に混じれたから、注目された。
本来は見向きもされない、小さな花でしかない。
何にも個性も無い、花でしかなくて。
そんな花が出来る事は、他の花を輝かせる事だけなのだから。


「貴方は……どうですか?」

そして、バトンは歌鈴へ。
同じ負い目を持った彼女への想い。


「わたしは…………………………わたしは…………」

歌鈴は喉がからからに鳴って。
それでも、それでも言葉を紡ぎ出す。


「殺し合いに、乗ります」


歌鈴が、つむぎだした結論。
それは、きっと決まっていた事だった。
だって、歌鈴はプロデューサーを愛しているのだから。


「プロデューサーと…………親友…………美穂ちゃんの為に」


そして、紡ぎ出すのは、親友の名前。
大切な、大切な人。

「わたし、ドジだから……生き残れないかもしれない。だから、美穂ちゃんにも……プロデューサーと……」

ただの歌鈴の傲慢かもしれない。
けれど、それが歌鈴の美穂に対する贖罪だった。
だって、親友にも生きて欲しいから。
だって、親友にも幸せになって欲しいから。


「わたしは、大切なプロデューサーと親友の為に」
「わたしは、大切な仲間の為に」



そして、


「「手を取り合いましょう」」


二つの手は結ばれた。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

391さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:46:02 ID:5fTHS3C20





そうして彼女達は、話し合った。
そして、二人で決めた事があった。


殺し合いに乗って居る事を隠して、殺し合いに乗ってないチームに潜り込むと。

大勢に隠れて、そして少しずつ人数を減らしていく。
もし疑われたりしたら、互いに庇いあう。
脱出できそうならば、そのまま其方側につくと。

非力な二人が生き残る為に選ぶ手段で。
少しずつ減らして、チームを喰う。

それが、二人が決めた手段だった。



「ねえ、美羽さん」
「なんでしょうか?」


さあさ、劇が始まるよ


「わたし達はきっともう――」



スポットライトがなくても、開幕する劇が



「大切な人を思う資格なんて、無くなってるんでしょうね」



とても、愚かで、とても、哀しくて、とても、美しくて、とても愛おしい劇が




「でも、それでもやらないといけない」


演じるのは、、二人の少女。



「「それが、わたしの」」


大切な、想いを胸に抱いて。


「輝き方だから」
「贖罪だから」



二人は、演じるのです。

392さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:47:16 ID:5fTHS3C20




【C-3/一日目 深夜】

【矢口美羽】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:対主催チームに潜伏しながら、人数を減らしていく
1:そして、フラワーズのメンバー誰か一人でも生還させる

【道明寺歌鈴】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:対主催チームに潜伏しながら、人数を減らしていく
1:そして、出来るなら美穂を生還させる。

※小日向美穂と同じPです。

393さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E:2012/11/12(月) 00:48:40 ID:5fTHS3C20
投下終了しました。
続いて、
渋谷凛、島村卯月、本田未央、水本ゆかり、榊原里美、新田美波で予約します

394名無しさん:2012/11/12(月) 12:39:13 ID:Lsu/lK8I0
投下乙ですー

・彼女達の物語
ドッキリなら仕方ないよね!ドッキリなら……ねーよww
それでみんな丸く収まると思ったら大間違いだみくにゃーん!

・さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を
一方こちらはステルスマーダーコンビかー
通常マーダーやジョーカー、そして真ジョーカーが入り乱れる中で
どこまでこの二人が潜伏して優勝に向かえるか期待です

395名無しさん:2012/11/12(月) 19:07:42 ID:2fSUSyq20
そういえばマーダーコンビは初か
これで全員登場した?

396 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 00:56:40 ID:v63iOBAg0
>彼女達の物語
ああうあ、こういう感情が爆発するようなのってすごく好き。いつものように語尾に『にゃ』をつけながらも嗚咽を漏らしちゃうみくにゃんとか。
と思ったらなんだその支給品www ああでも、これはよくよく考えてみると酷く残酷な代物かもしれない……w
ドッキリで安堵してるみくと素が強い及川さん。しばらくは和やかにいけるだろうけど、放送もあるし、しばらくっていつまでだろう……w

>さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を
ダブルステルスとは奇妙な真似をw それも組むのはPを寝取られた(誇張表現)小日向ちゃんの親友にFLOWERS最後の一人ですか
それぞれ友人と再会したときの行動や反応がおもしろそうではあるけれど、とりあえず平和に潜伏できるグループがあるのか否かw(焼夷手榴弾の跡を見つつ)


さて、自分は高垣楓、佐久間まゆ投下しますー。

397飛べない翼 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 00:58:48 ID:v63iOBAg0
 高垣楓と佐久間まゆが訪れた場所は、街を南下したところにある小さな飛行場だった。

 未だ朝日の昇らぬ夜天。島内は暗闇に侵されても、この飛行場だけは別格の明るさを保っていられた。
 無数の照明灯によるライトアップ。夜間の着陸すら問題ないと言わんばかりの機能美が、素人の肌に煌々と突き刺さる。

 ただただ広い……と感じられる滑走路には様々なタイプの飛行機が並べられ、まゆは思わず感嘆の息をこぼした。
 古風なプロペラ機。プラモデルみたいなデコールの戦闘機。テレビ局のロゴが刻まれたヘリコプター。
 単なる飛行場ではない。ここにはありとあらゆる種類の『空を飛ぶ乗り物』が置かれている。
 これだけあるんなら――きっと、その光景を見れば誰もがそう思ってしまうだろう。

「ここにある飛行機は、私たちと同じなのね」
「えっ?」

 道中、二人の間に会話はなかった。
 しかしいま、飛行機械が行儀よく整列する様を見て、楓が久しぶりに口を開いた。

「翼があっても、どこにも飛べない。導いてくれる人がいないから、こうやって立ち止まっている」

 あっ――とまゆは思った。
 翼があっても、どこにも飛べない。それはたぶん、目の前に並ぶ飛行機たちのことを指しているのだろう。
 プロペラ機であろうと戦闘機であろうとヘリコプターであろうと、パイロットがいなければ、彼らは飛べない。
 あれだけ立派な翼を有しているのに、自分一人では羽ばたくことすらままならないのだ。

 そしてそれは、殺し合いという境遇に置かれたいまの自分たち。
 プロデューサーを失ったアイドルにも、共通して言えることなのである。

(飛び方を忘れた、アイドル……)

 自分に飛び方を教えてくれた人。
 憧れて、隣にいたくて、必死に追いかけたあの人。
 彼を取り戻そうとして、懸命に翼を羽ばたかせようとしている自分。

 自分は自分。
 佐久間まゆの場合は、まだそうなんだ。
 でも、彼女。
 高垣楓の場合は――

「あの……楓、さん」

 並んでいる中でも一際立派な翼を持った旅客機を仰ぎ見る楓。その後ろから、まゆは声をかけた。
 しかしその声はか細く、夜の静寂に溶けて消えてしまう。楓の耳にも届いてはいないようだった。
 もう一度、声をかけようか。でも、なにを言えば。どんなことを話せば、いいんだろう。

 佐久間まゆの気質は、臆病ではない。気に入った相手には、むしろ自分から話しかけていくタイプの女の子だ。
 なのに、いまはかけるべき言葉が見つけられない。
 プロデューサーを追いかけてばかりいた自分だから、プロデューサーに手を引かれてばかりいた自分だから。
 こういとき、人とどんな風に接すればいいのかわからない。

「もう少し、見て回りましょうか」

 この島の飛行場は施設としては小さい部類に入る。それでも、少女二人が徒歩で見て回るには広大だ。
 時間をたっぷりかけて、楓とまゆは飛行場の敷地内を練り歩いた。
 写真やテレビの中で見た飛行機が、見るだけで触れてはいけない展示場のようにそこにあるだけだった。

 彼らは飛べない。
 彼女たちだって、彼らを飛ばすことはできない。
 彼女たちもまた、ひとりきりでは飛び立てない。

398飛べない翼 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 00:59:14 ID:v63iOBAg0
 どうしようもなく虚しくなって、やがて二人は飛行場内にある大きな建物へとたどり着いた。
 その見慣れた外観を前にして、ようやくここは展示場なんかではなく空港だったんだと認識を改める。
 島の小さな空港だから、羽田や成田のそれに比べるとさすがに手狭だが、中は充分に広々と感じられた。
 なにしろ二人以外に人がいないのだから、それはあたりまえのことだった。

 預けた荷物が流れてくるベルトコンベアがある。喫煙スペースがある。案内板にいろんな外国語が並んでいる。
 喫茶店があった。おみやげ屋さんがあった。天井は高かった。アナウンスはなかった。エスカレーターは動いていなかった。
 なんだか、変な感じだ。無人の空港だなんて。遠征で利用する機会は多々あったが、こんな奇観にはお目にかかったことがない。

「やっほー!」

 ――突然、まゆが叫んだ。
 すぐ近くを歩いていた楓が、びっくりしている。

 まゆも驚いていた。
 どうして「やっほー!」なんて叫んだんだろう。
 ここは山ではないし、なによりいまは「やっほー!」なんて叫ぶ状況じゃない。
 たしかに人がいないのに広くてすごくて叫んだら気持ちよさそうだな楽しそうだな、とは思ったけれど。

 なんだか、これじゃ危機感のない子供みたいだ。プロデューサーだって、きっと「まゆは子供っぽいな」って苦笑いする。
 まゆは恥ずかしくなって、顔を赤くした。そんなまゆを見て、楓は表情を変えなかった。反応する言葉もない。

 ……くすっ、って。
 少し吹き出すくらいしてくれていいのに。
 まゆはむくれたが、楓は気づいてはくれなかった。


 ◇ ◇ ◇


 空港内をいろいろと見て回ったが、収穫と呼べるようなものはなにも見つからなかった。
 いや、そもそも楓やまゆにとっては、なにをもって収穫と呼ぶのかが不明瞭だった。

 だって、二人には明確な目的、意思がない。
 あてもなく歩いてここにたどり着き、ただなんとなく中を見まわってみただけだ。
 まゆにはプロデューサーを助け出したいという願望があったが、そのためにやるべきことはまるで検討がついていない。

 ――殺し合って、最後の一人になればいいのよ。

 選択肢は与えられているけれど、それは選びたくなかった。
 選びたくないから、こうやって子供みたいに、楓のあとをついていっている。

(楓さんは……どうするんだろう)

 既に、大切な人を亡くしてしまった人。
 大切な人に先立たれて、指針を見失ってしまった人。

 この人はこのまま、本当に、目的も目標もなくただ延々と島を歩き続けるつもりなのだろうか。
 そして、やがては誰かに殺される。そんな悲劇的な未来を選び取るというのだろうか。

「楓さんは」

 前を歩く背中を見つめながら、そんなことを考えていたら……無意識のうちに声が出た。
 楓が振り向く。
 名前を呼んでしまった。まゆは数秒、楓と見つめ合い……また言葉が見つけられなくて、目を伏せる。

「……ごめんなさい。なんでもありません」
「そう」

399 ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 00:59:18 ID:1KdV9mxc0
投下乙です!
どんどん凄い勢いで話が進んでいく!
アイドルたちも個性的なものだから、様々な方向性が生まれていきますな……。


ではこちらも、ナターリアと赤城みりあを投下します。

400飛べない翼 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 00:59:41 ID:v63iOBAg0
 楓は気にしていない風だった。が、まゆは気まずさのあまりその場に蹲ってしまいたい衝動に駆られた。
 そんなまゆの心情を知ってか知らずか、

「こちらこそ、ごめんなさい。なんだか、言葉が浮かばなくて」
「――っ! い、いえ」

 投げ返された、ごめんなさいの言葉。
 それがなんだか嬉しくて、まゆは思わず声を高くしてしまった。
 それがまた恥ずかしくって、でも唇が緩んでしまう自分がいた。

 ああ、なんだろう。
 なんでこんなに、柄にもなく緊張しているんだろう。
 まゆがおかしいのか、楓がそうさせているのか。なんとも言えぬ空気だった。

 でも、不思議と居心地がいい。
 彼女のそばにいると、安心できる。

 最愛の人に先立たれ、生きる目的を見失った人。
 少なくとも、彼女のそばにいるうちはプロデューサーのことを想っていられる。
 あの人は殺人なんて望まないということを、忘れられないでいられる。
 ……本当に、そうだろうか?

(あっ……)

 きっかけなんてなかった。
 ふとした拍子に、気づいてしまった。

(いま、こうしている間にも――――さんは、ちひろさんたちに囚われたままで、動くこともできなくて)

 助けを求めている。
 縛られた身で、懸命に担当するアイドルの名前を呼んでいる。

 死にたくない。生きたい。やめろ。殺し合いなんてするな。おまえたちはアイドルなんだ。
 嫌だ。助けてくれ。なにをやっているんだ。真面目にやれ。殺されるだろ。早く誰か殺せ。

 まゆが殺人を犯さなければ。
 やがては、楓のように――

『あれだけ言ったのに、まだわかってない子がいるみたいですね。仕方がないので、少しわからせてあげることにしましょう』

 そんな風に。
 そんな名目で。
 配られた端末に、あの人の顔が。
 爆弾で弾ける、あの人の顔が映って。

「……どうしたの?」

 嗚咽もなく、まゆはその場に蹲ってしまった。
 怪訝に思った楓が足を止め、後ろのまゆに歩み寄る。

 不安だった。とにかく不安だった。安心なんて、まったくできない。
 いくらプロデューサーが望んでいないとはいえ。
 殺人を犯さなければプロデューサーが殺される。これは確実なのだ。
 それでも、プロデューサーは「ああ、まゆが人を殺さなくてよかった」と思ってくれるかもしれない。

 問題は。
 まゆ自身がそれに耐えられるかどうかだ。

401飛べない翼 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 01:00:45 ID:v63iOBAg0
「か、かえ、楓さん……」

 自分の身体を自分の腕で抱きしめる。
 震えた声を絞り出す。
 楓にこちらの顔を覗きこませないように俯いて。

「少し、休んでいきませんか? ほら、外も暗いですし。動くんなら明るくなってからのほうがいいと思いまして」

 つー……と。
 待合用のソファーを指さした。
 ふかふかの大きなソファーだ。
 眠るくらいはできる。

「まゆ、疲れたんです……」

 心身ともに衰弱しきった声だった。
 ああ、自分はもう駄目なのかもしれないと思った。
 どういう方向で駄目なのかは、自分自身がわからない。
 なのでここは、楓に委ねることにした。

「賛成」

 楓は、優しく言った。
 まゆの目の前にしゃがみ、目線を同じくする。

「私も、疲れちゃった」

 まゆは初めて、楓のはにかんだ表情を見た。
 かわいい人だなって、そう思えた。


 ◇ ◇ ◇


 そうして、二人は空港内ロビーに置かれたソファーの上で隣り合って眠ることにした。

 よくよく考えてみれば、楓がまゆの意見に合わせる必要などないのだ。
 楓はまゆと行動を共にしているわけではなく、勝手についてくるまゆに対してなにも文句を言わないだけ。
 休みたいというまゆの意思を尊重してくれたのか、それとも本当に自分自身が休みたかったのかは、わからない。

 ただ単純に、まゆは思った。
 かわいいな。
 ソファーの隣、楓の安らかな寝顔を見て、そう思った。

 もしこの人が担当プロデューサーを同じくするアイドルだったなら、感情などきっと嫉妬しか湧かなかったはずだ。
 愛しいあの人を取られてしまうかもしれないという脅迫概念から、別の動機で殺人に及んでいたとしても不思議ではない。
 でもそうではない。楓の寝顔は安心できる。心が安らげる。自分はまだ殺人をしなくていいんだと、落ち着ける。

 まゆにとって、楓の存在は心の安定剤となりつつあった。
 この作用はおそらく、楓がプロデューサーを喪っているからこそ発生しているのだろう。
 同情。哀れみ。自分よりかわいそうな人がいる。私はこの人みたいにはならない。そんな風に、あさましく人間を見つめている。

(楓さんは……まゆの明日の姿かもしれないんだ)

402飛べない翼 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 01:01:09 ID:v63iOBAg0
 もし。
 もしだ。
 この話は仮定。
 もしもの話。
 作り話だから。
 想像で妄想で空想だから。
 絶対にないと信じて。
 それでやっと、まゆは思う。

 まゆが殺人を犯さなかったことで、結果プロデューサーが殺されてしまったら。
 佐久間まゆという少女は、はたして高垣楓のような生き方を選び取ることができるだろうか。

 憎悪を抱き、プロデューサーを手に掛けた千川ちひろや殺し合いの首謀者たちに復讐するかもしれない。
 それができないようなら、八つ当たり気味にこの島のアイドルたちを殺して回るかもしれない。
 ただひたすらに悲しくなって、プロデューサーのあとを追うことになるかもしれない。
 あるいはプロデューサーの意思を受け継ぎ、生きることを選ぶかもしれない。
 
(……よそう)

 明日のことなんてわからない。
 人間は計画通りに生きられるとは限らない。
 こうと決めたことを貫き通すのは案外むずかしい。

 だから考えない。
 それでいいのだろうか。
 それは諦めではないか。
 問題の先送りではないのか。
 生きることを放棄しているのでは。
 プロデューサーを見捨てているのでは。

(――イヤだ!)

 首が取れそうな勢いで、まゆはぶんぶんと頭を振った。
 そうやって雑念を振り払おうとした。
 けれどこれは雑念なんかではない、考えなければならないことなんじゃないかとも思った。

 人間は考えることをやめられない。
 だから睡眠という形で、考えるための意識を手放そうとする。
 楓は、だからこそこんなにも安らかな寝顔を浮かべられているのかもしれない。
 逆に、まゆは寝つけなかった。眠りたくても眠れなかった。いっそ死にたいと思うくらい無意識の海に埋没したかった。

 もうすぐ朝がくる。
 永遠に夜だったらいいのに。
 明日なんか、来なければいいのに。
 明日なんか来るな。あっちにいけ。消えてしまえ。

 多くの少女が「こんな悪夢、早く終われ」と願う殺し合いで。
 まゆはただひたすらに、明日という未来が訪れないことを願った。

403飛べない翼 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 01:01:39 ID:v63iOBAg0
【D-4・空港施設内1Fロビー/一日目 黎明】

【高垣楓】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:ゆくあてもなく島を巡る
1:睡眠中

【佐久間まゆ】
【装備:サバイバルナイフ】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:楓についていく
1:プロデューサーを悲しませたくはない。でも……
2:眠れない

404 ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:02:04 ID:1KdV9mxc0
(リロードしわすれました。申し訳ないです)

405 ◆44Kea75srM:2012/11/13(火) 01:02:56 ID:v63iOBAg0
投下終了しました。

>>399
それと投下被り失礼しました!どうぞ!

406 ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:06:29 ID:1KdV9mxc0
>>405
こちらこそ大変申し訳ないです!
ありがとうございます!


では改めて、投下させていただきます。

407Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:08:15 ID:1KdV9mxc0
ねェ、プロデューサー。
プロデューサーは、すっごくピカピカでキラキラした夜空、見たことあるかナ?
ナターリアはあるヨ! 日本でアイドルするずーっと前、街から離れたトコに遊びに行ったトキ!
あとは海外ロケとカー、地方ロケとカー。プロデューサーは忙しそうだから、見てる時間ないかもだけド。
それに不謹慎かもだけド……ここから見える星も、実はすっごくキレイだヨ。
周りが暗い山道だからかナ。ミンナが大変な目にあってるかもしれないのに、そんなこと知らないヨーってくらい、星がキレイ。

ねェ、プロデューサー。
星はすごいヨー?ホンモノの夜空って、凄いノ! 空じゅうがね、宝石箱みたいなんだヨ!
大きな星も小さな星も、ミンナすっごくキレイ! 星座だって探し放題だしネ!
それでね、そうやってたくさんのお星さまを見てると……色んなトコで頑張ってるミンナを思い出すんダ。
いつもいつも笑顔でいてくれるキョーコとか! もふもふでちっこくてかわいいニナとか! ね、わかるでショ?
だってミンナ、仕事してるときは真剣で、でも楽しそーで、いっつもピカピカでキラキラしてる!
だからネ、一緒! ミンナミンナ、星空とおんなじ! 知らない人たちを楽しませてくれる! これって凄いことだヨー?

……ねェ、プロデューサー。
きっと大丈夫だよネ? この星一つ一つみたいにピカピカでキラキラしたミンナなら、わかってくれるよネ?
ミンナ、ナターリアの歌を聴いたら、ヤなこと全部放り出してくれるよネ?

ナターリア……そう信じてるヨ。


       ○       ●       ○       ●       ○

408Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:10:05 ID:1KdV9mxc0
遊園地で色々あってしばらく経った頃。

「疲、れた……」

気がつくと私は、どこかも分からない山道で独りへばっていた。
逃げ出してからどれだけの時間が経ったかなんてのは覚えてない。どれくらい走ったかなんてこともさっぱりだ。
でも後ろを振り返れば、蘭子ちゃんが追いかけてきた様子もなかった。つまり私は今、独りぼっち。
だから、もう思いっきり休んで良いのだと気付いた瞬間……こうなっちゃったわけなのです。私、すっかりダメダメ状態だ。
トップアイドル目指して特訓していたから、体力に自信はあったつもりだったけど……もうダメ、動けない。限界です。
赤城みりあ、一生の不覚。

「はぁっ、はぁ……っ」

息を吐く私の声ばかりが、夜空に吸い込まれていく。
地獄の特訓なんてものに巻き込まれたら、きっとこんな感じなのかもしれない。そう思った。
けれどただ倒れ込んでいるわけにはいかない。これからどうするかを考えなきゃいけない。
だから私はまず、体が悲鳴を上げるのを押さえつけながら、私はここに来てからのことを思い出そうとした。

「……っ!」

すると、誰かのプロデューサーが死んでしまった光景と、蘭子ちゃんの怖い呟きが頭の中で重なった。

「……やっぱり、酷いよ」

ねぇプロデューサー。私は、プロデューサーと一緒にいられればそれでよかったんだよ。
だって、プロデューサーと一緒にいれば、それだけで楽しいもん。お休みの日だって、一緒にいたいもん。
お喋りするの大好きだよ。別に何も買ってくれなくたっていいの。一緒にお喋りできるなら、それだけでよかったんだよ。
なのに、どうして? どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの? どうしてプロデューサーが酷いことされなきゃいけないの!?
もうやだよ、帰りたいよ! カワイイお洋服着て、プロデューサーと一緒にお仕事したいっ!
プロデューサーにもファンの皆にも喜んで欲しいから、だから一生懸命頑張るから、こんなところから帰りたいよ……。

「帰りたい……」

帰りたい。帰りたい。帰りたい。
プロデューサーのところに帰りたい。プロデューサーが生きてるところに帰りたい。
カワイイ衣装が着られても、カワイイ曲が歌えても、カワイイダンスが踊れても、プロデューサーがいなきゃ意味無いもん。
私のことを一番よく知ってる素敵なプロデューサー。いつもお仕事頑張ってて、でもカワイイところもいっぱい見せてくれるプロデューサー。
ねぇプロデューサー……私、声をかけてくれたのがそんなプロデューサーだったから、アイドルになる決心がついたんだよ。
カワイイ衣装や歌が待ってることも素敵だったけど、それとおんなじくらいプロデューサーも素敵だったからなんだよっ!
大好きなのっ! 私はプロデューサーが大好きっ! だから死にたくない! 生きて、プロデューサーと一緒にいたいっ!
一緒にお仕事したいっ! 一緒にお休み取りたいっ! 一緒に過ごしたいっ! 死にたくない、死にたくないよっ!
プロデューサーとずっとずっと一緒に生きていたいんだからっ!

「私……死んじゃうのかな……」

でも、その願いも……死んだら終わりだ。叶えられない。
もしも死んだら、プロデューサーのおかげで頑張れたライブも、ファンの皆のために頑張った沢山のお仕事も出来なくなっちゃう。
沢山の人たちが作ってくれた曲を歌うことも、私が喜んでくれるように作ってくれたカワイイお洋服を着ることも出来なくなっちゃう。
ダンスの練習だって頑張ってるのに、誰にも見てもらえなくなる。インタビューのチャンスが貰えたって、自分の想いを伝えられなくなる。
それにまだ、まだ私は、プロデューサーに大好きだって言ってない! いや、いつも言ってたけど……ううん、いつもの感じじゃない、もっと大事な意味で!
でも……蘭子ちゃんみたいな〝誰かを蹴落とさなきゃいけなくなった人〟に狙われたら、終わりなんだ。全部、何もかも終わるんだ。消えてしまうんだ。
死ぬって、そういうことだもん。

「私は……私は、死にたくないっ! プロデューサーのところに、帰りたいもんっ!」

じゃあどうするの? 死にたくなかったらどうする? ここから帰りたかったらどうする?
ここに来る前まで普通だった人も、誰かを殺さなきゃいけなくなる。そんな場所にいるんだよ? だったらどうするの!?
ここから帰りたいなら、死にたくないなら、ファンの皆の前で歌いたいなら、プロデューサーを殺されたくないなら、私は……私は……!

409Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:10:57 ID:1KdV9mxc0
「私は……やるっ!」

じゃあ、殺される前に殺すしかない。他に方法なんてない。
そうだよ。私、死にたくないもん。でもそれでも、他のアイドルの皆は誰かを殺そうとしてる。
蘭子ちゃんだって結局、最初に言われた通りにしようと言ってた。すぐ近くに、私を殺そうとしてる人がいるんだ。
手を繋いで仲良しこよしでなんかいられない。もう、そんな時間は終わっちゃったんだ。ここは、そんなことが出来る場所じゃないんだ。
プロデューサーだって捕まってる。私が逃げたら、私のためにあんなに頑張ってくれたプロデューサーが、死んじゃう。
じゃあもう、こうするしかない! 選べないの! もう、好きなことばっかりはしてられないのっ! そうでしょ、プロデューサー!?

「よし……やる。やる! 私、やる! こんなところで、死んだりしない!」

決意を込めて立ち上がった私は、ここに来る前に渡された袋から銃を取り出した。
すっごくおっきな銃で、持ってみたらとても重い。さすが人に向ける物だと思う。
うん、そうだ……私は今から、こんなものを人に向けるんだ。ドラマで見たように引き金を引いちゃうんだ。
やるよっ! 私はやるっ! 殺されないために、応援してくれる皆のために、そしてプロデューサーのために……っ!
プロデューサーには死ぬほど怒られると思うけど! お喋りできる他のアイドルの皆がいなくなるのは嫌だけど!
でも、たった一人のプロデューサーのためなら……私はっ!

「ごめんねプロデューサー! 私、皆を倒して……ううん、殺して……殺して、帰るからっ!」

気合いを込めた試し打ちをするため、私は両手で構えた銃を近くの木に向ける。
そしてゆっくりと引き金を引くと、大きな音と反動が体中に響き渡った。
手がビリビリとした感覚に襲われて、思わず銃を落としてしまった。おまけに尻餅までつくおまけ付きだ。

「何、これ……」

急いで起き上がった私は、銃を拾い直す。
たったの数秒で、このずっしりした物がとんでもない力を持ってるんだってことを実感した。
辺りは真っ暗だから、弾が木に当たってくれたかどうかは分からない。でもきっと当たってくれたと思う。そうじゃなきゃやってらんない。
音と反動でビックリしすぎたおかげなのか、荒かった息は少しだけ落ち着いた。でもまだまだ、心臓はドクドクいっている。
怖い。きっと、こんなものが当たったら痛いんだろうなって思う。私にこんなものが渡されたんだったら、他の人だって持ってるはず。
今から私は、こんな怖いものを使うんだ……そう考えると、体中の震えが止まらない。ライブやフェスに参加するときとは全然違う、嫌な震えだ。
でも、殺さなくっちゃ。もしここで誰かが現れたとしたら、どうにかちゃんと狙って撃ち殺さなきゃ……!

「ミリア……?」
「え?」

そうして、銃を持ったまま移動しようとしたときだ。
私は、決意したばっかりなのに、女の子と出会うはめになった。

「ミリア……何、持ってるノ……?」
「な、ナターリアちゃん……っ」

知ってる人だった。
仕事が一緒になることもいっぱいあった人だった。
その度にいつも〝素敵だな〟って思ってた人だった。

でもそんなの、もう関係なかった。
だから、急いで銃を構えたんだ。


       ○       ●       ○       ●       ○

410Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:13:06 ID:1KdV9mxc0
山道を走って、走って、走って、二股になった道に辿り着いタ。
でもさっき地図を確認したから大丈夫。道を間違えるつもりもないし、立ち止まるつもりもなイ。
だからこのまま突っ切っちゃうノ! 大事なライブのために、一生懸命走らなきゃだかラ!

「ミリア……?」
「え?」

それなのニ。
それなのに、ナターリアは、立ち止まらなきゃいけなくなっちゃっタ。
どうしよう、プロデューサー。どうしよう、どうしよう、どうしようプロデューサー……ミリアが、変だヨ!

「ミリア……何、持ってるノ……?」
「な、ナターリアちゃん……っ」

プロデューサー……ナターリアね、困ったことなったヨ。
あのね、やっと目が慣れてきたトキ、ナターリアは走っている途中でミリアを見つけたんダ。
山道の中で独りぼっちは寂しかったから、すっごく嬉しかっタ。しかも友達だったしネ!
ほら、ミリアってすっごく明るいでショ!? お仕事で一緒のトキ、いつもお話してくれるシ!
しかもそれだけじゃなくて、お仕事してるときの顔だって、とても楽しそうだしネ! この間のロケも、すごかったヨー!
……だからナターリア、ミリアに声をかけようとしたんダ。大丈夫だっタ? って言って抱きしめたいくらいだったかラ。
でもね、でもねプロデューサー……ミリアの様子は、ナターリアが考えてたのとは全然違ってタ。

「ナターリアちゃん……ごめん。撃つよ……っ!」
「え……?」

ミリアの目は、まっすぐナターリアを見てタ。そして、銃もまっすぐナターリアに向けてたんダ。

「ミリア……待っテ! それ、しまっテ!」
「だめ、だめ……それ無理だよ! だってそんなことしてる暇ないもんっ!」

お喋りが大好きだって言ってたあのミリアが、銃をこっちに向けてる。
カワイイのが好きだって言ってたのニ……それなのにあんなごっついのを持ってるなんテ。
そういえばさっき変な音がしたケド……だからって、まさかミリアがあんな音させたなんて想わなかっタ!
ねェミリア、どうしてなノ? そんなのカワイくないヨ。そんな大きいの、ミリアにはお似合いしてないヨ!?

「ミリア、どうしテ!?」
「どうしてって、そんなの……死にたくないからに決まってるでしょ! プロデューサーにも死んで欲しくないもんっ!」
「プロデューサー……?」
「そうだよぉ! ナターリアだって見たでしょっ!? 逆らったら、プロデューサーも死んじゃうんだよ!? あんな風に!」

最初にどこかに集められたときのことを、ナターリアは思い出しタ。
そうダ。ナターリアは、あのトキ……誰かのプロデューサーが、酷い目に遭ったのを見てタ。
わかってる、わかってるヨ。でも、だからって、デモ……ミリアがそんなの持ってていい理由には、絶対にぜーったいにならないのニ!

「でも……」
「私たちだって、死んだらお仕事出来ないんだからぁっ!」

でも、ナターリアのそんな言葉に、ミリアは頷いてくれなかっタ。

「だからナターリアちゃん、ごめんなさいっ!」

叫んだ声が、ナターリアの鼓膜を震わせタ。
すると次はもっと大きな音がして、ミリアの両手が上に跳ねる。
銃から煙まで出てる。もくもくって、なってタ。
その意味は、ナターリアでも分かる。

「ミリア……ッ!」
「外、れた……?」
「ミリア!」

……撃っタ。
ミリア、ナターリアに撃ったんダ。
ナターリアは、怪我しなかったケド。
でも撃っちゃったんダ。ミリアが。
こんなのを……自分デ!

411Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:14:49 ID:1KdV9mxc0
「お願い……一回で、一回で終わらせてよ、ナターリアちゃん!」

周りがうるさくないおかげで、ミリアの歯がカチカチ鳴ってる音が聞こえる。
ミリアは、そんなになってまでナターリアを撃ったんダ。大事なミリアのプロデューサーを、助けたいかラ。

「つ、次……次ねっ! 次は動かないで! まだ弾はあるから、次は当てるからっ!」

ねェ、プロデューサー。やっぱりおかしいヨ。
こんなにピカピカでキラキラした空の下で、ピカピカでキラキラしたアイドルのミンナが、酷いことをしなきゃいけないなんテ。
そんなの、絶対におかしいヨ。間違ってる! 星が一個でも無くなるしたら、星座だって作れなくなるのニ!

「ミリア、ダメだヨ! ダメ……ッ! そんなことする理由、ミリアにないヨ!」
「ダメじゃない! 撃つよ! ほんとだから! ほんとに撃つよ! 今度は当てるっ!」
「ねェ、そんなの捨てテ! ダメだヨ……ミリアがそんなの持ってるのは、違ウ!」
「撃つから、動かないで! 動かないでってばっ! ナターリアちゃんが苦しむの、私だって嫌なんだからぁ!」

また、同じようなことが始まっタ。ミリアの両腕が跳ねて、大きな音が響いたんダ。
でもまた当たらなくっテ。ミリアは「どうして!?」って叫ぶノ。
どうして、なんテ……簡単だヨ。それは、ミリアがそんなことしちゃダメだからだヨ。

「ミリア! もういいヨ!」

ナターリアは、もう我慢が出来なくなっタ。
ミリアがあんな危ないものを持たなくてもいいようにしようって思ったカラ……だからナターリアは、ミリアに飛びついタ。
するとミリアは、引き金に指をかけたまま驚いた表情を浮かべタ。そうだよね、あれだけ「動くな」って言ってたのに、ナターリア動いちゃったかラ。
でもナターリアは気にしなかっタ。ミリアに人を撃って欲しくない一心で、銃を奪い取ろうとしタ。

「や、やだ……離してっ! これ、これは私の……!」
「ミリアのじゃなイ! これはミリアが使うものじゃないヨ!」

暗い暗い山道で、ナターリアたちはモミクチャになる。
オシクラマンジューを逆にしたみたいに、ギュウギュウ密着ダ。
そして、ミリアがガッシリと掴んだ銃を、ナターリアも負けずにガッシリ掴んダ。
大丈夫、大丈夫だよミリア。ナターリアは別に銃が欲しいわけじゃないんだかラ。ミリアを撃ちたいわけじゃないもん。
ただ、こんなものはいらないってだけなんダ。誰も使うことがないようにしようって思っただけなんダ。

「ねェ、ミリア……ミリアはこんなの持ってちゃダメ……」
「離して……」
「だって、ミリアの両手は、誰かと手を繋ぐためにあるんだヨ!」
「離してよ! ナターリアちゃん、プロデューサーが大事なら、離してっ!」
「聞いてヨ……ミリア、聞いてヨ……ッ!」

ねェ、ミリア。やめテ。もうやめようヨ。もうそんなの撃っちゃダメだヨ。
それよりナターリアね、ミリアにお似合いな作戦考えたんだヨ? 人を撃つよりももっと、素敵でカワイイ作戦!
まずはミリアが、誰かと手を繋ぐでショ? そしたら、今度はその人が誰かと手を繋ぐノ。
ここにはピカピカでキラキラした人たちが大勢いるから、ミリアがそうしてくれればミンナも手を繋いでくれるハズ。
そしたらね、最後には太陽みたいにキレイな輪っかになるノ! ピカピカでキラキラした人たちで輪っかになって、まん丸の星座を作るノ!
ね、ミリア! カワイイでショ!? ミリアにピッタリだヨ! ミリアみたいにカワイイ女の子にバッチリの、魔法みたいな作戦だヨ!

「もっと、もっとステキなことをしテ! こんなの、もうやめテ……ッ! お願イ……ッ!」
「バカ! バカぁ! ナターリアちゃんの、わからずやさんっ!」

だからミリア、手を繋ゴ? こんな銃なんて捨てて、ナターリアと手を繋ゴ?
ナターリアがハジメテになるヨ。ミリアと手を繋ぐハジメテになるヨ。そしたら、ミリアは空いた手で誰かとまた手を繋げばいいんダ。
もしも手を繋ぐのがヤだって人がいたら、そのときはナターリアが歌うヨ! あのライブ会場デ……ううん、どこででも精一杯歌うかラ!
そしたらここにいるミンナ、自分がアイドルだってこと、思い出してくれる! 手を繋ごうって言ってくれたミリアを、ミンナが支えてくれる!
例えばもしここにキョーコやミナがいたら、ミリアが「手を繋ご」って言ったら絶対答えてくれるヨ! あの二人は手を繋ぐと嬉しいって知ってるかラ!
ねェ、だから大丈夫だヨ! 大丈夫だヨ! 信じて、信じテ! ミリア、信じテ!

412Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:16:28 ID:1KdV9mxc0
「ミリア、ナターリアを信じテ!」

モミクチャのまま、ナターリアたちは闘ウ。銃をどっちが持つか、競争してる。
ナターリアが掴んだ銃を、ミリアは抱きしめるようにガッシリ押さえつける。
小さな子が目を閉じてイヤイヤってするみたいに、ミリアは銃を離さなイ。
これは〝ラチがあかない〟っていうのかナ。でも、あかないものはあけなきゃダメ。
だから延々と続ける。延々と続ける。延々と、延々と、延々ト……。
もしかしたらこの闘いはずっと続いて、どっちかが疲れるまで終わらないのカモ。
一瞬だけ、そう思っタ。

でも、終わりはいきなりやってきたんダ。

それはミリアとお喋りして考え直してもらおうって思って、ナターリアがまた叫びかけたトキ。
ナターリアの声に被さるみたいに大きな音がしタ。バン! とか、ドン! みたいな、そんな音ガ。
そしてまた、ナターリアたちの胸元から、煙がモクモクって上がってくる。
銃ダ。ミリア、また銃を撃ったんダ。
だからって別に、ナターリアに何か起きたわけじゃなイ。ナターリア、全然平気だっタ。
ちょっと鼓膜が破れるかと思ったくらいで、それとめちゃくちゃビックリしたくらイ。
大したことなんてなかっタ。だから、またモミクチャになるつもりだっタ。ナターリアはネ。

でも、ミリアはそうじゃなかっタ。

ミリアは、ナターリアと違ってタ。
ナターリアはいつも通りなのニ。
それなのに、ミリアはいつも通りじゃなくなっちゃったんダ。

「ミリ、ア……?」

ミリアのカワイイ服の真ん中くらいが、ジワーって赤くなる。
ミリアの楽しいお喋りをしてくれる口から、赤いのが少しずつたれてくる。
ミリアのドングリみたいな丸い目から、おっきな涙がボロボロってこぼれ落ちる。
ミリアの脚がガクンってなって、ウツブセになって地面に倒れる。
……ミリアの体から、血がどんどん溢れてきタ。
ナターリアには、何が起きたのか、分からなかっタ。

「ミリア、ミリア……!」

でも、しばらく頑張って考えたら、分かっタ。
ミリアは、そうしたかったわけじゃないのニ……引き金を、引いちゃったんダ!
生きたいってずっと思ってた、死にたくないってずっと思ってタ……そんな自分ニ!

「ミリアッ! ねェ、ミリア! ねェってバ!」

ウツブセだったミリアをアオムケにして、ナターリアは叫んダ。
でもミリアは声を出すことが出来ないみたいで、代わりに涙をボロボロ流し続ける。
大きな涙の一粒一粒がミリアのタマシイみたいに思えて、ナターリアは〝こぼれ落ちちゃダメだヨ〟って思っタ。
けれど涙をすくい上げても元には戻らなイ。ミリアのタマシイは、外へ外へ出て行っちゃうんダ。

「ミリア……ごめん、なさイ……ッ!」

ねェ、プロデューサー。ナターリア、やりかた間違えちゃっタ。
ナターリアのせいダ。銃を持ってるミリアを見たくなくて、あんなにモミクチャになっちゃったせいダ。
そうだヨ……ちょっと考えたら、危ないってわかってたのニ。
ミリアが弾を全部撃ってからじゃないといけないっテ……そう考えなきゃだったのニ。
でもナターリアがそうしなかったかラ……ミリア、酷い目に遭っちゃったヨ……!
ナターリアが、ナターリアがやったんダ! ナターリアが、ミリアを……ッ!

413Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:16:49 ID:1KdV9mxc0
「ミリア、ミリア……ミリア……」

お喋りが大好きだっていつも言ってたミリアが、何も言えずにナターリアを見る。
口から血が流れて、目からも涙がこぼれて、カワイイ服も真っ赤になって台無しダ。
プロデューサーのことを考えてた子がこんなことになるなんテ。
ねェ、どうしてミリアみたいな良い子が死ななきゃいけないノ? おかしいヨ。変だヨ!

「ミリア……」

ナターリアは、ミリアの手を握っタ。
ミリアの左手から銃を取って、二度と使えないようにナターリアの袋に入れてから手を握っタ。

「死なないデ……死んじゃ、ダメだヨ……」

そしたらミリアは、手を握りかえしてくれタ。
ナターリアのせいなのに、優しいミリアはそんなことをしてくれタ。
でも、あまり時間がないのはナターリアも分かってる。もう、ダメなんダ。

ミリアの目が閉じられていク。
手に残ってた力も、ドンドン無くなっていク。
そして最後には、息を吸ったり吐いたりしなくなっタ。
終わっタ。ミリアの世界は、終わっちゃったんダ。これで、終わりなんダ……。

ねェ、プロデューサー……。
ミリア、死んじゃったヨ。死んじゃっタ。
ナターリアのせいで、死んじゃったヨ!
ナターリアがバカだったから、ミリアに迷惑かけちゃっタ!
ミリアのプロデューサー、泣いちゃうヨ! ミリアのトモダチも、泣いちゃうヨ!

「ミ、リア……ッ! ミリア……ミリア、ミリア、ミ……リ、ア……」

それにナターリアも、泣いちゃダメなはずなのニ!
ナターリアが悪いって分かってるのに、涙が、止まらないヨ……!
目の前が滲ム。ミリアの名前も上手く言えなイ。頭がズキズキする。全部、自分のせいダ。
ごめんネ……ミリア。ナターリアがバカなせいダ! ゴメンなさい……ゴメンなさい……ッ!

ナターリア、バカだヨ……ッ!

414Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:17:38 ID:1KdV9mxc0


       ○       ●       ○       ●       ○


あーあ、って感じだった。
私は失敗してしまった。間違ってしまった。
ナターリアちゃんがあれだけ言ってくれたのにね。
それなのに私は、間違ってばっかりいた。
だからこれはきっと、バチが当たったんだと思う。

私の世界がなくなっていくとき、最後に見たのはナターリアちゃんだった。
ナターリアちゃんは、自分が悪いわけじゃないのに、とてもつらそうな顔をしてた。
ダメだね、私。ナターリアちゃんは笑ってる方がカワイイのに……それなのに、こんな顔をさせちゃって。

頑張って口を開いても、声が全然出てこない。
ナターリアちゃんのことを〝わからずや〟なんて言ったことを謝りたいのに、それも全然出来ない。
やっぱりバチだね、これ。人生最後の言葉があんなのなんて、私って最低だ。

いいよ、ナターリアちゃん。そんな私のために泣かなくたっていいよ。
そう伝えるために、私はナターリアちゃんの手を握り返す。
自分に残されたほんの少しの時間を、全部そのためだけに使った。
ごめんね、ごめんね。ナターリアちゃん、ごめんね。

神様がいたらお願いします。
ナターリアちゃんの涙は、どうか早めに止めてあげてください。

それともう一つ、大事な大事なお願い。
プロデューサーのことを、守ってください。
私にはそれが出来なかったから、神様が守ってください。

お願いします。


       ○       ●       ○       ●       ○

415Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:18:21 ID:1KdV9mxc0


ミリアが死んでから、ナターリアは泣いタ。
どれくらい時間が経ったかわかんないくらいナターリアは泣いタ。ずっと泣いてタ。
泣いて泣いて、それからもっと泣いテ……でも涙が涸れたところで、泣くのはやめて立ち上がっタ。

気付いたんダ。思い出したんダ。
ナターリアにはしなきゃいけないことがあって、それをミリアにも見ていてほしいんだってコト。
だからここでナターリアが死んじゃったらダメだっテ……ナターリアは、改めて思ったんダ。
確かに、もうミリアは死んじゃっタ。ナターリアのせいで死んじゃっタ。
じゃあどうする? 答えは一つダ。ナターリアは、死んじゃったミリアの分まで頑張らなきゃいけなイ。
ミリアみたいな子を、それとナターリアみたいに失敗しちゃう子を一人でも減らさなきゃいけなイ。
ミリアの時間を奪っちゃったナターリアには、ホントはそうする資格はないかもだけド……でも、それでもやらなきゃダメなんダ。

「ゴメンね、ミリア……」

何度目になるかも覚えてないけど、心からミリアに謝る。
そしてこんな山道の真ん中で倒れちゃったミリアを頑張って隅っこに運んで、見えにくい場所に寝かせてあげタ。
かわいい服は真っ赤でダイナシになっちゃったから、代わりに温泉から持ってきたユカタを着せてあげる。
それから最後に胸のところで手を組ませてあげて、涙の跡を拭っタ。また小さく「ごめんネ……ごめんネ……」って呟きながラ。
これで、オワリ。本当はちゃんとしたお墓を作ってあげたイ。でも、今のナターリアじゃそれは出来なイ。だから、こうしタ。
残りは、ライブに取っておくヨ。せめてナターリアの大好きな歌で、ミリアをとびっきりの天国に案内してあげるからネ。
だからミリア……ナターリアはハクジョーかもしれないけど、今は許してくださイ。そのかわり、ナターリア、頑張るかラ。

ねェ、プロデューサー。
ナターリア、ちょっとくじけそうだヨ。
でもね、でもね、それでももっと頑張ル。
取り返しのつかないことしちゃったから、だからこそナターリア、頑張るヨ。
そうじゃなきゃ、ミリアだって今度こそ本当に怒るもン。

だから、ライブ、頑張ル! ミリアにも届くくらい、ダイオンリョーでブチカマス! 今度こそ間違えなイ!
ナターリア、ちゃんとミンナのために頑張る! ミンナが手を繋いで輪になれるように、ナターリアは太陽になるヨ!
だから、だから、

「だからミリア……バイバイ。ナターリア、ミリアの分まで……頑張るかラ!」

ナターリア、たくさん頑張るヨ。




【E-4 森の中/一日目 黎明】

【ナターリア】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、確認済み不明支給品×1、温泉施設での現地調達品色々×複数、タウルス レイジングブル】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして自分もみんなも熱くする
1:B-2野外ライブステージでライブする


・タウルス レイジングブル
銃身に「RAGING BULL(怒れる牡牛)」の文字が描かれた大型のリボルバー。
ブラジルのタウルス社製。



【赤城みりあ 死亡】

416 ◆RyMpI.naO6:2012/11/13(火) 01:18:51 ID:1KdV9mxc0
大変お騒がせ致しました、投下終了です。
何かありましたら、宜しくお願いします。

417名無しさん:2012/11/13(火) 02:15:10 ID:rpRWnzCg0
投下お疲れ様です!
みりあちゃん死んだー!? 死なせちまったー!?
うわあ、予約的には想像できなくて、でも冒頭のナタからフラグはビンビン立ってたんだけど、こうなっちまったかあ
これ、ナタ的には潰れても誰も文句言えないくらいきついんだけど、それでも頑張っちゃういい子なのはなんか辛いなあ
せめて手を握り直してくれたミリアの今際の想いが伝わってくれていることを切に祈る

418名無しさん:2012/11/13(火) 03:01:12 ID:tlpH.MG20
投下おつです

みりあは銃を満足に撃てない時点で「もういい、もうやめろ」と言いたくなったぜ…
そして二人がもみ合いになったところでどちらかは脱落するか覚悟してたけど、おお、もう……
ナターリアは何としても罪悪感に潰れずライブを成功させてほしい

419 ◆44Kea75srM:2012/11/14(水) 00:42:35 ID:rcsK0Le60
投下乙です〜

>Ciranda, Cirandinha
完全に意表を突かれたw まさか蘭子の招いた誤解フラグがみりあちゃんの覚悟スイッチになっちゃうなんて……本人中二病なだけなのに……w
殺し合いをやると決めて早々、顔見知りのナターリアと会っちゃったときのテンパリ具合がまた等身大で愛らしい。
結末は悲劇的だったけど、ナターリアがんばった。みりあも超がんばった。かわいそうな話なのに、最後は不思議と晴れ晴れしい。
それにしても、ナターリアは強い子だなー。他の子たちが殺し殺されで阿鼻叫喚としている中、ナタはナタならではの、等身大の強さを保っている気がする。

そして自分は
五十嵐響子、市原仁奈、和久井留美、双葉杏で予約します。

420 ◆JxZtJW5LII:2012/11/15(木) 01:11:23 ID:VOKXpgTA0
投下乙です!
死んだ!またロリが死んだ!
ナターリアには耐えて頑張って欲しい…

あと申し訳ないのですが、予約期間の5日間を過ぎても完成出来ませんでしたので
北条加蓮、神谷奈緒、若林智香、木村夏樹の予約破棄します
多人数予約して完成せず、本当にすいませんでした

421名無しさん:2012/11/15(木) 01:50:43 ID:uGSJRZDw0
◆j1Wv59wPk2氏の予約ですが、予約されたのが>>330ですのでまだ本日20:46までは予約期限の五日間以内だと思うのですがどうでしょうか?

422 ◆GeMMAPe9LY:2012/11/15(木) 02:32:32 ID:OlIAUKKo0
うう、あまりの進行スピードに感想が追いつきません!

・目に映るは、世界の滅亡
 まさかの生きた時限式トラップになる気概の相葉さん。
 色のない絶望、そして得意なスタンスが新鮮でした。
・悪夢かもしれないけど
 一気に誰も信じられない状態になってしまった小梅ちゃん。
 おおぅ、未来はどっちだ……
・アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ!
 大人数予約と思ったらジョーカー×5、という思い切った構図に度肝を抜かれました。
 笑顔でとんでもないことを言い出すちひろさんマジ外道。
・ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
 茜ちゃんってば熱いですね。
 不安定だっただりーなも影響されて、この熱血真直ぐコンビ果たしてどうなるやら。
・眠る少女に、目醒めの夢を。
 文の端々にでる非常に"らしい"表現が好みです。
 なお一番のお気に入りは"同じ土から生まれた器"という表現の模様。
・蜘蛛の糸
 アイエエエエエ、ミナミ! ミナミナンデ!? ――失礼しました。
 美波ちゃん……怖いですね。
 原作絵でも何かをたくらんでるように見えてきます……
・彼女たちに忍び寄るサードフォース
 第三勢力(サードフォース)ってそういうことですかぁー!
 鳴り物入りで登場した唯ちゃんが……おおう。
 ジョーカーを超えるスーパージョーカー……かな子ってば恐ろしい子。
 そしてちひろさんが更なるド外道に……!
・捧げたいKindness
 病院といったシチュエーションと合わさって、追い詰められている感じが伝わってきます。
 覚悟も決めれない、けれど。
 あしたは、どっちだ。
・真夜中の太陽
 2人も一気に……しかも焼夷弾で生きたまま焼かれるという地獄。
 バケモノ呼ばわりされたほうもしたほうもなんと救いのない終わりか。
 数話前とは一転して金星を挙げたジョーカー。
・彼女たちの物語
 最悪の支給品が出てしまった……
 アイドルが集まるこのロワならではの支給品ですね。
・さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を
 まさかのコンビ奉仕ステルス……
 果たして彼女らは哀しくも愛おしい劇を演じきることができるのか……
・飛べない翼
 マイペースを崩さない楓さんと試みだすまゆ。
 ところでなんで戦闘機がさらりと置かれてるんでしょうね……w
・Ciranda, Cirandinha
 本当にこのロワは子供に厳しいロワですね……w
 ナターリアにはまっすぐなまま頑張ってほしいものです。

そんな中で相葉夕美を予約いたします。

423 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 20:47:23 ID:EcMyTyQg0
>>421
水曜日までだと思っていたのですが…
でも、もしその時間までセーフなら、今から投稿してもよろしいでしょうか?

あと、どっちにしろ木村夏樹は使いませんでしたので、こちらは確実に予約破棄します
二転三転して申し訳ありません

424名無しさん:2012/11/15(木) 21:09:54 ID:WcmQMjZM0
>>423
ナツキチのみ破棄了解です
投下してもよろしいかと

425 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:15:05 ID:EcMyTyQg0
遅れたりお騒がせしてすいませんでした

では神谷奈緒、若林智香、北条加蓮投下します。

426My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:16:08 ID:EcMyTyQg0
「どうして、こんな事になっちゃったんだろ」

町役場の中で若林智香は呟いた。
彼女が手にもっていたのは、特性手榴弾『ストロベリー・ボム』。
その威力は通常の1.5倍らしく、それでいてかさばらず軽いコンパクトさ。
ただの女の子である智香にとって1.5倍の威力というのはいまいちピンとこなかったが、
これのピンを抜いて、レバーを倒すだけで人が死ぬ。それだけは理解できた。
――私は、これで人を殺す。殺さなければならない。
そうしないと、私の大切な人が死んでしまうから。

「殺し合いなんて、したくないのになぁ」

でも、他の皆は乗るのだろう。
同じユニットのメンバー、相川千夏、大槻唯、緒方智恵理、五十嵐響子。
皆、同じプロデューサーに恋をするライバルでもあるのだ。
そして、皆が皆覚悟を決めて、殺し合いに乗るのだろう。

「わかる、わかるよ智絵里ちゃん。きっとたくさん謝ってるよね」

――緒方智恵理。気弱でおとなしい少女。
あの子とはパジャマをモチーフにしたイベントで二人で参加し、
そこからプライベートな話とかで仲良くなった、友達だ。
智恵理もプロデューサーに恋心を抱いていたのは昨日の話で理解していたし、
あんな機会が無くたって大体予想はついていた。

だから、そんな彼女でさえもこの殺し合いに乗るのだろう。
昨日の時点で五人の気持ちは伝わったから。
あの子を縛る鎖はもうないから、覚悟は決めているはずだ。

自分勝手だ。愚か過ぎる。プロデューサーのために、かつての友人も殺す。

「だけど――アタシだって!」

愛する人を救う。大切な人を救う。
最後のストロベリー・ボムをバックに入れ、背負った。
この背中の武器が11人の命を、奪う。その事実が、バックを重く感じさせた。

もう、元の日常には戻れないから。
だから、せめて私の思いを伝えたい。

彼女は意を決して、町役場を飛び出した。

    *    *    *

427My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:17:07 ID:EcMyTyQg0
「はぁ…はぁ……もう、追ってきてないみたいだな」

町の通りの真ん中で、息を切らした神谷奈緒は後ろを振り返った。
そこには誰もいなかった。
あるのはただの暗闇、奈緒にはもうこの道は引き返せない。

「……ごめん」

奈緒はもう姿の見えない友人に謝った。
逃げたことに、殺しかけたことに、――これから自分がすることに。
殺し合いに乗る。友人と、プロデューサーのために。
もちろんそんな理由で殺人が正当化されるはずは無い。
きっと凛も、加蓮も、プロデューサーもそんな事は望んでないのだろう。
だが、やらねば死ぬ。加蓮も、凛も、プロデューサーも。
誰かが手を汚さなくてはならないのなら、あたしが背負おう。

――もう、あの頃の日常には戻れないのだろう。
どうしてこんな事になったのか。
答えのない問いは考えないようにした。

(…………!)

目的地も無く、歩き続けた先にあったのは町の役所。
その入口、そこに次の相手は居た。
奈緒は咄嗟に角に隠れた。手に握られたトマホークに汗がにじむ。
こんな武器では正面から戦うには分が悪い。やるなら不意打ちしかない。

(まだ、心の準備が出来てないってのに……)

より握る手に力が入る。
さっきはその直前までできた。今回だって、いけるはずだ。
角から覗き見る。相手は向こう側へ進んでいた。
つまり、こちらに背を向けている形になる。
この距離なら、飛び出して振り下ろすだけで、殺せる。
今度は良く知る相手ではない。躊躇する必要はない。
相手は遠ざかっていく。こちらに気付いている様子は無い。
これ以上離れられると手が出せなくなる。

…やるなら、今しかない。


(動け、あたしの体っ!)


建物の影から飛び出す。足がもつれそうになる。
だが、ここで止まる訳にはいかない。
相手もこちらの存在に気付いたようだ。だが、この距離なら当てられる!
あたしは、武器を横に大きく振りかぶり…


その瞬間に、あの光景が浮かんだような気がした。
あの時の加蓮の姿が。

428My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:18:16 ID:EcMyTyQg0
「―――っ!!」


相手は地に倒れる。
だが、相手は生きていた。
結論から言えば、致命傷を与えることは出来なかった。
咄嗟に腕で防がれた。腕こそ砕けたとは思うが、それで死ぬはずがない。
……一瞬の戸惑いが、相手に防御のチャンスを与えてしまったのだろうか。

「あぐっ……ひぐっ……」
「…………」

だが、それが何だというのだろう。
確かにこの一撃で相手は死ななかった。だがその痛みで戦意を喪失している。
相手の運命は変わらない。またこの武器で頭を粉砕すればいいだけの話だ。
この悲痛な喘ぎを聞くと決意が鈍ってしまいそうだった。
だから、あたしはすぐに構える。
これを振り下ろすだけ、それだけで神谷奈緒の人殺しデビューは完了だ。
嫌な汗が体中を包む。だがもう三度目だ、決断は早かった。

「悪いな、アタシ達のために死んでくれ」



こんな時、アニメとかだったら誰かが救いに来るんだろうな、って。
そんな事を思っていたからかもしれない。



「奈緒……っ!」
「………加蓮」

まさに振り下ろす直前の出来事だった。
一番出会いたくなかった人に、また最悪のタイミングで出会ってしまった。

    *    *    *

―――昔の私は、自分の力じゃ何もできないと思ってた。
なら、今の私は?

429My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:19:40 ID:EcMyTyQg0
今の私には奈緒を止められるすべは何もなかった。
奈緒は私達を思って、私達を守るために殺し合いに乗ろうとしている。
だから、きっと声が届いたとしても、頑なに拒むのだろう。

奈緒の進む道には絶望しかない。
暗く、深い絶望の道。
私にはそれを救う、連れていける力は無い。
今の私に出来ることは何もないの?
奈緒を、凛を、プロデューサーを救うために。私は、私は……。


私は、『覚悟』を決めた。


気がつけば、涙は止まっていた。
走り続けていた影響か、脇腹は痛く、呼吸は整わない。
目の前は暗く、先は見えない。
でも、まだこの先に…奈緒がいるはずなんだ。
そう遠くない場所に。

私を包むカーテンはもう無くなった。
私は現実と向き合わなくてはいけない。

私は、また走り出していた。
足が痛む。息も荒くなる。
でも、私は向かわなければいけない。もし彼女を止められないのなら、私の覚悟を…



道を曲がる。そこに、探し人の姿はあった。

「奈緒……っ!」
「………加蓮」

その体を血で濡らして。

430My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:20:58 ID:EcMyTyQg0
出会った瞬間、今まさに人に刃を振り下ろそうとしていた。
あの時と同じように。
きっと、私が来なければ振り下ろされていたのだろう。

「それ……奈緒がやったの?」
「………」

返事は無い。だけど、逸らした目がそれを真実だと伝えていた。
ああ、奈緒はもう戻れない所まで行ってしまったのか。
もう私の説得の言葉は届かない。彼女はこれから、罪を背負って生きていくから。
引き返すことなんて、できないから。

「…見ればわかるだろ?あたしがやったんだよ」
「……奈緒」
「あたしは、殺し合いに乗ってるから」

冷たい言葉。でも、私にはそれが強がりの嘘だとすぐにわかった。
私を巻き込みたくないから。いつもの強がりで突き放そうとしているんだ。
奈緒は、こちらへ瞳を向けた。
その目には、奈緒の覚悟と、決意と、…悲しみがあった気がした。

「それ以上近づいたら、……お前も殺すぞ」

嘘だ。奈緒が私を殺せるはずがない。
長く付き合ってきた仲だから、本当にそんな事が出来ないことは知っている。
でも、それを指摘した所で、きっと奈緒は止まらない。

今の奈緒を救える方法は、思いつく限りで一つしかない。

私だってもう覚悟はできているはずだ。
あとは、それを行動に移すだけ。
今からすることは、奈緒の気持ちを踏みにじる事かもしれない。
でも、奈緒がもう戻れないのなら、私は……




私は、クロスボウを構えた。



    *    *    *

431My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:22:08 ID:EcMyTyQg0

刃が、止まった。

「あ……ぐぅ…」

向こう側に人影が見える。彼女が止めてくれたのだろうか。
なにやら言い争いをしているようだ。今相手の意識は自分には向かっていない。

チャンスだ。この窮地を脱せるのは今しかない。

智香は残りの精神を全てフル回転させる。
いま持っている武器はバックの中のストロベリー・ボムしかない。
しかし、この至近距離では自分自身も無事では済まないだろう。
だが、近くの人間を盾にすればどうだろうか?
それの威力を見たことは無いが、おそらく人を完全に破壊するほどのものでもないはず。
形さえ残っていれば直撃は防げるだろう。
あるいは、人質を作りこの場を離れる?
この二人は知り合いのように思えた。仲が良いのなら充分にいけるはず。
他に何か…

頭の中で思考が巡る。
こんな所で死ぬわけにはいかないから。



だから、それに気付くのに遅れたのだろうか。



ドン、と。体に衝撃が走った。


「……ぇ」

一瞬、何が起きたのか全くわからなかった。
かすれていた意識を全て自分の状況に使っていたから。
確認しようにも、うまく動かない。
片腕は無残な姿となり、もう片腕は震えるばかりだった。
そうしているうちに、彼女の体にさらにもう一発撃ち込まれる。

「がっ………は」

口から血が吹き出る。体からも流れ出ていく。
何か言い合っているように思えるが、もはや彼女にそれを認識する力は無かった。
感じるのは痛みのみ。うっすらと、しかし確実に死を実感していた。

(う…嘘、こんな……ところで……)

片方がこちらに向かってくる。その手にはクロスボウが握られていた。
狙う先は頭。とどめを刺す気なのだろう。
彼女はもう、痛みと悲しみで、生を諦めていた。
最後に思い浮かんだのはそんな現状の事でも、自分の事でもない。
親愛なるプロデューサーと、友人の姿。

(智絵里ちゃん…頑張って生きて。――さんといっしょに、しあわせを…)


それは、ユニットの仲間としてではなく、殺し合いのライバルとしてでもなく、
純粋な、友人としての願い。


届くかなぁ、私の応援。


(……届くわけないか)


人を盾にするとか、人質をとるとか。

そんな私は、アイドル失格だから。



彼女にとって、最後の音が聞こえた。



    *    *    *

432My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:23:25 ID:EcMyTyQg0
「な……!」

それは突然の出来事だった。
加蓮が持っていたクロスボウで人を撃った。
狙いは…あたしが殺そうとしていた相手。
反応が遅れた。その間に間髪いれずもう一発撃ち込まれる。

「か、加蓮……お前」
「奈緒は、殺し合いに乗る」

加蓮が口を開く。それはおそらくあたしに言ったわけではなく、
自分への確認の意味があったのだろう。
そうだ、殺し合いに乗る、その意思は確かに伝えたはずだ。
なのに、なんで…

「私達を守るために、自らが汚れ役を被って」
「………っ!?」

どきっとした。あたしの真意はとっくのとうに気付かれていたのだ。
加蓮はそれを気にもせず歩きだす。あたしの方ではなく、動きを見せない少女の方へ。

「でも、私だって奈緒には死んでほしくない」

凛やプロデューサーだって。そう言葉を続ける。
加蓮は歩みを止め、そしてクロスボウを向ける。その先にはあるのは…標的の頭。

「何、するつもりだよ…加蓮」
「私だって!」

あたしの言葉をさえぎるように叫ぶ。
いや、質問の答えなんてとっくに気付いている。
あたしが聞きたいのは、そんな事じゃない。

「私だって、奈緒を!凛を、プロデューサーを守りたい!
 私にアイドルの楽しさを教えてくれた皆を、死なせたくない!」

加蓮の悲痛な叫びがこだまする。
ここまで感情を露わにした加蓮の姿は初めて見た気がした。
そうだ。このままだと加蓮は人を殺す。
止めないと。そんな汚れ役はあたしだけで十分なんだ。
加蓮には、普通の日常に戻ってほしいから。

「だから、だから私……!」
「馬鹿っ、やめろ!」



引鉄を引いた。それはさも当り前のように対象を貫いた。

433My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:27:39 ID:EcMyTyQg0


――死んだ。もう動く事は無かった。


「……私も、殺し合いに乗るよ」


加蓮の言葉。その覚悟は、既に行動で示していた。

「奈緒一人に、全てを背負わせないから」

瞳が合う。その目はきっと、さっきのあたしと同じものなのだと思った。

「……加蓮、お前……!」
「二人でなら、きっと殺人も楽にできるよ」

殺人。
加蓮の口から出たその言葉は、あまりに非現実的な言葉で、
まるで夢なのかと錯覚してしまう。
でも、これはまぎれもない現実だ。
加蓮は、人を殺した。そして……あたしも。

「人を殺すのは、辛くて悲しくて、罪悪感も酷いけどさ」


―――二人なら、きっとそんな痛みも分け合えるんじゃないかな。



ああ、だから、嫌だったんだ。
きっと、加蓮はあたしを救おうとするから。
本当は駄目だってわかってるのに。
あたしは、甘えたら駄目なんだ。一人で、守って……



気がつけば、あたしは泣いていた。
この先にあるのは相変わらず暗い絶望の道だけど。
その手を掴んでくれる、……親友がいたから。


【G-4/一日目 深夜】

【若林智香 死亡】

【北条加蓮】
【装備:ピストルクロスボウ】
【所持品:基本支給品一式×1、専用矢(残り21本)、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。
1:奈緒と一緒に、凛と奈緒以外の参加者を殺していく
2:凛には、もう会いたくない。

【神谷奈緒】
【装備:軍用トマホーク】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0〜1(武器ではない)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:加蓮と共に殺し合いに参加する?
1:凛と加蓮以外の参加者の数を減らしていく

※若林智香の支給品はすぐ近くに放置されてあります。

434My Best Friend ◆j1Wv59wPk2:2012/11/15(木) 21:28:23 ID:EcMyTyQg0
以上で投下終了です。

遅れてしまいすいませんでした…

435名無しさん:2012/11/15(木) 21:47:17 ID:WcmQMjZM0
投下お疲れ様でした!
私を包むカーテンはもう無くなった。 とか 二人でなら、きっと殺人も楽にできるよ ってのがなんかすげえ素晴らしい
よくよく考えたらロワ全体でも友情のために奉仕マーダーってのはそれなりに見るけど、友情のために一緒にマーダーってのは珍しくて新鮮なんだよな
殺すのが辛くて悲しくて、でも、二人なら、それを“楽”って現したのがほんと、なんかこの話の全てなんだろなあ
智香も最後に友達想って殺されたのは皮肉というか悲しいというか

436 ◆kiwseicho2:2012/11/16(金) 00:00:15 ID:jUUDTmR20
投下乙です……!
これは美しい友情と呼ぶべきなんだろうか?
確かに同じプロデューサーなら協力プレイのほうが生き残る確率も殺せる確率も上がるんだけど、
なんというかすごく無常だ。そしてある意味若林ちゃんも無常である。

三村かな子、予約します

437 ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:34:26 ID:lqIQHv1A0
遅れてすみません。急いで投下いきます。

438彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:35:14 ID:lqIQHv1A0
ヒーローであろうと決心した南条光は、天文台のある山頂を離れ今はひたすらに山道を伝って山を下りていた。

小さな身体にいびつに膨らんだリュックを背負い、肩に金属製のフラフープのような大きなわっかをかけて歩いている。
勾配はあるが道はひどくはない。
ひびだらけとはいえ、車が通れるようにアスファルトが敷かれているし、二車線分の広さは歩くのには十分だ。
今は真夜中だが、道の片側が急な斜面となっており、月光をはばむ背の高い木がないのでそれほど明るさにも困らない。
時々、思い出したかのように頼りない街灯と案内板が現れるのだが、南条光はこれを頼りにすることで確実に麓へと進んでいた。

見知らぬ土地、未知の脅威に警戒するのも歩き慣れるまでのこと。
三つ目の案内板を見てこのまま進めば温泉があることを知る頃には、歩き始めた頃にあった緊張と警戒心は半分ほどに薄まっていた。
代わりに彼女の中を占めていくのは考え事だ。
例えば、彼女はここでヒーローらしくあろうとすることを決心した。では、それは具体的にはどういった行動を指すのか?

「ちひろはどこにいるんだろう……」

敵の首領たる、あるいは少なくとも幹部であると思われる千川ちひろを見つけ出し倒せばこの事件は解決するんじゃないか。
きっと彼女らが潜んでいる場所にはみんなを縛っている首輪の解除装置もあるに違いない。
だから、ようは彼女が隠れている場所さえ見つければ……と南条光は考える。

ではそれをどう発見すればいいんだろう?
これが南条光の愛する特撮作品ならば、こうやって歩き回っているうちに怪しい人影か千川ちひろの後ろ姿なんかを発見して、
彼女を尾行することで秘密の入り口なんかを容易く見つけられることだろう。
それは半分くらいの確率で罠だったりするが、ヒーローだったらその罠すらも跳ね返して最後には勝利するのだ。

「アタシに……できるのか?」

千川ちひろの潜む敵アジトで武器を構える戦闘員の集団に囲まれている図を想像し南条光は肩を震わせた。
身体は小さいが運動には自身がある。特撮ヒーローを真似て自己流で色んな特訓や必殺技の練習をしたこともある。
アイドルになってからはよりレッスンで鍛えているし、一度だけ戦隊もののアクターさんに簡単な指導を受けたこともある。
それでも子供では大人には勝てないという厳然たる事実は覆せない。
もし敵のアジトを発見することができたとしてもあっけなく捕まってしまうだろう。妄想の中のようにうまくいくはずがない。

「アタシはヒーローじゃない」

それは仕方ないと南条光は認めている。現状、彼女はまだ非力な子供の女の子でしかないのだ。
でも、未完成だからこそ未来に向かって歩むことができる。未熟だからこそ誰かに頼ることもできる。
特撮の中での話なら、正義を志すあまりに無謀な行動を取る子供は一度は痛い目を見るも、最後は本物のヒーローに助け出される。
そして自らの未熟さを省みると同時にヒーローへの憧れもまた強くしてまた未来へと歩き出すのだ。
でも、ここでは“本物のヒーロー”が現れるなんてことは期待できない。自分が今すぐ本物のヒーローになるというのも無理な話だ。

「でも、アタシひとりでもない……!」

ここには60人の『アイドル』がいる。
そしてヒーローは決して孤独な存在ではない。その傍らには共に戦う仲間が、その背中を支える友の姿が常にある。

「小春……、レイナ……、杏ねーちゃん……」

南条光は事務所の中でも特に仲のいいアイドルの名前を挙げていく。
古賀小春はいつもイグアナを抱いている可愛い女の子だ。ほわわんとしすぎて時々心配になるけど近くにいると心が癒される。
レイナ――小関麗奈は自称・悪者だ。小春をいじめていつも自分と対立する。でも本当は全然悪い奴じゃないことも知っている。
杏ねーちゃんはいつも事務所でダラダラしている。
なんでも、働いたら負けらしい。一体何と戦っているんだろうか? しかし、そんななのにみんなの仲で一番仕事が多いのが理不尽だ。
そしてもうひとり。うさぎの耳のみんなに優しい人。自分とプロデューサーが同じ彼女の名を呟こうとした時――

ガサガサと茂みをかきわける音が南条光の思考を遮った。

439彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:35:41 ID:lqIQHv1A0
 @


ついに本来の使命を“思い出し”、魔王を倒すべく第一歩を踏み出そうとした勇者ナナこと安部菜々であったが、途方に暮れることとなった。
特に目的地は定めず見敵必殺とはいってもどちらに進むにしても回りは全て深い森なのである。
とりあえず目の前の森の中を見る。真っ暗だ。右のほうを見てみる。真っ暗だ。左のほうも変わらない。振り向いてみても同じだった。

「……………………………………あ、そうでした! 秋月博士がこんなこともあろうかとって!」

勇者ナナは博士に持たされた背負い袋を下ろすと、しゃがみこんでその中から一枚の板切れのようなものを取り出した。
それは秋月博士が発明した最新の情報端末だ。スイッチひとつで画面に明かりが点り、簡単な操作でそこに島の地図が浮かび上がった。
その地図の中央には勇者ナナの名前が記されている。つまりそこが現在位置ということになる。

「えっと、えっと……これかな? これかな? …………お店の子はどうしてたっけ? あ、こうだ」

更に少しの操作でその名前の上に矢印が追加された。
その矢印は勇者ナナが情報端末を右に向けると地図の北を指し、左に向けると地図の南を指す。
しかも、地図上に記された施設を指先でつつけばそこまでのルートも表示されるという――つまり秋月博士によるナビゲーション機能つきなのだ。
この導きがあればもはやどのような秘境や迷宮の奥であろうと迷うことはない。最近の冒険は実に親切設計だ。

「ではさっそく出発ですっ!」

勇者ナナはとりあえず一番近い施設である温泉までのナビを出すと、もうひとつ秋月博士の用意した懐中電灯を握り締めて森の中へと踏み入った。






 @


南条光が歩いていた山道。片側が斜面となっているその反対側、深く暗い森の中から飛び出してきたのはメイドの格好をしたウサミン星人だった。
彼女のプロデューサーが担当しているもうひとりのなりきり系アイドル――安部菜々その人だった。

「…………菜々さん?」
「え、光ちゃん?」

森をつっきってきたらしい安部菜々の姿はぼろぼろだった。服のあちこちに枯葉や枯枝がくっついてスカートの裾は泥で汚れ、ニーソはほつれている。
けどそれは森の中を通ったからだけであって、別に怪我やなにかをしている様子はない。
ほっと胸を撫で下ろすと南条光は彼女の元へと駆け寄ることにした。

「よかった。菜々さんが無事で――……、え?」

だがそれは半ばほどで制止されることになる。駆け寄ろうとしたその対象である安部菜々が剣を構え切っ先を南条光のほうへと突きつけたからだ。

「そっか。“彼女”の送り込んだ最初の刺客は光ちゃんだったんだね」
「それって……?」
「私も残念だよ。でもね、光ちゃんが魔王の手先であることはもうわかってるんだよ」
「なっ……!」

南条光は戦慄した。彼女が発した言葉の意味がわからないのではなく、逆に、理解することが容易だったからだ。

440彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:36:03 ID:lqIQHv1A0
「菜々さんしっかりしてッ! そんなの駄目だよ。アタシらで争ってもあの女の思う壺だよッ!」

それはただ言葉どおりの意味だけではない。
彼女も自分と同じようにその心を押しつぶそうとする恐怖を相手に答えを見つけ出そうとして、しかしその闇の中に閉じ込められてしまったのだ。
安部菜々は“殺しあう”という選択をしてしまった。みんなに優しくて面倒見のいい彼女がそんな選択をしてしまった。
では、南条光がヒーローを志すならば、そうなってしまった彼女を救わなくてはいけない。
――しかし、どうやって?

「アタシらが殺しあうなんてそんなのおかしいよ。絶対に間違ってるッ!」
「おかしいのは光ちゃんのほうだよッ!」

剣先を突きつけたまま安部菜々が微笑む。それはこんなシーンにはそぐわない、ゾッとするようないつもどおりの優しい笑顔だった。

「プロデューサーを助けないといけないのにどうして光ちゃんは戦わないのかな!?」
「戦うッ! でも、その相手は菜々さんじゃないッ!」
「そうやってナナから戦意を奪おうとしてるんだよね。光ちゃんの考えも、光ちゃんをここに使わした魔王の考えもナナにはお見通しなんだから」
「お願い、いつもの菜々さんに戻ってッ!」

両手に大振りの剣を握ってにじり寄る安部菜々を前に、南条光はまた己の無力さに打ちひしがれていた。
目の前の彼女を正気に戻さなくてはいけないのに、その心に届く言葉が見つからないのだ。
あんなに可愛がってもらったのに。時には妹のように、時には母親のように。なのにこんな時に彼女の心へと届けるべき言葉がわからない。
そして探しあぐねているうちに戦いの火蓋は切られてしまう。

「たぁ――ッ!」

気合の声と共に両手剣を上段に持ち上げた安部菜々が突進してくる。
対して南条光は武器を構えることすらできない。
戦う理由もなく、唐突に迫る生命の危機に対しどう対処すべきかという考えすら咄嗟には思い浮かばなかった。

「やっ…………!」

閃く切っ先がわずかに南条光の身体を引っ掻き、彼女の小さな口から悲鳴がこぼれる。
振り下ろされた刃からこわばる彼女の命を救ったのは、剣撃を放った人物の拙さと辛うじて発揮された彼女自身の生存本能だった。

「どうして……っ?」

痛みは感じない。しかし傷口を押さえた手のひらはべったりと血で濡れてしまった。
その赤色がただただ恐ろしい。ぬるぬるとした感触と赤色がひたすらに南条光の心を恐怖で犯してゆく。
普段より頭の中で想定しているコンバットパターンは全部どこかに飛んでいってしまった。そんなものは現実の前にはあまりにも無力だ。

「やめ――――」
「やっぱり、最初の敵は雑魚キャラですっ!」

二度三度と剣の軌跡が閃き、南条光の身体に容赦なく大小の傷を刻んでいく。
その笑みがサディスティックなものに変わりつつある安部菜々を前に、ヒーローを志すはずの彼女はただ逃げ回ることしかできない。

それほどまでに敬愛する人物から殺されそうになるということは恐ろしい。
彼女に届ける言葉が見つからないことも、実際に血が流れて殺されてしまいそうになることも怖い。
心が恐怖に傾けば、恐怖は倍に倍に大きくなって襲い掛かってくる。
その大きさはあまりにもで、小さな身体の中でみつけたなけなしの勇気だけではとても太刀打ちのできるものではない。
今直面しているこれはまさしく悪夢でしかなく――

そして、南条光は逃げるように奈落へと身を躍らせた。

441彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:36:34 ID:lqIQHv1A0
 @


「うーん、見つからないなぁ……」

山道から斜面へと転がりだし、茂みの中に消えてしまった南条光。
その姿を探そうと勇者ナナは闇を払う懐中電灯の光を振るも、やはり茂みの中に消えてしまったものは見つけようがない。

「しかたないですねぇ」

手傷は負わせてはいるが、確実にやっつけたとは言えない以上、勇者ナナとしてはここはとどめを刺しに斜面を下りたいところだ。
やっつけなくてはいけないアイドルの数は59人。取りこぼすことがあればそれだけ手間と苦労が増えてしまう。
しかし崖といわないまでも急斜面と言えるぐらいには斜面の角度は深い。
さきほど、森の中で木の根っこに足をひっかけて転ぶこと5回、枯葉に足を滑らせること2回と転びまくった安部菜々である。
この斜面を下りていくというのはちょっとした以上の冒険だった。

「――ということで、アイ☆ウィーン♪ 勇者ナナ初戦突破ですっ!」

なので、そう勝ち名乗りを上げると、安部菜々は再び情報端末を取り出し山道を温泉の方へと下りていくのだった。






舗装された道は森の中とは比べものにならないくらい歩きやすく、ほどなく温泉がすぐ先にあると示す看板の前までたどり着いた。
看板には温泉の名前と効能。宿泊施設を完備していることと、大きく『この先100m』と書かれている。

「これはきっと四条女神様のはからいですよねっ♪」

いかに選ばれし勇者とはいえ回復もなしに59人の手下と魔王を倒しきることはできない。
だからこそ女神様はこの地に温泉を湧かせることで立ち寄りやすい回復ポイントを用意したのだろうと勇者ナナはそう解釈した。
温泉の効能には打ち身や切り傷に効果があると書かれている。飲めばマジックポイントも回復するかもしれない。
最近ひどくなる一方の肩こりや腰痛、事務所で小さい子らに囲まれていると意識せざるを得ない肌の張りなんかも改善するかもしれない。
いわゆる、神の定めしうつろいの理に逆らう禁忌の白魔法『アンチエイジング』――この温泉はその泉なのかもしれない。

「ナナは女神様に御認可をいただいた特別優良勇者だから特別ですっ☆」

ということで勇者ナナは再び歩き始めた。もし温泉を守る敵がいるのなら絶対倒すと剣を握る手に力をこめて。
だが、数歩――看板の隣を通り抜けたというところで勇者ナナは再び足を止めた。

「何者っ?」

足音だ。ナナが下りてきた道からそれは聞こえてくる。しかも走ってくる。振り返ると人影はもう間近まで迫っていた。

「正体を現せっ!」

秋月博士お手製の懐中電灯が闇の衣を剥ぎ取り強襲をかけようとしていた敵の姿を光の中に曝け出す。

「なっ!?」

しかし、そこに現れた姿はあまりにも彼女の想像の外にあるものだった。
“その人物”を勇者ナナは――いや、安部菜々は知っている。アイドルとして憧れの存在だった。だからこそ、こんな場所にいるわけがない。
その存在はまさに生きる伝説。安部菜々が理想としたアイドルのひとつの完成形だ。
小さい頃に彼女をTVの中で見たからこそ、そちらの文化に傾倒し、メイド喫茶で働きながら声優やアイドルを目指すようになったのだ。

「わ、ワンダーモモ……っ!?」

今、彼女の目の前に降臨したのは、ロリコット星からやってきた伝説の正義の変身アイドル――ワンダーモモだった。

442彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:37:13 ID:lqIQHv1A0
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斜面を転がり落ちた南条光はその身体を受け止めてくれた木に寄りかかりながら再び自問自答を繰り返していた。
転がることで新しくできた傷も含めプロデューサーが見たら悲鳴をあげそうなくらい全身傷だらけだがそんなことは気にかからない。
それよりも、自分がここで何をすることがヒーローへと進む道なのか――それが重要だった。

これまでの人生、南条光にとってヒーローになるとはその真似事をしたり玩具を集めたりヒーローを語ることだった。
アイドルへの道が開けることでヒーロー番組にも出ることができた。
ゆくゆくはヒーロー番組の主題歌を歌えれば、自分がそうされたように皆に勇気と愛をもたらすことができると信じていた。
それは間違いではない。しかし一番最初の純粋な気持ちと同じかというと、違う。

まだ幼い頃にTVの中でヒーローを見た時、感じた気持ちは「自分もヒーロー番組に出演したい」だったろうか?
違う。画面の中の、画面の向こうにある世界に実在する本物のヒーロー。その本物のヒーローになりたいと思ったはずだ。

「プロデューサー……ごめん」

まだ心の底までは覚悟が決まってなかった。
だからこそこんな無様な不覚を取ったし、リュックの中に入っていた“アレ”を身にまとうこともためらってしまっていたのだ。

「もう一度、アタシに勇気を……」

不自由な格好のまま南条光はポケットから情報端末を取り出す。電源を入れてもそこに映っているはただの白い画面だ。
彼女はその白い画面を見つめる。そこに一度は映ったプロデューサーの姿を思い浮かべる。そして、彼の言葉を。

――変身だ。

それははじめてTV番組に出る時、楽屋でガチガチに固まっていた南条光の緊張を解いた魔法の言葉だった。
『アイドル』が『ヒーロー』なら、衣装を着てステージに向かうのはヒーローが変身するのと同じだ。
だから南条光がどれだけビビっても、『リトルヒーロー・南条光』はステージの上ではビビらない――と、そう彼は言ってくれた。

「あの、菜々さん……いや、“ナナ”にはアタシのままじゃ勝てない」

“ナナ”は己をなりきりという強い殻で守っている。その強固な殻の前では例えただの南条光が何を言おうが通じはしないだろう。
必要なのはそれ以上の力。彼女のなりきりよりも強い確固たる精神と形。

「だったら――」

南条光は固く口を閉じていたリュックを開き、その中に腕を突っ込んだ。



「――――変身だッ!!」

443彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:37:41 ID:lqIQHv1A0
 @


そして南条光は再び安部菜々の前に立つ。
南条光ではなく正義の変身ヒロイン――ワンダーモモとして。

「悪の怪人軍団ワルデモンの手先ウサミン! このワンダーモモが成敗してやるッ!」

安部菜々にとってワンダーモモが特別なように、南条光にとってもワンダーモモは特別な存在だった。
幼少の時にヒーローを知り、ずっとヒーローファンとして情熱を燃やしていた南条光が過去のヒーローものにも手を出し特撮ファンへ、
そして特撮マニアとなるのに何も苦労はなかったし、アイドルになってからは棚の中のDVD-BOXがそれ以前の3倍にもなった。
だから、かつて特撮TV番組としてスタートし舞台化にまで至ったワンダーモモのことも知識の中にはあった。
それが特別な存在となったのは南条光がアイドルになってからだ。
なぜならば、ワンダーモモこと『神田桃』もアイドルだったからである。
アイドルデビューした後に主演の特撮ヒーロー番組を持ち、好評を博し舞台化までする。それこそ南条光が思い描くドリームそのものだ。

「ナ、ナナが……悪の手先……?」

ワンダーモモの衣装をまとって現れた南条光に対し、安部菜々はひどく狼狽した様子を見せる。
それは南条光からすれば(彼女がモモに思い入れがあることを知らない故に)意外なことだったが、逆に都合がいいと思った。
これならば、モモの言葉ならナナに通じると。

「そうだ! そしてアタシはお前を倒して菜々さんを取り戻すッ!」

それが南条光の選んだこの場におけるヒーローの行動だった。
相手が心を悪に支配されているなら“やっつける”! そしてそこから解放する。
例え馬鹿だと言われようとも、もうこれで最後まで貫き通すと彼女はコスチュームに袖を通す時に決意した。
それが彼女の知っているヒーローの姿だからだ。

「ふ、ふざけないでっ! ナナは勇者ナナなんです!
 悪だなんて、そんな……ワンダーモモが、いや……ワンダーモモじゃない! あなたは光ちゃんでしょッ!」

今度は安部菜々の指摘に南条光が僅かにたじろぐ。しかし、彼女はここまで来る間にあらかじめその設定を用意してあった。

「私は――二代目ワンダーモモだッ!」
「に……だいめぇ……?」
「ひとたび地球に平和をもたらした神田桃はロリコット星に帰った!
 だが、ワルデモンの再生に呼応して新しくヒーローアイドルデビューしたアタシが彼女よりワンダーモモを継承したんだ!」
「うぐぐ……」

安部菜々が一歩後ずさる。彼女の顔色は頼りない街灯の明かりの中でもはっきりとわかるくらい血の気を失っていた。

「降参しろウサミンッ! アタシはいくら敵でも同じ事務所にいたあんたとは戦いたくない」
「……奇遇ですねワンダーモモ。ウサミンもあなたとはこんな形で決着をつけることなんて望んではいなかったですよ」

その白い顔に優しい笑みが、なのにとても悲しく見える笑みが浮かぶ。

「菜々さん……?」
「“ウサミン”はッ! ……それでもワンダーモモを倒さなくてはいけないの。
 そのためにウサミンはアマゾーナ様の命を受けてあの事務所にメイドとして潜りこんだのだから」
「やめろッ……!」
「アマゾーナ様、そしてモズー様と新生ワルデモン軍団の為にワンダーモモ……あなたの命をもらいうけるッ!」

ウサミン――安部菜々が両手剣を上段に構え突進してくる。
これは先ほどの繰り返しだ。しかし今度こそ、南条光――ワンダーモモの身体はすくむことなく彼女のイメージのとおりに動いた。

「死――」
「――ワンダーリングッ!!」

ワンダーモモの手から月光を反射する黄金の輪が放たれる。
高い金属音が鳴り響いた後、軌道に残像を残してワンダーリングはモモの手元に残り、ウサミンの両手剣は斜面の下へと消えていった。

「もう観念しろッ!」
「だれがするもんですかッ!」

そう言ってウサミンが次に取り出したのは見るからにわかりやすい手榴弾だった。マスクの中で南条光の顔が青ざめる。

「やめろ……どうして、そんなことを……ッ!」
「見くびるなワンダーモモ! ウサミンはワルデモンの改造人間だッ! 刺し違えてでも貴様を倒すッ!」

ウサミンはあっさりと手榴弾からピンを抜くと、今度はそれを胸に抱えて突進してきた。
再び、迷いが南条光の動きを絡めようとする。安部菜々は本当に死ぬつもりでいる。ならば、南条光はそれにどう応えるのか?

南条光は……いや、この時は彼女に対峙する安部菜々も、彼女達の中に存在するワンダーモモを信じた。



「ワンダァアアァァアアァァ・キィィイイイックッ!!!」



ワンダーモモ最強の必殺技が突進してくるウサミンへと炸裂し、彼女は抱える爆弾ごと斜面の下へと墜落していった。

444彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:38:06 ID:lqIQHv1A0
 @


安部菜々はもはや崖と称してもかまわないほど急な斜面を落ちながら思う。

「(ワンダーモモは“ズルい”ですよ。光ちゃん)」

死ぬ――というのに不思議と恐怖はなかった。絶望的な状況下で最後にひとつ願いが叶ったからかもしれない。
ヒーローでもヒロインでもましてや英雄としてでもなく、改造人間だとしても本物を演じることができることは幸せだ。
半ば自暴自棄となっていた安部菜々にとって、ワンダモモ劇場の中で死ねるのは最高のはなむけだった。

もう時間はない。安部菜々はここで言っておけなければいけない言葉を最後に口にすることした。
南条光には届かないだろう。しかし彼女が満たされて死ぬには必要な言葉だった。

「さすが、ね……ワンダーモモ。しかし、ウサミンが、死のうとも……第2、第3の刺客が、あなたを……」

台詞はここまでで十分だ。後は彼女と、そしてふたりにとってかけがえのないプロデューサーの無事を祈るだけだった。

「(ありがとうワンダーモモ。そしてプロデューサーさんは任せたよ光ちゃん。いえ――)」



――2代目ワンダーモモ。






 @


衝撃と爆音。そして吹き上がる黒煙。斜面を落ちていった安部菜々はそれこそ怪人のように爆発し黒煙の中に消え去った。

それを見下ろし、南条光は両の目からとめどなく涙を零す。
安部菜々は死んだ。彼女はそれをきっと望んでいた。しかしその決意をさせたのは南条光でありワンダーモモだ。
彼女の死が正しかったとは認めたくない。けど、二人ともが正しいと思ったことを成したのには間違いはないはずでもあった。

「菜々さん……、ワンダーモモ知ってるなら早く教えてくれればよかったのに、そしたら、一緒にDVD観たり……」

南条光は命を賭して通じ合うということを知る。画面の中では何度も見たが、現実にははじめてのことだ。
それは想像よりも遥かに重く、悲しい。
今回のことはことの顛末を話せば人に笑われるようなそんなことかもしれない。
しかし、彼女にとってはかけがえのない経験となった。

その経験をどう捉え、どう活かしていけばいいのかはまだ14歳の南条光にははっきりとわからない。
ただ、ひとつだけわかっていることがあった。
彼女が応えたのなら自分も応えなくてはならない。彼女の死を飾らなくてはならない。

南条光は斜面の下を見下ろしながらポーズを取る、そして――



「成敗ッ!」



――それが2代目ワンダーモモ出発の瞬間でもあった。






【安部菜々 死亡】






【F-3・温泉付近/一日目 黎明】

【南条光】
【装備:ワンダーモモの衣装、ワンダーリング】
【所持品:基本支給品一式】
【状態:全身に大小の切傷(致命的なものはない)】
【思考・行動】
基本方針:ヒーロー(2代目ワンダーモモ)であろうとする。
1:悪いことを考えているやつはとりあえずやっつける。

※南条光と安部菜々のPは同じでした。

445 ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 00:40:42 ID:lqIQHv1A0
以上、投下終了しました。先に投下されたものの感想とかはまたのちほど、おちついた時にw

ちなみに、アイマス世界にかつてワンダーモモ(@高木社長P)というアイドルがいたとこまでは公式です。(多分)

446 ◆yOownq0BQs:2012/11/16(金) 00:42:21 ID:kIgpwjLE0
ギリギリセーフっですかね。
感想は後ほど書くとして、予約分の松永涼、緒方智絵里を投下します。

447 ◆yOownq0BQs:2012/11/16(金) 00:43:30 ID:kIgpwjLE0
「誰も、いねぇな」

そろりそろりと忍び足で松永涼は一人、夜の街を歩いていた。
自然と表情がこわばっていく。イングラムを握りしめた手は冷たく、温かみが存在しない。
殺し合いが行われているという事実は彼女の体を通常より固くさせうには十分すぎるくらいの効果を発していた。

「くそっ、ぶるってんじゃねぇよ。アタシ」

日常から非日常へ。
手に握りしめたイングラムが嫌でも非日常を想起させる。
安全装置は解除した。トリガーに指を絡めた。
だが、そこから先がうまくいかない。
他の参加者に合っていないことも理由に入ってるが、銃弾を放つということに涼は強い忌避感を持っていた。

(アタシは誰の為に銃口を向ける? 自分の為? 小梅の為?)

忌避感を持つのも当然のことだ。彼女はごく普通のアイドルであり、すぐに殺し合いに適用できる人間ではない。
むしろ、殺し合いと言われて簡単に乗ってしまう人間の方がおかしいのである。

(こんな様で護れるのか? 小梅を)

虚空に投げかけるが、答えは帰ってこない。
神様は残酷だ、答えは自分で探せとせせら笑っている。
実に、苛つかせてくれるではないか。

「だああああああああああああああっ! わっかんねーー!!!」

どれだけ考えても最適の解――たったひとつの冴えたやりかたは思い浮かばなかった。
乗るか、乗らないか。
誰が為に銃を向けるのか。
どれもこれも、難しすぎて涼には荷が重かった。

「ふざけんな、ふざけんなっ!」

自分はただ、小梅と一緒にアイドルを続けて歌を届けたいだけなのに。
何故こんな目にあわなくちゃいけないんだ。悪いことだってしていない。なのにっ!
涼は顔を渋く歪ませて、夜の街を歩く。
誰でもいいから、他の参加者に会いたかった。
もう、『孤独』は嫌だった。

448 ◆yOownq0BQs:2012/11/16(金) 00:44:41 ID:kIgpwjLE0

「……ん?」

涼はふと背後を振り返る。
何か、後ろの建物の影から物音が聞こえた気がしたのだ。
涼はイングラムを向けて声を張り上げる。

「そこに誰かいるんだろっ」

誰かと話せるのが嬉しい半面、出てくるのが殺し合いに乗っていた人物だったら。
涼の心境は複雑だった。もしもの場合は決断を迫られることになる故に。

(頼むから、アタシに引き金を引かせないでくれ……!)

心の中で強く念じながら建物の影から現れたのは――。

「す、すいまえんっ」

自分よりも小さな可愛らしい女の子であった。
おまけに、出てくる時に噛んでいる。
何処の天然サンだよ、と涼はひとりごちる。
だが、一方で安心したという思いもあった。

(こんな奴が乗ってる訳、ねぇよな……)

見た感じ、サンタさんをまだ信じていそうな小さな女の子だ。
おどおどしている様子が小梅と重なって自然と顔に笑みが浮かんだ。

「えっと、アンタは乗っているのかい?」

初めの一言はたどたどしく、そして意味をあまりなさない言葉だった。
あほかーっと涼は心中で叫び散らす。
そもそも乗っている奴が素直にはい、乗ってますなんて言う訳ないだろうが、とぼそっと呟いた。
加えて、馬鹿じゃないんだから乗っている者が真っ正直に姿を現す訳ない。
結論。乗ってない。涼は少女の答えを待つことなくそう決めつけた。
その結論は、次の瞬間。外れてしまう訳なのだが。

449 ◆yOownq0BQs:2012/11/16(金) 00:46:53 ID:kIgpwjLE0

「ご、ごめんなさいっ……」
「は?」

頭をガシガシと掻いて銃口を下ろそうとした時、涼は目をぱちくりとせざるを得なかった。
ころころと涼の元へと転がってくる黒い塊。なぜだか知らないが、涼は直感で『ヤバいブツ』だと判断した。
いやいやいや、洒落になんねえよと叫ぶ暇もない。態勢なんて気にせずに、涼は後ろに全力疾走を始める。
できるだけ、あれから離れなくては。普段見せることのない緊迫した表情を浮かべ、疾走した。
数秒後、爆炎と閃光が後ろから涼を舐めつける。
運が良かった。黒い塊をすぐにヤバいものと認識し、逃げていなければ自分はあの世にひとっ飛びだった。

「……畜生」

走る。爆炎が見えなくなる場所まで来ても、涼は走り続けた。
後ろは振り向かない。振り向いてしまったら――死んでしまうかもしれないから。
認めたくない現実が。自分を殺そうとする爆炎が。小柄な少女が。
自分を殺そうと牙をむいているかもしれない。
そう思うと、とてもではないが後ろなんて見ることは出来なかった。

「は、はは……殺し合いはもう始まってるってことか!? 会う奴全員っ、誰も信じられねぇってことか!? なぁ、おい!!」

自然と瞳からは涙が溢れ出してくる。
ファンやプロデューサーに歌を届けたかっただけのささやかな願いすら踏み潰す殺し合い。
信じたくても信じられない環境が憎かった。
手に持ったイングラムが憎かった。
襲いかかってきた少女が憎かった。

「あんな小さな奴が乗るくらいなんだ……アタシ以外は皆、小梅も……!」

信じられない。心の表面ではそう思ってはいるが。

「信じたいよぉ……一人は、嫌だよっ」

信じたかった。誰かを疑うことなんてしたくない。
皆で手を繋いで殺し合いなんてくだらねぇって言い合いたい。
だが、現実は――殺し合いを肯定した。

「プロデューサー……小梅……っ!」

今この瞬間、松永涼は『孤独』だった。

450 ◆yOownq0BQs:2012/11/16(金) 00:49:05 ID:kIgpwjLE0
「……逃しちゃいました」

もう一人の少女、緒方智絵里は広がっていく爆炎をじっと見つめていた。
涼を追いかけることもせず、ただじっと。

(わたしには……向いてないのかな)

気配を隠すことも出来ず、呼ばれたらノコノコと出てしまって。
頑張ってストロベリーボムを投げても人を殺めるには至らない。
これでは落第点を付けられてもおかしくはない。
そもそも、緒方智絵里は元来優しい女の子だ。
人を殺せと言われて、すぐに実行できる程、肝っ玉は大きくない。

(後ろから……これで刺した方が、よかったかなあ)

智絵里がストロベリーボムを使ったのは単に威力がすごいからという理由だけではない。
怖かったのだ。直接相手に危害を加えることが。
アイスピックで突き刺す、それは人を殺す感触を直に味わうということだ。

(怖いって、思っちゃった……助けなきゃ、いけないのに)

殺し合いに乗る決意をしたはいいが、本当に人を殺すという覚悟はまだ定まらない。
優しさ故に、躊躇してしまう。最後の一歩が踏み出せない。
殺すということはそれだけの重みがある。
その人のこれからの人生を奪うということなのだ。
智絵里も重々承知している。それでも。

(絶対に、助けます……プロデューサー)

助けたいのだ。護りたいのだ。愛したいのだ。
禁忌を犯してでも、貫きたい想いがあるから――智絵里は乗ったのだから。
それは友人を蹴落としてでも掴みたい願い事。
誰にも譲れない本気の恋。

(わたし、頑張りますから)

炎の欠片が路地に散っていく。
それは、少女の決意を祝うかのように燦々と輝きを増していく。

(だから、もう一度……わたしの頭を撫でて下さい)

きっと、貴方に辿り着くから。
気弱な少女は揺らぐことはあっても、俯くことはしなかった。



【B-4/一日目 黎明】

【松永涼】
【装備:イングラムM10(32/32)】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:小梅と合流 小梅を護る? 疑心暗鬼?
1:小梅と合流する。 次に出会う参加者に対してどうする?

【緒方智絵里】
【装備:アイスピック】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。

451 ◆yOownq0BQs:2012/11/16(金) 00:51:57 ID:kIgpwjLE0
投下終了です。
タイトルは『終末のアイドル〜what a beautiful wish〜』です。

452 ◆S.fKmYzH42:2012/11/16(金) 01:08:04 ID:FPpRxeJg0
皆様投下乙ですー。
新規ですが、及川雫、前川みくで予約します

453 ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 01:12:43 ID:lqIQHv1A0
予約ラッシュが怖いのでとりま 相川千夏さん予約します!

454 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/16(金) 01:15:02 ID:NbYTH64Y0
立て続けに二作も…両者投下乙です!

>>彼女たちの中にいるフォーナインス
カッコイイ!熱い!まさかこんなロワでしょっぱなからこんな熱血展開があるとは!
そして安部菜々の壮絶な最後に敬礼…!
でもこれwiki的に死因は自殺なのかなぁ…それもむなしいかも
南条光ちゃんも2代目ワンダーモモだなんて765的にも胸熱!頑張ってほしい!

>>終末のアイドル〜what a beautiful wish〜
うわぁぁぁ頼みの涼までも……最初に出会ったのが意外さNo1マーダーじゃなければ…
これはたとえ二人が再会してもろくなことにならねぇ…!
まぁ小梅ちゃんも予約状況からして死亡フラグあるんですけどねぇ
智絵里ちゃんも本来の性格はそのままにちゃんと殺し合いに乗ってるんだなぁ
二人ともどうなってくのか凄い気になる!

455名無しさん:2012/11/16(金) 02:36:50 ID:sTqdRsCo0
投下お疲れ様でした!

>>彼女たちの中にいるフォーナインス
ヒーローってのは悪を倒すからヒーローなのではなく、誰かの心を救うからヒーローなんだと思う。
南条はウサミンという悪を倒して、奈々を救えたんだよ。
喜劇舞台の英雄、喜劇舞台の怪人。
確かに他人から見れば滑稽かもしれない一幕だけど、でも、共に信じた一人のアイドルの舞台に殉じて心通じ合わせられたのなら。
きっとめでたしめでたしなんだよ。


>>終末のアイドル〜what a beautiful wish〜
涼の割り切れなさがいいよなあ。
信じたくても信じられなくて、それでも信じたい。
突き付けられた現実はあまりにも非常で、涼はあまりにも孤独だった。
智絵里もなあ、あくまでも、いつもと変わらないのがなんとも。
のこのこでていってついつい謝っちゃって、そりゃ直接刺すより手榴弾のほうが気楽だよな。
涼が惑って、智絵里が俯かないという構図がなんとも皮肉だ。

456 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:34:21 ID:XVak6DdU0
皆様投下乙です。
期限が迫っているので感想は後回しになりますが、投下しますね

457デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:36:08 ID:XVak6DdU0
(どうして、私が出会うのは、こんな人間ばかりなんだろう……)


 目の前で息を切らせながら挙動不審に陥っている幼い少女をただ眺めながら、
 岡崎泰葉は一度目の出会いよりも更に深まる落胆を抑えられずにいた。

 アイドルに会いたい。この絶望的な状況にも屈しない、信念を持ったアイドルに。
 その一心で街を目指して歩いてきたというのに、次の遭遇者もまたアイドルではなかった。

 泰葉はその少女を知っている。
 いや、泰葉でなくても、ある程度アイドルに対する知識があれば知っているはずだろう。

 白坂小梅。ここ最近急激にその活躍の場を広げてきた気鋭のアイドルである。
 
 相方のほうは姿が見えないけれど、一人でも普段なら泰葉も認める輝きの持ち主だったはずだ。
 あいにく、今のこの取り乱しきった様子からは、そんな輝きは微塵も伺えないのだけど。
 誰か知らないが襲撃者から必死に逃げてきたらしい彼女は最初泰葉のことも恐れ、
 警戒心を表面上だけでも解かせるまでに相当難儀する羽目になってしまった。

 泰葉は心底幻滅していた。
 小梅の言動からは、誰かに頼りたくて仕方ないのに誰も信じられない、そういう弱さが見えた。
 人間としては当たり前なのかもしれないけれど、泰葉はアイドルのそんな姿は見たくなかった。


(いいアイドルは、死んだアイドルだけだというの? そんな、馬鹿なことが……)


 ない、とは言い切れなくなっている自分に腹が立つ。
 そんなはずはない。今井加奈のように、高潔な覚悟を持ったアイドルもいるはずだ。
 既に小梅への興味を失っていた泰葉だったが、他の参加者を知っているかもしれないと思い、
 逃げ出そうとする小梅を半ば強引に呼び止めて話を聞いていたのだった。
 その間も、膨れ上がる幻滅による目眩と頭痛を堪えながら。

 しかし、それも無駄ではなかった。


「あっ、あの人、二人目って、殺すの、これで二人目って……!」


 どもりながらも必死で話す小梅の様子は、人間不信なのに誰かに救ってほしいという、
 そういう都合のいい甘えのように泰葉には感じられてあまり気分が良くなかったが、
 そんなところは今は重要ではなかった。

458デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:36:48 ID:XVak6DdU0


 二人目。確かにそう言ったのか。
 

 この短い期間で、二人目。
 もちろん他の犠牲者の可能性もあるが、一人目を泰葉が知っている可能性は、大きい。
 動転し切っている小梅の言うことは殆ど要領を得ないも同然のあやふやさだったが、
 それでも襲撃者が大きな銃を持っていることと、大人の女性であることは聞き出せた。

 大きな銃、という条件は、今井加奈の死体の状況と一致する。
 あの時の彼女の姿は、顔だけはまだ綺麗なままだったものの、胴体は酷い有様だった。
 もう二目と見れないような惨状。単なる殺害ではなく、あれは破壊だった。
 あいにく泰葉は散弾銃に対する知識はなかったが、普通の銃で撃たれたのではないのは分かる。
 それを可能としうる凶器。同一犯の可能性は、高い。

 そしてもうひとつの情報。
 大人の女性。いったい誰だろう、と泰葉は考える。
 幸い、サマーライブをきっかけにアイドルについてもう一度見つめ直した泰葉には、
 この殺し合いに参加している大半のアイドルについては大まかに研究していた。
 こんな犯人探しにその成果を使わねばならないことを呪いながら、記憶を辿る。


 一見年齢に見合わない正統派アイドル路線が逆に好評を博した、川島瑞樹だろうか。
 包容力と癒しの歌声に加え時折見せるはにかみが支持を集める、三船美優だろうか。
 その隙のない佇まいや怜悧さと知性を備えた表情が魅力を放つ、和久井留美だろうか。
 あるいはサマーライブでも顔を合わせた記憶のある洒脱な女性、相川千夏だろうか。


 FLOWERSの姫川友紀も確か成人していた記憶があるが、彼女は容姿的な意味で論外だろう。
 少なくとも名簿に載っているアイドル達の中で、大人といえばこの四人に絞られるはずだ。
 そして、そのうちの誰かが今井加奈を殺し、白坂小梅に銃を向けた……。
 それは泰葉にとって愉快な想像ではなかった。
 そんなことは有り得ないと否定できればどんなにいいだろうか。
 だが、小梅が嘘を言っているようには見えなかったし、そんな余裕も感じなかった。
 おそらくは、真実。そのうちの誰かが、この殺し合いに乗っている。

 泰葉は、そのことに思いを巡らせるほどに湧き上がる、得体の知れない感情を制御出来ずにいた。



 彼女達は皆、それぞれが泰葉にはない輝ける何かを持っていた。

 泰葉が手を伸ばしただけでは届かない何かを、確かに持っていた。

 それを地に投げ捨てて。泰葉が求めても求めえぬものを放り捨てて。

 そして自分達だけが生き残ることを選んだのだ。浅ましい獣のように。

 夢も、誇りも、信念も、彼女にとってはその程度のものだったというのか。

 ならば、その容易く剥がせる薄っぺらいメッキの輝きに惹かれた自分は、何だ。

 自分が心から焦がれた輝きなんて、彼女にとっては、たかが命よりも軽いものなの?

459デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:37:26 ID:XVak6DdU0



 泰葉は自分でも気付かぬまま、血が滲むほどに拳を握りしめていた。

 許せなかった。自分の夢が、理想が、こうありたいと願う未来が、今踏み躙られていた。

 幼い頃は何も知らずに夢見て、成長するにつれて諦め、そして今もう一度だけ目指したいと、
 胸を張って歩んでいきたいと、そう思いながらも未だ届かずにいる、輝ける道を。
 その道を堂々と歩む資格を与えられながら、なぜ殺す。なぜ夢を奪う。
 なぜ、その道に繋がると信じて走ってきた泰葉の目の前で、自ら輝きを穢すのか。

 自分がどれだけ恵まれているかも知らず。傍で手を伸ばす者の存在も知らず。
 何も、何も知らずに。自分がアイドルである意味すら知らずに。

 目を背けているのか。死にたくない、死なせたくない、そんなありふれた言葉で誤魔化して。
 だから殺す。だから夢を奪う。だから輝くことをやめて、それを恥じもしない。

 そうまでして何故生きたいの? そんな無様な明日を、なぜ受け入れられるの?


「私は、惜しくないのに。あの夏の日に手が届くなら、こんな命なんて、惜しくないのに……!」


 奥歯を、砕けるほどに噛み締める。
 もう一度輝きたい。あの夏の日の彼女達のように、自分だけの色で輝きたい。
 そう思って、頑張って頑張って頑張って頑張って、ようやく自分なりの夢が見えてきたのに。
 プロデューサーだって笑顔にしてみせる、そんなアイドルになりたいって思えるようになったのに。

 世界が足元から焼け落ちていく気分だった。
 泰葉の周りに、醜く燻った、夢の燃え殻が折り重なっていく。
 燃えているのは誰の夢だろう。死んだ少女か、生きている殺人者か。
 それとも、怒りの炎の只中に震えながら立ち竦む、このちっぽけな自分自身の――



「……認めない。絶対に、私は認めません……!」



 私は、アイドルであることを捨てる人間を認めない。 
 だからこそ、やらなければならないことがある。

460デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:38:10 ID:XVak6DdU0


「――案内してください、小梅さん。私は、その人に会って確かめたいことがあります」


 泰葉の申し出に、しかし当の小梅は言葉の意味を理解するだけで数秒はかかったようだった。
 そしてその意味を理解したと同時に、彼女は怯え、震え、恐慌し、そして泣き出した。


「やだ……やだぁっ! また戻ったら、また、またあの人に……!」
「ですから、その人を探しに行くと言ってるんです。これ以上、野放しにはできません」


 泰葉にしてみれば当然の帰結だった。
 恐らくは小梅だけでなく今井加奈にもその銃口を向けたであろうその女性に、
 会ってその真意を確かめなければならなかった。
 だからこそ、彼女と直に接触した小梅には、協力してもらわないといけないのに。


「そんな……死んじゃう、せっかく、せっかく逃げたのに、また……嫌ぁ……!」
「放っておけば他のアイドルが死にます。貴女もアイドルだったのなら、聞き分けるべきです」
「いや、いやっ……死にたくない……痛いのは、怖いのはやだっ………」


 なおも泣きじゃくる小梅を無感情に見下ろし、泰葉は蔑み混じりの溜め息をついた。
 なぜこんなにも弱々しい少女が、自分よりもアイドルとして高みにいたのだろう。
 誇りも信念もない薄っぺらな子供が、世の中の残酷さも知らぬまま、のうのうと笑っていたのか。
 自分が彼女と同じ年頃の時どうだったかを思い出し、泰葉の心中に穏やかならざるものが蠢いた。
 もう、我慢が、ならなかった。

 制御できない感情に任せ、泰葉は小梅のその蒼褪めた頬を、思い切り引っぱたいた。


 突然の痛みと衝撃で、頭の回転がストップしたのだろう。
 何が起こったのか理解が追いつかない様子の小梅に、続けて底冷えするような声で告げる。


「既に、私はあなたに失望しました。自分だけが持つ輝きを自ら曇らせる無様さに失望しました。
 逃げるだけのあなたに、本来なら興味なんてない。関心なんて持てません。
 それでもあなたが無様に逃げ続ければ、代わりに光を捨てないアイドル達が傷つき、死んでいくでしょう。
 あなた個人の命の問題ではないと思いませんか? あなたが、かつてアイドルであったのなら」

461デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:39:11 ID:XVak6DdU0

 ひっ、と小梅が呻いたのは、その言葉の冷淡さだけによるものだけではなかった。
 泰葉が無造作に突き出した手に握られた、月光を浴びて銀色に光る拳銃。
 スタームルガーMk.2の無機質なフォルムが放つ殺気が、泣き喚く気力すら封じていた。


「何を怯えているんですか。麻酔銃ですよ、これは」


 毅然とした姿勢とは正反対の小梅の反応が不愉快で、泰葉は真実を告げる。
 目の前にあるのが直接的な死の危険ではないと知って僅かに気の緩みを見せる小梅の姿に、
 泰葉はまたも心のざらついた部分を逆撫でされるような感覚を味わった。

 目撃者たる彼女無しに殺人者を追い詰めることは難しいだろう。
 ならば、説得が不可能なら、それなりの方法で対処するしかない。

 そう頭で考えている間は、躊躇いは無いわけではなかった。
 しかし、実際に行動に移そうとすると、そんなものは冬の朝の霜のように溶けた。

「ただし。私はあなたを眠らせたら、そのままこの場に置き去りにします」


 小梅の肩が、ぴくり、と跳ねる。


 アイドルでいようとしない、怯えて震える目の前の少女への、これは怒りだろうか。
 いや、どちらかといえば、これは榊原里美に対して抱いたのと同じような、失望なのだろう。
 心の芯が急速に冷え、自分が自分でなくなるようなこの感覚。
 ああ、私は確かに憤っている。そういう認識が奇妙な客観視を持って感じられた。
 この感情に身を任せれば、自分はどこまでも冷淡になれるのではないか。
 それは自分自身でもゾッとする想像だったが、現に自分の声はそれを証明するように酷薄だった。
 


「この暗闇の中で、身動きも出来ず、抵抗も出来ずに、たったひとり。
 そんなあなたの姿を見つけた人は、一体何を思うのでしょう。
 もし次に目覚めた時、あなたの身に何が起こっているのか……楽しみ、ですね?」


 なんの表情も交えず、ただ淡々と告げる。
 それが一層、自分にとっての最悪の想像を掻き立てたのか。
 小梅の顔色は目に見えて蒼白になり、カタカタという音が聞こえそうなくらいに震え出した。
 悲鳴を上げる余裕もないのか、歯の根の合わない口からは荒い呼吸だけが漏れる。

 
「ああ、楽しみにするのは違いますね……だって、きっと、目覚めない」


 泰葉はただ青ざめて硬直している小梅まで、あと一歩の距離まで歩み寄った。
 そのままスタームルガーの銃口を小梅の薄い胸へと押し当てる。
 銃身越しに彼女の早鐘のような鼓動を感じる。
 全身の震えを、怯えを、呼吸すらままならないその恐怖を感じる。
 泰葉はそのまま抱き寄せるように耳元に唇を寄せて、囁いた。

462デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:40:01 ID:XVak6DdU0


「――冗談ですよ。私はアイドルですから。そんな酷いこと、するわけないじゃないですか」


 小梅の全身が弛緩した。張り詰めていた緊張の糸がぷっつり途切れた瞬間だった。
 腰を抜かしてへたり込むと同時に、その見開かれた両目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
 それを見て胸がすいたというわけではないが、泰葉の怒りとも失望ともつかない感情も、
 その感情に裏打ちされた冷淡さも、すっと心の奥に引っ込むのを感じた。

 そんな自分自身への、ほんの僅かな畏れも、一緒に。


「とはいえ、あなたがこれ以上協力を阻むなら、私は感情に任せて何をするか分かりません。
 私は、出来ることならあなたを死なせたくない。あなたの為でなく、私自身のために。
 だから私に、そういうことをさせないでください。これは、冗談ではなく、本音です」


 少なくともそれは確かに本音だった。
 出来ることなら、アイドルであることを捨てたただの人間とはいえ、傷つけたくなかった。
 彼女というよりは、自分自身の誇りを傷つけるようなことはしたくなかった。

 しかし、と泰葉は思う。
 今井加奈の夢を奪った殺人者に対しても、自分は同じように考えられるのだろうか。
 躊躇なく人の命を奪う存在に対して、同じように傷つけたくないと思うのだろうか。

 考えるまでもなかった。アイドルは、人を傷つけない。


(そう。だからこそ、“歩く屍”への呵責は、ない)


 考えるまでもなかった。アイドルは、人を傷つけない、だから。
 人を傷つけるものは、アイドルではない。人間ですらあるものか。



 醜く爛れて、異臭を放つ、かつての夢の腐乱死体。



 止めなければならないと思った。なんとしてでも。
 そんなおぞましいものが、アイドルの生き血を啜って生き永らえていい道理などない。
 それに、もしも出会ったら、自分の中で煮えたぎる怒りを抑えられる自信もなかった。


 尻餅を付いたままの小梅へと、泰葉は手を伸ばす。
 心ここにあらずといった様相の小梅は、泰葉に引かれるまま人形めいて立ち上がった。

463デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:41:21 ID:XVak6DdU0


 ああ、しかし、彼女はなんて酷い顔をしているのだろう。
 元々不健康そうな容姿ではあったものの、今やその顔は恐怖と絶望とで引き攣って散々な有様だ。
 これが、白坂小梅というかつてのアイドルの表情か。
 これが、岡崎泰葉というアイドルが引き出した表情か。


 ……違う。そうではない。



「私は、アイドルで在り続ける。だからこそ、いずれ必ず、あなたも笑顔にしてみせます」



 私は、私なりのやり方で、この闇も絶望も照らしてみせる。
 それが、岡崎泰葉がアイドルである証。これまで生きてきたその全ての証。

 この島に残された、希望の灯は消さない。
 そう、だからこそ。そのための手段は選べない。
 どんなに遠回りしても、その過程でどれだけ絶望を振り撒こうとも。
 最後には必ず、希望に辿り着いてみせる。
 千川ちひろにも、夢の亡者にも、自分は屈しはしない。

 岡崎泰葉が、アイドルが、夢と希望を与えてみせる。


「さあ、行きましょう。この島に残された、本当の輝きを持つアイドル達のために」


 泰葉を動かすのは、少なくとも、真っ直ぐな想いには違いなかった。
 狂おしいほどの、純粋な願いに他ならなかった。




   ▼  ▼  ▼

464デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:43:22 ID:XVak6DdU0


 どうして、どうしてこんなことに。



 結局のところ、和久井留美から逃げ出した小梅の状況は、何一つ好転しなかった。
 それどころか悪化の一途をたどっているとしか言い様がなかった。
 
 ホラー映画でよくあるどんでん返しのように、自分はもうとっくに死んでいるのではないか。
 自分も泰葉という名の彼女も、それどころかこの島にいる全員が本当は歩く死体で。
 そんな現実離れした空想ですら、まだ現実よりは救いがあるような気がしてしまう。

 逃げたい。逃げ出したい。
 もう一度あの怖い女の人のところに戻るなんて、嫌だ。
 せっかく逃げたのに、また戻ったら今度こそ殺されてしまう。そんなのは絶対に嫌だ。
 あのピカっと光る爆弾を使えば、今度もうまく逃げられるのではないだろうか。
 泰葉からも、あの人殺しからも逃げることができれば、死なずに済むのではないか。

 そう思いながら、小梅は、すぐ行動に移せないでいた。

 またもう一度逃げ出して、次はどこへいけばいいんだろう。
 涼さんすら信じられないのに、誰が自分を助けてくれるんだろう。
 せっかくこの人から逃げ出しても、今度はもっともっと怖い目に遭うかもしれない。
 そう思うと、もう、何もできなかった。

 惨憺たる気持ちのまま、時折振り返りながら前を歩く泰葉の姿を小走りで追いかける。
 いつも追いかけてきた涼の背中よりも、ずいぶん小さくて華奢な背中。

 彼女はどうしてこんなにも自分に冷たく当たるのだろう。自分の何がいけないんだろう。
 さっきから必死で考えているのに、小梅には全然分からなかった。
 答えを出すには小梅は幼すぎたし、泰葉とは境遇が違いすぎた。
 それでも、泰葉が執拗に求めるものへの疑問だけは、未だ小梅の頭をぐるぐると回っていた。


『……あなたは、もう『アイドル』じゃないみたいね』


 忘れもしないあの時、銃を自分に向けながら、あの女性が言った言葉を思い出す。
 あの人も、泰葉も、自分のことをアイドルではないと言う。
 今まで自分はアイドルとして、一生懸命頑張ってきたのに。そのはず、なのに。


 アイドルって、なんだろう。


【D-7/一日目 黎明】

【岡崎泰葉】
【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(11/11)、軽量コブラナイフ】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとしてあろうとしない者達、アイドルとしていさせてくれない者達への怒り。
1:小梅を頼りに、今井加奈を殺した女性(和久井留美)を追う
2:『アイドル』に逢いたい
※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれた彼女達のことを強く覚えています。


【白坂小梅】
【装備:無し】
【所持品:基本支給品一式、USM84スタングレネード2個、不明支給品0〜1】
【状態:健康、恐怖】
【思考・行動】
基本方針:死にたくない、誰も信用できない
1:泰葉には逆らえない
2:隙を見て逃げ出したい……でも何処に?
3:アイドルってなんだろう……

465 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/16(金) 09:44:06 ID:XVak6DdU0
投下完了しました。期限ぎりぎりですみません……

466 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/16(金) 20:00:56 ID:NbYTH64Y0
投下乙です!
うおぉ…流石泰葉ちゃんブレねぇ…我が道を進んでいくなぁ
アイドルか否かっていうのは、この話だけじゃなくこのロワ全体で重要な事なのかな
そして小梅ちゃんもとりあえず生きてたかー。
それにしてもマーダー探すチームがこのロワでできたのは意外だな…
今後どうなることやら…

467 ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 21:01:58 ID:lqIQHv1A0
>My Best Friend
加蓮ちゃん怖っ! 倒れている子にグサッ、グサッって震えます><
奈緒ちゃんはヘタれなところが可愛いです。ここ、すごくロワっぽいなぁ、好み。

>終末のアイドル〜what a beautiful wish〜
ううん、ここもロワっぽくていい。間に投下した私の話が異次元な気がするけど気にしないw
涼ちゃんはいいなぁ。ある意味、このロワの中で一番素なのかも。ちえりは……まぁ、そうだよなぁw

>デッドアイドル・ウォーキング
パロロワには危険対主催って言葉あるけど、岡崎ちゃんのは危険アイドルって言うのかしら……苛烈だわw
しかし、北東はすごい鉄火場なんだよなぁ。この先、どうなるんだろ。

>>466
アイドルか否か……が、アイドルか杏か、に見えたw

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■予約中のアイドル達

◆FGluHzUld2 神崎蘭子、輿水幸子、星輝子
◆yX/9K6uV4E 渋谷凛、島村卯月、本田未央、水本ゆかり、榊原里美、新田美波
◆44Kea75srM 五十嵐響子、市原仁奈、和久井留美、双葉杏
◆kiwseicho2 三村かな子
◆S.fKmYzH42 及川雫、前川みく
◆John.ZZqWo 相川千夏

予約中を反映した現在の状況です。
ttp://www58.atwiki.jp/mbmr/?cmd=upload&act=open&page=%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81&file=m00.png
赤枠は予約中。青枠は登場話からリレーされてないところです。

468 ◆John.ZZqWo:2012/11/16(金) 21:24:28 ID:lqIQHv1A0
場合によって上のが前ので表示されてるのかもしれないので、あげなおし。

ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/15/c6ad6f2bbccafd2d0c1f385fcd07feda.png

469 ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:17:20 ID:3u8WHaBQ0
皆様投下乙ですー。
自分も少しばかり遅れてしまいました。
早速投下させていただきます

470ドロリ濃厚ミックスフルーツ味  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:18:54 ID:3u8WHaBQ0
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飲み込めないこの味わいをあなたに



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 まあ、なんやかんやあって。
山の道中、一つの声が響いた。


「バッカじゃないですか!」


 この世のすべてのものを超越する天使、輿水幸子様はなんとも素晴らしいお声でお叫びになりました。
普段は慈愛に溢れる彼女に、ありがたくもお叱り頂いている少女の名前は、星輝子というそうです。
輿水幸子様に比べたら、月とスッポンではありますが、この少女も曲がりなりにもアイドルでした。
キョトンとする仕草も、陰気でありながらどこか可愛らしく映ります。

 まあ。
キノコの方が可愛いです……けど……。


「あなたは何度はぐれたら気が済むんですかぁー!」(なおこれは恐怖心ではない。協調性の薄い同行者に対する正当な言い分である By輿水幸子)
「……ここはツキヨタケの宝庫……トモダチ……いっぱい、フフ、フフフ」(気味悪く笑った、ボクの高貴な笑みとは比べものになりませんね! By輿水幸子)

キノコはやっぱり素晴らしい。
彼女はそういうと、悦楽の世界へとトリップしていきました。
既に植木鉢いっぱいに生えたツキヨタケーズ(命名、輿水幸子。星輝子により採用決定)を見て、再び漏れた「フフフ」の控えめな笑み。
大きめなカサを手で軽くつつき、ポワンポワンと揺れるキノコをみて、顔を明るくさせる。
キノコの魅力に憑かれたようである。彼女はなんたる幸せ者だろう。
彼女の笑みを見ていると、不思議とそんな気が湧いてくる。

 とはいえども、だ。
博識であり将来、学者としても名を馳せることも決して不可能ではない逸材、輿水幸子様は有り難いお言葉を彼女にかける。

「けれどボクは知ってますよ、ていうか思い出しました。そのツキヨタケってキノコ、確か毒があるんでしょう? そんな危ないものわざわざ持つ義理ないじゃないですか。
 別にボクはこーんなハッタリ(この場合、殺し合いの事を指す)全然全くもってこれーっぽちも微塵たりとも信じてませんが、だからって毒で倒れちゃあ、情けなさすぎですよ」

流石我らが輿水幸子様。
少々残念な子認定をした者に対しても、この溢れんばかりの愛を以て、常識を説くだなんて!
他のアイドルには到底できない所業です。
それをさらりとやってのけるこの麗しきアイドル、輿水幸子に敵などいるのでしょうか。

 しかし伊達にキノコ好きを称している星輝子ではなかった。

「……知ってる、だけど基本的に食べなきゃ大丈夫」
「そ、そう? ふ、ふーん。別にボクだって知ってたしぃ。あなたが口だけじゃないか確かめただけだしこの辺で許してあげますよ、ふんだ」
「……?」

不思議そうに、顔を傾げる。色素の薄い髪を揺れ、たまたまそのひと房がキノコに触れる。
すると、なんということでしょうか。キノコがピョーンピョーンと今までにない動きをするではありませんか。
小刻みに左右に揺れる様子は、かの著名な絵画にも劣らない、旺然たる美であった。
揺れたキノコは一本だけではございません。
連鎖的に揺れ動く様は、例えるならライブコンサートで見られるケミカルライトの様に似ている。

「……! おおぉ……」

感嘆の声。
なんともまあ楽しげである。

キノコの栽培が趣味と言うだけあり、当たり前だがそれなりの知識は弁えている。
少なくとも輿水幸子のそれよりは、よっぽど信憑性はある言葉。
食べなければ、大丈夫。そう言い聞かせた上で今彼女は持っているのだ。
無類のキノコ好き。
地味、空気薄いと揶揄されることも多い彼女にとっては唯一と言っていいほどの特異点である。

「……はあ。まあボクの邪魔さえしてくれなきゃいいんですけど」

 魅力全開。
前を通れば十人中十一人がその姿をもう一度見たくて振り向くとされる輿水幸子さまを前にしては塵も同然かもしれないけれど。

 いえいえ、キノコと彼女の相乗効果を馬鹿にしてはいけないですよ。
一見地味と地味が重なりあっただけの、焼け石に水に思われるかもしれないが、その裏に秘める彼女の本性を――コホン、あれは夢です。
話を戻して、自らカワイイカワイイ言わなきゃ気付いてもらえない可哀相なアイドルとは違い、彼女はボーとしておいてもアイドルとして、その魅力に気付いてもらえたのだ。
眼前の自信たっぷりアイドル、輿水幸子とはもはや雲泥の――。

 な、などという戯れはさておいて、だ(会話強制シャットダウン)。
輿水幸子様一行は、下山をし終え、遊園地に辿りついた。
電力は通っているのか、くるくると回る観覧車が、彼女たちの視界を覆う。
特筆することもないほど、シンプルな作りの観覧車を仰ぎながら、彼女たちは門をくぐり敷地内に入る。

471〜期間限定:銀のアイドル100%〜  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:20:57 ID:3u8WHaBQ0
上を見ていたら、「いてっ」と、目の前の段差に気付かず転んだ輿水幸子様のお姿があったと言うが、詳しい事は彼女の名誉のために伏せておこう。

「う、うぅぅ……。どうしてボクがこんな目に……」

面子を保とうと、泣いてこそいないが、泣きそうにはなっていた。
涙目になりながらも、輝きが失せない彼女は、まさしくアイドルのトップに立つべき人間だ。
風格が、そんじょそこらのアイドルと異なるのは、致し方ない話だったのだろう。
比べるのは、酷というもの。

「あ、待ってくださいよー!」

転んだ輿水幸子を待とうともしないで薄情にもさっさと先に進もうとする星輝子を急いで追う。
ちなみに、だが。
彼女らがそれでも共に行動しているのは、輿水幸子の提案である。
――多少の我儘は、我慢をしなければいけない立場である。まあ、それでも自重しないのが、彼女のいいところでもあり、悪いところでもあるんだろう。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 闇を食らう孤独の支配者(懐中電灯もつけず、夜の闇に取り込まれるように、たった一人で彼女はいた)。
刻印されし名を礼賛のすべし堕天使、神崎蘭子(アイドルを職とする少女、名前を神崎蘭子と言う)。
遊戯を司る魔性の祭壇に参拝するものは消滅(あれから結局、遊園地に訪れる者は、少なからず彼女と遭遇したものは誰もいなかった)。
休息の祭具に導かれ、純然たる魔を祓おうと赴く(ベンチに座って、恐怖を落ち着かせようと、一息つく)。
弛んだ気の先に待ち構えるは、燦然と輝く数多の財(ふと空を見上げると、広がっていたのはキラキラと輝く星の数々だった)。
勝利を微笑む、彼方の女神(まるで神崎蘭子に、「頑張れ」とエールを送っているようにも見える)。
全てを浄化する光の魔術は、されど無為に空疎と化す。(そんなエールも、実際は何ら解決には向かわなかった)。

顕現する親愛の糸(プロデューサーの事を思うと、どうしても『なにかを決心する』と言う結論が決まらない)。
殺戮のマリオネットを興じるか(殺し合いに乗って、プロデューサーの命だけは確保するか)。
我が誇りを貫くか(とりあえずが、殺したくないと言う意思に則って行動するか)。

意味失せし二者択一の結論(どちらにしたところで、彼女のやりたいことは決まっている)。
思い人が為の高潔なる騎士(プロデューサーを護りたい)。
意味するは、暴虐の風?(だったら彼女がするべきなのは、他のアイドルを殺すことなのだろうか)。
示すは否定。世界の理では、否定であるはずなのだ(答えは違う。違うはずなんだ)。
望まれざる鮮血の結末(誰も、殺したくなんてない)。
果実が最も熟れようが、不変の理想(たとえそれが、どんなに甘い考えであろうと悟ったところで、結局のところ誰も殺したくなかった)。

「明日見えぬ我が旅路よ……(プロデューサー、私、どうしたら……)」

再生されるは、過去の虚像(繰り返される、先と同じ自問自答)。
無能が誘う、招かれざる純然たる魔の再興(恐怖が、再び巻き起こる)。
親愛なるものの行方はいずこに(プロデューサーのことが心配で、それでいてなにもできない自分が確かにそこにいて)

「……プロデューサー、加奈ちゃん……私は……私は!!」

未来は、誰が為に霧散する(答えを出してくれるプロデューサーも、今井加奈はそこにいない)。
抹消された人の記録(それどころか、近くには彼女を支えてくれるような人間もいない)。
色あせし心象世界(視界は、さながら色がなくなっていくように、絶望感が立ちはだかる)。


刹那(そんな時である)。
気流を遮る、二つの気配(二人の人間が、近づいてきた)。

「き、キ、キノコ触らせてあげるから誰か出てきてー!」
「いやそんなんじゃ来ないから」
「ぐぅ……ひ、人付き合いは苦手なんですよー……」
「じゃあなんでアイドルやってんのさ」

「どうしてボクがこんなツッコミ役に」と落とした悲劇のヒロイン(「どうしてボクがこんなツッコミ役に」と愚痴を零す)。
堕天使の視界を遮りしは、機械仕掛けの無機質な輝き(神崎蘭子の視界に、懐中電灯の光がはいる)。
瞬く閃光が紡ぎ、三者の邂逅(その光により、三者が三者とも、新たな存在が近づいたことに気付く)。

472ドロリ濃厚ミックスフルーツ味  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:22:58 ID:3u8WHaBQ0
時遅き進軍を前に憚るは漆黒の衣に包まれし堕天使(つまりは、ゆったりと歩く輿水幸子と星輝子が神崎蘭子、神崎蘭子はその両名の存在に、気がついたってことだ)。

停滞の序章(しばしの沈黙)。
弾けだす自己証明(輿水幸子は、声を上げた)。


「……あ、意味分かんない奴」


糸に繋がれし堕天使の降臨(つられて、神崎蘭子も、声を出す)。


「……輿水、幸子ちゃん」
「ちゃん付けだと威厳がないから止めてくださいと何回も言ってます!」


運命共同体、流血の同朋(おなじプロダクションの、プロデューサーこそ違えど共にがんばってきた仲間)。
自称・カワイイ、輿水幸子(自称・カワイイこと、輿水幸子)。

「……ドうモ」
「どうしてそうカチコチなんですか」
「……う、うーん……。……すごい、豪勢な服。……――偉い人!?」
「あれはゴスロリファッション。ゴシック・アンド・ロリータの略で――――ていうか女の子だったら、ていうかアイドルなんだったらそれぐらい知ってて下さいよ!」
「……ご、ゴメンなさい……」
「はあ……まあいいですけど、もう……。寛容なボクに精々感謝していてください」
「……御意?」
「いつの時代ですか……」
「キノコ大ブームの時代」
「なんでここだけははっきり答えるんですか! それと今は……は違うけどすぐにボクの時代ですよ! ニューウェーブ到来です!」


――追随する、灯りし胞子を抱えるは偶像――星輝子(何故か輝きを見せるキノコを抱えたアイドル、星輝子)
深く封印されし記憶を解放しても、掘り出されるメモリはない(神崎蘭子からしてみれば、初めて見るアイドルだ)。


「……愚劣を極めし退廃の魔物?(……えーと、な、なにやってるんですか? なんでそんな楽しげなの?)」
「カワイイボクが事もあろうか涙跡ついてる人にすごく馬鹿にされたんですけど! 裁判所は何処ですか」
「……アッチ」
「いやないですから」
「……ボケ、難しいですね……」
「黄昏は此処にあり(どうすればいいんでしょう?)」


万物を食らいし銀翼天使の戯れ(とても色濃い三人のアイドルは、こうして出会う)。
混沌は、鐘を鳴らしたばかりである。(まだまだ、彼女たちの物語は、始まったばかりである)


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 何とも心優しい輿水幸子様は、これまでの経緯(いきさつ)を簡単に述べられた。
その相手は、輿水幸子と同じプロダクションで働く、神崎蘭子である。
前々から、プロデューサーからそんな子がいると聞いていたし、何回か話をしたこともあった。

結論から言って、幾許聡明で知られる輿水幸子であろうとも、その言語(通称蘭子語、命名輿水幸子、不採用)を理解するには至らなかった。
彼女の言語を理解出来るのは、彼女のプロデューサー、そして、そのプロデューサーが同時プロデュースしている、今井加奈と言う少女ぐらいしか、少なからず輿水幸子は知らない。
無論、今も彼女の言い分が通じている訳ではない。
まあ。
とはいっても、先ほどから一緒にいたのもまた、話の通じにくい相手ではあったが為に、彼女から見ての現状はあまり変わらないのだけれど。


「勝利の凱歌を謡う者?(殺し合いはせず、主催者さんに痛い目を合わせる、ですか?)」


 暗転の先に秘めたるは劇場の転換(いまは、ベンチからところ変わって遊園地内の飲食店にいた)。
無限に広がる彩りの海に飛び込み、死線を交わす(何故か通常通り作動したドリンクバーで、ジュースを注いで、席に着いていろんな情報を交換する)。
神崎蘭子が選ぶは陽光瞬く橙の供物、輿水幸子が選ぶは弾ける泡沫を秘めし果物の王の搾りかす(ちなみに神崎蘭子はオレンジジュースを選んで、輿水幸子はメロンソーダを選んだ)。
響く咽喉の流動を交え、堕天使と天使は神の託宣に従うがままに契約に従事する(ジュースを飲みつつ、彼女らの目的を果たす)。

アカシックレコードに記されるが曰く、神崎蘭子の綴りし歴史は漆黒に染まる(公然の事実であるが、神崎蘭子の喋り方は、他人には易々とは伝わらない)。
世界が定めしカルマに歯向う勇者の猛りを無情に屠る(その言語を前にして、様々な者どもが、交流を諦める)。
自伝を埋める双のペヱジ、記されるにプロデューサーと今井加奈(過去を振り返っても、プロデューサーと、今井加奈ぐらいがまともに理解してくれたぐらいだ)。

 それでも。
その程度で諦める輿水幸子様ではない。

473ドロリ濃厚ミックスフルーツ味  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:26:13 ID:3u8WHaBQ0
路頭に迷うアイドルを簡単に見捨てるなんて、彼女にはできなかった。

「(まあ、ここで冷たく見捨てるのは、テレビ向けじゃありませんよね!)」

その魂胆はあまりに尊かった。
――カメラすらロクに見せないのに、それでもファンサービスを忘れない誠心。
眩しいほどに、アイドルの鑑である。
輿水幸子様、まだまだ奥底が窺えない。
それほどまでに、人徳に富んだ人間であった――と言うべきか。

「えーと……。まあ、よくわかりませんが、多分そうですよ。ボクは凱歌をあげるんです。
 ボクは世界で一番ですからね。そんなことは余裕です。
 ――それに、こんなことを強要させる性根の腐った方を見捨てるだなんてそれこそないですよ。ありえません」
「純然たる魔の脅威は何処に……(怖くはないんですか……?)」
「……うーん、何言ってるかよく分かんないけど別にいいんじゃない」
「……裁断すべきは貴女の業(そう、ですか……?)」

ボクはボクのやるべきことをやるだけです。
最後にそう付け加え、可憐でいて凛然でいて至高な表情を、神崎蘭子に向ける。
彼女の表情は、それでも懐疑的に眉をひそめ、猜疑的に顔をしかめる顔をしかめる。
彼女は、それをあくまで彼女の問題と置いておいて、二杯目のジュースを取りに行く。
トコトコトコ、室内に響く彼女の足音。
キョロキョロ、室内を見渡す彼女の顔。
だけれど、彼女の望むようなものはなかったし、いなかった。

「(……まあ、ドッキリだったら、ここでスタッフがドッキリって言うのもテレビ的には興ざめですしね。
  ……ふーん、徹底してるなあ。まあ、ここはプロデューサーに免じて、しばらくはドッキリに乗ってあげますか。
  カメラが見つかり次第、即刻苦言を申し上げる予定ではあるんですけれど――覚悟しなさい、プロデューサーさん……フフッ)」

怪しげに笑う姿も、齢14でありながら、妖艶な美というものが引き立っている。
元々、思った事をそのまま口に出しやすい彼女ではあるが、それでも思った事を、そのまま口に出さずに、番組の事を一生懸命考えていた。
どれだけのアイドルが、そんな空気を読める行為をできるだろうか――答えは恐らく、零に等しい。
輿水幸子様がどれだけ素晴らしいか、これでわかるだろう。

「(ボクがこんなところで死ぬわけないんです。プロデューサーさんだって、もっと偉い人だってこんなの許すはずがないんです)」

幾分か前に思った事を、繰り返す。
――自分の不安、嫌な現実を見て見ぬ振りをしながら、輿水幸子様は、遠い未来を見る。

そこに映るのは、プロデューサーと共に、アイドルとして大成功を果たし、順風満帆な人生を送っている姿。
あわよくば――彼女自身がシンデレラとなって、ヴァージンロードを歩く姿が思い浮かぶ。
隣に立っているのは、誰だろうか。もしかしたら、プロデューサーみたいな人なのかな。
そんな未来予想図が、簡単に思いつく。

現実は確かに残酷だけれど、彼女はそれが果たせると感じているし、信じている。
だからこそ、輿水幸子様――彼女は純粋なのだ。
純粋すぎる、そんな罪を、負っている。
現実を疑うことを、知らな過ぎることが、今の彼女を成り立たせている。

現実の過酷さを知っているようで、あまりにも現実慣れをしていない。
夢を夢として、現実を現実として、独立した世界だと言うことを、実感していない。

474ドロリ濃厚ミックスフルーツ味  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:26:49 ID:3u8WHaBQ0
敗北を知らない彼女は、純粋に、彼女自身が一番であると認識している。
いつもの自信過剰――いや、確かに輿水幸子様にはそれを成し遂げれるほどの才能は、満足に有しているし、努力だって惜しまない。
が、それにしたところで、自己至上主義の大元は、この辺りの現実知らずが所以となっているのだろう。


「(だからさっきの鉈だって、この銃だって――――偽物なんですよ。トリガーを引いたところで、発射されるのは、そうですね、花束でしょうか)」


想いは、胸の奥深くに穿たれる。
殺されかけたという現実を――あくまでドッキリの一部だと、誤謬を犯しながらも、認識する。
現実を疑うには――自分が死ぬと言う可能性を信じるには、あまりに彼女は純粋だった。

今度はコーラを選んで、彼女は席に戻る。
戻ってみると、神崎蘭子の瞳の光沢が、変わっていた。



「(……私はこの人を信じて、ついていってもいいのかな?)」

 神崎蘭子は頭脳が構築する迷路へと彷徨いこむ(神崎蘭子は、思案する)。
運命を共にす片割れ(これから行動を共にする、言わば仲間)。
天秤が傾くのは、現世か地獄か、はたは天国か(その結果が、彼女にとって、いい方向に向くのか、悪い方向へ向くのか、はたまたどっちつかずな結末となるのか)。
聖痕の疼かない(それは彼女にはわからない)。
されど、道を踏まなければ、彼女は何者にもなれない(だけど、決断を下さなきゃ、彼女は何もできない)。
我が使命とも親愛なるものの渇望とも(自分が為すべきこともできなければ、プロデューサーの為になることもできないままだ)。
同胞ともだ(今井加奈に対しても、それは同じ)。

「(だったら私は、どうするべきなのかな)」

 足音を響かせる裁きの刻(迫りくる決断の時)。
牢獄に閉じ込められし愛しき双影を思フ(頼れるプロデューサーは何処にもいない、いや頼ってはいけないのだ)。
宙を掛ける守護の契り(彼女が、プロデューサー、今井加奈を護らなければならないのだから)。
覇道は拓かれた(分かっている)。
振り返し過去、我がありのままの邪悪が、光を奪った(でも、それでも、今までは決断が出来なかった)。
――だがあるべき我は、そうではない(――けれど)

「(……ううん、もう、迷ってはいられないんだよね……)」

幸運の女神は、彼女が前を降臨し、幸の子、輿水幸子を置いていく(幸運なことに、今現在、彼女の近くにいるのは、顔見知りがあり、殺し合いには乗っていないと言う輿水幸子)。
謀叛は世界に淀めく摂理(裏切りだって確かにあるかもしれない)。
帰還の旅路を経て座する輿水幸子(ジュースを取りに行って、丁度帰ってきた輿水幸子を見る)
双眸に交る邪気はない(瞳には、何ら敵意など存在しない)。
穿たれた希望(決意は決まった)。

「あ、あの……」

されど光を奪取するのと、闇への逃亡――希望の比重が傾くのは――神が囁くのは――(彼女がしたい事は)。


「私を、仲間にしていただけませんか……?」


――――殺し合いへの、反抗であった。
彼女の選んだことは、およそ選択肢の中にあったモノの中で何よりも難解なもの。
先ほどまで、大罪を抱き、戒めを施されていた彼女が望むものとして、圧倒的に高すぎる目標。
それでも彼女は「やる」と断言した。

確かにその内容は単純明快だ。
最初からしたいことと言ったらそれだけであって、殺し合いなんか、したいわけがない。
幾ら、言葉が禍々しくとも、それは言葉。
言葉は――感情を越えられない。

切っ掛けがあれば、よかったのだろう。
なにか最後のひと押しがあれば、恐らくそれでよかったのだ。

彼女は普通の少女であったから。
なによりも彼女は――天使(アイドル)なのだから。

怖かったのも事実だし。
躊躇っていたのは紛れもなく彼女だった。
彼女にそれだけの気概があるかだなんて、彼女自身胸張って宣言できることではないけれど。
それでも彼女は恥ずかしげもなく、堂々と言う。


「私も、あのふざけたお方の出鼻を挫いてやりたいです」


それこそ、彼女が何時も喋っている『中二病』の延長線上にある言葉なのだ。
恥ずかしいわけがない。
むしろその様は、いつにもまして輝いている。
『瞳』の持ち主として――あのプロデューサーが育ててくれたアイドルとして。
そして彼女個人の感情が決めた決意。

475ドロリ濃厚ミックスフルーツ味  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:28:10 ID:3u8WHaBQ0
『絵』に描いた餅ではない、覚悟を伴う純粋な決意。

神崎蘭子は、グビグビとオレンジジュースを喉に通す。
最初に飲んだ一口よりも、何故だか美味しく感じていた。
そんな姿を見て、輿水幸子は彼女の言を返す。

「別にいいですよ。同じプロダクションのよしみですしね。共に頑張りましょうか」

 あっさりと彼女の言を受け入れる。
輿水幸子様の懐の深さはマリアナ海溝を優に越す。
現に、中二病言語(蘭子語)から、通常の喋りに至るまでの変化に、茶々を入れないあたり、流石は天使である。と言うしかない。
決して面倒だったと言うわけではない。

「そんなことよりも、まずはこれからどうするかです」

 そんなこと、と言われ少し頬を膨らます神崎蘭子であったが、
彼女はそれを『「それが社会の厳しさだ」』と言わんばかりに華麗に無視をして。
一先ずは、人差し指を立てて神崎蘭子に提案をする。


「とりあえず先あたっては、ここを中心に、遊園地の園内ならびに動物園の探索あたりが手頃ですかね」


動物園は、この遊園地に隣接する施設の一つだ。
動物園と冠するぐらいなのだから、きっと動物の何匹かはいるのだろう。
まあ、いたところでいなかったところで、園内を闊歩するということには変わりないだろうけれど。

「無辜に還る同族の賛美(それでいいと思いますよ)」
「なんて答えているかは分かんないけど、否応なしに一緒に来るくんですよ。仲間じゃないですか」
「ありがとう、幸子ちゃん(ありがとう、幸子ちゃん)」
「礼なんていいですよ、当然の事をしたまでですからね! なんたってボクは素晴らしい人間ですし!!」



 二人は結託する。
――片や社会の残酷さを知らないけれど。
――片や現実の無残さを知らないけれど。
きっと未来、近い内に彼女たちは自分の考えることの甘さを経験するであろうけれど。
今はまだ、淡い希望を抱いて、舞台に立つ。


「ところで、星輝子さんはどこいったんでしょう?」
「……水害を救いし孤独な戦士――」
「それ以上は言わなくていいです」


ったく、あの方は。
輿水幸子は嘆息しながら、椅子に浅く座る。


「じゃあまあ、あの方が帰ってきたら、行動を開始しますか」
「御意(了解です!)」
「それ流行ってるの……?」
「神の仰せのままに(え、私は知りませんよ?)」
「ちなみにそれだとどっちかというと教徒みたいですよ」


そして、時間は過ぎていく。
夢物語ではない、夢の国に似合う希望を胸に。
彼女たちの物語は、 失敗/成功 に向けて、歩きはじめる。

476ドロリ濃厚ミックスフルーツ味  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:28:39 ID:3u8WHaBQ0
【F-4 遊園地・飲食店/一日目 深夜】


【神崎蘭子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの打破
1:輿水幸子、星輝子と行動

※今井加奈と同じプロデューサーです
※輿水幸子、今井加奈と同じプロダクションです

【輿水幸子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、グロック26(15/15)、スタミナドリンク(9本)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:1番になるのはボクって決まってますよね!
1:神崎蘭子、星輝子と行動します
2: 本気を出すのは星輝子さんが来てからです。

※神崎蘭子、今井加奈と同じプロダクションです


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 時は少し遡る。
彼女は、トイレの個室に腰をおろしていた。
尿意を催したわけではない。
現にスカートから下着を降ろしていないようだ。

なら、わざわざあの二人から再度はぐれて、一人籠っているのか。
人見知りな性格も所以しているんだろうけれど、この場合それとは違う。

目的は大きく分けて二つ。
一つは――――。


「キノコ、キノコ、……フフッ、こんな姿もやっぱりいいよねぇ……フフフフフ」


先とは打って変わって。
蛍光灯の光に晒されて夜道で煌いてた姿とは違う色を見せている。
新たなキノコの姿に、彼女は感銘に似た気持ちを抱く。
より明確に伝わるツキヨタケーズの輪郭。
各々の大きなカサが、それぞれ強く自己主張をして、植木鉢から溢れんばかりにシルエットが飛び出ていた。


「〜♪」


楽しげに鼻歌を奏でながら、人差し指でキノコをつつく。
山中で見せた輝きの協奏曲とは違う趣に、心が潤う。

だけどその楽しげな様子も、突如止まる。
嬉しげな表情から一転、暗い表情が顔を射す。

「……っと、こうしているわけじゃなかったね」

言いつつ。
ポケットから黒い物体を取り出す。
基本支給品として配られた情報端末ではない――携帯電話であった。


「…………ッ」

息を一つ飲む。
登録している電話番号は、全部で二つ。

477ドロリ濃厚ミックスフルーツ味  ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:29:27 ID:3u8WHaBQ0
一つは施設の固定式電話、残りの一つは、誰とは分からないが、参加者に宛てたものであった。
これらは、元々携帯電話そのものに登録されていた電話番号であり、彼女の覚えている番号を押しても、案の定というか、繋がらなかった。
ちなみに既に――輿水幸子と下山をしている途中に二回ほど――押している。応答はなかった。


「今度は出てくれると……嬉しいな」


電話の番号を押す。
ちなみにわざわざ二人から離れてで電話をかけるのは、ただ単に、人に電話で話しているのを見られるのが好きではないから、という羞恥心故のものだった。
まあ輿水幸子ばかりに仕事を取られたくなかった、というのもある。

「じゃあ、掛けよう」

もう三度目である。
慣れた手つきで、同じく携帯を持つ特定参加者の番号を選択する。


――プルルルル――プルルルル――



何度か繰り返された機械音。
星輝子も半ば、「今回もダメだったか」と諦めかけたその時。


――ガチャリ――



相手は、電話に出た。
その先に待ち構えるは、神か悪魔か。
星輝子は緊張した声色で、問いかける。





「も、もしもし……、あなたは……誰ですか?」





相手は、答える





【星輝子】
【装備:ツキヨタケon鉢植え、携帯電話】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:???
1: ???

478 ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:30:37 ID:3u8WHaBQ0
以上で投下終了です。
感想指摘等ありましたらお願いします。

479 ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:31:21 ID:3u8WHaBQ0
すいません、タイトルは、

ドロリ濃厚ミックスフルーツ味〜期間限定:銀のアイドル100%〜

でお願いします。長すぎて名前欄に入らなかった。

480 ◆FGluHzUld2:2012/11/16(金) 22:52:32 ID:3u8WHaBQ0
何回も申し訳ありません、
時間帯が深夜から黎明に変更していなかったようなので、黎明に変更です。

481名無しさん:2012/11/16(金) 23:17:58 ID:sTqdRsCo0
投下お疲れ様です!

>デッドアイドル・ウォーキング
岡崎先輩がやばいことになってるー!?
おおう、アイドルを名乗っちまったか
ある意味でアイドルに狂ってる感じだw
しかしアイドルとは何かとは小梅ちゃんも革新な問いを……


>ドロリ濃厚ミックスフルーツ味
地の文を見るだけで笑えてくるのはずるいと思うんだ!
特に蘭子ちゃん語仕様の地の文を見る日が来ようとは……w
ちゃんと翻訳も載っているいつもの仕様なんだがそれでもいちいち笑ってしまうw
というかこのメンツでちゃんと話のできる輿水ちゃんはなんか結構大物な気がするw

482 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/16(金) 23:20:35 ID:NbYTH64Y0
投下乙ですー
さっすが幸子様はブレねぇ!恐怖ももろともしない(ように見える)ぜ!
しかしものの見事に3タイプの色ものが揃ったなぁ…まさにドロリ濃厚…

>>467
いつも乙ですー
アイドルか杏か……あれ、これでも意味通じるじゃんw
でも泰葉ちゃん的には元の杏はアイドル的にどう思ってるんだろ

483 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/17(土) 00:50:30 ID:suLm5SaI0
皆様投下乙です。感想は後で纏めてということで、取り急ぎ延長申請します

484 ◆mR8m2sBomA:2012/11/17(土) 10:24:46 ID:cDjDtnqM0
初めまして
あまりの熱気に釣られてやって来ました
古賀小春、小関麗奈ちゃんを予約させていただきます

485 ◆U93zqK5Y1U:2012/11/17(土) 11:46:52 ID:cDjDtnqM0
既にあったトリらしいのでこちらに変更します

486 ◆U93zqK5Y1U:2012/11/17(土) 11:48:27 ID:cDjDtnqM0
》484です

487名無しさん:2012/11/17(土) 17:35:59 ID:VVbTE9sEO
投下乙です。

果たして、どこの誰に繋がるのか。

488名無しさん:2012/11/18(日) 02:53:27 ID:N9rmeWRU0
みなさん投下乙ですー!すごい速度!

>彼女たちの中にいるフォーナインス
ナナが作り上げたキャラ設定を真っ向から新設定でぶちやぶるバトルにすごいカタルシスを感じる!
しかし、南条ちゃんもアベナナも配役を演じきった上の完全燃焼で、
だからこそ演じることでしか、戦うことでしか言葉をぶつけられなかった悲哀が引き立つなあ……。
ワンダーモモは本家ネタかなと思ったらどっちかというと本社ネタだってあとからググって遅れ驚きもしたり。

>終末のアイドル〜what a beautiful wish〜
他のみんなのSSもですが、早くもどんどんアイドルたちが殺し合いが現実だって事実に襲われてますね。
その中で覚悟完了するアイドルもいれば、普通に涼さんみたいにパニクるアイドルもいて、
さてさてどうなっていくのか。個人的にはすぐ決めずにいろいろ悩んじゃう涼さんは人間らしくて好きだー。
智絵里のほうは、悲しいけれど積極的になってる彼女にがんばれとも言いたくなってしまうのがまた切ないんだ。

>デッドアイドル・ウォーキング
岡崎さんこええ! でも芸能界に長く居て、アイドルへの想いが人一倍強い彼女だからこそ、
アイドルの持つべき精神性を信じているからこそ、そうしない人を糾弾する。
ある意味岡崎さんがいちばんこの島の中で夢を見ていたりするのかなあと考えると、唸らされます。
小梅ちゃんははからずも不幸ポジになってしまってるなあw出会う人がこわすぎるw

>ドロリ濃厚ミックスフルーツ味
まず幸子パートの尊大すぎる一人称アンド一動作一動作にドヤを入れるあんまりにも幸子らしい文章にジャブをくらい
続く蘭子ちゃんパートのこれどうやって書いたんだろうすげえな一人称にすげえと思いながらも一行ごとに吹き
二度目、読み返してみておおお? 色々少女たちの内面に触れてるし蘭子ちゃんは勇気を出してる! となりまして。
まさにタイトル通り、濃厚すぎて一読では飲み下せないくらい強烈なSSでした……さてきの子ちゃんの電話相手はいかに。

489 ◆kiwseicho2:2012/11/18(日) 02:58:30 ID:N9rmeWRU0
っとそれでは三村かな子投下します。

490 ◆kiwseicho2:2012/11/18(日) 03:00:49 ID:N9rmeWRU0
 
 ほんの少し視界を広げると、学校の屋上から見える夜空は広く、
 そこには沢山の小さくきれいな星たちが、われよわれよと輝いていました。

 ――暗くて黒いこの世界を照らすたくさんの小さな光。

 きっとこの会場に連れてこられたアイドルたちは皆、ちょっと前まではあの空に居て、
 つらい現実に、悲しい出来事に、変わらない毎日に光を当てて、
 世界中の人たちの望みを背負って、愛されていたんだと思います。
 今もまだ、それは変わりません。
 みんなの中にいる“アイドル”はきっとまだ、変わらず世界を照らしています。
 それでも少なくとも私は。
 私のなかの“アイドル”はもう、
 空から落ちて土に汚れて、きれいな星では、なくなってしまいました。



 ふぅ、と深呼吸を一つしたあと、私、三村かな子はM16A2を大槻唯ちゃんの身体に向けて構えたまま、
 3秒間その場に制止して彼女の反応を伺いました。

 「殺したと思っても油断はするな。まずは呼吸の有無を確認しろ。
  芝居が上手くても、単に気絶でも、訓練も受けていない者に肩の上下までは誤魔化せん」

 私に殺し合いの“訓練(レッスン)”をしてくれたスペシャルトレーナーさんがこんなことを言っていたのを思い出します。
 あの人は他にも何回も、口癖のように私に「確認しろ」と言いました。
 「確認しろ」「油断するな」――「自分で考えろ」。
 ふわふわと生きている私のような人間は、常に気を張っていないと足元をすくわれてしまうぞ、と。
 殺し合いのための特訓の日々はとってもとっても辛かったけれど、
 これに関しては確かに、その通りだなぁ、と思ってしまいます。
 いつだって私はプロデューサーさんに言われるがままアイドルをしてきました。
 レッスンも、お仕事も、
 自分からこういうのはどうでしょうって言うことはあんまりなくて。
 最初にプロデューサーさんに声をかけてもらったあのときからずっと、
 アイドルとしての私はプロデューサーさんに任せっきりだったように思います。
 この殺し合いに巻き込まれる前の最期のお仕事、ひとりで行ったあのお仕事は、
 いつもどれだけプロデューサーさんが頑張っていて、どれだけ私がプロデューサーさんに頼っていたのかを教えてくれました。
 プロデューサーさんがかけてくれた魔法が解ければ――私はまだまだ、普通の女の子だったんだって、確認させてくれました。

「大槻唯、死亡確認、です」

 3秒神経を研ぎ澄ませて彼女の死体と周りの空気に異常がないことを確認したあと、
 私は銃を下ろして、急いで私の殺した大槻さんの死体のそばに駆け寄ります。
 このころにはもう、私の顔は正常な、見れる顔へと戻っています。――急がなければなりません。
 でも、ダンスのステップを踏むように、なめらかに行わなければなりません。
 まずうつ伏せに倒れている大槻さんの身体をゆっくりと仰向けにします。
 続いて彼女の死んだ手が握っている曲剣、カットラスをなかば強引に、その綺麗な手から引きはがします。
 そばに落ちているデイパックから、そのまま大槻さんの支給品を回収します。

「……ストロベリー・ボム」

 私はここで初めて、大槻唯ちゃんもまた、ちひろさんが息をかけたアイドルの一人だったことを知りました。
 じゃなきゃ私が何度も使用訓練をしたこのアイドルを殺す凶器が、11個もデイパックに入っているはずがありません。
 でも、だとすればこれは「潰し合い」になるのでしょうか。
 いいえ。私は違うと思います。
 なぜって、一週間の“訓練(レッスン)”の最期に、スペシャルトレーナーさんは私にこう言ったからです。

 「訓練(レッスン)は開始後すぐに、現地でも行われるだろう」。

491 ◆kiwseicho2:2012/11/18(日) 03:02:28 ID:N9rmeWRU0
 
 ……始まってすぐの端末の更新。
 一撃で決めず、臆して話し合いでもしていればこちらが死んでいただろう相手の支給品。
 考えるまでもなく、そういうことなんでしょう。
 59人のアイドルを敵に回す最後のアイドル。
 その資質が私にあるのかどうか――私、三村かな子はまだ、試されているんです。

「試されているのなら。期待以上のことをしないといけない。そうですよね、ちひろさん。トレーナーさん」

 ストロベリーボム(はじける、赤い実。ひどい名前だと思う)を自分のデイパックに収めきって。
 カットラスを右手に持った私には、ここから立ち去る前に一つ、やろうと思っていることがありました。
 これは明確には命令されていない指示。私が自分の意志で行う、私なりのこの殺し合いへのアピールの仕方。

「示しますね。私がアイドルを全滅させられるってことを。
 私以外の“アイドル”を全員殺すことが出来るってことを、目に見える形で……っ……」

 それはとってもふざけた行為です。
 本来なら行わなくてもいい余分な動作だし、きっと私がこんなことをするなんて、誰も思ってないだろうことです。
 でも――私がみんなの“敵”になると決めたなら、
 悪役であるなら、これくらい酷いことをしないといけないって、思ったから。
 私はその場にひざまずいて、星と月の明かりでわずかに分かる大槻さんの死に顔に左手をかけました。
 うつ伏せに倒れるとき額を打ったらしくて、おでこには小さな切り傷がありますが、外人さんみたいに整った綺麗な顔です。
 大槻唯ちゃん。
 お仕事で一緒になったことはないけれど、私は同じアイドルとして、この“顔”をよく知っています。
 つやのある金髪にギャルっぽい格好の近寄りがたい姿とは裏腹に、明るい笑顔と人懐っこさでいろんな人と交流があって、
 数人で集まればその輪の先頭に立ってみんなを引っ張っていくような女の子。
 消極的で、ぱっとしない見た目で、お菓子作り以外にはあんまり自信もない私とは対照的で。
 最初に情報端末に表示された彼女の名前を見たとき、内心私はこれは運命なのかもしれないと思ったくらいでした。
 いいえきっと、運命なんでしょう。
 三村かな子が最初に奪った“アイドル”が大槻唯になることは、なにかに定められていたのでしょう。

 私は右手のカットラスの刃を慎重に持って。
 大槻さんの“顔”に――彼女の“アイドル”に、刃を入れていきます。

 私はアイドルを全滅させるアイドル。私以外のアイドルから、全ての“アイドル(偶像)”を奪わなければならない存在。
 では、アイドルとはどこにあるんでしょうか? それは、命を殺せば奪えるものなんでしょうか?
 心を折れば死んでしまうものなんでしょうか? 地に落ちたアイドルは、星としての光を消してしまうんでしょうか?
 私は、違うと思います。アイドルが死ぬのは――“顔”を奪われたとき。
 その“顔”を誰にも思い出されなくなったその時に、きっとアイドルから光は失われ、アイドルは少女から失われるんです。

 だから私は、59人の敵として、人と“アイドル”を両方殺します。
 みんなの顔から“アイドル”を剥がして、笑顔も泣き顔も、嫌な顔も驚いた顔も全部奪って、誰でもない誰かにしてしまえば。
 ――アイドルとして死ぬことすら、許さなければ。きっとそれは正しく最低なアイドルの敵だ。
 ナイフとして扱うにはカットラスは少し大きかったけれど、訓練の甲斐もあってか、数分でそれは完了しました。
 他の部分を傷つけることなく、その場所になにも残すことなく、
 いま大槻唯ちゃんから奪われた”アイドル”は、私の左手からぷらんと吊り下げられた薄い皮になっています。

492 ◆kiwseicho2:2012/11/18(日) 03:04:36 ID:N9rmeWRU0
 
「ごめんなさいっ……貴女のアイドルは、いただき、ました」

 私はその皮を左手で握りしめ、ぐちゃぐちゃと手の中で混ぜてもとのかたちを分からなくして、屋上の柵の向こうへ投げ落としました。
 こんな普通なら無駄な作業、あと何回行うことができるか分かったものではありません。
 出来るのなら、丁寧に、迅速に。
 左手に残った小さな彼女の肉片と、彼女の血を、私はある種の懺悔をこめた儀式めいて、舌べろでちろりと舐めます。
 鉄に似たその紅い液体とざらざらした皮膚の粒が与える味は、
 おいしくありません。
 おいしくありません。
 おいしくありません。
 それでも。私は他のアイドルから“アイドル”を奪って、彼女たちを世界から消して――レベルアップしないといけないんです。



 屋上から一階降りて。
 手洗い場で手を洗っていると、ポケットにいれていた端末がバイブレーションしました。
 画面を見るとそこには事務的な文体で、【視聴覚室のPCからアプリ“ストロベリー・ソナー”をDLせよ】と書かれています。
 私の仕事がひと段落した後を狙ったかのようなタイミングです……。改めて、怖気が背中を伝いました。
 ストロベリー・ソナーとは何なんでしょうか?
 名前からして、ストロベリー・ボムの位置を把握できるアプリなのかもしれません。
 普通の武器ではなくお手製の武器を作った理由は、発信器としての役割を仕込むためだったんでしょうか。
 あるいはもっと単純に、参加者の位置がわかったりするアプリなのかもしれないけれど――どうやらここから先は、
 さっきのように「どこどこに誰がいる」といった強力すぎる情報は、私にも制限されてしまうようでした。

「自分で考えて動け、ってこと、ですよね……」

 暗にそう言われることで、
 ちひろさん達に言われるがまま動けばいいやなんて考えている私がいたことを、改めて確認させられました。
 それじゃダメだって、ダメだったんだってあれほど思い知らされたばかりだっていうのに……やっぱり私は、バカなんです。
 プロデューサーさんにもバカなことはよせって言われてしまいましたし、きっと天地がひっくりかえるくらいのバカなんだと思います。
 でも、いいんです。
 私がどれだけ救いようのないバカになったって、プロデューサーさんさえ生きていれば、
 きっとあのひとはいつかまた、私ではないどこかの女の子に、私みたいに魔法をかけてくれるはずだから。

 こんな私でさえ“アイドル”にしてくれたプロデューサーさんなら――その誰かを私みたいに、いや私よりもっと、輝かせてくれるはずだから。

 私はもう地に落ちて、あなたを救うことしかできないけれど。
 あなたはもっと沢山の女の子を輝かせて、あの空へ打ち上げることができるから。

 だから――私にかけてもらった魔法は、もう解いてくれたって構いません。
 私のことは、忘れてください。
 代わりに……私が顔も知らない誰かを、何人だって何十人だって、あの舞台へ連れて行ってあげて、ください。

 私は、視聴覚室へと向かいました。
 

【F-3・学校/一日目 深夜】


【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり)
     M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、カットラス、ストロベリー・ボムx11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。
1:“ストロベリー・ソナー”を視聴覚室でDLする。
1:次に殺す相手を探す。  
  
※ストロベリー・ソナーがどんなアプリなのかは次の人に任せます

493 ◆kiwseicho2:2012/11/18(日) 03:08:52 ID:N9rmeWRU0
投下終了です。
タイトルは「フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン」でお願いします。

494名無しさん:2012/11/18(日) 03:25:04 ID:3rcJ4deQ0
投下お疲れ様です
かな子の心情が切ない
ふわふわしてはいられないとそれまでアイドルとして培った全てを切り捨てた結果が今のかな子か
もうアイドルじゃなくただアイドルを殺すものになっちゃって、それでもPに自分の代わりにたくさんのアイドルを輝かせて欲しいと願ってるのは切ないの

495 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:51:32 ID:MHaxs9jA0
投下乙です。
感想は、後で纏めてしますので、一先ず投下します

496阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:54:25 ID:MHaxs9jA0





――――阿修羅修羅の舞







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

497阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:54:56 ID:MHaxs9jA0





『みなさん、私の声が聞こえますか? もし私の声が聞こえたら、山頂の見晴台まで、来て下さいっ。
 私の名前は、島村卯月ですっ! えっと傍に私と一緒に組んでる渋谷凛ちゃんと本田未央ちゃんも居ます
 わざわざ呼びかけた理由は、一つですっ。


 ――――ぜったいっ、殺し合いなんて、しちゃ駄目です!


 なんで?って言葉はきっといらないですよね。
 だって、私たちはアイドルですからっ!
 みんなを笑顔にするために、私達はいつでも笑ってなきゃ駄目なんです。
 
 アイドルで居る事に、諦めちゃ駄目です!
 笑顔で居る事、それは基本ですよね、アイドルの。
 誰かを殺す事なんて……そんなことしたらきっと私達は笑えなくなっちゃう。
 だから、殺し合いなんて、しませんっ! 笑いましょう!
 
 私達、歌って、踊って、そして、笑って!

 全部は、私達が愛してるファンの為に!

 私達の魅力を、ファンに伝えるために、アイドルになったんだから!

 ファンのみんなに、愛されるアイドルに!


 ねえ、そのために皆、アイドルになったんですよね。
 夢に見た、アイドルに。憧れじゃ終わらせないために。

 だったら!

 こんなところで、諦めちゃ駄目なんです!


 明日の……ファンの笑顔の為にっ!



 ――――私達は、笑っていましょう!









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

498阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:55:21 ID:MHaxs9jA0






未だに、深い山の中で、拡声器の声がこだまする。
殺し合いはしないという甘えた、声が。
だけど、彼女は気にする事は無い。
その声をバックミュージックにして、彼女はする事だけを、するだけだ。


「全て、燃える愛になれ、赤裸に今焦がして――私が守ってあげる」


紡ぐのは、一つの歌。
大切な人に与えられた、歌。
彼女だけに、与えられた、歌。
その歌と、大切な人とした約束を胸に彼女は生きる。

そして、今は生きる残る為に、必要な事を行うのみ。


アイドルにとって欠かせない、レッスンというものを。
彼女はひたすらに行っていた。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

499阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:56:44 ID:MHaxs9jA0






未だに、深い山の中で、拡声器の声がこだまする。
殺し合いはしないという甘えた、声が。
だけど、彼女は気にする事は無い。
その声をバックミュージックにして、彼女はする事だけを、するだけだ。


「全て、燃える愛になれ、赤裸に今焦がして――私が守ってあげる」


紡ぐのは、一つの歌。
大切な人に与えられた、歌。
彼女だけに、与えられた、歌。
その歌と、大切な人とした約束を胸に彼女は生きる。

そして、今は生きる残る為に、必要な事を行うのみ。


アイドルにとって欠かせない、レッスンというものを。
彼女はひたすらに行っていた。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

500阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:57:08 ID:MHaxs9jA0







「ホント、良かったです! 新田さん達が来てくれて」
「ええ、私達も一緒に居れる人達を探してたんですよ、ね。里美さん」
「はい〜。本当三人が居て良かったですぅ〜」
「良かった、良かった。しまむー呼びかけてよかったね!」

山頂にて、島村卯月が一通りの呼びかけが終わった後、やってきたのは、二人の少女だった。
一人は目を赤くしていた、榊原里美。
その里美に袖を握られていた新田美波が二人目だった。
殺し合いに乗ってないということで、卯月達三人は安心しきって自然と笑みが出ている。
今は、五人して地べたに座りながら話し合っていた所だった。

「本当良かったですぅ〜……新田さんがいてくれなかったどうなってたか……解からないですぅ〜」

里美はそう言って身体を震えさせて、顔を青ざめさせる。
余程の恐怖があったのだろう。何があったのかは、卯月達には言ってくれなかった。
聞きたい気もしたが、恐怖を思い出させるのもよくないと思って、卯月達は一先ず置いておく事にした。

「しかし、新田さんはいい人だね、そんなさとみんを助けるなんてさ」

そんな風に、呼びかけた一人である本田未央は美波に笑いかける。
恐怖で混乱している里美を落ち着かせようと思うなんて、いい人にしか思えなかったから。
未央の言葉に、美波はとても複雑な表情で笑って。

「いえ……そんなことは無いですよ」

ただ、そう答える事しかしなかった。
美波のそんな様子に、未央は気付かず、ただ笑っていた。
その様子を、呼びかけた三人の内、最後の一人である渋谷凛は、一瞥して。

「……それで、これからどうするの?」

これから、どうするべきなのかを問う。
ただ、集まった……それだけでは何も出来ない。
偶然にも五人集まる事ができた。じゃあ、それから何をすればいい。
皆で生き残る為に、皆で帰る為に。
私達は何をすればいい?と凛は問いかける。

「……うーん………………どうしよう?」
「…………………………はぁ、だと思った」

やっぱり、と凛は思う。
笑顔でどうしようと言った卯月に、凛は苦笑いを浮かべる。
こういう子だと解かっていたから、まあそこが卯月のいいところなのだろうと思う事にして。
でも、とりあえず溜め息をつくことにした。

501阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:58:00 ID:MHaxs9jA0


「大丈夫! みんなで集まったんだし、何でも出来るって!」


そう言って、元気に声をかけたのは、未央だった。
未央は、手を叩いて立ち上がり元気を出そうとする。
そう、未央はこういう子だった。

「みんなで、絶対……殺し合いには絶対にのらないんだー! と言い続ければ、きっと大丈夫!」

だってと未央は笑い。
当たり前のように、言葉を紡ぐ。


「私達アイドルなんだから!」

根拠の無い自信だと思う。
けど、何故かそれが凛には力強く見えて。
流石未央だな、って思って。

「えへへ、私もしまむーみたいに、呼びかけるぞー!」

未央は、手を空に突き出して、えいえいおーと声をかける。
それだけで、何か明るくなった気がした。
未央は見晴らし台まで、駆け出して、おーと声を張り上げる。

それは、何時もの日常のような気がして。
凛も笑みが溢れて。
ああ、こうやってしていけばいいんだ。
三人が、五人なって、もっと沢山になって。

諦めないと心に誓って。
みんなと一緒に、頑張ろう。


だって、私達はずっと一緒なんだから。
一緒にアイドルやってきたんだから。
きっと何も怖くない。







――――そう思ったのに。

502阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 03:58:34 ID:MHaxs9jA0






「えへ、えへへ…………皆、諦めずに、ガンバ…………え……っ」



何か、叩くような乾いた、一つの音だけ、響いた。
なんだろうと凛は、未央を見ると。
お腹が不自然な風に、赤く染まっていて。


「あれ、あれ…………なんか……いた」


じわじわと、どんどん紅くなっていて。
目から、輝きが薄れていて。
それでも、無理に笑おうとして。



「しまむー……しぶりん―――」


大切な人達に呼びかけようとした、その刹那。
草むらから飛び出て、未央の後ろに駆け寄るものがいて。





―――すとん。




島村卯月と渋谷凛にとって、大切な仲間であり、大事な友人であった本田未央の首が




――――ごろごろ。




刎ねられ、転がり、大切な仲間達の方を、向いていた。


それが、ニュージェネレーションと言われた少女の終わりでしかなかった。



けれど、それでも、彼女は笑っていったけど。





【本田未央 死亡】

503阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:00:16 ID:MHaxs9jA0








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「はっ……?」


目の前の突然起きた惨状に、凛は間抜けな声しか、漏れなかった。
何が起きたのだろう? 何が起こってしまったのだろう?
どうして、どうして、未央の首が、地面に転がってるのだろう?
どうして、どうして、彼女は死んでしまったのだろう?

「やっぱり……切れ味がありましたね。良かったです」

一面の緑の地面を、真紅で染めて。
そんな真紅の中、くるくると大きな刃物を回して。
真っ赤な血を浴びながら、どうして未央を殺した少女は、笑ってられるんだろう。


「…………えっ……あ……きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

そんな凛を現実に戻したのは、里美の叫び声だった。
恐怖しか混じってない、アイドルらしくない叫び声。
だからこそ、凛を現実に戻すのには充分で。
其処にあった現実は、未央が目の前の少女に殺されたと言う、残酷な事実でしかなく。

「ゆか……り……ちゃん?」

その事実を引き起こしたのは、目の前の少女――水本ゆかり。
凛もよく知ってるし、卯月の昔からの友達だったはずだ。
歌がとっても上手な絶対音感を持つ少女。
黒く長い、お嬢様然とした清楚なアイドルと人気を博している彼女が。

どうして、どうして、人を殺しているのだろう?

「……あぁ、卯月さん。お久しぶりです」
「……どうして?」
「どうしてって、そんな言葉……必要ですか?」

くすっと笑うゆかり。
そんな様子がどう見ても、やばい。
あの少女は、やばい。
そう、解かっているのに。

504阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:00:45 ID:MHaxs9jA0

凛も、里美も、美波でさえも、動けはしない。

動かないと危ないのに、金縛りのように、動けない。
彼女達を縛り続けるのはたった一つで。
強大なその一つで、動けない。

脳裏にフラッシュバックするのは、転がった、未央の首。

ただ、圧倒的な、恐怖と言う感情で。

ゆかりと死への恐怖が、四人を地面に縛り付けている。

「……だっ……って、ゆかりちゃんは……アイドルで……どうして、殺しな」
「……まだ、そんな事言ってるのね……くすっ……ちょっと興が乗りました」
「……興?」
「直ぐ殺すつもりだったんですけど、折角だしお話に乗りましょう」

ゆかりの不可解な言動に、凛は尚更混乱してしまう。
何だ、この余裕は何だろう。
隙だといえるだろうに、誰もそれを突くことなんて、出来ない。

「お話……?」
「それは、甘い事言ってた卯月さんに対してですよ」

まるで、それは卯月に対する弾劾の言葉で。
冷めた目で、卯月を見つめていて。

505阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:01:44 ID:MHaxs9jA0



「――――『アイドル』を舐めてるんですか?」


卯月の伝えた言葉、そのものを否定した。
侮蔑するように、卯月だけを見つめて。

「……な、なんで!? ファンの為に、ファンを笑顔にするために、するのがアイドルで、そのために笑ってなきゃ――」
「ですよね。そうしなきゃ、アイドルではいられない」
「なら――――」

一度は同意したゆかりに、卯月は更に言葉を重ねようとして



「綺麗事だけで、アイドルになれると思ってるんですか。甘いですよ、卯月さん」


ぴしゃりと、卯月を綺麗事だと、断じる。
卯月は青ざめた表情で、ゆかりだけを見つめていた。
凛はそれが、卯月が否定されたくないものを否定されたように見えて、何処か怖くて。


「…………私は本当に運がよく……皆より先に人気が出ることが出来ました」


確かに、そうだった筈だ。
デビューしてまもなく彼女は『純粋奏者』として、歌声を絶賛されていた。
澄んだ美しい歌だと、褒められて、人気アイドルに出世していった。

「けど、その為には、沢山辛い事や苦しい事を経験して……やっと、此処まで来れたんです」

人気が出るまでに積み重ねた苦労。
人気が出た後のバッシング。
それさえも、彼女はきっと乗り超えていった。
けれど

「それを表に出す事なんて……しなかった。しないでしょう?」

アイドルなら、ねとゆかりは言う。
辛くても苦しくても。
どんな時でも笑っている。
笑顔の下に、どんな涙が流れていても、決して見せることは無い。
見せてはいけない。

「だって、アイドルは笑顔でないといけないから」

そう、笑顔でないといけないから。
それが、アイドルなのだから。

「じゃあ、尚更……殺し合いなんて、しちゃ駄目ですよ!……そんなじゃ笑えな――」


卯月の一言を、ゆかりは―――

506阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:02:59 ID:MHaxs9jA0




「それすら、乗り越えて『私達は笑わないといけない』」



笑って、答える。


「…………どんなに苦しくても、辛くても、資格が無くても」



どんな苦しくても
どんな哀しくても。
どんなに資格が無くても。


「待ってるファンの為に……私は覚悟を決めたんです。殺し合いすらも乗り越えて……戻る。
 そうして、幸せも悲しみも包み込んで……皆を笑顔にしなければならない。
 でも、その笑顔さえあれば、生きていける―――それが、アイドルでしょう?」


それが、ゆかりが決めたことだから。
それが、『約束』だから。


「だからね……くすくす……甘いんですよ、何も覚悟も無く笑ってる貴方の笑顔は――とても薄っぺら」

だから卯月の笑顔を薄っぺらしか見えないのだ。
覚悟も無く、ただ笑っていればいいなんて、言うならば。
それだけでアイドルだと言えるなら、みんなを笑顔をできるならば。
皆、最初からやってる。


「同じ事務所の仲間でも……私達はライバルだから…………貴方達は此処で終わってください」


そうして、ゆかりは銃を彼女達に向ける。
生きるために、生きて帰る為に。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

507阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:04:28 ID:MHaxs9jA0






「わ、私は……そんなつも……りで……あぁ」

そうして、島村卯月はトレードマークの笑顔を失った。
言い返したいのに、何も言い返せない。
目の前で死んでしまった未央の影響もあり、自分を見失ってしまう。

「……やっぱり、所詮そんなものですか」

失望したと言いたそうに、ゆかりは卯月に銃を向ける。
まず、彼女からと言いたいように。
そして、トリガーに指をかけた時、

「…………させないっ」

地べたから、立ち上がって、ゆかりに体当たりしてくる少女が居た。
それは、卯月を守る為に恐怖を振り切った凛だった。
ただ、大切な仲間に死んで欲しくないから。
その一心で。

「……っ」

しかし、その決死の突撃もゆかりにすんでで避けられてしまう。
だが結果として、銃口が卯月から外れ、ゆかりに一瞬が生まれて

「ひ……あぁ……わ、わた……し……わたし……は!」

銃を向けられた恐怖からか。
自分を否定された故の放心か。
大切な仲間を殺された絶望か。



「わたしはぁぁ…………」



島村卯月は、今の現実から目を逸らして、茂みに一目散に逃げ出していった。
その表情は誰にも見ることが出来なかったけれど。


「い、いやぁああああ……おいて、おいていかないでぇぇ」


そして、地べたに這い蹲っていた里美が急に立ち上がり、もたつきながらも、卯月を追いかけていく。
怖かった、怖くて堪らなかった。
その事から逃れられるのなら、見かけなんて拘っていられなかった。
だから、直ぐに逃げ出した、逃げ出すしかなかった。
背後から撃たれる可能性なんて、考えずに。
ただ、今の現状から逃げたかった。それだけ。

そうして、二人のアイドルだった少女は、一瞬の隙を突いて、あっと言う間に姿を消してしまう。

508阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:05:32 ID:MHaxs9jA0


「……くすっ」

そんな二人の姿を、ゆかりが浮かべたのは嘲笑。
獲物をしとめられなかった悔しさよりもあの二人への侮蔑が勝って。
そして、ゆっくりと銃口を、突進を避けられて尻餅をついていた凛に向ける。

「見捨てられちゃいましたね……凛さん」
「……っ!」

凛に浮かぶのは、一瞬の哀しみ。
けれど、


「護れたと思うから……私は、それでいい……私は、諦めない」


そうして、強く自分をもって、ゆかりをにらめつける。
だって、諦めちゃ駄目だ。
だって、私はアイドルなんだから。
いつまでも前に進むと決めたのだから。


「ええ、諦めちゃ駄目ですよ、凛ちゃん」

そして、その凛の強さは、もう一人の少女――新田美波を奮い立たせるのだ。


美波は、ゆかりに向けて、右手に持った銃を、ただ向けていた。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

509阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:07:27 ID:MHaxs9jA0







アイドルってなんだろう。
初めてそう考えた時に、私が考えた事が一つあった。


アイドルって、ファンの皆に愛される者だって。


そのことに気付いた時、私は何か嬉しくなって、笑った気がするんです。
凄く幸せになった感じがして。

嬉しくて、嬉しくて。

私はその気持ちを大事にしようと思ったんです。


けれど……私は日々を過ごす中で、少しずつそんな気持ちが薄れていって。


私はいつしか、そういう幸せな気持ちを忘れたのかもしれません。



――――だから、私、新田美波はいとも容易く殺し合いに乗ることが出来たんでしょう。

510阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:08:08 ID:MHaxs9jA0


そうして、わたしは幼い子に銃を向け。
怖がってる子を利用しようと考え。
拡声器の少女すらも、利用しようと考えた。


けれど、彼女の放送を聞いて、心に迷いが生じて。
ファンに愛される自分でないきがして。
死んでいった少女にいい人だといわれて。


「貴方だけは…………此処で、終わらせないと」


今、私は水本ゆかりに銃を向けている。
最初、彼女が未央ちゃんの首を跳ねた時、ヤバイと感じた。
この少女は、今排除しないと危険すぎると。
けれど、今はそれに加えて、アイドルを語った彼女が、許せないと思えて。


「貴方はアイドルじゃない…………此処で終わらせる」

殺し合いを乗り越えてこそのアイドル。
だからって、殺すって考えは駄目だ。
だって、皆を笑顔にするアイドルならば。
ゆかりが殺すアイドルは笑顔なのだろうか。
ちがう、そんな訳が無い。

そんなの、認めてたまるか。

それが、アイドルを捨てたはずの私に宿る、ちっぽけな矜持で。

私は、彼女から逃げずに、立ち向かっていた。
それが、アイドルとしての、誇りだから。


「凛ちゃん……逃げて」
「……でも!」
「いいから、早く! 貴方は生きて、アイドルじゃなきゃ駄目!」


今、ゆかりは何も言わずに、銃を向けている。
何処か冷めた目で、私を見ている。
凛ちゃんが体当たりをしたことで、凛に他の武器が無いと判断したからだろう。


「御免ね……凛ちゃん。本当は利用しようと思ってたの」
「……えっ」
「そんな事考えた、私はもう、失格……でも貴方は違う。だから、生きてくださいね?」


ちょっとした、懺悔。
許される事ではないけれど。
それでも、伝えないと、駄目なのだから。

「早くっ、逃げなさい……もう時間がないのっ!」

その私の強い言葉によって、凛は迷いながらも逃げ出す。
見捨てる事の申し訳なさを感じながらも、生きようとする彼女は。

私にはとても輝いてみえました。

511阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:08:56 ID:MHaxs9jA0



「さて、ゆかりさん……どうして待ってくれたか解かりませんが、貴方は此処で終わらせます」


そして、私は躊躇いも無く、銃のトリガーを引く。
彼女だけは許すわけにはいかない。
音も無く発射された銃弾は――


「いえ、終わるのは貴方ですよ」


彼女に当たるわけも、無かった。
まるでゆかりはあたらないと核心してたように。
ゆっくり微笑んでいて。

「レッスン不足ですね……割と銃って反動あるんですから、片手で撃とうとしない方がいいですよ」


そう言って、彼女は両手で銃をしっかりと固定して、トリガーを引いた。
きっと彼女は放送の最中にでも何度も練習したんだろうなと思って。
かたと何か叩くような音がして。


私の胸に衝撃が走って、私は蹲るように、倒れこむ。




解かっていた、現実だ。


これで、私は、終わる。

512阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:09:33 ID:MHaxs9jA0



けれど、これで、いい……のよね。


私は最後は、アイドルだったかな?



御免なさい――――さん。



走馬灯が巡る。



パパ、ママ――さん――


ファンの皆さん


新しい世界を見せてくれて、ありがとう

幸せを、ありがとう



笑顔を、ありが――




【新田美波 死亡】








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

513阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:10:14 ID:MHaxs9jA0







銃声が聞こえた。
きっと、新田さんは死んだのだろう。
私を逃がして、彼女は、死んだ。
なんで、逃がしてくれたかわからない。

けれど、涙が出てきそうだった。
怖いし、哀しい。

けれど、泣いちゃ駄目だ。


生きなきゃ、未央の分も、新田さんの分も。
でも、涙が止まらない。


「うぁ……うあぁぁぁぁぁ」


振り返らず、前を向いて。
真っ直ぐに、見つめて。


それでも、私は、走ることを、止めなかった。
それでも、私は、生きることを、止めなかった。


託された、希望を胸に。


涙を流しながらも、私は、走っていた。


だから、いつまでも……見守っていて。




【E-6/一日目 黎明】


【渋谷凛】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる
1:今は逃げる。


※卯月と里美とは逃げた方向が別です


【島村卯月】
【装備:拡声器】
【所持品:基本支給品一式、包丁】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:???????????????
1:??????????????????



【榊原里美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康、安堵】
【思考・行動】
基本方針:死にたくない
1:怖い、卯月を見失わない

※凛とは逃げた方向が別です





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

514阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:11:42 ID:MHaxs9jA0






「うーん、二人ですか……まあ、仕方ないですね」

そして、惨劇の後、ゆかりは一人溜め息をつく。
殺せる三人を逃がした。少し勿体無い。
銃弾をケチらず一掃するべきだったか。
それとも無駄な話をしないで置くべきだったか。

悔やんでも仕方ないかとゆかりは、結論付けて、淡々と美波が握っていた銃を回収する。

後は何か回収できるものがないと見ると、デイバックが無造作に置かれていた。
里美がバックを持たず逃げ出したのだろうとゆかりは気付くと溜め息をまた吐く。
使えない人だなぁと思いつつも、自分の有利になるものなので、有難くもらっておく事にした。

「わぁ……これは……」

そして、そのデイバックの中に入っていたのは、純白のドレス。
スカートはミニで、ダンス用でもあるのか動きやすそうで邪魔にはならないだろう。
ゆかりはそれを見て

「死に装束みたいですけど……いいですよね」

着替える事を決めた。
どうせ、今まで来ていた制服は血まみれで、少し気持ち悪い。
しかもこのドレスにしろ、返り血で染まるんだから関係ないことだった。
そのまま、ゆかりは制服を脱ぎ捨てて、直ぐに着替えを終えた。
ついでに邪魔にならないように髪をゆって、ポニーテールに。

「もう一つは……刀ですかね」

もう一つ入っていたのは、純粋な武器。
白鞘に入った刀で。
ゆかりはそれを腰にさして、使うことを決める。

515阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:13:59 ID:MHaxs9jA0


(……今は放送まで休憩しましょうか。山下る訳にもいかないですし)

ゆかりはそこで一息ついて、休む事を選択する。
此処まで山を登ってきたのだし疲労はあったのだから。
焦る必要性はない。淡々と減らしていければいい。


(――――さん、きっと許してくれないですよね)

思うのは、大切なプロデューサーの事。
大切な約束をした、人の事。

多分、きっと自分のしたことは許さないだろう。
怒って軽蔑するかもしれない。
鮮血に染まった自分を。


けれど、それで構わない。
最後の瞬間に、あなたの瞳を見つめられるのなら、犯す罪残さず、地獄の神に許しを乞おう。


「それでも……私は、貴方だけの為に」


たとえ、血に濡れたとしても。


この想いは、



けして、穢れぬように。





【E-6 見晴台/一日目 黎明】

【水本ゆかり】
【装備:純白のドレスマチェット、白鞘の刀、純白のドレス】
【所持品:基本支給品一式×1、シカゴタイプライター(43/50)、予備マガジンx4、コルトガバメント+サプレッサー(6/7)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助ける。アイドルとして優勝する
1: 一先ず休憩

516阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/18(日) 04:15:21 ID:MHaxs9jA0
投下終了しました。
レスが二重になってる所があり、失礼しました。

517名無しさん:2012/11/18(日) 04:16:04 ID:3rcJ4deQ0
〉フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン

投下乙でした。
魔法が溶けたのくだりがすごくかな子らしくて切ない。
打ち上げてくれるという言い方も好きだなー。
美味しくないってのもかな子お菓子好きだっただけにもうね……。
かな子が一番最初に殺しちゃったアイドルは自分自身なんだろな。

518 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/18(日) 22:16:51 ID:GJ4FxIu20
投下乙ですー

>フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン
あぁ…ちひろに鍛えられたスーパージョーカーといえども普通の女の子のはずなんだよなぁ
そしてアイドルを殺すために顔を剥ぐ、か…。その発想に脱帽。
かな子がこの役割に選ばれたのも良い味だしてるな…

>阿修羅姫
拡声器の法則は何の狂いもなく発動した訳ですね…
なんとなーくちゃんみおは死ぬような気がしてたけど、まさか新田さんまで…
非情のヒロインになりきれなかったのが命運の分かれ目かぁ
そしてゆかりさんも殺害ランキング一気に同率トップに!
武器も充実してるし、かなりの有望マーダーかも…

519 ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 00:11:55 ID:FeW.Kz4I0
すいません。
>>419の予約の延長を申請します。

520 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/19(月) 00:44:02 ID:IrddU2vA0
うああ、二連続でエグい展開が……
かな子を何がここまで変えたのか、これからのリレーが楽しみであるなぁ
新田ちゃんがここで落ちるのは想定外。ゆかりさんとは覚悟が違ったかー

自分は、十時愛梨、城ヶ崎美嘉、三船美優、予約しますねー

521 ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:48:48 ID:FeW.Kz4I0
みなさま投下乙です〜。まとめて感想!

>My Best Friend
奈緒加蓮! 奈緒加蓮が! まさか友人関係を継続したままこんな悲劇的な形でのマーダーコンビ結成になるなんて……。
親友設定だからこその『支え合ってる感』が危うくもあり魅力的でもある。
智香にも想いはあっただろうに、それが淘汰されていく。この殺し合いがいかに厳しい舞台かというのがわかるなあ……。

>彼女たちの中にいるフォーナインス
くっそwwwww ワンダーモモに全部持っていかれたwwwww いや一発ネタと笑って済ませる内容ではない。
南條光と安部菜々、二人のアイドルとしての『個性』を存分に生かした最高のプロットだと思います。
最後の爆破オチまで含めて、こうもカッチリはまると気持ちいいんだろうなーって同じ書き手的意見として思いましたっ。

>終末のアイドル〜what a beautiful wish〜
あー、なんかホッとしたw いや自分で送り出しておいてなんだけど、ちえりゃーの上手くいかないところがなんともらしいw
決心はできても上手くはできない智絵里に対して、くすぶっているという自覚がある涼が受けた影響も地味に大きい。
こういった小さな積み重ねがそのうち大きな爆弾になったりするんだろうなと思うと、涼の今後にニヤニヤしてしまうw

>デッドアイドル・ウォーキング
えっ。なにこの人。なにこの岡崎さんおそろしい(白目) そりゃ小梅ちゃんでなくてもビビるよ!w
既に『アイドル』に関する価値観は様々出ていて、どれも唸らされるものが多かったけど、岡崎さんの観点は特に強烈だ。
いろんな意味で続きが楽しみ……岡崎さんが次に出会うアイドルがどんな子で、どうアイドルを見せるのか。

>ドロリ濃厚ミックスフルーツ味〜期間限定:銀のアイドル100%〜
神崎蘭子と輿水幸子、この双方のキャラクター充分に見せるためのこだわりある特殊文体、パッションPですね!(何
これ書くのすごく楽しそうだけど面倒そうだなーとw その分、読むほうとしては楽しませていただきましたw
しかしながら輿水ちゃんの虚勢はいちいちおもしろいし、蘭子は蘭子で素直なところがよく出ててかわいいw

>フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン
まさかのお面頂戴だ〜! 唯に持たせたら絵になるかなって支給したカットラスがこう使われるとは予想外もいいところw
しかしながら、死体を作ることに躊躇いをなくしたかな子だからこそ、死体に対してどんなアクションを取るのかが気になってた。
その結果がこの念入りに死亡確認。武器等のテコ入れをされたわけじゃないのに、強キャラとしての風格がグッと増した気がするなあ。

>阿修羅姫
あーんちゃんみおが死んだ>< ひどい、これはあんまりだ、半ばどころか完全に予想してたけどちゃんみおには厳しい世界だったorz
くすくす笑いながら自分の中のアイドル像を語るゆかりさんがもうヤバい。これはしまむーも余裕で論破されてしまう。
そして地獄絵図をどうにか回避した新田さん……! この土壇場での方向転換は、ロワを生きる大人として魅力がありすぎる。カッコよかった!


そしておまたせいたしました。
予約延長していました五十嵐響子、市原仁奈、和久井留美、双葉杏を投下します。

522失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:50:16 ID:FeW.Kz4I0
「プロデューサーさん! 心理テストですよ、心理テスト!」
「お、心理テストの本か。どんなのだ?」
「えっとですね。まず、あなたの前で建物が燃えています」
「いきなり衝撃の展開だな」
「次のうち、あなたが取った行動はどれ!?」

 A:もっと燃やす。
 B:怖くなって逃げる。
 C:野次馬に駆けつける。
 D:気にしない。寝る。

「なんか選択肢がどれも極端だな……119番ってのはないのか?」
「ありません。この中から選んでください」
「うーん。まあ、Cかな……」
「はーい、プロデューサーさんはC! 結果発表は、この次のページです!」
「そもそも、この心理テストでなにがわかるんだ?」
「それは結果が出てからのお楽しみです! それじゃいきますよ〜」

 ベリリィ!

「って、わー! 強く引っ張りすぎてページが破けちゃいました!」
「あーあー。またベタなドジを。それで、心理テストの結果は?」
「そ、そんないつものことーみたいに流さないでください!」
「いつものことだろ」
「うー。え、えっとですね――」


 ◇ ◇ ◇


 ドガ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!!!


 なんて、漫画みたいな擬音が出ていたかどうかは定かではないが、とにもかくにも大爆発が起こった。
 起こしたのは彼女――『ストロベリー・ボム』という焼夷手榴弾を与えられたアイドル、五十嵐響子である。

「あー……うー……」

 いきなりのうめき声。
 別に痛いとか悔しいとか苦しいとか、そういうことで呻いているわけではない。
 ならなんで呻いているのかといえば、響子自身にもよくわかっていなかった。

 場所は、炎上するドラッグストアから充分に離れた位置にある小さな雑居ビル。
 爆破後、響子はここの五階の部屋に押し入り、一旦気持ちを落ち着かせるための時間を作ることにしたのだ。
 部屋の中にはあまり質の良くないソファーや、使い古された机やテーブル、数年前は薄型と呼んでいたようなテレビなどが置かれている。

 まるで小さなアイドルプロダクション事務所……と思えなくもない。
 響子の所属するところは60人以上のアイドルを抱えるマンモス事務所なので、実際はわからないが。
 これくらいの規模の事務所に入っていたら、こんなことにも巻き込まれなかったのだろうか。
 でもそれだと、プロデューサーにも会えなかったんだろうなあ……なんて。

523失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:51:13 ID:FeW.Kz4I0
「鼻、ツンってするよぉ……ここ、お掃除したい……」

 響子はソファーの上に寝転がり、埃っぽいクッションに顔をうずめて考える。
 室内は暗い。電気は通っているようだがあえてつけなかった。このまま眠ってしまってもよかった。

「ちゃんとやったんだから……しばらくだいじょうぶ、だよね」

 誰にでもなく問いかける。
 それはもしかしたら、どこかで見張っているのだろう千川ちひろに宛てた言葉かもしれなかった。

 ――五十嵐響子は人を殺した。

 同年代の女の子を、夢を同じくするアイドルを殺した。名前も知っている。櫻井桃華と脇山珠美だ。
 特別仲がよかったというわけではなかったが、同じ事務所に所属するアイドルとして、何度か言葉を交わしたことがあった。

 ……そんな二人を、響子は殺したのだ。
 手榴弾でその華奢な体を爆破し、清らかな肌を炭にした。
 爆音と炎に包まれ、焼け爛れるヒトの臭い……二度と嗅ぎたくないと思った。

 でも、いつかはまた、あの臭いを嗅がなきゃいけないんだろうなと思った。
 でなければ、響子が想いを寄せる男性――プロデューサーが殺されてしまう。

 桃華と珠美の二人を殺したことで、ちひろに『五十嵐響子は殺し合いに肯定的である』という姿勢は示せた。
 ストロベリー・ボムを与えられた他のアイドルたちの動向にもよるが、他の四人だって想いは同じだろう。
 これで『殺し合いをしないんならプロデューサーさんを殺しちゃいますねっ♪』とはならないはずだ。

「だから、私はしばらくここで休んでても大丈夫……」

 そう、思った。
 そう、思いたかった。
 しかし、気づいてしまった。

「…………だめだ。だめだよ。そうか。なんで気づかなかったんだろう。ううん、早いうちに気づけてよかった」

 クッションから顔を離し、響子は青ざめた顔で起き上がる。
 二人殺したから大丈夫――なんて、そんな安心をしてはいられない。
 他の四人だって、きっとちゃんと殺す――それも、安心の材料とは呼べない。

 響子は気づいてしまった。
 気づくべきことに気づいた。
 しかし気づきたくないことに気づいてしまったとも言える。
 結果的にはどちらなんだろう。
 わからない。
 わからないが、とにかく気づいてしまったのだから仕方がない。

 テーブルの上に置いていたデイパックを取り、肩にかける。
 すぐに出発しなければ。そして捜さなければ。
 なにを探すのか、誰を捜すのか、それは明確だ。
 響子は、気づいてしまったモノの名前を呼ぶ。

524失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:51:34 ID:FeW.Kz4I0
「ナターリアだ」

 それは、響子の親友の名前である。
 リオデジャネイロ出身、14歳の外国人アイドル。
 活動は個々だが、響子とは仕事を一緒にすることも多かった。

 なぜって、響子とナターリアのプロデューサーは同じ人だからだ。

 殺し合いの前日、ちひろに集められ『シンデレラ・ロワイアル』の説明を受けた五人は全員が同じプロデューサーに恋をしていた。
 しかし同じ担当プロデューサーを持ちながら、あの場に呼ばれなかったアイドルが一人だけいる。
 それがナターリアだ。

 プライダルショーで一緒に仕事をしたときのことを思い出す。
 二人でウエディングドレスを着て、いつかプロデューサーと三人で結婚しようね、なんてお喋りをしたことがあった。
 ナターリアもナターリアで、プロデューサーのことを恋しく思っているのは間違いない。

 でも、仮にそうだとしても。
 彼女はきっと、こんな殺し合いには乗らない。

「だって、ナターリアは太陽だから」

 響子や唯や千夏や智絵里や智香みたいに、盲目的な恋はしない。いや、知らないと言ったほうが適切かもしれない。
 たぶんちひろも同じように思っているのだろう。だからあの場にナターリアを呼ばなかった。
 だとすれば。ナターリアが殺し合いをしないというのであれば。つまり――

『ナターリアちゃんが殺し合いをしないので、彼女のプロデューサーさんを殺しますね。あっ、響子ちゃんたちのプロデューサーも同じ人でしたっけ?』

 ちひろの声が、響子の耳に深く突き刺さった。
 幻聴だ。
 そう思っても、不安を抱くことはやめられず。

「休んでる暇なんて、ない」

 おそらく、五人の中でこの危機に気づけるのは私だけだろう。あの子のことを一番よく知っているのは、私だから。
 なら、私がやらなくちゃいけない。他のアイドルよりも、優先して殺さなくちゃいけない子がいる。
 彼女が殺し合いを拒み続ければ、プロデューサーが死んでしまう。それは絶対に嫌だ。
 なら彼女に殺し合いをするようお願いする? ううん、そんなこと絶対に無理。彼女が人を殺すはずがない。
 説得しても無理。ならどうする? 決まってる。やるしかないよ。うん。やらなきゃいけないんだ。

「ナターリアを殺しにいかなくちゃ」

 五十嵐響子は標的を定めた。
 口にしたのは、彼女の親友の名前だった。

 そうして、五十嵐響子は火事場を離れる――――。


 ◇ ◇ ◇

525失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:52:10 ID:FeW.Kz4I0
 ドガ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!!!


 その爆発音が耳に届いたとき、市原仁奈はどこにいただろう。街中だ。しかし、彼女はそれをよくわかっていなかった。
 周囲に建物があるのだから、街には違いない。でもここは仁奈の知っている街ではないし、そもそも日本かどうかもわからない。
 本当に街なの? だって人がいないよ? コンクリートジャングルってやつ? 人は、声は、姿は、みんなはどこですか!?

「プロデューサー……プロデューサー……! どこに、いったいどこにいやがりますか……!?」

 そう遠くはない場所で、大きな音が鳴った。土地勘のない仁奈は、その音だけを頼りに人を探し求めた。
 ログハウスの中にプロデューサーはいなかった。森の中にもいなかった。街まで来たが、まだ見つからない。
 立ち止まったら、後ろから魔女が追いかけてくるかもしれない。振り返ることは、とてもではないが怖くてできなかった。

 仁奈は地図を確認していない。方角もわからない。そもそも東西南北のどれがお箸を持つほうかも知らない。
 仁奈はまだ9才なのだ。
 こんな凄惨な舞台に上げられて、ゲームのキャラクターのように上手く立ちまわることなんてできるはずがなかった。

 それだけに。

「な、なんでごぜーますか? なんでそんなに燃えてやがりますか!?」

 ただ轟然と燃え上がる火柱を目印に走りついた先――炎上するドラッグストアを目にしたときの衝撃といったらなかった。
 火事だ! 防災頭巾をかぶって避難しないと!
 いや、それよりも消防車を呼ばなければ。消防車を呼ぶときは何番だっけ。消化器で消せるかも。水は。電話は!?

 仁奈は頭の中が真っ白になった。もともと真っ白だった頭の中に、新しく白のペンキをぶちまけられたような新感覚だった。
 ともかく、逃げなくちゃ!
 このままここにいては危ない。大事なキグルミに火が燃え移るかもしれない。じゃあどこに。どこに逃げればいいの!?

「教えやがってください、プロデューサー……!」

 叫んでも叫んでも、キグルミをくれたプロデューサーは仁奈の前に現れなかった。
 そんなことはない! きっとプロデューサーが助けに来てくれる!
 仁奈は走り続けた。がむしゃらにT字路を曲がろうとしたところで、ドンッ!

「うぎゃっ!」

 なにかにぶつかった。
 いや『誰か』か。
 仁奈は衝撃に尻餅をつき、見上げる。

 大人の女性だった。

 とにかく、大人だった。大人ということしかわからなかった。自分よりも大きくて、強そうな。美人さんだ。
 どこかで見たことがある気がする。でも思い出せない。
 仁奈はそれどころではなかった。相手が誰かを検索するよりも先に、本能が『逃げろ!』と指示を出してきた。

 ぶつかった相手は、長い棒のようなものを持っている。

 あれはきっと怖いものだ。形がそう告げている。あれで叩かれたりするんだ。頭を。おしりを。めっためたに。
 イヤだ! コワい!
 仁奈は無我夢中で逃げた。一周して喜んでいるようにも聞こえる奇声を上げ、近くの裏路地に逃げ込んだ。

526失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:52:37 ID:FeW.Kz4I0
 このままここにいてはだめだ。
 ここは火事だし、怖い人がいるし、プロデューサーもいない。
 じゃあどこに、どこに行こう。ここはどこで、この先はどこにつながっているの?

「あっ、あっ、うあっ、わぁああ〜〜〜〜…………っ!」

 仁奈はとうとう泣いてしまった。
 大泣きの状態で、アスファルトの上を駆けずり回った。
 まるでママを探し求める迷子のようだったが、ここにはママなんて存在しない。
 泣いている子供を見つけ、放っておけずに声をかける大人。そんな優しさを世界は持ちあわせていない。

 そうして、市原仁奈は火事場を離れる――――。


 ◇ ◇ ◇


 ドガ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!!!


 白坂小梅の追跡を断念した和久井留美はそのまま北部の街まで移動し、その轟音を耳にした。
 遠目からでもわかる大爆発。夜という名の暗黒を灼熱の赤が蹂躙する様は、この世の終わりかとも思った。
 日頃からニュースで見るような火災の映像も、ここまでの迫力はなかっただろう。

「爆弾、か」

 留美は瞬時に理解した。あの火災、そして爆発は、誰かに支給された武器――超威力の爆弾によるものだと。

(まいったわね……想定しなかったわけじゃないけれど、こんな形で現実を見せつけられるなんて)

 手元のベネリM3を見る。
 12ゲージのセミオートマチックショットガン。対人武器としてはこれ以上ないほどの一品と言える。
 が、しかし。留美に支給されたベネリM3にも、欠点と呼べる要素がいくつかあった。

 まず、重い。
 きちんと測ったわけではないが、体感の重さは3キロから4キロほどだ。女性の細腕で持ち続けるには些か厳しい。
 単純な重量だけでなく、引き金の重さもある。一撃の反動は構えて撃たねば肩を外しかねないため『咄嗟に撃つ』というアクションを困難にさせている。

 次に、弾数。
 初期段階で7発、既に1発撃ってしまったので、残り6発。これは単純に、この銃で殺せる人数があと6人だけということを示している。
 予備弾が豊富に支給されていたことは幸いと言えるが、あったらあったで装填という手間が生まれ、これも隙というデメリットに通じる危険性がある。

 さらに、扱いにくさ。
 先に挙げた重さも関わってくるところだが、留美は銃に関しては素人であり、いざ戦闘となれば狙いを外すこととて大いにありえる。
 散弾銃の特性上、対面状態からの攻撃成功確率は高いと言えるだろう。が、逃げる敵を狙い撃つ場合は距離や相手の動きをよく読む必要があった。

 攻撃力の高さは評価できるとしても、これからの殺し合いを生き抜くにあたって絶対の信頼が置ける武器ではない。
 その点、爆弾ならどうか。
 これはある意味、最強と言える。殺傷力は銃以上、携帯性に優れ、取り扱いも簡単だ。もちろん爆弾といってもモノによるが。

527失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:53:06 ID:FeW.Kz4I0
(少なくとも、アイドルが使う武器としてはあちらのほうが『アタリ』と言えるでしょうね)

 故に、留美は歯噛みする。
 故意にしろ事故にしろ、誰かがこの街で爆弾を使ったことは間違いない。そしておそらく、それで誰かを殺害した。
 仮に草葉の陰から爆弾を投げ込まれたとして、自分は対応できるだろうか。無理だ。気づかず爆死というオチが簡単にイメージできる。
 いや、むしろそれこそが普通なのだろう。和久井留美は訓練された兵士でもなんでもないのだから。

 彼女は――ただの、覚悟を決めただけのアイドルなのだ。

 今井加奈、白坂小梅と、立て続けに『獲物』と呼べる人間に遭遇してきた。
 しかしここで、ようやくというべきか、『ライバル』と思しき存在の確認ができたのだ。
 これは狩りではなく戦争だ――無自覚ではいられない。これからの身の振り方を考えなければ、自滅する。

 爆弾が存在するということが明らかになったところで、手持ちの武器について再考してみる。
 筆頭と言える武器はベネリM3と予備弾数十発。強力すぎるためか、留美の支給品はこのワンセットのみだった。

 次いで、先ほど手に入れた今井加奈の支給品。デイパックの中に入ってた武器は二点だ。
 一つ目はガラス製の灰皿。サスペンスドラマなどでは定番の凶器だが、お世辞にも武器と呼べる代物ではない。
 二つ目はなんと、なわとびだ。手に持ったのは小学校以来な気がする。ご丁寧に名前を書く札まで入っていた。
 とはいえ、なわとびの強度を馬鹿にすることはできない。おそらくはこれで相手を絞殺しろということなのだろうが、だからといって。

(この二つは……『ハズレ』よね)

 留美は今井加奈の運の悪さを気の毒に思った。そしてすぐに、自分にそんな権利はないかと自嘲した。
 なんにせよ、手持ちがショットガンにガラス灰皿になわとびでは心許ない。
 来たるべき『ライバル』との相対を視野に入れるのなら、自分も爆弾の類が欲しいところだが。

(……奪う、か)

 もとより、方法などそれしかなかった。これはゲームではないのだから、ダンジョンを探しても宝箱が見つかるわけはない。
 では誰から奪うか。真っ先に思い浮かんだその対象が『たったいま大爆発を起こした張本人』である。

 行動方針は決まった。ならば、と留美は今井加奈の荷物を漁り、食料と水に少しだけ口をつけた。
 使い道のありそうなガラス灰皿となわとびだけを自分のデイパックに移し、残りはその場に破棄する。
 今後は荷物の重量が足枷になる、そう判断しての取捨選択だ。地図や端末は紛失が怖いが、身軽でいることのメリットのほうが大きい。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 天まで届きそうな炎の明かりを目指し、留美は慎重に歩を進める。静謐な夜の街は、誰が潜んでいるとも限らない。
 徐々に炎の熱気が近づいてきたような気がする。爆破犯ははたしてどこにいるのだろうか。
 あれだけ大きな火災だ。電灯に群がる羽虫のごとく、近寄ってくる参加者を物陰から狩る魂胆かもしれない。
 だとすれば安易に近づくのは危険か。そう思いつつも、留美は足を止めなかった。焦りが、留美の思考を鈍らせた。

 姿の見えぬ『ライバル』に気を取られすぎたのかもしれない。
 路地を曲がったところで、ドンッ、と。
 留美の脚に小さな影がぶつかった。

「うぎゃっ!」

 ――それは、ウサミミだった。
 ぴょこんと垂れたウサギの耳。その本体たる小さな身体。
 一目見て自分の中のデータベースと合致した。それくらい彼女は有名人だった。

 キグルミアイドル、市原仁奈。

 年齢は、たしか9才だったろうか。特別親交があったわけではないが、そのスタイルの特異さ故に嫌でも記憶している。
 なぜ、彼女がこの場に――まさか彼女が爆破犯だとでもいうのだろうか――そのキグルミの中にごっそり爆弾が?
 まさかの登場人物に、思考と動作が一瞬遅れた。動けたときにはもう、仁奈は奇声を上げ背中を見せていた。

528失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:53:25 ID:FeW.Kz4I0
「くっ――!」

 走り去る背中にベネリM3の銃口を向ける。
 そしてすぐに引き金に指をかけ――やめた。

「……ッ。なにをやっているのよ、私は」

 舌打ちをしてから、銃を下ろす。
 仁奈は見逃す。
 いや、見逃さざるをえないと、脳がそう判断してしまった。

 第一に、全速力で逃げていった相手に銃を当てられる自信がない。
 もし狙いを外したら、限りある一発が無駄になってしまう。

 第二に、銃声によって留美の居場所が知れてしまう危険性。
 冷静に考えて、爆破犯が9才の子供であるとは考えがたい。
 となれば、真の『ライバル』が近くに潜み新たな獲物を待っている可能性は大いにある。
 見据えるべきはその『ライバル』だ。ここで焦りを見せ、隙を作ってしまうのは間抜けにもほどがある。

 第三に、相手が怯える子供なら自分が追いかけて手をくだすまでもない。
 白坂小梅のときもそうだったが、留美はなにもキルスコアの更新に挑戦しているわけではないのだ。
 だから戦況が不利なときや、相手が労力をかけて殺すほどではない場合、見逃すという選択肢を取ることができる。
 9才の子供など、どう足掻いても生き残れるはずがない。なら彼女に向けて銃を撃つこと自体が、体力と物資の無駄遣いと言えるだろう。

(冷静に……そう、冷静にならなくちゃね)

 『ライバル』の存在が見えてきたからこそ、冷静にならなくてはならない。
 留美は仁奈には目もくれず、さらに慎重な足取りで火災の現場へと近づいていった。

 微かに残っていた建物の輪郭や看板から察するに、燃えているのはドラッグストアのようだ。
 周囲に人影はない。感じられるわけはないが、自分を狙う殺気もないように思える。
 もう既に退散したあとなのだろうか。それともこちらの出方を窺っているのか。
 だとしたら、相手はどこかから爆弾を投げて――

「あっ」

 そこで、留美はハッとした。
 爆弾。
 そう、爆弾だ。

 先ほど見逃した市原仁奈。無理をして彼女を殺すことは愚策かと思ったが、そうではない。
 彼女を殺して、彼女の持っている武器を奪うという選択肢があったではないか。
 むしろそれこそが正解だった。数分前の武器の心許なさに悩んでいた自分はなんだったのだ。

 ダッ、と留美は走り出した。
 近くにまだ仁奈がいることを望んだ。しかし現実はそう上手くはいかない。
 逃した魚の姿はもうここにはなく、留美はほどなくして途方にくれた。

 収穫というか、わかったことがあるといえば、一つだけ。
 ショットガンを片手に持ちながら走るのは、息が切れる。

「……仕切りなおしましょうか」

 息を整え、頭を振り、留美は自分自身に言い聞かせるため、あえて声に出して言った。
 この街からは離れよう。西か南か、別の街へ移動してそこで他の参加者を狩ったほうが実りはありそうだ。
 どちらの街に向かうにしても、道のりは遠い。殺し合いというプログラムの終わりも、まだまだ遠い。

529失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:53:54 ID:FeW.Kz4I0
 いまはとにかく、頭を冷やすべきだ。
 そのためにも、背後の炎から一度離れるべきだ。
 あの熱気にあてられていると、いつか大きなミスを犯してしまうような気がしたから。

 そうして、和久井留美は火事場を離れる――――。


 ◇ ◇ ◇


 ドガ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!!!


 その音を耳にしたときは、さすがの双葉杏も飛び起きた。
 五階建ての小さなワンルームマンションを見つけて、エレベーターで上がった五階の部屋を寝床と定めたのがほんの40分ほど前。
 ふかふかのベッドに身を横たわらせ、枕をよだれでべちょべちょにしていたら、マンションの外から突然、轟音が鳴り響いた。

 閉めていたカーテンを開き、バルコニーに出て夜の街を見やる。
 空は変わらぬ星空だ。杏が殺した城ヶ崎莉嘉も、いまとなってはお星様。きっとあの中できらきらと輝いているに違いない。
 と、そんな感傷はどうでもいい。杏が興味を示したのは爆音の正体だ。そしてそれはすぐに判明した。

 近い。
 たぶん、100メートルもないんじゃないだろうか。

「おー……」

 建物が一軒、燃えていた。燃えているので、なんの建物かはわからない。しかしでかい。でかい建物が燃えていた。
 ああ、きっと爆弾かな。杏は素早く正解にたどり着いた。爆発音で、大炎上なのだから、それはもう爆弾しかありえない。
 配られる武器はアイドルによって違うとちひろが言っていてたから、たぶん爆弾を支給されたアイドルがいたのだろう。
 それを使って、建物を爆破した。いや、建物を爆破する意味はないから、建物ごとアイドルを爆破したのか。

「よくやるなー。みんな『果報は寝て待て』って言葉を知らないのかな」

 爆発の正体を知った杏の対応は、ずばり他人ごとだった。
 だって、自分が爆破されたわけじゃないし。距離が近くてビビったけど、被害がゼロならセーフだし。

 ……案外、みんな乗り気なのかな。とも思った。
 いまもどこかで、刀を支給されたアイドルがチャンバラしたり、銃を支給されたアイドルが早撃ち対決とかしてるのかな。
 そんなのゲームの中だけにしてよね。と杏はため息をついた。殺し合いなんて、心底くだらないと思う。

「でも……そんな杏も一人殺しちゃってるんだよね」

 40分間の睡眠で、人殺しの感触が癒えるはずもない。杏の手には、確かに莉嘉の頭をハンマーで殴った感触が残っている。
 いや、でもあれは衝動的な犯行だ。怨恨の可能性大というやつだ。たぶん次はない。
 そりゃ、生きて帰りたい、プロデューサーを助けたい、とは思うけど……そのために殺し合いをするだなんて。

「……絶対にイヤだ。私は働かないぞ」

 このまま、ここでだらけていよう。
 その間に他のアイドルのみんなが死んでいくなら、それもいい。
 最後までだらだら寝て遊んで逃げて、それで生き残っちゃったなら、しょーがないじゃん。

 杏はバルコニーの窓を締め、鍵をかけ、カーテンをかけた。
 またベッドに潜り込む。
 寝よう。寝ちゃおう。寝て忘れるんだ。何回もそう唱えた。

530失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:54:25 ID:FeW.Kz4I0
 近くにはまだ爆弾魔がいるかもしれない。その可能性を考慮しながらも、杏はこのマンションに留まることを選んだ。
 わざわざ何の変哲もないマンションを選んで、わざわざ上がるのが面倒くさい五階の部屋で寝ることにしたのだ。
 ここには誰も来ない。ここに杏がいることなど誰も気づかない。爆弾魔だって、きっと見逃すはずだ。

 そもそも近くに爆弾魔がいるからって、慌てて逃げたりしたらどうなるだろう。
 たぶん運悪く鉢合わせたりしちゃって、それで殺されてしまったりする。
 逆転の発想でそんな可能性に考え至ると、杏の顔は『してやったり』といった笑みに染まるのだった。

「やっぱ働いたら負けだよね」

 そうして、双葉杏は火事場を離れ――――るわけがなかった。



【C-7/一日目 黎明】

【五十嵐響子】
【装備:ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×9】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:ナターリアを殺す。
2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。
3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。

【市原仁奈】
【装備:ぼろぼろのデイバック】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2(ランダム支給品だけでなく基本支給品一式すら未確認)】
【状態:疲労(中)、羊のキグルミ損傷(小)、パニック状態】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーと一緒にいたい。
1:怖い。寂しい。プロデューサー、プロデューサーはどこにいやがりますか。プロデューサー……ッ!

【和久井留美】
【装備:ベネリM3(6/7)】
【所持品:基本支給品一式、予備弾42、ガラス灰皿、なわとび】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える。
1:その為に、他の参加者を殺す。
2:西か、もしくは南の街へ移動する(爆弾魔の存在を危険視し、火災現場から離れる)。
3:使える武器(できれば爆弾の類)が欲しい。奪える機会があれば他の参加者から奪う。
4:『ライバル』の存在を念頭に置きつつ、慎重に行動。無茶な交戦は控える。

※今井加奈の基本支給品一式はC-7の路地に廃棄(食料と水を少量消費)。


【C-7 マンション五階/一日目 黎明】

【双葉杏】
【装備:ネイルハンマー】
【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品1〜3】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:印税生活のためにも死なない
1:働いたら負けだよね。だから杏は寝ることにするよ。

531 ◆44Kea75srM:2012/11/19(月) 04:55:51 ID:FeW.Kz4I0
投下終了しました。

532 ◆John.ZZqWo:2012/11/19(月) 07:08:15 ID:MygBCC2M0
投下乙です!

>ドロリ濃厚ミックスフルーツ味〜期間限定:銀のアイドル100%〜
嗚呼、パラケルススの御業。(とてもおもしろかったです)
求めんはエリクシアの琥珀色か。(でもこれ、ある意味ハードル上がってますよね)

>フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン
特訓したとはあったけど、まさかトレーナーさん出てくるとは……想像よりガチだw
しかし面取りか……これは見たくないであり、見られたくないでもあるんだろうなぁ。

>阿修羅姫
しまうーの宣言がすごくよい子だなぁと思ったんだけど、ゆかりちゃんが一蹴(物理含む)してしまった。
輝くアイドルを潰しちゃう超現実派強襲アイドル……またおそろしいアイドルが生まれたものだ……w
2話続けてどっちのアイドルも怖すぎる。
ああ、未央ちゃんはドンマイw

>失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない!
ああ、おにあくまーされるロリっ子はいないんだね……ほっとしました。
とはいえ、仁奈ちゃんはもう完全に泣き出しちゃったけど。9歳ってのがなぁ、もうそれだけで可哀想。
そして悲劇のトリガー引いたナタちゃんにロックオンしちゃう響子ちゃん。ナターリア逃げてー><
和久井さんはちょっと休憩か。しかし和久井さんでこうだと川島さんだとどうな(ry

533名無しさん:2012/11/19(月) 11:21:30 ID:c1k2QJpA0

>失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない!
ナターリアの死亡フラグが増えたー!?
ナターリアにとっては不幸極まりないけれど事故といえどみりあを殺してしまったことは、響子にすれば幸運だったってことか
なるほど、響子だからこそ、気付く視点だよな、ナターリアがネックになりうるってのは
わくわくさんはライバルを意識して、更に冷静になっているのが怖い
仁奈ちゃんは生き延びコソしたけどもう完全にパニック加速中だな…
殺される前に殺してとかそんな発想にさえ至れないほどに惑い中
で、みんなそれぞれ緊迫している中、相変わらずすぎる杏w
いやまあ戦略としては割りと悪くないと思うんだけどこの状況で寝れるって大物過ぎっだろwww

534名無しさん:2012/11/19(月) 13:42:07 ID:p13wCuJ6O
投下乙です。

ドカーン!しかし杏は動かない!!
いや、実際パニックキグルミがマーダー二人とゴッツンコしちゃってるから、選択としては正解なんだろうけど。
隠れてみんなの首輪爆破を狙ってる人もいるしね。

535 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/19(月) 22:38:11 ID:Dkmg8PPs0
投下乙ですー
まったく関係ない所でナターリアの敵が増えた!
そうなんだよなぁ、ブライタルの影響で無関係じゃないんだよなぁ
仁奈ちゃんもロリがすぐ死ぬ状況で良く逃げ切った…
ただまだ混乱中なんだよなぁ…はたしてどうなることやら
杏changは安定の杏でした
和久井留美はマーダーとして着実に格をあげてるなー
ジョーカー除けば有力候補、岡崎泰葉との因縁もどうなる!?

あと、向井拓海、小早川紗枝、松永涼予約です

536 ◆GeMMAPe9LY:2012/11/20(火) 02:23:02 ID:ns7Fk7GI0
お待たせいたしました。
相葉夕美、投下を開始いたします。

537夜にしか咲かない満月  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/20(火) 02:24:18 ID:ns7Fk7GI0
黎明。
空が白みを帯び始める中、相葉夕美は横になり、ただ宙を眺めていた。
だがその視線の先にあるのは夜空ではない。木材で組まれた見知らぬ天井だった。
彼女が今いるのは古びた小屋の中。
日焼けした畳を背にして、ただ、何をするでもなく寝転がっている。

  *    *     *

睡蓮の咲く池を後にした夕美はしばらく島を歩き回った
体力を使い果たさない程度にではあるが、この島――仮にG-8島と呼ぶとしよう――を探索したのだ。
その結果得られたのは、G-8島にいるのが自分だけであるという考察と、この古びた木造の小屋であった。

前者についてではあるが、ほぼ間違いないだろうと思っている。
G-8島はそれほど大きい島ではない上に、島の殆どは野草が深く茂り、歩くのも困難という有様だった。
恐らく簡単に移動できるのは本島側の砂浜近辺、および先ほどの池近辺ぐらいのものだろう。
そしてそのどこにも自分以外の人のいた形跡はなかったのだ。

また、もう一つの得られたもの……小屋についてではあるが大した建物ではない。
砂浜から少し離れたところにある、四畳一間の簡素な小屋。
水道も電気も通っていない、ただ屋根と壁があるというだけの場所ではあったが、腰を落ち着ける場所があるだけでもありがたかった。

使い込まれた畳に座ると、崩れるように横になった。
どうやら自分の予想以上に体力を消耗していたらしい。
ごろりと寝返りを打つと一つしかない窓が目に入る。
窓に映るのは僅かに白みがかってきた空だけだ。

「今、何時だっけ……」

手にした情報端末に表示された時間は3時半。
普段ならばまだ夢の中にいる時間帯だ。
だが夕美の目は閉じられず、まんじりともせず窓を眺めている。
さもあらん。あんなことがあったのに眠れるほど彼女の神経は太くない。
かといって何もしないというにはこの空白の時間は長すぎた。
まるで泡のように頭の中でさまざまな思考が浮かび、そして消えていく。

538夜にしか咲かない満月  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/20(火) 02:24:44 ID:ns7Fk7GI0

――ざぁざぁと、波の音が聞こえる。

誰もいない島。聞こえるのは波の音と自分の呼吸音だけ。
まるで世界から、他の全てが消え去ってしまったような錯覚。
その錯覚は現実を侵食し、少女の意識を内へ内へと誘導する。
指向性を持った意識は浮かんでは消えるだけだった思考を纏め上げていく。
内へ、内へと。奥へ、奥へと。過去へ、過去へと。
その中で彼女の思考は行き着いた。
半年前、自分にとって転機となったあの日へと。


   *     *     *


「私が新ユニットのメンバーにですかっ!?」

いつもの特訓後、プロデューサーに呼ばれてのことだった。
事務所で喜色満面のプロデューサーから『重要な話がある』と切り出された話がそれだった。

「そう、今度事務所で新しいユニットを売り出すことになってね。
 そのメンバーとして夕美ちゃんが選ばれたの」

ちひろさんがお茶を持ってきてくれて会話に加わる。
選ばれた、その言葉に心臓がはねる。
そろそろデビューが近いというのは肌で感じ取っていたから、ついに、という感じだった。
嬉しくないわけじゃない。むしろ跳ね上がりたいほどに嬉しいことだ。
でもユニット、ユニットかぁ……

「うふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。
 みんないい子達ばっかりですし」

心の内を見透かされて、思わず顔が熱くなる。
でも仕方ないじゃないか。
秋葉原でアマチュアアイドルをやっていたところをスカウトされてから数ヶ月、歌にダンスにとレッスンに大わらわだったのだ。
他人に合わせるのが苦手というわけではないが、それでも見知らない人たちといきなり組むのは不安がある。

「うーん……あ、そうだ!
 今の時間帯だと3人とも控え室にいますね。早速顔合わせといきましょう!」
「え、え、まだ心の準備がっ!」
「何を言ってるんですか! 時は金なりっていうじゃないですか! 
 さあさあっ、プロデューサーさんも夕美ちゃんも立ってください!」

プロデューサーも笑いながらその意見に賛同し、私も最終的には立ちあがってしまった。
そしてちひろさんにつれられて向かった部屋にいたのは三人の女の子たちだった。

「あなたが最後のメンバーなんですね!
 私、高森藍子って言います! これからよろしくお願いします!」
「あたしは姫川友紀、アイドル兼キャッツのファンやってます!
 これから一緒にかっとばしていこうね!」
「あ、あの! 矢口美羽といいます! 
 ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」

539夜にしか咲かない満月  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/20(火) 02:26:26 ID:ns7Fk7GI0

皆が皆、バラバラの挨拶。
でも、それだけでなんか分かってしまった。
だって瞳の奥に見えた光が皆同じだったから。
そこに見えるのは好奇心と期待と……そしてちょっとの恐怖。
そう、みんな緊張してるんだ。
これからの芸能活動やグループで活動することへの不安……
そうでなくても不確定な未来は誰だって怖いものだ。
ああ、それでも"相葉夕美"という人間を分かろうと、これから先一緒にやっていく仲間を分かろうと、一緒に踏み出してきてくれてるんだ。

だから夕美は意を決して一歩前に踏み出した。
上手く笑顔を浮かべられてるか、ちょっと自信はなかったけど、それでも精一杯の笑顔で踏み出した。

「私は相葉夕美っ! ガーデニングが趣味の18歳ですっ! よろしくっ!」


   *     *     *

こうして、私たちはユニットになった。

ユニット名は"FLOWERS"。
名付け親はプロデューサーその人だ。
最初こそ"ちょっとストレートすぎるなぁ"と苦笑混じりに話していたが、今では自分の名前のようだ。
その後、マイナー番組へのゲスト出演から始まり、色々な雑誌の取材、ラジオへのゲスト出演、ファンの熱気を感じた熱いライブ……目まぐるしくいろんな仕事をこなして地道に人気を上げていった。
そんな中で半年を過ごすうち、私たちの結束は掛け替えのない強いものへ変わっていった。

藍子は私より年下のクセにしっかりとアイドルしてて、そのあり方に憧れた。
リーダーに推薦されたときは遠慮してたけど、彼女がいいと私たちは頑として譲らなかった。
それは間違いなんかじゃなく、いつも彼女に引っ張られていた。
私たちの、理想のアイドルだった。

友紀さんは親しみやすいお姉さんだった。
外見は私と大して変わらないくせに、たまに年上らしさが見えてかなわないって思う。
あ、でも誘われてみんなでキャッツの応援に行った時は大変だったなぁ。
友紀さんはビール片手に盛り上がって、私たちは周りの勢いに押されて目を白黒させるだけだったっけ。

美羽ちゃんはとにかく頑張り屋だった。
他の事務所の子に憧れて、変な気ぐるみを着たがってたときもあった。
すんでのところで止めたけど、あの子は時にとっぴな行動をとるから困る。
まぁ、そこがかわいいところなのだけれど。

笑った。泣いた。ぶつかり合った。分かり合った。
辛い事もたくさんあったが、それを上回る輝きがあった。
時間にすればたった半年なのに、まるで毎日がお祭りのようだった。
けどそんな夢のような日々も、たった一滴の赤い真っ赤な絵の具をたらしただけで、こんなにも変貌してしまった。

花は散れば戻らない。
そんな当たり前のことが、今は、こんなにも重い。
そこまで考えて、やっと不意に頬を伝う感触に気づく。

「ああ、涙……まだ出るんだ、私」

悲しいと思う。
あの日々がずっと続くものだと思っていたから。
もう二度と取り戻せないと分かってしまったから。
きっと他のアイドルたちも、こんな輝く日々を送っていたのだろう。

540夜にしか咲かない満月  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/20(火) 02:27:32 ID:ns7Fk7GI0
「……うん、やっぱり楽しかったなぁ」

そう呟いた、その時だった。
波の音に雑音が紛れ込んだのを感じ取った。
一瞬気のせいかとも思ったが、レッスンで鍛えた耳には自身がある。

「確かめるだけなら、危険はない、か」

誰ともなく呟き、行動に移す。
デイバックから夕美に支給されたもう一つの支給品である双眼鏡を片手に小屋の外に移動する。
音の元凶らしきものはすぐに見つかった。
視線の先、黒い海の向こうにオレンジ色の明かりが見える。
肉眼では何かがゆらゆらと揺らめいてるようにしか見えないが、双眼鏡越しに見るとその正体ははっきりした。


「……火事?」

確かに何かの家屋が燃えている。
支給された双眼鏡はかなり本格的な代物らしく、数キロ先の光景がしっかりと把握できた。
地図だと……G-3? G-4? 位置は多分そのくらいだろう。
しばらく双眼鏡越しにその光景を見ていると、もう一度かすかな音とともに一際強く炎が上がった。

爆発……だろう。
原因は分からない。
もしかしたらガスコンロとかに火がついただけなのかもしれない。
だけどここで起こっているのは殺し合いで、素直に考えるのならばあれは……

「そっか、爆弾とかもあるかもしれないんだ」

だとしたら今、あそこでは人が死んでいるのかもしれない。
そしてそれはあの3人のうちの誰かかもしれないのだ。
そのことを考えると辛い、悲しい。想像するだけで胸が痛い。

「……せめて苦しまずに死んで欲しいな。藍子ちゃんも、友紀さんも、美羽ちゃんも」

だがそれでも、彼女の決意は揺らがない。
絶望は何より深く。過去が輝けば輝くほど、今という世界は暗い影に飲み込まれる。
歩みを止めない諦観は彼女の決意をより強くさせるだけだった。

ふと顔を上げた視線の先に浮かぶのは満月だった。
だが数時間前までは金色の月光を纏っていたそれも、いまや輪郭を残しているだけだ。
徐々に強くなる朝焼けにかき消されるように、夜にしか咲かない満月は消えかかっていた。
それが花びらの散った花のように感じられて、夕美は思わず手を伸ばしていた。

けれども届かない。届くはずもない。
夜(カコ)にしか咲かない花(オモイデ)には、もう、二度と手が届くことはない。



【G-8(大きい方の島)/一日目 黎明】
【相葉夕美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、ゴムボート、双眼鏡】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ
1:しばらくは動かない
2:もし最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する

541夜にしか咲かない満月  ◆GeMMAPe9LY:2012/11/20(火) 02:27:58 ID:ns7Fk7GI0
投下終了します。
矛盾点等があればご指摘お願いします

542名無しさん:2012/11/20(火) 03:21:18 ID:ttTHXsMA0
投下お疲れ様でした!
おおう、これはナイスなフラワーズの肉付け
オリジナル設定だったので、ここまでいまいちユニットとして感じが掴めてなかったけれど、なるほど、こんな感じだったのか
短い回想だったけど確かに過去が輝いて見えて、だからこそよりいまの真っ暗闇が引き立っているなー

543 ◆John.ZZqWo:2012/11/20(火) 09:03:10 ID:vLYVFO3U0
投下乙です!
うーん、こういうバトルロワイアルの渦中だけでなく、それ以前のアイドル活動を描くことができ、ドラマが増すのがここの醍醐味ですよねぇ。
がぜん、FLOWERSの行く末が気になる一作だったと思います。

では私も投下します。

544彼女たちが選んだファイブデイウイーク  ◆John.ZZqWo:2012/11/20(火) 09:03:55 ID:vLYVFO3U0
見上げる夜空には数え切れないほどの星が明るく瞬いていた。
今晩は月明かりが強いが、もしそうでなければもっと多くの星を見れるだろうと相川千夏は考える。
そして、それを同じ事務所の仲間と一緒に見れればどれだけ楽しいだろうか、
恋するプロデューサーと二人きりでこの空を見上げながら一夜を過ごせればどれだけかと、彼女は思った。



感傷は一瞬で、相川千夏は視点を地上に降ろすと、改めて彼女の出発点であるダイナーの周囲を見渡した。
ダイナーの目の前には一本の道がまっすぐ通っているが、そのどちらの先もこれといったものは何もない。
平坦な道路の脇に等間隔で街灯が立ち並び、その外には背の低い草が生い茂っているだけだ。人の姿も見当たらない。
振り返れば派手なネオンの看板を掲げたオールドスタイルの店舗。そして、白線を引いただけの簡素な駐車場。
駐車場には錆の浮かんだ動くのかどうかも定かではない軽トラックがぽつんと寂しそうに止まっていた。

相川千夏は手元の情報端末に表示される自分の位置を確かめると「なるほど」と呟いてダイナーの中に戻った。



少し重たいガラス扉を開くと、その端にぶら下がったベルがカランコロンと気持ちのいい音を鳴らす。
店内はダイナーらしい縦長のレイアウトで、入って右側にカウンターがあり、左側には4人がけのボックス席が奥まで並んでいる。
つきあたりにはトイレへの扉。その脇に観葉植物を挟んで、年代モノのジュークボックスとこれも年代モノのコカコーラの自販機。
それらはどちらもまだ現役で働いているようだ。
もっとも、コインを持たない相川千夏にはそれらが実際に働いているところを確認することはできなかったが。
天井にはイミテーションかそれとも実際に機能を果たすのかシーリングファンが吊られている。

所謂、アメリカンスタイルのオーソドックスなダイナーだった。
壁にかけられたメニューにもホットドックやハンバーガー、アメリカンクラブハウスサンド、フレンチポテトにアップルパイ。
ドリンクに各種コーヒーとジンジャエール、レモネード――などといったそれっぽいものが並んでいる。
もっともそうでないダイナーというのも想像できはしなかったが。アメリカンでなければここは喫茶店かファミレスと呼ばれる。

相川千夏はカウンターをぐるりと回りこむとその中、そしてその奥へと――拳銃を構え慎重に――入ってゆく。
カウンターの奥はキッチンだ。そこは彼女が想像するよりも少しばかり広かった。
コンクリートが打放しの床にステンレス製の調理台が並び、その上にはさまざまな調理器具が乱雑に置かれたままになっている。
この店の主人はあまり整理整頓が得意ではないようだ――などと思いながら相川千夏はキッチンの中を調べてゆく。

壁際には肉を焼く為のグリルやオーブン、ポテトを揚げる為のフライヤー、そして天井にまで届く巨大な冷蔵庫と冷凍庫。
冷蔵庫の中には分厚いベーコンの塊やブロック状のチーズ、大きな瓶にいっぱいのピクルスなどが入っており、
冷凍庫のほうにはというと、ビニール袋に入った冷凍のナゲットやパティ、ポテトなどがきゅうぎゅうと詰め込まれていた。
牛乳やジュースなんかも日常じゃそう見かけないサイズのボトルで用意されている。
万が一この店の中に閉じ込められても、ゆうに一ヶ月はすごせそうだ――と、相川千夏はそんな感想を抱いた。

キッチンの中には扉が二つ。
その片方、無骨な鉄扉は裏口の扉だった。
開いて外を見ると、そこは先ほど確認した駐車場で、相変わらずぼろっちい軽トラックが寂しそうに止まっている。
もう一方のとりたてて特徴のない扉の向こうには二階へと続く階段があった。
おそらくは居住スペースなのだろうとあたりをつけた相川千夏の想像はすぐに正解だったと判明する。

二階はほとんど壁の間仕切りがない広いスペースで、印象としては彼女が暮らすワンルームマンションの一室と似ていた。
一応は部屋といえるスペースには安っぽいパイプベッドと今時珍しいブラウン管のテレビ、そして頑丈そうな収納棚。
ためしにテレビのスイッチを入れてみるがどのチャンネルも砂嵐で意味があるものは映らなかった。
はしっこのほうにはビニール紐で縛って詰まれている雑誌。洗濯物がつめこまれたプラスチックのかごなんかが見られる。
窓はあったが、どうやらすぐ外をダイナーの看板が塞いでいるようでその機能を果たしてはいなかった。
そのせいなのかこの部屋は随分と埃っぽい。相川千夏は口元を押さえながら調査を続ける。

545彼女たちが選んだファイブデイウイーク  ◆John.ZZqWo:2012/11/20(火) 09:04:23 ID:vLYVFO3U0
窓があるほうとは反対の壁際には、あまり使われた形跡のない小さな流しに、缶ビールでいっぱいの小さな冷蔵庫。
壁を回りこんでその奥はかび臭いユニットバスで、脇には年季の入った洗濯機が鎮座している。
洗面台の上に置かれたうがい用のコップには歯ブラシが一本しか刺さっておらず、住人がひとりだということが推測できた。

相川千夏は部屋のほうへまた戻ると今度はベッドの下を覗き込み、クローゼットを開いてその中も確認した。
店舗とキッチン、居住スペース。どこを調べても人はおらず、どうやらやはりこのダイナーにいるのは自分ひとりだけらしい。
それをようやく確認し終えると、彼女はここでファイブデイウィーク(効率のいい仕事と休息のバランス)を選択した。



キッチンに下りた相川千夏は裏口の扉に鍵をかけ、入り口の扉にもうひとつ店舗の壁にかかっていたベルを付け足すと、
店舗側からは見えないキッチンの隅に椅子を置いてゆっくり腰を下ろした。

ここは待ち伏せをするにはベストスポットだ――そう彼女は考える。

このダイナーの前を横切る道路はこの島の北部にある東西の市街をつないでいるが、
それはつまりその市街から市街へと移動する際には必ず通りかかる場所だということになる。
そして、その何者かが他人との遭遇を、あるいは休息を欲しているのならこのダイナーを無視して通り過ぎることはないだろう。
また、例え素通りされたとしても困ることはなにもない。

ともかくとして、その何者かは間違いなく表の扉から入ってくる。
その何者かが慎重、あるいは卑劣な人物であり裏口から入ろうとしても鍵がかかっているからだ。
裏口に鍵がかかっているのはなにも不自然なことではない。となれば、やはり表の扉しか入ってくる入り口はない。

そして、確実に気づけるようにベルの数を増やしておいたので、それはキッチンの奥からでも容易に察することができる。
後は簡単だ。何者かが入ってきたならキッチンから顔を出して銃で撃てばいい。隠れられる場所は少ないので難しくはないはずだ。
もし、相手も武器を構えていたり簡単には殺せそうもないというならそれはそれで方法がある。
店舗のほうへと爆弾であるストロベリー・ボムを投げ込めばいい。
投げた後はすぐに裏口から駐車場へと避難すれば、自分がその被害を受けることはないだろう。

しかし、相川千夏は待ち伏せ戦法を徹底するつもりはない。これはあくまで最初に休息を取る為の保険だ。

この殺し合いは長期戦になる――と彼女は推測している。それは間違いなく、少なくとも丸一日程度では終わらないはずだと。
だとすればどこかで休息をとる必要がでてくる。逆に言えば、他のアイドル達もそのうち疲弊して休息をとろうとする。
では、確実に他のアイドル達を狩っていくのならば、最初に休息をとってスタミナ的な優位性を得よう。
それが相川千夏の発想であった。

とりあえずは最初の放送があるという6時まではここに留まる。
その後、6時間はアクティブに他のアイドルとの接触を狙って動き、また6時間後には成果がなくとも休息をとる。

それを最後まで繰り返す――これが彼女の選んだファイブデイウィーク(効率のいい仕事と休息のバランス)だった。

546彼女たちが選んだファイブデイウイーク  ◆John.ZZqWo:2012/11/20(火) 09:04:50 ID:vLYVFO3U0
 @


相川千夏は浅めに椅子へと腰かけ静かに目を瞑る。
アイドルとしてそれなりの経験をつんだことで細かく休息をとる方法は習得していた。

静寂と暗闇の中で考えるのは自分と同じ立場であろう四人の少女のことだ。



若林智香。五十嵐響子。緒方智恵理。大槻唯。

どの子も、人を殺害できるのかというとそう簡単ではない気がする。
ひょっとすれば、こんなに冷静に他のアイドル達を殺そうと考えているのは自分だけで、他の子らは逆のことを考えているのかもしれない。
智香はこんな状況にくじけそうになっている子を応援し励ましているかもしれないし、
響子はいっしょにプロデューサーを助けようと他の四人を探し回っているかもしれない。
智恵理がどこか暗がりの中で泣いている姿なんかは簡単に想像することができる。
そして、唯はどうだろうか――?

大槻唯。その豊かな金髪と蒼い目が印象的な、プロデューサーが会わせてくれた自分とは全く違う女の子。

彼女とは別に公式でユニットを組んでいるというわけではない。
しかしかなりの頻度で仕事先は同じになる。おそらくはプロデューサーが意識してそう仕事を割り振っている。
初めて一緒に仕事をしたのは彼女へのヘルプで、最初はうまがあうとは思っていなかった。

彼女はその年頃の女の子らしく、思いつきで行動し、めんどうや努力を嫌い、なにをするにしてもルーズだ。
なので、最初は彼女に対するお目付け役として自分があてがわられているのだと理解していた。
しかしその仕事が終わる頃には考えは逆になっていた。
彼女はやはりその年頃の女の子らしく、明るくあることを常とし、はじめてのことにもポジティブで、なんに対しても正直だ。
彼女こそが自分にあてがわられているのだと理解し、それを受け入れることは思いのほか気持ちのいいことだった。

そして今では無二の親友だと思っている。
むこうはともかくとして自分は今、彼女ほどにいっしょにいて、見ていて楽しい友人はいない。
彼女は常に新しい刺激を求め、それを私に与えてくれる。
オフの日に彼女に紹介されるスポットはどこも今までに行ったことのない場所だし、
逆に私がいつも行く場所に彼女を連れて行けば、私では思いもよらぬ方法で新しい発見をもたらしてくれるのだ。

最後にオフを一緒にすごしたのはいつだったろうか。そう、確か五日ほど前のことだ。
いきつけのカフェで「家で本格的なコーヒーが飲みたい」という彼女にコーヒーを選んであげた。
淹れ方は知ってると言っていたけど、さてその感想はまだ聞いていない。おそらく、もう聞く機会は訪れないだろう。

彼女もプロデューサーの為に殺人を決心しているだろうか? もしそうなら少しだけ気が休まる。
もし彼女が目の前に現れた時、殺しあいはいけないなんて言われれば、
きっと私は迷い、それでも彼女を殺して、そして大きく後悔するだろうから。

それほどに私は彼のことが大切なのだ。親友を殺してもしかたないと思えるほどに。
この決心はたとえ千川ちひろの話がなくとも変わりなかったはず。あの話がなくとも、私は今ここで同じ決断をしただろう。
数え切れないほどにこの運命が繰り返されたとしても、その度に変わらない決断をしただろう。

「……ごめんなさい」

先に謝るなんて卑怯だけれど、きっとその時にはこんなことは言えないだろうから。

ごめんなさい、唯。

私はあなたであろうと殺すわ。

他の誰であろうと、私には私と彼以外に優先するものはないのだから――。






【B-5 ダイナー/一日目 深夜】

【相川千夏】
【装備:ステアーGB(19/19)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:6時まではダイナーで待ち伏せしながら休憩。
2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。

547 ◆John.ZZqWo:2012/11/20(火) 09:06:23 ID:vLYVFO3U0
以上で投下終了です。


んで、 大石泉、姫川友紀、川島瑞樹 の3人を予約します。

548 ◆S.fKmYzH42:2012/11/20(火) 21:28:16 ID:i0Lmh8XU0
すいません。間に合わないので破棄します

549名無しさん:2012/11/20(火) 23:26:13 ID:ttTHXsMA0
>>548
了解しました
完成時に予約が入っていない時などは是非ともまたおこしください


>>彼女たちが選んだファイブデイウイーク 
投下乙です!
そういえばこれで苺たちは出揃ったんですね
明暗分かれた彼女達でしたが、最後の一人である千夏さんは他の五人と違い慎重ですね
大人故でしょうか
そんな彼女も友人たる唯を想い、僅かに揺れ、でももう決意してしまっていて
文字通り、珈琲の味を聞く未来が来ないことは果たして幸運なのだろうか

550 ◆John.ZZqWo:2012/11/21(水) 22:19:25 ID:BZXOwQQY0
■予約まとめ
11/17(土) 10:24:46 ◆mR8m2sBomA 古賀小春、小関麗奈
11/19(月) 00:44:02 ◆n7eWlyBA4w 十時愛梨、城ヶ崎美嘉、三船美優
11/19(月) 22:38:11 ◆j1Wv59wPk2 向井拓海、小早川紗枝、松永涼
11/20(火) 09:06:23 ◆John.ZZqWo 大石泉、姫川友紀、川島瑞樹

ttp://www58.atwiki.jp/mbmr/?cmd=upload&act=open&page=%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81&file=m08-.png

551 ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:09:02 ID:G7Vdi/QM0
>フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン
こわっ。すでにしてプロの傭兵と化したかな子がこわっ。
アイドルの敵だから、アイドルの敵らしく振舞うという方針に、なるほどと思うと同時に「うわあああああ」ってなった
しかもPに許されなくても構わないとか、完全に振り切っちゃってるよ

>阿修羅姫
違う意味で怖いマーダーキター!!
信念が徹底的に冷たいけど、わかりやすくゆがんでいて、しぶりんが負けたくないと思った気持ちもよく分かる
そしてちゃんみおと新田さんは南無……でも、笑ったまま死ねたのがせめてもの救いか
しまむーは……いい子だったけど覚悟が足りなかったね

>失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない!
仁奈ちゃんがどうなるかハラハラしてたが、生き残ったか〜。
しかし杏、とても一人殺したマーダーとは思えないぐらい無気力やなwいや判断としては正解なんだろうけどwww
和久井さんはなかなか冷静に動いてる一方で、響子の思考はぶっそうだなぁ
…5人のマーダーが絶望するリスクを考えたら、ナターリアが乗らなくてもPはおいそれと殺されないはずなのだが、
恋は盲目状態の女の子が、なかなかそこまで思いつけないよね

>夜にしか咲かない満月
ああ、元の思い出が幸せだったからこそ、それを取られた時の絶望がひどかったのか
キャラの肉付けが実に鮮やかでした!
しかし美羽ちゃん、友美ちゃんはあんたのことをフラワーズに必要な人間だと思ってるのに、あんたときたら…

>彼女たちが選んだファイブデイウイーク
まさにファイブデイウイーク(バランスの良い仕事)だなーと思った。
早くキルスコアあげなきゃと焦るなら動きそうだけど、確かに待ち伏せって有効だね
冷静な思考と感傷が矛盾なく同居してるあたり、苺組の最年長だなぁ…

では、古賀小春、小関麗奈 投下します

552アイドルの王女様  ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:10:57 ID:G7Vdi/QM0
真夜中のハイキングみたい。
古賀小春がそう評した道中は、海の見える島の北端で止まった。

「灯台、つきました〜」
「ちょっと、ずいぶん古そうじゃない。大丈夫なの?」
「でも、他におやすみできそうな場所はないよ〜?」
「まぁ、今から町まで歩くのは面倒くさいわね……」

イグアナを抱っこしてヘッドランプをかぶった少女、古賀小春。
二挺拳銃をガンベルトに装備した少女、古関麗奈。
アイドルというよりアクションドラマの子役に近い格好をした少女たちは、初めて訪れる灯台という施設を「うわぁ……」と見上げた。
遠くの海までまばゆい光を届けるはずの灯塔は、既に廃棄されたのかあらかじめ機能を止められているのか、真っ暗に沈黙して空の闇に飲まれている。
おかげで冷たいコンクリートの塊になってしまった塔の周囲をすっぽりと包むようにして、レンガ造りの居住施設が構えていた。

「よかったね、れいなちゃん。鍵、かかってないよ〜」
「……って、待ちなさいよ! そのランプを点けたままだと、敵に気取られるでしょうがっ」

どこか眠れそうな場所を探しましょうというのが、小春の提案した灯台を目指す理由だった。
麗奈は始めのうち「フンッ、夜は寝なきゃなんて、小春はお子サマね!」と反対したのだが、
「でも、睡眠不足は若いお肌の大敵だってプロデューサーさんが言ってたよ〜?」という言葉を聞き、思うところがあるように考え込んで、「しょうがないわねぇ……」としぶしぶ頷いた。
「流されてるわけじゃないからね? これは戦略的休息なのよっ」と、誰も聞いていないのに呟いて、うんうんと頷く。
麗奈にしたって『早くザコザコアイドルを殺さなきゃ、人質にされた下僕(注、プロデューサー)が何かされるかも』という不安はあった。
しかしだからこそ、『自分がひとつ間違えれば、下僕があの見せしめみたいにな殺される』とは思いたくない。
思い出せば、ちひろは『反抗すればプロデューサーを殺す』と言ったのだ。
だから、休めるうちにしっかり休もうとしたぐらいで、人質を殺されることはないはず、たぶん。

「よし。アンタ、先に建物の中を探して、誰もいないか確かめてきなさい。あと、ベッドがあるか確認。
これは命令よ。下僕は命令を聞くんだからね」
「は〜い分かりましたぁ〜」

小春は嫌な顔ひとつせずに頷き、イグアナを抱えたまま宿舎へと入って行く。
バタン、と音をたててドアを閉めきった小春は、そこにいるかもしれない先客が襲いかかってくる危険など、想像もしていないのだろう。
麗奈は道の脇の木陰にひそんで、にやりと得意げな笑みを浮かべた。

「先に斥候を放つなんて、我ながらナイス判断だわ。
もし、中に銃を持った敵がいたって、撃たれるのは小春なんだから……」

そう、うっかりそこらへんのザコにやられてしまわないように、麗奈は知恵を尽くすのだ。
その為にも、下僕として扱うと決めた小春はこき使わないといけない。

撃たれて死ぬかもしれない場所に、送り出すことだって……。

ベルトに吊られた拳銃の重みを、ずしりと腰に感じた。
それを撃てば、小春は血を流して動かなくなって、取り返しのつかないことになると思うと、どうしても殺せなかった。
今の麗奈を誰かが見たら、どう思うだろう。
脳内再生されたのはザコザコアイドル筆頭、自称正義のヒーロー南条光の叱責だった。

――やめろよ、レイナ。お前は悪党だけど、人を殺したり死なせたりなんかしないはずだ!
そんな悪事をして、プロデューサーが喜ぶとでも思ってるのか!

553アイドルの王女様  ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:11:36 ID:G7Vdi/QM0
強く咎めるような友だちの視線が、麗奈を真剣に見据えて――

「ふ、フンだ。南条はいい子ちゃんね。プロデューサーなんて、アタシの下僕なの。
下僕は主人が決めたことに絶対服従なの! だから、アイツが反対したって……」

そうだ、いつだって、麗奈が女王様、プロデューサーが下僕でやってきた。
だから、アイツが喜ぶかどうかなんて気にかけたりしない。
ただ、麗奈をどうしても不安にさせるのは……。

「れいなちゃん、こっち来て〜。すごいよ〜っ!」

間延びした大きな声が、真上から聞こえて来た。
真上から……?

見上げると、下僕その2である小春が灯塔の上の方にある小窓から顔を出して、手をぱたぱたと振っていた。
宿舎の通路から、灯台の内部に入れるようになっていたらしい。

「ちょっ……! そんな大声を出してるんじゃないわよ。周りに敵がいたらどうすんの!」
「でも、景色がすごいよ〜。町の方まで見えるの。それでね、町の中がなんだかおかしいの」
「町が……?」

なるほど、モバイルで見た限りでは町があった。ずっと南の方に。
その町の様子がおかしいというのは、この殺し合いにかかわる『何か』が起こったということかもしれない。
何が見えるのか聞き返そうとして、大声で会話を続けるより見た方が早いと気づく。

「ちょっとそこで待ってなさいよ! 命令だから!」

『夜の景色が見える』という好奇心と、『こんな森の中より灯りのある町の方が何か見つかりそう』という13歳の少女らしい欲求も手伝って、麗奈は小春のいる場所を目指した。

「ハァ、ハァ、ハァ。やっと着いたのね……っていうか小春、なんでアンタは同じ階段をのぼったのに涼しい顔してたのよ!」
「小春はヒョウ君を抱っこして歌ったり、お姫様の衣装で踊ったりしてるから〜、トレーニングしてるのです」
「あぁ。そういえば、アンタの衣装って無駄に重たそうだったわね」

灯台の内部には最低限の照明塔があり、外から見るよりは明るかった。
内側をらせん状に伸びる階段も手すりがしっかりしていて、高所恐怖症でもなければそんなに怖くない。
しかし、小春のいる高さまでのぼるにはそれなりの労力を必要としたのだった。
息切れする麗奈の背を、小春がとんとんと叩くようにさする。

やっぱりこんなところまで登るんじゃなかった。
そう思った麗奈だけれど、小窓から顔を出して『町』を見てしまえば、それどころではなくなった。

「あれ……火事じゃないの?」
「れいなちゃんもそう見える〜?」

点々と存在するさびしい町の灯より、その火の手はもっと明るかった。

赤々と。
煌々と。

映画でしかみないような、炎の巨大な塊だった。
火の手の先っぽの部分らしい『赤』が、夜空に爆ぜるのが見えている。
その『赤』が爆ぜた先には、黒煙がもくもくと上空に吹き上がる。
たき火で目にする白い煙とは比較にもならない、真っ黒な毒ガスじみた煙の束が煙たそうに噴出する。

554アイドルの王女様  ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:12:19 ID:G7Vdi/QM0
「ねぇ、小春……どうして、あんな火事が起こったんだと思う?」
「ストーブを倒したから、じゃないよね。そんな季節じゃないもん」
「馬鹿ね……。放火に決まってるじゃない。誰か……殺そうとしてるやつが、あんな」

あんな火事の近くにいればどうなるのか、巻き込まれて、熱と火を浴びてしまうのが怖い。
こんなに遠くからなのに、怖くて圧倒される。
景色が赤く染まるほどの『爆炎』というものを、2人は初めて見た。

「やっぱり、いるのよ。殺し合いしようってやつが、アタシ以外にも」
「え? ……れいなちゃんは、違うよね?」
「アタシもそうなのよ。だってレイナ様は、『手段を選ばない女』なんだもの」

きょとんと見つめてくる小春とヒョウ君の4つの瞳が、今はひどく後ろめたかった。

殺し合いに乗っているアイドルは、いる。
いつもはみんな、卑怯な手段はダメだと自分をたしなめてくるのに。
ほかのアイドルを蹴落とすために一服盛ろうとするアイドルなんて、麗奈しかいなかったのに。
いつも悪いことを叱ったり、生暖かい目で見たり、たまに一緒に遊んだりする奴らの誰かが、殺し合いをしている。
それも、あんなに大きく建物を燃やすほど、スケールの大きな悪いことを。
それは、みんながプロデューサーを人質に取られているから。
みんなが『プロデューサーを殺す』と脅されているから、手段を選ばなくなってしまったのだ。
殺し合いに乗らなければ、最初に死んだプロデューサーみたいにされる。
首から上が、あんなことになって、あんな赤いことになって、あんな臭いがして、あんな死体になって……。

「もう、いいわ。あれを見てまだ甘いことを言うなら、小春はいらない」
「え、家来じゃなかったの?」

悪いやつに、ならなければ。
ほかのザコザコアイドルまでもが悪いやつになるなら。
レイナ様はもっともっと悪い人間にならなければ、負けてしまう。
負けたら、アイツがあんなことになる。

「もう、いらないのよ。ご主人様と下僕の約束は解消。
どーせ、アンタに人を殺すのなんか無理でしょ。だったら足手まといだわ」
「でも、れいなちゃんは小春を殺さないんでしょ? だったら小春は、下僕じゃなくなっても付いて――」
「付いて来ないでって言ってんの。休みたきゃアンタだけで休んでなさい。
レイナ様はその間にバリバリ仕事して、他のザコを殺してくるんだから」

我ながら、なかなかクールに言ったと思う。
それを誇るには、今は余裕がないけれども。

「どうしちゃったの? れいなちゃんは女王様志望なんだから、人を殺しちゃダメだよ。
それにそれに、今までれいなちゃんが悪いことをして成功したことってなかったような……」
「う、うるさいわねっ。今を生き延びないと、女王になれないでしょうが。
アイツだって……生きててくれなきゃ何にもならないし……」

麗奈が勝ち残ったとして、プロデューサーが喜ぶかはわからない。
ううん、喜ばなかったら心が痛むけれど、実は『会わせる顔がない』と感じる理由はほかにある。
だけれど、それだってプロデューサーが死んでしまったら何にもならない。
わがままで女王様なレイナ様のプロデュースがつとまるのは、アイツしかいないのだから。

555アイドルの王女様  ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:13:07 ID:G7Vdi/QM0

「待ってよ、れいなちゃん!」

階段を下りかけていた麗奈の腕を、小春がつかむ。

「よく分からないけど、一人になろうとしてるんだよね。そんなのダメだよ」
「分からないなら止めないでよ。一人になったってアタシの勝手でしょ」

自分を見る小春の目に少しも曇りがなくて、けれど心配そうなのが、なんだか苛々とした。

「でも、こんなところで一人になったらさびしいよ? 人を殺すのだって、れいなちゃんには辛いよ?」

答えたくない。
腕を振り払って、小春に背を向けて歩き出した。
すぅ、と小春が息を吸い込んで、言葉を発しようとする気配を感じたけれど、どんな言葉で止められたって振り返るもんかと心に決める。
小春はいい子なんだから、悪い奴と一緒にいるべきじゃないんだ。



「そんなことしたら、れいなちゃんのファンはもう応援してくれなくなっちゃうよ!」



ピタリ、と。
その瞬間、足を動かすのを忘れた。

「辛いことを無理してがんばっても、楽しくないし、きっと幸せになれないよ。
ファンの人たちも、プロデューサーさんも、そんなれいなちゃん見たくないと思うの」

応援してくれない。
その言葉が、麗奈の一番気にしていたことを抉りぬいた。

「アイツは……プロデューサーは、目的のためならなんだって努力するアタシが偉いって言ったのよ」
「でも、カエルのいたずらの時は、れいなちゃんを叱ってたよぅ。
プロデューサーさんが好きなのは、本当に悪いことはしないれいなちゃんだと思うの〜」

悪いことをすれば、だれも麗奈を応援しない。
それはそうなのだろう。人を殺せば『犯罪者』になることだって、小学生でも知っている。
そして世の中はアイドルが『犯罪者』になると、普通の人が『犯罪者』になるよりも、ずっとずっと嫌われて酷いことを言われる。
そういう風にできていることを、麗奈はテレビで見て知っている。

喜ばれなくたっていい。
でも、嫌われるのはいやだ。

麗奈のプロデューサーは、わがままで策略家で、いたずらをする麗奈のありのままを認めてくれた男だった。
たぶん、他のプロデューサーならああはいかない。
でも、ホイホイ言うことを聞くだけの男ではなかった。
度を過ぎたいたずらをすれば叱られたし、他のアイドルを妨害しろと命令した時は優しくたしなめられた。
クラスメイトからもわがままな女だと思われて失笑を受けていた麗奈に、居場所ができた。
小春とか、南条光とか、千佳とか、喧嘩するけれど一緒に遊んだりする友達だって、できた。
汚い姑息な手段が使えるのは、悪いことをしても皆から嫌われないからだ。
プロデューサーを悲しませたくないのではなく、嫌われたくないという自分本位の考えをしている麗奈は、南条(※さっきの妄想)と違って、きっと悪い奴なのだろう。

しかし、手段を選ばないのもアイドルとしての在り方ならば、嫌われたくないのもまたアイドルだと小春は言っていた。

556アイドルの王女様  ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:14:10 ID:G7Vdi/QM0
「小春は、何ができるか分からないけど、ずっとそばにいるよ。
れいなちゃんが嫌われアイドルにならないように、味方するよ〜」

ヒョウ君だっているもん、と、イグアナを麗奈に向かって差し出してくる。

「う、うぅ。うぅぅぅぅ…………」

勝ちたいのに。負けたくないのに。
レイナ様に「アタシの負けよ」と言わせた古賀小春がそこにいた。
なんでこんな奴が友達なんだろう、とレイナは脱力感を覚える。

「しょ、しょうがないわねぇ。小春がそんなにアタシのそばにいたいなら、いてあげるわよっ……」

小春と目を合わせずに、言葉のキャッチボールになっていないことを口走って。
麗奈は手だけをのばすと、イグアナの頭をおそるおそる撫でた。





古賀小春には、たいせつな思い出がある。



「朝になったら、どうするか考えましょ〜」と宿舎のベッドに二人と一匹でもぐりこみ。
うつらうつらしながら、小春は思い出を反芻していた。

それは、たまたまプロデューサーさんの都合が悪くて、初めて一人で仕事したときだったと思う。
うまくいくか分からなくて緊張していたから、とてもうれしかった。
プロデューサーさんには、はしゃいだ声で「初めてファンに応援してもらいました〜」と報告したけれど。
本当はとても嬉しすぎたからこっそり泣いたことを、ヒョウくんだけが知っている。

その時に、古賀小春という子どもアイドルは悟ったのだ。
応援されるのは、こんなにうれしい。
みんなから応援される、人に好かれるアイドルになりたい。
耳年増なれいなちゃんは「愚民は飽きっぽいから、凡俗なアイドルはすぐに忘れられちゃうわよ」と言っていた。
だからレイナ様は世界的なアイドルになるために色々するんだとか話は続いたけれど、たとえ一時でもすごいことだと思う。
アイドルにならなければ自分を知ることもなかったはずの人たちが、人生の一時の時間を費やしてまで、自分を見てくれる。
魔法にかかっているみたいだった。
もちろん、遊びじゃなくてお仕事なんだから、「疲れた〜」とか「きつい〜」とか「緊張する〜」とかもあったけれど。
たった一言でも応援の言葉をもらうだけで、そんなの全部吹き飛ばすことができた。

みんなから元気をもらえるから、いつだって幸せ。
だから、お返しに幸せをあげるのがアイドルなのだ。
自分が持っていないものを、だれかにあげるなんてできないんだから。

557アイドルの王女様  ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:14:41 ID:G7Vdi/QM0
そういうことだから、れいなちゃんにも、辛い悪事をしてほしくない。
ヒョウ君から元気をもらえる自分でさえ怖かったのだから。
ぺろぺろする相手がいないれいなちゃんは、もっと不安に違いない。
なら、れいなちゃんには自分がついていたほうがいいに決まっている。
元気をあげられるように。恐怖に勝るだけの何かを、あげられるように。

ピンと来ないけど、古賀小春はアイドルとしてここにいるらしいのだから。



「アイドルって楽しいもんねぇ〜、ヒョウくん」



もはや寝言とも判断がつかない、むにゃむにゃとした声のささやきをヒョウ君だけが聞いていた。


【A-8 灯台/一日目 黎明】


【小関麗奈】
【装備:コルトパイソン(6/6)、コルトパイソン(6/6)、ガンベルト】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康、睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:生き残る。プロデューサーにも死んでほしくない。
1:朝まで寝る。起きてから考える。
2:殺し合いをしなきゃいけないんだけど…。 ただし、小春は殺さない。

【古賀小春】
【装備:ヒョウくん、ヘッドライト付き作業用ヘルメット】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康、睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:れいなちゃんと一緒にいく。
1:朝まで休む
2:れいなちゃんを一人にしない

558アイドルの王女様  ◆U93zqK5Y1U:2012/11/22(木) 00:15:00 ID:G7Vdi/QM0
投下終了です

559 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/22(木) 03:04:24 ID:XlR5LmVY0
皆様投下乙ですー!

>飛べない翼
まゆの不安がよくでてるなぁ。
楓さんは何処か壊れたようなままだし……
どうなるか解からない不安な二組だ。

>Ciranda, Cirandinha
み、みりあがぁ……
ナターリアも重いもの背負ったなぁ
辛いだろうけど頑張って欲しい

>My Best Friend
加蓮……そっちにいったのか、いってしまったのか。
重いなぁ、哀しいくらいに覚悟が。
若林ちゃんは絶望しながら言ってしまった……その想いが智恵里に届くといいけど

>彼女たちの中にいるフォーナインス
なりきり勝負!
勝ったのはナンジョルノかぁ。
安部菜々が切ないなぁ
間接的にナンジョルノは人を殺してしまったのだけれど……どうでるかな

>>終末のアイドル〜what a beautiful wish〜
涼が本当一般人らしくていいなぁ
智恵里はひところせる訳無いよなぁ。
それでも頑張らないといけないか……

>デッドアイドル・ウォーキング
岡崎さんが鮮烈すぎるw
もはや狂的だなぁ……恐ろしい。
小梅はこんなのに巻き込まれて可哀想や……w

>ドロリ濃厚ミックスフルーツ味〜期間限定:銀のアイドル100%〜
なんという濃い面子……w
そして濃い地の文。
電話はどうなるかなぁ、楽しみ

>フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン
ぎゃー!w顔はぎおった……w
かな子が恐ろしい特訓の上に恐ろしい人に……w
さりげなくトレーナーでてるしどうなるかなーw

>失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない
四人が皆いい感じだなぁ
仁奈は本当かわいそうだし、杏はいつも通り。
そして、響子ちゃんは辛い決意だなぁ
和久井さんはいつも通り恐ろしい

>夜にしか咲かない満月
相葉ちゃんのフラワーズの気持ちがでていいなぁ
バックボーンも出てきて、一層膨らみと厚みが出てきた。
どうなるか本当楽しみだ

>彼女たちが選んだファイブデイウイーク
ちなったんが冷静で流石や!
効率よく考えられるのは流石年長者。
ダイナーは位置いいし上手くいきそうだ。
情景描写が綺麗で素敵でした。

>アイドルの王女様
小春可愛い、小春が可愛い
きっと護りたい笑顔を浮かべてるに違いない。
小春が本当可愛い。


というわけで、此方も、藤原肇、諸星のきらり予約します。

560名無しさん:2012/11/22(木) 03:05:41 ID:0DkpZ4uM0
投下お疲れ様です!
小春ちゃんいい子過ぎる、天使か
ファンを楽しませるだけじゃなくて、ファンに応援される、愛されるのがアイドルか
麗奈様もなー、普段から手段を選ばないだけに、手段を選ばないのが自分だけじゃなくなったことへのつぶやきがなんか深い
しかしほんと、いいなー、この二人。回想されてたなんじょうくんとのトリオも見たいw

561 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/23(金) 23:55:29 ID:AgFLrdUM0
申し訳ありませんが、予約延長させていただきますー

562 ◆John.ZZqWo:2012/11/24(土) 19:18:52 ID:aXyCarsE0
>アイドルの王女様
投下乙です。
さすが小春ちゃん癒しの天使。アイドルとはと苦悩してる子が多いなか、こう強さを見せられるとすごいなぁと。
レイナ様もツンデレ偽悪かわいいw
小さい子には色んな意味で厳しい環境だけど、この子たちはもう少しゆっくり行く末を見守りたいな。


というわけで、予約延長します。

563 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:41:08 ID:wfr.PADI0
>夜にしか咲かない満月
フラワーズの肉付け来たこれ!
うう、もうあの頃には戻れない…そんな悲壮感がひしひしと伝わってくる…


>彼女たちが選んだファイブデイウイーク
さすがちなったんは大人だなぁ…かっこいいよ
……唯はもう死んでるんだよなぁ、それは彼女にとって幸運なのか不幸なのか…

>アイドルの王女様
小春もちゃんと麗奈の事を考えていたんだな…
麗奈も非情になりきれないのが年相応で良いなぁ

では,小早川紗枝、向井拓海、松永涼投下します

564確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:42:29 ID:wfr.PADI0
「向井はん、ちょっと待ってやぁ」

暗闇が支配する夜の町の中。そこに間の抜けた声が響いた。

「お前、その服歩きづらそうだな」
「せやけど、まさか脱ぐ訳にもいかんやろ?
 あ、でも泳ぐときはさすがに脱がへんとあかんかなぁ?」
「お前、それいつまでも引っ張りやがって…泳ぐのはあくまで最後の手段だよ」

向井拓海と小早川紗枝。
彼女達の会話には和やかな雰囲気が流れる。しかし、その心には確かな決意があった。
殺し合いには乗らない。アタシ達は抵抗し続ける。
プロデューサーも助けて、まだ『間に合う』奴らも全員助けに行く。
現実の前にはあまりにも綺麗すぎる空想論。具体的な策は何もない。
しかし、彼女たちはそれを本気で成し遂げようとしていた。

「……ふふ、うち、向井はんに出会えてよかったわ」

不意に笑みを零す。
その言葉の真意をいまいち掴みきれない拓海は後ろを向いた。

「あ?何だよいきなり…」
「うちかて、殺し合いしとったかもしれへん。
 でも、向井はんがうちを正しい道に導いてくれはったんやで」

そう言って紗枝は微笑む。
彼女は独特の京言葉もあり、それは彼女の掴みどころの無さを強調させたが、
それは拓海にも本心の言葉だということは理解できた。

「当たり前のことをしたまでだ。それに」
「それに?」
「……多分、どっちにしろテメェは殺し合いなんてしなかったと思うぜ」
「へぇ……向井はんは優しおすなぁ」

にこにこと紗枝が笑う。そんな話が続いていく。
まるで日常のような、殺し合いの場でないような空間…。
彼女達はそのまま、西の街を出ようとしていた。



しかしそんななごやかな空気も長くは続かなかった。




「っ!?」

ドォ……ン、と。
後ろから、地を揺らす轟音が響いた。

565確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:43:07 ID:wfr.PADI0


「…向井はん。今の音……」

しかし、聞こえたのは音のみ。
あとは遠くの方がぼんやりと光っているように見えただけ。
だが、その二つの判断材料は二人が理解するのに十分だった。
――爆発が起きた。それもおそらく、殺傷目的の。

「……くそっ!」
「あっ、ちょっと向井はん!」

気付いた時には、向井拓海は走り出していた。
その時、脳裏に浮かんでいたのは手榴弾を持った少女の姿。
そして、その結末。殺し合いの現実を知っているからこそ、
助けられる奴を全員助けると、空想論を現実にしようとしていた。

だから、あの爆発を野放しにしてはいけない。
もしかしたら、あれが尊い命を奪ったかもしれない。
すぐ近くに救いようの無い殺し合いに乗った人間が居るかもしれない。
だが、それでもまだ一人でも『間に合う』奴が居るのなら。

(もう、アタシの前で誰も死なせるわけにはいかねぇ)

確かな決意が、そこにあった。

    *    *    *

爆発が起きた現場の、そのはるか手前。拓海は想像よりも早くその足を止めた。
そこで見たのは、道端で俯く少女の姿。
その姿は怯えているようにも見え、まだこちらの存在に気付いていないようだった。

「なぁ、おい……」


拓海は、その少女に声を掛けようとして



「向井はん、ちょっと待ちぃや!」

ぐいっと、建物の陰に引っ張られた。

566確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:44:04 ID:wfr.PADI0
「ちょっ、てめぇ何すんだよ!」
「それはこっちの台詞どす」

引っ張ってきた少女はもちろん紗枝だった。
暴れるそぶりを見せる拓海を宥め、紗枝は諭す。

「向井はん、あの子に声かけるつもりやろ?」
「おう…当たり前だろ」
「その…な、自分の格好見てみ?」
「……あ」

その服は血で染まっていた。
それは先ほど、一人の少女を救おうとして付いた血である。
その事自体に恥じる事は無いが、
何の説明も無しに見れば、その姿は誤解を招くであろうことは想像に難くなかった。

「ただでさえあの人怯えとるとゆうのに、そないな姿で出ていったら救える人も救えまへんえ?」
「いや、確かにそうだけどよ…」
「せやから、うちが行きますわ」
「なっ……」

紗枝の口から出た意外な提案。
いや、意外というよりは合理的な判断だった。
格好だけではなく、その口調や性格もろもろを含め、拓海にそれは向いていない。
その反面、紗枝の柔らかな物腰は角が立たず、穏便に事が進むだろう。

「この薙刀も託しときます。丸腰で優しく接すればきっと大丈夫どす」
「……いや、ちょっと待て」

拓海はその提案を遮る。
別に不満と言うわけではない。自分より彼女の方が向いているのも分かっていた。
だが、それとは別に不安な要素が思い浮かんだ。

「どないしたん?」
「やっぱアタシも行く。二人で行けばすぐに勘違いされる事も無いだろ。それに…」
「はぁ…それに?」
「……もしアイツが殺し合いに乗ってたら」

いや、ただ武器を持っているだけでも危険だ。そう言葉をつづけた。
薙刀も拓海に託し、基本支給品しか持たない紗枝にはもしもの時の対抗手段がなかった。
この状況では、誰が何をしてもおかしくは無い。……拓海はそれを身を持って体感していた。
恐怖心に駆られ、刃か銃口かがこちらに向けられる可能性も十分にある。

「……なら、なおさらうち一人で行った方がええよ」
「何だって?」
「もし持ってるのが爆弾とかだったらどうするん?二人ともお陀仏したら笑い話にもならへんで」

確かに、その可能性も否めない。
事実すぐ先で爆発が起きたのだから、あの少女が原因の可能性だってある。
仮に直接の原因じゃなくても、それを可能にする武器があるかもしれないのだ。

だが、今の拓海にはその事自体はどうでも良かった。
そもそも、彼女の反論は意味をなしていない。
拓海が言ったのは紗枝が危機に晒されるのを危惧したからだ。
その言い方はまるで、まるで……

――まるで、自分が死ぬことを想定しているようじゃないか。

567確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:44:50 ID:wfr.PADI0

「お前……」
「もし…もしもあの人がうちらを殺そうとするんなら、そら両方逃げ切れるのが一番ええんやろうけど」

とても自分より年下とは思えない、大人びたような、悲しい顔。
この状況で、物事は上手くいかない事を知っているかのような顔だった。

「せやけど、向井はんまで死んだらあかん。
 向井はんまで死んでもうたら、泳ぐの先導する人が居なくなるやろ?」
 
紗枝は微かに微笑む。しかし、冗談めかした言い方でも彼女の心は本気だった。
その眼には、確かな覚悟が見えた気がした。

「……何言ってんだよ」
「もしもの話どす。先に言うたけど、誰も死なないのが一番ええんやで?」

そういって、紗枝はごまかすように笑う。
確かに、今話していたのは最悪の話であって、何も起こらないのが一番良い。
でも、それでも彼女は不安を感じさせないような笑顔を最後まで作る事が出来なくて、

「…でも、もしも、もしもの時は向井はんだけでも逃げてな」

そういって、あの少女の元へ向かっていった。
彼女の眼は本気だった。
おそらく、何を言っても止まるつもりは無いのだろう。そんな決意が垣間見えた。

だが、このまま送り出していいのか?
ついさっき、目の前で誰も死なせないと誓ったはずではないのか?
このまま何もせず、結局紗枝も死なせてしまったら、抱えきれない後悔を背負わなければならない。
たとえ無理にでも説得し、二人で行くべきなのではないか……

しかし、拓海はその思いが頭をめぐりながらも、紗枝を止める事はしなかった。
言いだす暇が無かったのか、彼女の覚悟に水を差したくなかったのか。
そんな理由も無いわけではないが、それだけではない。
拓海は信じたかった。紗枝も、その先にいる少女に対しても。
きっと相手も正しい道を進んでくれるはず。
何の根拠もない希望だったが、信じる事しかできない。
首輪も外せないし、脱出する手立ても無い。
今の拓海には、人が集まる事を信じるしかなかった。



「そこの人、どうしはりました?」

紗枝が少女に声をかける…
拓海はただ、全てが穏便に進むことを祈るばかりだった。

    *    *   *

568確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:45:50 ID:wfr.PADI0
「そこの人、どうしはりました?」

「っ!?」

咄嗟に持っていた銃を構える。
迂闊だった。まさか他人がここまで近くに居るのを気付かないだなんて。
自己嫌悪に陥りすぎたが故の失態だ。
もし万全の状態だったならそのまま引き金を引くまで行けたのだろう。
…それが正しい事なのかは今の涼には分からなかった。
銃を向けられた少女は少し怯んだようだった。
その姿に殺意は見られない。

「う…、うちは別に殺そう思っとる訳やあらへんで」

そして、殺し合いに否定的な言葉。
だが、涼は銃を下ろすことはしなかった。
見た目には丸腰のように見えるが、着物の下には何か隠し持っているかもしれない。
彼女がこちらを騙そうとしてる可能性が消えない以上、決して油断はしない。
選択を間違えれば、最悪待っているのは、死だ。
銃を下ろすことはせず、話に耳を傾ける。

「うちの名前は小早川紗枝いいます」

「うちら、殺し合いはあかんと思っとるから止めようと思っとるんどす」

「策とか、そんなんはなんもあらへんけど」

「でも、皆が協力すれば、きっと出来ない事なんてあらへんよ」

「まぁ…全部、ホントは向井はんの受け売りやけど」

「あ、向井拓海ゆうてな、うちと一緒におるんやけど…」

話は途切れなく続いていく。
相手の言葉を要約すれば、
『私達は殺し合いには乗らない。プロデューサーも助けて生きて戻る』と言ったところだろうか。
だが、それはあまりに綺麗事すぎた。
こんな殺し合いの場に巻き込まれて、まだそんな思いがあるのだろうか?
それも何の策も無く、ただその信念だけを持って?
人間不信になりかけていた涼にとって、望んでいたはずの言葉に裏があるように思えてならなかった。

569確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:47:24 ID:wfr.PADI0

「だから、お願いがあるんやけど……一緒にきてくれへん?」

「………」

とはいえ、ここで同行を断るのは正しい選択だろうか。
もし自分を利用しようとしているのなら、逆に言えば利用している間は安全ということだ。
それに、話によれば相手には同行者が居るらしい。
体が血濡れなようで姿を見せないらしいが、どこまで本当なのかは判別が出来なかった。
要はこちらが油断しなければ良いだけの話。
相手が何を仕込んでいるかわからない以上、今抵抗するのは逆に危険だと判断した。

……本当はそんなものは建前で、涼はその言葉を信じたかったのかもしれない。
自分の思っていた、望んでいた事を言ってくれる人を。

「……分かった。アタシで良いんなら」

「ほんま!?ありがとうな〜!」

彼女の顔がぱあっと明るくなる。
その姿はいかにも純粋で、裏が無いように思えた。
だが、直に信用するのはまずいと、涼の中にある疑心暗鬼の精神が警鐘を鳴らしていた。

「……終わったみたいだな」

物陰からまた一人、おそらく彼女の同行者であろう女性が出てきた。
涼はその姿に思わず銃を構える。
漫画のような特攻服に血濡れの姿は警戒するには十分だった。
とはいえ、その情報は先に得ていたのでそこまでの驚いた訳ではないが。

「あっ、撃ったらあきまへん!向井はんも、いきなり出てきたら駄目やん」
「わ、わりぃ…もう終わったもんかと」
「確かに終わったけど…いきなり出てきたらびっくりするやろ」

二人はまるで当たり前のように普通の会話をしている。
何が彼女達を結び付けているのだろう。今の涼にはやはりわからなかった。
とにかく、決して背中を見せるような動きをする事は許されない。
最悪の場合は、この引き金を引かないといけない。
松永涼は、そう考えていた。

「あぁ、にしても間に合って良かったわぁ……」

そう、考えていた。


    *    *    *

570確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:48:26 ID:wfr.PADI0



あぁ、良かった。間に合って…

正直、銃を向けられた時は生きた心地がせぇへんかったけど、

結果として、この人仲間にすることができて良かったわぁ。

ほんと、一安心……


「……あれ?」


おかしいなぁ。
安心したら、なんか、なんだか……


「あれ?おかしいなぁ。なんで、なんでうち……」


…なんでうち、泣いとるんやろ。


あかん、皆呆気にとられとる。
止めなきゃあかんのに、一向に止まれへん。


「うち、おかしくなってしもたんかなぁ…」

「……別に、おかしくなんてないだろ」


あら、向井はん。


「恐けりゃ誰だって泣く。…当然の事だろ」


恐いこと……別に、そんな事あらへん。
……つもりやったんやけどなぁ。


「向井、はん……」


でも、向井はんの顔見とったら、もう何も言えへんかった。
代わりに出るのは、嗚咽ばっかり。

これ以上迷惑掛けるのは流石にあかんと思うんやけどなぁ。新しい仲間もおるし。


でも、ちょっとだけ、ちょっとだけ我儘しても、ええかな?


「ひぐっ、うっ…ううぅぅぅぅ」

「うおっ…」


あぁ、やってしもうたわぁ。

向井はんの胸借りてしもうた。


「ちょっ、てめっ……はぁ、仕方ねぇな…。
 ……わりぃけど、ちょっと待っててくれねぇか?」
「あ、あぁ……」


やっぱり、向井はんは優しおすなぁ。

迷惑かもしれへんけど、ちょっとだけ待ってなー。

なんて、言葉にできひんかったけど。



    *    *    *

571確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:49:31 ID:wfr.PADI0

「わりぃけど、ちょっと待っててくれねぇか?」
「あ、あぁ……」

意外な事が起こった。
なんで、あいつはいきなり泣き出したんだ?
なんで、逆に今まで平然としていたんだ?
なんで、あいつは……

…何をやってんだ、アタシは。
この光景を見て、涼は心の中でそう思った。
今、自分よりも若いであろう少女が死を目の前にして、未来のために立ち向かっていたというのに。
それなのに、アタシはいつまでもウジウジとして、あまつさえ、この手を血に染めようとして。

今でも、彼女たちの信念は綺麗事だと思う。
首輪を外すのだって、プロデューサーを救うのだって、島から脱出するのだって。
何の手だても無い。何の策も無い。
あまりにも馬鹿げている事だと、冷静に判断している自分もいた。

だけど、アタシだってそうじゃなかったのか。
何の手だても無い。何の策も無い。
それでも、こんなくそったれた現実に対して反抗する。
そんな歌を歌ってきたハズじゃなかったのか。
アイドルとしてじゃない。それよりもっと前から。
……松永涼、として。松永涼の歌を!

涼は、さっきまでの自分の思考を恥じた。
この殺し合いの場において、自分をすっかり見失っていた。
そうだ。小梅は殺さない。そして小梅と一緒に生き残る。
そんな都合の良い、夢物語。でもそれを自分の手で実現すれば良い。

悩みに悩んだ。だけどもう、迷わない。

これがアタシの意思、アタシの道だ!


「……すまん」
「あん?いきなりどうした」
「アタシ、ずっと悩んでたんだ。
 殺し合いに乗るか、乗らないか」
「……あら、ならうちと一緒やね」
「泣きやんだなら離れろよ…」

いつの間にか、紗枝と名乗った少女はいつもの調子を取り戻したようだった。

572確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:50:44 ID:wfr.PADI0

「正直な話、まだ二人を信用してなかったんだ。
 ついさっきも死にかけたし」
「…あの爆発か」
「やっぱり、何かあったん?」

今の涼には、情報を隠すようなことは無かった。
先ほど起こった事を洗いざらい話した。
始まってからしばらくして、一人のアイドルに出会った事。
彼女は見てくれは害の無さそうな小柄な少女だった事。
…そして、その少女に殺されそうになった事を。

「そう、そないな事が…」
「……その前から、ずっとアタシは悩んでた。
 でも、アンタらのおかげで悩みも吹き飛んだよ」
「……そうか」
「アタシも、その話乗った。
 アイツらを助けるために、出来ることはなんでもするよ!」

口に出して、その決意を固める。
こんな所でいつまでも縮こまっては居られない。
小梅を、アイツを助けるために、立ち止まっては居られないんだ!

「……名乗るのが遅れたな。
 アタシの名前は松永涼。よろしく頼む」
「じゃあ改めてうちも。
 うちの名前は小早川紗枝言います。よろしゅう申し上げます」
「アタシは天上天下、喧嘩上等、特攻隊長向井拓海だッ!
 ……あ、今は喧嘩上等じゃねぇけどな」

三者三様の名乗りを上げる。
タイプの違う三人、しかし目指す場所は一様に同じだった。



    *    *    *

573確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:51:45 ID:wfr.PADI0
「さて、これからどないします?
 特に何もなければ今まで通り、仲間集めでええ?」
「……ちょっと待ってくれ。
 アタシには、どうしても探し出したい奴が居るんだ」

一度意見を落ち着かせるため、近くの家の中で腰を落ち着けた。
その中で、涼は意見を述べた。
とはいえ、その方針自体に反論がある訳ではない。
ただ、一緒に行動する上でどうしても言いたかった事があった。
それは最初から、悩んでいた間もずっと一貫していた唯一の意思。

「探し出したい奴?」
「………それって、もしかして小梅はん?」
「……ああ」

白坂小梅。この殺し合いに参加している少女。
紗枝には拓海が来るまでの間、病院で参加者名簿に目を通していた。
故に全員と言うわけではないが、大体の参加者は把握していた。
その中で松永涼が探し出したい人……ユニットを組んでいた白坂小梅が真っ先に思い浮かんだ。

「なるほどな…だけど、どっちにしろやることは変わらなそうだな」
「せやね…うちらにも心当たりはあらへんし」
「そっか、いや…言っておかないといけないと思ってね」

もちろん、白坂小梅を探すのも、仲間を探す事の一環となる。
涼はあくまで、自分の一番の意思を伝えなければならなかった。
これから共に行動する仲間に。

「……でも、一番の優先はソイツ、ってことだな」
「ああ、アタシは何が何でもアイツだけは守りたい」
「ほんなら、ここでじっとしとるわけにもいかへんなぁ」

そういって、紗枝は腰を上げる。

「そうだな、まだ休む訳にはいかねぇ。
 …まずは小梅って奴を助けにいかねぇとな。そうだろ?」
「……ありがと」
「礼は、全部終わってからにしろよ」

二人も続いて立ちあがる。
そして、三人は扉の向こうを見つめた。

574確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:52:46 ID:wfr.PADI0
(……アタシにはもう一人、気になる奴が居るんだけどな)

拓海の中で、ひとつだけ気になる事があった。
それは、涼が最初に出会った少女の事である。
涼の話を聞いた限り、見た目はとても殺し合いに乗っているようには見えなかったという。
だとしたら、もしかしたらその少女もまだ間に合うのではないか。
……拓海の中で、その少女に対する関心が深まっていた。

しかし、今自分たちのチームにはその被害者である松永涼が居る。
最初に出会ったときの彼女は目に見えるように恐怖していた。
そう考えると、彼女を連れて出会うのは気が引けた。
その内、その少女の事を詳しく聞こう、と拓海はその気持ちを胸にしまいこんだ。


彼女達の道は未だ見通せず、先は見えない。
それでも集った三人は一致団結し、行き先を見据える。
それは死への恐怖を持った、ただの少女達。
しかし、確固たる『アイドル』としての意思を持って、この世界に反抗する。


変わらなかった夜は、もうすぐ明けようとしていた。



【B-4/一日目 黎明】

【松永涼】
【装備:イングラムM10(32/32)】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:小梅と合流。小梅を護り、生きて帰る!
1:小梅と合流する。
2:他の仲間も集め、この殺し合いから脱出する。

【向井拓海】
【装備:鉄芯入りの木刀、特攻服(血塗れ)】
【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる。殺さない。助ける。
1: 引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する)




「ていうかよ拓海、そんな血塗れの服じゃなくて別の服に着替えろよ」
「いやそうしてぇと思ってさっき部屋探ってたんだけどよ、
 どれもこれもサイズが合わなくて……特に胸が…」
「…」さすさす
「ん?紗枝、どうかしたか?」
「いえなんでもありまへん」にっこり


【小早川紗枝】
【装備:薙刀】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。
1:引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する)
2:うちは着る服には困らへんなぁ…

575確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/24(土) 22:53:54 ID:wfr.PADI0
以上で投下終了です。
京言葉難しいどすなぁ…どこかおかしい部分があればご指摘お願いします。

576名無しさん:2012/11/25(日) 00:30:43 ID:n6z3qOmI0
投下お疲れ様でした!
揺れ動く涼がどうしちゃうんだろと読んでて怖かったけど、でも、紗枝ちゃんはもっと怖かったんだよな
それでも貫いた信念と、彼女達を信じた姉御が涼の目を覚ませて
その後の胸借りてないちゃった紗枝ちゃんがほんといいなって思った
姉御紗枝ちゃん良いコンビだなー、ほんと
いや、これからはトリオか
しかしこいつら、最後のオチの会話お約束にする気かいwww

577名無しさん:2012/11/25(日) 09:26:47 ID:v20Py3ncO
投下乙です。

涼は間に合った!

578 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/25(日) 22:15:40 ID:1pwVwnrg0
状態表、一部変更します
とはいえほとんど変わりありませんが…

【向井拓海】
【装備:鉄芯入りの木刀、特攻服(血塗れ)】
【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる。殺さない。助ける。
1: 引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する)
2:涼を襲った少女(緒方智絵理)の事も気になる

579 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 02:58:28 ID:rTlZ7mDs0
遅くなって本当に申し訳ありません……これより投下します

580今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:01:59 ID:rTlZ7mDs0



《三船美優 / Miss it》


 重苦しい沈黙がこの部屋を満たしたまま、どれだけの時間が過ぎたのかしら。
 もう時間の感覚もよく分からなくなってしまったみたい。
 それでも私は何も言えなくて……彼女も何も言わないから、沈黙は終わらないまま。

 でもこの沈黙を壊す権利は、きっと私にはないから。 
 
 私が涙でぼやけた視界で追った先にあるのは、フローリングの上に転がった包丁。
 
 ――私は、あの包丁で、美嘉ちゃんを刺し殺そうとした。

 無意識に全身が震えてしまって、私は両腕で自分の肩を抱いた。
 人殺しなんて、許されることじゃないって分かっているのに。
 あの時は、それ以外のことなんて考えられなくて、無我夢中で。
 理性的に考えられるほど、私の心は強くなんてなくて。
 それでも、罪悪感を乗り越えてまで殺せるほどの覚悟も、やっぱりなかったから。
 結局、私は何一つ選んでなんてなかったということなのね。
 殺されるのが怖くて、殺すのも怖くて、何もできなくて。


 なんて、惨めで弱い女なのかしら。


(アイドルになって、自分の足で歩けるようになっていたつもりだったけど……
 あの人が手を引いてくれないと、私、やっぱり一人じゃ何も出来ないまま……)


 それは、気付きたくなかった現実。
 知りたくなかった、本当のこと。
 まるで、あの人に出会う前の私に戻ってしまったみたい。
 一人では何もできない、何も決められない、ただおどおどしているだけの、私。

 自己嫌悪でどうにかなってしまいそう。
 こんな弱い私なんて、今もあの人を苦しめるだけの私なんて、消えてしまえばいいのに。
 美嘉ちゃんは、こんな私のこと、どう思っているのかしら。


「……ねえ、美優さん」


 ちょうど彼女のことを考えていた時に声を掛けられたから、反射的にびくっとしてしまう。
 でもその呼びかけに何と答えていいのか分からなくて、私は視線だけを返した。

581今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:03:03 ID:rTlZ7mDs0
「……美優さん。アタシさ、これから莉嘉を探しにいかないといけないんだ。
 それでさ……なんていうのかな、莉嘉は、美優さんに懐いてたみたいだからさ。
 出来れば、美優さんも一緒に来てくれると、莉嘉も喜ぶと思うんだよね」


 それは、つまり、私のしようとしたことを許そうとしてくれているのかしら。
 そのことが素直に嬉しくて、でも同時に、私自身への嫌悪感が湧き上がる。
 こうやって人の好意にだけ甘んじて、いつまで独りで歩こうとしないんだろう。
 そういう心を隠すのが精一杯で、私は曖昧な微笑みで答えることしかできなかった。
 美嘉ちゃんはそれを肯定と受け取ってくれたみたいだけど。


「それにしてもさ。美優さん、よく私がここにいるって分かったね」


 空気を変えようとしてくれているのかしら、無理して明るめの声色で話す美嘉ちゃん。
 その気遣いを無駄にしたくなくて、私も努めて合わせようと応えた。


「えっと……本当はただの偶然なんです」


 萎縮しているせいか、だいぶ年下のはずの彼女にも敬語で答えてしまう。
 そんな自分を自覚してまた消沈したけれど、顔には出さなかったはず。


「本当は、隠れられるところを探してたんです。
 そうしたら、たまたまドアが空いている家があって。
 こっそり入って、でも暗くて怖かったから玄関の電気だけ付けて、
 そうしたらリビングの方から人の気配がしたから……」

 そこから先は、あまり思い出したくない。
 どのようにして、自分が人を殺そうとしたのかという話になってしまうから。
 恐る恐る美嘉ちゃんの方を見やると、なんだか険しい表情になっていて。
 不快な気持ちにさせてしまったかと反射的に謝りそうになった私を、彼女は手で制した。


「今さ、玄関の電気点けたって言った? ……それ、今も点いてるの?」


 その言葉の意味を私が飲み込むのに、たっぷり数秒はかかった気がする。
 そして理解したとき、私の顔から一瞬で血の気が引いた。
 はじめて人と出会ってパニックになって、そのまま頭から消えていたけれど。
 私達以外に誰もいないような住宅地で、一軒だけ電気が付いてたら、どうなるか。
 それは、中に人がいるって、教えているようなもの――!

582今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:04:29 ID:rTlZ7mDs0



「――こんばんは。綺麗な夜ですね」



 だけど、もう、後悔するには遅すぎて。
 振り向いた先、リビングの入口に立っていたのは、あの日、誰よりも輝いていたはずの少女。


 シンデレラガール、十時愛梨……ちゃん。


 彼女はあのステージでスポットライトを浴びていた時と同じように微笑んでいたけれど、
 その笑顔からは、なにか大切なものがごっそりと抜け落ちているようにしか見えなくて。
 その違和感に気を取られた私は、彼女が無造作に取り出した銃に全く反応できなかった。 

 
「危ない――――っ!!」


 美嘉ちゃんが咄嗟に私を押し倒すと同時に、一瞬前まで私達がいた空間を通過する銃弾の雨。
 そのまま手を引かれてキッチンに転がり込むまでの間、私は未だ現実に追いつけずにいた。


 ああ、私は、ただ生きることすら、一人の力ではできないのかしら。


 そう、ぼんやりと思った。それは、決定的な、自分への失望だった。



  ▼  ▼  ▼

583今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:05:02 ID:rTlZ7mDs0


《十時愛梨 / Lost it》



 銃はまっすぐ撃つだけでも結構大変なんだって、私は改めて思い知らされました。
 私の構えたサブマシンガン、Vz.61"スコーピオン"。
 その銃口から放たれた30発の銃弾は、自分で思った通りの場所には飛ばずに、
 結局見当違いの壁や天井に弾痕を散らせただけで終わってしまいました。
 もっと、反動を抑えるように構えないといけなかったのかな。

 でも、こんな時だからこそ、焦っちゃ駄目。冷静に整理しないと。

 玄関に繋がるリビングの入口は、今ちょうど私が塞いでいます。
 対して二人が咄嗟に逃げ込んだのは、リビングのちょうど反対側、
 建物全体の北側に小部屋みたいに伸びたキッチンの奥。
 大きな窓に面した南側にも、もちろん玄関にも、リビングを横断しないと行けない。
 そうやって逃げようとする相手を蜂の巣にするぐらいなら、きっと簡単です。
 袋のネズミ、っていうのはこういうことを言うんでしょうね。

 私、人を殺そうとしているのに、思ったよりも落ち着いているみたい。
 もう、あの時よりも悲しいことなんて起こらないって、思っちゃうからかな。
 それとも、プロデューサーさんの言葉が支えてくれてるから……そうだって信じたい。

 これから私が撃とうとする人達。城ヶ崎美嘉さんと、三船美優さん。
 二人とも、私とはあまり親しく話したことはなかったはずだけど、
 LIVEでの彼女達はそれぞれ別の色でキラキラ輝いていました。
 それでも、ソファーに残る傷跡とか、無造作に捨てられた包丁とか、
 この部屋全体を見渡せば、穏やかじゃないことが二人の間に起こったのが分かります。
 それでも今は助け合っているように見えるけど……考えても仕方ないですね。

 ただ、私達はお互いに、あまりよく知る仲ではなかったけれど。
 心に引っかかっているのは、銃を構えてから引鉄を引くまでの一瞬。
 私を見たあの二人の顔には、ショックとか怯えの他に、失望があったと、思う。
 一瞬だったんだから、見間違えかもしれないけど。そんな気がしたんです。

 どうして?
 私が殺し合いに加担するのが、そんなにおかしいの?
 みんな、私のプロデューサーさんが殺されるところを見ていたはずなのに。
 
 それとも、私がシンデレラガールだから……夢の象徴でいないといけないから。
 だから、夢を壊す側に回ったのが、信じられないんでしょうか。


「……ううん、逆です。これは、きっと私が、シンデレラだからこそなんです」


 私が小さく呟いた言葉は、誰にも聞こえなかったはず。


「十二時の鐘が鳴って、幸せな時間はおしまいなんです。もう、魔法は解けたんですよ」


 ――だから私は、一人ぼっちに戻った私は、自分で自分に魔法をかけるしか、ない。

584今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:05:39 ID:rTlZ7mDs0
 私はスコーピオンの肩当てを、名前の通りサソリの尻尾みたいに折り畳みました。
 私のこの二つ目の支給品は、確かにサソリのような猛毒で、そのぶん扱いにくいみたい。
 この調子で撃ち続けたら、あっという間に予備の弾も空っぽになってしまいそう。
 それは避けないといけません。私はこれからも、生きるために殺していくのだから。

 セレクターを真ん中に合わせてセーフティを掛け、代わりにベレッタの安全装置を外します。
 何度もイメージトレーニングしたから、大丈夫。間違いは、ありません。
 私はうっかりしてるから。話してる途中で自分の言いたいことを忘れちゃうくらいに。
 だから、歌詞やステップを覚える時みたいに、繰り返し繰り返し、覚えないと。
 ベレッタのグリップを握りしめ、引き金に指を掛け、両手で真っ直ぐ構えて――


 背筋が凍りました。私のすぐそばを、私に向けて放たれた銃弾が駆け抜けたから。


 咄嗟に入口そばの壁に身を隠すまでの一瞬、美嘉さんの手にも拳銃が見えました。
 反撃してこないって思ってたわけじゃないけど、いざ実際にされると、驚いちゃった。
 それはきっと、藍子ちゃんに会ったから。藍子ちゃんの在り方が焼きついていたから。


(……撃ち返してくるんだ、美嘉さん。必死なんですね、生きるのに)


 ああ、でも良かった。
 もしも藍子ちゃんみたいに、命よりもアイドルであることを選ぶ人が相手なら、
 今度こそそのまぶしさに、私の目は眩んでいたかもしれないから。
 良かった、生きようとする人で。良かった、現実に繋がれた人で。

 これで私も、心安らかに絶望しながら、殺していける。

 美嘉さんの生きようとする理由って何? 単に死ぬのが怖いから?
 それとも、妹の莉嘉ちゃんのため? 他の人のため? ファンのため? 夢のため?
 訊いても教えてくれないだろうから、声には出さない。これは全部、ただの想像。
 でも、この想像が全部本当で、その全部を束ねたとしても――

 
(それでも、私を支える言葉が、あなたの生きる理由より軽いなんてことは……ない!)


 向こうの銃声が止んだ瞬間に合わせて、壁際から半身を乗り出して、撃つ。
 狙いが悪かったのか、タイミングが悪かったのか、弾は当たらなかったけれど。
 でも、殺すことも、きっとレッスンと同じ。繰り返せば、少しずつ上手くなる。
 だから繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し――撃つ!
 


  ▼  ▼  ▼

585今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:06:14 ID:rTlZ7mDs0


《城ヶ崎美嘉 / Want it》



(当たるな、当たるな当たるな当たるな当たるな、当たるな……!)


 やらないとやられるのに、正反対のことを願うしかないなんて。
 死ぬのはイヤだ。殺すのもイヤだ。撃つのも、撃たれるのもイヤだ。
 それでも撃たなきゃ、アタシが撃たなきゃ、何もかも終わっちゃう。

 アタシが今握りしめているのは咄嗟にディパックから引っ張り出した、古ぼけた銃だった。
 西部劇でカウボーイとか保安官が持ってそうな、なんだか厳しい感じのリボルバー。
 名前は"ピースメーカー"……何それ、みんな撃ち殺せば平和ってわけ?
 ただ、今アタシ達が置かれているのは、それがぜんぜん冗談に聞こえないような状況。
 皆殺しにして自分だけ平和になろうなんてアタシには思えない。
 それでも、たとえどんだけ辛くても、自分の身は自分で守らないと……! 

「このぉぉぉぉぉっ!!」

 キッチンの入口の角からリビングへ体を乗り出して、入口側に隠れてる"敵"目掛けて撃つ。
 引鉄を引くたびに、反動の衝撃がアタシの体をビリビリと駆け抜けて脳みそを揺らす。
 慣れたくないその感覚に、体だけじゃなくて心まで震えてしまいそうになる。
 それでも、撃ち続けないと。たぶん距離を詰められたらマシンガンであっという間に殺られる。
 あの時の"彼女"の目は、そういうことに躊躇いとかを感じないように見えたから。



 敵。彼女。シンデレラガール――十時愛梨。



 それほど親しかったわけじゃない。
 アタシとは音楽の方向性が違うっていうか、あんまり同じお仕事やる感じでもなかったし。
 それでも、アタシに限らず、彼女のことを知らないアイドルがこの島にいるなんて思えなかった。
 何しろ彼女は、アタシ達を含めた150人以上の頂点に立ったアイドルなのだから。

 アタシの脳裏にふとシンデレラガール総選挙の発表式の情景がよぎった。
 あの時のアタシは、妹の莉嘉にいつの間にか抜かされちゃってたことへの嬉しさと寂しさと、
 その莉嘉でさえてっぺんには届かなかったってことにちょっと悔しさを感じてた。
 それでもスポットライトを浴びて涙ぐむ彼女の姿を見て、納得したんだ。
 ああ、こういうのがアイドルなのかなって。
 負けを認めたわけじゃないけどさ。女の子の希望になるって、こういうことかって思った。


 その彼女が、夢と希望の象徴だったシンデレラガールが、今、アタシを殺そうとしてる。 


 分からないわけじゃない。彼女は、アタシ達の目の前で、プロデューサーを殺されたんだ。
 あの子にとってプロデューサーがどんな存在だったのかまでは分かんないけど、
 大事な人を殺されて、それで何もかもに絶望しちゃったとしても、全然ヘンじゃない。
 それでも、あの日あんなに幸せそうに笑ってた彼女と、今の心の抜け落ちたみたいな彼女が、
 まるで別人みたいにしか思えなくて、アタシにはそれがショックだった。

586今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:07:04 ID:rTlZ7mDs0
 それでも、いくら豹変してるって言っても、アタシにあの子が殺せるの?
 答えは、きっとNOだ。このままだと、たぶん覚悟の差で、アタシ達は殺される。
 せめて何とかして、ここから逃げる方法を探さないといけない。

 その時アタシは、リビングの反対側の大きな窓に、ふと違和感を感じた。
 今の今まで気付かなかったけど……鍵が、開いてる。
 ほんの少しだけ引き戸が開いていて、そこから隙間風がちょっとだけ吹き込んでいた。
 あそこまでたどり着ければ、ひょっとしたら助かるかも。
 でもそれにはリビングを横切らなきゃいけなくて、そのままだと狙い撃ちされにいくようなものだ。
 せめて、自分だけの力じゃなく、他の誰かが支えてくれるなら……。

 ちらっと横目で、美優さんの方を見遣る。
 アタシよりもずっと年上の彼女は、まるで子供みたいに、両手で顔を覆って嗚咽していた。
 まるで、なんとかして生きようって気持ちさえ無くしちゃったみたいに。
 とても当てには出来そうにない。こんな時に誰かに頼るほうがおかしいのかもしれないけどさ。
 ああ、もう。イチかバチかでアタシだけ飛び出すしかないってことかな。
 でも、仮に成功したとして。それは美優さんを見捨てていくってこと。
 そう思うと、莉嘉のあの嬉しそうな顔を思い出して、とても行動に移せる気がしなかった。。


 でもきっと、生きるか死ぬかの時にそんなこと考えてたからバチが当たったんだ。


 撃ったあとに体を隠すのが、ほんの一瞬だけ遅かったんだと、後から気付いた。
 真っ先に感じたのは、熱さだった。それから、遅れて届く波のように、本当の感覚が押し寄せた。


「……痛い、痛いっ……!」


 血が、アタシの肩から血が出てる。
 傷は深くない。ただ弾が掠っただけ。手当すれば大したことはない。
 そんなことは見れば分かるはずなのに。
 傷口の熱さが、流れる色の鮮やかさが、アタシから冷静な思考を奪っていく。
 
(うっ、ううっ…………もう、やだっ……!)

 怖い。怖い。怖い。
 なんでアタシ、こんなことやってんの?
 生きるか死ぬかなんて、こんなのアイドルのお仕事じゃないよ。
 誰でもいいから、夢だって言ってよ。こんなの絶対おかしいって。
 誰か、誰かここからアタシを助けてよ……!

587今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:08:50 ID:rTlZ7mDs0

「――――いです」
「……えっ?」


 パニックになりそうだったアタシを現実に引き戻したのは、目を真っ赤に腫らした美優さんだった。
 突然声をかけられて思考が追いついていない私を、美優さんは更に置いてきぼりにする。
 

「もういいです、傷つくのはもう十分です……逃げてください。私が……私が、囮になりますから」


 いったい、何を言ってるんだろ、この人は。
 思わずそう考えてしまうくらいに、美優さんの心変わりは唐突だった。
 言葉だけ捉えれば、自分の命と引換えにアタシを助けてくれようとしてるように聞こえる。
 でもなんでか分かんないけど、アタシには全然そんな風には見えなかった。
 覚悟とか、使命感とか、そういうのとは真逆の、何かが抜け落ちた感じがあった。


「早く、莉嘉ちゃんのところに行ってあげて。こんな私のことは、気にしないで」


 そうは言いながら、やっぱりアタシや莉嘉を思いやってる感じじゃない。
 美優さんの考えは、そことは全然別のところにある気がしてならない。
 もしかして、と嫌な予感がした。予感というよりも、ほとんど確信だった。



「もしかしてさ……美優さん、死にたいの?」



 図星を突かれた顔。ああ、やっぱりだ。
 アタシを逃がしたいってのはただの建前。ホントは、もう耐えられなくなったんだろう。
 この人が争いに向かない性格だってのは、今までの短い時間で十分分かってた。
 もっと言うと、ごめんなさいって謝りながらアタシに刃を向けてきた、あの時から。
 だから、理解はできる。でも、全然納得できない。
 アタシの視線に耐え切れなくなったのか、美優さんはポツポツと語りだした。


「もう、嫌なんです。殺すのも殺されるのも、私のせいであの人が苦しむのも。
 美嘉ちゃんは立派です。生きようとしてるもの。私には、そんな気持ちすら持てない。
 私は弱いから……あの人に手を引いてもらわないと、真っ直ぐ歩くこともできないから。
 だから美嘉ちゃんみたいに強い子には……私の気持ちなんて、きっと分からない!」


 最後は絞り出すような嗚咽混じりの叫びだった。
 咄嗟に言い返そうとして、その瞬間にすぐそばをまた銃弾が通過したせいで飲み込む。
 また撃たれるんじゃないかって恐れを押し殺して、出来るだけ冷静に撃ち返す。
 そして今度は前より油断なく身を隠して、改めて今の言葉を反芻した。

588今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:09:31 ID:rTlZ7mDs0

 アタシが、強い?
 今だって、怖くて怖くて、ホントは泣き出しそうなのに。
 それでも死んでたまるかってただ必死で、でもどうしたらいいのかは分かんなくて。
 そんなアタシが強い子? アタシのこと、なんだと思ってんの?
 アタシの心が、やり場のない感情で焼け付き始めていた。
 その心に任せて口に出した言葉は、アタシ自身が思ってたよりも感情的で。


「……アタシだって、ワケわかんないよ! アタマん中グチャグチャだよ!
 莉嘉のこと、プロデューサーのこと、ファンのこと、美優さんのこと!
 アタシもホントは殺したくない! 今だって撃ちたくなんかないよ!
 でも何もしなかったら、アタシも美優さんもここで死んじゃうんだよ!?」


 今の今まで押し込められていた感情を吐き出すみたいに、アタシは言った。
 美優さんは一瞬怯んだみたいだったけど、自棄になったみたいに言い返した。


「いいんです! 私なんて、どうせ……どうせ、生き残れるわけないんです!
 でも、美嘉ちゃんが死んだら、莉嘉ちゃんが悲しむじゃないですか……!」


 今度こそカチンときた。
 表向きは莉嘉を思いやってるようだけど、聞き捨てならない言葉だった。


「アンタが死んでも莉嘉は悲しまないって言うわけ!? アタシの妹を、バカにすんな!」


 そうだ。美優さんが命を粗末にするってことは、莉嘉を悲しませるってことだ。
 莉嘉はいつも背伸びしてるけど、ホントはすっごく純粋だから。
 美優さんが死んじゃったって知ったら、きっとわんわん泣くに決まってる。
 そんなこと、アタシが許さない。莉嘉を泣かせるヤツは、アタシが許さない。
 もう自分が何に向かって怒ってるのかも分からなかった。
 ただ言葉を吐き出さないと、自分の中で抑えることなんて出来なかった。


「ホンネ言うとさ、アタシ、うじうじしてるアンタにちょっとムカついてる!
 でも莉嘉はね、美優さんのこと綺麗だって言ってた! 優しくしてくれたって喜んでた!
 アタシの自慢の妹がそう言うのに、お姉ちゃんのアタシが見捨てたりなんかできないよ!」


 美優さんは、虚を突かれたような顔で黙り込む。
 それでも、止まらなかった。アタシの心が、爆発しそうだった。
 アタシの不安。アタシの恐れ。アタシの痛み。
 そういうものがごちゃ混ぜになって、怒りの中に流れ込んできて、パンクしそうだった。
 時折リビングへ身を乗り出して弾のお返しをしながらも、言葉だけは止められなかった。


「アタシだって、最後まで生き残れるかなんて分かんない……それでも、今終わるのはイヤだよ!
 莉嘉を一人ぼっちにしてさ、捕まってるプロデューサーも放り出してさ!
 アタシの帰りを待ってくれてるファンのみんなのことも、忘れたフリして!
 じゃあどうしろって言われても分かんないよ! でもそういうの、なんか違うっしょ!?」

589今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:12:55 ID:rTlZ7mDs0

 誰に向かって叫んでるのか、もうアタシにも分かんなかった。
 ただ涙がボロボロと出てきて、どうしようもなかった。
 メイクが崩れちゃうから、人前で泣くなんて嫌なのに。それなのに。


「アタシは見捨てたくない……アタシの大事なもの全部、見捨てたくない!」


 ああ、アタシ、欲張りだ。
 あんなにステキなものに囲まれてたってこと、今になって気がついて。
 そのどれひとつとして手放したくないって、思っちゃってる。
 そんなこと出来るワケないって、分かってるはずなのに。
 長生きできないよ、こんなんじゃ。残酷になんて、全然なれそうにない。
 おかしいかな、こんなこと考えるの? それでも、それでもさ……


「――アタシは、そうやって何もかも投げ出して死ぬために、アイドルになったんじゃないから!」


 震える指でリボルバーの弾倉に銃弾を詰め直しながら、アタシは、もう殆どアタシ自身に叫んでいた。


「だから、生きようとしてよ! 死にたいなんて思っちゃ、絶対駄目だって!
 何かまだ出来ること、あるかもしれない……協力してよ、お願いだからさ……!」


 アタシは撃ちながら泣いて、泣きながら撃った。
 少しずつ減っていく弾が、一層どうしようもない現実を浮き彫りにするようで辛かった。
 じわじわと死の匂いがアタシ達に忍び寄ってくるのが分かるようで怖かった。

 でも、それだけじゃなかった。
 美優さんはしばらくマネキンみたいに固まっていたけれど、我に返るとディパックの中を探し始めた。
 アタシのためだけじゃなく、自分も生きるために、行動してくれていた。
 相変わらずその顔は涙でグシャグシャで、せっかくの美人が台無しだったけど。
 だから、その必死さが、最後にほんの少しの幸運を引き当てたんだと思う。

 何発の銃弾が飛び交ったのかも分からない、長くて短い時間のあと。
  
 結果から見ると、アタシ達は、見放されていなかった。
 アタシのディパックの一番底から出てきたもう一つの支給品は、今の状況を打開するのにうってつけで。
 それでも、都合が良すぎるなんて思わなかった。
 これは、美優さんが生きようとしてくれたから繋がった幸運なんだ。
 アタシの言葉が無駄じゃなかったってことの証明なんだ。
 だからこそ、無駄になんて出来るわけない。
 

「わ、私っ、私だって本当は、戻りたい……帰りたいんです、あの人のところに……
 も、もう一度、もう一度舞台に立ちたい……みんなに歌、聞いて欲しいんです、だから、私っ」


 涙声の美優さんから、アタシも霞む視界のままにそれを受け取る。
 受け取ったグレーの円筒には「M18 SMOKE VIOLET」の文字。
 付属の説明書を読むまでもなく、挿絵を見ただけで使い方はだいたい分かった。
 ピンを抜いて投げるだけ。この上なくシンプルだ。
 あと必要なのは、覚悟と勇気。さっきまでの無謀な賭けが、少し現実的になっただけなんだから。
 それでも、今のアタシなら……アタシ達なら、なんとかなるかもって、思った。

590今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:16:57 ID:rTlZ7mDs0
 ディパックの肩紐に腕を通して、美優さんの方へ軽く頷いてみせる。
 そしてアタシは円筒からピンを引き抜き、リビングの真ん中にそれを放り投げた。
 数秒後、円筒の底から紫色に着色された煙幕が猛烈な勢いで噴射される。
 もう、後戻りはできない。


「さあ……生きよっ、美優さん!」
「……はいっ!」


 牽制で一発ピースメーカーをぶっぱなすと、アタシは美優さんの手を取って走り出した。
 既に紫色の煙幕はリビング中に充満していて、何も見えなかったけれど。
 アタシは位置を悟られないことを願いながら、真っ直ぐにリビングを横切った。

 すぐ向こうから銃声が響いた。こちらの意図に気付いたのだろうか。
 アタシには当たってない。美優さんのことは、無事であると祈るしかない。

 もう視界は全て紫色で、息を止めないとむせ返ってしまいそう。
 手探りで窓に辿り着き、引き戸の隙間を広げて体とディパックをくぐり抜けさせる。
 その直後に煙にまみれた美優さんもまた、無事に部屋の外に転がり出た。

 でも安心してはいられない。少しでも遠くに逃げないといけない。

 アタシは美優さんの手を引いたまま、一心不乱に走った。

 その手の温もりを、肩の痛みと同じぐらいに確かな現実として感じながら。



  ▼  ▼  ▼

591今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:19:10 ID:rTlZ7mDs0

《No/where》



「……逃げられちゃいました。やっぱり抜けてますね、私」


 もうもうと紫の煙幕を吐き出す民家をぼんやりと眺めながら、愛梨は独りごちた。
 その自嘲には、しかしどこか現実から遊離したような、乾いた響きがあった。

 
「でも、私、まだ生きてます。次は、もっとうまくやりますから。大丈夫、ですよね」


 ここにはいない誰かに向かって、彼女は語りかける。
 結局のところ、愛梨には経験が足りなかったし、油断も多分にあったのだろう。
 それでも、生きてさえいれば、今よりも違った自分になるはずだ。
 ここから少し前に進んで歩けば、何かが変われる。そんな風に生きたい。
 そんな風に、生きなきゃ、と思う。


「私の中には、あの時もらった言葉があるから。だから、生きなきゃって気持ち、誰にも負けません」


 ――――『生きて』。 


 あの時の言葉を、胸の中で反響させる。
 思い出すたびに、心が張り裂けそうになる。この身すら切り刻まれるような気持ちになる。
 だけど一方で、懐かしい暖かさを感じる。ずっとそばにいてほしいと思った、あの暖かさ。
 それを忘れない限り、自分は生きていける。生きる理由を、与えてもらえる……。


「…………プロデューサー、さん」


 それだけで十分。

 そのはず、なのに。


「……私、生きなきゃって思うのに、なんでこんな、空っぽなんでしょう……?」


 夢のような日々はあっけなく炎に巻かれて、今はみすぼらしく燻る灰として降り積もる。
 その只中で立ち尽くす魔法の解けた灰かぶり姫の声に、答えてくれる王子様はもう、どこにもいない。




【G-3(民家の近く)/一日目 深夜】


【十時愛梨】
【装備:ベレッタM92(0/16)、Vz.61"スコーピオン"(0/30)】
【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×4、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×5】
【状態:健康】
【思考・行動】
 基本方針:生きる。
 1:殺して、生き抜く。

592今を生きること ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:23:09 ID:rTlZ7mDs0



  ▼  ▼  ▼


《Now/here》


「……ごめんね、美優さん。アタシ年下なのに、偉そうに説教しちゃって」
「……いえ、いいんです。私が、もっとしっかりしないといけなかったんです」

 手と手を取って、二人は走る。
 行き先は分からない。一寸先も、その更に先も闇。

 確かに彼女達は生き延びた。
 だけど、現実は何一つ変わっていない。何も見えない、何も分からないまま。

 だからきっと、これからもっと辛くなるだろう。

 それでも、今、ここにいる。だからこの瞬間を、ひたすらに生きるしかない。
 彼女達だけではなく、今を生きる誰もが、きっと。


【G-3(住宅地)/一日目 黎明】


【城ヶ崎美嘉】
【装備:コルトSAA"ピースメーカー"(0/6)】
【所持品:基本支給品一式、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1)、.45LC弾×30】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺されたくはないが、殺したくない。
1:莉嘉を探す
2:美優さんを死なせたくない


【三船美優】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きていたい
1:自棄になっていたけど、今は……

593 ◆n7eWlyBA4w:2012/11/26(月) 03:24:22 ID:rTlZ7mDs0
投下終了です。
あ、愛梨の時間も黎明でお願いします……重ね重ねすみません

594名無しさん:2012/11/26(月) 03:41:42 ID:b52t/A7w0
ああ、生きるってこういうことなんだよな
彼女達に限らず、人間未来なんて分からないしどうなるかも分からない
それでも生きたいと、ここにいたいと願い続けて、できることをし続けるしかないんだよなあ
この二人と違って、自分自身で願ってなくて他人の願いだけを抱いて生かされている十時は、まさしくどこにもいない幽霊みたいなものなんだろなあ
投下、お疲れ様でした

595名無しさん:2012/11/26(月) 05:05:17 ID:J85JVy8k0
n7氏投下乙ですーほかの皆さんも超乙です!感想!

>阿修羅姫
いい……いいなゆかりさん、仕事意識の高いアイドル好きだ!
それにプロデューサーへの想いが相乗効果で純白ドレスをこれから血に染めるのかこわい
ちゃんみおは仕方ないとして(え)新田さんがここで感情を振り戻してきたのは意外だったなー
でもかっこよかった。新田ちゃんの弟も自慢していい、君の姉は人を守って死んだのだ。

>失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない!
最初の4択がそのあと各キャラが取る行動を示唆してたりとか、爆発音で場面転換とか、
SS読んでてこのSS楽しい! と思わせてくれるサービスがまず見事だなあ
4人のうち3人が自分なりに殺し合いでの動きを確認した中で、終始パニックな仁奈ちゃんがすっげー心配である。
あっでも>火事だ! 防災頭巾をかぶって避難しないと! とかかわいいからもうちょっとパニクっててほしい気も……

>夜にしか咲かない満月
このロワ唯一にちかいオリジナルユニット設定なFLOWERSの詳細きた!
すごいいいユニットだったんだな……しかしこうして彼女たちが強く綺麗に咲いていた時期を垣間見ると、
それを裂いたこのロワの罪深さを強く感じる。相葉ちゃんの「花は散れば戻らない」論もさらに物悲しく聞こえる。
最後まで咲ききったならともかく、第三者に散らされた花は種すら残せないからなあ。

>彼女たちが選んだファイブデイウイーク
ファイブデイウィーク=効率のいい仕事と休息のバランスって意味なのかー。
ダイナーの内部描写と言い氏の知識量と語彙量が全開のSSで、読んですごい勉強になった気分。
そして相川さんのキャラにそれがなんだかハマリ役な感じがする……ストロベリージョーカーの中でもこの人はやはり一味違うな
この人が動き出すとき、このロワはどうなっていることやら!

>アイドルの王女様
ここまですっごい殺伐なのが続いてたからか小春レイナコンビの安定の癒し空気に心が洗われるー
なおかつそれだけで終らず、手段を選ばない女としてのレイナサマの心情とか、小春ちゃんのアイドル論とか、
二人の軸にするりと触れりもしていて、いろいろ伝わってくる話になってるのがすごい
いやホント、小春ちゃんみたいに普段ぽわぽわしてる子が案外核心をついてたりするんだよな。幸せの相互循環かあ。

>確固たる意志、明ける夜空
正直このまま涼さんはいいとこ見せられずにロワに殺されると思っていたよ!
それをこれだけ熱い展開で引き戻すとは……うおおお!ってリアルに声が出るくらいだったです。
拓海姐さんのからっとした男気に呼応する様に紗枝はんが決死の覚悟を決め、そして涼が今それに続いた。
アイドルがアイドルに引き上げられてくこの連鎖反応には是非続いてほしい……!そうもいかないのは百も承知だけども!

>今を生きること
一人でも生きなきゃいけないと縛られたシンデレラ、みんなで生きたいって願うお姉ちゃん、
生きたいけど無理だって諦めてた三船さん。三者三様の生きることに対する思いの描写が見事、
そっからお姉ちゃんが三船さんを奮い立たせるとこも説教臭くなくて、必死に叫んでるのが伝わってきて。
こうさ、一般人ロワだからこそ、絶対的強者がいないからこそ、互いの弱いとこを支え合っていく感じがいいよね。

596名無しさん:2012/11/26(月) 13:40:15 ID:QnPCrxnMO
投下乙です。

お姉ちゃん、がんばって!放送に耐えられるだろうか。

597 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:48:38 ID:nZZXKeFM0
投下乙です
>確固たる意志、明ける夜空
うお、このタイトルはやられた!w
涼が、二人の影響受けてこうなるとは!w
紗枝ちゃんかわいいし、本当にやれましたw

>今を生きること
とときんが、退廃的で哀しいなぁ……その道を取るしかないというのが。
お姉ちゃん頑張ってそれが、三船さんをはげまして。うんとても綺麗なながれで。
でも、妹が死んでるってのが本当哀しいなぁ

此方も投下しますねー

598 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:49:28 ID:nZZXKeFM0




「肇ちゃんってさークソ真面目だよねぇ」
「は、はぁ……それはどういう意味でしょう」
「あ、おっちゃーん、ジンジャーエールお替り宜しく」
「あ、私もバニラオレお願いしますね」
「美波ちゃんはお酒じゃないの?」
「そういきたいんですけど……私も一応未成年ですし」

こ洒落たダーツバーで、私――藤原肇は同じアイドルの仲間達とご飯を食べていました。
本当にお洒落なところで、こんな幼い私がいていいのかと少しドキドキしてしまいます。

そんな私を気楽そうに見つめるのが塩見周子さん。
その隣で微笑んでいたのが新田美波さん。
二人とも私と同じプロデューサーにプロデュースされているアイドルです。
一緒にやってきて、結構仲もいいんです。

「いや、もっと肩肘張らなくてもいいんじゃないかなーって」
「……はぁ」
「真面目すぎるけど、視野狭くなっちゃうよーって」
「周子さんは気楽過ぎると思いますけどね」
「げっ……美波ちゃん藪蛇……」

……真面目、すぎるんでしょうか。
私は、私らしくのつもりでいたつもりなんですが。
深く考えようとして、結局上手く考えが纏まらない。
よく解からなくなって、私は自分の抹茶オレを啜った。
甘くて苦い、不思議な味だった。

「だーかーらー、そう難しく考えるのがよくないって事よん」

そんな私に周子さんは微笑む。
手に持ったジンジャーエールを一気に飲み干して。
立ち上がって、ダーツを一本持つ。
その姿は、凛としていて、まるで妖精のよう。

「こう、力を抜いて……さ、よっと」

そうして、放れた矢は、まっすぐ的の真ん中を射抜いた。
柔らかくて、けれど綺麗な軌道だった。

「あるがままに、受け止めるってのも楽しいよん」

あるがままに、受け止める。
自然の流れに、身を任せるように……って事でしょうか?
気取らず、自分らしく……?


「そうですね、アイドルになって、わたしの世界はぐんと広がった気がするけど……それでも、アイドルの私という新しい私を……」


そう言いながら、美波さんも、ダーツを手にとって、そのままダーツを放つ。


「受け止めて……楽しんでますよ♪ だってワクワクして、本当楽しいっ♪」


ふわっとしながらも、真っ直ぐ中心を射抜く。


「お見事……美波ちゃんもやるね」
「いえ、それ程でも♪」


新しい自分。
自分が成りたい、アイドル。
そんなものを考えて。
そして、ふーっと思いっきり息を吐いて、思って。
力を抜いて、イメージしてみる。

そしたら、簡単に、浮かんだ気がして。

599 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:49:51 ID:nZZXKeFM0


「私も……」


私は、お二人と同じようにダーツを手に取ってみる。
当てるべき的は思ったより遠いけれども、


「一番私らしい、私を、私らしく受け止めて……」


ふっと、力を抜いて、ダーツを放つ。



「イメージした私を、そのまま、表現できたら、いいな」



それは、迷うことなく、まっすぐへ――――









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……っ!?」

ドーン!と、まるで映画の中でしか聞けない爆発音を聞いて、私は我にかえる。
ボーっとしていた訳ではないが思索に耽っていたのは事実ですから。
思い出していたのは、同じく殺し合いに巻き込まれた仲間であり……大切な友達。

私にとって、大事な出来事を思い出していました。
周子さんと美波さんとのひととき。
今の私を作った大切な思い出です。

二人が名簿に書かれた時、胸がしめつけらるような気持ちに襲われました。
ただ、無事であればいい。そう願うばかりで。

「いかないと……」

だから、今の爆発も見逃す訳には行きませんでした。
其処に大切な人達が巻き込まれてるかもしれない。
夢を、願い踏みにじられるようなことになっているかもしれない。
そんなのはいけない、許してはいけない。

私はアイドルだから。

皆にも、アイドルで居て欲しいから。


だから、私は駆け出したんです。


あの時、想った事を胸に――――

600 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:50:17 ID:nZZXKeFM0










     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「おっすおっす! 杏ちゃんげんきぃー?」
「あーきらり?……だるい」
「うきゃー元気ですにぃ☆ 杏ちゃんもハピハピすゆ?」
「……帰りたい」
「むーん」
「くー(寝たふりしたら帰ってくれるだろう」
「にゃは☆杏ちゃん寝てる姿もちょーカワイイ! お持ち帰りするにい☆」

「なっ……ちょ、きらり……片手で、もちあげるなぁああああ!?!?!?!?」
「どーう? きらりんぱわー☆」
「きらりんぱわー……じゃない、落ちる……ぅーーーーーーーー!?」
「うぇへへ! にょわー!」
「おろせぇえぇぇぇ」

「杏ちゃん、一緒にはぴはぴすゆ?」
「する! するから、離せ!」
「うふふ、じゃあ、このまま一緒にいるんだにい!」
「わ、解かった」
「杏ちゃん、ぎゅーーー☆」
「ぎゃ、ぎゃああああ!?」



「杏ちゃん」
「……ぜーはーぜーはー……何?」
「ぜーーったい一緒にトップアイドルなって……ずーっとハッピーよねー☆」
「……ああ、解かった解かった」
「にょわー☆」
「なったら即引退するけどね」
「むぇー!」








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

601 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:50:48 ID:nZZXKeFM0






「むぇ?」

どーんと大きな音がしたんだにぃ。
なんだろー、なんだろー?
何か嫌な予感がすゆー……

杏ちゃん…………きっと寝てるんだにぃ。
……心配だにぃ。


むー!
そんな気分じゃ、駄目なの!
もっと、ハピハピすゆー☆
きらりんがハッピーなら、きっと皆ハピハピ!

うぇへへ……それなら、きらりん頑張っちゃう☆

よーっし!
なら、その現場まで、きらりんふるぱわー!


にょ、にょ、にょわーー☆









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

602 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:51:26 ID:nZZXKeFM0






――ちりんちりーん☆



「急がないと……!」



―――にょわー自転車とーまーらーなーい☆



「もし生きてる人が居るなら……」



――――うぇへへ……にょわ!



「うん……いそが……」



――――あーーーぶーーーーなーーーい!




「えっ……!?」







どーーーーーーーーーん☆





【藤原肇 死



「じゃないです!」



  ………………失礼しました】









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

603 ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:52:05 ID:nZZXKeFM0






「いいですか、きらりさん! 貴方はもう……」
「……にょわ」
「聞いてますか!」
「ふぁい……」


………………本当死ぬかと思いました。
猛スピードで自転車が突っ込んでくるのは恐怖です。
寸前で避けられたものの……。
あ、さっきの衝突音はきらりさんが電信柱にぶつかった音です。
幸いきらりさんも自転車も大丈夫でしたが。

とはいえ、怖かったのは事実なので、大説教です。
彼女が諸星きらりだった事は知っていたので。
……まあ、知らない人はいないでしょう。
あのインパクトですし。


「くどくどくどくど……」
「む、むーん……」

自己紹介も程ほどに愚痴とも言えない説教していました。
だって、スピード出しすぎであり得ない。
ぶつかったらただ事じゃない。
死んでしまうかもしれない。
そんな駄目です。
そんなよくないです。


「も、もう、怖かったんです……から……」


ぽろっと雫がこぼれちゃい……ました。
だって、怖かったんですから。
死ぬ時は、きっと怖いんだなって、思っちゃいました。
皆、どんなに覚悟しても、きっと怖いんだ。

震えが、止まらない。


でも、皆、そんな震えを抱えて、生きてるんだと、思いました。



「………………御免ねぇ」
「……え、きらりさん?」


そして、そっと、大きな温もりに包まれました。
すっぽりと。
私は、きらりさんに抱かれてました。
凄い温かくて。

604Happy! Happy!! Happy!!! ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:53:30 ID:nZZXKeFM0


「きらりん、気をつけるにぃ……だから、泣くの、やめるにぃ」
「きらりさん……」
「肇ちゃんも、ハピハピすゆー?」
「えっ……?」

ハピハピ?
何か、ふあっとした言葉でした。
不思議な、柔らかさがある。

「笑って、きらりんも、ハピハピ☆」
「はぴ……はぴ?」
「肇ちゃんもだにぃ!」
「ハピハピ……」
「そう、きらりんも、ハピハピ☆ 肇ちゃんも、ハピハピ☆ みんなもハピハピ☆」

そしたらねと、きらりさんはいって。



「みんな、きっと、ハッピーだにい!」



きらりさんが笑って、幸せになって。
私が笑って、幸せになって。
皆が笑って、幸せになって。


そしたら、世界のみんなが、幸せ。



彼女は、笑ってそんなことを言う。
だから、私も笑って。


「そうですね……ハピハピです」


そしたら、何か、恐怖が薄れたんです。
不思議ですね。
これが、諸星きらりさんの魅力……なんでしょうか。


私も、笑えてました。


「うぇへへ……きらりん、どーん!としたの向かったんだけど、肇ちゃんもー?」
「はい……気になって」
「……一緒にいくー?」
「いいんですか?」
「おっすおっす、みんなでハピハピだにぃ☆」
「……そうですね、よろしくお願いします」

605Happy! Happy!! Happy!!! ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:55:05 ID:nZZXKeFM0


どうやら、向かう方向も一緒のようだ。
なら、一緒に行きたい。
この、不思議な輝きを放つ少女に。
そう、思ったから。


「じゃー、出発進行! 自転車にのるにぃ!」
「ふ、ふたりのりですか!?」
「いいから、いいから☆ ごーごー!」
「ってきゃーー!?」



そして、ほぼ、強引に出発する事になったけど。
私は笑ってて。


これが、きらりさんの言う事かなと思って。



――――ハピハピ


……なんて、思っちゃいました。




【B-6/一日目 黎明】

【藤原肇】
【装備:ライオットシールド】
【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】
【状態:健康、決意】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを回避するために出来ることを探す
1:きらりさんと行動。
2:アイドルを殺すことは、自分自身を殺すこと
3:プロデューサーを危険に晒さないためにも、慎重に……

※塩見周子、新田美波と同じPです

【諸星きらり】
【装備:折りたたみ自転車】
【所持品:基本支給品一式×1、くまのぬいぐるみ(時限爆弾内蔵)、不明支給品×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:杏ちゃんが心配だから杏ちゃんを探す☆
1:きゃほーい! 肇ちゃんと自転車で爆発の方向までまできらりんだっしゅ☆

606Happy! Happy!! Happy!!! ◆yX/9K6uV4E:2012/11/27(火) 01:55:27 ID:nZZXKeFM0
投下終了しましたにぃ☆

607 ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:52:47 ID:YyGl3xBs0
投下乙乙乙ですー。

>確固たる意志、明ける夜空
いいですねぇ。投下される前はどきどきしましたけど、三人仲良くできるようでひと安心です。
紗枝ちゃんはかわいいですね。ただ今度は、この子が不良系な二人の間に挟まれてグレちゃわないか心配ですw

>今を生きること
うーん、こっちもいい。城ヶ崎おねーちゃんの強いけど、普通の女の子なんだよてところがいい。
こういうのがそこかしこで見れるのがこのロワのよさですよねぇ。
三船さんのなんか気の弱いお母さんみたいなところもいいし、心が空洞になっちゃったとときんもいい。
次の放送を向かえた時、どういうリアクションをとるのかも気になるなぁ。

>Happy! Happy!! Happy!!!
あれぇー? 最初はせつない感じで始まったと思ったんだけど、はぴはぴになってるだにぃ?
ていうか、肇ちゃんは大丈夫? 次からはぴはぴー☆とか言い出さないよね?w


では、こんな時間ですが私も投下させていただきますー。

608彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:54:40 ID:YyGl3xBs0
「泉ちゃーん! こっのくらいでいいー!?」
「あっ、そんな大声出したら……、あのもう確認できたんで彼女を連れ戻してください川島さん」
「はいはい、任せなさい――友紀ちゃーん! もう戻っていいわよー!」
「だからなんで大声っ!?」

まだ街の中が深い夜の中に沈んでいる頃、大石泉、姫川友紀、川島瑞樹の三人は何か実験のようなことをしていたようだ。
それは、どうやらもう終わったらしい。
30メートルほど距離をとっていた彼女らは集合すると、先ほどまで篭っていた一軒家の中へとまた戻っていった。


 @


「それで実験の結果はどうだったのかしら?」

12畳とおおよそ一般的な広さのリビングルームの中、テーブルを囲むように座ったところで最年長の川島瑞樹が口を開いた。
同じく席についた大石泉はひとつ頷くと、手にもっていた情報端末をテーブルの真ん中に置いて説明をはじめる。

「結論から言うと、この情報端末に表示される私達の位置は紛れもなく私達の位置そのものです」

その言葉に川島瑞樹はなるほどと頷く。
しかし三人の内の最後、姫川友紀は頭の上にクエスチョンマークを浮かべて手をあげた。

「それって当たり前じゃないの? それともなんか意味あるの?」

えーとですね……と大石泉は口ごもり、それは最初に説明したはずなんだけどなぁと心の中でツッコミを入れる。
とはいえ、一から説明するのも考えが整理できてよいと思いなおり、改めて詳しい説明をはじめることにした。

「この情報端末には私達の現在位置が表示されますが、それが何を基準としているかには二通りの可能性があったんです」
「……二通り?」
「それは、この端末そのものの位置を表示しているだけなのか、私達本人の位置を表示しているのかってことなのよね?」

川島瑞樹の言葉に大石泉ははいと頷く。
さきほどの実験――姫川友紀だけがわざわざ二人と距離をとったのはそれを確定させるためのものだった。

「私が姫川さんの情報端末を持って、姫川さんに移動してもらったわけですけど……」
「ふむふむ」
「彼女の名前は彼女が実際に移動したとおりに情報端末の上でも移動したってわけね」

そうですと大石泉は再び頷く。彼女と川島瑞樹の間ではこの実験の意味と結果がもたらす重要性、それが共有できているようだ。
だがしかし、姫川友紀だけはまだそれがいまいちピンときていないらしい。

「つまりですね。
 私達の位置を知らせる発信機やGPSのようなものはこの情報端末の中ではなく、私達自身の側にあるということなんです」
「えっ? それってどういうこと?」
「おそらくは……この首輪ね。そう考えるのが自然だわ」

言いながら川島瑞樹は自分の首にはめられた銀の輪をなでる。大石泉も同じようにしながら同意した。
姫川友紀も二人のしぐさを真似るが、依然としてその重要性にまで思い至った様子はない。

609彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:55:09 ID:YyGl3xBs0
「結局は当然のことですけど、この首輪によって位置情報も把握されているのならばまずはこの首輪を外さないといけません」
「うん、さっきも言ってたよね」
「仮に情報端末が位置を知らせているものそのものだったら、
 これを捨てればもしかすれば企画を運営してる側からは見失わせることができたかもしれなかったんだけどね」

そんな安易ではないと理解していたが、厳然たる結果が出たことに川島瑞樹は小さな溜息をこぼした。
姫川友紀もようやく実験の意味を理解したようで、そうだったのかぁと同じように溜息をつく。
一方、大石泉はこのことについてメリットがないわけでもないと発言した。

「逆に考えれば、たとえはぐれるようなことがあってもその人の情報端末があれば簡単に合流できるとも言えますよ」
「ああ、じゃああたしの情報端末を川島さんに持っててもらえば、迷子になっても迎えにきてくれるんだ」
「……確かに、三人の間で情報端末を交換しておけばそれぞれを追うことで簡単に合流できるわね」

川島瑞樹は感心したと繰り返し頷く。
例えば、大石泉の情報端末を姫川友紀が持ち、彼女の情報端末を川島瑞樹が持ち、更に彼女の情報端末を大石泉が持てば
三人がそれぞれの位置を把握することになる。
そうすれば、もしはぐれてしまってもそれぞれが相手を追えば遠からず合流することができるだろう。

「ただし、自分の現在位置を把握できなくなるので市街地以外ではあまり有効でないと思いますが」
「自分の位置がわかんなきゃ、追いっこないもんね。うーん、この情報端末がふたつあればいいのに」
「そこらへん、それを実行に移すにはもう少し様子をみたほうがよさそうね」

とりあえずは、ひとつ結論が出る。だが彼女達が考えなくてはいけないことはこれだけではない。

「ある程度、指針は思い浮かんだので少し考えてみたいと思います。時間をもらっても構いませんか?」
「あたしに手伝えることは……ないよねぇ。たはは」
「じゃあお茶を淹れなおしましょうか。それになにか口に入れるものもあったほうがいいわ」

言って、川島瑞樹は姫川友紀の腕を引くと、彼女と連れ立ってリビングから出てゆく。
ひとり部屋の中に残された大石泉はバックの中から筆記用具を取り出して目の前に並べる。
そして、二人の足音が聞こえなくなるのを確認すると思索にとりかかった。


 @


「川島さん、頭よかったんですねー」

キッチンの中で棚を漁りながら姫川友紀は言う。

「あら失礼じゃない? 私、こう見えても以前はアナウンサーをしてたのよ」
「あ、そう意味じゃなくて普通にすごいなって」

棚の中に入ってたのは海苔だった。嫌いではないがお茶請けとしてはかなり微妙である。

「でもアナウンサーだったんですか? アナウンサーからアイドルって川島さんのプロデューサーさんも変な人ですね」
「そこは見る目があった――でしょう? じゃあ、あなたはどんな風にアイドルになったのよ?」

次の棚の中にあったのは自家製の梅酒だった。大きな透明の瓶の中に大量の梅が沈んでいる。

610彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:55:29 ID:YyGl3xBs0
「あたしは、飲み屋でお酒飲みながらキャッツの応援してた時ですね。
 その頃はもう学校も行ってなくて、バイトしてそのお金で野球見にいくか、お酒飲むかってそんな生活してて、
 飲み屋で絡んだ相手がたまたまプロデューサーで、気づいたらアイドルすることになってて……みたいな」

その次に見つかったのは素麺だった。おそらくは暑中見舞いにもらったものだろう。大量に箱が積まれている。

「あんまり感心はできない話ね、それ」
「ええ。だから川島さんも泉ちゃんもすごいなって。
 あたしなんかあそこでアイドルになってなかったらニートまっしぐらですもん」

同じ贈り物ならクッキーなんかが出てきてくれるとありがたい。せめて煎餅くらいでもと次の棚を開ける。

「あの子は、ひとりだから……」

姫川友紀の棚を漁る手がぴたりと止まる。

「ひとり?」
「あの子がニューウェーブっていう3人組のユニットを組んでるのは聞いたわよね?」
「うん」
「でもここにいるのは彼女だけよ。彼女はたったひとりで仲間とプロデューサーの運命を背負っているの。
 きっと心細いし、色んな不安がのしかかってくるはずだわ。
 彼女は利発だもの、考えなくていいことまで考えちゃっているはず」

振り返ると、川島瑞樹もまた手を止めてこちらを見ていた。
その瞳はとても優しくて、ああ、こういうのがちゃんとした大人の女性なんだなぁ……と姫川友紀はしみじみ思う。

「それでも彼女は挫けない。きっと、挫け方をしらないのね。だからあんなに気丈に見えるのよ」
「じゃあ、応援してあげないとですね」

微笑みを浮かべながら姫川友紀は自分の中にあっただらしない部分を恥じ、叱咤していた。
彼女はこの殺しあいの中にFLOWERSのメンバーが揃っていることを知った時、仲間がついてると安堵し、
それでいて大石泉がひとりだと知った時には逆に羨ましいとも思ってしまっていたのだ。
その上、自ら何かをするという発想や気概も持ってはいなかった。どこか、最初から誰かに頼ればいいという考えだった。

「…………川島さん」
「何?」

それを改めなくてはいけないと姫川友紀は思う。流されるだけでなく、ちゃんと応援しようと。
それも他人事のように応援するだけではなく、例え応援しかできなくとも、自分が10人目の選手だという自覚でその場に立とうと。

「クッキー見つけた」
「…………こっちもちょうどお茶がはいったところよ」

そんな風に。些細ではあるが、姫川友紀はこの時変わった。

611彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:56:19 ID:YyGl3xBs0
 @


テーブルの上には湯気をたてる紅茶のカップが三つに、姫川友紀の見つけたクッキーがのった皿が一枚。
贈答用のクッキーは高級品である。その味も、先につまみ食いした姫川友紀が保証してくれている。

ともかく、再び三人がテーブルに戻ったことで彼女達の検討会がはじまった。


「私達がクリアしなくてはならない問題は六つあります」

大石泉が発言する。彼女の手元には彼女自身が1時間ほどかけて作成した提案書のようなものが置かれている。
紙面には細かい文字が丁寧に書きこまれており、彼女の神経質さが伺えた。

「大きく分けると、『首輪』『主催者』『脱出』の三項目になり、それぞれの項目の中に二つずつの問題があります」
「主催者ってのはあたし達をさらって殺しあいをしろって言ってる人達のことなんだよね?」
「私達はまだちひろしか目にしてないけれど、他にもたくさんのスタッフが関わっているのは間違いないわよね」

なにせ、60人ものアイドルとそのプロデューサーを誘拐し、島ひとつを使って殺しあいをさせようという話である。
まるで映画の中の話のように荒唐無稽で、実際どれほどの規模の組織なのかなどというのは想像するのも難しかった。
そんな想像をはじめた二人に、それはまず置いておいてとことわり大石泉は話を再開した。

「六つの問題を順を追って説明していきますが、これはそのまま私達が解決しなくてはいけない順番になっています」

言って、大石泉は用意したものの中から一枚の紙をテーブルの真ん中に出した。

「最初は首輪です。
 ひとつ目は、この首輪から発される信号を遮断し、主催者から身を隠すこと。
 ふたつ目は、この首輪の中に仕込まれた爆弾を無効化し、一方的に殺害されるリスクを取り除くことです」
「この首輪は早く取りたいよね。息がつまるしさ」
「……なるほど、確かに何をするにあたっても主催者から監視されいつでも殺される状態であってはリスクが高いものね」

しかし、そんなに簡単に首輪は外せるのだろうか? と姫川友紀が疑問を呈し、川島瑞樹がそれを尋ねる。

「位置情報の信号――電波に関してはいくつか案がなくはありません。
 首輪そのものを電波を遮断する物質で覆うか、あるいは電波の届かない場所を見つけてそこに入るか……」
「あ、地下鉄なんかどう? ケータイの電波とか入らない場所あるじゃない」
「この島に地下鉄なんかないわよ。でも、アイデアそのものはよさそうね。この島に地下が全くないはずはないし」
「はい、私も例えば地下金庫のようなものを見つけるのが一番確実だと思います。
 ただそれだけだと、そこにいること自体は簡単にばれてしまうと思いますが」
「首輪を覆うってほうは?」
「確か、アルミかなんかで壁をつくると電波は防げるみたいな話は聞いたことがあるけど」
「それは間違いじゃありません。
 けど、アルミや鉛で覆ったとしてもこの首輪は私達の身体に接触していますから、その分100%までは達しえません」
「アンテナの数がギリギリまで減っても……」
「電波が少しでも届く以上、位置情報や爆破信号を回避したとは言えないか」

姫川友紀と川島瑞樹の二人は押し黙る。当然だが、そう簡単に首輪の問題はクリアできそうにない。

612彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:56:58 ID:YyGl3xBs0
「次に、首輪の中の爆薬についてなんですが、これを解決できれば先の問題も同時にクリアできる可能性があります」
「えーと、それはつまり爆薬が爆発しなくなれば無理に外しちゃ駄目だってルールも無視できるってことだよね」
「それはけっこうだけど、さすがに爆薬の知識なんて持ち合わせていないわ。泉ちゃんはそこのところあてはあるのかしら?」

川島瑞樹の問いに大石泉ははいと素直に頷く。そして紅茶を一口飲むと、滑らかにその説明をはじめた。

「内臓されている爆薬は威力から見れば、ニトロメタンかセムテックスあたりだと思いますが、
 爆発の際に発光がなかったことからセムテックスかそれに類するものと考えて間違いないと思います」
「ニトロはなんとなくわかる気がするけど、セムテックスって何?」
「それはこんな細い首輪の中にある分だけでそんなに強力な爆発を起こすのかしら?」
「セムテックスはいわゆるプラスチック爆弾の一種で、粘土状で形状の融通がきき、衝撃や温度などで勝手に爆発しない爆薬です。
 なので私達が激しい運動をしても爆発することはありませんし、その点を考慮してもこれが使われている可能性は高いですね。
 威力に関しても元々十分なものを備えていますが、首輪の内側に向かってU字で詰まっているなら少量で更に威力を発揮します」
「泉ちゃんがどうしてそんな詳しいのかは聞かないけど……」
「こんな細い首輪でも私達の首を飛ばすのに無理はないってことね」

あるいは、みせしめとなったプロデューサーの首輪が特別だったのでは? などという希望はあっさりと否定されたことになる。
それでも顔色ひとつ変えない大石泉を少しうらめしくも思いつつ、姫川友紀は話の先を促した。

「セムテックスが入っている場合、外側から爆薬そのものを変質させて爆発しないようにするのはほぼ不可能です。
 ですが、セムテックスはさきほど言ったように簡単に爆発する代物ではないので、首輪の中に起爆装置も一緒に入っているはずです」
「じゃあさ、その起爆装置がある部分をぎゅって潰しちゃったらOKだったり?」
「まさか……、そんな簡単に――」
「姫川さんの案は間違ってはいません。ただ、そう簡単にはいきませんが……」
「やった、当たってた!」
「喜ぶのは早いわよ。簡単じゃないって言ってるんだから」

大石泉は小さな顎を上げて首輪をよく見えるようにすると、それをつまんでくるりと一周させる。
たったそれだけの小さなアクションで、姫川友紀と川島瑞樹の二人は簡単ではないという意味を理解し、落胆の溜息を吐いた。

「この首輪は外側からではどこが前後かすらわかりません」
「ってことは、もし首輪の中身や起爆装置の位置がわかったとしても――」
「――“今はどこにそれがあるかわからない”。だから手が出せないってことよね……、それこそ透視でもしない限り」
「ええ、ですから透視すれば解除できる可能性はあるんです」
「今度は川島さんが当り!?」
「透視って何かの比喩かしら? 超能力が使えるアイドルがうちにいるなんて話は聞いたことないけど」
「エックス線――いわゆるレントゲン撮影で内部構造を解析できる可能性があります。
 その時、あらかじめ印を打っておけば中身の向きがわからない問題もクリアできると思います」
「だったら病院に行ったら首輪解除できるんじゃない? レントゲン室って電波も入らなそうだしさ」
「そうね、一応は放射線を扱ってるんだし遮断する処理がされているはず……」

案が具体的になってきたところで、暗くなっていた二人の表情も一転する。
だがしかし、前も今も表情を変えない大石泉はゆるゆると首を振ってそう簡単な話ではないと言った。

613彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:57:25 ID:YyGl3xBs0
「内部構造がわかっても、都合よく外側から起爆装置を処理できる形になっているかわかりませんし、
 その段階で新しい問題が浮上することも考えられます。エックス線を当てることで起爆装置が作動する可能性もありますし」
「とりあえず、やってみる……じゃあ、駄目だよね。ごめん」
「人の命がかかっているものね。そう簡単に試してみようということには……」

今度は三人の顔が暗くなる。反抗あるいは逃走の初手である首輪の問題だけでも、それをクリアするのはかなりの困難のようだ。
しかし、その困難のハードルをひとつ下げる方法を大石泉はすでに考えている。
川島瑞樹もこの沈黙の中でしばらくして気づいた。姫川友紀も彼女に遅れ、そのことに気づき、そしてその発想の恐ろしさに首を振った。

――誰か、すでに死んだ人の首輪をサンプルとして入手できれば。

それはあまりにも非人道的な気がする。同じアイドルの子の首を切断して首輪を回収するなんて想像するだけで怖気が走る。
しかしそれはなにより、死人が出ること――アイドルがアイドルを殺すことを肯定することになってしまう。
だからこの時三人は、三人ともがその発想にたどり着いていながらも、それを口に出すことはなかった。


 @


「残りについても説明しますね。次は主催者についてです。
 みっつ目は、主催者がこの企画を運営管理している場所を突きとめ、そのシステムを破壊、あるいはのっとることです。
 よっつ目は、人質になっているプロデューサーの監禁場所を突きとめ、助け出すことです」

なるほどと頷く姫川友紀と川島瑞樹の二人だったが、その表情には心の内の困惑が浮かび上がっていた。
首輪もそうだが、この主催者に対してというのは明らかに更に困難さが増しているように思える。

「主催者の居場所を突きとめ制圧できれば、問題の大部分はその時点で解決できると思います」
「密かに潜入して警備の目をかいくぐってボスを捕まえれば、とか? なんかミッション・インポッシブルだね」
「……インポッシブルって不可能って意味よ?」

あらら……と顔を青くする姫川友紀だが、大石泉はかまわずに話を進める。

「制圧というはやはり不可能だと思います。私達に武器が配られている以上、向こうにその備えがないと思えません。
 しかし、首輪の問題を解決した後ならば、密かに潜入してこの企画を管理しているシステムにアクセスできる可能性はまだあります」
「でも首輪の問題が解決してるなら逆に必要なくないかな?」
「いや、首輪を全員が解除できるとは限らないわ。その場合、解除できた子に全員の運命を託す必要もでてくる。
 それに私達のプロデューサーにも首輪ははめられていることを忘れちゃいけないわ」
「少なくとも、遠隔爆破だけでも防ぐことができるようになればこの島から逃げ出せる可能性が生まれると思うんです」
「そこまでやってもまだ可能性なんだね……」
「それ以前に、どうやって居場所をつきとめるのかって話もあるわ。
 そこのところはどうなのかしら? 少なくともこの島の中にあるっていうならまだ探す気にはなれるけど……」

それについてはひとつだけ情報がありますと大石泉は椅子から立ち上がり、そしてなんの躊躇もなく自分のスカートをめくりあげた。

614彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:57:50 ID:YyGl3xBs0
「これなんですが」
「え? なにしてるの? いや、ちょ……かわいいけどさ……」
「わ、私だってまだまだいけるのよ!?」
「…………あ、ち、違います! 変な意味はありません! この爪痕を見てもらおうと……」
「へ、爪痕?」
「どういうことなの……?」

大石泉は片足を椅子の上に立てると、ふとももの内側の一点を指差す。ふたりが目をこらすと、確かにそこに小さな爪痕があった。

「これは、私が自分でつけたものなんです。あの教室のような場所で眠らされそうになった時に」
「あー、私も眠っちゃいそうな時に時々やる」
「なるほど、そういうことね。それで、その時になにかわかったことがあったの?」
「いえ、眠気に抵抗することはできなくて、私もみんなと同じように眠ったと思います。
 ただ、私が目を覚ました時、まだこの爪痕はくっきりと残っていたんです」
「それってどういう……?」
「わかったわ。あそこで眠らされてから起きるまでは爪痕が消えないくらいの時間しかなかった。
 つまり、時間が経ってないから距離もそんなに離れていない――あの教室みたいな場所はこの島の中かもしれないってことね」

川島瑞樹の推論に大石泉はそのとおりですと頷き、スカートをもどして椅子に座りなおす。

「あそこがそのまま主催者の居場所かはわかりませんが、あの時点でちひろさんと幾人かのスタッフがいたことは確かです」
「主催者の足取りを追うヒントくらいは残ってるかもしれないってわけだ」
「じゃあ、まずあの“教室”を見つけるってことね。この地図にある学校がそうだといいんだけど……安直かしら?」
「いえ、確かめてみる価値はあると思います。
 それで、あの教室で起こったことなんですけど、考えているうちに疑問に思ったことがあるんです」
「疑問?」
「なにか不自然な点があったということかしら?」

大石泉は言葉を発することなくただ頷く。そして沈黙したまま少し間を空け、それから恐る恐るといった風に口を開いた。

「あそこにみんなのプロデューサーが全員いたと思いますか?」
「ん、どういう意味……?」
「…………えーと、それはつまり、殺されてしまった十時さんのプロデューサーさん以外のって意味よね?」

はい、と大石泉は深く頷く。

「人質になっているプロデューサーの人数は参加させられているアイドルよりも少ないはずですが、それでも数十人はいるはずです」
「そうだよね。……でもあの殺された男の人、とときんのプロデューサーさんだったんだ」
「あのシンデレラガールのプロデューサーよ? 私は事務所の中でも有名なんだと思っていたけど」
「私はあの扉の外に全員のプロデューサーが待機させられていたとは想像できないんです」
「たしかに、縛られたプロデューサーさんが全員廊下で立たされているとかシュールすぎるかも……」
「つまりなにが言いたいのかしら……十時さんのプロデューサーがあそこで殺されるのは最初から予定のうちだったってこと?」

川島瑞樹の言葉はどうしてか険があり、大石泉はただわかりませんと首をふるだけだった。

「彼女があそこで声をあげて、そして彼女のプロデューサーがみせしめになったのはただの偶然かもしれません。
 シンデレラガールのプロデューサーですから最初からあそこで殺されると決まっていた可能性も十分に考えられます」
「泉ちゃんの言いたいことってさ――」
「――やめましょう。これは話し合っても益のある話題じゃないわ」

姫川友紀の言葉を遮り、川島瑞樹が話を終わらせる。

615彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:58:16 ID:YyGl3xBs0
大石泉が想像したこと。それは考えてはいけない最悪の可能性――十時愛梨が、つまりアイドルの中に裏切り者がいるという発想だ。
確かに、考えてみればあの場面でああも都合よくことが進むのは不自然だと思えなくもない。
だがしかし、それでも同じアイドルを疑うことはしてはいけないと川島瑞樹は考える。
それをしてしまえば、彼女達の足元を支えているものは残らず瓦解し、ただ殺しあう未来しか残らなくなってしまう。

「……すいませんでした。では、人質になっているプロデューサーの件ですが」
「うん、絶対見つけないとだよね。じゃないとがんばる意味が全然ないし」
「そうね。あの人達も私達を信じてくれていると思うし、報いた恩はしっかり返さないとね」

川島瑞樹は話しながら考える。冷静に振舞いながらもその実、ギリギリの淵に立っている大石泉――彼女を救いたいと。
必要なのは挫けてもいいと知ることだ。彼女が限界を迎えるまでの間にどこかでそれを教えたい。
そう考える。


 @


「最後は、脱出です。
 いつつ目は、この島より脱出する手段です。
 むっつ目は、脱出した後、私達の安全を保証してくれる相手を探すことですね」
「んー、やっぱ脱出は飛行機でかな。この島には大きな飛行場があるしさ。旅客機があれば全員一緒に帰れるんじゃない?」
「馬鹿、飛行機なんて誰が操縦できるのよ。
 それに飛び立つことだけでなく着陸もしなくちゃいけないのよ。そうそう、素人の手におえるものじゃないわ」

時間も進み、検討会も最後の段階へと進んでいた。残された課題は、どう脱出し、そして脱出した後の安全をどう確保するかだ。

「私も飛行機を使うのは無謀だと思います。さすがに私達の中に飛行機の操縦免許を持っている人はいないでしょうし。
 適当な船を港のどこかで見つけるのがいいんじゃないかと思います」
「じゃあ、豪華客船にしようよ。たくさん人を乗せるんだからやっぱり大きな船じゃなきゃさ」
「だからその豪華客船を操縦できる人がどこにいるって話よ。
 クルーザーかヨットがいいんじゃないかしら。私、ヨットなら操縦の経験あるから動かせるわよ」

川島瑞樹の得意げな発言に残りの二人が驚きの声をあげる。

「……あ、川島さんが操縦できるなら船がいいですね。その時はお願いします」
「ほんとに動かせるの〜? むしろ、そういうのすっごい苦手そうだなってイメージしてたんだけどな」
「なんでよ、私だって船の一隻や二隻動かせるわよ。
 とりあえず、大きめの漁船くらいならなんとかなるんじゃないかって思うわ。だから頼りにしていいのよ」

姫川友紀は川島瑞樹の言葉に半信半疑であったが、ともかくとして話は進み、ようやく話題は最後のものへと移る。

「これが一番重要だと思うんですが……」
「身の安全ってやつだよね。確かにこんなことしでかすんだから、逃げてもどこまでも追ってきそうだね」
「私達は仮にも有名人なわけだし、ただ逃げるだけだと簡単に捕まってしまうでしょうね。
 なにより、自由のない逃亡生活なんて現状とほとんど変わらないわ」
「島を出ることができたら、できるだけ早い段階で警察に連絡をとって保護してもらうのが望ましいですね」
「でも、こんなことをしちゃう組織なんでしょ。警察も買収されてたりしないかなぁ」
「そうだとしたら、それこそどうにもならないから、そうでないことを祈るばかりね。
 後はこの事態を明るみに出すことができれば、あるいは向こうは手出ししにくくなるかもしれないわね」

そして、議題も消化されて検討会はとうとう終了する。
テーブルの上の紅茶はどれも冷めきり、この時はクッキーも綺麗に――主に姫川友紀の口の中へと――皿の上から消えていた。

616彼女たちが探すシックスフォールド  ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:58:34 ID:YyGl3xBs0
 @


三人は、立てた計画を実行に移すべく、それぞれの武器を手にこれまで篭っていた一軒家の前へと出る。
夜明けは近いが、まだ夜の闇はすべて払われたわけではない。
しかし無駄にする時間も、なにもせず過ぎ去る時間に耐える心も持ち合わせていない故に、彼女達は未来へと向け出発する。

「では、ここから南の市街地へと向かいたいと思います」
「最初はこの『学校』ってついてるところを調べるんだよね」
「それから『漁港』で扱えそうな船を探す、ね。大丈夫よ、きっと動かせる船がいくつかは見つかるはず」

大石泉は棒状のスタンガン(マグナム-Xバトン)を持っている。
これと、どういう意図で支給されたのかはわからないが、島村卯月のデビューCD『S(mile)ING!』が彼女の支給品だった。
姫川友紀が手に握っているのは少し小ぶりな少年野球用のバットだ。支給されたものではなく、この一軒家の中で見つけたものである。
彼女のバックの中に入っていたのは電動ドライバーとその先端のセットだったが、武器にするには心もとないのでこれを拝借したのである。
そして川島瑞樹あ構えているのは少し不思議な形状をした拳銃だ。
P11という名前の銃だが、五発装填のシリンダーから五つのバレルがそのまま伸びている形状というのは他に類を見ない。
それもそのはずでこのP11という銃は水中用の銃である。そのためにその設計からして普通の拳銃とは異なる点は多い。

「情報や調査も必要ですが、現段階で一番重要なのは人を集めることです」
「何をするにしても人手はいるし、いっぱい仲間がいれば安心するものね」
「それに、仲間を見つけて安心させてあげれば、それはこの殺しあいを阻止することそのものでもあるわ」

彼女達は一歩一歩ずつ歩を進めてゆく。その足取りはけして早くはなかったが、しかし足を前に踏み出しているのは確かなことだ。
そして、その遠く先、水平線の向こうにはうっすらと次の朝日が浮かび上がろうとしていた。






【A-4/一日目 早朝】

【大石泉】
【装備:マグナム-Xバトン】
【所持品:基本支給品一式×1、音楽CD『S(mile)ING!』】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。
1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。
2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。
3:漁港を調査して、動かせる船を探す。
4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。
5:難しいことは…………、考えないようにしないと。

※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。

【姫川友紀】
【装備:少年軟式用木製バット】
【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。
1:他のアイドル達(特にFLOWERSの仲間)を探しながら南の市街へと移動。
2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。
3:漁港を調査して、動かせる船を探す。
4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。
5:仲間がいけないことを考えていたら止める。

※FLOWERSというグループを、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。

【川島瑞樹】
【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。
1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。
2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。
3:漁港を調査して、動かせる船を探す。
4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。
5:大石泉のことを気にかける。
6:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。

617 ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 05:58:50 ID:YyGl3xBs0
以上投下終了しましたー。

618 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/27(火) 17:46:06 ID:ob/xcXGA0
ちゃんみおCDデビューおめでとーう!……もう居ないんだよな…わかるわ…
皆様投下乙です!

>今を生きること
お姉ちゃんかっこいい……
その気持ちが三船さんを動かすとは胸熱!
でも、そのお姉ちゃんの行動原理である妹はもう居ないんだよなぁ…
いわばあるはずの無い土台に立ってる状態、
それが無いと知った時、お姉ちゃんどうなるんだろ…
とときんも、相変わらず可哀そうな立ち位置だ…絶対強者って訳でも無し、報われるのだろうか

>Happy! Happy!! Happy!!!
肇ちゃんまでハピハピすぅぅ!?
きらりちゃんの良い所が出たなぁ…やっぱり良い子。
……ちょーっと頭のネジが外れてる感じだけど。
彼女が絶望する所が想像できないな…ある意味最強かもしれぬ

>彼女たちが探すシックスフォールド
冷静な状況判断…脱出組にとってのキーチームですなぁ
リーダー的存在のいずみんにムードメーカーの友紀、大人の川島さんとバランスが良いし
今の所近くに危険因子は……智絵理ちゃんくらいしかいないし、是非頑張ってほしい

あと、喜多日菜子と市原仁奈予約します。

619名無しさん:2012/11/27(火) 21:10:58 ID:27rWwz7M0
投下乙です!

>Happy! Happy!! Happy!!!
冒頭の回想、しおみー新田ちゃん肇ちゃんのトークが実際にありそうな感じでいいなー
そしてさすが全てを包み込むきらりんぱわー。前回シリアスながら決意して前を向いた肇ちゃんがきらりんペースに……w
しかしこれ、ドラッグストア爆発は下手したら拡声器より人をあつめてんじゃないかなw
近くにはきらりんの探し人である杏も寝てたりして、次の話が気になる気になる。

>彼女たちが探すシックスフォールド
おおおすごい考察話。いまだに対主催に光明がまったく見えないこのロワだけど、
こうやって項目別に現状と打開案を整理しただけでも「進んだ」感が出ますね
泉ちゃんは賢いな。とっさに太股のうらに爪痕とか機転も効いてるなあ(ふともも見せるシーンドキッとしました)
でも川島さんが感じてる通りこの子けっこう無理してそうだし、姫川ちゃんと一緒に支えてあげてほしい。

そして新しい予約きたこれ!なんですが、さっき読み返してたらssでいくつか気付いた点があったので報告をばー。
仁奈ちゃんのキグルミが登場話(007:約束)では羊だったのが最新話(044:失敗禁止!火事場の〜)だとウサギになってしまってます。
◆j1Wv59wPk2氏の予約した話に影響あるかどうかはわかりませんが、
◆44Kea75srM氏は和久井さん視点の「それはウサミミだった〜」のあたり若干修正お願いします。

あともうひとつ、しおみーと小日向ちゃんの登場話(009:恋)は場所がG-6になってるんですが、
SS内では街にいることになってるので、場所か内容の修正が必要かと思われます。◆yX/9K6uV4Eは返答お願いしますー
たぶんこれらは後続の人がこんがらがってしまうと思うので……

620 ◆John.ZZqWo:2012/11/27(火) 22:35:59 ID:YyGl3xBs0
渋谷凛 を予約します!

621 ◆44Kea75srM:2012/11/28(水) 05:56:07 ID:mlF0S2j.0
皆様投下乙です!

>夜にしか咲かない満月
こういった回想エピソードが描けるのはモバマスロワの環境ならではですね!
そして回想の中ではあんなにいい挨拶を放っていた相葉ちゃんもこうなる……最後のセリフがなんとも、うーん絶望感。

>彼女たちが選んだファイブデイウイーク
施設描写すげー! このちなったん、ダイナーを調べ尽くしておる。
そしてここでも唯との人間関係が補完されているけど、その子死んでますから! ああ、こういうすれ違いがロワだなあ。

>アイドルの王女様
レイナサマがツンデレカワイイ! 小春ちゃんが大天使カワイイ! ファンを想うところは真面目に天使だと思います。
小春ちゃんのアイドル観は他のみんなとは一風変わった感じで、だからこそ映える。純真無垢な少女の視点が実にまぶしい。

>確固たる意志、明ける夜空
うわあ。『参加者に声をかける』っていうロワではあたりまえのシチュエーションが、こうも『話』になるのか。
特別な力を持たない女の子ならではの臆病な描写。この邂逅は涼にとっても幸運だったろうなあ。タイトルが上手いや。

>今を生きること
お姉ちゃんが名言製造機すぎる……! 襲撃にあっている中での叫びがことごとく胸に響いてくる。
ああでも! でも莉嘉はかなり初期の段階で脱落してるってことを考えちゃうと! ああううーw

>Happy! Happy!! Happy!!!
きゃっほーい☆ 肇ちゃんもきちんと目立ってたけどそれ以上にきらりんの一人称とかはぴはぴ☆(理解不能)
きらりんワールド楽しかったです。杏ちゃんとのやり取りが微笑ましいなあと思いました。(小並感)

>彼女たちが探すシックスフォールド
泉ちゃんSUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE! なにこの子ホントにアイドル!? こんな逸材がこのロワにいたとは……。
前の話でほんのり居酒屋ムードを漂わせていた三人が立派な対主催チームとして動くだなんて、いやはやわからないものだ。

>>619
失礼しました! なんでウサギだと思ったんだろう……該当箇所を修正しましたのでご確認ください。

622 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/28(水) 12:59:59 ID:OYcasqoA0
お初ですが
相葉夕美、予約します

623名無しさん:2012/11/28(水) 15:26:11 ID:xgxOPMP60
ここじゃ活かせそうもない新しいとときんの効果見て、このロワ思うと切なくなった。

624名無しさん:2012/11/28(水) 18:37:21 ID:2f1SSp920
大切なキモチ……かぁ……
本当ロワって悲しいし鬼畜だわ
そこが癖になるんですけどね

(実は加蓮が手の届くSレアになってくれたのが一番うれしいんですけどね)

625名無しさん:2012/11/28(水) 21:25:47 ID:HfgAnYyI0
しかも効果がバクメン=友達や仲間の攻撃力アップだぜ?
属性縛りなく全属性なのがまたなんとも……
ほんと泣けるなー

626 ◆John.ZZqWo:2012/11/28(水) 22:23:06 ID:qOV/bGo20
■予約まとめ
11/27(火) 17:46:06 ◆j1Wv59wPk2 喜多日菜子、市原仁奈
11/27(火) 22:35:59 ◆John.ZZqWo 渋谷凛
11/28(水) 12:59:59 ◆RVPB6Jwg7w 相葉夕美

627 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/29(木) 14:14:13 ID:u7DDJeXs0
私用でP別にアイドル分けてみたんですけど、これで合ってます?
足りないとか違うとかのご指摘があればよろしくお願いします

相川千夏/大槻唯/若林智香/緒方智恵理/五十嵐響子/ナターリア

高森藍子/相葉夕実/姫川友紀/矢口美羽

南条光/小関麗奈/古賀小春/安部菜々

塩見周子/藤原肇/新田美波

島村卯月/渋谷凛/本田未央

白坂小梅/松永涼

木村夏樹/多田李衣菜

道明寺歌鈴/小日向美穂

十時愛梨/高垣楓(P死亡)

残りは単体or不明


では、喜多日菜子と市原仁奈妄想します

628盲目のお姫様と迷子の子羊 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/29(木) 14:14:59 ID:u7DDJeXs0
「……綺麗ですねぇ……むふふ」

森を抜け、街を歩いていた少女、喜多日菜子の眼前に映ったのは、空へ駆けのぼる炎だった。
なぜ燃えているのかは今の彼女には分からなかったし、考える事もしなかった。
たとえどんな理由があろうとも、彼女の中で都合の良い妄想に書き換えられるからだ。
だから彼女の中にあったのは、その光景への純粋な感想のみ。
他は全て、大切な王子様への思いで満たされていた。

「気になりますねぇ……」

今の彼女には特に行くべき道は無く、やるべき目的も無い。
やるべきこと自体は漠然と――都合よく解釈して――理解していたが、
現実を直視しない彼女は、心ここにあらずといった様にただ彷徨っていただけだった。
そんな彼女の前に映った、初めての変化。分かりやすい道しるべ。

「むふふ……むふふふ………」

日菜子はさながら光に誘われる虫の如く、ふらついた足取りで向かっていった。
その目には、現実は映っていなかった。

    *    *    *

629盲目のお姫様と迷子の子羊 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/29(木) 14:15:51 ID:u7DDJeXs0

時を同じくして、これまた現実を直視できない女の子が居た。
しかし、彼女は理解しようとしなかった訳ではない。
彼女の名前は市原仁奈、年齢は今回の参加者で最年少の九才。
この非情な現実を理解するには、あまりにも幼すぎた。

「うあぁぁぁ……っ、ひっぐ、えぐっ」

道の真ん中で、彼女はただ泣いていた。うずくまる姿は、傍からみればただの綿だった。
最初に出会った同年代くらいの女の子、次に出会った大人の人。
そのどちらも彼女に手をのばしてはくれなかった。
ただの女の子この世界はあまりに厳しすぎた。救いの手は未だこない。

「うっ、ひぐっ…ど、どこにいやがりますか…」

後ろから、恐い人が迫っているかもしれない。
いや、もしかしたら前からやってくるかもしれない。
右から、左から、上から、下から……?
二度、命を脅かす恐怖を目の当たりにした仁奈にとって、もはやこの世界全てが恐怖だった。

「プロデューサー………っ!」

仁奈が一番懐いている人。彼女のプロデューサー。
アイドルとして、一人の女の子として接してくれるその人は、
仁奈にとって、憧れだとか尊敬だとか、本人でも良く分からない感情を持っていた。
だから、仁奈は常にその人へ助けを求めてきた。
優しいあの人が、あの人なら手をのばしてくれると思っていた。

だが、いつまでたってもその人は助けてくれない。
それどころか、自分の目の前にすら現れてくれなかった。
当たり前の話である。プロデューサーは今人質として囚われているのだから。
しかし、彼女にはそれがいつまでたっても理解できなかった。
――それこそ、理解しようとしなかったのかもしれない。
それを否定してしまったら、彼女は足もとから崩れてしまうから。


仁奈は現実を否定するように、ただ泣き続ける。
そんな事を続けたといって、何かが変わる訳ではない………


「………おやぁ?」
「えっ……?」


はずだったのだが。


    *    *    *

630盲目のお姫様と迷子の子羊 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/29(木) 14:16:40 ID:u7DDJeXs0
「…………むふ」

しばしの沈黙の後、現れた少女は不意に笑った。
そして、そのまま迫ってきた。
彼女の眼に生気は無い。手に持つのは、両刃のナイフ。
その危険性は、幼い仁奈にも良く理解できた。

「ひっ……!」
「…ちょっと待ってくださいよぉ……どこに行くんですかぁ?」

三度逃げる。だが、足がもつれてうまく動かない。
彼女は幼い。死の概念が良く分からないほどに。
だが、それでもうっすらと状況を理解していた。理解してしまった。
―――恐い人に捕まってしまえば、もう戻れない。
プロデューサーにも会えない。パパやママにも、もう会えない。
その危機が、またも眼前にまで迫っていた。

「あっ………あああ……」

理解していたはずなのに、もう体は動かなかった。
腰を抜かした。いや、それ以上に震えが止まらなかった。
本来幼い仁奈が感じるべきではない感情が積み重なり、心身ともに疲労していた。
自由がきかない。さっきの少女が迫ってきていた。
その眼は優しい人の眼ではない。幼い仁奈だからこそ理解出来た。
あのおねーさんもきっとひどいことをする人だ。
先の人物の時と同じ、本能がそう警告していた。

そう思っていても体が動かない。
ふらふらと、しかし確実に迫ってきている。もう手の届く距離まで来ていた。
もう、仁奈に抵抗できる手段も、精神も無かった。

追いかけっこはあっさりと決着がついた。相手は手を伸ばす。
怯えるばかりの女の子に向かって。
その小さい頭に手を伸ばし、そして……。





「ふふ、そんなに怯えて……どうかしたんですか?」



撫でた。



    *    *    *

631盲目のお姫様と迷子の子羊 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/29(木) 14:17:32 ID:u7DDJeXs0
もしもこれが、綺麗事を語る人や殺し合いに乗る人だったなら。
それらは全て日菜子の中で都合よく改変され、迷うことなく蹴散(ころ)したのだろう。
しかし、彼女が初めて会った女の子はただ泣いていた。
泣く。その行動に妄想の余地は無い。
フィルターで通して見た世界でも、それはただ泣いている女の子の姿でしかなかった。
彼女が倒すのは旅を邪魔する魔物なのだ。こんな女の子ではない。
だから、この女の子は蹴散(ころ)す必要はない。

――じゃあ、なんでこんな所に居る?なんで泣いている?
これだけ幼さを感じさせる女の子が一人で居るのは明らかに異常だ。
いや、本来ならば殺し合うこの場自体が異常なのだが、そんな事実は『彼女の世界』には無かった。
だから、それを除いた『あるはずの無い世界』で、なぜこの女の子が泣くのかを日菜子は考えた。

「こんな所で泣いて…、迷子ですかぁ?」

もちろんそんな訳は無い。が、彼女の中でそれはあっさり結論付けた。
この場にその妄想に異議を唱えられる人は居ない。だから日菜子はそれで納得した。
そうだ、旅のついでにこの女の子も保護者の元へ送り返せばいいじゃないか。
小さな女の子が困っているならそれを無視するわけにはいかない。きっと王子様も褒めてくれる。
思考は固まり、彼女は嬉々として迷子の女の子を保護することに決めた。

「え……あっ……」
「大丈夫ですよ、日菜子がパパやママの所に送り届けてあげます……むふ」

そう言って、怯える女の子の手を掴もうとする。
だが、いつまでたっても女の子は安心するそぶりを見せなかった。
これはどうしたことかと一瞬だけ疑問に思ったが、すぐにその原因がわかった。
手に握られたナイフ。なるほど、確かにこれがあると恐いだろう。
それに気付いた日菜子はすぐにそのナイフをバッグに仕舞う。
そして、彼女は今度こそ仁奈の手を掴む。

「ひっ………」

女の子の声が漏れる。
強く掴みすぎただろうか、と少し反省する。
しかし、その行動に間違いは無いと日菜子は信じ切っていた。
真実は妄想の霧に全てかき消された。
彼女は、この世界では最強の恋するお姫様なのだから。
全ての行動は功を奏す、と。そんな妄想が彼女を支配していた。

「むふふ……日菜子が見つけてあげますよぉ……パパもママも、…王子様も、ね」

    *    *    *

632盲目のお姫様と迷子の子羊 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/29(木) 14:18:29 ID:u7DDJeXs0
三人目の言葉は、想像以上に優しいものだった。
それはこの長い現実において唯一にしてようやく、仁奈を守る言葉だった。

――しかし、仁奈は決して安心することは無かった。
むしろ、相手に対する不信感が募っていたのである。

最初にも感じたことだが、相手の眼には優しさが無い。
そして、その眼は仁奈を見てはいなかった。
常に眼を見て話してくれたプロデューサーが居たからこそ、気付く事ができた事実。
故に、彼女の本能は未だ警鐘を鳴らしていた。

だが、その事実に気付いた所で今の仁奈には何もできることは無かった。
がっちりと手を掴まれてしまった以上、非力な仁奈にはその手を振りほどく事はできない。
仮に無理に引き離そうとすれば、何をされるかわからない。
それに、そもそもここから逃げた所で行くあても無い。
この殺し合いの場で、ひどい事をしてこなさそうな時点でまだまともといえた。
……だが、それもいつまで続くかは分からない。
幼い少女にも分かる不安定さが、いつか牙をむくかもしれない。
人と出会ってなお、仁奈の心は恐怖に侵されていた。

されるがままに腕をひっぱられる仁奈。
しかし、その内そうもいかなくなってくる事実に気付いた。
彼女の向かっている方向、それは一際目立つ炎のある方向だった。
それはつまり、仁奈がやってきた方向。ひいては、さっき恐い人に会った場所。
――このまま行くと、またあの恐い人に会ってしまう!


「ちょ、ちょっと待ってくだせー!!」
「むふ、むふふふ……」

必死の叫び、しかし日菜子には届いていない。
果たして、妄想の鎧に包まれたお姫様に仁奈の声は届くのだろうか……


【C-6/一日目 黎明】


【喜多日菜子】
【装備:無し】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0〜1、両刃のナイフ】
【状態:健康、妄想中】
【思考・行動】
基本方針:王子様を助けに行く。
1:邪魔な魔物(参加者)を蹴散らす。
2:とりあえず炎の元へ向かう。
3:迷子の仁奈を保護者の元へ送り届ける。

【市原仁奈】
【装備:ぼろぼろのデイバック】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2(ランダム支給品だけでなく基本支給品一式すら未確認)】
【状態:疲労(大)、羊のキグルミ損傷(小)】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーと一緒にいたい。
1:そっちの方向には行きたくない!
2:このおねーさんこえーですよ…

633盲目のお姫様と迷子の子羊 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/29(木) 14:19:18 ID:u7DDJeXs0
以上で妄想終了です。むふふ…

634名無しさん:2012/11/29(木) 14:31:44 ID:akbeBnyYO
投下乙です。

会う人会う人、危険思想ばっかりや!

635名無しさん:2012/11/29(木) 15:26:38 ID:mz66zAkA0
投下乙ですー
仁奈ちゃん、せっかく手を差しのべてくれる人に会えたと思ったらこれは……w
妄想が暴走しちゃってても泣いてる子は泣いてる子だってのは上手い繋げかただなあ
喜多ちゃんが炎のほうへ向かうことでまたひと悶着起きそうだ。wktk

636 ◆John.ZZqWo:2012/11/29(木) 19:11:29 ID:UH60va.E0
投下乙です!
仁奈がかわいそうすぎる……w 命をとられなかったのは幸いだけど……w
この後、火災現場に向かうならにょわーずと鉢合わせする可能性があるけど、別に岡崎さんとも来るかもなんだよねw
あんまりいい未来が見えない気がするけど、仁奈ちゃんがんばってくだせー! もう残り少ないロリの星なので!

>>627
そこに、城ヶ島姉妹と、奈緒加蓮が加わると思います。
それと、南条くんと菜々さんはP同じ確定だけど、そこにレイナと小春も加わるかはまだ未確定かな? 杏も含めて仲良しっぽくはありますが。

637名無しさん:2012/11/29(木) 19:15:07 ID:tEvIbTAc0
投下乙です!
あかん、今そっち行ったらいろいろとヤバいw
妄想に耽ってるから止められないし、逃げたられたとしても喜多ちゃんに追いかけて来そうだしで仁奈ちゃんには受難が続くなぁ

638 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/30(金) 18:14:14 ID:MXmFHF2I0
投下乙です!
これは上手い、そして可哀想w
妄想フィルター通してもそれは変えようがないよなぁ
でもひょっとしたら、こういう子こそがお姫様の鎧を脱がせることができるのかも……
はてさて、ここからどうなるか


では、こちらも予約していた 相葉夕美 投下いたします。

639相葉夕美の無人島0円(無課金)生活 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/30(金) 18:15:25 ID:MXmFHF2I0

どうにも寝付けないし、ぼんやりしていても涙が溢れそうになるので。
相葉夕美は、日が昇るまでの時間を頭脳労働に当てることにした。

小さな窓からは、白み始めた空が見える。
いつの間にか時間は駆け足で過ぎ去り、朝の息吹が近づいてきている。

とはいえ、書き物仕事をするにはまだ暗い。
電池の残量が貴重であるのを承知の上で、懐中電灯をつけて手元を照らす。


   @  @  @


小屋の畳に寝転がったまま紙と筆記用具を取り出し、伏せるような姿勢で、彼女はしばし考える。


  たぶんこの時点で、全ての参加者の中、彼女が最も長い長期戦を想定していた。


何しろ彼女の望みを叶えるには、どんな形であれ24時間以上の「停滞」が必須なのだ。
他のアイドルたちがどう動くか分からないから、具体的な数字を予想することも難しいけれど。
少なくとも、1日も経たないうちに「停滞」に陥ると考えるのは虫が良すぎるだろう。
中には「停滞」の気配が見えたあたりで焦って動き、ブチ壊してしまう参加者だっているはずだ。

もうこれ以上どうやっても参加者が減らない、という「停滞」した状況に至るまでの時間、プラス、24時間。

どう考えても、長い。
どう考えても、気合や精神論だけで乗り切れるような長さではない。
その間に彼女自身が自滅してしまったら、まさに本末転倒。


  みんなで確実に「終わる」ためには、逆説的に――
  相葉夕美「だけ」は、意地でも途中で「終わる」わけにはいかないのだ。


「できれば、この島で数日は時間を稼ぎたい……けど、ちょっと大変です」

他の参加者と遭遇せずに済む、という点ではメリットの多いスタート地点ではあったけれど。
それだけの時間を1人ただ過ごすには、いささか難易度の高い場所でもある。

電気もない。
水道もない。
ガスもない。
ないない尽くしで、いっそ潔いほどだ。
こうして雨露を凌げる小屋が見つかっただけでも、十分過ぎる状況なのだ。
しかし、何もないと嘆いてみても、天から降ってくる訳もなく。
必要なものは、彼女自身が揃えていくしかない。


   @  @  @

640相葉夕美の無人島0円(無課金)生活 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/30(金) 18:16:22 ID:MXmFHF2I0

「と、なると……まずはこのあたりからかなっ?」


1)食事
2)水


相葉夕美は白紙に2つの項目を書き入れる。
これから始まるのは、長期戦必至の孤独な戦い。
闇雲に過ごせば、体力の方が先に尽きる。
臨機応変に対応できる余地は残しつつも、計画性を持って行動しなければ。
そう考え、まず最初に書き記したのは生きるための基本。
衣食住の「食」の要素。

「まずは食事……支給されたのは、できるだけとっておきたいよね」

日持ちがしてかさばらない保存食は、万が一に備えて温存しておきたい。残しておきたい。
状況によっては多少つまむのも致し方ないが、真っ先にコレを食べ尽くしてしまうのは愚の骨頂だろう。
しかし、そうなると。

「でもそうなるとー、なんか本格的にサバイバルッ! って感じになるねっ」

手持ちの食料を温存するなら、どこかから持ってくるしかない。
これが街中であれば、手近な民家や商店から調達できただろう。
泥棒という行為に躊躇いもするが、そこさえ乗り越えれば取り放題だったろう。
だが、ここはどうやら無人島。そんな便利なものはない。
となると、自然の中にある物をゲットするしかない。

「さっき一回りした時は、暗かったしねー。食べられる野草とか、自然薯とか、ちゃんと探せばあるかも。
 あの池にあるのが睡蓮じゃなく蓮(ハス)なら、レンコンも期待できたのになー」

まず思いついたのは、植物採集。
ガーデニングが趣味の彼女だが、彼女の植物の知識はそれだけに留まらない。
植物園にはしょっちゅう通っているし、お花屋さんを覗くのも好きだし、植物図鑑は擦り切れるほど読み込んでいる。
たぶん今回の参加者の中で、植物全般について最も通じているのは彼女ではないだろうか?
その知識は、きっとこのサバイバル生活でも重宝することだろう。

「……キノコだけは、生半可な知識で手を出すと危険だけどねっ」

次に食料採集の場として考えられるのは、海だろう。
言うまでもなく、小島は海に囲まれている。
となれば、貝や魚などの海の幸も、それなりに期待できるということだ。

「グルメの番組だって聞いて地方ロケ行ったのに、現場に着いたら海女さんの素潜り体験させられたこともあったよね。
 けっこう寒くてー、大変でー。あの時のウニと伊勢海老はホント絶品だったけどっ」

FLOWERS。
まだまだ売り出し中で、仕事を選り好みせず、何にでも体当たりで挑む、個性豊かな4人組の女の子。
TV局側としても、かなり使いやすい存在だったらしい。
一番のメインは歌と踊りだが、それ以外でも旅やグルメ、体験型バラエティなど、様々な番組に出演させてもらっていた。
普通に生活していたら縁が無かったであろう体験を、いくつもさせて貰っている。
そういった経験や思い出も、きっと、役に立つ。

「まあ、『“アイドルのいる牧場”を訪ねる二泊三日乳搾り体験の旅』とかは、ちょーっと使う機会ないかなー?
 いちおう近くに牧場もあるけどさっ」

彼女は1人呟きながら、先ほどのメモに矢印を書き入れた。


1)食事 → 食べられる野草探し 近くの海で海女さんみたいに?

641相葉夕美の無人島0円(無課金)生活 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/30(金) 18:17:25 ID:MXmFHF2I0

   @  @  @


「つぎは、お水かー。
 『水』ってだけならさっきの睡蓮の池にたっぷりあるけど……確か、生水って危険だったよね?」

軽く首を傾げる。
決してアウトドア派とは言えない彼女でも、そこらの池の水をそのまま飲んだらヤバいことくらいは知っている。
せめてこれが、新鮮な湧き水であれば違うのだろうが。

「そういや、あの池の水ってどこから来てるんだろ……探せば泉もあるのかなっ?」

どこか別に水源があって、その水が綺麗な湧き水なら、問題は一気に解決する。
さっきの調査では、そこまで注意して見ていない。見落としていた可能性は十分にある。
どうせ植物採集の用事もあるのだ、明るくなったら再度きっちり探検してみよう。

ただ、そこまで都合良く行くとも限らない。
なにしろ小さな島である。
湧き水なんてどこにも無いかもしれない。
あの池の水も、くぼみに雨水が溜まっただけなのかもしれない。
そしてあの睡蓮の池以外、どこにも真水なんて無いのかもしれない。

となれば、あの水をどうすれば飲めるようになるのかも、考えておいた方がいい。

「えーっと確か、煮沸消毒、だったっけ? 煮立てちゃえばとりあえず安全だったよねっ??
 ホントは蒸留水にしちゃうのが一番なんだろうけど」

生水がダメなら、沸かせばいい。沸騰すれば細菌も寄生虫もひとまず大丈夫。
ハンパな知識でも、ここまでは容易に思いつく。
そして容易に、次の問題が見えてくる。

「で、そうなると、どうやってお湯を沸かすか……だよね〜」

まず必要になるのが、火。
続いて必要になるのが、水を火にかけるための鍋・やかんの類。

「ライターもマッチもないんだよね。火打石もないし……もしあっても使ったことないけどっ!
 やっぱあれかな、原始人みたいに木の棒を使って手の平摺り合わせるようにして摩擦で頑張って……うわー大変っ!
 燃やす燃料や、かまどみたいな場所も考えないといけないしっ」

少し考えただけで、頭を抱えてしまう。
ここはちょっと保留としておくべきだろうか。
焚き火の1つでもあれば、暖も取れるし、魚や貝を焼いて調理することもできるし、色々と有難いのだが。
文明社会の便利さを、改めて思い知らされる。

「お鍋やヤカンは、もう自力じゃどうしようもないしね。空き缶とかでもいいんだろうけど。
 どっか探して見つけてくるしかないし……そのついでに、火種も何とかなるといいなっ」

何にせよ、再度の探検は必須ということか。
彼女はペンを握ると、手元のメモに書き足していく。


2)水 → 湧き水探し?
    → お湯を沸かす? → 火を起こす、鍋・やかんを探す
3)火の確保 ← ちょっと保留!
4)使える道具探し → もう一度探検!

642相葉夕美の無人島0円(無課金)生活 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/30(金) 18:18:20 ID:MXmFHF2I0

   @  @  @


「あとは、そーだなー。ちょっと危険だけど、隣の島も調べに行くべきかな?」

物資が全然足りない、という現実に直面し、彼女は考える。
この島を明るくなってから探検し直すのもいいが、残念ながらあまり成果は期待はできない。
暗い中とはいえ、一通りは回ってみた後なのだ。
多少の見落としはあるにせよ、必要とするものが次から次へと見つかってくれるとは考えにくい。

しかし地図に目をやれば、この辺りには他にも小島がある。
同じG−8エリアの中だけでも、すぐ傍に小さな島が。
隣のG−7エリアにも大小1つずつの島。
このあたりならば、いま居る島が安全なのと同じように、ある程度の安全が期待できる。
もちろん、そちらの島でも絶賛サバイバル生活中の誰かがいて、渡ってみたらコンニチワ、という可能性もあるけれど……。

「どっちにしたって、もしG−8が『進入禁止』って言われたら動かなきゃいけないしね」

タイムアップ狙いの彼女には都合の良い場所ではあるが、それだけにココをピンポイントで指定されると途端に困る。
そしてそうなった場合の次の拠点候補地は、どう考えてもG−7にある大きい方の島だ。
現在地よりやや大きめの島、しかし道路も何も繋がっていない独立した場所。
わざわざ訪れる価値に乏しく、訪れるための手段にも乏しい場所。
他の参加者がいると考えづらい場所。
ならば、余裕のあるうちに下見くらいはしておきたい。

いや、むしろ冒頭にされた説明を思い出せば、むしろ早めに動いておかないとマズいのかもしれない。
ちひろは禁止エリアの説明の際、「一箇所に篭られるとつまらないので」進入禁止にする場所を設ける、と言った。
それはつまり、運営サイドが必要と認めたら、意図的な場所の指定もありうるということ。
そして、一箇所に篭っての篭城戦を、快く思ってはいないということだ。
下手すれば、真っ先に狙い撃ちされかねない。

どの程度でその判定を下すのかは分からない。
睡眠や休息の必要も考えれば、半日やそこらで短気を起こすはずもないだろうが――
孤島に1人きり、という無茶な初期条件を考えれば、多少は甘い判断も期待できるだろうが――
それでも、例えば3日も連続して留まれば、締め出されてしまってもおかしくない。

だが逆に言えば、動いてさえいれば恣意的な指定は避けられるのかもしれない。
G−7とG−8の島の間を往復しているだけで、なんとかなってしまうのかもしれない。
どうやら運営サイドも、ある程度は独自の『ルール』に縛られている様子。
そうそう上手くハマってくれる保障も無いが、やれることがあるならやっておくべきだ。

「そうなると、ゴムボートのチェックもしておきたいよね。明るいうちにっ」

支給品のゴムボートは萎んだまま、荷物の中に畳んで仕舞われている。
つまり咄嗟に使えと言われても間に合わない状況だ。
これの準備と性能確認は、早めにしておいた方がいい。
例えば追い詰められてぶつけ本番で夜中の船出、とか、ちょっと勘弁して欲しい展開だ。
漕ぎ方なども、しっかり練習しておいた方がいいかもしれない。

そう考えると、優先順位としては思いついたのとは逆の順番になるか。
メモの上に、項目が増えて行く。


5)ゴムボートの準備 昼間のうちに!
6)隣の島の探検?  下見、いろいろ探す!


「よーしっ、こんなとこかな? また思いついたら追加してくってことでっ!」

643相葉夕美の無人島0円(無課金)生活 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/30(金) 18:19:04 ID:MXmFHF2I0

   @  @  @


かくして、当面の方針が決まる。
順番は適当で、細部も曖昧で、いくらでも融通が利く計画ではあるけれど。
それでも、全くの行き当たりばったりで歩き回るより、遥かにマシなはずだ。


1)食事 → 食べられる野草探し 近くの海で海女さんみたいに?
2)水 → 湧き水探し?
    → お湯を沸かす? → 火を起こす、鍋・やかんを探す
3)火の確保 ← ちょっと保留!
4)使える道具探し → もう一度探検!
5)ゴムボートの準備 昼間のうちに!
6)隣の島の探検?  下見、いろいろ探す!


もう少し状況が切迫すれば、皆のいる本島の方に渡ることも考えなければならない。
道具や食料がどうしても足りないようなら、近くの牧場あたりまで探しに出掛けることになるかもしれない。
それでも、とりあえず。
まずはできるだけ、この島と周辺の島々だけで、頑張ってみよう。

そう、心に決める。


   @  @  @


出来上がった手元の方針リストをぼんやりと眺めながら、相葉夕美は、ふと、思い出す。
なんでもないことのように、思い出す。

今頃きっと、あっちの大きな島では、みんな殺したり殺されたり、殺されたくないと逃げ回ったりして、頑張ってるんだろう。

あるいは、こんな馬鹿げたイベント引っくり返すんだ、と息巻いてみたり。
はたまた、そんなのは無駄だ諦めろ、と叫んでみたり。
アイドルが人殺しなんてしていいのかー?とか、ファンのためにも死ねないんだー!とか、不毛な水掛け論を繰り広げてみたり。
捕らわれのプロデューサーのことを想い、1人涙を零してみたり。
現実逃避したり、
怯えて震えたり、
悲観して自殺したり。


  とにかく自分とは、
  まったく違うことに頭を捻って、
  まったく違うことに神経を使って、
  まったく違うことに心を磨り減らして、
  まったく違うことに身体を張っているんだろう。


  冷静になってみると――なんだか自分だけ、「別のゲーム」をやってるみたいだ。


そう思ったら、思わず小さく、吹き出していた。
無意識のうちに、微笑みを浮かべていた。

そう、静かに強く破滅を望みつつも。
破滅のための準備を入念に練りつつも。
そこにあったのは紛れも無く、いつもの相葉夕美の――


「やばっ……なんだか、ちょっと楽しくなってきちゃったっ♪  ・ワ・  」


――既に散って失われたはずの、「花のような」と賞賛された、いつもの満開の笑顔だった。




【G-8(大きい方の島)/一日目 早朝】
【相葉夕美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、ゴムボート、双眼鏡】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ
1:しばらくは今いるあたりを中心に、長期戦を想定した生活環境を整えることに専念
2:日が昇ったらゴムボートのテストをしておく。その後、近隣の島々も探検する?
3:もし万が一最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する


※FLOWERS(姫川友紀、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽)の4人は、TVの旅番組を通じて及川雫と面識があるようです

644 ◆RVPB6Jwg7w:2012/11/30(金) 18:19:54 ID:MXmFHF2I0

・ワ・ < 以上、投下終了しましたっ

645名無しさん:2012/11/30(金) 18:45:31 ID:pBMs.jps0
正しくアイドルサバイバルだこれー!? 本当に一人だけ別ゲーを始めてしまわれた……
でも兵糧とかに言及するのってロワだとあんまりないからけっこう新鮮かも?
最後の笑顔が相葉ちゃんらしいけどシチュエーション込みで考えるとなんとも。投下乙ですー

646 ◆j1Wv59wPk2:2012/11/30(金) 19:04:36 ID:87862GXo0
投下乙ですー

あれ、ちょっと壊れかけてる…?絶対最後の笑顔レイプ目だよねこれー!?
しかしたった一人で別ゲー始めるとはな…彼女はどこに進むのだろうか…

木村夏樹予約しますー

647名無しさん:2012/11/30(金) 19:18:29 ID:VaHHoX0cO
投下乙です。

一人だけバトロワじゃなくてアイサバしてるー!?
おそらくこのロワで一番、孤独に襲われてるんだろうけど、耐えられるのかな。

648 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/01(土) 22:33:40 ID:j0R4zOCc0
皆さん投下乙です。
>彼女たちが探すシックスフォールド
泉ちゃんすげーーーーー!
あっという間に此処まで考察するとは。
しかしながら、結構危うそう……
川島さん上手く見守って欲しいな…

>盲目のお姫様と迷子の子羊
おお、まさかの展開。
しかし、そっちはあかん!w
になちゃん……運ないなぁw

>相葉夕美の無人島0円(無課金)生活
別ゲーム初めおった相葉ちゃんw
しかし、相葉ちゃんらしさを取り戻していいなぁ。
でも絶望してるんだろうなぁ……哀しい

そして、指摘された自作の部分と、きらりん達の位置が可笑しかったので修正しておきました。
確認宜しくお願いします。

最後に、緒方智恵里予約します。

649 ◆GeMMAPe9LY:2012/12/02(日) 00:20:31 ID:ZdQYON8k0

スピードが速くて感想が追いつきません!w

*My Best Friend
 加蓮がまさかのマーダー側に堕ちるとは……!
 あの引きからまさかの展開、完全に予想をはずされ、かつ面白い……!
 お見事でした!

*彼女たちの中にいるフォーナインス
 なんで悪の怪人を倒した!みたいな感じになってるんだろう……w
 2人の異空間が交じり合ってなんとも異様な雰囲気にの話でしたw

*終末のアイドル〜what a beautiful wish〜
 涼はついてないなぁ……
 果たして彼女は無事小梅と出会えるのだろうか……

*デッドアイドル・ウォーキング
 岡崎さんKOEEEEEEE!
 彼女の求めるアイドルとはいったい……

*ドロリ濃厚ミックスフルーツ味〜期間限定:銀のアイドル100%〜
 何というカオスなチームなんだ……! 全員が全員恐ろしいまでに濃いw
 それにしても輝子ちゃんは何を考えているんだ……

*フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン
 かな子KOEEEEEEEE!
 死体の処理までやらかすとは……どんな特訓しこんだんだ、トレーナーw

*阿修羅姫
 ちゃ、ちゃんみおおおおおおお!
 そしてぶつかり合うアイドル論。果たしてどちらが正しいのか……答えはまだ、出ない

*失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない!
 良かった……惨殺されるロリはいなかったんだ……ピンチだけど
 にしてもここまであって動かない杏は筋金入りのニートですね……w

*彼女たちが選んだファイブデイウイーク
 ただ場所を確保してしているだけのはずなのに圧巻の描写。
 貴方以外の子は悲しいかな比較的積極的でした……

*アイドルの王女様
 小春ちゃんマジ天使……そしてやっぱりヘタレな麗奈様。
 戦力は殆どないけどいいコンビダナーこの子達。
 
*確固たる意志、明ける夜空
 おっとりとした子が見せるの弱さ……いいものです。
 涼もやっと信用できる仲間にめぐり合えてよかった……
 
*今を生きること
「アタシの妹を、バカにすんな!」お姉ちゃんマジヒーロー。
 愛する妹の死を知ったとき、果たして彼女はどう思うのか。

*Happy! Happy!! Happy!!!
 にょわー! やっぱりきらりは強い子だにぃ!
 ああ、きらりんワールドに飲み込まれていく……

*彼女たちが探すシックスフォールド
 姫川ちゃんスカウト経歴がだめすぎる。オッサン状態!
 そういえば泉ちゃんはニューウェーブ組からたった一人つれてこられてるんだよな……
 そのうち何か起こしてしまいそうな気配が……!
 
*盲目のお姫様と迷子の子羊
 になちゃんマジピンチ……!

*相葉夕美の無人島0円(無課金)生活
 ひ、一人だけ別のゲーム始めちゃったー!?
 確かに目的を考えれば必要なことだ……!
 文字通りのサバイバル。彼女はこの先生き残れるのだろうか……

650 ◆kiwseicho2:2012/12/02(日) 00:42:28 ID:iWmWhWtQ0
道明寺歌鈴、矢口美羽 予約します

651 ◆John.ZZqWo:2012/12/02(日) 18:44:59 ID:IgrTUXQk0
>相葉夕美の無人島0円(無課金)生活
ほんとにアイドルリアルサバイブはじめちゃったよこの子……w 登場した時にはこんな風になるなんて想像もしてなかったなw
ある意味、今後がすごく楽しみな展開ですね。投下乙でした!


で、すいませんが、予約を延長します……w

652 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:14:42 ID:C7jBXDfg0
木村夏樹、投下します

653YOU往MY進! ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:15:33 ID:C7jBXDfg0
「図書館か…」

木村夏樹が建物から出て長く歩いた先にあったのは、図書館だった。
とはいえ、彼女は別にここを目指していたわけではない。
彼女の当面の目的は多田李衣菜の捜索。
しかしその居場所に当てがある訳がなく、ただ歩いた先にそれがあった。
ただ、それだけの話であった。

「…………」

もう一度述べるが、彼女が優先すべき事項は多田李衣菜を探すことだ。
そして、さらにもう一度述べるがその場所に当ては無い。
つまり、目の前にある図書館の中に居ないとも限らない。捜索を目的とするなら徹底的に探すべきだ。
親友として、パートナーとして李衣菜と過ごしてきた夏樹には、図書館の隅で震えるその姿が容易に想像できた。
故に彼女は図書館の扉をあける。周りに注意しながら、中へ入っていった。

(……へぇ、立派なもんだな)

図書館の中へ足を踏み入れる。目の前には受付が広がっていた。
この場所は見通しが良いが、奥の方は本棚が立ち並ぶ。ここからは中を全て見通すのは不可能だった。
つまり、この場所を探索するのなら、奥の奥の方まで捜さなければいけない。

「………っ」

夏樹のバットを持つ手が汗で滲む。
この場所には誰が居るか分からない。李衣菜もそうだが、別の誰かが居る可能性ももちろんある。
そして、ここは殺し合いの場だ。考えたくない事だが、目を背けてはならない事実。
これだけの本棚が並べば、死角から襲われる事もありえる。
だから、一切油断はできない。覚悟を慎重に歩を進め、図書館の中を探索する。

654YOU往MY進! ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:16:41 ID:C7jBXDfg0
一つ目の本棚を越える。そこには誰も居ない。
汗が止まらなかった。人の気配は無いが、それがよりこの場所の恐怖を引き立てていた。
もしここで、隠れていた人物に刺され、倒れてしまったら。
そんな想像が頭をめぐる。考えてはいけないことだと思っても、無意識に気にしてしまう。

二つ目の本棚を越える。そこにも誰も居ない。
自身が死んでしまえば、李衣菜はどうなってしまうのだろう。
あまり思いだしたくないが、あの場所でちひろは『放送』を六時間ごとに行うと言っていた。
その内容は死んだ人間の報告と禁止エリアとやらの報告。
禁止エリアも気になるが、それより今気になっていたのは死亡者の報告だった。
つまり、今ここで自分自身が死んでしまったら、その放送で名前が呼ばれるのだろう。
李衣菜がそのタイミングで自分の名前を聞いてしまったら……と、そんな事まで考えてしまう。

三つ目の本棚を越える。そこにも誰も居ない。
そして、それは夏樹自身にも言えた。
今の行動原理は全て多田李衣菜ありきの行動だ。
もし会える事なく、その名前が呼ばれてしまったら、アタシはその現実に耐えられるのだろうか。

四つ目の本棚を越える。そこにも誰も居ない。
――夏樹は、そこで考えるのを放棄した。
これ以上その事を考えても、ただ堕ちていくだけだと悟ったからだ。
そんなもしもの事を考えているより、今の現実の方が大事だ。

五つ目の本棚を越える。そこにも誰も居ない。
自分の足音以外、何の物音もしない空間。頭がおかしくなりそうだった。

    *    *    *

長い時間をかけて、また同じ受付に戻ってくる。
図書館を一周した。結局中には誰も居なかった。

「………はぁっ」

息を大きく吐き、椅子に座りこむ。
緊張の糸が切れて、どっと疲れを感じていた。
この場所には李衣菜は居ない。殺し合いに乗る奴も居ない。誰も居ない。

(そう、うまくは会えねぇか)

探し人が居ない以上、捜索目的ならもうこの場所に用は無かった。
しかし、彼女は動こうとしない。もちろん、それにはれっきとした理由があった。
夏樹はこの図書館を一周して気付いた事がある。
それは、普通の図書館と何ら変わりがないということだった。
本はびっしりと本棚に詰まっているし、中もちゃんと文が書いてあった。
つまり、この場所はちゃんと図書館として機能しているということである。

655YOU往MY進! ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:17:35 ID:C7jBXDfg0

図書館とは、情報の宝庫である。
今でこそインターネットで何でも調べられる世の中だが、それでも利用する人も多い。
インターネットを使えない今、何か調べたい事があるのならこの場所が最も向いているだろうと思われた。
もしかしたら、この中で何かの手がかりが見つかるかも知れない。
そう、例えば――

(……この首輪、とかな)

絞めつけているような拘束具に手を触れる。
参加者全員に付けられた首輪。これがある限り、こちらに勝ち目は無い。
だから、反抗するために一番最初にやらなければいけないことは、この首輪の解除だ。
とはいえ、ただの一般人である木村夏樹にはそんな知識は無い。
でも、この図書館でその知識を少しでも得る事ができれば、一歩近づけるのではないか。そう思っていた。
もちろん実際はそう上手くはいかないだろう。おそらく重要な本は事前に回収なりしてる可能性が高い。
それでも、何もしないよりは何かをした方が良いに決まっている。

(最後の最後まであがく、あがいてやる)

それが、その生き方がロックというものだ。
どれだけ絶望的な状況だろうと、反抗し、上で嘲笑う奴らを叩き落として見せる。

そして夏樹はもう一度図書館の奥へと消えた。
先ほどの探索で、「危険物〜」だの、「爆発物〜」だのといった、
素人なりに何か関係ありそうなものを片っぱしからチェックしていたのだ。
夏樹はそれらを抱えて、入口へ持ってくる。そしてテーブルに置き、机の上に並べた。
彼女はそのうちの一冊を手に取り、適当に開いてみる。
……訳が分からない。

「う……ちっ、ここは違うな」

そもそも、全てを理解する必要はない。
別に資格を取ろうだとか、そういうことを目指している訳ではないのだから、
この爆弾の種類だとか、対策方法だとかを知ることができれば十分なのだ。
……だから、法の名前とかはどうでもいい。そんな事が知りたいわけじゃない。
彼女は本を流し読みしていく。しかし、素人視点にはどれが有用な情報かわからなかった。
もしかしたら、有用な情報なんてものは書いてない「ハズレ」かもしれないが。
だが、諦める訳にはいかない。
これだけ膨大な量の本があれば、何かしら一つくらい手掛かりはつかめるはずだ。
本を机の上に置く。そして別の本に手をつける。
本来の目的、多田李衣菜の捜索もあるため、あまり時間をかけていられない。
夏樹は本を開く、読む、閉じる………。

そんな行動が、ただ繰り返されていった。

    *    *    *

656YOU往MY進! ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:21:34 ID:C7jBXDfg0

「………くそっ!全ッ然、わっかんねぇー……」

本を乱暴に置き、嘆く。
結局の所、取ってきた本で理解できるものは無かった。

(今、何時だ…うわっ、結構な時間食っちまった……。
 くそっ、早くだりーを探しださなきゃいけねぇのに!)

焦りが募る。結局得た物は何もなく、時間のみを失ってしまった。
こんな事をしている間にも、李衣菜の美に危機が迫っているかもしれない。
夏樹は自分の行動を悔やんだ。だが、どれだけ悔やんだって時間は戻らない。

(いや……焦ったって何も変わらねぇだろ、アタシ……!
 とりあえず、この本は……分かる奴が見れば、分かるはずだ)

深く呼吸して、本の数々をバッグの中に詰める。無理矢理締めたせいでかなりパンパンだった。
夏樹はどこかで出会う誰かに賭ける事にした。
殺し合いをしろと言われて、全員が全員殺し合うわけじゃないはず。
もしかしたら、その反抗する人間の中にこれを理解できる奴がいるかもしれない。
それが、こんなどうしようもない状況を打破できる『光』になるかもしれない。
その思いを胸に秘め、夏樹はバッグを背負う。
入らなかった分は、そのまま机に置いておいた。後に図書館に来た人の目につくように。
そして外へと向かう。その道の途中で誰も居ない図書館へ振り向く。

「悪いな……ちょっと借りてくぜ」

返しに来れるかは分かんねぇけど……と、小声で呟く。
この世界はいつだって死と隣り合わせだ。
だが、死ぬわけにはいかない。李衣菜のために、一緒に脱出するために。

ただ願うだけでは、思いは叶わない。
行動をしなければ、願いは叶わない。
歌っているだけで良かった頃はもう戻ってこない。
もう昔には戻れないのだから、前を向いて最善を尽くし、光を目指して突き進むしかない。
夏樹は図書館の扉を開ける。眼前には少し明るみを増した街道があった。

(さて……どっちに向かうか……)

大別して、向かう道は4つ。前、右、左、図書館の向こう側。
東西南北どの方向にも道はあった。
その内夏樹が来た方向は右、方角で表して西だ。
だから、効率を取るなら左に進むべきかと、そう思っていた矢先だった。

657YOU往MY進! ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:22:28 ID:C7jBXDfg0


(………ん?なんだ、あれ……?)

ふと見上げた先に違和感を覚える。
よく見ないと分からなかったが、南西の方向から、もくもくと煙が出ていた。
明るくなってきたとはいえ、まだ暗い夜空の中では目立たなかったが、確かに出ている。
おそらく白色では無く、かといってどんな色なのかの判断は暗くてよく分からなかった。

(あっちの方向……何かあったのか?)

夏樹は地図を見てみる。あの場所はまだ街中のようだ。
煙が出てくる状況というのは、おそらくただ事ではないのだろう。
火事か何かでも起きたのだろうか……と、夏樹は思考を巡らせる。

「……行ってみない事にはわからねぇか」

そう呟くと、その方向へ歩みを進める。
危険性を感じなかった訳ではない。たとえ無くとも危険な人物が引き寄せられる可能性もある。
冷静に考えれば、そこへ向かわない方が正しいのかもしれない。
しかし、危険を恐れていては道は開けないのもまた事実。
逃げ続けて生き残りたいわけではない。大切な人達と一緒に脱出する。
それが彼女の目的で、信条。そのためにここで逃げるわけにはいかなかった。

平穏な道を捨て、自ら茨の道を進む。
もしこの絶望的な状況に光があるとするならば、それは最も過酷な道にしかないのだろう。
だから夏樹はその道を、未来に向かって勇往邁進する。
―――その先にあると信じる、微かな光を手にするために。



【G-3(図書館前)/一日目 黎明】


【木村夏樹】
【装備:金属バット】
【所持品:基本支給品一式、本×5】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:自分と李衣菜とプロデューサー、三人で脱出する方法を見つけ出す
1:まずは李衣菜の捜索が最優先
2:やむを得ない場合は覚悟を決めて戦う


※木村夏樹の独断で爆弾関連?の本が5冊持ちだされました。具体的な内容は後続の人にお任せします。

658YOU往MY進! ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:23:14 ID:C7jBXDfg0
投下終了です。
YOU往MY進は全然ロックじゃないですね……タイトルセンス無くてすみません

659 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/02(日) 21:26:22 ID:C7jBXDfg0
あと、最近自分の予約投下のペースが早くて恐縮なのですが、
最後に栗原ネネ、三村かな子、星輝子予約します

660名無しさん:2012/12/02(日) 23:39:59 ID:yentCSC60
投下乙です!
なつきちがだりーを心配してるのがすごい伝わってくるなあ。
大丈夫、進行方向の違いでニアミスにはなりそうだけど、だりーなは今のところ元気にやってるみたいだぞ
むしろ向かった先にいるのが友情マーダーな二人だからなつきちのほうが心配だ……

661 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:04:25 ID:3eMG4s4U0
投下乙です。
なつきちがいいなぁ。
だりー心配して……そして、だりーからはなれるか
皮肉だなぁ。今後も向かう方向危ないし……どうなることやら。

そして、予約ネネサーん、アブナーい!w
墓標が必要なのだろうか……w

そして、此方も問うか行きます

662 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:05:09 ID:3eMG4s4U0





――泣かない約束した、限りなく続く未来に また明日会えるかな? 言葉を残して……










     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





わたしは、緒方智恵里は、ずっと不幸な、人間でした。
そうだと、決め付けていたんです。
生まれてから、16年間碌な事がないと思っていて。
それぐらい、わたしは不幸で、不運で。

いつも、哀しくて、苦しくて。

なんで、こんな目にあうんだろうっていつも思っていました。
いつも、酷い目にあって、苛められて。
どうしてだろうって。

でも、そうやって、いつもわたしが、悪いと、決め付けました。


臆病で、泣き虫で。
弱気で、愚図で。
どうしようもないくらい、駄目なんだなと。

だから、見捨てられるんだって。
誰も彼もから、わたしは。
とても、不幸だったけど、それはわたしのせいでもありました。

でも、それでいいんだって。
自分を変えることなんて出来なくて。
わたしは閉じ篭ってしまいました。
何処にも行きたくなくて。
人の目が怖くて。

だから、閉じこもる事が幸せでした。
でも、それだけじゃ哀しすぎたから。
たまに部屋に外にでて、誰も居ない河原にいくんです。
そこで、暖かい日向の中、四葉のクローバーを探すのが楽しかったんです。
幸運の証を、一つずつ集める。
そうすれば、幸せになれる気がしたから。

そんな、ささやかで、ちっぽけな幸せだけで充分でした。

わたしは、そうやって閉じこもって。
誰とも接触せずに、学校すら行かないで。
そんな日々がずっと続いて。

663孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:07:00 ID:3eMG4s4U0





――泣かない約束した、限りなく続く未来に また明日会えるかな? 言葉を残して……










     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





わたしは、緒方智恵里は、ずっと不幸な、人間でした。
そうだと、決め付けていたんです。
生まれてから、16年間碌な事がないと思っていて。
それぐらい、わたしは不幸で、不運で。

いつも、哀しくて、苦しくて。

なんで、こんな目にあうんだろうっていつも思っていました。
いつも、酷い目にあって、苛められて。
どうしてだろうって。

でも、そうやって、いつもわたしが、悪いと、決め付けました。


臆病で、泣き虫で。
弱気で、愚図で。
どうしようもないくらい、駄目なんだなと。

だから、見捨てられるんだって。
誰も彼もから、わたしは。
とても、不幸だったけど、それはわたしのせいでもありました。

でも、それでいいんだって。
自分を変えることなんて出来なくて。
わたしは閉じ篭ってしまいました。
何処にも行きたくなくて。
人の目が怖くて。

だから、閉じこもる事が幸せでした。
でも、それだけじゃ哀しすぎたから。
たまに部屋に外にでて、誰も居ない河原にいくんです。
そこで、暖かい日向の中、四葉のクローバーを探すのが楽しかったんです。
幸運の証を、一つずつ集める。
そうすれば、幸せになれる気がしたから。

そんな、ささやかで、ちっぽけな幸せだけで充分でした。

わたしは、そうやって閉じこもって。
誰とも接触せずに、学校すら行かないで。
そんな日々がずっと続いて。

変わる切欠が来て……しまったんです。

河原で、四葉のクローバーをいつも通り探してたら。
急に話かけてきた、男の人。
ぽかぽかな陽気につられたきたのでしょうか。
兎に角、平日の昼間に学校も行かずにいるわたしは、びくびくしました。
補導されちゃうんじゃないかって。

逃げ出そうとして、結局怖くて逃げ出せなくて。
話しかけられても、ぷるぷる震えるだけでした。


そして、わたしは、


「い、いや……ふ、ふぇぇ……」


泣き出してしまって。
怖くて、哀しくて。
そんな自分に失望して。


でも、あの人は


――大丈夫、泣かないで。何もしないよ……ねえ、君はなにしてたの?

664孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:08:43 ID:3eMG4s4U0


と優しく、声をかけてくれて。
わたしは手にしてた四つ葉のクローバーを無言で見せて。
あの人は笑ってくれて。


――じゃあ、僕も探そう。


といって、探し出してくれました。
ぽかんとしながら、わたしも手伝い始めて。

そして、一つの四葉のクローバーを見つけることができたんです。

そしたら、わたしは久しぶりに笑えていて。
あの人も笑ってくれて、わたしにたいして


――明日、また会えるかな?


そう、いってくれて。
わたしは、こくんと頷いてしまいました。
何故か解からないけど、わたしといてくれる。
それが、何か嬉しくて。


それが、プロデューサーとの出会いでした。





彼は、こんなわたしでも、傍に居てくれて。
わたしは河原で話し合うのが好きになって。
やがて毎日河原にきはじめて。
彼も付き合ってくれて。
辛いこと、哀しいことすら、話せていました。
涙ばっかりでちゃったと思うけれど

三週間ぐらいたった後でしょうか?


春風が心地よい日でした。
わたしに一つの名刺を差し出して。
其処にはプロダクションの名前が書かれて。

アイドルになりませんかと。

665孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:09:36 ID:3eMG4s4U0

わたしに問いかけてくれたんです。
わたしはビックリして、出来ない、無理ですとばかりしかいわなかった。
だって、またそんな状況になったら、苛められる、無視される、見捨てられる。
絶対いやだ、いやだと、言って。
怖い、怖い、怖いと。


けど、あの人はいってくれました。


「見捨てない、護ってあげるよ」

と。
差し伸べられた手は温かくて。
嬉しくて、嬉しくて。
誰かに必要にされてるんだと思って。


わたしは、



「……はい」



それが、アイドルになった切欠でした。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





月がまんまるで、綺麗でした。
わたしは、殺し損ねた後、街を歩いていました。
今度はしっかり殺さないと……
そう思って、わたしがたどり着いたのが病院。

此処に、怪我してる人とか着てるはず。
そう思って、中に入ると

「ひっ……」

てんてんと、床についていた血痕。
紛れもなく、人の血でした。
よせばいいのに、わたしはそれを辿ってしまっていて。
……そして。


「……あ……あぁ……あぁぁああああああああああああ!?!?」

666孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:10:15 ID:3eMG4s4U0


絶叫。
見つけてしまったのは、小さな遺体。
右半分が見ることも出来ないぐらいに、焼け落ちた、一つの遺体でした。
そして、無事な左半分の姿には見覚えがありました。


一緒に仕事した事もある。
小さいけど不思議な色気もあって。
でも、可愛らしい、可愛らしい少女で。


佐々木千枝ちゃんが、死んでいたんです。



「あぁ……ちえ……ちゃん……なんでぇ」


酷い、有様でした。
こんなの千枝ちゃんじゃない。
そう思いたいのに、彼女だと解かる自分が嫌で。
こんな哀しい死に方なんて。
そんなの酷すぎる。

自分が誰かを殺そうとした事を棚において。
私は、哀しくなって。


涙が出そうになって





――――約束を思い出したんです。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

667孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:10:43 ID:3eMG4s4U0





アイドルとして、デビューして少し経ったぐらいでしょうか。
わたしは、まだ臆病で。
弱気でプロデューサーの背中に隠れる事が多くて。

そんな駄目だったわたしは…………やってはいけないミスをしてしまいました。

ミニライブで、全く声が出なくて。
大してファンも居ない小さいものだったけど、大事な一歩になるはずのライブで。
わたしは、声が出なくて、終いには泣き出してしまって。

プロデューサーが折角用意したものを、台無しにしてしまいました。


私は、また、逃げ出しました。
そして、また閉じこもればいい。
臆病で、泣き虫で。
弱気で、愚図で。
どうしようもないくらい、駄目な私なんだから。
それが、お似合いなんですと思って。


そして、夕暮れの河原で一人泣いていた時。
やっぱり、プロデューサーがやってきたんです。
わたしを慰めて。大丈夫だよと。
失敗は誰でもあると。

だから、また頑張ろうと。

でも、私は出来ないとまた言っていました。
臆病で泣き虫で、駄目な私なんだから。
そう言ってプロデューサーを突き放そうとして。

そんなプロデューサーが差し出したのは一つの手紙。
ファンのメッセージ。
逃げ出した私への心配する言葉でした。

そして、プロデューサーは言ったんです。


――――僕も智恵里のファンだから……もっと君の笑顔を見せて欲しい。


そしたら、嬉しくて、嬉しくて。
だって、必要とされてる。このわたしが。
嬉しくて、泣きそうになって。


――――言ったよ? 見捨てないって。


その言葉が嬉しくて。
もう本当に、どうしようもないぐらい、わたしは幸せに感じて。
だから、涙が出そうになって。

668孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:12:03 ID:3eMG4s4U0


―――ストップ。智恵里、約束しよう。


約束?
なんだろう?


―――智恵里がトップアイドルになるまで、泣かない。応援するから、ずっと笑っていよう。できるかな?



泣かない……出来るかな?
でも、この人の約束は護りたい。
絶対に、絶対に破りたくない。
だから、わたしは小指をだして。



「「ゆびきりーげんまんうそついたら――――」」



泣かない約束を、したんです。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

669孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:13:05 ID:3eMG4s4U0







「……っ、つっつーーー」


涙を、こらえました。
泣いちゃ、いけない。
泣いちゃ、駄目なんです。
約束したから、泣かない約束をしたから。



「千枝ちゃん……千枝ちゃん」


そう、彼女の無事な小さな左手を握りながら、私は名前を繰り返し呼びました。
彼女は二度と私の名前を呼んでくれない。
解かってる、解かってるのに。
私は繰り返し彼女の名前を呼びました。


ああ、哀しい、苦しい、です。
それでも、私は泣かない。
あの人の為に、私はっ。


誰かを殺さないと……いけないんです……いけないんですよぉ。
出来なくても、殺さないといけないん……ですよぉ。

あの人が私を見捨てなかったように、私もあの人を見捨てられない。
大好きだから、大好きだからっ!
護らなきゃ、護らなきゃいけないのに。


でも、こんなの見て……殺せる訳……ない……ですぅ……あぅ。


ぅあ…………っーあぁー。


「……っ!!……泣かない、泣かない、泣かない! ちえり、ふぁいと!」


ひたすら、自分を応援する。
だって、だって、約束だから。
プロデューサーとした約束だから。
やぶりたくない、やぶってはいけない


――――泣かない(泣けない)約束だから。

670孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:13:52 ID:3eMG4s4U0




プロデューサー。
わたし……わたしは……泣かない。
でも……わたしに殺しなんて、できないかもしれない。
どうすれば、どうすればいいですか?



「…………千枝ちゃん…………」


握り締めた小さな手は冷たかった。
でも、せめてわたしの手の温かさを伝えたくて。
願い続けたのは彼女の幸せ。


「プロデューサー……プロデューサー」


助けたい、絶対に助けたい。
大好きだから、大好きだから。
絶対に護りたい。


のに。




「どうして………………この手は、こんなにも、冷たいの?」




温かな河原はもはや遠く。
握り締めていた手も、私の手も、こんなにも冷たかった。

671孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:14:39 ID:3eMG4s4U0



そして、わたしは、人の死すら、泣けなくて。





空には、真丸い月が、独り、わたしを照らしていた。






――泣かない約束した、限りなく続く未来に 右手に握り締めた、破壊されたものを。







【B-4 病院/一日目 黎明】


【緒方智絵里】
【装備:アイスピック】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す?

672孤独月 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/03(月) 01:15:04 ID:3eMG4s4U0
投下終了しました。

673名無しさん:2012/12/03(月) 01:38:17 ID:TOVkjxbc0
投下乙です。
うああ智絵里ー。自分がしようとしていたことを自覚してしまったか……
前話から一転して心がボキボキである。千枝ちゃんの死体を見てしまっては仕方ないね
ここから完全に折れちゃう=プロデューサーを救うのを諦めるか、
むしろ振り切れる=人殺しをしてしまうのか、どちらにせよ彼女にとって不幸なのは間違いないのが辛いよのう。

674 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/03(月) 17:28:51 ID:J5IJenfg0
投下乙です!
智恵理……よりにもよって一二を争うグロ死体を目の当たりにしちまうとは…
しかも知り合いの子って!なんともはや無情な…
これから一体どうなっていくんだろうか……救われる未来が見えねぇよう

あと、誤解を生むような書き方してしまったかもしれませんが、
「YOU往MY新!」の夏樹は煙の出ている方向(「今を生きること」の家、方角的に南)に向かいました
というわけで状態表一部変更します

【G-3(図書館前)/一日目 黎明】

【木村夏樹】
【装備:金属バット】
【所持品:基本支給品一式、本×5】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:自分と李衣菜とプロデューサー、三人で脱出する方法を見つけ出す
1:煙の出ている家の方向へ向かってみる
2:李衣菜の捜索が最優先
3:やむを得ない場合は覚悟を決めて戦う

675 ◆John.ZZqWo:2012/12/04(火) 18:44:58 ID:5ESFX5CE0
投下乙です。

>YOU往MY進!
なつきち、図書館通いだなんてなれないことをがんばるな。向かった先は……金属バット1本とロック魂でなんとかなるかな?

>孤独月
智恵里ちゃん、やっぱり大方の予想通り簡単に人殺しとかできないよねぇ。
むしろ、ただおびえて震えているだけの側だったらまだ楽だったろうに。殺さないといけないという立場ゆえの二重苦……この後どうなっちゃうのかな。

では、私も渋谷凛を投下します。

676彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド  ◆John.ZZqWo:2012/12/04(火) 18:45:43 ID:5ESFX5CE0
暗闇の中を走る。土を蹴って木の幹を避ける。ズルズルと滑る足元。急な勾配。キラリと洩れる青い光だけが頼り。
張り出した木の根。突き出した石。足をとられないよう避けて、踏んで。恐怖に追われ、恐怖から逃げる。
ザクザクと耳障りな足音。目を曇らせる熱い吐息。なのに遅々として進まない風景。
森の中の何もかもが自分を足止めしているようで。それでいて膨らむ恐怖は背中から圧迫してきて、前のめりになる。
枯葉を踏んで、苔を踏んで、転んでしまいそうになるも身体は器用にバランスをとってまだまだ加速する。
止まらない。止まらなければ危ないのに止まらない。止まりたくないから止まれない。
何もかもを理解してても、理解なんてものは走り出した身体を止めるのにはなにひとつ役にはたちはしない。
靴が土塗れにになるのもかまわず、露な白肌が傷つくのもかまわず、小枝が黒髪を引っ張るのにもかまわずに走る。
距離感もなにもない真夜中の森を、つむじ風に翻弄される木の葉のように乱高下しながらひた走る。
それでも恐怖からは逃げられない。背中にぴたりと張り付いた恐怖からは少しも離れることができない。
小さい悲鳴をあげて身をかがめる。這いつくばるように地面スレスレを逃げ惑う。
しかしそれでも恐怖からは逃げられなくて、そしてふとした瞬間、彼女は不意に暗闇の中で足場を失った――。


 @


「………………いっつ……っ、……」

一瞬の浮遊感からの衝撃。それから30秒ほどしてようやく渋谷凛は口からうめき声を漏らした。

「最……、悪……っ」

悪態をつきながら渋谷凛は現状を確認する。
身体に痛いところはないだろうか? ある。たくさん。色々なところが痛い。当たり前だ、落下したのだから。
幸いなことに足は大丈夫……っぽい。しかし腕は、咄嗟に身体をかばった肘と、そして手のひらがじんじんとする。
だがそんなことよりもとにかく、おしり、そして背中が痛かった。

「あー……、もう、なんなのよこれ」

おしりが痛いのはしかたない。そこから落ちたのだから。もし痣なんかできてるととても困るが、まだ納得できる。
しかし背中は違う。確かに背中も落下によってしたたかに打ちつけたわけだが、それ以上にその痛みは荷物のせいだ。
背中に背負った本来はクッションとなるはずのリュック。その中でひときわ存在感を放つ円柱状のよくわからないなにか。
これのせいで、渋谷凛の背中は激しい痛みを訴えていた。こっちは確実に痣ができている。絶対に。

「なんでこれもってきたんだろ……」

溜息をつきながら渋谷凛は顔を見上げて自分が落ちてきたところを確認する。
たいした怪我もしなかったわけだが、それでもその高さは想像してたよりも全然低かった。身長よりもちょっと高いくらいだ。

「ハァ……」

もう一度、今度は大きな溜息をつく。決死の逃亡劇が一度途切れたことで幸か不幸か、頭の中は冷静になっていた。
さきほどまでの逼迫した恐怖感はない。
今あるのは理不尽さへの憤りと、現実のあやふやさ、そして視界の中にはいなくても確かに存在を感じさせる静かな恐怖。

「諦めなければきっとなんとか、なる……?」

山頂で島村卯月、本田未央の二人と肩を寄せ合っていた時には確かにそんな気分だった。
プロデューサーがひとり目の前で殺された直後だったけど、それでもまだその時はそうであればなんとかなるつもりだったのだ。
それは薄情ではあるが死んだプロデューサーが他人であること、すぐに仲間であり親友でもある二人と出会えたこともあるだろう。
あの二人の明るさ、いい意味で人畜無害なところがあの時の自分を助けていてくれたと渋谷凛は思う。
だがそれよりも、気楽だった一番の理由はきっと、自分が死ぬわけがない――などというそんな現実に対する認識不足のせいだ。

677彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド  ◆John.ZZqWo:2012/12/04(火) 18:46:10 ID:5ESFX5CE0
本田未央は死んだ。目の前で、血を流して、首と胴体とが離れ離れになって死んだ。いや、殺された。
渋谷凛は見た。首を落とされた体が一瞬だけはそのまま立っていて、それからぐたりと人形のように力なく倒れたところを。
今思い返しても、転がった首を見るよりもそちらのほうが恐ろしかった。思い返すだけで指先が震える光景だった。
死んだら死体になる。その当たり前を目の当たりにしたのだ。死体には意思の欠片も残らない。死ねば誰でもああなってしまう。

「未央……っ」

思い返し名前を呟くことでようやく実感が追いついてきた。追いついてきてしまった。
胸がしめつけられ目頭が熱くなる。本田未央は死んだ。もう話すことも遊ぶことも、一緒にレッスンや歌うこともできない。
彼女はわけもわからないうちに殺されてしまい、納得することも、なにひとつ夢を叶えることなくいなくなってしまった。
喪失に涙の粒が浮かび上がり、そしてそれが自身にも迫る現実であることに一筋の線を描いた。
繰り返し、本田未央の身体が崩れ落ちる場面がフラッシュバックする。あれが人間が死ぬということなのだ。






ひとしきり声を殺して泣いた後、渋谷凛は伏せていた顔をあげた。
目元は赤くなっていたがその瞳にはまだ意思が、強いものではないが確かに残っていた。
理不尽な現実を理解し、それでなおその身をひたす恐怖に立ち向かうだけの意思が彼女にはあったのだ。
諦めるなんてらしくない――それはみんなから返ってきた言葉だが、だからこそ彼女を支える言葉になりえた。

「どうしようかな……」

言いながら渋谷凛は暗闇の中で立ち上がる。
ずっとここで隠れててもいることもできるがそうもいかない。やることもあるし、なにより地面がじめじめしている。
水気を含む地面の冷たさは打ち身のおしりには気持ちよかったが、その湿気でスカートや下着が濡れるのは困る。

「ていうか、ここ、どこ……?」

ポケットから地図を取り出そうとして、しかしやめる。代わりに情報端末を取り出して電源を入れた。
記憶が確かならこちらでも地図が、それに時間も確認できるはずだ。
最初に真っ白な画面が映り、指先でいじると画面が切り替わって渋谷凛の名前を中心に拡大された地図が表示される。

「こっちのほうが早いじゃない」

なんでさっきまでは紙の地図を見ていたんだと毒づきつつ渋谷凛は自分の現在位置を確認する。

「…………あんまり離れてない、な」

山頂から逃げてきたわけだが、地図上で見る限りほとんど距離は離れていない。せいぜい200メートルほどだろうか。
途端に怖くなって渋谷凛は自分が落ちてきた小さな崖に身を寄せた。
情報端末を胸に抱いて耳をすませる。もしかすればすぐ近くに本田未央を殺した水本ゆかりがいるかもしれないのだ。
だが殺人鬼の足音は聞こえてこない。時々、風に揺られた木々がサラサラと葉を鳴らす音が届くだけだ。
ほっと止めていた息を吐くと、渋谷凛はあらためて情報端末の地図を見た。これからの行く先を決めなくてはいけない。

「卯月は……と、榊原さんはどこに行ったんだろう……」

あの二人がどちらに向かって逃げ出したかは見ていない。あの時は必死だったしゆかりを前に目をそらす余裕はなかった。
そして自分が山の中を逃げている間にも見なかった……はずだと渋谷凛は思う。
それに足の速さは、少なくとも島村卯月よりかは上だという自負はあるので、見なかったのならこっちにはいないはずだ。

「…………………………………………………………とにかく、探そう」

考えても結論はそれしかでなかった。もしかしたら割と近くにいるのかもしれないし、全然遠いのかもしれない。
案外、あんまり逃げておらず山頂の近くのどこかで隠れているのかもしれない。
渋谷凛ができることは、彼女らが水本ゆかりにまだ見つかっていないことを祈りながら探すことだけだ。
決心すると、かなり時間をかけて悩んだ末に懐中電灯の明かりをつけ、彼女は足元だけを照らしながら歩き始めた。

678彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド  ◆John.ZZqWo:2012/12/04(火) 18:46:38 ID:5ESFX5CE0
 @


できるだけ歩きやすい場所を選びながら進むこと20分ほど、渋谷凛は深い森を抜け岩肌をさらす斜面へと出る。
石灰色の岩肌は青い月光をよく反射し、森の中からすれば眩しいほどに明るかった。

「ここ……?」

渋谷凛は斜面を見渡し、そして情報端末の表示を確かめる。画面の中央には彼女の名前と重なって『遺跡』と表示されていた。
こちらへと向かってきたのは、もし島村卯月らもこの情報端末も見ていたら名前のある場所に来るんじゃないか、
そんな風に考えたからだ。だがしかし、見渡す限り『遺跡』と呼べそうなものは視界の中にはない。

「もう少し向こうかな」

情報端末の地図は割とアバウトっぽく、一点を指しているようでその範囲はけっこう広い。
ということで、渋谷凛はもう少し表示されている点の中心に近づこうと石灰色の斜面へと踏み出して行った。
遮蔽物のほとんどない中をおっかなびっくりといった様子で。

だがしかし、歩けど歩けどそれらしい建物のようなものは見当たらない。ただただ石灰色の斜面に岩がごろごろしてるだけだ。
もしかして何もないのか、それとも埋まっているのか、と思い始めた頃、渋谷凛は変なものに気づいて足を止める。

「…………?」

L字のブロックのようなものだ。石でできていて表面はザラザラしている。印象としては海辺のテトラポッドっぽい。
これが遺跡?
と、疑問に思い渋谷凛はブロックの周りを回って文字でも彫られていないかと探すが、しかしそれらしきものはなかった。
釈然としないという表情で渋谷凛はブロックを睨みつける。
そう、これは工事現場かなにかのブロックにしか見えない。とてもじゃないが、謂れのある遺跡っぽさなんか感じられない。
じゃあ違うのかなと、再び歩き出そうとしたところでようやく渋谷凛は遺跡の存在に気づいた。

「あ…………」

ブロックはひとつではなかった。
割れたり地面に半分埋まっているものもあるが、ここら一帯にゴロゴロしている岩――それが全部、L字のブロックだ。
謎のL字ブロックが無数に転がっている石灰色の斜面。とっくの前に渋谷凛は『遺跡』の中にいたのだった。
そしてこの遺跡の中を更に進むこと少し、彼女はこの中でもひときわそれっぽいオブジェを発見した。

「『BABEL』…………?」

地面に埋まった正方形の石版にはうっすらとそう読める線が彫られている。
そしてその向こうには遺跡らしいと呼べるオブジェが存在していた。
とはいってもなんのことはなく、ここら一帯にいくらでも転がっているブロックがただ積み重なられたものだ。
遺跡というよりかは、どちらかというと前衛芸術っぽいかもしれない。

「無駄足だったかな。……でもせっかくだし」

渋谷凛は積み重なれたブロックに足をかけてその上へと上る。それを繰り返して少しずつオブジェの頂上を目指した。
なにも記念だとか遊びたいなんて考えではない。ただ、高い所に上れば仲間を探しやすいと思ったからだ。
人目はないしどうせいてもみんな女の子だ。彼女は誰からの視線も気にすることなく、大胆に足を上げてブロックを上る。

679彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド  ◆John.ZZqWo:2012/12/04(火) 18:47:03 ID:5ESFX5CE0
「高っ……」

頂上まで上ってみると意外と――おおよそ10メートルくらいだろうか――高さがあり、渋谷凛はわずかに身震いする。
でもその分、眺めは絶景だった。ここから山の麓まではこれより高い木もなく海まで一望することができた。

「街だ」

北東のほうへと視線を向ければ暗闇の中にかすかに浮かぶ建物の凹凸。そして星のように瞬く街灯の明かりが見えた。
羽虫は光に誘われるというが、そうでなくとも今の渋谷凛にとって街灯の光は心をくすぐられるものだ。
そこは暗い森の中で震えているよりかは何百倍も居心地よさそうに見える。

「………………ん?」

その街灯の青白い光の中にひとつ、真っ赤な光が揺れていた。
この距離からでは小さくしか見えないが、しかしそれでも周りの街灯の光よりかは遥かに大きいことはわかる。

「そんな……」

なんの光だろうか? 考えてすぐに答えにいきつく。揺れる赤は炎の赤だ。なにかが燃えている。何を、何のために?
渋谷凛は両手で自分の身体を抱くと頂上のブロックの上でへたりこんだ。
あれは、あそこでも殺しあいが行われている――それを証明する光、いや炎だ。
同じアイドルを殺してもいい、そんな風に考えている子が水本ゆかりの他にもいる。それを知らせる狼煙だ。

60人のアイドル。仲のよい子、そうでない子、有名な子、よく知らない子、全員が殺しあいをしている姿が脳裏をよぎる。
ある子は包丁で別の子を刺して殺してしまう。またある子は命乞いをする子を拳銃で撃ち殺してしまう。
殺そうとする子に殺されるだけの子。だが殺されるままの子もいつしか反撃に出る。そのうち全員が殺しあうようになる。
わかっていたはずなのに渋谷凛は打ちのめされた。この島の全ての場所が殺しあいのステージなのだということに。

安全な場所はない。安全な人物なんてのもありえない。水本ゆかりだけではない、他にも殺しあいをしている子はいる。
新田美波だってそうだったのかもしれない。彼女は自分らを利用するつもりだったと言ったのだから。
いや、もう島村卯月だって大丈夫なのだとは言い切れない。だって彼女はひとりだけで逃げ出してしまったではないか。
諦めなければと返してくれた彼女がいの一番に諦めてしまったのだ。見つけ出したとして、どうするというのか。

「諦めない……できることを探す……」

それって本当のこと? みんな殺しあいで生き残ろうと必死だよ。私達だけがバカなんじゃない?
逃げ出した彼女にそう問いただしたい。そう渋谷凛は考えて、そんな自分を自己嫌悪した。

「殺されそうになったら相手を殺しても正当防衛……」

だけど、

「そんなこともうできないよ」

島村卯月のほにゃっとした笑顔に希望を抱き、本田未央の哀れな死に様に人が死ぬ意味を知った今、
渋谷凛に人殺しを――例え正当防衛であろうとも、することは考えられなかった。もう人が死ぬのはみたくなかった。
だから、ささいなものでも希望が欲しくて、しかし希望はもう逃げ出しその色は褪せてしまったと気づいた時、

「ねぇ、諦めないのが私だって言うなら、どうして私を置いて逃げたの?」

彼女はそこから一歩も動くことができなくなってしまった。






【E-6・遺跡『バベルの塔』/一日目 早朝】

【渋谷凛】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】
【状態:全身に軽〜中度の打ち身】
【思考・行動】
基本方針:??????
1:どうすればいいの?

680 ◆John.ZZqWo:2012/12/04(火) 18:47:21 ID:5ESFX5CE0
以上、投下終了です。

681 ◆John.ZZqWo:2012/12/04(火) 23:50:37 ID:5ESFX5CE0
多田李衣菜、日野茜、木村夏樹、十時愛梨、高森藍子の5人で予約します。

682 ◆GeMMAPe9LY:2012/12/05(水) 01:07:41 ID:JXOWhz6Y0
*YOU往MY進!
 バット一本とロック魂でおっかなびっくり進む彼女。
 その魂は何かを得ることができるのか……
 って、なつきち、そっち側は危ないー!?

*孤独月
 好きな人のためとはいえ、殺せないという弱さを取り戻してしまったか……
 折れるのは簡単だけど、それだと大事な人も助からないという二重苦。
 16歳の女の子には重過ぎる選択肢をえらぶことはできるのでしょうか

*彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
 うあああああ……一人は死に、一人には見捨てられ。
 一人になってしまったしぶりんは再び歩き出せるのか。

そして
前川みく、及川雫予約します。

683 ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:15:43 ID:4g.VkeWo0
投下乙です!

>彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
うわあしぶりん動けなくなってしまった……!
なにげに謎の遺跡が気になる。アイドルが集められた島にバベルの塔とは

道明寺歌鈴、矢口美羽、投下しますー

684オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:17:23 ID:4g.VkeWo0
 
 かたや巫女服を着た少女である。
 茶がかったショートの黒髪は当人の気質を表すかのようにところどころおっちょこちょいに跳ねており、
 不安げに遠くを見つめる瞳にするどさはなく、くりくりとしてキュートであった。なんと実際に巫女でもある。
 かたやチェックシャツの上に白いシャツを着た少女である。 
 黒髪の後ろにお団子ポニテを作り、クラスに一人くらいいそうという形容がぴったりな顔立ちで、
 顎に手を当てて考えごとをするポーズ。見るからに平凡な彼女だが、しかしその瞳にはパッションが宿っている。

 巫女アイドル――道明寺歌鈴。
 自己模索系アイドル――矢口美羽(FLOWERS)。

 ぱっと見た限りでは共通点のほぼ見つからないこの二人はつい先ほど、
 お互いの大切に思う人たちのために殺し合いで手を組み、
 彼女たちなりのやり方でゲームを勝ち抜くことを決めたのだが――。

「ふええっ!?」
「わぁ!? なにもないところでいきなり歌鈴ちゃんの足がほつれて!?」

 びたーん

「いたたっ……ご、ごめんっ美羽ちゃん! ってあわわ、デイパックから煙!?」
「ま、まさか転んだときに黒煙弾のスイッチを押して……あ」

 もくもくもくもくぅ

「げほっ、げほっ! す、すごい煙でっ、喉がっ……水……」
「待ってそれ違うよっ! それわたしの支給品! しびれ薬――――!!」

 はらほろっひれはれっ

「……あぅ、ありがとうっ、美羽ちゃん。十分くらいで治るやつでよかった。
 もうどうにか動けるみたい、バナナも食べて元気出たし、今度こそ、出発してっ」
「(あっフラグだこれ)」

 つるっからの、びたーん

「はわわ……」
「うん、うん……いや、わたしもけっこうやらかす方だけども。
 歌鈴ちゃんってなんというか、その、ほんとにすっごいドジっ子なんだね」

 以上がこの一時間ほどの間に起こった出来事である。
 それも、だだっぴろい飛行場の真ん中を、たった数十メートル移動する間に起きた出来事だ。 
 発生源は全て道明寺歌鈴であった――そう、
 美羽はFLOWERSのリーダー高森藍子から彼女について若干話を聞いていたゆえ大きく驚くことはなかったが、
 歌鈴のアイドルとしての個性はリアル巫女さんだということだけではない。
 歩けば転び、走っても転ぶ、
 天性のドジっ子体質もまた歌鈴がキュートたるゆえんの一つなのだ。

 が……ステージの上ならともかく、こんな場所でそれが発動してしまうのはマイナスにしかならない。 
 それも何故だか今の歌鈴は、三歩歩けばドジるレベルにドジっ子パワーが高まっている。
 仕方なく、今二人はとにかく動くのをやめて、微妙に距離を開けて小休止していた。
 申し訳なさげに遠くを見つめる歌鈴と、
 じっと歌鈴を見つめながら顎に手をあてる普遍的なポーズをとる美羽という構図。

685オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:18:18 ID:4g.VkeWo0
 
「ええっと、一つ確認なんだけど。歌鈴ちゃんはいつもこのくらいの頻度でドジってるのかな?」
「いいいつもはここまでじゃないですよっ。確かにジュースとかすぐこぼしちゃうけど、こんなにいつもじゃ。
 あ、でもプロデューサーさんと二人きりになった時とか、ライブの始まる前の楽屋とかだと、このくらいひどくて……」
「ふむふむ。するともともとの素質に加えて、
 この状況下での緊張とか焦りがドジっ子パワーを加速させてるのかも」
「緊張……わ、私、でもだって、決めたのに!」
「うん。わたしも決めたよ。でも決めたからすぐに演(や)れるかっていうと、違うとも思う。
 一人じゃ難しいって思ったから、わたしたち手を組んだんだし――でもこれはそれ以前の問題。ええと、どうしよっか?」
「どうしよう、って」
「どうしようもないじゃダメだよ」
「……う」
「……どうにかしなきゃ。きついこと言うけど、今の歌鈴ちゃんとじゃ何もできないよ」
「ううっ」

 歌鈴は美羽の言葉に目を伏せて、巫女装束の胸のあたりをかきむしるように掴む。

「……なんで。なんでこうなっちゃうんだろう。こんなところで止まってる場合じゃないのに。
 いまもどこかで、プロデューサーさんや美穂ちゃんがひどいめにあってるかもしれないのに……なんで私はっ」

 そして想い人を叫びながら、自分の不甲斐なさを虐した。
 手は震えていて、顔はこわばっている。素人の美羽にすら、歌鈴の焦りと緊張は手に取るように分かった。
 共感もできた。今こうしている間にも殺し合いは進んでいる。
 美羽が大切に思うFLOWERSのメンバーが無事かどうかも分からない。
 こんなところで止まっている場合じゃない、と思っているのは美羽も同じだ。

 それに、彼女たちには急がなければいけない理由がもう一つあった。

 それは彼女たちのとった作戦にある。

 「対主催に紛れながら人数を減らしていく」という二人の作戦。
 これは裏を返せば、「人数を減らすまでは対主催と見分けがつかない」ということでもある。
 あまりにもたもたしていれば、二人は主催側に、殺し合いに反逆していると勘違いされてしまうかもしれない。
 そうしてプロデューサーの首輪が爆発させられてしまう場合もゼロではない。
 美羽はFLOWERSの面々の生き残り優先ではあるが、プロデューサーが死ぬところを見たいわけではないし、
 歌鈴に至っては、プロデューサーが死んでしまったら殺し合いに乗った意味が無くなってしまう。

(でも早く行動を起こすにしたって、まずわたしたちにとって無害なグループを見つけないといけない。
 さらにその上で怪しまれないように信頼を得て……みんなを欺いて行動する……。絶対すぐにはできないことだ)

 潜伏する期間のことまで考えると、早期にどこかのグループに紛れる必要があるのは間違いなかった。
 おそらく歌鈴が焦っている原因の一つはこれだろう、と美羽は考える。
 でも、その焦りと緊張の結果、肝心の歌鈴がこうなってしまっていては何の意味もない。
 美羽の中に歌鈴を切り捨てるという選択肢は今のところないが、急いで切り替えてもらう必要があるのは確かだ。
 そのための一手を。考えなきゃいけない。
 緊張をほぐして歌鈴を行動可能にする。どうすればいい?

 わたしたちのプロデューサーなら、どうしていた?


『――ははは、よーしお前ら、見事なまでに緊張してるな。
 ――そしたらこの俺じきじきに、お前らがこれから緊張しなくなる魔法を教えてしんぜよう。それはな――』

 
「そうだ……歌鈴ちゃん!」
「は、はい」
「えーとですね。ここに学ランがあります!」
「はい?」

686オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:19:24 ID:4g.VkeWo0
 
 矢口美羽はデイパックから男子学生服(上下セットSサイズ)を取り出した。
 それは彼女のもう一つの支給品だった。
 最初これが支給されたと分かったときは、ハズレだなあ運がないなあと思っていたけれど。

「今から歌鈴ちゃんには、この学ランに着替えてもらいます!」
「えっ?」
「着替えるんだよっ、こ・こ・で!」
「え……ふええっ? ほ、本気なの、美羽ちゃん。だってここ、外だよ?
 夜だけどすごいライトアップされてるし、ほら障害物も飛行機くらいで、誰か来たら!」
「そうだね。だからこそだよ、歌鈴ちゃん。だってそっちのほうが――恥ずかしいでしょ?」

 美羽が思い出したのはFLOWERSの初ライブ前の一幕だ。
 本番前二十分の控え室、輸送車トラブルで遅れて到着したLIVE衣装を手にしてドアをばーんと開けたあの人は、
 かちこちに固まった暗い空気をいつも通りの笑顔で一気に柔らかく明るくしながら、美羽たちにこう言ったのだ。

「“緊張するのは恥ずかしいからだ。自分がなにか恥ずかしいことをしちゃうんじゃないかと思ってるからだ!
 だから――今ここで一生これを超えることはないってくらい恥ずかしいことをあえてすれば、どんなことも怖くなくなる!
 さあお前らレッスンだ、俺の前で俺から目を離さずに、その衣装に着替えてみせろー!” って」
「な……なんだか豪快な人ですね」
「あのときは結局、友紀さんと夕美さんがほんとに脱ぎだしたら顔真っ赤にして控え室から出てったけどね」
「い……意外とうぶな人なんですね」
「まあね、とにかくだ! それがあったからFLOWERSの初ライブは成功したんだよ。
 衣装が届く前にさ、初ライブでいろいろ考えちゃってたんだよね、期待に応えなきゃとかミスしたくないとか。
 でもそれ全部、プロデューサーがいきなりそんなこと言ったせいで吹っ飛んじゃったんだ。
 だから、さ。思い浮かべただけでこれなら、実際にやればきっと効果はもっと絶大!」
「ま、待って待ってそれ、飛躍してないですかっ!?」
「違うよ、飛躍してるからいいんだよ!」

 ぐいぐいっと美羽は歌鈴との距離を詰めて、うろたえる歌鈴に学生服を押し付けた。
 
「さあ! れっつお着替え! 衣装チェンジで心のお着替えしよう!」

 そして歌鈴のデイパックをひったくるように奪って数歩下がり、なんとなく逃げ出しづらい空気を作ったのだった。

「ふえ……そんな……こんな場所で着替えるなんて、いくらなんでも……」
 
 学ランを押し付けられた歌鈴は目をぱちくりして、学ランを見て、もう一度美羽のほうを見た。
 美羽は期待やら何やらが入り混じったキラキラした目で歌鈴をじ〜〜っと見つめている。
 本気なのは嘘じゃないみたいだった。
 確かに彼女の言い分には一理あるとは思うけれども、普通実行はしないだろうに。
 美羽が意外と突拍子もないことを考える子だということを、このとき歌鈴は初めて知った。

「大丈夫、歌鈴ちゃんだけにはやらせない。歌鈴ちゃんが着替えたらわたしがその巫女服を着るよ!」
「えぇ……!?」
「うん、実は巫女さん衣装ってけっこう着てみたかったんだよね。なんとなくわたしに似合ってる気もするし。
 むむむ、そういえば歌鈴ちゃんに学生服もなんだか似合ってる気がしてきた! わたしプロデュースの才能あるのかも?」
「み、美羽ちゃんっ、急にテンションあがりすぎ」
「さあ歌鈴ちゃん早く早く! 誰か来る前に!」
「ふええ……」

687オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:21:00 ID:4g.VkeWo0
 
 同行者の純粋な視線に耐えきれなくなって、歌鈴はきょろきょろ周りを見回す。
 ――黎明の空はまだ暗い蒼色だが、だだっぴろい飛行場は明るくライトアップされていて見通しが良い。
 ただし何もないわけではない。飛行場の形を仮に長方形とすると、
 その両の長辺には等間隔でいろんな飛行機が置かれている。
 ヘリコプター、ジェット機、戦闘機みたいなのから普通の旅客機まで、大小さまざま、空飛ぶ乗り物博覧会の様相だ。
 いま二人がいる位置はちょうど大きな旅客機と軍用ヘリの中間で、
 旅客機のエンジンのそばだ。向こう側から人が来たとしても、どうにか隠れなくはない、ギリギリの位置。

(いけなくは、ないのかも? ――うぅ、でも無理だよおっ)

 一瞬出来そうな気がして、頭の中でシミュレートして、やっぱり無理だと歌鈴は竦む。
 転んだ拍子に巫女装束が脱げそうになったことなら何度もあるが、
 脱げてしまうのと自分から脱ぐのはぜんぜん違うことだ。アイドル的にもちょっとダメな気がする。
 しかも多分……。

「言い忘れてたけど、もちろん一旦全部脱いでから着るんだよっ!」

 と、歌鈴が危惧した通りの言葉を美羽が投げかけてきた。
 そうだ。実際のところ着替えるだけであればできるのだ。
 学生服のズボンを緋袴(巫女服のスカート)の下で着てから緋袴を脱ぎ、
 上着を白装束の上から羽織ったあとに白装束を脱げば、大した露出もなく着替えを終えることが出来る。
 しかし、今回のこれは歌鈴を恥ずかしがらせるのが目的だ。
 そんなやり方では効果半減なのは歌鈴でも分かる。

 分かるけれど、でも。 
 更衣室でも家でもない外で一瞬でも服を全部脱ぐなんて――恥ずかしすぎる!

 一旦学生服を地面に置き、歌鈴はせいいっぱいの勇気を振り絞って緋袴に手をかけた。
 でもそこから先が無理だった。
 無理、無理、無理――ぞわりと体を不可能に包まれたような気分になる。
 おそるおそる前を見ると、美羽は「先に脱ぐよ!」と言ってもうすでに上のシャツを脱いでいるところだった。
 提案してきただけあって迷いのない脱ぎ方だった。
 美羽だって恥ずかしくないわけがないだろうに……なんという体当たりな姿勢だろうかと、歌鈴は驚嘆する。

(私は……私は何をやってるんだろう)

 すると。不意に歌鈴の頭に思考が浮かんだ。
 意味もなく着替えようとしていることにではない、
 自分がこんな所でこんなことをしてるのが、だんだんおかしいことのように思えてきたのだ。
 いや、本当におかしいのだった。それはそうだ、本来なら今も歌鈴はアイドルとして多忙な日々を送っているはずで、
 知らない島に連れてこられて殺し合いをさせられているほうがおかしいのは当然だ。

 でも違う。それだけじゃない。
 下着姿になった美羽が、歌鈴に目線を送ってくる。無理に笑顔を作った彼女の目はこう言っていた。
 “これからわたしたち、もっとひどいことをするのにさ――この程度で怖気づいてちゃ、だめなんじゃないかな?”

「……!!」
「さ、さあっ。歌鈴ちゃんも、はやく」

 歌鈴はようやくここにおいて、美羽に励まされていることに気付いたのだった。
 意味のない、あまりにも飛躍したこのお着替えは。
 さっきまでのドジは着替えて全部忘れちゃおうという意味でもあったのだ。
 許されないと思っていた。あれだけ決意をしておいて空回りしてドジする歌鈴のことを美羽は怒っていて、
 だからこんな突拍子もないことを提案して歌鈴を困らせているのだと、罰なのだと、勝手に。
 本当は、そういう悪い考え方をこそ吹き飛ばすために、心を着替えなければいけないというのに!

688オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:22:11 ID:4g.VkeWo0
 
「……うん」

 歌鈴は美羽の言葉についに頷いて、緋袴の紐を緩め、緋袴を地面に落とした。
 ずいぶんと皮肉な話だなあと思いながら、白衣の前を勢いよく開いて、これも下に落とした。
 ああ、ほんとうに、皮肉な話だ。
 歌鈴がこの殺し合いで取ろうとしている行動は、罪悪感からくるものだというのに。
 いまは罪悪感を吹き飛ばさないと、行動さえできないだなんて。

 本当に――恥ずかしい話だ――。

「って、わわっ」

 とと。地面に落ちた学生服を取ろうと、一歩踏み出して下に手を伸ばしたときだった。
 緊張とか焦りではなく、単純にちょっと油断してしまっていたようで、
 歌鈴は自分が脱いだ緋袴に足を取られてバランスを崩してしまった。
 どうにか両手をついて怪我は避けたが、四つんばいの体勢になる。そこから、不意に右を見て。

 その視界に映った、シャレにならない光景に気付いた。

「え」

 歌鈴の右にあるのは大きな旅客機だ。
 当然翼の下のエンジン部分も大きくて、歌鈴と美羽の姿を右側からはしっかりと隠してくれていた。
 だがそれは今どうでもいい。
 重要なのは、その旅客機のエンジンと地面との隙間が、おおよそ五十センチ程度だったことで。
 ゆえに四つんばいになって右を見た歌鈴だけが気づけた。その隙間の先の光景を見ることができた。

 足が四本。
 数えて二人分の足が、反対側のエンジンの向こうから――こちらへ歩いてきている。

「ぇ!? ……○×▽◇!?」
「だいじょうぶ美羽ちゃ、ってわわわわっ!?」
「――――か、かっかか、隠れううっ!!!!」

 その後の歌鈴の行動は早かった。
 彼女は即座にすべての荷物および地面に落ちていたバナナの皮を腕で抱え込み、
 デイパックに脱いだ服をつっこんでいた美羽の下へ一瞬で駆け抜け、彼女の腕を掴みながら辺りを確認し、 
 幸い内部展示用に片側の扉が開いていた軍用ヘリにばびゅんと駆けこむと扉に手をかけて、
 内側の取っ手代わりのバーが壊れるくらいの速度で一気にそれを閉めた。

 ばたんと小さな音がして。飛行場から二人の少女はいったん消えた。
 
 ……その二分ほど後。
 当時、飛行場内をゆっくり散策することにしていた高垣楓と佐久間まゆがこの軍用ヘリの隣を通っていたが、
 一人用の小さなコクピットの窓ガラスから頭がはみ出さないように、
 身体を重ねてヘリの中に伏せていた二人の存在には、いくらなんでも気付かなかった。 





「ふえ……なんで……なんで私たち、服脱いだ状態で三十分もじっとしてなきゃいけなかったの?」
「すべてわたしのせいです、ごめんなさい歌鈴さん」
「いや怒ってはないよ、美羽ちゃん……。確かにすっごい恥ずかしかったけど。美羽ちゃんも震えてたの、わかったから」
「な。ななっ」
「私を鼓舞するためにはりきってくれてただけで、美羽ちゃんだって女の子だもんね。その……ありがとね」
「わ……わたしは何もしてないよー? 全部他の人からの受け売りだし、ほら、そのうん……どういたしまして?」

689オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:23:14 ID:4g.VkeWo0
 
 かたや学生服を着た少女である。
 茶がかったショートの黒髪は当人の気質を表すかのようにところどころおっちょこちょいに跳ねているが、
 なんとなく可愛い系男子がワックスでかっこよさを求めて跳ねさせた感じに似ていて、存外キュートであった。
 かたや巫女服を着た少女である。 
 黒髪の後ろにお団子ポニテを作ったその姿は清潔な巫女さんのイメージに意外とよく似合っているのに、
 本人は顎に手を当てて上の空をするポーズ。自分を平凡と信じる彼女の瞳には、本当はパッションが宿っている。

「さ、さあて! せっかく巫女さん衣装を着たことだし、これからの行き先はこれで!占いで決めようっ」

 C-3、飛行場。
 あれから数十分が経過して、二人の着替えは終わっていた。
 デイパックに入っていた美羽の私服は軍用ヘリの中で二人に押しつぶされてしわくちゃになってしまっていたので、
 当初の通り歌鈴が男子学生服を身に着け、美羽は巫女装束を身にまとっている。

 しばらくして軍用ヘリから出たあと、彼女たちは先ほどニアミスした二人組の姿を探してみたものの、
 もう彼女たちはどこかへ行ってしまったようで、飛行場の中には人の影も形もなかった。
 とすれば考えられるのは――すぐ南の空港施設に行ったか、あるいは北東の街へ向かったか。
 または北西の橋へ向かい、ライブステージに向かっている可能性もある。

「うーん、それは占いっていうより、運を天に任せてるだけじゃないかなぁ……」
「いやいやこれだって占いだよ! 本職の巫女さんからしたらアレかもだけどっ」

 そういうわけで二人は、軍用ヘリの内部からある意味拝借した鉄パイプを武器にし、
 どこへ行くか迷った子供が悪戯にそうするように地面にそれを立て、自然に倒れた方向に向かうことに決めたのだ。
 二人で決めたことだった。
 そして二人はこれから向かう先で、もっと沢山のことを二人で背負っていくのだ。

「じゃあ倒すよ。っとその前に。――歌鈴ちゃん、ねえ、もう大丈夫?」
「うん? あ、もうドジらないかってことなら、ごめんね、私にもわからない」

 軽い感じで問いかけた美羽に、歌鈴は同じくかるーい感じで返す。

「でも、私は――歌鈴はもう、大丈夫。きっと、ちゃんと演(や)れます。さっき一生分ドキドキしたしね」
「プロデューサーさんといるときとどっちがドキドキした?」
「ふえっ!? ちょ、そ、それは……それは秘密っ」
「あははー。恋する乙女は可愛いね。よし、じゃあ改めて。行くよっ」

 美羽が鉄パイプから手を離す。
 かーんと音を立てて棒が倒れて、こうして二人はそちらへ向かうことにした。

690オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:24:48 ID:4g.VkeWo0

 
  
  幕間、舞台裏、衣装チェンジの時間はおわり。
  少女たちを包む夜の幕はもうすぐ上がり、劇は第二部へと移るだろう。
  それが悲劇なのか、あるいは喜劇なのかは太陽さえも知るところではない。
  しかしどうやら。――演者である少女たちのコンディションは、悪くはないみたいだ。 
  

【C-3 飛行場/一日目 黎明】


【矢口美羽】
【装備:鉄パイプ、歌鈴の巫女装束】
【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:対主催チームに潜伏しながら、人数を減らしていく
1:そして、フラワーズのメンバー誰か一人でも生還させる
2:棒の倒れた方へ向かい、対主催チームを探す

【道明寺歌鈴】
【装備:男子学生服】
【所持品:基本支給品一式、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:対主催チームに潜伏しながら、人数を減らしていく
1:そして、出来るなら美穂を生還させる。
2:棒の倒れた方へ向かい、対主催チームを探す

※小日向美穂と同じPです。

※高垣楓と佐久間まゆが飛行場を散策していた経緯については、035話「飛べない翼」参照。
 また、歌鈴たちは彼女たちがどのアイドルなのかまでは把握できませんでした。 
 
【ペットボトル入りしびれ薬】
二口ほど飲んだ歌鈴が十分くらい上手く身体を動かせなくなった、どうやら運営特製のしびれ薬。
基本支給品の水と同じペットボトルに入っているため端目からはそれがしびれ薬だとは分からない。

691 ◆kiwseicho2:2012/12/07(金) 00:26:17 ID:4g.VkeWo0
投下終了です。

692 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/07(金) 02:49:28 ID:PCzT7cUM0
書き手Pの皆様投下乙です!
しばらく書いてない間に感想が溜まる溜まる……w

>Happy! Happy!! Happy!!!
ああ、肇ちゃんがハピ粉時空に!w
北東部は色々殺伐としてるだけに、前向きな二人はオアシスだなぁ

>彼女たちが探すシックスフォールド
新波の頭脳担当は格が違った。HelloWorldね、わかるわ
そんないずみんを支える頼れる大人な川島さんがいいね。ユッキ?うん

>盲目のお姫様と迷子の子羊
ニナチャーンに安息の日はいつ来るんだろう……w
しかし喜多ちゃんは根はいい子だなぁ、現実認識が行方不明だけど

>相葉夕美の無人島0円(無課金)生活
これそういうゲームじゃねえから!
でもこのサバイバルも、現実を拒否した結果と考えると重い……

>YOU往MY進!
なつきちー!そっちは危ない人が!
いやあ、出会ったら大変なことになりかねないなぁ(次の予約の面子を見ながら)

>孤独月
元々殺し合いには積極的になりきれてなかった智絵里だけど、
いよいよもってメンタルに危機が……ここからどう転ぶか

>彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
凛も色々と崖っぷちだな……かなり危ういところに立ってる
人間関係だと、しまむらさんだけでなく奈緒加蓮絡みでも波乱ありうるからなぁ

>オキガエ・イン・エアポート
このマッポーめいた殺し合いの中で実際ほのぼのなアトモスフィア。
でも二人のスタンスを考えれば、あくまで幕間重点な。備えよう。


そして島村卯月、榊原里美を予約しますねー

693名無しさん:2012/12/07(金) 03:44:14 ID:q6cm6Emo0
>Happy! Happy!! Happy!!!
おおう、冒頭のそれぞれのアイドルの絡みもいいけれど、肇ちゃんときらりんも中々に合うw
真面目な肇ちゃんはきらりんに振り回されるかと思えば、お説教スキルで上手いことやってけそうw
しかし可愛いなあ、俺らも呼んでてハピハピだ!

>彼女たちが探すシックスフォールド
かなりきっちりとしてそれでいて一般人な範疇な考察話が!
いやいずみん十分博識レベルじゃない知識だけれどw
それについてける川島さんもすごいなー、大人だ、後なにげにヨットスキルが追加されたー!?
ゆっきみたいな、疑問出してくれる等身大の人もいてくれるからこそ会話も弾むんだよとフォロー!



>盲目のお姫様と迷子の子羊
ニナチャーンが捕まったー!?
なるほど、妄想故に妄想できる幅がないものはそのまま受け止めちゃうということか
いやまあ十分都合よく解釈しているけれどさw
うーん、これは仁奈ちゃん心休まらねえなあw


>相葉夕美の無人島0円(無課金)生活
なるほど、リアルアイドルサバイバル、敵は他人ではなく環境と己自身!
……ねえよ、ねえからw
何別ゲーしてんだよwww
いつもどおりの笑顔がこんな形で出ちまうというのはなんか寂しいなあ


>YOU往MY進!
なつきちはなつきちで自分にできることやってるなー
地味だけど図書館の本を机に云々ってのはありがたい
調べ物する時はまず本を探すのにかなり時間かかるものな
これもまたムダなんかじゃない一つの戦い方かと


>孤独月
同年代の子の死体に会っちゃったかー
このロワ結構死体との遭遇も大きな意味を持って何度かなされてるよね
ちえりーファイトでどんどん無理しまくって自分を追い詰めてる悪寒
冷たい月と夜と自身の手かー


>彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
希望を謳ってたしまうーに置いてかれたのはそりゃあ堪えるよなあ
ちゃんみおはああなっちまったし、更にこれで奈緒加蓮のことを知ったらどうなることやら
普段が諦めない立ち上がる子であるが故に一度動けなくなったらどんどん沈みうるかも


>オキガエ・イン・エアポート
すごい、なんかよくわかんないことになってたdmjとみうさぎがちゃんと道明寺と美羽していて可愛い!
彼女達を見れて満足
しかしほんとこのロワは、在りし日常での他アイドルやPとの想い出が語られるたびに切なくなるよな……
フラワーズ達のPは中々の傑物だったみたいだけれどw
しかし楓さん達の裏側でこんなことになってたとはw
前回ので気になったステルス作戦の主催者への悪印象に本人らが気づいてるのもしれて一安心


このマッポーめいた殺し合いの中で実際ほのぼのなアトモスフィア。
でも二人のスタンスを考えれば、あくまで幕間重点な。備えよう。

694693:2012/12/07(金) 03:45:16 ID:q6cm6Emo0
と、申し訳ない
題名コピペさせてもらった一つ前の感想の方のが最後残ったままでした

695 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/07(金) 17:32:04 ID:S7iBXvbc0
>彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
BABELと聞いたらスケールアウトを思い浮かべる私はきっと573脳
嗚呼…ニュージェネレーション組、あんなに硬い結束だったのに…
それでも凛には卯月に対する信用?みたいなのはまだ無くなった訳じゃないのがまた…

そしてその予約……大作の予感……!
そして誰かが死ぬ予感……!だりなつは無事合流出来るのかなぁ

>オキガエ・イン・エアポート
ギャグとシリアスが良い感じに混ざり合ってなんとも心地いい……
しかもちゃんと方針もしっかりしてるとは、お見事です
しかしあれですよね、やっぱり在りし日の事を語られると悲壮感半端ないわぁ…

あと、予約延長します

696 ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:00:33 ID:vzIdNHjM0
前川みく、及川雫投下します。

697完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:01:34 ID:vzIdNHjM0
A-3ブロックに位置するホテルの一階部分には喫茶店のような施設がある。
本来ならば宿泊客の憩いの場として使われるだろうそこは、他の施設と同様に店員がおらず閑散としていた。

「なるほど〜、これってドッキリだったんですか〜」
「そうにゃそうにゃ! みくも一瞬驚いちゃったにゃあ!」

だが、そんな雰囲気を吹き飛ばすような明るい声が響き渡る。
オープンカフェをイメージした一角に2人の少女が向かい合って座っている。
猫と牛……どちらも動物をイメージした奇妙な衣装の2人がそこで談笑していた。

「……なーんて、最初からみくはわかってたにゃ!
 だってコロシアイなんてそんなことあるわけないにゃ!」

みくはころころと笑う。
先ほどまで感じていたプレッシャーから開放されたせいもあるのだろう。
いつも以上に饒舌だ。

「それにしてもあんな映像まででっちあげて趣味が悪いにゃあ!
 一瞬でもビックリさせたプロデューサーチャンはあとでとっちめてあげないといけないにゃあ!
 ……まぁ、でもこんなに美味しいアイテムを用意してくれたんだから手加減はしてあげるけど」
「美味しい、ですか? 牛乳ですか?」
「いやいや、そういう意味じゃないにゃ。
 ……いうか牛乳っておいしいモノカテゴリに入るものなのかにゃ。
 ……それはともかく! ……みくにはこんなイイものが支給されてるんだからにゃ!」

そう言ってみくがディパックから取り出したのはメタリックシルバーのビデオカメラであった。
最近のCMでもやっている、ハンディサイズながら長時間撮影・完全防水・高性能手振れ補正その他諸々の機能がついた最新機種だ。

698完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:02:32 ID:vzIdNHjM0

「ふぇ〜、ビデオカメラですかー。 うーん、でもコレのどこが美味しいんですかー?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたにゃ!
 みくたちは……とってもとっても"おいしい"役どころなんだにゃ!」

ネタ晴らしのプラカードとビデオカメラを支給された……これが意味するところは一つしかない。
つまり自分は騙される側ではなく騙す側……そう、"いじる側"の人間なのだ!
同じ立場の人間は他にもいるかもしれないが、決して多くはないだろう。
つまり以下のようなことが予測されるのだ。

おいしい映像をスクープ!
⇒後にスタジオでその事について尺が裂かれる。
⇒当然撮影者のみくにたくさん話題が振られる。
⇒アップになったカワイイみくにゃんにお茶の間釘付け!
⇒人気がうなぎのぼり! やったねみくにゃん! レギュラーが増えるよ!
⇒プロデューサーチャン大喜び! 事務所も喜び! みくもとっても嬉しいにゃ!

ああ、なんという緻密かつ壮大な計画だにゃあ……!
しかしその一部の隙もない完璧な計画には大きな大きな壁が立ち塞がっているんだにゃあ。
――そう、すごく……大きいんですにゃあ。

「……? どうかしましたか〜?」

というか何だろう、あれは。
みくの視線の先にあるのは、机の上に鎮座した2つの大振りな果実。
メロン……下手すれば小玉スイカぐらいあるんじゃないかにゃ、アレ。

みくだってスタイルに自信はある。
アルファベットの最初から数えて6番目という数字は同年代のアイドルたちに比べても頭一つ抜きん出ているステータスだ。
その証拠にグラビアのお仕事だってたくさんもらっているし、プロデューサーもそれを意識してか、最近は衣装も胸元を強調するセクシーなものが多い。

699完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:03:18 ID:vzIdNHjM0

……が、目の前の存在はそんなちっぽけな自信など粉々に打ち砕く逸材だった。

アレだけでかいくせに微塵も型崩れしていない。
それだけじゃない。さっき座る時ちらりと見えたが太ももから上もヤバい。マジやばい。雫やばい。
アレと比べられたらみくのボディなんて、月とすっぽん、プラチナとシルバー、イベント上位報酬と完走報酬ぐらいの差がある。

流石にコレだけの企画となると支給されたハンディカメラだけでなく、そこかしこに隠しカメラがあるのだろう。
それがコンピューターか何かで動かせるタイプだとして、もし自分がカメラマンなら、"あれ"をメインに追っかける。
誰だってそーする。みくだってそーする。
……というかどうやったらあんなにまで育つんだにゃ。
ミルクか! やっぱりミルクがええのんかにゃ!

「……さん〜、みくさん〜」
「ハッ!」
「どうかしましたか〜?」

そこにはこちらの顔を心配そうに覗き込む雫の姿があった。
まさか『貴方の大変けしからんボディについて考えをめぐらせてました』などとバカ正直に告白できるはずもない。

「え、ええと……これは、そ、そうだにゃ! インパクトのある登場を考えていたんだにゃ!
 例えば……物陰に隠れて、こう、パパーッと飛び出すとかインパクトがあっていいかもしれないにゃん!」
「――それは、やめたほうがいいとおもいます」
「へ?」

半分冗談で口にした言葉を、予想以上に強い口調で諌められた。
――アレ、何かまずい事言ったかにゃ?
きょとんとしてついマジマジと雫の顔を見てしまう。

「……もし相手が驚いたら危ないですよー。怪我なんてしたら台無しですしー」

だがその先にあるのはいつも通りののんびりとした笑みだった。

「へ……ああっ、それもそうだにゃ! 仕方ないにゃあ。もうちょっと穏便にやるかにゃあ……」

700完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:03:42 ID:vzIdNHjM0

そういってああでもない、こうでもない、と思考錯誤を繰り返す。
その様子を見て雫は内心ため息をつく。

(……間違われたら、本当に危ないですから〜)

そう、雫が懸念したのは物陰から飛び出して『間違って殺されてしまう』可能性だった。

(みくさんはTVって言ってますけど、ホントにそうなんでしょうかー……)

雫はみくのいうTV番組説を信じれなかったのだ。
なぜならばもしこれがただのTV番組であると仮定した場合、いくつも引っかかる点があるからだ。

(……まずスタッフさんたちが誰もいないのは、いくらなんでもおかしいですよね〜)

まだ自分がデビューしたての頃、実家の牧場にアイドルユニット――確かFLOWERSという名前だったか――が来た時だってそうだ。
その時は"常に"といっていいレベルで、彼女らのそばには大柄なカメラマンさんが控えていたものだ。
いや、カメラマンさんだけじゃない。
照明さんや音声さん、レフ板をかかえた助手の人、コードが絡まないように操作するADさんもいた。
それにディレクターさんやメイクさんと見たいなたくさんの人が集まって一つのものを作り上げていたのだ。
だが、この場所にスタッフは一人もおらず、目立ったところにカメラもない。

(たしかに最近はハンディカメラで色々撮る番組とかもありますけど……
 だとしたら私にもカメラが渡されてないのは不自然ですよねー)

果たしてみくに支給されたビデオカメラだけで60人以上のドラマが取りきれるだろうか。
答えはNO。それは火を見るよりも明らかだ。
そもそもアイドルは撮られる側の存在で、撮っているほうは映像に映らない。
それはあまりにも非効率な話だ。
だから普通はADさんか誰かが撮影者として同行するものではないだろうか。

それらを隠しカメラでフォローするにしても、島一つは広すぎる。
実家の牧場でもどこにカメラを取り付けるかでスタッフの皆さんが頭を抱えていたのを思い出す。

701完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:03:59 ID:vzIdNHjM0

(それに……やっぱり、"何か"がおかしいですよねぇ)

そしてそれ以上に雫が思う最大の理由が最初に見せられたあの凄惨な光景だ。
あの時、モニターの向こうで起こった出来事は偽者なのだろうか。
雫はコンピューターには詳しくないが、あれも近頃流行のCGで作った"つくりもの"なのだろうか。

(……違う、気がするんですよねぇ……)

以前、事務所で小梅と涼が見ていたスプラッタ映画を思い出す。
良くできていたが、"何か"が違った。
その"何か"をうまく説明する事はできない。
なんとなくとしか、及川雫は言い表せない。
言葉にできない、もっと深いところで何かが引っかかっているのだ。

――その違和感は及川雫のこれまで生活環境に起因する。
彼女の実家は牧場を経営している。
そして牧場という場所はきれいごとだけではない。
動物の糞塗れになることもあれば分娩時には体液を見るし、内臓と対面することもあった。
そして時にはとても辛い事――殺傷処分にも向き合う機会があった。

そこにあるのはありのままの命であり、また飾り気のない死であった。
そんな中で育った彼女は都会に生きるみくよりも、生と死に対する感性が磨かれていたのかもしれない。
だがそれは自分自身の感性として感じるだけのもので、他人に伝えるべきモノではなかった。
だから及川雫は口を噤む。
その違和感が何に基づくものなのか、自分でも理解できていないから。
正確な言葉で表せる気が到底しないから。
それに目の前の少女はコレはTV番組だと言い聞かせることで、必死に自分を落ち着かせているようにも見える。

(そんな時にあやふやなことを言っても、混乱させてしまうだけかもしれませんしねー……)

それにみくの言うとおりこれは単なるイベントで、これは自分の杞憂なのかもしれない。
それならばそれで――きっと問題はない、はずだ。

702完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:04:23 ID:vzIdNHjM0

「……ちゃん! 雫ちゃん!」
「はい〜?」
「もうっ、話を聞いてなかったのかにゃ!
 まずはここから移動するって話だにゃ!」

いつの間にか自分は予想以上に考え込んでいたらしい
心配そうにみくはこちらを覗きこんでいる。

「移動するんですかー?」
「こんなところにこもっていたら決定的瞬間を見逃してしまうにゃ!」

他の人たちに話を聞けば何か分かるかもしれない。
雫にも反対する事情は特になかった。

「う〜ん、でもどこに行きましょうかー」
「んっふっふ……良くぞ聞いてくれたにゃ! ジャッジャーン!」

効果音付でみくが取り出したのは、カウンターの上にあったパンフレットだ。
そこにはデカデカとディフォルメされた島と主な施設がのっている。

「これに鉛筆を立てて……これが倒れた先に向かうってのはどうかにゃ?」

特に行き先があるわけでない。
雫に反対する理由はなかった。

「それじゃ、いくにゃあ! う〜っ、にゃー!」

みくの細い指が鉛筆から離れ、倒れる
その倒れた先は――果たして。



【A-3 ホテル内部/一日目 黎明】
【及川雫】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、牛さん衣装、不明支給品0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:何をしていいかわからないけど一歩ずつ前に進んで、アイドルとしてこんなイベントに負けない。

※ 小梅、涼とは顔見知りのようです。

【前川みく】
【装備:『ドッキリ大成功』と書かれたプラカード、ビデオカメラ】
【所持品:基本支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ドッキリの仕掛け人として皆を驚かせる。

703完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 01:05:20 ID:vzIdNHjM0
以上で投下終了となります。

704完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY:2012/12/08(土) 02:13:08 ID:vzIdNHjM0
あ、見返していて、
何故か「OPのP死亡がモニタ越しだった」という勘違いをしていたので一部修正します

>>697を下記の様に変更
「それにしてもあんな映像まででっちあげて趣味が悪いにゃあ!

「それにしてもあんなミニドラマまででっちあげて趣味が悪いにゃあ!


>>701の以下の一文を削除してください。
あの時、モニターの向こうで起こった出来事は偽者なのだろうか。

……本当に何で勘違いしていたんだろう
申し訳ありませんでした。

705 ◆JxZtJW5LII:2012/12/08(土) 02:20:41 ID:gksl8c5.0
投下乙です!
なんてうまいんだにゃあ…
みくにゃんは可愛いし、単純にお気楽コンビで終わらないのも流石
雫って、お気楽そうに見えて親愛度MAX台詞とか真面目だもんなぁ
彼女達に一番近いのいずみんチームか…方向にもよるけど
これからが楽しみだにゃあ!

706名無しさん:2012/12/08(土) 13:51:25 ID:5IhU9VksO
投下乙です。

自分の育った環境で培われたものって、染み着いてる分どういうものなのかは説明し辛いよね〜。

707名無しさん:2012/12/08(土) 20:34:36 ID:giFyNdJY0
投下乙〜
雫ちゃんが想ってたよりしっかりしている!?
なるほど、牧場育ち故に生々しい生物に触れ合ってきた体験がこう活きるか
しかも確かにそういうのって体験してきた本人にはアタリマエのことでも説明なんてしにくいよなー
雫ちゃんが上手いことみくにゃんをサポートできればいいのだけれど

708 ◆John.ZZqWo:2012/12/08(土) 22:39:40 ID:gCMtFadQ0
>オキガエ・イン・エアポート
このうっかりスキル、ステルス志向もやはり道明寺ちゃんか……w ああ、でもふたりがこの衣装なのはいいなw
近くには割と潜伏するのに都合のいいチームが揃ってるけど、どこにいくかなー?

>完全感覚Dreamer
いいなぁ、このふたり。こうギリギリのところにいる加減というか、見てるほうもハラハラするというか、そういうニュアンス的な!
奇しくもこちらも棒で行き先を決めたわけだけど、はてどちらに向かうかなぁ。方針が方針だけに、ある意味危険で楽しみ。


そして、予約延長します。

709 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:11:56 ID:aZ9JPVuc0
>>705
あれー?またトリップ間違えてる……
携帯からの書き込みの方が間違ってたみたいです

では、三村かな子、栗原ネネ、星輝子投下します。

710一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:13:44 ID:aZ9JPVuc0
三村かな子は、とある民家に身を潜めていた。
その視線の先には、二人の参加者と思わしき少女達。
かな子はなぜ彼女達を見つける事が出来て、そしてなぜ身を潜めているのか。

前者の理由は、彼女が先程入手したアプリ『ストロベリー・ソナー』によるものだった。
学校で受けた主催からの指示に沿って入手した専用アプリ。
それは事前に予想していた通り、特性手榴弾『ストロベリー・ボム』の位置を示すアプリだった。
半径1kmほどを探知し、それがあるならば地図上に表示する。
それによれば、持っていた自分自身以外にもう一つ、町役場の前で反応があった。
だから彼女はそこへ向かい、その持ち主を発見したのである。

そして後者、なぜ彼女は身を潜めているのか。
それはかな子自身が彼女達を殺すかどうかを決めかねていたからだった。
別に怖気づいた訳ではない。一番最初の時点でとうに"人を殺す"覚悟はできている。
それでも手を出さなかったのは、単純に殺すことの利害を考えていたからだった。

相手は二人、かな子から見た方向だと二人は重なっていた。
距離も遠く、片方を残せば、そのもう片方に襲撃を悟られてしまう。
すぐ近くにあるのは役場。相手は即座に身を隠す事ができるだろう。
今持っている武器では、彼女達を一気に殺せる手段は無かった。
……正確には先程入手したストロベリー・ボムがあったが、
この特性手榴弾は焼夷弾タイプで、さらに1.5倍の威力を誇る。
もしこの爆発が彼女達のストロベリー・ボムに引火した場合、想像以上の大惨事になる。
まだ始って間もない状態から身を危険に晒すのは、"最後のアイドル"としては喜ばしくない。
訓練(レッスン)として、会場内で行動する『計画』を教えられた時、
最初の六時間は様子見し、ロワイアルの動向を見る事を勧められた。
最終的な判断は自ら現場で判断するべきだと言われたが、かな子はその教えに従うつもりでいた。
狙えるアイドルは狙うが、危険を伴いそうならまだ狙うべきではない。そう思っていた。

そして、そう判断した理由はそれだけではない。
彼女達の近くには死体があった。
死体の状態と持っている武器から見て、手を下したのが彼女達の片割れであることはほぼ確定していた。
そして、殺したはずの二人はそれほど動転した様子も無い。
この様子から推測するに、おそらく彼女達は殺し合いをする者たちなのだろうと思われた。
つまり、彼女達はこれから自分と同じ、人を殺して生き残るつもりだ。
手に持っている武器を使って、ストロベリー・ボムを使って、どんな手を使ってでも……。

つまり、かな子はアイドル達による潰し合いを期待したのだ。
変にここで有望な参加者を殺してしまうと、このイベントそのものが破綻してしまう可能性があった。
彼女達の場所はこちらで手に取るようにわかる。
ストロベリー・ボムは確かに強力な支給品ではあるが、場所が分かる以上、こちらには大きなアドバンテージがある。
その気になればいつでも殺す事ができる。そういう意味ではむしろ他の参加者より脅威ではない。
だから、この場は彼女達を見逃し、別の場所へ向かう事にした。
かな子は既に次に向かう場所は決めていた。
いずれ来るであろうアイドル達との『決戦』に向けての準備をするべく、歩みを進めた――

    *    *    *

711一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:14:38 ID:aZ9JPVuc0
無機質な電気の光が支配する病院。
その道端で、一人の少女がまるで人形のように座り込んでいた。

「………私、私は………」

少女――栗原ネネは、あれから未だにできること、することが決断できずにいた。
即ちそれは、殺し合いに乗るか、否か。
その問いは彼女の中で幾重にも繰り返され、そして答えが出ないまま時間だけが流れて行った。
彼女が選べる道には、結局どれも犠牲の先にあった。
まだ未熟な少女には切り捨てる非情さを選べず、答えのない問いをただ繰り返した。

いっそ、死んでしまえば楽なのかもしれない。
首につけられたチョーカーにそっと手をかけ、そう考える。
これをただ引っ張るだけで、こんな現実にお別れを告げられる。
でも、ここで私が死んでも、プロデューサーが助かるという保証は無い。
死んでしまえば、妹は悲しむし、プロデューサーの身にも危険が降りかかってしまう。
だから、死ねない。死ぬことさえ許されない。


――本当はそんな事、ただの建前なのに。
ただ単純に死にたくない。怖い。それが本心なのに。
もう一度妹に会いたい。プロデューサーに会いたい。あの頃に、戻りたい――


彼女の頭は、そんな事まで考えてしまう程に疲労し、追いこまれていた。
肝心の決断がいつまでたっても出来ず、ただ時間だけが過ぎてゆく……





ふと、どこかで音が聞こえた気がした。

712一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:16:04 ID:aZ9JPVuc0
「…………?」

その音量は微々たるもので、集中していないと聞こえないほどだったが、確かに絶え間なく何かが鳴っている。
それは何かの曲のようだった。どこかで聞いた事のあるような、そんな曲。
一体どこから鳴っているのか……、目についたのは自分のデイバッグだった。

(そういえば……まだ確認してなかったけど、…何が入っているんでしょう?)

目覚めてすぐ、バッグを開けて中身を少しだけ見たが、奥の方までは目を通してなかった気がする。
今、改めてもう一度そのバッグを開けてみると、鳴り響く音がより大きくなった。
……間違いない。原因はこの中にある。
バッグの中に手を突っ込み、手さぐりでまさぐってみると、何かが震えていた。
取り出してその姿を確認してみると、それは意外となじみの深い物だった。
――携帯電話。これから音楽は鳴っていた。
それはつまり、どうやら何者かから着信がかかっている、ということだった。
その番号に見覚えは無い。……知っている者からかかってくるとは思ってはいなかったが。

彼女はそれに出るかどうかを迷った。だがすぐにその携帯を開ける。
何故電話が鳴っているのか、相手は一体誰なのか、……相手は、道を示してくれるのだろうか。
出るだけならおそらく危険は無いはず。彼女は意を決してボタンを押した。


『も、もしもし……、あなたは……誰ですか?』


相手からの応答。彼女は、答える。



「私……私は、栗原ネネ、です」





『……そ、そう……栗原、ネネ……』
「はい……」

…………会話が続かない。
そもそも相手は何故掛けてきたのだろうか。
電話の相手を知りたかったから?そもそもこの人は誰?

713一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:18:40 ID:aZ9JPVuc0

「あの、あなたは……」
『あっ、こ、こっちが名乗らないと、失礼ですねー……』
「あ、いえっ、別にそういう訳では」
『えっと、ショーコ……星、輝子、です』
「星、輝子さん……?」

その名前には聞き覚えがあった。
ごく最近人気を博してきた売れっ子のアイドルだと、プロデューサーは言っていた。
まだブレイクして間もないのに、こんな場に呼ばれてしまった心境はどうなのだろうかと、いらぬ心配をしてしまう。
だが、それとはまた別に違和感も感じていた。
そもそもネネには彼女の事は少ししか知らないが、確かかなり激しいイメージのアイドルだと聞いた。
そのイメージだけで判断するなら、おそらく殺し合いに乗るものだと、そう思っていたのだが。
電話の向こうでその星輝子と名乗る少女は、そのイメージからかけ離れていた。

「なんだか、いつもの雰囲気と違いますね」
『え、あっ…………フ、フハハハハ……は……』
「む、無理しなくて大丈夫ですよ!」

考えてみれば、彼女だってまだ年端もいかない女の子のはずだ。
仕事でこそ激しい姿を見せているのだろうが、その姿が彼女の全てであるはずがない。
気弱で、今にも潰れてしまいそうな声。それが彼女の素の姿なのだ。
ネネは自らの先入観を反省した。

「えっと……それで、あの……」
『……っ、あの!…ね、ネネさんは…』
「……はい」

話が途切れて、何かを切り出そうとしたその時、相手の方から声をかけてきた。
そもそも電話をかけてきたのはあちらの方だ。
世間話をして終わり、というわけではないだろう。
つまり、ここからが本題。ネネには、その大方の予想がついていた。

『こっ、殺し合い……する?』
「………」

いきなり切り出された、彼女の問い。おそらくこれが本題だったのだろう。
それは、栗原ネネ自身がずっと悩んでいた選択だった。
始まってからずっと、時間が流れる事も忘れてずっと考えていた事。


――私は、この問いにどう答えるべきなのだろう。

相手の事を考えるなら、「殺し合いなんて乗っていない」と、そう言う方が賢明かもしれないけど。

でも、それは本当の私の気持ちじゃない。

そんな事を言える程、今の私の気持ちは固まっていない。

だって、だって私――




「………分かりません」

714一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:19:52 ID:aZ9JPVuc0

『えっ?』
「分からないんです。私はどうすれば良いのか、一体何ができるのか……」

気がつけば、ネネは自らの悩みを口に出していた。
一度出してしまった感情は、決壊したダムのように溢れ出ていく。

「プロデューサーさんには、死んでほしくない。
 でも、私は多分……人を殺す事なんてできない。
 やらないと、プロデューサーが死んでしまうから、人を殺さないといけないのに。
 でも、そんなことをしてしまったら…私はもう、二度と大切な人に顔向けできない。
 私は、どっちも選べない。怖くて……何もできない」

今、自分が置かされている現状を口に出して言っているうちに、その絶望を噛み締める。
そしてその現実にどうしても自分が無力だという事を嫌でも知ってしまう。涙が出そうになる。

「私の言っていることは、我が儘なんですか?
 どちらも大切で、どちらも失いたく無い……なんて、望んではいけないんですか!?
 私っ、私は……ただ、皆と一緒に、帰りたいだけなのに……」

それは、途中から涙声の叫びになっていた。
人のためにアイドルとなった少女にとって、誰かを犠牲にしないと生きられない。
その現実があまりにも辛く、厳しかった。

「教えてください……私は、どうすれば良いんですか?」

そして、彼女もまた問いかける。
こんなことを赤の他人に言っても仕方のない事であるはずなのだが、もう彼女は考える事に疲労していた。
決断ができない。どっちに進めば良いのかが分からない。
教えてほしい。導いてほしい。そこには癒しの女神などでは無い、ただの15歳の少女の姿がそこにあった。

一通り言い終わって、ネネはハッとした。
何を言っているんだろう。こんな事、赤の他人に言う事ではない。
自身の発言を後悔し、謝罪の言葉が口から出かかった時――



『……なんだかよくわかりませんけどー…多分、それって、私と同じじゃないですか……?』



静かだった少女が、言葉を発した。

715一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:21:53 ID:aZ9JPVuc0



「……同じ?」
『わ、私だって…殺し合いなんてしたくないし……
 でもプロデューサーにも死んでほしくないし…。
 だって、……と、友達だから。キノコと、―――……』

最後の方は電波状況が悪かったのか、ノイズ混じりで聞こえなかった。
しかし、その名はおそらく彼女にとって大切な、彼女のプロデューサーの名前なのだろう。
……なぜそこでキノコが同列に出てくるのかはネネには分からなかったが。

「友達……」
『そう、友達……。
 私、ボッチだし、キノコ以外に友達居なかったんですけど、
 今は、プロデューサーも、他にも皆……友達……フフ、フヒヒ……』

ボッチ……純粋無垢なネネにとってはあまり聞きなれない言葉であったが、
あまり良い印象の言葉では無いように感じた。

『だから、プ、プロデューサーは、友達だから、助けたい、けど……、
 ここにも、友達が居るから……美優さんと雪美、が……
 殺し合いとか、そんなのできるわけ無いし……どうしようって、思ってたから……
 ほら、やっぱり、私と同じ……フフ』

たどたどしく、彼女は話を続けていく。
……もしかして、彼女なりに励ましてくれているのだろうか?
ネネには電話の先の少女のその真意は分からなかったが、推測はできる。

彼女の言葉には"友達"という言葉が多用されていた。
彼女にとって、……おそらくずっと一人だった彼女にとって、"友達"という存在は想像以上に大きいのかもしれない。
確かに、彼女の言うとおりきっと自分と同じ……むしろ、彼女の方がより非情な現実があるのだろう。
友達を一人として失いたくない。彼女もまた、見えない道の上を歩いていたのだ。
そして、その答えは未だ見えていない。

「その……ごめんなさい。
 輝子さんだって辛いはずなのに、私……」
『あ、い、いや、そういうつもりで言ったわけじゃないんですけど……』

改めて、ネネは自らの言葉を反省した。
いつもは相手の気遣いのできる少女、その素をさらけ出してしまった事に対して負い目を感じていた。
特に、顔さえもよく知らないような人に対して、である。
その様子は声しか聞こえず、会った事もない輝子も察する程であった。


『あ……あの』



だからだろうか。
彼女が意外な提案を持ち出してきたのは。




『だ、だったら……その、私達の所、来ません……?
 えっと……ひ、人が多ければ、な、悩みも解決するかもしれないですよ…』

716一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:24:03 ID:aZ9JPVuc0
「……え?」



彼女が突然切り出してきた提案。それは、合流の提案だった。


『ほ、ほら、こっちは…その、ひ、人が他にもいるから……
 多分、きっとネネさんの役に……た、立てるかも……』

ネネからすれば、それはとても意外だった。
彼女は電話先の相手のことはよく知らない。それは確かな事だったが、
電話での印象から、このように積極的な人物とは思えなかった。

「で、でも、私……その、ご迷惑を……」
『え……め、迷惑なんかじゃ無い、ですよ……多分……』

その事自体初耳だったのだが、どうやら電話先の相手には仲間がいるようだった。
それはこの殺し合いにおいて、少なくとも今は人を殺してない……
つまり、ほぼ殺し合いを否定しているのではないか……と、そう危惧していた。
それが反逆と見なされ、プロデューサーが死んでしまうかもしれない。
だから、その提案を受け入れてしまうのは早計かもしれない。
単純な遠慮だけではなく、彼女にはそんな理由もあった。

「ごめんなさい……私は……その……」
『………』

だが、栗原ネネはその提案を断りきれなかった。
確かに、一人ではまったく分からない事も、他の人がいるならなにか解決法を見いだせるかもしれない。
それにここで断ったとしても、他に案があるわけでも無い。
決断の出来ない彼女を助ける提案。その提案を受け入れるかどうかもまた決断だった。
結局の所、彼女は自分の意思で、犠牲の道を進まなければならない。
………それか、どこかに隠れている、犠牲を出さない道を見つけ出すか。

『………こ、こちらこそ、すいません……。
 なんか、勝手な、こ、事言っちゃって……』
「……あ…っ」



これが、最後のチャンスなのか。
彼女はそう思い、答えを決めかね、ふと窓の外を見たその時――




「あの、私は…っ!?」



栗原ネネは、確かな"死"を見た。





    *    *    *

717一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:25:05 ID:aZ9JPVuc0


『…ッ!』
「な、何!?」

遊園地のトイレの中、人目を避けるように電話をしていた輝子の声が響く。
電話の向こう側で聞こえた物音、中断された相手の声。ただ事では無いと感じた。
もしかして、誰かに襲われた?命の危機が迫っているのだろうか?
悪い想像が彼女の頭を駆け巡る。しかし、その最悪の事態には至っていなかった。

『ご、ごめんなさい…。今、人が来て……その……っ』
「……ひ、人?」

いまいち要領が掴めないが、何やら緊迫した状況のようだった。
だが、とりあえず今はまだ無事なようだ。それだけで一安心だった。

『……輝子さん。あの……輝子さんは今、どこに?』
「え…? ゆ、遊園地ですけど……」
『……私、本当は迷っています。
 ここで進むべきなのか、そうでないのか……。
 今は、ちょっと時間が無いみたいです。
 私が生きて、決断できた時……その時、もう一度電話します。
 それまで……ごめんなさい』
「え……ちょ、ちょっと、ネネさ……っ!」

その声を最後に、通話が切れた。
もう声は聞こえず、ただ携帯の機械音が流れるだけだった。

「………大丈夫、かな……」

状況はさっぱりわからないが、鬼気迫る状況なのはなんとなく理解できた。
そんな中、こちらがもう一度電話を掛ける事は出来ない。
今の輝子にできることは、無事を祈る事だけだった。

718一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:26:58 ID:aZ9JPVuc0

「……なんで、あんな事言っちゃったんだろう……」

彼女は携帯を閉じ、キノコに手を触れ、物思いにふける。
会った事も無い人に、誘いをかける。それは、昔の彼女ならば考えられないような事だった。
彼女がここまで変わった理由……それは、やはり"友達"の存在が大きかった。

三船美優、佐城雪美。同じプロデューサーの元、集まった人達。
人付き合いが苦手な自分に、プロデューサーが手を差し伸べてくれて、今では二人共と話すようになっていた。
キノコを可愛いと言ってくれた雪美、自分に優しく接してくれた美優。
長らく"ボッチ"であった輝子にとって、その全員が大切な友達だった。
一人を経験してきた輝子にとっては、その大切な友達を失いたくない。
そんな気持ちが、少しだけでも確かにあった。

それは今の今まで、はっきりとした気持ちでは無く、彼女自身もそれを意識することは無く過ぎていった。
しかし、少しの好奇心で掛けた電話が、その相手が、彼女にその意思を認識させた。
今までさしたる目的も無くただついて来ただけの少女に、その『目的』が出来たのだ。
だから彼女は、相手に合流を持ちかけた。
それが正しい判断なのかどうかの判断はできなくても、彼女なりの行動を起こすことが出来た。
それだけでも、彼女なりに一歩前進できただろう。

「…これから、どうしよ……、
 ……あ、まずは、戻って、報告しないと………」
 
キノコを弄っていた輝子は、おもむろに立ち上がる。
果たして、電話先の少女は神だったのか、悪魔だったのか。
その答えも、自らの道も、今の彼女にはわからなかった。



【F-4 遊園地/一日目 黎明】

【星輝子】
【装備:ツキヨタケon鉢植え、携帯電話】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:友達を助けたい。けどどうすれば良いかわからない。
1: 栗原ネネの電話を待つ。

※三船美優、佐城雪美、星輝子は同じPによるプロデュースです。
 ただし、同じユニットでは無く、それぞれ単体で活動しています。


    *    *    *

719一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:27:45 ID:aZ9JPVuc0


病院に三村かな子が来たのは偶然ではない。
彼女は、やがて来る他のアイドルとの『決戦』に備えて、医療用品の調達をするべく向かっていた。
全てのアイドルの敵となる彼女にとって、一切の妥協は許されない。
かな子は生き残るために、たった一人のアイドルになるために、計画的に病院に向かった。

ただ、そこに居たアイドルと目が合ったのは偶然であったが。

それは一瞬の事で、咄嗟にそのアイドルは窓から身を隠した。
窓までは距離があり、武器が確実に当たるような距離ではない。かな子は相手に狙い撃ちされる前に病院へ入った。
相手を視認できたのは一瞬の事であり、人数や武器に関しては一切分からない。
相手が誰なのかすら分からず、故にこの殺し合いに肯定的なのかどうかも分からない。
だが、見られた以上はこちらも臨戦態勢を取らなければならない。

銃を構え、病院内を進む。
かな子は一週間前からこの島を訪れ、レッスンの合間にこの島の主要施設は全て訪れていた。
この病院の中で実践レッスンを行ったこともある。
故に、彼女はこの病院の構造を他の誰よりも理解していた。
最短ルートを通り、二階へ上る。そして最短ルートで相手が覗いていた窓へ向かう。
相手に準備させる隙を与えず、迅速に殺す。
もちろん既に相手が迎え撃つ準備をしている場合も考え、警戒を怠らず、かつ迅速に進む。
できる限り冷静に、レッスンで学んだことを生かし進む。
そして、彼女はその窓にたどり着いた。

だが、その場所にあのアイドルは居なかった。
この病院のどこかに逃げたか、隠れたか……彼女はその窓に手をつける。
しかし、かな子には相手がどこに行ったのかが分からなかった。
その場所から何処かへ、その痕跡がどこにも見つからない。
なら、そのアイドルを排除するために手当たり次第に探すしか無いと判断し、ふと窓の外を見て……

――彼女は、もう一つの可能性に気がついた。

720一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:29:02 ID:aZ9JPVuc0

窓の下を見る。そこには、病院の入口を守るように頑丈な屋根がついていた。
2階からその屋根への高さの差は小さく、そして屋根から地面への差もまた小さい。
………例えば、もしここから屋根を伝って飛び降りたとしたら、大した怪我は負わないのだろう。
その事実に気づいた時、彼女は身を乗り出して周りを確認した。
そして、かな子から見て右――方角にして東に、こちらに背を向け走る少女の姿があった。

「………!」

咄嗟に銃を構える。そして、





「……射程距離範囲外、です」

銃をそっとおろした。



背を向け逃げ去る少女の姿を見て彼女は、おそらく殺し合いに乗っていないアイドルなのだろうと推測した。
なら、できればここで殺しておきたい。しかし、彼女には優先すべき事がある。
ここに来た本来の目的、それを成し遂げるのが先だと判断し、かな子は病院の奥へ消えていった。



【G-3 総合病院/一日目 黎明】

【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り)
     M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、カットラス、ストロベリー・ボムx11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。
1:病院内で医療用品等を調達する。
2:最初の6時間は派手な動きはしない。

※ストロベリー・ソナー
 地図上の半径1kmを範囲として、その範囲内にストロベリー・ボムがあるなら地図上に表示するアプリ。
 このアプリのダウンロードは学校の視聴覚室で誰でも可能。ただしそれを知っているのは現在三村かな子だけです。

    *    *    *

721一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:30:15 ID:aZ9JPVuc0

「はぁっ……はぁっ……」

暗闇も開け始め、栗原ネネは草原を走る。
病院へ一人の少女が訪れる。その事実だけなら、彼女はここまで取り乱す事はない。
しかし、ほんの一瞬だけ目が合った。その一瞬だけで、彼女は相手の危険性を察知した。
栗原ネネは死に近い場所に縁があったとは言えただの少女。特別それを見切る能力があるわけではない。
つまり、そんな少女にすら分かる程、あの少女の目は闇を秘め、その姿はおぞましさを身にまとっていた。
想像とは違う、もっと具体的な"死"。彼女はそれを垣間見た。

もしも、あの電話が無かったら。
きっとあれからずっと自己嫌悪に陥り、気づく間も無くあの人に殺されていたかもしれない。
もしも、その相手が待ち合わせの提案をしていなかったら。
きっと窓から飛びたすなどといったことはせず、病院の中で恐怖に怯えて隠れていただろう。
あの電話が、彼女の運命を変えた。
それが良い事だったのかどうか、そしてその先にある結末、そんなもの今の彼女にわかるはずがない。

――私は、そこに向かうべきなのだろうか。
殺し合いなんてしない。それがアイドルとして、人として正しい選択なのだろう。
しかし、そのためにプロデューサーを危険に晒さなければならない。
プロデューサーを助けるためには、殺し合いをしなければならない。
それは、今まで応援してくれたファンの人達……そして、プロデューサーと妹への裏切りだ。
私は、この矛盾に、どうしようもない現実に悩まされてきた。
しかし、それでも時は進む。無情にも、世界は進んでいく。
だからもう、長く迷っている暇はない。
……もうそろそろ、決断の時は迫っている。



彼女の道はぼやけ、そして多く枝分かれしている。
だが、そのうちの一つがまるで星のように輝いてた。
その道に進むのは正しい道?スポットライトから歩き出した少女が選ぶ道は……。



【G-3/一日目 黎明】

【栗原ネネ】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、未確認支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:自分がすべきこと、出来ることの模索。
1:星輝子の元へ向かうかどうかを考える。とりあえず遊園地付近へ向かう。
2:決断ができ次第星輝子へ電話をかける。

722一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2:2012/12/09(日) 20:32:06 ID:aZ9JPVuc0
投下完了しました。
美優雪美輝子はクリスマスパーティーつながりです。

723名無しさん:2012/12/09(日) 20:47:42 ID:sKxS.cK2O
投下乙です。

まだまだどうなるか分からないけど、それでも選んだ第一歩。
一人じゃないと気づいた二人。一人を目指すかな子。
どうなるのか楽しみです。

724名無しさん:2012/12/09(日) 23:04:01 ID:1g7kPc.M0
投下乙
星ちゃんいい子。
電話越しだからなのか、うまくコンタクトとれてえらいぜ

725 ◆John.ZZqWo:2012/12/11(火) 23:51:43 ID:ROm6/nP.0
すいません、少し遅れます。

726名無しさん:2012/12/12(水) 00:05:04 ID:ljcdotNk0
待ってますぜ

727 ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 00:59:49 ID:LHe35kvg0
今から投下します。

728彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:01:02 ID:LHe35kvg0
 なにもない舞台の上に、どうして私たちは生きているのか
 この見捨てられた場所でなにが起こっているのか、それを誰が知るだろう
 私たちがここでなにを探しているのか、それを誰が知るだろう

 またひとり、私たちの中の誰かが心無い悲劇に襲われる
 舞台を隠す暗幕の裏で声をあげることすら叶わずに
 いったい、誰がどうしてこんなことを望むのか

 しかし、それでも――……



 @


「ねぇ“リーナ”、そっちは何か役立ちそうなものあったー?」
「……う、うーん」

懐中電灯を片手にもった日野茜が半分だけ開いたガラス戸から顔だけを出し、中にいる多田李衣菜に声をかけた。
同じく懐中電灯を手にした多田李衣菜がいるのは小さな薬局の中だ。
真っ暗な店内には懐中電灯が作り出す光の円が右往左往しているが、しかしこれといった収穫は見当たらないらしい。

「茜さんのほうはどう? 何かいいもの見つかった?」
「あったあった、ほら!」

言って、日野茜は大きなキャンディ袋を見せた。彼女もまた隣の雑貨店で「この後役立ちそうなもの」を探していたのだ。

「それってほんとに役立ちそうなものー?」

多田李衣菜は得意げな彼女へと懐疑的な視線を向ける。しかし彼女はそれにひるむことなく明るく返した。

「あははっ。でもさ、うちの事務所って飴好きな子多いよねっ! だったらこれは役立つものじゃない?」
「餌付け、かぁ……」

確かにと、多田李衣菜は神妙に頷く。言われてみれば自分らが所属している事務所には妙に飴が好きな子が多い。
例えばニートアイドルとして売り出し中(でもって実際に売れてて驚く)の双葉杏だとか、他にも何人もいたように思う。
それにそうでないとしても甘いものは心を落ち着かせる効果があったはずだ。かさばらないし持っていって損をするものでもないだろう。

「飴だけじゃないよ。ほらこっちもっ! 武器っ!」

日野茜がもうひとつ見せたものは年季の入った竹箒だった。おそらく売り物ではなく店の備品なのだろう。

「もし襲いかかってくるような子がいたら素手だと心もとないし、それに、これだと怪我させる心配もないしねっ!」

今、日野茜と多田李衣菜のどちらの手にも武器らしいものは握られていない。
だがそれは、別に彼女らに武器が支給されなかったことだというわけではない。
実際、多田李衣菜にはオートマグという強力な拳銃が、日野茜には小さいが鋭利なバタフライナイフが支給されていた。
しかしそのどちらもひとたび使用すれば相手を殺しかねない強力すぎる武器だ。
なので二人ともそれはバックにしまっていたし、その代わりとして長さも重さも適当な竹箒はいい選択だと言えるだろう。
もっとも、拳銃のほうは非常に重い上、コッキングピースが堅すぎて非力な多田李衣菜には撃つこともできなかったのだが。

「それでこっちのほうにはなにか役立ちそうなものあったのかな?」
「薬って見てもどれがどういいのかさっぱりで……」

729彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:01:30 ID:LHe35kvg0
日野茜はガラス戸を全て開くと薬局の中へと入ってきて多田李衣菜の隣に並ぶ。
ふたつの光の円の中に浮かぶのはいくつにも細かく区分けされた棚と、その中に並ぶ英語やカタカナの名前の薬品の列だ。
いわゆる処方箋の受け渡しを主とする店のようで、二人が普段目にするような市販薬の類はほとんど見当たらない。

「確かに全然わからない」
「そうですよね」

意気投合してから後、情報端末と地図を頼りに森を抜けて市街地へと移動してきた彼女らなわけだが、
そのまま先へと進むのも無用心だという多田李衣菜の提案により、この隣あう雑貨屋と薬局に寄ったのだ。
現在のところ収穫は日野茜が雑貨店で見つけたキャンディ袋と竹箒のみ。
そして二人で薬局の中を探索すること10分ほど、結局これといったなにかを見つけられなかった彼女らは、
レジの後ろにあった家庭用救急箱をひとつ拝借することで納得すると、その薬局を後にし次の目的地へと足を向けた。


 @


平凡な住宅街の中より立ち上っていた怪しい煙の根元を探していた木村夏樹だが、どうやらそれは普通の煙ではないらしい。
もくもくと勢いは強いがどれだけ近づいてもその根元には火の明かりは見えないし、色も普通ではない。

「紫色の煙……なんだ――いや、もしかして狼煙なのか?」

例えば戦国時代なんかでは遠くはなれた仲間と連絡を取り合う際、狼煙をあげてその色や数などで通じ合ったらしい。
そんなことを木村夏樹はふと思い出した。最近見たTVでそんなことを言ってたはずだと。
もしかしたらこの紫の煙もそうなのかもしれない。
だとすれば、その根元にあるのはトラブルではなく、同じアイドル仲間を探してる子なのかもしれない。だが、

「だとしたら、もう少し場所を選ばないか? なにもこんな住宅街のど真ん中でなくてもよ」

その点は不自然だ。街を離れることはないにしても住宅街の中にも公園などの広いスペースはたくさんあるし、
他にも学校やスーパーの屋上などの少し高い場所で煙を立てれば発見もしやすいはずだ。
とはいえ、そこには事情があるのかもしれないし、行くと決めたのだからどうこう考える必要もない。
やはり万が一には備えるべきとバットを持つ手に力をこめると、木村夏樹は煙に向かって更に歩を進めた。


 @


「みんなはどこにいるのかなぁ……」
「さぁ……? でも、警察署まで行ったらだれかに会えるんじゃないですかね」

日野茜と多田李衣菜の二人は島の南をぐるりと回る幹線道路に沿って、一路南の市街の東端にある警察署を目指していた。
今度の提案は日野茜のものだ。
多田李衣菜に拳銃が支給されているのを見て、「じゃあ防弾チョッキがいるね」というのが彼女の発言である。
さて実際にあるのかはともかく、行くあてもなく警察署なら誰かいそうということもあって二人はそこへと向かっていた。

「ところでさ、さっきは何を聞いてたの?」
「え?」

多分、何も喋らずに歩くのが苦手なのだろう。
現状や今後についての会話が一通り終わると、日野茜は多田李衣菜にそう問いかけた。

730彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:01:57 ID:LHe35kvg0
「ヘッドフォンで」
「あ、……うん、えーとロックだけど。その、UKロックってやつ」
「ふーん、ロックにもなんか種類があるの? そのUK? ロックってどんなの?」
「は? え、えーと……普通じゃなくて、そのロック通なら聞いておかないといけないっていうか……。
 QUEENって知ってるかな? その、ジュエルズ? ……っていう日本限定のアルバムなんだけど…………」

どうもはっきりしない受け答えに日野茜はふぅと小さく溜息をついた。
多田李衣菜はビクりと肩を震わす。だが、その溜息は彼女が考えているような見透かしたり、落胆からくるものではない。
ただ彼女なりに「ロックって難しいんだなぁ」とか、「やっぱりロックじゃだめかなぁ」と思っただけのことだ。

「いやぁ、私にもうひとつ銃があったじゃない? あの“おもちゃ”の」
「ああ、ワギャナイザーだっけ……?」

そうそれ、と言いつつ日野茜は背中のバックから器用にそのワギャナイザーなるものを取り出す。
確かに一見して玩具とわかる拳銃だった。口を開いた小さな恐竜にトリガーとグリップがついているというデザインなのだ。
ここにはいないが、もし安部菜々がいれば「ああっ、なっつかしー!」と驚いたことだろう。

「これね、さっき説明書読んだんだけど“声”を撃つ銃なんだ」
「声?」
「ま、簡単に言えば拡声器なのかな。
 尻尾でスイッチ入れて、声を録音した後、トリガーを引くと録音した声がこの口から出るの」
「ああ、なるほど」

実際にワギャナイザーの尻尾や録音スイッチなどを指差しながら説明する日野茜に多田李衣菜はうんうんと頷く。

「それでね、私は考えたのっ!」

日野茜の考えたこと。それはこのワギャナイザーにみんなが『アイドル』を思い出す声を吹き込めば、
それを聞かせることで暴走してる子は暴走を止め、落ち込んでる子には元気が与えられるのではないかということだった。

「リーナもそうだったでしょう? だからこれはナイスアイデアだと思うんだよねっ!」
「うん、私もそう思うよ。茜さん、それイけてるアイデアだよ」
「でっしょー?
 それで、私はリーナがさっき聞いてた曲が使えるんじゃないかなって思ったんだけど――」
「うーん……これはあんまり『アイドル』って感じじゃないかな」

やっぱりねと、日野茜は肩をすくめる。
そして、だったら仕方ないと、なぜかにやりと笑ってワギャナイザーを多田李衣菜に押しつけた。

「じゃ、私たちが声を吹き込むしかないよねっ! ということでリーナに任せたっ!」
「ええええええええええええええっ!?」

押しつけられた多田李衣菜は大きな声をあげ、そしてどうしてという顔で日野茜の顔を見る。なぜか彼女は妙に自信ありげだ。

「私じゃさ。やっぱり『がんばれー!』とか、『負けるなー!』とか、そうことしか言えないと思うんだよね」
「それでいいじゃ――」
「でもっ! 私はそれが相手によっては押しつけになったり、逆効果だったりする場合もあると思うんだ」

日野茜の言葉に多田李衣菜は口をつぐむ。それは明朗快活な彼女がこの場で見せたはじめての憂いを帯びた表情だった。

「リーナなら、イけてることが言えるんじゃないかな? 難しい音楽も知ってるみたいだし」
「え? えぇ……?」

ここで、多田李衣菜は日野茜がどうして自信ありげなのか気づいた。彼女は自分のことを過剰評価しているのだ。
おそらく変に通ぶろうとしたからだろう。それにイけてるとかどうとかそんなことを何度も言ったのもまずかったらしい。
しかしだからと言って、それを今更否定するのも恥ずかしいし、なにより彼女の期待を裏切りたくない。
少し唸り、そして多田李衣菜は手に握ったワギャナイザーを見る。

『アイドル』とはなにか? いや、自分にとっての『アイドル』とは、自分が『アイドル』を思い出すキーワードは――

「じゃあ、録音するよ?」

多田李衣菜は尻尾を引っ張って電源を入れ、録音スイッチを押す。そして、口を近づけると大きな声でそのキーワードを発した。






 @

731彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:02:30 ID:LHe35kvg0
角を曲がり道を渡るたびに煙への距離は縮まってゆく。時には回り道を強いられることもあったが木村夏樹は確実にそこに近づいていた。
そして、とうとう開かれた窓からもくもくと紫色の煙を吐き出している一軒家を発見する。

「やっぱりただごとじゃないのか……?」

狼煙をあげるにしてもさすがに家の中からというのは不自然だ。
やはりなにかトラブルがあったのだと、木村夏樹はバットを握り締め慎重に一軒家の表側へと回りこんだ。

「ん? ……お? 十時じゃないかっ!?」

角から覗き込み、そして家の前に立っている人物があのシンデレラガールズだと気づいて木村夏樹は声をあげた。

「おいっ、大丈夫か?」

そして、呆然と立っている十時愛梨の元へと駆け寄る。
彼女の姿を確認したことで先ほどまでの警戒心は消えていた。彼女は虫も殺さない優しい子だと、そんな風に記憶していたからだ。
それに彼女は数時間前に目の前でプロデューサーを殺されてしまっている。警戒心は簡単に心配する気持ちへと上書きされてしまっていた。

「なぁ、ここでなにかあったのか?」

木村夏樹の声に十時愛梨が振り返る。だが返事はない。どこか虚ろな瞳で、なぜか喜んでいるような表情。そこに抱く奇妙な違和感。
ふと見れば片手には小ぶりの機関銃が握られていて、そして、次の瞬間――持ち上げられたそれが火を吹く。

「――――――――ッ!!」

パパパという軽い破裂音が深夜の住宅街に響き、そして短く途切れた。

「お前っ!?」

だが一瞬感じた違和感が木村夏樹の命を救った。発砲の間際に銃を蹴りあげたことで向きがそれ、銃弾は彼女を掠めて夜空へと消えていく。
そして彼女の無数のスタッズ(鋲)で飾られたブーツに蹴られた機関銃も十時愛梨の手を離れ、弧を描いて後方へと落ちた。
瞬く間に死がすぐ傍を通り過ぎていったことに木村夏樹の全身は総毛立ち、表情が恐怖に歪む。
だが目の前の十時愛梨はしかしそんな彼女とは対象的に、一撃を受けたのにも関わらずまだ表情は虚ろで、わずかな薄笑いを浮かべていた。

鉄拳が十時愛梨の頬を打った。
驚いたのは拳を振るった木村夏樹のほうだ。殴るつもりなんてなかった。例え命を狙われても相手は女の子だ。それなのに顔を殴っていた。

「あ……、…………っ!」

アスファルトの上へと倒れた十時愛梨を前に木村夏樹は怯えた表情で後ずさる。
彼女を殴った拳は震えていた。それは罪悪感か? 違う、恐怖だ。銃に対する恐怖なのか? そうではない。十時愛梨に対する恐怖だ。
木村夏樹は混乱していた。どうして自分がこうも怯えているのか、それがはっきりと理解できないでいた。
むしろ、ここで震えるのは路上に伏している十時愛梨のほうでなくてはならないというのに。どうしてこうも彼女に恐れを抱くのか。

それは単純なことだ。木村夏樹は十時愛梨の虚ろな表情を見て、その瞬間に彼女の心情をその感受性の高さで感じ取ってしまったのだ。
愛する人を目の前で、しかも自分の拙さゆえに奪われてしまった。そして殺しあいをしないといけないという中での生への葛藤と死の誘い。
どこまでも身体は冷たく苦しく、それでいて触れる空気は生ぬるく気だるい。全ては灰色で、生き残ることすら真の希望ではない。
だが木村夏樹は理解にまでは達しない。銃で撃たれたという現実的な恐怖がその理解を阻害していた。
ゆえに、ただ薄ら寒い恐怖だけが心の中でないまぜになり、よけいに混乱してしまう。それはこの場においてあまりにも致命的な隙だった。

そして再び、今度は一発の強い銃声が住宅街に響き渡り、今度こそ弾丸が彼女の身体を貫いた。






「痛いなぁ……」

十時愛梨は木村夏樹に殴られた頬を撫でながら無感情な声でそう漏らした。
木村夏樹はすでに目の前にはいない。拳銃で撃たれた彼女は踵を返すとそのまま出てきた角に隠れ、逃亡してしまった。

「バットのほうで殴れば殺せたのに」

くすりと笑いながら十時愛梨は地面から立ち上がる。
そして蹴り飛ばされた機関銃を拾うと、アスファルトの上に点々と残る血痕を追ってゆっくりと歩き出した。

732彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:03:05 ID:LHe35kvg0
 @


高森藍子はひとり、ペットボトルの水を手に公園のベンチに座っていた。
水はバックの中に入っていたものだ。
すぐ傍に自販機が立っているし、コンビニの前も通りがかったが、しかし無断で取るのもはばかれたので彼女は水を飲んでいる。

公園の中は静かだ。ときおり風に揺られたブランコがキィキィとか細い音をたてるくらいである。
そんな中、高森藍子は何度も十時愛梨の言葉を、そして自分の言葉を心の中で反芻していた。

『『希望』のアイドルでいてほしい。いいや、みんながそれぞれ『希望』のアイドルでなくてはいけない』

皆が希望のアイドルでいられるにはどうすればいい? そうあれと声をかければいいのだろうか。いいや違う。
希望のアイドルとはなんだろう? そうである私が特別なのか。いいやそんなはずはない。
誰かに微笑んでもらえる。姿が歌が生き様が誰かの希望になる。それが希望のアイドルで、ここにいるみんなが希望のアイドルだ。
だったら、それを思い出せばみんなも――けど、

『アイドルだって、アイドルである前にひとりの女の子なんですよ?』

心の中で十時愛梨が囁く。絶望に染まった声色で。
希望のアイドルは誰かのための偶像じゃない。だからアイドル自身にも希望が必要だ。しかし、彼女はもうそれを奪われている。
そんな子に必要なものはなに? 新しい希望? それは多分違う。それはごまかしでしかないように高森藍子は思う。

「…………はぁ」

大きな溜息が洩れる。思考はずっと堂々巡りだ。
アイドルとは誰かの希望である。しかしアイドル自身にも希望は必要だ。けれどそれをすでに奪われた子がいる。
そして、まだ奪われていないとしても皆が希望を――自らやプロデューサーの命を奪われるという危機に立たされている。
アイドルでなくひとりの女の子であることを優先する子も少なくないだろう。
いや、そもそもとしてこんな状況であってもアイドルであろうとすることに疑問や欺瞞を感じる子もいるだろう。

だがそれでも高森藍子は自身が『アイドル』であることを忘れたり捨てたりしようとは思えない。
なぜならアイドルであることが自分に与えてくれたものも命と同じくらいに大きく、それそのものが希望でもあるからだ。

「こんな考え方って傲慢なのかな。でも……」

それでも『アイドル』は捨てられないし、誰にも手放してほしくはないというのは彼女の偽らぬ本心だった。

733彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:03:28 ID:LHe35kvg0
高森藍子はペットボトルの口を閉じるとベンチから立ち上がった。
なにはともあれ誰かに会わないと話は進まない。それに十時愛梨が凶行に走るというのなら彼女を止めなくてはいけない。
バックを背負いなおし歩き出す。そして公園の出口を潜ろうとしたところで彼女はバットを杖代わりに歩いてくる木村夏樹を発見した。

「大丈夫ですかっ!?」

声を出して駆け寄る。木村夏樹も高森藍子に気づいたようだ。
だがそこが限界だったらしい。彼女は高森藍子のほうを見やるとそのまま路上に崩れ落ちてしまった。

「やだ、これ……っ!」

血塗れの脚を見て高森藍子は悲鳴をあげる。
いったいどうしてこんな怪我を負ったのか、木村夏樹は太腿を傷つけられそこからおびただしい量の真っ赤な血を流している。
どう見ても命に関わる傷だ。実際に彼女の顔は蒼白で、今にも気を失ってしまいそうに見える。

「しっかりしてくださいっ! あのっ、返事はできますか?」
「あぁ、聞こえてる。すまないな…………」

意識はある。しかしその声は弱々しい。いったいこんな時はどうすればいいのか?

「びょ、病院に行きましょう。そこで血を止めないと……それに、えっと、輸血。そうだ、輸血しないと……」
「落ち着きなよ……アンタ、FLOWERSのリーダー、だろ?」
「はひっ?」

弱々しいながらも木村夏樹がおろおろとしている高森藍子の顔を見上げていた。そして腰のベルトを指差す。

「抜いて、ふとももを縛ってくれないか?」
「あっ、わかりました!」

言われるままに彼女の腰からベルトを抜き取ると、それを出血している太腿に巻いてちからいっぱい絞って結んだ。

「これで、出血は止まったかな……?」
「焼け石に、水かも、しれないけど……な……」
「じゃあやっぱり病院に行かないと! 確か地図に……えーと……」
「あぁ、地図に病院があったよな。アタシも、行こうと思ったんだが……ハ、少し遠いよなぁ…………」

単車でもあればなと木村夏樹は笑う。
だがその表情とは裏腹に症状は思わしくないようだ。出血は止めたつもりだが、顔色はますます悪くなるばかりである。

「アタシはもうなるようにしかならないよ……それより、十時に気をつけろ……まだ、近くにいるぞ」
「え……………………」

何者かが心臓を鷲掴みにしたような、そんな衝撃を高森藍子は受けた。彼女の言う気をつけろという言葉の意味。わからないほど馬鹿ではない。
それはつまり木村夏樹にこんな重症を負わせたのは彼女であり、そしてきっとそれにはあの銃が使われたんだと、そういうことに他ならない。

「親しかった、のか? でも……ハァ、アンタ、もうあいつのことは諦めろよ……、アレはもう、無理だ」
「あぁ……ごめんなさい…………」
「アンタが謝る、ことはないだろ……? でも、親友でもなんでも、もう諦めたほうが、いい。アイツは、もう向こう側の人間だ……」
「そんな、そんなことない……そんなことないですよ……」

アンタいい人だなと木村夏樹が優しく呟いた。本当は逆のはずなのに、怪我をしている彼女が励まして、高森藍子のほうが慰められている。
高森藍子はいつの間にかにぼろぼろと大粒の涙を零していた。十時愛梨が人を傷つけたという事実は想像の何倍も衝撃的だった。

「……やられたのは、アタシだけじゃない……きっと、もう他に何人も…………ああクソ、きやがった」
「え?」
「トドメを刺しに、きたのか……、おい、アンタは逃げろよ……、リーダー、だろ? 死んだら他のやつらがかわいそう、だ……」

顔を上げて振り向く、木村夏樹の視線の先、十時愛梨の姿はもう遠くない場所にあった。
すでに機関銃をこちらに向け、狙いながら歩いてくる。その表情は最初に会った時と変わりなく、絶望に染まって張り裂けそうな微笑だった。

734彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:03:48 ID:LHe35kvg0
「『希望』のアイドルをしてたんですか?」
「やめて、愛梨ちゃん」

対面すると身体は自然に動いていた。高森藍子は木村夏樹を銃口からかばうように十時愛梨と対峙する。

「どいれてくれませんか?」
「お願い、この人を殺さないで」
「……だったら、藍子さんが変わりに死んでくれますか?」

銃口が動き、高森藍子の胸を指してピタリと止まる。今回はさきほどよりも距離はない。引き金が引かれれば確実に弾丸は命中するだろう。
それでも、もし自分が死ぬことで他人が助かるなら命を差し出すことができるだろうか? 高森藍子は首を横に振った。

「それも……、できないよ」
「ですよね。『希望』のアイドルが死んだら、その人が死ぬよりももっと多くの人が悲しんじゃいます」
「そ――」
「――そうなんですよ。だって、藍子ちゃんは『希望』のアイドルなんだから」

ひらひらと銃口の先が踊る。まるで高森藍子をなぶるようにふらふらとひらひらと。今この時が楽しいのだと、そう言うように。

「愛梨ちゃんは、どうしたいの? 迷ってるなら……」
「迷ってなんかいません」

ピタリと、再び銃口が胸元に止められる。

「じゃあ、どうして私を殺さないのっ!?」

十時愛梨は高森藍子の視線をまっすぐに受け止めてにこりと笑う。

「それは、藍子ちゃんが『希望』のアイドルだから」
「それって――」

問いかけを無視し、十時愛梨は銃口を高森藍子の胸元からスッとずらすと虚空に向けてパラララララララララ! と銃弾を撒き散らした。
いや、そこには誰もいなかったわけでなく――

「嘘、だろ……?」

振り返った足元で木村夏樹が言葉を漏らす。だが彼女が撃たれたわけでもない。撃たれたのはその視線の先、

「だりぃ…………………………」

高森藍子の視界の中でゆっくりと人形のように地面へと崩れ落ちる多田李衣菜であった。






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735彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:04:14 ID:LHe35kvg0
多田李衣菜は即死だった。少なくとも高森藍子や一緒にいた日野茜の呼びかけに一切応えることなくそのまま死んでしまった。
身体に何発もの銃弾を浴びて、信じられないくらいの血を流して死んでしまった。

十時愛梨は多田李衣菜を撃つとそのまままたどこかへと行ってしまった。
ただ、去り際に「最後まで、私の代わりに輝いた最高の『アイドル』で居てください」と、前と同じ言葉を言い残して。
そして彼女を追う余裕はその場にいた誰にもなかった。



あれから少しの後、彼女らは公園の向かいにある民家の中で衰弱した木村夏樹の治療をしようと必死になっていた。
亡くなってしまった多田李衣菜の遺体と一緒に家の中へと運び込み、布団を引いた一室でなんとか彼女の命をつなぎとめようとしている。

「ねぇ、夏樹さん、なにか食べる? 血が足りない時はほうれんそうだっけ?」
「やっぱり病院に行ったほうが……輸血をしないと……」
「まず……ハァ、お前らが落ち着かないといけないんじゃ、ない、か……?」

薬局で見つけた救急箱が引っくり返され、布団の周りには医薬品や治療用具が散乱していた。
だが、できたことと言えばあるだけのガーゼと包帯を使って傷口を押さえただけだ。彼女達に医療の知識はほとんどなかった。
そして、できることを終えると部屋の中は沈黙に沈み、その沈黙に耐え切れなくなると泣き声が部屋の中を満たしていった。

多田李衣菜が死んでしまい、日野茜は自分を責めて声をあげて泣いた。
高森藍子も同じように泣いた。木村夏樹も声はあげなかったが涙は流していた。
先日までアイドルとして活躍していた子が死んでしまった。ついさっきまで生きてた子がもう生きてはいない。
仲間が、親友が死んでいなくなる。もういつまでも動かせないその事実に、三人はただ気がすむまで泣き続けた。






「だりーのことを聞かせてくれよ。それから、十時のこともだ」

三人が泣きやんだ後、紙のように顔を白くした木村夏樹は二人に多田李衣菜と十時愛梨のことを話してくれるようねだった。
たったこれまで数時間のことだ。しかしそれなのに日野茜はたくさんのことを彼女の伝えた。
彼女を見つけた時のこと。それから森を抜けるまでのこと。そしてその後のこと。話を聞いている間、木村夏樹は何度も笑った。
高森藍子はとうとうと十時愛梨のことを語った。ここに来てからだけではなく来る前のことも一緒に。
十時愛梨は木村夏樹を撃って多田李衣菜を殺した相手だが、それでも彼女の素晴らしいところをいくつもあげて語った。
そして二人の話を聞き終わると、木村夏樹は二人にここを出発するように言った。

「ここで、ひきこもってても、なんにもならねぇよ……。だから、アンタらは早くここを出たほうが、いい」
「そんなっ! だったら夏樹はどうなるんだよっ! 私が背負うからさ、いっしょに行こうよ……!」
「茜ちゃんの言うとおりです。それに他にその傷を治療できる子だっているかも――」

二人の申し出に木村夏樹はゆるゆると首をふる。

「最期は、ふたりきりにしてほしいんだ」

恥ずかしいからよと、隣で寝る多田李衣菜の肩を抱きながら彼女は笑う。

「それに……諦めるんじゃない。アンタらに託すんだ」

そう言って、彼女は自分のバックの中に本があること、できればそれを内容が解るやつに届けてくれと二人に頼んだ。
二人は一瞬、躊躇し、だが彼女の顔を見て結局は言うとおりにすることにした。

「私、絶対戻ってくるからっ!」
「ああ……」
「私も絶対に戻ってきますからね!」
「ああ、だりーと一緒に待ってる」

戻ってくる約束をすると高森藍子と日野茜は立ち上がる。そして、とても小さく見える寝ている二人にまた涙をにじませた。
そんな二人を見上げて木村夏樹はしかたないと笑う。

「だりーの面倒見てくれてありがとな」

歯を食いしばって泣き声を我慢している日野茜にそう言い、そして目元を赤くした高森藍子にも言葉を送った。

「勝てよ。今アンタが考えていることは全部間違ってる。アイドルはLive(生き様)だ」
「Live(生き様)……」
「ああ、勝たなきゃ相手を魅せられない。アンタ勘違いしてるぜ。観客に魅せられることをお願いするアイドルがいるか?」
「そう、ですね。ありがとうございます。もう一度、愛梨ちゃんと話せそうです」
「負けるなよ、『希望』のアイドル」

そうして、高森藍子と日野茜の二人が部屋から新しく出発し、そこには木村夏樹と多田李衣菜だけが残された。

736彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:04:36 ID:LHe35kvg0
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「あー……、疲れた…………」

静かになった部屋の中で木村夏樹は大きく息を吐き、そして隣の多田李衣菜をぐっと近くに抱き寄せた。

「だりーの癖にがんばったじゃないか。アタシなんかいいとこなしだったのによ。ずっと震えっぱなしでさ」

優しく語りかける。だが、当然だが返答はない。しかしそれでも木村夏樹は普段のように語りかけた。
何度も、今のことだけでなく、昨日までのことも、新しく買ったCDのことも、先日行ったツーリングのことや、仕事のことも。
少しずつ小さな声で、まるで二人でカラオケに行ったその後に自分の部屋の狭いベッドで寝る――そんないつものことのように。

「アタシ、例え事故で……足が駄目になっても、絶対に、切ったりしねー……って、ずっと、思ってたんだけどさ。やっぱ切るな」

白くなった顔とは対象的に黒ずんでいる脚をさすりながら木村夏樹は言う。

「自分の身体は……絶対に、なくしたくないって思ってたんだ、けどさ……、動かない足って、すごい、邪魔だぜ?
 もう、今すぐにでも……切ってくれってなー……、そうなる」

はははと声に出さず木村夏樹は笑う。多田李衣菜と二人でいる時のなにも変わらないいつもの会話だった。

「……そういえば、……おまえ、なに聞いてたんだ…………?」

肩にかかったままのヘッドホンに顔を寄せると、上着の中のプレイヤーを探り当てて、木村夏樹は流れてくる音楽に耳を傾けた。

「ああ……“これ”か」

それは、UKロックって何? なんて聞き返した彼女に貸してそのままの、そして木村夏樹が何百回も聞いたアルバムのある曲だった。

「…………いいな。これだったら……二人で、ロックの神様の元に行けるぜ」

じゃあそろそろ眠るかなと、木村夏樹は目を瞑ろうとする。だがその直前、多田李衣菜の手になにかが握られているのに気づいた。
それは一見銃のようでいて全然そうではないとわかる恐竜の形をした玩具のようなものだ。

「なんだ、これ……?」

もう手から取り上げる力はなかったので、木村夏樹は多田李衣菜の小さい手に自分の手を重ねる。そして彼女と一緒にそのトリガーを引いた。
最初に少しだけノイズが吐き出され、そしてもう少ししてからそこにこめられた声が恐竜の口から吐き出される。


『ろ、ロックに行くぜ――――ッ』


それはもう口をきけない彼女の声だった。彼女が『アイドル』に伝える、彼女にとっての『アイドル』のキーワードだった。

「…………は、……ははは、はははは…………、やっぱ、だりーは見所あるよ」

そうして、木村夏樹はとうとうゆっくりと瞼を閉じる。






なにも後悔や思い残しはなかった。短いが最高にロックで楽しい人生だった。次の人生もロックでありますようにと最期に願った。






【多田李衣菜 死亡】
【木村夏樹 死亡】


【G-3・市街地/一日目 早朝】

737彼女たちの中でつまはじきのエイトボール  ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:04:57 ID:LHe35kvg0
【日野茜】
【装備:竹箒】
【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない!
1:熱血!

【G-2/一日目 深夜】
【高森藍子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×2、爆弾関連?の本x5冊、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。
1:愛梨ちゃんも止める。

※FLOWERSというグループを、姫川友紀、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいて、リーダーです。四人同じPプロデュースです。

※ワギャナイザー、金属バット、散らかされた救急箱が多田李衣菜と木村夏樹が死んでいる傍に落ちています。






 @


四人の前を立ち去った十時愛梨は、殴られた頬を押さえ、目じりから涙を零しながら街の中を歩いていた。

「…………ひっく、…………ぅ、…………っく、…………」

殴られた頬は熱をもってズキズキと痛む。だが、彼女が泣いているのはそれだけが理由ではなかった。
ついに人を殺した。同じアイドルの女の子を自らが銃で撃って殺害してしまった。
殺した子が可哀想で、自分が恐ろしくて、崩れ落ちる子を見てられなくて、その場から逃げ出してからずっと彼女は泣き続けている。

心臓が激しく打ちつけ、どうしてあんなことをしてしまったのかと、強い後悔が心を苛む。
当て所ない行く先にはなんの希望もない。ただ自暴自棄になった自分の背を見ながら追い続けるだけでなにひとつ喜びがない。
しかし、それでももう十時愛梨はこの道を曲げるつもりは一切なかった。

「生きろ……生きろ……生きろ……生きろ……生きろ……生きろ……」

プロデューサーの最期に残した言葉を繰り返し反芻する。空っぽの心に何度もリフレインさせる。すると、心は次第に落ちついてくる。
涙は止まり、頬の痛みも気にならなくなる。鼓動も静かに収まり、強い後悔も感じなくなってくる。


「私は間違ってない……」


そう彼女は信じる。例え、もう世界にたった独りだとしても――……






【G-3・市街地/一日目 早朝】

【十時愛梨】
【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】
【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】
【状態:健康】
【思考・行動】
 基本方針:生きる。
 1:殺して、生き抜く。


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 しかし、それでも――ショーは続けられなくてはいけない。

 ショーを止めてはいけない。

738 ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 01:05:23 ID:LHe35kvg0
投下終了しました! 今回は遅刻してすいませんでした。

739 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/12(水) 01:50:17 ID:lh3xBa460
投下乙です!
だりなつが逝ったか…なんとも虚しさを感じる幕切れ
このなんともやりきれない気持ち……これがロワの醍醐味、てことかな
そしてなつきちのなんとロックな事か…!最後は報われ…たのかなぁ…
とときんも潰されそうなのに自己暗示で頑張らないといけないのが…
本当はとときんだって被害者のはずなのに、もう…もーう!

740 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/12(水) 02:53:29 ID:iY7selRA0
>完全感覚Dreamer
みくにゃんが可愛すぎる、これはトップアイドルの風格です    にゃあ
そして雫ちゃんの「ぼんやりしてるけど決して鈍い子ではない」というバランス感が絶妙
この二人はある意味一番殺し合いから遠い位置にいるけど、それだけに今後が気になるなぁ

>一人じゃない、星にウィンク
きのこちゃんがいい子や……! そして早くもクリスマスガチャを拾ってくるとは
ネネさんも行動指針ができたようだし、よかったよかった……
(本当はかな子に蜂の巣にされずにすんでホッとしてるのは黙っておこう)

>彼女たちの中でつまはじきのエイトボール
あー、こうなってしまったかぁ……どっちかは死ぬような気がしていたけども
喪失感はあるけど、こうして二人寄り添って死を迎えるのは、きっと独りよりも安らかだと信じたい
最期までロックで繋がった二人とは真逆に、信念なく一人で彷徨うとときん。追い詰められてくなぁ


あ、自分の分の予約は延長させていただきますねすみません

741名無しさん:2012/12/12(水) 12:44:04 ID:N80Cz4PAO
投下乙です。

ワギャン、懐かしいなあ。
声を武器に戦うところが、アイドルに似てたり似てなかったり。
「威風堂々」が再生されます。

742 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/12(水) 22:02:47 ID:/e5qlAf.0
なつきち……ロックに生きて最後の最期で
だりーなの声を聴けて逝ったのはせめてもの救いだったかなぁ……

早速ですが十時愛梨を予約します

743 ◆John.ZZqWo:2012/12/12(水) 23:30:48 ID:LHe35kvg0
>一人じゃない、星にウィンク
ね、ネネさんセ――ッフ! ほっとしましたw そして輝子よ、おー、つたないけどちゃんとコミュニケーションできるじゃないか、いい子だ。
「……射程距離範囲外、です」 かな子、か、かっこいい……。


塩見周子、小日向美穂の2人を予約します!


後、wikiに収録した際に、状態表とかちょっと修正しました。>彼女たちの中でつまはじきのエイトボール

744 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/13(木) 22:03:40 ID:mdzSFCo.0
高垣楓、佐久間まゆ、ナターリア、南条光を予約します。

745 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:08:52 ID:xoIIzYMY0
ね、寝落ちして遅れましたすみません……。
遅くなりましたが、島村卯月、榊原里美、投下します。

746彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:10:00 ID:xoIIzYMY0
 我に返って最初に思ったのは、どうして私は走っているんだろうという、単純なことだった。

 そう、島村卯月はその時、確かに走っていた。
 僅かな月明かりだけを頼りに、塗り込められた闇の中、足元すら覚束無い下り坂を、
 ぎこちなく頼りない足取りで、それでもただひたすら、ともすれば転がるように。
 視界の悪さを思えば、実際に転げ落ちていないのが奇跡のようなものだった。
 それでもただ前へ進めているのは、この体を衝き動かすものがあるからで。
 しかし、その時の卯月は、それがなんであるのか咄嗟に思い出せなかった。

 いや、思い出したくなかったのだ、本当は。
 あの場所から、心ごと、こうして逃げ出してきたのだから。

 だけど、徐々に再起動する意識が、自分が何から逃げてきたのか認識した瞬間、
 彼女の両足は突然に鉛のように重くなり、数歩歩まぬうちにその足取りを止めてしまった。


(な、なんで私っ、こんなところに……! り、凛ちゃんは――) 


 その時はじめて、島村卯月は、自分がどのようにしてここまで走ってきたのかを思い出した。
 そして、ここまで走ってくる間、一度も凛のことを思い出さなかったことを、自覚した。
 自分が現実から逃げるために、大事な親友を置き去りにしたことを、ようやく理解したのだ。

(も、戻らなきゃ……助けに行かなきゃ……)

 そう思う心と裏腹に、卯月の両足はぴくりとも動かなかった。
 もう手遅れなんじゃないだろうか。自分が戻ったところで何も変わらないんじゃないだろうか。
 坂道を転がる石のように、不安はただ勢いを増して絶望へとすり替わっていく。
 そんな弱い考えが頭を満たして、だけどそんなことはないと振り切ろうとして、


「卯月さん……卯月さぁん……どこですかぁ……おいていかないでぇぇ……」


 恐らくは今までずっと自分を呼び続けていたであろう声に今更ながら気付いた。

747彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:10:55 ID:xoIIzYMY0
 来た道を振り返る。人の姿は見えない。でも、声が少しづつ近づいてくるのはわかる。
 山頂で聞いた時のあのほんわかした喋り方とは大違いだったけど、間違いない。


(さ、里美ちゃん……無事だったんだ……)


 一心不乱に走っている間は自分のことで手一杯過ぎて、周りの音など耳に入っていなかったけれど、
 彼女は今までずっと、卯月の名前を呼びながら走り続けてきたに違いない。
 卯月が逃げ出したあと、彼女もまた自分を追いかけてきたのだろうか。

 生き延びていてくれて嬉しい。純粋にそう感じたのは、間違いない。
 だから本当は、すぐにでも駆け寄って、無事を喜び合いたいと、そう思っていたのだ。
 それなのに。そのはずなのに。


(あ、あれ……)


 咄嗟に、卯月は近くの茂みにうずくまって身を隠していた。
 自分がなんでそんな行動を取ったのか、すぐには理解できなかった。

 ただ、怖かった。
 たとえ合流したところで、いずれはまた山頂と同じようなことが起こるんじゃないかとか、
 明らかに平常心を失っている彼女と一緒にいたら、他のアイドルに狙われるんじゃないかとか、
 今度は、自分のせいで彼女が死んでしまうことになるかもしれないとか、
 今の自分を、自分自身すら見失ったちっぽけな自分を、他の誰かに見られたくないとか、
 いろんな考えがごちゃごちゃになって、何が本当の理由なのか、卯月自身にも分からなかった。
 
(な、なんで……)

 彼女は自分を探しているのだから、答えてあげないといけないのに。
 こんな真っ暗闇で、何も持たずに、見えない驚異に怯えて、どれだけ心細いか、
 今もこうして一人で隠れている卯月自身には痛いくらいに分かるはずなのに。
 それなのに、声が出ない。体が動かない。
 ただ立ち上がって、自分はここだと、安心していいんだと、伝えるだけなのに。
 たったそれだけのことなのに、体が竦んでしまってぴくりとも動かない。

748彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:12:24 ID:xoIIzYMY0

「どこですかぁっ!? ひとりに、ひとりにしないでくださいよぉっ……!」

 里美の必死すぎる泣き声が、一言毎に卯月の心の柔らかい部分を抉っていく。
 全身は石のように固く重く気配を殺しているのに、心だけは傷つきやすいままで、
 卯月は為す術なく、内側から外側から、罪の意識に切り刻まれていた。

(やめて、やめてっ……!)

 これ以上葛藤に耐えられなくて、卯月は両の手で強く耳を押さえつけた。
 早く立ち去ってくれればいいと、心の何処かで感じている自分が嫌いで、
 なのに我が身可愛さで動けずにいることがどうしようもなく辛くてたまらなくて、
 それでも何もできずにいることが苦しくて、でもそのことに安心している自分が確かにいて。
 このまま里美をひとりで行かせるなんて、あまりに酷薄なことだと分かっているのに、
 早くこの時間が過ぎ去ってしまえとひたすらに願っている自分が汚らわしく思えて。

 結局のところ、島村卯月はあまりにも、普通の女の子だった。
 冷酷な打算でもって人を切り捨てることも、覚悟ある善意でもって人に手を差し伸べることも、
 どちらの道も彼女には選ぶことが出来なかったから。そんな勇気を持ち合わせていなかったから。
 だからこうして何もできないまま、何もできないことに傷つき続けるしかない。


 それが、ありふれた日常を幸せなままに享受していた、彼女の罪なのだろうか。


「卯月さぁん、怖い、怖いですぅ、助けてくださいよぉっ……ううっ、うえええん」


 里美は大声で泣き叫びながら、おぼつかない足取りで卯月のそばを通り過ぎていく。 
 自分の名を呼ぶ声が少しずつ遠ざかっていっても、卯月はその場を動けずにいた。
 しかし、その声がほとんど聞こえなくなったと認識した瞬間、金縛りはあっけなく解けた。
 卯月はよろよろと立ち上がった。ただ呆然と、里美の消えたほうを見やった。

(……私、なんで、こんな……)

 頭の中で、自分の言葉だけが別の誰かの囁きめいて反響する。
 卯月自身の思考のはずなのに、それは風に吹かれた風船のように不安定で、
 まるで自分のものではないかのように頭の中でふわふわと漂っていた。

「……でも、私なんかと一緒にいたら駄目だよ、里美ちゃん。だって、未央ちゃんも、凛ちゃんも……」

 ぽつりと口を突いた言葉は、自分自身すらどきりとしそうな響きを持っていた。
 だけど、今の卯月の心は既に冷え切ってしまっていたから、ただ当たり前としか感じなかった。
 自分の大切な友達を死に追いやるような人間だから、他の誰かを救う資格なんてないと思った。
 ましてや、他の誰かに安心感を与えられて、救われる資格なんて、なおさら。

 里美には、死んでほしくない。無事に、生き延びてほしい。
 だけど、彼女を救うのは自分ではない。自分に、彼女を支えるなんて、できそうにない。

749彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:13:28 ID:xoIIzYMY0
 卯月の親友、本田未央は死んだ。無残にも首を刎ねられて、あっけなく死んだ。
 もうあの笑顔は見られない。いつも自分達に勇気を与えてくれた、あの明るさは戻らない。
 どうして彼女は死ななければならなかったのだろう。何故殺されなければならなかったのだろう。

(そんなの、決まってる。私が、ゆかりちゃんを呼んだから。私のせいで、未央ちゃんは……)

 そう。元を辿れば、卯月の思いつきが全ての発端なのだ。
 彼女のアイディアに、呼びかければ殺し合いをやめてくれるなんて夢物語に、巻き込まれただけなのだ。
 未央は何も悪くない。落ち込んだ自分を励まして、支えてまでくれたのに。
 自分のせいで、何も分からないままに死んでしまった。

 そして、殺されたのはきっと、未央ひとりではないはずで。

(……凛、ちゃん……)

 もうひとりの親友のことを思い出すと、目の前に差す絶望の影が一層濃くなって思えた。
 彼女は卯月を庇ってくれたのに。自分の命を賭けて、卯月を死なせまいとしてくれたのに。
 どんな時でも最後まで諦めない彼女が、自分自身を投げ打って救おうとしてくれたのに。
 なのに、卯月は。現実を受け入れられなくて、恐怖に立ち向かうことができなくて、
 何もかも分からなくなって、そのまま凛に背を向けてしまった。

 凛はきっとあのあと殺されたのだろう、と思った。生きているなんて想像もできなかった。

 彼女は、最期に何を思いながら死んでいったのだろう。
 自分を見捨てた卯月をどう思ったのだろう。どれだけ失望し、絶望したのだろう。
 それを考えるだけで胸の奥が内側から張り裂けそうになる。
 時間を巻き戻してあの瞬間からやり直せればどれだけいいだろう。
 そんな子供じみた空想、なんの救いにもなりはしないのは分かっているのに。

 そう、二人はもう、どうやっても帰ってなんてこないのだ。
 その事実が、ただ冷徹な事実として、卯月を打ちのめしていた。
 そうして、二人を生贄にして、自分だけがこうしてのうのうと生きているだなんて……。


(ごめんね、未央ちゃん、凛ちゃん……私を、私なんかを信じたばっかりに……)


 卯月は生気の抜けた表情のまま、ディパックの中へ手をやった。
 しばらくごそごそと中をまさぐったのちに、彼女の両手は何かを掴んだ。
 それは卯月の支給品の包丁だった。
 僅かに森の中に差し込んだ月光がその刃に反射して、誘蛾灯めいた妖しさを与えていた。
 その煌めきに吸い寄せられるように、卯月はその切っ先を自分の胸に向けた。

750彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:14:50 ID:xoIIzYMY0

(仕方ないよね……こんな私なんて、生きていたってしょうがないもん……)


 大事な人を犠牲にしてまで生きようとするような自分は、死んでしまえばいい。
 こんなことで自分のことを二人が許してくれるなんて思わないけれど。
 もしもあの世があるのなら、心の綺麗な二人は天国で、自分は地獄行きだろうけど。

 それでも、もう他にどうしようもないと思った。
 親友を殺してまで生きながらえる理由なんて、卯月には思いつかなかった。

 包丁の先端を自分の胸に添えると、そのまま柄を強く握り締めた。
 後は、両手に少し力を加えるだけ。


(お母さん、お父さん、おばあちゃん……悪い子で、ごめんなさい……)


 両手に、少し力を加えるだけ。


(里美ちゃん、美波さん……巻き込んで、ごめんなさい……見殺しにして、ごめんなさい)


 少し、力を加えるだけ。


(ゆかりちゃん……私、もう笑えないよ……どうしたらいいか、分からなくなっちゃった)


 力を、加えるだけ。


(だから、これで、おしまい。もう、全部、終わり)
 

 力を――。

751彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:16:02 ID:xoIIzYMY0

(……………………。)


 ――。


「……う、ううっ、ねえ、未央ちゃんっ」


 ――力が、入らない。


「み、未央ちゃん、いっ、遺書の書き出しって、どうするんだっけ、ぐすっ、うっ」


 もうこんな自分は死んでしまえって、そう思うのに。


「う、い、今、今必要なんだよ、なんであの時教えてくれなかったの、未央ちゃんっ……!」


 なのに、最後の一歩が踏み出せない。


「もっと、もっとおしゃべりしたかったよぉ……もっと一緒に笑いたかったよぉっ……!」


 生きていたって仕方ないのに、生きていたい。生きていても辛いだけなのに、生きていたい。


「りっ、凛ちゃん、も一度、諦めないでって言ってよ……私のこと励ましてよぉ……ぐすっ」


 震える卯月の手から包丁の柄が滑り落ち、重力に引かれるままにその切っ先は地面に突き立った。
 それを見て、自分は自殺することも出来ないんだと、卯月ははっきりと自覚して、 


「う、うぅ、っ、――――――――――z__________っ!!」


 声にならない程に掠れた、悲鳴めいた叫びを上げて、彼女はその場にへたり込んだ。
 まざまざと蘇る親友達の死の実感が、もはや逃れられない絶望として卯月を覆っていた。

752彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:17:45 ID:xoIIzYMY0
 
 自分の力で死ねないのなら、卯月はこれから、ひとりぼっちで生きていくしかないのだろう。


 だけどそんなこと、今まで一度も想像したことがなくて。


 今までずっと三人一緒だったから、今からずっと独りだなんて考えられないから。

 
 だからあの日に帰ってきて欲しくて、それでもそんなことは有り得ないと理解してしまって、
 それでも笑顔を忘れたくなくて、だけど、大事だったはずの親友を、楽しかったはずの日々を、
 きっと幸せだったはずの明日を、他でもない自分が身勝手に裏切ったのだと思い知った時、


「こんなのやだよ……こんなにずるくて汚いのが、私だなんて、やだよぉっ……」


 彼女はそこから一歩も動くことができなくなってしまった。



【E-5 山間部/一日目 早朝】

【島村卯月】
【装備:拡声器】
【所持品:基本支給品一式、包丁】
【状態:健康、後悔と自己嫌悪】
【思考・行動】
基本方針:??????
1:どうすればいいんだろう……

※凛は自分のせいで死んだと思い込んでいます。




【榊原里美】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、パニック】
【思考・行動】
基本方針:死にたくない
1:怖い、見失った卯月を見つけたい

※卯月を見失いました。
 卯月よりも山のふもとに近い位置にいます。

753 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/14(金) 08:18:52 ID:xoIIzYMY0
投下完了しました。重ね重ね、遅刻すみません……

754 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/15(土) 04:16:02 ID:GxiAtQ1w0
投下乙です!
しまむらさんは現実というあまりにも高い授業料を支払わせられたなあ……
ちゃんみおはアレされたし、しぶりんも絶賛凹み中……ニュージェネ総崩れ状態だ
そしてある意味超絶KYなさとみんw助けて欲しかったら少しは黙れとw

それでは十時愛梨を投下します

75523時59分59秒 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/15(土) 04:19:59 ID:GxiAtQ1w0
 
 運命が変わった日は――そう、いつかのバレンタインイベントだった。
 それまでは近頃頭角を現してきた若手アイドルのひとりで、
 コアなファンは以前からいたものの、そこまで常に多数のファンに囲まれるわけでもなかった。

 だけどその日を皮切りに彼女の――十時愛梨の運命の車輪は激しく回り始める。

 眠っていた実力が開花したのか。
 はたまた類い希なる運に恵まれたのか。

 まるで江戸時代末期の『ええじゃないか』のごとく流行神に大衆は彼女に魅入られ、ブームを巻き起こした。
 倍増する仕事、連日の取材。
 流行神は愛梨の戸惑いなぞどこ吹く風で彼女をシンデレラへと押し上げる。
 高みへ、さらなるアイドルたちの頂点へ。
 狂乱した大衆はついに150人のアイドルの中から愛梨をシンデレラガールへと導いた。

 ごく普通にアイドルに憧れた女の子がアイドルの頂点に上りつめた。
 魔法によって馬車に変えられたカボチャとネズミは愛梨を乗せてさらに爆走する。
 まるでブレーキの壊れた特急列車。
 人気はさらに加熱しファンは狂乱する。

 愛梨はただパーティーに向かう馬車から振り落とされないようにするのに必死だった。
 分不相応に手に入れてしまった地位に負けないようにひたすら仕事やレッスンに励む日々。
 普通の女の子であった愛梨ひとりではとてもそのプレッシャーに耐えることは出来なかっただろう。

 だけど彼女にはもっとも信頼し、時にはやさしく、時には厳しく彼女を導くプロデューサーがいた。
 彼との二人三脚がなければとてもシンデレラガールの重圧に耐えることは出来なかった。

 だが信頼し、そして異性としても意識しだした彼はもういない。
 彼女の目の前で物言わぬ骸と化した。
 魔法は解けてしまった。


 だから一人ぼっちに戻った愛梨は、自分で自分に魔法をかけるしかなかった。
 元の灰かぶりに戻ってしまわないように。


「終わらない……終わらない……こんなところで私の魔法は絶対に終わらせない……」


 今もなお残る人を殺した感触。
 ただ自分は銃の引き金を引いただけなのに、まるで人を刺し殺したか殴り殺したような死の感覚がべっとりとまとわりつく。
 これこそ彼女が自分自身にかけた魔法。
 この島では23時59分59秒より決して進まず、また決して戻らない時間。
 いつまでもシンデレラでいられるかわりに時が進んでしまえばいつでも階段から地獄まで転がり墜ちる。
 シンデレラであることが自らの存在意義でしかなくなった彼女が自らにかけた悲しい魔法だった。

 彼が最期に残した『生きろ』の言葉は呪いとなって彼女の魂を蝕み続ける。
 

 150人の頂点に立てたのなら、65人の一人になるしかない。
 それが自らのせいで命を落としたプロデューサーのせめてもの償いと思うしかなかった。

75623時59分59秒 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/15(土) 04:21:44 ID:GxiAtQ1w0
 
「藍子さん――私はあなたが羨ましい」

 堕ちたシンデレラが唯一認め、失った希望を託したアイドル――高森藍子。
 彼女は絶望に抗い、最後までアイドルとして生きるつもりなのだろう。

「藍子さんがアイドルであり続けられるのなら……私は安らかに絶望できる」

 殺して。
 殺して。
 殺して。
 殺し尽くして。
 絶望の果てに生にしがみつく。
 最後の相手が藍子でありますように。
 最後のふたりとなってもアイドルでありつづけた藍子でありますように。

 そして愛梨はふと思う。

 ――どうして私は藍子さんに執着しているだろう。と。

 シンデレラたる自分と双璧をなすアイドルユニットFlowersのリーダーたる高森藍子。
 彼女もまた世間の狂熱に晒されながらも高みを目ざし続けていた。

 同じ世間の祝福という名の呪いをその身に浴びながらも目指す道が分かたれてしまったのか。
 そんなこと言うまでもない。

 藍子には頼れる仲間がいた。
 苦しいときも辛いときもプロデューサーだけではなく、同じ重圧を分かち合える大切な仲間たちがいた。

 でも、愛梨にはプロデューサーしかいなかった。
 彼がいたからこそシンデレラの重圧に耐え抜くことができた。
 だが、今となってしまってはひとりぼっちのシンデレラは絶望に堕ちる以外に道は存在しなかった。

 だから託した。
 まだプロデューサーが生きていて、頼れる仲間がいて、アイドルとして輝き続けることができる彼女にひとかけらの希望を託した。
 階段に残されたガラスの靴を拾う役目を藍子に託した。

「勝手ですよね私。絶望して、それなのに壊れた希望を藍子さんに勝手に見いだして」

 シンデレラの重圧。
 プロデューサーへの恋心。
 そんな彼の死。

 今の愛梨がすがれる物は彼の最期の言葉と、藍子に押し付けた希望だけだった。
 それがなければとっくの昔に自ら命を絶っていたか、狂っていただろう。
 もう後戻りはできない。
 今の愛梨は返り血を浴びたドレスをまとったシンデレラなのだから。

75723時59分59秒 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/15(土) 04:22:52 ID:GxiAtQ1w0
 

 ◆


 空が白み始めた。
 極限まで研ぎ澄まされた緊張の糸が昇りつつある太陽に緩んでくる。
 
「少し……休もう……」

 愛梨は肉体、精神共に限界だった。
 少しでも休息を取らなければ彼の約束も果たすことはできない。
 この島には他にも愛梨と同じ結論に至った者が必ずいるはず。
 今のろくに頭の回らない状態で対峙することなんて到底不可能だ。

 愛梨は適当な民家を探し出して玄関のドアノブを開ける。
 幸いドアに鍵は付いていない。土足で薄暗い民家に上がった愛梨は裏口があることを確認すると両方のドアを内側からロックをかけた。
 これで何者かがやってきても少しは目を覚ませる余裕ができるはず。

 リビングや風呂、そしてトイレの戸締まりは確認した愛梨は襖から毛布を取り出すと頭からすっぽりと被りリビングの壁に背をあずける。

「寒い……な。私ってこんな寒がりだったっけ……」

 疲労と眠気で朦朧とする愛梨の脳裏に一人の女性の姿が浮かび上がる。
 奇しくも愛梨と同じプロデューサーの元でデビューしたアイドル――高垣楓。
 クールなミステリアスな大人の印象を持ちながらもどこか子どもっぽい雰囲気を持った不思議な女性。
 年の差を感じてか積極的な交流はなかったものの同じアイドルとして愛梨にないものを持っていた彼女は憧れの対象でもあった。
 それは愛梨がシンデレラとなった今でも変わらないものだった。

 彼女は今どうしているだろうか。
 自分のせいで死んでしまったプロデューサーを恨んでいるだろうか。
 それとも大人な彼女はプロデューサーの死を受け入れているのだろうか。
 どちらにせよ。愛梨は彼女に確信めいたものを持っている。

 きっと――彼女は彼に恋をしていた。
 だって自分も女の子だから、恋というものがどんなものかよくわかる。感情をあまり表に出さない楓の様子の変化は否応にも理解できるのだ。
 だからこそ、先にプロデューサーにふり向いて欲しいと愛梨は彼にキスを求めたのだった。
 

(あはは……抜け駆けの代償がこれだなんて、かみさまはほんと酷いよね……)


 生き残るために全てを犠牲にする愛梨はもう止まらない、止まれない。
 でも時計の針は23時59分59秒で止まったままだった。




【G-3・市街地/一日目 早朝】

【十時愛梨】
【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】
【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】
【状態:健康】
【思考・行動】
 基本方針:生きる。
 1:殺して、生き抜く。
 2:少しの間眠る

758 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/15(土) 04:23:38 ID:GxiAtQ1w0
投下終了しました

759 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/15(土) 12:45:56 ID:GxiAtQ1w0
すみません少し修正を
とときんの藍子への呼び方は登場話において
藍子さんではなく藍子『ちゃん』でした。wiki収録においては修正お願いします

760名無しさん:2012/12/17(月) 05:26:30 ID:ZDg3SgWI0
行き止まりの絶望、行き止まることこそ希望
必死にすがりつく少女の時間は23時59分59秒で留まり続けるか
投下乙です

761 ◆John.ZZqWo:2012/12/17(月) 19:36:54 ID:zr0QsXyc0
>彼女はどこにも辿りつけない
その時はなにも考えずにただ必死だっただけだろうに、しぶりんもしまうーも、ズーンとヘコんでるよな……w
そりゃあまぁ、いたしかたないとはいえ呼びかけしたらあんなターミネーターが現れたんだがからしかたない。
しまうーは放送聞けばしぶりん生きてることはわかるけど……さて、その後どう動くのか。
さとみんはー……、うん、がんばれ!

>23時59分59秒
なんだろうこのタイトル?と思ったけど、意味がわかるとかっこいい!w
すぐにつないでもらった形だけど、ふふふ、いいですねこの暗黒シンデレラ。


で、予約延長します。

762 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/18(火) 08:41:15 ID:UlpFQAgU0
皆さん投下乙です!
>彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
しぶりんがバベルにたどり着いた……w
ナムコでバベルと言えば色々あるけれども……w
それにしても殺せないけど、今までどおりには出来ない。
そんなしぶりんは、やっぱいいなぁ

>オキガエ・イン・エアポート
ああ、何時もの道明寺に……w
でも結局は殺しをするためなんだよなぁ。
お互いに目指してるものが切ない。

>完全感覚Dreamer
みくにゃんが色んな意味でのりのりだにゃぁ。
大いに勘違いしてるけど、何となく違うと思ってる雫さんとのギャップがいいにゃあ。
今後現実見てみくにゃんがどうなるかたのしみだにゃあ

>一人じゃない、星にウィンク
おーすごくネネさんがいいなあ
悩んで決断できなくて、それでも選ぼうとして。
きのこも友達の為に動こうとして。
二人とも幸があるといいなあ

>彼女たちの中でつまはじきのエイトボール
あぁだりなつが一緒に…………
とときんの言葉が重い。
しっとりした、それでいて喪失感が半端無い。

>彼女はどこにも辿りつけない
しまむらさんもがちで凹んでるな……仕方ない状況とはいえ。
心理描写が本当にえぐいw
さとみんは本当ふんだりけったりで可哀想w

>23時59分59秒
タイトルが実にいいなぁ
どんなにきつくても、魔法を解かせないためにがんばるとときんはせつないなぁ
もう殺してしまったしどうなるのか

最後に、神谷奈緒、北条加蓮で予約します

763名無しさん:2012/12/18(火) 16:13:04 ID:5FKXuRiw0
新ガチャは小日向ちゃんか
えっとこのロワじゃ何してたか思い出せなかったので
読み返し
よし、熊恋敵に支給ry

764 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/18(火) 23:03:23 ID:DWU3npNg0
>彼女はどこにも辿りつけない
さとみんは一度報われかけた分さらに可哀想だなぁ
ニュージェネ最後の砦(と本人は思ってる)しまうー……
だんだんとこのロワは黒いところが増えてきた気がしますぜー……

>23時59分59秒
既に他の人が感想で述べてますけど、良いタイトルですなぁ
自分にかけられた最後の魔法、それをとかせない為に時間が止まる。
うーん……悲しい。悲しすぎる。ホント、ロワっぽくなってきたなー

すみませんが、自分の予約延長します

765 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/19(水) 07:58:53 ID:OeKa6K7.O
>23時59分59秒
シンデレラ誕生の経緯、藍子への感情、楓さんとの関係と、とときんの輪郭がはっきりして来た感じ
こうやって少しずつキャラクターが立っていく、これもまたリレーの醍醐味だなぁ
自分のパートで使ったフレーズを丁寧に拾って貰えて、一書き手としても有り難い限りです


向井拓海、小早川紗枝、松永涼、予約しますねー

766 ◆John.ZZqWo:2012/12/19(水) 22:10:12 ID:3zjEl/Ak0
投下します。

767彼女たちが駆け込んだナイン-ワン-ワン  ◆John.ZZqWo:2012/12/19(水) 22:10:51 ID:3zjEl/Ak0
「おまちどーさま」

言いながらドアを開けて入ってきた塩見周子の両手には、大きめのどんぶりがそれぞれに乗せられていた。
小さな事務机の上、彼女が戻るのを待っていた小日向美穂の目の前へとひとつ置き、そしてもうひとつをその向かいに置く。

「じゃあ、食べようか」

ふぅと小さく息を吐くと塩見周子も椅子に座って手を合わした。

「あの……、これは?」

小日向美穂の目の前、ほかほかと湯気をあげているのはとてもおいしそうなカツ丼だ。
塩見周子は「ごはんとってくる」と言って彼女をここ――警察署の取調室――に置いて部屋を出ていったが、
しかし時間はそれほど経っていない。せいぜい十数分というところだ。だとすれば彼女はどんな魔法を使ったのだろう?

「取調室ならカツ丼でしょー」

それは確かに、と小日向美穂は納得するが、しかしそういうことが聞きたいのでなく、だが彼女の言葉は止まらない。

「ねぇ、カツ丼って和食と洋食のどっちだと思う? 丼は和食だけど、豚カツは洋食だよね?」

そのマイペースさに小日向美穂は答えを返すことができない。
しかし彼女は「でも洋食屋さんにはないから和食なのかな」と勝手に納得していた。
更には「ピザまんもあれって中華なのか洋食なのか悩ましいね」などと話を発展させてゆく。

「ねぇ、食べてよ。ていうか食べて。せっかく作ったんだからあったかいうちにね」

うんと頷いて小日向美穂は箸を取る。そして今度こそ正しく尋ねた。

「これって周子さんが作ったんですか?」
「うん、そうだよ。おかしい? それと、周子って呼びすてでもいいよ」
「ん、……えっと、じゃあ周子……ちゃん。でもすごく短い時間だったのにこんな立派な――」
「ほとんどレトルトだけどね」

そして塩見周子はどうやって目の前のカツ丼を用意したのか、その種を――食べながら――説明しはじめた。
材料に関しては警察署の前にある商店から入手してきたらしい。なんでも、ここに入る時にはすでに目をつけていたそうだ。

「ごはんはパックだし、カツは冷凍だよ。それとここの給湯室にコンロがあったからさ、使わせてもらったの。
 あたしがしたのはごはんとカツをあっためて卵でとじただけ。ね? 全然簡単で不思議じゃないでしょ?
 あ、それとも、あたしが料理できるのがイメージじゃない? こう見えても家事くらいできるよ。家出娘だし」
「そ、そうなんだ……」

彼女の饒舌な言葉を聞きながら小日向美穂はカツ丼を口に運ぶ。適当に作ったという口ぶりだがその味はとてもおいしかった。
一度味が口の中に染みると箸は止まらなかった。思っていたよりもお腹がすいていたのだとわかる。
そういえば、この前に食事をとったのはいつだったろう? 思い出そうとして小日向美穂はあっと大きな声をあげた。

「どうしたの? やっぱり三つ葉がないとカツ丼じゃない派だったりした? 野菜は傷んでるかもって玉葱も使えなかったんだけど」
「そ、そ、そんなことはないよ。そうじゃなくてわたし……、仕事すっぽかしちゃった」

はい?と塩見周子が頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
えーと……と、小日向美穂は目を泳がせ、そして頭の中で整理したことを言葉に出した。

「わたし、昨日、CDの収録の予定があったんです……」
「あー……」

なるほどねと塩見周子は頷く。しかし、小日向美穂は彼女のように簡単にしかたのないことだとは割り切れなかった。
『Naked Romance』――ありのままの恋心とタイトルのついたその曲は、彼女にとってできるだけの告白だったのだから。
いつかその笑顔をそっとわたしだけにむけてね――と、たとえそれが叶わなくとも、(密かに)想いを言葉にできる機会だったのだ。

768彼女たちが駆け込んだナイン-ワン-ワン  ◆John.ZZqWo:2012/12/19(水) 22:11:33 ID:3zjEl/Ak0
 @


「なにかさ、心配事があるんだったら言いなよ」

そのためのこれとこれなんだからさと、塩見周子は片手でこの取調室を、もう片手でカツ丼を指した。

「これから先、長丁場になると思うよー。だからさ、できるだけ思いつめないほうがいいと思うんだよね」
「長丁場……?」

その根拠はどこにあるのだろう? 疑問に思い、小日向美穂はあまり表情の変わらない塩見周子に聞いてみた。

「この殺しあえって話だけどさ。あたし、さっきも言ったけどする気はないんだ。全然ね」

その理由を彼女は饒舌に語る。
まずはこの殺しあい企画そのものが本当のことだという保証がまだない。
本当だとしても人殺しなんかまっぴらごめんだし、実際にそういうゲームだとしても待ったり逃げたりしたほうが生き残りには有利だとも。

「漁夫の利とか、果報は寝て待てとも言うしね。それに――やっぱり、実感がないよね。美穂ちゃんは違う?」

確かにと小日向美穂は頷く。
この殺しあいに対する漠然とした不安は決して小さくはない。だが、実感があるかというとそれをはっきりあるとは言えなかった。
ひとりのプロデューサーが死ぬ場面を見たが、その後また意識を失ったことであれが本当だったのかも今は曖昧だ。

「なのでとりあえず誰かを殺したりーとかは考えない。
 殺しあいをしないとペナルティがあるようなことを聞いた気がするけど、それもあるとしたらその前に警告してくれるだろうしねー」

今二人でいてもなにもないんだから大丈夫じゃない?と塩見周子は子悪魔的な印象のある笑顔を浮かべる。

「だからあたしはとことん待つよ。それにね、待ってたらそのうち助けが来るかもしれないしね」

え?と小日向美穂は小さな声をあげた。言われてみれば当然の発想だが、今の今までそんなことは思いついてもいなかった。
それはきっと自分を助けに来てくれるのはプロデューサーだけだと、どこかで決めつけていたからなのかもしれない。

「さっき美穂ちゃんも言ったじゃない仕事すっぽかしたって。
 実はうちのほうもそうなんだよね。本当だと今日はレギュラーで入ってる番組の収録日だもの」

だから、アイドルがいないことに気づく人は必ずいるはずだと塩見周子は力強く言う。
スタッフだけではない、家族や友人の中にも連絡が取れないことを不審に思うものが出てくるだろう。
しかも、消えたアイドルはひとりやふたりではないのだ。50人ものアイドルが一斉に消えたとなれば騒ぎにならないはずがない。

「だから、助けを待つってのは悪くない案だと思うんだよね。そりゃあ、今日明日ってわけにはいかないかもしれないけどさ」

それが長丁場になると思った理由。そう、塩見周子は自分の話を終えた。

「で、そっちはどうなんかな?」
「わたしは……」

言いよどむも、しかし小日向美穂は複雑なことを考えていたわけではない。むしろ気になることはとても単純なことだ。
ひとつはプロデューサーの安否が気がかりなこと。もうひとつは――

「…………歌鈴ちゃんのことが心配で」
「ああ、道明寺ちゃんかー。なるほどねー、確かにあの子は心配だよね」

塩見周子は名前を出しただけで、その心配だという内容を理解する。それほどまでに彼女のうっかりは事務所の中で有名だ。
しかし小日向美穂の心の内にある心配はそれとは少し異なる。
彼女はどうするのだろう? そしてわたしは彼女に対してどうするのだろう?
けど、その違いを言葉にするほど小日向美穂に度胸はなかったし、それを誰かに打ち明けようという気持ちも今は持ってなかった。

769彼女たちが駆け込んだナイン-ワン-ワン  ◆John.ZZqWo:2012/12/19(水) 22:11:58 ID:3zjEl/Ak0
 @


「さてと、食べたら探検かなー」

取調室から出ると塩見周子はそう言いながら背を伸ばす。小日向美穂とふたり捜査課のオフィスを抜けるとロビーへと出た。

「んー、目当てのものはどこにあるんかなー」
「防弾チョッキですよね?」

小日向美穂は小走りに案内板へと向かうが、しかし多分そこに警察官の装備が保管されている場所などは記されていないだろう。
塩見周子はロビーの中を見渡す。
明かりは点いてるがしんとしていてどこか冷たい感じだ。人がいるべき場所に人がいないからそう感じるのだろうか。
出入り口の脇にはこの警察署のマスコットらしき制服を来たねずみの人形が立っている。台座には「MAPPY」と名前があった。

「でもどっかにあるよね。おまわりさんってみんな防弾チョッキしてるし」

実は日本の警官が装着してるあれは防刃ベストであって防弾チョッキではないのだが、よく知らない彼女らが勘違いしてもしかたない。
ともかくとして、彼女たちには武器が与えられていた。そしてそれは他の全てのアイドルにも与えられているはずだろう。
しかし逃げと待ちを選んだ彼女らには、それらに対して身を守るものが足りていなかった。ゆえに防弾チョッキを探しているのだ。

ちなみに塩見周子にはアーチェリー(洋弓)とその矢がセットになって支給されていた。今は彼女の肩にかかっている。
小日向美穂のほうに支給されたのは草刈鎌だ。見るのも触るのも怖いというので今は彼女のバックの中にしまわれている。

「周子さん、そこは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
「関係者以外でも入れる場所にはないでしょ。それに周子でいいってば。ちゃんでもさ」

受付カウンターの奥。関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を押し開け、そしてふたりはやや緊張しながらその中へと入っていく。



装備保管庫は簡単に見つけることができた。扉のすぐ向こう側に関係者向けの案内板があったからだ。
入ったそこは長い廊下になっており左右には扉が並び、奥は2階と地下に続く階段がある。
案内板によれば、2階は道場と仮眠室があり、地下には留置場と死体安置所があるらしい。
ふたりが目指す部屋は廊下の奥を曲がって更にその先のつきあたりだ。手前に押収物保管庫があって、その向こうに装備保管庫がある。

「よかった。鍵はかかってないみたい」

少し重たい扉を開き塩見周子は中を覗きこむ。しかし目の前の光景は少し想像していたものとは違っていた。

「鍵が、かかってますね……」

いっしょに入ってきた小日向美穂が立ち並ぶロッカーの戸を引きながら言う。
そう。どうやら警官の装備はどれも鍵のかかったロッカーに入っているようなのだった。考えてみれば当然のことだ。
しかしそうでないものを彼女らは部屋の奥で発見することができた。

「これ、あたしたちでも着れるかな?」
「鎧みたいですね」

そこに立てかけてあったのは機動隊の隊員が着ているような全身を覆う防護服だった。
服とはいうが全身にプロテクターがついているので見た目は小日向美穂が言うように鎧のようでもある。それが二つ並んでいた。

「いけるかな……よっ、……と、あ、重い……ちょっと、助けて……っ」
「だ、大丈夫ですかっ! って、きゃあ!」

あまり広くはない部屋にどすんと音が響いて埃が舞い上がった。
その装備は鎧のような見た目同様の重さがあったらしい。
幸い踏み潰されるようなことはなかったが、しかし彼女らからはもうこれを着ようという気持ちは今ので完全に失せてしまっていた。

770彼女たちが駆け込んだナイン-ワン-ワン  ◆John.ZZqWo:2012/12/19(水) 22:12:17 ID:3zjEl/Ak0
 @


「次はどこに行こうか。道明寺ちゃん探すんでしょ?」
「え? あ、そうですね。どこに行けばいいのかな……」

しばらくの後、二人の姿はしんと静まるロビーの中にあった。
二人ともおそろいのヘルメットを被り、これもおそろいの防刃ベストを着込んでいる。
ヘルメットは防護服とセットになっていたものだ。プロテクターは無理だが、これだけなら私たちでも……ということで持ち出したものである。
本来の目的であった防刃ベスト(二人は防弾チョッキと思いこんでいるが)は、部屋の角に座布団のように無造作に積まれていた。
小柄な彼女らには少し大きく、なにより全然かわいくはなかったがそんなところに文句を言ってもしかたない。

「じゃあ、次は魚市場でいい?」
「え?」
「どうせあてずっぽになるしさ、だったらおいしいものが食べれそうな場所がいいじゃない。」

眠たくなったら今度はホテルだよね。そう言いながら塩見周子は歩きだしてゆく。
少し見送り、そしてはっと気づいて小日向美穂も彼女の後を追い始めた。外に出ればもう空は少しずつ白みはじめている。






「(わたしは――、わたしはどうしたいんだろう……)」

塩見周子の後姿を見ながら小日向美穂はポケットの中の小瓶に触れる。ポケットの中に入っているのは毒薬だ。
これがあることを目の前の彼女は知らない。だが小日向美穂も別に隠しておこうと思っていたわけでもない。
ただ、バックの中身を確認しあった時には気づかなくて、後から出てきただけの話だ。
言おうと思えばいつでも言うことができる。いや今すぐにでも言ったほうがいいだろう。しかし、どうしてか小日向美穂にはそれができないでいた。

目薬を入れるほどの小さな瓶の中に入っている毒薬は無色透明で、この一瓶分を飲ませればその相手は絶命するという。
呼吸循環不全を起こし、致死量に至らない場合でも適切な治療が行わなければ数日間苦しんだ上で死ぬと説明書には書かれてあった。

ぐるぐると小日向美穂の頭の中で色々なことが現れたり消えたりする。
プロデューサーのこと。彼と腕を組んでいた彼女のこと。殺しあいのこと。目の前で死んだ人。そして自分を助けてくれている塩見周子。

「(わたしはどうしたいんだろう……)」

それは彼女自身にもわからないことだった。
ただ今は想いは秘せられるだけで、猛毒を握った手がどくんどくんと心臓のように鼓動を打つだけだった――。






【G-5・警察署の前/一日目 早朝】

【塩見周子】
【装備:洋弓、矢筒(矢x25本)、防護メット、防刃ベスト】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいにはギリギリまでのらない。外からの助けを待つ。
1:魚市場に向かう。
2:疲れる前に寝床(ホテル)を確保しておこうかな?

【小日向美穂】
【装備:防護メット、防刃ベスト】
【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌、毒薬の小瓶】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいにはのらない。皆で幸せになる方法を考える?
1:塩見周子についてゆく。
2:親友(道明寺歌鈴)に対して……?

771 ◆John.ZZqWo:2012/12/19(水) 22:12:33 ID:3zjEl/Ak0
以上、投下終了しました。

772 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 00:58:39 ID:/0u.9RdU0
投下乙ですー

ふむ、毒薬か……なんだか怖いな、誤解の種にならなければ良いけど……
やっぱり悩んでるなぁ、そして周子ちゃんが良いキャラしてる
この二人、大丈夫かなぁ……って、近くに友情マーダーいるじゃん!こわぁ!

では、南条光、佐久間まゆ、高垣楓、ナターリア投下します。

773今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 00:59:38 ID:/0u.9RdU0
行くあても無く歩いていた南条光は、大きな建物を見つけた。
そこは飛行場と呼ばれる場所だった。
地図にも大きく描かれており、広い島の中でもひときわ目立つ。

「よし……まずはここだな」

彼女は迷うこと無くその中へ入っていった。
今の彼女の目的は、とにかく人に出会う事。
良い人なら共に行動し、悪い人なら成敗し、改心させる。
そして最終的には巨大な元凶を倒し、なるべく多くの人を救う事。
それが彼女なりの『ヒーロー』としての行動だった。
その為にもまずは人を探す。この島を隅から隅まで。

(……もう、菜々さんのような人を出したらいけないんだ……!)

そのマスクの下には、確かな覚悟と情熱があった。

しかし、それが報われるとは限らない。
この世界は非情で、無慈悲だ。14歳の少女の思い通りになんてならない。


――ドォ……ン――


それを思い知らせる、決定的な音が響いた。


「………っ!?」


施設内に響く轟音。その音には心当たりがあった。
というより、この殺し合いの場に居るならば大体の人間が察しがつくだろう。
――銃声、である。誰かがこの中で銃の引き金を引いたのだ。

その結論に至った瞬間、彼女は走り出していた。
自らが危険に晒されようとも、これ以上の犠牲を、自分の前で出したくない。
その思いが、全力で彼女の脚を動かす。
間違いなくこの施設の中で鳴った。となればおそらくここからかなり近いはずだ。
何があるかは分からないが、自分のできることは全てやり尽くす。
それが、この場所でヒーローとして、皆の憧れになる者として、
そして南条光自身としての決意だった。


――そして、リトルヒーローが見たその光景とは……


    *    *    *

774今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:00:33 ID:/0u.9RdU0
時は少しだけ遡り、黎明と呼ぶには明るすぎる、時の境目の頃。
一人の少女が飛行場のロビーの中を歩いていた。
その先にはまた一人、人形のように寝ている女性が居た。

その少女はただお手洗いに行っていただけである。
とはいえ、ただ用をたしていた…という訳でも無い。
少女は一人、その考えをまとめていたのだ。自らのなすべきことについて。

――少女の名前は佐久間まゆという。
彼女はこの場所に来てから、ずっと悩んでいた。
プロデューサーに好意を抱き、ずっと尽くしてきた少女。
その事実だけ見れば、彼女は殺し合いに乗り、その人のために生き残るしかない。

しかし、その単純な決断をすることができなかった。
その決断をする絶好のチャンスはあった。その時、目の前には抵抗をしない女性が居た。
だが彼女は、そこで相手を殺すことができなかった。
あの人を救いたい。その気持ちは確かにある。
だが、そのために進まなければならない道は厳しく、あまりにも報われない。

結局、彼女は一人で考えをまとめあげることはできなかった。

そして、今こうして二度目のチャンスがある。
だが、まゆは彼女を殺そうとはしない。否、できなかった。
寝ている女性、高垣楓はまゆの中でひとつの支えになっていた。
その感情は一言では言い表せないが、この短い時間で確かに特別な感情を抱いている。
だから、まゆは彼女を殺すことはできない。

………今は。

サバイバルナイフを手に取り、高垣楓の首筋に当てる。
自分の命に危険が迫っているわけではないのに、自分の方の心臓の鼓動が早くなる。
この殺し合いで生き残れるのは一人。だから、最終的にはどちらかは死ぬ。
それは抗いようのない事実だ。だから、いつかは自分も手をかけないといけない。
でも、それは今では無い。今じゃなくていい。そんな安心感を、何の根拠もなく持っていた。
この人に限らず、今のまゆに人を殺す事が出来そうに無い。刃物を突きつけてみて、改めて実感した。
その事を確認して、ナイフをしまおうとする。


それが、始まりだった。


「なに……何、してるノ?」


その声の先には、困惑した表情の少女……ナターリアが立っていた。
だが、彼女が誰か、という事はまゆにはあまり関係のないことだった。
むしろそれより重要な事は、相手が持っていた物……銃。
それを持つ姿が、まゆの心に危機感と焦りを生み出した。

――このままでは、殺されてしまうのではないか。
彼女の精神は、そんな考えで埋め尽くされた。



    *    *    *

775今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:01:56 ID:/0u.9RdU0
    
    

まただ。またいけない事をしようとしている人が居る。ナターリアはそう思った。
ライブ会場へ向かう道中にて見かけた、飛行場の中。特に理由なく入ったそのロビーで彼女は見てしまった。
……少女が、眠る女性の首にナイフを突きつけている光景を。

真実のみを述べれば、その少女に殺意は無い。
しかし、そんな事実を一目見ただけのナターリアに理解できるはずが無かった。
だから彼女は誤解したまま、彼女自身の意思を貫く。

「ダメッ!駄目だヨッ!そんなことしたラ……いけない事、なのニ……!」
「………!」

その言葉を聞いた少女の表情が険しくなる。
アイドルが、いや、それ以前に人としてやってはいけない事だ。
自分自身も人を殺めてしまった事実があるからこそ、それを他の人にさせてはいけない。
彼女の固まった、譲る気のない意思が更なる食い違いを生む。


その一方で、向かい合う少女は恐怖に揺れていた。

(……死にたくない、こんなところで、死にたくない)

佐久間まゆは、先ほどのナターリアの言葉で一部を理解した。
――相手は、高垣楓が殺されてしまう事を恐れている。
そして一方で、彼女は理解することができなかった。
――相手は殺し合いには乗っていない、ということに。
そんな偏った情報に加え、突然の事で正常な判断ができず、平常心がなくなっていた為に。

彼女もまたその食い違いから、更なる誤解の種を生む。


「……来ないで……」
「………ッ!?」
「それ以上、こないでください……!」


ナイフを持つ手に力を込める。
そして、今度はしっかりと、楓の首へナイフを向けた。
相手を近づけてはならないという恐怖心が、彼女を間違った方向へ突き動かす。
その顔は引き攣り、手は震えていた。
その姿を見れば、いよいよナターリアも自らの行動に確信を持つ。
同じような悲劇を繰り返さない為に、さらにナターリアは言葉を投げかける。

776今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:03:16 ID:/0u.9RdU0
「やめて……やめてヨ!
 どうしテ?どうしてこんなコトするノ!?
 こんなの、アイドルのすることじゃないヨ!!」
「……アイ、ドル?」

だが、その言葉はまゆの何かを突き動かした。
彼女は、普通の女の子として、愛する人を救う為に悩んでいた。
……そこに、アイドルは関係無い。

「……まゆは、アイドルである以前に、一人の人間です。
 愛する人と一緒にいることを望んで、何がいけないんですか!?」

その言葉を革切りに、まゆの中でだんだんと怒りがこみ上げてきた。
それはナターリアに対する怒りだけでは無い。
もっと根本的な部分、自分がこんなところに居ることへの怒りだった。
こんなくだらない事で、自分の愛する人が危険に晒されている事への怒り。
今ならこの感情に任せて、そのまま首を切れそうなほどの勢いだった。


そしてまゆの言葉は、この場に居る三人目の意識を覚醒させた。


「ん………ぅ……?」
「まゆは……まゆは間違って無い……!」

三人目――高垣楓は目が醒めたばかりで、いまいち自体を把握出来ていなかった。
しかし、その判断材料はある。
自らの首筋にはナイフが突きつけられている。突きつけている少女は……佐久間まゆ。
……真実を知るならば、もう少し状況を判断しないといけなかったが、楓はそれを放棄した。
目標も無く、死に場所を探しているような楓には、ここで死ねる事だけがわかれば十分だった。

「……まゆ、ちゃん」
「…………!
 か、楓さん……ごめんなさい、私……!」

まゆは、自分自身を呼びかける声で一時我に返る。
あるいは、もしここで大人らしく状況を理解して、事態を纏められれば、運命は変わったのかもしれない。
しかし、今の彼女は有る所を失い、ただ放浪する抜け殻でしか無かった。


「……最初の時も、言ったわね」
「え……?」
「私は、あなたに殺されても良い……愛する人が居る、あなたになら」
「あっ……!」

そういって、楓は目の前にあるナイフに手をかけ、自らの首に付ける。
このまま食い込ませれば、鮮血が吹き出るであろう、その位置まで。

「楓さん……」
「……できるだけ、痛くないように、お願い」
「………!」

その手は震え、目は虚ろだった。
まだ眠気なまこなのか、それともこの時点で、全てを覚悟し諦めたのか。
どちらにしろ、もうまゆが少し力を入れるだけで一つの命が失われる事に変わりは無かった。


そして、それを理解していたのは一人ではない。

777今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:05:18 ID:/0u.9RdU0


(駄目……それだけは、止めないト!)

ナターリアは、焦っていた。
このままでは、また目の前で人が死んでしまう。
それだけは、それだけは止めないといけない!
彼女の中でそれ以外の思考がシャットダウンされ、その考え一本に絞られた。
どうすれば良いのかと考えている内に、握り締めた右手が掴んでいた物に気がついた。

それは、赤城みりあが持っていた拳銃。
そうだ、みりあがやっていたようにこれで動きを止められるんじゃないか。
動かないで、動いたら撃つ!
そう言って、その後、ゆっくりと説得をすれば良い。
彼女はそう思考し、その銃を構える。
そして、相手に向かって叫ぼうとしたその瞬間――



ドン、と。





「…………え?」



――轟音が響いた。




    *    *    *

――ナターリアは、この音を知ってル。

二回も聞いた事があるのだから、忘れるはずがなイ。

そう、この音がなってから、ミリアは………


……え?じゃあ、今の音は、何?

誰が?誰が鳴らしたノ?


目の前にみえるのは、自分が持っている拳銃で、煙が出ていル。

そして、さっきの音。これだけのモノがそろってるなら、もう、分からないはずがなイ。


……ナターリアが、また撃っタ?


違う、違うちがうチガウ。

だって、ナターリアはただ銃を構えて、動きを止めようとしただケ。

銃を撃つつもりは無い……ハズなのニ。


……この距離なら当たってなイ。

ミリアが外した距離ぐらいあるし、当たっている筈がなイ。

だから、大丈夫。大丈夫、大丈夫、大丈夫……!

絶対に、絶対に当たってなイ……!




「あ………」




まるで、糸が切れたように。


少女は、崩れ落ちた。







    *    *    *

778今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:05:56 ID:/0u.9RdU0



―――その光景に、南条光は呆気にとられた。



状況を説明するのは簡単だった。
一人が銃を持ち、一人が血塗れで倒れ、一人がその近くで自分と同じように呆然としている。
それだけの状況が揃っていれば、誰が、どのような事をしたのかを判断するのに時間はかからなかった。

「………これは……」
「チっ、ちがウ!ナターリアはッ、ナターリアはぁ…っ!」

かたん、と。銃の落ちる音が響く。
おそらく撃たれた、と思われる少女はぴくりとも動かない。ただ、胸から血が止めどなく流れていた。

「ア……アぁぁァぁッ………イヤぁぁぁぁぁぁァァァァッ!!!」
「ま、待て……っ!」

銃を持っていた少女はロビーの奥へと逃げ出した。
光はそれを追いかけようとしたが、足が動かなかった。
……今は、もっと優先すべき事があるのでは無いか?彼女の中で、ヒーローとしての思いがこだまする。
そうだ、命の危機に晒されている人が居るんじゃないのか?
それを助けるのを優先するべきだ、と。彼女はそのもう一方を見る。
そこにはさっきまでも視界の中に入っていた、あまりにも非情な現実が広がっていた。

「……だっ、大丈夫か!?」
「……あ……が………っ……」
「……まゆちゃん……」
「………かえ…で、さん………」

まだ、息がある。意識がある。だが、胸の傷からは並々ならぬ血が吹き出ている。
素人目から見ても分かる、分かってしまう。……この状態では、助からない。

「ごめんなさい……かえでさん……まゆ、かえでさん、に……ごほっ…!」
「喋っちゃダメだっ!血が……!」

口を開くたびに、鮮やかな血が吹き出る。
光にとってそれはどうしようもなくて、涙ぐみながらもなんとか死なせないようにする。
だが、どれだけ願っても体から流れ出る液体は止まる事は無い。
それが、彼女に焦りと絶望を植え付ける。

「……私は、いつ死んでも良かったのに」
「………!?」

しかし、それ以上に気になったのはもう一人の言葉だった。
だが、今はそれを追求できるような状況ではない。
呆気にとられているうちに、また少女が口を開く。

「………かえでさん、…かえでさんに、おねがいが……あるん、です」
「……私、に?」

彼女の目には生気を感じられず、しかし確かな意思があったように思えた。




    *    *    *

779今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:06:32 ID:/0u.9RdU0
    
    

―――嫌だ、死にたくない、死にたくない。死にたくない!

体で感じる確かな熱と痛みは、自分が死にゆく事を確かに認識させた。

―――まだ、伝えたい事が、言いたいことが、たくさんあるのに!

その思いとは裏腹に、体は全く言う事を聞かない。

―――こんなところで、終わったら、いけないのに。



「………だっ、大丈夫か!?」

見覚えの無い少女が目の前に現れる。
彼女が一体誰なのか、何故こんなところに居るのか。そんなことを考える気力は無かったし、興味も無かった。
今の彼女が思う事は大切なプロデューサーの事、そして………


「……まゆちゃん……」


高垣楓。短い間だったけど、一緒に行動をした人。
彼女にはこの場所で、とてもお世話になった人だ。
それなのに、最後には刃を向けて、結局何もできなくて……。

「ごめんなさい……かえでさん……まゆ、かえでさん、に……ごほっ…!」
「喋っちゃダメだ!血が……っ!」

せめて、彼女に謝罪を述べようと、言葉を発してみようとする。
しかしその言葉さえも、吹き出る液体に邪魔をされうまく言えない。
自分の体から大切なものが溢れ出ていく。それは彼女にとって大きな絶望だった。
死にたくない。でも、この現実はもう変えられない。
このまま、何も出来ないでただ死んでいくという事が、知りたくもない現実が実感できてしまった。
もはや彼女は、絶望の底へ堕ちていく……それを待つだけだった。


「……私は、いつ死んでも良かったのに」


(…………!)


だが、その人の言葉が、彼女の心を変えた。

780今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:08:14 ID:/0u.9RdU0

……私の、願い事。そして、私が残せる物。
楓のその言葉が、その表情が。……まゆをある仮定へと導いた。


「………かえでさん、…かえでさんに、おねがいが……あるん、です」
「……私、に?」


高垣楓には、もう愛する人は居ない。
その喪失感から、この世界を生きる事を諦めている。
そして彼女はこの世界全てに無関心で、どうでもよくなっている。そう思っていた。
だが、まゆが楓にたいして特別な感情を抱いていたのと同じように、楓自身も変化が起こっていた。
彼女の表情は確かに哀しみをおびている。その声も、内なる感情も。
もしも、楓の心の中で少しでもまゆに対して特別な感情があるのなら。
――まゆは、楓の中の思いに賭けた。

「……かえでさん……いきのこって…ください。
 そして……まゆのプロデューサーに、つたえて……ほしいんです。
 ……まゆは、……さんの事が大好きです。天国に行っても、ずっと見ていますから……、
 ………誰か、他の人と一緒になっても、まゆの事を、忘れないでください………って」
「………!」

だから、まゆは楓に託す。大切なプロデューサーのために、そして……楓自身のためにも。

「………かえでさん……、
 まゆは……かえでさんに、いきていてほしいんです……。
 わがまま……かも、しれませんけど……しんで、ほしくない……」
「…………」

彼女にこそ託せる、むしろ、彼女に託さなければならない。
今の私なら、これから死にゆく私だからこそ、あの人に『翼』を託せる。
飛び方もわからなくて、今にも落ちてしまいそうだけど、
でも、もしも私の気持ちが伝わるなら、たとえ脆くて小さくても、きっと『飛び方』と『飛ぶ意味』を託せるはず。
それが、今の私に唯一できること。せめて生きていて欲しいと願う、佐久間まゆにできることだった。

「かえでさん………おねがい、します…………」
「……分かった。あなたのプロデューサーに伝えるわ……必ず」
「……あ……――」

ありがとうございます。
その言葉を言おうとした瞬間に、急に体に力が入らなくなった。
体が寒く、さっきまでの熱さや痛みも感じなくなっている。
目の前がだんだんと暗くなっていく。体はもう少しも動かせそうに無かった。

ああ、これが、死ぬということ、なんですね。
薄れゆく意識の中、まゆは確かにそう感じていた。
もう残せる言葉はたった一言しか無いのだろう。
まゆは先程の、楓に対する感謝の言葉を言いかけて、それを止めた。
せめて最後の言葉だけは、自分の為に使いたかった。今、自分が思っている事に。




「―――良かっ、た」




その瞬間、まゆをつなぎ止めていた何かが、切れた。
その最後は、驚くほどに穏やかだった。



    *    *    *

781今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:09:37 ID:/0u.9RdU0



少女はゆっくりと目を閉じ、そしてとうとう動かなくなった。
それを意味するものは、まだ幼い南条光にも理解できた。
それが、もう取り返しのつかない事実である事も。
既に一度、人の『死』に関わった南条光だからこそ重い事実としてのしかかった。

「そんな………っ!」

目の前で、一つの命が失われた。
あの時とは違う、もっと現実的で、悲惨な最後。

もちろん南条光に非はない。もっといえばあの場に居た誰ひとりとして非は無い。
全員が思い違いをして、自分の道を貫いて、…そして起こった悲劇であった。

「アタシは……何も出来ないのか……!
 ヒーローにもなれないで、手が届かないところで、皆が死んでいく……!
 菜々さんも、杏おねーちゃんも、レイナも……小春も……!」

しかし、それでも南条光は自分を責めた。
彼女の道は、自分の親しい人を乗り越えて来た道だ。
それを振り返ってはいけない。その人の為にも、自分のできることをしなければならないはずだった。
それなのに、目の前の少女はあっさりと逝ってしまった。
この短い時間の間で二人目。それは彼女の心に大きな影響を与えた。

もう少し急いでいたら、この悲劇は回避されていたかもしれないのに。
彼女の中で、自責の念が強くなっていた。
銃声が聞こえるよりもっと速く、道中をもっと速く進んでいれば……
そんな実現するはずのない『もしもの話』が膨らんで、彼女を責め立てる。

「誰も助けられないで……アタシは……アタシは……ッ!」

目から、とめどなく涙が溢れてくる。
深い深い後悔の沼、その奥へ沈んでいく。
このままいけば、きっと彼女は戻れなくなるのだろう。
だが、それを助ける救いの手は意外なところから伸ばされた。


「……そんな事を言うより、もっと他にやることがあると思うけど」
「………えっ?」


突然、死体の傍らに居た女性が話しかけてきた。

「さっきの女の子……逃げていった、女の子。
 あの子を放っておくと、きっとまずいことになるわ」
「あ……」

その人の言葉で、はっと目が覚める。
――そうだ、今こそ自分ができることをするべきなんだ。
逃げた少女の事は少ししか知らない。
だが、ナターリアという少女の事は知っていた。
テレビで見た限りでは、その姿からとても殺し合いに乗っているようには思えない。
そして、先程の姿。決して率先して殺し合いをしている訳ではない。
……彼女こそ、まだ間に合うはずなのだ。
こんなところで、悔やんでいる時間は無い。南条光はやっとその事実に気づく事が出来た。

「そ…そうか……だったら、早く向かわないと……!
 …えっと、楓さん!……だよな?早く向かおう!」
「………私は………」

782今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:11:11 ID:/0u.9RdU0

楓は誘いの言葉に応えず、目を逸らし、俯いている。
南条光は彼女の事情については全く知らない。だが、何か深い哀しみを背負っているのは理解できた。
それは同行者である佐久間まゆを失ったからかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
そこまでの事情を聞ける程、光は無頓着な人間では無かった。
南条光その腕を掴もうとして、しかしその手を引いた。

「……楓さん。私は、さっきの人を探してくる。
 方向はわかっているから、多分すぐ見つかると思うけど。
 それまで、ここで待っててほしい。アタシは必ず、あの人を連れて戻ってくる。
 そしたら、一緒に行こう。アタシ達の手で、未来を掴むんだ」
「……未来……」
「ありがとう、楓さん。アタシの道を示してくれて。じゃあ、行ってくる!」
「あ……っ」

だから光は選択を与えて、この場を去ることにした。
本来なら来てくれるに越したことは無い。だが、今は一刻を争う自体だ。
それに強制することも出来ない。今の光自身には、説得できる言葉を持っていなかった。
光は時間がかかる事よりも、今、できることを優先した。

――しかし、それでも南条光は彼女が来てくれる事を信じていた。
なぜなら彼女も、アイドルのはずなのだから。




    *    *    *



「……ごめんなさい、まゆちゃん」


誰も居なくなったロビーで、楓は一人謝った。

「必ず、なんて言ったけれど……どれだけ頑張っても、その気力が起きないの。
 あなたの思いは伝えたいけれど、今の私に……生きる気力が、生きようとする思いが、何も無い。
 こんな私が……あなたより長く生きてしまうなんて」

彼女の心は空っぽだった。
今はその中に、ほんのちっぽけな思いが入れられた。
しかし、そんなものでは心の穴は埋められそうに無い。
未だに空虚の中、虚ろな目はひとつの物を見定められなかった。

血に濡れた少女をそっとソファーに寝かせる。
その体は、とても軽い気がした。




「未来を掴む、か……」


ぽつりと呟いた。

私の未来って、何だろう?

高垣楓はふと、そんな事を考えていた。




【佐久間まゆ 死亡】




【D-4 /一日目 早朝】

【ナターリア】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、確認済み不明支給品×1、温泉施設での現地調達品色々×複数】
【状態:健康、発狂?】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして……?
1:???

【高垣楓】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:まゆの思いを伝えるために生き残る?
1:南条光を待つ……?

【南条光】
【装備:ワンダーモモの衣装、ワンダーリング】
【所持品:基本支給品一式】
【状態:全身に大小の切傷(致命的なものはない)】
【思考・行動】
基本方針:ヒーロー(2代目ワンダーモモ)であろうとする
1:ナターリアを追いかける
2:仲間を集める。悪い人は改心させる

※タウルス レイジングブルは佐久間まゆの死体の近くに落ちています

783今、できること ◆j1Wv59wPk2:2012/12/20(木) 01:11:51 ID:/0u.9RdU0
投下終了しました。

784 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/21(金) 00:34:47 ID:T6cfLguY0
皆々様投下乙ですー

>彼女たちが駆け込んだナイン-ワン-ワン
しおみーはホント飄々としてるけど物事の見えてる子だなぁ
一方の小日向ちゃんは、鎌と毒薬というのが、うん、非常に嫌な予感するw
一歩間違えば大惨事とはいえ、どっちに転んでも面白そうだけど、さて……

>今、できること
ま、ままゆー! いい子だったのに……
託した思いが楓さんの空隙を少しでも埋めてくれるといいけれど
しかしナタは理想とは真逆の方向にどんどん追い詰められていくなぁ

785 ◆John.ZZqWo:2012/12/21(金) 20:57:26 ID:YhdNK8Zc0
投下乙です!

>今、できること
ナターリア……馬鹿な子。もう少しずつ歯車があえば前も今回も悲劇は起きなかったのにね。
そのアグレッシブさが裏目裏目と……。
南条くんが追いかけたけど、向かう先によっては他に絡む人も出てきそう。さて、次は上手に立ち回れるのかなぁ。

786名無しさん:2012/12/21(金) 21:15:31 ID:b/0wzius0
投下乙です!

ああ……ままゆがぁ〜しかも彼女を殺してしまったのがナターリアというのが辛すぎる…
ナンジョルノが絶望したナターリアをなんとかしてくれれば…
せめてままゆの死が楓さんの絶望した心に届くことを願うしかない

787 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:25:50 ID:ashjJB0o0
>彼女たちが駆け込んだナイン-ワン-ワン
しおみーはいいキャラしてるなぁ。
方針も彼女らしいw
けど、美穂は悩んでるなあw
支給品が悲劇にならないといいけど

>今、できること
ままゆが……哀しいまくひきだなぁ。
しかも、ナタが更に罪を重ねるなんて……哀しすぎる。
せめて願いが楓に届くように、届くといいなぁ。

788 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:28:00 ID:ashjJB0o0
言葉抜けてました、投下乙です!
そして、投下します!

789曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:28:51 ID:ashjJB0o0
あれほど瞬いていた星は既に消えかかり、空は段々と青みがかり始めていた。
そんな、夜と朝の曖昧な時間の空を神谷奈緒は、黄昏るように見つめている。
もうすぐ、長かった夜が終わる。そして空は青く澄み渡るだろう。
けれど自分の気持ちは全然晴れやしない。
むしろまるで雲が空を閉ざすように、もやもやとするばかりだった。
このまま、雨が降らないといいけれどもと、奈緒は一人心の中で思う。

「……もうすぐ朝だね、奈緒」
「ああ……」

一緒に空を見ながら、隣で微笑む北条加蓮の笑顔を、奈緒は戸惑いながら、見つめていた。
護るべき少女、護らないといけなかった親友。
それが何の間違いで、彼女が自ら手を血に染めないといけなくなったのか。
彼女とまた会ってしまったから? 自分自身に覚悟が足らなかったから?
何度自問しても、答えは出る訳が無かった。
解かるのは、結果として加蓮が覚悟を決めてしまった。
殺しをするという、覚悟を。

「なーお?」
「んあ!?」
「何見つめちゃってさ、何かある?」
「い、いやなんでも……」
「ふふっ、変な奈緒」

無邪気に笑う加蓮が、奈緒にとって救いでもあり、苦痛でもあった。
加蓮と傍に居れるのは嬉しい。
けれど、加蓮はその為に殺しをしてしまった。
あそこで自分が止めをさしておけば、加蓮が手を汚す事も無かったのに。
奈緒はただ、自分の不甲斐なさを心の底から呪いたくなってしまう。
もしあの時ああしていたらとそればかり考えて、悩んでしまう。
悩んでも変わらないのを知ってるというのに。

「ねえ、奈緒。あれ!」
「……ん、ああ」

加蓮の呼びかけに目を向けてみると、見慣れた店が見えてきた。
赤と黄色で書かれた派手な看板で、既に無くした日常で一緒によく行っていたお店。
奈緒達の憩いになっていたファーストフード店だった。

790曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:29:22 ID:ashjJB0o0

「ね、奈緒ってバイトしてたんだよね」
「……まあ、一応な」

しかも、其処は奈緒がアイドルになる前、アルバイトしていた場所だった。
特に何のこだわりも無く、高校生でも気軽にバイトできる店だっただけでもあるが。
お陰でというべきか、そのせいでというべきか。
今のプロデューサーにスカウトされたのも、そのファーストフード店でバイトしていた時だった。
そんな奇妙な縁で、結ばれたチェーン店にこんな殺し合いの場でも出会うとは。
なんだかよく解からない気持ちに奈緒は複雑な表情を浮かべていた。

「じゃあさ、何か奈緒作ってよ!」
「はあ!?」
「そろそろ、放送だしさ、休憩しよ、ね? お願い!」

加蓮の唐突なお願いに奈緒は面を喰らうが、中身は現実的だ。
時計を見ると最初の放送に近い時刻だ。
それに、幾ら気丈に振舞ってるとはいえ、加蓮の体力の無さは此処に来る前と変わっていない。
4時間ほど、歩き回っていた上に、更にこんな状況では加蓮も疲れているだろう。
そういう奈緒自身も疲れてはいる。休憩を取るにはいい頃合なのだ。
奈緒は、そう思い、必死に手を合わしている加蓮を見て、溜め息をつき

「……解かったよ」
「やったっ! ありがと! 奈緒!」

そうやって、加蓮はとても嬉しそうにに笑う。
そして、その笑みを見て、奈緒は力なく笑った。


やっぱり、加蓮の笑顔は、救いでもあり、苦痛でもあった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

791曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:29:55 ID:ashjJB0o0





「ふう……」

加蓮は角の席を陣取り、調理中の奈緒を待っていた。
硬いソファーにもたれ掛かりながら、取り留めもない事ばかり考えている。
何だかそんな気分だったのだ。この六時間で余りにも色々なことがあったから。

(あ、あれは……)

ふと、壁に貼られていたポスターが目につく。
それに写っていたのは、二人の少女。
それぞれ、太陽のような笑顔と日だまりのような微笑みを浮かべ、新作スイーツの宣伝をしていた。
加蓮は二人の少女の事をよく知っている。
何せ、今をときめく二大アイドルなのだから。
一緒に仕事をしたことがあるが、二人とも輝いていた。

「こんな所まで……流石シンデレラガールと、フラワーズのリーダーだね」

アップルパイを頬張りながら、笑っている少女が十時愛梨。
その隣でプリンアラモードをスプーンですくっているのが高森藍子だった。
二人とも狭いボスターの中で、驚くぐらい輝いている。

「二人とも凄いな……」

加蓮は思わず、驚嘆の溜め息をついてしまう。
こんな駅を降りたら必ず有るような全国区のファーストフード店のキャンペーンガールに使われる程、人気なのだ。
同じアイドルとして、加蓮は悔しいと思うと同時に、純粋に凄いと思った。
それは彼女達だけの輝きがあるからだと加蓮は考える。

誰にも負けないオンリーワンの輝きが。
そう、自分より先に輝いた凛のように。

渋谷凛、加蓮と奈緒の親友。
そして、自分より先にデビューした彼女。
三人の中で一番年下なのに、不思議と大人びた子だった。
冷めてる様に見えて、とても熱く。
ぶっきらぼうに見えて、とても優しく。
そんな子だったから、凄い輝いていた。
人を惹きつける不思議な彼女の魅力に溢れていた。
そう、オンリーワンの輝きがあったのだ。
だからきっと誰よりも人を魅了するのだろう。
それを加蓮はうらやましいなと思う。
きっとそんな輝きは自分にはないから。

792曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:30:31 ID:ashjJB0o0





「ふう……」

加蓮は角の席を陣取り、調理中の奈緒を待っていた。
硬いソファーにもたれ掛かりながら、取り留めもない事ばかり考えている。
何だかそんな気分だったのだ。この六時間で余りにも色々なことがあったから。

(あ、あれは……)

ふと、壁に貼られていたポスターが目につく。
それに写っていたのは、二人の少女。
それぞれ、太陽のような笑顔と日だまりのような微笑みを浮かべ、新作スイーツの宣伝をしていた。
加蓮は二人の少女の事をよく知っている。
何せ、今をときめく二大アイドルなのだから。
一緒に仕事をしたことがあるが、二人とも輝いていた。

「こんな所まで……流石シンデレラガールと、フラワーズのリーダーだね」

アップルパイを頬張りながら、笑っている少女が十時愛梨。
その隣でプリンアラモードをスプーンですくっているのが高森藍子だった。
二人とも狭いボスターの中で、驚くぐらい輝いている。

「二人とも凄いな……」

加蓮は思わず、驚嘆の溜め息をついてしまう。
こんな駅を降りたら必ず有るような全国区のファーストフード店のキャンペーンガールに使われる程、人気なのだ。
同じアイドルとして、加蓮は悔しいと思うと同時に、純粋に凄いと思った。
それは彼女達だけの輝きがあるからだと加蓮は考える。

誰にも負けないオンリーワンの輝きが。
そう、自分より先に輝いた凛のように。

渋谷凛、加蓮と奈緒の親友。
そして、自分より先にデビューした彼女。
三人の中で一番年下なのに、不思議と大人びた子だった。
冷めてる様に見えて、とても熱く。
ぶっきらぼうに見えて、とても優しく。
そんな子だったから、凄い輝いていた。
人を惹きつける不思議な彼女の魅力に溢れていた。
そう、オンリーワンの輝きがあったのだ。
だからきっと誰よりも人を魅了するのだろう。
それを加蓮はうらやましいなと思う。
きっとそんな輝きは自分にはないから。

「最も、もう絶対敵わないけどね」

けれどもう加蓮は一生敵わないだろう。
だって加蓮は手を血に染めてしまったのだから。
自分の輝きを、自分自身でけがしてしまった。
そんなアイドルに誰が魅了されるのだろうか。
誰も、誰も魅了される訳がない。
だから……一生敵う訳がないのだ。

「……でもそれでいいんだ」

だけど、それでいいのだ。加蓮が自分自身で選んだ選択なのだから。
例え自分達が汚れたとしても、凛が輝けるならそれでいい。それがいい。
それが加蓮の選んだ道なのだから。


「あの二人はどうしてるのかな」

ボスターに写る二人を見ながら、何となく呟く。
アイドルしているのかなと加蓮は思う。
愛梨は何といってもシンデレラガールだ。
まるで輝く事が運命付けられているようで。
きっと殺し合いの中でも強く生きているだろう。

藍子はどうだろうか。
あのフラワーズのリーダーだ。
けれど、あの子はちょっと愛梨とは違う気がした。
あの子は理想のアイドルだ。それは誰もが認めている。
けど、あの子は理想のアイドルで“いようとしてる”
まるで、それでしかないように。
そんな気が……何となくする気がするのだ。
それでも、輝いているのには変わりはないのだけどと加蓮は苦笑いを浮かべる。

兎に角、二人はそれぐらいのアイドルだ。
そんなアイドルに会ったら、自分はどう思うのだろう。
輝きに目が眩むのだろうか。よく解からなかった。

793曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:31:39 ID:ashjJB0o0

「凛は……」

凛は、と言葉を紡ごうとして、加蓮は其処で止まった。
彼女がどうしているかは、考えたくなかった。
だって、これは、加蓮の願望だった。願望でしかなかった。
でも、口にしたかった。
それが自分たちの救いになるだろうから。
穢れてしまった自分たちへの救いに。
そう、凛は


「私達の『憧れ』のままでいてね」



北条加蓮にとって、憧れのアイドルだった。
そんな願いめいた呟きが、広い店内にポツンと響いたのだ。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

794曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:32:08 ID:ashjJB0o0






ジュージューと、鉄板の上で成型された肉が焼けていく。
冷凍された肉なので、腐る事も無く冷凍庫にあった。
それを奈緒は解凍し、今ハンバーガーを作ろうとしている。
幸い野菜などは傷んでなく、使えそうだった。
調理場もチェーン店らしく、自分のバイト先の店だった所と殆ど変わらず、上手く出来そうだった。
なので、後は肉が焼けるのを待ってればいい。
今作っているのは、加蓮が好きなダブルチーズバーガーだった。

「……ついでに、暖かい珈琲でも入れておこうかな」

そこはコーラでしょとか加蓮に言われそうだけどと奈緒は苦笑いしながら、珈琲を温めに行く。
今は冷たいものより、温まって欲しかった。
そんな奈緒の我侭で、珈琲を用意する。
砂糖は二つ。加蓮の好みは完全に把握していた。

珈琲を温めながら、奈緒は何か懐かしいなと思う。
こんな風に、ファーストフードであれが好き、これが苦手と言い合ってたなと。
凛は、ピクルスが実は少し苦手で。専らチキンを挟んだものばかり食べていた。
自分は太る太ると言われながらも、アップルパイを追加で頼んでいた。
勿論今も自分用に暖めている。それが、奈緒が好きなものだったから。
三人で今時の女子高生らしく、していた。
そんな懐かしい日々が追憶して。

「加蓮……くそっ……」

そうして、手を汚してしまった親友の事を考えて、苛立ってしまう。
解かっている、奈緒の我侭だって。
けれど、苛立たざるざるおえなかった。

「なんで……殺したんだよ」

それは、解かりやすい理由だった。
加蓮に手を汚して欲しくなった。
加蓮は綺麗なままでいて欲しかった。

795曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:32:51 ID:ashjJB0o0

なぜなら、

「その為に……あたしは殺そうとしたのに」

その為に、奈緒は殺そうとしたのだ。
加蓮と凛に綺麗なままでいて欲しいから。
追憶したような日々のままでいて欲しいから。
例え我侭でも、そうであって欲しかった。

「くそっ……あたしは……」

なのに、加蓮は手を汚した、汚してしまった。
もうきっと戻れない。
そのことが悔しくて、悔しくて堪らない。
加蓮だけは、堕ちて欲しくなかったのに。

「ああ……」

だから、奈緒は今が嫌だった。
加蓮を救えなかった。
そして、自分は加蓮に救われようとしている。
痛みも罪も分かち合おうとしている。
あの、優しい微笑で。
それが本当に、救いで苦痛でしかなかった。

「あたしは……加蓮に手を汚して欲しくなかったんだよっ……!」

それが、奈緒の本心だった。
なのに、それがもう叶わない。
自分がしようとした事さえ迷ってきて。
奈緒は、心がかき乱されたままだった。
本当に、雨が降ってきそうだった。


「なぁ、凛……凛なら、どうする?」

そして、此処にいないもう一人の親友の名前を呟く。
一番年下の癖にしっかりとした子で。
いつも前を向いて、真っ直ぐな子だった。
凛なら、きっと迷ってはいないだろう。
迷って欲しくない、こんな自分のようになってないだろう。
そう願いじみた思いを、奈緒は凛に向ける。
勝手な願望だけど凛はそういう子だから。
ステージで輝いていた凛は奈緒にとって憧れだったから。

もしこんな状況に、凛が置かれたらどうするのだろう?
そう奈緒は考えて、凛はどうするのだろうと考え、直ぐに答えが出る。
余りにも簡単だった。

きっと、加蓮を止めるんだろう。
だって、そういう子だから。

796曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:33:15 ID:ashjJB0o0


「そんなの解かっている……解かっている……けど!」


でも、自分は、そんなに簡単に決められない。
護りたい自分、止めたい自分の両方が奈緒の中に居て。


「あたしは…………どうすればいいんだよ!」

だから、搾り出すように、声を上げる。
迷いに迷いきった奈緒の言葉だった。
けれど、その問いかけに答えるものは居なく。


ただ、鉄板の上の肉は真っ黒にこげて、珈琲は熱くなりすぎてしまっていた。


それに、奈緒が気付くのは、大分先のことだった。



【F-4/一日目 早朝】

【北条加蓮】
【装備:ピストルクロスボウ】
【所持品:基本支給品一式×1、専用矢(残り21本)、不明支給品0〜1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。
1:奈緒と一緒に、凛と奈緒以外の参加者を殺していく
2:凛には、もう会いたくない。
3:愛梨と藍子はどうしているか興味

【神谷奈緒】
【装備:軍用トマホーク】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0〜1(武器ではない)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:加蓮と共に殺し合いに参加する?
0:どうしたいんだ……?
1:凛と加蓮以外の参加者の数を減らしていく?

797曇り、のち…… ◆yX/9K6uV4E:2012/12/22(土) 01:34:02 ID:ashjJB0o0
投下終了しました。
>>791は重複のミスなので、無視してください

798 ◆John.ZZqWo:2012/12/22(土) 23:05:57 ID:jD9XT0GI0
>曇り、のち……
投下乙です。
覚悟完了した加蓮と、その立場を彼女にとられてふらふらしてる奈緒の対比がいいですね。
この先、進んでいく加蓮の後を追うだろう奈緒がどうするのか……楽しみです。


で、
小関麗奈、古賀小春、和久井留美、双葉杏、藤原肇、諸星きらり、喜多日菜子、市原仁奈、岡崎泰葉、白坂小梅 の10人を予約します。

799 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/23(日) 17:21:04 ID:1/FOtbzc0
投下乙でーす
うーむ、美しくも悲しい友情……
この大事に思っているからこそのすれ違いは悲しいものがあるなぁ
奈緒は相変わらず優柔不断、だがそれが(人間味があって)いい!

>>798
モバロワ始まって以来初の二桁予約!?
そうか、ついにドラッグストア炎上からのいざこざに決着がつくのか…?
絶対に全員が無事では済まないだろう状況……期待!

800 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/24(月) 01:21:11 ID:2iyma.6I0
>曇り、のち……
奈緒の空転っぷりが痛々しいなぁ……救われるほど追い詰められるジレンマ
割り切った加蓮、割り切れない奈緒、一方の凛も凛でいろいろボロボロなのがまた

予約延長しますー

801 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:21:37 ID:GnR1cuc20
遅くなりました、向井拓海・小早川紗枝・松永涼、投下しますね

802アイドリング・アイドルズ ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:24:45 ID:GnR1cuc20
 結論から言うと、二時間近くを掛けたB-4市街地の捜索は、ほとんど空振りに終わった。
 もっとも戦闘を避けるために極力慎重に動いていたため、範囲は市街地の南半分といったところ。
 その範囲にしてもくまなく探したとは言い難い精度だった。

「夜の間はみんな慎重になってたのかもしれねーが……作戦の変更が必要かもな」

 適当な民家を見つけて上がり込み、一息ついたのち。
 リビングのソファーに深々と腰掛けて四肢を投げ出した拓海は、そうぼやいた。

「せやなぁ。この街、あまり人がおらんように思いますわ」

 着物で歩き回ったせいか他の二人よりも疲労の度合いが多いように見える紗枝も、椅子に座ったまま呟く。

「アタシも思った。地図で見ただけじゃ分からなかったけどさ、この街、ほんと観光スポットって感じだな」

 そう言って涼も頷いた。
 実際、島の北西にあるこの市街地は、カジノやビーチ、映画館や博物館など、娯楽施設が集中している。
 そのぶん綺麗に整備もされているのだが、言ってしまえば「よそ行き」の街だ。
 生き残るために行動しなければならない人間が目指すような場所ではありえない。
 例えばこんな生死がかかった状況で、野外ステージなんかを目指してくる奇特な人間がいるだろうか?

「南の街は役所が揃った街の中心、東の街は生活の中心って感じなんだろーな。
 少なくともこの街よりは人が集まってきそうな気がするぜ」
「人が集まるといえば、お隣さんの飛行場はどうどす?」
「あー、確かに。ダメ元で脱出の手段がないか確認しにくるヤツがいてもおかしくはないな」

 三人寄れば文殊の知恵ではないが、一人の時とは段違いに考えがまとまる。
 そんな些細なところで自分が今一人でないと実感して、涼は不思議な安らぎを感じた。

「とはいえ、そろそろ奴らが言ってた最初の六時間が過ぎる。ってことは放送があるはずだ。
 とりあえずその禁止エリアってヤツを確認しねーことには、身動き取れねーからな。
 ……気が逸んのは分かるがよ、それまではカラダ休めねぇと、もたねえぞ?」
「……っ! 分かってるさ……!」

 気が緩んで考えが顔に出ていたのか、あっさりと拓海に見透かされた。
 思わず焦りが声に出てしまい、涼は慌てて取り繕う。うまくいったとは言い難いが。

(分かってる、分かってるって)

 仲間への感謝とはまた別に、一向に手がかりすら見つからない小梅の存在が、涼をじわじわと急き立てている。
 落ち着いて慎重に行動しなければならないのは分かっている。
 しかし、あの小さくて弱々しい小梅は、この殺し合いで真っ先に淘汰されそうな気がしてならないのも事実だった。
 せめて自分と同じように、信頼できる同行者に恵まれていればいいのだが……。

803アイドリング・アイドルズ ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:26:36 ID:GnR1cuc20
「せやったら、しばらくはここで休憩やね」
「そういうこったな。放送の内容次第では、他の街に移動したほうが良くなるかも知れねー。
 そうなれば、結構長い距離歩くハメになるだろうし。今はゆっくりしとかねぇと」

 あえて涼を諌めるような言い方で、拓海が紗枝に答える。
 言っていることは全くもって正しい。小梅を助けたければ、今は休息すべきなんだろう。
 ただ、焦りだけはどうにも制御しきれなくて、涼は落ち着かない様子のまま立ち上がった。

「そういうことなら、ちょっとベランダで夜風にでも当たってくるよ。
 少しアタマ冷やしたほうが良さそうだって、アタシ自身も思うからさ」

 そのままくるりと二人に背を向けてリビングを出ていこうとする涼を、拓海が呼び止める。

「あー、涼……その前にさ、もう一度、教えてくれねーか。あんたを殺そうとしたっていう子のことをさ」

 全身が無意識にびくりと身構えた。
 生まれて初めて向けられたあの拙すぎる殺意と、その拙さとは無関係に燃え上がる炎を思い出して、
 涼は自分の全身に鳥肌が立つのを自覚した。

「……一回話したろ。なんでそんなにこだわるのさ? あいつがここに襲撃掛けてくるってことか?」
「そうじゃねーよ。いや絶対ありえないわけじゃないんだろうが、今はその話じゃないんだ。
 その、なんつーかな、そいつは今もひとりぼっちでいるのかなって、ふと気になっただけでさ」
「……なんだって?」

 耳を疑った。
 自分にとってあの少女はあくまで“殺し”側の人間で、間違っても心配する対象ではなかった。
 それを拓海は、他の殺しとは無縁のアイドル達と同じように、助けようとしているのだろうか。
 涼の中で膨れ上がる疑問を感じたのだろう、拓海は先回りしてぽつぽつと話し出した。

「……似てるんだよ、そいつ。アタシの目の前で死んだ子に」

 拓海のかすかに震える指先が、特攻服に染み付いた暗赤色の血痕をなぞる。
 すでに乾ききったそれは、しかし未だ鮮明に、そこにあったはずの確かな死を実感させる。
 それを撫でる拓海の横顔には、その死んだ少女への奇妙な情と、深い深い後悔の色が見えた。

「ちっちゃくて、おどおどして、虫も殺せねーようなツラしやがって、それなのに……
 謝るんだよ、アタシに。『ごめんなさい』って。殺したくないけど死んでください、って感じにさ」

 涼にも、拓海の言う事が呑み込めてきた。
 ほとんどデジャヴ。拓海の語るその少女の話は、涼自身の体験と驚くほど似ている。
 だとすれば当然、拓海がこれから言おうとすることも理解できた。

「未練がましいって笑ってくれても構わねーけどさ……アタシには、どうしてもカブって見えちまうんだ。
 罪滅ぼしにもなりゃしないってのは分かってんだよ。それでも、放ってはおけねえよ」

 もちろんそんな我が儘を無理に通すつもりはないけどな、と付け加えて、拓海は寂しそうに笑った。

804アイドリング・アイドルズ ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:29:24 ID:GnR1cuc20
 涼は笑えなかった。
 拓海の、手からこぼれ落ちたものをもう一度掬おうとするその気持ちは痛いほど分かった。
 それに、道を踏み外しそうな人間にも手を差し伸べようとする強さに、感じ入るものもあった。
 ただ、それとは別に、どうしても聞きたいことがあった。

「で、でもさ……もしそいつが、既に人を殺しちまってたらどうだ?」

 それは、涼にとって、確認しておかなければならないことだった。

「もう人殺しになってたら、引き返せないところまで踏み込んでたら……それでも、手を差し伸べるのかい?」
「あったりめーだろ。罪の償いだの詫び入れだの、そんなのは脱出してからじゃなきゃ意味がねえ。
 裁くのはサツや裁判所の連中に任せりゃいいんだ。死んじまったらお縄もかけらんねーしな」

 拓海は事もなげに言い、涼はその答えにただ面食らうしかない。

「それに、引き返せないとは限らねえだろ。まだ“間に合う”かもしれねーさ」
「間に合う……? 改心するかもしれないってことか? 人を殺してもまた変われるって、そう言うのか?」
「変われるさ。アタシ達はみんな、一度変わったんだ。変われるってことは、そいつだって知ってるはずさ」

 拓海が遠くを見るような目をした。不思議と親しみの篭った視線を、ここにいない誰かに注いでいた。

「アタシのプロデューサーは、人をおだてて持ち上げるのばっかり得意なヤツでさ。
 こないだも調子のいいこと言ってアタシに小っ恥ずかしい衣装を……いや、今はアイツの話はいいや」

 思わぬ方向に話がずれて照れたのか、拓海の頬に珍しく朱が差す。

「そんな話はどうでもいいんだよ。要するに、アタシはアイドルになって、自分の知らない自分を見つけた。
 涼や紗枝だってそうだろ? アイドルとしてデビューして、今までとは違う自分に変われたろ」
「せやなぁ。うちもあいどるになってから、なんや考え方が変わったような気がしますえ」
「あ、アタシも分かるな。なんていうか、注目される喜びに気付いたっていうか……へ、変な意味じゃねえぞ!?」
「分かってる分かってるって、何うろたえてんだ」

 涼だけでなく、それまで黙って聞いていた紗枝もデビューした時のことを思い出したのか、表情を綻ばせる。
 拓海はそんな二人の顔を見比べて満足げに頷き、言葉を継いだ。 

「一度変われたんだ、何度だって変われるさ。アタシ達はみんな、アイドルなんだからな」

 そう言い切る拓海の表情には確固たる信念が見え、涼もそれ以上言い返す気にはならなかった。

(何度でも変われる、か。そうかな。そうだといいかもな)

 やっぱり最初に会った時に感じた通り、綺麗事だという感覚は抜け切っていない。
 しかし、他ならぬ涼自身がその綺麗事に救われたからこそ、それを信じたい。
 とはいえ、殺人者の手を引いて脱出するなんて、本当にできるのだろうか。
 そいつが自分達や、小梅を手に掛けないとは誰にも保証できはしないのに。
 答えはすぐには出そうになかった。
 涼は頭をくしゃくしゃと掻くと、改めて二人に一声かけてからリビングを後にした。

(小梅……アタシの選んだ道、間違ってないよな? 必ずお前のいるところに繋がってるよな?)

 いつもならその呼びかけに答えてくれる、気弱な声の持ち主はいない。
 そのことがひどく落ち着かなくて、涼は無意識にまた髪を掻いた。


   ▼  ▼  ▼

805アイドリング・アイドルズ ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:31:30 ID:GnR1cuc20

(松永はん、大丈夫やろか。えらいややこしい顔しはって)


 涼がリビングを立ち去った後も、紗枝は涼の出て行ったドアを見つめていた。
 涼が焦っているのだとしたら、それは間違いなく小梅のせいだろう。
 その心労を心配する一方、そこまで大事にされている小梅が紗枝には少し羨ましくもあった。

(うちのことそないに気にかけてくれはる人はおるんかな。誰にも心配されへんなら、それはそれで寂しおすなぁ)

 紗枝は決して人付き合いが悪いほうではない。むしろ誰にでも分け隔てなく接するタイプだ。
 しかし、だからというべきか、振り返れば誰かと深い付き合いだったという覚えはない。
 加えてプロデューサーの方針もあってイベントでの露出があまり多くなかった彼女は、
 他のアイドルと仕事で交流する機会が夏の浴衣祭りの時ぐらいしかなかったというのも大きかった。

(強いて言うなら、周子はんかなぁ。今どうしとるんやろか……)

 三つ年上の塩見周子は、同郷ということもあってか、何かと話す機会が多かった。
 一見、不真面目そうな周子との相性はあまり良くなさそうだが、紗枝は逆に周子の人柄を買っていた。
 彼女は人前ではいつも飄々とした態度を崩さないけれど、本当は聡さと優しさを備えた人だと紗枝は知っている。
 そんな彼女だからこそ、この絶望的な状況でもあえて天衣無縫に振舞っている気がして、なんだかおかしかった。
 しかしどんなプレッシャーも柳のように受け流す彼女なら、一緒にいてくれたらきっと心強いだろうと思う。

 そんなことを考えながら、紗枝は拓海の方へ視線を戻す。
 拓海はソファーに体を沈めたまま、腕組みをして何かを考え込んでいる様子だった。

「むーかい、はん」
「お、おう、急に声かけるなよびっくりしたじゃねえか」

 紗枝の呼びかけに虚を突かれたのか、拓海はバツ悪げに苦笑いを返す。

「そうだ、聞こうと思ってたんだ。紗枝は、涼の様子どう思うよ?」
「なんや気ぃ詰めてはりましたなぁ。気持ちは分かりますさかい、何も言えへんけれど」
「だよな……アタシが同じ立場なら、やっぱり気が気じゃねーだろうからな」

 神妙な表情で頷く拓海に、しかし紗枝は別のことが気になって仕方なかった。
 それは拓海と出会った時からずっと、心の何処かで引っかかっていたことだった。
 彼女が大きく振舞おうとすればするほど、紗枝の中での引っ掛かりは大きくなる。
 その思いは膨らんで、気付くと口から問い掛けとしてこぼれ落ちていた。

「……気ぃ詰めてはるのは、向井はんも同じなんと違う?」

 その言葉に拓海が僅かに動揺したように見えたのは、たぶん気のせいではないように思う。
 
「なんなら、うちに甘えてくれはってもええんどすえ?」
「バカ言え、大きなお世話だって。天下無敵の特攻隊長、なめんなよ?」

 だけど、口だけで突っぱねてみせたその表情を見て、紗枝は悟った。
 世の中には弱みを見せたくない、見せられない人がいて、拓海はそうなのだと。

「……えらいすいまへん。うちの勘違いやったみたいやわ」
「……そうか。済まねえな」

 口ではそんな会話をしながらも、拓海への心配が消えてなくなったわけでは決してない。
 だからといって彼女の面子に泥を塗るようなことが出来るわけもなく、話はそこで途切れた。
 しかし、思えば紗枝自身、拓海の懐の大きさに甘えていた面もあったかもしれないと思った。

(もっと、うちが代わりに気張らんとあかんかなぁ……)

 ただ、少しでも拓海の負担を軽くしてやりたいと、ぼんやりと考えた。


   ▼  ▼  ▼

806アイドリング・アイドルズ ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:32:24 ID:GnR1cuc20
(流石に張り詰めすぎてたかな。紗枝にはバレちまってるか)

 涼の様子を見に行くと言って廊下の影に消えた紗枝の背中を目で追ったまま、拓海は内心でぼやいた。
 アイドルとしてデビューする前から幾多の修羅場をくぐり抜けた彼女だが、流石に今回は規模が違った。
 精神的な疲労感が今までの比ではない。命の懸かった状況というのはここまでのものか。
 これに比べれば、今までのあれこれなど鼻息一つで吹き飛びそうにすら思えてしまう。

(涼を襲った子のことが気になって仕方ないのも、言ってみればアタシの弱さか。
 やれやれ、アタシって自分が思ってるよりも、ずっと神経細いのかもな)

 目を閉じればすぐに条件反射めいて、あのチエという少女の姿が浮かんでくる。
 幼いながらに綺麗に整ったその顔が醜く削ぎ落とされ、骨と肉とが剥き出しになったその姿。
 血と体液を垂れ流し、呼吸音と声にならない声を立てて、すぐに死ぬことすらできなかった彼女。
 どれだけ痛かったろう。どれだけ苦しかったろう。どれだけ無念だったろう。
 そして自分がもっと違った対処を見せていれば、あんな悲劇は起きなかったのではないか。
 その仮定が一層拓海を苛む。後悔は不可視の有刺鉄線めいて心に食い込み続けていた。

(……軽かったな、アイツ)

 特攻服に染み付いた血痕に改めて目をやる。
 あんな吹けば飛ぶようなか弱い少女が、なんでこんな理不尽に死ななければならなかったのか。
 このクソッタレなイベントの企画者は、そんな彼女の姿を見下ろしてほくそ笑んでいたのだろうか。
 あるいはその下衆な笑みは、拓海自身に向けられていたのかもしれないとも思った。 
 お務めご苦労様。私達が用意したその衣装と武器にふさわしい活躍をありがとう。
 冗談じゃない。

「……確かにアタシは天上天下喧嘩上等の特攻隊長だよ。喧嘩なら他の誰よりだって手馴れてるさ」

 口に出してみれば、確かにこれだけ“殺し合い向き”のアイドルはそうはいないだろう。
 鉄砲を使うならいざ知らず、殴り合いならそのへんの連中など相手にならないぐらいの自負はある。
 だからこそ、奴らは“そうであれ”と期待し、拓海に特攻服と木刀を支給したのだろう。
 そうすることで拓海は野蛮なアウトローらしく、否応なしに殺し合いに巻き込まれていくだろうと。

「だがな、あんたらはひとつ勘違いしてるよ。特攻隊長ってのは、先陣切って走る役なんだ。どんな時でもな」

 しかし次に拓海の口から放たれた言葉には、意志の力があった。
 その瞳には、確固たる決意の煌きがあった。

 奴らが自分にこの支給品にふさわしい活躍をさせようという心積もりなら、乗ってやろう。
 この特攻服が自分に与えられた役割を示しているというのなら、その通り演じてやってもいい。
 だが、しかし。この装束にふさわしい役割は、決して奴らの思惑を成就させはしないだろう。
 それこそ、連中がこの自分を、向井拓海を決定的に測り違えている、紛うことなき証拠だ。

(この特攻服には、今までアタシが引っ張ってきた連中の、期待と信頼が染み付いてる。
 まだ何も知らねえガキのくせに巻き込まれて死んじまったアイツの、無念の血が染み込んでる。
 アタシ一人の魂で戦ってるんじゃねえってことを、こいつを着てるだけで感じるんだ)

 過去と現在。生者と死者。ここにいない奴らの思いを、特攻服を通して肌で感じる。
 それだけじゃない。小早川紗枝と、松永涼。彼女達の願いも、既に背負ってしまった。
 重圧を感じないわけではない。責任を背負うことに無自覚でいられるはずはない。
 それでも、いや、だからこそ、その重みを感じる限り、自分は真っ直ぐ進めるだろう。
 振り向かずに走れるのは、振り返りなどしなくても、後を付いてきてくれるという信頼があるからだ。
 自分の背中を信じるからこそ、ただ前だけを見て突っ走る。拓海の走りを、奴らは分かっていない。

(……だからこそ、思い知らせてやる。このアタシに走る覚悟をさせた、あんたらの落ち度をな!)

 紗枝や涼に希望の火を付けてしまった責任は取る。逝ってしまったあの少女の無念は必ず晴らす。
 プロデューサーは助ける。涼を襲ったという少女も救う。小梅も、他の知り合いも、知らない奴も、誰も彼も。

 無茶で、無謀で、無鉄砲。構うもんか。何もかも背負って、突っ走ってやる。

「アタシ一人じゃない、アイツらと一緒ならやれるさ。ご期待通りに見せてやんよ、アイドル向井拓海の全力疾走を」

 握り締めた拳に力が宿る。
 願わくば、これが運命を変える力であればいいと思う。
 

   ▼  ▼  ▼

807アイドリング・アイドルズ ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:33:04 ID:GnR1cuc20


 三者三様の思いを胸に、三人はそれぞれの明日を見る。


 しかしもうじき彼女達は、十余人の少女達の死とこの島の殺意に満ちた現実を、否応なしに知ることとなる。


 第一回放送まで、あとわずか。





【B-4(民家内)/一日目 早朝】



【向井拓海】
【装備:鉄芯入りの木刀、特攻服(血塗れ)】
【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる。殺さない。助ける。
1: 引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する)
2:涼を襲った少女(緒方智絵理)の事も気になる



【小早川紗枝】
【装備:薙刀】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。
1:引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する)
2:少しでも拓海の支えになりたい



【松永涼】
【装備:イングラムM10(32/32)】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0〜1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:小梅と合流。小梅を護り、生きて帰る。
1:小梅と合流する。
2:他の仲間も集め、この殺し合いから脱出する。

808 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/26(水) 09:33:28 ID:GnR1cuc20
投下完了しましたー

809名無しさん:2012/12/26(水) 14:23:24 ID:5kAbVueg0
皆さん投下乙です!
・今、できること
ああ、まゆが逝ったか……
最期に託した想いが楓の心に何かを残せたのだと思いたい
そしてナターリア……最初に抱いた想いが大きかったからこそ、誤殺の連続でメンタルが不安なことに
我らがヒーローがなんとかしてくれる……はず

・曇り、のち……
このすれ違いも互いを想っているからこそだよなぁ
凛の現状なんかも踏まえるとなんともやるせない気持ちになる
覚悟を決めた加蓮と揺れ続ける奈緒、二人の運命は如何に

・アイドリング・アイドルズ
この三人はそれぞれがそれぞれの支えになろうとしていて、危うさも見えるとはいえいい繋がりになってるなぁ
放送を受けて彼女たちは何を思うのか

810 ◆John.ZZqWo:2012/12/27(木) 22:39:18 ID:yyjQ/VxI0
>アイドリング・アイドルズ
投下乙です。
この3人、3人ともが最初から危ういところがあってそれが燻ってるんだけど、3人でいるからこそそれぞれがフォローできてるのがとてもよい感じ。
この後の放送でクリティカルな名前があがることは多分ないと思うけど……、しかし数が数だからどれだけ揺らいでしまうのか。
間に合う、間に合わないの問題だからなぁ……拓海ねーさんがどヘコみしそう。


で、予約延長します。

811 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/27(木) 23:48:04 ID:fPUnzPhU0
投下乙ですー
このトリオいいなぁ…三人が共に弱くて、支えあっている様がすごく良い。
バトン渡した方から言っても深く掘り下げてくれて感謝の極みです!
そして拓海姐さんかっけぇ!素晴らしい覚悟だな……

そしてもうすぐ放送か……
その内容で彼女達がどう思うのか……John.ZZqWo氏の手腕にかかってますね(チラッ
小梅ちゃんがもし死んでしまったらと思うと……想像もつきませぬ
あとお姉ちゃんとかいるしなぁ…不安要素多い

そういえば、放送ってどのタイミングでやるんです?

812 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/29(土) 00:15:30 ID:EKoVZxE.0
投下乙ですー!
拓海も、紗枝も、涼も三者三様の心理が良く描けてるなぁ。
三人とも安定しているけれど……放送きくとどうなるかなぁ
次が待ち遠しいw

813 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/29(土) 00:15:51 ID:EKoVZxE.0
さて、年末ですね。もう直ぐ今年も終わりそうです。
そして、年を開けると同時に、モバマスロワも放送が明ける事できそうです!
現在、放送書いていますが、JohnPの投下の後、投下できそうです。

それで、年始&放送開け記念で、幾か企画を考えていります。

まず①として、第一回放送までの作品の人気投票を考えています。
【総合】、【登場話】の二部門を、五票ずつ投票していく形を考えています。
書き手、読み手気軽に投票できたらなーと思っています
投票期限は一週間ぐらいを考えています

その②として、放送開け記念雑談チャットを考えています。
打ち合わせなどではなく、各々のモバマスとのふれあいとか、モバマスロワの作品の裏話、感想の言い合いなど
色々な雑談を書き手と読み手とわずきがるに出来たらなーと思っています。

つきましては、年末年始で各々予定などがあると思うので、

①(人気投票の期間)
②(チャット日時)
③(希望する放送明けの予約解禁日)

を、都合の会う日に書き込んでください。
いつでも良いという人も、その旨を書き込んでもらえると助かります。
これも書き手読み手問わず募集しています!
ので、どしどし書き込んでくださいー。



そして、もう直ぐ月末ガチャですね!
福袋つきガチャもセットでお安くなってるでしょう!
お年玉やボーナスをどんどんつぎ込んでくださいね!

以上報告でした!

814 ◆John.ZZqWo:2012/12/29(土) 00:50:44 ID:8M0cSre.0
乙です!

① 12/31〜1/6くらい
② 投票最終日の晩(1/6)
③ その翌日

つまり、投票する→結果を見ながらやいのやいの→その後に予約解禁みたいな感じがいいんじゃないでしょうか。

815 ◆j1Wv59wPk2:2012/12/29(土) 01:42:00 ID:YaMNr4Xs0
いつも乙でーす!

① 放送投下の翌日から10日間くらい
② 結果発表日の翌日
③ ②の翌日

概ねJohnPさんと同意見ですー

816 ◆n7eWlyBA4w:2012/12/29(土) 02:26:06 ID:XkJLFKDQ0
乙ですー。

①放送後一週間ぐらい
②投票集計後の夜
③その翌日

自分は割と融通が利くので周りに合わせますよう

817 ◆ncfd/lUROU:2012/12/29(土) 02:32:48 ID:jC.Skf.Q0
乙ですー

撿放送後一週間ほど
撿撿終了後の翌日が休日である日の夜
撿撿の翌日

こちらも周りに合わせられますが、どうせならチャットの時間は長くとりたいですし、翌日が休日である日がいいかなと思います

818 ◆44Kea75srM:2012/12/29(土) 02:45:27 ID:sXpgT7cI0
乙であります。

① 放送投下から〜一週間
② 投票最終日
③ 放送投下翌日

いずれも0時目処がいいと思います。

819 ◆ltfNIi9/wg:2012/12/29(土) 03:14:59 ID:H4Nuu4Hc0
お疲れ様です
自分はしばらく忙しいので各企画に参加できるのか不明なので、具体的な日時への意見はしないでおきます。
ただ、皆様方が言ってることと被ったりもするのですが、チャットや投票と予約日がかぶるとやることせわしなかったりしてもったいないですので。
できれば、

③投票もチャットも終わりきった後

にしていただければ幸いかと

820 ◆GeMMAPe9LY:2012/12/29(土) 16:37:18 ID:VZs.HMc60
お疲れ様です。
自分は

① 放送投下から〜一週間
② 投票最終日
③ ②の翌日

という感じでお願いします。

821 ◆John.ZZqWo:2012/12/29(土) 23:44:43 ID:8M0cSre.0
すいません、まだできてないです。今日中にはあげるのでどうかご容赦を。

822 ◆BL5cVXUqNc:2012/12/30(日) 12:58:43 ID:PC3H4iYE0
お疲れさまです。
自分はみんなの意見に合わせます。
なのでこちらから特に要望することはありませんのでよろしくお願いしますー

823 ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:20:40 ID:13pyEBBk0
遅れてすみません。投下します。

824彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:21:41 ID:13pyEBBk0
真っ黒な空のキャンバスを踊り狂う赤色が塗りつぶそうとしていた。
地上から立ち上る激しい炎は地獄から伸ばされた悪魔の舌のようで、その舌先は天の星を絡めとらんと揺れている。
熱くて熱い、なにもかもを燃やしつくしてしまう炎。
その前に街の住人らが集まっていた。

星の瞳の大きな子供と、猟銃を構えた狩人と、壷を抱えた職人と、厳しい裁判官と、袖をたらしたおばけと、鎧のお姫様。そして羊。

そこで行われているのは裁判だった。咎められているのは火を放ったことではない。彼らは魔女を探しているのだ。
厳しい裁判官は魔女を見つけたなら炎の中に放り込んでくべてしまおうとしているのだ。
ひとりひとり、全員がその身の潔白を彼の前で宣誓しなくてはならない。

厳しい裁判官が皆を睥睨する。最初に手をあげたのは――……

825彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:22:05 ID:13pyEBBk0
 @


「よくこんな状況で熟睡できるわよね」

小関麗奈はベッドの中でイグアナを抱いて丸まっている古賀小春を見つめながら小さな溜息をこぼした。
同じく寝床についた小関麗奈だが、彼女はどうしても寝つくことができないでいた。
いや、それが普通だろうと彼女は思う。
いつなにがあるとも限らないこんな状況で眠れるなんて感受性が鈍いだけで自分が劣っているわけではないと。
扉に鍵がかかっているかを二度も確かめ、どこかに開いている窓がないかと家屋の中を一周してきた自分は慎重なだけで決してビビりではないと。
いやそれどころかむしろ逞しい想像力の賜物だろうと。あらゆる危機を想定できるだなんて「さすがレイナサマ」だ。

「なにかプランはあるんでしょうね……?」

眠る彼女の寝顔が安らかすぎてそんな嫌味がつい口から出てしまう。
どうしてこの子はここまで気楽でいられるのだろうか。いや、そうだ。この子はまだ人が死ぬところをまだ見ていないのであった。
だからこそいつもとなんら変わりないのだろう。
ならば翻って自分はどうなのかと小関麗奈は自問する。
堅くざらざらした道路の上で目覚めた時、それからバックの中から二丁の拳銃を見つけた時、必ずこの“Liveバトル”に勝つと誓った。
しかしそれは本当に前向きな決断だったんだろうか? 人を殺さずに耐える――そこからの逃避ではなかっただろうか?

じゃあ試してみればいい。簡単な想像だ。発想、想像力、インスピレーションに優れたレイナサマならわけはない。
寝ている古賀小春のこめかみに銃口を当てて引き金を引く。それだけで一勝が得られ、小関麗奈は優勝へと一歩近づくことになる。
古賀小春は頭から血を流して死ぬだろう。
もう起きることはなく二度と小生意気な口を聞くこともないだろうし、気の障るような笑い方をすることもなくなるだろう。
足手まといも処分できる。一石二鳥どころか三鳥だ。さすがレイナサマの仕事だ。

「うぅぅ…………」

小関麗奈は立ち上がるとベッドから離れる。枕元に置いたガンベルトが目に入ったが、しかし今は触れたくもなかった。
どこへ行こうか、離れたくはない、しかし今は彼女の傍にいたくない。逡巡し、小関麗奈は灯台の上へと続く階段に足を乗せた。
カツンカツンと音を立てる螺旋階段を手すりにしがみつきながら上る。

「………………………………」

頂上へと出ると海へと向かって吹く風が気持ちよく肌をくすぐって、嫌な気持ちもすこしは流してくれた。
だが、その風はすこし焦げ臭い。

「なんだかさっきよりもひどくなってるような……」

視線の先、町並みのジグザグしたシルエットが赤色の中に浮かび上がっている。
まだ火事は――といってもそれほどの時間が経ったわけではないが、収まっていないようだった。それどころか、勢いを増しているように見える。
灯台の頂上からだと炎は麗奈の小指の先ほどの大きさにしか見えないが、ゆうにビルをひとつ飲み込むほどはあるだろう。
周囲へと延焼も始まっているのかもしれない。もしかすればこのままあの街は全部燃えてしまうのではとも思えた。

「街に向かわなかったのは正解だったみたいね」

案外、この灯台にひきこもっていれば労せずして勝利が得られるのではないだろうか。
古賀小春とふたりきり(とイグアナつき)でくだらない会話をしながら殺しあいのことを忘れてすごす。
そうすれば彼女相手にイラつくこともなくなるだろう。嫌なことを前に無理をする必要もなくなるだろう。その発想は実に甘美な誘惑だった。

「あまいってのよ……! アタシが小春によってってどうするの」

小関麗奈はぶるぶると首を振って甘えきった妄想を振り払う。
古賀小春はしっかりしてるけどしっかりしていない。自分はしっかりしていないけどしっかりしている。
人間の尊厳やアイドルとしての矜持という部分と、この過酷な現状に対する認識と覚悟、“どちらかだけでは絶対駄目”だ。

「そうよ……、そうよ、認めるわよ小春。でもね、あんただってこのレイナサマがいないとなにもできないんだってこと――」

思い知らせてあげるんだから、と口の中で呟いて小関麗奈はにっと笑った。
瞬間、胸の中にあった気持ち悪いもやのようなものも晴れた気がする。

「アタシはレイナサマなんだからね」

どうやら今度は気持ちよく眠れそうだと小関麗奈は踵を返す。そして階段に足をかけたところでふと街のほうを振り返った。

「そういえば、えっとあの……きらりってのはどうしてるのかしら?」

826彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:22:27 ID:13pyEBBk0
 @


「ふぅあー! 火がもえもえですぅごッいー!」

爆音を聞き、肇を自転車の後ろにのせてそこへと向かっていた諸星きらりだったが、目に映る光景は彼女の予想を遥かに超えたものだった。
視界を通り過ぎてゆく建物の隙間からは今までに見たこともない巨大な火柱が覗いている。
まるでビルひとつがそのままキャンプファイヤーになった、そんな光景だった。
どうしてこうなったんだろう? もしかしたらあそこで助けを待っている人がいるかも?
ビルの屋上や窓から逃げ遅れた人が手を振っている――そんな光景を頭に浮かべるとペダルを踏む足にも力がこもる。

「きらりんぱわー! ふるすろっとるぅぅううううぅぅぅうううううう☆☆☆」

きらりんぱわー☆に、普通のものよりも小さめな折りたたみ自転車のフレームが軋み、チェーンがギリギリと悲鳴をあげた。
しかしそれらよりも大きな悲鳴をあげたものがある。いや、ものではなく人だ。

「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!」

諸星きらりがペダルをこぐたびに姿勢は波うつように大きくゆれ、またそのイメージからかけはなれた速度で走り、急ブレーキ急カーブも遠慮ない。
そんな暴走とも言える運転に搭乗者――いや、辛うじて背中にひっついているだけでしかない藤原肇は力の限りの悲鳴をあげていた。

827彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:22:47 ID:13pyEBBk0
 @


「……………………?」

街をそのはずれに向かって歩いていた和久井留美は悲鳴が聞こえたような気がして、一度足を止めた。
今来た道を振り返る。だが振り返ったところでただの道だ。しんとした光景が広がるだけでなにがあるわけでもない。

「気のせいかしら……」

耳を澄ましてももう悲鳴は聞こえない。風の音でも聞き間違えたか、それとも緊張からくる幻聴なのか。
でも悲鳴は本当で、またどこかで獲物を誰かに先取りされてしまったのかもしれない。
だとすれば悲鳴をあげた者、そして悲鳴をあげさせた者を探すべきだろうかと和久井留美はすこし考える。

しかし遠くに見える炎を見て和久井留美は首を振る。
あれは人を呼ぶ。自分も呼ばれたひとりだ。そして人を集めすぎる。
ゆえにまだこの周囲に獲物がいくつか残っているとも考えられるが、同時に自分のような狩る側の人間も少なくないはずだ。
ここに留まればまだ成果が得られるかもしれない。けど、立ち去ると決めたのが和久井留美の決断だった。

今は“ライバル”との競争はしない。賭けているのは自分とプロデューサーの命だ。なので無理をすることだけはできない。
今、必要なのは確実に勝てる相手から始末し、少しでも有利になる武器を増やすこと。
その気になっているライバルと決着をつけるのはそれができてからでいい。

ここでライバルとの対決を避けることは、そのライバルに狩場を譲ることと同義とも言え、そこに不安を感じない和久井留美でもない。
しかし逆にここでライバル同士の潰しあいがあるかもしれないと期待することもできる。
あくまで、重要なのは最後まで生き残ることだ。別に殺した数が多いからといって誰かに褒めてもらえるわけじゃない。
むしろ殺さなくてすむならそれにこしたことはない。理想とするのは自分が何もしないうちに他が潰しあい、きれいな身体で生き残ることだろう。
もっとも、すでに手を汚している身ではそれももう叶わない夢でしかないが。

ともかくとしてもう失敗はできない。
白坂小梅が投げたのが爆弾ならもう死んでたし、その後でただの子供だという最も取りやすい獲物を取りそこなっている。
もし次に大きなミスを犯せば、その時にこそ死んでしまうのではないか。そんな予感もあった。

「焦らない。確実に。集中する。殺せる相手は殺す。自分の命が最優先。欲張らない。武器が手に入ったらもう最後まで待てばいい」

ひとつずつ自分に言い聞かせる。冷静に、客観的に、ステージの上に向かう時と変わらないと自分に思いこませる。
不安はいらない。高揚する必要もない。あらかじめ決めたことを間違いなくトレースする。これはいつもの仕事となにも変わらない。

「仕事とあらば完璧にこなしてみせるわ」

例えそれが殺人であろうとも。



道なりに進み、建物もまばらになってきたあたりで和久井留美は情報端末を取り出して現在位置を確認する。
表示されている位置は北東の街の、その西端のあたりだ。そのまま道なりに進めば南の街に通じ、途中、キャンプ場の前を通ることになる。

「そうか……」

和久井留美は自分が取るべき戦略に気づく。
すでに自覚がある通り、目立つ場所で成果を多く求めるのは今の場合間違いだ。
つまり、ならばその逆を取ればいい。
地図上にあるキャンプ場はポツンとしていてあまり人が集まりそうにない。ライバル達もあまりここには目をつけないだろう。
だからこそ、何者かが――たまたまここに辿りついただけで逃げたり隠れたりすることしかできないネガティブで消極的な人間がいる可能性がある。
人と会いたくても震えるだけで積極的にはならず隠れていることしかできない臆病な子――それこそが狙うべき獲物だ。

「天文台は行って戻ってくるには遠いか……いや、それでも行く価値はあるわね。灯台や牧場も……」

和久井留美は冷静に地図を精査する。すでに新しい方針は決まった。
始まってからろくに動けないか、人を信頼できずひとりで引きこもっている、そんな人間、そして彼女らがいそうな地図上のポイントを回って行くことだ。
はずれを引く可能性も高いが、リスクは極めて低い。リスクの低さは命がかかっている以上、もっとも重視されるべき要素である。

することが決まれば不安も消え去りいくぶんか身体も軽くなる。
和久井留美はショットガンを構えなおすと、しっかりとした足取りでひとつ目の目的地であるキャンプ場へと足を進めた。

夜空を焦がす炎を背に、目の前の長い影を追うように和久井留美はひとり街から去ってゆく。

828彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:23:08 ID:13pyEBBk0
 @


「すごい……」

燃え上がる建物を見上げ、藤原肇は見たままの感想を口から零した。
目の前にあるのはごうごうと、そしてときおりバキバキと破壊の音を立てて燃え上がる火柱だ。
元は5階か6階立てほどのビルだったのだろうが、わずかに炎の向こうに影が見えるくらいで今はそれが元々がどんな建物だったのかはまったくわからない。

「ふぇー……」

隣に立つ諸星きらりもただ驚いているだけで、藤原肇よりも二回りは大きな彼女の存在も目の前の光景に比べればとてもちっぽけに見える。
30メートルは距離をとっているというのに伝わる熱は肌をじりじりと焼くように熱い。まるで火を入れた窯の中を覗いているみたいだと藤原肇は思った。

「えっと、どうするんだにぃ……?」

どれくらい二人で呆然としていただろうか、諸星きらりがそう口を聞き、そこでようやく藤原肇は圧倒される光景から思考能力を取り戻した。
とはいえ、彼女もなにか目的があってここに来たわけではない。ただ気になったから来ただけで、なにをすると言われても返答はできなかった。
もしもっと火勢が弱ければ消火を考えたかもしれないが、もはやこの状況では例え消防車があっても火は消せないだろう。

「は、早くここを離れたほうがいいんじゃ……、いや、そうじゃなくて――」

こんなに目立つのだから他にも誰かがここに来るかもしれない。だからそれを探しましょう。そう言いかけたところで突然爆発が起きた。

「にょわっ!」
「ひゃっ!」

ズンと響く音とともに火柱の一部が膨れ上がりそこから小さな火柱が吹きあがる。
まだそこに残ってた窓が窓枠ごと吹っ飛び、くるくると回転しながらアスファルトの上に落ち、派手な音を立ててバラバラに四散した。
それを目で追って、その近く、ビルの正面からすこし離れた場所に“何か”が落ちているのに藤原肇は気がつく。

それは黒い煤の塊のようなものだ。蝉の抜け殻のように丸まっていて、人間くらいの大きさで――そこまで気づくと彼女はもう走り出していた。
照りつける熱波も忘れてその人の形をした煤の塊に駆け寄ろうとする。

「だめ――ッ!」

だが三歩も足を踏まないうちに藤原肇の足は空を切る。後ろから諸星きらりに抱えあげられたのだと気づいたのは一瞬後だ。

「あそこにいったら肇ちゃんも死んじゃう」
「あ……、あ…………」

諸星きらりの厳しい声に、身体から力が抜ける。代わりに吹き込んできたのは心臓を刺し貫くかのような悲しみだ。
視線の先、どうしてこうなったのかということなど意識することもできず、ただその姿の痛ましさだけが藤原肇の心を強く打つ。
人間なのに、女の子なのに、アイドルなのに、もはやその誰かは一切の判別のつかない黒焦げた塊でしかなくなってしまっている。

それはあまりにも悲しい姿だった。火の中で創造することを知る藤原肇だからこそ、その火の中での死はあまりにいたたまれなかった。

829彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:23:53 ID:13pyEBBk0
 @


角を曲がるとそこはまだ夜だというのにステージの上のように明るく照らされていた。
岡崎泰葉はその眩しさに一瞬顔をしかめる。そして、その煌々と炎に照らされたステージの上に立つ二人のアイドルの姿を確認した。

いや、彼女らが『アイドル』であるかを確認するのはこれからだ。

岡崎泰葉は彼女たちが殺しあいを肯定している可能性があることを十分理解しながらも、一切の躊躇なく足を踏み出した。
背後で連れてきている白坂小梅がなにかの発言したようだったが、それも無視して二人に近づく。

そこにいるのが誰か、ひとりは遠目に見てもすぐにわかった。
岡崎泰葉が所属する事務所に男性職員も含めてあんなに大きな人間は彼女――諸星きらりしかいない。
そしてもうひとりは近づくまで誰かはわからなかった。背格好も容姿も地味な子だ、などと岡崎泰葉は自分を棚にあげて藤原肇をそう評する。

その藤原肇の顔がひどく青ざめ強張った表情をしている。
ここでなにかあったのだろう。これほどの状況だ、なにもなかったはずがないと岡崎泰葉は燃え上がるビルを見上げる。
映画の中でもこれほど迫力のある火災はそうは見ない。しかしそんなことは大事じゃなかった。
岡崎泰葉にとって大事なことは目の前のふたりが『アイドル』であるか、そうでないかだ。

「こうして顔をあわせて話すのははじめてかもしれませんね。岡崎泰葉です。よろしく」
「よろしくおねがいします……。あ、藤原肇です」
「おっすおっす、きらりはきらりだにぃ☆ 小梅ちゃんも泰葉ちゃんといっしょにいたんだにー?」
「う、……うん…………そう」

挨拶を終えると岡崎泰葉は改めて周囲を見渡し、そして目敏くそれを見つける。それとは勿論、黒焦げになったアイドルの死体だ。

「あれは……」

焼かれるというのはあまりに惨たらしいだろう。
しかし岡崎泰葉この時、そんなことにはなんら感情を揺さぶられることなく、目の前の二人が不気味がってるのにも気づかず薄い笑みを浮かべていた。
彼女の感心はもはや『アイドル』か否かでしかなく、ようやくまともに口をきける相手と出会って期待が高まってること。
そしてその価値観がすでに生死すらも超越しているがゆえにこんな殺人の現場で笑うことができるのだなどと、余人には理解できるはずもない。

「一体、なにがあったんですか?」

岡崎泰葉は問いかける。
先に答えを返したのは諸星きらりのほうだった。彼女の喋りかたは独特で、また説明することもやはり得意ではないようでまったく要領を得ない。
だがしかし岡崎泰葉は逆にそのことに安堵した。ここにおいて諸星きらりは岡崎泰葉の知る諸星きらりだったのだから。
そして、藤原肇の話は、口を開くまでに間があったものの、喋りはじめれば理路整然としていて彼女がこの数時間で何を体験したのかよく理解できた。

最初にログハウスで自殺した――しかしどこか安らかな死に顔だった佐城雪美の死体を発見したらしい。
岡崎泰葉はそれが彼女が『アイドル』のままであることを選択したのではないかと推測し、できれば自分もその顔を見てみたいとも思った。
そして彼女は諸星きらりと合流し、爆音と炎に誘われてここに来たところで黒焦げになった死体をまた発見し、そこに更に自分らが現れたということだった。

ならば藤原肇の顔が恐怖に強張っているのは当然だ。岡崎泰葉も死体を見つけるのは二人目をなるが、まさか死体の前で明るく振舞えとは言わない。
ようは『アイドル』としての自覚と振る舞いだ。岡崎泰葉は彼女の悲しみを湛えた瞳の奥に決意があることを見逃さなかった。
そして彼女の話を聞けばそれだけでも十分に彼女が『アイドル』を自覚し、『アイドル』であろうとしていることがわかる。

諸星きらりと藤原肇、ふたりは岡崎泰葉がこの場所ではじめて認めるまだ生きている『アイドル』だった。

830彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:24:14 ID:13pyEBBk0
「泰葉ちゃん、だいじょうぶー?」
「えっ」

諸星きらりにぐっと顔を覗きこまれて岡崎泰葉は思わず後ずさってしまった。愛嬌のある顔は怖くないが、でも大きなものが動くはちょっと怖い。

「だって、泣いてる。……泰葉ちゃんも怖いこといっぱいいっぱいあった?」

言われて、頬に手を触れてようやく岡崎泰葉は自分が泣いていることに気づいた。気づくと涙はぼろぼろと次から次へとこぼれる。

怖いことはいっぱいあった。殺しあいをしろと言われた。プロデューサーを殺すと脅された。バックの中からは拳銃やナイフが出てきた。
恐る恐る夜道を歩いているとそこに倒れている人を見つけて、まだ眠っているのかと思って近づけばもう死んでいた。
それも酷く惨たらしく傷つけられ全身が血塗れだった。
その恐怖を、その理不尽を、この悪夢を、苛烈な怒りで全て上書きしなければ耐えられないほど、虚勢を張らなくてはならないほど、とても怖かった。
いつ誰かに殺されるかと思っていた。だから常にイニシアチブを取り、相手に攻め入る隙を見せないように振舞っていた。
でなければ、怖がっていることを忘れなくてはならないほどに怖がっていれば、どうすればここで自分を維持することができたか。

「…………怖いですよ。それは。……でも、怖いから泣いてるんじゃないです」

彼女たちに会って、ようやく悪夢の中に希望が見えた。
さっきまではきっと出会う女の子は誰も『アイドル』でなく、見つかる『アイドル』は死んだ『アイドル』だけなのだと思いこんでいた。
でも違った。まだ『アイドル』はいた。諸星きらりは他にも小関麗奈や古賀小春という『アイドル』がいることも教えてくれた。

未だ悪夢の中にいるという事実は変わらない。
でも、岡崎泰葉はひとりじゃなかった。

ずっと溜めていた涙はとめどなく流れる。たったひとつのことが彼女を縛っていた茨をほどいてゆく。

「おー、よすぃよすぃー☆ きらりがきらりんぱわー☆ちゅうにゅーするからこの胸に飛び込んでくるにぃ☆」

はははと岡崎泰葉は初めて“笑う”。
子供みたいで恥ずかしい。でも今だけはそれでもいいかと思った。実際にあと数秒もあったなら彼女の胸に飛び込んでいただろう。

しかし、切り裂くような悲鳴がそれを遮った。


 @


白坂小梅はずっと岡崎泰葉の後ろで彼女らのやりとりを見ていた。なにを発言することもなかったし、その必要にも迫られなかった。
そのことにすこしの悲しみを覚えるが、それよりもただ人が増えることの安心が上回った。
諸星きらりのようなすごい押し押しの子は苦手だけれど、少なくともあまりに怖すぎる岡崎泰葉とふたりっきりよりかは100倍いいとそう思う。
そしてその、自分を蔑みの目でしか見ることのない彼女も諸星きらりのきらりんぱわーではぴはぴ?になったようでほっとひと安心だ。

自分の身がどう扱われるのか気が気でなかった白坂小梅だが、どうやら穏便にことがすみそうなことで、ようやく周りを見る余裕を取り戻した。
周り、といっても目を引くのは燃え盛る建物しかない。
これがホラー映画ならここはもうラストシーンだなと白坂小梅は思う。
怪物に襲われた人間らは辛うじて館から逃げ出し、怪物ごと燃え上がる館を見てもう終わったと安堵するのだ。
しかし大抵の場合、怪物は死んではない。スタッフロールの後に焼け跡からずぼっと怪物の手が突き出してくるのはお約束である。

そこまで考えて白坂小梅ははっとする。“怪物”――この火災を起こした誰かはどこだろう?
いや、その誰かだけではない。自分に銃を向けたあの人もこの近くにいるかもしれない。――そう、今ここはまだ物語の終わりでもなんでもない。

「むふふ……」

背中に走った痛みに白坂小梅は悲鳴をあげた。

831彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:24:34 ID:13pyEBBk0
 @


炎の赤を目印にたどり着いてみれば、そこは魔女達が集まるサバトの現場であった。
羊の姿をした子供をつれたお姫様の視線の先には四人の魔女がいる。

土塊をこねて下僕を生み出す魔女。怪力と大声を自慢とする巨人の魔女。幼い見た目と反し最も魔術に長けるとされる魔女。そして死霊を使う魔女。

どれも一筋縄ではいかない強敵だ。しかし今、彼女らはなにか儀式を進めることに夢中らしい。
その隙を狙うなら今しかない。
喜多日菜子はナイフを抜き取りそっと息を吹きかける。
するとキラキラとした光が刃に宿った。破邪の力を持つ聖なる光である。これで刺せば魔女を殺すことができる。

「な、なにをするでごぜーますか……? あそこにはきらりおねーさんがいるでごぜーますよ?」
「むふふ、静かに……」

裾を引き心配そうな顔をする子供の唇にそっと人差し指をあてる。
そしてこれから始まることで怯えさせないように、喜多日菜子は羊のかぶりもののずらしてその目を隠してあげた。

「むふふ……」

子供がおとなしくなったことに満足すると物陰から顔を出し今一度隙を窺う。四人の魔女を相手にそのままぶつかってはさすがに分が悪い。
そして機会はすぐに訪れた。四人の魔女が揃って火柱のほうへと向き、こちらに背中を見せている。
最初に狙うのは一番近くにいる死霊を使う魔女だ。もし他の魔女を倒しても彼女がいれば死霊として蘇ってしまう。

破邪の力が宿ったナイフを強く握り締めると喜多日菜子は物陰から飛び出した。

832彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:24:54 ID:13pyEBBk0
 @


「な、なにがおこってやがりますか!」

悪夢の時間はいつまで経っても終わらず、市原仁奈はこの時も暗闇の中で困惑し、ただただ涙を流しながら恐怖に震えるだけだった。
最初に聞こえたのは身の毛もよだつような悲鳴だった。
そしてにわかに騒がしくなる。ごうごうと風の音が鳴る中、いくつもの足音が響き、いくつもの悲鳴が聞こえた。

「なんでみんな怖いんでごぜーますか…………」

うずくまると足音が地面から響き渡って怖いので市原仁奈は顔を上げる。
すると目を覆っていたきぐるみも簡単にズレて、その光景が目の中に入ってきた。

「なにして……」

他の誰かならもっと違った印象を得たかもしれない。だが、市原仁奈が最初に感じたのは“おにごっこ”みたいだなということだった。
スポットライトのように明るく照らされるステージの上でナイフを持った鬼が他のみんなを追い回している。
皆必死の形相だ。笑っているのは鬼の日菜子だけだった。

「あんたは大丈夫でごぜーますか……? へんじを、へんじをすれでごぜーますよ」

市原仁奈は辛うじて立ち上がるとよろよろと彼女の傍でうずくまっていた人物に声をかける。
その人物は自分と同じように泣いているようだった。じゃあ背中を撫でてあげようと手をのばそうとして、彼女がどうして泣いてるのか気づいた。

「だ、大丈夫でごぜーますか? すごい怪我を……」

うずくまる背中が一直線に切り裂かれ破けた服の中に白い肌が見える。そしてその白い肌は真っ赤な血でべっとりと濡れていた。

「ひぃ……」

ぺたんと腰を落とし市原仁奈はか細い悲鳴をあげる。こんな怪我をしているなんて怖い。こんなに血が流れているのも怖い。
地面におしりをついたまま後ずさる。幼い彼女には恐怖に耐えたりそれを克服しようという発想はなかった。ただただ恐怖は遠ざけたいものだ。
また再び逃げ出そうとして、

「日菜子ちゃん、危ないからやめるにぃー!」

その恐怖の反対側に希望――諸星きらりがいることを思いだした。

「た、助け……」

諸星きらりと彼女を含む3人はおにごっこの中で、狙われれば逃げ、そうでなければ鬼を捕まえようと必死になっているようだった。
だが鬼は後ろから近づいても勘よく察しナイフを振り回すのでいつまでも決着はつきそうにない。
市原仁奈はそんな光景を見て、自分がどうすればいいのか――その問題を頭の中でぐるぐると回し始める。

しかし、なにをすればいいのか、なにができるのか全然思いつかなない。考えれば考えるほど見れば見るほど怖くなり泣きたくなり逃げたくなる。
だからもうなにも考えずに、なにも考えられずに、ただ思ったことを叫ぶ。いや意識はなく、ただ悲鳴のようにそれを吐き出した。

「もうやめるでごぜーますよっ! いやでっ……! もう、いやで……ぅ、うわああああああああんんんんん――」

泣き声が響き渡り、そこにいた全員の動きを止める。

そして――……

833彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:25:14 ID:13pyEBBk0
 @


「うるさいなぁ……寝れやしないよ……」

双葉杏はベッドからのそのそと起き上がると、文句を言ってやるという風な表情でベランダのガラス戸を開け、そして絶句した。

「なにあれ……?」

双葉杏が起きてきたのはずっと大小の爆音が断続的続いて寝ようにも寝られなかったせいだが、その瞳の中の光景は彼女の想像以上だった。

「…………メガフレア?」

ガスにでも引火したのだろうか、巨大な火球が宙に浮かんでいた。それはすぐにたわむと黒煙だけを残して消えてしまう。
どうやら大きな爆発が起きたらしいということだけは解った。そして小さな爆発音が連続し、いくつも小さな火柱や火球が現れる。
火勢はもはや最初に見た時とは比べものにならない。もはやこの街全体を焼き尽くしかねないといった勢いだ。

「でも、まぁ、ここは大丈夫だよね」

言って、双葉杏はベランダから部屋の中に戻り戸を閉めカーテンを引いた。
外の光景はまるでゲームの中のようなスペクタクルあふれる大迫力シーンだが、本物は不安を煽るだけで見ててもまったく楽しくない。
この先どうなるのか、不安は増すばかりで、なので彼女は――

「果報は寝て待て」

やっぱり今は寝てやりすごしてしまうことにした。






【C-7/一日目 早朝】

【双葉杏】
【装備:ネイルハンマー】
【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品(杏)x0-1、不明支給品(莉嘉)x1-2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:印税生活のためにも死なない
1:働いたら負けだよね。だから杏は寝ることにするよ。

834彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:26:01 ID:13pyEBBk0
 @


「どうですか?」
「火は大分おさまったみたいですけど煙がすごいですね」

岡崎泰葉が尋ね、藤原肇が窓の外を見て答える。そしてそれを白坂小梅はソファに横たわりながらそれとなしに見ていた。

背中の傷は手当してもらったもののじんじんと痛み全身が熱っぽい。
手当てをしてくれた岡崎泰葉はあまり深い傷ではないと言ったが、しかしすぐに身体を動かせるほど軽いとも思えない。
そしてそう、手当てをしてくれたのはつい先刻まで自分を人間扱いしていたかも怪しい彼女なのだ。
手当てだけではない。燃え盛るビルの裏手で大爆発が起こった時、うずくまっていた自分の手を引いて起こし一緒に逃げてくれたのも彼女だった。

あの時――白坂小梅はすこしだけさきほどのことを回想する。





「な、なに……?」

子供の泣声はホラー映画だとえてして不吉なものだ。
なので、傷の痛みにうずくまっていた白坂小梅は市原仁奈の大きな泣声に顔をあげ、ちょうどその瞬間を目撃することとなった。

「仁奈ちゃんっ!?」

泣声に振り返りぴたりと動きを止めた諸星きらり。彼女の顔が一瞬、ぱっと明るくなる。だがその背後にはナイフを振りかぶった喜多日菜子の姿もあった。
危ないと言う暇もない。スローモーションの視界の中、すでに赤く染まったナイフが彼女の背中も切り裂こうとその切っ先を肌の中に埋める。
そしてその瞬間、襲いかかっていたはずの喜多日菜子が大きくのけぞった。

「きゃああああああああああっ!」

藤原肇が大きな悲鳴をあげる。その視線の先へ目を向けると、岡崎泰葉が拳銃を構え、その銃口から微か煙があがっているのがわかった。

「心配しないでください、麻酔銃ですよ」

弁解するように言い、彼女は撃った喜多日菜子に駆け寄るとその胸に刺さっていた注射器を皆に見せた。
とりあえず終わった。彼女の妙に頼もしげな表情に白坂小梅はそう思ったし、そこにいた全員が同じようにこのシーンは無事にやりすごしたと思っただろう。

だが次の瞬間、大爆発が起きた。地面に伏せていた身体が浮かび上がるほどの衝撃に白坂小梅は心臓が止まるとその時思った。
顔をあげれば燃えていたビルがぐらぐらと崩れかけのジェンガのように揺れて、今にも崩れ落ちそうだった。

――はっきりとした記憶はここまでだ。
その後は誰が言ったのか、逃げろという声に従って全員でその場から必死に走って逃げた。この時だけは傷の痛みも感じてはいなかった。
覚えているのは岡崎泰葉に手を引かれていたことと、先頭を走る諸星きらりが気を失った喜多日菜子と市原仁奈を両脇に抱えていたことくらいしかない。

835彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:26:30 ID:13pyEBBk0
あれから、崩れ落ちるビルから逃げ出した六人はあそこから東の海の傍、港の中にあった客船乗り場の受付事務所の中で休息をとっている。
というよりも、もうまともに動ける人間はあまりいないと言ったほうが正確かもしれない。

白坂小梅はガラスのテーブルをはさんで向かい側のソファで眠っている喜多日菜子を見る。
一応ということで彼女の手はビニール紐で縛られているが起きる気配はない。
麻酔銃で撃った当人である岡崎泰葉も、どれくらいで起きるかなんかは説明書にも書かれてなかったので知らないと言っていた。

その隣のソファには、彼女がどこからか連れてきた市原仁奈が諸星きらりの膝の上で眠っている。
くまのぬいぐるみを抱いて寝てる姿は愛らしいが、その寝顔はすこし苦しそうにも見える。夢の中でも怖いことに追われているのだろうか。
そして諸星きらりの隣に窓際から戻ってきた藤原肇が身体を深く預けるように座った。彼女も顔に疲労の色が出ている。

「これからのことですが……」

一緒に戻ってきた岡崎泰葉はソファには座らず、皆を見下ろすようにして話をはじめる。
その顔にはじめて会った時のような恐ろしさはない。だが冷徹さがにじみ出ているのは変わらなかった。やはり彼女は彼女なのだ。

「まずは喜多さんの処遇を決めないと――」

白坂小梅の処遇も、と言葉が続かなくて安心する。そして安心すると途端に眠気が襲いかかってきた。

「それと、もう放送の時間ですね」

壁掛け時計の針はもう間もなく6時になることを示していた。0時から起きていたのだからどうりで眠たいはずだと思う。

「きらりは杏ちゃんを――――」
「ここよりもどこか――――」
「小春ちゃんや麗奈ちゃんは迎えに――――」
「――――禁止エリア――――」
「――――あっ、自転車置いてきちゃったにぃ」
「あれは危ない――――」

三人は色々と今後のことを話し合っているらしい。じゃあ三人もいれば大丈夫だよね、と白坂小梅は睡魔にその身を委ねることにする。

窓の外はもう明るく、ひさしぶりに感じる太陽の光は暖かい。ぬくぬくとした光はなにより眠気を誘う。
そしてなによりも、太陽が上ればもう怪物は出てこないはずだから――と、安心して瞼を閉じた。






【C-7・港/一日目 早朝(放送間近)】

836彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:26:49 ID:13pyEBBk0
【岡崎泰葉】
【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(10/11)、軽量コブラナイフ】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとしてあろうとしない者達、アイドルとしていさせてくれない者達への怒り。
0:放送を聞き、今後の方針を決めなおす。
1:今井加奈を殺した女性や、誰かを焼き殺した人物を探す。
2:佐城雪美のことが気にかかる。
3:古賀小春や小関麗奈とも会いたい。

※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれた彼女達のことを強く覚えています。


【諸星きらり】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:杏ちゃんが心配だから杏ちゃんを探す☆
0:放送を聞いて、今度こそ杏ちゃんを探しに行くにぃ☆
1:自転車取りに戻っちゃだめ……?

※折りたたみ自転車はドラッグストアの前に置き去りにされています。


【藤原肇】
【装備:ライオットシールド】
【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】
【状態:疲労(小)、決意】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを回避するために出来ることを探す。
1:みんなと行動。
2:アイドルを殺すことは、自分自身を殺すこと。
3:プロデューサーを危険に晒さないためにも、慎重に……。

※塩見周子、新田美波と同じPです


【市原仁奈】
【装備:くまのぬいぐるみ(時限爆弾内蔵)、ぼろぼろのデイバック】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1〜2(ランダム支給品だけでなく基本支給品一式すら未確認)】
【状態:睡眠、疲労(大)、羊のキグルミ損傷(小)】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーと一緒にいたい。
0:……もう怖いのはいやでごぜーますよ…………zzz


【白坂小梅】
【装備:無し】
【所持品:基本支給品一式、USM84スタングレネード2個、不明支給品x0-1】
【状態:背中に裂傷(軽)】
【思考・行動】
基本方針:死にたくない。
0:………………zzz
1:やっぱり泰葉には逆らえない。


【喜多日菜子】
【装備:無し】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0-1】
【状態:睡眠(麻酔銃)、手首を縛られている、妄想中】
【思考・行動】
基本方針:王子様を助けに行く。
0:………………zzz
1:邪魔な魔物(参加者)を蹴散らす。
2:迷子の仁奈を保護者の元へ送り届ける。

※両刃のナイフはドラッグストアの前に落ちています。

837彼女たちは袖触れ合うテンパーソン  ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:27:08 ID:13pyEBBk0
【A-8・灯台/一日目 早朝】

【小関麗奈】
【装備:コルトパイソン(6/6)、コルトパイソン(6/6)、ガンベルト】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残る。プロデューサーにも死んでほしくない。
1:朝まで寝る。
2:小春にも自分を認めさせる。


【古賀小春】
【装備:ヒョウくん、ヘッドライト付き作業用ヘルメット】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康、睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:れいなちゃんと一緒にいく。
1:朝まで休む。
2:れいなちゃんを一人にしない 。


【D-6(北西の端)/一日目 早朝】

【和久井留美】
【装備:ベネリM3(6/7)】
【所持品:基本支給品一式、予備弾42、ガラス灰皿、なわとび】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える。
1:その為に、他の参加者を殺す。
2:まずはキャンプ場へと移動する。
3:弱者がひきこもってそうな場所(MAPの端や行き止まり)を巡り、その相手から使える武器を奪う。
4:『ライバル』の存在を念頭に置きつつ、慎重に行動。無茶な交戦は控える。

838 ◆John.ZZqWo:2012/12/30(日) 17:27:29 ID:13pyEBBk0
投下終了です! 今回は大幅に遅刻してすいませんでした。

839名無しさん:2012/12/30(日) 18:44:35 ID:68fTQsusO
投下乙です。

とりあえず死者は出ずに終わりましたか。……って、ヒツジが文字通り爆弾抱えてるーっ!?

840 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/31(月) 03:45:53 ID:fa/tkPgU0
投下乙ですー!

おお、死者は出ず岡崎さんはちょっとまともに?
しかしこれは爆弾抱えてて、放送開けが凄い怖いなぁ
大事にならないといいけれども…

では此方も放送投下します

841第一回放送 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/31(月) 03:49:03 ID:fa/tkPgU0
「15人ですかー……まあこんなものですかね」

薄暗い部屋の中で、無数のモニターだけが光っている。
モニターに映しだされるのは、無数の“希望”と“絶望”
千川ちひろはそれを眺めながら、席を立つ。
開始からそろそろ六時間が経ち、もう直ぐ放送の時間だ。

「死んだアイドルも……まあ上々」

千川ちひろは何処か上機嫌そうで。
それが本当に不気味で。
彼女の姿を見ていた一人のオペレーターが怯えるように、ポツンと言葉を漏らす。

「やっぱりアイドル同士で殺し合いをさせるなんて……」

本来、希望の象徴であるアイドル達。
そんな希望同士を殺し合わせる。
なんて――――

「――――悪趣味とでもいいたいですか?」
「ひっ」

オペレーターの心を代弁するように、ちひろは言葉を紡ぐ。
まるで考えている事なんてお見通しだと言わんばかりに。
ちひろは溜め息をついて、オペレーターに優しく言葉をかけた。

「何度言ったか忘れましたけど……“アイドル同士”じゃないと駄目なんですよ、解かります?」
「は、はい……」

けれど、オペレーターは怯えたままで、後ろにいるちひろに対して振り向く事が出来ない。
ちひろの表情を見ることが、とてもではないが出来る訳が無かった。

「そう……“希望”と“希望”が殺し合わせなければ、ならない」
「希望……」
「例え“絶望”に堕ちたって、本質的には“希望”なんですよ」
「は、はぁ……?」
「だって、彼女達は“アイドル”だから」

また、アイドルという言葉がちひろから紡がれる。
アイドルってなんだろう?とオペレーターは解からなくなってしまう。
この殺し合いから、ずっと問われている問題。
ちひろ自身には解があるようだけど、自分にはさっぱり解からない。
ただ、言えることは今、殺し合いに巻き込まれて女の子達は自分とは違う事だ。
そう、こんなどうしようもない自分と違う、何かがある女の子達なのだろう。


「アイドルもヒロインも……皆……“希望”なんですから」
「希望……」
「だからこそ、だからこそ、殺し合わせなければならない」
「……そうまでする理由ってなんなんですか?」
「それは貴方が知る事じゃないですよ」

そうぴしゃりと言い切ってちひろはオペレーターの下を離れる。
まただ、彼女はいつもこうだ。
アイドル同士が殺しあわなければない、ずっとそう説いている。
けど、そうしないといけない根源的な理由は絶対言わないのだ、誰にでも。

千川ちひろは、そうやって、笑顔を浮かべて、いつもはぐらかす。

まるで、狂気に取り付かれたように、アイドルを殺し合わせる事だけを考えているようで。

もう、人間として壊れているようで。


そう考えると、オペレーターはぞっとしてそれ以上考えないようにする。
藪蛇をつついて、自分まで壊されたら堪らない。
そう思い、眼鏡をかけなおしモニターを見つめる。

もう一分もしないうちに、放送が始まる。



“絶望”……或いは“希望”を届ける放送が。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

842第一回放送 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/31(月) 03:49:31 ID:fa/tkPgU0






はーい、皆さん、お待たせしました!
第一回目の放送です!

皆さん、頑張ってますねー。
アイドルとして、ヒロインとして、精一杯生きてます。
ええ、実に素晴らしいと思います!

プロデューサーの為に。
自分自身の為に。
ファンの為に。

そして、“希望”の為に。


流石、アイドルです!

ですので、もっと頑張ってくださいね?

プロデューサーの為にも。
自分自身の為にも。
ファンの為にも。

“希望”の為にも。



すべては貴方達の選択で、掴み取るんですから。



……さて、ではお待ちかねの死者発表ですっ!
今回死んでしまった皆さんは……


今井加奈。
城ヶ崎莉嘉。
佐城雪美。
佐々木千枝。
大槻唯。
櫻井桃華。
脇山珠美。
若林智香。
赤城みりあ。
安部菜々。
本田未央。
新田美波。
多田李衣菜。
木村夏樹。
佐久間まゆ。

以上15名です。
聞き漏らしはないですよね?
流石ヒロインの皆さんです!
もう四分の一も減りました。
このペースで頑張ってくださいね。

貴方達は自分の為に、アイドルを殺してるんですから。


さて、次は、禁止エリアの発表です。


8時にE-1
10時に〜C-7


はい、此方も聞き逃しはないですよね。
知らずに勝手に入って死ぬなんて、許しませんから。

ので、配った情報端末に今回の発表は、確認できるようにしておきます。


さて、以上で放送は終わりです。
アイドルの皆さん、ヒロインの皆さん。
このまま、頑張ってくださいね。

もっと、もっと頑張ってください。

それが、貴方達のためになるんですから。


では、また6時間後、生きている人達は会いましょうね。



皆さん――――最期まで、生き延びて見せなさい。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

843第一回放送 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/31(月) 03:50:07 ID:fa/tkPgU0




そう、戦って、生き延びなければならない。

もっと頑張らなければならない。


それが、アイドルの為。
それが、プロデューサーの為。
それが、ファンの為。


ひいては――――“希望”の為。




例え、それが、深い深い“絶望”の中での“希望”だとしても。




しかし、それでも――ショーは続けられなくてはいけない。

 

ショーを止めてはいけない。





【残り45名】

844第一回放送 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/31(月) 03:50:58 ID:fa/tkPgU0
投下終了しました

845 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/31(月) 03:54:02 ID:fa/tkPgU0
では、今後の予定などを。
①人気投票の期間
1月1日0時から、1月6日24時まで。
②雑談チャット
1月5日、晩から。
チャット場所後で張っておきます。
③予約解禁日
1月6日0時から。

では、皆さんよいお年を!

846 ◆yX/9K6uV4E:2012/12/31(月) 03:55:01 ID:fa/tkPgU0
最期に投票テンプレです。
予定スケジュール
投票期限:1/1(火)ー1/6(日)まで
OP〜「彼女たちは袖触れ合うテンパーソンまで」の作品への投票

投票形式
上位5作まで選出可能(必ず5作選出しないと駄目、という訳では無い。一位のみへの投票なども可)
1位を5P、2位を4P、3位を3P、4位を2P、5位を1pとして計算する。

総合部門、登場話部門の二つで投票してください。
感想がありますと、書き手が幸せな気分になります。
勿論、投票だけで構いませんので、気軽に投票してくださいねっ

投票例(架空の話なんであしからず)

総合部門
1位:なんだって!? それは本当かい?
木場さんの男っぷりに泣ける。
新カードがないからとマーダーになった渚の根性を直すとは。
タイトル通りの台詞の後に言う
「なら、来いよ、バスケガール、貴様の腐った魂をダンクしてやる」
という台詞は痺れた

2位:どげんかせんといかん
上田さんがいつどおり過ぎる。
アイドルであろうとするのに、結局やってること芸人なんだよなぁ

3位:知ってるがお前の顔が気に入らない
オタマロに似ているからと殺されるさくらが不憫

4位:野生のグンマー
グンマーの珍獣が珍獣に囲まれて笑ったw

5位:心が豊かになるな
心が豊かになるな

登場話部門

1位:多々買え……多々買え
2位:丘サーファーの憂鬱
3位:よいどれ達
4位:超得ショップにようこそ!
5位:垢BANの恐怖

847名無しさん:2012/12/31(月) 06:50:35 ID:JIFjG02k0
乙ですー
質問があるのですが、登場話部門とは何なのでしょうか?
理解低くてすいません

848名無しさん:2012/12/31(月) 13:40:29 ID:siggxIG2O
投下乙です。

わざわざ確認できるようにするとは。
ヒロインには希望で、アイドルには絶望ですね。

849 ◆John.ZZqWo:2012/12/31(月) 23:03:43 ID:xAcPdnEA0
>>847
そのキャラが最初に登場した話から選ぶ部門ですね。 >登場話部門

850名無しさん:2013/01/01(火) 02:25:50 ID:BEjMsHnU0
あれ、投票って普通一週間だけどここは五日なんだ
さんが日忙しいしコメント抜きでもいいのかな

851 ◆John.ZZqWo:2013/01/01(火) 08:32:21 ID:WsoM92Y.0
あけましておめでとうございます! 昨年末からはじまったこのロワですが、今年で一気に飛ばしましょう!
ということでさっそく人気投票しますよw



【登場話部門】

1位 023話 感情エフェクト ◆GeMMAPe9LY氏
 「ああ、もう……泣きたいのはコッチのほうだよ……」
 殺さなくてはいけない状況で、殺そうとして、それでも人を殺すことなんてできない。
 それは彼女たちが『アイドル』なのだからではなくただ人であるから。
 誰かが誰かを殺すシーンも必要ですけど、殺せないシーンも大事だし、大好きです。

2位 002話 DREAM ◆yX/9K6uV4E氏
 「人を幸せにするものがアイドルなら…………私はきっともう失格ね」
 記念すべきOP後の1話目にしてこのロワの『アイドル』と『ヒロイン』という構図を示した大事な話。
 そことは少しずれるんですけど、
 yX/9K6uV4E氏の話って緊張した状態での普通に話そうとしてそれがぎこちないってのが上手ですよね。
 見習いたい点のひとつですw

3位 027話 ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて ◆FGluHzUld2氏
 「ううん、怖いよ」
 延々と続くりーなの沈む描写からパンチ一発、
 少しずつぐいぐいと茜のパワーで引き上げて上げきってのこの入りと読後感の落差がすごくいいっ!
 描写としてはりーなが主なんだけどりーな視点の茜のインパクトがあってバランスもいいんだよなぁ。

4位 022話 夏の残照 ◆ltfNIi9/wg氏
 「あなたは……アイドルじゃないの?」
 岡崎先輩の怒気がビシビシ感じられる登場話。
 なんでこんな理不尽! 理不尽! 理不尽! って感じがすごい。
 彼女の『アイドル』を判別する基準を持っているという立ち位置はおもしろいですよね。

5位 004話 ……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU氏
 「……お前のせい、で」
 杏のキャラクターと殺しかたのリアリティにギャップがあって怖いw
 メタ的なことを言うと人気な子を早々に落としたのも、緊張をもたらしたという意味で評価できると思う。

852 ◆John.ZZqWo:2013/01/01(火) 08:32:51 ID:WsoM92Y.0
【総合部門】

1位 037話 My Best Friend ◆j1Wv59wPk2氏
 「どうして、こんな事になっちゃったんだろ」
 今回かなーり選出に悩みましたけど、これだけは悩むことなく一発1位でした。これはすごい。
 奈緒の不器用で愚直な友人への想いと、加蓮の後ろめたさとそこからの悲壮な決意が組み合わさって、
 互いが互いを思ってるのに、ほんとどうしてこうなった――としかいえない、最悪の結果に。
 奈緒がなー、加蓮のためにと思って決意したのに、加蓮がそれを察してのっちゃったんだよなぁ……w 
 もうとりかえしつかないし(あ、若林さんおつかれさまでした)、ほんと奈緒からしたらお前うわああああですよね。
 このふたり、どう転ぶにしてもこの先がすごい楽しみ!

2位 049話 今を生きること ◆n7eWlyBA4w氏
 「今さ、玄関の電気点けたって言った? ……それ、今も点いてるの?」
 この台詞、漫画だったら傍点つきでコマの中にゴゴゴゴゴ……って感じですよね。
 というのはさておき、登場話から続けて等身大で必死なおねーちゃんがすごく魅力的。
 怖いし痛いしで殺されたくないし殺したくないし他の誰かが死ぬのもいやだしでも抗うことをやめないおねーちゃんかっこいい!

3位 048話 確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2氏
 「アタシも、その話乗った。アイツらを助けるために、出来ることはなんでもするよ!」
 よかったねぇ……とほろりとする話。
 こういうひとつの接触をとってもおっかなびっくりで、終わったらぶるぶるくるのがロワですよねぇ(しみじみ)。
 彼女たちけっして頭はよくないからこそ、応援してあげたくなるんだなぁ。

4位 045話 夜にしか咲かない満月 ◆GeMMAPe9LY氏
 「私は相葉夕美っ! ガーデニングが趣味の18歳ですっ! よろしくっ!」
 最初の情景描写がすごく好きです。◆GeMMAPe9LY氏は静けさを表現するのが上手ですね。
 で、この描写があるからここから回想に入って、最後の過去って言葉の寂しさが際立つんだろうなぁと思ったり。
 そして地味にみんながみんなドラッグストアの火事を目撃しちゃう事件の発端でもあったのだったw

5位 061話 彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w氏
 「こんなのやだよ……こんなにずるくて汚いのが、私だなんて、やだよぉっ……」
 多分だけどさとみんを呼び止めていればこんなに落ち込むこともなかったんだろうなぁと思ったり。
 しまうーの強さは周りを強くしてそれを返してもらえる強さだよね。
 なのでぼっち状態の彼女がこうなるのは多分必然で、それをひたすら書き連ねるこの作品が好きです。
 その弱さがどういう方向に発露されるにしろ、やっぱりロワだからその弱さを見たいよねぇw


以上です。

853 ◆John.ZZqWo:2013/01/01(火) 08:35:14 ID:WsoM92Y.0
>>850
コメントなしでも大歓迎。それと、これに限らずいつでも遠慮なく書き込みしてくださいね!

854 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/01(火) 23:28:30 ID:O.wGkojU0
投下乙です!
小梅ちゃんが死―――んでない!良かった!セーフだ!
そして放送の節目かー。15人、これって多いんですかねー?
本家は半分以上死んでたような気がするけど。

そして、投票します!

【登場話部門】

1位 2話 DREAM ◆yX/9K6uV4E

最初の物語にしてこのロワの方向性を決定付けた作品。
このロワで殺し合いに乗るヒロインってのはほぼ例外無くプロデューサーの為なんだよなぁ
そして、今井加奈の最期もまた素晴らしかった。アイドルで在りたい彼女の叫びは心にくるものがあったよ……
留美も譲れないものがあると回想するところがかなり良い。


2位 31話 捧げたいKindness ◆D.qPsbFnzg

栗原ネネの良い所が余すこと無くでてる作品。
15歳の少女故の優しさと甘さ、そして弱さが上手く出ていて素晴らしいです!
この作品を書いた人、これ以降作品投下されてないんですよねぇ……もっと見てみたい。


3位 6話 揺れる意思、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E

結構いろんなアイドルが何かにしろ決意している中、一人迷い続ける少女。
小梅の事を大事に思っている涼が、なんというか心温まる。
この二人、無事合流出来るのかなぁ……。
ゆいちなにしろ、だりなつにしろ、城ヶ崎姉妹にしろ……ろくに出会えてないし。
あと、今更ながらタイトル勝手にリスペクトしました!すいませんでした!


4位 20話 彼女たちがはじめるセカンドストライク ◆John.ZZqWo

拓海の特攻伝説はここから始まった……伝説になるかはわからないですけど。
その行動方針は綺麗事……だけど素晴らしい覚悟。
ここで死んでしまった千枝の事が、ここで合流した紗枝の事が、
彼女の覚悟を確固たるものにしたんだな……。


5位 26話 アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM

マーダー不足になるんじゃないかなぁ……と思ったらまさかのジョーカーユニット!
五人の少女がそれぞれ別の道を往く。その構成がうまくできているなぁと関心しました。

855 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/01(火) 23:31:27 ID:O.wGkojU0
【総合部門】

1位 38話 彼女たちの中にいるフォーナインス ◆John.ZZqWo

阿部菜々VS南条光は個人的ベストバウト。
とにかく、良くそんな発想出来るな!と脱帽。
そして、それを上手くまとめられたのが流石です!書き手視点からしても憧れっす!


2位 2話 DREAM ◆yX/9K6uV4E

概ね同じなので省略します。


3位 60話 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール ◆John.ZZqWo

虚無感の残る幕切れ……これこそがロワの醍醐味だと私は思います。
現実は物語みたいに上手くいかない、その事を実感する良い作品だと感じました。
なつきちが最後に残した物……これもまた、二人の少女に道を示せたような気がする。
その散り際までもロックだったなつきちに敬礼!


4位 44話 失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM

読んでて楽しい作品だなぁ、と。
愛するプロデューサーの為に必死になる響子と、冷静に獲物を狩る留美と、
恐怖でパニックになる仁奈と、安定の杏の対比がとても良かったです。
一粒で四度美味しい?そんな印象でした!


5位 40話 デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w

この作品だけに限らず、泰葉は参加者の中でも特に特別な思いがあるからなぁ
その心情が上手く書けてるのが良い。
非情な心情と、アイドルとしての感情と、等身大の少女としての思いが上手く混ざり合っていたのが良かったです。

内容自体とは関係無いですけど、語彙が豊富なのが凄い羨ましい……


以上、このロワの繁栄を願って。
あけましておめでとうございました!

856名無しさん:2013/01/01(火) 23:42:59 ID:y9ylJOnY0
あれ、投票ってトリ付きでやるものなの?

857名無しさん:2013/01/01(火) 23:43:22 ID:y9ylJOnY0
あれ、投票ってトリ付きでやるものなの?

858 ◆John.ZZqWo:2013/01/02(水) 00:31:05 ID:eXLQjA5k0
あってもなくてもOKですよー。誰でもウェルカムなのでトリありでもトリなしでもふるってご参加をー。

859名無しさん:2013/01/02(水) 01:18:07 ID:rK/eUb560
最初に質問したものです。回答ありがとうございます
では、投票させていただきます。

登場話部門
彼女たちのためのファーストレッスン
邂逅、そして分たれる道
愛しさは腐敗につき
DREAM
目に映るは、世界の滅亡

総合部門
今を生きること
失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない!
彼女たちの中のフォーナインス
盲目のお姫様と迷子の子羊
真夜中の太陽

に、投票します。
順位は上から一位、残りは順番です

860名無しさん:2013/01/02(水) 02:32:22 ID:UMlTbNA.0
あけましておめでとうございます!今年がモバマスロワにとって幸多い一年でありますように!

【登場話部門】

一位 020話 彼女たちがはじめるセカンドストライク ◆John.ZZqWo氏
 「取り落とした手榴弾を咄嗟に追いかける」という流れでもう、やられたと思いました。
 千枝ちゃんまだ子供だからなぁ……確かにそうしかねないよなぁ……うん。
 その後の姉御の決意もまたいいですね。ラストの切れ味鋭い台詞回しもお気に入り。

二位 011話 愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc氏
 プロデューサーを亡くした楓さん、その喪失感を綺麗に描いていて好きです。
 ままゆをありがちなヤンデレとして描かないでくれたというのも個人的には嬉しかったり。
 タイトルは腐敗してますが、文体はむしろ透明感のある感じで素敵。

三位 008話 私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM氏
 バトルロワイアルとは一体なんだったのか。ここ明らかに空気が違う……w
 三人の絆やぴったり合った呼吸まで伝わってきて、楽しく読ませていただきました。
 まあ、以降の話ではみんな急転直下なんですけどね……どうなってしまうんだろう。

四位 023話 感情エフェクト ◆GeMMAPe9LY氏
 お姉ちゃんの等身大の強さ、三船さんの等身大の弱さ。
 二人とも身の丈を越えた覚悟なんてなくて、それが人間らしく魅力的に見えます。
 今後のリレーが特に楽しみな二人ですね。お姉ちゃん頑張れ。

五位 002話 DREAM ◆yX/9K6uV4E氏
 ある意味、モバマスロワのほとんどのSSの基礎になっている作品ですね。
 この話を記念すべき一本目のSSに持ってきたのは大正解だったと思います。
 アイドルとは何か、アイドルであるとはどういうことか。これからも繰り返されるテーマになりそう。

【総合部門】

一位 036話 Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6氏
 上位は割と僅差で迷ったのですが、最終的にはこの話が一位に。
 死の痛み、喪失の悲痛さ。ナターリアの腕の中でみりあの命が失われていく過程が秀逸過ぎて。
 後で調べたのですが、タイトルは「手を繋いで輪になろう」みたいな意味なんですね。それを知ると更に……

二位 060話 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール ◆John.ZZqWo氏
 だりーに寄り添って死んでいくなつきちの最期に心揺さぶられてこの順位に。
 あのラストシーンにロッキングアイドル木村夏樹の生き様が濃縮されてるように思います。
 彼女達の魂が受け継がれていきますように。ロックの神様の元で二人仲良くね。

三位 037話 My Best Friend ◆j1Wv59wPk2氏
 前話のあの引きからこう来るか……!という衝撃。これは名リレーだと思います。
 互いが互いを想うからこそ、(特に奈緒にとっては)辛すぎる結末に……上手い。
 加蓮を救おうとした奈緒が逆に支えられる立場になってしまったのも、これからが気になるポイントですね。

四位 047話 アイドルの王女様 ◆U93zqK5Y1U氏
 ふわふわしてるようで、実は他の誰よりもアイドルの本質が分かってるんじゃないかっていう小春ちゃん。
 誰もが命のやり取りの心配をせざるを得ない中で、ファンのことを考えられるっていうのが凄い。
 密かにモバマスロワに一石を投じるSSだと思います。小春ちゃんの今後への期待もあってランクイン。

五位 058話 完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY氏
 みくにゃんのほのぼのコメディパートと、雫ちゃんのシリアスパートが違和感なく混ざってるのが凄い。
 特に実家が牧場という設定を命と向き合う環境として昇華したのは目から鱗の発想でした。
 これからどっちに転がしても面白そうな隠れた名コンビ、活躍に期待。

861名無しさん:2013/01/03(木) 22:55:58 ID:jFhbr2pw0
タイトルだけになりますが投票させていただきます

【登場話部門】
一位 約束
二位 眠る少女に、目醒めの夢を。
三位 DREAM
四位 彼女たちがはじめるセカンドストライク
五位 太陽のナターリア


【総合部門】
一位 My Best Friend
二位 約束
三位 確固たる意志、明ける夜空
四位 眠る少女に、目醒めの夢を。
五位 彼女たちは袖触れ合うテンパーソン

862名無しさん:2013/01/04(金) 06:05:14 ID:8p0NF4dQ0
第一回放送突破おめでとうございます! 溜まってた感想をぶち撒けるぜーっ!

>盲目のお姫様と迷子の子羊
やったー! 仁奈ちゃんが保護されたよー……と思ったらぜんぜん安心できない!
ぜんぜん安心できないんだけど「撫でた」の一文がなんとも微笑ましい。出会い方さえマシならいいコンビになってたかも……w

>相葉夕美の無人島0円(無課金)生活
あれ、なんか相葉ちゃんテンションが浮いてきた……? っていうよりノリが変な方向に!?
これも一種の絶望の仕方なのか……それにしてもなんて計画性のある絶望なんだ……w

>YOU往MY進!
このひとりぼっちの手探り感がなんともロワらしい。本棚を越えるだけでも一苦労だわ……。
そして要所要所で見られるだりーへの想いもいいなあ。早くこの想いをぶつけられる誰かに出会ってほしいものだ。

>孤独月
プロデューサーとの出会いを通してこそ智絵里の「弱さ」と「強さ」が際立つ。
現在の境遇や彼女のスタンスを思えばこそ、セリフの一つ一つに重みを感じてしまうなあ……。

>彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
相変わらず情景描写が丁寧だわー。バベルの塔ってどういうことなんですかねえ……w
凛ちゃんは表向きは取り乱さず、だけど内心は揺れ揺れで危なっかしい……。

>オキガエ・イン・エアポート
あ、ドジ巫女だw なんか妙な安心感を得てしまう、キャラを前面に立たせたいい冒頭だなー。
でもきちんと前話の流れを受け継いでのシリアスな話……かと思いきやお着替えて!w 楽しいSSでした。

>完全感覚Dreamer
みくにゃんがネタの宝庫! なんだこの二人。他が殺伐としているっていうのに……楽しすぎるw
このマイペースっぷりがどこまでいくのか見ものですね。いやでも放送聞いたら……どうだろう?w

>一人じゃない、星にウィンク
ネネさんとの電話を通して、いままで幸子ちゃんの影に隠れていた輝子ちゃんの本音が見えてきた。
ネネさんよかったね……と思ったあっぶねー!w かな子ちゃんの存在がデッドエンドフラグすぎてマジビビる……w

>彼女たちの中でつまはじきのエイトボール
うわあ……これは贅沢な死亡話。まさかだりーとなつきちが同時に死ぬなんて、そんな絵に描いたような……。
気になるのは残された面々。ついに手を血に染めたとときん。茜ちんと藍子。次話が気になって仕様がない話。

>彼女はどこにも辿りつけない
うああああ、しまむーイイ! 目の前で親友を殺された女の子として、等身大の反応がすごく光ってる!
ああ、うあ、でも、さとみん……w ま、まあ、あれですよ。ドンマイ。放送後、放送後がんばろう……w

>23時59分59秒
まずタイトルに目を奪われ、作中内での「23時59分59秒」の意味に感嘆の息が漏れる。……上手いなあ。
「シンデレラ」というキーワードから十時愛梨単体にスポットライトを当て、こうも話を転がせるとは。いやはやすげえ。

>彼女たちが駆け込んだナイン-ワン-ワン
つくづく施設を使って話を作ることが上手いなw アイドルの警察署探検なんて無理シチュでこれはすごい。
周子がテキトーに見えて意外に現実見てる。現状は小日向ちゃんのいいブレーキ役になってるけど……?

>今、できること
どうしてこうなった!? いや、ホントにどうしてこなった……orz 流れるように話が進み、呆然。
ナターリアは登場話からここに至るまで波瀾万丈。ナンジョルノもウサミンとの激闘を経てこれは、なんというか壮絶の一言。

>曇り、のち……
登場話から第一回放送まで、終始危うい関係を続けてきた親友二人。その関係は今後も続きそう……なんだけど。
でも奈緒の胸中は複雑そうで……見ててハラハラするw 二人に安寧が訪れるのはいつになるんだろうなあ。

>アイドリング・アイドルズ
活きてる! 千枝ちゃんの生き様は拓海さんの中でしっかり活きてるよ! ああもうこういう前話の継承の仕方がニクい!
いやでも拓海さんが終始カッコイイ! 最後のセリフとかほんましびれましたわあ……。

>彼女たちは袖触れ合うテンパーソン
よかった。岡崎先輩も人の子だったか(何事 ところどころで炸裂するきらりんぱわー☆が笑かしてくれますw
大集団ができたけど、注目したいのは喜多ちゃん……w 魔女かー。彼女の妄想はそっち方面に行ってしまったのだろうか……。

>第一回放送
ひぃ! なにこのちひろさん黒いっ。名もないオペレーターちゃんが、この人と会話してるだけで不憫に見える……w
しかし15人。放送で影響を与えそうな子は……あれ、意外と少ないかも? でも、姉ヶ崎やちなったんあたりは要注目だね。

863名無しさん:2013/01/04(金) 06:08:44 ID:8p0NF4dQ0
続けて人気投票に投票です!


【登場話部門】

1位 第11話 愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc氏
 この登場話で楓さんのファンになりました! なんだよこれもうのっけからキャラの魅力出しすぎでしょう。
 OPのP死亡ギミックをこういった形で活かしたアイディアもさることながら、演出する雰囲気が素晴らしい。
 登場話ということで、プロデューサーさん命なまゆにこの楓さんをあてた采配もいい……見事にハートキャッチされました。

2位 第28話 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w氏
 「アイドル」としての生き方にスポットライトを当てた作品が多い中、この藤原肇の登場話は特にそれが際立っていた。
 話を切り取ってみれば極々普通、殺し合いという環境に置かれた一アイドルとしての所感を述べているだけなのに、なぜこうもらしいのか。
 やはり登場話はそのキャラがそのキャラとしてロワの舞台に立ってこそだと思います。もう、これが藤原肇だ!という感じでした。

3位 第14話 邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w氏
 絵に描いたようなすれ違い。親友設定を存分に活かしての悲劇が、ロワとしての王道を感じさせるほどに美しい。
 後々の二人の展開を知っているのでなんともですが、登場話が書かれてから次に繋がるまでのハラハラの持続感が長かった。
 モバマスロワ全体で見ても、加蓮奈緒の危なっかしいマーダーペアは要注目の参加者。それはひとえにこの登場話の影響力かと。

4位 第07話 約束 ◆ltfNIi9/wg氏
 1話退場ともなると、皆の記憶からは早々に消えてしまうもの……だけどこの佐城雪美というキャラクターは、壮絶なインパクトを残して散っていった。
 仁奈ちゃんや後の肇ちゃんに与えた影響力もそうなのですが、目を引いたのは、幼いながらに抱えていたプロデューサーへの想い。
 初期に投下された作品ということで、彼女の発想と行動はメタ的に見ても多くの奉仕系アイドルに影響を与えた形になったんじゃないかと。

5位 第04話 ……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU氏
 ネタの抽出の仕方から、ロワ内での転がし方。着眼点と思い切りのよさが素晴らしい!
 まさかシンデレラガールズ劇場の笑える一コマが、モバマスロワで惨劇に昇華されることになるだなんて……まさかすぎるわっ!w
 働きたくない杏がついヤッちゃうほどの衝動。一般人ロワならではの動機は、登場話としてよりもむしろ死亡話として評価したい。

864名無しさん:2013/01/04(金) 06:09:42 ID:8p0NF4dQ0
本文が長すぎると言われたので分割です!


【総合部門】

1位 第47話 アイドルの王女様 ◆U93zqK5Y1U氏
 小春ちゃんがマジ天使すぎて、友達とかPさんとか言ってる他のアイドル連中はファンの前で土下座すればいいやと思いました(小並感)
 いや冗談抜きに、第一にファンのことを想う小春ちゃんの「アイドル」としての姿勢には、ハッ!とさせられるところが多かった。
 まさにタイトル通り「アイドルの王女様」な貫禄を出していたわけですが、レイナサマのキャラ立てに大きく貢献しているところも評価したい。
 二人ともまだ殺し合いの実情を知らず、戦火からも離れているけど……それでも魅せられる「アイドル」があるんだと、この話を総合部門の一番に推します。

2位 第61話 彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w氏
 しまむぅううううううううううう! うわぁあああああああんもっと泣いていいんだよしまむぅううううううううう!
 感想の中の人が取り乱してしまうくらい、キャラクターが愛らしく感じてならなかった。そんなお話です。
 未央ちゃんが死んだ。そのことについてゆっくりゆったりと述懐していく卯月。流れ流れて、後半で一気に爆発する構成。
 登場話での未央ちゃんとの掛け合いを活かした独り言には、もう極上の「やられた」感を味わわせていただきました。

3位 第57話 オキガエ・イン・エアポート ◆kiwseicho2氏
 冒頭、道明寺歌鈴というキャラクターの特性をこれでもかと詰め込み引っ張った牽引力は全SS内でも随一のキャッチーさ。
 「お着替え」を題材にした女の子二人のパヤパヤした話かと思いきや、リレーとしても見習うところの多い作品でした。
 友達やプロデューサーへの想い等、二人の根幹となる部分を楽しい掛け合いの中にさらりと仕込む演出・構成の上手さ。
 コメディ調と侮るなかれ、読めば読むほどそこに隠されているいろいろな要素が浮き彫りになって、リレーウメェと唸らされます。

4位 第58話 完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY氏
 「アイドル」というテーマをここぞとばかりに活かしたモバマスロワだからこそ、「ドッキリ」という概念が際立つのである!
 芸人根性……げふんげふん。もといアイドル根性を爆発させるみくにゃんのネタラッシュがおもしろすぎます!
 この子はロワ内で他の参加者と遭遇して怯えたり凄んだりするでもなく、乳を見るんですよ! すごい子だと思います!
 真面目に。単純な文章の楽しさだけで読めてしまう、そのうえ「おもしろい」と思えてしまうこの話のスペックは計り知れない。もう一回読もう。

5位 第43話 阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E氏
 拡声器だよー!→みんな集まったよー!→マーダーも来たよー!→ こ れ が パ ロ ロ ワ と い う も の だ
 もう、パロロワの醍醐味を集約したようなスーパー系死亡話! 読んでいてすごく楽しかった。
 ばっさりと死ぬ登場人物! ここは私に任せてみんな逃げて! ちゃんみお――っ! ちゃんみお――っ!
 でも人が死んだときの反応は、一般人ロワらしさを忘れていないという……その後のしぶりんやしまむーを見ても、第一回放送間の中心のようなお話かと。

865 ◆OmtW54r7Tc:2013/01/04(金) 22:29:04 ID:Bvow0QFU0
【登場話部門】

1位 28話 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w

雪美の死体を前に、一人決意を固めた藤原肇がかっこよかった
彼女の分までがんばってほしい


2位 7話 約束 ◆ltfNIi9/wg

1位で挙げた雪美の死亡話。
プロデューサーを救うために、こんな形で死を選ぶとはなあ…
死に際の彼女の描写が重くて、濃くて、切なくて…
彼女が果たせなかった約束の分まで、肇にはがんばってほしいなあ(2回目)


3位 2話 DREAM ◆yX/9K6uV4E

OP後最初の話にして、アイドルとはなにかということを読者に知らしめた作品
アイドルとして最後まで生き抜いた加奈ちゃんと、アイドルとして生きることを放棄した留美さんの対比が良かった


4位 26話 アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM

5人のジョーカー…恐ろしすぎるわww
まあこの後のかな子ちゃんのSSでさらに戦慄することになるんだがなw


5位 27話 ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて ◆FGluHzUld2

先行きに不安を抱く李衣菜に対する茜ちゃんのすがすがしいまでの熱血っぷりがものすごく好印象だった!



【総合部門】

1位 38話 彼女たちの中にいるフォーナインス ◆John.ZZqWo

ワンダーモモVS勇者ウサミン!!
まさか菜々のなりきりになりきりで対抗してくるとは!
「ワンダァアアァァアアァァ・キィィイイイックッ!!!」や「成敗ッ!」っていう光ちゃんのセリフは結構気に入ってるw


2位 66話 アイドリング・アイドルズ ◆n7eWlyBA4w

小梅と再会できないことに焦りを覚える涼の葛藤。
特攻隊長として殺し合いに抗おうと奮起する拓海。
そして二人を気遣う紗枝。
三者三様の放送前のそれぞれの想いがいい味出してると思った


3位 47話 アイドルの王女様 ◆U93zqK5Y1U

「そんなことしたら、れいなちゃんのファンはもう応援してくれなくなっちゃうよ!」
このセリフが結構好き
小春ちゃんのアイドルっていう仕事に対する強くて純粋な想いを感じる作品だった
レイナサマはまだ迷ってるみたいけど、このまま小春ちゃんと仲良くしていってほしいなあ


4位 51話 彼女たちが探すシックスフォールド ◆John.ZZqWo

考察すっげええええええ!!
泉ちゃん頼りになるなあ、これからに期待大だ


5位 49話 今を生きること ◆n7eWlyBA4w

自暴自棄になってウジウジしていた美優に対する美嘉の怒りの言葉が熱くて、よかった

866名無しさん:2013/01/04(金) 23:11:58 ID:.0HNolsw0
タイトルだけで失礼します。

【登場話部門】
1位:約束
2位:……という夢を見たかったんだ
3位:愛しさは腐敗につき
4位:彼女たちがはじめるセカンドストライク
5位:それぞれの本分


【総合部門】
1位:一人じゃない、星にウィンク
2位:真夜中の太陽
3位:彼女たちは袖触れ合うテンパーソン
4位:盲目のお姫様と迷子の子羊
5位:彼女たちの中でつまはじきのエイトボール

867名無しさん:2013/01/05(土) 00:33:41 ID:wGYQpRI60
投票します。どの話も面白くて、決めるのに悩みました

【登場話部門】
1位 DREAM ◆yX/9K6uV4E氏
2位 約束 ◆ltfNIi9/wg氏
3位 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w氏
4位 ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です! ◆44Kea75srM氏
5位 ……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU氏

【総合部門】
1位 確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2氏
2位 23時59分59秒 ◆BL5cVXUqNc氏
3位 彼女たちの中にいるフォーナインス ◆John.ZZqWo氏
4位 My Best Friend ◆j1Wv59wPk2氏
5位 完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY氏

868名無しさん:2013/01/05(土) 01:57:39 ID:dNp4uwEc0
投票します。

【登場話部門】
1位:彼女たちがはじめるセカンドストライク  ◆John.ZZqWo氏
 手榴弾を拾おうとする行動に思わず悲鳴が漏れる一作。その悲劇を踏まえた上での2人の決意も素晴らしい
2位:……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU氏
 お気楽コンビ結成かと思いきや! 序盤から何があってもおかしくないロワだと再認識
3位:約束  ◆6MJ0.uERec氏
 マーダー偽装の自殺志願とは! OP説明の解釈・理解とそこからの行動が見事
4位:オープニング ◆yX/9K6uV4E氏
 ちひろさんこえぇぇ……! その部分も込みでこのロワを語る上でOPは外せないでしょう! ついつい死角になるけど!w
5位:ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です! ◆44Kea75srM氏
 妄想とはいえ765プロ勢が大集結wwww この楽しさはもっと評価されるべきw

【総合部門】
1位:23時59分59秒 ◆BL5cVXUqNc氏
 堕ちたシンデレラの哀しい覚悟。この話に限らずこういう掘り下げが丁寧で素敵なロワですよね
2位:My Best Friend ◆j1Wv59wPk2氏
 哀しい親友コンビの始動。
3位:彼女たちの中にいるフォーナインス  ◆John.ZZqWo氏
 不思議な読後感のなりきり対決。おかしいなぁ、要約すると「マーダーを止めようとしたけど殺すしかなかった」話のはずなのに、なんだろうこの不思議な希望の感覚は
4位:デッドアイドル・ウォーキング ◆n7eWlyBA4w氏
 怖い!w これは怖い!w 「アイドル」の定義で悩む子は多いがここまで来ると妄執としか感じられない!
5位:真夜中の太陽◆BL5cVXUqNc氏
 初の実戦投下となったストロベリーボム、エグいっ! その後も多くの動きに繋がったドラッグストア火災の発端でもあるという

869名無しさん:2013/01/05(土) 02:30:06 ID:YC2WPeMg0
それでは、投票しますー!

【登場話】

第一位 感情エフェクト
既に前の話の段階で、妹が死んでることが確定した姉。
その動向が凄く注目された中での姉ヶ崎の登場ですが、素晴らしい。
「アタシはさ……殺されたくもないけど……殺したくなんて、そっちのがないわけよ」
しにたくも無い。けれど、殺したくなんてもっと無い。
そんな姉の感情が、妹への思いを絡め長柄、上手く描かれた作品だと思いました。

第二位 捧げたいKindness
物凄く丁寧に、栗原ネネという少女を描いてる作品。
大切な妹、P、ファン全部が全部大切なんだから簡単に選ぶことなんて、出来ないですよね。
ネネ自身のバックボーンを上手く取り入れながら、少女の苦悩を、本当に綺麗に描いた作品だと思います。
この人の二作目が楽しみです。

第三位 彼女たちがはじめるセカンドストライク
千枝ちゃんが、けなげで、そのけなげさ故に命を落として。
それを救えなかった拓海。
拓海のギブアップという台詞は本当、響いて。
そして、みんなで泳ぐに繋がる。
いい台詞沢山な話だと思います。

第四位 邂逅、そして分たれる道
奈緒と加蓮。
二人とも思いつめいて、その末の最悪の邂逅。
奈緒の余りにも無謀な挑戦に、加蓮が奈緒が死んじゃうというのは、本当にいい。
そして、それが続きの話に繋がるのもまた、いい。

第五位 悪者とプリンセスのお友達なカンケイ
小春とレイナ様。二次創作では良く一緒に居る二人。
それを組み込んだ上で、小春は小春らしく。レイナはレイナらしく。
そんな二人の関係が見事にかけていたと思います


【総合】

第一位 今、できること
なんというか、この話を読んだ時、本当心がぽかんと穴が開いたような気分に襲われました。
誰もが、自分らしくあろうとして。その結果の結末。
そして、死に行く少女が、何も無いと思ってた大人に炊くそうとしていたのが切ない。
最期の言葉の良かったというのが、本当切ない。
まだ生きたいのに、それでも良かったとしかいえなかった。
心が締め付けられるような話、でした。

第二位 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール
一位と同じく、ぽかんと穴が開いた気がします。
だりなつの同時落ちには驚いたし、その最期に本当しんみりしてしまった。
とときんと藍子の対立。
戻れない、とときんがどうなるか……楽しみ。


第三位 23時59分59秒
そのとときんの見事の繋ぎ。
前の話を聞いて、綺麗にスキマを埋めたようなお話でした。
とときんがシンデレラガールズになって。
藍子との対比も深まり、いいつなぎでした。

第四位 彼女たちが探すシックスフォールド
現状、数少ない、そして見事な考察話。
こういう話が一話あるだけで、ロワがスムーズにいく気がします。
且つ、ユッキ、泉、川島さんのキャラが考察のたびにどんどん立っていくのも、見事の一言です

第五位 相葉夕美の無人島0円(無課金)生活
本当に別ゲーム始めてしまった相葉ちゃん……w
けれど、その中で鬱に傾きすぎてしまった相葉ちゃんが元の方向にさりげなく戻っていく手腕も見事。
今後どうなるか、俄然楽しみになりました。

870名無しさん:2013/01/05(土) 03:58:32 ID:9WrhNSt.0
私もいかせてもらいます。
それと直前になってからでは慌ただしいので、そろそろチャット場所を貼っていただけませんか?
どこでやるのかまだ聞いていないのですが。


登場話部門

1位:眠る少女に、目醒めの夢を。
私達は同じ土から生まれた器なんだ……。
きっとそれこそが全ての答え。
人を殺したらいけないのは何故かというのは永遠の命題でもあるけれど。
この肇ちゃんの肇ちゃんならではの捉え方は、それでいて、ああ、そうなんだろなと思わせる。
肇ちゃんを魅せる登場話としても、雪美死亡話を受けてのリレーとしても文句なしで、まさにこの話こそ焼き上げられた器そのものである。

2位:感情エフェクト
お姉ちゃんが本当にお姉ちゃんしている話。
てんぱっている三船さんも謝りながら殺しに来たり、包丁引っかかってあれあれってなったり、逆転されてひってなったりですんごくリアルに一般人。
そんな彼女たちを救って止めたのが、殺されちゃったけど殺し合いなんて間違ってるからみんなで逃げようとしていた妹との思い出だというのもたまんない。

3位:ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて
ロックでパワフルな物語。
茜ちゃんは太陽のように熱くて、それでいてどこまでも駆け抜ける風のようで、暗雲さえ吹き飛ばし輝いている。
自分だけじゃない、だりーなの暗雲まで吹き飛ばすさまは、まさに応援大好きな彼女ならでは。
リーナのこの人に負けたくないって意思も良かったなー。
きっとこれが岡崎さんの言うような本当のアイドル同士の戦いの形だったんだろな。

4位:……という夢を見たかったんだ
まさかの劇場ネタによる動機なんだけどそこがすごくリアル。
なんてことないようでいて、でも、背中を押すにたる理由。
お前のせいでという激情に動かされて凶器を振り下ろし続ける杏の激情がひしひしと伝わってくる。
楽をしたいという一点でどこまでもぶれない彼女だけれど、なんだかんだで自分だけじゃなくてプロデューサーのことは想っているようなところも良かった。

5位:DREAM
モバマスロワの方向性を決定づけた作品。
ヒロインか、アイドルか。
後々に固められていくこの道をまさしく提示した作品。
アイドルとして死んだ今井さんも、ヒロインとして殺したわくわくさんも、すごい好き。
わくわくさんは原作台詞使って掘り下げられてたりですごく入って行き安かった。
氏の中でもこれと曇り、のち……が一番好き。



総合部門

1位:彼女たちの中にいるフォーナインス
肇ちゃんの言葉じゃないけれどこの話はまさに、同じ夢を見た少女たちの物語。
同じ夢を綴った少女の物語。
ウサミンの言葉通りこの話はずるい、本当にずるい。
そりゃあ死んでもいいと、この子になら殺されてもいいと思うわ。
悪を倒すだけじゃなく、うさみんの心も救った南条はマジヒーロー。


2位:23時59分59秒
タイトルからしてすごい力を持ってそうなんだけど、読み終わったらもうこのタイトル以外考えられない話。
もはや溶けてしまった魔法にそれでもとしがみつく少女。
願われたとおりに生き続けるためには留まり続けるしかないシンデレラ。
どこにもいけない行き止まりの絶望がここに。

3位:Ciranda, Cirandinha
みりあー! ナターリアー!
おおう、まさかこんな帰結になろうとは。
冒頭からのナターリアの描写が秀逸なだけにこの結末は切ない。
特に死にゆくみりあを抱いているとことかもうね。
ところどころの生前のみりあとの関係を伺わせる地の文の破壊力も卑怯。

4位:アイドルの王女様
続く話でどちらかだけでは絶対ダメってレイナ様が思ってるけど。
まさにその通りな良いコンビなんだよな、こいつら。
みんなを幸せにするのがアイドルというのはOPでのちひろさんや、他のアイドルたちも思ってたりすることだけど。
小春ちゃんはそれだけじゃなくて一歩進んでて、みんなに幸せにしてもらってるのを強く意識してるんだよな。
ファンのことを誰よりも思ってる彼女はまさにアイドルの王女さまだ。

5位:彼女たちの中でつまはじきのエイトボール
うわーん、だりなつが死んだー!
でもまさしく、共に最後を迎えれたのはこいつららしいとも、救いともとれるか。
死に瀕したなつきちがどこまでもロックで、その一言一言が切なくも力強くて堪らない。
そんななつきちが、だりーに対して、“やっぱ、”だりーは見所あるよといって並んで死ぬのがもうね。
誰にも届くことなく終わるはずだっただりーのロックな声が最後になつきちに届いてくれたことも合わせて涙。

871名無しさん:2013/01/05(土) 09:32:09 ID:3YrYhYts0
タイトルのみにて失礼しますします

【登場話部門】
1位・彼女たちがはじめるセカンドストライク
2位・アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ
3位・彼女たちに忍び寄るサードフォース
4位・眠る少女に、目醒めの夢を
5位・太陽のナターリア

【総合部門】
1位・今を生きること
2位・彼女たちの中にいるフォーナインス
3位・真夜中の太陽
4位・ドロリ濃厚ミックスフルーツ味
5位・一人じゃない、星にウインク

872名無しさん:2013/01/05(土) 11:06:04 ID:ps2GT8zs0
私も投票させていただきます

【登場話部門】
1位 2話 DREAM ◆yX/9K6uV4E

OPを除けばトップバッターを飾った記念すべき作品にして、本ロワの本質の一端を描いた逸品。
第一放送で言えば、モバマスロワと言えばこれ!と言っても過言ではないと思います。
アイドルという象徴を軸に全く違う道をいった二人の人間の出会い、結末を悲劇的ながらも美しく描いた名作です。

2位 22話 夏の残照 ◆ltfNIi9/wg氏

私にとって、アイドルとしてのモバマスロワを表現したのが『DREAM』だとすれば、二次創作としてのモバマスロワを表現したのはこの作品。
モバマスという限られた把握材料の中でここまで『岡崎泰葉』というキャラクターを創ることが出来るのか、と驚かされました。
アイドルとして死んだ加奈ちゃん、普通の人間として恐怖する里美ちゃんを通して岡崎先輩の困惑、怒り、悲しみの混ざった壊れそうな心情が痛いほど伝わって来ます。

3位 7話 約束 ◆ltfNIi9/wg氏

一般人ロワならではの自殺話……なんだけど、幻想的な詩から始まりとにかく雰囲気が巧い作品。
登場話ゆえに何にも染まっていない雪美ちゃんの生き方、死に方を、静かに、それでいて感情的に書き切った◆ltfNIi9/wg氏の彼女に対する愛が見えるようでした。
とても一話死亡とは思えないインパクトを刻み込まれ、最後の詩には思わず涙が。

4位 26話 アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM

一言で表すならば「こう来たか!」と言った感じのジョーカーユニット爆誕話。
五人のアイドルの個性、Pへの愛を一人一人しっかりと表現する◆44Kea75srM氏の手腕に脱帽しました。
それでいてちひろさんの用意周到っぷりも憎らしいほど示されており、主催サイドの手強さが滲み出ている豪華盛り合わせ対主催絶望作品です。

5位 23話 感情エフェクト ◆GeMMAPe9LY氏

リアルな殺し合いを見せつけられた作品。混乱するアイドル達のどうしようもない一般人っぷりが読んでいて新鮮で、辛い。
殺すと言ってもそう簡単に出来ることではないし、殺さないと言ってもここにはご都合主義的ハッピーエンドな「めでたしめでたし」もない。
普通はこうなりますよ、という等身大の現実に大きくはないけど少しずつ絶望し、泣きたいのはコッチ、というお姉ちゃんの言葉に共感してしまいます。

873名無しさん:2013/01/05(土) 11:06:32 ID:ps2GT8zs0

【総合部門】
1位 60話 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール ◆John.ZZqWo氏

迷いに迷いましたが、二人のロックアイドル最後の煌めきは1位に持って来ざるを得ない!
茜ちゃんの元気っぷり、とときんの恐ろしさ、藍子ちゃんの健気さが存分に発揮された作品でもありますが、この作品の主役はやはり、なつきちとだりー!
ロック!彼女たちの生き様を語るならばその三文字で十分だ!二人ともロックの神様のところでお幸せに!

2位 32話 真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc

うわあああああああまじかああああああああうつだあああああああああああ…………となった作品。
誓いを結んだ二人のアイドルを容赦なく襲う悲劇にこちらも悲鳴が。持ち上げて落とす、がここまで上手く決まるとは。
守るべきお姫様に守られ、あげく化け物と呼んでしまったことに気付き絶望する珠美ちゃん、というシチュエーションは鬼畜!としか言いようがありません(褒め言葉)

3位 37話 My Best Friend ◆j1Wv59wPk2氏
あの登場話からまさかの、しかし納得の展開。これこそリレーSSの妙という作品。
友達だからこそ、一緒に背負いたい。加蓮ちゃんの選択は人として正しいとは言えないかもしれないけど、それでも彼女の想いは尊くて美しい。
読み終わってからタイトルを見返すと、読む前とはガラリとその印象が変わりました。趣き深い名作です。

4位 67話 彼女たちは袖触れ合うテンパーソン ◆John.ZZqWo氏

炎の元に集まったり集まらなかったりした十人のアイドル達を見事に捌き切った作品。その手腕、尊敬します。
何とか夢見がちなお姫様を取り押さえて一件落着!かと思ったら状態表にさらっと書き込まれたくまのぬいぐるみ(時限爆弾内蔵)にうわー!となった方も多いのでは。
集まらなかった杏ちゃんや麗奈ちゃん小春ちゃんコンビも含めて、彼女たちの今後がとても気になる素晴らしい繋ぎ作品だったと思います。

5位 41話 ドロリ濃厚ミックスフルーツ味〜期間限定:銀のアイドル100%〜 ◆FGluHzUld2氏

三者三様のアイドル達の、個性を超えた「色」がセリフだけではなく文章からも襲い掛かってくるぞー!と読んでいる時に感じました(笑)
キャッチフレーズ「飲み込めないこの味わいをあなたに」に相応しい濃厚な作品です。とにかくパワフル。
色物で面白なアイドルたちに文体で更なる彩を与えただけでなく、携帯電話により後続の展開にも味を与えるとは、流石我らの◆FGluHzUld2様である。

874 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/05(土) 13:25:30 ID:YC2WPeMg0
投票が中々盛り上がって嬉しい限りです。
そして、今晩のチャットは此方でやります。
ttp://mobarowa.chatx2.whocares.jp

私自身は8〜9時には入っています。
皆さんご都合のいい時間に、入ってゆるゆると話しましょうー

875 ◆ncfd/lUROU:2013/01/05(土) 14:14:17 ID:xqaBceX20
チャットの場所了解です
タイトルだけで申し訳ないですがこちらも投票をさせていただきます

【登場話部門】
1位 007話 約束 ◆ltfNIi9/wg氏
2位 028話 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w氏
3位 033話 彼女達の物語 ◆MmI69YO1U6氏
4位 002話 DREAM ◆yX/9K6uV4E氏
5位 027話 ただ陽の輝きの先に未来が待ってい ると信じて ◆FGluHzUld2氏

【総合部門】
1位 037話 My Best Friend ◆j1Wv59wPk2氏
2位 007話 約束 ◆ltfNIi9/wg氏
3位 064話 今、できること ◆j1Wv59wPk2氏
4位 060話 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール ◆John.ZZqWo氏
5位 028話 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w氏

876名無しさん:2013/01/05(土) 14:47:55 ID:JamPM5VQ0
タイトルだけで申し訳ないですが投票させていただきます。

【登場話部門】
第1位 アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ
第2位 DREAM
第3位 悪者とプリンセスのお友達なカンケイ
第4位 捧げたいKindness
第5位 目に映るは、世界の滅亡

【総合部門】
第1位 My Best Friend
第2位 彼女はどこにも辿りつけない
第3位 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール
第4位 今、できること
第5位 23時59分59秒

877名無しさん:2013/01/05(土) 20:39:47 ID:kLlomUu60
申し訳ない。自分もタイトルだけですが投票を

1位 / 007話 / 約束 / ◆ltfNIi9/wg
2位 / 008話 / 私たちのチュートリアル / ◆44Kea75srM
3位 / 028話 /眠る少女に、目醒めの夢を。 / ◆n7eWlyBA4w
4位 / 030話 / 彼女たちに忍び寄るサードフォース / ◆John.ZZqWo
5位 / 002話 / DREAM / ◆yX/9K6uV4E

【総合部門】

1位/ 037話 / My Best Friend / ◆j1Wv59wPk2
2位/ 042話 / フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン / ◆kiwseicho2
3位/ 032話 / 真夜中の太陽 / ◆BL5cVXUqNc
4位/ 045話 / 夜にしか咲かない満月 / ◆GeMMAPe9LY
5位/ 047話 / アイドルの王女様 / ◆U93zqK5Y1U

878 ◆ltfNIi9/wg:2013/01/05(土) 23:59:59 ID:9WrhNSt.0
南条光、ナターリア、予約します

879 ◆n7eWlyBA4w:2013/01/06(日) 00:00:00 ID:SQNc3AMU0
予約解禁ですね!

高森藍子、日野茜、予約します!

880 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/06(日) 00:00:01 ID:Uc0JNqIU0
高森藍子、日野茜、小日向美穂、塩見周子、栗原ネネを予約します

881 ◆John.ZZqWo:2013/01/06(日) 00:00:07 ID:dMZRuN.I0
高垣楓、矢口美羽、道明寺歌鈴 の3人を予約します。

882 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/06(日) 00:00:27 ID:Uc0JNqIU0
高森藍子、日野茜、小日向美穂、塩見周子、栗原ネネを予約します

883 ◆ltfNIi9/wg:2013/01/06(日) 00:00:32 ID:h.BGs6xo0
南条光、ナターリア、予約します
フライングしたーw

884 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/06(日) 00:01:44 ID:RWCtrEPI0
たくさんかぶってる……ww
五十嵐響子、相川千夏予約します!

885 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/06(日) 00:02:25 ID:Uc0JNqIU0
相葉夕美で予約します

886名無しさん:2013/01/06(日) 00:11:18 ID:dMZRuN.I0
予約まとめです!

2013/01/06(日) 00:00:00 ◆n7eWlyBA4w 高森藍子、日野茜 
2013/01/06(日) 00:00:07 ◆John.ZZqWo 高垣楓、矢口美羽、道明寺歌鈴 
2013/01/06(日) 00:00:32 ◆ltfNIi9/wg 南条光、ナターリア 
2013/01/06(日) 00:01:44 ◆j1Wv59wPk2 五十嵐響子、相川千夏 
2013/01/06(日) 00:02:25 ◆yX/9K6uV4E 相葉夕美

人気投票はまだ今日一日ありますので、まだのかたはよろしくー!

887 ◆44Kea75srM:2013/01/06(日) 00:18:19 ID:1ruis1wA0
緒方智絵里予約します。

888 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/06(日) 08:25:09 ID:Uc0JNqIU0
昨日はチャットお疲れ様でした!
とても楽しかったです。

場所は残しておくので、普段交流したいなーという時などありましたら、交流チャットとして使ってください。
こちらも時間があれば顔を出しますので

889名無しさん:2013/01/07(月) 01:50:19 ID:HBBpQ.oo0
モバマス・ロワイアル第1回人気投票結果発表です!
多数の投票、コメント、多々感謝です。投票ありがとうございました。


【登場話部門】

1位 36点 002話 DREAM ◆yX/9K6uV4E
1位 36点 007話 約束 ◆ltfNIi9/wg

 1位は同点で「DREAM」と「約束」が並びました!
 OP後最初の話として投下され、このロワにおける『アイドル』と『ヒロイン』の役割を明確に示した「DREAM」。
 そして書き手枠からの登場にして佐城雪美のたった1話の話である「約束」。
 対極的な2作ですが、それぞれこのロワにおける“意義”と“衝撃”が多数の票を得た理由でしょうか。
 それぞれ、1位おめでとうございます!

3位 30点 028話 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w

 3位には「約束」から続いた「眠る少女に、目醒めの夢を。」が入賞しました。
 前作も幻想的な雰囲気の中、心情をせつせつと書き綴ったものでしたが、今作も同様です。
 先の死を汚すことなく、しかしそこに新しい決意をもたらしたその妙が得票の理由でしょうね。素晴らしい作品でした。

4位 24点 020話 彼女たちがはじめるセカンドストライク ◆John.ZZqWo

 4位には一転、ロワらしい悲劇と決意を描いた「彼女たちがはじめるセカンドストライク」が入賞しました。
 冒頭に起こる悲劇のインパクト、そしてその後に悲劇を受け止めた上での立ち上がる決意。
 拓海と紗枝ちゃん(と涼)は現在もそのスタンスを崩していませんが、前途多難の予感。これからにも注目です。

5位 17点 023話 感情エフェクト ◆GeMMAPe9LY

 5位にはこれもロワらしく、なにより等身大で人間を描いた「感情エフェクト」が入賞しました。
 怖いけど殺したくないし殺せもしない。殺そうとしても覚悟なんて決められない。そんな人間だったらの当たり前。
 地味な話なのかもしれないですけど、この入賞がこのロワにおける趣旨と趣向を表していると言えますね。

890名無しさん:2013/01/07(月) 01:50:39 ID:HBBpQ.oo0
【総合部門】

1位 37点 037話 My Best Friend ◆j1Wv59wPk2

 1位には2位に差をつけて「My Best Friend」が入賞しました!
 奈緒と加蓮、道を別とうとした彼女らの登場話からの続きとなる今作ですが、誰がこの続きを予想したか。しかし納得の結末。
 互いに互いを真摯に思いやるからこその噛みあわない決意と逃れられない悲劇。
 ふたりの友情と困惑もそうですが、それを淡々と書ききることで際立てた氏の実力に驚嘆です!

2位 28点 038話 彼女たちの中にいるフォーナインス ◆John.ZZqWo

 2位には、第1放送までの中でもかなり異端な話である「彼女たちの中にいるフォーナインス」が入賞しました。
 勇者とヒーローによるなりきり対決。
 傍目には滑稽な図ですが、彼女たちの間でしか通じない言語、文法ゆえにその想いが際立つこととなったのかもしれません。

3位 23点 060話 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール ◆John.ZZqWo

 3位には、だりなつの極地であり、十時と藍子の対決姿勢を明確にした「彼女たちの中でつまはじきのエイトボール」が入賞しました。
 モバマスの中には公式非公式あわせてカップリングが多々ありますが、未だその中でも出会えたのはわずかですし、今後もそれは難しそう。
 そんな中で早々に出会い、ゴール(?)したふたりのらぶらぶロックぷりに票が集まったのかな、なんて。

4位 17点 062話 23時59分59秒 ◆BL5cVXUqNc

 4位には先の作品から続き、十時の彼女がシンデレラであるままの闇を描いた「23時59分59秒」が入賞しました。
 登場話から数えて4話。一気にシンデレラの名にふさわしく舞台の中央に進み出てきた彼女ですが、この話はなによりタイトルがかっこいい!
 丁寧に描かれた内面も勿論そうですが、読後に意味のわかるこのタイトルにしびれて投票した人も多いですよね?

5位 16点 032話 真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc

 5位には色んな意味で衝撃が波及した「真夜中の太陽」が入賞しました。
 焼夷弾によるまだ幼い(幼く見える)ふたりの無残な死。投下された時、スレに悲鳴がとどろき渡ったのは記憶に新しいところです。
 なんの罪もない子供が無情に葬られるのもまたロワの醍醐味ですよね。


以上、各賞5位までを紹介しました。これ以下は全体の結果を張っていきたいと思います。

891名無しさん:2013/01/07(月) 01:51:04 ID:HBBpQ.oo0
【登場話部門】

36点 002話 DREAM ◆yX/9K6uV4E
36点 007話 約束 ◆ltfNIi9/wg
30点 028話 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w
24点 020話 彼女たちがはじめるセカンドストライク ◆John.ZZqWo
17点 023話 感情エフェクト ◆GeMMAPe9LY

15点 011話 愛しさは腐敗につき ◆BL5cVXUqNc
14点 026話 アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ ◆44Kea75srM
13点 004話 ……という夢を見たかったんだ ◆ncfd/lUROU
10点 031話 捧げたいKindness ◆D.qPsbFnzg
 9点 014話 邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w

 8点 027話 ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて ◆FGluHzUld2
 7点 008話 私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM
 6点 022話 夏の残照 ◆ltfNIi9/wg
 5点 017話 彼女たちのためのファーストレッスン ◆John.ZZqWo
 5点 030話 彼女たちに忍び寄るサードフォース ◆John.ZZqWo
 4点 013話 悪者とプリンセスのお友達なカンケイ ◆44Kea75srM
 3点 006話 揺れる意思、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E
 3点 010話 ピピッ!ウサミン星からの電波受信、完了です! ◆44Kea75srM
 3点 033話 彼女達の物語 ◆MmI69YO1U6
 2点 001話 オープニング ◆yX/9K6uV4E
 2点 015話 太陽のナターリア ◆ltfNIi9/wg
 2点 024話 目に映るは、世界の滅亡 ◆04Bxyher2I
 1点 019話 それぞれの本分 ◆n7eWlyBA4w

892名無しさん:2013/01/07(月) 01:51:32 ID:HBBpQ.oo0
【総合部門】

37点 037話 My Best Friend ◆j1Wv59wPk2
28点 038話 彼女たちの中にいるフォーナインス ◆John.ZZqWo
23点 060話 彼女たちの中でつまはじきのエイトボール ◆John.ZZqWo
17点 062話 23時59分59秒 ◆BL5cVXUqNc
16点 032話 真夜中の太陽 ◆BL5cVXUqNc

15点 049話 今を生きること ◆n7eWlyBA4w
13点 047話 アイドルの王女様 ◆U93zqK5Y1U
11点 048話 確固たる意志、明ける夜空 ◆j1Wv59wPk2
10点 064話 今、できること ◆j1Wv59wPk2
 9点 061話 彼女はどこにも辿りつけない ◆n7eWlyBA4w

 8点 007話 約束 ◆ltfNIi9/wg
 8点 036話 Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6
 6点 044話 失敗禁止!火事場のチョイスはミスれない! ◆44Kea75srM
 6点 059話 一人じゃない、星にウインク ◆j1Wv59wPk2
 6点 067話 彼女たちは袖触れ合うテンパーソン ◆John.ZZqWo
 4点 002話 DREAM ◆yX/9K6uV4E
 4点 042話 フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン ◆kiwseicho2
 4点 045話 夜にしか咲かない満月 ◆GeMMAPe9LY
 4点 051話 彼女たちが探すシックスフォールド ◆John.ZZqWo
 4点 052話 盲目のお姫様と迷子の子羊 ◆j1Wv59wPk2
 4点 058話 完全感覚Dreamer ◆GeMMAPe9LY
 4点 066話 アイドリング アイドルズ ◆n7eWlyBA4w
 3点 028話 眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w
 3点 040話 デッドアイドル ウォーキング ◆n7eWlyBA4w
 3点 041話 ドロリ濃厚ミックスフルーツ味〜期間限定:銀のアイドル100%〜 ◆FGluHzUld2
 3点 057話 オキガエ イン エアポート ◆kiwseicho2
 1点 043話 阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E
 1点 053話 相葉夕美の無人島0円(無課金)生活 ◆RVPB6Jwg7w

893名無しさん:2013/01/07(月) 01:52:47 ID:HBBpQ.oo0
【作者別】

95点 ◆John.ZZqWo
74点 ◆n7eWlyBA4w
68点 ◆j1Wv59wPk2
52点 ◆ltfNIi9/wg
48点 ◆BL5cVXUqNc

46点 ◆yX/9K6uV4E
34点 ◆44Kea75srM
25点 ◆GeMMAPe9LY
13点 ◆ncfd/lUROU
13点 ◆U93zqK5Y1U

11点 ◆FGluHzUld2
10点 ◆D.qPsbFnzg
 8点 ◆RyMpI.naO6
 7点 ◆kiwseicho2
 3点 ◆MmI69YO1U6
 2点 ◆04Bxyher2I
 1点 ◆RVPB6Jwg7w


集計結果は以上です。投票にご参加の皆様ありがとうございましたー!

894 ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:36:02 ID:P3q2rs660
投票集計乙です!
ノミネート作品多すぎwww いやーすごい盛り上がりましたね……

そして放送後一発目! 緒方智絵里投下します。

895それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:37:32 ID:P3q2rs660
 どうしてこんなことになったのか。

「プロデューサーさん……あ、あの。まだ起きてますか……?」

 背後から聞こえてくる甘い声。その距離はわずか数センチといったところだろうか。
 あまりにも近すぎる距離感は【僕】の鼓動を加速させ、意識を興奮へと導こうとする。

「……起きてたらで、いいです。一個……お願いがあるんです」

 首筋にかかる吐息がくすぐったい。
 後ろで寝ている【彼女】の熱が、首からパジャマの内側までいき渡るようだ。


 現状を説明しよう。
 某アイドル事務所のプロデューサーである僕は、担当アイドルの緒方智絵里と一緒にベッドに入っていた。
 説明は以上だ。


 …………待て。待ってくれ。聡明なファンの方々。どうかその手に持った鈍器を下げてくれ。

 僕と智絵里は確かに【一緒のベッド】に入っている。これは否定できない事実である。
 さらに言えば時間帯は【深夜】だし、二人とも【シャワーを浴びた後】【パジャマに着替えて】からの就寝だ。
 ちなみに場所は【僕の家】で、現在ここにいるのは【僕と智絵里の二人だけ】という情報も補足しよう。

 うーん殺されるな。

 だがあえて断言しよう!
 やましい気持ちは一切ない!
 やましいことはしていないし、これからする予定もない!

 ならばなぜ、こんな『男女が一つ屋根の下、同じベッドでご休憩 ※アイドルとプロデューサーです』なんて状況に陥ったのか。

 弁解も含めて説明するとなると、話は数時間前まで遡る…………――――


 ◇ ◇ ◇


 レッスン後の夜のことだった。

 智絵里が家に帰っていないという連絡をご家族の方からもらい、僕は事務所から自宅までの道のりを奔走した。
 携帯は繋がらない。ひょっとしてなにか事故にでも遭ったんじゃないか。ざわつく胸を押さえながら智絵里の姿を捜す。
 途中で雨まで降ってきて、傘を持っていなかった僕はスーツごとずぶ濡れになってしまった。それでも構うものかと足を動かした。
 繁華街のほうにはいない。智絵里の行きそうなところはすべて探した。いや、でももしかしたらあそこに……?

 程なくして、智絵里は見つかった。
 雨の中、傘もささず。びしょびしょの姿で河原に蹲っていた。

「智絵里!」

 叫びながら駆け寄ると、智絵里は沈鬱な表情でこちらを見た。
 いまにも消えてしまいそうな、そんな儚げな印象を漂わせている。
 いったいなにをしていたのか訊くと、

「……四つ葉のクローバーを探していたんです」

 智絵里はそれしか答えてくれなかった。
 プロデューサーである僕は知っている。智絵里が四つ葉のクローバーを求めているときは、幸せを求めているときだ。
 つまり、なにか嫌なことがあったとき。不幸に押し潰されそうなってしまったとき、幸運を欲する。
 でもこの状態はいままでにない。智絵里のこんな破滅的な姿は、見たことがなかった。

896それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:38:10 ID:P3q2rs660
 とにもかくにもこのままじゃいけない。
 僕はタクシーでも拾って智絵里を家まで送り届けようと考えたが、

「プロデューサーさんの……プロデューサーさんのおうちに行きたいです……」

 智絵里は僕の服の袖をつまみ、か細く懇願した。
 たしかにここからな僕の家のほうが近い。走って十数分くらいだ。
 よしわかった。なら僕の家に行こう。ひとまずはシャワーでも浴びて、そして落ち着いてから話をしよう。


 ――そして、僕は智絵里の手を引きながら自宅まで移動した。


 バスタオルで身体を拭きながら、シャー……という水音を聞く。いま、智絵里がシャワーを浴びているところだ。
 自分の家に女の子が、それも担当するアイドルがいて、しかもシャワーを浴びているだなんて……問題だよなあ。
 いやでも、背に腹は代えられない。智絵里に風邪でもひかせようものなら、僕は本格的にプロデューサー失格だ。

「プロデューサーさん……あ、あの……シャワー、ありがとうございます」

 湯上がりの智絵里は、男物のパジャマに着替えていた。
 男性用だからもちろんサイズは合わない。袖の部分が余りまくりで、なんだか可愛らしいおばけみたいになっている。
 そして、そんなぶかぶかパジャマの隙間から見える肌はほんのり上気していて、智絵里らしからぬ女性の色気を――

 なにを考えているんだ僕は。

 頭をぶんぶん振って、雑念と煩悩に退散いただく。
 智絵里に熱々のホットココアを入れてあげると、ようやく彼女も落ち着いたようだ。

「次は僕がシャワーを浴びてくるから。そしたら、二人で話をしよう」
「はい……」

 まだ智絵里に笑顔は戻らない。僕は手早くシャワーを済ませ、自身もパジャマに着替えてから部屋に戻った。
 ちなみになぜパジャマかというと、それしか服がなかったからだ。……怠惰な男の一人暮らしが祟ったと言えよう。

「ふう。おまたせ、ちえ――!?」

 部屋に戻ってみると、まず驚愕が僕を襲った。
 智絵里が、ぼろぼろと涙を流していたのだ。

「智絵里! どうしたんだ!?」
「あ……ごめん、なさい。プロデューサー」

 僕はすぐに駆け寄って、智絵里の華奢な身体を抱きしめる。
 湯上がりの肌はぶるぶると震え、力を強くすればぽきっと折れてしまいそうなほど弱々しい。
 下ろした髪から漂うシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり、僕の手を誘う。

 気づけば、僕は智絵里の頭を撫でていた。
 子供扱いして怒るかとも思ったが、しばらく続けていると智絵里はぴたりと泣きやんだ。

「……ありがとう、ございます」

 まだ笑顔は見せてくれないけれど、智絵里の声は精一杯明るく振る舞おうとがんばっていた。
 改めて智絵里が落ち着いてから、なにがあったかを訊いてみた。
 雨の日に傘もささず四つ葉のクローバー探しなんて、きっと辛いことがあったに違いないから。

897それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:39:05 ID:P3q2rs660
「……きっかけなんて、ありません。ただ……ほんとうに、とつぜん……どうしようもなく、不安になっちゃったんです」

 智絵里はそれしか言わなかった。
 僕はあながち嘘ではないのかもな、なんて思った。人間、誰だってそういうことはある。僕だってそうだ。
 何事にも臆病で、自分に自信が持てない――そう思い込んでしまっている智絵里なら、特にそういうことは多いだろう。
 そんなとき、智絵里に幸せを分け与えてあげるのが彼女のプロデューサーである僕の役目だ。

「あ、そうだ。家の人に連絡しておかないとな。みんな智絵里のこと心配して――」

 思い立った僕がケータイに手を伸ばすと、智絵里がその手首を掴んできた。
 彼女にしては珍しく、強めの力でぐいぐいっと引っ張ってくる。
 そのまま、僕の手は智絵里の控えめな胸まで誘導された。

「ち、智絵里?」
「…………です」
「えっ、なんだって?」
「帰りたくないです」

 はっきりと。
 智絵里ははっきりとそう言った。
 僕の耳もはっきりとそう聞いた。

「今日は……帰りたくないです。お願いですプロデューサーさん……泊めてください」

 念押しするように、智絵里は潤んだ瞳で僕の心を射止めた。


 ◇ ◇ ◇


 回想は以上である。
 男としてもプロデューサーとしても、ここは断っておくべきだったろう。
 だけどそれ以上に……智絵里の理解者として、僕は彼女の願いを拒むことができなかった。

「……起きてたらで、いいです。一個……お願いがあるんです」

 背中から伝わる声と熱。
 アイドル、緒方智絵里の切なげな吐息。
 僕は声を返すこともできず、ただ続く言葉を待った。

「手を……ぎゅってしてもらってもいいですか?」

 ――それはあまりにも智絵里らしい、ささやかなお願いだった。

「……手を?」
「はい。握ってくれるだけでいいんです」

 耳元に届くウィスパーボイス。少しでも油断すれば衝動に持っていかれそうになる。
 いや、よこしまな考えは捨てよう。それでは彼女に失礼だ。
 紳士を気取るつもりはないが、智絵里の気持ちはよく理解しているつもりでいる。
 だからこそ、手を握っていてほしいと願う彼女の胸中も。

「右手でいいかい?」
「……どっちでも、だいじょうぶです」

 僕は身を捩り、智絵里のほうへ向く。
 ベッドに横たわった彼女は赤面していて、ちろりと舌の覗く唇がやけに艶っぽく映った。
 おずおずと差し出された小さなてのひらを、そっと優しく包み込む。

898それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:39:42 ID:P3q2rs660
 智絵里のぬくもりが伝わってくる。
 僕のぬくもりも伝えたい。


 そうして、二人の心は一つになった…………――――


「……プロデューサー」
「なんだい智絵里」
「四つ葉のクローバー、明日は見つけられるでしょうか?」
「きっと見つかるよ。なんなら、僕も一緒に探すさ」
「…………はいっ」


 ベッドの中の智絵里は、そうしてようやく笑顔を見せてくれた。


 ◇ ◇ ◇


 プロデューサーと泣かない(泣けない)約束をしてから、一度だけ泣いてしまった日があったのを思い出した。

 時間にしてほんの数十分。ついうとうとしてしまい、そうしたら夢に出てきた。
 あの日、あの夜、プロデューサーと一緒の時間を過ごした緒方智絵里は、確かに幸福だった。

「あっ……六時……」

 ぼーっとする頭の中で、現在時刻を確認する。
 結局、智絵里はまだ一人も殺せていなかった。

 臆病な自分は臆病なまま、身を小さくして隠れ潜むことしかできない。
 その行動の結果がどんな不幸を呼ぶか、それを知ることは怖い。
 だけど――時はきてしまった。現実から目をそらすことは、できない。

「プロデューサー……っ」

 ぎゅっと手を握り合わせ、神様に祈る。
 どうか、どうかお願いします。
 わたしのちっぽけな願いを叶えてください。


 ――――そして放送は始まり、終わった。


 病院内の、いやおそらくは島内のあちこちに設置されたスピーカーから、千川ちひろの声が響き渡った。
 智絵里はその内容を受け止め、噛み締める。
 自らがその死を確認した佐々木千枝……彼女の名前が死亡者として告げられたことには、動じていられない。
 しかし。

「そんな……嫌だよ……ウソだよ、智香ちゃん……」

 若林智香。
 智絵里と親交のあったアイドルの名前が、またもや一人死んでしまった。
 辛いときはお互いに励まし合ったり、応援し合ったり……鈍くさいわたしにダンスを教えてくれたりもした智香ちゃん。
 その智香ちゃんが、千枝ちゃんみたいな変わり果てた姿になってしまっただなんて……想像もしたくない。
 智絵里はぶんぶんと頭を振った。脳内の陰鬱なイメージを消し去ろうと必死になった。思い切り振りすぎて首が痛くなった。

899それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:41:02 ID:P3q2rs660
「でも智香ちゃん……それに、唯さんも……ちひろさんからコレをもらってるはずなのに……」

 悲しさを紛らわせようと、智絵里は柄にもない考察を展開する。
 支給された11個の爆弾。『恋する女の子へのサービスです☆』というメッセージ付きのストロベリー・ボム。
 11個という数から類推しても、これはあの場に集められた五人のアイドルに等しく支給されたものだと考えられる。
 だとしたらおかしい。こんなに強くて数もいっぱいある爆弾を支給されたのに、智香も唯も死んでしまったのだろうか……?

 疑問に思ってみたものの、智絵里はすぐに『別におかしなことでもない』という結論に至った。
 この殺し合いは強力な武器を支給されていればそれで無敵というわけではない。

 だってわたしたちはアイドルだから。
 人殺しなんて夢の中でもしたことがない女の子だから。
 現に自分が、二の足を踏んでいるのだから。
 武器の有無なんて関係ない。死ぬときは死ぬ。

「死んじゃう……もっとがんばらないと……簡単に死んじゃうんだ……っ」

 極寒の地に立ったような震えが、智絵里を襲った。
 アルマジロみたいに身を丸めて、震えが収まるのを待つ。
 静謐な病院内、いまここで誰かに襲われたら一巻の終わり。
 だけど逃げられない。というより動けない。恐れが身を縛る。


 …………数十分が経過した。


 震えはようやく収まり、智絵里は情報端末を取り出して放送の内容を復習することにした。
 死亡したアイドルは【15名】。禁止エリアは【E-1】と【C-7】。いまのところは関係ない。

 それらの結果を再度よく受け止め、噛み締める。
 ほぅ、息が漏れた。

「よかった……」

 ……よかった?
 いま、よかったって言った?

 智絵里は自分の口から出た言葉が信じられなかった。
 誰か、自分に似た声の他人が喋ったのではないかと周囲を窺った。
 結論として、やはり病院内には智絵里しかいなかった。

 じゃあ、いまの『よかった』は紛れもない、自分の口から……?

 殺人者への恐怖ではない。
 友達の死による悲しみでもない。
 得体のしれない動揺が智絵里を苛む。

「あれ?」

 異変は立て続けに起こった。
 頬に感じる冷たい感覚。
 指で触れてみるとわかった。
 両の瞳から、涙が流れている。

900それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:41:45 ID:P3q2rs660
「あ、あれ。あれれ。どうして……泣けないはずなのに……」

 頬をごしごし擦り、涙を拭う。
 拭っても拭っても、また新しい涙が流れてきた。


 ―――智恵里がトップアイドルになるまで、泣かない。応援するから、ずっと笑っていよう。できるかな?


 ああ、わたしってだめな子だなあ。
 プロデューサーと約束したのに。
 トップアイドルになるまで泣かないって、約束したのに。
 千枝ちゃんが死んでるのを見たときも、すごく我慢したのに。
 それなのに……それなのに、こんなことでっ。

「こんなんじゃトップアイドルになんかなれませんよね、プロデューサー……えへへっ」

 ……あれ?
 なんでだろう。
 笑ってる。
 わたし、泣いてるのに笑ってる。
 涙は溢れて止まらないのに……どうしてこんなに嬉しいの?

 頬を伝うこの液体は、指を舐めてわかるこのしょっぱさは、間違いなく涙のそれだった。
 なのに智絵里は笑っていた。泣きながら笑っていたのだ。
 おかしい。涙は悲しいから出るものなのに。千枝ちゃんや智香ちゃんが死んじゃって悲しいのに。

 だけど。
 だけどそれ以上に――嬉しい。

「ああ……そっか。そうなんだ」

 プロデューサーと泣かない(泣けない)約束をしてから、一度だけ泣いてしまった日があったのを思い出した。
 あの日の涙のきっかけは、いまでも鮮明に覚えている。
 智香ちゃんだ。

 ――あの日、智絵里はプロデューサーと智香の二人が一緒に街を歩いているのを目撃してしまった。
 ただそれだけ。ただそれだけのことで、プロデューサーと交わした約束を破ってしまった。
 プロデューサーとアイドルなんだから、二人きりで街を歩くことなんてよくあることかもしれない。

 でも智絵里は見てしまった。
 プロデューサーと腕を組む智香を。
 プロデューサーの頬に唇を寄せる智香を――

「智香ちゃんが死んじゃって、嬉しいの……? …………ううん。違うよ」

 その後のプロデューサーや智香の様子を見れば、二人がそういう関係でなかったことはちゃんとわかる。
 あれは智香の悪ふざけみたいなものだったのだろうと、本人たちには確かめていないがそう解釈している。
 それでもあの日は。あの夜、プロデューサーの家に泊めてもらった夜だけは、我慢することができなかった。


 ――――智絵里。智絵里は今日限定でアイドルを廃業だ。
 ――――えっ……どうしてですか?
 ――――今日の智絵里は、ただの女の子だ。だから、いくら泣いたっていいんだよ。
 ――――プロデューサーは……わたしを、女の子として見てくれるんですか?
 ――――そんなの、あたりまえだろう?


 あの日、ベッドの上で優しく慰めてくれたプロデューサーは、そんな調子のいいことを言ってくれた。
 だから、あの日だけは特別だった。あの日、ただの女の子に戻った智絵里はプロデューサーの胸の中で泣きじゃくった。
 それなら、今日はどうだろう。ちひろさんは『アイドルとして』とやたらと強調していたけれど、今日は――

901それなんてエロゲ? ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:42:34 ID:P3q2rs660
「よかった……よかったよぉ……プロデューサー、殺されなかったぁ……」

 答えを待つ暇もなく、智絵里は既に泣いていた。
 友達が死んでしまった悲しみからではない。
 自分も死ぬかもしれないという怯えからでもない。

 ただ、プロデューサーが生きていてくれたことだけが嬉しい。
 嬉しいから、涙が溢れて止まらなかった。

「嬉し涙ならいいですよね、プロデューサー……」

 誰もいない病院で、智絵里はわんわん泣いた。
 泣きながら、もっとがんばらなきゃと思った。

 プロデューサーがちひろさんに殺されなかったのは、きっと他の担当アイドルたちががんばったからだ。
 ひょっとしたら、智香ちゃんもプロデューサーを殺すまいとがんばって、その果てに死んでしまったのかもしれない。
 もしそうなんだとしたら、ここで泣いているだけじゃだめだ。がんばれ。がんばれ智絵里。もっともっとがんばれ――

「ふぁいとっ!」

 誰かを応援するときは、大きな声で。
 智香ちゃんがそう教えてくれたから。

 泣き終わったら、もっともっともっとがんばろう。
 ただの女の子として。
 ううん。やっぱり【アイドル】として。



【B-4 病院/一日目 朝】

【緒方智絵里】
【装備:アイスピック】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
0:もっともっともっとがんばろう。
1:殺し合いに賛同していることを示すため、早急に誰か一人でもいいから殺す。

902 ◆44Kea75srM:2013/01/07(月) 05:43:54 ID:P3q2rs660
投下終了しました。
続きまして、古賀小春と小関麗奈で予約します。

903 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 13:59:20 ID:mDkJjB1k0
      ,.r''´      ; ヽ、
    ,ri'  、r-‐ー―'ー-、'ヽ、
   r;:   r'´        ヽ ヽ
  (,;_ 、  l          ::::i 'i、
 r'´    i'   _,   _,.:_:::i  il!
 ヾ ,r  -';! '''r,.,=,、" ::rrrテ; ::lr ))
  ! ;、 .:::;!    `´'  :::.   ' .::i: ,i'
  `-r,.ィ::i.      :' _ :::;:. .::::!´
     .l:i.     .__`´__,::i:::::l
     r-i.     、_,.: .::/
      !:::;::! ::.、     .:::r,!
     l::::::::ト __` 二..-',r'::::-、
     l;::i' l:     ̄,.rt':::::::/   ` -、
    ,r' ´  ヽr'ヽr'i::::::::;!'´

 ソレナンテ・エ・ロゲ[Sorenant et Roage]
     (1988〜 765プロ)

人気投票お疲れ様でした!
My Best Friendが一位!ありがとうございます!
これも加蓮ちゃんと奈緒ちゃんの可愛さが成せる業ですね!

で、新年初投下乙です!早っ!?
いやぁ……ついにPに踏み込んだ作品が投下されたかー。
それにしてもこのP……ふむ、この描写だけでは一概に判断できぬ……
智香ちゃんが積極的すぎたのか、はたまたPがいけない奴なのか……
死人に口無し。智香ちゃんは何も語らない。
で、肝心の智絵里ちゃんは……ふっきれた、か?
アイドルがヒロインになった瞬間……かなぁ。今後どうなることやら。

さて、人気投票の結果も出たし様子見しようかなぁと思ってたし勧められたけど、
もう投下されてるなら続くしかないよね!という事で、
五十嵐響子、相川千夏。投下します。

904Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:00:58 ID:mDkJjB1k0
「響子ちゃん……奇遇ね」
「千夏さん………」

彼女達が再会したのは、第一回放送という一つの区切りが終わったすぐ後の事だった。
相川千夏と、五十嵐響子。共に大切な人を守る為に人ならざる道を進んだ二人。
そして、それも感動の再会というわけにはいかない。
共に支給された銃を構え、一切の油断も許さない状況であった。

「千夏さん、銃を下ろしてください。
 私は、今は千夏さんを殺すつもりはありません」
「へぇ……」

そんな状況を先に動かしたのは響子の方だった。
その言葉は千夏にとっては意外ではあったが、ある意味では想定内とも言えた。
彼女はまだ15歳の少女だ。こんな状況に放り込まれて、はいそうですかと殺し合いをする方がおかしい。
ダイナーの中で予想した通り、彼女は殺し合いには乗っていない。そう感じていた。


―――今、は?


「私には、優先しないといけない事がありますから。
 ……ナターリア。千夏さんもよく知ってますよね?」
「…………?」

彼女が語るのは、私たちと同じプロデューサーが担当している少女の話だった。
考えてみれば、この殺し合いの場にいるアイドルで、唯一『あの場』に呼ばれていない。
しかし、彼女がなんだというのだろう。
千夏が思い浮かべるイメージからすれば、彼女は殺し合いなどしないように思える。
響子とはよく関わり合っていたとはいえ、何か気にかけるような事があっただろうか。

「……あの子が、どうかしたの?」
「あの子は絶対に殺し合いなんてしないんです。
 でも、それだと駄目なんです。あの子が殺し合いをしなかったら……プロデューサーが死んじゃう」
「………は?」

905Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:01:57 ID:mDkJjB1k0
「ちひろさんも言っていたじゃないですか……否定的な人のプロデューサーは、殺すって!
 それだけは、絶対駄目……私は生きて、あの人に会わないと意味が無い……
 だから私は、ナターリアを探して……殺さないと」
「あ、あなた……一体、何を言って……」

今度こそ想定外の言葉だった。
あの、あの心優しく世話焼きな少女から出るとは思えない言葉が次々と出てきた。
呆気にとられてしまう。だが彼女はそれを気にもとめず会話を続ける。

そもそも、何を言っているのか。無茶苦茶だ。
仮に6人いる中で全員ならともかく、1人くらい反抗したくらいですぐにあの人が死ぬ様なことは無いはずだ。
殺すのは最終手段だ。切り札をそう易々と使ってはいけない。
人質とはそういうものだ。それくらい、少し考えればわかるはずなのに。

それを指摘しようとして、しかしその言葉は喉まで出かかって、引っ込んだ。

何故?
それは、相川千夏が五十嵐響子に恐怖していたからだった。
その狂気とまでいえる献身的な姿勢が、その光の無い目が、そしてそれを実行に移しかねない覚悟が。
その全てが彼女にとって恐怖として認識された。

今、私が話しているのは人間なの?
そんな思いが自分の中でこだまして、それを否定できないでいた。
同じプロデューサーの元に集まって、同じ人に恋をして、二人は決して他人ではないはずなのに。
それほどまでに、千夏は目の前の少女に恐怖を感じていた。それほどまでに、今の響子は変貌していた。

「だから私は千夏さんを殺す前に、ナターリアを優先しないと……。
 その間に千夏さんは他の参加者を…………千夏さん?」
「……今度は、何?」
「何だか、元気が無いですね。
 そんな調子だと、殺せる人も殺せませんよ?」

906Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:03:42 ID:mDkJjB1k0
相変わらず彼女が話す言葉には狂気しか感じない。
正直な話、何故元気が無いのかと言えば彼女の変貌ぶりも理由の一つではあるだろう。
しかし、彼女が指摘した事に対する理由はそれだけが原因ではない。
……その理由を彼女は知らないはずは無いのだが。

「……さっきの放送でね、唯ちゃんの名前が呼ばれたから……。
 それで少し尻込みをしていた。それだけの話よ……」

そう、それだけの話。
一番最初の放送で、彼女の親友である大槻唯の名前が呼ばれた。
それはつまり、大槻唯はもうこの世に居ない……つまり、死んでしまった事を意味していた。
あれから一度も会わず、話す事もなく、逝ってしまったのだ。
その喪失感が、彼女の気を落としていた一番の理由となっていた。


「………それだけ、ですか?」

しかし、そんな思いさえも彼女は一蹴してしまう。

「唯ちゃんの名前が呼ばれたからって……
 それで、殺し合いをしない理由にならないじゃないですか」
「っ!………あなた」

先程、その理由は彼女は知っているはずだと思っていた。
しかし、事実は違う。けして彼女が嘘をついているようにも、とぼけているようにも見えない。
彼女には本当に心当たりが無かった。
というよりも、そんな事などどうでも良いとばかりに彼女の中では忘れ去られていたのだ。

それは友人である大槻唯の死を侮辱されたように思えて、彼女の中で一瞬の怒りが湧いた。
しかし、それも一瞬の話。
彼女の純粋な反応が、千夏に事実を気づかせた。


そう、もう彼女の中では『あの人』以外、見えていない。
それが今の、五十嵐響子という少女の真実だった。


「ねぇ……千夏さん。殺し合い……するんですよね?」
「それは………私も、あの人に思いを伝える為に、殺し合いはするわ」
「……ですよね。それでこそ、です。
 というより、そうじゃないと駄目です。じゃないと、私は千夏さんを今殺さないといけませんから」

907Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:04:32 ID:mDkJjB1k0
純粋に狂う彼女の言葉には重みがあった。
彼女が殺すと言えば、それは寸分の狂いも無く実行されるだろう。
ただ、千夏は決して自分の命惜しさに殺し合いに乗るわけでは無い。
その決断自体は最初から決めていた事だ。あの人を救う為に、思いを伝える為に。

「二人は死んだし、智絵理ちゃんは……ちょっと心配だけど、やっぱりナターリアが最優先みたいです。
 探して、早く殺さないと私は安心出来ない……ごめんなさい、やっぱり私急ぎますね」

そう言うと、彼女は脇目もふらずに道を進んでいった。
共に歩んだはずの仲間をあっさりと切り捨てて、彼女の道を進んでいった。

響子は、一切振り返る事も無くダウナーの前から去っていった。
千夏は、その姿をただ見ているだけだった。


    *    *    *


『最期まで、生き延びて見せなさい』

二人が再会する少し前、最初の放送が終わった時期。
その内容は、多くのアイドル達にとってはにわかには信じがたい、衝撃的なものであっただろう。
この短時間で15人もの命が失われたのだ。その現実を知らせる、まさに悪魔の放送だった。

「……こんなにも多くの人が死んだんだ」

しかし、彼女――五十嵐響子は違った。
彼女は道を進む途中、その放送を聞いていたが、その感想はとても簡素なものだった。
もはや彼女の中で、他人の死に対してさしたる興味は無かった。

「唯……智香……死んじゃったんだ」

そう、他人の死に興味は無かった。
同じプロデューサーの元、トップを目指した仲間でさえも、今の響子の心を揺さぶらなかった。
というよりかは、今この瞬間に興味が無くなった、といった方が適切だろう。
今の放送で、自分が殺したアイドルの名前が呼ばれた。
つまり、その死は確実な物であると再認識させ、自分がもう戻れないところまできていることも認識させた。

908Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:05:17 ID:mDkJjB1k0
彼女は既に、その中でたがが外れてしまったのだ。
全てを犠牲にしてでも、あの人の元へ辿り着くという覚悟。

彼女の狂気の道は、ここに確実たるものとなった。

そんな彼女が気にすることは、たった一つしかない。

「ナターリアが呼ばれてない……まだ、安心できない………」

愛するあの人が今、命の危機に晒されている。
その一番の原因である少女が、未だ死んでいない。
もはや彼女の中で、ナターリアは友人では無かった。
ただ、愛するあの人の元へ繋がる道に存在する、障害でしか無い。彼女はすでにそこまでに堕ちていた。
そして、その行動に間違いは無いと信じている。
あの時集まった五人全員が、殺し合いに乗るのだろうから。自分も遅れを取るわけにはいかない。
その焦りが、怒りが、悲しみが、苦しみが、………後悔が。
その全てがぐちゃぐちゃに混ぜられた感情が、彼女を蝕んで、突き動かしていた。

「プロデューサーさん、待っててください……
 私の思い、伝えますから……絶対に、助けますからね………」

そこにはアイドルとしての五十嵐響子はもう居ない。
そこには運営が仕掛けたジョーカーとして以上に、狂った姿の少女しか居なかった。


そして、二人は再会する―――


    *    *    *


響子は、一切振り返る事も無くダウナーの前から去っていった。
千夏は、その姿をただ見ているだけだった。

彼女は変わってしまった。輝くアイドルであった頃の面影は微塵も無く、ただ冷徹に人殺しを行う少女となった。

「はぁ………立派ね、あなたは」

だが、今の彼女はその響子の姿を認めていた。
確かに彼女に対する恐怖はあった。しかし、それ以上になにかある種の尊敬のようなものも感じていた。

「私は、まだ情が捨てきれて無いみたい」

909Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:06:15 ID:mDkJjB1k0
私達は恋するジョーカー。
それは傍からみれば狂った殺人者でしかない。
結局の所、千夏と響子はそれを理解しているかの違いくらいしか無かった。
千夏自身だって、愛する人の為に殺し合うのだ。
彼女に響子を咎める権利も、軽蔑する権利も無い。

(そういう意味では、あの子には感謝すべきなのかもね…)

この世界では、むしろあちら側の方が正しいとも言えた。
大切なあの人を助けるためには、残りの59人を切り捨てなければならない。
もちろんその事自体は深く理解していたつもりだったが、今こうして現実として目の前に現れた。
そう、千夏はただあるがままの現実を見せつけられただけだ。
彼女はもう人間では無いかもしれない。そして、本質的にはこちらも同じだ。
それは決して他人事ではない。

千夏は響子とは真逆の方向を向いた。その方向にも、道は続いている。

「……私も、早く行動を開始しないと、ね」

千夏は未だに誰も殺してはいない。
響子の言うようにすぐに殺されてしまう事は無いだろうが、かといって意思をいつまでも示さないわけにもいかない。
彼女もまた、彼女の道を往く。
それは響子と同じ、人ならざる道。けれど、大切なあの人の為ならそれも厭わない。
ただ、彼女はその道を進む一歩手前で、その歩みを少しだけ止めた。

910Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:06:48 ID:mDkJjB1k0


「……さようなら。あなたの事は、忘れないわ」


それは狂った少女を見たからか、それとも自分もこれから手を汚すからか、

それとも、太陽のように笑う彼女に自らの願望を含んでいたからか。

きっと彼女はこの殺し合いに抵抗して死んだのだと、そう思っていた。



そんな彼女の事を思い、ただ一度だけ、声もなく涙を流した。



【B-5/一日目 朝】

【相川千夏】
【装備:ステアーGB(19/19)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:対象の捜索と殺害、殺し合いに乗っていることを示すため、東へ向かう。
2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。

【五十嵐響子】
【装備:ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×9】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:ナターリアを殺すため、とりあえず西へ向かう。
2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。
3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。

911Joker to love/The mad murderer ◆j1Wv59wPk2:2013/01/07(月) 14:08:45 ID:mDkJjB1k0
投下終了です。

912名無しさん:2013/01/07(月) 17:18:39 ID:lWLveuMgO
投下乙です。

そういえば、Pが死んだら放送で名前が出るんですかね?

……心配しなくても、ナターリアは二人も殺してるから……。
「アイドルとして」行動し、結果「人を殺してる」ナターリアは、ちひろの一番望む姿なのだろうか。

913 ◆44Kea75srM:2013/01/08(火) 06:57:52 ID:73ElqAm.0
投下乙です!

>Joker to love/The mad murderer
ちなったんドン引きwww きょ、響子ちゃん……? 響子ちゃんだよね? 千夏からしてみれば、マジでどうしてこうなった……w
方や最初の六時間は様子見に徹したアイドル、方や最初の六時間で二名ほど爆破焼却したヒロイン、覚悟の有無がこうもギャップを生むとは……w
千夏は仲の良かった唯が死んじゃったけど、その反応もクールでいいなあ。最後の1レスに秘められた内なる想いとかすごくいいわ。

そして自分は小関麗奈、古賀小春投下しますー。

914いねむりブランシュネージュ! ◆44Kea75srM:2013/01/08(火) 06:59:13 ID:73ElqAm.0
「寝過ごした」

 下唇をよだれで濡らした小関麗奈は、虚ろ目で絶望的な声を発した。
 宿舎の小窓から覗く陽光は、夜が明け朝が訪れたことをこれでもかというくらい知らしめている。
 時計という文明の利器に尋ねてもみたところ、現在時刻は午前九時過ぎ。
 朝と呼ぶか昼と呼ぶかはその人の生活スタイルによる、そんな時間帯にレイナサマは起床した。

「こ、こんなはずでは……」

 麗奈の華麗なる計画では、きちんと六時前には起きるつもりだった。なぜならその時間に放送があるからだ。
 放送というからにはたぶん島内施設のどこにいても聞こえるような大音量スピーカーを使うのだろうと考えていた。
 だからこそ麗奈は目覚まし時計や携帯のアラーム機能を使うこともなく(そもそもそんなものは持っていない)床についたのだ。
 そしたらぐっすり四時間弱。いやだって寝ついたのはほぼ夜明け前だし。そんなパッと寝てパッと起きるなんて芸当はできない。

「ああ……っていうか、放送聞き逃しちゃったじゃん。どうしよう……」

 寝ている間に事件らしい事件がなかったことは幸いと言える。
 最大の問題は、一度きりの放送を聞き逃してしまったということ。
 千川ちひろによる放送は六時間周期で一回。
 そこでは死亡者の名前と数、そして禁止エリアが告げられる。

「いや、待った。慌てちゃダメよ小関麗奈。レイナサマは慌てない。リカバーする術はちゃんとあるわ……そう、これよ!」

 冷や汗を隠しながらパンパカパーンと取り出したのは、スマートフォン型の情報端末。
 麗奈はちゃんと覚えている。放送で語られた内容は、この端末で後から確認することができるということを。

「ふふん。ネット配信全盛期のこの時代、生放送にこだわるなんてナンセンスよね。さて、と」

 さっそく情報端末を起動し、お目当ての情報を探し当てる。

「禁止エリアは……とりあえず、ここは大丈夫みたいね。わりと近いところが指定されてるのが気になるけど」

 十時から禁止エリア(踏み込めばドッカーン!)となる【C-7】エリアは、灯台から南下したところにある市街地だ。
 聡明なレイナサマは、禁止エリアというシステムの意味を正しく理解している。
 おそらくここに、殺し合いをせず逃げ隠れているアイドルがいるのだろう。
 禁止エリアはそんな彼女たちを燻り出すための処置に違いない。引きこもりがいてはイベントが円滑に進められないだろうから。

「……こっちは見逃されたってことなのかしら? それとも単純に、この二つのエリアのほうが引きこもりが多いってだけの話か……」

 殺し合いをしない引きこもりなら、麗奈自身も該当する。
 一応殺し合いをするというポーズは取ったし、休憩という名目もあるにはあるが……主催者がその程度で見逃してくれるかどうか。

「ま、このへんは考えても仕方がないわね。次……いよいよって感じね」

 端末をさらに繰り、麗奈は朝一情報のメインディッシュ――死亡者の確認に入る。

915いねむりブランシュネージュ! ◆44Kea75srM:2013/01/08(火) 06:59:49 ID:73ElqAm.0
「じゅ、十五人て!? ウソでしょ。ちょっとハイペースすぎない……?」

 そのズラーッと並んだアイドルの名前を見て驚愕する。
 十五人。いまをときめくフレッシュなアイドルたちが、六時間で十五人も死んだというのだ。
 幸いにも、麗奈のよく知る人物の名前は見当たらなかった。
 拳銃を奪って草むらにぽーいしたあのデカ女(諸星きらり)も無事なようだし、いい子ちゃんの南条光も健在。
 その他、名簿にはちらりと名前を聞いたり、仕事や事務所で一度か二度顔を合わせたことがあるアイドルもいないわけではなかったが――

「あっ」

 死亡者の確認二週目に入ったところで、麗奈はふと気づいた。

「安部、菜々……」

 知っている名前はあった。
 安部菜々。それは南条光とプロデューサーを同じくするアイドルだった。
 ウサミン星などという媚びた設定とキャラで売っているぶりっ子アイドルだが、その徹底ぶりにはプロとしての誇りを感じるところもあった。
 見た目の幼さに反して実年齢がけっこういっているらしく(南条情報。真偽の程は定かではない)、
 麗奈が光と言い争ったり喧嘩したりしていると、お姉さんらしく仲裁役を買って出てくることが多々あった。

「なーんか、実感わかないわね」

 たとえばこの情報端末が新聞かなにかで、トップの記事に知人が事故で死亡したと書かれていたらどうだろう。
 ……どうだろう、と仮定しても、よくわからない。だって、目に映るのはただの名前なのだ。
 実際に死体を確認したわけでもない。末期の言葉を聞いたわけでもない。なにかの間違いとしか思えない。

「人の死なんて、案外こんなものなのかな……なんて、らしくないらしくない」

 情報端末の電源を落とし、床に放り投げる。はあ〜と息をついて、それからベッドの上に大の字になった。

「緊張感が足りないのよねえ……ま、こんな島の隅っこのほうで寝てたんだからあたりまえなんだけど」

 わずかに身を捩り、隣人のほうに顔を向けた。
 隣人。つまりは同じベッドで一緒に眠っていた少女に。

「レイナサマが日和ったわけじゃないわ。元凶はコイツよ」

 隣人の名前は、古賀小春。
 彼女はペットのヒョウくん(イグアナ!)を抱いたまま、依然として眠りの中にある。

「朝になったらどうするか考えましょ〜……とか言って。自分もしっかり寝坊してるじゃないの」

 小春は殺し合いを強要されている身分とは思えないほど健やかな寝顔を浮かべていた。
 桜色の小さな唇からはすぅすぅという吐息が漏れ、控えめな胸は鼓動に合わせてゆっくりと上下している。
 むき出しのほっぺを指でつんつんしてみると、ぷにぷにとした弾力が返ってきた。

916いねむりブランシュネージュ! ◆44Kea75srM:2013/01/08(火) 07:00:21 ID:73ElqAm.0
「まったく……甘いものばっか食べてるからこんなに柔らかくなるのよ。おもちかっての。このっ、このっ」

 小春のあまりにも幸せそうな顔が急に憎たらしくなって、頬をぐにぐにと引っ張ってみたりした。
 小春は少しだけ困ったような表情を浮かべたが、眠りが覚めることはない。
 手を離すとまたすやすやとした寝息が聞こえてくる。

「…………むー」

 麗奈はなんだかおもしろくなかった。おもしろくないから、どうにかしておもしろくしてやろうと考えた。
 ピコーン! そのとき、レイナサマの脳裏に天啓が下りてくる。
 思い立ったが吉日。麗奈はベッドから起き上がり、脇に置かれた机を漁り始めた。引き出しの中をがさごそ。

「お、あった。ふふふ……お花畑な夢を見ていられるのもいまのうちよ」

 ニヤァ……と悪い笑みを浮かべる麗奈。
 その手には、机の引き出しから取り出したサインペン(!)が握られていた。

 アイドル小関麗奈。プロフィールの趣味の項目に書かれた四文字は――いたずら。

 きゅぽん、とサインペンのカバーを取り外し、未だ夢世界から抜け出せていない小春へとにじり寄る。
 聡明なレイナサマの下僕諸君ならもうお気づきであろう。
 これからなにが起こるのか、それを当てるのは今日の夕飯がハンバーグかカレーライスかを言い当てることより容易い。

「レイナサマに逆らったらどうなるか……その身でとくと味わうことね――っ!」

 キュッ。キュキュキュ。キュキューキュッ…………キュッ。
 かくして、お姫様の美しい顔は悪い女王の手によって見るも無残な姿に変えられてしまいましたとさ!

「あーはっはっはっは! なにその顔! フリルド☆プリンセスの肩書きが台なしね! アーッハッハッハガッ……ゲホゲホ……ッ!」

 自身のいたずらの出来にたいそう満足したレイナサマは、声高らかに笑いそしてむせた。
 小春の可愛らしい寝顔はいまやサインペンの軌跡だらけ。白雪姫のような肌は真っ黒で、もはやゴブリン状態だ。
 …………さすがに少しやりすぎたかな。いや普段ならぜんぜんだけど。ほらこんな状況だし、ね?

「ううう……不覚っ。まさかこのレイナサマが反省してしまうだなんて……っ」

 顔に落書きされてもまるで動じない(というか未だ熟睡している)小春に、麗奈はどうしようもない敗北感を覚えた。
 自前のハンカチに水を湿らせ、小春の顔をゴシゴシとこする。サインペンは水性だった。ちゃんと書く前に確認した。
 落書きを綺麗に消し終わった頃、小春がようやくを目を覚ました。ヒョウくんを抱えたまま、ふぁ〜っとあくびをする。

「あ、れいなちゃんだ〜。おはようですー」
「おはよう――じゃないわよ! アンタ、いま何時だと思ってるの?」
「えっとぉ〜……あ、もう九時だ。でも今日は学校がないので安心ですー」
「うん。ばっちり寝ぼけてるわね。いいからさっさと起きるわよ」
「学校がないのでまだ寝てましょ〜」
「ハァ!?」

917いねむりブランシュネージュ! ◆44Kea75srM:2013/01/08(火) 07:00:46 ID:73ElqAm.0
 麗奈は我が耳を疑ったが、小春は寝た。
 身体を毛布で包み、瞼を閉じて、漫画だったらぐーすかぴーなんて擬音が出てそうなくらい鮮やかに寝た。
 そのあまりにもお気楽なプリンセスを前に、レイナサマは――

「…………まあ、いっか♪」

 怒るでも呆れるでもなく、しょうがないなあと言わんばかりの微笑を浮かべ、小春の頭を優しく頭を撫でた。
 なでなで、なで、なで…………ガッ!
 突如、レイナサマのアイアンクローが小春の小さな頭を鷲掴みにする!

「なーんて言うとでも思ったかぁ――――ッ! 起きなさいよこのねぼすけぇ――――ッ!」
「ああううああううああ〜」

 そのままぐわんぐわんと小春の頭を揺らす麗奈。
 脳がシェイクされ、哀れ小春はばたんきゅー。
 さっきとはまた別の意味で、再び深い眠りの世界へ――

「行かせるわけないでしょうがぁ――ッ!」

 レイナサマのおうふくビンタ!(気持ちやさしめ)
 小春のふっくらほっぺは真っ赤になり、眠気は忘却の彼方に消え去った!

 ……そんな二人のやり取りを、イグアナのヒョウくんは『朝から騒がしいなあ』とでも言いたげな瞳で見つめるのだった。



【A-8・灯台/一日目 午前】

【小関麗奈】
【装備:コルトパイソン(6/6)、コルトパイソン(6/6)、ガンベルト】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残る。プロデューサーにも死んでほしくない。
1:小春を叩き起こす。その後、今後のことを検討。
2:小春にも自分を認めさせる。

【古賀小春】
【装備:ヒョウくん、ヘッドライト付き作業用ヘルメット】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康、寝ぼけてる】
【思考・行動】
基本方針:れいなちゃんと一緒にいく。
0:うう、痛いですー。
1:まだ寝てたいですー。
2:れいなちゃんを一人にしない 。

918 ◆44Kea75srM:2013/01/08(火) 07:04:30 ID:73ElqAm.0
投下終了しましたー。
続けて城ヶ崎美嘉、三船美優、三村かな子で予約しますー。

919 ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 01:56:55 ID:UY45BA3Y0
城ヶ崎美嘉、三船美優、三村かな子投下します。

920だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 01:58:22 ID:UY45BA3Y0
 長めのネイルが掌の皮膚を突き破るほど強く、アタシは拳を握り込んだ。左右の手でグッと。痛みを堪えるように。
 違う。堪えていたのは痛みは痛みでも心の痛み。身体はそりゃ、多少の傷や疲れはあるけれども、健康そのものだ。
 だけど心は摩耗して、疲弊して、嗚咽を漏らしたいほどに苦しんでいた。アタシはただ、その痛みに耐えた。
 限界はすぐに訪れた。心が悲鳴をあげる。我慢は辛い。吐き出したい。吐き出したいよ。耐えてもいいことなんてない。
 それでもアタシは必死に耐えようと、拳を地面に打ちつけた。ガッ、ガッ、ガッと。何度も何度も打ちつけた。
 皮が剥け、傷が走り、血が滲む。すぐに両手がボロボロになった。日頃の手入れが馬鹿らしくなるくらいの有様だった。
 たぶん、美優さんが止めてくれなかったら、アタシはもっと続けていたと思う。それこそ、両手が粉々になるまで。


「そんな……嘘だよ。いつもの冗談でしょ? お姉ちゃんをからかおうって……そういうのじゃ、ないの?」


 美優さんに後ろから羽交い絞めにされながら、じたばたと暴れる。周囲は住宅地、住人がいたら奇異の眼差しを向けられただろう。
 よかった。ここがアタシの知ってる街じゃなくて。ううん。別にいいよ。誰が見てたって構わない。
 アタシはただ叫びたかった。悔しさと悲しさをなにかにぶつけたくて、暴力の権化になろうとしていた。


「どうして……どうして莉嘉が死ななきゃならないのっ!?」


 アタシはちひろさんの放送を聞いた。殺し合いが始まってから六時間、その間に死んだアイドルの名前を読み上げる放送を。
 その中にアタシ、城ヶ崎美嘉の妹である城ヶ崎莉嘉の名前があったのだ。ちひろさんはいつもの調子で、莉嘉の名を呼んだ。
 なにそれ。なんでそこで『城ヶ崎莉嘉』って言うの? だって、それじゃまるで、城ヶ崎莉嘉って名前の子が死んだみたいじゃん。
 違う。『みたい』じゃなくて、本当に死んだんだ。城ヶ崎莉嘉って名前のアイドルは死んだ。アタシの妹は、死んじゃった……。


「うぅ……ぁあああああああああああああああああああああああああ…………」


 放送が終わって数分、アタシと美優さんは放心状態に陥り――そしてまた数分、アタシはその場に崩れ落ちた。
 ピンキーハート全開のカリスマギャルで通しているアタシが、往来の真ん中で外聞もなくわんわん泣き喚いた。
 美優さんはそんなアタシを見てどうしていいかわからないようだった。泣き崩れるアタシから距離を取り、おろおろする。


「美嘉ちゃん…………」


 わかるよ美優さん。アタシが美優さんの立場だったら、同じようにおろおろしてたと思う。でもごめん。止められないんだ。
 叫び声が止められない。悲しみの涙が止められない。失意が止められない。どこまでもどこまでも、どん底まで落ちていく。
 いまのアタシはアイドルじゃない。おもちゃを買ってもらえなくておもちゃ屋さんで駄々をこねる子供だ。
 泣いたり、床を転げまわったりしても、なにも変わらないってわかってるのに……っ! どうしよう、アタシ、子供だ!


「嘘だって、嘘だって言ってよぉ…………莉嘉ぁ――――っ!」


 近くに誰か、凶暴な人がいるかもしれない。ただでさえ、数時間前には愛梨ちゃんに襲われたばかりだっていうのに。
 でも、いいよ。いまなら誰に襲われたっていい。そんなことより、いまは泣きたいんだ。泣けるなら、襲われるくらいっ。

921だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 01:59:01 ID:UY45BA3Y0
「えぁぁああうああああああああああ……っぐぁああっ……ぅああわあああああああああっ、ああ〜……」


 アタシは……アタシは! この六時間、いままでなにをやってたの!? なんでもっと必死にならなかったんだ、城ヶ崎美嘉!
 殺し合いが始まってすぐに、もっと積極的に走り回って妹を捜せば……っ、そうすれば、莉嘉は死ななくて済んだかもしれないのに!
 誰なの。いったい誰が莉嘉を殺したの!? 今度はアタシが殺してやるから、いますぐ出てきなさいよ! 許さない。絶対に許さない!
 違うよぉ……それ以上に許せないのは、アタシだ。アタシ、お姉ちゃんなのに。妹は、お姉ちゃんのアタシが守らなきゃいけないのに。
 それなのに、アタシは莉嘉を亡くして……それなのに、お姉ちゃんのアタシはのうのうと生きて! なんでよっ!


「アタシなんて……アタシなんてっ! 莉嘉じゃなくて、アタシが死ねばよかったんだッ!」


 また拳を握りこんで、地面に叩きつけた。皮が破けて、赤黒い肉が露出する。骨が見えるまで殴ってやろうと思った。
 痛い。痛いよ。だけどこんな痛みっ。妹は、莉嘉は文字通り死ぬほど痛い思いをしたんだ。これくらいっ、莉嘉に比べればっ!


「――美嘉ちゃん!」


 振り上げた拳が、不意に動かなくなった。
 後ろを見ると、美優さんがアタシを羽交い絞めにしていた。
 背後から抱きつくような姿勢で、アタシの凶行を止めようとしている。


「大丈夫、大丈夫だから……!」


 美優さんは耳元でそんなことを言ってきた。大丈夫? 大丈夫って? なにが大丈夫なのかわからないよ、美優さん。
 少なくとも、莉嘉のことじゃないでしょ? だって莉嘉は死んじゃったんだから。死んじゃったのに、大丈夫なわけないじゃん。
 じゃあなにが大丈夫なのよ。この人はどんな根拠があって『大丈夫』なんて言葉を口にしているの? 莉嘉が死んだのに!


「お願いだから、自棄にならないで。美嘉ちゃんが傷ついたら、きっと莉嘉ちゃんも悲しむから……っ」


 どこかの人が死ぬ小説から引用したような、綺麗な言葉――だけど、その一言で、アタシの頭は爆発しそうになった。
 羽交い絞めにされながらなおも暴れ、結果として美優さんの顔面に裏拳が当たった。そしてそのまま払いのける。


「大丈夫……? 大丈夫なわけないでしょ。そんな綺麗事、軽々しく口にしないでよっ!」


 アタシの怒声に、美優さんは怯えたような表情を見せた。鏡はないけど、たぶんそれくらい、アタシは怖い顔をしていたんだと思う。
 違うの。美優さんを怖がらせるつもりなんてないの。美優さんに怒ってるわけじゃない。怒ってる場合じゃないのもわかる。
 だけどね。やっぱり止められないんだ。自分の感情が抑えられない。暴走っていうのかな。どうにもならないの。

922だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 01:59:35 ID:UY45BA3Y0
「慰めたりなんてしないで! アタシが泣きやめば、莉嘉は戻ってくるの!? そんなわけ……そんなわけぇ……」


 ああもう、駄目だ。声にまで涙が滲んできた。くそっ、くそっ、格好悪いなぁ……こんなんじゃ莉嘉に笑われちゃう。
 むしろ笑ってほしいよ。お姉ちゃんカッコワルーって、いっそ懲らしめたいほどバカにされたい。
 わかってる。死んじゃったら、もう笑うこともできないんだよね。もう、莉嘉の笑った顔を見ることも、笑い声を聞くことも、できないんだ。


「なんでっ! なんで莉嘉がっ! あの子はこんなところで死んでいい子じゃない。だって、あの子はあんなにいい子で……っ!」


 髪を止めていたリボンをほどき、乱暴に頭を掻き毟った。愛梨ちゃんとの銃撃戦で乱れていた髪はさらにぐしゃぐしゃ。みっともないよね。
 物に当たるってこういうことを言うのだろう。アタシは肩に下げていたデイパックを掴み、ガンガンと地面に叩きつけた。
 中に拳銃とか銃弾入りのケースとか入ってるからそんな音がするのかな。危ないかも。いいよもう。どうなったっていい。
 でも美優さんは心配なんだろうね。懲りずにまたアタシを止めようとした。アタシはそんな美優さんに酷いことをした。
 デイパックを投げつけたのだ。それも顔面に向かって。美優さんはそれをまともに食らった。顔は赤くなり、鼻から血が垂れる。


「あっ……」


 それを見て、アタシはようやく落ち着きを取り戻した。熱く滾っていた感情が、さーっと冷めていく。美優さんの痛そうな姿を見たからだ。
 ……なにやってんのよ、アタシ。もう、泣きたいよ。とっくに泣いてるけどさ。そういう意味じゃなくて、とにかく泣きたい。
 頭の中こんがらがっちゃって、ぐちゃぐちゃで、上手く言葉にできない。どうすればいいの。どうすればいいのか、誰か教えてよ……っ!


「美嘉ちゃん」


 美優さんは。
 美優さんは、優しくアタシを抱きしめてくれた。


「ごめん。ごめんなさい。私、年上なのに。私、美嘉ちゃんよりもお姉ちゃんなのに。それなのに、なにもできなくて……」


 羽交い絞めじゃない。抱擁、という言葉がぴったりな優しい抱き方。美優さん、母性強いな。こんなの、余計に子供みたいじゃん。
 みたいじゃなくて、子供か。アタシ。お姉ちゃんなんて粋がったって、アタシはまだ17歳。どうしようもなく、子供なんだ。


「私、本当に……っ。ひぐっ……」


 それに、さ。
 なんで美優さんまで泣いてるのよ。


「うぇぐ、えぐっ、りが、莉嘉ちゃん……っ。莉嘉ぢゃん…………っ」


 美優さん関係ないじゃん。莉嘉はアタシの妹で、アタシは莉嘉のお姉ちゃんで、莉嘉はそりゃ、美優さんに懐いてたかもしれないけど。
 そんなの全部、関係ないよ。人間関係とかそういうのじゃない。もっと根本的に大切なこと。決して無視できない、嬉しいこと。
 美優さんはいま、莉嘉のために泣いてくれてるんだ。アタシの妹が死んじゃったことに悲しんでくれてるんだ。
 アタシと一緒だ。美優さん、アタシと一緒なんだよ。わかりなよ美嘉。アンタがわからなくてどうすんのよ。
 アンタ、莉嘉のお姉ちゃんなんでしょ。だったら……だったらさ。子供みたいな泣きわめくより先に、やることがあるでしょ。

923だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 02:00:11 ID:UY45BA3Y0
「美優さん……アタシ、アタシは――――あっ、うあっ、ああ…………あぁ〜…………」


 でもやっぱり、駄目だった。物に当たりたい衝動は収まったけど、泣きたい衝動はまだまだ元気で、アタシは抗うことができなかった。
 そのまま、アタシと美優さんは泣いた。道の真ん中でわんわん泣いた。どっちの声が大きいか、張り合うくらいお互い自重しなかった。
 映画なんかだと、家族が死んで悲しんでるシーンってさらりと飛ばされたりするけどさ。アタシ当事者だし、現実はそうもいかないよね。


 ごめん。
 ごめんね、莉嘉。
 守ってあげられなくてごめん。
 だめなお姉ちゃんでごめん。
 もう、なにもしてあげられないけど。
 許してなんて言うつもりもないけど。
 聞いてくれなくてもいいけど。
 だけど言わせて。
 ごめんね。
 本当に、ごめんなさい――



 ◇ ◇ ◇



 悲しさは癒えないけれど、このまま外で泣いているのは危ないから。近くの家を拝借して、私と美嘉ちゃんはそこで休むことにした。
 美嘉ちゃんは誰もいないリビングのソファに寝転がり、しばらくしてから眠りについた。その目元は涙でぐしょぐしょだった。
 私も泣き疲れちゃったけど、いまは眠ることはできない。だって、私はお姉ちゃんだから。美嘉ちゃんよりも、年上だから。


「美嘉ちゃん……ありがとう」


 感謝の気持ちは、愛梨ちゃんに襲われたとき、自棄になっていた私を立たせてくれた美嘉ちゃんに向けて。
 美嘉ちゃんがいてくれなかったら、いまの私はない。だからせめて、美嘉ちゃんに恩返しがしたいと思った。
 彼女の妹の莉嘉ちゃんは死んでしまった。それは私にはどうにもできない。でも、悲しんでばかりはいられないもの。


「莉嘉ちゃん……雪美ちゃん……」


 放送で呼ばれた十五人の死亡者。その中で私が交友を持っていたのは、城ヶ崎莉嘉ちゃんと佐城雪美ちゃんの二人だった。
 雪美ちゃんは小さな女の子だ。年長者の私は若い彼女と事務所で一緒に留守番を任されることもあって、そこから仲良くなった。
 あとから、同じプロデューサーさんが私たちのプロデュースを担当することが決まって。そしたらさらに仲良くなった。
 仕事やレッスンがない日は、莉嘉ちゃんも交えて一緒に遊んだりしてたのに……それなのに、幼い二人が死んでしまうだなんて。
 思い出を噛み締めると、また涙が零れ落ちそうになる。駄目。駄目よ私。私はお姉ちゃんなんだから。泣いてちゃ駄目。
 そう、お姉ちゃん。年上の私は、美嘉ちゃんのお姉ちゃんになろうと思う。それがここでの私の役目だと、私がいま、そう決めた。

924だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 02:00:54 ID:UY45BA3Y0
「『生きて』――生きるわ。絶対に生き抜いてみせる。だから美嘉ちゃんも一緒に生きましょう」


 眠りにつく美嘉ちゃんの頭を、優しく撫でる。髪を下ろしメイクの剥がれた彼女は、カリスマギャルなんかじゃない。
 ただの女の子。私よりも歳の低い、私が守らなくちゃいけない――本当に、ただの女の子なんだ。
 私は、美嘉ちゃんに『生きて』って言われてすごく嬉しかったから。もう死のうだなんて思わない。
 生きるなら、美嘉ちゃんの隣で。美嘉ちゃんが私と同じ道を歩みそうになったら、今度は私が『生きて』って。


「プロデューサーさん。私、この子と一緒に生きたいです。あなたにはご迷惑をかけてしまうかもしれません。でも……どうか、許してください」


 囚われ、命の危機に貧しているプロデューサーさん。私に彼を救い出す力はない。
 運営に逆らい、殺し合いを拒む私への制裁として、それでプロデューサーさんが殺されてしまうかもしれない。
 けれどやっぱり、私にはできない。私には愛梨ちゃんのような道を選択することはできない。でも。
 身勝手な女の身勝手な妄想かもしれないけれど、プロデューサーさんなら『それでいいんだよ』と言ってくれるだろうから。


「私たちは、少し疲れすぎたのよ。いまはせめて、ゆっくり休もう……美嘉ちゃん」


 奥の寝室へ行き、押入れから毛布を持ってきて、美嘉ちゃんの身体にかけてあげる。
 私は、まだ眠ることはできない。彼女のためにも、やらなきゃいけないことがあるから。
 リビングの窓に鍵がかかっていること、閉め切ったカーテンに外から見えるような隙間がないことを、よく確認する。
 音を立てないようゆっくりと玄関のドアを開き、私は身一つで外に出た。
 朝の陽光が涙で腫れた目に突き刺さる。眩しい。朝が来たんだ。アイドルとしてのお仕事が始まる朝じゃない。殺し合いの朝が。


「……よしっ。今日もがんばろう」


 私は、生きると決めた。美嘉ちゃんのために……なんて言ったら叱られちゃうから、誰よりもまずは、自分のために。
 生きると決めたからには、しっかりしなくちゃいけない。なにをしっかりするのかといえば、ライフラインとなる荷物の管理だ。
 さっき、美嘉ちゃんが泣き崩れたとき彼女が投げつけてきた荷物。実はあれを道端に放置したままだったのだ。
 あのときはとりあえず落ち着ける場所に行こうと必死だったから、荷物を拾っている余裕なんてなかった。
 美嘉ちゃんのバッグには銃と発煙手榴弾が入っている。あれはこれからを生き抜くためには絶対に必要なものだ。
 それに……美嘉ちゃんのつけていたリボンも。アイドルがトレードマークを失ってしまうのはNGよね。


「うふふっ」


 自然と笑みが零れてしまう。だって莉嘉ちゃんにいつも自慢されていたもの。お姉ちゃんがどれだけ可愛いかってこと。
 実際に話してみた美嘉ちゃんは可愛いだけじゃなくて、格好良くて……本当に、アイドルとして劣等感を覚えてしまうくらい輝いていた。
 そんな美嘉ちゃんが手を差し伸べてくれたからこそ、私は立ち上がることができたのよね。うん。
 さあ。見慣れない街で物を探すのは大変だけれど、移動はそんなにしていないし、バッグが落ちている場所も近くだったと思う。
 風に飛ばされたりしてなければいいけれど。それにしても気持ちのいい朝だ。状況が状況じゃなければ、まったりお散歩したいな。

925だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 02:01:29 ID:UY45BA3Y0
 ぬっ。


 私は、ビクッとした。ぽかぽかした気分で道を歩いていたら、道の曲がり角から急に人が飛び出してきたのだ。
 ちらりと目に映ったその顔には、見覚えがある。三村かな子ちゃんだ。莉嘉ちゃんや雪美ちゃんと一緒に、スイーツの話で盛り上がったことがある。
 でもなんだろう。目の前のかな子ちゃんは、私の知っているかな子ちゃんとは違う気がした。
 普段は可愛いのに、いまは顔が怖い。それに、その手には海賊の持つ刀のようなものが握られていて、刀身には染みのようなものが――


 えっ。


 ずぶりという音が聞こえた。曲がり角から飛び出してきたかな子ちゃんはそのまま私に肉薄して、私を刺してきた。
 ナイフなんてちっぽけなものじゃない。大きく無骨な、本物の刀で。お腹の少し上、胸の、心臓のあたりを、ずぶりと。
 あっ……喉の奥から血が昇ってくる。じんわりとした暖かさがおなかを、そして脳の中を駆け巡っていく。

 そっかぁ。
 私……死んじゃうんだ。
 悟った次の瞬間、身体はばたりと倒れた。
 本当の即死っていうものは、走馬灯を見る暇もないのね。


「ごめんなさい。あなたのアイドル、いただきます」


 死に逝く私には、かな子ちゃんの言葉の意味はわからなかった。



 ◇ ◇ ◇



「ごめんなさい。あなたのアイドル、いただきました」


 三船さん――三船美優さんから奪った“アイドル”は、どこか安らかな表情をしているように思えました。
 おかしいです。私が目の前に現れたときは、驚いた顔を浮かべたのに。それに、刺したときは痛そうな顔も。
 なんで、どこで表情が変わったんだろう……ひょっとして、死にたかったの? 死ねたから、最期にこんな表情をしたの?
 私は少し不気味に思い、三船さんから奪った“アイドル”をくちゃくちゃに丸めて排水口の溝に捨てました。


「これで二人……ううん。十六人」


 六時の放送を思い出します。夜の間に私が殺せたアイドルは一人。それでも、全体では十五人ものアイドルが死んでいました。
 私の他にも意欲的に殺して回っている人がいる。それはひょっとしたら、私や大槻さんみたいに目をかけられた人かもしれない。
 案外、その人数は多いのかもしれません。でもだからって、私がアイドルを殺さない理由にはならない。
 三船さんを見つけたのは偶然でした。本当に偶然、街を散策していたら暢気に歩いている三船をさんを発見したんです。
 第一印象で、この人は殺し合いをしていないアイドルだって直感しました。そしてそれは正解だったようです。
 だって三船さんはなにも武器を持っていません。殺し合いをする意思を持っている人が武器も持たずに街を徘徊するだなんて幻想です。
 たぶん……三船さんは気が狂っていたんだと思います。気が狂っていたからこそ、怯えもせずにあんな顔で最期を迎えたんです。
 こんな状況下ですから、一人くらいそういう人がいたっておかしくありません。いえ、きっともう何人かいるはずです。
 私だって、トレーニングを受けていなかったらどうなっていたことか……仮定の話をするのはやめよう。現実を生きなきゃ。

926だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 02:01:59 ID:UY45BA3Y0
「あれ。でも三船さん……武器どころか、なにも持っていない……?」


 三船さんは手ぶらでした。本来なら肩に下げているべきデイパックも見当たりません。紛失したのでしょうか?
 もしくは……この近くに拠点としている場所があり、荷物は一旦そこに置いてあるのかもしれません。
 住宅地ですし、さっきまで夜でしたから。この島に放り込まれてからの六時間、ずっとそうして隠れていたのかもしれません。
 そして夜が明けて、朝の日差しがあまりにも気持ちよかったから、状況を忘れたお散歩……ありえなくはないです。
 だとしたら、彼女の支給品も手付かずかも。おそらくはあたりの民家に――時間を割く価値は、あるかもしれません。


「探してみよう」


 放送前に病院で医療品を調達することはできましたが、武器は大いに越したことはありません。
 手持ちの銃器には弾薬という制限がありますし、ストロベリー・ボムも使いづらいところがあります。
 三船さんみたいに、無抵抗な人の隙をつけるのであれば、カットラスの一本でも充分なのですが。
 背中のデイパックから感じるずしりとした重み。三船さんじゃありませんが、私もそろそろ拠点を用意したいです。
 訓練を積んだとはいえ、荷物が重たいと動きが鈍くなりますから。あとで、どこか倉庫代わりになりそうな場所を探さないと。
 できればふかふかのベッドがあるといいな……なんて。ううん。休むのはもっと先。体力が尽きてから。


「おなかも空いたなあ……」


 ぽつりと、本音が零れてしまいました。
 あと一人くらい殺したら、朝ごはんにしましょう。
 できればおいしいお菓子がいいなっ、なんて。





【G-3 住宅地/一日目 朝】

【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り)、医療品セット
     M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、カットラス、ストロベリー・ボムx11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。
1:三船美優が拠点にしていた可能性があるため、周辺の民家を漁り彼女の荷物と支給品を探し出す。
2:後々のため、武器などを保管でき自身も身を休めることのできる拠点を用意したい。

【医療品セット@現地調達】
三村かな子が病院内で調達した医療用品のセット。詳細は不明。

927だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 02:02:27 ID:UY45BA3Y0
【G-3 民家/一日目 朝】

【城ヶ崎美嘉】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:肩と両手に軽傷】
【思考・行動】
基本方針:殺されたくはないが、殺したくない。
1:莉嘉……。
※リボンがなく髪を下ろしている状態です。

※三船美優の所持品(基本支給品一式、不明支給品(0〜1)は城ヶ崎美嘉がいる民家のリビングに放置されています。
※城ヶ崎美嘉の所持品(基本支給品一式、コルトSAA"ピースメーカー"(0/6)、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1)、.45LC弾×30)と
 彼女のリボンはG-3住宅地の往来に放置されています。


【三船美優 死亡】

928 ◆44Kea75srM:2013/01/10(木) 02:02:56 ID:UY45BA3Y0
投下終了しました。

929名無しさん:2013/01/10(木) 13:15:34 ID:F0SEBxcM0
投票終わってからもうこんなに投下が……j1氏、44e氏乙です!
そして、投票集計も乙でした!うーん納得の上位。
そしてどの話も面白いことが分かる票のまんべんない入り方がすごい…
以下投下への感想です

>それなんてエロゲ?
ストロベリーPは罪な男やでぇ……このエピソードだけ見ればいい話なんだけど、
たぶんこれ無自覚で他の娘ともフラグたててるからな。まるで歩く修羅場だ。
そしてPのために、「がんばれ」「ふぁいと」で自分を鼓舞してく智絵里が怖い。
自分がそれを出来るかどうかでは迷ってるけど、殺人行為自体にはノー抵抗なんだよなこの子

>Joker to love/The mad murderer
響子ちゃん!人間じゃないとまで思われちゃってるぞ!
しかし実際、瞳を覗きこんでもPの字しか見えなさそうな響子ちゃんは魔女のよう。
大人として考えた末に乗ってる千夏さんと違って、想いに囚われてる感がむしろ物悲しくもあり……。
ナターリアと出会うのも遠くないだろうしいろいろ心配だー。

>いねむりブランシュネージュ!
自分でいたずらして反省して後始末までするレイナサマかわいい!
いろいろされても動じずにマイペース貫く小春ちゃんもかわいい!
そして、わちゃわちゃする二人を渋く見守るヒョウくんの存在感よ。
この組は本当いいほのぼの感よなあ……さて寝過ごし展開がどう響くか

>だって、私はお姉ちゃんだから
放送への反応が各自描かれる中、妹を失ったお姉ちゃんはやはり辛い……。
文字通りの痛ましい描写に胸がちくちく刺される。ここまでで助けた三船さんに助けられたけど、
今後どうなるか……と思ったら。み、三船さんが餌食にぃ……!
この躊躇いのなさ。SJかな子の恐ろしさを改めて痛感させられる。

930 ◆ltfNIi9/wg:2013/01/10(木) 23:51:25 ID:.O3TH5iY0
失礼します
多忙と急務につき予約を破棄させて頂きます
見通しが甘く、キャラ拘束をしてしまい、申し訳ありません

931 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/10(木) 23:55:27 ID:BR.3nTMM0
取り急ぎ、延長宣言をします

932 ◆n7eWlyBA4w:2013/01/11(金) 00:05:33 ID:psSr4TgU0
お二人とも投下乙です!
なんか投下速度的な意味で大変なことになってますね(白目)

>それなんてエロゲ?
かまわんころせ(Pを)
冗談はさて置き、これはド修羅場待ったなしだなぁストロベリー組……w
智絵里のメンタルが凄いギリギリの位置にあるのもあって色々不安。

>Joker to love/The mad murderer
ちなったんドン引き……w いやぁ、恋は盲目とはよく言ったものですね。
響子はもう自分とPのことしか見えてないし、ほんと苺の良心はちなったんだけだなぁ。
そのちなったんも、クールさに潜む情が見えてグッド。

>いねむりブランシュネージュ!
モバマスロワ随一の癒しパートですね分かります。
加速度的にサツバツ感を増していくこのロワだけど、
この二人だけは当分は清涼剤でいてほしいなぁなんて。

>だって、私はお姉ちゃんだから
放送後最大懸念だったお姉ちゃん、やっぱり追い詰められてしまったか。
そして生きる意味を見出しかけた途端に三船さん脱落。ああ無情……
そしてスーパージョーカーかな子の淀みなさが怖すぎる……


自分の分は予約延長させていただきますねー

933 ◆John.ZZqWo:2013/01/11(金) 00:55:46 ID:W0qwsBWw0
お二人とも投下乙です。もう4作も……って、あれー!?

>それなんてエロゲ?
いや、それなんてエロゲ? 智恵里っていうか、いや智恵里ちゃんもあれですけど、苺P(仮)さんってば、あんた……!
でもってこれで他の子らからも殺しあいにのっていいってほど想われてるわけで……ぐごごご、楽に死ねると思うなよ!

>Joker to love/The mad murderer
そしてその苺組がばったり出会う話だけど、ちなったんドン引きーw
こうなんか冷静に勝ちを狙ってる私がバカなのかしらと考えてしまいそうなくらいの他の苺のあれっぷりにしかし逆に知将枠としての期待が募ります。

>いねむりブランシュネージュ!
ああ、ここはほんといいところなんだよなぁ。(書いたからわかるし!)
位置的にも当面危機はないっぽいし、まだこのふたりのやりとりを楽しめるかなぁ。
でも、ちょっと寝すぎですねw 街方面行くとすると、禁止エリアを迂回して山越えになっちゃったよ?w 大丈夫?w

>だって、私はお姉ちゃんだから
お姉ちゃんのリアクションは予想外でした。そうだよね、妹だもね、かっこつけてられなんかいないよね。
そして三船さんは……あぁ、順当なれどすごい惜しい人を亡くしてしまった。落ち着けば全ての人を癒してあげられる人だっただけに。
彼女の死はまた次の放送で子供たちに影響がありそうですね。


遅れましたが、私も予約延長します。

934 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/11(金) 23:21:42 ID:BPR3MCQQ0
投下乙でーす、一気に二作も……!?
44eP……恐ろしい子!

>いねむりブランシュネージュ!
いやぁ、やっぱり小春ちゃんは天使だった。間違い無い
レイナちゃんも知らず知らずのうちに毒されてきてるよねこれ!
いやぁ2828する。ロワだって事を忘れてしまいそうに……は、ならないなぁ

>だって、私はお姉ちゃんだから
放送直後のお姉ちゃんとか難易度高そうだし期待……って思ってたら、なるほどそうきましたか
なんというか…悔しさとか悲しさとかにじみ出てて、ロワの黒井部分がよく出てる良作
そして三船さん……あっけねぇ、あっけなさすぎる。これもロワの醍醐味ですなぁ
よく難しそうな部分を書ききったもんですよ……とても前の作品と同じ人とは思えない(白目)

で、私は北条加蓮、神谷奈緒、小日向美穂、塩見周子を予約します。
……二回目のキャラをまた予約するのはあれかもしれませんが、よろしくお願いします

935 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 04:56:28 ID:Hb6KygNU0
皆さん投下乙です!

>それなんてエロゲ?
苺Pは一度死んだ方がいいんじゃないかな? かな?
揺れる智恵里。それがとても良く書かれていました。
でも、また本当揺れそうだなぁw
そして、苺Pは一度死んだ方がいいんじゃないかな? かな?


>Joker to love/The mad murderer
響子ちゃんがぶっちぎってる……やっべえw
千夏さんドン引きやないか……w
二人も殺した狂気は凄まじいな……もうもどれないのかなぁ、哀しい

>いねむりブランシュネージュ!
相変わらず、かわいいなこの二人。
そして相変わらずらしいw
でも、これからどうなる、町が禁止エリアになるぞw

>だって、私はお姉ちゃんだから
お姉ちゃん…………そうだよなぁ。つらいよなぁ
三船さん励まして……そして逝ったか。
哀しく、そしてかな子が恐ろしい。
姉の今後も心配だなぁ

そして予約だー! 美穂と塩見にげてぇえええええええ



んで、夕美ちゃんとうかします

936wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 04:59:50 ID:Hb6KygNU0





――――花は花であるが故に美しく、気高く、そして、そうであるが故に、散っていく









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






どんな場所にだって日は昇る。
日が昇ると、人々は動き始める。
自分達が生きるために。
それは、参加者全ての死を望む相葉夕美でさえも変わらない。

「……うん、禁止エリアは関係ないかな」

千川ちひろが告げた二つのエリアを、夕美は地図に書き込む。
禁止になった一つは全然違う所、もう一つは恐らく火災があった所だ。
其処に禁止エリアにした意図は夕美としては解からないけれど、一つ確証を得る事が出来た。

(やっぱりちひろさんは……嫌がらせ目的でこんな所に配置したんじゃない)

千川ちひろは、恐らく意図があって夕美を此処の島に配置したのだと。
殺し合いをしろ……といっている割に、こんな移動もままならない島に配置した。
だから、夕美は暫く此処に居ると決めて、そういう準備もしている。
その殺し合いをしないという行為はちひろ側も把握しているはず。
一箇所に篭るな、とも言っていた。
ならば、極端な話、今回の放送でこの島といわないまでも、近くを禁止エリアにしてくる可能性だってあった。
殺し合いをしろという警告として。

けれど、それをしてこなかった。
安易に判断するのは危険だけれど、何かしらの意図があるのだと……何となくだが、夕美は理解したのだ。
でなければ、最初に言っていた事と矛盾する。
一箇所に篭るなという発言をしてるのに、こんな篭るのに適した場所に配置する。
相葉夕美を此処に配置した理由……というものがあるのだろう。
そう考えるのが自然だった。

937wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:00:17 ID:Hb6KygNU0


「ま……興味ないけどねっ」


自然だけど、興味は無かった。
だから、夕美は花のような笑みを浮かべて、今後の予定を書いたメモを見る。

時間は有限なのだ、日が昇ってるうちにやる事は沢山ある。
それに意図があって配置されたからといって、此処からいつ追い出されるか解からない。
だから、準備は出来るだけ早くやらなければならない。

「よーーっし! 出発!」

そう言って、夕美はあばら家から飛び出す。
まずは、食料と海を実際見ることにする。
果たしてボートで移動できるのかを確認しなければ。
それ次第で、夕美が取る行動が変わってくる。
死者も割と出てるのも、夕美の行動に関わってくる。

「十五人……多いのかな?」

先程呼ばれたのは、十五人。
多いのか少ないのか、夕美には判断はし辛いが四分の一は少ない数字ではないと思う。
思いのほか……早く殺し合いが進んでいるのかもしれない。
呼ばれた人物のなかには知り合いも居た。
哀しいという気持ちも夕美にはあったが、それだけだった。
フラワーズの面々が呼ばれなくて、安心したような、がっかりしたような不思議な気持ちだった。

どんな生き方をしたんだろうか、死んだ人達は。
やっぱりプロデューサーを護りたいが故だろうか。
命がかかってるのだから、当然かなと夕美は思う。
大切なプロデューサーなんだろうし、と。

(でも)

だけど、夕美のプロデューサーは。



「絶対………………私達のプロデューサーは“助からない”よ」



絶対、助からない。
絶対、命を落としてしまう。

それは、相葉夕美が殺し合いを放棄したから、じゃない。
むしろ、その前に助からないと理解し、絶望してしまったから。
だから、破滅を望んだのかもしれない。

だって、夕美も、大好きだったから。
大切なプロデューサーを。



「助かる訳ないですっ!……………………ねぇ、藍子ちゃん」



それは此処に居ない大切な仲間であり、親友への問いかけ。


そして、藍子こそが、夕美達のプロデューサーが、助からない『理由』だった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

938wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:00:56 ID:Hb6KygNU0





「よっしー仕事終わった! 美羽ちゃん、キャッツの応援しよう!」
「ええっ……ちょっと、友紀さん……ってまたお酒取り出して……」


それは、昔あった日常。
フラワーズが軌道に乗り始めた、一番楽しい時期。
アイドルとして、輝き始めた時だった。


「おーい、明日も仕事入ってるんだから、騒ぎすぎるんじゃないぞ」
「解かってる、解かってるって!」
「本当に解かってるのか……ったく」


呆れるように、私達のプロデューサーが頭を抑えている。
それを私と藍子ちゃんが楽しそうに見つめていた。
楽しい、日常でした。

「明日は……重要なんだけどなぁ」
「まあまあ、きっと解かってますよ」
「そうかぁ……?」
「そうですよ」

明日は、重要な番組の収録だった。
有名な音楽番組に出て、其処で一曲歌う。
これが成功すれば、私達は更に輝きを増す事が出来る。
その為には、絶対に失敗できない。
けれど、藍子ちゃんは何処か楽しそうだった。

「そうよ、何とかなるって♪」
「夕美まで……まあいいか……頑張るのはお前達だし」
「……うっ、プレッシャーかけないでくれるかなぁ」

そう、意地悪っぽく言われると、ちょっと緊張する。
ぷくーと口を膨らませ文句を言うと、プロデューサーは悪い悪いと言って

939wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:01:30 ID:Hb6KygNU0

「頑張るのも……俺もだからな……お前達を絶対トップにしてみせる」
「そんな気張らなくても……」
「いいや、それはプロデューサーとしてやるべき事だし……何より」

言葉をそこで区切って、プロデューサーは無邪気に笑う。
こういうところは本当子供みたいなのに、


「お前達の笑顔は、俺が一番大好きだからな。その素晴らしさをもっとみんなに伝えるんだ」


こう、どうして、ドキッとさせる言葉を言うんだろうね。
あーやばい、やばい、やばい。
頬が赤く染まっていくのが解かる。
頭が沸騰するような感じがする。
やだ、本当に、もう。

この人は、いつも、こうで。
こう、とても、とても、かっこよくて。

私は彼に言葉を、紡ごうとして。
恥ずかしくて、何も、言葉が出なくて。
それでも、搾り出そうとして、それでも、出なくて。


「……えへへ。有難うございます。私も頑張ります」

そんな、頭が回らない時に、穏やかな声が響く。
隣にいる藍子ちゃんだった。
まるで、日向のように微笑んで。

「皆が微笑んでくれたらいい……そして」


手と手を合わせて。
頬を真っ赤に染めて。
指先と指先をつつき合わせて。


「こんなこと言っちゃアイドル失格かもしれませんけど…私、誰よりも貴方の笑顔を見るのが、す、好きなんですよ」


素直に、一途な気持ちを言葉に出来ている。
告白めいた言葉だけど、それはきっと、


「……お、おう? 何が何だが解からんがそれはよかった。ファンの笑顔を見るのはいいだろう!」
「はいっ……だから、私は『アイドル』として頑張ります!」


哀しいぐらいに、理解されてない。
この人は凄い純粋な馬鹿だから。
私たちを心の底から愛している、『アイドル』として。
誰よりも、私達のファンだから。

全く……私と藍子ちゃんの気持ちも気付かないで。

940wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:02:06 ID:Hb6KygNU0


……本当に、馬鹿。


………………私の、馬鹿。



こんなときぐらい、ちゃんと伝えなきゃ、駄目じゃない。
いつも、花言葉とかでしか……伝えらない。
いいな、藍子ちゃんが羨ましい。
素直に言葉に伝えられて。



「うん……頑張ろう。ファンが優しい気持ちになれたら、幸せ。笑顔なら、もっと嬉しい」


藍子ちゃんの呟きが響く。
彼女は、いつも一途だ。
アイドルとしてビックリするぐらいだ。
普通の少女なのに、アイドルとして、生きていてた。
誰よりも、アイドルのというものに真摯で。

その為なら、自分の気持ちすら、昇華させるほどで。


「だって、それが、私は、大好きだからっ……アイドルなんだっ!」


その姿は、理想のアイドルそのものだった。



輝いて見えて。
けど、同時に思った。



私は、彼女のようには、なれない。



だって、今も、胸に抱えてる、思いの種を。


開花させたくて、たまらない。
それが、出来る訳、ないけど。
出来る訳がないから、羨ましくて。


そして、悔しいな……と思う。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

941wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:02:38 ID:Hb6KygNU0





「ねぇ、藍子ちゃん、バレリーナツリーの花が咲いてるよっ」

ふと、夕美はふと近くの木をを見るとバレリーナツリーの花が可愛げに咲いていた。
微笑んで、それを愛おしげに触る。


「バレリーナツリーの花言葉って知っているかなっ?…………『一途な思い』って言うんだよ」


まるで、藍子ちゃんのようだねと夕美は言葉にする。
きっと、そう、彼女は変わらない。
変わる事が、出来ない。
ずっと、一途だ。


「藍子ちゃんは『アイドル』やってるよね。一途に」


高森藍子は、理想のアイドルだ。
相葉夕美にとって、彼女ほど理想のアイドルは居ない。


だから、この島でも、アイドルを絶対に、絶対に、やめない。

夕美は絶対そうだと言い切れる。


「殺し合いに反対して……だから」


つまり、それは、アイドルで居続ける事。


殺し合いに、反対し続ける、という事。

942wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:03:00 ID:Hb6KygNU0



「絶対………………私達のプロデューサーは“助からない”」



高森藍子が最後まで、アイドルで居続けるから、プロデューサーは絶対に、助からない。

大好きな人が、大切な親友であるが故に、助かる訳が無いのだから。

花は花であるが故に、咲き誇り続ける。

そして、それ故に、散っていく。


そういう事だった。



「あはっ……仕方ないよね」


仕方ない。
仕方ない事だからと、夕美は言って。



「よっし、まずは海はいこう! ついでにお腹すいたなっ♪」



抱えた未練と共に、破滅を望み続けていた。




ただ、『一途』に。




そして、柔らかな風と共に、バレリーナツリーの花が、揺れていた。

943wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:04:10 ID:Hb6KygNU0







【G-8(大きい方の島)/一日目 朝】
【相葉夕美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、ゴムボート、双眼鏡】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ
0:お腹すいたんだよ♪
1:しばらくは今いるあたりを中心に、長期戦を想定した生活環境を整えることに専念
2:日が昇ったらゴムボートのテストをしておく。その後、近隣の島々も探検する?
3:もし万が一最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する
4:藍子ちゃんは一途だから…………

※自分が配置された意図が隠されていると考えています。(ただし興味無し)

944wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E:2013/01/12(土) 05:04:40 ID:Hb6KygNU0
投下終了しました

945 ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:13:50 ID:j1nZtjic0
少し遅れてしまいました。すいません。今から投下します。

946彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー  ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:14:34 ID:j1nZtjic0
いつの間にだったのだろうか、ソファに身を横たえていた高垣楓が滑走路のほうを見るとあれだけ強く照らしていた照明はどれも消えていた。
かわりに静かで優しい光が滑走路を、いや世界を少しずつ照らし始めている。夜が明けたのだ。

あれからまた少し眠った。そして目を覚ませば夜は明けていた。昨晩は悪夢のようだったが、しかしその現実は夢のようには醒めない。
高垣楓が身を横たえるソファの向かい、同じデザインの対となるソファには佐久間まゆの遺体が横たえられたままだ。
あれだけ床に血を零したにもかかわらず、寝かせたソファにもおびただしい血の赤が染込んでいた。まるでその死から目を逸らさせぬように。

高垣楓はソファの中で身体を伸ばし小さな欠伸を噛んだ。そして今一度周囲を伺う。
一面のガラス窓から差し込む光は柔らかでロビーの中の印象もまた昨夜とはがらりと変わっている。すぐ傍に喫茶店があることにも気づいた。
それだけだ。まだここを走り去ったナターリアと南条光の二人は戻ってきてないらしい。――いや、コツという足音が耳に届いた。

コツ、コツと2種類の足音が遠慮がちな音を立てて近づいてくる。ようやく二人が戻ってきたにしてはすこし様子がおかしい。
では二人ではない誰かがここに来たのだろうか。もしかすれば自分を殺してくれるのかもしれない。
わずかな好奇心と期待に高垣楓は足音のする方を見て、そしてそこに珍妙な格好をした二人のアイドルの姿を見つけた。


 @

947彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー  ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:15:18 ID:j1nZtjic0
「(やっぱり、さっきの音は銃声だったんだ……)」

矢口美羽はロビーの硬い床に広がる血たまりとソファに横たわる胸を赤く染めた死体を発見して、わずかにその身を震わせた。
後ろに控え、今は彼女が着る巫女服の袖を掴む道明寺歌鈴を引きずり、寝かされた死体へと少しずつ近づく。

あの棒倒しによる運任せの行き先占いにより、この銃声の聞こえてきた飛行場施設へと向かうことは決定された。
しかし、なにも馬鹿正直にそれに従うことはない。実際、道明寺歌鈴は危険だからと涙目で反対した。
けれど矢口美羽はそれでも飛行場施設――銃声の元に向かうことを強行した。
その理由は――……

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

いきなりに遠慮なく道明寺歌鈴の悲鳴が朝の静けさの中にあったロビー全体へと轟き渡った。
同じように矢口美羽の悲鳴も轟く。しかしこれは真後ろで悲鳴をあげられたことに対する"つられ悲鳴”だ。
何も目の前の人物に驚いたわけではない。(と、彼女の名誉のためにここはつけ加えておこう)

「…………えぇと、歌鈴ちゃんと美羽ちゃん、よね?」

遺体の寝かされたソファに近づこうとしたら、手前の背を向けたソファから急に人が顔を出したのだ。それこそゾンビのように。
驚くのも無理はない。けど驚きすぎだろうと矢口美羽は後ろの道明寺歌鈴を心の中だけで責める。
そして、目の前に出てきた人物は彼女が密かに(主に面白いキャラクター面で)尊敬している高垣楓だった。

「ごめんなさい。記憶違いかしら。私、巫女なのは歌鈴ちゃんだって思ってたみたいなんだけど――」
「あ、それはあってます! 巫女なのは歌鈴ちゃんです。今こうなのは、ちょっとその……ごにょごにょ……」

はぐらかす矢口美羽に高垣楓はただ「そう……」とだけ気のない返事を返す。
いつも彼女のテンションは傍目には低く見える……が、しかし今の彼女の状態はいつものとはまた違うと矢口美羽は感じた。
いや、そもそもがこんな"殺しあい”の中なのだ。それもおかしなことではない。そして彼女と交わすべき言葉は他にあった。

「これは……、楓さんが殺したんですか?」

死体があって。その傍に人がいる。これ以上に大事なことはなかった。
本来ならここは有無を言わさずに高垣楓へと襲い掛かってもかまわないシーンだ。
それをしなかったのは彼女らの方針と、そして矢口美羽の中にある高垣楓への敬意と信頼が理由だった。

「違うわ」
「そうですか」

なにをそんなに素直に、という心の中の悪魔の声を無視して矢口美羽はほっと安心の一息を吐く。
"ここに来た目的は果たした”。後は彼女と一緒に行動し、少しずつ同行者を増やし、機を見てノルマ(殺人)をこなせばいい。

「これは、ナターリアちゃんが……、でも、そうね。考えてみれば本当は私が殺してしまったようなものかもしれない」
「ナターリアが!?」

不意に道明寺歌鈴が声をあげてまた矢口美羽はびくりとする。そしてまだ彼女は巫女服の袖を握ったままだ。
ともかく、ナターリアが人を殺したということについては矢口美羽も同じく驚きだった。
天真爛漫を絵に描いたような、まるで漫画かなにかから飛び出してきたような彼女に人が殺せるなんて想像もできない。

948彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー  ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:15:45 ID:j1nZtjic0
「……ナターリアちゃんには、まゆちゃんが私を殺そうとしているように見えたのね」
「じゃあ楓さんを助けるために……」

矢口美羽の言葉に楓は少し考え込み、そうねと肯定し、それから言葉を続ける。

「でもね、私はまゆちゃんに殺されてもよかったの。いいえ、あの時私は彼女に自分を殺すようにお願いしたわ」

高垣楓はソファに横たわる佐久間まゆの遺体を見て、そしてナターリアが立ち去ったであろう方を見て呟いた。

「彼女たちには悪いことをしてしまったことになるわね」
「そう、なんですか……」

矢口美羽は語られた事の顛末に一応は納得した。だが、その中にどうしても聞き逃せない言葉がある。

「殺すようにお願いした……って、どういうことなんですか……?」
「私は殺されてもよかったの」

それだけではわからない。矢口美羽はさらに問いかけようとする。
しかし先に言葉を発したのは道明寺歌鈴で、彼女の言葉にはなにかの感情を含む熱が篭っていた。

「殺されてもいいってどういうことですかッ!?
 わたしは死にたくありません。死んだら、終わりで……、アイドルでもいられなくなって、好きな人とももう会えなくて――」

けど、高垣楓は彼女のそんな問いかけにすぐには答えを返さなかった。
少し面倒そうな顔をして、しかたなくといった風に口を開く。

「私にとって好きな人……大事な人はもう死んでしまったの」

それは短いがすべてを理解するのに十分な言葉だった。

「あの時死んでしまったのが私のプロデューサーだった人。
 そして私の愛する人であり生きがいでもあった人……というのは彼が死んではじめて気づいたことね。
 自分がもう死んでもいいと思うようになるなんて、昨日までは想像もしなかったわ」

彼女の顔には自分の宝物を語る時の喜びと、それを永遠に失った時の悲しみがあわさった薄い笑みが浮かんでいる。

「じゃあ、楓さんはこの殺しあいを生き残るつもりはないんですか?」

聞いて、矢口美羽は失敗したと思った。

「ええそうよ。なんならあなたたちが私を殺してくれてもいい。いいえ、お願いしようかしら」

言って高垣楓はその綺麗な指で床を指す。そこ――矢口美羽の足元から少し離れた場所には一丁の無骨な拳銃が落ちていた。

「ただ……、そう、遺言を聞いてほしいの」
「遺言?」
「私のでなく、まゆちゃんの……彼女の言葉をもしあなたたちのどちらかが生き残れば彼女のプロデューサーに伝えてほしい」
「それを……、私たちに頼むんですか……?」
「無茶な話よね。でも、どう考えても私は生き残れるとは思えないから……」
「………………」

三人の間に沈黙が落ちる。
矢口美羽はもう一度床に転がった拳銃を見た。
あれで目の前の高垣楓を殺す。彼女は死ぬことを望んでいるのだから抵抗の心配もなく、運営に殺害の意思を示すこともできる。
一石二鳥だと言えるだろう。本来の趣旨通りではないが、潜り込める仲間ならまた探せばいいだけだ。
だが、しかし――そして。

「………………歌鈴ちゃん?」

巫女服の袖を握る道明寺歌鈴の手が震えていた。
死体や、あるいは殺害することを目の前にして恐怖しているのか? それもやむないことだ。だが違った。彼女は"怒って”いた。


 @

949彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー  ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:16:03 ID:j1nZtjic0
「ふざけないでくださいッ!」

道明寺歌鈴の怒声がロビーの中に響き渡った。彼女の前に立つ矢口美羽も、その先にいる高垣楓も急な剣幕にただ呆気にとられる。

「死んでもいいってどういうことなんですか!?」
「それは、今言ったように私の――」
「わかってます! でも! それでも死んでいいだなんてあんまりです。そんな、そんなこと……」

彼女の口から次に飛び出した言葉は、誰も、おそらくはこの島にいるアイドルが全員ここにいたとしても想像しないような言葉だった。

「そんなのずるいッ!!」

矢口美羽も高垣楓もそろって絶句する。だが彼女はかまわず、今まで溜め込んできたすべてを吐き出すかのように声を、言葉を吐き続ける。

「わたし、絶対に、どうしても死にたくありません。わたしだけじゃない、みんなみんな死にたくないって思ってるはず。
 でもそれでもひとりしか生き残れないんです。わたしたちで殺しあいをしてひとり以外はみんな死ぬんです。
 これってすごく怖いんですよ! ものすごくものすごく怖いんです! 泣きたくなるくらいに! でも逃げられない!
 なのに……、あなたはもういいって、諦めて、諦められて……、そんな、じゃあわたしたちはなんなんですか……?」

それは高垣楓からすれば理不尽に聞こえてならなかっただろう。彼女が死んでもいいと言ってるのは彼女がすでに終わっているからなのだから。

「それは、あなたたちにはまだプロデューサーがいて生き残るに値する希望があるからでしょう? でも、もう私には――」
「――わかっていますッ! でも、それでもわたしは楓さんがずるいと思えてならないんです。
 そんな……いつもどおりの冷静さで、こんなに怖がってるわたしたちを前に……、死んでもいいだなんて……。
 まるで、ばかにされてるみたいで……」

矢口美羽は止められない彼女の言葉を聴きながら失敗したと後悔した。ここには、来るべきではなかった。

「――わたし、プロデューサーと結婚するって約束してるんです」

唐突な告白に矢口美羽はええっと声を出して驚く。目の前の高垣楓も声こそ出さないものの、かなり驚いている様子だった。

「もちろん、今は無理だけど……。いつかきっと、アイドルを卒業する時がきたらいっしょになろうねって。
 だから絶対死にたくないんです。そのためにはなんだってするって決めたんです!
 美羽ちゃんと協力してみんなを騙してでも生き残ろうって!
 それぐらい覚悟したんです! ……怖いから。できないから。だからやらなくちゃいけないって思ったんです」

矢口美羽の顔がさぁっと青ざめる。それはうっかりがすぎるだろうと。まだ出会えてはじめての相手だというのにもらしてしまうなんて。

「なのに……、なんでそんなこと言うんですか? わたしたちの気持ちはどうなるんですか?
 わたしも"彼”が死んでしまったら楓さんみたくなるかもしれない。けど、死んでもいいなら黙って死んでもいいじゃないですか。
 死んでもいいだなんて言われたら……、わたし、まだひとりも殺せてないのに、いきなりそんなこと言われたら……、
 なにも……なにもできなくなっちゃいますよ。殺せって言われて……殺せるわけないじゃないですか!
 抵抗してくださいよッ! 疑ってくださいよッ! わたしたちを殺してやるって言ってくださいよッ!
 でないと、わたし、わたし……、なにもしない人を殺せっこなんかないですよぉ…………」

そしてとうとう道明寺歌鈴は床に伏せて泣き始めてしまった。


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950彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー  ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:16:24 ID:j1nZtjic0
道明寺歌鈴の泣き声を後ろに気まずい沈黙の時間が流れ、観念したと先に口を開いたのは矢口美羽のほうだった。

「あの……、楓さん。つまり、そういうことです。私は歌鈴ちゃんと組んで出会った相手を油断させ――」
「あわよくば私を殺そうとしてたのね」
「――です」
「じゃあ……」

彼女の提案を、本来なら喉から手が出るほどのこの好機を、しかし矢口美羽は首を振ってふいにした。

「それは、もう無理です。私も歌鈴ちゃんと同じだってもう気づいちゃったから」

はじめからそうだったのだ。ふたりで組んで人畜無害を装い、どこかの仲間に加わって隙を伺って殺す。
ようは先送りしていただけだったのだ。殺すのは怖いから、殺さなくてすむ理由をでっちあげたにすぎない。
本当に殺すつもりがあるのなら、まずふたりが出会ったその時にそうなってないといけなかったのだ。
それなのに怖気づき、"作戦”を練って、調子にのって、それをごまかした。
殺さないとプロデューサーが殺されるかもしれない。でも殺したくない。だから殺しあいに向き合ってるような格好だけをとった。

その自覚はあった。だからこそ自分と道明寺歌鈴を奮い立たせようとした。
棒倒し占いに従って銃声のした方に来たのもそれが理由だ。殺しあっている現場や死体を見ればそれで吹っ切れると思った。
道明寺歌鈴が言ったように、最初に出会った相手が凶器を振るって殺そうとしてきたり、こちらを疑ったりしてくれれば、
多分その時に人殺しに必要な"一線”を乗り越えれたはずだったのだ。
いや、もしバックの中に入っていた武器がもっと刃物や拳銃のようなものであればもっと早くに一線は越えられたかもしれない。
しかし、そんな仮定はもはやすべて無意味になってしまった。

「私も、無抵抗の人間はとても殺せそうにありません。そして殺せないって気づいたらもう殺そうって気持ちには戻れません」
「私を……殺してはくれないのね」
「ごめんなさい」

矢口美羽は高垣楓に向かって頭を下げ、そして深いため息を吐いた。
死体が目の前にあって、殺されたい人がいて、相方は泣いていて、自分はなにもできない。どうしてこんなことになってしまったのか。






 @

951彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー  ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:16:40 ID:j1nZtjic0
そして、朝日がちょうどロビーの端にまで届いた時、6時の放送が始まり、終わった。

「たくさん死んだのね」

悲しげな顔で高垣楓が漏らす。
彼女が早く死を願ったのはもしかすれば他のアイドル達の死を聞きたくなかったからではと、矢口美羽は本田未央の名前を聞いて思った。
本田未央――彼女とはそれぞれニュージェネレーション、FLOWERSへと所属するユニットは分かれることになったが、
元は下積み時代に仕事を一緒にしていた仲だ。今でも友達つきあいは続いているし、仕事を終えるたびにメールのやりとりもしている。

ともかく、矢口美羽もたくさん死んだという感想には同感だ。
15人のアイドルが死んだ。自分たちもその中に入る予定だったが、それだけその気になっている子は多いということになる。
それだけ多いということは、やっぱりきっかけさえあれば一線を越えることは可能だったのだ。

「あなたたちはこれからどうするの?」
「わかりません……」

殺そうという意思がなければ殺されるだけだ。それはもう絶望でしかない。
矢口美羽はまだ死ぬわけにはいかない。まだ守らなくてはいけないものがいくつも残っている。
今思いつくのはただ逃げるということだけだった。殺せないのなら生き残るには逃げるしかない。
逃げ続ければやる気がないとプロデューサーを殺すと脅されるかもしれない。だったらその時こそ覚悟を決めなおせばいい。
むしろ、それくらい追い詰められなくては一度超えられなかった一線はもう越えられる気がしなかった。

「……そう、じゃあいっしょにナターリアちゃんと光ちゃんを待ちましょうか」
「え?」
「もうすぐ帰ってくると思うわ」
「私たちは一緒にいてもいいんですか……?」
「もう誰も殺さないんでしょ? だったら誰もないも言わないだろうし、もしまだ殺したいというのでも私は――」

言葉を途中で区切り高垣楓は首を振る。そしてソファからすくと立ち上がった。
こんな時だというのに、朝日を浴びて立つ彼女の長身とそのモデルのようなスタイルに、やっぱり綺麗だなと矢口美羽は見惚れてしまう。

「熱いコーヒーを飲みましょう。そしたら、きっと"私”も"あなたたち”も目が覚めると思うわ」

少し待っててと言って、彼女はそのまますたすたと喫茶店の中へと入っていった。


 @

952彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー  ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:16:57 ID:j1nZtjic0
「ねぇ、歌鈴。ソファに座ろう。楓さんがコーヒー淹れてくれるって。
 なんかナターリアらもここに戻ってくるらしいし、そしたらもう一度私たちのやり方を考え直そう?」
「うん……、そうする」

涙で濡れた顔をふいてあげ、矢口美羽はうずくまっていた道明寺歌鈴をソファへと座らせる。
そして、少しだけ逡巡した後、彼女の前で頭を下げた。

「ごめんね」
「……え? どうして美羽ちゃんが謝るの?」
「私だから。手を組もうって言ったのも。作戦を考えたのも。歌鈴ちゃんをその気にさせたのも」
「でも、それは必要なことで……美羽ちゃんがいなかったらわたし……」
「ううん。私、歌鈴ちゃんに人殺しさせるつもりでいた。よく考えたら、いや、よく考えなくてもそれってひどいことだよね。
 私は自分の苦しみを歌鈴ちゃんに肩代わりさせようとしてたんだよ」
「それはわたしも同じだよ。自分だけじゃできないから、美羽ちゃんを言い訳にしてた……」

そっか。と矢口美羽は呟いた。そりゃそうだ。みんな女の子だもの。

「じゃあお互い様だね」
「…………だね」

笑いあう。その笑顔はまぶしい朝日の中にはぴったりのものだった。
問題はなにも解決していないけれど、いまだに殺しあいの中にいるという事実は揺るがないけれど、少なくとも夜は明けた。

矢口美羽はソファから離れ、落ちたままになっていた拳銃――妙に重たくて大きな拳銃を拾い上げ、見よう見まねで残りの弾丸を確認する。
拳銃の中に残る弾丸は、これから先どちら側へ舵を切るとしても決断のチャンスは一度きりだと言うように、一発だけだった。

これまでも、これからも行われ続けるのはアイドル同士の殺しあいだ。
その中で誰かを殺し、誰かに殺されかけ、憎み憎まれ、いつかは仲間となった相手も裏切り、血まみれの手で願いを叶えるかあるいは死ぬだろう。

「でも、後悔しないやり方を選ぼう。もう一度、今度は私の……」

それが今の彼女の――夜の中をふらふらと彷徨っていた矢口美羽の新しい決意だった。






矢口美羽、道明寺歌鈴、高垣楓――夜が明け、朝日の中でそれぞれがそれぞれの行き先をこれから決めなおす。






【C-3 飛行場/一日目 朝】

【高垣楓】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:まゆの思いを伝えるために生き残る?
0:熱いコーヒーを淹れて飲む。
1:ナターリアと南条光を待つ。
2:改めてここでこの先どうするかを考えてみる。


【矢口美羽】
【装備:歌鈴の巫女装束、タウルス レイジングブル(1/6発)、鉄パイプ】
【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:フラワーズのメンバー誰か一人(とP)を生還させる。
1:改めてここでこの先どうするかを考えてみる。


【道明寺歌鈴】
【装備:男子学生服】
【所持品:基本支給品一式、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残る。
1:改めてここでこの先どうするかを考えてみる。

※小日向美穂と同じPです。Pと結婚の約束をしていたようです(?)。

※佐久間まゆの支給品がソファの傍に落ちています。「サバイバルナイフ、基本支給品一式×1」

953 ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:17:12 ID:j1nZtjic0
以上、投下終了です。

954 ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 00:52:48 ID:j1nZtjic0
では感想を

>>wholeheartedly
ああ、相葉ちゃん切ないなぁ。理解して、絶望してるのにずっと明るく振舞っているのが、なにもかもを諦めているのが切ない。
一人だから泣いてもいいのになぁ。


そして、城ヶ崎美嘉、三村かな子を予約します。

955 ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:43:19 ID:Cv3ZOZjU0
遅刻してすみません……日野茜、高森藍子、投下しますね

956希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:44:40 ID:Cv3ZOZjU0



 ――重圧が私にのしかかる

 ――あなたを押し潰す、誰も求めてなどいないのに

 ――重圧の下で、建物は崩れ落ちていく

 ――家族は引き裂かれ、人は道端で途方に暮れる



 ――この世界は一体なんなのか、それを知るのが恐ろしい

 ――友人達が見える、ここから出してくれと叫んでいる

 ――明日に祈ろう、私を高みに引き上げてくれと

 ――重圧が人々へと、路上の人々へと……





   ▼  ▼  ▼



 まるで見えない重圧に全身が押さえつけられているよう。

 足取りは重く、鈍く、まるで靴底に鉛の塊でも縫い付けられているみたいで、
 両足を交互に出すという今まで意識したことのない動作にすら気力が削られていくのを感じる。

 喩えるなら暗く濁った重油の中を泳ぐような、時の流れそのものが粘り気を帯びているような、
 自分達をこの場に捕らえて動かすまいという、大きな力が働いているような。

 藍子も、隣を歩く茜も、何も言わない。
 元々おとなしい気質の藍子はともかく茜が口を利かないというのは天変地異の前触れめいているが、
 あるいはいっそ本当に天変地異でも起こったほうがまだマシなのかもしれない。
 しかしそんな途方もない絵空事に期待を託すには、二人は苛酷な現実を目の当たりにしすぎていた。

957希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:46:02 ID:Cv3ZOZjU0
(……もうそろそろ、なのかな……)

 藍子の心に巣食う焦りと恐れの綯い交ぜになった感情が、ずくりと疼く。
 思い返せば、あの時から――あの家を後にした時から、藍子は一度も時計を見ていない。
 時刻を確認してしまえば一層追い立てられる気がしたし、そもそも無意識に遠ざけてもいたのだろう。
 それは恐らく茜も同じはずで、沈痛な面持ちながら落ち着きのない素振りは時と共に増していた。

 そう、もうすぐ、その時間が来る。
 無慈悲にもアイドル達の死を告げるであろう、その時が。
 嫌だ。聞きたくない。知りたくない。
 そう思う一方で、大事な友達は無事だろうか、それを知りたい気持ちもまた膨らんで。

 

《はーい、皆さん、お待たせしました! 第一回目の放送です!》



 だから、その場違いなまでに明るい声を聞いた時、藍子の胸中を占めたのは怖れが全てではなかった。
 みんなは、FLOWERSのみんなはどうしているだろう。
 友紀ちゃんは無事だろうか。いつもみたいに朗らかに笑っているだろうか。
 夕美ちゃんは大丈夫だろうか。人一倍優しい彼女だから、思い詰めてはいないだろうか。
 美羽ちゃんはどうだろう。誰よりも頑張り屋さんなぶん、空回ってないかが心配だ。
 意識して最悪の可能性から目を背けながら、藍子はうつむいてただ次の言葉を待つ。


《……さて、ではお待ちかねの死者発表ですっ! 今回死んでしまった皆さんは……》


 一人、また一人と、既にこの世にいないアイドル達が名を呼ばれていく。
 顔を知る子も、知らない子もいる。一緒に仕事をしたことがある子も、永遠にその機会がなくなった子も。
 名前がひとつ増えるたびに、凍結した脊髄を摺り下ろされるような悪寒が走る。
 まだFLOWERSのメンバーは呼ばれていない――それでも、多い、多すぎる。
 人の命の話なのだ、多寡が問題なのではないと分かってる。しかし、これはあまりに異常に思えた。

 もう十人以上のアイドルの名が呼ばれている。そして、恐らくはそれと同じぐらいの、殺人者がいる。
 昨日までは自分と同じように輝くステージを目指して頑張っていたはずの、殺人者が。

 藍子の脳裏に、この島で初めて対面した時の、そしてつい先刻の愛梨の姿がよぎる。
 愛梨のいいところは自分が誰より知っているはずなのに。
 そして愛梨以外の、殺す側に回った少女達も、みなそれぞれの輝きを秘めていたはずなのに。
 彼女が李衣菜を無造作に射殺するその瞬間がフラッシュバックして、藍子は口元を押さえた。


《――多田李衣菜》


 その姿勢のまま、肩がびくりと跳ねる。
 完全に追い討ちをかけられた格好。呼ばれると分かっていたのに、覚悟したはずなのに。
 自ら目の当たりにした彼女の死を、厳然たる事実として突き付けられるのがこんなにも辛いだなんて。
 茜の様子を伺う気にはなれない。そんな勇気はない。
 それでも、受け入れるしかないと、必死で自分を落ち着かせようとして、

958希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:46:48 ID:Cv3ZOZjU0
 

《――木村夏樹》


 今度こそ、心臓を鷲掴みにされる思いだった。
 全身の血が音を立てて引いていく感覚。激しくなる動悸だけが耳にこだまする。
 藍子はぎゅっと両目をつむり、歯を噛み締めた。そうしないと嗚咽が漏れそうだった。
 

(夏樹、さん……っ)


 こうなってしまうだろうとは思っていた。
 彼女の意思を尊重したからこそ、自分達は彼女と別れ、今こうしているのだから。
 だから程なくして彼女が……死ぬ、そう、死ぬだろうということも、理解していたはずだった。

 そう納得したはずだったのに、折り合いをつけたはずだったのに、この心のざわめきはなんだろう。
 心が、頭で考えるほど分別よく感じてくれない。体が、理性を受け付けてくれない。

 夏樹のあとにもうひとりの名を告げて、全ての死者の発表は終わった。
 15人。その中に、FLOWERSのメンバーの名前はなかった。
 だけど、それだけを素直に喜ぶ気持ちにはなれなかった。


「…………こんなのひどいよ」


 だから、藍子はこの時、その言葉は自分の口から出たものかと一瞬錯覚してしまった。
 ハッとして顔を上げたその先には、拳をきつくきつく握り締め、必死に何かを堪える茜の姿があった。
 その大きな瞳に今にもこぼれ落ちんばかりの涙をたたえ、両肩をぶるぶると震わせて、
 茜は爆発寸前の感情をその小さな体に必死で押し込めようと闘っていた。




   ▼  ▼  ▼



 確かに茜の中には、李衣菜の死を改めて思い知らされたこと、半ば予期していたとはいえ受け入れがたい夏樹の死、
 そして既に15人の命が奪われ、何人ものアイドルが殺す側に回ったという事実がごちゃごちゃになって、
 悲しみと絶望と憤りの混合物が心の奥に沈殿していたのは間違いなかったのだけど。

 しかし、彼女を衝き動かしていたのは、そのどれに対する感情でもなかった。

959希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:47:39 ID:Cv3ZOZjU0


「……名前を読んで、それでおしまいなの? 死んじゃったら、もうおしまいだっていうの?」


 李衣菜の死が、名前のたった五文字だけで片付けられてしまった。
 彼女がどんなふうに生きて、どんなふうに死んだのか、そんなことは全部無視されてしまった。
 それが茜には歯がゆくて、悔しくて、切なくて仕方なかった。

 放送を聞いて彼女の死を知った人達には、きっと李衣菜の生き様も、死に様も、伝わりっこない。
 ついさっきまで生きていたのに、あんなに一生懸命だったのに、誰にも知られないまま忘れられてしまう。

 そんなのってない。そんなこと、あっちゃいけないのに。


「かわいそうだよ……こんなの、リーナがかわいそすぎるよ……っ!」


 声を漏らすと、そのまま泣き叫んでしまいそうだった。

 李衣菜だけじゃない。その李衣菜を誰よりも知る少女、木村夏樹もまた、命を落とした。
 そしてその命も、同じように扱われた。あくまで作業的に、事務的に、機械的に。

 夏樹には李衣菜とは違う命があったのに。彼女だけじゃない、死んでいった15人の誰もが、
 それぞれの夢を抱いて、それぞれの未来を目指して、それぞれのステージに立っていたはずなのに。

 自分はあまり頭は良くないけど、それでも、そんな自分にも、これはひどいことだって分かる。


「人が死ぬのは、もっと辛くて苦しくて悲しいことじゃなきゃいけないのに!
 あんなにあっけなく、素っ気なく扱っていいことなんかじゃないのにっ!」


 茜の友達を……そう、一緒に過ごした時間は少なかったけど、紛れもない友達を、モノか何かのように。
 これは侮辱だ。茜の大事な人達への侮辱だと、茜はそう直感的に感じていた。

 茜は、良くも悪くも一直線な性格だから。
 だからこそ、本当に本当のことは、決して見誤ったりしない。
 本当に許しちゃいけないのは、死んだアイドルを殺したアイドルじゃない。
 もっともっと大きな、自分達に殺し合いを強いる得体の知れない悪意だ。


「このままじゃ、誰も幸せにはならないよ! 殺されても、殺しても、ただ辛いだけだよっ!!」


 茜の怒りは、理不尽なるものへの怒りだった。自分達を押さえつけるこのシステムへの怒りだった。
 自分を、李衣菜や夏樹や死んでいったアイドル達を、そして藍子や今を生きるアイドル達を、
 今なお抑えつけ押し潰し踏み躙る、悪意という名の重圧への怒りだった。

960希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:49:55 ID:Cv3ZOZjU0



   ▼  ▼  ▼



『アイドルはLive(生き様)だ』


 茜の姿を見て、藍子は、自分達に未来を託し死んでいった夏樹の言葉を思い出す。
 茜の憤りは、どんな時でも真っ直ぐな彼女のあり方は、裏表無いアイドルの生き様だと思う。
 それが、希望のアイドルのあり方に迷う藍子には、少し羨ましくすら感じた。


 でも、皮肉だけれど、この放送を聞いて改めて感じたことがあった。


 もし愛梨の言うように、藍子が希望のアイドルなのだとしたら……その資格があるのだとしたら。
 だとしたら、藍子の希望は、彼女一人に依って立つものではないはずだ。
 友紀、夕美、美羽、ばらばらになって一層その存在の強さを感じる仲間たち。
 彼女達がいるから今の藍子がいる。アイドルとしての藍子は、彼女達に支えられていた。
 
 
(ごめんね、みんな……私、大事なこと忘れてた。どうやったらみんなに希望を与えられるんだろうって、
 そればっかり考えて……でも違うよね。私、今までみんなに、たくさん希望をもらったんだから)


 藍子は顔を上げた。
 少しだけ、ほんの少しだけ、自分の中の迷いに答えが出たような気がした。
 そして、そのほんの僅かな希望で、目の前で肩を震わせる少女を勇気づけられたらいいと思った。


「茜さん……私、希望ってなんなのか、ちょっとだけ分かったような気がするんです」


 両目を真っ赤にした茜が、おずおずと藍子の顔を見上げる。
 その視線に、今出来る精一杯で微笑み返し、藍子は続けた。


「ずっと考えていたんです。愛梨ちゃんになくて、私にあるものってなんだろうって。
 私にもしそんなものがあるとしたら、それはきっと、独りじゃないってことだと思うから」


 ふと思い出したのは、楽しかったあの日常の一コマ。
 翌日に歌番組の収録を控えたあの日、プロデューサーに告げたあの言葉。
『私、誰よりも貴方の笑顔を見るのが、す、好きなんですよ』……その言葉の真意こそ伝わらなかったけれど。
 ファンが優しい気持ちになれたら、幸せ。笑顔なら、もっと嬉しい。その気持ちに嘘偽りはない。
 なぜなら、藍子自身が、みんなから優しい気持ちをもらったから。たくさんの笑顔をもらったから。
 そのぶん藍子は、一途に、真摯に、笑顔を与えるためのアイドルでいられた。


 だから自分の……高森藍子の、“Live(生き様)”とは。

961希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:51:57 ID:Cv3ZOZjU0

「FLOWERSは、花束なんです。私一人なら、人をほんの少し優しい気持ちにさせるくらいの小さな花だけど、
 四人集まればもっとたくさんの人を笑顔にできる花束になるんです。
 四人いたから、どんな高い壁だって越えられた。どんな遠くまででも、笑顔を届けられたんです」


 FLOWERSの希望は、人と人との繋がりの中から生まれる希望。
 愛梨が藍子の中に見出した希望が、本当にあるとするなら、それはきっとそういうことだと思った。


「だから私が、一途に“希望のアイドル”を目指すとしたら、それはきっと、もう一度花束を作ること。
 一人だけなら潰れてしまいそうな小さな小さな希望を束ねて、もっと大きな希望にできるなら、
 それが私の、やるべきことなんじゃないかって思うんです。そうありたいと思うんです」


 ほんのわずかな希望でもいい。ほんのちっぽけな花でもいい。
 道端にひっそりと咲いて誰もが見落としてしまうような、そんなありふれたものでいい。

 そんな小さな小さな希望を集めて、花束を作ろう。

 この重苦しい空の下では、誰もの目を引く大輪の花なんて咲かせられないだろうけど。
 木漏れ日に揺らぐ儚い花でも、束ねればきっと他の誰かの希望になる。


「まだ、私自身の希望が何なのか、その答えは見つからないけど……。
 だから、力を、ううん、希望を貸してください。私一人に出来ないこと、一緒にやってほしいんです。
 一人でできないことでも、二人なら出来るかもしれない。お願いします、茜さん」


 茜に向かって、改めて手のひらを差し出す。
 茜はそれをぽかんと見つめたあと、慌てて涙でいっぱいの両目をごしごしと拭った。
 それから差し出された手を両手で握り締め、ぎこちなく、だけど太陽のように笑った。
 藍子もその手を強く握り返し、そして木漏れ日に咲く花のように微笑んだ。

 この日が始まって初めて、心から微笑むことができたように思えた。



   ▼  ▼  ▼

962希望 -Under Pressure- ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:52:59 ID:Cv3ZOZjU0


「それじゃ、これから他のアイドルを探しに行くんだね?」

「はい。私達の言葉が届くかは分からないけど……少しでも希望を持ってる人がいるのなら、
 私はその人と話がしたいです。この間違った争いを、止めるためにも」

「迷わず行けよ、行けばわかるさ、だね! ロックだね!」

「ろ、ロック……は関係あるんでしょうか……」

「リーナが言ってた、『ロックに行くぞ』って。私、ロックってなんなのかよく分かんないけど……
 でも、リーナや夏樹がそんなふうに生きたいって思ってたんだから、プラスの力だよ。きっと」

「プラスの力、ですか?」

「そうそう。だから、リーナや夏樹の“LIVE(生き様)”を引き継ぐことが、私にとってのロックだよ!
 全力全開のフルパワーで立ち向かう! どんな壁だって、私達のロックで風穴開けてやるんだっ!!!」

「生き様を、引き継ぐ……そうですね。李衣菜さんや夏樹さんも、ずっと一緒です」

「……うんっ! だからみんなで、やるぞーーーーー!!! おーーーーー!!!」

 気合の拳を突き上げる茜と、それを見て微笑む藍子。

 吹けば飛ぶような希望を胸に、二人は歩いていく。

 だけどこの世界を覆い尽くすような重圧の下でも、咲く花はきっとある。

 できることは、あるはずだから。




【G-3・市街地/一日目 朝】


【高森藍子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×2、爆弾関連?の本x5冊、不明支給品1〜2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。
1:他の希望を持ったアイドルを探す。
2:愛梨ちゃんを止める。
3:爆弾関連の本を、内容が解る人に読んでもらう。

※FLOWERSというグループを、姫川友紀、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいて、リーダーです。四人同じPプロデュースです。


【日野茜】
【装備:竹箒】
【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない!
1:他の希望を持ったアイドルを探す。
2:熱血=ロック!

963 ◆n7eWlyBA4w:2013/01/13(日) 08:53:27 ID:Cv3ZOZjU0
投下終了です。

964 ◆44Kea75srM:2013/01/13(日) 17:18:37 ID:Pj9W663c0
投下乙です!

>wholeheartedly
おおう、FLOWERSの全貌がどんどん明らかになっていくというか、なんか楽しそうだなーw
こういうエピソードがあるからこそ夕美の絶望や藍子の希望が際立つんだよな、うむうむ。
いまはまだ笑っていられるけど、でも彼女、笑顔がぜんぜん笑顔に見えないのよな……物悲しい。

>彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー
巫女なのは歌鈴ちゃんですよね!w さらに言えばドジ巫女なのが歌鈴ちゃんであって、冒頭はまさに歌鈴ちゃん!w
ステルスコンビのファーストコンタクトとしては楓さんは絶好の獲物とも考えられたけど、結果はこうなったか。
【プロデューサーへの想い】という部分で楓さんとリンクしてしまった歌鈴の主張が胸に響きます。イイ話。

>希望 -Under Pressure-
仲間の死を乗り越えて……っていうのはよくあるシチュエーションだけど、この二人には希望がよく似合う。
特にだりーなつきちから教わったロック魂を継承している茜ちゃん。彼女がまたなんとも、らしい。
藍子はまた舵取り大変そうだけど、真っ当に希望を見据えているFLOWERSとして頑張って欲しいね。


そして私は前川みく、及川雫を予約します。

965 ◆John.ZZqWo:2013/01/13(日) 19:52:57 ID:j1nZtjic0
投下乙です!

>希望 -Under Pressure-
ロックの魂はちゃんと受け継がれたなぁ。茜ちゃんの放送への反応はぐっとくるものがありました。彼女に同感だわ。
気づけば放送明けからFLOWERSの話が続いてるけど、藍子ちゃんはすごくそのリーダーらしい方向を見出したなぁ。
ストロベリーボムズの子らも放送後に出ているんだけど、フループ単位ですごくカラーがでた感じ。これもリレーの妙だなぁw 楽しいw


報告:彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワーの状態表で現在位置が間違っていたのでwikiで修正しました。(C-3→D-4)

966 ◆yX/9K6uV4E:2013/01/14(月) 01:04:39 ID:4Qy9rtKI0
出先なので、すいません取り急ぎ予約だけ。
藤原肇、榊原里美、岡崎泰葉、市原仁奈、白坂小梅、喜多日菜子、諸星きらりを予約します。

967 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/16(水) 18:57:13 ID:gcJci/Bo0
本家の新ガチャのせいで懐が死んだ
なんでよりによってネネさんなんだ……今日からもやし生活だな(白目)

で、予約延長しまっす

968 ◆John.ZZqWo:2013/01/17(木) 18:53:19 ID:tzXjaYVE0
予約延長しますー。

969名無しさん:2013/01/18(金) 01:47:09 ID:lgrLdyv.0
投下乙です!

>wholeheartedly
ああ、相葉ちゃんは高森さんを信じてるからこそ早々に絶望してしまったのか……。
一周回って明るく振る舞ってるみたいな笑顔が切ない
回想シーンはちょっと楽しそうな雰囲気。フラワーズPは笑顔が似合うナイスガイですなあ。

>彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー
歌鈴ちゃんたちが決断を先延ばしにしていたことについにメスが入ったかー。
人殺しに必要な“一線”が重要になってくるのは一般人ロワならではな感じですごくらしい。
懺悔と新たな決意の裏で、小日向ちゃんとPとの関係性がさりげなくドロドロしているがどうなる

>希望 -Under Pressure-
「名前呼んでそれでおしまい?」……おおお、おお。
こちらも一般人ロワらしい切り口で放送への反応が書かれててすごくいいなあ。
2話前の相葉ちゃんの回想シーンを高森さん視点で振り返って花束のくだりにつなげるのも綺麗&巧みだー

970 ◆kiwseicho2:2013/01/18(金) 01:49:16 ID:lgrLdyv.0
神崎蘭子、輿水幸子、星輝子と水本ゆかりさん予約します―

971 ◆44Kea75srM:2013/01/18(金) 17:14:37 ID:HIphGiP20
予約延長させていただきます。

972 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:25:11 ID:2LLUInvI0
改めて皆様投下乙です!

>wholeheartedly
メタ的な話になるけど、夕美ちゃん結構美味しい位置にいるなぁ…
ただ、夕美ちゃん個人の話になると…うーん、一人だと支える人も相談する人も居ないからなぁ
絶望のはけ口さえ無いというのは…誰か、誰か救いに行ける物はおらぬか!

>彼女たちが踏みとどまるイレブンスアワー
これは楓さん死んだか…?と、思ったら。等身大の女の子発揮したなー
このロワらしい、弱々しい部分が綺麗に表現されてて超可愛い!道明寺ちゃん可愛い!
あとはナンジョルノとナターリアがどうなるか……自分で書いててなんだけど、期待だなぁ

>希望 -Under Pressure-
これはロック!茜ちゃんマジロック!
そして藍子ちゃんも自分なりの希望を導き出して、なるほどー…と関心。
これは今後どうなっていくか期待できる…!

そして新しい予約……我らが輿水幸子様が危ない!

で、塩見周子、小日向美穂、北条加蓮、神谷奈緒を投下します。

973晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:26:19 ID:2LLUInvI0



<iDOL>



「いやー……やっぱ、生ものはダメだね。怖くて食えたものじゃないよ」
「そんな問題かなぁ……」

塩見周子と、小日向美穂。二人は肩を並べて歩いていた。
その内容は、とても此処が命が脅かされているはずの殺し合いの場だと思えないものだった。
彼女達がこの場所に来てもうすぐ六時間が経とうとしている。
それでも彼女達が冷静を保てているのは、単純に危機が無かったから……というよりも。

「魚市場ってさー、もっとこうお土産コーナーとかあるもんだと思ってたんだけどね。
 保存できそうなものが何一つ無いってのはびっくりだよ」

大体、塩見周子のおかげである。……せいで、とも言えるか。
彼女はこの場所においても自分を見失わず、一歩引いた視点で現状を把握する。
それは傍から見れば何とも無気力かつ不活発なように思えるが、実際はその逆。
彼女は生き残る為に、歳不相応な冷静さで現実を見つめているのだ。

彼女達は(主に周子が先導して)魚市場に行ったものの、あまり有用な食料が見つからなかった。
とはいえ、既に食料に関して言えば食べていたし、これ自体は急ぎの用事ではない。
急ぎの用事では無い、が。そもそもこの状況では逆に急ぐ用事が彼女達には無かった。
どちらかといえば、これから何処に行かうか…という方が問題だった。

「あの……ところ周子さん。今、どちらに向かっているんですか?」
「もー、さん付けはやめてって言ってるじゃん」

その疑問を投げかけたのは小日向美穂の方だった。
先程、急ぐ用事が無いとは書いたが、それでも二人は歩みを止めてはいない。
その理由……といっても、周子はただなんとなく歩いている。というだけであり、
強いて言っても『理由は特に無い』の一言で済む話だった。

「そうだなぁ………じゃあさ、次美穂ちゃんが決めてよ」
「……え?わ、私ですか!?」
「そーそー、道明寺ちゃん探すっていってもアテも無いし、
 いっそのこと美穂ちゃんの勘でさ、ビシッ、と決めたら案外見つかるんじゃない?」

彼女達の当面の目的は、小日向美穂の親友である道明寺歌鈴の捜索。
しかし、というかもちろんというか。そのアテは全く無い。
だから彼女達は特に理由も無くその辺を捜索していた。
……一応、周子なりの考えでいろんな施設を回ったわけなのだが、
それが良い成果に繋がっているのかは今の段階では分からない。

「び、びしっ、って言われても………」
「大丈夫、大丈夫。そんな気を張り詰めなくても、テキトーにやればいいよ。
 そこに居なかったら別のところ探せばいいわけだし。ほらほら、東西南北、どっち?」
「う、うぅ………わかりました、だったら……北、かな?」

974晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:28:29 ID:2LLUInvI0
そう遠慮がちに言う。
そもそも彼女達は南の町にいるので、島を探索するのなら結局北には向かうのだが。
実際、既に彼女達は北に向かって歩いている。

「えーと、北って言ったら……結局こっちじゃん。
 ま、いいけどねー。なんなら、この島縦断してみる?」
「じゅ、縦断……ですか?」
「そ。まー結局この島探索するんだったら結局北にいかないと始まらないよねー。
 ……なんだ、だったら聞く必要も無かったじゃん」

そういって、周子はけらけらと笑う。
彼女のその適当ともとれる態度は、実際に一つの支えになっていたのかもしれない。

「………確かに、そうですね」

だから、美穂もそれにつられて、にこりと笑う。
現状は何も変わらないが、彼女といる、ということは不思議な安心感があった。

「そーそー、そうやって肩の力抜いてかないと。
 適度に力抜いて、ゆっくり進んでいけば………ん?」

そうやって彼女がまた話をしようとした矢先、その言葉が途中で切れた。
美穂も彼女より数歩進んだ先で、周子が止まっている事に気づいて止まった。
彼女は町角の向こう側を覗いていた。何か、気になるものがあるかのように。

「周子さん?一体どうしたんですか?」
「……美穂ちゃん、次さん付けで呼んだら無視するからね」
「あっ……ご、ごめんなさい」
「………なんだろ、あれ……」

思わず謝るが、周子はそれを気にする様子は無い。
何か、向こう側の方に何かあるらしい。
小日向美穂は何気なく通った道ではない、そのもう片方の道。
何かあっただろうか。そういえばこの近くには役場があったような気がするけど。

気になり、声をかけようとした途端、




「……………―――――ッ!?」




彼女の顔が、一気に青ざめたような気がした。



「あの、何かあったんですか?」
「あっ、いや!別に…別に何もなかったよ!
 ごめんごめん、あたしの勘違いだったみたい。こんなところで時間くってる場合じゃないよね」
「えっ、で、でも……」
「ほらほらっ、早く!目指すは北、でしょ?」

そういって美穂の背中を押す。
その声や表情には焦りが見える。この場所では初めて見る姿だった。
――あきらかにおかしい、何かがあったのだろうか。
それは美穂にもよくわかっていたが、それを深く聞くはできなかった。
彼女は誰かが必死に隠そうとしていることを追求できるような性格ではない。
特に出会ったばかりの人で、今世話になっている人なら尚更だ。
だから彼女はそれを探る事はしなかった。

そうして彼女達は町を抜ける為、北へ向かう……。

975晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:30:08 ID:2LLUInvI0
(――危なかった。あんなの、美穂ちゃんに見せられないよね)

彼女は、美穂の背中を押しながらそう思っていた。
柄にも無く慌ててしまい、一時はどうなることかとも思った。
彼女がそこまでに平常心を失う『モノ』が、確かにそこにあったのだ。


それは死体だった。それも、絶望に染まった死体。
目は黒く濁り、血に塗れている。その体には無機質な物がおよそ三つも突き刺さっている。
とてもアイドルであるはずの少女とは思えない、変わり果てた姿だった。

そして、彼女はそれと目があった。
その姿は見たことがある。テレビでもそこそこ出ていたアイドルだ。
――若林智香、彼女はもう動くことは無かった。

(やっぱり実際に見るとキツいね……ホント、まいっちゃうよ……)

その元気な姿を知っている分、彼女が死んだ姿を見た時の衝撃は相当なものだった。
それを見て、いつもの飄々とした格好をとれるはずがない。
しかし、それを美穂に悟られるわけにはいかなかった。
――心配をかけさせるわけにはいかない。そんなのは、らしくない。

(やっぱり、のんきな事いってられないのかな。
 ……なんて言っても殺し合いとか、無理、だよね……)

あれこそが現実だ。
殺し合いに乗っている人がいて、実際に殺めた人がいる。
しかし、彼女はそれでもこのスタンスは変えない。否、変えられない。
殺し合いをしろと言われて、できるような性分では無い。
周子自身も、………そして、背中を押される小日向美穂も。

現実を直視した少女は、迷いながらも進んでいた。




    *    *    *



<Heroine>



「……誰も居ない店って、なんか不思議だね」
「………」

結局あの後、神谷奈緒が焦げた肉に気づいたのは北条加蓮に声をかけられてからだった。
そのせいで作り直しになり、バイトをしていた時より大幅に時間がかかってしまった。
持ってきた時には、「おそーい、そんなんじゃバイト失格だよ?」とからかわれてしまった程である。
そして珈琲を持っていった時は、まぁ想像通りの反応。
その光景だけを見ればまるで普通の日常、少なくとも平和な光景だった。
しかし、ここはそんな和やかな場所じゃない。彼女たちは、それをよく理解していた。

「普通さ、こういう所って賑やかだったし……奈緒?」
「………あぁ、悪い。何?」
「いや……対した事じゃないけどさ」

奈緒は相手の言葉に反応が遅れる。
彼女は傍目から見ても分かるように気落ちしている。


――分かってる。それは全て、私のせいだ。


加蓮はそう思い、俯く。
言うなれば、加蓮が奈緒の気持ちを踏みにじったようなものだ。
この決断は確かに、あまりにも残酷なものだろう。
しかし、加蓮は決してこの決断が間違っているとは考えない。
……この道しか無かった。これが彼女を救える唯一の道だった。

あれから加蓮は、ずっと彼女の前でいつもの自分になれるようにしてきた。
少しでも、奈緒の苦痛を減らすことができるように。
しかし、その効果は一向に見いだせない。ずっと彼女は苦悩している。
未だに彼女を支えられていない事に、加蓮は複雑な感情を抱いていた。


「………そういえばさ、加蓮」

そうしているうちに、ふと奈緒が口を開いた。

976晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:31:44 ID:2LLUInvI0
「えっ?な、何?」
「いや、大したことじゃないんだけど……
 えっと、それ。ハンバーガー。…食わないの?」
「あ……」

そう指差したのは、加蓮の前にあるダブルチーズバーガー。
それは、奈緒が持ってきてから一口分しか欠けていなかった。
だが確かに、それは大したことではない。奈緒自身も、ただふと気になっただけ。
加蓮が話しかけてくれるのを気にかけて、ただこちらからも話のタネを作ろうとした、それだけの事だった。

「…………」

しかし、彼女の手は動かない。
いざそれを意識してしまうと、なぜかそれに手が伸びない。
実際に、奈緒に頼んだ時には空腹だったはずなのに、今ではその意欲は無い。
お腹の底で何か渦巻いているような、そんな状態だった。

「……?どうしたんだ、加蓮……」

なんでもないよ、と。
そう言おうとした矢先の事だった。


『はーい、皆さん、お待たせしました! 第一回目の放送です!』


衝突に、それは始まった。

「……放送、か」
「………!」

その声を聞いた瞬間に、薄々感じていた何かが確固たるものとなった気がした。
先程までの良くも悪くも冷静になれていた自分とは違う感情。
心臓が高鳴る。目眩も起きる。嘔吐感さえ覚える。何故?

『……さて、ではお待ちかねの死者発表ですっ!』

その理由が、見えた気がした。
あの光景がフラッシュバックする。
奈緒を救う為に一生懸命だったあの時の、知らずのうちに目を逸らしていた光景が。
あの時の匂いが、音が、光景が。


『若林智香』


――アイドルだった、その顔が。


「加蓮……?」

友人の呼ぶ声が聞こえる。
しかし、今の彼女はそれ以上に、耐えられなかった。
無意識に口元を抑える。が、意識してしまった以上、もう止められない。

「奈緒………う……」
「大丈夫かよ、加蓮…何か、顔色が……」
「……ごめん、ちょっとトイレ……」

そう言って、加蓮は席を立ち、フラフラと向かっていった。

「加蓮………!」


その姿を、奈緒は放っておくことができなかった。
あの時、覚悟を決めた加蓮とは違う。
今にも消えてしまいそうなその姿が、非常に気にかかった。



その彼女の姿が、奈緒の心に眠る決意を揺れ動かす……



    *    *    *

977晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:32:44 ID:2LLUInvI0



<Contact>



「あの……周子…ちゃん。元気無いけど、やっぱり……」

あれから、めっきりと会話の数が減った。そう小日向美穂は感じていた。
常に話を切り出していた塩見周子の口数が減って、会話自体の数も激減している。
もちろん、彼女にはその心当たりはある。そして、彼女が見たその原因にも大方の想像がついていた。
ここは殺し合いの場だ。目を逸らしていたわけではないが、実感しているわけでもない。
おそらく、あの時周子はそれを理解してしまうような何かを見てしまったのだ。
そして今それを聞いたのは好奇心からではない。周子を心配したが故の発言だった。

「え……い、いや。だから何にも無かったんだって。
 元気が無いのは……ほら、ちょっと疲れちゃったし?」
「……そう」

そして、それを深く追求することはしない。
その周子自身が何も無いと言っているのだ。
たとえ傍目から見てそう思えなくとも、それを深く追求することはできなかった。

「ちょっと感覚麻痺してたところもあったけど、これ夜中からだったからさー。
 疲れもたまってくるんだよね。レッスンで鍛えてたつもりだったんだけど……。
 精神的な部分がちょっとキツいかも、なんて。美穂ちゃんは大丈夫?」
「は、はい。今のところは……」

そう言われてから、彼女はまるで取り繕うように言葉を連ねる。
こちらを心配させまいと、必死で普段の自分になろうとしている。
それを確かに実感していながらも、彼女がその事を何も語らないのなら、美穂も深くは聞かない。

そして、彼女がさらに話を続けようと口を開いたところで、


『はーい、皆さん、お待たせしました! 第一回目の放送です!』


それは、衝突に始まった。



「え………」
「…そーいえば、なんか放送あるとか言ってたっけ」

そう、それを理解するのに少しの時間を要したが、それは事前に伝えられていた事だ。
六時間毎に行われる放送。その内容は、禁止エリアの報告と、死んだアイドルの報告。

『……さて、ではお待ちかねの死者発表ですっ!』

その声は、それをとても軽い口調であっさりと言いのけた。
そして淡々と、名前を羅列する。もっと輝いていけるはずだった、アイドルの名前を。

「…………!」

二人はそれを静かに聞いた。というよりも、一言も声を発することができなかった。
この六時間で、15人。それだけのアイドルが死んだというのだ。
それを、さながら事務的に、何の感情も持たずにただ読み上げるだけだった。


『――――最期まで、生き延びて見せなさい』


そして、あっという間に放送は終わった。

978晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:33:48 ID:2LLUInvI0
「そんな………」
「………」

あまりにも多い。
自分の大切な人が死んでいないとはいえども、楽観視できるようなものではない。
それだけ、この場所が危険であるという事だ。理解はしていた筈でも、実感するのはほとんど無かった。

だが、それはあくまで小日向美穂の視点の話であって。


(美波ちゃん………)

新田美波。
同じプロデューサーの元、共に切磋琢磨したアイドルが死んだ。
それは、周子に大きな衝撃を与えた。

そして、その時脳裏に浮かんだのはあの時の光景。
一人のプロデューサーが見せしめに殺された時もそうだが、それ以外で見た死の光景。
彼女も、あんな風に殺されてしまったというのか。
あの、純真で笑顔の輝くアイドルであった少女が。


「……周子ちゃん」
「んー?」
「大丈夫?何だか、顔色が…」
「顔が白いのは元からだよ。だいじょーぶ」

それでも、美穂の前ではいつもの調子で返す。
美穂相手だから、というわけではない。誰の前であろうとも、塩見周子は弱音は吐かない。

「こんな危険な場所なら、早く道明寺ちゃん探さないと。そうでしょ?」

それが、塩見周子というアイドルだから。
強がりなんかではなく、それこそが塩見周子というアイドルとしての在り方。
所謂、塩見周子の信念だった。


「……でも、やっぱり一度どこかで休んだ方が…」
「まー…確かにショッキングだったもんねー。
 いいよ、じゃあそこの店で少し休もっか」

そう言って指をさしたのが目の前にあったファーストフード店。
休む、というには少し不相応な場所ではあるが、別に不便があるというわけではない。
特に深く休むわけではないのだから、少し座れる場所ならどこでも良かった。
ただ赤と黄色の看板が目立ったからそこを指差した。

「んー、ポテトとか食べたいかも…、
 でも作ってくれる人居ないよねー。ま、別にいいんだけど」

そう誰に話すでも無く喋る周子は、店の中へと向かっていった。
小日向美穂もそれに続く。自動ドアはあっさり開いた。
中は、大方想像通り、少なくとも目に見えた範囲では誰も居ないようだった。

「んー、やっぱり人っ子一人居ない。寂しいねー」

まだ夜が明けたばかりの店は、独特な神秘感さえ漂わせる。
所々入る光に宙に浮く埃が反射して、何とも言えない美しさがあった。
そして、その神秘感をより際立たせているのはやはり人が居ないことだろう。
誰も居ない店というのは、本来ある騒がしさが無くなって何とも空虚な気持ちにさせた。

「…周子ちゃん、あれ……」

だが、その中で美穂はその中で何かを発見する。
それはハンバーガーや紙袋といった、それ自体は別にあっても不思議ではないもの。
しかし、誰も居ないはずのこの場所でそれがあるのは、少なからず違和感があった。

「……あれ、食べかけのご飯じゃん。誰か、居たって事?」
「あんまり時間が経ってないみたいですけど…」

美穂はハンバーガーのパンズを触り、そう応える。
放っておいたパンというのは少なからず固くなるものである。
それがまだふわふわであると言う事は、まだ時間が経っていないという証拠であった。

「んー…もしかしてまだ店内に居たりするのかなぁ…」
「え……?」

その言葉に美穂はぴくりと反応する。
未だに二人はお互い以外とこの場所で会っていない。
故に、先程の放送で殺し合いが進んでいる事は知っていても、
どんな人物がどういう思想を持っているのかについては、未知数であった。
そんな未知の恐怖がまだこの場所に居るかもしれない。
二人の間に、ひいては店内の空気も張り詰める。

979晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:37:46 ID:2LLUInvI0
「……うーん、ちょっと怖いなー。これは別の所にいった方が良いかもね」
「はい……私も、そう思います」

沈黙を破り、周子はそう提案した。美穂もそれに反論せず、すぐに肯定する。
一度根付いたイメージはそう易々とは覆らない。
先程は神秘的とも思えたこの空間も、今では気持ちの悪い恐ろしさが支配している。
今更このような場所で休憩する気にもなれない。二人は場所を変える事に決めた。




「………ッ!危ないっ!」
「え………」




だが、それを遮るように、突然凶刃が襲いかかる。




「…………ッ!」

刃は、間一髪の所で外れた。
そのギリギリの所で、周子が美穂を自分の方向へ引っ張ったのだ。
斬ろうとしてきた相手は、まっすぐにこちらへ目を向ける。
その目には一種の狂気が宿っていた。
先程の行動、その表情、彼女が殺し合いに乗っていると判断するには十分な材料だった。

「なんなの、いきなり…!」

負けじと周子も睨みつける。
目の前の相手は確実にこちらを殺すつもりできている。
そもそも他の参加者と接触する事が無かった二人にとっては、それは初めての死への恐怖だった。
それでも、ここで怯むわけにはいかない。それはすなわち、死へ直結するからだ。

先に動いたのは相手の方だった。
小さな斧を不器用に、しかし素早く振る。

「うわっ!?」

それも、間一髪で避ける。
さっきのも、そして今回の攻撃を避けれたのも偶然の部分が大きい。
このままの状態を維持すれば、そのうち凶刃に倒れる事は明白だった。

「……美穂ちゃんっ!逃げるよ!」
「は、はいっ!」

後ろで呆気にとられていた美穂に声を掛け、この場から逃げ出そうとする。
難しい事ではない。踵を返して全速力で逃げれば、すぐにこの店から脱出することができる。
手を広げ美穂を庇い、逃げるまで少しの時間稼ぎをしようとする。

「……無駄だよ」

しかし、相手は斧を振らなかった。
その代わりに届いたのは、たった一言の言葉。

「………?」

周子は、その言葉の意味が分からなかった。
何が無駄だというのか。単純に考えれば、逃げる事に対してだろう。
しかし、ここから逃亡することは先程の通りそう難しい事ではない。
しかし周子には、どうしてもその言葉に対しての疑問が消えなかった。
何より、相手の雰囲気ががらり変わっていた。狂気のようなものが消え、一種の後悔のようなものさえ見えた。
それはまるで、その言葉を自分自身に言っているように――



「…………え?」



その思考は、衝撃により赤く塗り潰された。




    *    *    *



<Confession>



時は、周子と美穂が店に入る前まで遡る。

「………はっ……はあっ……!」
「……加蓮……」

大方想像がついていた光景だ。
だが、実際に見てみれば、それはとても強烈なものだった。

980晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:38:58 ID:2LLUInvI0
ファーストフード店の一角、お手洗いの中で奈緒は加蓮の背中をさする。
これからどうするであれ、目の前で苦しむ親友を放っておくわけにはいかない。

北条加蓮は、その重圧に押しつぶされてしまった。
人を殺したという罪を背負うという事を、改めて理解してしまったのだ。
そう、いかに普通に振舞っていたとしても、加蓮は普通の少女だ。
奈緒の、そして凛やプロデューサー為に殺し合いに参加するという事が、どれだけ辛い事なのか。
それは十分わかっていたはずだ。ただ、それから目を逸らしていただけ。
……今こそ、奈緒は自分がしなければいけない事がわかった気がした。
親友の為に、神谷奈緒がしなければいけない事を。

「加蓮、大丈夫か……?」
「……うん。ごめんね、迷惑かけないようにって、思ってたんだけど……」

そう、彼女は弱々しく笑う。
それは正に、すぐにでも散ってしまいそうな儚いものだった。
……やはり、このままではいけない。彼女を、これ以上汚してはならない。

「…………なぁ、加蓮」
「………何?」

それをきっと、彼女は認めはしないだろう。
しかし、決して譲るわけにはいかない。ここで止めないと、もう歯止めが効かなくなる。


「あいつを……あのアイドルを殺したのは、あたしだ」

はっきりと目を見て話す。自分の決断を伝えなくてはいけない。

「え………」
「あたしが殺したんだ、加蓮は何もしていない……!」

そう、致命傷を与えたのは神谷奈緒だ。
止めを刺したのは確かに北条加蓮だろう。しかし、あの場所に来なければ、それも奈緒の役目だったのだ。

「奈緒……何を言ってるの……?」
「無茶なお願いなのは分かってる。でも、あたしは…加蓮に傷ついてほしくない。
 あたしが、全部背負うから…。あたしが、他の全員を殺すから……!」

拳を強く握る。
本当に、自分勝手だと思う。
加蓮は奈緒の事を思って、その道に踏み込んだのだ。
それを、その決意を無駄にさせるような行為を今からする。
それでも、今こうすることが、加蓮にとって一番良い事のはずなのだと、自分を奮い立たせる――



「もう、あたしの事は忘れてくれ……後はあたしが、全てやるから」



――そうだよな?凛………。



「………奈緒」

加蓮の返答とほぼ同時、という所で、自動ドアの開く音が聞こえた。

「誰か、来たみたいだな……」

お手洗いの出入り口からそっと店内を覗くと、確かに二人の少女が入ってきている。
何やら変な格好はしているが、その姿は見たことがある。共にアイドルとして輝く二人であった。
共にまだこちらにはまだ気づいていないようで、ならばこれは大きなチャンスである。
それはつまり、相手を殺すチャンス。ひいては、改めて覚悟を決めるチャンスでもある。

981晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:42:02 ID:2LLUInvI0
「加蓮…ここで、お別れみたいだな」
「……っ!」

これこそが、本来神谷奈緒がしなければならない事だったんだと、そう思った。
たとえ自分がどれだけ犠牲になろうとも、大切な人たちを守ってみせる。
それこそが今……否、この場所にきて一番最初に決意したことであった。

……もしも、もしもこれが凛だったなら、もっと上手くできていたのかもしれない。
だが、もう既に手を汚し、そしてこれからも汚してゆくであろう奈緒には、これが限界だった。


「……嫌」


加蓮はその言葉に対しぽつりと、しかし力強く言う。
それは否定の言葉。奈緒の決意に対し異を唱える言葉だった。
そう言うことは分かっていた。彼女が、すぐには納得しないことは覚悟していた。
それでも、彼女とは道を分かたなくてはいけない。それこそが、加蓮の為になる筈なのだから。


「……加蓮?」


しかし振り返ってみれば、その姿は想像していたものとは違っていた。

「……私は、奈緒が傷つく姿なんて見たくない」

俯き、震えている姿は、涙をこらえているようにも見える。
いや、声を聞けば、それは確かに涙声だった。
意外だった。いつもの加蓮ならば、強い意思を凛として貫き通すと、そう思っていたのに。
……その姿は、自身の弱さを隠さずにただ願う子供のようだった。

「でもっ、それ以上に奈緒が居なくなる事が嫌なの…!
 奈緒が私たちの為に、知らない場所で死んでいくのが嫌なの…!
 もう離れたくないっ、私、考えて…やっと一緒にいられたのに……っ、
 私、もう迷惑かけないから……だから、置いていかないで……!」

思いのまま、感情をぶつける。
その姿は、今までの中で初めて見たものだった。

加蓮の悲痛な決意は、それ自体が加蓮の行動意義だった。
人殺しという悲痛な道であろうとも、奈緒と一緒にいられる事が、彼女にとっての一つの支えにもなっていた。
それを失ってしまえば、この場所で彼女は路頭に迷う事になる。この、殺し合いが行われる危険な場所で。

「………っ!」

なら、奈緒の押し付けていることはエゴではないのか。
こんな殺し合う場所という異常な空間で、潔白なままでいてほしいと思う事に何の意味があろうか。
既に散々悩んだ筈の問いにまた戻される。本当の加蓮の幸せとは何なのか。その答えがまた霧に消えた。
……だが、単純明快な答えが一つだけある。ずっと認められなかった、その答え。

『……これは別の所にいった方が良いかもね』

向こうの方の、話し合いの一部が聞こえた。
この場所を離れようという提案。あと少しもしないうちに、彼女達は場所を移してしまうだろう。
ここで自分の覚悟を決めておきたい。しかし、加蓮への説得は済んでいない。
何より、奈緒は今になって揺れていた。自分の意思は、本当に正しいのか。
もう時間は無い。一体何が加蓮の為になるのか?
突き放す事?共にいく事?
答えはすぐには出ない。それでも時は待ってくれない。
ただ、純粋に願う加蓮の目を見て、無意識のうちに……



「……分かった」


なんだか、そんな事を言っていたような気がする。



    *    *    *



<Live>



それは、全てが突然の事だった。

982晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:43:01 ID:2LLUInvI0
気づいた時には、自分の胸に何かが突き刺さっていた。
おそらく、というよりも確実に、それは後ろで何かを構えている少女によるものだろう。
その何かには見覚えがある。それは、あの時見た死体に刺さっていたものと同じだった。

(あー……あれ、この人達がやったんだ……)

こんな状況でも、彼女は冷静だった。
というよりも、この現実を受け入れられない…と言ったほうが正しいのかもしれない。
生き残らなくてはいけない。しかし、目の前に広がる光景は、自分に生を感じさせない。
こんな状況で、果たして助かるのだろうか。

「ごほっ……ぅ……」

足元がふらつき、口から血が吐き出される。
目の前には、トマホークを構えなおす少女の姿。
これだけの状況を見れば、生存できる可能性はほぼ絶望的。
冷静に判断して、現実を直視した。おそらくもう、助からないだろう。

…もしあそこで、先を急いでここに立ち寄らなければ。
そんなもしもの話は無駄だという事は、周子自身が良く知っていた。

(限界まで見極めた結果が、これか……。
 なんか、意外とあっけないなー……ごめんね、――さん)

その目はまっすぐ、精一杯に相手を睨みつける。
もちろん、死にたくはない。
もうプロデューサーに会えなくなってしまうのは、泣いてしまいそうなほどに、寂しい。
だけど、結局そんなのはらしくない。
最期まで取り繕うのは無駄かもしれないけど、ある意味、それも一つのこの世界への抵抗だ。


ただ、それでも、ただ一つだけ、彼女には気になる事がある。



《嫌……嫌……!》

それは、この悪夢が始まって、すぐのことだった。
道端でうずくまり、震えている少女が居た。
もしも周子が殺し合いに乗っていたなら、その無防備な背中をいくらでも狙えただろう。
それほどまでに、最初に出会った彼女は、恐怖していたのだ。
……それほど、彼女は弱かった。

《なーにやってんの?こんな所で》
《ひっ……こ、来ないで……!》
《そんな怯えないでよ……何もしないってば》

生き残る為なら、ただ震える少女は邪魔だったかもしれない。
だが、流石にあんな場所で無視をするほど血も涙も無い性格では無い。何より――


《殺し合いなんて、やんなーい。だるいでしょ》


ゆっくりと、後ろを振り向く。
そこには、あの時と同じように震える少女の姿があった。
当の本人より絶望に染まった顔をして、涙を浮かべていた。

周子がいつもの自分でいられたのに理由があるとするのならば、きっとそれは彼女のおかげだ。
本当は弱い、年相応の自分を隠せたのも、彼女という存在がいつも見ていたからだろう。
結局、たった六時間しか話せなかったけど、それでも彼女の事は放っておけない。


――んー…やっぱり、興味あるよね、あたし。
というか、放っておけない感じ?まぁ、どっちでもいっか。


「………逃げ、なよ」
「え……?」

気がつけば、周子は美穂に声をかけていた。
目の前の相手は未だに切りつけて来る様子は無い。
とはいえ、呼吸を整えれは、すぐにでも襲いかかってくることだろう。
すぐ横には武器を構え狙っている少女も居る。
時間は無い。その間に、せめて彼女だけでも。

983晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:44:05 ID:2LLUInvI0
「ここで、美穂ちゃんまで、死んだら、それこそ、無駄…じゃん。
 早く、行ってよ……もうそろそろ、厳し……」
「で、でもっ、周子ちゃんは……!」

彼女は躊躇する。
なんとなく分かっていた事だ。彼女の性格なら、すぐに見捨てるなんてことはしないだろう。
だが、それで誰かが助かるわけでは無い。そんな事で、何かが救えるわけでは無い。


「………!?」

気がついた時には、美穂の背中を押していた。
それは、今まで何度もしてきた事。そしておそらく最期になるだろう行動だった。
自動ドアが開く。美穂は涙を目一杯に浮かべてこちらを見る。
おそらく、あの少女も武器を構えている筈だろう。美穂の体へ向けて。

だけど、撃たせやしない。周子の心は固まっていた。
最期の最期、精一杯の反抗をしてやる。


「走って……早くっ!」
「あ…………っ!」

その声に押されて、彼女は走りゆく。
たどたどしくも、振り向かないで走り去る。

「行かせない!」

その後ろから、銃のようなものを構えた少女が追おうとする。
彼女も、今をときめくアイドルだったはずだ。
それが今では、同じアイドルを殺さんと向かってくる。


――それは、こっちのセリフ!


頭の中で思っても、それが口に出ることは無い。
しかし、その意思は確かに行動として表に出る。

「あう……っ!」
「加蓮っ!」

体重に任せて無理矢理押し倒す。その衝撃で相手は得物を落とした。
周子は体には特に自信があるわけではないが、これくらいならどうにでもなる。
だが、これはただの足止めであり、何か策があるわけでは無い。
どちらにしろ、周子自身の運命が変わるわけでは無い。
事実、もう一人の相手が後ろから振りかぶり――



「が……―――っ」



赤い世界が、さらに赤く塗り潰される。

背中が、焼けるように熱い。

世界が、消えて無くなってゆく。



――あ、もう死ぬかな、これ。


その瞬間は、意外と穏やかな気持ちだった。

痛みを感じる神経は振り切れ、後は意識を手放すだけ。
致命傷だと思ったのか、これ以上の追撃が来る様子は無い。
とにかく、もう邪魔は入らないようだった。

死ぬまでの時間は意外と長かった。
その間に、走馬灯のようにいろんな考えが巡った。
時間稼ぎになれただろうか。彼女はちゃんと逃げてくれただろうか。

そういえば、と。

死ぬ間際の走馬灯で見えた、同じプロデューサーの元集まったアイドルの事を思い出していた。
新田美波ともう一人、藤原肇の事だ。
一言でいえば、クソ真面目な性格。本人の前でも言ったことがある。
そんな彼女はこの殺し合いでどうするのか。

決まっている。アイドルとして反抗するのだろう。

彼女のあまりの堅物ぶりには呆れる反面、尊敬している部分もあった。
それは絶対に周子自身では出せない魅力だったから。その真面目さは本当に信頼できる理由になった。
だから、安心できる。絶対に彼女が道を外す事は無い。
周りに流されないあの子なら、美波が死んでも、自分が死んでも、
例え、どれだけ辛い事があったとしても――



(きっと、あたしが出来なかった事、やってくれるよね)

984晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:44:46 ID:2LLUInvI0



意識が、遠くへ飛んで逝く。


生き残って、美穂ちゃん。

成し遂げて、肇ちゃん。


…ごめんね、――さん。



    *    *    *



<fine…>



「ごめん、奈緒。一人逃した」

そう彼女は申し訳なさそうに俯く。
その横では、血濡れになって倒れた少女が居る。
それを手にかけたのは、紛れもなく――奈緒自身だった。

「あぁ……」

初めて、人を殺した。これが人を殺すということか。
単純に傷つける事とは違う、相手の人生を理不尽に終わらせる。
この罪は重い。とても一人では背負えないほどに。
もしも加蓮が居なかったら、結局潰れていたのだろうと思えるほどに。

「………奈緒」

その彼女が心配そうに声をかける。
彼女も、奈緒の為に、奈緒を助ける為に人を殺した。
その道に進んでしまったのだって元を辿れば奈緒が元凶であるだろう。
しかし、それでも彼女は後悔していない。その意思は既に確認した。

「なぁ、加蓮」
「………」
「服、汚れちゃったからさ、どっかで着替えるか。
 そしたら……二人で、他の奴らを殺しに行こう」
「………!」

彼女の顔がぱぁっと明るくなる。
何故、彼女は嬉しそうなのだろう。
これからまた、人を殺すというのに。重い罪を、いくつも重ねてゆくというのに。

――違う。彼女は人を殺す事を喜んでいるのではない。
一緒にいられる事に、共にいられる事に喜んでいるのだ。
例えどれだけ人としての道から踏み外しても、どれだけ暗い闇の中でも、
友人と共にいられる…という事は、何よりも救いであった。


(ごめん、凛……でも、もうあたしたちには、これしかないんだ……)



    *    *   *



雨は、降らなかった。



雲は晴れた。これからはきっと青い空が広がるのだろう。
しかし、必ずしも『晴れ』が良いものとは限らない。
彼女の心は砂漠のようだった。その上で、じりじりと太陽が照りつけている。
それは確実に、その心を蝕んでいく。



雨は、降らなかった。




【塩見周子 死亡】

985晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:47:04 ID:2LLUInvI0




【F-4/一日目 朝】

【北条加蓮】
【装備:ピストルクロスボウ】
【所持品:基本支給品一式×1、専用矢(残り21本)、不明支給品0〜1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。
1:とりあえず服を探す
2:奈緒と一緒に、凛と奈緒以外の参加者を殺していく
3:凛には、もう会いたくない。
4:愛梨と藍子はどうしているか興味

【神谷奈緒】
【装備:軍用トマホーク】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0〜1(武器ではない)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:加蓮と共に殺し合いに参加する
1:とりあえず服を探す
2:凛と加蓮以外の参加者の数を減らしていく
3:これで、良かったんだよな…

【小日向美穂】
【装備:防護メット、防刃ベスト】
【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌、毒薬の小瓶】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいにはのらない。皆で幸せになる方法を考える?
1:とにかく逃げる、その後は……?

986晴れ ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:49:08 ID:2LLUInvI0
投下終了です
多分今まで書いた中で一番長い上ギリギリだったんで、ちょっと文的におかしいところがあるかも
ご指摘、感想よろしくお願いします。

987 ◆j1Wv59wPk2:2013/01/18(金) 23:58:57 ID:2LLUInvI0
おっと、状態表一部変更します
【北条加蓮】 の
 【所持品:基本支給品一式×1、専用矢(残り21本)、不明支給品0〜1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×11】
を【所持品:基本支給品一式×1、専用矢(残り20本)、不明支給品0〜1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×11】
に変更します。

988 ◆ltfNIi9/wg:2013/01/19(土) 06:31:43 ID:i4E6vWDM0
時間ができたので、ナターリア、南条光、再予約させていただきます。

……しかしやべえな、これは
俺が忙し忙ししているうちに溜まってたSSがどれも凄すぎて感想書くだけでも楽しそうです

989 ◆John.ZZqWo:2013/01/19(土) 07:36:04 ID:/ubzBtm60
>>晴れ
投下乙です!
うわあぁ……しおみんが死んじゃったぁ……。胸に矢が刺さって、背中を斧で打たれて……。なおかれマーダーコンビ怖い。
でもそのなおかれのぶり返す殺害の実感から気持ち悪くなったり、でも二人でいることだけはやめたくないから再度決心しちゃうところはすごく胸にくる。
どう考えてもその先に幸せはないと思うのだけど、もう諦めているからこそ二人は死ぬまで離れないのかな。


では、私も投下させていただきます。

990彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ  ◆John.ZZqWo:2013/01/19(土) 07:36:48 ID:/ubzBtm60
――ピ♪

「…………あれ?」

その拾った情報端末に表示された名前は、私が予想していたのとは全然違って、“城ヶ崎美嘉”ちゃんのものでした。






 @

991彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ  ◆John.ZZqWo:2013/01/19(土) 07:37:10 ID:/ubzBtm60
ふんふんふーん♪と鼻歌交じり。こんな時でもキッチンに立つとこんな気持ちになるんだって、これじゃ呆れられてしまうかもですね。
でもちゃんと“もう一人”殺したんだからこれは自分へのご褒美。
それにスペシャルトレーナーさんも度々細かく補給と休息を取れって言ってました。
この島は戦場ではあるけどほぼ自由に補給ができる場所でもあるからそこは我慢しなくてもいいって。
ああでも、我慢はするなって言ってもお前はそう言うと食べ過ぎるから普段よりかは我慢したほうがいいかもなとも言われちゃいましたけど。

支給品として私の鞄に入っていた食料は蜂蜜の瓶でした。
甘いものは好きだし、蜂蜜はカロリーも栄養もあるんだろうけど、これはあのぐーたらな黄色いクマさんを思い出しちゃって、
スペシャルトレーナーさんからの釘刺しなのかなって思ったり。
それはともかく、さすがの私でもこれだけじゃあ食事にはならないので今からこのキッチンで朝食を作ります。

材料は食パンと卵。それに牛乳と砂糖、マーガリン、せっかくの蜂蜜にバニラエッセンス。
この“彼女”を追って入った民家でバニラエッセンスを見つけられたのはラッキーです。この家の人もお菓子作りが趣味だったのかな?

まずはちょっと深めのトレーの上に落とした卵をよく溶いて、そこに砂糖と牛乳、バニラエッセンスを入れて少しかきまぜます。
できたら、耳を落として四つにカットした食パンを溶いた卵の中に漬けます。
これでもうなにを作ってるかわかっちゃいましたよね。そう、フレンチトーストです。お手軽なんで普段もよく朝はこれだったりするんですよ。

漬けている間にもう一品作ります。
お菓子はどうしてもちょうどで作ることは難しいんですけど、私はできるだけ材料を余らさないよう心がけています。
それで余った材料を食べてまた太ってるんだろう? って言われちゃうと、えへへとごまかすしかないんですけど、もったいないですよね?
もう一品ですけど、さっき切り落としたパンの耳をぶつ切りにして、これから簡単ラスクを作っちゃいます。

と、その前に卵に漬けていたパンを裏返して……っと。

えーと、はい、フライパンを弱火で温めますね。
で、そこにマーガリンを落として、溶けてきたら砂糖を足します。砂糖は入れすぎちゃうと難しいんですけどそれでも大目で。
砂糖も溶けてきたらフライパンの隅まで広げてさっきぶつ切りにしたパンの耳を入れます。
後は溶けた砂糖を絡めながらパンの耳がカリカリになるまで焼くだけ。ね、簡単でしょう? ラスクとは違う? んー、そうかも。

とりあえず簡単ラスクはできたんで、それは皿に移してこのままフレンチトーストも焼いちゃいます。
焦げちゃわないかって? んー、そこは私の腕の見せどころですね。
火を一番弱くして卵につけていたパンをフライパンに並べます。さっきの砂糖が残ってるんで慎重に、慎重に……。

そろそろ焼き色がついたかな? って思ったらパンを裏返します……って、あちゃー。けっこう黒くなっちゃった。
家とは火加減の勝手が違うのかなぁ……うーん。普段はこんな失敗はしないんだけどなぁ……。
あ、でも、ちょっと焦げただけですから、味は変わらないっていうか、むしろカラメルフレーバーっていうか、中はふかふかのはずだし……うん。

さて、焼きあがる前に飲み物を用意しないと。ここでぐずぐずしてたらフレンチトーストが真っ黒になっちゃう。
小鍋で牛乳を温めて……ホットミルクです。ふふ、簡単ですよね。少し砂糖を入れて、バニラエッセンスもちょっとだけ。

フレンチトーストが焼きあがったらこれもお皿に移して、しあげに蜂蜜をたらせば完成。(スペシャルトレーナーさん蜂蜜ありがとう)
ほんとはホイップクリームもつけたかったんだけど、手で作るのは疲れるし、機械を使うとうるさくなるしなので今回は我慢。

992彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ  ◆John.ZZqWo:2013/01/19(土) 07:37:29 ID:/ubzBtm60
 @


……――ううん、なんだろうこの匂い。甘い……、また莉嘉が台所でなにかやってるのかな……?
お菓子を作るのはいいし、それを食べさせてくれるのはいいんだけどさ。たまに失敗してもそれでもおいしいしね。
でも、後片付けもちゃんとしなさいよね。アタシも食べたからって連帯責任で怒られるのだけは毎回納得がいかないんだから。

ああ……、今日仕事あったかな。どうしてだろう、起きられないや。メールだけでもチェックしとかないといけないのに。

でも、なにかあったら莉嘉が起こしてくれるよね。たまには妹が姉を起こしてもいい。いつも心配かけさせてるんだからさ。
今日だって……今日だって、なんだっけ……? ああ、駄目だ。頭が働かないや。アタシどうしたんだっけ……?


まぁいいや。


おやすみ、莉嘉。


ごめんね。






 @

993彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ  ◆John.ZZqWo:2013/01/19(土) 07:38:04 ID:/ubzBtm60
「ごちそうさまでした」

うん、ちょっと失敗しちゃったけどおいしかった。
フレンチトーストは噛むとバニラの香りがしてふかふかだし、簡単ラスクは甘くてカリカリだったし。

スペシャルトレーナーさんが用意してくれた蜂蜜はどこのものなんだろう? ラベルが全部英語でわからないけど、外国のものなのかな。
この少し変わった風味。この蜂蜜で一度ケーキを焼いてみたいなぁ。
なんて……でも、さすがにそんな時間はないですよね。

食器を片付けたら休憩はおしまい。気分を切り替えてお仕事をはじめよう。
まずは美嘉ちゃんに刺しておいたカットラスを彼女の身体からゆっくり抜き取ります。
刃物を使う時は刺した時よりも抜く時の返り血に注意しろってスペシャルトレーナーさんからは注意されました。
人間が水の詰まった袋だと想像すれば刃物を刺す時と抜く時、どっちがいっぱい血が出てくるか簡単にわかりますよね。
なのでいつでも抜く時は慎重に。
そして刺したまま時間を置いたのは血圧が下がるのを待ったからです。こんな時でないと時間は取れないけど、これも教わったことなんで。

美嘉ちゃんのことなんですけど、三船さんと会った後に拾った荷物の中に彼女の情報端末が入っていました。
入っていた……というよりはあの荷物は美嘉ちゃんのものだったんでしょうね。
そして三船さんの荷物は美嘉ちゃんが寝ている傍に置いてありました。
ということは、妹の莉嘉ちゃんが死んだと聞いて悲しんでいた美嘉ちゃんを三船さんがここに保護して、荷物を取りに戻ったというのが正解かな。
さっきは気がおかしくなったのかもと思っちゃったけど本当におかしくなったのは美嘉ちゃんで三船さんはそうじゃなかったのかも。

でも、それも今となってはどうでもいいことです。二人とも死んでしまったのだから。私が殺してしまったのだから。

抜いたカットラスで美嘉ちゃんの“アイドル”をいただいてキッチンに戻ります。
第1に病院へと向かった私ですけど、それは応急手当用の医療品を得る目的もありましたが、一番は“石鹸”を確保するためでした。
血液汚れ専用のアルカリ性石鹸です。
不信感を与えてしまう返り血も落とさないといけないし、なにより刃物に限らず武器についた血は絶対落とさないといけないんです。
凝固した血は刃物の切れ味を落とし、もし銃にかかれば動作不良の原因になってしまう――とスペシャルトレーナーさんから耳にたこだったので。

「んー……冷たい」

石鹸とスポンジを使ってもう真っ赤になっているカットラスから血を落としていきます。お湯は使えないので冷水で。
血液汚れにお湯はNGってのは常識ですよね。水道水が冷たいですけど我慢です。

「ふぅ」

さてと洗い終えたけど、どこも刃こぼれしていないようで一安心。包丁もそうですけど、意外と消耗品なんですよね刃物って。
きっちり水気をふき取って、ここまでに集まった荷物を見ながらこれからの方針を練ります。

メインウェポンの機関銃(M16A2)。サブウェポンの拳銃(カーアームズK9)。
唯ちゃんからもらったカットラスとストロベリー・ボム11個。
美嘉ちゃんの荷物の中にあった回転式拳銃(コルトAAA)と発煙手榴弾。
三船さんの荷物の中にあったエナジードリンク10本に、病院で調達した医療品セット。

うーん、どう考えても荷物としては多すぎ。
かといって放りっぱなしにするのはいけないし、やっぱりどこかに自分だけの拠点を持たないといけないかな。
この後、きっちりと休む必要も出てくるだろうし、安全を確保できる場所はどうしても必要。

994彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ  ◆John.ZZqWo:2013/01/19(土) 07:38:29 ID:/ubzBtm60
「えーと……」

地図を広げて考えてみる。
他の人からは見つかりづらくて、戻ってきた時自分からはすぐにわかる場所。できれば荷物をしまう金庫のようなものがあるといいと思う。
コインロッカーかな? だとすると、この島に駅はないから…………、遊園地とか、遠いけど飛行場やカジノにもきっとあるよね。
警察署にもなにか倉庫はありそう。学校や病院にもロッカーは絶対あるし、病院だと休む場所には困らないかな。

「でもそれだとホテルが一番……でも遠いし端っこだなぁ」

いや端っこのほうがもう誰も戻ってこないからいいのかな。
あ、だったら温泉でもいいかなぁ。わざわざ山を登るって人はそういないだろうし、まだここの温泉に入ったことないし。
でも山登りは私もいやだなぁ……。

「温泉か、ホテルか……迷うな」

荷物を持って長くは移動したくないけど、山登りは疲れそうだし……うーん。


 @


「ふぁ……食べたら少し眠くなっちゃった。食べすぎたのかな」

でも、今はまだ寝てもいいタイミングじゃないからがんばらないと。
荷物にもなるし三船さんの持ってたエナジードリンクはここで何本か飲んじゃおう。

「…………んくんく、ぷはぁ」

うん、ばっちり目覚めました。
このエナジードリンクいつもプロデューサーさんが飲ましてくれるのと一緒だけど、コンビニで売ってるのとは全然違うなぁ。
あんまり飲みすぎるなよって言われてたけど、高いものなのかな? ……まぁいいか、少なくとも今はタダだし。

「じゃあ出発しよう」

膨らんだ鞄を背負って立ち上がる。窓の外の太陽はもうけっこう登っていて空気をほかほかと温めていた。

「絶対に助けますからね」

絶対にです。






【城ヶ崎美嘉 死亡】

【G-3 住宅地/一日目 朝】

【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り)
     M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11
     コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1)
     医療品セット、エナジードリンクx5本】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。
1:温泉あるいはホテルに向かい、そこを拠点とし余分な荷物を預け、場合によってはまとまった休息を取る。

※三船美優と城ヶ崎美嘉の鞄と基本支給品一式は、城ヶ崎美嘉の遺体がある民家の中に残されたままです。

995 ◆John.ZZqWo:2013/01/19(土) 07:39:03 ID:/ubzBtm60
以上、投下終了です。

996名無しさん:2013/01/19(土) 09:38:13 ID:8Chpybn60
投下乙ですー

うわぁ…姉ヶ崎さんあっさり死んだか…
まぁあの状況下で生き残れって言う方が無理だよなぁ、現実は非情
そしてかな子…だんだんと慣れてきているっていうか、壊れてきてるっていうか…
さすがSJは格が違った

そしてそろそろこのスレも埋まるなー
とりあえずここまでの、書き手の皆様方乙です!

997名無しさん:2013/01/19(土) 21:49:25 ID:rM6UN6f.O
あぁ、端末で自分の場所バレちゃうんだっけ。

998名無しさん:2013/01/20(日) 01:30:18 ID:FITcm6aE0
次スレ誘導〜
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12648/1358612803/

999 ◆44Kea75srM:2013/01/20(日) 07:42:08 ID:M06MM./c0
投下乙です!

>晴れ
奈緒と加蓮の関係がすごくいいなー。お互いを守らなきゃって気持ちが支え合って、すごく必死にマーダーやってる。
加蓮がたまらず吐いちゃって、奈緒が背中をさすってあげるところとかすごくいい。マーダーなのにすごく応援したい。
そんな等身大の『弱さ』を見せつけながら、がんばってしおみーの背中を斧でドーン!…………怖いわ!w

>彼女たちは悪夢の中のトゥエルブモンキーズ
しょっぱなから事後だったー!?(ガーン えっと、ああ、クッキング楽しそうですね……スイーツ。
いやーそれにしてもかな子が怖い。合間に美嘉さんのシーンが挟まれたかと思ったらその後のセリフが『ごちそうさま』とかさあ。
やることやった後はもう先のこと見据えてるしー! 訓練されたジョーカーの実力を思い知らされた感じです。

1000 ◆44Kea75srM:2013/01/20(日) 07:42:25 ID:M06MM./c0
さて、こちらも投下します。
新スレが立っているようなのでそちらに。

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