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Perfect World Battle Royal
1 ◆LjiZJZbziM:2012/05/29(火) 01:06:59 ID:nuMJ8YBA0





新たなる器の完成をもって、人は次の階段を上るのだ。





【まとめwiki】ttp://w.livedoor.jp/pwbr/
【基本ルール】ttp://w.livedoor.jp/pwbr/d/%b4%f0%cb%dc%a5%eb%a1%bc%a5%eb
【参加者名簿】ttp://w.livedoor.jp/pwbr/d/%bb%b2%b2%c3%bc%d4%cc%be%ca%ed
【地図】ttp://w.livedoor.jp/pwbr/d/%c3%cf%bf%de
【現在位置CGI】ttp://www20.atpages.jp/~r0109/pwbr/

2 ◆LjiZJZbziM:2012/05/29(火) 01:07:34 ID:nuMJ8YBA0
これよりオープニングを投下いたします。

3完全始動 ◆LjiZJZbziM:2012/05/29(火) 01:09:28 ID:nuMJ8YBA0
新聖堂騎士団を名乗る集団が全世界に宣戦布告をした数ヶ月後。
全世界で殺戮を行っていた剣を持つ空飛ぶ女性と雷を操る男性、及び電光戦車と呼ばれる兵器の姿がとある日を境にぱたりと消えた。
一連の事件に関連するとされる人物は全員消息を絶ち、人々の意識としては「過去の解決した事件」として扱われ始めていた……。

「……これから休暇ってところに嫌な知らせね」
バーの隅に一人で佇む赤髪ショートカットの女性、ヴァネッサは携帯電話に映し出された文字の羅列を見て頭を抱える。
かつてK'達の手によって破壊されたネスツ本拠地の残骸から、ハイデルン達がネスツ本部に残っていた資料データを回収し、門外不出の極秘資料として保管していた。
そのデータが何者かによって持ち出されたということをメールは告げていた。
しかも持ち出されたのはそれだけではなく、「オロチ」に関する資料を始めとした他軍と共有していたEDENや火星の技術などのデータまでもが持ち出された可能性があるというのだ。
これらのデータ漏洩はハイデルンの軍だけではなく、様々な軍や企業などが同時に攻撃を受け、データが持ち出されたと考えているらしい。
しかし間抜けにもアクセス履歴を消去しなかったようで、「アクメ」という名前とアクセス日時だけは割れている。
ハイデルンを筆頭とした調査隊は、これを手がかりに「アクメ」という人物を追っているようだ。
数々の重要データの流出、このことから今の彼女に分かるのは、何かよからぬことが起きようとしているという事だ。
「休暇中の杞憂で終わることを願うわね」
そう言いながら携帯電話を懐にしまい、ため息を一つこぼす。
そのあと、ちょうど運ばれてきた一杯目のビールをグイグイと飲んでいく。
不安を吹き飛ばすように、喉を止めることなく一気に飲み干して行った。
そして溜め込んでいた息を全て吐き出し、机に突っ伏すように少しだけ横になった。

しばらくして、ビールジョッキが倒れる音が小さく響いた。

4完全始動 ◆LjiZJZbziM:2012/05/29(火) 01:11:04 ID:nuMJ8YBA0
目が覚めた。
バーの机の上ではなく、冷たいコンクリートの上で。
異常を察知して即座に身を起こし、警戒態勢を取る。
辺りは暗く、ほとんど何も見えない。
今分かることは、何者かの手によってこの場に連れて来られた事だけ。
他に推察できるとすれば身体の拘束などをされていないことから、何かしらの拷問や身の代金誘拐の人質というわけではない事ぐらいだ。
謎の多い行動の意図を考え始めたとき、突然視界が光に包まれた。
ゆっくりと形を取り戻していく視界の先に映ったのは、誰しもが知る姿。
そう、数ヶ月前に全世界中に向けて宣戦布告を行った「新聖堂騎士団」の元帥、完全者ミュカレが玉座に腰掛けたままこちらを見つめ続けていた。
「……全員目が覚めたか、ならば始めよう」
ミュカレはゆっくりと立ち上がり、手を振りかざしながら言い放った。
「これより、貴様たちには殺し合いを行ってもらう!」
殺し合い。
突然の単語にあたりはざわつき始める。
「そう慌てることもない。他の旧人類を駆逐し、新人類への階段を上るだけのことだ」
こちらの気持ちを知った上で、ミュカレは場にいる全ての人間を煽り続ける。
「ミュカレェ!! 話が違うぞ!」
ざわついた場の中で、突き抜けるほど響きわたる大声で叫ぶ男。
独立国家EDENを牛耳る不動産王、カルロスだ。
「ふん、カルロスか。今は貴様の相手をしている時間などない。しばらく大人しくしておれ」
まるで豚を見るかのような冷ややかな目で、ミュカレはカルロスを見つめ続けている。
ミュカレのその態度に激昂したカルロスが立ち上がった時だった。

5完全始動 ◆LjiZJZbziM:2012/05/29(火) 01:14:12 ID:nuMJ8YBA0
「我が貴様を新世界に導いてやるとでも、本気で思っていたのか?」
何処からともなく紫色の鎖が数本現れ、カルロスの体を締め付けている。
締め付けられているのは体のはずなのに、カルロスの体は小指一本すら動かなかった。
「よく見ておれ、我に逆らうものはこうなると言うことをな」
玉座に腰掛けたまま、ミュカレは真っ直ぐに手を伸ばす。
瞬間、辺り一面に耳をつんざく爆発音が鳴り響いた。
カルロスを中心に、紅黒い雷光とともに何かが爆ぜた。
そして、力なくカルロスの体と首がドサリとその場に落ちた。
場内が、一瞬にして静まり返る。
口を開こうと考える者は誰もいない。
「黙っておれば生かしておいてやったものを……まあ良い。
 改めて説明してやろう、今からお前達には最後の一人になるまで殺しあってもらう。
 旧人類を狩り尽くし、我と共に新たな世界へと旅立とうではないか」
ミュカレが手をかざすと、今度は場にいる人間全員の足元に数本の鎖が現れ、全身の動きを拘束した。
そしてデイパックを掲げ、身動きのとれないこちらに向かって話し始めた。
「長話は好きではない。手短に話すぞ。
 生き残りたくばこの袋の中の道具を使え。そこに全てが記されている。
 貴様等が目覚めたときに目の前にあるように置いておく。
 上手く使い、旧人類とは違うと言うことを知らしめてやるのだ」
ミュカレがそう言い終わったとき、何人かの人間が倒れ始めた。
知らぬ間にあたりを囲んでいた男たちの麻酔銃から、打ち出されていく麻酔針が場の人間の意識を奪い去っていく。
「これから貴様等を殺し合いの場へと導いてやろう。
 目覚めたとき、目に映る物は全て敵だということを覚えておくのだな」
その一言と共に、最後の一人に麻酔針が打ち込まれた。
その場にいる人間が全て倒れ込んだのを確認したミュカレは、辺りを囲んでいた男達に指示を出し、場にいた人間を運ばせ始めた。
「ゾルダートとテンペルリッター、そして草薙京と電光戦車を配備しろ。
 電光戦車にはタイマーを搭載し、各クローンにはあやつらと同じ麻酔を打ち込め」
側にいた男に違う指示を与え、彼女は再び玉座に座り直した。

ミュカレは誰もいなくなった場内を見つめ、小さく口元を歪ませて笑みを作りながらゆっくりと立ち上がり。

忽然と、姿を消した。

【カルロス@堕落天使 死亡】
【Perfect World Battle Royal 始動】

6 ◆LjiZJZbziM:2012/05/29(火) 01:19:48 ID:nuMJ8YBA0
コレより当ロワは「準備期間」に入らせていただきます。
即座に本編を開始するのではなく、興味のある方に対して私が解説や把握資料の提供を行っていく期間とします。
疑問、質問、ぶっちゃけた話なんでもかまいません。
お気軽にお書き込み下さい。

また、準備期間中に「事前予約」も行います。
準備期間中にプロットが思いついた方に対して、あらかじめ1話分の予約を許可する制度です。
この事前予約の有効期限は準備期間終了後、つまり本編投下開始から五日間とさせていただきます。

Wikiの参加者名簿に参加者紹介など、事前にあるていどの資料は用意しておきましたので是非ご利用下さい。
ルールに関しましてはすこし細かいですが、必ずご一読下さい。

では、よろしくお願いします。

7 ◆LjiZJZbziM:2012/05/29(火) 15:02:53 ID:nuMJ8YBA0
表記忘れ……本編投下開始は現在は7月中旬を予定しています。
つまり把握+一話分の執筆に一ヶ月半使えますので、どなた様でも是非お気軽にご予約下さい。

ロワにおける設定など、核心以外は出来る限りオハナシしていきます。
軽い質問、トリップなしでも結構ですのでお気軽にご質問下さい。

8 ◆LjiZJZbziM:2012/05/31(木) 00:29:38 ID:CtmC1dUs0
首輪に関する描写、説明ですがこちらもタブレットの基本ルールに記入、動画が同封されているものとします。

9 ◆Syrup/uAaU:2012/06/02(土) 01:25:28 ID:C.IZy18.0
OPの投下と行き届いた事前準備、いずれもお疲れ様です。
敷居の低さや丁寧な部分と、独特の雰囲気とを両立していて素敵だなぁと思えました。

と、些細なことなのですが、予約を行うにあたって質問を……。
『エヌアイン完全世界』の参戦時期は「エヌアインエンディング後(ヴァルキュリア撃破後)」となっていますが、
これは「エヌアイン編のエンディング」ではなく、「参加している各人がヴァルキュリアを撃破し、
それぞれのエンディングを迎えている(あるいは、それぞれのストーリーを進めている途中など)」という
解釈をしても問題はないのでしょうか?
ストーリーは『アカツキ電光戦記』よりも軽めになったとはいえ、参加者間の会話デモなどにも
関わってきますし、◆Lji氏との見解が違っていたらマズいので、ここは確認させてください。

また、エヌアインは『アカツキ電光戦記』の続編でもあるので、そちらの設定を拾っていいのかどうかも
SSを執筆するうえで気になってます。
氏は両方のタイトルをプレイしてらっしゃいますし、把握用の動画にも電光戦記のものを薦めて
いらしたので大丈夫かなとは思うのですが、これも一応確かめさせてください。

質問は以上になります。
お手数をおかけしますが、返答があるとおもに私が嬉しいです!w

10 ◆LjiZJZbziM:2012/06/02(土) 02:06:22 ID:kYrUb.A60
ご質問ありがとうございます。

>エンディングの話
えーっと、表記がちょいっと不足してましたね。
「エヌアインがヴァルキュリアを撃破した時点」で統一、っていう感じですね。
つまり他のキャラ(ジョーカー除く)は適当にその途中から出してもらってもOKな感じです。
(例:アドラー→遺産継承しに行こうと思ったらヴァルキュリア死んでた、クソクソアンドクソ
   鼎→命令受けて南極行ったらなんか終わってた、仕事失ってニートナーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwww)
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、まあエヌアイン以外は大体フレキシブルに対応できる感じです。
ただまあ、他キャラがヴァルキュリアとか倒したって言う時期とか設定での参戦はヤメてね☆ってことです。

会話デモとかはまあ、参考に拾う感じで。
面識についてはエヌアイン以外の面子はまあ全員知ってるでしょうし大丈夫でしょう。
エヌアインを知っているか、知らないかの判断は初出の書き手さんないしリレー上にお任せします。

>アカツキの話
全然OKです。
設定的にはKOFなどでオロチ編の設定を拾う、メタスラで3のネタを使うなどネタに関しては過去作から持ってきても全然OKです。
ただ、参戦時期的に過去作から出すのはやめてkudasai><ってことです。



というわけで、このスレでは現在予約と質問をこんなラフな感じでバリバリ受け付けてます。
一行だけの質問とかでも全然大丈夫なのでみんなドシドシ書きこんでね!

11 ◆Syrup/uAaU:2012/06/02(土) 02:10:44 ID:C.IZy18.0
す、すごく分かりやすい……ッ!
迅速かつフランクな回答、どうもありがとうございます。
実際、パラレルな要素を含んでしまうと、色々な世界の要素をひとつにまとめている
コンセプトと相反しちゃうかもしれないので、氏の解釈を聞けて助かりました。
参戦時期に加えて、電光戦記関連の回答も了解です。

じゃあ、それを踏まえて……ここで事前予約を。
ムラクモ、鼎でいきます。

12 ◆hqLsjDR84w:2012/06/04(月) 01:53:54 ID:ZV.nsC2c0
テンペルリッター二人、事前予約します。

13 ◆LjiZJZbziM:2012/06/04(月) 01:59:01 ID:gCoyYki20
質問があったので

>事前予約について
従来のパロロワスレッドにおける予約と同じようにしていただいて結構です。
既に予約を行っている二名の方のように、予約したいキャラクターの名前を書いておくだけでOKです。

14 ◆Syrup/uAaU:2012/06/04(月) 19:45:29 ID:/A4vtuHg0
すみません、>>11の予約を破棄します。
世界観をすり合わせるための描写を行なっていて、リレー向きでないと判断したので。
質問までしておいて、申し訳ありません。企画のほうは楽しみに拝見させていただきます。

15 ◆LjiZJZbziM:2012/06/11(月) 01:22:32 ID:j5PoXdKE0
KOF、エヌアイン、メタスラあたりのストーリー概略をざっくりまとめて参加者名簿の作品のところに纏めておこうと思います。
特にKOFとエヌアインは時系列固定なので重要ですし……

16 ◆LjiZJZbziM:2012/06/22(金) 23:55:54 ID:i2LsdOPw0
#THE KING OF FIGHTERS
(時系列順)
・ルガール・バーンシュタイン、THE KING OF FIGHTERSを開催。草薙京らに敗れる('94)

・ルガール・バーンシュタインオロチの力を得て復活、草薙京らに再び敗れる('95)

・草薙京、野試合でゲーニッツに敗北。修業の後最終決戦奥義 “無式”を習得。

・神楽ちづる、オロチの気配を察知しKOFを主催。草薙京らによって現れたゲーニッツが倒される。('96)

・神楽ちづる、再びTHE KING OF FIGHTERSを開催。レオナがオロチの血によって暴走。草薙京、八神庵、神楽ちづるの手によってオロチチーム(シェルミー、クリス、七枷社)とオロチが倒される('97)

・草薙京、ネスツに誘拐される。K'に草薙京の力が宿る。

・ネスツによってTHE KING OF FIGHTERSが開催、世界各地の戦闘データをの収集及び、草薙京クローンによる同時多発テロが企画されるが、K'達の手によって阻止('99)

・ネスツによってTHE KING OF FIGHTERSが開催、草薙京の力を利用したゼロキャノンが打ち込まれそうになるが、クーラ・ダイアモンドがこれを阻止。('00)

・ネスツによってTHE KING OF FIGHTERSが開催、K'たちによってNESTSが壊滅する。('01)

・神楽ちづるによってKOF開催、遙けし彼の地より出ずる者たちが現れる。アッシュに神楽の力が奪われる('03)

・THE KING OF FIGHTERS開催、マガキが倒され、八神庵の力が奪われる。(XI)

・バーンシュタイン家によってTHE KING OF FIGHTERS開催、アッシュの造反により遙けし彼の地より出ずる者たちのタイムトラベルが終了する。
 アッシュの存在が「なかったこと」に、八神庵の力、神楽ちづるの力が復活。

17 ◆LjiZJZbziM:2012/06/23(土) 00:01:42 ID:HN5dUlf.0
#メタルスラッグ
・モーデンによる軍事クーデター、マルコとターマによって阻止される

・モーデン再び造反、宇宙人を撃退。

・モーデンまた造反、宇宙人を宇宙まで行って親玉を撃退。

・コンピューターウィルスによるサイバーテロが発生、よくわからんオッサンを撃退。

・なんかよくわかんないのを撃退

・地底エイリアン撃退

18 ◆LjiZJZbziM:2012/06/23(土) 00:06:24 ID:HN5dUlf.0
#エヌアイン完全世界
・アカツキ覚醒、電光機関の破壊へ。

・何者か(おそらくアノニム)によってミュカレ撃退。ミュカレがアノニムに転生。


・アドラー(→ゾルへ転生)などを倒しムラクモの元に辿り着く。死闘の末撃退。チベット・ツァンポの電光機関を破壊。ムラクモは千家三佐に転生。

・カティを塞が応急処置、塞が撤退。

・鼎が現場を調べるももぬけの殻。

・かなり後、ミュカレが全世界に対してテロを宣告。

・エヌアインの手によって完全者、ヴァルキュリアが打ち倒される。

19 ◆LjiZJZbziM:2012/06/23(土) 00:07:49 ID:HN5dUlf.0
#堕落天使
ストーリーの流れ、正式な流れはなし。

#アウトフォクシーズ
・Mr.アクメが美術品の贋作取引により莫大な利益を取得。

その証拠隠滅のために関係者7人に対して殺し屋を7人雇い抹殺。

Mr.アクメ、7人の殺し屋をお互い殺し合いを命令。

アウトフォクシーズはこの時点でストップとさせていただきます。

20 ◆LjiZJZbziM:2012/06/29(金) 01:30:56 ID:jlKRCvAk0
【本編投下開始時間のお知らせ】
本編投下ですが、7/14(土)の0:00を以って全面解禁といたします。
なお、事前予約の期限は7/19(木)0:00とさせていただきます。(延長制度ナシ、再予約は三日後に可能)

21 ◆LjiZJZbziM:2012/07/14(土) 00:00:16 ID:VVkmqgHg0
投下解禁です。

と、同時にトレバー=スペイシー、トリガー投下します。

22Trigger ◆LjiZJZbziM:2012/07/14(土) 00:03:30 ID:VVkmqgHg0
麻酔が切れ、目が覚めた僕は情報整理から始めることにした。
あの少女の言うとおり、近くに置いてあったデイパックから道具を漁る。
僕のデイパックは外れだったのか、武器の類は一つとして入っていなかった。
磨き上げたテコンドーでしばらくは戦う事になるだろう。
仕方なく、支給されているタブレットを手に取る。
殺し合いのルールや、この場所の地図、それぞれがアプリケーションとして提供されていた。
機能を理解した所で、今度はタブレットをハッキングしようと気合いを入れた時だった。
一発の銃弾が、僕の体を横切った。
「運が悪いな、一発で死ねたのによぉ!」
声と同時に襲いかかってきた、赤いロングコートとサングラスの男に対して臨戦体勢を取ろうとする。
「遅いぜ!」
タイムラグの無い構えからの射出。銃弾は美しい軌道を描き僕の体を貫いた。
銃弾が貫いた部位を考えても、長くは持ちそうに無い。
せめて一矢報いようとするけれど、男は既に次の銃弾を放とうとしていた。
僕はあっけない人生だったなと思いながら、放たれる銃弾を見つめる事しか出来なかった。

早速、一匹の獲物を捕らえる事に成功したトリガーは上機嫌でトレバーの荷物を漁っていた。
理由はどうあれこの場所で生き残るには人を殺せばいい。
クライアントのいない報酬なしタダ働きに近いがつべこべ言っている場合ではない。
幸いにも銃を引き当てる事に成功したため、戦闘に関しては安泰である。
仕事の時のように好き放題撃てないのは若干気に障るが、仕方がない。
出会った人間に対して冷静に対処し、生き残っていくだけだ。
「おっ、いいもん持ってんじゃねえか」
トレバーの荷物の中に大好物のピータンを見つけ、機嫌をさらに良くしながら探索を続けた。

業界では知らない人間はいないとされている、トリガー。
狙った獲物はその正確無比の射撃で必ず打ち抜く。
今、生き残る為の獲物を求めて。
静かに動き始めた。

【A-2/平原/1日目・朝】

【トリガー@堕落天使】
[状態]:上機嫌
[装備]:パイファー ツェリスカ(3/5、予備20発)@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)、トレバーの不明支給品(1〜3、武器ではない)
[思考・状況]
基本:殺して生き残る

23 ◆LjiZJZbziM:2012/07/14(土) 00:07:04 ID:VVkmqgHg0
当日で申し訳ございませんが告知し忘れていた点、変更点を数点書かせていただきます。

・スタート時の時間
朝とさせていただきます。

・1エリアの間隔
200m→500mとさせていただきます。

というわけで本編投下解禁です、予約も是非受け付けてますのでみなさんお気軽に投下、予約をお願いいたします。
第一話のように凄く短い物でも全く問題ありません、ある程度の展開なら此方で必ず受け止めます。
書き手デビュー上等、みんなでわいわいやって行きましょう。

24 ◆hqLsjDR84w:2012/07/16(月) 11:43:29 ID:e0OVZsF.0
事前予約分、投下します。

25あの甘美をもう一度 ◆hqLsjDR84w:2012/07/16(月) 11:44:22 ID:e0OVZsF.0
 ◇ ◇ ◇


 山中にて目覚めた一人の女性が、ゆっくりと上体を起こした。
 東に見える太陽の眩しさに目を細めながら、周囲の景色を見回す。
 密生する樹木と傾斜からして、現在地は山のなかであるらしい。
 そこまで確認した彼女が次に案じたのは、自身の装備のことであった。
 青い瞳を足元に向けてから、下から上へと視線を自身の身体に這わしていく。
 白い軍用ブーツ。
 膝上までカバーする白いハイソックス。
 人の生き血が染み込んだかのように紅いロングコート。
 普段と変わらぬ衣服に安堵の息を漏らしてから、彼女は自身の頭上を擦る。
 その手触りから、白い怪鳥の羽をしつらえたコリュス式兜があるのが分かる。
 最後に傍らに視線を飛ばすと、刀身に継ぎ目が刻まれた金色の西洋剣があった。
 これは、単なる西洋剣ではない。
 剣を振るうことで鞭状に展開する蛇腹剣だ。
 どうやらこの唐突な任務においても、装備自体は常と同じであるらしい。

 そう――唐突な任務。

 完全者・ミュカレが率いる秘密組織『新聖堂騎士団』が誇りし航空戦力『テンペルリッター』。
 同じ顔、同じ身体、同じ装備、同じ技術、同じ戦闘能力を備えたクローン兵士集団。
 全世界の各地に赴いて、すでに生物としての役目を終えた旧人を狩ってきた。
 そのうちの一体として、旧人狩り第一部隊を指揮してきたのが彼女だ。

 少し前まで――だが。

 極東の小国にて旧人狩りを行っていた際、いきなり任務を中断するよう伝達があった。
 意図が分からずとも、上に従うのが組織だ。
 ゆえにいち早く第一部隊の構成員を呼び戻し、指示された場所に向かってミュカレと合流を果たした。

 そして、数ヶ月。
 なんの任務もないまま時が過ぎ、急にミュカレに呼び出され――

 ――『ヤツらと殺し合え』。

 五十人ほどが映されたモニターを指差し、こう告げられた。
 訊き返す間もなく麻酔針を打ち込まれ、先ほど目覚めた。
 はっきり言って、意味が分からない。
 ミュカレの命令自体も、その意味も、数ヶ月の期間を置いた理由も。
 まったく、理解できない。
 モニターに映っていた顔も、ほとんどが知らないものだ。
 いかなる基準で選び抜いたというのかも、定かではない。
 だいたい殺し合いなどせずとも、旧人など片っ端から殺していけばよいではないか。
 そこまで考えて、テンペルリッターは頬を緩めた。

「完全者にいかなる思惑があろうと、拙者の知ったことではない」

 テンペルリッターとは、旧人を狩る存在でしかない。
 旧人の生き血で剣を真紅に染めるためだけに生きている。
 意図が分からずとも、殺せと言うのならば殺すだけだ。

(それに――)

26あの甘美をもう一度 ◆hqLsjDR84w:2012/07/16(月) 11:44:44 ID:e0OVZsF.0

 脳裏を過るのは、数ヶ月前に最後に行った任務だ。
 極東の小国にて、第一部隊の三分の一が返り討ちに遭うという予期せぬ事態に見舞われた。
 逆に旧人に狩られるハメになった上に、命を取られずおめおめ生きて帰ってきたのだ。
 新聖堂騎士団の面汚しとしか言えぬ若輩者どもを斬り捨て、彼女は若輩者どもを退けたという男の元へと向かった。
 そして、テンペルリッターの真なる実力を思い知らせてやろうとしたのだが――
 意外にも、そやつは腕が立った。
 つまり、若輩者どもが弱かったのではなく、単純にそやつが強かったのだ。
 その邂逅において、彼女は生み出されて初めての体験をすることとなった。

 圧倒的な能力をもってしての『蹂躙』ではない、同格と言っていい相手との――『戦い』。

 ただ剣を振るうだけでは終わらない。
 避けずに受ける気にはならない攻撃。
 強引に大技を繰り出したところで、冷静に対処してくる。
 そこから繰り出される連撃が、大技を放ち隙だらけの身体を穿つ。
 一瞬たりとも集中を切らせない。
 肌を突き刺すひりつくような緊張感。
 余力を残す気にならず、思わず全力になっていた。

 すべてが、初めてであった。

 初体験の記憶に、テンペルリッターの口角が知らず吊り上り――そして次第に下がっていく。

 あの戦闘は、任務中断の伝達によって切り上げられた。
 後ろ髪を引かれる思いであったが、指令は指令だ。
 歯噛みして受け入れた。
 テンペルリッターの持つ飛行技術で、追いかけてくる男をどうにか振り払った。
 もしも伝達が少し遅れていたなら、指令より優先するほど戦いの魅力に憑りつかれていたかもしれない。
 少しだけ、そんな風に考えながら。

 以降、数ヵ月間ずっと初めてのことばかり思い返していた。
 あのまま続けていれば、はたしてどちらが勝っていたのだろう。
 血で蛇腹剣を彩ることができたのか、男の放つ炎がテンペルリッターを焼いたのか。
 考えたところで意味がないとは、重々承知していた。
 新聖堂騎士団の抱える戦力は強大だ。
 テンペルリッターだけでなく、エレクトロ・ゾルダートや電光戦車の部隊も多数ある。
 にもかかわらず、再び彼女が極東の小国に派遣されてしかもあの男と出会うなど――ありえない。
 そう、思っていた。

 ――が、この場にあの男はいる。

 完全者に見せられたモニターに、たしかに映し出された。
 ほんの一瞬であったが、人違いであるはずがない。
 他の有象無象の顔ならばともかく、あの男の顔を見紛うものか。
 テンペルリッターの口角が、再び上がっていく。
 蛇腹剣を天にかざし、居場所が知れないあの男へと言い放つ。

「旧人どものなかからお主が選ばれ、テンペルリッターのなかから拙者が選ばれた。
 ……ふん。完全者の意思に過ぎぬと分かっておるのに、因果を感じずにはいられぬな。
 だがよい。ヤツの思惑通りであろうとも、偶然であろうとも、拙者には一切合切関係なし。
 ただ旧人を狩りつつお主を探し、そしてッ! 数ヶ月前の決着をつけさせてもらうぞ――草薙京ッ!!」


 ◇ ◇ ◇

27あの甘美をもう一度 ◆hqLsjDR84w:2012/07/16(月) 11:45:09 ID:e0OVZsF.0


 高らかに宣言したテンペルリッターを木陰から眺めるものが一人。

 青い双眸。
 携えた蛇腹剣。
 白い軍用ブーツ。
 膝上までカバーする白いハイソックス。
 人の生き血が染み込んだかのように紅いロングコート。
 長く伸ばした金色の髪にかぶるのは、白い怪鳥の羽をしつらえたコリュス式兜。

 テンペルリッターとまったく同じ外見をした彼女もまた――テンペルリッターが一人。

 草薙京に宣戦布告をしたのが一番部隊隊長であるのなら、彼女は四番部隊の隊長だ。
 品定めをするように相手の身体を眺めてから、彼女に背を向ける。
 そのまま、四番部隊隊長は一番部隊隊長とは異なるほうへと歩んでいく。

(あやつではつまらぬな。もう飽いた)

 胸中で吐き捨てる。
 彼女の胸を焦がすのは、人を斬る快感だ。
 旧人狩りを進めていくうちにその虜となり、数ヶ月前――ついに部下を斬り伏せた。
 旧人を斬る感覚に飽き、同胞を手にかけたのだ。
 それは、それまでとは比べ物にならない甘美であった。
 脆く醜い旧人では味わえない、狂人で美しい同胞だからこそのときめき。
 一度剣を振るうだけで胸が躍り、刃を返すだけで震えあがってしまう。
 結局――彼女は、第四部隊に所属する自分以外のテンペルリッターをすべて斬り刻んだ。
 だがとろけるような陶酔も、すぐに色褪せてしまった。
 最後の三人など、もはや惰性で斬っていたようなものだ。
 ちょうど全員斬ったあとに撤退の伝達が入り、完全者の元に向かった。
 同胞殺しの件を完全者が気付いているのかは、まったく定かではない。
 それでも第四部隊全滅の報告に対して、これといってなにも言われることはなかった。
 アレから数ヵ月間、頭にあったのは新たな甘美についてばかり。
 どんなに思考を巡らせても、導き出される結論は一つだった。

 ――完全者を斬る。

 新聖堂騎士団のトップを斬れば、テンペルリッターたる彼女は意義を失うだろう。
 だが、知ったことではない。
 生み出された意味に反しようとも、生まれてから知った甘美に浸りたかった。
 いずれ、あの白い肌に刃を突き立ててやろう
 そんな計画を立てた矢先に、殺し合えとの指令を受けたのだ。

(あそこで仕掛けておくべきだったか)

 思い出すたび、勝手に舌打ちが零れる。
 苛立つ心を抑えつけて、彼女は胸中で自身に語りかける。

(まあ構わぬ。
 数ヵ月間籠り切りで、いい加減に身体が鈍っていたところだ。
 あやつを斬る楽しみは、五十人ほど斬り捨てて勘を取り戻してからに取っておいたほうがよかろう)

 久しぶりの任務だ。
 数ヶ月も間を置いたのだから、旧人を斬っても多少の心地よさは得られるであろう。
 そのように考えたところで、ふと彼女の脳内に蘇ってきたものがあった。
 かつて任務において、狩った旧人が死に際に告げた言葉だ。
 旧人の言葉なぞいちいち記憶していないが、ひときわ強い相手であったので覚えていた。

(『オロチの血』だったか。
 くく。そんな輩が実在するのかは知らぬが、いるのであれば――斬ってみたいものだ)

 意図せず、笑みが零れていた。

28あの甘美をもう一度 ◆hqLsjDR84w:2012/07/16(月) 11:45:22 ID:e0OVZsF.0



【E-05/山中/1日目・朝】

【テンペルリッター(一番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:旧人を狩りつつ、草薙京を探して決着をつける。京の他に自分と戦える相手がいるならば会いたいが、そんな相手はいないとも思っている。


【テンペルリッター(四番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:参加者を斬って愉しみ、優勝した暁には完全者も手にかける。オロチの血に興味。

29 ◆hqLsjDR84w:2012/07/16(月) 11:46:53 ID:e0OVZsF.0
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

>◆LjiZJZbziM氏
どうやら参戦作品はすべて同一世界設定なようなので、このような設定を作ってみました。
こういうのカンベンしろよっ! って感じだったら言ってください。

30 ◆LjiZJZbziM:2012/07/16(月) 12:04:34 ID:NdTkBwnI0
投下ありがとうございます。
作品間クロスオーバーに関しては何も問題ないというか、すごくいいです!
こんな感じに「同一世界」を利用した関係が出来上がると面白いなーと思います。

他の皆さんも、どうぞガンガンこの設定を使ってこういう感じのクロスオーバーしていただければナーと思います。
基本的にNGはナシ! のスタイルで行こうと思っておりますのでどうぞよろしくです。

あっ、一作目ですがトレバーの死亡表記を忘れていました。
Wikiの方にて修正してあります。

また、当ロワは残り人数の表記を必須としていません。(書き手枠の都合上)

31 ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:35:14 ID:HnpPf/V60
先日は色々お世話になりました。
プロット組み直したので、ムラクモと塞、予約即投下します。

32惑わず仕舞(Les ivresses) ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:35:44 ID:HnpPf/V60
 八基のエンジンがプロペラを回し、単色に近い空の色を割り裂く。
 亜音速で高高度を征く鉄の獣は、航続距離の長さをもって四方を海に囲まれた國を攻めんとする者の
存在を早期に認め、ときには海の向こうで、爆弾を雪のごとくに降らせる。

 それが高津770型大型爆撃機〈てつゆき〉に望まれた姿であり、これまでに果たしてきた役割である。
 高津重工が当時に持ち得た技術の結晶といえようこの巨人機は、海洋国家の護手にとり必須となる
航続力の高さ・哨戒機としての要素を多分に含むというスペックに加えて
「爆撃機として単純かつ純粋な運用が可能である」
 という点をもって自衛隊に受け入れられた。
 武器の換装や改造を経て、機体は運用開始から数十年が経過した今も各地に配されている。冗長性を
最大限に発揮した、兵器が理想型のひとつ。合衆国が擁する爆撃機にも似て巨大な、


 難攻不落の空の城。


 爆撃機のあだ名を思い出した、男は額を左手で押さえた。笑いが乾いて喉にくぐもる。
 銃後の者をも巻き込んで死をもたらして征っただろう城が、地上にあっては要塞(フォートレス)。
在りし日に國を焦土とした米軍の機体と、いま自国の民を護るものとが、同じ名で呼ばれていたとは。

 そして、そこにひとつ付け加えるならば。
 要塞と呼ばれた爆撃機は、この國で『撃破』されている。

 笑みを収めた男にとって、それは、きつい酒を思わせる皮肉だった。
 黒手袋をはめた五指のあいだを、色の失せた髪が流れていく。秀でた額と激情を抑えて寄った眉、
眼頬溝に刻まれた陰も、掌のおとすのっぺりとした影に隠された。
 人の影すら見えぬ廃墟よりきびすを返す、その前に、彼は墜ちた巨人を見据える。
 血の色をした双眸も、削ぎ落とされたような曲線をえがく頬にも、感情は表れていない。
 爆撃機もまた、製作者が想像もしなかった方向に改造をうけた姿を晒して動かない。

 ……両翼下に、みっしりと詰め込まれた土嚢。
 各所に取り付けられた、重機関銃とジュラルミンの防盾。
 気休めにはなるとでも思ったか、後背部には欺瞞紙の発射機――。

 その威容だけで判断をくだすのならば、爆撃機としてのアイデンティティを徹底的に削り取られた
〈てつゆき〉は、まさに地上の要塞となっていた。

33惑わず仕舞(Les ivresses) ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:36:13 ID:HnpPf/V60
 だが、要塞の内部から漂う臭いは肉の。ヒトの腐り落ちるそれに他ならない。
 死者の墓標もなく、位置も記録されず、伝染病への備えという卑近さを由とした埋葬すら行われず。
そこここが雷に焼け、刃に裂かれた装甲の底部は、黒くねばった血肉で塞がれている。
 威容。厚い装甲と巨獣のごとき外観が人にもたらしていたであろう、信仰とも言うべきなにものかすら、
死と敗北によって塗り替えられてしまった、いま、このとき。
 地上の要塞は即席のトーチカよりも頼りない、鉄の棺にと堕していた。

「……敵手の本拠も策源地も不明である以上、狩人どもへの戦略爆撃は不可能。
 電光機関によって誘導弾と電探がともに無力化されるのであれば、武器を換装する意味もない。
 もとより出撃を行おうにも、空にありしを剣舞で落とす手合いが相手であったなら」

 死に抗った者の無為と無力をつらねる声が、廃墟をわたった。
 誰に向けられたものでもない囁きに、しかして瑕瑾をあげつらう響きはない。そればかりか最後まで。
最後の最期まで戦って果てた、諦めを知らぬものに対する敬意さえにじんでいる。
 聖堂騎士団が手にかかれば離陸も許されず、かといって任務を投げることもかなわず。『旧人狩り』が
もたらした魔女の大釜をまえに、おのが無力と過誤の代償を思い知らされ、
 それでも自身に可能なことを行った者たちの健気を信じずして、この世のなにを信ずるか。

 言葉に続いて思考を切りあげた、男は額から手を離した。
 風にあそびゆく髪の下から眉間の皺がのぞけても、顔貌からは怒気の欠片もみとめられない。
 日本人離れして深い陰影を刻む眉は、彼に内在する憐憫を示して静謐である。

「ならば――重大なる秋を迎えたのだな。現し世の、いずこにあるものも」

 諦めを知らぬもの。
 ただ、専守防衛の責務を果たさんとの誓いに殉じていった騎士たち。
 かれらの屍が埋まる残骸要塞を背にした男の瞳は、瞬間硝子玉のような光をみせた。


 ◆◆

.

34惑わず仕舞(Les ivresses) ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:36:46 ID:HnpPf/V60
  ――目覚めたとき、目に映る物は全て敵だということを覚えておくのだな。


 完全者ミュカレの言に倣うならば、塞にとっての最初の敵とは湿気である。
 薬剤による睡眠から醒めた彼を取り巻くものは、白く透き通る朝の日差しと針葉樹が半ば以上を占める森。
かてて加えて、低地へ向かって幾筋かの川を作っている水源だったのだ。
 地図を一瞥しただけで現在地が判明したことは幸いであると言えようが、陽光はすずしげな見目に
反して容赦を知らない。湿度の低い土地で生み出されたスーツ――運の悪いことに、色は黒だ――と
腰まで届く長髪も手伝って、彼は気温以上の熱感をおぼえている。

「いやぁ……暑い、暑い暑いねェ」

 すくなくともドレスシャツの襟をはたいて風を呼び込む彼の、どうにもしまらない様だけを見れば、
そうと断言出来ただろう。
 だが、塞の視線を隠しきっているワインレッドのサングラスは、彼が首をうごめかせたひと刹那、
爬虫類を――いちど獲物を呑み込めば、けして逃さぬものを思わせてぬめる光を放っていた。

「夏じゃなくとも夏の日和だ。まったく日本の夏ってヤツは、親密さってものを履き違えてやがるぜ」

 ひとりごちる声の錆付きは、小悪党と紳士というふたつの印象を見事に両立させている。
 小悪党。新華電脳公司のエージェントという仮面では隠せぬ品性を有するイギリス情報局が諜報員は、
風に流れた髪を後ろへ撫で付けた。足を踏み出すのと連続した動作で、両手をズボンの前ポケットに入れる。
 その状態でこともなげに斜面を降りていく、彼はつと立ち止まって右手を上げた。
 はるかな型の敬礼にも似た仕草で人差し指を額に添わせ、晴れすぎて冷たい空を見上げる。

「やれやれ。だれが言ったか『戦争の夏』だ、こいつは」
 目立って大きな声を上げても、挙手した脇は締まっていた。「よく晴れた空に白い雲。うってつけの日
とはかけ離れたもんだが、それでも殺り合って死ぬには、今日はいい日なんだろうさ。なあ、旦那」

 諧謔と、それを支える理性のあらわれを体現した呼びかけに、応じる者も笑ってみせた。
 陽光をはじく白い髪。日本人離れして彫りの深い、峻厳なものを纏った顔立ち。旧陸軍武官たる男は
にやつくはずもなく、口角を冷たく吊り上げている。

「こうしてまみえるが三度となれば、もはや剽げる要もないか。クロード・ダスプルモン」
「まったくだ。ムラクモ。アンタの目的なんざ、いまさら考えるまでもないからな」

 牽制じみた言葉の応酬を行いながら、塞は左手もポケットから抜き出した。
 やれやれと腕を組んだ視界の先ではムラクモの唇が描いた曲線の優美と、腰に佩いた太刀――芸術品
との形容もかなう得物のそれとが、ひどく似通って見えたのだ。
 ゆえにこそ、塞はオーバルのレンズの下で涙袋に力を入れ、過去の記憶を引き出す。

35惑わず仕舞(Les ivresses) ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:37:19 ID:HnpPf/V60
「戦い、闘争――戦争。あのお嬢ちゃんが仕掛けたこいつも戦争の縮図さ。
 なんなら『スプレンディッド・リトル・ウォー』とでも形容してやろうかね?
 皮肉としちゃすこしばかり直截だが、軍事物資をちょろまかしたそちらさんもお好きなのが」
「…………」
「死ね、と言うかい? 二度目と同じに?」

 逆手に太刀の柄を握った男に向けて、塞はサングラスを外して言い放った。
 理合いで紡がれた悪意の言の葉は、かつてムラクモの怒りを目にした塞だからこそ作り得た一手である。
 裂帛の気合とともに放たねば成らぬ居合とは違い、片手が潰れようとも切ることのかなう兇眼――
ムラクモがサングラスを外すという予備動作を知っている札ではなく、より広い間合を捉えることの可能な
邪視でもって相手の機先を制した点も、また。

「冬眠制御があったとはいえ、それだけ生きてりゃ怒る気力も失せように」

 続いた嘲弄は、対面の男を怒りで揺らがせるための言葉だった。情報をもとに相手を理解し封殺すること
こそあれど、敵手との交流による相互理解など、王国に仕えし剣十字の騎士は望まない。
 より正確には、ムラクモが掲げる『彼の勝利条件』を知るがゆえに望めない。
 星の未来。ルール・ブリタニアよりも上を行く野望を掲げ得た、完全者の秘儀を知る男。
 すべてを平等に殺すと明言出来た、彼は日帝軍人であった自身の瑕瑾をつつかれて怒った者でもある。
 その、あまりの人間らしさ。長い生のなかにあっても軍人としての自身を忘れることの出来ない『神』の
姿と、彼の統べた秘密結社の行いを知る身なれば、この男の望みだけは叶えさせるわけにはいかない。


  ――とはいえ、だ。
  俺の拝命していた任務の達成と、最大多数の最大幸福。
  後者の実現は俸給分を超えているだろうが、これを実現するにはいささか骨が折れる。
  まず間違いなく、先ほど少しくPDAをいじって諦めた、名簿の早期閲覧よりも。


「この程度の挑発には乗らないか。さすがに望みの半分を叶えただけのことはあるな、敗北者」
「ふ……ッ、」

 ついに刀を離して繰り出された、右の四本貫手。
 本来ならば瞬時に相手の水月を衝こう一撃は、しかして風切る速度を喪っていた。
 兇眼者が邪視に込めた呪いは、二度死ねるような完全者ですら等しくその手に絡めとる。
 だが、やすやすとムラクモの一撃を避けた塞は、ほんのわずかに頬の皮膚を突っ張らせていた。
 ムラクモ。アカツキ零號。
 人口調節審議会を立ちあげてなお、完全教団の者どもに『人減らし』を実行された男。
 軍人としての義務を果たすことなく二度死に、その後に掲げた使命を横取りされた旧陸軍武官。
 その点では明らかに負けているはずの男は、その事実をつく言を聞いて、小ゆるぎもしていない。

「死にたく、なければ――そこを退け」

 諦めぬ者の声が途切れるまでに、ムラクモの姿も消えていた。
 電光迷彩。電光機関の力を発揮することによって、一時的に自身を不可視とする技だ。
 まるで亡霊のように、塞の目前を生ぬるい微風が横切って征く。
 それを追ってさやさやと、朝の風に針葉樹の葉が鳴った。


 ◆◆

.

36惑わず仕舞(Les ivresses) ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:38:03 ID:HnpPf/V60
「あー、これは……やっちまったなぁ……」

 大物食いをやり損ねた諜報員は、今度こそ赤いタイを緩めた。
 だらしのないと仕草と裏腹に、その声には強く自身を叱責する芯がある。
 思えば、負けなどという言葉にあの男が反応するはずはなかったのだ。先刻引き出して利用した記憶の
とおり、あの男は、『過去にいちど負けを認めていた』のだから。
 軍人――望んで軍に入り、陸大さえも出ている将校としての義務を果たさなかったことに怒りを示した
という一点によって忘却していたが、あの男が電光機関や複製體などを研究していた時期は、ベルリン陥落
以前にさかのぼるのだ。その目で日帝の降伏を見ていなくとも、電光戦車のような『一億玉砕』を容易に
実現しうる兵器を開発しかけた男の頭脳と内部情報は、自国の敗北を嫌でも彼に教えたことだろう。
 ならば、すでに名も知れぬ『彼』は、武官であった頃――あるいはアカツキ零號やムラクモといった
彼自身を直喩しないコードネームを手に入れたそのときに、軍人としては戦死していたにも等しい。

 そして、すでに死んでしまったものは、それ以上に殺せない。
 生き果てたかれらの有する魂は、いかな意味においても穢せはしない。
 仮に殺すことがかなったとしても、あの男は、まったき同じ顔で転生を繰り返すのだ。

「旧人狩りの裏を探るだけで良かったはずだが、またもタフな寄り道か。
 お嬢ちゃんを救うような寄り道なら、汚れ仕事がならいの俺は喜んで歓迎したんだがね」

 しかしこれじゃあ、『不運』はどっちか分かりゃしねえ。
 自嘲とともにタイを締め直した塞は、今度は手をポケットに入れぬまま、歩みを再開した。


 ◆◆


「『我と共に』、か」

 口の中で転がした言葉は、空疎に過ぎる後味を残した。
 共に。同じに。それは、つまり、あの女も正しく『女』であったということか?


  ――私も完全者となり、転生の法を会得した。お前にもう用は無い。


 正対称の関係を望まぬたぐいの者にとり、それを口にした者の思いは一生かかっても理解し得ない。
 孤高や孤独、相似でもって繋がらんとする完全者ミュカレの思考は、孤独を恐れぬムラクモと相容れない。
 これ以上何を望む。決まっている。人減らしが終わったというのなら、自分の行うべきことは
ひとつだ。奪われても殺されても負けようとも、たとえ過去に無用の執着を受けていたとしても、
歩むべき途に変わるところはひとつもない。

 ただ、轟々と散りゆく、満櫻を見たかった。

 それは四方を海に囲まれた国家にあれば、『仇なす國を攻めよかし』で一定の納得が出来る海軍以上に、
なにものかを無条件で信じねば成り立たなかった陸軍将校――侵略者の末路を思ってのことか。
 それともすべてを通過儀礼と心得て生きる者たちの弛緩を、変わり果てた祖国で目にしたからか。
 死んでしまうその前に、自身が拠って立てる名さえ捨てた男は鼻にかかった笑みをこぼす。
 そもそもの始まりすら定かでない殺し合いの場に招かれてなお、孤独の極致たる神を望んで目指す
男の挙動に、揺らぎというべきは微塵もない。
 菊の御紋が刻まれた太刀を手にしていても、少なくとも表面上は同じだ。
 当然といえば、当然のことではある。
 彼の始まりすら定かでないのは、この場を離れた現し世においても、なんら変わりがないのだ。


.

37惑わず仕舞(Les ivresses) ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:38:46 ID:HnpPf/V60
【D-04 南西・高原池→???/朝】
【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康、移動低下(時間経過で解除)
[装備]:菊御作、六〇式電光被服@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・状況]:自らに課した責務を果たす


【D-04 南西・高原池→???/朝】
【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:自らが受けた任務を果たす


【菊御作(きくごさく)】
 後鳥羽上皇みずから御番鍛冶と鍛造した太刀。
 茎(なかご)には銘でなく、十六葉の菊文が刻まれている。

38 ◆Syrup/uAaU:2012/07/18(水) 05:41:07 ID:HnpPf/V60
以上で投下を終了します。
時間軸をみるに、『アカツキ電光戦記』時代に塞とムラクモが会話したことに
なっている点が◆Lji氏にとってのネックかもしれません。
そのときは修正などに応じますので、気軽に仰ってください。

39 ◆LjiZJZbziM:2012/07/19(木) 13:46:06 ID:GtJBvb5M0
投下乙です!
先に懸念されている点に関して回答いたしますと、>>18の時間軸図は大まかなものなので
道中や前作時間軸に関してどのようになっているのかというのは描写中ないし本編で自由に語ってオッケーです。
なんで、今回の「アカツキ電光戦記時間軸で会話を交わしていた」というのもぜんぜんオッケーです!

というわけで感想をば。
>あの甘美をもう一度
戦闘キチだー!! でも京を追い求める戦士と誰でもいいから満足させてみろな狂人の二人に……
庵だけでなくてんぺるにも追われる京サマは大変なことになりそうですw

>惑わず仕舞(Les ivresses)
メタスラの兵器ってこんなかっこよく書けるんだ……
どちらのキャラの良さもすごくよく出てる感じの文体と、展開にもう大満足です!

おふた方、本当にありがとうございました!
これからもPWBRをよろしくお願いします!

40 ◆Syrup/uAaU:2012/07/19(木) 15:03:32 ID:StGhstrk0
>>39
丁寧な対応、ありがとうございます。
企画を立ち上げた方と想定がズレてしまわないかと思っていたので、
開幕てつゆきの件も含めて気が楽になりました。

そして、手が届く範囲でですが、Wikiも編集させてもらってます。
Livedoorのものは初めて触りましたが、やりやすくていいですね!

41 ◆LjiZJZbziM:2012/07/20(金) 23:03:15 ID:QC4yAUgQ0
投下します

42おはようございます、メシ食いにいきませんか? ◆LjiZJZbziM:2012/07/20(金) 23:03:38 ID:QC4yAUgQ0



響き渡る声。

それを彩るのは純粋な欲望のみ。

体中に広がる欲望に突き動かされるように。

叫ぶ。

「おなかすいたああああああ!」

43おはようございます、メシ食いにいきませんか? ◆LjiZJZbziM:2012/07/20(金) 23:03:52 ID:QC4yAUgQ0



嘗て、カルロスが人間を兵器にする為に行っていたケースクラスという実験があった。
それと同時期に人体を人工的に生み出す実験も行われていた。
タロウはその第一号の「人造人間」である。
体の彼方此方に見える継ぎ接ぎや、人並み外れた腕力、人体とはかけ離れた肌色はそういう理由がある。
だが、ようやく完成したにもかかわらず、カルロスの手によって「出来損ない」の烙印を押され、タロウはEDENの地に捨てられていった。
後に彼はマシュウという男に出会い、タロウという名前を授かることになる。

なぜ、タロウはカルロスにとって出来損ないだったのか?
カルロスの目的は兵器として使える人間を生み出し、それを用いて世界を制圧することだった。
幾たびもの実験と研究を重ね、失敗というただの肉塊を生み出しながら、ようやく一度だけ人間を作る事に成功した。
生み出された人間は常人を超える怪力を持ち、兵器素体としては完璧な物だった。
たった一つのイレギュラー、心の存在を除けば。
ようやく完成した人造人間は、全ての生命を愛する心が備わっていた。
人間は愚か虫の一匹すら殺す事を躊躇う彼では、カルロスの求める人間兵器にはなり得なかったのだ。
だから、タロウは出来損ないの烙印を押された。

そしてカルロスは再び「心を持たない人造人間の研究」を開始し、タロウはEDENに生きる動物達と暮らしていた。
闘う事は余りしたくない、と頻繁に漏らしながらも、時折現れる悪党を退治しながらタロウは生活していた。

そして今、タロウは殺し合いの現場にいる。
人が武器を取り、人を殺す場所にいる。
「人殺し……オレそんなことしない!」
全ての生き物を愛するタロウが、人殺しに躍り出るはずもない。
命を握られながらも彼はそれに抗う事を決め、決意の足を進めていった。

まもなく、彼は一人の女性を発見した。
へそ出しの軍服に赤い特徴的なツインテールの美しい女性は、横たわりながら薄目を開きつつ今にも死にそうな顔で何かを呟いている。
過去に追い回された経験から軍人を敬遠しがちなタロウだが、流石に見逃す訳には行かなかったのか、やさしく女性に声をかけた。
「お、お前、大丈夫か?」
女性の返事はない。
ゆっくりと近寄りながら、艶やかな唇へと耳を寄せていく。
「ご、ごはん……」
それを聞いたタロウは急いでデイパックに手を入れ、自分に支給されていた肉まんの一つを女性に差し出そうとした時だった。
「ご、ごはん!」
少し、大きな声が頭の中で響き続けた。

44おはようございます、メシ食いにいきませんか? ◆LjiZJZbziM:2012/07/20(金) 23:04:21 ID:QC4yAUgQ0

ある、一人の少女がいた。
持ち前のスタイルの良さ等を評価され、モデルとして華々しくデビューをすることになった。
だが、一つの問題があった。
外見からは全く想像出来ないが、一回の食事で成人男性の四人前は軽く完食する程の大食らいだった。
デビューが決まった嬉しさと、今まで我慢していた反動で食に食を重ねてしまい、体重的な意味と外見的な意味で劇的な変化を遂げてしまった。
このままではせっかく掴んだモデルの夢を手放してしまう、しかしちょっとやそっとでは戻らないレベルの変化である。
どうしようかひたすら悩んでいたときに、ある広告に目が止まった。

「正規軍体験入隊募集!」

直感だった。
あの正規軍の訓練なら、この体も元に戻せるかもしれない。
モデルになるという、せっかく掴んだ夢を失わずに済むかもしれない。
なりふり構っている場合では無かった彼女は、藁にも縋る気持ちで体験入隊を希望した。

中で待っていたのは、「軍の本当の姿を知ってもらうため」という名目通りの本格的な訓練だった。
生半可な気持ちの人間を取り除き、本気で取り組める人間に「入隊したい」という意志を持ってもらう為に、体験入隊とはいえ教官達は一切容赦なく指導してくる。
モデルになるためのどんな訓練より辛く、厳しい日々が続いた。
戦闘経験は愚か武器すら握った事の無い彼女は、掴んだ夢を失いたくないという一心だけで、その地獄のような訓練の日々を乗り越えていった。

そして体験入隊のプログラムを全て終えたころ、彼女は元のスタイルを見事取り戻す事に成功し、華々しいデビューを飾った。

モデルとしてデビューには成功したが、いつ仕事が来るかわからないため、体重やスタイルを維持する必要があった。
故に食事をセーブしなければいけないという苦しみと、彼女は戦う事になる。
食べたいのに食べられない苦痛。
目の前に美味しそうなご馳走の数々があったとしても、満足行くまで食べられない。
葛藤に次ぐ葛藤を繰り返し、彼女は一つの決断を下した。

美味しい物を食べる、それで体重が増えるというなら。
増える分だけ速攻で運動すればいい。
そんな短絡的かつ合理的な理由で、ある一枚の書類にサインをした。

正規軍へ、加入する書類に。

もちろん、モデル関係の人間は猛反発した。
正規軍の任務がどのようなものか知らない人間は少ない。
ある意味死亡宣言とも取れる行動を、事務所が黙って見過ごす訳も無かった。
しかしそこは彼女も黙っておらず、仕事の合間に訓練に出向く事を筆頭とした、モデル業との兼ね合いを軍が最大限取ってくれると言うこと。
常にモデルとして相応しい体系を維持することなどを条件として提示し、半ば無理矢理に事務所関係者を黙らせたのだった。

後に事務所と軍が契約を結び、軍の設備を撮影所として提供する代わりに、軍のモデルとして彼女を自由に扱うようになるのは少し先の話である。

45おはようございます、メシ食いにいきませんか? ◆LjiZJZbziM:2012/07/20(金) 23:04:59 ID:QC4yAUgQ0

そんな騒動を巻き起こしながらも、軍の訓練には人一倍真面目に取り組んでいた彼女は、その身に宿っていた戦闘の才を開花させていた。
後に運動量を上げる事と実戦経験を積むことを目的として、特殊部隊スパローズに所属となった。
スパローズ所属後とある作戦にて抜擢され獅子奮迅の活躍を見せた、大食らいの現役モデル軍人。

彼女の名は、ナディア=カッセルと言う。

例の作戦後も、軍のPRを含めたモデル業の傍ら様々な作戦をこなしていた。
そんな彼女が、この殺し合いに呼び出された。
完全者は知る由も無かっただろう、カルロスが死に絶えたあの場所で、空腹を理由に何も聞いていなかった人間がいることなど。
そして空腹のまま麻酔を打ち込まれ、見知らぬ地で目が覚めたとき。
ナディアは、空腹の余りに一歩も動けずにいた。

そして今ナディアの目の前には。
湯気を立てて美味しそうな香りを漂わせた肉まんが、キレイくっきりと映っていた。
迷うことなく、大きな口を開けてかぶりついて行く。
まず、歯に当たるのは優しい皮の感覚。
ゆっくりと上顎で衣を突き破り、餡を掘り当てていく。
歯を伝わり口の中に溢れてゆく肉汁の風味を味わいながら、彼女は違和感に気がついた。
「お、おい。オレ、食べ物じゃない……」
下顎と舌が触れているものが、革の手袋だと言うことに。

食事を差し出した瞬間に手ごとかぶりついた軍人の女性に、とりあえず持っている食糧を少し分け与えながら、自己紹介を兼ねて情報交換をしていた。
とはいえ、話を全く理解していないナディアに、タロウがぎこちない言葉で伝えているのがほとんどなのだが。
「ふーん、つまりその完全者って言うのがこの首輪であたし達の命を握ってて、あたし達は殺し合いをしなくちゃいけない……と」
タロウの分け与えた食糧をマジックのように一瞬で消し去りながら、自分のデイパックの食糧に手を出していく。
「まっ、はいそうですかとドンパチやる訳には行かないわよね」
実技試験でも、軍の作戦でもない事を把握し、デイパックから取り出した剣を腰に据えて立ち上がった。
「行こっ、タロウ。何かしないと何も変わんないよ」
「う、うん」
ナディアの真っ直ぐな瞳に吸い込まれるように、タロウはナディアの手を取った。

「さあ! まずは美味しいもの探し!」
まもなくして、タロウは若干の不安と共に盛大にずっこけた。

【J-6/平原/1日目・朝】

【タロウ@堕落天使】
[状態]:片手がよだれまみれ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料減少)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いをするつもりはない、ナディアと行動

【ナディア=カッセル@メタルスラッグ】
[状態]:空腹
[装備]:天叢雲剣@神話(現実)
[道具]:基本支給品(食糧ナシ)、不明支給品(0〜2、武器ではない?)
[思考・状況]
基本:美味いメシを喰う

46 ◆LjiZJZbziM:2012/07/20(金) 23:06:10 ID:QC4yAUgQ0
投下終了です。

47 ◆LjiZJZbziM:2012/07/28(土) 06:44:54 ID:sFwoFStg0
投下します

48Knuckle Talking ◆LjiZJZbziM:2012/07/28(土) 06:45:41 ID:sFwoFStg0
人と人が武器を取り、殺し合う空間。
常人は考えもしない、非現実的な空間。
だが、彼にとっては日常と大差は無い。

己の力を用い、相手を倒す。
いたってシンプルな話だ。
鬼が出ようと、仏が出ようと関係ない。
両腕、両足、頭の各部位と全身の力を用いて相手をねじ伏せる。
たった、それだけ。

彼の目の前に一人の殺人的な匂いを放つ中年が現れた。
彼もまた、己の拳こそ最強と信じてやまずに日々を過ごしてきた人間だ。
生活の全てを拳に捧げ、己の拳を磨く事を生きがいとしてきた。
この場においても、彼が求めるのはただ一つ。
「最強」という、たった一つの称号だ。

己の拳に絶対の自信を持つ両者が邂逅する。
言葉は、いらない。
互いに感じあう闘気が全てを伝えてくれる。
あとは、己の全てを振るうだけだ。
両者の間合いが少しずつ詰まり、ある一線を越えた時、何かが弾けたかのように動き出した。

49Knuckle Talking ◆LjiZJZbziM:2012/07/28(土) 06:45:57 ID:sFwoFStg0
先に仕掛けたのは金髪の男、シェンである。
走り出した勢いをそのまま右足へ託し、相手へと叩きつけていく。
高速で飛びかかる斧のような一撃に対して相手の男、鬼瓦寅男は正面からぶつかりあう事を決めた。
その場で大きく足踏みをし、その力を利用して生まれた前進の力を使いながらつま先で蹴る。
最初のすれ違いは互いの足と足。
真っ向から受け止め合う事を選び、その痛みを抱えながら相手へ殴りかかっていく。
零距離で放たれる拳と拳、蹴と蹴。
寅男はその一部を捌くことを選択しようとしたが、守りを捨てて殴りかかって来るシェンの攻撃を捌ききれないと判断し、自分も守りを捨てて殴りかかる事を決めた。
互いの拳が互いの顔、胸、腹に重く突き刺さっていく。
にもかかわらず、両者共に一歩も引き下がらずにただひたすらに殴り合っている。
怯みを見せた方の負けの壮絶な殴り合いを終わらせるため、両者共に力を込めた拳を振り抜き、同時に吹き飛んで行った。
「小僧にしては真っ直ぐ力のこもった拳じゃな」
「オッサンも年の割にはいい腕してんじゃねえか」
土煙を纏いながら、両者共に起き上がる。
その顔に笑みを浮かべながら、互いを讃え合うように言葉を交わす。
大きく一息ついてから、拳を握り直す。
間合いを離したまま、シェンは大きく足踏みをしてから、拳を振りかぶる構えで固まる。
魔王のような唸り声と共に、その身に力を込めて行く。
大地が揺れ、空気が震え、音が鳴り響く。
気という気が集まりきった時、シェンの体が弾けるように飛び出した。
全身全霊を込めた右腕が、寅男へと襲いかかる。
コンマ数秒単位で映る男の姿をしっかりと捉えながら両の足を地につけ。

真っ向から、シェンの拳に向き合った。

瞬間的に全身を硬直させ、全てを受け入れるかのようにどっしりと構える。
鬼瓦寅男という男の我慢の精神と、衣食住より拳の鍛錬を積み上げて来た彼だからこそ出来る"捌きの構え"だ。
シェンの拳が、ゆっくりと胸部に着弾する。
骨が軋み、肉が潰れ、全身が悲鳴を上げているのが分かる。
わかった上で"我慢"する。
我慢の先で、肉体にこの上なく強烈な電気のような物が流れる。
その電気を動力とし、攻撃を受け止める為に硬直しきった体を瞬時に稼働させる。
捌きの構えのまま片手を引き、たっぷりと息を吸いこむ。
瞬時にまっすぐと貫くように抜き手を伸ばす。
刀のように鋭く、竜のごとき勢いで襲いかかるその手を、人は"ドス竜"と呼んだ。

50Knuckle Talking ◆LjiZJZbziM:2012/07/28(土) 06:46:10 ID:sFwoFStg0
竜の一撃を食らい、シェンは再び後ろに大きく吹き飛んだ。
但し、今度は受け身すらままならない姿勢で。
建物と一体化し、瓦礫を被るように倒れ込んでいた。
その場から素早く抜け出す為に、自身を殴って練る気の代わりに、先ほど受けたダメージから練った気使う。
それを纏うように全身に染み込ませ、一気に爆発させる。
吹き飛んでいく瓦礫の奥にゆっくりと視界が光を取り戻して行った。

そこには、つい先ほどまで拳を交わし合っていた男、空手バカ鬼瓦寅男の額に小さな穴が空く瞬間が映っていた。
辺りに血が飛び散り、寅男の体がゆっくりと大の字に倒れ伏していく。
状況を察知したシェンは素早く他の建物の陰へと飛び移り、次の銃撃をかいくぐって行く。

自分達が戦う前から狙われていたことをそこで把握した。
戦いの結末を安全な場所で見届けた後、片方を銃殺する。
最も効率的で、最も安全なその手段をこの場で取らない理由はない。
しかし、一つだけ襲撃者はミスを犯している。
戦いの結末が訪れる瞬間を見誤った事、つまり自分にその存在を教えてしまった事である。
見えない所から正確に急所を打ち抜く暗殺者に、徒手空拳のみの自分がどう動いて行くのか?
取るべき選択肢は無数にある。
「……楽しませてくれよな」
一歩間違えば死という状況で、彼は血を拭いながら笑う。
殺し合いだとか場の状況どうこうよりも、彼は純粋にケンカが楽しみたいだけだ。
拳を握り締め、ケンカをより楽しくする次の一手を選択していった。

51Knuckle Talking ◆LjiZJZbziM:2012/07/28(土) 06:46:21 ID:sFwoFStg0



白の女性用スーツに美しい金髪の女、ベティ・ドー。
20世紀最も成功した実業家としても有名な彼女も、この場で取る行動は変わらなかった。
飢えと貧しさから逃れるために、幾多もの人間の命を奪った。
今更数十人殺そうが、彼女にとっては何の支障も無い。
目的はたった一つ、生きる事である。
それを成すためなら、どんな手段だって彼女は取ることができる。

幸運にも、支給されたものの一つには狙撃用の銃が入っていた。
自分が目覚めた場所は建物の最上部、さらに下では殴り合いを繰り広げている男が二人いる。
最後の一人になるための第一歩を踏み込むための舞台は揃っていた。
殺気を消して銃を構え、じっと時を待つ。
胴着の男の抜き手がもう一人の男を吹き飛ばし、カラテの構えを作った所で引き金を引いた。
神懸かり的な狙撃精度が、頭を打ち抜いていく。
これで早速二人の敵が居なくなったはずだった。
信じがたいことに吹き飛ばされた男が、闘気だけで瓦礫を吹き飛ばして起き上がったのだ。
さらに男は自分の存在を察知したようで、狙撃の死角へと逃げ込んで行ってしまった。
そのまま逃げるのならば一向にかまわないのだが、男がもし自分を狙いに来たらという事を考えてしまう。
遠距離戦に自信があっても、近距離戦に持ち込まれてはこちらが不利になる。
存在を悟られた以上、出来るだけ早めに始末しておきたいのは確か。
しかしそのために姿を現すのはあまりにリスキーすぎる。
「焦ってるのかしら……柄でもないわね」
命を握られた上での殺し合い。
それは彼女が生きてきたいつ死ぬか分からない日々に酷似している。
やることなど、決まっているはずなのに。
命を握られていると言う場面に立たされ、一種の焦りを感じずにはいられないのか。
「ハラの探り合いね、上等だわ」
不安とも恐怖とも言いにくい気持ちを抱えながら、彼女も次の一手を仕掛けて行く。

数多の屍の上に鎮座する、女王になるために。

52Knuckle Talking ◆LjiZJZbziM:2012/07/28(土) 06:46:35 ID:sFwoFStg0

【鬼瓦寅男@堕落天使 死亡確認】

【F-2/平瀬村居住区/1日目・朝】

【シェン・ウー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(大)、爆真
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜3)
[思考・状況]
基本:ケンカを楽しむ

【ベティ・ドー@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:レミントン RSASS@現実(18/20、予備弾10発)
[道具]:基本支給品(食糧ナシ)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:どんな手段を使ってでも生き残り、最後の一人になる

53 ◆LjiZJZbziM:2012/07/28(土) 06:46:48 ID:sFwoFStg0
投下終了です。

54名無しさん:2012/07/29(日) 14:40:52 ID:9646uJWI0
鬼瓦先生目を覚ましてください今ならまだ間に合います!!

投下乙です

55 ◆EKhCqq9jsg:2012/07/30(月) 18:16:59 ID:gfq3BTAs0
KOFからブライアン・バトラー
アウトフォクシーズよりダニーとデミ

計三名を予約します

56 ◆EKhCqq9jsg:2012/08/04(土) 16:01:11 ID:Uz44KW7.0
申し訳ございません。
ちょっと推敲調整その他諸々等に手間取って18時頃には投下が不可能となってしまいました。
初っ端から大変恐縮なのですが、一旦破棄致します。
お目汚し失礼いたしました。

57 ◆LjiZJZbziM:2012/08/10(金) 22:24:50 ID:a//znzQk0
>>56
Freeeeeeeeeeedomな企画なのであまり気張らずに、肩の力を抜いてお気軽に行きましょう!
投下の目処が立ちましたら、是非ご投下を! お待ちしております!

と、いったところで投下します。

58さよなら、真実。こんにちは、真実。 ◆LjiZJZbziM:2012/08/10(金) 22:27:03 ID:a//znzQk0
「エヌアインにより完全者、及びヴァルキュリアが倒された」
数ヶ月前、世に流れた情報である。
新聖堂騎士団を統括する完全者ミュカレ、そして女神ヴァルキュリア。
その二人は、神の実現態による反逆より人知れず倒され、新聖堂騎士団は崩壊した。
その日を境に旧人類狩りは止まり、世間一般の表向きには平和が訪れたように見えていた。

しかし、現実としては新聖堂騎士団は崩壊していなかったのだ。
倒されるちょうど前日、完全者ミュカレは全部隊に「撤退命令」を出した。
自分が統括する二番隊を含め、全部隊への完全撤退命令。
このまま進めば旧人類を狩り尽くす事ができるという場面での撤退命令。
仕方なく命令に従い撤退したものの、正直に言えば不可解な点が多すぎた。
だがその真意を探る前に、完全者ミュカレはこの世から姿を消してしまった。

クローンの命は持って数年とされる。
ただでさえ短い寿命を電光機関で削るのだから、長くは生きれないだろうと言われていた。
だから、数々の場で旧人類狩りを率先して行っていた自分が、騎士団崩壊後しばらく生きながらえる事が出来たのは、正直意外だった。
だが、戦うために作られた自分から戦いを取り除かれたとき、そこに残るものはほとんどなかった。
出動しようにも出動できず、ただただ日々をじっと過ごす意味のない生を紡ぎ続けていた。

何日過ぎたか数えるのが馬鹿らしくなったある日。

「ヤツらと殺しあえ」
突然現れるや否や、自分を含めた数名の兵士を呼びだしてミュカレはそう告げた。
モニターには50弱といったところの人間が映し出されていた。
いったい何故? と問う前に、麻酔針による眠りへと誘われた。

そして、目が覚めた。

正直、何がなんだか理解することは出来なかった。
完全者の意図も、何もかも、断片すら掴むことは出来なかった。
いや、掴む必要など元々なかったのかもしれない。

自分は、旧人類を殺しきるための造られた命である。
他の誰がどう思っていようと、関係はない。
考えを捨て、疑問を捨て、上へ従い、旧人類を倒す。
それが、自分たち電光兵士に課せられた命なのだから。

何も考える必要など、ない。
殺しあえという明確な指示を下されている以上、それをこなすだけである。
そう、それだけでいい。

まるで言い聞かせるように、兵士は目の前の女へと襲いかかった。

59さよなら、真実。こんにちは、真実。 ◆LjiZJZbziM:2012/08/10(金) 22:27:28 ID:a//znzQk0



はいはい、どーも。
現役女子高生のトレジャーハンター(自称)ラピスちゃんです!
と、いってもラピスっていうのはいわば通り名的な物なんだけどね。
ま、それはそれとして。
現在私は殺し合いのイカれた現場に巻き込まれていまーす!!
はぁ……なんでうら若き乙女をそんな悪趣味なことに巻き込むのよ。
私には父さんの残した謎のメモの解明と、"大いなる遺産"を捜し当てる重要な任務があるって言うのに、まったく。
まあ、冒険にトラブルは付き物よねってことで仕方がなく現状を受け入れることにしたわけ。
し、仕方なくよ?! 誰も好き好んで殺し合いなんてしたかないわよ!

で、私はこんなくだらないところからさっさとおさらばしたいと思ってる。
キチガイに襲われて命か純潔のどっちかを奪われたらたまったもんじゃないわ。
でも、逃げだそうにもこの首輪がネックなのよね。
スマホの説明を見る限り、無理矢理はずそうとするとあっと言う間もなくあの世行き。
しかもこれがあのよく分かんないロリっ子の意のままに爆破出来るって言うんだから、どうしようもないわよね。
この孤島からの脱出をはかれば、そこで爆破されて終わり。

だから、私が生きてこの場から抜け出してお宝探索の続きをするには、三つ必要よね。
一つ、このクソダサくて忌々しい首輪とオサラバする。
二つ、この島からオサラバする。
三つ、あのロリっ子にちょーっとキツい灸を据えておく。
命の安全の確保、という点では一が最優先。
このための知識、材料、技術とかの情報を仕入れるのが当面の行動方針ね。
そうと決まれば早速行動! お得意の鞭を握りしめて決意の足を進めていくわ!



まさか、のっけからああなるなんて思いもしなかったけどね。

60さよなら、真実。こんにちは、真実。 ◆LjiZJZbziM:2012/08/10(金) 22:27:43 ID:a//znzQk0



鋭いソバットが、眼前に飛んでくる。
ギリギリのところでそれを避け、敵襲に身を構える。
「ほう、少しはやるようだな」
金色の整った髪、白い制服、無機物のような表情。
新聖堂騎士団の、エレクトロ・ゾルダートがそこに立っていた。
「だが、旧人類は抹殺する。それが俺の任務だ」
何人もの人間が彼らに葬られた理由。
それは彼らが操る特殊な装置、電光機関から発せられる雷の力であった。
戦車の装甲すら溶かすその威力に、何人もの人間が飲み込まれていった。
バリバリと音を立て、ゾルダートの周りに雷が起きる。
「アーイ!」
機関の力を解放し、大きな雷球を作り上げる。
ゆっくりと確実に獲物へと迫っていく雷球を盾に、ゾルダートは更に攻撃を仕掛ける。
常人なら、この雷球を避けるかなにかリアクションを起こす。
その時に生まれる隙を、空中から突く。
旧人類狩りと全く変わらない手法で、ゾルダートは早速一人の旧人類を仕留めた。



そう、襲いかかった彼女が「人間」だったなら。



「やっぱり、電光機関なんて大したことないわねぇ」
ゾルダートが空に飛び上がった瞬間、溜息とともに女性は呟いた。
そして女性を中心に、電光機関で作られた雷よりも何倍も大きい、紫の雷注が落ちた。
「うーん、まだ調子が悪いわね。やっぱりそううまくは使いこなせない、か。」
電光機関による雷球が一瞬で消え去ったことに、ゾルダートは驚きを隠せない。
「あなた達は雷を使うようだけど、それじゃ三流もいいところね。よく見ておきなさい」
女性はゆっくりと手を引き、気を込める。
電光機関の何倍もの雷がその手に集まり、大きな球体を作っていく。
手を振りかぶって一気に突きだし、雷球がゾルダートを飲み込んでいく。
「荒れ狂う稲光、その身に刻んで眠りなさい……永遠にね」
消し炭と化したゾルダートを見て、女性は笑っていた。

61さよなら、真実。こんにちは、真実。 ◆LjiZJZbziM:2012/08/10(金) 22:28:21 ID:a//znzQk0
「オ、オロチ……」
それを側で見ていたラピスは、思わず声を漏らす。
当然、その声は雷を操る女性の耳へと届いてしまう。
女性が声に反応して振り向いたとき、相手の前髪で隠れているはずの瞳と目があったような感覚に飲み込まれた。
殺される、直感でそう感じていても体が全く動かない。
女性が一歩ずつこっちに向かって歩いてくるのを、ただ黙って見ていることしか出来ずにいた。
「あなた、オロチを知ってるの?」
目前に迫った女性が、ラピスへと問いかけをした。
その瞬間、女性の全身を迸るように一本の稲妻が流れた。
言葉すらでなくなったラピスは、涙を浮かべつつひたすら頷き続けた。
そのラピスの顎に、やさしく手が当てられる。
今にも破裂してしまいそうな緊張感の中、女性の口が動き始める。
「アハッ、大丈夫よ。取って食べたりなんてしないわ。
 そもそも、殺し合いをするつもりなんて全く無いわよ。
 ただ、あなたがオロチを知っているというのならば少し話しておきたいことがあるだけよ」
口から飛び出たのは、意外な一言であった。
ラピスが過去に調べた文献や情報が確かなら、オロチ一族は人類を憎んでいるはずだ。
しかし、今目の前にいるオロチの血を受け継ぐ女性は「殺すつもりはない」と言っている。
真偽のほどは確かではないが、ここで喋るのを渋ればどうなるかは傍の焼死体を見れば分かる。
ラピスはゆっくりと過去に調べた情報、知識を洗いざらい語り始めた。

「へぇ……個人の力でよくそこまで調べたわね」
すらっとした長い栗色の束ねた髪、誰もが一度は視線を運んでしまうほどの豊満な体の女性、シェルミー。
またの名は、オロチ八傑集の一人、荒れ狂う稲光のシェルミー。
彼女はラピスがしゃべり尽くしたオロチについての情報量に、正直な感想を述べていた。
「そこまで知ってるなら話が早いわね。
 少し前のザ・キング・オブ・ファイターズで、草薙京達の手によってオロチが封印されたことは知ってるわね?」
シェルミーの問いかけに、ラピスは黙って頷く。
「でもね、一部のオロチに関して知っている人間全員の知識はそこで止まっているの。
 これは誰も知らないけど、実は少しだけオロチ一族に関してはまだ続いているのよ」
シェルミーの口調が、少し重い物になる。
オロチに関しては文献、ハッキング、その他口に出せないような諸々でそこらの軍人よりかは詳しいデータを握っているはずだ。
しかしオロチの関係者本人が「続きがある」と言っているのだから、おそらくデータや情報にはない「何か」があるのだろう。
自分のデータが不完全だったことより、知らないことへの興味が勝り、ラピスは黙ってシェルミーの話を聞き続けた。
「"遙けし彼の地より出ずる者"がオロチを復活させようと、その封印を解いた。
 そして復活に失敗しては時をさかのぼり、過去から別の試行を試み、それがだめならもう一度繰り返す。
 彼の地の人間はそれを繰り返していたわ。
 そして、何度目かの試行で三種の神器の力を奪い去り、完全に蘇らせようした。
 結果、それも失敗したんだけどね。どういうわけかの時点から"歴史の逆行"が行われていないのよ。
 ま、なぜ歴史の逆行が止まったのかは私には分からないけれどね。
 ともかく、何度も何度も歴史が逆行したせいで、オロチの封印が施される少し前から、それが解けるあたりの時間軸がハチャメチャになってしまったわけ。
 その所為なのか、ある日突然私は肉体と意識を取り戻したの。
 オロチの力を中途半端に宿した、まるでイレギュラーのような存在としてね」
時間の逆行を繰り返し、歴史を改竄していく集団。
その存在が明かされたことが、ラピスにとって大きな衝撃を与えた。
シェルミーの話が、落ち着いた口調のままで続いていく。

62さよなら、真実。こんにちは、真実。 ◆LjiZJZbziM:2012/08/10(金) 22:29:04 ID:a//znzQk0
「時間軸の捻れ? っていうのが原因らしいわね。
 本来存在し得ない者が、本来有り得ない記憶を持ってこの世に存在している。
 そう、死んでいるはずの私が、無かったことになったはずの歴史の記憶を持って、ね
 なぜ私が蘇ったのか、なぜ蘇るときに"消えたはずの歴史"の記憶を植え付けられたのか、なぜ私じゃないといけなかったのか。謎はたくさんあるわ……。
 まっ、長々話したけど別にそんなことはどうでもいいんだけどねっ。
 せっかく蘇ったんだから、もう一度人生を謳歌したいな〜って思ってたらこんなのに巻き込まれちゃって、もうサイテーよね!
 完全者だか何だか知らないけれど、きっつ〜いお仕置きをしてあげないとね。フフッ♪」
よくできた話、と捉えることもできる。
だが、目の前の女性が紫の呪われた雷を操っていたのは事実であるし、そもそも嘘だとしてもそれを語るメリットが見あたらない。
何より軽い喋りの裏に時たま見える、凍り付くような殺意は、とても冗談で出せるものではなかった。
神妙な表情でシェルミーを見つめるラピスに対し、シェルミーは依然として軽い口調で話しかけてくる。
「アハッ! そんな怯えた顔しないで。
 少なくとも、今の私は貴方の敵じゃないわ。むしろ、味方と言っていいくらいね。
 よかったら一緒にあの完全者とか言うのを、ちょ〜っとお仕置きしに行かない?」
ともかく、今はこの一連の発言を信じる他無い。
当面の志が同じならば、ある意味ではこの上なく心強い味方として考えられる。
ラピスは、ゆっくりと口を開いた。
「私も、それを考えていたところ」
「ウフッ、気が合うわね。私はシェルミー。
 かつてのオロチ八傑集の一人で、今はちょっと雷が使えるただのお姉さんよ」
人を消し炭にしておいてよく言うわよ、という一言を飲み込み、差し出された手を取って挨拶を返す。
「ラピス、世界一のトレジャーハンターよ」
こうして滅んだはずのオロチの末裔、生きている間には出会えないと思っていた存在と共に、ラピスは殺し合いを駆け抜けることになった。
現役女子高生兼トレジャーハンターラピス、18歳のある日の出来事の、幕が開けていった。

【エレクトロ・ゾルダート(二番部隊隊長)@エヌアイン完全世界 死亡確認】
※デイパックごと消し炭になりました。

【G-9/中央部/1日目・朝】

【ラピス@堕落天使】
[状態]:うわすっげー、それマジ?
[装備]:一本鞭
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:首輪解除から完全者をシメる、そんでこの場から脱出。
1:シェルミーととりあえず行動。改竄された歴史に興味。

【シェルミー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜3)
[思考・状況]
基本:生を謳歌するため生き残る、襲われれば容赦はしない。完全者にお仕置きをする。
1:ラピスととりあえず行動。

63 ◆LjiZJZbziM:2012/08/10(金) 22:29:29 ID:a//znzQk0
投下終了です

64 ◆Syrup/uAaU:2012/08/10(金) 23:58:19 ID:Xe2DAcjE0
執筆と投下、お疲れ様でした。
オロチをそう絡めてくるなんて、「うわすっげえええ! それマジ!?」
となってしまうくらい熱いクロスオーバーだなぁ……。
ヒュープシュラウバや特攻クーゲルみたいな、実際に遊んでても使える技を
押さえた戦闘描写や、すんなり読めて楽しいラピスの一人称パート、シェルミーの
口調から伝わる底知れなさと、ひとつのSSで何度も楽しませていただきました。


熱くなった勢いで、こちらも予約を。
エヌアイン、壬生灰児、書き手枠でカティ@エヌアイン完全世界でいきます。

65 ◆LjiZJZbziM:2012/08/11(土) 12:25:45 ID:TqViHdVU0
基本ルールを一部更新しました。
放送についての解説、ストーリー解説などを追記いたしました。
放送の形式が従来のロワと違った形となりますので、ご了承下さい。

66 ◆Syrup/uAaU:2012/08/12(日) 18:29:52 ID:l5lg7BPw0
申し訳ありません、体調を崩してしまったので予約を破棄します。
いつ治ると言えない以上、いつ書き上げると保証することもできないので、
予約していた面子は必要であれば気にせず書いてやってくださいませ。

67 ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:26:38 ID:kYZST6W60
予約していたエヌアイン、壬生灰児、カティ@エヌアイン完全世界が完成したので、
これから投下させていただきます。
体調が崩れたのに期限よりも早い……? 見通しが悪くて申し訳ない!

68それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor) ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:27:09 ID:kYZST6W60
 ちらさ雨の降り来たりて、なお黄味の残る空だった。
 水の運んでくる土と風の香には、隠し切れない酒気が沈んでいる。
 独立国家『EDEN』。大地震と、それに伴う地殻の変動によって外界から隔離された暗黒街に
あってさえ、酒を作ってしまうのが人間というものらしい。
 冷静さを保っていた少年の顔が、転瞬苦いものに変わった。
 それは、なにも目の前で見知った女性が殴られたところを目にしたからというだけではない。
 天霧る雨を煽るように雷が、かぶりをふっても髪の張り付く耳朶を打ったのだ。
 まったく。まったく、こんなときに。街に流れてきてすぐの頃におぼえた感慨を、よりによって
今、酒の匂いで思い起こすとは。そんなものに気をやらせた、湿って重い風も雨呼びのそれか。
打ち捨てられていた本で目にした、マドレーヌの香りとは雲泥の差だ。
 回り道にも似てふくらむ思考を払ったのは、淀んだ雲を割り裂く咆哮であった。

「俺は強ぇ……絶対に強ぇ!!」

 錆びた刃を無理矢理に振り回すような響きが、墓碑の合間を満たしていく。
 サングラスを外した声の主が浮かべている表情は、振り上げた拳に隠れて判然としない。
 傍観者であった少年に理解できるのは、ただのひと言から始まった殴り合いに一段落がついた
ということくらいだ。
「ハイジ! ……これでもう、気はすんだろう?」
 そうとなれば、とっさに紡いで裏返った声を気にする暇もなかった。
『No.8』の単語ひとつで、それを口にした女性と本気の喧嘩を始めた青年――壬生灰児の怒りを
収めるのなら、このときをおいて他にないと直感していたがゆえに。
「ふん。テメーは黙ってろ、エヌアイン。さっきまでと同じにな」
 だが、灰児はサングラスをかけ直そうとはしなかった。
 あいまい宿の寡黙な用心棒。あるいは、旧世界に死をもたらさんとした者を倒したのちに方々を
流れていた少年を拾った者の面頬を取り戻すこともなく、彼は、地に伏した女性をねめつける。
「いっ、つぅ〜……」
 彼女はチャイナドレスの裾をさばきながら、膝に出来た擦り傷を撫でていた。
 でも、同感。指先が伝線したストッキングに触れたそのとき、続く言葉が低くこもる。

「まだ終わってない。そもそも始まってもいねーんだから、坊やの出る幕じゃないね。
 ――黒手会<ブラックハンズ>の大当家、マリリン様がそう簡単に膝を折るもんかい!」

 立ち上がると同時にきった啖呵の、タメを作っていたかのように。
「往生際が悪いぞ、女」
「その呼び方には飽き飽きしてんだよ」
 涼しげな目許と裏腹に、マリリンはドスの利いた声と物言いで灰児へ応じた。
「ま、アンタのほうは、そんなことも無かったみたいだけどねェ……」
 手の甲で拭われた口許から紡がれた、言葉は青年への悪意に満ちている。
 壬生灰児。マリリンの語ったところによれば、EDENの王カルロスが作ろうとした人間兵器の
生き残り。実験の後遺症で痛みを感じないがために、無謀な戦い方の出来る青年。
 猫なで声で笑う、もと兇手にして娼婦であった女性は、そのような手合いを金や肩書きで
懐柔するのではなく、色香でたらしこもうとするのでもなく、

「アンタ、さっき自分を『強い』と言ってたね。
 あれは、アンタをそんなふうにしたカルロスから……いまの、お強いアンタを作り上げた
『始まり』から逃げた自分を知ってて言えたことなのかい?」

 先刻、彼女自身に振るわれた力でもって屈服させようとしていた。

69それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor) ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:27:38 ID:kYZST6W60
 言葉尻をとらえた挑発は、いちどマリリンに膝をつかせた青年だからこそ受け流せない。
「こうして俺にカルロスを殺させるか。黒手会とやらの邪魔者を消すために」
「もっちろん」にぃ、と笑って、女性は天に向けた右手の平を灰児に伸ばす。「ここまで言われて
逃げ出すんなら――アンタはただの臆病者だぁ」
 ふわりと雨へ溶けゆく語尾が、微笑む彼女のくちびるを飾った。
 ひとたび交差した者どもと、自分が指摘し説明すべきことを先に言われてしまったエヌアインの
間に、汗ばんだ沈黙が落ちる。

「……クソが。それが貴様の手管か」

 数瞬ののち、息を吐くような言葉が沈黙を破った。
 自身の始まりから逃げてきたという灰児が、ふたたび両腕を上げる。
 左の頬の、稜線に沿って刻まれた傷跡――戦って血が通うにつれ、生白い色から赤味を増した
過去がファイティングポーズに隠された。
 自身の始まり。その手で触れられず、語れもしないほどに距離の取れないものと戦うように。
「そのとおり。親殺しで娼婦あがりの小悪党にはお似合いで、」
 自身の始まりを開き直って認めたマリリンが、全身から力を抜いた。
 ときに鞭を思わせてしなり、ときに風車のごとく切れ味を増す手刀のいずれが放たれるか。
 体幹こそ整っているが、縦横に体を揺らす曲線的な構えからは使い手の意図が読み取れない。
「もう一度だ。……エヌアイン。お前は水を差すんじゃねぇぞ」
 その彼女へ灰児が無造作に近づき、飛び込んで一気に距離を詰めた瞬間、
「――こんなところで終わりゃしない力だよッ!」
 マリリンは、地を這う蛇を思わせる構えをとって相手の懐に入った。
 台詞とともに顎を突き上げるはずであった青年の拳を低い姿勢で避けると同時、女性は総身に
めぐる気血を込めて伸ばした腕の、手刀を相手の腹に突き込む。
 そうして、ひとたび相手に触ってしまえば、幻惑性をもつ多段連係が相手を捉えて離さない。
 一撃こそ軽いが、確実に積み重なる衝撃。胃を揺らしにかかる四本貫手。肺腑を突きあげて吸気を
押し出す掌打に、体ごと腕を回転させ、崩れかけた姿勢を上から押さえつけにいく手刀――。
 呼吸をするような自然さで多彩な技と構えを組み合わせ、ひとつの種類、ひとつの部位への打撃に
慣れるいとまも与えぬままに死をもたらす、兇手の技の精髄がこの場所で顕れていた。

 最初の交錯で、相手はタフネスに秀でていると確信したのだろう。
 掌底で吹き飛ばしてのちの追撃や、多少の無理をとおしてさえも、マリリンは攻勢の維持を選んだ。
圧倒的との形容が至当な連撃で灰児の動きを固め、その場に縫い止めつづける。
 相手が普通の人間であったのならば、戦いの趨勢など、とうに決していた激しさで。

「効かねえ……ッ」

 軋る奥歯と止まぬ煉鎖の隙間から、痛みを知らぬ青年は決然と声を発した。
 彼は、マリリンの打撃すべてをいなしていたわけではない。その証拠に、呼吸はいつ息を吐いて
いるのか――すなわち、いつ筋肉が弛緩しているのかがうかがえるほどに乱れている。
 灰児が大きく体をひねったのは、何度目かの攻勢を凌ぎ切った、そのときだった。

70それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor) ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:28:55 ID:kYZST6W60
「いけない、灰児――マリリンっ!」
「受けるか! このブローをぉお!」

 手加減はできないと言い切っていた青年の、右拳が振り下ろされる。
 マリリンが繰り出す攻撃の複数段に相当することがひと目で分かる一撃は、上海一の打派と
されていた大魏の放つ突進に似て非なるものだ。
 あの職業兇手のわざが面制圧に秀でているのだとすれば、灰児のそれは突破力に秀でる。
 溜め込んだ力の、雪崩落ちるように襲い来るさまには、なまなかな防御も攻撃も意味をなさない。

 鉄槌のごとく迫った拳を前にして、マリリンは鋭く吸気を肺に送り込んだ。
 引き締まった表情のなかで、薄い舌がひらめく。あだめいた赤が乾いた下唇をひとつ叩いた次の、
ひと刹那。胸元に引き付けた腕が、練られた吸気によって緊張を保ったまま灰児の拳を受け止めた。
 短く呼気を押し出し、鋭く次を吸い込むたびに相手の重心をずらしてさばき、いなして、

「もらったぁ!」

 一発の拳にこめられた衝撃の、ゆうに十段を受けきった女性の腕がしなる。
 腕全体を使う劈掛掌が間合の内側にあって、しなった腕は胴体へ巻き込むように絞られた。
 結果、殺人姫の掌底は、攻撃を出しきって重心を崩した灰児の脇の下にと叩き込まれる。

「ふーぅ……」
 交錯を終えておおっぴらに吐かれた女性の息は、決着を暗に示すものだった。
 厚みを増した雲の下では、霧のようであった雨がぱたぱたと音を立て始めている。
「あれが、アンタの攻性防禦か」
 急所を打たれて、それでも平然と姿勢を整える灰児を、エヌアインは今度こそ止めた。
 痛みを感じないのなら、神経の集中している場所を打たれても目立った悪影響が出るとは思えない。
それでも打撲や骨折などは残る――本人が意識せずとも刻まれるのだと、この数ヶ月で理解している。
「そ。坊やが未来を読む? のと同じ。気を練るだとか力を溜める技はアタシにも縁が深いのさ」
 いつか割り込まれるって分かってても、怖いことは怖かったけどねぇ。
 放り出していた扇を拾い上げたマリリンは、今まさに歩き出そうとする青年に目を向けた。
 壬生灰児。痛みを知らないとされている八番目の狂犬は、胸奥でうずく古傷の、痛みを見据えて
光った瞳をサングラスに隠している。

「あれだけ怒れたなら、アンタは十分やれるよ。こっちの下心なんて関係なしに」
「好きに言ってろ」
「ただ、カルロスのところに向かうまでに、傷の様子くらいはみて欲しいな」

 自分なりに納得できるかたちで、始まりの終わりを迎えるために。
 旧人類への思いを語らずにすんだエヌアインもまた、胸の痛みを隠して苦笑する。


 ――エヌアインらが完全者ミュカレの掌に招かれる、すこし前の出来事だった。



 ◆◆



「……そっか。そういう、ひとだったんだ」
「うん。あの時ボクは灰児の傍にいたけど、彼が声も出せないなんて」

 ぼそぼそと言葉をつむぐエヌアインを見ようとして、少女は小さな唸り声をあげた。
「う〜……安全そうっていうのは分かるけど、やっぱりやだよぉ」
「同感だよ。火葬場になんて、誰も近づこうとはしないだろうけど……」
 彼女のいた国には火葬の習慣もなかったのだったかと考えかけて、少年はそれを打ち消す。
 カティ。上海の貿易公司に勤める、ドイツ人の夫婦の娘。そんな話は聞いてみたが、旧人狩りに
よって埋葬する土地も足りなくなった現状では、各国の風習など気にしてはいられない。
 それでも、膝を抱えていた少女を連れて焼場に入ってみれば――。
 火葬を終えた直後だったのだろう、焼却炉から引き出された台座の上に焼けてなお人のかたちを
保っている骨が、という光景を見せられては、カティが平静を保っていられなかった。

71それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor) ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:29:33 ID:kYZST6W60
『このひとは……葬ってくれるひとがいたなら、まだ良かっただろうけど』
 ミュカレちゃんは、もっといやな焼かれ方をしたのかな。
 そんなふうにべそをかかれて、巧く慰められるほど、少年は成熟してはいなかった。
 あるいは、自身の目的を見失いはしなかったというべきなのかもしれない。

 ……ミュカレ。
 真理にたどりつき、転生の法を手にした完全者。
 殺し合いの始まりを宣告された場で消されたカルロスが灰児の始まりであったのだとすれば、
いちど倒してもなお、あの場で万能の玉座に座した彼女こそが、エヌアインの始まり――。
 神の現実態、エネルゲイア・アインと称され、神たることを望まれた存在の立脚点であった。

『――その。キミの体に、ミュカレが取り憑いていた時期があったんだね?』
『うん。そのとき、カティには分かったの。ミュカレちゃんはずっと、ひとりで寂しがってたって』

 要領を得ない説明を思い返した少年は、肉体年齢にそぐわぬ疲労をおぼえた。
 カティの話を聞いて、完全者を哀れに思わないでもなかったが、彼女の目論見を裏切った自身の
決断を、ここに至って後悔するいわれもない。
 神。孤独の極地にあって、頂点にあるがゆえにいずれは他者に超えられ滅ぼされるものになど、
数多の実験で兄弟を喪ってきたエヌアインがなりたいと思えるものではなかった。
 痛みを知った表情で、身をちぢめる彼の胸中でうずく傷はまったく違う所で負ったものだ。

 自身の目的であった男を目の前で奪われ、言葉を喪った壬生灰児。
 エヌアインも彼と同じに、一度達したはずの目的と、役目を果たした旧人類とともに暮らすに
あたって隠し続けた傷とを掘り起こされて、指の一本も動かせはしなかった。
 たしかに、カルロスの命を奪った首輪はこちらの命をも握ってはいた。
『でも、そんなことは関係ない』
 動けなかった時点で、自分は、相手に呑まれた。
 この手に渡されかけかけたノイラント――新たにして完全なる世界を拒絶し、先史文明に繋がる扉を
閉ざしたはずの自分が、完全者の手からは逃れられなかった。その現実を受け入れてしまったのだ。


 むろん、あの場で積極的な自殺をはかれるほど、少年たちは愚かではなかった。
 愚かではないからこそ、この場に送られてしまった時点で、誰もが盤上の駒となり、どう動いても
完全者の予想を超えられなくなることにも考えが向かってしまう。
 死の力を乗り越えたという完全者は、ゆえにこそ自身の敗北……死をも受け入れられるがゆえに。


「エヌ、アインくん?」
「ん、ああ……」
 不意に響いたカティの声に、エヌアインは生返事を返した。
 気の入らない自身の声音を耳にして、思った以上に衝撃を受けている事実に気がつく。
 ぽっかりと胸に穴を開けたものに名をつけてしまっては、歩き出せなくなるようにも思えた。
「ほら。あれ、見て」
 胸に吹き込む風から逃れるように、彼は、カティの指がさすものに目をやる。
 ひょっとしたら、と、言われるまでに確信した。焼場の前面に張られたガラス窓、その向こうを
歩いている青年。黒いサングラスとジャケットに、くすんだ砂色の髪が映える――。

「灰児」

 つぶやくがはやいか、エヌアインは立ち上がって彼の姿を追う。
 傍に置いていた杖をつかんで彼に続いたカティは、心配そうに眉根を寄せる。
 彼女の耳には、少年の声がひどくあどけない響きを残して届いていたのだ。

72それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor) ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:30:53 ID:kYZST6W60
 ◆◆



 幸いにと言うべきかどうか。
 壬生灰児は、常の居住まいを保ってこの場所にあった。

「皮肉だな。目的を達していようがいまいが、感じたことは同じか」
「じゃあ、どうしてキミは……あんなに迷いなく歩いていたんだ」

 再会の言葉もそこそこにPDAを取り出して、エヌアインは地図を参照していく。
 焼場。H-7の周辺で目立つランドマークは池と灯台。加えて氷川村という集落だ。村の近くに
診療所もあるという点をかんがみれば、自他の傷に疎い灰児が目指すのもうなずける。
 長期的な目的がなんであれ、自身のコンディションをベストに近づけることは肝要だからだ。
「質問をしておいて、地図と睨めっこか?」
「ご、ごめん。目標がないなら、動きようもなかったなと思ってさ」
「そういえば地図なんか見てなかったね。足長おじさんの杖があったから、なんだか安心してたや」
 カティが両手で握っている杖の、眠たげな一つ目に視線をやって、灰児は嘆息した。
 彼が歩き出す以前――夜の街で用心棒をしていたときなら、くだらんとでも続けていただろう。
硬直するしかなかったあの瞬間とはちがって、少しは彼もくだけている――。
 そうと感じて、エヌアインの側も、行動方針を相手本人に訊けばいいということに思い至った。
「それで、灰児。キミは診療所でも目指すのかい?」
「ああ?」
 だが、質問を受けた青年は、憤りもあらわに声を荒らげた。
「お前……『目標』ってのは、それでいいのか」
「だから、どこを目指すかっていうのがなければ、動きようもないじゃないか」
 重ねて問いをかけられれば、サングラスの下からのぞく傷跡に赤味がさす。
 それが怒りによるものだと気づいたときには、決定的な言葉が彼の口から放たれた。

「いまさら聞くまでもないだろうが。俺の行く先は、カルロスを殺しやがったあのガキだ」

「……だめ。それ、だめっ」
 エヌアインが何か言うまでに、カティが弾かれたように首を振る。
「ミュカレちゃんは許されないことをしてるって、分かるよ。でも……でもその前に、カティと
ミュカレちゃんを会わせて」
 ミュカレちゃんは、寂しがってたから。
 あまりにも情緒的な言葉を耳にした灰児は、拳を振り下ろす場所のなさに唸った。
「ガキが……。俺の邪魔をするなら、手加減はできねぇぞ」
「カティだって、そんなことなんかできない! だって、さっきエヌアインくんの話を聞いて、
あなたのことも知りたいって思えたもの」
「互いに理解して仲良しに、ということか?」
「ちがう! 自分の思ったことに納得できなきゃ、ここから一歩も進めないよッ!」
 マントを握り込んだ、その手で胸を押さえながら、少女は奥歯を噛み締めた。

「あなたが目的を奪われたみたいに、カティだって、自分のやりたかったことに向き合えてないの。
 それを、そのままにして……『ここ』を空っぽにしたまま、生きたいなんて思えない」

 一語一語を食い締めるようにつむがれた言葉は、ひどく青いものだった。
 兇眼の杖。瀕死の淵にあった自分を救った得物が自身の手に渡ったことが完全者の心遣いである
などと、この少女は欠片も考えない。
「カティは――ミュカレちゃんと、ちゃんとお話するの」
 かりに考えていたとしても、それを認めることだけはしなかった。

73それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor) ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:31:18 ID:kYZST6W60
 自分自身の限界はもとより、ものごとをいなすことや曖昧にしておくことにも慣れていない
少女の言い分を聞いて、灰児は『処置なし』とでも言いたげにかぶりを振る。
 鼻にかかった笑い声に、しかして彼女をあざける色だけはない。

「……エヌアイン。お前はどうする」
「ボク、は――」

 水を向けられた少年の声にあるのは、かすかなふるえであった。
 ふるえがくるほどに、彼は、目の前にいるふたりに圧倒されていた。迷っていようといまいと、
目指すところを明確に想像できる者たちに畏怖すらおぼえた。
 ひるがえって、エヌアインの側は、いかな到達点も描くことがかなわない。

「ボクは一度……完全者を、倒したよ。
 人類の飛躍なんか望まないボクを器に選んで、人類だって望んでいなかったろう救済を目的にして、
『完全なる神々の世界』とやらを目指したアイツのことを」

 だが、もう、ここに立つエヌアインは知ってしまっている。
 完全者を殺しても、彼女の魂があるかぎり、同じようなことは何度でも繰り返されると。
 完全者を殺さなくとも同じだ。彼女の掲げるプネウマ計画が復活したならば、自分はまた孤独の淵に
立たされるか、役立たずの烙印を押されて処分にかかられる。
 旧人類の味方をすれば、おのが素性も明かされてしまうのかもしれない。
 背負うべきものの量が、隠すことの重みが、うつむいた頬に深く影をおとしていく。
 抱えきれない荷は、重苦しい沈黙を呼び込み――濃密な無音の時間に、真っ先に堪えられなくなった
エヌアインこそが、荷を問いと変えて他の者にと投げかけた。

「どうして……キミたちは、勝ち目のないことに立ち向かっていけるんだ」

 ――彼にとっての、終わり。
 すなわち、旧人類との間に生まれる溝を恐れて、明確な始まりを口にすることのできない少年の
顔は、カティのいう『空っぽ』に満ちていた。空っぽという言葉が、自身の胸中にある何を例え得る
のかにに気づいた彼は、もはやふるえることも出来なかった。
 莫迦げたことを終わらせようとして、一度は本当に終わらせ得た少年は、だからこそ虚しさに
とらわれている。
 さながら神の定めを反故にした罰として、果てない徒労を与えられたもののように。


「痛ぇのか」


 ささやくような声音に、少年が顔を上げれば、灰児が彼を見据えていた。
 黒いサングラスをかけ直す、青年の双眸には哀れみというべき光があるようにも見えた。
「あ、灰児さん……」
 どう声をかけたものか、迷っていたのだろう。
 自分と灰児の間に立ったカティの視線は、きょときょととして落ち着かない。
「そう、だ。うん。きっと、『ここ』が――痛いんだと思う」
 空っぽであると分かった胸を押さえてみれば、革の擦れる音がした。
 カティも灰児も、自分さえ得をしないと知れている答えを返せば、青年は鼻をこすってきびすを返した。
「ふん」と「うん」の間で響いた吐息が、ジャケットに包まれた背中越しに伝わる。

「羨ましいぜ」

 エヌアインにしてみれば、あれほどの経験をしても先に進める彼らのことが羨ましかった。

74それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor) ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:31:52 ID:kYZST6W60
【H-07 西部/午前】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:――――

【カティ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]:ミュカレにもう一度会いに行く

【壬生灰児@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:完全者を殺す。立ちはだかる障害は潰す
[備考]:攻性防禦@エヌアイン完全世界の知識があります。


【モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界】
 ゲゼルシャフト基地に飾られていたモーニングスター。
 ミュカレに憑依されていたカティ――瀕死の少女が命を繋げるよう、塞が呪いをかけて渡した。
 その際、カティ自身が呪われることを防ぐため、コルナと呼ばれる魔除けのまじないも教えている。
 カティが勝利時に行なっている、人差し指と小指を立てるしぐさがそれである。
(第六次電光大戦パンフレット・エヌアインQ&Aより)

75 ◆Syrup/uAaU:2012/08/14(火) 16:32:41 ID:kYZST6W60
以上で投下を終わります。
前回といい、予約を入れて書くのが久々すぎて、見通しが悪くてすみません。
ゆるくても大丈夫な空気がすごくありがたいので、それを維持できるように協力しますね。

76 ◆LjiZJZbziM:2012/08/15(水) 09:36:35 ID:ovMz.Ic6O
投下乙です!
まさかの既知関係! しかもNo.8関連をそう持って……!
もう驚きの連続です。
ありがとうございました!

77 ◆LjiZJZbziM:2012/08/20(月) 23:59:20 ID:Y4w9oOvg0
結蓮、投下します。

78ミッドナイト・シャッフル ◆LjiZJZbziM:2012/08/20(月) 23:59:46 ID:Y4w9oOvg0
人と人同士が出会い、素性も何も知らない相手同士で殺しあう。
目を覚まし、タブレットのルール説明を見終えた彼女はつくづく狂った場だと頭を抱える。
生き残るためには、他の人間を殺し尽くさねばならない。
正直、並の人間にはできない芸当だ。
かといって、あのカルロスを爆殺した首輪をつけられている状態で、あの少女に逆らうのは自殺行為だ。
どちらに向かって戦おうと、明るい未来は見えない。
もう一つ、ため息をこぼす。
そして、何十回もの思考を繰り返した先で。
彼女、いや彼はゆっくりとそれに手を取った。

カチリ。
スイッチが入る。
ガリガリ、ザザザッという不愉快なノイズと、耳をつんざくようなハウリングが通り過ぎる。
しばらく鳴り響き続けた後、スピーカーから流れる音が小雨のようなホワイトノイズのみとなる。
コホン、と咳払いが一つ。

スピーカーから流れ出るのは大音量の幻想。
夢と、幻と、現実と、理想と。
酸いも甘いも知り尽くしたようで、どこか純粋さを感じさせる。
耳元でひっそりと囁くようで、腹の奥底から力を込めた絶叫のようにも聞こえる。
殺し合いの場で、一段と大きく響き渡る音。
それは、天使の歌声だった。

学校。
その中の一室、放送室。
EDENでは見慣れない施設の中の、見慣れた装置が並ぶ部屋。
窓越しの校庭が見渡せる、ある意味ベストの位置に座り、アコースティックギターをやさしく鳴らしながら結蓮は歌い続ける。
思考、思考、思考を繰返して辿り着いた結論。
その結論に基づいて彼女は今、歌っている。
風の魚でいつも歌っていた歌を、いつもより少しわざとらしい声で。

結蓮は考えた。
この場で自分が出来ることとは何かと。
どの道を考えても、頭には妹が浮かぶ。
この場に妹がいるのは、最初の場で確認している。
自分の自由奔放な生き方に難色を示しながらも、それでも付き合って一緒に歩んでくれた妹。
そう、今まで自分は自由に生きてきた。
だが、妹はどうだ? 自分がそれでいいと思ってその道を選んでいたのか?
全てがそうとは限らないが、NOが多いのは事実だろう。
妹の人生という道は、ここで終わるべきものではない。
その考えに至ったとき、おのずと全ての思考は繋がっていった。

生き残るためには、最後の一人にならなければならない。
そう、この場は二人では生き残れないのだ。
妹と共に、あの酒場に帰ることは叶わないのだ。
だというのならば。
妹が生き残れる確率を、少しでも上げることが自分の役目ではないか。
妹の人生が、少しでも長く続くように、自分はその舞台を作る。
兄として、妹を守ってやるべき場面なのではないか?

万人を救うヒーローにはなれない。
だから、悪に染まるしかない。
人を殺す、この場では正義とされる悪に。

妹に恨まれてもいい、寧ろ恨んでくれた方が楽だ。
自分を忘れて、この場から生きて帰って、その続きの人生を謳歌してくれることが。
この場における自分の唯一の願いなのだから。



結蓮は歌う。
声に誘われ、迷い込む子羊を待ちながら。
彼女の腰掛けたイスには二つの武器。
一つ、獲物を決して逃すことは無いと歌われた遠距離用の戦場兵器。
一つ、超高周波による衝撃波を生み出す近距離用の戦場兵器。
居場所を割られても一対一に持ち込める環境は出来ている。
校庭に人影が確認できれば、遠距離用の兵器を窓から打ち込むだけ。
しばらくはこの方法を取り続ければ、人を殺すことぐらいできるだろう。
最悪、取っ組み合いになってもある程度戦うことが出来るくらいの腕はある。

狩りの準備は整った。
自分が望むこれ以上無い褒美を手にするために。
天使は、悪魔の仮面を被りながら生贄の歌を歌い続ける。

【D-6/鎌石小中学校・体育館/1日目・朝】

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード@メタルスラッグ、エネミーチェイサー@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:結蘭のために人を殺す

79状態表修正 ◆LjiZJZbziM:2012/08/21(火) 00:00:39 ID:NhYzROFg0
【D-6/鎌石小中学校・放送室/1日目・朝】

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード@メタルスラッグ、エネミーチェイサー@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:結蘭のために人を殺す
1:人を呼ぶために、歌う。

以上で投下を終了します。

80 ◆fRBHCfnGJI:2012/08/28(火) 23:51:56 ID:Dd3cS3tE0
モーデン兵、バーナード・ホワイト予約します

81 ◆fRBHCfnGJI:2012/09/02(日) 21:46:59 ID:CuZ7N9mo0
申し訳ございませんが、予約期間に間に合いそうにありませんため予約を破棄させて頂きます

82 ◆LjiZJZbziM:2012/09/09(日) 01:23:08 ID:ez5kcSC.0
>>81
お気になさらずに、書きあがったらいつでも投下しに来てください。

では、投下します。

83日常とミステイク ◆LjiZJZbziM:2012/09/09(日) 01:23:31 ID:ez5kcSC.0
目が覚める。
見慣れない土地の、見慣れない場所で。
命を握りしめる首輪と共に。

意識を失う前に聞いた言葉。
生き残りたければ、この場にいる人間を殺せ。
要約するとそんな台詞だったか。
その意味を頭の中でクルクルと回し、一呼吸おいてから笑う。

何だ、いつも通りじゃないか。



「HEY! ちょっとぐらい俺の話聞いてくれてもいいんじゃねぇか?」
紫を基調としたパーカー、紫の帽子を逆にかぶるすらっとした長身の黒人が声を張り上げる。
男の声の先には、涼しい顔をして歩き続ける一人の女軍人がいた。
足を止める気配を全く見せることなく、男の声を背に受けながら足を進め続けていた。
男が足を早め、女軍人の足の進む先の少し前へと移動する。
「YOYOYO! 澄まし顔してスルーかい?」
「あなた、民間人ね?」
しつこくまとわりつく男に対し、表情を崩さずに女は冷たく言い放つ。
「おっと、俺はそんな一般人じゃないぜ! 何せあのザ・キング・オブ・ファイターズにも出場したラッキー・グローバー」
「巻き込まれてしまったのは同情するけど、今は自分の身を守ることを考えなさい」
前に立ちふさがる男、ラッキー・グローバーに対してその一言を添えて横を通り抜ける。
「格闘に少し自信があるからといって、どうにかなるほどあの女は甘くないわよ」
女軍人、鼎は知っている。
とはいっても、断片的な情報ではあるが。
完全者ミュカレ、かつて全世界に向けて宣戦布告をした人物。
直接相見えることは無かったものの、その力は十分知っているつもりだ。
今回の殺し合いも、何かしらの目的があって開かれたものだろう。
その目的を探ると同時に、被害を最小限に食い止めることが求められる。
目の前の男のように、一般人が巻き込まれているのならば、その安全は確保しなければならない。
故に、彼をこの戦いに巻き込むわけにはいかなかった。
そういう話が通じる人間ならば、良かったのだが。
「そうじゃなくって! 一緒にあのガキンチョを分からせに行こうぜって言ってんだよ!」
「それなら尚更ね、あなたのような人間が立ち向かっても返り討ちにあうだけ。完全者は私が何とかするからあなたはどこかに隠れてなさい」
どうにも彼はあのミュカレ討伐に一役買いたいらしい。
しかしどうみても一般人、ないしそれに毛が生えた程度の彼ではミュカレどころか道中で返り討ちになるのが目に見えている。
どこから沸いてくるのか分からない自信は、時にその本人の首を絞めることになる。
事が済むまで自分の命を守ることを最優先に行動してほしい、そう願っているだけなのだ。

84日常とミステイク ◆LjiZJZbziM:2012/09/09(日) 01:23:45 ID:ez5kcSC.0
「Huh? そういうアンタはあのガキンチョをなんとかできるってのかよ。俺からすればその方が信じられねえな」
見方を変えれば人を見下ろした態度ともとれる鼎に対し、ラッキーはその実力を疑った。
仮にもKOF出場の彼をここまで一蹴できる、それなりの実力があるのだろうと踏んだ。
「いいわ、そこまで言うなら連れていってあげる。
 ただし、私と戦って勝つことができれば、ね」
小さなため息と共に、腰に手を当てて鼎が答える。
ラッキーは心の中でガッツポーズをとりながら、どのように攻めるかを考えていた。
「ヘッ、上等だぜ!」
その言葉と同時に、ラッキーの体が残像を纏う。
流れるように地面を滑り、瞬時に鼎の背後へと向かう。
それから右手に気弾を作り上げていき、地面へと叩きつけて気の柱を立てる。
彼の、自慢の必殺技。
「ヘルバウッ……なッ!」
それが、いともたやすく受け止められる。
鼎のとった妙な構えに、光の柱は吸い込まれるように無力になったのだ。
その吸い取った力の一部を働かせ、鼎は全身を用いて空気を瞬間的に振動させる。
圧縮された空気がラッキーの体へと直撃し、ふわりと巨体が浮いてから、ゆっくりと落ちた。
攻勢防禦、常人が知り得ない攻守一体の構え。
背後なら隙だらけだと踏んだラッキーの策は、その力を利用されて吹き飛ばされる事になった。
「……分かったかしら、おとなしく安全な場所に隠れてなさい」
冷徹かつ手短に鼎はラッキーへと告げる。
当のラッキーは、いつぞやに受けた屈辱に似たような光景を思い出し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
鼎は振り向かず、その場を黙って立ち去っていく。
ラッキーは、その後を追わずに倒れ伏したままである。
鼎の姿が見えなくなるまで、ずっと、ずっと、地面に寝転がっていた。

ラッキーのまとわりつきから逃れ、ようやく一人の時間ができた鼎は現状の整理を始める。
あの全世界にテロを仕掛けた完全者が、今度は一部の人間を集めて殺し合いを仕掛けている。
自分やその他の人間を知らぬうちに連れ去る事のできる技術があるのならば、その技術で人類を抹殺すればいいだけのこと。
それをわざわざ殺し合いという手口をとっているのには、何か特別な理由があるはずだ。
いったいどんな理由でこのふざけた遊技を開いているのかは分からないが、読み切れない部分は多くある。
まずはできるだけ被害を少なくしつつ、彼女の目的を知ることが求められる。
いずれはこの計画の中断まで持ち込むための、下準備を今からしておく。
鼎は、情報を求めて歩き出す。



ここで、既に彼女は一つのミスを犯していた。
一般人を巻き込まず、被害を最低限にすると言っておきながら、ラッキーをあの場に放置してきたことだ。

85日常とミステイク ◆LjiZJZbziM:2012/09/09(日) 01:23:59 ID:ez5kcSC.0



大きく寝そべっていたラッキーが、ゆっくりと起きあがる。
鼎が消えていった方向を少しだけにらみ、服に付いた埃を手で軽く払う。
「なんだよ、E−THAI HO−DIE言いやがって……」
足元に空き缶でもあれば、け飛ばしていただろう。
やりきれない怒りと悔しさをぶつけることすらかなわず、ラッキーは足を進めようとした。
そのときである、彼の視界に一人の少年の姿が映った。
ヘビィ・D! とはまた違う特徴的髪の毛、青色のパーカー、ほぼ土気色の肌。
その目が虚空を見つめていると分かったとき、ラッキーは手を伸ばした。
「おい、ボウズ」
そこから先は、声がでない。
いや、出すことはできなかった。
ラッキーが口を開いた瞬間に、少年の姿が消え、次に気がついたときには首をカッ切られていたからだ。
命乞いをする余裕すら与えられず、吹き出していく血を見つめることしかできずに、ラッキーは力無く倒れていった。



彼は、殺し屋だ。
幼くして殺しのノウ・ハウを全てたたき込まれ、今やEDENの大人が彼に畏怖するという状況すら作り上げている。
そんな彼が、殺し合いに巻き込まれた。
ならば、やることは単純だ。
人を、殺す。

今まで通りの生活で、今まで通りやってきたことをすればいい。
それだけである。
それを理解しているのか、いないのか。
どちらにも取れて、どちらにも取れない不思議な笑みを浮かべながら。
少年、ルチオ・ロッシはラッキー・グローバーの死体を後にした。

【ラッキー・グローバー@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【H-3/中央部/1日目・朝】
【鼎@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:現状把握、被害を最低限にして事件解決。

【H-3/やや南部/1日目・朝】
【ルチオ・ロッシ@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:…………ケッ

86 ◆LjiZJZbziM:2012/09/09(日) 01:24:11 ID:ez5kcSC.0
投下終了です。

87 ◆LjiZJZbziM:2012/09/11(火) 18:29:21 ID:ytErcVAU0
投下します。

88火星人以下の意思疎通能力 ◆LjiZJZbziM:2012/09/11(火) 18:32:12 ID:ytErcVAU0
「邪魔をするなら容赦はしない」
「それは俺の台詞だ、道を阻むのならばここで死んでいけ」
ぶつかり合う視線、互いが互いを敵だと認識しあっている。
理由としてはごくごくシンプルなものだ。
「自分の歩く先に相手がいたから」
たったそれだけである。
だが、たったそれだけの理由でも、彼らを突き動かすには十分すぎる理由だ。
自分の人生の弊害は取り除く、それだけなのだから。

互いに譲るという考えはさらさらない。
自分の歩いていた道に相手が現れただけのこと、相手に道を譲る理由など何もない。
それでも立ちはだかるというのだから、相手を潰すだけである。
それを認識した両者が、瞬く間に戦闘の態勢へと入る。

自由を侵されることを酷く嫌い、何者にも束縛されることのない自由を好む漆黒の天使の羽。
宿命に苦しめられながらも、往年の宿敵を追い続ける咎を背負いし者の蒼い炎。
両者が同時に放たれ、両者共にぶつかり合って弾ける。
それが、開戦の合図。

炎がかき消された事を認識する前に、赤髪の男が黒い天使へと飛びかかっていく。
その勢いを全て乗せながら、空間を抉りとるように炎と共に腕を振り下ろす。
引き裂いたのは、虚空。
すんでのところで気がついた天使が一足先にその場から飛び退いていたからだ。
すかさず、赤髪の男は標的をその目に捉えて走り出す。
一気に距離を詰めようとしている赤髪の男に対し、天使はその場に屈んだまま動かない。
刻一刻と、天使を切り裂かんと一本の腕が迫る。
突進する脅威に対し、その目をまっすぐと向けたまま、天使は屈み続けた。
瞬間、目を見開く。
勢いよく地面を蹴り上げ、片足がまるで何かをなぞるように放物線を描いた。
だがその蹴りも男を退けることは叶わず、その体の一部を掠めるだけに終わってしまった。

89火星人以下の意思疎通能力 ◆LjiZJZbziM:2012/09/11(火) 18:32:28 ID:ytErcVAU0
互いが互いに、次の一手を思考する。
目の前の障壁を、確実にぶち壊すための一手を。
両者の思考が同時に結論を導き出し、反射的に体を動かしていく。
そして今にも憎き相手に飛びかからんとしたその時。
「ストップ」
両者の間に、冷たく響く声。
赤髪の男の眉間に照準を合わせた銃と、今にも天使の喉を切り裂かんと迫るナイフ。
その二つを携えた一人の女が、二人の間に割って入るように現れた。

「……何のつもりだ」
「何のつもりもクソも、こんな所で殺し合ってどうすんのって話よ。
 だからそんなことしてないで、ちょっと私の話を聞いてほしいと思うんだけど?」
ナイフの切っ先も銃の照準も一切ズラすことなく、乱入者の女軍人は赤髪の男の問答に答える。
二人の戦闘に乱入した理由を簡潔に述べながら、その場にじっと留まる。
女の答えと同時に、赤髪の男の手に青い炎が灯る。
「下手に動くと額の風通しが良くなっちゃうわよ」
銃の引き金に手をかけなおし、金属音を立てながら警告の一言を釘を刺すように放つ。
このまま銃弾が放たれれば、女の言うとおりに赤髪の男の額にぽっかりと風穴があくだろう。
「そんな玩具で俺をどうにかできるとでも思っているのか?
 貴様が引き金を引くよりも早く、貴様の息の根を止めてやる」
青い炎は男の手の上で燃え上がったまま。
両者共にその場に固まったまま、相手の方を睨みつけている。
後少し、力を込めればこの銃から銃弾が飛び出すといった所まで来たとき、赤髪の男の炎が掻き消えた。
「……フン、まあいい。
 今は京を殺すことが先だ、この殺し合いの場で奴を殺すのは誰でもない、この俺だ。
 俺の邪魔をした件については目を瞑ってやるが、次はないと思え」
赤髪の男は女軍人を一睨みした後、くるりと背を向けてどこかへと歩きだした。
幸福でも逃走でもなく、目的のための譲歩。
赤髪の男の姿が見えなくなるまで、女軍人と黒い天使は微動だにせず、その光景を見つめていた。

90火星人以下の意思疎通能力 ◆LjiZJZbziM:2012/09/11(火) 18:32:52 ID:ytErcVAU0



「ったく、噂通りの盲目っぷりね」
赤髪の男が去ったことを確認し、女軍人は一息ついて力を抜く。
八神庵、オロチを封印した三種の神器のうちの一人。
太古の昔にオロチと契約を結んだ先代の影響と諸々が積み重なり、草薙京を憎み続けている。
実際に会ってみれば、情報以上に情報通りの人物。
銃で脅したぐらいでは会話に応じることなどあり得なかったのだ。
ならば、もう一人の存在。
ナイフで動きを止めていたはずの、黒い天使へ対話を試みようとする。
「それで、聞きたいことがーーっと!」
返答は、天高く舞い上がるサマーソルトキック。
女軍人の力が抜けたのを見計らい、屈みから華麗に技へと転じたのだ。
すんでの所で避けることに成功したものの、この黒い天使が彼女と対話してくれそうにないことは、誰の目にも明らかだ。
「俺の自由は誰にも邪魔させない」
「ちょっ、待て!」
その一言を言い残して、本物の天使のように飛び去っていく。
止めようと思っても、間に合わない。
そのまま、黒い天使は羽ばたき去っていく。
「……うーん、さすがに手段を間違えたか」
見届けた後に女軍人、笠本英理は頭を掻く。
どうみても一触即発の状況、あのまま見ていれば二人のうちのどちらかは死んでいたこと確実だ。
片方はオロチと関わりの深い三種の神器の八神庵。
片方はあのEDENで名を馳せる第四区画の黒い翼。
どちらからも聞きたいことはあった、故に僅かな希望を手に二人の戦闘に割り込んでいった。
収穫は、ゼロだったが。
「仕方ない、他の誰かを当たるしかないか……」
あの少女の言うとおり、殺し合いに乗じるつもりはない。
この殺戮の転覆を謀るには、戦力と情報の両方が必要である。
人間は宇宙人にも地底人にも勝った。
新人類だかなんだかしらないが、この状況、ひいてはあの少女に負ける要素などは無いと言い切ってもいい。
そう、人間同士が協力できるなら。
「みんなは……まあ考えるまでもないか」
かつてエリと共に戦ってきた仲間。
エリが単身宇宙人にさらわれたときに、危険を省みずに宇宙人の母艦に突撃してきた命知らずで頼もしい仲間。
この場であの四人が勢ぞろいすれば、きっとこの事件も解決できるだろうと彼女は確信している。
「上等よ、正規軍PF隊をこれに巻き込んだことを後悔するがいいわ」
決意の一言と共に、彼女は再び歩きだした。

91火星人以下の意思疎通能力 ◆LjiZJZbziM:2012/09/11(火) 18:33:06 ID:ytErcVAU0



黒い翼が舞う。
どんな所においても、彼の自由は誰にも侵すことはできない。
あのEDENの中で仕事をしているときでも、何をしているときでも彼の自由は絶対だった。
今、この場で黒い翼を振るわせているときも、彼は"自由"なのだ。
たった一点の要素を除けば。
「……チッ」
首に手を当てれば、冷たい感触が手から伝わってくる。
どこにいても自由な彼を縛る唯一の存在。
この殺し合いに招かれし者が平等につけられている存在。
自分の命を、簡単に奪い去っていく存在。
無機質なそれを引きちぎって、一刻も早く自由を手に入れなければいけない。
この枷をはめたあの少女だけは、絶対に許すわけにはいかない。

黒い翼が舞う。
自由を求め、無機質な枷を砕き、あの少女を打ちのめすために。
誰かと群れるわけでもなく、彼は彼なりのやり方で。
この殺し合いを転覆させようとしていた。



青い炎が舞う。
この殺し合いの場でも、彼が望むことはただひとつ。
宿敵の抹殺、たったそれだけである。
しかし、ここは「殺し合いの場」である。
彼が追い求める宿敵が、いつどこで何者かに襲われるとも限らないのだ。
「待っていろ、京」
来る日も来る日も憎み続け、その手で息の根を止めることだけを考え。
毎日を貪るように、生き続けた。
「貴様は、この俺が殺す」
その相手を、誰かに奪われるなど絶対にあってはいけないのだ。
人生の中で最も憎み続けた相手が、誰かの手によって殺される。
それだけは避けなければいけない。

殺しが認められた場で、ある人物をその手で殺す為に。
彼もまた彼なりに、動き出す。

92火星人以下の意思疎通能力 ◆LjiZJZbziM:2012/09/11(火) 18:33:23 ID:ytErcVAU0



【D-2/中央部/1日目・朝】
【エリ=カサモト@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:殺し合いの転覆、PF隊を優先的に仲間を募る。

【クール@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:クールのダーツ(残り本数不明)@堕落天使
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:自由を取り戻すため、首輪を解除し少女を殺す。

【八神庵@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:草薙京を最優先的に殺す。

93 ◆LjiZJZbziM:2012/09/11(火) 18:33:36 ID:ytErcVAU0
投下終了です。

94 ◆LjiZJZbziM:2012/09/12(水) 12:58:12 ID:OOXOYMMk0
エリの装備欄がごっそり抜けていたので、Wiki収録時に修正いたします。

95 ◆LjiZJZbziM:2012/09/14(金) 14:34:20 ID:ieI1jS8E0
投下します。

96ある一般人の苦悩 ◆LjiZJZbziM:2012/09/14(金) 14:35:08 ID:ieI1jS8E0
日常は、何の前触れもなく崩れさる。
EDENが出来た時も、新聖堂騎士団が全世界に宣戦布告をしたときも。
これまでの当たり前は、いつまでもその姿を保っているとは限らないのだ。
「何が……殺し合いだ」
そして、ここにもまた一人。
日常を奪われた、なんの罪もない一般人がいる。
すらっとした体に、ごく普通のショートカット。
黒を基調とした上下を纏い、少し男らしく見せている。
ただ、EDENの一角で酒場を営み。
兄の歌を聞きながら、馴染みの客に酒を振る舞い。
時々くる厄介な連中を叩きのめすぐらいの普通の生活を送っていた人間。
"風の魚"のバーテンダー、結蘭は怒りに震えていた。
「オレなんかを巻き込んで、どうするつもりだッ!」
その矛先は、この殺し合いの場を作り上げた一人の少女に対して。
好きで殺しを請け負うような人物ならともかく、自分のようなどこにでもいる一般人にしてみれば迷惑この上無い話だ。
常に誰かに命をねらわれているだけでなく、誰かを殺さなければいけないかもしれない。
それも、自分のような罪もない人間が大半だろう。
少女はなぜ、そんな者たちに殺し合いを強いるのか?
一般人には、考えても考えてもわかるわけもなかった。
首に手を当てれば、冷たい感触が手から伝わってくる。
あのカルロスの命をいともたやすく奪い去り、今なお自分の命を握りしめている一つの首輪。
自分は殺し合いから逃げることなど出来ず、まさにあの少女の「飼い犬」であることを暗に示しているかのようである。
死にたくなければ他人を殺すしかない、そんな理不尽を飲み込まなければ、遠かれ遅かれこの首輪に命を奪われてしまうのだ。
「クソッ!」
思わずそばにあった壁を殴ってしまう。
僅かに裂けた皮膚が痛覚を発し、血を流していく。
そんなこともお構いなしに、彼女は壁を殴り続けていく。
「ふざけやがって……ふざけやがって!」

97ある一般人の苦悩 ◆LjiZJZbziM:2012/09/14(金) 14:35:24 ID:ieI1jS8E0

「おーおー、お熱いねえ」
拳だけでなく頭までぶつけ始めた彼女の元に、一つの冷ややかな声が届く。
ふと声のする方を振り向くと、そこには黒の革ジャンとジーパンというなんともラフな姿の青年が結蘭を見つめていた。
「でも、暑苦しいのは嫌いでね」
ポケットに手を突っ込み、ドアにもたれ掛かりながら青年は結蘭に向けて口を開き続ける。
「ゴタゴタ言ってる暇があれば動けよ、テメーのやることはそこで駄々こねて文句垂らすだけか?
 死にたいだけの自殺志願者なら止めねえけどな」
片手をポケットから出し、気だるそうに髪の毛を掻き上げ、額でその手を止める。
目は結蘭を見つめたまま、結蘭もその青年を見つめたままだ。
「殺し合いを命じられた、それに対して今あんたは怒ってる。
 それをしたくないって言うんだったらどうすべきかなんざ、小学生でもわかるぜ?」
頭をトントンと人差し指でたたき、男はあえて結蘭を挑発するような態度をとり続ける。
しかし、結蘭は未だに黙り込んだままである。
男は続けて口を開いていった。
「俺は黙って殺されるつもりなんざ無えし、このまま殺し合いを続けるつもりもない。
 なにもしないで死ぬぐらいなら、なんかしてからでも悪くないだろ?」
男が結蘭から顔を背ける。
もたれ掛かっていたドアから離れ、歩き始めようとしていた。
いつの間にか結蘭は俯き、地面を見つめ続けていた。
「まあ、あんたがそこで駄々こねてるだけのガキだったら、そこで話は終わりだけどな」
男が去っていき、結蘭を視界に映さないようにしていく。
たまたま聞こえた声に反応し、お節介ながら忠告をしたまでである。
そこからどうするべきなのかは、本人が判断することである。
そして、男は一室から姿を消した。

98ある一般人の苦悩 ◆LjiZJZbziM:2012/09/14(金) 14:36:06 ID:ieI1jS8E0

口が開かない。
確かに先ほどの男の言うことは尤もだ。
だが少し腕に自信のある程度の一般人に、このような首輪を用意し、殺し合いを開くほどの強大な力を持つ人間に立ち向かえるのだろうか?
不安要素はこの上なく大きく、取りかからなければいけない課題も多い。
どうせ死んでしまうのだろう、そんな視点がどうしても拭いきれない。
だったら、立ち向かわなければいいのではないか。
そうして彼女は、一つの事を考え始めた。
「この場で最後まで生き残るにはどうすればいいのか」
という、ごく普通の単純な欲求を。

「ガラにも無ぇなあ」
結蘭に説教じみた台詞を吐き捨てていった後、革ジャンの男、草薙京はアテも無く歩きだしていた。
誰かに誘拐されたり、命懸けで何かをすると言うことはこれが初めての話ではない。
だが、人を殺せと面を向かって言われたのはさすがに初めてである。
だが京は命を握られているとしても、そういう類に対してはいそうですかと言うことを聞く人間ではない。
彼が狙うのはもちろん、この状況の打破と、あの少女の撃退である。
「久々に……暴れさせてもらうぜ?」
彼の体を中心に、一本の火柱が立つ。
それは反撃の狼煙か、それとも断罪の炎か。
意味を知るのは、京本人しかいない。

【結蘭@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生きたい。

【草薙京@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らないが、襲い掛かるやつには容赦しない。庵は保留。

99 ◆LjiZJZbziM:2012/09/14(金) 14:36:16 ID:ieI1jS8E0
投下終了です。

100 ◆LjiZJZbziM:2012/09/14(金) 14:40:12 ID:ieI1jS8E0
今期分月報データです。
PW 11話(+10) 44/48 (- 3)  91.6 (- 6.2)

101 ◆LjiZJZbziM:2012/10/16(火) 16:56:04 ID:B5xYZ02g0
投下します。

102みんなにはないしょだよ ◆LjiZJZbziM:2012/10/16(火) 16:56:32 ID:B5xYZ02g0
「少し落ち着いてはどうかね? 私は君に手を出すつもりもないし、殺し合いをするつもりもない」
「黙れ、国際指名手配のお前がどんな面を下げようとそんな言葉は信じられない」
静かに睨み合いながら、二人の大男が対峙する。
しっかりと右手を構え、その場を微動だにしないオールバックの男。
その男を前にしながら、不適な笑顔を浮かべている国際犯罪者と呼ばれた赤いタキシードの男。
両手を広げ、抵抗の意志が無いことを示しているタキシードの男に対し、オールバックの男は構えた右手を動かさない。
「どうせ、他に何か目的があるのだろう?」
「……これだから軍人という人種は嫌いだよ」
軍人と呼ばれたオールバックの男の指摘に、タキシードの男は眉を顰める。
「確かに、君の言うとおり私には違う目的がある。
 しかし、それにはあの少女が邪魔なのだよ。
 だからそれを果たすまで、私も君たちと協力したい。
 あの得体の知れない存在と戦うなら、戦力は多い方がいいだろう?」
自分にも目的があるという事を明かし、その上で協力をしようという提案を続ける。
だがタキシードの男の提案は、拒絶の意味を込めた一発のミサイルで返答される。
まっすぐに突き進んでいく小型のミサイルは、タキシードの男が片手から放つ緑の障壁に受け止められ、真逆の方向へ軌道を変えた。
標的を変えて軍人の男へと突き進んでいくミサイルを、もう一発のミサイルで落としていく。
「その目的が果たされる事で、こちら側が被害を被るんだろう?
 あの少女たちを倒したところで、新たな恐怖と戦うぐらいならば、今ここでお前を止めるまでだ。
 それに、大悪党と手を組むのはゴメンだからな」
「そうか、残念だよハリー君」
開戦の合図。
軍人の男、ハリーがその大きな図体からは想像できないほど軽快なステップでタキシードの男へ近づいていく。
向かってくるハリーにも動じず、タキシードの男が地を裂きながら走る風を放つ。
地を這う風を避けながら、タキシードの男を動かそうと軍人が一発ミサイルを放つ。
先ほどは緑の障壁で対応したタキシードの男は、今度は両手を後ろに構える。
「カイザー……」
高速で両腕を伝わせ、手元に気を送って青い気弾を形成させる。
体を少し後ろに反らしてから、一気に両手を前に突き出す。
「ウェイブ!!」
皇帝を冠する絶対の衝撃波。
一発のミサイルを悠々と飲み込み、射出の構えのままの軍人を飲み込んでいく。
すんでのところで防御態勢をとることには成功したものの、大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。
衝撃波を相殺したところで、再び戦いの構えに入った時。
目の前には、口を大きく歪めたタキシードの男が立っていた。
「ジェノッ」
地面を強く蹴り上げ、足を大きく振り回す。
「サイドッ」
タキシードの男の体がゆっくりと浮き、左足が綺麗な弧を描きながら軍人の男に襲いかかる。
「カッターッ!!」
虐殺の刃がハリーの服を引き裂き、胸に鮮血の華を咲かせた。
だが、男は倒れない。
「うらぁッ!!」
重力に誘われてゆっくりと落ちてくる、タキシードの男の着地点へと一気に詰め寄る。
そして胸倉を掴み、残り少なくなった右手のミサイルを一気に放った。
「やはり、君は仲間に誘いたかった」
三発目を撃ったとき、ハリーの耳元に声が届いた。
瞬時にハリーの目の前から姿を消すタキシードの男。
気がつけばハリーの真後ろに立っていた。
そのことを認識すると同時に、ハリーの体に無数の乱打が浴びせられた。
力無く崩れ落ちるハリーの耳に、再び声が届く。
「残念だよ」
タキシードの男が、ハリーの腰の辺りをしっかりと掴む。
男性の平均体重を遙かに上回るハリーの体を、両腕の力だけで持ち上げ、一気に地面にたたきつける。
一度だけではない、二度、三度、四度と首元に狙いを済ませて。
何かが折れる音を耳に納め、物言わぬ肉と骨の結集体となったハリーの体をつまらなそうに放り投げた。

103みんなにはないしょだよ ◆LjiZJZbziM:2012/10/16(火) 16:57:03 ID:B5xYZ02g0

タキシードの男、ルガール・バーンシュタイン。
THE KING OF FIGHTERSの開催者でもあり、全国的に有名な悪の武器商人。
頭にある格闘家の知識を生かし、優れた身体能力を用いて模倣していく。
対峙した格闘家を倒すときは、自身が模倣した技で葬り去る事もモットーとしている。
たった今、アメリカ軍人ハリーを葬り去った複数回のパワーボムも、彼が得意としていた技である。
数々の格闘家の技を集め、自身の力としていく。
ルガール・バーンシュタインという男の力は、格闘家に出会うことでより増していくのだ。

や、やっばーい。
殺し合いに巻き込まれたとか思ったら、いきなりヤバいのに出くわしちゃったじゃない!
ウラの人間なら誰だって一回は聞いたことのある、あのルガール・バーンシュタインにいきなり出会っちゃうなんてさ!
そりゃあ、アタシも殺し屋だしそんじょそこらの人間には負ける気はしないわよ。
でも、あれは別! しかも目の前で誰かがボコられた後に喧嘩売る奴なんていないお!
初っぱなから体力を消費することもないし、このままどこかに行ってくれればいいんだけど……。
とりあえず、もう少しは様子見しようかな……?

「……それで、何時まで隠れているつもりかね?」
チラリとルガールが視線を向けた方向から、ゲッという焦りの声が響く。
ルガールはゆっくりと体を声の方へと向けていく。
「何、案ずる事はない。
 君があの少女と戦うのだというのならば、少なくとも私は君の味方だ」
手を広げ、戦意がないことを示しながら声のする方へと語りかける。
物陰から現れたのは、後頭部で赤髪を団子のように結った白のチャイナドレスの女。
「た、助かったおーっ!
 いきなりこんな殺し合いに巻き込まれて、右往左往してた所だったんだよ!」
ニコニコと愛想のいい笑顔を振りまきながら、女はルガールへと向かっていく。
頭をフル回転させ、戦闘にならないように言葉を紡いでいく。
そばに転がる軍人のように、勝ち目のない戦いを挑むほど彼女はマヌケではない。
「そしたら起きてすぐの目の前で早速殺し合ってるもんだから、しばらくの間様子見ようとしてたってワケ」
「フフ、驚かせて申し訳ない。
 彼がどうしても言うことを聞いてくれないのでね」
女が浮かべた呆れのリアクションに対し、ルガールは若干の申し訳なさを返す。
内心はこの上なく怯えながら、ため息を一つ零して提案する。
「……あ、あのイケ好かないクソガキをシバくならアタシにも手伝わせてよ。
 アタシはマリリン、マリリン・スーだよ。
 宜しくね、ルガール・バーンシュタインさん」
ひとまず、ここれは手を休める。
自分が手当たり次第に殺して回るという事を悟られてしまえばオシマイだ。
どういう理由でルガールが仲良しクラブを作ろうとしているのかは分からないが、ここを生き延びるためにはそれに加盟するしかない。
時がくるまで、牙は隠しておくしかない。
「ハッハッハ、私の名を知っているか」
ルガールは手とともに差し出された提案に、豪快に笑って答える。
その瞬間に女が漏らした安堵の表情に、彼は気づいているのだろうか。
「宜しく頼むよ」
そして差し出された手を包み込むように受け止め、どこかぎこちない不思議な同盟が結成された。
ルガールが志す"少女を倒すある目的"は謎のまま。
いったい彼が何を考えているのか、それがわかるのはもう少し先の話である。

【ハリー・ネス@堕落天使 死亡】

【H-3/中央部/1日目・朝】
【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:目的のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。

【マリリン・スー@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き残る。殺人に躊躇いはない。
1:ルガールにひとまず従う。

104 ◆LjiZJZbziM:2012/10/16(火) 16:57:25 ID:B5xYZ02g0
投下終了です。
なお、マリリンは書き手枠での登場となります。

105 ◆LjiZJZbziM:2012/10/16(火) 16:58:30 ID:B5xYZ02g0
あ、編集前の状態表だ……
【H-3/中央部/1日目・朝】
ではなく
【G-5/ホテル跡/1日目・朝】
に修正です。申し訳ない。

106 ◆LjiZJZbziM:2012/10/16(火) 16:59:31 ID:B5xYZ02g0
今気がついたら>>98にも現在地が抜けてますね。
【C-3/鎌石村役場/1日目・朝】
とさせていただきます。

107 ◆fRBHCfnGJI:2012/10/16(火) 17:30:48 ID:EKpVoP5Q0
投下乙です

バーナード・ホワイトをゲリラ投下させて頂きます

108進化する人類 ◆fRBHCfnGJI:2012/10/16(火) 17:31:15 ID:EKpVoP5Q0


猿は人間ではない。

人に近づいた猿も人間ではない。

新人に淘汰された旧人もまた、人間と呼べるか微妙なところだ。

ならば俺達は、今まさに淘汰されようとする俺達は人間なのだろうか。

109進化する人類 ◆fRBHCfnGJI:2012/10/16(火) 17:31:31 ID:EKpVoP5Q0


排気ガスの混ざらない新鮮な空気を肺いっぱいに満たし、体内で若干二酸化炭素濃度が増した空気を再び自然の中へと返す。
それを3度繰り返した後、腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動。
特別、体に不調が無いことを確認すると、バーナード・ホワイトはデイパックを開き、
勢い良く飛び出してきた蝿二匹に、主催の正気を疑った。

「頭おかしい……のは、言うまでもないな」
ぶうんぶうんと頭の周りを飛び回る、人懐っこいのかあるいはバーナードを動く死体と勘違いしている蝿達を遊ばせておきながら、
殺し合いという行為、あるいは武器として蝿2匹を支給した主催への感情を素直に呟く。
次いで、先住民である蝿二匹が解放された後のデイパックの中からタブレットを取り出し、
収録された動画を見ながら、己の命を握る首輪の円周を指でなぞっていた。

嗚呼、なんと素晴らしい日でしょう、私が殺し殺されの人生の中で磨いてきた技術は、
今やたった一人の完全なる御方を楽しませるための道化のパフォーマンスとなったのでございます。
ならば、姫君よ照覧あれ。全ての人間を殺した後、私の顔面で花火を打ち上げましょう。

そんなくだらない道化の前口上が彼の頭を微かに過ぎる。
道化だ、道化なのだ。今の俺はまさしく道化なのだ。
そう思うと、くつくつと腹の底から笑いがこみ上げてくる。

嗚呼、何というショウだろうか。
大量殺人の世界記録を更新中のバーナード・ホワイト、犬の首輪と蝿2匹で殺し合いに挑む。
もちろんボランティアなので、報酬を一ドルだって受け取りはしません。
そして、この殺し合いによって上がった収益は世界中の恵まれない子どもたちの為に使われます。

そして、今日のバーナード・ホワイトさんは、なんと……なんとっ!

お笑い種だ、声を上げて笑ってやれ。

今の今まで人間と呼ばれてきた万物の霊長気取りの猿共を殺すのが何とも嫌になっているのです。

「HA HA HA HA HA 」

110進化する人類 ◆fRBHCfnGJI:2012/10/16(火) 17:31:53 ID:EKpVoP5Q0


バーナード・ホワイトにとって殺人なぞ、食器洗い程度のくだらない日常生活の些事に過ぎないが、
テレビジョンに映し出された旧人狩りと称した大殺戮、その衝撃的な思想はバーナードを強く揺さぶった。

かつて、猿人が淘汰されたように、原人が淘汰されたように、旧人が淘汰されたように、また俺達も淘汰されようとしている。
今までの歴史に習うのらば、あの虐殺者が新たなる人間ということになる。
ならば俺達は何なのだ、生態系の頂点から引きずり降ろされた者はなんと呼べばいい?

……俺は、俺を含めて人間が然程好きではない。
天敵と呼べる生物が失われたことによって、生態系の頂点に立ち続けることによって、言葉に出来ない何かが崩れているような気がしてならないからだ。
故に、俺は殺し殺される人生を選んだ。死線に立ち続けることでその失われた何かを再び取り戻そうと、そうしていた。

そして今、旧人狩りによって俺達にとっての天敵が出来た、生態系のバランスは崩れた。
何かが……崩れ去った何かが再び形作られようとしている。

俺は……俺達は、自然界に存在する一生物へと回帰した。

ならば……ならば…………




旧人狩りがいつの間にか消え、一見には平和を取り戻したある日。
バーナードは一件の依頼を受け、一人の男を殺しに向かった。

銃口を向けてやれば、何時だって変わらない反応が返ってくる。
悔み、怒り、泣き、そして全身から体液を流して命を乞う。

見飽きた光景だ、何時も通りに引き金を引いてやればいい。

不意に旧人狩りの光景がフラッシュバックした。



哀れな猿。


その日、バーナード・ホワイトは人生で初めて殺人の後に嘔吐した。





──バーナード・ホワイトはナチュラリストで人間以外の動物はゴキブリすらも殺すのを嫌がる。

111進化する人類 ◆fRBHCfnGJI:2012/10/16(火) 17:32:06 ID:EKpVoP5Q0


やる気など欠片も湧きはしない

殺し屋でありながら人を殺すのにも気乗りしなくなっている

ぶうんぶうんと蝿が舞う

蝿よ 蝿達よ 俺もお前らと同じなのだ

だから せめて この身に刻んだ技術に誓いを


殺し屋として この世界唯一の人間を




完全者ミュカレ 貴様を 殺す






【F-7/平原/1日目・朝】

【バーナード・ホワイト@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、「ヨシダくん」、「サトウくん」
[思考・状況]
基本:ミュカレを殺す

112 ◆fRBHCfnGJI:2012/10/16(火) 17:32:29 ID:EKpVoP5Q0
投下終了します。

113 ◆LjiZJZbziM:2012/10/16(火) 18:02:38 ID:B5xYZ02g0
投下乙です!
ま、まさかのバーナード対主催!
人間以外を殺すことを嫌う彼の思考と、旧人類狩りの背景をかみ合わせたすごい登場話!
改めて投下乙です!

114 ◆LjiZJZbziM:2012/10/19(金) 00:30:56 ID:ZdH1C7QA0
投下します

115Don't Stop Believing ◆LjiZJZbziM:2012/10/19(金) 00:32:14 ID:ZdH1C7QA0
風が、舞う。
靡くのは少し白が混じった髪と、体を包み込む黒きマント。
青年の目はどこかを見つめているようで、どこも見つめていないように見える。
「……イゾルデ」
一人の名を呟く。
ここにはいない、自分の帰りを待つ人の名を。
「待っていてくれ」
真実は分からない。
ひょっとすれば、もう自分のことを待っていないのかもしれない。
だが、そんなことは関係ない。
彼女が生きているのならば、それでいい。
彼女が生きていないのならば、その時に取る手段はいくらでもある。
何がどうあれ、今の自分に確実に言えることは。
こんな場所で立ち止まっている場合ではない、ということ。
ゆっくりと視線を前へ落とし、視界を切り替えていく彼を引き留める声がする。
「お主……複製體か?」
声をかけてきたのは着物に身を包み、一本の刀を腰に据えた老人。
その瞳はじっと青年を見つめ、離そうとしない。
「あの忌々しい技術とは違う、だが儂の身に伝わるこの感覚は間違いなく作られし命……」
「言ってる意味が分からないな」
そう、老人の言うとおり。
青年はある組織、ネスツの手によって生み出されたクローン生命体である。
しかし、一方で老人の言う事と違うこともある。
老人の知っているクローン技術と、彼が生み出されたクローン技術は似て非なる物ということである。
感じ取った違和感の正体は、生み出された経緯と手段によるものだ。
だが、クローンはクローン。
老人にとってこの上なく忌々しい記憶。
「お主に恨みはない、じゃが複製體と知っては生かしておく訳にはいかぬ」
一歩引き刀に手を添え、青年を今一度睨み直す。
殺気を感じ取った青年も、マントを投げ捨てて臨戦体制に入る。
「斬る……!」
開戦の合図は、その一言。
足元めがけて振り抜かれた刀に対し、青年は純白のグローブで受け止める。
刀が止められたことを認識した老人は、素早く刀を仕舞いその場から離れる。

116Don't Stop Believing ◆LjiZJZbziM:2012/10/19(金) 00:32:26 ID:ZdH1C7QA0

「こっちじゃ!」
瞬間移動ともとれる転移術。
電光被服により己の能力を一時的に上昇させることで、超人的な速度で移動しているのだ。
青年はその老人の姿を、じっと見つめていた。
続いて襲いかかる抜刀攻撃。
今度は正面に踏み込みながら縦に一気に振りおろそうとする。
防ぎきれない、そう判断した青年がついに動く。
「斬り裂け」
白きグローブを一瞬着脱し、赤黒い炎を爪のように放つ。
攻めに意識を注いでいた老人は、その炎を正面から浴びてしまう。
電光機関とはまた違う、全く謎の技術。
見たこともない色の炎に老人は、少し判断が鈍る。
その一瞬が命取り。
素早く走り込み、刀を振り抜けない至近距離へと近づいていく。
「こっちじゃ!!」
その距離に踏み込まれてはいけないと、再び電光被服を起動させる。
だが、それこそが青年の狙い。
「絶影」
小さな一言とともに、振り抜かれる腕。
そして老人の目の前で巻き起こる爆発。
グローブの着脱を繰り返しながら、爆ぜる炎を瞬時に飛ばしていく。
遠距離に対応した彼の技が、老人の身を焼いていく。
「闇と散れ」
最後に腕を大きく振り抜き、より大きな爆発が起きる。
耐えきれずに、老人が大きく吹き飛んでしまう。
すんでの所で受け身をとり、体勢を立て直そうとした時。
目の前で輝いていたのは、白いドリル状の物だった。

グローブに付いた血を拭いながら、ネームレスは歩き出す。
「裏切り者を殺せ」
命じられた司令を果たすため、彼は立ち止まっているわけには行かない。
だというのに、殺し合いなどと言う無駄な事柄に時間を割いている事などできるはずもない。
ならば、この場所から抜け出す最短の方法を取るのみ。
この場にいる人間をすべて殺害し、それから標的の裏切り者を殺す。
もしこの場に討つべき相手がいるのならば、願ってもない幸運なのだが。
ともかく、今すべき事は「一刻も早い任務への復帰」である。
愛する人の為に、成すべき事を成す。
いつかくる、幸せの時のために。

【不律@エヌアイン完全世界 死亡】

【I-10/琴ヶ崎灯台付近/1日目・朝】
【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜5)
[思考・状況]
基本:一刻も早い任務への復帰のために皆殺し

117 ◆LjiZJZbziM:2012/10/19(金) 00:33:55 ID:ZdH1C7QA0
投下終了です。

118 ◆LjiZJZbziM:2012/10/21(日) 00:07:58 ID:.3UIloxk0
投下します

119Picnic ◆LjiZJZbziM:2012/10/21(日) 00:08:09 ID:.3UIloxk0
まったく、ツイてない。
ダルマがプリントされたおめでたいシャツにジャケットの男、ジョン・スミスは頭を抱える。
人殺しの要望が入ったと思いきや、妙な連中に誘拐された先の場所で「殺し合え」と言われた。
前者はまだ報酬があったものの、今の自分がこなさなければいけないコトは一銭の報酬すら出ることはない。
それどころか、自分の命を失ってしまう可能性だってある。
がんばっても金ももらえないし、誰かに殺されてしまうかもしれない。
踏んだり蹴ったりとは、このコトだろうか。
「どうするか、ねえ」
タブレットを一通り眺めてからデイパックに突っ込んだ後、彼は特に目的もなくフラフラと歩き出す。
自分の命を守るために、他者を積極的に殺して回るべきか。
それとも正義の旗を掲げ、殺し合いなど下らないと反逆していくべきか。
現状はどちらを取ろうと、報酬はゼロ。
だから、どちらにもやる気など起こるわけがない。
どこか適当な場所に隠れて過ごすのもアリかもしれない。
この場所で、何か金目の物を探す旅に出るのもいい。
殺し合い以外にも他に手段はあると、そんなことを考えていたとき。
目の前で信じがたい光景を目にする。
今、ジョン・スミスが身を置くのは他者が他者と殺し合う地獄のような空間だ。
一瞬の油断が死へとつながる可能性が常にある緊張した場所。
そんな場所で、暢気にランチョンマットの上でゆったりと食事をとっている人間がいようなどと。
頭の片隅、ほんの一部でも考えはしなかった。

「あ」
大きく口を開け、サンドイッチを頬張ろうとした女性と視線が合う。
見られていた方は当然、見ていた方もなんだか申し訳ない気分になって来ている。
何事もなかったかのように、体力の消費を避けてこの場から立ち去るべきか。
それとも、この無防備な状況を生かしてこの女性の息の根を止めてしまうべきか。
選択しうる全ての可能性と選択肢が頭で渦巻く。
そんなジョンの頭の中など知る由もなく、女性はサンドイッチを一旦置き、ジョンへと話しかける。
「あの」
ジョンの身が強ばり、意識が現世へと戻ってくる。
次に起こるアクションがなんなのか、神経を集中させて待つ。
「一緒に食べませんか?」
時が止まる。
無限の選択肢を張り巡らせ、思考していたジョンの頭が煙を上げる。
思考の外の外の外、まったく考慮していない質問が飛び出して来たのだから。

120Picnic ◆LjiZJZbziM:2012/10/21(日) 00:08:59 ID:.3UIloxk0

結局、戸惑いの声を上げながらジョンは共に食事を取ることにした。
曰く大人数用のマットで一人食事しているのがたまらなく寂しく、誰か一緒に食べてくれる人がいないか待っていたのだという。
この場でそんな思考が出来る肝の据わった人間か、はたまた現状を全く理解できていないバカか。
ハッキリと言えることは、ジョンが彼女のペースに飲み込まれ始めているということだ。
彼女の狙いは何か? それを探ろうとジョンは意識をそらさない。
まっすぐと見つめるジョンの姿が、自分の話を真摯に聞いてくれていると感じた彼女は次々に会話を弾ませていく。
「あっ」
また何かを思い出したように、右手の拳をぽんと左手で受け止める。
そして口に付いたパン粉を丁寧にふき取り、服の埃を少し払ってから先ほどより落ち着いた口調で喋り始めた。
「申し遅れました、私はフィオ、正規軍情報部特殊部隊スパローズ所属のフィオリーナ=ジェルミです」
言い終えると同時に、深々と座礼をする。
あーはいはいと話半分で聞ききながら、ジョンの口から口に含もうとしていたコーヒーが勢いよく飛び出していく。
「ジェ、ジェルミぃ〜〜!?」
思わず立ち上がりながら大声を張り上げてしまう。
そんなジョンの様子をフィオはきょとんとした眼差しで見つめ続けている。
ジェルミ家。多少そちら方面に詳しい人間なら、一度は耳にしたことのあるイタリアの富豪の家系。
先祖代々軍人上がりということで、生まれた一人娘も軍隊に半ば強制的に加入させられたと聞いたことはあった。
だが、詳細な人物像まで把握していたわけではない。
あまりにも突拍子すぎるカミングアウトに、ジョンはまた違った方向に頭を悩ませることになる。

「あの」
そんな悩みを抱えているとは露知らず、フィオはジョンへと話しかける。
「お願いがあります。私と一緒に、この殺し合いを止めてくれませんか」
 旧人類狩りがまだ横行していたことも含め、正規軍としてあの少女の行為は見過ごすわけにはいきません。
 でも私一人、いや私達正規軍の力だけでも解決できるかどうかは分かりません。
 だから、あなたの力を貸してください」
先ほどまでのおっとりとした雰囲気を取っ払い、凛とした空気を漂わせながらジョンへと問いかける。
真っ先に出会った人間は、殺し合いを良しとしない者。
その類に手を貸してくれといわれることまでは想定内だ。
だから、ジョンは次の手札を切る。
「悪いが、俺は報酬で動く男でね。
 こんな場でも報酬がなきゃやってられないんだが、そっちの方は大丈夫なのかい?」
彼を突き動かす原動力、報酬の存在の有無について。
「それで手を貸してくれるというのならば、報酬は幾らでも」
ジェルミ家の人間だというのならば、予想通りの答え。
分かりきっていた答えだったが、いざ受け取るとなると安心が持てる。
「オーケイ、なら契約成立だ。ジョン・スミスの力を最大限まで貸してやるぜ!」
笑顔を向けながら親指を立てるジョンを見て、フィオも笑う。
報酬が出ると決まればコレは「仕事」だ。
そして相手は軍と大富豪の娘だ。
事の成り行き次第では十数年分の年収に匹敵する財産が得られるだろう。
より多くの報酬を得るために、最大限かつ最高の仕事を成し遂げていく。
「完全者ミュカレの討伐」という、今回の仕事を。

「じゃあ、お食事の続きにしましょう! 私、紅茶入れますね!」
嬉しさのあまりか、そそくさとデイパックから紅茶の茶葉を出す。
が、お湯が無いことを思い出して落胆してしまう。
先ほどの静かな雰囲気はどこへやら、また最初ののほほんとした彼女に逆戻りしていた。
「今回のクライアントは、肝が据わってらっしゃる……」
恐るべき程の速さに、ジョンは思わず溜息をついてしまう。
先が思いやられる仕事だな、と思いながらもジョンはまずはクライアントと共に食事を再開することにした。

【D-8/平原/1日目・朝】
【フィオリーナ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。

【ジョン・スミス@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:缶コーヒー(いっぱい)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:報酬のため、クライアントの依頼を達成する。

121 ◆LjiZJZbziM:2012/10/21(日) 00:11:36 ID:.3UIloxk0
投下終了です

122 ◆LjiZJZbziM:2012/10/22(月) 15:07:24 ID:fHhqHgp60
投下します

123 ◆LjiZJZbziM:2012/10/22(月) 15:07:35 ID:fHhqHgp60
旧人類狩り。
新聖堂騎士団を名乗る連中が、少し前まで掲げていた大義名分の看板。
この世に生き残るべきは新人類になるため、旧人類は魂の救済を以て新たな境地へとたどり着かなければならないのだという。
魂の救済、身も蓋もなく言い換えれば殺人だ。
ほんの少しの間に数え切れないほどの命が奪われ、数え切れないほどの夢がなくなった。
空を飛ぶ女、電気を操る男、自律稼働する戦車。
旧人類はその強大な力に、身を斬り裂かれ、焼かれ、蹂躙された。
誰の目にも夢も希望もない、絶望の未来が広がっていた。
そんなある日、パタリと旧人類狩りが止んだ。
毎日のように目撃されていた新聖堂騎士団の姿が一切見えなくなったのだ。
一日だけではなく、三日、五日、一週間、半月、一ヶ月、三ヶ月と徐々に期間は伸びていった。
旧人類と名付けられた人々は、かつての恐怖の日々から逃れるように笑い、叫び、いつも通りの生活を過ごすことで地獄の日々を忘れようとしていた。

彼も、そのうちの一人である。
旧人類狩りが終わったとされた直後に、旧人類狩り以前のようにアメリカンフットボールプレイヤーとして活躍に活躍を重ねていた。
ブライアンがフィールドに出れば、大人も子供も問わずに飛び跳ねて喜ぶ。
ポジションを問わず、チームに貢献する。
味方の手元に滑り込むように入るパスは、敵には弾丸のように鋭く。
守備に回れば彼の目の前をすり抜けることができない。
ひとたび前に出ればたちまちタッチダウン。
アメリカンフットボールの神様とまで呼ばれるほど、凄まじい成績を納めた。
そんな彼から勇気や夢や希望を貰った人間は、アメリカだけでも数え切れないほどにいる。
ブライアンはまさに、アメリカンドリームを体現しているかのような存在になっていた。

そんな彼に現実という牙が突き刺さる。
旧人類狩りは、終わってはいなかったのだ。
完全者ミュカレも生きていたし、新聖堂騎士団も数え切れないほど生きていた。
そして、機械のように無機質な声で放たれた命令。
「最後の一人になるまで殺しあえ」
配られたタブレットの映像を繰り返し見つめても、変わることのないたった一つの事実。
自分の命をこの首輪で握られた状態で、最後の一人になるまで殺しあわなければいけない。
女も、子供も、関係なく。
その全ての命を奪い去らなければいけない。
夢も希望なんてあるわけもなく、巨大な絶望という壁がそびえ立っているだけ。
生きる道を選ぶか、他人の養分になることを選ぶか。
道は、二つしかない。

手のひらを見つめる。
関節ごとに少し太くなっており、擦り傷や打撲を繰り返した皮膚は硬化している。
握りしめたボールを決して離さないように。
組んだスクラムを決して崩されないように。
掴んだ相手に決して振り払われないように。
鍛えてきたこの手は、今から血に塗れる。
掴むべきモノではないモノを掴み、新人類として生き残る為に。
自分が夢を掴み、希望を与えるために培った技術で、この殺し合いを生き抜かなければならない。
そのためのモノではない、分かっているのに。
自らが愛したアメリカンフットボールを、血で汚す行為などしたくない。
だがそうなれば、自分の命を落とす羽目になるだけだ。
二者択一、究極の選択、人生の岐路。
選ぶに選びきれないたった一度の分かれ道。
その分岐点で、彼は座り込んで悩み続けていた。

124夢を止めないでいて ◆LjiZJZbziM:2012/10/22(月) 15:08:00 ID:fHhqHgp60

「うおおおっ!! すげえ!! ブ、ブライアン・バトラーだ!!」
ふと、聞き慣れない声が聞こえる。
声の方へ振り向くと、とても興奮した様子の兵装の男が立っていた。
輝いた目、微かに震えを繰り返す拳。
全身を使って男は喜びを表す。
「お、俺、あんたの大ファンなんだ! 少ない休みを使って、年に一回はあんたの試合を見に行くんだ!」
その言葉をきっかけに、男はブライアンに語り続ける。
聞けば思い出せる懐かしい場面や、この世の中でも数人しか知らないであろう出来事まで話の種は尽きない。
殺し合いの場だというのに、何の警戒心も持たずにひたすらに語り続ける。

自分が与えてきた夢、希望。
それに影響されて生きてきた人間に、まさかこんな所で出会うとは。
運命というのはつくづくいたずらが好きなのだろう。
もし、自分が今から人を殺すと聞けば。
彼は、どんな顔をするだろうか?
もし、今まで鍛え上げてきたアメフトの技術を人殺しに使うと言えば。
俺は、どんな顔をすればいいだろうか?
少し悩んだ後に男を見つめ直し、語りかけようとする。
「お、おい」
「うおーっ! 燃えてきた! 俺はこんな殺し合い、絶対に抜け出してみせるぞ!
 チクショーッ! 旧人類狩りが何だ! 正規軍の連中の方がもっと怖いぜ! バカヤローッ!」
ブライアンの問いかけの言葉は、男の大声に遮られる。
あれだけの現実を突きつけられても、殺し合いに抗うという希望に縋ることができる人間がいる。
いや、違う。
自分が、逃げているだけだ。
希望を抱き、未来を夢見るという行為から。
背を向けて、視界に入れないように逃げているだけだ。
こんな絶望的な状況でも、夢を見ることができる。
本人が諦めなければ、希望はいつだってそこにある。
アメフトで散々学んだことが、ごっそり頭から抜け落ちていたようだ。
砂粒ほどの望みでも、ゼロではないなら賭けられる。
どんな逆境でも、チャンスがあるなら逆転できる。
そう、アメフトと同じではないか。
「ありがとよ」
「へ?」
ブライアンが突然発した言葉に、男はきょとんとしてしまう。
「大事なことを忘れてたぜ、それを思い出させてくれた事に感謝するぜ」
ゴツゴツとした手で男の頭をヘルメット越しになでる。
夢を、諦めない。
アメフトで頂点を取ったときのように。
自分が夢へと向かう姿が、ほかの人間の活力にもなるのだ。
戦うべきは、人同士ではない。
旧人類狩りなどとヌカしている、あの夢を見ない少女だ。
「さ、行こうぜ。俺たちの夢を掴みにな!」
人生の続き、その先にある夢と未来を掴みに。
殺し合いという異色のフィールドで、アメリカンフットボールプレイヤーのブライアン・バトラーが。
芝生をもう一度、踏みしめた。

【D-8/平原/1日目・朝】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。

【モーデン兵@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:ブライアンについていく

125夢を止めないでいて ◆LjiZJZbziM:2012/10/22(月) 15:27:55 ID:fHhqHgp60
状態表修正です。
【G-3/平瀬村分校跡付近/1日目・朝】

投下終了です。

126 ◆LjiZJZbziM:2012/10/26(金) 15:22:30 ID:Lo9qc1Tc0
投下します

127新境地への招待状 ◆LjiZJZbziM:2012/10/26(金) 15:23:06 ID:Lo9qc1Tc0
無力。
彼女に襲いかかる強大な敵。
何もすることはできないし、何もさせてくれる筈がない。
超能力だなんだとはやし立てられても、ここぞと言うときには何の役にも立ちはしない。
人知れず地球意志と戦っていた人間の力にもなれない。
世界を支配せんとしていた組織を打ち倒す事も出来ない。
いつも、蚊帳の外である。
大事な時、大事な場面で振るうべき力を振るうことすら出来ず。
決まって耳に入って来るのは事の後の話。
苦しみながら戦っている者の力になる事など、叶いもしない。
超能力なんて、誰の役にも立ちはしない。
旧人類狩りの時も、自身を守る程度で精一杯だった。
誰かを助けるなんて、出来もしない。
手が届かないところで、事が勝手に過ぎ去っていくだけ。
知らないうちに知らない場所で起こった出来事が、自分が無力だと突きつけてくる。
物言わぬ人々の虚ろな目が、逃れられない現実を作っている。

正義の味方になれた事なんて、今まで一度もなかった。

それでも、人は煽ってくる。
超能力を持ったスゴい少女だって。
アイドルとしての私の奥にある、超能力少女という私に期待を込める。
でも、それは誰かの役に立ったことはない。
正義感を出して戦ってみても、何の結果も挙げたことなどない。
ただの人間と、何の代わり映えもしない。
きっと、ここでもそうだろう。
超能力があっても、誰の役にも立ちはしない。
せいぜい自分の命を守るために使う程度だろう。
それで生き残れれば御の字だ、そう思っていたときである。
「ねえ、お姉ちゃん」
足を曲げ、太股に顔を埋めながら悩んでいた彼女に語りかける一つの声。
「デミ、知らない?」
顔を見上げた先には、一人の少年が立っていた。
この殺し合いに呼ばれた者だということが、首をみれば一目で分かる。
無機質な輝きを放つそれ、人一人の命を簡単に奪い去ることが出来る装置。
こんな幼い子供まで、この殺し合いに巻き込まれているのか。
そう考えると無性に悔しくて、一人ですりつぶすように無力さを噛みしめる。
「デミっていうのは、お友達?」
「ううん、僕のお姉ちゃんだよ」
この少年は殺し合いに巻き込まれたことを把握しているのか。
それともそれを紛らわす為に姉という支えを探しているのか。
逃げ、対抗、どちらともとれる動き。
「そう……ごめんなさいね、ここで人にあったのはあなたが初めてよ」
事実をしっかりと伝える。
嘘をついても何も起こりはしない。
いたずらにこの少年の気持ちを弄ぶだけだ。
そっか、と小さく呟いて、少年は彼女のそばから離れようとする。
「ねえ」
立ち去る少年を、彼女は呼び止める。
「お姉さん、私も一緒に探すよ」
同行の提案。
飛び出していた言葉は無意識のモノだった。
この殺し合いにおいて、見るからに無力そうな少年が一人で探索行動を行うのは危険だ。
ならば、自分も共に行動すればいい。
ある程度の戦闘には自信もあるし、子供の目が届かない所に目配りすることで探索の効率が上がる。
何より、彼に手を貸すことで自分が役に立てる可能性というのは大きい。
誰かの力になりたい、ずっと願い続けてきた事。
「ホント? ありがとう」
少年の答えを聞き、彼女は満面の笑みで答える。
自分の願いが叶う日、それが来たのかもしれない。
皮肉な話だと思いながら、彼女は少年の手を取って歩き出す。
自分は、無能じゃない。
誰かを救い、誰かの力になることが出来る。
そのための超能力だと、信じているから。



麻宮アテナは、気づかない。

128新境地への招待状 ◆LjiZJZbziM:2012/10/26(金) 15:23:18 ID:Lo9qc1Tc0



登り始めた太陽を眺めながら、大男は静かに武器を構える。
殺し合い、幾多もの人間のうち一人しか生き残ることを許されない空間。
身の振る舞いを悩む要素など微塵もなかった。
単純明快、他の人間を全員殺して回ればいいのだ。
そうすれば、生き残れる。
くぐり抜けた戦場の日々と、なんら大差はない。
目に入った人間の頭を打ち抜き、胴を斬り裂き、その命を奪っていく。
あの少女の言うとおり、この場にいるのは全て敵なのだから。
いつもやってきた、単純なこと。
幸運にも自分の手にはそれを手助けする道具がある。
遠くに映れば銃弾を放ち、近くに寄れば剣を振るう。
そして、全ての命を奪う。
たった、それだけのことである。
そそくさと覚悟を決め、彼は殺戮へと動き出す。
早速感じ取ったのは殺気も何もない一人の人間の気配。
戦場で気ままにふらふらと歩いている人間は、彼にとってはただの的にすぎない。
まずは一人、確実に仕留める。
物陰から勢いよく飛び出し、感じ取った気配の方へと銃を向け、その引き金を力強く。
「あ……」
引けなかった。
驚きの声が、ぽっかりと開いた口から漏れる。
感じ取った気配の正体、銃を突きつけた先に立っていたのは。
金髪ロングの、一人の少女だった。

彼が、生き残ることを優先する理由。
それは、愛する家族の元に帰るため。
軍人という危険な職業の自分を、いつも笑顔で優しく迎えてくれる妻。
誰に似たのか豪快に振る舞いながらも気配りの出来る息子。
そして、純粋で疑うことを知らない元気いっぱいの娘。
自分を幸せにしてくれる家族が居る、だからどんな窮地からでも家族の元へ帰らなければいけない。
瀕死の傷を負おうが、シャチに飲まれようが、どんなことがあっても、だ。
この戦場でも、それは同じ事。
だが家族を愛する彼だからこそ、この状況は死を選ぶよりも辛い。
自分の娘とほぼ同じ姿の少女が、目の前に立っているのだから。
「おじさん、どうしたの? 大丈夫?」
銃をこちらに向けたまま動かない軍人に対し、少女は質問を投げかける。
その一言は、彼の娘ではないと言うことを示している。
そう、この場にいるという事はこの少女も彼にとっては敵なのだ。
今もどこかで暮らしている、彼の家族とは違う、赤の他人である。
だから、生き残るにはここで殺さなければいけない。
持っているマシンガンの引き金を引く、たったそれだけで事は終わるというのに。
彼はとうとう引き金を引けずに、その場に崩れ落ちてしまったのだ。
初めての、敗北。
戦場において、どのような人間であっても平等に力を振るってきた「鬼軍曹」の、初めての心の敗北であった。
「おじさん、ダニー知らない?」
そんなことも露知らず、彼女は軍人に問いかけていく。
「ダニーというのは?」
「あたしの弟だよ」
「……そうか、君も家族を探しているのか」
邪悪な考えが横切る。
この少女を打ち抜けないのならば、どの道自分が生き残ることなど出来ない。
ならば、この少女に協力する途中で何らかの事故で少女が死んでしまえば。
この場においての唯一の支えが取れ、生き残る道へと歩むことが出来る。
弟を捜しているという餌をうまく使い、危険な場所へと飛び込ませれば。
この殺し合いの場ならば、チャンスは幾らでもある。
「私も、手伝わせてくれないか」
邪悪な考えを含んだ提案を、目の前の少女は飲んだ。
娘とほぼ同じ顔の少女は差し出された手を取り、共に歩き始める。
願わくば、少女がどこかで死を迎えることに期待して。
自分が生き残って家族の元にたどり着くには、今はそれしかないのだから。
様々な思惑を乗せた足が、ゆっくりと進み出した。



アレン=オニールは、気づかない。

129新境地への招待状 ◆LjiZJZbziM:2012/10/26(金) 15:23:32 ID:Lo9qc1Tc0



気づくべきだったのだ。
麻宮アテナが遭遇した少年は、無防備だったのではなく、「余裕」と「殺意」を醸し出していたことに。
気づくべきだったのだ。
アレン=オニールが少女に銃を向けたとき、少女が口元を歪めて笑っていたことに。
二人とも、気づくべきだったのだ。
出くわした少年少女こそが、この地において群を抜いた邪悪であるという事に。



ああ、なんて素晴らしい日なのだろう。

今日の「戦争ごっこ」はひと味違う。

数え切れないほどの人が牙をむき、互いに殺し合う。

いつもみたいに一人や二人殺して終わりではなく、唯一の一人になるまでみんなを殺して回ることが出来る。

こんなに楽しい出来事はない。

来る人来る人に銃を打ち込み、ナイフで斬り裂き、その声を聞く。

こんなに楽しい出来事はないのに。

どうして、君はいないのだろう。

こんなに楽しい気持ちを、共に分かち合いたいのに。

一人で楽しんでも、何も楽しくないと言うのに。

どうして、君はいないのだろう。

でも、なんとなくわかる。

この場所のどこかに君が居ることは。

だから、それまではお預け。

楽しいパーティーのクラッカーを鳴らすのは、主役の二人が揃ってから。

それまでは七面鳥の丸焼きも、大皿のスパゲッティも、大きなプディングも、ぜーんぶお預け。

一人より、二人で楽しみたいから。

今は、我慢する。

いつか、この場所のどこかで出会うことが出来たら。

そのときは、精一杯楽しみましょう。

バトル・ロワイアルという、最高に楽しいパーティーを。

最高のプレゼントを、一緒に持っていくから。

【H-5/道/1日目・朝】
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:超能力で誰かの役に立つ。
1:ダニーを姉に会わせる

【ダニー@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:デミと合流するまで我慢

【B-5/鎌石村消防署/1日目・朝】
【アレン=オニール@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:DSA SA58(30/30 予備マガジン2)、方頭大刀
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:家族の元に戻るため皆殺し
1:デミと行動し、死んでくれるのを待つ

【デミ@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:ダニーと合流するまで我慢

130 ◆LjiZJZbziM:2012/10/26(金) 15:23:52 ID:Lo9qc1Tc0
投下終了です

131 ◆LjiZJZbziM:2012/10/26(金) 16:27:09 ID:Lo9qc1Tc0
>>129
【B-5/鎌石村消防署/1日目・朝】
ではなく
【C-5/鎌石村消防署/1日目・朝】
でした。毎度ながらすいません

132 ◆LjiZJZbziM:2012/10/28(日) 20:30:16 ID:LOg7csTQ0
投下します

133 ◆LjiZJZbziM:2012/10/28(日) 20:30:29 ID:LOg7csTQ0



これは、望まれない存在でありながらも生に縋り続けた自分への処罰なのだろうか。

クローンにだって、命はあるというのに。

「BATTLE ROYAL……か」

ぽつりと呟いた言葉は、あまりにも重く両肩にのしかかる。



旧人類狩りが起こる前の話。
世間では大々的に報道されることはなかったが、全世界にある人物のクローンが登場するという事件があった。
首謀者は、秘密結社ネスツ。
草薙京のDNAから作り出したクローン達を遠隔操作し、世界を掌握する計画が進んでいた。
だが、その計画はある青年達と草薙京本人の手によって阻止された。
計画により無数に配備された京のクローン達も、ハイデルンの手によって回収されていた。
クローンは安全に処分され、なにも変わらない世界には平和が訪れた。

これが、表面上の物語。

ここからは、誰も知り得ることのなかった物語だ。
各地に配備された京のクローン達はネスツの手による装置で一斉起動し、プログラムされた戦闘アルゴリズムによって各国でテロ行為を行う予定。
クリザリッドの手により最後の方が急ぎで行われたため、その中には欠陥品も紛れ込んでいた。
戦闘プログラムが十分にインプットされておらず、不完全な状態で送り込まれたクローン。
その大半は起動と同時にプログラム内でエラーに次ぐエラーを起こし、中枢機能で処理しきれなくなり身体機能が凍結した。
動かなくなった欠陥品達は変死体として各国で発見され、ハイデルン達の手によって回収された。

134ERROR ◆LjiZJZbziM:2012/10/28(日) 20:30:46 ID:LOg7csTQ0

とある、一体を除いて。

たった一人だけ、身体機能が凍結しなかったクローンがいた。
プログラムの欠如によるエラーの繰り返し。
そのバグを埋めるように、自我が芽生えたクローンが一体だけ存在したのだ。
プログラミングされた機能の不足部分を自分で問答し、補うことに成功し、不完全ながらも機動に成功した。
書き込まれなかったプログラムによって生まれた空き領域に、芽生えた自我はどんどんと大きくなり、やがて一人の「人間」を形成するまでに至った。
埋め込まれた行動ではなく、生まれた自我により当てもなく生き続ける。
「生きたい」と思う気持ちのままに、自分の体を動かし続けた。
そして、彼は目撃する。
自分と同じ姿形の動かなくなった人間達が、ある者に連行されていくのを。
見つかれば終わると直感で判断し、逃亡に逃亡を重ね続けた。
時にはオリジナルの力を振るいながら、「生きたい」一心で彼はひたすらに逃げ続けた。

辿り着いた先は、EDEN。
「SEX」「犯罪」「ドラッグ」が飛び交う街。
暴力が全てを支配する場所で、オリジナルが好きだった「詩」を書きながら。
いつかどこかで拾ったドッグタグから「赤碕 翔」という名前を取り、少し窮屈ながらもひっそりと自由な生活を送っていた。

「貴様だな? 赤崎……いや、あの日唯一生き残ったクローンの草薙は」
そう、あの日までは。
自分のことを知る、あの少女が自分の目の前に現れるまでは。
炎が猛る、こいつについていってはいけないと燃え上がる。
しかし、体が動かない。
足元から生える妙な鎖状のものに動きを止められ、一ミリも動けずに居る。
やがて体全体がゆっくりと止まっていき、崩れ落ちるように眠りについた。

そして、今。
あの少女の手によって、再び命を狙われる場所へと立たされている。
どこで誰が襲ってくるかはわからない。
「……冗談じゃねえ……」
拳を握り締める。
「生きる」と決めた、「生き抜く」と決めた。
作られた命だったとしても、芽生えることがなかった自我だったとしても。
今、両足を地面につけて立っているんだから。

誰かの命を刈り取っていい人間なんて、居るわけがない。

だから、自分は抗う。
「待ち受ける死の運命」に。

135ERROR ◆LjiZJZbziM:2012/10/28(日) 20:31:00 ID:LOg7csTQ0

【H-5/道/1日目・朝】
【赤碕翔(クローン京A)@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き抜く

投下終了です。

136 ◆LjiZJZbziM:2012/10/28(日) 20:37:40 ID:LOg7csTQ0
定例の現在地ミスです、毎度毎度申し訳ない……

【H-5/道/1日目・朝】
から
【E-2/菅原神社/1日目・朝】
でお願いします。

137 ◆LjiZJZbziM:2012/10/30(火) 22:42:39 ID:MOKkdC1c0
投下します

138クサナギ爆炎戦記 ◆LjiZJZbziM:2012/10/30(火) 22:43:23 ID:MOKkdC1c0

腐りきった国家を転覆させる野望を抱いた一人の男。

ある人間は彼を指差して、悪魔の生まれ変わりだと言い放った。

そんな、世間から恐れられたカリスマ的指導者。

信頼も厚く、軍の大半を動かすほどの力を持っていた男。

その末路は、あまりにも呆気ない物だった。



「あ……ああ」
全身が焼けるように熱い。
皮膚が爛れ、水分という水分が蒸発していく。
口を開いても、掠れるような声しか出ない。
逃げようと体を動かす度に、全身に痛みが走る。
やけに研ぎ澄まされた聴覚に、砂を踏みつける音が聞こえる。
「うわ、わ」
地面に這い蹲りながら、四肢を動かしその音から逃げようとする。
だが、迫りくる音から逃れられない。
急いで体を動かしても、遠ざかるどころかどんどんと近づいてくるのだ。
「あああああああ!!」
瞳に一人の男の顔が映る。
学生服に白い鉢巻、少し日に焼けたような肌を持つ。
赤目の悪魔が、そこに立っていた。
再び、体が炎に包まれる。
辺りの酸素を取り込み轟々と燃え盛る炎が、男の肉を炭化させていく。
もはや、声を出すことすら叶わない。
最後まで残っていた視覚で、見ることしかできなかった。
「悪魔」そのものが、笑っている姿を。

「ケッ……」
消し炭と化した男に唾を吐き、赤目の悪魔は去っていく。
「まだだ、まだ、焔がくすぶってんだよ」
草薙京の姿形をした悪魔は、邪悪な笑みをその顔に作る。

139クサナギ爆炎戦記 ◆LjiZJZbziM:2012/10/30(火) 22:43:49 ID:MOKkdC1c0

クローン京の製造初期は、非常に困難を極めた。
安定したクローンが生まれるまでは、草薙の力を押さえることができずに暴走する個体が殆どだった。
目を覚ました瞬間、炎に飲まれていくクローン。
生み出しては消し炭と化し、生み出しては消し炭と化し。
長い間、失敗が続いていた。
そんなある日のことである。
一体のクローンが精製され、いつも通りにカプセルから飛び出してくる。
力を扱おうとした瞬間に、クローンが巨大な火柱に包まれる。
今日もまた失敗だと、ため息をつきながら研究員が遺体を回収に回る。
実験室を開ける、まだ火柱が立っている。
そして、研究員は見たのだ。
火柱の中で笑っている、クローンの姿を。

この日、ネスツの抱える研究所の一つが壊滅した。
ありとあらゆる資料は焼け焦げ、大半の人間は炭化して絶命していた。
防犯カメラに残されていた映像と現地に残されていた血文字より、彼には名前が付けられネスツ内で急速に指名手配された。
オリジナルのような力を持ち、オリジナルとは違う力を振るう存在、「KUSANAGI」として。

人一人を簡単に燃やし尽くす炎。
オリジナルの草薙京も、その気になれば人体を消し炭にすることができる。
だがオリジナルはそうしない為に本能的に「リミッター」をつけている。
そのリミッターがクローンの精製過程で外れてしまったのが、彼だ。
強大な力を手にし、その力を振るうことに快感を得る。
凶暴な一個体として、彼は成立してしまった。
そして、何の因果か招かれたこの殺し合いでする事も何も変わらない。
向かい来る人間を、燃やす。
たった、それだけである。

ギラついた赤い目が、獲物を求めて次の場所へと向かい始めた。

【デビルリバース=モーデン@メタルスラッグ 死亡】

【G-7/道/1日目・朝】
【KUSANAGI(クローン京B)@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(2〜6)
[思考・状況]
基本:暴れる

140 ◆LjiZJZbziM:2012/10/30(火) 22:44:05 ID:MOKkdC1c0
投下終了です。

141 ◆LjiZJZbziM:2012/10/31(水) 00:54:00 ID:91YHcImU0
toukasimasu

142がんばれアドラーくん ◆LjiZJZbziM:2012/10/31(水) 00:54:25 ID:91YHcImU0

願ってもない幸運は、突如としてその手に舞い込む。

赤い軍服を身にまとい、色のぬけ落ちたような髪の電光機関を操る男、アドラーは当てもなく歩いていた。
この殺し合いという状況は非常に厄介だ、いつどこで命を落とすか分からない緊迫した状態が続く。
そう、普通の人間ならば「死にたくない」一心で行動するだろう。
だが、彼は少し違う。
転生の秘宝。
肉体が滅びようとも精神を他の器に移し、生きることを長らえる禁断の術。
これがある限り、アドラーという一人の軍人の精神はこの世に残り続ける。
たとえこの地で命を落とそうとも、次の肉体に魂を移し変えればよいのだ。
最強にして最大の保険は手元にある、ならばあの完全者の手のひらで暴れに暴れてやろうではないか。
そしてあの女の顔が驚愕の表情に染まるのを、この目で見届けてみせる。
そうと決まれば話は単純だ、完全者ミュカレの意に反し盤面を狂いに狂わせるだけだ。
ああ、笑いが止まらない。
あのいけ好かない仮面が壊れるのを想像するだけで、体が震える。
我慢しようにも、我慢できない。
ついこらえきれずに掌を天へと翳し、腹の底から力を込めて叫ぶように笑う。

「おじさん、何してるの?」
アドラーの勝利を確信した余裕の笑いは、一人の少女の問いかけによって中断される。
声のする方を振り向くとそこには、妙な衣服に身を包む栗色の長髪の少女が、渦巻きの飴を舐めながらこちらを見つめている。
おじさんと呼ばれたことも気に留めず、アドラーは余裕を崩すことなく、現れた少女へと語りかける。
「何というわけではない、この狂った遊戯において俺が必ず勝利するというだけだ」
きっぱりと言い放ったアドラーに対し、少女はさして関心も持たずに飴を舐め続けている。
「そういう貴様こそ、何をしているのだ?」
質疑応答の立場が入れ替わる。
少女は飴を舐めながら、アドラーの問いかけに応じる。
「クーラはね、K'とみんなを捜してるの。
 さっきの場所でK'を見たの、ホントだよ?」
人を探している、ケーダッシュというのが人かどうかはともかくとして彼女、クーラは何かを探しているようだ。
どうせこの盤面で大暴れするのだ、少しくらい寄り道してもかまわないだろう。
「フン、なるほど。ではこの俺も手伝ってやろう。
 一人より二人の方が都合がいい、探索も戦闘もな」
「ホント!? おじさん良い人なんだね!」
思わぬ形での協力者の出現に、目をぱっちりと開いて喜ぶクーラ。
どこかの表面だけの子供とは違う、子供本来の愛くるしさに思わず頬が綻んでしまう。
「クーラ、あたしはクーラ・ダイヤモンドだよ!」
「俺は……」
そこで、わざとらしく言葉を切る。
「アドラー。エルンスト・フォン・アドラー。大いなる遺産を我が手にする神の後継者たる者だ」
言ってることの意味が分からなかったのか、クーラは頭にクエスチョンマークを並べていたが、自己紹介をすませることには成功した。

143がんばれアドラーくん ◆LjiZJZbziM:2012/10/31(水) 00:55:14 ID:91YHcImU0

「ところでクーラ、万が一戦闘になった時に貴様に自衛の手段はあるか?
 いくら俺がある程度戦えるといっても、貴様を守りながらとなると少々厳しいのでな」
アドラーが話題を切り替える。
パっと見ただの少女にしか見えないクーラに、戦闘能力があるとは思えない。
そんなごくふつうの一般人を殺し合いに招いたのだとすれば、ミュカレの思考回路も相当焼き切れてしまっているのだろう。
もし何か異能があれば、それはそれで戦闘の際の自身への負担が軽くなる。
もとよりアテにしていない要素を確認するために、アドラーは問いかけた。
「うん、大丈夫だよ」
帰ってきたのは、予想外の返事。
軽いその一言と共に、あたりの空気が急に冷たくなる。
それとほぼ同時にクーラの髪の色が水色に変色し、クーラが掲げた右手からは握り拳ほどの氷の塊がどこからともなく出来上がっていた。
クーラが氷の塊にふうっと優しく息をかける。
その瞬間に氷の塊は砕け散り、クーラの吐息に乗せられるように繊細な氷の粒となって大気に舞った。
「そこらへんのテキトーなのには、負けないよ」
アドラーは予想もしなかっただろう。
まさかミュカレより先に自分の顔色が驚愕に染まるなんて。
電光機関とは全く性質の異なる力。
どこからともなく氷を生み出し、己の意志のまま自在に操る能力。
草薙一族のように炎を自在に操る人間の存在は聞いたことはあったが、氷を自在に操る人間は初めて見た。
そういう体質の人間なのか、それとも右手の装置の力なのか。
いずれにせよ、この能力は必ず手中に収める。
完全者ミュカレのマヌケ面を拝んでから、ゆっくりと時間をかけて解明し、手に入れる。
今まで以上の力が手に入る可能性が頭に浮かんだときから、初めのように笑いが止まらなくなる。
「ククク、ハハハ、ハーッハッハッハッハ!!
 ミュカレよ! どこまでも俺を楽しませてくれるな!」
天高く笑い声が響く。
自分能力を見るや否や笑い出したアドラーを見て、驚きながらクーラが呟く。
「おじさん、やっぱり変だよね」
その声は、笑い声にかき消されて聞こえることはなかった。

【E-7/東崎トンネル出口付近/1日目・朝】
【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:ゴキゲン
[装備]:電光機関@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:完全者ミュカレの意に反する
1:クーラと行動、あわよくばその力を手に入れる。

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:ペロペロキャンディ
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:K'達を探す

144 ◆LjiZJZbziM:2012/10/31(水) 00:55:42 ID:91YHcImU0
投下終了です。書き手枠は残り2となっています

145 ◆LjiZJZbziM:2012/10/31(水) 20:15:01 ID:cvcg8OC6O
なんだかんだ色々あって、当ロワは同じ俺ロワ・トキワ荘にある俺ODIOロワを応援しています!!
皆さん俺ODIOロワもよろしくお願いします!

俺ODIOロワ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12648/1334519409/

146 ◆tzc2hiL.t2:2012/11/01(木) 00:11:42 ID:9rcFOvPU0
はじめまして。

ヴァネッサ、アカツキ、書き手枠でエレクトロゾルダート及び電光戦車、以上三名+一台で予約します。
よろしくお願いします!

147 ◆LjiZJZbziM:2012/11/01(木) 00:19:43 ID:2XZ2K8Kw0
>>146
初めまして! 予約ありがとうございます。
ゾルは書き手枠ではなくて二人目のゾルですね! なので書き手枠で他に出したいキャラがいましたら追加できますよ!

148 ◆tzc2hiL.t2:2012/11/01(木) 00:25:24 ID:9rcFOvPU0
>>147
おっと。すみません、書き手枠じゃなくてジョーカーでしたね。
うっかりでしたw 失礼しました! 追加予定は今のところ無いですが、案内感謝です!

149 ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 02:20:09 ID:jYwODWFQ0
不要かもしれませんが、ここでは初予約なので一応報告を。

大方完成しましたので、期限いっぱい使わせてもらい、5日の夜に投下したいと思います。
リアル都合で時間は前後するかと思いますが、23〜24時くらいを考えています。

よろしくおねがいします〜

150 ◆LjiZJZbziM:2012/11/05(月) 11:26:07 ID:JXN6dQYsO
ご丁寧にありがとうございます!
ゆっくり焦らずに書き上げて下さいな、当企画は逃げませんので!

151 ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:20:30 ID:jYwODWFQ0
ヴァネッサ、アカツキ、エレクトロゾルダート及び電光戦車、投下します。

152ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:21:34 ID:jYwODWFQ0

 バーのカウンターから冷たいコンクリートの上へ、今は湿った地面の上へと二転三転する意識の中で、ヴァネッサは的確に状況を捉え続けている。

 彼女が身を潜めるのは地図の区画E-7に相当する、東崎トンネル出口付近の藪の中である。

 朝日はすでにその存在を主張して、東の空を燦然と陣取っており、ヴァネッサの濃密な赤髪が日に晒されて艶めいていた。
 荷物の中から見つけ出したタブレットで与えられた情報を確かめながら、ふと、髪と同じく赤い瞳が自嘲に染まる。

 杞憂などではなかった。
 自分の知らないところで何かが確実に始まっており、それらの兆候の一端を、そうとは分からずに知ってすらいたのだ。
 
「極秘データの大量盗難なんて事が起こる時点で、もっと警戒すべきだったのかしら……? このふざけたゲームとも、無関係であるはずがないものね」

 完全者――知らぬものは世界にいない、少女の姿をした新聖堂騎士団元帥。
 集められた大量の人間の面前において、腕一本を動かすだけで人一人を殺害せしめたあの存在は、一体何者なのか。
 アクセス履歴にあった『アクメ』との関係は?

 加えて、あの始めの大広場で何人か見知っている顔があった。 
 種々の資料で見たことのある顔もちらほら。作為的な人選であることは明白だった。

「データ盗難はここに繋がるの……? でも、明らかな子供も何人かいた」

 真実は見えない。しかし状況ははっきりとしている。
 タブレットで地図を確かめ、荷物の整理を終える頃にはすでに決心がついていた。もとより自明の事柄ではあったが。

 これから休暇だというところに、殺し合いなど馬鹿げている。

 知り合いやゲームに乗らない参加者を集め、さっさと脱出の手立てを整えて、大好きなビールで一杯やりたいとろだ。
 ところが、手元にあるものは配られた水と、味気なさそうな携帯食だけ。
 それでも量は十分、まずは腹ごしらえと封を切りかけた時、それは現れた。

 なぜ、こんなに近づかれるまで気づくことができなかったのだろう。

 一人の男が少し離れた木の影から姿を表し、こちらをじっと見ていたのだ。
 相手は何も言わない。
 真っ白な詰襟の軍服は襟元だけが赤く、髪も、瞳も、ズボンも、黒。
 三本の金属プレートのような物がついた黒革のグローブ、それを嵌めた手にはデイパックを握りしめ、歩みを進めてくる。

「止まりなさい!」

153ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:22:03 ID:jYwODWFQ0
手にしていた荷物を全て地面へと落とし、ヴァネッサは拳を構える。
 意外にも男は立ち止まり、指先を彼女の足元へと向けた。
 その先には、口のあいたデイパッグと、たった今彼女が食べようとしていた食料が散らばっている。

 低く、重ささえ感じるような声色で、男の口から言葉が漏れた。

「それを……」

「……これ?」

 携帯食料。
 地面に落ちた未開封のそれらを、ヴァネッサは見る。
 男はまたしばらく口を開かない。
 一体何なのだ。彼女は焦れて首を傾げる。

 毒が入っているから危ないとでも?
 わざわざ殺し合わせるために呼んだ人間を、支給品で毒殺する必要が? 実際にそれで死んだ人間を見でもしたのか? 
 一瞬の間に様々な仮定が思考をかすめていくが、男の言葉はヴァネッサが考えたどんな予想とも違っていた。

「後生だ。その食料と、自分の持ち物のうちの何かを交換してもらう訳にはいかぬだろうか?」

 ――ヴァネッサは的確に状況を捉え続けていた。今の今まで。

 ここで出会う相手が殺人狂だろうと、百戦錬磨の職業軍人だろうと、そうやすやすとやり込められるつもりもなかったし、混乱しない自信があったのだが。
 殺し合いが始まって数時間後に、食料目当ての物々交換を申し入れられるとは思いもよらなかった。

 二度襲った沈黙の中を、ゆるく風が吹き抜ける。
 冷えた空気が頬を打ったことで、ヴァネッサは呆けていた己を自覚した。
 
「あ、あなた今どういう状況か、わかってるの? 殺し合いなのよ……信じられないけど、完全者の話聞いてたでしょう?」

「無論わかっている、が」

「なんだって言うのよ?」

「――少なすぎる」

「……は?」

 草をかき分け、視線でデイパックから覗いた食料を捕らえながら、男は近づこうとした。
  
「ちょっと、近寄らないで! だまし討ちの通じる相手だとでも……」

「騙すつもりなどない。状況を理解しているからこそ深刻なのだ」

 何十日も遭難したというのならばともかく、まだここへ連れてこられて数時間しかたっていない。
 詳細な時間はわからないが、せいぜい一晩が妥当だろう。
 それなのに、この男はもう食べ物が不足している? 支給は平等ではなかったのか? 

「食うものが少なすぎる……このまま戦闘が続けば身が持つまい。他に自分に支給された物は、このような酒だけで」

 男は、二つのスチール缶を持ち上げる。
 その拍子に、成人男性で3日分はあるだろう食料のパックが、乾いた音とともに地面へと落ちた。

 すでに中身の無くなったそれらには目もくれず、ヴァネッサの抜け目ない瞳はスチール缶のラベルを射抜いていた。

154ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:22:43 ID:jYwODWFQ0
真っ赤な魚を小脇に抱えたふっくら体型の男の絵、その下に書かれた銘柄は『YEBIS』。
 アルファベットで書かれてはいるが、どこか東洋の雰囲気をまとったこのラベルに、彼女の喉はごくりと鳴る。
 『ちょっと贅沢なビール』――銘柄の横に、そんな魅力的な文字が踊っていたから。
 缶に張り付いた細かな水滴が、その中の黄金色の酒が美味しく冷えているであろうことを予想させてくれた。
 
 少し、ほんの少しだけ話を聞いてみる気になった。
 いくらビールが大好きだからといって、こんな非常事態に飲酒などできっこないことはわかっている。 
 できっこないことは、わかっている――そう言い聞かせ無くてはならない時点で、欲望が理性を飲み込みかけていることに、ヴァネッサは気付けない。

 つかの間目を伏せて、迫り来る葛藤と折り合いをつけた彼女は視線を前へと戻した。
 
 瞬間、男の蹴りが目前に迫っていた。

155ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:23:10 ID:jYwODWFQ0
※   ※   ※

 どっ、と地面に手をついたのは、ヴァネッサの薄く筋肉が付いてなお優美な、女性らしい肉体ではなかった。

「“あぶない”とか“敵だ”とか、何か言ってよ、びっくりしたじゃない!」

「……時間がなかった」

 腰に手を当て不満を言うヴァネッサに答える男、その視線の先には、不意打ちを蹴り止められた金髪碧眼の刺客。
 新聖堂騎士団の、雷を操るという兵士だ。
 真後ろから迫っていたのだろう、彼女はまたしても何の気配も感じ取れなかった。
 自分の体が死角となって、白い軍服の男からも見えないような位置からの攻撃だったが、彼は相当勘が鋭いらしい。

「……借りができちゃったわ、全くもう」

 歴戦の女ボクサーはグローブを嵌めた指先を甘噛みし、不意を食らった自分の不甲斐なさに嘆息する。
 そうして息を吐ききった後、決心したようにぱっと顔を上げると、人差し指を立てて言った。

「一つだけ聞かせて。なぜ私に声をかけたの? 殺し合いに乗ってるかもしれないじゃない? 女なら何かとやりやすいと思った?」

 なんとなくそれは違うと判って、あえて口に出してみる。期待通り、精粋な男は首を振った。
 カーキ色の軍服に身を包んだ兵隊は、黙って二人のやり取りを聞いている。
 攻撃の機を伺っているのだろうか?

「否。非常時下で闇雲に恐怖しているでもなく、殺気を放っているわけでもない様子を見、少なくとも話はできるだろうと踏んだ」

 問いに対する迷いない答えに満足気に微笑む、兼業主婦のエージェント。ルージュを引いた唇が広がり、両端が釣り上がる。

 その時、金属音のぶつかり合うような音が、遠くトンネルの奥から響いてきた。
 のっぺりと暗い穴の向こうから引きずるような音とともに現れたのは、異様な風体の軍事用装甲車。
 かつて世界をテロルの地獄へと誘った戦術兵器。

 電光戦車。

 自立駆動の特攻生物兵器、戦場に繰り出された狂気の産物。
 伸びたクレーンの先端についている髑髏は、まるで泣きながら笑っているように見える。

156ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:23:32 ID:jYwODWFQ0
「うわぁ……もう何が来ても驚かない自信ついたわ。ねえ、さっきの話だけれど、物々交換してあげてもいいわよ。もちろん、こいつらを片付けてからになるんでしょうけど」

「承知した。時に、武術の心得はあるか。婦人には酷かもしれんが、二体を相手にしてお前を守りつつ戦うのは――」

「うふふ、安心して。さっきは不覚だったけど、その内あなたから『背中を預けさせてくれ!』って、お願いする事になるんじゃないかしら?」

「……そうか」

 眉一つ動かさない彼の、しかし表情には一欠片の変化があるように思える。
 笑顔を何倍にも何倍にも薄めたような、空気のゆらぎ様な、変化。

 ヴァネッサはそれを見て取ってから、キャタピラをきしませて突進する金属の塊へと飛び込んでいく。

「ガシュン!」

 前輪部分から繰り出される足払いを跳躍で交わし、空の眼窩を赤く光らせる髑髏の部分にアッパーをねじり込む。
 ヒットした手応えは上々、しかし敵はビクともしない。
 じわ、としびれるような感覚が腕を駆け抜けただけで、ダメージはむしろ自分にあるのではないかと錯覚する程。

「フーゥッ、かったいわね、見た目通り! ……と、うわっ」

 追撃をかけようと胴体部分へと近づいた瞬間、戦車の装甲が電気に包み込まれ、バチバチと周囲の空気をかき乱す。
 エントラードゥン――ヴァネッサはその電撃から身を捩って避けることに成功したが、ネクタイの端を焼かれ、焦げた匂いが鼻を突いた。 

「危ない危ない」

 ただ突進するだけの鉄くずではない、と彼女が身を構え直した背後では、二人の男が放った電気の塊がぶつかり、爆ぜていた。
 一際強く光った二つの電撃、それらが相殺されて消える光の中、お互いの拳をぶつけ合う。
 鍔迫り合いのように拳を合わせたまま、金髪碧眼の男が囁く。

「試製一號。貴様の命と電光機関、貰い受ける」

「複製體よ……電光機関の根絶こそ我が使命。出会ったからには見逃さぬ!」

 電光戦車とエレクトロ・ゾルダートの攻撃をそれぞれバックステップで交わし、たった今出会った男女二人は再び背中合わせになる。
 赤と黒の髪の、鮮明なコントラスト。

 いたた〜、と手のひらを振っていたヴァネッサが不意に肩越しに振り返り、赤い結晶の瞳を細めて言った。
 
「私はヴァネッサ。あなた、名前は?」

「……アカツキ、と」

 遅い自己紹介を終え、二人は再び敵を睨めつける。

157ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:23:54 ID:jYwODWFQ0
 相対する一人、金髪碧眼の男――クローン人間エレクトロ・ゾルダートには目的があった。

 彼はかつて、特命を帯びてとある少年を追い、見つけ出し、戦い、そして負けた。
 無様に地面に這いつくばった彼、そこにとどめを刺すこともなく、少年エヌアインは告げた。
 『もとより短いクローン体の命、それを永らえさせる方法が、先史時代の遺産に隠されている』と。

 事の真実を確かめようと動きかけた矢先、突如任務を解かれ、全軍に撤退命令が出された。
 触れてはならぬ知識に触れたことを感づかれたか、といぶかること数ヶ月、何の沙汰もないまま待機令が全軍に申し渡され、身動きの取れない状態に辟易していた頃。

 新たな指令は下り、彼は再び解き放たれた。この殺し合いの庭に。
 教団の主・完全者の壮絶な野望狂い咲く、バトルロワイヤルに。

『ヤツらと殺しあえ』

 彼は思う。
 そうしろというのならば、そうしよう。
 だが、必ず生きながらえて、先史時代の遺産を手に入れて見せる。
 そしてミュカレの元へたどり着き、滅ぼすこと。
 完全者の撃滅。それが未完全な彼の目的。

 ただ消耗品のように、使い尽くされて消え果てるクローンの命。
 エヌアインと出会い、漫然と死を待つだけの兵士《ゾルダート》ではいられなくなった。

 生き永らえ、無と有の間をたゆたうだけだったこの『生』に、確たる意味を掴むのだ。 
 戦友《カメラード》達の死の虚無を、不朽の栄光へと覆してやるのだ。

 量産型電光被服の発する電力が高まると共に、彼は、己の停止していた心に炎が灯るのを感じた。

 斃す――試製一號や参加者は言うに及ばず。
 自らのオリギナールだろうと、自らの分身を動力として動く戦術兵器だろうと、今は。

 斃さねばならない。

 彼は叫ぶ。初めて手に入れた、激情のままに。

「我らに……永遠の、栄光を!」

158ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:24:43 ID:jYwODWFQ0
電光戦車に意思はない。
 自らと出自を同じくする一兵卒の叫びも、彼はただの振動として処理する機能しか持っていない。

 殺戮こそが彼の呼吸する空気だ。

 タイマー機能によってこの地で目覚め、ひたすらに参加者を探して彷徨ってきた。
 今、初めて出会った獲物三人の生命活動を停止させること。
 彼にプログラムされた指令は、狂うことなく冷たい金属回路を駆け巡っている。

「ピピピピ……」

 戦闘の熱気がとぐろを巻き、天を突き破らんばかりに立ち上る。

「ばっちりシラフだもの……お楽しみは、これからよ!」

「憂きことの、尚この上に積もれかし」

 ヴァネッサが言い、アカツキが囁く。
 
 闘争が始まる。


【ヴァネッサ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(把握済み)
[思考・状況]
・ゾル、戦車を倒した後、アカツキと物々交換する

※はじめの広場で見た『知っている顔』や、『種々の資料で見た顔』が誰で、どのくらい知っているのかなどは、後の書き手さんにお任せします。


【アカツキ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康・空腹
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品(食料は完食)、YEBISUビール×2、不明支給品0〜1
[思考・状況]
・電光機関の破壊
・ゾル及び電光戦車を撃退し、ヴァネッサから食料を手に入れる

※空腹による電光機関への影響の有無は、後の書き手さんにお任せします。

159ハイ・ボルテージ ◆tzc2hiL.t2:2012/11/05(月) 23:25:58 ID:jYwODWFQ0

【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
・全参加者及びジョーカーを撃破後ミュカレを倒し、先史時代の遺産を手に入れる。


【電光戦車@エヌアイン完全世界】
[状態]:正常
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
・参加者の殺害


以上です。

アカツキの一人称について、wikiのキャラ紹介で「我」となっていますが、
アカツキ電光戦記のラジオにて「残る電光機関は自分とお前だけ……」というセリフがあったため『自分』にしてみました。
問題があればご指摘いただけると助かります。その他矛盾や誤字脱字などもありましたら。

専ブラも入れていないので、行数がまちまちになってしまいました。

そして……やっぱりバトル前切りは不安だ!w

よろしくおねがいします。

160 ◆LjiZJZbziM:2012/11/06(火) 00:57:34 ID:/2uycDVMO
投下乙です!
いやぁほんまにありがとうございます!
各キャラがそれらしいし、展開もばっちり!
しかしアカツキはやはり腹ペコキャラなのか……
お酒の誘惑に勝てないヴァネやおいしい切りどころ、本当に投下乙です!
良かったらまた気軽に予約してください!
ほとんど僕しかいない廃墟みたいなとこですが、書き手デビューもドンと来いなゆるいロワですので!
これからもよろしくです!

161 ◆LjiZJZbziM:2012/11/06(火) 15:05:01 ID:wY1a88/M0
あ、すみません。
現在地と時刻の表記が抜けているので、追記のほうをお願いいたします。

162 ◆LjiZJZbziM:2012/11/06(火) 15:31:34 ID:wY1a88/M0
あっ、位置はSS内に表記されてますね。
時間帯の表記だけお願いします!

163 ◆tzc2hiL.t2:2012/11/06(火) 22:25:37 ID:ID0S7.ls0
うわわ、申し訳ありません。

【E-7/東崎トンネル出口/1日目・朝】
※アドラーとクーラのいる出口とは逆の出口。

上記、wiki編集時に追加させて頂きます。
米印の部分のように、アドラーとクーラのいる出口とは逆、ということでお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?

そして感想感謝です! 参戦作品の中ではエヌアインとアカツキ家庭用しかプレイしたことなかったので、
キャラ再現がおかしくないか不安でしたが、ホッとしましたw
他は動画で把握中ですが、魅力的なキャラばかりなので、是非また書いてみたいと思います!

164 ◆LjiZJZbziM:2012/11/06(火) 23:05:46 ID:/2uycDVMO
ふむ。
アドラー達もE7なので逆がわだとE8付近ですが……どちらの表記を優先しましょうか?
合わせる表記の方でwikiにも収録します

あ、把握についてわからない事があったら気軽に聞いて下さいね!

165 ◆tzc2hiL.t2:2012/11/06(火) 23:50:13 ID:ID0S7.ls0
トンネルが区間をまたいでいたか……重ね重ね確認不足で申し訳ないです。

位置をE-8に変更し、SS内と現在位置表記、両方を変更させて頂きます。

修正分:①彼女が身を潜めるのは地図の区画E-8に相当する、東崎トンネル出口付近の藪の中である。
②【E-8/東崎トンネル出口/1日目・朝】

で、大丈夫でしょうか……? アドラー達と同じ位置で同時刻だと、「お互いに、なんで気づかなかった?」となりかねないので。
手落ちが多くてほんとすみませんー!

キャラ把握とうっかりミスの撲滅に励みます!
指摘ありがとうございました。

166 ◆LjiZJZbziM:2012/11/06(火) 23:54:37 ID:/2uycDVMO
いえいえ! スレを見てもらえれば分かりますが僕もミスりまくってますので……
細かい指摘で申し訳ないっす!

サクッと収録しておきますね!

167 ◆tzc2hiL.t2:2012/11/07(水) 01:15:13 ID:Hez90fTY0
>>166
なんと! お手数をお掛けしましたです。>wiki収録
色々と便宜を図ってもらい、恐縮でした。
では、次回投下まで名無しに戻ります……w

168 ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:00:10 ID:z5ZwGJvA0
予約なし投下失礼致します。アドラー、クーラ、アカツキ、電光戦車、ゾルダート、ヴァネッサです。

169ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:04:40 ID:z5ZwGJvA0
無邪気な少女は些か、いや多分に不安だった。デイパックの中に入っていた飴を舐める。甘い、元気になりそうな甘さだ。優しいウィップの笑顔も思い出せる。


せっかく会えたK‘と離ればなれにされて、起きたらまるで知らない場所で殺しあいを強制させられて。まるで昔みたいだ。頬が膨らむ。

K‘は大丈夫なのか。いや、安否を問うなら否応なしに無事と断言できる。心配なのは、彼にちょっかいをかける人間達だ。

クーラの不安の七割はそれで構成されている。

残りは目の前で高笑いを止めない男だ。頼りになるかと期待したのに、いつまで笑っているんだ。


「ねえ、おじさん……おじさんはあの女の子のこと知ってるの?」


なんとか注意を引こうと、まだ肩を震わせているアドラーと名乗った男に尋ねた。先程から『あの女』だの『完全者ミュカレ』だの、いかにも詳しそうな呼び方で……おもしろおかしく罵倒しているんなら、きっと知り合いなんだろう。


「女の子…ああ、完全者のことか。ふん、いけすかない小娘よ……しかし、そうだな、なぜあの女がこのような座興を企んだのか…」

不意に真顔になり、腕を組んで思案を巡らすアドラー。ある意味表情が豊かな男だ。

グローブに包まれた黒く鋭い指先を上下させ黙り込んだ彼は、ゆっくりクーラを見て、また虚空に目を移す。

170ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:05:29 ID:z5ZwGJvA0
「完全者が何者か、と聞いたな」


「うん」

立っているのが嫌だったクーラは、トンネルのそばにあった石にぺたりと腰掛けた。


「…完全者ミュカレ、完全教団という宗教団体の教祖であり、『転生の秘法』を得た魔女だ」


立っているのが好きなのか、アドラーは微動だにせず話を続けた。

「『転生の秘法』?」


「完全者は、中世から生き続けていると言う」

質問には答えず、有り得ないことまで言い出したアドラー。クーラは聞かなければよかった、と首を振る。

「そう急くな。貴様が思う有り得ないを可能にするのが『転生の秘法』だ」


にやり、と口端を持ち上げる姿は、先ほど仰け反りかねない勢いで笑っていた人間とはまるで別人である。

「その『転生の秘法』が、完全者の目的と重なる手段なのだ」


今度は睨みつけるように、ぎりと眉根を寄せた。


「ねえだから、『転生の秘法』ってなんなの?」


嫌にもったいぶって話され、いい加減辛抱ならないクーラ。


「簡単に言えば、体が死滅しようが魂だけは生き続け……その魂を宿す器さえあれば、幾度となくこの世に蘇ることができる法だ」


ぽかんとしているクーラに構わず、アドラーは独りごちる。


「よくよく考えれば不可解だ。あの女の目的は魂の救済…即ち肉体の消滅…ならば何故、殺しあいという状況を作り出すだけでなく、ただ一人の生還者を出そうと言うのだ?」


完全者の思惑を粉砕すべく…というか邪魔しまくるべく行動指針を決めたアドラーにこの疑問は大きく立ちはだかった。


「あたしにきかないでよぉ…」

ああ、キャンディーが無くなった。甘い味が残る棒を眺め落胆するクーラ。

「単なる暇潰しと決め付けていたが…ふ、調べものができたな」


勝手に話を進めるアドラー。だがなぜだろう、つい数十分前よりもぐっと頼もしく見えてきた。

「あの、わたしの用事も手伝ってほしいんだけど…」

「ああ、人探しだったな。ついでだ、ついで。俺にも探さねばならんやつができた」

やはり座らず、すぐに立てるような体勢で膝をつき、アドラーは自身のデイパックの中身を確認し始めた。
両手で頬を抱えながらクーラはのんびりとアドラーを観察する。

挙動こそキビキビとして隙はないが、時折くつくつと笑う姿は非常に不気味だった。もっと健康的に喜べないものか。


またアドラーが変に見えてきた。そしてぶっきらぼうだが優しいところもあるK‘のことを思い出して、今すぐにアドラーとK‘が交換できないかな、とクーラが嘆息した刹那。


トンネルの奥から、反響して聞こえる爆発音。


アドラーはクーラが顔を上げるより早く起立し、トンネルのなかに険しい眼差しをくれている。


「なんだろう」


もしかしてK‘かもしれない。自分から進んで人殺しなどしないが、相手がかかってくるなら容赦はないだろう。

「よし、行くぞ」


「あ、まってよ!おじ…アドラー!」


有無を言わさず走りだしたアドラーのあとを慌てて追い掛ける。確かにクーラもそちらに向かいたかったが余りにも強引だ。


「…変だよ、変すぎるよアドラー」


朝の日差しは、緩やかに午前の光へと変わりはじめる。光はやがて集まり、暗い暗いトンネルに吸い込まれていった。

171ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:06:07 ID:z5ZwGJvA0
生きていくと決意した複製體は、指先からその意志を乗せた雷撃を放つ。


ここで敵を倒さねば、それは死と終わりを意味する。しかし、この二人を相手にし、全力を出すと自身の『残り時間』が幾ら使われてしまうのか。


鋭い回し蹴りを腕で受けとめ、振り払う。試製一號……アカツキもゾルダートと同じく電光機関を持つものだ。

打ち貫く拳にも蹴りにも電撃が走る。体内の電気信号だけでなく、その威力は目視できた。


「パンチでお星さまが飛ぶって言うのは聞いたことあるけど…殴りあいで電気が飛び散るのは、新鮮、ね!」

単発ではさして効き目がないと悟ったヴァネッサは、一点に集中してパンチを叩き込む。

装甲に歪曲が見えたことを瞬時に確認すると、今までの勢いを溜め込んだようなアッパーを繰り出した。

「ガ…ガガ……ピーーー……」


派手な音を立ててにわかに跳ねる重い機体。電光戦車は、機能停止寸前にまで追い詰められていた。


会って間もないコンビは、お互いの死角をサポートしあい、連携をとってこちらを消耗させる。かたや暴れ回る電光戦車すら敵に回しているゾルダート。戦況は圧倒的に不利だった。

ふと、壊れかけた電光戦車が視界に映る。


もとが何でできていようて、今は意識すらない殺戮機械だ。だが、その機体から溢れる血液と油は。

己が生きて、栄光を掴むためなら、そう決意しても胸中は暗くなる。


「チェストォー!!」


気付いた時には遅かった。回し蹴り、振り上げ、そして最後の踵落とし。

目まぐるしい早さはゾルダートのなかで酷くスローモーに処理され、俗に言う走馬灯の時間を与えるが、彼には思い出せる記憶が少なかった。

そのおかげだろうか、あるはずがない軌跡を視認できたのは。

「ファレン!(落ちろ!)」

赤と白の弾丸のような何か。

ゾルダートが通常の感覚に戻った瞬間、衝撃が体を後方へ弾き飛ばす。

想定していた痛みよりも広域で、弱い。

すぐさま跳ね起きて状態を戻そうと目を開くと、赤いロングコートの裾がはためいていた。


「ふん、早速当たりを引けるとはな…」


反対側に飛ばされたアカツキも驚愕したような、いや怒っているような声音でその乱入者の名を呼んだ。



「親衛隊……アドラーか、いったいなんのつもりだ?」


赤と白の弾丸の正体は、自分のオリギナールであった。それならば尚更、不可解だ。

こうして言うのもなんだが、オリギナール……アドラーはゾルダートを助けてくれるような所謂『善人』ではない。寧ろ使い捨てにしたり木偶呼ばわりしたりする『鬼畜』だ。

172ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:07:55 ID:z5ZwGJvA0
「何、東洋の猿が貴重な情報を潰してくれようとしたのを止めたまでのことよ」

「ずいぶんな口のきき方をするのね、あなた…」


ヴァネッサは呆れ返ったが、油断なくアドラーを調べる。
赤黒い軍服、色素の薄い灰色の髪は見た目の年齢にそぐわず。アカツキは彼を知っているような口ぶりだが、どう聞いても仲が良い風には見えない。敵対関係と見たほうが納得できそうだ。


「アドラーだ、覚えておかんでもいいがな。さて…」

くるり、踵を返したアドラーの淀んだ赤い瞳がゾルダートを射ぬく。


「情報…そうか、こいつらは完全者の手のものであったな」


未だ警戒は解けないがアカツキは納得する。


立ち上がったところで有効策はなく、ゾルダートは体力の消耗を押さえるために立て膝でアドラーを見上げた。


「俺が何か知っていたとして、それを言うと思うか?」


「思わん」


ゾルダートの精一杯の台詞にぴしゃりと断言し、デイパックの中から鈍い輝きを放つ拳銃を取り出す。

リボルバー式のそれはアドラーの手によく馴染んでいた。


眉間から鼻筋、銃口は唇にひたと吸い付き、セーフティが外れる音が頭蓋骨に直接響いた。


「これは尋問だ。貴様がごねるなら、拷問に変えてやってもいいがな」


ニヤニヤと笑みを浮かべるでもなく、感情的な表情を見せるでもなく、氷のように冷徹な無表情。


答えねばアドラーは躊躇もなく撃つ。確実に。


「分かった。俺の知っていることを話そう」


せめて隙をつけないものかと口を開く。


ばちり、不穏な音が聞こえた。


「ちっ、鉄クズめ…」


突如クレーンが高々と上がり、鉄塊が突撃してくる。もはや機能停止していたはずの電光戦車が、最後の暴走を見せたのだ。

幸運は続く。暗闇のトンネルの中から、光を集め反射する氷の弾が戦車の頭めがけて真っ直ぐにとんできた。

氷はアドラー達の頭上で炸裂し降り注ぐ。きらきら、明るい光を閉じ込め砕け散ったそれは、平素ならば美しいと感動せざるを得なかっただろう。上に注意が集まったそのとき、アドラーがバランスを崩して倒れた。

173ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:08:43 ID:z5ZwGJvA0

「くっ…!?」


姿勢を低くしていたことが功を奏した。アドラーのに足払いをかけ、その勢いで立ち上がり戦車の残骸を盾にしてゾルダートは逃げ出した。


「あーあ、かっこつかないわねぇ」


「もう置いてかないでよアドラー!…大丈夫?」


「あの複製體を追うのは諦めたほうがよさそうだな…」


頭上から降ってくる各々の言葉。片手に拳銃を持ち、尻餅をついているアドラーに刺さったり通り過ぎたり。


「だいたい、あなた情報を潰されるとこだったなんて言っておきながら銃をつきつけて、あまつさえ撃とうとしていたわよね?」


アドラーは無言で、セーフティが外れたそれを自身の側頭部に押しつけた。


「な、なにしてるのアドラー死んじゃうよ……あれ?」

カチリ、クーラの台詞半ばで虚しい音がこだました。


「運がよかったらしいな…」


「弾丸は入っていなかったのか」


ぼんやりとつぶやくアドラーにアカツキは指摘する。


「いや……ロシアンルーレットというものがあるだろう、それに使われるような、一つだけ当たりのある銃だ」


とつとつと説明し、苦々しげに銃を懐にしまう。


「つまり殆ど脅しだった、と」


「貴様ら野蛮人と一緒にしてもらっては困る」


「ぺたんと座り込んでた人に言われても説得力ないわね〜」


機嫌が最下層を突き抜けて宇宙進出を果たしたアドラーの表情は般若のように歪んでいた。


「ふん、行くぞ、クーラ。ここに捜し物はいなかった」

「え?何があったのかちゃんと教えてよ!」


不機嫌を顕にしつつもアカツキ達に背を向けるアドラー。


「待て、どこへ行くつもりだ?」



「貴様に報告する義務はない」


ばちり、アカツキの周りに電撃が迸る。それすら興味がないとばかりにアドラーは歩きだした。


「全ての電光機関を破壊するのが自分の使命だ。ここでお前を逃がす訳には……」


青い電光は、急速に消え失せた。同時にアカツキの髪がふにゃりと重力に負ける。


「アカツキ…?」


いきなり膝をついたアカツキと、去りゆくアドラー達を交互に見る。クーラが心配そうに振り返っていた。


「不覚……もう、限界だ…」


ぐう、緊張感のない、空腹を訴える鳴き声。


「……まあ、いいんじゃないかしら。とりあえず最初の敵は追っ払えたんだし、ね」


携帯食糧を渡してヴァネッサは苦笑する。ビールの缶は、僅かな冷たさだけを残していた。

174ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:15:45 ID:z5ZwGJvA0
【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:不機嫌
[装備]:装備 電光機関 ロシアンルーレット用の銃
[道具]:基本支給品 拳銃(但し弾丸は一発のみ)不明支給品0〜1
[思考・状況]
完全者の邪魔をするため思惑を探る。

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:K'達を探す

175ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:18:18 ID:z5ZwGJvA0
【ヴァネッサ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(把握済み)
[思考・状況]
・状況を整理し、アカツキに事情を聞く



【アカツキ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康・限界空腹
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品(食料は完食)、YEBISUビール×2、不明支給品0〜1
[思考・状況]
・電光機関の破壊
・急いで食事を撮りたい

176ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:21:08 ID:z5ZwGJvA0

【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康だがやや消耗
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
・全参加者及びジョーカーを撃破後ミュカレを倒し、先史時代の遺産を手に入れる。
・現在逃走中

【電光戦車@エヌアイン完全世界 死亡】

177ジャーマンルーレット・マイライフ ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:23:26 ID:z5ZwGJvA0
アドラー、クーラ
【E-8/東崎トンネル出口→???/1日目・午前】

アカツキ、ヴァネッサ
【E-8/東崎トンネル出口/1日目・午前】

エレクトロゾルダート
【E-8/東崎トンネル出口→???/1日目・午前】

178 ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:24:32 ID:z5ZwGJvA0
以上です。長々と失礼いたしました。不備がありましたらご指摘賜れれば幸いです。

179 ◆LjiZJZbziM:2012/11/09(金) 00:39:42 ID:BeImECLg0
うおおおお投下乙です!!

ペル子が果たして何を考えているのか……そこらへんに触れるアドラー。
クーラはなんかついていくのに大変そうだけど、なんだかんだで信頼してもらえていたりもw
重要な情報が出つつありますね……
そしてやっぱりアカツキヴァネはいいコンビだなー!

あ、重箱の隅をつつくようですがちょっとだけ指摘を。
現在地は過去の話のようにグループの先頭につける感じでお願いします。
移動先が不明な場合は

[備考]
※行き先は後続にお任せします

みたいなかんじでオッケーですよ!!

あとはアドラーの拳銃が装備と道具でダブってるぐらいですかねー。

細かい誤字なんかはWiki収録後に修正していただいてもオッケーなんで!
作品把握、パロロワのシステムについてとかなんかわかんないことあったらなんでも聞いてください!

180 ◆ZDy76xvzmA:2012/11/09(金) 00:48:59 ID:z5ZwGJvA0
感想ご指摘ありがとうございます。次からは現在位置と備考に気をつけます!

装備と支給品で一緒にすべきか迷っていたのですが、これも次からは直します。
右も左もまだ不透明なものですので、だいぶ頼らせていただくことになりそうです、本当にありがとうございます!

181 ◆ZrIaE/Y7fA:2012/11/09(金) 01:00:02 ID:z5ZwGJvA0
トリップが割れていたようなので訂正させていただきます。今度は大丈夫でしょうか…。

182 ◆LjiZJZbziM:2012/11/09(金) 01:00:36 ID:BeImECLg0
>>181
大丈夫っす!

183名無しさん:2012/11/09(金) 01:14:19 ID:rv9GXrL.0
投下乙!

クーラとアドラー、アカツキとヴァネッサのコンビの対比が実にいい……
そしてゾルが戦車に対して抱く後ろめたさの表現にグッときます。上手い、これは上手い。

ペルフェクティについて深く知ってるのって、アドラーとムラクモ、体を使われてたカティちゃんくらいなんだよな……。
そこら辺のアドラーの掘り下げも素敵だと思いました。
だが、ロシアンルーレット用の拳銃を構える貴族軍人ってすごくかっこいい筈なのに、どこか締まらない終わり方なのがアドラーらしいw

一体どうなるのか気になりすぎる。
改めて投下おつでした。

184名無しさん:2012/11/13(火) 03:23:08 ID:QS4yCtF20
投下乙です。
アドラーが素敵だと思いました(小並感)
戦車たんは南無……

そんなわけで、もう一体の戦車たん投下します。

185ふたりはキュラキュラ マックスゾルダート ◆wKs3a28q6Q:2012/11/13(火) 03:26:31 ID:QS4yCtF20

最強の破壊兵器・電光戦車。

……たった一人でコンクリートの建物破壊余裕でしたな人間はびこる世界で何が最強やねん、と思うかもしれないが、
それでも詰め込まれた技術と、量産出来るという点において、非常に優れた兵器である。

唯一の難点を上げるとしたら、その動力だ。

電光戦車の動力には、負傷兵が使われている。
戦力にならない者を、動力として、再び戦場へと送り込む――
非情にして、効率的なやり方だ。

しかしながら、人道的な面を除いても、その動力には問題がある。
別に動力の有限性やコストパフォーマンスなどではない。
そんなもの、戦争してればいくらでも手に入る。

問題は、動力である“生命”というものが、ゲゼルシャフトを持ってしても解明しきれないということだ。
特に“心”については、本当に未知である。
兵士達のソレをないがしろにする傾向にあるだけあり、その分野は元々疎いといってもいい。

だから、一度、予期せぬ目にあっている。
自我を得た、電光戦車による反撃。
それ自体は容易く制圧されたが、それでも一時電光戦車の運用は見直された。

186ふたりはキュラキュラ マックスゾルダート ◆wKs3a28q6Q:2012/11/13(火) 03:27:29 ID:QS4yCtF20

あれから幾ばくかの時を経た。
電光戦車は運用を再開し、あの手の不具合はもうない。

それこそが、油断を生む。
油断というより、余裕なのかもしれないが。
とにかく鎮圧できた前例があるため、整備担当もそこまで深くチェックしないようになる。
その手抜きは年を重ねるごとに悪化し、最近では手頃な数台をチェックして、大丈夫ならまあいいだろうと考えるようにすらなっている。

だって電光戦車はただの兵器だから。
戦えるよう整備さえすれば、自我を持ってるかのテストなんてしなくっても、戦場で活躍するから。
どうせ、あんなイレギュラー、もう起こらないのだから。

トップはそう思っていなくとも、現場員はそう思ってしまう。
少しでも楽をしたいから。
それでも上手くやれるのだから。

だから今回も、見逃された。
一台だけ、徹底的に自我がないか確認して。
それで、終わった。
「ほら、やっぱり今日も、自我になんて目覚めてない」
そんな風に、最終確認を切り上げた。
そして、一台目にそうしたように、タイマーをつけて配置した。

187ふたりはキュラキュラ マックスゾルダート ◆wKs3a28q6Q:2012/11/13(火) 03:36:34 ID:QS4yCtF20

「ピピピ……」

事実、一台は完全な兵器であった。
配備され、殺戮兵器として、参加者と戦った。
そして壊れた。
スクラップとして、その機能を停止した。

そして――この機械を、なんと呼べばいいだろうか。彼、というのは些か違和感がある――残された電光戦車も、すでに起動している。
キュラキュラと音を立てて移動し、殺害対象を求めている。

だがしかし、一点だけ。
一点だけ、先程スクラップとなった機体と違う所がある。

「…………」

この戦車は、起動時に、少しだけ、何かが目覚めた。
自我、とまで言うことは出来ない。
ほんの小さな、バグにも満たない薄ぼんやりとした“何か”としか言えない。

それがゲゼルシャフトの意に反する事態をもたらすのかすら、まだ分からない。
何せ、全てが未知なのだ。
久々に電源と一緒に、まどろみ混合した意識がうっすらと表面だけでも滲み出るということ。
殺戮の場でなく、猛者との殺し“合い”の場での起動ということ。
終わりが見えない膨大な殺戮を求められたかつてと違い、人数という“終わり”が用意されていること。
全てが、今までなかったことである。
何もかもが未知であり、自我が目覚める“キー”も含め、分かっていることなんてない。

もし、自我を持つとしたら。一体どうなるのだろうか。
ニンゲンとして生きようと考えるのか。
復讐しようと考えるのか。
はたまた媚びてでも助けてもらおうとするのか。

――それとも、もう死ぬような想いは嫌だと、思うのだろうか。

戦車がどの道を行くにしろ、自我を持ったら、もう死は嫌がるのではないだろうか。
だって中に入った“彼ら”は、皆負傷兵なのだから。
押し込まれたたくさんのエレクトロ・ゾルダートだって、敗北の味を知っているのだから。


戦場の怖さを知り、迫り来る死の絶望感を刻みつけられた、負傷兵。
彼らに共通する“死”というものへの感情は、果たして何か意味を持つのだろうか。

答えの出ない問を尻目に、電光戦車の孤独な行軍が始まる。
“何故”という質問には、「プログラムされているから」としか返せない状況で。
もしかしたら、まどろみの中、己の意思でかもしれないが。

とにもかくにも、電光戦車は、目覚めた。



【???/1日目・朝】

【電光戦車@エヌアイン完全世界】
[状態]:正常? わずかに、自我が芽生えつつある?
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
・参加者の殺害

188名無しさん:2012/11/13(火) 03:37:29 ID:QS4yCtF20
以上で投下終了です。
何か問題ございましたら気軽に指摘して頂ければ幸いです。


二人でキュラキュラさせる前に亡くなった戦車に黙祷。

189 ◆LjiZJZbziM:2012/11/13(火) 11:34:54 ID:J0MzA7Qs0
投下乙です!
なるほど、整備不良に寄る自我の目覚め……これはちょっと興味深いですねえ。
この死にたくないというぼんやりとした意識が今後どうなるかは期待!

190 ◆LjiZJZbziM:2012/11/15(木) 01:55:39 ID:brZq1N3Q0
月報集計者さんへ、何時もお疲れ様です。
今期のPWの月報データです。

PW 23話(+12)  45/53 (- 4)  84.9 (- 6.8)

191 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/16(金) 20:56:24 ID:aqYROISU0
いきなり書き手枠使ってしまう形になってしまいますが、
ターマ=ロビング、ネームレス、K'(書き手枠)で予約します。

192 ◆LjiZJZbziM:2012/11/16(金) 22:05:22 ID:yNm5Gxsk0
予約ありがとうございます!
何か分からない点などございましたらお気軽にお尋ね下さい!

書き手枠はこれで残り1枠となっております。

ということで、ヘビィ・D!投下します。

193理想郷へ飛び立つ荒鷲 ◆LjiZJZbziM:2012/11/16(金) 22:07:47 ID:yNm5Gxsk0



結局、人の用意した舞台で輝くことなどできなかった。



特徴的なモヒカンの、大柄の黒人男性。
この殺し合いの地に招かれ、今に至るまでただひたすらに拳を振るい続けている。
なにもない、空虚に向けて。
風を切る音だけが耳に響く。
それでも、彼は拳を振るうことをやめない。
ここで起こりうる戦いに備えて、体を動かしておきたいから。
ようやく、全力を出し切れる場所に出会えたのだから。
悔いのない戦いのために、戦いのカンを取り戻すために。

ある、一人の黒人ボクサーがいた。
体格、技能、腕力、どれをとっても世界で有数の腕前を持つ優秀なボクサーだった。
そんな彼はある日、一つの事故を起こしてしまう。
ボクシングの対戦相手を死亡させてしまったのだ。
彼の放ったパンチンググローブ越しの渾身の右ストレートが、相手の右頬に綺麗に突き刺さり、その頭を揺らした。
その結果、不慮の事故とはいえその時の対戦相手は脳震盪で死んでしまったのだ。
その日から誰もが彼との対戦を恐れ、意識的に避けるようになった。
彼を避けるために、ボクサーたちが付けた蔑称。
「ヘビィ級の危険な奴」として、「ヘビィ・D!」と呼ばれ続けたのだ。
対戦相手がいないトレーニングを続けるだけの日々に飽きた彼は、いつしかボクシングの舞台から降りていった。

194理想郷へ飛び立つ荒鷲 ◆LjiZJZbziM:2012/11/16(金) 22:08:14 ID:yNm5Gxsk0

そんなある日、転機となる一通の手紙が届く。
「ザ・キングオブファイターズ開催のお知らせ」
胸が高鳴った、心の底から沸き上がる喜びを隠しきることができなかった。
また戦える、それだけで十分だった。
長らく休んでいたトレーニングを再開させて技術を磨きあげ、それにふさわしい腕力をつける。
毎日毎日、充実したトレーニングを送り続けていた。
彼の心の中はただ一つ。
戦いの場に戻ることができる、という充実感だけだった。
そして彼は一人の友人と大物のゲストと共に、ザ・キングオブファイターズへと出場した。
周りの目を気にすることなく力を振るうことができる。
そんなすばらしい舞台へ、彼は降り立ったのだ。

だが、そのすばらしい舞台は脆くも崩れ去ることになる。

初戦、女性の身ながら格闘の世界へ身を投じる者たちとの戦い。
相手が女性とはいえ加減は無用、全力で戦うのみ。
この日のために、彼は毎日毎日トレーニングを積み重ねてきたのだから。
武器の使用すら認められている「なんでもあり」の大会。
ついにこの日が、自分の力を遺憾なく発揮できる舞台が用意されたのだ。
最初の手合わせとなったのはムエタイを操るスーツの女性だった。
鋭く流れるような足技の数々にはじめはペースを握られつつも、技の切れ目を見抜き、一発ずつブローを叩き込んでいく。
加減は必要ない、ここは戦いの場所なのだから。
時が進むにつれ勢いをなくしていく足を捌き、確実に攻撃を叩き込んでいく。
ある一発の後、ゆらりと彼女の体が揺れる、その瞬間を見計らってラッシュを叩き込んでいく。
顎の下から突き上げるようなフィニッシュを〆に、はじめの戦いは終わった。
次に出てきたのは忍びの女性だった。
話でしか聞いていなかった「くのいち」とはかなりかけ離れた容姿だったが、その素早さは忍者の噂通りそのものだった。
スピードでは勝てない、そう判断して早々に戦闘スタイルを変える。
素早く動く相手を一撃で沈める、そのために動きを見切る。
防御を重ねるうちに相手の動きがあるパターンになっていることに気がつき、頭の中で情報を整理する。
そして動きがだんだんと予測できるようになり、ギリギリで避けては次の行動引き出せるようになった。
そして、相手に焦りが生まれる。
その瞬間を決して見逃さず、大打撃を叩き込もうとしてきた相手の腹部にカウンターの拳を叩き込む。
一撃。
忍びの女性はそのままうずくまり、起きあがってこなかった。
興奮していた。
これだけハイレベルな戦いができることに。
久々に戦う感覚を、思う存分味わっていた。
そして、三人目。
極限流道場の師範の愛娘。
道場の子供だけあって基本的な動きがしっかりしている。
隙を見せれば自分がやられる可能性だってあった。
だから先の二人と変わらぬように、己の全力を振り絞っていった。
攻めと守りが激しく入れ替わる中、先に大きく仕掛けてきたのは相手の方だった。
そこを大きく、捌く。
一撃を避けられ、大きくよろめいた相手の姿を認識し、ここぞとばかりにラッシュを仕掛けていく。
右、右、左、右、左、左、右、左。
胴から頭にかけて無数のラッシュを浴びせていく。
そして、最後の一撃を叩き込もうとしたときだった。
「おい! やめろD! 殺す気か!?」
間に入ってきたのはラッキーの姿。
その後ろにはまるでボロ雑巾のような姿になり果てていた、対戦相手の姿があった。

195理想郷へ飛び立つ荒鷲 ◆LjiZJZbziM:2012/11/16(金) 22:10:55 ID:yNm5Gxsk0

ザ・キングオブファイターズで、ほぼ唯一の禁止事項。
「対戦相手の殺害」
かつて、彼がボクシングの舞台を降りることになった要因と同じモノだ。
久々の大会の舞台で舞い上がっていた彼は、全力を出しすぎてしまったのだ。
既に相手をノックアウトしていることすら気がつかず、攻撃の手を加え続けていた。
ラッキーが止めに入らなければ、あの時確実に対戦相手は死んでいただろう。
また、彼は全力で戦うことができなかった。
その試合以降、彼は戦いに参加しなかった。
ザ・キングオブファイターズですら、気兼ねなく戦える場ではなかったからだ。
その後、ラッキーとブライアンの二人で大会自体は参加していたようだが、言う間でもなく途中敗退であったようだ。
以来、両者とは連絡すら取っていない。

そして、今。
ついに彼は手にした。
「相手を殺しそうになっても構わない戦いの場」を。
バトル・ロワイアル、それこそが彼の求めていた戦場だったのかもしれない。
相手を殺しそうになっても、どんな戦いを繰り広げても、この場では止める人間なんていない。
本当の"ルール無用"の試合が、ここにはあるのだから。
「もう、飽きたぜ」
シャドーを止め、今までの戦いに向けて一言を放つ。
本当の戦いが、これから待っているのだから。
彼の胸は、高鳴りを押さえきれずにいた。

【E-3〜F-4/境界の丁度中心点/1日目・朝】
【ヘビィ・D!@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:思いきり戦いを楽しむ

--------------------------------------------------
以上で投下終了です。
予約分の投下、お待ちしています!

なお、念のため避難所スレを
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1338323175/
こちらで代用させていただきます。

なんかしたらば全域でネカフェIP的なのが規制されてルっぽい?
調べておきますね!

196 ◆LjiZJZbziM:2012/11/18(日) 01:52:13 ID:JiWZMwZk0
マルコ=ロッシ投下します。

197 ◆LjiZJZbziM:2012/11/18(日) 01:55:51 ID:JiWZMwZk0

・兵力増強計画「電光戦鬼」概要
電光機関の扱いには多量のATPを要する。
そこでよりよい適正を持つ人間を選出する手段としてこの電光戦鬼を提唱する。
数十人の人間にそれぞれ電光機関のみを配布し、最後の一人になるまで生き残れない状況を作る。
逆らえば命を奪う、などの極限状況を作り出した上で発揮される限界能力を観測し、生き残った最後の人間を優秀な電光兵士と認定させる。
この選出を行うことで各個体に秘められている潜在能力の観測、及び電光機関への適性を調査することが可能。
死体は終了後に回収し、電光戦車計画へと受け渡しを行う。
なお、この計画で選出された電光兵士の中でも優秀な人間の情報、細胞を人体増殖計画へと提供する。
そしてこの計画に必要不可欠な極限状態の作成に用いる、四拾弐式電光機関の解説を、次の項目で行う。

・四拾弐式電光機関解説書
首輪型の特殊な電光兵器。
各個体の首に装着するように用いる。
内部には電光地雷と同様の原理で炸裂する爆薬と、装着者のATPをごく微量消費して生存報告を行う機能を装備。
装着は以下の手順で行う。
1.大部品を対象の首に合わせ、長さを可変させる。
2.大部品を首に装着させた後、小部品を合体させる。
3.装着後、小部品の一部が点灯すれば完了である。
なおこの装着手順と電光機関への扱いを熟知していれば、解除も容易に行うことができる。
計画後の首輪を回収して次の計画に用いることが出来、複数回の計画を短期間で行うことが可能。

その他、電光戦鬼について解説することを次項等に記載する――――

198情報開示 ◆LjiZJZbziM:2012/11/18(日) 01:56:14 ID:JiWZMwZk0



「暇があったらソースを読め」
彼が常日頃から口走っているフレーズだ。
その言葉通り、支給品に含まれていた一冊の冊子を熟読していた。
そして書かれていた凄惨な事実を知ることになる。
自分も伝聞でしか聞いたことのない兵器、電光機関が実在しただけでなく、その適性を持つ人間を選出するためにこのような極悪非道の行為が行われていた。
正直、考えるだけで目眩のする文章だ。
あの国のどこかでこんなことが行われていたのだと、この冊子は告げている。
そして、何よりも凶悪なのは。
この冊子に記されている計画が、今のこの殺し合いに類似しているということである。
この場もこの計画と同じように、最後の一人になるまで殺し合わなければいけない。
しかし既に多数の電光兵士を抱えているはずの完全者ミュカレが、この殺し合いを通じて電光機関適性のある人間を捜しているとは考えにくい。
何か別の要素がある、具体的にはわからないがこの殺し合いを開催する目的が完全者にはあるのだ。
人の命を握り、殺しを強制させ、極限状態に陥れる。
そこまでして新人類たる彼女が得られるメリットは何か?
考えても考えてもいまいちピンと来はしない。
まあ目的がどうあれ、この殺し合いを転覆させるのは確定事項である。
今思考するべきは別の案件であると判断し、早急に頭を切り替えていく。

気になるのはこの「四拾弐式電光機関」についてだ。
タブレットの同梱動画で解説されている、自分たちの命を握っている首輪にこれでもかというほど酷似している。
もし、この首輪がこの四拾弐式電光機関だとするならば。
この解説書通りの手順で、解除することができる。
電光機関について熟知しており、自在に操ることができるなら簡単に解除はできるようだ。
だが、それには疑問も少し残る。
この首輪は四拾弐式電光機関によく似た別の装置で、この手順を踏むと爆発してしまうのではないか?
そもそも手順が記載されているこの冊子が偽物なのではないか?
パッと思いつくだけでもこの二つの疑問点が生じる。
そもそも主催者側から殺し合いの促進のために支給されているはずの道具に、殺し合いを転覆させる要素の物資が入っていること自体がおかしい。
やはりこれは甘い香りを醸し出す罠なのか。
それとも、首輪解除されたところで殺し合いは止められないという完全者の余裕の現れなのか。
この冊子に記載されている情報はあまりにも魅力的で、あまりにも危険である。
「……ま、とりあえずは保留にするか」
今の自分には電光機関に関する知識が少ない。
その状態で自分の首輪に挑めば、いくら解除手順を知っているとはいえ自殺行為に等しいだろう。
まずは電光機関に関する知識の会得、そしてどこかで首輪を調達することが最優先。
プログラミングのソースコードからバグを見つけるように、この殺し合い上での課題へも一つ一つ確実に対処していく。
事を急いてもよいことは起こらないということは、経験上よく知っている。
だから、一つずつ対処していくのだ。
疑惑の情報が記載された小冊子を懐にしまい、マルコ=ロッシは決意と共に行動を開始した。

【F-8/無学寺/1日目・朝】
【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)、小冊子
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破
1:電光機関について知識の習得
2:首輪サンプルの取得

199 ◆LjiZJZbziM:2012/11/18(日) 01:57:25 ID:JiWZMwZk0
投下終了です。

200 ◆ZrIaE/Y7fA:2012/11/19(月) 05:50:12 ID:VOl/lvCQ0
感想、トリップ確認ありがとうございました。

そして再び予約なし投下失礼致します。アーデルハイド(書き手枠)、テンペルリッター(四番部隊隊長)、結蓮です。

201『ローズのために、がんばってね、お兄様』 ◆ZrIaE/Y7fA:2012/11/19(月) 05:52:02 ID:VOl/lvCQ0
遠く遠く、甘い歌声が空気を震わせ、四散した音が体を包み込む。緩やかに目を開けてなお、夢見心地にさせる音色。
弦楽器のたぐいか、ピアノであれば、これは夢のなかか、あるいは続きの出来事ではないかと思い込めただろうに。

麻酔の名残を振り払い、金髪の青年は深く息を吐いた。

ぼんやりした頭は鮮明に、はっきりと状況把握のために記憶を思い起こさせる。
家畜のように集められた人々。いともたやすく行われた制裁。そして、それに驚いてすらいなかった顔。

「あそこに居たのは間違いなく…」

白い肌と金髪のコントラストに強烈な印象を与える赤い瞳が、伏し目がちに睫毛に覆われる。

言い切ることができなかったが青年、アーデルハイド・バーンシュタインは、集められた者のなかに父親の姿を見つけていた。
理解することのできない父親。もしかしたら、この状況よりも複雑怪奇な人間かもしれない。

「生きていたのにも驚いたが…さて、どうしようか」

デイパックからタブレットを取出し眺める。概要、地図…完全者と名乗った少女の言に相違はなく、生き延びるために平等に必須なものがそこには印されていた。殺しあいなどに参加するつもりは毛頭なかった。だが、しかし。

「支給品……って、この箱、か…?」

アーデルハイドの隣には、ロッカー程の背丈の箱が置かれていた。

白い木作りのそれを暫し観察し、気配を探ってみたが、何も感じられず。

意を決して、とまではいかないが、少し引け気味でそうっと箱に手をかける。キィ、軋む音はドアを開く音に似ていた。

「は……?」

余りにも間抜けで、彼に似付かわしくない声がもれる。咄嗟に構えたままで、ポカーンと口と目を丸くして、支給されたのだろう箱の中身を見つめる。
それは人形だった。ただの人形じゃあない。精巧でまるで生きているような、表情があれば人間とみまごうごとき人形だ。金髪のゆったりとまとまったボリュームのある縦ロール、赤い薔薇をイメージした高級そうなドレス、気丈そうな目元。
まるで誰かの生き写しのような。

「ローズ……の、人形……」

この支給品を提案し造形し、挙げ句アーデルハイドに寄越したのはどこのどいつなのか。頭を抱える。
箱を開けたためバランスを崩した人形はアーデルハイドに倒れかかった。


『ローズのために、がんばってね、お兄様』


衝撃に反応し、内部のレコーダーが再生された。いったいどういうことなんだ。腕のなかの実妹そっくりの人形にアーデルハイドは訳が分からなくなった。
一つ言えることは、今この場を誰かに見られたら非常に気まずいということだ。それどころではない状況だが、アーデルハイドは焦る。完全に危ない人認定されてしまいかねない。

202『ローズのために、がんばってね、お兄様』 ◆ZrIaE/Y7fA:2012/11/19(月) 05:53:14 ID:VOl/lvCQ0
辺りに誰も居ないのを改めて確認し、ローズ人形を背負って茂みへ隠れる。
いや、これじゃますます怪しくないか…?
置いていってしまえば良い話だが、仮にも妹の似姿……打ち棄てるのは嫌だった。

このまま背負っていれば、不自然ではないんじゃないか、アーデルハイドは諦めたように立ち上がる。突然の奇襲のことを考えれば悪手だったが、他に方法も浮かばない。

「そもそもあてがないな……探すか?探してどうするんだ、俺は……」

父、ルガール・バーンシュタインは今何をしているのだろうか。殺しあいに嬉々として参加しているのか、はたまた利用しようと画策しているのか、まさか、死んでいるなんてことはあるまい。

「もしも殺しあいを受け入れているようなら……私が止める」

彼は日頃見せない強い形で断言した。それは父に比べれば殺意は薄く、妹に比べれば我は足りなかったが、静かに熱く。

「……音は、あちらのほうからするのか」

方角と手元のタブレットの地図を照らし合わせる。そこは鎌石小中学校と明記されていた。

支給品に振り回されてる間、目覚める前からか、優しい音が周囲に満ちていた。
波間を羽ばたく鳥のような…風を泳ぐ魚のような…アーデルハイドはなぜか音に親しみを感じた。

しかし、この状況にやわらかな歌声は酷く場違いなものだ。ひりひりと肌を刺すもう一つの思惑、声音。

セイレーンは風に歌を乗せ、船乗りを誘惑し、船を沈めさせると言う。
敵意と愛情、僅かな哀しさを含む風は、真空に引き裂かれた。

文字どおり身を裂く真空の刃、目の前でローズ人形が入っていた木の箱がバラバラになる。

――いったいどこからきた?

姿勢を低くして様子を伺うが姿は見えず。
風圧に音が乱れた。その瞬間アーデルハイドは敵の居場所を突き止めた。
上空、およそ人間がいるべきではない空間に立つ女騎士の姿を。にわかに波立つ赤いロングコート、長い金糸と冷たい氷色の瞳。

跳躍ではない、あれは飛行だ。アーデルハイドは更に身を潜める。彼にはあらゆる格闘技の心得があった、無論、命を狙う敵を退けるだけの実力も。

――でも、届かない。

一か八か跳躍すれば、それだけ隙を晒すことになる。一撃だ、一撃で気絶……もしくは絶命させねば、落下中に剣撃が体を刻む。女騎士から発せられる殺気がイメージを明確にした。

高さだ、高さがいる。歌声が響く方角を見やった。高台、とまではいかないが建物が確認できた。
幸い女騎士は殺意こそあれど、早急に攻め込む意思は見えない。惰性のように、人間を見つけたから殺す、その程度の。

いや、これは不幸か……相手が冷静なんだ。アーデルハイドは音を殺して走りだした。狂ったように真っ直ぐ攻めてきてくれれば、アーデルハイドの迎撃圏内だ。あの騎士はそれを承知しているのか、あるいは。
背中のローズ人形、壊れたりしないかな。奇妙な余裕のあるアーデルハイド辺りの木々が、真空刃に切り裂かれた。

203『ローズのために、がんばってね、お兄様』 ◆ZrIaE/Y7fA:2012/11/19(月) 05:54:41 ID:VOl/lvCQ0
ノイズが混じる。調整した機械のものではない、天然自然の、風のざわめき。
歌うのを止めず、結蓮は下方に目をこらす。誰かが来るのか、それとも、ただのつむじ風か。


アコースティックギターの音が失せる。なお残る天使の歌声は、終末のラッパならぬ兵器を伴にして朗々と響き渡る。
二人だ、二人の人間が校庭に躍り出た。しかしおかしい、片方の人間は空を飛んでいる、あれは人間なのか、いや、どうでもいい。

一人ずつ、落とせばいい。まずは地を走る男だ。

一発、緩やかに落ちた弾は敵を確認し浮き上がって突き進んだ。だがこれは人間達の合間に炸裂する。対象が近すぎたらしい。
問題はない、今の衝撃で人間達の距離は離れた。もう一度、二度、撃ってしまえばいい。これで人が減る、彼女が、妹が生きるために、減らせる。

『ローズのために、がんばってね、お兄様』

男は、女性を背負っていた。ぴたり、歌声が止んだ。
遠く、雑音に紛れて全ては聞き取れなかったが、確かに、結蓮の耳には兄という意味を持った言葉が聞こえた。つい、攻撃の矛先が、空を飛ぶ女へ変わる。

(だから、どうと?殺さなければならないのは同じじゃないの)

繰り返し思考して出した答えへの、僅かな迷い。妹を生き残らせたい気持ちは変わらないが、それでも、生粋の狂人や殺し屋ではない結蓮の人間性はふわりと目覚めはじめた。

二発目、今度は真っ直ぐに女騎士めがけて弾は泳ぐ。女騎士の目は弾を見据え、微動だにせず、手にした剣を振りかぶる。
髪と揃いの金色の蛇腹剣は、冠する蛇の名に相応しく体をうねらせて彼女の周囲を舞った。刹那、弾は彼女よりも遥かに手前で爆発し煙を起こす。

女騎士、テンペルリッターは科学兵器を馬鹿にしたように嘲笑い、噴煙を飛び抜け標的を変えた。こちらにくるつもりなのだろう。
結蓮は自分の迷いと愚かさに呆れた。やはり狙うべくは男の方だったのだ。たとえ境遇が近いかもしれない相手でも、無意味だったのだ。
迫る危険に対抗すべく武器を持ちかえる。先ほどの男の姿は見えない。テンペルリッターとの悶着の隙に逃げおおせたのか、結蓮は我知らず安堵した。

がたり、ドアを揺らす音。きたか、と身構えたがおかしいとすぐに気付いた。テンペルリッターは空を飛ぶ、何も律儀にドアから侵入などは試みない。今は結蓮のいる部屋を探して飛んでいるはずだ。

「すまない、もう一度歌ってくれないか?あいつをおびき寄せなくちゃあならない……その、いきなりで不躾かもしれないし、私が誰かも知らないだろうが協力してくれ!」

いきなりの嘆願に結蓮は絶句した。ある種の挟み撃ちか。

結蓮が答えるまで、ドアが開けられることはないだろう。相手は馬鹿丁寧に、ミサイルを撃ってきた相手がいるドア越しに『お願い』してくるような人間なのだから。
ふう、小さなため息を皮切りに、一時だけ悪魔の仮面を外す。

「……リクエストは、あるかしら?」




【D-6/鎌石小中学校・放送室/1日目・午前】


【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止
現在:結蓮と協力しテンペルリッターの撃退
[備考]
1:ローズ人形は手放すつもりはない


【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:結蘭のために人を殺す
現在:アーデルハイドにひとまず協力
1:人を呼ぶために、歌う。


【D-6/鎌石小中学校・校庭上空/1日目・午前】

【テンペルリッター(四番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:参加者を斬って愉しみ、優勝した暁には完全者も手にかける。オロチの血に興味。

204 ◆ZrIaE/Y7fA:2012/11/19(月) 05:57:26 ID:VOl/lvCQ0
以上です。支給品基本ルールに空をとぶ乗り物の禁止事項がありましたが、基本能力制限はかからないということでテンペルリッターを飛ばせました。
不都合な点がありましたらご指摘いただければ幸いです。

205 ◆LjiZJZbziM:2012/11/19(月) 21:38:30 ID:lbsvqUEA0
投下乙です!
アーデルハイド! そういえばコイツルガールの息子だった!
なかなか謎の多い息子君ですがどうなることやら……
そして同じ兄として結蓮は……

あ、アデルの支給品数が消費されていないのでWiki収録の際に修正しておきますね!

206 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/20(火) 22:52:21 ID:aBzOEOWI0
予約につきまして、諸事情により金曜日までPCからの投下が難しいため、勝手ではありますが、投下を金曜日まで待って頂いても大丈夫でしょうか。
SS自体は既に完成しています。

207 ◆LjiZJZbziM:2012/11/21(水) 01:31:34 ID:FOR/au2s0
了解です!
PC周りの事情は仕方ないですね……

Ok1氏の投下が来次第、全員登場+名簿完成となりますので、その日から予約期限を今までの5日から14日に大幅に伸ばしたいと思います。
延長はなしですが、たっぷり使っていただいて構いません。

第一放送後は宣言どおり「期日なし(月一くらいで報告)」にシフトしたいと思っておりますのでぜひとも宜しくお願いします。

208 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/21(水) 20:25:08 ID:hvbtWWao0
ありがとうございます。
金曜日には必ず投下しますので!

209彼は誰かに、詩唄う。 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/23(金) 10:16:11 ID:4e8EAKs20
「こりゃあ……」

 目立つ建物があるからと来てみりゃあ、この有様かい。
 胸にボウリングの玉ほどの風穴を空けた、明らかに死体であろう老人を眺めて、ターマ=ロビングはまたぞろ溜息をつきたい気分に駆られた。
 どうにもこうにも、初遭遇した人様がホトケになっていたというのは幸先のいいものではない。
 理由はいくつかある。まず、『何者かによって殺害されたという確かな事実があったということ』。
 恐怖を煽るためにわざと死体を置いて演出したとは考えにくい。首筋に触れてみれば、まだ僅かに温かかったからだ。
 つまり、できたてホヤホヤのホトケということに他ならない――間違いなく、参加者に殺害されたということだ。

「ま、そもそもバーンシュタインのクソ野郎やカルロスの野郎まで混ざってたみたいだからな……予想はしちゃいたが」

 正規軍PF隊に所属していたターマにとって、この両名は悪名高いなどというものではない。
 モーデン軍と並ぶ《しつこいクソ野郎ども》であり、生涯を賭けて戦うだろうと覚悟していたほどの敵。
 それがこうもあっさりと完全者の掌の内で転がされているうえ、内一名はその完全者によって用済みと言わんばかりに抹殺されたのだ。
 人類救済と称して殲滅を目論むような完全者は、思想だけでなく支配の腕前もクレイジーということらしい。
 ともかく、思った以上に敵は多そうだということ。そして敵の強さは尋常のものではないということも、このホトケから分かる。

「どーやりゃあ、こんな穴空けられんだよ」

 それこそ掘削兵器かなにかの類としか思えない大穴は、あくまで一般的な人間の武器しか扱わぬターマにとっては冗談のようにしか思えなかった。
 スラッグ兵器の類でもあれば……とは思うものの、そこら中に転がしているとは思いがたい。

「絶海の孤島、血に飢えた獣、期待できない支援……やれやれ、八方塞がりだな」

 無言は絶望の引き金になる。もしくは、妄想への扉を開く罠と化す。それゆえ、現実を我が身に叩き込む意味でターマは口に出していた。
 過酷な戦争を生き延びてこられたのも、この軽口と、どこでだって寝られる度胸があったからだ。
 そう、まずは生き延びなくてはならない。孤立はしていても味方がいないわけではない。どういうわけか、この場所にはターマと共に戦ってきたPF隊の面々が勢揃いしているのだ。
 厄介な連中をまとめて始末する目的で連れてきたのだろうが、その策は下策としか言いようがない。
 何故なら、あの連中はどんな無茶無謀な作戦だって平然とやり通すバカにファンタジーを重ねたようなバケモノどもなのだから。

「……そういや、このジイさん日本の陸軍の格好だな。マントで分かりづらかったが……」

 仮に、日本の陸軍連中もいるのなら協力は十分に見込める。対モーデン軍とも何度か協力戦線を張ったことがあるくらいだ。
 そう考えると、面識のない老人の遺骸も他人のようには見えず、ターマは何か身分証のようなものはないかと懐を調べようとした。
 ――それが甘すぎた行動だと気付かされたのは、頭上に影が差した、その時だった。

     *     *     *

210彼は誰かに、詩唄う。 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/23(金) 10:16:46 ID:4e8EAKs20
 終わりは、ない。
 どこまで行っても逃れられない。
 この世界に、いや、自分の世界には、終着点などない。
 しかし追いかけてくるものがある。
 拒絶。廃棄。排除。抹殺。……ありとあらゆる倫理が、否定に結び付けられている。
 自分は不要物でしかないのだと、今も誰かが言っている。或いは、それが大多数の正義なのだと語っている。
 そんな運命が気に入らなかった。何者かの正義を押し付けられ、何者かに生き様ですら決め付けられることが腹立たしかった。
 だから破壊し尽くした。自分の持ち得るものの全てが、予め意味を定められたものではないのだと主張するために、《力》を使った。
 生き延びるために。不本意ではあっても、誰かの命を助けるために。
 十全を尽くして、自らの意味を定めようとした《ネスツ》に殴りかかった。
 愚かな行為だと誰かが言った。愚かでいいと返した。決別こそが自分の求めていたものだったから。
 全てを失うと誰かが言った。なら作るだけだと返した。戦う中で、確かに得るものはあったことを実感していたから。
 そうして――《ネスツ》は葬り去られたはずだった。束縛し続けてきた、手前勝手に親鳥を気取る連中を完膚なきまでに潰したはずだった。
 だが現実はどうだ。手に入れたはずの『己』はあっさりと鳥籠の中に連れ戻され、不要の烙印を押し付け、また《ネスツ》と同じことをしている。
 せせら笑う完全者の姿は、所詮クローン風情に運命など変えられはしないのだと語っているように思えた。
 終わりは、ない。
 倒しても次があるだけなのだ。
 自分が否定され続けることに変わりはなく、どこまで行っても果てのない闘争だけが待ち構えている。
 こうして反抗を続けている限り、きっとそれはいつまでも続くのだろう。

「……ふざけてやがる」

 怒りは、あった。理不尽に憤る気持ちはあった。今目の前に完全者がいたならば、己の力を出し尽くして、完全者を焼き払っていたはずだ。
 けれどもきっと完全者は――いや、世界は、自分を嗤い続けるのだろう。
 無駄だ、無駄だと。救いを掴むなどおこがましいことなのだと、手前勝手な救済を押し付けるのだろう。

「俺は……」

 戦うことに、異存はない。
 だが果たしてそこに、意味はあるのか。
 自分は意味のない行動を、同じ道を繰り返し歩いているだけではないのか。
 そうして歩き続けて……崩れ落ちた頃には全てが無意味でしかなかったと感じさせられるだけではないのか。
 誰が、どうやって、その理不尽を否定できよう。
 終わりは、ない。

「……クソが」

 それは自分を呪い、世界を呪う言葉だった。
 何かをするべきなのに、何をすればいいのか分からない。
 はっきりとした反抗の意志はあっても、繋がるのかどうかわからないから、足踏みしている。
 難しいことを考える必要はないと本能は語り、考えずに進んで、無意味でないと言い切れるのかと理性は語っていた。
 《ネスツ》さえ潰せば全てが終わると確信していたころの自分と比べ、なんと迷いのあることか。
 自嘲的に口元を歪める青年、K’は、灯台へと歩いている。
 理由はさほどのものではない。ただ、目立っていたからという、それだけのことだった。
 森を抜ければ、後は見晴らしのいい道の先に灯台が見えてくるはず。見慣れない地図で確かめながら、K'はのろのろとした足取りで森を進んだ。
 速度が遅いのは、やはり迷いがあるからなのかとK'は思う。
 腑抜けている、のだろう。迷いは拳を鈍らせる。信念を薄める。守るべきものを見失う。弱い、という証拠だ。
 マキシマにも笑われちまうな、と感じながらも、答えは見えなかった。

「よォ、そこの兄ちゃん……どこに行く気だ?」

 脳裏に浮かびかけた大男の姿は一瞬にして消え、意識の全てがかけられた声へと向かった。
 警戒しつつ振り向く。銃口のひとつでも向けられているかと思ったが、果たしてそうではなかった。

「随分ぼーっとしてるみたいだが、そこから先はやめとけよ」

 木にもたれかかり、だらしなく四肢を伸ばしているのは、タンクトップにサングラスの黒髪の男だった。
 どこか挑発するように口の片端を釣り上げている。だが嫌味な印象は殆ど感じられず、むしろ飄々とした印象があった。
 肩が激しく上下している。走ってきたのだろうか、呼吸も随分と荒いように思える。
 近辺には武器のひとつもない。逃げ出してきたのか、それとも何か別の理由があったのか……考えたところで、
 探るのは性に合わないと遅い判断を下したK'は、燻る気分を抱えたまま、男に近づく。

211彼は誰かに、詩唄う。 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/23(金) 10:17:11 ID:4e8EAKs20
「アンタこそどうした。森の中でヘバる理由でもあんのか」
「まーな。……何とか、逃げてきたってところだ」

 笑った男の顔が歪む。僅かに見えた口腔が、赤く見えたような、気がした。

「尻尾巻いて逃げてきたってワケだ」
「違いねぇな。やられたよ。とんだマヌケさ」

 K'の辛辣な口にも、男は軽口で応じる。ちょっとしたドジを踏んだ程度でしかないような口調に、なぜ、とK'は思った。
 現実を理解していない甘ちゃんではないはず。がっしりとした体格、体のそこかしこに見える細かい傷は、男が戦士であることを語っている。
 なのに、どうして、笑えるのだ、この男は。

「笑ってんじゃねぇよ」
「……ああ、悪い、ふざけてるつもりはなかった」
「終わらねぇんだよ、何もかもが。戦って、戦って、どこまでも続くだけだ。茶番なんだよ!」

 予想は、ついてはいた。笑える理由は、きっと意義を感じているからだ。信じているものがあるからだ。
 K'もそうだった。不器用なりに、楽を見出せる時期を見つけていた。
 だが完全者は、終わらせない。何度でも、何度だって、復活して周囲を巻き込んでゆく。
 願いは届かず消える。闘争だけが際限なく続く、何も見えないばかりの苦悶があるだけだ。
 なのに戦える。自分の中にある、戦う意味を信じている。それが、羨ましかった。

「落ち着けよ兄ちゃん。そういう自棄っぱちを言えるのはな、腹が減ってるからだ」
「何言ってやが……」

 言い切る前に、眼前にずい、と握り拳二つはあろうかという肉の塊が差し出されていた。
 僅かに匂う塩コショウの香りとスモークの匂いから、燻製した肉……ベーコンあたりであることが窺えた。
 サングラスの奥にある瞳が、食え、と語っている。その迫力に押され、K'は悪態をつきながらも受け取った。

「……俺はビーフジャーキー派なんだよ」
「悪いな、それもある」

 ひょいと投げて寄越されたビーフジャーキーの束に、からかわれているような感覚になる。
 子供扱いにも似た男の所作。しかし不思議と腹立たしくはない。否定も肯定もない、ただの会話だからだろうか。
 ふとK'は、それこそ無意味で何の価値もないものではないかとも思ったが、逡巡の後に違うと結論する。
 本能がそう言っていたからだった。今投げて寄越された食べ物には、きっと何かがあると思った。思いたかったのかもしれない。
 封を破り、まずベーコンを口に運んだ。保存食だからだろうか、味付けは濃く、歯ごたえも決していいものとは言い難かったが、滋養を摂取しているという気分になれた。

「美味いか」
「上等なモンじゃねぇ」
「贅沢抜かしやがる」
「……だが、メシ食ってる、って感じだ」

 K'自身に家事の能力などあるはずもなく、専らそういうことは相棒のマキシマに任せきりだった。
 そう、今のこの気分は、マキシマの食事を摂っているときと似ている……味も食感も、この肉の方が数段劣るというのに。

「お前、さっき終わらないって言ったな」
「……ああ」
「ちょいと違うのさ。男の戦いはな、死ぬまでが戦いだ」
「何が言いたい」
「戦いたいから戦ってるわけじゃない。殴りたいから殴ってるわけじゃない。俺はそうだ。俺の欲しいモンがあるから戦ってる。
 でも手に入れりゃあ終わりじゃねえんだ。次に欲しいモンが生まれ、何度でも邪魔するクソ野郎どもが出てきて、また戦いだ。
 終わりなんてねぇのさ」

 そんなことは、とうの昔に分かっている。
 今死のうが、後になって死のうが、さほどの違いがないのではないかという迷いを、K'は抱いている。
 やはり答えなどないのか。熱を失いかけた腹の底に、男が「でもな」と言葉を続ける。

「やせ我慢しろ。してみせろ。終わりなんかなくても、答えが見つかると信じ続けろ。気に入らない連中に、心まで支配されねぇためにな」

212彼は誰かに、詩唄う。 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/23(金) 10:17:31 ID:4e8EAKs20
 そうまくし立てた男は、軽く咳き込んだかと思えば、赤い液体を口から吐き出していた。
 血――!? 男の顔色が蒼白になっていることにも気付いたK'は、慌てて男の側に駆け寄った。
 それで、ようやく見つけることができた。……男の脇腹に空いている、抉られたような穴を。

「俺はそうしてきた。ずっとだ。イタチゴッコだ、意味がねぇって言われてもだ。完全者の言う救済なんぞクソ食らえだ……!」
「喋んじゃねぇ! クソが、そんな穴空けられて、ここまでこの荷物運んで倒れたってか!? ただの馬鹿野郎じゃねぇのか!」

 荷物を捨てて身軽になれば。或いはどこかで治療できる可能性があったのかもしれない。
 なのにそうしなかった。……恐らくは、男の言う『やせ我慢』をしたから。

「俺をやりやがった奴に荷物渡すのもシャクだったからな……全く、もう、次の手も考えられやしない」
「荷物如きにそこまでして何になる!」
「お前に渡る」

 ニヤリと、男は笑った。
 不意に先ほどの肉の味が思い出され、K'は、受け取っていたのかという鈍い実感を抱いた。

「……俺が、アンタと同じような考えの持ち主だとでもいう確信でもあったのか」
「んなもの、あるか。ただ、兄ちゃんは迷ってた。だから説得のしようはあると思っただけだ。
 若いのが迷うのはいい。そりゃ答えを探してるってことだからな。けど俺をやりやがった奴は……違った。
 兄ちゃんと同じくらいの奴なのによ。腹が立ったからくれてなんかやるかって思ったんだ」
「馬鹿が……!」
「いいんだよ、馬鹿で。それが、《おれたち》のポリシーだから……な」

 流れるように紡いだ《おれたち》という言葉に、K'は胸を突かれたような感覚になった。
 終わりがなくても。無駄になるかもしれなくても。《おれたち》の連中にとっては、きっと無意味なものではないのだ。
 我知らず、K'は拳を握り締めていた。

「肉くれてやったんだ……勝手に達観するんじゃねぇぞ」
「肉くらいで恩を売った気になってんじゃねぇよ」

 違いない、と真っ赤な口腔が弾けた。
 つられるようにして僅かに口元を緩めたK'は、しかし次の瞬間には真剣な顔になって、言った。

「だが、これは借りだ。借りは、返す」

 つまらない借り。しかしそれはK'と、名も知らない男との間を繋ぐ唯一無二の借りだった。
 知りたかった。この男の発した《おれたち》という言葉の正体を。
 そしてそれは、マキシマやクーラ達に抱くものと同一であるのかを。

「戦ってやるよ……言われなくてもな」

 一度だけ、しかし長い時間がかかるであろう『やせ我慢』を、K'は始めることにしたのだった。
 仇は討ってやる。そう言おうとして、伸ばした手は、握り返されることはなかった。

 名も知らぬ男――ターマ=ロビングは、既に死んでいた。

     *     *     *

213彼は誰かに、詩唄う。 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/23(金) 10:17:53 ID:4e8EAKs20
「イゾルデ……」

 既に二人を屠った己の腕を漠と眺めながら、ネームレスは思考する。
 手ごたえはあった。後一押しというところまで追い詰めはしたものの、煙幕を含んだ手榴弾によって逃げられた。
 致命傷では、あるはずだ。だから追うことはせず、死合った老人の持ち物を回収することを優先した。
 老人を放置しておいたのは、死体と荷物によって敵をおびき寄せ、油断させるため。
 そこを狙って奇襲を仕掛けたが、必ずしも成功するものではないという実感があるだけだった。
 逃した男はどこまで行っただろうか。道中で斃れたか、それとも誰かに出会い、情報を渡して死んだか。
 後者の確率は決して低いものではないと考えたネームレスは、待ち伏せる策はこれきりにして、灯台を離れることにしたのだった。

「……」

 いくらか進んだ先。前触れもなく、己のグローブが動いた。否、反応したかのように、思えた。
 周囲の空気がざわめいたかのようにも感じる。

「何かの、前触れか」

 呟き、振り返った視線の先では、ただ無人の灯台があるはずだった。




【I-10/琴ヶ崎灯台付近/1日目・朝】
【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜5)
[思考・状況]
基本:一刻も早い任務への復帰のために皆殺し

【I-9/森/1日目・朝】
【K'@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:制御用グローブ
[道具]:基本支給品、ビーフジャーキー一袋、不明支給品(ターマの支給品を含む。1〜3)
[思考・状況]
基本:借りを返すため、完全者と戦う
1.目の前で死んだヤツ(ターマ)の仇は取る

【ターマ=ロビング@メタルスラッグ 死亡】

214 ◆Ok1sMSayUQ:2012/11/23(金) 10:19:11 ID:4e8EAKs20
投下は以上です。
遅れてしまって大変申し訳ありませんでした……!

指摘・問題点等あればよろしくお願い致します。

215 ◆LjiZJZbziM:2012/11/23(金) 12:27:52 ID:qqHRzePM0
投下乙です!
うっひょおおおおお、ターマがかっこいい!!
《おれたち》の一語から伝わる仲間への信頼がすごい!
そして、書き手枠のK'!
普段無気力そうに見える彼の本当の姿、その解釈にこんな方法があったのかと驚きました。
冒頭は迷っていたK'が、ターマにハッパをかけられて前を向きなおす……
そして待ち受けるはネームレスvsK'!
本当に投下乙です!

さて、コレにて全キャラクター登場+名簿完成となりました!
ご投稿してくださった皆さん、本当にありがとうございます!
これより、第一放送通過まで予約期限を10日とさせて頂きます。
延長はありませんのでご了承下さい。

216 ◆LjiZJZbziM:2012/12/20(木) 00:21:10 ID:tivwCSNo0
長らく投下が無くてすいません。
近日中に戻ってきますんで……!!

なお本日、別のしたらばでPWBR語りがあるようです。
みなさん是非ご参加下さい。

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1327331994/

217 ◆LjiZJZbziM:2012/12/25(火) 23:35:44 ID:F6N0Wk5M0
京、庵、トリガー投下します。

218お前の態度が気に食わない ◆LjiZJZbziM:2012/12/25(火) 23:36:05 ID:F6N0Wk5M0
「はぁ……よりによって、か」
溜息と共に、落胆の声を漏らす。
説教を垂れた後、颯爽と町から抜け出したのがこうも裏目に出るとは。
こんなことなら村に留まって置けばよかったか。
いや、今更そんなことを考えても仕方がない。
全く、運命というのは厄介なものだ。
「どこまでも面倒な奴だな、てめェはよ……」
気だるそうに手櫛で髪をかきあげながら、京は少し離れた先にいる宿敵へと悪態をつく。
それに答えるように宿敵、八神庵も不気味な笑いを浮かべながら自分の宿敵へと答える。
「……こんなにも早く貴様を殺せるとはな」
殺し合いという空間に放り込まれ、ここがどこか分からない状況に置かれながらも、早々に宿敵に出会うことが出来た。
それは庵にとってはこの上ない幸運。
長きに渡る血の因縁、それと共に目の前の憎き男を殺すことが出来る。
それを考えるだけで血が沸き、心が躍り出す。
逆に京にとってはこの上ない不運。
この殺し合いを生き抜き、完全者ミュカレを倒すと志している彼にとって、なりふり構わず襲ってくる八神庵は面倒この上ない存在だった。
出会えば戦闘になることは必至、体力の消耗を余儀なくされる。
可能な限り体力の消耗を押さえようと考えていた矢先の登場。
正直、不運以外の何者でもなかった。

話が通じる相手ならばいい。
完全者ミュカレを倒すまで協力してくれ、なんて台詞が通用する相手ならばどれだけ楽だったか。
現実はそうはいかない、なぜなら目の前の男……八神庵という男は。
「ククク……京、ここに貴様の骸で墓を作ってやろう!」
自分を殺すことに、異常なまで執着している人間。
宿敵の言葉に耳を貸すはずもなく、ただ目の前の命を狩らんと迫ってきていた。

219お前の態度が気に食わない ◆LjiZJZbziM:2012/12/25(火) 23:36:50 ID:F6N0Wk5M0

先手は庵、手から紫の炎が放たれる。
ありとあらゆる闇を払う紫炎が、地を駆け面を焦がしながら京へと向かう。
それを打ち消すように、京も手から炎を放つ。
庵の紫の炎の対をなす闇を払う赤の炎が、地を駆け面を焦がしながら紫の炎へと向かう。
ぶつかり合う炎が混ざりながら空気へと融けだしていく。
それが開戦の合図と言わんばかりに大きく地面を蹴り、相手へと飛びかかっていく。
京は拳を、庵は平手を、上から下に大きく降り抜き、空気を裂きながら炎を生み出す。
生み出された炎と炎の力に怯むことなく、両者は攻撃を続けていく。
京の拳が庵の胴を捕らえ、庵の爪が京の胴を捕らえ、一撃一撃が交差するようにお互いの体を傷つけていく。
決定的な一打が与えられないまま殴り合っていた両者が、同じタイミングで後ろへと退く。
「どうした、京。そんなことではこの俺は倒せんぞ?」
「テメーに全力出して構ってられるほど、こんな状況じゃ余裕もねえよ」
互いに余裕をぶつけあい、不敵な笑みを浮かべ直す。
今ここで京を倒すことに全力の庵に対して、京は今後に向けて体力を温存するように動いている。
全力ではないのに余裕の笑みを浮かべる京に、庵は改めて苛立ちを覚える。
「フン、そんなに死にたいのならばこの俺がここで引導を渡してやる」
「そうも行かねぇよッ……!」
真っ直ぐに駆けだしてきた庵を迎撃するように、京は地を蹴り空へと飛び上がる。
斧のように振り下ろす両足が、的確に庵の頭へと叩きつけられていく。
それを迎撃するように庵も飛び上がりながら炎をまき散らす。
お互い、一歩も引くことはない。
ぶつかり合う闘志が、戦いの場で大きく舞い上がる。
「チッ、相変わらずめんどくせえな! そろそろ寝てろよ!」
「フン、そういう貴様も息が上がっているぞ? 死ぬ前に辞世の句でも考えた方が良いのではないか?」
お互いに呪詛のような言葉を吐きながら、再び地を蹴りだして行く。
両者が狙うのは最大の一撃、この戦いの幕を引くにふさわしい一撃。
"遊びは終わりだ"と、告げるように。
京は拳を、庵は平手を。
この戦いで一番大きな弧を描き、渾身の一撃を叩き込んだ。

220お前の態度が気に食わない ◆LjiZJZbziM:2012/12/25(火) 23:37:01 ID:F6N0Wk5M0



その対象は、空気。
紫と赤の炎が焦がすのは人体ではなく、数発の鉛の弾だった。
「あァ? 何だテメぇら殺し合ってんじゃねぇのかァ?」
赤いコートにサングラスの乱入者、トリガーは銃を向けながらつまらなそうに言い放つ。
だが対象の両者はトリガーの事など気にも止めないまま、お互いを横目で睨みつける。
「……どういうつもりだ八神」
「何がだ」
「今の銃弾の狙いは俺だった。
 テメぇは俺に一撃を叩き込む事ができた、だがテメぇはしなかった。
 それどころか俺を助けるってのは、一体何が狙いだ?」
「そんなくだらん事か」
数発の銃弾が襲いかかる先は京の頭だけだった。
低姿勢の庵より狙いやすかったのだろう、トリガーは数発の連射を京に向けて放った。
京もなんとかその銃弾に反応することはできたものの、溶かすことができたのはそのうちの一発。
庵の援護がなければ残りの数発によって致命傷を負っていだろう。
そんな中、よもや自分が死ぬことが望みのはずの庵が助けに入った。
何故か、と問えば庵は鼻を鳴らしながら京に言い放った。
「いいか京、貴様の命を奪うのはこの俺だ。それだけは何人たりとも邪魔はさせん」
「そりゃどーも」
京は即座に認識を改める。
この八神庵という男は、自分、草薙京がただ死ぬだけでは満足できない。
自分の両の手で、草薙京という一つの命を狩り取らなければ気が済まないということだ。
正直言って嬉しくない回答に、二つ返事で答える。
「ウヒャヒャヒャ!! いいねいいねェ!! おホモだち同士で仲が宜しいようで!
 甘酸っぱい友情ってか!? 甘くて胃もたれしてゲロ吐きそうだぜ!!」
乱入者、いや第三者からみれば妙な友情を持ったムサ苦しい男の集いに見えるだろう。
「お前を殺すのは俺だ」という言葉は、組み替えれば愛情表現にも取られかねない。
病んでると言うより、クレイジーの領域に入っているそれへの指摘に、特に返す言葉も見つからない。
一つため息をついた後、京は横目で見つめ直して庵へと合図を送る。
「いくぜ八神、アレを黙らせるぞ」
「貴様に言われなくとも、この俺の邪魔をする奴は殺すだけだ」
面倒なのを説教したと思えば、この世でもっとも面倒な人物に出会い、さらにそれを上回る面倒な人物に出会った。
正直頭を抱えたくなるが、どうやらそんな暇もないらしい。
全くこの殺し合いというのは、そして待ち受ける運命というモノは面倒だなと感じる。
「ああ来いよ! 俺が全身に穴あけてその甘ったるいシロップ抜き出してやっからよぉ! ケケッ、せいぜい足掻きな!!」
ウダウダと頭の中で思考を張り巡らせているうちに、赤いコートの男、トリガーはこちらに銃を向けている。
そして自分よりも先に庵が相手へと駆けだしている。

両者ともに、容赦という単語はない。

そしてここには、殺人という行為に嫌悪感を隠し切れていない自分がいる。
いつか、この気持ちの所為で足元を掬われることがあるかもしれない。
「だったら、燃やしてやるぜ……!」
ならば、殺人を厭わないようになればいい。
あの少女の言うようになるのは癪だが、あの少女の所為で自分が死ぬのはもっと癪だ。
あの少女をブン殴るまでに不必要なモノは、ここで捨てていけばいい。
だから、決心のための"戦い"へと京は向かっていく。

生き残るための道へと。

221お前の態度が気に食わない ◆LjiZJZbziM:2012/12/25(火) 23:37:15 ID:F6N0Wk5M0

【C-2/北部平原/1日目・朝】
【トリガー@堕落天使】
[状態]:上機嫌
[装備]:パイファー ツェリスカ(5/5、予備15発)@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)、トレバーの不明支給品(1〜3、武器ではない)
[思考・状況]
基本:殺して生き残る

【八神庵@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:草薙京を最優先的に殺す。
1:邪魔者を始末し、京を殺す。

【草薙京@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らないが、襲い掛かるやつには容赦しない。
1:基本を固めるため、トリガーに対処。
2:庵は……



投下終了です。

222お前の態度が気に食わない ◆LjiZJZbziM:2012/12/26(水) 00:31:47 ID:FbNzlcDQ0
>>221
【C-2/北部平原/1日目・朝】

【C-2/北部平原/1日目・午前】

に修正。
毎度申し訳ございません

223 ◆Ok1sMSayUQ:2012/12/29(土) 16:56:40 ID:JTZj.5XU0
エヌアイン、カティ、壬生灰児で予約します

224 ◆LjiZJZbziM:2012/12/30(日) 10:22:11 ID:bN1eosX60
予約ありがとうございます!
僕もナディア、タロウ、電光戦車(2)で予約します。

225 ◆Ok1sMSayUQ:2012/12/31(月) 18:25:58 ID:05MglBzg0
「悪りぃが、俺は進む。立ち止まってられるほどの余裕はないんでな」

 ボクも、カティも、何も言わなかった。
 いやボクに関しては言えなかった、というのが正しいのかもしれない。
 引き止めることはできなかった。引き止められる言葉を持てなかった。
 何より――重力に引かれているのは、ボクだったからだ。
 灰児は一度だけボクとカティを振り返り、しかし無言でその場を後にし、大きな背中を小さくしていった。
 黒いサングラスの奥にある仄暗い視線に、僅かに羨みのようなものが見えたのは、ボクの願望なのだろうか。

「慈悲、ってやつかな」

 声も届かないほど離れた背中を見つめて、ボクは呟いた。
 叱咤しない。失望もない。期待しない。哀れみだけがあり、灰児はボクに、何もしないことを選んだ。
 それがいたわりでなくて、なんだ。

「ボクがそんなことをされるとはね」

 浮かべた笑みは、きっと灰児がいつも言うところの『諧謔味のある笑み』なのだろうと思った。
 自覚はない。心にざわめきを覚えているときは、いつもこんな顔なのだという。
 いつだったか、あのアカツキにも意外性を含んだ目を向けられていた。

「……カティもさ。どうして行かないんだ?」
「はえ?」

 ごく自然に、一緒に見送る形になってしまったカティだったが、本来は彼女にだって目標がある。
 完全者ミュカレと対立する道ではなく、知るために進むという選択をした。
 たとえそれが、どんなに馬鹿げていて理にかなっていない、たったひとりでの戦いの道なのだとしても。
 カティは、確かに、選び取ったのだ。
 選んでいないのは、ただひとりボクだけだ。

「完全者と話をするんだろ? だったら、ボクに構っている暇もないんじゃないのか」

226 ◆Ok1sMSayUQ:2012/12/31(月) 18:26:34 ID:05MglBzg0
 突き放すような、抑揚のない声だったと感じたのは、言葉を受けたカティの表情を見たときだった。
 そんな意図はない、と動こうとして、どこに説得力があるのだと思ってしまう。
 矛盾じゃないか。
 うめいた挙句に。近づくことを恐れ、離れることも恐れた。
 或いはボクは既に、完全者に支配されてしまっているのかもしれない。
 旧人類の味方をしても、いずれ孤独を突きつけられるのではないか。
 孤独を恐れて神の座を蹴ってさえ、行き着く先はそこでしかあり得ないのではないか。
 だったら何もせず、今を保つしかないじゃないか……そんな稚気めいた空想さえ、正しいことのように思ってしまう。

「――エヌアインくんは、どうするの?」

 おずおずと、しかし返されるのは痛烈な問いだった。
 灰児と全く同じその問い。……ボクに、答えられるはずもない。

「違う、かな……聞きたかったのは、うん、どうしたかったの? ミュカレちゃんを……倒したときには」
「それは」

 終わる、と信じていた。
 だけどその次は――次は、どうだっただろう……
 全てが解決するのだと、思っていたのかもしれない。
 後は流れに任せていれば、ボクの行く先まで決まるだろうと、心のどこかで思っていたのだろうか。

「決めなきゃ、ダメだと思う」

 差し込むようにして。
 カティがボクの胸を突く。
 顔を上げ、ボクはカティを睨んだ。意図して、そうした。
 少しだけ怯んで、それでも。カティは。

「カティは……エヌアインくんと、目指す道のりは、そんなに変わらないんじゃないかって思う」

 自分の考えを言う。
 確固たる自分の信念に従って。
 ……だとするなら、ボクは。逃げている、のか。

227 ◆Ok1sMSayUQ:2012/12/31(月) 18:26:57 ID:05MglBzg0
「そう思ってるだけだけど。エヌアイン君の心なんて読めないから」

 特徴的だった丸い瞳が細められる。
 睨んでいるのだろう、と分かった。
 戦おうとしているのだろう、と知れた。
 彼女は、《モルゲンシュテルン》を構えていた。

「戦って、確かめるよ」

 風が吹き、カティの長いローブが揺れた。
 凛々しい――と、ボクは少しだけそんなことを思い、同時に戦うことで心を確かめようとする大雑把さに呆れもした。
 なんで戦いなんだよ。そんなことで分かることなんてあるのか。馬鹿じゃないか。
 心に生じた小賢しい言葉を、ボクは笑うことで飲み込んだ。

「……ははっ」

 否定なんてできなかったからだ。
 ボクもそんな馬鹿な経験をしたことがある。
 戦うことで見えたものが、なかったわけじゃないから。
 旧人類との共存を選ぶ道も、戦う中で浮かんだ選択だったはずだ。
 額に手を当て――ゆっくりと、離す。
 一歩を踏み出さなければならない。それも、痛みを伴う一歩だ。

「いいよ。でも、手加減はしない」
「カティも思いっきりやるから」

 ボクは誰かに、弱みを見せる覚悟をしなくてはならなかった。
 進むなら必ず、抱えなければならないものを見せる必要があった。
 見せられるのか? 曝け出せるのか?
 ……答えは、戦いの中で見つけなければいけないのだと、ボクは思った。

「行くよ」

228 ◆Ok1sMSayUQ:2012/12/31(月) 18:27:14 ID:05MglBzg0




【H-07 西部/午前】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:どうしたいか……決めなくちゃ

【カティ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]:ミュカレにもう一度会いに行く。
1.エヌアインの気持ちを確かめる

【壬生灰児@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:完全者を殺す。立ちはだかる障害は潰す
[備考]:攻性防禦@エヌアイン完全世界の知識があります。
また、エヌアイン・カティ組からは離れました。どこに行くかはお任せします。

229 ◆Ok1sMSayUQ:2012/12/31(月) 18:28:03 ID:05MglBzg0
投下は以上になります。
タイトルは『始まりの前、立つべき場所』です。

230 ◆MobiusZmZg:2012/12/31(月) 19:12:54 ID:SIQVr6vk0
執筆と投下、お疲れ様でした。
……いいなあ、じつにいい。エヌアインの弱さっていうところにまでカメラを
近づけるなら一人称視点しかないと思うし、こいつの弱さを見る相手は、
この面子ならカティだろうなとも思える。
それをきっちり読み取ったうえで、綺麗にまとめてきてるのが素晴らしい。
バトンを受けてもらえたのが恐ろしいと思えるほどの話でした。

これで自分も滾ったんで、エヌアインとカティで予約したいのですが……大丈夫でしょうか?
「自己リレーでの進めすぎに注意」といったルールには逆らわない行動なのですが、
即リレーであることに変わりはないので、予約の前に>1氏の意見を伺えれば幸いです。

231 ◆Syrup/uAaU:2012/12/31(月) 19:14:02 ID:SIQVr6vk0
……申し訳ない、トリミスです。
まあ、あまり使い分ける意味もないですし、これが一番気に入っているので、
以降はこのトリップでいかせていただきます。

232 ◆LjiZJZbziM:2012/12/31(月) 19:45:13 ID:nUBSZIA2O
投下乙!
なるほど、こう来るか……
決断、そして揺るがないものが人を動かす。
でもバトルは予想出来なかったなあ

さて、当ロワは基本的にはなんでもアリです。
鳥変更、即リレー、自己リレーなんでもありです。
自分の家みたいな感じで好きにしまくってください!

233 ◆MobiusZmZg:2012/12/31(月) 19:48:57 ID:SIQVr6vk0
やったぜ、いつもながら迅速な対応で助かります!
では、改めましてエヌアインとカティで予約させていただきます。

234 ◆LjiZJZbziM:2013/01/01(火) 14:02:00 ID:wiHEef9IO
あけましておめでとうございます。
ちまちまやってますが、今年も応援していただければ幸いです。
感想や雑談、今日の晩御飯からアニメ批評までなんでも書き込んで頂けたらなあと思います。
当企画の本スレは自分の家感覚で使って頂きたいので、他ロワの話も宣伝も、なんでもOKです(喧嘩とかはやめてね
そんな皆様に面白い話がお届けできるよう頑張りますので、本年もよろしくお願いいたします。

235 ◆MobiusZmZg:2013/01/01(火) 20:13:49 ID:nJD77Jvo0
カティ、エヌアイン、投下します。

236君が世界に謝罪する時(We have not yet begun to fight!) ◆MobiusZmZg:2013/01/01(火) 20:14:24 ID:nJD77Jvo0
 けふ、と咳がこぼれたのは、廃墟から立ちのぼる煙のせいではなかった。
 肺腑を衝く裏拳の衝撃でもって押し出された、呼気には妙な湿り気がまじっている。
 崩れた脚を支えようとしているうちに、『兇眼者』と呼ばれる男の視線が少女を捉えた。

「いったいなにしてるんだ、お嬢ちゃん」

 呆れたような声音のせいだろうか。
 オーバルのサングラス越しにも、相手の途方に暮れたような表情が見えるようだった。
 そうと思った少女の覗いたレンズには、血と泥に固まった彼女自身の髪が映り込んでいた。
「なにっ、て」
 深い赤と金色の歪な混色に、少女は男の感じたなにものかを見て取った。
 両手が無意識に自分の得物を握り――握っても、その仕草がままごとの道具に固執する子供の
それに似ているとさえ気づけないまま言葉をつむぐ。
「寂しいって思ってる子に、会いに行っちゃいけないの?」
 つむがれた言葉が問いかけである点もまた、子供の頑是なさを体現していた。
 答えを聞いた男は、「せっかく拾った命だろうに」とこぼして大袈裟なため息をつく。
「だが、命を拾ってやったのは……命を拾ってやるために、その得物を選んだのは――俺だったな」
「うん。カティは足長おじさんに感謝してるよ」
 塞だと、答えが返ってきた。
 それでも結局ふたりとも、互いを名では呼ばなかった。
「進みたい道に進むなら、俺には文句のひとつも言えんよ」
 殴りあっての別れ際、流星の燃え尽きるさまが夜天に映えたことを憶えている。

「まぁ、なんというか……なあ。
 人間なんざいくら傷を癒そうが、どうしたってまた、傷つきに行っちまうものなのさ」

 さながら燃え尽きるために流れたような、その軌跡。
 塵と変わった命を見届けた男は、見た目以上に達観した言をほうって踵を返した。



 ◆◆


.

237君が世界に謝罪する時(We have not yet begun to fight!) ◆MobiusZmZg:2013/01/01(火) 20:15:00 ID:nJD77Jvo0
「行くよ」
 午前の空気にほどける、あけっぴろげな少女の声。
 そこに続いたものは、声と同様、ひどく素直な飛び込みであった。
 深めに飛び込んで相手の攻性防禦を逆に捌こうとするものではなく、相手の背面を狙って強襲する
というわけでもなく。カティは、両手で構えた杖を真っ向から振り下ろしていく。
 思いっ切りいく、との言葉どおりの一撃を、エヌアインは飛び退って避けた。
 念動力<サイコキネシス>を絡めたガードで凌ぐことも考えないではなかったが、この一撃を
愚直に受けることが手加減をしないことかといえば、そうではないように思えたからだ。
 また、これまで重ねた戦いのおかげで、なんとはなしに彼女の手筋は読めている。
 あの眠そうな目をした杖以外に、カティは発火能力や電光機関といった能力を持たない。
 相手との間合いを離す手段が不足しているなら、杖も満足に振るえなくなることだけは避けるはずだ。
 だから――彼我の間合いが開いたときに、彼女は間違いなく牽制の一撃を見せる。
 杖は振るえまいとみて肉薄してくる相手を突き放せるような技をひとつ、挟んでくる。

「《モルゲンシュテルン》っ!」

 そのような少年の、読みどおりだった。
 少女は相手が地上から距離を詰めてくることを『信じて』、杖に自らの柄を伸ばせと命じている。
「やっぱり……」
 ゆえにこそ杖の名を呼ぶ二分節の、一節目を聞いた瞬間、彼は即座に跳躍していた。
 杖を振るいながら、それを目にした目標の青い瞳が見開かれる。
 攻撃を防ぐマントこそ空いた片手に握っているものの、この瞬間のカティはほぼ無防備だ。

 ならば、それならば――。
 中空にあって、エヌアインの喉がひくついた。
 いま、このときのカティに対して、自分の飛び込みは必ず通る。
 たとえ杖を振り上げられても、それにかぶせるように蹴りを入れたなら、最低でも相討ち以上。
 こちらの勢いを見て相手が防御を固めるのなら、懐に入ってしまう手もある。
 打撃でも、発火能力の基となる温度変化を使っての投げも、どちらも要撃となる。


 要撃たりえて、しまう。


 一瞬ののち、島の中心から海に流れる風を感じた。
 焼かれてずいぶんと経っていただろう遺骸の臭いは、そこにはもう、混ざらない。
「う……」
 だというのに、まるで吐き気をこらえるかのようなうめきがエヌアインの喉から搾り出される。
 手加減はしないと言った少年は、飛び込んだ後の手のどれも選ぶことがかなわなかった。
 カティの顔が視界から消え、抑えたはずのうめきが、錆びて割れたものにと変わる。
「――く、……ぁ……ッ」
 やるしかなかった。
 そんな言葉にすがることも出来ず、口蓋が酸に焼かれる。
 地に蒸した苔にかかる、白く泡だった胃液こそが、この『戦い』の結末を飾った。



 ◆◆

238君が世界に謝罪する時(We have not yet begun to fight!) ◆MobiusZmZg:2013/01/01(火) 20:15:48 ID:nJD77Jvo0
 えずいたボクの背中をさする、カティの手のひらが恐ろしかった。
 より正しくは、手加減をしないことさえ出来なかった自分を許したこの子が恐ろしかった。
「エヌアインくんは……優しいんだねぇ」
 そしてなによりも、悔しくて、しょうがなかった。
 ボクをこんなふうに作って、育てて、使った世界をひどく嫌っていて、今でも好きにはなりきれない
ボクを、それでも許す者がいるという事実が。
 世界に、カティたちに嫌われたくないわけでもないのに、どうしてだろうか。
 相手を嫌っていた自分が嫌われないのは、涙が出るほど惨めで、悔しいことだった。
「優しくなんか、ない。ボクは、――優しくなんかなれない」
 みっともなく乱れた息づかいを聞いて、カティはボクの顔を覗きこむ。
 その視線から、目をそらすことも虚しくて、視線を上げざるを得なかった。
「どして? あのまま何かされてたら、たぶん、カティは怪我してたよ」
「…………」
 けふ、と咳がこぼれたのは、きっと胃が落ち着かないからだ。
 そう。落ち着かない。優しく背中をさすってくれる手が、やっぱり、怖かった。
「ボクは、たしかに言ったよ。ボクが超人なんじゃなく、相手が。カティたちがそれ以下になったんだって」
 だからこそ、ボクは、隠していた本音を言った。
 あの頃は泥のように濁った目をして、口の中でつぶやいていたことを、はっきりとした声音でつむいだ。
 これでその手が離れるのなら、そんなものはいま、すぐに離れてしまえと思って。
「うん」
 なのに、その手は離れない。

「バカげたことを終わらせるってことは……あの、完全教団にいたんだね?」
「それならッ!」

 どうして、その手を離さない。
「うーん。なんて言ったら、いいのかなあ」
 目に血が入ったようなボクの背に、カティは両手をつくようにした。
 革で出来た服をとおして、相手の重みがぬくもりを伝えてくる。
「カティはミュカレちゃんに会いたいって思ってるけど、ミュカレちゃんにも許せないことは、あるよ」
「ボクが――」もう、ごまかしはきかない。「ボクが、世界を許せなかったみたいにか」
 ふてくされたような自分の声が、一番、胸に痛かった。
『旧人狩り』のことよりも、すべてを正すとの言葉にすがった傲慢よりも、下手をすれば世界を救った
気になっていて、その先のことなど考えていなかった盲目よりもだ。

 それが嫌で、ほんとうに、嫌で、
 だから、今ならカティの言ったことが、分かる気がした。

.

239君が世界に謝罪する時(We have not yet begun to fight!) ◆MobiusZmZg:2013/01/01(火) 20:16:38 ID:nJD77Jvo0
「ボクが、ボクは……きっと、謝りたかった」
 自分の過去や、傲慢や、盲目をでなく。
 世界のすべてに抱いた憎しみと、その裏返しの甘えにこそ、謝りたかった。
「過去形で、いいの?」
「たぶん、よくない。だって、ボクにも好きでいたいものは、たしかにあったんだ」
 好きという感情から想起されるのは、どうしてか、兄弟の影だった。
 神としてあることを望まれながらも、モノのように廃棄された者の存在だった。
「でも、みんな、もう死んでしまったから」
 けれど、いちど言葉にしてしまえば、あまりにも巨大だった影が紙のように軽くなる。
 まさか『愁嘆場』という単語を、自分が演じることになるなんて。そんな諧謔も続かない。
「あ――ごめん、ごめんね。好きなひとが死んじゃったら、それは、悲しいよね」
 こちらの負担にならない強さで、それでもボクに抱きつく、この子がいるから。
 抱きつくのでなく、抱きしめようとしてくれているのだと気づいてしまったから。
「だから、悲しい気持ちが正しいって思いたかった?」
「……そうだね」次の瞬間、自分の声こそが耳朶を叩いた。「ボクがすべてを正す。そう思った。
こんな悲しい気持ちにさせられるものは間違ってると思えてたんだ」
 だけど最初から、ボクは知っている。
 ボクのほうが『旧人類』の生きる世界にとっての間違いだったと知ってしまっている。
「それでも、それでも……世界がボクを嫌うなら」
「嫌われてると思うの、無視するくらいなら嫌い返したほうが楽だね」
 学校と同じだな、と、場違いなぼやきが肩越しに届いた。
 息を殺しても、身を縮めても、ぬくもりは消えない。自分自身のルーツと同じに。

「じゃあ、神になったほうがよかった?」
「まさかッ!」

 聞き苦しい、涙まじりの叫び声だった。
 それが、ボク自身のルーツでなく『用途』を否定した。
「そうだよね。そうじゃなきゃ、ミュカレちゃんに抗ったりしないと思う」
 それに頷くと同時に、カティにも分かるかたちで証明もされた。


「だって、だってボクはこれでも――この世界のことを、好きになりたかったんだから」


 完全者を倒せば、すべてが許されるとは思わなかった。
 だからこそ、灰児たちのいる街に流れてきても、ボクは何も言わなかった。
『嫌われたくはなかった』という理由は、はたして怯懦と呼ばれるものなのだろうか。
 嘘をつくたびに、胸は痛かった。逃げられないのだと知るたびに、かさぶたを剥がす思いがした。
 それでも、そうして――傷ついても。ボクは、ボクを拾って受け容れてくれた灰児の街にいたかった。
 EDENと呼ばれる都市のことを、そこに住まうヒトのことを、好きになりたかったから。
「あの、ありがとう。ずっと支えててくれて。それと……」
 唇に立った前歯が、皮膚を噛み破ったとしても、言葉を続けなければならなかった。
 これまでに垂れ流したような言葉でなくカティに正対して謝る必要があった。
 好きになりたいものを、そのままに留めるためには、ボクは、同じ道を行くと思えたからだ。
 頭を下げて、なんで謝るのと言えてしまうこの子に、それを伝えなければならないのは――。
 息を吐く。この世界に謝るべきことが、またひとつ増えたようだと感じられた。

240君が世界に謝罪する時(We have not yet begun to fight!) ◆MobiusZmZg:2013/01/01(火) 20:17:17 ID:nJD77Jvo0
「ボクは、完全者を倒さなきゃいけない。
 キミはアイツを許せるのかもしれないけど、『許す』だけじゃあ世界は持たない。
 だからボクは、何度でもアイツに挑んで何度でも殺して、そして何度でも傷つくと、思う」

 傷つかないような終わり方は、分からなかった。
 息をしても傷つくものがヒトで、そういうヒトはEDENにも住まっていたからだ。
 戦うたびに傷ついて、戦うために傷ついて、戦いで負った傷を癒すためになおも戦う。
「でも、そんなことが出来るのが旧人類なら……それこそ、彼らは。キミたちは、役目を果たしちゃいない」
 傷ついたことが報われるとは限らないけれど、軽い傷で良かったなどとも思えないけれど、
 その傷の意味をさえ知らない者が握った世界の、どこに罪があって、罰があって、
 世界に対する憎しみがあって、一体どこに、愛があるというのだろうか。
 だから、この気持ちが――なのだというのなら、

「ごめん。ごめんなさい」

 無言のまま、今度は正面からボクをあやすカティを、ボクは今度こそ受け容れた。
 憎しみや義憤をもって戦うことは出来ても、許しの一端に触れてなお戦うことは出来なかった。
 しゃくりあげる背中を撫でられながら、先ほどの戦いで見えた、自分なりの真実を認める。
「……だけど、『正す』だけでもこんな世界は……成り立たないから」
「うん。しばらく一緒に、歩いてみようね」
 真実を認めて踏み出した一歩を、また許された。
 許されるからこそ胸は痛むのだと、ボクは初めて知った気がした。



【H-07 西部/昼】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:カティと行動。『正す』以外の方法を知りたい

【カティ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]:エヌアインと行動。ミュカレを『許す』ために、彼女にもう一度会いに行く

241 ◆MobiusZmZg:2013/01/01(火) 20:17:47 ID:nJD77Jvo0
以上で投下を終わります。

242 ◆LjiZJZbziM:2013/01/02(水) 18:55:12 ID:J8.cDM0oO
ありのまま今起こったことを(略
投下乙です!
なんというか自分のやりたかったような事がこう、上回る形で行われててびっくりです。
企画者も負けないよう頑張ります!

243 ◆MobiusZmZg:2013/01/02(水) 19:35:18 ID:aPSn5IjA0
こちらこそ、この企画で書かせていただいてありがとうございます。
バトンを受けるまで、この展開は自分では思いつかなかったりもしたので、
リレーすることの楽しさを久々に体感しました。
読み手としても◆Lji氏たちの作品を楽しみにしているので、負担にならない程度に
執筆を行なって、楽しんでもらえればと思うばかりです。

そして、Wikiに収録した作品について。
投下時の名前欄は大丈夫だったんですが、ページにつけるSSのタイトルが
容量オーバーしていたので、見出しとリンクの構文とで対応させていただきました。
構文などは普段の編集では気にならない範囲になっていると思いますが、ひとまず報告までに。

244 ◆LjiZJZbziM:2013/01/03(木) 22:37:55 ID:HJIi0ijc0
予約分、投下します。

245悲しきノンフィクション ◆LjiZJZbziM:2013/01/03(木) 22:39:55 ID:HJIi0ijc0
殺し合いに乗るつもりは毛頭ない、ついでに美味しいものが食べられたら良いなあと。
あの任務を達成したときのようにみんなで力を合わせれば、ちょいちょいっと解決できると。
そこまで焦る必要はない、美味しいもの探しに重きを置いて行動しても何とかなるだろうと。

そう、思っていた。

「どォーしてしょっぱなからこうなんのよォー!!」
現実はそんなに甘くはなく、意気揚々と歩き出した両者を出迎えたのは一台の戦車だった。
それは、ナディアにとっては見覚えのある禁断の決戦兵器。
旧人類狩りが行われていた頃、ナディアも何台かと交戦したことがある。
髑髏の頭から放たれる光線を始め、遠中近距離全てに対応した各種兵器で人類を駆逐していく。
ヘタに逃げれば命は無いが、無策で戦っても勝ち目が見える相手ではない。
今の自分の手にあるのは、たった一本の剣。
あの時とは違い、銃も爆弾も後ろを支えてくれる沢山の仲間もいない。
自分と、心優しい人造人間だけである。
運良く先制攻撃は避けることが出来、建物の中に隠れこんだまではいい。
だが、あくまで一時的にやり過ごしただけに過ぎない。
この状況を打破するには、何かしらのアクションを起こさねばならないのだ。
「タロちん! なんか無い!?」
短い会話の中で仇名をつけた、たった一人の仲間にナディアは何かを要求する。
「オレ、これしか持ってない」
差し出されたのは、たった一つのパイ。
ナンセンスやコメディで使われる古典的なアレだ。
「詰んでるぅ……」
自分が持っている物を含めても、戦車に対抗できそうなのは手に持つ剣ぐらいしかない。
これまでの任務以上に、危機的な背水の陣である。
「ナディア、オレ、戦うぞ」
落ち込むナディアに、タロウは力強い一言をかける。
そう、悔やんでいてもしょうがない。
昔、共に任務に赴いた仲間達がここにいたとしても、同じ行動をとるだろう。
"彼ら"はそういう人間なのだから。
息を一つ吸い込んでから、ナディアが口を開いていく。
「あのねタロちん、電光戦車は――――」

246悲しきノンフィクション ◆LjiZJZbziM:2013/01/03(木) 22:40:12 ID:HJIi0ijc0



ガシュンガシュンと電光戦車が進む。
対象を見つけたのはよかったが、最初の一撃で感づかれて取り逃がしてしまった。
素早く後を追ったものの、上手に撒かれてしまった。
だが戦車はそんなことを気にせず、もう一度対象を捉えて駆逐するだけだ。
そこまで舗装されていない地面を、強固なキャタピラでズタズタにしていきながら進む。
そこで、人間で言う目に位置するセンサが一人の人間をとらえる。
先ほど、すんでのところで逃がしてしまった標的の内の片方だ。
すかさず髑髏の両目から光線を放つが、女は軽々とその光線を避ける。
二本目、三本目と戦車が続けて光線を放つが、どれもまともには当たらない。
何本目かの光線で、ようやく女の右腕を掠めることに成功する。
たった一瞬掠っただけなのに、女の右腕の部分は黒く焼け焦げていた。
直撃すれば、命はない。
戦車の無言のプレッシャーが、じわりじわりと女を追いつめていく。
中距離に差し掛かったあたりで、とどめを確実に刺すために戦車は背部から機雷を射出していく。
ゆったりとした放物線を描きながら迫っていく機雷も、女はギリギリで避けていく。
そして、両者がついに近距離にまで迫る。
戦車は近距離用の機銃とキャタピラに攻撃手段を変えながら、女へ迎撃していく。
女は剣を振り、可能な限りの銃弾を弾きながら前へ進んでいく。
密着とは行かないまでも至近距離にまで迫った女が、突然空へと舞う。
力の限りを尽くした飛翔から、振りかぶって剣を投げつける。
戦車はそれを機銃で迎撃していくが、勢いのついた剣を止めることは出来ない。
その瞬間、何かは分からないが何かが視界を塞いだ。
見えないのならば、見えるようにすればいい。
視界を塞ぐ何かを焼き払うように光線を出した、その時である。
「タロちん! 今よ!」
「あばばばばばば〜〜!!」
頂点部を中心にずしりと重い衝撃が走る。
異常を察知し、急いで発電して全身を帯電させるが間に合わない。
戦車とそれに抗う者の戦いの決着が訪れる。

247悲しきノンフィクション ◆LjiZJZbziM:2013/01/03(木) 22:40:32 ID:HJIi0ijc0





――――シニタクナイ。





筈だった。
「なっ!? タロちん!?」
戦車の頂上部の髑髏をもぎ取るはずだった人造人間は。
戦車の車体の上で、佇むように立ち尽くしていた。
「聞こえる……」
「えっ?」
「声が、聞こえる」
ナディアは、タロウが何を言っているのか分からなかった。
無理もない、この場にいる"言葉を操る存在"は二人しかいないのだから。
一体、何の声が彼の耳に届いているというのか。
電光戦車が喋りだした、とでも言うのだろうか。
その瞬間、戦車が青白い光を放つ。
異常を察知した戦車が敵を追い払うために発電し、その電気を全身に纏わせた。
少し離れた場所にいたナディアはともかく、車体の上に立っていたタロウがその電気を全身に浴びる。
「ふぉぉおおお!!」
「タロちん!!」
あわてて駆け寄ろうとするナディアの体を吹き飛ばすように、前門の機銃を炸裂させる。
「しまっ……!」
防御態勢をとろうとするが、時すでに遅し。
気がゆるんでいたナディアは、その散弾に大きく吹き飛ばされてしまう。
「おまえ、悲しいのか?」
吹き飛ばされたナディアの元へ駆けつけるでもなく、戦車の動力をへし折るわけでもなく。
電撃をその身に浴びながら、タロウは戦車へと問う。
「死にたくないのか?」
己の体力を削りながら、タロウが問いかける。
戦車は発電を繰り返し、タロウを振り落とそうとする。
「生きたいのか?」
タロウはしがみつく。
常人では耐えられない強さの電流が、彼の体に流れても。
その両の腕を、戦車からはなさない。
「おれも、わかるぞ!」
戦車は方針を変え、発電だけでなく車体を大きく揺らし始めた。
人間で言えば首に相当しそうな部分を、クレーンのように大きく揺さぶることで、しがみつく巨体を振り落としていく。
何回目かで、タロウの愛用の手袋が戦車の表面からすり抜けるように滑り落ちた。
「おれも、作られたから!」
放り出されてもなお、タロウは言葉をやめない。
振り向き、戦車と向き合って言葉を紡いでいく。
そのタロウを轢き殺そうと迫る戦車に対し、タロウは再び首の部分にしがみつく。
「生きれば、わかる!!」
もう、はなさない。
この言葉を伝えきるまで、絶対にはなさない。
だって、わかるから。
自分も作られた命だから。
この戦車が、生きたいと願っているから。
兵器としてではなく、命として生きたいと願っているから。
「頑張れェ!」
タロウは、応援する。
まだ、命ではない鉄塊に向けて。
魂の叫びで、応援する。



やがて、光の柱が人造人間を貫いた。


.

248悲しきノンフィクション ◆LjiZJZbziM:2013/01/03(木) 22:40:53 ID:HJIi0ijc0
「いたたたた……」
軽い気絶から戻り、口の中に溜まっていた血を吐き出し、頭を押さえながらナディアは起きあがる。
仕込んでいたお鍋の蓋のおかげで、正面の傷は免れたものの、受けた衝撃による損傷は大きい。
ゆっくりと起きあがろうとしたとき、全身に走る激痛が何よりもの証拠だ。
「そ、だ!」
思い出す。
こんなところで気を失っている場合ではないことを。
戦車はどうなったのか? そもそもどこに行ったのか? 共に戦っていたタロウは?
疑問は尽きずに浮かんでくる。
その真相を確かめるためにも、一刻も早く起きあがらなければならないのだが。
体が、そうさせてくれない。
「立て、ナディア……! 出来るでしょ……!」
モデル業界を自分の力で這い上がり、軍の訓練も乗り越えた彼女の魔法の言葉を呟く。
言葉を通じて自分に発破をかけ、感情を高ぶらせていく。
辛いとき、彼女はいつだってこうやって乗り越えてきたのだ。
ずっと使い続けた手段を再び、使って起きあがっていく。
そして、それをまるであざ笑うように。

目の前に、戦車が現れた。

兼モデルとはいえ、ナディアも一端の軍人である。
自分の置かれている状況ぐらい、用意に察することが出来る。
気を失う少し前、戦車に向けて何かを語りかけようとしていた筈のタロウの姿が、無い。
目の前にあるのは、禁断兵器たる電光戦車の姿だけだ。
それが意味するのは、一つ。
「うらァアアアア!!」
理解すると同時に、彼女は戦車へと飛びかかっていく。
傍に転がっていた剣を片手に、全身を支配していた激痛も忘れて。
戦わねば殺される、それを筆頭とした様々な思念に突き動かされるように前へ進む。
数刻もかからず、彼女は戦車へと迫る。
遅れることなく片手を振り上げ、剣を振りおろす。
たったそれだけのことだったのに。
「ゴメ、ゴゴ、ゴ、ゴメン、メンナ、サササイ」
壊れた人形のような声が、彼女の耳に届く。
同時に戦車の頂上部の髑髏の部分から、涙のように細く赤い筋が走った。
「ア、アア、アア"アア"」
向きを変え、何事もなかったかのように戦車は彼女の前から立ち去っていく。
言葉にならない壊れたの人形のような声が、頭の中で反響する。
「なによ、それ」
カランと、軽い音を立てて剣が地をはねる。
怒りも、痛みも、空腹感も忘れ。
彼女はなにをするでもなくただ、ぼうっとしていた。



繰り返される予期せぬエラー。
インプットされていたプログラムには、かけらも記されていない事項が、一台の戦車を苦しめる。
それは、芽生えかけていた"何か"だ。
意志か、記憶か、何かはわからない。
だがそれは今、現に電光戦車という一台の兵器をエラーに追いやっている。
殺せるはずだった一人の手負いの女性を、みすみす見逃したのだ。
なぜそれが起こったのか? 理解しようにも理解できない。
反響するのは、人造人間の声。
生きたい、死にたくない、作られた命。
彼がしがみつきながらも放っていった声の数々が、プログラムの中でふるえている。
「ア、アアア"、アア"」
まだ、戦車は理解できない。
だが、その中に芽生える"何か"はそれを理解しようとしている。
プログラムと何かがぶつかり合い、互いにエラーを吐き続ける。
そして、兵器は。
声のような何かをまき散らしながら、殺し合いの地をさまよう。

目覚めの時は、まだ早い。

249悲しきノンフィクション ◆LjiZJZbziM:2013/01/03(木) 22:41:08 ID:HJIi0ijc0

【タロウ@堕落天使 死亡】

【I-6/氷川村・南部道の上/1日目・朝】
【ナディア=カッセル@メタルスラッグ】
[状態]:呆然、空腹
[装備]:天叢雲剣@神話(現実)、おなべの蓋
[道具]:基本支給品(食糧ナシ)、不明支給品(0〜1、武器ではない)
[思考・状況]
基本:美味いメシを喰う
1:立ち尽くす

【電光戦車@エヌアイン完全世界】
[状態]:損傷(小)、エラー、"何か"が芽生えつつある
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:参加者の殺害



以上で投下終了です。

250 ◆LjiZJZbziM:2013/01/03(木) 22:42:57 ID:HJIi0ijc0
もう何回目かの状態表ミス、見直しが甘いということですね……

【I-6/氷川村・南部道の上/1日目・朝】

ではなく

【I-6/氷川村・南部道の上/1日目・午前】

です。

251 ◆Ok1sMSayUQ:2013/01/03(木) 22:50:51 ID:zhG54tlU0
うわぁ、と思わず声が出てしまった。
感情が芽生えるって話をこう悲劇的にしてくるのがもう。
去った方も残された方も一筋縄じゃいかないだろうな…


感想を呟いて、
ルガール・バーンシュタイン、マリリン・スーで予約します

252 ◆Ok1sMSayUQ:2013/01/05(土) 20:01:21 ID:vQifO.Zo0
 ホテル跡、エントランスホール。
 かつては豪奢な作りであったのだろうそのホテルは、今や面影さえない。
 明かりは全て落ち、壁や床には汚れが目立ち、置かれてある椅子や机はボロが目立っている。
 そんな中、ルガール・バーンシュタインはつかつかとロビーの一角にある革張りの椅子まで歩き、埃を意に介した風もなく座る。

「お嬢さん、まあそこに掛けたまえ。おちおち立ち話というのもなんだろう?」
「あ、ああー……エエハイ、そ、そうするよ」

 本来なら、「うっわ、なんでアタシがこーんな汚い椅子に座んなきゃいけないの」とでもゴネているところなのだが、相手が相手だけにそうもいかない。
 ニコニコした表情を崩さぬまま、マリリン・スーは媚びるようにしてルガール・バーンシュタインの対面にある椅子に腰掛けた。

「ふっふっ、まあ君に相応しくないものに座らせた非礼は許してくれたまえ、《黒手会》の大当家よ」
「……!?」
「そう驚くこともあるまい。《黒手会》とも言えば我々裏の武器商売人の間では有名な組織さ。ましてそのトップともなれば知らぬはずはなかろう?」

 僅かに変えてしまった表情さえ、ルガールは鋭く見抜いてきた。
 マリリンは焦りを深めずにはいられない。ルガールと言えば、THE KING OF FIGHTERSの開催者でもあり、武器商人。
 一方で常に企みをKOF参加者に妨害されている、名前ほどには大したことがない男……という想像は幻想だったと思い知らされた。
 格闘技のセンスは本物だ。強靭な肉体、常に冷静に敵を見定める眼力、技能をもすぐにコピーしてしまう才覚。
 単純な勝負であれば、このルガールを下すことはまず不可能と言っても過言ではない。マリリンはそう感じていた。

「私はね、考えていたのだよ。なぜいつも負けるのか、負けの原因はどこにあるのか。究極のパワーを手に入れてさえ叶わなかった」
「……オロチの力のこと?」
「そうだな。確かに侮っていた部分、慢心していた部分はある。しかし思うのだ、究極のパワーとはそうした心持ちであっても容易く捻り潰せるものではないかね、と」
「ああー、気持ちは分かるおー。こう、一生懸命な奴をプチッと潰すの楽しいよね」
「君は中々悪の美学を分かっているようだな」

 意識して合わせたわけではない。元々、マリリンは売春を生業にして食い扶持を稼いできた身の上の人間だった。
 それゆえ社会的な地位は高くない。ただ抱かれるだけならまだしも、暴力的に、まるで支配するように抱いてきた連中は多かった。
 雌豚は奉仕しているのがお似合いだ。自分を抱く男の、薄汚い笑みを、マリリンはそう受け取っていた。
 だから、支配してやろうと思ったのだ。雌豚に命乞いをするのをあっさり潰してしまえれば、どんなに愉快だろうと思ったからだ。
 自分の考えは悪と呼ばれるものなのだろうとは分かっていた。しかし悪と呼ばれるものを実行するのを想像するのが、マリリンには楽しかった。
 実際に実行してみても楽しかった。ならば自分は――悪の美学とやらを楽しんでいるのだろう。

253 ◆Ok1sMSayUQ:2013/01/05(土) 20:01:49 ID:vQifO.Zo0
「私が欲しいものはね、『世界』なのだ」
「……はあ?」

 あまりに抽象的な言葉が出てきたので、マリリンは思わず素面になってしまった。
 そんな表情になることを分かっていたかのように、ルガールは含みのある笑みで答える。

「え、えーっと……?」
「ムラクモを知っているかね?」
「ムラクモ? まあ、一応」
「奴と似たようなものだと思えばいい。ただし私のやることは救済などではない。支配だ」

 支配。それは奇妙にも、マリリンの根底にある考えと一致していた。
 知らず知らず、話に聞き入っていた。

「最初、完全者が現れたときにはね……正直、心が震えたのだよ。歓喜だった。終わったと思っていたことが終わってなどいなかった。
 終わらせないという支配があったのだよ。見ていたか? いくらかの参加者どもは既に悲嘆に暮れていた。見て、思ったよ」

 ルガールはそこで一呼吸入れ、興奮の熱を冷ますかのように時間を置いた。
 置いてから、言った。


「それを見下ろすのは最高の愉悦だろう、と」


 想像、した。
 己を打ち倒し、支配してやったぞと嘯く連中の前に現れてみせる光景を。
 お前達は何をやっても自分の掌からは逃れられないぞと宣告する様相を。

254 ◆Ok1sMSayUQ:2013/01/05(土) 20:02:08 ID:vQifO.Zo0
「アハ」

 すごく――楽しそうだった。
 《黒手会》の大当家という立場も、どうでも良くなってしまうほどに。

「究極のパワーにも勝る支配……私は、それこそが欲しいのだよ」

 想像した先の歓喜を抑えられず……マリリンは嬌声のような笑いを上げた。
 欲しい、欲しい、すごく欲しい!
 それは恐らく、完全者が光臨した当初から心のどこかにあったことなのかもしれない。
 気付いていなかっただけで、《黒手会》にとりあえずは満足していただけで、本当はそれを望んでいたことがはっきりと自覚できた。

「いいね」

 ひとしきり笑い転げたマリリンは、もはや媚びるような表情ではなかった。
 その形相は、既に獲物に狙いを定めた猛獣そのものである。
 ずい、と豊満な体を前傾させ、マリリンはルガールに向かってペロリと舌を出した。

「なら。改めてさ。同盟、組んじゃわない?」
「ほう? 君から言い出すとは」
「アタシもさ――悪の美学って奴に酔い痴れたいんだよ」
「ふ……雌狐だと思っていたが、見込み違いだったか。虎だよ、貴様は」
「え〜? それは、言い過ぎなんじゃないかなぁ、って」

 そして、元の媚びた口調に戻る。
 にっこりと。敵意のない笑みで。数々の男を騙してきた表情に、しかしルガールは動じなかった。
 恐らくは、気付いている。最後の最後、きっと自分は裏切るだろうと。
 結構なことだ。勿論そうする。今はまだ実力では及ぶべくもないが――機会は、ある。
 格闘技なぞに付き合う必要なんてないのだから。
 何より。
 裏切りは悪の華、でしょ?

「まあいい。よろしく頼もうじゃないか、マリリン太祖」
「末永〜く、お付き合いできたらなと思ってるよ〜。よろしくね、Mr.ルガール」

 暗黒の闇。
 見る影もなくなった廃墟の一角。
 ここに華が咲いた。

255 ◆Ok1sMSayUQ:2013/01/05(土) 20:02:25 ID:vQifO.Zo0



【G-5/ホテル跡/1日目・朝】
【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜5)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。

【マリリン・スー@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き残る。殺人に躊躇いはない。
1:ルガールにひとまず従う。世界支配のための力を手に入れるまでは裏切るつもりはない。

256 ◆Ok1sMSayUQ:2013/01/05(土) 20:03:12 ID:vQifO.Zo0
投下は以上です。
タイトルは『暗闇に咲く花』です。

257 ◆LjiZJZbziM:2013/01/07(月) 13:30:40 ID:osul2pBM0
遅れましたが投下乙です!
支配欲、確かにルガールはそういうのに憧れてるんだよなあ。
悪の美学、響きの良い言葉のように見えて……!

258 ◆LjiZJZbziM:2013/01/10(木) 18:45:42 ID:8s85uo7U0
ルガール、マリリン、アテナ、ダニー予約します。

259 ◆LjiZJZbziM:2013/01/12(土) 00:52:13 ID:7QoUxWJk0
予約分投下します

260 ◆LjiZJZbziM:2013/01/12(土) 00:57:03 ID:7QoUxWJk0
不思議な子供だ、と麻宮アテナは歩きながら思う。
名前と年齢を初めとしたプロフィールを聞いてから、彼の探している姉の人物像を聞き出していたところだった。
年齢でいえば包と同じくらい、いや少し幼い子供だというのに、物怖じ一つせず一つ一つ冷静に答えている。
こんな子供でもここまで落ち着いていられるというのに、すっかり怯えて震えきっていた自分のことを思うと、少しだけ情けなくなる。
「ねえ、ダニー君は好きなこととかあるの?」
ダニーの姉、デミの人物像を大まかに聞き出した後に、アテナはダニー自身について聞き出していく。
コミュニケーションは信頼の要だ、お互いに話し合うことで信頼が生まれる。
どんな些細なことでも、会話をすることが今は大事なのだ。
「えっとね」
帰ってきた声は先ほどまでと変わらず、淡々とした抑揚のない声。
万が一、怖さを隠すためにそう振る舞っているのだとすれば。
自分が安心感を与えることで、彼が素でいられる環境を作ってやりたいと思う。
だが、どうにも「これが彼の普通」だと思わずにはいられない。
彼は至って普通に、今の状況を冷静に振る舞っているのだ。
「おじさんたちと、戦争ごっこするのが好きだよ」
続く子供らしい答えが、落ち着いていても子供なのだと言うことを証明してくれる。
どんな背景があろうと子供は子供、普段遊んでいることはそんな可愛らしい遊びである。
同時に、この殺し合いを開いた完全者が更に許せなくなる。
こんな、こんな純粋な子供にまで殺し合いを強制している事が、たまらなく悔しくなった。
その悔しさを胸に押し込め、アテナは次の言葉をつなげていく。
先ほどの「戦争ごっこ」が意味する事も、気にすることはなく。
「早く、お父さんとお母さんの所に帰ろうね。
 きっと二人のことを今も心配してるわ」
何気ない一言のつもりだった。
誰にだって親はいる、こんな小さな子供ならば当然とも言えることだ。
「お父さん、お母さんって……何?」
だが、帰ってきた言葉は意外なものだった。
ダニーは両親を亡くしたどころではなく、両親という存在を知らなかったのだ。
それはどういうことか、少し考えれば分かる。
「っ! ごめんなさい、辛いこと聞いちゃって……」
ハッとした顔から急に謝りだしたアテナを、不思議そうにダニーはのぞき込む。
これ以上踏み込んではいけない領域にいる、彼にだって思い出したくないことはある。
アテナはある程度大人だから、ダニーのその一言から背景を推察するくらい、容易である。
妙なことを聞き出して、彼を怯えさせてはいけない。
だから、一通り謝った後に"触れる事"をやめた。

261 ◆LjiZJZbziM:2013/01/12(土) 00:57:32 ID:7QoUxWJk0
 
真実は違う。
ダニーは純粋に、両親というものを知らないだけだと言うことを。
ダニーは至って普通に「聞かれたことに対して答えた」だけなのだと。
自分で理解したダニーの生い立ちと、真実が大きく食い違っていることを。
アテナは知るはずもない。

ぞくり、といやな殺気が突き刺さる。
それはよく知った殺気で、二度と感じることはないと思っていた殺気。
「ダニー君、ちょっと下がって」
ダニーを自分の後ろにやり、超能力の準備をする。
殺気を感じ取った方向を睨みつけていく。
「ははは、これはこれは。知った顔に会えてうれしいよ」
間もなくして、男の声が響きわたる。
アテナにとっては、思い出したくもなかった男の声。
ルガール・バーンシュタインが、そこに立っていた。
「はあッ!!」
その姿を見るや否や、アテナは用意していた超能力を練り込み、ルガールへと躊躇わずに放っていく。
アテナはルガールがどんな男か知っている。
「殺し合え」と言われている中で、この男が取りうる行動など容易に察しがつく。
それを知っているからこそ、先手を打たねばならない。
特に今は一人の子供を守らなくてはいけない立場にもある。
躊躇いが引き起こす最悪のケースを回避するために、アテナは前面に出て戦いを仕掛けていく。
放った飛び道具をルガールが迎撃する為に、大地から風を巻き上げるように右手を、次ぐように左手を振りあげる。
立ち上る風の刃がアテナが放った気弾を簡単に飲み込み、地を引き裂いていく。
だが、アテナは止まらない。
その刃を跳ね返す反射鏡を瞬時に生み出し、その刃を自分のモノにしていく。
反射した刃を上手く使った、次の一手を考えていく。
幾度となく重ねてきた格闘の経験から、似たような状況を思い返し、高速でシミュレーションをしていく。
数個の状況を同時に進め、進んだ先の仮想世界で一番いい状況。
アテナは、頭に描いたそれを再現していく。

262 ◆LjiZJZbziM:2013/01/12(土) 00:57:47 ID:7QoUxWJk0
 


イメージは所詮イメージだ。
格闘、という行為において重要なのは瞬間瞬間の判断能力と、その状況に対する最善手の算出の早さだ。
自身の能力や技術がいくら優れていようと、これが備わっていなければ話にはならない。
アテナは飛び道具を放ち、それをかき消すように放たれた飛び道具を反射して攻め込むという事を考えた。
決して悪くない戦術、誰も責め立てることは出来ないだろう。
だが、敵対するルガール・バーンシュタインという男は違う。
思考、判断、算出、能力、技術、格闘においてのそれらは一般人を優に上回っている。
そう、ルガールは"アテナを見つけたとき"から、全ての行動に対しての正解行動を算出し終えていた。
その中で、飛び道具が飛んできたからより強い飛び道具を放ち、間髪入れずに攻め込んでいった。
反射鏡を作ることすら、ルガールの頭の中では想定内だったのだ。
ニヤリと悪趣味な笑顔を浮かべた後に、ルガールの姿がフッと消える。
そして、反射鏡を作ろうと構え始めていたアテナの腹部にまずは一発打撃を加える。
ふわりと浮き始めようとした彼女の体を押さえつけるように、続けて頭部に一撃。
流れるように顔、胸、腹、足と息をつく間すら与えない連続攻撃をすれ違いざまに叩き込んでいった。
無防備だったアテナの体に、その一撃一撃全てが重く響きわたった。
「がふ、っが……げほっ」
激痛を認識すると同時に、口に溜まった血と胃液を吐き、膝から順番に地に着けていく。
「おやおや、世界的サイキックアイドルというのは、話も聞かずいきなり人に襲いかかるものなのかね?」
倒れ込むように地面にうずくまるアテナの腹部を片足で踏みつけ、苦悶の表情を浮かべる彼女を見ながらルガールは言葉を続けていく。
「まあ、話ぐらい聞いてくれてもかまわんだろう?
 よく聞いてくれ、私はこの殺し合いで人を殺すつもりなど毛頭ない。
 それどころか君たちと手を組んで、あの完全者を倒したいとすら思っているのだよ」
「よく、も。そんな、嘘をッ!」
「嘘だと思うかね?」
未だに反抗的な目でルガールを見る
「私が殺し合いに乗っているのだとすれば、もう君の命などとっくのとうに果てているのだよ。
 君は私が態々こんなマネをしている理由すら見ぬけんのかね? 片目しかない私よりもモノの見えない両目のようだな」
ルガールがもう片方の足をアテナの胸部に勢いよく乗せ、肺に溜まった空気を搾り出させる。
咳き込むアテナの口から漏れ出すのは、もはや声ですらない。
「協力か死か、どうするかね?」
淡々と語り続けるルガールが、片足をふわりと上げる。
このままもう一度振り下ろされれば、自分はそこで終わりだ。
改めて自分の無力さと悔しさを噛み締めながら、アテナはゆっくりと口を開く。
「……協力、するわ」
「ようやく理解してくれたようで、嬉しいよ」
僅かに残された空気を使ってアテナが搾り出した言葉に、ルガールはにこやかな笑顔を作る。
ゆっくりとアテナの体に立つことをやめ、アテナの顔の傍へと座り込む。
ようやくまともに呼吸できるようになったアテナは、咳き込みながらも肺に空気を送り込んでいく。
そんな彼女にルガールは淡々と用件を伝えていく。
「君に頼みたいのは、情報の拡散だ。
 私が仲間を募っているということを出来るだけ多くの人間に伝えて欲しい。
 毎度毎度、このようなやり取りをするのは些か面倒だからね」
アテナの頬に手を当て、撫でるようにルガールは伝えていく。
気持ち悪さからか、アテナはその手を反射的に弾いてしまう。
弾かれた手を戻すこともなく、ルガールは冷たい目でアテナを見つめる。
「ふむ……体は隷せど心までは隷せず、か。
 では、授業料として君のその反抗的な目は片方頂いておくとしよう」
そこからは一瞬の出来事だった。
ルガールの片腕が消えたかと思えば、まるで蛇を扱っているかのように瞬時に腰の辺りに戻る。
そして手に麻宮アテナの左目を持ち、アテナが声を上げるよりも先に握りつぶしていた。
「さらばだ、麻宮君。活躍に期待しているよ」
激痛と喪失を認識したアテナの悲痛な叫び声と飛び交う血を浴びながら、ルガールはゆっくりと腰を上げ。
ずっとその光景を見つめていた一人の少年に、「彼女を頼むよ」と傷薬と眼帯とガーゼを渡し。
叫び声が木霊する中を、颯爽と立ち去っていった。

263アイドルをプロデュース ◆LjiZJZbziM:2013/01/12(土) 00:58:46 ID:7QoUxWJk0



「わーお……あっこまでするんだ」
「ははは、そこらの一般人を支配する程度ならば。簡単なのだがね」
血を浴びてより赤くなったタキシードを身に纏い、ルガールはマリリンの元へと帰ってきていた。
アテナの姿をいち早く察知したルガールが、自分ひとりで良いと出て行ったのをマリリンはずっと見ていたのだ。
圧倒的な力、華麗な手順、そして支配者の風格。
ルガールの見せた「悪」の一面を目に焼き付けたマリリンは、先ほどより興奮せざるを得なかった。
「しかし、あの小娘は役に立つのかお? 正直使えるとは思えないにゃー」
サイキックアイドル麻宮アテナ、アイドルとして世界的に活躍するその姿は、裏稼業のマリリンでも何度か目にしたことがある。
だが、先ほどの戦闘を見る限り、アテナの戦闘力は自分と五分、いや自分より下かもしれない。
ルガールはあれを配下に入れ、何を企んでいるのだろうか?
「別に、仲間に誘う人間全員と共に戦おうなどとは考えてはおらんよ」
その言葉に肩をすくめ、ルガールはマリリンへと解説していく。
「君も知っているほど、彼女は有名人だ。
 大抵の人は彼女の顔、振る舞い、性格を知っているだろう。
 この殺し合いに乗らない人間達なら、まず彼女の事は信用してくる。
 その彼女が"ルガール・バーンシュタインは殺し合いに乗っていない"と流布すれば?
 疑われないとは断言できないが、少なくともそこらの人間が言うよりかは説得力が生まれるだろう。
 無論、彼女が嘘をばら撒かない可能性はゼロではない。
 だから、その可能性を限りなくゼロにするために"支配"するのだよ。
 無価値な人間に価値を与える、そのために必要なことをやったまでさ」
「ハハ、残酷ゥ」
「君に言われるとはね」
完璧な理論、そしてそれを手にするだけの実行力。
ルガール・バーンシュタインという一人の悪人の力に、マリリンはより深く虜になっていく。
先ほどの支配のように、誰もが自分にひれ伏すような力。
彼が追い求めて止まないそれを、自分も手にしてみたいと強く感じたのだ。

その時、ふと気になって支配された人間の方を振り返る。
圧倒的な力を見せられ、両の目のうちの片方を奪われ、支配される側になった彼女はどんな気分なのだろうか。
そんな興味から、軽い気持ちでマリリンは振向いたのだ。

ぞくり、と。
踵から太ももの裏をなぞり、尻穴から直線的に首筋まで舐められたような感覚に襲われる。
彼女に襲い掛かったのはルガールような悪の力に怯えるそれではない。
裏稼業で生きてきた彼女ですら、人生で一度も見たことの無いモノ。
混じりけの無い狂気、悪意の無い真なる邪悪の権化と目が合ってしまった。



そう。



麻宮アテナと同行していた少年が。



ワラっていた。



「ん? どうしたかね?」
マリリンの異変に気がついたルガールが素早く声をかけていく。
その声に助けられるように現実に戻ったマリリンは、ルガールの方へと向き直り顔の前で広げた両手を振るう
「い、いや。なんでもないよ」
マリリンの返事にルガールは「そうか」とだけ答え、再び歩き始めた。
その後ろを、マリリンはひたすらに黙って付いていく。
平然を装ってはみたものの、彼女は頭の中には今の光景が強烈に焼きついている。
見てはいけないような何かを、見てしまった気がする。
そう考えるだけでも、あの感覚を思い出してしまいそうになる。
慌てて記憶に蓋をし、前を向く。
その手は、小刻みに震えていた。

264アイドルをプロデュース ◆LjiZJZbziM:2013/01/12(土) 00:59:07 ID:7QoUxWJk0
 


どれだけの時間叫んだだろうか。
のた打ち回りながらも絞り出す声は、何時までも続いていた。
圧倒的な力でねじ伏せられ、服従を言い渡され、そして左目を奪われた。
「お前は無力なんだ」と言わんばかりに、身も心もズタズタに切り裂かれた。
所詮、一般人でしかないのか。
何度目かだというのに、自分の力の無さを改めて噛み締めることしか出来ない。
悔しさからアテナは、残った力を少しだけ使って地面を殴りつけた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
事を見ていたダニーが、アテナの顔を覗き込むように問いかけていく。
ルガールから渡されたガーゼと傷薬を使い、アテナの傷を少しでも癒していく。
その治療を受けながら、アテナは少年に謝罪していく。
「ごめんね」
残された片目で涙を流しながら、アテナは口を開く。
「やっぱり私、すっごい弱いや」
分かっていたことを口にする。
自分自身が一番分かっているはずなのに、自分自身の言葉に傷ついてしまう。
「君を、守れるかなあ」
途端、不安になる。
自分は彼の役に立てるのだろうか、と。
ずっと願い続けた事は叶うのだろうか、と。
そこまで考えてから、ゆっくりと右目の涙を拭い、考えを振り払う。
まだ、生きている。
チャンスは残されているなら、動くしかない。
出鼻を挫かれた程度でクヨクヨしている場合ではない。
この体が動き、超能力が残っているのならば。
それを使って、誰かの役に立つまでだ。
心の中にそんな言葉を投げかけながら、治療が終わったのを確認する。
そしてゆっくりと立ち上がり、ダニーの手を取る。
「行きましょ、お姉さんを探しに。
 私の体が動く内は、全力で貴方を守るから」
誰かの役に立つ、その願いを胸に秘め。
一人の少年と共に、再び彼女は歩き出す。

265アイドルをプロデュース ◆LjiZJZbziM:2013/01/12(土) 00:59:29 ID:7QoUxWJk0



麻宮アテナは気づかない。
幾つものことに、隠された真実に。
彼女が別に何をしようと構わず、生きてさえいれば"役に立つ"という願いは叶えられる事にも。

彼女が痛みに泣き叫んでいるとき、それを見ていた少年ダニーは。
心底楽しそうに、笑っていた。
同時に、ルガールの事を少しだけ疎ましいと思っていた。
だって彼女はメインディッシュ、七面鳥の丸焼きなのだから。
姉と出会った時に、共に楽しむパーティーの大事な大事な主役なのだ。
その主役を先に一齧りされては、楽しいパーティーの魅力も半減だ。
だが、まだ彼女は生きている。
七面鳥は全て食い尽くされた訳ではない。
お楽しみは、まだ残されている。
だから彼はアテナの手を取り、共に歩き出していく。

その手にメインディッシュを抱え込みながら。

パーティー会場へと。

彼は、向かう。


【H-6/北部/1日目・午前】
【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:上機嫌
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。

【マリリン・スー@エヌアイン完全世界】
[状態]:動揺
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き残る。殺人に躊躇いはない。
1:ルガールにひとまず従う。世界支配のための力を手に入れるまでは裏切るつもりはない。
2:子供(ダニー)が若干怖い(?)

【G-6/南部/1日目・午前】
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(中)、左目遺失、若干の恐怖心
[装備]:眼帯
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:超能力で誰かの役に立つ
1:ダニーを姉に会わせる
2:誰かに会った時、ルガール・バーンシュタインが対主催だということを伝える(?)

【ダニー@アウトフォクシーズ】
[状態]:ちょっと嫉妬
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)、ガーゼ、傷薬
[思考・状況]
基本:デミと合流するまで我慢



以上で投下終了です。

266 ◆LjiZJZbziM:2013/01/15(火) 12:26:21 ID:F5XRS9OU0
月報集計者さんへ、何時もお疲れ様です。
今期のPWの月報データです。

PW 33話(+10)  45/55 (- 2)  81.8 (- 3.1)

267 ◆LjiZJZbziM:2013/02/01(金) 23:56:01 ID:96j24kHA0
ロワ語り間に合わなかったェ
とりあえず予約だけでも。
エリ、結蘭、ムラクモ予約します

268 ◆LjiZJZbziM:2013/02/02(土) 00:35:50 ID:Y4IP6BOY0
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12648/1241009871/
トキワ荘内の玄関口にて当企画語りが行われています。
皆様お気軽にご参加下さい。

269 ◆LjiZJZbziM:2013/02/02(土) 17:47:43 ID:Y4IP6BOY0
投下します

270は? ◆LjiZJZbziM:2013/02/02(土) 17:49:07 ID:Y4IP6BOY0
微妙に舗装された道の上で自分の靴音が、とすっ、とすっ、と嫌味なほどに跳ね返る。
民家は見当たれど、人の気配どころか動物、生きている者の気配すら感じられない。
この島で元々生活していた人間は、ひょっとしなくても完全者の手によって"消されて"いるに違いない。
この場に血や遺体が散乱していないと言う事は……まあ、そういう事だろう。
取られた手段がどうあれ、胸糞が悪くなる事実である事は間違いない。
嫌悪感を吐き出すように唾を吐き、エリは道の探索を始める。

どんな音でも響き渡るゴーストタウンに入ってから、適当な建物を適度に探索していく。
民家には家具やら調理器具がそのまま残っており、人が生活していたという跡をこれでもかと見せ付けてくる。
妙に温もりが残っているめくられた布団、栓だけが開いたまま放置されているワイン。
花や草木も直前まで手入れされている痕跡があり、ペットを飼っていたと思われる家では、皿にエサが山盛り残っていたりもした。
テレビを付けても映るのは砂嵐だったが、繋がれていたゲーム機は正常に動作する。
流石にインターネットには繋がらなかったものの、果てはパソコンに至るまでそっくりそのまま残されている。
まるで、ついさっきまで人が暮らしていたと言わんばかりの光景から、人間だけを綺麗に切り取って行ったかのように思える。

そう、ついさっきまで生活していた人間の空間から、人間だけを綺麗に消し去る。
そんな夢のような話が、簡単に出来るというのだから"新聖堂騎士団"というのはタチが悪い。
「世にもビックリなマジック集団!
 なーんて話だったら、どれだけ楽だったか」
そんな戯言を言いながらサクサクと民家の探索を終え、エリは後回しにしていた役場の前へと立つ。
何故後回しにしていたのか? 簡単な話だ。
外からでもよーく分かるほどの、人の気配がプンプンと漂っていたからだ。
エリは勢い良く扉を開け、中へと入っていく。

271は? ◆LjiZJZbziM:2013/02/02(土) 17:49:25 ID:Y4IP6BOY0



やっぱり、納得が出来ない。
なんでもない生活を過ごしていただけの自分が今、こうして命の危機に立たされている。
この場所で生き残ることを考えようとしても、そもそも"生き残る"ということ自体がおかしいのだ。
旧人類の駆逐? 生き残るべき新人類の選定? そのための殺し合い?
そんな事は自分の知らないところで勝手にやっていればいいのだ。
全く理不尽な連中ばかりだと、再び結蘭は頭を抱える。
死ぬつもりも、人を殺すつもりも、極論を言ってしまえば何もするつもりはない。
そもそも、ちょっと腕っ節が強い程度のただのバーテンダーに、何が出来るというのか。
「どうしろって言うんだよ」
溜息をつき、再び応接間のソファに寝っ転がる。
「よォ」
そんな時だ、軽い声と共にバンダナの女が自分の顔を覗き込みに来たのは。
「アンタ、何やってンの?」
一体どこから入ってきたのだろうか?
そもそも人が近づく気配すら感じられなかったというのに。
「何やってるも何も……」
そんな事を考えながら、結蘭は聞かれたとおりの事を喋る。
"何をやっているのか"という話から、"どうしようと思っているのか"に話を繋げて。
壊れた蛇口のように流れ出していく結蘭の言葉に、エリは感情を表すことも無く。
ただ淡々と「ふーん」「そう」「うん」「へぇ」といった、簡単な相槌で会話を進めていく。
まるで今まで溜まっていた鬱憤を晴らすように、結蘭はひたすらに語り続けていく。
いつしか、"自分を巻き込まないで欲しい"という話にまで飛び火していく。
それでも、結蘭は言葉を止めない。
誰かに聞いて欲しかったからか、それとも一人では悩めなかったからか。
三流絵師の絵画が飾られた、村役場の応接間で延々と語り続けた。

272は? ◆LjiZJZbziM:2013/02/02(土) 17:50:03 ID:Y4IP6BOY0

「……で? それでオシマイ?」
「ああ」
「ふーん」
少し長い話が、結蘭の口から全て語られた。
一息ついてから、エリが深く椅子に座りなおした次の瞬間。
古めかしい木のテーブルにエリの踵が下ろされ、ガンッと鈍い音が響く。
「ザけんじゃないわよ」
続いて、凍りつきそうな一言が結蘭の耳に入る。
突然の出来事にすっかり萎縮してしまった結蘭の元へ、エリはテーブルの上を歩きながら近寄っていく。
「さっきから話聞いてりゃよくもまあズケズケベラベラズケズケベラベラと」
嫌に落ち着いた顔と声が、結蘭の恐怖を加速させる。
そのままエリは結蘭の胸倉を掴み、その顔を自身の目の前に引き寄せる。
「いいか!? ここは戦場だと思え! 何時何処が戦場になるかなんざわかンねぇ!
 そこに住んでたヤツとか、その思いとかなんざ関係なく蹂躙していきやがる!
 戦争ってのは理不尽だし、色んなものを奪い去っていきやがる!!」
柄にも無く大声を張り上げて、結蘭へと怒鳴り散らしていく。
自分は関係ない、巻き込まないでくれ、普通に暮らしてるだけだから。
結蘭から放たれたそんな言葉の一つ一つが、彼女を逆上させている。
幼くして両親に捨てられて教会で育ち、自分を扱使うクズなシスターどもから逃げ出すように教会を飛び出した。
それからは自分の力で明日を掴み取る為、路上生活を繰返しながら毎日を送ってきた。
ナイフ一本で大人数人と戦ったこともあるし、サディスティックペド野郎に凌辱されかけたこともある。
軍にスカウトされて、望んでも無い技術も喜んでその身に叩き込んだ。
反乱軍へのスパイ、裏組織の重要人物の暗殺、果ては国家転覆の謀略。
死地を数度見ながらも、そんな任務を全てこなしてきた。
それらは全て、自分が生きる為だったからだ。
だが、いつしか楽に生きたいと願うようになり、一つの任務の成功条件に今の正規軍への移籍を申し入れた。
激しい任務はあれど、以前の生活よりかは幾分かマシになった。
ようやく手に入れた安息の地、そう呼ぶに相応しい場所だった。

だが、目の前の人間は違う。
生まれながらにしてある程度恵まれた環境で育ち、いざこんな場所に放り込まれてみれば文句を並べるだけだ。
自分は関係ない、巻き込まないでくれ、普通に暮らしてるだけだから。
置かれた状況から"どうやって生き抜くのか?"なんて考えすらもしない。
誰かが状況を変えてくれるし、誰かが助けてくれる。
そんなフヌけた事ばかりを言う人間だったから、彼女は耐え切れずに逆上した。
言葉は、叫びは続く。
「それをなンだァ? 自分は関係ないですって言ってりゃ助かンのかよ!?
 ヨソでやってろ、巻き込むなだァ!? テメーの意志なんざ知るかっつーんだよ!!
 テメーは今! 戦争に巻き込まれた! だったら、やることがあンだろ!
 その首から上についてるもんは飾りか!? 幼稚園児でも今の状況飲み込んで行動できる!
 置かれた状況が理解できないほどクソガキなんだったら、クソみたいな幻想に縋ってんだったら、そのまま死ね!」
吐き出すことを吐き出し、少し乱暴に結蘭を椅子へと突き飛ばしていく。
そしてすっかり魂の抜けたような表情をする結蘭へ、決して振り返ることなく。
「チッ、時間の無駄だったか……」
最後の一言を置いて応接間を後にした。

273は? ◆LjiZJZbziM:2013/02/02(土) 17:50:24 ID:Y4IP6BOY0



イライラした表情を浮かべながら、エリは村役場から逃げるように後にしていく。
結蘭の甘ったれた思想は、傍に居るだけで自分を毒していくから。
「気が狂っちまいそうになるな」
先ほど民家からガメた煙草に火をつけ、深く吸い込んでから煙を吐き出す。
そして丁度、村役場の正面玄関に辿り着いた時である。
「……何しに来た」
振り返らず、背後に立ち尽くす気配へと語りかけていく。
そこに立ち尽くす存在は、一人しか居ないのだから。
「は、だんまりか。だが……」
返答は無い。何を言えば良いのかもわからない、ということなのだろうか。
だが、エリは笑ったまま言葉を続ける。
「嫌でも働いてもらうことになりそうだぜ?」
煙草を加えたまま見据えた正面玄関の先には。
忘れるはずも無い一人の男が、こちらに向かって"歩いて"いた。
「ムラクモ……」
その名を呟き、煙草を落として足で踏みにじり、銃と剣を構えた。


【C-3/鎌石村役場/1日目・午前】
【エリ=カサモト@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:ツァスタバ CZ99(15+1/15、予備弾30)、ソードブレイカー、煙草
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:殺し合いの転覆、PF隊を優先的に仲間を募る。

【結蘭@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生きたい。

【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康、移動低下(時間経過で解除)
[装備]:菊御作、六〇式電光被服@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・状況]:自らに課した責務を果たす



投下終了です。

274 ◆LjiZJZbziM:2013/02/10(日) 18:21:16 ID:5iOt9UuE0
クール、翔予約します

275 ◆LjiZJZbziM:2013/02/11(月) 23:55:18 ID:Y4tW4HTA0
投下します

276Going to the Freedom ◆LjiZJZbziM:2013/02/11(月) 23:55:56 ID:Y4tW4HTA0
ざく、ざく、ざく。
一歩ごとに靴裏から伝わってくる感覚を確かめるように、彼は草を踏んで歩いていく。
クローンとは、人をベースに作られる生命体だ。
クローンとは、まるで鏡写しのような生命体だ。
クローンとは、生まれるべきではない生命体だ。
だが、彼は生きている。
きっかけはどうあれ、自我を得て、自分の体を自分の意志で動かしている。
見てくれや言動は、正規の方法を経て生まれた人間と何の差もない。
それが、クローンであるという理由だけで破壊されていいものなのだろうか?
彼は今も、こうして息を吸い、心臓を動かし、生きているのに。
クローンであるという事は、それ自体が罪だというのか。
己の出自とは、そんなに重要な要素なのか。
望まれていない生命体には、価値、権利すらも与えられないと言うのか。
あの逃走の日々は、生まれたての彼の自我に大きな爪痕を残していた。
それと同時に、彼は強く抱くようになる。
自由になりたい、と。

「COOL……」
しばらく歩いた時、彼の見知った顔が目の前に現れる。
いや、見知ったというよりは、一方的に知っているだけなのだが。
窃盗、詐欺、恐喝とあらゆる仕事をこなす「第四区画の黒い翼」と言えば、知らない人間の方が少ないくらいだ。
翔も、実際には会ったことはないものの、話と写真程度は記憶に収めていた。
「オレの邪魔をするのか」
出会うや否や不機嫌そうな表情を露骨に浮かべ、クールは翔を睨みつける。
一触即発の状態に少し押されるように、翔はゆっくりと両手を上げる。
「違う……そうじゃ、ないさ」
ゆっくりと静かに否定の言葉を告げていく。
まるで抵抗の意志がないその目を見て、クールはあざ笑うように鼻を鳴らしてからその場を立ち去ろうとする。
「待ってくれ」
翔は、どこかへ行こうとするクールを止める。
クールは露骨な表情を崩すことなく、振り返らずにその場に少しだけ立ち止まる。
「一つ……教えてくれ」
彼の時間を奪えばどうなるか、翔はよく知っている。
だから、たった一つのシンプルな質問にフォーカスを定めていく。
「自由とは……FREEとは、何だ……?」
その問いかけに、クールは表情を少し戻し、わずかに笑みを含んで振り返る。
「オレの自由は、お前の自由とは限らない」
そして、たった一言だけ告げて再びそっぽを向いてしまった。
だが、翔はその瞬間のクールの表情をしっかりと見つめていた。
きっとあんな顔ができれば、無敵になれるのだろう。
翔は、そう思った。

277Going to the Freedom ◆LjiZJZbziM:2013/02/11(月) 23:56:18 ID:Y4tW4HTA0

「なあ、俺も連れていってくれ」
続く言葉は、無意識下で放たれた。
そうしたいと思う気持ちが、強く強く前に出た。
「仲良しごっこでつるむつもりはない」
クールは誰かと動くことを好まない。
自分は一人であるべきだし、一人で成し遂げるべきでもある。
そして誰かの指図を受けるつもりも、指図するつもりもない。
それが、彼の自由のルールだから。
「いや、違う」
翔は、彼の自由のルールを感じた上で、言葉を続けていく。
「オレは……Cloneだ、生まれながら、自由ってのを……知らない。
 縛られっぱなしの生と……誰かの作られた命で過ごしてきた。
 だから……掴みたいのさ。この手に、自由を。
 お前についていけば……何が、自由なのかが……分かる気がする。
 邪魔はしない……勝手に付いて行くくらい、構わないだろう?」
彼はクローン、作られし命だ。
気が付いたときには自我があり、気が付いたときには力があり、気が付いたときには成長しきった体があった。
夢も、記憶も、経験も、思い出もなく逃亡生活へと放り込まれた。
一刻一秒常に息が詰まる生活、EDENに来てからも完全に安息を手に入れたわけではない。
生まれてこの方「自由」という単語とは、無縁の生活だった。
ぼんやりとしていた気持ちが、今はっきりとする。
自由を掴みたい、だから自由を渇望する男の姿からヒントを得る。
だから、翔はクールの後ろを行きたいと願った。
クールはそんな翔の姿を目に入れないようにそっぽを向きながら、背中で語る。
「勝手にしろ、オレの邪魔をするならその時点で容赦はしない」
「肝に銘じるさ……」
こうして、自由を渇望する男と自由を知らない男は、殺し合いという自由のない土地で、静かに出会った。

【E-1/十字路/1日目・午前】
【赤碕翔(クローン京A)@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き抜き、自由を知る
1:クールについていく

【クール@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:クールのダーツ(残り本数不明)@堕落天使
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:自由を取り戻すため、首輪を解除し少女を殺す。



投下終了です。
塞、ヘビィ・D! 予約します

278 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/12(火) 07:59:31 ID:KK4tp30Y0
投下お疲れ様です!
自己リレーになりますがアーデルハイド、結蓮、テンペルリッター予約します

279 ◆LjiZJZbziM:2013/02/12(火) 12:23:24 ID:PpSQZ/8Q0
予約ありがとうございます!

280 ◆LjiZJZbziM:2013/02/13(水) 22:04:00 ID:Cg5nfDP20
投下します

281ばいばい ◆LjiZJZbziM:2013/02/13(水) 22:04:27 ID:Cg5nfDP20
「おや、アンタは」
先ほど逃がした大物の後を追うべく、ヤマを張って歩きだしたはいいものの、そこにいたのは別の人間だった。
だが、出会った男のことも情報屋たる塞は知っている。
追っていた人物とは違うものの、ある意味では大物である。
しかし、彼が放つ闘気は、決して友好的な物とは思えない。
「……モヒカン頭にゃ、いい思い出が無えなぁ」
スーツポケットに突っ込んでいた片手を出し、頭を押さえるように覆う。
だが、塞は恐れることなく、自分を睨み続ける男に話しかけていく。
「新人類にでも、なんのかい」
遠回しの表現で、この殺し合いに乗っているかどうかを尋ねていく。
「興味ないな」
仏頂面のまま、男は塞の問いかけを切り捨てていく。
「じゃア、何をそんなに生き急いでるのさ」
当然、塞は次の問いかけへと繋げる。
「止まらねえんだ、胸の鼓動が」
一言だけ告げ、拳を真っ直ぐに突き出す。
その動作で全てを察したのか、塞は大きなため息を零す。
「できれば、ご遠慮願いたいがねぇ……」
そう言いながら男をちらりと伺った時、今にもはちきれんばかりの欲望が顔を出していた。
サングラスを手で少しだけ押し上げてから、ポケットに手を突っ込む。
それは、彼が戦闘をするときの構え。
「そうもいかない、か」
同時に、男の影がゆらりと消えた。

先手はモヒカンの男、ヘビィ・D!
ゆらりと残像を残す動きから、斬りかかるようにフックを放つ。
なんとか初撃は避けたが続く攻撃に足元を掬われ、地面へと倒れ込んでしまう。
勢いを掴んだ男が塞の起き上がりを許す前に次の一手を打ち出していく。
素早く起きあがった塞に、ちょうど重なるように豪腕を振るっていく。
起き上がりを攻めた不可避の攻撃、守りを固めるしかないはずの塞は。
「おっと」
あえて、ヨソを向いた。
瞬間、男の拳が飲み込まれるように力を失う。
気の流れが塞の体を中心に、渦を巻くように捻れ、男の拳がヨソへと曲がる。
目を見開き驚愕する無防備な男に、塞は貫手を放っていく。
そのまま、男の姿を見ることなく、全身を使って肘を打ち出していく。
無防備な体に塞の全体重を叩き込まれた男は、まるで突風に煽られたかのように吹き飛ばされる。
そして攻めを許さないために素早く起きあがり、口に笑みを作り塞を指さした。
「イカしてるな、それ」
「覚えりゃ誰でもできるさ」
起きあがった男に対し、塞はわざとおどけてみせる。
釣られるように男も大きく笑い、しばらく二人で笑い続けていた。
二人分の笑い声が、森の中に木霊する。
「こんな場所じゃなきゃ、イチからレクチャーしてやれるんだがねぇ」
「こんな場所じゃなきゃ、アンタと闘うことも無かったさ」
「全く、その通りだ」

282ばいばい ◆LjiZJZbziM:2013/02/13(水) 22:04:48 ID:Cg5nfDP20
人生という名の運命は、いつ何が起こりどこで交わるかなんて分からない。
片や人間では考えられない長い時間を生きる情報者。
片やその地位を追われながも現代を浮浪する狂信者。
予定していない殺し合いという舞台に巻き込まれ、箱庭を見つめる完全者の掌で踊らされている。
だが、その掌の上でなければ両者は出会うことすらなかった。
こうして拳を交えることも、ふざけて笑いあうこともなかっただろう。
「満足そうだな」
「ああ、そうだな」
ひとしきり笑った後、塞は再び両手をポケットに突っ込んで言葉を続ける。
「じゃ、ヤメにしないか?」
「それは出来ないな。こんなに楽しいんだ、もっと楽しまなきゃな」
男は即座に、塞の言葉を否定していく。
その顔には先ほどの笑みはなく、真剣そのものの表情だった。
「元に戻ったら、つまらない生活に逆戻りだ」
「そうかい、残念だ」
それが、最後のやりとり。
闘い続ける者は止まれないという意志の表示。
塞が薄々感づいていたものが、分かりやすい形で表面に現れる。
攻性を警戒したギリギリのラインで素早く突き出された拳を止めるように、塞も足を突き出していく。
両者が一撃一撃を受け止めるごとに、両者の体に痺れが走る。
だが、そんなことに躊躇をしている場合ではない。
先によろめきを見せた方が負ける、分かりきった結末が見えているのだから。
何度かの撃ち合いの後、男が大振りのフックを放ってきた。
ここぞとばかりに塞は、その攻撃に合わせるように気を練る。
だが、その拳は塞に放たれることなく寸前で向きを変える。
その力が向けられたのは、塞の立つ足元だった。
男の纏っていた闘気が地にぶつかり、橙色の煌めきと共に四方八方へと飛び散っていく。
読みを外した無防備な体の塞に、その煌めきの一本一本が突き刺さり、体を宙へと押し上げていく。
「釣りはいらねぇ……!!」
このチャンスを逃すわけにはいかない。
立ちはだかる強敵を倒すために、男は右腕に闘気を貯めていく。
呼吸を一つ、深く整えて心を落ち着かせていく。
そして目を大きく見開き、塞の姿を真っ直ぐに捕らえ。
貯まりきった闘気を惜しむことなく、塞の胴をめがけて真っ直ぐに放っていった。



その時、彼は"闇"を見た。


.

283ばいばい ◆LjiZJZbziM:2013/02/13(水) 22:05:26 ID:Cg5nfDP20
「若くしてボクシング界を追放された男か……」
崩れ落ちるように倒れ込んだ男の服から、塞はサングラスを抜き取る。
だらしなく垂れ下がっている左腕は、骨が何かしらの異常を訴えているサインでもあった。
「殺しても構わない」という覚悟が出来た目から放たれる一撃は、下手すると最悪の事態を招く可能性もあった。
だから、塞は奥の手を切っていた。
サングラスを外し、見る者を死の呪いに誘う「兇眼」で、男の目を捕らえた。
だが、放たれた一撃を殺しきることは叶わなかった。
弱まりながらも男が放った一撃は塞の左手を捕らえ、持っていた赤のサングラスごと、骨を砕いていた。
「知らない方が良いことも、あるんだぜ」
痛みを堪えながら、塞は男の持っていた黒のサングラスをかけ、その場を立ち去っていく。
垂らした左腕を伝って、赤い血が地面にとけ込んでいく。
男が戦いに飢えていなければ、こうはならなかったのかもしれない。
いや、そもそも彼がボクシングを追放されてさえいなければ、こうなることもなかった。
まるで"聖堂騎士(テンペルリッター)"のように戦いを求める一人の男を生み出したのは、他でもないこの世界なのだから。
積み重なったことの一つでもなければ、彼はここで死なずに済んだのではないか?
そこまで考え、もしにもしを重ねている自分に対して塞は一人で苦く笑う。
自分が殺すことになってしまった男が、生き続けることが出来た可能性について。
分かっていても、考えずにいられない。
「こりゃ、厄介な仕事だ」
自由の利く右手で頭をかき、右手だけをポケットに突っ込んで塞は歩き出す。
いつになっても、殺しというのは後味が悪い。
願わくば、これ以上殺しの場面に、ましてや自分が手を下す側になることなどなければいいのだが。
「……糖尿病になっちまうな」
甘い考えと共に、塞は殺し合いを生きる。

【ヘビィ・D!@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【E-4/西部/1日目・午前】
【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品2〜6
[思考・状況]:自らが受けた任務を果たす



投下終了です。

284 ◆LjiZJZbziM:2013/02/13(水) 22:16:42 ID:Cg5nfDP20
追記。
灰児、ロッシ予約します。

285 ◆tzc2hiL.t2:2013/02/15(金) 00:59:42 ID:5Y5Xkq3c0
書き手様方、投下乙です。予約分も楽しみ!

マルコ=ロッシ、エレクトロゾルダート(エヌアイン捜索部隊)予約します。

286 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/15(金) 02:43:22 ID:LSNqYiJQ0
投下します

287空白の選択肢 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/15(金) 02:46:32 ID:LSNqYiJQ0
平和で、どこまでもなだらかな別の世界。
もしかしたら、彼は妹のピアノを聞いていたかもしれない。
もしかしたら、彼は妹とピアノを弾いていたかもしれない。

そんな世界が、有り得たはずだ。つい昨日まで、それは実在していた。
こんな、選択すればするほど、人が死んでいく世界など。
選ぶのは、選ばれたのは、いったいなんなのか。
深いため息は、ひゅうと無様な、壊れた笛のようにしかならず。
しかし果たして、行動を選んだ自分が絶望の底にいるのか。
そうじゃない、男は瞬きを、長い、長い瞬きをしてから、否定した。

時は暫し遡る。

結蓮は、確かにアーデルハイドの申し出に応えた。
ここで彼と反目したところで、自ら危険を招くのみ。
遅かれ早かれあの女騎士は結蓮の居場所を見つけるだろう。そうなれば、武器こそあれど、先だっての状況のようにはいかない。

だからこそか、アーデルハイドがドアを開こうと手をかけると同時に制止する。

「リクエストは聞くけれど、入らないでちょうだい。こんな状況でしょう、たとえあなたをどんなに誠実な人間だと思えても、怖いのよ」

扉の向こうで、おそらくアーデルハイドは神妙な顔付きをしているのだろう。

「そうだな、貴方の言うとおりだ。それと……生憎、私は歌のほうには明るくないんだ…申し訳ないが、お任せする」

生真面目な返答に、場違いな笑いがこみあげる。
できることなら、こんな状況下以外で会いたかったものだ。結蓮は、選べなかった現実への憤りを少しだけ思い出した。
さらさらと、端から崩れ去るように、悪魔の仮面は砂に変わる。


「歌以外は、明るいのかしら?一応楽器もあるのよ」

控えめに、優しくアコースティックギターを爪弾く。

「……ショパンの『革命のエチュード』、ピアノのものだと聞いているんだが」

気まずそうな返事。
結蓮もこれには腕を組んで唸ってしまった。

「ちょっと、門外漢ね……まあ」

次までに覚えてきてあげるわ。
いつもの調子で言い掛けて、はたと口をつぐむ。
有り得ないのだ。
今、この世界において、妹が、自分が、彼が、同じ日常に帰ることは。
儚い涙を食らって、仮面は形を取り戻さんとする。
それは無情で、望んでは、選んではならないことなのか?

疑問を自覚したときにはもうすでに、幾百回、有り得ないと堂々巡りだけしていた、『絵空事』としか浮かばなかった答えが、結蓮の心を真っ直ぐに貫いていた。

「…済まない、余り時間がなかった。歌…音でもいい、やつの気を引き付けて貰えたら…その、危険な役目だ、できるならば私1人で倒せれば……」


ぎり、拳を握る音が、扉越しにも聞こえた。


「なるだけ危険が及ばないよう尽力する。私は、私は……」

うまく言葉にできないのか、アーデルハイドは最後まで言い切れずに、頼んだ、と一言残して走り去って行った。


「私は選んだのよ、もっと、もっと、生きていられる選択肢を」


語り掛けたのは己にか、それとも彼にか。
結蓮は、僅かに目を閉じて、誰かに祈り、指先を動かしはじめた。

288空白の選択肢 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/15(金) 02:47:28 ID:LSNqYiJQ0
ひたすらに、階段を駆け上がり屋上を目指すアーデルハイド。
断続的に、どうしようもない罪悪感が胸にこみあげて、息苦しさに辟易した。
彼もまた選んだはずだった。
前後の事情は分からぬが自分を救ってくれた人間を助けたいと。

しかし、そのために、恩人を囮にしていいのか。
だからと言って、単身であの女騎士に挑んで確実な勝算があるのか。
思考はお互いの尻尾を食い合う。。
自身の命のみならば、多少の危険は覚悟の上だ。
助けるものがあるのならば、一か八かなどとは口が裂けても言えない。


(それが正しいと言えるのか?俺は、自分が都合の良いように考えて、誤魔化しているだけではないのか?)


屋上に至る扉の前で、息切れ一つしないのに苦しい胸を抱えて。


「ローズ、もしも今ここにお前が居たならば、私を笑っていたのだろうな……いや、怒っていただろうか」

蛍光灯と、外からさす光を浴びてなおほのぐらい踊り場。
しゃなり、と床に座したローズ人形は、表情一つ変えずに。

本物であったら、たとえ脚が折れても床に座るのを拒んでいたかもしれない。
妹もまた、父と同じく……いっそ生き写しと言ってもいいほど傲慢であった。
ただ、あれだけの強い自信と、我の強さは、羨望すら覚える。
そして同時に思い出した。
彼女に怒鳴った時のことを。
助けるべく、決断した時のことを。

そうだ、戦いで迷うことは許されない。
命がかかるなら尚更。
いまなお「倒す」という言い回しを使った己を叱咤する。

生きるか死ぬか。
殺すか殺されるか。
区別も正当も不当もない。

それゆえに、今だけは、選ぶのだ。


アーデルハイドは開け放つ。
今までの彼には選べなかった、目の前の扉を。

289空白の選択肢 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/15(金) 02:49:28 ID:LSNqYiJQ0
無風でもなく、吹き荒れるでもなく、風は無造作にたゆたう。
ふわり、音にすれば柔らかい羽ばたきは、死を、生き血を求めて空の波間を泳いだ。


餓えた刃には、化学兵器は物足りなかったらしい。それどころか、一層空腹を訴えてくる。
テンペルリッターも、剣と等しく、渇いていた。
せっかくの獲物は逃してしまったし、邪魔をした漁夫の行方は知れず。
惰性で始めた狩りと言えども獲物を奪われるのは面白くない。狩り損ねるのはもっとだ。

再び、鼓膜を揺らす振動。テンペルリッターは歓喜した。
あと数秒何もなかったら、手当たり次第建物を壊すことさえ考えていたぐらいだ。
彼女は持ち前の冷静さを欠いていた。精神に均衡はなく、本能だけが鋭く尖っていく。
音を頼りに、テンペルリッターは窓辺を滑る。
警戒は怠らぬが、心中の枯渇は著しく、目付きは夢遊病者のように虚ろで、奥底に殺人者の煌めきを隠した。

そして両目は輝いた。
窓辺で歌う人間、自殺志願者か、はたまた策があるのか。
なんだって、構わない。

テンペルリッターは、体の一部にも思えてきた蛇腹剣を人間めがけて突き付け、己すら刃に変えて突撃する。
空を切るのももう飽きた。刃で血肉を啜りたい。


けたたましい笑い声と風圧は、更に高い空からくる『人間』に気付けなかった。

ほぼ直角の建物から、それはテンペルリッターの体を掴んで走りだした。
振り払おうと剣を持ち上げた肩が、耳障りな悲鳴を上げ、遅れて激痛が走る。

「引きずり落とすか、上を取るか、私がお前を『殺す』には、何にせよ高さが必要だった」

地上までの短い時間、歌に紛れた静かな言葉。

テンペルリッターは男の瞳を見た。
赤く、強い殺意を燃やした瞳を。
これだ、この、眼だ。

確信を得た刹那、体は重力に叩きつけられ地面に衝撃として落ちた。
バラバラになりそうな意識と体をつなぎ止めてテンペルリッターは笑い、そして動かなくなった。

290空白の選択肢 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/15(金) 02:50:03 ID:LSNqYiJQ0
歌が、止んだ。
静寂に気付き、漸くアーデルハイドは息を吐く。
すう、と体の力が抜けていくのを感じ取ったが、また階段を上るのだから、と意識を持ちなおした。
屋上にローズ…の人形を置き去りにしてしまったし、彼女……彼?にも報告をしなければ。

「ひとまず、終わったのね」

始終を見守った結蓮は、窓辺から彼を見下ろす。
どうせ、律儀に戻ってくるのだろう。
戻ってきたら、なんと会話するべきだろうか。祝う?それは違うだろう。なら、感謝する?それも違う。
ああでもない、こうでもないと結蓮が悩むうちに、ノックの音は転がった。

「あの……え、と…」

向こうもどうやら、同じらしい。

「結蓮よ、貴方は?」

かなり遅れた、顔も合わせぬ自己紹介に、結蓮は苦笑する。

「失礼した。私はアーデルハイド……」

続けようとした名前が、途切れた。
言いたくない理由でもあるのか。

「アーデルハイド、ね。貴方はこれからどうするつもりなの?」

余計な詮索をする必要はない。ただ、結蓮は自然に尋ねた。

「この殺し合いを止めるために…話を聞いてくれそうな相手を探すつもりだ。さっきの女騎士のような者もいるだろうが……」

言葉尻は濁っているが、きっと今の彼に迷いはない。

「そう。私は、ここにまだ居るわ」

結蓮の答えに、アーデルハイドの気配が落ち込むのを扉越しに悟る。

「あなた、話をした人間をどうするの?集められる場所があったほうがいいでしょう」
そのときは、ここを開けてあげるから。

「結蓮……」

にっこりと、ここにきてから初めて、結蓮は心から微笑んだ。

「もし、変なのが来ても…まあ、これだけの武器があれば、自分の身ぐらい守れるわ。その代わり…と言ったらあれだけど、一つお願いがあるの」

本来ならば人に託すことではない。
だが、この状況下で単身で果たせることでもない。

「結蘭……っていう女の子に会ったら、守ってあげてほしいの。できたらここに……」


彼女を守るためにできるもう一つの道を、見つけさせてくれた人間だからこそ、結蓮は依頼する。
彼は、アーデルハイドは、妹と帰る道を選んでいた。

「了解した。それでは、また」


校内を足音が響き渡り、やがて遠くなって消えた。
長い瞬きと沈黙のあと、結蓮はため息をついた。

ここで時間は冒頭に追い付く。

優しく、口ずさむだけの歌は、誰かの無事を願う歌。
それを受けるのは、今は朽ちるのを待つだけの女騎士の遺骸。
ぴくり。錯覚だと思うほど僅かに、遺骸が動いた。
ぎらりと光絶やさぬ蒼い双眸、もはや硬直してしまった、弧を描く口元。

「オロチ……オロチ、オロチ、アれが、オロチ」

血混じりの声は、狂喜に震える。

「斬ル、キる、斬る!!」

神を真似た体は、アーデルハイドの殺意を耐えぬいた。
未だ身動きは取れぬが、彼女はいつとも知れない体の回復を待ち、起き上がるだろう。

神をも凌駕した殺意を渦巻かせ、歌に埋もれながら。

291空白の選択肢 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/15(金) 02:52:15 ID:LSNqYiJQ0
【D-6/鎌石小中学校・放送室/1日目・午前】
【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止、殺し合いに参加しない人間を募る

[備考]
1:ローズ人形は手放すつもりはない

※アーデルハイドの行き先は後続にお任せします。

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
人を殺すのをやめてアーデルハイドに協力、殺し合いに参加しない人間を待つ

【D-6/鎌石小中学校・校庭/1日目・午前】
【テンペルリッター(四番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:重傷
[装備]:蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
回復を待ち、オロチの力と感じたものを手当たり次第に斬る

以上で投下終了です。

292 ◆LjiZJZbziM:2013/02/15(金) 16:17:02 ID:AoAkU.5o0
予約と投下、ありがとうございます!

直角ゴッドプレス! まさかの技にこれはルガやんもニッコリ。
結蓮は人を殺す事をやめたわけだけど……さて、これがどう転ぶか。
テンペルさん死んでないけど、アデル離れたらやばいんじゃないかな……?

改めて投下乙です!

293 ◆LjiZJZbziM:2013/02/18(月) 14:25:33 ID:4NRTXogg0
「ばいばい」にて状態表ミスがあったのでWikiにて修正を行いました。

投下します。

294おたんじょうびおめでとう ◆LjiZJZbziM:2013/02/18(月) 14:26:02 ID:4NRTXogg0
人間が死ぬ、ということはどういうことか?
脳や心臓が停止し、生体機能が停止することか?
一理あるが、それは違う。
所詮肉体や思考など、生きていくための道具でしかない。
人間は、己の周りのありとあらゆるものを使って、生きていく生き物。
では、人間が死ぬということは、どういうことか。
それは、形はどうあれ目的を失ったときだ。
どんなに些細なことでも、人は"目的"が無ければ生きていけない。
生きるために目的を作る、自分が生き続ける目的を作る。
そして、大多数の人間は、これをごく自然に失っていく。
身体機能の停止、金銭の事情、精神攻撃による自我崩壊などなど。
己の身に起こった出来事により、自らが成し遂げんとすることが、失われていくのが大半のケースだ。
そんな中、自身の肉体には何の損壊もなく、精神を危ぶまれる出来事も無かった一人の青年が。
たった一つの理不尽な巡り合わせで、今まで己を生かしていた目的を、奪われた。



壬生灰児――――実は本名ではないのだが、今はそう名乗っているのでそう呼ばせてもらう。
彼の一生は、血の海から始まった。
親や家族だとか、生まれ育った場所だとか、故郷だとか、そういう記憶がごっそりと抜け落ちているのだ。
まあ、抜け落ちていなかったとしてもそういうことをやすやすと喋る人間ではないのだが。
誰かと誰かの間に生まれ、いつの間にかカルロスの手元に置かれ、気がつけば「No.8」を与えられていた。
自分という存在を認識し始めたのは、思い出したくもないあの血の海を目の当たりにしてからだ。
投与されていた薬の影響か、それとも彼自身がそういう人間だったのか。
血の惨劇が起こるまで、彼の中には自分というものはなかった。
そして、血の惨劇の日。
あたりに転がる七つの肉の塊の中央に立った時。
彼は、自分に目覚めた。
というより、目的が芽生えたというべきか。
「生きたい」という感情に突き動かされるように、彼はその場を逃げ出したのだ。

その日、壬生灰児が生まれた。
.

295おたんじょうびおめでとう ◆LjiZJZbziM:2013/02/18(月) 14:26:26 ID:4NRTXogg0
名乗っているのは適当な名前だ。
本名かもしれないし、誰かの名前かもしれない。
ただ、逃げ出したときに頭に残っていただけという名前だ。
そんな名を名乗りながら、灰児は今日までを生きてきた。
あの日からずっと染み着いて消えない「生きる」という目的のために。

いつしか「生きる」という目的の種は、灰児の心の中で育ちだした。
痛覚が無いという「異常」を持たされ、気がつけばまともな「人間」であることを取り上げられ。
「何か」として生きることを強いられてきた。
育ち始めた苗は、ある実をつける。
「"自分"を奪った奴を倒す」と。
本来自分が噛みしめるはずだった人生を独断と偏見で奪った上に、自分はのうのうと「人間」として生きている。
そんな奴が憎くて憎くて、仕方がなかった。
だから、いつか倒す。
そう思って、ずっと生きてきた。

だが、それは叶わない「目的」となる。
新人類を謳う完全者の手によって、自分を"これ"にした存在は死に果てたからだ。
拳の一発すら叩き込むことはなく、奴はそこらの肉塊と同じ姿になった。
まだ何も言っていないのに、まだ何も伝えていないのに、まだ何も思い知らせていないのに。
人間の形を保った人間ではないものとして産み落とされ、人間として生きることなど許されない世界の中で。
自分がどれだけのことを過ごしてきたのかを、ひとかけらですら伝えられていない。
そして、もう二度と伝えられることはない。
贖罪も懺悔も、させることなどできない。
「生きる」の延長線上に現れた「目的」は、音もなく砂のように砕けていった。

奴以外の誰に話せば分かるというのか、誰に話せば贖罪を求められるのか、誰に、誰に。
答えは、誰でもない。
だから、せめて自分が伝えたかったことぐらいは。
新人類を謳うキチガイ女に、人間ではないもの代表として、伝えてやりたいのだ。

灰児には、卓越した頭脳はない。
知恵も知識なんて立派なものも、もちろん無い。
だが、そんなものなんて無くたって生きてはいけるのだ。
痛みを知らないが故に後ろを振り向かないから、前だけを見れる。
飼い犬のように填められたこの首輪だって、なんの妨げにもなりゃしない。
いつだって自分は自分自身という最高の武器で、どんな状況すらも覆してきた。
今回も、きっとそうだろう。
灰児はそれ以外の方法を知らないし、知ろうともしない。
分かりやすい答えが、目の前に転がっているのだから。
それ以外を選ぶ必要なんて、どこにもありはしない。

296おたんじょうびおめでとう ◆LjiZJZbziM:2013/02/18(月) 14:26:58 ID:4NRTXogg0

そこで、空気の乱れを察知し、足を止める。
気配に動じることもなく、怯えることもなく、灰児は黙って両の拳を眼前に運ぶ。
いつも通りの構え、いつも通りの風景、そしていつも通りの流れ。
殺し合いなんて、ひょっとしたら日常と大差ないのかもしれない。
だって彼がしていることは、あのEDENの中の生活と何も変わりはしないのだから。

軽く地面を蹴り、前へ出る。
自分自身の中では出ている答えと目的を掴みに。
彼は、いつも通りに拳を振るう。

【H-5/中央部/1日目・午前】
【ルチオ・ロッシ@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(2〜6)
[思考・状況]
基本:…………ケッ

【壬生灰児@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:完全者を殺す。立ちはだかる障害は潰す
[備考]:攻性防禦@エヌアイン完全世界の知識があります。



投下終了です。

297 ◆LjiZJZbziM:2013/02/18(月) 14:27:38 ID:4NRTXogg0
テンペル(1)、バーナード、アレン、デミ予約します

298 ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:55:23 ID:UuS07z7U0
投下します。

299おさるのカーニバル ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:56:08 ID:UuS07z7U0
一人の聖堂騎士は動を選び、旧人類を狩りに向かった。
では、もう一人の聖堂騎士は、何を選んだか?
答えは、静である。
彼女が追い求める男、彼女の肉体と精神すべてから放たれる欲求を満たす男、たった一人の男、草薙京。
旧人類でありながらも、歴戦の戦士さながらの力を持ち、自分に初めて"戦い"を仕掛けた人物。
今にも待ちきれないほど、彼女の心は彼を求めている。
だが、事を焦ってはいけない。
たった一度しかないであろう大事な場面で、仕損じてしまう可能性もある。
自分の中の"欲"を満たすその瞬間まで、万全を期さねばならない。
旧人類狩りに精を出しすぎて、京との戦いに全力が出せないなど、あってはならないからだ。
まあ、自分を疲労させることのできる旧人類など、あの男以外に居るわけもないが。
そんなことを考え、ふふっと笑いながらも彼女は気を集中させる。
ある程度の人間が死ぬであろう「六時間」までは、自分から動く必要はない。
山の頂上にわざわざ登ってくる酔狂な旧人類を相手にリハビリをしながら、京との戦いのイメージを組み立てていくのが最善手だろう。
六時間、それが経てば長きにわたった"満たされない欲"も終わりを告げる。
それまで、後少しの我慢を重ねるとしよう。
数ヶ月の不満に比べれば、六時間など容易いものなのだから。
そして聖堂騎士は息を吸い、ゆっくりと瞳を閉じた。

300おさるのカーニバル ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:56:23 ID:UuS07z7U0



男と少女の間に、会話はない。
殺し合いという緊迫した舞台だから会話する余裕など無い?
いや、違う。
男、アレン=オニールが頑なに会話を"拒否"しているからだ。
アレンは傍を歩く少女のことを知らない。
だが、アレンは傍を歩く少女のことを知ろうとしない。
知ってしまえば、辛くなるのが分かっているから。
自分の娘と瓜二つの少女のことを、自分の娘と重ねてしまいそうだから。
彼女の語る言葉、背景、夢、その全てに共感してしまいそうだから。
共感してしまう事は許されない、情をかければ、いつかくる死別の時に揺れ動いてしまうから。
そう分かっているからこそアレンは、余計な情報をたたき込まず、できるだけ"他人"でいようとする。

では少女、デミはどうか?
デミは別に男と会話しようがしまいが、どちらでも良かった。
ただ会話していれば「後」が楽しくなるなぁ。
なんて程度の考えしか、無かったのだから。
喋らないなら、喋らないで良い。
損も得も、さして変わらないのだから。

そのまま会話もなく、足音だけが続くように。
ただ、ただ、二人は歩き続けていた。
「男に子供、まぁ準備運動にはいいだろう」
突然、どこからともなく聞こえた女の声に反応し、アレンが武器を構えたとき。
ざくり、と肉を引き裂く音が聞こえた。

301おさるのカーニバル ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:56:37 ID:UuS07z7U0

「ふん、所詮は旧人類か」
血の滴る蛇腹剣を舐めながら、聖堂騎士はアレンを見下す。
男の持っている銃からは煙が上り、その銃を支える片手は大きな赤を描いている。
なぜなら、アレンがデミを庇ったからだ。
聖堂騎士の蛇腹剣が引き裂こうとしていた小さな体の代わりに、突き出した腕を引き裂かせた。
傷の痛みと、もう一つの意味でアレンは顔を渋くする。
違う、違うのだ。
自分はこのような危機的状況で、彼女が死に果てることを望んでいたというのに。
まさに今、蛇腹剣が小さな命を奪おうとしていたのに。
なぜ、自分はそれを阻害するように動いているのか。
まさか、もう情に支配されかけているというのか。
「ガッハッハッハッハ!!」
ふぬけた考えを吹き飛ばすように笑い、一歩前にでて機関銃の引き金を引いて銃弾をまき散らしていく。
剣から鞭へと姿を変えた蛇腹剣が銃弾を弾き、金属同士がぶつかり合う音がけたたましく鳴る。
そう、今は余計なことなど考えている時間はない。
目の前の敵を倒す為に動くことが最優先だ。
ここは殺し合いなのだから、相手を殺さなければ生き残れない。
少女が死に絶えるのは、別に今でなくても良いのだ。
「カマァン!! ボゥイ!!」
あえて、聖堂騎士を"少年"と呼びながら機関銃を放つ。
自分が潜り抜けてきた死地の数は、新人類とやらには遅れを取らない数である。
経験が違う、と言わんばかりにありったけの弾を撃っていく、が。
「つまらん」
そんなアレンの自信ごと斬り裂くように、聖堂騎士は剣状態の蛇腹剣で活路を開いていく。
接近に反応したアレンが刀を引き抜くよりも早く、聖堂騎士が懐へと潜り込む。
交差する視線、笑う聖堂騎士。
「貴様程度では、足りぬ」
告げられた一言が、アレンの全てを凍らせた。
振り抜かれる剣が、アレンの胸を斬り裂いていく。
鮮やかな赤の血が、アレンの視界を赤く染めていく。
だが、彼は倒れない。倒れている場合ではない。
背負っていた大刀の柄を握り、聖堂騎士へと振りおろしていく。
鬼の一撃を、聖堂騎士は難なく弾き飛ばして一太刀を浴びせる。
アレンは倒れない。
弾かれた勢いを乗せたまま、大振りに刀を振るう。
再び聖堂騎士はその一撃を弾く、旧人類の荒い太刀筋など見えて当然だから。
そしてつまらないといった表情のまま、手に持つ剣を振るい、アレンの首を斬り落とそうとする。
振り抜かれる剣にあらがえないまま、アレンの首が落ちて終わり。
そのはずだった。
「See...you...in the hell!」
振り抜いた剣がどういったわけか、アレンの首でぴったりと止まったのだ。
押しても引いても、聖堂騎士の剣は動かない。
ギロリと目を剥き、アレンは聖堂騎士を睨む。
その目を見て、それまでずっと平静を保っていた聖堂騎士が一歩だけ退く。
だが、傷つけられた肉体はそれ以上の行動に耐えられるわけもなく。
アレンの巨体は、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。

302おさるのカーニバル ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:56:48 ID:UuS07z7U0

「ふん……」
剣についた血を振り払い、聖堂騎士は死体を足蹴にする。
旧人類にしては楽しめたものの、所詮は旧人類ということか。
聖堂騎士の渇きは、癒されることはない。
「やはり、あの男でなければ……」
聖堂騎士が脳裏に描くのは一人の男。
地球意志をも焼き払う炎を操り、自分を満足させうる力を持つ男。
あの男でなければ、この渇きは癒されない。
「……子供か」
アレンが死した今、この場に残っているのは金髪の子供一人。
斬ろうが斬るまいが、どちらにせよ変わりはない。
放っておいたところで、この子供には何もできないのだから。
そこまで思ったところで、ふと閃く。
先ほどの調子で狩っていれば、いくら旧人類が相手とはいえ消耗は免れない。
京と戦うまでは旧人類との戦闘による消耗は極限まで押さえ、自分の体力は残しておきたい。
ならば、難なく旧人類を狩るためにこの子供を"道具"として使えばよいのではないか?
旧人類は甘い思考のものが多く、子供を盾に取るだけで身動きの取れなくなるパターンがほとんどだ。
実際、旧人類狩りの時にも「子供だけは助けてくれ」と醜くも縋りついてきた者が多かった。
その精神をうまく利用すれば、難なく旧人類を狩ることができるだろう。
そうと分かれば、あとは実行に移すだけだ。
「来い」
立ち尽くしていた少女に近寄り、素早くその手を引く。
恐怖していたのかなんなのか、少女はこちらに抵抗することは無かった。
自分には到底理解することはできない、旧人類特有の"恐怖"という感情だろう。
ともかく手を煩わされずに済んだのは大きい。
後はこの少女を上手く利用して、京に会うまで旧人類を狩り続けるのみ。
ニヤリと笑みを作り、歩きだしたその時。
ちくり、と鋭い痛みが腰のあたりに走り。
突如として下がった視点に、走り去る子供の姿が映っていた。
何が起こったのか、そもそも何故「子供と同じ視点」にいるのか。
それを理解したとき、持てなくなった荷物を撒き散らしながら、彼女は駆けだしていた。

303おさるのカーニバル ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:57:00 ID:UuS07z7U0



ぶうんぶうんと舞う、二匹の蠅を従えながら山を登る。
己の両足で一歩ずつ踏みしめながら、なだらかな勾配を登っていく。
山を登ることを選んだのは、島の中央に位置し、程良い高さがあることから、この殺し合いの舞台である島を一望できるであろうと踏んだから。
上を取るというサバイバルの基本もある、だから登るという行為は早めに終わらせておきたい。
二匹の蠅と共に、バーナードはひたすらに山を登る。
ただひたすらに、無心で山を登り続ける。

そして、それとすれ違った。

人間の血を浴びた赤いヘルメット。
人間の血を浴びた赤いコート。
白のハイソックスに、たなびく金髪。
地球に生きる人間ならば、誰もが見覚えのある特徴を持った。
"猿"が、向かってきていた。

「は、お笑い草だな」
現れた猿に向かって、バーナードは吐き捨てる。
猿が身につけているのは、間違いなく新聖堂騎士団の聖堂騎士のそれだ。
なぜ、猿がそれをつけているか? ではない。
それを身につけている者が猿になった、それだけのことである。
そして、それを可能にする薬にも心当たりがある。
我々人類はともかく、自称新人類にまで効くというのは、知らなかったが。
「動物として見下される気分はどうだ? 新人類よ」
義手をちらつかせながら、猿へとたっぷりの皮肉をぶつけていく。
「俺は動物虐待の趣味はない、だから"見逃してやる"」
かつて人類の大半を見逃すことができるほど強力な力を持った旧人類が、たった一人の人類にすら勝てない"猿"へと姿を変えている。
これ以上の笑いのタネがあるだろうか。
人殺しを嫌がる殺し屋に匹敵するくらい、笑える話だ。
数年ぶりに浮かべる下卑た笑いと共に、猿へと詰め寄っていく。
その様子に怒りを示した"猿"は、蛇腹剣を手にして牽制していく。
「ほう、そんな姿でも新人類様はプライドを取るか」
どうやら、手を引くという選択肢はないらしい。
動物虐待は趣味ではないが、仕方がない。
ゆっくりと素手での戦いの構えに入り、呼吸を整える。
さあ、ご覧あれ。世にも滑稽な者同士の醜い醜い殺し合いを。
これより始まるは喜劇でもなく、悲劇でもない、ただの喧嘩。
見てゆけ見てゆけ、二度とは演じられない劇だから。
寄った寄った、さあ寄った寄った。

「くすくすくすくす……」

一人の少女の笑い声が、響いた気がした。

304おさるのカーニバル ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:57:11 ID:UuS07z7U0

【アレン=オニール@メタルスラッグ 死亡】

【E-5/南東部/1日目・昼】
【テンペルリッター(一番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:猿化
[装備]:蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:旧人を狩りつつ、草薙京を探して決着をつける。京の他に自分と戦える相手がいるならば会いたいが、そんな相手はいないとも思っている。
1:???

【バーナード・ホワイト@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、「ヨシダくん」、「サトウくん」
[思考・状況]
基本:ミュカレを殺す
1:サルを適当にあしらう

【F-5/北東部/1日目・昼】
【デミ@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:DSA SA58(30/30 予備マガジン2)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:ダニーと合流するまで我慢

※テンペルに打ち込まれたのはサル化する弾@メタルスラッグ4に使われている薬です。
※方頭大刀、アレンの支給品(不明0〜1含む)、テンペルリッター(1)の支給品一式のデイパックはアレンのそばに放置されています。

305 ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 22:59:51 ID:UuS07z7U0
投下終了です。





























「い……いかん! 完全教団が完全武装している!」

「な……」

「テンペルがブチ切れた!!」

  ━┓“   ━┓“  ━┓“   ━┓“  ━┓“  ━┓“   ━┓“
  ━┛   ━┛   ━┛   ━┛   ━┛   ━┛   ━┛
                    ./:レ ´:! __
                  ./ }/  /   /  }_
                 _/ / ./   / ./ 丿
               / {  | /   / ./ /¬
               i :≠= ミ < /  /
 _    _        ヽ/      ヽ ヽ-‐     _    _
」   ̄ ̄ └,       ∨   o≠n__  Τ     」   ̄ ̄ └,
}  出 死  {       L_{;:;:;:;:。...。レ .卞      }  逃 み  {
}  る 人  {     r--――ノ;:;:.゙,..,゙:;:;斗七 ,    }  げ ん  {
」  ぞ が  {   /   /  ´Λ`  il`'-'-n_,. 」  ろ な  {
}  ぉ     { }/    ノ  ̄\/ \//    .| }_  ! !  `  {
}_  ! !    {/    /|   o     o l    } /__   _「
/__   _「    「_  |   o     .o l    {      ̄  
     ̄` ヽ     ./`フ'´ミ´r'ヽ_____.l    |
        ´`'''─-/. /::.:.:ヾヽ_ `ヽ'、l__l ll }__|
              ̄ `゙-'゙,-,_ツ、゙ヾf´ヽ,っll_{  /
             ,、/´    `ヽl, ,、`ヾ\: /
             /         ノlmn_'ヾ\
          ノ!/         / i`^''´ヽ 'ヾ\
          f´/        ./;:;:;:;:i    .ヽ、fヽ\
         、 /       ./;;::;;;;;:;:;:!     i¨ヽヽ\、
          /       / .' ' '' `-1     i  `´`'''´

306 ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 23:03:09 ID:UuS07z7U0
あっ、すいません。
フィオ、ジョン、テンペル(4)予約します

307 ◆LjiZJZbziM:2013/02/21(木) 23:13:22 ID:UuS07z7U0
すんません、テンペル(4)じゃなくて(1)です

308 ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:37:34 ID:H.wSJRGM0
投下乙。
面白かったー。中でもデミは積極的に話に出てくるわけじゃないのに、すごく存在感があるなあ。
かばってもらって人が死んでも何にも感じてなさそうなところとか、子供の殺し屋っていうアブナイ感じがじわじわ伝わってくる。
最後のベンテルリッターには大笑いさせていただきました。
このままもし京に出会ったらどうなっちゃうんだ?
SSの内容はかなりシリアスなだけに、不意打ちだったw

では、予約分のマルコ=ロッシ、エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)投下します。

309DOG WAY ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:38:37 ID:H.wSJRGM0
 俺は、敗者である俺は、トンネルから遠ざかり、湿った藪の中を征く。
 すでに登り切った太陽が、柔く背中を照らしている。
 虫の息ひとつ聞こえない静寂の空気を、わずかに消耗した体で裂いていく。

 ただ死ぬためだけに歩き続ける。
 このままでは死ぬ、きっと死ぬ。予感がある。
 消耗、虚脱感、オリギナールの冷淡な視線、同胞を動力とした戦車の、断末魔のきしみが、脳裏に渦巻いて消えない。
 全員殺し、完全者をも斃す。この決意が揺らいだわけではない。
 ただ漫然とした焦りが、このままでは死ぬというどす黒く、無視できない『何か』が、胸にひしめいているのだ。

 恐れか。

 初めて感じたそれに名を当てはめて、改めて驚く。
 なんて弱い。『第三帝国の悪夢』が聞いて呆れる。
 死にたくない。意味のないまま、こんなからっぽのまま。 

 だが死の向こうに栄光が花開いているのなら、この足を止める理由は何もない。 
 そう決心した途端に、別の考えが横槍を入れる。
 古代の遺産を手に入れ、生き延びて、そのあとは?
 先刻の戦いでほんの少ししか見えなかった走馬灯のように、この世に生まれ落ちてから、俺にはさしたる思い出がない。
 目的を達した後、この世に生き続ける理由が、見当たらない。

 死にたくないと思うだけなら犬にもできる。
 俺は、我らの栄誉のため、戦うことができる。
 いや、それしかできないのか。

 こんな思考は無意味だった。いたずらに意識を混乱させる。
 まだ、完全者の影にすら手が届いていないというのに。

310DOG WAY ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:39:16 ID:H.wSJRGM0
 いつの間にか景色は変わり、東洋風の寺院が姿を表していた。
 少し入り組んだ場所に見える神殿らしい建物の内部には、参加者が潜んでいるかもしれない。
 見つければ殺し、無人ならば休息を取るべきだ。
 
 赤い棒を縦横に組み合わせた、門らしきものの下をくぐり抜ける。

「そこの兵隊、動くな」

 声とともに、僅かな金属音が聞き取れた。
 方向は定かではないが何者かに補足され、おそらくは銃器の照準を定められたと、感覚で知る。
 声に従い動きを止める、相手の位置を探るために。

「おっと、もちろん喋るなよ……俺の持ってるピストルは、ピッタリお前の頭に狙いをつけてる。
 俺の質問にだけ、口開け。わかったか? 『エレクトロ・ゾルダート』?」

 名称を知られているとは。
 いや、思えば、完全者の命令で世界中を相手どって殺戮を行なっていた身、俺達の容貌と能力を知らぬものなどいないだろう。
 出会うものすべてに敵と認識されるわけだ。
 しかし、銃器など攻勢防禦の前では無意味。
 哀れにも俺に狙いを定めてしまった者の位置を特定しだい、殺すまで。

「質問に答える義務はない」
「おいおい、俺の話聞いてたのかよ。強がりも程々にしないと後悔するぜ」
「弾丸など俺には当たらん……貴様こそ我々を知った上で脅しつけるなど、わざわざ殺されに来たのか」

 電光機関起動。
 手袋の中に熱と光が生まれる。電気の弾ける音が、小さく鼓膜を打つ。
 相手もプロらしい。短い会話だけではどこにいるのか、息遣い、声の方向がよくつかめない。

「殺されるつもりがないから、こーやって隠れてんだっての。
 否定しないってことは、エレクトロ・ゾルダート……完全者の私兵、ってことで間違いないな。
 そのバチバチしてる電気、当然電光機関使ってんだろ? 性能やら何やら、教えてもらおうか」

311DOG WAY ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:40:13 ID:H.wSJRGM0
 電光機関を狙っての襲撃と知り、笑い出しそうになった。

 大戦中から、少なくない人間たちがこの未知の技術を盗み取らんと欲し、ミュカレによってその身を滅ぼしていったと聞く。
 求めれば身の破滅、使っては使用者の命をけずる。
 電光機関の原理、それは命と電気の交換率。
 エヌアインに教えられたこの知識、カメラードたちはそんなことも知らないまま、消耗して死んでいった。
 自分とて、これを使わなくてはこの戦場を戦い抜けない。
 決して多くない『残り時間』を使いながら。

 それを、そんな物を欲しがっているのか、この男は。

「断る……さっさと撃って来い。その瞬間に仕留めてやる」
「おーお、完全者に義理立てか? 大した忠誠心だがな、俺はお前を殺すことが目的じゃなくて、ソースがはっきりした情報が欲しいだけなんだぜ」

 こちらが言い終わりもしないうちから、鼻で笑い飛ばすような声。
 感情の昂ぶりと相まって、全身を駆け抜ける電光が一際強くなる。
 殺すつもりがないなどと、兵士たる我らへの侮辱のつもりか。

「あの女は関係ない。俺は一人で、この戦場を勝ち抜き――奴を殺す。
 よって、貴様に渡すような情報はない。さっさと出てこい、腰抜けめ」
「こいつは驚いた。お前、あのお嬢の手駒じゃないのか?」
「……話すことは何もない」

 会話の中で、標的の位置はおおよそつかめた。
 真後ろ、密集している植物の合間。
 『ヒュープシュラウバ』で十分届く。後ろへ一歩退き、膝に力を込める。

「交渉決裂……いや、脅迫失敗か、こいつは」

 諦めたような声が聞こえた瞬間、俺は飛ぶ。

 破裂音と共に敵の弾丸も飛ぶが、攻撃の空中回転を利用し、体を捻って避け切った。

312DOG WAY ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:40:40 ID:H.wSJRGM0
 弾道の始まり、狙い通りの位置に、敵はいる。
 慌てた様子で枝葉の間から顔を出したのは、白い額当てを巻いた白人の兵士だった。
 相手の銃口がもう一度狙いを定めるよりも早く、俺の足が、敵の腕を蹴りとばす。
 蹴りの衝撃で再び銃声が鳴るが、弾はあさっての方向へと飛んで行った。

「オーマイ、がッ!」

 空になった手のひらを呆然と見つめる敵兵、そのみぞおちへ膝をねじり込み、地面へと叩きつける。
 
「……死ね、劣等人種め」

 腰抜けはやはり腰抜けだ。
 大きく咳き込んでいる相手の首筋を掴み、このまま電光機関の出力を上げ、――!

「――なんつってな。ヘイ! 銃が一丁だなんて誰が言った?」

 いつの間にか相手の手にはもう一丁の拳銃が収まっており、銃口が俺の額に押し当てられている。

「なんで二丁もあるんだって顔してやがるな。俺は一にも二にも『ソースを読め』、が信条でね。
 【アノニム・ガードの二丁拳銃】って取説に書いてあったぜ。 バチカンのなんとかっていう宗教団体の尼さん兵だっけか?
 レディが二丁拳銃使いなんておっかねえよなあ、おい」
「く……」

 二丁一組の支給!
 何て憎い、なんとくだらぬ支給を企むのだ、完全者ミュカレ!
 銃口を密着させられていては、攻勢防禦も不可能だ。
 マウントポジションを崩され、立場が逆転する。
 撃鉄の起こされる冷たい音が、額から頭蓋へと直に響く。

 敗北か。
 俺は死ぬのだ。

313DOG WAY ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:41:12 ID:H.wSJRGM0
「……で、もう一度交渉と行こうじゃねえか」

 愚かにも、相手は俺を殺さなかった。
 好機だ、と考える。
 口の端を吊り上げ、余裕の笑みを浮かべた敵を、信じられぬ思いで見つめながら。

 再交渉に応じる気などさらさらない。
 隙を見て今度こそ、殺害する――

「この首輪も電光機関らしいんだが、お前それわかってんのか?」
「何?」

 ひらり、と片手で広げた小冊子の一部分を示しながら、男が言った。
 『四拾弐式電光機関――首輪型の特殊な電光兵器』。
 そのほかに目で拾った文字の中には、『兵力増強計画「電光戦鬼」』、『電光戦車計画』――
 この座興は、やはり完全者の気まぐれなどではなかったのだ。

 六○式まである電光機関の一種が、この首輪だというのか。

「内容全部を信じてるってわけじゃねえけどな、こいつは俺の支給品さ。一にも二にもまずは首輪だよ、首輪。
 完全者を殺すとか言ったって、こいつが付いてる以上、どでかいアドバンテージをあっちが持ってんだぜ?」

 認めざるを得ない。その通りだった。
 首輪のことが念頭になかったわけではない。
 だが、試製壱號やオリギナールとの戦闘で血気に逸(はや)り、思考をする時間も惜しかったのだ。
 絶句する俺に、相手は軽い口調ながらも淡々と、話を続ける。

「俺だって、モーデン兵も真っ青の世界侵略が始まったときは、何もできない自分が歯がゆかったぜ。
 完全者が暴れまわってた絶頂期には、派兵された仲間が大勢死んだ。許さねえよ、絶対にな」

 敵の目に暗い光が宿り、怒っているのだとわかる。 
 この男も死んだ仲間のために、戦っていたのか。
 しかし、こいつは俺とは違う。
 複製體としてこの世に生を受けた俺とは、根本的に違う。

314DOG WAY ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:41:40 ID:H.wSJRGM0
俺は『仲間』のために戦っているのではない。
 この命をささげているのは、幾千幾万と死んでいった『俺達』のため。
 その違い、隔たりが埋まることは決してない。

「首輪を取らない限り完全者には勝てねえし、お前一人じゃまず無理だ。
 俺ならできる、作りさえ分かればな。電光機関についての情報が欲しいのはそういったわけだ」
「仕組みが分かれば、貴様がこの首輪を解除するというのか」

 大それた申し出に驚く。
 ふ、と笑い、肩をすくめる兵士。当たり前だ、とでもいうように。

「どうする? このまま突っ走って敗北(しぬ)か、俺と組むか」
 
 選択を迫られる。

 このまま隙を見てこの男を殺し、小冊子をはじめとする荷物を奪って逃走するか。

 もとより一人で勝ち抜くことを心に決めた戦いだ。
 『俺達』のために戦う理由は、俺にしかわからない。
 ただ、我々は電光機関を『使用する』為にのみ訓練されてきたのであって、機関そのものの作りを把握しているわけではない。
 基本的な工学知識だけで、複雑極まりない電光機関内部をいじるとなれば心もとない。

 ならば差し出された提案を受け取って、共同で完全者へと挑むか。

 『首輪を解除する』という自信に満ちた宣言も、口から出まかせとは思えない様子だった。
 しかし、そもそもあの小冊子に書いてある事柄が全てでたらめならば、我らはとんだ道化だろう。

 あるいは何か、第三の手が。

 長考は危険だ。 
 銃声を聞きつけて、じきに誰かがやってきてしまうだろう。
 俺は、敵――マルコ=ロッシと名乗った男の眼を見る。

 自分にはいつも時間がないと、頭の片隅で自嘲して。

「さ、どうするんだ?」

 額に押し当てられた銃口に力がこもり、俺は口を開いた――

315DOG WAY ◆tzc2hiL.t2:2013/02/23(土) 00:42:27 ID:H.wSJRGM0
【F-8/無学寺/1日目・午前】

【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康だがやや消耗
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
・全参加者及びジョーカーを撃破後ミュカレを倒し、先史時代の遺産を手に入れる。
・マルコと協力するか、殺害するか、あるいは何か別の手が……(次の書き手さんにお任せします)


【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)、小冊子、アノニム・ガードの二丁拳銃(二丁一組、予備弾薬無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破
1:ゾルダートを説得、協力を取り付け、電光機関について知識の習得
2:首輪サンプルの取得

以上です。ご指摘があればよろしくお願いいたします。

316 ◆LjiZJZbziM:2013/02/23(土) 00:52:59 ID:NaKgIJcw0
投下乙です!
喧嘩売って消し炭になったゾル君とは違って、仲間と言うか、宿命を背負った感じの良い感じのゾル君に……
首輪解除に大きく一歩近づいたわけだけど……はてさて、どうなるやら。

317名無しさん:2013/02/23(土) 00:55:31 ID:31KTT/dA0
投下乙!
全話感想はちょっと大変そうだったので遡れたところまでで感想ー

31話 悲しきノンフィクション
タロウ…(´;ω;`)ブワッ
セリフの一つ一つがシンプルなのにズシンとくる、「頑張れェ!」で涙腺がヤバイ
そして覚醒した電光戦車に釘付け、エヌアイン達の次ぐらいに注目してる

32話 暗闇に咲く花
ロワ充同盟wwww
同盟に乗り気じゃなかったマリリンを乗り気にさせて、裏切られるのも織り込み済みで取り込むルガール、
欲望全開で裏切るのを読まれてるって分かってても裏切る気でいるマリリン、化かし合いいいなぁww

33話 アイドルをプロデュース
前話から続いてルガールえげつねええええええええ!!!!!
カリスマと実力を兼ね備えた悪、というのが存分に出ていた…
横にいるのがダニーってこともあって、アテナの明日が見えない

34話 は?
タイトルの一文字にエリの気持ちが表れてるなぁ…w
ロワに巻き込まれた一般人ってことで結蘭の言い分も、それに逆上するエリの気持ちもどっちもわかるんだけどね
ムラクモはまだ目立った動きがないから続きが気になるぅ!

35話 Going to the Freedom
翔も注目してる一人
電光戦車とかもそうなんだけど、これから何を知るんだろう、どう変わるんだろうってわくわくする
自由を奪われたと言いつつやっぱり自由に生きてるように見えるクールから、いい影響を受けて欲しいな

36話 ばいばい
決して長くないSSなのに、塞とヘビィ・D!の戦闘が熱い!
ヘビィ・D!は負けはしたものの、塞の左腕を潰してるし切り札まで使わせてるんだよね
これまでに全力を出せる相手に出会えなかったヘビィ・D!にとって、満足のいく最期になったんじゃないだろうか

37話 空白の選択肢
アーデルハイドとテンペルリッターが衝突してる間、アーデルハイドが去ってテンペルリッターが回復を待っている間、ずっと歌が流れている情景が綺麗だった
もちろんテンペルリッター復活は怖いんだし殺し合いの最中なんだけど、「歌に埋もれながら」っていう最後の一文でどうしても「綺麗」と思ってしまう
不器用だけど誠実なアーデルハイド、アーデルハイドに引っ張られて殺人を諦めた結蓮の二人の会話もじんわりくる

38話 おたんじょうびおめでとう
目的を失ったら人は死ぬ、だから目的を奪われた壬生灰児は死んだ
でもそこから新しい目的をもぎ取って生まれ直す強さがあって、灰児かっこいい
タイトルもニクいなぁ

39話 おさるのカーニバル
アレン、最初に遭ったのがデミで次がテンペルリッターって不運としか…合掌
しかしベンペルリッター酷いwwwwビジュアルも酷いwwwwwしかもそこにバーナード来るしwwwww
だがそれまでに傲慢さが散々書かれているおかげで、ざまぁ感も半端ない

40話 DOG WAY
エヌアイン、電光戦車、翔に続いて気になる勢にゾルダートが追加された瞬間でした
『仲間』のためではなく『俺達』のために戦う、のあたりでやられた
恐れを知って、生き続ける理由を探し始めて、そこでちょうど入ってきた首輪解除の話にどう動くのか、wktkが止まらない…!

318 ◆LjiZJZbziM:2013/02/23(土) 14:07:34 ID:3xemuNqE0
すんません、一時的に予約破棄します

319 ◆LjiZJZbziM:2013/02/24(日) 23:30:38 ID:zc9j9ct20
あっ、もし予約したいひとが居たら全然予約してもらってオッケーなんで。
言葉足らずで申し訳ない

320 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/26(火) 09:24:56 ID:MiQkuTNA0
結蘭、エリ、ムラクモ、トリガーを予約させていただきます

321 ◆LjiZJZbziM:2013/02/26(火) 14:18:55 ID:JZmW0W1c0
予約ありがとうございます!

322 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/27(水) 09:06:10 ID:GiF2Xm/E0
予約分投下失礼致します。
結蘭、エリ、ムラクモ、トリガーです。

323少女には思想を与えられず ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/27(水) 09:07:59 ID:GiF2Xm/E0
軍とは、それはお国によって変わるが、本来は『国』や『人』を守る『暴力機関』の総称だ。
これは非常に矛盾している。
守るために戦う、生きるために戦う、はてさて、掲げる正義はどこへ飛んでいくのか、誰にどう見えてしまうのか。
世の中に『軍人』がいなければいい、そうすれば争いなんておきやしないんだ、そう嘯く『軍人』がいたぐらいだ。

おとぎ話の勇者のように華やかでもなく、保守的な人間がヒステリックにあげつらうように残虐でもなく。
やはり彼らは、彼らの意志でもって、世界に立っていた。
自分の使命のために、人類の勝利のために。
ここに今対峙するは、何もかもが反対で矛盾した、『軍人』という人間たちだ。

「ムラクモ……」

じりり、彼女の唸るような声に続くのは踏みにじられた煙草の音だけ。
名前を呼ばれた男、ムラクモは、無表情に、返事をすることもなく臨戦態勢の彼女を見やる。
強い殺気はあるが、その静けさは異様なまでに穏やかで、思い出したように腰に下げていた刀に手を置く。

ムラクモは、記憶の糸を手繰り寄せていた。
自身のコードネームを知るものはそう多くはないはずだ、と。
ならばいずこかでこの女と接触したことがあるのか、否である。
では、彼女はあの、クロード・ダスプルモンと同じように情報の世界に通じている人物か。
どこぞの宗教団体のように大声を上げて犯行声明を立てたことも無ければ、どこぞの自信家のようにフルネームを堂々と名乗った記憶もない。

とった構えは、なるほどよく訓練された兵士のそれで。
この女は、特殊な軍人である、と結論づける。

エリはと言えば、行動を起こすのが酷く緩慢なムラクモに焦れていた。
ただ緩慢であればそのまま撃破するのも容易いが、指一本動かす隙もない、すぐにでも必殺の攻撃を繰り出す気迫を伴った緩慢さなのだ。
焦れているだけではなく、眼は義憤に、怒りに燃えていた。
完全教団の旧人狩りに紛れ、なんの前触れもなく現れては人々を殺して回る殺人鬼。
自身を『現人神』だと名乗り、屍で神道を作り上げる。
単独犯故にその行いを知る人間は少なかったが、その存在を知ってしまったエリは完全教団と同じくらいには、ムラクモの行いに激高していた。
軍のあらゆるデータ、それこそ機密情報までトレバーに頼み込んで探り、ついに辿り着いたのが、日本の陸自に所属する千家と言う男。
こいつが狂人か、と拳を握ったそのとき、トレバーが素っ頓狂な声を上げた。

『どうなってんスかこれ、こいつと同じ顔した人間のデータが山ほど出てきやがりましたよ!』

エリとトレバーはやがて辿り着いた、旧帝国陸軍武官、コードネームアカツキ零號、またの名を「ムラクモ」と呼ばれる男に。
ムラクモが自身を神と名乗る理由、行い、許されざる全てにエリは、やはり神はろくなもんじゃあない、と呻いてデータを頭のなか以外から消却した。


後ろの気配が震えた。当然か。
先程まで自分は一般人だとごねて、怒鳴られ、生きていたいという感情しかつかめない少女。
一体なぜか、それは今まで、強烈に生を求めたことがないから。
多分、『一般的』に言えば、悪いことじゃあない。幸せなことだったろう。この場所以外では。

「しゃんとしなァ!死にたくないんだろ!?」

怒鳴り声とともに、ガキィンと、金属が金属を受け止める音が響いた。
びくっ、と結蘭は顔を上げる。
ムラクモが抜刀し、エリのソードブレイカーがカチカチと音を立ててその凹凸のある刃先で刀を絡めとる、後ろ姿。

対峙する『軍人』達とは違う『一般人』の彼女は、恐怖に体が硬直していくのを感じた。
死にたくない、生きたい、恐ろしい。
反芻していく感情。しかし時間はいっかな留まってはくれないのだ。

一歩間違えば自身を切り裂きかねないそれらは弾き合い、エリは役場の奥に後退しながら銃弾を一発撃ちこむ。
常人であればその弾丸は到底避けられるものではなかったはずだ。勿論ムラクモも微動だにしていなかった。しかし。
バチン、突き出された空手の前に薄い光の気流の盾が出現しその弾丸を弾く。
翳していた手のひらを引くと同時に、もう一度刀が驚愕していたエリに振り下ろされる。
すんでのところで、またソードブレイカーはその盾の力を示した。
本来のムラクモのスピードであれば防御は間に合わなかっただろう。
なぜ動きが奇妙なまでにスロウになるのか、エリには知る由もなかった。攻撃が無力化されてしまった理由もだ。

324少女には思想を与えられず ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/27(水) 09:09:03 ID:GiF2Xm/E0
理解するために、結局悶着を三度要した。分かったのは、銃弾は無意味、ただそれだけ。
とうとう結蘭のそばまできた刃の合戦。
俄に、硬直していた脚が動き出す。逃げろ、体中の細胞が、脳が、結蘭にそう命令した。
生きるために殺しもできず、殺されたくもないなら、逃げればいい。
走って走って、どこまでも。
悲鳴すら出さずに、結蘭は走った、ここではないどこかに逃げてしまいたくて。
しかし、あるのは、つい先程まで座り込んでいた応接間だけ。

迫り来る恐怖に彼女は振り返る。

「そうか、それもありね」

四度目の結びのあと、エリは銃弾を撃たず、金髪をなびかせて結蘭の背を抱え室内に飛び込み、囲んで間もない卓を蹴り起こしてドアを封鎖した。

「あんたはソファを、バリはあるだけいい」

どうしてそこまで冷静なのか、結蘭には目の前の女も、攻めてきた男も化け物じみているとしか言えなかった。
無我夢中でソファを起こして、投げつける。
どれほど持つのかも、果たして男に効果があるのかも、結蘭には分からない。

「おかしいよ、あんたら、本当にどうかしてる」

素直に、震えた声帯。

「戦争は理不尽って、幼稚園児だって置かれた状況を理解するって、そんなの、あんたらみたいなやつらの理屈だろう」

助けて欲しかった、あれだけの言葉を瞬時に並べ立てて理念とする人間に。
しかし結蘭が助けを求めたのは、果たして人間だったのか?もっと、もっと恐ろしい化け物ではないのか?

「オレは嫌だ…殺すのも、殺されんのも……嫌だ」

逃げたい、逃げたい、昨日までの生活に逃げてしまいたい。
頭を抱え、うずくまってしまった結蘭を、エリはやけに落ち着いた心持ちで見つめる。
怒鳴る気力も、必要性も湧いてこない。

「だったら、逃げちまえばいいだろ」

深い溜息とともに、吐き捨てた。

「え……」

顔を上げた結蘭は、泣いてはいなかった。
どちらかと言えば怒っている、途方に暮れ果てた様子で。

「そのまんまだ、あんたは生きるために逃げ続けていればいい。そうそう、あんたは私達とは違う穏やかで模範的な『一般人』だったんだろ」

エリもまた、目の前の人間は自分とは違う世界で、夢を見ている『化け物』だと悟った。

「可笑しなことを言う」

抑揚のない、低い男の声。
初めて聞いたそれは、エリがムラクモと呼んだ男のもので。

「女、お前は人間に本当に区別があるとでも思っているのか?ならばそれは正すべき間違いだ。」

くつくつと笑い声が漏れる。全く感情のない、笑い声が。

「なんだ、テメェも自分は新人類で、旧人類は淘汰するっていうクチなのか?」

一応足止めには成功しているか、とエリは安心した。
そして小声で、結蘭に耳打ちする。

(あんたのデイパックの中身は?)

動揺はしたが、結蘭は無言でデイパックをエリに渡す。
エリが、音もなく微笑む。

「違うが、私は旧人も新人もなく、人間には等しく価値がないと判断している」

産業革命以降、爆発的に増えた人口。
その有様はもはや、人間は、害虫の如く駆除されるべき存在になったのだという天命だと、ムラクモの論説は響く

325少女には思想を与えられず ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/27(水) 09:11:49 ID:GiF2Xm/E0
(あんた…なんだっけ、まあいいや、逃げな)

か細く、しかしはっきりした声。

(そっちの窓から出られるでしょ、今ムラクモはこっちにしか興味がないみたいだから)

今もなお、ムラクモの狂気じみた言葉は続いていた。

(逃げて、逃げて、誰かに頼るなりまた喚くなりしていればいい。そのデイパックの中身さえありゃちょっとやそっとじゃ死なないわ)

窓と、エリを交互に見て結蘭は顔を歪めた。先刻とは打って変わった、優しいエリの口調。
あんたはどうするんだ、そう言いたかった。
でも目の前の人間は余りに遠い世界の人間で、結蘭にはどうすることも、何かを言う権利も無くて。

結蘭は、多くの『一般人』は深く知らない。
彼女たちが怯え逃げている間に、守るべく戦う人間たちを。
それがエリや、遥か昔のムラクモであったことを。
彼女たちの、『軍人』という職業であることを。

こくん、と結蘭が頷くと同時に、エリは怒鳴った。

「うるせぇんだよ!ご大層なおべんちゃら並べやがって、テメェの目的はなんだ!?この殺人鬼が!」

(死ぬなよ)

離れていく結蘭が最後に呟いた言葉。
もう少し時間があれば、ムラクモの襲撃さえなければ、彼女が恐怖に飲まれて後ずさってしまうことはなかったのかもしれない。
本来の結蘭を知らないエリは、完全な妄想だと一蹴したが。

「殺人鬼などではない、私は新世界秩序における現人神だ」

冷えきった声音とともににわか仕込みのバリケードが吹っ飛んだ。
室内に荒れ狂う真っ黒な、電撃の塊。
咄嗟に伏せたおかげで外傷は少なかったが、追い詰められた。
どん詰まり、袋小路、ひとりぼっち。

「どうやら、連れは逃げたようだな。いずれ殺すことに変わりはないが」

皆平等に殺して差し上げる。
かつて掲げた、今もはためかせるムラクモの正義。

「それは無理な相談だ、テメェみたいなキチガイは、今ここで私がおねんねさせてやるからな」

ただじゃあ、逃がさない。
結蘭のデイパックから1つだけ拝借した、手によく馴染むそれを隠し、エリは不敵に笑った。


少女は走った。言われたとおりに、どこまでも逃げようと。
だがしかし、行き止まりはいともたやすく訪れる。

全速力で走るため前すら見ていなかった結蘭が何かにぶつかりはじきとばされた。
人間かもしれない、敵か、味方か?

「ヒ…ヒヒ、神様ってぇのは、案外本当に居るのかもしれねぇなァ!」

あちらこちら焼け焦げた、赤いロングコートを纏ったサングラスの男。
目の前の男もまた逃げている最中だった。
追手は近く、おそらく絶望的な状況だったろう男、トリガーは幸運を掴み、少女、結蘭は絶望を掴まされた。

326少女には思想を与えられず ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/27(水) 09:14:15 ID:GiF2Xm/E0
【C-3/鎌石村役場/1日目・午前】
【エリ=カサモト@メタルスラッグ】
[状態]:軽傷
[装備]:ツァスタバ CZ99(13/15、予備弾30)、ソードブレイカー、煙草、手榴弾(1/1)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:殺し合いの転覆、PF隊を優先的に仲間を募る。


【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康、移動低下(時間経過で解除)
[装備]:菊御作、六〇式電光被服@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・状況]:自らに課した責務を果たす

【C-3/鎌石村西部/1日目・午前】

【結蘭@堕落天使】
[状態]:健康、放心状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、手榴弾(9/10)不明支給品(1〜2)(結蘭は自分の支給品を把握していない)
[思考・状況]
基本:生きたい。

【トリガー@堕落天使】
[状態]:軽度の火傷
[装備]:パイファー ツェリスカ(?/5、予備?発)@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)、トレバーの不明支給品(1〜3、武器ではない)
[思考・状況]
基本:殺して生き残る
現在:京、庵から逃走中


以上です。不備や問題がありましたらご指摘いただければ幸いです。

327 ◆LjiZJZbziM:2013/02/27(水) 17:11:40 ID:4Thdegx20
投下乙です!
軍人二人と一般人、日常と非日常。
そんな対比と殺し合い、っていうのが非常にマッチするもんですなあ。

さて、懸念されてる件ですが。
草薙京と八神庵から逃げている、という事実だけのキング・クリムゾン!! が起こっちゃってますが
ここは僕の俺ロワですし、オッケーオッケーで行こうと思います。
なんで逃げてるのか、とかまだまだ補完できる余地は一杯ありますからね。

ただまあ、他ロワとかではアカンケースが多いので頭の隅に置いていただければ!

てなわけで、草薙京と八神庵予約します。

328 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/02/28(木) 02:17:25 ID:GP/KgFhc0
ご見解有難うございます、次からはこのようなことがないよう留意させて頂きます。
ご迷惑をかけしてしまい申し訳ありません。

329 ◆LjiZJZbziM:2013/03/06(水) 00:09:10 ID:Tg98qIbo0
投下します

330ただ殺すだけでは満足できないから ◆LjiZJZbziM:2013/03/06(水) 00:09:49 ID:Tg98qIbo0
最初から分かっていたことだった。
地球意志すら焼き払う二人の業火が、来ると分かっている銃弾を焼き払うことなど造作もない。
息を合わせなくとも、互いが互いの隙間をカバーし合い、襲撃者である暗殺者を追いつめる。
いや、隙をカバーするという言い方は少しふさわしくないか。
二人は戦いの中でも相手の気のゆるみを探していて、隙あらば相手に攻撃せんとしている。
ただ、銃弾の手によってそれが阻まれることが多い、というだけ。
二人は互いしかほとんど視界に入れておらず、まるでことのついでと言わんばかりの扱いに暗殺者は憤怒していた。
だが、怒りは冷静さを失う。
戦闘において冷静さを失った人間に待っているのは、敗北の二文字だけだ。
暗殺者が大きく見せた隙に大技を叩き込まれ、痛手を負うことになった。
さすがに形勢が悪すぎると判断したのか、焼け爛れた皮膚を引きずりながら、暗殺者は逃亡を選んだ。
もちろん、京はそれを逃がさない。
殺さないまでも、二度と銃を握れない程度には痛めつけるつもりだったからだ。
だが。
「……ま、そうなるか」
それは、彼の側にいた男に邪魔されることになる。
襲撃者がいなくなったのを見計らい、今かと待ちわびていたように庵が京へと飛びかかった。
京は動かなず、ただ庵の動きをじっと見つめている。
そして庵の死神の鎌のような右腕が、京の首元へと振りかざされ、寸前でピタリと止まった。
それをあらかじめ予知していたのか、京も微動だにせず庵の眼を見ている。
ゆっくりと首元から手をおろし、庵は小さく呟く。
「フン……」
顔を逸らすように一言を放った後、再び京へと顔を合わせて言葉を続ける。
「他の奴はどう死のうが、知ったことではない。
 だが京、貴様には今死ぬより、もっとふさわしい死がある」
そこで庵は京を指さし、淡々と言葉を続けていく。
「京」
「なんだよ」
「俺の手を貸してやる」
「あ?」
予想もしていなかった言葉に、京は思わず庵をにらみながら聞き返してしまう。
フッ、と小馬鹿にするような笑みから続けるように庵は京へと提案する。
「苦しみにもがき、痛みに足掻きながら死ぬべき貴様が、下らんことで死なれては困るのでな。
 下らんことを考えている連中は俺が殺す、無論」
言葉を切り、どこかを見つめながら最後の一言を吐く。
「あの完全者とか言う子供も、だ」
「……そうかい」
その言葉達を受け止め、京も理解したのか、思わず笑みがこぼれてしまう。
今まで八神庵と接することは数多くあったが、こんなケースは生まれて初めてだったからだ。
自分が誰かに殺されるのが嫌だから、監視の意味も込めて自分の側で行動する。
そしてゆくゆくはこんなくだらない舞台に二人を呼んだ完全者を殺す。
少し方針は違えど、目指す場所は同じという奇妙な状況に京は再び笑う。
「じゃあ、遠慮なくこき使わせてもらうぜ?」
「なんとでもほざけ、京。残り少ない命をせいぜい楽しんでいろ」
悪友との会話のような一言を挟み、二人の足は動き出す。

【C-2/北部平原/1日目・午前】
【八神庵@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:京に自分の手で苦痛を与えて殺すため、この殺し合いを崩壊させる
1:京と行動、京を殺すものを殺す。

【草薙京@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らないが、襲い掛かるやつには容赦しない。
1:とりあえず庵と行動、コキ使う。

投下終了です。

331 ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 00:14:34 ID:z6ACVvvc0
投下乙です。
ナイス補完。
庵京コンビってドリームですよね。

エリ=カサモト、トリガー、ムラクモ、結蘭、予約します。

332名無しさん:2013/03/06(水) 00:24:21 ID:0qja8jXU0
投下おつ。

庵と京がこう組むかー!
宿命のライバルが目的一致で手を組むってシチュはやっぱり燃える!

333 ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 03:48:17 ID:z6ACVvvc0
投下します。

334救済とは神がもたらすものなり ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 03:49:37 ID:z6ACVvvc0
 ◇ ◇ ◇


 村役場に音が響き続けている/されど種類は少ない/せいぜい三種。
 足音/銃声/甲高い金属音/足音/残響を裂く銃声/甲高い金属音/残響を裂く銃声/甲高い金属音。

 無表情で近寄ってくるムラクモから距離を取りつつ、エリは眉をひそめる/なにかが脳裏に引っかかる/気味が悪い。
 違和感の正体=三度続いた同じ展開――走るエリ/振り返って指に力を籠める/撃鉄が雷管を叩く/銃口が弾丸を吐き出す/ムラクモが刀で弾く。

 明らかにおかしい――ムラクモ/旧帝国陸軍武官/自称現人神/アカツキ零號=旧人狩りに紛れていた殺人鬼/単独にて完全教団を思わせる被害を出す強者。
 その手際は鮮やかにして苛烈。
 極めて手際よく迅速に、かつ確実に命を奪う。
 そのムラクモが、この戦闘において後手後手に回っている。
 一度は袋小路に追い詰められたものの、頭を庇って強引に滑り込むことで潜り抜けられた。
 そうしていま現在は持久戦の様相を呈し始めているが、エリはどうにも素直に喜ぶことができない。

 彼女は軍人だ。
 安易な弱点に疑問を抱いてしまう。
 相手の意図を図ろうとしてしまう。
 相手の思惑を読み取ろうとしてしまう。

 だから、ムラクモの緩慢な動作を突くことはしない/できない。

 それが悪手であることなど知る由もなく、彼女のなかの最善を突き進んでしまう。

 足音/銃声/金属音。
 足音/銃声/金属音。
 足音/銃声/金属音。
 足音/銃声/金属音。
 足音/銃声/金属音。

 そんな三種の音だけの繰り返しは、唐突に終わる。

「――はっ」

 新たな四種目の音=ムラクモの短い笑い。

 エリが眉間にしわを寄せる/ムラクモを見据える/銃を持つ力が強くなる/なにも持たぬ左手を腰に伸ばす。
 腰にくくりつけてあるのは二つの武器=いきなりの接近にも対処できるソードブレイカー/持ち得る最大火力を誇る手榴弾。

「ようやく、か。
 ふん。彼奴の『眼』ほど疎ましいものも、そうそう他にない」

 エリの眉間に刻まれたしわが深くなる/思考が巡る/発言の意図を読む。

(『彼奴』……誰だ?
 結蘭ではない、だろう。おそらく。
 たしかにあの子の目は疎ましかったが違う。
 私が疎ましく思う視線でも、このキチガイにはそうじゃねえ。
 こいつにしてみれば、どんな人間の目だって変わらねえはずだ。
 だったら、いったい――)

 思考する間も視線はムラクモから決して外さない/まばたきも抑える/神経を尖らせる/一挙手一投足に集中。
 たとえ思惑が窺えなくとも、適切な対処は取らねばならない。
 引き金にかけた指を固定/どちらの武器も取り出せるよう左手は浮かせたまま。

 そんなエリの警戒は、まったく意味をなさない。

 これまでの緩慢さとは打って変わった俊敏な動作で、ムラクモは――ただ、思い切り踏み込んだ。
 ひび割れるリノリウム/床全体に走る亀裂/響く粉砕音/露になる床下のコンクリート/飛び散る破片。
 踏み込んだ勢いのまま高く上がる右足/遅れて左足で床を蹴る/今度は左足が高く上がる/上げていた右足を凄まじい勢いで下ろす/また左足を下ろす――その繰り返し=独特な走法。

「な……ッ!」

 予期せぬ動作と速度に、エリは思わず声を張り上げてしまう。
 それでも、彼女が生きてきたのは戦場=想定外の事態がいくらでも生じる場所。
 ゆえにたとえ驚愕していようとも、対処法を間違えることはない。
 肉薄してくるムラクモに銃口を向ける/引き金に力を籠める=銃弾が放たれる/ムラクモが刀を抜く/金属音=防がれる/エリが手榴弾を掴む/安全ピンを抜く。

「ンだとォッ!?」

 そうして手榴弾を投擲して、エリは再び声を荒げた。
 迫って来ていたはずのムラクモが、いつの間にか姿を消していたのだ。
 焦りを露にしながらも、エリは手榴弾の爆発から身を守るべくしゃがみ込む。

 炸裂する手榴弾/爆発音/溢れ出す爆炎/立ち込める黒煙/崩れる壁/割れるガラス。
 身を守りながらも気を配るエリ/その手には銃とソードブレイカー/迫る気配を見過ごす気はない。


「――――華と散れ」


 唐突な低い声/目を見張るエリ/声がしたのは無警戒な方向=背後/完全に不意を突かれた/反射的に動く暇さえ与えられない。

335救済とは神がもたらすものなり ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 03:50:04 ID:z6ACVvvc0
 
 
 ◇ ◇ ◇


 結蘭の脳内は、絶望で埋め尽くされている。
 エリに逃がされた時点では、たしかな目的を持っていた。
 それまではこの場でなにをしたらいいのか分からなかったが、とにもかくにも逃げようと思えたのだ。
 トリガーと名乗る赤服の大男に掴まったのは、その矢先のことであった。

(なにが間違っていたんだろう)

 これまでのことを思い返す。
 動転していると、学生服の少年に説教をされた。
 ダダこねてはにもしないつもりなら、もう話は終わりだな――と。

 正直に自分の思いを話したら、エリは激昂した。
 この期に及んでなにもしないで文句を言っているだけなら、そのまま死んじまえ――と。

(そのほうがよかったのか……?)

 あそこで死んでいれば。
 逃亡しようなどと思わなければ。

 トリガーに掴まることはなかったのだ。

(……そうだ。
 早く諦めて、命を絶つべきだったんだ)

 そうしていれば、分不相応なことを考えることもなかったではないか。
 どうにか逃げようとして、トリガーに全身を執拗に殴られることもなかったではないか。
 鼻の骨が折れる軽い音とともに、激痛が顔面中を走り抜けることもなかったではないか。

「…………死にたい」

 自分にしか聞こえない程度の小さな声で、そう呟いた直後だった。
 彼女自身も気付かぬ鮮やかな早業でもって、彼女の願いは叶えられた。

336救済とは神がもたらすものなり ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 03:50:23 ID:z6ACVvvc0
 
 
 
 結蘭の首に一筋の線が走る/首から上と下が分断される/遅れて溢れ出す血飛沫/くずおれる結蘭の身体/遅れて落下する首。
 落下音/立ち昇る砂煙/回転音/回転音/回転音/ほどなくして無音/砂煙も鎮まる。

「あ…………?」

 トリガーの口から零れ落ちる声=闇の世界に名を轟かす殺し屋とは思えぬ間の抜けたもの。
 半開きの口/状況認識できないがゆえの困惑/染み出す動揺。
 理由――入手したての『都合のいい道具』の喪失/再び『盾』のない生身/フラッシュバックする先の戦闘=完膚なきまでの敗北。

「……っ!」

 どうにか平静を取り戻す/取り戻さねばならないと自覚した。
 人が殺される=殺害した輩がいる=呆けてはいられない。

「ア、アンタ!」

 傍らに立つムラクモにようやく気付いて、トリガーは声を張り上げる。
 いつの間に肉薄していたのか/いかなる理由があって結蘭を殺したのか――そんなものはどうでもいい。
 いま現在重要視なのは、自らが生き延びることができるか否かである。

「俺も、他人を殺すつもりだッ! アンタと変わらねえ!」

 無反応だったムラクモがその足を止めた/なにも言わない/視線で続きを話すよう訴えかけている。
 胸中で安堵の息を吐くトリガー/生存が約束されたワケではない/まだ第一段階/油断は禁物/墓穴を掘らないよう言葉を選ぶ。

「結構な人数がここにいるのは、アンタも分かってんだろォ!?
 アンタ一人で殺すには時間がかかるけど、だったら一人じゃなきゃいいじゃねェかッ!」

 殺すのが不可能とは言わない――それは実力を見くびっていることになる/逆鱗に触れかねない/あくまで相手を立たせねばならない。
 いずれ不意を打って殺すにせよ、正面から殺せるとは思えない。
 冷静な戦力分析/殺し屋ゆえ。
 殺し屋=正面から戦うだけの輩ではない/いかなる手段を使ってでも対象を始末するスペシャリスト。

「ふむ……なるほどな。
 であるならば、お前は私の責務の障害にはならないだろう。だが――」

 ムラクモが目を細める/刀をトリガーに伸ばす/切っ先の延長線上にはトリガーの赤い一張羅。

「その服を見るに、生かして成果を出すとは思えんな」

 再び歩み寄ってくるムラクモ/トリガーは咄嗟に制する/止まらない/大声でまくしたてる。

「アンタは知らないかもしれねえが、ヤベぇくらい強ェヤツらがいるんだ!
 だから……アンタ一人じゃもしかしたらだが、まずいかもしれねぇ! だからこそッ!
 この俺と組むことで、そういうヤツら相手に優位に立ち回れるかもしれねえだろ!?
 アンタがいくら強かったとしても、状況を分かってねえ愚図どもに徒党を組まれちゃあ、万が一ってこともある!」

 啖呵を切るトリガーは気付かない。

 自ら、引き金(トリガー)を引いてしまったことに。


「やはり、貴様の『暴力』はたかが知れている」


 飛び散る微弱な青白い火花/漂うオゾン臭/掻き消えるムラクモの姿。

337救済とは神がもたらすものなり ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 03:50:48 ID:z6ACVvvc0
 
 
 ◇ ◇ ◇


「人間に神の心は忖度し得ぬ」

 デイパックを拾い上げてから短く言い残し、ムラクモはその場を後にした。

 未だ三人――果たすべき責務の完遂には程遠い。



【エリ=カサモト@メタルスラッグ 死亡】
【結蘭@堕落天使 死亡】
【トリガー@堕落天使 死亡】


【C-3/鎌石村西部/1日目・午前】

【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:菊御作、六〇式電光被服@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品×4、ツァスタバ CZ99(13/15、予備弾30)、ソードブレイカー、煙草、手榴弾(9/10)
     パイファー・ツェリスカ(?/5、予備?発)@現実、不明支給品2〜8(うち1〜3はトレバーおよびトリガー視点で武器ではないもの)
[思考・状況]:自らに課した責務を果たす。

338 ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 03:51:25 ID:z6ACVvvc0
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

339 ◆hqLsjDR84w:2013/03/06(水) 03:53:15 ID:z6ACVvvc0
ツァスタバ CZ99(8/15、予備弾30)


申し訳ない。
残弾数を上記に修正でよろしくお願いします。

340 ◆LjiZJZbziM:2013/03/06(水) 15:15:08 ID:Tg98qIbo0
ありのまま話す(略)
予約が来たと思ったら投下だった(略)
何チャチ(略)

投下乙です!
なんというか、機械的でいてそれでどこか人間らしくもあるムラクモも"殺戮"だなあと。
三者三様共に死にたくなかったわけだけど、救済からは逃げられなかった訳で。

341 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/03/15(金) 08:11:01 ID:6KdRwcBQ0
鼎、ブライアン・バトラー、モーデン兵を予約させて頂きます

342 ◆LjiZJZbziM:2013/03/15(金) 16:08:27 ID:nTzzBOT60
予約ありがとうございます!

月報データです、いつも集計お疲れ様です。
PW 43話(+10)  40/55 (- 5)  72.7 (- 9.1)

343 ◆LjiZJZbziM:2013/03/20(水) 21:12:06 ID:VPgBWwAI0
俺ロワトキワ荘全般のラジオがあるようです。

119 自分: ◆eVB8arcato[] 投稿日:2013/03/20(水) 21:09:21 ID:XGn86Doo0
ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1363781327/
ラジオアドレス:ttp://ustre.am/Oq2M
概要ページ:ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします

344 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/03/21(木) 08:44:39 ID:3YpZpxCA0
予約分投下失礼致します。鼎、ブライアン、モーデン兵です。

345状況は開始されている ◆ZrIaE/Y7fA:2013/03/21(木) 08:45:38 ID:3YpZpxCA0
ぞわり、背中を生ぬるい風が吹きぬけ、鼎は振り向く。
そこには何もないただの道だけが、歩いた量だけ後方に広がっていた。
眉一つ動かさず、すうと無意識の呼吸。
立ち止まり、前方見晴らす彼方は芒洋たる海原。
足元からかばかり歩けばざぶりと、高所からひと飛び、ひと泳ぎで今生とはおさらば。

「単純な脱出は不可能……ってとこかしら」

一人納得し、デイバックのなかから配布されていたタブレットをもう一度眺める。
彼女、鼎はまず地図を見てこの場所が孤島であると知らされ、疑った。
もしかしたら、脱出不可能という誤解を植え付けいたずらに殺し合いなどというふざけた催しを加速させているのではないかと。
結果、行き止まったのは紛れもない岸壁であった。
つまり、地図は疑うべくもないのか。否である。

確かにここは孤島なのだろう、地図も正確であろう。
しかし全ての崖が険しく、全ての道が閉ざされているのか、それは自分の目で見なければ確かめようがない。
鼎の目標は、完全者の鎮圧もあれど、より多くの人間をこの場、殺し合いから救出することだ。
そのために自身ができることとして浮かんだのが、『本当の島の姿』を調査することである。
完全者を討つにも、彼女の所在は、考えなくてもこの島以外だろう。

あるいは、鼎は人間に出会うことを望んでいなかったのかもしれない。
先刻の男のように、一般人に絡まれる程度ならまだしも、殺し合いを是とする連中と対峙してしまったら。
このような状況下なら無理もない、誰も乗らぬなど夢見がちな発想をするほど鼎の頭は温かくできていない。
殺す勢いで牙を向けられれば、こちらも覚悟を同じくせねば。
だから現在彼女の掲げる『救出』は、実のところ『厄介払い』でしかないのかもしれない。

但し全ては、言葉と行動の矛盾からくる憶測にすぎないのだ。首輪と言う、枷を念頭に入れないことも含めて。

「あら……?」

青と青の写し鏡から目を逸らさぬままタブレットをしまうと、かたりと落ちる何か。
完全者の言っていた支給品とやらか。鼎は確認するつもりもなかった(馬鹿げた催しを開いた張本人からの支給品だ、信用に足りるわけがない)それを拾い上げる。
小型の無線機、鼎がここに連れてこられる前、連絡用に携帯していたものによく似ている。
勿論同一のものではないだろう、どこと通信できるかも分からない。

捨て置いてもよかったが、胸元にしまっておく。
つい、癖で報告してしまいそうだな、と鼎はほんのりと目を細めた。

方針通り、鼎は北へ、崖沿いに進路を取る。
自身の位置は島の端、なればこのまま崖を調べていこう、そう判断して歩む。

こんな進路を取る人間はそうそういないとタカを括って歩いて、数分もしないうちに二人の人間にぶちあたる。
警戒するも、二人は呑気にこちらにやってきた。
おそらく先ほどの男と同種であろう。

「あんたみたいな女も巻き込まれているとはな……」

痛ましそうに、先に言葉を発した金髪の巨漢。
何かのスポーツ選手なのだろうか、会場からそのままここへ召喚されたような出で立ちに、疎いながらも推測する。

「あんた、ど、どっかで……あ、違うな、ごにょごにょ……じゃ、いやなんでもねえよ!本当お互いごしゅーしょーさまだな!」

正規軍だのなんだの小声で呟き青ざめたかと思えば、首を勢いよく左右に振って愛想笑いをする男。
ヘルメットに兵装、見慣れないものだが一応軍人のはしくれだろう。鼎は相好を崩さず。

「貴方は軍人なのかしら、それなら、そこの男性を保護して安全な場所で待機していてほしいのだけれど」

言われた男は、きょとんと鼎を見返すだけで。
代わりに金髪の巨漢が返す。

346状況は開始されている ◆ZrIaE/Y7fA:2013/03/21(木) 08:46:39 ID:3YpZpxCA0
「おいおい、あんたなぁ、いきなりすぎんだろうよ、大体こんなとこで安全な場所なんて……」

言い掛けて、淀む言葉尻。現実の再認識は、些か苦いものだ。

「確かに、ここは今危険地帯しかないわね……」

自分の言葉と思考の『矛盾』の幕が僅かに捲れた。
被害は最小に、民間人は保護して……安全に……安全は有り得ない場所で……。
状況判断に、些かの間違いもないはずだった。

「思い詰めるのも仕方ないと思うぜ……なんかあんた、いい人みたいだしなぁ」

軍人もどきが、うんうんとしきりにうなずく。

「俺だって、あの……完全者?だっけ、に連れてこられて、殺し合いしろーって眠らされたときは何したらいいかわかんなくなったけどよー」

ひょい、と目線は高い位置、見下ろす金髪の男とかち合う。

「だけど、起きたらなんとブライアン・バトラーと出会っちまったんだぜ!
 とんでもねえアンラッキーのなかで、こんなラッキーなことも起こるんだよな〜。
 あ、不謹慎なんて言ってくれるなよ、これはマジなラッキー。
 俺はブライアン・バトラーと一緒に完全者をやっつけることができるっていう大ラッキーなんだからなァ!」

興奮した様子でまくし立て、ふんすと鼻息ひとつ。
なんとも前向きな男だ。
しかし鼎は、ラッキーに冷たく言い放ったような言葉は返せなかった。
別に感銘を受けたわけではない、思考のなかに、一抹の不安が渦巻いていたからだ。

「どうした、なんか顔色がよくないぜ?」

ブライアン・バトラーと呼ばれた男が心配そうに鼎を見やる。

「いえ……ついさっき、貴方たちに言ったように『お願い』して置いてきた人が、気になっただけ」

振り向かなかったが、命に別状はないことは確実だ。鼎は、生ぬるい風を振り払い、飲み込む。
上がりだした緞帳は落として。

「とにかく、貴方は彼……ブライアン・バトラーを保護していてちょうだい。私は私なりにこの島を調べるつもりだから」

民間人と軍人を見つけられたのは、幸であり不幸だったかもしれない。

「あと、ここから南に下った辺りにいた男性も保護して貰いたいんだけれど」

もうどこかに行ったかもしれないが、せめて付け加えて。

「え?そりゃあいいが……って、名前ぐらい名乗っていけよ!」

すたすたと、迷いなく歩きだす背中に投げ掛ける。
やはり、振り向かず、彼女は答える。

「私の名前は鼎よ。どうか無事でいて」

誰に向けた言葉なのか。
じわじわと、その言動の無責任さは自覚せず鼎の体に染み渡る。

347状況は開始されている ◆ZrIaE/Y7fA:2013/03/21(木) 08:47:43 ID:3YpZpxCA0
「行っちまったな」


ブライアンは、止めるべきであったかと頬をかいた。

「ああ……南、だっけか」

鼎が歩いてきた量だけ続いた道を、二人の男が遡る。
岸壁でも海原でもない、道の途中の行き止まりに、両者は絶句した。
ひたひた、溢れることをほんの少し前に止めた赤い血溜まり。
そこに沈む、白んだ体。

「ラッキー!!」

絶叫し、駆け寄るブライアン。

「し、死んじまってるのか……?」

問われて震える背中と、ぐったりした奥の人間。

「認めたくはないが……な」

血を吐くように声を絞りだし、かっぴらいた眼を閉じさせて、悲痛な面持ちでチームメイトであった男を抱き上げた。
不作法に、衣服は血に冒される。


「いったい誰が、こんなことを」

夢を守るための出だしは、まるでそれを砕くようで。
あの鼎という女か?いや、違う。確証は一切ないが、わざわざ自分が殺した死体の確認などさせにいかないだろう。そういった悪趣味なことを好む人間だとも、考えたくはない。

ならば他に、手を下した殺人者がいる。
夢を奪う、殺人者が。

「ブライアン……」

道から離れた、海の見える岸壁のそばで、そっと遺体を下ろす。
埋めることは叶わない、そもそもこんなわけのわからぬ島ではなく、故郷に返してやりたい。本当は生きて、ともに。

地面に、仮初めの安置として、彼の名前を刻む。

潰えた旧知の夢を目の前にし、何を想うか。
彼が知りえた夢の涙は、まだ始まりでしかなかった。
生ぬるい風が、吹き抜ける。


【G-2/崖沿いの道/1日目・午前】
【鼎@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、小型無線機、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:現状把握、被害を最低限にして事件解決。
現在:北向きに進路をとってますが、騒動や異変を見つけたら進路変更するつもりです

【H-3/平原中央部/1日目・午前】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。

【モーデン兵@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:ブライアンについていく

348 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/03/21(木) 08:48:44 ID:3YpZpxCA0
以上で投下終了です。不備などがあればご指摘いただければ幸いです。

349 ◆LjiZJZbziM:2013/03/21(木) 11:44:33 ID:Svxn1Vaw0
投下乙です!
軍人らしい正確な判断が裏目にでがちな鼎さんの今後は……
そしてブライアンは早速死体とご対面か……

350 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 22:49:46 ID:H8Y3Iuv.0
いつも「Perfect World Battle Royal」をご愛読頂き、ありがとうございます。
さて、突然ですが本日は溜まりに溜まったお便りを読み上げつつ、お返事を返していくスタイルで行きたいと思います。

351 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 22:52:32 ID:H8Y3Iuv.0
Q:リロイングマンさんって誰なんですか? (高知県/7才/女性)

A:
           ___ }\ __
           >   `  ` ∠_       _
           ∠ _    _     \      l」}
.           ∠ └ '´  ` ┘  ゝ ヽ__   ノj !
           /  ( ・)} ( ・)  NこLL山彡' ノ   Sorry 悪いが 聞こえないよ。
          {/   (__,_う_    ヽ-{了-┬''´
  r‐r-、     _,{/ / /  ヽ、 \  }┤  |
  E「ヽ  ̄ ̄  Ⅳ し O  し,  丶    ノ
 └― ‐-  ,,__| | }  `´   し  } 丁´
             レし1      | し'   |
              |  |   {{   |    N
             {  {       |    }

           ___ }\ __
           >   `  ` ∠_       _
          ∠ ┌-、 <丶   \     l」}
.        _  ∠   ̄     ´  ゝ ヽ__   ノj !
    〔[[.し レ、/  ( ・)} ( ・)  NこLL山彡' ノ   耳に バナナが入っててな。
.      { こ/´{/   (__,_う_    ヽ-{了-┬''´
.     }   |_{/ / /  ヽ、 \  }┤  |
.      |  `  Ⅳ し'^マ ヲ し  丶    ノ
        、 __| | }   `   .し  } 丁´
            レし1       | し'   |
              |  |   {{   |    N
             {  {       |    }

352 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 23:03:08 ID:H8Y3Iuv.0
Q:感電マンってどんな人なんですか? (茨城県/45歳/男性)

A:ttp://www34.atwiki.jp/odiobr/pages/71.html

なおこの質問タイムはリアルタイム投稿も受け付けております

353 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 23:18:03 ID:H8Y3Iuv.0
Q:エアガイツのお勧めキャラを教えてください (21歳/北海道/男性)

A:
スタートラインに立つのが非常に難しいゲームです。
まずは家庭用で基本操作を覚えましょう。
・ガードを押しっぱなしにして移動する
・歩き、走り、しゃがみ それぞれの状態で使える牽制技を上中下それぞれ把握する。
・ジャブで固めて潰していこう
・インタラプトは連携とかで試してみよう
・必殺技はおちついて避けよう
・投げぬけはやって覚えましょう
ttp://www48.atwiki.jp/ehrgeiz_ac/pages/51.html
ttp://www48.atwiki.jp/ehrgeiz_ac/pages/37.html

Wikiにある程度の参考材料を載せてあります。

354 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 23:19:00 ID:H8Y3Iuv.0
途中送信してしまいました。

初めてエアガイツを触る方にオススメなのはティファ、ゴッドハンドあたりでしょうか。
陽子、クラウドなんかもいいかもしれません。

逆にナジーム、ジョー、韓はちょっとオススメできません。(テクニカルなので)

355 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 23:28:08 ID:H8Y3Iuv.0
Q:本当は書き手枠でロースおじさんを出そうとしてたって本当ですか?

A:はい

356 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 23:36:13 ID:H8Y3Iuv.0
Q:仕事が始まりましたね

A:はい

357 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 23:51:36 ID:H8Y3Iuv.0
Q:

A:

358 ◆LjiZJZbziM:2013/04/01(月) 23:54:52 ID:H8Y3Iuv.0
Q:エアガイツ仮面って何者なんですか?

A:次回コーハツ対戦会は未定です。
  ミカドのフリープレイ対戦会(参加費無料)は4/21(日)の12時〜18時のようです。

359 ◆LjiZJZbziM:2013/04/02(火) 00:04:52 ID:0n9vc7iY0
お便りコーナーおしまい

また来年

360 ◆LjiZJZbziM:2013/04/02(火) 18:34:09 ID:tpiKVC8o0
シェン、ベティ、鼎予約します

361 ◆LjiZJZbziM:2013/04/03(水) 23:12:15 ID:RgoOowc20
投下します

362白い悪魔が笑う ◆LjiZJZbziM:2013/04/03(水) 23:12:48 ID:RgoOowc20



どさり。

鬼瓦寅男の体が、額に穴をあけて倒れる。

ぱりん。

軽い音を立てて鬼瓦寅男のデイパックの何かが割れる。

ずるり。

なにかが、染み込んでいく。

ばしゃん。

雷が、落ちた。


.

363白い悪魔が笑う ◆LjiZJZbziM:2013/04/03(水) 23:13:05 ID:RgoOowc20
「よォ」
最悪の出会いだった。
鬼瓦寅男を射殺する際に仕留め損ねた男と、出会ってしまうなんて。
初めの場所であのままじっとしていても、男に出会うのは分かっていた。
だから先手を打って移動を開始していた。
が、運悪くも"一番会いたくない相手"にばったりと出会ってしまった。
手にはライフル、どうあがいてもいいわけができない状況。
だが、ベティは動じない。
どんなに絶望的な状況でも、冷静に分析して動くことを知っているから。
コキコキと首と手を鳴らしている男の足下に滑り込むように、一本の筒を投げ込む。
「あん?」
不審に思う間もなく、筒はすごい勢いで煙を吐いていく。
男の視界を瞬時に塞ぎ、方角を失わせていく。
これでいい、この隙に自分は逃げるだけだ。
ベティは恐れることなく背を向け、ひたすらに男のいた場所から走って逃げていく。



「――――ッドラアアアッッ!」
真横を通り抜けるのは爆音の咆哮。
圧縮された空気が破裂し、ベティの体を押し退けていく。
不運は一つ、出くわした場所から逃げる方向が一つしかなかったこと。
筒が投げ込まれた方向をしっかりと記憶していた男、シェンもまたあわてることなく気を練っていた。
あとは筒の投げ込まれた方角へと、突き抜けるだけ。
「チッ、外したか……」
とはいえ、大体の方向しか分からない状況では、目視で向かうのとはやはり雲泥の差がある。
拳が空を切ったのを確認したシェンは、足が震えながらも自分を睨みつける女を睨む。
ベティは震える足を押さえながら考える。
背には煙の世界、目の前には近接戦闘の鬼。
考える、考える、考える。
「そこまでよ」
響きわたる、第三者の声。
ぴしゃりと言い放った声の正体は、制服に身を包んだ女軍人、鼎。
その手に構える銃の向かう先は、シェンの頭。
「あァ?」
「民間人を襲うというのなら、暴徒と見なすわ」
凄みを利かせながらも睨み返すシェンに動じることなく、鼎は淡々としゃべり続ける。
「ハッ、軍人様はいつの世も難物ばっかってか」
溜まった虫酸を吐き捨てるように、シェンは言葉と唾を吐き捨てる。
「まァ、楽しめりゃあなんでもいいか」
だが、不快感を露わにした顔は、瞬時に笑顔へと変わる。
自分に正面から銃を向けるような奴は、しばらく出会っていなかったから。
高鳴りを押さえることなく、シェンは瞬時に風になる。
「早く逃げなさい」
襲いかかるシェンを視界から逃さないようにとらえながら、鼎はベティに告げる。
暴徒鎮圧に時間はかからないとはいえ、危険には変わりない。
早々にここから立ち去るように促し、ベティも言われるがままにその場を立ち去っていく。
それを確認してから、鼎は正面へと意識を集中する。
もう、眼前まで迫っている拳に対して。
彼女は、表情を崩さない。

364白い悪魔が笑う ◆LjiZJZbziM:2013/04/03(水) 23:13:15 ID:RgoOowc20



「九死に一生、ってとこかしらね」
絶体絶命の状況から、見事逃げ仰せることに成功したベティは、かなり離れた場所で一人つぶやく。
ああいう正義感気取りの人間は、利用しやすい。
貧民街からのし上がるときだって、正義面した連中を手玉にとって。
自分が危なくなると分かれば手のひらを返すが、そのときにはもう遅い。
まあ、そんな連中を存分に養分にすることで、ベティ・ドーという一人の人間が成り立っているといっても、過言ではない。
「次は、失敗しないようにしなくちゃ」
ライフルを携えながら、彼女は不適に笑う。
この場所でも生き残るのは、自分だ。
後の正義面した連中は、みんな自分の養分なのだから。



世界が、浮いた。
それはもう、軽く、ふわりと浮いた。
伸ばしたはずの拳は違う方向へと向き、気の流れに乗るように吹き飛ばされる。
腕に引かれるように体も舞い、空中へと旅立っていく。
シェンが突き出していたのが拳だったならばそうなっていただろう。
鼎は拳か足刀しか来ないと、初めから決め打っていた。
結果としてはそれが悪手になる。
なぜなら、シェンは。
「うン……ォラッ!!」
全体重と物理学の法則を全て乗せ、その全てを頭に注いで振り下ろした。
予想外の攻撃に、鼎は体内の気を大きく乱される。
通常以上のダメージを負うことになり、大きく距離を離すことになる。
もちろん、休む時間など無い。
立て続けに襲いかかってくる拳をやりすごし、足刀を受け止める。
一度崩した体勢というのはなかなか元に戻らないもので、鼎は劣勢のまま立ち回ることを余儀なくされる。
「ぐっ……ぁ」
連撃を捌ききれず、ついに重いのを一発受け取ってしまう。
腹部にずしりと衝撃が走り、ふわりと体が浮く。
「オオオオオオオオォッッ!!」
怯んだ隙に、シェンはここぞとばかりに気を貯めていく。
このまま当て身の構えも取ることなく、鼎は一撃をもらってしまっていただろう。
帝国陸軍に伝わる、あの構えさえなければ。
「はっ!!」
体を介して相手の力を受け流し、気の流れを変える空気投げとは違う、もう一つの反撃の力。
体内に宿る気を障壁として張り巡らせ、相手の攻撃を無力化して弾きとばす、陸軍伝統の構え。
空気投げほどの力は持たぬものの、どんな"剛"ですらも捌ききるこの構えは、今はこの上なく心強かった。
「チッ……攻勢防禦、か」
吹き飛ばされたことを認識し、口についた血を拭ってシェンは吐き捨てる。
いつぞや黒手会の勧誘を受けたときも、そんな構えを操る女が居た。
細かい仕組みはちがえど、やっていることは同じだ。
「こりゃ、楽しくなりそうだな……!!」
だが、シェンは笑う。
戦いが楽しくなるのならば、何でもいい。
思う存分拳をふるう場所があれば、それでいい。
意気揚々と再び地面を蹴り、鼎へと向かっていく。

365白い悪魔が笑う ◆LjiZJZbziM:2013/04/03(水) 23:13:32 ID:RgoOowc20



その瞬間。
両者のちょうど真横の民家が、大きな音を立てて崩れさる。
舞い上がる煙と共に現れたのは。

「ぐるるるぅうぉおおああぁ……」

先ほど、脳に穴をあけて死んだはずの鬼瓦寅男だった。



ある場所にカバンが落ちている。
その中の一つの瓶が割れている。
夢物語の"ゾンビ"を実現させた瓶が。

割れている。

【G-2/北部/1日目・午前】
【シェン・ウー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(大)、爆真(地味に継続中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:ケンカを楽しむ

【鼎@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、小型無線機、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:現状把握、被害を最低限にして事件解決。

【鬼瓦寅男@堕落天使】
[状態]:ゾンビ@メタルスラッグ
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本:

【ベティ・ドー@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:レミントン RSASS@現実(18/20、予備弾10発)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:どんな手段を使ってでも生き残り、最後の一人になる

366 ◆LjiZJZbziM:2013/04/03(水) 23:13:46 ID:RgoOowc20
投下おしまい

367名無しさん:2013/04/03(水) 23:28:38 ID:o5EbRuGk0
投下乙です
鼎さんやっぱり行動が裏目に出ちゃうかー…
そして鬼瓦先生がもっと蝿と仲良くなれそうな身体にw

368 ◆LjiZJZbziM:2013/04/07(日) 00:29:11 ID:pGX8fTuI0
支給品表記おかしかったんでウィキで修正しまうま

369 ◆LjiZJZbziM:2013/04/11(木) 08:07:27 ID:fuLAlfxE0
K′ ネームレス シェルミー ラピス予約

370 ◆LjiZJZbziM:2013/04/16(火) 22:56:48 ID:uGTaKMDU0


371 ◆LjiZJZbziM:2013/04/16(火) 23:00:11 ID:uGTaKMDU0

ヒュウウ、と冷たい突風が吹き。
バサバサ、と黒いマントが靡き。
ジュボッ、と二つの炎が宿った。

二人が出会うことは、ほとんど決まっていたようなことだった。
K'は半島に向けて南へ、ネームレスは半島から北へ。
道は一本、避けられる道などあるわけもない。
出会い頭にK'は、白く光るグローブについた赤い血を見て確信する。
先ほどの男を殺したのは、こいつだと。
同時にネームレスは歓喜する。
写真上のデータでしか知り得なかった宿敵が、今目の前にいるのだから。
今日はお日柄もよく、晴れ晴れとした殺し合い日和ですね、なんて言葉を交わすこともなく。
K'は右手に炎を宿し、ネームレスはイゾルデを構え、戦いへと向かっていく。
交錯する赤と黒の炎。
一瞬にして周囲は焦土と化し、炎が轟々と燃えている。
「さすが裏切り者、それなりの力はあるか」
「ケッ……テメぇ、組織の人間か」
ネームレスの言葉に、K'は眉を顰めながら反応する。
裏切り者、と彼のことを呼ぶのはあの組織の人間だけ。
ならば、容赦をする必要はない。
K'は弱めていた炎を強め、振りかざしていく。
ネームレスもK'の様子を見て、もう一度イゾルデを構え直す。
もうこれ以上、言葉は必要ない。
あとはどちらが最後に立つか、それだけ。

巨大な火の輪を発生させ、回し蹴りでその炎を飛ばしていく。
もちろん、ゆったりと進む炎はネームレスを包み込むことはない。
横に避けることをせず、宙を舞うことで一気に距離を詰めていく。
K'もバカではない、むしろ飛んでくることを狙っていた。
再び火輪を起こし、今度は宙に向かい蹴り上げる。
殻に閉じこもるかのようにそびえ立つ炎の壁を、ネームレスは体勢をよじることで無理矢理回避していく。
その隙を、K'は逃さない。
三度目の火輪から、今度は自身の足にそれを纏い、自ら突撃していく。
無理矢理着地したネームレスは体勢を整える間もなく、炎を纏った蹴りを浴びてしまう。
「どうしたってんだよ、オラッ!」
地面を無様にも転がるネームレスに、K'は威勢良く食いかかっていく。
同時に黒くうっすらとK'の姿が消える。
そして黒の世界から、素早くネームレスの背後を取っていく。
ノータイムで手を振りかざそうとした、その時だ。
「……この程度か」
「あぁ?」
ぼそりと呟かれた声とともに、ネームレスが"抜刀"し、黒い炎の渦が地面に巻き起こる。
不意をつくつもりが、不意をつかれてしまったK'はその黒炎をもろに浴びてしまう。
「この俺には、貴様と草薙京の血が流れていると聞く」
飛び退いて炎をもみ消すK'を、ネームレスは冷ややかな目で見つめる。
更にK'に聞こえるように大きくため息をつき、言葉を続ける。
「"始祖"(ルーツ)の一人がこんな火力だと知って、少し幻滅しているだけだ」
「てっ……めェッ!!」
明らかな挑発、そしてK'はそれに怒りを露わにしてしまう。
安っぽい挑発だとは分かっていても、乗らずにはいられない。
飄々とした顔で人を殺している、目の前の奴にだけは。
ナメられる訳には、いかなかったから。
ギリリ、と歯を鳴らしながら、K'は四度目の火輪を起こす。

372赤と黒が舞う ◆LjiZJZbziM:2013/04/16(火) 23:01:21 ID:uGTaKMDU0
「散れ」
それを見ていたネームレスが、右腕を素早く横に薙ぐ。
同時にK'の眼前で爆発が発生し、火輪ごと吹き飛ばされてしまう。
今度はK'が無様に転がることとなった。
浅黒い肌には真新しい焦げが増え、所々からは赤い血が流れている。
ネームレスはそれを見逃さず、今度は地面から素早く寄っていく。
イゾルデをドリル状に変化させ、K'の肉体を抉り取ろうと延ばしていく。
「ケッ、それがテメぇの気味悪ぃ力か!」
「……ッ!!」
睨み付けながら吐いたK'の言葉に、珍しくネームレスが反応した。
生まれた好機を無駄にしないよう、地面を擦るように炎を起こし、続けてアッパーから肘打ちに繋げるように空へと舞っていく。
だがネームレスもそれをただ黙って食らうだけではない。
変形した右手をまっすぐと伸ばし、K'の目を抉らんと延ばす。
互いの攻撃が互いにすれ違い、傷を与える。
K'は傷を押さえながら着地し、ネームレスも火傷を押さえ、K'を睨む。
「……この名を侮辱することだけは、許さん」
二人が出会ってから初めて見せる、怒りの気。
どう控えめにみても怒っていると分かるそれを前に、K'はふてぶてしく笑った。
「ケッ、"無機物愛者"が……」
「彼女は生きているっ!!」
吐き捨てたK'の台詞に、ネームレスはより強く反応する。
右手のグローブを貶されるということ、それは"イゾルデ"を貶されるということ。
彼にとって等号で結ばれる苦痛を、K'は平然と投げつける。
「もういい、朽ち果てろ"裏切り者"!!」
押さえきれない怒りを爆発させるように、ネームレスは駆けだしていく。
それに対しK'は、ふぅ、と煙草の煙を吐くように一息つく。
次の瞬間、ネームレスの眼前にふんわりとした速さで何かが迫ってきた。
ネームレスは顔色の一つも変えず、それを弾き飛ばしていく。
「前も見えねえか」
小さく、ぼそりと呟くような声が同時に届き。
伸びきった肘が自分の胸をしっかりと捕らえていた。
「しまっ……」
「行くぜオラァッ!!」
振りかざされる右手から迸る炎とともに、K'は連撃を加えていく。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
右、左、右、左。
下、上、下、上。
足、手、足、手。
体全身を使った流れるような攻撃を、ネームレスはただ受けることしかできない。
「どうしたッ」
戦いを終わりへと導く拳を叩き込むため、ネームレスの腹部にブローを突き刺していく。
「あぁ――――」
「図に乗るな」
そして最後の一撃を決めようとした時、光を放ちながら解き放たれる"何か"が見えた。

373赤と黒が舞う ◆LjiZJZbziM:2013/04/16(火) 23:01:49 ID:uGTaKMDU0



「……くっ、思った以上に消費したか」
わき腹を押さえ、動きだそうとするネームレス。
遠くには倒れたK'の姿がある。
K'に制御グローブがあるように、ネームレスにとっての制御グローブはこの"イゾルデ"だ。
それを解き放つことで、K'同様に止めどなく燃え盛る炎を出すことができる。
自身の消耗と引き替えに、だが。
組織を壊滅させた男には、やはりその程度の消耗は必須だったという事か。
ネームレスは無傷で勝てると思いこんでいた自分の甘さを、心の中で反省する。
「待て、オ、ラ」
そこから立ち去ろうとした彼の足を、引き止める一つの声。
傷だらけの体に鞭を打ちながら、K'はゆっくりと起きあがる。
「ほう、まだ動くか」
だが、ろくに戦える状況ではない。
立ち上がる足は生まれたての子鹿のように震えているし、息も大きく上がっている。
宿敵とはいえ、一人の人間……いや、クローンか。
苦しまずに葬ってやるのが、せめてもの礼儀だろう。
「喜べ、俺がトドメを刺してやる」
ネームレスはイゾルデを再びドリル状に変化させ、K'へと走り寄っていく。
そしてまっすぐ、まっすぐに。
K'の胸元をめがけて、ドリルを伸ばした。



「はぁ〜〜〜〜い、ストッ……プ♪」
突如割って入る雷球。
ネームレスの目の前で弾けるそれを、素早く後ろに飛び退くことで避けていく。
即座に反撃しようと声の方へイゾルデを抜き、爆発を引き起こす。
「んもぅ、せっかちさんは早死にするわよ」
爆発を間一髪のところで避け、女性は怪しく笑う。
ようやく追いついたニット帽の少女が状況を理解する前に、かばうように前に立つ。
「悪いけど」
そして――――かつての仲間の少年のように、手を口に当て。
「彼は渡せないわ」
不敵に、笑った。

【I-9/北東部/1日目・午前】
【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜5)
[思考・状況]
基本:一刻も早い任務への復帰のために皆殺し

【K'@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身に火傷
[装備]:制御用グローブ
[道具]:基本支給品、ビーフジャーキー一袋、不明支給品(ターマの支給品を含む。1〜3)
[思考・状況]
基本:借りを返すため、完全者と戦う
1:目の前で死んだヤツ(ターマ)の仇を取る

【ラピス@堕落天使】
[状態]:え、ちょ
[装備]:一本鞭
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:首輪解除から完全者をシメる、そんでこの場から脱出。
1:ちょ
2:シェルミーととりあえず行動。改竄された歴史に興味。

【シェルミー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生を謳歌するため生き残る、襲われれば容赦はしない。完全者にお仕置きをする。
1:K'を保護、目的は――――
2:ラピスととりあえず行動。

----

ご意見ご感想なんでもどうぞ!

374名無しさん:2013/04/16(火) 23:17:19 ID:BmEajdNI0
投下乙です
乱舞入ったときK'勝った!と思ったけどそんなことはなかった
助けに入ったシェルミーさんの意図が気になります
そしてややこしい状況に巻き込まれたラピスの明日はどっちだ

375 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/17(水) 02:06:51 ID:WlfHhZeY0
投下乙です。
シェルミーさんかっこいい!

クーラ・ダイアモンド、アドラー、結蓮、テンペルリッター(四番隊隊長)予約お願いします。

376 ◆LjiZJZbziM:2013/04/17(水) 12:24:24 ID:4oEYBsZs0
予約ありがとうございます!!
フィオ、ジョン、アカツキ、ヴァネッサ予約します

377 ◆LjiZJZbziM:2013/04/21(日) 22:02:03 ID:7g2xdrYc0
投下します

378そんなん考慮しとらんよ ◆LjiZJZbziM:2013/04/21(日) 22:07:41 ID:7g2xdrYc0
麦の香りと新鮮な野菜の食感がたまらないサンドイッチ。
それに上品な香り漂う紅茶と、燦々と輝く太陽と来れば、ピクニックとしては最高の環境だ。
だが、そんなピクニックの環境を台無しにする"殺し合い"という舞台。
そんな中で"ピクニック"をしようとするのは、彼女なりの反抗なのだろうか。
そんなことを考えながらも、ジョンはサンドイッチを口へと放り込んでいく。
食事が美味い、というのはどんな状況下でも幸せな出来事で。
自然と頬は綻ぶし、気持ちにも余裕が生まれてくる。
「……おっ」
そんな中、微かに聞こえてきたのは優しい歌声。
まるで喫茶店の一室のように、おしゃれな曲が流れている。
「こんな殺し合いで歌うような奴なんて、どんな歌姫なんだか、会いに行ってみたいねえ」
そう、歌うという行為はこの上なく目立つ。
しかもここまで聞こえてくると言うことは、間違いなく増幅された歌声。
これを聞いているのは、自分たちだけではないと言うことだ。
「ダメですよ、ジョンさん。
 不特定多人数が集まる可能性が高く、乱戦になるのが目に見えてます。
 危険に首を突っ込みたいなら、話は別ですけど」
冗談半分にケラケラと笑うジョンを、フィオはサンドイッチをほおばりながら静かに窘める。
ただの日和見軍人かと思いきや、そうではないらしい。
ピクニックシートを広げてくつろいでいた先ほどとは、全く違う気迫で自分に話しかけている。
嫌と言うほど落ち着いている、落ち着いているからこそ食事なんて取れたのだろうか。
「けど、歌につられて間違いなく誰か来る。
 仲間を募るにゃあうってつけの場所じゃねえのかい?」
「集まるということは、一つの的になると言うことです。
 自殺行為にも等しいですよ」
「……なるほどな」
なんとなく続けてみた二の句にも、完璧に対応してみせる。
どうやら、雇い主に対して少し認識を改めなくてはいけないようだ。
考えも……先ほどよりかは少し読めなくなってきた。
そんなふうにジョンがひとりでに感心しているのをよそに、フィオ手際よく口を拭き、紅茶セットを片づけていく。
「あの歌声から外れるように向かいましょう、比較的安全に行動できるはずです」
至って冷静な声で、至って冷静な判断を下す。
ともかく、雇われている以上は彼女がクライアントだ。
「了解」
短く返事をし、クライアントの後ろをついていく。

379そんなん考慮しとらんよ ◆LjiZJZbziM:2013/04/21(日) 22:07:58 ID:7g2xdrYc0



がつ、がつがつ、がつがつがつ。
豪快な音を立てて食事は続く。
いや、食事をしているのは一人だけなのだが。
アカツキは無心で巨大なベーコンブロックにかぶりついていく。
本来生で食べるものではない筈なのだが、彼にとってはそんなことはどうでもいいのか。
"武器"として支給されていた肉の塊が、こんな形で役に立つとは、彼女自身思っていなかった。
携帯食料は出来れば今後のために取っておきたい、というヴァネッサの願いも叶え、アカツキの腹も満たす、最高の選択。
なんだかんだでビールのプルタブを空けてしまったので、流れで一缶ほど空けたが……。
正直、食べっぷりが気になりすぎて、酔っている場合ではない。
軽く見積もってもkgはあったであろうブロック肉が、瞬く間に消えていくのだから。
「ふう……」
アカツキは赤い袖で豪快に口を拭い、油分を落としていく。
「満足いただけたかしら」
「かたじけない」
表情こそはマジメなものだったが、雰囲気は少し柔らかくなっていた。
続けて、アカツキはぺこりと頭を下げた。
「世話になった、失礼する」
「ちょっと待って、折角会えたって言うのに離れることないじゃない」
服の埃を素早く払い、足早にどこかに立ち去ろうとするアカツキの足を、ヴァネッサは引き留める。
アカツキは振り向かずに、ヴァネッサへと告げる。
「これは特秘の任務だ、民間人を巻き込むわけにはいかぬ」
任務とは、先ほどアドラー言っていた事か。
電光機関の破壊、それはどれほどまでに彼を縛り付け、動かしているのか。
この"殺し合い"よりも、遙かに重要なことなのか?
「……それより、先にやることあるんじゃない?」
振り向いてもらえるように、わざと含みのある言い回しをする。
予想通り、アカツキがちらとこちらをみる。
その目に映るように、ヴァネッサはトントンと首に付けられた物を叩く。
「目的が有るのはわかったけど、それを成し遂げるために道を見失っちゃ、出来る事も出来っこないわよ?」
ヴァネッサの言葉に導かれるように、アカツキも首に手を当てる。
ひんやりと冷たい金属、それは自分の命を握っている。
あの女がその気になれば、自分などいつでも殺すことができるのだ。
「それでも自分は、課せられた責務を果たさねば」
現実を噛みしめた上で、アカツキは再びヴァネッサに言い放つ。
枷を付けられようと、身が滅びようとも、自分には成すべき事がある。
真剣な眼差しに再び変わったことを見て、ヴァネッサはため息を一つつく。
「ふぅ、酔っぱらいより状況見えてないなんて、呆れちゃうわね」
皮肉めいた言葉を受けながらも、アカツキは立ち去ろうとする。
「この場所にいたら、終わらないわよ」
その足を、まるで釘を打ち込むかのように引き留めていく。
「電光機関は世界中に点在する、それを破壊するためにはまず、疑似的に閉じこめられているこの状況を打破しなくちゃいけない。違う?」
アカツキの責務は全ての電光機関の破壊。
それが世界中に点在する以上、ここに閉じこもっている時間などはない。
正しく、鋭く、そして一般人には知り得ない事に、アカツキは冷静に返答をする。
「なぜ、電光機関のことを……」
「職業柄、そういうことには詳しいのよ。まぁ、話しか聞いて事はないけどね」
アカツキが気になっていたことを、ヴァネッサは上手にはぐらかしていく。
が、アカツキにも"特秘"を掴んでいる存在には心当たりがある。
おそらく、彼女もその類だと、一人で結論づける。
つっこまれないことにホッとしたのか、ヴァネッサは言葉を続ける。
「とにかくまずはこの殺し合いの打破、これが先決よ。
 お互いの目的を果たすためにも、いつまでも首輪につながれたワンちゃんじゃダメですもの。
 もし、その道中に電光機関があるなら、思う存分壊せばいいわ。
 私は、その部分には関わらないから」
すっかりこちらへ向き直り、真剣な面持ちで話を聞くアカツキに、なぜだか思わず笑いがこぼれてしまう。
疑問を抱き彼が首を傾げる前に、ヴァネッサは話を続ける。
「じゃあ、改めてお願いするけど。
 この殺し合いを"ブッ壊す"、それに協力してくれないかしら?」
「……承知した」
「物わかりが良くて助かるわ」
ねばり強い説得の甲斐あってか、アカツキはすんなりと交渉に応じた。
一缶とはいえ、アルコールを入れたせいか、不思議といつもより上機嫌である。
だが、心地よい感覚に包まれている暇はない。
具体的な行動案や、これからのプランを立てなければいけない。
まずは、どうするか。

380そんなん考慮しとらんよ ◆LjiZJZbziM:2013/04/21(日) 22:08:23 ID:7g2xdrYc0



「――――ッ!」
それを、考え始めたときである。
アカツキとほぼ同時に反応し、振り向いていく。
感じ取った二つの気配に向けて、同時にファイティングポーズを取る。
「あ、待ってください。私たちに戦闘の意志はありません」
聞こえたのは冷静ながらも、おっとりとした耳に馴染みのある声。
いつだったかの任務はハイデルンを通して彼女と共にこなしたこともある。
「お久しぶりです、ヴァネッサさん」
手を挙げながら陰から現れた眼鏡の少女が、自分の名前を告げる。
「なぁんだ、フィオちゃんじゃな――――」
安堵した表情を浮かべ、アカツキに合図を送りながらヴァネッサも柔和に返そうとした。
そのときだった。
フィオの後ろから、ひょっこりと一人の男の姿が現れる。
「ゲッ!?」
「はぁっ!?」
ヴァネッサと男の声が同時に鳴り響き、その表情が共学に満ちたものとなる。
互いの額に無数の脂汗が滲み始め、酸素の足りない魚のように口をパクパクとさせていく。
「へ? え?」
「……ヴァネッサ?」
「バッ――――」
状況を理解できないフィオは頭にクエスチョンマークを浮かべ、アカツキは正直に"ヴァネッサ"へと問う。
その名前を告げられてはいけないのだが、一歩遅かった。
フィオの後ろに立っていた男は、アカツキの呟いた名前で全てを理解し。
口をパクパクと高速で開閉させながら、そのまま後ろに卒倒してしまった。
「最ッ悪……」
凍り付く空気、飲み込めない現状に誰しもが固まる。
ただ一人、ヴァネッサを除いて。
「えっ、ええええっ!?」
ようやく状況を飲み込んだフィオが、あわてて卒倒した男へと駆け寄っていく。
「……妖術の類か?」
「そんなの使えたら苦労しないわよ」
両手で頭を抱え、うずくまるヴァネッサにアカツキは問いかけを続けていく。
確かに、状況を理解できないアカツキにとっては"出会い頭に突然男が卒倒した"という事しか分からないのだから。
そういった類の力だと思うのも、仕方がない。
「あそこでぶっ倒れてる男はね」
やんわりと否定した後、うずくまったままヴァネッサは言葉を続ける。
その言葉は微妙に震えていて、ここから逃げ出したいと言わんばかりの声で。

「私の夫よ」

アカツキが、初めて聞く声だった。

381そんなん考慮しとらんよ ◆LjiZJZbziM:2013/04/21(日) 22:08:58 ID:7g2xdrYc0
【E-8/東崎トンネル出口/昼】
【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:ファッ!?
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。
1:えっ

【ジョン・スミス@アウトフォクシーズ】
[状態]:卒倒
[装備]:缶コーヒー(いっぱい)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:報酬のため、クライアントの依頼を達成する。
1:ファーーーーーーーーーーーッwwwwwwwww(予想外の遭遇に未来を託しながら倒れる)

【ヴァネッサ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:あたまいたい
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(把握済み)、YEBISUビール×1
[思考・状況]
基本:状況を整理し、行動
1:とか言ってる場合じゃなくなってきた

【アカツキ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品(食料は完食)、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破、及び電光機関の破壊
1:うむ?

----
おしまい

ご意見感想など、お気軽に!

382名無しさん:2013/04/21(日) 22:45:29 ID:1tVe.IXo0
投下乙っす!
お,夫だと……
あと,状態表がなんか全体的におかしなことになっとるw 短えw

383名無しさん:2013/04/21(日) 22:49:51 ID:FtMNE4SE0
投下乙です
kg単位の生ベーコンブロック完食出来るアカツキの異常な食欲すごい
ジョンさん嫁に遭遇しただけで卒倒とか相当尻にしかれてそう
あと、えっ?夫!?ってなりましたw

384名無しさん:2013/04/21(日) 23:05:09 ID:tF.nIo/I0
投下乙です
同一世界だからこそできる展開!ってか状態表www

385名無しさん:2013/04/21(日) 23:22:19 ID:3Q8kgbgM0
こりゃまたすごい設定を……
衝撃の展開すぎてこっちがタイトル通りのこと言いたいwwwwwww

386 ◆LjiZJZbziM:2013/04/27(土) 01:10:15 ID:Azmpbyag0
庵、京、ムラクモ投下します

387開戦 ◆LjiZJZbziM:2013/04/27(土) 01:10:33 ID:Azmpbyag0
休む暇は、無い。
全く以て遺憾な話である。
隣を歩く宿敵と、一時的に休戦協定のような物を結んだ直後だった。
血と硝煙の臭い、あの銃使いが逃げていった方向で待ち受けていたのは凄惨な光景だった。
一つは、首から上と下が分かれている少女の死体。
もう一つは、胸に自分の服より赤い一文字を咲かせた先ほどの男の死体。
男の死体に触れてみると、少しだけ暖かさが残っている。まだ、そこまで時間が経っていない。
「こりゃ、やべぇぜ八神」
「フン、貴様は自分の身のことだけを考えているのだな」
同行者は相変わらず無愛想な態度。
だが、彼も彼なりに警戒を敷いている。
互いに無意識のうちに、相手の死角をカバーするように立つ。
ふと、影もなく何かが駆ける音が聞こえる。
その気配を察知し空と地の両側から攻めを仕掛けていく。
「……草薙と八尺瓊の力か」
青と赤の炎に身を焦がしながら、襲撃者の男は一人つぶやく。
神話上の力、それを持つ二人を目の前にしても、ムラクモは敵対を止めない。
「だが、八咫の鏡が欠けている以上、恐るるに足らん。
 臆するな、救済は皆平等に訪れるものだ」
「ずいぶんな言い回しだぜ、全く」
「……フン、俺や京が"血筋の力"だけで戦っていると思っているのならば、とんだ思い過ごしだな」
刀を構えながら淡々と告げたムラクモに対し、庵は悪態をつき、京は呆れていく。
時を待たずに爆発が起こり、炎の渦が巻き起こっていく。
赤と青、二色の炎が鮮やかに混じっていく。
「特にな、俺はそうやってデカい面して人間の上に立ってるような連中が」
その炎を身にまといながら、京は叫ぶ。
自ら"神"を名乗るいけ好かない人間に対して。
「一番嫌いなんだよッ!!」
怒りと共に、拳を握って殴りかかっていく。
"神"は、その男の姿に動じることもなく。
ただ、黙って見つめていた。

この殺し合いが始まって、四半日が経とうとしている時。
神と神を封ぜし者達の戦いが、始まった。
始まりと終わりが、目を覚ます。

【C-2/東部/1日目・昼】
【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:菊御作、六〇式電光被服@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品×4、ツァスタバ CZ99(8/15、予備弾30)、ソードブレイカー、煙草、手榴弾(9/10)
     パイファー・ツェリスカ(?/5、予備?発)@現実、不明支給品2〜8(うち1〜3はトレバーおよびトリガー視点で武器ではないもの)
[思考・状況]:自らに課した責務を果たす。

【八神庵@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:京に自分の手で苦痛を与えて殺すため、この殺し合いを崩壊させる
1:ムラクモを殺す
2:京と行動、京を殺すものを殺す。

【草薙京@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らないが、襲い掛かるやつには容赦しない。
1:ムラクモに対処
2:とりあえず庵と行動、コキ使う。

388 ◆LjiZJZbziM:2013/04/27(土) 01:10:44 ID:Azmpbyag0
投下終了

389 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:14:22 ID:5xhCghgI0
クーラ・ダイアモンド、アドラー、結蓮、テンペルリッター(四番隊隊長)投下します。

390 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:16:16 ID:5xhCghgI0

 さて歩き出した二人は、まったく当てもなく彷徨うわけではなかった。

 北上するほどに聞こえてきた『歌声』、彼らはこれを目指して歩いている。
 正しくは、美しく誘うようなこの音楽に集うであろう、参加者を目指して。
 それぞれの探し人を見つけるため。
 お互いの事情も知らないまま、黙々と時間を共有する。    

 と、歌声が途切れる。唐突な静寂が、殺戮の舞台と化した島を満たす。
 だしぬけに、白髪赤目の軍人、アドラーが言った。

「歌声が止んだか」

 独白とも取れる言葉に、半歩後ろを歩く透き通るような美しい少女、クーラは頷く。
 歌っていた人に何かあったのかもしれない。
 血なまぐさい想像が、彼女の頭をよぎる。
 思わず知らず体をこわばらせ、あどけなさの残る唇を引き結んだ。

「ねえ、ねえってば、アドラー」
「なんだ」

 クーラは、機械的なほど一定の動きで歩を進める同行者、アドラーを呼び止める。

 彼の動き、型に嵌ったかのようなそれは、まるで行軍だ。
 クーラは小走りでやっと追いつけていた。
 少しばかり不安そうな声を上げても、この男は視線ひとつよこしやしない。

「やっぱり、さっきのあの人たちと一緒に」
「あり得ん。俺にとってあのサルは用済みだが、奴は俺の持つ電光機関を破壊せしめんと付け狙ってこよう。協調など論外。
 だが、試製一號とてみすみす死ぬ気はなかろう。この座興をせいぜい引っ掻き回すための駒として残しておいてやったまでだ」

 取り付く島もなく言い放ち、白髪の軍人は見えてきた建物を確かめるため、タブレットへと視線を落とした。

 殺風景な道が終わり、視界が開ける。
 地図に沿い、歌声を目指して歩くうち、いつの間にか見えて来たそれ。
 鉄製だろうか、重そうな門を抱えた、広い庭を持つ大きな建築物だ。
 地図上では『鎌石小中学校』と名がついている。

 今は止んでしまった歌声は、ここから流れてきているはずだった。

「えー……ていうか、『しせいいちごう』とかなんとかって、アドラーあのお兄さんと知り合い? あんまり仲良くなさそうだったけどぉ」

 少女の頬がふくらむ。
 ふと、アドラーがタブレットから顔を上げた。

391 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:17:00 ID:V.X2fW7c0
「クーラ貴様、俺をおじさん呼ばわりしておいて、何故試製一號は『お兄さん』なんだ」
「えっ、だってアドラー髪白いし、なんとなく。何気に気にしてたんだー?」

 クーラは、大股で歩き続けるアドラーの前に回り込み、顔を覗き込んで尋ねた。
 軍人は赤い瞳でちらりと少女を見る。
 『興味津々』といった表情に、彼は少しだけ眉根を寄せて言った。

「ふん、白髪(はくはつ)がなんだ……貴様こそ突拍子もない髪の色になるではないか」

 能力発動時のことを言っているのだろう。
 クーラは話をそらされたと思い、さらに言い縋った。

「あたしのはそういうのなの! そんなことより、あのお兄さんを知ってるの、アド……」

 はた、と動きを止めた少女の視線の先には、くぐった門の向こう、砂地に崩れる女騎士の姿。
 長い金髪にはべっとりと赤黒い血糊が張り付き、重そうに絡まり合っている。

「大変!」

 駆け寄ろうとしたクーラは、隣に立つアドラーの片手に制される。
 何だろうと見上げれば、彼は出会った時と同じくらいゴキゲンな顔で笑っていた。

「フ……誰かと思えば、まさかこれほど無様な新人類の姿を拝めるとはな」
「新人類……? あ、ひょっとしてあのお姉さん、完全者って子の……」

 目を凝らしたクーラが、その装束に気付いて言った。
 聖堂騎士団の世界征服テロに大きな役割を演じたのは、電気を操る『エレクトロ・ゾルダート』。
 そして空を飛ぶ女騎士『テンペルリッター』。
 羽をあしらった赤い兜に、同じく赤いロングコート、オーバーニーのブーツ。
 何より人々の恐怖の対象となった、自在にしなる蛇腹剣。

「その通り。こいつは完全教団が下僕、聖堂騎士だ。最も、虫の息の様だがな。いや、すでに事切れているのか? 新人類が聞いて呆れる」

 ずるり。

 声に反応して、地面に突っ伏していた女が、緩慢な動作で顔をあげた。
 殺戮の虜となった騎士――テンペルリッターは、まだ生きていた。
 肉体が限界をむかえてもなお光を失わない瞳が二人を捉え、赤い液体の滴る唇が笑う。
 血を失い、白を通り越して青ざめた肌を震わせて。
 殺意の熱狂に濁った瞳は、飽くなき青い瞳は、渇いて。

「斬る……キる! オロチの前に、旧人類、貴様らを……」

 失血のために歯の根が合わないのか、震える唇からようやく漏れる声。
 アドラーは心底軽蔑をたたえた様子で、応じて言う。

392 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:17:30 ID:5xhCghgI0
「囀るではないか航空兵。『斬る』という衝動に飲み込まれたか?
 まあ、ここで出会ったよしみだ。この俺が直々にヴァルハラへ送ってやろう」

 『アーネンエルベの死神』は、もう笑ってはいなかった。
 バチッバチッと、赤いコートに電流が走る。
 電光機関が鳴っている。

 その静かで激しい音に絡むように、細く緩やかな、慈愛に満ちた歌声が聞こえてきた。
 つい先ほど途切れた、歌うたいの声――先刻の妖しく誘うような音色とは違い、朗々と。
 確信に満ちた音色。
 秘めた思いを新たに、心を乗せて流れていく音楽。

 『無事を願っている』。
 今はこの場所を去った『兄』と、今どこかできっと生きていてほしいと願う『妹』へ。
 他が為の唄。

 テンペルリッターは音楽を振り払うように、蛇腹剣で一振り、空を裂く。
 起き上がり、地に足をつけただけで気が遠くなるような激痛が彼女の神経を苛んでいた。
 だが、関係が無い。
 ただ、血が欲しかった。その欲望と、体の苦痛には関係がなかった。
 切っ先を二人に向けて、睨む。その腕は凛と張りつめ、痛みに震えてなどいなかった。
 昂る本能のままに、獲物の血を求めて。神すら殺しきる激しさで。

「拙者、を……侮るなァッ!」

 絞り出すような声と共に一閃、蛇腹剣を振りかぶった赤い殺意の塊が、二人に飛びかかった。
 悲鳴を上げる肉体すら意に介さず、空気を切り裂く鋭さで到来した攻撃は、前に出たアドラーの攻勢防禦によって遮られる。
 白くきらめく壁に剣をはじかれ、テンペルリッターは一瞬地面に足をつけた。

 アドラーはその好機を逃がさない。
 彼女の足元を狙い蹴りを繰り出す。
 しかし、そのつま先すら敵の体を掠めることなく。
 着地と同時に、女騎士は横跳びに飛んでいた。

 アドラーの後ろ、吐息で氷塊を生成していたクーラに向かって。

「あっ……」

 無防備だった少女に、回避の術は残されていない。
 振り返ったアドラーが瞬時に地を蹴り、飛ぶ。
 もはや攻勢防禦は間に合わない。

 迫りくる剣は、必殺の意思でもって、獲物の肉体を裂いた。

 クーラが腰から崩れ落ちる。
 その瞳の認識する色に新しい色が、赤が加わる。

 ぼたりぼたり、と、血が地面を塗りたくる。

「あ、アドラー、なんで……」

 青ざめる少女の唇から洩れる言葉は震えている。
 大きく見開いた瞳に映る、はためく赤いコート。砂埃の中、地に倒れる体。
 同時に電光が炸裂、聖堂騎士は弾かれて吹っ飛び、地面を滑った。彼女はそのまま慣性を利用して中空へと飛び上がる。

393 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:18:21 ID:V.X2fW7c0
尻餅をついてしまったクーラは、敵が遠ざかったのを半ば呆然と見届ける。
 思考が状況に追いついた瞬間、無傷だった少女は、横たわる同行者へ寄り添った。
 彼女の真横、つい今まで尊大に笑っていたはずのアドラーが、地面に倒れて動かない。
 彼の肩から腹にかけて袈裟状に抉られた傷口から、鮮血が溢れ、砂利の間を伝っていく。 
 真っ赤な軍服が、血を吸って黒く淀む。

「大丈夫!? ど、どうしよう、あたし……」

 何処を触っていいか分からず、おろおろと悲鳴を上げるクーラに、重たげな声が答えた。

「貴様の能力が、惜しかっただけ、だ。勘違い……するな」
「喋っちゃだめ! ごめん、あたしのせいで」
「うるさい、ぞ……人の話を、聞け。貴様のその能力が、失われるのも、ミュカレやムラクモに渡るのも、我慢ならん……それだけだ」
「いやだよ、死なないで。K'や皆を探すの、手伝ってくれるんでしょお!?」

 脈打つ傷口から、呼吸のために体が上下するたび、血があふれ出てくる。
 吸った空気が肺を刺すようだった。
 赤い水気の混じった不愉快な呼気が、喉から洩れる。

 いずれは手に入れたい力だった。それのために、とんだ代償だ。アドラーは内心、舌打つ。
 手負いの複製體などに、こうも状況を狂わせられるとは。

 白髪の死神は苦い現実を噛み締めながら、霞む目を見開き、空へ消えた敵を探す。
 だだっ広い砂の庭の彼方、太陽を背に負うように、奴はいる。
 あの止まることを知らぬ青い瞳――追撃が来る。 

 深い傷を負った同行者の先を察したのか、クーラは幼い物言いには似合わない、悲しさを秘めた表情で言った。

「死なないで。アドラーはいい人だよ、クーラにはわかるの……」

 アドラーは余力を振り絞って、言葉を紡ぐ。

「聞け……さっさと、攻撃に備えろ……あれは、『斬る』ことに特化した神の似姿。
 獲物の肉を裂くまで、決して止まることはない――」

 そうして動かなくなった彼を守るように立ち、クーラは空にいる敵をにらみつけた。

「――大丈夫。あたし、負けないから」

 小さなつぶやきと共に、少女の体を冷気が包み込む。
 きらめく氷の輪が、華奢な体の周りを踊りだす。
 ゆらり、栗色から青く染め抜かれた髪が、冷気にたなびく。
 
 上空、吹きすさぶ疾風を縫いながら、テンペルリッターは少女の頬に伝う光を見た。
 
「他愛も、ないぞ……旧人類。小娘、お主がもしこの飢えを満たせるのなら……やってみるがいい!」

 血が糸を引きながら、白い身体を流れ落ちる。
 聖堂騎士の肉体は限界を迎え、彼女の精神は今や彼岸の向こう側にあった。

 それでも、征くのだ。血をすするために。
 剣で肉を引き裂くために。

「……ッ、なに、これ!?」

394 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:19:12 ID:V.X2fW7c0
 『円月斬』。
 回転する三日月状の衝撃波が、クーラの頭上から無差別に落ちてくる。
 彼女はひたすら逃げ惑う。中空に降る発光体をただただ避けて、広い砂地をあちらからこちらへと。
 飛ぶ斬撃が着地し、砂煙が舞い上がった。

 成す術もなく、氷使いの少女は窮地に追いこまれる。
 背後は鉄柵の門。周囲は壁だ。逃れる場所は、最早無かった。

「汚らわしい旧人類よ、疾く斬られろ! これなる剣はその血肉をかき分けて、拙者の欲望をわずかながらも満たすだろう!」

 空に浮いて狂喜する歴戦の戦士は、夢見るように刃を舐める。
 追い詰めた獲物の反抗的な視線が、また心底甘美だった。

 「戦術――螺旋斬!」

 斬撃が咲いた。
 鞭よろしくうねった蛇腹剣が意志を持ったように、華奢な少女に喰らいついた。
 堅く確かな手ごたえ。テンペルリッターは歓喜に沸く。

 さあ、それを見せてくれ。赤い華を散らせる、そのうつくしい様を。

 だが、いつまで待っても彼女の望む色は現れなかった。

「こうなることを、待ってたよ」

 剣先をどこかに食い込ませたまま、少女の唇が動く。
 獲物に傷がつていない。
 異常を察した騎士は、剣を手繰り寄せようと腕を引く。
 が、手になじんだはずの得物は、空中に凝固してしまったかのようにびくとも動かない。

 よくよく目を凝らしてみれば、少女がワイヤーにつながれた刃物の部分を掴んでいる――素手で?
 いや、自らの能力で凍らせ強化した、細い腕で、だ。

 受け止めている。氷に覆わせた腕で。癒着するかのように蛇腹剣も冷気の塊に包まれ始めている。
 それどころか氷化は伝番し、上りつめている。
 自らが握る剣の柄へ向かって、すさまじいスピードで。

「お姉さんは斬るのが好きなんだね。『斬ることに特化』してるから、そうしなくちゃ居ても立ってもいられない。
 アドラーが教えてくれたから、クーラにはわかった」

 喜ぶでもなく、憎悪するわけでもない。
 改造人間として生きている少女は、神の複製體に語りかける。

「だから、トドメはきっとその大きな剣でだと思った。お姉さんが『斬りに来る』のを待ってた。
 あたしは、空気を冷やして操れるの。さあ、もうすぐ、全身が凍り付くころだよ」

 自らの体と錯覚するほどになじんだ武器――蛇腹剣を這い上がった冷気の塊が全身に行き渡り、その狂おしい観念ごと、彼女をこの世から切り離す。
 氷に覆われた騎士の耳に流れ込むものは、埋もれるように美しい歌ではない。

395 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:19:45 ID:5xhCghgI0
 素晴らしい静寂、完全な熱量死。

 0℃。

 その後に待つマイナスの世界。
 『アイスコフィン』――氷塊の面が太陽の光を乱反射して、なんて明るい棺。
 分厚い氷を破壊するだけの力は、もうテンペルリッターには残っていなかった。

「――血をすすらずとも得られるのか。こんな、静けさが。これが、拙者の死、か……」

 その身が擦り切れるまで血を求め続けた聖堂騎士の口をついて出たのは、そんな言葉だった。
 ほぼ同時に、地面へと落下した氷の塊が砕け散る。
 千切れ飛んだ肉体が、血も流れないほど凍り付いた、傷だらけのそれが散らばる。 

 それが、神の似姿として生まれた彼女の最後だった。

 乱れる息を整えながら、クーラはきらきらと光る氷の破片の中に立っている。

 いつの間にか歌は聞こえなくなっていた。
 しかし、場所の見当はついている。

 クーラはもう一度アドラーの元へ戻り、呼吸が完全に止まっていることを確かめると、ゆっくりとした足取りで歌声の源へ導かれていった。

   ★   ★   ★

「こっちよ。右の部屋。大丈夫? 出ていけなくて悪かったわ……」

 クーラが部屋に近づくと、歌うたいの声がそう言った。
 
「こんにちは……入っても、いい?」

 扉の前で問いかけると、しばらく躊躇するような間があった後、ゆっくりとドアが開く。
 促されて中に入れば、機材に囲まれた部屋の中に、一人すまなそうな表情の参加者が立っている。
 中性的な顔立ちの『彼』は、女性か男性か、クーラにはよくわからなかった。

 殺し合いが始まってからこの放送室にこもって、参加者を待っているのだという。 
 クーラたちの前にも一人現れ、すでに去った後だったとのこと。参加者をここに集める手はずになっているらい。
 歌は、一人でも多くの参加者に気付いてもらえるように流していたのだった。
 危険人物も集めてしまうかもしれないが、そのリスクを冒してでも、妹を守りたいのだと、彼は語った。

 なぜ、たった今参加者を殺した自分を部屋に入れてくれたのか、と問うクーラに、結蓮と名乗った歌うたいは答える。

「あの空飛ぶ兵隊は、さっき言ったもう一人の参加者……アーデルハイドがやっつけたはずだったわ。恐ろしい人物だった。
 でも、死にきれていなかったのね。それを、あなたたちが命がけでとどめを刺してくれたのよ……感謝したから、入ってもらう気になった」

 力なく、「そっか」、とだけ答えてうつむいたクーラを気遣うように見つめ、結蘭は頭を下げる。
 
「あなたのお仲間は、もう手遅れだったようね……ごめんなさい。
 こちらにも武器があったんだけれど、気付いた時にはあなたたちが闘っていて……私も状況が見えなくて、なにもできなかった」

 凍らせていたせいで血が通っていない腕をゆっくりとさすりながら、クーラは静かに首を振る。

「ううん、結蓮のせいじゃないよ。あたしのせいなの。アドラー、死んじゃった……」

396 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:20:11 ID:5xhCghgI0
 少女の瞳に涙が滲み、今にもこぼれんとしたその時。

『人を勝手に殺すな』

 乱入する何者かの声。

「……え?」

 たった今、今生の別れをしたつもりだった人間の声。
 無意識に耳へ手を当てるクーラを、何事かと結蓮が見つめる。
 彼には、なにも聞こえていないのだ。

 あたりを見回しても、あのにやにや笑いも赤いコートも見当たらない。
 空耳がったか、と思いながらも、クーラは空中に向かって呼びかける。

「アドラー? どこ、どこにいるの?!」
『……ふむ、賭けだったが上手く行ったか』

 聞こえる、確かに。
 しかし耳で聞いているのではない。

 声が頭の中で響く?

『説明した筈だ、クーラよ。【転生の秘法】を会得すれば、例え肉体が滅びようとも魂は生き続けると』
「ひょっとして、今って……」
『そうだ。俺の魂は貴様の中にいる』
「えぇぇえ!?」

 面食らい、思わず叫んだ。
 再会の感動もどこへやら、頭に手を当てて探るが、もちろん表面にはなんの変化も無い。

「アドラーも『転生』できたって事? 聞いてないよぉ」
『当然だ、言って無いからな』

 見えない筈なのに、クーラの頭の中には不敵な笑みを浮かべるアドラーの顔がありありと浮かぶ。
 それでも、彼が生きていたことにどこかほっとする自分を感じていた。
 体は確かに死んでいたのに、これが転生というものなのかと、改めてその『あり得ない』事柄を実感する。

 しかし、何だか妙な感じだった。頭の中に誰かいる感覚……。
 思考や感情を覗かれはしないかと抗議の声を上げる少女に、その心配は無いと居候は告げる。

『肉体は器。精神、魂はあくまで別個だ。今のところ、俺が貴様の考えを覗くことはできん。逆もまた然りだ。今後どうなるかはわからんがな』
「そこはっきりしてよぉ……でも転生ってこういう感じなの?
 生きてる人に乗り移るっていうか、一つの体に二人いるんだよね、今って……完全者ちゃんも、あの女の子の中に二人いるの?」
『いや、通常であれば肉体の元々の人格が出てくる事は無い。
 事実、先刻までの俺の肉体も木偶……我が複製體のものだったが、精神は俺だけだった』

 淡々とした説明に、クーラはぶる、と身震いすると、両腕で自分の体を抱きしめるように抱えた。

「……じゃあ、あたしも消えちゃうの……?」
『だから賭けに勝ったと言ったろう。先ほど尋問しようとした複製體へ転生を試みたが、どういう訳か上手くいかなかった。
 ミュカレの妨害かもしれん――そんなことが果たして可能なのか? ともかく、そこで、急遽貴様の体に間借りすることにしたのだ』

 『完全者』アドラーは話し出した。

397 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:20:37 ID:5xhCghgI0
 ――意識して初めて気付いたが、転生により体を奪われた者の人格は、消えるのではなく眠る、と言った方が正しいのかもしれん。
 今回、天才であるこのアドラー様のコントロールにより、貴様の精神を起こしたまま、俺の精神を固定する事に成功したのだ。
 本来、俺が転生をするのは、体が使い物にならなくなった時だけ。
 当然身体から精神を抜き取る術の無い『体の持ち主の魂』はそのまま肉体と共に死ぬ。
 ともすれば、体に大した損壊のないまま転生をした場合、元の肉体の人格が目を覚ますのかもしれん。
 今まで『体の持ち主の魂』の所在についてなど考えもしなかったが、試してみるものだな。こうも上手くいくとは。
 軍神テュールは、どこまでも俺に味方しているらしい――

 あるはずのない喉を鳴らして笑いながら、得意げに説明する頭の中の声。
 クーラは小首を傾げて言った。

「難しいことはわかんないけど……あたし、アドラーがコントロールしてくれてなかったら眠っちゃって、消えてたんだよね?
 なんで、あたしの魂はそのままにしておいてくれたの? さっきも、かばってくれたし……」
『フン。それも勘違いするなと言ったはずだぞ。貴様のその能力、消してしまうにはあまりに惜しい。それだけだ。
 あの複製體を探し出し次第、そちらへ移れば良いだけの話よ』
「ふうん? でも……ありがと」
『礼を言われるようなことをした覚えはない』

「ちょっと……」

 クーラははっとして振り返った。
 椅子に座って足を組んだ結蓮が、困惑顔でそこにいる。
 初めて会った人間が、事情の説明もそこそこに壮大な独り言をつぶやきだしたら、一言いいたくなるというものだろう。
 今まで黙ってくれていただけで、相当優しい人なのだとクーラは思った。

「何? 何なの……? あなた、誰と話をしているの?」
「ご、ごめんなさい。えっと、どこから説明したらいいのかなぁ……」

 いぶかる結蓮に、クーラは状況をさかのぼって伝えようと一生懸命考える。
 が、そもそも信じてもらえるのかどうかすらわからなかった。
 もごもごと言い淀んでいる内に、また彼の声が頭の中に響く。

『時間が惜しい。俺と替われ、クーラ』
「えっ」

 その言葉をよく理解しないうちに、クーラの意識は彼方へと吹っ飛んだ。

「ねえ、ったら。クーラ……?」

 結蓮が見守るうち、少女はバタンッと仰向けに倒れた。
 慌ててその横に回り込み助け起こそうとした彼は、異常に気付き、伸ばしかけた腕を止める。
 鮮やかな薄青色だった長髪が、見る影も無い灰白色に一瞬で変貌していたのだ。
 予想だにしない出来事で声も出ないままの彼をよそに、少女はカッと目を見開く。
 その瞳も赤く染まり、表情は先ほどの慌てた様子は微塵も無く。

 ぎょろ、と周囲を見渡し結蓮を見つけると、クーラはにやりと唇を歪ませ、言った。

「俺は……アドラー……」

398 0℃ ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 01:22:38 ID:5xhCghgI0
【テンペルリッター(四番部隊隊長)@エヌアイン完全世界 死亡】
【アドラー@エヌアイン完全世界 死亡、転生】

【D-6/鎌石小中学校・放送室/1日目・午前】

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:気絶、アドラーの魂が憑依、出し入れ自由。
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す
・あたしの涙を返せ

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:クーラに憑依、出し入れ自由
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をするため思惑を探る。
・天才の俺が直々に事情説明、結蘭から情報収集
・ゾルダートを見つけ次第転生
※転生に何らかの制限があることに気づきました。
 離れている複製體には転生できないようです。詳しくは後続にお任せします。

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:人を殺すのをやめてアーデルハイドに協力、殺し合いに参加しない人間を待つ
・いったい何なの?


以上で終わります。
矛盾等指摘、こういうのはちょっと……というのがありましたらお願いします。

リロードしておらず先の投下を見逃してました。
乙です! 感想はまたじっくり読んでから!

399 ◆LjiZJZbziM:2013/04/27(土) 11:13:39 ID:Azmpbyag0
投下乙です!
テンペル撃破の方法がすげー意外というか、クーラならでは! って感じですなあ。
外野の結蓮からしたらわけわかんないよなぁw

さて、一応ルールにも書いてあるとおりPWBRにおけるアドラーとムラクモに関しましては、
参加者への転生を禁じさせていただいております。(死亡→転生→死亡……の永パが出来るため)

ですが「ロワ内参加者」への転生を禁止しているだけなので、「ロワ内参加者」で無くなればOK。
つまり"生存者"ではなく"死体"ならOKと言うことにしたいと思います。
なお、転生先の肉体状況は勿論そのまま、体力に関しては転生前引継ぎ、という形でお願いしたいと思います。

なので生存しているクーラへの転生、ではなく死亡したテンペルへの転生という方針で修正をお願いできないでしょうか?
当方の基本ルールの書き込みが足らず、お手数をお掛けいたしますが宜しくお願いします。

400 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/27(土) 12:32:22 ID:ty/tciyc0
レスありがとうございました。

こちらこそルールに対しての認識がズレており申し訳ありません! 以後気をつけます。
提案頂いた通り修正したいのですが、2日程時間を頂いても大丈夫でしょうか?
勝手を言いますが、よろしくお願いします。

401 ◆LjiZJZbziM:2013/04/27(土) 13:00:54 ID:0jfoRVa20
大幅修正で時間かかると思いますし、五日くらいなら大丈夫ですよ!
修正稿お待ちしてます。

それとエヌアイン、カティ、ナディア、戦車、ルガール、マリリン、KUSANAGI予約します

402 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/28(日) 01:00:24 ID:N3pOQbfk0
ありがとうございます&ご迷惑をおかけします!
ではお言葉に甘えさせていただきます。

403 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/30(火) 20:40:55 ID:ufLgp4wU0
こちらのミスにより、時間を頂いて申し訳ありませんでした。そしてありがとうございました。
修正分ですが、>>392 より下の本文を、以下に置き換えさせていただきます。



 尻餅をついてしまったクーラは、敵が遠ざかったのを半ば呆然と見届ける。
 思考が状況に追いついた瞬間、無傷だった少女は、横たわる同行者へ寄り添った。
 彼女の真横、つい今まで尊大に笑っていたはずのアドラーが、地面に倒れて動かない。
 彼の肩から腹にかけて袈裟状に抉られた傷口から、鮮血が溢れ、砂利の間を伝っていく。 
 真っ赤な軍服が、血を吸って黒く淀む。

「大丈夫!? ど、どうしよう、あたし……」

 何処を触っていいか分からず、おろおろと悲鳴を上げるクーラに、重たげな声が答えた。

「貴様の能力が、惜しかっただけ、だ。勘違い……するな」
「喋っちゃだめ! ごめん、あたしのせいで」
「うるさい、ぞ……人の話を、聞け。貴様のその能力が、失われるのも、ミュカレやムラクモに渡るのも、我慢ならん……それだけだ」
「いやだよ、死なないで。K'や皆を探すの、手伝ってくれるんでしょお!?」

 脈打つ傷口から、呼吸のために体が上下するたび、血があふれ出てくる。
 吸った空気が肺を刺すようだった。
 赤い水気の混じった不愉快な呼気が、喉から洩れる。

 いずれは手に入れたい力だった。それのために、とんだ代償だ。アドラーは内心、舌打つ。
 手負いの複製體などに、こうも状況を狂わせられるとは。

 白髪の死神は苦い現実を噛み締めながら、霞む目を見開き、空へ消えた敵を探す。
 だだっ広い砂の庭の彼方、太陽を背に負うように、奴はいる。
 あの止まることを知らぬ青い瞳――追撃が来る。 

 深い傷を負った同行者の先を察したのか、クーラは幼い物言いには似合わない、悲しさを秘めた表情で言った。

「死なないで。アドラーはいい人だよ、クーラにはわかるの……」

 妙な勘違いをされている。自分の狙いはこの娘の力、ただそれだけだったのだが。
 善人と思われること、都合は悪くないが気色が悪い。
 しかし今、そこに言及している時間的余裕はなかった。
 アドラーは余力を振り絞って、言葉を紡ぐ。

「聞け……さっさと、攻撃に備えろ……あれは、『斬る』ことに特化した神の似姿。
 獲物の肉を裂くまで、決して止まることはない――」

 そうして動かなくなった彼を守るように立ち、クーラは空にいる敵をにらみつけた。

「――大丈夫。あたし、負けないから」

404 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/30(火) 20:41:21 ID:ufLgp4wU0
 小さなつぶやきと共に、少女の体を冷気が包み込む。
 きらめく氷の輪が、華奢な体の周りを踊りだす。
 ゆらり、栗色から青く染め抜かれた髪が、冷気にたなびく。
 
 上空、吹きすさぶ疾風を縫いながら、テンペルリッターは少女の頬に伝う光を見た。
 
「他愛も、ないぞ……旧人類。小娘、お主がもしこの飢えを満たせるのなら……やってみるがいい!」

 血が糸を引きながら、白い身体を流れ落ちる。
 聖堂騎士の肉体は限界を迎え、彼女の精神は今や彼岸の向こう側にあった。

 それでも、征くのだ。血をすするために。
 剣で肉を引き裂くために。

「……ッ、なに、これ!?」

 『円月斬』。
 回転する三日月状の衝撃波が、クーラの頭上から無差別に落ちてくる。
 彼女はひたすら逃げ惑う。中空に降る発光体をただただ避けて、広い砂地をあちらからこちらへと。
 飛ぶ斬撃が着地し、砂煙が舞い上がった。

 成す術もなく、氷使いの少女は窮地に追いこまれる。
 背後は鉄柵の門。周囲は壁だ。逃れる場所は、最早無かった。

「汚らわしい旧人類よ、疾く斬られろ! これなる剣はその血肉をかき分けて、拙者の欲望をわずかながらも満たすだろう!」

 空に浮いて狂喜する歴戦の戦士は、夢見るように刃を舐める。
 追い詰めた獲物の反抗的な視線が、また心底甘美だった。

 「戦術――螺旋斬!」

 斬撃が咲いた。
 鞭よろしくうねった蛇腹剣が意志を持ったように、華奢な少女に喰らいついた。
 堅く確かな手ごたえ。テンペルリッターは歓喜に沸く。

 さあ、それを見せてくれ。赤い華を散らせる、そのうつくしい様を。

 だが、いつまで待っても彼女の望む色は現れなかった。

「こうなることを、待ってたよ」

 剣先をどこかに食い込ませたまま、少女の唇が動く。
 獲物に傷がつていない。
 異常を察した騎士は、剣を手繰り寄せようと腕を引く。
 が、手になじんだはずの得物は、空中に凝固してしまったかのようにびくとも動かない。

 よくよく目を凝らしてみれば、少女がワイヤーにつながれた刃物の部分を掴んでいる――素手で?
 いや、自らの能力で凍らせ強化した、細い腕で、だ。

 受け止めている。氷に覆わせた腕で。癒着するかのように蛇腹剣も冷気の塊に包まれ始めている。
 それどころか氷化は伝番し、上りつめている。
 自らが握る剣の柄へ向かって、すさまじいスピードで。

「お姉さんは斬るのが好きなんだね。『斬ることに特化』してるから、そうしなくちゃ居ても立ってもいられない。
 アドラーが教えてくれたから、クーラにはわかった」

 喜ぶでもなく、憎悪するわけでもない。
 改造人間として生きている少女は、神の複製體に語りかける。

「だから、トドメはきっとその大きな剣でだと思った。お姉さんが『斬りに来る』のを待ってた。
 あたしは、空気を冷やして操れるの。さあ、もうすぐ、全身が凍り付くころだよ」

 自らの体と錯覚するほどになじんだ武器――蛇腹剣を這い上がった冷気の塊が全身に行き渡り、その狂おしい観念ごと、彼女をこの世から切り離す。
 氷に覆われた騎士の耳に流れ込むものは、埋もれるように美しい歌ではない。

 素晴らしい静寂、完全な熱量死。

 0℃。

 その後に待つマイナスの世界。
 『アイスコフィン』――氷塊の面が太陽の光を乱反射して、なんて明るい棺。
 分厚い氷を破壊するだけの力は、もうテンペルリッターには残っていなかった。

 凍った鞭状の剣がクーラの手元から割れ、砕けて散る。
 主の欲望のまま多くの血に濡れてきたその刃は今、白く染め上げられて役目を終えた。

「――血を見ずとも得られるのか。こんな、静けさが。これが、拙者の死、か……」

 氷の棺に閉じ込められて、その声を聞くものは、いなかったけれど。
 身が擦り切れるまで血を求め続けた聖堂騎士の口をついて出たのは、そんな言葉だった。
 ほぼ同時に、地面へと落下した氷の塊が砕け散る。
 凍りきった体が、息を止めた神の似姿が地面に転がり、果てた。

 それが、新人類として生まれた彼女の最後だった。

405 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/30(火) 20:41:59 ID:ufLgp4wU0
 乱れる息を整えながら、クーラはきらきらと光る氷の破片の中に立っている。

 いつの間にか歌は聞こえなくなっていた。
 しかし、場所の見当はついている。

 クーラはもう一度アドラーの元へ戻り、呼吸が完全に止まっていることを確かめると、ゆっくりとした足取りで歌声の源へ導かれていった。

   ★   ★   ★

「こっちよ、右の部屋。大丈夫? 出ていけなくて悪かったわ……」

 クーラが部屋に近づくと、歌うたいの声がそう言った。
 
「こんにちは……入っても、いい?」

 扉の前で問いかけると、しばらく躊躇するような間があった後、ゆっくりとドアが開く。
 促されて中に入れば、機材に囲まれた部屋の中に、一人すまなそうな表情の参加者が立っている。
 中性的な顔立ちの『彼』は、女性か男性か、クーラにはよくわからなかった。

 殺し合いが始まってからこの放送室にこもって、参加者を待っているのだという。 
 クーラたちの前にも一人現れ、すでに去った後だったとのこと。参加者をここに集める手はずになっているらい。
 歌は、一人でも多くの参加者に気付いてもらえるように流していたのだった。
 危険人物も集めてしまうかもしれないが、そのリスクを冒してでも、妹を守りたいのだと、彼は語った。

 なぜ、たった今参加者を殺した自分を部屋に入れてくれたのか、と問うクーラに、結蓮と名乗った歌うたいは答える。

「あの空飛ぶ兵隊は、さっき言ったもう一人の参加者……アーデルハイドがやっつけたはずだったわ。恐ろしい人物だった。
 でも、死にきれていなかったのね。それを、あなたたちが命がけでとどめを刺してくれたのよ……感謝したから、入ってもらう気になった」

 弱々しく、「そっか」、とだけ答えてうつむいたクーラを気遣うように見つめ、結蘭も同じ質問を口に出す。
 こんな常識外れの殺し合いで、スピーカーから歌を流すような、沙汰の外の行いをした自分を危険だと思わなかったのか。
 クーラは、きれいな歌だったから、と答え、少しだけ微笑んだ。
 
 結蓮もその言葉に力なく笑い、頭を下げる。

「あなたのお仲間は、もう手遅れだったようね……ごめんなさい。
 こちらにも武器があったんだけれど、気付いた時にはあなたたちが闘っていて……私も状況が見えなくて、なにもできなかった」

 凍らせていたせいで血が通っていない腕をゆっくりとさすりながら、クーラは静かに首を振る。

「ううん、結蓮のせいじゃないよ。あたしのせいなの。アドラー、死んじゃった……」

 大きな瞳に涙が盛り上がり、今にもこぼれんとしたその時。

 すっ、と音もなく、扉が開く。
 驚いたのは悲観に暮れていた二人だった。
 現れたのが、先ほど光る棺に閉じ込めたはずの狂った女騎士――テンペルリッターだったのだから。
 
「嘘、やっつけてなかったの……? でもクーラ、ちゃんと確かめたよ!?」
「なんて、頑丈な人……」

 驚愕する表情はそのままに、クーラの髪が再び青く染まる。
 重火器では対処できない個室ゆえに、結蘭は冷汗を隠しつつ構えをとった。 

 死んだはずの者がこうして立っているのも異常だが、さらに不思議なのは聖堂騎士の容貌の変化だった。
 度重なる戦闘で傷つき裂けた皮膚は、出血こそ少なくなっていてもまだ生々しく全身に存在している。
 その傷の治りの速さは、『新人類』という未知の存在の性質から無理にでも説明がつくとして。

 きらめく金糸を思わせる長髪は白灰色に濁り、血を求めて燃えていた蒼眼が、今や血液そのものの色に塗り変わっているのはなぜなのか。

「やめろ。貴様らでは俺には勝てん」

 凍らされていたせいだろうか、ひどく顔色の悪い彼女は、静かに言った。

「そ、その口のきき方……え? なに?」

406 ◆tzc2hiL.t2:2013/04/30(火) 20:42:43 ID:ZUFk4c9w0
 クーラは混乱する。
 見た目こそ先刻までの敵なれど、話し方はまるで、ついさっき今生の別れを告げたはずの男のもの。
 頭を抱える氷使いに、さらに事態が呑み込めない結蘭は問いかける。 
 
「クーラ? 何なの?」

 二人の混乱をよそに、女騎士の姿をした来訪者は、体の動きを確かめるように指を曲げたり伸ばしたりしている。 

「苦労したぞ。思うように転生が行えなかった……クーラ、貴様が倒した複製體の死体で事なきを得たがな」

 動転する少女に語りかけ、女騎士の姿の何者かは、我が物顔で椅子に腰を掛ける。
 高く足を組んでにやり、笑えば、クーラの疑惑は確信に変わっていった。

「え、『転生』できるってこと? しちゃったってこと? 聞いてないよお、あたし……」
「ようやく理解したか。貴様が知らんのは当然だ、言ってないからな」
「あなた、一体……」

 結蓮が二人の間で交わされる話を飲み込めるはずもなく、呆然とつぶやく。
 美しい女騎士の視線が結蓮と交わり、乱入者は名乗った。

 クーラにそうした時と同じく、わざとらしいほどに含みを持たせて。

「――俺は……アドラー……」
 

【テンペルリッター(四番部隊隊長)@エヌアイン完全世界 死亡】
【アドラー@エヌアイン完全世界 死亡、転生】

【D-6/鎌石小中学校・放送室/1日目・昼】

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す
・あたしの涙を返せ

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:テンペルリッター(四番隊長)に転生、怪我は回復途中。
[装備]:拳銃(弾丸は一発)
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をするため思惑を探る。
・結蘭から情報収集
※身体能力がテンペルリッターになりました。電光機関無し。


【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:人を殺すのをやめてアーデルハイドに協力、殺し合いに参加しない人間を待つ
・いったい何なの?


以上で終わります。
前回に続いてご指摘があればお願いします。
ルール認識不足による修正とキャラの長期拘束、重ねてお詫びいたします。

407 ◆LjiZJZbziM:2013/04/30(火) 21:45:31 ID:unPa/aQ60
修正乙です!
テンペルリッターさんがドヤ顔でアドってるとすると、すげーシュールだよなぁ……w
しかしそのボディだと誤解必至なので、クーラがどう立ち回るか……!!

こちらこそ、迅速な対応本当にありがとうございます。

408 ◆LjiZJZbziM:2013/04/30(火) 21:49:22 ID:unPa/aQ60
あ、アドラーの道具にテンペルのものが抜けてるっぽいので収録時にこちらで追加しておきます。

409名無しさん:2013/04/30(火) 22:32:34 ID:xAK.F3ck0
お手数おかけします。
wiki編集から補填まで、いつもありがとうございます!

410 ◆LjiZJZbziM:2013/05/02(木) 08:19:19 ID:kzIiLjwc0
ナディアを予約からはずします

411名無しさん:2013/05/04(土) 01:24:17 ID:k73h6s/I0
投下&修正乙です
これからテンペルと勘違いされる度にドヤ顔で自己紹介すると思うと笑えてくるw

412 ◆LjiZJZbziM:2013/05/05(日) 13:44:46 ID:7O0yy2ag0
やっぱナディア追加で

413 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:39:35 ID:CNfbitU20
この四連投にはGWの3/5をかけた(キリッ

ということで
一作目:エヌアイン、カティ、ルガール、マリリン、戦車(2)、ナディア、KUSANAGI
二作目:バーナード、アデル、塞、テンペル
三作目:アテナ、ダニー、デミ
四作目:K'、ネームレス、シェルミー、ラピス
四連投します。

414リバースカードをオープン ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:40:27 ID:CNfbitU20
「……KUSANAGIへの投与は成功したのか」

「はっ、仰せの通り。あのクローンには――――」

「そうか……」

「ならば、頃合いだな」

「目覚めよ」



どくん。
心臓が跳ね上がるような、大きな音が聞こえる。
どくん。
頭が割れるように、痛い。
どくん。
上がっていく呼吸、掠れていく景色。
頭に響く声、糸が切れるような感覚。
覆い尽くす白、続いて黒。
抗う、というより制御できなくなる。
身に流れる……いや、流されている血が。
「ガァアアアアアアァァァァッ!!」
天に響き渡る、咆哮。

415リバースカードをオープン ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:40:37 ID:CNfbitU20



ガシュン、ガシュン。
戦車独特の音が聞こえたのは、"決"めたほぼ直後。
小さなカティの体が、より小さく見えるほどの巨体。
電光戦車が煙を吹きながら、こちらへ向かってきていたのだから。
微かに香る稲妻と血の臭いに、エヌアインは思わず手の甲で鼻をふさぐ。
「カティ、下がってて」
だが、エヌアインにとって電光戦車は恐るるに足らない。
躊躇うことなくサイコキネシスで、戦車の中枢部へと接続していく。
無力化、ないし隷属させるために。
「ギャアアアッ!!」
突然、戦車が叫びとともに電気をまき散らす。
急いで飛び退いたのでダメージはなかったものの、初めての出来事にエヌアインは目を丸くしてしまう。
彼は知らないが、嘗て操ったのは自律稼働しない遠隔操作でのみ動作するタイプ。
彼の目の前にいるのは、旧人類狩りの少し前、ムラクモが用いていた自律稼働型の電光戦車だ。
「……まさか」
自我に近しいものがあるとは思っていなかった彼は、少し戸惑ってしまう。
だが、その意志が弱いことも感じ取れた。
無力化するなら今しかない、そう思い再びサイコキネシスを試みていく。
「ア……アウ」
微かに漏れる声、同時に見開かれるエヌアインの眼。
何が起こっているのかさっぱりわからないカティをよそに、エヌアインの表情は真剣そのものに変わっていく。
そして眼を閉じ、ゆっくりと息を吐きながら。
「……イア、クボジアヅ」
人のようで人ではない言葉を、紡いでいく。
「エヌアイン君……?」
一人で話を進めていくエヌアインに、後ろに控えていたカティはゆっくりと問いかける。
「驚いたことに……この子には"意識"がある」
戦車への念動力をそのままに、エヌアインは起こっている事実をかいつまんでカティに伝える。
「でも意志があるとはいえ、人間の作ったもの。
 だから、合わせて会話くらいはできると思う」
意志がない戦車を操ることは容易だ。
中枢にアクセスし、さも電子命令が飛んでいるかのように操縦すればよいのだから。
ならば、意識がある戦車と会話することも不可能ではないかもしれない。
「アヘア、マノニミック?」
言葉のようで言葉ではない何かを、エヌアインは紡いでいく。
ガシュン、ガシュンと機械が動く音だけが、静かにこだまする。
「アウ、ウアア、ウン」
そして、とてもゆっくりと戦車が頷いた。
会話が成功したか、と思ったその時。
「ガアァァァッ!!」
全く別の方向から、獰猛な叫び声が聞こえた。

416リバースカードをオープン ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:40:59 ID:CNfbitU20

振り返ると同時に、全身が熱く燃え上がる。
天を貫くほどの炎の渦に包まれ、視界が"蒼"く染まる。
しまった、と思ったのも束の間。
遠くに離れていたはずの男が、もう目の前にいた。
"蒼"い炎と共に、一気に振り抜かれる拳。
その拳が狙うのは、渦の対処に追われていた少女。
上から下へ頬を突き抜けていくと同時に、小さな体がふわりと浮く。
ワンテンポおいて、エヌアインの視界からカティが"消え"る。
「カティ!!」
名前を叫ぶも、返事はない。
よほど遠くに吹き飛ばされたか、それとも――――
最悪の事態を考慮しながら、襲いかかってきた男に対処しようとしたとき。
「ウア、ウア、ウアアアア!!」
再び、戦車が雷をまき散らしながら前進する。
万事休すかと思いきや、戦車はエヌアインを避け、襲撃をかけた男に向かっていく。
「ぐァッ」
大きな鋼鉄の体から繰り出される体当たりに、男はさすがによろめいてしまう。
キュイイイン、と音を立てながら、戦車の頭部だけがエヌアインの方を向き。
「トモ、ダチ?」
意味ありげな言葉を、呟いた。
ひょっとしたら聞き間違いかもしれない。
だが、エヌアインにははっきりとそう聞こえていた。
後でもう一度聞こう。
そう思いながら、サイコキネシスで炎の渦を散らしていく。
同時に、襲撃者の男が体勢を立て直す。
その手に"蒼"い炎を宿らせながら、白と赤の眼でこちらをギロリと睨んでいる。
手を貸してくれる戦車がいてもなお、少し不利か。
いつぞやの"神"に勝らずとも劣らない気迫に、エヌアインの額から一粒の汗が流れ落ちる。
どちらが先に仕掛けるか――――?

駆け巡る思考を引き裂く、地を駆ける烈風。
その存在に気づき、エヌアインと襲撃者の男は素早く両サイドへと分かれる。
この局面に新手、奥歯をギリリと鳴らしながらエヌアインはそちらを向く。
「ほう、流石新人類と言ったところか」
新手のスーツの男は、現れると同時にニヤリと笑う。
「そして、アレは……ククク、完全者はよほど余興が好きだと見える」
「アンタは……?」
「今は話をしている場合ではないだろう?」
一人で現れて一人で話を進める男に、エヌアインが食いつき、あしらわれると同時に"蒼"い炎が地を這う。
新手のスーツの男と同時に飛び退き、戦車の前輪がその炎を荒々しくもみ消していく。
「まあ、君の味方であることは間違いない。安心してくれたまえ。
 君の連れらしき子供のことなら、私の連れが今治療しているよ」
ぽふぽふと軽く埃を払いながら、未だに警戒を続けるエヌアインに語りかける。
信用すべきか、否か。
はっきりとした答えを出すことはできないが、それよりも驚異として立ちはだかる学生服の男を何とかしなくてはいけない。
短く戦車にテレパシーを送り、それから黙って戦闘態勢に入る。
「クローンにオロチの血……あの女も"わかっている"ではないか!!」
スーツの男、ルガールがそう叫んだのと同時に。
青と赤の炎柱が、同時に立ち上がった。

417リバースカードをオープン ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:41:14 ID:CNfbitU20



「なっによ、あれ……」
巻き起こる炎を見て、マリリンは呆然としてしまう。
戦車の姿を発見し、面倒なので近寄らないでおこうと思っていた。
が、裏腹にルガールは嬉々とした表情でその方向へ向かっていったのだ。
ご丁寧に「君は待っておいた方がいい」という一言まで添えて。

隣に倒れているのは、生々しく火傷の跡が残る少女。
息はまだあるが、その体が負っているダメージは大きい。
スッ、と手が伸びる。
こんなに弱っているなら、殺してしまえばいい。
どうせ生きていても、役に立つことはないのだから。
ゴミを見るような目で、少女の胸元をめがけて貫手を放つ。
「――――ッ!!」
胸を貫くほんの数ミリ前、感じた寒気に手を止める。
誰もいない、誰もいないはずなのになぜ寒気を感じたのか。
「……はは」
その正体に気がつき、小さく笑う。
「どこまでも、ウザったいねぇ、アンタは」
倒れながらも少女が握りしめていた杖。
その杖が、ギロリとマリリンの方を睨みつけていたからだ。
そして、この睨まれる感覚を感じるのは、初めてのことではない。
脳裏に思い返すのは、サングラスの男。
「ちょっとオバさん」
「オバ……!?」
嫌な記憶を掘り返していると、背後から声がかかる。
その呼ばれ方に怒りを表しながらも、マリリンは声のする方へ振り向く。
目の前に突きつけられているのは、少し古ぼけた刀。
あと少し動けば、喉を切り裂くこともできるだろう。
「ちょ、ちょっと待つおっ!」
あわてて両手を上げ、自分を見下ろしてくる少女へアピールする。
「待てもなーにも、今その子殺そうとしてたじゃない」
「……アンタみたいなガキは嫌いだよ」
「嫌いで結構」
が、少女は思っていたよりも落ち着いていた。
刀を突きつけられていることもある、ここは下手に牙をむかない方がいい。
ありったけの本音をぶつけながらも、マリリンは手を挙げたまま静かに立ち尽くす。
「う……」
その時、後ろの少女がか弱く声を漏らす。
両者の意識が一瞬だけ少女にそれるが、即座に相手へと戻していく。
「とりあえず、その子と一緒に話を聞かせてくれない?
 あの戦車を追っかけてきたら、炎の渦は出るわの天変地異で、状況つかめやしないから」
ひとまず、窮地は切り抜けられそうか。
向こうは殺しに積極的ではない、ならば。

マリリンは思考する。
この状況を切り抜ける、最善の一手を。

418リバースカードをオープン ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:41:39 ID:CNfbitU20

【H-07/南西部/昼】
【KUSANAGI(クローン京B)@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:オロチ覚醒
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(2〜6)
[思考・状況]
基本:暴れる

【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:カティと行動。『正す』以外の方法を知りたい
1:男に対処、ルガールと戦車は保留

【電光戦車(2)@エヌアイン完全世界】
[状態]:損傷(小)、エラー、"何か"が芽生えつつある
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本(上書):ガー、ピー?
[備考]
※エヌアインがサイコキネシスでこっそりプログラムを書き換えました

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:上機嫌
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。
1:KUSANAGIの確保、出来れば吸収

【マリリン・スー@エヌアイン完全世界】
[状態]:焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き残る。殺人に躊躇いはない。
1:ルガールにひとまず従う。世界支配のための力を手に入れるまでは裏切るつもりはない。
2:状況へ対処。
3:子供(ダニー)が若干怖い(?)

【ナディア=カッセル@メタルスラッグ】
[状態]:呆然、空腹、ダメージ(小)
[装備]:天叢雲剣@神話(現実)、おなべの蓋
[道具]:基本支給品(食糧ナシ)、不明支給品(0〜1、武器ではない)
[思考・状況]
基本:美味いメシを喰う
1:は〜いストォ〜ップ

【カティ@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本:エヌアインと行動。ミュカレを『許す』ために、彼女にもう一度会いに行く

419 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:41:51 ID:CNfbitU20
続いて投下します

420旧人類見下した結果wwwwwwwwww ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:42:32 ID:CNfbitU20
山を登れば、そこでは猿と猿が喧嘩していた。
いや、正確に言えば片方は人間なのだが。
2メートルを優に越える巨体、褐色の肌。
ぱっと見はゴリラにしか見えない。
……流石にそれは失礼か。

それはさておき、もう片方は完全に"猿"だった。
つぶらな瞳、出っ張った口、そして全身から生える毛。
まごうことない、猿だった。
但し、只の猿ではない。
その身につけている数々の道具。
頭には羽のついた赤い兜。
体には赤のロングコートを纏い。
足には白のロングブーツを履いている。
そして、手には黄色い蛇腹剣。
誰しもが一度は見たことがあるであろう存在、聖堂騎士の装備だ。
では、なぜそれを"猿"が持っているのか。
「くっ……」
そこまで考えたとき、対峙していた男の体勢が崩れる。
猿とはいえ、さすがは新人類と言ったところか。
このまま見ていて男が殺されるのは忍びない。
「はぁっ!!」
勢いよく足を蹴り上げ、烈風を迸らせていく。
猿の真後ろ、完全に虚をつく形で襲いかかる。
「グギャッ!!」
何とも獣らしい醜い声を上げ、猿が悶絶する。
と、同時に猿も男も自分の存在に気がついたようで、両者共に自分を見つめる。
そして、猿はさらにもう一つのことに気がつく。
自分が、挟まれているということに。
「グルゥ……」
さすがに劣勢だということに気がついたのか、猿はその場から逃げだそうとする。
もちろん、アーデルハイドはそれを見逃すことはしない、だが。
「やめておけ」
そんな彼の行く手を遮るのは、対峙していた男だった。
不可解な行動に、アーデルハイドは思わず睨んでしまう。
「……何故だ?」
「無益な殺戮は好まん、動物など放っておけばよいのだ」
「しかし」
もちろん、アーデルハイドが反論する。
だが、男は落ち着いた目つきで言葉を返す。
「分かっている、分かっているからこそ奴は逃がした方がいい」
そして、頬を歪めながら言う。
「ヤツは、初めて味わうだろうからな」
アーデルハイドはその言葉の意味を少しおいてから、理解した。
ああ……そういうことか、と。

421旧人類見下した結果wwwwwwwwww ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:42:53 ID:CNfbitU20



逃げる、逃げる、逃げる。
まさか新手が来るとは思っていなかった。
油断していた、心に綻びがあった。
猿になろうが、旧人類ごときに負けるわけがないと、そうタカを括っていたからだ。
どれだけ束になろうと、敵ではない。
常日頃から、そう思っていたのだから。
だがどうだ、先ほどの自分は何の力も持たない男一人すら倒せなかったではないか。
挙げ句、別の男に奇襲を許し。
無様にも逃げ続けることになった。
苛々する。
この体では空が飛べないことも、今まで当然のように虐げてきた旧人類に見下されることも。
なぜ、こうも上手く行かないのか。
旧人類など、ただ我らに虐げられていればよい存在だというのに。
なぜ、なぜ、なぜ――――

足を止める。
目の前に男が現れたから。
聖堂騎士は再び剣を構え、男へ襲いかかろうとする。
相手が一人ならば、大丈夫。
旧人類一人ならば、この姿でも戦える。
先ほどのようなヘマは、もうしない。

「こりゃあ……いい話のネタが出来た」

出くわしたサングラスの男が、くつくつと笑う。
本当に可笑しいものを見ているように、くつくつと笑う。

「逃げな、俺は動物虐待の趣味はないぜ」

男が吐いた台詞、それは二度目の出来事。
新人類たる聖堂騎士にとって、二度目の"見下される"感覚。
牙をむき、獣独特の唸り声を上げながら男に切りかかっていく。
だが、怒りにまかせた攻撃は当然読まれている。
ひょいと避けられ、さらにすれ違いざまに"視"られる。
べちゃっ、と肉が地面に落ちるような音が重く響く。
その瞬間、聖堂騎士の獣の体が鉛のように重くなる。
体が思うように動かない、というべきか。

「まぁ、そう焦りなさんな」

自由の利かない体に困惑すると同時に、男は笑いながら聖堂騎士の側へと近寄る。
そして鋭い蹴りを叩き込み、聖堂騎士の体をふわりと浮かしていく。
そして、ぴったりはまっていたはずの兜が脱げ、手から蛇腹剣をこぼしてしまう。
さらに、あろうことか用意された道具袋まで落としてしまった。
吹き飛んだ先からあわてて装備を取り戻そうとするものの、体が重くて上手く動かない。

「これは、預かっておくとするかねぇ」

そうこうしているうちに、男が剣と兜と袋を拾う。
ニヤニヤと笑いながらその兜を頭に填め、剣を片手に携えていく。
その姿を、聖堂騎士はただ見つめることしかできない。

「じゃあ、せいぜい人間以下の暮らしを頑張りなよ」

422旧人類見下した結果wwwwwwwwww ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:43:12 ID:CNfbitU20

最後まで笑いながら、男はその場を立ち去っていく。
聖堂騎士は、ゆっくりながらもそれを追いかけようとする。
が、速度が段違い。
聖堂騎士が一歩歩く頃には、男は十歩ほど歩いている。
そうして、だんだんと距離を離され。

ついには、見えなくなってしまった。

怒りをぶつけんと、猿はその場で地団太を踏んだ。

まるで、人間のように。

【E-5/中央部/1日目・昼】
【バーナード・ホワイト@アウトフォクシーズ】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、「ヨシダくん」、「サトウくん」
[思考・状況]
基本:ミュカレを殺す
1:アーデルハイドと情報交換

【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止、殺し合いに参加しない人間を募る
1:バーナードと情報交換
[備考]
※ローズ人形は手放すつもりはありません
※アーデルハイドの行き先は後続にお任せします。

【E-4/東部/1日目・昼】
【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]:左腕重傷
[装備]:ヘビィ・D!のサングラス
[道具]:基本支給品、不明支給品2〜6
[思考・状況]
基本:自らが受けた任務を果たす
[備考]
※自前のグラサンは割れました

【テンペルリッター(一番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:猿化、移動低下、ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:旧人を狩りつつ、草薙京を探して決着をつける。京の他に自分と戦える相手がいるならば会いたいが、そんな相手はいないとも思っている。
1:激おこぷんぷん丸

423 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:43:22 ID:CNfbitU20
さらに投下

424アホウドリを捕獲しました ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:44:17 ID:CNfbitU20



くすくすくすくす……



会話は、ない。
圧倒的な敗北を経てから、麻宮アテナの口数は目に見えて減っていた。
敗北を突きつけられ、無力という事実が心のトラウマを抉る。
加えて同行者は何を考えているかわからない、無口な少年。
会話が生まれるはずもなく、黙々と山を登り続ける。

「あ」

その時、突然少年が呆けた顔で言葉を発した。
一体どうしたというのだろうか。
忘れ物? 何を忘れたというのか。
まさか催してきたというのか、年頃の少年とはいえ今は勘弁願いたい。
アテナはゴクリと唾を飲み、二の句を待つ。

「お姉ちゃんだ」

そういうと、ダニーはひょいひょい〜っとアテナを抜かして前へ躍り出る。
そう、ダニーは姉を捜していた。
不幸にもこの殺し合いに巻き込まれてしまった、たった一人と思わしき肉親を。
ふと前を見れば、髪の毛が短ければダニーと瓜二つの少女が、そこに立っていた。

ひとまず、目的は達成した。
ルガールのような悪人がはびこるこの場所で、お互い五体満足で出会えたのは非常に幸運な出来事だ。
もし、ダニーが一人でルガールと出会っていたら……と考えると、自分が失った片目にも意味があったのかもしれない。
ズキリ、となくなった目が痛む。
しかし、そう考えると不自然なこともある。
今、再会を果たしたダニーの姉は、たった"一人"だった。
サバイバル術に長けているのか? お世辞にもそうは見えない。
同行者に守られていた? ならばその同行者は?
同行者が身を張って守ったのだとすれば、少女には追われている存在がまとう"焦り"がない。
至って普通に、この場所にたどり着いたということになる。

――――一人で。

弟も弟だが、姉も姉で不思議な存在だ。
しかし、二人向かい合って"笑って"いるその姿は、子供の持つそれだ。
心安らぐ、微笑ましい光景。

ああ、次はこの二人を守らねばいけない。
こんな殺し合いなんかで、命を落としていい子供ではない。
決意とともに、拳を強く握る。

425アホウドリを捕獲しました ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:44:43 ID:CNfbitU20

握る。

にぎ……あれ?

ちからが、はいらな。

なんだ、か、すご、く。

ねむいなぁ。



くすくすくすくす……



以下、双子の会話。

「お姉ちゃん」
「うん」
「パーティだね」
「そうね」
「楽しんだ?」
「少しだけ、ね」
「ずるいよー」
「うふっ、ごめんなさい。どうしても楽しくなっちゃって……」
「でも、これからの方が楽しいね」
「そうね、すっごくいいおもちゃを連れてきてくれたわね」
「えへへ、ちょっとつまみ食いされちゃったけど、すごく楽しいと思うよ」
「少し欠けても七面鳥は七面鳥ですものね」
「うん」
「じゃあ、パーティを始めましょう」
「そうだね」
「外しちゃだめよ」
「うん、大丈夫」

打ち出される、麻酔針。

さぁ、パーティが始まる。
ゲストは気づかなかった少女。
みんなおいでよ、盛大にお祝いしよう。
なんてったって、パーティなのだから。
赤い、赤い、パーティなのだから。

【G-6/北部/1日目・昼】
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(中)、左目遺失、若干の恐怖心、睡眠
[装備]:眼帯
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:超能力で誰かの役に立つ
1:ダニーたちを守る
2:誰かに会った時、ルガール・バーンシュタインが対主催だということを伝える(?)

【ダニー@アウトフォクシーズ】
[状態]:上機嫌
[装備]:麻酔銃
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)、ガーゼ、傷薬
[思考・状況]
基本:戦争ごっこをする

【デミ@アウトフォクシーズ】
[状態]:上機嫌
[装備]:DSA SA58(30/30 予備マガジン2)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:戦争ごっこをする

426 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:44:54 ID:CNfbitU20
ラスト投下します

427中間試験 科目:自我 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:45:34 ID:CNfbitU20
「あらあら、そうピリピリしないで?」
乱入者であるシェルミーを、ネームレスは睨み続ける。
堅い表情のネームレスに対し、シェルミーはわざと笑ってみせる。
瞬間、シェルミーの隣で炎が爆ぜる。
「もう、意地っ張りさんね……」
ふっ、とした動きでそれを避けるシェルミー。
同時に雷球を発生させ、ネームレスを退かせていく。
「ラピちゃん」
「は、はい!」
その空いた時間に、シェルミーはラピスへと話しかける。
すっかり見とれていたラピスは、急に呼ばれたことに気がつくのが少し遅れ、あわてた反応をする。
「三分、よろしくね。大丈夫よ、援護はするわ」
「えっ、ちょ、ええっ!?」
その一言を残し、シェルミーはK'を抱いて後ろへと飛び退いていった。
今一状況を理解できない、ラピスの隣で炎がばちりと爆ぜる。
間一髪のところで伏せてよけれたものの、少し先から感じる殺気に後込みをせざるを得ない。
「貴様も、あの女の仲間か」
「そうっちゃ、そうなるけど……」
「ならば、俺に立ちはだかる"壁"か!」
「そうじゃないっちゃ、そうじゃないんだけねぇ〜ってどぉわっ!!」
話の途中で、再び炎が爆ぜる。
運良く回避できたものの、次も回避できるとは限らない。
「こら! 話ぐらい聞けっ、このオタンコナぁーっどわわっ!!」
怒りを露わそうとしたラピスの側で、再び爆発が起こる。
三度ほど続いたラッキー、もしかしてわざと外しているのではないか、とも思える。
たまった怒りをぶつける場所もなく、ラピスは半ば自棄になって鞭をつかむ。
「あーもう! わかったわよやりますやりますヤッテヤルザー!!」
三分、そう彼女は言った。
ちょっと鞭が使えるくらいのただの女子高生が、ギリギリ稼げるであろう時間。
むしろ、シェルミーは自分を試しているのかもしれない。
その程度が出来なければ、この殺し合いを生き残ることなど出来はしないと。
ニット帽をかぶり直し、メガネを直し。
ラピスは、黒炎を操る男へと対峙していった。

428中間試験 科目:自我 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:45:46 ID:CNfbitU20



「さて、なんで私があなたを助けたか、わかる?」
ネームレスから少し離れた場所、K'の体をゆっくりと地面に下ろしてからシェルミーは問う。
「ケッ、見ず知らずの人間の考えが読める力がありゃあ、苦労しねえな」
「それもそうね」
当然の反応を返す。
初対面の人間の思考が読めれば、大半の人間は苦労せずに済む。
そんな当然の反応に、シェルミーは笑って返す。
「じゃあ、時間もないしザックリと本題に行くわ」
その一言と同時に、シェルミーの纏う空気が変わる。
「あなた、草薙の力を植えられてるでしょ」
「……だったら、どうした」
シェルミーの真剣な問いかけに、K'はつっけんどんな返答をする。
それを気にするでもなく、シェルミーは言葉を続ける。
「我々オロチ一族と三種の神器の力は、相反するものであり、かつとても性質が近い力なの。
 八神庵は知ってるわね? 彼がいい例よ、オロチの力と神器の力を組み合わせた……ね。
 そして、私はオロチの一族、そしてあなたは神器の力を持ってる。もう、分かるわね?」
「俺の力を、寄越せってか」
シェルミーが言おうとしていた答えを、先回りしてK'は言う。
答えることはなく、ふふっと含んだ笑みで返答する。
同時に、炎の柱が灯る。
「お断りだ」
「でしょうね」
シェルミーは急いで飛び退き、K'から距離を置く。
満身創痍の中、K'はひたすらにシェルミーを睨み続ける。
「そう言ってくれなきゃ、これからやることの価値がないわ」
だが、シェルミーはK'を傷つけることをしない。
それどころか、懐からナイフを取り出し、自分の手首を切り始めた。
「てめっ、何を」
「私からの、プレゼント」
一瞬の出来事に狼狽えてしまったK'に、シェルミーは一瞬で近寄る。
そして、左腕から流れ出る血液をK'の口に流し込んだ。
その瞬間、どくんと鼓動が加速する。
何かが自分に語りかけている気がする。
同時に襲いかかる頭痛に、身を悶えさせていく。
「抗うことを知っているあなたなら、従えられるはずよ……頑張って」
体をくねらせながら悶えるK'をそのままに、シェルミーはその場を立ち去っていった。

429中間試験 科目:自我 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:46:00 ID:CNfbitU20



「ふん、他愛もない……」
白く光るグローブをちらと見、ネームレスは言う。
目の前には数々の生傷をつけ、荒く肩で呼吸しているラピス。
その眼はまだ闘争心を灯しており、力強く鞭を握っている。
「待っていろ、今止めをさしてやる」
ひゅっ、とネームレスがグローブを振るう。
同時にラピスは横に避けるが、着地に失敗し膝を擦りむいてしまう。
ああ、もうダメかと思ったその時。
「チッ!」
見覚えのある雷球が、目の前に現れる。
「はぁ〜い、お・ま・た・せ♪」
体をくねらせながら雷を纏い、シェルミーはラピスの目の前に現れる。
「遅いよ……」
「ごめんなさいね、でも若いんだからこれくらい無理しなくっちゃ」
いくらちょっとした修羅場を抜けてきた経験があるとはいえ、ラピスはただの女子高生である。
鞭一本で怪奇現象に近い炎を操る格闘家に立ち向かうのは、さすがに無理があった。
いろいろと言いたいことが貯まっているようだが、そんな怒りをぶつける気力も残っていないらしい。
「じゃ、後はナイト様にお任せしましょ?」
疲れきったラピスの体を抱え、再びシェルミーはその場から離れようとする。
もちろん、ネームレスはそれを逃すことはしない。
グローブを居合いのように抜き、炎を起こす――――

その両者の間を、駆け抜ける一つの影。

予想していなかった攻撃を、ネームレスはモロに受けてしまう。
大きく吹き飛びながらも、何とか地面に着地する。
「貴様、まだ立つか」
手で血を拭いながら、現れた男に睨みをとばす。
視線の先に立つのは、煤けたライダージャケットの白髪の男、K'。
彼もまた、その瞳に怒りを宿していた。
「ゴチャゴチャとウゼぇんだよ……!!」
怒りの声。
それはネームレスだけに向けられたものではない。
シェルミーに血を飲まされてから、頭の中で響き続ける声に対しても言っている。
「どいつもこいつも……」
だが、彼は屈しない。
"やせ我慢"することを教えられたから。
"自分が自分であること"を貫くと決めたから。
「俺は、俺だ!!」
拳を掲げると同時に、"白い"炎が巻き起こる。
オロチも草薙も関係ない、K(彼)'はK(彼)'なのだから。

430中間試験 科目:自我 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:46:11 ID:CNfbitU20

【I-9/北東部/1日目・昼】
【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜5)
[思考・状況]
基本:一刻も早い任務への復帰のために皆殺し

【K'@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身に火傷、オロチの血液がin
[装備]:制御用グローブ
[道具]:基本支給品、ビーフジャーキー一袋、不明支給品(ターマの支給品を含む。1〜3)
[思考・状況]
基本:借りを返すため、完全者と戦う
1:目の前で死んだヤツ(ターマ)の仇を取る
2:徹底的にやせ我慢し、"抗う"。
[備考]
※シェルミーにオロチの血を流し込まれましたが、自我で押さえています。
  流し込まれたオロチの血、及び草薙の血の両方を押さえている影響か、炎が白くなっています。

【H-9/南部/1日目・昼】
【ラピス@堕落天使】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:一本鞭
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:首輪解除から完全者をシメる、そんでこの場から脱出。
1:まったく……
2:シェルミーととりあえず行動。改竄された歴史に興味。

【シェルミー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生を謳歌するため生き残る、襲われれば容赦はしない。完全者にお仕置きをする。
1:ラピスととりあえず行動。

431 ◆LjiZJZbziM:2013/05/07(火) 00:47:35 ID:CNfbitU20
以上で全て投下終了です。
ご意見、ご感想などありましたらどうぞ。

これで今期も月報+10↑やよー、頑張ったやよー、おほしさまほしいやよ!
あっ、ちなみに後数パートしたら放送行くと思います。
放送後は予約期限が無期(一月に一回報告)に変わるので宜しくお願いします。

432名無しさん:2013/05/07(火) 11:27:40 ID:bDLGWcDs0
四作連続投下、超乙です。

感想を。

『リバースカードをオープン 』
戦車が、戦車が……!
ルガールはエヌアインと共闘なるのか
マリリンは、カティをさっくり殺しにかかるところは凶手っぽさバリバリでカッコイイ。
でもナディアにオバサン呼ばわりされて「はああ!?」ってなるところがすごく、らしいw

『旧人類見下した結果wwwwwwwwww 』
テンペルさんふるっぼこかわいそうれす。
バーナードは無敗の新人類のプライドの高さをよくわかってるんだなあ。
塞のちゃっかり感が異常。そしてそこが良い。
題名の草になぜか哀愁を感じる。

『アホウドリを捕獲しました 』
双子そろったー! 一番注目しているメンツでわくわくです。
どんな戦争ごっこを展開してくれるのか……!
二人の会話がぞくぞくする。キャラ付けうまいなあ。

『中間試験 科目:自我』
K'かっこいい! ターマの心意気をきっちり胸に留めてるんだなあ。
KOFは全く詳しくないんだが、オロチの血がINしちゃうとこれからどーなっちゃうんだ!?
ネームレスとぶつかって、最後まで俺は俺だと言えていてほしい。
ラピスもシェルミーに振り回されるだけじゃなく、ちゃんと自分で踏ん張って戦うところが素敵だー。

まだ月報までは日にちあるけど、祝+10。放送が待ち遠しいです。

433名無しさん:2013/05/08(水) 21:57:23 ID:GadN9Pq20
四連投乙です。以下感想

『リバースカードをオープン』
エヌアイン君のENハッキングが炸裂!
KUSANAGI戦を乗り切ってちゃんとトモダチになって欲しいところ
マリリンオバさんはそのまま大人しくしててください

『旧人類見下した結果wwwwwwwwww』
ベンペルリッターの受難 〜グラサン編〜
彼女には何とかこのドン底から這い上がって貰いたいですね。猿のままで

『アホウドリを捕獲しました』
合流してはいけない二人が合流してしまった!
果たしてアテナに未来はあるのか…。頑張れ隻眼アイドル

『中間試験 科目:自我』
ケェーイダァーッシュ復活!こんなにかっこいいやせ我慢はそうそうないですね
あとちゃんと三分保たせたラピスは偉い!

434 ◆LjiZJZbziM:2013/05/15(水) 07:57:48 ID:qoAvqibg0
月報データです、いつも集計お疲れ様です。
PW 53話(+10)  39/55 (- 1)  70.9 (- 2.8)

435 ◆LjiZJZbziM:2013/05/22(水) 08:15:47 ID:g5saAaL.0
灰児、ロッシ、ブライアン、モーデン兵予約

436 ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:49:42 ID:BAXzbZlM0
三連続投下します

437痛いのはきっと ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:49:56 ID:BAXzbZlM0
「……何考えてやがる」
大きく後一歩踏み込めば拳が届く距離で、灰児は立ち止まる。
目の前の少年、ルチオ・ロッシが攻めるでもなく、守るでもなく、笑っていたからだ。
無防備をさらけ出しながらも、ただ静かに笑う。
後一歩踏み込めば拳が突き刺さると言うのに。
ロッシは声を殺しながら、静かに笑っていた。

不審がっていた灰児が様子をうかがっているにも関わらず、ロッシは笑う以外のアクションを見せようとしない。
それどころか、しばらくするとどこかへと歩きだして行ってしまった。
最後の最後まで、灰児を見つめながら。
「……チッ」
舌打ちをし、灰児はサングラスをかけ直す。
灰児には敵わないと悟り逃げ出したか。
それとも灰児程度を相手にしている暇などないと判断したか。
恐れられているのか、ナメられているのか、少年の表情からは判断できない。
まあ、事実はどうあったにせよ、戦闘を避けられたことには変わりない。
灰児は早々にロッシのことを忘れ、足を進める。

再びしばらく歩いたところで、灰児は別の集団と出くわす。
そこには、銃を構えてあたりを警戒する男と、シャベルを持って穴を掘る男と、首を掻き切られて死んでいる死体。
突きつけられる銃に反応し、ゆっくりとと手を挙げる。
その中で、灰児はこの状況を飲み込んでいく。
銃を構えている男、そして何より穴を掘っている男の目は。
悲しみに、満ちあふれていた。
「なんで穴掘ってる」
男が自分に緊張しながら銃を突きつけているのをわかっていながら、灰児は口を開く。
ただ、単に気になったから。
こんな殺し合いのど真ん中で、いくら護衛が居るとはいえ悠長に穴を掘っている理由が。
「友を、弔ってやりたいんだ」
デカい図体からは想像できないほど、か細い声で男は答える。
なるほど、と灰児は声を漏らす。
友人、灰児にはできたこともない存在。
それを失ったという男の気持ちは、どうなのだろうか。
「……痛ぇか?」
思った疑問を、そのまま男にぶつけていく。
灰児は、"痛み"を知らない。
それは、肉体的な痛みだけではなく。
心の痛み、悲しいという気持ちも、知らない。
「そうだな……」
男は目を合わせることもなく、ただ穴を掘り続けている。
ただその一言は、灰児にとっては肯定となり得る答えだった。
「……掘るもん、なんか貸せ」
舌打ちの後、銃を突きつけていた男にぶっきらぼうに問う。
差し出されたのは子供が使う小さなスコップだったが、灰児は何も言わずにそれをもぎ取る。
そして、大きなシャベルで穴を掘る男の側に寄り、がむしゃらに穴を掘り始めた。

"痛い"と言うことを、知りたい。

みんな知っていて、灰児が知らないことを知りたい。

だから、灰児はただ穴を掘る。

必死で、ただ、必死で。

438痛いのはきっと ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:50:06 ID:BAXzbZlM0

【H-6/西部/1日目・昼】
【ルチオ・ロッシ@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(2〜6)
[思考・状況]
基本:…………ケッ

【H-3/平原中央部/1日目・午前】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:、穴を掘る

【モーデン兵@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:ブライアンについていく

【壬生灰児@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:完全者を殺す、立ちはだかる障害は潰す
1:穴を掘る
[備考]:攻性防禦@エヌアイン完全世界の知識があります。

439ネゴシエーター ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:50:20 ID:BAXzbZlM0

「……一つだけ聞かせろ」
長いようで短い沈黙の後、ゾルダートは短く口を開く。
「俺が協力したとして、どうやって首輪を調べるんだ?」
ほう、と余裕を浮かべていたマルコの顔が、固まる。
「貴様自身の首輪は調べれない、かといって危険をはらんでいる以上俺の首輪を命と共に差し出すこともできん。
 協力しよう、と言ったところで、何も進展しないではないか」
ゾルダートの指摘は真っ当かつ当然のこと。
外部仕様書はある、そして内部に使われている技術の仕組みも分かった。
だが、それを"どの"首輪で調べるというのか?
自分の首輪では精密動作ができるわけがない。
他人の首についている首輪ならできるかもしれないが、常に死が隣り合わせの危険がある。
喜んで差し出す人間など、いないだろう。
「……俺を協力させたいというのならば、首輪を用意してからにしろ。
 それとも何だ、ここで協力せぬと言うのならば、殺すか?」
脅し文句のように、マルコにぶつけていく。
自分に危害の及ばない"首輪"を持ってこい、それがゾルダーとの要求だ。
首輪の解除という魅力的な話も、自分の命がなくなってしまうのならば何の意味もない。
自分の安全が第一、技術と情報を貸与するにはそれが必要不可欠だ。
「俺もお前を見逃す、そしてお前も俺を見逃す。それまでこの話は、保留だ」
マルコは黙ったまま、動かない。
彼の手持ちには、首輪なんてあるわけもない。
この地に来て誰かに出会ったのは、目の前のゾルダートが初めてなのだから。
ましてや、彼に命を捧げてくれる人間なんて居るわけもない。
「……じゃあよ」
だが、悪あがきという名の提案は出来る。
「首輪見つかるまで、一緒にいてくれよ」
「なっ……!?」
驚くゾルダートに、今度はマルコが言葉を被せていく。
「いい提案だと思うぜ? 首輪が見つかりゃそこから即外せるかもしれねえ。
 もし外せないと分かれば、その時は好きにすりゃいい。
 正直なところ、電光機関持ちのお前にタイマンで勝てる自信はねーからな」
首輪が見つかったらまた会いましょう、より一緒に首輪を探しましょうと言うこと。
確かに、発見後即調査に移れる利点はあるし、そこでうまく行けばこの忌々しい首輪を解き放つことが出来る。
だが彼の目が黒い内は、人間を殺すことなど出来ないと言うデメリットもある。
しかし、この殺し合いに呼ばれているのは殆どが旧人類。
自分が手を下すまでもなく、大半が死に絶えるだろう。
「……首輪が見つかるまで、だ」
「オーケイオーケイ、そこからは好きにすればいいさ」
ゾルダートは、ゆっくりと要求を飲み込んだ。
首輪が見つかるまで、それまでは仮の同盟を組んでやる。
もし首輪が解除できれば、そこからは自分の好きなようにする。
完全者の元へ、向かう。
「まっ、俺を倒せたら、だけどな」
「ふん、大口を」
高ぶるゾルダートを横目に、マルコは笑う。
ともかく、一歩前進だ。それは変わらないのだから。

440ネゴシエーター ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:50:33 ID:BAXzbZlM0
【F-8/無学寺/1日目・昼】
【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康だがやや消耗
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本:全参加者及びジョーカーを撃破後ミュカレを倒し、先史時代の遺産を手に入れる。
1:首輪入手まではマルコに協力
2:首輪を入手すればマルコに情報の提供
3:その後は……

【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)、小冊子、アノニム・ガードの二丁拳銃(二丁一組、予備弾薬無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破
1:一刻も早く首輪サンプルを取得
2:その後、得た電光機関の知識を元に解除に挑戦

441自由を掴め 〜最初で最後の放送〜 ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:51:53 ID:BAXzbZlM0
ざざん、ざざん、と波の音がする。
目の前に広がる海はどこまでも壮大で。
空は青く、澄み渡っている。

ここが殺し合いの会場でなければ、絶景と呼んでも良かった。
ただ、殺し合いという要素だけが、この景色すらも血生臭くしてしまう。
まあ、それは彼らには関係のない話なのかもしれないが。

第四区画の黒い翼は、何を思うでもなくただ前を見つめ続けていた。
空は自由だ、何者にも支配されることはない。
そして、クールはそんな空のように。
自由であり続けたいと、願い続ける。

「ん……?」
そんなクールにあこがれ続けている男が、何かに気づく。
そのままそそくさと袋を開け、タブレットを取り出していく。
小刻みに繰り返される震動が、何かを伝えようとしていた。
「通知……」

そう、それは。
この殺し合いが始まってから六時間が経つという、合図。
翔は食い入るように、その画面を見つめた。



写っていたのは、一人の修道服の少女だった。



「ごきげんよう、みなさん。
 といっても、ご機嫌なみなさんは少ないかもしれませんが。
 ともかく、完全者の代わりにこの通達を請け負うことになったゲーニッツと申します、今後ともよろしく。
 ……ええ、一部の人間は驚くでしょう。二重の意味で。
 まあ、その理由を話している時間はありませんので割愛といたしましょう。
 さて、予告通り六時間経過のこの通達ですが、ここでお知らせがあります。
 というのも、大したことではありません。
 この六時間ごとの通達は今回を限りに消滅し、禁止エリア及び死者の発表はアプリの更新を以て通達とします。
 また、この配信の後から名簿アプリが解禁され。この殺し合いに招かれし者たちの名が参照できます。
 知り合いの名に一喜一憂するのも構いませんが、どうせ殺さなければいけない者たちです。
 気に止めすぎて、死んでしまわないようにお気をつけて。
 では……またいつか、お会いしましょう」



そして、ぷつんという音と共に、配信は終わった。

「……禁止エリア」

今の配信を聞いていたらしいクールが、一足先に地図を確認している。
先ほどまで普通だった地図の一部が、黒く変色している。
これが、禁止エリア。
二時間後からは、足を踏み入れれば死が待っている。

「どこまで、俺から自由を奪うつもりだ」

クールの声は、怒りに満ちていた。
"これをしてはいけない"、つまり自由を奪われること。
それは、クールが何よりも嫌うこと。
只でさえこの首輪のせいで自由がないと言うのに。
行く先まで自由を奪われるというのか。

「完全者……ッ!」

怒りを確かに込めた声と共に、クールは再び歩き出す。
自分が持っているべき自由を、その手に再び取り戻すために。
そして、その後ろを追う男、赤碕翔は。
その自由を見る、掴むために。

第四区画の黒い翼が舞う場所へ、足を進めていった。

そこに待っているであろう、自由の元へ。

442自由を掴め 〜最初で最後の放送〜 ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:52:04 ID:BAXzbZlM0
【E-1/北部海岸/1日目・真昼】
【赤碕翔(クローン京A)@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き抜き、自由を知る
1:クールについていく

【クール@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:クールのダーツ(残り本数不明)@堕落天使
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:自由を取り戻すため、首輪を解除し少女を殺す。

※主催陣営にゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERSがいます
  時空間のねじれにより、姿がSNK VS. CAPCOM SVC CHAOSのブリス化の姿になっています
※名簿が参照できるようになりました
※今後、特例が無い限りは放送及び通達は行われません
※地図、名簿アプリは六時間ごとに自動更新されます。

443 ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 00:53:24 ID:BAXzbZlM0
以上で投下終了です。
そして、第一放送に到達いたしましたので、予告どおり予約期限を無期に変更させていただきます。
書きたいパートなど有りましたら、ぜひともお気軽にご予約下さい。
なお、長くかかりそうな場合は半月、ないし一月に一度ほど報告をしていただければオーケーです。
質問や意見などありましたら、お気軽にどうぞ。

それでは、宜しくお願いします。

444名無しさん:2013/05/23(木) 02:41:03 ID:pnmZgLQQ0
投下乙です。以下感想

痛いのはきっと>
ロッシは不気味だなー。考えが読めない
痛みを感じないというのはやっぱり悲しいことですね
せめて心の痛みは感じ取れるようになれるといいな

ネゴシエーター>
ゾルは結構危ないスタンスですね。今回は上手く丸め込めましたがw
あとはマルコと首輪の調査次第ですかねー
それと一箇所ゾルダー”と”になってました

自由を掴め 〜最初で最後の放送〜>
まさかのゲニ子登場w
ゲーニッツが協力しているってことはオロチにも良いことあるんだろうかこのロワ
ロワ会場ではどんどん自由が奪われていくのでクールにとっては地獄ですね。頑張れクール

445 ◆LjiZJZbziM:2013/05/23(木) 12:58:03 ID:SDhpJpk.0
禁止エリアはA,B,I,J行 1,2,9,10列すべてと致します。
二時間後にすべて発動します
六時間を目安に名簿と地図か更新されますが、通知はありません。

446 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/05/29(水) 03:50:27 ID:56BAxHkQ0
アテナ、ダニー、デミを予約させて頂きます

447 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/11(火) 08:20:21 ID:o1YfQCqE0
投下します

448少年少女迷いの庭で天国夢見る ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/11(火) 08:21:12 ID:o1YfQCqE0
暖かな日差しのなか、微睡む幸せな時間。
今日は久しぶりの休日だから、少し欲張ってお昼まで寝ていようと、ベッドに囚われた少女は笑っていた。
頭のてっぺんから足の指先まで、力を抜いた体。益のある怠惰。
からから、突然歯車を回すような音が耳朶を叩く。
このまま張り付いて開かなくなりそうなまぶたを懸命にこじ開けると、少年と少女の、あどけない掌が目に映った。
不思議に思って今度は体を起こす。大きく伸びをして、時計を探そうと手さぐりして触れる鉄かごの感触。

「アテナお姉ちゃん、やっと起きた」
「本当、お寝坊さんね」
くすくす、二人分の笑い声。楽しそうに自分を待ちわびていた声に、ああそういえばとアテナは納得する。
「ごめんね、ふたりとも……ちょっと疲れちゃってたのかな」

何かとても辛いことがあったような気がする。思い出せない、ぼんやりとした曖昧な記憶。
分かることは、辛いそれらから帰ってこれたという強い安堵。
きっと夢か何かだろうと、子供たちの笑顔の前にアテナは燻った不安の火種をもみ消す。
からから、歯車ではなく、ハムスターが回し車を回す音。
双子が抱えているゲージに住まう小さないきもの。
「可愛いなあ」
ふと、回すのをやめたハムスターがアテナをきょとんと見つめて、次いで辺りをそわそわと伺い出した。
「ハムスターは、こうやっていっぱい走って敵から逃げてるんだって」
「敵なんかいないのにね、おうちに居るのに怖がってる」
かわいそう、かわいそう。
ステレオのように響く声。
胸がチクチクする。

「そういえば、二人共どうしてうちにいるんだっけ……?」
見慣れた景色の違和感。
双子がいるからだけじゃあない、アテナは瞬きし、世界を確認する。
ふかふかのベッドも可愛らしいお気に入りの家具も、衣装がたくさん入ったクローゼットも、全て記憶の通りだ。
「お姉ちゃん約束したじゃない」
「一緒に遊んでくれるって」
そんな約束していただろうか。
「知らなかったみたいよ、ダニー」
「そういえば僕言ってなかったよ、デミ」

くすくすくすくす……

子供とは往々にして自己完結で約束を取り決めたりするものだ。
アテナはそんな無邪気さに安心して、質問する。

「何をして、遊ぶの?」

くすくすくすくす……

「戦争ごっこだよ」

449少年少女迷いの庭で天国夢見る ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/11(火) 08:22:27 ID:o1YfQCqE0
言葉と同時に足元から飴のように溶けた夢の世界。
アテナが自覚した時、その体は、少し固く古いベッドの上に投げられていた。
むずむずとする埃っぽさに眉根を寄せて、小さくくしゃみをする。

「……私、寝ちゃってたのか」
記憶がいまいち安定せず、呆けた声を出す。
すぐさま現状を思い出し目を大きく開くが、体の怠さが拭えない。
無理に起きてしまったような、痺れにも似た倦怠感。
そもそもどうして眠っていたのか、いつから眠っていたのか。

「そうだ、あの子たちは」
できる限りの速度で慌てて見回すも、そこには誰もいない。
不安になって、手をついてベッドから抜けだそうとしたアテナの手にかさりと紙が触れる。
備え付けのペンと、メモ用紙。
そこには幼い子供らしい字で書き置きがしてあった。

「あの子たちが……そうか……本当、私は何をしているんだろう」
どんよりと、心にのしかかる遣り切れない感情の塊。
誰かの助けになりたいのに、誰かの役に立ちたいのに。
喪失した左目が己を役立たずと嗤う。
それでも半分の視界で、アテナは置き手紙に目を通し始めた。

『 アテナお姉ちゃんへ
  
  よく眠れてるといいし、早く起きてくれていればもっといい
  お姉ちゃんにはできるだけ元気でいて貰いたいんだ、僕も、デミもそう思ってる 』

手紙を読み進めると、アテナに使命感を帯びた力が湧いてくる。
守るべき人間がくれる力、無力なんかじゃないと、背中を押して再び歩かせてくれる勇気。

『 だってお姉ちゃんは、大事なパーティのゲストなんだから 』

アテナは不可解な文面に首を傾げる。

『 一緒に、戦争ごっこをしよう 』

ダニーが好きと言っていた遊び。
こんなときに、遊び?パーティ?

『 お姉ちゃんがここから出られたら、お姉ちゃんの勝ち 』

窓からは少し高い外の景色。
建物の中だというのは理解できた。

『 僕らがお姉ちゃんを 』

でも、次の文章は、まるで。

『 殺せたら、僕らの勝ち 』

殺人予告じゃないか。
青ざめた顔で、手紙を取り落とすアテナ。
蒼白さは手先にまでも感染し、末端から光を奪い去っていく。
混乱する頭で、アテナは思考する。しかしそれは意味を成さない。

『 お姉ちゃんにも玩具を貸してあげる、一緒に楽しく遊ぼう
  下で待っているから
                    ダニーとデミより 』

机に置かれている、手紙のおもし代わりに使われていた、玩具。
銀の銃身が、不気味に曖昧に、アテナを映す。

きっと本当に遊びで。

子供だから、表現の分別がついていなくて。

恐る恐る取ったそれはずしりと重く、アテナに現実を知らせる。
「そんなこと、あるわけがない」

言い聞かせて、早く下に、下に降りて二人に会おう。
きっとあの双子は笑顔で迎えてくれるはず。
ごっこ遊びに付き合えと、こんな状況でもせがんでくるはず。

450少年少女迷いの庭で天国夢見る ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/11(火) 08:25:35 ID:o1YfQCqE0
階段を降りる。
ゆっくり、ゆっくり。
おぼつかない足取り、倦怠感。あるいは、警戒心。

「ダニー君……?デミちゃん……?」

頼りない声がエントランスホールの中途で消える。
何処にも届くことのない声。

一歩、踏み出す。
緊張感に耳鳴りがした。
そして、音と衝撃が足元を撃ちぬく。

咄嗟に避けたアテナが見た軌跡と音撃は、やはり銃火器のそれだ。

「どうして!?」

叫ぶ暇も僅かに、追撃の連射。
反射鏡は淀みなく現れ銃弾の雨を凌ぐ。
自分自身にも問いかけた悲鳴。
なぜ、双子に警戒していたのか。
予期していなければ取れない行動を迷わず行う体。
痛いぐらいにこの場を支配する、純粋な殺気。
ルガールの持つ支配の力とはまたベクトルの違う、当たり前をねじ曲げた透明な力。

「意外だったね、お姉ちゃん」
「本当ね、たくさん遊べそうよ」

くすくすくすくす……

双子は笑う。
二人の常識、二人の遊び、二人の世界。
そこに招かれたお客様、アテナの悲鳴に二人は喜ぶ。
それは狂気でもなく嗜虐心でもない、ただ楽しいと心が浮き立った笑い声。

手をつないでゲストを追い回す。
物陰に隠れて、前方に現れて。
用意された殺し合いも、同行者も、関係ない。
七面鳥と手を取り合ってダンスをしよう。

アテナは逃げ惑う。
双子の攻撃は執拗だが精密さには欠けるし、アテナには実弾すら跳ね返す力がある。
ただ攻勢には移れず。
疑った、訝しんだ、無傷で冷静な少女を。
不思議な少年だと思った、守りたいと願った。

豪奢で寂れて綻びた空間に銃声と跳弾が交互に音を響かせて飾り立てる。
縺れた足で、アテナはたどり着く。
目の前にはここを抜け出すための道。

まっすぐ走りぬけば、このパーティは終わる。

「ねえ二人共……私が勝ったら、二人はどうするの?」

返事はない。
考えていなかったのだろう、三人のパーティの最後をどう彩るのか。

息も絶え絶えなアテナは、笑っていた。

「私が勝ったら、もうこんなことはやめて、一緒に……」

漸く気づいた、双子に欠けたものを。
それは埋められるもので、透明だからこそ染められるもので。

「一緒に、帰りましょう」

そして足りない心を満たすのだ。
理由は分からないが双子にはアテナの当たり前がない。
ならば生きて、生き抜いて、この子達を変えてあげよう。
暗い片方の目には、幸せな未来が映っていた。
夢のような、天国の未来。

彼女は、おかしくなっていたのかもしれない。
深呼吸をして、走りだす。
双子の笑い声が遠い両サイドから聞こえた。
ふ、と幻のように消えたアテナ。

「さようなら」

「アテナお姉ちゃん」

451少年少女迷いの庭で天国夢見る ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/11(火) 08:26:31 ID:o1YfQCqE0
2つ分の銃声。
挟み撃ちされて消えた少女の体。


どさり、どさり


生きていたものたちが倒れる音を聞いて、アテナは顔を上げる。
テレポートを試みた体は、幻だけを先に送りたどり着いてはいなかった。

どうしてだろう。

ふわふわ、軽すぎる地面の感触。

なぜ、恐怖したのだろう。

無くした左目を抑えれば見える、素晴らしい世界。
未だある右目で見えた、2つの死体。

デミとダニーは、その両手を離して相手を狙った。
いつでも手を握って、仲良く駆けていた双子はもう繋ぐことのない手でお互いを撃ちぬいたのだ。
アテナの幻に向かって、引き金を引いて。

まだあたたかいからだ、なまぬるい液体。
アテナは無言で座り込み、両目を閉じる。
まだ、帰れるはずだ、見えるのだから。

「帰らなくちゃ」

何処に、と尋ねる声は、この空間のどこにも存在しなかった。




【ダニー@アウトフォクシーズ 死亡】
【デミ@アウトフォクシーズ 死亡】


【G-5/ホテル跡/1日目・日中】

【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(中)、左目遺失、若干の恐怖心、心神喪失
[装備]:眼帯
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:超能力で誰かの役に立つ
1:『ダニーたち』を守る
2:誰かに会った時、ルガール・バーンシュタインが対主催だということを伝える(?)
3:帰らなくちゃ

452 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/11(火) 08:28:00 ID:o1YfQCqE0
投下終了します。
不備やご指摘がありましたらお願い致します。

453 ◆LjiZJZbziM:2013/06/11(火) 21:18:34 ID:43UWCoNw0
投下乙です!
純粋が故にアテナは抉られてしまったんだなあ。
もう、いろいろと何も無い彼女が、こう、来ますね。

454名無しさん:2013/06/11(火) 22:02:39 ID:Sn0J6uS.0
投下乙です
うわぁぁぁー!サイコパワーってすごい(白目)
立ち直る展開が想像出来ない…

455 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/17(月) 03:03:31 ID:AgMbSGWY0
アドラー、クーラ、結蓮予約させていただきます

456 ◆LjiZJZbziM:2013/06/19(水) 22:32:59 ID:2XKB1ZsU0
予約ありがとうございます!
シェン、鼎、寅男予約します

457Knuckle Talking Revenge ◆LjiZJZbziM:2013/06/23(日) 23:11:54 ID:MbJcJdDo0
「グルァッ!!」
初手を突き出したのはゾンビ、鋼をも打ち砕かんほどの拳が音速で飛ぶ。
攻撃の対象とされた鼎は素早くその攻撃をかわし、生まれた隙をシェンがつく。
めり込む拳、伝わるひんやりとした感触。
間違いない、この男は死んでいる。
けれど今、両の足を地に着け、シェン達に立ち向かってきている。
なぜか、どうしてなのか。
鼎は、考えられる可能性を全て考える。
けれど、シェンは。
「うおっ!!」
反撃の拳をギリギリでかわしながら、笑う。
シェンにとってはなぜ寅男が蘇ったのか? とか、なぜ自分たちに襲いかかるのか? とかは明日の生ゴミくらいどうでもいい。
戦える、拳を振るって大暴れできる、それだけで満足なのだ。
「おいババア、邪魔だからすっこんでろ」
「なっ……!!」
初撃を避けてから様子見をしていた鼎に、シェンはきっぱりと言い放つ。
戦わないのにそこにいる、シェンにとってはそれだけで"邪魔"なのだ。
もちろん、はいそうですかといって鼎も食い下がるわけには行かない。
死体が動き、民間人に襲いかかっているというのに軍人である鼎が引き下がれる訳も無いのだ。
「あなたこそ、早く逃げなさい」
「逃げる? ハッ、バカ言ってんじゃねえ」
シェンは鼎の言葉に全く耳を貸さず、ゾンビに殴りかかる。
相手が避けないのでサンドバッグを殴っているようだが、ダメージが入っている感覚は全くない。
暖簾に腕押し、とはよく言ったものだ。
「キシャアッ!!」
ゾンビの鋭い跳び蹴りが、シェンの顎を捕らえんと迫り来る。
あえて、その蹴りはガードしない。
代わりに、シェンは腕を突き延ばす。
交差する脚と拳、お互いに吹き飛ぶ両者。
まるで朝の戦いを再現しているかのように、激しい戦いを繰り広げる。
シェンにとっては、楽しい殴り合いの時間。
けれど、それに水を差す存在が居て。
「とりゃっ!!」
ふんわりとした飛びから全体重をかけたボディプレスを繰り出していく。
ゾンビはその一撃を難なく避けるが、鼎はそこまで計算していた。
急いで飛び退いた距離、それは鼎にとっての必殺の間合い。
「――――覚悟」
胴着の胸元をしっかりと掴み、放さない。
四方を捻れ回る螺旋を描きながら、ゾンビの体を振り回していく。
そして空高く放り投げ、すかさず鼎も宙を舞う。
宙に放り出された無防備なゾンビの体を掴み、宙を回りながら地面へ叩きつける。
最後に、もう一度飛び上がる。
手を真横に広げ、ただ一点に集中して足を中心に体全体を落とす。
最後のとどめが、ゾンビの胸元に打ち込まれる。
少し弱くなっていた肉体と内臓が、音を立てて破裂する。
ぽっかりと胸に大きな穴を空けた、ゾンビの体の上に立ち、ため息を一つこぼす。
「……邪魔すんなって言ったろ」
シェンは、そんな彼女に背後から声をかける。
その顔は当然、不満に満ちている。
折角楽しんでいたところに邪魔が入ったのだから、彼の機嫌が曲がるのも無理はない。
「異常事態に対し、迅速な対応と制圧を行っただけ」
「チッ、これだから軍人ってのは嫌いだぜ」
あくまで事務的に答える鼎に、シェンは顔をしかめる。
記憶にある軍人は、どいつもこいつも揃って面倒な奴ばかりだった。
軍人という人種は、面倒極まりない。
そういう認識がシェンの中で出来上がってしまいそうになるくらいには、シェンは軍人が苦手だ。
「じゃあ、アンタが俺と戦ってくれるのかよ?」
不満をぶつけるように、シェンはまっすぐに願望を鼎へと伝える。
「……生憎、民間人に振るう力は持ってないのよ」
「お高く止まりやがって」
それをさらりと冷たくあしらう鼎に、怒りを示しながらシェンは飛びかかる。
力が無いというのならば、引き出せばいい。
暴徒の迅速な制圧が仕事だというのならば、この自分を止めて見せてもらえばいい。
シンプルかつ単純な選択肢を選び、シェンはその拳を唸らせていく。
その姿を見て、鼎も心を引き締める。
民間人ならともかく、暴徒は鎮圧せねばならない。
誰でも構わず襲いかかるというのならば、ここで止めておくのが当然の義務。
ゆっくりと呼吸を整え、超速で迫ってくる男の拳に対して、空気を流す構えを作っていく。
先ほどと同じように、ぴったりとはまり、男の体が宙に投げ出される。

458Knuckle Talking Revenge ◆LjiZJZbziM:2013/06/23(日) 23:12:21 ID:MbJcJdDo0
 


ことはなく。
「ガッ……!?」
漏れたのは、鼎の苦悶の声。
構えが影響しない背後から迫り、必殺の跳び蹴りを打ち出していた"ゾンビ"の姿があった。
ぐらり、と姿勢が崩れたところにシェンの拳が突き刺さり、鼎の体を吹き飛ばしていく。
近くの壁に無防備に叩きつけられ、骨が軋む音とともに血を吐き出していく。
けれど、気を失うことなく堪え忍ぶ。
心臓を容赦なくぶち抜いたはずのゾンビが生きているというのは不可解だが、まだ生きているというのならば話は変わる。
また、あの動の力を流して倒せばいい、それだけのことだ。
ニヤリと笑うシェンをよそに、ゾンビは鼎の方へと向かう。
跳び蹴りか、はたまた拳か。
そのどちらにも対応できるように、鼎は構えを作っていく。
「――――ハッ」
全身を一体化させ、体を振るわせて一つの盾を作る。
瞬間的に身体能力を増強させ、全ての神経を尖らせる。
これで、どんな攻撃が来ようと対応できる。
「ドアァッ!!」
予想通り、鼎をめがけて攻撃は飛んできた。
けれど、それは打撃の類ではなかった。
男が空手の胴着を着込んでいたことから、接近戦しかないと決めつけていた。
確かにその読みは当たっていて、男は空手の使い手だ。
しかし、今の男はただの男ではない。
血液の流れを自在に操り、激流を生み出すゾンビの一人。
本能のままに突き出された抜き手が、暴走する血流によって吹き飛び、弾丸のように鼎へと襲いかかる。
激流に乗ったドス竜は赤い一本の線を描き、まさに弾丸のごとく駆け抜けた。
吹き飛ぶ鼎の上顎から上、何が起こったのかを理解することもない。
ただ、ゆっくりと力なく崩れ去っていくだけ。
どさり、と倒れた体は、静かに血を吹き出していく。

「いいもん持ってんじゃねえか」
一瞬で肉塊と化した鼎を見て、シェンはより大きく笑う。
ゾンビにはまだ片腕が残っている、ということは後一発それを打てると言うこと。
あの攻撃に、正面から立ち向かってみたい。
そんな欲望が、心の底から沸いてくる。
「……うおおおおおおっ!!」
もう一度自身を殴り、気を高めていく。
今度は爆発させず、その力を全て体に込める。
ゾンビが先ほどと同じように拳を構えている。
同じ攻撃を繰り出すつもりだと、心の中で確信する。
悔いの無いよう、全身全霊をかけ、意識を腕に集中させる。
「おんッ……」
大きく一歩を踏み出す。
瞬間、体全体を一つの弾丸のように射出していく。
空間が抉れたかのように超移動を遂げたシェンの体と、同じように撃ち出されたゾンビの腕がぶつかる。
今にも爆発しそうなほど強力な力のぶつかり合い、両者が両者共にそれに耐えている。
シェンはため込んだ力を、ゾンビは流れ出る血流の力を。
先にゆるんだ方が負け、という単純な戦い。
力の押し合いが、完結する――――

459Knuckle Talking Revenge ◆LjiZJZbziM:2013/06/23(日) 23:12:37 ID:MbJcJdDo0



「へへっ」
太陽が真上に昇った空を眺め、シェンは笑う。
体の中の力をさらに爆発させ、押し切ることには成功した。
全身全霊を込めて顔を殴り飛ばし、古くなりはじめていた首から上を綺麗に吹き飛ばした。
中枢神経をぶっ飛ばしたからか、ゾンビはもう動く気配を見せない。
勝ったのは、シェンだ。
「がっ……」
だが、戦いは終わったわけではない。
ゾンビ……鬼瓦寅男を豹変させた要因。
それは、人体から人体にさらに転移する。
頭を吹き飛ばされた鼎はそれに取り込まれることはなかったが、シェンは傷だらけなだけで体は残っている。
ゾンビは、新たな依代として彼を取り込もうとしている。
「ざっ、けんなっ!!」
気合いを込め、その全てにあらがおうとする。
体内に入り込もうとしているなら、体内で倒してしまえばいい。
気の流れと血流をうまく操り、シェンは見えないそれと戦っていく。
「……この体は、俺のモンだ」
全てを排出し終わり、シェンはにやりと笑う。
あんな風に操られるわけにはいかない、この体は唯一ただ一人、シェンウーの体なのだから。
「チッ……」
軽く、舌打ちをする。
連戦に次ぐ連戦、立て続けに気を使っていた。
もう、シェンの体は限界だ。
「まだ……まだ!!」
ずりっ、ずりっと地を這いながら前へ進む。
しかし残された力はほとんど無く、わずかに前に進むだけで終わってしまった。

だが、この少しの前進が彼を救うことになる。
幸運にも禁止エリアの境界線で、シェンは倒れていた。
そして、このわずかな匍匐前進が、彼の体を半分以上禁止エリアから外に運んでいた。

知らずのうちに助かっていたことなど知らず、シェンは無念の表情のまま眠る。
力を蓄えなくてはいけない、だってまだまだこの場所には戦いが有るのだから。
だから、今は少しだけ眠る。

また、起きたら戦うために。

【鼎@エヌアイン完全世界 死亡】
【鬼瓦寅男@堕落天使 再死亡】

【ギリギリG-3/北部/1日目・真昼】
【シェン・ウー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:ケンカを楽しむ

460 ◆LjiZJZbziM:2013/06/23(日) 23:12:50 ID:MbJcJdDo0
投下終了です。

461 ◆LjiZJZbziM:2013/06/24(月) 07:25:23 ID:uhdgw4XI0
ヴァネッサ、アカツキ、ジョン、フィオ予約します

462 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/25(火) 07:16:29 ID:NnJd5XTI0
投下おつかれさまです!鼎さんが逝ってしまわれた……シェンの根性値がすごいなあ。
まだまだ殺し合いのなかで純粋な戦闘を楽しんでいってくれるのか……。

そしてアドラー、結蓮、クーラ投下いたします。

463『分からない』 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/25(火) 07:17:49 ID:NnJd5XTI0
「俄には信じられない話ね……でも貴方はこうして女騎士の体で喋っている」
完全教団に伝わる転生の秘法の説明と簡略的な自己紹介を受けて、結蓮は嘆息する。
「詳しい秘跡は凡人には理解できん、それより貴様は」
突如唸る耳障りな振動音。
音の出処であるタブレットを取り出し、映った人間と対面させられる。
電子の向こう側にいる、修道服の女性の言葉に三人の会話は遮られた。
告げられる情報の幾ばくかを無言で見つめる。
お互いの状況、目的、方針、その大抵の情報を交換している最中の新たな問題。
ここに集められてから急なことばかりだ、結蓮はのろのろと発信をやめたタブレットを伏せる。
「何者だ、あの女は」

思考を言葉にするアドラー。
勿論両名から正確な答えはなく。
「さあ、あの完全者っていう子のお友達じゃあないかしら?」
適当にあたりをつける結蓮。
「そうそう、完全教団って宗教団体みたいなものなんでしょ?」
適当なあたりにそれらしい後付をするクーラ。
「疑問に疑問で返すな、貴様らには聞いていない」

温度の低い声は、苛立ちに満ちていた。
六時間、こんな状況に放り込まれてからもうそんなに経ってしまったのだ。
別段疲弊はない、本来の体は使い物にならなくなったが。
只々、腹立たしいのだ。
何一つ完全者の思惑は読めず、尻尾はつかめず、盤上の駒に甘んじているこの状況。

タブレットを操作してつらつら眺めていく。
与えられた、非常に業腹ではあるが与えられた情報。
それをじっくりと考察してやろうではないか。
まずは名簿アプリ。
知っている名前、知らない名前、生きているもの、死んだもの。
集められた人間に、少しでも共通点や有用性があるか。
もう一つの情報である禁止エリアとやらに興味は飛ばない。
ぐるりと閉鎖されきった島の範囲を狭めただけだ、深い意図は考えずとも無いと断言できる。

「K'……今は何してるんだろうなあ」
お腹すかせてないかなあ。
クーラもアドラーと同じように名簿アプリを開く。
浮かび上がるK'の名前に無事を喜び、すぐさま心配になる。
KOFで見たことがある名前が散見されることをなんとなくつぶやくと、アドラーが顔を上げた。

「KOF?」
「うん、キング・オブ・ファイターズ……簡単に言っちゃうと、世界規模の大きな格闘大会」

全世界が注目する格闘大会KOF、優勝者には莫大な賞金と格闘家としての栄誉が与えられる。
形式的なスポーツと言うよりは、ストリートファイトに近いその内容のためその参加者の戦闘スタイルは多岐にわたる。
その大会を開く人間や人間じゃないもの達の思惑やら野望が絡んで近年のKOFはトラブル三昧だった。

「こないだの大会は……あれ、何があったんだっけ?」
新聖堂騎士団が暴れまわる少し前に行われたはずの大会。
確か、何かがあったはずだ。
頭のなかがもやもやする。
記憶がぷっつり途切れていて、思い出せない。

464『分からない』 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/25(火) 07:18:59 ID:NnJd5XTI0

「……なるほど、少し見えてきたな。クーラ、貴様とK'以外にその大会に参加していた者の名前を挙げろ」
「いいけど、言い方が気に入らないなあ」

ふくれっ面を作って、少しアドラーを困らせてやろうか、とクーラが目を細める。
見た目こそ女騎士テンペルリッター(よく見たら結構美人)だが、中身と目つきは完全にアドラー。
珍妙で尊大な彼だか彼女だかに返答を渋っていると、かたんと何かが落ちる音が聞こえた。

「結蓮?」

音がした先はやや古びた床。
その空間に似つかわしくない最新鋭の機械が投げ出されている。
視線を上に移すと止まった指先、呼吸の無い結蓮。
「やはりそうか」
無関心そうにアドラーが結蓮を見て納得する。
「ど、どうしたの?」

「あの子が、死んだ?」

その声は、何万回ものどうして?を反芻させて生まれる。
確認してしまった非情な情報。
彼女が死者だと告げるその表記。
守りたかった、守るためなら殺人も厭わないと一度は覚悟したその存在が。
余りにも簡単に、薄ぼんやり浮かぶ電子の光の結果にされて。
消えてしまった、結蘭と帰る世界は。
ではここにある世界は何か。
結蓮は虚ろに、涙の代わりに言葉をこぼす。

「あの子は、ただのバーテンダーで、EDENで、風の魚で、普通に暮らしていただけなのに」

「結蓮……」
クーラは彼の喪失を理解する。
アドラーは名簿で並んだ名前で察していたのだろう。

楽園の名前には程遠いそこではあったが、二人は変わっていたがそれなりに普通で、幸せだったはずだ。
結蓮自身は幸せであったと断言できる。
彼女は、結蘭は、どうだったのだろう。
思い返す、決心した理由。
日常を奪われる程に、不相応な夢を見たとはとても思えない。
幸せになって欲しかった、生きていて欲しかった。
「で、貴様はどうするのだ?」
相変わらず思いやりの欠片も見当たらないアドラーの問いかけ。
「どう、する……?」

武器を取り、仮面を、もはや仮面すらいらない。
世界を壊してしまおうか。
武器を向け、自分の世界を終わらせてしまおうか。
行くあてのない悲しみと自分に、結蓮は言葉を失う。
音と色が自分の中から消えていく。

「……また、分からなくなった」
頭を振ってアドラーは立ち上がる。
キシキシと床をきしませて流れる言葉は誰にも宛てない思考の音。
「俺やクーラ、あとは試製一號やムラクモのように、特異な能力を持つ者や強者が集められていると考えたが」
窓辺に立てば、高い位置に陣取る太陽が生白い肌を刺す。
「貴様と……結蘭だったか、はどう聞いても普通の人間」
それでも殺し合わせる価値がある人間なのか?
悪趣味な催しにしても陳腐極まりない。
無意味に過ぎるのだ。
長い白髪をかきあげて、再び結蓮に向き直る。

「俺達を殺しにかかりたいなら、好きにすればいい」
返り討ちにしてやる。
口端を持ち上げてアドラーは続ける。
「自害したくば手伝ってやろう、首輪を調べたいからな」
生体実験でも、首を落としてからの反応実験でもいい。
首元を指しながら返事を待つ。

465『分からない』 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/25(火) 07:20:12 ID:NnJd5XTI0
「アドラー、なんでそんなひどいことばっかり……!!」
全て本気で言っているだろうアドラーにクーラは抗議の声を上げる。
「好きにさせてやればいいだろう」
「それとも貴様は、こいつを救える手段を持っているとでも?」

「それは……」
言ってることは酷くて無神経で最悪だったが、どれも事実で正論だ。
もしもK'が死んでいたら、自分も同じようになっていたに違いない。
嫌な想像だったが、そんな時にどれほど優しい言葉をかけられても辛さは無くならない。
だからといってアドラーの言い方は容認できない。ひとでなしだ、鬼畜だ。

「分からないの」

血の気のない顔で、無表情の結蓮は答えた。
結蘭を守るために参加者を減らそうとしたことは正解であったか。
結蘭と帰るために生き残ろうと思ったことは正解であったか。

同じく妹を守り駆けたアーデルハイドはまだ生きている。

彼女を助ける選択肢を間違ったのは、どこなのか。
間違ったシナリオを歩く自分がどうすればいいのか。
死にたいか。
生きたいか。
浮かびに浮かんだ疑問質問の答えは全て『分からない』

「そうか、ならば分かるまで一生考えていろ」
とん、と地面を蹴ったアドラーが宙に留まる。
テンペルリッターの能力は問題なく扱える、人間が手にし得ない飛行能力。
新たな力にアドラーはくつくつと低く笑った。
「放っておきたいところだが、貴様がこのまま意味もなく死ぬと完全者の思惑にそうことになる」
しかめっ面で黙っているクーラを一瞥し。
「クーラ、貴様は奴の面倒を見ていろ」

「ふ、このアドラー様が協力してやろうではないか、人集めとやらに」
殺し合いに集められた人間の考察がてらにな。
窓枠に足をかけて、いざ飛び立とうとしたアドラーの足元に音もなく氷が薄く張り足を踏み外す。
「がっ……ク、クーラ貴様!!」
窓枠に布団のように腹を打ち付けたアドラーが体勢を立て直しつつ怒鳴る。
透き通った青い髪から栗色の髪に戻ったクーラがしてやったりと微笑む。

「その格好で行ったら、誰もきてくれないし絶対喧嘩になるよ」
不機嫌を隠さず腕を組んだクーラが、アドラーを見上げる。
「私が一緒じゃないとぜーったい面倒だと思うんだよねぇ」
「だからなんだ」
「分かってるんでしょ?私も連れて行って」
「奴はどうするつもりだ」
放心している結蓮は二人の言葉聞こえているのかいないのか。

「いい考えがあるんだ。アドラーだったら、できるよね?」


穏やかな風と陽気のなか、殺伐とした殺し合いの世界に相応しくない飛行物体。
腕に細身の男性を騎士が姫を守るように抱き、背中に幼い少女を乗せた航空兵の体。
ついでに結蓮とクーラの荷物も背中にちゃっかり乗っている。完全に乗り物扱いだ。
「くっ……」
「空をとぶのって気持ちいいねえ、アドラー」

舌打ちだけがクーラの耳を打つ。
人でなしなアドラーにやり返すことには成功したが。
女騎士の腕の中でずっと疑問を反芻しているだろう結蓮を見やる。
どうしたら、元気にしてあげられるのか。
でも、元気になって意味があるのか。

「私にも、分からないよ」
誰にも聞こえない声量のクーラの声は、向かい風に飲まれて消えていった。

466『分からない』 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/25(火) 07:21:17 ID:NnJd5XTI0
【D-6/鎌石小中学校・上空/1日目・日中】

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す


【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:テンペルリッター(四番隊長)に転生、怪我は回復途中。
[装備]:拳銃(弾丸は一発)、蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜4)
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をするため思惑を探る。
・人集めを手伝いながら情報収集
※身体がテンペルリッターになりました。電光機関無し。

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない

※アドラー達の行き先は後続にお任せします。

467 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/06/25(火) 07:26:47 ID:NnJd5XTI0
投下終了致します

468 ◆LjiZJZbziM:2013/06/26(水) 08:06:09 ID:HmXzVaZI0
投下乙です!
隊長やっぱり隊長やね(ニッコリ
クーラの欠落した記憶から、何か掴めそうだけど……
しかし、結蓮が不安ですなあ。

469 ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:43:56 ID:Uh64ytiE0
投下します

470ラスト・ブレイク ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:44:18 ID:Uh64ytiE0

「……まあ、だいたいはそんな感じよ」

開けたもう一缶のビールを煽りながら、半ば自棄になってヴァネッサは語る。
無理もない、数年間秘匿にしてきたことが思わぬ形でバレてしまったのだから。
コードネームであるヴァネッサはもちろん、ジョン・スミスという男の名も偽名。
裏の名前を操り、正直大きな声ではいえない任務をこなす。
そんな二人は、プライベートのある日に町の一角のバーで出会った。
なんと言うこともない、ただ隣に座っただけの間柄だったのだが。
話している内にだんだんと気が合い、その日は翌朝まで酔いつぶれた。
その日からだ、彼らが決まってそのバーに集まるようになったのは。
会えば会うほど話は弾み、心は安らぎ、打ち解けていく。
そして、互いに惹かれあっていった。
まもなくしてゴールイン、そんな何ら代わりのない普通の夫婦だった。

たった一点、"互いの仕事に絶対に口出ししない"という奇妙なルールだけを除いて。

片や潜入操作や時にはスパイ工作まで行うエージェント。
片やベビーシッターから革命の指揮者まで行う何でも屋。
互いに素性が知られるのはマズいし、何より隙を作りたくなかった。
故に、「仕事は互いに不可侵の領域である」と決めた。

それから数年、何だかんだで幸せな生活を広げていたのだが……。
それも、この殺し合いに壊される事になってしまった。

今、ジョンは妻が"ヴァネッサ"であることを知った。
ゼロの起こした一連の騒動のせいで、リング機関はその名を大きく轟かせていた。
もちろんデータの類はハイデルンが急いで処分したが、コードネームなど一部の情報が外に漏れだしていたのだ。
今思えば、リング機関時代のコードネームを使い続けていた自分が原因か、とも思う。
まあ、こんな殺し合いさえなければ、それで問題はなかったのだが。

互いの仕事は知らなくても、幸せな生活だったのに。

「……まったく、いいビールでも全く酔えないわね」

思い出といきさつを話し終え、ヴァネッサはビール缶をぐいっと飲み干し、憂いの表情で呟く。

「まあ、夫には私から説明しておくわよ。っていうか、私しかできないし私の問題だし、ね」

赤く燃えるような髪をくしゃりと掻き上げ、ふふっと笑う。
いつかこうなる日が来るのではないか、それは常々覚悟していたこと。
バレたらバレたで正直に話す、それは決めていたことだ。

「ところで、フィオ。貴方たちは?」
「はい、それが……」

そしてフィオ達の事情を聞き出そうとした時。
ちょうどフィオが操作していた端末が鳴動した。

強制的に起動する配信の受信。
映る一人のシスター。
告げられる事実。

急いで情報を確認して、頭に叩き込んでいく。
禁止エリアとなる地図、そしてこの六時間で死んでいった者達の名を――――

471ラスト・ブレイク ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:44:29 ID:Uh64ytiE0

「――――ッ!!」

ぽとり、と端末を落としそうになるのを受け止める。
ズレたメガネを直すも、まだズレている。
心臓の鼓動が早い、まるで今にも爆発しそうなほど。

「す、すみません。大丈夫です、平気です」

慌てて「呪文」を唱える。
人は口癖だと言うが、彼女にとってはそうではない。
自分のことを分かるのは自分自身、だから自分が管理しなくちゃいけない。
だから、彼女は「呪文」を使う。
大丈夫だ、平気だと、自分に言い聞かせるために。
そうしないと「自分が暴れ出してしまう」から。
あの日の、ように。

「フィオ」

かけられた声の方を向くと、察した表情のヴァネッサが此方を向いている。
ヴァネッサとて、彼らと繋がりがなかったわけではない。
フィオが今どんな状況で、どんな気持ちなのかは、この場では彼女が一番よくわかるだろう。

「大丈夫だから、行ってきなさい」
「……はい」

ヴァネッサの母のような優しさを背中に受けながら、フィオは森の奥へと進んでいく。
その背中を、ヴァネッサは黙って見送る。

「仲間を三人も失うなんて……耐えられないわよ、普通は」

その一言を、アカツキはただ腕を組んだまま黙って聞いていた。
仲間、久しく聴いていない単語。
電光機関の破壊は、自分一人に課せられし任務。
仲間という存在は無く、頼れるのは己のみ。

「仲間、か」
「仲間、ねえ」

何かを思い出したかのようにぽつりと呟いた言葉に、もう一人の男の声が重なる。
新たにした声の方を向くと、さっきまで卒倒していたジョンが起きあがっていた。

「……起きてたの?」
「今し方、な」

強く打った頭を少し押さえながら、ジョンはヴァネッサに答える。
ふう、と溜息をついてヴァネッサはジョンに言葉を投げかけようとする。
が、それを遮るようにジョンは手の平をヴァネッサの前に突き出す。

「いい、話は別に聞きたくない。別にどーって事は無いからな、ただちょっとビックリしただけだ」

そう言って、ジョンはヴァネッサの髪をくしゃりと撫でる。
隠していた仕事がバレた、けれどそれは二人の中を引き裂く出来事じゃない。
奇妙な話だが、むしろバレたことでもっと信頼が増したと言ってもいいだろう。
ヴァネッサはほんの少しだけ照れくさそうにして、そのまましばらく撫でられていた。

「……取り込み中のところすまないが」

そんな二人のラブラブ空間に、割って入るのは戦鬼。
ハッ、と現実に戻ったかのように二人は戦鬼の顔を見つめる。

「これから、どのような策を講じるのだ?」

いつまでもこうしてはいられない。
殺し合いに抗う、そう決めた以上は具体的な案を出さなければいけない。

「……そうね、フィオが戻ってくるまでに、それを話しましょう」

ヴァネッサは口を開く。
味方は今、この上なく心強いメンバーが揃っている。
それぞれの持つ手札を、まずは整理する。

472ラスト・ブレイク ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:44:49 ID:Uh64ytiE0



「本日より特殊部隊スパローズに配属となりました、フィオリーナ・ジェルミです! よろしくお願いします!!」

女性独特の明るい声が、少し狭い一室に木霊する。

「よろしくな、フィオ。今日から"俺たち"は仲間だ!」

それに負けじと明るい声で答えるのはサングラスの男、ターマ・ロビング。
硬直しきっていたフィオの体から、緊張を抜き去るやさしい笑顔だった。

「あぁん? どうしたぁ、ターマぁ。そんな鼻の下伸ばしてよォ」
「そりゃそうっしょ、今の今まで仕事といやあ上官と二人っきりの男の世界、そんな中に姉妹部隊のようなものとはいえ女子が入ってくるなんて……」
「ターマ、おまえ今日のノルマ五倍な」
「そりゃ無いぜ〜」

それが、二人との初めての出会いだった。



時をしばらく挟み。

「はぁ〜〜〜〜っ!?」

甲高い声が、部屋の中に鳴り響く。

「こンっのトロくて緊張感のキの字も無いようなのがアタシの上官だってぇ〜〜!?」

その声の主は、緑色のバンダナが特徴的な女性。
齢にしてちょうど20の彼女の名は、エリ・カサモト。
配属当日に、なぜ彼女はフィオのことを知っていたのか。

時を大きく遡る。
まだ、ストリートの悪ガキの元締めだったころ、エリはフィオに出会っていた。
と、いうのも、道を歩いていたらぶつかった、というだけのことだが。
もちろん、同年代にぶつかられてエリが黙っているわけがない。
即座にフィオの胸ぐらをつかみ、威圧していく。
幼い体からは考えられない力でぐいぃとフィオの体が浮かび上がっていく。
けれど、フィオは全く物怖じもせず、エリにこう言ったのだ。
「大丈夫です、平気です」
エリは当然、キレた。
ぶつかっておきながら何が「大丈夫です」なのかと。
こちとらテメーの体の心配なんぞしてねーんだよと、声を大にして言いたかった。
けれど、それもなんだかムカつくので黙って殴り飛ばそうと思った時。
「こらーっ!! 何してるッ!!」
鳴り響く大人の声、捕まるわけにはいかない。
そのままフィオを突き飛ばし、昼の闇に溶けていった。

そんなこともあって、エリはフィオのことをほぼ一方的に覚えていた。
「10回は殺せるくらいこの上なくムカつく女」として、だが。

473ラスト・ブレイク ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:45:06 ID:Uh64ytiE0

そして、軍に配属が決まったとき。
あろうことか「上官」として現れた女は「そいつ」だったのだ。

どうせスットロくてろくに仕事もしないボンボンの成り下がり、すぐに追い越せると思っていた。
けれど、それは初日の実地訓練で意識を改めることになる。

おっとりとした口調から、銃を握るや否や辺りの空気を丸ごと変え、正確無比に標的をしとめていく。
けれどそれが終わったら、またいつもののんびりとした顔に戻る。
どっちが本性なのか、その時のエリには分からなかった。

初めはただ、負けたくなくて。
食いついて食いついて追い越せ追い越してと頑張り続けた。
でも、フィオは違った。
エリの閉ざしていた心に真っ正面から向き合い、言葉を交わしてくれる。初めは疎ましかったが、何度も何度も話しかけてくるフィオに、エリも次第に心を開いていく。
やがて時にはからかい、時には笑い合い、時には命を助け合う。
エリにとって、フィオはとても頼れる唯一の上官であり、親友であった。
それは、フィオとて同じ事。
彼女にとってもエリは、同じ部隊で何度も死線をくぐり抜けた唯一無二の、親友なのだ。

「だ、大丈夫です、平気です」

ぽつりと呟く言葉とは裏腹に、涙がぼろぼろと零れる。
端末に映っていた文字を見てから、目の前をいくつもの思い出が駆け抜けていく。
悲しくて、悲しくて、しょうがない。

軍人という職業に就いている以上、いつどこで自分や仲間が死ぬかは分からない。
覚悟していた、覚悟していたことだけれど。
こんな理不尽な形で別れを告げることが、許されるというのだろうか。

けれど、いつまでも泣いているわけにもいかない。
前を、前を向かないと。
"俺たち"は、いつだってそうだったんだから。

「こんなんじゃ、またエリさんに笑われちゃいますね」

メガネを外し、こぼれ出す涙を半ば無理矢理にリストバンドで拭き取り、へへっと短く笑う。
まだ、大丈夫。
"俺たち"はみんな居なくなったわけじゃない。

「大丈夫です、平気です」

最後にもう一度だけ、頬を叩いてから前を向く。
そう、これから始まるのは"やせ我慢"。
決して屈しない、鋼の心を持ち
これまでのどんな壁より大きな壁に、挑む。

474ラスト・ブレイク ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:45:29 ID:Uh64ytiE0



「ただいま戻りました」
「おかえり、早かったわね」

少し瞼を腫らしているフィオに、ヴァネッサは微笑みかける。
そばでは二人の男が腕を組み、目を閉じて考えている。
話は終わったのか、それともまだなのか。

「……結局手詰まり、今ある情報が少なすぎてどうにも動けないのよ」

ヴァネッサが、会議の結果を報告するようにフィオに告げる。
持てる知識はそれぞれが共有したものの、この殺し合いを打破するのに決定的な物は一つとしてなかった。
まだ、自分たちには手札が足りないというのが現状。

「だから、さっきと同じように二手に分かれて行動する。
 そして12時間後、落ち合えるなら神塚山の山頂にて落ち合いましょう。
 禁止エリアの動向からしてもまだしばらくは大丈夫なはずよ」

だから、これからの行動はまず"手札"を集める。
どんな小さなことでもいい、足を動かし、その目で、その耳で、その手で情報を掴む。
軍人も、エージェントも、何でも屋もそこは変わらない。
情報を得るのは、足なのだから。

「じゃあ、"また会いましょう"」
「ええ、"また"」

「頼りにしてるわよ、あなた」
「任せとけって」

「よし、私たちも行きましょう」
「うむ」

再会を誓いながら、それぞれの道を進む。

まずは手札を、揃えにいく。

【E-8/東崎トンネル出口/真昼】
【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。
1:前を向く

【ジョン・スミス@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:缶コーヒー(いっぱい)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:報酬のため、クライアントの依頼を達成する。
1:前を向く

【ヴァネッサ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(把握済み)、YEBISUビール×1
[思考・状況]
基本:手札を集める。
1:前を向く

【アカツキ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品(食料は完食)、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破、及び電光機関の破壊
1:前を向く

475 ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:45:49 ID:Uh64ytiE0
もう一本投下

476明日を笑う奴を殴れ ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:46:05 ID:Uh64ytiE0
ふぅ、と汗を拭う。
シャベルを片手に持つブライアンの目の前には、人一人が優に埋まるくらいの穴がある。
小さなスコップでがむしゃらながらも高速に穴を掘る灰児のおかげもあって、この短時間で掘りきることが出来た。
「ありがとな」
泥の付いた手で汗を拭いながら、ブライアンは突如現れて穴を掘るのを手伝ってくれた灰児に感謝を述べる。
その言葉にどう反応するでもなく、ただサングラスをかけ直してそっぽを向く。
ブライアンは特に返事を待つこともなく、ラッキーの体を持ち上げ、掘った穴に寝かせる。
最後に、ラッキーがいつも大事にしていた紫の帽子を取り、少し深めに被ってから。
ラッキーの体に、掘り返した土を被せていった。

結局、灰児には分からなかった。
悲しいという感情、心の痛み、人の気持ち。
あの日以降、灰児は失っていくばかりだ。
それまでの人生、全身の痛覚、人としての気持ち。
何か一つでも取り戻したい、手に入れたい。
けれど革のグローブに包まれた拳は、それらをつかみ取ることなど出来ない。
どれだけもがいて、どれだけ手を伸ばしても、触れることすら出来ない。
もう、ずっとこのままなのだろうか。
溜息すら出ず、灰児はただ空を見上げる。



「なあブライアン」
ブライアンが黙々と土を被せている中、モーデン兵は彼に問う。
日も丁度真上に上り始めた頃だ、今後の方針を話す必要がある。
「これからどうすん――――」
そんな話題を切り出そうとした時だ。
彼の持っていた携帯が鳴動する。
そして、パスリと軽い音が一発鳴り響き。
駒送りの映画のように、兵の頭から赤い花が咲き。
横へ、ゆっくりゆっくりと倒れていった。

「ッ――――」
「伏せてろ!!」
ブライアンが言葉を失うと同時に、灰児が怒号を飛ばす。
即座に花が咲いた方向、つまり弾丸が飛来してきた方向へと駆け出す。
バスン、ともう一発の弾丸が灰児の脇腹を襲う。
だが、灰児は止まらない。
そんな一発の弾丸で怯む男ではないし、何より"痛くない"から"怖くない"。
「ひっ」
短く、息を飲む声が漏れる。
もちろん灰児はその声を聞き逃さない。
声のした方角の木を一発で殴り飛ばし、幹の部分からへし折っていく。
木が倒れた先、灰児の目に映る人影。
白いスーツに身を包んだ、銃を構えた金髪の女性。
けど、そんな事はどうだっていい。
誰であろうとぶっ飛ばす、それは決めていたから。
「撃つわよ」
大口径の銃を構えながら女性は灰児を威嚇する。
けれど、それは灰児の足を止めるには至らない。
ずい、ずいと灰児は一歩ずつ前に進んでいく。
ばんっ、と撃ち出された弾が太股を襲う。
血が飛び、肉が裂ける。
だが灰児の足は止まらず、前へ、前へ進む。
再び息を呑んだ女を前に、灰児は片足を持ち上げる。
「ボぉケ――――」
撃ち抜かれた足をバネにし、短いステップと同時に女の顔面に足の裏を叩き込んでいく。
工夫も何もない、ただのヤクザキック。
「がァァァァァァァァ!!」
銃が効かないどころか痛みすら表さない灰児に、心の底から恐怖していた彼女には、それは首に迫るギロチンに等しかった。
蹴りが顔面に突き刺さった瞬間、ぐらりと世界がゆがみ、大きく吹き飛んでいく。
一点、二点、三点とバウンドして転げ回っても、その勢いは死ぬことはない。
全身を打ち付け、体中の骨が折れ、肉の組織がぐちゃぐちゃになった辺りで、ようやく止まることが出来た。
突き出した木の枝に、自分の胸から突き刺さる形で。

477明日を笑う奴を殴れ ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:46:17 ID:Uh64ytiE0



穴に二人目を埋めることになった。
ラッキーの埋葬の途中だった事もあり、穴はまだ埋まりきっては居なかった。
ギリギリもう一人は入れる隙間、そこにモーデン兵を寝かせていく。
こんな殺し合いの場で、目を輝かせながら夢と希望を語ってくれた。
けれどこんな殺し合いの場でなくとも、きっともっと良い出会いがあったはずなのに。
自分の大ファンだと意気揚々と語ってくれた彼は、死んだ。
あっけないものだと、自分でも思う。
たった一発、たった一発の弾丸で、人が死ぬのだ。
「D……」
そしてもう一つの悪いニュース。
彼の友の内の一人、ヘヴィ・D! もこの殺し合いで命を落としたという事。
まるで人間がゴミのように死んでいく旧人類狩りを思い出させるかのように、現実を突きつけられる。

思えば、いつだってそうだったのかもしれない。
割を食うのは、何の罪もない一般人だ。
理不尽な暴力が彼らを、自分を襲う。

「……いつまでそうしてんだ」

考え込むブライアンに、声をかける一人の男。
脇腹と太股に血をにじませながらも、サングラスをかけて立っている。
サングラス越しの表情は、考えなくても分かる。

「後ろ向きに歩くなら、止めねーがな」

ブライアンが何かを察したと同時に、灰児は背を向けて歩き出そうとする。
ほんの少しの寄り道、けれど何かが変わりそうだった寄り道。
その道から、本来の道へと灰児は戻ろうとする。

「待ってくれ」

その背を、ブライアンが止める。

「俺も、行きたい」

口から出すのは、同行の願い。

「明日を奪う奴を、倒しに」

感じ取った気持ち、そして今の自分の気持ち。
それを自分の中で重ね合わせて申し出る。
割を食ってばかりではいられない、理不尽な暴力に屈してばかりも居られない。
だから、自分の手でつかみ取りに行く。

長い長い苦労の末にある、"勝利"を。

まるでアメフトのようだと、ブライアンは思う。
終わりの見えない戦い、けれど何度もそれを乗り越えてきた。
大丈夫、まだ、大丈夫。

「好きにしろ」

そんなブライアンを見て灰児は、特に止めるでもなく同行を許可する。
言葉を受けてブライアンは灰児の背を追うように、その後ろについて歩き出す。
二人に行く宛などはない、けれど目標だけはハッキリとある。

明日を、自分を、全てを奪う奴を、倒す。

478明日を笑う奴を殴れ ◆LjiZJZbziM:2013/06/28(金) 00:46:59 ID:Uh64ytiE0

【モーデン兵@メタルスラッグ 死亡】
【ベティ・ドー@アウトフォクシーズ 死亡】

【H-3/平原中央部/1日目・真昼】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"

【壬生灰児@堕落天使】
[状態]:脇腹、太もも負傷
[装備]:スコップ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:完全者を殺す、立ちはだかる障害は潰す
[備考]:攻性防禦@エヌアイン完全世界の知識があります。

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投下狩猟です
時間取れなくてWiki完全放置で申し訳ない
書く時間はギリあるんですが……

シェルミー・ラピス予約します

479名無しさん:2013/06/28(金) 02:01:00 ID:PKNC7bsU0
ちょっと見ない間に4作も来てた!投下乙です

Knuckle Talking Revenge>
鼎さん呼吸投げ飛び道具取れないんですよ…でもロケットドス竜は読めないよね
シェンは寝て回復したらもう一戦ですねw
鬼瓦先生お疲れ様でした!今度こそ成仏してください

『分からない』>
ドヤ顔決めたあと腹を強打するアドラーおじさんwwww
結蓮はどう転ぶか不安ですねー
クーラの記憶の欠落も気になるところ

ラスト・ブレイク>
前回ジョンがひっくり返ってたのにはこんな理由がw
フィオも立ち直ってよかった!
アカツキは仲間って呟いた所で不律おじいちゃんの死について考えてたんだろうか…

明日を笑う奴を殴れ>
灰児の心理描写で終わるかと思ったらエライことに…
ブライアンの状態表1:"勝つ"がめっちゃかっこいいです

480明るく楽しく元気よく ◆LjiZJZbziM:2013/06/29(土) 00:34:05 ID:SMn750rI0
「ここまで走ってくれば大丈夫そうね」
K'達が戦闘している場所からしばらく離れた場所で、シェルミーは担いでいたラピスをゆっくりと下ろす。
炎と炎のぶつかり合い。
片や草薙の炎と模倣の炎が混ざった黒い炎。
片や草薙の炎とオロチが混ざった白い炎。
膨大なエネルギー同士のぶつかり合い、何も起こらないわけがない。
「……手を貸さなくていいの?」
傷を抱えたラピスが、シェルミーに問う。
余波に巻き込まれたくないとはいえ、片方は人殺しに躊躇いのない人間だ。
K'と協力して、倒しておいた方が良かったのでは? と純粋にラピスは思う。
まあ、傷だらけの自分がどこまで力になれるかは未知数だが。
そんなラピスの問いにシェルミーはフフッと笑いかけ、わざとおどけて答えてみせる。
「男の世界って、下手に近寄るとダメなのよねーっ。
 当の本人同士以外、ケジメがつけられないのよ。
 だ・か・ら、下手に刺激しないで、やらせとけばいいのよ」
そう、これはK'とネームレスの問題でもある。
当人以外が首を突っ込んで解決するのは、野暮と言うものだ。
つけるべきケジメは、本人達につけさせる。
他人の介入など、必要ないのだ。
「……ま、もしナイト様がやられちゃったら、そのときはこのプリンセスが相手してあげようかしらね♪」
「プリンセス……」
「何か言った?」
「いや、べつに」
見えない瞳の奥から恐怖を感じたと同時に、懐に入れておいた携帯端末が鳴動する。
手元に近づけて画面を覗いてみると、一人の修道服の女が映っていた。
それを見たシェルミーの顔が、少しだけ強ばったのをラピスは見た。

禁止エリア。
この殺し合いを加速させるための措置。
どうやって首輪が爆発するかは分かっていないが、二時間後には黒塗りのエリアに死が待っている。
海を泳いでわたるつもりなど無かったが、この島からは出られないと言うのが二重の意味になった。
人間を中央に集め、短期決戦を促しているのだろうか?
完全者の考えは読めない。

名簿。
一通り目を通したがラピスの知り合いは多くはない。
シェルミーは知り合いが多いが、オロチの一族であった以上、悪い印象を持たれている人間は多い。
今、二人には心の底から信頼できる仲間は隣の人間しかいないと言うことだ。

シェルミーは考える。
といっても禁止エリア、招かれた人間、完全者の思惑などではない。
先ほどの映像に"彼"がいたことだ。
姿形はほぼ別人とはいえ、あの気迫は間違いなく"彼"だ。
"彼"が"彼女"になっていたことはこの際もうどうでも良いとして、問題はなぜ"彼"がそこにいたのか、ということだ。
時空間の捻れ、それにより起こった過去へのパラドックス。
自分以外にも作用していることは分かっていた、だから答えは一つしかない。
"彼"の死も捻れたのだろう、"彼"という存在ごと。

481明るく楽しく元気よく ◆LjiZJZbziM:2013/06/29(土) 00:34:20 ID:SMn750rI0

「……シェルミー?」
初めて見せる真剣な顔つきに、ラピスは思わず問いかけてしまう。
「だいじょぶ?」
「……うん、ちょっと、ね。昔の知り合い、思い出しちゃって」
「へぇー」
あまり優れない表情、これもまたシェルミーが初めて見せる表情。
それを珍しがるわけでもなく、ラピスは純粋に問いかけを続けていく。
「彼氏?」
「ばっ! 誰があんなのと付き合うのよ!! 息苦しくって仕方ないったらありゃしない!!」
顔を真っ赤にし、全力で否定するシェルミー。
照れてそっぽを向くのも、彼女がこの殺し合いで初めて見せる表情だ。
一人の人間、喜怒哀楽を持った普通の人間。
オロチという力がなければ、本当にそうにしか見えない。
「……まっ、それはともかく、よ。
 アイツがそこにいるなら、この殺し合いの目的もちょっと見えてきたかもしれないわ。
 本来なら私はそっちに加担しなきゃいけないんだけど……」
切り替えるように話を切りだし、重い言葉を続ける。
アイツ、はおそらく先ほどの修道服の女だろう。
けれど"彼氏"という問いかけに否定していたのが、ラピスには気になる。
シェルミーの知っているのは"彼"で、放送に映っていたのはその"彼"が"彼女"になった姿だとでもいうのか。
細かいところは分からないが、だいたいはそう言うことなのだろう。
そして"そっち"とはつまり、この殺し合いを主催する側だ。
なれば、あの女もオロチの一族と言うことになる。
この殺し合いの後ろに、オロチの何らかの話が絡んでいるのは確定的のようだ。
「……正直ちょっとうんざりなのよね、この宿命。
 だから、もう一回手に入れた人生ぐらい自由に謳歌する。
 定めも何にも誰にも縛られずに、ね」
そう呟く瞳には、少しだけ憂いがあった。
一族としての宿命、それを課さねばいけない定め。
二度目の人生では、そんなものはもうないと思いたいというのもあるのかもしれない。
"本当の姿"の片鱗を見た気がして、ラピスは思わず黙り込んでしまう。
「もしかしたら、こんなんだから殺し合いに巻き込まれちゃったのかもしれないわね、アハッ♪」
重い顔になっているのを察したシェルミーは、いつも通りに明るく振る舞う。
そう、オロチの宿命も、同胞が何を考えているのかも今はどうでもいい。
今果たすべきは、完全者の討伐、それだけなのだから。
「行きましょう? 禁止エリアの近くでいつまでもふらふらしてるわけにはいかないわ」
二度目の人生を謳歌するために、シェルミーもまた、"前"を向く。

【H-8/南東部/1日目・真昼】
【ラピス@堕落天使】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:一本鞭
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:首輪解除から完全者をシメる、そんでこの場から脱出。
1:シェルミーととりあえず行動。改竄された歴史に興味。

【シェルミー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:右手首負傷(支障なし)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生を謳歌するため生き残る、襲われれば容赦はしない。完全者にお仕置きをする。
1:定めには従わない。
2:ラピスと行動。
[備考]
※ゲーニッツの存在を把握しました

482 ◆LjiZJZbziM:2013/06/29(土) 00:34:32 ID:SMn750rI0
投下終了です

483 ◆LjiZJZbziM:2013/06/29(土) 00:45:34 ID:SMn750rI0
ゾル、マルコ予約

484私と誰か、貴方と私。 ◆LjiZJZbziM:2013/06/30(日) 23:22:45 ID:0yMf4Q0E0

ぶるるるるる、ぶるるるるる。
その音は、黙って歩いていた二人の男の足を止める。
素早く端末を手に取る二人、示し合わせたかのように息はぴったりと合っている。
気づいたマルコがニヤリと笑い、ゾルダートが露骨に顔をしかめる。

映る修道服の女、ゾルダートは知らないと言う。
もっとも、知っていても彼がそれを言うわけがないのだが。

続く情報確認、サクサクと必要な情報だけ頭に入れて端末を仕舞うゾルダート。
対照的にマルコは、その端末をずっと握りしめていた。

「……どうした」

ゾルダートはマルコに特に興味はないし、別にどうでもいい。
この男が動くことをやめるのならば殺すまでだ。
けれど、突如動きを止めた彼に、なぜかその一言を投げかけたくなった。
ゾルダートの言葉に反応し、マルコは前を向く。
その顔を見て、ゾルダートは思わず唾を飲み込む。
そう、それはまるで悪鬼が乗り移っているかのようで。
けれど、光り輝く天使のようにも思える。
少なくとも、人間が抱えることが出来るかどうか怪しい憎悪が、そこにあった。

「仲間が――――」

心を奪われかけていたゾルダートの心が、マルコの言葉で現世に戻る。
よく見れば、マルコの表情は普通の怒りに戻っている。
では、先ほど見たのは何だったのか。
本性の断片? それとも何かの作用か?

「仲間が、三人も死んだ」

仲間、仲間、仲間。
ゾルダートにとっては耳慣れない言葉が、頭の中で反響する。
仲間、それを奪われた者はこの男のようになるのだろうか。
怒りという感情は、人を悪鬼に変える力があるのか。

「絶対に許さねえ……!!」

静かに、けれど確かに怒りを燃やし、銃を強く握りしめる。

「仲間を失うと言うことは、そこまでなのか」

そんなマルコに、ゾルダートは興味本位で話しかける。
ゾルダートには仲間はいない、そもそもゾルダートは"兵器"として生み出されたクローンがほとんどだ。
仲間意識など無きに等しく、ただ旧人類を狩り、"時"を待つ。
限られた時間を、感情などと言う下らぬ要素で費やしている暇はないのだ。

「当たり前だ。仲間は多かったとしても、その一人一人はかけがえのない一人だ」

冷ややかに問うゾルダートに、感情を込めてマルコは答える。
人間は、人間だ。
だが、人それぞれの個性があり、体のつくりがあり、性格があり、持ち味がある。

「"そいつ"が死んだら、代わりなんて居ないんだよ」

同じ人間など、この世に二人としていないのだ。
たとえば、「マルクリウス=デニス=ロッシ」という男はいるかもしれない。
マルコと同じ服装の男もいるかもしれない。
マルコと同じくらいプログラミングに興味のある奴がいるかもしれない。
けれど、それらすべてを兼ね合わせて持っているのは、マルコただ一人だけなのだ。

485私と誰か、貴方と私。 ◆LjiZJZbziM:2013/06/30(日) 23:22:57 ID:0yMf4Q0E0

「お前らだって、そうじゃないのか?」

返される問いに、ゾルダートは鼻で笑う。

「命の短い俺たちは、そんなことをに費やしている時間などない」

そう、時間は限られているのだ。
こんなやりとりをしている時間だって、本当は惜しいくらいだ。
首輪が解除できない、そうと分かった瞬間にこいつを殺してやるというのに。

「でも、お前はお前じゃねーか」

歩きだそうとするゾルダートを、マルコの声が再び止める。

「顔が似てようが、同じ体してようが、誰かのクローンだろうが、お前はお前だろ!
 それとも何だ!? 私が死んでも代わりはいるものってか!?
 それは"お前"じゃなくて、"誰か"だろうが!!」

気づけば、声が荒くなっていた。
かつては敵対した関係の兵士同士だというのに、マルコは言葉を止めない。

「良いかクローン野郎、これだけは覚えとけ」

そして、ビシリと指を指して告げる。

「人間ってのは、ひとりぼっちなんだよ。
 けれど、たった一人だからこそ、集って力を発揮する。
 同じ人間なんて、一人もいないからな」

クローンなど皆同じ、誰が出ようと同じ。
そう思っているであろうゾルダートの考えを正すように。
より強めの声で、告げる。

「……フン」

その言葉を背に浴びながら、ゾルダートは歩みを続ける。
分かっている、"自分"が一人しか居ないことぐらい。
自分は、エルンスト・フォン・アドラーではなく、エレクトロ・ゾルダートなのだから。

だから、だからこそ。
時間が足りない。
自分が自分であると、確立するためには。

焦る気持ちを隠すように、ゾルダートは再び黙って歩き出す。
そして、マルコも隣につくように歩く。



「悪魔の再来」と呼ばれた男の死体を見つけるのは、この少し後の話である。

【F-8/中央部付近/1日目・真昼】
【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康だがやや消耗
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本:全参加者及びジョーカーを撃破後ミュカレを倒し、先史時代の遺産を手に入れる。
1:首輪入手まではマルコに協力
2:首輪を入手すればマルコに情報の提供
3:その後は……

【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ】
[状態]:怒り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)、小冊子、アノニム・ガードの二丁拳銃(二丁一組、予備弾薬無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破
1:一刻も早く首輪サンプルを取得
2:その後、得た電光機関の知識を元に解除に挑戦

486 ◆LjiZJZbziM:2013/06/30(日) 23:23:37 ID:0yMf4Q0E0
投下終了です。
アデル、バーナード、アテナ予約

487 ◆LjiZJZbziM:2013/07/01(月) 00:08:26 ID:IEFiPESg0
グラサンおじさんこと塞を忘れていました

488 ◆LjiZJZbziM:2013/07/01(月) 00:08:39 ID:IEFiPESg0
というわけで塞も予約

489 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/10(水) 23:17:17 ID:Tf.O5hlw0
草薙京、八神庵、ムラクモを予約します。

490 ◆LjiZJZbziM:2013/07/11(木) 22:08:23 ID:5bXRWlZA0
予約ありがとうございます!

491 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:29:15 ID:8Nqt76I.0
投下します

492月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:30:51 ID:8Nqt76I.0
勢い込んだ開戦から十数分が過ぎ、意外にも炎の血族二人と新世界の現人神の戦いは小競り合いが続いていた。
京も庵も大技は使わず、間合いを計りながら闇払いや鬼焼き、爪櫛などでムラクモの出方を探る。
理由としては、自分達の起源を知るような相手は身内を除けば大抵が超常の化身ばかりであったためうかつに攻め込めなかったと言うのが一つだ。
なにせそういう連中は無差別な広範囲攻撃や、とてつもない反応速度、一撃で致命傷になり得る必殺の技を持っていることが非常に多い。
そして大抵は傲慢かつ尊大にその能力で押し込んでくるもの、少なくとも京と庵が今まで対して来た相手はそうだった。
だが今相対している、古い軍服のような出で立ちの男にはそれはなかった。
ただ、強い。
そういうものに頼らない純粋で磨き込まれた強さだけがそこにあった。
彼が手にしているから、というわけではないが、
ルガールの強さをバズーカに例えるなら、
ミズチの強さを天災に例えるなら、
イグニスの強さを未来の兵器に例えるなら
この男は大業物の日本刀である。
切っ先鋭く、折れず曲がらず、触れなば断たんとする刃そのものがそこにあるようだった。

493月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:31:53 ID:8Nqt76I.0
「さて、と……慣らしはこんなもんか、なぁ、八神?」
何度目かの打ち合いを経て、一歩距離をとって京は庵に話しかける。
「ふん、息が上がっているのではないか?」
悪態をつく庵だが、その表情には充実が見て取れる。
ずっと牽制に終始していた理由のもう一つがこれだ。
何度か経験のある共闘ではあったが、二対一を行うには「慣れ」がいる。
その感覚を取り戻すため、無理に攻め込むことなく呼吸を同調させていたのだ。
そしてそれは確実に完了へと向かっていた。
元々三身で一つの敵との戦いを行うための血筋である。
先ほどムラクモが言ったとおり八咫、つまり神楽のいない状態では完全な連携とはならないのだが、
そこは長年の、そして永遠のライバル同士である。
何が得意で、その技がどこまで届いて、どれほどの隙があって、どこが死角になるか。
そういう感覚で言うなら、おそらくは紅丸や大門よりも京と庵の相性はいい。
だからこそ現在に至るまで決着がつかないままの決闘を幾度となく繰り返しているのだが、
まさかそれが幸いする日があの戦いより後に来るとは彼らも思っていなかっただろう。

494月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:33:14 ID:8Nqt76I.0
「なるほどどうして、彼の組織が執拗に追い回すだけのものだということか」
余裕を見せる二人を見ながら、ムラクモが小さく呟く。
彼もまたもとよりの険しい目つきは別として表情に焦燥の気配は微塵もない。
「組織……ふん、ネスツのことか」
その呟きに鋭く反応し、庵が吐き捨てる。
京を捕らえ、己にも刺客を放った忌々しい組織の名を出すと、京が露骨に嫌そうな顔をする。
「過去形じゃねえのがすっげぇヤなんだけど……まだあんのかアレ」
自分の能力を移植された男の手によって壊滅したはずの組織。
確かに回収されなかったクローンがまだ世界各地で目撃されていたりすることに頭を悩ませてはいるが
訳知り顔の男の口調に健在を感じ取って苛立ちと怒りと呆れを露にしていた。
「死に行く者には要らぬ情報だ」
「情報、情報ねぇ……おい、八神」
正式な問いではなかったが一言の下に切って捨てた相手に、京はふと考えるフリをして庵に声をかけた。
「なんだ」
「足止め、3分でいい」
「……何故だ」
唐突な時間稼ぎの申し出に、一瞬怯んだ庵だったがそれを悟られまいと低い声で問い返す。
「コキ使われてくれるんだろ?」
「貴ッ様ァ……」
それに対し京がニヤニヤと笑うので、手のひらに出した小さな炎の弾を投げつけながら地を蹴る。
「うわっち!?」
「2分だ」
もうムラクモの間合いに入った庵が、振り返りもせずに叫ぶ。
2分。
それが庵視点の分析で「足止めに限定した」一対一での彼我の戦力差分析なのだろう。
「悪ィ!」
「オォォォォ!!」
「征くぞッ」
青紫の火の粉が風に舞う。
ムラクモはそれを振り払うように手にした刀を横に薙いだ。

495月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:35:00 ID:8Nqt76I.0
「さってとぉ!」
戦況を庵に任せて京が向かったのは、開戦の直前に後方に投げたデイバッグである。
一時の膠着中だったとはいえ、あの状況の中で気づいたのは脅威と言える。
支給されたタブレット端末が着信を告げるバイブレーションに、である。
相手は強い。
が、二人で勝てない相手ではない、庵は2分と言ったがあれは嫌がらせのようなもので、
おそらく一人でも5分程度は戦えるはず、というのが京の分析だった。
それも足止めをした場合である。
庵が全力で命を奪いに行った場合はいろいろと状況も変わるだろう。
ただ京は現時点で相手を無条件に殺すという選択肢をまだ選んではいない。
だからこそ、ここでリスクを冒してでもの情報確認なのだ。
そこにどんな情報があるかは不明で、もしかしたら状況が悪化するものかもしれない。
だが、もしそうなら心にしまっておけばいい話だし、全員に共通する話であれば
手に入れておかなければむしろ危険である。
京はそう考えていた。
仲間からはなんだかんだと馬鹿にされているにはいるが、もう彼とてベテランの域に入る格闘家、
幾度か世界の危機と戦ってきた男である。こういう時の判断は素早く、そして的確だった。
そして京は見る。
自分の知るオロチ八傑衆と同じようでまるで違う者の動画と、
そこで説明された禁止エリアの存在と、自分達がその禁止エリア上にいるという事実。
ついでと言ってはなんだが、参加者名簿で今戦っている相手の名前も確認してみる。
顔写真からすぐに判明したその名はムラクモ。ただしそれ以上の情報は通り一遍の操作では出てこなかった。
特殊な操作か何かで閲覧できる可能性がありそうな画面ではあったが、今はそれを模索する時間はない。

496月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:37:02 ID:8Nqt76I.0
「クッ、京ォ!」
上段からの斬撃を炎の熱風でわずかに逸らし、またその炎を放つ反動で転がるように避けながら庵は毒づく。
京が戦線を離れて、すでに4分が経過していた。
「待たせたッ」
低い姿勢になっている庵を飛び越すように、京はムラクモへと向かっていく。
致死の刃をかいくぐり、ショートアッパーから足払いへと繋ぐコンビネーション。
ムラクモはそれを避け、刀を構えなおす。
それまでより少し大きく息を吐いたところを見ると、庵は相当に善戦していたのだろうと京はほくそ笑む。
が、後方で伏せる庵はムラクモよりも明らかに疲弊し、肩で息をし始めていた。
それを確認し、京はじりじりとムラクモとの間合いを計った。
「念仏でも唱えていたか」
「あいにく不信心もんでね、ムラクモさんよ」
ムラクモの挑発を受け流し、さらに得たばかりの情報を投げて反応をうかがう。
「……何故私の名前を」
うろたえこそしなかったが、明らかに意外そうなムラクモの様子を見て京は意地悪げに笑って指を鳴らす。
「さて、どうしてでしょー? まあ、せっかくだからあんたの名前にちなんだコレに焼かれながら考えてくれ」
直後、京の体の周りから一際大きな火柱が立ち上り、ムラクモへと殺到する。
裏百弐拾壱式・天叢雲(アメノムラクモ)。
そのものずばり、神器・草薙の剣の別名であり、もちろんムラクモも起源を同じくするであろうその名の技は
ムラクモの体を火柱で取り囲み、脱出困難な炎熱の牢獄を作り上げていた。
「さて、俺も少し稼ぐか……八神、お前も見とけ」
その様子を満足げに見ながら、今日はタブレット端末を投げる。
深呼吸と共にそれを受け取った庵に、京は無慈悲にも告げた。
「1分で頭に入れろよ」
「お前……俺の時は……クソッ」
反論すら時間の無駄だと諦めて視線を端末に落とした庵を尻目に京は自分が作った火の檻を見つめる。
「笑止ッ!」
コゲひとつなく、火柱の一本をそのまま打ち破り、閃光の如く走り来るその男。
奇しくも自分と同じ剣を名に持つ男と、草薙京は始めて本気で拳を交える構えを取った。

497月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:38:48 ID:8Nqt76I.0
「……フンッ!」
ムラクモの手から放たれる電光弾を炎を纏った手で払いながら、八神庵が割って入ったのは
彼が京からタブレットを渡されてから7分後のことだった。
「遅ェよ!」
「黙れッ!」
普段ならそのまま軽い決闘に入るくらいのいがみ合いをお互いに自重し、またも膠着に入る。
「そろそろ救済を受け入れるのだな」
ムラクモはじゃれあう二人など意にも介さず、じりじりと迫る。
「京、貴様本当に真面目にやっていたのか」
「つーかお前のもあれ全然削れてなかったからな!?」
決め手に欠けているのは互いに確かだが、ムラクモの表情はまだ開戦当初と変わることがない。
本来、実力が均衡した二対一の戦闘における利点の一つに持久戦がある。
当然気は抜けないが、今の京と庵のように交互に戦える程度の技量差であれば体力を削り、
戦力の落ちた相手を数で圧倒することが可能なはずであった。

京と庵に油断があったかというと、そうではない。
正直なところ二人のムラクモに対する見積りは間違っていないのだ。
万全の状態で戦う限りは、二対一であればまず負けない。一対一でも時間は稼げる。
それは間違っていない。
京に相手を殺す覚悟がなかったかというと、そうではない。
積極的に殺すことは頭にはなかったが、これが死闘である認識は十分あった。
結果的に死んだとしても、相手に殺人の意思があれば仕方ない。
もしかしたら止めきれず、八神が殺す可能性もあると考えていた。
それは間違っていない。
庵に慢心があったかというと、そうではない。
殺そうと考えれば殺せない相手ではないとは考えたが、
殺すには痛手を覚悟すべき相手であるということも認識していた。
そこまで正しく認識し、そのように戦局を進めていたはずなのに、
消耗しているのは明らかに数に勝る京と庵だった。

498月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:41:17 ID:8Nqt76I.0
二人にとっての誤算は、相手のエネルギーの総量だ。
ムラクモが装備しているのはその名も高き電光機関。
命を厭わぬ運用であれば、短期間には無限のエネルギーを得ることが可能である。
死しても転生の法にて次の個体へと転生する心算のムラクモにとって、強敵との戦闘は即ち……
「命は投げ捨てるもの……私にとっては次を拾う事が容易いのでな」
そしてそれは突然発動した。
ムラクモの周囲が軋んだかと思うと、二人の体は大きく吹き飛ばされる。
突然の遠隔攻撃に面食らった京が立ち直って見たものはそれまでとは全く異なる風景だった。
暗闇のクセにやけに明るく、どこまでも続くのに壁に囲まれている、空は見えないのにおかしな幾何学模様が流れては消えるその場所は
明らかに今の今まで戦っていた場所ではない。
「なっ」
「なんだこれは!」
「これが、完全世界だ」
誤算は一つではなかった。
「それがなんだと聞いているのだ!」
地を滑るように庵はムラクモの懐にもぐりこむ。
だがしかし、掲げた手がその首を掴み、弐百拾弐式・琴月の構えに入った時、握り締めたのは空であった。
「なっ」
「八神!上だ!!」
「おのれっ!!」
無理やり身をよじって、落下してくるムラクモと、その刃をかわす。
が、完全には避けきれない。
菊御作が掠めた庵の腕からは、鮮血がにじみ、直ぐにしたたり始めた。
「馬鹿な、捕らえたはずだ!」
「これぞ……電光迷彩」
もう一つの誤算。
現人神・ムラクモ。
彼はついぞ今まで、その戦力の殆どを秘匿したまま戦っていたのだ。

499月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:44:07 ID:8Nqt76I.0
自分の能力が落ちたわけではない。
相手の能力が上がったわけではない。
奇妙ではあるが、この完全世界という空間は、外界から隔離される以外に目立った効果はないようだった。
ただ、その世界に引きずり込まれたことで一瞬遅れた対応が、京と庵が戦闘のイニシアチブを完全に手放す切欠となった。
「千丈の堤も蟻の穴より崩るる……とはいえそこまで大層ではなかったか、さあ、受け入れよ。救済は平等である」
ムラクモは悠然と歩き来る。
「クソッ、喰らいやがれっ!!」
裏百八式・大蛇薙。
振り払った腕から、極大の炎が襲い掛かる。
触れれば肉焦げ、悪くば死に至るであろう威力の技であったが、最早手加減も様子見も必要な段階ではない。
一刻も早く戦況を逆転しなければならなかった。
が、その炎は空を焼き、完全世界に火の粉と散って消えた。
「自重せよ!」
電光迷彩による虚実入り混じるムラクモの連携。
当然ガードすべき正面からの攻撃にも一瞬反応が遅れ、そこにいるはずの相手に殴りかかるのすら躊躇が生まれる。
「けどまあ、こう言うときの対策はこうだって……相場が決まってるんだよ!」
それでも、歴戦の闘士は諦めたりはしなかった。
攻撃がコンパクトな打撃であることを確認したうえで、京はあえてムラクモの攻撃を避けなかった。
それが斬撃であれば不可能だったが、この迷彩による攻撃は大振りの技では意味を成さないため必然的に攻撃はステゴロになる。
そこを突いた、スタンダードな「肉を切らせて骨を絶つ」である。
京は腹への強烈な拳を、精一杯力を込めて耐える。そして、その拳が引かれるまでに、腕を絡めて離さない。
「ゴホッ……や、八神ィ!」
「もらった!」
動きの止まった実体のムラクモに向かい、庵の爪が迫る。
「フ、"それで"よい」
が、ムラクモは先ほどの京のようにしてやったりの笑顔を見せた。
「なっ」
後一歩、数十センチ踏み込めばムラクモの急所を捉えられただろう。
が、それはイコール死を意味していた。
迫りくる庵の足元にはいつの間にか手榴弾が転がされていたのだ。
当然のようにピンは抜かれ、爆発の有効範囲には三人ともが収まっている。
庵はガードの姿勢をとって、後方へと飛び退く。
ムラクモは絡められていない方の手を軽く突き出し、まだ笑っている。

500月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:45:04 ID:8Nqt76I.0
爆発音、続いて、電光機関の回転数が上がる音が完全世界に鳴り響く。
「華と……」
立っているのはムラクモ。
電光被服によりダメージを殆ど消し去ったムラクモの影に、別角度からの余波を食らったか血を流し膝を突く京。
そしてムラクモが跳び行く先には、まだ立ち上がれない庵―――
「八神ィーッ!!」
「散れィッ!!」
完全神殺・菊一文字。
ぞぶっ、ず……がちっ
鋼が肉を切り裂き、骨に当たって止まる音。


世界が色を取り戻した。

501月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:46:39 ID:8Nqt76I.0
「何故……だ」
問いかけたのはムラクモだ。
「何故……だろうな」
答えたのは京だ。
「何故だァァァァァァァァァ!!!!」
叫んだのは庵だ。
そこには、庵を庇う形で、腹から肩口までざっくりと斬られた草薙京が立っていた。
「自ら救済を受け入れたか」
「そんな殊勝なもんじゃ……ねえよ!!」
肉は切れ、骨は断たれ、臓腑は弾けているであろう。
即死でないのが不思議なその体で、京は力の限り叫んだ。
ぱっくり割れた傷口からは、血の変わりに真っ赤な炎が噴出し、鞘の代わりに京の身に納まっている菊御作と、
それを手にしたムラクモの腕を飲み込んでいく。
「うおっ」
慌てて手を引いたムラクモだが、その目が信じられないものを見るように見開かれた。
手元に戻った刀の、切っ先から半身ほどが、水飴のように融けて地に落ちたのだ。
その熱は当然手にしたムラクモにも通じる。
「痛ゥッ!おのれ……!?そのような威力の炎もあるのか」
ジュッという音がして、ムラクモが飴細工と化した菊御作を取り落とすと、その手は纏った手袋ごと見事に焼け焦げていた。
「俺たちが、身の内に宿してる炎が、こんな外に出してるだけの…火より熱くないわけが……ない、だろ」
格闘大会で京がよくやる、指先に火をともす仕草をして、ガクリと崩れ落ちる。
「然り……されど、貴様の死は最早必定だ」
電光被服を貫くダメージに戸惑いつつも、ムラクモは先ほどの技に確かな、命へと届いた手ごたえを感じていた。
抱きとめることも叶わず、地に伏した京を数瞬遅れて抱き起こした庵は、腕の中で急速に熱を失っていく宿敵を
怨嗟と狼狽に満ちた瞳で睨みつけていた。
「ま、そうだな。悪ィ、八神。そういうことだ、決着は……預けた」
「京ッ!貴様ァ!!……逃げるつもりか!この、この俺の……俺のこの……俺の……ウオオオオォォ!!!」
「ったく、うるせえなあもう……でもまあ、それでこそ……俺の……」
京が言えたのはそこまでだ。
最期は笑って、自分を殺したくて仕方のない男の腕の中で、死んだ。

502月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:47:52 ID:8Nqt76I.0


「京オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

 ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

 オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

 ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」

503月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:48:50 ID:8Nqt76I.0
天を貫くような慟哭と、天を焦がすような火柱。
八神庵の体から、かつてないほど強大で、悲しき紫炎が一直線に立ち上る。
「くっ、これは……」
ムラクモの目にもその炎の威力は想定外のものであった。
触れれば死、その予感が撤退の二文字を脳裏に映し出す。
しかしムラクモはそれに応じない。
理由は二つ。
余りに異常なその炎は、ともすれば数瞬で八神庵の戦闘力を奪い去ってしまうかもしれないという推測。
もう一つは、この男に救済を与えると言う、己に課した絶対の責務。
ゆえに退かず、ただ上り続ける炎を見つめていた。

504月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:50:45 ID:8Nqt76I.0
一分か、一時間か。
揺らめく景色に時間の感覚すら狂わされた頃、八神庵からその炎は消えた。
風に吹き消える蝋燭の炎のように、一瞬だけ揺らめいて消え失せた。
ずっとムラクモに背中を向けていた庵がゆらりと立ち上がり、振り向いた時に
その手にはもう京の死体はありはしなかった。
今までの炎が、その全てを天へと送ったのだろう。
「己の命まで燃やした弔いの炎というわけか……安心しろ、すぐに貴様も救済……む?」
「……」
庵は、じっとムラクモを見据えていた。
そして、その両の目から音もなく二筋の液体をこぼれ落とした。
「(男泣き――!?)」
「おい……貴様」
その涙を拭おうともせず、庵はムラクモに声をかける。
「なんだ?友人を殺された怨嗟でも」
「俺はどうしたらいい」
「何?」
この問いにはさしものムラクモも面食らう。
余りに漠然とし、突拍子もない、この戦場に相応しくもない問いかけだった。
「俺は、どう、生きればいいんだ」
そう呟きながら、庵は幽鬼のようにふらふらと、その腕を持ち上げた。
「悲しみの余り狂ったか……いや、それも全て、生きるが故。貴様にも救済を与えよう」
「要らん。そんなものは、俺には必要ではない。俺に必要なのは、唯一……あの男の命だけだった」
「心配することはない。すぐに同じく」
「同じく、なんだ」
「お、同じく」
禅問答のようなやり取りの中、答えに窮したのはムラクモだった。
同じく救済を、つまりは死を。
先ほどまで当然のように紡いでいた台詞が、喉を焼かれたかのように吐き出せずに留まった。
「貴様は、軍人だな」
「それが、なんだ」
問いはまたも変わる。
ムラクモはやっとのことで返答を返した。
ジリジリと炙られるような緊張感の中で、ふと気づくとマントの裾が焦げている事に気づく。
先ほどの庵の炎が飛んだのだろうか、と、念のため被服の状態を確認する。
「恐怖を噛み殺し、任務に徹する人種……俺が最も嫌いな輩だ」
庵は一歩、また一歩とムラクモに近づく。
ジリッ。
ジジッ。
ジュッ。
炙られるような緊張感、まとわりつく熱気。
ムラクモの感じていたそれは、比喩ではなかった。
「なっ!?」
見えてはいない。
先ほどのような炎は、八神庵からは放たれていなかった。
だというのに、軍服の焦げはその箇所を増し、ついにその内の電光被服までが異音を放ち始めた。
「なんだこれは!そ、そうか、これがかのオロチの力……いやしかし、こんなことは……」
庵は恐ろしいまでに冷静だった。
オロチの血による暴走がとっくに起こってもおかしくない状況で
これほどまでに力を放ちながら冷静でいたのは、
暴走しては失ってしまう何かを、今決して失ってはいけないそれを
本能がつなぎとめていたからに違いない。
「恐怖を、思い出させてやる」

505月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:54:12 ID:8Nqt76I.0
「ひっ!?」
後ずさろうとして、尻餅をつくムラクモ。
足が動かないのだ。
見ればその軍靴には薄い色をした炎がまとわりついて、彼を地に繋ぎ止めている。
裏百八式・八酒杯。
先ほどゆったりと上げた手から、殆ど所作もなく放たれた神をも留める八尺瓊の奥義は、
ようやく採用された撤退の決議をムラクモに実行させることはなかった。
「ここで」
庵は先ほどはつかめなかったムラクモの首を、しっかりと掴む。
そのままねじるように地面に押し付けて、遺言のように吐き出す。
「俺と死ね」

先ほどよりもさらに強大な火柱が、景色を赤紫に染めていく。

三神技之弐、八神流古武術の深奥に眠る決戦奥義。
草薙流の三神技之壱・決戦奥義無式が神を薙ぎ払う技ならば、
神楽流の三神技之参が神の力を封じる技ならば、
この技は「神を縫い留める技」である。
先ほどの八酒杯は外部からの封縛を行うこの技の簡略版であり、本来はこのように相手の体に直接触れ
内部にその炎を流し込んで焼きながら、一切の行動をさせない技である。
電光被服を焼き、皮を焼き、肉を焼き、骨に届き、命に達するギリギリで炙り続けられる獄炎の檻。
現人神を名乗る男を焼くのに、これほど相応しい技もない。


……ただ、実を言うならば、ムラクモに本当の意味での神性など「ほぼ」存在しない。
技術の結晶である電光機関も、鍛え抜かれた肉体も技も、それは人のものである。
その中に神性があるとすれば、それは「転生の法」の一点のみ。
ムラクモが京と庵に出会って直ぐに言った「八咫の力が欠けているならば」という言葉は、つまりはそういうことだ。
それは神性に達する「転生の法」を、封じられる可能性についての懸念。
封じられて死ねば、その後は何者にも転生はされず、



死ぬのみ

そしてこの技が、八尺瓊の技に捕らえている間だけとはいえ、その神性を無力化する技があることを知らなかった。
「ぎゃ、ごぼっ、ヴぇあ……」
気管まで焼かれ、声なき声を洩らすことしか出来ないムラクモ。
庵はその身の全てを燃やし尽くして、地面に押し付けたムラクモになおも封縛の炎を注ぎ込み続ける。

506月に叢雲、華散る嵐 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:56:58 ID:8Nqt76I.0
ビーッ!ビーッ!ビーッ!

けたたましい電子音が二つ、その炎の中に鳴り響く。
発生源は庵とムラクモ、二人の首に装着された首輪型の電光機関。

それは戦闘開始から、京が死に、庵が慟哭し、ムラクモが絶望に焼かれるこの瞬間までで
放送からちょうど二時間が経過したことを知らせる、タイムリミットの音。

そう、この場所は現時点をもって、そこにいる参加者全てを殺す禁止エリアへと変貌したのだ。

「ククク……ハッハッハ……ハァーッハッハッハ!待っていろ!今、殺しに逝ってやるぞ、京ォォォォォ!!!!」
八神庵は天に向かって高笑いする。
半分焦げた瞳で、その満足げな表情を見てムラクモは悟る。
(やはり、死は救済であった。
 ただ、それは己が決めた場合のみであること。
 他者から強制される死は……恐怖だ)











二つの破裂音と静寂

後に残されたのは首から血を流し倒れる八神庵の死体と、ほとんどが炭化したムラクモだった何か。

一陣の風が吹きすさび、辺りに残っていた炎の残滓すら、奪い去って彼方へと消えた。


【草薙京@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【八神庵@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【ムラクモ@エヌアイン完全世界 死亡】

【支給品、装備品など、全て焼失】

507 ◆nucQuP5m3Y:2013/07/14(日) 06:58:23 ID:8Nqt76I.0
投下は以上です。
問題等あればご指摘ください。

禁止エリアで草薙とムラクモが戦うってこう言うことだろうがィ!!
と思う徹夜明けです。

508 ◆LjiZJZbziM:2013/07/14(日) 22:15:08 ID:7mQbuZIY0
うおおおおおお! 投下乙です!
やべぇ……地の文に散らばる原作フレーズもさながら、キャラが本当にキャラしてる!
特にいおりん、ああ、もう!
この上なく格好良く、すげー引き込まれる話でした!
改めて投下乙です!

509 ◆LjiZJZbziM:2013/07/15(月) 00:10:34 ID:NbeNhGd20
月報集計いつも集計お疲れ様です。
PW 65話(+10)  31/55 (- 8)  56.4 (- 14.5)

510 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/15(月) 02:53:21 ID:AGEkfHVg0
投下お疲れ様です
ムラクモさん途中までカリスマバリッバリだったのに……まさに原作を思い出すグハァッ……ハァ…ハァ
夢のタッグは短い間でしたが本当に夢に描いたようなコンビでした、燃え尽きる疾風怒濤!

そしてエヌアイン、ルガール、KUSANAGI、電光戦車、カティ、マリリン、ナディア予約させていただきます。

511 ◆6eO6OLe1iw:2013/07/15(月) 20:21:00 ID:F0EmBWtg0
K'、ネームレスを予約させていただきます、よろしくお願いします

512 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:25:49 ID:fJuHq7EY0
予約ありがとうございます!!!!!111
僕も投下します

513見えない目覚めの刻 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:26:47 ID:fJuHq7EY0
「よぉ……こりゃ、珍しい顔ぶれに出会うもんだ」
猿を撃退してからしばらくして、アーデルハイドとバーナードの傍に一人の男が現れる。
「クロード……」
「その名は捨てたって言っただろうが」
"捨てた名"をつぶやいたのはアーデルハイド。
父――――ルガール・バーンシュタインの事もあり、彼とは何度か顔を合わせたことがある。
まあ、口を利くのはこれが初めてだが。
「ところで、アンタよりオレが気になるのは、アンタだ」
ぼうっと考えていたアーデルハイドをよそに、男はバーナードを指さす。
「……だろう、な」
言われなくても、分かっている。
自分が名の知れ渡った殺し屋であることくらい。
そして目の前の男、塞が抱いている疑問も、容易に察することが出来る。
「アンタらしき殺しの現場に、嘔吐物があるって聞いてビビったぜ。
 いつもはそんなモノなんて残さず、完璧に仕事するのにな」
何故、バーナード・ホワイトが人間とつるんでいるのか?
というシンプルな質問を、少し曲げて問いかけてくる。
まあ、同行者が居るときに正面から「どうして隣の人間を殺さないんですか?」とは問えないか。
「心境の変化だ、"人間"なら誰でも起こりうる」
「ほぉー、アンタの口からその言葉が聞けるとはね」
おちょくるわけでもなく、純粋に感嘆の声を上げる。
その反応にバーナードも特に不快感を示すことなく、普通に流していく。
「ま、いいか。それより気になるのはアンタの今後の方かな」
だいたいを察したのか、バーナードに問いかけることをやめ、塞は続けてアーデルハイドに問いかけていく。
「親父、ここに居るみたいだぜ? アンタはどうすんだよ」
塞が問うのはアーデルハイドの今後、具体的な立ち振る舞い。
父であるルガール・バーンシュタインがここにいると分かった以上、息子である彼にはそれを聞かなければいけないのだ。
「……父か」
目を細め、少しだけ遠くを見つめてぽつりとつぶやく。
「止めようとは思っている、きっとまたよからぬ事を考えているだろうからな」
表向きには、反旗を表していく。
けれど正直言えば、分からないのだ。
どんな顔をすればいいのか、どう向き合うのが正解なのか。
世界の大悪党とまで呼ばれた人間に対し、血のつながった人間が出来るのは、何なのか。
止めるのか、共に進むのか、それとも別の道なのか。
確実に居ると分かった以上、近いうちに動かなくてはいけないのだ。
「……まあ、親子問題以上の事もあるから、難しいだろうねぇ」
塞が空を見上げる。
そう、個人の私情以上のモノが、あの男には何重にも絡みついている。
アーデルハイド一人の力ではどうすることも出来ない問題すら、そこにはある。
じゃあ、どうするのがいいのだろうか?

514見えない目覚めの刻 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:27:11 ID:fJuHq7EY0

「あのー、すみません」
そんな三人の中に、柔らかい声が飛び込んでくる。
全員が視線を向けると、そこには日本の国民的アイドル、麻宮アテナが居た。
その姿に思わず、息を呑む。
なぜなら彼女の片目からは、眼帯越しにだくだくと血が流れていたから。
「ここらへんで、これくらいの小さな双子を見ませんでした?
 二人とも黒い服で、金髪の。一人はロングヘアーの女の子で、一人はショートカットの男の子です」
当の本人はそんなことを気にも留めず、問いかけを続けていく。
「小さな双子? 悪いが、見ていないな」
「同じく、だねえ」
アデルと塞は淡々と答えだけを返す。
特にもったいぶるメリットもないし、嘘を盛る必要もない。
正直な返答、それに対しアテナは短くそうですか、とつぶやく。
そのまま立ち去ろうとした彼女を、アーデルハイドは呼び止める。
「ところで、その目は――――」
「あなたの父にやられました」
気になって仕方がなかった事、それの事実は一番重いもの。
やはり、自分の父は大暴れしているのだろうか。
無力感から歯をギリリと鳴らし、力強く拳を握りしめる。
だが、悔しそうなリアクションを見せるアーデルハイドに、アテナは至って冷静に告げた。
「……でも大丈夫、彼は"殺し合い"には乗っていません。
 ミュカレを倒そうとする人間のうちの一人です」
その場にいる三人が、肝を抜かれたかのような表情を浮かべる。
今、なんと言った?
あの"ルガール・バーンシュタイン"が殺し合いに乗っていないと言ったのか?
俄には理解しがたい情報に頭を抱えるが、情報源が情報源なだけに無碍にするわけにもいかない。
考え方を変えれば、彼女がここに立っている事が証明ともとれる。
ルガールが殺し合いに乗っているならば、彼女は無事では済まないどころか、今目の前に現れることもなかっただろう。
ルガールが殺し合いに乗っていない、というのは確かだと考えてもいい。
彼女の左目は……おそらく、それを信じなかった応酬だろう。
だが、何故?
ミュカレに刃向かう理由、アテナを泳がせている理由、その全てが紐で繋がりそうで繋がらない。
「もう一つ、いいか?」
「何ですか?」
それを考えている矢先、バーナードがアテナに何かを問いかける。
「……アンタが探してる双子、ひょっとして"ダニー"と"デミ"か?」
「ッ! 知ってるんですか!?」
バーナードから出た名前に、アテナは表情を変えて食いついていく。
再び驚きの表情を作りながらも、バーナードは冷静に問いかけに応じていく。
「知ってるも何も、"こっち"じゃ有名だからな。
 純真が故に残虐、情けも何もない悪魔のような殺し屋。
 それが――――」
「は?」
言葉が途切れる。
いや、途切れさせられたと言うべきか。
まるで汚物を見るかのような目線のまま自分をにらみつけている、アテナの気迫に。
「……ダニー君、デミちゃん、この男の人は何を言ってるんだろうね」
続いて、"どこか"に話しかける。
ゾクリ、と背筋を舐められるかのような感覚が襲う。
「そうだね、じゃあ」
ワンテンポおいた無感情な言葉。
「そうしよっか」
何かを言おうとしたとき、アテナの姿がふと消えた。
出そうとしていた言葉は、音として外に出ることはない。
続けようにも続かなくて、ただ喉から空気が漏れる音だけが聞こえる。
理解できない状況を飲み込もうとする。
目の前に突然現れた麻宮アテナの姿をとらえる。
狂った悪鬼の表情の浮かべ、自分を睨んでいる。
手には、剣を象った超能力。

515見えない目覚めの刻 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:27:35 ID:fJuHq7EY0

どさり、とバーナードが後ろに倒れた瞬間、凍り付いた時が動き出す。
「麻宮ッ!?」
手に剣を作ったまま、アテナはアーデルハイド達を睨む。
彼女のモノとは到底思えない気迫に、アーデルハイドは思わず一歩退いてしまう。
「違う、あの子達はそんなんじゃない」
小さく、けれど確実につぶやかれた言葉は"重い"。
「残虐な殺し屋? そんなの誰が決めたのよ」
ずしり、という音が聞こえてきそうなくらいに、"重い"。
「あの子達は普通の子供、幸せを手にする権利がある」
アーデルハイドは口を開くことが出来ない。
「だから、帰らなきゃいけない」
気迫に押されたというのもある、しかし、それより。
「……だから、あの子達に烙印を押そうというのなら」
麻宮アテナという一人の人間がここまで変貌していることに。
「私が、あの子達を守る!」
驚きを、隠せない。



「ストップ」
もう一度バーナードに振り下ろされようとしていた剣が、止まる。
すらっと延びた黒いスーツの足が、アテナの手をぴたりと止めていた。
「退いて」
「それは出来ねえなあ」
ぐぐっ、と塞の足が押され始めている。
怒りの力による体内での超作用、と言ったところだろうか。
非力な少女の姿からは考えられないが、あまり長時間も持ちそうにもない。
状況を判断しながら、塞は後ろでぼうっとしていたアーデルハイドに指示を飛ばす。
「おい、アーデルハイド。バーナード連れて山下りろ。
 たぶん南なら安全だ」
「何を……」
「早くしろッ!」
柄にもなく声を荒げ、アーデルハイドをがなりつける。
ビクリ、と反応してから鞭に打たれたかのようにアーデルハイドは動き出した。
「待ちなさい!」
「おおっと」
バーナードの体を持ち上げて立ち去ろうとするアーデルハイドを、アテナは当然追いかけようとする。
そして、当然ながら塞が間に割って入る。
「アイドルの相手だなんて、こんなシチュエーションじゃなきゃ喜んでお受けするんだがねえ」
「ふざけないで」
けらけら、と笑いながら塞はアテナを見る。
据わった目、決まった覚悟、そして超能力。
理由はわからないが、彼女は"こうなった"。
飛賊の連中が追い求めていたとされる力、それに酷似した"何か"を手に、自分たちへ牙をむいている。
「……老師の言っていた通りになるたぁ、な」
塞はアテナ達の武術の師とも繋がりがある。
いつだったか言っていた、包という少年に宿りかけた力は、誰しもに宿り得る力なのだと。
それに近い力を振るう者ほど、"それ"に魅入られやすい。
一度魅入られかけた包という少年と、魅入られかけながらも力を爆散させることである程度コントロールすることに成功した青年。
そして、未だに魅入られたことのない少女。
……抵抗することも、それが何なのかも気づいていないのか。
恐怖、怒り、悲しみ、その全てが彼女の"何か"を壊しているのか。
はっきりとした答えはつかめないが、麻宮アテナが"おかしい"のはわかる。
「……この"世界"がいけないのよ、あの子達を"殺し屋"だと決めつける世界がいけないの。
 だから、私は"世界"からあの子達を守らないと」
塞が思考を走らせている時、アテナは小さくつぶやく。
殺し屋という烙印を押したのは、あの双子を"そうさせた"のは。
このねじ曲がった"世界"なのだから。
「じゃないと、帰れない」
だから、壊さないと帰れない。
幸せに、普通に、平凡に暮らすことが出来る世界に帰れない。
「……逃避は楽しいかい?」
サングラスの位置を直しながら、塞は静かにアテナに問う。
答えは言葉ではなく、一発の気弾。
先ほどより明らかに威力が増しているそれを、塞は落ち着いていなしていく。
「こんな場所であの力に目覚められちゃあ困るからな、さっさと終わらさせて貰うぜ」
折れた腕を庇うことをせず、塞は両手をポケットにつっこむ。
一見、やる気の無いように見える。
だが、彼にとってはこれが戦いの姿勢。
足に意識を集中させ、足で戦うのが彼の戦い方なのだから。

516見えない目覚めの刻 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:28:03 ID:fJuHq7EY0

再び、気弾が塞めがけて飛んでくる。
その場にとどまっていなすことも出来たが、塞はそれをしない。
地面を軽く蹴り、水平線上に駆け出していく。
逃げる塞の姿を追うのは、アテナから飛び出していった幻影。
向こうの攻めに備えて守りの姿勢を作るも、拳を振るうと言ったところで幻影が霞んでいく。
同時に上を向くと、空高く飛び上がっている本物の麻宮アテナの姿。
気を纏いながらの高速の突進に、塞はただ守ることしかできない。
軋む骨の音を聞いて判断し、塞は片腕を差し出す。
わざと再起不能にさせることで、体全体のダメージを和らげる。
どうせ戦いには使えない腕なのだから、失っても問題はない。
「搦め手か……」
血を拭い、塞はぼそりとつぶやく。
超能力をメインとした扇動と攪乱が戦闘スタイルと聞いていたとはいえ、実際に相手をしてみると、こうも厄介だとは。
出来れば生きたまま無力化させたかったが、そうも言ってられない状況のように思える。
「腹括るか……!」
だらりと下がった腕をそのままに、塞は地面を滑るように駆ける。
それを待っていたかのようにアテナは転移を行い、塞を攪乱させていく。
きょろ、きょろとアテナの姿を探す塞。
それを好機と見たか、アテナは再び転移を行う。
移る先は、塞の背後。
虚を完全に突いた一手で、最大限の力を解き放っていく。
蒼の双球が、アテナの周りをぐるりと回り始める――――
「やっぱり、来てくれたな」
同時に、がしりと肩を掴まれる。
塞の動く片腕が、アテナの肩へと真っ直ぐ延びていた。
ばちばち、と超能力がアテナの体で爆ぜていても、塞はそれを気にせず掴み続ける。
そして、もはや使い物にならないであろうもう片方の腕を、ゆっくりと動かす。
「俺の目を――――」
たった一つの使い道を、成し遂げるために。
「見ろォっ!!」
サングラスを外す、という簡単な動作をするために。

傷だらけの腕を、動かした。

517見えない目覚めの刻 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:28:14 ID:fJuHq7EY0















世界が暗転する。














.

518見えない目覚めの刻 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:28:55 ID:fJuHq7EY0
――――塞の、世界が。

現実の見えていない少女は、目の前の光景も写っていなかった。
と、いうより。
都合の悪い物を投げ捨てる、と言うべきか。

ただ、見えていないだけでは邪視の力を弾くことは出来ない。
それを可能にした、唯一の要素。

どす黒く、けれど白く光り輝く気が、彼女を包んでいた。

519見えない目覚めの刻 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:29:06 ID:fJuHq7EY0



「……世話無いな」
「喋るな、傷口が開く!」
「最後くらい、喋らせろ」
治療をしようとするアーデルハイドを、バーナードは押しのけて拒否をする。
この場所に幾らあるかわからない貴重な傷薬を、死に体に使ってしまってはもったいない。
自分の体が持たないことを悟った上での、今後を見据えた行動だった。
「フン……なるほどな」
思わず、鼻を鳴らす。
今まで自分が感じることは無いだろうと思っていた感情が、彼を襲っているから。
「"人間"ではないから、ここまで恐怖する」
それは、純粋な恐怖。
獣のように純粋な、死への恐怖。
人間である以上、感じることはないと思っていた感情。
それを今、バーナードはしっかりと感じている。
「……所詮、オレも猿と大差なかったという事だ」
自嘲のこもった笑いを浮かべる。
旧人類という烙印を押され、獣に成り下がった"人間"。
あれだけ忌み嫌っていた"人間"としてではなく、"獣"として死ねることに、ある種の安堵すら覚えていた。
「アーデルハイド、だったか」
最後に、傍に立つ青年に一言を告げる。
この場で自身が成し遂げようとした、たった一つの事。
「人に、なれッ……!」
"完全者"を殺し、再び"人間"になるということ。
それを、未来を、アーデルハイドに託す。

ぶうんぶうんと飛ぶ蠅が、先ほどより少し五月蠅く舞っている。
悲しんでいるのだろうか、わからない。
もう、耳も聞こえない。
もう、目も見えない。
獣は、獣として朽ちていくだけ。



そして、獣が朽ちた後。

ざくり、と葉を踏み散らす音が鳴る。

視線を音の方へ向けた先に、立っていた存在。

それは、龍だった。

物言わぬ遺体を静かに寝かせ、アーデルハイドは龍をにらみ。

地を、蹴り出した。

【塞@エヌアイン完全世界 死亡】
【バーナード・ホワイト@アウトフォクシーズ 死亡】

【F-5/北部/1日目・日中】
【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:「ヨシダくん」、「サトウくん」
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止、殺し合いに参加しない人間を募る
1:アテナに対処
[備考]
※ローズ人形は手放すつもりはありません
※アーデルハイドの行き先は後続にお任せします。

【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:醒める、世界へ。
[装備]:眼帯、テンペルリッターの兜、蛇腹剣
[道具]:基本支給品、不明支給品(3〜9)
[思考・状況]
基本:帰らなくちゃ
[備考]
※龍の気に覚醒しました、自覚なし

520 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:29:54 ID:fJuHq7EY0
続けてもう一本

521リ・スタート ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:30:58 ID:fJuHq7EY0
「……冗談じゃねえ……」
肩を動かしながら荒く呼吸する二人の男。
それも無理はない、数時間ほどずっと走りっぱなしだったのだから。
赤碕は放送の後、地図と周りの景色を照らし合わせ、現在地を割り出した。
するとどうだ、自分たちのいる場所は見事に禁止エリアの奥深くだったのだ。
もちろん、ぼうっとしている時間はない。
そのまま残っていれば禁止エリアで死んでしまう、だから一直線に禁止エリアから脱出しなければならなかった。
自由を手にする前に、命を手にしなければいけない。
そんなある意味でのデスレースを繰り広げ、二人はようやくそこから抜け出したといった所だ。
「完全者め……」
まだ呼吸が落ち着かないながらも、クールは空を睨みつける。
自由を奪った上、行動を束縛される。
クールがもっとも忌み嫌う事に、あの女は干渉してくる。
一分一秒過ぎれば過ぎるほど、クールの自由が奪われて行くほど、クールの怒りと恨みは貯まっていく。
無論、初めから許すつもりなど無いのだが。
いつか、いつか自分から"自由"を奪ったことを後悔させる。
それだけを胸に留め、その場は呼吸を落ち着ける事に専念していく。

「しかし……ミュカレ……何を考えてる?」
呼吸を落ち着けている途中、赤碕は一人呟く。
こんな殺し合いを開いて、人々の自由を奪うような奴の考えなんざ、知りたくもない。
クールは心の中でそう思っていたが、口に出すのも面倒なので黙っていた。
「海に囲まれた孤島……その孤島の海岸を囲うような禁止エリア……。
 まるで中心部に人間を集めるかのよう……」
そんなクールをよそに、赤碕は一人話を進めていく。
まるで興味のないクールは、完全にそっぽを向いている。
「戦いを起こすのが目的……? それによる何かが……」
「そんなことは、今はどうでもいい」
放っておけばずっと喋りながら考えこみそうだった赤碕を、クールは一声だけかけて中断させる。
「今は、完全者を探す事と首輪の事だけを考えろ」
そう、今重要なのは完全者をしとめることと、この首についた命の枷を外すことである。
こんなふざけた殺し合いを開いた理由や、あの基地外が何を考えているのかどうかなどは、どうでもいい。
しかし、赤碕はクールに言われても思考を続けていた。
「クール、その完全者の居場所なんだが――――」
そして、たどり着いた一つの答えを赤碕が口にしようとした時。
荒っぽく木の枝を折りながら邁進してくる一匹の"猿"が現れた。
こんな殺し合いに猿? などと疑問に思いながらも、冷静にその存在へ対処していく。
二人があることに気がついたのは、ほぼ同時。
猿が柄にもなく服を着ていること、そしてその服は。
「……聖堂騎士」
赤い航空兵、テンペルリッターのものだった。
奪ったにしては綺麗に整いすぎている、そもそもあんな知恵の足りなさそうな猿に遅れをとる存在とは思えない。
と、なれば。
「……なるほど、な」
細かい理由は分からないが、テンペルリッターが猿になった。
差し詰め、襲いかかった旧人類に予想外の反撃を食らった、とかいった所だろう。
空を飛ぶ航空兵ならばともかく、ただ地面をかけずり回る猿に恐れを抱くことはない。
何の考えもなく突っ込んでくる猿に対し、クールは華麗なサマーソルトをお見舞いしていく。
「……ふん」
地面を滑る猿を見て、鼻で笑う。
その目は冷たく、鋭く、突き刺さる。
「不自由だな、お前らは」
クールから飛び出したのは、皮肉の言葉。
大空というこの上ない自由を手にしておきながら、地面を這いずりまわって人を殺している。
その気になれば、どこにでも飛び立てるというのに。
使われない自由には、何の価値も無い。
いや、ずっと地を這いずり回っていた存在なら、今の姿の方がお似合いなのだろうか。
それもまた、どうでもいい。
「行くぞ、翔」
「待て……」

522リ・スタート ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:31:30 ID:fJuHq7EY0
トドメを刺すことすら億劫に感じ、その場から立ち去ろうとするクールを赤碕が呼び止める。
「……オレに考えがある。まあ、待ってな……」
その言葉と同時に、赤碕は飛び出していく。
地を這う炎の後ろにぴったりとくっつきながら、猿へと一直線に向かう。
当然、猿は男の攻撃を避けようと横道にそれる。
だが、それが赤碕の狙い。
「そらっ」
即座に脇に抱えていたネットガンの引き金を引く。
逃げることに集中していた猿は、その網を避けることが出来ない。
為すすべもなく、銃から放たれた網に包まれていく。
ギャア、ギャアと獣らしい声を上げながら、猿は網の中で暴れている。
「器用なもんだな」
「EDENじゃこれくらいできなきゃ……だろう?」
EDENではいつ何が起こるか分からない。
あらゆる物の使い道と使い方くらいは、頭に入れておいても損はない。
現にEDENよりもクソッタレたこの場所で役に立った。
特殊銃の使い方を学んでおいたのも、悪くはない選択だったと言える。
「さて……」
赤碕は一つため息をつき、もう一つ持っていた鉄球を投げつける。
猿の体にズシリとめり込んだそれは、猿の動きをさらに縫い止める。
そこにすかさず近寄っていき、赤碕は手早く注射を打ち込んでいく。
「……まさか、こんな形で使うとはな……」
打ち込んだのは、異形化が解けるとされる秘薬。
以前、一度だけ目にしたときにも猿が人間に戻っていた。
だから、人間を越えると自称する存在ならば。
簡単に元に戻ってくれるだろう、と踏んだわけだ。
「フンッ」
元に戻った姿を見て、クールはもう一度笑う。
「そら、"飛んでこいよ"」
親指突き立て、拳を振り下ろす形で挑発する。
だが、元の姿に戻ってからずっと呆然としている聖堂騎士は、クールの挑発にも動じない。
それどころか、静かにくつくつと笑い始めた。
「ふふっ、あ奴から生まれし複製體も、あ奴のように強いと言うことか。
 猿であったという状況から、判断力と冷静さを欠いた拙者も悪いがな……」
聖堂騎士は笑う。
殺すのではなく、あえて元に戻すという"強者ならでは"の選択。
それほど自分の技量に自身があるという事だ。
その片鱗は、確かに先ほど見届けた。
この殺し合いに放り込まれる前に一目見た、草薙京の複製體。
初めのうちは全く興味も関心もなかったが、まさかその複製體に見下されることになるとは、思いもしなかった。
「これでは、オリギナールに勝てるわけがないな」
絡まった網を引きちぎる事もせず、黙って地面に座り込んだまま、空を見上げる。
けたけた、と壊れた人形のように笑うことをやめない。
「どうした、殺さぬのか? 拙者は貴様等を死に追いやる存在だぞ?」
にぃっ、と笑い、今度は聖堂騎士が赤碕達を煽る。
元より相手にしていないクールは、依然として無反応を貫いている。
だが赤碕は、少し黙ったあとに聖堂騎士へ語りかける。
「俺たちが倒すのは……完全者…………アンタじゃない。
 これから……アンタがどうしたいか……重要なのはそれだけさ……」
自分で決めろ、という言葉を、少し遠回しに投げかける。
いつか、自分がそうであったように。
どうしたいか、何が知りたいのか。
掴んだ命をどう使うべきなのかは、自分で決めなくてはいけない。
「拙者も落ちたな……たかが一人の旧人類の複製體にここまで見下されるとはな。
 草薙京……どこまでも拙者の心を奪ってゆく……」
空を見つめ直し、この場のどこかに居るであろう"草薙京"に思いを馳せる。
あの極上の甘みを味わったあの日から、ずっと心にこびりついて離れないモノ。
願うならばもう一度味わいたいと思っていたが、自分が"この程度"ならば、彼を楽しませることも出来ないだろう。
何かを諦めたような表情のまま、聖堂騎士は赤碕たちに告げる。
「複製體に負けたのならば、オリギナールに負けたも同然。
 拙者の命は貴様等に預けてやる、好きにしろ」
何もかもを諦めたかのような表情で、聖堂騎士はただ笑っている。
「そうか、じゃあ……」
一息、飲み込んでから赤碕が言葉を続ける。

523リ・スタート ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:31:45 ID:fJuHq7EY0
「俺たちと……自由を手にするために戦おう」
「ッ!? おい!」
突然の提案に驚いたのは、聖堂騎士ではなく傍にいたクールだ。
元より彼は群れることが好きではない。
人一人が増えると言うことですら嫌悪感があるのに、よりによってその人間が先ほどまで自分たちを見下していた"新人類"だなんて。
とてもじゃないが、許可できる事ではない。
「大丈夫さ……もう、彼女は俺たちに危害は加えない」
怒るクールを、赤碕は静かに宥めていく。
「そして何より……完全者を倒しに行くなら……この上ない協力者だろう?」
彼女を同行させる最大のメリット。
それが自分たちの最大の目的と合致していることを告げる。
「チッ……」
もっともらしい赤碕の話に、クールは思わず舌打ちをしてしまう。
確かに、主催側である彼女なら多くのことを知っているかもしれない。
完全者を倒しに行くという目的に近づくには、この上ない近道であることは、誰の目でもわかる。
「……旧人類と手を合わせて、新人類を斬る。
 あの無法者と似通った道を歩むことになるとは……」
クールが一歩退いたと同時に、聖堂騎士が再び自嘲めいた笑いをこぼす。
大罪である同胞斬り、それを為した同胞の目。
その目がとてもギラついていて、満たされていた事を知っている。
「まあ、悪くはないだろう。もう私は新人類ではなく、猿から変わった只の生き物なのだからな」
完全者を斬れば、剣を交えれば、あんな満たされた目になれるのだろうか。
少しの期待が胸に宿ったことに対し、今度は期待の笑みを浮かべる。
そんな一人の世界に入り始めていた彼女に、赤碕が呼びかける。
「……なんて呼べばいい」
「む?」
「アンタの……名前だ、なんて呼べばいい」
「……複製體に名前など無い」
名前、それは人一人の個人の証明でもある。
しかし、"生み出されし"もの達にはそれがない。
名前など名乗らずとも役目は果たせるし、特に不自由することもない。
名前を呼ばれることも、呼ぶこともない。
ひとまとめで扱われることしか、無いのだから。
「じゃあ……これで名乗ればいいさ……」
だが、これからは違う。
完全者を相手にする、一人の"人間"に彼女を変身させるために。
赤碕はずっと持っていたドッグタグを投げて寄越す。
彼が"赤碕翔"を名乗るきっかけとなった日、もう一つだけ拾っていたタグがあった。
そこに記された名前は、"ロサ・ギガンティア"。
どんな人間がそれを身につけていたのかは知らないが、赤碕はなんとなくそのドッグタグをずっと持っていた。
いつか、使う日が来るかもしれない、拾った時にふとそう思ったから。
そして今、そのドッグタグが役に立つ日が来た。
投げ渡されたドッグタグを掴み、聖堂騎士――――ロサは笑う。
「おい、本題に入るぞ」
そんなやりとりの中、少し蚊帳の外の感覚を味わっていたクールが、口を挟む。
ちんたらとしている暇はない、刻一刻と時間は過ぎようとしているのだから。

「――――完全者は、どこだ」

核心へ、迫る。

【E-3/西部/1日目・日中】
【赤碕翔(クローン京A)@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き抜き、自由を知るために完全者を倒す

【クール@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:クールのダーツ(残り本数不明)@堕落天使
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:自由を取り戻すため、首輪を解除し完全者を殺す。

【ロサ(テンペルリッター・一番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:"人類"として自由を掴むために完全者を斬る

524 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 00:32:00 ID:fJuHq7EY0
以上で投下終了です

525 ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:44:59 ID:OJrI.yWU0
おはようございます、ネームレス・K'、投下させていただきます

526アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:47:02 ID:OJrI.yWU0
己の中に声を感じたのはいつからだったか。
そして己の中の声を無視できるようになったのはいつからだったか。

それはプロトKの因子を植えつけられた二人、K'とЖ'、つまりはネームレスに共通する消えかけた思い出だった。
己の身を意思を、焼き尽くそうとするその声はいつも耳の奥で響いていた。
不相応な、剣ならざるものへの警告と叱責。そしてオロチへの怨嗟。
それに耐え切れなかった同胞達は、みな灰燼に帰した。
目の前で自分と同じ顔をした人間らしきものが燃え上がり、断末魔をあげる度、その声は大きくなる気がした。

「ッそ!ウルセぇなぁ!!」
草薙京も、その因子を持つものも、同じく炎を扱う術者の誰もが今まで振るったことのない、白い炎。
それを火輪の形で放ちながらK'は毒づいた。
先ほどの、見たことのない女から飲まされた血は彼の中で暴れ回り、彼の炎の色を変えた。
それだけではない。
確実にその威力と性質をも変えていたのだ。
焼き尽くす炎から、喰らい尽くす炎へ。
その火輪を先刻と同様に飛んで避けたネームレスは己の認識力を疑った。
最小限の跳躍で飛び越したはずのその炎が、足に絡み付いて身体を上ってきたのだ。
「なんだ……これは!? 何をした……!」
「知らねェよ……ただ、ウルセぇのが増えた、それだけだ」
自身への変化をただそう切り捨てて、K'は次の攻撃へと移る。
白い炎を推進力に地を滑るように近づいて、ネームレスへ回し蹴りを放つ。
が、それは完全に空振りだ。
そもそも回し蹴りのモーションに入った段階で、ネームレスを後方に見ていた。
そのことに一番困惑したのはK'本人だ。
「チッ、ウゼぇ……」
それはつまりは制御の問題。
放つ、振るう。その程度であれば威力や範囲が拡大した程度で済む。
性質の変化についても、相手をホーミングするようになっただけ、と考えればそれほどのことではないだろう。
しかし補助的に使った場合はその限りではない。
今まで1メートル移動するために出していた加減で2メートル進み、1秒かかっていた蹴りが0.5秒ですめばそれは4倍の速度で行動しているのと同じ。
その感覚は一朝一夕どころか、たった今得て実戦で使えるようなものではない。
「なるほど、貴様にも扱いきれないのか、それは」
「ッセェよ……」
K'が通り過ぎた後方にわずか残った白い炎の残滓を右手で払いのけながら、ネームレスはそれを察する。
急に拡大した力は脅威だったが、それはネームレスにとってだけでなく、扱うK'にも共通の不確定要素であることを正しく判断し認識する。

527アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:49:50 ID:OJrI.yWU0
「砕く!」
一瞬の対峙を貫くような、手を穿孔型に変化させてのネームレスの突きをK'は間一髪で避ける。
そして互いが、炎を使用しない場合の身体能力に格段の差がないことを確認する。
「扱えない武器は身を滅ぼす……死んで行った奴(ネームレス)らのようにな」
「ちっ!」
連続の突きは、間合いを取らせないためのネームレスの常套戦術だ。
アーマーやガードを貫く必殺のドリルは避ける以外の行動を極端に抑制する。
それ即ち行動の制限であり、相手の戦術の多様性の封殺だ。
エージェントである彼にとって戦闘は任務の一部であり、決して大儀や満足を持って行うものではない。
最終的な成功という結果。そしてその先にある大きな目的。全ての行動はそこに帰結すればそれでよい。
腕を突き出しながら前進するその姿は冷徹であり、愚直に見えた。
「シッ!」
何度目かの突きに合わせてK'は後方へ半歩跳び、次の突きに合わせるように膝を持ち上げる。
焦土と化しているこの一体においては、その動きを制限するものは少ないため、ジリ貧になる前に手が打てたのは僥倖であった。
直線方向に多大な攻撃力を持つそのドリルを下から上に向けて蹴り上げると、鼻先を掠めてそれは天に向いた。
「シャラァッ!!」
間髪入れずのクロウバイツ。
がら空きの顎を、拳で打ち据えてネームレスを宙へと舞い上げる。
白い炎で尾を引くそれは、やはりいつもよりも高く、そして早い。
しかし舞い上がったゆえ、一緒に舞い上げた故にそれは先ほどのような感覚のズレを生まない。
十分な余裕を持って次の行動へと繋げることが可能だった。
「ラアッ!」
「ぐっ…!」
その勢いのままに地面へと蹴り落とすと、ネームレスはしたたか叩きつけられた後、瞬時に身体を後方へと転がす。
「直接ブチ込めば関係ねぇだろ」
地に下りて、ギ、とグローブを軋ませて拳を握るK'にネームレスは恨みのこもった目を向ける。
「クッ……クソッ……」
先ほどまでの戦闘で、既に大分消耗していた彼にとって、このK'の復活はやはり誤算であったと言わざるを得ない。
だが、それが互いに不確定要素である以上、付け入る隙がないわけがない。
ないのだが、現在の自分にその隙をつけるだけの力が残っているかと問われれば、返答は沈黙となるだろう。

528アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:50:58 ID:OJrI.yWU0
「イゾルデ……」
脳裏に、少女の姿が浮かぶ。
ここで死ねば、その少女にはもう会うことはないだろう。
懐疑的である彼女の死がもし本当だったとて、自分と彼女では逝く場所が違う。
人工生物である彼が宗教的な死生観など持っているわけはないが、だからこそ本能的に感じたそれは
リアルさのある真実として彼の心に宿った。
「死ねない……俺は死ねない……」
呪詛のように呟いてネームレスは拳を握る。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
先ほどまでとは違う、感情に左右された突進をK'は冷静に眺めていた。
身体を食い破ろうとする血と声は、もう少しであれば押さえ込めそうだ。逆に言えば、そう長くは戦い続けられないだろう。
であれば、決めるのはこのタイミングしかない。
「お前を……砕く!!」
さきほどまでの突きの間合いの二歩前で急停止し、今までにない大きさのドリルに変化させた右腕を、何の工夫もなくただ前へと突き出すネームレス。
しかしその攻撃範囲は広く、飛び上がることも跳び退くことも困難だ。
だから、K'は前に出る。その巨大なドリルの横を、掠めるように走り抜ける。
「ぐっ……!!うぉぉぉぉぉ!!!」
しかしそれは、そのドリルはそんなK'の思惑をも貫こうと、さらに一段階膨れ上がる。
回転径が上がり、先ほどまでギリギリで安全だったその活路が死の回転体に侵食される。
「チィッ!」
K'が走ったのはドリルに向かって右側、ドリルに晒しているのは左半身だ。
迫りくるドリルに対し、左腕の皮膚が削られ、血が噴出した。だが
「くれてやるよォ!!」
根元に行くほど太くなるドリルに対し、K'は進路を変えなかった。
それはつまり、皮膚を削っていたそれが肉を削ぎ腕を貫いても止まらなかったということだ。
ミヂィッ、と鈍く重い音と共にその左腕が千切れ飛んだ時、K'(彼)はЖ'(彼)の直ぐ隣にいた。
「くそっ……!」
ネームレスは右腕に注ぎ込んだ力を必死に戻そうとする。
しかし限界以上に巨大化させたドリルは回転を止めて彼の手に戻るにはまだ幾ばくかの時間を必要とするだろう。

529アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:51:47 ID:OJrI.yWU0
「あばよ……」
左腕の根元からおびただしい血を噴出させ、それをネームレスの顔へと浴びせながら、K'は別れを呟いた。
残った右腕をわざわざポケットへしまいこんで、白い炎をじわりと全身から染み出させて、そっとネームレスの身体を通り過ぎる。


「白だよ……」


世界が染まる。
何物にも染まらぬ、完全な白に。
何物をも残さぬ、純白の炎に。


「真っ白!!」

530アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:53:13 ID:OJrI.yWU0
倒れ伏したネームレスは、それでもなお生きていた。
全身をくまなく焼かれていたが、五体は健在で辛うじて意識もある。
それが彼自身の能力か、執念か、右腕のグローブの加護かはわからない。
ただ事実として、命があったということが彼にとっては救いだった。
頭の中に響く声がある。
神殺しの力を濫用する不遜者を焼きつくさんとする草薙の血の声。
その声にダブるように聞こえる、先ほどまで戦っていたもう一つの起源(ルーツ)の声。
その後ろから、小さく聞こえる少女の声。
初めて聞いたあの日から、どの声よりも小さいのにどの声よりもはっきりと聞こえていた声。
「イゾ……ルデ……」
右手を天に向け、力なく掲げる。
白いグローブは高く上った日の光を指の隙間からネームレスの瞳に落とす。
眩しさに目をつぶると、瞼の裏で儚げなあの少女が笑った気がした。
「でも、もう……」
「もう、なんだよ」
その白いグローブを掴んだのは、別の赤いグローブだった。
「え……」
頭の中で響いている声の一つが実在する空気振動として自分の鼓膜を揺らしていることにネームレスは驚いた。
立ち去ったのかと思っていたが、なるほどよく考えれば止めを刺さずにその場を離れるわけがない。
裏切り者でも、彼もまたネスツのエージェントなのだ。任務は完璧をもってよしとする。当然のことだった。
だが、その推測は次の行動に完全に裏切られた。
K'はそのままぐい、とネームレスの身体を引き上げて、胸倉を掴み、己の血に塗れたその顔を睨みつけたのだ。
「殺すつもりでやったがよ……生きてるなら、生きろ」
「何故……だ」
予想外の命令に、呆然とネームレスは問う。
「別に……ただ、お前のグローブに免じて、一度だけの気まぐれだ」
「イゾルデ……に?」

531アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:54:15 ID:OJrI.yWU0
K'はあの時見ていた。
真っ白に染め上げた世界の中で、同じく白に飲み込まれたネームレスの身体を慈しむように包む少女の輪郭を。
自分の知る少女によく似た、しかしもっと大人びた優しい笑顔を。
そして悟ったのだ。
彼のグローブの出自を。
己の炎を制御する機械仕掛けのグローブとは異なる、暖かさを感じるあの白い右手の正体を。
自分に多数のクローンがいて自分が成功作であるように、クーラにも、それがきっといたのだということ。
彼の愛するイゾルデが、決して無機物などではないということを漠然と悟って、最後の一瞬に炎を押さえ込んだのだ。

532アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:55:30 ID:OJrI.yWU0
「じゃあな、もう、俺の前に現れるんじゃネェぞ」
どさり、と決してネームレスを気遣わない投げ捨て方で手を離して、K'は背中を向ける。
倒れ伏した身をなんとか持ち上げて、ネームレスはごくり、と一度唾を飲み込む。
そして、一瞬の暗転。
「ああ、そういや、もうすぐここいらは禁止エリアって奴になるらしい……とっとと動かねぇとせっかくの」
わざとらしく、忠告がてら振り向いたK'の言葉が途切れる。
次いで出るはずの言葉の代わりに彼が吐いたのは大量の血だった。
「ごぼっ……」
急速に狭くなる視界、薄くなる意識。
その中で必死にダメージの根元を探る。
しかし探すまでもない。それほどに明らかだった。

彼が見たのは

自分の身体の七割を抉って

遥か後方まで伸びる

異形の腕だった

「んだよ……コレは……」

「ちがっ、違う!!」
叫んだのはネームレス。
「違うんだ、俺は、くそっ!」
炎も出せないはずの左腕が、血管や部品のような無機物が突き出し、膨れ上がり、うねり、伸びる、異形の怪物のように変化している。
「ちっ……」
吼える様にうねった腕は、K'の身体を上下に分けてちぎり飛ばした。





「力が…勝手に…ぅわあああ!!」




もう一度の暗転。
ネームレスの意識は闇に堕ちる。

533アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:56:23 ID:OJrI.yWU0
おそらくそれは、オロチの血が混じったK'の血を浴び、その一部を飲んだことによる能力の暴走だっただろう。
同じくその血の影響か、暗転した闇の中でネームレスはK'の心を見ていた。
厳つい顔で笑う大男、鋭い目つきから一転して優しげに微笑む女性、そしてイゾルデによく似た顔で無邪気に笑う少女。
「マキシマ……セーラ……クーラ……」
ネームレスが目を覚ますと、左腕は元に戻っていた。
多少の違和感はあったが、今すぐ同じように暴走する気配はない。
闇の中で頭に流れ込んできたK'の声が呼びやったあの幻影たちの名前を呟くと、何故だか両の目には涙が溢れた。
「イゾルデ……クーラ……」
自分の愛する、生きる意味そのものの名前と
彼が愛した、生きる喜びを教えたその名前を
そっと唱えてネームレスは立ち上がる。
まだ重い、しかし瀕死だったはずが動けるまでに回復しているその身体を引きずって、K'の死体、その上半身へと歩み寄る。
「……俺は……生きる……お前の分も、俺が生きる……」
驚きに見開いたままの瞼を白いグローブで撫でて、永遠の眠りに無用な光を遮ってやる。
そして自分と同じように彼の右手にはまっている赤いグローブを外し、裏返しに左手にはめた。
どうやらネスツの技術により左右兼用で作られていたらしいそれは、数秒小さな機械音を出した後しっくりと左手に収まった。
「イゾルデ、クーラ、一緒に行こう。一緒に、生きよう」

534アンリミテッド モノクローム ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:56:52 ID:OJrI.yWU0
死に際にK'が言っていた、禁止エリアという言葉が脳裏によぎる。
「移動をしないと……」
詳しいことはわからない、しかしあの男が最期に振り向いてまで与えてくれた情報だ。
仔細は動きながら確認すればいい。
ネームレスは合理的な判断を下しながら、自分とK'の荷物をまとめて肩にかける。
気がつけば、頭の中で聞こえる声がまた増えている。
【不埒者は炎に焼かれよ】【人を滅ぼせ】【生きてるなら、生きろ】【ずっと、待ってる】
白いグローブをつけたままで、小さな炎をおこしてみる。
「……これが……今の、俺か」
そこに現れたのは渦を描いて燃える、白と黒の螺旋。
元々彼が使っていた炎は最早赤黒いを通り越して漆黒に近づき、その傍らにK'が振るっていた白い炎が寄り添っている。
左手の赤いグローブと右手の白いグローブ。
交互に見つめて彼は緩やかに駆け出した。

【K'@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【I-9→H-8方面へ移動中・1日目・日中/放送終了後】
【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身火傷、ダメージ(大)、オロチの力により徐々に治癒中
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"、K'の制御グローブ"クーラ"(勝手に名づけた)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜5(不律、K'、ターマ分含む)、ビーフジャーキー一袋
[思考・状況]
基本:生きる
[備考]
K'が一度とりこんだオロチの血がinしたため、炎の色が白黒のマーブルになりました
左手にK'の制御グローブをつけ、血の記憶から知った「クーラ」の名をつけました
クーラ本人がこの場にいることはまだ知りません
左手が暴走し、K9999の技「力が…勝手に…ぅわあああ!!」が暴発する可能性があります
オロチの血による身体の活性化のため、現在のダメージは時間で回復していきます

535 ◆6eO6OLe1iw:2013/07/16(火) 04:57:30 ID:OJrI.yWU0
投下は以上です
間違い等ございましたらご指摘くださいますようお願いいたします

536 ◆LjiZJZbziM:2013/07/16(火) 07:58:31 ID:uQdbEGI.0
投下乙です!
うおおおおおおお、京様いおりんに続いてまたも濃厚なSNKバトル!
まさかの鉄雄ネタにはニヤけを禁じ得ませんが、それでもアツい!
クーラという名前を背負って、両グローブのネームレスがどうなるやら……!

537 ◆Ok1sMSayUQ:2013/07/18(木) 23:35:45 ID:/O14O2oM0
クーラ、アドラー(テンペル)、結蓮で予約します

538 ◆LjiZJZbziM:2013/07/19(金) 00:19:52 ID:Vfctf1d20
予約ありがとうございます!

539 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:36:23 ID:6W3m1LKs0
投下致します。

540Walk my way, Long and winding ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:37:18 ID:6W3m1LKs0
天貫かんと迸る蒼と赤の中で、彼は笑う。
昂ぶる血液の暴走、聞こえてくる声、作り物の体が悲鳴を上げた。
それら全てを、制御ではなく無視して、彼自身が生まれた時から持っている純粋な欲求で塗りつぶして。
「這ぇええ!!!」
それは、命を削る電光機関によく似ていた。
彼自身を擦り減らし。
彼自身を炎にして。

闘争本能でできた爆炎は嬉々として増えた獲物をその手で捕らえんとする。

地面を舐め上げる蒼は、蛇行し余すこと無く焼きつくさんとこちらを目指した。
右手を包み込む赤もまた、炎を駆るように走りだす。
「暑苦しい限りだな」

熱気に苦笑しながら、ルガールは両腕を前に突き出しバリアを張る。
エヌアインは静かに片手をつきだし、未来の景色を読む。
そして脳裏に過ぎった映像に慌てて構えを変えて、対抗するように超能力による炎輪を放った。
跳躍するか、避けるかするはずのKUSANAGIは炎輪、パイロキネシスを喰らいこちらへ突進する。

「ほう」
バリアに到達した炎はその弾き返す能力に反発し、留まる。

「なかなかどうして……」
面白いではないか。
喉を鳴らし、跳ね返すのではなく掻き消そうと力を高める。
それでも食い下がる炎に根負けしたのか、ルガールは炎を跳ね返すでもなく消すでもなく振り払った。

炎の化身の拳を前に、エヌアインは不動であった。
「真っ赤に燃えろォ!!」
それはエヌアインの細い喉を捉えて、体内体外選ばず焼失させる。
そのイメージを経て、エヌアインは真っ直ぐに拳を振りぬいた。
「邪魔、するな!!」
化け物じみた疾走ではあったが体はやはり人間の範疇を出ない。
しかと拳でとらえた体を真上に殴りあげ、テレポートで背後へと回り叩き落とす。

落下地点には奇しくもルガールの振り払った蒼炎が迫っていた。
予測していなかったコンビネーションに、エヌアインは喜ぶより先に戸惑う。
生じる違和感、その正体。

「がっ!?」
自身を炎にして擦り減らすなら、炎も彼の肉体と変わりはない。
先ほどパイロキネシスを飲み込んだのと同じく、蒼炎を取り込んだKUSANAGIはお返しだとばかりに飛び上がる。
未だ落下中で無防備なエヌアインに炎の拳が食い込む。
空中で更に吹き飛ばされる、味わったことのない重力に意識が白んだ。

「堕ちろォ!!」
迫る蹴りの連続、白い世界。
未来はとても不透明で、乳白色の霧に沈んでいる。
故にエヌアインは体から力を抜いた。
諦めではなく、始めていた試みのために。

541Walk my way, Long and winding ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:37:42 ID:6W3m1LKs0
『助けて欲しい』

『キミだって、死にたくはないだろう?』

『……こんな言い方、卑怯かもしれないし、ボクだってそれが何かわかってないけど

542Walk my way, Long and winding ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:38:43 ID:6W3m1LKs0
炎と一筋の熱線がぶつかる。
小規模な炸裂。
星の光より遠い意思。

「トモ……ダチ……」
それを宿し始めた瞳が語る、電光戦車のたどたどしい言葉。
よかった、安心したエヌアインの体は今度こそ大地に向かう。
たたきつけられる衝撃を覚悟していたエヌアインは、力強い何かに受け止められてぎゅっと閉じていた瞳を開いた。
「危機一髪、と言ったところかね?」
スーツの男がにやりと笑う。
「多分、ね」
エヌアインも曖昧に笑顔を見せて、地面に漸く足をつけた。
助太刀に入った電光戦車は、瞳を明滅させながら状況を静観している。
まるで、人間が自分の行いを噛み締めるように、言葉を脳内で反芻させるように。

「さて……」
ダメージが残るエヌアインを尻目に、ルガールは墜落したKUSANAGIに近づく。
いくら炎を自在に操り、剰え食らおうとも、体の修復には至らない。
特に欠損を補えるほど、今の炎には定まった形がなかった。

電光戦車の熱線で片足をなくし、なおも赤い瞳を轟々と焚き上げるその姿。
「その類まれなる血の炎、そしてオロチの力」
是非ともこの手に。
そう手を伸ばしかけるが、ルガールはピタリとすんでで手を止める。
指先にチリチリと纏わりつく殺気、闘気。
気圧される感覚にまたルガールは笑う。
愉悦か、威嚇か分からない顔で。

血にめぐる暗黒の力を貫手に込める。
まずは自分の力を流しこみ、取り込みやすいよう料理してやる。
その間も赤い目は爛々と、いや増してエネルギーを持って。

「……いいな、この感覚」

ふ、と聞こえたつぶやきを堺に、世界は完全へ足を踏み入れた。
突如降り注いだ衝撃にルガールは吹き飛ばされるが、地面を滑り着地する。

「完全世界……!」
エヌアインの叫びに電光戦車が顔を上げる。
「なんだね、それは」
予想外の出来事に渋面を作り、火が移ったスーツの上着を脱ぎすてるルガール。

「一発逆転のチャンス……自分の力を一時的に全て開放して、自分のためだけの完全な世界を作り出す」
対価は人によって様々だ、攻性防禦が人によって使用法が異なるように。
「だけど、これさえ終われば、多分アイツは」
おそらくKUSANAGIの支払った対価は命。
彼の力は自身の命、血に由来しているのだから当然とも言える。
そもそも完全世界を教えたであろう完全者を思えば、使い捨てのクローンに支払わせる対価など容易く予想がつく。
「だとすれば、とんだお笑い種だ」
足をなくし、動けぬまま、今度こそ死んでいく。
完全な世界の中で、完全には遠い炎が。

神に成って走りだす。

「焔にぃ…………」

喪った足の代わりに、新しい闇色の炎を滑らせて。
鬼すら焼ききる赤い炎を持って。
闇を払う蒼い炎を共に。

「還りやがれぇえええ!!!」

命の轟炎、至近距離で真空を作り出す程の業火。
瞬間的にKUSANAGIは神の極地に至る。

そこには破壊のクローンに生まれついた、彼の終点があった。
だからこそエヌアインも、神にならぬと決めた自分の道を『信じた』。

再び世界は止まる、エヌアインのための完全な世界へ。
勿論KUSANAGIにも衝撃は降る。
だがしかし足は止まらない、止まるような役立たずの足は、体はもうない。

エヌアインも立ち向かう。
燦然と、流れる炎と同じ、赤い光を纏って。
完全なる神を殺す技を放って。

543Walk my way, Long and winding ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:39:49 ID:6W3m1LKs0
『正す』以外の。
『許し』によく似た。
『謝罪』も受け止める。
『信じる』という、先の見えない、だけど前へ進む道。

『君たちのおかげだよ』

眠るカティと、刹那を過ごす電光戦車に胸の内を零す。

『カティが許してくれたから、電光戦車が応えてくれたから』

信じるという選択は賭けであった。
戦車に短く語りかけただけで、果たして自分を助けてくれるのかという。
結果エヌアインは戦車に助けられ、今前進している。

光と炎が交差した。

一瞬の戦い、終わる世界、形を保っていたのはエヌアインであった。
膝をつき、青い空を見上げる。
満たされていく感覚と虚脱感。
足元から、侵食されていく。

これから信じることで裏切られることもあるかもしれない。
自分を盲信し傲慢になってしまうときもあるかもしれない。
でも、とエヌアインは微笑み意識を手放す。

それが、神じゃなくって人間が進むべき道なんだろう。
旧人類とか、新人類とか関係なく。

『トモダチ』

『そうだね、ボクも』

切れたテレパシーに電光戦車は硬直する。
そっと、祈るように前輪で触れる倒れたエヌアインの体は温かく、やや早い鼓動を刻んでいた。
「やつは、何処に?」

文字通りまばたきの間についた決着をルガールは確かに見た。
光にぶつかったはずの炎は、何処にも見当たらない。
掻き消えたのか?
だとしたら余りにも呆気無く、加えて収穫のない最後であった。

しかし、ルガールは気づく。
KUSANAGIを刺し貫いた自身の腕に、血が一滴も付着していないことに。
真っ直ぐな、真空に。

544Walk my way, Long and winding ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:40:33 ID:6W3m1LKs0
「だからね、あたしは見ての通りちんけな小悪党さ」
マリリンはとつとつと、自嘲気味に心を曝け出してみせる。
幸い、カティは目覚めなかった。
「考えても見てよ、こんな殺し合いなんかに巻き込まれちゃったら、誰だって自分の身が可愛いお」
カードを淡々と切っていく。
自分は無力である。
弱いからこそ、さらに弱いものを殺めて生きながらえようとした。
善ではない、ただ、生きることに善悪などあるものかと。
精一杯、弱者としての自分の真実をめくり上げる。
「強いものについて弱いものを……ね、気に喰わないけれど」
ナディアは生きたいという気持ちを否定する気にはなれなかった。
目の前で、いや目をそらした隙に傍にいてくれたものを無くしていたからだ。

話を割って訪れたタブレットの振動も、マリリンには絶好の手札になる。

「あああ、あの子も、あの子も死んじまったんだお……」
名前は出さずに、ともがらを亡くしたように振る舞う。
実際知っている名前の人間が数人ほど死んでいるが正直どうでもいい。
ただ死に対して哀しみ悼む姿勢こそが大事なカードなのだ。
「…………っ」
ナディアは、確認してしまった死と、仲間の死を同時に知らされ声を詰まらせる。
「アンタも……無くしちまったんだねぇ」
天叢雲剣は力なく地面に刃先を向ける。
ここまでくれば、マリリンの勝ちは近い。
背後の少女は、時折うめき声をあげるがまだ起き上がる気配はかった。
(しかし、このガキんちょはあたしの事色々と知っちゃってるかもなんだよねぇ……)
唯一の懸念事項をどうするか考えあぐねていると、不意に焦げ臭い匂いが鼻をかすめる。

体は咄嗟に動いた。
膨大な熱気を受け止めて、突き抜けること無く、受け止めて。

「な……あ、あんた…………!!」

ただ一筋の炎に成り果てたKUSANAGIを、天叢雲剣とナディアが受け止めた。
神話に置いて八岐大蛇の尾より出て、炎を凪いだとされる神の剣はできうる限りの神性を発揮し、KUSANAGIの力を閉じ込め減少させた。
だからナディアに、死に行く間ができてしまった。

「そこに居たアンタが悪いお……あと、さあ」
もはや札を出す必要はない、全て燃えてしまったのだから。
マリリンの盾にされ虫の息の焼死体予備軍なんぞに出すものは、何もない。
「あたし、あんたみたいなエリート、大っ嫌いなんだよ」
軍人然としたナディアの格好を見てからずっとくすぶっていた感情をぶちまけた。

最期に聞いた言葉に憤慨することも、仲間の死を嘆くこともできずにナディアは倒れる。
草薙とオロチの炎を宿した剣を抱えたまま。

気絶したエヌアインを抱くルガールと、戦車は到着する。
炎の終着点に。

「ああああああ、あんた!なんで、なんであたしの盾なんかに!!!!」
返事ができない屍をいいことに、マリリンは泣き叫ぶ演技を始める。


「トモダ……チ……」

電光戦車が、つぶやく。
「ふむ……そういうことか……」
何かを察したルガールは天叢雲剣を、じっくりと観察し始めた。

「トモダチ」

「ああそうだお、こいつはこんなあたしを信じてくれた、トモダチになれたかもしれない奴だお!」

「トモダチ」

心にもないことをマリリンは平気で並べ立てる。
彼女の悪の華は今まさに満開の様相を見せていた。











「トモダチヲ、コロシタ」
「そう、殺し…………は?」

545Walk my way, Long and winding ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:41:27 ID:6W3m1LKs0
戦車の、骸の奥から除く光は剣呑なものであった。

「な、なに言ってるんだお……あたしは、守られて」
「コロシタ!!!!!」
言葉は断罪される。
戦車は、彼女の最期の声を聞いていた。
テレパシーになるほどに強い嘆きを受信して、トモダチになれたかもしれない人間の非業の死を知った。
「な、なんでよ……なんで、こんな……」
熱線が胸を貫く。
血混じりの声、驚愕の目はルガールに向く。

「残念だよ、マリリン・スー」

伏し目がちに放たれた言葉は、同盟の破棄を意味していた。

「何、これ……」

全てが終わったその場所でカティは目覚める。
「君は、見ないほうがいい」
ルガールはカティを遮り、遠ざけた。
「なんで、なんで?」
何が起こったのか。
火葬場と同じ匂いがする。
生臭い、血の匂いがする。
死の匂いだ。
「哀しいものだよ」

ひたすらに、死体を、ナディアの遺体よりも無残に焼き続ける、心が芽生えたばかりの戦車の後ろ姿。
それを見つめ嘯くルガールを断罪できるものは、今はまだいなかった。


【H-07/南西部/日中】


【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(中)気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:カティと行動。『正す』以外の方法を知りたい
  1:信じてみる


【電光戦車(2)@エヌアイン完全世界】
[状態]:損傷(小)、『心』が芽生え始めている
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本(上書):ガー、ピー?
[備考]
※エヌアインがサイコキネシスでこっそりプログラムを書き換えました

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。


【カティ@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(大)呆然
[装備]:モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本:エヌアインと行動。ミュカレを『許す』ために、彼女にもう一度会いに行く

※KUSANAGI、ナディアの不明支給品は焼失しました。

【KUSANAGI(クローン京B)@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【マリリン・スー@エヌアイン完全世界 死亡】
【ナディア=カッセル@メタルスラッグ 死亡】

546 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/22(月) 07:42:21 ID:6W3m1LKs0
投下終了いたします。問題やご指摘がありましたらお願いします。

547 ◆LjiZJZbziM:2013/07/22(月) 23:40:18 ID:2qPj8J0o0
投下乙です!
うおー戦車ー!!
完全世界に立ち向かうえぬお君もかっこいいケド戦車ー!!!
そしてウチのロワのクズクズアンドクズが早々に離脱したようで
ルガールのおっさんは何考えてるやら……

548 ◆Ok1sMSayUQ:2013/07/23(火) 21:52:45 ID:PXiD6nW60
 ――さて。
 このあたりで少し、俺のとりとめもない考えをそれなりにまとめておく必要があるだろう。
 口には出さない。というより、出したところでどうにもならん。その程度の疑問ではあるが、どうしても頭の隅に引っかかる……、いや、俺の天才的ニューロンが反応していると言うべきか。
 他者に投げかけたところで答えは期待できない。しかし、必ず答えを出す必要のある疑問だ。ゆえに俺は、『回顧録』と銘打って、この記憶に留めておくことにする。
 このつらつらとした、考えの羅列は、空を飛んでいるときに生まれたものである。決して間を持たせられなかったから考えに耽ることにしたわけではないことは、貴様らなら理解できるだろう。

 ――前置きはここまでとしよう。
 現在、俺という自我を持つ『エルンスト・フォン・アドラー』という個は、かつて死体であった『テンペルリッター』に宿っている。
 手に入れた転生の法を用いたわけだが、思っていた通り見事に成功させることができた。確信があったのだ。理由はいくつか列挙可能だが、その最たるところは電光機関が問題なく使用可能であった点である。
 電光機関は乱暴に言ってしまえば、自らの生命力をエネルギーに変換し、取り出すことが可能な代物だ。その原理については遺憾ながら未だ不明な点が存在するが、この機関が意味するところは、我々は自らの魂をエネルギーという数値に置き換えることが可能であるということだ。
 即ち、エネルギーを魂に変換することも理論上は可能である。転生の法も、この論理に基づいていると見て俺は習得した。
 つまるところ、電光機関が使用可能であるなら、転生の法もまた使用できると睨んだのだ。繰り返すが、それは成功した。だが同時にこの成功例は、ひとつの疑問を呼び起こす。

 転生が可能であるなら、それは『ゼロサムゲーム』の根本をお釈迦にしてしまうこと。『ズル』が可能だということだ。

 この催しが完遂されるための前提条件は『落伍者は再び土俵に出られることがあってはならない』である。失格とされた者が何度でも復活できるのでは、最終勝者の決定ができなくなる。
 しかしその条件はたった今、電光機関並びに転生によって覆された。他ならぬ俺が覆したのだが、誰がやったかはこの際どうでもいい。問題は、優勝者が決定できなくなったこの状況下は果たしてどのような意味を含むのかというところだ。
 当初、俺は世界中から未だ解明できぬ能力者や異形の者どもを集め、戦わせ、最終勝者のデータを得ることで何らかの目的を達するものであると想像していた。
 この点については完全に否定ができる。理由はクーラ・ダイアモンド並びに結蘭との会話、そこから知りえた情報があったゆえだ。
 では殺し合いの目的とは? そもそもこのようにしてただひとつを決定するというのは、優越した者を選ぶという意思があるはずである。かつてナチスドイツがそうしたように、だ。
 だが決める意思が見られないとなれば、最終勝者の決定に重きが置かれていないということになる。つまり、我々は何をしようが、足掻こうが、従おうが、はなからどうでもいいということになる。
 ならば何を決める。何を求める。何を為す。何が終着点なのか。どれひとつとして見えるものがない。
 娯楽、享楽、悪趣味。そう一言で片付けるのは簡単だ。しかし本当にそれだけでしかないとしたら、俺は「貴様は能無しか」と侮蔑をもって言葉を投げかけるであろう。

 言ってしまおう。何がしたいのか『分からない』。あまりにも、この殺し合いは、無作為、だ。

 俺は元々、殺し合いそのものについての是非を論じるつもりはない。その点について論じることに何の興味も見いだせない。
 興味があるのはただひとつ。この催しのたどり着く先。終着点がいかなるものであるか、だ。
 それは現在の世界の行く末を決定するものであるのか。或いは新たなる力と仕組みを生み出す波紋になるのか。期待はしていた。俺がそれを手に入れるからだ。
 だからこそ、とでも言えばいいのか。確認すればするほど、目的も見えず、先も定かではない殺し合いに、呆れと怒りが生まれ始めている。
 ならばいっそ俺が取って代わってやろうか、とさえ思っている。それもいいかもしれない。全てを超越するズーパーアドラー。悪くはない。
 抜け道を用意しておいて、ただの不手際でした、などと抜かすならば、こんな催しに意味はない。俺の時間を無為に消費させるならば相応の代償が必要である。
 そこまで考えて、ふと、思う。これは綺麗事として言ってしまうならば『生への冒涜に対する怒り』と表現してもいいということに。

     *     *     *

549 ◆Ok1sMSayUQ:2013/07/23(火) 21:53:23 ID:PXiD6nW60
「……ぬるま湯のような生など」
「ん? どしたのいきなり、そんなテツガクシャみたいな」

 直上からかかる幼子のような声は、クーラ・ダイアモンドのものだった。いつしか口に出していた己の迂闊に気付きつつも、アドラーは「貴様が気にすることではない」といつもの調子で返す。
 アーネンエルベの死神の異名を持つアドラーだが、その所以は残虐で容赦のない戦いぶりだけでなく、魂も凍りつくような冷酷な声色にもある。
 が、性別上は女性であるテンペルリッターの肉体だとどうしてもドスを利かせることができず迫力が足りない。加えて、能力の行使には問題はないものの、肉体そのものの疲労の蓄積が思ったより早い。
 何より、胸についている二つの脂肪が重たい。邪魔だ。女とはなんと不便なものかとアドラーは思った。

「なによー、隠し事?」
「話すだけ無駄なことに過ぎん。それとも貴様、俺の人生哲学を聞きたいとでも言うつもりか?」
「……碌なものじゃなさそうね」
「ほう、分かっているではないか」

 アドラーは常識はずれではあるが、常識知らずではない。またアドラー自身、己が常道を外れているという自覚はあった。まともではないのだろう。
 道徳や倫理、そういったものには動かされはしないし、自らが道徳や倫理と呼ばれるものにもなろうとはしなかった。
 アドラーの欲求は、常に単純で自分勝手だ。世界に生まれ落ちたのならば、拡がるべきであるという考えがある。
 平穏、安定、平和を求めるよりは混沌や破壊を伴ってでも新たなる知の地平を切り開く方を選ぶ。その意味で、アドラーとは真逆に位置する結蓮が敏感に察知するのは道理であると言えた。

「いいじゃん、暇なんだから聞かせてよー」
「やめといたほうがいいと思うんだけど……」
「つまんなかったらつまんないって言えばいいし」

 結蓮はため息をつくだけだった。そういう問題ではない、と言いたかったのだろう。良く言えば無垢、悪く言えば精神年齢の低いクーラは、こうなってしまえば引かない。
 アドラーはやむを得まい、と判断し、しかし己の体調を考慮するのと、クーラへの意趣返しの意味を含めて、『空をとぶのをやめ』ながら言ってやった。

「俺はスリリングが好きという話だ」
「え!? ちょ、アドラーぁぁぁぁぁ!? 落ちてるってーーーー!」
「この体は思ったより消耗するようでな」
「冷静に返してるけど、落ちてるからね!? っていうか私が一番危険なポジションなんだけど!」
「バカが。この俺が考えもなく落ちるわけがなかろう。全て計算ずくなのだっ!」
「何がどう計算ずくなのか全く説明がないから不安しかないんだけどぉーっ!?」

550 ◆Ok1sMSayUQ:2013/07/23(火) 21:53:51 ID:PXiD6nW60
 結蓮とクーラの悲鳴が、アドラーにはなかなか心地が良かった。そう、ぬるま湯のような生など面白くもない。
 万事全てが安全、安心、安寧な世の中など、自分たちが智を持って生まれてきた意味がない。考え、恐れ、克服し、進化してこそ、血が滾るというものだ。

 だから俺に、救済は必要ないのだ。俺にとっては、救済されることなど思考停止に他ならないからな。

 計算上では、残りの力を浮遊に使えば怪我なく着地はできるはずである。しかしあくまで計算上でのこと。実際に上手く行くのかはわからなかった。何しろやったことがない。
 なら飛ぶ前に気付いて然るべきだったというべきだが、アドラーは規格外とも言うべき思考を持つ男である。敢えて陳腐な言葉で表現するならば、アドラーは「実はやってみたかった」のだ。
 リスクは承知の上。いや、リスクを楽しんでいた。当初不満気だったのは、クーラに唆されたのが気に入らなかっただけである。

「フッ! エェイッ!」

 気合を込めた、怒号一閃。まるで足元でスラスターを吹かせたように器用に半回転して、アドラーは華麗な着地を決めた。
 空中での姿勢制御もそう苦手な話ではない。身体感覚は『フラクトリット』を放つ上で必要不可欠なものだったからだ。
 着地した先は、廃ホテルの屋上。荒涼とした風が吹きすさび、仁王立ちするアドラーの頬を撫でてゆく。景観は悪くない。山道くらいならば一望が可能である。少々オンボロではあるが、拠点とするには向いているだろう。分析を終えたアドラーはでは捜索に向かうかと命令を発しようとしたが、

「うげえ……」
「も、もうやだ〜……」

 クーラと結蓮は揃ってグロッキー状態になっていた。なんと情けない連中だとアドラーは嘆息した。
 出自が一般人であろう結蓮はともかく、異能兵士たるクーラがこのザマである。ゲゼルシャフトならば処分モノの失態であるが、今は人員に余裕がない。

「ふん、お望みの空の旅はいかがだったかな?」
「もうアドラー航空には乗りたくないよ……」
「賢明な判断だが、それ以前に貴様はもう少し兵士としての技能を高めることだ。貴様が最終的に何をするかは俺にはどうでもいいことだが、成し遂げるのならば力が必要なのだ」
「なんかお説教が始まった……」

 クーラにげんなりとした顔になられる。当たり前の事実を説いただけなのだが、どうも物分かりが悪い。いや、現実の認識が甘いと言うべきなのか。相当に甘やかされたのだろう。

551 ◆Ok1sMSayUQ:2013/07/23(火) 21:54:15 ID:PXiD6nW60
「振るう、振るわざるに関わらず、力と、それを制御できることは必要だ。すべき鍛練を怠り、みじめな結末を辿ったクズどもはいくらでもいる。世は全て弱肉強食だということを覚えておけ」
「アドラーって天才じゃなかったの……? 鍛練なんて言葉が出てくるんだ」
「バカめ。鍛練した天才としなかった天才、どちらが上かは言うまでもなかろう」
「言ってることは正しいのだけれど、なんか幼稚に聞こえるね……」
「ガキでも分かる理論だということだ。貴様も弱者なりに、生存する術を磨くのだな、結蓮」
「……」

 行動は共にしているが、必要でなければ助けはしないぞと言外に言い含めたアドラーの言葉を、結蓮はしっかりと理解したようだった。険しくなった顔が物語っている。
 クーラは『お説教』そのものが嫌いなのか指で耳栓をして聞かないフリをしている。まあ耳には届いているからよしとして、話を打ち切って屋内へと続く扉へと足を進める。
 アドラーは、弱者の存在を否定はしていない。ただ、生存のための行動を起こさないのならば死ぬのは当然の成り行きだと考えているだけだ。
 弱肉強食とは、強者でなければ生きられないという意味ではなく、生存のためにあらゆる術を尽くして生き残った者こそが強者であるという意味で言っただけである。

(俺のこの体も、無茶はできん)

 以前の肉体のように考えて行動していると、死を招く結果になるかもしれない。
 そもそも、半ば成功すると踏んでいたとはいえ、上手い具合にテンペルリッターの体を乗っ取れたのは彼女の精神構造がそれほど強固ではない……つまり、強靭な意志を持っていなかったこともある。
 転生の条件に、転生先の個体の魂の強度が関係しているであろうということは、ムラクモの事例を見ても明らかである。

(スペアの肉体を確保できればいいのだが……)

 そうそう都合よくはいかないだろう。理想はこの航空兵か、己自身のクローンであるエレクトロゾルダートだが、果たしてここから先、生き残れるものか。
 そして、大きな懸念がもうひとつ。
 それは、アドラー自身が転生できたということは。
 ムラクモもまた、殺してもなお転生して蘇るという可能性があるということだ。何せこの場では、ズルが許されている。
 頭が恐ろしいほどに切れるヤツのこと、既に準備を始めているかもしれない。ムラクモの手段の選ばなさは、ゲゼルシャフト時代にアドラー自身がよく知りぬいていた。

 成し遂げてみせるか。

 アドラーは扉に手をかけながら、不敵に笑った。
 難題は乗り越えてこそ価値がある。壁の見えぬ生ほど下らないものはない。
 やるなら大きくやれ。それが、アドラーの信条である。

「ちょ、待ってよアドラー! 置いてかないでよー!」

 昼間でもなお薄暗い室内に足を踏み入れたところで、クーラ達が追いかけてくる気配を感じながら、アドラーは己の意志のままに突き進む。

552 ◆Ok1sMSayUQ:2013/07/23(火) 21:54:35 ID:PXiD6nW60




【G-5/ホテル跡・屋上/1日目・午後】

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す


【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:テンペルリッター(四番隊長)に転生、怪我は回復途中。
[装備]:拳銃(弾丸は一発)、蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜4)
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をするため思惑を探る。
・人集めを手伝いながら情報収集
・転生用のスペアの肉体を探す
※身体がテンペルリッターになりました。電光機関無し。

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない
・アドラーに嫌悪感がある

553 ◆Ok1sMSayUQ:2013/07/23(火) 21:56:30 ID:PXiD6nW60
投下は以上です。
タイトルは『ズルはどこまで許されるのか?』です

554 ◆LjiZJZbziM:2013/07/23(火) 22:26:19 ID:hD8wOJ/Q0
投下乙です!
冷静な考察、かつ的を射た指摘。
けれど、こう、どこかアホっぽく見えるのは何故か……ww
大転覆、できるのかどうか……

さて、マルコ、ゾル、ラピス、シェルミー、ジョン、フィオ予約します。

555名無しさん:2013/07/23(火) 22:36:55 ID:elRZ23Qk0
投下乙です
クーラちゃんかわいい(こなみ)
そしてさりげなく滲み出るアドラーさんのお茶目さw

556名無しさん:2013/07/24(水) 01:06:00 ID:7OGvt2ec0
投下乙です。
転生の秘蹟が魂のエネルギーの変換なのだとしたら、そこに封じられる"神性"と成り得るのか?
批判とかじゃないんですが、前作の『月に叢雲、華散る嵐』との関係で少々気になりました。

557 ◆LjiZJZbziM:2013/07/24(水) 12:51:20 ID:L4jWM9Ik0
フィオ、ジョンを予約からはずします。

558脱走開始 ◆LjiZJZbziM:2013/07/26(金) 01:03:43 ID:UdyXvqMg0
「……まさか、こんな形になるなんてな」
ほぼ炭と化した人体を調査しながら、マルコは呟く。
わずかに残っていた軍服のかけらと、眼帯の切れ端。
不死身のモーデンの、あっけない幕切れに始めは驚いていた。
まあ、モーデン自体の戦闘力はお世辞にも高いと言えなかったとはいえ、仮にも軍人である彼がこのザマである。
何もかもを炭化させるほどの炎、火炎放射器程度ではこの炎は生み出せない。
「しかし……これほどの炎に包まれても、平気でいられる首輪ってぇのはどういうことだか……」
マルコがしげしげと首輪を観察している横で、ゾルダートもその首輪を観察していた。
黒こげの死体とは相反するように、首輪には傷どころか煤すらついていない。
人体が炭化するほどの炎に包まれたというのに、なぜ首輪は原型を保っていられたのか?
「……おい」
「何だよ」
ずっと観察を続けていたマルコに、ゾルダートが問いかける。
「その首輪は、本当に"電光機関"なのか?」
「……この技術書が正しけりゃな、生憎中に書いてあることは俺にはさっぱりだ」
答えとともに再び突きつけられた一冊の本。
古文書呼ばわりしてもいいそれには、この首輪について事細かな設計図が描かれている。
書いてある文字はさすがに古ぼけて読めない。
理解できるのは、この首輪の構成と内部部品の一部くらいか。
「……なるほど、な」
「なんだよ、一人で納得すんなよ」
何かを閃いたような顔で、ゾルダートは一人呟いていく。
「契機は首輪が見つけるまで、だったな」
「ああ、そうだ」
ぐるり、と首だけを向けて再びマルコに問う。
妙な質問だ、と思いながらもマルコはそれに答える。
この時、もう少しだけ不信感を抱いていれば、この先の話は変わっていたかもしれない。
「がッ――――!?」
突如として腹部に突き刺さる拳。
鍛えられているとは言え、無防備な状態のマルコの腹部には、電光機関で増幅された腕力は十分すぎるダメージだった。
ゆっくりと、地に蹲るように倒れ込む。
「礼を言うぞ、答えを導いてくれたのだからな」
バリッ、と電気が流れる音。
ゾルダートが無慈悲にも、電光機関でマルコの命を奪おうとしているのが分かる。
抵抗しようにも、抵抗できる姿勢ではない。
一瞬の油断が死を招く、戦場とはそういうところだと分かっていたのに。悔しさを噛みしめるように、マルコは静かに眼を閉じる。

次の瞬間、眼に飛び込んできたのは横に大きく吹き飛ぶゾルダートの姿だ。
同時に現れたのは、桃色の衣服に身を包んだ、妖艶な姿の女性。
「いたたた……あはっ、ちょっと加速つけすぎたかしら?」
打ち付けてしまったらしい尻を艶っぽくなでながら、彼女はぼそりと呟く。
プロレス技を得意とする彼女の切り札のうちの一つ、稲妻レッグラリアート。
瞬間的な加速とともに膝で体当たりをする、というシンプルかつ大胆な技だ。
たまたま側を通りかかった際に、ゾルダートがマルコを殺そうとしているのが見えたから、その技で飛び込んだわけだ。
「チッ、新手か……多対一はさすがに不利だな」
吹き飛ばされながらもなんとか着地し、口元の血を拭いながらゾルダートは呟く。
自分を奇襲した人間の他にも、後ろからもう一人の人間が来る。
何とかやれないこともないが、今はその時間が惜しい。
背を向け、急ぎ足でその場を立ち去っていく。
「おいッ、待ッ……!!」
手を伸ばした瞬間、腹部を襲う激痛。
想像以上に強大な力で殴られていたようで、肋骨の何本かが折れているであろう感覚を覚える。
無理に動いても、殺されに向かうだけか。
「とりあえず、手当だけでもしましょ?」
自分の命を救ってくれた女性の提言もあり、そこはおとなしく引き下がることにした。
その時、女性とともに現れた一人の少女が、マルコが手からこぼした本をひょいと拾い上げる。
「これ……首輪の解説書?」
問いかける少女に、マルコは静かにうなずく。
「四拾弐式電光機関……」
それと同時に本を読み始め、一ページ一ページに意識を注いでいく。
まるで古文書を読み解くかのように、遙か昔の技術の詳細を事細かに解釈していく。
マルコに対しての簡易的な手当が終わるのと、少女が本を読み終わるのはほぼ同時で。
「……この本、なんか変だよ」
それは、隠された真実への第一歩でもあった。

559脱走開始 ◆LjiZJZbziM:2013/07/26(金) 01:03:57 ID:UdyXvqMg0



がちゃり、何かが外れ、地に落ちる音がする。
地に落ちたのは、参加者を縛り付けている忌々しき首輪。
その側に立っているのは、先ほど逃げおおせた電光兵士だ。

読みはほぼ当たっていた。
マルコの持っていた古ぼけた設計書には、事細かに首輪の詳細が印されていた。
爆破部分が電光地雷とほぼ変わらぬ作りのそれは、他の電光機関による干渉で爆破させることが出来る。
その同期処理に必要な電光機関は本当に小型の物で、一般人から吸い上げても問題のない量のATP消費しかない。
同期処理と生存報告を兼ねることで、完全者は生死を管理していたのだろう。
しかし、それだけならば。
なぜ設計書には"大量のATP"を詰める場所と、"もう一つの電光機関"があったのか。
ATPは必要ないということは分かっている、それ詰めるということは何かしらの方法で電光機関を稼働させているということ。
爆破機構とは別に詰められた電光機関、それが意味することは一つ。

「この首輪には、攻勢防禦と同じ仕組みが搭載されている」

戦車が人間さながらに攻勢防禦を操れるのは、電光機関の恩恵だ。
その攻勢防禦と同じ仕組みを利用すれば、外部の力――――つまり、外そうとされたときに対処が出来る。
攻勢防禦と同じ仕組みでトリガーを立て、爆破機構を作動させる。
ここまではいい。

ならば、なぜ俺は首輪を解除できたのか?

攻勢防禦は、様式によって細かい仕組みは変わるが、相手の力を利用して反撃するというのが肝だ。
相手の力がない、つまり気弾やその類の物は、反撃する相手がいないので大気に受け止めた気を霧散させていく形になる。

そう、つまり。
この首輪も、人以外の力を加えれば、その力を受け止め、霧散させる仕組みを持っているのだ。
攻勢防禦が使える、というのはそういうことである。

体が真っ黒になるほど焼け焦げても元の形を保っていた首輪を見て、立てた予想が的中した。
首輪は、電光機関あるいはそれに類する力があれば、解除できる。

……これを知っているのは、俺だけだ。

「……待っていろ、完全者」

邪魔な枷は取れた。
あとは、ヤツの下へ向かうだけだ。

その時、ふらりと体が傾く。
慎重な作業を要求される首輪解除で力を使いすぎたか。
しかし、今の自分に休んでいる暇などは無い。
懐からある一つの缶をとりだし、強引に開けて中身を口に流し込む。

それは、戦車の機動力となりうる原料。
電光兵士の亡骸を固めて作られた、ATPのスープ。
もちろん、人が飲む代物ではない。
一瞬で味覚が破壊されそうな感覚と、猛烈な吐き気と目眩。
だが、それを乗り越えていく。
止まらない、止まれない、止まっている訳にはいかない。

時間がない、だから彼は向かう。

始まりと、終わりの地へ。

【G-7/北西部/1日目・午後】
【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:過剰ATP、首輪解除
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本:ミュカレを倒す、先史時代の遺産を手に入れる。
1:ミュカレの元へ
[備考]
※首輪解除の方法を発見しました

【G-7/中央部/1日目・午後】
【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ】
[状態]:腹部ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)、小冊子、アノニム・ガードの二丁拳銃(二丁一組、予備弾薬無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破
1:首輪解除に挑戦(?)

【ラピス@堕落天使】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:一本鞭
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:首輪解除から完全者をシメる、そんでこの場から脱出。
1:シェルミーととりあえず行動。改竄された歴史に興味。

【シェルミー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:右手首負傷(支障なし)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生を謳歌するため生き残る、襲われれば容赦はしない。完全者にお仕置きをする。
1:定めには従わない。
2:ラピスと行動。
[備考]
※ゲーニッツの存在を把握しました

560 ◆LjiZJZbziM:2013/07/26(金) 01:04:13 ID:UdyXvqMg0
投下終了です。
灰児、シェン、ブライアン予約します。

561 ◆LjiZJZbziM:2013/07/26(金) 08:41:38 ID:lKuxvVcM0
すみません、予約ですがロッシ、エヌアイン、カティ、ルガール、戦車でお願いします。

562 ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:03:49 ID:o1tRxtxY0
投下します

563 ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:04:18 ID:o1tRxtxY0
被われる視界。
鼻を衝くのは肉の焼け焦げる臭い。
ばち、ばちばちと電気が走る音だけが響く。

「どうして?」

目の前の出来事に対して、悲しいことだと言われても。
それを納得できず、けれども答えを見つけ出せず。
少女は男に問う。
けれども、男から答えは無い。
今、そこで起こっていることに対して、明確な答えなんて無い。
けれど模範解答では、到底理解できない
国語の小論文みたいな状況に戸惑いながらも、カティは自分の目を被うルガールの手を、ゆっくりと外して歩き出す。
ばち、ばちばち。
戦車はまだ肉を焼いている。

「痛っ……」

爆ぜる火花のうちの一つが、カティの柔らかい肌を焼く。
KUSANAGIの一撃を食らって、ただでさえダメージが残る体だというのに。
カティは足を止めることなく、戦車の前へ躍り出る。

「ねぇ」

ゆっくりと、戦車に声をかける。
けれど戦車は電撃を止めず、もう炭と化した肉を焼き続けている。
そんな戦車に対して、止めるでもなく、殴るでもなく。
カティは、発せられる雷撃をその身に受けながら、戦車にぎゅっと抱きついた。

「やめよ?」

ばちり、と雷撃が止む。
焦げ臭い臭いを立てながらも、カティは戦車の顔の部分をじっと見つめる。

「わかる、カティは、戦車ちゃんの気持ち、分かるよ」

憎しみ。
初めに出会った男、壬生灰児を動かしていたもの。
人類を死滅させようと動いていた、完全者を動かしていたもの。
それの存在は、カティ自身が一番よく分かっている。

「けど、それじゃ何も変わらない」

だからこそ、止めなければいけない。
憎しみは、何も生まない。
他人がどうしようもなく憎くて仕方ないとき、取るべきなのは殺すことではない。

「人を殺したら、駄目だよ。だって、友達は悲しいよ」

許されざることをした相手を"許す"。
そして、友を"思う"。
それが、すべきことだと思っているから。

564友達から始めよう ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:04:38 ID:o1tRxtxY0

許されざることをした相手を"許す"。
そして、友を"思う"。
それが、すべきことだと思っているから。

「ア……」

戦車が、声を漏らす。
初め、何がなんだか分かっていないとき。
エヌアインに出会う前、一人の"作られた命"を焼いた。

「アウウ、ウア……」

また、自分は同じことをしていた。
あの時の肉の焼ける臭い、それを思い出して、思考回路がパニックになる。
どうしたらいいのか、分からない。
感情という未知に、どう対処すべきなのか、分からない。
そんな戦車に、カティは優しく微笑み、手をさしのべる。

「ねっ、カティとお友達になろ?」
「トモダチ?」
「そっ、お友達!」

友達。
一度ならず二度までも失ってしまった、かけがえのない存在。
まだ、はっきりとは分からないけど、それが凄く大事なコトだと言うことは分かる。

「トモダチ」

言葉を転がす。
再び、戦車の中に奇妙な感覚が残る。
それは暖かく、包み込まれるようで。
少なくとも、悪い気分ではなくて。

「トモダチ、ウレシイ」

呟いた言葉に、カティも笑う。
それは、戦車が今まで見たことがないほど輝いて見えて。
また、よく分からない"感情"が、少し芽を出したような気がした。

565友達から始めよう ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:05:02 ID:o1tRxtxY0

ドシュッ。

566友達から始めよう ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:05:24 ID:o1tRxtxY0

何が起こったのか、初めは分からなかった。
ただ、それは一瞬の出来事で。
それなのに、時はやけにスローモーに流れていって。
青黒い、もやのような何かがカティにまとわりついて。
は、と気が付いたときには。
カティの首から夥しい量の血が流れていた。

彼女を守るべきモルゲンシュテルンは、眼を閉じている。
力を宿した張本人である、塞の死。
その影響がこのモルゲンシュテルンにももちろん伝わっており。
彼女が戦車に抱きついた辺りには、既にその機能を失っていた。
故に、気づけなかった。
音もなく忍び寄る死の気配に。
戦車も、気づけなかった。
初めての感情に振り回され、見るべき物が見えなくて。

その全ての精算が、カティの死という形で支払われる。

「ウア」

首を真っ赤に染めながらも、カティは手を伸ばす。
どうしてだろう、こんなにも痛くて苦しいのに。
カティは、戦車の方をまっすぐ見て、笑っている。

「ウア、ウアア」

まもなくして、ぱたりと腕が落ちる。
ほんの少しの後悔と、ほんの少しの達成感を抱きながら。
少女は、人形のように眠りに就く。

「アアアアアアアア!!」

即座にその場から消えていった黒い靄を追うように、戦車が爆走する。
一度目、自分が友達になり得たかもしれない者を殺した。
二度目、友達になり得たかもしれない者が見えないところで死んだ。
そして、三度目。
目の前で、友達が死んだ。

また、知らない感情が戦車を支配する。
それは、エヌアインが封じたはずの中枢プログラムをも呼び起こすほど。
それほどにまで、戦車は今暴走している。

567友達から始めよう ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:05:34 ID:o1tRxtxY0

死んだ

誰が

友達が

友達

何?

大事

なんで

人間

憎い

殺す

友達

殺した

憎い

人間 殺す
人間 殺す
人間 殺す

殺す

殺す 殺す

殺す 殺す 殺す

568友達から始めよう ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:05:55 ID:o1tRxtxY0

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キュラキュラとキャタピラがアスファルトを駆る。
一台の戦車の後ろに続く紅い道だけが、物悲しく残っていた。

569友達から始めよう ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:06:11 ID:o1tRxtxY0



「これは……ハハ、参ったな」
そして、一部始終を見ていたルガール。
カティの行動に感嘆するわけでもなく、ただ観察をしていた矢先の出来事だった。
敵襲には備えていたにも関わらず、あの一瞬の襲撃は予測できなかった。
そして何より襲撃者は、カティの首を引き裂いた後。
ルガールを見て、"笑った"のだ。
その笑顔が意味することは、ルガールには計り知れない。
「追うべき、と言いたいところだが」
紅いスーツの埃を払い、ルガールは赤く延びる道を見る。
戦車の後を追うのは容易い。
だが、戦車を追うことによるメリットは、ルガールには薄い。
ルガールが欲しているのは、完全者に立ち向かう戦力だ。
感情に突き動かされ、自制の出来ない機械など、必要ではない。
「……さて、どう説明したものか」
今の課題はたった一つ。
傍に眠る"神"にも辿り着く少年が目覚めた時。
この状況を、どう説明したものか。

【カティ@エヌアイン完全世界 死亡】

【H-07/北部/午後】
【ルチオ・ロッシ@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(2〜6)
[思考・状況]
基本:…………

【電光戦車(2)@エヌアイン完全世界】
[状態]:
[装備]:
[道具]:                                     ?
[思考・状況]
[備考]

【H-07/南西部/午後】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(中)気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:カティと行動。『正す』以外の方法を知りたい
  1:信じてみる

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。

570 ◆LjiZJZbziM:2013/07/30(火) 00:06:48 ID:o1tRxtxY0
投下終了です。
灰児、シェン、ブライアン予約します。

571名無しさん:2013/07/30(火) 03:43:23 ID:rDZmzY7w0
投下乙です
カティちゃんは天使!!!とか言おうと思ってたら死んだぜ

572 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/07/30(火) 05:15:16 ID:TxXWWkic0
投下乙です!
カ、カティちゃあああん!!
足長おじさんの死がここにも及ぶとは……当然だけれど物悲しい。
暴走戦車と何考えてんだかさっぱりなロッシ……なんとかなってくれ戦車ぁ。

そして、アーデルハイドとアテナ予約させて頂きます。

573力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:50:50 ID:KMwuH3B60
投下します

574力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:51:00 ID:KMwuH3B60



「最強」



その二文字は、自称は出来る。
俺は強い、決して何にも負けないほど強いと言い続ければいい。
けれど、それだけでは証明にはならない。

最強。
それは、ある意味では誰にも理解されない世界。
まるで、神の極地のように。

これは、その二文字を背負い生き続けてきた、不器用な男たちの物語である。
言葉はなく、そこにあるのはただ、一振りの拳だけ。
それでいい、それでいいのだ――――

575力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:51:10 ID:KMwuH3B60



ざっ、ざっと草を踏み分けて足を進める二人。
言葉はない、必要ない。
正確に言えば少しニュアンスは違うものの、二人の意識は"完全者を倒す"という意志で統一されているから。
どこに行けばいいのかなんてコトは、さっぱり分からないが。
それでも、立ち止まっているわけにはいかない。
止まれば、それは諦めてしまうことになるから。
闇雲でも、がむしゃらでも、前に進まなくては変わらない。
そう、アメフトと同じだ。
いつまでも同じところにグダグダしていても、点は入らない。
希望という名のボールを持ち、襲い来る障害を振り払い、勝利というタッチダウンを決める。
そのために、一歩でも前に進まなくてはいけない。
後ろに歩くどころか、後ろを向いている余裕すら、ないのだから。



ざわり。
しばらくして、空気が変わる。
明らかな敵意、けれどそれは殺意ではなく。
あふれ出んばかりに広がる、闘志。
ゆらり、と一つの影がブライアンと灰児の視界に映る。
「よォ」
現れたのは、全身傷だらけで満身創痍の金髪の男。
けれど、その両目には明らかに闘志が宿っている。
拳を交える経験のある二人だからこそ、分かる。
この男は、闘いに来たのだと。
「……あァ、アンタか。EDENの"八番目の狂犬"は」
灰児の姿を少し注意深く見つめてから、男は"その名"を呟く。
灰児を知る人間の大半は、灰児のことをそう呼ぶ。
壬生灰児は本名ではない、故に付いたもう一つの"通り名"。
「……だったらどうした」
その名を呼ばれることは珍しいことではない。
灰児は至って普段通りに接していく。
「いや……まァ、この上ねぇ喧嘩相手が見つかったんで、嬉しいんだよ」男は、そういいながら顔を歪めて笑う。
その目から、闘志は未だに消えない。
「その体で闘うつもりか?」
気になっていたことを、思わず問いかけてしまう。
消えない闘志、こちらの様子を逐一窺う姿勢。
どう受け取っても、男は闘うつもりだった。
「やめとけ、死ぬぞ」
だから、灰児はそれを拒否する。
死に損ないの相手をしている時間など、今の自分にはない。
何より、無駄な労力を使っている場合でもない。
「おいおい、なんだビビってんのか?」
くるりと振り向くと同時に、男が挑発をしてくる。
「……行くぞブライアン、死にたがりの相手なんざしてる暇はねえ」
だが、灰児は至って冷静にそれを"無視"していく。
時間、体力、その他諸々。
完全者を倒すという上で、無駄でしかない要素しかないから。
灰児は大きく、足を進めていく。

576力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:51:21 ID:KMwuH3B60



「そーかいそーかい、見損なったぜ"No.8"さんよォ」

ぴたり。
その一言と同時に、灰児の足が止まる。
さらに、辺りの空気が変わる。
どこからかと不審に思ったブライアンは、空気の代わりどころを探る。
「……灰児?」
それは、同行者である灰児だった。
男の放った先ほどの一言から、灰児のまとう空気が明らかに変わったのだ。
それはまるで、別人のように。
「先、行ってろ。後で追いつく」
変わらない声、変わらないトーンで灰児はブライアンに告げる。
先に行け、というのはどう言うことか?
「えっ、でもよ」
その真意を語らない灰児に、ブライアンは困惑してしまう。
一体何が、灰児の心を変えたというのか。
「いいから行けっつってんだよ!!」
灰児は語らず、ただ強くブライアンに当たる。
ブライアンは知ることもないだろう、それが灰児なりに"押さえた答え"であることなど。
真意を汲み取れないまま、ブライアンはその場を立ち去る。
納得はいかない、けれどその場を離れざるを得ない。
なぜなら、灰児の体からは無限の"殺意"が沸いていたから。
残れば、殺す。
そうとも取れるメッセージ、ブライアンはそれだけを受け取っていた。

「てめェ、何モンだ」
ブライアンが遠くに行ったのを確認した後、灰児は男に問いかける。
その声はどこか震えていて、それでいて嫌に落ち着いていた。
「へへ、誰だっていいだろ」
男は灰児の問いに答えることはなく、ただ笑っている。
なぜ笑うのか、それは単純なこと。
これから、全力を以て闘うことが出来るから。
たった、それだけである。
「"そう呼んだ"以上は、容赦しねえぞ」
遅すぎた最終通告を、禁忌に触れた者へと告げる。
「上等」
禁忌にわざと触れた男は、もう一度口を歪めて笑う。

それとほぼ同時、両者の体がその場からふと掻き消えた。

577力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:51:43 ID:KMwuH3B60

風を切る音と同時に、両者の動きが止まる。
互いに振りかざした拳が、互いの頬に突き刺さる。
スローモーションのように頬の肉がせり上がっていくのを感じた後。
まるで空気が爆ぜたかのように、両者共に後ろへ吹き飛んでいきそうになる。
だが、互いに吹き飛びはしない。
まるで地面に釘打ちでもされているかのように、その両足で力強く踏ん張る。
そして、後ろに大きくのけぞった顔面をそのままバネのように戻し。
相手の顔面へと、叩きつけていく。
高速で振り抜かれる二つの固まりが互いに衝突し、何かにヒビのいくような音まで聞こえる。
だが、男たちは止まらない。
顔面をぶつけ合った状態で、互いの目を睨みつける。
そのまま、大鎌のように振るった腕で、相手を殴りつけていく。
顔、胸、腹、その他諸々の部位。
守りというまだるっこしいものは、そこには存在しない。
攻め手が殴り、受け手が踏ん張る。
それを交互に繰り返し、繰り返し、殴り続ける。
両者どちらの足も、その場から一歩も動かない。
釘で打ち付けられている訳ではない、コンクリートで固められている訳でもない。
"目の前のヤツをぶっ飛ばす"という固い意志だけが、二人をその場に縫い止めている。
心の敗北を喫した方が、先に負ける。
だからこそ、互いにその場に踏ん張っているのだ。
"ぶっ飛ばす"ためには"負けられない"から。

腕、腕、腕、頭、腕、頭、腕、腕、腕、頭。
拳の骨はとっくのとうに砕け、額からは夥しい量の血が流れ出している。
けれど、二人は相手を殴ることをやめない。
「……へへっ」
何度目かの殴り合いを経て、突如として男が笑う。
にやけた顔に突き刺さる灰児の拳に、男は大きくよろけるもそれをバネとして生かしながら頭突きをかます。
「痛くねえってのは、マジらしいな」
口から流れる血を拭い、男は"噂"を口にする。
崩壊都市、EDEN。
そこに住まう"八番目の狂犬"は、痛みを知らない、感じないと言われていた。
伝聞だけではいまいち実感は沸かないものの、こうして相見えて拳を交えることで、噂が本当だったことを確かめる。
痛みを知っているなら、こんなふざけた殴り合いにはならない。
痛みを知らないからこそ、どれだけ殴られても、拳が砕けても、ひるむことは無いのだろう。

578力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:51:54 ID:KMwuH3B60
「痛ぇのか、お前は」
ふと、灰児もそんなコトを聞いてしまう。
自分は知らないこと、けれど誰もが知っていること。
おそらく、目の前の男も例外ではない。
だが、目の前の男はまるで自分のように立ち向かってくる。
どれだけ殴っても、どれだけ殴っても、決して怯むことなく殴り返してくる。
自分以外の痛みを知らない人間、そんな一縋りの希望までを胸に抱きながら。
「俺か? まぁ…………」
少し、言葉に詰まってから男は答える。
「痛くなきゃよォ、喧嘩じゃねェからな。
 ドツいてドツかれて、痛ぇ分だけ拳を振るう。
 そうじゃなきゃ喧嘩じゃねえんだよ」
答えは灰児の望んだものでは無かった。
けれど、ある種では灰児の望んだ答えでもあった。
「……痛み、なんてのは二の次さ。俺は"喧嘩"したいだけだからな」
男は、痛みを置き去りにしていた。
忘れたわけではない、知らないわけではない。
知っていて、忘れるわけもなくて、それでいて"置き去り"にしているのだ。
「チッ、イカレ野郎が……」
思わず、口から言葉がこぼれてしまう。
マッド、狂気的、端的に言えばそうなるだろう。
けれど、灰児にとっては、目の前の男はそれだけでは片づけられない。
目の前の男は、あり得たかもしれない"もう一人の自分"の姿とも考えられるのだから。
自嘲か? そうかもしれない。
「なァ、狂犬さんよ」
笑いを浮かべていると、男が笑いかけながらこちらに語りかけてくる。
「とびっきりデカいの一発で、勝負しようぜ」
言葉と同時に、男は素早く後ろに飛び退いていく。
そして体をねじり、辺りを震わせるように気を集中させる。
ざわつく木々、唸る空気。
男の"本気"は肌でも感じ取れるほどだった。
けれど、その本気は全て"攻め"に傾いている。
初めからそうだが、全身全霊を全て費やし、一発の攻めに充てようとしているのだ。
つまり、それ以上の力で撃ち抜くことが出来れば。
攻めという剣を、より強固な攻めでぶち抜くことが出来れば。

"勝てる"。

「……ぉぉぉおおおおおおおおおっ!!」

「受けるかッ……」

男の叫びと同時に、灰児もまた独自の構えに入る。
体を捻り、全身のバネというバネを絞り。
たった一発、されど一発の拳に力を込める。

そして、全てが。

579力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:52:41 ID:KMwuH3B60














「ッドルァァァァァァアアアアアッ!!」

                 ――――爆発する――――

                             「このブロォォォォォオオオオオッ!!」














.

580力と拳で叫べ ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:52:51 ID:KMwuH3B60
拳が突き上げられる。

まもなくして、それはゆっくりと力を失い。

「痛ってェ……な……」

その一言だけを残して、ぱたりと倒れた。



【シェン・ウー@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【壬生灰児@堕落天使 死亡】

【H-3/平原中央部/1日目・午後】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"

581 ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 19:53:21 ID:KMwuH3B60
投下終了です。
電光戦車、マルコ=ロッシ、シェルミー、ラピス、フィオ=ジェルミ、ジョン=スミス予約します。

582 ◆LjiZJZbziM:2013/08/02(金) 20:05:20 ID:Dd/GufrU0
現在地ミスってました。
G-3東部で。

583 ◆LjiZJZbziM:2013/08/05(月) 23:52:18 ID:fCti4tY20
当ロワに飛影は出てきませんが
飛影よりも中二カッコイイネームレス君が大活躍するTHE KING OF FIGHTERSや、
飛影よりも中二カッコイイエヌアイン君が活躍するエヌアイン完全世界や、
飛影よりも中二カッコイイクールが活躍する堕落天使のキャラは出てきます!

584 ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:04:07 ID:5ohIZhpg0
投下します

585人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:04:46 ID:5ohIZhpg0





























                                             誰も理解できない。

586人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:05:23 ID:5ohIZhpg0


























































「ウガァァァアアア!!」

戦車が野を駆る。
キャタピラノ通った後は無骨に固められ、草木は倒れて荒れ果てていく。
標的はとっくのとうに見失っているのに、戦車は進むことをやめない。
そもそも、なぜ進んでいるのか理解しているかどうか怪しい。
エラーとバグと理解不能な現象、その全てを処理できず、ただただ車輪を動かしているだけに過ぎないのかもしれない。
ただ唯一、従うべきだと分かること。

人を殺す、それだけは正しいと思わっかてっているるる?

「ウガァァァアアア!!」

戦車は野を駆け続ける。
追い求めていたはずの青黒い靄は、とっくのとうに見えない。

587人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:05:44 ID:5ohIZhpg0



「……ほら、ここの数ページ。不自然に真っ白でしょ?」
小冊子の終わり際の数ページをぱらぱらと見せながら、ラピスはマルコ達に見せる。
ラピスの言うように、そこには不自然な空白で埋められたページが数ページ続いていた。
マルコの専門がデジタルだとすれば、ラピスのある意味での専門はアナログだろう。
古文書やら石碑やら、そういったものを読み解くのはラピスの生業。(ホントは学業がメインだけど)
設計書は読めなくとも、古文書にありがちな謎かけのトリックには気づきやすいのだ。
そそくさと支給品のジッポライターを取り出し、設計書の空白のページを炙っていく。
「古典的な手法、よね」
ラピスが手を動かすたびに、見る見るうちに文字が浮き出してくる。
掠れて読めなくなったインクとは違い、焦げた文字は今し方印刷されたかのようにはっきりと写っている。
旧字の日本語がふんだんにちりばめられたページ。
職業柄旧字に触れることが多かったラピスが、新たに現れたページを読み解いていく。
「……ビンゴ、かな。この首輪を無力化する手段が、事細かに書かれてるよ」
先ほどゾルダートが自力でたどり着いた答え。
新たに現れたページにも、それが事細かに描かれていた。
その話を聞いていくうちに、マルコの顔も曇っていく。
答えを与えてしまった、故に彼を"行かせてしまった"。
もし、もし、と頭の中に浮かぶたらればを、振り切っていく。
渋い顔を浮かべるマルコに対し、ラピスは話を進めていく。
「でもさ、問題はこの電光機関を稼働させきって、消耗させる手段だけど――――」
言葉はそこで途切れる、いや途切れさせられる。
一発の破裂音と共に、まっすぐ真横へと吹き飛んでいくラピスの姿。
まもなくして聞こえたのは、耳障りな機械音と。
「ウアアアアアア!!」
まるで人間のような叫び声だった。

588人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:06:07 ID:5ohIZhpg0



ざく、ざく、ざく。
軍人と何でも屋が肩を並べて歩く。
両者共に辺りを警戒しているが、心なしか軍人の顔の方が少し暗い。
気のせい、と言えば気のせいなのかもしれないが、少なくともジョンにとってはそう受け止められた。
仲間を三人失った痛みというのは、身にしみるほど痛い。
"ジョン=スミス"が一人を好む何でも屋なのも、仲間を失う"痛み"が怖いからだ。
軍士官である父に半ば強制される形で一時期所属していた軍も、仲間を失う痛みに耐えられずに抜け出してしまった。
"ジョン=スミスは報酬のためなら仕事を選ばない"と、人は彼を見てそう言う。
だが、真実は違う。
"ジョン=スミスは報酬があるからこそ仕事が出来る"のだ。
"報酬のため"という思考を頭に置き、どんな犠牲も"報酬のため"と考えないと、何もできないのだ。
仮にもし、あの革命の時に彼が善意で働いていたら。
きっと彼は革命の"代償"に耐えきれなかっただろう。
冷血のジョンとまで呼ばれたほどになれたのは、"報酬があるから"と割り切っていたからだ。

では、報酬を求めるのはなぜか?
意味もなく報酬を求めるだけでは、何の意味もない。
事実、何でも屋を始めた当初のジョンの働きっぷりは見るに耐えないものだった。
生きるための最低限、本当にそれだけである。
それが一転、命を張ってまで様々な仕事をするようになったのは、やはり妻との出会いがきっかけだった。
"自分一人の為だけにお金を稼ぐ"ことをやめた彼は、驚くほど精力的に活動していった。
それはきっと、"失う"のが怖かったから。
妻を、家族を、失うかもしれない要因を全て取り除きたかったから。
だから、貧しさだとか、不自由だとか、全て取り除く。
それほどの力、金が欲しかったのだ。

……まさか、妻が秘密結社の一員とは思ってもいなかったが。

「……ジョンさん?」
ふと、不審がったクライアントに声をかけられる。
ああ、心配されていたのか、と理解したと同時に、ジョンはにっこりとほほえんで"正常"をアピールする。

……本当を言えば、怖い。
ここは、人が死ぬのだ。
幸運にもまだ人の死を目撃していないが、自分の知らないところで十数人の人間が死んでいる。
自分や妻、隣にいるクライアントだって例外ではなく、いつ死ぬか分からないのだ。
正直、今のクライアントが報酬を払うことを了承してくれたのはとても助けになった。
報酬をもらうために動いている、自分にそう言い聞かせることが出来るから。
本心をただひた隠しにし、報酬のためと言い聞かせながら。
今は、動くしかない。

「あ、あれは……」

そんな時だ、クライアントが小さな声でつぶやきながら何かを見つけたのは。
遠くに写る物陰、少し響いて聞こえる機械音。
そこで何が起こっているか理解するのは容易い。
だが、クライアントにとってはそれ以外の要素が"少し"絡んでいたようで。
「――――少佐」
その"少し"の要素は、今の欠落した彼女を突き動かすには十分すぎる要素で。
一呼吸も置かぬ間に、脇に携えていた重火器を手に走り出していた。

慌てて後ろを追いながら、ジョンは思う。
この地で三人もの仲間を失った彼女も、きっと。
「これ以上失う」のが怖いのだろうと。

在りし日の自分を重ねながら。

589人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:06:32 ID:5ohIZhpg0



一発、二発、三発。
銃弾を吐き出しながら戦車に応対していくマルコ。
機銃の弾丸の雨や、打ち出される光線をいなしては数発の弾丸を撃ち込むという、こちらが疲弊しきるのが見えきった戦術。
せめて射程が狭ければなんとかなるのだが、電光戦車に搭載された数々の兵器が、マルコとシェルミーを苦しめる。
「くっ、こんな時に……ッ!」
二人の声がほぼ同時に重なる。
それは首輪解除まであともう一歩だったというところでの介入、という意味もある。
だが、シェルミーにとってはもう一つ含んだ意味があった。
ばち、ばちばちと右腕から雷が迸る。
時空間の捻れによる影響か、彼女は本来のオロチの力を操れずにいる。
力が暴走する、という形ならまだ喜ばしかったかもしれない。
なぜなら、暴走してしまうとはいえ"攻撃"が出来るから。
けれど、"微塵も力を扱えない"というならば。
もう一つの武器が肉弾戦の彼女にとっては、この上なく最悪な状況だ。
事実として初めの戦闘以降、上手く雷を操れていない。
ネームレスと対峙したときに生み出していた雷球程度がギリギリのレベルだ。
だが、今あの雷球を生み出せば、その隙に体中が穴だらけになってしまうだろう。
「お願い……」
体中に訴えかけながら、彼女は戦車だけを見つめる。
その先には、雨霰のように降り注ぐ兵器の攻撃をしのぎながら、ほんの僅かな攻撃を加えるマルコの姿。
時間はない、それは分かっているのだ。
「言う、コトッ……聞きなさいッ!」
自分自身に発破をかけ、頬を一度たたく。
すると、ばちりと一瞬だけ雷が体に走ったのが分かった。
躊躇っている暇は、無い。
「行く、わよッ!!」
生み出した雷を足の先端に集中させ、突撃していく。
狙い澄ますのは一点、戦車の中枢部と思わしき場所へ。

590人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:07:18 ID:5ohIZhpg0

銃弾の雨霰を横切るように、蒼白の一文字が視界を横切る。
それは確かに電光戦車の体を切り裂き、深手を与えていった。
前輪に当たる部位、そこに大きな一文字の傷跡が残されている。
けれど、それは致命傷に至る傷ではない。
「おい! 避けろ!!」
手を伸ばしても、届かない。
だから、精一杯声を張り上げる。
けれど、彼女の体は上手く動いてくれなくて。
ばんっ、という破裂音と共に、彼女の体も後ろに大きく吹っ飛んで行く。
宙を舞うのは、赤みの掛かった茶色の髪の毛。
それは、戦車がいつかどこかでみた色で。
「ア……?」
違う、というのは分かっている。
いや、違う? そもそも違うって何だ?
でも、今目の前で吹き飛んでいったのは?
「ナディア……?」
ぽろりとこぼれた一言に、マルコは反応せざるを得ない。
「てめェッ、ナディアをどうした!?」
この地に巻き込まれた仲間の名、仲間を強く想うマルコだからこそ、反応せざるを得ない。
そんな問いかけに、戦車はゆっくりと骸骨の頭部を動かし、マルコに答えていく。
「ナディア トモダチ」
「はァ!?」
思わぬ言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。
新手の錯乱プログラムなのだろうか? と思うが、そもそも電光戦車が"喋る"ということすら聞いたことはない。
第一、ありがちでもナディアというピンポイントな名前を口に出すだろうか? 一介の兵器にそこまで高性能なAIを積んでいるとすれば、バカ高いコストになる。
それで出来るということが錯乱程度ならば、つぎ込む効果は無いに等しい。
早々に"搭載された機能"という線を切る。
ならば、この電光戦車は"なぜ喋るのか"という事が問題になる。
……電光戦車の材料は"生きていた人間"であると聞いたことがある。
それが本当なら、もしかするとという可能性は無いとは言い切れない。
「トモダチ コロサレタ」
考え込むマルコに、戦車は継ぎ接ぎの言葉を放つ。
暴走していたプログラムを止めたのは、シェルミーの放った迅雷の一文字のおかげか。
先ほど、少女と対峙していた時くらいには"会話"が出来るようになっていた。
「ナディア トモダチ ナレタノニ トモダチ コロス ニンゲン ニクイ」
つらつらと、断片的な言葉を並べ、怒りと悲しみを表す。
その姿はとても兵器とは思えず、一人の人間と大差ないレベル。

591人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:07:36 ID:5ohIZhpg0
「ナディア……」
カタカタと髑髏をならしながら喋る兵器を見つめながら、マルコは部下の名をつぶやく。
兵器と友達、というのはどう言うことなのだろうか。
この兵器の妄言、として捕らえるのが一番いいのは分かっている。
けれど、マルコは戦車の言葉の奥に眠る"感情"を捨て去ることが出来ない。
「アウアア、ウアア」
言葉をかけられないままのマルコに、戦車は言葉を続ける。
話を聞いてくれるからか、それとも狂っているからか。
それは、マルコからは分からない。
「アオイ アオイ ホノオ ナディア ノミコマレタ」
戦車の言葉は続く。
その言葉が正しければ、炎に飲み込まれて死んだのだという。
「アノニンゲン イナカッタラ……」
そして、その炎にナディアを"巻き込んだ"人間がいる。
その人間は、既に戦車に殺されているのだろうか。
夥しい返り血が、推測をいたずらに加速させる。
「なあ」
そこで、マルコは一つのことを問いかける。
「ナディアは、なんて言ってたんだ?」
さもナディアの死に際に立ち会ったかのように振る舞う戦車に、ナディアの言葉を聞いた。
兵器に何を求めているのだろうか、自分でもバカバカしくはなってくるが。
聞かずには、いられない。
「……ウウ、ア」
少し、言葉を濁らせたあと、戦車は言葉を紡ぐ。
「チクショウ チクショウ」
その口から出たのは、後悔と思わしき言葉。
誰に向けられたものなのか、この兵器か、それとも炎に巻き込んだという人間に対してか。
「アウ、ウアア、アアアア!」
考え込む時間を生み出すことなく、戦車が再び叫び出す。
「ゴメンナサイ ゴメンナサイ!!」
次に出てきたのは、懺悔の言葉。
「トモダチ コロシタ! ナディアノ トモダチ!」
始まりの刻、戦車が犯した"罪"。
それが、今になってフラッシュバックする。
「アヤマレナカッタ! ゴメンナサイ ツタエタカッタ!」
本当は伝えたかったのに、本当は友達になりたかったのに。
出来なかったこと、してしまったこと、その全てが後悔という感情で戦車を支配する。
だが、マルコには伝わらない。
ちぐはぐな言葉では、人間とは会話できないのだ。
ましてや、かつて戦車を敵と見なしていた人間に対しては、絶望的だ。
それでも、マルコが戦車の言葉を聞き続けていられたのは。
戦車の言葉から飛び出したのが、"仲間"の名前だったから。

もし、それが他人の名だったなら。
狂乱した兵器として、シェルミーとラピスを傷つけた兵器として割り切れたかもしれない。
もし、戦車が言葉を喋らなければ。
ただの兵器として破壊できたかもしれない。

それは、たらればの話。現実ではない。

592人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:07:54 ID:5ohIZhpg0

ふと、一瞬考えを離した時の出来事だった。
「少佐!!」
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえる。
振り向くと、見覚えのある少女の姿があった。
丸い眼鏡、ベージュの帽子、短く括られた髪の毛。
頼れる仲間、フィオリーナ=ジェルミが。

ロケットランチャーを構えて、こっちに立っていた。

「バカっ、やめろ!!」

どうしてそんな事を言ったのかは分からない。
気が付けば、口からぽろりと飛び出していた。
けれど、きっとその言葉は届かなかったのだろう。
フィオから放たれるある種の殺気を、戦車が感じ取る方が早かったのだから。

「ニンゲン、ニンゲン、ニンゲン!!」

恨みの言葉を繰り返しながら、戦車は叫ぶ。
その前門を開き、自身に積まれた装置を急速回転させていく。
キィン、と甲高い機械音が耳に届く。
ニンゲンはニンゲンを、トモダチをコロス。
憎い、憎い、だから殺す。
この身に積まれた兵器と、この身に刻まれた意志が、戦車を唆す。
目の前の、誰かを殺そうとしている人間を、殺す。
ロケットランチャーの弾が飛び出すと同時に、電光機関の回転音がピークに達する。

そして、景色が一面の白に包まれた。

593人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:08:11 ID:5ohIZhpg0



「ドジった、わね……」
血塗れの腹部を押さえ、地を這い蹲りながらシェルミーは笑う。
オロチの末裔が、オロチの力を操れずに、人間の作った兵器に殺される。
なんてバカバカしい話なのだろうかと、自分でも笑ってしまうほどだ。
時系列の捻れ、本来存在しない人間が"地球意志"を操ること。
矛盾した力を振るうことは、そう簡単ではない。
「……無理、かな」
力が抜けていく体を確かめながら、何かを悟ったかのように呟く。
自分がもう存在できないこと、矛盾した存在であったこと。
改めて認識しつつ、この殺し合いがなければ普通に生きていけたのに、と完全者に憎しみを募らせる。
けれど、もう完全者を殴ることも叶いそうにない。
「しぇる、みー?」
「あら、ラピ、ス」
ふと顔を動かしてみれば、そこにはこの地で初めに出会った少女の姿があった。
腹部をズタズタに撃ち抜かれながらも、木により掛かって何とか呼吸を整えている。
けれど、止血を試みている彼女の思惑とは裏腹に、ラピスの腹部からはだくだくと血が流れ出している。
誰の目から見ても、もう助からない。
ここにいる二人の女は、どうやっても助からない。
百人呼んでも百人がそういう、そんな状況に。
「ね、ラピス」
彼女は言う。
「生きたい?」
百人呼んでも百人が言わない言葉を。
「どうい、こと?」
この状況からどうやって生き延びるというのか。
今にも消えそうな命の灯火を、どうやって燃え上がらせるというのか。
ラピスは抱いた疑問を口にする。
「時間、ない、から、はいか、いいえ」
けれど、シェルミーは答えてくれない。
どうやれば生き延びられるのか、それを教えてくれることはない。
いや、そんなことを気にしている場合ではない。
きっとこうしてグダグダしている間にも、互いの時間はガリガリと削られていく。
遺跡探索のタブーは"迷う"こと。
決断力の鈍り、それが死を招く。
だから、彼女は即座に答えを返す。
「う、ん。生きた、い」
生きたいか死にたいかなんていう問いかけ、百人に百人が生きたいと答えるだろう。
ラピスとて、例外ではない。
まだまだ探索していない遺跡や、解明していない謎がある。
おいしいものだって食べたいし、いっぱいお洒落もしたい。
そしていつかは、素敵な男性と巡り会うことだってしたい。
何より、まだ彼女は完全者を殴っていない。
こんな場所で死ぬわけには、いかないのだ。

けれど、どうやってこの状況から脱するというのか?
「じゃ。私の、問い、に。ぜんぶ、"はい"って、言って、ね」
絶え絶えの息の中、シェルミーはそれだけをラピスに告げた。
何を始める気なのだろうか、ラピスには全く見当も付かない。
しかし、他に出来ることなど何もない。
彼女が言う"生き続ける"ために、ラピスは口を開く。

それはまるで機械のように。
シェルミーの問いに対して、はい、はい、はいと、全てを肯定していく。
何度目だろうか、はいと呟いたあと、シェルミーがふふっと笑った。
「歓迎、するわ」
歓迎? それはどう言うことなのだろうか。
全く以て理解が出来ないまま、出来事だけが進む。
「降りて、来なさい」
そしてシェルミーが、天に手を翳す。

594人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:09:03 ID:5ohIZhpg0




















                      ぴしゃり。

                                             ――――雷鳴が響く。



















.

595人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:09:41 ID:5ohIZhpg0
――――一瞬の出来事だった。
引き金を引くと同時、少佐が自分に何かを言っていたのと、自分の体が大きく傾くのが分かった。
今思えば、不用心だったかもしれない。
幾多もの人間を殺して回った、あの電光戦車に正面から挑むなんて。
けれども、そんな電光戦車の側に頼れる"仲間"がいるなら。
"人間"を殺す"兵器"の側に、"仲間"がいるなら。
"仲間"を守ろうとするのが、当然の行動だろう。
そう思って……いや、大半の人間は、それが正しいと思うだろう。
けれど、この地においてだけは、それは"間違い"だった。
もし、彼女が引き金を引かなければ。
もし、彼女が戦車に向けて敵意を表さなければ。
もし、彼女がもっと冷静になれたなら。

これから先の話は、語らなくても良かったのかもしれない。

けれど、それもまたたらればの話。
現実に起こったことは、もう変えられない。
彼女は戦車に敵意を向け、兵器の引き金を引いた。
その事実だけは覆しようがない。



突き飛ばされてすぐ、目に入った"モノ"。
初めは、それがなんだか理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
腰から下をごっそりと失った「ジョン=スミスだったもの」だなんて。
あの一瞬に何が起こったのか? それは周りを見れば分かる。
消え失せた木々、焼け焦げた地面、それが出来る唯一の要素。
ありとあらゆる物質を無に帰す、電光戦車の最終兵器。
神々の黄昏の始まりを告げる笛と同じ名を冠するそれが、この光景を齎した。
「あ……」
情けない声がでる。
情に動かされるなど軍人にはあってしかるべき事ではないと言うのに。
けれど、目の前の人間だったものと、塵すらも残らず消えていった人間がいるという事実が、自分の心を抉る。
ただ、ぼうっとその光景を見ることしかできない。
「ふう……無事、か?」
口から大量の血を吐きながら、ジョンはフィオに問いかける。
その言葉に、フィオはゆっくりと頷いていく。
「そう、か」
フィオが頷いたことを確認したジョンは、にっこりと微笑む。
なぜ、笑っていられるのか。
自分の目と鼻の先にはもう、"死"が待ちかまえているというのに。
「クライアン、トに死なれ、ちゃあ……報酬、もらえね、からな」
まさか、それだけの事で。
お金が貰えないと言う事だけで、自分をかばったというのか。
いや、元々報酬の掛かった"仕事"だったからか。
フィオの頭で思考が輪廻する。
けれど、そのどれもが正解とは結びつかない。
ジョン=スミスが心に抱いていることが理解できるのは、おそらくこの世で一人だけなのだから。
「……悪い、な……嫁に、渡しと、て」
にっこりと作られていた笑顔がふと消え、伸ばしていた手が力なく崩れ去る。
分かっている、半身を失ってまで生きていられる人間など、居るわけがない。

596人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:10:10 ID:5ohIZhpg0

"自分が庇われた"ということと、"庇われた理由"。
そして、目の前で二人も仲間を失ったという事実。
それらは、フィオをその場に縫い止めるのに十分だった。

キュラキュラ、とキャタピラが音を立てる。
ノイズのような何かとともに、戦車が自分に近づいてくる。
そうだ、電光戦車は人を殺す。
だから戦わなきゃいけない、戦わなきゃいけない。
ランチャーを構えて、引き金を引く。
それだけ、それだけでいいのに。
体はぴくりとも動いてくれない。
もう、どうでもいいからなのか。
いや、そんな事は有る訳が無い。
でも、指の一本すらも動かない。
戦車の機銃の射程に、自分の体がすっぽり入る。
このままぼうっとしていれば、"終われる"。

ノイズ、叫び、機械音。
全てが入り交じった不快な音だけが、耳を貫いていく。
けれど、もうそれもどうでもいい。
もう、終わるから。

「落ちよ」

その中で、やけにクリアに聞こえた一人の少女の声。
まもなくして、再び視界が白に包まれる。
戦車が兵器を作動させたから? 違う。
今、フィオの視界を覆い尽くしていったのは、真っ直ぐだけど歪な一本の光。
それは、戦車の車体をまるまると飲み込み。
その全てを、灰に変えていった。

光が薄れたあと、視界に写ったのは一人の少女。
その体に、神の雷を纏っていた。

597人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:10:45 ID:5ohIZhpg0



オロチ一族は、なにも全員が全員オロチの末裔というわけではない。
オロチ一族を介して地球意志と会話して行われる契約によって、新たにオロチ一族になる人間もいる。
中には契約を介して、オロチ一族ないしオロチ八傑集まで登りつめた人間もいるほどだ。
望めば、人は誰でも"オロチ"になれる。
自分の意志をオロチの意志とかみ合わせた上で、一族の誰かに通じてもらえばオロチ一族になるのは簡単だ。
まあ、一般人はその"オロチ一族"が誰なのかすら、分からないわけだが。
未来永劫の時まで輪廻を繰り返す地球意志から齎される力は強大だ。
一人の少女には十分すぎる力でもある。
けれど、死の淵にたたされた"生きたい"と願う少女を救うにはそれしかなかった。
言葉の全てを告げず、ただ"はい"と言わせることで半ば無理矢理同調させ。
シェルミーは最後の力で、少女を新たに"オロチ一族"に仕立て上げた。

オロチ一族であるという情報の断片だけ残された自分では、新たな契約は出来ない。
安定して使えない力を持って自分が生き延びるより、安定した力を持って誰かが生き延びた方がいい。
きっとその方が、"完全者"をシメれるから。

オロチと契約すれば、生き延びるに十分すぎる力を初めとして、メリットが多々ある。
だが、同時に大きなデメリットもある。
地球意志に従わなければいけない"宿命"を背負うこと。
そして"血の暴走"と戦わなければいけないこと。

それでも、少女はきっと生きたいと願うだろう。
自分には、まだ見ていない世界が多々あるのだから。
きっと、その意志の力が有れば。
地球意志にも、勝てるかもしれない。

あの、八尺瓊の末裔のように。

598人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:10:58 ID:5ohIZhpg0



「がッ……!」
頭を抱え、少女はその場にうずくまる。
そのときようやく意識が現世に戻ってきたフィオが、あわてて少女の元へと駆ける。
「あ、大丈夫……まだ、なんていうか、上手くいかないだけだから」
駆け寄ってくれたフィオに対し、少女は手を付きだして"正常"をアピールする。
そしてゆっくりと立ち上がり、服の埃を払ってから山の方を見つめる。
「さて……早く行かなきゃ」
「どこに?」
どこかへ行こうとする少女に、フィオは問いかけていく。
「決まってるよ、完全者をシメに行くよ。こうして――――」
完全者を倒す、その言葉は今のフィオに光り輝いて聞こえる。
そして、その輝いた言葉と同時に、ガタリと何か機械が外れる音がした。
「首輪も、取れたわけだし」
忌々しい首輪の除去、少女は目の前でいとも容易くやってみせた。
「あなたは、どうするの?」
あっけに取られているうちに、少女が自分に問いかけてくる。
その言葉と同時に、フィオの頭の中に響いたのは上司の言葉。
"やせ我慢しろ。俺たちの闘いは、終わることはない"
なぜ、それを思い出したのかはわからない。
けれど、自分は今、迷っている場合ではないという事は分かる。
きっと、それを認識させるために、無意識に思い出したのだろう。
「私も、連れて行ってください」
力強く、同行の願いを申し出る。
「"みんな"の分、生きて伝えなきゃいけませんから」
自分には、背負っているモノがあるから。
「よし、決まりね」
同行を願い出たフィオに、少女はにっこりと微笑み、フィオの元へ近寄る。
そして、手を首の回りに翳し、目を瞑って静かに集中し始めた。
「ちょっと痛いかもだけど動かないでね、まだあんまり安定しないから、さ」
ばり、ばりばりと電気が少女の手から走る。
ちりちりと痛みが首に走るが、それをじっとこらえて我慢する。
じわじわと続く痛み、けれどこの程度の痛みに悶えている場合ではない。
「……よし、オッケー」
しばらくして、ゴトリという音と共に首輪が外れた。
少女はなぜこの首輪の外し方を知っていたのか。
そもそもなぜ天災を操ることが出来るのか。
疑問はつきないが、まずは告げるべき言葉がある。
「ありがとうございます、えと……」
感謝。
こんな場所だからこそ、感謝する気持ちは忘れてはいけない。
自分の命を握っていた枷を外してくれたことに感謝を告げようとするが、さすがに初対面の少女の名を知っているわけもなく、フィオはおどおどしてしまう。
「ラピスだよ、よろしくね」
そんなフィオに、ラピスは優しく微笑みかける。
「フィオです、フィオリーナ=ジェルミ」
自己紹介には自己紹介を、一般的な礼儀でしっかりと返していく。
同時に差し出した手は快く受け取られ、固い握手となる。
ラピスの手は暖かく、それでいてどこか冷たかった。
「じゃ、行こ。積もる話は道中でいいよねっ……っと」
ゆっくりと握手を解き、前へ歩き出そうとするラピスの体が大きく傾く。
即座にフィオが体を支えたから良かったものの、そのままでいれば確実に転んでいた。
そして、その時にフィオは知る。
少女の腹部が、弾丸のようなものでごっそりと抉られていたことに。
さらに、その傷口が少しずつ塞がり始めていることに。
「あー、ごめん。やっぱ傷が痛すぎるから、ゆっくり行こうか」
苦笑いを浮かべ、ラピスはフィオに申し訳なさそうにする。
互いに聞きたいことが、今の時点でもかなりある。
けれど、立ち止まっている時間はない。
だから一歩でも前に進み、少しでもやせ我慢を続けながら。
彼女たちは、前へ進む。

"誰か一人でも理解できていれば、回避できたかもしれない未来"の道の上を、真っ直ぐ、真っ直ぐに進んでいく。

599人間は不器用だから ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:11:35 ID:5ohIZhpg0
【ジョン・スミス@アウトフォクシーズ 死亡】
【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ 死亡】
【シェルミー@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【電光戦車(2)@エヌアイン完全世界 完全崩壊】

【G-07/中央部/夕方】
【ラピス@堕落天使】
[状態]:腹部裂傷、オロチと契約、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
1:改竄された歴史に興味。
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。

【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット、ロケットランチャー@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。
1:前を向く

600 ◆LjiZJZbziM:2013/08/08(木) 00:13:06 ID:5ohIZhpg0
投下終了です。
めでたく僕の投下数がOP込みで50本になりました、やったね。

あと>>583に「飛影ではなく飛影を名乗る謎の存在なのでは?」とツッコミが入りましたので
幽遊白書の飛影さんサイドに謝罪をしたいと思います、どうもすいませんでした。

601 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/09(金) 11:20:20 ID:zGNaP60k0
投下いたします。

602帰ろう 当たり前の『日常』へ ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/09(金) 11:21:05 ID:zGNaP60k0
人は変わることができる。


己が最も得意とする間合いに立ち、アーデルハイドはアテナを見据えた。
飛び道具の撹乱も、テレポートも無意味だ。
彼女の戦いを見たことがある故の対策。
それが簡単に成功したのは、アテナが静観に徹していたから。
アテナも、龍もまたアーデルハイドを見定めているのだ。

先刻ルガールに舐めさせられた辛酸を思い出し、龍は唸る。
奇策を弄した所で、勝機は見えない。
刹那か、それとも長期戦であるべきか。

「麻宮」
低い声が、龍の眼を開かせる。
「どうしました?」
龍の声は軽い、浮世離れした軽さだ。
重たい言葉は、感情は心の底に。
「君に何があったのか、教えてくれ」

知らなければならない、とアーデルハイドは尋ねる。
目に対する責任、狂気に堕ちる前の姿と重ならない現在。

勝者の余裕なのか、戦わずして己の優勢を知るアーデルハイドに、アテナは嗤う。
既に人を殺したところを見ただろうに、取り返しがつかないと、気づいているだろうに。
「知って、どうするのですか?」

逃避は楽しいかい?
耳の奥に響く疑問も、鼻で笑う。

「もしも同情に値すれば、私を助けてくれるんですか?」

これは逃避などではない。
世界再生だ。
あの子たちと帰るための世界を作る、祈りの儀式だ。
祈れ、祈れ、祈り壊すのだ。

「……できることなら、私はそうしたい」
人は変わることができる。
もう一度変わり直せばいい。
たとえ過ちを犯したとしても。
「優しいんですね」

痛いくらい、優しい言葉だ。
もっと前に出会えていたら、きっとアテナは。
「私を、私達を連れ帰ってくれますか?」
あるべき世界へ。
一歩踏み出す。
静謐な笑顔、ざくり、と地を踏んで。

603帰ろう 当たり前の『日常』へ ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/09(金) 11:22:13 ID:zGNaP60k0
「麻宮……ッ!?」

蹴り上げる。
刃をすんでのところで躱し、アーデルハイドは咄嗟に蹴り返す。
蛇腹剣は横薙ぎの風に押し返され、残るのはアテナの姿。
「要らないんですよ」

何もかもが遅い。
アテナが二つに分かれる、片方は剣を、片方は銃を持って。
「過ぎた出来事も、貴方も、この世界も」
何故か、この両手にはもうないものばかりだからだ。
割れた卵は戻らない、ならば新しい卵を。

「麻宮!!」

テレポートの残像を消して叫ぶが、理解する。
伸ばした手は弾かれた。
ならば無理矢理にでも引き上げてやる。
動きを目で追い、予測していく。

現れる場所を想定し、地を滑り踏み込んで。
弧を描いた、鋭い一撃。
予想通り相打ちした目線が、消えた。
次いで背後に走る殺気、痛み。

銀の銃を持ったアテナが、嗤っていた。
肩口を抉ったそれと、銃口を交互に見てアーデルハイドは思考する。
テレポートの位置に関しては、自分の判断ミスかも知れなかったが。

アテナの視線は自分をとらえていない、銃口もまた定まっておらず。
再び四散するアテナの体。
先程よりも増えた分身にアーデルハイドは攻撃の正体を見出す。

そして龍は、己の勝利を確信した。
舐めさせられた辛酸も、無力であった自分ももう壊した。
あるのは、圧倒的な力。

ああ、もっとはやくにこの力があれば。
守れていた、私は、私のままで。
幻想は一人、また一人といなくなる。
まるでアテナの心を削るように。
鋭利になっていく精神、龍は空へと昇っていく。

スローモーションに近い光速の世界で、蛇腹剣を構えて。
吹き荒れる嵐、本来の使い手に相違ない勢いで彼女の手はその龍の力を物体に注ぎ込む。
ゆっくりと、世界に侵入する赤い瞳。
ぞくり、とアテナの龍が震えたが、咆哮し乗り越えて。
再加速、アテナは限界を容易く超える力でもう一度移動し弾丸を放つ。
見当はずれの方向に飛んでいく弾丸を念力で捻じ曲げ脚を狙った。
落ちた速度はアテナの力で補完され、より速く。

銃弾が貫いたのは跳ねた地面の名残。
アーデルハイドは既に狙った位置には居らず。
剣が力に耐えかねて崩れるのと、痛みは同時だった。

604帰ろう 当たり前の『日常』へ ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/09(金) 11:24:16 ID:zGNaP60k0
「ぐあっ……」
アテナの腹に食い込むつま先、体全体を吹き飛ばされそうになる衝撃に声を漏らし、アテナは宙を舞う。
真紅のそれは、息を乱しながらも殺意の光を灯していた。
「君はよく戦った……だが、もう諦めてくれ」
徐々に薄れていくきらめき。
胃の中身をぶち撒けながら、龍は立ち上がる。
抵抗するなら殺す、遠巻きな警告。

「貴方こそ、諦めてください」
単身で特攻するアテナ、分身に費やさぬぶん速度は上がる。
出鱈目な力と速さを相手に加えるたびに、龍は進化していった。
死を恐れぬ戦い方、これ以上長引けば、落とされかねない。
アーデルハイドは、その手を引く。
もう、助けることは。

「麻宮」

落ち込んでいく、音。
龍の前に立つ異形の顎。
血より濃い赤と白。
食われる、そうアテナが悟った時、殺意の腕はその肩を抱いていた。
「すまなかった」
アーデルハイドは謝罪する。
最期まで手を伸ばしていられなかったこと。
原因を聞いてやれなかったこと。
殺してしまうこと。

地を駆ける軌跡、反転し暗黒の力とともに体を漆黒が舐め上げていく。
食われていく意識、保てない体。


密室の蝶の祈りは消えていく。
楽しすぎて、楽しすぎて。
動けなくなった子供たち。

「……麻宮、どうして」

アーデルハイドは、彼女のことを表層しか知らない。
だからか、悲しむ気持ちは複雑だ。
あるべき姿ではなかったこと、彼女がねじ曲がった要因。

分からないことだらけだが、手に残る彼女を殺めた感触は確かだった。
人になれと、託された言葉をこんな自分が受け取れるのだろうか。

――自分は、人なのか?

自嘲と、本心のなかで。

「そうだ、ローズ……」
失われた命を弔おうとしていたときにふと気づく。
何処に置いてきたのだろう、近くなはずだが。

妹の顔を浮かべると、不思議と自分の存在に対するもやが薄れていく。
少なくとも、彼女の兄であると、帰る現在に繋がる過去に、安堵する。
追従する父の影。

「俺は、知るべきなのかもな」
漠然と出た結論を言葉にする。
人になるために人を、自分自身を知る。
ちょうどいい、と言うべきなのか、父本人はここにいる。

さくり。
振り向き、軽い、軽い音が耳を突く。
音の正体を確認しながら、膝をついて。

喉の奥から溢れてくる血液。
超常の剣が、アーデルハイドを貫いていた。

漆黒の龍は、揺らめく熱気のなかに立っている。
温度を極限にまで高めた白金、無色透明の炎。
溢れでた力は壊れた器をつなぎとめた。
命もカタチもそのままに、人形のように。

605帰ろう 当たり前の『日常』へ ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/09(金) 11:24:55 ID:zGNaP60k0
「「あぁあああああああ!!!!!!」」

両者の声が轟く。
命の器を無くし、力だけの生き物の。

銀の髪と赤い瞳、変貌したアーデルハイドの攻撃に一切の意志は乗らない。
腕を十字に組み蹴りの連続を受け止めるアテナにも意識はない。
放たれる気弾をはじくことも躱すこともせず、それにまさるエネルギーでかき消す。
アテナもお返しだとばかりに二つの光球で止め、炸裂させた。
眩い世界、交差する力。

風の刃がアテナに迫る、数時間前、ルガールに向けられたものに酷似した蹴撃。
アテナは真っ直ぐに、突き抜けていった。
此処を抜ければゴールで、全てが壊せる、第一歩。
不死鳥の矢が突撃するも、アーデルハイドは踏みとどまる。
両手を前に出し、チリ一つ残さない威力で力を開放した。

だがアテナは、漆黒の龍は一歩も引きはしない。
同威力の発露で相殺したまま今度はアーデルハイドの体が宙を抉り抜く。
空中で体勢を整え、体を翻し着地する。
追撃の剣が降り注いだ。
一本、二本、刺さる光に足取りは止められない。
全力を超えたその状態に減りゆく命を気に留める意識など、ありはしないのだ。

血塗れの両手がアテナを掴み、上空へ放り投げた。
跳躍したアーデルハイドは重力任せにアテナを地面を目指す空気に沈める。
光剣が、命を吸い上げていくのを感じて、重力を感じて。


「アテナお姉ちゃん」

「ダニー君」

「一緒に行きましょう」

「デミちゃんも……」

仲良く手をつないで、燃え尽きるまで高く、遥か遠い空へ。




「お兄様、お帰りなさいませ」

「ローズ……」

「流石ですわ、お兄様。私たちの血族には常に勝利が約束されている」

「私は、まだ」

「お兄様、どうしてそんなことを言うの?」


絡め取られる手、背中に回された帰還の鎖。
世界は、飴のように雨のように溶けて零れ落ちて。

606帰ろう 当たり前の『日常』へ ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/09(金) 11:25:25 ID:zGNaP60k0
黒が充満する世界。
立っているのは、白い髪を靡かせる赤い瞳。
そこに人間はいなかった。
人間であった、人であった青年は、答えを知れないままに、帰っていった。

理想郷を、帰る場所を求める少女だったものは、血が止まった瞳を抑え、離す。
赤い、他人の瞳。
視界は相変わらずだが、より濃い力が自身の体内に交わっていくのが分かる。

「貰っていきますね」
命を飲み干した龍は歩き出す。
帰るべき世界のために、祈り壊しながら。


【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【F-5/北部/1日目・日中】



【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:醒める、世界へ。
[装備]:テンペルリッターの兜、デザートイーグル(3/8、予備24発)@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(2〜8)
[思考・状況]
基本:帰らなくちゃ
[備考]
※龍の気に覚醒、アデルの力を吸収し白髪の赤目に。
※ローズ人形及びアデルの支給品は放置されています。

607 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/09(金) 11:26:41 ID:zGNaP60k0
投下終了いたします。

608 ◆LjiZJZbziM:2013/08/09(金) 12:49:35 ID:ZEfi1EvE0
投下乙です!
どんどん転げ落ちていくアテナ。
彼女が望んだ力が手に入っても、望みはまだ叶わない、ですねえ。

さて、アカツキ、ヴァネッサ、ゾルダートの三人を予約します

610 ◆LjiZJZbziM:2013/08/17(土) 18:17:05 ID:3uoS7pIg0
そうですかm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)m
僕は飛燕斬大好きクラブのニュースをよく見ますm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)m

611生きねば。 ◆LjiZJZbziM:2013/08/22(木) 00:15:46 ID:.0MB9yL60
「綺麗に手がかりゼロ、ね」
辺り一面、木々に囲まれた景色を眺めながら、ヴァネッサは小さくため息を付く。
禁止エリアになる西から逃げ出してくる人間もいるだろうと踏み、山の方を目指してみたものの、特に誰かに出会うことはなく。
まもなく、山頂に差し掛かろうとしていた。
「まあ、山の方へ向かえば誰かがいる。
 ……って期待したのが、間違いだったのかもしれないけど」
そもそもの期待が間違いだったのではないか? とヴァネッサは苦笑する。
手がかりがないので誰かに会いたい、とは言ったものの、さすがに進む方向を間違えたかもしれない。
けれど、同行者はそんなことを気にも留めず、ずいずいと先へ進んでいく。
その目には、自信の見据える"前"しか映っていないようでもあった。
「ま、ウジウジ言ってても仕方ないわね」
その姿に感化されるように、ヴァネッサも後ろを追いかけていく。
捜査の基本は足、一時間や二時間程度で手がかりが無いと喚いていては、何も始まらない。
まだまだ時間もある、のんびりはしていられないが、ゆっくり確実にやればいい。
何もないところから始まる捜査は、これが初めてではないのだから。
「……でもま、あの禁止エリアの囲い方なら、一人くらい居ても良いわよね」
ぽつりと愚痴をこぼしたとき、強烈な闘気が肌に刺さる。
瞬間的に気を引き締め、気の元を探る。
殺意、というには少し違う、不思議な気配。
ごくり、と唾を大きく飲み込み、口を開く。
「気をつけた方がいいわね、アカツ――――」
けれど、言葉が音として出たとき既に、相棒はそこにおらず。
一人闘気に向かって駆け出し始めていた。
「ッんもうっ!!」
相棒があんなにも盲目的にそこへ向かうと言うことは、きっとそこに有るのだろう。
そんなことを思いながら、彼女も続いて相棒の後を走って追う。

612生きねば。 ◆LjiZJZbziM:2013/08/22(木) 00:16:10 ID:.0MB9yL60
 


「トォーーッ!!」
山をただひたすらに登り詰めていた自分の真横から、突然弾丸のように現れた男。
すんでのところで回避できたモノの、男の勢いは弱ることなく、近くの木へと突進していく。
バキリ、と巨木が音を立てながらへし折れる。
その断面はただへし折れただけではなく、焼け焦げた痕がある。
何より自分は襲撃者の声に聞き覚えがある。
まあ、この地で始めて出会った人間のことを忘れろというのも無理があるが。
「試製一號……」
男は、襲撃者の名を呟く。
全ての電光機関を破壊する男、アカツキ試製一號。
自分がこの地で初めに襲撃を仕掛けた相手でもある。
「……電光機関は破壊する」
「フンッ、やってみろ」
まるで機械のように飛び出す一言に対抗し、こちらも最大限の悪態をつく。
同時に突き出される拳に、拳で答えていく。
バチリッ、と青白い光が走り、僅かながらの撤退を余儀なくされる。
予想以上の出力、それに驚いたのは試製一號だけではない。
相対する男ですら、その目は驚愕に満ちていた。
「んもうっ! 先走らないでよっ!」
様子を伺いながら間合いを計っていると、試製一號の背後から一人の女性が現れた。
彼女もまた、自分が初めに襲いかかった人間のうちの一人。
運良く今まで生き延びることができていたことは、まあ褒めてやってもいい。
「しかし……」
怒り気味に現れた女に、試製一號は言葉を濁らせる。
「パートナーのことくらい、信用してくれてもいいんじゃないの?」
そんな彼に女は優しく微笑み、片目でウィンクして答えてみせる。
彼女の様子にたじたじなのか、試製一號は申し訳なさそうに頭を掻いてから、相棒に答えを告げる。
「……深追いはするな、電光機関は一般人には厄介だ」
「オッケイ、それじゃあッ」
瞬間的に姿が揺らぐ。
プロボクサーも顔負けの俊敏性を駆使し、自分の周りを攪乱するように飛び跳ねていく。
まともに取り合えば面倒なことになるのは必至。
素早く腕を真っ直ぐに伸ばし、設置するように雷球を放っていく。
「うわたッ!」
移動の経路上にあった雷球をすんでのところで避けるも、体勢を崩してしまう。
そこを好機とみて一気に攻め込もうとする、が。
「ふんっ!」
電光機関の高速稼働による多段攻勢防禦で、試製一號が雷球をかき消していく。
体はすっかり女への攻撃態勢に入っていたため、想定以上の反撃は望めそうにない。
伸ばされた足刀に対し、腕で受け止める事しかできない。
その一撃が原因で、今度は自分が体勢を崩してしまう。
急いで直そうとするも、わずかに生まれた隙を女が見逃してくれるわけもない。
「ワンッ」
一瞬で踏み込み、腹部をめがけて力強く拳を振り上げる。
「トゥッ!」
間髪入れず、頬を殴り抜ける真っ直ぐな拳が伸びる。
ろくに防御することもできず、その一撃を食らってしまう。
少しだけ吹き飛ばされた先で、手を擦りながら着地し、体勢を立て直す。「ったた……流石に新聖堂騎士団の電光兵士、鍛え方が違うわね……」
振り抜いた拳を大きく振りながら、女は笑う。
電光機関で増強されている体をも優に吹き飛ばす鋭い拳、その傍らには試製一號。
自分が思っているより、苦戦を強いられることになるかもしれない。
「調子に乗るなよ……」
少しだけ、出力を上げる。
力を重点的に引き出すことができる旧型に匹敵する力を、引き出すために。

613生きねば。 ◆LjiZJZbziM:2013/08/22(木) 00:16:34 ID:.0MB9yL60
「テェッ!!」
試製一號が電光弾を放つ。
それに乗じるように女が攪乱しながら自分へと迫ってくる。
飛び道具に意識を向けさせ、その隙に飛びかかろうという寸法か。
作戦は読めている、だがシンプル故に回避する方法はない。
飛び道具を処理すれば、女の拳が。
女の拳に対応すれば、飛び道具と試製一號が。
どちらを食らうのも、良い手とは言えない。
ならば。
「フンッ!!」
「ぐァっ……!」
片手で電光弾をわざと受け止めながら、拳を振るおうとしていた女に渾身のアッパーを叩き込んでいく。
飛び道具を避けるか、自信に応対してくるかのどちらかしか想定していなかったのか、女は驚くほど無防備だった。
柔らかな腹に、増強された力が乗った拳が突き刺さる。
「ッ! ヴァネッサ!!」
事態を理解した試製一號が急いで駆け寄る。
それを確認した電光兵士が、振り上げた拳ごと女の体を浮かせ、試製一號めがけて投げつけていく。
ふわりと宙に浮いた体を、試製一號は優しく受け止める。
「大丈夫か」
「ういたたた……結構キたわねぇ」
口元を拭い、腹をさすりながら女はにこりと笑う。
だが、悠長にお姫様だっこをされている時間はない。
即座に飛び込んできた雷弾を避けるため、女は急いで試製一號から飛び降りる。
そして、今度は試製一號が自分の雷弾を片手でもみ消し、自分へと向かってくる。
だが、電光兵士はうろたえない。
「フンッ!」
わずかに宙に浮きながら、右回りのソバットを繰り出していく。
足払いに対応しつつ、自分の攻めのペースを作り上げる。
この状況なら悪くはない選択肢だった、が。
「対空防禦ッ!」
何に反応したのか、それとも何もみていなかったのか。
試製一號は空に拳を突き上げながら、下半身のバネを生かして空へと舞い上がる。
顎の下から、深々と突き刺さる拳。
グルグルと体が回転し、空高く舞い上がっていく。
「ドンピシャ!」
吹き飛んだ先で待っていたのは、女の拳。
回転する体に対して、正確無比に横腹を捉えていく。
めりり、という嫌な音が響く中、電光兵士は再び吹き飛ぶことになる。
慌てて体勢を立て直し、空高くから飛びかかってくる試製一號を睨む。
「南無三!!」
急停止からの、地面に向けて一気に振り下ろされる雷の拳。
「イィーヤッ!!」
それに対し、全身を捩りながらサマーソルトを放っていく。
鋭利な足刀に切り刻まれたかのように、試製一號は吹き飛ぶ。
だが、伸ばしていた拳はしっかりと電光兵士を捉えていて。
遠くで着地する電光兵士の姿は、すこしぎこちないモノだった。
「チッ……やはり、四の五の言ってられないようだな」
口元についた血を拭いながら、電光兵士は二人を睨む。
それから息つく間もなく、次の一手に講じていく。
攻め来る二人を、迎え撃つかのように真っ直ぐに腕を伸ばす。

614生きねば。 ◆LjiZJZbziM:2013/08/22(木) 00:16:53 ID:.0MB9yL60
「飛び道具で攪乱するつもり? それじゃあっ、甘いわよっ!」
電光兵士の構えを見て、女は瞬時に飛び出していく。
雷球も雷弾も、既に軌道は見切っている。
その地面スレスレに対応していないことも、知っている。
極限まで姿勢を低くして、一気に電光兵士へ詰め寄っていく。
その姿を、試製一號は何故か黙って見ていた。
相棒の行動に乗じて一気に攻めれば良いモノの、それをしない。
心の奥底、どこかに感じる違和感。
けれど、その正体が何かは掴めない。
分からないが故に、不安になってしまう。
何か、とても恐ろしいことが起こってしまうような、そんな気がしてたまらない。
そして、その不安の正体は間もなく判明する。
キィン、という甲高い音。
金属がぶつかり合う音ではなく、機械が高速で駆動する音。
試製一號はその音に聞き覚えがある。
そう、その音は。
禁断兵器が、最後の一手を打つときに発する音に酷似していて。
「まずッ――――」
気がついたときには、図太い光線が二人の体を呑み込んでいた。

「くっ……やはり消耗が激しい、な」
光線を打ち終えた後、電光兵士はゆっくりと膝をつく。
一度打ち出してしまえば後は任せることのできる球体とは違い、持続的に電力を流し続ける光線では消費の量が段違いである。
本来ならばもうこの場で死に絶えてもおかしくないATPを消費しながらも彼が立っていられるのは、先ほど飲み干したモノのおかげか。
ふらつく足取りの中、二つの物音を聞き取る。
「……驚いた、二人ともまだ息があるのか」
振り向いた先、全身を黒く焦がしながらも立ち上がる二人の男女。
慣れない攻撃ゆえの力のぶれか、それとも二人に何かがあるのか。
それは分からない。
「負ける、わけには……いかんのだ」
「右に、同じく、ね。まだま、だ、やることが、あるのよ」
だが、両者共にギラギラと輝く目で立ち上がってくる。
強固な決意、消して曲がらない一本柱。
それを砕くには、さらなる力が必要。
電光兵士は、もう一度腕を構える。
その瞬間、あたりの空気と景色が一変する。
目を見開く試製一號、轟く雷鳴。
己の力を解放し、自らの完全な世界に巻き込んでいく。
しかし、電光兵士はうろたえない。
それどころか、笑っている。
「フンッ! 貴様がそう来ることぐらい読めている!」
生まれた雷鳴を受け流し、一気に距離を詰める。
完全世界を生み出す際に生まれる僅かな隙。
普通ならば世界が生まれる時に生じる爆発に吹き飛ばされるのだが、この爆発は読めていれば堪え忍ぶことができる。
傷だらけの試製一號が、その手段に躍り出ることは誰の目にも明らかだった。
だから、その爆発を受け止め、隙だらけの体に攻撃を加えようとする。
宙を舞うと同時に、足刀が弧を描く。
その太刀筋は、試製一號の体をしっかりと捉え――――
「カモンッ!」
再び轟く雷鳴。
完全なる世界を上書くさらなる完全世界。
電光兵士は考慮していなかった、ただの一般人が"完全世界"を操れるという可能性を。
生まれた爆発を受け止めることなどできず、無様に吹き飛ばされてしまう。
「……一体どこで」
「機密事項よっ、まあ後は見てコツを掴むだけだったんだけど」
さも当然かのように世界を展開し、女は笑う。
見よう見まねで模倣できないことはないが、初見かつ即座にそれを実行に移せるのは非常に高難易度だ。
だが、目の前の女はそれを掴んだ。
電光兵士と同じ、"生きたい"という気持ちがあるから。
「チッ、世界を展開しようが、死に掛けには変わらん!」
軽く一発舌打ちをしてから、電光兵士は二人に飛びかかる。
だが、勢いよく地面を蹴って宙を舞ってからというものの、やけにあたりの景色がスローモーに流れていく。
伸ばす手も、足も、体も、全てがゆっくりと動く。
「電光機関ッ――」
静かに構えを整え、試製一號が正拳を放つ。
「解放ッ!」
それとほぼ同時、試製一號の体が瞬間的に移動する。
宙に浮いた自分の体に、数発の致命的な拳が叩き込まれる。
全身の骨がへし折れる音と共に、自分の体が宙へ舞ってから、ゆっくりと落ちてくる。
「ゴウッ、トウッ……」
その着地点近く。
拳を握りしめて待っていた女。
渾身の力で振り抜かれるボディブローが、空から舞い降りた電光兵士の腹に刺さる。
そして腕を振るわせ、体を振るわせ、大気を振るわせ。
「ヘヴン!!」
残った腕を一直線に伸ばし、烈風と共に殴り抜ける。
生まれた烈風が電光兵士の体を切り裂きながら吹き飛ばしていく。
白を基調とした服には、もう泥と血しか付いていなかった。

615生きねば。 ◆LjiZJZbziM:2013/08/22(木) 00:17:14 ID:.0MB9yL60
 
そして、世界が晴れていく。
もう、動く術もないと言った感じで倒れ伏す男と女。
「……こんな無防備じゃ、どうしようもないわね」
ふっ、と笑いながら、伸ばした手を地面に下ろす。
相棒の返事はない、よっぽど疲れたのだろうか。
「ま、無理もないか」
この地における二度目の激戦、疲労がたまらないわけがない。
すこし無防備すぎる気もするが、四の五の言っている場合ではない。
少し眠りについてから、今後を考えて行けばよいのだから。
「じゃ、おやすみ」
その一言と共に、ゆっくりと目を閉じる。

「――――Sterben」

聞こえるはずのない返事が聞こえたのは、すぐの事で。
それが何の声なのか分かったときには、既に遅かった。
ばちり、体が焼かれる音が聞こえて、終わり。



「くそっ……はぁっ、はぁっ」
電光兵士は生きていた。
その命を奪うことが叶わなかったのは、試製一號の初撃を受けた瞬間に暴走に近いほど電光機関を稼働させたから。
異常量のATPを消費し、肉体を硬化させることに成功していたのだ。
だが、それは彼自身の命の灯火を削ることにも直結する。
この戦闘で尋常ではない量のATPを消費している以上、もう命は長くはない。
分かり切っているからこそ、次に打つ手がある。
すらりと取り出したのは、己に支給された包丁。
横たわる試製一號の側に寄り、何のためらいもなく首筋を切り裂いていく。
飛び出す鮮血、それを一滴もこぼさぬように口で押さえ、その血液を飲み込んでいく。
電光機関適正者の血液、つまりクローン体を凝縮したスープと同じ、いや、それ以上のATPを保持していることになる。
体内にATPが無いのならば、補給すればいい。
この"雷神"と呼ばれた男の体から、血液を介して摂取すればいい。
生きるため、生きるため、生きるために。
止めどなくあふれ出す血液を、休む間もなく飲み込んでいく。
ごくり、ごくり、ごくり。
いくら飲んでも渇きは満たされない。
弱まっていく血液、満たされない渇き。
頸動脈から流れ出る血液だけでは、物足りない。
気がつけば首筋を食いちぎっていたことに気づくこともなく、片手に持っていた包丁を振るう。
鍛えられた胸部を、力を振り絞って抉り取る。
取り出した心臓に、何の躊躇いもなく食らいついていく。
味だとか、食べにくさとか、道徳だとかは、もう欠落していて。
ただ、ただ生き残るため、その為に必要なものを"とる"。
心臓だけでは飽きたらず、そのまま包丁で胸を開き、内蔵という内蔵にむしゃぶりついていく。
肺、簡単につぶれてしまうそれを口に放り込む。
胃、酸味に顔をしかめながらも口に放り込む。
腸、内容物をできるだけ搾り取りながら口に放り込む。
足りない、足りない、足りない。
肉、肉、肉。
体の奥底から感じる渇きを満たすために。
食らう、食らう、喰らう。
生きねば、生きねばならぬから。
肉が裂ける音、骨がきしむ音、血を啜る音。
それらだけが、夕方の空に溶け込んでいく。
あたりは、不気味なまでに静かだった。

616生きねば。 ◆LjiZJZbziM:2013/08/22(木) 00:17:30 ID:.0MB9yL60
 
「ふ、ふはは」
純白から深紅に染まった服、その赤は側に散らばる肉片のもの。
無惨にも食い散らかされた欠片に囲まれながら、電光兵士は笑う。
「まだ、生きれる。俺は生きれる」
両手をゆっくりと握っては開き、握っては開きを繰り返す。
違和感はない、嫌悪感も、体調の乱れも見えない。
むしろ、先ほどよりも爽快感に満ちあふれていると言ってもいいくらいだ。
「……そこで見ている奴、出てこい」
眼光を飛ばしながら、一本の巨木を見つめる。
その瞬間、巨木の陰から黒い靄のような何かが飛び出してくる。
高速で向かい来るそれは、一人のバスケットボールプレイヤーと、一人の少女の命を奪った死神の鎌。
「遅いッ」
だが、今の電光兵士にはいささか弱すぎた。
増強された彼の力ならば、その動作を見切ることなど容易い。
お返しにこちらも高速のミドルキックを放つ。
足の先はしっかりと黒い靄の体を捉えていた。
目を見開き、透明の液体を吐き出す靄の中身。
しかし、もう遅い。
そのままミドルキックから振り下ろされた足が、靄の体を両断する。
明らかに人ではないそれの前に、靄は一瞬で霧散することになった。
大量の、赤をまき散らしながら。
「……この、奥底から漲る力……信じられん、これほどまでとは」
たった今一人の少年を殺した電光兵士は、何も無かったかのように呟く。
"雷神"を"取り込んだ"今、あふれ出す力は留まることを知らない。
今まで恐れていた力の限界すら、今は感じなくなっている。
まだ生きれるという確信と、まだ力を振るうことができるという確信を胸に、彼は足を進める。
「待っていろ完全者、今、今貴様を――――」

目指すは、己の野望。

【ヴァネッサ@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【アカツキ@エヌアイン完全世界 死亡】
【ルチオ・ロッシ@堕落天使 死亡】

【F-6/中央部/1日目・夕方】
【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(大)、首輪解除
[装備]:電光機関、包丁
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:ミュカレを倒す、先史時代の遺産を手に入れる。
1:ミュカレの元へ
[備考]
※首輪解除の方法を発見しました
※アカツキを"喰らった"ので、ATPが湧き出てくるようになったので余裕があります。

617 ◆LjiZJZbziM:2013/08/22(木) 00:18:10 ID:.0MB9yL60
投下終了。

618名無しさん:2013/08/22(木) 10:31:45 ID:lgrMSg0I0
投下おつ。

アカツキが……アカツキが……!
いやしかし最後まで電光機関に対する執念、見事でした。さすが戦鬼。
ヴァネッサも逝っちゃったけど、良いコンビだった!!

ゾルダートは何処に行き着くのか。ロッシまで瞬殺とは……!
首輪解除したしATP細胞も手に入れてイケイケのはずなのに、どこか悲哀を感じるな……
納得できる結果にたどり着いて欲しいが、どうなるのか。わくわくが止まらない!

改めておつです!

619 ◆LjiZJZbziM:2013/08/27(火) 00:08:45 ID:11.gE3dk0
アテナ、クール、赤碕、ロサ予約

620 ◆LjiZJZbziM:2013/08/27(火) 11:01:20 ID:SqcLrLBA0
予約メンバーをアテナ、アドラー、結蓮、クーラ、ブライアンに変更。

621 ◆LjiZJZbziM:2013/08/27(火) 11:22:03 ID:IWpZ213c0
何度もすいません。
やっぱりクール、赤崎、ロサ、アテナにします。

622自由自在の者たち ◆LjiZJZbziM:2013/08/30(金) 00:55:35 ID:gQNMWjXs0
一人の女が、空を飛ぶ。
その背には、作られし命と、自由を求める黒き翼を乗せ。
風を悠々と切りながら、唐突にその口を開く。
「……一つ断っておくが、完全者の場所に行ったとしても、奴に出会えるという訳ではないぞ」
「何だと?」
クールは、思わず怒りを含めた声を出してしまう。
このまま進めば、あの憎き完全者に出会えると思っていたのに。
自分の自由を奪った、この世で最も憎い存在に、出会えると思っていたのに。
怒りを露わにするクールに対し、新しく名を名乗ることにした"ロサ"は冷静に告げる。
「……主ら、どちらでもいい、電光機関についての知識はあるか?」
返答はない。
電光機関を扱う者は知っていても、その装置自体の知識は無い。
そのリアクションを、想定通りと言わんばかりにロサは話を進める。
「初めに完全者が居た場所は、このあたりだ」
そういいながらロサが指を指した場所には、何もない。
いや、正確には。
「池……?」
水だ、水が広がっていた。
人っ子一人立つスペースすらない、一面の水が広がっていた。
「ああ、ぱっと見はそう見えるだろう」
だが、ロサはそれすらもさも当然かのように語り続ける。
「電光機関による迷彩技術。大型の装置を駆使すれば池のように見せかける事も可能だ」
電光機関を用いた迷彩技術。
既にこの世を去ったムラクモが、その技術を戦闘に用いていたものだ。
電光機関は幻影を生み出すことが出来る。
超大型の物を用意すれば、そこに何もなかったかのように装わせるのは簡単だろう。
「なんでそれを知ってる?」
「拙者もこの場に呼び出されたからな。拙者が来たときはまだ迷彩は発動していなかった」
クールが抱いた疑問にほぼノータイムで答えてから、ロサは話を続けていく。
「話をまとめるぞ。池の上に建物を建て、それを迷彩で消す簡単なトリックだ。
 故に電光迷彩を遮断させるために、電光機関を破壊せねばならぬが――――」
そこまで言ってから、クールと赤崎の視界が突然ぐらりと揺れる。
バランスを崩したわけでもないし、手を離したわけでもない。
「旧人類二人を運ぶ程度、朝飯前だ」と言い捨てたロサが音を上げたわけでもない。
じゃあ、何故か?

橙色と桃色が入り交じったような光弾。
視界にそれを認識したときには、既に遅く。
ロサの体を腹部からふわりと持ち上げ、けたたましい音と共に爆ぜた。

623自由自在の者たち ◆LjiZJZbziM:2013/08/30(金) 00:55:58 ID:gQNMWjXs0
 


すらっと伸びる"白髪"。
ファンタジーの産物のような"赤目"。
きっと、彼女を知る人間なら誰しもが驚くだろう。
だって彼女は目も髪も"紫"だったはずなのだから。

命を吸った事で変質したそれらに、本人は特に興味も持たない。
髪の色に執着していたわけでもないし、目の色が変わった程度はどうでもいい。
今はそれより、それよりなすべき事があるのだから。
そんな些細なことはどうでもいいのだ。

ようやく、ようやく手に入れた力。
三種の神器や、宿命を乗り越える者にも匹敵する力。
もう、後ろで指をくわえていなくてもいい。
自分の力で、自分の手で、世界を変えることが出来る。
空を見上げる。
やけにくっきりとした視界、夕闇に染まりつつある空の中に。
一点の赤い光を見つける。
「新人類……」
赤い光の名を呟くや否や、彼女の表情が悪鬼羅刹のごとく豹変していく。かつて、世界を恐怖の奥底に突き落とした存在。
無力な人々が、何人も何人も死んだ。
それは、自分も例外ではなかった。
手にした超能力など、微塵の役にも立たなくて。
精々自分の身を守ることぐらいしか出来なかった。

けれど、今は違う。
今は、あの憎き新人類を「殺す」事だって出来る力がある。
ゆっくりと息を吸い、一瞬だけ集中してから勢いよく気弾を放つ。
かつて世界をめちゃくちゃに壊していった存在に向けて。
龍は一ミリの躊躇いも持たずに、弾丸を飛ばしていった。

624自由自在の者たち ◆LjiZJZbziM:2013/08/30(金) 00:56:16 ID:gQNMWjXs0
 


「おい、大丈夫か」
「なんとかな……」
へし折った枝に身を包みながら、赤碕はクールに手を引かれつつに起きあがる。
急に姿勢を崩したロサの背に乗っていた二人は、当然上空から振り落とされる形となった。
幸運にも木が受け止めてくれていたから良かったものの、直撃ならどうなっていたことやら。
「……ロサは」
「見あたらない、くたばったんだろうな」
「勝手に殺すな」
二人の会話に割って入るようにロサが顔を出す。
すんでの所で体勢を整えたので、落下することはなかった。
だが、先ほど受けた一撃は予想以上に強烈だったらしく、焼け焦げた腹部は痛々しく変色している。
「迂闊……拙者としたことが、あのような二流の攻撃を受けるとは」
「さっきのトラップに引っかかってる時点で三流もない」
「……悪いが同意だな……警戒してなかった俺たちも、俺たちだが……」
ロサの心の中で何かが崩れて行く音が聞こえるが、二人は気にしない。
というか、気にしている時間など無かったからだ。
そんなやりとりをしていたときに、背筋をなめ回されるような殺気をその身に感じたから。
「あなた達も、新人類の仲間なのね」
聞こえた声に、三人は体を構える。
感じるまでもない明らかな敵意、戦闘は避けられない。
「どうやら……話は聞いてくれそうにもないな」
「フン、俺の邪魔をするなら容赦はしない、それだけだ」
前に立ちはだかるというのならば潰す、たったそれだけのシンプルな理由。
それ以上は、特に必要ない。

初手はクールのダーツ。
緩やかにかつ正確に飛んでいくそれは、確実に龍の体を捉えている。
だが勿論、そんなモノは通用しない。
蚊を払うように振り抜かれた龍の手が、ダーツを無に帰していく。
ほぼ同タイミングに放たれた、地を這う炎すらをも飲み込んで。
「そこだッ!!」
その時に生まれた一瞬の隙を突き、ロサが龍の足下に滑り込んでいく。
体勢を崩す龍の手からこぼれた剣をもぎ取り、そのまま斬り上げようとする。
しかし、龍は狼狽えない。
むしろ、それをねらっていたとでも言わんばかりに。
何色かもわからない何かが、彼女の右手から真っ直ぐにのびる。
それはまるで剣のように、すらっと細長い形をしていた。
「――――サイコソード」
ロサの剣に対抗するように、練気の剣が振り下ろされる。
剣ならば剣をぶつけて対抗すればいい、剣戟ならこちらに部があるはずなのだから。
「がッ……?」
だが、崩れていくのはロサ。
振り抜いたはずの蛇腹剣は練気の剣を受け止めることはなかった。
いや、そもそも剣を練っていたのは幻影だった。
本体は少し後ろ、完全に背後をとるように。
「これは旧人類の武器、貴方達が見下していた者が作りしものに、貴方は殺されるの」
凍り付くような言葉とほぼ同時、バンッと一発の銃声が鳴り響き、再びロサの体が頭から大きく揺れた。
反論も、反撃も、反省も、何も許さず。
淡々と、制裁を加えていく。
「ロサッ!!」
即座に赤碕が駆けだそうとする。
だが、その必要もない。
即座にテレポートに転じていた龍が、赤碕とクールの間に立つように現れていたのだから。
攻撃に転じる隙間さえ、与えてくれない。
「新人類は、裁かなくちゃいけませんね」
ぽつり、とこぼしたその一言と同時。
赤碕は慌てて炎を練り上げる、間に合わない。
クールは右足を素早く振り抜いていく、間に合わない。
代わりに、二人を蹂躙していく赤と黒の二つの水晶。
ぐるぐると龍の周りを回るそれが、圧倒的な力で二人を吹き飛ばした。

625自由自在の者たち ◆LjiZJZbziM:2013/08/30(金) 00:56:41 ID:gQNMWjXs0



かつ、かつ、かつ。
靴を鳴らしながら歩み寄っていく。
初めに立ち寄ったのは、第四区画の黒い翼が吹き飛ばされた場所。
龍の周りを輪廻していた水晶球は、翼の大部分をえぐり取っていた。
放っておいても死ぬレベルの傷だが、油断はしない。
きっちりと、この手で、とどめを刺す。
「ハハハッ……」
地に倒れ伏したまま、顔だけを上に向けて黒い翼は笑う。
「……何が可笑しいの」
「アンタを見てると滑稽で仕方ない」
今から死に行くと分かっているのに、黒い翼は笑うことをやめない。
不快な表情を浮かべる龍に対し、黒い翼は言葉を続ける。
「心はここにあらず、何かに縛られてる。
 いや、自分から縛られに行ってる。
 そうでもしないと、自分が消えてしまうから」
ニイィッ、と口の端を吊り上げ、ここ一番の笑顔を作り、言う。
誰よりも自由を愛し、誰よりも自由でいたいと願う彼だから。
だから、分かってしまう。
彼女が、自由を求めながらも自由を遠ざけようとしていることを。
そして、それに気づいていないことを。
「かわいそうで笑えてくるぜ、アンタはこのまま"不自由"なんだからな。
 アンタと関わってると、こっちまで不自由になっちまう」
「もういいです、さようなら」
翼の言葉に耳を傾けるだけ無駄だと判断したのか、龍はひとつため息をついてから、気を練り上げていく。
それでも、翼は笑い続ける。
自由を語りながら自由を遠ざける愚か者を、笑い飛ばすために。
「ほら、跳んで見ろよ」
不敵な笑顔と共にゆっくりと起き上がり、親指を地に向けて突き立てる。
それと同時に龍が駆けだしたとき、翼の体がふわりと前のめりになる。
チャンス? いや、そうではない。

前傾姿勢からの流れるようなサマーソルトキックが、龍の下顎をしっかりと捉えていた。
そのまま地を、いや空を蹴り上げながら、二発、三発、立て続けに蹴りを浴びせていく。
そして、全身の力を全て吐き出すように。
「オレは……」
勢いよく空を蹴り。
「自由だッ」
龍の体に、黒い翼を刻んだ。








黒い天使が、堕ちる。

己にしか手に出来ない、たった一つの自由を手に。

風を切りながら、落ちていった。







.

626自由自在の者たち ◆LjiZJZbziM:2013/08/30(金) 00:57:04 ID:gQNMWjXs0
「……行かなきゃ」
もう、動かない天使の姿を見て、龍は呟く。
特に興味はない。
言われたことも、わずかながらに傷を付けられたことも。
それより、自分にはやることがある。
もう一つの命、新人類に組する者を倒さねば。
「そういう事か……」
そう思ったと同時に、男の声が龍に届く。
たった今、早く殺さなくてはと思っていた男が、あろう事か向こうから現れたのだ。
その体は黒い翼同様に傷だらけ、立っているのがやっとと言ったところか。
「ありがとう、クール」
せめて苦しまぬよう、一刻も早く生命活動を断ってやろうと、龍は力を込める。
たった一振り、それで全てが終わるように。
「もう……迷わないさ……」
そう思っていた龍の目の前から、ふと男が消えた。
速いと認識する間もなく、龍の腹部に肘鉄が加えられる。
かふっ、と小さく息を吐き出すと同時に、持ち上げられる首。
死に掛けの人間とは思えない力が、龍の細い首をギリギリと締め上げていた。
「Drivingしようぜ……CRAAAAAAAAZYなDragon……!!」
赤碕が見たもの。
それはただ自由を求め、自由にすがりついていくクールの姿。
自由とは何か、ずっと追い求めていた答え。
それが正解、とは限らないが、少なくとも赤碕にとっては生まれて初めての模範解答だった。
どんな窮地に立たされようと、決して己の心を縛らない。
どこまでも"自由"に過ごすことが、始まりなのだと。
空へ飛び、空から落ちていくクールを見て確信した。
だから、自分も。
心を、自分らしさを、誰にも縛られずに、解き放つ。
逃げなくてもいい、怯えなくてもいい、何も気にすることはない。
自分という、自分を解き放てば、いいのだから。
「うおおおおああああああああああァッ!!」
借り物の力、でも自分の力。
その全てを、体に宿りしすべてを、解き放つ。
力を使うことは死へと近づくこと。
それを知っていたから迂闊には使えなかった。
けれど、今は違う。
死に行くからこそ、使える力がある。
己の体を全て炎で包み、炎の柱を天高く突き上げ、龍の身を焦がしていく。
抗う龍を押さえつけるように、炎は瞬く間に猛り、うねり、舞い上がる。
それはまるで、男の体から解き放たれていくように。
自由へと、真っ直ぐ伸びていく。
龍がどれだけ暴れようと、炎は止まらない。
全てを、何もかもを、燃やし、辿り着いていく。



"自由"へ。



「ねえ、お姉ちゃん」

「うん?」

「楽しかった?」

「そうだね……」

誰もいなくなった場所、そんな声だけが聞こえた気がして。

【ロサ(テンペルリッター・一番部隊隊長)@エヌアイン完全世界 死亡】
【クール@堕落天使 死亡】
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【赤碕翔(クローン京A)@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

627自由自在の者たち ◆LjiZJZbziM:2013/08/30(金) 00:57:31 ID:gQNMWjXs0
 

















































バチリ。

電光機関が、ショートする音が響いた。

現れたのは、丸く浮かぶ球体のような。

始まりの、場所。

※完全者はD-4、高原池に居ます。
 OPの舞台を電光迷彩で隠し続けていましたが、赤碕の炎が電光機関を破壊しました。

628 ◆LjiZJZbziM:2013/08/30(金) 00:57:50 ID:gQNMWjXs0
投下終了

629 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/08/31(土) 22:06:06 ID:u73Ih8020
投下お疲れ様です!
皆自由になってしまった……燃え上がるような燃え尽きるようなこの感じ実にCoolなClimax!
そしてとうとう判明した完全者の居場所、終わり、といえばいいのかなんといえばいいのか決着は見えてきましたね。

ということでアドラー、結蓮、クーラ、ゾルダート予約致します。

630 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:03:28 ID:w7oEcKjg0
投下いたします。

631死神の逆位置、人々の誰そ彼 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:06:54 ID:w7oEcKjg0
檻の中の囚人は夢をみる。
自由を、未来を、可能性を。
人間は皆檻の中の囚人である。
夢を見たまま死という救済を迎える一生を、檻の壁に映した空想の影絵を見て過ごすのだ。

だが時に、その檻を破るものがいる。

悪しき肉体と言う名の牢獄を滅ぼし、死を超越した者。


「アドラー?」

クーラは、静まり返った室内で声を出す。
本当に極端な人だとクーラは思う。
先ほどまで淡々とお説教をくれていたその口は真一文字に閉じられ、ある一点にのみ視線は注がれていた。
下から覗き上げた顔立ちは美しい女騎士のものであったが、冷たい表情はアドラーのもの。

上階にあたる部屋の扉は大概が朽ちていたり鍵が錆びていたりで、そもそも侵入できなかった。
一部屋、無理に壊して暴いてみたがその曰く言いがたい惨状……封印されていた埃や淀んだ空気に圧倒されるだけであった。
おかげでまだ鼻がムズムズするし、喉もいがらっぽい。
同じく、くしゃみを連発していた結蓮も目を時折こすっては瞬きしている。
赤みが差した瞳は部屋の隅にたまる綿ぼこりを疎ましそうに見て、すぐに興味をなくした。

どこもどうせ外れだと、クーラはうんざりしていた。
それでもアドラーは扉を調べ、何事も言わずに探索を続けていた。

黙りこんでいる時のアドラーは、何かを考えている。
結蓮は短い観察でそれを悟った。
いや、これは相当なバカでもない限り気づけることであろう。
問題はその中身、何を考え、何を思い、何を結論づけるか。
沈黙の後にあるのは不穏か、光明か。
結蓮には、アドラーに対して深い溝が見えていた。
背面に漂うその残り香を踏まないよう、少し速度を落とす。
クーラが、大丈夫?と心配して振り返って歩み寄ってくれたが、曖昧な笑みしか返せなかった。

その折であった、鍵が開いていて、なおかつ誰かが使った痕跡のある部屋に辿り着いたのは。

広くも狭くもなく、小奇麗な寝台と備え付けの引き出し、テーブルとやや煤けた椅子が二人分置かれただけの平凡な部屋だ。
備え付けの引き出しを開けると、本が一冊。
旅行などをよくする人間ならば、この本の正体はなんとなく察することができるだろうか。
どこぞのお節介な聖職者か、はたまた口に出しづらい団体の仕業か、宿泊施設に置いて行かれる『聖書』と呼ばれる本。
この本を手にした三人はそれを知らなかったが、情報が少ない状況で本を読まない手はない。
表紙に刻まれているのは真っ直ぐな十字ではなく、歪んだ菱形に囲まれた斜めの十字。

真っ先にアドラーが読み始める。
そうして、分からなかった堂々巡りの考えに一筋の光が差した。
「ねえ、アドラー」
「そうか、『完全者』か」
じれったくて、しびれを切らしたクーラがもう一度アドラーの名を呼ぶのと理解は、同時であった。

これはとどのつまり蟲毒で、しかし全く違う目的があった。
考えてみれば案外と容易いものであったかもしれない。
彼女の、完全者の秘跡。
アドラーは魂のエネルギー変換率と解し、ムラクモは己が神性を信じ魂を体に移すと捉えた。
そのどちらをも理解した少女の、教えの元を辿れば、教えがもたらした死を是とする思想をもってすれば。

穴の空いたルール、隠されることもなく渡された手がかり、最後の一人。
肉体が滅んでも、強き魂が残れば、それが進化であり新人類である。
いつか聞いた、選ばれし者が統べる新世界などという世迷い言を実践しているのだ、この意図不明であったゲームは。
玉石混交、極限状態は人間を飛躍的に成長させる。
例えばアドラーが死者の体に転生を果たしたように。
目の前できょとんとした間抜け顔を晒している異能戦士も、理解不能に陥った一般人にも、可能性は平等に潜んでいる。
その全てが儚い空想でも救済は進み、文字通り目的を達すれば新人類を生み出せる。

抗うことに価値を見出したのが、この状況の答え。

632死神の逆位置、人々の誰そ彼 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:07:35 ID:w7oEcKjg0
そう結論づけるが、実はまだ腑に落ちない点の方が多い。
人間が『転生の秘法』を見つけたような、抗いの先の、生命の奇跡を、あの女が望むのだろうか。
では、放送に現れた女か?それともまだ神や人間が控えていると?
もしくは、抗いの先には、予想していたよりも更に大きな『神の叡智』が……笑ってしまうくらいの『奇跡』が、存在するのか?

喉奥から、くつくつと笑いが漏れ出る。
どう転んでも、あちらに分がいいゲームだ。
ならば、ならばやることは。
「チェス盤をひっくり返す……いや、少し違うな」
「アドラー、何勝手に気取ってるの」
「静かにしてろ、貴様達の言語レベルに合わせるには時間がかかる」

突っぱねられたクーラはいよいよ不機嫌を顕にして。
「もー……行こう結蓮」
結蓮の細い手首を掴んでくいと引っ張る。
「……いいのかしら」
横目で、一応とアドラーを伺う。
もちろん結蓮も自分の世界にだだびたりなアドラーには辟易していた。

「この建物から出なければ構わん、好きにしろ」
アドラーも、静寂と自分だけの空間が欲しかった。
正味、彼に今二人の生死に対しての深い興味はない、クーラの能力は貴重であり手に入れるべきものであるが。
今新たな真理を得た状況で異能兵士の生死の意味は薄い。
死を賭して、個の生命の重要さと邪魔さに気づくとは。

無理だと決め付けるのは、所詮狭い見識のなかのくだらない常識だ。



階段を、ゆっくりと下っていく。
「本当アドラーってワガママで意味分かんない!」
クーラは大きな声でアドラーを罵倒する。
次から次に、よくも思いつくものだと関心する量アドラーの欠点を羅列しては可愛らしい唇を尖らせていた。
彼女にはどうやら結蓮が懸念するものは見えていないらしい。

「貴方たちは此処に来る前から、知り合いなのかしら?」
まるで違うけれど、小さな妹を想起させる仕種に結蓮はぎりと旨を締め付けられて、笑みを浮かべる。
「ううん、此処にきて初めて会ったのがアドラーだよ」
ろくでもない出会いであったろう。
長く短い時間のおさらいを聞いて、結蓮は余計にそう感じた。
嫌悪感とは、対照的に胸を甘く震えさせる思い出。

EDENの日々、くっきりと思い出せる映像、色のある記憶。
思いっきり喧嘩した夜があった。
珍しく仲良くおしゃべりをした午後があった。
酔っ払ったお客さんを二人で追い払って、苦笑いした朝があった。

彼女は、泣いていたのだろうか、笑っていたのだろうか、困っていたのだろうか。
手が届かない、それでも、知りたい。
色あせていく回想のなかで、セピア色に、それでも色を付けようと必死な箇所がリピートされる。

(あの人も、アーデルハイドも、私と同じことを望んだ)
結蓮の瓦解しそうな理解不能の心をつなぎ止める、綱渡りの綱。
救えなかった、罪滅ぼしのつもりなのか。

理由をつけて、贖罪を望むのかそれとも諦めてしまいたいのか、相変わらず、綱の上で揺れる心には『分からない』。
「ねえクーラ、アドラーのことはもういいから、貴方が此処に来る前の話をしてもらえない?」

クーラは一旦口をつぐんで、どこから話そうかと思い出の入った宝箱をひっくり返し始めた。
大切な仲間のこと、乗り越えてきた闘いのこと、自分のこと。
キラキラ光る、でも少しだけささくれていて、触れる度に切ない痛みが体を走るそれら。

噛みしめるように、体中を満たす景色を確かめて。
「ごめんなさい、気安く尋ねたりして……」
クーラの過去をかいつまんで知った結蓮は、気まずそうに目を伏せた。
「ううん、いいよ」
歩んできた道は大変だったけど、クーラはその末にある自分が嫌いじゃない。
振り返って手を振る自分が笑顔なのだから。
幼く純粋な答えに触れて、結蓮は嘆息する。

自分は思い出の先に進みたいのか、それとも。
心は檻の中、望むは自由と未来か。
影絵に映るものは、今であるのか。

不意に、二人の鼻先をかすめる、死の匂い。
クーラは身構えるが、すぐに違和感に気付いた。

エントランスホールに充満する死は、ホテルと等しく淀んで、動くことがなかったのだ。
結蓮とクーラ以外の世界は、人間は停止している。
第三者は居ないのに、吸い込んだ死の気配だけが肺にこびりついて。

633死神の逆位置、人々の誰そ彼 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:08:35 ID:w7oEcKjg0
「……っ」
「酷い……」

死の発端、倒れている二人の幼い少年少女。

お揃いのミンクコートと金髪、驚いたような、愉快そうな、不思議な表情で二度と動くことのない時間。
血の気を喪った白に近い肌と相まって、二対の天使を描く宗教画を想起させる、美しくも無残な現実。
「誰が、こんな」
「当人達だろうな」

結蓮の言葉をいきなり引き継いだ冷たい声。
きっ、と反射的に睨んで振り返れば、真紅のコートを身にまとった赤い眼とかちあう。
「アドラー、どういうこと?」
長い銀糸を鬱陶しそうにかきあげたアドラーはクーラの質問を無視して死体の首元を弄った。
首輪に触れて、死体に触れて。
「簡単なことだ、こいつらの手にある銃……そして向かい合わせの銃槍、位置」
何があったかまで推測は及ばないが、同士討ちであろうとアドラーは語る。
「なんで」
こんな子供たちが、どうして。
背後で唸る二人の感情的な戸惑いになど、アドラーは頓着しない。
結果に辿り着くまでの過程は失敗であろうと成功であろうと重きをおくべきではある。
ただそればかりにとらわれ過程以前の現状を見られないのでは本末転倒。

「……似ている」
時間を動かすように、風が吹く。
アドラーを中心に、緑の光を帯びた風が。
「もしも、推論が正しければ、しかしだ」
足りない、一つ、大切なピースが足りない。
躊躇なく子供らの首を切り落とし、アドラーは立ち上がる。
淡々と思考を重ね、笑みを口元に湛えた横顔を見て、結蓮は改めて戦慄した。
嫌悪は恐怖に変わり、無意識に武器を握りしめさせる。

「アドラー、どこにいくの」
背を向けて、おそらく振り返りはしないだろう、その背面にクーラは声を投げた。
今まで見えなかった深い溝が、はっきりと浮かび上がる。
飛び越えられない、飛び越えてはいけない。
性格が悪いだとか、転生して生き続けることができるとか、そんなものじゃあない、決定的な違いがそこにはあった。
すぐ近くで遠い、神でも機械でもない、人間の欲望。
貪欲に過ぎる死神は、やはり応えず空へと昇る。



雷神の力を手に入れた兵士は走る。
神のごとく、神を倒さんと、神のごとく。

嗚呼しかし皮肉な話ではないか。
嘲るように神の名を唱えたことがある。
本当の人間のように、神の加護をと祈ったこともある。
救いの神にならんと、願ったこともある。
俺達は、俺達は何者であったのだろう。

渺々と、風が渦巻いた。
「軍神テュールは俺に味方すると?」
追い落とされた勝利の神を鼻で笑う。
冗談ではない、俺は、自分は。

戦女神を名乗る、死体運びの蹄の音がする。
「貴様は死神、ですらない……平等の欠片もなく、独断と偏見で殺す、ただの人間だ……」

恐れはない、遥か上空から訪れる疾風に対して、いつか執着を覚えたことも忘れて。
ゾルダートは嗤う。
目の前に降り立った銀と血の神の名を飲み込む。
二対の天使の首を携えて、舞い上がる銀の糸は偽神の面を露わにし、その暗澹たる血色の瞳を目立たせた。

「ふ……よく生きていたな、木偶にしては上出来だ」
傲慢な言葉にゾルダートはやはりと得心する。
完全者と共にあった神の模造テンペルリッター、否、その体を支配したアドラー。
ゾルダート達のオリギナールだ。

634死神の逆位置、人々の誰そ彼 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:09:23 ID:w7oEcKjg0
理解してなお、ゾルダートの心中は穏やかであった。
理解しているからこそ、その神経に一切の興奮はない。

「さて……言わずとも、用件は分かっているだろう」
対峙したゾルダートの首元に死枷がないことに気づき、アドラーは自分の推論の正しさを確認した。
首輪のついた子供らの頭を放り投げて、剣を構える。

ゾルダートは無言で、だらりと両腕を垂らして始まりを待つ。
傲岸不遜に、地面すれすれを滑り斬りこんだアドラーは目を見開いた。
金色の蛇腹剣が、軽く上げたゾルダートの脚に止められたからだ。
すぐさま弾かれた反動を利用し逆方向から斬りこむも片手で押さえ込まれる。
舌打ちとともに剣をしならせその連結を解き蛇を揺り起こし、血しぶきが両者の間を飛散した。

掌を切ったゾルダートはその血液を舐め取り、醒めた目で片腕を無くしたオリギナールだったものを見つめた。
弾く力を利用できるのはゾルダートも同じだ、撓る瞬間剣の力の方向を狂わせ、制御不能の蛇をくれてやる。
これが本来の使い手であるテンペルリッターであれば、避けられたのかもしれない。
体にある記憶と知識、身体能力を引き出すことに関してアドラーに抜かりはなかった。
しかし咄嗟の判断までコピーすることはできなかったのだ。

「……捨て鉢になっている訳ではないな、その、無尽蔵の力……」
利き腕を巻き込み食らった蛇腹剣を拾い上げ、アドラーは表情を険しくする。
電光機関のもたらす身体能力の飛躍は生命と引き換えの力。
通常の人間ですら長い行使には体が耐えられず、その能力には限界がある。
クローンはなおさら脆弱で、瞬間的であろうと最高のポテンシャルを発揮することは、まして維持することなどままならないはずだ。
アドラーが知る限界を超えるものはただ一人。
電光機関の適合者と呼べる、試製一號、アカツキだ。

「く……くく…………ふはははははっ!!」

実に、実に上出来な木偶だと、アドラーは笑う。
どのような方法、理論かも想像できないほどの、抗いの先の奇跡を、自分のクローンが成したのだ。
純白だった軍服を、生命の色に染め上げて、広いキャンパスのような存在に描いた、奇跡だ。

愉快そうなアドラーと対照的に、ゾルダートの心は冷えていく。
「……俺は貴様の用件に……いや、貴様に興味が無い」
どうでもよいのだ。
この期に及んで、障害など己には無意味。
掻き消した人間、もう記憶の隅にも居場所のない人間、リフレインする言葉をゾルダートは無意識に消す。

あれほどまで高揚していた心地が、風を受けた時からだろうか、消えかけていた。
倒すべきはこの男ではない、完全者だ。
完全者を打倒し、栄光を、全てを手に入れる。
この男ごときを、見ていてはいけないのだ。

「違うな」
アドラーは、蛇腹剣を振りぬきその神速で真空を作り出す。
音のない世界で電力の盾はそれを飲み込み、追撃の切っ先を受け衝撃を返す。
「貴様は俺に執着することを恐れている」
アドラーに届かぬ反撃を収め攻勢に移るよりも疾く、空を突き進む刃。
己を刃にして突撃する、神を滅する斬撃。
それが来るのをゾルダートは知っていた、だから攻性防禦よりも乱雑に、しかし強大に放電し、進撃を押しとどめる。

「真実、貴様は俺を打ち倒したい……殺したいはずだ、それが人間ならば当然の道理」
複製體という禁忌の存在。
原本という同一で違う存在。

「我思う故に我在り……だったか。貴様なら、認められないだろう?自分が俺の……『エルンスト・フォン・アドラー』のコピーであるなど」
「俺も、貴様らが自分の分身だと思うと、その姿を見る度に吐き気がする」


手にとるように、互いが分かるのは、彼らが同じ胚を別つ一個対の人間であるから。
交わしているのは音だったか、思考だったか。
拮抗した力は交じり合うのを嫌い反発し二人を引き離した。

「執着は、神性を無くさせる」
「フン、神性など、端から信じていないだろうに」

にい、と両者は笑った。
死神と雷神は、人間と人間であった。

「貴様のような個体は、今までに数度現れた……だが、貴様は今までで一番、素晴らしく、不愉快だ」

木偶呼ばわりしていた相手を、人間と、自分に近い人間と、同一であると認めた言葉であった。

635死神の逆位置、人々の誰そ彼 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:10:06 ID:w7oEcKjg0
ゾルダートの心に、風が吹き込む。
感情という強風が、その凪いでいた波を荒立たせる。

神性と比喩した冷静な、微動だにしなかったその心中が蒼く輝く。
眼前の鏡を壊す時は今なのだ、自分が、鏡の外の人間であると、誰でもない自分だと認めさせるのは、今この瞬間。

短い時間であった。
ゾルダートが、生きていられるあいだよりも、ずっと短い流れだった。
体のギリギリを狙い薙ぐ剣に、ゾルダートは一歩、大きく踏み込む。
胸から腹にかけて、ざりとざらついた痛みが走るが、脚は止まらない。
連撃の天空へなど、逃しはしない、地面を踏み抜いた脚を軸にして、叩き落すように回し蹴りを食らわせる。
地に落ち跳ねた体を下段蹴りで受け止め、砕けよとばかりに。


土に満ちるのは銀と赤。
波打つ糸と、ひたひたあふるる血。
ゾルダートは、理解して、近づいた。

肉体の限界を迎えてもなお、魂の剥離を拒み、繋ぎ止めているそれを見下ろす。
銀の銃口、引き金を引く力は一度きりだ。
それで充分。

弾丸が発射されるのかどうかは賭けであって、それから訪れる両者の死もまた、通過儀礼じみた賭けであった。


乾いた銃声が肉を貫通するその時に、クーラと結蓮はその場所に辿り着いた。
先ほどの少年少女の死に様をデジャヴさせる光景に、二人は言葉を失い、立ち尽くす。
必死に、空気に音を、振動を伝えようと、クーラは瞬きを繰り返す。
どうしてその頬が濡れているのか、彼女には分からなかった。
「ダメよ」

溝に、暗黒に、走り寄ろうとしたクーラを引き止める。
「……分かんないよ、クーラ、全然分かんないよ」
涙をぐしぐしと拭い、少女はようやっと感情を音にした。
結蓮ははっきりとアドラーが嫌いだった。
だから一時の別離を惜しむ気持ちはない。
クーラは、好きか嫌いか、よく分からなかった。
一度命を救われた、突き放された、言動が最低だった、酷いやつだった。

「だから、行く」
遺体に、きっと起き上がるだろうアドラーのもとに。
溝は現実には存在しない、クーラは、走る。

あと一歩、クーラはそう感じた。
その一歩を超える前に、遺体は立ち上がった。
拒絶するように、ふらふらとした様子で、金髪の衛兵の体は天を仰ぎ、己の掌を胸に押し付け。

「アドラー」
クーラは、どこか安心したように名前を呼んだ。

アドラーの死は即ち、ゾルダートの死。
転生の秘法によりアドラーの魂はゾルダートの体に移り、支配する。

「俺は…………」
昏い、青い瞳が、夕焼けを飲み込んで。
青い、青い世界に、赤を閉じ込めて。

「クーラ!!!」

636死神の逆位置、人々の誰そ彼 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:11:11 ID:w7oEcKjg0
「エレクトロ・ゾルダート……!!」

ゾルダートの死も即ち、アドラーの死。

結蓮はがむしゃらに、意識を置き去りにして突進していた。
近接の武器であり波動を生み出す刀を、無茶苦茶に振り回して。

ゾルダートの指先に生じた青い火花は球状の形を得て、波動を突き抜けた。
雷の弾が結蓮を通過して、彼が少女の名前を呼んだ声の余韻がクーラの鼓膜を揺らす。

「アドラー、結蓮……?」
いったい何が起こったのか、クーラはただ、名前を口にする。

「そうか……フフ……」
前後不覚に陥ったクーラの顔を見て、ゾルダートは愉快そうに声の調子を上げた。
悲鳴もなく、クーラは鳩尾に拳を受けて倒れる。

「この身體、魂……くくく、試製一號を喰らい、オリギナールの魂をも喰らって全てを手に入れた……か」
半世紀前の記憶、知識、感情、情報、ずっと無くしていた片割れを取り戻したような気持ちで、ゾルダートはひとりごちる。
パズルのピースはゾルダートの中で組み合わさりその全容を教えた。

「ふ……文字通り、チェス盤を引っ繰り返そうではないか、魔女ミュカレ」
盤上の駒を全て逆さまに、王も女王も兵士も引きずり落とすのだ。
「俺の答え合わせに、貴様も付き合ってもらわねばならん」

気絶したクーラをぞんざいに抱きかかえ、ゾルダートは走る。
一人の『完全者』として。


【アドラー@エヌアイン完全世界 死亡】


【F-5/南東/1日目・夕方】

【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(大)、首輪解除
[装備]:電光機関、包丁
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:ミュカレを倒す、先史時代の遺産を手に入れる。
1:ミュカレの元へ
[備考]
※首輪解除の方法を発見しました
※アカツキを"喰らった"ので、ATPが湧き出てくるようになったので余裕があります。

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:気絶
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す












どうして彼女を助けたかったのか、夕焼け空しか見えない結蓮には、分からなかった。
埋没していく太陽の最後の輝きは空を覆い尽くし、一際美しく。
進退窮まった自分の、回光反照だったのかもしれない、そう結蓮は薄く微笑んだ。

不意に、夕焼けを過ぎた、星を孕んだ黒が結蓮を見つめた。
差し出された手を取れば、体はとても軽く。

ずっと会いたかった、守りたかった彼女はどこか申し訳なさそうな顔をしている。
そうか、と納得した結蓮は彼女と、自分に向けて「一緒に帰りましょうか」と告げた。


【結蓮@堕落天使 死亡】

637死神の逆位置、人々の誰そ彼 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:12:58 ID:w7oEcKjg0
ずい、とそれを、実に感動的なこの世との別離を邪魔する無粋な手。
まるで地獄に引きずり込む……そう、まるで。

「おい、貴様、よもやこのまま諦めて死ぬつもりではないだろうな」
死神のような腕だ。
「呆れた……貴方、死んだんじゃないの」
ああ遠ざかる、安楽な死という救済が遠ざかってしまう。
「死にかけた、というのが正しいな」
どうやら彼としてもこの状況は不服で予想外のようだ。
というか、復活したいのならば、気は全く進まないがこの体を、死体を勝手に使えばいい。
なぜ私を引き止めるのか、と訝しんでるのを察知したアドラーは不機嫌そうに結蓮に答えた。
「それができるならばそうしている、だが思いの外消耗が激しく……俺の魂、生命エネルギーの量だけでは、貴様の肉体を扱うことができん」
「なら潔く死んだほうが……プライドってものがないのかしら……」

いつの間にか、結蓮の手を引いてくれた夜はいなくなっていた。
もしかしたら、自分が都合よく見た幻覚だったのかもしれない、しかし、それとは別になんだか腹が立つ。
目の前に立つ血色の悪い白髪の男、分からないけど、むかつく。
脅かすために死んでやろうか、という思いが、翻って結蓮の意思の力を強くしてしまった。

「プライドのために死ぬのが、その遵守になると――馬鹿馬鹿しい」

不敵な言葉の続きは、現し世に広がった。

「俺にあるのは、誇り高き生のみだ」

極稀にいる、最初から檻を壊している人間。
アドラーはひとしきり、限界を、今再び死を超越した自身に高笑いして。






「しかし……動けん」
(……貴方、本当は馬鹿なんじゃないの?)
――どうしたものかと、考えあぐねた。

【F-5/南東/1日目・夕方】

【結蓮@堕落天使】
[状態]:動けない
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(9/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない、けど、アドラーには腹が立つ
※アドラーに転生されて無理矢理蘇生させられました

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:九割死んでる
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をし、全ての叡智を手に入れる。
※死んだ結蓮の体に無理矢理転生しました、どれだけ転生していられるか、再び他の体に転生できるかは不明

638 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/08(日) 04:15:49 ID:w7oEcKjg0
投下終了いたします。
問題が有りましたらご指摘いただければ幸いです。

639 ◆LjiZJZbziM:2013/09/08(日) 11:44:50 ID:cls91MMk0
投下乙です!
自分の中で答えにたどり着いた両者。
完全者に対峙しようとするゾルダートが、重い……
アドラーはアドラーでシブトいなあw
あ、指摘はザンテツソードの残弾が減ってないので、そこだけお願いします!

ブライアン、結蓮予約します。

640 ◆LjiZJZbziM:2013/09/09(月) 00:53:47 ID:hmrX0RWo0
投下します

641ぼくたちにできること ◆LjiZJZbziM:2013/09/09(月) 00:55:51 ID:hmrX0RWo0
聞こえるのは、一人分の足音だけ。
草木をかき分け、黙々と進む一人の大男の音。
他に音という音は、何一つない。
例えば、男と同じように草木をかき分けて進んでくる音。
例えば、木々をなぎ倒しながらも戦車のように進んでくる音。
例えば、低く唸るような鋭い声。
そのどれも、ありはしないし、ましてや追いかけてくることなど無かった。
気づいている、知っている、分かっている。
痛覚がないとはいえ、体に溜まる疲労やダメージはごまかせない。
銃弾を何発も浴びたズタボロの体で殴り合おうものなら、どうなるかなんて誰でも分かる。
もう、灰児は追ってこない。
あのサングラスが鈍く光ることも、戦車のような豪腕が振るわれることも、もうない。
そこまでだったのだろうか。
"ケースクラス"として呼ばれることは。
呼ばれたくないほどの名前、捨て去りたい過去。
栄光の道を歩んできたブライアンにとっては、縁の遠いモノ。
自分を突き動かすほどの憎しみなど、抱いたことはないのだから。
「……分からねえな」
ぽつりと呟く声が、空しく溶けていく。

そんな弱い言葉を吐き出したとき、一つの影に出会う。
「あ……ら」
倒れていたのは、すらっとした長身の女性……いや、違う。
まるで女性のような気品を持つ、男性だった。
男は、ブライアンを見るや否や何かを告げようとする。
「喋るな」
そんな男を、ブライアンは制止する。
見るからに酷い怪我だというのに、口を動かしている場合ではないからだ。
着ていた服の裾を破り、男の怪我を少しでもマシにしようとする。
「ねぇ、おね、がい」
だが、男はその手ほどきを拒む。
そしてなけなしの体力を振り絞って、弱々しくも力強く、ブライアンに告げる。
「北に……北、西に、つれて、って。おね、がい……」
ブライアンに頼みを告げるその目。
自分がいつかどこかで見たような目。
叶わない夢を掴んだ男の目。
ただ、前に進むことを選び続けた男の目。
そして、強固な決意を胸に抱く自分の目。
そのどれとも一致し、そのどれとも一致しない。
そんな不思議な目の問いかけに、ブライアンは思わず手当の手を止めてしまう。
「……分かった」
深くは聞かないことにした。
彼には時間が少ない、だからこそこんな"お願い"をしているのだろう。
そして、その夢を叶えてやれるのは、今ここに自分しかいない。
ならば、自分が一刻も早く、動き出す必要がある。
自分にできること、精一杯の力で誰かに夢を与えること。

――――アメフトと同じだ。

即座に手当ての手を止め、傷だらけの彼をゆっくりと背負う。
「少し揺れるが、我慢してくれ」
そう一言だけ告げて、ブライアンは走り出す。
彼が告げた方角、雷神が向かった"北西"へ。

642ぼくたちにできること ◆LjiZJZbziM:2013/09/09(月) 00:56:10 ID:hmrX0RWo0



「何のつもりだ?」
小刻みに揺さぶられる頭の中、響くのは冷徹な男の声。
静かに眠るはずだった結蓮を半ば道連れにしてこの世に蘇った男、アドラーの声だ。
「あら、元はと言えば私の体よ? この体の所有権は私にあるわ。
 それに私の魂がなければろくに復活もできなかったんじゃない、むしろ感謝してほしいぐらいだわ」
結蓮の魂を半ば無理矢理捕まえ、己の生命エネルギーとして一体化させ、転生の秘法で蘇る。
ここまでの手順は良かった。
しかし、想像以上にアドラーの生命エネルギーは消耗していたらしく、結蓮の体を乗っ取りきるまでに至らなかったのだ。
まあ、九割ほどが結蓮の魂であったので、それも当然の話ではあるのだが。
瞬間的に結蓮の体の操縦権を握り、動けないことを確認した後に彼の意志に押さえつけられてしまったのだ。
つまり、今のアドラーは結蓮の意志に言葉を投げかける程度のことしかできない。
頭の中で誰か別の人間の声がする、といえばわかりやすいだろうか。
本来ならばその人間の意志を乗っ取りきる秘術も、絞りかすのようなわずかな生命エネルギーではそれが限度なのだ。
「そういう事を言っているのではない」
結蓮の頭の中を飛び回る蝿のように、アドラーは結蓮の意志に言葉を投げかける。
「なぜ、北西に向かう? 傷の手当てが先決だろう」
そう、このままグズグズしていれば死んでしまうのは誰でも分かる。
傷の手当てが最優先事項だというのに、事もあろうか結蓮は男の手当を拒んだのだ。
結蓮はここぞとばかりに、心の中で精一杯ふんぞり返ってアドラーに返す。
「生憎、自分が生き延びることしか考えてない人とは違って、私には考えがあるのよ」
「考え? 自分が死のうというのに、他に成すことがあるというのか?」
「分からなくて結構、でもようやく見つけた私の"やりたいこと"なのよ」
結蓮の言葉に、アドラーは当然のように疑問を返したが、その返答は今までのお返しと言わんばかりのたっぷり盛られた皮肉だった。
「イヤなら私の体から出てもいいのよ? 行く当てがあるかどうかは知らないけど」
「……Scheisse」
体の元々の持ち主、そして体を動かしうるだけの生命エネルギーを持っていること。
この二つで現状優位に立っているのは結蓮なのだ。
結蓮が起こした行動でアドラーがどう困ろうと、結蓮には何の関係もない。
そして、その体に寄生している立場であるアドラーも、宿主である結蓮の決定に従うしかないのだから。
ようやく事態を飲み込んだか、それとも諦めたか。
アドラーは結蓮の意識に訴えかけることを、やめた。



ようやく見つけた、やりたいこと。
死ぬ間際に見つけるなんて、遅すぎるとは思うけど。
それでも、ようやく見つけたから、それだけは成し遂げたい。

クーラを、あの子を、守ることを。

なけなしの力で握りしめられた近代兵器が、カチャリと音を立てた。

【F-5/南東部/1日目・夕方】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"

【結蓮@堕落天使】
[状態]:動けない、アドラーを押さえつけてる
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(9/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない、けど、アドラーには腹が立つ
※アドラーに転生されて無理矢理蘇生させられました

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:九割死んでる、結蓮に寄生してる感じ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をし、全ての叡智を手に入れる。
※死んだ結蓮の体に無理矢理転生しました、どれだけ転生していられるか、再び他の体に転生できるかは不明

643ぼくたちにできること ◆LjiZJZbziM:2013/09/09(月) 00:56:55 ID:hmrX0RWo0
投下終了です。
ザンテツの残弾は◆ZrIaE/Y7fA氏のレスポンスを頂き次第、収録時に修正しようかと。

完全者、ゲーニッツ、ラピス、フィオ、ネームレス、エヌアイン、ルガール予約します

644 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/09/09(月) 01:33:31 ID:1zrNNyL60
投下お疲れ様です!
結蓮の仕返しのターン、できることならこの寄生アドラーの鼻っ柱をへし折るくらい強く生きていってほしい……。
うわああ予約に完全者が……本当に終盤なんですねえ。

それと消費表記忘れ申し訳ありませんでしたザンテツソードの残弾数は

ザンテツソード(3/10)@メタルスラッグ

でお願い致します。
改めて投下お疲れ様でした!

645賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 01:57:42 ID:ZS0TBKDs0
「……草薙の炎。模倣とはいえ、目覚めて間もない龍を屠るには十分だったか……」
すぐそばで立ち上る炎の柱を眺め、完全者は一人言葉をこぼす。
三種の神器の模造品、とはいえ切れ味は一級品ということだろう。
その力に感嘆の息をこぼした時、ふわりと音もなく一人の女が現れる。
「どうした」
「いえ、そろそろかと思いましたので」
何てことはない、ただの事務的なやりとり。
何かを待ちわびているのか、ゲーニッツの表情は明るい。
しかし、完全者は玉座に座したまま、無表情で告げる。
「まだ、少し足りぬ」
ふと、ゲーニッツの表情が険しくなる。
たったそれだけのやりとりで、全てを察しあっている。
何を考えているのか、二人にしか分からない。
「では、私が行きましょうか」
「……そうだな、想像以上に早くなったが、ここは任せるとしよう」
殺し合いは佳境、その時期になって動き出すと言うこと。
それがどう言うことなのかは、おおよそ予想はつく。
しかし、何のため? それがわからない。
「貴様も酔狂な奴だな……」
「貴方ほどではありませんよ」
皮肉にも似た言葉に対し、屈託のない満面の笑みで返してから、ゲーニッツは風となり消える。
それを見送った後、フンと鼻を鳴らし、小さく笑った。

646賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 01:57:52 ID:ZS0TBKDs0
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かつて、二度失敗したこと。
それも、同じ人間に二度も阻害されたこと。
圧倒的な力による人類の支配、そして抗う人間による自分の撃破。
人は、誰しもが黙って支配を受け入れるわけではない。
それは二度の失敗で分かっている。
ならば、それを上回るほど圧倒的な力を手にすれば、誰も彼もを支配できるのではないか。
その答えも、きっとノーだろう。
自分の命を握られているというのに、果敢にも刃向かい続ける人間たちがこれだけ居るのだから。
どれだけ力があっても、どれだけ圧倒的でも、抗う人間というのは現れるものなのだろう。
「……だが」
諦められない、諦められるわけがない。
誰しもが反抗する力を失い、誰しもが身も心も服従し、誰しもが怯えながら暮らす。
そんな、絶対的な支配を。
いつか完全者が世界に向けて敷いた支配より、もっと圧倒的な支配を。
そのヒントと手がかりは、間違いなくここにある。
それを手にするためにも、まずは完全者を撃破しなくてはいけない。
抗う立場になって分かったことも多々ある。
人が、どのようにして支配を嫌うのかもこの目で見届けた。
だから、次は――――
「おや、あれは」
その時、ルガールの視界に一人の男の姿が映る。
黒と白のツートンカラーの頭が特徴的な、全身を黒に染めた男。
その姿は焼け焦げた痕を初めとし、傷だらけであった。
「ぁ……」
男もルガールの姿に気がついたのか、小さく声を漏らす。
だが、それは言葉になることはなく。
掠れるような音として絞り出され、そのまま空に溶けていった。

647賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 01:58:35 ID:ZS0TBKDs0
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「……やれやれ、流石に参ったな」
二人に増えた気絶した人間を横目に、ルガールは苦笑いを浮かべる。
方や神の現実態と呼ばれた一人の少年。
そして、新たに増えたもう一人の気絶した少年。
その体に宿された力が、かつて自分を焼き払った力であることを感じ取る。
しかし、驚いたのはその先だ。
少年の中には、それ以外の力が存在する。
一つはかつて自分が取り込もうとし、不完全なままに終わってしまった力。
そしてもう一つは、かつて自分を焼き払った力によく似ていて、けれど少し違う力。
その三つは互いが互いを殺すことなく、けれど個々を潰すこともなく混じり合っている。
奇跡の力、といっても差し支えはないだろう。
「……興味深いな」
純粋な興味、混じり気のないそれに突き動かされるように、ルガールはゆっくりと腕を伸ばす。

「動かないで」

その手を止める一つの冷徹な声。
顔を動かせば、その視線の先には見覚えのある顔があった。
「特A級国家犯罪者、ルガール・バーンシュタイン。
 この場でその身柄を確保します」
「これはこれは、正規軍のフィオ=ジェルミ上級曹長殿ではないか……ッ!?」
いつものように少しおどけてからかおうとしたルガールの表情が、共学に包まれる。
無理もない、現れた彼女たちには"あるべきモノがなかった"のだから。
「……君たち、どうやって首輪を」
「貴方に質問の権利はありません」
声の調子を変えて低い声で問いかけるも、問いかけははねのけられる。
ロケットランチャーを構えたまま、フィオはじっと動かない。
「まあ、落ち着いて聞いてくれ。この場において私は君たちの味方だ。
 完全者を討伐するという同じ志を持った、な」
「油断を誘うつもりですか?」
両手を広げ、無抵抗をアピールしても聞く耳を持たない。
まるで初めのあのときと同じだ、とルガールは内心で舌打ちする。
「……これだから軍人は嫌いだよ」
「生憎、悪党と口を利くつもりはありませんので」
漏れ出してしまったルガールの言葉にきっちりと応答するフィオ。
重苦しい空気が、しばらく流れる。

648賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 01:58:53 ID:ZS0TBKDs0
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「ルガールがボクたちの味方なのは、本当だよ」
その沈黙を破るように起きあがったのは一人の少年だ。
「あなたは……」
その姿に、フィオは言葉を失う。
「おや、お目覚めかね」
「最悪の目覚めだけどね」
頭を掻きながら、なんとも気だるそうにルガールに応対する。
目覚たすぐ側では険悪な空気、そして少し遠くには先ほどまで一緒にいたはずの少女の死体があり、戦車の姿はない。
現状の理解を進めたいところだが、そのためにはまずこの状況を解決しなければいけない。
「……ともかくさ、彼が"今は"無害って事はボクが証明するから、その物騒なものを下げてくれないかな?」
肩をすくめ、精一杯"無抵抗"を表現する。
ルガールとは違い、端から見れば自分は名の知れていない少年だ。
自分のことを知っているらしき素振りを見せたフィオはともかく、隣の少女にとってはそう映るだろう。
「それと、こいつの外し方教えてよ」
トントン、と首輪をたたきながら取って付けたように言葉を付け加える。
首輪の解除、それは今の自分にとっては喉から手がでるほど欲しい情報だ。
それを失うのは、あまりにも惜しい。
だから、打てる手を全て打っていく。
「……まあ、いいんじゃない?」
「ですが……」
渋るフィオに、少女はにっこりと笑いながら、半目でルガールを見つめて言葉を続ける。
「圧倒的な強者故の余裕、って奴だよね。
 油断作ってあたしたちをサクっとやるほど、あのオッサンは落ちぶれてないよ」
「ほう、そちらのお嬢さんはなかなか話が分かる」
「そりゃどーも」
ルガールの言葉に、少女はわざとらしい一礼で返す。
そのやりとりも一理あると踏んだのか、暫く考え込んでから、フィオはゆっくりとランチャーの照準を下ろした。
「……わかりました、今回はそこの少年とラピスさんに免じて引き下がりましょう」
その一言に、三者の思わずため息が漏れる。
それぞれがそれぞれで、きっと緊迫した思いを抱えていたのだろう。
ひとまずの協定を結んだ四者は、眠る青年を横手に、持てる情報の交換を始めた。

649賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 01:59:16 ID:ZS0TBKDs0
.


何よりも真っ先に行われたのは、首輪の情報交換だ。
設計書に基づいたラピス達の首輪の情報は、確かに信憑性に足る内容だった。
しかし、用心に用心を重ねて、ということで、申し訳ないが寝ている青年で一度実験をしようと言う話になった。
自分の情報に確実性を持っていたラピスは、自分を一度殺しかけた男の首輪を外すことに大反対した。
が、目覚めたときに襲われた場合はエヌアイン達が守るという首輪の情報の対価を出されたことで、渋々了承した。
まあ、結果からすればエヌアインの力で驚くほど簡単に外れたわけだが。

その解除作業の最中、エヌアインはルガールから自分が気絶していた間の事の顛末を聞いていた。
自分との戦いの後、一筋の焔となった男が一直線に走っていったこと。
その炎にルガールの同行者が少女――――フィオの仲間を突き飛ばし、消し炭に変えたこと。
その行為を何らかの手段で読みとった戦車が激昂し、ルガールの同行者を焼き殺したこと。
その戦車にカティが優しい言葉をかけると同時に、蒼い靄がカティの首を掻ききっていったこと。
その靄を追って戦車が町を飛び出していったこと。
全てを、余すことなく聞かされた。
「じゃあ、あの戦車は……」
その話に乗るようにラピスが口を開き、しまったという顔をする。
初めから半狂乱に陥っていた戦車と対話を試み、なんとか情報と理性引き出した男。
その男を葬り去ったと言っても過言ではない行為を、している人間がそこにいたからだ。
「私が、武器を向けなければ……?」
「はいやめ」
全てを察したフィオが後悔の言葉を漏らしかけたのを、ラピスは急いで遮る。
「それより、今はやることあるでしょ」
「……はい」
やさしく微笑むラピスに、涙を拭いながらフィオは答える。
そう、今は立ち止まっている場合ではない。
やることがまだあるのだから、止まってはいられないのだ。

650賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 01:59:37 ID:ZS0TBKDs0
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「う……く……」
その時、倒れていた男が弱々しい声と共に体を起こし始めた。
ふらふらとした頭を"赤"の左手で押さえながら、あたりを見渡していく
「ここ、は」
「目ぇ、醒めた?」
まず、認識したのは無機質に淡々と問いかけをする金髪の少年の姿。
次いで赤いスーツの男、メガネをかけた軍人、そして。
「お前は」
つい先ほど、そう遠くはない過去に。
対峙し、殺すつもりで襲いかかったニット帽の少女が立っていた。
自分を見るその目は、想像以上に厳しい。
「……すまなかった」
思わず言葉が漏れ出る。
止められない、止められるはずがない言葉を吐き出していく。
「だが許してくれとは言わないし、許して貰うつもりもない」
心を入れ替えましたもうしません許してください。
そんな事が通るわけもないし、通すつもりもない。
自分がやってきたことの内容くらいは、理解している。
ただ、今まではそんなことより大事だと思っていたことがあっただけで。
その事実から、目をそらしていただけ。
「俺は、こいつの分も生きなきゃいけなくなった……いや、生きたいんだ」
だから、彼は言う。
己のしてきたこと、その重大さをしっかりと踏まえた上で。
他に"もっとやるべきこと"ができたから。
「完全者を倒すのならば、俺も連れて行ってくれ」
「……そーね」
黙り通していた少女が、口を開く。
その表情は、諦めたような、悟ったような、そんな微妙な顔。
けれど、安心できる。
"嫌悪"されている訳ではないから。
「ま、何があったかは知らないけど、もうアタシたちを襲わないならそれでいいわよ」
「……ありがとう」
男は最後にもう一度、心から漏れ出した言葉を伝える。
「大変です!! みなさん!」
その時である。
メガネの軍人が大声を張り上げて全員の注目を集める。
「端末が……」
手に持った端末を掲げ、慌てふためく声を出す。
あの女の言っていた、自動更新の時間が来たのだろう。
とはいえ、そんなにも慌てる内容が書かれているのだろうか。
ネームレスも、自身が持つ端末を手に取り、書かれた文字を読みとり始めた。

651賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 01:59:47 ID:ZS0TBKDs0



その時だ。
「意外と、早く進みましたね」
優しい声、けれどこの上なく怖い声。
「でも、足りないんです、まだ……」
巻き起こる一陣の風と共に、女が現れる。
「ですから皆さん、私と――――」
それは、この惨劇の終わりを告げる合図であり。



「殺し合いましょうか」



惨劇の先にある絶望の、始まりだった。




【H-07/南西部/夜】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:カティと行動。『正す』以外の方法を知りたい
  1:信じてみる

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。

【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身火傷、ダメージ(小)、オロチの力により徐々に治癒中、首輪解除
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"、K'の制御グローブ"クーラ"(勝手に名づけた)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜5(不律、K'、ターマ分含む)、ビーフジャーキー一袋
[思考・状況]
基本:生きる
[備考]
K'が一度とりこんだオロチの血がinしたため、炎の色が白黒のマーブルになりました
左手にK'の制御グローブをつけ、血の記憶から知った「クーラ」の名をつけました
クーラ本人がこの場にいることはまだ知りません
左手が暴走し、K9999の技「力が…勝手に…ぅわあああ!!」が暴発する可能性があります
オロチの血による身体の活性化のため、現在のダメージは時間で回復していきます

【ラピス@堕落天使】
[状態]:腹部裂傷、オロチと契約、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
1:改竄された歴史に興味。
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。

【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット、ロケットランチャー@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。
1:前を向く

【ゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本:殺しあう

652賽が投げられる ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 02:00:15 ID:ZS0TBKDs0













「  Dー4にて待つ  」
機能を失った端末に書かれていたのは、それだけ。

※全端末にメッセージが表示されています。
※名簿アプリが更新されました
※禁止エリアはありません

653 ◆LjiZJZbziM:2013/09/11(水) 02:01:46 ID:ZS0TBKDs0
以上で投下終了です。
コレより先、私◆LjiZJZbziMは予約を行いません。
まあ、予約による展開バレとかを防ぐためだったりラジバンダリ

もちろん皆さんは平常どおりです。思いついたら予約してください、お願いします!
予約期限も無期(進捗報告一ヶ月くらい)ですので、よろしくです!

654 ◆LjiZJZbziM:2013/09/15(日) 01:32:27 ID:1tJimjGo0
月報集計いつも集計お疲れ様です、あと前回月報は集計ミスしてて申し訳ありませんでした。
PW 79話(+15)  10/55 (-21)  18.9 (- 37.5)

655序幕 -選別- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 00:11:21 ID:NFj8Y1mc0
風が、ふわりと五人を撫でる。
それと同時に、五人がそれぞれバラバラの方向に飛び退いていく。
「ほう、皆さん勘がよろしいですね」
にこやかに笑う女に対し、五人がそれぞれのリアクションを浮かべていく。
撫でる風は予兆、その直後に襲いかかったのは空気の断層。
ぼうっと立っていれば、見えない刃に体を両断されていただろう。
「まあ、そうでなくては勤まらないのですが」
退屈そうに右手首をくるくると回し、他者の様子を伺う。
そんな彼女に真っ先に飛びかかったのは、ルガールだった。
大きなワンステップから振り抜かれる足刀。
初撃から流れるように二撃、三撃と足技のコンビネーションが続く。
「……ルガール?」
その攻撃に違和感を覚えたのは、他の誰でもなく、エヌアインだった。
先ほど、草薙京のクローンと対峙していたときとは違う動き。
楽しんでいるかのような戦いぶりだったのが一変し、余裕のかけらすらも見せず、感情をむき出しにして攻めている。
「ふっ、相変わらずですね」
ルガールの攻撃を軽くいなしながら、にこやかに笑う。
コンビネーションの隙間、そこを縫ってルガールの首筋を掴む。
「もう片方の目も、抉ってあげましょうか?」
そう囁くと同時に、彼女の側面から突き上げるように拳を振り抜こうとするエヌアインが現れる。
瞬時にルガールを離し、飛び退く。
すると飛び退いた先で、待っていましたと言わんばかりに炎と雷が襲いかかる。
宙に浮いた無防備な状態、と思っていたがそうではない。
襲いかかる雷と炎を、起こした風でかき消していく。
消した勢いをそのままに、真っ直ぐにぶつけていく。
が、ラピスとネームレスはその風を甘んじて受けることもなく、最低限の被害になるように避けていく。
「ふむ、なるほど……」
息をつく間も無いような攻めと連撃をしのぎ、一息つきながら彼女は顎に手を置いて一考する。
そんなに時間はないが、今の考えならばまとめるのに時間はいらない。
「……ならば、決まりですね」
ふふっと笑い、ある方向を向く。
そして、もう一度笑った。



「らしくないね」
「奴だけは生かしておけんのでな」
指摘するエヌアインに、ルガールは珍しく悪態をつく。
「何か特別な理由でも?」
「まあ、私怨だ」
「あっそ」
そのやりとりだけでも、ルガールが平常心を失っているのがわかる。

世界的にも有名な武器商人、ルガール・バーンシュタイン。
彼はその昔、一人の男に目を抉られていた。
男の名はゲーニッツ、オロチ一族の末裔の一人。
力を求めるが故、その力に近づいた彼は裁きを受け、代償として片目を奪われた。
そして、今。
彼から片目を奪った男は、どういうわけか妙齢の女性に姿を変え、再び現れた。
空母爆破からぎりぎりの線で命をつなぎ、今日まで生きてきた彼にとって願ってもない復讐の機会。
草薙京に葬られたはずの、"彼"に復讐できる二度とこないチャンス。
みすみす見逃すわけにはいかない。
「足を引っ張らないでくれたまえよ」
「へぇ、突っ走って惨めに死ななきゃいいけど」
まだ、悪態に悪態を返せる余裕はある。
けれど、向こうもまだ全てを出し切っているわけではない。
色んな意味で気が抜けない戦いが、始まる。

656序幕 -選別- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 00:11:50 ID:NFj8Y1mc0
 


歯がゆい。
と、いうより、無力さを感じずには居られない。
一応、軍の防衛術は一通り身につけた。
近接戦闘の類は、出来ないわけではない。
けれど、今の目の前の相手には。
そんな付け焼き刃が通用するわけもない。
他の者が彼女と対等に渡り合っているのは、それに対抗できる異能を持っているから。
自分には、そんなものは何一つ無い。
ラピスにさっき譲って貰ったハンドガンも、役に立ちそうにはない。
「くっ……」
思わず、歯を鳴らしてしまう。
誰かを守るのが、軍人の勤めだというのに。
こんな時にすら、何も出来ずに待つことしかできないのか。
いや、違う。
だからといって、何もせずに待っているわけにはいかない。
一人の人類として、敵と戦わなくては。
銃をもう一度握り直し、感じ取った敵の気配の方へ、足を進めていく。
その彼女の姿を、まるであざ笑うように。
ふわり、と風が撫でていった。



「大丈夫か」
「……殺されかけた奴に心配されるなんてね」
少しふらついたラピスに、ネームレスは声をかける。
だが、返ってきたのは事実という皮肉。
ネームレスは、たった今手をさしのべた少女を、つい先ほどまで殺そうとしていたのだ。
突きつけられた真実に、思わず顔を落としてしまう。
「……すまない、俺は――――」
「あーはいはい長くなりそうだし後で聞く!
 あんたがその炎を操ってる理由も、あんたから彼女を感じる理由も!」
始まりそうだった長い懺悔を、半ば無理矢理遮っていく。
人間、一つや二つや一億個くらい間違いはある。
殺されかけた、という事実は消えないが、そんなことをいつまでもグチグチ言っていられない。
今やるべき事があるし、懺悔は後でも出来る。
「だから、今はあれを倒すのに集中しなさい」
そうして、暗い顔を浮かべるネームレスに見えるように、指をさしていく。
その指先が示すのは、修道服の女。
「……新たに契約を交わした人間と、草薙の血と我らの混血ですか」
ゆらりと音もなく現れた彼女は、ラピスとネームレスをそれぞれ一瞥し、意味ありげに笑う。
「けれど、どちらもまだ力を扱い切れていない」
オロチの力を扱う、新たな人間。
けれど、今し方手に入れた力というのが影響してか、まだ全てを扱いきっているわけではない。
そこに気がつき、更にその先にも気がついた彼女は、問いかけを重ねていく。
「特にあなた、扱い方が辿々しいですね」
「うっさい、こちとら戦いとそこそこ無縁の生活しか送ってなかったのよ」
投げかけられた言葉に、ラピスは露骨に嫌悪感を示していく。
トレジャーハンティングの一環で、殴り合ったり武器を扱ったりする事はあったが、彼女の本業は格闘家ではない。
戦う、ということに関して言えばアマチュアであるし、目の前の敵に対抗できるのも血の力が大きい。
そんな彼女のリアクションを見て、女はもう一度笑みを作る。
「ふふっ、ならば意地でも扱わせてあげましょう」
それとほぼ同時、女が風となり消える。
神経を尖らせていても、その動きを目で捉えるのは難しい。
今の今まで話をしていたラピスだけではなく、そばにいたネームレスも姿を見失ってしまう。
話し中に襲いかかろうとしていたルガールも標的を見失い、エヌアインも驚愕の表情を浮かべる。

657序幕 -選別- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 00:13:52 ID:NFj8Y1mc0
だが、風は誰の頬も撫でることはない。
風が、撫でたのは。
「しまッ――――」
いち早く気づいたラピスが、声を漏らす。
けれど、それは遅すぎる。
その時すでに相手は、標的の目の前に居たのだから。
女が選んだのは軍人、フィオリーナ・ジェルミ。
たったこれだけのやりとりでもわかる、それぞれの戦闘能力と潜在能力。
それらを総合し、彼女の中で一番低かったのが、フィオだった。
彼女は、ゲーニッツは、闘争に拘る。
自身の気と気がぶつかり合い、弾け飛ぶような戦いを望む。
そんな戦いを望む彼女に、気を持たぬ近代兵器は必要ないのだ。
「あなたが一番"使えませんね"」
顎に置かれた手と同時に届いた冷徹な声が、フィオの鼓膜を揺らす。
突然、目前に現れたことに若干の同様を見せながらも、素早く銃を引き抜き目の前の女に向けて引き金を引く。
けれど、引き金と同時に相手は風となり、その場から消える。
「まあ、これから役に立ってくれることを願いましょうか」
次に声が聞こえたのは、自分の真後ろ。
振り向きざまに銃を打とうとするが、間に合わない。
駆け寄るラピスも、エヌアインも、ネームレスも、ルガールでさえも。
誰も、フィオの体を持ち上げる片手を止めることが出来ない。
見た目からは想像できないほどの怪力でフィオの首根を掴み、瞬時に体を持ち上げていく。
がっ、と声を漏らしながら、気道を絶たれつつもフィオは女の眉間に銃を当てようとする。
後少し、ほんの少し力を込めて、引き金を引けばいい。
諦めない、自分たちは、いつだって、前を向いて、やせ我慢して――――
「お別れです」
感情のない、機械のような声。
それと同時に、何もかもを切り裂く突風の渦が生まれる。
駆け寄ろうとしていた四人を弾き飛ばし、吹きすさぶ風となり。
肉を引き裂く音だけが、クリアに響き渡る。

そして、風が止んだとき。

真っ赤な返り血を浴びた女と。

その傍に落ちている、"人"だった肉片が見えた。

「テッ……ッメエエエエエエエエエエエエエッ!!」
怒号と共に紫電を纏い、ラピスが突撃していく。
その技は、かつて紫電を操っていた女のそれとよく似た技。
間近で見ていた記憶が呼び覚まされたか、それとも無意識にその姿勢をとっていたか。
まあ、そのどちらでも構わないのだが。
「そうです、その怒りの力です! もっと力を引き出しなさい!
 そして、私と戦いなさい!!」

炎、超能力、闘気、そして怒りに目覚めた雷。
それら四つと、一筋の暴風。

まだ、戦いは始まったばかりだ。

【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ 死亡】

658序幕 -選別- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 00:14:16 ID:NFj8Y1mc0

【H-07/南西部/夜】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:『正す』以外の方法を知りたい
  1:信じてみる

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。
  1:ゲーニッツの殺害

【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身火傷、ダメージ(小)、オロチの力により徐々に治癒中、首輪解除
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"、K'の制御グローブ"クーラ"(勝手に名づけた)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜5(不律、K'、ターマ分含む)、ビーフジャーキー一袋
[思考・状況]
基本:生きる
[備考]
K'が一度とりこんだオロチの血がinしたため、炎の色が白黒のマーブルになりました
左手にK'の制御グローブをつけ、血の記憶から知った「クーラ」の名をつけました
クーラ本人がこの場にいることはまだ知りません
左手が暴走し、K9999の技「力が…勝手に…ぅわあああ!!」が暴発する可能性があります
オロチの血による身体の活性化のため、現在のダメージは時間で回復していきます

【ラピス@堕落天使】
[状態]:ブチ切れ、腹部裂傷、オロチと契約、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
1:殺す
2:改竄された歴史に興味。
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。
※おそらく、シェルミーの技が使えます

【ゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本:殺しあう

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投下終了です。
こんな感じにゲリラしていくので予約したい人はバシバシキメてくださいね!

659閉幕 -完了- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 21:56:52 ID:NFj8Y1mc0
「るぁぁぁぁぁっ!!」
怒号と共に空間を切り裂く雷鳴。
けれど、その蹴りは風を捉えることが出来ない。
飛び退いた所に、襲いかかるのはルガールの足刀。
先ほどと同じように、一振り二振りと、鋭い蹴りが繰り出される。
もちろん、一度通用しなかった攻撃が二度も通用するわけがない。
初撃、追撃、それらを容易くかわしていく。
続く連撃もそう、簡単に避けれる。
「ぬぅんぁっ!!」
だが、続いた攻撃は蹴りではなく、その勢いを生かした押しつぶす攻撃だった。
上から下へ、突き抜けるように頭を押さえんと延びる手。
舌打ちしながらもそれに対処しようと手を交差させるが、それを妨害する一つの炎。
黒と白のマーブル模様の炎が、一直線に彼女の元へと走る。
それを受け止めるには、さすがに今の姿勢では厳しい。
ルガールの攻撃を止め、風を起こして炎を止める。
少し無理な姿勢から繰り出したその行動は、二つの攻撃を受け止めるコトに成功した。
けれど、同時に膨大な隙を生み出すことになった。
その隙を、見逃すわけがない一人の少年。
「――――飛べッ」
突如として彼女の目の前に現れたエヌアインが、下から上へ拳を振り上げる。
がら空きの腹部に突き刺さったアッパーが、彼女の体をふわりと浮かし、胃の中の空気を絞り出させながら宙へ舞いあげていく。
これを好機と見たルガールが、弧を描くように宙を浮く彼女に蹴りつけていく。
まるで鋭利な刃物のように尖ったそれは、彼女の衣服と柔肌を傷つけていく。
極めつけに、天を登る炎と、天から降り注ぐ雷が、彼女の体に突き刺さる。
この攻撃は風を起こすことでなんとかしのぐことが出来たが、受けた傷は大きい。
それでも、彼女は笑う。
自分が傷つくこと、死に至ること、まるでそれが決められていることのように。
「少々煽りすぎましたね」
すすを払い、こほんと一つ咳払いをする。
傷だらけの体だというのに、イヤに落ち着いているのは、なぜなのだろうか。
「私も、放ちましょう」
同時に、彼女を包み込むように二本の竜巻が巻き起こる。
それは、ぐるぐると彼女の身の回りを回り続け、あたりを飲み込んでいる。
「行きますよ」
ふわり、とワンステップ。
それだけで彼女は瞬時に四人へと肉薄していく。
無防備に殴りかかりに来る彼女へ、四者それぞれが迎撃をしようとする。
だが、それは彼女を取り巻く二本の竜巻が許さない。
迂闊に手を出せば、"持って行かれる"ことくらいは容易に想像がつく。
彼女の振るう手刀が、彼女の振るう足刀が、一挙一動全てが。
回避できない、致死の一撃と化している。
受け止めれば、その間に竜巻の餌食となる。
「どうしました? 早くしないと死んでしまいますよ?」
攻めのチャンスと死の可能性がイコールで結びついている中、圧倒的優位に立っている彼女だけが四人を攻め立てる。
ただ、避けるだけしかできず、四人は次々に分散されていく。
一人、そして一人、ゆっくりと追いつめられていく。

660閉幕 -完了- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 21:57:13 ID:NFj8Y1mc0
.
その初めの標的に選ばれたのは、赤いスーツの男、ルガール・バーンシュタイン。
「おい」
だが、彼は追いつめられているというのに、クールな表情を崩さない。
少し遠くにいる三人に声を飛ばしながら、致死の攻めをかいくぐっていく。
「時間を稼ぐ、君たちで何とかしたまえ!!」
たった一言、それだけを告げ。
致死の攻撃のほんの僅かな隙間を縫い、瞬間的に蹴り上げていく。
僅かに残された衣服に切れ目が入り、新たに露わになった肌から血が流れていくのを確認してから、ゲーニッツは舌打ちをする。
「ところで、一つ気になっていたのですが……どうして、貴方は"そちら側"なのですか?」
そして、この殺し合いが始まっていたときから気になっていたコトを聞く。
「ハハ、決まっているさ」
返ってきた答えは、乾いた笑いに乗せられていた。
「強大な力を手にするためだ」
そう、彼が動くのはいつだって己のため。
更なる力を手にできるのならば、手段は選ばない。
「相変わらず、ですね」
その様子に思わずふふっ、と苦笑いを浮かべてしまう。
「フン、そのためにもまずは貴様に死んでもらう」
苦笑いに対し、吐き捨てた言葉に連動するように、ルガールは地面を撫でる。
「烈ッ、風拳!」
「無駄です」
地をはう小さな烈風は、彼女が動くまでもなく飲み込まれていく。
それどころか、烈風を生み出すのに振りかぶった手のひらの隙を、彼女は逃さず衝いていく。
だが、それはフェイク。
本来の狙いは、彼女に飛びかからせ、攻めの手を与えることだった。
振り上げた手をそのままに、ルガールは全身からバチりと電気のような物を発していく。
それを察した彼女は、自身が乗っていた風に逆らうようにその場から飛び退いていく。
「……外気と干渉するバリアですか、つくづく面倒な技を操りますね」
「今の貴様には言われたくないな」
ルガールが自身を包み込むように練り上げたバリアに、彼女は舌打ちをする。
電気のようで、そうでない、特殊な力。
こちらから攻められないと言うのならば、向こうにも攻めさせなければいい。
何もそれは迎撃に限った話ではない。
向こうにも手負いのリスクを背負わせれば良いだけの話なのだから。
万全でない、けれどリスクを背負わせるには十分なバリアを纏ったまま、ルガールは一人語り始める。
「オロチの力、確かにすばらしい力だ。この身に宿した時の充足感は、例えようのない快感だった、だが――――」
その言葉と同時に、ルガールは彼女の目の前から姿を消す。
竜巻が彼女の身の回りを守っている以上、上空にも攻めの手は存在しない。
だというのに、なぜルガールは空へと舞い上がったのか。
不可解な行動に、彼女は少しだけ首を傾げる。

661閉幕 -完了- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 21:57:41 ID:NFj8Y1mc0
.


「あのさ」
ルガールが前線に立ったその直後、不可解な行動に首を傾げる二人にエヌアインが声をかけていく。
できるだけあの二人に感づかれないように、離れつつもひそひそとした声で。
「あの竜巻破るから、手を貸してくれない?」
続いた言葉に、二人は目を見開く。
その反応を見越していたエヌアインは、特に驚くこともなく言葉を続ける。
ルガールが作っている時間は有限じゃない、だから早くコトを伝える必要がある。
「同等のエネルギーをぶつければ、多分打ち破ることができると思う。
 けれど……相手は命を削ってそれを作ってる。ボク一人じゃ打ち破れそうにもない、だから――――」
「……俺たちの力がいる、か」
「そういうことなら、いいわよ」
言い切ろうとした言葉は、二人の言葉に遮られる。
こくり、と頷いた直後に、エヌアインは己の気を集中し、一気にそれを練り上げていく。
それにできる限り同調するように、二人も呼吸を合わせていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
生まれていく、念力の柱。
その力を消さないように、かつ柱の力となるように、紫電が、モノクロの炎が、柱を包む。
「――――行けッ!!」
ちょうど柱が包み込まれるようにコーディングされたとき、エヌアインが目を見開き、その柱を放つ。
風よりも早く、音よりも早く、光にも達しようと言うほどの勢いで。
地面を引き裂きながら、柱は彼女に向かっていった。

襲いかかる、尋常ではない気。
それをなんとか感じ取り、彼女は身にまとっていた二本の竜巻を放つ。
ぶつかりあう力と力、あたりの建物が震え、空へと舞い上がっていく。
そして、その力と力が干渉しあい、弾け飛んでいく。
気と化したそれらを、四者はそれぞれ防御していく。
手を交差させ、吹き飛ばされないように、その場で防禦に徹していく。
それが、決定的な瞬間だった。
「しまッ」
「逃がさんッ」
防御に意識が傾きすぎていた彼女の姿を、上空のルガールが逃がすわけもない。
あわてて何か動こうとしていた彼女の頭を、縫いつけるように踏みつける。
「がふっ」
首の骨にダメージを与えながら、そのまま彼女の体を倒し、ルガールはその上に乗る。
反撃する間を与えないよう、ボロボロに破れ去った彼女の服の上から体を勢いよく踏みつけ、超高速で回転していく。
引きちぎられていく、肉と骨。
赤という赤をまき散らしながら、その命をえぐり取っていく。
やがて、ルガールのスーツの赤が更に濃くなったあたりで、ルガールは回るのをやめた。
「これだ、これだよゲーニッツ」
もはや息をすることすら難しいであろう彼女に、ルガールは語りかける。
「この人と人が協力しあい、悪に立ち向かう力。
 私も一度それに滅ぼされかけ、実感したのだよ。
 この力を手にできれば、もっと上へ立てるとな」
自身が惚れた力。
そして、自身が手にしようとしている力を。
いずれは、それを手にするのだと言わんばかりに語る。
「ふふっ」
返事は、小さな笑いだった。
「何が可笑しい」
少し眉をつり上げながら、ムッとした表情でルガールが問いかける、が。
「……教えてあげません」
答えを封じたまま、彼女は天に召されていった。

662閉幕 -完了- ◆LjiZJZbziM:2013/09/24(火) 21:58:11 ID:NFj8Y1mc0
.


「終わった?」
「ああ」
見ればわかるコトを、改めて聞いておく。
ここでは何があるかはわからないという、用心した上での問いかけ。
さすがにここまでのスプラッタ死体を見せつけられてまで、生死を疑う理由はないのだが。
エヌアインの記憶の片隅にある要素を、確認しておきたかっただけだ。
「……じゃ、行こ。あいつシバキにさ」
声と同時、死体と真逆の方を向いて歩き出したのはラピスだ。
端末に表示された、完全者からの挑戦文。
一刻一秒でも早く、あの面をブン殴りたいと考えているラピスにとっては、とにかく早く向かいたいのだ。
歩き出すラピスに続いて、ネームレス、エヌアインもその後ろを歩きだしていく。
かつかつと歩みを進める三人の背を見つめ、ルガールもその後ろを追おうとする。
だが、足を一歩踏み出す前にくるりともう一度だけ死体の方を向く。
そして瞬時に腕を伸ばし、ほぼ首だけとなったゲーニッツの頭部をその手に掴む。
「……借りは返させてもらったぞ、ゲーニッツ」
いつの日だったか、抉られた右目と同じように。
死体の右目を抉り抜き、ついでになけなしの力を吸い取って。
まるで絞り粕を捨てるように、頭部を放り投げ。
ルガールも、若者三人の後ろを着いていくように歩き始めた。

向かう先は、決戦の場所。

【ゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【H-07/南西部/夜中】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:『正す』以外の方法を知りたい
1:決戦へ
2:信じてみる

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。
1:決戦へ

【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身火傷、ダメージ(小)、オロチの力により徐々に治癒中、首輪解除
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"、K'の制御グローブ"クーラ"(勝手に名づけた)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜5(不律、K'、ターマ分含む)、ビーフジャーキー一袋
[思考・状況]
基本:生きる
1:決戦へ
[備考]
K'が一度とりこんだオロチの血がinしたため、炎の色が白黒のマーブルになりました
左手にK'の制御グローブをつけ、血の記憶から知った「クーラ」の名をつけました
クーラ本人がこの場にいることはまだ知りません
左手が暴走し、K9999の技「力が…勝手に…ぅわあああ!!」が暴発する可能性があります
オロチの血による身体の活性化のため、現在のダメージは時間で回復していきます

【ラピス@堕落天使】
[状態]:ブチ切れ、腹部裂傷、オロチと契約、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
1:決戦へ
2:改竄された歴史に興味。
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。
※おそらく、シェルミーの技が使えます

663名無しさん:2013/09/25(水) 21:50:16 ID:eJYlm/3g0
あれ、これもう最終回に!?

664 ◆LjiZJZbziM:2013/09/25(水) 22:46:04 ID:12e8HLWM0
忘れてました投下終わってますよ
忘れててごめんNE

665新世界より ◆LjiZJZbziM:2013/09/26(木) 23:14:12 ID:OzqvryuE0
「……ここか」
ぴたりと足を止め、上を見上げる。
池の上を浮かぶ球場のような施設に向かい、階段が真っ直ぐに延びている。
登ってこい、ということか。
「随分、余裕だな……」
待ちかまえて居るであろう存在に向け、悪態をついてから一段ずつ階段を登る。
その一段一段が、反逆への一歩。
長きにわたり夢見た場所が、もうまもなくに迫っている。
そう考えると、胸の高鳴りが止まらない。
"こんなこと"から始まった、自身の野望が叶うときが来たのだと。
長く、そして短いときだったと。
様々な思考が、揺れる。
頭の中を渦巻くさまざまなものをまとめながら、一歩、また一歩と階段を登る。
そして、ようやく階段の終わりにさしかかってきたあたり。
開けた空間が、彼の目に映る。
飛び込んできた景色は、想像していなかった景色だった。

赤、赤、赤。
一面を塗りたくるように広がったそれは何か?
嗅ぎ慣れた臭い、どろっとした液体、四散するそれ。

そこに広がっていたのは、血だった。

しかし、初めにはこんなおびただしい血は流れていなかったはずだ。
精々完全者が見せしめに殺した男、カルロス一人分ぐらいしか無いはずなのに。
今、開けたこの場所の一面すべてに、赤が広がっている。

もう一歩、もう一歩と足を進めるごとにその正体が分かる。
よくよく目をこらせば、赤の周りには小さな固まりが落ちている。

――――肉だ。

旧人類を狩っていたからこそ、わかる。
赤を作っていたのは血ではなく、細々に引きちぎられた肉だった。
ようやくたどり着いた広間の第一歩目が、地面とは違う感触だったのはこれが原因か。

「一体、何が」
抱えていた少女を落としながら、彼はそう呟く。
すると、怒号に近い叫び声が広間に響いた。
声の方へ視線を移せば、自分と同じ電光兵士と、自分たちをいつも見下していた聖堂騎士が怒りに狂っている。
怒りの先には、足を組んで玉座に座したまま動かない完全者。
聖堂騎士が超速で肉薄し、剣を振るう。
電光兵士が超速で肉薄し、拳を振るう。
が、そのどちらも完全者を傷つけるには至らない。
振るっていたはずの剣も、拳も、完全者に当たる前に。

爆発して、砕けて、散っていったからだ。

それを操る、者ごと。

言葉を、失う。
一体何が起こったのか、理解できなかったから。
足を組んだまま微動だにしない完全者が、一体どうやって二人を爆破させたのか?
頭を悩ませている間にも、数多の聖堂騎士と数多の電光兵士が完全者に向かっていく。
けれど、一撃たりとも彼女に届くことはない。
爆発、爆発、また爆発、赤い花火が咲き誇るばかり。
当の完全者は小指の一本も動かしていない。
一体、何が起こっているというのか。

666新世界より ◆LjiZJZbziM:2013/09/26(木) 23:14:45 ID:OzqvryuE0
.
しばらく、呆けているうちにコトは終わったらしい。
足を踏み入れたときよりも一層濃くなった赤の中に、彼はぽつりと立ちつくす。
「――――この体は、ヴァルキュリアの物だ」
ふと、聞こえた声に振り向くと、そこには先ほどまで遠くで玉座に座していた完全者の姿。
一体、いつの間に? と疑問を抱くと同時に、完全者の言葉の意味を噛みしめる。
「あの時、奴が"神の現実態"に倒されたとき、転生を試みた。
 我の力の方が、奴より上回っていたというだけだ」
神を、取り込んだというのか。
確かに、エヌアインとの闘いで戦神ヴァルキュリアはその力を弱めたという。
けれど、本当にそれだけで、この女に乗っ取られてしまうものなのだろうか?
「まあ、確かにすばらしい素体だ。力は溢れんばかりに沸き出してくる。
 今、見ていたように貴様等の命を奪うことなど、容易いコトだ」
片手を握っては開き、ニヤリと笑う。
今し方繰り広げられた惨劇、それは確かに彼女の手によって齎されていた光景だ。
他者を、何もかも圧倒する力。
「なぜ――――」
「この殺し合いを開いた、か?」
直感的に繋がった言葉の先を、告げられる。
そう、今のような殺戮劇が繰り広げられるのならば、この殺し合いの意味がない。
彼女の目的は、旧人類の"救済"。
その力があれば、それは容易いことだろうに。
「……確かに、我のこの力があれば、こんな七面倒なことをせずとも人類を救済ってやることができるだろうな。
 だが、全ての人類を救済ってやるまで、我の救済は終わらぬ。
 ありとあらゆる人類を救済うため、この殺し合いは開かれた」
電光兵士が問いかけようとしていた事のその先の先まで、彼女は口を開く。
けれど、口を開けば開くほど、その言葉を理解することは難しくなっていく。
「……どういう事だ?」
「まあ、分からんだろうな」
思わず零れた言葉に、完全者は憎たらしく笑う。
「我の力では、あまりに強大すぎるのでな。貴様等と戦っても"蹂躙"にしかならぬ。
 それでは、成り立たぬ。我の望みは成り立たぬのだ」
わざとらしくマントを広げながら、手を掲げて完全者は語り続ける。
「旧人類独特の怒り、悲しみ、闘争、気と気のぶつかり合い。
 同等のレベルだからこそ起きるそれらから得られる、闘いの力が必要だった。
 我の望みを叶えられるのはそれしか無かった故に、この殺し合いは開かれた。
 力のある者、力のない者、ある程度は無作為に選んだ。
 力のない者が力を手にしようとする姿、力のある者同士が闘いに耽る姿、そこにある悲しみ、怒り、力。
 それが起こることが、我の望みへの鍵となる」
完全者の語る事、人類の救済のその先の望み。
それが何なのかは、全く見当もつかない。
小さく舌打ちをしてから、電光兵士は次の問を投げる。
「……ではなぜ、手下を皆殺しにした」
「フン、闘気は既に極限近くまで満ちた。あと少し足りない物を補っているだけに過ぎん、それは――――」
答えと同時、どこに潜んでいたのか知らないが、一人の聖堂騎士と一人の電光兵士が完全者の背後から襲いかかる。
「深い、絶望と」
完全者は振り向くことすらせず、笑う。
「己を見失う、狂気」
死角のはずの背後の攻撃を、確認もせず。
「それは、蹂躙によって齎される」
ただ、笑うだけ。
それだけで、襲撃者二人は爆発する。
「そのために丁度いい木偶人形を使おうが、我の勝手であろう?」
電光兵士を見るその顔は、どこの誰よりも狂っていて。
そして、美しい笑顔であった。
「……許せねえ」
怒りに震えた声は、電光兵士の背後から聞こえた。
この広場にたどり着き、暫く完全者の話を聞いていた男、ブライアン・バトラー。
その顔には怒りが浮かび、拳は小刻みに震えている。
「何を怒っている? むしろ光栄に思えば良いではないか」
そんなブライアンの姿を見てもなお、完全者は笑う。
「旧人類が死滅する"終わりの日"の糧になり、その瞬間を見届けられるのだからな」
仰々しく両手を広げ、完全者はそこにいる者たちを挑発する。
「さぁ、どうする? それでも、今のを見ても、我と戦うというのか?」
ブライアンの拳を作る力が増し、爪が少し食い込んで皮膚を裂く。
けれど、何もできない。
まず、己の首には命を握る首輪がある。
そして何よりも、今の力を見せつけられた上で挑むことなんて、出来ない。
殺されるとわかっているのに挑むのは、バカのする事だとわかっているから。
生きてこそ、生きて勝ちを掴まなければいけないからこそ。
ブライアンは、完全者に襲いかかることが出来ない。

667新世界より ◆LjiZJZbziM:2013/09/26(木) 23:15:07 ID:OzqvryuE0
.
「ク、ククク……」
その時、突然隣の電光兵士が笑い声を上げ始めた。
片手で顔を押さえつけ、髪を掻き上げるような仕草と共に、笑い続ける。
「どうでもいいな……」
その様子にブライアンは不思議な感覚を覚え、完全者は笑みを消して電光兵士を睨み続ける。
「俺の目的ははじめからただ一つ」
先ほどの完全者のように両手を横に広げ、電光兵士は語り続ける。
「完全者ミュカレ、貴様を――――」
そして、すうっと息を吸って、完全者を指さし。
「殺すッ!!」
弾丸のように駆けだし、右足を大きく振るう。
「ほう、その力……ははっ、そういうことか」
ぶぅん、と風が切れる音を電光兵士の背後で聞き、完全者は笑う。
一時も目を離していなかったというのに、いつ動いたというのか。
それを考えると同時に振り向きざまに拳を振るうが、当たらない。
その拳を振るった直後に、完全者が背後にいるから、当たらない。
「良いのか? 我を殺すのならば、そんな"手抜き"では当たらんぞ」
クククと笑いながら、見下ろすように電光兵士を嘲る。
挑発に動じることなく、電光兵士は静かに完全者を睨む。
一般の電光兵士ならば、自分の身が瞬時に溶けて無くなってしまうレベルの高速稼働を始める電光機関。
だが、この電光兵士の体は溶けない。溶ける訳がない。
彼の身体に宿っているのは、血と、肉と、心。
自らの望みを叶える為の力を手にするまでは、絶対に溶けない、折れない。
そして、完全世界が開いていく。
完全者を殺す、たった一つシンプルな目的に向け。
電光兵士は、己にある全てを、力に回す。
「Sterben!!」
今までとは違う、全身全霊を込めた攻撃。
風にも、音にも、雷にも、光にも到達せんとするその一撃。
たった一撃、それで全てを終わらせるために。
彼は、光となる。

そして、すれ違う瞬間が迫る。

その時を前にして、完全者は。

銃剣を、振り抜いた。

ズレる、世界。

崩れ落ちるのは。



――――電光兵士。



赤い軍服に、斜めの一閃。
それを抱きながら、電光兵士は眠りにつく。
もう動かない、もう何もすることは無い。
先に砕けて散っていった、仲間たちと同じ末路。
野望も、夢も。

そこにはない。

完全者は通り過ぎていった死体を振向くことなく、銃剣を振るう。
剣先についた血を飛ばして銃剣から手を離すと、銃剣は音もなくどこかへと消える。
「つまらん」
吐き捨てた一言は、感情も何も籠もっていない。

男はただ、見ていることしか出来なかった。
一人の人間を背負ったまま、短時間のようで物凄く長い時間を。
ただ、見つめているだけ。

その時、からんからんと軽い音が響く。
足元を見ると、そこには先ほどまで自分達の命を握っていたはずの首輪の残骸が、転がっていた。
「さて、貴様等はどうする?」
そこで、完全者は問う。
「ここで我に逆らって死ぬか」
丁度起きた少女に。
「ここで何が起こるかを見届けるか」
現世に留まれる時間は少ない男に。
「選ぶ権利を、やろう」
そして、"勝つ"ためにここに来た男に。

選択を、迫る。

【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界 死亡】

668新世界より ◆LjiZJZbziM:2013/09/26(木) 23:15:54 ID:OzqvryuE0
.
【D-4/スタート地点(高原池)/1日目・夜中】
【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す

【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"

【結蓮@堕落天使】
[状態]:動けない、アドラーを押さえつけてる、首輪解除
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(9/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない、けど、アドラーには腹が立つ
※アドラーに転生されて無理矢理蘇生させられました

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:九割死んでる、結蓮に寄生してる感じ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をし、全ての叡智を手に入れる。
※死んだ結蓮の体に無理矢理転生しました、どれだけ転生していられるか、再び他の体に転生できるかは不明

669 ◆LjiZJZbziM:2013/09/26(木) 23:16:07 ID:OzqvryuE0
投下終了

670名無しさん:2013/09/27(金) 00:30:37 ID:Zd.mitis0
投下乙です
ズーパーゾルダートがこうもあっさりとやられるとは… かなりの絶望感ですね
あと乗り捨てされたと思われるアノニムボディがどうなったのか気になります

671救済への階段 ◆LjiZJZbziM:2013/09/27(金) 21:43:30 ID:LqXQWqxI0
一人の電光兵士が、死んだ。
時を同じくして、とある場所で一人の男が笑みを浮かべていた。
現世にはいない、けれど確かにいる一人の男。
結蓮の中に住まうアドラーは、次とない好機を手にしようとしていた。
「おい、結蓮」
アドラーは、結蓮の意識に語りかける。
表に出てくることは出来なくても、彼の意識に語りかけるくらいは出来るのだ。
「貴様の生命エネルギーを少し俺に寄越せ」
「お断りよ」
ストレートな問いかけは、即座に却下される。
もちろん、アドラーもその返答が返ってくることは読めていたので、その理由を述べる。
「貴様の体から出て行くのに、この俺のエネルギーだけでは足りんのだ」
「だからって、死人から奪うことないじゃないの」
今、アドラーの生命エネルギーは非常に弱い。
結蓮から出て行く課程で使い切ってしまうほどには、弱り切っている。
本来、転生はエネルギーのロスなどほぼ無くできるはずなのだが、ここではどういったわけかそうもいかない。
生きている人間に転生でもしようものなら、転生先の強い意志に押さえ込まれるなり弾き飛ばされるなりして終わりだ。
故に、死にかけやら弱りかけの人間ないし生命にしか転生が出来なかった。
その課程でもエネルギーのロスが起こっているのは理解しがたいことなのだが……。
それはともかく、アドラーは本題に入る。
「今し方死んだ木偶の体を奪えば、少なくとも今貴様が持っている兵器よりはヤツに立ち向かえる」
たった今、完全者に斬り伏せられて死んだ電光兵士。
ほぼ全ての生命エネルギーを力に変換して一撃を放ったため、その体に魂など欠片も残っていない。
強化された肉体のおかげか、完全者の斬撃も胸に傷を付ける程度ですんでいるのがポイントだ。
もし、あの体に再び生命エネルギーを吹き込むことが出来れば。
アドラーは再び"アドラー"として戦うことが出来るだろう。
「それに、お前も見ただろう。あの女はそんな兵器一つでどうにかできる存在ではなくなっている。
 ……クーラを守るなら、この俺に力を貸せ」
そしてもう一つ、たった今見た現実を突きつける。
まだ、戦う相手が電光兵士だったならば近代兵器も役に立ったかもしれない。
けれど、戦う相手は変わった。
この殺し合いを支配する悪魔、完全者へと変わった。
自身が先ほど苦戦した電光兵士を、あんなにも簡単に殺してしまう存在を相手に。
死にかけの男が近代兵器を握りしめたところで、何もできないのだ。
重々わかっている現実、守りたくても守れない現実。
それを心の中で何度も何度も噛みしめながら、結蓮は結論を出す。
「ねえ、アドラー。私はあなたのことがすっっっっごく嫌いよ」
まず、吐いたのは心の底から絞り出した皮肉。
「でも、言ってることも一理ある。
 あれを見せられちゃ、勝てっこないわよね」
そして、アドラーの言っていることへの理解。
「この兵器は、ブライアンでも使える。けれど、電光機関……だっけ? を使えるのは貴方ぐらいしかいない。
 ……悔しいけど、任せるしかないわね」
最後に示したのは、受け入れの姿勢。
自身の存在が誰かを守れる力になるのならば。
今にも死にそうな男が、何かの力になれるのならば。
その力となる方が、幾分かいい。
「守りきれなかったら、一生呪ってやるんだから」
最後にもう一つだけ、釘を刺すように皮肉を言う。
「フン、まあ見ていろ」
言葉と共に、スっと力が抜けていく。
結局、啖呵を切ってみたはいいけれど、何も出来なくて。
少し悔しいけど、仕方がない気もする。
じわりじわりと視界が、白に染まっていく。
そして、白が少しずつ失せていって、色を取り戻していって。
見覚えのあるカウンター、薄暗い店内に、柔らかな酒の香り。
カランカランとシェイカーの音が響く。
音の方を向けば、いつもの光景。
それを見て、結蓮は何だか嬉しくなって。
ふふっ、と小さく笑みをこぼした。

672救済への階段 ◆LjiZJZbziM:2013/09/27(金) 21:44:20 ID:LqXQWqxI0
.


手にした力。
するりと結蓮の体から抜け出し、完全者の後方に倒れる電光兵士へと向かっていく。
転生とは言ってしまえば概念の移動、人間が目視することは出来ない。
時間にしてしまえば、たった数秒の出来事。
人類が関知することは、出来ないはず。
「のう、アドラー」
けれど、彼女は違った。
「貴様は違和感を感じなかったのか?」
丁度、横を通り過ぎる辺り、まるでその存在を認識しているかのように語る。
「普段出来る転生が上手く行かぬこと、普段よりも消耗が激しくなっておること、そして……他者の自我を押し込むことが出来なくなっていること」
感じていなかったわけではない違和感を口に出され、アドラーは少し気分を損ねる。
転生を操る以上、自分がその違和感を抱いていないわけがない。
いったいこの女は、何を伝えたいのか? と考えていた矢先だった。
「まあ、貴様が大馬鹿者だったことに感謝しよう」
完全者は、すれ違いゆくアドラーに対して。
振り向かずに笑いながら、そう言ったのだ。
「なッ……!?」
同時に感じる、生命エネルギーの乱れ。
転生途中のエネルギーは何者にも干渉することは出来ない。
そのはずなのに、なぜエネルギーが乱れるのか。
「なんだこれはッ! おいっ! やめろッ! 貴様ァッ!」
アドラーの心が、命が、魂が、削がれていく。
まるで何かに吸い寄せられるように少しずつ、けれど確実に。
理解できない事象に、アドラーは出せない声を荒げていく。
「ふざけるな、認めぬ、俺は、俺は認めんぞぉぉぉぉっ!!」
叫び続けてなお、生命エネルギーの損失は止まらない。
長らく忘れていた、死の恐怖。
同時に彼の目に映ったのは、大蛇の大きな大きな口だった。



かしゃん、と結蓮の握っていた近代兵器、エネミーチェイサーが地面に落ちる。
何事か、とブライアンが落ちた兵器を見ると同時に、しがみついていた結蓮がするっとブライアンの背から落ちていく。
その光景を見たクーラも、結蓮をこの場に運んできたブライアンも、同時に理解する。
結蓮はもう、いない。
「丁度良いときに来たな」
そんな悲しみに明け暮れる間もなく、完全者は口を開く。
背後から感じた人の気配に振り向くと、そこには四人の男女が、特にクーラと同年代の少女が鬼の形相で完全者を睨んでいた。
「よく来たな……この殺し合いを生き延びし者たちよ」
先ほどまでブライアンの目の前にいたはずの完全者は、途端に距離をおき、玉座に腰掛けたまま笑う。
その態度に怒りを表した少女が、一直線に駆けだしていく。
「だが、貴様等には我の望みの為にもう一働きしてもらう」
それを気にすることなく、完全者は言葉を続け、指を鳴らす。
ふ、と広場の中央に現れた、ゲーニッツとはまた違う修道服を身に纏った女。
その女は、まるで死んでいるかのようにぴくりとも動かない。
「さあ、足掻け」
完全者の声に呼応するように、修道服の女の体がびくりと跳ねる。
そしてゆっくりと空へと舞いあがり、間もなくして目映い閃光を放つ。
アメフトのトッププレイヤーも。
氷の力を植え付けられた少女も。
炎の力を植え付けられた少年も。
遺跡発掘や探検が好きな少女も。
孤独を拒み続けた神の現実態も。
圧倒する力を求める悪の帝王も。
みな、等しくその光に包まれた。


.

673救済への階段 ◆LjiZJZbziM:2013/09/27(金) 21:44:39 ID:LqXQWqxI0
転生するにおいて重要なこと。
それは転生の技術も必要だが、そのほかにも重要な要素がある。
言ってしまえば、転生されるのに向いている体というのがあるのだ。
魂を下ろしても、その吸着が弱ければろくに扱うことは出来ない。
逆に弱ってしまった自分の意志が、元の人間の意志に負けてしまうことだって珍しくはない。
そして、ごく希にどんな魂でも吸着し、その力をふんだんに振るうことが出来る体の持ち主がいる。
一部の地方では十種神宝の一つ「死返玉」とも言われることがある。
かつて、完全者ミュカレがカティの体を借りていたとき、彼女は敗れ去った。
だが、それはただの敗北ではない。
勝てるはずの戦にわざと負けたのだ。

何故か? 単純な話である。

自我がある程度弱く、それでいて他者の魂を受け入れやすい器が洗われたからだ。
信仰心は、時に人の心を弱くする。
完全者ミュカレが、その要素を見逃すはずがなかった。

こうして、ミュカレはカティの体を捨て、一人の修道女の体に転生した。
ある種の賭に、彼女は勝ったのだ。

そして時は過ぎ、増幅された力を手にした彼女は、神の体を乗っ取ることを決行した。
その際に、今の素体である修道女の肉体を、魂を封じ込めたまま眠らせておいたのだ。



そして、今。
神を信じ続けた一人の女の体に。
神が、舞い降りる。
「我の血を引きし者よ」
白く光る閃光の中、揺らめく不思議な声が響く。
「ぐあッ……」
「うわ、何っ、コレっ!」
そのうち、完全者に向かっていった少女ラピスと、生きることを決めた少年ネームレスが、頭を抱えてうずくまり始める。
脳味噌を直接揺さぶられているかのような衝撃、絶え間なく続くサイレンのような頭痛。
立っていることすら難しい痛みに、思わず倒れ込んでしまう。
「目覚めよ」
続いた一言と同時に、光が失せていく。
変わっていたのは、そこにいた者たちを三つに分断するかのように裂けた地面。
さらに先ほどまで立っていたはずの場所まで、変わっていて。
白く輝く女から少し離れた場所で、二人がうずくまっている。
「「があああああああああああああああああ!!」」
やがて、獣のような咆哮が広場に響き渡る。
それは、これから始まる一つの戦いの始まりだった。

674救済への階段 ◆LjiZJZbziM:2013/09/27(金) 21:45:01 ID:LqXQWqxI0



白と黒、見たこともない炎。
身を焼かんと迫ってくるそれの奥、彼女は一人の男に被る姿を思い出していた。
「K'?」
それは、いつも側にいた男の姿。
組織を抜け出してから、はじめはギクシャクしていたけれど、少しずつ打ち解けていった男。
「違う、でも、K'と同じ……」
目の前の少年は、彼とは全く違うはずなのに、どこかに彼を感じてしまう。
それは、彼が片手につけている赤いグローブが彼の者と似ているからか。
いや、それだけではない。
男の放つ白黒の炎から、彼の気配を感じているのだ。
「クー……ラ? イゾ……ルデ……」
「……ッ!?」
攻撃を繰り返す男の口から漏れた言葉。
それは、自分の名前と知らない誰かの名前。
どうして、自分の名前を知っているのか?
どうして、彼はK'と同じグローブをつけているのか。
どうして、白い炎からK'を感じるのか。
わからないことが、沢山ある。
だから、彼女は決める。
「待ってて、今、クーラが助けてあげるから!」
暴れ続けながら炎をまき散らす彼を、救ってやると。



「あー、くそっ、こん、にゃろっ!」
がら空きのブライアンの体にたたき込まれるはずだった拳は、すんでのところで止まる。
「おい、大丈夫か?」
「大丈、夫だったら! こんっなに、悶えってないって!」
傍目から見ても異常な姿、わかっていてもブライアンは問いかけずにはいられなかった。
自分の意志とは違う何かが、自分の体を動かそうとしている。
彼女は、それに抗っているのだろう。
「これ……押さえ、るのちょっ、と時間かかるな」
彼女が抗っていられるのは、契約してからまだ日が浅いからか。
それとも契約を結ばせたオロチの女が、彼女を守ろうとしているのか。
何にせよ、まだ人としての自我を保つことが出来ている。
「ねえ、お願いが、あるんだけ、どさ」
その自我が残っているうちに、彼女は目の前の男、ブライアンに願いを託す。
「あたしが、暴れ出したら、あたしをブ、ン殴って」
自分が暴れ出して、誰かを傷つけしまう前に。
ましてや、完全者の望みを叶えてしまう道具になってしまう前に。
自我を、取り戻すための願いをつなぐ。
「殺され、かけそ、うになっ、たら、あたしを、殺して、もいい」
もし、勝てなかったら。
その時は殺してもらおうとまで、決めていた。
少なくとも、あのくそったれのおもちゃになるくらいなら。
死んだ方が、マシだ。
「ちょっと待てよ!」
「ごめ、長くはせつめ、できなァァァッ!!」
詳細を問おうとしたブライアンの前で、少女、ラピスの体が大きく跳ねる。
こうしている間にも、彼女は彼女自身に流れる血と戦っているのだ。
体を支配する、覇権を手にするために。
「チッ……くそったれ!」
今は何も出来ず、ただ立ち尽くす。
けれど、ずっと何も出来ない訳じゃない。
結蓮が残した兵器を横に携えながら、ブライアンは少女のすぐ近くで、その姿を見守り始めた。

675救済への階段 ◆LjiZJZbziM:2013/09/27(金) 21:45:16 ID:LqXQWqxI0



「……ほう、コレがオロチ。私がかつて手にした力の源流か」
「いかにも真打ち、って感じだね」
神々しく輝く白髪の女の体を見て、ルガールは笑う。
かつて自分が手にしようとして、そして内部から食い破られた力を前に、笑う。
オロチとは、地球意志の力。
招かれた時空のゆがみにより弱まった封印が、ふんだんにたまった闘気を鍵に解かれ、舞い上がる人々の魂を食らって蘇った。
完全者アドラーの転生に違和感があったのも、目覚めゆくオロチが魂を食らっていたから。
無論、それを知るのは完全者ミュカレただ一人なのだが。
「たぶん、隣を気にしてる余裕はないかな」
「まあ、そうだろうな」
両端で始まろうとしている戦闘を横目に、エヌアインは自分のグローブをはめ直す。
神を謡う戦乙女に続き、次は地球意志を謡う存在。
隣の男と協力しても、二人で勝てるかどうかは正直言って怪しい。
気を研ぎ澄まし、光り輝く女を睨む。
「行くよ」
「言われずとも」
そして、憎たらしくもこの場で一番信頼できる男に一声かけて。
勢いよく、飛び出していった。

始まりの地、そこで繰り広げられる三つの戦い。

それを目にしながら、完全者ミュカレは。

静かに、笑う。

【結蓮@堕落天使 死亡】
【アドラー@エヌアイン完全世界 死亡】

【D-4/スタート地点(高原池)/1日目・夜中】
【アノニム(オロチ)@エヌアイン完全世界(THE KING OF FIGHTERS)】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本:

【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:『正す』以外の方法を知りたい
1:オロチの撃破
2:信じてみる

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。
1:オロチの撃破

【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身火傷、ダメージ(小)、オロチの力により徐々に治癒中、暴走、首輪解除
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"、K'の制御グローブ"クーラ"(勝手に名づけた)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜5(不律、K'、ターマ分含む)、ビーフジャーキー一袋
[思考・状況]
基本:――――
[備考]
K'が一度とりこんだオロチの血がinしたため、炎の色が白黒のマーブルになりました
左手にK'の制御グローブをつけ、血の記憶から知った「クーラ」の名をつけました
クーラ本人がこの場にいることはまだ知りません
左手が暴走し、K9999の技「力が…勝手に…ぅわあああ!!」が暴発する可能性があります
オロチの血による身体の活性化のため、現在のダメージは時間で回復していきます
オロチに血を暴走させられたため、制御が出来ずにいます

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:K'達を探す
1:ネームレスを助ける

【ラピス@堕落天使】
[状態]:ブチ切れ、腹部裂傷、オロチと契約、血と格闘中、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
1:血を押さえ込む
2:改竄された歴史に興味。
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。
※おそらく、シェルミーの技が使えます

【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"
2:ラピスを止める

676 ◆LjiZJZbziM:2013/09/27(金) 21:45:52 ID:LqXQWqxI0
投下終了
最終決戦ですね!

677 ◆LjiZJZbziM:2013/09/27(金) 21:47:28 ID:LqXQWqxI0
すんません
【D-4/スタート地点(高原池)/1日目・夜中】
じゃなくて
【D-4/スタート地点(高原池)/1日目・真夜中】
です。

678人様ナメてんじゃねえよ ◆LjiZJZbziM:2013/10/18(金) 01:06:49 ID:SCxYhBBs0
「が……あ、ぐ、うあ……ッ!」
全身を四方八方に捻り、頭をかきむしり、ただひたすらに耐え続ける。
体の中から強火でじっくりと焼かれるような感覚と、戦い続ける。
折れれば終わり、この体を支配されてしまう。
そうなったときの為に、隣の男にはお願いをしてあるが、出来ればそうはなりたくない。
だって、自分もまだ生きたいのだから。

けれど、けれど、このままなら。
きっと"ラピス"は居なくなってしまうのだと思う。
地球意志だかなんだか知らないクソッタレに、か弱い女子高生の体が乗っ取られてしまうのだ。
そんなことは、許せるはずがない。
けれど、息巻いたところで何がどう変わるわけではない。
平行、ないしこちらが少し不利な状況が続いたままだ。

「お、ぐぇっ、ごはっ」
少しばかり血の混じった胃液とともに、空気の塊を吐き出す。
ゴパッと泡が弾ける不快な音と、液体が地面に衝突する不快な音が合わさる。
けれど、倒れない。
人間の限界まで前のめりになるだけで、倒れない。
まだ、自分が自分自身であると、言い続けることが出来ているから。
この手は、この足は、この目は、この体全ては。
ラピスという、一人の少女の持ち物であると、声を大にして叫ぶことが出来るから。

けれど、その意志はじわりじわりと焼かれ続ける。
そんな間にも地獄のような痛みは続き、我が身を苦しめていく。
いや、苦しめられているのは、"自分"そのものか。
相手は"自分"ではないのだから、言ってしまえば"私"を弱らせてしまえば、勝ちなのだ。
そして、"自分"は少しずつながらも確実に弱っている。
これが続けば、乗っ取られるのは時間の問題である。

そう、何かきっかけがなければ。
自分の中で暴れる"大蛇"を治める、きっかけがなければ。
もう、しばらくもしないうちに、乗っ取られてしまう。

ふと、思い返す。
今でこそ自分が扱っている紫電を、初めに扱っていた彼女のことを。
捻れた時空の所為で蘇り、そして自分にこの力を託して死んでいった彼女のことを。
初め、彼女は力を押さえつけていただろうか?
いや、違う。
彼女は、力を押さえつけてはいない。
むしろ、解き放っていた。
わざと自由自在に暴れさせ、それをうまく操っていたのだ。

今思えば、危険な芸当である。
暴走機関車の進路上を、暴走機関車と同じ速度でレールを敷くようなものだ。
一歩間違えば即アウト、力に飲み込まれかねない。
だが、柔を以て剛を制すとはよく言ったもので。
わざと暴れさせるのも、手として無いわけではないのかもしれない。

どの道、こうしていれば肉体を乗っ取られるのは目に見えている。
だったら、万が一でも操れる可能性に賭けた方がいいか。

数秒、悩んでからふと笑う。

そして天に手の平を掲げてから、しばらく固まり。

その手をそのまま、水平に凪いだ。

迸る、雷閃。

紫と白が、一瞬だけ世界を包む。

679人様ナメてんじゃねえよ ◆LjiZJZbziM:2013/10/18(金) 01:07:13 ID:SCxYhBBs0

「っぶねぇ……」
手を掲げたのが何かの前振りだと、なんとか察することが出来たブライアンは、その場に素早く倒れ込むことで雷の刃を避けることが出来た。
距離としてはそこまで伸びなかったらしい、他の戦闘グループには影響は無さそうだ。
それより、心配なのは目の前の少女だ。
ブライアンは急いで起き上がり、前を向く。
目の焦点をブライアンに合わせ、少女はにこりと微笑む。
どうやら、まだ何とかなっているらしい。
あわてて声をかけようとするブライアンより先に、少女が口を開く。
「ごめん、しばらくこれ続くよ。死ぬ気で避けて」
「ちょっ」
ブライアンが何かを言おうとすると同時に、再び紫電が大気を走る。
押さえることをやめる、逆に言えば好き放題に解き放つということ。
意図しない方向にも飛ぶし、その威力はどれほどなのか放っている本人でさえ把握できない。
ひょっとしたらものすごく弱いかもしれないし、ひょっとしたらものすごく強いかもしれない。
とにかく、当たってはいけないと言うことだけは、分かる。

時に全てを斬る刃のように。
時に全てを貫く槍のように。
時に全てを砕く槌のように。

雷は姿形を変え、ブライアンに襲いかかる。
避けるという行為がそこまで得意ではないブライアンにとっては、それはとても大変な時間だった。
元はといえば彼はアメフト選手である。
どちらかといえば、避けると言うより襲いかかる者を無視して突き進むのが彼だ。
だが、今の相手はそうも言っていられない。
当たればどうなるか、今のブライアンには想像も出来ない。
故に走る、故に飛ぶ、故に避ける。
まどろっこしさと戦いながらも、少女の意図しない刃の数々を避け続けていく。
ブライアンの少し上の空から、目の前の空間から、二本の足で立っている地面から。
それぞれから襲いかかる雷を、ただ、ただ避け続ける。

一見、終わりのない不毛な行為に見える。
持ち前のスポーツ根性と、鍛えた体力にも、そろそろ限界が訪れようとしている。
「ちきしょう、まだか!」
「あとちょっと、あとちょっとで掴めそうッ!」
少女が声を上げてブライアンに伝える。
長きに渡る一人演舞も、ようやく終わりを告げる時が来る。
後少し、と頬をたたいてやる気を入れ直す。
「ごめん、最後に一発、デカいの撃つよ!」
「おう! どんときやがれ!」
表情が若干明るくなった少女に、ブライアンは笑顔で答える。
大衆のヒーローは常に笑顔を絶やさない、笑顔には力があるから。
だから、ブライアンはこんな状況でも、笑う。
その笑みに安堵を覚えたのか、少女も笑ってから、手を天に翳す。
そして、驚くほどにゆっくり、そして確実に。
その手を、振り下ろしていく。
「行くよォッ!」
「おうっ!」
少女のかけ声とほぼ同時、ブライアンが走り出す。
ほぼ同時、今までとは比べものにならない雷柱が、ブライアンが立っていた場所に落ちる。
ブライアンが回避に使っていた空間を、全て飲み込むように。
けれど、ブライアンは。
「ふぅっ……間一髪タッチダウン、か」
ほんの少し横、黒焦げた地面の隣に、倒れ込んでいた。
というより、最後の最後で飛び込んだと言った方が正しいか。
本人が言うように、それはまるでタッチダウンを決めるような行動だった。
だが、その決死のダイブは、ブライアンの命を救った。
もし飛び込んでいなければ、ブライアンの命は無かっただろう。
額に浮かんだ冷や汗を拭い、ブライアンは少女の方をむき直す。

680人様ナメてんじゃねえよ ◆LjiZJZbziM:2013/10/18(金) 01:07:33 ID:SCxYhBBs0
「大丈夫か!」
「なんとか、ね」
焦るブライアンの問いかけに、少女もにっこりと笑う。
暴れ狂う雷を、ようやく窘めることができた。
思い通りに操ることはできなくても、飲み込まれることはない。
そう確信した笑顔だった。
「そろそろ、扱えそうなんだけど――――」
が、その笑顔は瞬時に曇る。
同時に少女の体が後ろにのけぞり、少しけいれんした後に今度は激しく前に折れる。
すぐさま大きな血の塊を吐き出し、荒く咳込んでいく。
「最ッ……悪」
その瞬間、少女は理解した。
力を使うのは、無償ではない。
肉体の疲労や、様々な物を代償とする。
つまり、自分の体が弱るのだ。
"放てば扱えるかもしれない"と認識させることで、肉体の疲労を招く。
自分自身に、してやられたのだ。
そのとき、ぐらりと体が傾く。
視界は少し暗くなり、目の焦点がずれ始める。
「あ、無理かも――――」
気がゆるんだ、向こうからすれば、この上ない絶好のチャンス。
もう、抗うことをあきらめようか、そう思っていたとき。
ドスリ、と少し強めの衝撃が走る。
急激に景色を取り戻した両目で、何が起こったのかを認識する。
そこには、自分のか細い腰を全力で支えようとしている、男の姿があった。
「ちょ!? アンタ、何やってんのよ!」
「聞いたことあるか!」
男は言葉を続ける、いや、言葉を叫ぶ。
「ニッポンのよお! "人"って漢字はよお! 人間と、人間が支え合う様子からできてるそうだ!」
人という漢字の成り立ち、それができあがるまでの理由。
どこかで聞いたそれは。
「アメフトのスクラムも一緒だ! 人と、人が支え合って、大きな力として立ち向かっていく!」
自分の人生とも、密接に関係していた。
彼の生活、夢、アメリカンフットボール。
それもまた、人と人が支え合い、力となって相手に立ち向かう。
そう、少しだけ、忘れていたこと。
「間違ってたんだ、アンタと俺、それぞれが頑張るんじゃない。
 地球意志だの何だのに屈しないって姿勢を、人間が協力したらスゲェちからになるんだってことを、証明するには!
 俺らで協力すりゃあ! いいんだ!」
か細い少女の体を支えながら、ブライアンはひたすら叫ぶ。
「頑張れ! どれだけつらくて、体が折れそうで、倒れそうでも!!
 俺が、ずっと支えてやる! だから、負けるな!!」
どれだけ倒れそうになっても。
どれだけ疲れて力が入らなくても。
どれだけ絶望して挫けそうになっても。
ブライアンは、絶対に彼女を"倒さない"。
「"勝て"!!」
言葉とともに、しっかりと少女の体を支える。
「オッケィ、後悔しても知らないよ」
その言葉に、少女もゆっくりと微笑む。
そして天に向かって手のひらを突き上げ、それをゆっくりと握りしめてから。
「かかって、きっやっがっ」
全身の力をその拳に込め。
天高く、空高く、どこまでもどこまでも届くように。
「れええええええええええええええええ!!」
空気を裂くように、叫んだ。








同時に、巨大な雷柱が、二人を飲み込んでいった。







.

681人様ナメてんじゃねえよ ◆LjiZJZbziM:2013/10/18(金) 01:07:48 ID:SCxYhBBs0
不思議なことが一つだけあった。
ブライアンはただ支えていただけではない、寧ろ今までの選手活動で培ってきた"全て"をぶつけて彼女を支えていた。
支えているのはブライアンただ一人、ブライアンが力を加えれば彼女は倒れ込んでしまうはずなのに。
ブライアンとほぼ同等の力が、なぜか逆側からかかってきていた。
誰もいない、誰もいないはずの空間なのに。
まるで彼女を、ラピスを両側から支えるように。
力を抜けば、それこそバランスが崩れて倒れてしまう。
そんな不思議な感覚を、覚えていた。

視界が白に染まっていくのは、確かに感じていた。
不思議と痛覚はない、それも当然か。
あんな巨大な雷に飲み込まれて、生き残っている方がおかしいのだ。
痛覚を感じる前に、物言わぬ死体になって当然だと、思っていた。
だが。
「あ……れ……?」
現実は、違う。
痛覚がないのは事実だった、何故なら痛みの原因となるモノが何もないからだ。
確かに雷柱は自分たちを包み込んだ。
けれど、傷の一つもついていない。
何が起こったのか、何をしたのか、それは覚えていない。
そしてもう一つ。
不思議なことに異様なまでに体が軽い。
心の底から食い破られそうだった感覚も、身を焼くような痛みも、何もない。
雷もここに来る前と同じように、軽く扱うことができる。
一体、何があったのか。
「……やったな」
ぼけっとしているところに、ブライアンに話しかけられる。
そう、彼からしてみれば自分が"勝った"ように見える。
実の所は、何が起こったのか何も把握していないのだが。
とにかく、押さえつけることには成功したようだ。
ひょっと、華の女子高生がそんな訳分からないのに犯されてたまるか、という気持ちが強かったからだろうか。
ふっ、と笑いをこぼすと同時に、ラピスは目線を動かす。
「じゃあ、次も"勝ち"に行こうぜ」
ブライアンのその言葉に、ラピスはこくりと頷く。
ともに向くのは同じ方角。

見据えるのは、一点の白。

完全者、ミュカレの姿。



【ラピス@堕落天使】
[状態]:オロチと契約、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。
※もう大丈夫です。
※おそらく、シェルミーの技が使えます

【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"



そして、その二人を見つめ。

ふふっ、と笑う。

そこにいない、誰か。

682 ◆LjiZJZbziM:2013/10/18(金) 01:08:05 ID:SCxYhBBs0
投下終了

683 ◆Ok1sMSayUQ:2013/10/20(日) 15:09:24 ID:RZ4XE4S20
エヌアイン、ルガール・バーンシュタイン、アノニム(オロチ)を予約します。

ブライアンとラピスのかっこ良さに続きますよ

684 ◆LjiZJZbziM:2013/10/20(日) 19:02:29 ID:KdYCViCI0
予約ありがとうございます!

685 ◆XYwo2aJaLY:2013/10/21(月) 01:35:15 ID:.eO1fX8U0
ネームレス、クーラ予約します
ビッグウェーブに乗りに来ました

686 ◆LjiZJZbziM:2013/10/21(月) 07:40:42 ID:tLznVfaM0
予約ありがとうございます!!

687 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:25:25 ID:qknxQC4s0
ネームレスとクーラ、投下します

6882K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:26:38 ID:qknxQC4s0
少年が彼女と最初に出会ったのは、少年が救護室の純白のベッドの上で目覚めたときのことだった。
少年はゆっくりと意識を取り戻しながら、ここに至った経緯を思い出す。
意識が闇に至る直前の記憶――それは実験の記憶だ。

Kを超えるもの――K'と同等以上の肉体に、炎を操る因子――プロトKこと草薙京の力を完全な形で宿す超強化人間の開発。
少年は、そのプロジェクトのために生み出された9999番目の実験体だった。
そして少年と同様の措置を行われた同胞たちとともに、過酷すぎる戦闘訓練と実験を繰り返していた。
いや、実験というレベルを遙かに超えた強度で行われていたそれは、もはや選別といってもよかった。
実際に、少年と同様の実験に参加させられていた同胞たちは次々とその命を落としていった。
実験を行っていた組織ネスツも、成功例を複数作るつもりなどさらさら無かったのだろう。
ただ一つでもKとK'の二つの力を持つ個体が生まれればそれで良かったのだ。

少年は、なんとか生き残り続けていた。
しかしいつ死んでもおかしくはなかった。
明日死ぬのか、明後日死ぬのか。それすら分からない実験体の一人だった。
あまりにも近すぎた死の存在は、少年から生きる目的を奪っていった。
出口のない迷宮。朝の来ない夜。いつ終わるかも分からない実験ばかりの日々を過ごし、少年は生と死の区別をなくしていく。

だが、こうして救護室のベッドで目覚めることが出来たということは、なんとか今日を生き延びることが出来たということだろう。
少年はしばしの休息を享受することにした。
もうしばらくの間だけでも浅い眠りにつこうと瞼を閉じる。
しかし、聞き慣れない声が少年の眠りを妨げた。

「あ……意識を取り戻したみたいです」

いつも実験体の診察を行っている初老の医師のしわがれた声とは違う、若さにあふれた女の声だった。
少年は、声の主に興味を持って瞼を開けた。

まず最初に目を引いたのは新雪のように真っ白な、長い髪だった。
異物の一切を許さず無菌と清潔を保つ純白の救護室の中で、それでも彼女は他を凌駕する「白」として存在していた。
まだ幼さを少し残した顔立ち。年齢は少年と同じくらいだろうか。
被験体として実験に明け暮れていた少年にとっては、初めて出会う異質の存在だった。

微笑む少女に対して、少年はただ黙っていた。
彼のような実験体はプロジェクトの直接関係者以外との接触を禁じられていたし、仮に会話を試みたところですぐ傍に控えているだろう警備班に取り押さえられるのがオチだろう。
しかし、そういう問題ではなく、ただ純粋に彼は言葉を失っていたのだ。
胸の奥から湧き上がってくる感情の名前を、彼はまだ知らなかった。

少年と少女の邂逅は、ほんの一瞬で終わってしまった。
一言も交わさないうちに少女はいつもの担当医師と交代し、そのまま戻ってはこなかった。
少年も治療とメディカルチェックが終わると、すぐに救護室を追い出され、再び実験棟へと舞い戻ることになった。

一つ、はっきりと変わったことがあるとすれば、少年が再び生きることを望み始めたことだろう。
少女との出会いが、少年の生死観を変えたのだ。
生きてさえいれば、また少女と出会うことが出来るかもしれない。
そう思うだけで、それまでと何ら変わりない過酷な実験も耐えることが出来た。

次に少年が少女と再会したのは、またもや救護室のベッドの上だった。
既にそのとき、プロジェクトの実験体は少年を除いて全滅――唯一残った少年も、新たに植え付けられたプロトKの力をコントロール出来ず瀕死の状態。
プロジェクトは実質的な失敗を迎え、あとは少年を処分するだけで全てが終わるはずだった。

6892K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:28:11 ID:qknxQC4s0

 ◇


白と黒、そして青が交錯した。
モノクロの炎と透き通る氷。
白と黒の炎が、きらめいて光る氷の表面で華麗に踊る。
超高温の炎によって溶けて生まれた水蒸気が、更なる冷気によって再結晶化し樹形を型作る。
二つの超自然の力が作り出す光景はまるでこの世のものとも思えず、美しいと形容する他ない。
しかし行われているのは絢爛豪華なショーなどではない。
命を懸けた死闘なのだ。

炎を放った少年――ネームレス。しかし彼の意志と意識は希薄。
彼は今、己の中で暴れ回る強大な力に身体を支配されようとしていた。
彼の中で凶暴さを増し、力の暴走を促すその存在の名はオロチ――地球意志の現れとも言われるそれは、本来ならば人の身体一つに収まってしまうような存在ではない。
ネームレスも己の中で暴れるオロチの血に対して必死の抵抗を試みているが、このままではネームレスの意識と肉体が完全にオロチの血に呑み込まれてしまうまで幾ばくの時間もないだろう。
地球と人間一人が喧嘩をしているようなものなのだ。いくらオロチの血が人の血で薄まっていたとしても、はじめから勝ち目のない勝負だと言えよう。

だが、諦めていない少女がいる。ネームレスを救うべく氷の能力を行使する少女の名はクーラ・ダイアモンド。
ネスツによって炎の因子Kと対になる力を植え付けられ、しかし縛られていた鎖から解き放たれ自由を得た少女だ。

クーラの自由で豊かな感性は、暴走する少年から様々なものを感じ取っていた。
彼の炎からは、ネスツを去ったあと一緒に行動していた、皮肉屋で、だけど不器用なだけで本当は優しい白髪の男のことを。
彼が呟いた二つの名前からは、初めて会ったはずの彼がクーラのことを知っているという疑問と、クーラが知らない誰かを思う彼の感情を。
そして彼の心からは、かつてクーラも囚われていた、自由を阻害する鎖を感じ取ったのだ。

得た情報は膨大で、クーラの中で処理が追いつかず分からないことだらけのままで、しかし一つだけ分かったことは、

「待ってて、今、クーラが助けてあげるから!」

彼を助けなければならないという、ただ一つ。
どうすれば少年が止まってくれるのかクーラは知らない。
だが、このまま手をこまねいていては決して状況は好転しないということはクーラでも分かる。
だからクーラは、自分が持つ力――アンチK'である氷の力を使うことを選んだ。
少年が使う炎にはK'と同じ何かを感じる。ならば、自分の力なら少年の力に対するカウンターになりうるかもしれない。

クーラは口元に右手を持ってくると手のひらを上へ向けて、ふうっと息を吹きかけた。
クーラの息吹が能力によって急速冷化され、氷のつぶてとなって無差別に炎をまき散らすネームレスへと向かう。
しかしクーラの氷の息吹は、ネームレスへと届く前に彼が振りまく炎の熱に溶かされ気化していった。
オロチの血によって増幅されたネームレスの能力は、炎に対抗する存在アンチK'として生み出されたクーラですら太刀打ちできないほど強化されてしまっている。

「だったら、近づいて直接冷やせばいいでしょ!」

遠距離から冷気を飛ばしたところで今のネームレスには何の意味もないことを悟ったクーラは、直接自分の力を打ち込むべく接近の一手を選んだ。
一流のフィギュアスケート選手にも見劣りしない見事なスピンを披露しながら、クーラはネームレスへ向かって飛翔する。
くるくると回るクーラが振りまく冷気は、そのままネームレスから放たれる炎を防ぐバリアになる。
あと一動作でネームレスに密着できるという距離まで一息に飛んだクーラは、そこから更なる接近を選択。
姿勢を低くしたスライディングで一気にネームレスの足下まで近づいていく。
だが、

「やばっ!?」

ネームレスの人生と同義である幾多の戦闘経験とオロチの血がもたらした闘争本能は、クーラの接近を許しはしなかった。
無差別に炎を放っているかのように見えたネームレスだったが、クーラという敵性存在が接近してくることを知覚した瞬間から、行動を「暴走」から「戦闘」へと切り替えたのだ。

6902K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:29:32 ID:qknxQC4s0
ネームレスはクーラのスライディングを低めのジャンプで回避し、降下と同時に反撃。
上方向に対して完全に無防備な姿を晒していたクーラは、あえなくネームレスが放った穿孔を受けることになる。
ネームレスが右手に付けるグローブ――イゾルデが変化したドリルが、クーラの服を裂き、皮を剥ぎ、肉を貫いていく。
クーラが苦痛の声を上げようとも、ネームレスの猛撃は緩まりはしない。
そのまま前方回し蹴り、そして炎を用いた連続攻撃へと派生していく。
オロチの血によって性質をより凶暴に変えた白と黒が、クーラの全身にまとわりついた。
ネームレスの蹴撃を受けて吹き飛ばされた今でも、炎はクーラの身体を焼き続けている。
それはさながら獲物が絶命するまで絞め続ける蛇のようだ。

「もうっ!」

クーラは冷気を纏わせた両手で身体を這う炎を払い、相殺する。
ネームレスの手から離れた炎ならば、クーラの力でも打ち消すことが出来るようだ。
まったく歯が立たない訳じゃない――服についた煤を払いながら、クーラは今度こそこの手を届かせてみせる、と決意を固くする。
もう、時間がない。

「ぐ……ああああああっ!」

ネームレスの中に僅かに残る理性がオロチの狂気とせめぎあい、生まれたのは意味を持たない咆哮。
しかしそれがネームレスの必死の抵抗の現れなのだということを、クーラは感じていた。
今、少年の精神は何か大きくて邪悪なものに呑み込まれて消えてしまおうとしている。
それはちっとも楽しくなくて、悲しいことだということを、クーラは知っている。
自分以外の何かに縛られて狭い世界の中にいるだけでは、楽しいことなんかこれっぽっちも存在しないのだ。
広い世界へ向かって自分の足を踏み出して、クーラは楽しいことや美味しいものや嬉しいことをたくさん見つけた。
目の前の少年からそれを奪おうとしている何かのことを、クーラは許せない。認めない。
だからもう一度、いや、何度だってクーラは少年へと向かって手を伸ばすのだ。

「ねぇ、聞こえてる?」

自分の声は、少年に届いているのだろうか。
届いていなくても関係ない、とクーラは言葉を続ける。
いくら話しかけ続けても、永遠に届かないかもしれない。
だが諦めてしまえば、残っていた可能性も何もかも、完全なゼロだ。

「諦めちゃダメだよ」

自分自身にも言い聞かせるように、クーラは言葉を紡いだ。
同時に、両手を氷でコーティングしながらネームレスへと近づく。
ネームレスの両手からまき散らされる炎。それを両手で払いのけながらクーラは大胆に、しかし慎重に接近戦を試みる。
ゼロ距離で氷の能力を使うことが出来れば、ネームレスの暴走を止めることも可能かもしれない。
だが同時に、ネームレスの暴走する炎に直接灼かれる危険性も秘めているのだ。
たとえ氷の因子を持つクーラであろうと、あれだけの熱量を絶え間なく注がれ続ければすぐに燃え尽きてしまうはずだ。

一度のミスも許されない攻防が始まった。
ネームレスの両手から迸っていた炎が、その勢いを弱める。
暴走が収まったのではない。クーラという敵に備え、戦闘態勢に入ったのだ。
クーラはネームレスの目を見つめた。ネームレスもまた、クーラを見ていた。
その瞳に光はない。既に少年の精神は地球意志に呑み込まれてしまったのか。
いや、クーラは少年の瞳に、苦痛が含まれているのを見逃さなかった。
苦痛が残っているということは、戦っているということだ。
少年はまだ、生きようとしている。自分の意志を残そうとしている。
それが分かれば十分だった。
クーラは一人ぼっちで戦っているのではない。少年と、二人で戦っているのだ。

6912K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:31:09 ID:qknxQC4s0

「もうちょっとがんばって! クーラもがんばるから!」

最初に仕掛けたのはクーラだった。
両手に分散させていた氷の力を右手に集中させ、氷柱を作り出す。
右手を、ネームレスに向かってまっすぐに伸ばした。

後手に回ったネームレスは、しかし焦ることなく対応する。
ネームレスの戦闘スタイルは炎を刃に見立てた抜刀術だ。後の先を狙うのは、むしろ自然。
クーラの氷撃が届くか届かないかという刹那、ネームレスの右手が閃いた。

ぶつかりあう氷と炎。だがお互いは相殺することさえせずに、更にその勢いを増していく。
炎が氷柱の表面を這い回り、そのままクーラの身体を焼き尽くそうと前進する。
しかしクーラの身体に秘められたアンチK'の力は、その侵攻を阻んだ。
草薙の炎さえ凍らせ跳ね返す力が、オロチの血によって禍々しい進化を遂げた炎と拮抗する。
せめぎ合う二つの力が最大まで膨れ上がったとき、迎えた結末は炸裂。
氷と炎が飛礫となり、二人の身体を掠めていく。
そして瞬きをする間隙すらなく、戦闘は次の局面へ。

次に始まったのは、氷の力も炎の力も介在しない純粋な肉弾戦だった。
一撃一撃の威力には状況を決定付ける破壊力は存在しない。
だが、この競り合いに負けて決定的な隙を見せてしまえば、次の瞬間には互いに持つ異能が勝負を決着させるだろう。

クーラは慎重に小技を繰り出して様子を窺っていく。
いつでも相手の攻撃に対応出来るように、防御を念頭に置いた牽制重視の攻めだ。
大振りの攻撃を放って相手に隙を突かれれば、一瞬のうちにクーラは業火に焼かれることになる。
今はじっと我慢だ。いつか訪れる好機を、クーラは待つ。
クーラは信じていた。目の前の邪悪と戦ってくれているもう一人――少年自身が、いつかチャンスを作ってくれると。

しかし懸念もあった。少年の精神が、いつまで抵抗を続けられるのか――ということだ。
もしも少年が呑み込まれてしまえば、その瞬間にクーラの勝算は消えてしまう。
このまま少年の肉体が完全に支配されてしまうようなことになれば――

クーラの焦りと裏腹に、ネームレスの攻撃は激しさを増していく。
過酷な訓練を経て鍛え抜かれた肉体から繰り出される攻撃は、たとえ炎を纏わずとも一撃が鋭く、重い。
防御に専念することでどうにか凌いではいるが、このままではいずれ防御を抜かれ、致命的な一打をもらいかねない。

更にネームレスの連撃は続き、その攻撃に切れ間は殆ど存在しない。
僅かな切れ間を狙って一か八かの反撃を試みることも考えたが、逆に反撃を潰され一気に攻め立てられる危険性を考えると迂闊に手を出せなかった。
しかし、こうやって手をこまねいている間にも少年の精神はどんどん消耗していく。
いつしか少年の表情からは苦痛の色が薄れ、安らぎに変わろうとしていた。

「ダメ! そっちにいっちゃったら……ダメだよ!」

彼方へと消えてしまいそうになっている少年に向かって、クーラは必死に叫んだ。
だが、少年からの反応はない。瞳から光は失われ、虚無に飲み込まれようとしている。

6922K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:31:39 ID:qknxQC4s0
もう、迷っている暇はなかった。
たとえクーラが白と黒の業火に燃やし尽くされることになろうとも、今動かなければならない。
きっと、ここで少年を見捨てるようなことをしてしまえば、クーラはずっと後悔するだろうから。

ネームレスが右手のグローブをドリルに変え、クーラの上体を狙ったとき。
クーラは一度その穿孔を受け止めると、渾身の力を込めてネームレスの身体を跳ね返すように体当たりを敢行した。
単純に、ネームレスを吹き飛ばすことだけに意識を置いた行動だ。ネームレスへのダメージそのものは殆どないといっていい。
だが、衝撃を殺し切ることが出来なかったネームレスは空中で体勢を崩してしまっている。

クーラは、ネームレスへ向かって走った。
恐らくこれが、最初で最後のチャンスだろう。
クーラがネームレスを救うことが出来るか、それともネームレスの中に巣食ったオロチの意思がクーラを焼き尽くしてしまうのか。
どちらにせよ、次はないだろうということをクーラは確信していた。

「いっくよー!」

接近の手段に選んだのは、華麗なレイ・スピン。
鋭い軌道を描いた回転だが、直接ネームレスへとぶつけることはしない。
回転の勢いを殺すことなく攻撃へ転換。クーラの能力によって生み出された氷の矢を、勢いの乗った蹴撃で打ち出す。
そして更に続くのは、氷の力を纏った右腕で放つクロウバイツ。
本来ならば不可能な二連撃を、クーラは持てる力と技の全てを振り絞ることで可能にしたのだ。

抜刀は連続することが出来ない。一度鞘から抜いた刀を再び振るうには、鞘に収めるという動作を挟む必要がある。
飛来する氷の矢を炎の抜刀で打ち落としていたネームレスは、続く氷の顎にその身を咬まれることとなった。
しかし。
不思議なことに、ネームレスは己を包む氷に、慣れと親しみを感じていた。
ネームレスは、この力を知っている。

「イゾ……ルデ……?」
「クーラだよっ!」

思わず口をついて出てきた名前は、氷を操る少女に否定される。
だが、少女と同じ力を、ネームレスは絶えず感じていたはずだ。
ネームレスの中に埋め込まれた二つの炎の力――K。それを制御するカスタムグローブ。
ネームレスは、それに彼女の名前を付けた。
イゾルデ、と。
いつも右手にいてネームレスを守ってきた力と、目の前の少女がネームレスを救おうと使う力は、よく似ている。

「よーし、このままいっちゃえ! ほらキミも、がんばって!」

目の前でネームレスのために奮闘する少女と、ネームレスの記憶の中で微笑んでいる少女の姿も、よく似ている。
よく見てみれば、全然違うというのに。
だというのに――

――どくん、とネームレスの中で一際大きな鼓動が生まれた。

「やめ……ろ……! 俺、は……!」

――氷の少女と思い出の少女の面影を重ね合わせてしまったとき、ネームレスがネームレスであり続けようと必死にせき止めていた堰の一部が、崩れた。
巨大なダムがほんの一筋の亀裂から崩壊してしまうように、一度生まれてしまった歪みから、次々とオロチの血が流れ込んでくる。
人を滅ぼせと、頭の中から声が聞こえてくる。
永久とも思える年月の間に溜まった人の憎悪が、嫉妬が、怨嗟が、ネームレスの中で膨れ上がっていく。

――殺せ。

頭の中の声は、次第に大きく。
そしてネームレスに命令する。目の前の少女を、殺せと。

6932K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:32:37 ID:qknxQC4s0

「やめ、ろ……! 俺は……俺はもう……誰も、殺したくないのに……
 ……うわあああああああああああああああ!!」

――力が、暴走する。

ネームレスの全身から、黒炎が噴き出す。もはやその中に白は存在しない。
この世全ての邪悪を現すかのように――その色は、全てを飲み込む黒。

「諦めちゃ、ダメだってば!」

クーラの声も、もう届いていない。
それでも、クーラは懸命に叫び続けた。
己の持てる限りの氷の力で、少年の炎を抑え込もうとする。
だがオロチの暗黒パワーによって更なる黒の力を得た炎が相手となっては、クーラの力だけでは到底及ばなかった。
氷は炎に負け、水の姿を経ることすらなく一瞬で気化していく。
黒い炎をほぼゼロ距離で受け続けているクーラの身体も、灼かれ続けている。
熱に耐えきれなくなったジャケットスーツが炭屑に変わり、空気中の水分すら消し飛ばす超高熱の中で体中の水分が枯渇していく。
しかし、クーラがネームレスから離れることはなかった。
次はないのだということを理解していたからだ。

「もう……やめろ……俺は……俺自身を止められない……」

最後の精神力を振り絞って、ネームレスはクーラに逃げるように言った。
既に肉体の自由は完全にオロチの血に奪われてしまっている。
いつオロチの意志がクーラの命を奪ってもおかしくないのだ。

ネームレスは、もう誰の命も奪いたくはなかった。
殺す、ではなく、生きる、ということのために力を使いたかった。
ネームレスにそれを教えてくれた白髪の男の分まで、ネームレスは生きねばならなかった。
しかし、そんなネームレスの意思を嘲笑うかのように、彼の全身を巡る血は脈動と共に力を増していく。

ぼこり、とネームレスの左腕が不気味に膨れ上がった。
暴走した力が、ネームレスの左腕を異貌の姿へと変えていく。血管のように張り巡らされた鉄管。筋肉のように盛り上がる無機物。
およそ『生』と真逆の構成をしたオロチの顕現が、かつて白髪の男――K'の命を奪ったときのように、今度はクーラの臓腑を喰らおうと蠢いた。

「力が……!」

止められない。フラッシュバック。男の白髪が赤い血に濡れた。黒いバトルジャケットが引き裂かれる。
異形に喰われる半身。飛び散る血と肉と骨。叫び。震え。止まらない。
オロチの血が囁いた。お前が生きようと望めば望むほど、同じ光景が何度でも繰り返されると。
視界。目に入った少女。雪のような色をした髪。ネームレスを見つめる赤い瞳。
その背後に迫る。今ではもう自分のものとは思えない、感覚すらない、異形と化した己の左腕。
想像した。己の左腕が、少女の命を喰い尽くす光景を。

「勝手に……!」

咆哮(タスク)。咆哮(タスク)。咆哮(タスク)。
ネームレスの叫びが、完全者の創り出した超空間に響き渡った。
全ては完全者の掌の上だったというのか。
ネームレスが生きてきた意味は、何だったのか。
世界は、ネームレスにとって意味のあるものだったのか。
ネームレスの叫びは虚空に消え、それと同時に、氷の因子を持つ少女の命が――

6942K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:33:24 ID:qknxQC4s0






『チッ。最後の最後までウゼェやつだぜ』

6952K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:33:52 ID:qknxQC4s0
幻聴。いや、違うのかもしれない。クーラもまた、ネームレスと同様に驚愕を瞳に浮かべていたから。
そう、クーラの命がネームレスの左腕に喰われることはなかった。
異形と化した左腕を構成する、ただの一部になっていたそれ。赤色をした、機械仕掛けのグローブ。
ネームレスがK'の分も生きようと、彼と共に生きようと、遺体の右手から外し、裏返して左手に付けていたグローブ。
そこから、白の炎が生まれていた。白炎が勢いを増しながらネームレスの左腕だったそれを覆っていく。
同時に、左腕のコントロールがオロチの意思からネームレスのもとへ帰ってくる。

ありえない現象だった。ただの機械仕掛けの制御グローブそれ自体に、オロチの血に逆らって炎を発現する力などありはしない。
だが現実に、それは行われたのだ。安っぽい言葉になるが、奇跡――とでもいうべき事象だった。
しかしそれを為したのは、決して偶然ではない。人の意思が――人の、生を求める思いが起こした必然だ。

今ならば、届く。
クーラの声が、ネームレスへと届く。

「ねぇ、キミ――名前は?」

クーラが聞いたのは、少年の名前だった。
その声と問いは――ネームレスの奥底に眠っていた、彼女の記憶を呼び覚ます。


 ◇


それが、最初の会話だった。

「名前……?」

救護室のベッドの上で、少年は質問に対する答えを見つけかねていた。
少年は、名前を持っていなかった。
彼という個体を識別するための番号――9999という数字は持ち合わせていたが、それは彼女の問いに対する答えにはなりえそうもなかった。
黙り込んだ少年の前で、イゾルデと名乗った少女はばつの悪そうな顔をした。

「ごめんなさい。困らせるつもりはなかったの」

質問をしたあとでイゾルデも思い出したのだ。
少年たち――『K』を植え付けられた実験体には、味気のない識別番号しか与えられていないということを。
そして少年たちを取り囲む環境は、彼らを名を持つ一個人として扱うことなど求めていないということも。
だけど、それは――とても寂しいことだと、イゾルデは思った。

「名前なんか、俺には必要ない」

イゾルデと目を合わせずに言い放つ少年を見て、イゾルデは自分がどれだけ残酷な質問をしてしまったのか気づいた。
名前というのは、世界に生まれて一番最初にもらう祝福のようなものだと、イゾルデは思っている。
幸いにも、イゾルデは名前という祝福をもらうことが出来た。
自分の出自を考えれば、それは本当に幸運なことなのだと思える。
少しでも運命の掛け違いが起きていれば、イゾルデも少年と同じ境遇になっていてもなんらおかしくはなかったのだから。

6962K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:34:39 ID:qknxQC4s0
「なら、私がキミの名前をつけるっていうのはどう?」

イゾルデの提案に、少年は怪訝そうな表情を返した。まったくもって意味が分からないというような顔をしている。

「そうね――少し、時間をちょうだい。名前っていうのは、大事なものだから。良い名前を考えるから待っててね」
「……誰も、そんなことは頼んでないだろう」
「私がいつまでもキミ、だとかアナタ、とか呼ぶのが嫌だから名前をつけるの。ダメかな?」

微笑むイゾルデ。少年は、照れを頬に感じながらそっぽを向いて返事をする。

「……勝手にすればいい」
「よかった! でも、それまで何も呼び名がないのも寂しいなぁ。それじゃ、それまでは……そうだ!
 ネームレス。ちゃんとした名前をあげるまで、キミのこと、ネームレスって呼ぶわね」
「ネーム……レス。名無し、か」

ただの名無しから、少し変わっただけだ。
だが、いくら仮の名だとはいえ、呼ばれる名前が生まれたということに、少年は喜びを感じた。

「それじゃネームレス。キミに相応しい名前が考えられるように、キミのこと、もっと教えてほしいな」


 ◇


「俺の、名前は……」

結局、ネームレスがイゾルデから新しい名前を授かることはなかった。
ネームレスの回復とともにプロジェクトは急に再始動することになり、イゾルデのもとを去らなければならなくなったからだ。
去り際の悲しそうなイゾルデの顔を、ネームレスは忘れられない。
いつかまた会いに来ると、ネームレスは彼女に言った。彼女は、そのときまでには名前を考えておくから、と涙交じりに言った。
彼女とは、それっきりだ。
だが、ネームレスは彼女を生きる目的として、此処まで生きてきた。きっと、これからも。

「ネーム、レス」

そして生まれた、新しい生きる目的。
きっと、どこかに。ネームレスの本当の名前が――イゾルデからもらうはずだった名前が、あるはずなのだ。
少年は、それを見つけたい。
見つけるために、生き延びたいと強く思った。願った。

「俺は――生きたい!」

6972K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:36:03 ID:qknxQC4s0
名前は、生まれたときに世界から最初に授かる祝福だと、イゾルデは言っていた。
新しい生と、新しい名を。ネームレスは渇望する。

だが。
ネームレスの中に巣食うオロチの血は、彼に祝福など与えようとはしない。

白の炎に浄化された左とは逆の腕――ネームレスの右腕から、オロチの血によって増幅された黒炎が噴き出していく。
彼の中ではまだ、人類抹殺を謳うオロチの声が大音量で鳴り響いていた。
殺せ、の大合唱がネームレスの思考を塗り潰そうとする。
生きるという決意を固め直した彼の意志は、オロチの声に負けずに戦っている。
しかし、彼の身体から立ち昇る黒炎の勢いは、未だ彼の意志では抑えることが出来ない。
そしてその黒炎は、今やクーラのみならずネームレス自身の肉体も焼き尽くそうとしていた。
クーラが氷の力を最大限に放出しているからこそ、二人ともどうにか一命を取り留めているという状況だった。

「生きたいんだよね……! だったら、クーラが助けるから! がんばろ!」

クーラは、ネームレスの名前と、彼の生きたいという願いを聞いた。
そこまで聞いてしまって、それでも彼を見捨てるだなんて選択肢はクーラの中には存在しなかった。
ネームレスを助ける。クーラも生き延びる。両方やり遂げて、また、美味しいアイスを食べる。

「そうだ。キミは、アイスを知ってる?」
「……? 何だ、それは?」
「冷たくて、甘くて、とっても美味しいの! 食べたことがないなら今度クーラが食べさせてあげる!」
「……ああ、そうだな。楽しみだ」

自由に生きるっていうのは、とても素敵で楽しいこと。
クーラはそれを、ネームレスに教えてあげたい。
そのためなら、なんだってする。

「そうか……この子が、お前に生きる喜びを教えたんだな……」

ネームレスの左手に宿った白い炎。その持ち主が愛した少女のことを、ネームレスも理解する。
ネームレスは、小さく笑った。そして、覚悟を決める。己の中に混じった邪悪を消し、新たに生まれ変わる覚悟だ。

「クーラ。頼みがある。……俺は今から、この炎を使って、俺ごとこの血を焼き尽くす」

K'から受け継いだ白の炎は、変質した左腕からオロチの血を消し去り、再び左腕の操作権をネームレスへと返した。
白の炎に宿った浄化の力――抗い続けたK'だからこそ持ち得た力を使い、今度こそネームレスの全身から、オロチの血を消滅させる。
だが、白と黒の炎が激突すれば、いかに強化改造されたネームレスの身体でも耐え切れるものではないだろう。
だから、クーラの力を借りる。アンチK'である彼女の氷の因子を用いれば、ネームレスの身体の負担を減らすことも可能かもしれない。
そう、ネームレスが炎の力を操りきれず死にかけたときに、イゾルデが助けてくれたように。
ネームレスには確信があった。ネームレスの炎とK'の炎をルーツを同じくするように、イゾルデの力とクーラの力も、きっと本質は同じものなのだ。

「クーラの力が必要なんだね。……うん、いけるよ。だって、クーラとキミと、二人だけじゃないんだよね?」

クーラももう、理解していた。既にK'はこの世にはいないのだと。
本音を言えば、少しだけ悲しい。いや、すごく悲しい。
だけど、K'の炎がネームレスを助けたということは、K'はきっと、今のクーラと同じようにネームレスを救おうとしていたのだろう。
だったら、悲しいけど――大丈夫。
あのひねくれ者のK'が誰かを助けるだなんて、よっぽどのことだ。きっとその行為に、後悔なんてなかったと思う。

「ああ。俺と、イゾルデと……」
「クーラと、K'。四人の力を合わせれば、絶対負けない!」

ネームレスは、今まで抑えつけていた炎のリミッターを外し、全てを出し尽くす。
クーラもまた、残る限りの氷の力を振り絞った。
赤いグローブから立ち昇る白の炎と、白いグローブから湧き出す氷の力。
全てが一つになり、そして――

6982K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:36:43 ID:qknxQC4s0




【人を……滅ぼせ……】【人は……自然に非ず……滅すべき存在……】

オロチの声。古代より地球上の生きとし生ける全てのものを見守ってきた存在が、人類への審判を下す。
だが、それに反する声があった。

「お前たちが何を言おうとも、俺は生きる。生きることを選んだ」

「悲しいことなんて、クーラやだもん! もっと楽しいことやりたいよ!」

愚かな、とオロチが言った。その傲慢こそが何よりも罪なのだ。
自らの欲のために、他の自然を喰い尽くす。人こそが自然の和を乱す害悪なのだと。

「生きようとすることの、何が罪なんだ! 生きようとして……それでも生きられなかった兄弟たちを、俺は見てきた!」

9998までと、10000からあとの、生きられなかった同胞たち。
彼らの命を創ったのがネスツだったとしても、彼らの命を奪う権利など、ネスツにも、誰にもなかったはずだ。

「俺は……俺が俺であるために! 俺として生きるために! お前になど、負けはしない!」

白の炎が、ネームレスの全身を包んだ。
ネームレスの身体が、灼かれていく。
不死鳥は新たな生を始めるとき、己が身を灰に変えて生まれ変わるという。
ここが、ネームレスの新しい始まり。彼が真に彼として生きるための、通過儀礼。

白と黒が交わり、熱が生まれる。蛋白質が凝固する45℃、水が気化する100℃、鉄が融解する1500℃。
人の身では到底耐えられない高熱だ。しかしクーラと、ネームレスの右手に着けられたイゾルデが守っている。

「うわああああああああああああああああっ!!!」

少年は叫んだ。もしかするとそれは、産声のようなものだったのかもしれない。
世界が白に染まっていく。真っ白に。
記憶が、交わる。ネームレスと、クーラと、イゾルデと、K'。
そして、オロチ――地球意志が見てきた、生の営み。
みな、懸命に生きてきた。届かない夢が、想いが、あったのかもしれない。
だがそこに、無駄なものや無意味なものなど存在しなかった。

少年の頬を、一粒の涙が伝った。
いったい何の感情が生んだ涙なのかさえ分からない。
ただ、心が震えて――気付けば、涙を流していた。

炎は、止んでいた。
黒の炎は消え――白の炎も、今ではネームレスの左腕の中で眠っている。
少年の頭の中で鳴り響いていた怨嗟の声も、消えていた。
少年の中から、オロチの意志は消滅したのだ。

6992K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:37:36 ID:qknxQC4s0
だが、その代償は――

「……クーラ!?」
「あ……、終わったの……かな……?」

氷の少女は、名無しの少年を助けるためにその力の殆どを放出していた。
クーラが持っていた氷の能力は、彼女の生命活動と密接な関係を持っている。
――彼女のクローンだったイゾルデが、氷の因子を抜き取られることで死に至ったように。
クーラもまた、能力の喪失と生命の危機を、同時に迎えようとしていた。

「しっかりしろ! ……美味しいアイスを、食べさせてくれるんだろ!?」
「ごめんね……約束、守れなくなっちゃった」

代わりに、と、少女は震える指先に残った能力の残滓を集めた。
スプーン一匙分の、氷の結晶。

「えへへ、今はこれしか出来なかったけど……本当のアイスはね、もっと甘くて、美味しいんだよ」

ネームレスは、震えながら少女の指先をそっと食んだ。
小さな氷は口の中ですうっと溶けていく。何の味も、しなかった。

「ッ……!」

ネームレスは、生きたいと、そう願った。その願いの代償が――少女の命だったのか?
違う、とネームレスは頭を振った。
そして、光の記憶の中で見た、男の姿を思い出した。

決断してからは、早かった。
ネームレスは右手に着けていたグローブ――イゾルデを外すと、クーラの右手に着けていく。
イゾルデを外した途端、ネームレス一人では完全なコントロールが出来ない草薙の炎が暴走を始める。
それでもネームレスは苦痛に顔を歪めることすらせずに、クーラへと淡々と言葉を放つ。

「このグローブには、お前と同じ力が込められている――大丈夫だ。きっとイゾルデが、お前を助ける」
「ほ、炎が出てるよ!? 熱くないの!?」
「……生きるってことは、」

クーラの質問を、ネームレスは無視する。
そして、K'の記憶を通じて見た――『ネームレスが命を奪った男』の言葉を、繰り返した。

「“やせ我慢”をするってことらしい」

7002K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:38:07 ID:qknxQC4s0
瞬間、クーラは理解した。
クーラがいくら頼み込んでも、ごねても、K'が決して譲らなかった一線があったように――ネームレスもまた、強情なのだ。

「そんな……せっかく、助かったのに……」
「俺はお前に救われた。俺は、俺として最後まで生きることが出来た」
「美味しいアイスも……っ!」
「さっきので十分だ。……本当だ。俺が今まで食べてきた中で、最高の味だった」

とん、とネームレスの両手がクーラを押した。
少女の身体が離れると同時に、ネームレスの全身を炎が包む。
それは、彼本来の炎の色。イゾルデと彼を繋ぐ理由になった、赤黒の炎。

「今行くよ、イゾルデ……」

少年の命が、炎と共に天に昇っていく。だが彼は、ただ死んだのではない。
彼は最後まで――ネームレスとして、生き抜いたのだ。

少年の亡骸は、灰となって舞っていった。
クーラは――流していた涙を右手の甲でぬぐった。
ネームレスから受け継いだグローブ。彼の大切な人と同じ名前をしたそれは、クーラの命を繋ぎ止めた。
氷の力も、完全にとは言わずとも取り戻している。イゾルデから感じる力は、クーラの力によく馴染んでいた。

立ち上がる。そして見据える。視線の先にいるのは、全ての元凶完全者ミュカレ。
アイシクルドール――クーラ・ダイアモンド。
最後のステージへ、彼女は進む。
彼女をここまで繋いできた、多くの人たちの願いを背負って。



【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)、カスタムグローブ"イゾルデ"
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:みんなの分も生きていく
[備考]
ネームレスを救うために氷の力を放出しましたが、イゾルデの力を借りることで能力を使うことが出来ます。

7012K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:38:39 ID:qknxQC4s0







それは、少年が何よりも求めていた光景だった。
雪のように白い髪に、指を通していく。

「やっと……会えたな」
「ずっと待ってたよ」

イゾルデ、と少年は彼女の名を呼んだ。
少女は微笑んだ。

「名前を……呼んでくれないか、イゾルデ」
「これからは、何度だって、いつでも呼んであげられるよ」

少女は、ゆっくりと、少年の名を口にした。

「……ありがとう。いい名前だ」
「でしょう? ふふっ……いっぱい時間はあったからね」
「すまなかった……これからは、ずっと一緒だ。もう二度と、離さない」


名無しの少年は、もういない。



【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

7022K+2 ◆XYwo2aJaLY:2013/11/04(月) 23:39:12 ID:qknxQC4s0
以上で投下終了です。

703名無しさん:2013/11/05(火) 00:35:14 ID:eGOQcjd60
投下乙です。

う、うわあああネームレス!! かっこいいやせ我慢だったぜ!
『やせ我慢』のエピソードの拾い方が上手でテンション上がり、クーラやイゾルデとの切ないやりとりでMAXになりました。

終盤のビッグウェーブは半端ないなあ……改めて乙でした。

704 ◆LjiZJZbziM:2013/11/05(火) 01:12:38 ID:9jSxrbHg0
投下乙です!
ああ、もう、人生の縮尺……
作られた彼らだからこそ、前に進める、出せる答えがある。
周りに回って届いた、ターマの言葉がもう……!!
最後、やっぱりクーラは死んじゃうんだろうなあとうっすら思っていたけれど、
それを覆す、答えを見つけた、一人の少年ってのが、もう!
改めて投下乙でした!! ありがとうございます!

705名無しさん:2013/11/05(火) 21:43:27 ID:BGcMmjBI0
終盤にかけてのそれまでの話の拾い方と結末に惚れた。
いいなあ、いいなあ、これ

706 ◆LjiZJZbziM:2013/11/15(金) 00:40:14 ID:3VAeaU9U0
月報集計いつも集計お疲れ様です。
PW 85話(+6)  5/55 (-5)  9.1 (- 9.8)

707 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:29:41 ID:CRUg.pQ20
 調和の取れた世界。
 正しく廻っている世界。
 完全で無欠の、傷ひとつない世界。

 ――誰もが望み、誰もが救われている場所。苦しみのない理想郷。

 事あるごとに、誰かがそれを口にしていた。
 聞かされて、育ってきた少年がいた。
 聞かされて、面白いと笑った男がいた。
 しかし彼らは。
 その言葉を聞いて。
 未だなお、結論を出せずに、いた。

     *     *     *

708 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:30:06 ID:CRUg.pQ20
「――蛹を破り、蝶は舞う」

 一瞬、ルガール・バーンシュタインは彼女……いや、今や男とも女ともつかぬ言葉の所在を理解できなかった。
 オロチが放ったものだと分かるまで時間を要した。それほど、相対するオロチは異質で不可知の存在だった。
 我知らず、ルガールは握った拳を震えさせていた。武者震いではなく、地球の意思と称されるものに恐懼したがゆえのことだった。

 なんと、圧倒的か。

 オロチの存在は知ってはいた。いや、知りうる限りの知識は持ち合わせていたつもりだった。そもそもオロチの力を手に入れるつもりでいたし、自らの内部に宿したこともある。
 だがしかし、これは。あまりにも想像外の衝撃だとルガールは認識を改めざるを得なかった。
 かつて自らの目をえぐり取り、先程死闘を演じた吹き荒ぶ風のゲーニッツですら霞むほどの、格が存在していた。
 なるほど、抗えぬわけだとルガールは一時、自らの敗北を認めた。暴走する力を抑えきれず、内から力に食い破られた昔日を思い出し、笑みすら浮かんでくる。
 外側から見る『オロチ』がこれほど圧倒的とは。己一人では御しきれないのも道理。その力の原初を改めて眺めた。
 既に、依代となった女にかつての面影はない。顕現の影響なのか、衣服の上半身部分が千切れ飛び、修道帽に押し込まれていたのであろう長髪は力の奔流を受け、
 半分ほどが消え失て短めのショートカットを形作っている。そればかりか髪の色さえ変容し、純白と形容するのが相応しい白髪となっていた。
 肉体そのものも変化を始めているのか、アノニム・ガードが有していた女性らしい丸みを帯びた身体は、今や男性とも女性ともつかぬ中性的な肉体へと化している。
 具体的に言うと乳房が縮小し、全体的に引き締まった筋肉質な身体になっているものの、肌のきめ細かさ、染みひとつない潔白な部分は元のアノニムのものだ。
 人間としての美で表現するならば、神々しいの一言に尽きる。

「我、ガイアと共に有り」

 指先を胸の前で合わせ、オロチは宣告する。
 色のない瞳で。無慈悲なる神の意思で。
 貴様らに朝日は訪れない、と。

「あれが……オロチ」
「臆しているのかね?」

 喉をごくりと鳴らし、表情を固くしたエヌアインに、ルガールは冗談めかして言う。
 その言葉を聞くやいなや、ムッとして言い返そうとしてきたところに、間を置かずルガールは続ける。

「私もだよ」

709 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:30:32 ID:CRUg.pQ20
 その瞬間、憎まれ口を叩こうとしていたエヌアインが呆気に取られた顔になった。
 常にから冷めたような雰囲気を纏い、大人ぶった諧謔味のある笑みしか浮かべない少年の、それは初めて見せた歳相応の反応だった。
 敵を目の前にし、強大で破滅的な力を目の前にしながらも、ルガールはその一事で可笑しな気分になるのを抑えられなかった。
 口の端を吊り上げていると、笑っていることに気づいたらしいエヌアインが憎々しげに睨み、しかしすぐに目を逸らした。
 感情を顕にして、その事実に戸惑う。感情に振り回されるのは若者の特権だなとしみじみと思い、そうした感想を抱く自分は歳を重ねたものだとルガールは思った。

「……あんたでも、怖いものがあるんだね? 悪党も恐れる『死の商人』、『虐殺の交響曲』が」
「当然だとも。恐怖を持たない人間はいない。世界最高峰の悪人を自負する私でもな」
「意外だよ」
「そうかね? 恐怖を持つということは、それを支配できる可能性があると私は見ている。君たちは克服と言うのだろうが。我々には必要なものだ」

 想像外の返答だったのか、冷静の鉄面皮を再び被りかけていたエヌアインが目を丸くした。
 というよりは、意外な中身を見たというような顔で、どうやら自分が思う以上に悪魔のような人間だと思われていたらしいと気付いたルガールは、
 名誉なことだと思いながらも複雑な気分にもなっていた。冷酷で残虐な悪人だという自覚はあるが、何をも感じぬ無感情の機械などではない。
 そう、恐怖があるからこそ乗り越えるか屈するかの、進化の岐路に人は立てる。恐怖を支配した人間は強い。ルガールが欲したのは、その力だった。
 世界征服などただの序曲に過ぎない。自分が世界を支配すれば、必ず抗う者が出てくる。
 草薙京や八神庵がそうであったように、あらゆる反発を撥ね退けて人は恐怖に立ち向かう。
 この殺し合いでさえそうだ。紆余曲折を経て、自分達は救済を目論む完全者ミュカレの前に立ち塞がっている。
 そこには、新たな力が生まれうる。誰もが見たことのない、未知で不可知の力が。
 ルガールは、それにいつまでも触れ続けていたかったのだ。果てのない進化の先、未来と呼ばれるものの最前線に立ち続けていたかった。
 ……誰もが知りえないものに、真っ先に我が手で触れられるというのは、最高に愉悦を覚えることではないか。

「その恐怖(ちから)も私が取り込んでくれよう!」
「……なら、やるしかないみたいだね!」

 隣同士で並んでいたルガールとエヌアイン。それぞれが弾かれたように動き出し、それぞれが己を背負う戦士となる。
 オロチの放った衝撃波、『解除(はらえ)』が二人の立っていた場所を薙ぎ払ったのはそのコンマ数秒の後だった。
 空間そのものを歪め、物質を破壊するのではなく無の彼方へと追いやる『解除』は、抉り取るという表現の方が正しかった。
 クレーター状に『持って行かれた』床をエヌアインは少しだけ振り返り、ルガールは威力など先刻承知という風に見向きもしなかった。
 結果的に、それが左右に分かれた二人の前衛と後衛を決定する形となった。脇目もふらずオロチに疾駆するはルガール・バーンシュタイン。少し離れた位置にエヌアインが陣取る。

710 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:30:53 ID:CRUg.pQ20
「行けッ!」

 牽制の射撃を放ったのはエヌアインだった。腕を一振りすると、円環状の紫炎が生まれ、回転する輪となってオロチへと向かう。
 ENパイロキネシス。超能力全般を扱うエヌアインの最も扱い慣れた遠距離攻撃だった。
 炎の速度はなかなかに早い。草薙京の技と比較しても遜色なく、ルガールは少々の感嘆を覚えながら走るペースを調節する。
 まずは反応を見させてもらう。避けようとするのか、何か技を以って相殺を試みるのか。
 優れた格闘家であり、古今東西あらゆる格闘技に精通したルガールは、同時のその豊富な知識量を武器にして戦術を組み立てることができた。
 避けようとするならアクションを起こしたその隙を突き一気に懐に潜り込む。相殺しようと試みるなら、同時にこちらへの攻撃も展開してくるだろう。
 その場合は守りを考える必要があり、『ダークバリア』等の手段を講じる必要があった。

 さあどうする。

 地球意思と称されるものを相手取ってさえ、ルガールは戦いを愉しむ思考を止めなかった。
 いや、敵が何であれ、戦いであるのならルガールはその対峙を愉しむ。殺るか殺られるか。戦場において最終的に辿り着くのはその二つに他ならない。
 そして、戦場を支配する論理もその二つだけだ。国も人種も言葉も血も、その全ての垣根は取り払われ、御大層な大義名分や建前に振り回されることもない。
 あらゆるものを押し退ける鉄の意思が道を開き、力が勝る方が相手を下す。単純明白なこの論理を、ルガールは気に入っている。
 どちらが生き残るか。勝負といこうじゃないか――。

「……」

 だが、そのルガールの挑戦的な視線すら、オロチは冷めた目で眺めるだけだった。
 超然とした、睥睨する瞳で。神はその力を示す。

「糺(ただす)」

 勝負? 何を勘違いしている?

 ただ一言放ったオロチの言葉に、その意図を分かり過ぎるほどに分かってしまったルガールは、己の判断の狭さを思い知らされる結果となった。
 オロチへと真っ直ぐに向かっていたはずのエヌアインの紫炎は、いつそうされたのかと感じる暇もなく、反転してエヌアインのいる方向へと逆走していた。
 弾き返された、いや反射されたのか!? そうする挙動さえなく人智を超えた技を放ったオロチに驚愕する暇は、ルガールには与えられなかった。
 彼のすぐ眼前、音もなく接近していたオロチの能面のような顔がそこにあったからだった。
 殺気も、闘気も感じなかった。ただ目的を達成するために肉体を動かしていたオロチからは感ぜられるはずもなかった。
 ルガールは二度目の過ちに気付く。オロチとはシステムでしかないということに気づけなかった過ちを。
 既にして人間との対話を切り捨て、人類殲滅の遂行機械と化したオロチには、駆け引きなど存在しない。殺戮する。ただそれだけである。

711 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:31:17 ID:CRUg.pQ20
「誓約(うけい)」

 首を刈り取る、ギロチンのような一撃を回避できたのは僥倖と言う他なかった。
 皮肉なことに、その技がルガールの最も得意とする足技に酷似していたことが命を救った。
 避けたというより、身体が勝手に動いたのだった。『ジェノサイドカッター』。予期せぬ軌道で足を蹴りあげ、遠心力と鋭さを以って急所を一撃で切り裂くその技を、
 完璧なほどルガールは会得していたがゆえに、『誓約』の軌道も身体が理解していたのだ。

「小賢しい真似をッ!」

 見下されたからではない。己の最も得意とする技で止めを刺そうとしたことが、ルガールには安い慈悲のようにしか思えなかったのだ。
 救済を、憐れみを与えられるような人間だと。ルガール・バーンシュタインはその程度の悪だと規定されていることが、許し難かった。
 しかし意趣返しとばかりに『ジェノサイドカッター』を放つような愚は犯さなかった。一瞬の交錯。その間に感じた『誓約』の切れ味は本物だった。
 即ち、ルガール以上にこの技を知悉している可能性がある。当たらないだけならまだいい。手痛いカウンターでも食らおうものなら、今度こそ首が飛ぶだろう。
 怒りは感じても、頭に血は昇らなかった。度の過ぎた怒りが、かえってルガールの頭を冷えさせていたのだ。
 身体を捻りつつ、ルガールは己の拳に暗黒パワーを集中させる。『ダークバリア』は張るまでの若干の時間を要する。素早く一撃を放て、かつオロチを弾き飛ばせるほどの威力のある技が必要だった。
 当然、それをルガールは会得している。

「『ダークスマッシュ』ッ!」

 掌底。しかしルガールのそれは暗黒パワーによって、達人が放つ掌底の何倍ものパワーを発揮する。
 傍目にも分かるほどのドス黒いオーラは、ルガールの悪の心と怒りで醸成され、既に猛り狂う炎に等しいものだった。

「糺」
「賢しいと言っている!」

 掌底を開いた手の平で受け止められたが、その程度で勢いを止められるものではなかった。
 強引に暗黒パワーを捩じ込む。逆にオロチの力を流し込まれる恐れもあったが、その程度のリスクは織り込み済みだった。
 むしろ少量ならば取り込んでみせるという計算さえあった。舐めた力など捻じ伏せるのみ。顔を歪めたルガールに、オロチの無表情が僅かに崩れる。
 哀れみが消え、侮蔑が生まれた。そんな表情だった。多少は不愉快な思いをさせてやれたという確信が喜色に変わりかけ――、

「図に乗るな」

 手刀。しかもその速度は殆ど不可視の領域だったと言ってもいい。気付いたときにはルガールの腹筋を安々と貫き、血の一滴も流さずに指をめり込ませていた。
 私の攻撃を片手で防御しながら、だと? その認識に至ったときには驚愕以外の感情が生まれず、ルガールは半ば呆然とした面持ちで、己の腹から生えるオロチの腕を見つめた。
 他人事のように見ていた、が正確な表現だったかもしれなかった。こうも容易く、あっさりと。赤子の手を捻るよりも簡単に負けたことが、ただ信じられなかった。
 あり得ない。圧倒的な敗北の証を、ルガールは受け入れられなかった。それまでの半生において、敗北を喫した回数自体は決して少なくない。
 だが負けるにしろ、それは死闘の果てであったり、永遠とも思えるほどの闘争の結果であったり、競った末のものが殆どだった。
 自分が、何も出来ずに負けるわけがない。そうしたルガールの自負は、ただの数秒も満たない間にあっさり打ち砕かれたのだ。

712 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:31:39 ID:CRUg.pQ20
「お前っ!」

 だから、割って入ったエヌアインの声も、どこか遠かった。
 目を怒りの色に変えて走ってくる細身の少年を、ルガールは茫とした感覚で眺める。そして、思った。
 ああ、あの少年も負けるのだな、と。

     *     *     *

 地面を蹴り、飛びかかるようにして低空を飛ぶ。
 感情を全て力に変えても尚、焦燥にも近い思いが生まれるのを抑えきれない。
 跳ね返された炎を避けた、たったそれだけの間でルガールが腹に手刀を突き刺され、やられているのだ。
 世界最凶。悪の中の悪。格闘の天才。会って間もないエヌアインにすらそう思わせ、味方になれば頼もしいと安心感さえ抱かせたルガールが、ほぼ一合打ち合っただけで。
 仲間が倒れたことに対する危機感ではなかった。敵を討つのだという使命感でもなかった。怒りの半分は、生まれようとしていた恐怖を押し隠すためのものだった。
 戦いに飛び込まなければ呑まれてしまう。そんな慄然とした気持ちがエヌアインを走らせたのだった。
 風を切る勢いのまま、踵を空中から落とす。不意打ちでもなんでもいい。ここで一撃叩きこまなければ決して、この怪物は下せないという直感があった。
 踵の先端が、オロチの数十センチまでに迫る。防御する動作はない。当たれ――!

「顕斎(うつしいわい)」

 祈りにも似たエヌアインの気迫は、届かない。
 僅かに視線を傾け、エヌアインを睨んだオロチを防護するように、『鏡』が現れた。
 半透明ながらもはっきりとエヌアインの身体を映し出すそれは、考えるまでもなく鏡だったのだ。

「うっ!?」

 だからどうした、鏡ごと蹴り割ってやると思う暇は与えられなかった。
 気がついたときにはまるで無理矢理引っ張られたかのように、エヌアインの身体は真後ろに弾き飛ばされていた。
 あまりにも不可解な現象に受け身も取れず、地面に投げ出されごろごろと転がる。だが思考までは投げ出さなかったことが、エヌアインを助ける結果となった。
 すぐさま立ち上がり再び前を駆けた瞬間、放り出された空間に炎の柱が屹立していた。なぜ、と少しでも考えようとしていたら炎に呑まれていただろう。

713 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:32:02 ID:CRUg.pQ20
「……儚いものよ」
「……逃げるものか!」

 ルガールを手刀で突き刺したまま、オロチは悠々と喋る。
 それで十分、人間など取るに足らないと確信しているかのように、オロチは顎を少し上に傾けて、見くびった。
 だったらそうしているといい。お前が手加減してもボクは何も変えない。全力を貫き通すしかない。やるしか、ないんだから……!
 両手を、翼を広げるかのように大きく開いて『ENパイロキネシス』の力を収束させる。
 炎には、炎で対抗させてもらう――!
 ぐっと引いた両の腕を、前方に突き出す。それと同時、何もない空間に、紫とも赤ともつかぬ色相の巨大な火柱が生まれた。
 太さで言うならそれはオロチの放った火柱、『火闌降(ほのすそり)』にも引けを取らない。

「これでッ!」

 エヌアインが思惟を伝えると同時、燃え盛る火柱がまるで生きているかのようにオロチへと向かう。
 最大出力の『ENパイロキネシス』。炎の顕現とするため、変化の過程で超能力本来の威力は減衰されてしまうものの、制圧力はエヌアインの持ちうる技の中でも最上位に位置する。
 天井、いや天をも突き破らんとする炎を飛んで避ける術はない。横に避けようとしても大きく動きを取らざるを得ない。
 防ぐ術はただ一点。力を以って相殺することのみ。だが威力そのものはさしたるものではないがゆえに、連撃と共に放たなければ容易に『攻性防禦』等に相殺されてしまう。
 オロチは『攻性防禦』を持ちあわせてはいない。だが、似たような技を会得していることは先ほどの小手合わせで知悉するに至っている。
 結果、ルガールが一合のうちに致命傷を負ってしまうという大きすぎる代償を支払ってしまったが……。
 油断していたわけではない、ましてや侮りなどしてもいなかった。敵が、あまりに想像の外に居過ぎたのだ。
 エヌアインは、歯噛みする。そんなことは言い訳でしかないじゃないか。
 この戦いには勝てなければ駄目なんだ。勝てなければいけないんだ。そうでなければ、ボクは……。

「糺」

 思考の残滓は、想像通りにオロチが『糺』を放ってきたことでかき消された。打った賭けは動き出したのだ。後はひたすらに動くしか、ない。
 エヌアインは自らの思惟を、宙に漂わせる。自分のイメージを想像した場所に置く。
 テレポート。エヌアインが持つ超能力の中でも、一番の秘蹟と称するに相応しい技だ。

714 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:32:24 ID:CRUg.pQ20
「読めてる」

 移動は一瞬。側面に回り込んだと同時、エヌアインの拳はぐっと引かれている。
 地面を踏みしめ、風を切るようにして拳を繰り出す。

「顕斎」

 オロチはエヌアインを振り返らない。ぽつりと口にしたと時を同じくして、先程自身を弾き飛ばした『顕斎』が現れる。
 割れた瞬間を逆再生したかのように、破片と思われるものが寄り集まって鏡の形を為す。触れれば拒絶する、無類の防御力を誇る守護の盾。
 しかしエヌアインは、表情を変えなかった。いや、既に彼の目は、別のものを見ている。

「それも、読めてる」

 再び、少年の姿が霞と消える。テレポートだった。一度目の移動時から、次のテレポートへの準備をしていたのだ。
 攻撃動作は引き付ける囮に過ぎない。『ENパイロキネシス』ですら。これこそがエヌアインの真骨頂だった。
 強力無比な打撃で守りを崩すだけの技量はないが、能力を活かした豊富な奇襲で、連撃の起点を当てに行く。
 正確に急所を狩り穿つ一撃は、一般的な男性と比較してもやや華奢であるエヌアインでも効果的な威力となる。
 そして一度当ててさえしまえば。強大な威力を誇る超能力で仕留めることが、エヌアインにはできた。

「……ここだッ!」

 次にエヌアインが現れたのは、オロチの頭上。
 テレポート能力は思惟さえ飛ばせばどこにでも移動が可能だ。水平移動に限った話ではない。縦にだって移動ができる。
 オロチを守る盾、『顕斎』はつい一秒ほど前にエヌアインが居た場所に向けられたままだった。鏡を二枚出せるという芸当を行わない限り、この壁は――、

「誓約」
「それも」

 ――抜ける。

715 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:32:47 ID:CRUg.pQ20
「読めてる!」

 もう一度のテレポート。連続で思惟を飛ばせるのはここまでだったが、元より限界までテレポートを繰り返すつもりであったエヌアインには関係のない話だった。
 体制は全く変えていない。そう、空中に移る前の、拳を引いたときと寸分違わない格好だ。
 これまでは全てフェイント。しかし最終的にフェイントだったものは、正確に急所を捉える一撃となった。
 オロチが『顕斎』ではなく『誓約』で迎撃を試みたということは、鏡は二枚は貼れない。『火闌降』を撃ってもこなかった。あの火柱は正確にエヌアインを狙撃することはできない。
 『解除』は至近距離で撃つには隙が大き過ぎる。完全に懐に入ったエヌアインの一撃を防ぐ手立てはない。

「だから、これで、終わらせるんだ!」

 貫くように繰り出されたエヌアインの、祈りにも似た拳の一撃は、確実にオロチを捉える。

「何を?」

 はず、だった。

「我を封印し、何を得る?」

 空を切った拳の先には何もない。
 忽然と消え、なおも聞こえるオロチの、男と女、いや老若男女全てが混ざり合ったかのような声が、背後から聞こえた。
 冷水をかけられたどころではなく、その瞬間には息をすることさえ、エヌアインは忘れていた。

「ボクの、技を」
「不適当である。もう一度、問う。何を得る? 棄てられた器よ」

 身体が動いたのは、殆ど奇跡的だった。
 這いつくばるようにして頭を下げ、無様といっていいほど不格好に転がったと同時、『誓約』の一撃が側頭部のあった場所を掠めていた。
 あり得ない。頭はその一語に満たされ、全身が硬直し、震えが内奥から染み出してくるのを抑えるのがやっとだった。
 あり得ない。全てを賭けて打った戦術が、最後には自らの技でいとも簡単にいなされたことが。
 あり得ない。オロチが自らに投げて寄越した、棄てられた器という言葉そのものが。
 まるで、ボク自身の全てを見透かされているようじゃないか――。

716 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:33:06 ID:CRUg.pQ20
「お前の……知った、ことじゃ、ない……!」
「答えられぬか」

 哀れなものよ。目と、頬と、口元が、その意味を成すかのように動いた。

「……ッ」

 歯の付け根が噛み合わない。怒りも反感もなく、怖気に近いものだけがエヌアインにあった。
 全てを見られている感覚。識られている感覚。自分自身がここに至って隠してきたはずの全てを、嘲笑されている感覚が、恐怖だった。
 全力ではあったものにそこまで動き続けていたわけでもないのに、動悸が止まらない。
 立てない。立たなければいけないのに、ついた膝が動かない。指先の震えが抑えきれない。無力が全身を覆い、気力の全てを奪い、闘志を萎えさせている。

「孤独に生まれ、孤独に恐れ、しかし孤独にしか生きられぬ。神の成り損ないとは、これほどの憐憫か」

 一方的に並び立てられる侮蔑の言葉さえ、エヌアインを奮い立たせるには至らなかった。
 それほどまでに打ちのめされたと言ってよかった。己を構成する全てを手玉に取られていることが、決して触れられてはいけない聖域に踏み込まれたことが、全ての恐怖だった。
 考えまいとしてきたことが、意識的に頭の奥底に封じてきたことが浮かんできてしまう。

「所詮は器か。何も入ってはおらぬ。故に神になり得るものであり、故に人にも成り下がり得ぬ」

 オロチは目を閉じ、慈悲深く、たおやかに己の両手を重ね合わせた。
 絶望的な気持ちで。ギロチン台の上に立たされたかのような面持ちで、エヌアインは淡々と事実を紡ぐオロチを呆然と見るしかなかった。

「何にも成れぬ。何も成さぬ。なれば」

 合わせた手が、祈りではなく処刑の合図だと理解できたのは、周囲の景色が一面、雪のように真っ白だと気付いたからだった。
 殺される。いやそのような生温いものではなかった。消されるのだとエヌアインは直感した。
 核の炎のように全てを飲み込み、無慈悲なまでに、それがあった痕跡さえ失わせてゆく暴力的な『白』がそこにはあった。
 オロチなりの救済の証なのだろう。あったことさえなかったことにされ、己という存在があらゆる歴史から抹殺され、痛みも苦しみも、絶望や逼塞ですら無へと還る。
 最初から『なければ』、誰も悩まず、苦しまず、感じることさえなく。あらかじめ知らぬものとしてしまうのは、確かに救いではあるのだろう。

「無に還ろう」

 心の一部が納得を覚え、しかしそれは違うとさらに小さな心の欠片が叫びかけた瞬間――、

 エヌアインの意識は、白という名の『無』に塗り潰された。

     *     *     *

717 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:33:29 ID:CRUg.pQ20
 ルガール・バーンシュタインの半生は、完全なる世界という言葉に立ち向かうために捧げられたといっても良かった。
 いや、正確なところを言えば、完全教団という敵に対処するための力を探し続ける半生だった。
 ルガールがまだ二十代のころから、裏の世界において完全教団――滅亡こそを救済と断ずる異教の軍団は大きく名の知れた組織だった。
 この不完全な世界を造り上げたのは神ではなくサタンであり、低俗で愚かな人間は、それゆえに何度でもこの地上に転生を繰り返している。
 今や地上に蔓延る者どもは、誰も彼もが我欲を追うばかりの救いがたい獣でしかない。己が己を騙し、人が人を平気で陥れる世の中を見ろ。
 大義と呼ばれる不定形なものを名分に全てを奪い尽くし、なくなればそれまでと切って捨て、そうして食い尽くした責任は人が選んだ結果だと開き直る。
 数だけを増やし、欲だけを肥大化させ、そうして地上の全てを食らった後は天上にも穢れた手を伸ばすだろう。
 ――故に我々こそが、まだ穢れが少ない、まだ人の体を成している我々が、自らを裁かねばならない。無益な転生でさらなる穢れを振り撒く前に。
 これ以上の罪を重ねる前に。同族である我々こそが、救済を与えねばならない。それがせめてもの慈悲なのだから……。

 狂人の世迷い事と切って捨てることが出来なかったのは、事実完全教団が裏の世界から表に至るまで、無視できないレベルの影響を持ち始めていたからだった。
 それは静かな侵略だったと言っていい。コネクションを作る傍らで、ルガールはその名前を何度も耳にした。
 巧妙に、狡猾に、完全教団は実力のある者を飲み込んでいた。世の中の争いに辟易した者、救済と称した殺戮を是とする気狂い。その全てを。
 理解できない思いが積み上がる一方で、聞きたくなくとも完全教団の論理は知識として埋められてゆく。

 我々は濾し取られた一握りの種だ。徳を積み、新たなる器の完成をもって次の階段を登り、天へと至る存在だ。
 我々は救済者でなくてはならぬ。慈悲深く、あらゆる徳を全うしなくてはならぬ。故にこそ、獣と化した同族を、旧人類にも手を差し伸べねばならぬ。
 霊的救済を。世界に遍く欲の塊を導くことを。我々の悲願はそのときより始まる。完全なる神々の世界へと至る道程が始まるのだ……。

 既に堕落を繰り返し、なお我欲を追い続ける獣――旧人類は不要である。しかし天へと至る我らは慈しみを与え、愚かなる獣どもを救済するのが努めである。
 要は徳の低い自分達を『救ってやる』のだと嘯く完全者の言葉だった。それだけならまだ笑うことができた。ただの敵と見ることに甘んじていられた。
 笑うことも出来なくなったのは、実際に彼らが率いる教団の戦士《テンペルリッター》や《電光戦車》が想像を絶するほどの数になっていたからだった。
 その数は一国の軍隊に比肩する。その上でまだ計画は途上であるとルガールが知り得た瞬間、理解できないという思いはあり得ないという感想に変わり、そして最後は認められないという怒りを残した。
 確実に肥大する完全教団の兵。どのようにして数を集めたのかはこの際どうでもいいことだった。許せなかったのは、完全者の主張を切って捨てようとしない世界のありよう――。
 即ち、完全者の言うことにも一理があり、その論理を受け入れ滅びの道を歩むことも已む無しという、緩やかな破滅の肯定が許せないことだった。
 罪を犯し、罰を踏みしだき、貪欲にしか生きられないのが人類。そこまではいい。裏の世界で生きてきたルガールはそれ自体は認められた。
 しかしだからと言って、滅ぼされても当然であるという論理だけは受け入れられなかった。悪だから滅ぼされる。滅ぼせば浄化を迎え、真に正しい道を歩めるなどというのは所詮独善でしかないはずなのだ。
 正義を口にする連中……ルガールの行いとは対をなす連中でさえ、悪の存在そのものを否定はしなかった。なのに世界は、完全教団を選んだ。そうでなくとも肯定はした。
 人のありようを身勝手に断言し、決めつけ、与えられる安っぽい慈悲とやらを受け取るつもりはなかった。
 力。完全者に対抗できるだけの確かな力が必要だった。この世は常に混沌としていて、決して終わりがあることはないと、証明するに足るだけの。

718 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:33:48 ID:CRUg.pQ20
「しかし結局、あなたはその力を手に入れられなかった。父上」
「……アデルか」

 何もない『無』。上も下もあるかどうかさえ分からない、ルガールが腰を下ろしている『ここ』さえあるかどうか分からない、場所とすら呼べるのかも覚束ないところに現れたのは、
 己の息子であるアーデルハイド・バーンシュタインだった。やや白すぎる肌の色を除けばほぼルガールと瓜二つ。いや寧ろ顔立ちが整っている分、彼の方が均整な肉体だと言えた。

「そうか、お前も来たというわけか」
「私には父上のような執念はなかった。だから死んだのだし、父上のように『分子レベルとなってまで世界を漂って生きる』ことなど出来なかった」
「知ったのか」
「麻宮アテナの……龍に飲み込まれて、初めて、知りました」

 そう。
 正確に言えば、殺し合いが始まった時点で既に、『公式上ではルガール・バーンシュタインという人間は死んでいた』。
 けれども、しかし。ルガールの肉体は滅びはしたものの、その意識までは根絶していなかった。彼の意識……力を求め、悪を成そうとするルガールの純粋な心だけが死して残り続けていた。
 だから、公式上では死亡したにも関わらず、噂話や都市伝説と呼べるレベルでルガールは生きていると言われ続けていた。
 『力を求めて、今もなおKOFの片隅に現れている』
 『悪を絶えさせないために、時折どこからか現れて騒動を起こす』
 誰もその姿を見たわけではないのに、ルガールは話の種になり続けていた。

「そこまでして、何を為そうとしたのです、父上」
「……今にして思えば、単なる意地かもしれんね」
「意地、ですか」
「かつて草薙京達は私を封じた。血の運命に打ち勝ち、血の抑圧を退けて。真正面から堂々と倒されれば納得もできよう」
「完全教団はそうではなかった、と?」
「でなければ何だ。奴らはこそ泥のように這い回り、目的さえ達成できればいいとばかりに、地球意思とも迎合したのだ。美学のない下の下だよ」
「しかし父上はそれに負けたのです。いや父上ばかりではない。かつてあなたを退けた草薙京も、《ネスツ》を破壊した者達も。全て死んだ」
「確かに、な……」

 理屈は分からないが、ルガールは再び肉体を得て復活した。或いは、殺し合いという要素に引き寄せられて肉体が再構成されたのかもしれない。
 真実はこの際どうでもいいことだった。とにかくルガールにとっては、これが最後のチャンスだった。自分達は完全者に支配されざる者であると、証明する必要があった。
 世界そのものが自分達を不要だと、棄てられて然るべきものだと蔑まれようと。そんなものは関係ない、自分達の生きる世界を作るのは自分しかいないのだと、唱え続けなければいけなかった。
 誰にも、何者にも飼われることなく、自らの力で切り拓いてゆく世界――。ルガールが目指したものはそれだった。
 新世界の創造主。現存する神を、人類を抹殺しようとする神を打ち倒し、神などなくとも人は己の足で立って歩いていける場所があると、ルガールは新世界があることを知らしめたかった。
 それがルガール・バーンシュタインの唱えようとした、新たなる支配の形だった。今、やっと、『支配』の中身を消化できたのは皮肉としか言いようがないが……。

719 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:34:08 ID:CRUg.pQ20
「支配……言い換えれば、全ての人間の中にいつまでも残り続けることだな。常に心の中に私がいるというのは、支配以外の何物でもない」
「私という子をなしたのも、その一環というわけですか」
「だったのだろうな。当時は気付きもしなかったが。今気付いたのは、年だからだろうな。年を取った……」
「死人がそんな口をきくのですか」

 能面のような表情ばかりだったアーデルハイドが、そこでようやく薄い笑みを見せた。
 ルガールもまた苦笑を浮かべた。『無』の果てまでやってきて、ようやく己の心を消化し、確かな言葉として飲み込めるとは。
 しかし決して悪い気分などではなく、どこか清々とした気分になると同時に、僅かばかりの後悔もあったことにルガールは寂しい気分も味わった。
 最初から気付いていれば。少なくともアーデルハイドという息子に、己の意思を継がせることも可能だっただろうに。
 自分一人で何もかもをやろうとした結果と言えば、そうなのだろう。完全で完璧な悪だと自負するが故に、息子でさえ己を仮託しようとも思えなかった。
 この美学を理解できることはないと心のどこかで決め付けた。いや、仮に理解したとしても、アーデルハイドでは自分の美学を劣化させてゆくだけだろうという不信があった。
 今の自分なら、支配を行うためにはまず寄り添ってみせなければいけないのだと分かるのに。
 後悔がやがて苦痛に変わり始め、ルガールの意識が敗北の二文字に塗り込められていこうとするのを、「少し、安心しました」というアーデルハイドの声が遮った。
 頭を上げてみれば、そこにもまた、言葉を得て心の中で何がしかを消化し、その上で結論を見出した、清々とした雰囲気の息子の顔があった。

「私もずっとあなたに悩まされてきた。戯れに作ったのかも、悪意を秘めて作ったのかも分からない。私にはあなたの全てが理解できなかった。
 苦しませるためだけに私という息子を作ったのかとさえ思っていた。どうやらそれは、勘違いで済んだようだ」
「理解できたと言うのか?」
「まさか。ただ、父上は私に覚えていて貰いたかったのだと思えば、この死も納得できたという話です」
「覚えて……だと?」
「私にとって、支配とはそういうものです。残念ながら、あなたは一生忘れられそうにない。私はとっくの昔に父上に支配されていたようです」
「……アデル」
「だから」

 涼やかな笑みを崩さぬまま、アーデルハイドは拳を握り、ルガールに対する戦いの姿勢を見せた。
 踵を少し浮かせ、胸を張るような立ち姿だった。ルガール自身初めて見る、息子のファイトスタイルだ。
 自身のそれとは異なるものの、凛とした眼光の奥に潜む、炎のように燃え上がる闘争心は間違いなく自分そのものだった。

「私はあなたの意識を消滅させに来た。オロチの使いというわけです。しかし私は、どういうわけかオロチの力を賭けに使いたくなった」
「……ああ、なるほど」
「賭けの結果は、少なくとも私の知るところではない」
「お前には勿体無い力だな、アデル?」

 腰を下ろしたまま、立ち上がるつもりなんてなかったのに――、ルガールもまた、立ち上がってアーデルハイドに相対していた。

720 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:34:37 ID:CRUg.pQ20
「しかし父上ならば賭けの結果を知れるかもしれない。少しくらいは、今生に戻れるかもしれない」
「手に余ると言うのなら――。その力、私が使ってやろう」
「そう、できるといいですね、父上?」
「私の最後の闘いだ。特等席で存分に眺めるがいい、我が息子よ」
「分かりました。それでは」
「素敵な交響曲を」
「「始めよう……!」」

 疾る。

「『ダークバリア』!」
「『G・ワンド』!」

 濃緑色の禍々しくも力強い波動と、青白く繊細そうに見えてその実怜悧なほどに鋭い波動がぶつかり、火花を散らし、それらが混ざり合う。
 完全な相殺。欠片も残さない消滅。『無』へと帰す自らの力は、しかし『無』をも乗り越えて、その先にある遥か彼方へと力の奔流を飛ばした。

「『烈風拳』!」
「『G・キッケン』!」

 反動で弾かれた二人はすかさず次の攻撃を放つ。ルガールはかつてギース・ハワードより会得した『烈風拳』をボウリングの玉を投げるように軽々と放ち、
 アーデルハイドはそれを真似てさらに我流にアレンジを重ねた『G・キッケン』をサッカーボールでも蹴るように足先から放つ。
 直線的に向かった『烈風拳』と『G・キッケン』は引き寄せられるかのように互いに真正面からぶつかり、一瞬の拮抗さえなく消滅しかき消えた。
 ルガールは、『烈風拳』の使い方を思い出せなくなった。力がまた失われる。しかし消失ではない。

「『カイザーウェイブ』!」
「『G・クローンプリンツ』!」

 ヴォルフガング・クラウザーの技。比肩するもののない、皇帝の波動が、ルガールの記憶と共に『無』の彼方へと飛んでゆく。
 ミシリ、と。壁があるわけでもないこの空間にヒビの入る音が確かに聞こえた。届いているのか。それとも幻聴でしかないのか。
 こんな抵抗は無意味なのかもしれない。所詮は得体の知れない賭けでしかなく、敗北者でしかない自分達の、抵抗にさえならない賭け。
 しかし、それでも――。

「やるではないか、アデル!」
「これでもあなたを乗り越えようとしてきた結果だ、そう安々とは、終わらない!」
「だがここからは小細工なしだ。耐え切れるか、我が息子よ!」
「それはこちらの台詞だ、父上。年を重ねたその身にこれが受けきれるか?」
「ほざけ!」
「行くぞ!」

 ――意地が、あった。

721 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:34:55 ID:CRUg.pQ20
「『ジェノ、サイッ、カッター』!」
「『G・クレイス』!」

 遠距離から放てる小道具は最早無い。失くなったのなら、後は己の肉体に殉じるのみ。
 躊躇も、迷いもなく、二人は刃のように研ぎ澄まされた一撃を交差させる。
 それは比喩でも何でもなく、刀だった。『無』を切り裂き、次元さえも切断して、しかしルガールとアーデルハイドの刀は傷ひとつつかない。
 交響曲の調べは、鋼の領域まで達した肉体同士がぶつかり合う音色だった。示し合わせていたかのように、けれどもそこには打算の一片たりとも存在せず、
 向かってくる足技をいなし、隙を伺い、次なる攻撃を繰り出そうと間合を図っていた。

「『ギガンテックプレッシャー』!」
「『G・スクラーゲン』!」

 刀を棄て、記憶を捨て、それでも技がある限り、動きは止まることがない。
 首根っこを掴もうと伸ばしたルガールの右手が、同じく伸ばされたアーデルハイドの手に阻まれる。
 殆ど直近に迫る二人の顔。闘志を極限まで燃やしている二つの眼光が絡み合うと同時、もうルガールかアーデルハイドのものなのかも分からない力の奔流が『無』を駆け巡る。
 更にヒビが入る。ぱらぱらと、雪のように白い欠片が絶え間なく落ちてくる。ハウリングのような、黒板を爪で引っ掻いたかのような不協和音が木霊する。
 だが二人にはノイズにさえなり得ない。目の前に立つ、この男にだけは無様な姿を晒したくないという思いだけがあった。

「技は仕舞のようだ」
「まだある」

 賭けの結果が出るまでは、自分達は意地を張り続けなければいけなかったのだ。
 この世界に終わりがないのだということを、全てを消費し尽くし、忘却してでも唱え続けなければならなかった。
 決して滅びはしない。人類は、人間は、正義も悪も引っくるめて、しぶとく足掻き続けるのだ。

「「後は……殴るだけだ!」」

 防御も何もない、振るうだけの拳が交差する。
 幾度と無く肉と肉がぶつかり、痣を残し、血を散らせ、自らの中に残る力の欠片さえも放出させて。
 消えていくという感覚はあった。だが、存在がなくなるという感覚はなかった。
 新たな世界の地平線を切り拓く。敵となり立ちはだかった息子と共に。新世界の支配者となるために。
 殴り続ける。力という力を吐き出し、殆ど意識しか残っていない状態になろうとも。
 見えるか、この光景が。立ち続けていれば見られるあの景色が、貴様には見えるはずもあるまい。

722 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:35:22 ID:CRUg.pQ20
「ルガァァァァァァルッ!!!」
「アデルゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 絶叫と共に最後の拳を放つ。
 その際に見えたのは草薙京の姿であり、八神庵の姿であり、ゲーニッツ、ハイデルン、そしてあの島で出会った様々な可能性達の顔を浮かばせて、彼らは一様に頷きながら去っていった。
 ルガールは、快哉を叫んだ。どのような感情を持たれようと……彼らは恐らく、心の底にルガール・バーンシュタインを刻みつけていったのであろうから。
 そして最後に自分の姿を直接目に刻んだ、幸運な男は。

「……そうか、あれが」

 二人が最後に放った拳は、綺麗に交差し、互いの頬を打ち抜いていた。
 だがルガールも、アーデルハイドも、闘志を失うことなく立ち続けていた。
 強情な息子だ。その頑固さに呆れもする一方、だからこそここにいることが相応しいという納得も得て、ルガールは少しだけアーデルハイドから目を逸らした。

「見えたか」

 『無』の隙間を縫って差し込んでいたのは、光だ。
 決して自分達を照らさず、遥か彼方だけを照らし続けている。
 当たり前だ。自分達は悪人。光が当たることは決してない。けれど、そうであるからこそ――。

「次は、あそこだな……」

 手に入れたくなるというものだ。
 最期に心中で呟いて、ルガール・バーンシュタインは粒子の粒となって、消えた。

     *     *     *

723 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:35:42 ID:CRUg.pQ20
 廃墟の街を、当て所もなく歩く。
 砕かれて鉄骨がむき出しになり、炎が燃え盛るコンクリートの建物。潰れてひしゃげ、スクラップと化した車の群れ。
 曇天をさらに燻る煙が埋め尽くし、割れたガラス片が道端に散乱している。
 力なく明滅する外灯だけが辛うじて文明の在処を示していた。

 死の街。人類の生命が途絶えた街。完全教団により滅ぼされた街。
 いずれ訪れる、未来の光景だった。救済の名の下に一方的に全てを奪われ、沈みゆくばかりの世界。

「どうして」

 呻くように、乾ききった声を出す。吐き出された音は溶けて消え、黒々とした空へと吸い込まれてゆく。
 それほどまでに、エヌアインは絶望的な気持ちに苛まれていた。
 負けられなかった。負けてはいけなかった。何があっても、膝を折ってはいけなかったはずなのに。

「どうして」

 そんなエヌアインの前に音もなく現れたのは――自分。いや正確には、自分ではなかった。姿形こそ自分と同一だが、中身は違う。
 クローン。或いは、兄弟。実験の結果次々と死に絶え、エヌアインよりも遥かに短い生を終え、仮初めの名前すら自覚できないままに死んでいった同胞たち。
 その兄弟が。生きたくても生きられなかった自分自身の可能性のひとつが、濁ったガラス球のような瞳が、エヌアインを見つめて「どうして」と発する。
 正視することができず、エヌアインは唇を噛み締めて俯くしかなかった。
 だから、勝たなければならなかった。正す以外の方法で終わらせる術を考えなくてはならなかった。
 不条理な死だけを与えられ、生を受けた意味さえ持たされなかった兄弟たちに、顔向けできるような生き方をしなくてはならなかった。
 たくさんの死の上に成り立っている存在であっても、生きていていい存在だと思わなくてはならなかった。
 それはエヌアインにとって真実恐怖との戦いといってよかった。
 ずっと負い目があったからだ。神の器として造られた存在であること自体はまだ許容できた。そうであっても、まだ生き方を探すことはできた。
 だが自分以外の兄弟は皆死んだ。それに理由があったならば、まだ理解だけはできた。自分が優れた資質を持っていただとか、より高い適正を持っていたというなら、
 自分一人だけが生き残るという事実も、理屈としては受け止めることができるはずだった。
 だが理由も理屈も存在しなかった。ただの運――。乱暴に一言で片付けてしまうなら、それだけでエヌアインという個体は生き延びてしまった。
 特別な素質も、過酷な実験に耐えうるだけの特殊な耐性や能力があったわけではない。たまたま過酷な実験から逃れ、たまたま苛烈な投薬実験の材料に選ばれなかった。

724 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:36:06 ID:CRUg.pQ20
「どうして」

 分からなかった。何一つとして。どうして生きられたのか。生かされたのか。気がつけば、ただ一人エヌアインだけになっていた。
 考える時間も、求められる時間もなく。まるで呪いのように、エヌアインは死の上に成り立つ存在となった。
 そうなるだけの資格があるかどうかなんて、知れるわけがなかった。

「どうして」

 いつしか、目の前に立つ自分は、首を締め上げていた。
 かかる力こそ緩やかだったが、決して切れない真綿で締め付けられるような無常さがそこにはあった。
 まだ呼吸はできた。少しばかり息苦しいだけだ。けれどそれ以上に……心が、痛かった。
 首を締める自分の、その茫漠とした瞳の奥に、幾千、幾万の数の、『エヌアイン』になりきれなかった兄弟の姿に、何も言い訳ができなかった。

「どうして」

 生きることは、失くしていくことなのかもしれない。
 僅かに増した力を感じながら、エヌアインはふとそんな感慨を結んだ。
 ここまで来てさえ、得たものなんて何もなかった。糧になるものなんて何もなかった。
 いや、そもそも人類という存在は、他者を浪費してでしか生きられない宿業を背負っているのだろう。
 人が人を殺し、騙し、欺く一方で、己を知的生命体にまで昇華した地球でさえもただの食い物と断じて自然を破壊し、海を汚染し、空に穢れを振り撒く。
 生み出せるものなどありはしない。神になれると言われた自分でもさえ、器のままではいたずらに食い潰すだけの存在でしかなかった。
 だから、だからこそ。
 エヌアインという業を背負わされた少年は、生きている価値のある人にならなければいけなかった。
 本当はそうでなくとも、せめて兄弟達には生きていていいと言われるような、恵まれた資質を持つ人でなくてはならなかった。

 『ボクが普通で、君達がそれ以下なのさ』
 『余裕……』
 『ボクが全てを正す』

 全ては虚勢。今もこうして自分を殺そうとする、兄弟の中に潜む虚無から逃れるために、エヌアインは自らをそのような人間と定めることを選んだ。
 嫌味でいけ好かないと誹られようとも、そうなることでしか死んでいった兄弟達に顔向けできる方法がなかった。考えつかなかった。
 誰にも屈しない。弱みを見せない。負けない。そんな人間であることを課した。

725 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:36:25 ID:CRUg.pQ20
「どうして」

 しかしそれは、エヌアインの本心とは逆でもあった。
 死の上に成り立っている価値のある存在であろうとすればするほど、孤独を深めていくと気付くのはすぐだった。
 当たり前だ。誰とも妥協せず、人を対等以下に見て顧みない自らの態度は、不快に思わせて当然だ。
 だが引き返せるはずがなかった。そこで立ち止まってしまえば虚無から逃れられる理屈を持てなかった。
 孤独は寂しくて、嫌だ。人同士で傷つけあうのだって、できれば避けたかった。
 それでも、本心を出そうとすれば死んでいった兄弟の顔が暗黒の奥底から姿を見せる。「どうして」とエヌアインの生きている理由を求める。
 誰にも言えるはずがなかった。自分は理由もなく生き長らえ、犠牲を犠牲のまま終わらせた人間だと、どうして言える。
 皮肉を交えた言葉の隅に混ぜる程度のことしかできなかった。けれども自分は生きていいのかすら分からない存在だった。
 本心を吐き出していいはずがなかった。
 それが、神の現実体として最適な個体であるという風にヴァルキュリアから見られたのは、滑稽という以外になかった。
 ボクはただ、「どうして」という言葉に応えようと必死だっただけなのに。

 だから、だろうか。
 ここまで苦しんできたのだから、ヴァルキュリアを倒せば報われるだろうという傲慢が生まれてしまった。
 世界に嫌われているなんて、分かりきっていたことなのに。ヴァルキュリアを倒した程度で、救世主になんてなれるはずがなかったのに。
 そろそろ救われてもいいはずだと、臆面もなくそう思ってしまったから。
 嘲笑うかのようにここに連れて来られ、それに対してボクはふて腐れるばかりで、改める気なんて微塵もなかった。

 虚無ばかりが溢れる廃墟の街。
 虚無で満たされた自分自身の瞳を見て、エヌアインが抱いたのは当たり前かという納得だった。
 こうなるのは当然の帰結。自分は所詮生きていていい価値のある存在などではなかった。
 権利を貪るように主張するばかりで、本当に為すべきことを何もしてこなかったのでは、オロチを倒せるはずもない。
 首にかかる力が強くなる。身の程を弁えたのなら、後は死ね。口にこそ出さなかったが、目の前の、恐ろしいほどに紅い瞳の自分自身は、確かにそう言っていた。
 死んだほうがいい。死んで当然だ。薄まりつつある意識の中で、エヌアインは静かにそれを肯定しようとした。
 もう何をやっても無駄だ。理性はそう結論を出し、考えることなどしなくていい、受け入れろと言っていた。

「……」

 なのに。
 それなのに。

726 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:36:42 ID:CRUg.pQ20
「……ごめん……。ごめん、なさい……」

 それでも思い出すのは、あの島でもなお自分に手を差し出してくれた人達の姿だった。
 壬生灰児。カティ。ただ世界を逆恨みしていただけの自分の手を取ろうとしてくれたひとの姿に、エヌアインは嗚咽混じりの声で謝罪した。
 本当は嬉しかったし、ありがたかったのに。応えられる言葉を持てないと決め付け、だったら行動で示せばいいと逃げの一手を打ち、本心で応えることから逃げた。
 きっかけは確かに与えられたはずなのに、一度は、確かにごめんと言えたはずなのに、

「ボクは……ボクは、許してもらえないことが……怖かった……。
 ごめん……、キミ達が死んで、何も感じてなかったわけじゃない……守れなかったことを許してもらえるのか……怖かったんだ……!」

 灰児の死も、カティの死も、知ったはずなのに。
 平然とそれを受け止め、かつて兄弟達にそうしてきたように、『彼らの死の上に成り立っている』存在になるしかなかった。
 あの二人が。こんな自分にも良くしてくれた、少なくとも自分にとっては大切だった二人が、虚無になってしまうことが耐えられなかった。恐怖だったのだ。

「でも……嫌だ……。もう嫌だ……。大切な、友達に、そんなの……したくないよ……!」

 性懲りもなく涙が溢れてくる。後悔が後から飛び出して止まらない。
 全てが終わった後に謝ろうだなんて、そんな小賢しい考えは端から捨てるべきだったのだ。
 たとえそれで自分が、死んでいった兄弟達から蔑まれようとも。呪詛の言葉を吐かれようと。それだけはやらなくてはいけない謝罪だった。

「だから……ごめん……ごめん、灰児、カティ……二人を裏切ろうとしたボクを許してくれだなんて言わない……、けど、伝えさせて……ボクの、本当の……気持ちだから……!」

 途切れ途切れになる声。正しく発音できているのかどうかさえ分からない。
 あまりにも無様で、あまりにもみっともない姿だった。泣いて、喚いて、感情を撒き散らすだけの――エヌアインは、この瞬間にはただの少年だった。

「守れなくて……一緒に歩いていけなくて、本当に……ごめん、なさい……!」

727 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:37:00 ID:CRUg.pQ20











 ――うん、だから。今度は、誰かと一緒に。
 ――歩けるだろうぜ。やっとらしくなったじゃねェか、相応のガキによ。

728 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:37:16 ID:CRUg.pQ20
 弾かれる。

 ごろごろと地面に転がったエヌアインは、一体何が起こったのか分からなかった。
 分かるのは……確かに自分の耳朶を打った懐かしい声。懐かしくて、優しい声……。

「馬鹿な……!? 何故……何故、糺せない!」

 その一方で、先程までエヌアインを絞め殺そうとしていたはずのもうひとりの自分は……禍々しい瘴気を散らしながら、自分とは似ても似つかない声色で呪詛を吐き出し続けていた。
 髪の色は白くなり、紅の瞳は暗黒の色に染まり、最早自分の体をなしていないそれは、オロチの擬態だったと判別できたのはすぐだった。

「……正せないさ」

 涙を拭うことはしなかった。止め処なく流れてくるそれを受け入れながら、エヌアインは静かに相対する。
 今なら、自分の気持ちがはっきりと分かる。無数の後悔があり、無数の懺悔ばかりがある。きっとそれは、自分が人間でしかないからだと、強く確信できる。
 生きていくことは、失い続けることだから。ひとは他者を食い荒らしてでしか生きられないものだと、そう理解できている。

「ボクは、もう……正されたから」

 だから、寄り添う。
 一人では食い荒らすことしかできないから、抑えるために人は群れを作り、社会を作り、共に歩むことで何とか生きている。
 何も考えていないわけがない。何も慮っていないわけがない。どうしようもないからこそ、知恵を絞り、精一杯考え、為すべきを為そうとしているだけなのに。

「お前に正されるまでもない。いや、何に正されるかは自分で決める!」

 灰児とカティは、それでも歩けと言った。
 許すでも、許せないでもなく、ただ歩けと正した。
 謝れるなら、心を開けるなら。きっと誰とでも歩いていける人間だと、背中を押してくれた。
 まだガキなんだから遅すぎることはないと灰児はシニカルな笑みを浮かべ。
 どんな考え方だって、それを否定するわけないよとカティはまるで年上のように言い。
 だから、自分を決めようとするヤツをぶっ飛ばせと、示し合わせたかのように重ねた。

「器……? 違う、貴様、貴様は……何だ! 神とでも……!」
「違うな、ボクは……ただの人間だ!」

729 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:37:40 ID:CRUg.pQ20
 立ち上がり、オロチへと走り出す。
 内奥から湧き出してくる、今のエヌアインだからこそ理解できる新たな力。
 当たるかどうかも、使いこなせるかも分からない。パイロキネシスも、テレポートも、サイコキネシスも。あらゆる超能力を失くし、それでも掴み得た能力は、

「これが、ボクの信じる、『新世界』だ!」

 ただ、信じられた。

「ッ!!!」

 手の平がオロチに向けられた、ただそれだけで。何を持ってしても動じなかったはずのオロチが、金縛りにでもあったかのように完全に動きを停止する。
 あらゆる苦悩を経て、苦悶の果てに、エヌアインは目に見える『力』を失い、目に見えない『可能性』を得た。
 神でも、人間でもなかった少年は、しかしそれ故にどちらにも手を伸ばせる。神の論理に触れながら、人間に寄り添えることも、可能だった。
 そうして、エヌアインが本当に信じるものを得たことで獲得した能力は――、

「ガッ! ア、ア、フ、封印……! サ、サレル……! コレハ、コノ、力……! ……草薙ィィィィィィィ!!! オノレェェェェェェ!!!」
「――飛べ」

 ――草薙が最終奥義『無式』にも匹敵する、全てを払い地平線を切り拓く力だった。

730 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:38:02 ID:CRUg.pQ20
 エヌアインが拳を握ると同時、オロチの身体が圧縮され、点に吸い込まれるように縮退してゆく。
 血走った虚無が、全てを呪詛で侵そうとする視線が向けられたが、エヌアインは無言で、しかし決然とした意思で、それを受け止めた。
 逃げはしない。もう、逃げない。だってあの二人は歩けと、歩いていいとも言ってくれたのだから……。

「……さよなら」

 別れの言葉を告げると、オロチだったものは完全に消失し――、そして、曇天ばかりだった空に光が差し始めた。
 きらきらと光り、導くようにして現れたそれは、まるで道のように見えた。
 何であるかを考える前に、エヌアインの足はそちらへと向いていた。

「ルガール……?」

 なぜその名前を口走ったのか、自分自身よく分からなかった。
 ただ、世界を割るようにして現れた光が、何故だかルガールの仕業のように思えてならなかったのだ。
 この道は、きっと完全者の元へと続いている。
 旧人類を抹殺し、己が考える完全世界へと征くことを目論む存在が待ち構えている。
 ならば、ボクは自分の世界を見せてやる。
 今ある世界でもなく、完全者の唱える世界でもない。
 様々なものがひしめき合う、不完全であらゆる可能性に満ち溢れた、新世界を。




【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS 消失】
【アノニム(オロチ)@エヌアイン完全世界(THE KING OF FIGHTERS) 消失】

【D-4/スタート地点(高原池)/1日目・真夜中】

【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:復活
[装備]:なし
[道具]:なし(オロチの混により消滅)
[思考・状況]
基本:全てを受け入れて、新世界の在処を示す

731 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:38:33 ID:CRUg.pQ20

『New Welt』

732 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 21:39:10 ID:CRUg.pQ20
投下は以上です。
この1レス前の文章がタイトルとなります

733 ◆LjiZJZbziM:2013/12/01(日) 22:11:02 ID:FZQQCaBg0
投下乙です。
知っていた、けれど受け入れられなかった場所。
乗り越えて、乗り越えて、掴んだもの。
正された者は、歩き出していくんだろうなあ。
撿XY氏に続き、本当に面白い話を読ませていただきました。
今までこの企画を読んでくれたり、書いてくれたりした人たちに、少しでも恩返しができるように。
最高に面白い最終回を書こうと思います。

最終回、予約します。

734 ◆Ok1sMSayUQ:2013/12/01(日) 22:17:31 ID:CRUg.pQ20
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:復活
[装備]:なし
[道具]:なし(オロチの混により消滅)
[思考・状況]
基本:全てを受け入れて、新世界の在処を示す 
※超能力全般が使用不可能になりました。引き換えに『新世界』を使用できるようになりました。


すみません、状態表を上記のものに修正します

735名無しさん:2013/12/05(木) 21:40:03 ID:qyCKaCc20
投下乙です!
ルガールとアデルの会話がすげーいい!
この二人の絡みって公式で全然なくて、いつか読みたいなぁと思ってたんですよね
この複雑な親子を、そういう方向で掘り下げていくかーと唸らされました
んで、自分の気持ちに正直になれたエヌアインくんの独白がこれまたいい
生意気なところがエヌアインの魅力だと思ってたんだけど、こうやって自分の弱さを認めたエヌアインも、また別の魅力があるなぁ……
丁寧な描写や掘り下げ方に感動しました、最終回前として相応しい作品だと思います

736 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:26:01 ID:FucSmhx.0
もうしばらくしたら最終回、投下いたします。

737名無しさん:2013/12/05(木) 23:45:07 ID:nSwKzhoA0
きたあああああ!!!
もう終わっちゃうのかあああ

738 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:51:38 ID:FucSmhx.0
最終回、投下します。

739完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:52:25 ID:FucSmhx.0
ばちり、と雷が鳴る。
それは決意の雷鳴、迷いを断ち切る、一筋の光。
血の縛りも、地球意志も、完全者も、自分を動かすには至らない。
自分を動かすのは、自分だ。
人間は前を向いて歩く、それは誰かに言われたからじゃない。
自分の足で、自分自身を、動かしているのだ。
「大丈夫か?」
「ぶっ倒れてる場合じゃないでしょ」
正直、限界は近いかも知れない。
それでも、今は地に伏せている場合ではない。
今、今進まなければ、きっと一生後悔するから。
だから、アメフトプレイヤーと歴史を愛する少女は倒すべき敵を睨む。

ごうっ、と小さく炎が舞う。
それは不屈の闘志、未来を見据える、一筋の光。
未来を掴むと決めた、生きて、生きて、生き抜くと決めた。
誰にも邪魔は出来ないし、する権利もない。
けれど、それを阻むヤツがいる。
好きに生きる、ということを、邪魔するヤツがいる。
そんなこと、許されて良いはずがないのだ。
「待っててね、みんな」
感覚を確かめるように、氷を作って溶かす。
中に炎が見えたのは、錯覚だろうか。
いや、錯覚だろうと何だろうと、もう炎は怖くはない。
自分は、二人分の炎を背負って生きなければいけないのだから。
怖がってる暇なんて、今はないのだ。
だから、皆を背負う少女は倒すべき敵を見据える。

ざくり、と地面を踏み抜く。
何もかも失っても、自分の体の感覚は消えない。
たった二本の足で、大きな体を支え、地面に立つことが出来る。
"人間"とはそんな凄い生き物なのだと、改めて噛みしめる。
欺瞞や拒絶、繰り返してきたそれを全てかなぐり捨てて。
決めた道を、真っ直ぐと、真っ直ぐと見つめる。
「もう、迷わない」
深紅のグローブが、パキリと音を立てながら曲がる。
何もない、けれどそこにある、新しい力。
沸き上がるそれは、まだ何かは分からないけれど。
その力は、信じられる。
だから、生まれ変わった少年は超えるべき敵を見つめる。

740完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:53:33 ID:FucSmhx.0
 
三つの視線をその身に受け止めながら、首をぐるりと回してその場を一望する。
地球意志と契約を結びながらも、その意志に反抗した少女と男を。
二人分の炎を背負いし、人の手により作られた少女を。
正されることで、新たな世界の力を手にした少年を。
それぞれの戦いが、力が、願いが渦巻き、空へと昇った。
それを見届けてなお、彼女は笑う。
「……さすが、と言ったところか。ここまで生き抜いてきた者が、そう易々と死ぬわけも無かった、か」
神の力を有する余裕か、それとも他の何かか。
完全者は明確に"見下す"ように、生き残ってきた者達を見つめる。

「あんたをぶっ飛ばすまでは死んでも死にきれないわよ」
即答する。
失わなくて良かった日常と、失われた多数の命。
別に博愛主義者と言うわけではないが、理不尽な死に納得がいくほど現実を諦めているわけでもない。
特に、それが誰かの手によって齎されたというのなら。
それを与えようとする者に、反逆せず何になるというのか。

「右に同じ、だ。言いたい放題やりたい放題されっぱなしじゃ、割に合わねえからな」
他の誰かからすれば、ゴミや必要のないモノだったとしても。
自分自身にとっては、かけがえのないモノだったりする。
ましてや、自分の命なんて大事なモノは、誰かが価値をつける権利を持っているはずがない。
自分の命は、自分のモノだから。
それを奪おうとする者に、反逆せず何になるというのか。

「クーラは、貴方を許さないよ。皆を、私を、めちゃくちゃにしたから!!」
こんな場所でなければ、もっといい出会いが出来たに違いない。
こんな場所でなければ、もっといい形で気づけたかもしれない。
こんな場所でなければ、失われることもなかったかもしれない。
それを全て招き、自分たちを陥れたのは、目の前の存在だ。
だから、叶わないかもしれないと分かっていても。
自分たちが掴んだ、手にした、かけがえの無くて、大事なモノを。
生きてきたという証を見せつけ、これからも生きてやろうと。
それを邪魔する者に、反逆せずに何になるというのか。

「あんたが何を考えているかは知っている。
 けれど、それは違う、それこそが、糺されるべきことだ」
ようやく分かった答え。
それが分かるには遅すぎたとも思うけれど。
掴んだ今だから、言える。
こんなことは間違っているって、大きな声で言える。
"新世界"は、そんな場所じゃない。
どうあるべきかなんて、誰かが決めていい場所じゃない。
許されるわけでもなく、悲しみや怒りに暮れる訳でもなく。
ただ、誰もが"前を向いて歩ける場所"こそが、新世界なのだから。
それを阻む者に、反逆せずに何になるというのか。

741完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:54:24 ID:FucSmhx.0
 
それぞれの言葉、反逆の狼煙。
短い一言に、短い一日を過ごして経験した様々な思いが詰まっている。
「……く、ククっ……ははハハハ」
それを察してか、あるいは無視してか。
"敵"として立ちはだかる彼女は、笑い出した。
「なにが可笑しいッ!!」
響きわたる声をも無視して、完全者は笑い続ける。
「威勢がいいな……だが、貴様等がこれからどれだけ足掻こうが、もう無駄だと言うことだ。
 明日を掴むため、我を倒すため、そのために使ってきた"力"によって、貴様等は滅びるのだからな」
マントを靡かせながら、生き残った者達の少し上から彼らを見下ろす。
それはまるで、新人類と旧人類を隔てる壁があるかのように。
自分たちの力で、自分たちが滅ぶ。
完全者の言葉は、生き残った者達には理解できない。
現にこうして、それぞれが"勝って"ここに立っているのだから。
それがどうして滅びに直結するのか、理解できる訳もない。
「それでも、我と戦うというのか?」
明らかな挑発、勝利を確信しているからこそ出来る芸当か。
ククッ、と笑いを漏らす完全者に対し、生き残った者達は叫ぶ。
「無駄だの何だの、勝手に決めてんじゃないわよ!!」
真っ先に響きわたる、叫び声。
やれ滅びだ、やれ無駄だと、完全者は一人で話を進めている。
そんな"決めつけ"通りにコトが運ぶなど、誰が決めたのか。
「俺たちは"勝ち"に来たんだ。やる前から負けるコトなんて、考えねえ」
そう、まだ決まったわけではない。
決まっていたとしても、それは完全者の掌の中だけの話だ。
自分の手に掴むまでは、勝ちも負けも決まっていない。
だから、戦うのだ。
「クーラは、退かないよ。貴方を絶対に許さないから」
まっすぐ、まっすぐ、絶対に折れない一本の芯がある。
戦うと決めた、未来を掴み、生きると決めた。
絶望している暇はない、死んでいった者達に笑われてしまうし、情けないから。
「新世界、それを作るのは人間だ……アンタじゃなくってね」
歩くと決めた。
目を逸らさず、逃げることもせず、ただ背負うだけでなく、受け入れて歩く。
前を見つめ、前を見据え、その両足を動かす。
新たな時を生きるために必要だから、前に立ちはだかる壁を壊さなくてはいけないのだ。

「……よかろう」
生き残った者達と言葉を交わし終え、完全者はその顔から笑みを消す。
手に銃剣を構え、帽子を被り直し、マントをはためかせ、生き残った者達を睨む。
「ならば、絶望して死ぬが良い」
前に突きだした手と共に飛び出した無数の鎖が、最後の始まり。

742完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:55:05 ID:FucSmhx.0
 


「唸れ、雷鳴ッ!!」
飛び退いた先、着地と同時に雷を放つ。
力の大元のオロチは封ぜられたが、ラピスに宿る力はまだ残っている。
現世に残した土産か、あるいは完全に打ち勝ったが故の新たな力か。
ともかく、今使える"力"であることは間違いない。
持てる牙を全て使い、完全者へと向かっていく。
一本、二本、三本、蛇のように落ちる雷。
「護よ」
だが、それは完全者が片手を翳すだけで無力化する。
蛇が襲い来るのならば、蛇を食らう者になればよい。
先ほどのラピスがそうしたように、完全者もまた蛇を食らった。
まずはこの喧しい蛇から黙らせるか、と銃剣に力を込めたとき。
空を切り裂くもう一つの不快な音が、完全者の耳に届く。
目前には、数発の小型ミサイル。
"追跡者"の異名を持つ、エネミーチェイサーが、今まさに完全者を敵として認識し、襲いかかってきているのだ。
だが、それも完全者の体を傷つけるには至らない。
ゆっくりと延ばされた片手、小さな一言。
先ほどの雷のように、ミサイル達も飲み込まれていく。
「威勢がいいと思ったが、この程度か。こんな子供騙しで、我に勝てるとでも?」
相も変わらず余裕を見せる完全者。
だが、その表情は即座に驚愕へと変わる。
完全者の脇の部分、すぐ側の空間が突然爆ぜる。
ほんのわずかな空気の歪みと輝く破片に気づき身を翻したものの、攻撃の予兆は殆どなかった。
しかし、この場には自分を除き四者しかいない。
今し方相手にしていた二人ではない、そして残った一人の内、一人はもう力が使えない。
なれば。
「ふぅっ……」
クーラ・ダイアモンドの仕業に違いない。
氷と炎、相反する二つの力。
K'の力とアンチK'の力の合体実験は、今までも行われてきていた。
だが、その全てが不発に終わる。
というのも、全てが無くなってしまうからだ。
実験体も、結果も、施設も、全てが無くなっていく。
まるで、"無"が生まれているかのように。
その絶大な破壊力を手にしようと、何度も何度も試みたものの、いたずらに施設を失うだけに終わっていた。
だが、今この場所で、それが生まれた。
いくつもの奇跡と、いくつもの願いと、いくつもの意志が重なり合い。
アンチKの力と、Kの力が融合し、新たな力となっていた。
今までと同じように、けれど少し形を変えて、クーラはその力を扱う。
「くるっと、えいっ!」
バレリーナのようなスピンから、鋭利なハイキックを繰り出す。
その仕草は、何もない空を切っているかのように見える。
だが、そうではない。
氷と炎から生まれた無の力を生み出し、それを氷に纏わせて蹴り抜く。
彼女が全く知らない力、でも知っている力を使い、今まで通りに戦う。
見えない刃が、空気を伝って完全者へ向かう。
そして完全者の側に来たとき、ぐにゃりと空間が歪み、"無かったこと"にしながら凍らせていく。
目に見えるものは弾けても、目に見えないものは弾けない。
タイミングを掴めば不可能では無いかも知れないが、同時に飛び交うミサイルと雷が、完全者の呼吸のペースを乱す。
見えるものの対応に追われる間に、見えないものが襲い来る。
「小賢しい真似を!」
障壁の数を増やし、一気にミサイルと雷を弾いていく。
いや、雷とミサイルだけではない。
抉り取られる空間さえも、その障壁に飲み込ませていく。
もはや何人たりとも突き抜けることは出来ない、そんな巨大な"壁"。
絶対防壁とも呼べるそれを前にしながら。

743完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:55:49 ID:FucSmhx.0
 
「受けろっ」

肉薄していた一人の少年が。

「このブロォオオオオッ!!」

握りしめた拳で、その壁を打ち抜く。

前へ進む力、全てを受け入れる力。
彼が見て、感じて、過ごした全てが、力になる。
そして、彼に手をさしのべてくれた人の力は今、最も強い彼の武器になる。
八番目の狂犬の牙は、世界を作る少年の牙となり、ここに蘇った。
「ほう……それが、お前の手にした力か」
「そうさ、アンタを乗り越える力だ」
殴り飛ばされた完全者は、素早く体勢を整え、殴り飛ばした少年を睨む。
何者にも止めることの出来ない、全てを"殺す"トランペットが鳴り響く。
彼女の知っている彼の力ではない、それを即座に理解し、彼女は。
「ふ、はハハは! やはり面白い!」
その力を、笑い飛ばした。
それと同時に、エヌアインが再び拳を振るう。
大振りで、構えもへったくれもない、狂犬の拳は。
全てを受け入れて、前へ進もうとする今の彼にぴったりの武器なのかもしれない。
飛び込みと同時に振るう足、踏み込むブロー、がむしゃらな拳。
飛んでくるミサイルと雷と無と共に、完全者を狩り尽くそうとしている。
さすがにたまらず、完全者も逃げの一手を打つ。
クーラのそれとは違う空間の歪みを生み、自分の体を転移させていく。
出すまでもないと思っていた力の内の一つを使い、銃剣で飛び道具を払っていく。
それを見て間髪入れず肉薄しようとしたエヌアインを止めるように、完全者は銃剣をエヌアインに向ける。
「……のう、エヌアイン。まだ今なら許してやろう。
 我と共に、愚かなる人類を滅ぼしに行こうぞ」
上から下へ。
明確な意志を持って"見下ろされた"発言。
その問いかけを向けられたエヌアインの答えは。
「クソ食らえだ」
当然、ノーだった。
同時に、銃剣の上を行くように鋭い飛びを見せていく。
ぶつかり合う足と銃剣。
五分の力がぶつかり合い、弾け飛ぶ力が両者の距離を離していく。
エヌアインは拳を構え、銃剣を持つ完全者をじっと睨む。
「残念だ……その切り拓く力こそ、新たな世界の幕開けにふさわしいと思ったのだがな」
「……この力は、アンタの為じゃない」
ため息混じりに残念がる完全者に、エヌアインは即答していく。
腕を横に振るい、何かを訴えるように語り続ける。
「ボクや、皆の……これからの、明日の、新しい世界のための――――」
その背には、雷と知を操る少女の姿。
その背には、炎と氷を操る少女の姿。
その背には、勝利を手にする男の姿。
それだけではない。
この場所で散っていった無数の命、思い、信念。
その全てが、今の彼の力になる。
誰かが前を向く力こそが、たった一人の少年の"牙"になる。

そして、その力は。



「それを見るための、"歩く"力だっ!!」



今、極限まで高まっている。

744完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:56:56 ID:FucSmhx.0
 
弾け飛ぶように、それぞれが動く。
苦境に立たされた人類が、驚異に立ち向かう為に開発した"牙"を振るう男。
残された全てのミサイルが、完全者へと向かっていく。
人類を滅ぼしうる存在を、押し込めた少女が"牙"を振るう。
辺りを覆いかねない雷の衝撃波が、完全者を飲み込もうとする。
氷と炎、有から無を作る少女が"牙"を振るう。
歪んだ存在を曲げる、破壊の力が完全者を襲う。
そして、未来を見るための歩く力を持つ少年が牙を振るう。
封ずるでもなく、破壊するでもなく、切り拓く力が完全者を包もうとする。
それぞれが、それぞれの思いを載せて。
人を滅ぼそうとする者に向かって、真っ直ぐに伸びていった。





爆音。
弾け飛ぶ力と力が、そこにある全てを飲み込んでいく。
どんな物質ですら、塵一つ残さない。





「調子に乗るな」





はずだったんだ。




.

745完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:57:58 ID:FucSmhx.0
振り抜かれた一閃。
銃剣の先についた剣が裂いた? いや、違う。
銃としての機能、万を貫く完全なる破壊を齎す光。
真っ直ぐに伸びきったそれは一本の刀となり、人類の希望を真っ二つに斬り裂いた。
彼らの体に損傷がなかったのは、その力が盾となったからか。
「……遊びは終わりだ」
全てが凍り付きそうな声と共に伸びた鎖に、その場の人間全員の体が固まる。
動かない両足の感覚と共に襲う無力感、絶望の壁と圧倒的な力。
屈するしかないその状況を、飲み込まざるを得ない。
「ふッ……ザけんなっ!!」
だが、只一人。
それを飲み込めない者が居た。
ラピスは、それを認めなかった。
だから、鎖を肉ごと無理やり引きちぎり、食ってかかった。
人間は無力じゃない、お前を倒すことが出来る。
何より一発ブン殴るまでは、帰れないのだから。
「駄目だっ!!」
だが、それが甘い一手だと言うことは誰の目にも明確だ。
冷静に考えれば、単騎で勝ち目なんてないのに。
エヌアインが制止の言葉を出したときには、既に遅かった。
繰り出される拳、迸る雷鳴、明確な殺意と怒り。
「ぐぇッ……」
その応酬は、自分の命。
深々と突き刺さった完全者の掌が、自分の体内にめり込んでいた。
ビクン、と一回大きく跳ねるのを見てから、完全者はそのままラピスの体を放り投げる。
「不味い……」
手についた血を振り払い、たった一言そう呟き、放り投げたラピスに銃剣を突き刺そうとする。
「たぁぁっ!!」
もちろん、それを黙って見過ごす訳がない。
クーラが、ラピスを救うために果敢にも飛び出していく。
だが、それも無駄だ。
感情に突き動かされるままに戦って、どうにかなる相手じゃない。
全員の力を合わせても、突破口はないと分かったのならば。
一人で戦ったところで、結果は分かりきっている。
けれど、それでも体が動いてしまう。
だって、"人間"だから。
「理解力に乏しい豚が……」
そんな人間を、まるで家畜を見る目で見据える。
無の盾を作りながら肉薄するクーラに対し、焦りも驚愕もなく。
「がはっ……」
ただ、貫く。
一点に集中し、その腹部を貫き、破壊の光を当てていく。
超高速で吹き飛ぶクーラの体は、間違いなく無事ではいられないだろう。
そんな光景を見てもなお、エヌアインの足は動かない。
分かっている、分かってしまったのだ。
"勝てない"と、脳裏に焼き付けられてしまった。
「貴様等の相手も飽きたな……」
ふと気がつけば、完全者が自分の目の前で笑っている。
始めよりも、もっと明確な意志の見下した目線が、エヌアインの心を抉る。
「ははっ、見ろ。残された豚は、先ほどからずっと足がすくんで動けずに居るではないか。
 滑稽とは思わんか? なあ、エヌアインよ」
ブライアンに銃剣を向けて、完全者は笑う。
銃剣の先、足がすくんでいるブライアンの目も、恐怖で染まっていた。
……無理もない、始めから圧倒的な姿を見せられていて、改めてそれを見せられているのだから。
止めを刺すのも億劫だと思ったのか、完全者は男にさして興味を向けず、エヌアインへと語りかける。
「貴様の返事が、この状況を招いたのだ。
 お前が黙って私についてくると言っていれば、あ奴らは逃がしてやっても構わなかったのだぞ?」
勝利を確信した、下卑た笑み。
足はまだ、震えたまま動かない。
「……エヌアインよ、もう一度問おう」
そんな自分の耳を撫でるように、悪魔の囁きが飛び込んでくる。
「我と共に来い」
それは、今確実に助かる唯一の船。
それに乗る事を許可され、手が差し伸べられる。

746完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:58:48 ID:FucSmhx.0
 




「お断りだ」

破壊する。
振り絞った勇気、つかみ取った気持ち。
この力は、この命は、"自分の足で前へ歩く"ためのもの。
誰かに用意された道を、ただ歩くだけの命ではない。
そんなことの為に……この力を手にしたわけではない。

「……それが答えか」
ため息混じりに、完全者はそう呟く。
エヌアインはさしのべた手を弾く事は出来ても、逆らうことは出来ない。
それを分かっているから、完全者はふさわしい言葉を投げかけていく。
「フン、まあいい。冥土の土産に教えてやろう。貴様等がもう既に負けていた理由をな」
その言葉と同時に、完全者のすぐ側に、天を貫くほど巨大な扉が現れる。
そう、既に彼女の目的は成就している。
彼女に立ち向かうエヌアイン達が、それぞれの壁を乗り越えた時点で、既に叶っていたのだ。
エヌアイン達と刃を交えたのは、単なる余興にすぎない。
笑みを少し浮かべ、完全者はその目的を語る。
「遙けし彼の地より出でし者達……奴らは時を遡り、永遠を繰り返しながら、理想の地を求めたのだという。
 永遠も繰り返せた理由、過去に戻る鍵、それがこの扉だ。
 この扉を呼び覚ますために、貴様等の怒り、憎しみ、悲しみ、ありとあらゆる感情が必要だったのだ。
 我一人では貴様等から"絶望"しか受けとれぬからな」
圧倒的な力、支配、殺戮。
それを繰り広げるだけの力を手にしてなお、彼女がこのような催しを開いた理由。
それは、人間ではなくなった彼女では作り出せない、人間である者にしか生み出せない者が必要だったから。
ありとあらゆる感情、一つ余すことなく掬うため。
その全てと、闘いの気をこの扉の鍵にするため。
彼女はこの殺し合いを開いた。
そして、この扉を求めた理由。
「……この扉で、貴様等を"種"から滅ぼしてやる。
 それこそが、"全ての人類の救済"に繋がる」
圧倒的な力もある、その気になれば人類を滅することも出来る。
だが、それではいけない。
この世から一人も余すことなく人間を狩り尽くすことは難しい。
全世界に向けてテロリズムを敢行しても、それを成し遂げることは出来なかった。
ならば、ならばだ。
全人類の、ありとあらゆる"種"を刈り取ってしまえば。
全ての人類を"救"ってやれる、確実に、誰一人余すことなく。
故に、彼女は過去へ行くことを求めた。
その扉は今、彼女の目の前にある。
「……では、さらばだ。滅びの時は近い。せいぜい、残された生を楽しむが良い」
光を放つ扉の先、一歩ずつ足を踏み入れていく完全者の体が、光に飲み込まれていく。

747完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:59:16 ID:FucSmhx.0
 
エヌアインは、立ち尽くす。
ここで止めても、追いかけても。
"勝てない"事は分かっているから。
いや、それより"死ぬこと"が怖いから。
足が、前へ進むことを選ばない。
何が"歩くための力"だ。
結局、何の役にも立ちはしないではないか。
「くっ……そおおおおおっ!!」
そんな事を思いながら、薄れゆく光を見守っていった。

「あ……」
少女達は、まだ生きていた。
いや、完全者が"生き地獄"を見せるために生かしていたのだろうか。
その方が考えやすいかもしれない。
体を動かそうにも、上手く動かせない。
それどころか、光の中へ消えていく完全者を追いかけることすら出来ない。
雷を出そうにも届かない。
氷を出そうにも届かない。
炎を出そうにも届かない。
完全なる存在には、自分たちの攻撃など何も届かない。
「ダメだったよ――――」
それを、受け入れるしかなかった。

748完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/05(木) 23:59:47 ID:FucSmhx.0
 





























こうして、この物語は絶望で幕を閉じる。





























.

749完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:01:34 ID:ko/fmoAQ0
……何を、していたんだろう。
いや、何もしていないか。
この場所に着いてから、"勝つ"と決めたはいいものの、何をしたわけでもない。
自分の最高の友達は死んだ。
一人はまるでゴミでも捨てるかのように、首をへし折られて。
一人は自分の知らない場所で、結局出会えぬまま死んだ。
ここはそういう場所、分かっている。
でも、受け入れられなかった。
"そんな風にはなりたくない"と言う気持ちと、"こうなるに至った原因をぶっつぶす"と、決めた。
けれど、それだけ強い気持ちがあったのに、自分を慕ってくれていた兵は死んだ。
自分のファンだと、自分とあえるなんて夢のようだと言ってくれた。
自分の夢を、希望を、ずっと離さず、抱え続けていた。
けれど、そんな彼もたった数発の銃弾にいとも容易く命を奪われた。
一瞬の出来事だったけど、自分の勘違いかもしれないけど。
あの時、彼に庇われたような気がしてならないのだ。
だがその後、真っ先に駆けだしたのは灰児だ。
自分じゃない、自分は何もしていない。
その後、灰児を止めることも出来なかった。
襲撃者を追い払った後に続く襲撃者に、喧嘩を売られた。
あんな傷で、売られた喧嘩を買えばどうなるかなんて分かっていたのに。
止めることは出来ず、ただその場から去るしかできなかった。
続く死にかけの男も、たどり着いた先で完全者と戦っていた電光兵士も。
みな、死んでいった。
いつの時も、何の時も、自分は何もしていなかった。
ただ、時がぼうっと過ぎるのを待っていただけ。
そして、今もそうだ。
圧倒的な恐怖を前に、足が動けずにいる。
自分よりも小さな年頃の少年少女達は、果敢に完全者に立ち向かっていたというのに。
自分は近代兵器の引き金を引く程度で、特に何もしていない。
自分は、なんだ?
このまま何もできず、グズグズと時が過ぎるのを待ち、完全者に滅ぼされるのを待つだけなのか?
"勝つ"なんて大袈裟なことをいって、結局やっていることは何もなく、口だけの人間でしかないのか?
……いつからだ? "ブライアン・バトラー"という人間は、いつからそんなレベルに成り下がったのだ?
「……違う」
否定の言葉を口に出す。
そう、完全者に勝つなら、今しかない。
自分の命どうこうを考えている方が、おかしかったのだ。
共にいる三人の少年少女達は、そんなこと微塵も考えていなかったではないか。
そんな中、自分だけがビクビクしてる訳には行かない。
自分が死ぬのは怖い、けれどどうせ待っていても死ぬのならば。

「まだ、終わってない!!」

始めに決めたことぐらい貫かなくて、どうするというのだ。

縛られていたかのように、縫いつけられていたかのように動かなかった体が、軽くなる。
"自由"を手にしたと分かった瞬間、彼は考えることなく飛び出した。

750完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:02:08 ID:ko/fmoAQ0
 


かつん、かつん、かつん。
真っ白な空間の中、靴の音だけが響く。
ただ、ただ、迷うことなく前へと進む。
かつん、かつん。
古の時へと向かい、滅ぼすべき種の"種"を滅ぼすために。
ただ、無心で歩く。
かつん。
足が、止まる。
「……ほう、誰かと思えば、怯えて動けなかった豚ではないか」
振り向いた先、けだるそうな表情で見つめたもの。
三人の少年少女の体を抱き抱えながら"ここ"へ来た、ブライアン・バトラーの姿だった。
「なんだ? わざわざ殺されにきたのか?」
「いや、違う」
完全者の問いかけに、ブライアンは即座に否定する。
眉を顰める完全者をよそに、言葉を続ける。
「俺達は、"勝ち"に来たんだ」
グッと拳を作り、前に掲げながら男は畳みかけるように言葉を投げる。
「死ぬのは怖いさ、誰だって死にたくはない。
 けれど、死ぬことより怖いことや、情けねえこともある!!
 特にこの場所じゃあ、あんたをこのままホイホイ見送る方が、情けなくてどーしようもねえんだよ!!」
そう、死ぬのは確かに怖い。
先ほどまで、彼らを縛り付けていたのは、死ぬという絶対の恐怖だった。
けれど、その中で。
死んでしまうよりも恐ろしいことを思い出すことが出来た。
死ぬより恐ろしいことになるのならば、死んだ方がましだ。
何も出来ず、ただ朽ちていくわけにはいかない。
だから、彼は勇気を振り絞った。
そして、必死の思いでこの扉に飛び込んだ。
「だから、俺達は戦う。もう、迷わない。
 "勝って"、"前に歩く"ために!」
彼の望む未来、勝利という二文字をつかみ取るために。
アメフトのように、最後の最後の一秒まで諦めてはいけない。
まだ試合は終わっていないから。
「だろ!? 皆!!」
だから、彼は仲間にも発破をかけた。
そう、生きているならまだ終わっていない。
抗える、戦える、ならば、まだ未来をつかめるかもしれない。
男の言葉が、少年少女達が失いかけていたものを、一つずつ蘇らせていく。
「……ったりまえよ、アタシはまだあいつをブン殴ってないのよ」
ボロボロの体を起こし、肩で息をしながら三人は立ち上がる。
「クーラはまだ終わらない、皆の分を、生きなきゃいけないから!」
まだやることがあるから、戦うべき相手が居るから。
それをするには、自分の体しか使えるものがないから。
「完全者……ボクはアンタを、終わらせて見せる」
それは、少女達だけではない。
絶望の淵に叩き落とされたエヌアインも、差し伸べられた手を取って這い上がり、戻ってきた。
「アンタの、"世界"を!!」
迷いも、何もかもを捨てた今。
本当に見据えるべきは、ただ一つ。
眼前の、たった一人の敵だけ。

「ク、くハは、ハははハはハッ!!」
笑う、笑う、笑い飛ばす。
「何を言うかと思えば、そんな妄言を我に聞かせにきたのか?」
過去へ渡る扉へ入ってきてもなお、そんな事を言っていられる。
それは彼女にとっては妄言、虚言、間抜けな言葉でしかない。
何故か? それは圧倒的な力が自分にあるからだ。
「……折角見逃してやったというのに、大人しくしていれば楽なものを。
 そこまで死にたいのならば、我が直々に殺してやろう」
銃剣を構え、帽子を深く被り直す。
もう、容赦はない。
「四人まとめて、"救われる"が良いッ!!」
手を掲げると同時に、無数の槍達が人類へと牙を向き、飛び交っていった。

751完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:02:43 ID:ko/fmoAQ0
 


「――――それが、五人なんだよねぇ」
響く声。
緑の炎が、槍を飲み込む。
「ずいぶん騒がしいと思ったら、なるほどドンパチやってる訳だ」
どこからともなく現れたのは、赤い服、白い髪の不思議な少年。
その手には、ゆらめく緑の炎を携えている。
「アンタは……」
「ボク?」
現れた少年に、問いかける。
色んな意味が含まれているが、大ざっぱに言えば"何者か?"ということだ。
顎に手を置き、しばらく考え込んだ後、あっけらかんと笑う。
「まぁ、いいじゃん。それより、アレやっつけようよ」
振り向き、指をさし、もう一度笑う。
「ボクの仕事でもあるから、さ」
まるで、ずっとここにいるかのように振る舞っている不思議な少年。
四人の中、唯一一人クーラだけは、その姿に見覚えがあるような気がしてならなかった。
けれど、思い出せない、分からない。
彼が誰だったか、何者だったのか。
知っているはずなのに、思い出せないのだ。
「フン、まあいい。雑魚が何人増えようが我の敵ではない」
完全者の鼻で笑う声で、正気に戻る。
彼が誰なのか? というのも大事なことだが、今はそれよりもっと大事なことがある。
目の前の壁を壊すという、とても大事で、逃せないことが。
彼について聞くのは、その後でも良いだろう。
「いつまでも我の邪魔を出来ると思うなァッ!!」
完全者が叫ぶ。
再び顕現した球体の槍が、再び牙を向く。
「二度も通用するかァッ!!」
真っ先に駆けだしたのはラピスだ。
雷を纏い、完全者へと突っ込んでいく。
低速だが相手を追尾して追ってくる槍を無視し、一気に突き抜ける。
「護「無駄ァッ!!」」
防壁を張ろうとする完全者を、防壁ごと殴り飛ばす。
攻勢防禦の倫理を覆す、地球意志の一撃が完全者の頬を殴り抜いた。
真っ白な空間を、バウンドしながら滑る完全者。
驚きに目を見開いている暇もなく、次の一撃が飛んでくる。
「はァッ――――」
大きく息を吸い込むように体を反らせ、その反動とバネを最大に生かして体当たりをする。
初めてKOFに出たときから愛用している、アメフトの技術を応用した技。
何てことはないただの体当たりのはずなのに、完全者はそれをガードすることが出来なかった。
大きく吹き飛ばされた後、信じられないと言った顔で叫ぶ。
「バカな、こんなことがッ」
「行くよッ」
慌てて姿勢を戻すものの、即座に次の攻撃が飛んでくる。
氷の柱、いや只の氷の柱ではなく、無を纏った氷の柱が、完全者を襲う。
破壊の光を凝縮して打ち込んでも、一方的に負けてしまうほど強力な氷の柱が、一本、二本と肉薄してくる。
そして三本目、ついに完全者の脇腹が氷の柱に貫かれた。
明らかな焦りを顔に浮かべながら、完全者はそれぞれを睨む。
「貴様等ァァァッ!!」
「は〜い、ストップ」
そこで、緑の炎が完全者を包み込む。
ここに空があれば、空にまで届きそうな高さの炎渦が、完全者を逃がさない。
超高温のそれに焼かれる感覚、忘れることもない、あの感覚に酷似していた。
「何故だ、どこにそんな力があった!!」
冷静さを欠いた叫びが、白の空間に響き渡る。
だが、緑の牢獄からは抜け出すことが出来ない。
怒りを露わにしながら悶え、暴れる完全者に、エヌアインはゆっくりと近づいていく。

752完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:03:22 ID:ko/fmoAQ0
 
「……これが、"新世界"だよ。
 僕たちが作る……いや、人間達が作る未来の力。
 人間でありながらも人間を侮ったアンタに、この力は破れない」
目が覚めた、先ほどはまだ失うのが怖い物があった。
だから、呼応も弱く、互いに作用しあうことも無かった。
だが、今は違う。
今の四人は、失うことを恐れない、本当に前だけを見ている。
新しい世界を切り拓く力は、その意志と呼応し、その力を互いに高めあっていく。
だから、ラピスはあふれ出す力で殴ることが出来た。
だから、クーラは氷と無の柱をより強く操れた。
だから、ブライアンは何よりも強い体当たりを繰り出せた。
"新世界"が、それを見る者に力を与えるから。
そして、その力を操る者も、今は前だけを見据えている。
死ぬことより何より、恐ろしいことを避けるために。
まっすぐ、前を見ている。
「おぉうっ――――」
そして、緑炎に焼かれる完全者の姿を見つめながら、構えた拳を下から一気に振り抜く。
「――――るぁっ!!」
死神のサングラスが、ゆっくりとはずされ、その命を"睨む"。
吹き飛ぶ完全者の体は、舞い上がり続けることをやめない。
その姿を、エヌアインは追うことをしない。
「受けろ――――」
ただ、その場で体を反らせ、全身のバネというバネを生かし。
「このブロォォォオオオッ!!」
完全なる者を迎えに来た絶望という名の地下鉄が、空から落ちてきた完全者の体を正確に貫いた。
今度は地面を擦りながら高速で吹き飛ぶ完全者の体に、余裕などはない。
止めを刺すなら今しかないのはわかっている。
けれど、誰もがその一手に踏み出せない。
「……あ、そっか。そのまま倒しちゃうと"転生の技法"を使われちゃうか」
その理由を、赤の少年がいち早く察する。
完全者――――肉体が滅びようと、その心と精神を別の肉体に移し、永劫の時を生きながらえる存在。
その存在を殺すには、肉体を滅ぼす以外の手段を取らなくてはいけない。
しかし、エヌアインの"新世界"は、それを出来るかどうかはわからない。
先ほどは、オロチを封ずるにふさわしい草薙の力によく似た力になったから良い者の、完全者を封ずるに相応しい力をエヌアインは知らない。
いたずらに肉体を滅ぼせば、現世に蘇ってしまうかもしれない。
それをどうやって避けるべきか、それを考えていた時だった。

753完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:03:55 ID:ko/fmoAQ0
「ね、ボクの中に八咫と八尺瓊の力がある。
 そしてクーラ、キミの中に草薙の力がある。
 さらにアンタの中にはオロチの力がある。
 ……互いに相反する最強の力、これを使えば封印のさらに先に連れていけるかもね」
赤の少年が、エヌアインに語りかける。
人類を滅ぼしうる地球の意志、それに匹敵する三種の神器の力。
その力の向きは今、ひとつに向けられている。
互いに作用しあう"新世界"ならば、その力をまとめ、新たな"力"にする事が出来るかもしれない。
封ずる草薙の力を越えた、さらなる封ずる力。
それが、生まれると信じている。
「ただ、練り上げられるのはキミしかいない。それを保ちながら殴るのは……キツいよねえ」
けど、それほど強力な力を練り上げるのには、いくら"新世界"が互いに作用する力とはいえ、相当な集中力がいる。
それを維持しながら、相手を殴り抜くのは相当な労力にもなるし、下手をすれば暴発するかもしれない。
ただ、その力を、練り上げたそのときに純度の高いまま放てば。
それを受け取ったまま、殴りに行ける人間が一人居るならば。
話は変わるし、段取りもスムーズに進む。
「だから、練り上げた力を一身に背負って、アイツにぶつけるのを任せても良いかな?」
だから、唯一手が空くブライアンに、その役目を願う。
全てを滅ぼしうる、けれど全てを創造できる強力な力。
ひょっとすると飲み込まれるかもしれないし、どうなるかはわからない。
けれど、ブライアンは迷うことなく首を縦に振る。
もう決めている、失うことも、何も、怖くないと。
あの目の前の壁をぶち壊せる力があるなら、それを振るうまでだ。
「オッケィ♪ じゃ、アレが弱ってるうちにとっとと始めようか」
ブライアンがうなずいたのを確認し、赤の少年は他の三人にアイコンタクトを送る。
完全者は未だに立ち上がれずにいる。
新世界の力が齎した傷跡が、彼女の想像以上に"心"を焼いているからだ。
チャンスは今、この瞬間しかない。

754完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:04:26 ID:ko/fmoAQ0
 


「クーラの炎……いや、皆の炎。未来を照らす、希望の光!」

手を翳し、炎を生み出す。
その炎は、幾多もの意志と、やせ我慢と、希望が詰まっている。
この場所のどこかで、きっと何かを貫いて死んでいった男と。
その男のように、自分を貫いていった男が自分に残した僅かな炎。
今もなお、この命を繋いでくれた感謝の気持ちを込めながら。
残された炎の力、草薙の力を全て放っていく。

「地球の意志、人間の意志、強き心よ、ここに!!」

手を翳し、雷を生み出す。
裁きの雷、全てを天に委ね、その運命を決める者の力。
命を繋いでくれた彼女は、人類の敵だった。
けれど、彼女もまた完全者に刃向かう者だった。
だからこそ、今も力を貸してくれているから。
残された雷の力、オロチの力を全て放っていく。

「神器の内が二つよ、ボクに力を貸してッ」

彼は、存在し得ない人間だ。
この空間に留まっているが故、その存在を許されている"イレギュラー"。
故に操れる力がある、かつて世界を救うために手にした力がある。
片やオロチと契約を結んだ、八尺瓊の紫の炎。
片や三種の神器の支えとなる、八咫の鏡の力。
その力を今、より強く放っていく。

「これが……"新世界"を作る力、破壊を越えた創造の力」

集まった力、集中し、その全てを纏めていく。
未来を切り拓くための、大きな風穴をあける、たった一つの鍵。
一瞬でも気を抜けば、爆発してしまいそうなそれを、必死の思いで纏めていく。
前を向くため、未来を見るため。
けれど、その世界を見るのは自分ではない。

「……元々人間ではないボクには扱えない、だから、お願い」

世界に生きる、"人間"だ。
きっと、純粋な人間ではない者には扱えない力。
だから、切り拓く力を、新世界をさらに呼び覚ました男に、その力を託す。

「任せろ」

男は短くそう告げて、肩を回しながら完全者を睨む。

「おの、れェェェ!! 下等な旧人類がァァァ!!」

その時完全者が起きあがり、銃剣を握りしめて自分達を睨んでいた。
もうこれ以上、待っている時間はない。

「行くぜ」

合図と共に、ブライアンが駆けだしていく。
そして、エヌアインが纏めた力を放っていく。
白い世界でよりいっそう光り輝く白い光が、走るブライアンを包み込むように伸びる。
ブライアンはただただ走り、完全者はそのブライアンを迎撃しようとする。
即座に構えを作り、体全体を一つの衝撃波にするように、ブライアンは体当たりを仕掛ける。
完全者は魔剣から破壊の光を呼び出し、その力を斬り裂き潰そうとする。
突進する体、振り抜かれる銃剣。
それぞれが纏う力が。

「どぅぅおりゃあああああああ!!」
「ァアアアアアアアアアアアッ!!」

炸裂する。

755完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:05:04 ID:ko/fmoAQ0
 








「――――っは!!」

目を、覚ます。

「ここは、何処だ?」

白でも黒でもない、形容しづらい色の世界。
その中で、動けるようで動けないまま、ただ浮いていた。
不快感を覚えたその時、聞き慣れた声が耳に届く。

「ミュカレちゃん」
「貴様は……」

金のツインテール、蒼の瞳。
かつて完全者ミュカレが依り代に使っていた少女、カティの姿だった。

「何故、ここにいる」
「……ミュカレちゃんの、友達になりに来たから」
「……戯れ言を」

単純な問いかけ、それは即答される。
友達? 何を言っているのか?
相手にならないと早々に切り捨て、次の問いかけを投げる。

「ここは、どこだ」

今度は、答えが帰ってこない。
いつまでも続く沈黙に、苛立ちを覚える。

「言えぬか」

ため息を漏らし、完全者はカティを見つめる。
そこでようやく、体が動く感覚を取り戻す。
さらに、銃剣を呼び出すことにも成功した。
そのまま銃剣を突きつけ、カティに凄んでいく。

「言わぬなら、死ね」

未だにカティは沈黙を守ったまま、動かない。
ついに痺れを切らした完全者が、銃剣を振るい、カティの小さな首を刎ねていく。
そこに躊躇いは、微塵もない。

756完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:06:04 ID:ko/fmoAQ0
 
「ねえ、ミュカレちゃん。カティは知ってるよ」

けれど、その命を奪った瞬間。
全く同じ姿、全く同じ声が現れる。
振り向いた先、確かにそこに彼女は居た。

「ミュカレちゃんのここが、空っぽだって事を」

銃剣を振るう、首をはねる。
今度は念入りに心臓を抉り出し、足で踏みつぶし。
引き金を引き、脳を破壊し、完膚無きまでに殺していく。

「カティはね、ずっとミュカレちゃんとお話がしたかった」

それでも、それでも彼女は現れる。
完全者が何度、何度殺しても、彼女は全く同じ姿で現れる。
銃剣を振るう、弾を吐き出す、彼女の体を破壊し続ける。

「確かに、ミュカレちゃんは間違ったことをしてたかもしれない。
 私たちからすれば、それは理不尽なことだって分かる」

ずっと、ずっと言葉を続ける。
ずっと伝えたかったことを、自分の心の中、足りなかった何かを埋めるように。
壊されても、潰されても、言葉をやめない。

「けれど、カティは知ってるの。ミュカレちゃんがそんなことをするのは……ミュカレちゃんが、寂しいからだって」

ようやく繋がった、語り合えたのだから。
もう、一生逃さない、自分の気持ちを、空っぽを埋めるために。
その気持ちが伝わるまで、何度でも言葉にする。

「お話、しよう? 私は……ずっと」

だって、だって。
自分はずっと話したかった、できるなら分かり合いたかった。
だって、自分は――――

「ミュカレちゃんの友達だから」

独りぼっちの彼女の、たった一人の友達なのだから。

けれど、彼女はそれを拒む。
殺す、壊す、潰す、それを繰り返す。
広がり続ける赤を認識することもなく、現れる相手をただひたすら拒絶していく。

終わらない、終わらない地獄。

認められたくない、旧人類と同じになりたくない。

受け入れれば、それを認めることになる。

だから、拒むしかない。

「アアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!!!!」

きっと、ずっと続くのだろう。

思いを伝えて受け入れたい少女の気持ちと、それを拒み続ける彼女の意志がある限り。




.

757完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:06:37 ID:ko/fmoAQ0
「終わった……のか?」
白い世界の中、確かに弾けたはずの力の中心地。
そこに立ち尽くしていたのは、ブライアンただ一人。
完全者の姿は、そこにない。
「恐らくは、ね」
気配も、魂も、感じることはない。
彼女がどうなったのかを知る由はないが、確かにいないということだけは分かる。
「さ、て、ゆっくりしてるわけにはいかないよ。
 時間がないから、早く戻らなきゃ。
 アレが閉じちゃうと、元の世界に戻れないからね」
赤い少年が、指を指す。
白の世界の中に、色を持った縦に長い穴。
そこに映るのは、先ほどまでエヌアイン達が居た、あの始まりの場所だった。
それが少しずつ薄れているということは、閉じこめられてしまうかもしれないと言うこと。
「お前は、いいのか?」
ブライアンは問いかける。
半分くらい分かっていた答えを聞くために、といってもいい。
「ボク? ボクはダメだよ、なんてったって……」
予想通りの答えが返ってくる。
ここに来てから突然現れた、ということは。
ここに居なければいけない理由があるからなのだろう。
薄々感じていたものの、言葉に出されると少し辛い。
「あの世界にはもう、居ないからね」
続いた言葉、それがクーラには一層深く刺さる。
もう、居ない。
つまり、元々は居たということ。
だからだろうか、彼に既視感を覚えるのは。
けれど、思い出せない。
彼が誰だったのか、その名前も、知っているはずなのに。
ごっそりと抜け落ちたかのように、思い出せない。
だから、それを聞こうとしたけれど、彼の言葉がそれを遮る。
「それとさ、あの世界に持ち込んじゃいけないものがボクの中にあるから、戻れないんだよね。
 あと、なんだかんだでさっきみたいに、何かたくらんでるのがたまーに来るし、それを追っ払う仕事もあるからねぇ〜。
 意外と、忙しいんだよ? ここ」
ハハハ、と苦い笑いを浮かべ、手を小さく振る。
現世に持ち込んではいけない要素、そして過去にもわたれない存在。
ここに留まらなければいけないし、ここでしか存在できないから、彼はここに残る。
「さ、閉じこめられる前に早く戻りなよ。君たちには、帰る世界がある」
指を指す方向、現世の光景が刻一刻と狭くなっていく。
時間が残されていないことを理解した者達は、歩みを進める。
一歩一歩踏みだして、現世へと戻る。

758完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:07:32 ID:ko/fmoAQ0



「……ボクは、ここに残るよ」



ただ一人を、除いて。
「何言ってるんだい、ここは」
「ボクは」
呆れた顔でもう一度説明しようとした赤い少年の言葉を、エヌアインは遮る。
そして、言葉を放つ隙間を与えないように、即座に言葉を紡いでいく。
「ボクは、完全者から作られた存在だ」
神の現実態"エネルゲイア・アイン"は、完全者によって生み出された。
その完全者が今、過去に渡る途中で"消えてなくなった"。
"新世界"が齎した力は、存在そのものすらをも消しているかもしれない。
そこに、完全者によって作られた自分が戻ればどうなるだろうか?
考えなくても、分かる。
時空間のねじれ、ありえないことが起こる。
最悪、完全者の蘇生すら起こしかねないのだ。
それが分かっているから、エヌアインは戻れない。
「……なるほど、ね。キミもボクと同じって訳だ」
察した様子で、赤い少年も口を閉ざす。
何かを言おうとしていた三人も、言葉を失う。
「ごめん、皆」
真っ先に飛び出したのは、謝罪の言葉だった。
世界を作るとか、大層なことを言っておきながら、自分はそれに関われないのだから。
「けど、大丈夫。皆ならきっと、"新世界"を作ってくれる」
それに関われないのはこの上無く、悔しい。
けれど、ようやく踏み出した一歩を、無碍にする訳にもいかないのだ。
その一歩を踏み出すために、ここまで来たんだから。
「無責任な言葉になるけど……頑張って。応援してる」
だから、ほんの少し、けれどもとても長い時間。
共に進んだ仲間達に、全てを託す。
「ほら、扉が閉じるよ、早く行って」
現世に繋がる扉が、今閉じようとしている。
もうこれ以上、悠長にしゃべっている時間はないのだ。

「見てて、ちゃんと作るから」
グーサインを作り、自信満々の笑みを浮かべてラピスは言う。
「うん」

「"勝って"みせる、どんな困難もな」
拳を作り、強く前に突き出してブライアンも言う。
「うん」

「クーラ達のこと、忘れないでね!」
クーラは大きく両手を振る、ちょっとでも自分のことを覚えてもらえるように。
「うん」



そんな三人の姿を、エヌアインはじっと見つめて見送る。

「行ってらっしゃい」

最後に一言、それだけを残して。

そして、三人は景色に飲まれていき。

世界は、白に染まっていった。


.

759完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:07:52 ID:ko/fmoAQ0
「……戻って、来たんだね」
大地、色のある世界。
そこに降り立ち、クーラは言葉をこぼす。
戻ってきたのだ、自分たちが居るべき世界に。
「ええ、私たちの世界に」
そして、自分たちがこれから作り上げていかなくてはいけない世界に。
今、しっかりと両の足をつけて立っているのだ。
「なあ、見ろよ」
ふと、ブライアンが指を指して言う。
クーラもラピスも、ブライアンが指を指す方を見る。
そこにあった物を見て、こんなにありがたい物だったのかと、思わず声が漏れる。

「日が、昇るぜ」

まぶしい光が、戻ってきた彼らを祝福するように、燦々と光り輝き始める。
彼らはそれを手で覆うこともせず、ただ真っ直ぐ、見つめ続けていた。



新しい日々が、始まる。



【ブライアン・バトラー 生還】
【クーラ・ダイアモンド 生還】
【ラピス 生還】

【生還者 三名】

760完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:09:33 ID:ko/fmoAQ0























「良かったの? 本当に」

「うん」

「ま、それもそうか……」

「それに……」

「何?」

「キミが、ひとりぼっちだったから」

「ぷっ……アハハハハ! 何それ!!」

「ボクの友達でもこうすると思う」

「ボクも……そうやって手を差し伸べてもらったから」

「だから、ボクも差し伸べられる手は、伸ばしたいんだ」

「……キミも、その友達も物好きだねえ」

「よく言われるよ」

「……これからよろしくね」

「こちらこそ♪」

「ボクはエヌアイン……いや、違うな」

「ボクの名前は――――」



【"新世界"の少年 ――――――――】

【Perfect World Battle Royal
                   The End】

761完全"新"殺 ◆LjiZJZbziM:2013/12/06(金) 00:10:10 ID:ko/fmoAQ0
投下終了です。
企画発足、本投下開始から約一年半。
正直こんな短期間で完結できるとは思っていませんでした。
特に話題性もないし、流行の題材や誰もが知ってる作品も無いし、爆速を誇るわけでもないし。
スレに書き込みの八割ほどは自分という状況でも、「書く」と決めて選んだ作品たちと共に進めてまいりました。
読んでくれた人、書いてくれた人、支援してくれた人、皆さんが居たからこそ、ここまで来れたと思っています。
僕自身、本当にこの上なく楽しんで書くことが出来ました。
本当に、本当に有難うございます。

ここからはエピローグを少しの間、募集しようと思います。
こちらも予約期限は無期限。
本編に出て来ていないキャラや、バックグラウンドを書きこみたい人は是非とも予約してみてください。
僕が書きたいエピローグを少々執筆し終えた後に、この企画を完全に完結とさせて頂きたいと思っております。

最後になりましたが、この企画で二次創作していた作品たちは、とても面白いゲームばかりです。
元々のゲームが面白かったからこそ、こんなに創作できたというのもあるかもしれません。
もし、ゲームセンターによられる機会があり、PWBRの参戦作品が稼動していましたら、
どうか、1クレジットだけでもいいので、遊んでいただければ幸いです。

改めてここまで読んでくれた皆さん、僕以外の書き手の皆さん、支援してくださった皆さん。
本当に、本当に有難うございました。

◆LjiZJZbziM

762 ◆hqLsjDR84w:2013/12/06(金) 00:11:53 ID:sGBSTdYk0
おもしろかった!!!

763 ◆ZrIaE/Y7fA:2013/12/06(金) 00:25:02 ID:iwiR9YOo0
投下お疲れ様です!!そして完結最終回おめでとうございます!
新しい世界を作る人間っていいなあ、まさか、いや此処でしか存在できない赤色のあの子も…
封印の先やら無やら新世界やら、もうこの場所でしか扱えなかっただろう能力の数々
それらが武器となって盾となって進む力になっていくのは興奮しました。
ああもう改めてお疲れ様でした!!

764名無しさん:2013/12/06(金) 00:26:16 ID:YRSnu9G60
完結、おめでとうございます。面白かった。
これでもかというほどその前の話から拾ってきててリレーSSらしい最終回になってて、
締めは少しだけ寂しいけど、でも清々しい。読んでて感嘆のため息しか出ませんでした。

765名無しさん:2013/12/06(金) 00:28:42 ID:2ohn97cE0
完結おめでとうございます
ちょー面白かったです!
ここまで繋がれてきたモノを全部書ききった、最高の最終回じゃないでしょうか

766名無しさん:2013/12/06(金) 00:29:23 ID:K035GNxI0
完結おめでとうございます!
書き手の皆様、とっても面白い話を沢山ありがとうございました!!

767名無しさん:2013/12/06(金) 00:48:32 ID:oZEWnu1s0
おおわったあああああああ!
完結おめでとうございます!
ベタなんだけどこういうのすんげえ好き>赤い子が一人ぼっちにならないから残ったのも良かった

768名無しさん:2013/12/06(金) 01:13:48 ID:Fby6i9S60
完結おめでとうございます!
ブライアン格好良かった!

769名無しさん:2013/12/06(金) 01:29:58 ID:wXf9shpk0
最終回お疲れ様でした
素晴らしい熱量と疾走感に酔いしれました
ブライアン・バトラーが生還するロワが出来上がったなんて未だに信じられませんし
そもそもブライアンが出るロワを他に知りません
ラピスに至っては言わずもがな

ここでしか書けない話、ここでしか出来ない終わり方、返す返すも素晴らしかったです
本当にお疲れ様でした

770名無しさん:2013/12/06(金) 03:43:25 ID:ZNbifyCE0
完結おめでとうございます。お疲れ様でした。
孤独を恐れて現実から目を逸らした少女と、孤独を恐れながらも現実を見つめて希望を見出した少年。
その対比に心揺さぶられる作品でした。
改めて、お疲れ様でした。

771名無しさん:2013/12/06(金) 09:35:31 ID:Taospnk20
完結おめでとうございます!
良かったあああんもおおおおおおお!!

772名無しさん:2013/12/06(金) 10:01:53 ID:rjpgUZCA0
完結おめでとうございます!
途中から追い始めた身ですが本当におもしろかったです
今までおもしろい話を投下してくださった書き手さんにも乙を

773 ◆LjiZJZbziM:2013/12/10(火) 00:18:53 ID:I6xQVSTA0
本日、下記のスレッドにてペルロワ語りが開催されています。
どんな些細な話でもすげー嬉しいので、書き込んでいただければ幸いです。

パロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ9
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1385131196/

774UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:48:41 ID:o6aJmZoA0
「旧人類狩り」と称し、邪知暴虐の限りを尽くした完全者は、ヒトの手によって封ぜられた。
だが、過去に戻れず存在が抹消されたかつての齎祀とは違い、存在そのものの抹消が起こったわけではない。
過去に戻る中間の存在の時点で、封印が起こった。
過去に戻ろうとしていた完全者も、現世に残る完全者も、そのどちらも存在し得た時間軸。
輪廻の初周であったが故に、現世に中途半端な傷跡と記憶が残ることになった。
生み出された物も、失われた物も、そのまま。
一人の少年が、戻ることを拒んだのは、自分自身が中途半端な存在だったからだ。
時間がどちらに傾いていたのか、それは分からない。
現世に戻ったところで、自分が何時消えるかは分からない。
だから、確実に存在できる道を選んだ。
先にいた者と共に守護者として、過去へ渡る悪を断つために。
人々を、遠くから見守る存在へ。
そして、"自分"が確実に存在できる道を、選んだ。
「……おや、また誰か来たようだネ」
そして今、また誰かが扉を開いている。
いつ、どこで、誰が、それは分からない。
ただ、過去に渡らせるわけにはいかない。
それを招くことは、許されないから。
「行こうか、アッシュ」
飲んでいた紅茶のカップを置き、少年は手袋をはめ直す。
そして、即座に赤と青の二色が、滲むように霞んでいった。



とあるヒトたちの活躍により、完全者は居なくなった。
恐怖は去り、安寧の日々が再び訪れることになるだろう。
だから、いずれ人々は"完全者"という存在を忘れてしまう。
時という流れが、人々の記憶から彼女のことを削り取っていく。
ここから先の話は、彼女のことが削り取られるのが少し遅かった者達の話。
限りなく可能性が広がる、新しい世界が始まるまでの、短い短い時間の、物語である。

775UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:49:09 ID:o6aJmZoA0



「……どうしたんですか、大佐」
ことり、と置かれたコーヒーカップの前、仏頂面で椅子に腰掛ける男。
ハイデルンが指揮する非合法軍の一員、ラルフ・ジョーンズは、いかにも納得のいっていないという顔をしている。
「なんつーか、浮かばれねえよな」
湯気が上がるコーヒーカップを見つめ、飲むわけでもなくただ言葉を続ける。
「死ぬまでやせ我慢、つっても、死んだら何にもならねえってのによぉ」
犠牲者の中には、見知った顔が沢山居た。
中には共同戦線を張った仲間も居た。
そんな存在が、一晩にしてごっそりと失われた。
心に風穴があけられたかのような感覚に、ラルフはなんとも言えぬ気持ちを抱えていた。
……彼らは、何を思って死んでいったのだろう。
それを考えるだけで、妙な気分になる。
死んだら終わりだけれど、死んででも守りたい物があったのだろうか。
推測の域を出ないことだが、彼らならきっとそうするのだろう。
「きっと大佐でも同じ事をしたんじゃないですか?」
そこにラルフがたどり着いたことを察したかのように、クラークが声をかける。
もし、自分が同じ状況に巻き込まれたのならば、形はどうあれ同じ行動を取っただろう。
「……そういう事か」
納得したかのような台詞と、大きなため息を吐く。
人間である以上、譲れない物はある。
きっと彼らは、それを守るために戦っていったのだろう。
「おいクラーク、行くぞ。正規軍連中への報告、EDENの封鎖、やることはしこたまあるんだからな!」
「了解!」
ならば、残された自分たちも、戦わなくてはいけない。
散っていった彼らに顔向けができる程度に、動かなくては。

776UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:50:10 ID:o6aJmZoA0



「喰らえっ!」
図太い木に向かい、振りかぶった拳を突き刺す。
体をひねらせながら、遠心力と共に殴り抜くその技、草薙流古武術の内が一つ、百拾五式・毒咬みだ。
いつか教えてもらった動きの通り、無心でその技を巨木に打ち込んでいく。
「……今日もやってんのか、真吾は」
「ええ、草薙が死んでから、ずっとあの調子よ」
それを見守る、二人の男女。
京の最大の好敵手とも呼べる男、二階堂紅丸。
そして、三種の神器の内が一人、神楽ちづるだ。
連日連夜、かつて京が打ち込みに使っていた木に向かい、拳を打ち込む真吾の姿は、どこか痛々しくもあった。
けれど、二人には止められない。
突然告げられた別れに、言葉すら出ないからだ。
整理できない気持ちを、どうにかして形にするために。
真吾は毎日、こうしているのだ。
心に訪れた、とても大きな変化を、見つめるために。
「喰らえっ! 喰らえっ!!」
とうに拳からは血が流れ、お気に入りのグローブは深紅に染まっている。
けれど、彼は拳を振るうことをやめない。
それをやめてしまえば、自分が壊れていきそうだから。
「ったく……残される方も楽じゃないね……」
その悲痛な姿を、やはり見つめることしかできない。
そんな紅丸もまた、好敵手の死を受け入れられずに居るのだろう。
木に打ち込み続ける真吾の姿が、かつての京の姿と、被るからだろうか。
「真吾!」
だから、彼は決意する。
「何スか、紅丸さん……」
このままじゃいつまでも死人の姿に囚われて、前に進めないから。
「一週間後……俺と勝負しろ」
互いの気持ちに、ケリをつけるために。

777UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:50:24 ID:o6aJmZoA0



寂れた町、風の香り、木々のざわめき。
そんなのどかな町の外れに、ぽつりとたった墓。
それを囲むように、一人の老人と、一人の青年と、二人の少年少女が立っている。
それは、麻宮アテナがかつて共に修行の日々を過ごした、仲間達の姿だった。
ハイデルンから告げられた、一方的な事実。
突然訪れた、"死"という現象は、彼らの心を強く抉っていた。
「……何が、ナイトや」
青年、椎拳崇は怒りのあまり地面をたたきつける。
彼女を守ると誓った、だから修行の日々も耐えてきたし、力をコントロールできるようになった。
けれどどうだ、現実には守ることすら許されなかった。
自分の手の届かないところで、彼女は死んでいったのだ。
「拳崇よ、あの日、感じたことを覚えておるか」
立ち尽くす拳崇に、彼の師である老人は語りかける。
「もう、分かっているじゃろう」
「うっさい、そんなん、言われんでも分かってるわ」
その言葉を、拒絶する。
「でも、認められへんやろ」
頭で分かっていても、受け入れられないことがある。
「アテナが気に飲まれて、暴走しましたなんて、はいそうですかとは言われへんわ」
明らかに異質の力、その中に感じたアテナの気配。
そして、その気配が血にまみれていくのも、確かに感じ取っていた。
彼らは気づかされていたのだ。
麻宮アテナという、一人の少女が、殺人鬼に落ちる場面を。
「……ましてや、なんもでけへん場所で、ぼーっとしとっただけやのに」
全く、手の届かない場所で、一方的に。
「すまん、一人に、さしてくれへんか」
震える声で、同行者に席を外してもらうように願う。
少女が何かを言い掛けたが、少年がそれを止める。
分かっている、分かっているのだ。
この場所で一番悔しいのは、彼なのだと、分かっているのだ。
だから、黙って一歩退く。
彼の願いを、かなえるために。

「なあ、アテナ」
少し無骨な墓石に語りかける。
「知っとったんや、アテナが苦しんでるのを」
ずっと隠していた真実を。
「けど、見て見ぬ振りしとった。ええ顔してるアテナだけを、見とった」
心の中の後悔の念を。
「最悪やな、今思ったらほんまにそう思うわ」
今、話したところでどうなるわけでもない。
「……ごめんなさい」
許されたいわけでも、ない。

ただ、そうしなければいけなかった。

じゃないと、前に進めないから。

778UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:50:36 ID:o6aJmZoA0



そして、もう一人。
そうしないと、前に進めない人間が居た。
「なあ、セスのおっさん」
アイパッチが特徴的な男、ラモンは、向かいに座る白いショートモヒカンが特徴的な黒人の男、セスに話しかける。
「姐さんの子供は、どうなるんだ?」
話題の的は、死んだヴァネッサの子供だ。
「……親父まで死んで、まだ小せえのに親を失って」
完全者の催しによって、一晩にして両親を失ってしまった。
子供にとって最大の支えであるはずの親という存在が、ごっそりと奪われたのだ。
「あの子等は、どうなるんだ?」
ことり、とコーヒーカップを置き、セスは真剣な眼差しで答える。
「父方の遠方の親戚である、正規軍の相川留美に引き取られるようだ」
ヴァネッサの旦那であるジョン・スミス。その父親は日本軍の将校、つまり日本人だ。
その血のつながりが多少なりともあり、生前面識もあった正規軍の親戚に引き取られるのだと、包み隠さず伝えた。
それを聞き、そうかと小さくこぼし、しばらく黙り込んでから、ラモンは再び口を開く。
「なあ、あと一つ聞かせてくれよ」
今度は、先ほどよりも口調が重い。
「エージェントって……何だ?」
何故なら、自分自身の存在意義についても、問うことになるから。
「仲間の危機にすら駆けつけられない、そんなフヌケ集団なのか?」
自分自身をメスで抉るような質問。
セスは、それに答えられずにいる。
永い沈黙、訪れない音。
やがて、がたりという一つの椅子から立つ音が鳴る。
「……あんたらとはこれっきりだ、もう会うこともないぜ」
コーヒーのお代をテーブルに置き、振り返ることなく店を後にしていく。
外は雨が降っているが、傘を差すこともなく、ぽつぽつと一人歩き続ける。
そして、しばらくして。
「ちっくしょおおおおおおおお!!」
一人、誰もいない場所に向かって叫び、地面にうずくまった。

779UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:50:56 ID:o6aJmZoA0



「で、これが調査結果……といっても、ほとんど何もなかったんだけどね」
「そう……」
深紅のドレスに身を包んだ少女、そして深い茶色のバンダナをつけた少女が、テーブル越しに会話をしている。
片や、あの大財閥であるバーンシュタイン財閥のローズ・バーンシュタイン。
片や、謎に包まれた少女"まりん"。
ローズが何故、彼女と会話を交わしているのか。
「……ご苦労だったわ、これが約束の報酬よ」
それは、ローズが依頼者であり、まりんが請負人だからだ。
ハイデルンの軍の調査が入るギリギリまでに、あの悪魔の島を調査してほしいという願い。
彼女の兄である、アーデルハイド・バーンシュタインについて何か少しでも分かることがあれば、それを報告してほしい、という願いであった。
しかし、秘密のルートで手に入れた、アーデルハイドの遺体の場所には何もなく。
「明らかに異質な力を感じた」という報告ができる程度に留まってしまった。
「んーっと、こんだけでいいかな」
差し出された金の札束の一部を抜き取り、残りをそっくりそのまま返していく。
何かを言おうとするローズにかぶせるように、まりんは言葉を続ける。
「アタシ、仕事の出来には五月蠅いのよね。今回はあんまり収穫なかったし、予定通りのお金は貰えないよ。
 浮いたお金で、美味しいものでも食べに行きなよ」
少しだけ、シニカルな笑みを浮かべ、じゃあね、と一言残して。
まりんは、まるで忍者のようにその場から消えてしまった。

……こんな感じだった。
あの日、何かを感じて空を見上げて。
どうしようもない気持ちに襲われて。
しばらくして、一筋の光が目に入って。
それで、何かを察してしまった。
「……お兄様」
けれど、納得できないことだって、ある。
「何故、ローズを置いていってしまうのですか?」
"依存"していた者の中でも、ひときわ強い"依存"だった彼女は、空を仰ぐ。
彼女が立ち直り、前を向くには、相当時間がかかるのかもしれない。
けれど、そんな彼女の姿を。
きっと、彼は見つめている。

780UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:51:24 ID:o6aJmZoA0



フゥ、と煙草の煙を吐き出す。
人通りの少ない裏路地で、どぎついピンクの髪の女は、肩のトカゲと共にそこで小休止を取っていた。
「あんた、イヴさん?」
そんな彼女に、臆する事なく話しかける一人の少女。
白のショートカットに、元AV女優が見てもすこしきわどい格好の彼女は、舌を出して笑いながらこっちを見ている。
「……誰だい、アンタ」
煙草を消すこともなく、ただそのまま相手の正体を探る。
その裏には、殺人者独特の、警戒心を潜めながら。
「あたしぃ? あたしは、アンヘル」
それを知ってか知らずか、アンヘルと名乗る少女は笑う。
だが、ただ笑っているだけでなく、隙を見せない笑いかたである。
下手に動けば、自分が危ない。
「あっ、勘違いしてほしくないけど、別に首取って殺そうってわけでもないし、もしそうだったら、もう死んでるからね」
少し体を強ばらせていたイヴに、アンヘルは両手を振って無抵抗を示す。
その気ならもう死んでいる、という言葉は冗談ではないだろう。
滲み出る殺気は、痛いくらいにイヴに突き刺さっている。
そんな彼女の事などお構いなしに、アンヘルは言葉を続ける。
「今日は、勧誘に来たの。今さー、ウチの組織、人手不足でしんどいのよね」
そう、彼女の今回の役目は"スカウト"なのだ。
類希なる殺しのセンスを持つイヴに、ある組織が目を付けていた。
「莫大な金が入るはずだった依頼がポシャって、ぶっちゃけ行く当てがないんでしょ?
 だったら、すごくおすすめだと思うんだけどな。
 少なくとも、今より危ない生活はしないでいいと思うよ」
息をのんだままのイヴに、アンヘルは組織の名を告げる。
「来ない? ――――ネスツに」

闇は、まだ動いている。

781UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:51:42 ID:o6aJmZoA0



けれど、光もそれに負けぬほど、動いている。



「いけー! やれー! ブライアン!!」
「ちょっとラピス! 格闘技じゃないんだから……」
「ハッハ、元気が宜しいようで」
大声で野次を飛ばすラピス、それに少しげんなりとした表情を浮かべるクーラ。
そして、隣で笑う巨漢の男、マキシマ。
あれから相当に面倒くさいことをこなした後、特に行く当てがなかったラピスは、隠居生活をしていたクーラ達と共に過ごすことを決めた。
そのころにはもう、雷の力はすっかり使えなくなってしまっていた。
オロチが休眠に入ったからか、それともあの力自体が奇跡の産物だったからか。
とはいっても、それ自体に特に支障はない。
以前のように、元気にトレジャーハントに向かえているし、特に不自由はない。
前と違うのは、トレジャーハントにクーラ達がついてくると言うことぐらいか。
「あっ、ほら見て! ブライアン達の攻撃だよ!」
強化グローブが填められた手で、クーラが広いフィールドを指さす。
あの戦いで、己に託された全ての炎を使い切ってしまった。
残されたのは氷の力、それも自分のではない、"イゾルデ"の物。
だから、今のクーラは能力のない少女と大差はない。
けれど、彼女が共に戦った証は残っている。
髪の毛の一部、前髪のあたりだけが、白く変色している。
その白は、きっと彼の白であり、彼の白でもある。
クーラと一緒に戦ってくれた人が、彼女を守っているかのように。
その白は、ひときわ強く輝いていた。

「さあブライアン! ここでボールを受け取り前へ走る!」
それぞれの思いがある。
世界という渦の中で、一つとして同じ物はない。
時間はかかるかもしれない、ひょっとしたら立ち直れないかもしれない。
「一人、二人、三人! 体当たりを仕掛けられてもなお、動じない!!」
けれど、全人類が絶望したとしても。
きっと、彼は絶望しない。
受け継いだ、とっておきがあるのだから。
「まるで蒸気機関車だァーッ!! 引きずりながら進む進む進む!!」
もう、後ろを向かない。
前を向いて、世界を作らないと。
あの少年に、顔向けができないから。
「ここで、タッチダァーゥン!! ぎゃくてえええええええん!!」
グッと拳を作り、天へ掲げる。
その姿を見て、人々は何を思うか、それはわからない。
けれど、希望を感じ取って貰えるような、そんな姿でありたいと、彼は願う。
「優勝、優勝です! 悲願の優勝を手にしました!!」
だから、彼は前を向く。
そして、そんな彼を見ている二人の少女も、前を向く。
世界はまだ、作られ始めたばかりだから。

782UNLIMITED WORLD ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:52:14 ID:o6aJmZoA0










一歩進むのは大変だ。

進み続けるのはもっと大変だ。

けれど、進まなければ分からないことがこの世には沢山あるから。










僕たちは、前に進む。









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783 ◆LjiZJZbziM:2013/12/12(木) 00:57:12 ID:o6aJmZoA0
エピローグ、投下終了です。
そしてこのスレですが、よく考えたら無理に落とすこともないので、公開の感想置き場にしようと思っています。
後からこの企画を読んでくれた人や、読み返した人が、もし、何かぶつけたいことがあったら、遠慮なくこのスレに書き込んでください。
もちろん、何かしらの作品投下もバッチコイです。

おそらく、次回スレッド整理あたりで、過去ログ送りになると思うので、datの保存等々は皆さんお早めにお願いいたします。

ちなみに、私は現在ここ俺ロワ・トキワ荘で「孤島の実験記録」という新しい企画の執筆もしております。
他のロワとは違う、少し違った「実験」なので、興味のある方は是非こちらもご一読頂けると幸いです。
孤島の実験記録
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12648/1380716254/

ではみなさんまた、いずれどこかでお会いしましょう。
つっても、他スレ見てる人なら直ぐにみる事になると思うけど……w

読み手の人とゲーセンで対戦するような事があったら、いいなぁ、なんて思ってます。
まあ、この企画がきっかけで参戦作品、ないしアケゲーやゲーセンに興味を持ってもらえれば、それだけで万歳なので。

784名無しさん:2013/12/18(水) 21:50:54 ID:1qhNZ/DY0
エピローグ投下されてたー!
投下乙であります。

残された者も、残った者も、皆前へと進んで行く、
そんな力強さが感じられたエピローグでした!

お疲れ様でした!

785管理人★:2014/07/03(木) 19:08:25 ID:???0
企画の完結に伴い、本スレッドを過去ログ倉庫に移動させていただきます。
完結、おめでとうございます。

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