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【習作】1レスSS集積所【超短編】

1 名無しさん :2015/11/21(土) 00:23:52 ID:gr26XeI60
「SS書けたけどツイノベには長いし、1000文字には満たない…」
「投稿所の新着に載せる/自分の作品ページに1作置くほどでもない…、でも日の目を当てたい!」
「初作で躓いて変なイメージついたり、叩かれたくない…」
「まずは匿名でいいから反応を見てみたい…」

 そんな初心者や超短編作家の皆様! この度、談話室に『1レスSS集積所』を作成しました!
 初心者作家の叩き台から、本館作家の息抜きネタSS、そしてその感想など、様々なレスを投じてください。
 魔物娘さんたちといちゃエロちゅっちゅしたりほのぼのするSSをお待ちしております。

 【このスレのルール】
・SSの内容に関するルールは本館と同じとします。
・作品とその感想は1レスでまとめてください。特にこのスレでの連載は禁止します。
・基本的にここで作品を投稿しても匿名になります。匿名ゆえのトラブルのリスクは投稿前によく考えてください。HN・トリ付けは自己責任で。
・ほんわかレス推奨です!


他にも色々なスレがあります。目的に適したスレをご利用ください。

※魔物娘図鑑と関係ない話題でもOKです。
雑談スレ12:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1446028423/

※新刊同人誌の話題は解禁されるまでネタバレスレでお願いします。
ネタバレスレ:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/11485/1294842422

※エロ魔物娘図鑑やSSに関する考察・妄想・ネタ話などはこちらへ。
エロ魔物娘図鑑スレ10:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1441958563/

※魔物娘の生態や世界情勢など、図鑑世界にまつわる考察はこちらへ。
魔物娘図鑑世界考察スレ6:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1411941292/

※SS作者さん特有のピンポイント過ぎて微妙な質問・相談などはこちらへ。
SS書き手で雑談しましょ 8:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1445590184/

416 名無しさん :2017/04/22(土) 20:32:13 ID:.8aAAyB20
種まきにSS……じゃなくて詩まがいのものを一つ。

 ☆

あなたを見つめてみたい。
あなたを見つめていたい。
あなたに見つめられたい。
あなたと見つめ合っていたい。

あなたがこの視線に晒されたなら。
きっとあなたは私に夢中になる。
私がこの視線に晒されたなら。
きっとあなたに夢中になる。

あなたが好きって私の本音。
それを仮面は覆い隠す。
あなたへ向ける熱い視線。
それも仮面は覆い隠す。

ねえ。
胸が苦しいよ。

あなたを見つめてみたい。
あなたを見つめていたい。
あなたに見つめられたい。
あなたと見つめ合っていたい。

417 名無しさん :2017/04/23(日) 18:03:35 ID:sYEwIfH2O
「192、193……」

一本、また一本。数えながらケーキにろうそくを立てていく。
手元のろうそくを確認する僕の目の前には、たくさんのろうそくが刺さってハリネズミのような姿になったケーキがわびしいたたずまいを示していた。
彼女の大好きな苺はは、乗せきらなかったため、外してしまっていた。

「そうじゃな……今度の誕生日には、儂の歳の数だけろうそくの刺さったケーキを見せて欲しいのじゃ」

脳裏に浮かぶのは、僕の大好きな人--永い時を生きたバフォメットの寂しそうな笑み。
その理由がほんの少しだけ、わかった気がした。

「出来たようじゃな」
「……はい」

全てのろうそくをさし終えた僕の後ろから、聞こえた声。
振り返ると、山羊の角を持った美しい魔物がそこには居た。

「お主には……このケーキは、どう見えた?」

普段の良く通る声とは違う、震える声の問い。
彼女の長い髪が、その表情を隠していた。

「……それは」
「そのケーキは、儂じゃよ。永い時を過ごし、歪みきった存在--最早火を付ける事も叶わぬ。さすれば、火柱となるだけじゃからな」

自嘲気味に、歯を見せて笑う彼女。
前髪の間から見えた瞳は、夕日を浴びて潤んでいた。

「お主には、儂の本当の姿を知って欲しかった。それだけじゃよ」

饒舌に語る彼女の姿は、どこまでも寂しそうに見えた。
だから、僕は。

「ケーキ、食べませんか?」

二人で、ケーキを食べることにした。
元々、彼女の大好きなケーキなのだ。ろうそくを立てた位で味は変わらない。

「今日は、半分こですよ」

ケーキに刺さったろうそくを抜いて、苺をのせる。
二つに切れば、スポンジとクリームが美しい断層を見せてくれた。

「ほら、おいしそうだ」

ポカンとする彼女を椅子に座らせて、ケーキを置く。
甘い、バニラビーンズの香りがあたりに満ちる。

「お主は、良いのか?」
「……ええ、味は変わりませんから」

一口含んで笑みを見せると、彼女も微笑んでくれて。

彼女の誕生日に、僕ははじめて彼女の笑みを見ることが出来た。

418 名無しさん :2017/04/23(日) 18:30:01 ID:sYEwIfH2O
「でやぁっ!」
「させるかぁっ!」

魔物たちによって禍々しくも栄える魔都、レスカティエ。
リリムから稲妻のごとく繰り出された腕を、私は左手で弾き飛ばす。

「隙ありっ!」
「っ!」

直後に死角となった右から繰り出されたヴァンパイアの蹴りを額で受ける。
衝撃で一瞬歪む視界に写るのは、リリムとヴァンパイア--そしてワイト、リッチ、ファラオにバフォメット。翼を広げるドラゴンであった。

「負けるか……!」

戦力は圧倒的。
勇者として鍛え上げた私だからこそ分かる絶望的な差。
しかし、それでも。
私は諦める訳には行かなかった。

「そのブーケは、私の物だあああっ!」
「こやつ、我を踏み台に!?」

私はサキュバスの翼を広げながら吼え、飛び立とうとしたドラゴンの翼を掴む。
視覚に頼らずとも、永い独身生活によって強化された魔物の嗅覚が私を支えてくれる。
ドラゴンを踏み台に跳躍してブーケに手をのばす。距離は完璧。あとコンマ数秒で私の手にブーケが握られる--!

「私を忘れるなよ?」

だが、届かない。
転移したリッチが私の手を弾いたのだ。
その顔には普段見せることの無い何かが宿っていた。

「そう、妾の物なのですか……」
「儂のなのじゃ!」

そして術者達の魔力にぶれる、ブーケの軌道。予想外な方向へと飛んだそれは。

「あ。あれ!?アタシ?」

たまたま参列したゲイザーの手にポトンと落ちたのだった。
崩れ落ちる私達。
レスカティエに置けるブーケトスの戦いは、意外な勝者で、幕を閉じたのだった。

419 名無しさん :2017/04/23(日) 20:25:12 ID:Fx/dRaxQ0
>>418
これは笑った
そして最後の勝者はゲイザーちゃんとは、やっぱりゲイザーちゃんは最高なんだな!

しかし>>417の『永い時』って表現に物悲しさがあるんだが
>>418では『永い独身生活』って……どんだけ独り身なんすかね、この元勇者さんw

420 名無しさん :2017/04/23(日) 21:07:53 ID:sYEwIfH2O
>>419
感想、ありがとうございました。
やはりゲイザーちゃんは可愛いなと……。

レスカティエだと未婚の男の人が少なそうですから、仕方ないのです。ええ。
魔物感覚で永い時を独身……彼女の本気を感じていただければ幸いです。

421 名無しさん :2017/04/26(水) 23:18:18 ID:znDHPvGE0
文章が書けなくなった。



プロポーズとは、カップルにとって一世一代の大イベントである。
相思相愛の男女が将来を誓い合う瞬間――それを素敵に飾りたいと思うのは、男女問わず当然なんじゃないだろうか。
そして、それを失敗させるわけにいかないと思うのも必然だと、僕は考えるわけである。

というわけで、実際に彼女に聞いてみることにした。

「君はどんなプロポーズが良い?」
「……それ、相手に聞くもの?」

呆れたような半眼でこちらをじっと見つめてきた。
流石はゲイザーだけあってすごく絵になってるな、なんて関心してると、彼女が深いため息をつく。

「キミってホント無頓着だよね、そういうの」
「あ、ため息吐いてるところ可愛い」
「なっ……! ほら、すぐそうやって変なこと言う……!」

ぷいと頬を赤らめてそっぽを向く彼女。
そういう仕草がいちいち可愛くて仕方ないのだけれど、言うとまた恥ずかしがるから、口に出さないでおこう。
……あんまりやりすぎると催眠でこっちに反撃してくるしね。

「でさ、プロポーズなんだけど」
「え、本気で言ってるの?」
「本気も本気」

そう僕が答えると、彼女は再び深いため息をついた。
それから小さく「プロポーズかぁ」と呟くと、唇に指を当て、天上に目を向けて。
しばらくそうした後に、ポツリ。

「……普通が良いかなぁ」

と、彼女が言った。

「普通?」

僕が聞き返すと、彼女は小さくうなずく。

「それは確かに、ロマンチックなシチュエーションに憧れたりもするけど……」
「けど?」
「キミとなら、違うんだ」

隣に座っていた彼女が、倒れ込むようにこっちに寄りかかってきて、目を閉じた。

「いつもと変わらずに言ってほしいの。結婚してって、当たり前みたいに。アタシと一緒にいるって……それが何でもないって風に」

いつもと変わらずに、当たり前みたいに。
それが、何でもないって風に。
もたれかかる彼女の体重を心地よく感じながら、彼女の言葉を反芻する。

ああもう、どうして彼女はそんなことを言うんだろうか。
僕の胸が痛いぐらいに高鳴ってしまっている。
ほんのちょっぴり、目頭も熱くなってしまったり。

彼女のことが大好きで。
愛おしくて。
彼女の愛に応えたくて。

こんなんじゃ普通な様子でプロポーズなんて、できっこないって。

「……聞いておいて、なんなんだけどさ」
「なぁに?」
「難しいよ、それ。君が好き過ぎて、今心臓バクッバクしてるもん」

それだけ言って、僕の方も目を閉じて彼女に寄り添った。

「じゃあ、プロポーズはまた今度だね」
「言えたらオッケーしてくれる?」
「しないなんて思うの?」
「ううん……ありがとう」

ドクンドクンと、熱い鼓動。
それから、トクントクンと、温かな鼓動。
僕らは二つのハートの音を聞きながら。
いつの間にか寝てしまうまで、静かに寄り添い合っていた。

422 名無しさん :2017/04/27(木) 13:12:21 ID:/OZKPPkQO
>>421
ゲイザーちゃんがとっても可愛いお話ですね。尊い。
普通の良さ、凄くありだと思います……。

423 名無しさん :2017/04/30(日) 13:26:46 ID:qJe1rexs0
苗を植え植え。



「どうしてわたしのSSって数が少ないのかなぁ……」

うっ、と僕は答えに詰まってしまう。
ちょっぴり哀しげな顔をして呟く目の前の女の子。種族は、マタンゴ。
大きな傘を帽子のようにして、体中からポコポコきのこを生やしている様子は、ファンシーで可愛らしいと言えばそうなのだけれど。

「わたしって、魅力ない……?」
「いや、そんなことは絶対にないよ! 可愛い、マタンゴちゃん可愛い!」

そう、可愛い。愛らしい。
このSSを読んでいるみんなも想像してほしい。
例えばロリボディのマタンゴちゃんが、自分の傘を両手で被るようにして「えへへ♪」と満面の笑みを浮かべている光景を。
ほら、萌えるでしょう。心に触れるものがあるでしょう。
どんな魔物娘だって、その存在は愛おしくかけがえのないものだ。
マタンゴちゃんだって例外ではない。
……の、だけれど。

「それじゃあ、どうしてSSは少ないのかなぁ……」

再び、うっ、と答えに詰まる僕。
言えない。
正直に「扱い辛いです」なんて言えない。

だって君たちって無差別に胞子を撒き散らしてバイオハザードしちゃうんだもん。
女の子がマタンゴ化するだけでなくて、男の子の方も「きのこ人間」になっちゃうし。
そのせいで物語の背景が非常に限定されちゃうんだよ。
例えば『マタンゴちゃんの胞子に誘われた男性がフラフラと深い山里に向かい、そこで出会ったマタンゴちゃんとラブラブえっち!』みたいなね。
魔物娘図鑑らしい王道SSと言えば聞こえが良いけど、厳しく言っちゃうと型に嵌ったSS。
これぐらいしか底辺SS作家の自分には作れそうもないです、はい。

……言えない。言ったらハートブレイクしそうだから。

「わたしも学校で、男の子と甘酸っぱい青春とかしてみたいっ!」
「ぶっ……!」

どうやってさ、という言葉はなんとか飲み込んだ。

いや、魔物娘には向き不向きなシチュエーションがありましてね?
学校という閉鎖空間に君たちをポンと投入しちゃうと、大惨事にしかならないんじゃないかと。
ギャグなら許されるけど、真面目なSSとなるとちょっと……。
ていうか君たち、動けないじゃん。根を張っちゃってるじゃん。
そして君たちの青春相手はもれなく「きのこ人間」になる運命なわけで……。

アカン。まともなSSにできる未来が見えへん。

「ねえ、どうにかしてわたしの青春ぐらふぃてぃーなSS書けないかな……?」
「え゛? いや、その……」

僕の腕を取って上目遣いで見上げてくるマタンゴちゃん。
そのお目々ウルウルと柔らかむにゅむにゅな感触に僕は絆されてしまい。

「が、がんばってみるね?」
「わぁ、ありがとう!」

ヘタレた返事をしてしまった。
嬉しそうにバフッバフッと胞子を吹き出す彼女。
ばれないように、こっそりため息をつく僕。

とりあえず、みんなから意見を募って、どうにかして考えてみようか。
お題は『いかにして現代舞台でマタンゴちゃんの青春SSを書くか』だ。
……文字にしただけで無理そうな雰囲気がヤヴァイんですけど。

自分もきのこ人間にならないよう、全身防護服とガスマスク姿のまま、僕は頭を抱えていた。
こんな無理難題を考えてくれる書き手仲間がいてくれることを、切に願いながら。

424 名無しさん :2017/04/30(日) 13:33:01 ID:qJe1rexs0
マタンゴちゃんSSが少ないなぁって思ったらできた怪文章。
誰か1レスSSにして投下してくれても良いのよ?

425 名無しさん :2017/05/01(月) 21:59:36 ID:02pYLnwsO
「あれは、どんな建物なの?」
「あれは体育館だよ。体育--運動の授業で使うんだ」

祝日のがらんとした学校。
体のほとんどを隠す雨合羽を着て負ぶさる少女に、僕は通い慣れた高校の説明をする。

「へえ、運動って、楽しいの?」
「どうかなあ……疲れちゃう事もあるから」
「そっか……でも、羨ましいな」

背中から聞こえる声に僕は、彼女に見えないように苦虫を噛み潰したような顔になる。

「--私は、歩けないから」

彼女には、足がなかった。
雨合羽の下にあるのは、魔物の姿。
紅の頭の傘から胞子を撒き散らし、女性を同族へと、男性を茸人間へと変える存在--即ち、マタンゴである。
彼女が住まう山から数キロ。僕はここまで彼女を運んで来たのだった。

「大丈夫?ずっと負ぶってて疲れてない?」
「軽いから、大丈夫だよ」
「足、震えてる。ごめんね、私のワガママで。学校がみてみたいなんて」
「そう、かな……でも」

僕は小さく言葉を切った。

「君は、僕の恩人だから」

彼女を支えながら、微笑んで見せる。
振り返ると、彼女は困ったように笑っていた。

「私は歌を聞いただけだよ」
「それでも、いいんだ」

僕に、友達と呼べる人は居なかった。
嫌われるのが苦手だから、近づけないでいた。
目立たないように、透明人間のように過ごす僕は、クラスのみなから友達とも敵とも違う空気として過ごしていた。
最後に会話をしたのは、多分数ヶ月前。
学校は、嫌いだった。
だから、趣味の歌に没頭した。
カラオケはお金がかかるから、山の中で練習した。
作曲もした。
歌詞には自業自得の寂しさを詰め込んだ。
叫ぶように、伴奏のクラシックギターをかき鳴らした。

--そして、彼女に出会った。

「僕の歌を聴いてくれた」

彼女は、たまたまそこに生えていた。
そして、僕に向けて笑いながら。

「良い歌だね。もっと聴かせて」

そう、言った。
何故か、泣きたくなった。

「じゃ、じゃあ、もう一曲」

それから毎日、僕は彼女の下に通った。
ただ一人の観客に歌い続けた。
そのお陰で、僕は満たされた。

「さて、そろそろ帰ろうか」

学校から反転して、山へと歩いて行く。
足の感覚はほとんどない。
山につく頃には、二本の茸が残るだろう。

「また、歌を聴かせてね」

でも、その茸は。
幸せの歌を歌うだろう。

426 名無しさん :2017/05/01(月) 22:28:02 ID:Rb77pdZs0
>>425
感服で、うわぁって声がリアルで出ました

マタンゴちゃんと学校という組み合わせ
自分も『歩けない』というところと『人の輪に入れない』ということをフィーチャーして
人のいない学校にマタンゴちゃんを連れて来る、という展開は考えましたが……
それをお先にこんなお上手な形で出されてしまうと何も言えません

お見事です。マタンゴちゃんの青春SS、ごちそうさまでした
それにしても、このほんの少しの物悲しさの残る空気感よ……

427 名無しさん :2017/05/01(月) 22:42:55 ID:02pYLnwsO
「さあ、私の傘をお食べ!」
「断る!」

とある山奥に俺とマタンゴ、2つの叫び声がこだまする。

「ぐすん、美味しいのに」
「いや、真っ赤だろ!食べ物の色じゃねえよ!」
「タマゴタケを知らんのか。真っ赤で最高に旨いキノコなのに」
「知らん!」
「がーんっ!?」

ショックを受けたのか泣きはじめる彼女。
その様子を見ながら俺は小さくため息をつく。
ぐう、山で遭難して三日間何も食べていない腹が鳴った。
ちなみに俺は知らなかったがタマゴタケは実際に無毒で旨いキノコらしい。

「百歩譲ってそのキノコが旨いとして」
「うん」
「俺の腹が減っているのも事実だとして」
「うんうん」
「別人(別キノコ?)であるお前に毒がない保証がないんだが……」
「……美味しいから大丈夫だよ!」
「毒なんだな。帰る」
「ちょっと待って〜!?」

体を翻す俺の肩が掴まれる。
意外とパワフル。
エリンギとかの弾力だろうか。
因みに毒キノコの代表ベニテングタケは旨いキノコである。旨味成分が毒素とかいう救いがたいキノコだが。

「私を一口かじればおなかいっぱいだよ?」
「トリップ系か」
「違うって。物理的におなかいっぱいになれるんだから」
「物理的に……俺の一口は胃を一杯に出来るほど大きく無いぞ?」
「胃の中に胞子が付くから中で増えたキノコが物理的に」
「止めろッ!」

一瞬出てきたおぞましい光景に俺は身を震わせる。
とりあえずコイツの好意に乗るのは無しだ。なんとか別の手を……。

「ふふ、そろそろ効いてきたかな」
「か、身体が……!」

歩こうとした俺の足は一歩も動かせなくなっていた。
まるで地面に根を張ったように。
胞子を警戒すべきだったか……。

「くそ、胞子か……!」
「話しかけておなか空かせる計画成功♪これで思わず私を食べ……え、胞子?あ、そんな手があるのかー」

と、考えたら違うらしい。
単純な、飢餓の問題のようだ。
腹が減り、身体が動かせない。

「とにかく、そのままじゃ死んじゃうんだから……」

彼女の傘が近づいてくる。真っ赤で白い斑点が見える。

「私の傘をお食べ」

もはや、俺に残された選択肢は無かった。

428 名無しさん :2017/05/01(月) 23:44:55 ID:Rb77pdZs0
くっ……自分ではこれが限界かっ



学校に来てみたい。
それが彼女の、たっての望みだった。

「わぁ……教室って、こんな風なんだぁ」

教室を見回すと、彼女は感嘆の声を上げた。
自分では動けない、きのこな少女である、マタンゴの彼女。
胞子を撒き散らし、周囲の女性を同じマタンゴに変えてしまう。
男性の場合は、彼女たちのことで頭がいっぱいな、きのこ人間だ。
かく言う僕も、そのうちきっと頭からきのこが生えてくるに違いない。

「ほら、机と椅子も残ってるよ。座ってみる?」
「うん! ありがとう!」

そんな彼女の望みを叶えるべく、僕が選んだ方法がこれだった。
彼女を背負って、山を二人で一緒に降りて、車椅子に乗せて。
もう廃校になった学校にこっそりと忍び込み。
そうして始める、二人だけの秘密の授業。

「こら、そこの君。授業中にキョロキョロしちゃいけないぞ」
「きゃっ! せんせー、すみませんー!」

教卓から先生の振りをして注意をすると、彼女は生徒の振りをしてケラケラと笑う。

「あー、いけないんだぁ。授業中に余所見してたら駄目だぞぉ?」
「そっちこそ。僕と話なんてしてるじゃないか」

同級生のように、二人でお揃いの机に座ってみて、二人で吹き出して。

「さて、日本のシイタケの人工栽培の開祖となる人物の名前は?」
「……先生、分かりません」

今度は彼女を先生にして、僕が生徒役になって、苦笑い。
たった二人の小さな学校生活だけど、彼女はとても喜んでくれているようだった。

「あー、楽しかったなぁ」

学校を一巡りした後、彼女はそう言って天井を仰いだ。
それから僕の方を見て、ニッコリと笑顔を作ると。

「ねぇ! いつかわたしたちで、学校を作ろうよ!」

そう明るい声を上げた。

「え、どうやって?」

僕が思わず聞き返しても、彼女の笑顔はいっそう増すばかりだ。

「えっとねぇ……キミとたくさん、たーくさん子どもを作ってね? 二人でその子たちの先生になるの!」
「僕と君で?」
「そう、山の中での青空教室! すごい名案でしょ?」

彼女の語る、未来のこと。
その先に映るのは、子どもたちと僕らでの、家族で作る小さな学校。
子どもたちを切り株の机の前に座らせて、木の間に下げた黒板に、先生となった彼女と僕。
童話か何かみたいな、そんな学び舎。
それはおそらく、酷く単純で、ちっぽけなものになるんだろう。

「その頃には僕、立派なきのこ人間だよ? 先生なんて務まるかな?」
「大丈夫だよ! きっと素敵な学校になるに決まってるよ!」

だけど、僕の脳裏に浮かぶその光景は。
そこにいるみんなの笑顔があふれている、素敵なものだった。

「……うん、そうだね。君となら、きっと」
「そうだよ! えっとね、みんなで歌をうたったり、算数を勉強したり――」

教室の外、裏手の山の緑を窓から見つめながら、彼女は夢を語り続けている。
それを傍らで聞きながら、僕も同じようにその景色を眺める。
僕らの帰る場所は、柔らかく温かな光に包まれて、どこまでもキラキラと輝いて見えた。

429 名無しさん :2017/05/02(火) 14:55:21 ID:DQd5svs2O
>>428
明るい雰囲気がとても魅力な作品ですね。未来に希望を抱くのはまさに青春です。

うーん、こういう雰囲気出せるようにならなきゃ(連載を進めつつ)

430 名無しさん :2017/05/03(水) 22:47:51 ID:e8zKn.zw0
学校には様々な部活動がある。
家庭科部は料理を作ったり裁縫を習ったりするらしいけど、料理部や裁縫部も存在する。
茶道部と華道部と茶華道部の3つ巴を聞いても正直頑張ってくださいとしか言いようがなかった。
どうして今こんなことを考えているのかと言うと。

「入部、する?」
「考えさせてください」

春の麗らかな入学式の一週間後。
学校を探検しようと歩いた先の裏庭で、僕が見つけたもの。
それは。

「きのこ、おいしいよ?」
「少し考えさせてくださいお願いします」

キノコ部だった。



彼女は学校の生徒である証として女子生徒用の学生服を着ていた。
シイタケがたくさん生えている木に腰掛けている彼女の頭には、シイタケによく似た「傘」が乗っている。
生徒手帳と一緒に入学式でもらった辞書を開く。
マタンゴ。
それが彼女の種族名なのだろう。
胞子で寄生させるという一文が目に入って顔が引きつる。
確かに彼女の脚は原木に張り付いていて、足首から先が木に埋まって見える。
というか、どうやって家に帰るんだろう。
疑問をそのまま口にした。

「幼馴染のみーちゃんに送ってもらうの」
「みーちゃん?」
「ドリアードなの」

辞書を開いて納得した。
ドリアードの特技である「木から木へワープする」ことを利用して登下校を行っているとか。

「ここ、みーちゃんの親戚のおうちなの」
「そうなんだ」
「キノコおいしいよ? 食べる?」
「少し考えさせてください」

何の脈絡もなく生のシイタケを勧められた。
日本人らしい保留で対応しつつ、どうやってこの場から離れようか考える。

「焼いたシイタケもおいしいよ? ほら、えーっと。火、火」

何やら腰掛けた木のうろに手を入れた彼女は、目当てのものを見つけたようでふんわり笑った。

「ばーなー」
「やめてください! 大火事になります!」

テレビでしか見たことのない、金属を焼き切れそうな危険物を目にした僕は、慌てて彼女の行動を止めた。




このとき僕は、知らなかった。
このマイペースで危なっかしい同級生と、これから長い付き合いをするなんて。


「やーだー。おいしいキノコ、作るのー」
「駄目ですって! 貴女が焼きシイタケになりますよ!」


この時の僕は、ただただ危なっかしい彼女とはもう二度と関わりたくないと、思っていたんだ。

431 名無しさん :2017/05/03(水) 23:57:34 ID:ySYPaGnY0
>>427
ギャグごちそうさまでした
開幕の「さあ、私の傘をお食べ!」で笑いました
会話テンポも良いし好みのタイプです
なによりマタンゴちゃん可愛い

>>430
これは続きが読みたくなる作品
のんびり屋さんなマタンゴちゃんがすごく可愛いです
そして移動方法の発想が素敵でした

こうやってSSの輪が広がっていくのは嬉しいですね

432 名無しさん :2017/05/04(木) 19:13:10 ID:quPYmig60
「じゃんけん、ぽん!」

バジリスク先輩の出した手の形を見て、僕は喜びのあまり飛び上がってしまった。
無事に畳の上に着地した僕は、はやる気持ちを無理やり押さえながら、ガックリと項垂れる先輩に命令する。

「さ、先輩。野球拳なんですから、項垂れてないで身に付けた物を脱いでもらえますか?」

喜色の強い僕の言葉に、片腕で胸を隠しパンツ一枚になっている先輩がビクリとその身体を震わせる。
今までは僕が先に全裸にされて、散々先輩にからかわれて来たが、今日は立場が逆転、とてもいい気分だ。

「・・・い、しても知らないからな。」

俯いたままの先輩が何か言っているが、所詮は敗者の戯れ言、全く気にする必要は無い。
わざとらしく胸を張り仰け反っていると、先輩は何故かパンツに手を伸ばさず、そのまま顔へと手を添えてしまった。

「先輩? な、何をしているんですか。」

先輩の様子が何かおかしい。
不安で声を上ずらせた僕を、添えた手に仮面を残したままの先輩が、今まで見たこともない素顔で、綺麗な真っ赤な瞳で真っ直ぐに見つめてくる。

この後僕を襲った悲劇については、最早言うまでも無いだろう。
ああ、折角のゴールデンウィークなんだから、先輩と少しは外でデートしたかったな・・・。

433 名無しさん :2017/05/04(木) 19:26:29 ID:nJFcP4t.0
>>432
バジリスクの先輩と野球拳したうえに素顔も見れて
それからヤることヤッてとか何が不満なんだぁっ!
壁を殴りたくなる作品をごちそうさまでした。

434 名無しさん :2017/05/04(木) 22:09:25 ID:o4m0W9xIO
「はあ……」

繁華街の駅前。クラシックギターを担いだまま、俺はため息をつく。
ここで歌い始めてから、数時間。
足元のギターケースには、申し訳程度の小銭が入っていた。数日前は、少なくとも数千円は稼げていたのが、今では信じることすら出来ないほどだった。

「あなたに〜伝えたい、私の気持ち〜♪」
「……」

隣から聞こえてくる、美しい歌声に顔をしかめる。
ちらりとそちらに視線をやると、鮮やかな翼を持つセイレーンの少女が、艶やかな声を披露していた。
周囲には、大きな人だかりが出来ており、足元の空き缶には沢山の金が入っていた。
聴衆に紛れて鋭い視線を送っているスーツの男性は、おそらく大手レーベルの社員だろう。

「もう、潮時か」

クラシックギターをケースにしまい、背中に背負う。
昔から音楽が好きだった。そして、歌には自信があった。
だから、大学進学と言い訳に、地元から都会までやってきた。
バイトをして生計を立てて、毎日のように自分で作った曲を歌った。勉強はいつも単位スレスレだった。
プロになれたら。
そんな甘ったれた事を考えながら過ごしていた。

けど、それももう終わりだ。
目の前で、これだけの差を見せつけられたのだ。
諦めても、良い頃合いだろう。

「みんな、ありがとー!」

彼女が歌い終えたのを確認して、財布から千円札を空き缶に入れる。
諦めさせてくれた事と、最後に素晴らしい歌を聴かせてくれた礼のつもりだった。

「初めて、私の歌、聴きに来てくれたね」
「……いつもゴメン。歌の邪魔だったよね」

微笑む少女から、目をそらす。
出てきた声は、不自然なほどにたどたどしかった。

「も、もう歌わないから。気にしないで」
「……え」

彼女の返答を聞かずに、俺は逃げるように走ろうとした。
けど、かなわなかった。
鮮やかな翼の魔物が目の前に回りこんでいたから。

「次の曲は、この人とデュエットで歌いま〜す♪」

そのまま、人だかりの真ん中へと連れて行かれてしまう。
困惑する俺に彼女は悪戯っぽく微笑んで耳打ちをする。

「ほら、お客さん待ってるよ」

周囲の視線に観念して、ギターを取り出す俺を見ながら、少女はくるりと回りながらこう言った。

「この人に憧れて、私もこの道を目指したの!」

ギターを構える。
声を張り上げる。
俺と、彼女のセッションが幕を開け始めていた。

435 名無しさん :2017/05/04(木) 22:54:27 ID:RPpVSSx.0
>>434
うわぁ、なんかいかにも若者同士!って感じのSSですね
若さのせいで、こう、全身がムズムズしますw
フレッシュな作品をごちそうさまでした

436 名無しさん :2017/05/07(日) 18:50:10 ID:95DpX76EO
「ふう……」

手元のページをめくりながら、紅茶を一口啜る。
長い時間放置していたせいで冷め切った紅茶は妙な苦味を口に残した。
なんとなしに窓を見れば、既に日は暮れ、白い月が浮かんでいた。

「もう、夜ですね」

隣で本を読んでいたリリムの少女の言葉に、頷きを返す。
彼女の長く伸ばされた前髪の下から、ちらりと美しい紅い瞳と長い睫毛がのぞいていた。

「休日、どこにも行かないまま終わっちゃいましたね」

肩を寄せ合いながら、本を読む。
目を向けると彼女の吐息の甘い香りがした。
普段はリリムらしからぬ目立たない少女だけれど、本当に綺麗だと思う。
読んでいるのは結構ハードな官能小説だけど……。

「いや、君が勧めてくれた本は面白いし、久々にゆっくり出来たから」
「良かったです」
「紅茶、淹れて来るね」
「あ、私も手伝います」
「良いから良いから」

お湯を沸かして、二人分の紅茶を淹れる。
のんびりと流れる時間。
僕には、その時間が何よりの宝物だった。

437 名無しさん :2017/05/07(日) 19:38:01 ID:TjSCEvH20
>>436
休日の終わりにほっこり、ごちそうさまです

438 名無しさん :2017/05/11(木) 21:04:26 ID:xojoJHaEO
「随分と晴れた」
「はい……」

五月の半ば、学校の昼休み。照りつける日差しに僕は額の汗を拭った。
昨日まで寒かったのが嘘のような陽気に頭がフラフラしてしまう。

「なかなかに暑い。キミの顔を見ればわかる」

隣に立つ彼女--氷の魔物であるグラキエスは無表情のまま、僕の額をなぞった。
ひんやりとした感触がじんわりとゆだった頭を冷やしてくれる。

「気持ちいい……でもいいの?暑くない?」
「大丈夫」

じわじわと体を冷やしながら、彼女はほんの少しだけ口角をつりあげる。
それが、彼女の全力の微笑みだと言うことを僕は知っていた。

「こうして、触った時にキミを喜ばせる事ができる。それが、嬉しいの」
「……ありがとう」

彼女の頭をなで返すと、ひんやりとした感触が伝わってくる。
同時に、彼女の心の暖かさにも、触れる事が出来た。

「帰りに、アイス屋行こうよ。奢るからさ」
「アイスクリーム……いいの?」
「うん、こうしてさわれる記念にね。この前貰ったクーポンもあるし、三段いっちゃおうか」
「チョコレートミント、チョコレートミント、チョコレートミントで三段。楽しみ」
「他の味は……?」
「今はチョコレートミントの気分」

食べるフレーバーを想像しながらくるりと回る彼女に苦笑する僕。
きっと他の味も食べたいと僕のアイスもねだるつもりだろう。
それも、いつもの事だ。

「そろそろ、授業始まるね」
「うん」

予鈴を聞きながら、次の移動教室に歩いていく。
絡め合った指の心地良い冷たさに、僕はにっこりと笑うのだった。

こうして暑い日も、なかなかに悪くない。

439 名無しさん :2017/05/11(木) 21:48:07 ID:xojoJHaEO
「おはよう、朝ご飯出来てるよ」
「ふぁい……ありがとう」

寝ぼけ眼で大根と豆腐の味噌汁を啜るデュラハンの彼女を見ながら、僕は微笑む。

「ほら、じっとしてて」
「ふぁい……」

きっちりはまりきっていない首の継ぎ目からふわふわと漏れる魔力を止めるために指を当ててやると、彼女はされるがままに目を細めた。
早朝、何時もキリリとしていてかっこいい彼女が見せる数少ない隙だらけの時間。
こういう彼女の顔を独占出来るのは、心を開いてくれているみたいで嬉しかった。

「ふう、落ち着いた」
「……ふふ、おはよう」
「ああ、おはよう」

ご飯を食べ終え、何時もの調子に戻った彼女のネクタイを結んでやる。

「行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
「……その、いつものことだが大丈夫なのか?」
「最初は不安だったけれど、大丈夫だよ」

不安そうな彼女に、笑い返す。
彼女に言われて仕事を辞めてから一年、僕は主夫の仕事ばかりしていた。
最初は不安だったけれど、こうして彼女を支えられるのは嬉しかった。
今は、レパートリーを増やすために邁進中だ。

「そうか、杞憂だったな……行ってきます」
「いってらっしゃい」

彼女の頭をなでてから、僕は家に戻る。

「よし、今日も頑張ろう」

机の引き出しを開けると、僕の秘密の道具が出てきた。
小さな造花のセット。
僅かながら、稼ぐ事の出来る在宅の仕事だ。
彼女に隠れて、僕は働いていた。

「あと、もう少しだ」

壁のカレンダーを見ながら、僕は微笑む。
あと2日で、彼女との結婚記念日。
ケーキを買う位のお金が出来る筈だ。

「ふふ」

僕は、その日を夢見てニヤリと笑ったのだった。

440 名無しさん :2017/05/12(金) 17:59:18 ID:5CnJ91h.0
暑い日が続く中、ほんわか甘い話を二作ごちそうさまです。

>>438>>439も、短い中で「あ、可愛いな」って思える箇所があって良いですね。
アイスの好みだったり、寝ぼけた様子だったり、すごく微笑ましいです。

また素敵な次作をお待ちしております。

441 名無しさん :2017/05/17(水) 19:54:19 ID:RuX307XEO
「気が早いけど、買って来ちゃった」

日も暮れた、狭い庭の一角。
彼女の言葉を思い出しながら、僕はロウソクに火を灯す。

「準備、できたよ」
「ん、ありがとう」

ぼんやり、ゆらゆらと赤い炎が用意しておいた水入りのバケツを、そして天真爛漫な笑みを見せる彼女の姿を照らし出す。
トロールである彼女の大きな手には、近所のスーパーで買った線香花火のセットが入っていた。

「じゃ、はじめようか」
「うん……どうぞ」

彼女から花火を二本受け取って、先端の紙にろうそくの火を移す。
小さな火花が出たのを確認してから、一本を彼女に渡す。

「きれいだね」
「うん、綺麗だ」

パチパチ、パチパチ。

二つの火花が狭い庭と僕らを照らす。
赤くきらめく先端を落とさないように、手を動かさない事に気を使う。
浴衣なんて面倒なものは着ないから、二人とも普段着だ。風情もへったくれもない。

「あっ」

ぽたり。僕の線香花火が力尽きて光を失う。
ちょっと揺らしてしまったからなのか、先端の赤い部分が落ちてしまった。

「うう。僕の負けかぁ」
「いつの間に勝負になってたの?」
「なんて言うか、僕の中では線香花火は勝負なんだよ。どっちの方が長続きするかーって」
「……ふふ、男の子だね」

がっかり、首を垂れる僕に、彼女は笑って見せる。
その手にはまだまだ元気な線香花火が心なしか誇らしげに輝いていた。

「でも、残念。私も引き分けみたい」
「……え?」

すっ、と彼女は手をのばして、僕の消えてしまった線香花火の上に、火花を乗せる。
二つの持ち手の間で、パチパチと火花が囁く。
寄せられた彼女の身体からは、トロールの甘い香りと花の芳香。
夜闇の中、火薬の匂いと溶け合ったそれは、優しく僕の鼻孔をくすぐっていた。

「「あっ……」」

ぽたり。彼女の花火が消える。
なんとなく寂しそうな顔をする彼女の手に新しい花火を握らせる。

今度は、最初から一本を、二人で持とう。

442 名無しさん :2017/05/18(木) 19:29:19 ID:v00yxusU0
>>441
情緒ある作品ごちそうさまです
二人で花火を持つなんて全力で壁を殴りたい衝動に駆られますね

443 名無しさん :2017/05/19(金) 20:05:27 ID:6eBiw3RsO
「ほ、本当にこれを着るの……?」
「うねうね♪」

うねうね、ねうねう。
わたしの下で蠢くスライムちゃんの出してきた服に、スライムの寄生主であるわたしは何とも言えない声を上げた。
わたしとスライムちゃんとの付き合いは数年になる。
寄生された最初の頃は気持ち悪くて、何度も引きはがしたり、快楽に泣き叫んでいたわたしだが、意外なほどに面倒見の良い(掃除洗濯炊事ほか諸々完璧なのだ!)スライムちゃんにほだされて。
今ではスライムちゃんのいない生活が思い出せない位だ。
そんなスライムちゃんが選んだ服、着たほうが良いのだろうけれど……。

「うねうね♪」
「う、うん。本気……なんだよね。ラバースーツ……って言うんだっけ」

ごくり、唾を飲み込んでスライムちゃんが出してきた服を見る。
それはつやつやとした、伸縮性のある黒い素材で出来ており、首から下をぴっちりと覆う構造になっていた。
触るとぴちっと肌に吸い付くような触感。きっとスライムちゃんがローション代わりになってするりと着られてしまうだろう。

「ちょっと、駄目だと思う……」
「ねうねう……」

そう、着たら気持ちいい。それは間違いないだろう。
全身スライムちゃんの媚薬プールにつけられて、快楽の逃げ場がなくて悶え続ける事が出来る。
中に入ってきたスライムちゃんが処女子宮を縦横無尽に撫でさする性感を想像して全身がぞくりと泡立つ。
けど、けれどそれは駄目なのだ。

「で、デートに着る服だよ? 明らかにミスチョイスだよね?」
「うねうね!」
「ええ……冒険も大事?」

力強くうねるスライムちゃんの触手がわたしの体に覆い被さる。
ちょっとだけ見えた顔(?)が少しキリッとしていた。

「ひゃあぁ……女は度胸ってなんかちがっ……」
「うねうね♪」

そのままきていた服を器用に脱がされて、ラバースーツが近づいてくる。
体中を這いずるスライムちゃんの感触だけで気持ちよさが爆発する。

「ひゃううんっ……!」

結局快楽に負けて、スーツを着てしまうわたし。
待ち合わせの場所につくだけで、息も絶え絶えにされてしまった。

「……あの、その服すごくいいね!」
「!?」
「うねうね♪」

ちなみに、彼氏からは誉められて初夜まで行った。

スライムちゃん、恐るべし。

444 名無しさん :2017/05/20(土) 13:11:22 ID:sA01VjDoO
「夕焼け、綺麗だね」
「はい……」

日暮れ時、寂れきった遊園地。
ぎしぎしと軋む古びた観覧車に二人、腰掛ける。
対面に座る少女--エンジェルの長い金髪と白い翼が、空気に溶け込むかのような儚げな輝きを放っていた。

「結構寂しかったけれど、楽しかったね」
「はい、まるで貸切みたいでした」

商店街の福引きで貰った割引券につられて来たけれど、本当に生きている廃墟と表現しても良いくらい、寂れた場所だった。
観覧車から見える全景も、どこかくたびれて見える。
僕ら以外に居るのは年老いた従業員の人達だけ。この観覧車も、居眠りをしていたおじさんに頼んで、動かして貰ったものだった。

ぎぃこ、ぎぃこ。

軋む音を立てて、観覧車は上に進む。
僕達は、ほとんど話さないまま外を見つめる。
彼女の小さな吐息の音が、耳朶を叩く。

「疲れは、とれた?」
「……1日歩き回って、疲れがとれたら異常ですよ」
「それも、そうだね」
「けど--そうですね。心は、少し軽くなったかも、しれません」

自嘲気味に、少女は笑う。その目には、心労で出来たクマが色濃いままだ。
魔物娘達がこの世界に現れて数年。
主神教のエンジェルの居場所なんて、ほとんど無い。
白い目で見られるだけならまだマシで、何もしていないのに、虐められる事もある。--そんな彼女を庇うのが、本来敵である筈の魔物娘だと言うのが、最高の皮肉だった。

「もう、私たちの時代は、終わったのでしょうね--この、遊園地みたいに」

彼女の細い指が、錆び付いたゴンドラを撫でる。
その目には、きらりと涙が光っていた。

「ただ、正しく生きて欲しかった。人に優しい人に、間違いを正せる人に、一生懸命、前に進める人に……なって欲しかったんです」
「……」
「けれども、それは息苦しい生き方なのでしょうね」

笑いながら、彼女は泣いていた。
僕はただ、何も言えなかった。
どちらが正しいかなんて、僕にはわからないから。
だから、かわりに。

「隣、座っていいですか?」

彼女の隣に座った。
甘い香りがする。さらりとした髪が触れる。
女の子は砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている。彼女もきっと同じだろう。

「今日は、楽しかったですよ。遊園地」
「……はい」

手を握ると、暖かかった。

たまには、時代遅れも良いじゃないか。
僕はぼんやりとそんな事を考えていた。

445 名無しさん :2017/05/21(日) 11:02:00 ID:jXi9pHTU0
>>443
寄生スライムちゃんで現代モノってのも新鮮でした
「うねうね♪」が可愛い

>>444
現代じゃエンジェルちゃん肩身狭そうですものね
ダークエンジェルちゃんになるっていう逃げ道はありますけど

446 名無しさん :2017/05/21(日) 15:38:58 ID:fyvZi1isO
敗北した。
はじめから勝ち目なんて無い戦いだった。

「もう、ここももたないな」

とある教団国家、落日の日。教会の一室。
窓越しに見える黒くい太陽を眺めつつ、勇者は小さくつぶやいた。
狭い部屋の外から聞こえるのは魔物達と人間の嬌声。
一緒に避難しようと集めた人々も、ここまで逃げる間に全員が魔に染まっていた。

「……すまないな。お前の期待に応えられる勇者になれなくて」
「はは。最初から貴様は勇者に向かないと言っていただろう?」
「そうだな。いつも怒られてばっかだった」

勇者の対面には、白い翼を持つ天使--ヴァルキリーが座っていた。
その目には、勇者と同じく疲労の色が色濃く出ていた。

「貴様は優しすぎたのだ。勇者となるにはな」
「返す言葉もないな」

苦笑する勇者。
彼の腰についた剣は、ほとんど抜かれる事がない。
彼は、人の形をしたものを斬ることが出来ない、欠陥品の勇者だった。
泣いている魔女に飴を渡した時など、ヴァルキリーからの折檻は長時間に及んだ。

「……だが、それも美点だった。強くなければ生きることは難しいが--優しくなければ生きる価値はない」
「……そうか」

ヴァルキリーの言葉に、勇者は静かに立ち上がる。
その手には、剣が握られていた。

「なら--また、怒られてしまうな」
「何をする気だ?」
「俺が、道を開く。その間に逃げろ」
「おい、何を言っているんだ!」

ヴァルキリーの制止を聞かず、勇者は扉を開く。
彼の前には、侵攻を決めたリリムが立っていた。

「あら、自ら出てくるなんて……どうしたの?」
「すまないが……惚れた女の手前なんだ。カッコつけさせてくれよ」

リリムと勇者、二つの剣が交錯する。

その後のことは語るまでもない。
数ヶ月後、彼らが魔界で結婚式を挙げ、リリムの独身期間が少し伸びた。

447 名無しさん :2017/05/21(日) 17:58:00 ID:fyvZi1isO
「うむ、なかなかじゃな」
「……どうしてこうなった」
「ん、どうしたのじゃ?」
「い、いや。なんでもない」

狭苦しいアパートの中、風呂上がりのアイスを笑顔で頬張る少女を前に、俺は彼女から見えないようにため息をついた。
「そうか? 大分辛気くさい顔をしてるみたいじゃが」
「……気のせいだ」

財布の中身を思い出す。
残り五千円が俺の全財産だった。
友人だと思った奴に騙されて、借金の保証人にされた時の事が頭をよぎる。
誰も信じられない。
世の中はズルい奴が勝つ。

そんな事を考えて、俺はある凶行に及んだのだ。

「しかし、誘拐とは、初めての体験なのじゃ」
「……そうだろうな」

すなわち、誘拐である。
小さな子供を攫って、身の代金を受け取る最悪の行為。
計画は上手く行った。
道を歩いている、可愛らしい少女(口調はちょっと変わっていたが)を後ろから押さえつけ、縛り。ハイエースにのせて家まで運んだ。
しかし、そこからは全く上手く行かない。
彼女に家を聞いても、家族はいるのかと聞いても要領を得ない。脅しても全く怖がる様子がないのだ。
口を開けば、魔界とかバフォメットとかよくわからない事ばかりだった。

「とはいえ、夜も遅い。帰るとするかの」
「帰る。だと?」
「うむ、魔界にな」

アイスを食べ終えた少女はさも当然とばかりに笑う。
その後ろには、よくわからない空間の歪みが出来ていた。

448 名無しさん :2017/05/21(日) 17:58:58 ID:fyvZi1isO
>>447
ぎゃあああ。
書きかけ投稿してしまった……。

449 名無しさん :2017/05/22(月) 20:55:26 ID:TdybJQqQ0
>>446
真面目なSSのはずなのにオチがギャグ風で笑えますね
>>447の続きもお待ちしています

そして自分は駄文を投下

450 名無しさん :2017/05/22(月) 20:59:02 ID:TdybJQqQ0
SS作者にとって、題材にする魔物娘の選択にはもちろん好みがある。
サキュバスやドラゴン、ヴァンパイアに稲荷などは人気種族の筆頭だ。
彼女たちは元の存在からメジャーであるためとっつきやすく、設定部分でも話が作りやすい。
そういうところでマイナー系の魔物娘たちとは投稿SS数に差が出るのは、まあ仕方ないことなんだろう。
だけど僕は、ちょっぴり可哀想にも思ってしまうのだ。
もし彼女たちが自分の種族のSS数が少ないのを見たら、やっぱり少し寂しいんじゃないかと。

「……あの、わたし……その……」

でもね。
だからといってね、ワーバットちゃん。
僕なんかのところにお悩み相談に来られても困っちゃうんだけど。

「あっ、うぅ……あの……」

目の前のワーバットちゃんは、翼で頭を抱えたままプルプル震えてしまっている。
というのも、彼女たちは光にとても弱く、明るい場所ではこうして何もできなくなってしまうのである。
かろうじて用件は聞き出せたけれど、このままだと会話が中々前に進まない。

かくなるうえは……えい、豆電球にスイッチだ。

「私のSSを書いてほしいんだけど、できるわよね?」

部屋の照明が薄明かりになった途端、彼女は先程おどおどしていたのが嘘のように口調が変わった。
次第に薄暗い中に目が慣れていくと、彼女の目隠れフェイスにはニヤニヤと嫌らしい笑み。
暗闇の中での彼女たちは意地が悪い。その表情にははっきりと『僕が困っているのが面白いです』と書いてある。

「あのさ、どうして僕なの?」
「だってあなた、前にマタンゴの頼みを聞いてたじゃない」
「いや、あれは、だけど……」

確かに前にマタンゴちゃんから青春ぐらふぃてぃーなSSを頼まれたけれど、結局あれも別の人たちがちゃんとしたものを書いてくれたわけで。
僕も一応はSS書いてみたけど、正直最初は書くつもりはなかったっていうか、そういうわけでして。

「ワーバットSS、最後に投稿されたのがもう5年前なのよ?」
「それはそうだけどさ……」
「同じような状況だったのに、マタンゴだけSS書いてもらうなんて! 不公平よ、不公平!」
「あーうー、それを言われると……」
「私にも青春をちょうだい! みんなが羨むようなスクールラブライフを!」
「え゛? またそっち方面なの?」

キーキーと甲高い声で不満を述べるワーバットちゃんと、思わず変な声が出た僕。
まあでも、前回のマタンゴちゃんに比べれば、彼女たちの青春SSはなんとかなりそうではある……けれど。
ここで彼女の頼みを聞けばどうなるか。おそらく続々と「私も青春したい!」という魔物娘たちが押しかけてくるはずだ。
次はシー・スライムちゃんかバブルスライムちゃんか。そのまた次にはおおなめくじちゃん辺りだろう。

……どうしてこうも学園生活と縁が遠そうな子たちばっかりなんだろうか。

「ほらぁ、もし頼みを聞いてくれたなら――」

僕が返事をためらっていると、ワーバットちゃんは艶かしい声で囁きながら、こっちに身を乗り出してくる。
そして、僕の頬にちゅっと口付けると。

「――とっても良いこと、してあげちゃおっかな?」
「〜〜〜〜っ!?」

かなり衝撃的な台詞が飛び出てきた。
キスされた箇所を中心に、かあっと僕の顔に熱が集中してしまう。

「分かったから、書くから! 書くから離れて! お願い!」
「顔真っ赤にしちゃって、かわいいんだからー♪」
「あうぅ……」
「あ、お友達にも書いてもらえると嬉しいんだけどなー」
「はぁい、分かりましたぁ……」

これで僕もSSを書かないわけにはいかなくなってしまった。
おまけに他の人の分まで頼まれてしまって……他の人たちはこんな事情で書いてくれるのだろうか。
仕方ないから、頼もう。また1レスSSスレの人たちに協力してもらおう。
まあお題は『ワーバットちゃんで学校舞台のSS』なら……集まるのか、不安だ。

僕はがっくりとうなだれたまま、部屋の照明の紐に手を伸ばす。
上機嫌で翼をはためかせていたワーバットちゃんは、明かりがつくと「ひゃんっ」と可愛らしい声をあげて、またプルプル震え始めるのだった。

451 名無しさん :2017/05/22(月) 21:05:10 ID:TdybJQqQ0
マイナー気味のワーバットちゃんにも愛の手を、というネタ
みんなでSSを書いてあげればワーバットちゃんも喜ぶかなーと
そしてみんな大好き青春SSなら喜びも倍増のはず

お暇な方はご一緒にお書きいただけると嬉しいです

452 名無しさん :2017/05/23(火) 15:05:29 ID:NyY73..2O
「アントラセンにフェノチアジン……」
「うん……」

かりかり、かりかり。
カーテンを閉め切った第二図書室の中、僕はワーバットの同級生に、勉強を教えていた。
小さなシャープペンシルが動くたびに彼女の真っ白なノートに、僕の書いた内容が写されていく。
彼女に教えるようになってから、ノートを書くのに気を使うようになったのを思い出す。

「化学は、こんな感じだったかな」
「……ありがと」

数時間の格闘の末、彼女に今日の範囲を教え終えた僕は、背もたれに寄りかかった。

「いつも、ありがと……その、わたしのために時間とらせちゃって」
「いいよ、僕も勉強になるから」

いつも通りのやりとりに、苦笑する。
ワーバットである彼女は昼間にあまり目がよく見えない。一番前の席に座らせて貰ってはいるものの、やはり黒板の文字を見るのもひと苦労だという。

「けど、最近知ったんだけど、この学校ってヴァンパイアやワーバット向けの夜間授業あるみたいだよ。僕に聞くよりそっちの方が効率いいんじゃないかな」
「……うん。夜間授業の事は知ってる」

前髪の奥にある、夜を写したような黒い瞳を揺らしながら彼女は首を振った。

「だって、君と過ごす時間が……」

彼女の言葉と同時に、すうと部屋が暗くなる。
どうやら日が完全に暮れたようだ。

「一番、楽しいのよ」
「……!?」

一瞬、暗さに戸惑う僕に、覆い被さる影。
唇に触れる甘い感触。

「これは料金だから、明日もよろしくね」

闇の中、にっこり笑う少女に、僕は小さく頷くのだった。

453 名無しさん :2017/05/23(火) 18:32:23 ID:zzNRpiXI0
>>452
短い中でワーバットちゃんの特徴がばっちり盛り込まれていて
それでいてほの甘い青春な雰囲気……お見事です
こんなの出されちゃうと自分のSSが恥ずかしくなるなぁ

454 名無しさん :2017/05/23(火) 18:37:54 ID:zzNRpiXI0
ああ、もう。
お日様がずっと沈んでいれば良いのに。
そうすれば私は、先輩のことを……。

「どうかした?」
「あ、いえ……なんでも、ないです」

ワーバットである私は光がすごく苦手だ。
もし街を照らす夕日を、この日傘が遮ってくれなければ。
私はこの場で一歩も動けなくなってしまうだろう。
今は学校からの帰り道。
駅までの10分ほどの距離が、今日最後に先輩と一緒にいられる時間。
この時間が幸せで、それでいて、とても歯がゆくて。

「それなら良いけど、気分が悪くなったらすぐに言ってよ?」
「はい……ありがとうございます」

先輩。
大好きな先輩。
日光に当てられて、倒れてしまった私を助けてくれた、素敵な先輩。
普段はおどおどして何も出来ない私に、こんなにも優しくしてくれている先輩。

この想いを伝えたいけれど、光の中ではそんなことはできなくて。
でも先輩と一緒に過ごせるのは、日が昇っている間だけ。
だから私は、今も臆病なまま。
二人の関係はただの先輩と後輩というもの。
その先の一歩を、私は踏み出せないまま。

「それじゃ、また明日ね」
「はい、先輩……また、明日……」

駅に着くと、バイバイと手を振って、先輩は雑踏へと消えていく。
もう少し。あともう少しだけ、先輩が私と一緒にいてくれれば。
先輩に本当の私を見せてあげられるのだけれど。
待ってという言葉が私にはかけられない。
光の中では、私は臆病なのだから。

ああ、もう。
お日様がずっと沈んでいれば良いのに。
そうすれば私は、先輩のことを。
好きにしてしまえるのに。
きっと私のことを。
好きにしてしまえるのに。

455 埃ある古本 :2017/05/29(月) 22:17:13 ID:MA9Ub8KI0
学校に入学して1週間が経った。
魔物が制服を着て歩いている姿が目に入ると、思わず身構えてしまう。
それでも初日よりは落ち着いて行動していると思う。
入学式の時は、いつ襲われるのかと気が気でなかったから。
僕は少しだけ怯えながら教室に向かう。
その途中で、俯いている女の子がいることに気づいた。
彼女も魔物だ。
頭から生えた大きな耳と腕の代わりに広がっている翼。
ワーラビットともワーウルフとも違う薄い耳は、周囲の音を拾おうと小刻みに震えている。
ハーピーともワイバーンとも違う薄い翼は、華奢な体を包み込んでいる。

アンデッドじゃなさそうだと思って、入学式にもらった図鑑を開く。
他の人の邪魔にならないように壁に寄りかかってページをめくっていくと、彼女に似た魔物の挿絵が出てきた。
ワーバット。
夜行性の魔物で、昼と夜とで性格が変わるらしい。
昼は臆病で夜は強気。
ワーバットの特徴を見て思ったこと。
「なんで夜間学校に通わないんだろう」
近くに人が通り過ぎるたびにびくっと震える彼女を見て、僕は不思議に思った。


どうやらワーバットの彼女は、同じクラスの子だったみたいだ。
彼女の席は窓側の最後尾。
その場所でカーテンを閉め切って、彼女は背を丸めて授業を受けていた。
「おはよう」
僕が声をかけると、彼女は大きく体を震わせて驚いた。
「え? え?」
慌てて周りを見渡して、そして僕を見た。
「よ、よん……だ?」
「うん」
「そ、そぅ、なんだ」
ぼそぼそと喋る姿を見ると、苛めているんじゃないかと不安になってしまう。
これで夜になると性格が変わるとか言われても、全然想像できない。
「夜の方が元気だっていう話だけど、どうして夜間学校に通わないのかなって」
いつでも行きたい時間に通えばいい。
入学式の時に聞いたから、よく覚えている。
彼女は何かを言おうと口をパクパクさせるけど、声は出てこない。
「あー、うん。無理には聞かないよ。どうしてかなって思っただけだから」
あまり話しても困らせるだけかな。
そう思って離れようとすると。
「あ……」
「ん?」
振り向くと、彼女はうつむいたまま、じぃとこちらを見つめている。
「あた、らしい……おともだち、つ……つくり、たか…ったの」

それから少しだけ話を聞いた。
夜に会う友達とは仲が良かったけど、せっかく学校に来たんだからもっと色んな人と友達になりたかった。
でも日中に出会う人たちに話しかけようとしても、本当に話しかけていいのか不安だった。
戸惑っている内に話をするグループが出来て、入り込む隙間がなくなっていた。
少し涙が混じった声で、少しずつ、彼女は話してくれた。

「それじゃ、僕と友達になってくれるかな?」
僕は、この1週間、殆ど誰とも話をしてこなかった。
魔物と友達になれるか不安だった。
人間の学生は積極的に色んな魔物に話しかけていて、話しかけるタイミングが掴めなかった。
気づけば一人きりで、お話をするみんなを眺めていた。
彼女と同じだったんだ。
そう思って、手を差し伸べた。
「こんな僕でよければ、だけどね」
少し冗談めかして笑う。
彼女は何度も瞬きをして僕の手を見つめる。
「あ、あのあ、あ、あうぅ、あの」
「うん」
慌てる彼女を安心させようと頷いた。
「よ、よろ、しく……ですっ」
尖った爪のある両手で、僕の手を握ってきた。



そして爪が刺さった。
痛くて血が出てお互いに慌てたり謝ったりしながら、僕たちは友達になった。

456 名無しさん :2017/05/30(火) 19:33:42 ID:1nD9aj6k0
>>455
これまたワーバットちゃんが可愛いSSですね
ワーバットちゃん、きっと内心では男の子に対して
「お友達からお願いしますってことよね(はぁと)」とか思ってるんだろなと

いやはや、ごちそうさまでした
やっぱり出会いの場面は青春っぽさが出てすごく良いですね

457 名無しさん :2017/06/18(日) 21:01:47 ID:18Ha84I2O
「はぁ……」
「どうしたの? ため息なんてついたら幸せが逃げるよ?」
「アレですよ」
「ああ。アレかあ……」

ため息を吐いた僕が指さした物を見て、同居人であるサキュバスの先輩は渋い表情で頷いてみせた。
パサパサと彼女の羽が動きに併せて揺れる。

「買い置き。ないですよね」
「うん。たしか無かったはず」

リビングに佇む僕たちの目の前には、ちかちかと点滅する蛍光灯。
端の方を見れば、寿命が来ていることを叫ぶように真っ黒だった。しかも、左右二本とも。
最近調子が悪い事は知っていたけれど、忙しさを言い訳に買いに行くのをサボった結果だった。
部屋が真っ暗になったり、明るくなったり。なかなかに忙しい。

「近所の電器屋……はもう閉まってるし。今日は通販で頼んで、明日付け替えかな」
「えー。明日お出かけでも良いじゃん。久しぶりにデートしたいし。あ、目に悪いから。これは消しとくね」

先輩の言葉と同時にパチリと電源を切る音。真っ暗になる室内。
明るいところから急に暗くなったせいで、周りが良く見えなくなる。

「でもこれだと僕が何も見えないんだけど……」
「大丈夫。代わりのものなら見つけたから」

不平をいう僕の前で、ぽう、と小さな明かりが灯る。
彼女の手元には、いつの間にか、小さなろうそくがあった。
サキュバスの魔力で作られた桃色の炎がゆらゆらと室内を照らしていた。

「こういうのも。悪くないでしょ?」
「……うん。たしかに良いかも」

ウィンクする彼女に、頷く僕。
暗闇の中、仄かに照らされる彼女の姿は、どこまでも扇情的な、妖しさを持っていた。
翼も、角も、尻尾も、闇の中では普段の親しみやすい彼女からは想像も出来ないくらい。危険な麗しさを秘めている。
先輩の白い肌の上に刻まれた快楽のルーンが、魔力の炎に反応して薄く輝いていた。

「ふふ、今日は積極的なんだね」

キスをせがんだのは、どちらからか。
妖しい炎に照らされながら、唇の粘膜を触れあわせる。
強い刺激を求めて舌を出すと、ちゅう、と吸われて唾液が纏わされる。
お返しとばかりに入れられた暖かな舌に歯列を丁寧に舐め溶かされると、くにゃりと力が抜けてしまう。

「キスだけじゃ収まりなんてつかないよね」

唾液の橋を作りながら、妖しく笑う彼女に、頷く僕。

結局、次の日に蛍光灯を買いに行ったけど、未だに付け替えは終わってない。
……夢中になってしまったからだ。

458 名無しさん :2017/06/19(月) 21:42:56 ID:lfCGbgE.0
>>457
イチャイチャ短編ごちそうさまです
毎日さぞかし(性的に)豊かな生活を送ってるんでしょうなぁ

459 名無しさん :2017/06/20(火) 23:01:03 ID:CtAeYXyM0

「「あっ」」

それは、一瞬の接触だった。
棚に陳列された、一冊の本……それを取ろうとした自分と、目の前の女性の手が重なってしまったのだ。
変な誤解をされても困るので、自分は慌ててこの事故が故意のもので無かったことを弁明する。

「ご、ごめんなさい……この本を取ろうとしたら、たまたま手がぶつかってしまったみたいで」

「い、いえ。こちらこそ済みません……まさか、そちらも同じ本を取ろうとしてたなんて思慮が至らなくて」

余計な心配だったようだ……少し安堵する。
目の前の女性は、見た目20歳前半といったところか。ウェーブした茶色がかった黒髪が、ちょっとふわふわしていて可愛い。
衣服はこの辺りでは珍しい……というかやや奇抜だ。
綺麗な肩を露出したノンスリーブに、トランプのクローバー柄をあしらったグリーンカラーという下世話ながらちょいセクシーな衣装に、
ネックと両腕のアーマーという「兵隊さん」染みた装甲が、妙にミスマッチだが、それが妙に背徳的……いかんいかん。
お世辞にも女性とまともに付き合った経験があるとは言えない自分にとっては、ちょっと目の毒というか煽情的というか、
流石に直視すると結構膨らみのある胸元に視線が向きかねないというか、かといって素肌を凝視するのも失礼というか、
……まぁなんだ、自他ともに認めるウブな自分は、微妙に女性から視線を外しながら会話を進めようとした。

ちなみにここは、親魔物領の片隅にひっそりと建っている古本屋……
決して大きい訳ではないボロッチィ店だが、反面品揃えは昔人気を博した一般文芸から専門書、果ては官能小説まで
意外な「掘り出し物」が見つかると評判の隠れた穴場だ。
どちらかというと中年のおっさん、せいぜい俺みたいな20代後半のしがない趣味人が立ち寄るようなアングラな場所に
このような色っぽさを携えながらも清楚美人な女性がいるのは結構珍しい気もするが……そういうこともあるのだろう。

自分と彼女が手にしていたのは、やや黄ばみがかった「戦史もの」のハードカバーだ。
それもこの世界の物品ではない……数年くらい前に、リリムの何女だったかが接触したとかいう「チキュウ」なる異界から持ち込まれた、
その世界における、それはもう凄惨な戦争に携わった人々の物語を記した類のもので、とてもだが女性が読むイメージの本ではない……

「こういう本……読まれるのですか?」

「えぇ。ちょっと変わってるってよく言われますけど、興味深いんですよ。
 決して面白いわけじゃなくて、やっぱり悲惨で目を背けたくなる描写も多いんですが……それでも、そういった本って
 世界が決して優しくなかった時代でも、懸命に生き抜こうとした人たちの、決して忘れちゃいけない『記録』じゃないですか。
 だから、世界が変わりつつある今だからこそ、そういった物語は大事に未来へ繋げていきたいと、私はそう思うんです」

凛とした女性の眼差しと微笑みに、つい先ほどまでよからぬ想像をしていた自分自身を恥じた。
古本屋に訪れる様な変わり者かと思えば、しっかりした女性ではないか。
過去から語り継がれた『物語』に決して偏見を持たず、真摯に受け止めようとするその姿勢。
物語をただ単純に娯楽として読み漁るくらいしか能のない自分が、少し情けなくなってしまった。

「……自分も、素敵だと思いますよ、上手くは言えないのですがそういうのって。本はお譲りします」

「あ、ありがとうございます」

女性は頭を下げると、アコースティックギターを演奏していた老年の店主の元へと駆け寄り、本の会計を済ませる。
店からの去り際、彼女を見送ろうとしたその刹那……その女性は「姿を消した」。
消したというのは語弊があるが、厳密にいうと彼女は「巨大なトランプ」に飛び込み、そのまま目の前から消失してしまったのだ。

「魔物……だったのか」

店に戻ると、文庫の陳列棚から一冊の小説がはみ出していた。ふと手に取ってみると、そのタイトルは『不思議の国のアリス』。
何となくだが、彼女からのメッセージに思えた自分は、その本を手に、ギター演奏を再開しようとしている店主の元へと向かった。

460 名無しさん :2017/06/20(火) 23:04:33 ID:CtAeYXyM0
他の皆様に触発されて、自分も未熟ながら数年ぶりにSSっぽいものを書いてみました……
求められてるSSの内容とあまり噛み合ってなかったら済みません。

461 名無しさん :2017/06/21(水) 19:10:32 ID:gzlt60lM0
>>460
丁寧な描写の作品をごちそうさまです
真面目なトランパートちゃんというのも珍しいですね
またお気軽にSSを投稿してください

462 名無しさん :2017/06/21(水) 19:57:20 ID:obbpp/5kO
豪雨が降った後の夜の帰り道。

「あー。晴れた晴れた」

澄んだ色の夜空を見上げて、伸びを一つ。
ついでに息を深く吸い込んだら肺の中に蒸し暑い夏の空気が一杯に入ってきて、僕は顔をしかめた。
傘をささなくても良くなった代わりに、今度は蒸し風呂である。
豪雨の後は大体晴れ。
梅雨が終われば、不快指数の高い夏がやってくる。
昔から夏が好きでは無い僕にとっては、まだ雨が降り続いた方がましなのだ。
暑い上に--

「どしたの? そんないやそな顔して」

夏の風物詩。
プーンという、人類の天敵の羽音。

「夏が来るからだよ」
「ええー、良い季節じゃないの」

不機嫌そうに顔を上げると、そこにはある夏の昆虫--をかたどった姿の同級生の魔物がニヤリと笑っていた。

「雨は降らないし、植物は元気な緑になるし--何より、君が半袖になるから吸いやすいし」
「僕は蚊が嫌いだって言ってるだろ……」

鋭い歯を見せて笑う少女の姿に眉間に皺がよる。
そう、彼女は蚊の魔物、ヴァンプモスキートだった。
蚊は僕にとって不倶戴天の強敵である。
あの抜けがたい痒みに肌の弱い僕は悩まされ続けてきた。
今では数年前に流入した魔界の技術で痒みなどは抑えられるようになったけれど、それでも未だにあの羽音が聞こえると首をすくめてキョロキョロしてしまう。
そもそも、人間にとって蚊は人間以上の天敵なのだ。
マラリアなどの伝染病で命を落とした人が沢山いる。
だから、不快に思うのは僕だけのせいじゃない。本能だ。

「ふーん……でも、君ってさ」
「な、なんだよ」

プーンと、耳に響くあの羽音。
思わず首をすくめる僕の後ろに、彼女はいつの間にか回り込んでいた。

「蚊がキライって割には。血が美味しいよね」
「……」

ペリペリと首筋に貼っていたかゆみ止めのシートが剥がされる。
むき出した肌の上にあるのはじくじくとかゆい、虫さされ。

「健康な方が美味しいって言ったら、毎日ジョギングしたり、お野菜をバランス良くとってくれたり」

意地悪な声を出しながら、首筋を舐める少女。
痒みが独特の快楽に変わる、不思議な感覚が襲ってくる。
振り返れば、相変わらずの天敵の不敵な笑み。

「蚊は嫌いだよ……でも」
「でも?」
「……君は、好きだから良いんだよ」

それが真っ赤に崩れた所を見ながら、僕は痒みとも快楽ともつかない。彼女の歯に身を委ねていた。

463 名無しさん :2017/06/22(木) 18:54:53 ID:m/pWcK/s0
>>462
お天気にタイムリーなSSごちそうさまでした
ヴァンプモスキートちゃんらしさと情景のマッチした良いSSですね
最後に照れちゃうところが可愛らしい

464 名無しさん :2017/06/26(月) 16:51:40 ID:s9En9B8o0
「おいすー」
「よう脳内お天気バカ河童」
「町内一美人のエロ河童? やだ、本当のことを堂々と!」
「河童以外言ってねえよバカ」

「いやー、梅雨ですねー。最高の時期ですねー!」
「最悪の時期だっての。ジメジメするわ、バカは来るわ」
「そこは『お前に会えるからいい時期だな』でしょー!」
「お前自身が言うんじゃねーよ」
「とかいーつつも、昨日と同じく、氷水につけたきゅうりと自家製味噌の横には、
 何故か二人分の取り皿があるのでございました」
「うるせっ」
――――――――――――――――――――
浮かんだものをそのまま。
地の文なくても気軽に書けるのがいいね、このスレ。

465 名無しさん :2017/06/27(火) 18:58:32 ID:FGqs83LE0
>>464
あ、良い。なんか良い会話


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