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【習作】1レスSS集積所【超短編】

417名無しさん:2017/04/23(日) 18:03:35 ID:sYEwIfH2O
「192、193……」

一本、また一本。数えながらケーキにろうそくを立てていく。
手元のろうそくを確認する僕の目の前には、たくさんのろうそくが刺さってハリネズミのような姿になったケーキがわびしいたたずまいを示していた。
彼女の大好きな苺はは、乗せきらなかったため、外してしまっていた。

「そうじゃな……今度の誕生日には、儂の歳の数だけろうそくの刺さったケーキを見せて欲しいのじゃ」

脳裏に浮かぶのは、僕の大好きな人--永い時を生きたバフォメットの寂しそうな笑み。
その理由がほんの少しだけ、わかった気がした。

「出来たようじゃな」
「……はい」

全てのろうそくをさし終えた僕の後ろから、聞こえた声。
振り返ると、山羊の角を持った美しい魔物がそこには居た。

「お主には……このケーキは、どう見えた?」

普段の良く通る声とは違う、震える声の問い。
彼女の長い髪が、その表情を隠していた。

「……それは」
「そのケーキは、儂じゃよ。永い時を過ごし、歪みきった存在--最早火を付ける事も叶わぬ。さすれば、火柱となるだけじゃからな」

自嘲気味に、歯を見せて笑う彼女。
前髪の間から見えた瞳は、夕日を浴びて潤んでいた。

「お主には、儂の本当の姿を知って欲しかった。それだけじゃよ」

饒舌に語る彼女の姿は、どこまでも寂しそうに見えた。
だから、僕は。

「ケーキ、食べませんか?」

二人で、ケーキを食べることにした。
元々、彼女の大好きなケーキなのだ。ろうそくを立てた位で味は変わらない。

「今日は、半分こですよ」

ケーキに刺さったろうそくを抜いて、苺をのせる。
二つに切れば、スポンジとクリームが美しい断層を見せてくれた。

「ほら、おいしそうだ」

ポカンとする彼女を椅子に座らせて、ケーキを置く。
甘い、バニラビーンズの香りがあたりに満ちる。

「お主は、良いのか?」
「……ええ、味は変わりませんから」

一口含んで笑みを見せると、彼女も微笑んでくれて。

彼女の誕生日に、僕ははじめて彼女の笑みを見ることが出来た。


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