したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

ジョジョの奇妙な東方Project.PAD3

1イルーゾォの人:2009/10/19(月) 01:30:02 ID:RWn7oXj20
作品を投下するので、急遽勝手に立ててしまいました。
過疎ってますが頑張っていきましょう!!


・・・・・・・・・何を頑張れと言うんだ、俺。

951ディスクブレイカー☆フラン:2011/04/08(金) 22:32:48 ID:bn0Lqa7Q0

 拳は、空を切った。
「いない……」
 拍子抜けした幽香は、思わず力を抜いてしまった。
 目を丸くして、廊下をきょろきょろと見渡す。
 その頭上に、傘を持った大妖精が現れた。
「でえええええい!」
 傘の重さに任せて、大妖精は幽香の脳天に傘を振り下ろす。
 ガン、と重い音がした。
「げっ……」
 幽香の頭から星が飛び出した。
 そのまま彼女は振り子のように揺れ、床に倒れこむ。
「かっ、体が動かない……気分も悪い……」
 床に伏せる幽香の目の前で、傘が音を立てて落ちる。
「私の全力を前にして、ワープするかと思ったのに……まさか私の傘を使うだなんてね」
 幽香は寝返りをうって、宙に浮く大妖精を見る。
「幽香さんの傘……すごく重かったですよ……」
 大妖精は肩で息をしながら幽香を見下ろす。
「ねえ、聞かせて頂戴。なんで逃げるのを止めて私に挑みかかってきたのかを」
 幽香は擦り傷だらけの大妖精の顔を見た。
「幽香さんの分身は、いつでも本物と分身の入れ替わりがつくんじゃないんですか?」
「当たりよ。どうしてわかったのかしら?」
「最初にあなたが分身して、レーザーで挟み撃ちにしたときです。私は分身を出したあなたを盾にしようとしましたが、私が盾にしたあなたはレーザーが当たる寸前に姿を消しました。その時に、分身したときには位置の入れ替えができるのではないかと思ったんです」
「それが私から逃げるのをやめたことにどう関係があるの?」
「レーザーを浴びた私の前に立った時、あなたの背後から攻撃を加えた人がいましたよね?」
「ああ、あのピンクの髪をした男ね」
「彼こそが勝利のカギでした。彼が仕込んだ『あること』であなたを倒そうとした私は、フランちゃんを呼ぶべく走り出しました。そこにあなたが分身して追いかけてきたというわけです」
「なるほど、フランドールがカギだったからあなたは彼女を助けるべく逃げたのね」
「そこであなたが追いかけてきた……もしかして、フランちゃんと彼が仕込んだ『あること』が関係があるって気づいていましたか?」
「そりゃもちろん。『走れ! 準備はできた! 後はフランを開放するだけだッ!』なんて叫ばれたら何かがあるっていやがおうにも気づくでしょう?」
「その通りです。そしてあなたは本人が私を追いかけてきたと見せかけ、戦っている途中で分身と入れ替わった……」
 大妖精は、幽香の目の前に降り立つ。
 彼女の顔を見て、幽香は微笑む。
「100点満点よ。花丸をあげるわ……」
 微笑んだまま、幽香の分身は消え去った。
 廊下に残るのは、ぼろぼろの大妖精のみ。
「勝った……分身だったけど、幽香さんに勝った!」
 大妖精は大きく息を吸い込んで、叫んだ。
 そして足を引きずりながらも歩き出す。
 しばらくすると、
「くあー! とーれーなーいー!」
 ツタに縛られてもがくフランの姿が見えてきた。
「フランちゃん! 今助けてあげる!」
 大妖精は走り出し、『ミキタカのDISC』をフランの頭に押しこんだ。
 すると、フランの体はパタパタと折りたたまれ、いくつかの小さなサイコロとなって床に落ちる。
「よし!」
 大妖精はそれを掴み、廊下の真ん中に置く。
 サイコロは形を変え、フランへと元通り。
「よかった……」
 完全復活を遂げたフランを見て、大妖精はへたり込んだ。
「大ちゃん、大丈夫?」
 倒れる大妖精の顔を、フランは覗き込んだ。
「ちょっと疲れただけ」
 大妖精は笑顔を作った。
「よかった。で、幽香は?」
 フランの質問に、大妖精は今きた方向を指差した。
「あの人が幽香さんの頭にDISCを仕込みました。あとはフランちゃんが来るだけだって言っていましたよ」
 その言葉を聞いたフランは無言でうなづいて、走り出す。
 壁が壊れて日の差す廊下を、フランは駆け抜けていく。
「ディアボロが幽香にスタンドを仕込むことができたなら……勝負は一瞬でつくッ! 『ストレンジ・リレイション』」
 フランは『ストレンジ・リレイション』を出す。
 走っていると、フランが胸につけている無線機からノイズが走った。
「ガガッ……フランか?」
 無線機からは、ディアボロの声が聞こえてくる。
「ディアボロね。今大ちゃんから助けてもらったわ」
「そのことについてだが、まだ来るな。アイツはお前が俺たちの切り札だということを知っている!」
「だったらどうするの?」
「俺が幽香の動きを止める……『エコーズact3のDISC』で!」
 ディアボロからの、通信が途絶えた。

952ディスクブレイカー☆フラン:2011/04/08(金) 22:33:36 ID:bn0Lqa7Q0
ディアボロは、『キング・クリムゾンのDISC』を防御用に装備。
 代わりに、懐から取り出した『エコーズact3のDISC』を攻撃用に装備する。
「行くぞ。『エコーズact3』ッ!」
 ディアボロは『エコーズ』の拳を振るう。
「遅いッ!」
 幽香はそれを拳で受け止めていなす。
「うぐッ……『フー・ファイターズ』で回復してもらったとはいえ、骨は完全に繋がっていないか……」
 腕に走る電撃のような苦痛を気合で抑え、二の拳を振るう。
「出てきたものが変わったわね」
 幽香はエコーズに警戒し、バックステップで距離を取る。
 と、着地の際幽香の足が床に沈み込んだ。
 幽香は驚きに目を開き、脚を注視した。
「よそ見するな」
 隙を見てディアボロは急接近。『エコーズact3』の拳を続けて叩き込む。
 幽香は迫りくる拳の弾幕を拳ではじく。
「さっき出したベルギーワッフルみたいな奴よりパワーは低いみたいね」
 幽香は拳で『エコーズact3』の拳を逸らし続ける。
 と、彼女の顔のすぐ横を、『エコーズact3』の拳がかすめた。
「捌き損ねた……?」
 幽香は驚いて、再びバックステップをする。
 ディアボロから距離を取り、着地すると、彼女の膝が地面に張り付いた。
「なっ……体が重い……!」
 幽香は転倒し、手を地につける。
 手も、脚も、地面にめり込む。
「これは……まさか重さを増やす能力なの!?」
 戸惑いとともに、幽香はディアボロを見た。
「単なる力比べじゃ俺に勝機はないからな。お前の体重を増やして動きを遅くさせてもらった」
 ディアボロは『エコーズact3』と共に床に這いつくばる幽香を見る。
 幽香は、笑っていた。
「ッククク……そう、体重を増やしたのね。それは好都合だわ」
 幽香は不気味に笑いながら、傘をディアボロとは反対方向へ向ける。
「外の世界には、自動車っていう、鉄でできたひとりでに動く馬車がのがあるらしいわね」
「ああ。腐るほどある」
「それって、馬車とは比べ物にならないほど重くて、速いんでしょうね……なんせ鉄でできているんだから!」
 幽香は、傘の先から極太レーザーを放った。
 ディアボロの立つ方向とは反対の方向へ向けて。
「しまった!」
 ディアボロは驚いて伏せようとした。
 だが、もう遅い。
 高速で動き出した幽香の体がディアボロの体に衝突する。
 ディアボロは廊下の果てまで吹き飛ばされ、壁に衝突する。
 彼の口からは血が噴水のように噴き出た。
「ゆ……油断したッ……!」
 ディアボロは内出血を起こして紫色に染まった胸を見つめる。
 致命傷だ。
「ディアボロ! どうしたのディアボロ!」
 無線機からは、フランの声が聞こえてくる。
「フラン……やるなら今だ……『ストレンジ・リレイション』を奏でろ……」
 口から血を流しながら、ディアボロは無線機ごしにフランに訴えかけた。
 激痛と共に、意識が薄まっていく。
「まだ、終わらん……『エコーズact3』の効果射程は離れたが、まだ『ホルス神』の射程内だッ!」
 ディアボロは最後の力を振り絞り、目の前はるか先に立つ幽香に向かって指を向けた。

953154:2011/04/08(金) 22:36:16 ID:bn0Lqa7Q0
  あとがき。
 何とか幽香来襲編を書き終えました。
 次は妖怪の山勢力との戦いを描こうかと思います。
 
 ジョジョ3部のスタンドの名前は、タロットカードから来ているのは周知の事実。
 そこでタロットカードの意味を調べてみると、面白いことがいくつかわかりました。
 ジョースター一行を例にをあげてみることにします。

 空条承太郎の『スタープラチナ』 対応するタロットカードは『星』
  星のカードの正位置の意味:希望 ひらめき
  星のカードの逆位置の意味:失望 無気力
 J・P・ポルナレフの『シルバーチャリオッツ』 対応するタロットカードは『戦車』
  戦車のカードの正位置の意味:勝利 援軍
  戦車のカードの逆位置の意味:暴走 不注意
 花京院典明の『ハイエロファント・グリーン』 対応するタロットカードは『法王』
  法王のカードの正位置の意味:信頼 尊敬
  法王のカードの逆位置の意味:束縛 逃避
 ジョゼフ・ジョースターの『ハーミット・パープル』 対応するタロットカード『隠者』
  隠者のカードの正位置の意味:経験 精神
  隠者のカードの逆位置の意味:無計画 誤解
 モハメド・アブドゥルの『マジシャンズ・レッド』 対応するタロットカードは『魔術師』
  魔術師のカードの正位置の意味: 物事の始まり エネルギー 
  魔術師のカードの逆位置の意味: 混迷 裏切り
 
 こうして並べてみると、いくつか当たっている点があったりします。
 承太郎はいつもひらめきを持ってみんなを勝利に導いてきました。
 ポルナレフだって、DIOとの戦いに割って入り、承太郎を助けました。
 花京院はメンバーを信頼して死に際にメッセージを託した。
 ジョゼフは戦いの年季が違う。
 そもそもスタンドという概念を説明したのは、アブドゥルです。
 そう考えてみると、タロットカードって奥が深いですよね。

 もしかしたら、ほかのスタンドや東方キャラもタロットに当てはめることができるかも。

954吸血魔法使いDIO:2011/04/08(金) 23:27:58 ID:6IEIbiyU0

 投稿お疲れ様です。

 幽香襲撃がもうすぐ終わりか。

 ところでDIOのスタンドの世界、正位置の意味が

 成功。成就。完成。完全。統合。完遂。幸せ。
 結婚。目的達成。願望成就。運命の出会い。

 いくつが当てはまるのだろうか^^;

955154:2011/04/08(金) 23:39:40 ID:bn0Lqa7Q0
DIOだと、やはり運命の出会いが一番しっくりくるでしょうね。
彼と出会って大きく変化した人はたくさんいますから。
あとは逆位置の意味の未完成なども当てはまると思いますね。
彼は『天国』を目指していました。
だとすると、彼にとっては自分のスタンドもまだ未完成のものだったのかもしれませんね。

956セレナード:2011/04/09(土) 00:17:11 ID:ukAGYleQ0
なら私の作品のディアボロの物語はタロットでいう『死神』でしょうね。

『死神』の正位置の意味が
終末、破滅、離散、終局、清算、決着、死の予兆。
そして逆位置の意味が
再スタート、新展開、上昇、挫折から立ち直る。

彼は一度『破滅』し、『奇妙なダンジョン』で『挫折から立ち直り』ました。
そして紫との出会いで『新展開』を向かえ、幻想郷に導かれた。

ちなみに第五部での彼の性格をタロットで現すなら『皇帝』と『教皇』の逆位置でしょうか。
プライドが高く、同時に臆病。何かを支配することで安心を得ています。
『皇帝』の正位置の『支配』に当てはまり、『教皇』の逆位置の『不信感』にも当てはまります。

ドッピオの性格をタロットで表すなら『愚者』の正位置でしょうね。
『純粋』にディアボロを信じ続け、『発想力』でメタリカの能力を回避しています。

957154:2011/04/09(土) 00:59:06 ID:ACt2bMLY0
タロットカードは奥が深いですね。
東方キャラも、タロットであてはめてみると新しいものが見えてくるかもしれません。
例えば咲夜さん。
咲夜さんは謎が多い人です。
スペルカードの一つに幻世『ザ・ワールド』があるように、『世界』のカードとの関係性があるように思えます。
確かに、二つ名に『完全で瀟洒な従者』とあるように、『完全』を表す『世界』のカードとの関係は深そうです。
しかし、彼女は手品が得意という『奇術師』の一面を持っています。
『奇術師』は『魔術師』のカードの一面の一つ。
『魔術師』のカードの意味を詳しく調べると、柔軟な対応、いくつも同時にこなせる、手際が良いなどの単語が目立ちます。
それは『完全』に仕事をこなすために重要なスキルだと言えるでしょう。
となると彼女を表すタロットは、『魔術師』ということになるのでしょうか?

958キラ☆ヨシカゲ:2011/04/09(土) 01:15:24 ID:dUVTTkQMO
投稿お疲れさまです。

以前戦慄的なシーンが苦手とおっしゃっていたので、参考にして頂ければと、幾つか自分がSSを書いている時意識している事を列挙いたします。

・擬音をとにかく使う(壁に当たった音、弾幕が迫る音等)
・語尾に『ッ』を使う
・攻撃を受けたシーン、吹き飛ぶシーン、壁に激突するシーン…と、分けて描写する。

大体こんな感じです。
正直、自分も文才なんて無く国語の教師でもなんでもないのでこれで無い文才を補えているか分かりません。
大きなお世話かも知れませんが、少しでもお役に立てれば嬉しいです。

タロットカードですか…私のSSも『死神』のカードでしょうか。
吉影は死んで『小道』に引き込まれ、幻想郷に迷い込み、なんとか『平穏な生活』を目指して来ましたが、結局『安心』は手に入れられず今まさに『破滅』に向かおうとしています。
親父も輝之輔も死に、レミリアと激突する吉影にはきっと『死神』が最も似合うのでしょうね。

959セレナード:2011/04/09(土) 01:16:55 ID:ukAGYleQ0
主(あるじ)に献身的、という意味だけなら『節制』の正位置も当てはまりますが・・・。

奇術師は様々な奇跡を起こし万能の神のごとく立ち振る舞い観客を驚かせるが、それはステージの上に限定される・・・。
時を操る彼女には、『時の流れ』こそがステージなのかもしれませんね。

もしかして彼女を表すタロットは、『魔術師』と『節制』なのかもしれませんね。

960154:2011/04/09(土) 01:34:01 ID:ACt2bMLY0
……どれも自分が意識して書いていることですね。
あとは文章力の問題ですか。

私のssをタロットで表すと、不死鳥は『冒険』を意味する『愚者』でしょうね。
他の皆さんが幻想郷を舞台としてssを書いているのに対して、あえて幻想郷外を舞台にして物語を展開させる。
これは私にとっては『冒険』の他なりません。
フランの方は魔法少女をテーマに書いています。
今まで書いてきたフランを読んでみると、『運命の輪』が一番似合うと思います。
なぜなら一話一話で局面が変わっていたからです。
しかも、その一話の中でも局面がめぐるましく変化していく。
これは『運命の輪』が一番似合うでしょう。

……たぶん、気まぐれな私も『運命の輪』が一番似合うでしょう(苦笑)

961セレナード:2011/04/09(土) 23:56:53 ID:mwjJDbgQ0
さて、私も作品を投稿しますか。
というわけで東方魔蓮記第二十六話、投稿させてもらいます。

962東方魔蓮記第二十六話:2011/04/09(土) 23:57:54 ID:mwjJDbgQ0
山道を進むディアボロ。道なき道を進んでいくが、少々迷ってしまったようだ。
だが目的地は山頂にあると分かっている。ならばどんどん前に進むだけだ。
「(・・・山を降りるときは飛んでいったり川を下っていったほうがいいかもしれないな)」
そう思いながらディアボロが周囲を見渡したとき、何かが物凄い速さで飛んでいった。
「(速くてよく見えなかったが・・・今のはなんだったんだ)」
だがこの周辺をあんなスピードで進むものといえば・・・ディアボロは考える
「(・・・もしかしてあの面倒くさい天狗か?あいつ、この山の警備もやっているのか)」
彼女の速さにはいつも驚かされる。間違いなくマッハ級のスピードを出しているだろう。
「(あの速さで追いかけられたら厄介だな・・・見つからないようにするのが理想的だ)」
ディアボロはそう思って先に進む。そして、延々と道なき道を進んでいくと、一際開けた場所にでた。
「(ここは・・・・?)」
どうやら目的地にたどり着いたらしい。
景色の変化が全然無いために、かなり進んでいたことに気づかなかったようだ。
「(・・・意外とこの山が低かったのか、それとも俺が気づかないうちにかなりの距離を進んでいたのか?)」
ディアボロはそう思うが、無事に目的地にたどり着いたのだからと気にしないことにした。
そう、今ディアボロが見ている場所こそ、今回のディアボロの散歩の最終目的地、守矢神社である。
ディアボロは視界に入った賽銭箱の前に移動する。
「(一応神社に来たんだ、お賽銭ぐらい入れておいてやるのが礼儀だろう)」
懐から幾らかお金を取り出す。
白蓮が時々お金をくれるのだが、使うこともあまり無い。だから少々多めに取り出し、賽銭箱の中に投げ入れた。
「(あまり使うことも無いんだ、今度から俺にくれるお金を減らしてもらうように白蓮に頼んでもいいだろう)」
そう思いながらも、周囲を見渡す。
「(誰もいない・・・ようにも見えるな)」
無言で神社周辺にある木のうちの一本を見るディアボロ。
「・・・・・そこにいるのは誰だ?」
反応が無い。そこでディアボロはエメラルド・スプラッシュを木に撃ってみる。
何発も打ち込むと、木はどんどん破壊されていく。
と、木の陰から何かが出てきた。
「あやややや!いきなりなんなんですか!?」
射命丸 文である。
どうやらディアボロの変装を見破っておらず、いきなり木が破壊されたのはディアボロの仕業だということに気づいていないようだ。
正体を知ったことで、ディアボロはエメラルド・スプラッシュを木に撃つのをやめる。
「・・・あれ?」
木の破壊がおさまったことを不思議に思い、首を傾げる文。
「収まったな」
自分の変装がばれていないのをいいことに、他人事のように今の状況を言うディアボロ。
「貴方はなんで無反応だったんですか」
「私には何も起きなかったからな」
文がディアボロが無反応だったことをつっこむが、ディアボロはそれを受け流すかのような返事を返す。
当然ここでも吉良のような言葉遣いで話す。本物はこの地にはいないが、念のためだ。
「そうそう。この山を強行突破して来た人間がいるらしいですけど、貴方知らないですか?」
「知らないな。ここに来る最中で人間は見ていない」
「そうですか・・・そりゃあそうでしょうね・・・」
そう言ってニヤリとする文。ディアボロは嫌な予感を感じ、エピタフの未来予知を使う。
見えた光景は文が弾幕で攻撃してくる未来。それに備え、キングクリムゾンを傍に出しておく。
「『貴方がこの山を強行突破してきた張本人』ですからね!」
その言葉と同時に文が弾幕を撃ってくる。
ディアボロはそれを回避し続けながらも考える。
「(何故あいつは俺がこの山を登ってきているのを知っていた!?俺の変装はまだ見破られていないようだがっ・・・!)」
驚き、戸惑いながらも冷静に攻撃を回避していくディアボロ。
と、そのとき。あまりの騒がしさに、神社から誰か出てきた。

963東方魔蓮記第二十六話:2011/04/09(土) 23:58:54 ID:mwjJDbgQ0
「ちょっと!せっかくの参拝客になにしてんですか!」
緑色の髪、そして巫女服。怒りながら文に文句を言う少女に、ディアボロはある推測を立てた。
「(・・・こいつが『巫女』か?なんか想像したのと違うが・・・まあいい)」
ディアボロはちょっとばかり考えるが、気にしないことにする。
ちなみに、彼の目の前では少女と文が口論をしていた。
「(こいつら・・・まったく、しょうがない)」
ディアボロはそう思うと口論をしている二人に接近する。
二人は口論に集中しているためか、近づいてくるディアボロに気づいていない。
「・・・・・・」
ディアボロはキングクリムゾンを出すと、少女と文を同時に蹴る。
勿論キングクリムゾンに蹴らせたのは文のほうだ。一応手加減はしている。
二人は突然の攻撃をくらって倒れる。そしてディアボロを睨む。
「お前らどうでもいいことで言い合いするな」
「どうでもいいわけがないですよ!・・・もういいです!貴方なんて知りません!」
ディアボロの言葉に文はますます怒る。そしてふてくされて飛び去っていく。
「・・・・機嫌を損ねてしまったか(変装している以上、俺に不利な記事を書かれる可能性は無いに等しいが・・・)」
そう言って呆れるディアボロ。少女は安心し、ディアボロに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「怪我は無い。大丈夫だ」
「そうですか、よかった・・・」
ディアボロに怪我が無かったことに、少女は改めて安心する。
「(天狗の情報網を侮っていた・・・あいつが風の噂で聞いたのか、それとも俺が天狗を気絶させているのを別の天狗が見ていたのか、どちらにしろ俺が油断したのは事実だな)」
考え事をしているディアボロが気になり、少女は声をかける。
「あの・・・」
「・・・ああ、すまない。ちょっと考え事をしていただけだ」
それを聞いてホッとした少女。
「初めて見る参拝客ですね。私は東風谷 早苗(こちや さなえ)。ここで巫女をしています」
「私はソリッド・ナーゾ。・・・変な名前だなんて思わないでくれ」
少しでも仲良くなろうと自己紹介をする早苗。ディアボロは早苗の質問に返事を返す。
「変な名前だなんて思いませんよ。その名前は貴方の両親が貴方に与えてくれたんですから」
「(実際にこの名前を俺に与えたのは自分自身なんだがな)」
心の中でそうツッコミを入れたりしながらも早苗との会話を続けていくディアボロ。
「そういえばソリッドさんはどうしてここに?」
早苗の問いかけに、ディアボロは今回の散歩の目的を話す。
「・・・『神』をこの目で見るためにここに来た」
「神を見るために・・・?」
ディアボロの言葉を聞き、早苗は不思議に思う。
「私は元々外来人だ。・・・外の世界では教会で育った孤児だが、私は神など信じなかった」
ディアボロは淡々と語る。早苗はその話を理解できた。彼女もまた『外から幻想入りした者』だからだ。
「だがこの幻想郷では神がいると聞いた。・・・だから私は神を見るためにここを訪れた」
「・・・神を見るために・・・・」
早苗はディアボロの言った言葉を呟く。数秒の沈黙の後、早苗が笑顔と共に返した言葉は
「変わった参拝客なんですね、貴方は。そんな参拝客でもこの神社の神様は歓迎しますよ」
とても純粋さに満ち溢れていた。
「ありがとう。少なくとも外の世界よりはずっと良いだろうな」
ディアボロはそう言って笑顔を返す。

964東方魔蓮記第二十六話:2011/04/09(土) 23:59:28 ID:mwjJDbgQ0
「おや早苗、そいつは誰だい?」
突然、何者かが神社から出てきて早苗に語りかける。
水色の髪。胸元あたりに鏡をつけ、その背中には円形のしめ縄。
一見すると怪しく見えるが、彼女こそ守矢神社に祭られている神、八坂 神奈子(やさか かなこ)である。
「あ、神奈子様!」
「(かなこさま・・・?ということは彼女がこの神社に祭られている神か)」
神社に住み、かつ巫女が敬語で呼ぶ者。
ディアボロは得ていた情報(主に紫の記憶)で理解した。彼女こそが『神』なのだと。
「私はソリッド・ナーゾ。ただの参拝客だ。貴方がこの神社の神・・・なのか?」
「私は八坂 神奈子。貴方の予想通り、私がこの神社の神」
「(やたらと友達感覚で接してくる神だな。予想はしていたが、流石に神話に登場するような厳(おごそ)かな神はもういないようだ)」
ディアボロはどうして神が厳かでなくなったかを考え、数秒である結論をだす。
「(・・・友達感覚で接したほうが仲良くなりやすいのと似たようなものか)」
ディアボロがそう思っていると、突然神奈子がディアボロの顔に触れだした。
「!?(まさか変装を見抜かれた!?・・・いや、こいつらは俺を知らない。仮に知っていたとしても新聞の写真だけのはず)」
「・・・・?」
驚き、焦るディアボロに対し、不思議そうにディアボロの顔を触りつづける神奈子。
「・・・神奈子様?」
早苗は不思議そうに加奈子を見つめ
「・・・何故私の顔をいきなり触りだしたんだ?」
ディアボロは神奈子がいきなり顔を触りだしたことを咎め
「・・・違和感を感じたけど気のせいだったわ。驚かせてごめんね」
神奈子はディアボロから手を離して謝る。
「(バレずに済んだか・・・だがシンデレラの能力を見破りかけるとは、気を抜けないな)いや、気にしなくていい」
内心ホッとするディアボロ。早苗も神奈子が何もしでかさなくて安心した。


ディアボロは早苗、神奈子と会話をしていて、いろいろな事を聞き出せた。
この神社は元々この幻想郷の外の世界の神社だったこと。
そして、神は信仰無しに力を発揮できず、『神徳』なるものを出せなくなること。
・・・そしてこの神社にはもう一人の神がいること。

「(俺には『神徳』とかいうのはよくわからないが・・・まあいい、そのうち教えてもらうか調べてみよう)」
『神徳』なるものの調査は一時的に除外するとして、ディアボロは早苗が出した話題に挙がった、『もう一人の神』が気になった。
「(・・・神社に祭られている神が複数いることなんて聞いたことが無いぞ?どういうことだ?)」
DISCで得た記憶の全てを思い出しても、神が複数祭られている神社なんて聞いたことも見たことも無かった。
「神奈子さん、先ほど早苗さんが言っていた『もう一人の神』とは・・・?」
「ああ、私の『友達』のことね」
神奈子のその言葉を聞き、ディアボロは守矢神社の本殿を見る。
「・・・・・・(・・・この先に居るのか)」
そして本殿に向かって歩き出す。
「会いに行くつもり・・・ですか?」
早苗はディアボロに尋ねる。
彼は神を見るためにこの神社に来たとはいえ、その神が与える影響などまったく考えていないに違いない。
もしも彼女の機嫌を損ねたら、祟られるかもしれないのに。
「止めておきなさい。祟られても知らないわよ」
「それを恐れていたら先に進むことはできません。・・・あなたたちには失礼かもしれませんが、私は先に進ませてもらいます」
神奈子は見抜いていた。
この男は恐怖を感じていない。『祟られる』と聞くと普通はためらうだろうが、この男にためらいはない。
そして同時に興味が湧いた。どうして恐れることがないのか。
「・・・どうなってもしらないわ」
「覚悟はとっくにできていますよ」
神奈子の忠告に返事を返し、本殿に入るディアボロ。
装備DISCの変更の必要が無いことを確認し、本殿を進んでいく。

「神奈子様・・・止めなくて良かったんですか?」
「たまには諏訪子にも人間と交流させたほうがいいんじゃないかって思ってね」
神奈子は守矢神社を見つめる。
「でも私達もついていったほうがいいんじゃ・・・」
戸惑う早苗に、神奈子は腕を組んで答える。
「あいつは恐怖をまったく感じていない。ただの馬鹿なのか、それとも好奇心が恐怖に勝っているのか・・・」
そして神奈子は組んでいた腕を解く。
「彼にはもしかしたら何か策があるのかもしれないけど・・・念のため私達も行ったほうがいいかもね」
そう言って神奈子は守矢神社に向かう。早苗も後からついていく。


本殿を進むディアボロ。
ふと、ある部屋の前で誰かの気配を感じた。
「・・・?」
数秒立ち止まり、部屋の襖に手をかけた。
「(ここにいるな、もう一人の神が)」
ディアボロはそう思って、襖を開いた。

965セレナード:2011/04/10(日) 00:01:28 ID:Vn1DtjZs0
はい、東方魔蓮記第二十六話、投稿終了です。

来週からこちらが忙しくなるためにますます投稿のペースが遅くなると思います。
それでも少しずつ書いて、ここに投稿できるようにしていきます。

966キラ☆ヨシカゲ:2011/04/10(日) 00:52:53 ID:lmvJ0vPgO
セレナードさん、投稿お疲れさまです。

ディアボロは諏訪子と一戦交えるつもりで本殿に入っていったのでしょうか。

私もそろそろ忙しい時期に入り、さらに動画制作と同時進行で行っていくので更新ペースはかなり落ちると思います。
ですが、なんとしてもSSは七月以内までに完結させておきたいところです。

967吸血魔法使いDIO:2011/04/10(日) 08:15:01 ID:azUnr4IM0

 投稿お疲れ様です。

 スタンドの能力の違和感に気がつくとは神奈子様半端ない。

968154:2011/04/11(月) 00:50:53 ID:QRZTobBs0
 セレナードさん投稿お疲れ様ですッ!
 私も投下行きますよ……フランだけですけど

969ディスクブレイカー☆フラン:2011/04/11(月) 00:52:35 ID:QRZTobBs0
  ディスクブレイカー☆フラン『妖怪の山侵攻作戦』
 OPテーマ ふぉれすとぴれお『ロストマインド』
「何とか、最終防衛ラインに来る前に止めることができたわね」
 巨大な水晶の板を眺めて、パチュリ―は一息ついた。
 水晶の板には、床に伏す幽香の姿と、春水晶を手にするフランの姿が映し出されていた。
 水晶の画面に映るフランは、春水晶をポケットに入れる。
「やはり、幽香が持っていたのね」
 水晶の画面を眺めながら、レミリアは紅茶を一口。
「まあ、当然って言えば当然よね。たった『一人の勢力』と言える彼女の中で、一番安全な場所と言えば彼女自身なのだから」
 パチュリ―も紅茶を一口。
 画面外へと立ち去るフランを見て、パチュリ―は小悪魔を呼んだ。
「何でしょうか?」
 小悪魔が、本を抱えてやってきた。
 彼女は本を机に置き、二人のカップに紅茶を注ぐ。
「小悪魔、今すぐ紅魔館の損害を調査して頂戴」
「分かりました」
 パチュリ―に命じられた小悪魔は、すぐに図書館の扉を開いた。
 それを見送って、レミリアは紅茶を一口。
「損害調査が終わったら、次はどの『勢力』を警戒すべきか考えないといけないわね」
「その件についてだけど、既に目星はついているわ。蓮見、他勢力についての報告を」
 パチュリ―が指を鳴らすと、水晶の画面は蓮見琢磨の顔に切り替わる。
 蓮見は、『The・Book』を発動し、ページを開く。。
「他勢力についての報告だが、博霊神社には霧雨魔理沙、八雲紫らの顔が見られた。他にも、見たことの無い奴が何人か見られたな。恐らく戦力では最大だと言っていいだろう」
 琢磨は淡々と調査報告を続ける。
「次に、白玉楼だ。とにかく数が多いな。プリズムリバー三姉妹を始めとし、数多くの人魂が集まっている。また、紅魔館からはもっとも遠い場所に位置している
 ページををめくる。
「最後に、妖怪の山。河童、天狗などが多数所属しており、統率力が取れている。その上、山という位置の関係上、攻めることも難しい」
 それを言うと、琢磨は『The・Book』を閉じて、消してしまう。
「報告ご苦労。で、今どこにいるの?」
 報告を聞いたパチュリ―は、紅茶のカップを置いた。
「今、妖怪の山に……!」
 そう言いかけて、琢磨は振り返った。
「どうしたの!?」
「見つかったみたいだ……おそらく哨戒の天狗だ」
 通信が切れ、水晶には砂嵐が映し出される。
「どうやら、マズい事態になったみたいね」
 レミリアは、紅茶を飲み干した。
 ちょうどその時、書類を持った小悪魔と咲夜が図書館に入ってくる。
「パチュリ―様、レミリア様。被害状況がまとまりました」
 小悪魔は、手に持つ書類を机の上に広げる。
「メイド妖精の約3分の1が『一回休み』、招集した周辺の妖精の大半が『行方不明』、美鈴が軽傷、妹様のご友人一人が重体です」
 咲夜が被害状況を告げる。
「続いて物的被害ですが、正門を跡形もなく破壊され、エントランスホールから地下へと続く廊下は壁や床が破壊されています。他には、燭台などが破壊されています」
 咲夜の報告を聞いて、レミリアはため息をついた。
「見事にぶっ壊されたわね……」
 レミリアは頭を抱えた。
「まずは紅魔館の修復が先ね。今いる人員を補充に回すとして、何日かかるかしら?」
「早くて三日ですね」
 咲夜は即答した。
「三日か……」
 レミリアは再び頭を抱えた。
「それだけじゃないわ。妖怪の山で通信が切れた蓮見を探さなくちゃならないわ」
 パチュリ―は砂嵐が映る水晶を眺めながら言った。
「難題は山積みね……」
 レミリアは書類の一枚を取り、それを裏返した。

970ディスクブレイカー☆フラン:2011/04/11(月) 00:53:11 ID:QRZTobBs0
 羽ペンを手に取り、書類の裏にペンを走らせる。
「この際、大胆に行くわよ。蓮見琢磨を探すために妖怪の山に行く? どうせ妖怪の山に行くなら妖怪の山に侵攻するわ!」
 レミリアの発言に、周囲が凍りついた。
「な、何を言っているんですお嬢様!」
 思わず咲夜は大声を上げた。
「風見幽香の襲撃により、こちらは寡兵の上大きな損害を被っています!」
 大声を上げる咲夜をレミリアは手を振って抑える。
「寡兵で、損害を被っているから、よ」
 レミリアは落ち着いた口調で足を組んだ。
「風見幽香のド派手な活動により、私たちが大きな被害を被っているのはすぐに広まるわ。特に、噂好きな天狗が集まる妖怪の山にはね」
 レミリアは静かな笑みを浮かべる。
「相手はこっちが仕掛けてくるとは思っていないわ。そこを突いちゃうのよ」
 ニヤニヤ笑いながら、レミリアはペンを走らせる。
「まずは残った妖精を集めて、紅魔館の修復を行う班と妖怪の山に侵攻する班に分けるわ」
 紙の上に、メイド妖精の文字とその他妖精の文字を書く。
「まずは残った戦力をこの図書館に集めなさい」
 レミリアは紙にフランドールの名を書きながら咲夜に命じる。
 咲夜は短い返事と共に姿を消した。
 しばらくすると、咲夜に連れられてフラン、チルノ、ナランチャ、大妖精、ディアボロ、美鈴が入ってくる。
 入ってきた面々を見て、レミリアは筆を止める。
「そういえば、さっき小悪魔が言ってたわよね。フランの友達一人が重体だって」
 レミリアは、小悪魔の顔を見た。
「あの方が、重体みたいでしたけど……ケロッとした顔で歩いてますね」
 小悪魔は、ディアボロを指差した。
「あれのどこが重体なのよ」
「何かの回復術を使ったのでしょうか?」
「なるほど。そりゃ納得」
 レミリアは紙に名前を次々と書いていく。
 図書館に、妖精たちがぞろぞろと入ってくる。
「しかし、こんなに妖精がいるとは……」
 図書室に並ぶ妖精たちを見て、ディアボロは感心した。
「そういえば、無線で声聞いた時は如何にも死に掛けって感じだったよね」
 妖精たちを眺めるディアボロの横に、フランが並んだ。
「ああ。あの時は流石に死ぬかと思ったな。肋骨なんて全部折れて内臓もズタズタだったからな。ポケットの中にカエルがいなかったら即死だった……」
 ディアボロは平然と答える。
「カエルで大けがが治ったりするって不思議だなぁ……」
 フランはカエルでケガが治ることに疑問を抱きながら、図書館に並ぶ妖精たちを見た。 
 おしゃべりをしながら並ぶ妖精たちのノリは完璧に朝礼を前にして並ぶ小学生たちと同じだ。
「さて、今の妖精の人数を数えなくちゃね」
 レミリアは紙とペンを持って、空中に浮かび上がった。
 そして並んでいる妖精たちの数を数えはじめる。
「そういえば、幽香には何のDISCを仕込んだの?」
 妖精たちの数を数えるレミリアを眺めながら、フランはディアボロに質問した。
「ああ、幽香に仕込んだのは『ゴールド・エクスペリエンスのDISC』だ」
 ディアボロもレミリアを眺めながら答える。
「なんでそのDISCだったの?」
「風見幽香は植物を操る能力らしい。ならば、生命を生み出す能力を持つ『ゴールド・エクスペリエンス』に適性があるんじゃないかと思ってな」
「どこでそんなの知ったの?」
「前に一度会ったことがある。その時は問答無用で殺されたがな。初対面なのにその面ムカつくとか言われて。過去に俺は奴に何かしたのか?」
 ディアボロは遠い目をした。 
 いろいろ苦労したのだろう。フランはそう察した。
 図書館の中は相変わらずざわめいている。
 妖精たちの上を飛び回っていたレミリアは、やっと着地した。
「メイド妖精が237名、その他妖精が463名か……」
 インクで黒くなった紙を見て、レミリアは唸った。
「この戦力で足りるかしら……」
 机の上の書類を一枚とり、それを裏返す。
「まずメイド妖精は全員館に回さないといけないわね……となると、その他の妖精の半数を山侵攻に回して……」
 カリカリと書類に文字をつづる。
 そして書類をぐちゃぐちゃに丸める。
「うー! やっぱり足りないじゃないッ!」
 ぽいと紙を投げ捨てるレミリア。
 帽子の位置を直し、もう一度書類を取り出して裏返す。

971ディスクブレイカー☆フラン:2011/04/11(月) 00:54:26 ID:QRZTobBs0
「ねえ、なんでそんなに悩んでるの?」
 血眼になって机に向かうレミリアの隣に、チルノが立った。
「……そういう貴女は妖精たちの軍団長じゃない」
「作戦立ててるの?」
「そうよ。でも人数が足りないから困ってるわけ。いい作戦でもあるの?」
 レミリアは、茶化してチルノに話を振った。
「人数が少ないなら……いっそのこと少ない人数で行けばいいのよ!」
 チルノは、胸を張って答えた。
 レミリアは、ため息をついた。
「アンタに相談した私が⑨だった……」
 再び机に向き合うレミリア。
「いや、その案はいけるわよ」
 チルノの横に、パチュリ―が立った。
「何よ、パチュリ―まで馬鹿になったの?」
「ちがうわよ」
 にらむレミリアに首を振るパチュリ―。
「統率のとれた組織が相手なら、こちらは幾分の自由がきく少人数の方がいいわ。ましてや地形は山。隠れる所なんて溢れるほどあるわ」
 パチュリ―の解説に、レミリアの目から鱗が落ちた。
「さらに、複数人を独立させて行動させれば陽動作戦にもなるわ」
 パチュリ―の追い討ちともいえる解説に、レミリアは落ちた。
「決定。少人数で妖怪の山に忍び込むことにしましょう」
 レミリアは新しい書類を取り出して裏返す。
「作戦が決まったら、妖怪の山に忍び込むメンバーを決めなきゃね」
 レミリアは、羽ペンをインクに浸した。
「とは言っても、若干の妖精も含まれるから、リーダーとしてのチルノは外せないわよね」
 紙にチルノの名前を書く。
「次に、咲夜が行ってちょうだい。咲夜はチルノ達とは別行動で」
 レミリアのそばに立つ咲夜は、静かにうなづいた。
「あと数人か欲しい所だけど……」
 レミリアは羽ペンをくわえて、周りを見る。
 手を挙げている人間が1人いた。ディアボロだ。
「あなたは……フランの友達ね。そういえば、名前を聞いていなかったわね」
 フランはディアボロの前まで飛んでくる。
 ディアボロは少し間をおいて、
「ソリッドだ。ソリッド・ナーゾ。それが俺の名だ」
 偽名を使って答えた。
「なるほど……で、ソリッドさんは妖怪の山に潜入するって言うのかしら?」
「ああ。そうだ。だが一つ条件がある」
「条件?」
「俺は一時間遅早く山の中に入る。それだけだ」
 ディアボロの示した条件に、レミリアは首をかしげた。
「それだけなの?」
「ああ。それだけだ」
 それだけの会話を終えると、レミリアは紙にディアボロの偽名を書き足した。
「他に志望者は?」
 レミリアは周囲を見渡すが、手を挙げる者は一人もいない。
「潜入組は妖精5人とチルノ、咲夜とソリッドだけね……」
 紙を畳んで、レミリアは机へと戻った。
「今夜は解散よ。作戦の実行は明日の夜に実行するわ」
 レミリアが声を大きくして宣言すると、妖精たちは次々と図書館から出ていく。
 そして静けさが図書館に戻ってきた。

972ディスクブレイカー☆フラン:2011/04/11(月) 01:02:38 ID:QRZTobBs0
 シン、とした図書館に、紙をめくる音だけがこだまする。
「さて、私たちも作戦会議しなくちゃね」
 フランは、4人を集めた。
「ああ、春水晶は手に入ったんだろ?」
 ナランチャが、フランのポケットを指差す。
「うん。まずは一つ手に入ったよ」
 図書館の中を歩き、5人はフランの部屋に入る。
「さて、これで監視の目も届かないわね」
 部屋に入るなりフランはベッドに座って春水晶を取り出す。
「作戦会議、とはいってももう夜になってきたからチルノ達は帰らないとね」
 フランは春水晶をナランチャに投げて渡す。
 ナランチャはそれを余裕でキャッチした。
「これを人里に持って帰るのか?」
「そうよ」
 ナランチャの質問にフランは即答した。
「なるほど、別の所で保存するって訳か。それじゃーな!」
 フランの意図を理解したナランチャはそれをポケットに突っ込んで部屋から出ていく。
「明日は妖怪の山突入だから、あたいも帰るね」
 チルノは、すぐに部屋から飛び出していった。
「あっ、待ってよチルノちゃん!」
 大妖精もチルノを追いかけて出ていく。
「行っちまったか……」
 壁に背中を預けるディアボロが、3人を見送った。
「ディアボロは、どうするの?」
 フランは足をばたつかせながら、ディアボロを見る。
「まずは香霖堂へ行ってDISCを調達してくる。その後は湖周辺でカエルを探しながら待機ということになるな」
 ディアボロもドアを開き、部屋から出て行った。
「ふーむ、ともあれ、春水晶の獲得は達成できたわ。妖怪の山の春水晶も獲得しないとね」
 フランは寝転がって、天蓋付きベッドの天井を見た。
 コンコン、とノックの音がする。
 フランが扉を開くと、そこには咲夜の姿が。
「妹様、夕飯の時間です」
「分かった。今いくよ」
 咲夜に連れられて、フランは部屋から出て行った。
←To be continued... EDテーマ Chris Cornell『You Know My Name』

  次回予告
 通信を絶った蓮見琢磨を救出し、春水晶を奪うべく妖怪の山侵攻に乗り出したレミリア。
 突入するのはチルノ率いる妖精5人、咲夜、ディアボロ。
 しかし、彼らがいない時に最大の危機が紅魔館に訪れる。
  次回、ディスクブレイカー☆フラン『闘争の支配者』

973154:2011/04/11(月) 01:05:10 ID:QRZTobBs0

   あとがき
 と、いうわけで今回のEDテーマは007カジノロワイアルのOPです。
 う〜ん、短いッ!
 がんばれ、俺。早く書け、俺!

974キラ☆ヨシカゲ:2011/04/11(月) 15:38:20 ID:e4lGRsIoO
投稿お疲れさまです。

前回はディアボロがホルス神で幽香を攻撃しようとしている場面で終わりましたが、その後どうなったのでしょうか?

975154:2011/04/11(月) 18:16:25 ID:PWOYqqws0
はい、フランと戦っていた時に幽香めがけて飛んできた氷弾がホルス神です。
幽香に攻撃を加えた後で意識を失いかけながらもポケットの中のカエルに気が付いてそれを使って傷を癒しました。
ですから今回の話でディアボロが生きていたんですね〜

976吸血魔法使いDIO:2011/04/11(月) 20:19:57 ID:nEuLrRbU0

 今更ですが、投稿お疲れ様です。

 妖怪の山編、最初に誰が出るんでしょうかねー。

977キラ☆ヨシカゲ:2011/04/11(月) 20:42:27 ID:e4lGRsIoO
前回はフランと無線で話し終えて、ディアボロが幽香に指を向けたところで終わっていましたが、その後フランと戦ったということですか?

978154:2011/04/11(月) 21:27:10 ID:MXwQwbVU0
…見返していた。
抜けていた。
……完全なる私のミスだ……
3度ならまだしも4度までもッ……!
書き直さないと。
次回は修正版を投下することになりそうです。
みなさんすいませんでした。

979154:2011/04/12(火) 21:32:53 ID:1ynWfkeg0
 前回は大変な脱行をしてしまいすいませんでした。
 対幽香戦の修正版を投下いたします。

980154:2011/04/12(火) 21:39:52 ID:1ynWfkeg0

  ディスクブレイカー☆フラン『とっておきの裏ワザ』(修正版)
 全力で走る大妖精を、幽香が追いかける。
 幽香から放たれる弾幕を、大妖精は必死に回避しながら廊下を走る。
 幽香の弾幕が壁を容赦なくえぐる。
 数少ない窓ガラスを割り、扉のドアノブを吹き飛ばし、廊下を走るなの張り紙を燃やす。
 弾幕が、大妖精の足に当たった。
「あっ……」
 大妖精はこけて、廊下に倒れる。
「さあ、つかまえた……」
 立ち上がろうとする大妖精を前に、幽香は霊魂化をといて立ちはだかる。
「さーて、ちゃっちゃとのして春水晶を盗みに行きますか」
 幽香は大妖精に向けて傘の先を向ける。
「これで終わりよ!」
 撃ちだされる光を前に、大妖精は体を転がしてそれを回避する。
「ちょこまかと避けるわね……」
 幽香は傘の先を修正。
 大妖精は一瞬で姿を消して、傘の上に立つ。
「やっぱりワープ能力ね。短距離限定の」
 大妖精の能力に対して確信を得て目を細める幽香。
 大妖精の放つ至近距離弾幕を幽香は首を振って回避すると、傘を振って、大妖精を打ち上げる。
「私の傘に乗るなんていいバランス感覚してるじゃない」
 宙を舞う大妖精に狙いをつけ、幽香はレーザーを放つ。
 対して大妖精はワープを行い、瞬時に着地。そのまま幽香とは逆の方向へ走り出す。
「まだ逃げる気?」
 幽香は再び傘を向ける。
 大妖精は姿を消した。
「またワープね。今度は何処に消えたのやら……」
 ため息をつき、幽香は傘を振りながら振り向く。
 大妖精はバックステップで振るわれる傘を避ける。
「まだまだ!」
 大妖精はワープを繰り返し、時には幽香の背後を取り、時には彼女の頭上を取る。
 しかし、弾幕は放たない。
「いつまでも背後取ってばっかだとマンネリになるわよ」
 いらだちを募らせた幽香は傘を振って大妖精を煽る。
 大妖精は、彼女の前に姿を現した。
「だったらその誘い、乗ってあげますよ!」
 キッと幽香をにらみ、突進していく大妖精。
「いいわ! その調子よ」
 幽香は傘を構え、大妖精の体当たりを受け止める。
 全体重を込めた大妖精の体当たりは、幽香の体を突き飛ばす。
 突き飛ばされた幽香は両の足で床を踏みしめ、大きく後退する。
 その目の前に大妖精はワープし、クナイ弾を放つ。
「やっと『らしく』なってきたんじゃない?」
 飛んでくるクナイ弾を素手ではじきながら、幽香は弾幕を大妖精に向ける。
 両者の弾幕は2人の間で衝突する。
 だが、数もパワーも幽香の方が勝っていた。
 どんどん幽香の弾幕が大妖精の弾幕を押していく。
「負けるわけにはいかないッ!」
 追い詰められた大妖精は再びワープ。
 ワープ先は、自分のすぐ隣。
 だが、そこにも幽香の弾幕は及んでいた。
 幽香の弾幕を全身に浴び、大妖精は吹き飛んで壁に叩き付けられた。
「うっ……ぐっ……」
 ずるずると壁面をずり落ち、地面にへたり込む大妖精。
 その目の前に、幽香の傘が突き刺さった。
「ねえ、そろそろ逃げるのやめたらどう?」
 大妖精の頭上から、幽香の言葉が降りかかった。
「誰が逃げてなんか……ッ!」
 顔を上げて、大妖精は幽香を睨みつけた。
「その態度よ。あなたは何処かで『甘え』を持っているわ。それも自分でも気づけないほどの『甘え』をね」
 幽香の言葉が、大妖精の胸に突き刺さった。
「あなたはどこかで『自分では目の前の敵に勝ことができない』と考えている。一歩引いた所に立っている。それは『冷静』とは言えないわ。ただの『臆病』よ
 振り下ろされた言葉に、大妖精は貫かれた。
「あなたには決断する力が足りないわ。決断なさい。今ここで逃げるか、ここで戦うか」
 幽香の声に、大妖精はうつむいた。
 確かに、甘えていた。言われて初めて分かった。
 幽香から逃げ続けて、フランちゃんを解放すれば勝てると思いっていた。
 でも、違う。
 フランちゃんでは勝てない。
 最初の分身をしたとき、背後に出てきた幽香の方が本物だった。
 このことから考えると、幽香の分身はいつでも入れ替わることができるかもしれないということ。
 だとすると、フランちゃんでは勝てない。
 あのピンク髪の人がDISCを押し込んだ幽香は今あの人と戦っている幽香と入れ替わっているかもしれないということだから。
「確かに、私は『甘い』し、『臆病』よ。でもね、『臆病者』には『臆病者』なりの戦い方があるんです!」
 大妖精は決心して、ワープを敢行。幽香の背後に躍り出る。
「だったら見せてもらうわ! 臆病者の戦いってやつを!」

981154:2011/04/12(火) 21:41:16 ID:1ynWfkeg0
 幽香は反射的に傘を振るって振り返る。
 大妖精の脇腹に、傘が命中して彼女を叩き飛ばす。
「引っかかりましたね!」
 飛ばされながら、大妖精はニヤリと笑った。
「なッ……傘が……!」
 幽香は驚きに目を見開いた。
 自分の手元から傘が離れているのだ。
「これが私の切り札です!」
 壁面に着地する大妖精の手首には、細い糸が巻き付けてあった。
 その糸は幽香の傘の先に結ばれていた。
「ゴムひもです! ゴムひもは柔らかい……柔らかいということは、何よりも丈夫なことなんです!」
 大妖精のゴムひもはたわみ、幽香の傘を彼女の手元まで運んでくる。
「これで防ぐ物はありませんよ」
 傘を投げ捨て、スカートのすそを膝のあたりで結ぶ。
「ゴムひもなんて、どこから持ち出したのかしら」
 幽香は大妖精をにらみつけた。
「私がつけているドロワーズから取ってきました」
「なるほど。ワープを繰り返していたのはドロワーズからゴムひもを抜いていることを悟られないためだったのね」
「その通りです」
 スカートのすそを結び終えた大妖精は、膝を少し曲げ、両手を前に突き出す。
 大妖精の手から弾幕が放たれる。
「傘を奪っただけで、どうにかなると思ったの?」
 傘を奪われてもなお、幽香は余裕の姿勢を崩さずに弾幕で大妖精の弾幕を弾く。
 大妖精は飛び上がり、上からクナイ弾と光弾の混合弾幕を放つ。
 光弾はクナイ弾にはじかれて反射し、不規則な軌道を描いて周囲に散らばる。
「まだまだ!」
 大妖精は続けて気合とともに炎弾を幽香に向けて繰り出す。
「甘いわ!」
 迫りくる弾幕を目の当たりにして、幽香は目をカッと見開いた。
 幽香は手を突き出す。
「すべてを薙ぎ払うッ!」
 次の瞬間、幽香の手のひらから光が迸った。
 光は、紅魔館の廊下を埋め尽くし、館の壁に特大の穴を開ける。
「さーて、あなたは今頃私の背後に……」
 幽香は拳を振るって振り返った。
 拳は、空を切った。
「いない……」
 拍子抜けした幽香は、思わず力を抜いてしまった。
 目を丸くして、廊下をきょろきょろと見渡す。
 その頭上に、傘を持った大妖精が現れた。
「でえええええい!」
 傘の重さに任せて、大妖精は幽香の脳天に傘を振り下ろす。
 ガン、と重い音がした。
「げっ……」
 幽香の頭から星が飛び出した。
 そのまま彼女は振り子のように揺れ、床に倒れこむ。
「かっ、体が動かない……気分も悪い……」
 床に伏せる幽香の目の前で、傘が音を立てて落ちる。
「私の全力を前にして、ワープするかと思ったのに……まさか私の傘を使うだなんてね」
 幽香は寝返りをうって、宙に浮く大妖精を見る。
「幽香さんの傘……すごく重かったですよ……」
 大妖精は肩で息をしながら幽香を見下ろす。
「ねえ、聞かせて頂戴。なんで逃げるのを止めて私に挑みかかってきたのかを」
 幽香は擦り傷だらけの大妖精の顔を見た。
「幽香さんの分身は、いつでも本物と分身の入れ替わりがつくんじゃないんですか?」
「当たりよ。どうしてわかったのかしら?」
「最初にあなたが分身して、レーザーで挟み撃ちにしたときです。私は分身を出したあなたを盾にしようとしましたが、私が盾にしたあなたはレーザーが当たる寸前に姿を消しました。その時に、分身したときには位置の入れ替えができるのではないかと思ったんです」
「それが私から逃げるのをやめたことにどう関係があるの?」
「レーザーを浴びた私の前に立った時、あなたの背後から攻撃を加えた人がいましたよね?」
「ああ、あのピンクの髪をした男ね」
「彼こそが勝利のカギでした。彼が仕込んだ『あること』であなたを倒そうとした私は、フランちゃんを呼ぶべく走り出しました。そこにあなたが分身して追いかけてきたというわけです」
「なるほど、フランドールがカギだったからあなたは彼女を助けるべく逃げたのね」
「そこであなたが追いかけてきた……もしかして、フランちゃんと彼が仕込んだ『あること』が関係があるって気づいていましたか?」
「そりゃもちろん。『走れ! 準備はできた! 後はフランを開放するだけだッ!』なんて叫ばれたら何かがあるっていやがおうにも気づくでしょう?」
「その通りです。そしてあなたは本人が私を追いかけてきたと見せかけ、戦っている途中で分身と入れ替わった……」
 大妖精は、幽香の目の前に降り立つ。
 彼女の顔を見て、幽香は微笑む。
「100点満点よ。花丸をあげるわ……」
 微笑んだまま、幽香の分身は消え去った。
 廊下に残るのは、ぼろぼろの大妖精のみ。
「勝った……分身だったけど、幽香さんに勝った!」
 大妖精は大きく息を吸い込んで、叫んだ。

982154:2011/04/12(火) 21:42:54 ID:1ynWfkeg0
 そして足を引きずりながらも歩き出す。
 しばらくすると、
「くあー! とーれーなーいー!」
 ツタに縛られてもがくフランの姿が見えてきた。
「フランちゃん! 今助けてあげる!」
 大妖精は走り出し、『ミキタカのDISC』をフランの頭に押しこんだ。
 すると、フランの体はパタパタと折りたたまれ、いくつかの小さなサイコロとなって床に落ちる。
「よし!」
 大妖精はそれを掴み、廊下の真ん中に置く。
 サイコロは形を変え、フランへと元通り。
「よかった……」
 完全復活を遂げたフランを見て、大妖精はへたり込んだ。
「大ちゃん、大丈夫?」
 倒れる大妖精の顔を、フランは覗き込んだ。
「ちょっと疲れただけ」
 大妖精は笑顔を作った。
「よかった。で、幽香は?」
 フランの質問に、大妖精は今きた方向を指差した。
「あの人が幽香さんの頭にDISCを仕込みました。あとはフランちゃんが来るだけだって言っていましたよ」
 その言葉を聞いたフランは無言でうなづいて、走り出す。
 壁が壊れて日の差す廊下を、フランは駆け抜けていく。
「ディアボロが幽香にスタンドを仕込むことができたなら……勝負は一瞬でつくッ! 『ストレンジ・リレイション』」
 フランは『ストレンジ・リレイション』を出す。
 走っていると、フランが胸につけている無線機からノイズが走った。
「ガガッ……フランか?」
 無線機からは、ディアボロの声が聞こえてくる。
「ディアボロね。今大ちゃんから助けてもらったわ」
「そのことについてだが、まだ来るな。アイツはお前が俺たちの切り札だということを知っている!」
「だったらどうするの?」
「俺が幽香の動きを止める……『エコーズact3のDISC』で!」
 ディアボロからの、通信が途絶えた。
 ディアボロは、『キング・クリムゾンのDISC』を防御用に装備。
 代わりに、懐から取り出した『エコーズact3のDISC』を攻撃用に装備する。
「行くぞ。『エコーズact3』ッ!」
 ディアボロは『エコーズ』の拳を振るう。
「遅いッ!」
 幽香はそれを拳で受け止めていなす。
「うぐッ……『フー・ファイターズ』で回復してもらったとはいえ、骨は完全に繋がっていないか……」
 腕に走る電撃のような苦痛を気合で抑え、二の拳を振るう。
「出てきたものが変わったわね」
 幽香はエコーズに警戒し、バックステップで距離を取る。
 と、着地の際幽香の足が床に沈み込んだ。
 幽香は驚きに目を開き、脚を注視した。
「よそ見するな」
 隙を見てディアボロは急接近。『エコーズact3』の拳を続けて叩き込む。
 幽香は迫りくる拳の弾幕を拳ではじく。
「さっき出したベルギーワッフルみたいな奴よりパワーは低いみたいね」
 幽香は拳で『エコーズact3』の拳を逸らし続ける。
 と、彼女の顔のすぐ横を、『エコーズact3』の拳がかすめた。
「捌き損ねた……?」
 幽香は驚いて、再びバックステップをする。
 ディアボロから距離を取り、着地すると、彼女の膝が地面に張り付いた。
「なっ……体が重い……!」
 幽香は転倒し、手を地につける。
 手も、脚も、地面にめり込む。
「これは……まさか重さを増やす能力なの!?」
 戸惑いとともに、幽香はディアボロを見た。
「単なる力比べじゃ俺に勝機はないからな。お前の体重を増やして動きを遅くさせてもらった」
 ディアボロは『エコーズact3』と共に床に這いつくばる幽香を見る。
 幽香は、笑っていた。
「ッククク……そう、体重を増やしたのね。それは好都合だわ」
 幽香は不気味に笑いながら、傘をディアボロとは反対方向へ向ける。
「外の世界には、自動車っていう、鉄でできたひとりでに動く馬車がのがあるらしいわね」
「ああ。腐るほどある」
「それって、馬車とは比べ物にならないほど重くて、速いんでしょうね……」
 幽香は、傘の先から極太レーザーを放った。
 ディアボロの立つ方向とは反対の方向へ向けて。
「しまった!」
 ディアボロは驚いて伏せようとした。
「遅い! 遅すぎるわよ!」
 高速で動き出した幽香の体がディアボロの体に衝突する。
 数百キロの重さを持ち、時速百数十キロの速度を持つ幽香がディアボロの体を吹き飛ばす。
 結果、ディアボロは廊下の果てまで吹き飛ばされ、壁に衝突した。

983154:2011/04/12(火) 21:45:09 ID:1ynWfkeg0

 彼の口からは血が噴水のように噴き出た。
「がふッ……油断したッ……!」
 ディアボロは内出血を起こして紫色に染まった胸を見つめる。
 致命傷だ。
「ディアボロ! どうしたのディアボロ!」
 無線機からは、フランの声が聞こえてくる。
「フラン……やるなら今だ……『ストレンジ・リレイション』を用意しろ……」
 口から血を流しながら、ディアボロは無線機ごしにフランに訴えかけた。
 激痛と共に、意識が薄まっていく。
「まだ、終わらん……『エコーズact3』の効果射程は離れたが、まだ『ホルス神』の射程内だッ!」
 ディアボロは最後の力を振り絞り、目の前はるか先に立つ幽香に向かって指を向けた。
 

 フランは幽香の居場所に行きついた。
「来たわね」
 幽香は傘を肩に担いで振り返り、フランを見る。
「いいか、チャンスは一度だけだ。俺が奴の気を引く……」
 無線から出るディアボロの声にフランはうなづき、一歩引いた。
「悪魔の妹だっていうから見に来てみれば、なんてことないわね。ただの女の子じゃない」
 幽香は傘の先をフランに向ける。
「一発で気絶させてあげるから変に動かないでね」
 傘の先に光が収束する。
 フランはひるむことなく、『ストレンジ・リレイション』のハンドルを握りしめる。
 傘の先からビームが放たれようとする。
「いい度胸ね」
 幽香が改めて狙いを付けようとすると、彼女の足元が凍りついた。
「なっ、何が起きたの!?」
 突然の出来事に幽香は戸惑い、照準を大きく外してしまう。
 傘から放たれたレーザーは、フランのすぐ横を通過した。
 レーザーがフランの横を通り過ぎるのと同時に、幽香の顔の横を氷の弾が通り過ぎる。
「後ろねッ!」
 幽香は振り返って傘を向ける。
 フランはそれを見て『ストレンジ・リレイション』のハンドルを回し始めた。
 廊下に奇妙な音色が流れだす。
 幽香の手が、震えはじめた。
「な、何!? この音色は……!」
 震える手は傘を取り落す。
 締め付けるような頭痛がする。
 強烈な眠気に襲われる。
 頭痛に耐えながら、幽香はフランをにらんだ。
「あなた……何をしたっていうの?」
 幽香の質問に、『ストレンジ・リレイション』のハンドルを回すフランは静かに口を開いた。
「音楽は知性ある者を揺さぶる。音楽は知性ある者の心を支配する。音楽は原始の衝動! 『ストレイジ・リレイション』の旋律を耳にした時ッ! 全てのスタンド使いは私の掌の上にいるッ!」
 フランの答えを聞いたとき、幽香は既に術中にはまっていた。
 彼女はフラフラと振り子のように揺れて、床に倒れこんだ。
 意識を失った幽香を見て、フランは深く息をついた。
「風見幽香を倒したみたいだな……ゴホッ、ゴボッ」
 無線機から、ディアボロの声が聞こえてきた。
「ディアボロ! 大丈夫!?」
 フランは心配そうな顔で無線機に話しかける。
「俺は駄目かもしれん……死ぬ前に一つ言っておこう。春水晶は幽香が持っているはずだ……」
「な、なんで……!?」
「考えてもみろ。奴は『たった1人の勢力』だ。1人だけでどこかを攻めるとき、大事なものは何処に置いておく?」
「一番安全なところだよね」
「そうだ……そして幽香の周辺で一番安全なところと言えば?」
 そう言われて、フランはハッとなった。
 すぐにフランは幽香の体を調べ始める。
 彼女の胸元から、固い感触が伝わってきた。
「これね……」
 フランは幽香のベストの中をまさぐる。
 チェックのベストの内ポケットに春水晶はあった。
「あった……」
 フランは、それをポケットの中に入れた。
←To be continued... EDテーマ Sweet Vacation『Brandnew Wave』

984154:2011/04/12(火) 21:45:48 ID:1ynWfkeg0
 贖罪に次スレを立ててきます。
 以上、154でした。

985154:2011/04/23(土) 22:00:02 ID:7wuxzJ7s0
どうやら私は些細なミスを犯しまくるようですね。
東方最新作、またいいキャラが増えましたね。
ジョジョも結末と8部が気になりますし。

986吸血魔法使いDIO:2011/04/26(火) 23:01:12 ID:AczfHTKo0
投下投下。
今回は短めー。
私だけで使い切るのは量を書けないから無理でした。




 第六話:博麗神社・後編


 「札程度で一つの存在が容易く消し飛ぶとはな」

 「今代の博麗の巫女は歴代最強ですから」

先ほどまで姿が見えなかったのに、また再びDIOの真横に出現する紫。
妖怪が博麗の巫女に襲い掛かった瞬間、やる気なさげに取り出した札が妖怪に
張り付き、力の奔流がその存在を一撃で跡形も無くふき飛ばした。
妖怪も力だけは無駄に大きい存在だったようだが、博麗の巫女はそれをものともしないようだ。

 「今のは魔法の類か」

 「まさか、神に仕える者が魔法を扱える分けないでしょうに。

  あれは霊力と呼ばれている力よ」

霊的なエネルギー、その部分だけを聞けば、どことなくスタンド能力だと思うだろう。
が、そういうのとは違い、むしろ人間が強大なものに対して立ち向かう為に練られた
技術らしい。
スタンドではなく、"波紋"の方が近いだろう。

 「ま、あれでも霊夢は全力ではありませんが」

 「……」

本気でやればどうなっていたのだろうか。
確かにやる気無しの状態であの威力だ。
気合を入れていればもう少し破壊力などが増していただろう。

 「幻想郷では人間も規格外か」

 「……いやー、一括りにされると困るのですが」

特徴的な花飾りをした少女が、DIOの言葉に突っ込みを入れる。
DIOの見立てでは、実力自体はたいした事の無い少女だ。

 「ところで、あなたは今の言葉からすると外の人ですか?」

 「人というのもおかしいが、外の者である事は間違いないな」

こころなしか、周囲の妖怪がDIOに視線を集中させた気がする。
もしかしたらかなり閉鎖的な地区なのだろうか、この幻想郷は。
そして、外のものであるDIOを敬遠しているのか。
と、ここで巫女が手招きをしていた。

 「行ってみたら?」

 「いきなり退治されるのはごめんだぞ」

987吸血魔法使いDIO:2011/04/26(火) 23:02:04 ID:AczfHTKo0
負ける気は無いが、何か別の能力を持っている可能性も否定できない。
幻想郷最強と言われているのだから時を止める能力を上回る何かを保持している
可能性を否定しきれない。

 「流石にそちらから仕掛けない限りは無いですわ」

 「ふん、一応信頼しておくぞ、その言葉」

そう言いながらDIOは妖怪たちの視線を浴びながら、巫女の方へと寄って行った。

 「何の用だ」

 「いや、憑かれてるなって思ってたけどちょっと違ったわ」

ザ・ワールドが見えている。
紫の件で既にスタンド使い以外が能力によっては見えている事は理解していたのだが。
もっとも、紫も見えているだけであり、ダメージは与えられないと言っていたが、
胡散臭い為、実は可能なのではないかと考えている。

 「言っておくが悪霊の類ではない、自分自身で動かせるからな」

 『ねえ、紫。DIOの扱える奴ってどんな姿してるの?』

 『人間と機か……カラクリが混ざったようなものですわ』

 「てい!」

 「いきなり蹴られても困……!」

ザ・ワールドの脚を蹴られた瞬間、それほどダメージは無いにしろ、
DIOの脚にも同様の衝撃が襲い掛かってきた。

 (馬鹿な!スタンドが生身の存在にダメージを貰ってしまうだと!?

  コイツもスタンド使いか?いや、ヴィジョンは見えなかった。

  本体と一体化するタイプやもしれぬが、スタンド使い自身がスタンドに

  ダメージを与えるなど有り得ん………幻想郷という環境がその前提条件を

  崩しているのか?)

強いて言うなら試した事は無いが波紋のような技術によるものであれば、
スタンドにダメージを与えられるかもしれないという仮定があるのだが………
少なくともジョセフ・ジョースターは自身のスタンドに波紋を流し込めていた状態である。
ちなみに当然だが事情を知っているアリスと紫以外の面々からは理解不能な視線を
浴びせられていた。

 「………あら、感覚共有してるのね。ごめんなさい。

  霊的なものを攻撃できるのか試してみたかったのよ」

幽霊を攻撃する訓練は積んだらしいのだが、実際に幽霊を見た事が無いので、
丁度良いという理由でDIOを招きよせただけらしい。
誠意は完全には篭ってないが、知らなかったしやばい事にならなかったから
許して?といった感じの態度が見え見えだった。

 (感覚共有……あの子の半霊みたいなものね。ま、霊夢以外だと幽霊系統の

  者しかダメージを与えられそうに無いですが)

 (DIOがスタンド使い以外には見えないって言ってたけど………博麗の巫女って実は

  スタンドを扱う一族なのかしら)

988吸血魔法使いDIO:2011/04/26(火) 23:02:35 ID:AczfHTKo0
 「ふん」

 「あいた」

ザ・ワールドでデコピンしておいた。
圧倒的なパワー・圧倒的なスピード・それらを制御できる精密動作性での手加減の一撃。
………ザ・ワールドに意思があれば泣いているに違いない。
DIO自身もくだらない事に全力を費やしたと若干後悔していた。
それはともかくとしてまったく避けなかったのだが、攻撃を見越していたのか、それとも
攻撃を受けても動じない自信があったのか。

 「勘よ」

 「………俺の思考を勘で読んだわけか」

勘が良いにも程があるだろう。
とりあえず、今のでお相子という事にしておいて、DIOはアリスの居る場所へと戻っていった。

 「お疲れ様」

 「……ところであの子供は博麗の巫女を見つめているがこれを見越していたのか?」

師匠と思われる幽霊―――あの幽霊に攻撃すればよかったのではないのか―――
の後ろから博麗の巫女を覗き込んでいた。
対抗心を隠す事無い状態で。

 「えぇ、そうですわ。………あの子は見立てですと努力で伸びるタイプ。

  博麗の巫女の圧倒的な力を見せれば、それに挑む為の意思を持つ。

  あの子に明確な目標が出来て、霊夢は間接的な修行相手が出来て一件落着ですわ」

どこまでがこの妖怪の計算なのだろうか。
聞き出そうと思ったが、どうせ嘘9割混ぜ込んで話し出しそうなので諦めた。

 「ところで、今日はもう終わりなのかしら?」

 「そうなりますわね。巫女と挨拶を交わすのであればこの場に残ってもかまいませんが」

と、紫が言った頃には既にDIOとアリスは他の妖怪達と同様にスタスタと神社を
出て行く最中だった。
神社に残っているのは、人里の二人と花の妖怪、後は天狗だけ。

 「ま、今はあれでよしとしますか」

そう言って紫は今代の博麗の巫女、霊夢の元へと移動した。

989吸血魔法使いDIO:2011/04/26(火) 23:04:56 ID:AczfHTKo0

 投稿終了。

 次回にちょっとニ、三話ほど日常的なシーンを入れて

 ようやく異変スタートです。

 ではでは、また次回!

990154:2011/04/26(火) 23:17:46 ID:FGF8ImH60
投稿お疲れ様です。
異変スタート、というと紅魔郷のことでしょうか?

991キラ☆ヨシカゲ:2011/04/27(水) 00:27:22 ID:B.Dol5R6O
投稿お疲れ様です。
霊夢ならスタンドへの攻撃も恐らく可能でしょうね。
日常編も異変も楽しみにしています。

992キラ☆ヨシカゲ:2011/04/27(水) 21:42:19 ID:g/TvrH.s0
投下開始します。

993〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2011/04/27(水) 21:43:37 ID:g/TvrH.s0
〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜
第十七話 デッドマンズ・ラプソディ 後編



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「ッ!」
上空から放たれた弾幕を、キラークイーンの脚でバックジャンプし避ける。
「くそっ、いきなりだな…!」
嵐のように降り注ぐレミリアの弾幕をサイドステップでかわしつつ、吉影は
反撃に出る。
「『ストレイ・キャット』!」
ガバッ!
キラークイーン腹部のシャッターが開き、『ストレイ・キャット』が咆哮する。
「ギャアァァァァァス!」
無数の空気弾が撃ち出され、竹林の中の更地に四散していった。
「美鈴、咲夜を連れて行きなさい。」
「分かりました、お嬢様!」
美鈴が気絶した咲夜を抱え、空気弾の包囲網から逃れる。
空気弾は更地の上空を覆い尽くし、レミリアを完全に取り囲むと、ガシィィン!と空中に固定された。
「………開戦の合図も無しにいきなり攻撃とは……部下が倒されて怒ったのか?」
吉影がレミリアを睨み、口を開いた。
「ふん、部下だって?違うね、掃除洗濯料理に手品、戦闘までこなす、歌って踊れるだけの下等な人間よ。」
ぞんざいに鼻を鳴らし、レミリアは答える。
「人間は使えないくせに脆いからね、丁重に扱ってくれないと困るのよ。『あれ』は私の所持品よ、私の物を汚した奴は誰だろうと殺してやるわ。」
レミリアが吉影を見下ろし、冷酷な声で言い放った。
「ふーん、君の持ち物か……だったら、早めに竹林の医者に診せに行った方が良いと思うぞ。酸素中毒は後遺症が残るからな……」
他人事のように言う吉影に、レミリアは怒りの目線を向けた。
「……貴方、『覚悟』は出来てるわよね…?」
「無論だ。わたしは常に『生きる覚悟』を持って事に臨んでいる。」
吉影の目が細められる。
「そして『生きる覚悟』があるという事は……君を『生かさない覚悟』もあるという事だ!」
吉影がパチン!と指を鳴らした。その瞬間、
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの側の空気弾が爆発した。
「ッ!」
レミリアは人間離れした反射速度で爆圧半径から逃れ、辺りを見回した。
空中に固定された無数の空気弾の中には、全て『紙』が入っていた。
「わたしの『爆弾』は一発ではない……『スタンド能力』で『爆発』を『紙』に変えておけば、何発でも発射出来る!そして、お前は既に『機雷原』の只中にいる!」
吉影の声に、レミリアは嘲笑で答える。
「フン、これしきで私を封じたつもり?五世紀後に出直して来なさい!」
ギュゥゥンッ!
レミリアの翼が空を打ち、空気弾の隙間を縫って紅い彗星のように吉影に迫る。
「無駄だ!全ての空気弾を一斉起爆する!小蝿一匹逃がさないッ!」
『ストレイ・キャット』が空気弾を弾けさせ、『紙』が風圧で一斉に開く。
ドグオオオォォォォォォォォォォォォ!!
大爆発が更地を襲った。圧倒的な爆風風圧が竹林を駆け抜け、竹を揺さぶる。
蟻一匹も生き残る隙間の無い、完全な爆発包囲網。翼を広げたレミリアのシルエットも、完全に爆炎に呑み込まれた。



「――――紅符『不夜城レッド』」
ドドドドドオオオォォォォォォ!!
爆炎を突き破り、深紅のオーラが吉影に襲い掛かった。
「ッ!」
『空気の防壁』の中にいた吉影は、咄嗟に『ストレイ・キャット』の能力を解除し後ろに飛び退き回避した。
ズドオオオォォォォォォン!!
オーラは彼が寸前まで立っていた地面に直撃し、巨大なクレーターをぶち開ける。
「チッ、ボムか……」
オーラの向かって来た方向を見上げると、レミリアが紅いオーラを身に纏い彼を睨んでいた。
「さっきは『埃』でよく見えなかったけど、二度目は無いわよ。」
ギュンッ!!
障害物が消化され、何物の邪魔も受けなくなったレミリアが、宙を打ち叩き一直線に吉影に突っ込む。
「紅符『不夜城レッド』!」
吉影に急接近しながら、焔のように揺らめくオーラを全身にみなぎらせ、吉影目掛けて解き放とうとした時だった。

994〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2011/04/27(水) 21:44:52 ID:g/TvrH.s0
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの眼前で、何の前触れも無く爆発が起こった。
「っ!?」
突然の攻撃に、レミリアは怯んだ。放たれたオーラは間一髪爆発を掻き消したが、身体の軸が僅かにぶれ、発射角度がずれた。吉影のサイドステップで容易く避けられ、地面に大穴を穿った。
「―――『ストレイ・キャット』の『空気弾』が見えるのは……『密度』が大きいからだ……」
困惑しているレミリアに向けて吉影は言った。
「空気を固める以上、いかに『スタンド能力』と言えども物理法則には逆らえず、僅かに『密度』を高めてしまう。そのため、周囲の空気との密度差で屈折率が変化し、『透明だが見えてしまう』――丁度ガラスと同じようにな……
だが、もし『空気と同じ密度の空気弾』を作ることが出来れば、それは一切見えない『完全なステルス弾』になる……」
「ギャアアァァァァァァァァス!!」
キラークイーン腹部の空間で、『ストレイ・キャット』が吼えた。その横に置かれているのは、可燃ガスの詰まったボンベだった。
「『ストレイ・キャット』が固めるのは自然の空気だけではない……
ガスの密度は空気よりも小さい。そしてそれを固めた『ガス弾』の密度は、空気と同じになるよう調節されている。もはや妖怪の目であっても見切ることは不可能だ!」
吉影が勝ち誇ったように言う。
「そしてッ!既にお前の周りに『ガス弾』を配置した!勿論、『爆弾』以外の『ガス弾』自体も爆発する!今度こそ終わりにしてやるッ!」
キラークイーンが、スイッチを押した。
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの半径二メートル以内まで接近していた『爆弾』が、爆発した。その他の『ガス弾』にも引火し一斉に爆発する。レミリアの姿は爆炎に呑まれ、見えなくなった。だが―――
ビュゥンッ!
爆煙の中から、黒い影が高速で飛び出した!
「紅符『不夜城レッド』!」
膨大な紅のエネルギーが吉影に向かって発射される。
「なッ!?」
吉影は驚愕の色を浮かべ、反射的に飛び退き『空気の防壁』で身を護った。
ドオオオォォォォォォンッ!!

爆弾に変えた『防壁』が爆発し、『不夜城レッド』と相殺される。
「ぐうッ!?」
強力な二つのパワーが激突し、生じた爆風を受けて吉影の身体は吹き飛ばされる。キラークイーンの脚で着地し、ズザザ――ッと踏み止まった。
「―――『芸術は爆発だ』――
……そんな事を言った芸術家の巨大作品が思い出されるな……」
地面に突き刺さった、巨大な十字架の墓標のような『不夜城レッド』を眺め、彼は呟いた。もっとも、彼は自身の『能力』を芸術だとは思っていないが。
「―――さっきは『見えない弾』『ステルス爆弾』とか言ってたけど………」
レミリアが空中から吉影を見下ろす。
「貴方、人間の規格に囚われ過ぎよ。満月の晩の吸血鬼の視力、嘗めて貰っては困るわ。
二メートルも接近すれば、人間には知覚出来ない僅かな月光の反射も見抜くことが出来るの。」
レミリアは黒焦げになり炭と化した右手を、ハンカチでくるんだ。
そっとハンカチを取り去ると、そこには何の外傷も無い綺麗なままの右手があった。
「―――以前、お前の妹と闘った時もそうだったが……何度見ても化け物だな。」
忌々しげに吉影は吐き捨てる。
「―――それと……今気付いたけど、もう一つ『見えるもの』があったわ。」
吉影の反応を見て機嫌を良くしたレミリアが、口を開く。
「貴方の後ろの『それ』………それが『スタンド』という奴かしら?」
「――――――?」
レミリアの指差す背後を振り向き、吉影は言葉を呑んだ。
―――――キラークイーンが、ショッキングピンクの淡い光を全身に纏っていた。
「――――見えるのか?我が『キラークイーン』が……?」
満月の光を浴び続けた仕業か、蠱惑的な輝きを放つキラークイーンから目を離し、レミリアに向き直る。
「ええ、良く見えるわ……なかなかに素敵なデザインじゃない。野良妖怪だったならペットにしてみたいくらいよ。」
「―――残念だがこいつはわたしと運命共同体でね、君の飼い猫になる事はあり得ないな。」
「そう、残念ね。」
二人は互いに挙動を観察し、身構える。
(―――くそッ、まずいな……)
レミリアの趣味はさておき、彼女にはキラークイーンのデザインまで把握されている事は分かった。恐らくシルエットだけでなく、『スタンド使い』が見えるのとそう変わらないほど、はっきりと見えているのだろう。
(となると、奴が仕掛けて来る攻撃は決まってくる………)
ジリッ――
片足をひき、キラークイーンに構えさせる。
レミリアが、ニィっと悪戯っぽく笑った。
「弾幕勝負も面白いけど………『こっち』の方が性に合ってるわね!」

995〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2011/04/27(水) 21:47:31 ID:g/TvrH.s0
翼を翻し、紅い矢のように吉影に向かって急降下する。
(やはり肉弾戦か……ッ!
クソッ、姉妹揃いも揃って……!!)
胸の内で舌打ちし、吉影は対応に出る。
(吸血鬼相手に肉弾戦は自殺行為…この間の地下室での決戦で身に染みて分かった。それだけは絶対に避けなければならない!)
懐から『紙』と液体の詰まった瓶を抜き、キラークイーンの右手に投げ渡す。
「うおおおおぉォォォォォォッ!!」
満身の力を籠め、瓶を投擲した。瓶はレミリアの眼前に迫る。
「―――ふん、芸が無い。」
フッ――
軽く身体を捻り、瓶をかわした。そのまま吉影に突っ込んでいく。
「――――――――よし、着火。」
キラークイーンが右手のスイッチを押した。
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの手前で、『ガス弾』が爆発した。まだ視覚可能範囲の外だったため、予期せぬ爆発に思わず怯む。
「ッ!!(また『見えない爆弾』!?でも、一体何を………
っ!?)」
レミリアのすぐ横を、炎の線が飛び去って行った。
「えっ!?」
驚き、レミリアは振り返る。炎の線は、空中を飛ぶ瓶へと向かっていた。
「この匂いは……っ!」
瓶の口から漏れ出る灯油のレールを、『ガス弾』の爆発によって引火した炎が駆け抜け、ゴールテープを切った。
ボッ!
瓶の中に残っていた灯油に火がつき、瓶内部の『紙』に引火した。
ドグオオオォォォォォォ!!
紙化を解除された爆発に吹き飛ばされ、『封印』されていた大量の水が更地に撒き散らされた。
「―――――ふん、ちょっとは考えるじゃない。」
滝のように襲い掛かる水を見上げ、レミリアはスペルカードを抜き、掲げた。
「紅符『スカーレットマイスタ』」
巨大な弾幕がこれでもかというほどに全方位に放たれる。覆い被さるように降ってきた水のカーテンを大玉弾幕が迎撃し、弾き飛ばした。25メートルプールいっぱいに相当する水は地面に降り注ぎ水浸しにし、紅符『不夜城レッド』が創ったクレーターに溜まる。
「ぐッ!!」
吉影にも紅符『スカーレットマイスタ』が襲い掛かって来た。キラークイーンの脚で後方に跳躍し、『紙爆弾』をばら撒いて巨大弾幕を打ち消す。
「キラークイーン!」
レミリアの背中を狙い、爆弾に変えた拳銃弾を撃ち出した。
「っ!!」
レミリアは振り向きざま身を翻し、亜音速で飛翔する弾丸を避けた。
「休みもくれないってわけね……!上等じゃない!」
蝙蝠のような両翼を力強くはためかせ、再度吉影への接近を試みる。
常人では目で追えないほどの速さで向かって来るレミリアを、吉影はキラークイーンの目で凝視する。
レミリアが、水の貯まったクレーターの上を通過しようとした。
「――――――よし、やれ、『ストレイ・キャット』」


ドオオオォォォォォォ!!

クレーターの上を飛び去ろうとしたレミリアの真下で、突如巨大な水柱が起きた!
「なっ!?」
轟音を上げ襲い来る水柱を、レミリアは咄嗟に身体を捩り回避する。だが、彼女の脅威は水柱だけではなかった。
「はっ!!」
水柱によって巻き上げられた『紙』が、レミリアの周囲を舞う。
「(ナトリウム結晶は空気や水と触れただけで激しく反応する……一欠片マンホールに落としただけで、数メートルの水柱が上がるくらいな……
そのためナトリウムの結晶は普段灯油中に保管されているが、『ストレイ・キャット』の能力でナトリウムを『真空パック』しておけば、例え水中に投げ込んでも反応は起こらない。
『真空パック』されたナトリウム結晶を、『不夜城レッド』を避けた際にクレーターに放り込んだ!ついでに同様に『パック』した『紙』もな……!
さあ、どうする?)」
『紙』は一斉に開き、レミリアを襲った。

ドグオオオォォォォォォ!!

ドバアアァァァァァァァァァァァァ!!

紙に封印されていた爆発・水が、レミリアに降りかかる。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今度はまともに受け、さすがの彼女も苦痛に叫ぶ。

996〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2011/04/27(水) 21:50:09 ID:g/TvrH.s0
「ぐっ…………!」
今すぐ接近するのはまずいと判断し、レミリアは吉影との距離を開いて着地する。爆発等を封印していた使用済みの『紙』が舞い落ち、ぬかるんだ地面に落ちる。
「――――――ぐっ……………ううっ…………」
呻き、翼に手をやる。水を浴び爆炎に焼かれた翼は痛々しく爛れ、特に右翼は膜が破れ骨が剥き出しになっている。
「(やっぱり『水火傷』は治りが遅い………まあ、翼が無くても飛ぶのに支障は無いけどね。)」
レミリアは悠然と自分を眺めている吉影を睨みつける。
「純水を浴びせるなんて、やってくれるじゃない。私の妹もこうやって痛め付けたのかしら……?」
憎悪の籠った声で問い掛けるが、吉影は依然落ち着いた態度を崩さない。
「君らは強すぎるからな、『弱点』を突くしか倒す方法はない。一点の曇りも無い正論じゃないか。
―――それと………」
吉影は冷たい瞳で彼女を眺め、のんびりとした口調で言う。
「なるほど、天狗と肩を並べると言われるだけある……物凄く敏感過ぎる動きだ。
だがな……ゆっくりした動きなら………『安心』して避ける気にならないだろう?
………宙を飛んで来たり、速く動く物は『警戒』するが、とても攻撃されているとは思えないような動きなら………鋭く身をかわしたりしないはずだな……『油断』して……」
「…………?」
吉影の意味深な言葉に、レミリアはいぶかしむ。と、その時、
バシャァァァァ!
レミリアの背中に、液体が降りかかった。
「きゃあぁぁぁ!?」
避ける間も無く、彼女はもろに液体をおっかぶる。
ジュウウゥゥゥゥ――――――
肉が焼け、骨が溶ける激痛に、レミリアは地面に伏せ泥の中をのたうち回る。
「ううう……………な…何よこれ……!?」
暴れたため翼がボロリと折れ、レミリアは泥にまみれ涙を浮かべた目で吉影を見上げる。
「『王水』、濃塩酸3対濃硝酸1、金さえ溶解させる史上最強の酸だ。」
理科の授業のように吉影は説明する。
「さっき舞い上がった『紙』の中に、『王水』を『空気弾』に封入した物を仕込んでおいたのだが、『ストレイ・キャット』の空気の膜の保護を解除しないままにして、他の使用済みに紛れてばら撒いておいたんだよ。
そうすると、案の定君は油断してくれた。
そして、君と話している間に『ストレイ・キャット』の能力で『紙』を開き、封印の解けた『空気弾』を操作したんだ。」
淀み無く説明し、吉影はそっと『紙』をポケットから取り出す。キラークイーンの背後にいるため、レミリアからは見えない。
「わたしは非力な人間だからね……君のような化け物には近付かないよ。」
キラークイーンの指で『紙』に触れ、『爆弾化』する。
「吸血鬼というのは…人間離れした反射神経や運動能力、獣のように殺気を感じ、恐ろしい馬鹿力を持つ。
人間の殺気を感じ動きを読み、心を盗んで鋭く動く。
銃撃や剣撃をたやすく避け 相手を襲い血を貪るのだろう?」
『紙』を背中に隠し、水浸しの地面に落とす。『紙』は開き、封印が解かれた『それ』は紙を飛び出して、勇んで地表を駆け抜けて行く。
「――――――ならば こういうのはどうだ?」
吉影は、『それ』が確実にレミリアの足下に潜伏した事を確信していた。なんせ『それ』の足は音より速いのだから。
吉影はキラークイーンの脚で跳躍し、スイッチを押した。
ドグオオォォォォォォォォ!!
更地一帯の地表が、大爆発してぶっ飛んだ。
「キャアあァァぁぁぁぁァァァ――――――!!」
泥の中に這いつくばっていたレミリアの幼い身体は、派手に吹き飛ばされた。血飛沫を上げ、10メートルも弧を描いて宙を舞い、グシャッという音と共に地面に叩き付けられる。
「『紙化した電気』を爆弾に変え、水浸しの地面に放電させた……『王水』をぶち撒けたのはお前を溶解させるためだけではない、地表の水分に電解質を加えるためだったのだ。そして、爆弾として『固定』された電気は地中やわたしの身体に逃げて行く事なく水中に拡散する。
点でなく避けられない面攻撃、避けられるものなら避けてみろ。」
ストッ
吉影は着地すると、仰向けに倒れているレミリアに向けライフル弾を構える。彼女の四肢は無惨に破壊され、右手は肉が吹き飛んで骨が剥き出しになり、両足はふくらはぎ膝下が見るに耐えないほど痛々しく抉られていた。泥の中に血溜まりを広げ、ピクリとも動かない。
彼女の心臓に照準を合わせ、キラークイーンに射撃体勢をとらせる。
「トドメだッ!死ね――」

ゾクッ――――――

「――――――ッ!?!?!?」
吉影は全身に戦慄が走るのを感じた。心臓が冷たい手で掴まれたように縮み上がり、身体の芯が凍てつくように冷える。

997〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2011/04/27(水) 21:53:16 ID:g/TvrH.s0
ボオォォォォォ――――――
レミリアを囲む血溜まりから、緋色のオーラが立ち上った。燃え盛る業火のようでいて静かに揺らめく光のカーテンが、吉影に言い様のない焦燥感を与える。
「―――――――――――――――――――」
ムクリ、レミリアは起き上がる。鮮血のような深紅の陽炎の中、両足で大地を踏み佇む。彼女の腕は、足は、翼は、さっきまでのダメージが嘘のように傷一つ無かった。
「――――――――――…………………」
レミリアの紅い眼(まなこ)が、吉影を睨んだ。
「ッッ――――――!?」
突然、視界が真っ暗になった。月明かりも更地も消え失せ、暗黒の空間に輝くレミリアの双眸しか見えなくなった。
地獄から現れた無数の魔物の眼光が、吉影を射抜いた。
無数の悪鬼達の哄笑が、耳鳴りのように吉影の耳をつんざく。


「(――――――――――――)
――――……はッ!?」
正気に戻った吉影の目に飛び込んで来たのは、自分の喉元に迫る紅い鉤爪だった。
「うおぁッ!」
間一髪レミリアの一閃を避け、後方に飛び退く。
「えぇい!!」
完全復活したレミリアは生え揃った両翼で空を叩き、一気に距離を詰め猛追撃を掛ける。
「キラークイーンッ!!」
ズドドドドドドドドドドド!!
キラークイーンのラッシュでレミリアの攻撃をいなしていく。だが、元々パワーに勝るレミリアに対し、吉影は劣勢に立たされた。
「ぐおッ!?」
右ストレートに左腕のガードを弾かれ、姿勢がぐらつく。さらに繰り出された左足の蹴りを右腕で受け止めるが押し切られ、キラークイーンの体勢が大きく崩れた。
「しまっ――――!」
キラークイーンの喉元に、剃刀のように鋭利な爪が、蛇のように俊敏な動きで伸びる。咄嗟に仰け反り回避し、キラークイーンの脚で距離を開く。
「――――――っ!」
レミリアの真紅の瞳が、足下に落ちるライフル弾を捉えた。
ドグオオォォォォォォォォ!!
人間離れした反射神経でライフル弾の爆圧半径から離脱し、ストンと着地する。
「ハァ――――ハァ――……
(……さっき見た物…あれは……何だったんだ…?)」
痛む両腕を押さえ、吉影は歯を噛み締める。
パクッ――――――
左肩が裂け、血が流れ出た。
「(――――――気圧された……と言うのか…?このわたしが……?)」
鋭い目付きでレミリアを睨む。
「――――――――――――――――――」
レミリアは顔を上げ、吉影に憤怒の眼差しを向ける。
「――――――二度も私の顔に泥を塗ってくれたわね……
赦さないわ……お前は、『殺す』。私自身の手でね。」
高位悪魔の殺気を受け、吉影はたじろぐ。
「(そうだ………こいつは吸血鬼、幻想郷中指折りの最強種。
しかもこいつはフランドールとは違う……彼女と対峙した時、感じた恐怖は『狂気と純粋さ』……嵐と同じ、方向性が無く手のつけようも無い『脅威』だった。
だが、こいつは違う。『理性』に基づき力を奮う、最悪の『暴君』だ。『脅威』の矛先はわたしのみに向けられている………『恐怖』を感じないわけがない。)」
ジリッ――――――
後退り、全身を緊張させレミリアの挙動を観察する。間合いは7、8メートル、レミリアの速さなら一瞬で詰め寄られる距離だ。
「(恐怖は決して害悪ではない……痛みと同じく、危険を知らせ生存の可能性を高めるための物だ……胸の内の恐怖を否定してはならない。
だが、恐怖に呑まれる事は避けなければならない。恐怖に支配されれば目が曇り、身がすくむ……そうなれば、敵の思う壺だ……)」
レミリアが翼を広げ、地面を蹴り飛び掛かった。
ゴオオォォォォォォォォ!
風圧で泥が飛び散るほどの速さで、吉影に急接近する。
「せえぇいっ!」
加速を載せた拳を、吉影の顔面を狙い突き出す。
「しばッ!」
常人ではありえない反応速度でキラークイーンの腕を交差させ、ガードする。だが――――――
ミシッ――
「ッ!?(う、腕が……ッ!)」
腕がビリビリと痺れ、反動で吉影は後退する。
「えぇぇい!」
間髪入れず繰り出された拳を、咄嗟の判断で右脚でガードする。
「しばばッ!」
両拳のラッシュで反撃に出るが、目にも留まらない瞬発力で回避され、左側面に回り込まれた。
「せいッ!」
重い蹴りが左側頭部を襲う。ギリギリで反応し、左エルボーを繰り出した。

998〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2011/04/27(水) 21:55:11 ID:g/TvrH.s0
バギィッ!
「くッ……!(足の方が……!力が…強いっ…!)」
足は腕の三倍の力を持つと言われる。ただでさえパワーに劣るキラークイーンではひとたまりもなく弾かれてしまい、グルンと右を向かされる。無防備な背中を晒したキラークイーンを、レミリアが急襲する。
「もらったわっ!」
蹴った反動を利用し身体に縦回転を加え、右拳を振り下ろした。がら空きのキラークイーン後頭部に、吸血鬼の拳が襲い掛かる!
「キラークイーンッ!!」
ドバギャァ!!
弾かれた衝撃を利用し、さらに全身を一回転させ、キラークイーンの右腕で裏拳を見舞った。
恐るべき悪魔とはいえ、姿形は10にも満たないレミリアに競べ、リーチに勝るキラークイーンの意表を突く一撃。レミリアの拳はキラークイーンの脳天に届く事は無く、裏拳が命中した右肩がミシミシと軋む。
「ぐっ……!」
肩の関節が砕け、肉が裂けたが、意に介さずキラークイーンの突きを避ける。
「くっ……速い……!」
キラークイーンの動体視力で見切れない速さではない。だが、『天狗並の速さ』の上に『鬼のパワー』、『不死性』、『再生力』、さらには『膨大な魔力』まで兼ね備える吸血鬼に対し、吉影は確実に劣勢を強いられていた。


日光、流水、鰯の頭、炒った大豆――――――吸血鬼は弱点だらけだ。
それでも吸血鬼は無敵の怪物と呼ばれる。何故か?
反射神経 集中力
第六感 身体能力
特殊能力 耐久力
吸血能力 変身能力
不死性 etc etc――
しかし最も恐るべきはその純粋な暴力…『力』だ。
人間達を軽々とぼろ雑巾のように引きちぎる。
そしてたちの悪い事に吸血鬼達はその力を自覚している。
単一能としてでなく彼らの理知(ロジック)を持って力を行使する『暴君』だ。
吸血鬼との近接戦闘は死を意味する。
吸血鬼とは知性ある血を吸う『鬼』なのだ。
これを最悪といわず何をいうのか。


「(動きは直線的で単調……だが『パワー』が有りすぎる…!いったいこのチビの何処にこんな力が…!?)」
吉影の後ろに回り込んだレミリアに、キラークイーンが突きを繰り出すが、触れる寸前に逃げられた。
「(一般にフランドールの方が姉より危険視されていると聞くが……それは『スペルカードルール』を無視しかねない不安定さと、あらゆる物を破壊する『能力』のためだ………
どちらにせよ外来人であるわたしにはスペルカードルールなど適用されず、さらに『破壊の能力』を無効化出来るキラークイーンにしてみれば、寧ろ姉の方が脅威だ。
フランドールと闘った時、戦場はわたしに有利な地下室だった。だが、今回は障害物の一切無い更地。
さらに……こいつ、フランドールに比べ闘い慣れしている。フランドールは殆戦闘経験がなく戦闘に関してずぶの素人だったが、姉の方は僅かに『キレ』がある……
フランドールを『喧嘩の弱い子供』とするなら、姉は『ボクシングの真似事を始めた子供』と言ったところか……)」
「えぇい!」
頭上からの踵落としを、両腕を交差して受け止める。
ググググ………
重い一撃を受け、吉影の身体が沈み込む。
「(ぐっ……やはりパワー負けしている…!)」
腹部に収納されている『ストレイ・キャット』を使おうかと考えたが、今彼にはガスボンベを与えており、『ガス弾』を射って至近距離で暴発されては困る。シャッターを閉じて月光を遮り、余計なことはさせないよう眠らせておく。
「(だが……『キラークイーン』が見えているからと言って、肉弾戦を選んだのは誤算だったな……ッ!)」
キラークイーンの後ろで、吉影は不敵に笑う。
「(我がキラークイーン『第一の爆弾』は、触れた物を爆弾に変え、内側から跡形も無く爆殺する!
例えどれほど頑丈だろーと再生しようと、塵さえ残さず消滅させる!ほんのちょっとわたしに触れられるだけで、お前は負けるのだ!!)」
ビュウゥン!
レミリアが真正面に現れ、左腕を引き絞る。満身の力を籠めた突きが、キラークイーンを切り裂こうと迫る。
「(今だッ!)キラークイーン!!」
キラークイーンの突きが、レミリアの左手と激突しようとした!だが――――――

スパァァン――――――……

キラークイーンが反撃するのを見て、レミリアの口元がニヤリと笑った。
レミリアの左手の中指は、親指のストッパーを外され、蓄えられた力を解放された。
デコピンの要領で弾き出された中指の鉤爪が、キラークイーンの人指し指を切断した。
「うぐッ――――――!?」
切り飛ばされた人指し指が宙を舞い、地面に落ちる。彼の指の断面から、鮮血が迸った。
「――――――『触れるだけで勝てる』……
そんな甘い考えで私に勝てるなんて、本気で思ってたのかしら?」
怯んだ吉影を狙い、レミリアの右ストレートが叩き込まれた。

999〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2011/04/27(水) 21:56:53 ID:g/TvrH.s0
グシャアァァ――――――
「――――――え?」
レミリアの右拳を、キラークイーンの手刀が切り裂いていた。
「わっ!?」
キラークイーンの右拳を、持ち前の反射神経で回避する。空を飛び距離を開き、傷を確認する。
「――――――ある学者がイエスの聖骸布が実物である事を証明しようとした時の話だ………」
人指し指の傷を気にもかけず、吉影は口を開いた。
「……その学者はイエスが十字架に架けられた事を立証しようと、死体の腕を使って実験したんだそうだ……
…屈強な男の手首に釘を打ち込み、板に打ち付けた……そして、腕を持って、本当に少しだけ、揺らした。
すると…………どうなったと思う……?」
吉影の目が細められる。
「男の腕は、釘を打ち込んだ手首の穴から指の間にかけて、裂けてしまったそうだ………何の抵抗も無くな……」
レミリアの右腕が、パックリと肘まで裂けた。唐竹割りされた骨の断面やら筋肉やら神経やらが剥き出しになる。が、動脈から噴き出した鮮血がすぐにそれらを覆い隠した。
「――――――確かに……わたしは甘えていた………『触れただけで勝てる』と、温い考えを持っていた……
だが、これからはそんなものは『捨てる』。死に物狂いで貴様を殺しに掛かる。」
キラークイーンが吉影の前に立ちはだかり、ファイティングポーズを決めた。
「――――――ふーん、肉体の隙を突いた、と言うわけね。」
レミリアは冷酷な表情で吉影を見下ろす。
「――――でも……物覚えは致命的に悪いようね……
言ったはずよ、『人間の尺度で測るな』と。」
レミリアは左手を右腕の肘に添えた。そこから先は二股に分かれた腕が、血を噴き出しブラブラと揺れている。
レミリアは左手で肘を掴み、腕の先に向かってしごいた。左手が分かれた腕を一つに束ねていくと、ジッパーが閉じるように腕が接着される。
左手が右手の指先から離れる時には、彼女の右腕は完全に接合されていた。
「どう、しっかり目に焼き付けたかしら。満月の夜の吸血鬼は無敵なの。貴方が何をしようとも、『貴方の敗北という運命』は変わらないわ。
しかも頼みの綱の『爆弾』も使えなくなったわね。ここからどう足掻くのか、見物――――――」
ドギュン!!
キラークイーンの背後、レミリアの死角から発射されたドングリ型の拳銃弾が、レミリアの眉間を撃ち抜いた。
何があったか気付く間も無く、着弾した瞬間、レミリアの頭部が爆破される。
ドグオオォォォォォォォォ!!
爆炎が噴き上がり、全身が粉砕され、爆圧に煽られ塵に消えた。
オオォォォォォォ――――――
爆音が止み、完全に塵さえ残らず爆死したのを見届けると、吉影は独りごちた。
「『思い込む』という事は、何よりも『恐ろしい』事だ……
しかも自分の能力や才能を優れたものと過信している時はさらに始末が悪い。
我が『キラークイーン』の爆発は……『スイッチを押した時』に爆破するとは限らない…それが『思い込み』なのだ…レミリア。
『自動着火』で爆撃ができるのだ。人指し指を切り落とそうと…いくらお前が素早く『再生』したり『ボム』などでガードしようとも、『接触弾』は触れた物を内側から爆砕する。
―――そして……キラークイーンにばかり注意するあまり、わたし自身を見ていなかったな。もっとも、キラークイーンの陰から撃った弾丸は、幾ら注意して観察しようとも見破る事は出来なかったろうがな………」
吉影の右手に握られた自動拳銃の銃口から、煙が立ち上っていた。
「キラークイーンを透過して撃った『接触弾』だ……さしもの吸血鬼も、反応出来なかったというわけか……
チビガキが背伸びしているから脳天に風穴があく。弾にだけは当たらんよう、頭は低く生きていけ。」
硝煙の匂いが鼻をつく。

1000キラ☆ヨシカゲ:2011/04/27(水) 21:58:31 ID:g/TvrH.s0
案の上足りませんでした・・・
というわけで、続きはPAD4で!




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板