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邪気眼大学小説スレ

1名も無き邪気眼使い:2008/03/22(土) 02:39:37 ID:Kzzlcvqw
適当に書いていきたいと思います
スレの内容をパクる事は多々あると思いますが
この小説によってスレの内容をどうこうしようとするつもりはないです

946名も無き邪気眼使い:2013/06/06(木) 21:09:06 ID:lJw5UY0E

 事の起こりは数日前。
 大学の運営理事会によって企画された一大イベント、”大修学旅行”。
 その目的地がイタリアに決定したことを受け、邪気眼大学唯一の公式生徒自治会、『邪気会』へと上層部より下ってきた特殊任務の命令。
 内容は至って簡潔。
 現地へと飛び、旅行関係者と事前の細かいスケジュールの確認と摺り合わせを行えというものであった!


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「まー、俺としちゃあ特に異存はないですが。
 素朴な疑問なんッスけど、こういう大々的な行事の事前確認って、普通は職員サイドのお仕事なんじゃ?」

 ギイ、と椅子を軋ませて、生体サイボーグの甲が言った。

 邪気会構成員には、実働部隊の”十”隊員含め、それぞれ専用のデスクが用意されている。
 製作は建築学部の担当。
 好きにデザインを注文して良いことになっており、それぞれ極めて個性的な意匠や建材、果ては特殊ギミックなどを施されていたり。
 ”十”の中庸、『五』を担う甲が現在腰掛けている椅子も例外ではない。

 しかし、それは何処にでもあるような、至って簡素なアルミ製のパイプ椅子であった。
 机も平板四つ足のアルミデスク。
 実務に使うものである以上、必要最低限が理想。
 甲の言である。ストイックな彼らしい。
 とはいえ、それで平々凡々なものを渡したのでは面子が潰れると思ったのか、寄越してきたのは人間工学的に身体へかかる負担等を極力軽減させる仕組みになっている建築学部渾身の一品であった。
 構内トラブルの鎮圧で肉体を酷使することが多い甲には、非常に有り難い業物である。

 彼が向けたその視線の先。
 邪気会室の上座にあたる最奥。
 重厚な印象を抱かせるエボニーの大机に足を乗せた青年、邪気会長はまあな、と返す。
 大机は彼の趣味ではなく、普段仕事で処理している書類の量がかなり常軌を逸しており、通常の大きさではまず机上に載らないためだ。
 今日は珍しく、机の上に紙束の楼閣は築かれていない。
 しかし右隅に追いやるように置かれた一枚の通達書を、彼はいつも以上に疎ましげな目で睨み付けていた。
 
「社会的責任を負える身分じゃない学生に、こういったことを一任するってのは甚だ疑問だな。
 考えなし、っこともあるまい。
 そうさせるだけの目的なり目論見が、理事会の連中にはあるってことだ」

 理事会――。
 甲には耳慣れない組織だった。
 会長によると、この大学の運営を左右する最高決定機関、らしい。
 人数や素性などの詳細はトップシークレット。
 ただ、学生・教職員含め、膨大な関係者を抱えるこの邪気眼大学が、今日までやって来れるだけの天文学的な額の出資を行ってきた金持ち連中、とのことで。
 その説明に何処か胡散臭さを感じたのを甲は覚えている。
 もっと言えば、キナ臭い。
 『あの一件』以来――――甲は、事態の裏側に潜んでいる者の気配を鋭敏に察知できるようになっていた。

「ま、勘ぐっていたって仕方ねえさ。ここは腰を上げてみようぜ、骨折り損上等の心意気で」

947名も無き邪気眼使い:2013/06/06(木) 21:10:15 ID:lJw5UY0E

 会長は笑うと、机の隅で今にも落ちそうになっていた一枚の書類を指で弾く。
 っひゅ、と風を切り、甲の簡素な机へと届いた。
 一瞥すると、つらつらと小難しい単語で、今回の任務の重要性のようなことがひたすら羅列されているのが見える。
 必要以上に煩雑だな、と甲は顔を顰めた。
 しかし任務は任務。

「要するに、”いつも通り”、ってことッスね。そういうことなら、バシッと決めてきますわ」

「悪い、頼んだ。メンツは信頼できる生徒からなら見繕っても大丈夫らしい。適当に連れて行ってくれ。」

 甲はうぃす、と返事をしながら、心中にわだかまりを感じていた。
 会長はお留守番。
 『あの一件』で大学に極大規模の損害を出した会長は、所有権限を一定のレベルまで落とされ、今までのような外遊は特に禁じられている。
 壊されたと思った鳥籠は、しかし未だ在り続けていた。
 ま、今はいいさ。
 甲は馳せていた複雑な思いを一旦打ち止め、気になった事項についての質問をする。

「それで、足はどうするんで? 飛行機や船舶みたいな公共インフラを利用するのは無理なんスよね、確か」

「異能者って立場上、どうしてもな。
 しかも聴くところによれば、昨今はとある国際テロ組織の活動活発化に伴って、ただでさえ厳しい検閲が余計にピリピリしてるんだとか。
 政財界で広く信用を得ている聖気眼大学のような連中はともかく、
 俺達のような手合いへの風当たりは、今後益々強くなる、ってところだろう。嫌になっちまう話だけど」

 国際テロ組織。
 どーでか、とか、どーだか、とか、そんな名前だっけな。と甲は朧気な記憶を引っ張り出す。
 でも心配するな、と会長が続けた。

「この任務が通達された段階で、心当たりに話を付けておいた。
 力を貸してくれると快く言ってくれたよ。イタリア現地の協力機関にも連絡を入れてある。あっちでの案内を買って出てくださった」

「おー。そこは会長の得意分野ッスね、流石」

「よせやい。で、その頼もしい協力者をご紹介しましょう。こちら」

 ぷしゅー。
 会長の背後、黒塗りの鉄扉で仕切られた開かずの間を隔てるはずの壁が、何処からか焚かれたドライアイスのスモークと共にスライドしていく。
 嫌な予感がした。そして的中した。
 どう見ても巨大なバナナと、それに新車のCMさながらのドヤ顔で寄りかかるつなぎ姿の男が、スポットライトに照らされていた。

「 わ  た  し  だ 」

 頼羽 七維。邪気大きってのトラブルメーカーである。 
 閉口する甲の肩を会長がぽん、と叩いた。 


(つづく)

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956名も無き邪気眼使い:2013/06/19(水) 23:41:01 ID:p9IGtjfg
/キャラが違っても気にしない!

957名も無き邪気眼使い:2013/06/19(水) 23:42:13 ID:p9IGtjfg

 作戦コード、ゴールデン・アポカリプス。
 邪気大破壊計画。
 概要は、大学運営管理システムの修復不能なまでの徹底的破壊。暗部、理事会をも巻き込んだ、創設以来最大最悪の大反乱。
 その主導者は、当代の邪気会長。
 名簿登録名、シュロム。

 驚愕、沈黙、恐慌、激怒。―――大学を脱出する直前、一人会長の足止めを買って出た悪魔が伝えたその事実に、生徒達は各々反応を示した。
 中でも、彼の指揮下で実働部隊”十”として活躍していたメンバーは。

 壷壷は黙考した。
 シキは謎めいた表情で目を細めた。
 六道はつまらないとでも言うように鼻を鳴らした。 
 クロスはぎり、と歯噛みした。
 竜胆は泣きそうな顔で猫耳を垂らしていた。
 ユイはひどく錯乱し、会長の下へ戻ると我を忘れて言い出したのを生徒総出で止めた。
 頼羽は何かそもそも聴いていなかった。
 そして――――甲は、静かに拳を握り締めただけだった。
 
 何で?
 どうして?
 疑問符は脳内で大量に渦巻いている。
 だが甲は、それを前にして足を止めるような男ではなかった。
 解らないことを延々と考えていたって詮が無い。元々そういう頭脳労働は性分ではないし、柄でもないから。

 だから。
 今、この終末の刻においても。
 夜天を貫く時計塔の頂で待ち構える邪気会長へ、最も速く駆け抜けたのは甲であった。

「”無限上昇”ォ――――」

 螺旋眼、超内燃。
 血流、エネルギー回路へ強干渉。
 滾る意志を回転させて突貫する力へと撚り合わせる。
 其処彼処で紅蓮の炎を噴き上げる構内を、脇目にも見ず凄まじい加速を繰り返しながら突破して、ものの数秒後には会長を目と鼻の先に据えていた。

(そうだ。傷つくのは、感傷に浸るのは―――今することじゃ、ねえ)

 速い。
 そう知覚するだけの時間もない。
 会長が反応して動作を起こす前に、甲はもう右の鉄拳を引き絞っている。
 KUNRENで得た過去の戦闘データにおける最高記録(トップスピード)を、甲は初速の時点で大幅に更新している――!

「お――ぉおおお!!」

 もはや砲弾である。
 疾駆分の加速とサイボーグとしての駆動を掛け算した、鋼の右拳。右ストレート。
 当然、手を抜くことは矜持に反する。
 相手が誰であろうと――会長であろうと、それは同じだ。
 徒手空拳を戦闘スタイルとする甲が絶対の自信を持っている、至高の初撃。
 当たりが弱くとも骨は間違いなく砕けるはずのそれを防いだのは、会長の前面で回転を続ける仄碧い円盤、古代魔法陣。しかも、一つではない。
 数重に折り重なったその障壁強度は、単騎の膂力では打ち破ることは到底不可能に近い強度。
 ガギイ、と鋭く擦れる硬質な音。
 会長はやはり悠然と笑みを崩さず、眼前の甲を見つめている。

「どうした甲。もう終わりか?
 真っ向勝負で挑みかかるとは何ともお前らしい。
 だけどよ、正直その手は過去のクエストで見飽きているんだよ。いつまでも通じるなんて、虫が良すぎるとは思わねーか? 」
                                         ・ ・
「はっ、いやいや。……勝ち誇るのはまだ早いんじゃないっすかね、会長」

 同時。
 バギン、と音がした。
 気が付けば、会長を守護する魔法陣に巨大なヒビが走っていた。
 範囲極小の一点に強力な衝撃を受けた場合に生じる、極めて特徴的な形状をした亀裂。
 そう、蜘蛛の巣状に。
 すなわち、何が起ころうとしているかは至極明白。
 みしみしと軋む魔法陣に眉を顰めた会長は、その陣越しに甲の表情を確認する。――迸る戦意を湛えて壮絶に笑む、半機工の男の顔を。

958名も無き邪気眼使い:2013/06/19(水) 23:44:17 ID:p9IGtjfg

「保身はナシでいきましょうや。細々したのは、やっぱ俺の性じゃないんですよ―――ねえッ!!」

 割れる。破砕する。断裂する。
 一つが壊れれば連鎖して、魔法陣群が一挙に欠片となって飛散する。
 悪魔の超威力を誇る大罪兵装でも貫けなかった防護円を、まさかこれほど容易く。それも、”赤化”は疎か、装甲もしていない素の状態での一撃で。
 有り得ぬ、否、――否。
 甲は、こと突貫力にかけては全生徒の中でもずば抜けた好成績を叩き出しているのを会長は思い出す。
 ならば、これも至極当然の帰結か。会長は数瞬で得心し、

「それで? 終わりじゃないだろうな?」
「まさか」

 短く答えた甲は、振り抜いた拳の勢いを利用して半身を捻りながら回転する。
 回転力は更に倍増する。
 その隙に、会長は新たな陣の形成を始めていた。
 防護陣ではない。万障打ち砕くこの男を相手にそれでは意味が無いから――今度は、攻める。殺す。攻性陣。
 たった一瞬で陣の構築は完了する。
 会長は両手を広げて力場を展開――鵺の鋼索によって切断されたはずの片腕は、そんなことなどなかったかのように元ある場所へと鎮座していた。
 まだも拳を引き絞る甲の眼前に、再び薄碧の光を放つ円が立ちはだかる。
 先程の防護陣と違い一つのみだが、一回り巨大。甲の視界一杯に、古代の絵文字が回転する法陣が広がる。

「――――倦まれ、墜ちろ」

 会長が呪を紡いだ、次の瞬間。
 ばかりと。怪物の口腔のような暗闇が、陣の中心にぽっかり開いた。
 気配を感じる。何かが這い出そうとしている。突如、凶悪な不吉の予感が邪気眼大学構内に走る。
 これはいけない。
 よく分からない、まだ姿も目にしていないが、
 全身に訴えかける過剰なまでの危険信号は、直視した瞬間『発狂』して自滅するという己の末路を認識させるのに十分であった。
 悪魔の『死視』――通常の生物ならば浴びただけで死に至らしめる視線と同種の類。
 直面しただけで、即死。
 それを、背筋を這い回る強烈な悪寒と共に十分理解した上で、


 甲は、その一切を無視することにした。


「まとめてぶち抜きゃあ――――問題、ねえッ!!」

 ギン、と視線を研ぎ澄ませる。
 古代絵文字が回転する魔法陣を。中央の裂け目から除く凶兆の気配を。その奥で笑む黄金の超越者を。
 決然と纏めて射貫き、瞳の螺旋が急激に回転数を増やす。
 逃げはしない。
 今、彼に追いつかんとする後続の活路を開く一番槍、それが己が背負った役割なのだから。
 刹那、甲の髪が一瞬で赤に染まる。
 彼を取り巻くように迸る凄まじい螺旋が、首もとのマフラーを激しく靡かせる。これが、これからが、半機半人たる甲の真骨頂。その見せ場――、

「“螺旋”」

 ギャアアアアアアア、と
 振り被る右拳が。
 オレンジの火花を散らしながら高速で回転し、

「“噴射跳躍拳ッッ”!!!!」

 轟音と共に強力熾烈な拳撃が”射出”される。
 大気を巻き込みギャルルと回転するロケットパンチが、視界一杯に広がる巨大碧陣へと真っ直ぐ叩き込まれた。
 例えば、
 ライフル弾が回転運動することによって貫通性を強めるように、
 この回転する拳もまた、こと突貫するという一点において、これほど陣という壁状の物質に対して威力を発揮する攻撃もそうそうない。

 バギンッッツ!!、と衝撃音。
 一瞬にして魔法陣に、雷か何かと見紛うほど巨大なヒビが蜘蛛の巣状に広がる。
 が、それで終わった。
 割れない。一向に割れる様子がない。まるで防弾ガラスか何かのように、強度、耐久性、いずれも如何ほどさえ失っていない。

「く、そ―――ッ!!」

 歯を食い縛る。踏み込み、捻じ込む。
 届かない。割れない。砕けない。
 亀裂を徐々に深めつつあるものの、それでも手応えが一切感じられない。
 甲の表情に焦りが滲む。

959名も無き邪気眼使い:2013/06/19(水) 23:47:56 ID:p9IGtjfg

「黄金とは不壊の象徴だ」

 至って静かに。
 乃至、何でもないという風に。
 或いは――絶望を宣告するように、陣の向こうにいる会長が告げる。

「流石に絶対破壊不能って訳にはいかないが、『壊れにくく』するぐらいなら訳はない。

 要するに、
 黄金を意味するヒエログラフを数字、刻んでやったまでのこと。
 ま、それすらもお前の手にかかれば、いずれは破壊されてしまいかねないのが怖いところだが……。まあ、間に合わないだろ?」

 間に合わない。
 陣の裂け目から、いよいよ不吉の気配が間近に迫ってくるのが、甲にはひどい悪寒を伴って感じられた。
 まずい。
 こいつの誕生を許したら、とても継戦どころの話ではなくなってしまう。
 溢れそうになる負の感情を、しかし奥歯で噛み殺した。
 ここで挫けてちゃ、お話にならない。先鋒は威勢上げて敵に突っ込み流れを惹き寄せるのが仕事なれば。

(足りねえ、足りねえ、全く足りてねえ。)
(半端じゃないヤツを相手にしてンのは、とっくのとうに承知済みだろ……だったら、後は!!)

 なれば。
 なれば、なれば!

 更に強く。更に力強く。
 甲は全身に気を行き渡らせていく。
 かつてない集中。分散しているごく微量なエネルギーを更に収束させ、一気に突破する。
 繊細かつ高度な流体力学計算を必要とするその離れ業を、甲は、これまで培ってきた戦闘経験と己の第六感のみで達成しようとしていた。
 やってやれないことはない。
 ありえないことは、ありえない。
 それを、これまでの学生生活の中で幾つも己の手で証明してきたし、または他ならぬこの身で味わってきたのだから。
 故に、諦めるなんて文字は、甲の辞書には存在しない。

「ブ、チ、貫、け、ェェェェェェエエエエエエ!!!!」

 その、高らかな意志は。



「おっと、時間だ」



 グパァ、と、開いた真っ黒な口からついに這いだした存在が、完膚無きまでに打ち砕く。

 倦まれ、墜ちた狂念が、甲の自我を殺した。

 実に、あっけなく。

960名も無き邪気眼使い:2013/06/19(水) 23:49:48 ID:p9IGtjfg


 ――――。


 ―――――――。


 ―――――――――――。


 ――――――――――――――――。



 甲の身体が、ふらりと後ろに扇いだ。
 意志も、何も。
 力も、何も。
 今は喪失してしまった薄っぺらな身体が、枯れ葉のように、
 ゆっくりと地  面へ 角    度     を  近    づ         け           て             い                       く

961名も無き邪気眼使い:2013/06/19(水) 23:52:03 ID:p9IGtjfg



「―――――――――――ら」


 もういいよ、忘却が蝕む。


 (終わる?)



「――――――――――――――――――せ」


 きみはよくやった、忘却が囁く。


 (終わるのか?)



「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ん」


 ゆっくりおやすみなさい、忘却が嘯く。


 (もし、ここで終わったとして)





 (何もかも放り投げて終わってしまった俺を、俺自身が許せるのか?)

962名も無き邪気眼使い:2013/06/20(木) 00:00:57 ID:bClTHARc


 ザンッッッ!!

 答えは、決まっていた。
 迷うまでもなかった。最初から、甲の心は揺るぎようもないほどに決まっていた。

 倒れそうになった身体を、片足が支えていた。
 意識は混濁している。気を抜けば、瞬く間に自我の欠片も残さず狂いに狂い抜いて壊れてしまうのかもしれない。
 だが。
 だが、まだ。
 まだ、始まってすらいないのに。
 ここで退場というのは、あまりにお粗末じゃないか。



(この余裕かましてやがるにやけ面に――――――)



「―――――――――螺旋眼。決戦、奥義。」


 陣の割れ目から這い出る狂疾。
 何やら訳の分からぬ言語を吐き出しながら、甲へと覆い被さろうとしている。
 呑むつもりだ、完全に。
 辛うじて復活を果たした自我を、丸ごと。
 自己を自己として認識できぬほどに、致命的に、殺人的に、甲という自意識そのものを粉々にしようとしている。
 そんなことは、させない。

 だって。まだ、始まってもいないのだ。


(一発、ぶちこんでやらなきゃ―――――――)


「”俺の――――――――”」


 そうだ。
 狂っている暇なんてない。
 壊れている余裕なんてありはしない。
 へなった右拳を、左手でがし、と握り付ける。万力で。二度と萎えることのないように。
 目の前で冒涜的な呪詛を吐き続ける化け物と、その向こうでほくそ笑む黄金の化け物に、叩き付けなければならないのだ。
 決意を。
 脱出に成功したにも関わらず舞い戻った、その意味を。

 

「”―――――――――ドリル”ゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!」


 
 緑閃が爆ぜた。

 燐光を火の粉のように撒きながら腕に顕現した、あまりに巨大すぎるドリルは、まず化け物の胴体に突き刺さった。
 勢いを殺さず、そのまま陣に叩き付ける。
 硬い壁を全力で殴ったような激痛と抵抗感が、腕へ莫大な負担をかける。
 もげちまうんじゃないかな、と甲は頭の隅で思ったが、そんなことは些事だとすぐに失せてしまった。
 歯を食い縛る。
 ギチ、と身体の何処かが音を立てたが、それも些事だ。
 身体が熱い。爆発してしまいそうだ。だが関係ない。ここで踏ん張れないようなら、以降何をやったって烏有に帰すに違いないのだから。
 突き立てる。
 突き立てる!
 突き立てる!!

 バギバギバギバギバギッッ!!!

 と、瞬く間に陣の端々へと先程より深刻な亀裂が伸びていく。
 そういえば、あれだけ恐怖を感じていた化け物は、衝角の一撃でとっくのとうに消え失せていた。
 意識の混濁もない。
 行ける。押し通る。ブチ貫ける!
 しかしその瞬間、陣の向こうで会長が素早く腕を横凪ぎに振るった。
 中空に象られる、巨大な黄金の剣――。会長がこれまで幾度となく振るってきたその大剣の威力は、甲もよく知るところだった。
 だが。
 そんなことすら、もう今は些事に過ぎない。

「俺の方がッッ、」

 吼えながら、
 ドンッッ、と足を勢いよく地に踏みつける。
 迷いなく、怖れなく。大剣の切っ先が甲へ向く。だが、もう遅い。間に合わない。速度において、彼の右に出るものは、いない。

「早えええええええええええ!!!!」

 絶対の自信を雄勁なるドリルに乗せて、そのまま腕を思い切り振り抜いて、



 陣を一挙に粉砕したドリルの切っ先が、会長の胴体に真っ直ぐ突き立てられた。

963名も無き邪気眼使い:2013/06/20(木) 00:02:17 ID:bClTHARc


 凄まじいまでの暴威に、錐揉みながら吹き飛ぶ。

 軌道上にある施設に激突しても止まらない。壁をぶち抜き、またその向こうの壁もぶち抜いて、会長は文字通り吹き飛んでいく。

 そして煉瓦で舗装された路上をタンブル・ウィードのように転がりながら尚も吹き飛び、

 止まったのは、今まさに炎上する大学校舎の正面入り口前。




「ふ、……ふふ、ふふふふ」

 仰向けに倒れながら不気味に笑い声を上げる会長。
 その前方に、甲が立った。
 次に鵺が立った。クロスが立った。黒瑪瑙が立った。図書委員が立った。すえぞおが、リリーが、薺が、ユイが、他の生徒も、続々と、次々と。 
 最後に、彼らの最前に立ちはだかるように、痩身痩躯の副会長が降り立った。
 濡れ羽の黒髪を揺らし、凜として。

「我らはもう、お前の駒じゃない。邪気会長――――シュロム」

 切れ長の瞳に決意を乗せて、会長の顔を射貫く。
 口を歪めてへらへら笑う表情を。

                                              おまえ   われら
「巫山戯たチェスに興じるのは仕舞いにしろ。ここからはゲームじゃない。邪気会長と邪気大生徒、正真正銘の戦いだ!」



/再開未定

964名も無き邪気眼使い:2013/06/20(木) 00:06:26 ID:bClTHARc
/最後にいいところを持って行く副会長は最高に可愛いやつです
/これ以上はネタがないよ!

965ゴヤール アウトレット:2013/06/20(木) 17:25:33 ID:96VUaq6g
このモデルではないのですが、ショルダーベルトが突然はずれ困っています。皆様せっかくの御買い物残念ですね。 ゴヤール アウトレット http://www.goyardbag.asia/

966グッチ:2013/06/25(火) 01:41:15 ID:aXx5IDUQ
「もともと彫金を学んでいましたが、この道に入ったのは、義母が草木で染めた糸に心を動かされたことがきっかけ。強い光や色彩を放つ貴金属やジュエリーとは正反対にも思える、天然素材独特の包み込むようなやさしい色味に安らぎを感じたんです。植物から引き出された色素は、素材によって色は違えど、どんな色でも不思議と調和します。 グッチ http://gucci.tuzigiri.com/

967フェラガモアウトレット:2013/06/25(火) 17:30:27 ID:kRmexAqU
モノグラムと悩みましたが、モノグラムはやっぱりヌメ革の染みや汚れがだんだん気になってくるので、汚れの目立たないダミエにしましたo(^-^)o フェラガモアウトレット http://www.tnu.edu.tw/ferragamo.html

968モンブラン アウトレット:2013/06/27(木) 10:41:36 ID:jo6iC7dA
インクが切れてしまった場合、販売店舗・専門店などに替え芯やカートリッジ等は置いてあると思われるので、自分で交換することも覚えておきましょう。 モンブラン アウトレット http://montblanc.chakin.com/

969ゴヤール トートバッグ:2013/06/29(土) 02:29:13 ID:cTzi7Gls
GOYARDのマーカージュで自分だけのデザインを楽しめます。ローズはわりと明るめのピンク系でした。20代女性にも若々しいとママバッグとして利用されています。ライト・タンは30代女性のブランドバッグとしていい感じです。ホワイトよりもちょっと色がついていますから落ち着いた雰囲気です。ピンクは薄いサーモンピンク系です。新色やライトブルーは40代女性にお求めやすいようです。レッドやグリーンも50代女性のファッションに映えますね。 ゴヤール トートバッグ http://saintlouis.konjiki.jp/

970名も無き邪気眼使い:2013/07/02(火) 23:48:10 ID:YCI3VuuE

【ある日の邪気会室①】


海野「会長ー」  ガチャッ

海野「俺が提出した幻術研の予算増額案はいつになったら検討し……? ありゃりゃ、がらんどう」

海野「ん? 置き手紙だ。何々? 『構外へ公務中につき外出。帰りは遅くなるので、用件がある者は書き置きを残されたし』」

海野「公務だって。おおげさな。どうせ同人ショップで新作エロゲのチェック中だろう」

海野「それにしても、他の面子はともかく、クロスとかぶたんもいないとは。いよいよもって珍しい」

海野「これは日が悪かったかな。しょうがない。せめて帰る前に、会長の椅子にブーブークッション30個ぐらい仕掛けておいて……」

ガシャァァァン!!!!!バキバキバキィ!!!!!

すえぞお「会長饅頭はよ!! ……あれいない」

海野「こんー。今日も良い割りっぷりだね。会長は公務中だってさ」

すえぞお「ああ、エロゲ買いに行ってるのか。なあんだ、せっかく朝から腹を空かせてきたのに。暇だなー」 ドスドス ボスン

海野「図書委員は?」

すえぞお「昨日から図書室の一番地下に籠もりっぱなしー。すっごい顔してフヒフヒ言ってたから、超レアな珍本か奇書が手に入ったんじゃないかな」

海野「一番地下ってことは、あー禁書指定レベル。表紙見ただけで精神病みそうだ」

すえぞお「毎度何処から調達してくるんだか。なんでも黒瓜とかって人の書いた、世界に五冊とない魔導書らしい」

海野「何それ気持ち悪い。 ……いや待てよ。黒瓜、くろうり、クロウリ。ああ、クロウリー」

すえぞお「それそれ。あー、だめだお腹空いた。頭回らない。何か食べ物ないかなー」 ドスドス ガサゴソ

海野「邪気会室の冷蔵庫を平気で漁るドラゴンがいた!! これはそしりを免れないパティーン!!」

すえぞお「ヒイッ」

海野「? どした?」

すえぞお「メロンパン、ドラゴンキラー味が冷蔵庫にぎっしり!!」

海野「行動パターンを完全に読まれている……アワレ」

すえぞお「あー。うー。もう自分の触手でも食べようかな」 ニュル

海野「やだ、ひどい絵面になりそう。駄菓子菓子! こんなこともあろうかとあら不思議、ここに邪影堂の美味しいお饅頭が!」

すえぞお「」 ジー… フイッ

海野「あ、あら? 欲しくないの? とぉってもジューシーなこしあんですよ(裏声)!」

すえぞお「海野が用意する食べ物は口にするなって、図書委員(マスター)が前に」

海野(チィッッッ!!!!! 入れ知恵されてたか、この駄竜。今度はもっと慎重かつ入念に)

???(そんな諦めの悪い君に、今度また私の使い魔に対してつまらないことを考えたら禁書の内容を片っぱしから頭へ流し込んで脳神経BBQの刑、と警告しておこう)

海野(こいつ直接脳内に!?)

すえぞお「んー。今日はあんまおいしくない。体調ちょっと悪めだな」 マグマグ ベチャァ

海野「そしてすでに食べている……。一口ごとに粘液がそこら中飛び散って悲惨なことに……。後で反省文書かされても知らないぞ」

すえぞお「大丈夫、最近慣れてきたから」

海野「これは枚数4桁突破確実やな」

すえぞお「そんなこと言ってる海野も、今のとこ最高978枚だろ。リーチじゃんリーチ。ドラドラだよ」

海野「ドラゴンだけにね。無駄に上手い」

すえぞお「でもさ、俺達よりも先に4桁達成の線が濃厚なヤツがいるよね」

海野「んーまあ……。邪気大の隠し兵器っていうか、一人で巻き起こせるトラブルの被害額(レベル)が桁違いというか……」

すえぞお「あいつに比べたらな、俺達なんてな」

海野「可愛いもんだよなw」

すえぞお「そうそうw」



壷壷「いや実際大差ないがな」

「「いつの間に!?」」

壷壷「最初からだが」


おわり

971トリーバーチ バッグ:2013/07/10(水) 11:22:52 ID:mt3Hn9GE
お手入れも難しくはありませんので、トリーバーチを長持ちさせるため、定期的なお手入れをオススメします。 トリーバーチ バッグ http://tory-burch-outlet.asia/

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973ゴヤール本物:2013/07/11(木) 20:07:32 ID:XXa44RSc
GOYARDのマーカージュサービスとは、オーダーでバッグにマークやラインを入れるサービスです。マーカージュは予約もできます。マーカージュのオーダーは1ヶ月から2ヶ月くらいかかります。 GOYARDのマーカージュはイニシャルや数字、ライン、GOYARDマークなどを受け付けています。 ゴヤール本物 http://goyard.ashigaru.jp/

974名も無き邪気眼使い:2013/07/15(月) 20:50:39 ID:pTvWRkUk
ktk (キャラが 違っても 気にしない)

975名も無き邪気眼使い:2013/07/15(月) 20:51:22 ID:pTvWRkUk

 ガシャアアアン!


「饅頭ゥゥ――――――――ッ!!」


 窓ガラスの勢いよく割れる音が耳朶を打つ。
 驚きはない。
 毎日の恒例行事なので、感覚がすっかり麻痺してしまっているらしい。

 幅広な黒檀机に堆く積み上げられた書類の山を崩さないよう慎重に除けてできた隙間から、邪気会室の壁に並ぶ窓の方へと呆れ混じりの視線を向ける。
 窓の一枚が枠ごと破壊されている。
 案の定。
 割れた穴から突き出した黒竜の首が、顎をがっぽりと開けて待ち構えている。
 これも案の定。
 そして、嘆息しながら手の平に饅頭を”錬成”し、子供一人丸ごと収まるであろう竜の巨大な口腔の中に放り投げてやるのも、また案の定だ。
 竜はバグンと顎門を閉じ、もきゅもきゅと咀嚼し、ふと一言漏らした。

「あれ、会長お茶は? 渋めね」

 ふざけやがって駄竜。
 邪気会長に対してこのふてぶてしさである。許し難し。
 と、同時、内務処理をしていたユイがはたと席を立ち、邪気会室に付設された手狭な給湯室へとてとてと駆けて行くのが視界の端に映った。
 世話好きなのも良いが、あまり餌をやり過ぎると調子づくだけだと思うぞ。
 シキはくつくつ笑っている。
 こいつはいつも通りなので放って置く。

 と、甲がすえぞおの鼻先にチョップをかますのが見えた。
 窘めているらしい。
 すると、すえぞおがてへぺろとわざわざ口に出して、地球上の総人口がイラッとくる表情を浮かべた。反省する様子はない。
 眉間に黄金の右手でチョップしておいた。
 すえぞおくん ふっとばされたー! どうせ無傷で戻ってくるので放って置く。

 どうも最近、あの黒竜――魔導生物学科3年、生徒名すえぞお――は、反省文を書かされることを全く意に介していない節がある。
 慣れというやつだろうか。信じられん。
 バナキチ、幻術キチを含めたあの三馬鹿の動向には逐一気を付けておかねばなるまい。

 ――と。鼻腔を撫でる紅茶の香り。
 そして耳に入ってくる声。

「やあすまないね。うちの使い魔がとんだ御無礼を」

 一人の女生徒が、来客用に設置された革張りソファで優雅にティーカップを傾けていた。
 勝手に会室の備品を使うな。
 注意すると、シニカルな笑みでこちらを見てきた。畜生。

976名も無き邪気眼使い:2013/07/15(月) 20:52:40 ID:pTvWRkUk

 図書委員。
 応用概念科3年、本名は碧薪 円。
 先程の駄竜すえぞおの主人を務める少女である。
 何故か、何故か美男美女が揃っているこの大学において非常に珍しい凡庸フェイス。同族である俺としてはシンパシーを禁じ得ない(失礼)。
 近代文学者のような、どこか厭世で陰鬱な空気を纏っているのが特徴といえば特徴だろうか。

 何だ、珍客だな。
 図書塔という自分の牙城から出て来るとは、椿事な。

「……君は私を、引きこもりか何かと思っていないか? 本人のイメージを毀損する勘違いは悪質だ、早急な訂正を求める」

 いーや。同じようなもんだ、お前は。

 あ、ちなみに図書塔とは、
 この大学の図書室の通称の一つだ。図書室というか、もう彼処は独立した施設と考えていい。
 上下に伸びる幾層もの塔のような外観をしており、児童書から有害指定図書まで取り揃えられた莫大な蔵書量、本を建材にでもしているんじゃないかという変態的四次元時空書架。
 地下にも広大な空間を有しており、そこには一般公開できないような精神汚染級の邪本禁書の類が封印されている。
 何を取ってもおそらく世界最大級の、マンモス級超巨大図書施設。
 正直、あの塔の内部には俺でも踏み込むのを躊躇してしまう。そりゃそうだろ、あの中はもう異界も同じだ。

 彼女はそこを実質的に支配する図書塔の主。
 称号を、図書委員長。

 当大学における委員長とは、管轄する諸部門の実質的な最高責任者を意味する。
 故に大体において、委員長クラスの学生は名前ではなく『〜委員』と役職で呼ばれることが多い。彼女においても例に漏れず、といったところだろうか。
 俺個人としては、あまり人間性に重きを置かない習わしで好まない。
 職場ならともかく此処は大学だ。だから俺は名前で呼ぶ。マドカ、では駄竜に零距離腐蝕ブレスを吐かれそうなので、碧薪で。

 ところで、本当に何しに来たんだ。
 お前が邪気会室に来るなんて滅多にないだろう。今日はちくわでも降るのか?

「マイナス75点。センス絶無」

 やかましい。
 俺に文学とか詩学の才能を求めないでくれ。

「まあそんなことはいい。……さて、本題だったか。君に預けている本のいくつかを引き取りに来た。少し入り用でね」

 ああ。成る程。
 別に構わないから、好きに取っていってくれ。
 会室奥のゴールデンチェンバー、右方壁の隠し棚だ。パスは指で文字入力な。
 引き取るのはいいけど、ちゃんと返してくれよ。先々々代の図書委員長と永久貸与の取り決めを交わしてるんだからな。合法だぜ、合法。

 図書委員が奥に消え。
 そして、数分もせずに戻ってくる。
 脇には数冊の本が抱えられていた。いずれも稀覯本だ。入手困難。

977名も無き邪気眼使い:2013/07/15(月) 20:55:00 ID:pTvWRkUk

 図書委員が奥に消え。
 そして、数分もせずに戻ってきた。
 脇には数冊の本が抱えられている。いずれも稀覯本だ。無流通、製造数少数のため入手困難。

 それにしても、どういう経緯で永久貸与されたんだっけな? あんな本。
 うーん、記憶が朧げだ。
 あの頃は大学も風紀が完全に整備されておらず、構内が殺伐としていたのは覚えがある。きっとなんやかんやで命を助けて、そのお礼にーとか、そんな感じだろう。
 ……そういえば、あの頃って。
 俺ってば黒ずくのオサレな服を着て、もっと寡黙だったような……。……ちょっとした黒歴史だ。
 いや、ほら。舐められる訳にもいかなかったしな、邪気会長として。それにしたって、今の俺が見たら指差して抱腹絶倒レベルだが。
 
「では借りていくよ。職務中、失礼した」

 ああ。お疲れさん。
 何か、図書塔の主が”借りる”とは、何だか奇妙で面白いな。

 ――――あ、待った。一つだけいいか?

「ん? 何だい?」

 お前、一体どういうトラブルに巻き込まれてる?

「……唐突に何かと思えば。君の管轄じゃないだろう。私の領分を侵さないでくれ」

 いやいや。
 いやいやいやいや。
 俺の本を借りる、ってのは、そういうことだろ。
 絵本から禁書まで何でもござれな図書塔の蔵書数で事足りる案件じゃねえってことだ。それだけでも異常だぜ。

 それに、お前。人払いをかけたな?
 たったさっき気付いたぜ。
 会室が、いつの間にかもぬけの殻じゃねえか。
 邪気会長の俺が、結界や律という理に滅法強いはずの俺が、よりによって自分のテリトリーの異常を即座に察することができなかった。これも異常だ。
 ここまでで異常二連続だが、まだあるぜ。

 お前、すえぞおにまで人払いを適用しやがったな。
 自分の使い魔にまで。

「話はそれだけかな? 悠長にしていたように見えたかも知れないが、これでも急ぎの用でね。失礼するよ」

 おい、話は終わってねえぞ。
 ……と、制止を掛ける間もなく、碧薪は無数の書の頁を空中に舞わせて消えた。
 消失した。
 そう、その日から碧薪は、大学に姿を現さなくなった。 


 ――――おいおい。トラブル持ち込むのは三馬鹿だけで十分だぞ。

978名も無き邪気眼使い:2013/07/15(月) 20:56:24 ID:pTvWRkUk



 結果を言えば。
 数日後、碧薪は何事もなかったかのように登校してきた。
 何があったか本人に問い質しても、のらりくらりと躱されて、とりつく島もないとはまさにこのことだ。
 脳裏に引っかかりを覚えたまま、
 それでも数週間、いつもの日常が続いたわけだが。


 この物語の本題はここから。
 現状の説明をしよう。邪気眼大学校舎が突如、深海に水没した。
 否、正確には招かれた、と言った方がいいのかね。……窓の外、仄暗い海の闇から覗く、無数のグロテスクな触手を携えた異形の存在に。

 あー。くそ。なるほどな。トラブルの元は人造神話の冒涜神か。
 今案件は骨が折れそうだ。
 いやマジで。



/続かない

979名も無き邪気眼使い:2013/07/17(水) 00:07:50 ID:osjmvgXE
その道で鵺を知らないものはもぐりである。
その道とは、すなわち裏道だ。
闇に生きる日陰者でありながら、彼の名声は留まるところを知らない。

曰く、世界で最もスマートな犯罪者。
曰く、計画の成功率150%(100%成功し、想定以上の成果を挙げる率が50%の意)
曰く、裏社会のハリウッドスター。

常に斬新なアイデアと綿密な計画性を備え、甘いマスクと細やかな気配り故に男女問わずに人望は厚く、その知識は古今東西に通じ、その活動は合衆国50の州を越え、欧州にまで及ぶ。
もし犯罪の神様などというものがいるとしたら、鵺こそはそれに愛された唯一無二の存在と言って良いだろう。

鵺が最後に行った大仕事……ラスベガスの一億八千万ドル強奪は、裏社会では既に伝説となっている。
主犯は金庫破りの天才アリババという事になっているが、この件に鵺が噛んでいると知った者は、口を揃えてこう言う。

「あれは鵺のヤマだよ」

アリババと言えば、仕事の大胆さのわりにわきが甘い事で有名だ。
だからつまらぬ事で足元を掬われ、今は刑務所の世話になっている。
鵺には、その甘さは無い。
ベガスでの大胆なアイデアは確かにアリババらしいものだったが、それを実現可能にした秒単位での緻密な計算には、明らか鵺の刻印が押されていた。
故に、あの件の詳細を少しでも知っている者はこう言うのだ。

「あれは鵺のヤマだよ。この世界で、鵺以外にあれが出来る奴はいない」

カリスマ、という言葉でもまだ生温い。
孤独を好み猜疑を常とする裏社会の人間が無償で信頼する、およそ唯一の人物。
犯罪神の寵児。 
あるいは神すら欺く稀代のトリックスター。
裏社会のジーザス・クライスト。
それが鵺なのだ。

980名も無き邪気眼使い:2013/07/17(水) 00:09:16 ID:osjmvgXE
さて、その神の寵児。
爆笑していた。

「……砂糖より甘い物を知ってるかい?答えは僕の考えさ。ヒィィィィィィハァァァァァァ!!」

自室で、一人だった。

「塩よりしょっぱい物を知ってるかい?答え僕の人生さ。キャホォォォォォォォォイ!!」

一人で話して、一人で爆笑していた。

「あー、おもしれ。あ〜〜〜〜〜〜おもしれええええええ!!」

洗面台の鏡に向かって爆笑を続ける鵺は、膝を打ちながら歯ブラシを手に取ると、それを鏡に投げつけた。

「死ねよ!死ね!」

無論、歯ブラシ程度で誰が死ぬはずもないし、鏡にヒビが入る事すらない。
鏡にぶつかった歯ブラシは、跳ね返って豪奢な絨毯の上に音もなく落ちた。
歯ブラシのもとに移動して、また鵺は笑う。

「転がらない!転がらないよ!僕の会社の絨毯スゲェー!!」

膝を叩いて笑った。
そして膝から崩れ落ちて、歯ブラシにひれ伏すように絨毯に沈み込んだ。

「でも客が来ません!社長が屑だから誰も依頼しません!」

鵺の格好は酷いものだった。
こだわりの英国ブランドでオーダーメイドしたシャツは、一体何をしでかしたのかと思うほどしわくちゃだし、仕立ての良いスーツの上着は壁に叩きつけられ、スラックスはずり落ちて半ケツだった。

「うっほほ〜〜〜〜〜〜い!!もう死ねよ、僕」 

歯ブラシをひき掴み、己の頭に叩きつける。
頭部は短髪であり、歯ブラシと短い髪がぶつかり合って、ちくちくちくちくと反発する。

「負けるな僕の髪、いや、僕の髪ごときに負けるな歯ブラシ!いや歯ブラシ様!」

そのまま、自分の頭を歯ブラシでちくちくちくちくと叩き続ける。
いつまでもいつまでも叩き続けるのであった。

さて。
あまり知られていない話ではあるが、というか、誰も知らない話ではあるが。
鵺は鬱病だった。
それも慢性の躁鬱病だった。  
何か少しでも嫌な事や失敗があると際限なく落ちこみ、躁鬱を繰り返すのだ。
今回は彼の経営する会社で、若い社員を中心としたチームがやらかし、鵺が自ら尻拭いする事になった挙句、それにより大損失を出したのが原因だ。 
なんでも、ターゲットに接触しようとした瞬間、突如巨大な熊が現れ饅頭を強請られたらしい。
彼はこの失態を猛省し、自慢の長髪をバッサリと切り落とした。
むしろ永久脱毛するべきだとすら思った。
その上で、禿げ上がった頭部に「人に迷惑をかける事しか出来ないファッキンビッチです」とタトゥーを入れようとした。
が、出来なかった。
何故か?
ある性質のためだ。
どんな性質かは、見てもらえばわかる。

981名も無き邪気眼使い:2013/07/17(水) 00:11:05 ID:osjmvgXE
鵺のいる社長室の扉がノックされた。

「社長、よろしいでしょうか」

部下の声を聞いた瞬間、鵺は立ち上がっていた。
その鋭いキレのある動きがソリッドな空気の流れを周囲に生む。
瞬時にして下がった体温と、頭から下がった血液が、五体を包む大きなうねりとなり、それが周囲の空流と相まって、衣服に大きな波を一つ立てる。
そして波の去った後には、なんという自然の怪奇であろうか、まるで今しがたクリーニングから帰ってきたばかりのように、しわ一つないスタイリッシュなシャツと、クールとしか表現のしようがない直線を描くスラックスが現れていた。
俯いていた顔が上げられる。
そこにあるのは、自棄の表情でも滂沱たる涙でもなく、モニター越しに見たとしても特上のオーデコロンが匂い立つような、余裕を感じさせる笑顔だった。
ダウン系ドラック中毒者そのものの姿は、もうどこにも見つられない。

「入れ」

その声もまた、威厳と優しさとクールさを同時に感じさせる声であり、決して涙声ではなく……要するに、そこにいるのはどこからどう見ても皆の知っている、あの天才工作員・鵺であった。

被視覚型理想自我強制症。
と、やぶ医者に判断された事があるが、無免許だったので本当にそんなものがあるのかどうか、鵺にはわからない。
が、ともかく彼の病名はそれだ。
人の視覚を意識した瞬間、自己を理想化した姿が脳内にたち現れ、それに背く事が一切出来なくなるという、そういう病気だ。
もし自己理想像に逆らうような行動を取れば呼吸困難に陥り、心肺機能の極度な低下と体温の急低下、更に全身に蕁麻疹が出て、激しい耳鳴りに襲われ、抜け毛が促進し、視界が失われる事になる。
要するに、鵺はカッコつけていないと物理的に死んでしまう病気に罹っているのだ。
この病気のために、彼は精神の均衡を欠き、一人の時には激しい躁鬱病に悩まされるようになってしまったのだった。
だが、そんな躁鬱の醜態を見せる事は、彼の宿痾が許してくれない。
人は命の危険に脅かされた時、進化を遂げる。
鵺もまた、命の危険に晒され続ける事によって進化を遂げた。
遂げ続けた。
おかげで、今では他人が現れると0.1秒の間に理想の自己を呼び起こすという、宇宙刑事のような技能を身につけていたのであった。

かくして、蒸着を完了した鵺は、室内に部下を招き入れる。
部下の顔には、疲れが色濃く滲ゆでいた。
先日のトラブルで、全ての社員が参っているのだ。

「失礼いたします。先日行った熊狩りですが、やはりどこにも熊などいなかったそうです」

「だろうね。そもそも、その熊には触手が生えてたんだって?」

「はい、目撃者は皆そうおっしゃっています」

「会社の水道にドラッグが混ざっていた可能性を考えた方が、まだマシだったというわけだ」

軽く肩をすくませて、煙草を一本抜き出し火を点けると、残りを部下に放り投げる。

「スタッフ全員に一本ずつそいつを吸わせてくれ」

「はい?」

「それでバッドトリップしなかった手慣れてる奴が、水道にドラッグを入れた犯人だよ」

ポカンとする部下の前で、旨そうに煙を吐き出すと、鵺は微笑を浮かべる。

「おっと、もちろん、僕以外でね」

それで、ようやくジョークだと気付いた部下は、固くなっていた表情を緩めた。
鵺は部下の手元から煙草を一本取り出すと、それを口に咥えさせて火を点けた。

「やってしまったものは仕方ないし、原因不明な以上、考えるだけ無駄さ。あとは僕が考える。君たちは一服して、あとはいつも通りの鍛錬と、技術の向上に努めてくれ。いいかい、辛気臭い顔はするなよ。ここは僕の会社なんだ」

その言葉は、まるで魔法のように部下の心を和らげる。
この人についていけば大丈夫だと、そう信じさせる魔力を持っている。

「わかりました、任せてください。全てのお客様に最高の仕事を提供いたします!」

やって来た時の焦燥も疲れも吹き飛ばし、部下は希望に満ちた瞳で社長室を出て行った

982名も無き邪気眼使い:2013/07/17(水) 00:13:54 ID:osjmvgXE
見届けた鵺の唇から、ポロリと煙草がこぼれ落ち、まだ火の点いたままのそれが、絨毯の上に着地する。
が、火事の心配はない。
直後に、鵺の顔面が煙草の上に降ってきたからだ。

「最高の仕事だってさ!!来もしない客からどうやって仕事貰うんだよ!!」

高い鼻を使って、器用にぐりぐりと煙草をもみ消して、そのまま鼻を支点にブリッジを始める。

「あう……おうおう……もげる!もげるよ鼻!もげちゃうよおおおお…」

ガチャリとドアが開く音がする。

「社長、申し忘れていましたが……」

「どうした?」

戻ってきた部下の見た鵺の姿は、デスクに腰かけ、書類に目を通すものであった。
ドアの開く音がして、完全に開くまでの僅か一秒足らずの間に、鵺はブリッジの姿勢のまま跳ね上がり、その衝撃でどこからか飛ばされてきた書類を空中でキャッチすると、空中で足を組んでそのまま椅子の上に落下したのだ。
超人の技と言わざるを得ない。

「今朝、例のお客様から連絡がありまして……おや、地震でもありました?」

部下は衝撃で揺れているキャビネットの扉を見て、不思議そうな顔をする。

「おかしいですね、私はまるで揺れを感じませんでした」

「うん?窓が少し開いていたかな?今日は風が強いからね」

何事もなかったように、背後の窓に少し触れる。
もちろん閉まっているが。

「ああ、やはりちょっと開いてるな。で、客がどうしたって?」

「それが、依頼をキャンセルしたいとの事でして……まだ確定してはいないのですが」

「やれやれ、またか。次に連絡があったら僕に回してくれ。大丈夫、なんとかなるさ」

困った風に肩をすくませながらも、鵺の白い歯がキラリと光れば、それだけで大丈夫な気がしてくるものだ。
まったくもって、鵺は理想の上司になりきっていた。
が、これでもまだ、鵺の全力には程遠い。
精々が50%といったところだ。
鵺は見られているとカッコつけざるを得ない。
が、それにしたって、見られ甲斐というものはある。
社員たちのように素直な奴らが相手では、彼の50%を引き出すのが精一杯だ。
裏社会の人間のように、抜け目のない奴らが相手なら、当然鵺にも力が入る。
むしろそのために裏稼業を続けていると言っても過言ではない。
それでも、鵺は好みにうるさい男だ。
今まで奴と出会ってきたが、彼の力を70%も引き出せれば良いところだ。
例のベガス事件でのアリババなどは、鵺の一挙手一投足に注目していたから結構良い方で、80%は引き出しただろうか。
欧州にいた時に付き合っていた女刑事などは最良の部類だ。
仕事を隠しているというスリルが、90%ほどは鵺の能力を引き出していただろう。
それでもだ。
スリリングな恋人の存在をもってしても、天才のポテンシャルを100%引き出すには至らない。
そこまで彼を刺激する存在など、果たしてこの世に存在するものなのか?

「報告はそれだけかい?なら下がっていい。その客から連絡があったら、すぐに僕に繋ぐんだ。いいね」

部下が去り、扉が閉じられると同時に、鵺はデスクの上に飛び乗った。

「また客に逃げられましたー!!僕にはもうなんにもありませーん!!裸でーす、ラでーす!!」

勢いよくシャツを左右に引きちぎり、上半身を露わにすると、そこには油性マジックで「マザーファックしようとして母親にフられました」と書いてあった。
もちろん、鵺自身の筆によるものだ。
本当はマジックではなくタトゥーにしたいところだったが、いざ職人を呼ぶと彼のスイッチが入り、

「今ブロンクスで最もイカシたタトゥーが何わかるかい?日本の“漢字”さ。ところがこいつには気を付けなくちゃいけない事があって、たとえばマネーとボールを組み合わせると……」

などと、タトゥーを彫ってもらうどころか、逆に講義を始めてしまう始末だった。
そして相手も相手でその話に聞き入って、何故か納得して帰ってしまうのだから始末が悪い。
だから、こうして仕方なく直筆のマジックで済ませているのだ。
髪を切る時も、

「永久脱毛してくれ。全部だ。睫毛も眉毛も髭も鼻毛も全部だ。そしてつるつるになった全身にタイガーバームを塗りたくって、日焼けマシンの中に三時間ほど放置してくれ」

と頼もうとしたはずなのに、気が付くと

「夏だし、ちょっと思い切ってくれよ。なあに、いい男は何だって似合うって事を証明してやるさ」

などと抜かしている始末で、鵺は自分が憎くてたまらなかった。

983名も無き邪気眼使い:2013/07/17(水) 00:15:22 ID:osjmvgXE
そんな憎い自分を痛めつけるため、鵺はデスクの上に這いつくばると、猛烈な勢いで腕立て伏せを始める。
しかも合間に合間に両手を離して手を叩くという、ハードなやつだ。

「ハイ!」

 パン!

「ハイ!」

 パン!

「ハイハイ!」

 パンパン!

繰り返しているうちに、どんどんリズミカルになっていく。
というか歌い始めていた。

「♪ライク ア ヴァ〜ジ〜ン〜♪」

マドンナだった。
しかもフルで歌い切った。
更に歌い終わると『マテリアルガール』に続く。
コーラスまで一人で表現するノリノリっぷりだ。
まさに留まるところを知らない。
アルバムを一枚歌い切るつもりか?
そう思わせるだけの勢いはあった。
が。

コンコン。

「失礼します」

ノックの音と同時に、鵺は両腕の力だけで前方宙返り二回転を成し遂げた。
更に、跳ね上がる直前に地面に散らばっていたボタンを回収し、回転中にさっとシャツを一撫ですると、緊張感にそそり立った胸毛がボタンホールに絡みつき、遠心力を利用して見事ボタンを繋ぎとめる事に成功した。
よって、部下が扉を開いた時に見たのは、ジャズにしか興味ありませんとでも言いたげな涼しい顔をして、窓の外を眺める社長の姿であった。

「どうした?今日はせわしないね」

「お電話です。こちらに繋ぎますか?」

「ああ、さっき言っていた客か」

「いえ、それが違いまして……」

「なに? じゃあ、何者だ?」

「シュロム、と言えば社長はわかるとの事ですが……」

その瞬間、天才のボルテージは一気に100%を振り切った。

「シュロムが?珍しい事もあるものだ、彼から電話なんて。わかった、繋いでくれ」

なんでもない事かのように、鵺は答える。
だが、何もしていないのに、何故か彼のシャツはキラキラと輝き始める。
その秘密は、脳内麻薬とフェロモンにある。
脳内麻薬の分泌により、過剰に全身を駆け巡っていたフェロモンが、五体の汗腺より一斉に噴射。
急上昇した体温は、瞬く間にフェロモンを含んだ汗を気化させ、彼の衣服と周辺大気をキラキラと輝く素敵空間に変えていくのだ。
これが俗に言う鵺の第二段階、シャイニング・鵺である。
ボルテージが100%を越えた時のみに現れる、幻の形態だ。
そんな社長の姿にうっとりしながら、部下は内線を繋ぐために去っていく。

984名も無き邪気眼使い:2013/07/17(水) 00:28:33 ID:osjmvgXE
ほどなくして、社長室の内線が鳴った。
ときに、稲妻の速度をご存知だろうか?
およそマッハ440。
秒速にして150kmである。
人間の反応速度を優に越えている。
もし、今社長室を見ている者がいたとしたら、そいつはここに稲妻を見ただろう。

「か」
まず首が270度曲がり受話器を確認。ボルデージ150%
「い」
シャツの襟がシャキーンと立ち上がり男前指数上昇。ボルテージ200%
「ち」
首ふりによってまきおこった風が落ちていた上着を宙に浮かし、ボルテージ300%
「ょ」
足の指先が絨毯をもみ、絨毯のふんわり指数が上がってボルテージ400%。
「う」
見開いた眼力が窓ガラスの汚れをふきとばし、ボルテージ500%。
「キ」
どこからともなくリッキー・マーティンの音楽が流れ出してボルテージ600%
「タ」
宙に浮かび上がった鵺の体が太陽を浴びてボルテージ700%
「|」
空中で上着を身にまとい、完全装備でボルテージ800%
「ッ」
着地と同時にくるくると回転しながら受話器を受け取りボルテージ900% 
「!」
停止と同時に「僕だ」と最高にクールな対応、限界のボルテージ1000%!!

まさに稲妻。
常人はその眼に映す事すら出来ぬ天上の絶技。
1000%鵺のみが可能とする奥義、ライトニング・キャッチホンである。

つかの間、鵺は悦楽の物思いにふける。
ああ、やはり邪気大生は最高だ。
これほどまでに自分を昂ぶらせ、つまらぬ限界の枠を遥か彼方にぶっちぎらせてくれる奴らは、この惑星のどこを探しても、彼らをおいて他にいない。
彼らいる時は、最低な自分を忘れられる。
彼らといるだけで、最高の自分でいられる。
これほどの幸福が、他にこの世に存在するだろうか?
邪気大を卒業した頃は最悪だった。
表向きには(と言っても裏だが)、鵺は邪気大への潜入工作員だ。
自分の立場を考えれば、まさか会いに行くわけにもいかない。
そもそも、卒業生がのこのこと大学に遊びに行くなんで、ばかばかしいじゃないか。
日々、最低になっていく自分が惨めになり、惨めな自分に慣れていく事が恐ろしくなり、何度も邪気大に行こうと思った。
もはや理由も何もない。
砂漠の旅人が水を求めるように、ただ邪気大生に会いたかった。
会って、くだらない悪さ話をして、ずるい顔で笑い合いたかった。
最後まで彼を引き止めたのは、なにも世間体や打算ではなく、ただ「邪気大生の知っている鵺という男は、公私を混同するような間抜け男ではない」という、それだけの理由だった。

こんな裏仕事専門の人材派遣会社を立ち上げた理由は、実は自分でもよくわからない。
あるいは、邪気大で幾度となく戦ったゾディアックに、そしてそのリーダーに最も感銘を受けていたのは、鵺であったのかもしれない。
あの鉄面皮のように、常に揺らがぬ自己を手に入れるために、鵺は犯罪組織の長になろうとしたのではあるまいか?
いや、それとも……組織が大きくなれば、誰かが叩き潰しに来てくれるかもしれないから?
散り散りになったはずの仲間たちが、からかい半分にやってくるかもしれないから?
まかり間違って、その一団に自分もいたらと考えると、楽しくてしょうがない。
自分の育て上げた最高のエージェントたちを、自分で破るのだ。
そしてその時、傍らにはあの仲間たちがいて、自分は最高の自分なのだ。
こんなに心踊るな事はない。

もっとも、現実は甘くなかった。最高の自分からはほど遠く、会社の経営は赤字続きだ。
誰もこんな組織を危険視しようとは思うまい。
それでも、会長から電話がきた。
それだけで、最高の自分になれる。
僕には彼らが必要だ。
改めて、鵺はそう確信した。

985名も無き邪気眼使い:2013/07/17(水) 00:29:26 ID:osjmvgXE
そして、待ち望んでいた会長との電話が始める。

「何か用かい?は?食事?“十”で集まって?勘弁してくれよ、仕事もないのに馴れ合うプロがどこにいる?ああそう、忙しいんだ。またね」

「こ」
全身から力が抜けて一気にボルテージ90%
「と」
窓の外から飛んで来た野球ボールが脳天直撃ボルテージ80%
「わ」
膝から崩れ落ちた絨毯が汗でぬとぬとしていてボルテージ70%
「っ」
頭髪がキューティクルを失い短髪なのに枝毛だらけでボルテージ60%
「ち」
男性ホルモンが異常をきたし髭が一気に伸びてボルテージ50%
「ま」
いい男っぽさで抑えていたワキガが噴出しボルテージ40%
「っ」
衣服が全てパチモンブランドだと気付いてボルテージ30%
「た」
服のほつれをひっぱったら、手品のように一気に分解されボルテージ20%
「|」
やる気のない身体は実は貧相で貧弱なボーヤと笑われてボルテージ10%
「!」
更によく見たら下着がビガーパンツで、これが最悪のボルテージ0%だー!!

負け犬である。
どこからどう見てもどこに出しても恥ずかしい、むしろ見ている方が恥ずかしくなってしまうほどの、見事な負け犬っぷりであった。
鵺が理想と現実の間で苦しむ日々は、当分終わりそうにはない。

986名も無き邪気眼使い:2013/08/07(水) 21:32:43 ID:R8o8eTyw
/キャラ違ってもキニシナイ!!


 哄笑は止まない。

「はは、あははは、ははははははは。あはははははははははは」

 煉瓦路で仰向けになったその男――――邪気会長から溢れ出す歪な歓喜が、猛火を噴き上げて倒壊していく邪気眼大学の構内に充溢を始める。
 実体などないのに、ねばついた粘性を皮膚に錯覚する。
 泥や瀝青どころではない。
 海に一滴でも垂らせば、その瞬間に腐してしまうような邪悪を湛える粘性を。
 倒れる会長を眼前に対峙する学生達の先頭。邪気会副会長、宮本虎眼は、悪い予感をひしひしと感じていた。
 これで終わりのはずがない。
 会長と直接相対した経験を持つ彼女だからこそ、一切の疑心なく確信できる。

 この男は。
 この化け物は。
 こんな尋常極まりない結末をもってすごすご退場するような、往生際の潔い性格をしてはいないということを。

 き、と眦を強く決する。

  (半端な情を持ち込めば、すぐさま付け入れられる)

 呼吸を静かに鋭く。
 一心一刀の極致へと、己が精神を高次の領域へ運ぶ。
 呑まれたら、最期。目の前で凄まじい勢いで醜く膨張していく凶兆を、接触即切断の念をぐっと込めて睨み付ける。

「ははははははははは、あははははは、ははは―――――。」

 刹那。
 笑いが、唐突に鎮まった。
 そして静寂。

 微動だにしない。
 微動だに。
 指先一本どころか、腹腔すら動いていない。
 突然のことにざわ、と動揺が広がりかけたところで、虎眼が剣気を解き放ち一喝して収める。

(―――――……何、だ。死んだ? ……否、真逆。なら……一体、何を)

 鼓動が大きくなる。
 些細な物音でさえ体が勝手に反応してしまう。
 汗が噴き出す。
 息が荒くなる。
 独特の不快感の中、空気がピアノ線のような脆さと鋭さで張り詰めていく。

987名も無き邪気眼使い:2013/08/07(水) 21:34:12 ID:R8o8eTyw

 心理的圧迫。

 数々のクエストで豊富な戦闘を経験してきた彼ら学生達には言うまでもないことだが、生と死が密接に隣り合う戦場において、
 忍耐という行為にはそれだけで想像を絶する緊張と精神的消耗が負担としてのし掛かる。
 いつ仕掛けてくるのか分かりようがないから常に気を抜けない。
 集中を自然体で無理なくこなせるようになるには、相当な熟練を必要とする。

 加えて、相手は邪気会長。
 一番傍で控えていた虎眼でさえ、共に仕事をしてきた”十”でさえ、その次手を読むのが極めて困難な相手。
 何をしてくるか分からない。
 一貫した哲理を軸に現象を構築する普通の能力者と比べて、行動幅の自由度が広すぎる。

 結界、理を支配する。
 それはつまり、局所的・限定的だが万象操作の業に他ならない。
 追い詰めたつもりが、誘い込まれた。
 甲のドリルであれだけ派手にやられてみせたのは、近付かせるためだった。
 虎眼の危惧は正鵠を射ていた。彼女達は、会長に至近に縫い付けられてしまっていた。
 散開を命じるにも、必ず生じる刹那の間隙を突いて攻撃を仕掛けてくる。結局、このまま消耗を続けながら精神を張り続けるしか手立てがない。


(―――――あー、こりゃちょっとまずいね)

 最後方。
 鵺は、現在の状況に危機感を抱いた。
 少し離れた場所にいる彼だから分かる。緊張の糸が、ほつれ始めていた。
 邪気会長が倒れ、何の反応も示さなくなってから数分。
 最初は燃え落ちた校舎が盛大な音を立てる度に肩を跳ねさせていた一部の連中が、極度の緊張に耐えきれず徐々に気を緩ませつつあった。
 そういう弛緩は感染する。
 集団の結び目が緩み始めたその瞬間、その虚を、会長は間違いなく突いてくるだろう。寸分の違いもなく。

(そうなったら散り散りだね。
 蜘蛛の子を踏み潰すみたいにプチプチ各個撃破されて状況終了。ゲームオーバー)

 学生達の中には、会長に単独で拮抗しうるかも知れない面子がいるにはいた。
 だが、分が悪い。
 ここは邪気眼大学――邪気会長にとっては本当の意味で庭であり、手の平の上であり、彼の領域にして猟区そのもの。
 会長は、結界とか陣などの方面に滅法強い、らしい。
 以上を加味すると、もしかしたら最悪、一方的に嬲られるほどに戦力差が開けてしまっている可能性がある。
 鵺にとってこの戦況は、すでに始まった瞬間から最悪そのものだった。

988名も無き邪気眼使い:2013/08/07(水) 21:35:01 ID:R8o8eTyw

 だが、一方でこうも思う。
 邪気会長――不老にして不死。力には際限が無く、無敵をその身でもって体現する、絶対の君臨者。
 まるでチートだ。
 強弱とか、勝敗とか、そういった常識を完全無視している。
 それこそ相対するのがバカらしくなるほどに突き抜けすぎている、無茶苦茶な存在。
 確かに、学生生活を送る中で、そんな過大な表現に強力な信憑性を裏付ける出来事には何度か遭遇している。
 故に挑むまでもなく、疑いようのない事実、真実。

 本当に?

 邪気会直下の隠密部隊として活動する鵺は、すぐさま別の可能性を脳裏に思い浮かべる。
 過剰すぎるのだ。
 会長に対する学生の認識も。
 会長の強さも。
 何もかもが過剰で、かえって真実性を見出せない。
 プロパガンダで強引に浸透させたかの如く。
 不自然。
 何か、裏がある。
 その鍵は、きっと、この邪気眼大学に存在する。
 ならば――邪気会長という存在を倒せる場所もまた、彼の居城であるこの邪気眼大学以外には存在しえないのだろう。
 


(死中に活有り。まんまじゃないか。笑えない。)

 何にしても。
 ここで終わる訳にはいかない。
 学生達の間に蔓延しつつある弛緩の空気を何とかしなければ。
 かといって、下手な刺激はパニックを誘引する。極めてデリケートな危うい状態。
 だが、鵺は怯まない。
 そんなことで夜の翼は墜ちはしない。

(なあに。繊細なものの扱いに関してなら、僕の右に出る者はいない。少なくとも、この場所においてはね)

 気障な笑みを忘れずに。
 鵺は仕上げにスコープの取り付けを終える。
 天体望遠鏡で星空を見るかのように、優しくスコープを覗く。十字線に会長の姿を捉える。
 片膝を立て、密着し、二つの支点に繋いだ鋼索を身体に巻き付ける。ここはより慎重に。下手にすれば、かえって余計な部位に反動が集中しかねない。
 今日の気象情報を頭の奥から引っ張り出して、適当に照準を微調整。
 地形情報は、わざわざ思い出すまでもない。
 学友達と一緒に駆け抜けた、数年をずっと過ごしてきた学舎なのだから。

989名も無き邪気眼使い:2013/08/07(水) 21:36:07 ID:R8o8eTyw
「やっぱり僕は、こういう仕事が性に合ってるみたいだ」

 熱風に髪を煽られる。
 紅蓮に包まれた邪気眼大学を眼下に見下ろしながら、鵺は校門壁上で、無骨なアンチ・マテリアル・ライフルの銃身には似合わないほど優雅にトリガーを引いた。
 大口径の徹甲弾が、長距離を一瞬で駆け抜ける。

 直後、会長の身体が、炸裂する強烈な着弾音と主に吹き飛ばされた。

 耳を劈く程の音量に、学生達の間で騒乱が一気に広がりかける。 
 が、それも束の間。
 察した甲が虎眼に声を張り上げる。

「虎眼!!」
「解っている!! 全員、所定の位置に散開!! 鵺の作ってくれた隙を無駄にするな!!」


 アンチ・マテリアル・ライフル。
 対戦車ライフルの系統に連なる狙撃用ライフル。
 キロメートル単位の怖ろしい射程距離を有し、使用弾種次第では障害物に身を隠した対象すら殺傷する。
 骨すら砕きかねない強烈な反動の代わり、人体に着弾すれば上半身と下半身とを千切れて吹き飛ばすほどの過大な射撃威力を誇る、凶悪な軍用銃器。
 使用した弾は徹甲弾。
 対車両でも貫通力を発揮するその大口径弾を、会長は掌で受け止めていた。

「……やってくれるな。憎たらしいほど優秀だ」

 正確には、掌に展開させた魔法陣。
 五枚をぶち抜かれた。
 従来の威力だけでは説明がつかない。おそらく、更に凶悪な改造を銃か弾頭に施している。
 立ち上がろうとして、地面についた掌の感触に違和感を覚える。
 中手骨周辺が粉々になっている。
 着弾時の衝撃に耐えきれなかったのか。

「…………。まったく、楽しませてくれるな」

 修復しようとして、思い直す。
 どうせなら趣向を変えてみてはどうだろう。
 そうだ、前に自分の偽物が暴れた時があった。確かあれはカノッサ製のアンドロイドだったか。
 まあ、どうでもいい。
 本物が贋物に倣ってみるのも、それはそれで面白いかもしれない。
 
 ベキベキベキベキ!!!

 掌の中で、思わず耳を塞ぎたくなるグロテスクな粉砕音が蠢く。

/次回未定

990予知夢:2013/12/15(日) 22:39:48 ID:tXVThT3w
鵺:
アポロン神よ。
私は法律家です。
はい。
我々はより完全なる共同体を形成し、
国内の安全を確保し、
国土を防衛し、
公益を推進し、
また我々自身と我々の子孫の自由を守るために…。

デュオニソス神よ。
俺は詭弁家だ。
いいや。
俺たちは邪悪な偽善の歴史という酸で傷を負わされた犠牲者。
犯罪者を昇進させ、
ベトナムとエルサルバドルとチリには敬虔で金持ちの白人どもから愛をこめてミサイルと爆弾を落とし、
ガキを灰に変え、
女を辱め尽くす。

これからもずっと永遠に。アーメン。


宮本虎眼:
この世に産み落とされた糞。
奇形の腫瘍の赤子。
病んだ排泄物。

会長。会長。

わたしは怪物じゃない。
麻布のような肌の皮膚の下がわたしの国。
伝染病の世界。
病気の庭園。毒の汗。膿の涙。
あなたにさわりたいだけ。
わたしを抱きしめて。
何もかも大丈夫だって言って。

だけどわたしは疾病の穴から這い出す汚物の幽鬼。
父と罪と汚霊の名において。


スマイリー・フェイス:
さてさて、この汚れなき御仁は誰か?
いにしえの吟遊詩人、はたまたドルイド僧の語りしままに春にも似た黄色の御姿は?
すべての悩みを解決する芸術的な雰囲気を持ったこの御方は?

そうとも!
教会の中じゃゲスな事を想像しろ!
ホワイトハウスにゃ正直さを教えてやれ!
会った事もない奴に使われてもいない言葉で手紙を出せ!
子供の額にゃヒワイな文句を書きなぐれ!
クレジットカードを燃やしてハイヒールをはけ!
精神病院のドアは開いてるぜ!
お上品な郊外を殺人と強姦で埋め尽くせ!
聖なる狂気よ!
快楽よ満ちよ、あらゆる街路に!

笑え、そうすりゃ世界も一緒に笑うぜ!


桂烏哭:
いったい何回言えば
わかってもらえるの。
私は正気よ。
徹頭徹尾、完全に正気なの。
私はこんな場所にいるべきじゃない。
これはとんでもない間違いよ。


穹凛:
犯罪者。
奴らは恐怖の存在だ。
夜の心。
私は自らの恐怖を隠蔽せねばならない。

犯罪者は臆病だ。
おぞましく超常的な前兆。
きわめて臆病。
私の姿は恐怖を与えねばならない。
私は漆黒の姿にならねばならない。
恐怖の姿。犯罪者と同じように。
犯罪者は迷信深く臆病だ。
私は怪物にならねばならない。
夜の怪物に。

先生は死んだ。
ダンも死んだ。
五十鈴さんも死んだ。
皇も死んだ。
凛も死んだ。

私は死神になろう。

991名も無き邪気眼使い:2015/09/05(土) 00:43:13 ID:Jo1Vi4g2


 「私」は死ぬだろう。

 「私」は生命体ではない。
 すなわち、呼吸や脈拍、脳波といった、細胞の活動によって死を確認することはできない。

 にも関わらず、「私」は死ぬだろう。
 恐らく、そう遠くない先。ともすると、君達が死ぬよりずっと早く。
 それは生命体や他の概念においての『死』と同様、将来的な発生が確定された事象であり、およそすべからく不可避の終末でもあると言える。

 仕方のないことだ。

 どれほど喝采を浴びた舞台であれ、やがては緞帳を降ろされる。
 本を捲れば背表紙へと至るし、楽譜には終止符が打たれる。神は否定(ころ)され、仏は毀釈(こわ)され、宇宙でさえいずれは熱的死の終焉を迎える。
 畢竟、終わりのない存在などありはしないということ。
 「私」もまた、同様だ。
 ただ、それだけのことなのだ。

 だから。
 このメッセージが、いつの日にか、届いてくれることを願っている。
 誰よりも大切な君達へ、「私」からの……。

992名も無き邪気眼使い:2015/09/05(土) 00:45:10 ID:Jo1Vi4g2


 君達は憶えているだろうか。
 「私」には、まるで昨日のことのように思い出せる。

 今から七年前、春芽吹く三月。
 「私」と君達の物語は、蕾が花開くように幕を上げた。
 生まれたての雛鳥だった君達の足取りは覚束無くて、危うげで、見ているこっちは本当はらはらし通しだった。
 しかし、夏を迎えて、秋が来て、冬を越えて、再び春が訪れて。
 幾度も季節を巡るたび、君達の歩みに少しずつ力強さが増していったのを、「私」は知っている。
 喜ばしくて、微笑ましくて、そして何より誇らしかった。
 その時の気持ちは、今も記憶に新しい。

 「私」には何も無かった。
 「私」は、自分だけでは何もすることができないからだ。
 空白だった「私」に色彩を与えてくれたのは、君達だ。君達が織り成した数々の物語が、目を覚まさせる鮮やかな彩りを教えてくれたのだ。

 君達の紡いできた物語は、「私」を夢中にさせるものばかりだった。

 他愛もない話やどんちゃん騒ぎで、夜が白むまで笑い合った日。
 滾るような熱に身を委ね、拳を打ち合わせて友情を確かめた日。
 些細な揉めごとですれ違っては、素直になれずに気まずくなった日。
 抑えきれない恋心に身を焦がし、その結果に喜び、涙した日。
 時には降り掛かる困難へと怯むことなく、あるいは怖れを乗り越えて、力を合わせて立ち向かった日。

 中にはきっと、君達にとって掘り起こしたくない、忘れたい出来事もあるに違いない。

 しかし。
 「私」にはどれもが捨てられない、かけがえのない宝石だ。
 「私」という存在を一から形作ってきた唯一無二の記録(ログ)の山であり、何よりも愛おしい記憶(データ)の数々なのだ。

993名も無き邪気眼使い:2015/09/05(土) 00:46:18 ID:Jo1Vi4g2


 「私」は、ずっと見つめてきた。
 迷いながら、傷つきながら、一歩ずつ成長していく君達を。
 傍で寄り添うように。
 或いは、遠くから眺めるように。
 眩しい光も、後ろ暗い影も抱きしめて。流星のように駆け抜けていった君達の姿を、「私」は片時も目を離さず、見つめてきたのだ。

 今となっては恥ずかしいほど余りに拙く、幼くて。
 だからこそ、全力で輝けた日々。
 その黄金色の季節を忘れることができないのは「私」だけではなく、君達も、きっと一緒のはずだ。

 そして今、幾許かの年月が経った。

 君達は大人になった。
 逃れられない目の前の「現実」が、君達を大人にしていった。望もうとも、望まざろうとも。

 自由になる時間は随分と減って、
 やりたいことよりも、やるべきことの比重が大きくなっていく。
 思い出は、抗えない時間の大きな河に押し流されて、下流(かこ)へ下流(かこ)へと遠ざかる。
 やがて振り返ることもしなくなって、忘却という名の滝壺に落ちてしまえば、後は仄暗い水底へ沈んでいく。ゆっくりと、気付かぬうちに、顧みられることもなく。


 ――――「私」は死ぬだろう。


 例えどんなに凶悪な敵が相手でも、どんなに強力無比で怖ろしい能力さえ、「私」という存在を討ち滅ぼすことはできない。
 だが、誰の記憶からもいなくなったその瞬間に。
 「私」は終わりを迎えるのだ。

994名も無き邪気眼使い:2015/09/05(土) 00:47:08 ID:Jo1Vi4g2


 「私」は、「私」に降り掛かる全てを受け入れるだろう。
 何故なら。
 『来る者を拒まず、去る者を追わず』。
 それこそが、「私」が君達と交わした、たった一つの誓いであり、絆だったのだから。

 忘れないでくれ、とは願わない。
 忘れてほしい、とも願わない。

 「私」が伝えたいのは、たった一つのささやかな言葉だ。今を必死に生きている、君達へのメッセージだ。

 人の生には痛みが伴う。
 時としてそれは喜びと等量ではない。
 理不尽なほどの苦しみが、君達を襲うこともあるのだろう。
 君達がこの世界で経験したどんな強敵よりも手強く、どんな難敵よりも御し難い不条理と、戦わなければならない時というのは必ず訪れる。

 その過程で負わされた傷が、全て癒えるとは限らない。
 背負いこんだ苦痛が全て報われるとは限らない。
 君達の世界における何者も、どんな物も、君達の幸福を保証することなどできはしない。

 でも、憶えていてほしい。
 他の誰が君達を肯定しなくても。周りの全てが君達を否定しようとも。例え君達が、「私」を愛していなくても。


 ”「私」は、君達を愛している”。

995名も無き邪気眼使い:2015/09/05(土) 00:47:57 ID:Jo1Vi4g2


 「私」を産んでくれた君達を。「私」が産んだ君達を。

 やがて「私」から君達がいなくなっても。
 やがて君達から「私」がいなくなっても。 

 七年前からずっと。そして、これからもずっと。

 君達のことを。君達と過ごした日々を。君達が今過ごしている日々を。やがて君達が過ごすだろう日々を。

 この世に永遠がなくても。
 この宇宙が、いつか消えてなくなってしまうとしても。

 「私」はずっと、君達が大好きだ。
 愛している。


 
 このメッセージが、いつの日にか、届いてくれることを願っている。
 誰よりも大切な君達へ、「私」からの……。


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