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みはち童話保管スレ^◇^

1名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:24:27
みはち童話 〜おおかみ王子〜^◇^

むかしあるところに、田舎暮らしの王子様がいました^◇^
王子の名前は、レン・ド・ミハチエールといいました^◇^

王子様の両親は、王子がまだ小さいころに亡くなっていましたが、
王子様はいつまでたっても跡を継ぐ気にならず、側近たちにまかせきりで、
国の仕事もほったらかして、毎日近くの森のオオカミ退治に
でかけてばかりいました^◇^

そんな王子をみかねた側近たちは、王子様に妻をめとらせようと
お見合いを計画しました^◇^
しかし、王子様のやるきのなさは、他の国にも知れ渡っていて、
あの王子はきっとばかに違いない、と噂がたつほどでした^◇^
そんな具合ですから、お見合いを申し込んだところで
「うちの娘を、あんなところへ嫁にいかせるわけにはいかない」と
断られてばかりでした^◇^

結局最後に候補に残ったのは、側近の一人の親戚の娘ただ1人になりました^◇^
娘の両親は、そこそこの資産家でしたが、両親を失ってからは
修道院に入り、今はそこで修道女として人目に出ない生活をしていました^◇^

2名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:25:26
みはち童話 〜おおかみ王子2〜^◇^

王子にはわかっていました^◇^
この結婚が、娘の持参金目当てだということが^◇^

王子が側近たちに仕事をまかせきりだったせいで、側近たちは好き放題に
金をつかいこみ、いまや国のお金はそこをつきはじめているのだ、と
王子の家庭教師が話していたのを覚えていたのです^◇^

しかし、その責任は王子にもあります^◇^
だから、王子は、娘がたとえどんな醜い豚のような姿をしていても
我慢しようと心に誓うのでした^◇^

そして、いよいよお見合いの日がやってきました^◇^

お見合いは、修道院で行われることになりました^◇^
修道女である娘が、「神に仕える身でありながら、おいそれと
外出するわけにはいかない」と城へ出向くのを拒んだからでした^◇^

「女の子ってわがままだなァ^◇^」

当時としてはずいぶん生意気なその娘の態度におどろきつつも、
王子は先日鉄砲で撃ち殺したばかりのオオカミの毛皮でつくった
帽子をかぶり、たいそうおめかしして修道院におもむきました^◇^

3名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:25:55
みはち童話 〜おおかみ王子3〜^◇^

娘の名前は、アヴェンヌといいました^◇^
アヴェンヌ嬢についての王子の予想は、ある意味裏切られ、
ある意味正しかったといえました^◇^

アヴェンヌ嬢は、けして醜くはありませんでしたが、控え目にいっても
美人ではなく、人目を引くような派手さはまったくない娘でした^◇^
なにより際立っていたのはその愛想のなさでした^◇^

城へ出向かないといった言葉からもわかるように、口のきき方もぞんざいで
礼儀知らずとまではいかずとも、生意気というドレスに身をつつんだような
娘でした^◇^
そして、ここまでは王子をはじめ、側近たちの予想もおおきく
はずれたものではありませんでしたが、唯一予想を大きく裏切るできことが
おこりました^◇^

「あ、あ、あの、ボク…王子といいます^◇^」

不健康そうな色をした頬を、バラのように紅潮させて、王子は娘の足元に
ひざまずいていったのでした^◇^

「ぼくと、けっこん、してください!^◇^」

4名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:26:39
みはち童話 〜おおかみ王子4〜^◇^


男女の仲とは、他人から見ると滑稽にうつるものですが
その日の王子の態度は、まさにそうでした^◇^

いくら女性に慣れてないとはいえ、他の男からは見向きもされないような娘に
一目惚れしてしまった王子を、誰が予想できたでしょう^◇^

ひざまずいた王子は、震える足でたちあがり、そっとアヴェンヌ嬢の手をとりました^◇^
その時、王子が恥ずかしさのあまり、娘の顔をみられなかったのは幸いでした^◇^
あとから聞いた話ですと、その時のアヴェンヌ嬢の目は、妖怪でもみるような
忌わしげな視線だったとのことでした^◇^

「私、わかったわ。さっきから漂っているこの臭いの正体が」

王子はびくり、と身体を震わせて手を離します^◇^

「その帽子よ。血なまぐさい臭いのする帽子。噂は本当なのね。あなたが
オオカミを撃ち殺すのが趣味という、野蛮人というのは。
私、そんな方と一緒に暮らすのは無理です」

さすがに側近たちも、これには顔の色を失い、無礼者、と大声をあげました^◇^

「いや、いいんだ^◇^確かに、オオカミ退治なんて、野蛮だとおもう^◇^
もう、狩りはやめよう^◇^今度からは心をいれかえて、仕事にはげむことにするよ^◇^」

こうして、唯一の趣味とひきかえに、王子は初めての恋を手に入れることになりました^◇^

5名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:27:23
みはち童話 〜おおかみ王子5〜^◇^


このような複雑な出会いのせいか、王子はしばらくの間、結婚の幸せからは
遠く離れた新婚生活を送るはめになりました^◇^

結婚した後も、アヴェンヌは修道女時代とほぼ変わらない生活を守って
くらしていたので、王子が妻のために買ったきらびやかなドレスや靴、装飾品は
そのほとんどが無駄になってしまいました^◇^

そんな王子でも、ささやかな幸せを感じることはありました^◇^

式をあげてからしばらく寝室が別々だった2人でしたが、ある晩、王子が
寝床にはいったあと、すぐにドアがノックされ、あけるとそこにアヴェンヌが立っていました^◇^
王子は、何も期待するなと自分に言い聞かせながら、自然な態度をよそおって
妻をはじめて自分の寝室に招き入れたのでした^◇^

「近頃ずいぶん寒くなりましたでしょう。風邪を召されては困ると思って」

アヴェンヌはそういうと、羊の毛で編んだナイトキャップとスリッパを手渡してきました^◇^
王子は天にも昇る心地でそれを受け取りましたが、けして態度にあらわすことなく
ただ顔を赤くして黙っていました^◇^

「教育係のねえやが、いろいろと教えて下さいました。夫に対してのふるまいを」

アヴェンヌはそういって、小さなため息をつくと、母親が小さな息子を寝かしつけるように
促すように王子をベッドに横たえ、自らもその隣に横たわり、2人はそのまま朝をむかえました^◇^

結婚してから1年ほどの間、そんな出来事がいくつかあり、そのたびに王子は
「もしかしたら妻も、私を愛してくれているのかもしれない」と思い、
すぐにまた「いや、これはきっと、彼女の忍耐と努力のたまものなんだろう」と思い直す日々
の連続でした^◇^

「結婚って、自分は妻に愛されてないんだ、と確認するだけのものなのかもしれないな^◇^」

そう自問自答する日々でした^◇^

6名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:27:49
みはち童話 〜おおかみ王子6〜^◇^


妻の愛を疑いながら、それでも時折訪れるささやかな幸せに
慰めを得ていた王子でしたが、そんな王子に、けしてささやかではない
幸福の鐘の音がが鳴リ響くことになりました^◇^

ついに、アヴェンヌが懐妊したのです^◇^
側近たちは喜び、または喜んだ振りをし、王子に祝辞を述べました^◇^
王子は感極まって、ただただ顔を赤くしたまま、おろおろとするばかりでした^◇^

アヴェンヌは、悪阻のせいで、ひと月ほど体調をくずし、時折王子にむかって
ヒステリーを起こしました^◇^どうして私があなたの子供をうまなければならないの、
こんなに苦しいのはあなたのせいよ、とひどく王子を責めたのです^◇^

そんなとき、王子は悲しい目でただ妻をみつめることしかできませんでした^◇^
年老いたばあやが、懐妊された婦女子にはよくあることなんですよ、と
そっけなくいうので、王子はただ黙って毎晩アヴェンヌの枕元に座り、
髪をそっと撫でてやるのでした^◇^
2、3日もすると、アヴェンヌは落ち着きを取り戻し、時折王子に甘えてくるように
王子の胸に顔をすりつけて、2人はそれから毎晩一緒に眠るようになりました^◇^

7名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:28:19
みはち童話 〜おおかみ王子7〜^◇^


しかし、その子供が生まれてくることはありませんでした^◇^
冬の初め、アヴェンヌは流産しました^◇^
幸運にも、母体への影響はほとんどなかったのですが、アヴェンヌの落胆ぶりは
はたから見ても痛々しいほどでした^◇^

城中が嘆き悲しむ中で、王子は、自分一人だけ蚊帳の外にいるような気持ちでいました^◇^
彼の心は、子供が生まれてこなかったことよりも、アヴェンヌの命を救ってくれた神に
感謝したい思いでいっぱいだったからです^◇^

アヴェンヌのすっかり青白くなってしまった肌をさすりながら、王子は切々とのべました^◇^
「子供はまたつくればいいじゃないか^◇^もうあまり気にしない方がいい^◇^」
そんなことよりも、君が無事だったことのほうが、僕にはうれしいよ、と心の中で
そっとつけくわえながら^◇^

すると、アヴェンヌは目から蜘蛛の糸が落ちるような涙を一筋こぼし、呪うようにいったのです^◇^
「なんて冷たい人なんでしょう。あなたには人間の心というものがないのね」
王子は、どうしていいかわからず、まばたきもせずにアヴェンヌの冷たい横顔をみつめていました^◇^

それがきっかけで、2人は徐々にすれ違いの日々を送り始めるのでした^◇^

8名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:29:04
みはち童話 〜おおかみ王子8〜^◇^

ところで、王子の住む城には、王子が幼少の頃から、ある女性が
頻繁に出入りしていました^◇^

彼女の名前はマリアンヌ・モン・モエゾンといい、王子の父方の叔母に当たる人物で
若い頃に夫を亡くし未亡人となってからは、ずっと城の離れに住んでいる
いわば城の影の女主人といってもいいほどの存在でした^◇^

彼女の美貌は、はるか都会まで知れ渡るほどのもので、
そのなまめかしさは、老若貧富とわず、この世に生を受けた男に対し
公平平等にひきつけてやまなかったので、彼女の周りにはいつも何がしか
男の影がちらついていました^◇^

それでも、王子が結婚してからしばらくの間は、彼女なりに自制してつつましく
暮らしていたようですが、その努力も長くは続かなかったようで、1年もするとまた
都会から男をみつけてきては(マリアンヌ曰く、男の方から追ってくるとのこと)
自宅に囲うようになっていました^◇^

正直、王子にとっては、奔放なマリアンヌの素行に特に興味も関心も
なかったのですが、メイドたちの噂は自然と耳に入ってきたので、
やれ今度の間男は今までのとは違って教養があるだの、背が高いだの、
笑顔がまぶしいだの、すれ違うとバラのような香りがするだのと、
本人に会う前からすっかり詳しくなってしまう始末でした^◇^

察しのいい男なら、ここであるひとつの危険に気づくはずでしたが、
男女の仲に鈍感極まりない王子には、そこまで思い当たることができませんでした^◇^

アヴェンヌの耳に、その間男の噂がはいったのは、それからすぐのことでした^◇^

9名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:29:40
みはち童話 〜おおかみ王子9〜^◇^


アヴェンヌの様子が変わり始めたことに王子が気づいたのは、
マリアンヌの間男がやってきて2ヶ月ほどたった初夏のころでした^◇^

その頃、王子はアヴェンヌと結婚当時交わした約束を反故にし、
趣味だったオオカミ狩りに再び興じておりました^◇^

王子の狩り仲間は、王子の乳兄弟にあたる森番の青年で、
名はコズアルドといい、王子の数少ない友人のひとりでした^◇^
そして、まだ存命である彼の父こそが、国一番のハンティングの名人であり、
王子に狩りを教え込んだ師匠でもありました^◇^
再び狩りを始めた王子をみて、コズアルドと父は大変喜びました^◇^

その朝も、夜が明ける前から森に出ていた王子は、大きな銀色の尾の
オオカミを一頭撃ち、コズアルドに獲物を預け、いたく満足して自分の寝室に戻りました^◇^
アヴェンヌの笑い声を聞いたのはちょうどその時でした^◇^
窓の外をのぞくと、朝露に濡れた庭のバラ園に、アヴェンヌが長身でがっしりした体つきの男と
立ち話をしているのがみえました^◇^

日に焼けた肌に、白い歯が印象的なその美男子こそ、叔母のマリアンヌの
間男であるアズサンブルだったのです^◇^

10名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:30:10
みはち童話 〜おおかみ王子10〜^◇^

アヴェンヌがアズサンブルに、夫である自分にすら今まで見せたことのないような
華やかな笑顔をむけているのを見たとき、王子はかすかに嫉妬したものの、
とうに諦めていた彼女からの愛の見返りを、アズサンブルのおかげでほんの少しでも
分けてもらえたかのように感謝までする始末でした^◇^

王子はすでにアズサンブルと面識があり、彼の優雅な身のこなしには
同性ながらも惹かれるものを感じていました^◇^
城の者たちがおよそ理解をしめさないオオカミ狩りについても、彼は熱心に聞いてきました^◇^
その関心の矛先は、主に毛皮についてのことでしたが、王子が一瞬でも
喜んだことを、いったい誰が責められるでしょう^◇^

しかしこの辺が、アズサンブルという男の大変狡猾なところだったのですが
悲しいかな、王子もアヴェンヌも、このときはまだ男の本性に気づいておりませんでした^◇^

夢遊病のごとく夜明け前に森をうろつき回り、オオカミの尻を追うことに夢中で、
愚かにも王子は、愛する妻と美しい間男との逢引を、危険な兆候だとはみじんも
感じていなかったのです^◇^

王子を除く城の全員がアヴェンヌの不可解な行動に気づきはじめても、
夫である王子がひとりだけ、何も知らずにいたのです^◇^
もちろん、とうに城の人間たちは2人の関係に気づいていましたが、王子の気持ちを慮り
(城の人間たちは、王子がたいそう気むずかしくプライドの高い男だと思っていました)
見て見ぬふりをしていたのです^◇^

11名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:30:35
みはち童話 〜おおかみ王子11〜^◇^

アヴェンヌの様子が、みるみる変わっていったのは夏が終わるころでした^◇^
当初は、アズサンブルと城で顔を合わせるたびに、顔をほころばせ
少女のようなまなざしを遠慮なくぶつけていた彼女でしたが、
アズサンブルが城で我が物顔でふるまうのと反比例するように、
いつしか彼をみつめる妻の視線に恐怖が混じるようになっていたことに、王子は気づきました^◇^

その時、はじめて、王子は2人の関係に気づいたのです^◇^

修道院で慎み深く育てられた彼女にとって、夫以外の男と関係をもつことが
いかにおぞましく、いかに許されないことか^◇^
彼女自身が一番よくわかっていることを、王子は知っていたのです^◇^

コズアルドなどは、王子の前でアヴェンヌとアズサンブルを手ひどくののしりましたが、
王子は一切2人について語ることはありませんでした^◇^
アズサンブルに対しても、今までと同じ態度を貫いていました^◇^
アヴェンヌの方から何かを話そうとしてきても、王子は目を合わせようともしませんでした^◇^
しかし、身のうちでは、誰も想像できないほどの激しい嫉妬の炎を燃やしていました^◇^

不思議なことに、アヴェンヌに対して憎悪のような感情は一切めばえることがなく、
ただ彼女の身の上に心を痛めていました^◇^
好きでもない男のもとに嫁ぎ、しかもその結婚は持参金目当ての政略結婚ときている^◇^
初めてできた子を失い、夫を愛することもできず、城に幽閉されたも同然の生活^◇^

そんな妻が、あの魅力的な男に心を奪われるのは至極当然で、アヴェンヌが
このことで苦しんでいることが、王子には何よりも辛かったのです^◇^
アヴェンヌの不貞は天の配剤でもいうように、王子は受け入れようと努力していました^◇^

12名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:31:03
みはち童話 〜おおかみ王子12〜^◇^


元々、オオカミ以外のことに対し関心も薄く、決して社交的と言えなかった王子ですが
妻の不貞があってからは、ますます口が重くなり、昼間は城を出て森番の小屋で
過ごす時間が増えました^◇^

城にいても、2人の仲睦まじい様子を見ているのは耐えられなかったし、
何より、嫉妬に駆られておかしなことを口走って、ますます妻に
嫌われてしまうことを王子は何よりもおそれていたからです^◇^

とにもかくにも、アズサンブルの出現により、アヴェンヌは変わりました^◇^

一度はアズサンブルの誘惑に負け、質素なドレスに身を包むことが
何よりの美徳とでもいわんばかりだった妻が、都会の流行とかなんとか
吹き込まれたのでしょう、夫以外の男の為に派手なドレスを仕立て
着飾るようになったこともありました^◇^

王子は、ただただアヴェンヌが哀れでなりませんでした^◇^

アヴェンヌは、夫である王子からみても、特に人目を引くような美人でもなければ
愛想もいいわけではありません^◇^
コズアルドじゃなくとも、アズサンブルが本気でアヴェンヌを愛しているわけでは
ないことくらいわかりました^◇^

13名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:31:24
みはち童話 〜おおかみ王子13〜^◇^

アズサンブルは前にも増して城内で威勢良くふるまい、挑戦的にも、
王子の眼前でアヴェンヌに軽口を聞くような暴挙に出ることもありました^◇^
叔母の権力を笠に着て、城の主である王子を貶めるような真似をする
この男の下司な本性が、なぜ見抜けなかったのか^◇^
今のアズサンブルの横柄な態度をみれば、彼がアヴェンヌに近づいた目的は
火を見るよりも明らかでした^◇^

アヴェンヌのドレスがまた元の質素さを取り戻した頃、ある晩遅く、彼女が
王子の寝室をおとずれたことがありました^◇^
その頃にはすでに、アヴェンヌの気持ちはアズサンブルから離れていたようです^◇^

王子は、ベッドの中に招き入れはしたものの、指一本彼女に触れることは
ありませんでした^◇^
妻の代わりに、新婚当初、毎晩ささやかに触れ合って眠りについた思い出を
抱きしめながら、王子は眠りにつきました^◇^
背中越しに、アヴェンヌが、声を殺して泣いているのがわかりました^◇^

その後、ますます王子はオオカミ狩りに熱を入れるようになり
狩りにでた日には、そのまま城へ戻らない日も増えました^◇^

そんな日は、たいてい叔母のマリアンヌのベッドで眠りました^◇^
彼女の豊満な胸に顔をうずめて眠っていると、王子はまるで少年の
頃に戻ったような気持ちになったものです^◇^
そして目が覚めると、着替えをしに城に戻り、コズアルドと一緒に森へ消えていく生活を
続けていました^◇^

王子が失踪したのは、それからすぐのことでした^◇^

14名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:31:46
みはち童話 〜おおかみ王子14〜^◇^


王子を最後に見たのは、コズアルドでしたが、その時のコズアルドの証言は
大変興味深いものでした^◇^
彼によると、王子はここのところ、銃も持たず毎晩夜の森を徘徊し、
朝方になるとぬれぞうきんのようなボロボロの姿で戻ってきたそうです^◇^

王子の身体はあちこち裂けたような傷がついていて、まるで
木の枝にひっかけたようだったとコズアルドは語りました^◇^
ズボンも泥だらけで、まるで雨の中這いつくばったようだ、とも^◇^
最後に、コズアルドは、あの厚顔無恥なアズサンブルを早く城から
追い出さないからだ、と側近たちをなじりました^◇^
それを聞いて顔を青ざめていたのは、アヴェンヌだけでしたが^◇^

3日たっても、王子は戻りませんでした^◇^
アヴェンヌは部屋にこもったまま、アズサンブルの声かけにも応じず
食事もほとんどとっていないようでした^◇^

しかし4日目の朝、ついにアヴェンヌは侍女を伴ってある場所へ赴きました^◇^
そこは、王子の叔母、マリアンヌの住む離れでした^◇^
完璧な淑女のいでたちでアヴェンヌを出迎えたマリアンヌに対し、アヴェンヌは
青ざめた顔で「主人を呼んできていただけますか」と言い放ちました^◇^
流石というべきか、マリアンヌは動じることもなく「ここにはいらっしゃいませんよ」と
ため息混じりに答えましたが、奥には確かに誰か男の影がありました^◇^

15名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:32:19
みはち童話 〜おおかみ王子15〜^◇^

「やあ、アヴェンヌ。どうしたんだい、こんなところまでやってきて」

奥から現れたアズサンブルに、アヴェンヌは一瞬ひるみましたが、その目には
嫌悪の表情がありありと宿っていました^◇^

マリアンヌは、アズサンブルをにらみつけると、彼は肩をすくめて奥へ引っ込んでしまいました^◇^
マリアンヌは、アヴェンヌを優しく慰めるようにいいました^◇^
「そのうち戻ってくるでしょう。あの方はああ見えて大変誇り高い方だから」
アヴェンヌは小さく頷き、王子が離れに残していた衣服を(それはかなりの量でした)
侍女に持たせ、城へ戻りました^◇^

王子が戻ったのは、その晩のことでした^◇^
最初に発見したのは、王子の乳母である女性で、彼女の悲鳴が
城の全員をベッドから叩きおこしました^◇^

「どうしてこんなことに…ああ、王子様…」

アヴェンヌが王子の寝室にかけつけたとき、ドアの前で、乳母は尻もちをついていました^◇^
ベッドで何かうごめいているのがみえ、ランプをかざすと、シーツからふさふさとした銀色の尾が
ちらり、とのぞけました^◇^

16名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:32:49
みはち童話 〜おおかみ王子16〜^◇^

「レン、あなた…おかえりなさい」

アヴェンヌはベッドに腰掛けると、シーツをめくり、そこに横たわった傷だらけの
銀色のオオカミをそっと抱きしめ、ひざの上に寝かせてやりました^◇^

「無理をしたのね…すっかりやつれておしまいになって。
それにしても、ああ、なんて立派で素敵な毛皮なんでしょう。」

オオカミは、全てを悟ったように大きく息をつくと、気を失うようにして
そのままアヴェンヌの膝枕で眠りにつきました^◇^

晩年、アヴェンヌ亡きあとの王子は、この晩のできごとを子供や孫たちに
何度となく語りました^◇^
他人から見れば、悲劇極まりない光景でも、おそらく王子にとっては
人生の中でもっとも幸福な時間だったということでしょう^◇^

それはアヴェンヌにとっても同じことで、王子がオオカミに姿を変えてしまった原因が
もしかすると自分の不貞にあるのかもしれない、という事実が、複雑にも彼女を
少なからず満足させる結果となったのです^◇^

アヴェンヌは、それはそれは甲斐甲斐しく王子の身体を手当してやり、
くたびれた背中の毛に櫛をいれてあげました^◇^
そのおだやかな横顔をみていたオオカミの目には、痛みのせいか、
大粒の涙が浮かんでいました^◇^

17名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:33:11
みはち童話 〜おおかみ王子17〜^◇^

しかし、王子はなかなか元の姿に戻ることはありませんでした^◇^
そのうち、城中の人間に知れ渡ることになり、このまま長くオオカミのままでいれば
この田舎にとどまらず、都会にまで噂が広まってしまう、と側近たちはそれなりに
事態を重く受け止めていましたが、なすすべもなくやり過ごすだけでした^◇^

もちろん、このような事態になってしまったことを、側近や召使たちはおおいに嘆き
国の未来を憂いはしましたが、アヴェンヌをはじめとした城の人間の誰一人として、
突如現れたオオカミが王子であることになんら疑問も抱かずにいたのは
まったく不思議なことでした…ただ1人の例外をのぞいては^◇^

「あんな危険な獣をなぜ城にのさばらせておくんだ!?おまけにあの薄汚い奴を
王子と呼んでいるなどと、みんな頭がどうかしちまったんじゃないのか?」

アズサンブルはそう吐き捨てて、猟銃をかまえて城にやってきました^◇^
追いすがるコズアルドをせせら笑うと、アズサンブルはいやらしい笑みを
はりつけたまま、王子の寝室へと向かいました^◇^

「おい、アヴェンヌ、いるんだろ?そんな薄汚いバケモノは置いて、さっさと出てくるんだ。
いつまでもあんな負け犬のことを思い出していて、一体どうするっていうんだ?
王子らしい仕事ひとつできない、オオカミ狂いの馬鹿じゃないか」

アズサンブルが寝室のドアをあけたとき、アヴェンヌは、ベッドの上で
歯を食いしばりながら、一匹のオオカミを抱きしめていました^◇^

18名無しさん@^p^:2011/02/09(水) 18:33:31
みはち童話 〜おおかみ王子18〜^◇^

「薄汚いのはあなたの方よ。その野蛮な銃を置いて、いますぐ城から立ち去りなさい」

アズサンブルはまだ何か言おうとした言葉を飲み込んで、残虐な目つきで
銃をかまえました^◇^

「おいこら、どくんだアヴェンヌ!これが最後だ」

やめて!とアヴェンヌが叫ぼうとしたその時、アヴェンヌの回していた腕を
ふりほどいて、オオカミが前に飛び出しました^◇^

ガァン!と銃声が城に響き渡り、続いて絹を裂くような悲鳴が聞こえ
ようやくコズアルドたちが到着した時には、アズサンブルは首のあたりを押さえて
よくわからない言葉をうめきながら部屋の真ん中に倒れ込み、その傍らに
肩のあたりから出血したオオカミが、しっかりとした足取りで立っていました^◇^

「やったんだな、王子」

コズアルドが感無量の面持ちでオオカミにかけよるのと入れちがいに、
アズサンブルはヒィ、と後ずさりながら部屋をでて行ったのでした^◇^

その日以降、アズサンブルは、マリアンヌの元には戻りませんでした^◇^
御者の話では、銃声があった直後、着のみ着のまま馬車に乗ると、
持ってた銃で御者をおどしつけ、そのまま代金も払わずに都会へ向かって
帰ってこなかったとのことです。

19名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:30:52
みはち童話 〜おおかみ王子19〜^◇^

王子の肩の傷は、弾がかすっただけで、それほど重症ではありませんでした^◇^
撃たれたとき、オオカミの姿だったのは不幸中の幸いだったというべきか、
野生の獣の持つおそるべき生命力を発揮し、王子はみるみる回復しました^◇^

そして、事件から2週間ほどたった朝、いつものように王子のベッドで
アヴェンヌが目を覚ますと、この地方で秋の訪れを告げると言われている
しっとりと湿った風が、ひやりと肌をさすのがわかりました^◇^

ああ、もう秋なのね、と、ブランケット代わりに夫の立派な毛皮をたぐりよせようと
隣に手を滑らせたところ、そこにはもう毛皮のぬくもりはなく、久しく振れていなかった
あの懐かしい肌の感触を感じたのです^◇^

王子は元の姿に戻り、事件はおわりました^◇^

はたして事件が人々の生活に影響をあたえたかどうかといわれると、
そこはたいへん微妙なところでした^◇^

城の人々は、とっくのとうに、何事もなかったかのごとく通常の生活を
取り戻していたので、王子が元の姿に戻っても顔色ひとつ変えずに
「あの毛皮はどうされたんです?」とそっけなくいう程度でした^◇^

中には、これから寒くなるってときにあの毛皮をなくしてしまうなんて
間の悪さもここに極まれりだ、と陰で笑う不調法者もいたようです^◇^

20名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:31:30
みはち童話 〜おおかみ王子ラスト〜^◇^

人間に戻った王子は、特に失望されることもなく、かといって慕われるわけでもなく、
王子は、やはり死ぬまで王子のままでした^◇^
正確には、数年後王制が廃止され、一庶民の身分となったのですが
それでも人々は、彼がこの世を去るまで王子と呼び続けました^◇^

選挙の末、コズアルドが初代首相に選ばれてからも、王子はそのまま妻とともに
城に住み続ける許可もらい、やがて2人の子供に恵まれました^◇^

アヴェンヌが妊娠中、王子は内心気が気じゃありませんでした^◇^
わが子にもし、しっぽが生えていたら…と^◇^

そんな愚かな心配は無用ですよ、とアヴェンヌは笑いとばしましたが
王子にはあまり慰めにならなかったようで、産湯をつかるその時まで、
不安げな表情を隠せずにいましたが、無事にしっぽも毛皮ももたない
赤ん坊が生まれあと、母になったアヴェンヌの手を握りながら片時も
離れずにいるその姿は、人々の心を打ちました^◇^

子供たちが大きくなるにつれ、しっかり者の妻に舵取りをまかせきりになると、
王子はますます所在なさげにブラブラと過ごす毎日を送りました^◇^
やがて子供たちが成人すると、年老いた2人は再び穏やかな時間を取り戻し
妻に先立たれたあとも、死を迎えるその時までそれは続きました^◇^

「あれは、アヴェンヌは、私を迎えにきたりはしないだろうなァ^◇^」

晩年、死出の旅に向かおうとする王子が、まじめくさってそういった時、
子供たちはいっとき涙するのも忘れて、父らしいな、とほほえんだそうです^◇^

「お前たちの母さんは、私が一緒の墓に入るのを許してくれるだろうか?^◇^」

最後に心配そうにそう言い残し、レン・ド・ミハチエールは、この世を去りました^◇^


おしまい^◇^

21名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:46:53
 みはち童話 〜ダイヤの王子様〜^◇^(全7話)

みはち童話 〜ダイヤの王子様〜^◇^

あるところに王子様がいました^◇^名前をみはちといいました^◇^
みはち王子は父である王に、国を出たいと訴えました^◇^
王様は、旅立つ王子のためにダイヤモンドでできたくさりかたびらを着せてあげました^◇^

「では いってきます^◇^」

国を出た王子は、特に行くあてもなくフラフラしていましたが、ある時小さな村をみつけました^◇^
どうやら何か騒ぎが起きているらしく、騒ぎの中心へと向かうと、みすぼらしい姿で死んでいる男が
道端にうち捨てられていたのです^◇^

「どうして こんなところに 死体を置きっぱなしに しているんだろう^◇^」

不思議に思った王子が村人にたずねると、どうやら死んだその男には借金があり、
その借金を払うまでは埋葬しないことにしようと、村の皆で決めたとのことでした^◇^
王子はすぐに金貨を払ってあげました^◇^
しかし、結局男の葬式に参列したのは王子ひとりきりでした^◇^

つづく^◇^

22名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:47:17
みはち童話 〜ダイヤの王子様2〜^◇^

王子は旅を続けました^◇^
そして今度は盗賊の一味と出くわしました^◇^

「おい、お前、いったいどこへむかうつもりなんだ?」

盗賊に聞かれて、王子は「実は、盗賊になりたくて…」と答えました^◇^

「なら、俺たちといっしょにこい。立派な盗賊にしてやろう」

こうして王子は盗賊の仲間になりました^◇^
盗賊たちは、洞窟の中にアジトをかまえていて、王子もそこに連れて行かれました^◇^
そこには全部で20人以上の仲間がいて、中にはさらわれたお姫様も混じっていました^◇^

「いいかお前たち。今夜から3日間、街道を通るでかいキャラバン隊を襲う。
一番いい宝物を手に入れた者が、この姫を妻にできることにしよう」

その夜、王子は街道にはいきませんでした^◇^
仲間たちと洞窟を出発し、一人森の中でじっとしていて、仲間たちが戻り始めるころに
自分の着ていたくさりかたびらを少し切り取って、洞窟へ帰って行きました^◇^
他の盗賊たちの盗んできたどの戦利品よりも、王子のダイヤが一番立派なものでした^◇^
その次の夜も、その次の次の夜も、王子は同じ事をしましたが
やっぱり王子のダイヤが一番立派な戦利品だということになりました^◇^

つづく^◇^

23名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:47:42
みはち童話 〜ダイヤの王子様3〜^◇^

こうして、3日間全ての戦利品で一等賞をとったみはち王子は、
ダイヤのくさりかたびらをほとんど失うのとひきかえに、
とらわれのお姫様を妻にできる権利を得ました^◇^

お姫様の名前は阿部姫といい、とてもやさしく美しい姫でした^◇^
しかし、お姫様は「盗賊の妻になんてなりたくない」と泣くばかり^◇^
ついに、王子は姫の元に近づき、自分の身分をあかしました^◇^

「オレ 王子!^◇^大丈夫だ、問題ない!^◇^」

それからというもの、2人は一緒にこのアジトを抜け出そうと、
盗賊たちを目をぬすんでは、毎晩話しあいました^◇^

まずは、お姫様を国へ帰してあげなくてはならないわけですが、
それにはお城とアジトの間を流れる大きな大きな川を渡る必要があるのです^◇^

2人は綿密な計画をたて、そしていよいよ、その日はやってきました^◇^
盗賊たちが、またもお宝を奪いにいこうと計画をたて、決行の日は
明日の晩に迫っていました^◇^

2人の計画は、夜が更けて盗賊たちがアジトを出発するのを
見計らって、川の船着場へいき、そこから船に乗って城をめざすというものでした^◇^
しかし、そこに落とし穴が待っていました^◇^

24名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:48:14
みはち童話 〜ダイヤの王子様4〜^◇^

船着場についた2人は、さっそく船頭さんに会い、金貨を渡して
向こう岸まで連れて行ってほしいと頼み、足早に船に乗り込みました^◇^
ようやく安心した2人をよそに、船頭は船員たちにそっと耳打ちをしました^◇^

「船が出たら、すぐにあの男をしばりあげて海に放り投げるんだ。いいな」

実は、船頭はお城から、お触れが出ているのを知っていました^◇^
「行方不明のお姫様をつれ帰ったものは、この国の王にしてやろう」
船頭はお姫様の顔を知っていたので、すぐに船に乗ったのがお姫様だと
わかり、悪賢くも、ひそかに王子を亡きものにし、自分がお姫様を連れ帰った振りを
しようとしたのです^◇^

そんな船頭の思惑に気づくこともないまま、2人を乗せた船はこぎ出してしまいました^◇^

「よし、やれ」

船頭の合図で、船員たちが王子様につかみかかり、服を全てはぎとって
ロープでぐるぐる巻きにし、ざぶん、と冷たく暗い川の中へと投げ入れました^◇^

王子はしばられていたせいで、身体の自由がききませんでしたが、浮かんでいた板きれに
ようやっと身体を乗せることができました^◇^
そのまま川の流れに逆らわずにいると、なんとか陸地へたどりつくことができました^◇^
陸へあがったとき、王子は消耗しきっていました^◇^
ロープをはずしたものの、着ていた服は半分はぎとられ、残った部分も
泥まみれでずぶぬれになっていました^◇^

「こんな思いをするくらいなら、川の水にのまれてしんだ方が マシだった;◇;」

ここがどこかもわからず、しかし王子はよろよろとよろけながらあてもなくさまようしか
できませんでした^◇^

25名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:48:39
みはち童話 〜ダイヤの王子様5〜^◇^

その頃お姫様は、船頭に連れられて、お城へと戻っていました^◇^
王様とお妃さまはたいそう喜びましたが、お姫様は真っ青な顔で
黙りこくったままです^◇^

実は、お姫様は船頭に船であったことを絶対に誰にもいうな、と
強く脅されていました^◇^
そのせいで、この船頭が本当は褒美をもらう資格がないということが
言えずにいたのです^◇^

そうしているうちに、着々と婚礼の準備がすすめられていき、
ますます元気を失ったお姫様は、ついにベッドから起き上がれなくなりました^◇^

「姫や、姫や。いったいどうしたんだい。父に話してごらん」
「ごめんなさい、お父様。どうしてもいえないの。
言いたくてたまらないことがあるけれど、いったらダメだと口止めされているのです」
「そうか。じゃあ言わなくていい。紙にかけばいいのだから」

王様はペンと紙を渡すと、姫はすぐに何かをかきはじめました^◇^
それを読んだ王様は、あわてて船頭を呼び付け、話しをききました^◇^
しかし、口のうまい船頭は、王様を上手にいいくるめ、お姫様は
辛い旅のはてに、悪夢をみたのだとウソをつきました^◇^

婚礼の儀式が明日にせまっていて焦った王様は、それを信じはじめていました^◇^

王子が城にたどりついたのは、ちょうどそんな時でした^◇^

26名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:49:06
みはち童話 〜ダイヤの王子様6〜^◇^

王子はすぐに城へ向かいましたが、ボロキレをまとったような王子をみた
城の門番たちは、まるで野良犬をみるような目つきで、王子を追いはらいました^◇^
そこで王子は、いったん町の宿屋にいき、休ませて欲しい、と頼みましたが
宿屋のおかみさんは、ボロ布をまとった王子をひとめみて、冷たくあしらいました^◇^
しかし、王子が金貨を一枚差し出すと、とたんに愛想がよくなり、一番いい部屋と
着替えまで用意してくれました^◇^

ひと心地ついて、しかし途方に暮れた王子は、なんとか姫の行方をつかもうと、
船着場へむかいました^◇^
そこで、王子を船から落とした船員一味と再び出会ったのです^◇^

「お前、生きてやがったのか。しぶとい野郎だ、今度こそ息の根をとめてやる!」

王子がもうだめか、とあきらめかけた瞬間、船着場に止めてあった船の上に
白くぼんやりとしたものが見えました^◇^
そして目にもとまらぬ速さで、船員たちをつぎつぎとなぎ倒していったのです^◇^

「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

あっというまに、王子を除く全員が、海に落ちるか、もしくはしかばねとなって転がりました^◇^
一体どうなっているんだろう、といぶかしむ王子の前に、白いかたまりがあらわれていいました^◇^

「おひさしぶりです。おぼえていらっしゃいますか」

王子はやっと思いだしました^◇^
それは、旅に出てすぐに通った村で、王子が埋葬してあげたあの男の霊だったのです^◇^
男は、王子に恩返しをしようと、わざわざ霊の姿となって助けにやってきたのでした^◇^

そして男から、船頭が姫を連れ帰って、明日にも姫と結婚の誓いを立てようと
していることを知ったのです^◇^

「これを持っていけば、きっとなんとかなるはずです」

幽霊の男は、船の上で取られたと思っていたダイヤのくさりかたびらの切れ端を
手渡しました^◇^
王子は礼をいうと、すぐに城へと引き返しました^◇^

27名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:49:29
みはち童話 〜ダイヤの王子様ラスト〜^◇^

一方、王子が戻ったことを知らない船頭は、王様をいいくるめたことで
すっかり安心しきっていました^◇^
ですから、王子が城に現れたときは腰をぬかすほど驚いて、取り乱し始めました^◇^

もし、お姫様と王子が顔をあわせたら、自分のウソがばれてしまう、と
船頭は、お姫様が部屋からでてこれなくなるように仕向け、王様にこういいました^◇^

「この男は、国を乗っ取ろうとしている偽物です!」

すると王子は船頭をにらみつけたまま、いいました^◇^

「王様、どうかお姫様に聞いてください^◇^あなたを救った男が何を身につけていたか、と^◇^」

王様はお姫様の部屋の前で、その通りたずねました^◇^

「私を助けて下さった方は、ダイヤモンドでできたくさりかたびらを
身につけていました。そのダイヤで、盗賊から私を救ってくださいました」

確かに、王子はダイヤのかたびらの一部をたずさえています^◇^
城の者たちが、おお、と驚きの声をあげ、城内がどよめきました^◇^
しかし、口の減らない船頭は、負けじとこういい返しました^◇^

「それはもともと、俺のものだった。こいつが盗んだんだ」

王子はニコリ、と笑って「それなら、あなたにこのダイヤのかたびらが、着られますか?^◇^」
といいました^◇^

ダイヤのかたびらは、ところどころ切られてはいましたが、王子の身体の寸法に
ぴったりにつくられていたので、船頭のムッチリとした身体にはとても着られるものでは
ありませんでした^◇^結局、船頭は、それきり黙ってしまいました^◇^

こうして、晴れて王子は王様の信頼を得ることができ、
翌日、王子とお姫様は、無事婚礼の儀式をあげました^◇^

そして、船頭は4つの牛に引き裂かれる罰をあたえられ、醜く死んでいきました^◇^


おしまい^◇^

28名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:53:18
 みはち童話〜みはちの窓〜^◇^ (現在2話まで)

みはち童話〜みはちの窓〜^◇^

あるところに、友達のいない1人の猟師がおりました^◇^
彼は、いつものようにぶらぶらと山を歩いていました^◇^
楽しかったあの頃を思い出しながら^◇^

すると、急に空が落ちてきたように目の前が真っ青になりました^◇^
目をごしごしとこすってみると、そこは一面のききょう畑だったのです^◇^
遠くに見なれない小屋があり、そこに誰か立っています^◇^

「やあやあ、ようこそ^◇^」

小屋にいたのは、一匹のみはちでした^◇^
いや、正確に言うと、人間の振りをしたみはちでした^◇^

「おいおまえ、ここでなにやってんだ?」

するとみはちに化けた少年はこういいました^◇^

「ここは 染物屋 です^◇^あなたの指も染めてあげましょうか^◇^」

そういうと、みはちは自分の指を猟師の前に差し出しました^◇^
その指は、綺麗な青い色に染まっていたのです^◇^
そして両手の親指と人差し指をつかって、窓のような四角い枠をつくりました^◇^
まるで、みはちの自慢のひし形の口のような窓です^◇^
それをみた猟師は「俺を馬鹿にしてんのか」とおこりだしました^◇^

「だまされたとおもって、ちょっとみてごらんなさい^◇^」

猟師はぷりぷりしながらも、大人しくその窓をのぞいたのです^◇^

29名無しさん@^p^:2011/02/10(木) 17:53:57
みはち童話〜みはちの窓2〜^◇^

のぞいた猟師は、驚きのあまり腰をぬかしそうになりました^◇^
窓の中には、1年前に猟師が撃ち殺したメスのみはちがうつっていたのです^◇^

「オレの おかあさん なんだ^◇^」
つぶやくように、みはちがそういいました^◇^

「こうやって窓をのぞけば いつでも あえるんだ^◇^」
そしてこういいました^◇^
「もしよかったら、あなたの指も染めてあげようか?^◇^」

猟師は窓をのぞいてからずっと黙っていましたが、ゆっくりとうなずきました^◇^
手を染められている間、みはちは母親との楽しかった思い出を語り
それを聞くたび猟師の胸はずきりと痛みました^◇^

「さあ できた よ^◇^」

青い色に染められた指で四角い窓を作り、そこをのぞいた猟師は
信じられないものをみました^◇^

そこには、ずいぶん前にいなくなった仲間たちがいたのです^◇^
丸くて白い球を、木の棒で打って遊んだり、投げた球をとったりまた投げたり^◇^
なつかしい、なつかしい、あの頃が窓の奥にひろがっていました^◇^
風景はどんどん移り変わり、今度はとうに死んでしまった父や母や弟が
庭で笑っているところがみえました^◇^

「ねえねえ、お礼になにかちょうだい^◇^」

すっかり窓の風景に夢中になっていた猟師は、自分が何をしているかも
よくわからずに、手に持っていた大切な鉄砲を差し出してしまうのでした^◇^

30名無しさん@^p^:2011/02/14(月) 17:54:13
みはち童話 〜黄金の鹿〜^◇^

あるところに、とても豊かな森をもった王様がいました^◇^
森の中には、いろんな動物たちが住んでいて、王様は
家来を森にむかわせ、狩りをさせましたが、森に入った狩人は
誰ひとりとしてもどってきません^◇^

そのうち、王様にはひとりしか家来がいなくなってしまいました^◇^
最後に残った家来は、一番やせっぽちで非力な若者でしたが
「ぜひこの僕を森にいかせてください」と名乗り出てきました^◇^
あまりにしつこくせがんできたので、王様もついに折れて、その男を
森にいかせることに決めました^◇^

男の名前はみはちといいました^◇^

みはちがはりきって森の中に入ると、ふと目の前に
金色の角をもった鹿がひょっこり現われて、こちらをじっと
みているのです^◇^

みはちは「これはいい獲物だぞ」と、その鹿の後を追い
追っているうちに、日も差さないほど森の奥ふかくへ入ってしまっていました^◇^

つづく^◇^

31名無しさん@^p^:2011/02/14(月) 17:55:00
みはち童話 〜黄金の鹿2〜^◇^

みはちは王様の家来の中では一番不器用でしたが
弓矢の命中率だけは、狩人のなかでもトップクラスでした^◇^
しかし、金の角の鹿には何度矢を射ったところで当たりません^◇^

あともうちょっと、というところで、また一匹鹿が現れ、矢をはずすと
また一匹、というように、金の角の鹿を守るように別の鹿が
あらわれはじめ、全部で9匹ほどになったところで、とっぷりと
日が暮れてしまい、みはちは鹿の姿をすっかり見失ってしまいました^◇^

「あれ?あそこにある建物は、いったい何だろう…^◇^」

鹿を見失ったその先に、見たこともない屋敷がぽつんとあったのです^◇^
そこはすでに隣の国の敷地だったのですが、走りつかれ、お腹もすいていた
みはちは、悪びれることもなく屋敷に近づいたのです^◇^

屋敷の中は、あちこちが美しく装飾され、とても立派でした^◇^
入口でまごまごしていると、部屋の奥から声がきこえてきました^◇^

「あなたの望みをかなえましょう」

みはちは、真っ白なテーブルクロスが敷かれたダイニングデーブルに座り
「やきまんじゅうが食べたい^◇^あと、ふかふかのベッドで眠りたいなァ^◇^」
と答えました^◇^
すると、目の前に湯気のたった焼きまんじゅうが現れたのです^◇^

32名無しさん@^p^:2011/02/14(月) 17:55:30
みはち童話 〜黄金の鹿3〜^◇^

やきまんじゅうをたいらげ、ふかふかのベッドで眠りについたみはちでしたが
そこにまた不思議な声が聞こえてきました^◇^

「あなたは今から5人の人間に屋敷の中を引きずりまわされます。
その間、決して声をだしてはいけません。そうすれば、あなたは死なずにすむでしょう」

みはちが飛び起きると、確かにそこには5人の影があり、あっというまに
みはちを縄にくくりつけ、ものすごい力で床を引きずり始めました^◇^

あまりの痛みに、何度も声が出そうになりましたが、みはちはなんとか
こらえて、そのうち5つの影が消えると、みはちは傷だらけの身体をひきずりながら、
なんとかベッドに戻りました^◇^

「さあ、そこにある薬を塗って、眠りなさい」

不思議な声が言うとおり、みはちは傷ついた身体に薬を塗りこむと
そのまま泥のように眠りにつきました^◇^

目を覚ますと、傷があった身体は元通り元気いっぱいになっていました^◇^
ダイニングルームにいくと、その日もやはり願い通りのごちそうが出てきました^◇^

「これを食べたら、城へもどらなくちゃp^◇^q」

しかし、城へは戻れませんでした^◇^
城へと続く跳ね橋が上がってしまっていたせいで、行き場を失くしたみはちは
結局、また屋敷へ戻るはめになってしまったのです^◇^

33名無しさん@^p^:2011/02/15(火) 17:31:59
みはち童話 〜黄金の鹿4〜^◇^

元来た道を戻るのが無理でも、他になんとか逃げ出せる方法はないか、と
みはちは屋敷の周辺を一通り歩き回りましたが、収穫はありませんでした^◇^

ただひとつわかったのは、謎の屋敷の隣には、みはちがいた城よりも
何倍も大きく立派なお城があり、しかしそこも屋敷と同じように、ネズミ一匹
暮らしている様子はないのでした^◇^

みはちは考えました^◇^
もしかすると、自分より前に森に入った家来たちは、みなこの屋敷をみつけ
自分と同じような目にあって、全員死んでしまったのではないか、と^◇^

もしそうなら、自分も皆と同じ運命をたどるのでは…と^◇^

不思議な声が言うとおり、どんなに苦しくても声をあげずに
我慢するしか方法はないのだろうか…と^◇^

みはちは急いで屋敷に戻ると、丈夫な鎧一式が欲しい!と大声で叫びました^◇^
すぐに、鉄製の立派な鎧が目の前に現れ、みはちはそれを着込んで
夜を迎える決心をしました^◇^

再び夜がやってきました^◇^
昼間のうちに、身なりをととのえ、思う存分ぜいたくをしたみはちがベッドに寝ていると
またどこからともなく不思議な声が聞こえてきました^◇^

34名無しさん@^p^:2011/02/15(火) 17:32:29
みはち童話 〜黄金の鹿5〜^◇^


「あなたは今から7人の人間に屋敷の中を引きずりまわされます。
決して声をあげてはいけません。もしあげたら、あなたは明日を迎えることはないでしょう」

震えながら毛布にくるまっていたみはちでしたが、またしても力任せに引っ張られ
鉄球か鉄鍋をころがすように、屋敷中を引きずりまわされました^◇^
鎧を着ていたにも関わらず、昨日よりもダメージは大きく、今度は擦り傷にとどまらず
あばらや手の骨が何本か折れて、みはちは苦痛に顔をゆがめながら
それでもどうにか声を殺して最後まで耐えぬいたのです^◇^

「さあ、そこにある薬を塗って、眠りなさい」

痛みがひどく、薬の瓶をあけることすら辛かったのですが、それでもなんとか
塗り終えて、ベッドに戻り、朝をむかえました^◇^

朝になると、あんなにひどかったケガが、けろりとなおってしまっていました^◇^
それから、昼間はまた美味しいごはんをおなかいっぱい食べ、ぜいたく三昧をして
夜をむかえました^◇^

「昨日も、その前の日も、あんなにひどい目にあったけど、朝が来れば
きれいさっぱり良くなってしまうのだから、ひきずられることぐらいなんとか辛抱しよう」
そう覚悟をきめて、みはちはベッドに横になりました^◇^
そうして、うとうとしかけたところに、あの不思議な声が聞こえました^◇^

「あなたは今から、9人の人間に屋敷の中を引きずりまわされます。
その間、もし少しでも声をあげたら、あなたは死んでしまいます」

9人だって!?とみはちは手先が凍りつくような思いでした^◇^
昨日、7人に引きずられた時ですら、地獄のような苦しみだったのに^◇^
さらに2人増えて9人の手にかかったりなどしたら、いったいどうなってしまうのだろう、と
毛布の中で震える間もなく、気づけば足をぐるぐるまきにされていました^◇^

こうしてみはちは、三度屋敷の中をひきずりまわされることになりました^◇^

35名無しさん@^p^:2011/02/15(火) 17:33:07
みはち童話 〜黄金の鹿6〜^◇^

解放されたとき、みはちはすでに声を出す気力も残っていませんでした^◇^
誰の顔かわからなくなるくらい、顔はめちゃめちゃになり、鼻はぐしゃりと折れて、
いっぽうの肩ははずれていましたし、片足は完全に動かなくなっていました^◇^
手の指はあらぬ方向へ折れ曲がり、皮がむけて肉がむきだしになった手のひらは
血がにじんで、ざくろのようにはれあがっていました^◇^

「うう、痛い…でも…あの薬をぬれば助かる…^◇^」

そう思って、何とか腕の力だけで、芋虫よりも遅い動きで床をはいずって
ベッドを探したのですが、どうしたことか、どこにもみつからないのです^◇^

それどころか、屋敷の中はがらんとして、いつも聞こえてくる不思議な声どころか
豪華な壁紙も、シャンデリアも、きらびやかな装飾品も、何もかも
きれいさっぱりなくなっているのです^◇^
もちろん、昨日まであったはずの魔法の薬も、どこにもありませんでした^◇^

みはちは、部屋の隅にうずくまるようにして、あとは死ぬのを待つだけといったように
息も絶え絶えで朝を待ちました^◇^

しかし、みはちは死ぬことはありませんでした^◇^
翌朝、屋敷の扉が開き、そこに一人の美しい娘がたっていました^◇^

「あなたのおかげで、元に戻ることができました。ありがとう」

娘は、みはちの手をとると、屋敷の外に連れ出しました^◇^
その時みはちは、自分の体が、少し痩せてはいたものの、屋敷に初めて来た日と
同じ格好に戻っていることに気づきました^◇^

36名無しさん@^p^:2011/02/15(火) 17:33:51
みはち童話 〜黄金の鹿ラスト〜^◇^

娘は、みはちを連れ、屋敷の隣にあるお城へとはいって行きました^◇^
そのまま奥へとむかい、一番大きな扉をあけると、そこは玉座の間でした^◇^
玉座には、ひときわ麗しい娘が一人座っており、その周りを取り囲むように
8人の美しい娘たちが立っていました^◇^
玉座の娘はたちあがってにこやかに笑い、その白く滑らかな手を差しだして言いました^◇^

「私の名前は阿部姫といいます。あなたをずっとお待ちしていました」

お姫様は、もぎたての野イチゴのようなつややかな唇をつけ、優しくキスをしました^◇^
彼女を取り囲んでいた8人の娘たちも、次々とみはちにあいさつをしました^◇^

そこでようやくみはちは気付いたのです^◇^
森でみかけたあの美しい金の角の鹿、その鹿を守っていた8匹の鹿たちの正体が^◇^

お姫様は、城にかけられていた呪いが、みはちのおかげで解けたのだと
話してくれました^◇^

「あなたは他の男性にくらべて、特に力も強いわけではないけれど
誰よりも強い心をおもちでいらっしゃるのね。そんなあなただから
呪いを解くことができたのかもしれませんね」

力がなくても、その我慢強さで見事に城の呪いを打ち破ったみはちに、
お姫様はつつしんで結婚を申し込みました^◇^

こうして、森は再び活気を取り戻し、国は繁栄したそうです^◇^
みはちは城の主になり、お姫様と盛大な結婚式をあげました^◇^

もしかすると、今も続いているかもしれませんね^◇^


おしまい^◇^

37名無しさん@^p^:2011/03/26(土) 23:44:08
ts

38!denki:2011/03/26(土) 23:44:58
ts

39!ninja:2011/03/26(土) 23:45:36
ts

40名無しさん@^p^:2011/04/11(月) 12:56:45
みはち童話〜天使の肖像〜^◇^

ある晴れた春の日、アヴェリーヌはその日何度目かの深いため息をつきました^◇^

深く刻まれた皺を毎朝見ることにも飽き、ただ息をすることが
生活のすべてである彼女にとって、余生とはただ死を待つだけの日々でした^◇^

終の棲家となるであろうこの屋敷で、アヴェリーヌはほぼ毎日部屋にひきこもって
暮らしておりました^◇^
たまの来客が来ても、あいさつすら交わさずに終わることもまれではありませんでした^◇^
しかし、この日は何かいつもと違う予感がしていました^◇^

「ひいおばあちゃま、聞こえてらっしゃる?これからお客様がみえるんですって!
ミハチエールの王子様がうちにくるのよ!」

部屋のドアを挟んだ向こうでそういったのは、曾孫にあたるルリエッタで
この屋敷でただ一人、人嫌いのアヴェリーヌを敬遠することなく近寄ってくる人間でした^◇^
彼女の祖母、つまりアヴェリーヌの息子の嫁にあたる女性が今この屋敷の
女主人であり、自分と最も年の離れたルリエッタは、彼女の唯一の話し相手
でもありました^◇^

「聞こえていますとも。けれど、私はここに控えていますからね。
お客様がお帰りになったらもう一度いらっしゃい。
お前のためにケーキを用意してあげますから」

ルリエッタの気配が消えた後、アヴェリーヌはまた一つ深いため息をつき、
安楽椅子に身体を預け、目を閉じました^◇^

41名無しさん@^p^:2011/04/11(月) 12:57:20
みはち童話〜天使の肖像2〜^◇^

ミハチエール氏が屋敷を訪れた時、既に太陽は一番高いところに差し掛かっておりました^◇^

父であるミハチエール氏の手をとり、おぼつかない足取りで階段をのぼったレンは、
普段着なれない礼装がくすぐったいのか、何度かピカピカの皮靴をトントンと階段石に叩きつけて、
緊張を紛らわせたりしています^◇^父はそんな息子の様子に小さく笑みをこぼしました^◇^

(ねぇパパ…僕帰りたいな)
「まだ来たばかりじゃないか。それにここは元々うちの遠い親戚のおうちなんだよ。
ルリエッタを覚えているかな?2年くらい前に、モンモエゾン家の葬式で一度
会っているんだけどね」
(そう、なの…?おぼえていない)
「ほらレン…さっきいったばかりじゃないか。ちゃんと口を開けて…あっ」

ちょうど玄関まであと一段、というところに来た時でした^◇^
目の前でいきなりドアが開いたので2人はすっかり面食らってしまい
レンは父の影に隠れ、おそるおそるのぞき見るのが精いっぱいでした^◇^
みると、黒髪の少女がひとり、ドアの隙間からひょっこりといたずらっぽく顔を出しています^◇^
彼女はめざとくレンの姿を見極め、目があった途端にっこりと笑い返してきました^◇^
あわててレンは目をそらし、すっぽりと父の後ろに隠れてしまうのでした^◇^

「ああ!君は…ルリエッタだね?」
「ええ、そのとおりよミハチエール様。それと、そちらの小さい王子様もこんにちは」
「これは驚いた。しばらくみないうちにまるで白雪姫のようにかわいらしいお姫様になって」
「ふふ。あなたもとても素敵よ。さあどうぞ。お待ちしていましたわ」

ミハチエール氏は、10歳にもならないのに、すでに女王の風格をたたえた
大人びた少女ルリエッタに驚きを隠せないまま、屋敷の中に入っていきました^◇^
わが息子は、あいさつひとつ言えないというのに…^◇^
目を白黒させながらきょろきょろとあたりを見回している息子をみていると、
ミハチエール氏は早くも先が思いやられてくるのでした^◇^


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