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【統合】もし種・種死の○○が××だったら @避難所

1名無しさん:2007/12/16(日) 23:39:43 ID:DQ.shhUE0
IF系のSS統合スレ、その避難所です。
OCN全鯖規制とか、mamono鯖送りとか色々あるのでとりあえず。

まとめサイト
ttp://arte.wikiwiki.jp/

2ch内スレ&2ch内兄弟スレ
【IF系】もし種・種死の○○が××だったら【統合】
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1196438301/
【もしも】種・種死の世界に○○が来たら【統合】
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1196339764/

その他のテンプレ有れば>>2-10ぐらいに。

73CROSS POINT:2010/10/19(火) 22:40:35 ID:.E0nW4Lc0

「……ん?」

レーダーのレンジを変える為パネルを叩く。ルナマリア機の進行方向にフリーダムの存在が確認された。
ここからはそう大して離れていない。それは良い。
だが、キラと戦っている筈のデスティニーの信号が確認できないのはどういうわけだ?

『嘘だ……こんなの嘘だよ……!! シン、なんで返事してくれないんだよ!!』
『コニール、デスティニー以外の回線は全部こっちに廻しなさい!! 貴方はシンに声を掛け続けて!!』

ミネルバに通信を繋ぐと、妻と友人の余裕の無い声が聞こえてきた。同時に、猛烈に嫌な予感が胸を支配する。
ちょっと待て、なんだこの声。これじゃまるであいつが―――

『アスラン、聞いているんだろ!? 君はシンの所に向かうんだ!! 急いで!!』
「りょ、了解!!」

余裕の無さそうな戦況に、先ほどまでの脱力感は吹き飛んだ。セイバーを全速力で走らせてフリーダムの許へ向かう。
レーダーの様子は相変わらず。コニールとルナマリアの悲痛な声だけがコックピット内に響き続ける。
まだ戦いが始まってそこまで時間は経ってない。だからこの現実が信じられなかった。


まさか。
シンが敗れたって言うのか。





時を遡る事10分前。戦場を月面に移しながら、キラとシンの戦いは熾烈を極めていた。
機体の性質こそ違えどもその性能はほぼ互角。相対するはCEのパイロットTOP3のうちの2人。
そう簡単に決着する筈も無い。

『はあああああっっっ!!!』
「おおおおおおっっっ!!!」

自らを鼓舞し、相手を威嚇するかのようなキラの叫び。それに応えるかのようにシンも吼えた。
操縦者の感情に呼応し、デスティニーの主機関も爆音を響かせる。
片手でバーニアのスロットルの調整・敵の照準調整をしつつ、ロックオンと同時にトリガーを引く。
ボクサーが放つワンツーの様に時間差で突き出された両掌。そこから光弾が2発放たれるが

―――手応えはない、か。

74CROSS POINT:2010/10/19(火) 22:41:32 ID:.E0nW4Lc0

土煙を上げる月面を背後に、フリーダムが接近してくる。まるで漆黒の宇宙を切り裂くかのようなその鋭さ。
視界の隅でビームサーベルの光が見えた。咄嗟にフットペダルを踏み込むシン。
その瞬間、デスティニーが尋常ではない速度で後ろに跳んだ。
予想以上の衝撃に思わず意識が遠のくが、気迫でそれを繋ぎとめる。
丁度眼前をサーベルの刃が通り過ぎる所だった。両掌から散弾を放って距離をとる。
危ないところだったがなんとかしのいだようだ……しのいだ?

「こいつ、もしかして……」

先ほどから感じていた違和感。
気付いていなかったわけじゃない。だが今の攻防で確信した。
前回の戦いに比べて、今のキラには迷いがある。
いや迷いと言うほどでもないのか。無意識の躊躇いと言った方が近いかもしれない。
周囲の人間や機械にも計測できないほどの、僅かな攻撃の鈍り。
おそらくキラ本人も自覚してはいないだろう。

前回のキラなら踏み込んできた領域に、今のキラは踏み込んでこない。
確かにそこは危険な領域。一瞬のミスが命取りになるようなシビアな世界。
だが今までのキラなら平気で踏み込んできた場所だ。むしろそこを支配する事こそキラの真骨頂だったはず。
だからこそヤツは、誰も届かない高みにいられたのだから。

何故踏み込んでこない。恐れているとでもいうのだろうか。だが何を恐れているというのか。
死ぬ事か? ……まさか。キラに限ってそれは無いだろう。

『当たれぇぇぇっっ!!!』
「チッ……!!」

フリーダムからドラグーンが射出された。小刻みに動いてその攻撃をかわすデスティニー。
どうやら余計なことを考えている場合ではなさそうだ。
理由はどうあれ完璧じゃない。完璧じゃないなら、付け入る隙がある。
両肩のウェポンラックから、アロンダイトとスコールを取り出し構える。
一体何を迷ってるのかは知らないが――――

「その程度で俺に勝てると思うなよ、キラァッッッ!!」





なんで、自分はこんなにてこずっているんだろう。
頭のどこか、戦闘を行っている場所とは別の部分でそう考える。

75CROSS POINT:2010/10/19(火) 22:42:42 ID:.E0nW4Lc0

キラ=ヤマトは焦っていた。

確かにシンは強い。
驚愕すべき反射神経と一瞬の判断力。そして勝負にかける執念。
だがそれは以前から分かっていたこと。
前回の終盤で何か吹っ切れたみたいだが、それでもここまで手こずる相手ではなかった筈だ。
あれからたかだか数週間。そんな短期間で人間が急に、腕を上げることなどできはしない。
ならば自分の腕が落ちているということか。しかし何故。
思考する暇も無く、デスティニーから光の雨が降り注ぐ。

「くっ!!」

前回はあれほど容易く回避していたマシンガンも、今では避けるばかりで反撃に移れない。
近接戦闘もシンの反応の良さとアロンダイトの破壊力の前にイニシアチブを取られてしまう状況。
自然とドラグーンに頼る戦い方になるが、既に4つほど落とされていた。
シンにはドラグーンは通用しない。
かつての宿敵であるラウ=ル=クルーゼの写し身、レイ=ザ=バレル。
その親友でもあった彼は全方位攻撃に耐性があるのか、前大戦でも自分のドラグーンを全て回避していたのだから。

『その程度で俺に勝てると思うなよ、キラァッッッ!!』

圧力が増すデスティニー。反応の遅い身体。いつもより狭い視界。
これまでの戦いとはどこかが違う。もしかしたら、自分は本当にここで死んでしまうかもしれない。
アロンダイトの一撃、マシンガンのの乱射。
どれも命中すれば、確実にフリーダムを撃墜することができるだろう。
その場合自分はまず助からない。

以前の自分はそれを望んでいた。
戦って死ぬ。それは他のどんなことよりも甘美な誘惑だった筈なのに。
だけど今はそれが、とても。

ドラグーンを掻い潜り、それに合わせたライフルの一撃も避けて、ついにデスティニーが懐に入り込んだ。
アロンダイトをフリーダムに向かって振り下ろす。
完璧なタイミング。完璧な一撃。キラは思わず目を閉じた。
これで終わりか。
そう呟いた瞬間、瞼の裏に何かが浮かんだ。

楽しそうに笑う少女。嬉しそうに歌う少女。元気いっぱいに走り回る少女。
こちらを見て、ゆっくりと言葉を紡いだ。

76CROSS POINT:2010/10/19(火) 22:43:26 ID:.E0nW4Lc0


おとうさん。


「――――――ッッッ!!!」

その瞬間、死へと流されていた自意識が復活した。
幻聴、幻覚、それがどんなものだって構わない。その映像は折れかけたキラの精神を再び立ち上がらせる。
同時に頭の隅に血だらけの女性の映像が浮かぶ。しかしキラはそれを一瞬で振り払った。
申し訳ないが今はそれどころじゃない。
たとえ無様な姿をさらそうと、世界中の人間に嫌われようと、彼女に否定されようとも今は死ねない。
喪失、孤独。あの娘をそんな悲しい目には、もう2度と―――――

『避けた!?』

完璧なタイミングの一撃を回避されたデスティニー。シンの驚く声が聞こえる。
だがそれは当たり前のこと。
自分は彼女に教えた。あの少女の父であるキラ=ヤマトは、『すごく強い』のだと。
ならばこの程度で死ぬなどありえない。
それに自分にはもう一つ思い出したことがある。

「約束、したんだ……」
『何!?』

勝機は続いていると見たか、デスティニーが猛攻を仕掛けてくる。
吹き荒れるアロンダイトの剣嵐を、器用に両手のビームサーベルで流し、捌いた。

「あの娘と、約束したんだ……」
『何を言っている、キラッ……!?』

君のおとうさんは負けないって。
必ず帰るって。
だから。
だから――――

「僕は生きる!! 生きて!! 帰って!!

 ―――――あの娘を抱きしめてやるんだ!!!!」

眠っていた己の意思、生きようとする力が目覚める。
身体中がいつもの様にクリアになり、目の前の問題に対して最適解が即座に浮かんできた。
ようやく己を取り戻した事を全身が理解する。
思いだけではない。力だけでもない。
迷いの無い、かつてラクス=クラインに従って世界を統べた、あの頃のキラ=ヤマトを。

77CROSS POINT:2010/10/19(火) 22:44:22 ID:.E0nW4Lc0

『なんだと……!?』

自分の言葉にデスティニーの動きが僅かに鈍った。
この隙は逃さない。今までの攻防とは逆に、デスティニーの懐に入り込んだ。

「だから僕は、君を討つ!!!」
『キラ、おまえ……ぐぁぁぁぁッッッ!!!!』

機体を回転させながらデスティニーを蹴り落とす。
月面に叩きつけられる機体。コックピットに衝撃が奔ったのか、一瞬デスティニーの動きが止まった。

勝機。

動かないデスティニーに向かって全砲門を開く。フルバースト。
襲い掛かる閃光はビームシールドで防がれた。だが構うものか、どうせ全身を覆うことはできない。
そのまま撃ち続ける。

「まだだ……まだだ……まだまだ…」

思い出すのはかつての戦い。シンに追い詰められた数年前。
幾度倒しても復活してきたインパルス。
まだ攻撃を続けるのは、あの出来事がトラウマになっているのかもしれない。

『やめてくれ……シンが死んじゃうよ……』

誰かの泣き声が聞こえる。だが攻撃の手は緩めない。
さらなる連射を。一心不乱の連射を。
シールドの防御の上から豪雨の様にビームを、レールガンを、頭部のバルカンを叩きつけ続ける。
砂埃の様に巻き上がる岩の破片。もう目視ではデスティニーは確認できない。
だがまだ攻撃の手は緩めない。
多分シンはまだ生きている。これくらいで死ぬとは思えない。死ぬ訳が無い。
彼は不屈。少しでも力が残っていれば、自分から勝利を奪うだろう。
だがそれだけは認められない。帰ると決めたのだ。勝つと決めたのだ。
自分の帰りを待っている彼女の為に。
まだまだ攻撃を加え――――――

78CROSS POINT:2010/10/19(火) 22:46:02 ID:.E0nW4Lc0

『もう、やめろよぉ!!!』

コックピットの中に女性の声が響く。
発信元はミネルバか。思わず攻撃の手を止めてしまった。
再開しようと思ったが彼の反応は無い。これで終わったのか。
土埃が晴れていく。煙の中で、微かに輝く緑光が見えた。
そっと消えるビームシールド。全身の色を失い、灰色に変化していく機体。

デスティニーが、力無く横たわっている。

『シン!! いやぁぁぁぁぁ!!!!』
「――――落ち着いて。気を失ってるだけだ」

泣き叫ぶ少女に言葉をかけつつ動かなくなったデスティニーを見下ろす。予想通り、シンは意識を失ったようだ。
そっと息を吐き出す。どうやら自分は勝つ事ができた。
デスティニーにはあちこち損傷はあるものの、意外にも致命的な損傷は無さそうだった。だがそんなもの今から戦闘不能にすればいい。
アスランも残っているが、セイバーではフリーダムに乗った自分には絶対に勝てない。
あとはいつものように有象無象を狩って、レクイエムを破壊すれば終わりだ。
これで帰れる。彼女のところに。

「シン、本当にごめん。こんなの友達にすることじゃないよね。
 だけど君の行動は……君が戦場に戻ってくれたことは、絶対に無駄にはしないから」

動かないデスティニーにビームライフルを向ける。当然コックピットは狙わない。MSの四肢を破壊するだけ。
あれほどまでに攻撃しておいて今更だが、シンには死んで欲しくない。

「じゃあね。もう、戦わなくていいから」

ライフルが光を放つ。4連射。
デスティニーに向かって吸い込まれるように近付いていき―――

『それは、させない』

赤い影に、阻まれた。

79CROSS POINT:2010/10/19(火) 22:46:40 ID:.E0nW4Lc0





『ルナ!! シンが、シンが!!!!』
『落ち着きなさいコニール!! 外傷は無いんでしょ!? 気を失っているだけよ!!』

女2人の叫び声を聞きながら、アスランはフリーダムにライフルを向ける。
間一髪なんとか間に合った。シンの護衛はルナマリアに任せれば良いだろう。俺があいつの心配などしても意味は無い。
今はただ、目の前のフリーダムに集中する。

『セイバーか。邪魔だよアスラン、もう勝負はついたんだ。シンには悪いけど、彼の出番は終わった』
「……あいつは。シンはまだ、負けてはいない」
『この状況を見て、まだ君はそういうことを言うのかい? 後は止めを刺せば終わりなんだけど』
「それでもだ。これ以上、シンをやらせはしない」

フリーダムを睨みつけながら答える。
機体の性能差は大きく、自分は手負い。正直勝算など無い。
だが迷いも無い。やるべき事ははっきりしていたから。

仲間を。いや、友を救いたい。
セイバー。俺に力を貸してくれ。


「―――――俺が、させない」

80名無しさん:2010/10/19(火) 22:47:53 ID:.E0nW4Lc0
ここまでお願いします

81名無しさん:2010/10/20(水) 00:10:04 ID:hAwPVrZk0
乙、なんかアスランがかっこいいぞ!?

82名無しさん:2010/10/20(水) 16:32:39 ID:xu7FXaTY0
GJなんだこのアスランカッコいいぞ!?、しかし・・・・・誰であっても死ぬのは悲しいな・・・・

83名無しさん:2010/10/21(木) 03:38:28 ID:31Pb.HEE0
くたばるのはマルキオだけで十分だってのになあ…

84CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:36:48 ID:CVWdCT7A0


「展望ブリッジに被弾! これより消火作業にかかります!」
「左舷カタパルトに直撃! 使用不能です!!」
「エンジン出力が6割に低下しました、これ以上は……ぐぅっ!?」

「どうやら、喧嘩を売ったツケは高く付いたようだね……」

シンの復活も束の間。ミネルバは最大のピンチを迎えていた。
守備部隊をミーティアが突破し始めたのだ。
ディアッカの援護を軸に、守備側もよく戦っている。むしろ今まで良く耐えたというべきだろう。
だが、このままでは突破も時間の問題だ。

「トリスタンの火力を一点に集中。1番2番! 撃てーーっ!」
「後方より艦隊が接近中。これは―――」
「ミーティアが1機、防衛ラインを突破! こっちに来るぞ!!」

メイリンの報告にかぶせるように、コニールの悲鳴がブリッジ内に響く。
ミーティアがザクを切り裂きながらミネルバに向かって近付いてきた。

「弾幕を張って時間を稼ぐんだ。それと前線のMS隊を呼び戻して!」
「ダメだ、みんなこっちを守る余裕と時間が無い!!」

放たれたミサイルの群れはCIWSで迎撃、全弾破壊した。しかしミーティアの進行を止めるまでは至らない。
そしてついにミーティアの主砲が火を噴いた。
ミネルバに向かって流れていく紅い奔流。それを阻むものは何も無い。ブリッジの中に悲鳴が満ちる。
自分はこんなところで終わるというのか。気まぐれな自由に最後まで翻弄されたまま。
アーサーは己の死を確信しながら、目の前に迫る光を睨みつけた。
だが次の瞬間、巨大な影がそれを受け止める。陽電子リフレクターを展開した緑色のMA、これは

「これって、連合のザムザザー……?」
「やっと来てくれたのか、彼らが……」

呆然とした声を出すコニールをよそに、アーサーは思わず安堵の溜息を吐いてしまった。
視線の先にはミネルバの前に立ちはだかるザムザザー。ミーティアの射撃などものともしていない。
ならばと接近してくるミーティアに向かって、ザムザザーは反転しながら射撃武装を一斉掃射。
強烈な一撃に、ミーティアはストライクごと爆散する。

『こちら地球連合軍ダイダロス基地所属、クリーブランド。ミネルバ応答せよ!!』

旗艦らしき船からの通信がブリッジに響く。
気が付けば、連合軍の艦がミネルバの周囲に展開していた。

85CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:37:42 ID:CVWdCT7A0

「こちらミネルバ。貴官らはこちらの援軍だと認識して間違いないのですね?」
『その通り、無事で何よりだ―――我が軍はこれより貴艦を援護する!!』
「来るのが遅いよ、あんたたち!」
『それはすまなかった。言い訳にもならんが、こちらにもいろいろあったのだ。
 謝罪は行動で取らせて貰おう。―――各艦、攻撃開始!! ザフト軍を死守せよ!!』

その号令と共に襲い掛かっていく連合軍。この瞬間、戦いの流れが変わった。
何機かミーティアがミネルバに攻撃を仕掛けるが、今度はゲルズゲーがリフレクターでそれを阻む。
うわー複雑な気分と通信席で呟いたのはコニール。そういえばガルナハンのローエングリン攻防戦はこの機体がネックだったっけ。
敵に回すと厄介な機体たちだったが、味方になるとこれほど頼りになる機体は無い。

距離を詰める連合に対し後退を始めるディーヴァ。しかし右翼と左翼前進を止める事はない。
俗に言う鶴翼の陣形を取り始める反乱軍。連合の攻勢を受け止めて包囲殲滅する策に出たか。
気を抜くのは早い。まだ五分に戻しただけ。
アーサーがそう判断して軍を引き締めようとしたその時、広げた両翼に向かって新たな光の雨が降り注ぐ。
通信画面に映ったのは傷面の男と茶髪の少女。
それを見た2人のオペレーターの顔が喜びに染まる。

「3時の方向より艦隊が接近! アークエンジェルと、クサナギにイズモ……オーブ軍です!!」
「8時方向からも艦隊が来てる。旗艦はボルテール!! 援軍だ、ザフトの!!」

ブリッジ内に響く彼女たちの歓声。
それは最後の舞台に、全ての役者が揃った事を意味していた。






第35話 『僕は君にこう言う 「やっと人らしくなれたね」 』







オーブ軍の先陣を切る戦闘機。そのパイロットがミネルバに通信をつなぐ。
画面に出たのは彼の知人でもあるメイリン=ザラ。よかった、まだ無事のようだ。

「おいミネルバ、生きてるか!? お待ちかねの援軍だ!!」
『フラガ一佐!? 確か入院して絶対安静の筈じゃ……』
「あれで終わりじゃ立つ瀬無いでしょー、オレは!!」

86CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:38:21 ID:CVWdCT7A0

戦場に舞い戻った大天使をバックに、紫のエグザスが漆黒の宇宙を舞う。
その背後に黄色いムラサメ、そしてアストレイなどのオーブ軍MSが続いた。

「我がオーブ軍は連合の右陣と共に、敵左翼を突く。
 アストレイ隊は艦の護衛、ムラサメ隊は俺とキサカに続け!! マリュー、アマギ、軍の指揮は任せるぞ」
『わかったわ!』
『了解!!』」

命令を出しながら最高速で突進するムウ。
白いブレイズザクウォーリアから放たれたファイヤービーを視認するとすぐさま機関砲で打ち落とす。
続けざま空いた空間にガンバレルを射出すると、搭載されていたビームの刃があっさりとザクを貫いた。

『理念を捨て強者に媚び、弱者に銃を向けるなどと……このオーブの面汚しどもが!!』

ガンバレルを戻すと隣ではキサカが白いアストレイを撃墜したところだった。
流石に敵も全てのパイロットが精鋭というわけではないらしい。
これならこちらは抑えられる―――と考えるのはまだ早いようだ。ミーティア数機と共に第2波がこちらに向かって来た。
一方オーブ軍にも連合軍のウインダムやユーグリッドが合流する。
連合とオーブはいろいろと因縁はあるが、今は気にしているときではない。むしろ戦力の増加は喜ばしいことだ。

「さて諸君、始めるとしますか」

連合も含めた全軍に通信しながら、ムウは不敵に笑う。
シンは生きている。ザフトも健在。キラの戦いもまだ終わっていない。
なんとかパーティーには間に合うことが出来た。だがここからが本番。

「慎ましくな」

『エンディミオンの鷹』と呼ばれたその力、今こそ発揮する時だ。





『ミネルバ聞こえますか!? こちらはザフト所属、ボルテールです。助けに来ましたよ!』
「ありがとう!!……ん、ちょっと待って。ボルテール…? オペレーター……!?」

相手を安心させようとする笑顔と共に、コニールに対して画面の中の女性オペレーターは救いの主を名乗った。
ボルテールとは元々の討伐軍の旗艦の名。シンがミネルバの前に乗っていた艦でもある。
味方であるのは疑いようがない。地獄に仏とはまさにこのことだ。
茶髪の少女の気遣いに気付いたコニールもまた、笑顔で感謝の言葉を返した。こんなに嬉しいことはない。

しかし気のせいだろうか。いくつか気になるフレーズが聞こえたのだが。

87CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:39:22 ID:CVWdCT7A0

『本艦はこれよりオーブ軍・連合軍と共に反乱軍に攻撃を仕掛けます。
 敵右翼はこちらにお任せください。
 あとすみません、アスカさん…じゃなかったデスティニーの現在のじょうきょ「ブツッッ」』
「………お前か、この野郎」

最後の言葉で確信。即座に通信を切る。
間違いない、あの女がトライン艦長が言ってたオペレーターだ。

「え!? あ、あのコニールさん?」
「何ですか艦長」
「いや何ですかってその、ね? ほら、通信切っちゃまずいんじゃ……」
「すいません、ミノフスキー粒子が濃くて通信が途絶えちゃいました」
「いやこの世界には無いからね、それ」

驚く艦長の言葉をさらりと流しながら、コニールは視線を戻す。
各艦への連絡はメイリンが行っている最中だ。自分も手伝わなくては。

『ちょっと、なんで切るんですか!! せっかく助けに来たのに!!』

しつこいな。こっちは仕事中なんだから空気読めよこいつは。そんな事を思いながら画面の少女に冷たい視線を向けるコニール。
言っていることは向こうの方が正論の筈なのだが、今の彼女にとってはそんなもん知ったことではない。
一目見てそれだけで、そいつが自分にとって不倶戴天の敵だとわかることもある。今がその時なだけだ。
主な理由はアスカさんという呼び方に込められた近しい者特有の馴れ馴れしさと、
画面下部に映っている同じ服着てるはずなのにぶかぶかの自分と違ってぱっつんぱっつんになっている一部分であるが。

「五月蠅い黙れこの泥棒猫。な〜にがアスカさんだ。
 人が大事に取っておいたチャーシューを横から掻っ攫う様なマネしやがってからに……」
『な、何よそれ!! 別に彼が貴方のものだってわけじゃないんでしょ!? だったら!!』
「“彼”!? 彼女気取りかこの野郎!! ガキは部屋に閉じこもって少女漫画でも読んでろ!!」
『貴方だって私と年齢大して変わらないじゃない! なにがガキよ!!
 そんなに見下すんならせめて年齢相応に育てるもん育ててからにすればいいでしょ!!』
「言ったな……この女、言ってはならないことを言った!!」

周囲を気にすることもなく、ここどこの女子高ですかと言わんばかりに言い争いを始める2人。
それを見たアーサーは別の回線を使って直接ボルテールの艦長と通信を取る。
人間、時には現実を直視しない方が良いこともあるのだ。

「えっと、敵の右翼はそちらにお任せしても良いんですよね?」
『はい……申し訳ない、クルーの教育は後ほどしっかりやっておきますので……』
「いえ、こっちも似たようなもんですから」

画面に映ったサングラスの男性も随分疲れた表情をしていた。
画面越しに視線を交錯させてわかりあう艦長2人。お互い苦労しますね。まったくです。

88CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:40:26 ID:CVWdCT7A0

「わかっているとは思いますが。連合軍、撃たないでくださいね?」
『承知しています』
「ミネルバもですよ?」
『……承知、しています』

連合が此方に手を貸しているのは理解しているらしい。
だから次の言葉は冗談交じりで言ってみたのだが……
なんだ、今の間は。

「デ、デスティニーも撃たれたりしたら困るんですけど」
『…………流れ弾が行かないよう注意しておきます』
「いや、約束してくださいよ………」

苦虫を噛み潰した表情で未だに言い争っているオペレーターを見ている艦長。
その気持ちはまあ、わからないではないのだけれど。

そこはちゃんとしとこうよ。いや、ホント。





「ったくシンのやつめ……意識が戻ったんなら礼の一つぐらいあってもいいだろうに」
『今までの行いが悪かったんじゃない?』
「ぐっ……」
『それよりもお客さんが来てるわよ。もう待ちきれないみたいだけどね』

余裕のある表情で軽口を叩きあった後、周囲を囲むMSたちを睨みつけるザクとセイバー。
お互いに片腕を失っており、傍目からはとても戦える状況ではない。
しかしそのパイロットたちの目は光を失っていなかった。
当たり前だ、自分たちは絶望を既に乗り越えた。シンが復活した以上自分たちの心配だけしてれば良いのだから。

『アスラン、セイバーにサーベルかライフルの予備ある? 私もうハイドラしか武器が無いの』
「だったら道は俺が切り開くから、そのまま帰艦しろ。
 戦場での命ほど安いものはないんだ、無茶すると死ぬぞ」

ルナマリアを気遣うアスランの言葉。しかし返ってきたのは彼女の不敵な笑顔だった。
それを見たアスランは思わず笑いを零してしまう。
彼女は腹を括っている。もうこれは何を言っても無駄だろう。
それにしても、最近は妻に続いて彼女にも逆らう気が起きなくなってきた。
ホークの血にはザラを抑える効果でもあるのだろうか。

89CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:41:27 ID:CVWdCT7A0

『冗談、もう終幕までそんなに時間が無いわよ。
 それとも何? MSデッキでドリンクでも飲みながら、あの2人の最後の戦いを見ろっての?
 死んでもゴメンよ、そんなの。アスランだってそうでしょうが』
「わかったよ。君の言う通りだな……ルナマリア、左だ!!」

敵の存在を知らせながらライフルをザクに放るアスラン。ザクがそれを受け取った瞬間、セイバーに向かって銃口を向ける。
セイバーはシールドで白いウインダムのビームを受け止めたあと、ザクに向かってアムフォルタスを構えた。
同時に放たれるビームの光。
お互いの脇を通り過ぎ、後ろから仕掛けようとしていた敵MSを貫いた。

『……フ、そうか。そう言えばそうだよな』
「そうよ。貴方の左手と私の右手」

『「―――――合わせりゃ2本だ!!!」』

咆哮をハモらせながら2機は周囲の敵に襲い掛かる。
実は双子なんじゃないかと言わんばかりの高度なコンビネーションに、包囲網は見る間にズタズタにされていった。

「いくぞ義姉さん!!」
『ついてきなさい、義弟よ! 私のザクは凶暴です!!』





両手に銃を手にしたまま、フリーダムは月面から宇宙を見上げる。
視線の先には2方向からぶつかりあう光の奔流。その儚い美しさに思わず目を細めた。

「勝負、あったな。これは」

丁度数十秒前。エターナルの船橋が破壊され、その艦長であるダコスタの死亡が確認された。
戦闘続行は不可能であるため今は宙域より離脱している最中ではあるが、艦自体が撃沈されたわけではない。
しかし歌姫の奇跡の体現であった艦の脱落。それは反乱軍の大幅な士気の低下を意味していた。
キラの言葉は戦場の全ての人間の代弁でもある。

援軍が混ざったとはいえ、数はまだ互角の筈だった。しかし自軍の勢いは完全に止まっている。
開戦当初の余裕をかなぐり捨て今もなお猛攻を懸けてはいるものの、月を背にした混成軍はその攻勢を容易く押し返していた。
なぜそんな結果になっているのか。それは最前線の様子を見ればわかる。

90CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:43:08 ID:CVWdCT7A0


『狙いは完璧よ!!!』
『ちょ、ルナマリア! 今掠ったぞオイ!! セイバーの左足が更に悲惨なことに……』
『アスカ先輩は何処だ、俺にはあの人に返す借りがあるんだ! ってコラおっさん、ちゃんと援護しろよ』
『グゥレィ…おっさんじゃない!!』
『ウヒョー!! ディアッカ、俺の気持ちがわかったかぁ!?』
『この腰抜けどもが、一歩前だ! 貴様らに軍人としての覚悟を教えてやる!!』


満身創痍のセイバーと真紅のスラッシュザクファントム。
共に片腕を失っているのに、連携を取ることによって死角を失くし、敵軍相手に大暴れしている。
紫のエグザスは黄色いムラサメと共にミーティアに踊りかかり、
漆黒のガナーザクファントムとグフイグナイテッドは背中を合わせながら戦っていた。

『チンタラやってんじゃねーぞナチュラル! 背中ががらすきじゃねーか素人が!
 そのライフルは股間のブツ同様縮み上がってんのか!?』
『うっせーコーディネーターが。どーせ助けてくれるんなら女パイロットが良かったんだよ俺ぁ!
 お礼に俺が種付けてやるからよ、種の無いお前らの変わりに!!』
『おーいお前ら、同レベルなのに気付け。そんなに言うんなら目の前の白いバカどもに突っ込んでやれや』
『ハハハ、ナニじゃなくてビームサーベルだけどな。ブチ込むのは、なぁっ!!』

彼らだけではない。
ザクが、グフが、ムラサメが、アストレイが、ダガーが、ウインダムが、ユーグリッドにゲルズゲーやザムザザーが。
時に背を預け、時に助け合いながら白いMSの群れの前に立ちはだかっている。

そして、自分の前にも化け物が1人。

英雄の暴挙を止めようと月へと終結した世界の総戦力。一夜限りのドリームチームと言ったところか。
目の前に立ち塞がる者達は皆、ただのMSである。
広大な宇宙を覆いきれるわけも無く、それこそ隙間なんていくらでもあった。
なのに天まで届く壁を目の前にしたかのようなこの重圧。
そしてキラの耳に確かに聞こえてくる、終局へのカウントダウン。

「まいったな」

苦笑と共に、キラは呟く。

「今までの敵が最後の最後で仲間になって、協力してくれる。そして僕の前に立ちはだかる。
 ……確かに当初の僕の目的は、この光景だったはずなんだけど」

まさかこのタイミングで見ることになるとは。

91CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:45:11 ID:CVWdCT7A0

何故だろう。
あんなに渇望していた、自分を眠らせてくれる存在。自分が望んだ光景。
あの頃どんなに望んでも現れてくれなかったのに。
何故今頃になって現れる。

生きたい。

彼女を失ってから、初めて抱くことができた想い。
そばにいてやりたいと思った、小さな少女。
それなのに居場所を見つけた途端、この世界は自分を消してしまおうとしている。

「これが、僕への罰か」

希望を見せておいて、断ち切る。確かに自分の罪に対しての最大の罰だろう。
自業自得。因果応報。そんな言葉が頭に浮かぶ。
そして自分にはそんな言葉を否定することなんてできない。まったくもってその通りだからだ。

だが、本当に性質が悪い。
もしこの世界に神という存在がいるのなら、自分は相当に嫌われているんだろう。
もっとも、彼女を失ったあの時からそんなものを信じる事はやめたけれど。

「キツい、なぁ………」

苦笑はとっくに歪んでいた。なんでだ。
なんでこんなにも、自分は救いに縁が無い。
なんで全て、自分の手からすり抜けていくんだ。

折り紙をくれた少女。励ましてくれた友人。心を通わせつつあった恋人。全てを捧げた最愛の妻。
そして、ようやくできた自分の娘。

「どうして、僕は。こんな所にまで……」

『泣きそうな声出してんじゃないよ、ばかたれが』

隙だらけな今の自分。だがデスティニーは剣を下ろしたまま、その場で自分をみつめている。
その顔が泣いているように見えるのは、そのデザインのせいだけなのだろうか。

『悲しみも憎しみも全部抱えて、それでも飛べば良かったんだよ。
 地面に落ちそうになっても手を貸してくれる。アンタの事を大好きな奴が、きっと沢山いたんだ』

92CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:46:25 ID:CVWdCT7A0

淡々としたシンの声。その声には実感がこもっている。
自分が悶え苦しんだこの道はかつて、彼も通った道。

『俺みたいな奴にだって、いてくれるんだから』


ああ。まったくもってその通りだった。


今頃になって思い出す。自分の傍にあった沢山の光。それは娘のラクスだけじゃない。
バルトフェルド。
ミリアリア。
ドムトルーパーの3人組。
ダコスタ。
そして、自分に付いて来てくれた沢山の部下たち。
彼女の死に怒ってくれた。自分に会うと笑いかけてくれた。ここまで共に戦ってくれた。
そして、そのほとんどがいなくなってしまった。

「そう、だね……。今なら分かるよ。光は1つだけじゃなかったんだ」

今までそれが分からなかった。皆、自分の背後に彼女を見ているだけだと思っていたから。
けれど、決してそんな事はなかったのだ。
どうしていつも、失くした後でそれが大切だったと気付くんだろう。

「………笑えないな」

気付けなかった。忘れていた。
たとえどんなに暗い夜だろうと、この世界には必ず光の差す朝が来るという事を。
今時B級の歌の歌詞にもなりはしない陳腐な言葉だ。
けれど。それこそが自分が心に刻むべきものだったのではないだろうか。

「本当に、笑えな……」
『キラ』

悲しみの言葉を再び打ち切って、シンが自分の名を呼ぶ。

「………なんだい?」
『もう、終わらせないか』

終わらせる。それが指す意味は一つしかない。
自分か、シンか。そのどちらかが――――

93CROSS POINT:2010/11/09(火) 21:48:08 ID:CVWdCT7A0

「……そうだね」

恐怖はある。後悔も未だにある。けれど受け入れる言葉はすんなりと出てきた。
軽く後ろに跳び、デスティニーから距離を取るフリーダム。サーベルの柄を手に取り光を伸ばす。
そして2機のMSは握り締めた己の剣の切っ先を相手に向けた。
指し示す先はお互いのコックピット部分。

どんな結末を迎えるかは自分でも分からない。
けれどもう、この三流の喜劇に幕を下ろすべきなのだと理解していた。



『「――――――決着を、付けよう」』



全てを終わらせよう。僕と君で。

94名無しさん:2010/11/09(火) 21:49:05 ID:CVWdCT7A0
今日はここまでです
よろしくお願いします

95名無しさん:2010/11/10(水) 20:20:52 ID:3T1DUOb.0
GJです、救いは無いのかなぁ・・・・やっぱり

96名無しさん:2010/11/10(水) 20:31:40 ID:bp8zFvn6O
遂に最終回、なのか
こんなに続きを見たいと思わせるSSは久しぶりだったなぁ……

97CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:21:37 ID:XknOEr8c0


飛び散る火花。月面でぶつかり合いすれ違うのは紅と蒼の光。
その正体はフリーダムとデスティニー。担い手の名はキラ=ヤマトとシン=アスカ。
2つの存在が命をかけてぶつかり合っている。
いつ終わるとも知れない戦いを、自分の手で終わらせるために。
そして己の道を貫き通すために。

嵐の様に吹き荒れるデスティニーの長剣。
その中の一太刀に狙いを定め、フリーダムは両手でアロンダイトを受け止めた。
だがそのままレールガンを叩き込もうとした瞬間、長剣を手放したデスティニーが両掌を輝かせる。
剣を放り捨てて左右に跳ぶことで放たれる光を回避。閃光が機体を僅かに掠め火花が散った。
宙を漂う長剣を再び手に取り、デスティニーが再び距離を詰める。
キラは襲い掛かる機体から目を逸らさずに口を開いた。

「負けない。負けられない」

己の口から吐き出された言葉を、もう卑下することはない。
自分に対しての失望は既に済んだ。後ろを振り返り続ける日々は終わったのだ。
だから負けるわけにはいかない。だって

「僕にはまだ、帰る場所がある……!!」

はっきりと認識したんだ。自分が今、なんでここにいるのかを。
戦っているその理由を。
そう。自分はただ、一緒にいたいだけなんだ。
あの子と。ラクスと。自分の最愛の娘と。

「僕にはまだ、待ってくれている人がいる……!!!」

小さい夢だと自分でも思うよ? 世界に宣戦布告した男の言うことかって。
だけど、今の僕にはそれが一番大事なことなんだ。

「だから―――」

死にたくないんだ。生きて帰りたいんだ。
もう一度あの子を抱き締めて、頭を撫でてやりたいんだ。
頭を下げて生き延びれるものならそうしよう。命以外なら全てを差し出しても構わない。
だけど、もうそんな段階ではないから。

「いくら君相手でも、負けるわけにはいかないんだぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
『こんの、馬鹿がぁぁぁぁっっ!!!』

この歩みを貫き通す。
それが例え、君の屍を踏み越えることになったとしても。

98CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:22:18 ID:XknOEr8c0





第36話 『今この声涸れるまで願いを込めて』





「これが、力の行き着く先か」

キラとシンの戦いを遥か遠くに見ながら。グフのパイロットである青年、サトーは小さく呟く。
その声に含まれるのは羨望でも恐怖でもなく、ただ悲しみだけ。
痛々しくて、見ていて辛い。それ以外には何も感じることは無かった。

不意に思い出すのは場違いな記憶。アカデミー時代に習った現代史。
かつてキラ=ヤマトは親友であるアスラン=ザラと殺しあう事になったと授業で習ったときのことだった。
戦争が親友2人を引き裂き、お互いの仲間を殺し合い、最後は自身が殺しあうまでに至る。
その話を聞いた同じクラスの女たちは皆言っていた。2人とも可哀想、と。
そして最後にはそれを乗り越え、再び手を取り合った2人は本当に優しい人だと。
中には感情移入し過ぎて涙を流しそうなものまでいた。

一緒に聞いてた自分としては、若干ご都合主義とか予定調和的なものは感じられた話ではあった。
確かにその話は悲劇であり、または美談であるだろう。しかし感動して泣くほどではあるまいに。
あの時はそう呆れながらその光景を見ていたが、そんな思考をした自分にどこか引っかかったものを感じていた。
それがなんなのかは当時の自分では分からなかった。しかし今になってやっとわかることができた。
それを美談と評したことに、当時の自分は引っかかっていたのだ。

どんな悲劇も自分が絡まなければ所詮は他人事。しかも実際に見ず話に聞く程度なら、いくらでも酔える。
きっと今日の戦いだって、それらと似たような話として後世に語り継がれていくのだろう。
多くの人間の悲しみを呼び、同時に憧れを生み出す英雄譚として。
感動なんて自分の妄想で補完すれば誰にだって出来ることだ。それが真実であろうとなかろうと。

『今更気付くな、馬鹿がぁ!!』
『君も似たようなもんじゃないか!!』

確かに凄い戦いだ。
彼らの動きの一つ一つは、紅である自分の遥か上を行く高等技術の集まりだということが今ではわかる。
目の前に映るものは、かつて自分の渇望したものの完成形であることは間違いない。
だけど。

99CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:23:05 ID:XknOEr8c0

『馬鹿野郎があああああっっ!!』
『帰るんだあああああっっっ!!』

この戦いの何処に美しさがある?
この戦いの何処に憧れればいい?

自分には2人の姿が、泣くのを我慢して殴り合ってる子供の姿にしか見えない。

「くそったれが!!」

吐き捨てるように叫び、キーボードを叩く。自分が居る宙域は未だ戦闘中だ。
ぼんやり見ているばかりではいられない。
漆黒の愛機が光を宿し、活動を再開した。

ナイフ。銃。MS。FAITHなどの軍の地位。それら全てを含めて、今まで力と名の付くものに憧れてた。
仮にそれに伴う悲劇なんてものがあったとしても、力を手に入れた自分なら簡単に乗り越えていけると思ってた。
とんだ思い違いだ。頭が冷えた今ならわかる。
―――ブレイク・ザ・ワールド。叔父さんが犯した大罪。
それを成そうとした時、叔父さんは心が苦しかっただろう。残された自分たち身内のことを思うと悲しかっただろう。
けれどそれを飲み込んでしまうほどの怒りと憎しみをあの人は抱えていたのに。
自分はそんな上辺や断片だけを見て、叔父さんの行為を尊敬すると言っていたのだ。
それを聞いた、おそらく全てを理解しているであろう父の悲しそうな顔を気にすることなく。

恥ずかしかった。悔しかった。そしてそれ以上にムカついた。
叔父さんが自分たち家族に最も見て欲しくなかったであろう傷口。
それを尊敬するという言葉の下で晒し続けた過去の自分を、助走つけてぶん殴ってやりたくなった。

『砕けろ!!』
『断る!!』

そしてあの人は言っていた。英雄という名の付く者はこういうことをしないといけないと。
それは精神だろうと肉体だろうと、辛い戦いでもしないといけない、逃げられないということなのだろう。
そんなことも知らずに、自分はあの人をくだらない嫉妬で 「英雄もどき」 と呼んだ。
自分を殴る理由がもう一つ増えた。

「止めないと。どんな形でもいい、あいつらを止めないと」

呟きながらグフのバーニアを噴かす。
叔父さんの罪の償いと言う気はない。過去の自分の無様さをフォローする自己肯定でもない。
今からの行動は自分のために行うものじゃない。
今頃気が付いた馬鹿な自分の他に、この場には未だに気付かない馬鹿共がいるのだ。
なら止めないと。悔やむ暇があるなら動かないと。
そう思った。ただそれだけのこと。

100CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:24:21 ID:XknOEr8c0

「誰か援護頼む……ボルテール隊、サトー。ディーヴァに突貫します!!」
『馬鹿か、敵の本陣にゃまだあんなに敵がいるだろうが!! まだそのタイミングじゃない』
「見りゃわかるさ! でも、後でなんて言ってられないんだ!! 今やらなきゃいけないんだ!!
 きっと俺が、今まですげえ馬鹿だった俺が!! 同じ馬鹿なあいつらを止めなきゃいけないんだ!!」

自分を制止する声に叫び返す。早く止めるには有象無象に構ってる時間は無い。
その声を受けたガナーのパイロットは一瞬驚いた表情を見せていたが、そのうち小さく笑って言った。

『……グゥレイト、熱くなっちゃってまあ。つくづく突撃バカに縁があるのな俺は。
 OK、道は俺が作ってやるから行って来い!! ただし途中でくたばったら承知しないからな!!』

返事もせずに機体を飛ばす。格好をつけたはいいがディーヴァまではまだ少し距離があるか。
そう考えた瞬間アストレイ2機が左右から現れ、自分を挟み撃ちにしようと襲い掛かってきた。
こんなのに時間取ってる場合じゃない。そう舌打ちしつつテンペストを抜き放つ。
次の瞬間背後から2つの紅い閃光が自機を追い抜き、吸い込まれるように命中した。
後に残ったのはアストレイの残骸だけ。

『動きを止めんなバカ!! 道は作るって言っただろ!!』
「お、押忍!!」
『マジか……おいお前ら、コーディのガキがディーヴァに突っ込むってよ!
 ザフトでもオーブでも連合でも誰でもいい、手の空いてるヤツは援護してやれ!!』
『おっしゃ任された!! 若いねぇ坊や。いいぜ、雑魚は引き受けといてやらぁ!!』

周囲にいたウインダムやゲイツが道を作り、黒いガナーザクから放たれる援護射撃が幾つもの敵を屠る。
そんな名も知らぬ仲間たちの意思を受け継ぎ、かつて馬鹿だった少年はディーヴァに向かって突っ込んでいった。
集中しろ。こんな所で落とされてはいけない。ここまでされといて下手打つわけにはいかない。
自分が今日まで鍛えてきたのは、きっとこの時の為だったんだから。

ディーヴァから放たれたミサイルの群れ。右手のトラウブニルで弾幕に穴を開けて飛び込む。
正面に立ち塞がる白いストライク。すれ違いざま一瞬で切り捨てる。
進行方向を覆いつくす機銃の掃射。盾を前面に構えて押し通る。
紅い閃光。ギリギリで避け―――面倒くさい、テンペストで叩き落す。

それで終わりだった。立ち塞がるものはもう何も無い。
サトーはディーヴァのブリッジに取り付き、中へとトラウブニルを向ける。
この位置ならばもし撃たれてもブリッジを巻き込む形になる。そうは撃てない筈だ。
そう判断する思考も惜しい。サトーは回線を繋ぎ、声の限りに叫んだ。


「戦闘を停止させろ!! お前ら十分怒っただろ。十分撃ったろ! ……もう十分殺しただろう!!」


届け。
この声、マジで届け。

101CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:25:28 ID:XknOEr8c0





守備隊を振り切り目の前に現れたMSの巨体。バルトフェルドは艦長席から動くことなくその姿をみつめる。
通信から聞こえる叫びは若さの奔流。思わず自分が出会ってきた少年たちを思い出してしまった。
意思を乗せたこの声、敵ながら嫌いではない。

『何を馬鹿なことを! ラクス様が殺された時の怒り、悲しみ、絶望。こんなものでは……!!』
『ふざけんな!! 1人の女に、死んでまで縋りつくのかあんたたちは!!』

もう十分殺しただろう。
その言葉が気に喰わなかったのか、ディーヴァの隣に展開していたナスカ艦のクルーがグフのパイロットへ怒鳴る。
それに怒鳴り返したのは目の前の少年ではなくミネルバからだった。
褐色の肌をしたポニーテールの少女が男の言葉を切り捨てる。それはラクスへの依存だと。

『なんだと!? 子供が、わかったような事を……!』
『誰だってさ』

自軍の行動を侮辱するその発言。
ナスカの男性が再び声を荒げようとした瞬間、グフの少年は再び話し出す。
今度は感情を抑えるように、ゆっくりと。

『誰だって生まれたとき、周りは笑ってそいつだけ泣くもんだろ。
 だったら、死ぬやつが笑って周りの皆が泣いてくれりゃ、そいつにとっての人生はきっとそれで良いんだよ。
 お前らの大好きなラクス様はどうだった? 苦しんで死んだか?
 キラ=ヤマトに世界を託して、安心して笑ってたんじゃないのか?
 今のお前らのその姿が、本当にラクス=クラインが見たかったものなのかよ!!』
『それは……』

糾弾の声に少年と言い争っていた者が口ごもる。今の銃を手にした己の姿が、彼女の望んだものなのか。
それは自分たち反乱軍の多くが最も目を背けている部分だ。
答えられぬのも無理は無い。

『我々は、我々たるべく生きるために行動してきた。我々ではない何かに縋るのはもう、やめませんか』

空いた間に続きの言葉が飛び込んでくる。発信先はボルテール。
サングラスを付けた男性も会話に参加した。
彼は諜報部のデータで見たことがある。確か艦長だったか。

『彼女の差し伸べた手に引かれて、幼子のようにその後をついていくためではない。
 その横に並び立ち、共に歩んで行く為だった筈だ。
 彼女の死を悲しむのもいいでしょう。怒りもまた否定はしない。
 しかしいくら彼女のためだとは言え、人々の歩みを止める事は許されることではない』

102CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:26:01 ID:XknOEr8c0

人の歩みを止めるな。数年前には自分たちが敵対者に言っていた言葉だ。
まさか自分たちが言われる時が来るとは、あの頃の自分たちは想像すらしなかっただろう。
そう、自分たちは変わってしまったのだ。平和を求め、戦いを始めたばかりの頃の己に顔向けできないほどに。
自分たちの力は世界を変えることが出来る。そう思ってしまった。
だから再び銃を取った。平和の歌姫の名の許に。自由の聖剣を手にとって。
自分たちに世界を変える資格があるとは限らないのに。

『だが世界は、ラクス様を失ったのだ。他に何を指標にして歩んでいけば良いというのか!
 この十年の間に数々の悲劇を起こし続けてきた我々人類が!
 彼女の想いすら世界には届かなかった。目指した道は途中で途絶えた。
 彼女の何処に殺される理由があった? 間違っているのは彼女ではなく、世界の方ではないのか』
『何が正しくて何が間違ってるとか、そんなの簡単に言えるものじゃないですよ。
 そう、正しい道なんてそうありはしないと思うんです。だから私たちは、今歩いている道を正しくしていかなければならないって。
 ラクス様だって強く想い続けてきた。誰よりも前で歩き続けて、信じ続けてきた。
 私たちがするべきなのはあの人の目指したものに固執することじゃない。
 あの人が信じ続けてきた 「人は分かり合える」 って想いを引き継ぐ事こそが、私たちがすべきことなんじゃないんですか?』

オペレーターの少女の声の後には、続く言葉も割り込む言葉も無かった。
会話が止まる。声を荒げていた者たちも黙ったまま。それが意味することは何なのか。
彼らの言葉に胸を打たれたというのか。
強者の言葉を聞くことで死までの時間を延ばす生存本能か。
己の歩みを止められ、今までの道を振り返っているからか。

いや、どれも多分違う。

きっと皆、本当は言われずとも気付いていた。
怒りだとか慢心だとか、そういったもので目が曇っていただけなのだ。
しかしその曇りは晴れた。晴れない訳が無かった。

『うわああああああっっっ!!!』
『だあああああああっっっ!!!』

CEの聖剣。自由の翼。歌姫の伴侶。青年に架せられた様々な二つ名。
キラ=ヤマトはこれまでの戦いにおいて、英雄と呼ぶに相応しい成果をあげてきた。
だから知らずのうちに皆、彼が本当の英雄だと信じ込むようになってしまった。自分たちの荷を背負ってくれる存在だと。
彼の妻であった、歌姫ラクスのように。

けれど自分たちの戦う理由を押し付けてきた青年の、あんな泣きそうな声を聞いてしまっては。
果て無き翼の重みで潰されそうな彼の姿を見てしまっては。
これ以上、誰が夢へと浸れるというのか。

103CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:26:38 ID:XknOEr8c0


「なるほど、想いですか……。綺麗な言葉ではありますが、それだけでは世界は変えられません」

『……何が言いたい、マルキオ導師。
 あんたが偉そうに語れる事なんて、この世にあるとは思えないけどな』

いや、夢想に浸れる人間ならまだいた。
マルキオ導師。ジョージ=グレンやSEEDといった概念に溺れた夢想家が。

「人間は安定と不安定の狭間でしか生き甲斐を見出せない、愚かな生き物です。
 そんな存在が果たして想いなどで未来を指し示すことができると、貴方たちは本当に思っているのですか?」
『なんだと……!?』

画面に映るポニーテールの少女が表情を歪ませる。
しかし男はそれを気にした様子もなく言葉を続けた。

「力無き者が説く優しさほど残酷なものはなく、力無き者が使う力は最終的には暴力となる。
 そんな存在が未来など照らせはしない。照らせたところで明るいものである訳が無い。
 彼らは足の引っ張り合いに終始する生き方しか知らないからだ」

時代を作るのはいつだって強者であり、弱者が勝者たり得たことは一度もない。
満ちている者は余裕に溢れ、足りぬ者は妬む。
それは確かに真理だ。言っていることは間違いではない。しかし

「ならばどうするのか。簡単だ、選ばれし者が世界を照らせば良い……それは誰か?
 イザーク=ジュールでは足りない。連合やブルーコスモスでも足りない。
 ロゴスでも、オーブでも、それこそギルバート=デュランダルでも足りなかった!!
 当たり前だ。彼と同じSEEDを持つ者でなければ世界の導き手にはなれないのだから」

いつかも思ったが。SEEDを持つ者が神で、さしずめ自分は神官だとでも言うのだろうか。
この男こそ、1番ラクスを否定しているのではないのだろうか。

「この世界にはシン=アスカやアスラン=ザラといった選ばれし者たちがいる。
 その力は今皆の前で証明されている最中だ。異論を唱える者などいまい。
 そして彼らをも凌ぐSEED因子を持ち、世界を統べるに値する者もこの場にいる。
 それが誰なのかは私が言わずとも判るだろう。そう、キラ=ヤマトこそが―――」


『『『 謳ってんじゃねえよ!!! 』』』


ミネルバ。ボルテール。そして目の前のグフ。
己の言葉に酔った男の言葉を切り捨てて、子供たちの叫び声が重なる。

104CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:27:57 ID:XknOEr8c0

『SEEDだかなんだか知らないけど、そんなもんがどうした。シンもアスランも、ただの人間だ……人間なんだ!!
 楽しかったら笑って、悲しけりゃ泣いて、キツいことがあったら苦しんで……何も皆と変わらない。
 何が世界の導き手だ―――お前なんかが私の大切な人たちのことを勝手に言うな!!』
『高みから人を見下ろして悦に浸りたければ、どうぞ好きにすりゃ良いさ。
 けどなぁ、そんなあんたの周りにゃ誰もいないってことにいい加減気付け!!』
『力がある者と無い者、その存在にどれだけの違いがあると言うんです!
 貴方が力の無い誰かを否定するということは、それは自分自身をも否定しているということに何故気付かないんですか!?』

3人の怒声の後に言葉を発する者はいなかった。沈黙がブリッジ内を支配する。
盲目の男はしばらく黙っていたが、やがて拍子抜けしたような表情で呟いた。
高まった気分を台無しにされたのが気に入らなかったのか、ひどくぶっきらぼうな言葉遣いで。

「愚かな……」

まったくだ。そしていいかげんに飽きてきた。
こんな茶番劇、愚かにも程がある。
バルトフェルドは通信席まで跳ぶとマイクを手に取り、戦場の全ての人間に話しかけた。

「こちらはクライン派旗艦のデーヴァ艦長、アンドリュー=バルトフェルドだ。
 連合、ザフト、オーブ、そしてクライン。この宙域にいる全ての兵に告げる。……戦闘行為を一旦停止せよ」

一瞬、全てが止まったような気がした。
無理も無い。自分が今言った言葉は事実上の戦闘放棄である。
しかし、もう限界だったのだ。

未来に溢れた子供たちと相対し、部下が死んだのに悲しむ事さえしない自分。
夢想家の自慰じみた脚本に流され、さんざん見せられ続けた人の業。
その想いとは裏腹に、運命によって無様に踊らされていた自分たち。その全てが。
そして何より、今この男と同じ艦に乗っている無様な現状が。

「デスティニーとフリーダム……あの戦いを見届けよう。
 キラが勝てばディーヴァに構わず、従来の作戦通りレクイエムの破壊にかかれ。
 もしキラが敗れた場合は……」

もしキラがシン=アスカに敗れた場合、捕らえられるであろう自分の処刑場行きは間違いない。
勝ったとしても目の前の機体がディーヴァを放置するとは思えないが、まあこの少年に殺されるならそれもまた有りだろう。
そう、己の命など惜しくはなかった。元々この命はキラの為に使うと決めているし、今までそうしてきた。
元々自分の為に始めた戦いではない。キラの心が壊れるのを防ぐためにはそれしかなかっただけだ。
自分ではあの青年を救うことができなかったから、救ってくれるものが現れるまでの時間稼ぎとして。
しかし救いの主が現れた今となっては自分が彼にしてやれるのは露払いと盾くらいでしかなく、
そしてその役が自分でなければならない必要性はどこにも無い。
若干情けない幕切れだが、グフに取り付かれた時点で自分の戦いは終わってしまったのだ。

105CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:28:43 ID:XknOEr8c0

「その時は全ての責任は僕が取る。
 戦いを続けてもいい。撤退して残った者を集め、再起を図ってもいい。降伏しても構わない。
 ……各員、好きなように生きてくれ。己が決めた道を」

そこまで言ってマイクのスイッチを切った。
驚いた表情の通信士の肩を叩くと、彼は目線を落として僅かに頷く。
それを見たバルトフェルドは再び画面に視線を戻した。
映っているのは自分を射抜く3つの眼差し。

「どの子も真っ直ぐな目をしているな、本当に……」

グフのパイロット。ミネルバとボルテールのオペレーター。
彼らからは隣にいる男の言葉よりよほど、未来というやつが見えた。
それは自分にとっての敗北宣言と言っても良いのかもしれない。
己は、誰にしろ避けられぬものがあるという事を悟るほどには歳を重ねている。

「負けだな、僕の」

一度生き返ってからというもの、自分は成長を見せる子供たちに弱くなった。
父性本能とでも言うのだろうか。アイシャを失ってからは家庭を持つ気など無くなってしまったけれど。
ラクスにキラ。自分を追い越していく若者の背中を見るのが嬉しくなったものだ。
しかしそれでも、今だけは絶対に微笑みたくなどなかった。
今笑えばきっと自分は穏やかな表情を浮かべてしまうだろうとすら思った。
そのこと自体に悪い気はしなかったが、あの親子の事を思えばそんな気分にはなれなかった。

「貴方は何を馬鹿なことを口走っているのです。
 キラ=ヤマトは健在であり、シン=アスカが彼を上回ることは無い。まだ戦いは終わったわけではない。
 貴方が此処に留まり続けるというのなら、私だけでも他の艦へ」
「生憎だが戦場に観覧席は無い。あんたには僕と運命を共にして貰う。
 何、死んだ後のことは心配するな。オーブで君を待っている筈の恋人は、随分前から若い男性と逢瀬を重ねている。
 君が2度と帰らなくなっても悲しむことはないだろう」
「何を馬鹿なことを……それに今はそんなことはどうでも良い。私は彼が作り出す未来を見届ける義務が」
「その未来ってやつは、もっと可能性に溢れた若い連中が手にするもんだ。
 資格だとか義務だとか……そんなものは最初から無いのさ。自分の意思で戦争を再開させた僕たちにはね」

余韻を潰すかのようなマルキオの言葉。それをばっさりと切り捨てる。
以前は嫌悪感しか湧かなかったこの男の声だが、少年たちの声を聞いた今となっては
おもちゃを取り上げられた子供の声にしか聞こえない。今まで彼に固執していたのが馬鹿らしくなるほどに。
自分も背負わなくて良いものを背負い込んでいたのだろうか。あまり他人の事は言えないかもしれない。

しかし、ケジメだけは付けないといけないだろう。

106CROSS POINT:2010/11/20(土) 21:29:23 ID:XknOEr8c0

「それと、これは忘れ物だ」

そう言うや否や、握り締めた拳で思い切り殴りつける。吹き飛び壁に叩きつけられた盲目の男。
何をされたか理解できていない、そんな表情で顔を押さえる手の間からは血が見えた。
バルトフェルドは意外そうな目で零れ落ちるその赤い雫を眺める。なんだ、やっぱり流れていたのか。

「目の見えない人間を殴りつける。あの子はそんな事が出来る人間じゃないからね。
 ……今の一発はキラの分だ。
 ったく、大人らしいことがこんなことしか出来ないなんて、砂漠の虎も堕ちたもんだ」

自分の言葉を聞いている様子は無いが、マルキオは脱出を諦めたのか動こうとしない。
それならいい。逃げないのならこんな男に割く思考は無い。
クルーの1人に視線を向けると、彼は頷きを返した後入り口にロックをかけた。
バルトフェルドは艦長席に戻りブリッジクルーにも同様の命令を出した後、画面に映し出された全体図をみつめる。
いくつか敵と戦闘を続けていた部隊もあったが、周囲が戦闘を停止しているのに気付くとお互い距離を取るようになった。
自分の言葉を聞く気になったのか、それともただ身体を休めようとしているだけなのか。
流石に個人の意思までは読めないが、2人の戦いの決着に意識が向かっているのは間違いない。
無理強いをさせるつもりは無かったが、ブリッジクルーも脱出しようとする者はいないようだ。

『それでも、守りたいものがあるんだ!!』
『アンタって人はぁぁぁ!!!』

だとすると、もう自分は何も背負わなくてもいいだろう。
いずれ訪れる死を受け入れることを代償に、バルトフェルドは画面の映像以外の全てを意識から外す。
今はただ、ひたすら彼のことを想いたかった。彼ら2人のことを想いたかった。
少しだけ、自分の子供の様に思っていた彼らの為に。

「がんばれ、キラ」

声にならない言葉を吐き出す。涙が零れても瞼を閉じることは無い。
彼の戦いを見届けるために。目を見開き前を見続ける。


「そして生きてくれ。頼むから……」


自分の息子の戦いを、最後に焼き付けるために。

107名無しさん:2010/11/20(土) 21:31:42 ID:XknOEr8c0
今日はここまでです
それと、投下はいつでも結構です。やってくれるだけでありがたいので

108名無しさん:2010/11/20(土) 23:48:43 ID:3XuEO1Fc0
GJ
遂にやったぜあのクソッタレをぶん殴ってやった!、今ならキラの普通の人間だ発言にも同意できる
出来うるならば死なないでほしいと思う、こんなに次回が楽しみなSSは久しぶりだ

109名無しさん:2010/11/21(日) 02:28:47 ID:2fRfvXZUO
ありゃ、おかしい、涙が……

シンもキラも切ないな。なんとか生きて欲しいけど……

110CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:45:38 ID:K95u/Ok60



戦いが始まって、どれだけの時間が経ったのだろう。


既に周りの人間達は戦闘を止め、2機の戦いを見つめていた。
先程までの人の領域を超えた戦いは影を潜め、傷ついた2機のMSは月面上で距離を置いて対峙している。
両者共に動きは無い。ただ、お互いの必殺の構えを維持したままで。
デスティニーはアロンダイトを持った右手をだらりと下げ、フリーダムは全ての砲門をデスティニーに向けている。

互いに最後の攻防のきっかけを探しているのだと、見ている誰もが気付いていた。






『CROSS POINT』






「なあキラ、今なんとなく思ったんだけどさ。
 戦争がなかったら、俺たちどんな出会いしてたのかな」
『……正直、想像もつかないな。僕の家はヘリオポリスにあったから。
 もしかしたら一生、出会わなかったかもしれないよ?』
「そっか」

IF。もしもの話。何の意味も無い、すぐに終わるような話。
まるで茶飲み話でもするかのような口調で、シンはキラに向かって話しかけた。
こんな他愛の無い時間を大事なものだと気付いているくせに、お互いそれをおくびにも出さずに話し続けている。
この場にいるのは2人だけ。ただ、殺し合いの決着をつけるために残っているというのに。
それなのに思いつくのはくだらないことばかりで。
今わの際に思うことなんてきっと、こんなもんなんだろう。

―――――いよいよ大詰めだな

まあな。とうとうこの時が来てしまった。……というか、さっき別れたばっかなのにもう来たのか親友。
こんなに早く来られてはかっこつけた俺の立場が無いのだが。

111CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:46:10 ID:K95u/Ok60

―――――お前は抜けているからな。少し気になっただけだ。
     それよりも後悔しているのか? こうなったことを

どうなんだろう。正直よくわからない。
この戦いの行方も、自分の心も、此処に到った理由すらも。

―――――心配するな。お前は、1人じゃない

確かに感じる。自分の背を支える沢山の存在を。
そこで一つ謎が解けた。自分がキラをも上回るとは到底思えないのに、心のどこかで自分は楽観視していた。
負ける筈はないと。そりゃそうだ。
こんだけ派手なメンツが後ろについていれば、相手が誰だろうと負ける理由がある方がおかしい。

「ああ、そうだな。皆が見ていてくれる。それに―――」

思い出せたんだ。
あの雪の日からずっといろんな物を背負い込んで、まともに空を見上げることなんかできなかったけど。
思い出せたんだ。
この世界には光が溢れているという事を。
光は今も俺の側で、俺を照らしてくれているという事を。

なら、行ける。
迷わずに行ける。
俺の道を、俺が望む道を、俺が信じた道を。

俺は、自分で斬り開いて行くことができる―――





向かい合う翼の生えた2機のMS。アスランは何も言葉を発さずにその光景を見ていた。
先ほどまでの戦いで感じていた高揚感は既に無い。
目の前にある、一つの物語の結末の前ではそんなものは意味を成さなかった。
その中に自分の席はもう無い。どうやっても止めることはできない。

だから見ていた。見ていることしかできなかった。

彼を終わらせるのは自分ではない。敗れたあの日から、もう自分のその資格は消失してしまった。
だがそれでも、自分は自分の役目を果たさなければならない。
最後まで見届ける事。終わりを受け入れる事。
それが今戦っている二人の親友に対しての、せめてものけじめだった。

112CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:46:59 ID:K95u/Ok60

「……止まれよ」

けれど。

「……止まってくれよ」

けれど。

「止まれって言ってるだろ」

そんな簡単な、自分に残された役目を。
メットの中に浮いている、数多の水珠が邪魔をする。

「くそっ!!」

ヘルメットを外して後ろに放り投げた。それでも溢れる雫の数は増える一方だ。
ちくしょう、止まれよくそったれ。
決着の瞬間は涙で見えませんでしたなんて洒落にもならないじゃないか。

視線の先の両者は動かない。彼らがいるその空間だけ、まるで時間が止まったように静かだ。
動き出すきっかけを探しているのは子供でも分かる。
だからそれは自分が作ってやることにした。
外にいる自分にはそれしかできないから、せめて……いや、その思考は欺瞞だ。それは己の本心ではない。
せめてそれぐらいは? 違う。
それでもいい? 違う。
それだけでもいい? 違う。

俺は、この役だけは死んでも譲れないんだ。

親友2人の最後に立ち会う。そこに介入するのは自分以外には誰にも許したくない。
子供じみた独占欲。しかし腹を決めた以上、自分の動きに迷いは無い。
己の傲慢な性格が今はありがたかった。

「……いくぞ、お前ら」

操縦桿に手を掛け、届く筈のない言葉を2人に送る。
気が付けば涙はとうに乾いていた。おそらくは、心も共に。

113CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:48:01 ID:K95u/Ok60

「――――」

脳が号令を出したその刹那。自分は今、何か言ったらしい。
しかし唇から零れ落ちることは無かった。
だから自分がその言葉が思い出すことは無いだろう。例えこの後の生涯全てをかけたとしても。
この後の喪失が、全てを塗りつぶすだろうから。


アスランは2人に向けてアムフォルタスを構え――――

その引き金を、引いた。






ゆらりと月面から足を放し、デスティニーが少しだけ宙に浮く。
そしてアロンダイトを勢い良く振り下ろしながら正眼に構えた。
リミッターでも解除したのか、深紅の翼がその身体よりも大きく広がる。
禍々しく、そして美しい。思わず溜息が漏れるほどに。
これがデスティニーの―――彼の―――本当の姿か。

「ああ……」

キラは喉から吐き出しそうだった言葉を飲み込み、意識をシンから外す。
キーボードを叩くとフリーダムのサーベルの片刃が消えた。同時に残された反対の刃が太くなる。
そしてモニターで武装を再チェック。大丈夫、ドラグーンは全て失ったが他の武装はまだ生きている。
宙に浮き長剣を構えるデスティニーに視線を戻し、先程こぼれなかった想いを静かに呟いた。

「撃ちたくない、なぁ……」

この感情を言葉で表すならば、未練と言うしかないだろう。
もうすぐ戦いに決着が付く。そして今の彼の姿を見た瞬間確信した。
殺らなきゃ殺られる、と。おそらくどちらかが死んでしまうだろうと。
無論自分はもう死ぬつもりなんてない。あの娘が待っているのだから。
ならば、これから自分は本当の親友を失うことになる。

そう。今のキラにとって、シン=アスカはまぎれもなく親友だった。

114CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:49:50 ID:K95u/Ok60

かつて自分は彼から全てを奪った。
守りたかったという少女。親友。上司。理解者。目指した世界。未確認だが彼の家族も。
だがそれでも彼は自分に力を貸してくれた。一緒に酒も飲んだ。
軍を辞めていたのに、介錯をするために戦場に戻ってくれた。

全部、自分のためにだ。

ありがとうと笑顔で言いたかった。ごめんなさいと泣きながら謝りたかった。
だけどそれはもうできない。僕らの行く道はもう、とっくの昔に離れていた。
途中で交わることはあったけれど、歩く道は違っていたのだ。

終戦からの1年にも満たない短い期間。そして僅かに心を通わせた夜の公園での数時間。
共にいたのは僅かにそれだけ。今の自分たちはただ交差しているだけだ。
そして今日を最後にもう交じり合うことは無い。
どちらかの記してきた線を上書きして断ち切り、離れていくだけ。

「ねえ、シン。前から思っていたことがあるんだ」
『まだあんのか。今さら』

会話を終わらせたくないくせに、自分の言葉にめんどくさそうな声で応じるシン。
終わらせたくないのは自分も同じだが、彼に打ち切る言葉を言わせたくなかった。
ただ自分がその言葉を聞きたくなかっただけかもしれない。
だから、自分から戦いへと誘う言葉を吐いた。

「君を倒せるのは、僕だけだって」

親友を手にかける、下り坂への一歩は踏み出した。後は奈落へと転がり落ちるだけ。
ここから先、自分に救いはほとんど無い。
娘との明日と言う僅かな光明を手に入れるために、今は自ら闇へと飛び込んでいくしか道は残されていないのだ。

『………その言葉、そのまま返すよ』

覚悟を決めた自分の声。それに対する返答は静かで不敵な言葉だった。
ベルリンでは本心はともかく弱気な発言をしていたというのに、どんな心境の変化があったというのか。
おそらくきっと、彼も己にとっての大切なものに気付いたのだろう。
負けられない理由があるのは自分だけじゃないということか。

「返すんだ。僕に勝てると?」
『ああ。それに気付いたのは、ついさっきだけどな』

ついさっきとはまた、随分急な話だ。そこは敵である自分に明かすところじゃないだろうに。
正直な言葉を返すシンに、キラは思わず笑ってしまった。
それは嘲笑ではなく、苦笑ですらない。ただ大切な親友に向けるためだけの笑顔。

115CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:51:06 ID:K95u/Ok60


「そっか。―――――それ、きっと間違ってないよ」


張り詰める空気。耳を刺す静寂。
次の瞬間、紅い閃光が2機の中間位置を流れていった。

それを合図とするかのようにデスティニーが動き出した。
アロンダイトを右肩に担ぎ、フリーダム目掛けて飛び込んでいく。だが遠い。先手はこちらだ。
応えるフリーダムは全砲門を開いてのフルバースト。全てを薙ぎ払う炎の一撃。
自由の聖剣の代名詞たる、世界をも支配したビームの豪雨。
しかしデスティニーはそれを全て避けた。

「流石―――!!」

予想通り。これぐらい今のシンなら造作も無いだろう。本当に天才だ、彼は。
感嘆してる暇は無い。本命はその次。
デスティニー最強の、アロンダイトの一撃が来る。
まともに喰らえばフリーダムではひとたまりもない。

しかしデスティニーの手の内が知れた今、アロンダイトさえなくなればキラに負けは無い。
だからこの攻防で破壊する。仕込みは既に済ましている。武器壊しは自分の十八番だ。
狙うのは長剣の接続部分。これまでの打ち合いで攻撃をその1点に集中させてきた。
次の一撃で折れる筈だ。

飛び込んでくるデスティニー。流石に速い。
長剣は右肩に担いだまま。次に来るのは唐竹割りか、それとも横薙ぎか。
デスティニーの右肩が僅かに下がる。

―――横薙ぎ!!

一瞬で反応し、操縦桿を動かした。フリーダムが左手のサーベルを下から上へ跳ね上げる。
交差する二つの刃。
アロンダイトの接続部分に火花が生じ、長剣の半分から上が断ち切られる。
弾け跳ぶアロンダイトが自分の瞳にスローモーションで映った。そして残された下半分の光刃が消えていく。


――――――勝った!!!


狙い通りのその結果に歓喜するキラの全細胞。そしてそのまま追撃の一撃へと身体が移行する。

しかし次の瞬間、キラの目が驚愕で開かれた。

116CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:52:17 ID:K95u/Ok60





フリーダムのサーベルが光を放ち、アロンダイトの上半分が吹き飛んでいく。
それは自分の全てを込めた一撃が砕かれた瞬間だった。
目の前の敵が止めへと移る動きがひどくスローモーションに見える。
自分は負けたのか。もうここまでなのか。ここで終わってしまうのか――――

いや、まだだ。

しかしそんな終わりの声を否定する想いが心の奥底から湧き上がる。シン=アスカという存在が、そんな現実を否定する。
まだだ。自分はまだ倒れることを許されていない。
否、俺自身が許さない。

大切なたからものの前で。大切な仲間の前で。見守ってくれている者たちの前で。
そして、死して尚俺を支えてくれる人たちの前で。
諦める。敗北を受け入れる。見据えるべき前方から目を逸らす。
そんな無様な姿を晒してなるものか。
依存と言いたきゃ言えばいい。他人に動かされるだけの人形だというなら蔑めばいい。
だけど、その人形が明日を掴めないという道理は無い。

「おおおおおおおお!!!!」

咆哮と共に前を向く。
その手で掴むべきは明日。その足で追いかけるべきは明日。
それは後ろにあるようなものじゃない。

前に向かって奔れ。
限界を越えて、その先まで。


―――――それでこそお前だ。

再び声が響く。沢山の手が自分の背中に触れているのを感じた。
それは生きている者だけじゃない。いなくなってしまった人。自分を支えてくれる人たちの、暖かい手。
この一歩を踏み出せと、臆病な自分の背中を力強く押している。

117CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:53:27 ID:K95u/Ok60

―――――そのまま行け、シン

わかってる。

―――――運命に打ち勝ち、君自身の道を歩め

わかってます。

―――――迷わずに行きなさい

了解です。

―――――派手に決めちまいな

オーケー。

―――――明日で、待ってるね



………ああ。待っててくれ。



「でやああああああッッッ!!!!!!!」


折られたのも構わずにアロンダイトをそのまま振り抜く。ビームの刃は消えそうになっているが、完全に消えたわけではない。
僅かに残った光刃が消え去る瞬間にフリーダムの左脇腹の装甲を切り裂き、その切れ目に実剣部分が食い込んだ。

『ぐうっ、かはぁっ……!?』

「まだ、まだぁぁぁ!!!!!」

食い込むアロンダイトをそのままに、右手だけ逆手に持ち変える。同時に翼がさらに大きく広がった。
リミッターは解除したまま。最大出力。
フリーダムに剣を食い込ませたまま前に飛ぶ。体当たりの様に身体で押しながら月面を駆ける。

118CROSS POINT:2010/11/28(日) 20:54:44 ID:K95u/Ok60



月面を一筋の光が流れ。

そして、消えた。



勢いそのまま岩壁に突っ込み、壁にもたれた2つの機体。
フリーダムの脇腹に食い込んだ剣がその手から零れ落ちた。蒼い翼の機体がずり落ちるように腰を落とす。
真紅の翼を持つMSが蒼いMSから離れ、数歩後ずさる。そして力尽きたかのように片膝を着いた。
次の瞬間、両機の全身を灰色が浸していき―――

そして、今度こそ本当に動かなくなった。

月面に腰を落としたまま岩壁に背中を預けるフリーダム。片膝を着き、頭を垂れたまま動かないデスティニー。
荘厳な絵画のようなその光景。
その姿はまるで王の死を看取り、悲しむ騎士のよう。


ここに2つの線は交わり、そして離れた。

119名無しさん:2010/11/28(日) 20:55:56 ID:K95u/Ok60
今回はここまででお願いします

120名無しさん:2010/11/28(日) 22:14:59 ID:9R62z3b60
GJです・・・・・

なんていうのだろうな・・・?この喪失感・・・・・

121名無しさん:2010/11/29(月) 02:40:12 ID:SjA3xjXEO
乙です
どうなったんだ……二人は……

122名無しさん:2013/06/27(木) 23:56:19 ID:X4.DPPfo0
本スレに書き込めなかったから。

ザクレロさんがきてくれてうれしー
サイやフレイらアークエンジェル側の話がとても読みたかったから
続きが楽しみ。
ムゥとマリューも最初は最悪だったけどなんだかんだ仲良さげ。
SEED二次なのに着地点が全く見えなくて本当に好きなSSだから
また続きが読めて幸せです


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