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仮投下・修正用スレ

1 ◆iMRAgK0yqs:2009/02/16(月) 02:28:33 ID:Wr6mKbKA0
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662トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:07:06 ID:dh9efGCs0
 【幕間 《melancholy girl x3》】


衝突の熱気が失せ静かな、そして微量の緊張を沈殿させる空間へと戻った正方形に近い形のとある客間。
その部屋の中に今、耳を澄ませば辛うじて捉えられるという程度の小さな衣擦れの音が聞こえていた。

「……………………」

やはり下着を有無は重要だ。と、姫路瑞希は下着のありがたさというものを改めて感じていた。
上条当麻から譲り受けた体操着で一応は服を着ているという状態であったわけだが、やはり全然違う。
たった一枚二枚の布地がもたらす安心感。
なるほど、下着というものも人類の英知の結集だったのだと、瑞希は感心し、心の中で先人達に感謝した。

濡らしたタオルで足の裏を拭いてソックスを履く。タイを締めて上着を着ればいつもの学生服姿だ。
瑞希は姿見の前に立ちその中に写る己の姿を確認する。
少し乱れていた髪の毛を手櫛で整え、襟を正し、スカートのしわを伸ばした。これでいつもどおりの自分自身。

「……………………っ」

瑞希は鏡から振り返り、後ろにいた涼宮ハルヒにぺこりと感謝のお辞儀をした。
てっきりどこかへとなくなってしまったかと思っていた服だが、彼女が見つけて取っておいてくれていたのだ。
本当なら感謝にはありがとうという言葉も添えたかったが、しかし口を開いても声は出なかった。
一度は出たのだが、いつものように戻るにはまだなにかきっかけが足りないらしい。

「うん。見つけた時にも思ったけど、姫路さんとこの制服って可愛いわよね。
 やっぱり可愛い制服って羨ましいなぁ。こんなことなら私も北高じゃなく光陽園の方に行っとけばよかったわ」

体操着も惜しいと言ってたハルヒだが、制服姿を見るとそれはそれで気に入ってくれたらしく上機嫌だ。
いや、そう振舞ってくれているのかもしれない。出会ってよりこれまで、何かと彼女は気を使ってくれていた。

「じゃあ座って座って。ほら、ドーナツもたくさんあるし、私たちはちょっとのんびりさせてもらいましょう。
 面倒なことは男連中に任せればいいしね。あ、姫路さんもいーのこと使ってもいいわよ」

言いながら、ハルヒは鞄からドーナツの箱をいくつも取り出し、それを次々と並べてゆく。
あっという間にテーブルの上はドーナツでいっぱいになり、食欲をそそる甘い匂いが部屋中に満ちる。
瑞希はドーナツの山に瞳を輝かせながら座布団の上に座る。そして、テーブルの上の湯のみを手に取った。
一口飲んでみると、彼女が淹れてくれた温かいお茶は、身体の中の緊張を溶かしてくれるようでとてもおいしい。

あの時――温泉施設の前でハルヒの姿を見た時、瑞希は気絶しそうなぐらい驚いた。
彼女があの朝倉涼子と同じ制服を着ていたからだ。そして、自己紹介で彼女は涼宮ハルヒだと名乗った。
多分、ひとりきりだったなら声をかけることもなく見かけただけで逃げ出していただろう。

「……………………」

朝倉涼子のことをより詳しく話し、そして彼女からも聞くべきなのだろうか。瑞希は考える。
しかし、もしかしたら彼女に嫌われてしまうのではないか。そんなことはないと思うのに、躊躇ってしまう。
いやそれよりも、本当はまだ彼女を信じきれてないのではないか、朝倉涼子のように突然牙を剥くのではと
考えている部分があるのかもしれない。人を信じきれないことに瑞希は申し訳なさと悲しみを覚えた。



何も言い出せないままの時間が過ぎ、
瑞希がフレンチクルーラーをもふもふとひとつ食べ終わったちょうどその時、千鳥かなめが戻ってきた。

「ただいまーっと、姫路さん着替えたんだ。その制服かわいいねー。姫路さんの学校の制服?」

かなめはさっきと同じ場所に腰を下ろすと、自分でお茶を入れてグっと一気に飲み干した。
大きな息を吐き、部屋の中を見渡してそしてようやくここにいるべき人間が何人か足りないことに気づく。

663トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:08:29 ID:dh9efGCs0
「あれ? 当麻といっくんはどこにいったの?」
「姫路さんが着替えるから出て行ってもらったの。
 それで、じゃあそのついでに千鳥さんの言ってたガウルンっていう人のを、……見に行くって」

なるほどねぇ。と、かなめは大量にあるドーナツからゴールデンチョコを選ぶと、パクリと食いついた。

「それで、川嶋さんの方はどうなの? ひとりで大丈夫?」
「うん。この廊下の突き当たりの部屋でね、今は一人になりたいって。
 フロントから鍵持ってきて戸締りはしてもらったし、なにかあったら内線使ってとは言ってあるから、一応は大丈夫」

言って、かなめはポケットの中からいくつかの鍵を取り出した。
鍵そのものは極普通のもので、それぞれに部屋の番号が記された棒状のキーホルダーがついてる。

「これがこの部屋の鍵。
 で、他の部屋のも一通り持ってきといた。寝るんだったら男連中には別の部屋使ってもらいたいしね。
 それで……これがマスターキー。どこでも開けられる鍵ね。何かあった時はこれ使って助けに行くから」

かなめは並べた鍵をジャラジャラと掻き集め、とりあえず使わない鍵は部屋の脇へと寄せた。
そして、この部屋の鍵はテーブルの真ん中に置き、マスターキーは自分のポケットの中に仕舞いこむ。

「じゃあ当麻たちが戻ってくるまでの間、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」

かなめはドーナツをまたひとつ取り、何気ない話のようにそれを切り出した。



「姫路さんを襲ったっていう朝倉涼子って子だけど、涼宮さんのクラスメートなんだよね?」

瑞希の中で心臓がドキリと音を鳴らした。

「んー、正確に言うとクラスメイトだった……よ。だって、一学期が終わる前に転校しちゃったもの」
「へぇ、そうなんだ。それで涼宮さんとは仲良かったの?
 その……、彼女のほうはあなたにかなり入れ込んでるみたいなんだけど」

ハルヒの顔が曇る。
いくら与り知れぬところとはいえ、自分のせいで被害を受ける人が出るというのは心苦しいものだろう。
そう瑞希は解釈した。口は出せない。出す資格もない。だから瑞希は聴いて観ることに徹する。

「……ちょっと見当もつかないわ。
 仲が悪かったってこともないし、彼女はクラス委員としては真面目で私にもよくしてくれたんだけど、
 でも言ってみればそれだけよ。学校の外じゃ会ったことないし、友達というほどでも……」
「そっか。じゃあ、朝倉って子が何を考えているかはわかんないか……」

かなめは腕を組んで溜息をつく。ハルヒも小さく息を吐くと腕を組んで同じように目をつむった。
瑞希も、溜息をついたり腕を組んだりはしないが、がんばって考えてみることにする。
辛い記憶ではあるが、その分鮮烈でもある。自分の記憶が助けになればと、その時を思い返し始めた。
そして、些細だが違和感のあるあることに気づく。
新しいメモ用紙に鉛筆を走らせ、それをかなめとハルヒの前へと差し出した。

「”涼宮ハルヒとずっとフルネームで呼んでいた”。かぁ……なるほどちょっと変だね。
 朝倉さんっていつも涼宮さんのことフルネームで呼んでるの?」
「別に、クラスでは普通に苗字で呼んでたけど……どうしてかしら?」

かなめは腕組みしたままで目をつむる。そしてしばらくしてハッと開いた。なにかに気づいたらしい。

664トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:09:22 ID:dh9efGCs0
「あのさ、転校のことなんだけど、なんかそこに変わったことはなかった?」
「変わったことっていうか、あれは明らかに何か変だったわ。
 前触れもなくその日になって急に海外に転校だってことになって、それで先生も驚いてたみたいだし。
 さすがに私もおかしいと思って、だからちょっと調べてみることにしたんだけど――」
「ふんふん、それでどうだったの?」
「それが、全然。
 彼女の家に……マンションだったんだけど行ってみたら、その日にはもぬけの殻になってて。
 管理人さんとかにも聞いてみたけど、誰も彼女がいつ引越ししたのか、連絡先だとかも知らなかったの」
「朝倉さんとはそれっきり?」
「ええ。こんなところで一緒になるなんて……しかもこんなことをするなんて驚いたわ」

薄気味悪い話だと瑞希は思った。
いきなり消息がわからなくなるなんて、それこそ神隠しか宇宙人の誘拐みたいである。
もしそんなことが起きたのだとしたらと想像すると、記憶の中の彼女がより不気味な存在だと思えた。

「……心当たりがあるかもしれない。もし私の思っている通りなら色々と説明がつくわ」

かなめは何かに納得すると、うつむいていた顔を上げてまっすぐ前を見ながらそう言った。
瑞希は、そしてハルヒも彼女に注目して耳を傾ける。一体、彼女はどのような解答を持っているのか。

「私の周りでも似たようなことがあったんだよね。
 まぁ、それは私の場合まだ現在進行中とも言えるんだけど――」

言いながらかなめは一枚の紙を取り出してそれを広げた。何かと思い覗き込むとそれは名簿だった。
かなめは羅列された名前のひとつに指を当てて話を続ける。

「この”相良宗介”ってのが私のクラスメートなんだけど、実はなんとかって組織の傭兵だったりするの。
 まぁちょっと胡散臭いってのは否定しないけど、本当のことだから信用して。後、これは他言無用でお願い。
 それで、なんでソースケが私のクラスにいるかって言うと、それは私を守るため。
 私ってばひょんなことからテロリストに目をつけられちゃってさ、
 だから極秘任務としてソースケが私を守る為に学生として学校に入り込んできたって話なの」

出そうと思っても今は出ないのだが、ぽかんと開けた口からは言葉が出なかった。
宇宙人。異世界人。超能力者。傭兵やテロリストも、日常の中ではそれらと等しく荒唐無稽に思える。
でも、かなめの周囲ではそれが日常なのかもと瑞希は思いなおした。
記憶が確かなら人型の起動兵器が闊歩する世界のはずだ。ならばそんなこともあるのかもしれない。

「ちなみにそのテロリストってのは、ここの女湯で死んでたガウルンってやつなんだけど。
 まぁ、それはいいとして私が言いたいのは涼宮さんと朝倉さんもそれと同じじゃないかってこと」
「えっと、それってつまり私がいつの間にかにテロリストに狙われていて、朝倉さんが傭兵ってこと?」
「傭兵かどうかはわかんないけど、そういうのだったら辻褄があうと思っただけ。
 知らないうちに涼宮さんは世界の秘密かなんかに触れていて狙われる身だったの。
 そこで朝倉さんが涼宮さんを守るために派遣されてきた。
 で、一旦は問題は無事解決して彼女は姿を消したんだけど、今回の事件が起きて――」
「――また私を守る為に働いてる? あの、朝倉さんが?」

ハルヒは身体を大きくのけぞらせるとうーんと唸り声をあげた。さすがに、簡単には受け入れられないらしい。
やっぱりかなめの言うことは荒唐無稽に思える。まるでスパイ映画かライトノベルのあらすじみたいだ。
けど、どうしてか。瑞希の目にはハルヒの表情は困っていそうでどこか嬉しそうにも見えた。

665トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:09:59 ID:dh9efGCs0
「そういえば、千鳥さんが狙われた理由って何? 失われたアークでも見つけたとか?」
「えぇ? あぁ、理由か。さぁ、……なんだろう。あたし自身よくわかってないのよね。
 お父さんが国連の高等弁務官だったりするから、その関係かな……?」
「へぇ、なんかすごい。私の家なんか全然普通なのに」

結局のところ。朝倉涼子がどういった理由でハルヒを守ろうとしているのか。その答えは出なかった。
やはり――瑞希としてはもう会いたくないのだが――彼女に直接会って確かめるしかないらしい。

「朝倉さんを見つけたら絶対、姫路さんに謝らせるからね。任せておいて」

ハルヒはまっすぐに、力強い表情でそう断言する。
それが本当にできるのか。とても危険なことじゃないかと、瑞希はそう想像し少し身体が震えたが、
けど彼女の真摯な眼差しに見つめられると、どうしてかそんなことは些細な風に思えて、
少しだけだけど安堵の笑みを浮かべることができた。

666トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:10:47 ID:dh9efGCs0
 【第三殺害現場 《クビキリメンバー》 -実地検分】


そこはそこでまた、これまでの二つとは異なる印象を持つ殺害現場だった。

これまでの殺害現場を、例えばアスファルトの上にグロテスクを晒したあれを無惨な殺害現場とするならば、
例えばミステリの1シーンのような流血に彩られたあれを無慈悲な殺害現場とするならば、
ここは、流れる湯の音と白い湯気に包まれたこの現場は、まるで無感動な、白けきった殺害現場だった。



「血が流れてないってのも……けっこう、それはそれで不気味っつーか、なんか違和感あるな」

現場を見に行きたいと言ったぼくに同行してくれた上条くんが、死体を覗き込みそんなことを言った。
こんな状況での単独行動には色々と問題があるので、快く同行してくれたのには感謝である。

さて、死体であるけれども、現場は温泉――と言っても銭湯の風呂場となにが変わるというわけでもないのだが、
そのタイルが敷かれた床の上に横たわっていた。
浴槽から流れ出るお湯が床を洗い続けているので、彼が言うとおり現場にはもう血の痕跡はほとんどない。
そして血に塗れていない死体はその生々しさだけが浮き彫りになって、やはり彼が言うように不自然な存在であった。

「この分だと、いわゆる証拠ってやつも流れちゃってるんだろうな。誰がやったなんかわかりっこねぇ」
「別にそれはいいよ。ぼくたちの中に犯人がいないってことが信用できれば、今はそれで十全さ」

実際、どれだけの登場人物がここを訪れ、そして今も潜んでいるかなんてわかりっこないのだ。
なので、ぼくは犯人を特定すること自体に興味はない。6人の中に犯人がいないと証明することが最重要課題なのだ。
今はまだ亜美ちゃんが部屋を別にするぐらいで済んでるけど、これ以上のトラブルはぼくのキャパを超えてしまう。

「しかし、凄腕のテロリストだっけ?
 正直なところ、ぼくはこの人がこうやって黙った状態になっていることに安心を覚えるよ」
「そりゃあ、俺もこんなゴツいオッサンとか相手にしたくねぇけどよ。それは死んだ人に悪くないか……?」

この死体となっている人物は、千鳥さんによるとガウルンと名前の国際的テロリストらしい。
そのスキルがどういったものかまでは聞いてないけど、しかしその身体の大きさだけで脅威としての説得力は十分だった。

黒桐って人や北村という人物。忍者の人など、ここには後3つの死体があったけれど、その体躯はどれも標準程度だ。
それに比べてこのガウルンという人物は、落ちた頭と身体とを合わせて見積もれば2メートル近くもある。
しかもその上、細身ではあるが引き締まった筋肉の持ち主でもあり、体躯とは関係ないが傷のある顔もやけにいかつい。
本当。こんなのと殺し合いなんかするはめにならなくてよかったと、心底思える人物だった。
しかし、考えてみれば彼を殺したという人物もどこかに存在するわけで、脅威の問題は解決はしていないのだが。

「しっかし、こいつも綺麗に切られてやがるな……」
「こいつも? 上条くんはどっかで似たような死体を見たことがあるのかい?」
「似てるといえば似てるんだけど、全然違うとも言えるかなぁ。
 学校で見た死体の話なんだけど、あれもこの死体みたいに切り口がいやに綺麗で印象に残ってんだ。
 まるでワイヤーで引いて切ったみたいにってな。
 もっとも、あっちは全身バラバラでこっちは首だけだから、やった人間が一緒かはわかんねぇけどよ」
「ふぅん……」

なるほど。確かに首の切断面は異常に綺麗だった。血がお湯で洗い流されている分、それがよくわかる。
剣術のスキルがあれば一刀両断ということも可能だろうが、上条くんの言うとおりワイヤーを使ってというのも考えられるか。
例えば、”曲絃糸”のような。もし”ジグザグ”な彼女がここにいればこんな現実を実現させることも可能と、そう言える。

「……戯言だけどね」
「ん? なんか言ったか?」
「いいやなんにも。気にしないでくれ」

しかし、学校の廊下に”ジグザグ”にされた死体……か。否が応でも”彼女”のことを想起してしまう。
無論。彼女はすでに死者であるので、こんなところで再登場するわけない。あくまでこれはぼく個人の妄想でしかない。
似たようなスキルの持ち主がこの場所にいる――それはそれで剣呑だけど、そう考えるのが現実的思考だろう。

667トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:11:19 ID:dh9efGCs0
スキルの持ち主と言えば、北村くんと忍者の人を殺害したのは”師匠”と呼ばれる人物である可能性があるんだっけか。
名簿上には確かに”師匠”という名前が記されているが、この呼称もまた”彼女”の存在を想起させる。
なんにせよ、それはぼく自身の感傷や思い出といったものでしかないけど。



「じゃあ、いっくん手伝ってくれるか?」
「手伝う?」
「ああ、このオッサンの死体。このままにはしておけねぇだろ?
 また誰かが風呂を使いたくなるかもしれねぇし、こんな湿っぽくて熱い場所に放っておいたらすぐに腐っちまう。
 大体、悪人って言ってももう死んだ人だしな。
 墓までは無理でもどっか落ち着いた場所くらいにはってのが、上条さんとしての礼節なわけですよ」
「なるほどね。それは賛成だ。少なくとも腐った死体なんてのは見たくもないしね」

幸いと言っていいのかどうか、死体は死後硬直が始まっているようで運びやすい状態だ。
上条くんの言うとおりこんな場所でほっとけば遠からず崩れてぐずぐずになってしまうだろうし、移動させるなら今の内だろう。

ぼくは死体の足元に回ると硬くなった足首を掴んで持ち上げた。
上条くんは”頭のない頭側”に回って、転がっていた頭部を身体の上に乗せてから肩を掴んで持ち上げる。
見た目どおりの重さだ。こいつはちょっとした棚なんかを運ぶ感覚に似ている。
そして既視感を感じる行為でもあった。
首切り死体の移送。それをぼくはこの春に2回も経験している。あれを2回と言うか1回だと言うかは微妙なところだけど。

「後で北村や黒桐さんの死体もどうにかしてやらねぇとな。あっちもあれでほったらかしじゃ悪いし」
「上条くんはなかなかに”いい人”だね」
「そんなことねぇよ。俺はただ自分の気持ち悪いことに我慢ができないってだけだから」
「普通の人はそういう時でも面倒くさがったり損得を考えちゃうものさ」
「だったら俺は頭が悪いだけだ。損な役回りだなって思うことばかりだしな」
「まぁ確かに、美徳と最善最良は似て非なるものだよね」

そして、ぼくと上条くんとは濡れた足場で足を滑らせないよう一歩ずつ慎重に浴室の中を横切ってゆくのだった。

668トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:12:21 ID:dh9efGCs0
 【第三殺害現場 《クビキリメンバー》 -検証】


運び出した死体を適当な空き部屋に安置したぼくと上条くんはその後、皆の待つ客間へと戻っていた。
途中、部屋の番号をド忘れして迷子になりそうになったけど、そこは上条くんの記憶のおかげで事なきを得て、
同じく戻ってきていた千鳥さんに女湯での成果を報告し、お茶をいただいて一息をついたというところ。

「なんですか、女の子は甘いものでできてるって本当なんですか――って、なによこの大量のドーナツ?」
「ああ、これは涼宮さんが持ってきてくれたんだけどね。当麻は甘いもの苦手だっけ?」
「いや嫌いじゃねぇよ。むしろ糖分の補給はありがたいですよ。けど面食らったっていうか、まぁいただきます」
「上条くんもじゃんじゃん食べていーからね。まだまだあるし」

なんというか和やかな空間になっていた。あのビクビクしていた姫路さんも今ではもふもふしている。
ミスタードーナツ万能説か。いや、やっぱりドーナツには人を馬鹿にする成分が混じっているのかもしれない。
どうせなら亜美ちゃんも戻ってくればいいのに。フレンチクルーラーもいっぱいあるのだから。



「それで、千鳥さんに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ん? いいけどなに?」

ほうっておくと皆がドーナツを食べるだけの人間になってしまいそうな錯覚を起こしたので自分から話を振ってみる。
この場所におけるミステリ的な状況のうち、大体は概要を掴めたのだけど、まだひとつ不明な部分が残っているのだ。
正確にはこの場所の外で起きたことだけど、風呂場の死体と大きな関連性があると見られるので無視はできない。

「千鳥さんが遭遇したっていう”櫛枝実乃梨”の姿をした何者かについてなんだけど」

なにがミステリかというと、これこそミステリというものが最後に残っていたこれだ。
千鳥さんいわく、偽物の登場である。怪盗百面相もかくやとなれば、もうミステリというより古い探偵小説の趣だった。

「ああ、それのことね――」

経緯を説明するとこういうことだ。
温泉施設に向かっていた千鳥さんは、その温泉施設の近くで櫛枝実乃梨と再会した。
再会ということは既に面識のある人物であり、彼女は特に警戒することなく櫛枝さん(?)と会話をする。

その櫛枝さんが言うには、
温泉施設の中で北村くんの死体を見て、千鳥さんと上条くんの仕業じゃないかと思って彼女らを探していたらしい。
だが幸いにも誤解はすぐに解けた。
そして、櫛枝さんは温泉施設の中にガウルンとおぼしき人物が入っていったから気をつけろとも助言してくれたのだ。

ところがここらあたりから彼女の言動がおかしくなる。
武器になるものがあるかと尋ねられた千鳥さんがスタンガンを見せると、それが何なのかわからなかったらしい。
千鳥さんはスタンガンの説明をしているうちにそれに気づくが、そこで唐突に投げ倒され、気絶させられてしまった。

しばらくして気づくと櫛枝さんの姿はなく、自分の荷物も持ち去られたらしいとわかる。
さて困ったが、上条くんとの約束もあるので千鳥さんは危険を承知で温泉施設へと向かうことにした。
そこで――

「――ガウルンが死んでるのを見つけたのよね」

ついでに、ガウルンが持っていたらしい銛撃ち銃と、気絶している間になくなっていた鎌もそこで見つかった。
もっとも、どちらも壊れて使い物にならなくなっていたので、この部屋を掃除する際にゴミと一緒に捨ててしまったが。
重要なのは鎌の方だ。奪われた物がそこにあったということは、つまり奪った者がガウルンを殺したと推測できる。

「その、櫛枝さんって前の放送で名前を呼ばれちゃってた、わよね……?」

ハルヒちゃんがおずおずと尋ねた。その通り、彼女の名前は呼ばれている。
つまりすでに死んでしまった人間だということなのだけど、そこが問題をややこしくしていた。
彼女が存命なら、また会った時に問いただせばいいと結論は出るのだが、もういないのならそうはできない。

669トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:13:10 ID:dh9efGCs0
「だったらあれか? 櫛枝が千鳥から武器を奪って温泉まで戻り、そこでガウルンってオッサンを殺して
 でもってその後すぐに他の誰かに殺されちまったってことになるのか?」

ひとつの可能性としてはそれも考えられた。
しかし時間的余裕や、千鳥さんや上条くんらの知る櫛枝実乃梨のパーソナリティを考慮すると大きな疑問が生じる。

「亜美は絶対偽物だって言ってたし、私もあれが本物の櫛枝さんだとは思えないのよねぇ……」
「だとすれば誰かが変装していたってことも考えられるね」

こういった状況下であるし、ましてや一度しか会っていない相手だ。
同じ制服を着たり、特徴を少し掴んだ姿をしていれば本物だと勘違いさせることは決して難しくはないだろう。

「だったら能力者ってのも考えられるぜ。
 学園都市には相手の感覚に偽の情報をつかませて、姿を消したり別の人間だって思わせるやつもいるんだ。
 そういう能力者や魔法使いみたいなのが千鳥を騙したのかもしれない」

変装の達人と言えばぼくはあの人を思い浮かべるが、なんにせよ一時的に騙すぐらいなら不可能ではないということだ。
そして、千鳥さんの前に現れた櫛枝さんが偽物だとすると今度は別の問題が生じる。

「えっと、じゃあ……なんでその櫛枝さんの偽物は千鳥さんのこととか北村くんのことを知っていたわけ?」

ハルヒちゃんの言うとおりだった。
偽の櫛枝さんとおぼしき人物は、本人かまたは彼女の近くにいた人物でないと知りえないことを知っていた。
そうだとするとあまり愉快ではない想像をしなくてはならないことになってしまう。

「ひとつの可能性としては、彼女と同行していた人物の中にその偽物になった人物がいたことになるね」
「木下さんか、シャナちゃんってこと? でも木下さんは亡くなってるし……」
「シャナがってのもちょっと想像できないな。絶対とは言えないけど、そんな柄には見えなかったぜ?」

千鳥さんが櫛枝さんと交流した時、その場にいたのは上条くんと、木下さんとシャナという少女がいたという。
もし犯人がいるとするならばこの中に潜んでた可能性が高い。
となると消去法で考えるとシャナという子しかいなくなるのだが、どうやら千鳥さんと上条くんはありえないと思っている。
だとすれば、どこからならば千鳥さんと櫛枝さんの情報を得られるのか?
盗み見していた人物がいたとも考えられるが、それよりも妥当で説得力のある解答がひとつ存在した。

「それじゃあ、こう考えるしかないね。偽者の櫛枝さんに千鳥さんの情報を教えたのは”櫛枝さん本人”であった」

これが、一番妥当で説得力のある答えだ。

「どういうことなのいっくん?」
「何も彼女が進んで話をしたとは限らない。
 彼女がもう死んでいる以上、無理やりに情報を吐かされ、その後入れ替わるために殺害された可能性がある」

犯人に自由に変装できるスキルがあり、ある程度腕に覚えがあって、偶然を挟まないとするとこれが最もありえる。

「なんにせよ、本物の櫛枝実乃梨を殺した人物と、その偽者となった櫛枝実乃梨とが同一なのは間違いないと思う。
 多分だけど偽物が千鳥さんに語った櫛枝さんの動向は真実じゃないかな」
「私を探してたってところ?」
「そう。本物の櫛枝さんも、本当にひとりで千鳥さんを探してここを出た。
 けれど運悪く、偽物となった人物に行き当たってしまった。
 そしてなんらかの方法で事情を聞きだされ――それは穏便なものであった可能性も充分あるけど、
 相手に有益だと思われてしまい、入れ替わりのために……つまり、入れ替わる以上本物は邪魔になるので――」
「――殺されたっていうのかよ」
「そうだね。それで衣装や荷物を奪われたと見るのが、今のところは一番想像しやすい真相かな」

もっとも、言葉の通りに今のところは一番想像しやすいというだけにすぎない。
ぼくが今思いつくパターンの中では可能性が高いだろうというだけで、実際の真相に近い保障なんてできやしない。
なにせ情報が圧倒的に不足しているのだ。あらすじだけでミステリを解いてみようとするようなものである。
実際に無視できない穴はある。例えば千鳥さんはどうして殺されなかったのか等々。疑問を数え上げればきりはない。
けど、この場においての着地点としては上々なはずだ。

670トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:14:07 ID:dh9efGCs0
「じゃあ、今頃シャナはどうしてるんだろうな?」
「ここから櫛枝さんが飛び出して行ったって言うのが本当なら、シャナちゃんも追いかけて行ったと思うけど」
「それで誰かに襲われて木下が……か?
 どっちにしろ、入れ違いになったのは変わらないみたいだな。
 だったら、涼宮が言ったようにこっから教会に向けてひとつずつ当たって行くのがいいんじゃないか?」
「そうよね。ソースケもどこにいるのかわかんないし、地味にいっこずつ見て行くのがいいみたい」

うん。これは悪くない展開のはず。
もっとも、ぼく自身に”無意式”がある以上、100%の保障はできないのが辛いとこだけど。おそらく、今は大丈夫なはずだ。
あれはあくまでぼくの外側にある流れを破綻させるものだから、ぼく自身がこの流れの中で前を向いている限りは……、

おそらく。
きっと。
多分。
楽観的に見れば…………、ちょっと自信なくなってきたけど、どうかうまくいきますように。……ねぇ、神様?

「じゃあ! そうと決まればちょっと休みましょう。川嶋さんも説得しないとだしね!」






「それで、川嶋さんの機嫌がなおったらみんなでまずは学校に向かいましょう!」
「おいおい待てよ涼宮。みんな疲れてるはずだし、腹ごしらえもだな――」
「ここにたくさんあるでしょう?」
「だからドーナツだけでなくてだな、上条さんはこう晩飯的なものをいただきたいと思ってるわけですよ。
 その、主にたんぱく質だとか脂質だとか」
「ああ、別に勝手にすればいいけど。そう言えば、私もここで温泉に浸かりたかったのよね。
 1日に1回ぐらいはお風呂に入っておきたいし、せっかく温泉が目の前にあるのに入れないのは癪だわ」
「別にそれはいいけど、単独行動は危険だよハルヒちゃん」
「だったらあんたが見張りに立ちなさいよ。でも覗いたら絶対死刑だけどね」

「姫路はどうする……って、ちょっと大丈夫か?」
「……………………」
「色々あって疲れてたのよね。
 今は休むといいわよ。あたしがお布団引いてあげるし……ってことで男子は退出ー!
 そこに鍵があるから適当な部屋に……じゃなくて隣の部屋にいなさい。なんかあったら呼ぶから」
「まぁ、別にいいけどよ。じゃあ晩飯はどーすんだ? どーせ作るんならあんま量は関係ねーけど」
「じゃあ私たちの分もお願いしようかな。なんならあたしも手伝うけど?」
「千鳥さん。そんなの、いーにやらせればいいわよ。ねぇ、料理ぐらいできるんでしょう?」
「まぁ、いいけどね。上条くんが言うとおり量は増えてもそんなに手間は変わらないよ」

そしてぼくは上条くんと一緒に追われる様に、もしくは解放される様にその部屋を後にした。

仮初めの平穏はまったくもって戯言のそれでしかないけれど。戯言で築き上げられた砂上の楼閣にすぎないけれど。
ばくたちは今、死体に囲まれていて。そしてその外側には更に多数の死体があり、死体の数だけ殺人があるけれど。
状況は、これっぽちも変化しておらず、ぼくらは未だ絶望する中にしかいないのだけれども。そうでしかないのだけど。

まぁ、それでも。今はこうでもいいんじゃないかと、思った。ここにはこんなにも心地よい人間ばっかりなのだから――


この6人ではミステリは発生しえない。それが今唯一の、ぼくが保障できる解答だった。

671トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:14:49 ID:dh9efGCs0
 【エピローグ 《melancholy girl x0》】


ゴウンゴウンゴウン――と、金属の桶がぐるぐると回っている。率直に言えば洗濯機がぐるぐると回っていた。
ここは温泉施設の中にある洗濯室。コインランドリーのような場所と思ってもらってくれればかまわない。

あの後、ぼくと上条くんは女性3人が陣取る部屋の隣にぼくたちの部屋を確保した後、すぐにそこを出た。
そして上条くんが下水の匂いが染み付いた制服を洗濯したいと希望したので今ここにいるのだ。
姫路さんならともかく、上条くんの体操着姿なんかずっと見ていたくもないのでぼくは一も二もなくそれに賛成した。



「悪いな。つきあわせちまって」
「いやいやこちらこそどういたしましてだよ」

見納めだからといっても、ぼくは上条くんの体操着姿を凝視することなどなく、何もない壁を見ながら思索に耽る。
とりあえず、慌しい状況が落ち着いたので、現状の確認と今回の自己採点だ。

今現在、亜美ちゃんだけは別室に引き篭もっているという状況だけど、人間関係はそこまで悪くはない。
千鳥さんや上条くんは言うに及ばず、姫路さんの状態もこの人間関係の中なら大丈夫だろう。
懸念しておかねばならないのは、彼女が殺害した黒桐幹也の関係者であると想像できる黒桐鮮花の存在だ。
姉か妹か母か従姉妹かは知らないけど、無縁でないとするならば恨みを買ってもしょうがない。

まぁ、それはその時として、ハルヒちゃんの状態も良好だ。
どうやら彼女は人がたくさんいる場合の方が気丈になるらしい。今までよりも明るい顔が何度も見れた。
流れとしてはこの後、いくつかのミステリアスなスポットを当たって行くわけで、
その場所自体にはなんの期待もないけれど、ハルヒちゃん自身がそこに”当たり”を生む可能性には期待できる。
それもその時だけど、都合よくことが運べば思ったより早くに解決の糸口みたいなものが見つかるかもしれない。

となると、問題は引き篭もった亜美ちゃんの存在か。
しかしぼくは女の子をかどわかすスキルなんて所持はしていないので、これは時間に頼るしかないだろう。
おそらく、こちら側が楽しくしていれば亜美ちゃんも姫路さんへの疑いを緩くするはずだ。
所謂、天岩戸作戦。まぁ、これは千鳥さんやハルヒちゃんに任せておけばいい。
時間がかかってしまうのも仕方ない。
元々1日の4分の1ぐらいは休息に使わねばならないのだから、今というタイミングは丁度いいと前向きに捉える。

で、自己採点だけど……ぎりぎり60点ってところか。赤点は免れたけど、満点には程遠い。

表面上の問題はだいたい取り繕った。ここらへんは戯言遣いの面目躍如である。
この6人のグループ内において大きな問題がすぐに噴出することはない。この点はクリアだ。

しかし、外側の脅威に対する策はこれっぽちも用意できていなかった。
第一の殺害現場の犯人は素人――つまり姫路さんの犯行であって、これはもう脅威足りないけど、他は違う。
朝倉涼子に師匠と呼ばれる人物。そして櫛枝実乃梨を騙った何者か。どれも対抗するにはリスクの大きな相手だ。
そして、脅威の数はそれだけではないだろう。
実効的な実力による脅威いう意味においてはこの6人は脆い。むしろグループと化したことでなお脆くなった。
この点はぼくにはフォローできない。
そういう意味では60点は満点だと言えるけど、しかしそんな自己満足じゃぼくたちはぼくたちの命を守れない。

「ほんと、なんであいつは死んでしまったんだ。ぼくから見れば唯一の頼れる実力者だったのに――」



「なにか言ったか、いっくん?」
「ああ、なんでもないよ。ただのないものねだりさ」

……なんでみんなよりにもよって”いっくん”なんだろうね。上条くんにしても千鳥さんにしても。
まぁ、彼らに”いーちゃん”とは呼ばれたくないし、
”いの字”とか”いのすけ”なんかよりかは”いっくん”が選ばれやすいんだろうというのは承知しているけど。にしてもだ。

672トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:15:42 ID:dh9efGCs0
「そうだ上条くん。ひとつ質問してもいいかな?」

ぼくのことを”いっくん”と呼ぶのなら。これも懐古のひとつだけど、この質問を彼にぶつけてみよう。

「君は、姫路瑞希を――殺人者としての姫路瑞希を許容できるのかい?」

庇護されるべき女の子としての姫路瑞希じゃない。殺人を犯した事実を持つ姫路瑞希を――だ。
それはつまり、現実的な妥協という意味での許容ではなく。一個人の価値観として殺人を許せるのかと認めるかということ。

「彼女のことを可哀想だって思ってあげることは容易い。彼女のことを保護するのは男性としてはある意味当然だ。
 けど、そういう問題ではなく、君は彼女が殺人を犯したという事実をどう捉えているのか、それを聞いてみたい」

本来ならば、この質問は姫路さん自身にぶつけるものだから、これは所詮戯言、所謂余興にしかすぎない。
ただの興味本位だ。上条当麻という人物が何者かであるのか。そこに対するちょっとした好奇心。

「そんなことは関係ねぇよ。やったことはやったことだ。”覆水盆に返らず”ってぐらいならこの上条さんだって知ってるぜ。
 姫路が黒桐さんって人を殺したのは事実だ。
 だからもしここに警察がいるってんなら、俺は姫路が警察に行くよう説得するだろうし引っ張ってでも連れて行く。
 姫路の罪自体を受け入れたり許したりってことはしない……っていうか、それは俺のすることじゃない。
 俺には姫路を裁く権利なんてねぇよ。だから罪を許容するとかしないとかは関係ないんだ。
 そして、俺は姫路を守る。
 誰にだって姫路をいたずらに傷つける権利なんてないし、そんなことは罪とは関係なく許されるもんじゃない。
 だから俺はここで最後まで姫路を守るって決めたんだよ。
 姫路を傷つける何者からも、姫路が自分自身を傷つけちまうってことからもな」

「どうして、君は姫路さんを助けるんだい?」

「困ってて助けを求めてたんだ。だったら助けるだろ。女の子でもオッサンでもな」

それが上条当麻の解答。

あぁ、戯言だ。この場合はぼく自身の存在がまごう事なき戯言。
彼は――上条当麻はぼくの意地悪に対し、見事なカウンターを返して見せた。
あまりに綺麗に決まりすぎて気持ちがよくなるくらいの一撃。そう。これこそが”正解”というものだ。

673トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:16:17 ID:dh9efGCs0
そして、”とある彼との共通点《メインヒロイン》”。

「そう言えば、いっくんも学校の校庭に書かれてた魔方陣みたいなのを見てたんだっけ?」
「ぼくは夜のうちだったから、そこにあると気づいたくらいだったけどね。上条くんは何かわかったのかい?」
「いんや。俺にはさっぱり――ここにインデックスがいたらなにかわかると思うんだけどな……」
「インデックスというと君が探している女の子だっけ?」
「ああ。いっくんのほうは玖渚友って女の子を探してるんだよな?
 まぁ、こっちの話だけどあいつは魔術(オカルト)の専門家だからな。それが魔術関係ならわかったろうになって話」
「なるほどねぇ。こっちのあいつは電子(デジタル)の専門家だけどね。だからこの場合は役に立たない。
 でも、記憶力だけは異常だからね。こういう場合、常に隣にいると便利なんだけど」
「インデックスも記憶力はすごいな。読んだ本の1頁1文字すら忘れない。
 もっとも食欲の方がすごいけど……あいつちゃんとメシくってるのかなぁ……」
「あいつは普段は食べないくせに食う時は異常に食うしなぁ。今がその飢えてる時でないといいけど……」
「玖渚友って子は小さな女の子だっけ?」
「インデックスって子は小さな女の子だっけ?」
「そうだな。ついでに貧相なお子様体型《ロリータ》だ」
「そうだよ。ついでに貧相なお子様体型《ロリータ》なんだ」
「…………」
「…………」
「早く無事見つかるといいな」
「早く無事見つかるといいね」



あの零崎人識を鏡の向こう側の自分とするならば、上条当麻は夏休み前に立てたスケジュールみたいな存在だった。
つまり、ある時描いた理想形というやつ。

ぼくと上条くんはおそらく、多分、本質や素材という部分で相似する部分が多くあるとそう思う。
そしてぼくは夏休みの宿題なんかこなす意味はないと置き去りにした結果、最後に痛い目を見た捻くれ者の愚か者だ。
彼の夏休みはこれからだろう。
そして、彼はぼくとは違って必要以上に宿題をこなす人物に違いない。それこそ、人の宿題にまで手を出すような。

「上条くんは夏休みの宿題はちゃんと計画立ててこなすタイプ?」
「いやー、そうしないといけねぇとはわかってんだけど、毎年八月末に大童ですよ」
「そう。じゃあこれからはちゃんと最初からがんばれるようにするといいよ。
 機会があるならぼくも少しぐらいは手伝ってあげてもいいさ。こう見えても、勉強を教えるのは得意なほうでね」
「それはありがたい……けど、どうして急にこんな話題に?」
「ああ、それはね――」


――戯言って言うんだよ。






【E-3/温泉/一日目・夕方】

674トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:16:47 ID:dh9efGCs0
【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康、まだ喰えるけど?
[装備]:とらドラの制服@とらドラ!、ワルサーTPH@現実
[道具]:デイパック、基本支給品x2、御崎高校の体操服(女物)@灼眼のシャナ、黒桐幹也の上着
      客間の鍵(マスター)、客間の鍵(女部屋)、客間の鍵(その他全部)
      血に染まったデイパック、ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、不明支給品x1-2
[思考・状況]
 基本:脱出を目指す。殺しはしない。
 0:姫路さんを休ませる。
 1:亜美を説得。
 2:施設を回り、怪しいモノの調査。
 └まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 3:知り合いを探して合流する。
[備考]
 登場時期は、長編シリーズ2巻、3巻の間らへん。

※「銛撃ち銃(残り銛数2/5)@現実」と「小四郎の鎌@甲賀忍法帖」は遺棄されました。


【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、基本支給品、大量のドーナツ@ミスタードーナツ
[思考・状況]
 基本:この世界よりの生還。
 0:姫路さんを休ませる。
 1:休憩しながら晩御飯を待つ。
 2:その後、出発までに温泉に入る。
 3:施設を回り、怪しいモノの調査。
 └まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 4:朝倉涼子に会ったら事情を説明してもらう。
[備考]
 登場時期は、一学期終了以降。


【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:失声症、左中指と薬指の爪剥離、微熱
[装備]:ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣
[道具]:
[思考・状況]
 基本:上条当麻と共に生き続ける。未だ辛いことも多いけれど、それでも生き続ける。
 0:安心したらぼーっと……。
 1:このみんなとなら一緒にいれそう。

※御崎高校の体操服から元々自分が着ていた制服に着替えました。

675トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:17:20 ID:dh9efGCs0
【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、クロスボウ@現実
[道具]:デイパックx2、基本支給品x2、大量のフレンチクルーラー@ミスタードーナツ
      ブッチャーナイフ@現実、22LR弾x20発、クロスボウの矢x20本、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[思考・状況]
 基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
 0:何か腹にたまるものを作ろう。
 1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。
 2:↑の中で、いくつかの事柄を考え方針を定める。
 ├涼宮ハルヒの能力をどのように活用できるか観察し、考える。
 └玖渚友を探し出す方法を具体的に考える。
 3:施設を回り、怪しいモノの調査。
 └まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 4:零崎人識との『縁』が残っていないかどうか探してみる。
[備考]
 登場時期は、「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。


【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身に打撲(軽)
[装備]:御崎高校の体操服(男物)@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣、不明支給品x0-1
      七天七刀@とある魔術の禁書目録、上条当麻の学校の制服(洗濯中)@とある魔術の禁書目録
[思考・状況]
 基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
 0:何か腹にたまるものを作ろう。
 1:姫路を守る。
 2:千鳥や一緒にいるみんなを守る。
 3:出発前に温泉にある遺体を安置したい。
 4:施設を回り、怪しいモノの調査。
 ├まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 └特に教会の地下は怪しく感じている。
 5:その最中に知り合いや行方知れずのシャナを探して合流する。


【川嶋亜美@とらドラ!】
[状態]:満腹、不安、疲労
[装備]:グロック26(10+1/10)
[道具]:デイパック、支給品一式x2、高須棒x10@とらドラ!、バブルルート@灼眼のシャナ、
      『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』、包丁@現地調達、高須竜児の遺髪
[思考]
 基本:高須竜児の遺髪を彼の母親に届ける。(別に自分の手で渡すことには拘らない)
 0:……………………。
 1:祐作のことはどうしようか?

676 ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:18:56 ID:dh9efGCs0
以上、投下終了しました。
今回は長くお待たせして申し訳ありませんでした。以後、こういうことがないよう注意します。

規制中ですので、どなたか本スレに投下できるかたがいましたらよろしくお願いします。

677浅羽直之の人間関係【改】 ◆LxH6hCs9JU:2011/02/11(金) 02:47:07 ID:kGWL/FD20
フ「フフフ、それもそうだね。話を戻すと、このパイロットスーツは伊里野加奈が消えた時点でまだ世界に残っていた。
  ということはつまり、これも『伊里野加奈が存在した証』にはならないということさ。結果論かもしれないがね。
  では、このパイロットスーツはいったい誰のものなのか……仮説にしかならないが、伊里野加奈以外の誰かのものなのだろう。
  伊里野加奈は存在しないのだから、このパイロットスーツを着ていたのも伊里野加奈以外の誰かということになる。
  いや、着ていたとも限らないか。まあ、深い問題でもないさ。このパイロットスーツは灯台に落ちていて、白井黒子が回収した。
  彼らにとってはそれだけのものでしかないのさ。わかったかな、マリアンヌ?」
マ「真相は闇の中……ということはわかりました。やっぱり、釈然としませんけど」
フ「世界とはそういうものなのさ。さあ、最後のお手紙を読むとしようか」


 Q:マ『伊里野加奈が初めからいなかったことになるのなら、榎本は誰に殺されたことになるのですか?』
 A:フ『「もうここには存在しない伊里野加奈」だよ』


マ「……えっと、つまりどういうことですか?」
フ「真相は闇の中、さ」
マ「えー!?」
フ「存在が消えても、消えた人間が周囲に与えた影響はある程度残ってしまう。榎本の死は、まさにそれだね。
  伊里野加奈が消えても、榎本が誰かに殺されたという事実は覆らない。となると、彼を殺害した人物は誰かという話になる。
  ここで伊里野加奈以外の誰かが榎本殺害の実行犯になる……というわけではない。そういう風にはならないんだ。
  では、どういう風になるのか。どういう風にもならない。榎本は『誰か』に殺された。そういうことにしかならないのさ」
マ「釈然としません!」
フ「そうだろうね。だからこその『世界の歪み』だ。放置していれば災厄が起こってしまう……そうさせないのが、フレイムヘイズなのだよ」
マ「今回の一件で、『炎髪灼眼の討ち手』や『万条の仕手』はフリアグネ様を狙うでしょうか?」
フ「さあ、どうだろうね。彼女たちが私の意図を正しく読み取れれば、あるいは……?」
マ「なんにせよ、世界はこういう風に修復された。そこに疑問や違和感が生じるのは当然で、それが『世界の歪み』というものなのですね」
フ「素晴らしいまとめだね、マリアンヌ。つまりはそういうことなのさ。
  さて、質問もこれで終わりかな? ではここから先は私とマリアンヌの愛の語らいのコーナーということで――」
マ「……残念ですが、フリアグネ様。どうやらそろそろ、お別れの時間みたいです」
フ「な、なんだって……!? そうか……そうなのか……それは……残念だな……」
マ「そんなに気を落とさないでください、フリアグネ様。きっと次の機会がありますよ」
フ「……そうだね。よし、では最後は元気よくしめようか!」

マリアンヌ「では読者のみなさん、今回はこのあたりでお別れです!」
フリアグネ「また諸君に、私とマリアンヌの愛溢るる日々を見せられるよう願っているよ」

678浅羽直之の人間関係【改】 ◆LxH6hCs9JU:2011/02/11(金) 02:48:36 ID:kGWL/FD20
>>677
投下終了です。
さるさん食らったので、ラスト1レスこちらに投下させていただきました。

679 ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:23:56 ID:0SJ8MdD20
投下開始します。

680CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:25:11 ID:0SJ8MdD20
 【0】


――情報が多ければ判断が楽というものではない。


 【1】


「これでよし、と」

ショーウィンドウに写る自分の姿に満足すると島田美波は「うん」とひとつ頷いた。
あわせるように黄色いリボンとくくりなおしたポニーテールの髪の毛も頷くように揺れる。

先刻、水前寺と激闘を繰り広げたために髪は見るも無惨に、リボンもいずこへと飛んでいっていたのだが今はもう元通りだ。
右斜め45度から見ても、左斜め45度から見ても、もちろん正面から見ても。
どの角度から見てもこれまでの――まぁ、多少は激闘のなごりも残るものの――可愛い島田美波の姿である。
背筋をピンとのばし、ジャージにほつれた部分がないかを確認すると、短く息を吸って美波は皆の方へと振り返った。

「ん?」

美波の頭の上に“?マーク”が浮かび上がる。振り返ってみれば、どうしてかまた水前寺がぼうっとしているのだ。
まさか、またらしくもない虚無感やアンニュイに囚われているのだろうか?
叩く回数が足りなかったのか。ならばと拳を握ると、美波はアスファルトを踏んでつかつかと水前寺に歩み寄る。

「ちょっと水前寺。なにまたぼーっとしてるのよ?」
「……うむ、島田特派員か。
 呆けているなどとはひどい言いがかりだな。が、しかし今はそんなことで言い争うつもりはないのだよ」

少しばかり静かにしてくれたまへと、水前寺は目の前へと掌を突き出してきた。
どうやらぼうっとしていたのではなく考え事をしていたらしい。では、その考え事とはいったいなんなのだろうか?

「ねぇ、一体なんなのよ。また一人で抱え込んで、なんて許さないわよ」
「いや、そういった感情的な問題ではない。今、俺が脳内で行っているのはシミュレーションだ」
「……シミュレーション?」
「うむ」

集中することは諦めたのか、水前寺は美波の方へと向き直ると腕を組んで大きく頷いた。

「シミュレーションって、何のシミュレーション?」
「我々が今帰りを待ちわびている浅羽特派員の行動シミュレーションだ。今現在、彼はどのように行動しているのか? とね」
「こっちに向かって戻ってきてるんじゃないの? だからここで待っているんだし」

手を広げ美波があたりを示してみると、水前寺は「然り」と頷いた。
美波とシャナ、水前寺と悠二、この4人がここで合流して以降、ここに留まっているのは何もなくなったリボンを探すためではない。
そのうち“戻ってくるはず”の浅羽直之の帰りを待つためなのだ。だがしかし、そこに水前寺は疑問を呈した。

「確かに、じきに帰ってくるのではないかと踏んでいたのだが、よくよく考えるとそうならないのでは? と思い至ったのだ」
「え……、それはどういうことなのよ?」
「実を言うと、浅羽特派員に対してはトーチに関する“ほんとうのこと”を一切伝えておらん」
「アンタ、それって――」

絶句する。が、水前寺はまたも掌を突きつけて美波のリアクションを押しとどめた。

681CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:26:36 ID:0SJ8MdD20
「まぁ、このこと自体の是非については今は置いておこう。答えの出ない議論に時間を費やす暇はないからな。
 問題は、伊里野特派員が消失した後、彼は素直にこちらへと戻ってくるのか? ということだ」
「えっと、それは…………」

美波も水前寺と同じように腕を組んで頭をひねった。
伊里野加奈の消失。これは間違いない。なので今現在、浅羽直之はひとりだけでいるはずだ。
そして彼女の消失にともない彼が映画館へと向かう理由は失われる。ならばその時点で引き返してくる。……はずだが。

「映画館に向かってたんでしょ。それで、途中で隣にいる伊里野さんが消えた――」
「――そう。そしてその時、その伊里野クンが消えたことすら浅羽特派員が意識しないのだとすれば?」

しかし彼は“ほんとうのこと”を知らないらしい。じゃあ、どうなるのか?
確かシャナから話を聞いた時に、“周りの人間は存在の消失から発生する矛盾には気づかない”と教わったはずだ。
その空恐ろしさに驚いたので美波はそのことについてはよく覚えている。ならば、だとすれば――。

「……もしかして、浅羽くんはそのまま今も映画館に向かってるわけなの?」
「では、専門家に意見を伺ってみようではないか」

互いに冷や汗を一滴たらすと、美波は水前寺と揃ってシャナと悠二の方へと足を向ける。
彼女らは彼女らで何か相談でもしていたらしいが、こちらが近づいていることに気づくとそれを中断して振り向いてくれた。

「坂井特派員とシャナクンにひとつ尋ねたいことがあるのだが――」

悠二を特派員と呼ぶことにシャナがまた目じりを吊り上げたが、水前寺はそれを無視して二人に事情を話した。
浅羽直之には“ほんとうのこと”を一切伝えていないこと。そして彼と伊里野加奈が映画館へと向かうことになった経緯。
更にその上で、現在に彼が状況をどう認識しどう行動しているのか? それを専門家たる二人に問いかける。
答えたのは、悠二とシャナのどちらでもなく、シャナの首から下がったペンダントから響く声――アラストールだった。

「伊里野加奈が消失するまでに心変わりしていないのだとすれば、彼は今も映画館を目指しているのだろう」

彼の厳しい声は、重大な真実を伝えるにはあまりにも効果的だった。
それまではあまり関心なさげだったシャナの顔もわずかに強張る。美波の胸にもざわざわとした不安が湧き上がっていた。

「……で、でも、そうだったとしても一度映画館まで行ったらここまで戻ってくるんじゃない?」
「それを待つ猶予は我々には――いや、我々よりも浅羽特派員にはあるまい。
 あの満身創痍の身体では何かあった時逃げることもままならんぞ。いや、そもそも戻ってくる体力があるかどうか」
「じゃあアンタ、なんでそんな状態で行かせちゃったのよ!?」
「彼らには時間がなかったのだからそれについては仕方あるまい! と、言い争っている場合ではない――」

言うが早いか、水前寺は踵を返して駆け出した。
その先には一台の救急車が停めてある。どうやら、映画館に向かっているはずの浅羽を追いかけようということらしい。
時間が経てばいずれは浅羽もここに戻ってくるかもしれない。だがそれまで無事であるという保障はないのだ。
ならば確かに急いで彼を追いかけないといけないだろう。車を使うというのならそれはきっと最良の手段だ。
そう、少なくとも宙吊りで空を飛ぶよりかは大分ましなはずである。

682CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:27:11 ID:0SJ8MdD20
「ねぇ、美波」

ん? と、美波は水前寺を追っていた視線をシャナの方へと戻した。何か彼女から話があるらしい。
一瞬、心の中を覗かれたかと思ったがそんなはずがあるわけもなく、美波は彼女の口元へと注目して次の言葉を待つ。
思い返せば彼女は先ほどなにやら二人で相談していた。
彼女の第一目的は坂井悠二との合流だったわけで、ならばそのことに関することかもしれない。
神妙なシャナの顔。その小さな口が開き――しかし、次に聞こえてきたのはあの“人類最悪”の声だった。

数えて3回目になる定時放送が流れ始める。そして――

救急車のエンジン音が静かな夕暮れの中に大きく響き渡った。まるで、これから加速する物語を暗示するかのように。






 【2】


「御坂美琴に古泉一樹。なぁんだ、私だけでなく師匠もちゃんと仕留めていれたのね」

人類最悪の放送を聞き終え、一応とその内容をメモに記すと朝倉涼子はくすりと笑みを漏らした。

「もし古泉くんが死んでなかったらこちらが優位に立つための材料になったと思うのに、残念だわ」

言いつつもそうは感じさせない表情を顔に浮かべ、朝倉は滞在しているファミレスの中を滑らかな動作で進んでゆく。
浅上藤乃が眠る席を通り過ぎ、ひとつ、ふたつめのテーブル。そこまで行くと、そこであるものを手に取った。

「電池の残りが少ないけど問題はないかな。御坂さんじゃなても、充電くらいなら“私”でもできるし」

朝倉の手の中にあったのはピンク色をした二つ折りの携帯電話であった。
おそらくはこのファミレスに食事に来た客がテーブルの上に出して、そのままだったのだろうと推測できるものである。
どうして客はいなくなったのか。それはいつからなのかは依然として不明なままであるが、
ともかくとして、携帯電話自体は使用にあたって特に問題はないものだった。
彼女の言葉通りに電池の残量は乏しかったが、この程度の電量であれば情報改変を用いて充電することはわけもない。

「さてと、浅上さんはいったい誰に電話したのかしら。今もまだ生きている人だといいんだけど――」

あらかじめ聞いておいた電話番号をすばやく入力すると朝倉は電話を耳に当て、相手が出るのを待とうとした。だが、

「あれ?」

しかし聞こえてきたのは“通話中”を知らせる電子音のみであった。






 【3】

683CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:27:57 ID:0SJ8MdD20
物語の舞台の中央に位置する城。その城を囲む堀を右側に一台の救急車がややゆっくりとした速度で南下していた。
運転席にはハンドルを握る水前寺がおり、隣の助手席には悠二が、シャナと美波は後部の患者を収容するスペースの中にいた。
病人を搬送するという目的上、この車の乗り心地は決して悪いものではないが、
よくわからない医療機器などが犇いているからか、シャナや美波の表情を見るに居心地はあまりよくないらしい。

浅羽直之を追い越したり見逃さないよう徐行運転で進む中、悠二は携帯電話を耳に当て、ヴィルヘルミナと連絡を取り合っていた。
シャナと無事に合流できたこと。伊里野加奈がトーチとして消失したこと。病院で発見した凶行の証拠など、報告することは多い。
また御坂美琴と古泉一樹の死亡の報を聞き、キョンの安否が気にかかったこともあった。
元はと言えば、警察署に行こうとしていたのは自分なのだ。そのせいで犠牲が出てるのだとしたら悔やんでも悔やみきれない。



「――それで、キョンはまだ戻ってないんですね」

しかしキョンは未だ神社には帰還しておらず、警察署で何があったのかということも不明ということだった。
ヴェルヘルミナの声に悠二は自分がここでこうしててもよいものだろうかと、僅かな焦燥を募らせる。

『御坂美琴及びキョンなる者が順調に帰還を果たしたならば、次に上条当麻の捜索を開始する予定でありました。
 ですが、今はそうもいかなくなってしまったのであります』

常に冷静を務める彼女の声の中にも僅かな焦燥があるように思えた。
警察署の捜索は悠二捜索の足掛かりになるはずで、古泉一樹を捕らえれば貴重な情報源にもなるはずだったのだ。
そして、彼らが帰還すればシャナが出会ったという上条当麻なる“全ての異能を破壊する男”を探す予定でもあったのだ。
だがそれらは警察署で起こったなんらかのトラブルによりご破算となり、計画は大きく後退することとなってしまっている。

『炎髪灼眼の討ち手の早急なる帰還を要請するのであります』
『即時実行』

ヴィルヘルミナの声に彼女の冠するティアマトーの声が重なる。
御坂美琴という人員が失われた以上、その空白を埋めるためにシャナを帰還させるというのは当然の道理だろう。
悠二と合流するという当座の目的は達したのだ。
ならば、次に優先すべきはキョンの捜索と警察署で起きた事実の確認に他ならない。

「それは、そのつもりだったけど」
『何か公開していない事情が――?』
「……シャナがフリアグネの居所を掴んだんだ」

フリアグネの名前を聞き、電話の向こうにいるヴィルヘルミナの気配が変わったように悠二は感じた。

『詳細を』
「うん。直接フリアグネを見たというわけじゃないんだけど――」

悠二は、シャナが百貨店の屋上でフリアグネの燐子を発見したという事実を伝え、
また悠二自身も付近で燐子に遭遇したことから、フリアグネが百貨店を拠点にしているだろうという推測を語った。
そして、水前寺や美波の避難をシャナに任せた後、単独で百貨店に潜入。そこで少佐なる者の狙いやフリアグネとの関係を突きとめ、
その後にまたシャナと合流して二人でフリアグネの討滅に当たる予定だったと。

「アラストールは再び《都喰らい》が行われるかもと言ってるんだ。だからここは早く手を打たないと――」
『待つのであります』

悠二は事の緊急性をアピールしたが、ヴィルヘルミナはそれを遮り加えてその計画に問題が多すぎることを指摘した。

684CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:28:30 ID:0SJ8MdD20
『フリアグネは“狩人”の通り名が示す通りに強者として名高き紅世の王。
 尋ねるのでありますが、今現在あの王と合間見えたとして再び勝利を得ることが可能だと考えているのでありますか?』

それは……と、悠二は口ごもる。
シャナはあれ以来、戦闘の経験を重ね確実に強くなっている。悠二にしても“存在の力”を制御するに至った。
二人の実力は大きく高まっていると言えるだろう。だがしかし、そもそもとしてあの王に勝てた一回が偶然と幸運の産物でしかない。
フリアグネはヴィルヘルミナが言う通り、幾多のフレイムヘイズを狩ってきた最強の王の一人。
冷静に指摘されてしまうと、悠二としてもまた勝てるとは断言できなかった。

『加えて、今は“少佐”なる不確定要素が存在するとのこと。ならば事を起こすにはより慎重であるべきでありましょう』
『早計』

そして、万条の仕手なるフレイムヘイズがここにいるのにも関わらず、そちらだけで決めるとは何事かとも悠二は怒られた。
確かにそれはその通りで、そう言われてしまうと悠二としても返す言葉がない。
相手は紅世の王なのである。ならば、その討滅にあたってヴィルヘルミナも参戦するのが当然なのだ。
だが、悠二もそれらについてまったく考えていなかったわけではない。それを踏まえても今回は緊急性が高いと判断したのだ。

「けど、もしフリアグネが再び《都喰らい》を企てているのだとしたら――」

周辺の物質をすべて存在の力へと還元してしまう《都喰らい》。もしこれが実行されればこの狭い世界は跡形もなく消えてしまうだろう。
その後に生きていられるのは恐らくフリアグネ本人のみ。だとすれば、これだけはどれだけ犠牲を強いても回避しなくてはならないのだ。
打倒は無理だとしても計画の阻止だけは、と――だがそれについてもヴィルヘルミナは疑問を呈した。

『《都喰らい》……それを想定するに至ったトーチの存在についてでありますが、
 伊里野加奈は自然消滅したと、それで間違いないのでありましょうか?』
「その瞬間は見ていないけど、おそらくは……、存在の力も希薄だったし、間違いないと思う――」

自分で発言し、その瞬間に悠二はこの事態における根本的な矛盾に気がついた。
ヴィルヘルミナが疑問を感じるのも当たり前だ。
フリアグネが真に《都喰らい》を画策しているのだとすれば、用意したトーチが“自在法が発動する前に消滅してしまう”のはおかしい。
《都喰らい》の要は、同じ場所に多くのトーチを同時に存在させることにある。これではこの条件が満たされない。

『どうやら理解された模様』
『単純明快』
「うん、確かにフリアグネが《都喰らい》を狙っていると決めつけのは早かったよ。けど、何も狙いがないとも思えないんだ」
『同感でありますが、現状では情報が不足しているのであります。それについては後々に』

悠二は食い下がるも、ヴィルヘルミナはあっさりと話を切り上げてしまうとシャナと電話を代わるように命じた。
シャナから話を聞いてやってきたというトーチが今神社にいるらしく、詳しく事情を聞きたいらしい。
逡巡し、返す言葉がないことに気づき悠二はおとなしく従うことにした。

「シャナ。カルメルさんが聞きたいことがあるって」
「うん、わかった」

後ろで待機しているシャナに声をかけて携帯電話を渡すと、悠二は前に向き直り座席に深く身を預けて大きな溜息をついた。
相変わらずヴィルヘルミナ相手だと緊張するということもあるが、
それよりもフリアグネに対峙する為に決めた覚悟が肩透かしに終わってしまったからという部分が大きい。
決死の覚悟であり、また存在の力を扱えるようになった自身が紅世の王と対峙することに対する高揚も少なからずあったのだ。
ヴィルヘルミナの言うことはもっともで、今ここでフリアグネに接触することが必ずしも得策ではないことは理解できている。
けれども、機会を逃したことが惜しいという気持ちが離れないでいた。

685CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:29:03 ID:0SJ8MdD20
「(……もしかすると、僕はただシャナと一緒に戦いたかっただけなんだろうか)」

シャナがヴィルヘルミナと話している内容をそれとなく聞きながら窓の外の景色を眺める。
ゆっくりと流れる風景の中にはなんら剣呑なところはなく、そしてまた浅羽直之の姿もそこにはなかった。






 【4】


物語の舞台の中央に位置する城。その城を囲む堀を左側に一台のパトカーがゆっくりとした速度で東進していた。
その運転席には師匠と呼ばれる妙齢の女性がハンドルを握っており、隣の助手席には携帯電話を片手にした朝倉涼子が座っている。
そして後部座席では浅上藤乃が横になってすやすやと静かな寝息を立てていた。

「あなたの見込みどおりであればいいのですが」
「そんなこと言って、師匠ったら乗り気な癖に」

朝倉は携帯電話を耳に当てる。だがまだ相手は通話中のようだった。
そして、この通話中であるという事実が彼女と師匠にある可能性を想像させ動かしているのであった。






 【5】


「――うん、だから私の存在の力を注いであげた。ステイルはインデックスが言ってた仲間だから」

水前寺と一緒に浅羽がいないか窓の外を眺めながら、悠二は時折バックミラーに視線を移してはシャナの様子を窺った。
聞いたとおり、ヴィルヘルミナがシャナに確認したかったこととはもう一人のトーチであるステイルのことであるらしい。

「わかった。とにかく一度そっちに戻るから」

バックミラーの中のシャナは携帯電話を耳から離すと眉根を寄せた。どうやら彼女もヴィルヘルミナにやり込められたらしい。
シャナは電話を切ろうとする――と、そこで悠二はまだ報告していないことがあったのに気づいてシャナに声をかけた。

「シャナ。まだカルメルさんに報告しないといけないことがあるんだ。電話をかしてくれるかな」
「ヴィルヘルミナちょっと待って。悠二がまだ話すことがあるって」

シャナから携帯電話を受け取ると、悠二はもう一度バックミラーへと目をやって今度は美波の様子を窺った。
どうやら今彼女は救急車の中にあるものを色々チェックしているらしい。箱を開けてみたり、何かのボンベを持ち上げてみたり、
とにかく彼女がこちらに気を払っていないことを確認すると、悠二は彼女に聞こえないよう小さな声で喋り始めた。

「……病院で死体を見つけたって前に報告したけど、その犯人がわかったんだ」

その内容は、あの録画機能付きの眼鏡に残されていた映像に写っていた人物についてだ。
つまり、病院での4人殺しの犯人であり、美波の友人である吉井明久や土屋康太を殺害した人物のことである。
いつかは知らせるべきだろうし、彼女が彼らの遺体と対面したいと言えばそうさせるべきだろう。
しかし今は浅羽直之を探している最中でもあるし、彼女の心を悪戯に乱す必要はないと悠二は判断した。

686CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:29:41 ID:0SJ8MdD20
『なにか証拠を見つけたということであるのですか?』
「うん。その場面を写した映像がそこに残っていたんだよ」
『ではその人物とは?』
「“キノ”と呼ばれていたよ。本当の名前かはわからないけど、コートを着た背の低くて僕くらいの年齢の人物だ」
『その人物なら、先ほど面会したのであります』

思わぬ反応に、悠二の口から驚きの声が小さく漏れた。
相手はあの冷酷な殺人鬼である。一体二人の間に何があったのか。いや、神社にいた面々は大丈夫だったのか?

『物腰は柔らかなれど剣呑なるところも感じられた故に退去を願いましたが、なるほど殺しを行う人間でありましたか』
『不審人物』
「うん。どうやら集団の中に潜伏して、油断したところを一網打尽に……という戦略らしいんだ」
『納得したのであります。あの時、キノなる者は「手伝えることはないか?」と我々に接触してきたのでありますから』
『常套手段』
『間違いなく我らに対しても同じことを行おうとし狙っていたのでありましょう』
「でも無事ならなによりだよ、こちらも気をつけるからそっちも気をつけて」

どうやらヴィルヘルミナが追い返してくれたおかげで特に被害はなかったと知り、悠二はほっと胸を撫で下ろした。
あのモニターの中に見た光景を思い出すと、本当に何事もなくてよかったと思える。

『して、その殺しの手段はいかに?』
「見た限りでは銃と刀を使っていたよ。自在法のようなものを使っているようには見えなかった。
 それと……、これはシズさんが前に言ってたんだけど死体を見る限りかなりの手練だって」
『なるほど。そしてシズでありますか。味方になる可能性があったとしたら彼もまた惜しいことをしたものであります』
「うん……」

先程の放送で名前を呼ばれたのは御坂美琴と古泉一樹だけではなかった。シズの名も一緒に呼ばれたのだ。
悠二も彼の死は惜しいと思う。贄殿遮那を返してもらった時の感触から彼の本質は悪人ではないと感じていたからだ。
もし少しでも出会うタイミングが異なれば一緒に協力できたかもと、そう思うととても残念だった。

『しかし、この報告により新しい問題が浮かび上がってきたのであります』
「え?」
『キノなる者に我々が神社を拠点としていることが把握されているのであります。
 不審者の接近は警戒してるとはいえ、これでは拠点としての機能は半減したも同然。移動の必要がありましょう』
「じゃあ、今度はどこに?」
『天文台なのであります。
 現在、テッサとインデックスが先行し、更に天体観測中の警備として人員を送る予定でありましたが、
 もはやそれも難しいとなれば、全員が一度天文台へと集結し今晩を乗り切るというのが最善の選択であります』
「なるほど了解したよ。こちらのみんなにも伝えておく」
『ではこちらは移動の準備を開始し、炎髪灼眼の討ち手の帰還を待って天文台へと移動を開始するのであります。
 そちらも浅羽直之を確保次第こちらへと帰還することを改めて要請するのであります。
 フレイムヘイズはともかくとして、人間はちょうど疲労のピークを迎える頃合。
 寝て夜を越すにしても固まっていたほうが警備は行いやすいのでありますから』
「わかった。浅羽くんを保護できたらこっちも一度そちらと合流するよ」

ではこちらの者にも説明が必要なので、という言葉を最後にヴィルヘルミナとの通話は終わった。
悠二は携帯電話を握り締めながらまた溜息を漏らすと、隣の水前寺に車を止めるように声をかけた。






 【6】

687CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:30:14 ID:0SJ8MdD20
「この電話が鳴るたびに問題が増えるような気がするのであります」
「轗軻数奇」

溜息こそつかないが、傍から見ればそうしそうだと思うような台詞を吐いてヴィルヘルミナは受話器を置いた。
電話のせいかはともかくとして、言葉の通りに問題は増えるばかりだ。
しかし彼女がそこで止まってしまうことはなく、衣擦れの音をさせることなく身を翻すと他の人間が待つ部屋へと戻った。



日焼けした畳敷きの狭い和室に揃っていたのは、ステイル、大河、晶穂――つまりここ残っているうちの全員だった。
半日前はこの倍以上の人間がいたが、しかし今はヴィルヘルミナ自身を数えてもたったの4人しかいない。
そして、御坂美琴や零崎人識などもう戻ってこない者や、行方の知れない者もいる。

「長かったね。なにか重要な情報でも得たのか、それとも話が弾む相手だったのかな?」
「前半分は肯定。後ろ半分は否定なのであります」

詳しい事情を把握してないせいか、それともトーチなのでそうなのか、緊張感がない風にステイルが聞いてくる。
それを軽くあしらうとヴィルヘルミナはスカートの裾を折りたたみ、上品に畳みの上へと腰を下ろした。

「また悠二ってやつからの電話? だったらシャナと美波はちゃんと合流できたの?」
「大きな問題はなく坂井悠二の発見と合流は行われたのであります」

次に発言したのはいつもなにかに怒っている風に見える大河だった。
リハビリのつもりなのだろうか、彼女はずっと鋼鉄の義手の掌を閉じたり開いてガチガチと音を鳴らしている。

「炎髪灼眼の討ち手は速やかに戻ってくる手はずであり、また水前寺他の面々も浅羽直之を保護次第戻ってくる予定であります」
「浅羽が見つかったのッ?」

伏せていた顔を上げ驚くように声を上げたのは晶穂だ。
その顔は少し青ざめている。見知った人物の名前が続けて挙げられるのはかなり堪えるらしい。

「一度は合流し、その後“事情”により僅かに離れはぐれてしまったとのことであります」
「何やってんのよ部長も、浅羽も……」

再びうなだれる晶穂。彼女に対してヴィルヘルミナは“事情”については話さなかった。
彼女は伊里野加奈のことを忘れ去っている。話したところで理解できるはずもなく、逆に混乱し不安を煽ってしまうだけだろう。
そして、話さない、知らせないことがフレイムヘイズの常で、ヴィルヘルミナは常にフレイムヘイズであった。



「ともかくとして、今晩を乗り切るに当たって再び全員を集合させることになったのであります」

ヴィルヘルミナは3人にこれからの予定を説明する。
シャナは悠二と合流し、水前寺も当初の目的であった浅羽を保護しつつある。
美波の友人である姫路瑞希の捜索や、悠二が提案した人類最悪の居場所を探ることなど、他の案件もあるが
そのどちらも具体的な手がかりもなく、いつ達成できるのかも定かではない。
なのでひとまず仲間を集結し、できることからひとつずつ潰していこうというのがヴィルヘルミナの方針だった。

「じゃあ、インデックスもこちらに呼んでくれるのかい?」
「いえ逆なのであります。我々が現在インデックスとテッサが滞在する天文台へと移動するのであります」

なるほど。と、ステイルは頷いた。インデックスが天文台にいるというのは彼からするととても自然なことらしい。
同じ魔術師だけに相通じ理解できるところがあるのだろう。
居場所を知ればいてもいられなくなったのか、今にでも立ち上がりそうなステイルだったが、晶穂の発言がそれを制した。

688CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:31:02 ID:0SJ8MdD20
「あの、キョンさんはどうするんですか? 帰ってくるかも、しれないのに」
「それについては案があるのであります」
「用意周到」

御坂美琴と一緒に警察署へと出向いたキョンは現在行方不明だ。
定時放送で名前が呼ばれなかった以上生きてはいるはずだが、どこでどうしているのかはわからない。
今まさにここへと戻っている最中かもしれないし、逆に怪我を負ってどこかで動けなくなっているかもしれない。
待つか探すかしたいが、残念ながら今はどちらも難しい。なのでヴィルヘルミナは次善の策を用意していた。

「ここに書置きを残すのであります」
「書置き?」
「“後に迎に行くのでここで待たれたし”と記した紙を発見しやすい場所に置いておくのであります」
「天文台にいるって書けばいいんじゃないの?」

思いのほか単純で原始的な回答に晶穂はきょとんとし、大河は義手をガチガチと鳴らしながら疑問点を挙げた。
言葉の通りに、天文台へと誘導する旨を書いてもいいと思える。
しかしヴィルヘルミナはそれは問題があると、大河と残りの2人にその理由を説明した。

「先刻、ここを尋ねてきたキノなる人物が坂井悠二の報告により、集団に入り込み殺人を行う者だと判明したのであります」

晶穂の口から小さな悲鳴が上がり、大河の義手がガチッと音を立て、ステイルの目が剣呑に細められた。

「幸い、前回は追い返したのでありますが、再び訪問する可能性もなきにしもあらず、
 また我々がここを拠点としていることを相手に知られてしまっているのは看過できない問題なのであります」
「夜襲警戒」
「故に拠点を移動するに当たって次の移動場所を書き残すことは、その危険性から考えてできないのであります」

仮にキノが神社の面々に接触、または奇襲することを諦めていたとしても、来訪する危険人物はキノだけとは限らない。
逆に、キョンをはじめ行方の知れない上条当麻や姫路瑞希などの歓迎したい人間も来訪するかもしれない。
しかし前者を呼び込むことだけは絶対に避けたい――故に、待機を命じる書置きであった。

「天文台に拠点を移した後、定期的に神社へと偵察へ赴き、害のない人間がそこにいれば迎えるとするのであります」

そして、以上であります。とヴィルヘルミナは説明を終えた。


 ■


「……キョンさん大丈夫かなぁ」

晶穂がテーブルの上の“待たれたし”とだけ書かれた――いや、それだけしか書いてない紙を見て溜息をついている。
誰がとも、誰にとも、何時とも書かれてないのは期待してない何者かがこれを見た時、余計な情報を与えないためだという。
本当に大丈夫なんだろうかと、大河もそう思いながら鞄の中に自分の荷物を詰め込んでいた。

これもあの几帳面すぎるメイドが言うには、歓迎しない来訪者に余計な情報を与えないためらしい。
自分達がいた痕跡すら残さずに――というのはけっこう本格的っぽい。まるでスパイ映画のようだった。
そして冗談でも笑い事でもない。うきうきしたりなんてしない。本当に人が死んでいるのだから。

「ムカつく……」

右手をぎゅっと握り締めるとガチッと固い音がした。今置かれているこの状況が嘘でないという正真正銘の証拠だ。
結局つけることを諦めたブラジャーを乱暴につっこみながら舌打ちをする。
晶穂が肩をビクっと震わせ(ちょっとゴメン)、紙バックしか荷物のないステイルがクスっと笑った。

689CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:31:51 ID:0SJ8MdD20
「あんたさっきからなんかおかしーの?」
「……あぁ、いやなんだろうね。どこかで君みたいなのを見たことが、いや聞いたことがあるような気がしてね」

ゴシックパンク野郎の言うことは時々、意味不明だった。
神父で、魔術師で、巨人みたいな身長なのに年下。どんな面白存在だと、ツッコまざるをえない。



ゴミも残していかないほうがいいらしいので台所へとゴミ袋を取りに来たら、そこでヴィルヘルミナがシンクを洗っていた。
メイドがキッチンで洗い物をしているなんて当たり前のようでいて、ひどく奇異な光景。
呆れ半分、ピカピカのシンクを見て「洗いすぎ」と――そして不意にモヤモヤとムカムカが心に湧きあがってくる。

ゴミ袋をひったくるように取って部屋に戻ると、もう晶穂とステイルは準備を終えているようで部屋はすっきりとしていた。
元々、そんなに綺麗な部屋でもない。畳みは古くて薄黄色だし、テーブルには焦がした痕があるし、柱も傷だらけだ。
どこにでもあるようなこじんまりとした庶民的な和室。

「晶穂。終わったんなら私のも手伝って」
「う、うん……」

そう、どこにでもあるような、まるで普段から入り浸っている場所のような居心地のよさがここにはあったのだと気づいた。
そして、すこしだけすっきりとした引越し準備中みたいなこの部屋を見て、大河は行きたくないなと思う。
新しい「いってきます」は、これまでに対する「さようなら」みたいだったから。


拳を握ると、またガチッという音がした。






【C-2/神社/一日目・夜】

【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(7/20)、缶切り@現地調達、調達物資@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:シャナの到着を待ち、天文台へと移動。
 2:天文台を新しい拠点とし、今後の予定を改めて組みなおす。
 ├キョンを保護する為、また警察署で何があったかを確認する為に警察署へと人を送り出す。
 └上条当麻を仲間に加える為、捜索隊を編成して南方へと送りだす。
 3:ステイルに対しては、警戒しながらも様子を見守る。


【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、右腕義手装着!
[装備]:無桐伊織の義手(右)@戯言シリーズ、逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
     大河のデジタルカメラ@とらドラ!、フラッシュグレネード@現実、無桐伊織の義手(左)@戯言シリーズ
[思考・状況]
 基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
 0:ちょっとアンニュイ。
 1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
 2:ステイルのことはちょっと応援。
[備考]
 伊里野加奈に関する記憶を失いました。

690CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:32:23 ID:0SJ8MdD20
【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、意気消沈
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
 基本;生き残る為にみんなに協力する。
 0:……大河さんの機嫌が悪いなぁ。
 1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
 2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。
 3:鉄人定食が食べたい……?
[備考]
 伊里野加奈に関する記憶を失いました。


【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:“トーチ”状態。ある程度は力が残されており、それなりに考えて動くことはできる。
[装備]:筆記具少々、煙草
[道具]:紙袋、大量のルーン、大量の煙草
[思考・状況]
 基本:インデックスを生き残らせるよう動く。
 1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
 2:とりあえず、ある程度はヴィルヘルミナの意見も聞く。
[備考]
 既に「本来のステイル=マグヌス」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
 紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
 フリアグネたちと戦った前後の記憶(自分がトーチになった前後の記憶)が曖昧です。
 いくらかの力を注がれしばらくは存在が持つようになりました。


※神社の社務所内の一室のテーブルの上に「待たれたし」とだけ書かれたメモが残っています。






 【7】


「美波は私と一緒に戻らなくてもいいの?」
「うん、水前寺のことはほっとけないし、それに瑞希だってこの近くにいるかもしれないから」
「そっか。じゃあ悠二のこともよろしくね」
「まかせといて。ウチが二人にはバカなことはさせないから」

美波といくつか言葉を交わすと、シャナは夕闇の中へと飛び上がり火の粉を散らして優雅な羽を背中に広げた。
この世のいかなる生物も持たざるその羽で大気を打ち、フレイムヘイズの少女は飛び去ってゆく。
悠二は藍色の空の向こうに光の点となって遠ざかる彼女の姿を名残を惜しむように見送り、
小さなクラクションの音に急かされ、ようやく水前寺が待つ救急車へと戻った。



「なんならこの場合は坂井特派員が一緒に戻ってもよかったのだぞ?」

悠二が助手席につくと水前寺がそんなことを言う。

691CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:32:56 ID:0SJ8MdD20
「いや、いいんだ。贄殿遮那も渡すことができたしね。それに今はできることをしたいんだ」
「なるほど。引き続き浅羽特派員捜索の任についてくれることを部長として感謝しよう。島田特派員にもな」
「とってつけたような言い方。……でも、いいわ。まだしばらくは特派員でいてあげるから」
「なぁにがしばらくだ。部長の許可を得ない退部などこの俺は許さんからな」
「人権を無視して勝手に部員にしておいてよく言うわよ」

夕暮れの四つ角にエンジン音が響き渡り、浅羽直之を追って救急車が再び走り始めた。



「――しかし、トーチとフリアグネとかいう紅世の王の話だが」
「うん、当ては外れたし、思い違いもあったみたいだ」
「だがそいつの行動がただの無意味ではなかったと、坂井特派員は考えているわけだな?」
「そうだね。あの紅世の王が意味のないことをするとは思えないから何かしらの意味はあるはずだよ」

車の運転席と助手席で、またいつかのように二人は考察を開始する。
今回の議題は、『フリアグネがトーチを作った理由』についてだ。
あの紅世の王が《都喰らい》を企てているかもしれないという可能性はヴィルヘルミナからの指摘により否定された。
かといって、トーチを作った理由が皆無だとは考えられない。なので二人は今ある材料を元に思考を始める。

「トーチとしての伊里野クンに残された時間は通例よりもかなり少なかったらしいな」
「そうだね。本来、トーチの役割はフレイムヘイズに対する目くらましみたいなものだから数日以上もつのが普通だよ」
「ならば、そこから2つの可能性が考えられる」
「あえてそうしたのか、もしくはそうせざるを得なかった――だね?」

うむ。と水前寺は満足そうに頷いた。
確かに考えるべきはここからだったようだと悠二は認識しなおす。
シャナとアラストール、そして自分はトーチを見てすぐにフリアグネが策を打ってきたものだと考えたが、
そう考えること自体がまだ早まったことだったのだ。

「あえて消えるまでの時間を短くした場合であるが、
 この場合、トーチの消失に坂井特派員やヴィルヘルミナ女史らが気づけるのかを試したのかもしれんな」
「普段は気づかせない為のトーチを、あえて逆の目的に使ったってことか……」

フレイムヘイズは、トーチの消失を感知して現場に急行しそこから紅世の王を追い始める。
紅世の王は追跡を逃れる為、逃げる時間を稼げるようそれなりの時間をトーチに与えてその場を去る。
それが通常であるが、その時間差を利用すれば逆にトーチが消える瞬間の世界の歪みを囮にすることも可能だ。
存在の力を感知することが難しい今、気兼ねなくトーチを作れる紅世の王側にすれば、それはアドバンテージとなる。

「逆の場合、残り時間の少ないトーチしか作れなかったということになる」
「僕やシャナが遭遇した弱すぎる燐子と同じようにか……」
「だが安心はするなよ坂井クン。形勢不利とみて、あえてそういうふりをしているだけかもしれんのだからな」

確かにフリアグネの立場から見れば、シャナと自分だけならともかくヴィルヘルミナもいるというのは苦境と言えるだろう。
蓄えた宝具を持ち合わせていないのも、彼の王の性質から考えればかなりの痛手のはずだ。
ならば、力の弱い燐子やトーチにしてもそうしかできないのではなく、ただ力を節約しているだけなのかもしれないし、
弱まっているフリをしてこちらの油断を誘っているのかもしれない。

「そして、もうひとつの可能性がある」
「人類最悪だね」

先刻の放送で人類最悪の口から伊里野加奈の名前は読み上げられなかった。
果たして人類最悪は“ほんとうのこと”を知らず記憶が改竄されたのか、知っててあえて呼ばなかったのかは不明だが、
少なくともトーチとして登場人物が消失しても彼は名前を読み上げないということだけは判明したのである。
ならば、このリアクションこそがフリアグネがすぐに消えるトーチを作った理由だったかもしれない。

692CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:33:27 ID:0SJ8MdD20
「これらの可能性から何が導き出されるのか、……専門家ではない俺にはわからん。
 だが、何らかの意味があったのだとしたら、
 それ単体では意味をなさないトーチの存在は次のアプローチの為の布石ととらえるべきだろう」
「フリアグネが次に考えること、か……」

水前寺と考察する中、悠二はこれまでの思考の中にある考え方が欠落していたことに気づいた。
相手はあのプライドの高い“狩人”フリアグネなのである。
ならば、この状況において彼の視線や矛先を向ける相手が必ずしもフレイムヘイズや他の人間らだとは限らない。
彼に虜囚の辱めを与えた人類最悪――この事態を作り上げた者にも向かっていて当然だ。

「まぁ、そこらへんのことはヴィルヘルミナ女史と合流してから詰めてゆくのがよかろう。
 あちらはあちらで俺達が戻るまでの間に話を進めているだろうからな」
「そうだね。僕たちも早く浅羽くんを保護して戻らないと」
「まったくタイムイズマネーとは言ったものだ」

考えてみれば、自分達もフリアグネもこの場所で目的とするところは全く変わらないのかもしれない。
ただその立場と取りうる手段が異なるにすぎないのだ。
邪魔者を排除し、事態を解決し、この世界から元の世界へと帰還する。可能ならばこの事件を解決した上で。
フレイムヘイズは紅世の王を排除対象とし、紅世の王はフレイムヘイズを排除の対象とする。差はこれだけしかない。

「(だったら、あえてこの場は共闘することも可能なのか――?)」

もしフリアグネがすでに事態解決の切欠を掴んでいて、その方法が《都喰らい》のように犠牲を必要としないのだったら。
そうであるなら、この事件を解決するまでの間ならフレイムヘイズと紅世の王が手を組むことができるかもしれない。

「(……カルメルさんには虫がよすぎると怒られるかもしれないな)」

一度冷静になったことで、クリアになった頭の中にいくつかの道筋が見えてきた。
そして、悠二が討滅の対象としてではなくフリアグネに興味を持った時、不意にポケットの中の携帯電話が震え始めた。

「……カルメルさんからかな?」

なんとなしに思いながら悠二は携帯電話を取り出し、淡く光るディスプレイを見つめた。
神社の電話番号ならもう暗記している。表示されているのがその番号ならば相手は十中八九ヴィルヘルミナだろう。


だがしかし、番号は神社のものではなかった。






 【8】

693CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:34:00 ID:0SJ8MdD20
「しかし随分と長く通話していますね」
「そうね。多分このタイミングだし仲間内での報告会を兼ねた作戦会議じゃないかしら」

そうだといいのですが。と言って、師匠はハンドルをゆっくり切って車を誰もいない道へと進めた。
朝倉が放送の後から数分おきにかけている電話番号からの反応は、最初から今までずっと通話中のままだ。
もしかすればただ単に通話中の状態で電話が放置されているのでは、とも思えてくる。
だがもしそうでないのだとしたら、当たり前だが通話して連絡を取り合っている人間が最低二人はいることになる。
そう、つまり……彼女達からすれば最低でも二人の“獲物”が期待できるということになる。

「さっきの放送では御坂美琴、古泉一樹、シズと3人の名前しか呼ばれなかったわけだけど、師匠はこれをどうみる?」
「あなたの報告が正しいのならばその3人は実際に死んだのでしょう」
「もう、疑うふりなんてやめてよ。どうせ師匠も聞いてたんでしょう? それで師匠はどう考えるのって聞いてるの」
「そうですね――」

膠着状態に陥ったのでしょう。と、師匠はそれを簡潔に表した。

「3人のうち、御坂美琴と古泉一樹は我々が仕留めた獲物です。
 となると我々が関与しなかった場所では一人しか死んでいないことになります」
「そうね。私達の視点から見れば、私達を取り巻く環境はほとんど進行していないことになるわ」
「状況が開始してから半日強で、早くも安定した状態に落ち着いてしまったということです」

この場所には59名の人間がおり、それぞれが暗黙の了解として互いに殺しあうことを前提として理解しあっている。
なので人間同士が出会えばそこで殺し合いが発生し、大抵の場合いずれかが死亡する。
これが続き、ゲーム盤となる場所の広さに対して人の数が少なくなれば、結果として遭遇――死亡の数も減少する。

そして、進行が膠着する原因は他にもある。この催しの参加者はゲームの駒でなく人間なのだ。
温泉や警察署で遭遇したように、今現在生き残っている参加者は目的の為に徒党を組んでいる可能性が高い。
おそらく、その傾向は殺人を許容しない“人間らしい”参加者の方が顕著だろう。
つまり、遭遇して殺しあうパターンと同時に、遭遇して殺しあわないパターンもありえたことだ。
殺しあわないパターンであった場合、その2人が1組となれば殺しあった場合と同様に遭遇の機会を減らすことになる。

「結果として、こういうったゲームは参加者が殺し合いに積極的だろうがそうでなかろうが
 それなりに状況が進めば遭遇しあえるユニットの数が減り、膠着状態に陥ってしまうというわけね?」
「そのとおりです……が、それこそあなたには説明する必要のなかったことでしょう?」
「ふふ、師匠ったら。互いの認識を確認しあうのに会話はとても重要よ?」
「……なんにせよ、現状としては突発的な遭遇戦が起こりづらい状況となっているというのが私の見解です」

朝倉は満足そうにうんうんと頷いた。逆に師匠の方は何を今更という顔である。だからこそ彼女達は動いているのだから。

「つまり、この電話を使用している彼らは、それぞれに複数人で固まっている可能性も充分にありえるということよね」
「そうですね。この状況で電話口のそれぞれにいる人間が各自一人ずつというのは少し考えづらい。
 ある程度の信頼があるのならば二人で行動した方が安全ですし――」
「――もしその安全を確保しているのだとすれば、それは互いに複数人で行動してるって計算できる……ということよね」
「取らぬ狸の皮算用にすぎませんが」
「勿論、計算できない要因が多いのは私も承知の上よ。
 でも、師匠もその“期待値”に賭けた。だから運転もしてくれているんでしょ?」
「それもありますが、私が危険視しているのは時間切れですよ。膠着状態が続いたまま3日を終えるのは御免ですから」

言葉通り、師匠が一番危険視しているのは時間切れであった。
この手のゲームにおいて一番恐ろしいことは、ゲームが進まないターンを安易に見逃して
最終盤において決着に必要な手数が足りなくなってしまう事態であると、彼女は豊富な経験から知っている。
この人類最悪の用意した世界の場合、時間とともに舞台は狭くなるので兎の様に逃げ続ける獲物を追う手間は省けるが、
だからといって最終盤に人間を残しすぎると計算して生き残るのが難しい大混戦が発生しかねない。

694CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:34:32 ID:0SJ8MdD20
「師匠は楽をしようとは考えないのねぇ」
「怠けていい時間など人生の中にはありませんよ」
「生まれた時から時間制限付きってわけ? ふぅん、有機生命体はそんな風にも考えるのね」
「“今日終わらせられることは今日終わらせろ”という言葉を守っているだけです」
「確かに。実は私も待つのは苦手なの」
「では、そろそろもう一度電話をかけてみてはどうですか?」

了解。と、朝倉は携帯電話を開いて通話キーを押した。ゆっくりと電話を耳に当て、待つこと数秒――……。

「どうやらもう向こうの長電話は終わったようね」
「交渉は任せますが油断はしないように。とりあえず今はその相手さえ確保できれば十分です」
「残りの仲間の居場所は拷問でもして聞き出すわけ?」
「それで聞きだせるのならそうしますし、相手の電話番号が知れれば人質なりなんなりに使えばいいのです」
「本当、師匠ったら物騒なんだから」
「海老で鯛を釣るという方法ですよ。
 小さな獲物を釣り上げ、次の獲物の餌にすることで最終的には一番大きな獲物を釣り上げる算段です」
「はいはい。じゃあ、最初の獲物は私に任せて――と、もしもし、聞こえている?」






 【9】


『――もしもし、聞こえている?』

電話の向こうから聞こえてきたのはまたしても女の声だった。だがしかし以前に聞いたものとは声色が全く違う。
声色そのものが不幸の色を帯びていたあの不吉な声ではなく、それよりも随分と穏やかな感じのものだった。

「はい、聞こえています」

また不吉なことを聞かされるのではと身構えていただけに意表を突かれたが、
悠二はなんとか平静を保って返答することに成功した。そして、電話の相手に対しあなたは誰なのかと尋ねてみる。

『私は朝倉涼子よ。よろしくね』
「朝倉、涼子……」
『ん? もしかして誰かから私の名前を聞いていたのかしら? 涼宮さん? それともキョンくんかな?』
「キョンから聞いてますよ」

名前を聞き、悠二はこの通話が非常に重要であり、また油断すべきものではないことを認識した。
朝倉涼子とはキョンが頼りにしていた万能の宇宙人のひとりであり、かつては彼を殺そうともした人物(?)である。
味方にすることができればかなり頼もしいが、しかしそこには大きな危険が潜んでいるかもしれない。

『そうだったんだ。じゃあキョンくんはそこにいるのかしら?』
「いえ、今は別行動中ですよ」
『そう。彼の声が聞けないのは残念だわ。それであなたは誰なのかしら?』
「え? ……ああ。坂井悠二です。
 えーと、それじゃあ朝倉さんはどうしてこの電話の番号を知ったんですか?」
『ふふ、そうなの。私もこの電話番号にかけて誰が出てくるのか知らなかったのよ。
 知ってたのは番号だけ。藤乃さんてわかるかな? 浅上藤乃さん。一度、あなたに電話したはずなんだけど』
「前に電話をかけてきたのが、その藤乃さんなんですか?」

どうやら以前に不吉な電話をかけてきた女性は浅上藤乃と言うらしい。
悠二はこれまでに得た情報の中を探り、今のところ全く誰とも縁のない名前であったことを確認した。

695CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:35:06 ID:0SJ8MdD20
『ええ、こちらのほうで彼女を“保護”してね』
「保護?」
『そうよ。彼女ったら変なことを言ってなかった? 友達を殺したとかなんとか』
「ええ、聞かされました」
『じゃあ安心して頂戴。それは彼女の妄言で全部嘘なのよ』

少しだけ気持ちが楽になった気がした。
あれが嘘なのだとすれば、吉田さんかもしくは関係ない誰かがその彼女に殺されたのではないとなるのだから。
とはいえ、それも含めて全部嘘なのかもしれない。なので悠二は慎重に通話を続ける。

『彼女ったらどうやら最初から心身ともに失調をきたしているらしくてね、だから私達で保護したの』
「そうなんですか。…………私達?」
『ええ、私と師匠と藤乃さん。私達はこの3人で行動しているの。この世界から速やかに元いた世界へと戻れるようにね』

師匠とは名簿にそのまま師匠とだけ書かれていた人物だろうか。
悠二はもう一度記憶の中を探るが、その人物もまだ誰とも縁のない正体が不明なままの人物であった。

「元の世界に戻る、ですか?」
『ええ、そうだけど。あなたたちは違うの? キョンくんならそう考えると思うのだけど』
「いえ、こちらも同じですよ。僕たちも元の世界に戻りたい。できれば、全員でです」
『ならよかったわ。私達協力しあえるわよね。そっちは何人なのかしら?』

電話から聞こえてくる朝倉の声が弾む。
事前に聞いてなければ彼女が宇宙人だとは気づけなかったろう。
もっとも今でも彼女が宇宙人だとは感じられないが、ただの前向きで明るい女の子としか認識できなかったはずだ。
しかし、フレイムヘイズには変人が多いからという訳ではないが、
逆にこの人当たりのよさが油断ならないのではと、悠二は僅かに緊張の度合いを高めた。

「こちらも今は3人ですよ」
『それはキョンくんも含めて? 今はってことはもう他にも仲間がいっぱいいるのかしら』

物怖じがないのか、それともこちらの隙を見逃さないのか。それが宇宙人だからなのか、声色からは全くわからない。

「……ええ、そうですね。何人かいます」
『んー、すこし歯切れが悪い感じかなぁ。もしかしてキョンくんから何か言われて警戒している?』
「正直に言うと、その通りです。あなたは物事を解決するのに殺人を厭わない、と」
『そうね、それは否定しないわ。
 キョンくんにも言ったけど、命というものに対して私はまだあなたたち有機生命体と同じ価値観を持っていないの』

それはぞっとするような言葉であり、また覚えのある感覚だった。

『でも私がキョンくんを殺そうとした理由まで聞いていれば解るのだと思うけど、
 今現在の私には彼やその他の人物を殺す理由が存在しないわ』
「そうですね。キョンも同じように言ってました。だから、あなたを探して協力を要請しようとも」
『――でしょう♪ だったら私達は協力しあえるわよね』

朝倉の声にまた喜色が浮かぶ。話としては今のところ何もおかしくはない。キョンの言ってたことにも誤りはなさそうだった。
なのに、悠二の心にはまだなにかすっきりしない部分があった。まとまらない漠然とした不安のようなものが。

696CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:35:37 ID:0SJ8MdD20
『それで彼はどこまで私のことを話したのかしら?』
「あなたと長門有希という人は宇宙人の作ったロボットみたいなもので、ほぼ万能だとか」
『うんうん』
「それで、あなた達の目的は涼宮ハルヒの保護と観察だと」
『キョンくんったらそんなことまで……、でも話が早いわ。
 聞いてのとおり、私達の……と言っても長門さんは死んじゃったので私ひとりだけど、目的は涼宮ハルヒの保護と観察よ。
 ここは彼女の観察に適した環境とは言えないから、今の目的は彼女を元に世界に戻すことね。
 勿論、キョンくんにも生きて帰ってもらいたいわ。こんなところで死なれちゃったら、それはそれで困るもの』
「それがあなたの優先順位ですか?」
『ええ、そうね。あなた達もこの事態の解決と元の世界への帰還を目指しているなら私達が対立する必要はないはずよ。
 もしここから出られる手段が宇宙船のようなものだとして、その定員が2人だけなら
 私は涼宮ハルヒとキョンくんを生き残らせる為に仲間やあなた達に危害を加えることになると思う。
 けど、定員が10名ならその必要性は下がると思うし、全員が帰れるなら全く必要ないことになるわよね。
 そういう方法を一緒に模索してみないかしら?』
「ええ、そうできるなら僕達もあなた達にとっても一番だと思います」

実に冷静で、冷静すぎる。口調こそ普通の女の子だが、悠二の印象としては朝倉はヴィルヘルミナに近いと思われた。
交渉するにあたり、情に訴えず、ある程度の手札を曝し、あくまで理性的な取引を求める。
こちらが仕事をする限り、むこうも仕事をしてくれる。契約するのならば理想とも言える相手だ。

「……質問しますが、朝倉さんの方では何か事件解決の為の取っ掛かりのようなものは見つけているんですか?」

キョンは長門有希が生きていればどうにでもできると言っていた。そして朝倉も同等の力を有していると。

『うーん、痛いとこを突かれちゃったかな。正直に話すとこちら側の収穫は今のところゼロよ』
「キョンはあなた達ならなんとかできるかもと言ってましたが」
『まず、私達そのものは外宇宙に存在する情報統合思念体が辺境惑星に用意した端末でしかないの。
 そして普段使用している力のほとんどは上位体からダウンロードして初めて使用できるものばかりなのよ』
「つまり、情報統合思念体というものにアクセスできないと普通の人間と変わらないってことですか?」
『普通の人間よりかは頑丈だし、能力も持っているわ。でも、確かにこの事態の中ではそんなに変わらないかもね。
 あなた達にわかりやすく言うと、ネットワークに繋がってないPCのようなものよ。
 プリセットされた能力は所持しているけど、それ以上はまず統合思念体との接続を回復させる必要があるの』

なるほど。と悠二は頷いた。これで事態が迅速に終息しない理由や、長門有希が死亡した理由は判明したことになる。

『期待を裏切ってしまったかしら? でも人間はこういう時、“三人寄れば文殊の知恵”って言うでしょう?
 上手につきあえるなら、協力して互いが損をするってことはないはずよ。どうかしら?』
「その通りだと思います。できるなら僕も朝倉さんとは会って詳しいことを聞いてみたいですから」
『じゃあ――』
「けど、僕の一存じゃ決められません。少しだけこのまま待ってもらっていいですか?」
『うん、いいわよ。
 ただ、こっちには“時は金なり”ってすごく怒る人がいるの。だからできるだけ早くしてね♪』


 ■

697CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:36:10 ID:0SJ8MdD20
「ふう……」

携帯電話を耳から離し、いつの間にかに前かがみになっていた姿勢を戻すと悠二は小さく息を吐いた。

「どうやら交渉を受けているようだな坂井クン。相手と相手が要求している条件を述べたまへ」
「なんだか難しい顔でよくわかんない言葉使ってたけど、もしかして脅されてるの?」

すぐさまに隣の水前寺が口を、そして気づけば座席の間から顔を出してこちらを窺っていた。

「相手はキョンが言ってた朝倉涼子って女の子だよ。実は宇宙人に作られたロボットらしいんだけどね」
「実に胡散臭くて俺好みだな。それで用件とは?」
「むこうは、彼女と師匠と朝上藤乃の3人でいるらしいんだけど、脱出の為に協力しないかって」
「なんだそういうことだったんだ。ウチは女の子が増えるのは歓迎するわよ」

美波はほっとしたと顔を緩め、その向こうで水前寺は正面を見たままなるほどと頷いた。
しかしこのなるほどは納得したという意味ではなく、そこまでは理解したという意味のなるほどだ。

「それで、相手は坂井特派員が即座に決断できないような無理難題をふっかけてきているのかね?
 例えば物資を全てよこせだの、命令権はこちらによこせだのとかかね?」
「いや、それはないよ。彼女達は偶然にこの電話番号を知って、ただ仲間になりましょうって言ってるだけさ」
「それに何か問題でもあるの? もしかしてウチらの中の誰かの仇とか……?」
「それもないかな。僕が浅上さんに変な電話をかけられたけど、他の人は今回がはじめての接触のはずだよ」

だったらなぜそんな煮え切らない態度なのか。と、水前寺と美波が眉根を寄せた。
無論、こんな状況だから誰かと接触するのならばそれは慎重ではなくてならないだろう。
しかしこれまでの悠二の行動は慎重さを持ち合わせながらも、いつも大胆で素早いものであった。
それが何故、今回に限ってこんなにも躊躇してしまうのか。それは悠二自身にも明確な理由は見当たらない。

「どこかに引っかかりを覚えるというのなら、それはまだ見落としている問題があるということだろう」
「そうかな? キノのことで少しナーバスになっているだけかもしれない」
「……キノのこと?」
「島田特派員。現在君のクラスの者に対してはそれはトップシークレットとなっている。
 皆と合流すれば改めて説明するので今は余計な詮索はやめたまへ」
「説明が面倒なら面倒って言いなさいよ。……クラスが低いってのはちょっとヘコむわ」

心の中で美波に頭を下げつつ、悠二は病院で見たあの光景をもう一度思い浮かべた。
この場所には善人のふりをして近づき、不意をついて危害を加えるものがいる。
もし、朝倉や彼女の仲間の中にそんな人物がいたとしたら――それが、不安の元なのだろうか?

「(それとも、僕は朝上藤乃と接触するのを嫌がっているのだろうか?)」

この事態が始まって早々にかかってきた電話の内容と、その後の想像により彼女の印象はかなりおどろおどろしい。
だから無意識に恐怖を抱き、それを遠ざけたい心理が働いているのかもと悠二は考える。
しかし考えても曖昧な不安の理由はわからなかった。曖昧な不安はそのままの形で心の中に残っている。



「接触に慎重になりたいのならば時間を作ればよい」

水前寺の声に悠二は顔を上げた。

698CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:36:44 ID:0SJ8MdD20
「簡単な話だ。待たせておけばいいのだよむこう側をな。
 我々は目下浅羽特派員を捜索中だということも忘れたかね?
 ならば相手方にはどこか適当なところで待っててもらい、こちらが後から接触する形にすればよかろう。
 その時坂井特派員がひとりで接触すれば、いざという時、戦えない我々が足手まといになることもないだろうしな」

ああ、と悠二は納得した。そう。むこうからもち掛けられた提案ならば多少こちら側の事情も鑑みてもらえるはずである。
それに元々、どちらかが場所を指定しなければ合流することはできないのだ。

「ありがとう水前寺。そうすることにするよ」

言って、悠二はもう一度携帯電話を耳に当てた。
なんなら接触する際にシャナを呼び戻してもいい。こういった事情ならヴィルヘルミナも賛成してくれるだろう。
そしてシャナとふたりであれば、どんな問題であろうと乗り越えられるはずなのだ。


 ■


「もしもし」
『結論はでたかしら?』
「うん、でたよ。悪いけど、今こちらは人を追っている最中なんだ。だからすぐに合流ってのはできない。
 だから時間を置いて、どこかで待ち合わせる形になるけどいいかな?」
『別にかまわないけど……その必要はもうないかもしれないわ?』
「え?」
『確認したいんだけど、あなた達は自動車で移動してるわよね。私、耳がいいから電話越しでもわかるのよ』

悠二は顔をあげてゆっくりと流れてゆく周りの景色を見渡した。
こちらが車で移動していることを知って、もう待ち合わせの必要がない。では彼女はどこから電話しているのか?

『実はこっちも車の中から電話してたんだけど気づいた?』

サイドミラーの中に見える後方の風景。その中に速度を上げてこちらに接近する車両の姿があった。

『そっちは救急車でしょ? こっちはパトカーなの。こういうのって奇遇って言うのかしら。どう思う?』

白と黒のツートンカラーに赤色のランプを備えた特徴的なデザインはまさしく日本のパトカーそのものだ。


『はじめまして。よろしくね♪』


サイドミラーの中で朝倉涼子が綺麗な笑顔を浮かべ手の平をひらひらと振っていた。






【E-4/市街地(映画館より北)/一日目・晩】

699CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:37:15 ID:0SJ8MdD20
【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ、湊啓太の携帯電話@空の境界(電池残量75%)
[道具]:デイパック、支給品一式、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 0:どうする?
 1:接触してきた朝倉涼子達に対応する。
 2:浅羽直之を探して保護し、ヴィルヘルミナらと合流する。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。

[備考]
 清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。


【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康だがフルボッコ、髪の毛ぐしゃぐしゃ
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!、救急車@現地調達(運転中)
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、
     ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達、
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 0:む?
 1:接触してきた朝倉涼子達に対応する。
 2:浅羽直之を探して保護し、ヴィルヘルミナらと合流する。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
[備考]
 伊里野加奈に関連する全てからの忘却を免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。


【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康だがフルボッコ、鼻に擦り傷(絆創膏)
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ、ヴィルヘルミナのリボン@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、
      フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して生き残る。
 0:え?
 1:状況を見守る。
 2:人を探す。
 ├親友の「姫路瑞希」をがんばって探す。
 ├「川嶋亜美」を探しだし、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
 └竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない「涼宮ハルヒ」を探す。
[備考]
 シャナからトーチについての説明を受けて、「忘れる」ということに不安を持っています。
 伊里野加奈に関連する全てからの忘却を免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。

700CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:37:48 ID:0SJ8MdD20
 【10】


「どうやら電話している間に偶然見つけることになっちゃったみたいだけど、こういうのってどういうのかしら?」
「さぁ、ただの幸運ではないですか」
「彼らにとっては?」
「これからしだいです」

師匠はパトカーを救急車の後方15メートルほどの距離まで近づけると、アクセルを弱めスピードを落とした。

「それで、私達はどうするの師匠?」
「交渉がうまくいっているのならこのまま事を推移させていいでしょう。時に情報は金よりも価値があります」
「了解。上手くやってみせるわ」
「警察署から逃げ出したキョンという人物から情報が伝わっているのだとすれば、網にかけられているのは我々です」
「なので決して油断はしないように――でしょ?」

姿を現したことに対してまだ電話の向こうからリアクションはない。向こうとしても対応を決めかねているらしい。
携帯電話で連絡を取り合っている以上、警察署での朝倉達の行動を見たキョンの情報が伝わっている可能性は十分ある。
とするならば、先程の待ち合わせという提案は罠だったのかもしれない。

「言っておきますが、いざという時はあなたも後ろで寝ている子も見捨てますからね」
「じゃあ私が師匠を見捨てても恨まないでよ」
「恨みはしますよ。理屈と感情は別の問題です」
「ほんと、有機生命体の思考って理不尽だわぁ……」



朝倉は携帯電話を持ちながら。師匠はハンドルを握りながら。そして何も事情を把握してない藤乃は眠りながら。
次の相手の一手を待つ。






【E-4/市街地(映画館より北)/一日目・晩】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:FN P90(35/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x17)@現実
      両儀式のナイフ@空の境界、ガソリン入りペットボトルx3、パトカー@現地調達(運転中)
[道具]:デイパック、基本支給品、医療品、パトカーx3(-燃料x1)@現地調達
      金の延棒x5本@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:目の前の集団と接触。仲間の情報を引き出した後、始末か利用かする。
 2:朝倉涼子を利用する。
 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?

701CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:38:20 ID:0SJ8MdD20
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、長門有希の情報を消化中
[装備]:なし
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4(−水×1)、軍用サイドカー@現実
      シズの刀@キノの旅、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、人別帖@甲賀忍法帖、フライパン@現実、
      ウエディングドレス@灼眼のシャナ、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣、金の延棒x5本@現実
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する(?)。
 1:坂井悠二と通話を継続し、直接接触できるように計らう。
 2:長門有希の中にあった謎を解明する。
 3:師匠を利用する。
 └師匠に渡すSOS料に見合った何かを探す。
 4:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
 長門有希(消失)の情報に触れたため混乱しています。また、その情報の中に人類最悪の姿があったのを確認しています。
 長門有希(消失)の保有していた情報から、ゲームに参加している60人の本名を引き出しました。


【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態、腹部の痛み消失、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:湊啓太への復讐を。
 0:……むにゃむにゃ。
 1:電話があればまた電話したい。
 2:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
 3:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
 4:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 登場時期は 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。


 ■


【D-4/上空/一日目・晩】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ、メリヒムのサーベル@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品x1-2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン、
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:まずは神社に戻りヴィルヘルミナと合流する。
 2:その後、一緒に天文台へと移動し、今後の対策を練ってからそれに沿って行動する。
 3:百貨店にいると思われるフリアグネはいつか必ず討滅する。

702 ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:38:53 ID:0SJ8MdD20
以上で投下を終了します。

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