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仮投下・修正用スレ

1 ◆iMRAgK0yqs:2009/02/16(月) 02:28:33 ID:Wr6mKbKA0
投稿規制された時の代理投下、またはSSの内容に関して
意見を伺いたい時にご使用下さい。
wiki登録済SSの修正を行いたいが、wikiの操作が判らない
という方も、こちらに投下して頂ければ随時対応します。


※ 旧スレは過去ログ倉庫に保管しております。

2 ◆MjBTB/MO3I:2009/02/20(金) 17:32:18 ID:BSwnWNBk0
Wiki収録時の為に急遽切り詰めた部分の原文を載せておきます。
本スレでは削っていた箇所もそのままの為、少々長くなっております。

3本スレ356に相当(1/2) ◆MjBTB/MO3I:2009/02/20(金) 17:35:13 ID:BSwnWNBk0
受付のテーブルに伏せ、銃口の先から姿を消す事に勤めた刹那に轟音が響く。
後ろを振り返ると、丁度頭があった位置に幾つもの弾痕が出現していた。
あのまま回避を選択していなければ、あっという間に消滅させられていた。
銃声は消えている。相手は対策を練っているのか動きはない。よし、まず第一波は避けた。

だがこのまま伏せていても同じだ。やられる前にやる、を実践するためにデイパックから刀を取り出す。
進行方向を右に設定し、隠れ家にしていた机から脱出した。だがそれを見逃さずに敵の放つ銃弾が襲い掛かってきた。
銃口はぶれずにこちらを向いている。走る速度は並の人間レベルではない筈の自分が、P90の照準内に納められてしまっている。
並の人間ならこのままお陀仏だ。体を穿つ小さな穴が体中に出現し、あっという間に死へと誘われるであろう。
だが自分はそんな脆弱な存在ではない。ただの有機生命体とは訳が違う事は一番よく理解している。

走行時の瞬発力のみで、死を運ぶ銃弾共をどうにか回避し方向転換。リロード中を狙って肉薄し刀で袈裟斬りを叩き込む!
相手はその一連の流れと速度に少しだけ驚いた顔をしていたが、予め持っていたであろうナイフでそれを受け止めて見せた。
だが勢いばかりは殺しきれない。怪我こそ負わせられなかったが、その体は衝撃で少し後ろに下がる。
破った。均衡状態を破る事が少しでも出来た。朝倉は自分に運が向いてきた事をじわじわと感じ取り始めていた。

朝倉涼子は、人間ではない。
人間なのは見た目だけであり――その体は人間離れした力を秘めている。
それはひとえに地球外で作られた存在である故の事なのだが、それはまた一旦脇に置いておこう。
朝倉涼子が人間ではないのは説明した通り。だが、相手の女はそうであろうか。
答えは否。先程の一瞬の鍔迫り合いなどから察するに、敵はただの人間だ。自分と同じ存在ではない。故に勝てぬ道理などない。
長門有希の介入が無かった状態での"彼"との戦闘を思わせる、種族差での圧倒的有利。それを確かに噛み締めていた。

だがそれと同時に、その高慢さと油断を抱いたままでは敗北も必至である事も感じ取っていた。
種族差による有利は先程感じたとおり。だがそれ以上をひっくり返す何かを相手が持っている事は確実なのだ。
理由は三つ。
一つ、最初の時点でかなり危うかった。奇襲をかけられたことを相手の殺気によってようやく気付かされた。
二つ、受付の机から走って脱出する際に、この自分が"どうにか避ける"という選択肢しか選べなかった。
三つ、これが最も解せぬ事実だが……これ程までに人間離れな筈の自分の力を見せておきながら――女は全く動じていない。

4本スレ356に相当(2/2) ◆MjBTB/MO3I:2009/02/20(金) 17:35:52 ID:BSwnWNBk0
P90というマシンガンが人間工学に基づいて造られた良品であると言えど、ここまで使いこなせるものか。
最初の奇襲で確実にヘッドショットを決めようとし、走る自分を捉えるばかりか回避しか選択できぬ状況にまで追い込む緻密な動作。
そう、ただ自分は人間ではないから有利であると言うだけ。戦闘の力量に関しては敵の方が少しばかり上回っている。
種族差をいとも簡単に埋めるその銃の腕前。相手の行動に対する瞬時の判断。力押しだけでは勝てぬ相手だ。
異常なまでの身体能力と情報改竄の力を持ち、弾幕を創り波状攻撃を行う自分が所謂"パワータイプ"であるとするならば
相手はこの極限まで磨き上げた戦闘技術と戦略に戦術、環境適応能力で相手から勝利をもぎ取っていく"テクニックタイプ"だ。

今の自分は、度し難い程のテクニックを持つ相手を仕留める事が出来ない。
だが相手は、理解し難い程のパワーを持つ自分を仕留める事が出来ない。

何が"均衡を破った"だ、馬鹿らしい。勝負はこれからであり、そのこれからが大事かつ難儀ではないか。
自分は刀を右手だけで正眼に構えて動けない。だが相手もP90を構えたまま動かない。
戦闘に使える支給品は刀がひとつ。けれど相手にはまだ腰に挿したナイフがある。
武具に関する有利不利は明らかになった。さて、ならばどうする。

簡単だ、武器を増やせば良い。

朝倉は空いた左手を、近くにあった休憩用の小さな椅子に掲げた。そして、念じる。
最初に確認した通りにやれば良い。自分の制御空間ではないものの、それでも近くの物質ならば!
片手を掲げられた椅子が瞬時にその形を歪め、遂に原形を留めぬ槍と化す。
椅子という物体の持つ質量はそのままに、生物一体は難なく貫ける凶暴な獲物が姿を現す。
冷静な女もこればかりは面食らったようで、目を見開く。だがそんな事をする時間は彼女にとって致命的であった。
その間に近くにある椅子の情報を次々に改竄。近くにあった椅子の四台全てが同じ形の槍へと変化を遂げる。
計五本の槍を宙に浮かせ、朝倉涼子はにっこりと微笑んだ。

5 ◆MjBTB/MO3I:2009/02/20(金) 17:37:00 ID:BSwnWNBk0
以上、本スレ356の原文です。
スペースをお借りいたしました。

6人間臨終図巻 ◆F0cKheEiqE:2009/02/20(金) 22:45:08 ID:0/jagKdE0

(朧に小四郎、よりにもよってこの二人か・・・)
薬師寺天膳は名簿を見ながら軽く呻いた。

伊賀鍔隠れ衆の重鎮、薬師寺天膳は、
色白でのっぺりとした肌、切れ長の目をした、
女のように柔らかな線の見えるやや太りかげんの身体の男である。

年齢は三十前後であろうか、
髪は黒々とした総髪だが、
その反面肌にはまるで艶が無く、唇も紫で、
ひどく老人めいた印象を人に与える。

兎に角、年齢がいまいち解らない不気味な雰囲気の男であった。

天膳がいまいるのは、A-3地区の森の何処かだが、
周りが背の高い木ばかりで、
天膳にはこの地図の北西部にいることぐらいしか解らない。

ただ、木々から覗く星と月の動きから方位と時刻だけは知ることが出来た。

天膳は、良く効く忍者の夜目で、
明かりも無い闇の中で名簿に眼を戻した。

名簿にある名前は五十。
記されて無い名前がさらに十あると言う。

この中で見知った名前は三つ。
甲賀弦之介、朧、筑摩小四郎の三人。

内、朧と小四郎は同じ鍔隠れ衆の者、言わば味方なのだが…

(朧は足手まとい、小四郎は手負い、か。
まあ小四郎は、あれはあれで役に立つから良いとして朧は…)

「破幻の瞳」が開いていたならばまだ役にも立ちようが、
「七夜盲の秘薬」によりその瞳すら塞がれいる今となっては…

(あの狐面、生き残れるのは一人だけなどとぬかしておったが…
真実ならば朧一人を何とか生き残らせねばならぬと言う事か)

正直、この主を主と思わぬ謀反人は、
自分の命を捨ててまで朧を救おうなどと言う気持はさらさら無い。

7人間臨終図巻 ◆F0cKheEiqE:2009/02/20(金) 22:45:54 ID:0/jagKdE0

(だが、あの小娘自体がどうなろうが知ったことではないが、
あ奴の持つ血、お幻の血統は何としても守らねばならぬからなぁ)

朧自体に恋着は無いとは言わぬが、命をかけるほどの女とは思わない。
が、伊賀の旗印として、
またいずれ自分がなるであろう鍔隠れの頭領の地位を正統化する為の錦の御旗として、
朧には生き残ってもらった方が彼には非常に都合がいいのだ。

(暫くは朧、小四郎を連れて何とかここから抜け出せる方法を探るのも手か?
兎に角、まずはこの山を抜けねばな)

名簿を鞄にしまい、支給品の刀を腰に差す。
「九字兼定」と言う銘の業物らしいが、
なるほど、確かにいい刀である。

(やれやれ、面倒な姫君よ。とりあえずわしが行くまで生きておれば良いが…
まあ死んだら死んだ時であろう。小四郎は放っておいても問題あるまい。甲賀弦之介は…)

憎っくき甲賀の若き頭領。
八つ裂きにしても飽き足らぬ奴だが…

(奴もまた目は塞がれていたはず。
目の見えぬ「瞳術」使いなど塵芥に等しい。
放っておいても勝手に死ぬじゃろう。
出来ればわしの手で朧様の眼前で弄り殺しにしてやりたかったが…
ちと、そんな余裕はないわい)

そんな事を考えつつ、山を降りるべく歩き出したその時であった。
天膳の優れた感覚が、背後に出現した気配を捉えた。

「・・・・・・誰じゃ?何か用か?」
兼定の鯉口を切りながら背後の気配に声を掛けた。

「ゆっくりと両手を挙げてから振り返ってもらえますか?」
「いやじゃ・・・・と、言うたら?」
「おかしな動きをしたら撃ちますよ」

若い声だ。少年の様にも聞こえるが、
恐らく少女であろうことを天膳は見抜いた。

「撃つ、と言うたが、と言う事は手に持っているのは短筒か何かか?
その割には火縄の臭いがせんようだが?」
「“タンヅツ”?・・・・もしかしてハンドパースエイダーの事ですか?
だとすれば、これはやや古い回転式ですけど、
火縄なんて使うほど古臭いモノじゃありませんよ」
「何?“はんどぱーすえいだぁ”?」
(何を言っておるんじゃこいつは?ひょっとすると南蛮人か何かか?)

聞き慣れぬ単語に、頭に疑問符を浮かべる天膳だっが、

(ええい、まだるっこしい!気配からすればさして体も大きくない小娘、
なんぞ恐れることがある。力押しでよかろう。
人を脅したお礼に、体に色々聞いてくれよう)

少し嫌な予感がしないでも無かったが、背後にいるのが小娘だと解って、
天膳は相手を侮った。
銃器に関する知識が、十七世紀当時のものしかない事が、
それを後押していた。

8人間臨終図巻 ◆F0cKheEiqE:2009/02/20(金) 22:46:35 ID:0/jagKdE0
故に抜き打ちに振り返りながら相手の懐に飛び込まんと…
「小娘ぇ!なめるな!」
独楽の如く身体を捻らせた。
それ自体は恐るべき速さであったが、

ぱん

豆を炒る様な乾いた音が響き、

「ぬっ?!」
「警告はしましたよ」

天膳は胸を撃ち抜かれ、
大の字を描きながら地面に仰向けに倒れ込んだ。

忍者の反応速度を上回る見事な射撃。
銃弾は一発で天膳の心臓を貫いていた。



天膳が確かに死んだ事を確認すると、
死体から刀を剥ぎとり、自分の腰のベルトに差した。

余り背の高くない小柄な少女である。
年のころは十の半ばを越えたぐらいか?
顔立ちは可愛らしいが、髪を短く切っている事もあって、
一見少年のように見えない事も無い。

ゴーグルを付けた耳当て付きの帽子に、
茶色のくすんだコートを着ている。
その下に動きやすそうな黒い装束を着ている。
良く見ないと解らないが、胸に膨らみが微かだが確かにある。

ベルトにはホルスターが付けられ、
中には天膳を射殺したリボルバーが入っていた。

エンフィールドNo2。
かつて英国陸軍で使用されていたリボルバーの一種で、
三八口経、装弾数6の中折れ式である。

この殺し合いに参加している
トラヴァス少佐の故国(本当は違うが)である
スー・ベー・イル軍制式採用銃に形が似ているが、
単なる偶然だろう。

(ひょっとするとパースエイダーの無い国のひとだったのかもしれない)
少女、旅人キノは天膳の死体を見ながらそんな事を考えた。

9人間臨終図巻 ◆F0cKheEiqE:2009/02/20(金) 22:47:06 ID:0/jagKdE0

見なれない格好だが、彼の国の民族衣装であろうか?

色々な国を旅してきたが、
中にはほとんど原始時代と同じような生活を送る人々もいなかったわけでは無い。
そういう国の出身者だったのかもしれない。

「エルメスもこっちにいるのかな」
天膳の鞄の中身を、自身の鞄に移し換えながら、
良く喋る旅の相棒を思い浮かべた。
が、考えたのも一瞬、
目と思考は天膳の遺品に戻っている。

どうやら武器の支給品はこの刀だけらしい。
本当はナイフの方が使いなれているからそっちの方が良かったが、
まあ贅沢は言えまい。

(弾の数もそんなに多くないし、パースエイダーが欲しかったんだけど)
鞄の中身を移し替え終わると、
天膳の死体に一瞥もせずにキノはその場所から立ち去った。

山族に襲われたり、
亡国のかつての英雄達の部隊に襲われたりと、
旅の途中の障害は多い。

この殺し合いも、そんな障害の一つなのだろう。

最後の一人になるか、
あるいは逃げ出す方法を見つけるのか、
何れにせよ兎に角生き残って。
またいつもの旅路に戻るだけである。

10人間臨終図巻 ◆F0cKheEiqE:2009/02/20(金) 22:47:52 ID:0/jagKdE0

彼女に殺人嗜好はないが、
殺人を忌避する事も無い。

「国」と「国」の間は基本的に無法地帯だ、
躊躇っていれば死ぬのは自分である。
他人を躊躇い無く殺すのは、言わば生活の知恵である。

さっきの男も妙な真似をしなければ、
べつに殺すほどの事でもなかったのだ。
まあ、殺されたのは、不用意に動いたあの男が悪いのだ。

これからもそうやってきたし、
きっとこれからも死ぬまでそうやって生きて行くのだろう。

ふと、名簿に「師匠」と言う文字があったのを思い出したが、
「でも、あの人、「師匠」は名前じゃないって言ってたし、
たぶん別の誰かなんだろうなぁ…」

と、一人の老婆を思い浮かべると、
すぐに脳裏から消して、キノは歩き始めた。

ちなみに、かつてコロシアムで戦い、
その父上を盛大にぶっ殺した犬を連れた刀使いの事は、
キノは完全に忘れていた。

【薬師寺天膳@甲賀忍法帖 死亡】

【A-3/森の何処か /一日目・深夜】

【キノ@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:エンフィールドNo2(5/6)@現実、九字兼定@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式×2
[思考・状況]
基本:生き残る 。手段は問わない。
1:エルメスの奴、一応探してあげようかな?
[備考]
※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
※「師匠」の事を、自分の「師匠」の事だとは思っていません。
※シズの事は覚えていません。

※キノがどちらに向かったかは、次の書き手にお任せします。

11人間臨終図巻 ◆F0cKheEiqE:2009/02/20(金) 22:48:34 ID:0/jagKdE0





――――――キノが森から去ってから、一時間あまりして、
ただ死と闇の静寂ばかり残っているはずの森の中で、かすかな物音がした。

虫であろうか、否。
獣であろうか、否。
風であろうか、否。

確かにそれは、

「あァあ!」

眠りから覚めた人間の、あくびの様な声であった。

ぬっと、突如闇の中に出現した影がある。
それは、誰であろう。

それは、ほんの一時間前、キノが確かに射殺したはずの
薬師寺天膳ではなかったか!

天膳は、頭を二、三度振ると、ニヤッと笑った。

「いあや、油断した。見事に『殺されてしもうた』」

なんたる奇跡、天膳は死の淵から蘇ったのである。

しかし、これはどういう現象か。
実に不可思議ではあるが、有り得ぬことでもないのだ。

蟹の鋏はもがれてもまた生じ、蜥蜴の尾はきられてもまたはえる。
ミミズは両断されてもふたたび原形に復帰し、
ヒドラは細断されても、その断片の一つずつがそれぞれ一匹のヒドラになる――――

下等動物にはしばしばみられるこの再生現象は、人間にも部分的にはみられる。
表皮、毛髪、子宮、腸、その他の粘膜、血球などがそうで、
とくに胎児時代はきわめて強い再生力をもっている。

薬師寺天膳は、下等動物の生命力をもっているのか、
それとも胎芽をなお肉のなかに保っているのか…
彼は、再生力のまったくないといわれる心筋や神経細胞ですら、
見事再生させ復活したのである。

彼を完全にあの世に送るには、首を刎ねるか、
重火器などを用いて頭部を完全に吹き飛ばすか、
爆薬で粉微塵にしてしまうか――――
いずれの方法を採るにせよ、彼の肉体を壊滅的なまでに破壊しなくてならないだろう。

「あの小娘め、俺の物を全部持って行きおったな…次あったらタダでおかぬ」

天膳は憎々しげに呟いた。

12人間臨終図巻 ◆F0cKheEiqE:2009/02/20(金) 22:49:10 ID:0/jagKdE0

【薬師寺天膳@甲賀忍法帖 蘇生確認】

【A-3/森の何処か /一日目・深夜(一時間経過)】

【薬師寺天膳@甲賀忍法帖】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:生き残りを優先するが、出来るなら朧を助けて脱出したい。
1:朧を探しつつ、情報収集。
2:あの小娘、今度会ったら!
[備考]
※キノの名前を知りません。



以上です

13名無しさん:2009/02/20(金) 23:25:47 ID:6vpT0ojA0
>ただ、木々から覗く星と月の動きから方位と時刻だけは知ることが出来た。
これはロワの会場が「地球の日本」にあることに限定されますし、ついでに季節も限られてきます。
寧ろ、星や月の位置は出鱈目なほうがロワに関して言えば自然かも知れません。

あと恐らく一番まずいのは、「蘇生」ですね。
過去にも強靭な生命力や回復能力を持っていたり、首をはねても心臓を破壊しないと殺せなかったり
といったキャラがロワに出てきたことはありますが、そういう能力には大抵原作に比べて重い制限が課せられます。

平たく言えば、「死亡確認」→「蘇生」→「健康」は余りにも強力すぎるということです。
よって
・蘇生に時間がかかる
・蘇生に回数制限がある
などの制限が必要ではないかと思います。

14名無しさん:2009/02/20(金) 23:34:04 ID:6vpT0ojA0
失礼。見落としていました。
蘇生に一時間かかっているなら、私としては問題ないと思います。
尤も先に述べたように「殺し合い」において「蘇生」はかなり強力な能力なので、
気軽に使えるものではないということを知っておいてください。

15 ◆F0cKheEiqE:2009/02/21(土) 00:07:21 ID:4suimwI60
>>13>>14

指摘感謝します。

ただ、「蘇生」に関しては原作における彼の持ち味なんです。

甲賀忍法帖は10対10の忍者のチームバトルなのですが、
各々の忍者が大概一つの「忍法」を持っています。
これはジョジョなどにおけるスタンドの様なもので、
例えば、
・食道に30センチの刃物を隠し、それを凄まじいスピードで吐き出す。
・塩に溶けて縮む。
・全身の体毛を自在に動かす。
・全身の色を変えて周囲の景色に溶け込む。
などです。
この薬師寺天膳の忍法が「蘇生」なんです。
甲賀忍法帖に登場する「忍法」は「初見殺し」が多いのですが、
彼の必勝パターンは
「敵の忍法を食らう」→「死亡」→「蘇生」→「再対峙」→「同じは二度食わぬ」
で、逆に言うと天膳は「死ぬことで初めて役に立つ」キャラなのです。

ちなみに原作だと5回死亡、蘇生し、6回目でやっと地獄に落ちました。

16 ◆F0cKheEiqE:2009/02/21(土) 00:12:51 ID:4suimwI60
追記

でも「蘇生能力」に漫心した挙句あっさり死ぬのも彼らしいと言えば彼らしいか。
原作でも5回ともさんざん油断した挙句殺されてましたし。

17二人の選択 修正案 ◆oUz4tXTlQc:2009/02/21(土) 23:01:33 ID:G9E/hwzM0
実の所俺はクルツが最後に見せた銃がほぼ間違いなくフェイクであることも見破っていた。
あいつの殺気は本物だったし、銃器が支給されていたのなら最初に使わない理由は全く無い。
それでも敢えてあいつの交渉に乗った理由は一つ。
少しでも俺の生存確率を上げるためだ。
生き残るのはただ一人というルールがある以上、複数で行動している人間はそれだけで殺し合いに乗っていると判断されにくい。
それならば恐らくたいした武器を持っていないクルツと戦うよりは仲間にしておいたほうが得策、というわけだ。
とはいえ俺とクルツの二人ではどうしても玄人臭さがにじみ出てしまい怪しまれてしまう可能性も高い。
(ま、そこらへんは早いとこ可愛い女の子が仲間になってくれることを祈るしかないにゃー)
あるいはそれが御坂美琴のような能力と容姿を兼ね備えた存在ならば申し分ないが、現状の戦力では超電磁砲が殺し合いに乗っていて問答無用でこちらに襲い掛かってきた場合に対抗するすべが無い。
クルツを盾に逃げるにしてもおそらく時間稼ぎにもならないだろうし、超電磁磁砲単独で行動していた場合にはこちらからの接触は出来るだけ避けておいたほうが賢明だろう。
土御門の中で一番の優先事項は己の生存、その為に他人を使い捨てることに躊躇は無い。
恐らくは相方のクルツも同じ考えだろう。
この殺し合いで一番重要な事は生き残ることだ。
正直な所この状況で主催者に歯向かった所で勝ち目は全く無い、というよりもそもそも反抗する手段の見当がつかない。
確かに禁書目録の知識があればこの状況についての何らかの仮説は立てられるかも知れない。
主催者がどんな異能の力を用いた所でそれが異能の力である限りかみやんの右手があれば打ち消すことは可能だろう。
だが、その二人をこの殺し合いの場に連れてきたのもまたあの狐面の男とその背後にいる黒幕なのだ。
もしその二人にこの殺し合いを打破しうる要素があるとして、そんな二人をわざわざ連れて来るだろうか?
答えはNOだ。
少なくともかみやんや禁書目録単体では主催者に対抗しうる可能性は皆無だろう。
当面のところは主催を打ち破る、などといった発想はただの幻想と捉えておく方が賢明だろう。
かといって最後の一人になれば無事に帰れるというのも眉唾物だ。
結局のところ現状で取れる選択肢はとりあえず生き残る、というなんとも消極的なものしか残らない。
元より盤面の駒がどのように動いたところで盤面の外に居る主催者に影響を及ぼすことは不可能に近い。
可能性があるとすれば、主催者と同じく盤面の外から居るものによる救援。
上条当麻が巻き込まれている以上アレイスターも何らかの動きを見せるだろうし、禁書目録がここに居る以上イギリス清教が傍観しているわけも無い。
仮に学園都市とイギリス清教が同盟を組んでこの殺し合いを仕組んだのだとしても、こんどはローマ正教が黙っていないだろう。
仮にそれら全てが協力して居るとしても、一枚岩の集団にはなり得ない。
それぞれの思惑が絡み合い不和が発生することはほぼ間違いないだろう。
主催者に対して唯一勝ち目が発生するとしたらそういった盤面の外の出来事が盤面の中に影響を及ぼした瞬間。
だからこそ今は何よりも保身。
どんな手段を使ってでも生き残り盤面に変化が起きるのを待つしかない。
それでも盤面に何ら変化が起こらなかった場合、その時は。
(嘘つき村の住人、背中刺す刃こと土御門さんの本領を発揮するしかないかもにゃー)
学園都市でも最高ランクの能力者である御坂美琴が参戦させられていることからも、この殺し合いの場には自分などより遥かに強い能力者が何人も居ることだろう。
だがどんな強者も背中からの一撃には脆いもの、勝敗を決める要素は能力の強弱だけではない。

「どんな手段を使っても生き残らなきゃなんないってのが帰りを待つ義妹をもつ義兄ちゃんのつらいところだにゃー」
「あ?」

突然の独り言に対してクルツが不思議そうな顔をしたが無視しておく。
そう、最悪かみやんやステイルを殺してでも生き残らなければならないってのが辛い所だ。

【D-5 1日目深夜】
【土御門元春 @とある魔術の禁書目録】
【状態】額が少し痛い
【装備】
【道具】デイパック、不明支給品1〜3
【思考】1.生き残りを優先する。
    2.宗介、かなめ、テッサ、当麻、インデックス、ステイルとの合流を目指す。
    3.可愛いい女の子か使える人間と会えば仲間に引き入れる(ただし御坂美琴に関しては単独行動していたら接触しない)
    4.その他の人間と会えば殺して装備を奪う
    5.最悪最後の一人になるのを目指すことも考慮しておく。
【備考】クルツと情報交換を行い“フルメタル・パニック!”の世界についてある程度情報を得ました。

18 ◆h3Q.DfHKtQ:2009/02/25(水) 16:19:49 ID:0jrLLSzs0
修正版を投下します。

19女怪 ◆h3Q.DfHKtQ:2009/02/25(水) 16:20:24 ID:0jrLLSzs0

彼女、黒桐鮮花がこの殺し合いに乗ったのは、
非常に意外性を帯びていながら、同時に限りなく必然であった。

彼女は非常に負けず嫌いだ。
何せ、明らかに堅気で無い恋敵に対抗するために、
魔術という闇の世界に自ら飛びん込んでいくぐらいだ。
だから、普段の彼女ならば、毅然と真っ向から立ち向かっただろう。
まだ半年とはいえ、確かに境界の向こう側の世界に足を踏み入れた彼女ですら、
「異常」と断じる事が出来る悪趣味な遊戯、正体不明の「人類最悪」…
だがそんな「異常」も、彼女を止める足枷にはならなかったはずだ。
彼女はそう言う人間なのだ。

故に、本来、彼女はこの殺し合いに乗る筈など無かったのだ。

もし名簿にその名前が無かったなら。

黒桐幹也

彼のたった一人の、唯一無二の愛しい兄の名前。
自分の全てを投げ打っても、救わねばならない人。

その名前を見た瞬間、彼女は殺し合いに乗る事を決意した。
それは彼女にとっての必然だった。

一瞬、彼女の脳裏に過った一つの人影がある。
男みたいな恰好をした、いけすかない泥棒猫の事。
一瞬、全身に煮えたぎった鉛を流し込まれるような悪寒を、鮮花は確かに感じた。

眼をとじ、頭を振って、無理やりその女の影を脳裏より追放する。
『あの女の事は、会ってから考えればいい』、そう彼女は自分に言い聞かせた。

何故、あの女の事を気にかけるのか、鮮花自身にも判然としなかった。



ここに黒桐鮮花、第一の不幸がある。
もし彼女が殺し合いに乗っていなかったなら、
ひょっとすると彼女の名前がこの忌まわしき選手名簿から、
永遠に抹殺される事だけは避け得たかもしれなかった。



彼女が今いる場所は、地図の上では「E-5」と呼ばれる市街地のど真ん中である。
すぐ東側には大きな川が流れ、対岸には月を貫く魔天楼が屹立している。

「AzoLto―」
彼女がそう呟くと、右手に持った紙片はズブズブを煙をあげながらただの灰になった。

長い髪、引き締まった知性を感じさせる美貌の、
修道服のような礼園女学院の制服に身を包み、
両手に茶色の革手袋―火蜥蜴の皮手袋―をはめた鮮花は、
不敵に微笑んだ。

支給品とやら、コレだったのは幸運だろう。
魔術も問題なく作動している。

この時彼女は、彼女すぐ背後、路地裏へと続く、
ビルとビルの合間を縫うように走る真っ暗な小道から、一つの影が現れたのに、
その瞬間は気が付かなかった。

20女怪 ◆h3Q.DfHKtQ:2009/02/25(水) 16:22:06 ID:0jrLLSzs0



これが、彼女の第二の不幸。
彼女の武器ともいえる、火蜥蜴の皮手袋が、すんなりと彼女に支給されてしまった事。
そして、彼女自慢の魔術が、何の問題も無く作用してしまった事。

もし、支給品が別の、もっと役に立たない物だったなら、
あるいは魔術の作動に、なんらかの異常があったなら、
彼女はもっと用心深く動けていたに違いないのだ。

二つの幸運が、彼女の心に僅かながらも余裕を与えてしまった。
その事が、刹那の、しかし絶対的な隙を産んでしまったのだ。



不意に、全身の毛が逆立つような悪寒を背骨に覚えて、
鮮花はハッとして振り返った。
果たして、いつの間に出現したのか、10メートルほど後方に、
一人の女が立っている。

髪を乱し、小袖を着た、自分とそう年齢が変わらないであろう少女。
顔のつくり自体は、非常に可憐な印象を相手に与える物であったが、

右手には白刃を下げ、その双眸には異様なまでの殺気が籠っているのを、
鮮花は瞬時に認識した。

即座に、鮮花の体は弾丸の如く駆けだしていた。
相手もこちらに向けて駆けだしている。

先に仕掛けて来たのは相手。
右手の秋水は、逆袈裟に、鮮花へと向けて放たれる。

これを、体を鮮花から見て右前方に背を屈めるようにして回避する。
そしてすれ違いざまに、左手でボディーブローを叩きこむ!

「かはっ!?」
白椿を散らしながら、目をむき、体をくの字に曲げる相手。
咄嗟に体を逃がそうとするが、逃がさない!
左手は即座に相手の胸倉を掴む。

「終りね」
鮮花は激痛の為か焦点のぶれる瞳でこちらを見つめる少女に、
冷笑を送りながら、必殺の言霊を紡いだ。

「AzoLto−!」



ここに彼女第三の不幸がある。
この時、鮮花は、魔術を使わず体術だけで、彼女を屠るべきだった。
そうすればこの華奢な少女は、鮮花の豪快な体術により難無く地に伏していただろう。

鮮花にとって、この少女に対峙した時、
真に認識すべきだったモノは、右手の白刃でも、その目に籠った殺気でもなかった。
殺気が籠ったその双眸自体を、闇夜にあってなお、炯々と蒼く輝くその瞳自体を、
さらに言えば、その両眼から迸る恐るべき太陽風を!

21女怪 ◆h3Q.DfHKtQ:2009/02/25(水) 16:22:39 ID:0jrLLSzs0



「なっ!?」
魔術は発動しなかった。
つい先ほど、確かに作動した必殺の炎は、今や火花すら上がらなかったのだ。

ここで彼女が驚愕し、一瞬動きを止めてしまった事を誰が責められよう。
しかし、それは、相手に唯一無二の反撃の機会を与える事になってしまったのだ!

少女はキッと双眸に殺意を再燃させると、
右手にかろうじてまだ握っていた刀を、
左脇より斜めに突き刺したのだ!

「がっ!?」
今度呻いたの鮮花の方であった。
綺麗に彼女の体を刺し貫いた刃は、肋骨の隙間を通り、
肺を貫通し、切っ先は右肩より飛びだしていた。

鮮花の穢れ無き美しい肢体を灼き金が貫いた。

「・・・・・ッ!」
口から血泡を吐き、声にならない咆哮を挙げた鮮花だったが、
最後の一撃とばかり、相手の鳩尾に拳打を放った。

今度は声も無く、相手は人形の如く吹き飛んだ。

鮮花はそれでも追い討ちをかけるべく、
さらに二、三歩進んだが、それが限界だった。

「・・・・・・」
天を仰ぎ、声無き声で何か呟くと、
どうと前のめりに倒れ臥した。

そして、そのまま動かなくなった。



「魔術」とは、「魔ノ術」である。
「魔」とは「闇」の物である。
「神秘」の闇に覆われている限り、魔術は術として意味をなす。

そして、如何なる闇であろうとも、
太陽の光には雲散霧消する。

魔術とはフィルムに印された陰画の如きもの。
神秘の闇をはがし、白日に晒せばその力を失う。
故にそれが如何なる妙技であろうとも、それが闇の世界の技である限り、
この人の形をした太陽を前にすれば、紙の如く破れるほかない。

黒桐鮮花にとっての最大の不幸、それは、
この太陽のごとき伊賀の聖女が、
愛するただ一人以外を悉く焼き尽くす黒い太陽、
己が傷つくことも辞さず、遮二無二に相手を屠る女怪に変貌していたこと。

22女怪 ◆h3Q.DfHKtQ:2009/02/25(水) 16:23:19 ID:0jrLLSzs0



伊賀鍔隠れの姫君、朧は血へどを吐きながらようやく立ち上がった。

よろよろと鮮花の死体に近づくと、
地に倒れ伏した少女より苦心して血刀を引き抜いた。
刀は血にべっとり濡れ、所々刃こぼれしていた。

アスファルトの上に血の池を作りながら、
それ自ら沈む少女の死体へは、もはや一顧だにしない。

朧は本来、深い影を落とす睫毛、愛くるしい小鼻、やわらかな薔薇の唇、
白くくくれたあごの世にも稀な美少女であり、
幼女の如き天真爛漫さを持った鍔隠れの麗しき姫君であった。

しかし、今の朧にその面影は無い。

髪留めより解けた美しい髪は、風にばさと棚引き、
顔面は蒼白で頬は心なしかこけて見えさえする。
いつ切ったのか、唇が切れて、口元は血まみれだ。
それでいて、目にだけは異様な精気があり、
その恐るべき蒼い光の中に、名状しがたい妄執が渦を巻いている。

右手に提げた忍者刀には血がべったりと付き、
それは彼女の身にまとった振袖にも同様であった。

(私が…)
朧は心の中で独白する。

(私がちゃんと死んだのに…)
思い起こすは、慶長十九年五月七日の夕暮れ。

(弦之介さま…)
思い浮かべるは、自分の命と引き換えにした愛しの甲賀の主の姿。

(あなたを今度こそ…)
助けなくてはならない。あの愛おしい人の命だけは。
そのためには、わが身を八つ裂きにしてもいい。
他の誰もを犠牲にしてでも、彼だけは助けなければいけない。

(そう、私は愛する伊賀者を手にかけることだって構わない)
天膳、小四郎…
確かに死んだ二人の伊賀者。
今の私は彼らだって殺せる。

(そして最後は…)
鮮花に負わせらたダメージは決して小さくない。
ボディーブローは内臓にダメージを与え、肋骨にはヒビが入っている。
しかし朧は、その激痛を感じないのか、
フラフラと夢遊病者の様に、化け物の様なビルの立ち並ぶ、
夜の街へと一人歩きだす。

(あの人に斬られるのだ…)
愛しい人の手にかかる事を夢想するこの堕ちた伊賀の聖女の微笑みは、
ある種の妖艶な淫靡さすら感じさせた。

彼女は知らない。
彼女が全てを犠牲にしてまで生かそうとする愛しの若君は、
すでに冷たい躯になっているという事を。

彼女はまだ知らない。

23女怪 ◆h3Q.DfHKtQ:2009/02/25(水) 16:24:02 ID:0jrLLSzs0

【黒桐鮮花@空の境界 死亡】

【E-5/川の西岸/一日目・深夜】

【朧@甲賀忍法帖】
[状態]:内臓にダメージ、肋骨にヒビ、精神錯乱?
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:弦之介以外皆殺し
1:獲物を探す。
[備考]
※死亡後からの参戦

※E-5の川の左岸の何処かに、黒桐鮮花のデイパックが放置されています。

【破幻の瞳】
見るだけで如何なる忍法、妖術の効果をも破る瞳。
他人に化ける忍者は正体を暴から、不死の忍者はその再生力を失う。
如何なる忍法をも修めることが出来なかった朧唯一の武器。
原作においては、弦之介の瞳術を真っ向から打ち破れる唯一の存在であると言われる。
「忍法」ではなく、ある種の特異体質。
完全に無意識に発動しており、敵味方関係なく、見るだけで無差別に忍法を無効化する。
早い話が、効果範囲がべらぼうに広い反面、対象を限定できない「幻想殺し」。


以上修正版でした。

24 ◆EA1tgeYbP.:2009/02/28(土) 19:15:20 ID:v5F3VIus0
現在本スレがああいうふうになっているのでとりあえずこちらに投下しておきます

25魔女狩りの王 ◆EA1tgeYbP.:2009/02/28(土) 19:16:26 ID:v5F3VIus0
 禁書目録ことインデックス、上条当麻、そして土御門元春。
 以上が参加者名簿に載っている彼、ステイル=マグヌスの知人達だった。

「……さて、どうするかな」
 何気なく呟いてしまった言葉に思わず苦笑する。

 ステイル=マグヌスはイギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会』に所属する魔術師であり、そうである前に一人の少女、インデックスに全てをささげた身でもある。本来、いや少し前の彼ならばこの状況下においても自らの行動をどうしようか、などと迷うことはなかっただろう。彼の魔法名である『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』の通りこの場にいる者全てを自らの魔術をもって焼き殺し、彼女に勝利をささげ自らはその命を絶つ。
 それだけの行為を成し遂げるだけの力を彼は身につけたのだから。
 では、どうして今彼は迷っているのか。

「……どうにも毒されているね、僕も」
 無意識に懐を探り、身につけていたタバコさえ没収されていたことに苛立ちつつも、「彼」のことを考える。今現在のインデックスのパートナー。ステイル自身は二度と立つことができない場所にこれからずっと立ち続けるであろう少年上条当麻。
 
 仮に先の考えのままインデックス一人を生き残らせたところでその途中で彼が失われたことをインデックスが知ればどうなるか。そのときの彼女の心境など二重の意味で考えたくはない。
 ……そんな考えが浮かんでくること自体、とある少年と関わって以来の「毒されている」ということに他ならないのだが。

 ――では、ステイル=マグヌスとしてはこの場所においていかなる行動をとるべきなのだろうか。
 彼は考える。
 先の皆殺し案は確かに乱暴な手段ではあるが同時にこれ以上ないほどにこの舞台のルールに則したベストとはいかなくともベターな案であることも事実だ。その案が今のところは使用できない以上、ステイルはどのようにするのがベストなのだろうか?

 選択肢その一、今すぐにこの舞台でインデックスを探し出し、守る。

(……論外だな)
 この案を彼は即座に切って捨てる。ただでさえステイルは若さに似合わぬ強大な魔術を身につけることと引き換えにして自身から戦闘のプロとは思えぬほどに体力・格闘能力を失っている。
 それに引き換えインデックスの逃走技術は極めて高い。

26魔女狩りの王 ◆EA1tgeYbP.:2009/02/28(土) 19:17:08 ID:v5F3VIus0
 一切の記憶を無くした状況下にあっても彼や神裂火織といったネセサリウスでも屈指の使い手たちの追撃を数ヶ月にわたって逃れつづけたという実績がある。
 仮に彼がインデックスの姿を探したこの舞台中を追いかけたところで、彼女からこちらに接触してくれる気になるまで彼女に会うことは敵うまい。

 選択肢そのニ、この舞台から脱出しようとする集団を作る、もしくはそのような集団にもぐりこみ数の力を持ってインデックスとの接触を図る。

(……愚策にも程がある)
 この案にも価値はない。
 確かに先の案に比べると、この案はインデックスと合流できる可能性は高い。しかし、それはあくまでも集めたメンバー全員が純粋に脱出を目指す場合の話だ。一人でも集団にまぎれて優勝を目指す暗殺者が混じってしまえばメンバー間の疑心暗鬼によって集団は崩壊し、残された結果は危険人物に彼女の情報が渡ってしまうというだけとなる。

 選択肢その三、ひとまず彼女のそばで彼女の身を守ることを諦める。

(……やはり腹は立つけど現状ではこれがベストなのだろうね)
 ステイルは自嘲する。そう、今となっては彼女のすぐそばで彼女を守るナイトの役目を請け負っていいのはただ一人。彼にはできなかった本当の意味で彼女を守りきった一人の少年だけの栄誉だ。
 ステイルに許されるのは彼女に害が降りかからないように、彼女の目に止まる前に彼女に害成す全てを殺す。
 そう考えるならばと、ステイルは彼に支給された「武器」を見た。そう、好みに彼女の敵を全てひきつけることを目的とするのならばこれは大当たりの分類に入るだろう。

 それは武器というにはあまりに異質。
 そもそもが人に害成す為の使い方なぞ想定されていない。

 あまりに日常的なその「武器」の名前は拡声機という。

「……これを使えば」
 確実に彼の居場所を他の参加者に知らせることができるし、積極的に優勝を狙うたぐいの危険な参加者を集めることにもなるだろう。
「それが、どうした」
 迷うことすらない、なぜなら彼は全てを彼女にささげるとそう決めたのだから。
 そして彼は拡声機をもって会場へと語りかける。

27魔女狩りの王 ◆EA1tgeYbP.:2009/02/28(土) 19:17:39 ID:v5F3VIus0

『――この舞台に呼ばれた者達よ、聞こえるか? 我が名は『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』とでも記憶しておけ。
 この声が聞こえた者もそうでない者も関係無しに僕は貴様達に対して宣言する。貴様達のような愚かな者たちにその名を聞かせるのも憚られる為に、あえて名前までは伝えることはしないが、この僕が命に代えても守り抜くべき存在もこの舞台へと呼ばれている。
 よって僕はここに宣言する! 万が一この先彼女の名前が呼ばれるようなことがあれば僕は貴様達を一人残らず地獄へと叩き落そうと!
 脱出を願う多少は賢明なる者達よ、貴様達の奮闘を僕は期待しよう。貴様達が一刻も早くそして一人でも多くこの舞台から脱出できる方法を見つけ出せることを。
 タイムリミットはかの存在の命が尽きるまで、貴様達が戦う意思があろうとなかろうと関係ない。そのときがきたのなら僕は貴様達が無抵抗であろうがなかろうが、区別無しに殺す。
 そしてあの男程度の口車に乗せられて殺し合いを肯定してしまった愚劣極まりない矮小な微生物にも劣る存在たちよ。正直この瞬間にも貴様達と同じ空気を吸っていると思うことすら耐えがたい。
 すぐにここに来い! 僕のこの言葉が身の程知らずな大言壮語ではないことを、貴様達の苦痛と絶叫と死をもって証明してやろう。
 僕の所在地はD-4のホールだ。
 繰り返…いや、貴様達のような愚か者は先の言葉全ては覚えきれないか。簡潔に伝えてやろう。優勝したいと願うような愚か者はエリアD-4ホールへ来て己が愚劣さをあの世で後悔せよ!』



 ◇ ◇ ◇

28魔女狩りの王 ◆EA1tgeYbP.:2009/02/28(土) 19:18:25 ID:v5F3VIus0


 拡声器をおろしてステイルはふう、と息をついた。
 これを聞いた彼の知人達がどう動くであろうか考える。

 ――インデックスにとって今の自分はあくまでも「上条当麻と一緒に動いたことがある魔術師」でしかない。あの放送をする前ならともかく、今となっては上条当麻と合流でもしない限りはこちらに近付こうとさえ思わないだろう。それでいい、と彼は思う。
 では上条当麻はどうだろう。あの少年がゲームに乗るところなどステイルには想像さえできない。まあ、もし仮に万が一そのような事態が起きているとするならば。

(遠慮なく、いつもの君のようにその間違った考えは叩き直させてもらおうじゃないか。まあ、僕は拳ではなく魔術を使わしてもらうがね)
 こちらの暴挙を止めるためにここへ来るかもしれない少年のことは草々に頭から追い出す。万が一インデックスよりこちらを優先させてここにくるようなら口先三寸、適当な理由をつけて追い払うつもりだ。彼には彼の仕事がある。
 そして最後の一人、土御門元春。
 荒事という点に関しては彼が最も信頼できるが、人格的には最も信用できない。そんな彼に対して、ステイルが下す判断とは……。

(ま、放っておけばいいさ)
 それだけであった。確かに人格的に裏切りさえ平気でおかすダブルスパイな彼は信頼するには値しない。だが、リアリストな彼の知性に関しては信用してもいい。
 今は学園都市、上条当麻の保護下に置かれているとはいえ、インデックスが魔術の世界における超VIPであることに変わりはない。
 それを傷つける心配は今のところしなくていい。ならば今のところは彼は泳がしておくが一番だ。

 ――そして最期に彼、ステイル=マグヌス自身の今後に関して。
 
「さて、来るならこいよ愚か者達」
 拡声器を使わずホールの中で一人きり彼は再び宣言する。
 ここホールに飛ばされたのはルーン魔術を扱うステイルにとっては最高の幸運だった。何せ筆記用具や印刷機具には事欠かない。
 すでにホール内のいたるところにはルーンを刻んだ紙があるいはばら撒かれ、あるいは貼られている。
 ここはすでに彼が裁きを下す処刑場。のこのこ飛び込んでくる愚か者達にはその愚かさに対する報いを与えよう。

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ(MTWOTFFTOIIGOIIOF)
それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり(IIBOLAIIAOE)
それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり(IIMHAIIBOD)
その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)
顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)」
 
 ――彼の宣言とともに魔女狩りの王が顕現する。

 紅蓮に燃える処刑場、王を従えし魔術師は愚かな獲物を待ち受ける。

29魔女狩りの王 ◆EA1tgeYbP.:2009/02/28(土) 19:19:09 ID:v5F3VIus0
【D-4/一日目・深夜】
【ステイル=マグヌス @とある魔術の禁書目録】
[状態] 健康
[装備] ルーンを刻んだ紙を多数。筆記具少々
[道具] デイパック、支給品一式(未確認ランダム支給品1個所持ただし武器ではない) 、拡声器
[思考・状況]
1、インデックスの名前が呼ばれるまでしばらく(崩壊が3、4エリアあたりに迫るくらい)待ちつづける。
2、インデックスがここに来たら即座に保護。上条当麻、土御門元春ならば適当に追い返す(怪我等で休息が必要ならそれくらいは許す)
3、その他の参加者が来たら問答無用で殺す。
4、万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。

【魔女狩りの王(イノケンティウス)】
魔術師ステイル=マグヌスが使用する魔術のひとつ、その意味は『必ず殺す』。
形状は炎の巨人を象る重油の人型で、
真紅に燃え盛る炎の中に重油のような黒くドロドロした人間のカタチをしたモノが芯になっている。
この炎の塊自体を攻撃しても意味は無く周囲に刻んであるルーンの刻印を消さない限り何度でも蘇る。
教皇級の魔術であり3000℃の炎の塊が突撃するその威力は凄まじいの一言。
強力さに相応の、結構な規模の下準備が必要であるのが欠点といえば欠点。

30 ◆h3Q.DfHKtQ:2009/03/02(月) 10:41:01 ID:bRXOBly.0
改稿版、投下します

31女怪(改稿版) ◆h3Q.DfHKtQ:2009/03/02(月) 10:41:58 ID:bRXOBly.0

地図上で「E-5」と呼称されるエリアには、
背の高いビルがまるで林の様に乱立している。

このエリアは、エリアの中央部を北から南へ流れる一本の川により
東西に分断されていたが、果たして、
東側のエリアには文字通り天を突く一つの摩天楼が立っていた。

この摩天楼の内部、地上から遠く離れた最上階の展望台に、
一人の少女が屹立している。

長い髪、引き締まった知性を感じさせる美貌の、
10代後半と思しき少女だ。
修道女を連想させる黒い装束に身を包んでいるが、
これは彼女が通う礼園女学院の制服である。

少女はしばらく思いつめた表情で、
窓から覗く下界の景色を眺めていたが、
不意に天上の月を見上げ、キッとそれを睨みつけると、
パッ、と翻るように踵を返す。

そして、この展望室の中央にあるエレベーターの前に立つと、
鉄の箱がここまで上がって来るまでの合間に、
右手に握っていた茶色の革手袋―火蜥蜴の革手袋―を、
キュッ、キュキュッと左右に着ける。

厚い鉄の扉が開き、鉄の密室の内部が晒される。
そこに確かに誰もいない事を確認するや否や、
彼女は即座に中へと入り込む。

鉄の扉は閉じられ、
彼女の背中はすぐに見えなくなった。



下へと移動する密室の中で少女、
黒桐鮮花は考える。

まずは守衛室に向かおう、と。
見たところ、このビルにはあちこちに監視カメラがあるが、
それを管理をしているのは恐らく守衛室だろう。
このビルに誰か他にいるのか、それとも自分一人だけなのか…
先ずそれを確認すればなるまい。

黒桐鮮花は考える。

支給品が火蜥蜴の革手袋だったのは幸運だった、と。
彼女の魔術の行使には、これは必要不可欠なのだ。
これから『戦場』に赴くのだから、
武器は使いなれた物の方がいいに決まってる。

『戦場』…
彼女はこの悪趣味なゲームの会場を戦場と呼んだが、
彼女にとってはここは戦場以外の何物でもない。
自分と『兄』以外、全て『敵』の戦場だ。

彼女は殺し合いに乗っていた。

32女怪(改稿版) ◆h3Q.DfHKtQ:2009/03/02(月) 10:42:43 ID:bRXOBly.0



彼女、黒桐鮮花がこの殺し合いに乗ったのは、
非常に意外性を帯びていながら、同時に限りなく必然であった。

彼女は非常に負けず嫌いだ。
何せ、明らかに堅気で無い恋敵に対抗するために、
魔術という闇の世界に自ら飛びん込んでいくぐらいだ。
だから、普段の彼女ならば、毅然と真っ向から立ち向かっただろう。
まだ半年とはいえ、確かに境界の向こう側の世界に足を踏み入れた彼女ですら、
「異常」と断じる事が出来る悪趣味な遊戯、正体不明の「人類最悪」…
だがそんな「異常」も、彼女を止める足枷にはならなかったはずだ。
彼女はそう言う人間なのだ。

故に、本来、彼女はこの殺し合いに乗る筈など無かったのだ。

もし名簿にその名前が無かったなら。

黒桐幹也

ああ、彼が、兄が、幹也が、
自分が殺し合いに乗ってしまったと知れば、
どれほど悲しむか。
それを考えると鮮花は心が潰れそうになる。

(でも…)
彼女は思うのだ。
(だって、しょうがないじゃない…)

彼のたった一人の、唯一無二の愛しい兄の名前。
自分の全てを投げ打っても、救わねばならない人。

その名前を見た瞬間、彼女は殺し合いに乗る事を決意した。
例え、鬼畜外道と蔑まれようとも、
それは彼女にとっての必然だった。

ふと、彼女の脳裏に過った一つの人影がある。
男みたいな恰好をした、いけすかない泥棒猫の事。
全身に煮えたぎった鉛を流し込まれるような悪寒を、鮮花は確かに感じた。

眼をとじ、頭を振って、無理やりその女の影を脳裏より追放する。
『あの女の事は、会ってから考えればいい』、そう彼女は自分に言い聞かせた。

何故、あの女の事を気にかけるのか、鮮花自身にも判然としなかった。

33女怪(改稿版) ◆h3Q.DfHKtQ:2009/03/02(月) 10:43:29 ID:bRXOBly.0


黒桐鮮花がエレベーターに乗り込んだのと、ちょうど同じ頃、
一人の少女が摩天楼の正面玄関から外へと踏み出した。

本来ならば、彼女が奇怪と気にかけるであろう自動ドアにも、
今の彼女は一顧だにしない。

鮮花とそう変わらない年齢だと思しき少女である。
殺気のこもった眼は闇夜にあって燦々と輝き、
右手に閃く白刃が月影を照らす。

伊賀鍔隠れ衆頭領、お幻が孫娘、朧である。

朧は本来、深い影を落とす睫毛、愛くるしい小鼻、やわらかな薔薇の唇、
白くくくれたあごの世にも稀な美少女であり、
幼女の如き天真爛漫さを持った鍔隠れの麗しき姫君であった。

しかし、今の朧にその面影は無い。

髪留めより解けた美しい髪は、風にばさと棚引き、
顔面は蒼白で頬は心なしかこけて見えさえする。
それでいて、目にだけは異様な精気があり、
その恐るべき蒼い光の中に、名状しがたい妄執が渦を巻いている。

(私が…)
朧は心の中で独白する。

(私がちゃんと死んだのに…)
思い起こすは、慶長十九年五月七日の夕暮れ。

(弦之介さま…)
思い浮かべるは、自分の命と引き換えにした愛しの甲賀の主の姿。

(あなたを今度こそ…)
助けなくてはならない。あの愛おしい人の命だけは。
そのためには、わが身を八つ裂きにしてもいい。
他の誰もを犠牲にしてでも、彼だけは助けなければいけない。

(そう、私は愛する伊賀者を手にかけることだって構わない)
天膳、小四郎…
確かに死んだ二人の伊賀者。
今の私は彼らだって殺せる。

朧は、フラフラと夢遊病者の様に、化け物の様なビルの立ち並ぶ、
夜の街へと一人歩きだす。

(あの人に斬られるのだ…)
愛しい人の手にかかる事を夢想するこの堕ちた伊賀の聖女の微笑みは、
ある種の妖艶な淫靡さすら感じさせた。

ああ、哀れなるかな伊賀の姫君。
汝の愛する若君は、既に冷たい躯になっていると言うのに。
彼女は知らず、愛しの男の為に、一人夜を行く。

34女怪(改稿版) ◆h3Q.DfHKtQ:2009/03/02(月) 10:44:28 ID:bRXOBly.0



月下の摩天楼に、二人の女殺人鬼が生まれた。

ああ、情深き女の執念よ。
気をつけよ世の男ども。
多殺一生是非も無し。
女は怖いぞ、女は怖いぞ…


【E-5/摩天楼のエレベーター内部/一日目・深夜】

【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也以外皆殺し
1:守衛室に向かう。
2:両儀式については会ってから考える。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦


【E-5/摩天楼のすぐ傍の道路/一日目・深夜】

【朧@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、精神錯乱?
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:弦之介以外皆殺し
1:獲物を探す。
[備考]
※死亡後からの参戦

【破幻の瞳】
見るだけで如何なる忍法、妖術の効果をも破る瞳。
他人に化ける忍者は正体を暴かれ、不死の忍者はその再生力を失う。
妖術、忍法の効果自体を打ち消すのではなく、
その発生源たる術者の体質を、常人と同じ位置に引きずり落とす能力。
如何なる忍法をも修めることが出来なかった朧唯一の武器。
原作においては、弦之介の瞳術を真っ向から打ち破れる唯一の存在であると言われる。
「忍法」ではなく、ある種の特異体質。
完全に無意識に発動しており、敵味方関係なく、見るだけで無差別に忍法を無効化する。

35女怪(改稿版) ◆h3Q.DfHKtQ:2009/03/02(月) 10:44:59 ID:bRXOBly.0
投下終了

36 ◆hwBWaEuSDo:2009/03/08(日) 18:30:02 ID:P/CJ3AB.0
規制中なのでこちらに投下します。

37あの夏は終わらない ◆hwBWaEuSDo:2009/03/08(日) 18:30:53 ID:P/CJ3AB.0

 宇宙人の仕業だ。
 
 きっとあの狐のお面を被った奴は宇宙人の手先かなんかなのだ。
 そして、地球人の中から優秀な人種を選別するためにこんなことを仕出かしたんだ。
 最後まで残ったら、あの男は恐らくヘリウムを飲んだ後みたいな声で「キミヲワレワレノナカマニシヨウ」とかなんとか言ってUFOで連れて行くに違いない。


 そんなこと、どうでも良かった。


 周りでは森がざわざわ、と揺れていてまるでひとつの生き物のようだ。
 深夜であることも相まってか、その場はとても不気味な様子をかもし出している。
 どうして自分がこんな所にいるのか見当も付かなかったが、それもどうでもいい。
 この現象が宇宙人の仕業だろうと、悪の秘密結社の野望だろうと、大魔術師召喚のための大いなる儀式だろうと何だって構わなかった。
 全てがどうでもいいのだ。
 
 そんな果てしない虚無を感じながらぼく――浅羽直之は絶望して、地面に膝をついた。

 思う。さっきまでぼくはあの島にいた。
 あの夏の終わらない南の島で、ぼくは伊里野に会っていた。
 そして、世界を犠牲にしてでも伊里野を助ける、そうぼくは宣言した。

(……なのに、伊里野は行ってしまったんだ)

 ぼくのせいだ、と深く後悔する。
 あの伊里野に対する告白。
 あんなことしなければ彼女は行かなかった。
 ぼくのことなんかを守りには行かなかった。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 感情を暴走させ、隣にあったデイパックを地面にたたき付ける。
 バシン、という音を立てながらデイパックが土の上に転がった。

38あの夏は終わらない ◆hwBWaEuSDo:2009/03/08(日) 18:31:50 ID:P/CJ3AB.0
 ぼくはただ泣き続ける。
 恥も外聞も無く、伊里野が行ってしまったことがただただ悲しくて、ひたすら泣き続けた。
 あの五月蝿さかった蝉の音が、今はとても恋しい。

 



  〇





 しばらく泣いていると大分落ち着いてきた。
 それでも周りが静かな為、ぼくのむせび泣く声が周りに響いた。

(……どうしようか?)

 はぁはぁと息を整えた後、ぼくは涙を流しながらもこれからのことについて考える。
 さっきの空間のことに対して、ぼくはぐちゃぐちゃになってしまった頭を頑張って働かせた。

(生き残れ、とか言っていたけど一体何をすればいいんだろう?)

 さっきのあのお面の男が言っていたことをよく聞かなかったのは痛かったと思う。
 とりあえずやることが無かったし、ぼくは先程地面に叩きつけたデイパックを拾いあげた。
 結構丈夫な造りになっているらしく多少汚れてはいたが、どこも破れてはいなかった。

(そういえば、これ何が入っているんだろう?
 お面の男がなんか言っていた気がするけど……)

 ぼくは何となく気になってデイパックを開けてみることにした。

「うわっ」
 最初に出て来たのは銃だった。
 あの島でぶっ放した物とは違う奴だったが、黒光りしていて、重く、紛れも無く本物の銃だということは分かった。
 マシンガンとかいう奴だろうか。
 
(こんなものを渡して生き残れって、つまり……殺し合えってこと?)
 
 殺し合い。
 ぼくはその言葉に恐怖を感じつつ、中から別に名簿と書かれた冊子を取り出す。
 そこである名前を見つけた時、ぼくは驚愕した。

 伊里野加奈。

 そう記されてあったのだ。
 何度も読み直したが間違いなくそこにはその名前が記されていた。
 同姓同名の別人だろうか、と思ったがそこで気付く。

39あの夏は終わらない ◆hwBWaEuSDo:2009/03/08(日) 18:32:53 ID:P/CJ3AB.0
 

(さっきまでぼくはあの島にいたんだ。
 それが今は何故か此処にいる。
 そんなことが出来るのなら、行ってしまった伊里野を呼び出すこともできるんじゃ
 ないか?
 もしそうなら……伊里野を行かせるのを阻止することができるんじゃ……)

 そう思った途端、ぼくの心臓が鼓動を早めた。
 伊里野を生きさせることができる。
 これは今のぼくにとって余りにも魅力的な言葉だった。

 ちら、とさっき取り出した銃に目をやる。
 あれがあれば人を殺すことが出来るだろう。
 あんな物を渡して生き残れということは、要するにあれで皆を殺せってことらしい。
 勿論ぼくはそんなことはしたくはない。

(でも、ぼくは……伊里野の為なら世界だって敵に回してみせる!
 ぼくは伊里野を生き残らせるんだ!
 あの夏を、UFOの夏を終わらせなんかしない!)
 
 ぼくは涙を拭って銃を持ち上げ動き出した。
 銃は先程より不思議と軽く感じる。
 夏用の制服が少しだけ寒かった。




【A-2/山の中/一日目・深夜】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:精神高揚。
[装備]: ミニミ軽機関銃@現実。
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)。
[思考・状況]
 0:伊里野を生き残らせる。
 1:伊里野以外は殺す。
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。

40 ◆hwBWaEuSDo:2009/03/08(日) 18:34:09 ID:P/CJ3AB.0
投下終了です。

41 ◆76I1qTEuZw:2009/03/10(火) 21:39:11 ID:dW3lkBbM0
後2つのところで、さるさんを喰らってしまいました。
誰か転載お願いします。

42 ◆76I1qTEuZw:2009/03/10(火) 21:40:54 ID:dW3lkBbM0
っと、支援のお陰でなんとかいけました。失礼しました。

43 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:27:30 ID:q1mKismU0
『人間考察』


「お前…・・・『何だ?』」

橙色の着物に、赤いジャンバーというミスマッチな格好をした女の人の声が、僕に投げかけられる。
その酷く冷静な声は、僕が何度も繰り返してきた自問を、再び思い起こさせた。

……僕は、何なんだろう?

この世には、『紅世の徒』という、名の歩いて行くことのできない隣の世界、『紅世』からの来訪者達が居る。
彼らは、人間や徒が存在するのに必要なエネルギー『存在の力』を求めてこちらの世界にやって来る。 そして、存在の力を求めて……人を食らう。
いや、ある意味ではもっと酷い、彼らが食べるのは、肉体ではなくて、文字通り存在するための力であり、その力を食われた人間は、この世から『欠落』する。
彼らは元々そこに居なかった事になり、家族の居ない子供や、住む人の痕跡すら無い空家といった歪んだ欠落のみを残して消え、その事を誰一人気にも留めない。
この世からの完全なる喪失、それが紅世の徒に食われた人間の、末路。

ただ、彼ら徒も、こちらの世界で好き勝手に人を食らえるという訳では無い。
彼らの住む紅世と、僕たちの世界は、隣り合い互いに支えあっている二つの家のようなものらしく、片方が崩れれば、もう片方も滅び行く、という構図らしい。
その事に気がついた徒たちは、こちらの世界に現れた徒たちに、存在の力の乱獲を止めるように忠告した、けれどこちらの世界で自遊気ままに力を振るうことを覚えた徒たちは、その言葉には従わなかった。
そうして、世界のバランスに思い悩む徒たちは、ある決断をする。
自分たちも世界を渡り、自遊に力を振るう徒たちを討滅する、という苦肉の決断を。
ただし、弱い徒が世界を渡っても意味が無い、行くならば徒の中でも『王』と称される強い徒が行かなければならない。
だが、強いという事は相応に大量の存在の力を必要とする事であり、それは結局は世界のバランスを崩してしまう。
そこで生み出されたのが、彼ら王が人間の内に宿る、という方式だ。
人間が、自らの全ての可能性たる存在の力を捧げ、王がその人間の器に宿る。
王自身は紅世にあり、彼らと契約した人間が、自身の存在の力を消費してその力を借り受け、徒を討滅する。
人と徒の間のゆらぎのような存在『フレイムヘイズ』の誕生であった。

44 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:28:23 ID:q1mKismU0
フレイムヘイズは徒が存在の力を食らえば、その反応たる世界の歪みを感知出来る。
存在し、力を振るうには人を食わねばならず、食えば敵を呼び寄せる、そこで、徒たちは一つの方法を編み出す。
食らった人間の一部、『トーチ』という食いカスのようなものを残すのだ。
トーチは残されたわずかな力しかなく、当然遠からず消滅するが、元々そこにあったものが緩やかに消滅するというプロセルを経る為、世界に大きな歪みを生み出しにくい。
無論大量に食らえばその限りではないが、それでも世界の歪みを感知するフレイムヘイズには感知され難い。

そして僕、坂井悠二は……そのトーチだ。
世界の真実など知らず、己が食われた事にも気がつかず、遠からず消滅していくだけだった筈の存在。
そうあの日、全てが静止した空間の中で、彼女、フレイムヘイズ、『炎髪灼眼の討ち手』に出会うまでは。
名前はシャナ……僕が、名づけた。

あの静止した空間、フレイムヘイズと紅世の徒が、自分たちの存在を世界から隠す為に展開する結界、『封絶』の中で、僕は消えかけていた。
正確に言うなら、その時すでに僕という存在自体は食われ、トーチが残されていただけのだけど、その僕の中に、ある『秘宝』が転移してきたのだ。
秘宝とは紅世の関係者など、存在の力を操ることの出来る者が作り出す、力を持つ道具の事で、それらの内幾つかは持ち主が奪われそうになったときに、とっさにトーチの中に隠される事がある。
そのトーチが自然消滅した時にはまた何処か別のトーチの中に、と延々と流転していくという仕組みで、僕が食われた時に、その一つが偶然、僕の中に転移してきたという訳だ。
そうして、封絶の事を認識できるようになった僕だけど、その時にはまた別に危機が迫っていた。
何しろ、封絶の中で動く存在という異常故に、僕を食べた怪物、『とある紅世の王』が作った僕に、再び食われそうになり、そこをシャナに助けられた。
その後は僕の中にある秘宝を放っておく訳にはいかないという事で、僕の事を食べた王を討滅するまでの間、シャナと彼女に力を貸している『王』、アラストールに保護(?)される形になって、そして僕は紅世に関する事実を知った。
そうして、紆余曲折の末、その王はシャナとアラストールに討滅され、僕はその時の戦いで残り少ない存在の力を消費して、消え去る……とはならなかった。
僕に宿った秘宝は『零時迷子』という名前で、その能力は『午前零時に前の日の午前零時の状態にまで存在の力を回復する』というもので、その力によって僕は未だにこの世界に存在し続けている。

その後にも色々な出来事があったのだけど、その中で僕は自問する事になる。

僕は、人間か、否か。

零時迷子は、確かに僕を消滅の危機から救ってはくれたけど、同時にもう一つの問題を残していた。
つまり、僕の身体は、永遠に同じ一日を繰り返している状態、わかりやすく言うと、不老の存在になったのだ。 紅世の徒や、フレイムヘイズと同じ。
僕は、短時間の消滅に怯える事は無くなった代わりに、いつかは人の世界では暮らしていけなくなる存在になった。
だから、僕は少しずつだけど、シャナ達と同じような存在のような自覚を得始めていた。
でも、ある時クラスメイトの一人、吉田さんは、僕の事をが好きだと、人間だと言ってくれた。
いや、吉田さんだけじゃなくて、ひょんな事から紅世に関わった佐藤や田中も、僕の事を坂井悠二だと受け入れてくれた。
いずれ捨てなければならない筈の、当たり前の生活、それを捨てなくてもいいんじゃないかと、そういう考えも、浮かんできた。

45 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:29:10 ID:q1mKismU0
だから、僕は悩む。

僕は人間か、否か。




人一人居ない街。
居心地の良さを感じなくもない空間の中で出会ったそいつは、最初何なのか判らなかった。
死体に宿った悪霊というものを昔に見たが、それに近い『人の姿をした壊れやすい何か』であり、それでいて間違いなく生きた人間。
中身が普通じゃないモノは色々見てきたけど、外見からして異常極まりない、生きた普通の人間、というのは初めてお眼に掛かった。

「へえ、トーチにミステス、か」

そいつ、外見に特に特徴のない、坂井悠二というヤツの話はまあ面白かった。
微妙に信じにくい話ではあるのだが、目の前に実物がいるのだから本当なのだろう。
何となくだが、興味を引かれる。 紅世の徒というのは、『この世界』の存在ではないという事だ。
前にトウコはこの世界には外があり、そこを目指すのが全ての魔術師の目的だと言っていたが、あるいはソコからの来訪者、という事なのかもしれない。

「君は、紅世の関係者じゃないの?」
「さあな、少なくともオレにはその存在の炎とやらは見えない。
 判るのは、お前の見た目が普通の人間とは違うという事くらいだ」

悠二が色々と聞いてくるが、オレはその紅世とやらとは関係無い。
オレはただ、『見える』だけだ。
トウコ曰く、根源と繋がっているとかいうこの目は、あらゆるものの『線』を見通す。
それが人であれ、物であれ、形無い物であれ、そこにあるものなら何でも『壊せる線』
この世に誕生した時から内包しているという『死』そのものを見ているとか、まあ理屈はどうでもいい。
ようは、この目はあらゆる存在の死が見える。

46 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:29:57 ID:q1mKismU0
「けど、そういう風に見えるって事は、やっぱりここにいる僕は幽霊みたいなものなのかな」
「幽霊? そんなものはそこいらじゅうに居るがお前とは違う。
 連中には、生きているものに介入する力なんて無い。 何故って死んでいるんだからな。
 お前はこうして現実に生きて喋っている、だからお前は幽霊とは違う」

オレの見た坂井悠二像に、コイツはこんな感想を返して来た。
人間のようで、壊れやすいのだから意味的には近いが、近いだけだ。
『死んだ』モノは、もう『生きている』モノに戻る事は無い。
たまに間違えて動き出したり、死んだまま存在しているモノが居たりはするが、それは断じて『生きた』人間では無い。

「けど、僕は運よくこうしていられるけど、元々はそのまま消滅する筈だったモノで」
「別に世の中余命何ヶ月なんてヤツは山ほどいる。
 寿命が何年あろうが事故で死ぬヤツはもっと山ほどいる、それだけの話だろ」 
「違うよ、全然違う、トーチの最期は死じゃなくて消滅なんだって。
 誰の……紅世の関係者以外の記憶に残らずに、この世から零れ落ちるんだ」
「奇特なヤツだなお前、自分が死んだ後に他人にどう思われるか何てどうでもいいだろ」
「……え?」
「死んだ後に自分がどう思われるか何て、『そんな事』確認仕様も無い。
 なら、別に死ぬのも消滅するのも本人からすれば一緒だろう」

そう、死というのモノは二度と戻れない、捕まれば這い上がる事も出来ずに引きずり込まれる。
ああ、あれに捕まる事を思えば、生きているというのはどれだけ光溢れていることだろう。
生を失うという点では、死だろうが消滅だろうが、本人からすれば何一つ変わらない事象でしかない。
そういう意味でいうなら、悠二は間違いなく今ここに存在している。

「え、いやそれはそう……だけど。
 でも、自分の事を誰も覚えていてくれないと言うのは、怖いと思わない?」
「さあな、悪名だけ残すよりはむしろマシな死に方かもしれないぞ?
 どちらにしろ、おまえ自身にはどうしようも無い事だろ、なら考えても仕方が無い」
「…………」

47 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:30:41 ID:q1mKismU0
悠二のが呆然とした感じでオレの事を見てくる。
けど、そもそもオレは普通の人間て訳じゃない。
オレの中はとうに伽藍堂で、人間としてどうのこうの何てモノは存在していない。
人間として壊れてるヤツに人間的な感覚を問うなんて間違いだ。

「ああ、確かにお前という器は人間では無い別の何かだ、だけどそれが何だって言うんだ?
 肉体的にはヒトでなくても、人間として生きているヤツだっているし、人間の姿形をしたまま、人間を止めるヤツだって山ほどいる。
 結局、普通の人間というのは生物でなくてあり方なんだよ。 
 他者を何十人と殺せば、殺人鬼と、あたかも人間とは違うものとして扱われる、肉体自体がどうとか関係無くな。
 そういう連中に比べれば、トーチだとかは関係なくお前は普通の人間だ」

そして、違うものとして扱われるオレから言わせれば、悠二はどこまでも普通の人間だ。
何かしらの人間には無い力くらいは持っていそうではあるが、それだけ。
殺しても面白くない、普通で無い身体の、普通の人間でしかない。

「……僕は、人間でいて、いいのかな?」
「わからない奴だな。
 お前は人間としての生を詰め込んで来て、そうして周りの人間も、お前を人間と、同胞として扱っている。
 ならそれでいいだろう。 トーチだとかそんなものは、それとは全く別の事柄でしか無いんだよ。
 お前が考えるべきなのは人間で『いていいのか』じゃなくて、人間で『いたいか』どうかだ」

だから、悠二というかミステス、いやトーチか、が人間か何て、決めるのは本人以外の何者でもない。
魔術師なんていう胡散臭い連中が人間として折り合い付けて普通に暮らしているし、どこまでも普通の人間が、どこかネジが外れて人間をやめたりする。
入れ物がどうとかじゃなくて、決めるのは本人の心持ちだ。
……そして、コイツは多分そんな事はとっくに理解している、理解して、それで答えに迷っている。
その答えによっては、オレはコイツを殺したくなるのかもしれない。




48 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:31:30 ID:q1mKismU0
もう用は無いと思ったが、向こうはそうでは無いらしい。
そして、そういえば名乗ってもいなかった事を思い出す。

「オレは式だ、両儀式」
「そう、両儀さん、僕はさっきも名乗ったけど坂井悠二」
「式でいい」

悠二の方が年下なんだろうが、それで呼び名を変える理由も無い。
多分悠二はオレの事同じくらいの年だと思っているだろうが、訂正する必要も無い。

「そう、式さん。
 式さんはこれから、どうするつもりなの?」
「オレの目的? そんなの決まっている、あの変なのを殺す」

ああ、オレの目的なんて、最初から決まっている。
トウコのところで割と長い間仕事を手伝わされてきたが、実際に人を殺せたのは数えるほど。
元々相手が人間でなかったり、殺したいと思える相手がいなかったりと満足できない状態だった。
そして、今回のあれは、今までに無いくらい殺したい相手だ。
だから、アレはオレが殺す。

「えーと、何か心当たりでもあるの?」
「そんな物ある筈無いだろ。
 オレは視る事しか出来ない、なら視て周る以外にする事なんて無い」
「力技だなぁ……」
「そうだな」

別に何時もの事だ。
オレの役割は視ることで、捜したり考えたりするのは別のヤツの仕事だ。

49 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:32:13 ID:q1mKismU0
「オレの知り合いに、黒桐幹也っていうフランスの詩人みたいな名前の奴が居る。
 あいつは探し物に関してだけは一流だから何とかなるだろ」

そうか、そうなるとまず幹也を捜さないといけない。
そういうときに頼りになるのはトウコの奴なんだが、果たしてアイツはいるのか。
後は鮮花は出来れば会いたいとして、浅神藤乃は……今更興味は無い。

……それはそれとして、だ。

「お前、まだオレに何か用か?」
「用って訳じゃないけど、目的としては一致しているのだし、一緒に行動しても良いんじゃないかな……?」

目的の一致、か。
悠二の言う、フレイムヘイズ達もアレを倒したいと思うのは間違い無いそうだが。
ただ、オレは殺したいから殺す、悠二達は世界のバランスを守る為に殺すと、手段は同じだが目的には大きな開きがある。
まあそのくらいは別に大した違いでも無い。
ただ、そのフレイムヘイズという連中が殺したいと思える相手だとすると困るが。

「僕を力づくで止める?」
「いや、別に好きにしたらいい。 一緒にいて特に不快になるわけでも無いしな」

言いながら、先ほど悠二が告げたように、オレも鮮花と幹也の特徴を告げる。
シスター服を除いても鮮花は基本的に人目を引く。
対して、幹也は黒い眼鏡で多分黒い服を着ている事くらいしか特徴の無い奴だ。
まあ悠二もどこかの制服くらいしか特徴の無い奴ではあるが。

「……ああ、そうか」

要するに、悠二も幹也並みに普通な、変な奴だ。
そう考えると、オレについて来ようとするのも変では無いのか。

50 ◆NQqS4.WNKQ:2009/03/17(火) 07:37:06 ID:q1mKismU0
【B-6/一日目・深夜】

【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本:主催者とやらを殺す。
1:黒桐幹也、黒桐鮮花を捜す。
2:坂井悠二が付いてくるなら好きにさせる。
3:フレイムヘイズというのに興味、殺せるならば……?



「決めるのは僕……か」

いや、それは判っていた事かもしれない。
ただ、選べなかった、選びたくなかったんだ。
シャナと一緒に戦うか、吉田さんを守るか、
自分自身でも情けなくなるほどに、僕は決めかねていた。

……けど、そう遠くない、僕はその選択をしなければいけない。


【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康。
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本:シャナ、吉田一美、マージョリーを捜す。
1:当面は他の参加者と接触しつつ、情報を集める。
※清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)

51 ◆iMRAgK0yqs:2009/03/17(火) 22:58:14 ID:59/hUhdQ0
>◆NQqS4.WNKQ氏
本スレ規制中なので、こちらで。
予約スレ>>70の書き込みですが、メール欄に謎の文字列がありました。
間違えてトリップをメール欄に記載してしまったのかと思い、言葉を濁して
書き込み削除したのですが…深読みさせてしまい申し訳ないです。

52 ◆EA1tgeYbP.:2009/03/18(水) 10:21:14 ID:WdGbbllk0
現在本スレ規制中なのでどなたか代理投下お願いします。

53Sleeping Beauty ◆EA1tgeYbP.:2009/03/18(水) 10:23:22 ID:WdGbbllk0
 エリアB-5の飛行場。
 夜間飛行に備えるためか、深夜という時間帯にもかかわらず明るいその場所に、一人の男が座り込んでいる。
 頭をがしがしと掻きつつ、紙を、参加者名簿を見ている男の名前は榎本。……いや、この言い方は正確ではない。正しくは、男は今のところ榎本と呼ばれているとでも言うべきだろう。

 ――閑話休題。

 彼はある任務に向かう途中、ちょっとした仮眠から目覚めるとこの状況下に投げ込まれていた。たいていの人間にとってはどれほどの混乱を引き起こすかわからないこの状況、彼も外見はともかく内心はかなり激しく動揺していた。
 ――最もその理由は普通の人間のようにパニックによる物ではなかったが。

 ――突然の拉致。

 ――次の瞬間には、自分の命が奪われていてもおかしくはない状況。

 これらに関しては実は男の動揺を誘うとまではいかないものだ。彼の日常からすれば、これらの問題は非日常的なものではなく、普通に日常の延長線ともいえるもの、「厄介なことになった」という感想を抱きこそすれ、それ以上の感想を抱くことなどはない。
 だが、今はその例外といえる状況となっていた。

 その理由は二つ。
 名簿に載っている都合3つの名前のせいだ。

「……何をやってるんだ、木村のあほは」
 理由の一つ、水前寺邦広。

 ……正直なところ榎本にとっての水前寺とはあくまでも年齢の割りには頭が切れる、まあ、そんじょそこらのマスコミなんぞよりはよほど警戒するに値するレベルのガキ、という程度の存在であって、それ以上でも以下でもない。
 普段ならば彼の名前が乗っていようと榎本を動揺させるには至らない。

 ……そう、普段ならばだ。

 今、水前寺が置かれている状況、いや、置かれていた状況。そこから彼が連れてこられたと考えると、自分が拉致された以上に園原基地――ひいてはディーン機関やブラックマンタといったトップシークレットにかかわってくるセキュリティの問題だ。
 断じて見過ごせる事態ではない。

54Sleeping Beauty ◆EA1tgeYbP.:2009/03/18(水) 10:24:12 ID:WdGbbllk0
 ――だが、今はそれ以上に彼にとって見過ごせない名前が名簿に載せられていた。

 浅羽直之。
 伊里野加奈。

 少し前までならばともかく、今となっては彼や水前寺が拉致されたことと比べると、彼ら二人が攫われた事、それ自体は驚くには値しない。
 ――しかし。

「何をやっていやがる、浅羽のあほが」
 窺い知れないほどの感情を込めた疲れた声で榎本はふう、とため息と共に呟いた。

 ……伊里野加奈には世界の命運がかかっている。
 冗談のような、これはどうしようもない事実でもある。はじめからたった五人しかいなかった、今となってはただ一人きりのブラックマンタのパイロット。地球の、人類の未来を守る最後の希望。
 彼女はその特殊な資質ゆえに普通の生活とは程遠い生活を、否応無しに歩むこととなり、四人の仲間を全て失った結果、守るものさえなくなった。
 ……そんな彼女に守るべきものを与え、それを奪われないように彼女に戦意を呼び起こす。正式名称ではなく俗称「子犬作戦」と呼ばれるそれを考えたのは他でもない榎本だ。

 彼、あるいは彼らの目論見どおり伊里野は与えられた子犬……浅羽直之を大事に思い、彼を守るために戦おうというようにその気持ちを変えていき、……当たり前のように人間としては壊れていった。

 ――そんな伊里野を守るために、浅羽が伊里野と共に逃亡したのが少し前。 

 ……榎本としては無理に彼らを連れ戻すつもりはなかった。

 確かに伊里野がいなければ世界が破滅するかもしれない。
しかしだ、榎本に言わせれば世界の危機なんてダイエット商品とさほど変わらない。
元々五人いた子供達の内の、生き残ったたった一人がいなければ滅んでしまう世界など、たとえ無理やり伊里野を連れ戻して戦わせて、先延ばしをしたところで、滅びてしまうのは時間の問題だ。
ならばせめて彼らの好きにさせてやろう、そんなつもりだったのだ。

 ――だというのに。

55Sleeping Beauty ◆EA1tgeYbP.:2009/03/18(水) 10:25:19 ID:WdGbbllk0
「浅羽のあほが……」
 もう一度榎本はため息をつく。
 状況は極めて悪かった。彼の立場からすれば何が何でも伊里野を生き残らせる、それが正しい。
……だが、それは最終的には浅羽を殺すということと同義である。あそこまで浅羽に入れ込んでいる伊里野が浅羽を犠牲にして生き残ったとしても、はたしてその後まで世界を死んでも守ろうという意思を持つことができるだろうか? 

……正直最後まで生き残っていた伊里野の仲間、エリカが死んだ時以上にひどい精神状態になっているところしか榎本には想像できない。
 
「……ってことはこれはない」
 極めてあっさりと、榎本は伊里野優勝案を破棄する。
……それにできればこんなくだらないゲームなんかで彼自身も死にたくはない。そうなると残る手段はただ一つ。何とかしてこの会場から脱出を目指すしかない。

 自分と伊里野、浅羽が脱出することそれが最低目標だ。
ただ問題として、ある程度の裏事情を浅羽が知っている今となっては、浅羽が簡単に自分が信用されるとは思えない。何せ自分は無理やり伊里野を戦わせていた人間の一人だ。

「やはり、ある程度の人間か……それかできれば水前寺あたりを上手く味方につけれりゃあ何とかなるか」
 どの道、水前寺も記憶を消すつもりでいたわけだし、ある程度の事情、トップシークレットの一つ、ブラックマンタのことなどを奴は知っている。そこにもう少し教えてやったところで不都合はない。いざとなれば水前寺の奴をこちらに取り込んだって構わない。
榎本はそう判断する。

「――基本的にはこんなとこか」
 そう言うと、榎本は立ち上がり視線を少し先にある格納庫へと向ける。小さな音だったが間違いはない。先程確かにあの中から物音が聞こえた。
 この施設の名称が飛行場である以上、おそらくあそこには飛行機やヘリなどが並んでいることだろう。仮にそれらが使用可能なら脱出派、優勝狙い派のどちらにとっても極めて有用な道具となりうる。
 ――だが、榎本は格納庫内にあるであろう飛行機の類は使うことはできないだろうと踏んでいた。あの狐面がこちらに期待しているのはあくまでも「殺し合い」だ。例え優勝狙いの奴が飛行機を手にしたところで、行われるのは反撃することさえ許されない一方的な「虐殺」であって「殺し合い」ではない。

「さて、できれば乗ってないやつなら良いが」

56Sleeping Beauty ◆EA1tgeYbP.:2009/03/18(水) 10:25:59 ID:WdGbbllk0
 そう気楽に呟くと榎本はそちらに歩みを進める。

 できれば殺したくはない、それはまったくの本心だ。向かう先にいる相手がどんな相手かはわからないが、殺さずに話し合いで仲間になるならそのほうがはるかに良い。
 そもそも、浅羽や伊里野が今どういう相手と行動しているかさえわかった物ではないのだ。例えば榎本が誰かを殺し、そいつの知人が伊里野と同行中。放送で知人の死を知ったそいつがトチ狂って皆殺しを企て、真っ先に同行相手だった伊里野を殺害。……そんなことにでもなったら目も当てられない。
 ……まあ、仮にこれから向かう先の相手が殺し合いに乗っていても負けるとは彼は思っていなかったが。
 手には何も持たぬまま、油断も慢心もなく男は格納庫へと歩みだす。


 ……数分後。

「……おいおい」
 気の抜けた溜息を榎本は漏らしていた。

 ――ステルスやらゼロ戦やら飛行機であるという一点を除けば共通項がほとんどない無作為に飛行機が並ぶ格納庫。少し調べてみたが、榎本の予想通りそれらには一切、燃料などは入っておらず動かすことはままならない。そんな動かぬ内の一機のコックピットの中にその女性はいた。

 ……もう少し正確に言おう、少し前まではコックピットの中でデイパックを抱き枕のように抱きしめて口からは涎さえ流して寝こけている女性がいた。
 今も女性は寝こけているが、デイパックは抜き取られている。
 無論、抜いたのは榎本だ。そしてそこまでされても女性は一向に起きようという気配は見せない。 

「……おーい、起きろ」
 デイパックを抜き取って、不意打ちに備え後部からぺちぺちと女性の顔をたたくが。

「……むぅ、うーん。大丈夫だってばぁ……」
 こんな調子である。ちなみにこれで三回目。
一向に起きる様子がない女性を見下ろし榎本はもう一度溜息をついた。

「……本当に殺し合いがおきてんのか?」
思わず榎本は愚痴り

57Sleeping Beauty ◆EA1tgeYbP.:2009/03/18(水) 10:26:32 ID:WdGbbllk0
「……大丈夫だってば。リリアぁ」 
 ……女性の返答とも聞こえる寝言に榎本はもう一度大きく息を吐き出した。


【B-5/飛行場内/一日目・深夜】



【榎本@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2、支給品一式(未確認ランダム支給品2〜6個所持)
[思考・状況]
0:とりあえず目の前の相手が起きるのを待つ。
1:浅羽、伊里野との合流。
2:水前寺を見つけたらある程度裏の事情をばらして仲間に引き込む。(いざとなれば記憶はごまかせばいい、と考えているためにかなり深い事情までばらしてしまう可能性があります)
3:できるだけ殺しはしない方向で
[備考]
※原作4巻からの参戦です。
※浅羽がこちらの話を聞かない可能性も考慮しています。

【アリソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康  睡眠中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:Zzz……。
[備考]
※一応、西東天の説明は聞いていました。ただ、会場内で目を覚ましていないだけです。


※格納庫の中に数台の飛行機がありますが、全て燃料がまったく入っていないために動かすことはできません。

58 ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:11:46 ID:/iMSr92g0
規制中なのでこちらに投下します

59VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:12:45 ID:/iMSr92g0

 ブルルルルルルルルルルルルルルルル――

 軽快なエンジン音が街に響く。
 水前寺はバギーの運転のコツを掴んだらしく、運転の速度は初期と比べて大分上がっていた。
 だが、周りが暗い為速度変わっても景色の見え方は特に代わり映えしない。

「落ち着いたかね、島田特派員?」。
「……一応」 

 水前寺の問いに対し彼の同行者―――島田美波は不機嫌にそう答える。
 先程から降ろして、と暴れていた島田も水前寺を説得するのは不可能だと悟ったのか、もはや何も言わなくなっていた。
 しかし、不安はまだ残っているようでバギーが少し揺れる度に島田はビクッと肩を震わせている。
 そんな彼女の様子を意に介さず、水前寺は先程から上機嫌そうに運転を続けていた。
 その様子を見た島田は思わず不満を漏らす。 

「はぁ、何でこんな奴にこんな物を支給したのかしら?」

水前寺本人が無免許で運転して事故るのならば自業自得もいい所だが、それに自分が巻き込まれるのは迷惑以外の何者でもないと彼女は思う。

「ん?島田特派員、何か言ったかね」

 小声だったのにも関わらず水前寺は彼女の呟きを聞き漏らさなかったようで、そう島田に尋ねてきた。
 このneugierige Ohren(地獄耳)め、と彼女は内心で思ったがそれを言うとまた何か変なことを言い出す気がしたので何も言わないでおいた。

「いや、なんでアンタにこんな物が支給されたのかなぁって思って」
「ふむ、それは俺も分からないな。完全にランダムなのか、はたまた何か意図があるのか。
 まぁ、俺にバギーとライターなんぞ支給するのに意味があるとは思えんがな」
「ライター?」
「ん?ああ、俺のもう一つの支給品だ。使い道がなかったからデイパックにしまってあるがな」
「ふぅん」

60VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:13:41 ID:/iMSr92g0
(……ライターねぇ)
 島田は何か脱力感に見舞われる。
 あのお面の男が言うにもっと銃とか剣みたいな武器が支給されると彼女は思っていた。だが、出てきたのはバギーにレーダーにライター。
 当りに分類されるとは思うが、ちょっと殺し合いの装備として配るにはイマイチ迫力に欠けると思う。

「島田特派員の支給品は確かレーダーだったな」
「そうだけど」

水前寺はそれを聞くと何かを必死に考えているらしく、今までの饒舌が嘘のように黙ってしまった。 
島田は今までに無いリアクションだな、と感じた。
彼女の周りには基本的に物事を深く考えない人が多いため、水前寺のこの反応は彼女にとって新鮮だった。

「ん?」
 島田がレーダーを確認すると自分と水前寺以外に反応があった。

「ねぇ近くに誰かいる」
 もしかしたら高須かもしれないと思い、島田はそれを水前寺に伝える。

「おお、そうかね。早速接触して……おぅわ!」
「え……きゃあ!」

 二人は突然悲鳴を上げる。

 何故なら、突如バギーに向かって赤い球が飛来して来たからだった。
 次の瞬間、そこは爆炎に包まれた。


  @

61VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:14:42 ID:/iMSr92g0


「やりましたか?」

 赤い球を放った張本人―――古泉一樹は半壊状態のバギーを眺め、そう呟いた。
 学校で青年と別れた後、彼は行く当てもないのでとりあえず西に向かうことにしていた。
 その際、途中で水前寺達のバギーを見かけて攻撃を仕掛けたのだ。

(相手が移動していて少し外した可能性がありますね。大丈夫だとは思いますが、一応確認しておきましょう)

 例え生き残っていても無傷という訳ではないだろうと判断し、古泉は念の為近づいてみることにした。


  @


「痛ててて」
「大丈夫かね、島田特派員?」
「なんとか……」

 水前寺と島田は無事だった。
 二人は傷こそ負ってはいるが五体満足であり行動にはそれ程支障はないだろう。
 古泉の攻撃が命中する際、水前寺は咄嗟にハンドルを切り直撃を免れていたのだ。
 そして煙に包まれながら二人はバギーを脱出し、近くの建物の陰に隠れ今に至る。

「何よ、アレ?」
 島田は膝に負った傷を触りながらそう言葉を漏らした。
 アレ、とは先程古泉が放った超能力のことだ。
 無論、彼女がそのようなことを知る由も無く彼女にとって全く未知の攻撃だった。

「さぁ分からん」
 水前寺は堂々と答える。
 当たり前だが彼にとっても先程の攻撃は未知の物だった。

「どうすんのよ、逃げる?」
「いや、それは止した方がいいな。レーダーで敵の動きは大体予測できるが相手が遠距離から攻撃する手段を持っている以上、少しでも視界に入れば狙い撃ちされるだろう。
 しかも我々は手負いだ。追いつかれる可能性が高い」

 島田の提案に水前寺は冷静にそう答える。
 この危機的状況下においても彼は自分のペースを崩すことは無かった。

62VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:15:40 ID:/iMSr92g0

「じゃあ、どうすんのよ!?」

 しかし、当然のことだが島田はとても水前寺のように落ち着くことが出来なかった。
 昨日まで平和な日常を送っていた者が急に訪れた命の危機に対応できる訳がないのだ。
 むしろ水前寺のように冷静に対処できる方が異常なのだ。

「まぁ待ちたまえ、島田特派員。今、作戦を練る」
「待てって……」

(今から考えたって間に合う訳がないじゃない!) 
 島田はそう心の中で悲鳴を上げた。

 レーダーを見ると敵は爆発したバギーに向かって来ていた。
 彼女は不安になりそちらを向く。
 そこには半壊したバギーが倒れており、燃料が漏れ出していた。

「島田特派員!」
「なっ何?」

 水前寺の突然の呼び出しに島田は驚きつつもそれを聞く。

「まず、君に囮をやってもらう」

 水前寺はそう切り出した。




    @



「これは……」

 古泉は残されたバギーを見て、困惑しながらそう呟いた。
 バギーは能力の着弾点とは微妙にずれた位置にあり、運転席を覗き込むとそこには何も無かった。

(どうやら逃げられたようですね。とはいえ相手も完全に無傷ではないでしょうし、近くを探せばすぐに見つかる筈……)

 古泉は冷静に状況を判断していく。
 彼も伊達に閉鎖空間で神人と命がけの戦いをしている訳ではないのだ。

 ガサッ!

(!?)

 突然、何かが擦れる音が響いた。
 古泉は驚き、音源の元を見る。
 そこにはポニーテールの一人の少女がいた。

「こっ……こっちよ!」

 少女―――島田美波は古泉の姿を確認するなり、突然そんなことを言い出した。
 無論、古泉はそのような言葉に惑わされる訳も無く、彼女の行動の真意を落ち着いて探る。

(これは……恐らく彼女は囮ですね。あの車にはもう一人乗っていた筈。
 となれば次に相手が取る行動は……)

 次の瞬間、

「うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 そんな雄たけびと共に後ろから大男――水前寺が古泉に向かって飛び出してきた。

63VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:16:40 ID:/iMSr92g0

(やはり奇襲攻撃ですか!
 ですが、その程度の戦法では……)

 古泉は咄嗟に超能力を使い小さな赤い球を形成し、水前寺に向かって放り投げた。
 赤球は直撃し、水前寺は吹き飛ばされる。

 しかし、その顔にはニヤリ、と怪しげな微笑が浮かんでいた。
 それを見た瞬間、古泉はとてつもない嫌な予感がした。

「今だ、島田特派員!」
「分かってるわよ!」

(一体何を……?)

 古泉は急いで先程の少女の方を向く。
 そこには火が点いたライターを放っている島田の姿があった。
 ライターは軌道を描きながら古泉の方へ向かって来る!

(この程度!)

 古泉は身を捻ってライターを回避する。
 しかし、彼の後ろには半壊のバギーがあり――――――――――

(しまった、まさか彼らの狙いは!)

――次の瞬間ライターの火がバギーの漏れ出していた燃料に引火し、バギーは爆発した。

「なっ!」

 古泉は爆炎に包まれた。





   @


「やった……の?」
 
 島田は爆発したバギーを呆然と見ながら、そう呟いた。
 バギーは未だに燃え盛っており、モクモクと煙を上げている。

64VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:17:23 ID:/iMSr92g0
「ああ」

 水前寺は島田の問いにそう静かに唱えた。
 その顔には先程までとは打って変わって真剣な表情が浮かんでいる。

「すごいじゃない!
 あんな化け物みたいな奴を倒したのよ!」

 島田は水前寺に賞賛の言葉を掛ける。
 とてもじゃないが自分一人ではあの男を倒せなかっただろう。

(変な奴だけど頭の良さは本物ね)


 水前寺の作戦はこうだ。

 まず島田が敵の気を引き付ける。つまりは囮だ。

 次に水前寺が奇襲を掛ける。
 出来ればこれで仕留めたいが、大した武器を持っていない水前寺では大したダメージは与えられないだろうし、最悪奇襲に気付かれる可能性もあった。
 実際、古泉は水前寺の奇襲を気付き、咄嗟に超能力で迎撃をしてきた。

 そこで奇襲が失敗した場合には最後に島田がライターでバギーを爆破する。
 水前寺も巻き込まれる可能性があったが、本人は「その程度のリスクは犯さなければ勝てない」と延べ作戦を決行した。

 作戦は成功し、古泉はバギーの爆発に巻き込まれた。
 二人の危機は去ったのだ。

 しかし、水前寺の顔に喜びの色は無かった。
 島田がそれに気付き、不思議そうに尋ねる。

「どうしたの?成功したのに喜ばないの?」
「いや、確かに助かったが人間を殺すのはやはりあまり……な」
「あっ……」

 そう言われて島田は気付く。
 さっきまでは無我夢中で相手のことなんか考えもしなかったが、相手の容姿は普通の人間だった。
 変な力を持っていたが、あれは紛れも無く人間だったの

65VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:17:53 ID:/iMSr92g0
 そう言われて島田は気付く。
 さっきまでは無我夢中で相手のことなんか考えもしなかったが、相手の容姿は普通の人間だった。
 変な力を持っていたが、あれは紛れも無く人間だったのだ。
 
(そうか……ウチ、人殺したこと喜んでたんか)
 そう思うとさっきまでの自分が島田は恥ずかしく思われた。

「何、気にすることはないぞ、島田特派員。あれは紛れも無く正当防衛だった」
「でっでも、ウチ……」
「とにかく生き残ることには成功したんだ。それを喜ぶことは何も間違ってはいないさ」

 水前寺は島田が落ち込んでいるのを見てそう語りかけた。
 彼なりの励ましなのだろう。

「さて、島田特派員。早くこの場を離れるぞ。
 これだけの爆発だ。周りの参加者が集まってくるぞ。
 武器がほとんどない我々がこの場に留まるのは危険だ」
「わ、分かったわ」

 そう言って二人はその場を後にした。

 バギーは未だ燃えていた。



【E-2/路上/黎明】


【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:全身が少し煤で汚れている。軽傷(行動に支障なし)。
[装備]:レーダー(電力消費小)
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:水前寺邦博と嫌々ながら行動。吉井明久、姫路瑞希の二人に会いたい。
1:この場から離れる。
2:高須竜児が逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の三人を狙っていた事を伝えるのは保留。
3:水前寺のことを少し信頼。
[備考]
※E-2の路上に爆音が響きました。近くの参加者は気付くかもしれません。また、バギーから煙が上がっていて目の良い参加者なら視認できるかもしれません。

66VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:18:43 ID:/iMSr92g0





「……ふぅ」

 水前寺は島田に気付かれないように静かに息をつく。
 その声には疲労の色が見えていた。

(あの赤い球の直撃……あれは流石にキツかったか)

 水前寺は腹部をさすりながらそう思う。
 彼の脳裏にあるのは先程受けた古泉の超能力。

(あれ程の爆発を引き起こす程の威力だ。恐らく、もう少し相手に力を溜めることのできる時間があれば危なかった)

 また、水前寺の知らぬことだが古泉の能力には大幅には制限掛けられており、彼は受けるダメージがかなり少なく済んでいたのだ。
 しかし、元々神人と呼ばれる異形の存在を狩るための力。
 一つに一つにかなりの威力があり生身の人間には十分な脅威となっていた。

(下手をすれば骨までやってしまったかもしれんな。どこかで手当てをしたい所だが……)

 水前寺をそう考えながら隣にいる島田を見た。
 正確には彼女の持っている支給品のレーダーを。
 
(今、我々にある装備はあれだけ。ある程度は他の参加者との遭遇を避けられるが、先程のように遠距離から攻撃されれば我々などひとたまりもないだろう。
 どこか拠点となりえる場所を探す必要があるな。
 しかし、あのレーダー一体何を感知しているのだろうか?)

 水前寺が先程考えていたのはそれだった。
 レーダーというからには何かを感知して位置を表示している筈なのだ。
 しかし、水前寺の持ち物はここに来る直前と完全に同じであり、何か特殊な物など持っていない。

(となるとやはり我々は何かを埋め込まれていると見ていい……だとすると脱出が難しくなるな。うっ!)

 水前寺が考えを巡らせていると腹部に鈍痛が走る。

(どうやらダメージが予想以上に大きいらしいな。とりあえずどこかで休もう)

 彼は腹部を抑えながらも歩き続けた。



【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身が少し煤で汚れている。腹部に怪我。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、
[思考・状況]
基本:島田特派員と共に精一杯情報を集め、平和的に園原へと帰還する。
 1:この場を離れ、どこかで休む。 
 2:その後、学校へ移動。高須竜児の一連の真偽を確かめる。
 3:何か武器が欲しい。
[備考]
※水前寺の怪我の程度は後の書き手さんにおまかせします。

67VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:19:14 ID:/iMSr92g0






 そして、その場には誰も居なくなった。
 そこでは相変わらずバギーが燃え盛っており、その存在を主張していた。 

「ハァハァ」

 否、そこにはまだ人間が残っていた。
 その存在は全身が焼け焦がれており、苦しそうに息を吐いている。

(……失敗しましたね)

 古泉は生きていた。
 あの爆発の中、超能力を咄嗟に全身に展開することで即死を免れたのだ。
 とはいえ超能力は著しく制限されており、完全に防ぎきることは出来ず、彼は全身に火傷を負ってまさに満身創痍だった。

(まだ……死ぬ訳にはいきません…….
 彼女を、涼宮さんを絶望させるまでは……)

 古泉はノロノロと地面を這い回る。
 その目には強い決意があった。

「流石に今回はハードですね……」

(けれども、諦める訳にはいきません……)

 古泉はそう決意を固めて、立ち上がった。
 そして、






【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】

68VSサイキッカー ◆hwBWaEuSDo:2009/03/22(日) 21:20:13 ID:/iMSr92g0


 

 そして、次の瞬間古泉の身体は弾丸で貫かれた。
 古泉はそのまま倒れ、もう動かなくなった。

(殺したな)

 古泉を殺した男――高須竜児は古泉が確かに死んだことを確認した。
 彼は古泉と同じく殺す相手を追い求めて学校から出た。
 途中、爆音を聞いてその場に行ってみると瀕死の古泉がおり、トドメを刺したのだった。

(さぁ、次の参加者を探そう)

 もう古泉に興味の無くなった高須は燃え盛るバギーを後にした。


 そして、バギーの周りには誰も居なくなり、そこには哀れな超能力者の屍が残された。


【高須竜児@とらドラ!】
[状態]:健康
[装備]:グロッグ26(10/11)
[道具]:デイパック、支給品一式、
[思考・状況]
1.逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の誰か一人を最後の一人にするために他の人間を殺す。
[備考]原作7巻終了後入院中からの参戦です。
 ※壊れたシズのバギーの近くに古泉の死体とデイパックがあります。

69 ◆76I1qTEuZw:2009/03/24(火) 00:40:33 ID:G7tEG0Es0
先日投下した「忍法 魔界転生(にんぽう しにびとがえし)」の最後2レス分を、以下のように差し替えます。

70忍法 魔界転生(にんぽう しにびとがえし)(修正版) ◆76I1qTEuZw:2009/03/24(火) 00:42:37 ID:G7tEG0Es0

もっとも、これが容易ならざる道であることは、左衛門自身もよく分かっている。
如月左衛門の忍法では、対象の容姿は写せても、その忍法までは写し取れない。無敵の瞳術は、演じられない。
これより先は、弦之介の瞳術もなく、また自慢の変形もなく、ただ己の腕ひとつで生き延びていく必要がある。
もとより闘争向きの忍法をそなえていない分、剣術や体術には長けていた彼ではある。
それでも、不安を覚えずにはいられない。
なんとなれば、忍法を封じたその状態で伊賀の忍びのみならず、弦之介をも倒せし凶手をも屠らねばならないのである。
かの瞳術をも打ち破ったような相手に、いかにすれば勝ちを収められるのか。未だ妙案はない。

「その意味では、ここに背嚢が残されていたのは幸いであった。
 最初に与えられたまきびしのみでは、打てる手も限られるでな」

惨劇の現場に残された荷物はふたつ。
片方は弦之介のものであろうと推測して、はて、さらにひとつここにあるのは、どういったいきさつによるものか。
あるいは弦之介の瞳術は不完全ながらも効果を発揮して、手傷を負った敵はほうほうのていで逃げ出したのやもしれぬ。
いささか真相からは外れていたものの、如月左衛門はそんな風に考えた。

ふたつのうち片方は、水筒や地図といった共通支給の品々のほかには、ただ説明書が一枚あるきりであった。
白金の腕輪、というから、これは弦之介の背嚢に相違あるまい。形状外見ともに、死体の傍にあった腕輪と一致する。
血をぬぐった腕輪を己の腕にしかとはめると、彼は続いてもうひとつの荷物から抜き出した武器を手にとる。

「ふむ――これはまた変わった刀よな。
 『ふらんべるじぇ』……南蛮人の武器であろうか。しかし、いまはありがたい」

それは、炎を思わせる刀身をそなえた、奇妙な白い刀、いや剣であった。
どうやら金属ではないようだが、さて、では何でできているかと問われれば答えに窮す。ただ不可解の材質と言うほかない。
その波うつ刀身は、しかし伊達は酔狂ではあるまい。如月左衛門はすぐにその本質を見抜く。
そう、これは鋭い刃をこのように配置することによって、斬られたものの傷口を、さらにひろげる工夫なのだ。
柄が長いゆえ、両手で振るってもよし。また多少重くはあるものの、片手打ちにても振るえるであろう。
重さよりも鋭さでもって敵を斬るその剣は、実に、日本刀とさほど変わりない使い勝手なのだった。

片腕には、白金の腕輪。
懐には、投げれば飛び道具、撒けば足止めともなる、まきびし。
そして手のうちには、この波うつ刀。
背嚢内のほかの荷物もひととおり調べあげると、ひとつにまとめて肩にかついだ。
瞳術もない。不可思議の忍法もない。
頼れるものは己の身のこなしと、これらの武器。
そしてこればかりは泥の死仮面とは別個に身につけた、千変万化の声帯模写術。
決して楽な道行とはいえぬが、しかし絶望にも自暴自棄にもまだはやかろう。十分に勝算はある。
そう信じる彼が、この期におよんで、なおもおそれるものは、たったひとつ。

「……しかしこうなってしまうと、伊賀の朧姫にだけは出くわすわけにはゆかぬであろうな。
 弦之介さまのこの顔が、いっしゅんにて崩れてしまうがゆえ」

何としても持ち帰らねばならぬ弦之介の顔を、ひとめ見ただけで崩してしまうであろう、おそるべきもうひとつの魔眼。
怨敵たる、そして甲賀弦之介の許婚たる、伊賀鍔隠れ衆が頭目、朧の破幻の術ばかりであった。――

71忍法 魔界転生(にんぽう しにびとがえし)(修正版) ◆76I1qTEuZw:2009/03/24(火) 00:43:33 ID:G7tEG0Es0

【C-1/草原/一日目・黎明】
【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:健康。甲賀弦之介の顔。
[装備]:フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック、支給品一式×3、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:朧と遭遇してしまわないよう注意しつつ、最後の1人を目指して生き残りを図る。
2:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。


[備考]:
深夜の時間帯には甲賀弦之介の死体の所に居た浅上藤乃は、
少なくとも黎明のこの時間帯には、ここから見える範囲には居ないようです。
浅上藤乃が残していったデイパックは、如月左衛門が回収しました。


【フランベルジェ@とある魔術の禁書目録】
元は浅上藤乃の支給品。
天草式十字凄教の教皇代理、建宮斎字の武器。
波打つ刃を持つ、全長180センチを越える両刃の剣。
金属製では無いようだが、材質は不明。ちなみに真っ白。

72 ◆RC.0aa1ivU:2009/03/27(金) 12:42:50 ID:i6fbp7Us0
さるったー!
こっちに残りを投下しておきます

73 ◆RC.0aa1ivU:2009/03/27(金) 12:43:24 ID:i6fbp7Us0
【B-1 天文台 一日目 深夜】



【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】肋骨数本骨折 
【装備】なし
【所持品】支給品一式  確認済支給品1〜3
【思考】
基本:この世界からの脱出、弱者の保護
1:知り合い(白井黒子、インデックス、上条当麻)との合流
2:当面は基本方針優先。B-1消滅の半日前ぐらいには黒子、当麻との合流を優先する。
3:助けてくれた相手(人識)と行動する?


【備考】
マップ端の境界線は単純な物理攻撃では破れないと考えています。
この殺し合いが勝者の能力を上げる為の絶対能力進化計画と似たような物であるかも知れないと考えていますが、当面のところ誰かに言う気はありません。


【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ9本@空の境界、七閃用鋼糸6/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1:《死線の蒼》はいそうにねえなあ
2:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探す。
3:子犬っぽい姉ちゃん(美琴)を治療する。頼まれたら一緒に行動しても良い?
4:両儀式に興味。
[備考]
※とある約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです。

74 ◆RC.0aa1ivU:2009/03/27(金) 12:43:57 ID:i6fbp7Us0

「くくっ、ははははっ! カシム以外にもあんな面白い奴がいるとはなあ! 楽しくなってきたぜ!」
 月明かりの下、男は笑う。
 男の喉、その左からはべっとりと血が流れ出している。
 ―――先の一瞬。人識が刃を止めていなければ間違いなくガウルンの頚動脈は断ち切られていた。

「主食がカシム! デザートにあのガキ! まだまだほかに面白い奴がいるかもなあ!」
 どうせ自分は長くない。
 地獄への道連れはなるべく多く、派手なほうが良い。
 悪意の塊のような男は闇へと消える。
 闇の中でもなお薫る血と死の匂いを漂わせ。


【B-1とC-1の境界 一日目 深夜】


【ガウルン@フルメタル・パニック!】 】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数3/5) IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾8/8+1)
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
1:どいつもこいつも皆殺し
2:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す
3:かなめは半殺しにしてカシムの目の前で殺す

[備考]
癌の痛みは行動に影響を及ぼすことはありません。
2巻から3巻の間ぐらいからの出典です。

75 ◆RC.0aa1ivU:2009/03/27(金) 12:46:22 ID:i6fbp7Us0
s援してくれた人には感謝。
以上です

76名無しさん:2009/03/27(金) 12:51:02 ID:9uZ5PchY0
投下乙っす
支援になってなくてごめんね

77 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/09(木) 21:27:15 ID:WOLRkbxo0
 八つ当たりとしかいえない身勝手な感情と共に、白純里緒は吉田一美に対して嘲るような笑顔を見せる。

「久しぶり、とでも言えばいいかな? ん、ああそうか。ぼくがここにいるということは黒桐君に何かあったんじゃないのかと心配しているのかい? くっ、ははははははっ、ははははははっ。いや、本当キミはおめでたいねえ。少し考えればわかるだろ? 僕がこんなにも早くここに、キミがいるところに来れたのはちゃんとした理由があるってことぐらいはさあ」
「…………」
「ああ、そうさ。君は幹也に売られたのさ。君がいなくなったすぐあとに幹也が僕に言ったのさ。君と君に渡したにもつは全部差し出すからどうか、僕の命は助けてくださいってね。
 何? 幹也がキミなんかのために命がけで僕をくい止めてくれたとか思っちゃったの? 見ず知らずの存在だったキミを助けるために命をかける馬鹿なんていないさ。何をいい気になってるんだか。本当自意識過剰もいいところだよ、あははははっ」
 そうして白純里緒は返答できない吉田一美を一方的に嘲笑う。

 この虚言には何の意味もない。ただ、白純里緒は吉田一美を許せなかったのだ。
 ――たとえこれから死に逝く相手だとしても、彼女の記憶に黒桐幹也が彼女のことを守ったという事実が残ることさえ許せないというだけ。嫉妬を晴らす、ただそのためだけに彼は彼女の心を踏みにじる。

「はははははっ! あー、笑った笑った。さて、ここまで笑わせてくれたお礼だ。死ぬ前に他の知り合いに伝えたいメッセージがあるって言うなら聞いてやるぜ。ああ、あとはもちろん幹也の奴への恨み言でも構わないけどな。とはいえ、幹也の奴を殺してくれとかそういうのは無理だぜ」
 そして最後に彼は告げる。あえて幹也への敵愾心をあおる言葉を言うことで、最期に彼女がどのような恨み言を残していくのか、それを想像してこっそりと白純里緒は笑みを浮かべる。
 もちろん、彼女の死に際の言葉は一字一句残さず幹也へと伝えてやる。彼の懐には支給品のひとつ、ボイスレコーダーがある。

 きっと幹也はもう少し後になって、この場所をを突き止めてやってくる。そして彼は発見するのだ。すでに事切れた吉田一美と、その死体の傍らに転がるボイスレコーダーを。そして自らに向けられた少女の理不尽な悪意を知ることになることになるのだ。
 そのときの彼の様子は想像するだけで身震いするほど素晴らしいものとなるだろう。

「――――」
「……え?」
 そんな想像に集中しすぎたせいか、白純里緒は最初少女が何といったのか聞き漏らした。

「…………シャナちゃん、坂井君、……黒桐さん。生きて、絶対に死なないで。それと、ありがとう」
「…………は?」
 それだけを少し震える声で言うと吉田一美は言うべきことは全て語ったというかのごとく口を閉ざした。

78 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/09(木) 21:27:45 ID:WOLRkbxo0
 だが、それで収まらないのは里緒のほうだ。

「おかしいだろ! 何で、何でお前を裏切った黒桐への恨み言が出てこないんだ!?」
「――恨んでなんていませんから。裏切ってもいない人を恨むなんてできません」
 だん、と壁に押さえつけて問い詰める白純里緒に、少女は痛みに顔をしかめながらも静かに答える。

「おかしい、おかしいってば! ついさっきであったばかりの他人なんだぞ! 何でそんなに簡単に信じられるんだ! 普通は……!」
「信じたんです、だから」
 彼女の返答が白純里緒を激昂させる。

「黙れ……! お前なんかに黒桐のことがわかるわけがないだろう! 訂正しろ、謝れ、何でもいいから恨み言の一つでも言って見せろよ!」
「……っ!」
 白純里緒の叫びに吉田一美は答えない。いや、もう答える事ができなかった。白純里緒に激情のまま振り回される彼女は、何とか自分の意識を保つことで精一杯だったのだ。しかしそんな状況にも関わらず、彼女の心は奇妙なまでの落ち着きと安心感があった。……あるいはそれは避ける事のできない死を目前とした諦念が生み出した物であったのかもしれない。

(……やっぱり、嘘だった)
 目の前の彼の激昂ぶり振りを見ればもう、疑いようはない。出会ったばかりの彼のことを信じぬく以上のことしかできなかったとはいえ、信じ抜いたのはやっぱり間違いなんかじゃなかったのだ。そんなことがただただ、嬉しいことと思える。

「聞こえないのか! 黙ってないで何とか言え! 言えよオオおおおおおっ!」
 激怒した白純里緒が爪を振りかざすのを彼女はただ見つめる。
(――悠二君、死なないで)
 
「え?」
 首から血を流し、倒れたまま動かない吉田一美を白純里緒は呆然と見下ろした。
「なんだよ、それ。ふざけるな! あそこまで好き勝手に言ったくせに何でこんなにあっさり……!」
 だが、ピクリとも動かない目の前の少女は誰がどう見たところで死んでいる。

79 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/09(木) 21:28:19 ID:WOLRkbxo0
 ……たっ
 少し先のほうから響いた足音に、せめてもの腹いせに少女の遺体を無残に喰い散らかそうとした白純里緒の動きが止まる。足音は少しずつ、だが確実にこのビルへと近付いてきている。今、ここに近付いてくる人物は一人しかいない。
「……くそっ」
 今はまだ、幹也には自分が喜んで人を殺しまわっていることを知られるわけには行かない。
 そうしてケモノはビルの影へと身を躍らせる。

(幹也、きちんと生き延びろよ?)
 今はまだ、彼を自分のそばに置くことはできない。だが自分がここへ連れて来られた以上、そのために必要な道具、ブラッドチップもきっとこの舞台のどこかにあるはずだ。
 だから今は一人でも多く殺そう、食べよう。
 今度こそ彼は北へと向かう。まずは身の程知らずの愚か者をこの爪と牙で引き裂くために。


【E-4/雑居ビルの一つ/一日目・黎明】



【白純里緒@空の境界】
[状態]:健康 、強い苛立ち
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品(未確認支給品0〜2個所持。名簿は破棄)
[思考・状況]
1:両儀式を探す
2:黒桐を特別な存在にするためにブラッドチップを入手する
3:拡声器で呼びかけを行った馬鹿を殺しに行く
4:それ以外は殺したくなったら殺し、多少残して食べる
[備考]
※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦
※名簿の内容は両儀式と黒桐幹也の名前以外見ていません
※全身に返り血が付着しています

※ブラッドチップ@空の境界
荒耶宗蓮特製の大麻を白純里緒の血液で栽培した強力な麻薬。本編中では自分の意思で人間を捨てる覚悟と共にこれを摂取すれば起源覚醒者に変えることができると白純里緒は思っていたが、黒桐幹也はこれを拒否したためにその真偽は不明。

80 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/09(木) 21:28:53 ID:WOLRkbxo0
「……今の声は」
 近くのビルから聞こえてきた聞き覚えのある声に、僕は言い知れぬ不安を感じた。
 そんなわけはない。確かに先輩は人を殺す側に立っているのかもしれない。けど、あの人は確かに北に向かって走っていったはずなんだ。
 必死になって自分にそう言い聞かせながら、僕は吉田さんの痕跡を追ってたどり着いたビルの前で立ち止まった。
「……吉田さん?」
 小声で呼びかけるも返答はない。
 ここにはいないのかもしれない、そんな気持ちとは裏腹に僕の足は吸い込まれるようにビルの内部へと向かう。
「吉田さん、返事をしてくれるかい?」
 階段を上る僕はいつか感じたことのある匂いを感じ取っていた。
 
 ――鉄っぽい、むせ返るような匂い。

 知らず、動悸が激しくなる。
 吉田さんの返事はない。

「ここにはいないの?」
 うっすらと埃が積もったビルの中、小さな足跡はその一室へと消えている。……出た痕はどこにもない。

「……吉田さん」
 一瞬気が遠くなる。
 首から部屋を真っ赤に染めるぐらい血を失った彼女はどう見ても生きてはいない。

 不意に胃の中に、塊のような異物感を感じた。
 口の中いっぱいに、みるみるうちに嫌な味がする唾液が広がっていく。

「……!」
 胃がすくみ上がるように動き、内にこもる物を一気に押し上げようとする。
 喉元まで上がってくる嘔吐感。
 ……それでも、いつかのようにもどさずには済んだのはきっと彼女を汚しちゃいけないという……意地と罪悪感のせいだと思う。
「う……!」
 ごろりと動く胃を何とかなだめる。

「……ごめん、吉田さん」

 君を探し人と再会させてあげられなくて。
 きみのそばにいてあげられなくて。
 君を守ってあげられなくて。

81 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/09(木) 21:29:24 ID:WOLRkbxo0
 荒い息をつきながら、それでも何とかそれだけを搾り出す。そして血の海となった部屋に入ると、むせ返るような匂いに再びこみあがってきた吐き気をおさえながら、すぐそばに転がっていた血に染まったデイパックを拾い上げる。

「……ん? これは……」
 その時、影になるように転がっていた何かに気が付く。それは黒い小型のボイスレコーダーだった。
 ――あるいはこの中には彼女の遺言が入っているかもしれない。僕は覚悟と共に再生ボタンを押した。

 ――――――

 落ちた時の衝撃か、それとも血がおかしなところにまで染み込んだせいなのか機械は沈黙を保ったままだった。……あるいは聞けなかったのは幸いだったのかもしれない。彼女を守れなかった僕に、これを聞く資格はないだろうから。
 けど、これを届けなくちゃいけない相手がいることもわかっている。

「……さよなら、そしてごめん」
 僕は、最後に、そう言い残して部屋を後にした。

【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:健康 、罪悪感、強い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2、壊れたボイスレコーダー(メモリつき)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本:式、鮮花を探す。
1:吉田さんの知り合いを見つけ、謝罪とレコーダーを渡す
2:浅上藤乃は……現状では保留
3:先輩ともう一度話をする
[備考]
※吉田一美の殺害犯として白純里緒を疑っています
※白純里緒が積極的に殺し合いに乗っていることに気がついています

【吉田一美@灼眼のシャナ  死亡】

82 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/09(木) 21:30:38 ID:WOLRkbxo0
以上です。大変申し訳ないのですがタイトルは今のところ未定
Wiki収録の際まで待っていただきたい

83修正版 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/13(月) 12:15:18 ID:m1DUgmvw0
 ……たっ
 少し先のほうから響いた足音に、せめてもの腹いせに少女の遺体を無残に喰い散らかそうとした白純里緒の動きが止まる。
 足音は少しずつ、だが確実にこのビルへと近付いてきている。そして今、ここに近付いてくるであろう人物は一人しかいない。

「……くそっ」
 今はまだ、幹也には自分が喜んで人を殺しまわっていることを知られるわけには行かない。
 そうしてケモノはビルの影へと身を躍らせる。

(幹也、きちんと生き延びろよ?)
 せっかく見つけた黒桐幹也。しかし今はまだ、彼を自分のそばに置くことはできない。
 なぜなら特別な自分のそばに在る人間は、やはり特別な人間であるべきなのだから。
 故に本来ならばそのための道具、特別な大麻を彼の血で栽培した特製品、ブラッドチップを白純里緒は用意して、使うつもりでいた。
 だが自分がここへ連れて来られたといって、アレまで絶対にここにあるという前提で動くのは少々危険だ。……しかし、心配することはない。
 
 ――確か荒耶は言っていた。起源覚醒には双方の同意が必要であると。
 だから……黒桐の心の底からの同意さえ得られれば、他の劇物と白純里緒の血液を混ぜ合わしたものや、あるいは白純里緒の血だけでも黒桐の起源は呼び起こせるかもしれない。
 もちろん、そんな方法は他の奴で実験してからになるだろうし、それ以前にブラッドチップが見つかれば何の問題もない。
 だから今は一人でも多く殺そう、食べよう。
 今度こそ彼は北へと向かう。まずは身の程知らずの愚か者をこの爪と牙で引き裂くために。


【E-4/雑居ビルのある一角/一日目・黎明】



【白純里緒@空の境界】
[状態]:健康 、強い苛立ち
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品(未確認支給品0〜2個所持。名簿は破棄)
[思考・状況]
1:両儀式を探す
2:黒桐を特別な存在にする
3:そのためにブラッドチップを探す
4:見つからないようなら、思いついた他の起源覚醒の方法を適当な奴で試す
5:まずは拡声器で呼びかけを行った馬鹿を殺しに行く
6:それ以外は殺したくなったら殺し、多少残して食べる
[備考]
※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦
※名簿の内容は両儀式と黒桐幹也の名前以外見ていません
※全身に返り血が付着しています

※ブラッドチップ@空の境界
荒耶宗蓮特製の大麻を白純里緒の血液で栽培した強力な麻薬。本編中では自分の意思で人間を捨てる覚悟と共にこれを摂取すれば起源覚醒者に変えることができると白純里緒は思っていたが、黒桐幹也はこれを拒否したためにその真偽は不明。

84修正版 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/13(月) 12:16:45 ID:m1DUgmvw0
「……今の声は」
 近くのビルから聞こえてきた聞き覚えのある声に、僕は言い知れぬ不安を感じた。
 そんなわけはない。確かに先輩は人を殺す側に立っているのかもしれない。けど、あの人は確かに北に向かって走っていったはずなんだ。
 必死になって自分にそう言い聞かせながら、僕は吉田さんの痕跡を追ってたどり着いたビルの前で立ち止まった。
「……吉田さん?」
 小声で呼びかけるも返答はない。
 ここにはいないのかもしれない、そんな気持ちとは裏腹に僕の足は吸い込まれるようにビルの内部へと向かう。
「吉田さん、返事をしてくれるかい?」
 階段を上る僕はいつか感じたことのある匂いを感じ取っていた。
 
 ――鉄っぽい、むせ返るような匂い。

 知らず、動悸が激しくなる。
 吉田さんの返事はない。

「ここにはいないの?」
 うっすらと埃が積もったビルの中、小さな足跡はその一室へと消えている。……出た痕はどこにもない。

「……吉田さん」
 部屋の扉を開け、中に入ったその途端一瞬気が遠くなる。
 首からの流血。部屋を真っ赤に染めるぐらい血を失った彼女はどう見ても生きてはいない。

 不意に胃の中に、塊のような異物感を感じた。
 口の中いっぱいに、みるみるうちに嫌な味がする唾液が広がっていく。

「……!」
 胃がすくみ上がるように動き、内にこもる物を一気に押し上げようとする。
 喉元まで上がってくる嘔吐感。
 ……それでも、いつかのようにもどさずには済んだのはきっと彼女を汚しちゃいけないという……意地と罪悪感のせいだと思う。
「う……!」
 ごろりと動く胃を僕は何とかなだめる。

「……ごめん、吉田さん」

 君を探し人と再会させてあげられなくて。
 きみのそばにいてあげられなくて。
 君を守ってあげられなくて。

85修正版 ◆EA1tgeYbP.:2009/04/13(月) 12:20:05 ID:m1DUgmvw0
 荒い息をつきながら、それでも僕は何とかそれだけを搾り出す。
 そして血の海となった部屋に入ると、むせ返るような匂いに反応し、再びこみあがってきた吐き気をおさえながら、すぐそばに転がっていた血に染まったデイパックを拾い上げた。

「……ん? これは……」
 その時、彼女の影になるように転がっていた何かに気が付く。それは黒い小型のボイスレコーダーだった。
 ――あるいはこの中には彼女の遺言が入っているかもしれない。そう思った僕は再生ボタンに指を掛け……。

 ――――――

 ……ボタンを押すことはできなかった。
 たしか彼女の支給品の中にこんな物はなかったのだし、これは間違いなく彼女を殺した…………誰かが残していった物だろう。
 この中にはきっと彼女が探していた坂井君やシャナさんへのメッセージが入っている。せめてこのメッセージだけは何があっても、僕は彼らに届けなくちゃいけない。そして彼女を守ることができなかった僕に……彼らよりも先に彼女の最期の思いを聞く資格はない。
 ……あるいはこの中には、彼女を守ることができなかった僕の罪を裁く内容も含まれているかもしれない。だとすれば、彼らの前でその罪を曝け出すことも僕の罪滅ぼしだ。

「……吉田さんさよなら、そしてごめん」
 僕は、最後に、そう言い残して彼女の眠る部屋を後にした。

【E-4/ある雑居ビルの一室/一日目・黎明】

【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:健康 、罪悪感、強い悲しみ、使命感
[装備]:なし
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2、ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品(確認済み)1〜3個
[思考・状況]
基本:式、鮮花を探す。
1:吉田さんの知り合いを見つけ、謝罪しレコーダーを渡す
2:浅上藤乃は……現状では保留
3:先輩ともう一度話をする
[備考]
※吉田一美の殺害犯として白純里緒を疑っています
※白純里緒が積極的に殺し合いに乗っていることに気がついています

【吉田一美@灼眼のシャナ  死亡】

86名無しさん:2009/04/26(日) 13:01:51 ID:p7fT/hVg0
しまった、こっちだった・・・
死者紹介ネタこんなもんでどうでしょう

87名無しさん:2009/04/26(日) 13:02:28 ID:p7fT/hVg0
高須竜児

登場作品【とらドラ!】
登場話数 2
殺害者 紫木一姫
最期の言葉「いけぇ! 島田ぁ! 大河を、みんなを、頼…………!!」

【本編の動向】
登場話は003「彼と彼女の歩む道」 退場話は042「ドラゴンズ・ウィル」
参戦時期は原作7巻終了時点。
ロワ開始前はその誤解を招く見た目から、周囲に誤解フラグをばら撒くことを期待されていた彼だが、参戦時期が時期であり、逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の誰か一人を最後の一人にするために他の人間を殺す事を決意する。

そんな彼が最初に出会ったのは古泉一樹。彼の「全員が助かるかもしれない方法」に半信半疑ながらも、彼が守りたい三人の情報をあっさりと知られたことからも彼と同盟関係を組むことに。……結果としてそれが彼の命取りとなった。

同盟を組んだ直後に学校にやってきたのは、多少誤解はしていたが一方的に彼を目撃し、竜児が殺し合いに乗ったことを知っている島田美波と園原電波新聞編集長の水前寺邦博のSOS団。
古泉さえ手玉に取る水前寺の話術にとことんペースを乱されるも、武器を持たない島田美波と一対一になることに成功する。学校で入手した使い慣れた武器である包丁で彼女を殺害しようとするも、「大事な人達を助けるために他人を殺す」という考えに怒った美波の反撃を受ける。

その反撃によって多少頭の冷えた竜児は気が付く。古泉の話が本当なら誰も殺さなくてもいいかもしれないということに。

……が、そこにやってきたのは危険人物姫ちゃん。
飛べない豚はただの豚。殺し合いに乗る気のない参加者や、無駄な希望を抱くだけの参加者は要りません、とばかりに彼らを襲撃。裁縫用の糸を使った曲弦糸の練習として、竜児を切り刻む。
両手を失い、反撃さえ封じられたこの状況。しかし何もかも諦めるのには早すぎた。
竜児に残されたたった一つの武器。彼のコンプレックスの源だった目つきの悪さ、ただそれだけでほんの一瞬、姫ちゃんをひるませ、自分の目を覚まさせてくれた美波だけは逃がすことに成功する。

彼は、最後の最期に、竜となったのだった。

知り合いを守るために殺し合いに乗ることを決意した彼だが、古泉一樹、島田美波と本人が気付かぬ間に二人にその知り合いの名前をばらしてしまうなど結局、殺し合いにはむかない性格だったのだろう。
とはいえ、没ネタになった話の中では違和感なく、冷酷に古泉を殺害したりしたこともあり、マーダーとして成長した彼が知り合いに出会うところも正直見てみたかったものではある。

また、同じ戯言シリーズのキャラに同じ技で右手を切断されたり、立場は逆だったが、武器を持たない女子高生と銃を持つ男子、そして精神的な脆さから女子高生が勝つ展開など、奇妙なまでに彼の相方逢坂大河と似通った展開が多かった。
やはり竜と虎はワンセットということだったのだろうか。

88名無しさん:2009/04/26(日) 14:58:48 ID:ZaOYV.TMO
改行してくれればなおのこと良いのだが

89 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/05(火) 03:47:51 ID:RtUDc5TI0
まだ規制中でしただ
浅上藤乃、こっちに投下します。

90凶る復讐心 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/05(火) 03:49:01 ID:RtUDc5TI0
 ――1998年、7月のこと。

 不良たちがたまり場としていた元酒場の廃屋にて、四体の変死体が発見された。

 その変死体というのは、街でも悪評高い少年グループのものだった。

 揃って、四肢が捻じ切られるという奇異な死に様を晒していた。

 人間の仕業とも思えぬ猟奇殺人事件……犯人の正体は未だ掴めず、真相は闇に葬られた。


 ◇ ◇ ◇


 ――喧騒とは無縁の時間を刻む、深夜の街路。
 深々とした空気の中を、一人の少女が突き進む。
 整った顔立ちは小さく、鋭角的な輪郭が美を表出する。
 燃えるような内情とは裏腹な落ち着いた眼が、進むべき道を見据えた。
 一歩、また一歩、重い体を引き摺るかのように、靴底で大地の感触を確かめるかのように、真剣に。
 教会のシスターが着るそれに近しい、とある女学院の制服を纏った少女の名は、浅上藤乃という――――。


 ここ数日で、夜の街も随分と歩き慣れた気がする。
 きっかけはやはり、あの五人に連れ回されるようになってからだ。
 あれから無断外泊も多くなった。寮長の心象も日に日に悪くなっていくばかりだったろう。
 連れ添う彼らがいなくなった後も、いや殺した後も、一人で街を徘徊する日が何日か続いた。

 理由は彼だ。
 ひとつ、足りなかった物。
 逃げた、追っていた、者。
 復讐心を注ぐ唯一のもの。
 湊啓太。

 今と同じように、浅上藤乃は湊啓太を探し出すという目的で街を何度か徘徊していた。
 不良グループの一人であった彼を見つけるために、同類と見て取れる男性に幾度となく話しかけた。
 卑猥な目で見られること、気安く軟派な声を返されること、裏路地に連れ込まれること、多々あった。
 それでも、藤乃は湊啓太の居場所について尋ねるのだ――――そして。

 返ってきた答えが「知らない」だったならば。
 藤乃はその相手を、無知ゆえに殺してしまう。

 殺人は忌むべき行為だ。そんな常識は、小学生だって持ち合わせている。
 この浅上藤乃という人間とて、殺人を正当化する大儀は持ち合わせていない。
 しかし藤乃には、良識を凌駕する恨みと欲望……なにより『痛み』がある。

 湊啓太を含む五人の不良たちに陵辱されていた彼女はあの日、今さらとも言える痛みを知ったのだ。
 その痛みは、傷が完治した今でも残っている。藤乃が手で押さえる腹部に、あの日の痛みが残留しているのだ。

91凶る復讐心 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/05(火) 03:49:44 ID:RtUDc5TI0
 一時間、二時間と街を歩き、ふと思い出す。
 先ほど殺害した、時代劇風の男についてだ。

 彼も藤乃の疑問には答えてくれなかった。
 よくよく考えてみれば湊啓太と親交がありそうな人物ではなかったが、状況が変わった今となっては対象は誰でもいい。
 ここは既に、見慣れぬ土地なのだ。深く考えたとて答えは出ないが、これだけはわかる。自分は拉致されたのだ、と。
 あの男も同じだったのだろう。されとて、ここにいる以上は訊かなければならない。大事なのは湊啓太との面識の有無だ。

 藤乃がこの催しについて思うことは、今のところはなにもない。
 それよりもまず、湊啓太への復讐を果たし、この痛みを解消するところから始めなければならなかった。
 だから――知らない者は殺す。
 それは無知を罪と断定し、自身を傷つけるかもしれない者への復讐の前払いを済ませる、という意味があった。

 もしくは、共感のためか。
 他人の痛みを知ることで、自分の痛みを知ることができる自分。
 他者を死に至らしめることで、他者より優れていることを自覚できた自分。
 誰かを殺すことで初めて、生の実感と愉しみを得ることができる――それしかない、自分。

 藤乃、傷は治れば痛まなくなりますからね――と幼き日の藤乃に母は言った。
 しかし自身を陵辱していた不良に刺された腹部は、傷が消えた後も痛みを残している。
 消えない――自覚してしまった痛みは、消えないのだ。復讐対象の最後の一人である、湊啓太を殺すまで。

 湊啓太を殺し、この痛みが完全になくなるその瞬間まで。
 浅上藤乃は、こんな生き方しかできない。
 こんな、殺人を重ねる生き方しか。


 ◇ ◇ ◇


 ああいう連中がいかにも寄り付きそうな場所を、虱潰しに探してみた。
 具体的に言えば、バーや娯楽場、地下階層に構えている店などだ。元々無人に近い街なので、人気の有無は考慮していない。
 結果を言えば、湊啓太はおろか、彼と繋がりがありそうな人間、無関係だろうと思える人間、誰一人として見つからなかった。
 まさしく無人の街だ。ここに集められている人間は少ないらしいが、それでも一人も見つからないというのはおかしい。
 ――いや、単に巡り合わせが悪いだけなのだろう、と藤乃は考えを改める。
 実際、あの時代劇風の男には一度会っているのだから。

 求めるのは湊啓太の居場所である。それ以外に探し人はいない。
 ならば、要は湊啓太の所在さえ掴めればいいわけである。それ以外の人間など情報源としての役割しか持たない。
 情報は巡るもの。だからこそ、他者に訊くのが一番の近道だと思った。しかし、それが望めないというのであれば――。


 ◇ ◇ ◇

92凶る復讐心 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/05(火) 03:50:26 ID:RtUDc5TI0
 浅上藤乃は、一目でそれとわかる巨大な建物の前に立った。
 周囲に散らばる白黒の車を見渡した後、夜空に照らされる上階を見上げ、最後に玄関口を眺め据える。
 目の前に聳える建造物は、警察署――しかし街と同じく、中に人の気配はない。

 法律的には罪人としての資格申し分ないであろう湊啓太が、罪の意識を自覚し出頭するという可能性も、なくはない。
 ただ、その可能性は極めて低いだろう。そのような見込みがある人物ならば、逃げ出したその日に警察に駆け込むはずだ。
 湊啓太が逃げてから、今日で二日目、いや三日目だったろうか。消息は依然として掴めないが、声だけは昨日も一昨日も聞いていた。

 居場所は掴めないが、連絡は取れるのだ。
 湊啓太は、犯人グループのリーダーの携帯電話を持ち出している。
 番号は既に頭の中だ。決して忘れることはない、湊啓太との唯一の繋がり。
 彼が逃げ出した直後に、藤乃は電話をかけていた。そこで彼に、こう釘を刺したのだ。

 ――あなたを捜す。絶対に見つけ出す。もし携帯電話を捨てたら、殺す。

 怯える彼の声が、今でも容易に思い返せる。
 おそらく、彼はどこかに引き篭もって身を隠しているのだろう。
 そこまで推測できた藤乃は、電話越しに彼の恐怖を煽り、外に引きずり出そうとした。

 ――今日は昭野という人に会った。あなたの居場所を知らないと言うから殺した。
 ――良かったわね。見つからなくて。友達が大切なら、そろそろ会いに来ない?

 どんな口調を用いたかまでは思い出せないが、大体そんな感じだったと思う。
 今を思えば、彼の知人を殺すことは無知への断罪ではなく、見せしめのような意味もあったのだろう。
 自分はなんと惨いことを続けているのか、と客観的に捉える視点は、今の藤乃にはない。

 黒桐鮮花は言った。
 繰り返す言葉は呪いになる、と。
 電話という手段が、彼に呪いをかける唯一の方法だ。
 だからこそ藤乃は、今夜も湊啓太に電話をかけるべきだろうと思い至った。

 警察署の玄関口を抜け、署内に潜入する。
 電話はすぐに見つかった。受付に設定されていた白いそれの受話器を取り、藤乃は笑む。
 この笑みも、本人に自覚はないのだ。腹部の痛みに苛まれながら、湊啓太を追い詰める所業にひた走っているだけ。
 浅上藤乃から見た浅上藤乃の表情は、苦悶に歪んでいる――それは、殺人の瞬間とて変わらない、決定的な矛盾。
 気づく、気づかないといった話は見当違いのなにものでもない。今の彼女にとっては。

 記憶を呼び起こし、数字の刻まれたボタンを数回、リズムよく押す。
 間違えるはずがない。彼と藤乃を繋ぐ、唯一のナンバー。

 もし、本当に、いや万が一、この地に湊啓太の携帯電話が存在するのなら。
 浅上藤乃がコールする、殺意ある呼び出しには……誰かしらが答えるのかもしれない。

93凶る復讐心 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/05(火) 03:51:23 ID:RtUDc5TI0
【D-3 警察署/一日目/黎明】


【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:腹部に強い痛み※1
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:湊啓太への復讐を。
1:湊啓太が持っているはずの携帯電話に電話をかけた。そして――?
2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。街を重点的に調べる。
3:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
※1腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。
※「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
※そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
※「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。
※「痛覚残留」ラストで使用した千里眼は使用できません。

94 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/05(火) 03:52:31 ID:RtUDc5TI0
投下終了。
どなたか代理投下をお願いします。

95 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:18:36 ID:s08lbsAs0
未だ規制中……。
朝比奈みくると土屋康太、こちらに投下します。

96朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:19:41 ID:s08lbsAs0
 街全体で夜逃げでも敢行したのか、辺りには灯りの点った家が見当たらなかった。
 満遍なく行き渡っている闇の中に、一箇所でも光源があったならば、すなわちそこに人がいることは明白。
 自らの居場所を知らしめることは、この地では致命傷になりかねない。
 知恵の働く人間ならば、灯りを用いず、活動する上での制限が緩められる朝を待つだろう。

 しっかり者と見せかけてどこか抜けている部分もある未来人、
 紳士な態度の好青年と見せかけて頭は桃色なむっつりスケベ、

 このおかしなコンビ、双方共にそこまでの思慮は働かず、夜道を堂々とランタンで照らしながら進行していた。
 本人たちは誰かを見つけたがっていたのだが、出会いはまだなく、進む道先は静寂に包まれている。
 他者を見つけられなかったことは不幸としても、他者に見つからなかったことは不幸中の幸い。
 そんなことにも気づかず、朝比奈みくると土屋康太の二人は過ぎていく夜に、意気消沈のため息を零した。

 ――そういえば。

 と、クール系の美男子を装う土屋康太が話を振る。

 ――はい?

 と、可愛らしく小首を傾げて朝比奈みくるが返す。

 ――『それ』の他に、なにか人捜しに役立ちそうなものは入っていなかった?

 と、朝比奈みくるの着るメイドさん衣装を指して、土谷康太が問うのだった。

 ――これは元から着ていたもので〜

 と、注釈などを加えながら。


 ◇ ◇ ◇

97朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:21:44 ID:s08lbsAs0
 【第一問】

  問 以下の問いに答えなさい。
 『土屋康太に支給された黄金の鍵。これの正体を答えなさい』


  ■“逆理の裁者”ベルペオルの答え
 『デミゴールドという金塊を元にして作り出した宝具の一種。[仮装舞踏会]の捜索猟兵に勲章として渡したもの』

  ■教師のコメント
  正解です。あえて書かなかったのでしょうが、正式名称は非常手段(ゴルディアン・ノット)といいます。


  ■朝比奈みくるの答え
 『ゴルディアン王が結んだ複雑な縄の結び目を断ち切った別の王様の伝説で……よく覚えていません。ごめんなさい』

  ■教師のコメント
  博識ですね。そちらはおそらく名前の由来になった部分だと思われます。あと解答用紙で謝る必要はありません。


  ■土屋康太の答え
 『女子更衣室の鍵』

  ■教師のコメント
  欲望に忠実な解答ですが、不正解です。


 ◇ ◇ ◇

98朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:22:23 ID:s08lbsAs0
 無人の街は、どこもかしこも照明が消えてしまっている……というわけではなかった。
 二十四時間営業のコンビニエンスストアなどは店員がいなくとも電灯がつけっぱなしで、街にはそれなりの灯りがあったのだ。
 真っ暗になっている民家に押し入り、わざわざ灯りをつけることは愚の骨頂。
 利用するなら、こういった灯りがついていてもなんら不思議ではない施設が最適だ。

 と、考え至って手頃なコンビニに踏み込んだわけではないのが、朝比奈みくると土屋康太の二人。
 単に見慣れぬ人様の家よりは、近づくだけで扉が開かれるコンビニのほうが入りやすかっただけのこと。
 二人はやや広く取られた雑誌コーナーの前に座り込み、自身らの荷物、ランダムに分配される『支給品』の検証に取り掛かった。

 まず土屋康太が朝比奈みくるに披露したのが、紐のついた黄金の鍵。
 デザインは古風ながら、放つ色は鍍金とも思えない高級感がある。
 鍵といえば銀色が定番と捉える二人には、この品が値打ちものの貴重品に思えてならなかった。

「鍵……っていうことは、扉か金庫を開けるためのものなんでしょうか」
「……持ってて損はない」

 わかったことと言えば、付属の説明書らしき紙に書かれていた『非常手段』という名称のみ。
 使い方が記されていなかったのは意図的なものなのか、鍵の使い方など一つしかないということなのか、二人は考える。
 SOS団団長の涼宮ハルヒ、Fクラスのトップエースである姫路瑞希らがいれば他にもいくつかの選択肢が挙げられたのだろうが、
 お着替えするマスコット団員と認知徹底されたむっつりスケベたる二人では、保留、温存といったありきたりな解答しか求められない。
 方針はあくまでも人捜し、考え事に時間を費やすのはよくないから……と、黄金の鍵は土屋康太のデイパックに収納された。

 人類最悪を名乗る男が『武器』と称した支給品、これは一人につき一個から三個まで配られるという話だったが、土屋康太の所持する品はあいにくと黄金の鍵一つのみだという。
 実際のところは彼がいま装着している眼鏡も支給品に類するものなのだが、その事実が朝比奈みくるに告げられることはなかった。

 バレたら事――ムッツリーニこと土屋康太、否、土屋康太ことムッツリーニは元からメガネっ子だった、と嘘を貫き通す方針である。


 ◇ ◇ ◇

99朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:23:22 ID:s08lbsAs0
 【第二問】

  問 以下の問いに答えなさい。
 『朝比奈みくるに支給された猫の耳を模したアクセサリー。これの有用性を説明しなさい』


  ■某国家元首(焦げ茶猫耳男)の答え
 『我が国の伝統です。人間の可愛らしさを引き出し、見る者を和ませ、人間関係を円滑にします。あなたもどうでしょう?』

  ■教師のコメント
  素晴らしい伝統だと思います。ですが、先生は遠慮しておきましょう。


  ■朝比奈みくるの答え
 『わぁ……とってもかわいいと思います。つけて歩くと、耳のところがぴこぴこ動くんですね〜』

  ■教師のコメント
  先生も可愛いと思いますが、それは説明ではなく感想ですね。


  ■土屋康太の答え
 『メイド服+スク水+猫耳=三種の神器』

  ■教師のコメント
  他国の伝統を侮辱して怒られないように。


 ◇ ◇ ◇

100朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:24:03 ID:s08lbsAs0
 土屋康太の荷物には有益なものがないと判断され、検証は朝比奈みくるの鞄に移った。
 理想としてはGPSなど捜し人の位置情報が掴めるような機器が欲しかったのだが、二人とも籤運はそれほど強いほうではない。
 朝比奈みくるが手に取ったのは、辞典ほどの大きさの箱。開けて中を見てみると、シックな黒い猫耳セットが入っていた。

 なぜ、猫耳――?
 という当然の疑問に、両者は揃って首を傾げた。
 この催しは、ただ一つの椅子を巡って他者を蹴落としていくゲームなのだと理解している。
 人類最悪が『武器』が配られると言っていたのも、他者の殺害を企画の範疇に据えているからだろう。
 先ほどのような用途不明の鍵に加え、こういったアクセサリーまで与えられる実情、企画運営者は参加者たちになにをやらせたいのだろうか。

 それはそうと、この猫耳は実に可愛らしい。これは朝比奈みくると土屋康太、双方の評である。
 せっかくの品、このまま捨て置くというのも些かもったいないような気がしてならず、土屋康太が、

「…………(じー)」

 眠たげな眼差しを朝比奈みくるの頭頂部に向け、目だけで主張を訴えた。
 視線を感じた彼女は、眼鏡の奥から放たれる期待感と、胸の内から湧き上がってくる好奇心に誘導され、気づけば箱から猫耳を取り出していた。
 慎重な手つきで猫耳を運ぶ。頭の上にそっと置くようにすると、猫耳は元の鞘に納まったかのように自然に定着した。

「あの、どうでしょう……? に、似合いますか?」
「…………!(コクコク)」

 猛然とした勢いで頷くムッツリーニに、もはや言葉はない。満面の笑みを浮かべる朝比奈みくるは、今や太陽にも等しい存在となった。
 本職と思わせること容易なメイド服に、その下がスクール水着であることを踏まえ、さらにぴこぴこと動く猫耳に目をやれば、
 お近づきになれた男子としては光栄の極み、女体の神秘ばかりではなく女性の可愛らしさを探求するムッツリーニとしては、幸福の一言だった。

 結局、この猫耳にどんな意味があるのかはわからない。否、意味などなくても構わないのだ。
 スクール水着の上にメイド服を着込む朝比奈みくるの頭に、シックな黒の猫耳が装着されている。
 これだけで天下は統一したも同然。軽すぎず重すぎず、ムッツリーニの観察眼からしてもパーフェクトな按配と言えた。


 ◇ ◇ ◇

101朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:27:21 ID:s08lbsAs0
 【第三問】

  問 以下の問いに答えなさい。
 『朝比奈みくるに支給されたロケット弾なる道具。これの正式名称を答えなさい』


  ■相良宗介の答え
 『これはRPG-7だな。ソビエトが開発した対戦車擲弾発射器で、某国では巨象や鯨を狩るのに使われていると聞く』

  ■教師のコメント
  さすがの解答ですが、ここはあなたが答える場面ではないと思います。


  ■朝比奈みくるの答え
 『黒くて、大きいけど……形を見るにラッパじゃないでしょうか?』

  ■教師のコメント
  物騒な答えじゃなくて先生安心してます。けど吹くのは絶対にやめましょう。


  ■土屋康太の答え
 『黒くて、大きい……』

  ■教師のコメント
  前の人の解答に反応しないでください。


 ◇ ◇ ◇

102朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:28:04 ID:s08lbsAs0
 三品目は、前の二つと比べると些か、いやかなり物騒な代物だった。
 木箱に入っていたそれは、子供の背ほどの細長い筒で、グリップと、肩に載せるパッドがある。
 片方の端には、円錐形を底で張り合わせたような、太目の出っ張りもあった。
 付属の説明書によると、名称は〝ロケット弾〟といい、爆薬の詰まった先端を、火薬で飛ばす道具のようだ。

 至って平穏な日常を送る高校生二人でも、これが人類最悪の言っていた武器、どころか兵器であることは想像容易かった。
 試しに持ってみようとすると、柔腕では支えきれない確かな重みが伝わってくる。
 人間に向けて放てば、その五体は間違いなく木っ端微塵。考えるだけで怖気が走った。

 一撃必殺の重火器は、護身用の枠を飛び越え殺戮の権化となるだろう。
 所持しているだけでも危険、しかし破棄して誰かに拾われても事、自ら破壊するには骨が折れる。
 使う意思があろうがなかろうが、割り振られた時点で管理は徹底しなければならない。
 朝比奈みくるはあらゆる意味での重みを実感し、しかし同行者となる土屋康太が、

「……預かる」

 いつもと変わらぬ表情で、ただその言葉だけを強く、言い切った。
 女性にこんな危ないものは持たせられない、という紳士的な瞳が、朝比奈みくるの視線とぶつかって揺るがない。

「土屋くん……」
「…………(コク)」

 余計な口は挟まず、土屋康太は貫禄のある頷きを返した。
 それに対する朝比奈みくるの反応は――屈託のない、土屋康太に邪念などないと信じて疑わない純真無垢な笑顔だった。

 土屋康太は朝比奈みくるの見えないところでグッと親指を立て、口元が緩まないよう必死に堪えていた。
 男子高校生たるもの、可愛い女の子からの好意を受け取ることは至上の喜びである。
 スケベは一日にしてならず。覗きや痴漢を繰り返すだけではただの変態であると、ムッツリーニは幸福を噛み締めた。


 ◇ ◇ ◇

103朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:29:59 ID:s08lbsAs0
 【第四問】

  問 以下の問いに答えなさい。
 『朝比奈みくるに支給された卒業証書入れのような黒い筒。これに備わっている機能を答えなさい』


  ■マリアンヌの答え
 『これはご主人様のコレクションの一つです。これを使って、私とご主人様はときどき……きゃっ』

  ■教師のコメント
  恥ずかしくても最後まで書かなければ正解はあげられません。


  ■朝比奈みくるの答え
 『両端にレンズが付いているんですね。望遠鏡なのかな……?』

  ■教師のコメント
  形状は似ているようですが、どうやら望遠等の機能は備わっていないようです。


  ■土屋康太の答え
 『透視。皮膚や骨などの人体の透過は望まず、衣服のみ透けるのが好ましい』

  ■教師のコメント
  もはや答えではなく願望ですね。


 ◇ ◇ ◇

104朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:30:46 ID:s08lbsAs0
(――〝Venus〟――)

 ローマ神話における愛と美の女神の名を心中で告げ、土屋康太ことムッツリーニは朝比奈みくるを高く評価した。
 可愛らしさは罪だ。そして罪に対して可愛いと思ってしまう己は罪人、否、罪人でなくてなにが男子高校生と言えようか。
 この未曾有の事態に巻き込まれて早々、ムッツリーニが朝比奈みくるに出会えたことは幸運――いや、運命に違いないのだ。

 土屋康太。彼の通う文月学園において、その本名は知らずとも〝ムッツリーニ〟という異名を知らない者はいない。
 誰が称したか『寡黙なる性職者』。恥も外聞もなく、いかなるときとてむっつりスケベとして生きることが彼の信条だ。
 眼前に覗けるスカートがあろうものならば、即座に身を屈め、ヘッドスライディングを敢行してでも覗きにかかる。
 勉強が苦手であろうとも、性に関わる知識ならばすべて一般教養と捉え、ドイツ語まで学習の範囲を伸ばす。
 それでいて直接的な痴漢行為などには手を伸ばさず、あくまでもむっつりと、スケベ道を探求するのが彼という男なのだ。

 ムッツリーニがビーナスと評す目の前の少女、朝比奈みくるはルックス、性格共にAAAランクは固い逸材と言えよう。
 Fクラスのマドンナ的存在である姫路瑞希と比較しても並ぶ、いやその上をいくと言ってももはや過言ではない。
 できることならばもっとお近づきになりたい……という男子高校生としては当然の欲求が、早くも疼きだしてきた。

 二年生に進級して早々、クラスメイトの坂本雄二に正体を暴露されたことを思い出す。
 ムッツリーニがムッツリーニと呼ばれるゆえんは、スケベ行為を働いても頑なにそれを否定する彼のスタイルにあり、
 決して土屋康太という男子がスケベであるという事実が隠せているわけではないのだ。
 しかし、この朝比奈みくるは数時間前に知り合ったばかり。ムッツリーニの本性など気づきもしていないだろう。
 ならば、もっと親密になりスケベなこともし放題な関係になることとて――とそこまで考え、ムッツリーニは首を振る。

 むっつりスケベという種が欲求を向けるのは、この世の可愛い女の子すべてに、等しくだ。
 視力が悪いわけでもないのにかけているこの眼鏡とて、記録する映像が一人分のみではあまりにももったいない。
 たとえば、朝比奈みくるの知り合いであるという涼宮ハルヒや長門有希。彼女らとてどのようなスペックを保持しているのかわからない。

105朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:32:51 ID:s08lbsAs0
(…………雑念、雑念)

 そもそも、自分はなにを深く考え込んでいるのか。ムッツリーニは戒めの意味も含めて、また首を強く振る。
 寡黙なる性職者の異名を持つ土屋康太――その本懐は、自らの欲求に逆らわず生きるところにある。
 欲求を満たすために策を弄することはあれど、言い訳や優先順位をつけることなどもってのほか。
 朝比奈みくるは可愛い。可愛い女の子の着替えやスカートの中はぜひ覗きたい。いたってシンプルな考え方。
 状況がどのようであれ、ムッツリーニはムッツリーニとしての生き方を全うするだけなのだった。

「最後はこれ、ですね……なんなんだろう、これ?」

 始まって早々、朝比奈みくるの生着替えが記録できたのは僥倖。次の機会が待ち遠しい。
 そして今は、人捜しに集中するべき時だ。荷物の確認に時間を割いているのもそのためである。
 ここまでで役に立ちそうなものは見つからなかった――猫耳は素晴らしかった――が、最後の一品はどうだろうか。

「……筒?」

 朝比奈みくるの小さな手が掴み取ったのは、卒業証書を入れる筒にも似た、黒い棒のようなものだった。
 両端にはレンズが嵌めており、太さが均一であるところから見ても、望遠鏡ではないように思える。

「なんでしょう? 大きくも小さくもならないし……万華鏡っていうわけでも……」

 朝比奈みくるが筒を覗きながら辺りを見渡すが、別段見えるものが変化しているというわけでもなさそうだ。
 また用途不明のハズレアイテムだろうか、とムッツリーニも訝しげになる。
 ふと、朝比奈みくるが筒の片端に目を当てたままムッツリーニのほうを見やり、

 視界が暗転した。


 ◇ ◇ ◇

106朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:33:56 ID:s08lbsAs0
 回復した視界の中で、朝比奈みくるはおかしな像を見た。

「ふぇ?」

 それは、両端にレンズのついた黒い筒を覗き込む自分――によく似た姿。
 猫耳とメイド服が似合う、SOS団部室の鏡で見慣れたその姿は――紛れもない、自分。

 朝比奈みくるの目の前に、朝比奈みくるがいた。

「ふぇ、ふぇぇぇ〜!?」

 毎度のごとく情けない悲鳴を上げる、その声がいつにも増して低いことに、みくるは違和感を覚えた。

「あ、あの、土屋くん! あ、あれ? ええ!?」

 土屋康太の名を呼びかける、その声も低い。まるで男の子のような、いや男の子としか思えない声質に変わり果てていた。
 目の前の朝比奈みくるの姿をした誰かは、黒い筒を下ろして今は硬直している。
 驚きを顔に表出させ、しかし安易に声を漏らさないところは、どことなく土屋康太少年のそれと雰囲気が似ていた。

 と、いうよりも。

「も、もしかして……ううん、もしかしなくても!」

 予感に急かされ視線を下にやると、男物の学生服を着ている自分がいた。
 顔のほうに手をやると、眼鏡をかけている自分がいた。
 慌ててお手洗いに駆け込み、鏡で確認すると――そこに土屋康太の姿をした、自分がいた。

「そ、そそ、そんな、そんなことってぇ……」

 おそるおそる発してみる声は、やはり低い。
 いつもよりやや高い目線の位置も、自然と大きくなっている歩幅も、予感が実感であると知らせている。
 雑誌コーナーの前に呆然と正座したままでいる朝比奈みくるの傍まで戻り、土屋康太の姿をしたみくるは声を振り絞った。

「つ、つつつ土屋くんですか!?」

 朝比奈みくるの姿をした――おそらくは『土屋康太』の反応は、鈍い。
 キョトンとした瞳でみくるのほうを一瞥し、すぐに視線を逸らした。
 緩慢な動作で両手を動かし、控えめに自身の胸を触って確かめている。
 男性ならば掴み得ないはずの感触を、彼女のような彼は今、噛み締めているに違いない。
 その証明として――朝比奈みくるの姿をした土屋康太は、恥ずかしさが度を越えたのか鼻血を噴出し卒倒した。

107朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:35:20 ID:s08lbsAs0
「つ、土屋く〜ん!」

 慌てて体を揺すってみるが、土屋康太は目を回しているようで、すぐには再起できそうになかった。
 心配ではあるが、それよりも先にまず確信する。彼女――朝比奈みくるの中身が、土屋康太になっていると。

 つまり、入れ替わっている、と。

 なぜ、どうして、なんで、そんなことが、まさか、【禁則事項】、目まぐるしい勢いでみくるの脳内が攪拌される。
 両者の意思総体が入れ替わる現象など、【禁則事項】の【禁則事項】を鑑みても【禁則事項】以外にありえない。
 気になるのは、この現象が起こったタイミングだ。あまりにも唐突だったために混乱してしまったが、よくよく考えてみれば、

「……ひょっとして、この筒が?」

 自身に武器として支給された黒い筒を掴み、土屋康太の姿をした朝比奈みくるは、これが原因だと思い至った。
 再びレンズを覗き込んでみるが、特にこれといった変化は訪れない。それは倒れ込む朝比奈みくるを見ても同じだった。
 なにかヒントはないのもか――と鞄を漁ってみると、どうやらこれにも説明書がついていたようで、そこにははっきりと使い方が記されていた。

「リシャッフル……覗いた者と覗かれた者の意思総体を交換する宝具……」

“存在の力”の注ぎ方を知らずとも効果が発現してしまう、ただし互いの心の間に壁があると効果が発現しない、
 そして再び覗くことで元に戻ることができる――という細かな点まで、詳しく書かれていた。
 宝具や“存在の力”という単語にはまったく聞き覚えがなかったが、元に戻る方法さえわかれば他はどうでもいい。
 みくるは早速、リシャッフルの片側から朝比奈みくるの目に焦点を合わせてみるが、

「……変わら、ない。ええ〜!? な、なんでぇ〜?」

 やはり変化はなく、泣くような声がコンビニ内に反響するだけだった。
 まさか説明書の内容が嘘なんじゃ、とも考えたみくるだったが、今の朝比奈みくるに意識がないことが気になった。
 朝比奈みくるに、いや土屋康太に意識が戻り、またお互いにリシャッフルを覗き込めばきっと――。

「それまでは……このまま? それって……つ、土屋く〜ん! 早く、早く起きてくださぁ〜い!!」

 切迫した想いが危機感となり、みくるにこれまでにない焦りを与えた。
 このまま男の子としての生活を送る、男の子が自分の体で暮らす――どちらも考えたくはない。
 自分の顔は今、青ざめているのか、それとも赤くなっているのか。
 鏡を確認するよりもまず、朝比奈みくること土屋康太を起こすのに無我夢中だった。

「う、う〜ん……」
「土屋くん!? 起きて、早く起きて! おーきーてーくーだーさ〜いっ!」

 みくるは自分の体を我武者羅に揺すり、中の土屋康太が覚醒することをただただ祈った。
 気だるい唸り声の後、朝比奈みくるの体はゆっくりとその身を起こしていく。
 その寸前、

108朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:36:48 ID:s08lbsAs0
「ハッ!」

 彼女が、いや彼が意識を覚醒させた後の展開を考え、みくるはさらなる危機感に襲われた。
 瞬時に――間を与えてはならない!――と思考し、リシャッフルを目元へとあてがった。
 先端を、今まさに目覚めようとしている朝比奈みくるの双眸に向けて――。


 ◇ ◇ ◇


 ――目を覚ますと、平然とした様相の朝比奈みくるがそこにいた。

「あ、土屋くん。急に気を失っちゃったみたいで、心配したんですよ?」

 可愛らしく小首を傾げ、朝比奈みくるは土屋康太の容態を気にかける。
 当の本人は、けろっとした表情で彼女の笑顔を眺めていた。

 ……朝比奈みくるの鼻の辺りが、かすかに赤い。

 鼻血でも出したのだろうか、と気にはなったが、女性にそれを訊くのは躊躇われた。
 そもそも、なぜ自分は気を失っていたのだろうか。どうしてだか思い出せない。
 人捜しに役立つものがないかどうか、互いの荷物を確かめていたところまでは覚えているのだが、

「結局、役立ちそうなものはなにも入っていませんでしたね。時間も惜しいですし、そろそろ出発しましょうか」

 何事もなかったかのようにそう告げる朝比奈みくるを見て、もう終了したのだろうと解釈した。
 土屋康太は眼鏡とスクール水着と黄金の鍵、朝比奈みくるはロケット弾と猫耳が支給された、と再確認する。
 確かに、人捜しに役立ちそうなものは入っていなかった。
 土屋康太はそう認識し、しかし妙な違和感を覚えてもいて、どうにも釈然としない気持ちに襲われた。

 ……それになんだか、両手の平に柔らかい感触が残っているような気もする。

 夢の中で女性の胸でも揉んでいたのだろうか、とまで考えてすぐに、はははっそんなまさか、と打ち消す。
 妄想にばかり浸ってはおれず、次なる記録(覗き)のために、土屋康太ことムッツリーニは精進することを誓った。

109朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:37:38 ID:s08lbsAs0
 そして、朝比奈みくると土屋康太はコンビニを発つ。
 朝になれば、誰か知り合いが見つかるだろうか。そんな淡い期待を胸に抱きながら。


 ◇ ◇ ◇


(なんて、危ない道具……)

 朝比奈みくるは土屋康太に表情を窺われないよう、前を歩きながら思う。
 意思総体の入れ替えいう一騒動を起こした宝具『リシャッフル』は、今はみくるの鞄に人知れず収納されている。
 危険な代物は逆に捨てられない。ロケット弾と同じく、徹底した管理が求められるのだ。
 土屋康太がリシャッフルの詳細を知り、それを悪用する……などとは考えたくなかったが、どうにも話す気になれない。

(涼宮さんに話すわけにもいかないし、長門さんに相談するのも難しいし……あ、キョンくんに……って、もっとダメ〜!)

 ほんの数分のこととはいえ、男性としての経験を蓄積してしまった朝比奈みくる。
 思い返すだけでも赤面ものの事件が、この地に来て早速の、消えない傷跡となって胸に残った。



【D-5/一日目・黎明】

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱、スクール水着、猫耳セット@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式、ブラジャー、リシャッフル@灼眼のシャナ
[思考・状況]
基本:互いの仲間を捜索する。
1:土屋康太と同行。
2:これ(リシャッフル)どうしよう……。


【土屋康太@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式、カメラの充電器、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ、ロケット弾(1/1)@キノの旅
[思考・状況]
基本:女の子のイケナイ姿をビデオカメラに記録しながら生き残る。
1:朝比奈みくると同行し、彼女の仲間を探す。

110朝比奈みくると土屋康太のバカテスト ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:38:21 ID:s08lbsAs0
【非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ】
“逆理の裁者”ベルペオルが、子飼いの部下に持たせている黄金の鍵型の宝具。
用途に応じた様々な自在法を織り込めており、所有者が死に掛けた際、残された“存在の力”を使って込められた自在法を発動する。
ちなみに“琉眼”ウィネが持っていたものには破壊の自在法が、“聚散の丁”ザロービが持っていたものには転移の自在法が込められていた。
この『非常手段』にどのような自在法が込められているかは不明。また、発動の際にベルペオルと会話ができるかどうかも不明。


【猫耳セット@キノの旅】
キノの旅Ⅳ巻第四話「伝統」より。
キノが訪れた国の伝統で、国民は全員この猫耳をつけていた。色は、キノに渡されたものと同じ黒。
人間関係を円滑にする手段として国全体に普及している……という話だったが、実はそれは旅人を騙すための嘘だったりする。


【ロケット弾@キノの旅】
キノの旅Ⅳ巻第六話「分かれている国」より。
北と南で分かれている国が、それぞれ鯨と象を狩るために使っていたもの。大昔には戦争で使われていた。
その形状からして、USSR RPG-7と同じものと思われる。


【リシャッフル@灼眼のシャナ】
”狩人”フリアグネが所有していた宝具の一つ。形状は、両端にレンズを嵌めた黒い筒。
覗いた者と覗かれた者の意思総体を交換することができる。原作ではシャナと悠二がこれによって入れ替わった。
その経緯が偶発的なものであったため、意識して“存在の力”を込めずとも使用できると思われる。
元に戻るためには再び覗き合う必要があり、互いの心の間に壁があると効果が発現しない。

111 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/10(日) 02:39:51 ID:s08lbsAs0
投下終了しました。
ご意見等ありましたらぜひぜひ。
代理投下もどうかお願いします。

112摩天楼狂笑曲 ◆76I1qTEuZw:2009/05/24(日) 00:19:15 ID:0Zw6bTk60
すいません、さるさん喰らったので転載お願いします

113摩天楼狂笑曲 ◆76I1qTEuZw:2009/05/24(日) 00:20:06 ID:0Zw6bTk60

【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・深夜】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
 基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
 1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。

※ステイルの挑発には、何の反応も示しませんでした。
 そもそも挑発自体に気付かなかったのか、それとも気付いた上で無視したのか、現時点では不明です。


  ◇  ◇  ◇


【共通問題】
 摩天楼について、思うところを書きなさい。

■白井黒子さん(中学生、女性)の答え
「なんとも古臭い都市計画の産物ですわね。21世紀初頭に流行ったとは聞きますが。
 そもそも、過去の成功例にしたって、計画が優れていたというより立地条件に恵まれすぎですわ。
 あれで成功してなければ、関係者は腹でも切るしかないでしょう。それくらいの好条件です。
 で、ざっと見たところ……
 この摩天楼のあたり一帯は確かにビジネス街とはいえ、都心の一等地と比べれば数段劣るようです。
 この土地にこういうモノを建てても、おそらく採算は取れないのではないでしょうか。
 まあわたくしも第三種経済の授業でちょっと齧った程度の学生ですから、断言まではできませんけれど」

■教師のコメント
 これはまた辛辣なご意見ですね。
 周囲より2、30年は技術の進んでいるという学園都市から見たらそういう評価になってしまうのでしょうか。
 ……それにしても、第三種経済なんてマニアックな選択授業を取っていることに先生は驚きです。


  ◇  ◇  ◇

114摩天楼狂笑曲 ◆76I1qTEuZw:2009/05/24(日) 00:21:16 ID:0Zw6bTk60

質量の上限、130.7kg。
飛距離の上限、81.5m。
ただし、どちらも上限近くになると精度が落ちる。
距離と質量の間に因果関係はなく、対象が軽いからといって精度が上がるわけではない。
また複雑な計算を要する関係上、その時の精神状態によって能力は大きく変化する。
ぶっちゃけてしまえば、激痛や動揺によって能力が使用できなくなることがある――。
これが、白井黒子の『能力』、『空間移動(テレポート)』に課せられた限界である。

彼女は日々努力を重ね、この能力の上限を上げようと勉強と開発に専念しているわけだが。
今の『大能力(レベル4)』から、御坂美琴と並ぶ『超能力(レベル5)』になる日を夢見ているわけだが。
同時に、一朝一夕のうちにこの数値が上がるとも思っていない。
気合1つでレベルを上げられるなら、学園都市の誰も苦労などしやしない。
だから、この能力値を元に、考えていかねばならない。
何をして、どう立ち回るのか、考えていかねばならない。

「最大に見積もっても、『あと1人』、ですわね……」
「……?」

夜の街を連続して転移移動しながら、白井黒子は小さく呟いた。
小脇に抱えた格好のティーが不思議そうな目で見上げるが、詳しい説明をするのも手間だ。ほうっておく。

ほぼ130キログラム、という壁。
正確な転移と微調整のためには、自分自身も一緒に飛ぶのが一番確実な方法だ。でないと事故が怖い。
だから、ここから自分の体重を差し引いて……
乙女の名誉に賭けて体重の数値は伏せるにしても、残りは成人男性1人分+α。女性や子供なら2人分。
100kgオーバーの高度肥満者や巨漢は、既にそれだけで彼女の手に余ってしまう。

だから、最大に見積もっても『あと1人』。
ティーは小さいし、黒子自身もどちらかと言えば小柄な方だ。ゆえにごく普通の成人男性くらいは何とかなる。
だが、それでもあと1人が限界だ。
白井黒子が保護し、共に『空間移動』で転移することができるのは、あと1人まで。
それも、心身共に最高のコンディションを保ち、持てる能力が万全に発揮できるのなら、である。

元々、逃げに徹すれば相当に強い能力である。
自由にテレポートを繰り返す彼女を捕らえられる者は、そう居ないだろう。
だが、彼女の性格と使命感が、弱者を見捨てることを許さない。安易な選択肢を、選ばせない。

ティーを信頼できる誰かに預けて、身軽になりたい――白井黒子は、すこしだけそんな風に思う。
もちろん、今ここでティーを見捨てる気はない。
彼女もまた、全力を挙げて保護せねばならない対象だ。
けれど自分の能力を最大限に発揮しようと思ったら、やはり1人で動くのが一番なのだ。

信頼できて、それなりの実力があって、ティーやその他の弱者を預けることの出来るような『仲間』。
これから何をするにも、これが必要だ。
御坂美琴や上条当麻はまさに適任だし、ティーの旅のパートナーだというシズや陸でもいいかもしれない。
いかに強力な『能力』を持っていようと、白井黒子1人ではやれることに限界があるのだ。

「とはいえ……その『仲間』を探すアテがないのですけれど、ね」

115摩天楼狂笑曲 ◆76I1qTEuZw:2009/05/24(日) 00:22:19 ID:0Zw6bTk60

軽く愚痴っている間にも、彼女たちは摩天楼の正面入り口に到着する。
1回の跳躍の限界距離は80メートル程度だが、連続して跳躍することで高速での移動が可能。
時速に換算して、最大で288キロ。それでいて空気抵抗を受けることも、慣性を感じることもない。
今回は相当に抑えて『跳んだ』からそこまでの速度はないが、それでもこの程度の距離、あっという間だ。
周囲を見回し、来訪者用に掲示されている地図を見つけると、その眼前に再度跳躍する。

ざっと地図と照らし合わせて確認したところ、この摩天楼には2つのタワー部分があるようだ。
西側がビジネス・ホテルの棟。東側が賃貸マンションの棟。
西棟最上階には展望室があるということだし、そこから周囲を見渡した方が良いだろうか。
東棟の最上階でもいいかもしれない。さてどっちに行ったものやら。

声が聞こえてきたのは、ちょうどそんなことを考えていた時だった。

『――この舞台に呼ば――者達よ、聞こ――か?
 我が名は『我が――最強である理由――こに証――る(Fortis931)』とで――憶しておけ――』

――白井黒子の顔に、困惑の表情が浮かんだ。

どこか遠くで、誰かが挑戦状を読み上げている。ノイズ交じりのこの声は、拡声器でも使っているのだろうか。
だがビル群や複雑な摩天楼内部で反響して、距離も方向も判然としない。内容も途切れ途切れだ。
さて、どうしたものだろう。
捨て置いていいものか、探すべきか、それとも……。


【E-5/摩天楼・正面入り口/一日目・深夜】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
1:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
2:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
3:拡声器越しの声を探す? それとも、西棟最上階展望室に上がって辺りを見回す? あるいは……。

[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。

※ステイルの挑発の声はギリギリ届きましたが、ビル群による反響などで、内容・方向ともに不明瞭です。


  ◇  ◇  ◇

116摩天楼狂笑曲 ◆76I1qTEuZw:2009/05/24(日) 00:23:01 ID:0Zw6bTk60

【共通問題】
 摩天楼について、思うところを書きなさい。

■ティーさん(旅人、女性)の答え
「…………くろい。とう。」

■教師のコメント
 もう少し何か答えてもらえると、先生は嬉しいです。
 確かに外見は黒くて、並んで立った塔のようですけど……。
 それとも、何か思うところがあったのでしょうか。過去の思い出と被るとか?

■シャミセンさん(三毛猫、オス)の答え
「私には何も思うところはない。
 そもそも摩天楼が商業施設であろうと住空間であろうと、猫である身には何の関係もないことだ。
 私の時間の感覚が人間のそれと異なっているように、空間の感覚もまた人間とは異なるものなのだ」

■教師のコメント
 支給品には聞いていません。


  ◇  ◇  ◇


声が聞こえてきた時も、ティーは相変わらずの無表情で黙り込んでいるだけだった。

『――この舞台に呼ば――者達よ、聞こ――か?
 我が名は『我が――最強である理由――こに証――る(Fortis931)』とで――憶しておけ――』

――どこか遠くで、誰かが何かを言っている。
なんとはなしに、デイパックから出てきたシャミセンを抱きしめながら、彼女は静かに摩天楼を見上げる。
いきなりの空間転移の連続に、混乱しているのかもしれないし、
このいきなりの宣言に白井黒子がどう反応するのか気になっているのかもしれないし、
あるいは――やっぱり何も考えていないのかもしれなかった。


【E-5/摩天楼・正面入り口/一日目・深夜】

【ティー@キノの旅】
【状態】健康。
【装備】RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
【道具】デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×2、不明支給品0〜1
【思考】
 基本:???
 1.RPG−7を使ってみたい。
 2.手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 3.シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。

※ステイルの挑発の声はギリギリ届きましたが、ビル群による反響などで、内容・方向ともに不明瞭です。
 ティーはさほどの興味を示さなかったようです。

117 ◆76I1qTEuZw:2009/05/24(日) 00:23:59 ID:0Zw6bTk60
投下終了。支援感謝です。転載お願いします。

時間帯は「あえて」深夜枠に留めています。
おそらく次の話では黎明に入るものと思われますが、他のキャラとの絡みの自由度も考えてこうしました。
(特に、朧と近いところに居ることになった、土御門・クルツ組に関して)

ちなみに、摩天楼のモデルは東京ミッドタウンや六本木ヒルズです。作中でも書いていますけれどね。

118 ◆76I1qTEuZw:2009/05/24(日) 00:33:09 ID:0Zw6bTk60
っと、さるさん解けたので、落とせるところまで落としてしまいます。
どたばたして申し訳ない

119 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:31:40 ID:cRs4QRM.0
未だアクセス規制が解かれません。
申し訳ありませんがこちらのほうに投下します。

120粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:32:57 ID:cRs4QRM.0
 闇夜に溶け込む街々が、進む二人の足取りを重く、慎重な色に染める。
 浸透する深々とした空気は、舗装された硬い街路の感触も相まって、通行人に緊張を促す。

 前を歩くのは、グリーンのセーターを着た二十代前半と見受けられる男だった。
 腰には抜き身の大太刀が一本提げられおり、刃が脚を掠めないよう気をつけて進んでいた。

 後ろを歩くのは、赤いジャケットにパンツルックの三十代半ばと見受けられる女だった。
 腰の後ろで手を組み、周囲の街並みを物珍しそうに観察しながら進んでいた。

 会話は少なく、だからといって二人とも気まずいとは感じていない。
 前を行く男の名はシズ、後ろを行く女の名前はアリソン・ウェッティングトン・シュルツといった。

 ふと、前を行くシズが足を止めた。
 釣られて、後ろのアリソンも立ち止まる。

 二人が視線を注ぐ前方、立ち塞がるように女が一人、立っていた。
 夜風に靡くのはドレスの端、体の凹凸は激しく、手にはなにか突起物を握っている。
 暗がりのため表情は窺えないが、雰囲気だけで初対面の相手に向けるべき笑みがないことを、二人は感じ取った。

 シズとアリソンは互いに一瞬だけ目配せする。その隙をついて女が走り寄った。
 それほど速くはなかった。距離が十分に開いていたこともあり、二人はまったくと言っていいほど動揺しなかった。

 なにも言わず、シズがベルトとズボンの間に挟んでいた大太刀を抜く。
 片手で扱うには重く、長さもあるそれはいつも愛用している刀と比べても勝手が違ったが、現状を打破するのに問題はない。

 シズは大太刀を両手で持ち、一直線に向かってくる女を袈裟に斬った。女は避けなかった。
 シズが大太刀を構えている姿が見えていなかったのか、アリソンから見ればわざわざ斬られに走ってきたようなものだった。

「あなたって情け容赦ないのね」

 左肩から右の腰にかけて真っ二つに分かれた女を見下ろし、アリソンがシズに言った。

「“これ”に情けもなにもないだろう」

 自身がその手で分断した女を見下ろし、シズはアリソンにそう返した。
 アリソンは、ごもっともで、とだけ返した。

121粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:33:38 ID:cRs4QRM.0
【B-4/一日目・黎明】

【シズ@キノの旅】
[状態]健康
[装備]贄殿遮那@灼眼のシャナ
[道具]デイパック、支給品一式、不明支給品(0〜2個)
[思考]
0:生き残る。
1:一先ずは脱出を目指す。
2:それが不可能ならば殺し合いに乗る。
3:アリソンは気にしない。
[備考]
※ 参戦時期は6巻『祝福のつもり』より前です。
※ 殺し合いをどこかの国の富豪の開いた悪趣味な催しだと考えています。

【アリソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]健康
[装備]カノン(6/6)@キノの旅、かなめのハリセン@フルメタル・パニック!
[道具]デイパック、支給品一式、カノン予備弾×24
[思考・状況]
1:シズが心配だから付いていく。
2:リリア達と合流。


 ◇ ◇ ◇

122粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:34:33 ID:cRs4QRM.0
 物騒な世の中になったわねぇ、などといった世間話を軒先でする奥様方の気持ちになったつもりというわけではないが、
 世の中本当に物騒になったよなぁ、と高校生の身分ながらに痛感することがしばしばある。
 物騒と一口に言ってもその種類は様々で、西の方じゃ公園で遊んでいる女の子にポストの場所を尋ねただけで通報されたり、
 東の方じゃ日常のストレスやら抑圧された鬱憤の解放やらで見知らぬ通行人を次々刺していったりと方向性は多岐に渡る。

 俺にとって怖いのは後者だ。特に通り魔というわけではないがナイフ、これにはある種のトラウマのようなものさえ芽生えている。
 今を思えば懐かしい、あの放課後の教室での出来事。朝倉はシンプルにも、ナイフで俺を刺し殺そうとしてきやがった。
 なんで刃物だったんだろうな。長門のお仲間であるところのあいつの素性を考えれば、他にいくらでも殺し方なんてあったろう。
 それこそよりハルヒに影響を与えるような、ミステリーに富んだ殺し方だってアリだったはずだ。キャトルミューティレーションとか。
 ……自分の内臓が何者かの手によって摘出される。外側は一切を傷をつけずに。すまん。想像した数秒前の俺が馬鹿だった。

 想像力豊かなのはいいが、安易な想像は自分へのダメージに繋がるんだと実感したところで現在の状況を説明しよう。
 夜の街はまだまだ真っ暗闇で、例の声のでかい自己主張に身の危険を感じた俺はマオさんや陸と逃げ出すことしばらく、
 とりあえず川でも渡って北東のほうに回ろうかとせかせかしていたところ、見知らぬ女性に行く手を阻まれた。
 ここで前述の物騒な話が生きてくる。俺たちの前に立ち塞がる女の方は、なんとこちらに向けて包丁の切っ先を向けているではないか。
 いくら今が真夜中とはいえ、深夜勤務ご苦労様ですと前置きしてからおまわりさんに通報したくなるのが小市民の心ってやつだ。

「キョンさん。訊きそびれていたのですが、格闘技かなにかの心得はおありで?」

 ない。と俺はスッパリ言い切った。俺が非常時であるにも関わらず素手でいたもんだからかね。
 シャミセンもびっくりなこの喋る犬、陸は変わらずにこにこした表情で俺に包丁女の対処を委ねてくる。
 そういや訓練された警察犬なんかは武装した犯人に対しても果敢に向かっていくと聞くが、こいつにそういうのを期待するのは無駄だろうか。

 まあそれはともかくとして、いよいよもってヤバイ展開である。
 暗がりのため顔はよく見えないが、どうやらドレスを着ているらしい女性は今にも俺たちに斬りかかってきそうな雰囲気だ。
 陸が期待するように俺が彼女の腕に手刀を打ち込んで包丁を叩き落とし、流麗な動作で一本背負いに持ち込むなんざ逆立ちしてもできん。
 ここは三十六系逃げるにしかず、言葉の意味は覚えちゃいないがとにかくすたこらさっさと退散するのが一番だろう。
 俺は未だ酔いどれ気分が回復していないだろうマオさんに合図を送るべく、チラリとを後ろを振り向こうとしたのだが、

 その瞬間、目の前にいた女性の頭が吹っ飛んだ。

 夜目でもわかるくらい、派手にだ。
 突然の出来事に俺は唖然とし、表情が変わらないのでどうかは知らないがおそらく陸も唖然としていた。
 唯一、俺の後ろで千鳥足を刻んでいるかと思われたマオさんだけが飄々とした態度で声を発することができた。

123粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:36:51 ID:cRs4QRM.0
「あー……ったく、いくらなんでも酔いがさめるってなもんよ」

 飄々と、というのは語弊があるな。たとえるなら二日酔いのサラリーマンが渋々、頑張って再起しましたよー、ってな状態か。
 マオさんは頭痛でもするのか片手で額を押さえつつ、もう片方の手にはこれまた物騒な長物を持っていた。
 銃だ。それも世間一般の方々が連想する拳銃じゃない。両手で構えなければ撃てなさそうなキリンの首のように長い銃だ。
 素人の俺にはこれがライフルなのかショットガンなのか判別がつかなかったが、マオさんがこれを持っている意味はわかる。
 彼女は生粋のガンマニアだったのだ、などといった素っ頓狂な回答も用意してはいたが今はそれを繰り出せる余裕もなく、
 眼前の銃刀法違反者が背後の銃刀法違反者に頭を派手に吹っ飛ばされたのだ、と誰の目から見ても明らかな解を提示しよう。

「キョンさん。これを見てみてください」

 バーチャルゲームじゃあるまいし、ただの飲んだくれにこんな代物がいきなり撃てるはずもなく、
 ましてや包丁を所持していたというだけの女性の頭を躊躇なく狙えるかと考えれば、半信半疑だったマオさんの経歴も納得できる。
 そのへんを再確認するのは先延ばしにするとして、俺は陸に誘われるがまま、頭部を失い果てた女性のもとに駆け寄った。
 そこには見るも無残な肉片と脳髄のコントラストが……広がっていると思っちまったんだがな、軽い気持ちで近づいたことを後悔せずに済んだ。

「なんだこりゃ」
「見るも明らかでしょう」

 状況を改めて整理してみよう。今は深夜、辺りは暗がりだ。さっきは遠目で、女性の顔は窺えなかった。
 突然の事態に動揺してたってのもあるんだろう。だが、今広がっている惨状を鑑みてみれば、なんてことはない。
 こりゃあミステリーでもサスペンスでもなくホラーだった。そういう解釈がぴったり当てはまるだろう。
 なにせ、マオさんが銃で木っ端微塵にし、俺と陸が今まさに見下ろしているそれは、死体ではありえない代物なんだからな。

「マオさん、これは……」
「考えるのは後よ。派手に鳴らしちゃったからねぇ、とりあえずここから離れるわよ」
「同感ですね。誰かが駆けつけてくる前に退散するとしましょう」

 酔いからさめたらしいマオさんはたいへんごもっともな提案をし、その場からとっとと逃走なさった。
 陸もそれについていき、俺といえば慌ててこれを追いかける三羽烏のオチ担当、というような構図だ。
 この差から見て、驚きが一番大きかったのは俺なんだろう。ハルヒ絡み以外の非日常には慣れてないからな。
 今この場での体験談を夏の怪奇特番にでも投稿すれば、おもしろいと採用されるかネタだなとそっぽ向かれるかのどちらかだろう。
 ちなみに、俺は後者だと信じて疑わない。こんな話、谷口や国木田はもちろんのこと古泉に振ったって鼻で笑われるだろうよ。

 一つわかっていることだけを言わせてもらうとするならば、とりあえずマオさんは殺人犯にはならなかったってことだけだ。

124粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:38:20 ID:cRs4QRM.0
【C-4/一日目・黎明】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:陸@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
0:なんだったんだ、ありゃ?
1:この場から離れる。
2:SOS団との合流し、脱出する。
[備考]
※陸の思考
1:キョンたちについていく。
2:シズとの合流

【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグM590(8/9)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)
[思考・状況]
1:この場から離れる。
2:キョンを守る。
3:仲間達と合流。
4:自身の名前が無い事に疑問。


【モスバーグM590@現実】
口径:12ゲージ 全長:1042mm 重量:3.6kg
モスバーグ社が開発したポンプアクション式散弾銃。アメリカ海兵隊などに使用されている。
工具なしで銃身を交換することができるのが特徴。


 ◇ ◇ ◇

125粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:38:53 ID:cRs4QRM.0
 煌々と輝く満月の膝元、それだけでは足りない、と整地された路面を照らす照明灯の連なりがあった。
 端にシャッターの下ろされた格納庫を並べ、中央には滑走路を差別化するための白線と黄線が引かれている。
 辺りを取り囲むのは草地だ。平坦に整えられた緑の絨毯は、思わず寝転びたくなるような魅力を秘めている。

 若輩ながら世界の各地を巡り歩いてきた相良宗介にとって、飛行場という施設はさして珍しいものでもない。
 対テロ極秘傭兵組織『ミスリル』所属の彼は、ここに置かれている飛行機はもちろんのこと、
 AS(アーム・スレイブ)と呼ばれる人型機動兵器の操縦すら得意とする、専門家(スペシャリスト)だ。

 時間の経過により一定の区画が消滅する、島を舞台にしているにも関わらず脱出は不可能、
 そういった信じ難いルールの根底を暴くべく、調査に立ち寄ったのがこれまでの経緯。
 実際に飛行機を飛ばしてみれば今の不可解な状況が一挙に解明できるだろう、と考え飛行場に立ち寄ったまではよかったのだ。

 結果から言って、宗介の打ち立てた計画は第三者の妨害を受けてしまった。
 彼は今、望まぬ交戦状態にある。

 戦地は滑走路のど真ん中。深夜とはいえ、照明がいくつもついているので活動するには不自由ない。
 おかげで、飛行場を訪れてすぐに遭遇し、顔を合わせるなりこちらに襲い掛かってきた者の姿がよく見える。
 背丈は同等、知人ではありえず、性別は女、ナイフを得物とし、停戦の様子はなし、こちら側からの警告も効果なし。
 制圧は容易だった。しかし宗介はある見極めのため、即座の撃退を選ばず、三分半ほどを対象の観察に当てた。

“これ”はいったいなんなのか、という疑問を解消するべく、相良軍曹らしからぬ戦いが続く。

 基本的には女が攻撃し、宗介がそれを寸前で回避するという流れが延々と繰り返されるだけだ。
 攻撃方法はパターン性に乏しく、手に持ったナイフによる振り下ろしや振り上げ、稀に突きなど。
 それ以外の武器を使ったり、ナイフを捨てての肉弾戦に持ち込もうという気配はまったくない。
 馬鹿の一つ覚え、としか言いようがないほどに愚かしい、アマチュア以下の戦い方が宗介の目の前にあった。

 やがて十分だと判断したのか、宗介は軽いため息の後、所持していた拳銃を構え女に向かって発砲した。
 銃弾が女の額に命中し、決着する。
 人間ならば確実に死ぬ急所を狙ったが、宗介は女が倒れても銃を下ろさず、警戒に努めた。

 しばらく待ち完全に反応が見られないと判断するや否や、宗介は被弾した女の体を抱き起こし念入りに調べ始めた。
 身につけていたドレスを強引に破き、凹凸のハッキリした体の質感を確かめる。
 予想していた通りの感触が手の平に伝わり、さらに全身の重量もそう大したものではないと確かめてから、
 宗介は女の口内へと指を突っ込み中を探る。同時に、銃弾が命中した箇所の損傷具合も、間近から見て確かめる。

 傍目にも怪しい調査が終わり、宗介は悩ましげな表情を一つ浮かべた。
 どう対応したものか、判断に困る。
 こういった不可思議な事象は戦場というよりもむしろ、陣代高校での生活の中で多く見受けられただろうか。
 そのときは警護対象でもあり親しき友人でもある級友、千鳥かなめが代わって対処に当たってくれたりもした。

126粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:40:30 ID:cRs4QRM.0
「リリア、君の意見を聞かせてくれないか」

 不測の事態により今は離れ離れになってしまった少女を思い出すと同時、
 つい先ほど前に関係を築き上げた同行者の存在も思い出す。
 格納庫の裏で宗介の戦闘を見守っていた彼女、リリア・シュルツは険しい顔を浮かべながら歩み寄ってくる。
 宗介のすぐ傍に横たわる女の亡骸を見て、リリアはその顔をさらに顰めた。

「……まさか幽霊の仕業!? とでも反応すればいいのかしらね。わたしにだってわかんないわよ」
「そうか。俺は最初、首謀者グループが差し向けてきた刺客かとも思ったんだが。調べてみればなんてことはない」

 宗介とリリアは互いに目配せした後、もう一度女の亡骸に目を向け、その揺ぎない事実を再確認する。

「まったくもって不可解だ。これは機械でも、ましてや人間でもない。単なる“マネキン人形”だ」



【B-5/飛行場/一日目・黎明】

【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式(ランダム支給品0〜2個所持)
[思考・状況]
0:ひとりでに動くマネキン人形……? ホラーだわ。
1:それはともかくとして、飛行場を調べたい。
2:宗介と行動。
3:トレイズが心配。
4:アリソン、トレイズ、トラヴァスと合流。

【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ、IMI ジェリコ941(16/16+1)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)、予備マガジン×4
[思考・状況]
0:不可解ではあるが、ただのマネキンに用はない。
1:飛行場を調べる。飛ばせる飛行機があるようなら、空からこの会場を調査してみたい。
2:リリアと行動。
3:かなめとテッサとの合流最優先。


 ◇ ◇ ◇

127粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:41:15 ID:cRs4QRM.0
 会場東部に聳え立つ背の高いデパート、その地上階の中ほどに、一連の事件の黒幕は潜んでいた。
 全身を白の長衣で包む美麗の容貌は、過ぎ去る時刻を思い深くため息をついた。
 辺り一帯は玩具売り場。御崎市に巣くっていた頃、アジトとしていた環境となんら変わりない。
 だというのに、今の自分は酷く見劣りする存在になってしまったのだと、柄にもなく落胆する。
 種族の壁を越えて対等に扱われる……ある種、嬉しきことではあった。が、彼女がいなければそれも無価値だ。

「結果は出た。幕を下ろし、甘んじてこれを受け入れよう」

 落胆も一瞬、“狩人”フリアグネは表情を毅然としたものに変え、今しがたこの階に踏み入ってきた男に語りかける。

「報告を聞こうか、“少佐”」

 その呼称は、人間を名前で呼ぶという行為に慣れていないフリアグネにとって、極めて都合のいいものだった。
 軍人の階級など、“紅世の王”であるところのフリアグネと比せば毛ほどの意味もありはしない。
 上からでも下からでもなく、この場は単なる呼び名として、一時的同志である“少佐”の返答を待つ。

「管轄外の三体に関しては時間が結果を告げています。私が追った一体についても同じく。“舞踏会”はこれにてお開きです」

 レジカウンターに腰を落ち着かせるフリアグネの前に立ち、“少佐”ことトラヴァスは報告を遂げた。

「まさか、全滅とはね。ちなみに“少佐”、君が観察すると言った一体は、どんな人間にやられたんだい?」
「少年でした。歳は十代の半ばか後半かといったところです。鈍器で一撃。威力はそれほど大したものではありませんでしたが」
「つまり、耐久力もその程度だったというわけか。“少佐”、君はその少年を最終的にどうしたんだい?」
「特になにも。今回は観察に努め、不干渉を貫きましたよ。急いては事を仕損じますし、隙もありませんでしたから」
「もっともだ。だからこその“舞踏会”だったんだがね……私としては後味の悪い方向に転がってしまったようだ」

 フリアグネは悔しそうに歯噛みし、カウンターから腰を上げる。
 対象年齢一桁ほどの玩具が並べられた棚と棚の間を、考え事に耽りながら数歩、足で刻む。
“常ならざる”今だからこその、人間らしい、いや人間の“ような”仕草。

「『玻璃壇』でもあれば、この場に留まる意味も大きいが……彼女たちが偵察にも使えないとなると、盤面はまた厳しくなるな」
「人の世では、“狩人”とは狩りをする者のことを指します。時機に夜も明けるでしょうし、出撃するなら頃合かと」
「それは人間で言うところの軍略かい、“少佐”? 私としての正攻法は別にあるのだが、いつまでも渋ってはいられないな」

 考え込むフリアグネの決断を、トラヴァスは表情を変えぬまま待つ。
 時計の針は四の数字より南に傾き、窓の外はほんの微かにだが、白っぽい光が見られ始めた。

「出かけようか“少佐”。『万条の仕手』に法衣のお嬢ちゃん、君、そして彼女たちを打ち破った人間。
 世界に対しての認識が隔てられていた以前では考えられなかったが、今は実際に交流を図るべき時なんだろう。
 蒐集家として自ら集め歩く……なにも珍しいことというわけではないさ。君という頼もしい同志もいることだしね」

 程なくして、“狩人”フリアグネが百貨店からの出立を決める。
 同志と呼ばれたトラヴァス“少佐”は、首肯して彼の後に続く。

 殺し合いに乗った二人が、“舞踏会”を終えて“狩り”に出向く。

128粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:42:49 ID:cRs4QRM.0
【C-5/百貨店・玩具売り場/一日目・早朝】

【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(肩紐片方破損)、支給品一式、不明支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:当面、トラヴァスと組んで他の参加者を減らしていく。ただし、トラヴァスにも警戒。
2:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
3:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。


 ◇ ◇ ◇

129粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:43:20 ID:cRs4QRM.0
「そんな、まさか……フリアグネの“燐子”!?」

 両儀式と別れた坂井悠二は、警察署からの謎の電話に応えるべく、南西へとひた走っていた。
 その道中、彼の行く手を阻むように現れたのが、ドレスを纏った表情のない女――のマネキン人形である。
 周囲は暗がりのため、人の目ではそれが、一瞥しただけで非人間であるとは気づけなかっただろう。

 だが、この坂井悠二という少年は違う。
 かつての夢想家が宣布しようとした『この世の本当のこと』を自らの消滅と共に認知し、
 自身が『零時迷子』という宝具を宿したトーチ、“ミステス”として在ることを自覚した。

 ゆえに、見えるのだ。
 己が人間として暮らしてきたそれまでの世の中と、“紅世”との明確な境界線が。
 命とも言うべき“存在の力”を視覚化したものであり、それが人間でないという確たる証拠でもある、『炎』が。

(あのときのマネキンと同じ……それに、炎の色も。僕の記憶違いじゃないとすれば、まず間違いない)

 目の前に立つ女の胸部では、薄い白の色をした炎が、今にも消えそうなほど儚く燃えている。
 悠二が初めて遭遇した“紅世の徒”である“狩人”フリアグネもまた、炎の色は薄い白だった。
 炎が同色の“徒”は、基本的にはありえないと聞いている。もちろん、色彩に微かな違いがあるのかもしれないが。
 その可能性を含めて考えてみても、人形型の“燐子”を使役することは、フリアグネの得意とする分野だった。

 つまり、このマネキン人形はフリアグネの“燐子”である可能性が極めて高いのだ。
 フリアグネは既にシャナの手によって討滅されており、名簿にも掲載されていなかった、という点を無視すれば。

(考えるのは後だ。相手は“燐子”、そしてこの状況下……やるしか、ない)

 マネキン人形は手に刃物らしきものを握っている。ここで逃走を図れば他の人間に標的を変えるかもしれない。
 敵と相対して数秒、悠二は相手が襲い掛かってくるよりも前に考えをまとめ、これの撃退に打って出る。

 デイパックから取り出したのは、自身の身長の倍ほどはあろうかという長い鉄棒だ。
 これは宝具『メケスト』。かつて御崎市を訪れた調律師、『儀装の駆り手』カムシンが所持していたものだ。
 棒術の心得などまったくない悠二ではあったが、これが宝具であり、自身“存在の力”をある程度扱える以上、下手な武器よりも心強い。

 悠二が『メケスト』を構えたところで、マネキンの“燐子”が一直線に駆けてきた。
 真っ向からの突撃は反撃に好都合でもあり、相手の本気が正面から伝わってくるので脅威でもある。
 構える鉄棒は決して軽くはない。下手に振るうのは愚策、ならば攻撃法は一つしかない、と瞬時に判断を下す。
 軌道を変える素振りがまったく見られない“燐子”の突進に対し、悠二はあえて前に踏み出し、『メケスト』を突き出した。

 先端が狙い、穿ったのは、“燐子”の喉下である。
 驚くほど綺麗に命中した。と悠二が思うと同時、“燐子”が跳ね返るように後ろへと倒れる。
 受け身を取ることもなく地面へと激突し、衝撃で首が取れ、胸元に宿っていた存在の炎は一瞬で掻き消えた。

130粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:44:05 ID:cRs4QRM.0
「――えっ?」

 思わず、そんな声が漏れる。
 弱い――“徒”やフレイムヘイズなどとは比べられず、そして人間よりも容易く、“燐子”はほんの一突きで壊れてしまった。
 元の炎からして見た目脆弱ではあったが、それにしてもあっけなさすぎる。
 悠二はなにかしら罠があるのではないか、と存在が希薄になったマネキンを棒で小突くが、当たり前のごとく反応はない。

「いやあ、お見事」

 呆然と“燐子”だったものを見下ろす悠二、その背後から、落ち着いた男性の声がかかる。
 咄嗟に振り返ると、そこには眼鏡をかけた三十代半ばほどの優男が、こちらに銃口を向けつつ微笑んでいた。

「素晴らしい一撃だ。いや、褒めるべきは判断力と度胸のほうかな。なんにせよ、ただの子供として接することはできないね」

 ――人間だ。
 悠二はまず、目の前の存在が“徒”でもフレイムヘイズでもトーチでもない、純正の人間だと目を凝らし判断する。
 その上で、慎重に問うための言葉を選択した。

「……あなたは?」
「本名は教えられない。あえて名乗るなら“少佐”か。それとも、“フリアグネ様”の仲間といったほうがわかりやすいかな?」

 ――フリアグネ。
 この世の人間が口に出すには風変わりすぎるその名を耳にし、悠二は今一度足下のマネキンのへと目をやる。
 状況証拠は十分すぎる。マネキン型の“燐子”、“少佐”なる男の発言内容、揃いすぎている。
 やはり、この椅子取りゲームに討滅されたはずの“狩人”フリアグネが存在しているのだ。
 信じがたくはあるが安易に否定もできない事実に行き着き、悠二が険しい表情を浮かべていると、

「とりあえず手を上げてくれないかな? この銃は警告の意味もあるんだがね」

 男が優しげな口調で降伏を促してきた。
 悠二は表情を変えず、毅然とした態度でこれに応える。

「……手は上げません。上げる意味がない」
「それは銃が怖くない、ということかな?」
「いいえ、違いますよ」

 悠二は、男の目を見ている。
 黒光りする銃口ではなく、男の目だけを見つめ言い放つ。

「僕を撃つつもりなら、声をかけるより先にいくらでも機会があったはずだ。
 たとえ僕を尋問することが目的だったとしても、邪魔になる手足の一本や二本、撃ち抜いてから声をかければいい。
 フリアグネの仲間を名乗るほどの人間なら、それくらいはしてのけるのが普通でしょう? それに、なにより……」

 ――あなたの銃からは、“殺し”が感じられない。
 悠二は、目の前の男にこちらを殺害する意はないと確かに見極め、だからこそ冷や汗の一つもかかずに相対していられた。
 悠二の返答に対し、男は無言。いや、無反応だ。銃口はぶれず、引き金も絞られず、電池の切れた玩具のごとく停止してしまった。

 さあどう出る、と悠二が唾を飲む――その瞬間、銃声は鳴った。


 ◇ ◇ ◇

131粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:46:09 ID:cRs4QRM.0
(どことなく“王子様”に印象が似ているようだが、これはこれは……トレイズ殿下よりも頼もしいくらいじゃないかな?)

 内心苦笑しながら、“少佐”ことトラヴァスは硝煙を上げる銃をより強調するように持ち直した。
 眼前の少年は、さすがにびっくりした表情を浮かべている。が、恐怖で竦んだりしないところがますます好印象だ。

「勘違いしないでもらおうか。用があるのは、君の口だけじゃない。だから下手に傷つけることを避けたまでさ」

 銃には消音機をつけていたため、音での威嚇は望めない。なので、少年の足下のマネキンを撃ち抜かせてもらった。

「君はその人形のことを知っている風だったね。“フリアグネ様”の名も、すぐに出てきた。僕はそれについて知りたいのさ」

 マネキンを前にした少年の反応。そこが現在の行動に至った分岐点であり、トラヴァスにとっての幸福だった。
 発言の内容からして、この少年はフリアグネを知っている。さらには、フリアグネが秘した“紅世”に関する情報もおそらく。

「訝しげな顔だね。答えやすいようにヒントをあげようか……僕は“フリアグネ”の仲間だ。いずれ、裏切るつもりだけどね」

 トラヴァスに殺意がないことを容易く見破ってみせたこの少年、はたしてこの言動からどこまで推察することができるか。
 綱渡りを楽しむような童心は持ち合わせないのが理想だったが、将来有望な若者に対すると、つい悪い癖が出てしまう。

「互いに背中には気をつけるべき関係なのさ。そんな僕が今最も欲しいものは、なんだと思う?」
「……フリアグネ自身が隠し、あなたも知らない、僕という第三者だけが知っている、情報ですか」

 トラヴァスは鷹揚に微笑み、頷く。口には出さないが、大した少年だ、と精一杯の賛辞を秘めて。

「察しがよくて助かるよ。僕はいつかフリアグネを出し抜くための情報が欲しい。特に弱味を握りたい」
「僕がフリアグネについて知っていることは、あまり多くありません。それでも、助かるための行動にはなりますか?」

 内容次第さ、とトラヴァスは返した。
 少年は悔しそうに歯噛みし、そして訥々と語り出す。

 ――トラヴァスが教えられなかった、“狩人”フリアグネの情報。
 ――フレイムヘイズと対したときの戦闘スタイルや、得意な武器。
 ――人間関係、性格等、そういった彼に囚われた者からの、印象。
 ――そして、この『坂井悠二』という少年の素性も、それとなく。

 すべて有意義なものとして捌き、吸収する。
 やがてトラヴァスは、銃を下ろし自ら悠二の言葉を切った。

132粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:46:41 ID:cRs4QRM.0
「なるほど、彼は宝具を扱うことに長け、そして戦略家でもあるのか……同時に、君にも生かす価値が見つかった」

 銃を下ろしても、悠二は警戒を解かない。表情に緊張を保ったまま、トラヴァスの言葉の真意を探ろうとしている。

「その、フリアグネを討滅したというフレイムヘイズ。彼女と彼が共倒れになってくれれば、僕としてはこの上なく都合がいい」

 トラヴァスは悠二に、一度フリアグネを討滅――殺したという少女、シャナを連れてくるよう指示を出した。
 ただでさえ“魔法遣い”のような異能を有する王様だ。自ら討ち取るよりも、専門家の手を借りたほうが早い。

「フレイムヘイズにとって、“紅世の徒”は見過ごせない存在なんだろう?」

 シャナという存在がフリアグネを討つ、この行動についての正当性は十分にある。
 だからこそ誰に疑われることもない、トラヴァスの見逃しが、単なる甘えでないと知らしめることができる。
 悠二は単なる足、シャナという災厄を呼び、フリアグネをそれに巻き込ませるための――だからこそ、この場は見逃すのだ。

「さあ、もう行くといい。僕の気が変わらぬ内に。次はそう、そのシャナという子も一緒に会えるといいね」

 それが本心でなく、建前だとしても。
 悠二本人が、どこまで了解しているか知れずとも。

 トラヴァスは今はまだ、“フリアグネ様”の恩恵に縋る浅ましい人間として。
 去っていく坂井悠二の背中を、激励の一つもなしに見送るのだった。



【C-5/百貨店付近/一日目・黎明】

【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康、強い不安
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:シャナ、吉田一美、ヴィルヘルミナを捜す。
0:あの人は、いったい……。
1:“少佐”の真意について考える。
2:警察署を目指す。
3:他の参加者と接触しつつ、情報を集める。
[備考]
※清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
※警察署に殺し合いに積極的な殺人者がいると思っています。


【メケスト@灼眼のシャナ】
『儀装の駆り手』カムシンが持つ鉄棒型の宝具。長さは三メートルほど。
本来はカムシンが『瓦礫の巨人』で儀装した時に使う武器で、鉄棒は巨大な鞭の柄となる。
調律時のマーキングなどにも用いられるが、ただ単に“存在の力”を込めても効果が現れるわけではない。


 ◇ ◇ ◇

133粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:47:25 ID:cRs4QRM.0
 突如として始まった、『粗悪品共の舞踏会(ダンスパーティ)』。
 フリアグネが主催を務め、トラヴァスがそれに乗じた、不可解な催しの真相を曝け出そう――。

 まず、同盟結成後に場所を百貨店へと移した二人は、婦人服売り場で四体の“燐子”を精製する作業に入った。
 制作者はフリアグネ、“燐子”とは彼が“存在の力”を物体に注ぎ込みむことで完成する、己の命に忠実な下僕のことである。
 この“燐子”の精製はフリアグネが“紅世の王”として得意とする技術であり、素材は人形を好むという。
 だからこそ実験場に婦人服売り場を、素材に女性型のマネキンを選んだのだが、出来上がった“燐子”はまさに粗悪品だった。
 自我を持たない。“存在の力”が希薄。動きが鈍い。命令通りに行動はする。スペックは込める“存在の力”に見合わない。
 そのときのフリアグネといえば、酷く憤慨したものだ。封絶が使えない“常ならざる”時とはいえ、異能の劣化は激しすぎた。
 もちろん、トラヴァスにとっては都合がいい。無尽蔵に兵隊を量産できる能力など、オーバースキルにもほどがある。

 フリアグネは作り出した“燐子”が実際にどの程度戦果を得るか試すため、彼女たちを外へと放逐した。
 与えた命令は『人間を見つけたら襲え』、『どんなことがあっても四時までには戻れ』という簡素なものだ。
 時間通りに戻ってこれたならば、まだ使い道は――『存在するかもしれないマリアンヌ』を探すくらいの役には立つ。
 時間通りに戻ってこれなかったならば、襲った人間に返り討ちにあったと判断し、頼るには危うき力だと判断を下す。
 その際、トラヴァスは自らフリアグネに申し立てたのだ。この“燐子”の戦力、自らの目で見極めたい、と。
 敵情視察かい、とフリアグネはトラヴァスの狙いを正しく読み取ったが、これにはあっさりと許可を出した。
 トラヴァスは四体の“燐子”の内一体を追い、単体での有用性がどの程度のものかを観察、報告するという取り決めで。

 そして、トラヴァスは“狩人”フリアグネを自分よりもよく知る少年、坂井悠二に出くわした。
 幸運な出会いだった。おかげでトラヴァスは、フリアグネに関する有益な情報を入手することができたのだから。
 名乗ってはいないが、“少佐”という人間がフリアグネの傍でなにをしているのか、彼はある程度察してくれたと思う。
 確信などがあるわけではないが、短い交戦で垣間見た彼の洞察力、観察眼は、十分評価に値するものだ。
 きっと、“少佐”の顔を覚えても僕の不利に働くような動きはしまい、とトラヴァスは踏んでいた。

 すべてを明かさず、真相を彼の洞察力に委ねたのは、トラヴァスが“主催者”と定める者たちに悟れないためだ。
 彼らとの接触を望むというのであれば、トラヴァスは誰の目から見ても“ゲーム肯定派”でなくてはならない。
 このゲームの推移を、彼らがなんらかの手段で眺めているだろうことは明白。ゆえに、スパイ活動は徹底しなければならなかった。

134粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:49:19 ID:cRs4QRM.0
 百貨店に帰ってきてみれば案の定、トラヴァスが追わなかった他三体も、定時通りに戻ることはできなかったようだ。
 殺意を持った自動人形という存在は怖いものではあるが、場慣れした人物ならば冷静に対応するだけでどうとでもなる。
 実際に観察して、安堵すると同時に判断した。フリアグネの“燐子”に、このゲームの参加者を殺すことは無理だ。
 フリアグネの持ち札の中で、厄介なカードが一枚潰えた。そう解釈しても問題はなく、当人も残酷な現実を受け入れたようだ。

 百貨店に篭城して“燐子”に参加者たちを殺させていく――というトラヴァスにとって不都合な札の切り方も封殺された。
 フリアグネは再び実地へと降り立ち、その身で戦いに赴くことを決める。
 悠二から聞いたフリアグネの戦闘スタイルを踏まえれば、宝具不足の今、彼はそれほどの脅威にはなるまい。
 だとすればトラヴァスとしても御しやすく、被害も最小限に納めることが可能だ。

(それとは別に、気になることもあるんだけれどね)

 引っかかるのは、坂井悠二の言にあった『フリアグネはシャナに討滅されたはず』という部分。
 悠二の認識によれば、このフリアグネはシャナという名のフレイムヘイズに一度殺されているのだ。
 しかし当の本人からそんな話は一切されておらず、シャナという名前も聞き及んではいない。
 明らかな情報の、あるいは認識の齟齬。どちらかが間違えているのか、嘘をついているのか、隠しているのか。
 もしくは、どちらも正しいことだけを言っている可能性とて、十分にありうる。それが“常ならざる”という考え方だ。

(仮にフリアグネが幽霊のような存在だとしても、目の前で動いている以上、やることは変わらないさ)

 今まさに玩具売り場から離れようという“狩人”フリアグネの背後、トラヴァス“少佐”は決意も新たに一歩を踏み出す。
 いつもどおりの“汚い仕事”だ。“常ならざる”仕事場だとしても、初心を忘れずにいこう、と。



【C-5/百貨店・玩具売り場/一日目・早朝】

【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個、フルートの予備マガジン×3
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと『同盟』を組んだフリをし、彼の行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。

135粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU:2009/05/27(水) 22:51:50 ID:cRs4QRM.0
投下終了しました。

多少型破りではありますが、フリアグネ、トラヴァスのみ時間帯を【早朝】とさせていただきました。
毎度申し訳ありませんが、お手すきの方がいらしたら代理投下お願いします。

136爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:02:21 ID:8RA2I9Nk0
どこに行っても、見当たらない。
どこに行っても、見つからない。
隠れているのかと思った。
目立つ場所にいるのかと思った。

当てが外れている。

ああ、いい年こいてイライラしてきた。むしろアレか、いい年こいてるからこそか?
くっそ、こんな場所に連れてこられてから何もかもが思うようにいかない。
眠り姫はどうなった? 伊里野はどこ行った? 浅羽は? 水前寺は?
木村のアホや椎名やらにも連絡の取りようが無いし。ああ、クソッ、最悪だ。
路地裏を探したって通りを探したってどこにもいない。誰もいない。畜生。
いや、わかってた。わかってたよおれは。そう簡単にはいかないだろう。
わかってるんだよ、おれは。わかってるよわかってますよわかってるっての。

わかってるのに、どうにも駄目だ。


       ◇       ◇       ◇

137爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:03:43 ID:8RA2I9Nk0
榎本……まぁつまりおれは、あの着物を来たお嬢ちゃんと別れた後、延々と捜索活動に勤しんでいた。
作業は孤独なのも手伝って凄く寂しいものだったが、自分が選んだ手法だ。仕方が無い。
路地に出たり裏に入ったり、建物の中を覗いてみたり、あまつさえ勝手に進入したり。
色々と練り歩いてみるも……一切収穫無し。ゼロだ。
もう仕方が無いので今は背の低いマンションに侵入、一階に作られたある部屋で休憩している最中だ。

どん詰まり、だった。

苛々する。どうにも自分の描くものと現実は違っている。
勿論、そんなことは予測済みだ。いい年こいた大人が、そんなわがままを言うつもりは無い。
わかっている。それは理解している。そもそも園崎での生活もそんなものだった。
だがもう自棄になって叫んで、寝転がってそのまま逃避したい。そう思う。
っていうか、もう今そうしてる。

「大体……どこだよ、ここ」

何せ、自分がここにいる理由からしてもうわからないんだ。

「あれか? 子犬作戦の天罰? 神様が見てた? いやいや馬鹿言っちゃいけない。
 宇宙人か、宇宙人に拉致されたのかさては……いや、いや、いやいや。何をおれは。
 浅羽ー、浅羽くぅーん。いらっしゃ……るわけねーな、ねーよ。あるあ……ねーよ」

そもそも、生き残れってお前。何様だよ。

「まぁ、わかってるよ……わかってる。殺してでも生き残れ、って言いたいのは解るよ"人類最悪"とか言う奴。
 って言ったってな、お前もうちょっとアレだろ。人選をお前……なぁ? おれは前線に立つ人間じゃないんだよ。
 デスクなの。デスクワーク派なのおれは。疲れた、もう疲れたよおれは。帰してー。おれを園崎にー、帰してーくれーィ」

というより、結局それで何が目的なのか。

「っていうか待て。おれ今どこにいるんだ……? 確か地図あったな。
 地図地図地ー図ー〜♪ ……あった。えっと、今おれどこだよ……どこ、だよ。 あれ? どこ?
 ああ、くそ。何か目印あったかなー……つーかこの窓はどっちに向いてんだ? 方角どっちだよこの窓」

何がなんだか解りやしない。

「……あー、やめだやめだ。どっち向きだってどうでも良い。いないんだろ? どっち見てもいないんだろ浅羽は。
 伊里野もなー、きっといないよな。ここの窓から覗いたら実は偶然…………ほら、いませんでしたー。わかってたよ」

どん詰まり、だった。

138爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:04:22 ID:8RA2I9Nk0
       ◇       ◇       ◇


畳がやわらかい。
ああ、もう。寝っ転がるには丁度良いなぁもう。
フローリングじゃこうもいかないもんな。和室バンザイ。

……駄目だ、気分が乗らない。何やってんだろうな、おれ。
不甲斐無い。浅羽は自分で伊里野と逃げる道を選んだってのに、気合見せたのに。
そんな中おれは何やってんだ。ああ、腹が立つ。苛々する。
って、よく考えりゃ浅羽と伊里野もなんだかんだでここにいるんじゃねーか!
逃げてたんじゃないのかよ。って、これ最初もなんか言ってたぞおれ。

あああああああ! ったく!
あほー! 皆のあほめー! 浅羽も相変わらずー! あほが!



……おれの、あほが。



あー、もう。いいや。鞄の中身でも見て暇を潰そう。
確か妙にでかい本と高そうなデジカメが入ってたんだよな……何書いてんだろうな、この本。


       ◇       ◇       ◇

139爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:05:05 ID:8RA2I9Nk0
姉さん、大変です。

と、それっぽく呟くものの、これ……どうすりゃいいんだ?
今おれの目の前では何が起こってるんだ? さっぱり解らない。いや、わからない、んだが。
それでも寝転がった体勢から胡坐をかいて座った状態に移行。今起こっている事を、どうにか理解しようと踏ん張る。
落ち着け、落ち着け。今、何が起こってる? 確か、確か、そう。うん。
そう、"道具"だ。袋の中から何気なく、ここに来る前に確認してた道具を改めて出したんだ、おれは。そしたらさ。

「だーからよ、ここはどこなんだよ。我が麗しの酒杯、マージョリー・ドーはどこだ?」

落ち着け。落ち着け、おれ。うん、夢だ。多分これ夢だ。
だっておかしいもん。本が喋るわけないもん。本がおれに何か質問するわけないもん。
おいどうなってんだおれの精神状況。こんな夢を見せてくれるなんて。
あーあ、そりゃこんな気持ちの良い畳に寝転がってりゃ、そりゃ……。
ここで頬をつねってみた。痛い、むっちゃ痛い。

「おい落ち着けよ旦那。ああ、そういやお互い名乗ってねえわな。お前、名前は?」

名前を名乗るならまず聞いた本人からだろう……というツッコミは今回は飲み込むことにする。
ああ、もう。夢じゃないんだな。夢じゃあないんだろう。わかってる、本当はわかってたよ。
夢じゃあないから、おれはこんなに心がざわざわしてるんだ。

「榎本、榎本だ。運悪くこんな場所に呼ばれちゃった榎本さんですよ。お前は?」
「おう、榎本だな。俺は"蹂躙の爪牙"マルコシアスってもんだ。まあ宜しく頼むぜ。ヒーッヒヒ!」

甲高いキンキンした笑い声を上げながら、こいつはおれに語りかけてくる。
テンションたけーなー、こいつ……何食ったらこんなになるんだ。
いや、何も食えないかこいつは。

説明しよう。今おれの目の前にいるのは、"蹂躙の爪牙"マルコシアス。
テンションの高い声は、不快感を抱いている今のおれには若干不愉快。
おれが夢だ夢だと現実逃避している間の言葉曰く、マージョリー・ドーとかいうやつの関係者らしい。


そ  ん  な  、  喋  る  本  だ  。


いや、本当だって。本が喋ってるんだって。
見てみろホラ、凄いぞ。本が入ってたって事は鞄を覗いてた時に知ってたけど、喋るなんて聞いてないぞ。
北のスパイの発信機かと思ったが、どうも違う。それらしいものは無い。おれが現実逃避した理由、理解しただろ?
まさか入ってた本を取り出したら急に喋り始めました、とかそんなの予測出来るわけないだろうが。

「おいおい榎本お、なんか元気ねえな! 振られたか、振られたか女に!」

ねーよ。

「ヒャッヒャ! まあいいか。しっかし、何かおかしいなここは。何か別の空間か?
 なんかざわざわすんぜ。イライラするってーかなんてーか。お前は人間だよな? 間違ってねえよな」

ああ、人間だ。もっと言うなら地球人だ。

「そうか。"トーチ"でも無いみてえだから"ミステス"って線も自動的にポイか……あー、そうなるとメンドくせえな。
 こちとら我が淑やかなる眠り姫、マージョリー・ドーと待ちの体勢に入ってたってのによ。何がなんだかさっぱりだぜ!」

何がなんだかさっぱり? それはこっちの台詞だ……!
っていうかなんだ、言うに事欠いてメンドくせぇだ!? そりゃあこちらの台詞だ! ああもう! ったく!

「おいマルコシアス!」
「あん?」

一方的に訳のわからないことを喋り捲るこのあほ本に、どうにか食いつく。
一応相手にも話を聞く気はあるようで、ここでようやく黙ってくれた。

140爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:05:36 ID:8RA2I9Nk0
「魔女だか土地だか何をミスったか知らないが、こっちは苛々してるんだ。
 その上にお前がそういうわけのわからん話を展開してくるとこっちも困る。
 ここがどこだ? おれだって知りたい。おれだってここがどこかさっぱりわからないんだよ。
 この袋からお前を引っ張り出したときの、お前の第一声覚えてるか? 覚えてるよな、ほら、言ってみろ!」

そこまで一気に捲し立てると、マルコシアスは少し間をおいてから答える。

「"ん? 何だおめえ"」
「正解」

そう。正解だ。
こいつは、このあほはおれが袋から引き出した瞬間にこんな事を喋ったのだ。
おれは固まった。カッチーンって体が固まった。そしてああやって現実逃避した。
だが当然だろう。しつこいようだが、画材みたいにデカい本が急に喋り始めるんだ。
その衝撃たるや半端無かった。こうやって現状を受け入れてるおれが奇跡ってモンだ。
だってのにお前ときたら開口一番「ん? 何だおめえ」だ? ……その質問はこっちがしたいんだよ!
喋る本なんておれは知らないんだから! 初めて見たんだから!

「そりゃ俺らは普通の人間には感づかれないようにしてるからな。"封絶"だって張って……」

ストップ、黙らっしゃい! だからだ! お前のそういう心遣いはともかくとしてだな!
お前が何者なのかわからない以上、そして今現状がさっぱりわからない以上、わけのわからんことを話されても困るんだよ!
……そう、結局そういう事だ。お前が何者かわからない以上、何を話されてもおれのおつむは対処の仕様が無いんだよ。

「何者かわからねえ、って……名前なら名乗ったじゃねえか。俺は"蹂躙の爪牙"マルコシアスっつー……」

違う、そういう事じゃない。
別に名前を確認したかったわけじゃあないんだ。

「おれは……人間だ。ただの、人間だ。さっきも言ったけど、お前みたいな喋る本なんて見た事無い」

だから、困るんだ。いっぺんに言われてもさ。
まず何故本が喋るのか解らない。次に、マージョリー・ドーが誰なのかわからない。
そしてトーチってのもミステスってのもわからない。別の空間、って何だ? SFか? 封絶って?
お前自身もこんな場所にいる理由がわからないどうだが、おれもわからないんだよ。

「こっちだって知らないこと、聞きたいことがあるんだ……だからさ、頼む。順番ずつ説明してくれ」

そう言うと、マルコシアスはさっきまでのテンションが嘘のように黙った。
黙って、黙って、黙って、一寸の間。

「……まぁ、そうだわな。ガラになくこっちも焦ってたわ。
 こっちにも色々あったからよ。混乱させちまって悪いな、榎本」

そう、謝ってくれた。

「ああ。まぁおれも怒鳴って悪かったな……とりあえず、お互いに何がなんだか解ってないんだ。
 おれにも用事があるが、まぁ仕方が無い。まずは色々話そう。教えてくれよ、おれにも色々とさ」


       ◇       ◇       ◇

141爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:07:25 ID:8RA2I9Nk0
大問題発生。

「とまあ、こんな感じだわな。いやー……あー、なんだ! お互い大変だなオイ!」
「えっと……よく、意味が解らん……えっと、"徒"が? "王"も"徒"だから、互いが……」

自分達の身の上話をしていてわかったんだが。

「ヒャーッヒャッヒャッヒャ! やーっぱ混乱するわな! だがそうなってる以上は仕方ねえんだわ。
 ……っつーかなんだよ、俺も宇宙人とか全ッ然知らねえんだけどよ! おめーの世界はどうなってんだオイ!?」
「……こっちだって"そうなってる以上は仕方ない"さ。現状は戦時中、敵は宇宙人。そういうことだ。
 ここだけの話、これも機密事項なんだよ。しかしお前の言う日本が、宇宙人や北と戦争をしてないってどういう事だ?」

今、おれ達には奇妙な齟齬が発生していた。

「つーか有り得ねえ……その話が本当なら、俺らがおめーらの"地球防衛軍"っぽい団体のことを知らねーはずがないんだがな。
 宇宙人が侵略してきて地球がピンチ? ならフレイムヘイズ側も"紅世"側も普通に大慌てだ。だがンな話、俺は初耳なんだよ」
「そりゃおれ達だって必死に隠匿してきたからな。組織の秘匿性は強化しまくって、マスコミにも牽制かけて、色々やった。
 結局お前達とおれ達は似たようなことをしていたって事さ……だからこそ、だ。おれ達も"外界宿"とやらを知らないわけがない」

齟齬。
それは、おれとマルコシアスの知るお互いの"この世の本当のこと"の情報についてだった。
おれの方はまず、上から「言えば解雇」くらいに釘を刺されてる――浅羽も知らんような――情報以外はマルコシアスに暴露。
マルコシアスの方も、その"紅世"とやらの話を聞かせてくれた。多分、全部本当のことだろうと思う。
四文字熟語で表現するならばまさに"情報交換"そのもの。互いの立ち位置を知るにはこれ抜きにはありえないワンクッションだ。
だからこそおれは、"それ"を行えば現状にももうちょっと何か光がさすと思った。
マルコシアスのわけのわからん話にも、なんとか着いていけるんじゃないかと思ったんだ。

……だが、現実はそうは甘くなかった。
どうもおれ達の言う互いの"この世の本当のこと"は、つじつまが合わないのだ。

142爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:07:56 ID:8RA2I9Nk0
整理しよう。
まずマルコシアスのいう真実は、"紅世の徒"っていう異世界人が、人間の"存在の力"とやらを喰い荒らしている……ということ。
どうしようもない、普通の人間なら抗いようの無い現実。実は遥か古代から、人間は"徒"とやらの餌となっていたらしい。
それをどうにか"フレイムヘイズ"が"徒"達を殺していくことで、人間達は無事平穏に過ごしているらしい。
"外界宿"という支援組織が"フレイムヘイズ"を裏から支え、効率的に動くことで世界のバランスとやらも崩れずに済んでるそうだ。

一方、おれの知る真実は違う。おれの知る世界は、そんなものなど知ったこっちゃ無い。
おれの敵は"紅世の徒"でもなんでもない。違う惑星から地球目指して攻めてくる"宇宙人"だ。
いや、それだけじゃあない。アラブ・アメリカ系や共和国系とも凌ぎを削っている。
それどころか"北"とは明確な緊張状態だ。世界は混乱に満ちている。グダグダだ。

明らかに違う。おれとマルコシアスの言う世界の真実は、全く違っている。
正直な話、おれの知る世界のグダグダは"紅世"の所為にしたくても出来やしない類のものだ。
1950年代に固まった世界情勢。それ自体が絶賛崩落中の砂の城そのものだったんだ。
だからこうまで世界はどうしようもない状態になったんだ。ぶっちゃけた話、人間が悪い。

だがマルコシアスはその世界情勢自体を知らないと言っている。
というかそもそもこいつの見ている世界地図は、おれの見ている世界地図とは根底からして違うらしい。
日本は北となんぞ戦争はしていない。様々な組織に顔の利くフレイムヘイズ達が、地球防衛軍を知らない。
ただ、世界の流れを見守りながらも"紅世の徒"と戦う日々。ただ、それだけ。

おかしい。これはおかしい。不可視の存在らしい"紅世"に関しては、見えないんだからもう仕方が無い……が、おかしい。
例えそれでも、世界の様々な方面に目を配り監視しているおれ達の組織が、世界に散らばる"外界宿"とやらを知らないわけがない。
何せ世界中に隔たり無く展開しているらしい巨大組織だ。たとえ隠匿しようとも、そこまで巨大ならおれ達の目は誤魔化せはしない。
というか、そもそも日本にもあるらしいそれを、こっちが把握していないわけがないんだ。灯台下暗し? ありえない。

おれは、"紅世の徒"との戦いの為の重要施設を知らないと言う。
マルコシアスは、宇宙人との戦争の為の地球防衛軍を知らないと言う。
おれとマルコシアスの知る世界情勢には、大きな隔たりがある。

143爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:08:44 ID:8RA2I9Nk0
「なぁ、マルコシアス」

大きな隔たり。それがどういった理由なのかわからない。
だがそれによって今、おれの中の常識が音を立てて崩れ去っていくのだけはわかる。

「あん?」

地球は一つ。世界は一つ。二つとして、ない。
そう信じていた。


「……UFOを、見たことあるか?」


だが。


「…………ねえな」


なら、"そういうこと"なんだろうな。

「マルコシアス。お前、言ったよな? 歩いていけない隣、"紅世"から来たんだって」
「言ったぜ」

正直、おれも信じられない。
自分でもよくわからん事を、口に出して言おうとしている。

「その"紅世"にとっての……おれらにとっての"隣"、っていうのは……一つとは、限らないって事なんじゃないか?」

保証は無い。だが、否定は出来ない。そう思う。
パラレルワールド、なんていう単純でファンタジーな言葉で済ませられる単純な話とは思えない。
だが、何しろ、何もかもを否定できないんだ。何が起こっても不思議じゃないんだ、世界ってものは。
だから、

「……なるほどな。その発想は無かったぜ榎本。お前、意外と頭柔らかいじゃねーか」

マルコシアスも、こう答えたんだろう。
ああ、まったく。本当、科学的じゃないな。

なんでこう、何もかもが上手くいかないんだ。


       ◇       ◇       ◇


それからは、おれ主催の愚痴合戦が始まった。
テーマは主に"なんでこんな所に呼ばれちまったんだ"である。
参加者は二人……おれ抜いたら一人や。

144爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:09:34 ID:8RA2I9Nk0
まぁ、それ自体は別に特別な事じゃない。
おれは相変わらず寝転がって、マルコシアスは壁に立てかけられたままで喋るだけだ。
……いやぁしかし、もう本当なんでどうしてなにゆえこうなったのか。

「俺が呼ばれた理由ってのは、なんとなくわかるんだけどな」

そんな中、突然そう切り出したのはマルコシアスだ。
少し興味があったし、おれが呼ばれた理由のヒントにもなるかもしれないから耳を傾けてみる。

「割と最初の話に戻っちまうんだが……覚えてるか? 我が鉄槌の魔拳、マージョリー・ドーの話を」
「……ああ」

マージョリー・ドー。こいつと契約したフレイムヘイズのことだ。
その姿はナイスバディの妙齢の女で、マルコシアスとの付き合いは数えるのも億劫な年数になるそうだ。
そいつは自分の望む復讐と"徒"の完全討滅目指して張り切る、"徒"に言わせれば殺人鬼なんだと。
マルコシアスや本人にしてもまんざらでもない呼び名らしく、何を言われても延々ノリノリ。
そしてある日辿り着いた"御崎市"――おれの知らない地名だ――に、ある一件を境に住み着いたらしい。
"徒"を殺しまくることで、いつか本当の復讐を完遂する為に。
だが。

「改めて言うが……今、あいつは深い眠りについてやがる。俺を置いて、ご両人を置いて、勝手に眠っちまった」

しかし、坂井悠二――こっちはどこかで聞いた名だが思い出せない――が敵として現れてから全てが狂ってしまった。
自分の長年の望みだった復讐が、実は何の意味も成さないと言う事実を……非情にも、そんな現実を女は突きつけられたわけだ。
そこらへんの詳しい話はまだ聞いてない。だが、事実としてそういうことがあったという話は既に知っている。

「だからだろうな。基本的にフレイムヘイズと契約した"王"が遠く離れることはそうそうねえし、そもそも一心同体だ。
 だが俺らの場合は話が変わってくる。我が永劫の契約者、マージョリー・ドーは今や遠く夢の中。俺あ干渉出来やしねえ。
 そこを付け入ってきたんだろうよ。おめーの言う……人類最悪とかいうやつか。あの、あれよ、狐面の男だったか? あいつ」
「ああ」
「まさかここまで重大なルール違反をやらかしやがるとはな……親の顔が見てみたいってモンだよなあ、ヒヒヒヒヒッ!
 ……気にいらねえな。この超絶素敵最強自在師マルコシアス様を捕まえて"道具"たあ、この……クサレ脳みそがァーッ」
「ちょっ、クサレ脳みそってお前……人を見下す言い方は良くない!
 ……つまり、お前以外にフレイムヘイズと別れてここに連れてこられた"王"はいないだろう、って事か」
「勝手な想像だがな。少なくともフレイムヘイズと一緒にいる奴らは、俺みたいな目に遭うこたあねーだろうと考えてる」

ちなみに、まぁこの会話で解ると思うが……とりあえずこいつがおれの袋から出てきた理由と今の状況は既に話している。
それを聞いたマルコシアスがこんな風に怒るのも無理は無いなとは思うが……テンション凄いなーまた。
っていうかこいつ、つまりは何も知らずに袋に入れられてたんだよな……結構無茶しやがったな、人類最悪の奴。

「で、だ」

ん、どうしたマルコシアス。

「これからどうすんだ? このままふてッ腐れてるわけじゃあねーよな!?」

いや、おれは別にふて腐れてるわけじゃ……いや、ふて腐れて、るな。

「伊里野を探してるって言ってたな。それには俺は文句つけねぇよ。
 だがここで頼みたいんだが、一緒に坂井悠二って奴も探しちゃくれねーか?」

えー……今?

「今? ってそりゃそーだろ……まあ、お前が今気だるいのもわかるけどな。
 どうもお互い、女に関しちゃ大変だしなあ。極秘で秘密の"子犬作戦"、つったっけか?」

ああ、そうだ。おれはつい口を滑らせて"子犬作戦"について喋っちまったんだった。

子犬作戦……それは、戦う理由を失った伊里野のモチベーションを上げるための極秘作戦だ。
内容は単純。ある対象――誰でもよかったが、今は浅羽がそうだ――を目の前でちらつかせ、愛着が沸いたところで取り上げる。
別に取り上げなくても、最終的に伊里野が「浅羽の為に戦う」と言って出撃してくれさえすればミッションコンプリート。
最新鋭戦闘機ブラックマンタを操る事が出来る最後の一人である伊里野を動かすには、もうそれしか方法は無かったんだ。
……そこに至るまで、そんな風になるまであいつの心を追い込んだのも、おれ達大人なんだけどな。

145爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:10:43 ID:8RA2I9Nk0
だから。
マルコシアスから、フレイムヘイズの話を聞いたとき……おれは、ついそれを話してしまった。
言い方は悪いが、フレイムヘイズの成り立ちも子犬作戦の内容も似た様なものだということ知ったからだ。
被害者の心の隙間に付け入って利用する事で、自分達の不始末の責任を間接的に取る。ほら、そっくり。同じだ。
……そう考えたら、そこに気付いたら、ついぶちまけてしまったのだ。
だが、マルコシアスはそれに不快感を示さずに

「なーるほどな。じゃあ俺らは言ってみりゃあ似たもの同士っつー奴か。
 おめーの持ってる袋に入れられた理由がわかった気がすんぜ、榎本。ヒーッヒヒヒヒ!」

と、笑ってそう言うだけだった。
そのおかげだろうか。なんだか胸の辺りがスッとした気がした。

そうか。おれがずっとざわざわしてたのは、そういうことだったのか。
子犬作戦を決行して、伊里野が逃げて。おれはそれで良いと思って。
だがその浅羽も伊里野ごとここに捕まって。で、苛々して。
それをぶつける相手もいない。丁度良い相手がいやしない。
極秘作戦の失敗についてだから、誰かに言うわけにもいかない。
だから溜め込んで余計に苛々するスパイラル。

だが、そこで出てきたのがこいつだ。"蹂躙の爪牙"マルコシアス。こいつが現れた。

何故だろうか。こいつには喋ってしまっていい気がしてしまった。
隠し事をぶちまけた同士、心を許してしまった結果かもしれない。
……いや、この期に及んで"許してしまった"はないだろうおれ。
許したんだ、おれは。こんな本に対して、色々話しちまったんだ。

まったく……何をそんなに苛々してたんだよ、おれ。
結局、愚痴る相手が欲しかっただけじゃねぇか。
幼稚だ。ったく、本当いい年こいて……。

「さて、と。榎本よお……ここで話を戻させてもらうぜ」

と、ここでその噂のマルコシアス君が話を切り出した。
孤独な愚痴り大会に移行しそうだった脳をどうにか覚醒させ、言葉を待つ。

「で、とりあえずだ。俺としては早いとこあの悠二クンをとっ捕まえておきたいんだわ。
 さっきも言ったが、話を聞いた今ならおめーの気持ちもわかる。だがこっちにも護るべき世界があるわけだ。
 お互い護るべきモンがあって、お互いその鍵はここに放流されてやがる……ここは、協力しちゃくれねえか?」

協力。つまり、坂井悠二という奴を捜索して欲しいということだ。
そういえばさっきも言っていた。さっきって言うか、直前か。
まさか、こうやって本に頼み事をされるなんてな……いや、中の人がいるんだったか。
って、ちょっと待て。おれは伊里野の捜索を第一に掲げてるんだが。
そもそもおれはフレイムヘイズみたいに強くないぞ? 良いのか?

「おうよ。今の俺は独りじゃ何も出来ねえ。だからこうして何かの縁で出会ったお前を見込んで頼んでる」

……正直、そう言われても。正直迷っている。
こちとら自分の事で精一杯で、どうも周りに気を配る余裕ってものが足りてない。
それに、苛々が失せたからといって……ここに来てどうも調子が悪い。
なんとなく、自分でも解る。なんだかおれらしくない。
いや、でもそれを言い訳にするにはちょっと……おれはこいつに関わり過ぎたらしい。

「……わかったよ。その坂井悠二って奴も頭に刻んでおく。んで、お前を担いで歩き回ってやるさ」
「そりゃありがてえ。恩にきるぜ、榎本」
「おうよ」

……とは言え、なんか気分転換のものが欲しいな。
何かこのもやもやを払拭する何かが欲しい。ああ、そういやデジカメがあったな。

146爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:12:22 ID:8RA2I9Nk0
「まー、なんだ。解るぜ。俺もお前も苦労してる分……こうやって愚痴っちまうとテンション駄々下がりだわな。
 お互いどんくらい大変なのか解ったのはいいが、俺ららしくなくダウナーになっちまったのは失敗だったなあオイ」

急に鞄を漁るおれの胸の内を読み取ったのか、マルコシアスが話しかけてくる。
ダウナー? いや、おれはそうだろうけどお前がダウナーって、嘘つけ。
まさかこれでも押さえ気味……なんだろうな、お前としてはさ。

「互いの探し人は気になるが……そーだな、今はいっちょここで力を貯めておくのもアリかもしんねえな。
 ……って、うおお。今俺何ッつった? 行動派のこの俺がまったくらしくねえ口ぶりだぜ……こりゃ参った、今の無し!」

ああ、それはなんとなく解る。お前、今が本調子なら絶対ここから飛び出す勢いだろ。

「はっはー、よく解ってんな。だが生憎、俺も女の事になるとたまにゃおセンチにもなるってもんだ。
 それに無抵抗でここに連れてこられて道具扱いとなっちゃ、怒りよりまず自分に呆れちまうぜ、ホントによ……」

ああ本当だよ。さっきのお前じゃないけど……お互い大変だよな。
……っと、出た出た。ドラえもん風に、せーの! でーじーかーめー。

「おーい、どうしたよ榎本。なんか面白そうなモン見っけたか?」
「デジカメだデジカメ。高そうだぞこれ」
「デジカメえ? なんで武器でもねえモンが」
「当たり外れがあるんだろう、きっと」

しかし、実際手にとって眺めると余計に高そうに見える。「高機能ですよ!」と訴えかけてくるような。
いや、待てよ? もしかしてこれデジカメ型の宝具っていう線も……どうよ? 撮ったら魂抜けちゃう的な。

「ねーよ」

ねーか。って、ん?

「お? どうした? 収穫ありって風な顔だなオイ」

なんか変なフォルダを見つけた。
名前がえっと……"某モデルがやっちゃった☆ナゾの物まね百五十連発"、だと。
某モデルって誰だよ。

「知るかよ俺が。つーかちょっと地雷臭がしねえかそれ?」

そうか? おれはちょっと気になってるんだけど。
ちょっと再生してみようぜ……角度は、これくらいでいいか? おれ邪魔じゃないか?

「無問題無問題。綺麗に見えるぜ榎本」

よし、じゃあいくか。再生ボタン……オン、っと!


       ◇       ◇       ◇


もの‐まね【物真似】



1 人や動物などの身ぶり・しぐさ・声音などをまねること。また、その芸。

2 能・狂言その他の芸能で、ある役に扮(ふん)してその所作をまね、それらしく演技すること。


       ◇       ◇       ◇

147爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:12:59 ID:8RA2I9Nk0
やべ、これすげぇ!



「ダーッハッハハハハハハハ! ヒャァーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
「わはははははは!! わはっ、はぁっ! は……はははははははは!!」



デジカメに映っていた映像。
それはおれ達の淡い期待に応えるどころか遥か彼方にぶっ飛ぶレベルの出来だった!



「ギィーッヒャッヒャッヒャッヒャ! ちょっ、な、なんッ、榎本これっ……ヒャハハハハハハハ!!」
「わはははははははははは!! おいおいおいこれとんでもない収穫っ、ぎゃははははははははは!!」



気になる内容……それは!
普通に雑誌で表紙を取れるような美人ちゃんが、とんでもない物真似を本当に百五十連発していたのだ!



「ちょっ、おい! おい榎本! 巻き戻せえッ! 今のシーン巻き戻ヒハッ! ヒーィッ、ハハハヒャッヒャッヒャ!!」
「く……ぶふぅ! はははははは!! え、何、なんて!? 巻き戻しぃ? えっとここを押して…………どわっははははは!!」



しかもただの物真似じゃない! なんというか、こう、無茶振りの連続なのだ!



「駄目だ榎本! 俺この時速二百キロでコーナー攻めっ、攻めるモナリザがもう、最高ッッヒッヒッヒッヒーッハハハハァ!!」
「ぶっははは! モナリザ! モナリザって! なんでモザぁーっっっひゃあーっははははははは!! だはーっはははは!!」



チョイスがおかしいんだよ! モデルなのに! 美人なのに!



「ああ俺多分俺これっ、モナリザネタ見てたら存在の力なくても生きていけエーッッヒヒ! ギャァーッハハハ!! ハヒー!!」
「良か、ぶふっ、たじゃねー、ぶふくくっ、じゃねーかっ省エネで……マイケルでバスガイドは反則だろぅぶわははははははー!!」



なんでこんな荒業で攻めて来るんだよ! 最高だよこのやろう!



「ダァーッハッハッハッハ!! もうこれっ、これもすげっ……ギャハハハハハハ! ダッ、バッハハハヒャヒャッヒャッヒャ!!」
「つんく♂っ! つんく♂ー!! 洋楽無理矢理歌うとか何その発想っ、ぎゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!! ひははっ!!」



デジカメに入っていた謎のフォルダ。
"某モデルがやっちゃった☆ナゾの物まね百五十連発"は、見事におれ達の笑いのツボを十六連射していた。
何せ、もうこれ本当にクオリティが高いのだ。正直ナメ切っていたさっきまでのおれを殴り飛ばしたい。
次々と現れるマニアック物真似と言う名の刺客兼、笑いの神様。ゴッドオブゴッド。
死ぬ。死ぬる。もうおれもマルコシアスもやばい。笑いで死ぬ。もはや暴力だ。死ねる。椅子取りゲームに参加する間もなく死ぬ。

148爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:13:57 ID:8RA2I9Nk0
「デーェアッハハハハハ!! 馬鹿だ! 絶っっ対こいつ馬鹿だ! 馬鹿ッヒャッヒャッヒャッハーッヒヒヒヒヒ!!」
「おまっ、それ言いすぎゃはははははは!! ぎゃはぁーはははははは! はっはっはっはっはっは!!」
「おい」
「おい榎本! 頼む! もっかい! もっかいあれをッ! モナリ……ギャハッギャハッ! もなっ、ギャヒハハハハハー!!」
「どんだけモナリザ好きだよお前ぶふっ! 気持ち解るけど! くくくっ、とりあえず全部終わった後で……わははははは!!」
「おい……お前ら」
「わかった! わかっ、ブフフフッ! じゃあ後でな! 後で巻き戻し頼ん、だァーッッッッヒャッハーハハヒャハーハハハー!!」
「だっはっはっはっは!! やばっ! このネタもなんか凄……びゃっはっはっははははははははひひひひひひひひぃー!!」
「……おい!」
「ヒハーッハハハッ! しっかしこれほんッとにこれ才能の無駄遣い! ほんとっ、ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
「ちょっ、お前興奮しすッぶはぁぁぁっはっはっはっは!! あーっはっはっは! わははははー! 最高だひゃーっひゃひゃ!!」
「おい!」

と、おれとマルコシアスが物真似百五十連発を満喫していたときだ。

「おい」

聞き覚えのある声が、窓の辺りから聞こえてきた。
というか、そういえばさっきからおれ達を呼ぶ声が混じっていた気がする。
まさか、この馬鹿でかい笑い声で危険人物を呼び寄せちまったか!?
デジカメの映像を停止し、恐る恐る声のした方向へと顔を向ける。
するといつの間にやら窓ガラスは開かれていて、壁越しにどこかで見たような女がいた。

「お前……さっきの」
「そうだ。さっきのだ。何やってるんだお前」
「あん? 知り合いかあ?」

声の主は、眠り姫の次に出会った和服女だった。


       ◇       ◇       ◇


「お前らは莫迦か」
「……返す言葉も無い」
「ったく。気付いたのがオレじゃなかったらどうするつもりだったんだ? 自殺行為だぞ」
「いやぁ、おっしゃるとおりで……」

両儀式と名乗った和服女。
こいつは今、不用意すぎたおれ達に対してありがたいお言葉を投げかけてくれていた。
まさかおれもいい年こいてこんな娘さんに説教垂れられるとは……災難だ、不幸すぎる。

「ダーッヒャッヒャッヒャ! おいおい榎本よお、とーんだ災難だなオイ!」

マルコシアスが他人事みたいに茶々を入れてきた。畜生、燃やされろ。

「莫迦はお前もだ謎本」
「俺もかよ!」

ざまぁ。

「というか……榎本、だったか? 何をしてるんだお前」
「爆笑……してました……」
「それはわかってる。で、それとあの変な喋る本は何だ」
「いやぁ、話せば結構長くなりまして……」

149爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:14:48 ID:8RA2I9Nk0






中略。

150爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:16:02 ID:8RA2I9Nk0



「……なるほど。"道具"として、か」

もう説明するのも面倒だったし相手も普通に受け入れているので、"紅世"の話やおれの身の上話もほどほどに解説しておいた。
幸運なことにこの両義というやつは、どうもオカルトに対して耐性というか器が大きいと言うか、そんな奴で。
だから「喋るものは喋る。そういうもんなんだ、こいつは」と言ったら普通に納得されてしまったのだ。

「まぁ……ほどほどにな。オレも危ない奴が出たのかと思って様子見に来たんだから」

そういうと両義は回れ右。表のドアに手をかけて去ろうとする。
もしかして、警告しに来てくれただけ? この子いい奴?

「ここらへんを視て廻ってたら、お前らの奇声が聞こえてきて何事かと思っただけだよ。じゃあな」

おう、じゃあ……。

「ちょっと待て着物美人! 聞きてえ事があんだが」

と、ここでマルコシアスが叫ぶ。今の両義が相手でもペースを崩さないこいつをちょっと尊敬する。
ところでこの期に及んで何だ。

「坂井悠二、って奴を知らねえか? ワケアリでちょっくら探してんだ」

ああ、そうだ。早速忘れてた。坂井悠二を探してるんだっけ。
坂井悠二か……坂井悠二ねぇ。やっぱりどこかで聞いた覚えが……ん?


『オマエを除けば坂井悠二って奴一人だけだ』


……あ。

「ん? そいつなら何時間か前に勝手にどこか行ったぞ」

そうだ! 両義! お前、その悠二と一緒にいたんじゃないか!
で、あいつが勝手にどっか行って知ったこっちゃないって……!
おいマルコシアス! 手がかり発見だぞ!

「ああん!? なんでそれをもっと早く言わねんだ榎本よお! その話ホントなんだろうな!?」
「ああ。榎本から聞いてなかったのか?」

マルコシアスの当然の言葉に、ドアノブを握ったままの式が頷く。
そうだ、どこかで聞いたことあるってそれ……こいつに聞いたんだよ!
何故もっと早く思い出さない、おれ。
って……ああ、そうか。だから"紅世"の話やマルコシアスの姿を普通に受け入れてたのか。
マルコシアスの関係者の、しかも噂の坂井から話を聞いてるっていうなら納得だ。
で、両義。坂井はどっちに行ったんだ?

「えっと……あっち?」

両義がピンと腕を伸ばし、ある方角を指した。目線をその先にやると……壁だ。ああ、室内だもんな。
ってそうじゃない。これ、方角どっちだ? 外に行ったらわかるだろうか。
何かランドマーク的なものがあれば……まぁいいか。両義の情報が間違いないなら、向かうだけだ。
そう考えてる内にその情報主は「もういいか?」と訊いてきた。ああ、わざわざありがとうな。

ガチャ、キィ……ばたん。という音と共に両義は部屋から退場。再びおれとマルコシアスの二人きりに戻る。

151爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:17:44 ID:8RA2I9Nk0
なんかこう……今までを振り返ってみると、何やってたんだろうなおれ達。
何だこれ、おかしい。人生って、わからん。人生おかしいよ人生。

「榎本……とりあえず、行くか」
「おう!」

ま、行くしかないか。
放り出していたデジカメを鞄に戻し、右肩にかける。
一方の"グリモア"も、同封されていた提げ紐付きのブックホルダーに収めて左肩にかける。
なんか画的におかしいな。考えないようにしよう、考えないように……。

「ヒヒヒ! おい榎本、おめー何かさっきより潤ってんなオイ。気だるさが消えちまって嫌に爽やかだぜ!?」
「ん、そうか? だがそれを言い出したらお前だって元気になってるぞ?」
「ああ、俺もか! ま、お互い"らしく"ねーより全然健康的でいいわなあ! ハッハー!」
「だな。まったくだ」

お互いにニヤリと笑みを浮かべ――神器に顔は無いが――おれはさっきの両義のようにドアノブを握る。

いやはや。
マルコシアスの言うとおりだ。"らしくなくなる"より余程良い。さっきまでとはおさらば出来て良かった。
何せっさっきは気だるさに身を任せて、襲い来る"今"から逃げていた。現実を直視したくなくて、ちょっと引きこもってしまった。
あれは間違いなく黒歴史だ。おれとマルコシアスだけが知る、二人揃ってのブラックヒストリー。
だが、それももう終わりだ。互いに言いたい事は言って、ついでに笑いの神様がデジカメ越しにおれ達の背中を押してくれた。
いやぁ、本当あの"物まね百五十連発"が無かったらおれ達は延々腐ってたぞ。笑いの力って凄いな。全部吹っ切れちまった。
名前も知らぬ某モデルの嬢ちゃんに感謝だ。もう足向けて眠れないな。

……外に出た。
気付けば辺りは割と明るくなっている。もう結構な時間が経っていたんだろう。
今更ながら、自分が如何に無駄な時間の浪費をしてきたかがよく解る。
坂井と別れたって言う両義の話を聞いたのがいつ頃だったか。
こうしてる間にも結構遠くの方へ走ってしまっているんだろう。
そうなると両義の示した方角も、ちょっと鵜呑みにするわけにはいかなくなるわけだが……。
それでもたった一つの手がかりだ。すがるしかない。可能性は低いが、伊里野や浅羽とは無関係とも限らない。

「いいか榎本。そっちは地球を護る為に伊里野加奈を探す。こっちは世界を護る為に坂井悠二を探す。
 お前も俺も色んな意味で問題児なそいつらを見つけなきゃならねえ。しかもそれぞれどギツい懸念事項ってヤツを抱えてやがる」
「まぁ、まとめればそうなるな」

マンション自体の正面玄関を発見。我が物顔でそこを出る。
空を見れば、ああやっぱり。白んでやがる。ふっ、朝の空気が気持ちいいぜ。

「もしかしたらこっちの問題児は、あの着物美人には本性を隠してるだけでその実"祭礼の蛇"かもしれねえ。
 伊里野を探すってえ時に割としんどい話だとは思うが、それにも気をつけてくれや。俺もやれるこたあやるからよ」
「そりゃ助かる。正直、フレイムヘイズみたいな人外にしか出来ない戦いはごめんだけどな」
「オイオイ、ならさっきの両義ちゃんにおっかなびっくりボディーガードしてもらえばよかったじゃねえか。
 なんとなくだが、あいつは"デキる"奴な気がすんぜ。まあさっきのさっきだから格好はつかねえがな、ゲーッヒャッヒャ!」
「あいつを仲間に引き込むのは無理だろ。お前の予感が当たったとしても、きっとおれ達とはすぐに道をたがうよ」

辺りを見回し、両義の言っていた方角を思い出す。
そうだ、確かあっちだ。一体何があって走っていったんだか。さっぱりわからんのが逆に不安だ。
"祭礼の蛇"にしても気になるしな。もしあいつがマルコシアスの言うように敵になってるなら……おお怖。
ま、それでも行くしかないんだけど。

……じゃ、行くかマルコシアス!

「ヒッヒヒヒ! 探すぜー、超探すぜえー! ヒャーッハッハッハッハア!」

152爆笑!!人生劇場 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:18:55 ID:8RA2I9Nk0
       ◇       ◇       ◇


あの五月蝿い二人のいた安マンションから離れて、少し。
私は相変わらず、この街を視て廻っていた。
どんな人間と出会おうとも、余程のことが無い限りは私のやることは変わらない。
自分の出来る事を、自分のしたい事をするだけだ。

坂井悠二に、榎本に、マルコシアス。
どうも私は変な奴らと縁があるらしい。わかってはいたが、ここまでだなんて。
それにどうやら"紅世"という世界とも縁があるようだ。
こう変わった街じゃ、変わった出会いも出来事も多くなるということか。

さて、これから私はどうしようか。このまま海を見ていても自体は好転しないだろう。
そうだ。どうせなら地図の中心部辺りに行ってみよう。
人が多いところには何かが起こる。それは絶対だから。



――――そういえば、あの榎本とマルコシアスは何をあんなに笑っていたのだろうか。



【B-6/一日目・早朝】
【榎本@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタ M92(16/15+1)、グリモア@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、べレッタの予備マガジン×4、大河のデジタルカメラ@とらドラ!
[思考・状況]
1:浅羽、伊里野との合流。及び坂井悠二の捜索。
2:水前寺を見つけたらある程度裏の事情をばらして仲間に引き込む。
  (いざとなれば記憶はごまかせばいい、と考えているためにかなり深い事情までばらしてしまう可能性があります)
3:できるだけ殺しはしない方向で。
[備考]
※原作4巻からの参戦です。
※マルコシアスはマージョリーが昏睡状態に陥ってからの登場(17巻以降)。
※マルコシアスはマージョリーがいないので基本何も出来ません。



【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本:主催者とやらを殺す。
1:黒桐幹也、黒桐鮮花を捜す。
2:フレイムヘイズというのに興味、殺せるならば……?

153 ◆MjBTB/MO3I:2009/06/05(金) 20:29:11 ID:8RA2I9Nk0
仮投下完了です。スペースお借りしました。

154 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:10:22 ID:nhiedHwc0
規制が……長いです。
こちらに投下します。

155ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:11:47 ID:nhiedHwc0
 踏み慣れぬ硬い土。足疲れは普段よりも激しく、鷹が羽ばたく音にもどこか戸惑いを感じられる。
 前を行く姫路瑞希。忍者でもない、どころか“やんごとなき”身分である可能性すら高い女性の歩は、また頼もしい。
 後ろの筑摩小四郎。伊賀甲賀あいまみえる忍法合戦の中途において、不覚ながら盲となった男は、この地でも暗闇に縛れていた。

 時折空に舞い上がり、またふらりと男の肩に降り立つ、といった挙動を繰り返す鷹はともかくとして、
 筑摩小四郎と姫路瑞希――生きた『時』を大きく違える男と女の間に、会話はなかった。
 忍法殺戮合戦、試召戦争、どちらを経た身とて異常極めるこの『座盗り遊戯』。
 直接的な要因はなかれど、誰もが奇異を感じ危機を自覚している。
 この二人も、また。話題がない以上に、緊張からの無言が。

「――明かりが」

 と、前を行く姫路瑞希が久々の言葉を切った。
 と同時に足も止め、後ろの筑摩小四郎といえば、鷹を飛ばせ周囲を探る身構えだ。

「どうなされたか、瑞希どの」
「懐中電灯の明かりが……前のほうに、誰かいます」

 耳慣れぬ単語に、筑摩小四郎はまったくの理解も得られなんだが、気配だけで前に誰かがいるとわかった。
 数は、ひとつ、ふたつ。姫路瑞希を除いた新参者が、やはり姫路瑞希と同じように己を“曝け出している”。
 なればこそ、盲の身である筑摩小四郎の目にも、それが映る。
 気配を断ち、また断たれた気配を探るが忍の日常。
 鷹を飛ばすまでもなく、筑摩小四郎はそれを知り、問うた。

「何奴か……朧さま、よもや天膳さまではあるまいて……」
「こっちに向かって手を振っています。二人……います」

 盲である筑摩小四郎に、前方の人影二つが取る挙動までは見えない。
 闇夜に両の眼を凝らした姫路瑞希が、それを代わりに見て伝えた。

 それは、どちらも知らぬ男と女であると。
 それは、極めて好意的にこちらを手招きしていると。


 ◇ ◇ ◇

156ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:13:32 ID:nhiedHwc0
 街中に構える温泉施設、そこはえらく風変わりな場所だった。
 銭湯なみの大浴場を完備し、天然の露天風呂まで備わっている、さらには宿泊施設としての客間も少し。
 自動販売機やマッサージチェアといった備品も過不足なく置かれたそこは、現代の労働者を標的にした極上の娯楽施設。

 普段なら出歩かないような夜の街々を数時間ばかり放浪したが、この“舞台”がどこかはわからなかった。
 一回りして、どこにでもありそうな街並みであったと感想を抱くのは――姫路瑞希である。

 文月学園高等部に在籍する彼女の故郷は、田舎とも大都市とも言うほどではないごくごく平凡な町である。
 道先の看板の表記などが日本語であったことから、ここは日本のどこかでは、と漠然と当たりをつけてはいたが、
 それがあまりにも浅はかな、今という非日常では既に通用しない、過去の常識なのだとこの邂逅で思い知らされる。

「AS(アーム・スレイブ)……学園都市……私も記憶にありませんね……」

 神妙な面持ちで座布団の上に正座する瑞希。彼女の周囲には、他にも二つの座布団が置かれていた。
 そこに座るのは、同年代の男子と女子が一人ずつ。どちらも、つい先ほど出会ったばかりの人間だ。
 三人の中央には卓袱台が置かれている。床は真新しい畳が敷かれており、壁際には襖まで確認できる。
 まるでFクラスの教室を思い出させる(比べればこちらのほうが綺麗だが)ここは、温泉施設の宿泊用客室。畳部屋だった。

「文月学園だったか? 試験召喚システム……そんな画期的な教育を取り入れいてる進学校、俺も聞いたことがない」
「私も右に同じ。ASや学園都市っていうのも知れ渡らないような話じゃないし、みんなの認識に齟齬があることは明白ね」

 この“舞台”が段々と時計回りに消失していくというのなら、人が集まるのはやはり中心部。
 そう考えた瑞希は、筑摩小四郎を連れ添い、南の海岸寄りから北の町を巡り歩いていた。
 その道中、恐れを知らぬ懐中電灯のアピールにより、瑞希と小四郎の二人はここへと招かれたのだ。
 瑞希と小四郎が招待客なら、温泉の主は現在瑞希と話し合いを進めているこの男女である。

 詰襟タイプの学生服を着た、知的な印象を漂わせる眼鏡の少年の名前は、北村祐作。
 青を基調としたセーラー服を着る、ポニーテールの似合う少女の名前は、朝倉涼子。

 二人は友好的な態度で瑞希と小四郎を温泉に招き入れ、ぜひ話を聞きたいと持ちかけてきた。
 安心した、というのが瑞希の正直な感想である。
 共に学生であるらしい北村と朝倉の“普通”な雰囲気が、緊張で張り詰めていた気持ちを弛緩させた。
 小四郎はやや戸惑い気味だったが、瑞希にこれを断る理由はなく、誘われるがままここに腰を落ち着けたという次第だ。

「拉致されたときに、頭の中身でもいじられたとか? なんだか怪しいよね、このへんの食い違い」
「ゾッとする話だな。普段だったら笑い話だろうけど、今がもう普通じゃないからなぁ」

157ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:14:49 ID:nhiedHwc0
 まず手始めに、三者が所有している世間的常識の照合を済ませた。結果はやはり、曖昧なままだ。
 姫路瑞希が在籍する文月学園は、『試験召喚システム』という制度を試験的に採用している、有名な進学校である。
 試験召喚システムとは、科学と、偶然と、オカルトによって生まれた未知の産物であり、
 多くのメディアから注目されてはいるが、県を跨いだ他校の生徒からして見れば、知名度はまだまだ低いかもしれない。

 だが、今は別行動を取っているという北村の仲間――上条当麻の言う『学園都市』や、千鳥かなめの言う『AS』などは別だ。
 東京の三分の一を占め、外部と隔離されたその一帯が一つの巨大都市として確立している事実など、瑞希は知らない。
 戦車や戦闘機にかわって、人型機動兵器が軍事運用されている事実など、瑞希は知らない。
 北村や朝倉も同じく、しかしこの二人は『試験召喚システム』についても知らない。

 明らかな情報の齟齬は、いったいなにを意味するのだろうか。
 朝倉の言うように、脳内をいじられた可能性とて否定できない不一致が、瑞希の頭を悩ませた。
 このあたりの食い違いに、なにかこの企画の根底を覆す鍵が隠されているような気がしないでもない。
 しかし、今は考えるだけでも手詰まりだ。学校のテストとは違って、安易に正解が求められるものでもない。

「あの……そういえば、北村くんの名前で気になることがあるんですけど」

 とりあえずは保留にしておくべきだろう、と瑞希は考え話を切り替える。

「北村くんの名前って、名簿には載っていませんでしたよね?」
「ああ、載ってなかったな。たしか十人だったか? 未掲載の奴もいるって言ってただろう」
「あの狐のお面を被った人の言葉ね。どういった意図があるかは知らないけれど」

 北村は卓袱台の上に名簿を広げ、羅列されている名前を指で追っていった。
 そこには『姫路瑞希』や『朝倉涼子』の名前はあれど、『北村祐作』の名前は載っていない。

「どういった意図、か……なぁ、姫路に朝倉。ちょっと確認したいんだが、いいか?」

 北村は胡坐をかいたまま腕組みをし、おもむろに訊いてきた。

158ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:15:57 ID:nhiedHwc0
「ここに載っている瑞希の知り合い……吉井、って奴だけで間違いないか?」
「はい、明ひ……吉井君一人だけですっ」
「朝倉。おまえが知っている人間は涼宮と、このキョンってやつ。二人で間違いないな」
「ええ。どちらも私のクラスメイトよ。キョンくんがなぜあだ名で載っているのかは知らないけれど」

 瑞希と朝倉の回答に、北村はふむ、と唸る。

「俺の知り合いは高須と逢坂、川嶋と櫛枝って奴らだ。同姓同名とは思えない……よな」
「北村くん、なにか気になることがあるんなら言ってくれない? 私と姫路さんも力を貸すわ」

 言う朝倉の表情は、堂々としていて心強い。
 北村もそれに安堵したのか、躊躇わずに言葉を継ぐ。

「これは俺の推測なんだが、拉致された人間たちの人選は、集団単位なんじゃないかと思うんだ」

 瑞希と朝倉が首を傾げる様を見て取り、北村はさらに続ける。

「みんな、ここには誰かしらの知人友人がいる。俺たち三人はいま確認したとおり。
 別行動中の上条や千鳥にもいる。姫路と一緒に来た筑摩にも、知り合いはいるんだろう?」

 北村の視線は客間の隅、壁に凭れるように座っている一人の男へと注がれる。
 顔の半面を真新しい包帯で覆い隠し、身は黒の装束で包んだ、一見して忍者のように思える男。
 声の若さで捉えるなら皆と同年代であろうが、なにぶん顔が隠れているため、詳細は定かではない。
 しかし構わず、また相手が面妖だからといって臆したりもせず、北村は気軽にその男――筑摩小四郎へと話しかける。

「……朧さま、それに天膳さま。お二人とも、おれが仕える主にござる」

 盲目の小四郎は北村と視線を合わせることができず、明後日の方向を向きながら応えた。
 彼の肩には鷹が止まっている。カラスなどに比べても巨大なそれが、大人しくも獰猛な瞳で代わりに北村を睨んでいた。

「やっぱり、誰かしら知り合いはいるんだ。ここにつれて来られた経緯なんかは覚えちゃいないが、
 俺たちを拉致した奴は、きっと俺たちの交友関係を把握しているんだ。だからこんな風に、名簿の一部を隠したりする」

 北村の名簿の欄外に、手書きで『北村祐作』の名前が記される。
 北村を抜いたとして、残り九人。この地には名前の知られていない人間が存在しているのだ。
 そこで、瑞希は気づいた。

159ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:17:08 ID:nhiedHwc0
「その九人っていうのは……私たちの知っている人である可能性が高い、ってことですか?」
「正解。俺が言いたいことはつまりそれさ」

 おずおずと開いた口が、力なく閉ざされる。
 考えたくはないが、考えなくてはならない心配事がまた一つ、増えてしまう。

「参加者六十人。知人同士である程度グループが形成されているのだとしたら、俺は高須、逢坂、川嶋、櫛枝の班に入る。
 けど、高須たちからしてみれば俺は認知されていない存在だ。同じようなことが、姫路や朝倉にも言えるかもしれない」

 北村はつまり、こう言いたいのだ――まだ見ぬ九人の中に、大切な友人が紛れていることもあり得る、と。
 たとえば、姫路瑞希の場合。名簿上で彼女と唯一接点を持つ人間といえば、吉井明久である。
 瑞希と明久の関係は、妥当なところでクラスメイト。だとすれば、残り九人の中に同じFクラスの人間がいてもおかしくはない。

 たとえば、それは明久の親友の坂本雄二。瑞希の親友であり二人しかいないFクラス女子の片割れでもある島田美波。
 明久や雄二とよく行動を共にしている木下秀吉や土屋康太、須川亮あたりが含まれている可能性とてあり得る。
 もし、明久以外にも友達が巻き込まれているとするなら――瑞希も気が気ではない。
 明久一人の安否を気遣うだけでも心臓が鷲掴みにされる思いだというのに、それ以上ともなればいずれ不安に押し潰されてしまうだろう。

「なるほどね。ひょっとしたら恋人や家族なんかもいたりするかもしれないってわけか」
「ああ。名簿の一部を隠しているのは、そうやって俺たちの不安を煽るためでもあるんだろうな」
「そんなの……悪趣味です! 私たちがこんなに必死な思いをしてるっていうのに、そんな嘲笑うみたいに……」
「この椅子取りゲームの狙いなんてわからないさ。けど、姫路の憤慨はもっともだ。――でも」

 北村はそっと微笑み、険しい顔つきの瑞希へと目配せする。

「案外、そう危ない状況にはならないんじゃないか……俺はそう思うんだ」

 その発言はどこか余裕に満ちていて、北村の度量の深さが窺えるような、不思議な安心感があった。

「朝倉。このゲームの趣旨って、なんだかわかるか?」
「なにって、『生き残りを目指す』、ただそれだけでしょう? あの男の人の言葉を信じるならね」
「そう。そして、その生き残りとやらの席は一つらしい。なら姫路、たった一つの生き残りの席をどうやったら絞れる?」
「それは……席が一つに、つまり生き残りが一人になるまで、他の人たちが消えれば……」

 口ごもりつつ応える瑞希の顔は、俯いている。
 それを口にしてしまうのは、なんとなく怖い気がしてならなかった。

160ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:18:03 ID:nhiedHwc0
「本当は言いたくないんだろうが、あえて代弁させてもらう。生きるの対義語は死ぬ。生かすの反対は殺す。
 六十の人間がいたとして、『生きる』を一つに絞りたいんなら、答えは簡単。他の五十九は『死ぬ』しかない」

 北村は毅然と言い放った。瑞希は浮かない表情のままだったが、これを静かに肯定する。

「直接『殺せ』とは言わなかったあたり巧妙だがな。手っ取り早く生き残りたいなら、他を殺せばいいんだ」
「そう。北村くんの言うとおり。冷静に考えれば、誰だって物事の本質には気づく。だからこそ、危険な状況にも陥りやすいと思うんだけど?」
「いや、そうでもないさ。これも冷静に考えれば誰だって気づくと思うんだが……この椅子取りゲーム、いや殺し合いには、猶予がある」

 猶予、という言葉を強調させ、北村は卓袱台の上にこの会場の地図を広げる。

「最終的に生き残れるのは一人だけ、って言っても、他の五十九人はすぐに死ななきゃいけないわけじゃない。
 誰かが誰かを殺さない限り、その命は三日間……地図上の全部の升目が埋め尽くされる瞬間まで、保障されるんだ」

 期限は七十二時間ジャスト。それが、このゲームに定められたルールの死角だった。
 地図を見てもわかるとおり、この会場は三十六のエリアで区分されている。
 そしてそのエリアは、北西から外側を東回りに“消滅”していき、やがて内側へと至り、最終的には中央のエリアも食うという。
 消滅に巻き込まれれば、おそらくは死。徐々に狭まっていく会場を思えば、“敵”は早々に始末してしまったほうが得策と思える。

 しかし、そんなことはないのだ。
 狐面の男が言ったとおり、このゲームの趣旨は『生き残る』ことであって、『殺し合え』とは一言もなかった。
 主催者としても、最終的に一人が選び出されれば文句はなく、ゆえにそのときまでは誰が誰を傷つける必要もないのである。

 それはたとえ――三日の時が経過するその瞬間まで、六十人の人間が一致団結して脱出策を模索していたとしても、だ。
 なので北村は、これを“猶予”と捉える。今は足掻くことが認められた時間だからこそ、精一杯足掻いて見せよう、と。

「これが爆弾付きの首輪でも嵌められてたんなら話は別だけどな。なにも一日目から向こうの趣旨に乗ってやる義理はないのさ」
「たしかに……そうですよね。誰だって、人殺しなんてしたくないはずですし。錯乱した人が相手でも、がんばって説得すれば」
「でも、それはあくまでも猶予であって、問題の解決に至れるわけじゃない。平和はいずれ破綻してしまうわ」
「もっともだ。七十二時間が経過したら、どの道ゲームオーバー。そうなる前に、別の解決策を探らなくちゃな」

 生き残った一人が、五十九の屍の上に築かれた一つの椅子に座るという結末。
 そんな最悪とも取れる最後を回避するためには、別の解決策を練る必要があるだろう。
 誰も死なず、皆が生きて帰れるような、抜け道のような解決策が――はたして、あるのだろうか。

 瑞希としては、不安にならざるを得ない。
 心細さから欲したのは、吉井明久の隣の席。
 だが、明久を見つけたとて心の安寧が得られるだけで、後の生には繋がらない。
 大元の事件を解決しなければ、どの道死んでしまう運命なのだ。
 そちらのほうもなにかしら考えなければならないのだが、まったく妙案が浮かばない。

161ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:19:18 ID:nhiedHwc0
「まあ、そっちは地道に進めていくしかないさ。上条と千鳥が戻ればなにかわかるかもしれないしな」

 瑞希や小四郎、そして朝倉よりも先に北村と接触したらしい上条当麻と千鳥かなめは、会場の端を確認しに行ったという。
 地図を見る限り、瑞希たちが放り込まれた場所は絶海の孤島というわけでもない。
 一見したところ脱出は容易なのではないかと思えるが、はたしてそう上手い話があるものだろうか。
 それもまた、二人が無事に帰還すれば判明するだろう。

「あなたの考えはよくわかったわ。でもね北村くん。あんなに堂々と人を呼び止めるのは、危機感に欠けると思うのよ」
「はっはっは。まあそう言うな朝倉。おまえも瑞希も……あと、“師匠”だったか? 話が通じる相手で幸運だったよ。
 リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツさんとか、どこの国の人かもわからないからな」

 あっけらかんと言ってのける北村の横顔が、瑞希にはとんでもない大物のように思えた。
 温泉を拠点とし、近くを通りかかった人々に片っ端から声をかける。
 北村が行っていた人集めは、極めてシンプルなものだった。

 瑞希と小四郎が懐中電灯の明かりに導かれたのも然り。
 朝倉涼子と、彼女の仲間であるという“師匠”もまた、瑞希よりも早く北村に招かれた客人だった。

「その師匠さんという人は、どんな方なんですか?」

 上条当麻や千鳥かなめと同じく今は別行動中だと聞いてはいたが、その詳しい素性までは知らされていない。
 すれ違いの仲間に抱いた興味を、瑞希はそのまま質問に移す。

「強い上にとても親切な人よ。無償で私の警護をしてくれていたの。本名は教えてくれなかったけれど」
「彼女には付近を回って人集めをしてもらってる。六時前には戻ると言っていたから、姫路もそのときに顔を合わせるさ」

 朝倉と北村の言から、瑞希は頭の中で空想の師匠像を作り出す。
 性別は女性、髪形は朝倉と同じポニーテールで、温和な性格の人物らしい。
 名簿にも載っている人物ではあったが、その名が“師匠”という肩書きであることが少し気にかかった。
 とはいえ、他にも本名かどうか怪しい人間はいる。朝倉から直々にあだ名認定された“キョン”などその典型だ。
 細かい疑問点は、考え出すときりがない。今はただ、師匠なる人物との邂逅に期待しよう、と瑞希は思う。

「上条くんと千鳥さんが戻ってくるのはもう少し先なのよね。その間、私たちはどうする?」
「そうだな……また外に出て、近くに人がいたら呼び止めるか……ああ、そういえば」

 数秒考える仕草をし、北村が発言する。

162ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:20:26 ID:nhiedHwc0
「朝倉たちの“武器”を確認させてもらってもいいか? なにか役に立つものがあるかもしれない」

 武器というニュアンスに一瞬、身を強張らせた瑞希だったが、すぐに北村の意図を理解した。
 武器とはつまり、狐面の男がそう呼んでいた支給物のことだ。
 名簿や筆記用具といった六十人共通のものとは別に、一人につき一つから三つの割合でそれらが支給されている。
 拳銃や刀剣のような文字通りの武器であったり、また用途不明のものであったりと、種類は様々であるとも説明されていた。

 北村の要望どおり、瑞希は自分の鞄から支給物を取り出して見せる。
 といっても、彼女が見せたのはなんてことはない、その辺りの民家でも手に入りそうなフライパンだ。
 元々は小四郎に支給された品であるが、瑞希に支給された蓑念鬼の棒と交換しそれぞれ所有者を変えた。

「あとは、小四郎さんの持っている棒と……肩の鷹が、そうだそうです」
「鳥もありなのか!? いや、まあ猛禽類は獰猛だとも聞くが……」
「この分だと、犬や猫なんかも支給されているかもしれないわね」

 北村が鷹に対し苦笑いを浮かべたところで、朝倉も自身の支給物を提示する。

「朝倉のは、刀と……なっ、金か、これ? 本物の?」

 卓袱台に置かれた場違いなまでに輝かしいそれは、紛れもない金塊である。
 棒状のものが五本。換金すればいったいいくらになるのだろうか。瑞希と北村は揃って想像し、感嘆の息を漏らした。

「ちゃんとした武器もある一方で、こういう使い道に困るものもあるみたいね」

 朝倉はいたって冷静な素振りを見せ、金の延べ棒を指で弾いた。
 如何な値打ちものとはいえ、この状況ではあまり意味がない。
 財布が潤っていたとてなにかしらの買い物ができるわけでもなく、ましてや金の塊など、鈍器にしかならないだろう。

「ま、朝倉の言うとおりではあるなぁ。これで探偵でも雇える、っていうんならともかく」
「そういう北村くんの鞄には、いったいどんなものが入っていたんですか?」
「ん? 俺か」

163ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:21:06 ID:nhiedHwc0
 瑞希と朝倉の提示した物品の中に、人集めに有益なものが含まれていたかと言えば、結果は否だ。
 ともなれば、気になってくるのは言いだしっぺである北村の荷物。
 瑞希が問うと北村は不適な笑みを見せ、自分の鞄を漁り始めた。

「数で言えば、とりあえず運は良かったほうだな……入っていたのは三つ。一つはこれだ」

 卓袱台の上に置かれたのは、厚みのある茶封筒だった。
 表面には、宛名ではなく『お宝写真!』とだけ書かれている。
 確認してみてくれ、と北村に促され、瑞希がそれを手に取り封を開けた。朝倉も横から覗き込む。
 中に入っていたのは、数枚の写真――ある特定の人物に限って言えば、たしかに『お宝』と言えるだろう代物だった。

「正直、ハズレもいいところだ。いったいこれで俺になにをしろっていうのか……」
「そうですね。たしかにこれはハズレかもしれません。ですから、私が預かっておきます」
「ああ、そうだな。じゃあ二つ目を……ん? 姫路、今の流れになにか違和感を覚えなかったか?」
「いえ、全然! それより、他の二つも早く見せてもらえませんか!?」
「あ、ああ」

 瑞希は写真入の茶封筒を懐にしまいつつ、北村を催促する。まるで言及の隙を与えない。
 ここに“こんなもの”があるとは思いもしなかった。しかし幸運だ。
 これは、他の誰の目にも触れさせないほうが安全だろう。
 瑞希の手で大事に保管しておく必要がある。後々の鑑賞のためにも。

「次はこれだ。朝倉の金塊ほどじゃないが、値打ちもの……というより、骨董品だな」

 これもやっぱり用途はわからんが、と付け加え北村が卓袱台に置いたのが、古風な巻物だ。
 広げてみると、紙面には墨で書かれた文字が敷き詰められている。
 達筆ではあったが、どれも読めない漢字ではない。
 北村がこれを読み上げていく。

164ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:22:54 ID:nhiedHwc0
 ◇ ◇ ◇


  甲賀組十人衆
   甲賀弾正    鵜殿丈助
   甲賀弦之介  如月左衛門
   地蟲十兵衛  室賀豹馬
   風待将監    陽炎
   霞刑部     お胡夷

  伊賀組十人衆
   お幻       雨夜陣五郎
   朧        筑摩小四郎
   夜叉丸     蓑念鬼
   小豆ろう斎   蛍火
   薬師寺天膳  朱絹

 服部半蔵との約定、両門争闘の禁制は解かれ了んぬ。
 右甲賀十人衆、伊賀十人衆、たがいにあいたたかいて殺すべし。
 のこれるもの、この秘巻をたずさえ、五月晦日駿府城へ罷り出ずべきこと。
 その数多きを勝ちとなし、勝たば一族千年の永禄あらん。

   慶長十九年四月         徳川家康









 最後にこれをかくものは、伊賀の忍者朧也。


 ◇ ◇ ◇

165ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:24:18 ID:nhiedHwc0
 記された名には、すべてに血の線が刻まれていた。
 名簿にも名を連ねる朧や薬師寺天膳、甲賀弦之介、そして筑摩小四郎の名も、そこにあった。
 現役の高校生である閲覧者三名、慶長や徳川家康といった名称に聞き覚えがないはずもなく、揃って首を捻る。
 と、

「それはまことか……!」

 今の今まで会話に加わろうともしなかった小四郎が、急に声を荒げ立ち上がった。
 三人が驚くと同時、彼の肩に止まっていた鷹も奇声を上げ、客間を忙しなく飛び回る。

「姫路どの、それはまことかと問うておる……!」

 包帯に覆われた顔面からは、表情が窺えない。荒い語気からのみ、鬼気迫るものが感じられる。
 小四郎の問いに、瑞希は言葉を失った。驚きのあまりにではなく、単純な恐怖心から、声を枯らしてしまったのだ。
 今にも掴みかからん勢いの小四郎を宥めようと、代わりに北村が返す。

「本当かどうかは知らないが、文面はさっき読み上げたとおりだ」
「……左様か。さすれば北村どの。その人別帖は我ら伊賀組のもの。ゆえにおれが貰い受ける」
「そりゃ渡すのは構わないが……これがなんなのかは、訊かないほうがいいか?」

 小四郎は黙って頷いた。北村もそれ以上はなにも言わず、巻物を小四郎へと手渡す。
 程なくして鷹も落ち着き、小四郎の肩に戻った。小四郎自身も、平静を取り戻しまた腰を落とした。

「さて、と。それじゃ、これが三つ目になるんだが……」

 北村は何事もなかった風を装い、再び鞄の中身を漁り出す。
 瑞希はまだ怯えが抜けないのか、寡黙となった小四郎から目が離せないでいた。

「……造りが精巧というか、なんというか。あまりおもしろいものじゃないけど、それでも見るか?」
「もう、ここまできてもったいぶるのは禁止。さ、早く見せて」
「ふっふっふ……朝倉は怖いもの知らずのようだな。よーし、ならば見るがいいさーっ!」

 高々と叫び、北村は三つ目の支給物を鞄から勢いよく引っ張り出した。
 出てきたのは、人間の頭部である。
 北村の手に鷲掴みにされた頭が、抵抗することなくずるずると、鞄から引きずり出される。
 瑞希と朝倉は絶句。徐々に姿をあらわにしていく、鞄以上の体積を持つ人間の体が、卓袱台の上に横倒しになった。

166ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:25:02 ID:nhiedHwc0
 悲鳴を上げる間もない唐突さは、しかし注意深く観察してみると、それが人間ではありえないということがわかる。
 瞳の閉じられた顔は安らかな寝顔のようにも見え、まったくと言っていいほど生気が感じられない。
 肌の色は自分たちのものと比較してもどこか人工的で、触ってみると硬かった。
 纏っているのは、なぜかは知らぬがウエディングドレスである。

「マネキン、ですか?」
「マネキンね。どう見ても」
「マネキンにしては造りがいいが、まあマネキンだろう」

 北村の三つ目の支給物は、ウエディングドレスを纏ったマネキン人形だった。


 ◇ ◇ ◇


 汗の臭い染み込む下着を脱ぎ捨て、裸体は湯気のヴェールに包まれる。
 外界との境界を担う引き戸は、ほんのちょっとの力で容易く開かれた。
 靴下もない素足が踏みしめるのは、水滴に塗れたタイルの敷かれし床。
 目指す場所はそう遠くはなく七歩ほどの距離――そこに浴槽はあった。

 温泉施設のメインとも言えるここは、女性用大浴場。

 むき出しの胸元をタオルで少しばかり隠した入浴者の名は、姫路瑞希。
 彼女は今、湯の張られた浴槽を前にして、入るべきか入らざるべきかと悩んでいる。

(こうしている間にも、明久君は……でも、もう服も脱いじゃったし……)

 瑞希が温泉に立ち寄ったワケ。それは、北村がここを拠点としていたからであって、なにも入浴が目的であったわけではない。
 彼女とて、身だしなみには気を使う今どきの女の子だ。動き回ることが必定のこの舞台、体を清められる機会はぜひともほしい。
 しかし、はたしてそれが今であっていいものなのだろうか。
 つい先ほどまで後の指針を話し合っていただけに、急激に緊張が紐解かれるのには抵抗があった。

「どうしたの姫路さん。ひょっとして、熱いお湯は苦手?」
「あ、いえ、そういうわけではないんですけど……」

 瑞希の後ろから、脱衣を済ませた朝倉涼子がタオルの一枚も持たずに、堂々と己の体を曝け出しながら歩み寄ってくる。
 その羨ましいくらいの大胆さに瑞希は赤面し、思わず目線を外してしまった。
 朝倉といえば、恥ずかしげもなく首を傾げる始末だ。

167ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:26:37 ID:nhiedHwc0
「なら、早く入りましょう。風呂は心の洗濯……って、そんな言葉をどこかで聞いた覚えがあるわ」

 温泉に入ろう、と一番に言い出したのはこの朝倉涼子である。
 理由は、せっかくだから。北村は、いいなと返した。瑞希のみ、同意し切れなかった。

 北村の論によれば、このゲームにはまだまだ猶予がある。だからといって、のんびりしていられる暇などないのだ。
 本来ならもっと手早く人を集め、大人数でもって事態の究明と対処に当たるべきなのだ。そのはずなのだ。きっと。おそらく。

 ……とはいえやはり、リフレッシュは必要だろう。

 結局、瑞希も裸で浴場の真ん中に立っている。朝倉の申し出に、最終的には同意したのだ。女の子ゆえに。
 それにもうじき夜が明ける。さらに多くの人を集めるならば、明るくなってからのほうが活動もしやすいだろう。
 時間は大切だが、慌てるべきではない。瑞希は今回の入浴について、そう正当性を持たせる。

 つま先が湯船に触れ、徐々に沈んでいく。
 お湯の温度は熱すぎず温すぎず、心地よい。
 下半身のみ浸すと、間を置いてから膝を折っていった。
 豊満に膨らんだ胸元まで浸かり、そこで初めて、瑞希は極楽の息をついた。

「……ふぅ」

 湯気で上気した頬が、朱に染まりわずかに笑む。
 頬だけでなく、心までもが弛緩してしまいそうだった。

(暖かい……広い……お風呂……ふゃ〜っ)

 緩み切った頭で思い出すのは、学力強化合宿での出来事だ。
 今では大親友とも言える存在になった同じFクラスの島田美波や、DクラスEクラスの女子たちと入浴したのが特に思い出深い。
 吉井明久や坂本雄二、彼らを中心とした文月学園高等部二年の男子たちが、総戦力でもって覗きに励んだことは忘れもしない。
 百四十九人ものの男子生徒が同時に停学処分を受けた学校というのも、おそらくは文月学園が初めてだろう。

 それら、楽しい思い出が頭の中に呼び起こされ、同時に不安の波も押し寄せてきてしまう。
 名簿に名を記されていた、瑞希のクラスメイトにして、彼女が――――な男の子。
 吉井明久は今、同じ空の下でどのような想いを馳せているのだろうか。

168ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:27:53 ID:nhiedHwc0
「明久君……」
「明久君っていうと、吉井明久のことかしら? たしか、姫路さんのお友達だったわね」
「へっ!? あ……はい」

 意識せず口に漏らしてしまったのか、朝倉に明久の名を拾われた。

「気になるの? なんだか思いつめたような顔をしているし……それに、心拍数も上昇しているみたい」
「そ、そう、ですか? えへへ……自分では、全然わからないんですけどね」

 朝倉は興味津々といった様子で、瑞希の傍へと進み寄ってくる。
 如何にここが女湯で、相手が同性であろうとも、知り合って間もない女の子と裸を向け合うのは恥ずかしい。
 瑞希は湯気の熱気とは別の要因で顔を赤らめ、朝倉の体に釘付けになりそうだった視線を外す。

「ただ、その……や、やっぱりお友達ですからっ。危ない目にあっていないか心配で」
「お友達、か。本当にそうなのかな?」

 朝倉の何気ない問いが、瑞希の胸にちくちくと刺さる。
 思い当たる節は、あった。言ってしまえば、ドキリ、としたのだ。

「あなたの反応と身体状況を私の知る事例に当て嵌めると、その感情は好意ではなく恋情に近いものだと思うのだけれど」
「そうですね。私は明久君をお友達としてではなく、恋……って、え? え、ええぇっ!?」

 平静を装い隠蔽しようとした感情は、しかし見透かされたように言い当てられ、瑞希は慌てふためく。

「私には有機生命体の恋愛の概念がよくわからないのだけれど、これでも健全な女子生徒を演じてきたわけだから。
 クラスメイトと恋愛に関するお話をしたりもするし、“恋する女の子”の特徴なんかも逐一観察して記録していったわ。
 今のあなたは手持ちのパターンに適合する。姫路瑞希は吉井明久に恋をしている。どう? 当たりじゃないかしら」

 ところどころに違和感のある言葉が浮かぶが、朝倉の熱弁には首肯せざるを得ない。
 とはいえ安易にそれを認めてしまうのは恥ずかしく、瑞希は必死になってお茶を濁すための言葉を探した。

169ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:28:57 ID:nhiedHwc0
「それは、その、えっと、ええと……あの、その、あのですね……う〜んと……」
「その反応は高確率で“照れ隠し”よね。ここに来たからかな。私も随分と、有機生命体の感情というものが理解できるようになったみたい」

 一人、感慨深げに頷く朝倉。
 彼女が口にする“有機生命体”という単語が、やけに気にかかる。
 他人行儀を通り越した言葉の選択は、先ほどの話し合いのときと比べても異質だ。
 照れているのは自分でも理解できている。しかし照れながらも、瑞希は朝倉の会話の仕方が気にかかった。

「で、ここからが本題。あなたは吉井明久というたった一つの存在に対して、他のすべてを棒に振るうだけの覚悟があるかしら?」

 そして、この質問である。

「あの、言っている意味がよくわからないんですけど……?」
「そうね。簡単に言うと、吉井明久一人を生かすために自分も含めた他の五十九人を殺せるか、っていう質問。どうかしら」

 ますますもって不審だ。質問の内容は読み取れても、朝倉の真意が読めない。
 赤面していた瑞希は表情に冷静さを取り戻し、恐々と答えを口にしていく。

「それは……できません」
「どうして?」
「どうしてって……私、人を殺したくなんてありませんし、殺そうと思ってもできないと思います。それに」
「それに?」
「……明久君はそんなこと望みません。もし私がそんな馬鹿げたことをやっていると知られたら……軽蔑されちゃいます」

 朝倉の質問について、真剣に考えてみる。
 このゲームの勝者は一人。それ以外の者はすべて敗者。生きて帰れるのもまた、一人だ。
 ならば、特定の一人を生かすために自分や他者を犠牲にするという方法も、選択肢の一つとしてはあり得る。

 しかしこれは、あまりにも身勝手な選択ではないだろうか。
 自分が生き残らせようとしている一人――たとえば吉井明久、彼の身になって考えればすぐに気づく。
 彼は、自分一人生き延びたいがために他のみんなを犠牲にしたりなどしないし、誰かにそうしてもらうことも望まない。
 瑞希がそのような行動に出ていると知れば、まず間違いなく止めようとするだろう。それが吉井明久という少年だ。

170ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:30:21 ID:nhiedHwc0
(正直で、頑張り屋で、だから私は――)

 異郷の地で離れ離れになってしまった男の子のことを想い、瑞希は湯船に顔を埋める。
 思わず鼻先まで湯に浸けてしまったのは、やはり照れ隠しなのだろう。
 表情を読み取られたくないと、本能が体を動かしたのだ。

「なるほどね。私が涼宮ハルヒの保護に務めようとしているのは一種の奉仕活動とも思えたのだけれど」

 瑞希の回答を受け取った朝倉は、何度も頷き、独り言のように言葉を紡ぐ。

「それは別に、私が涼宮ハルヒに特別な感情、たとえば恋心を抱いているからというわけではない。
 逆にあなたは、特別な感情を向けている吉井明久が対象だとしても、そういった行動には走れない。
 これは覚悟の差? ううん、違う。きっと恋愛感情というものの捉え方が間違ってるのね。もっと試してみるべきかも」

 言って、朝倉は瑞希の頭の上に手を置いた。
 飛び出た杭を押し込むように、真上から瑞希の頭を湯に沈める。

「――っ!?」

 咄嗟の出来事に抗う暇もなく、瑞希は口から鼻から進入してくる熱湯に悶え苦しんだ。
 すぐに湯から上がろうとして、頭を押さえつけていた朝倉の腕を取り払う。
 勢いよく水飛沫が上がり、視界が戻ると驚く朝倉の表情があった。

「なっ、なにをするんですか朝倉さん!」
「驚いた。意外と押し返されるものなのね。次はもう少し、力を強くしてみようかな」

 むせる瑞希への対応もそこそこに、朝倉の手が伸びる。
 今度は頭頂部ではなく首根っこを乱暴に掴み、瑞希の体を湯船へと押し倒した。
 勢い余って浴槽の底に背中がぶつかる。全身は当然のごとく湯に満たされ、酸素を得る術はなくなった。

 藁をも掴まんと瑞希が両手で湯を掻くが、その所作に意味はなく、朝倉の目には見苦しい様としか映らない。
 全身の穴という穴から湯が流れ込んでくるような感覚。慌てれば慌てるほど、侵攻の速度は速まった。
 まず初めに『苦しい』と脳が訴え、『息ができない』と体中に危険信号が発せられ、最終的には『死ぬ』と予感が過ぎった。

171ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:31:44 ID:nhiedHwc0
(わたっ、し……こんな、ところで……!)

 瑞希の長い髪が、湯船の上でクラゲのようにたゆたう。
 当の本人の顔は、依然として呼吸運動不可の領域内。
 懸命に脱出を試みようとするも、朝倉の腕力がそれを許さない。
 息苦しいというだけではなく、首の締め付けによる痛みまで襲ってきた。

 間近まで迫ってきた生命の危機。何者かが、瑞希に死ぬぞ、死ぬぞと警告を発し続ける。
 だが抗えない。朝倉の怪力から逃れる術が見つからない。脳にも酸素が回らなくなる。

 溺れるという経験は、なにもこれが初めてではない。
 成績優秀で知られる瑞希の数少ない不得意なことと言えば、水泳だった。
 水に浮くくらいしかできない自分を恥じ、親友の美波に教えを乞うたのが今年の夏のこと。
 こんなことなら、お風呂で誰かに沈められそうになったときの対処法も聞いておくんだった――と。

「……がっ、はっ!」

 考えるうちに、瑞希は湯船の中からわずか、顔だけを出すことに成功した。
 まだ、死にたくない――!
 あの夏のプール清掃の日、Fクラスの仲間たちと作ってきた数多の思い出が、奮起の原動力となった。

「あき……ひっ、さ、くん……っ!」

 朝倉の手は未だ振り解けない。意地だけで逃れようとする。生命活動の危機に瀕した人間の底力。
 無我夢中となって生を渇望する少女、姫路瑞希が意識せず呟いたのは、やはり吉井明久の名前だった。

「たす、けて……っ!」

 湯を掻く手が、己の首を掴む腕の先、朝倉涼子の顔面へと向いた。
 瑞希の指先が、朝倉の頬を掠める。
 ただ、それだけ。

「うん、それ無理」

 懇願の回答は、無慈悲に。


 ◇ ◇ ◇

172ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:34:41 ID:nhiedHwc0
 姫路瑞希、朝倉涼子、北村祐作の三人が入浴に向かった頃、怪我人の筑摩小四郎は一人、客間で待機していた。
 相変わらず壁に背をやり、肩には鷹を止まらせ、そして手には北村から譲り受けた巻物が握られている。
 この巻物は、ただの巻物ではない。

 服部家が定めし伊賀と甲賀の『不戦の約定』……それが解かれたことを意味する、忍法殺戮合戦の象徴であるのだ!

 実際にその目で確かめること叶わぬが、北村が読み上げた文面は正しく、
 伊賀と甲賀の国境、土岐峠のうえで薬師寺天膳が読んだものと同じであった。
 そう、同じであったのだ……不足がない、という意味では。
 小四郎が頭を悩ませているのはまさにそこ、あそこで確認したときにはなかった、追記が為されていたのである。

 つまり、伊賀組十人衆と甲賀組十人衆の計二十名が死に、最後に朧が伊賀の勝ちを綴った――と。

(解せぬ……いつぞやじゃ、いつぞやおれは死んだ? おれはこうして生きておる……朧さまや天膳さまとて、生きておる)

 ここに連れて来られる以前の記憶を辿る。
 池鯉鮒の東にある駒場野の原野で、小四郎は主、薬師寺天膳とはぐれてしまった。
 盲の身ながらに主の姿を探しさ迷い歩き、気づけば斯様な事態に巻き込まれ、姫路と出会った。

 その間に、決着がついたのだろうか。
 一人はぐれとなった小四郎は死んだと見なされ、何者かが己の名を血で消したのか。

(ありえん。天膳さまとはぐれてからまだ半日も経っておらぬ。その間に決着など、ありえようはずがない!)

 そもそも、朧や天膳、敵方の甲賀弦之介とて、小四郎と同じくここに連れ去られたはずなのだ。
 この事実から読み取るに、やはり手元の秘巻に記されているのは偽りの死亡と戦勝報告。
 長らく続く伊賀と甲賀の因縁、その終止符となるであろう戦が穢されるとは、腹ただしいにもほどがある。

(しかこれは事……このままでは、朱絹どのお一人で室賀豹馬や如月左衛門、陽炎を相手にせねばならなくなる)

 同時に、このまま見知らぬ土地で燻っていては、この秘巻のとおり四名が死んだと取られる可能性もある。
 もとより、即刻戻らねば伊賀と甲賀の一対三。一人残してきた同胞、朱絹の安否が気にかかるというものだ。

 汗が溜まり気持ち悪いという女の心はわかる。しかし己は忍者也。
 盲とはいえ休んでばかりもいられない。忍者だからこそ、主と怨敵は足で探し出す。
 小四郎の具足が畳を強く踏みしめ、ゆらりと長躯を持ち上げたと同時に、突然鷹が騒ぐ。

173ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:35:52 ID:nhiedHwc0
 肩から飛び立ち、甲高い鳴き声とはばたきの音。
 何事かと小四郎は訝る。二つの音はすぐにやんだ。
 代わりに、鷹が畳みに落ちる音が聞こえた。
 鼻は、血の臭いを嗅ぎつけた。それも、鳥の血だ。

 ああ、なんということか……お幻の鷹が死によった!

 唐突な別れに小四郎は感慨を得る間もなく、鷹が死んだ要因を気配に捉えた。
 人だ。人が立っている。
 小四郎の眼前、十数歩ほど先。障子戸の前に、何者かの気配が感じ取れる。

「誰か。姫路どのか、北村どのか、朝倉どのか」

 気配だけではその正体までは掴めず、声で判断しようにも相手は問いかけに答えない。
 しかし、既に鷹は死んでいるのだ。
 鷹はなぜ死んだのか。突然死の原因もまた、眼前の者が知っているに違いない。

「答え申されよ。誰か――」

 より強く問う、小四郎の総身に震えが走った。
 デジャヴ――既視感のある殺気が、眼前の人と思える方から放たれたのだ。
 すかさず身構え、鎌がなかったことに一瞬だけ躊躇するも、蓑念鬼愛用の棒を振り翳す。

「まさか、甲賀弦之介かっ」

 あの日、鍔隠れの里で相対した際、体に覚え込まされた嫌な空気。
 その鋭い眼光から放たれる、魔のごとき殺意は目を離すこと不可能にさせた。
 結果、小四郎の顔面は拉げ、目が使い物にならなくなった。

 今、眼前から放たれる底なしの殺気はまさしく――甲賀卍谷衆が首魁、甲賀弦之介のものとしか思えないのであった。

 なればこそ、今この場で逆襲を果たす好機也!
 小四郎はあれ以来目が見えない。見えないということは、つまり弦之介が誇る瞳術も通じないということである。
 あのときは目をそらせなかったばかりに負けた。しかし今度は見ろと言われようが見えぬ状況。望むべき再戦。勝てる。

 ――――ひゅる。

 風が鳴いた。小四郎のみ気づけた。
 伊賀一党、弦之介を討てる見込みがある者がいるとすればただ一人。この筑摩小四郎である。
 小四郎の忍法は必殺必中。如何な忍者といえども、間合いに踏み込みさえすれば死は免れない。
 それが恐るべき瞳術を秘めた忍者、甲賀弦之介であったとしても。
 瞳術の要たる目が、小四郎の瞳に映らないともなればなおのこと。

174ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:36:31 ID:nhiedHwc0
(来い! 朧さまに代わり、今この場でおまえを討つ)

 弦之介が障子戸の前から一歩、また一歩と、客間の中へ踏み込む。
 足音は壁際に立つ小四郎のもとへ、一直線に進み寄ってくる。

 小四郎と弦之介の間に、見えぬ凶器が形成される。
 虚空に生まれしは小旋風。その小旋風の中心に、わずか真空が生じている。
 姿形を成すとすればそれは小さな、しかし真空に触れたが最後、犠牲者は鎌いたちに襲われるがごとく内部から弾けだす。

 これこそが、筑摩小四郎の妖術とも言うべき忍法。
 強烈な吸息により、虚空に小旋風を生み出す技也。

 警戒すべきは、吐き出しではなく吸い込み――しかし誰がそれを警戒などできようか。
 小四郎の忍法はいわば呼吸。封じる策など、呼吸を止めさせる以外にありはしない。
 そして呼吸を止めさせることなど、口元を痰で覆いでもしない限り不可能なのだ。
 風待将監ならいざ知らず、瞳術以外に奇異な忍法を持たぬ弦之介では、不可避は必定。

 一歩、また一歩と、弦之介が歩み寄る。
 小四郎は棒を構えながら待った。息を吸いながらに待った。小旋風を作りながら待った。

 やがて、ぱっと空気がはためいた。
 肉柘榴の出来上がる音が、豪快に聞こえてきた。
 どしり、と重みのあるものが、眼前で倒れた音も聞こえた。

(手応えは、あった。音も、あった。殺気も……消えた)

 戦いが決しても、小四郎に惨状を見やることはできない。
 弦之介は今やどんな変わり果てた姿となっているのか。

 爆ぜた肉の色は、飛び出した眼球の行方は、刻まれた神経のほつれは、確認が取れないでいる。
 しかしこれだけはわかる。手応えと倒れた音と失せた殺気が証明している。歓喜に身が震えた。

 怨敵は今や、物言わぬ躯へと変わり果てた!

175ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:37:13 ID:nhiedHwc0
「甲賀弦之介、討ち取った――」

 次の瞬間、小四郎の意識はどこぞへと飛び、その命も潰えた。


 ◇ ◇ ◇


「いやぁ、実にいいお湯だった。これで二度目だが!」

 男湯の脱衣所、備え付けの浴衣に身を包んだ湯上りの北村祐作がいた。
 左手を腰に当て、右手には瓶のコーヒー牛乳を掴み、天を仰ぐようにしてぐいっと一気飲みする。
 願望としてはこのままマッサージチェアに雪崩れ込みたくもあったが、さすがにそれは自重しておこう。

 北村がここで湯に浸かるのは、今回で二度目になる。
 一度目は上条当麻との接触の際。北村は初対面の相手を前にしても物怖じせず、平然と入浴を楽しんでいた。
 そして今回、朝倉涼子の申し出により再び入浴の時間を設けることになり、せっかくだからと二度目の入浴にしゃれ込んだのだった。

 それはなにも、彼が無類の風呂好きだからというわけではない。
 焦っても事は無し。こんなときだからこそ、平常心を保ち体力を温存させる必要がある。
 クラス委員長兼生徒会副会長の役職に就く彼は、物事を冷静に捉えられる視点に立とうと務めたのだ。

 北村が尊敬してやまない生徒会長――狩野すみれなら、そうやって皆を導く側に立つはずだから、と。

(三日間の猶予、か……我ながら楽観した考えだよな)

 朝倉と姫路、いや上条や千鳥の前でとて、北村は弱気を秘めることに必死になっていた。
 先ほどの話し合いで自らが提示した論も、嘘ではないにしてもいろいろと不安が内包されている。
 七十二時間が経過すれば全員が死ぬ運命、しかしそれまでは誰が誰と争う必要もない。
 本心でこそそう思ってはいるが、他の五十九人すべて同じ価値観を持っているとは限らないのだ。

 中には、他人の死など歯牙にもかけない者とているだろう。
 中には、他のすべてを犠牲にしてでも生き延びようとする輩もいるだろう。
 中には、自分すら含めた五十九人を殺害してまで守りたい女がいる男だっているだろう。

 北村がほのかな恋心を抱く相手、狩野すみれに対しそこまでできるかといえば、答えは否だ。
 まだまだ先の長い生涯、もちろん死にたくなどないし、高須竜児や逢坂大河といった友人たちを犠牲にする気にもなれない。
 そもそもここに狩野すみれがいるかどうかとて不明瞭だ。
 いるかどうかもわからない人物を探し回るよりは、地道な人集めに徹したほうが効率的である。

176ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:38:14 ID:nhiedHwc0
(会長がここにいるなら、きっと俺と同じように、もしくは俺よりも上手いやり方で人を集める。
 逢坂たちだって黙っちゃいないだろうが……高須あたりは例のごとく、初対面の人間に誤解されてそうだな)

 見た目恐々とした三白眼の友人を思い描きつつ、北村は空になった瓶をその場に置き捨てる。
 脱衣所を出て、小四郎が待っている客間へと向かった。おそらく女子二人はまだ入浴中だろう。

(あの人は俺なんかに守られるほど弱くはない。亜美や櫛枝も、怒らせるとなにをしでかすかだ)

 しんとした廊下をスリッパで歩む。窓の外からは、かすかに朝焼けが差し込んできていた。
 
(一人でできることは少ない。だけど一人一人が協力し合えばなんとかなるさ……そうだろみんな)

 やっぱり楽観してるかなぁ、などと声に漏らしている内、北村の身は客間の手前まで来た。
 引き戸に手をかけようとして、ふと止める。中から話し声が聞こえてきたのだ。

「だから言ったでしょう。他の二人はともかく、この男だけは違う、と」
「私には予想もできなかったなぁ。だって有機生命体の呼吸器官じゃとても無理な芸当よ」
「素性は知れませんが、只者ではないというのが一見してわかりました。まあ、それも既に死人です」
「そうね。さすがに首を裂かれて生きているなんてこともないでしょうし……念のために、もいでおこうかしら?」

 声色は女性、それが二組。
 一人は朝倉のもので、もう一人は姫路のものではない。
 どこか大人びた、聞き覚えのある声は……朝倉と一緒にいた“師匠”という人のものだろうか。

(風呂に入っている間に戻ってきたのか? それにしても、首がどうとか……)

 考えながら、北村は障子戸を引いた。
 客間の光景が視界に飛び込んでくる。

 朝倉涼子と師匠はそこに立っていて、北村のほうへと振り返った。
 朝倉は湯上りなのか、服装がセーラー服から浴衣に変わっている。
 朝倉の右手には刀が握られており、足下に目をやれば――凄惨極まりない血の海が広がっていた。

177ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:39:30 ID:nhiedHwc0
「……っ」

 北村が息を呑む。戸を開けるべきではなかった、と今さらの後悔に苛まれる。
 惨状を目の当たりにして、嘔吐の波も押し寄せてきた。今はまだ、と懸命に我慢する。
 事実を言葉にして問うのは躊躇われた、それでも口にしないわけにはいかなかった。

「朝、倉……っ、なんなんだ、これは!」

 絞り上げるように叫ぶ、北村の表情からは余裕が消えていた。
 朝倉はにこやかに、北村の絶叫とも言える質問を受け取る。

「あのね、北村くん。あなた――」
「刀を貸しなさい」

 朝倉が答えようとした寸前、横に立つポニーテールの女性が、右手の刀を奪い取った。
 その女性、師匠は自分の手に刀を握り直し、先端を北村に向け、

「あ――?」

 腹を刺した。

 血が逆流する。口内に血の味が充溢する。口から血が零れる。腹にも血が滲む。目でも血を見た。出血で倒れ込む。
 脳はスプーンで抉られたのかと錯覚するほどに機能を失い、揺らぐ視界で狂気に淀む二人の殺人者を捉えた。
 血に混じった畳の匂いが、うつ伏せになった北村の鼻にかかる。
 視点が低くなって、その惨状はより鮮明に頭の中に入ってきた。

(筑摩に……姫路……っ)

 死体が二つ、転がっている。
 黒い装束の男と、裸の女と思える死体が、二つ。
 男のほうは服装からして筑摩小四郎に違いなく、喉には鮮血の華が咲いていた。
 女のほうは顔が潰されており何者かわからなかったが、消去法でいって姫路瑞希に間違いなかった。
 それ以外にも、鷹の死骸が転がっていた。一羽と二人、北村も入れて三人、仲良く血の海を泳いでいる。

178ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:40:26 ID:nhiedHwc0
「まだお話中だったんだけど」
「これ以上、あなたの回りくどいやり方に付き合うのは御免です」
「だからって、すぐに殺しちゃうのはどうかと思うわ」
「必要な情報は引き出せたのでしょう。“試験”も終わりました。生かす価値は皆無です」
「もう。本当にシビアなんだから」

 この二人は、いったいなにを和やかに談笑などしているのだろう。
 北村にはわからなかった。自分がなぜ刺されたのか、姫路と筑摩がなぜ殺されたのか。
 朝倉と師匠は、なぜ人を殺すのか。それだけが知りたかった。

 なのに。

 もはや言葉を口にする力も残っていなかった。
 たかが腹を刺されただけだというのに、いや腹を刺された経験などないが。
 それとも、胸だったのだろうか。刺されたのは心臓か、肋骨に阻まれたりはしなかったのか。
 どうにも瑣末なことばかり考えてしまう。死の間際だというのに、走馬灯すら見ることができない。

(なんか……想像してたのと違う、なっ)

 案外、苦しくはなかった。痛みを実感するよりも先に、死が駆け抜けたのかもしれない。
 師匠の殺し方は実に的確だったと言えよう。北村は感慨を得る間もなく、黄泉路へと旅立った。


 ◇ ◇ ◇

179ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:42:24 ID:nhiedHwc0
「それで、点数は?」
「そうですね……一点といったところでしょう」
「それは何点中?」
「十点中、一点です」
「採点の仕方を詳しく訊きたいのだけれど」

 すべての騒動が一段落した後、制服に着替えた朝倉と、服装変わらぬ師匠の身は、温泉の外にあった。

「まず、あなたが自ら作戦を考案し提案してみたところで加点一。
 北村祐作、姫路瑞希、筑摩小四郎の三人に気取られることなく輪に溶け込んで見せたところで加点三。
 姫路瑞希を誘い出し、殺害を滞りなく済ませたところで加点六。この時点であなたの点数は十点です」

 ふむふむ、と頷きながら朝倉は小型乗用車の運転席に乗り込む。
 師匠は相変わらずの図々しさで助手席へと乗り込んだ。

「知恵を絞って見せたのは評価に値しますが、やり方が回りくどく、時間をかけた割には収穫が少ない。よって減点二。
 筑摩小四郎の力に気づかず、私から忠告を受けたことで減点一。実際に私が止めなければ死んでいたでしょうから減点五。
 殺害が露見した後、北村祐作の殺害にさらに時間をかけようとしたところで減点一。この時点であなたの点数は一点です」

 ハンドルを握ろうとしたところで終了した採点に、朝倉は異を唱えた。

「それ、減点が厳しすぎないかしら?」
「実際に死に掛けたのですから、本来は減点どころの話ではありません。そもそも」
「あー……わかったわ。なんだか長いお説教をくらいそうだから、一点で我慢する」

 朝倉は渋々といった様子で、師匠の評価を受け入れた。
 温泉での“試験”は――朝倉にとっては“実験”とも言える過程は、終了したのである。

 朝倉と師匠が温泉を目指し車を走らせていた頃のことだ。
 目的地を目前にしたところで、北村祐作という少年に呼び止められた。
 師匠の目的は皆殺しであり、朝倉の目的は涼宮ハルヒの保護だ。
 自分たちや涼宮ハルヒを害する可能性のある人間は、すべからく殺害の対象となる。
 なので師匠は、出会いがしらに北村を殺そうとした。しかし、朝倉がそれを制したのだ。

 理由はこうだ――『ちょっと試してみたいの』。

180ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:43:26 ID:nhiedHwc0
(単細胞と捉えていましたが、向上心はあるようですね。まるで生まれたての赤子……心は、の話ですが)

 朝倉涼子は外見に釣り合わぬ異常な運動神経と怪力、そして椅子を槍へと作り変えた、あの異能を持っている。
 ただし戦闘経験に乏しく、仲間ではなく“武器”として使いどころを見極める必要があるとも思っていた。
 それが彼女は自分から、他の人間を殺すための作戦を考案し、実行に移して見せたのだ。
 それも刀で斬りかかる、という直接的な方法ではない。殺害対象の仲間を偽り、潜り込むというものだった。

『これでも、涼宮ハルヒのクラスメイトを演じてきたわけだから。設定された身体年齢に近しい有機生命体とのお話は得意よ』

 というのは、当時の朝倉の言だ。どうやら彼女には潜入工作の心得があるらしい。
 こちらには武器が揃っており、殺害対象である北村に警戒は見られなかった。
 朝倉の言うような策を持ち出さずとも、殺害は容易であったのだ。
 ならばそんな回りくどいやり方を取る必要はない、と師匠はこれを却下しようとして、しかしやめた。

 興味を抱いたと同時、こちらも試してみようと思ったからである。
 この朝倉涼子が、自分の契約主に相当する存在となり得るかどうかを。

(失敗してしまうようならそこまで。利用する価値なしと見なし切り捨てる予定でしたが、まあ及第点でしょう)

 結果、朝倉は見事北村の仲間として潜り込んで見せた。
 師匠はその間、適当な理由をつけて別行動を取っていたのだが、実は温泉内に潜み朝倉の首尾を観察していた。
 直後に姫路瑞希、筑摩小四郎の二人が加わったが、それすらも欺いて見せた。演技は得意なのかもしれない。
 素人と見るには明らかに異質だった筑摩小四郎を、ただの人間としか捉えなかったのが大いにマイナスではあるが。

「なんにせよ、次はありませんよ。あなたの手腕はもとより、この方法は時間をロスしすぎです」
「わかったわ。でもね師匠。私に下された採点をさらにプラスする要因は、まだ残っているのよ?」

 出発に踏み切る直前になって、朝倉は得意気にそれを取り出して見せた。
 入浴の間、客間にまとめて置かれていた荷物。その中から抜き取った北村の支給物だろう。
 朝倉の手には『お宝写真!』と書かれた茶封筒があり、師匠は黙ってそれを受け取った。
 中身を確認すると、出てきたのは三枚の写真である。

181ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:44:29 ID:nhiedHwc0
「姫路さんの服からこっそり抜き取っておいたの。それ、お宝らしいから“SOS料”としてどうかしら?」

 入っていた三枚の写真をしげしげ眺め、師匠は唖然とした。

 一枚目に写っていたのは――メイド姿のアキちゃん。
 二枚目に写っていたのは――メイド姿のアキちゃん(パンチラ☆エディション)。
 三枚目に写っていたのは――ブラを持って立ち尽くすアキちゃん(着替え中メイド服着崩れバージョン)。

 ため息を零し、これを朝倉に返却した。

「採点を改めましょう。減点一。あなたへの評価は――零点です」
「ええ、どうして!?」

 人当たりのいい優等生として知られる朝倉涼子が、初めて零点を取った瞬間だった。



【E-3/温泉付近/一日目・早朝】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康、ポニーテール
[装備]:FN P90(30/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x19)@現実、両儀式のナイフ@空の境界
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、フィアット・500@現実
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:朝倉涼子を利用する。
 2:天守閣の方へと向かう。


【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、ポニーテール
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、
     フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
 1:師匠を利用する。
 2:天守閣の方へと向かう。
 3:SOS料に見合った何かを探す。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。

182ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:45:41 ID:nhiedHwc0
【アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣】
明久に送られた脅迫文に同封されていた、アキちゃん(女装した吉井明久の意)の隠し撮り写真。
通常のメイド服バージョン、パンチラ☆エディション、着替え中メイド服着崩れバージョンの三種類が茶封筒に収められている。
世間に晒されてしまえば吉井明久の底辺に近い評価をさらに落とすこと確実な代物だが、
一部女子には好評で、とりあえずスキャナーを購入し全世界にWEBで発信する者も現れかねない威力を持っている。


【人別帖@甲賀忍法帖】
伊賀と甲賀の「不戦の約定」が解かれたことを記した巻物。
記された忍者二十人の名には血のすじが引かれており、末尾に忍法合戦決着の模様も書き加えられている。
原作ラストにおいて、甲賀弦之介が書き加えた状態のもの。


【マリアンヌの器@灼眼のシャナ】
坂井悠二を攫った直後、シャナとの決戦においてフリアグネの“燐子”であるマリアンヌが器としていたマネキン人形。
花嫁を模したのかウエディングドレスを纏っており、またマネキンの造りは他のものと比べても精巧。
これが単なるマネキン人形であったのか、マリアンヌの意思総体が混在していたのかは、定かではない。


 ◇ ◇ ◇

183ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:46:35 ID:nhiedHwc0
 空が白み始め、夜の帳は朝の日差しに天壌の席を譲る。
 眩しさはまだ訪れず、直視するには問題もない。
 なので、しばらくはこうしていても大丈夫、と。

 ――少女は、思う。

 温泉裏手の街路に置き捨てられたむき出しの肢体に、力はなく。
 ぼうっとした意識だけが残り、閉じかけの瞳で天を仰いでいた。

 ――衣服を纏わず、地べたを背中に、仰向けとなって外気を味わうのは、姫路瑞希だった。

 朝倉涼子に殺されるかと思ったところでこのような仕打ちを受けた彼女は、思う。
 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。ただそれだけを、後悔とともに念じる。


 ◇ ◇ ◇


「……驚いたなぁ」

 朝倉涼子による、浴場での突然の暴行。
 まさかの溺れ死にを味わうかと思った姫路瑞希は、我武者羅に腕を振り回し、どうにか朝倉の魔手から逃れ、浴槽から脱したのだ。

「火事場の馬鹿力ってやつかしら。あなたにそんな力が残っていたなんて、予想外」
「けほっ、かぁ……はっ」

 咳をするように飲んでしまった湯を吐き捨てる瑞希。
 傍らには、同じく浴槽から出てきた朝倉の裸体がある。
 暴行から一時的に逃れることはかなっても、逃げ続けることはかなわない。
 朝倉は依然微笑を浮かべたまま、タイル敷きの床に膝をつく、瑞希の体に触れた。

「ねぇ姫路さん。あなた、さっきこう言ったわよね。助けて、って」
「……っ」

 息苦しさが癒えるよりも先に、朝倉が語りかけてくる。
 表面上は可愛らしい女の子なのに、その中身は得体が知れない不気味さが秘められている。
 どう受け答えをしたとしても、助かりはしない。助けを願ってはいても、本能は既に諦めかけていた。

184ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:47:18 ID:nhiedHwc0
「“恋する女の子”のパワーってやつなのかな……うん。あなたに少し、興味が湧いたの。
 どうかしら、私のお願いを聞いてくれるって言うんなら、この場は助けてあげるのだけれど」

 嘘だ、と腹の底から叫びたい衝動に駆られた。
 先ほどまでの朝倉の行動は、明確な殺意あってのものだ。
 今さら悪ふざけでしたなど、どうして信じられようものか。

「あなただけじゃないわ。あなたの大切な吉井明久くんも。これは交渉。姫路さんには、私の手伝いをしてほしいのよ」

 怯える瑞希は未だなんの言葉も返せないまま、朝倉の底冷えするようなまっすぐすぎる目を見てしまった。
 身が竦む。この少女は平然とした顔つきで、狂気にまみれた言動を繰り返しているのだ。

「ここであなたを殺すのは簡単。でも、あなたみたいに脆弱な有機生命体一人蹴落としたって、実りは少ないわ。
 どうせなら、師匠にも知られないところでもう一つくらいコミュニティを築いておきたいのよ。
 よく聞いてね。私は涼宮ハルヒという存在を生き残らせるために行動している。具体的に言うと、
 涼宮ハルヒを害するかもしれない存在の排除、平たく言えば、涼宮ハルヒ以外の全員を殺害することが私の目的ね」

 先の朝倉の質問を思い返す。吉井明久一人のために、姫路瑞希は殺人者になれるか、否か。
 瑞希は、なれないと答えた。しかしこの朝倉は、涼宮ハルヒのために殺人者になったというのだ。
 内包されているのがどのような想いなのかは知れないが、それが瑞希のような恋心でないことだけは見て取れた。

「でも、それは私たちだけじゃとても手が追いつかないの。北村くんの推論が当たっているとしたら、
 最悪七十二時間が経過しても大勢の人間が残ってしまうと思うし。そしたら涼宮ハルヒ共々全滅よ。
 それだけは回避したい。だから、ね。姫路さんにも涼宮ハルヒ以外の有機生命体を殺して回ってほしいの」

 饒舌に語る朝倉の顔から、目が逸らせない。
 瑞希は戦々恐々としたまま、聞き漏らすまいと努めた。

「あ、でもこの行動は契約に反すると思うし、師匠はこれ以上の同行者を良しとしないだろうから……うん。
 姫路さんは姫路さんで、私たちとは違うところで頑張って。涼宮ハルヒ以外なら、誰を殺してくれても構わないから」

 姫路瑞希は運動があまり得意ではなく、性格も温厚で、争いごとは苦手だ。
 自分でもそう思っている。だからこそ、朝倉が見当違いな願いを言っているように思えてならない。

185ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:48:25 ID:nhiedHwc0
「引き受けてくれるなら、私はあなたを殺さないし、吉井明久くんに会っても殺さないでいてあげる。
 計算どおりにいけば、最後は私と師匠、涼宮ハルヒ、姫路さんと吉井明久くんの五人になるでしょうから、
 そうなったら改めて殺し合うといいわ。私としては、師匠の存在が最終的な懸念にもなると思うし、
 あなたという不確定要素がいてくれればやりやすいことこの上ない。つまり、約束は残り五人になるまで継続ね」

 もし、朝倉涼子と吉井明久が対面してしまったならば――考えたくもない。
 今の自分の身以上に、彼の安否を気遣えばこそ、朝倉の提案は魅力的であるはずだった。

「贅沢を言うとね、あなたというちっぽけな存在がどこまでやれるか、観察したいところではあるの。
 この熱意は涼宮ハルヒに向けていたものとは違うし、情報統合思念体の意思というわけでもない。
 有機生命体――人間に近しい存在となってきている“私”のための、まあ努力と言ったところなのかしら」

 朝倉は瑞希に殺人者としての才覚でも見たというのだろうか。
 彼女が自分に対して、なにをそんなに期待しているのかわからない。
 朝倉の腕を振りほどいたこととて、無我夢中だっただけなのだ。
 それを暴力として、他人の命を刈り取るために使えるかといえば、

「私の言葉が信じられない? じゃあ、これならどう?」

 答えは語るまでもない。
 そのはずなのに――朝倉涼子は、姫路瑞希の左手中指に手をかける。

 爪と皮膚の間に、朝倉の指の爪が食い込んだ。
 なにをされるのか、わからなかった。
 爪と皮膚の密着部が、べりり、とわずかに離れた。
 少しばかりの痛みを感じて、身が縮こまった。
 爪が皮膚から、べりりりっ、と音を立てて剥がされた。
 激痛に、瑞希の絶叫が木霊した。

「姫路さんが断れば、私は今からあなたを殺して、その後にすぐ、吉井明久を殺しにいくわ」

 そう言ってから、朝倉は爪を剥がした指の隣の指、瑞希の左手薬指に手をかける。
 逃れたくても逃れられない。朝倉に手首をきゅっとつままれ、足だけがじたばたした。

「これが、私の本気。自分以外の存在のために……私とあなた、それぞれ頑張りましょう?」

 薬指の爪が、乱暴に毟り取られる。
 二本の指の爪が、そうしてなくなってしまった。


 ◇ ◇ ◇

186ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:49:11 ID:nhiedHwc0
 ちらり、と自分の左手に目をやる。
 中指と薬指の爪がない。
 綺麗に剥離された指は、まだ血が残っている。
 真っ赤になったそれは感覚も薄く、ずきずきと痛んでいた。

 あの後、朝倉は師匠に気づかれぬようこっそりと瑞希を運び出し、裸のまま裏手に放置した。
 本人としては種でも撒いた気分なのだろう。どこか純真にも見えたあの瞳は、本当に瑞希を殺人を期待している。

 瑞希といえば、それどころではなかった。
 爪を剥がされた痛みよりもまず、殺されそうになったというショックが、彼女を打ちのめしていた。

 空が明るくなり始めても、起き上がる気にはなれない。
 街路のど真ん中で、恥ずかしげもなく裸体を晒している。
 羞恥よりも恐怖が勝っていた。
 動けばなにかが崩壊するような気がした。

 命は助かったが、瑞希が求めた助けは訪れなかった。
 振り分け試験の最中、高熱を出した自分を気遣ってくれた声は、
 清涼祭のとき、チンピラに暴行されそうになった自分を助けに来てくれた彼は、
 手作りのお弁当を美味しそうに食べてくれた男の子は、いつだって隣にいてくれた瑞希の好きな男の子は、

「明久君……明久、くん。うっ……あ、あぁ……」

 助けに来てはくれなかった。
 ここは、そういう場なのだ。

 でも、
 だからといって、
 いやだからこそ、

 朝倉の言うとおりに、殺人を肯定することなどできない。
 体以上に心をずたずたにされ、それでも瑞希の意思は強くあった。

 と、そこへ。

「……君、大丈夫?」

 まったくの事情を知らない優しげな声が、瑞希の上より降りかかった。


 ◇ ◇ ◇

187ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:49:50 ID:nhiedHwc0
 それを見た瞬間、黒桐幹也の心臓は肋骨を突き破り外に出た。もちろん比喩である。
 心臓が跳ね上がる、どころではないざわめきが、彼の思考を支配し身を束縛した。

 あれはなんだろうか。人間だ。一糸纏わぬ裸の人間が、道の途中に転がっている。
 空は既に明るくなり始めていた。だからこそ気づけた。ピクリとも動かぬ女の体に。

 これはいったいどんな状況だろう。考えるよりも先に過ぎった予感は、忌避したいほどの可能性。
 どこの世界に、往来で裸を晒しながら寝る女性がいようものか。まさか、と前置きしなくとも。

 死体じゃないか。

 朝焼けもそろそろという時刻、黒桐幹也は進路上に横たわる女性を発見して、動けなくなった。
 思い起こされるのは、数時間ほど前の一件だ。黒桐は今と同じように、女の子の死体を発見した。
 守れなかった、己が死なせてしまったにも等しい、吉田一美との別れ。
 その次なる邂逅は、先の一件とまったく酷似した、できることならこのまま逃げ出したいほど悲惨なものだった。

(それでも、もう逃げることはできない)

 罪悪感とは使命感と同じもの。それは人によっては正義感とも呼ばれ、安易に掲げる者は偽善者として罵られる。
 それも甘んじて受けようじゃないか、と黒桐は一歩を踏み出した。
 転がっているそれが、本当に死体なのか否かを確かめるために。

「明久君……明久、くん。うっ……あ、あぁ……」

 声が、聞こえてきた。
 足下から発せられる、弱々しい嘆きの声だった。
 黒桐はほっと胸をなでおろす。安堵も早々に、彼女を救おうと身を屈めた。

「……君、大丈夫?」

 上着を脱ぎ、裸体を隠すようにして少女に覆い被せる。
 少女は横目でこちらを見た。目と目が合い、彼女がひどく消耗していると気づいた。
 女性の裸体ゆえ、しげしげ眺めることは躊躇われたが、一見しただけでは外傷は特になかったと思う。

 なにか、目立たぬ部分で酷い目に合わされたのか。
 すぐに吉田一美の――そして白純里緒の顔が頭に思い浮かび、しかし首を振る。
 今はなによりも、彼女を保護することが先決だ。
 黒桐は少女を安心させようと、懸命に声をかける。

「なにがあったかは聞かない。僕は君になにもしない。だから落ち着いて」
「あ……う、あぁ……」
「体は動くかい? 無理に喋る必要ない。でも立てるなら、どこか落ち着ける場所に移動したほうが――」

 慟哭が激しくなり、少女はゆったりした動作で黒桐の胸元に飛び込んできた。

「あっ……あぁ、ああぁぁぁ…………っ、あぁ〜…………っ」

 嗚咽とも、涙とも取れない、純粋な悲しみ。
 黒桐はこの偶然の出会いを、どう受け取るべきかと悩んだ。
 今はただ、少女が泣き止むまで待とう。
 そう心に決め、胸を貸すのだった。

188ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:50:40 ID:nhiedHwc0
 ――いったいここでなにがあったのか、と目の前の温泉施設を睨みつけながら。



【E-3/温泉付近/一日目・早朝】

【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離
[装備]:黒桐の上着
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくない。
0:明久君……。
1:朝倉涼子に恐怖。


【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:健康 、罪悪感、強い悲しみ、使命感
[装備]:なし
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2、ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品(確認済み)1〜3個
[思考・状況]
基本:式、鮮花を探す。
1:少女(姫路瑞希)を落ち着かせる。
2:吉田さんの知り合いを見つけ、謝罪しレコーダーを渡す。
3:浅上藤乃は……現状では保留。
4:先輩ともう一度話をする。
[備考]
※吉田一美の殺害犯として白純里緒を疑っています。
※白純里緒が積極的に殺し合いに乗っていることに気がついています。


※温泉施設の客間に『お幻の鷹@甲賀忍法帖』の死骸と、『マリアンヌの器@灼眼のシャナ』が頭部を損壊した状態で放置されています。


【筑摩小四郎@甲賀忍法帖 死亡】
【北村祐作@とらドラ! 死亡】

189 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/08(月) 00:52:00 ID:nhiedHwc0
投下終了しました。
たびたび申し訳ありません、お手隙の方いましたら代理投下をお願いします。

190 ◆76I1qTEuZw:2009/06/08(月) 22:01:49 ID:dtwXswOk0
先日投下した「神威(無為化)」の修正版を投下します。
なお、修正を加えたのは前半のハルヒパートで、後半のいーちゃんパートはそのままです。
そのため、ハルヒパートだけをこちらに投下しておきます。

191神威(無為化)(修正版) ◆76I1qTEuZw:2009/06/08(月) 22:04:02 ID:dtwXswOk0

……ちょっとちょっと! 待ちなさいよ!

誰? じゃないわよ! あんたよあんた! そこのななしの権兵衛!

あーもう、どこまでもしらばっくれる気? このいの字!
いのすけ! いーいー! いっきー! いっくん! いー兄!
『あ』の次に来る字! 『あ』の下『き』の横! 『あ』の1つ後! 『あ』の後に1つ!
戯言遣い! ぎげんづかい! 虚戈言遣! 虚+戈言遣い! 詐欺師!
いいなおすけいいとこなしねいいたくなんかなしいいじんせいだったいいいくぁwせdrftgyふじこlp;……

 (以下、言葉にならない言葉が数分に渡って続く。十数行略)


……あ、やっと止まった。ったく、お城から出ちゃうとこだったじゃない。
何よ。変な顔して。
妙な呼び方するな、ですって?
あんたが名乗らないのが悪いんでしょ。こっちは名前聞いてんのに、変なあだ名ばっか喋って。
まあもう面倒くさいから『いー』でいいわ。あんた「ちゃん」付けで呼ばれるような可愛い奴でもないでしょ。
それで、いー。
このままあんたの提案採用してここから逃げちゃおうかと思ったけど……気が変わったわ。

あんたも、『聞こえてた』でしょ?

そう。さっきの。
……聞こえてない?
あー、確かに、あんたが来た方向からだと、よく聞きとれなかったかもしれないわね。反響とかで。
そう。スピーカーか何か使って叫んでた、アレ。
なんか長ったらしくて鬱陶しい演説だったけど、確かこんな意味のことだったはず。

まずは『俺は強いぞー!』だったかしら?
で、『僕の女に手を出すなー、手を出したら殺すぞー』。
さらに『だから誰かさっさとなんとかしろー』って。
ああ、『優勝したい奴はかかってこい、ホールで待ってるぞ!』、……みたいな挑発もしてたわね。
他力本願なのがちょっと気に喰わないけどね、まあ嘘はついてないんじゃない?

……別に忘れてたわけじゃないわよ。仕方ないじゃない。
どうしよっかな、って思ってたとこにあんたが来て、それどころじゃなくなっちゃったし。
あと、あんたにも聞こえてたもんだと思ってたから。
そのあんたが何も言わないんだもの。あたしだって「ま、いっか」って思うわよ。ちょっとだけだけどね。


それで? じゃないわよ!
いー、あんたは気にならないの?

だって、挑戦状よ、挑戦状! 
かかってこいって言われてるのよ!? 正々堂々決闘よ!
こんな面白いこと、見逃せると思う?
SOS団の辞書に、挑戦から逃げるという言葉はないの!
……自分はSOS団じゃない、って、全くいちいち細かいこと気にする奴ね。いいのよ、そんなこと。

まあそりゃ、あたしは『優勝』とやらを目指してるわけじゃないから、挑戦を受ける義理なんてないんだけどさ。
でも、見てみたいじゃない。
どんな奴がこんなこと言い出すのか、っての。
なんだかやけに自信満々だったし、勝算はあるようだったし、ひょっとしたら凄い奴なのかもしれないわ。
凄腕の殺し屋とか、超能力者とか、宇宙人とか、魔法使いとか。
……何よ。また変な顔して。

192神威(無為化)(修正版) ◆76I1qTEuZw:2009/06/08(月) 22:04:37 ID:dtwXswOk0

まさかとは思うけど、「そんなのいるわけない」、とかつまんないこと言うつもり?
でもあんたも気付いてるでしょ。始まった時の変なワープとか、この妙なデイパックとか。
何があってもおかしくない状況で、何か不思議なことやらかしてもおかしくないあの宣言よ。
これで普通の人が普通のまま殺しあってたら、それこそ興醒めってものよ!
それに、ひょっとしたらあの男は普通のつまんない人間なのかもしれないけど、
アレを聞いて集まってくる奴らの中には、普通じゃないのが混じってるかもしれないじゃない。
こんな機会、逃す手はないわ!

ん? 世界の端を見に行く? ああ、そんなことも言ってたわね。
でも後回し! どうせあんたも、時間的に厳しいから1マスくらい妥協してもいい、って言ってたでしょ。
なら1マスも2マスも一緒よ。妥協なさい。これは命令。

……近づくのは危険だからやめた方がいい?
そうね、危険かもしれないわね。だけどね、あえて聞くわ。

危険。それが何? それがどうかした?

そもそも『安全な場所』なんてどこにもないでしょう!?
逃げてもダメ! 隠れてもダメ! 上手く逃げ隠れできても、時間切れになったら終わり!
なら、どうすればいいと思う?

……ちょっとは考えなさいよ!
いいこと、いー。
こういう時に必要なのは、ズバリ! 『情報』よ!
誰が危険で誰が信用できるのか! 誰にどんなことができて、どんなことしようとしてるのか!
それを集めることが大事なのよ。
多少のリスクを犯してでも、こういうコトを知るチャンスを逃すべきじゃないわ!

今回、相手は『ホール』で待ち構えてる、ってのが分かってるわ。
挑戦を受けようって奴も、まっすぐそこを目指すに決まってる。
場所も進路も大体分かってるんだから、こっそり隠れて見張ることはできるはずよ!

あたしたちの目的は、偵察!
こっそり近づいて隠れておいて、誰が『挑戦』に応じようとしているのかだけでも遠目に確認!
もしこっちが見つかっちゃったら、即撤退!
戦闘が始まっちゃっても、即撤退よ!
見逃すかもしれないのは、ちょっと勿体無いけどね。背に腹は換えられないわ。

……「さっきは逃げないって言ってた」、ですって? あんた男のくせに細かいこと気にすんのね。
いいのよ、戦略的撤退って奴よ。状況に応じて柔軟な対応していかなきゃ、この3日間戦っていけないわ。
もっと長期的視野で考えなさい。
あと、心配しなくても、逃げる時の足もちゃんとあるわ。
うんしょっ……っと。

どう? これよ!
サイドカーつきのバイク!
『トレイズのサイドカー』ですって。そういえば名簿にも同じ名前があったわね。同一人物かしら?
まあ、あたしの鞄から出てきたんだから、今はあたしのものよね。遠慮なく使わせて貰うわ。
……何か文句ある?

え? もっと早く出しとけ、ですって? なんでわざわざ走ってたのか、って?
う、うるさいわね。
……そう、大きな音がするから「あえて」温存してたのよ!
さっきまでは、誰にも見つからないように移動するつもりだったでしょ? だから使う機会なんてなかったの!
でも、「いざ何かあって」逃げる時には、そんなこと言ってられないわ。全速力で移動しなきゃ。
だから今出すのは正解なのよ。

193神威(無為化)(修正版) ◆76I1qTEuZw:2009/06/08(月) 22:05:07 ID:dtwXswOk0

免許? もちろんないわ。でもきっと簡単よ、こんなの。
特にコレ、サイドカーつきってことは補助輪ついてるようなモンでしょ。
なら、そう簡単には倒れないわよね。適当に動かしてりゃ運転の仕方も覚えるでしょ。

……あら、そうなんだ。
ちょっと意外ね。見た感じ、ヤンキーってわけでもないのに。
なら、あんたをSOS団専属の運転手に任命するわ!
いざという時は、あんたがコレ運転するのよ。あたしはサイドカーの方に乗るわ。
そうと決まったら、さっさと引き返しましょう。

ほら、いー! 急ぎなさいってば! 置いていくわよ、もう!
重い? 押すの手伝え?
あんたが運転手なんだから、あんたが面倒見るのが道理ってもんでしょ! さあ行くわよ!



【D-4/ホール近く/一日目・黎明】

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:クロスボウ@現実、クロスボウの矢x20本
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考・状況]
 基本:この世界よりの生還。
 1:ホールで叫んでた奴、またはそれに惹かれてやってきた奴を遠くから観察する。危なくなったら逃げる。
 2:一段落してから、世界の端を確認しに行く。
 3:SOS団のみんなを探す。

[備考]
 支給品「トレイズのサイドカー」は、いーちゃんに渡しました。

194 ◆76I1qTEuZw:2009/06/08(月) 22:05:49 ID:dtwXswOk0
以上です。
これ以下のいーちゃんパートは、先日投下したままとしたいと思います。

195 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:36:35 ID:rP4K0DPU0
長らく規制中のため、こちらに投下します。

196二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:37:48 ID:rP4K0DPU0
「ねぇ、『上条くん』」
「なんですか、『千鳥さん』」


「「…………」」


「いい天気よねー。雲一つない快晴。気温は暑すぎもせず、寒すぎもせず」
「そうだな。星が綺麗に見えるっつー意味では快晴だな。まだ夜だけど」


「「…………」」


「ああそうそう。私の荷物の中にこんなものが入ってたんだけどさ。じゃ〜ん、暴徒鎮圧用のスタンガン」
「へぇ〜。最高出力二十万ボルトだってよ。これなら覗き魔も一発でお陀仏だと、そう言いたいわけですか」


「「…………」」


「って、そうじゃなくてね。仮に危ないヤツと出くわしたとしてもよ。自分の身くらいは守れるってこと」
「そうかいそうかい。んじゃ、ここは勇敢な千鳥かなめさんに任せるとしますかね。俺はここで待ってるからよ」


『ちょ、ちょちょっ、木下くんってば! ちゃんと後ろ支えててよ? 絶対離しちゃダメだかんね!?』
『無理じゃ! 自転車じゃあるまいし、支え切れるわけがなかろう!?』


「……あー、でもなんか取り込み中みたいだからさ。ここはスルーしときましょうか。うん」
「……おいおい。あっちのバイクに乗ってる子、おまえと同じ制服着てるぞ? 同級生とかじゃないのか?」


『ノゥ! 揺れる、崩れる、あがががががが……がらごらがっしゃーん!』
『く、櫛枝ー!? 口で言うほど派手には転んでおらんからしっかりするのじゃ!』


「違う違う。この制服はあくまでも借り物だって……あ、こけた」
「こけたな。って、ここいらはバイクの教習所かなんかですか!?」
「知らないわよ。んなもん、本人たちに直接訊いてみりゃいいでしょうが。上条くん、ゴー」
「嫌だね! 俺の勘が告げている、絶対ろくなことにはならね――」


「…………おまえたち、さっきからコソコソなにやってるの?」


「「はぅあっ!?」」


 ◇ ◇ ◇

197二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:38:35 ID:rP4K0DPU0
 町外れの海岸線沿いには、背の低い草むらが広がっている。
 土の地面とアスファルトの境界線付近から南の方角を眺めれば、あとはもう海まで一直線だ。
 闇夜のため、足下はひどく暗い。草に覆われた大地を全力疾走でもしようものなら、距離感も掴めず海に飛び込む結果を迎えるだろう。

 交通事故とは恐ろしいものである。
 いついかなる理由でタイヤがスリップし、進路を逸れるかわかったものではない。
 熟練した運転手でも走り慣れない道では注意するというのに、ノウハウを知らない素人が挑むのはもはや自殺行為と言えよう。

「教訓――触らぬ神に祟りなし」
「一朝一夕でに身につくものでもなかったのう」
「いや、まったく」

 遠く広がる海を前方に、冷たい感触を伝える塀を背に、櫛枝実乃梨と木下秀吉が水を飲んでいる。
 実乃梨は体のあちこちに絆創膏を貼っていて、しかし笑顔を絶やさず、横目で見る秀吉は失笑気味だ。
 彼女たちの傍らには、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が停められていた。

「だから言ったでしょ。扱えないものを無理に扱おうとしたって、痛い目を見るだけだって」

 休憩中の二人に、炎の長髪ではなく黒の長髪を持つ少女、シャナが言った。
 厳格な言に実乃梨と秀吉は殊勝な態度を示し、はーい……と揃ってうな垂れる。

「事実、“鍛錬”はこやつらに目撃されていたのだ。命永らえているのは、単に運が良かっただけのことと覚えよ」

 シャナが首から下げるペンダント型の神器“コキュートス”から、遠雷のような声が響き渡る。
 これはシャナの身の内にその存在を宿す“紅世の王”、“天壌の劫火”アラストールによるものだった。

「あっはははー……うす、反省しております。で、でもさぁ! やっぱ無視できない問題だと思うんだよね」
「たしかにのう。本人の意思を無碍にするわけにもいかぬし、かといってシャナの弁がもっともであることに変わりはない」
「モトラドはね、走っているときが一番幸せなんだ。あんな地に車輪もついてないようなところに閉じ込められるのはゴメンだよ」
「しかし経験者がいなかったのも事実。だからこそ鍛錬の機会を与えてやったのだ」
「そして、それは失敗に終わった」

 まるで仲のいい女の子グループが、下校中に道草を食っているような光景でもあった。
 その実、討論の種となっているのは、日常では考えられない“喋る二輪車”である。
 実乃梨、秀吉、シャナとアラストールの三人は、“武器”としてここに在るエルメスの処遇について、意見を交し合っていた。

「あー……つまりだ。そのバイク……っと、モトラドだったっけか。モトラドのエルメスは、誰か運転手が欲しいと。
 でも、おまえら三人の中にバイクの運転をできる奴がいないんで、櫛枝が今の今まで運転の練習をしてたってわけだ」
「ただまぁ、目立つ上に危険な行為だし、あたしたちみたいな部外者に発見される可能性も大だから、彼女が止めたと。
 実際、あたしたちに害意があったら格好の的だったわけだし、端から見てもなにしてんだか、ってのは思ったけどさぁ」

 三人の輪からわずかに離れたところで、一組の男女が体育座りをしている。
 ツンツン頭の少年と腰まで届く黒髪の少女は、上条当麻と千鳥かなめという名を持つ。
 二人、西に向かって歩を進めていたところで鍛錬の現場を発見し、そこをシャナに捕獲されたのだった。

198二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:39:12 ID:rP4K0DPU0
「とにかく、鍛錬の結果は出た。エルメスには大人しく――鞄に戻ってもらう」

 運転の心得を持たない実乃梨が、なぜエルメスを走らせようとしていたのか。
 それはエルメス本人の『走りたい』という要求と、『鞄の中は嫌だ』というわがままによるところが大きい。

 これから各地を巡り歩くにあたって、押すという運搬方法を続けていては、エルメスは大きな荷物となってしまう。
 ただでさえどこから襲撃が迫るかもわからない現状、手荷物は少なくしておくべきなのである。
 だが、物とはいえ本人に意思がある以上、鞄の中に収納しておくのを嫌がられては、他の案も考えざるを得ない。
 そうして実乃梨が閃いた。ここにいる誰かがエルメスを運転できるようになればいいじゃん、と。

 勤労女子高生に演劇馬鹿、そして世俗に疎いフレイムヘイズと、もともと自動二輪車の運転技術を持っている者はいなかった。
 指導官がいない以上、技能は一から身につける必要があり、まずは実乃梨がチャレンジしてみたのだが、あえなく玉砕。
 その途中に、シャナが懸念していた第三者――上条とかなめによる現場の目撃があり、挑戦は中断となったのだ。

「先生! 恥を忍んでお願いがありやす!」
「なに」
「ワンモアチャンス!」
「ダメ」
「現実は非情だーっ!」

 今は非常時、たかが自動二輪車の運転技術を身につけるために時間を割いているわけにはいかない。
 シャナは実乃梨の懇願に対して冷厳に答え、よよよ……と一人の少女の泣き崩れる絵が出来上がった。

(なんか、北村といい櫛枝といい……危機感持ってる奴って意外と少ないんじゃないかと思えてきた)
(奇遇ね。あたしも今そう思ってたとこ……あれ、北村くんといえばさ)

 初対面の人間が見せるオーバーリアクションに戸惑いを覚えつつも、かなめが会話に割って入る。

「あのさ、櫛枝さんだっけ? ちょっと訊きたいんだけど……その制服は拾い物とかじゃないわよね?」
「およ? そういうあなた様はあっしと同じ学校の制服を着ていらっしゃる……もしかしてスクールメイト!?」
「や、これはあたしの私物じゃないんだけど……それはそうと、北村くんって知ってる? 眼鏡かけた男子なんだけど」
「北村くん……? 北村くんといえば……おお! 我がクラスのボスでねーか! なぜにその名を!?」
「つい数時間前に会ってるのよ、その北村くんと。こっちの覗き魔も含めて」
「おい、おまえやっぱり根に持ってんだろ?」

 シャナに捕獲されたものの害意はないと判断され、この場に腰を落ち着かせていた二人からは、まだ詳しい素性を聞いていなかった。
 実乃梨の友人、北村祐作の名がかなめの口から出てきたことを発端に、会話の軸はそちらへと移る。


 ◇ ◇ ◇

199二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:40:33 ID:rP4K0DPU0
「北村祐作……名簿に記されていない十人の内の一人が、櫛枝実乃梨のクラスメイトってわけか」
「ワシも含めて、これで二人埋まったの。やはり、各々の知人が名を連ねている可能性が高そうじゃ」
「うっそ。ってことは、キョーコなんかもいるかもしれないってわけ……? あぁもう、サイテー」
「数名の名を伏せているのは、そういった不安を煽るためのものでもあるのだろうな」
「おいおい勘弁してくれよ……こちとら、ただでさえ頭がパンクしそうだってのによ」
「とりあえず、北村くんは温泉にいるんだよね。うん。となると……ごめんよ、エルメス!」
「えぇっ、いきなりなにさ?」

 各々の交友関係、警戒対象や懸念事項、そして温泉施設で北村が待っていること等を軽く話し終えたところで、実乃梨が唐突に頭を下げた。
 下げられた側のモトラド、エルメスは訳がわからないといった様子でこれを訝る。

「残念だけど、私じゃエルメスの運転手にはなってやれないんだ……ごめんよ……本当にごめんよ……」
「そりゃあ何回も転ばれるのはイヤだけどさ。さっきまであんなに頑張ってたのに、どうして急に?」
「いやー、そりゃま、目的地が定まったともなれば、遊んでもいられないしねぇ」
「つまり、さっきまでのは遊びだった……ということかの?」
「あらら、ひどい話」

 友人である北村の居場所がわかるや否や、手の平を返したように運転技術の習得を断念する実乃梨。
 振り回された気分を味わっているだろうエルメスに、悪びれもせず言葉を続ける。

「おっと、しょぼくれるのはまだ早いぜ。なんたって、これから合流する北村くんは……バイクの運転ができるのだ!」
「おおー」
「ただし、これ校則違反だからオフレコでお願い!」
「他言無用、ってやつだね」

 実乃梨の話によれば、北村は自動二輪車の運転免許を持っているらしい。
 無事に合流と相成れば、めでたくエルメスの乗り手も見つかるという寸法だ。
 モトラド本来の主人である旅人は未だ影も噂もないため、この場は代行の運転手に席を譲るしかない。
 エルメスとしても早く走りたいというのが本音であり、ならばとっとと温泉に向かおう、と自ら鞄に収まることを承諾した。

「それじゃあ、ワシらはこれから温泉に向かうということでいいかの?」

 エルメスを鞄に収納しようと悪戦苦闘しながら、秀吉が確認を取る。

「知人との合流は早急に済ませておいたほうがよかろう。この世界の調査を合理的に進める上でも、な」
「……そうね。おまえたちはどうする? 私たちはもう行くけど」
「北村に頼まれた仕事があるしなぁ。それを済ませてからそっちと合流するよ」
「仕事?」

 モトラドを支給された本人である秀吉がこれを収納し終えたところで、シャナが問う。
 上条は鞄から地図を取り出し、指で図の外側をなぞりながら説明した。

200二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:41:17 ID:rP4K0DPU0
「ああ、ここの端っこ……地図でいうところのこの部分な。ここが気になるんだとよ。だから……」
「それならとっくに調査済みよ」
「……なんですと?」

 他愛もない疑問に、シャナが即座の回答を下す。

「今はまだ夜だから遠目じゃわからないと思うけど、会場の端は『黒い壁』よ。
 闇に覆われているとかじゃない。あれがなんなのかは、まだよくわからないけれど……。
 少なくとも、おまえたち二人が足を運んだってなにか新しいことがわかるとは思えない」

 指で海の向こうを示しながら、シャナは淡白に言ってのけた。
 上条も目でそれを追うが、広がっているのは夜空ばかりだ。
 たしかに黒くはある。が、これが壁と言われようとも、肉眼では納得しがたい。

「……いや、逆に興味が湧いた。やっぱ俺たち行くわ。情報ありがとな、シャナ」

 既に確かめたというシャナの言を噛み砕き、それでも上条は会場の端に向かうと告げた。
 シャナもそれを無理に止めようとはせず、了承する。

「ってなわけで、行きましょうか『千鳥さん』。いいかげん機嫌直せよな」
「あら、あたしとしては女の子同士団体行動でも良かったんだけどねぇ、『上条くん』」
「ほほう。な〜んか含みのある言い方だな。つーかねちっこいぞ」
「どっちがよ。まぁ、一人じゃさびしーでしょうから、仕方ないけどついてってあげるわよ」
「この……っ、んじゃそういうわけで! 北村に会ったらよろしく伝えといてくれ!」

 別れも手早く、上条とかなめは西への進行を再開した。
 去り行く背中を見送りながら、シャナは実乃梨と秀吉に向き返る。

「さ、私たちも行きましょう。そろそろ夜も明けるだろうし」
「うむ。鍛錬で時間を浪費した分、遅れを取り戻さなくてはな」
「いえっさ! 待っててくれよクラス委員長! いま櫛枝が駆けつけるぜ!」
(気のせいじゃろうか……今、千鳥にまで女子扱いされたような気がしたのじゃが……)

 どこか釈然としない気持ちの秀吉を最後尾に、シャナたちもまた、温泉への道を進み出した。


 ◇ ◇ ◇

201二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:42:11 ID:rP4K0DPU0
「で、その物騒なもんはなんだ?」
「櫛枝さんに貰ったのよ。護身用に。彼女、刃物はいらないって言うんでね」

 西への進路。
 千鳥かなめは、櫛枝実乃梨から譲り受けた小型の鎌を弄くりながら歩いていた。

「スタンガンに鎌に……そこまで防備を固めてどうする気ですか」
「いつどこで暴漢に襲われるかわかったもんじゃないからね〜」
「……やっぱ根に持ってやがる」

 入浴の場面を覗かれたことを未だ怒っているのか、それともただからかっているのか、かなめの表情には含みがある。
 隣を歩く上条は辛辣なため息を零しつつ、シャナから頂戴した情報を反芻していた。

(世界の端……黒い壁、ね)

 夜が明ければ、その黒い壁というものに関しても現実味を帯びてくるのだろうか。
 シャナの言によれば、壁より向こうは一切の闇に包まれ、どれだけ目を凝らしたとて不可視の境界線が敷かれているらしい。
 手で触れまではしなかったものの、試しに石を投げてみたら、そのまま闇に吸い込まれたとのことだ。
 実は踏み越えられるのではないか、とも思ったそうだが、それを確かめるにはリスクが高すぎる。
 人類最悪なる男の放った“消滅”という言葉を信じるならば、人体で触れるのは避けたほうが無難だろう。

 そこまで聞き及んで、上条当麻は逆に興味を抱いたのだ。
 黒い壁。無限の闇。そんな原理不明の異常なる現象。
 それが“異能”の一端だと仮定するならば。

(俺の右手……『幻想殺し(イマジンブレイカー) 』で触れれば、壁はどうなる?)

 上条当麻の右手は、幻想殺しと呼ばれる異能封じの右手だ。
 如何な魔術、如何な超能力であったとしても、この右手に触れればたちまち打ち消されてしまう。
 この右手自体はどういった代物なのか、というのは上条が生来抱えている謎であり、今になっても解明はされていない。
 インデックス曰く魔術ではなく、風斬氷華曰く超能力でもありえないという、謎の力。
 ただ、異能ならば打ち消せるという情報だけを持ち――上条は、試してみる価値はあると踏んだ。

(壁だかなんだか知らねぇが、変な力で俺たちを閉じ込められると思ってんなら……まずはその幻想をぶち壊す!)

 決意は変わらない。
 指針も変わらない。
 軸はぶれず、我が道を信じ、上条当麻は世界の端を目指す。

「……なに? 急に黙りこくっちゃって。まさかあんた、思い出したりしてたんじゃ……っ」
「思い出す……って、なにをだ、なにを! 妙な勘繰りすんな!」

 相方に覗き魔の汚名を引き摺られつつ。

202二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:42:56 ID:rP4K0DPU0
【E-1/一日目・早朝】

【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】:健康
【装備】:無し
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品1〜2)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:西部の端を確かめに向かう。壁があるなら『幻想殺し』で触れてみる?
2:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。
3:第二回〜第四回放送までに北村と落ち合う。

【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
【状態】:健康
【装備】:とらドラの制服@とらドラ!、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、小四郎の鎌@甲賀忍法帖
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品×1)、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
【思考・状況】
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
1:西部の端に行きどうなっているか確認する。
2:知り合いを探したい。
3:第二回〜第四回放送までに北村と落ち合う。
【備考】
※2巻〜3巻から参戦。


【二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣】
坂本雄二お手製の暴徒鎮圧用スタンガン(20万ボルト)。
服の上からでも通電するタイプ。違法改造の気配がしてならない。


【小四郎の鎌@甲賀忍法帖】
伊賀鍔隠れ衆が一人、筑摩小四郎愛用の鎌。
刃は折り畳んで収納できるようになっており、投擲にも向いている。


 ◇ ◇ ◇

203二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:43:48 ID:rP4K0DPU0
「それで、その北村という男子はどんな人物なのじゃ?」
「う〜ん、一言で言うとだね……まるお、って感じ?」
「……まるおって、なに?」

 東への進路。
 櫛枝実乃梨は、これから合流する北村祐作の人柄について話しながら歩いていた。

「先生、ドラえもんだけでなくちびまるこちゃんも知らないの? サザエさんは?」
「この子は世俗に疎いものでな。そういったものに関しての知識は乏しいのだ」
「要はテレビアニメーションでしょ。たしかに詳しいわけじゃないけど……」

 鍛錬のために幼少期を費やしてきたシャナにとって、人間の世はまだまだ広大だ。
 トーチであった平井ゆかりの存在に割り込み、一介の高校生として振舞うようになってからも、充分ならしさを得るには至らなかった。

 知るべきことはまだまだいっぱいある。
 実乃梨や秀吉のような――坂井悠二や吉田一美と同じ年代の人間には、親近感を抱いてしまうのも事実である。
 非常時の最中、テレビアニメについて話しながら目的地への道を歩むなど、フレイムヘイズとしての使命を思えば考えられない。

(でも)

 これは必要なことなのだ。
 現在陥っている非常は、シャナの知る“紅世”の常識では語れない。
 ゆえに様々な方面から情報を吸収する必要があり、人類最悪が零していた『ドラえもん』の話とて、無関係であるとは限らない。
 櫛枝実乃梨、木下秀吉、エルメス、上条当麻、千鳥かなめらの持ち寄った情報は皆、等しく考察の材料として頭の中に収めていく。

「とにかく、北村くんは頼りになること間違いなしだよっ! 今頃は余裕かましてお風呂にでも浸かっているかもしれない!」
「いや、それはさすがに緊張感がなさすぎじゃろう。まあ、櫛枝の友達という時点でありえん話でもないような気はしてきたが……」

 見聞は広めるべき。情報は好き嫌いせず吸収するべき。未知は、知るべき。
 これから向かう先、街中の温泉施設ではどのような出会いが待つのか。
 シャナはわずかながらの期待を胸に、櫛枝実乃梨の――友達に会える喜びに共感していた。

(……みんなとも、その内きっと)

 未だ見ぬ、友人たちの動向を按じながら。

204二輪車の乗り手 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:44:42 ID:rP4K0DPU0
【E-2/一日目・早朝】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:櫛枝実乃梨の用心棒になりつつこの世界を調査する。
1:温泉に向かい、北村祐作と合流する。
2:みんなが少し心配。
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。

【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:全身各所に絆創膏
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。
1:温泉に向かい、北村祐作と合流する。
[備考]
※少なくとも4巻付近〜それ以降から登場。

【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)、エルメス@キノの旅
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。
1:温泉に向かい、北村祐作と合流する。
2:エルメスの乗り手を探す。第一候補は北村祐作。

205 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/16(火) 00:46:22 ID:rP4K0DPU0
投下終了しました。
毎度のことですいません、お手すきの方いましたら代理投下お願いします。

206 ◆ug.D6sVz5w:2009/06/17(水) 23:47:17 ID:opXsUeQE0
さるさんでたー

207 ◆ug.D6sVz5w:2009/06/17(水) 23:47:52 ID:opXsUeQE0

「俺の名は薬師寺天膳よ。小僧貴様の名は」
「あ……浅羽、な……お……之」
「ふむ、浅羽とな……なんじゃこれは?」
 それほど興味がなかったこともあり、伊賀者、甲賀者以外の名は天膳は覚えていなかった。
 だが、でいぱっくとやらはあの少女に奪われた。そこで念のために適当に思いついた偽名を使ってはいないか確認しておこうと少年の荷の中身を見た天膳ではあったが、その中の荷はほとんどが水浸しであったのだ。 
 それを見て呆れたように天膳は呟いた。
 それはあくまでも独り言であったのだが、律儀にも下の少年はそれにさえ答えを返してきた。

「それは……女の子に……けほっ、襲われて川に流されたから……中に水が入って……」 
「おなごにか……と、そうじゃ、ついでに聞いておこう。おぬしここまでに他の者に出逢うたか?」
 いかに凡庸そうな小僧とはいえ、あの朧にはそのような真似はできまい、そう判断した天膳は念のためにこの小僧が朧らしき者を見ていないか確認を取る。

「…………し、知らない……最初に出会ったのがその子だったから……」
「なるほどのう」
 きちんと答えが返ってきたことに天膳は満足する。何せこの小僧に聞くべきことはいくらでもある。
 まずは――と、ここで天膳はある違和感に気がついた。
 
 天膳に転がされた時も、踏みつけられたときも、逃げ出そうともがいている今このときでさえも固く握り締められた少年の右手。
 あまりに不自然なその挙動に天膳の興味はそちらへと移る。

「小僧……何を隠しておる?」



 ◇ ◇ ◇

208 ◆ug.D6sVz5w:2009/06/17(水) 23:48:39 ID:opXsUeQE0
「小僧……何を隠しておる?」
 そういわれた瞬間、心臓が止まるかと思った。
 薬師寺天膳と名乗ったこの男に対して、今のところ浅羽がついた嘘はただ一つ。
 須藤晶穂に出会った事を隠しただけだ。

 どうしてそんな嘘をついたのか自分でもわからない。
 それでもこんな奴に彼女のことは教えちゃいけないと思ったのだ。

 ――だけど、怖い。嘘なんかつかなきゃ良かったのかな。

 さまざまな思いに混乱する浅羽に、天膳はさらに重ねて問い掛ける。

「聞こえなんだか? その手に何を隠しておると聞いたのだ」
「……手に?」
 そう言われてようやく、浅羽は自分がカプセルをずっと握り締めていたことに気がついた。
 そして、続けてこれを奪われたらどうしようという恐怖が浮かぶ。

 この男やさっきの女の子みたいに素手で戦うなんて、とても自分にはできない。これがないと伊里野を守れない。伊里野のために殺せない。
 嫌だ! いやだ!

「し……知らない!」
 自分でも驚くぐらいの大声で、浅羽は男の問いかけを拒絶した。
 その浅羽の返答に対して、男は
「ならば仕方あるまいな」

 ごき

 ……最初、その音が自分の体から聞こえてきたなんてわからなかった。

「……え」
 だから最初に口から出てきたのはそんな暢気な言葉だった。
 だが、一拍遅れて襲い来た焼け付くような痛みに意識が沸騰する。

「うわわわああああぁぁぁああああぁああ!!!」
「うるさいのう……どれどれ」
 浅羽の叫びを無視して、天膳は折られたせいで力の緩んだ浅羽の手から奪った物を確認する。

「い、いた……ひぃ、痛いぃぃ」
「なんじゃこれは……む?」
 浅羽の手から奪った道具、カプセルを弄くっていた天膳であったが、つい、うっかりとそのうち一つを落としてしまった。色々と弄くられていた事もあって、落ちた衝撃でカプセルの中から薬がこぼれる。

「薬か? ふむ、ほか二つもそうなのか?」
 そう言いながら念のために天膳は残り二つのうち、もう一つのカプセルをこじ開けてみた。
 地に落ちたものと同様、さらさらと薬が天膳の手にこぼれ落ちる。

「秘薬の類か……どれ、薬効はいかがな物……」
 そう呟きながら己の手の粉末をぺろりと天膳はなめた。

209 ◆ug.D6sVz5w:2009/06/17(水) 23:49:10 ID:opXsUeQE0
「こ、これはまたなんとも凶悪な……がはぁ!?」
 青酸カリは無味ではない。むしろ逆、その高いアルカリ性は口内に激痛さえ走らせる。
 その痛みにむしろ強力な薬効を期待して、粉末を飲み下した天膳は数秒後に血を吐き出した。
 致死量0.2〜3グラムの強力な毒性にはいかな忍びとて耐え切れない。

 ――かくて天膳は倒れ伏し、そのままぴくりとも動かなくなった。

「……え?」
 手の痛みすら一瞬忘れ、目の前の光景を呆然と浅羽は見た。
 あまりにあっさりと去った苦難に、頭の処理能力が追いつかない。
 彼からカプセルを奪った男は何を思ったのか、青酸カリを舐めてそのまま死んでしまったのだ。

 そう、死んだ。
 目の前の男は死んでいる。
 半分以上あの男の自殺みたいな物だったとはいえ、残りの半分は彼があの男を殺したような物だった。
 伊里野を生き残らせるための第一歩を今、浅羽は踏み出したのだ。

 ――伊里野のために殺すと決めた。

 あの女の子だって殺してもいいと思った。

 だというのに。

「……うぇっ」
 きもちがわるい。
 目の前の死体には恨みしかない。だけどその死体にさえ、部長や晶穂の倒れ伏すイメージが重なって、見ていることさえ辛くなる。

 ……自分は何をしようとしていたんだろう?

 ……わからない、いやだ、かんがえたくない、これはゆめだ、きっともうすぐ目がさめてそこには伊里野が伊里野イリヤイリヤいりやいりやいりや……

 痛みや恐怖、それら以外にもさまざまな感情がごちゃ混ぜになって何も考えられなくなる。
 いや、なにも考えたくなかった。
 それでもほんのわずか残っていた理性が命じるままに、何とか最後の頼みの綱、残りたった一つのカプセルを拾い上げると、無我夢中で彼は駆け出した。

 今の彼にわかっていることは一つだけ。


 ――――もう、あの夏には戻れない。

210 ◆ug.D6sVz5w:2009/06/17(水) 23:49:46 ID:opXsUeQE0
【B-4/病院前/一日目・早朝】


【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:自信喪失。茫然自失。全身に打撲・裂傷・歯形。全身生乾き。右手単純骨折。 微熱と頭痛。
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
0:伊里野を生き残らせる。
1:……!(何も考えたくない)
2:本当に部長や晶穂を殺せるのか?
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※浅羽が駆け出した方向は後の書き手にお任せします。

【B-4/病院内ロビー/一日目・早朝】

【薬師寺天膳@甲賀忍法帖】
[状態]:死亡、蘇生中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:朧を護り、脱出。道中このセカイに触れる。
0:……
1:あの小僧め……よくも俺をたばかりおったな。
2:朧を探しつつ、情報収集。
[備考]
※室賀豹馬に『殺害』される前後よりの参戦。
※蘇生には最低でも残り数十分は必要。
※名前のない十人の中に甲賀十人衆、もしくはそれに準じる使い手がいると思っています。
※自動ドアの存在について学習しました。


※病院のロビーに天膳の死体(蘇生中)がころがっています。
※ロビー内に残っているシアン化カリウムはいずれ空気と反応して、有毒の青酸ガス(無色、刺激臭)を発生させます。

211 ◆ug.D6sVz5w:2009/06/17(水) 23:50:27 ID:opXsUeQE0
投下完了です
後はお願いします

212 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/18(木) 04:26:40 ID:EXx4tKZc0
相も変わらず規制中ゆえ、こちらに投下して候。

213化語(バケガタリ) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/18(木) 04:27:45 ID:EXx4tKZc0
 暗澹たる空には闇の帳がかかり、直下で蠢く者を密とする。
 のっぺりした容貌の男が一人、沈痛な面持ちで死者のむくろを運んでいた。
 名を如月左衛門。甲賀卍谷衆が一人にして、変顔の忍者である。

 左衛門が慎重に運ぶは、彼の忠臣にして甲賀卍谷衆が頭目、甲賀弦之介の遺体であった。
 四肢をもがれ、首を失い、それはそれは見るも無残な亡骸であったが、左衛門に泣き言はない。
 左衛門の後ろでは、髭面の男がいやらしい笑みを浮かべながら歩き付いていた。
 彼奴の名はがうるん――仏を辱めることに一切の躊躇もなき卑劣漢である。

 甲賀と伊賀あいまみえる忍法殺戮合戦の折、左衛門が巻き込まれたのは別の争乱であった。
 うぬら、座椅子を奪い合わん――服部家無縁の輩に生殺与奪の権利を剥奪され、左衛門は酷く憤慨した。
 だが、好都合でもある。ここには朧ら伊賀者も多く集っているがゆえ、争乱に紛れれば絶好の好機也!
 否、好機云々にほくそ笑む己が愚鈍であったのだと、弦之介のむくろに詫びを入れつつこれを葬った。

 舞台の端、飲み込まれれば一巻の終わりであろう黒き壁を前にし、左衛門は弦之介をこれに投げ入れたのだ。
 絶対に露見してはならぬむくろ、埋没する一寸先は闇……だからこそ好都合。
 長年のあいだ仕えてきた君主に、追悼の意を告げ、また別れも告げる。

 ああ、それにしても……。

 忌々しい……実に忌々しい……後ろのがうるんなる男がこれ忌々しい……。

 如月左衛門が忠臣、甲賀弦之介の首を抱えるは――甲賀者ではなくこのどことも知れぬ馬の骨なのだ!

 忌々しい……なんと忌々しい……呪詛の念で人が殺せたならば、なんと良きことか。

 忍法怨念縛り――死なれよがうるん。うぬの辿ろう黄泉路は闇なれど。――


 ◇ ◇ ◇


 甲賀弦之介の《境界葬》が終了した後、ガウルンと如月左衛門の原野での会話である。

「おなごに化ける……ともなれば、いささか面倒であろうよ」

 と、如月左衛門が言った。
 おなごに化ける。つまりは、女性に変装する。性別を偽るともなれば、それはたしかに容易ならないだろう。
 さすがのジャパニーズ・ニンジャも女には化けれないってか、とガウルンは嘲笑気味に言い返した。

「面相が問題なのではない。厄介なのは髪よな。少々の長さならば伸ばすこと容易じゃが……おぬしの言う千鳥なるおなご。
 これはいかほどか……ほう。腰ほどとな。ますますもって面倒な……完璧に化けるとなれば、皮を剥ぎ被る必要とてあろうな」

 と、如月左衛門が言った。
 ガウルンが左衛門に化けて欲しいターゲットは現状二人。カシムとウィスパードの女――相良宗介と、千鳥かなめである。
 女性である千鳥かなめの外見的特長を言葉で説明すると、左衛門はやはり難しいとこれを返した。
 長髪のおなごは厄介極まりない。毛皮を被るとまではいかずとも、かつらをこしらえる必要があろうよ、と。

「逆に、男ともなれば容易なものよ。その相良なる男、体格のほどはどうか。ほう、おれとさして変わらんとな。
 ならば結構。我が同胞に鵜殿丈助なる太っちょの男がいたが、あれほどになるとおれでも難しくなってくるのでな」

214化語(バケガタリ) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/18(木) 04:28:29 ID:EXx4tKZc0
 と、如月左衛門が言った。
 左衛門の忍法はあくまでも顔だけを変えるものである。となれば、体格のほうはどうにもならないのだろう。
 標的と比較すれば左衛門の体格に無理はないが、意外と融通が利かないんだな、とガウルンはこれをなじる。

「ああ、丈助は太っちょのなかの太っちょだったゆえ。それはそれは、並大抵の太っちょではなくての。
 少々の背丈くらいならほれ、間接を外し骨を伸ばすことでどうとでもなる。心配せずとも上手くやってみせよう」

 と、如月左衛門は自信ありげに言った。
 仕事柄、間接外しの技など見るに珍しいものでもない。しかしそれで体格を変えるともなれば、目を見張る。
 髪は最悪短くしたとしても問題はないだろうし、胸には詰め物をすればいい。女に化けることとて、不可能ではないのだ。

「だが、気にかかるのは声……そしてしゃべりかたよの。男であろうが女であろうが、一度覚えた声を真似ることなんぞ容易い。
 まあ、女の声色は男と比べつかれるが、些細なことよ。声を真似きれたとて、話し方で見破られることこそ心配と言えよう」

 と、如月左衛門はガウルンの声で言った。
 違和感もない、完璧な自分の声が返ってくる。いや、違和感ならあった。その時代錯誤な口調だ。
 ジャパニーズ・ニンジャの掟かなにかだろうか。用いる言語こそ日本語だが、この左衛門の喋りは妙に芝居がかっている。

「がうるんよ。おぬし、なにゆえそのような珍妙な言葉遣いを用いる? いったいどこの者じゃ?
 ……聞かぬ名よの。しかし不思議と、おぬしの言葉を理解できておるのは……まこと奇怪な」

 と、如月左衛門は訝りながら言った。
 すべての言葉をそっくりそのまま返したい、とガウルンは顰め面を見せながら思った。
 カシムに化けるにしても千鳥かなめに化けるにしても、たしかにこの喋り方ではすぐにバレてしまうだろう。
 どうにかして矯正させる必要があるか、とガウルンは面倒くさそうにぼやいた。

「ところでがうるん。おぬしにはおれの化けの皮が剥がれる瞬間を見られたが……どうじゃ?
 今度は実際に、おれの顔が変わる瞬間を拝みたくはないか? 変ずる顔は、そう――うぬの顔じゃ」

 と、如月左衛門が言った。
 不意の提案に、ガウルンはなるほどと唸る。妙案かもしれない。
 カシムにとっても千鳥かなめにとっても、ガウルンは顔を合わせたくはない存在として認識されているだろう。
 そんな顔が、いざ対面となった折に二つ聳えていれば……相手方の驚く様を想像しただけで、楽しくなってくる。

 しかしガウルンは、その手には乗らねぇよ、と如月左衛門の案を一蹴した。
 左衛門がどのようにして顔を変えるのかは知っている。変わるべき顔をまず泥につけ、型を取るのだ。
 この提案をのむということはつまり、ガウルンが自らの意思で泥土に顔を埋める必要がある。
 それは左衛門にとって好機以外のなにものでもないだろう。なにしろこの男、ガウルンに対し純然たる殺意を秘めているのだから。
 泥土に顔を埋めた瞬間、そのまま頭を押さえつけ窒息死させようという左衛門の魂胆がみえみえだった。

「……まあよいわ。機会はその、相良や千鳥の顔を手に入れてからで遅くはあるまい。
 是が非にでも、おぬしに見事なものと言わせてみせようぞ。おお、そのときが楽しみじゃ。――」

 と、如月左衛門は本心を語るでもなく言った。
 白々しい。ガウルンは我慢し切れず、声に出して左衛門の白々しさを嘲笑った。
 いつ噛み付いてくるとも限らない下僕。しかし首輪を繋ぐのは頑強な鉄のリードだ。
 主君たる甲賀弦之介の首を抱えるガウルンに、左衛門はどこまで逆らえるものか……それがおもしろくもある。

215化語(バケガタリ) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/18(木) 04:29:45 ID:EXx4tKZc0
「してがうるん。どこへ向かう? ……しがいち、とはまた、奇異なことを申す。
 ふん。不知ではあるがそれも仕方なかろうよ。ここは、卍谷とは空気が違いすぎるでな」

 と、如月左衛門は尋ねつつ言った。
 とりあえずは町に出よう。このような人気も薄い原野では、獲物も見つかりにくいというもの。
 市街地に向かうと言っただけで首を傾げる左衛門の馬鹿さ加減に、わずかながらの不安を覚えつつも。
 おいおい大丈夫かぁ、と零してガウルンは移動を開始する。


 ◇ ◇ ◇


 原野を越え、景色が移り変わると同時に驚愕が生まれた。
 立ち並ぶ民家の様は、如月左衛門にとってまさに都……を越える、魔都と称すに値すべきものであった。
 彼の知らない言葉で説明するならば、カルチャーギャップ。ここは、左衛門にとっては未来の街並みなのだ。

「なんと。不気味じゃ……まるで土塀の上を歩いておるような……なんと不気味なことか……。
 しかしこれはことぞ、がうるん。おれの忍法は粘度の良い泥がかなめゆえ、このような地面では。――」

 と、如月左衛門は地面の感触を確かめつつ言った。
 彼が土塀のようと言い表す足元の石畳は、現代においてはアスファルトという名を持つ。
 雨天時の泥寧化や乾燥時の砂塵、車両の走行等に耐え得るための一般的な舗装であり、日本では珍しいものでもない。
 この男、ジャパニーズ・ニンジャと思いきや辺境の原住民かなにかなのか……、とガウルンは頭を抱えた。

 たしかにこのような硬い地面では、左衛門の言うとおり変顔の忍法も役立たずとなるだろう。
 だからといって騒ぎ立てるほどのことでもない。泥土が必要になったらば、そのつど町から出ればいいだけのこと。
 ゆえに市街地の中心までは足を伸ばさず、山のふもと辺りでの活動を徹底する、とガウルンは説いた。

「ほほう……いや、それならば文句もない。多少は窮屈でもあるがの、そこは我慢しようかい。
 物見遊山としゃれこむわけではないが、いやはやこれほどの奇観、めったに拝めはしないだろうよ」

 と、如月左衛門は周囲を物珍しそうに眺めながら言った。
 なんという田舎者だろうか。世界各地を渡り歩いてきたガウルンとて、これほど妙な男は見たことがない。
 いや、この反応はもはや異常ですらある。まるで、生まれてきた時代を間違えたかのような……。

 ……と考えたところで、所詮は些事。
 いずれは殺す、その程度の男なのだから、彼の生まれに疑問を抱いたところで甲斐もない。
 大切なのは殺すまでの間、この男をどう御するか。左衛門の忍法は、ガウルンの趣向にとてもよく合う。
 彼の顔を利用し、カシムや千鳥かなめを欺き、そして生まれる反応が、ガウルンは見たくて見たくて仕様がないのだ。
 その一瞬のためならば、多少は面倒であっても狂犬を飼い馴らすこと躊躇わない。
 それほどのサディストなのである、このガウルンという男は。

 まず手にかけるは、カシムか千鳥かなめか、それとも御坂美琴や例のガキと面識を持つ者か。
 想像するだけで下卑た笑いが滲み、気分が高揚してくる。

216化語(バケガタリ) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/18(木) 04:30:45 ID:EXx4tKZc0
「殺すのはかまわんが、顔を潰しはせんでくれよ。深い傷などあればまこと厄介なものでな。
 いや、元来のものであるならかまわん。しかし化けるのが目的とあらば、気をつけるべきぞ」

 と、如月左衛門は忠告として言った。
 変顔の術理は聞いた。万が一額に穴でもあけてしまえば、それすらもかたどってしまうのが左衛門の忍法。
 多少の傷ならば泥土で型を作る際に修正できるだろうが、大きなものとなると厄介なのは容易に想像がつく。
 カシムなどは元々生傷の耐えない男であり、顔にも傷があったが、逆にそれすらもかたどれることを称賛するべきだろう。

「すぐに殺すのもまずい。声はもとより、しゃべりかたの癖なども覚えておかねばならぬからな。
 顔を変える。――これのみならば容易なものじゃが。縁者を欺くともなれば、さらに心得る必要があろうな」

 と、如月左衛門はしつこくも忠告として言った。
 この時代錯誤の男に、カシムや千鳥かなめの喋り方を一からレクチャーするというのも骨が折れる。
 理想としては、標的を捕らえ、左衛門の目の前でいくらか喋らせてから息の根を止める。といったところだろうか。

「別に死人でなくともよいぞ。寝込みをさらい、泥土に顔を埋め型を取るでも良し。そこは任せる。
 ふっ、目覚めたところで瓜二つの顔があるともなれば、何者も奇声を上げずにはいられなんだろうよ」

 と、如月左衛門は付け加えて言った。
 名も知らぬ輩ならともかく、カシムや千鳥かなめをすぐに殺してしまうというのも惜しい。
 どうせならばたっぷりと怨嗟の声を上げさせ、その身を堪能しつくした上で殺したいものである。

「してがうるん。このままあたりを練り歩き獲物を探すか? それともなにかあてがあるか?
 はしっこ……とな。ふうむ、弦之介様を葬ったあの壁か。たしかに気にかかるしろものではあるが」

 と、如月左衛門は西の方角を見やりつつ言った。
 ガウルンたちがいるこの場所は、地図で確認すれば南西の端――すぐ隣に黒い壁が聳える地区である。
 一見して人の立ち寄ることも少なそうな地域ではあるが、ガウルンはここで待ち伏せするのも良しと考えた。
 なにしろこの会場は絶海の孤島というわけではなく、黒い壁とやらも遠目では夜空にしか映らないのだ。

 ならば誰かしらがこう考えるはずである――西へ抜ければ、この場から脱出できるのではないか。

 火事場から逃げ延びようとする野うさぎをしとめる。簡単なダック・ハント。
 夜が開け、日が昇れば黒い壁も存在感を表し始めるだろうから、狩るなら夜間のほうが都合がいい。
 待ちの戦法は正直退屈ではあるものの、それも朝までと考えれば苦ではない。
 それまでは――

「いや、まことあっぱれな男よな。少々、おぬしにも興味が湧いてきた。どうじゃろうがうるん。
 弦之介様の首を返さんか? なに、即座に斬りかかろうことなんぞあるまいて。おれはおぬしを買うておる」

 ――傍らの復讐心に滾る男を、せいぜい手懐けておくとしよう。

217化語(バケガタリ) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/18(木) 04:31:55 ID:EXx4tKZc0
【E-1/草原/一日目・早朝】


【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲 ガウルンに対して警戒、怒り、殺意
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:当面はガウルンに従いつつも反撃の機会をうかがう。
2:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
3:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました

【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(中)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:夜が明けるまでは待ち伏せしに徹し、会場の端から逃げようとする者を襲撃する。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。
3:それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
4:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
5:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心には向かわないにようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。


※弦之介の首なし死体は黒い壁の向こう側に葬られました。

218 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/18(木) 04:32:46 ID:EXx4tKZc0
投下終了しました。
毎度すいません、お手すきの方いらしたら代理投下お願いします。

219 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:34:37 ID:ULz5Qenw0
規制中につき、こちらに投下させていただきます。

220超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:37:04 ID:ULz5Qenw0
 私の名前はシャミセン。猫だ。
 世にも珍しい、オスの三毛猫をやっている。
 ティーが、私の今のご主人様だ。白い髪に緑色の瞳が印象的な少女で、歳は前のご主人様と大差ないだろうか。

 そのティーだが、私を抱えたまま小さな台の上に立ち、両目にレンズ付きの筒などをあてがっている。
 筒が伸びる先は窓ガラス、そしてその先に広がる光景は、夜景だった。
 ここは摩天楼の上階、展望室。ティーの保護者である彼女、白井黒子が周囲を見渡すために訪れた部屋だ。

 その白井黒子だが、ティーとは別の場所で望遠鏡を覗き、同じように街や、海の方角を眺めている。
 表情はどこか険しく、覗き込む望遠鏡をしきりに変えてはなにか唸っていた。

「――これは夜だから、それだけのことなのでしょうか……いいえ、あれはおそらく夜が明けたとしても――」

 見ていて忙しない。
 私は、人語を介する猫として助言の一つでもくれてやろうかと思ったが、この身はあいにくティーに捕縛されてしまっている。
 猫は犬と違って愛玩動物ではないのだが、幼い少女にそれを説いても無為というものだろう。

 白井黒子はひとしきり悩んだところで、ティーにここを発つと告げた。
 摩天楼を離れ、別の土地に移動するつもりらしい。
 私はどうすればいい、と尋ねると白井黒子は、

「あら、いつの間に出てこられましたの?」

 と言って私を再び、ティーの持つ黒い鞄にしまいこんだ。
 強引ではあるが、私の抱き方が乱暴でなかっただけ大目に見るとしよう。

 さて。
 この少女たちはこれからどこに向かい、誰と出会うのだろうか。
 それは、鞄の中で丸くなっている私には知る由もないことだった。


 ◇ ◇ ◇


 摩天楼の展望室で、この『世界』の景色を堪能した。
 闇に包まれた市街地は灯りに乏しく、まるで全域が停電に見舞われたのような有り様だった。
 海の向こうには灯台の灯りも窺えない、見渡す限り漆黒の水平線が伸びていた。
 北西の山々は闇夜の中でもその深さが窺え、学園都市出身の彼女の目には新鮮な光景として映った。

 リボンで二本に結った髪を、馬の尻尾のように翻しながら進む、小柄な姿。
 女物の学生服を着ており、右の袖には盾のようなマークを刺繍した腕章がある。
 デザイン性に乏しい黒一色のデイパックを肩に提げ、纏う空気はどこか重々しい。

 少女、白井黒子は高く聳える双頭の楼閣――摩天楼を背に、考え事をしていた。

 考え事の種は、謎……にはなりきれない、小さな違和感。
 街の造りを確かめるために上った展望室で、海のほうを眺めやったときに得たものである。
 白井黒子はそこで、『黒』を見た。

221超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:39:04 ID:ULz5Qenw0
(……夜空が黒いのはあたりまえ。月や星が出ていようとも、黒という色彩が変わることはありませんわ)

 あれはなんだったのだろうか、と考えたところで答えは出ない。
 答えは出ないと既に悟っているのに、考え続けている。
 そう簡単に忘却できる違和感ではなかったから。

 白井黒子が見た『黒』は、常識的に考えて『夜』の『黒』だったに違いない。
 海も街も、空も山も、『夜』が訪れればそれらは等しく『黒』に染まる。
 月や星、街灯といった光源があったとしても、排除しきれない強烈な『黒』だ。
 『夜』の『黒』は視界を不明瞭なものにし、映る光景に虚偽の情報を齎す。
 きっと、海の向こうに見えたあの『黒』も、そういった錯覚の類だったのだろう。

 そう、白井黒子は納得せざるを得ない。
 今は、まだ。

(跳んで確かめに行く、というわけにもいきませんし。どのみち、朝になれば解ける謎でもありますの)

 白井黒子が海の向こうに聳える『黒』を見て、抱いた違和感は三つある。

 一つは圧迫感。レンズ越しに覗いているだけで、向こう側からこちらに押し寄せてくるような畏怖を感じた。
 一つは奥行き。水平線などという珍しいものが見られたのはいいとして、どうにも近すぎるような気がした。
 一つは空模様。雲はなく星々もくっきりと浮かび上がる空は、しかし海の方角を見ると黒一色になっていた。

 空模様など、そこだけ雲がかかっていたのかもしれないし、望遠鏡で遠視しきれなかっただけなかもしれない。
 奥行きなど、そもそも夜の闇と漆黒の海面で元から曖昧な境界線だ。悩むだけ馬鹿馬鹿しい。
 圧迫感など、単なる気のせいだ。とバッサリ切って捨てられる程度のものである。

 が、それらの違和感をすべて肯定したとすれば、脳裏に一つの仮定が浮かぶ。
 その仮定すらも肯定してしまったとするならば、白井黒子は今度は違和感ではなく、本当に『謎』を抱える始末となるだろう。

(明かりの途切れる空、近くに感じてならない水平線、そして聳え立つような圧迫感……これでは、まるで)

 ――海の向こうに、『黒い壁』でも立っているようではないか。

(ありえませんわね。ありえたところで、なにをどうすると言うのでしょう。そりゃ、驚きはするでしょうけれど)

 天から地まで、配られた会場案内図の四辺を覆う役割を、『黒い壁』が担っているとしたら――という、仮定。
 我ながら突拍子もない考えだとは思うが、人類最悪の称する『主催者』なる者たちが、
 なんらかの手段を使って『参加者』たちを隔離幽閉している、またはそれを望んでいることは明白。

 だというのに、この会場図は一見して抜け穴が多い。
 西の山々を越えた先、南東の海を越えた先、そこがどうなっているのか、まるで明記されていない。
 閉じ込める、逃さない、この企画がそういった趣旨であるのならば、本来舞台となるのは絶海の孤島などが望ましいはずだ。
 山や海を越えればどこに辿り着くのか、灯台や飛行場といった施設もあるのだし、ひょっとしたら――と考える輩を排除するために。

222超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:40:36 ID:ULz5Qenw0
 いや、もしくはそういった考えの輩を排除するための手段こそが、『黒い壁』なのかもしれない。
 見渡す限り海一面、などというよりは、四方を壁で囲まれていたほうが絶望感もひとしおだろう。

 本当にそんなことが可能なのか、という疑問を棚に置いた馬鹿馬鹿しい仮説ではある。
 その馬鹿馬鹿しさも、夜が明け、景色に光が宿れば、薄れて危機感に変わるかもしれないが。
 どちらにせよ、朝になってもう一度空を眺めてみればわかることである。

(一つの謎にばかりこだわってはいられませんし、思考を切り替えるといたしましょうか)

 白井黒子が次に考えるのは、摩天楼の正面入り口で聞いた、例の放送についてだ。
 内容は挑発。放送の主はおそらく男性。位置は、声が反響していたために特定できない。
 そう遠くはない位置、市街地のどこかからだろうとは思うが、探そうにも手がかりがない。

 なので、考えないことにした。
 予定どおり展望室で周囲の状況を確認し、暗くてよくわからないと結論を下し、摩天楼を発った。
 そして辿り着いたのは、摩天楼からわずかに北、幹線道路が二つに分かれた、三角州上の道である。

 白井黒子は道路上、前後に首を振り、どちらの道を行こうか思案する。
 ルール説明を親身に聞いていた人間ならば、消滅するのが早い端っこのほうになどまず向かわないだろう。
 とくれば、人が集まるのは必然的に中心部。ここは左に折れ、天守閣のほうを目指すべきだろうか。

(人との接触の可能性が高い。つまり、それだけ危険度も高いということですけれど……あら?)

 それまで、考察のすべてを頭の中で済ませてきた白井黒子は、ふと気づく。
 自分の服のすそを、誰かが掴み引っ張っていた。
 気づけ、という意思表示のようにも見られるその仕草の主は、小柄な白井黒子よりもさらに小柄な少女、ティーによるものだった。

 特徴的なのは、白い髪と緑色の瞳。口は閉ざされており、彼女はなにを語ろうともしない。
 けれど人見知りというわけではなく、白井黒子についてくるこのティーは、言うなれば超無口。
 意思疎通を図るのに難儀しながらも、白井黒子はティーが見捨てられず、保護者などを引き受けていた。

「どうしましたの? ひょっとして、どこか行きたい場所でも――」

 言いかけて、白井黒子は舌打ちした。
 考察に耽っていたせいだ。その異臭に気づくのが、遅れた。
 ティーは白井黒子よりも早くそれに気づき、こうやって知らせたのだ。

 足下を見る。
 見たところで判然としない。
 暗がりのアスファルトはしかし、たしかに湿っている。
 この湿り気の正体が水ではなく、灯油であるということには臭いで気づけた。

(なんて古典的なっ、ブービートラップ――!)

 気づいたときには、もう遅い。
 白井黒子とティーが立つ道路に、火線が走る。
 種火はすぐに燃え盛り、一瞬で業火へと成長した。


 ◇ ◇ ◇

223超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:42:05 ID:ULz5Qenw0
 薄暗い夜道で、こうこうと炎が燃えている。
 燃えているのは、近くの雑居ビルから拝借した灯油だ。
 誰の所有物であったのかなどは知らない。
 重要なのは、それが燃焼を手助けする物質であるか否かだけだ。

 赤いポリタンクに入っている液体が、まさか墨汁などであるはずがない。
 臭いだけを確かめ、それを幅の広い道路上にぶちまけた。灯油タンクの個数は一個や二個ではない。
 周囲一帯は暗闇のため、近づく者もすぐには気づけないだろう。気づかれない内に、焼る――それが、彼女の算段。

 三角州近辺の幹線道路上で、ただ燃やすことだけに長けた魔術師見習い、黒桐鮮花は待ち伏せをしていた。

 凛とした顔立ちには喜怒哀楽の色もなく、黙して炎を見つめる。
 長く艶やかな黒髪が熱気によってぱさつくも、本人はそれを気にも留めない。

 件の放送――いや挑戦状を聞いた黒桐鮮花は、あえてそれには乗らず、放送を耳にしたこの場に留まることを選択した。
 彼女の目的は、最愛の兄である黒桐幹也を生かすこと。自信満々の大馬鹿者と正面切って喧嘩することではないのだ。
 挑戦に乗るよりも、その挑戦を利用してやろう――鮮花が考え至った末に掴んだ『作戦』が、この待ち伏せなのである。

 おそらくは拡声器によるものだろう放送の発信源は、ここより西。
 となれば、進路の都合上この道路を通らざるを得ない者も出てくるだろう。
 挑戦に挑もうとする者、あるいは挑戦から逃げ帰ってきた者を闇討ちするには、もってこいの狩場。
 三角州を望むオフィス街の一角こそが、黒桐鮮花の持ち場だと考えたのだ。

 そして、獲物はのこのことここにやってきた。
 彼女らが放送の主に会いに行こうとしていたのかどうかは定かではないが、そんなものは既に些事だ。
 問題なのは、罠にかかった獲物を狩るか狩らざるか――鮮花はすぐに、狩るべきだと判断した。

 だって、やって来た獲物は二人揃って『小さな女の子』だったのだ。
 幹也が見れば、すかさず保護に回るだろう最悪の足手まとい。
 可愛そうではあるが、幹也と出会う前に消えてもらわなければ。

 黒桐鮮花の行動理念は、すべて兄である黒桐幹也を中心にして形成される。
 兄の生存に必要な存在であるか否か、己の手の内に余る存在か否か、判断は一瞬かつ容易だった。

 焼る。焼き消す。焼いて殺す。

 バイオレンス極まりない思考は全部、幹也への愛情が肥大化した結果なのだと自己完結して、実際に焼った。
 路上に満ちる灯油の端に、己が発火の魔術で軽く火をつけ、生まれた炎で少女二人を包み込んだ。
 相手が逃げ切れるとは思えない。たとえ逃れたとしても、すぐに追って今度は至近距離から発火させるだけだった。
 結果として、少女たちは逃げなかった。逃げる間もなく、炎に焼かれ、燃えて、死に絶えたのだ。

「……本当はもっと、楽に済ませてあげたかったんだけど」

224超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:43:07 ID:ULz5Qenw0
 慈悲深いことを言う鮮花。これは本心からの言葉だった。
 鮮花の師である蒼崎橙子曰く、魔術とは常識で可能なことを非常識で可能にしているだけにすぎない。
 鮮花は灯油を燃やすために、発火の魔術を火蜥蜴の皮手袋で暴発させ発動させたが、これは魔術でなくてもできることだ。
 たとえばこの場合、鮮花がやったことは火をつけるというただ一点だけなのだから、百円ライターでも同じ芸当ができる。
 もちろん火力に違いはあるだろうが、鮮花がやったのはあくまでも着火であって、目の前の業火を作り出せたのは灯油の恩恵あってこそ。

 魔術師は、魔法使いとは違う。
 同様に、魔術は魔法とは違う。

 どこからともなく炎のドラゴンを呼び出すことも、
 手の平に火の弾を作り出しそれを敵に向かって放つことも、
 地割れを起こし地中からマグマによる火柱を上げるようなことも、
 手袋を嵌めた指先を擦って遠い距離にいる標的を燃やしたりすることも、
 魔術師であり、今はしがない魔術遣いでしかない鮮花には、到底無理な芸当なのだった。

 そんな鮮花が、魔術を使ってどうやって人を殺せるというのか。
 正直、得意の肉弾戦で捻じ伏せていったほうが早いような気もする。
 が、知恵を絞ればこうやって、発火の魔術も脅威へと昇華させられる。
 鮮花の武器は、百円ライターの皮を被った火炎放射器といったところか。

 とはいえ、やはり鮮花の力では相手を苦しめずに焼き殺すというのも難しい。
 そう捉え始めていた頃、

「……?」

 鮮花はようやく、その異変に気づいた。
 目の前の炎の中に、あって当然と言えるものがない。
 焼くことはできても、焼失は無理だろうと自覚する鮮花は、愕然とした。
 炎の中をくまなく探しても、焼け焦げているはずの二つの焼死体が、見つからない。

(まさか)

 と鮮花が口に出すよりも先に、

「――『発火能力者(パイロキネシスト)』の方ですの?」

 上品な声は背中から、突起物の感触とともに訪れた。
 おそるおそる、鮮花が顔だけで後ろを向く。
 槍のようなものを構えた少女が一人、立っていた。

「可燃性物質などに頼るところから見て、せいぜいが『異能力(レベル2)』あたりのようですわね。
 能力者の方ならば、わたくしが『風紀委員(ジャッジメント)』であるということもおわかりになられますでしょう?」

 子供っぽいリボンで髪を二つに結った少女は、右袖の腕章を見せつけながら意味のわからない単語を並べた。
 場慣れしているのか、刃物を突きつける表情に淀みがない。そして体は、煤の一つもついていなかった。
 なぜ――と思案する鮮花に、少女は告げる。

225超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:44:37 ID:ULz5Qenw0
「とりあえず、大人しくしていただけますかしら。わたくし、あなたとも少しお話がしたいので。もし断るというのであれば……」
「……その槍で、わたしの背中を刺しますか?」

 鮮花の緊迫した問いに、少女はあっけらかんと答える。

「いいえ。そんなことはいたしませんわ。ただ……」

 ちらり、と少女が横目をやるその先に、もう一人、白髪の少女が立っていた。
 その少女は肩に喇叭状の筒を掲げ、中腰でこちらを向いていた。
 あれがなんなのかは、鮮花とて本能で悟らざるを得ない。
 あれは重火器――RPG-7だ。

「わたくしの連れが、火力に訴えないとも限りませんの」

 後ろの少女は明るく、鮮花にとっては不快極まりない声で警告した。


 ◇ ◇ ◇


 火災現場から少し離れた場所に建つカフェで、白井黒子は放火魔少女の尋問を始めた。
 テラスの席に少女を座らせ、丸テーブルを挟んだ向かいの席に自分も座る。隣にはティーもいた。
 能力者が相手となっては拘束具などあっても意味を成さないので、少女自身にはなんの枷も嵌めていない。
 先ほどは牽制に使った槍も、今は閉まっている。あのようなもの、そもそも白井黒子には不要であるとも言えるのだが。

「それでは黒桐鮮花さん。あなたがなんの目的でわたくしたちを襲ったのかは、絶対に言えない……いえ、言わないと」

 白井黒子の質問に対し、放火魔少女――黒桐鮮花は仏頂面で首肯する。
 鮮花が語ったのは己の名前だけで、それ以外の質問については一切黙秘。
 襲撃の動機、最終的な目的、他者との面識など、どれだけ尋ねても無視を一貫する。
 誰が教えてやるもんか、と言わんばかりの豪気さには、敬服すらしてしまう。

「ま、大方ご自身の能力を過信して、趣旨どおりトップに君臨してやろうなどと思った……わけではありませんわね。
 あなたは見たところ冷静なようですし、やり口も巧妙。ゲーム感覚、などとは微塵も思っていないのでしょう。
 そういった方の目的が、保身などという安易なものであるとは考えられない。
 ……そういえば、黒桐さんという方はもう一人いらしゃいましたわね。こちらはミキヤ、と読むのかしら?」

 名簿を確認しながら、白井黒子は一人熱弁を垂れていく。
 そして黒桐幹也の名を告げた瞬間、黒桐鮮花の眉根が釣り上がるのを見逃さなかった。

(……ま、そんなことだろうと思いましたけれど)

 初めて名簿を見て、御坂美琴の名前を発見したとき。
 初対面のティーに対して質問を呈したとき。
 双方を思い返して、ため息をつく。

「わたくしの能力についてお話しておきましょうか」

226超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:46:29 ID:ULz5Qenw0
 白井黒子は唐突に話題を切り替え、手元にプラスチック製のフォークを用意した。
 カフェから適当に拝借した、使い捨て上等の品物である。
 人肌に突き刺したところで、武器にもなりはしない――白井黒子以外の人間にとっては。
 
「わたくし、『大能力(レベル4)』の『空間移動能力者(テレポーター)』ですの」

 言った瞬間、白井黒子が右手に持っていたフォークが消え、左手に移動していた。
 一瞬の出来事に、鮮花の反応は薄い。この手の能力を見るのは初めてなのだろうか。
 期待していた反応が得られなかったので、白井黒子はさらに能力を行使する。
 左手に持っていたフォークをパッと消し、今度は鮮花の目の前に置く。
 それをまた右手で掴むと、瞬時に左手の中に消して移した。

「おわかりいただけましたかしら。炎から逃れたトリックもこれですわ」

 ふっと消え、現れる。
 線での移動を、点での移動に切り替える。
 これこそ、白井黒子が得意とする『空間移動(テレポート)』だ。
 信じられない、といった様子で固まる鮮花を尻目に、白井黒子は続ける。

「あなたに武器も向けていない理由もこれですのよ? たとえば、なんの変哲もないこのフォーク。
 これを瞬時に、あなたの体の中に移すことができると言ったら――それだけで警告は済みますもの。
 そしてわたくしは今、改めてあなたに命令しますの。――あなたの目的をお吐きなさい」

 キッと鮮花を睨み据える白井黒子。
 両者は干渉し合っていないはずなのに、彼女だけは相手を容易に害することができる。
 それは愕然とした表情の鮮花にも伝わっているのだろう。ごくり、と生唾を飲み込む音とて聞こえた。

 ……おそらくこの少女は、自分ではない誰かのために戦いを選択したのだ。
 可能性としては、同じ姓を持つ黒桐幹也のためか、それとも別の人間のためか。
 白井黒子が御坂美琴に抱いた、『生かしたい』という想いを、鮮花は行動に移したのだろう。
 他者を殺してでも、自分の命を投げ出してでも、生きてほしい人が――彼女には、確かにいる。

「……逆に尋ねますが」

 しばらくして、鮮花は口を開いた。
 毅然とした声が、白井黒子に質問を寄越す。

「生き残りは一人と決められたこのゲームで……白井さんはいったいなにをお望みなんですか?」

 質問は質問で返ってきた。
 白井黒子は鮮花の物怖じしない様に多少イラッとしつつも、すぐに答える。

「少なくとも、誰かを犠牲になどとは考えておりません。期限ギリギリまで、別の可能性を模索し――」
「あ、そっか。やっぱり、そうなんだ」

 言い終わるよりも先に、鮮花が口を挟んだ。
 吐き出す言葉に、不適な笑みを添えて。

227超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:48:26 ID:ULz5Qenw0
「別の可能性だなんて、ちゃんちゃらおかしいです。そんなのは、問題の先送りでしかない。
 だって、わたしたちはもう既に『負け』ているんですもの。
 勝敗が決しているのに駄々をこねるなんて、子供か馬鹿のすることよ。
 ううん。あなたはたぶん、ただ単純に『覚悟』がなってないだけ。ねぇ?」

 言って、鮮花はその場から立ち上がった。
 白井黒子はこの瞬間、宣言どおり鮮花の体内にフォークを転移させることが可能だった。
 なのに、それをしなかった。初めから、できるはずもなかった。

「先輩として教えてあげる。覚悟のない脅しに屈するほど、わたしは弱くない――っ!」

 言い放ち、鮮花はテーブルに向かって拳を突き落とした。
 火蜥蜴の皮手袋が嵌められた、右の拳を。

「AzoLto――――!」

 拳がテーブルに着弾すると同時、鮮花は呪文を詠唱した。
 大気が燃え上がる。木製のテーブルを巻き込み、周りにいた少女たちの驚きを孕みながら。
 眼前の火の手から逃れるため、白井黒子は隣のティーを抱きかかえると、その場から消えた。
 カフェテラスから少しばかり離れたところに現れ、着地する。

 この瞬間、白井黒子は鮮花への攻撃ではなく、危機からの退避を優先したのだ。
 相対すべき『敵』の選択を確認してから、鮮花は彼女たちとは逆方向に走った。
 
「逃しませんわ!」

 白井黒子は叫び、鮮花の行く手を遮るため彼女の目の前に転移する。
 鮮花は怯まなかった。むしろ予想していたのか。動作は驚くほど流麗だった。

「なっ――」

 鮮花は、逃走の邪魔者を排除せんと、軽やかに身を翻した。
 白井黒子が相手を拘束するために腕を取るよりも速く、しなやかな脚は頭上まで上がる。

 ――頭の上から、黒桐鮮花必殺のネリチャギ(かかと落とし)が降ってきた。

 思わぬ攻撃に、白井黒子は両腕を交差させこれを防ぐ。
 鈍い音が響き、ガードは一撃で解かれた。
 それどころか衝撃も殺しきれず、白井黒子はその場で尻餅をついてしまう。
 絶好の好機が生まれ、しかし鮮花は逃走を再開した。

「くっ……!」

 すぐさま身を起こし、鮮花の後ろ姿を目で捉える白井黒子。
 脱兎のごとき全力疾走は、見る見るうちに遠ざかる。
 それでも、まだテレポートの効果範囲内だった。

「……っ」

 跳べば、一瞬で追いつける。
 なのに、白井黒子はそれ以上鮮花を追わなかった。
 追ったところでまたネリチャギが飛んでくると思ったわけではない。

228超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:50:07 ID:ULz5Qenw0
 ――覚悟のない脅しに屈するほど、わたしは弱くない。

 白井黒子を止めていたのは、鮮花が言い放ったあの言葉だった。
 覚悟のない脅し――そんな馬鹿な、と白井黒子は首を振る。
 これまでも、『風紀委員(ジャッジメント)』として多くの能力者たちを拘束してきた彼女だ。
 それが今さら、他者を害することに覚悟がないなど、

「……屈辱、ですわね」

 いや、嘘だ。
 この場において、拘束などという生ぬるい判断をしてしまったのがそもそものミス。
 黒桐鮮花はつまり、こう言いたかったのだろう。

 ――殺す覚悟もない偽善者に、わたしの想いは止められない。

 黒桐鮮花は、ありとあらゆる意味で本気だったのだ。
 学園都市の不良などとは、比べるのも失礼なほどに『覚悟』が違う。
 そしてその覚悟のほどは、問題の先延ばしをしている白井黒子と比したとしても、上をいくのだろう。

「……ッ!」

 追えない。

 追えるはずがなかった。

 少なくとも、今は。

 白井黒子に、黒桐鮮花の暴走は止められない。


 ◇ ◇ ◇


 白井黒子が地面に向かって拳を叩きつけるのを、ティーは確かに見た。

「…………」

 燃え盛るカフェテーブルと、鮮花が逃げていった方向、そして白井黒子を順に見回していく。
 言葉はない。感慨はある。ただ、表には出さない。

 内に秘めた感慨は、白井黒子には決して伝わらないだろう。
 伝えるべきでも、ないのかもしれない。
 寡黙かそうでないかを考えるまでもなく、今の彼女にかけるべき言葉など存在しないのだ。

 少なくとも、ティーはそのように考える。考えているように、見える。
 とてとてと、悔しそうな白井黒子の背中に歩み寄りながら。
 ティーは、やはりあの場で発射しておくべきだったと後悔した。

229超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:51:07 ID:ULz5Qenw0
【D-5/三角州近辺・カフェ前/一日目・黎明】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
0:屈辱と敗北感。己を見つめなおす……?
1:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
2:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
3:夜が明けてから、もう一度『黒い壁』が本当に存在するのかどうかを見てみる。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
※黒桐鮮花を『異能力(レベル2)』の『発火能力者(パイロキネシスト)』だと誤解しています。

【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×2、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:???
1.RPG−7を使ってみたい。
2.手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3.シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。


 ◇ ◇ ◇

230超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:52:16 ID:ULz5Qenw0
 三角州上の分岐路を左に折れ、黒桐鮮花は川を渡った。
 息を切らすほどの全力疾走で逃げ回り、追ってくる気配がないと判断したところで止まる。
 十字路の辺りまで来ていた。両膝に手をつき、懸命に息を整えようとしながら、鮮花は思う。

「……覚悟がなってないのは、わたしも同じ」

 逆襲ではなく、敗走を選び取ってしまった自分を鑑みて、悔しそうに呟く。
 あの瞬間、白井黒子の不意は確かにつけたはずなのに。鮮花は、逃げに回ってしまった。
 勝ち目が薄そうだったから、相手が二人だったから、そういった負け惜しみを言うつもりもない。

(ここには、式や藤乃もいる……なのにわたしは、幹也を生かそうとしているんだ。
 いざ会ってから考える、なんていうのは完璧なまでに『逃げ』だもの。
 なってない。わたしは、彼女のことを言えないくらい……なってない)

 こちらの命令に背いたら殺す。
 そういった脅迫のシーンはドラマなどでもよく見かけられるが、意外と実行に移せないものだ。
 白井は見るからにその典型だった。
 脅しはすれど、本気ではない。人を殺す覚悟など、そう簡単にできるものではないのだから。

 では自分は、と鮮花は考える。
 黒桐幹也を生かすためならば、それ以外の人間が死のうが構わないし、自らが殺して回ることも苦ではない。
 それは白井の警告と同様、決意の話であって、実際にやり遂げられるかは――

(いいえ)

 ――出かかっていた答えを、鮮花は寸前で飲み込んだ。
 やれるかやれないか、ではない。
 やるんだ。
 だが。

(式も、藤乃も……わたしが……っ)

 黒桐鮮花は、自身が禁忌に惹かれる質であることを自覚している。
 だからこそ、戸籍上は兄に分類される黒桐幹也を、心の底から愛せるのだ。
 ただ、だからといって友人や他人を殺せるかと自問すれば、答えは出ない。
 近親への恋情と殺人を同列に扱うこと自体が間違っているのか、鮮花は懊悩を繰り返す。

(……あったまくるなぁ)

 魔術を始めたのも、そもそもが幹也に並び立とうとしたのがきっかけだった。
 両儀式などという反則紛いの女に、対抗心を燃やしていたのもある。
 決して殺しの道具にしたかったわけでは、ない。

(火蜥蜴の皮手袋が私に配られてたのは、籤運が良かったわけじゃない……これはたぶん、皮肉。
 この程度の力じゃわたしは式にも勝てないし、藤乃を見捨てるような覚悟もない。
 あるのはただ、幹也に死んでほしくない、っていうちっぽけな想いだけなんだ)

 そこで、黒桐鮮花は一度認めてしまう。
 このやり方では、ダメ。
 いずれは最悪の形で破綻する。
 その未来が見えたから、鮮花は思い切り悔しがるのだ。
 固く握られた右拳は、手袋をしていなかったら血が出ていたと思う。

231超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:53:05 ID:ULz5Qenw0
「……っ」

 気分は最悪だった。今は誰の顔も見たくない。
 そんなときに限って、出会いはやって来る。

「――あー、ラブコメしたいぜい」

 見晴らしもいい交差点で、その男は平日に街をぶらつくチンピラの装いで歩いていた。
 派手な金髪にサングラスとアロハシャツの姿は、鮮花に最悪の第一印象を与える。

「どこかに素敵な出会いでも転がっていないかにゃー。突然『あたしお兄ちゃんの妹なんですー』とか告白されても大歓迎ぜよ」

 男性の友人などろくにいない鮮花である。こういう手合いが得意であるはずもない。
 金髪アロハは戯言を吐きながら、なおも鮮花に近づいてい来る。どういうわけか、こちらに気づかぬ振りをしながら。

「妹のみならず、先輩後輩先生クラスメイトに委員長幼馴染寮の管理人その他諸々手広く大歓迎だぜい。
 空から女の子が振ってきて家のベランダに引っかかってるっていうのも――おっと、噂をすれば可愛い子発見ぜよ」
「……おちょくってるんですか?」

 鮮花も鮮花で、身を隠したり即座に撃退しようとしたりはしなかった。
 金髪アロハの目的が不明瞭だったこともあるし、なにより今は気疲れ中だ。
 適当にやりすごそう。しつこいようなら金的の一つでもくれてやろう。腹癒せくらいにはなる。
 そう思って、

「つれないにゃー。さりげなーく声をかけるのは、ガールズ・ハントの基本ぜよ」
「――そそ。相手がお嬢様っぽい子だったらなおのこと、出会い方にゃ気を配らないとな」

 眉根を吊り上げる鮮花は、ハッとした。
 男の声が二人分、重なる。
 一つは、眼前の金髪アロハから。
 そしてもう一つ、後ろからも声が。

「カワイコちゃん相手に、本当の意味でのハンティング……なんて真似はしたくねーんだわ」

 鮮花の後ろで銃を構えるその男も、軽薄な印象満点の金髪姿だった。
 いや、この際髪の色などどうでもいい。
 問題なのは、彼の構える銃口が、鮮花のほうに向いているという点だ。

(――やられた)

 少しばかり目立つ場所で気落ちしていたとはいえ、鮮花はものの見事に挟まれてしまったのである。
 この、常に気を張り続けなければいけない状況下で。
 それも、幹也以外の男性二人に。

「んー? なんか空気がぴりぴりしてるぜい。クルツ、やっぱそりゃ女の子に向けるもんじゃねーぜよ」
「おっと、下手に威嚇しちまったか。まあそうびくびくしなさんな。お兄さんたちはいたって親切な――」

 どうして、気が立っているときに限って。
 こうも、神経を逆なでするような出来事が。

232超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:54:31 ID:ULz5Qenw0
「――――っ」

 刹那、鮮花の中でなにかが弾けた。
 体温計が高熱によってパリンと割れる、そんなイメージだ。
 沸点を越えた怒りは熱を膨張させ、煮え湯を炎へと昇華させる。

 皮手袋に覆われた右手が、大気に触れている。
 口はぶつぶつと呪文を唱え続け、前後の二人は止めもしない。
 それだけで、燃焼を起こすには十分だった。
 鮮花の魔術は、発動だけならば容易なのだから。
 燃やす対象は、空気中の酸素だ。

「おわっ!?」

 どちらからでもなく、驚いた男の声が上がった。
 鮮花の右手から、唐突に炎が迸ったからである。
 それはどちらを焼くこともなくすぐに消えたが、二人としても見逃せるようなものではない。

 これは、テレポートなどという『魔法』のような力を振り翳していた白井黒子のものとは違う。
 あなたたちのようないけ好かない男を丸焼きにするくらいの覚悟なら、とうにできている――という、鮮花なりの警告だ。

「なんのつもりか知らないけれど、わたし今ムシャクシャしてるの。
 これ以上話しかけてくるって言うんなら、馴れ馴れしいほうから黒こげにするから――!」

 憂さを晴らすかのごとく叫ぶ。
 前の金髪アロハ、クルツと呼ばれた後ろの金髪も、揃って唖然としていた。
 種も仕掛けもある鮮花の魔術は、一般人から見れば手品としか映らないだろうか。
 そうやって嘲笑うなら好都合だ。相手が軟派な男共なら、容赦なく焼れるような気がするから。

「能力者……いや、どちらかというと魔術師のほうが近い、か?」

 早速、金髪アロハがなにか呟いた。反射的に、鮮花が右手を伸ばす。
 しかし金髪アロハから軽薄な雰囲気は消えていて、さらに発した言葉の中の『魔術師』という単語が、鮮花を抑制した。
 この男は、魔術を知っているのだろうか――?

「つーとなんだ。土御門のご同輩かなんかか? ま、俺としちゃそれでも全然構わねーけど」
「むしろ好都合だにゃー。あー、お嬢さん? 俺の名前は土御門元春。たぶん、おたくと同じそっち側の人間ぜよ」
「あ、俺はクルツね」

 あたりまえだが、聞かない名前だった。
 ただ、この土御門なる男が言う『そっち側』とは、間違いなく『魔術師の側』を指している。
 だからといって警戒の対象から外れるはずもないが――鮮花の興味は今、確かにそそられてしまっていた。

233超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:55:53 ID:ULz5Qenw0
「立ち話もなんだ。どこか入ってゆっくりと、ってのが俺としては望ましいんだけどな。どうだい?」

 鮮花の魔術に一旦は驚いた素振りを見せたクルツも、すぐに飄々とした態度を取り戻す。

「あ、ちなみにこれ、本物じゃなくエアガンだから」

 最初から殺意はなかった、と今さら説明して、クルツはエアガンをしまい込む。
 この二人に害意があったとするならば、まず二人で組んでいること自体が不自然だ。
 生き残るのは一人。それを重く受け止めている鮮花だからこそ、二人の目的は単純なものではないと踏んでいた。

「……まあ、いいですけど」

 ――方針を見直すべきかもしれない。
 自分にあるのは愛情だけで、実力も覚悟はまだ足りていない。
 それを実感した鮮花には、今一度未来を思案する時間が必要だった。
 一人で延々と考え込むよりは、魔術を知る者と交流したほうがなにか見えてくるものがあるかもしれない。
 ……片方は、余計だが。

「オーケイ。では早速、君のお名前なんかを聞かせ――ぐぼぁ!?」

 気安く肩に触れようとしたクルツに対し、鮮花は冷徹な表情で裏券を見舞った。
 顔面直撃。仰向けに倒れる軟派男。相方らしい土御門も、ドッと笑う。

(なんて、不潔――――ッ!)

 黒桐鮮花は、頭を抱えて慨嘆した。



【D-5/十字路/一日目・黎明】

【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:疲労(小)
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也をなんとしても生かしたい。
1:具体的な方針を練り直す。判断材料として、土御門とクルツの誘いに乗る。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。

234超難易度(レベルベリーハード) ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:56:51 ID:ULz5Qenw0
【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ
[装備]:エアガン(12/12)
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×20(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサ、当麻、インデックス、との合流を目指す。
1:鮮花とお話し、彼女を仲間に引き入れる。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:南回りでE-3へ。その後、E-4ホールに向かいステイルと合流する。
5:ガウルンに対して警戒。
【備考】
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。


【土御門元春 @とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサ、当麻、インデックス、との合流を目指す。
1:鮮花の発火能力に興味。話を聞き、その素性を調べる。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。ただし御坂美琴に関しては単独行動していたら接触しない。
3:南回りでE-3へ。その後、E-4ホールに向かいステイルと合流する。
4:最悪最後の一人を目指すことも考慮しておく。
【備考】
※クルツから“フルメタル・パニック!”の世界観、相良宗介、千鳥かなめ、テレサ・テスタロッサに関する情報を得ました。
※主催陣は死者の復活、並行世界の移動、時間移動のいずれかの能力を持っていると予想しましたが、誰かに伝えるつもりはありません。

235 ◆LxH6hCs9JU:2009/06/25(木) 00:59:14 ID:ULz5Qenw0
投下終了しました。
毎度すいません。お手すきの方いましたら代理投下お願いします。

236 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:47:54 ID:DNh1IMq20
すみませんこちらに投下します

237 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:48:27 ID:DNh1IMq20
 先刻の人形襲撃事件からしばらく、あんなことがあったこともあり、余計に留まっていることが危険だと判断した俺達は、「宣言」の聞こえた範囲であろう城のあるエリアから離れるためにただただ歩きつづけていた。
 正直、さっきのあれ、動く人形のことが気にならんと言えば嘘になる。俺でさえそうなのだから、もしもここにハルヒがいたら大喜びであの謎をときたがるのだろうな。
 ……が、ここで名探偵がいきなり現れてくれるのを期待するわけにはいかんし、そもそもこんな状況で現れる謎を解いてくれそうな人物と言えば、見るからに悪党面した奴が冥土の土産だ、とか何とか言いながら俺達を襲ってくる前フリにしかならんだろう。
 いや、まあそこでいきなり現れるのが長門や古泉だったりしたら、後はあいつらに任せて、俺は事態が解決されるを朝比奈さんを守ったりしながら見守ってしまえばいいから楽なんだが。
 
 と幾分話は逸れてしまったが、現在俺達は先頭、陸。二番目にマオさん。そのもうすこし後方に俺。という三列形態で歩いている。
 このような形で歩くことを提案してきたのは、実は陸だ。

 人形襲撃事件の少し後、再び俺達が歩き出そうとした矢先に提案してきたのだ。
 曰く、自分が先頭を歩くのは鼻が利く自分が先頭に立っているほうが俺達にとっても安全でしょう、だとか。
 曰く、自分の鼻で警戒している限り不意打ちをされる心配はほとんどないから、キョンさん、つまり俺が一番後ろにいたほうがいいでしょう、だとか。
 
 ……うん、まあ正直長門や古泉といった元々日常というカテゴリーから離れているような奴等や、なぜか銃器の扱いに慣れ親しんでいるようなマオさんといった相手からならまだしも、いくら喋れるとはいえ犬にさえ心配される自分というものが少々情けなくなってくる気もしないでもないが、実際役に立たないもんは立たないんだからしょうがない。
 遠慮なく、お言葉に甘えさせてもらって俺は二人、いや違った。一人と一匹の後ろをてくてくと歩いている。
 
 とはいえ、いきなり誰か――いや何かに襲われるということもなく、今俺達が歩いている場所なら聞こえていたとしてもおかしくはないあの「宣言」にやる気になった物騒な方や、逆に今の俺達のようにあの宣言を聞いて早々に逃げの一手をきめこむ参加者にも出会うことなく、俺たちは広い意味での城エリアからの脱出、ようするに天守閣の回りをぐるりと囲っている堀を無事に渡りきることに成功したのであった。

「マオさん、キョンさん、少々お待ちを」
 と、世の中そんなに上手くはいかないのか、堀を渡りきったその直後に、いきなり陸が俺たちに待った、といってきたのだった。
「どうした? 陸」

238 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:48:58 ID:DNh1IMq20
「はい、比較的新しい人の匂いがします。おそらくはあちらの建物……」
 と陸は視線を俺たちのほうからやや斜め前方へと動かした。
 つられてそっちのほうに視線をやると、さっきまでいた城とは比べ物にならん近代的な施設、見た目からして俺たちみたいな一般庶民とは縁もなさそうな高級感ただようホテルがあった。
「あのホテルへ入っていったのでしょう。裏口から出て行ったということでもない限り、今もあの中にいると思われますが……」
 目は口ほどにものを言う。どうしますか? と陸の視線は問い掛けている。
 どうする――つまりはホテルの中にいるであろう人物に会いに行くかどうか、ということだろう。
 ……ってだからどうしてそんな話題を俺に振るんだ。

 今までの経験から言わせて貰うと、どこぞの異次元ででかいカマドウマに襲われたときがそうであったように、正直こういう状況は専門家に任せるのが一番いいと俺は思うわけだ。
 というわけで陸からの視線に華麗にスルーを決めた俺は、そのままマオさんに期待を込めた視線を向ける―ーと。

「ちょっ、ちょっと何をやってんですか! マオさん!」
 俺は思わず大声を上げてしまっていた。何を思ったのかマオさんは平然と陸が言うところの他の参加者が潜んでいると思しきホテルへと歩いていっていたのだ。

 ホテルのロビーというものは基本的に見渡しがいいが、ちょっと奥の方に行けばフロントやらなんやらがあり、身を隠すのには実に都合がいい場所でもある。
 つまり俺が何を言いたいのかというと、だ。もしもあそこにいるのがヤる(もちろん殺すと書くほうの殺るだ)気になった参加者だったら身を隠さずに近付いているマオさんはいい的にしかならないだろう。
 と俺がそんなことを考えてマオさんを止めにいくべきか、下手な動きは見せないほうがいいのか躊躇している間に、一体何がやりたかったのか入り口付近まで近付いたマオさんは、あっさりとホテルへと入ることなく引き返してきたのであった。

「あ、キョンくん。ただいま」
「マオさん何をやってるんですか危ないでしょう! あのホテルにいるのが危険人物だったらどうするんですか!」
 と俺はついつい声を荒げてしまったのだが、そんな自分にしては激しい剣幕のつもりだったそれもマオさんにはまるで応えないものだったらしく「大丈夫、大丈夫」と軽い笑顔で返されるのであった。

「それで?」
「うん? それでって?」
「いやマオさん、何しにいったんですか?」
「ああ、そのことね」
 マオさんは納得したように頷いた。

239 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:49:45 ID:DNh1IMq20
「いやあ、あのホテルに立てこもってるのがひょっとしたらあたしの知り合いかなー、と思って調べにいってみたんだけどね。残念だけど、ソースケ達やテッサはあそこにはいないみたいね」
 まあソースケなんかは早々にかなめやテッサとと合流したりしない限りは篭城なんかせずに動き回ってるんだろうけど、とマオさんは一人呟いた。
 いや、いないみたいってあんた中に入ったり声をかけたりなんか一切していないだろう。

「いないみたいって……え? 何で中にも入っていないのにそんなことがわかるんですか?」
「ああ簡単よ。あたしの知り合いに限らず、ちゃんとした知識をもってこんな始まったばかりの状況で篭城っていう戦略をとる奴なら建物の中まで入ってこなくても、相手をきちんと確認しておく、そのための手段ぐらいは用意しているのが当然なわけよ」
「はあ……」
 つまりその入り口付近にまで近付いてみたけど、マオさんに反応した様子がないから知り合いはいない、とこういう事を言いたいのだろうか。

「……でも、そんなやり方危険じゃないですか?」
「ああ、平気平気。あそこにいるのがたった一人の生き残りを目指すプロだったとしても、ホテルの中に入るまでは襲ってきたりはしないわよ」
「なるほど、私たちの場合は匂いでホテルに立て篭もっている者がいるということがわかりましたが、そうでないほかの参加者達にとってはホテルに誰かがいるかどうかはわからない。
 しかし、ホテルの外にいる者にまで無差別の襲撃を仕掛けてしまえば、ホテルに誰かが潜んでいるのはわかる。そしてその場合ホテルの中にいるものは逆に袋の鼠になる、ということですね」
 マオさんの言葉を受けて陸が解説をいれてくれる。
 ……まあ、何だ。犬に解説を受ける自分というものに疑問を感じたりはしてないぞ。

「で、どうする? キョンくんも見に行ってみる?」
 言われて俺は考えてみる。
 仮にあのホテルに俺の知り合いがいるとして、だ。
 長門の場合……あいつだったら俺がここまで近付いた時点で何らかの行動をとっているとみていいだろう。
 古泉の場合……まああいつならマオさんが言ったような備えをしてここに立てこもる場合もある、のだろうか。
 朝比奈さんの場合……彼女があそこにいるとしても絶対にどこかの一室で小さく震えているのだろう。
 ハルヒの場合……はないな。この状況がアイツが望んだ物とはさすがに思えんが、それでもアイツのことだ。
 こんなわけのわからん事態に巻き込まれて、じっと閉じこもるなんていう選択肢をとるようなことはない。それだけは断言できる。

240 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:50:16 ID:DNh1IMq20
 とこう考えてみるとあのホテルに俺の仲間(朝倉を除いてあえてこういう)がいた場合、かなりの確率でリアクションがあると考えられるわけだが、やっぱりと言おうかなんと言うか、俺がロビー前までいってみても長門の無表情も古泉のにやけた顔も、はたまた万に一つの朝比奈さんの愛らしい顔も一切現れることはなかったのであった。

「おかえりー」
「はあ、ただいまです。……陸、このホテルに誰かが入っていったのは間違いないんだよな?」
「はい、キョンさん。それだけは間違いありません」

 つまり、だ。
 こうなってくると可能性は三つしかない。
 一つはホテルに入っていった誰かがすでに従業員出口などから出て行ったケース。
 ただ、この場合は何でそいつはそんな面倒なことをしたのかという疑問が残っちまう。ホテルに誰かが入っていったということがわかる俺たちのほうが特殊なケースだ。だったらどうしてその誰かさんはそんなわけがわからんことをしたのであろうか。

「んー? ロビーの中にトラップでも仕掛けたんじゃない?」
 とはマオさんのセリフ。専門家の言うことだけあって、言われた途端、あの出入り口が禍々しく見えてくるから不思議ではある。

 と、二つ目のケースは危険人物が潜んでいるケース。
 この場合も下手にホテルに侵入しさえしなければまあ安全だろう。

 で三つ目。中にいるのが安全な人の場合。
 この場合は中にいるのは俺たちの知り合いではないか、話を聞く分には唯一そういうことに気が回りそうにない俺の知り合い朝比奈さんということになるわけだ。

 まあこのように状況を整理してみても、結局このホテルに入ってみるべきか、それとも無視するべきかという結論は一切出ていないのだが。

「む?」
 どうしようか俺たちが態度を決めかねていると、不意に陸が顔をあげて、北のほうを向いた。

「陸、どうした?」
「この匂いは……いや、間違いない!」
 言うなり陸はいきなり北のほうに向かって駆け出した。

「おい、陸! っといきなりなんだって言うんだ」
 とはいえ一匹で行かせる訳にもいかないだろう。ひとまずホテルの件は後回しにして、俺とマオさんも陸の跡を追いかけることにした。

241 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:50:54 ID:DNh1IMq20
 当たり前の話ではあるが、犬と人間ではその走る速さはまったく比べ物にはならない。
 それでも俺たちが陸を見失うことがなかったのは、陸の移動した距離がそれほどの遠くはなかったからだ。

 北にわずか数百メートル。とはいえついさっきまで俺たちがいたホテル前は見えなく距離。
 前のほうに見えてきたそれほど大きくはない橋を渡り終えようとしている二つの人影。その片方にむかって陸は近付いていく。
 
「シズさま! ご無事で何よりです!」
「……陸?」
 陸に遅れることわずか。まだまだ余裕の表情のマオさんと多少息切れした俺が見たのは緑色のハイネックのセーターを着た長身の優しそうな男の人と、その人の前で畏まっている陸。そしてその様子を面白そうに見ている金髪の外人さんだった。

「……君達は?」
「ああいえ、シズさまご安心を。彼らは危険な人物ではありません」
 陸より遅れて到着した、彼らにしてみればいきなり現れた俺たちに警戒の目を向けてくるシズさんと、慌ててそれにフォローを入れる陸。
 まあここはちゃんと自己紹介をするところだろうな。 

「ええと……」
「こちらの男性がキョンさん。私を支給品として引き当てた方です。そしてあちらの女性がマオさん。開始直後からキョンさんと同行しておられます」
「……キョンといいます。その、なぜか参加者名簿のほうではこういう名前で登録されていますから、そう名のらさせてもらいます」
「メリッサ・マオよ。ま、よろしく」
「そうか、陸が世話になったようだな。礼を言わせて貰おう。陸から聞いているかもしれないが、私はシズという」
「どうも、こちらこそよろしく」
 とまあこのように自己紹介を行っていた俺たちではあったのだが、次のシズさんと同行していた女性――アリソンさんの自己紹介で大いに驚くこととなる。

「私はアリソン。アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。まあアリソンって呼んでね。こう見えてもロクシェの軍人よ」
 ……ロクシェ?
 一応俺は普通の学生だ。この普通というのは学校の成績も普通ということであり、別に世界の国々すべての名前を暗記しているほどじゃない。
 だから知らない国があってもまるでおかしくはないのだが……それでもそのロクシェという国名は知っているとかではなく、聞いたことさえない。

242 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:51:27 ID:DNh1IMq20
「……えーと、どこの軍人って?」
 そのロクシェとやらに聞き覚えのないのはどうやらマオさんもおなじだったようで、頬を掻きながらアリソン・ウィッテ……アリソンさんに尋ねている。
 
「だからロクシェよ、ロ・ク・シェ。そんなに信じられないかなぁ」
 まあ、確かに言われてみればアリソンさんからは世間一般で言うところの軍人という単語でイメージされるようなお堅いイメージはないのだが。
 ただ、この場合聞き返した理由はその繰り返した国名にまるで聞き覚えがないことなんだが。

 かくして軽い自己紹介で済むはずだった俺たちの出会いは、お互いの常識をつき合わせる本格的な会談へと変更されることとなった。
 そうして結局、この場にいる四人の常識がまるで異なることに気がつくのは、もう少し時間が過ぎてからのことになるのであった。

「……嘘、とか冗談じゃないのよね?」
 元々シズさんといっしょに旅をしていたらしい、陸以外の四人、ちなみに陸は誰か近付いてくる奴がいないか警戒をしてくれている、の話を合わせてみた結果。
 最初に全員が別の世界から集められたということに気がついたのは俺だった。
 一応ハルヒが作り出した閉鎖空間やらなんやらに閉じ込められたことがある経験が役に立ったといえるのだろう。……まるで嬉しくはなかったが。
 それはさておき、信じられないといったような顔と声でアリソンさんが呟く。まあその気持ちはわからんでもないが。それはお互い様という奴だろう。
 なにせそのアリソンさんの世界では、国が二つ――さっき言ったロクシアーヌク連邦とやらとベゼル・イルトア王国連合というところしかないだとか。
 他にも大陸が一つだけしかないとか、世界暦とかいう聞いたこともない暦を使用しているだとか。
 仮に彼女が嘘を言っているんだとしたら、軍人じゃなくて小説家になるべきだと俺は思うね。

「……」
「……」
 驚いているらしいのはシズさんやマオさんも同じだ。口に出してはいないものの、その顔はありありと驚きの表情を浮かべている。
 シズさんの世界ではさまざまな国があって、技術的にも文明的にも俺たちの世界以上にバラバラに進んだり、そうでなかったりしていて、またそういった国から国へと旅する旅人さんというのが結構メジャーらしい。
 マオさんの世界はかなり俺の世界に似ていて、日本やアメリカと同じ名前の国もあったりして、一旦は俺とマオさんは同じ世界からきたのかなー、とか思ったりもしたのだが、AS――アーム・スレイブだとかいうガンダムみたいなでかいロボットがある、俺たちのところよりもう少し科学技術が進んでいる世界らしい。

243 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:52:02 ID:DNh1IMq20
 四人と一匹が集まって、四種類の異なる世界。いや、俺たちが知らない名前も名簿に載っていたりする以上、もっと異世界はあるのだろう。そう考えてみると、この消滅していく世界とやらもやっぱりそうした異世界の一種なのだろうか。
 
 とまぁ、この世界における俺の浅知恵な考察はこの辺にしておこう。
 この殺し合いゲームで俺みたいな一般ピープルが一人が悩んだところで答えが見えるはずもない。
 何度も言うが、俺は至って普通の男子高校生だ。宇宙人でも未来人でも超能力者でもないし、そうなりたいとも思わない。
 ただちょっとばかり、周りが特殊すぎるだけだ。ライオンの檻の中に一人迷い込んだネコみたいな存在なんだよ、俺は。

 ああ、ちなみに。
 その情報交換の際にわかったことなのだが、実は軍人だったアリソンさんの他にも、シズさんは旅人さんで一人と一匹で無法地帯を旅することができるぐらい腕が立つらしいし、只者じゃないと思っていたマオさんも実は傭兵で腕はいいらしい。
 だから、この人たちといっしょに行動して、後は長門やハルヒを見つければミッション・コンプリート。
 あいつらの不思議パワーで俺たちはめでたく帰還することに成功……というわけにはいかなかった。
 
「我々も後はティーを見つけるだけですね」
 二度あることは三度ある、とか言うが……やっぱりそのきっかけを作ったのは陸だった。

「……ティー?」
 とりあえずマオさんは宗介、クルツ、テッサ、かなめという人を。
 アリソンさんはリリアーヌ・アイカシア・コラ何とか……リリア、トラヴァス、トレイズという人を。
 かくいう俺もハルヒに長門に朝比奈さん、それにおまけの古泉とそれぞれに探し人がいる。
 で、この場にいるもう一人、シズさんには探している相手はいないのか聞くと、本人が返答するよりも先にその足元で控える陸が答えを返し、その答えにほかでもないシズさんが不思議そうな表情を浮かべたのであった。

「陸、どうして私たちがそのティーという参加者を捜す必要があるんだ?」
「え? 何をおっしゃるのですかシズさま?」
 シズさんは不思議そうな表情を浮かべ、陸も表情こそ笑っているようなままではあったが、その声と雰囲気からはありありと困惑の気配が感じられる。

244 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:52:35 ID:DNh1IMq20
「あ、あのちょっと!」
「なんですかキョンさん?」
 微妙な空気が流れる二人に慌てて俺は待ったをかけた。

「あのー、何か話が食い違ってるみたいですから、さっきまでの俺たちのように、その、情報交換などをしてみては……」
「そうだな、いい考えだ」
 いやマジで驚いたね。
 ぱっと見、線の細い好青年風の見た目のシズさんだが、正面からじっと見られたときの圧力はものすごい。まあ、すぐに表情を緩めてくれて、それと同時にその得体の知れない圧力は霧散したわけだが、シズさんが凄腕ということは雰囲気だけで、素人の俺にもわかるほどだった。

 まあ、そんな俺の感想はさておき、シズさんと陸は情報交換をはじめていた。
 
 一番最初に驚いたのが、シズさんが実は王子様だということ。
 人は見掛けによらんとよく言うが、まあさっきまで普通に話していた相手が元王子様だー、などいきなりいわれてもそれは凄い、ぐらいの感想しか出てこない。
 ちなみに驚いている俺の近くでアリソンさんが「ここにも王子様ねー」などと気楽に言っていたのはやたらと印象に残った。
 
 また話が逸れちまったな。

 いつもバギーで旅をしている。そのバギーは戦場跡でシズさんが拾った物。拾った時期はシズさんが陸と出会う前のこと。
 ここらへんまでは二人の情報はまったく一緒だった。

 ――が。

「そのバギーは一度整備に出したことがありまして」
「いや、陸。あれは整備に出したことなんかないぞ」

 そこから先の陸の知識はシズさんが一切知らないことだった。

 シズさんの旅の目的地である国の少し前でバギーの調子が悪くなり、整備に出したことがあること。
 その国で一人の少女と出会って、すぐに死に別れてしまったこと。
 その後、旅の目的だった国には着いたが、その旅の目的――その国で行われている命懸けのトーナメントで生き残ったたった一人に与えられる王との面会の機会を利用した王の、つまりシズさんの父親の暗殺、はこの会場にもよばれているキノというパースエイダー(俺たちの世界でいうところの銃のことらしい)使いに敗北して、果たせなかったこと。
 そのキノさんが代わりに王様を殺してしまったこと。
 それで色々吹っ切れたシズさんは自分の居場所を求めて旅を続けることにしたこと。
 その旅の途中で別の大陸に渡るために大きな船に乗り――色々あって新しくティーという少女もいっしょに旅をすることになったということ。

245 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:53:08 ID:DNh1IMq20
「……以上が私がシズさまのお側で見聞きしてきたことです」
「そんな……そんな……」
 陸の話が終わる少し前から、シズさんは呆然と同じ言葉を繰り返している。

 まあその気持ちはわからんこともない。
 命をかけても果たそうとしていた目的が、自分の手で果たせないことがわかってしまったんだからな。

「シズさま……」
「……いや陸、大丈夫だ」
 そんな全然大丈夫じゃなさそうな顔と死にそうな声でシズさんはぼそりと言う。
 それがあまりにも辛そうに見えたので、ついつい俺は言ってしまったのだ。

 ――言ってはいけなかったことを。

「しかしどうして私は覚えていないのだ……」
「あ、あのシズさん……」
「……なんだい? えーと……」
「あ、キョンです。あのおそらくの話なんですが、シズさんはさっきまで陸の話していたことを覚えていないんじゃなくって知らないだけなんだと思います」 
「……? どういうことだいキョンくん」
「俺たちは別の世界から集められたみたいですけど、例えばシズさんとそのティーっていう子、アリソンさんならえっと……ああ、リリアさんとかいうように同じ世界から呼ばれた人もいますよね?」
「ああ、そのようだが……」
「ひょっとしたら、の話になるんですが、その人たちも微妙にずれた時間から呼ばれた可能性もあります」
「「「は?」」」
 俺の言葉にシズさんのみならず、アリソンさんやマオさんも俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべた。

「ちょっとキョンくん、それってどういうこと?」
「さっき俺が探しているのはハルヒって奴と長門に朝比奈さん、古泉の四人だけと話しましたよね?」
「ええ、そうね」
 一番最初に疑問の言葉をぶつけてきたマオさんに俺は答えを返す。

246 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:53:44 ID:DNh1IMq20
「まあ、名前の載ってない9人がどういうやつかはわからないのでそれは別としますが、実際に合流したいのはその4人だけって言うのには間違いはないんです。けど、実はもう一人この名簿には俺の知り合いが載っているんですよ」
「何で合、……ってひょっとして」
「はい、多分それで正解です。昔俺はそいつ、朝倉涼子に命を狙われたことがあるんですよ。ってまあそれは今は関係ないですね。問題なのはそいつは俺に襲い掛かってきた時に、別の奴に返り討ちにあって、間違いなく死んだはずなんですよ」
「……でも確かに名簿に朝倉涼子の名前はある」
 はい、とシズさんの言葉に俺は頷いた。
「異世界の移動とタイムスリップ、どっちのほうが高い技術が必要なのかは俺にはわかりませんけどね。それでも間違いなく、どちらも可能にする技術って言うのは存在しているんです。だから多分朝倉もその返り討ちにあって消滅するより前の時間からよばれているんじゃないかな、と」
「同姓同名の赤の他人、その可能性は?」
「その可能性もあるとは思います。でも……」
「いや、すまない。今のはただの揚げ足取りだな」
 そう俺に謝るとシズさんは苦笑した。

「だからシズさんも無事に脱出しましょう。まあ確かに自分の手で目標を果たせないっていうのは辛いことかもしれませんけど、逆に考えたら目的が必ず果たされることがわかってるんだからラッキーじゃないですか!」
「そうだな、無事に帰れば……」
 うんうんとシズさんは自分を納得させるように何度も頷いた。

「はい、じゃあ話はここまで!」
 ぽん、と軽くマオさんが手を合わせ、立ち上がった。

「お互い探す相手もいることだし、とっとと知り合い見つけて元の世界に帰りましょう」
「ええ、頑張りましょう」
「そうね」
 俺とアリソンさんもよっこいしょと続けて立つ。

「ほらほら、シズもいつまで座ってんの」
 やっぱりまだ立ち直りきってはいないのか、座り込んだままのシズさんにアリソンさんが近付いていき、その手を引っ張って半ば無理矢理に身を起こさせた。

「ああ、そうだな……陸、こっちへ」
「はい、なんでしょう」
 立ち上がったシズさんは陸を呼ぶ。
 さすがというか、なんというかシズさんに呼ばれるや否や、再び俺たちの先頭を行こうとしていた陸は最後尾のシズさんの下へと素早く駆け寄った。

「あっと、そういえばマオさん」
「何、キョンくん」
「さっきのホテルの方はどうしましょう
「あーっとそうね……あの二人にも聞いて――」
「――どわっ!」
 不意のことだった。
 何を思ったのかマオさんが俺の背中を引っ叩いたのだ。
 当然何の心構えもできていなかった俺はバランスを崩してつんのめり、地面に熱烈なキスをする羽目になった。

247 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:54:26 ID:DNh1IMq20
「マオさ――」
 マオさん、何をするんですか! そういうつもりだった俺の言葉は……その半ばで遮られた。

「……は?」
 え? 何がどうなったって言うんだよ。
 いや、何がどうなったか、なんてことは目の前の光景を見りゃあわかる。

「――何を」 
 だから俺は単に判りたくはなかったのだろう。
 ――今となっては目の前、実際には俺の少し後ろで何が起きていたかなんてことを。

「何をやっているんですか! シズさん!」
 ああ、そうさ。
 わかりたくなんてなかったさ。

 ――シズさんがアリソンさんの胸に「刀をつきたてている」理由なんてものはな!

 陸の姿はいつのまにか消えている。
 シズさんが持っていたデイパックがいつのまにか地面に置かれているところを見ると、ひょっとしたらあの中だろうか。
 アリソンさんの表情は背中を向いていて見えない。ただ、ぴくぴくと体が震えているからまだ死んではいないのだろう。
 ――そして、シズさ、シズの表情は静かだった。無表情のままでアリソンさんを突き刺していて、そして無表情のままでその体から刀を引き抜いた。

 その次の瞬間。
 聞き覚えのある轟音が俺のすぐそばで聞こえた。
 マオさんが銃をシズ目掛けて発射したのだ。
 だが、その一撃は当たらない。アリソンさんから刀を引き抜くや否や、シズは軽く横に跳び下がっており、代わりにシズが直前までいた地点の後方の道路がバシッと爆ぜた。

「――ほう、早いね」
「どういうつもりよ?」
 感心したような声のシズに冷たい声を返すマオさん。

248 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:55:02 ID:DNh1IMq20
「どういうつもり、か。別に言うまでもないと思うが」
「殺し合いに乗っていないんじゃなかったの?」
「さっきまでは乗っていなかった、だな」
 平然というシズに俺は思わず怒声を浴びせていた。
 
「なんで! 何でアンタはそんな馬鹿な心変わりをしたんだよ!」
「なんで、か。理由は君が言ったんじゃないか」
「……は?」
「我々は別の世界、別の時間から呼ばれているんだろう?」
「……ああ、多分な」
「そして、あの人類最悪とやらは最後の一人は元の世界に返すと言っていた。
さて、じゃあ聞こう。仮にあの人類最悪が予想もしない方法でこの場から逃げ出すことができたとしても、私たちは元の世界、元の時間に帰ることができるのか?」
「できる!」
「君ができる、じゃないんだろう。なら一番良い方法は優勝して確実に元に戻してもらうことだ」
「そんなわけ――」
「キョン君」
 なおも言い募ろうとした俺をマオさんが止めた。

「こういうバカには何を言っても無駄よ。この馬鹿の相手は私がするから君は逃げておきなさい」
 シズから視線を逸らさぬままでマオさんは俺に逃げろといった。

「何で……」
「とりあえず、君はお姉さんが守るって約束したからね〜。人質とかにされたら困ったちゃうわけよ」
 
 ――言葉こそは優しいが、それは足手まといは引っ込んでいろ、というマオさんの宣言だった。

 もう一度言わせて貰おう。俺は至って普通の男子高校生だ。宇宙人でも未来人でも超能力者でもないし、そうなりたいとも思わない。
 ただちょっとばかり、周りが特殊すぎるだけだ。ライオンの檻の中に一人迷い込んだネコみたいな存在なんだよ、俺は。
 だからこんな場面で役立たずになるのは当然だし、逃げたほうが良いってことぐらいはそんなに良くない俺のあたまでもわかるさ。

249 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:55:36 ID:DNh1IMq20
 ――けどな、だからってここでおとなしく尻尾を丸めて逃げ出せるほど、俺は人間ができちゃいねえんだよ!

「うおおおおおぉぉっ!」
「「な?」」
 シズとマオさん、二人の驚きの声が重なった。
 おそらくはマオさんは俺が指示を無視して、前方へと駆け出したことと、もう一つのある事実に。
 そのもう一つの理由にはおそらくシズも驚いたことだろう。
 
 マオさんにせよ、シズにせよ、最初に陸を追いかけて二人に合流した時に俺の走るところは見られている。別にあの時全速力で走っていたわけじゃあなかったが、それでも合流した時の息切れ具合なんかから、オレの全速力はおおよその検討はついていたことだろう。
 だが、今の俺のスピードはそれよりはるかに速い。
 別にタイムを計ったわけじゃないから正確にはいえないが……オリンピックの短距離走選手ぐらいのスピードは出ているという自覚はある。
 もちろん普通の学生に過ぎない俺がそんな運動能力を持ち合わせているわけじゃない。

 そこまでの速度を出せるのは偏に俺の支給品のおかげだ。

 ――発条包帯(ハードテーピング) 。
 超音波伸縮性の軍用特殊テーピングとかいうぱっと見、雑誌の裏とかに載っているお手軽健康グッズみたいな代物だが、その効果は本物だった。
 シズと倒れているアリソンさん、この両者のいる場所までの十数メートルの距離が、あっという間に短くなっていく。
 そしてその注意書きにも嘘はなかった。

(キツイな……)
 一歩を踏み出すそのたびに足元からものすごい衝撃が突き上げてきて、気が遠くなりそうだ。
 これは発条包帯(ハードテーピング) の注意書きに書かれていたことだった。
 要するにこれを使えば筋力は増大するが、道具によって筋力を引き上げるだけで、俺の筋肉まで強くなったわけじゃない。つまり自分の力に耐え切れなくなるのだ。

 シズの場所まで後数歩。
 ああ、わかっているさ。いくらこんなもんで強くなったところでアイツみたいな元々非常識的な相手に勝てるわけないってことぐらいはな。

 ――だから俺の狙いは最初からただ一つ。

 アイツの間合いに入ったのか、シズの奴がマオさんからも視線は外さずに、それでもこちらにも注意を向けて刀を構える。

250 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:56:11 ID:DNh1IMq20
「うおおおぉぉぉ!」
「……しまっ!」
 そのまま俺は奴の側へと近付くと、その側に倒れているアリソンさんの側へと駆け寄った。近付かないとわからないぐらいだが、アリソンさんの胸は確かに上下に動いている。
 よし、生きている!
 俺はそのままアリソンさんを抱えあげる。
 発条包帯(ハードテーピング) は足の他に腕にも巻いている。
 本来の俺の力なら絶対に無理なそんな芸当も今の俺なら簡単にできる。

「マオさん! 後は頼みます!」
 俺の狙い、それは最初からアリソンさんを助けることだ。
 何だかんだいって、マオさんもいい人だ。
 あのまま俺一人が逃げ出したところで、シズが倒れたアリソンさんを盾にするように戦えば苦戦は免れないだろう。
 だが、アリソンさんさえ助けてしまえば後は銃対刀、マオさんの優位は揺るがない。 
 後はここから距離をとって、アリソンさんの傷を何とかすれば――

「キョン君、危ない!」
「え? うわ!」
 油断してしまったのだろう。
 マオさんの声とほぼ同時に俺の足に何かがぶつかった。普段ならたいしたことはないその衝撃も、今の俺のバランスを崩すには十分すぎる威力があった。
 走っている最中にバランスを崩せばそいつは倒れてしまうに決まっている。
 だが、俺の両腕はアリソンさんを抱えることに使われている。
 ――その結果。

「う、うううう」
「……悪いが逃がすつもりはない」
 俺は手をつくこともできずに地面へと倒れこみ、体の前方を強かに打ちつけた。
 アリソンさんを離さなかった自分の根性は正直、自分自身を誉めてやりたいぐらいのもんだが、今はそんな場合じゃない。
 ふと見ると、俺の側にそれほど大きくはない石が転がっていた。
 シズは咄嗟にそれを蹴飛ばすか何かして俺にぶつけたのだろう。

「あなたも下手な動きは見せないで貰おうか」
「……この」
 シズの言葉にマオさんは悔しそうに唇をかむ。

 あくまでもマオさんを警戒しつつ、時折ちらちらとこちらを見ながらシズはゆっくりとこちらに近付いてくる。
 こっちを人質にしようというつもり、なのだろう。
 それがわかっているなら逃げりゃあいいんだろうが、足が痛い。
 ……別にガキみたいな泣き言を言っているんじゃないぞ。元々発条包帯(ハードテーピング) をつけていなけりゃ俺が全速力で走ったところでシズからは逃げられない。
 だが、この足だと逆に自分の力に耐え切れないのだ。
 せいぜい走れて数メートル……って何で気がつかなかったんだよ、俺。
 数メートルも走れるんなら何とかなるじゃないか。

「……マオさん、勝ってください」
「……まだ!」
 後もう少しだけ持ってくれよ、自分に祈りながら俺はもう一度駆け出した。
 シズの舌打ちに少し遅れて、銃声が響いた。
 マオさんの援護射撃だろう。明らかにシズの注意が逸れたのがわかる。

251 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:56:48 ID:DNh1IMq20
「……っ、はぁ」
「くっ、しまっ!」
 精一杯走ってもこの程度しか進めない数メートルの距離。
 だが、その距離を走り終える前に俺がどうするつもりなのか理解したらしいシズが悔しそうな声を出す。

 ――俺のいる場所、そこはつい先ほどアリソンさんとシズが渡ってきた橋の上だ。
 当然ながらその橋の下には川が流れている。

(痛くないぞ、痛くない)
 覚悟はしていたがやはり十メートル近いその距離は恐怖だ。

 だけどそんな事いっている場合じゃねえだろうが!

 俺は一気に橋から身を投げた。
 さっきの俺と同じかそれ以上の速度で水面が近付いてくる。

「――っ!」
 そして俺の意識は暗転した。



 ◇ ◇ ◇

「――勇敢だな」
「そうね、あの子はアンタやクルツみたいなのよりいい男になるんじゃない?」
 キョンが橋から身を投げた直後から、二人はすでにお互いしか見ていなかった。
 橋から身を投げた二人が気にならないといえば嘘になるが、お互いに理解していた。

 ――他のことに気を配ってしまえば、死体になるのは自分のほうだと。

「さてと、じゃああの子を助けるためにも、ここでのんびりとアンタみたいなバカと一緒にいるつもりはないの」
「奇遇だな。私も少しでも早く、自分の為すべき事を為さねばならない」

 言葉と共にマオは銃を構えて狙いを定める。
 シズは刀を構えて、じりじりとマオとの間合いをつめていく。

 ――死闘がここに始まった。

252 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:57:22 ID:DNh1IMq20
【C-4/橋の近く/一日目・早朝】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:気絶、両足に擦過傷、中程度の疲労
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜1個所持)
[思考・状況]
0:……(気絶中)
1:この場から離れ、アリソンを治療する。
2:SOS団と合流し、脱出する。
3:マオやアリソンの知り合いも探す。
[備考]
※気絶は落ちたショックで少し気が遠くなった程度、それほど時間はかからずに目が覚めるでしょう。

【発条包帯@とある魔術の禁書目録】
学園都市製の超音波伸縮性の軍用特殊テーピング。
筋肉を補強することができる。
名前からすると関節を外側から引っ張る人口筋肉のようなものだと思われるが、
「高機動では肉離れを引き起こす」と言う記述からすると、筋力そのものも強化しているらしい。
駆動鎧に使われている身体強化を行う部分のみを取り出したようなものであるとのこと。
結果として、増大した力に使用者自身が耐えられず、長時間の使用は使用者自身にダメージを与える。

【アリソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:気絶中、右胸に背中まで突き抜けている傷。右肺損傷。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カノン(6/6)@キノの旅、かなめのハリセン@フルメタル・パニック! 、カノン予備弾×24
[思考・状況]
1:……(気絶中)
2:リリア達と合流。
[備考]
※胸の傷は早急に手当てしないと命に関わります。

【シズ@キノの旅】
[状態]健康
[装備]贄殿遮那@灼眼のシャナ
[道具]デイパック、支給品一式、陸、不明支給品(0〜2個)
[思考]
0:生き残る。
1:優勝して、元の世界元の時間に戻って使命を果たす。
2:メリッサ・マオを殺す。
3:未来の自分が負けたらしいキノという参加者を警戒。
4:陸はできれば何も知らせずに元の世界に返してやりたい。
[備考]
※ 参戦時期は6巻『祝福のつもり』より前です。

【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグM590(6/9)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)
[思考・状況]
1:シズを倒す。
2:キョンを守る。
3:仲間達と合流。
4:自身の名前が無い事に疑問。


[備考]
※四人とも参加者は異なる世界、異なる時間から呼ばれていると全員判断しています。
※四人はフルメタル・パニック、リリアとトレイズ、キノの旅、涼宮ハルヒの憂鬱の世界についてある程度知りました。
※それぞれの知り合いの情報を交換しました。

253 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/01(水) 23:59:43 ID:DNh1IMq20
以上です。
お手間を取らせて申し訳ないのですがどなたか代理投下をお願いします。
後タイトルは「コロシアムをもう一度」です

254本スレ300の修整 ◆MjBTB/MO3I:2009/07/03(金) 01:35:06 ID:cfb.TsQk0
姫路瑞希は、心優しい少女だ。
決して、この生き残りをかけたゲームの中で殺戮の限りを尽くしたいわけではなかった。
決して、黒桐幹也を殺害してしまいたいと思ったわけでもなかった。
決して、アニメやゲームを現実と混同させる性格だというわけでもなかった。
悪意があったわけでもない。殺人衝動を秘めていたわけでもない。
狂気にまで昇華されたトラウマが、彼女をこのような行動に駆り立てたのである。

「こんなの……こんなのっ! こんなのいや……なっ……のに!」

封じ込めていた真実を全て把握した姫路は、恐怖に身を振るわせた。
人を殺したくない、と誓っていた。朝倉涼子の一方的な契約も破棄するつもりでいた。
それなのに自分は、一時の激情に身を任せて、何の罪も無い人間をぐちゃぐちゃにして殺したのだ。
狂気にまみれ、勝手に動く体。気付けば広がっていた血の海。自分が自分でなくなっていくようだ。

「……どう、して…………!」

襲い来る怖れによって全身の力という力が失われ、彼女はその場に倒れそうになった。
震え止まらぬ手からは、握り締めていたはずの血まみれの武器が勝手に地面へと落下。刃を下にして突き刺さる。
両目は再び焦点を失い、光を映していないかのような虚ろなものへ。
今にもくず折れそうな脚。その腿の辺りから感じるのは、水が流れているかのような感触。
朝が来て太陽が昇り始める頃だというのに、服装の所為ではないであろう寒気が襲い来る。

「だって、だって……わたし……わかってた、のに……っ!」

自分を助けてくれた青年が心優しいことはわかっていたのに。
それなのに自分は、その全てを否定した。
否定して、恐怖して、幻を重ねて。そして、殺した。
彼の全てを殺し尽くし、亡き者にしたのだ。

「嫌、あっ……嫌、嫌ぁ! 嫌ああぁあぁあぁあ!!」

再びの絶叫。更に手の痛みや脚の汚れ、体の震え等の一切を無視して彼女は逃亡を図った。
少しでも不安を取り除こうとデイパックを拾い、直視出来ぬ姿となった黒桐から離れる為に走る。
逃げなくては。こんな場所からはすぐに逃げてしまわなくては。
そうでなくては壊れてしまう。心が砕け散ってしまいそうで、狂気に飲まれそうで怖かったから。



残された黒桐幹也が独り静かに逝ったのは、丁度その頃であった。
だが彼女はそれを知る由も無い。


       ◇       ◇       ◇

255状態表の修整 ◆MjBTB/MO3I:2009/07/03(金) 01:37:02 ID:cfb.TsQk0

【E-3/温泉付近/一日目・早朝】

【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2、ランダム支給品1〜2個
     ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録
[道具]:
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:ごめんなさい。ごめんなさい。助けて。助けて。助けて。
1:朝倉涼子に恐怖。

※姫路瑞希がどの方角に向かったかは後続にお任せします。少なくとも温泉からは離れています。
※E-3の温泉付近にブッチャーナイフ@現実が放置されています。


【ブッチャーナイフ@現実】
 吉田一美に支給された。
 精肉業者が用いる特殊なナイフであり、形状は斧や鉈に近い。今回は前者の形状を意識している。
 食用の獣肉を切り分ける為に使用されており、一般ではあまり利用されることは無い。
 性質は日本刀の様な「斬る」ものではなく、西洋剣の様な「叩き切る」ものである。


【黒桐幹也@空の境界 死亡】

256 ◆MjBTB/MO3I:2009/07/03(金) 01:38:09 ID:cfb.TsQk0
スペースお借りしました。

257 ◆MjBTB/MO3I:2009/07/03(金) 01:46:54 ID:cfb.TsQk0
すみません、>>255で修整を失敗したので、再びスペースをお借りします。


【E-3/一日目・早朝】

【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:黒桐の上着
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
     ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:ごめんなさい。ごめんなさい。助けて。助けて。助けて。
1:朝倉涼子に恐怖。

※姫路瑞希がどの方角に向かったかは後続にお任せします。少なくとも温泉からは離れています。
※E-3の温泉付近にブッチャーナイフ@現実が放置されています。


【ブッチャーナイフ@現実】
 吉田一美に支給された。
 精肉業者が用いる特殊なナイフであり、形状は斧や鉈に近い。今回は前者の形状を意識している。
 食用の獣肉を切り分ける為に使用されており、一般ではあまり利用されることは無い。
 性質は日本刀の様な「斬る」ものではなく、西洋剣の様な「叩き切る」ものである。


【黒桐幹也@空の境界 死亡】


失礼いたしました。

258 ◆76I1qTEuZw:2009/07/14(火) 01:14:46 ID:oNeTrVd.0
すいません、本スレ>378の修正・差し替え版です。


【B-6/海沿いの倉庫街/一日目・早朝】

【両儀式@空の境界】
[状態]:健康。仮眠中
[装備]:狐の面@戯言シリーズ、伊里野のナイフ@伊里野の空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:狐面の男を殺す。黒幕がいるなら、相手次第だがそいつも殺す。
1:放送まで休んでおく。
2:黒桐幹也、黒桐鮮花と合流する?

[備考]
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
「伊里野のナイフ」は革ジャケットの背中の下に隠すように収められています。



【狐の面@戯言シリーズ(?)】
『人類最悪』こと西東天が被っていたものと、同じデザインの狐のお面。
OPにおいて彼が狐の面を被っていたことから、こちらは予備の一枚なのだろうか?
なんであれ、外見からは西東天の仮面と寸分の違いも見出せない。


【伊里野加奈のナイフ@イリヤの空、UFOの夏】
伊里野が普段、隠し持っていたナイフ。
原チャリを盗む際に使用している。おそらくは4巻で使用したのも同じナイフ。
作中ではその凶悪な外見が強調されており、おそらくは軍用のコンバットナイフであると思われる。
柄の所にはパラシュートコードが巻きつけてあり、また、背中に隠すように収納できる鞘とホルダーが付属。
伊里野加奈は、これを制服の下、背中の所に隠すようにして持ち歩いていた。

259396の差し替えです ◆UcWYhusQhw:2009/07/20(月) 03:55:56 ID:TZ28snAk0
「あーなんで、燃料が無いのよーー!」

日が昇り始めた頃、空港の格納庫に響く少女の大きな声。
少女――リリア――が一つの飛行機のコクピットの中で苛々とした声を上げていた。
理由は至極簡単で飛行機の燃料が一つも入っていないから。
その単純な理由がリリアをここまで怒らせていたのだ。
ぶすっとした表情でコクピットに深く身を沈める。

動くマネキンを排除した後リリアと同行者である宗介はマネキンを精査したが特筆すべき事は無く。
超常現象という一言で宗介は片付ける事はしなかったのだがリリアが理解できないものは理解できないという一言でマネキン調査は締めくくられてしまった。
結局マネキン騒ぎで手に入ったのはナイフ一つ。
そのナイフはリリアが護身用が持つ事になりマネキン騒動は終いとあいなった。

その後本来の目的である空港の調査となり、リリアは飛行機の燃料を調べる事になった。
リリアは満面の笑顔で燃料あったら運転していいと目を輝かせていったのだが結果はこの通り一つも燃料が無い。
リリアは落胆しながら、段々不機嫌になっていき今に至る。
要するに他の調査を宗介に丸投げして自分はコクピットの中でサボタージュ。
実に自堕落気味だった。

「はぁ……なんだかなぁ」

コクピットの中の椅子に全身預けながらただ天井を見ていた。
何だか心がもやもやして。
何だかすっきりしない。
宗介は頼りになる……と思う。
だけど、今の所脱出に関して何もメドは立っていないに等しい。
でも、自分は役に立ってもいない。
同じ頃自分の母親やその彼氏さん、ついでにあのヘタレも頑張っているかもしれないのに。
任せてもいいかもしれない。
でもそれは……結局の所解決にはならなくて。
ではその為に何をすればいいのか……リリアは考えて考えて。
結局思いつかない。
つまり……自分は流されて……

「リリア……君はそこにいたか。探したぞ」

リリアのとりとめも無い思考が低い声で急にかき消される。
リリアが顔を上げた先にいたのはあのムッツリ顔。
共に行動している相良宗介であった。
リリアは起き上がりやや不機嫌そうな顔で宗介を見る。

「何? どうしたの?」
「ああ、少し発見があったのだが報告しようと……」
「何、燃料があったの!? ねぇねぇ飛ばさせて!」
「い、いやそれは見つからなかったのだが……」
「……えー」
「露骨に嫌な顔を向けられても困るのだが」
「えー」
「……リリア、頼むから泣きそうな顔を向けられても……その反応に困る」
「ちぇ」

無いとは思ったが何となく腹が立ったのでリリアは宗介をからかってみる。
宗介の困っている顔にちょっと悪戯心が満たせた所でリリアはコホンと息をついて続きを促した。
宗介は少し溜め息をしながらもその発見したものを取り出す。

「これを発見したのだが……リリア、君宛なのだが……」
「何ー?……んーとーベゼル語とロクシェ語の混合文の手紙……随分面倒くさい事するのね」
「混合文?」
「……あー私は読めるわよー。うん、珍しいけどね」
「……?……いや、何だ、その言語は……?……俺は知らんぞ」
「……うん?……何って言われても……って?!」

260 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/20(月) 16:34:02 ID:7bYTDrQY0
「駄目駄目ですよ、姫ちゃんに嘘は通用しません。けど、どうして嘘がわかったのかぐらいは教えてあげます」
「――それはありがたいことです」
「何で嘘なのかといいますと、あなたが言ったSOS団の長門さんは姫ちゃんが図書館でバラバラに殺してしまいました」
「――何ですって?」
 古泉にしてみればあまりに信じられない告白。
 呆然とする彼をよそに紫木一姫の告白は続く。

「特別な力も何もあったもんじゃありません。さっきの人にも届きません。
そのくせつまらない希望なんかにすがろうとするのがあまりに見苦しくて、鬱陶しくて、姫ちゃんついつい殺してしまったですよ」
 そして、ここまで言ったところで、彼女の視線は古泉へと向けられる。

「超能力者さんがどういうつもりで姫ちゃんにデタラメを吹き込んだのかは知りません。
ですが、関係もありません」
 すう
 ここで彼女は小さく息を吸い込んだ。 

「――なぜなら」
 宣言と同時に、紫木一姫は、曲絃師はその指をつい、と動かす。

「――あなたの意図はここで切れます」
 彼女の意図に従って、糸は、古泉一樹を絡めとる糸が引かれる。
 
「――いえ、切れるのはあなたの糸です」
 だが、それより先に宣告は行われた。

「!?」
「――おっと」
 引かれた糸に手ごたえはなく、宣告以外には何の物音もなく、ただ古泉一樹は静かに廊下に着地していた。
 何の変化もないというわけではない。
 
 ――先ほどまで古泉一樹に絡み付いていた糸はその全てが焼き切れていた。
 ――そして古泉一樹の全身は淡い光に包まれていた。 
 その光は明るさこそ大きく劣るものの、つい先ほど彼が見せた光、超能力者の証明として見せた光球の色によく似ている。

「驚かれましたか?」
 再び余裕の態度を見せる古泉。
 その表情は先ほどまでと同じ胡散臭いほどの笑顔が浮かんでいた。

261 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/20(月) 16:34:49 ID:7bYTDrQY0
「僕たちの力は本来はあのような光球という形ではなく、このように全身を包むように発現するんですよ。
……まあ制限された今の状況下では、頑張ってみても火傷を負わせるのがせいぜいぐらいのエネルギーしか出ませんが……あなたの『糸』を焼き切るぐらいの力はありますよ」
 そう言うと同時に彼の全身を包み込んでいた光は、彼の手の先に集まっていく。
 小さく、集まっていくにつれその明るさはむしろ強くなっていく。

「そうそう、確か言っていましたね。同盟は決裂ですか、いや本当に残念ですよ。あなたの師匠とやらを殺さなくてはならないのが」
「あなたの嘘は通じないって姫ちゃん言いましたよ? 姫ちゃんさっきから一度も師匠のことは喋っていません。どうやって師匠を見つけるつもりですか?」
 自分の武器が通じないこの状況下。一姫はじりじりと窓に近付きながらも古泉の言葉を鼻で笑う。だが
「一つだけ忠告して差し上げますよ。次に他の参加者に出会った時、玖渚機関とはなんなのか尋ねてみてご覧なさい。きっと誰もわからないと思いますよ?」
「……は? あなた何を言って――」
 彼女が何かを言い終えるよりも先に古泉は光球を解き放っていた。


 一瞬の後、廊下に爆音が轟く。
 後には何も残っていない。
 小さい足音がどんどんと、この校舎から離れていく。

「やれやれ……」
 離れていく足音を確認すると、小さく息を吐き出し、古泉は廊下に腰を下ろした。
 ……さすがに疲労は大きかった。
 あの少女は化け物だ。軽く相手をしていたように見えても、真正面から対峙しているというただそれだけで、精神力は磨り減っていく。
 それに加えて、先ほどのような制限下では無茶といえる過剰な力の使用。
 いくら本来ほどの力が出ていないとはいえ、全身を一瞬で糸を焼ききるほどの力でカバーするのは少々負担が大きかった。
 さすがに休息が必要だった。

「……ですが」
 まだ休むわけにはいかない。
 紫木一姫は聞き逃せないことを言っていた。
 あの長門有希を殺した、と。
 もちろん普通に考えればありえない話だ。
 だが、嘘と笑い飛ばすには内容が内容だ。
 確認を取る必要があるだろう。

「あと……彼から彼女の情報を……」
 最初に出会った「彼」は確か北のほうへと向かったはずだ。
 彼から紫希一姫の大事な「誰か」の情報を手に入れておかなくてはならない。

 優先すべきはまずこの二つ。
 まずは――。

262 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/20(月) 16:35:58 ID:7bYTDrQY0
【E-2/学校/早朝】



【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、
[装備]:
[道具]:デイパック×2、不明支給品1〜3
[思考]:
1.涼宮ハルヒを絶望させ、彼女の力を作動させる。手段は問わない。
2.仮に会場内でハルヒの能力が発動しないとしても、彼女だけでも優勝させて帰す。
3.万が一ハルヒが死亡した場合、全ての参加者に『報復』し、『組織』への報告のために優勝・帰還する。
4.図書館にいって長門有希の死体を確認する? それとも北に向かったはずの「彼」(いーちゃん)の後を追いかける?
[備考]
 カマドウマ空間の時のように能力は使えますが、威力が大分抑えられているようです。


[備考]
 高須竜児の死体の傍に、
 支給品一式、グロック26(10+1/10)、包丁@現地調達、消火器(空っぽ)@現地調達
 がそれぞれ転がっています。




「どういうことですか? 玖渚機関を知らない人なんているですか?」

 ――玖渚機関。
 数少ない財閥家系の一つでその最上モデル。壱外(いちがい)、弐栞(にしおり)、参榊(さんざか)、肆屍(しかばね)、伍砦(ごとりで)、陸枷(ろくかせ)、染(しち)をとばして、捌限(はちきり)を束ねて政治力の世界を形成するそれは、一般人にも「財閥家系」としては知られる。
 
 それを誰も知らない?
 馬鹿馬鹿しいにも程がある。
 ――ただ。

(それにしてはあのうそつきの超能力者さんの態度は少し見過ごせないですよ)
 嘘と笑い飛ばすには不安がある。

 どのみち師匠の居場所を知っている人に、いつ出会うかはわからないのだ。
 ついでに尋ねてみてもたいした手間ではないだろう。
 先ほど入手したこの機械があれば、人に出会うのも難しくはないことだし。
 そうして先ほど学校で逃がした女が持っていた機械、人の居場所がわかるレーダーを一姫は取り出した。
 ひとまず、気配はないとはいえ、あの超能力者が追ってきていないかは確かめておいたほうが良い。

 かち


「……あれ?」

 かち

 かち

 かち

「ど、どうなっているですかー?」
 レーダーには何も映らない。

 元々島田美波が廊下へと落した時に緩んでいたカバーの金具。
 古泉一樹が放った光球から慌てて逃げ出した時に、窓枠にぶつけたレーダーからその衝撃で零れ落ちた電池のことを紫木一姫は気づいていない。



【E-2/早朝】

【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、裁縫用の糸(大量)@現地調達、レーダー(電池なし)
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発)
[思考・状況]
0:この機械はどうなっているですか!?
1:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
2:他の参加者に出会った時はいーちゃんのことの他に玖渚機関についても聞いてみる。
3:SOS団のメンバーに対しては?
[備考]
 登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。 
 現地調達の「裁縫用の糸」は、曲弦糸の技を使うにあたって多少の不備があるようです。
 SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。
 レーダーの電池の規格は必要ならば後続にお任せします。

263 ◆ug.D6sVz5w:2009/07/20(月) 16:37:05 ID:7bYTDrQY0
さるったのでこちらに
これで投下終了です。
ご迷惑をおかけしますが代理投下をお願いします。

264名無しさん:2009/07/20(月) 16:43:30 ID:qDxdAAW60
代理投下中、こっちもさるってしまいました……誰か続きをお願いします。
あるいは少し間を置いたらご自身でも出来るかも。

あと>>262が「改行多すぎ」と出たので、古泉の状態表の所で前後に分割してしまいました。
申し訳ない。

265名無しさん:2009/07/20(月) 17:24:03 ID:qDxdAAW60
代理投下終了しました

266修正版 ◆UcWYhusQhw:2009/08/04(火) 21:50:20 ID:Cx2S1Hr.0
夜空に明るく輝きを放っていた星が昇り始めた陽によって輝きを失おうとしていた頃。

小さな小さな子がただ一人の少女を見つめている。

星と陽に囲まれながら。

碧の瞳を持った子――ティーがただ見つめていた。

覚悟を問われた少女を。


その少女の背を。


その少女の行く末を。


傍観者の様に。


ずっとずっと見つめている。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






明け始めた空に靴音が静かに響いている。
空高くまで聳えるビル群の中を少女達は歩いていた。
ゆっくりと一歩ずつ、一歩ずつ。
少女――白井黒子――は南に向かう事を指針にした。
海の向こうにあるであろう、黒い壁を確かめる為に、なるべく高い所からそれを眺めたい。黒子はそう理由付けたのだ。
その為に摩天楼か灯台かに向かおう。そう理論付けて白井は歩を進めている。
黒桐鮮花を見失い、テレポートを駆使して探そうとは思えなかった。
それが心理的要因が有ったか無かったかは白井意外知る由も無かったが。

だが唐突に大きな鈍い音がビル街に響く。
その音は白井黒子が拳を壁に打ち付けた音。

白井黒子は悔しかった。
それは黒桐鮮花の言葉。
それは覚悟の有無を問う言葉。

その言葉に白井黒子は心を揺らされている。
黒桐鮮花の想いはどれだけ強く真っ直ぐなものだったのだろう。
想いの為に人を全て焼き殺そうと。
それは愚直かもしれない。
でも、とても純粋で、そして強固のようで。

全て問題を先送りしていたのもかもしれない白井黒子よりよっぽど強い覚悟だった。
迷っているのだろうかと白井は思う。
鮮花の強い覚悟に。
鮮花は兄の為に全力で、それこそ命を懸けてがむしゃらに生きようとしていた。
彼女の目は決意と意志に満ちていて。
それこそ、強い者の心だった。

267修正版 ◆UcWYhusQhw:2009/08/04(火) 21:51:14 ID:Cx2S1Hr.0
なら、自分はどうだろうと思う。
鮮花を拘束だけ終わらして、あまつさえ逃がして。
そんな自分は弱いのだろうか。
誰かを犠牲にせず、皆が助かる可能性を探す事は。
黒桐鮮花が言った自分達はもう負けているという事。
それなのに、皆を助けようとするのはただの甘えだけ。
弱い覚悟でしかないのだろうかと思う。

白井黒子はそんな脆弱な覚悟でこの島でたっているのだろうか?

ただの甘えで。
ただ選びたくないから?
ただ殺したくないから……?




バチンと強い音がその時響く。

それは白井黒子が自分の頬を叩く音。

そんなのものではないと白井黒子は強く言える。
甘えではない。
そうだ、自分にだって敬愛すべき相手は居る。

御坂美琴。

大切な敬愛すべきお姉様。
御坂美琴はこの島でどのような覚悟をするのだろうか?
……決まってる、解りきっている。
御坂美琴を知っている白井黒子だからこそ断言できる。

誰の犠牲も出さず、皆を護りきってみせる。

厳しく到底叶いそうに無いその選択肢を何の迷い無く選び取るだろう。
それは甘えから、流されて、殺したくないから?
そんな弱い考えで御坂美琴はそれを選び取らない。
本心から、自分の強い強い意志でそれを選び取るんだろう。

それが御坂美琴だ。

それが白井黒子が知っている、敬愛する御坂美琴だ。


ならば――――答えはもう出ている。


白井黒子がお姉様と同じ高みを目指す為に。
白井黒子がお姉様の手助けをする為に。

自らもそれを目指そう。

それはお姉様に倣おうとしたから?
それは弱い考え?


絶対に違うと言い切ってみせる。
白井黒子は強く思う。
これは手段でしかない。
白井黒子が同じ高みに上る為に自分が考えて選んだ手段なのだから。

白井黒子はその道を進む。
それは決して流された選択肢ではない。

確固たる自分の意志で。

白井黒子は変わらず、誰の犠牲もださず、皆を護りきってみせるという道を歩こうと誓える。

それは弱い覚悟なのだろうか?と彼女はは思う。
それは解らないと彼女は思い。

だからこそ。

ならば改めて覚悟をしなおせばいい。

268修正版 ◆UcWYhusQhw:2009/08/04(火) 21:52:03 ID:Cx2S1Hr.0
白井黒子が歩む道。
お姉様と同じ高みに上れるように。

強く強く誓えるように。

そして、それが己を更なる高みを上れるようにする為に。
そして、それがお姉様に逢える時に胸を張っていられるように。



白井黒子はその道を、自らの意志でその選択肢を選び取る。


白井黒子は笑った。

まずはこの隣にいる小さな子を護って見せようと。
その子の白い髪を白井はクシャクシャと撫でて上げた。

その白井黒子の笑顔に迷いは無かった。

あるとするなら、憧れのお姉様への……強い想い。











◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







ティーは撫でられながら少女を見つめる。
彼女は満面の笑みで笑っていた。

どうやら、彼女は答えを得たらしい。

それにティーは何故か満足し。

撫でられるのもたまにはいいと思って。


彼女も微かに……ほんの微かに。


笑ったのだった。




【E-5/北部/一日目・早朝】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
0:自分の意志でお姉様と同じ高みに上る為に『殺し合い以外の道』を選び取る
1:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
2:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
3:夜が明けてから、もう一度『黒い壁』が本当に存在するのかどうかを見てみる。その為に『摩天楼』か『灯台』にいく
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
※黒桐鮮花を『異能力(レベル2)』の『発火能力者(パイロキネシスト)』だと誤解しています。



【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×2、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:???
1.RPG−7を使ってみたい。
2.手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3.シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。

269 ◆UcWYhusQhw:2009/08/04(火) 21:53:50 ID:Cx2S1Hr.0
修正版投下しました。
修正点につきましては
1:時間を早朝に進めた事による黒子の移動と方針決め。
2:黒子の心理の修正。
以上です。お待たせしてすいませんでした。

270名無しさん:2009/08/08(土) 00:49:44 ID:2SSaoqC20
まだ放送に到達していないキャラが多少残っていますが、
第一回の放送案を仮投下したいと思います。

ですが、投下するからすぐ放送後に行こうと、そのような意図あってのものではありません。
ありませんが、放送前に「どうしても描写が必須である」キャラが減ってきたことも確かであり、

そういった状況を踏まえて「放送後に行くこと」を一つの選択肢に加えても良いのではないかと考えたためです。
放送案はあるがもう少し待ちたい、という意見が体勢であればもちろんそれに従うつもりです。

それでは、投下を開始します。

271第一回放送 ◆olM0sKt.GA:2009/08/08(土) 00:50:47 ID:2SSaoqC20
0

開き直るのはいいけど、じゃあどうするの?

1

よお。
また会ったな。
生き残っちまった連中、あるいは死に損えた連中か?まぁどちらでもいいが。
言っておいたよな、六時間ごとに放送で脱落した奴らの名前を教えてやるって。時間ぴったりだっただろう?
時間に正確であることを美徳とする論は俺にはもう一つ理解し難いものだが、指標とするには確かに便利だ。
ふん、直接相手の顔が見えねぇってのはどうもやりにくいな。面と向かって話す方が俺は好みなんだ。相手の反応が見えるしな。

その方が、《そいつの代えの効かなさ》ってのが計りやすい。こうやって一方的に声を聞かせるだけってのは、どうもな。
だが、それでもそいつが代替可能であるような取るに足らない存在かどうか、計ってみるのが全く不可能ってわけじゃない。
例えば、これから読み挙げる名前、つまりはさっさと脱落しちまった連中の名前だが、「さっさと脱落」したという事実そのものを以て、そいつらは物語にとって取るに足らない『その程度』に過ぎない存在だったと判断することもできるわけだ。
では、おまえ達の中で比較的《代えの効きやすい》連中の名前を発表しようーーという風にでも繋げておけば、導入としてはまぁ上々だろう。
実際は今思いついたことを喋っただけなんだがな。
まぁ、俺が事前に原稿を用意していようが、全部アドリブで済まそうがーーそんなことは同じことだ。

じゃあ言うぜ。聞き逃すなよ。
長門有希・・・・・・甲賀弦之介・・・・・・吉田一美・・・・・・高須竜児・・・・・・筑摩小四郎・・・・・・榎本・・・・・・黒桐幹也・・・・・・。
こんだけだな。
俺にとってはひたすらにどうでもいいことでしかない情報だが、まぁ悲しみたい奴は悲しめばいい。
この上で『生きていようが死んでいようがそんなことはどうでもいい』何て言葉重ねるのはさすがに陳腐過ぎるってもんだろ。
所詮俺は死んだ身、何て言うのも――ふん、出来すぎだな。

272第一回放送 ◆olM0sKt.GA:2009/08/08(土) 00:51:26 ID:2SSaoqC20

しかし、しかしだ。悲しむのに飽きたら代替品を探してみる。そういうのも悪くはないぞ。
お前にすれば掛け替えのない存在だと思っていた奴でもな、探してみれば意外といるもんだ。代替品《オルタナティブ》になり得る存在ってのはな。
顔だの性格だのが似てるって話じゃない。そんな簡単な話ではあり得ない。
代替品が代替品足り得るのは、物語上の役割が似ているからだ。
同じなんだよ――そいつに振られた役割、ポジションって奴がな。
ましてやこんな継ぎ接ぎだらけの箱庭ならなおさらだろうな。

おっと、最後に一つ連絡しておいてやる。
さっき言った脱落者だがな、お前達に渡した名簿に含まれていない連中についての情報はは『意図的に伏せてある』。
つまり、名簿に載っていない奴が死んでいるか生きているか、十人中何人が生きているのか死んでいるのか、そういた情報は一切教えてやらんということだ。
まぁ敢えて情報を付け足すならそういう奴はこの六時間だけでも『いる』んだが、そいつの名前を教えるようなことはしない。
何故か何て聞くなよ。いや、これについては聞いても無意味だと言ってるんじゃない。
聞かなくても分かれってことだ。
どうしても分からないってんなら解説してやらんでもないがなーーおい誰だ今『ツンデレ』とか言った奴は。
それとも俺の喋りが長すぎていい加減うざったくなってきたか?
そう言うな。ぶっちゃけ――暇なんだよ。
簡単に言うと意図は二つ。
『知り合いが死んでいるかもしれない不安を煽ること』と『正確な残り人数を知らせないため』だ。
配った名簿を見ただけでも何人か知り合いは見つかっただろう。それに『自分が勝ち取った椅子が本当に最後の一つなのか、座ってみるまでわからない』ってことがどういうことか分かるよな?残り時間がごく僅かになったと想定して見ろ。
蹴落とす人数が分かってるよりも分からない方が焦るだろ。
つまりはそう言うことだ。

273第一回放送 ◆olM0sKt.GA:2009/08/08(土) 00:52:21 ID:2SSaoqC20

さて、こんなところか。
俺が好き勝手してる間にも世界は着々と終わって行くしな。まぁまた六時間後だ。
じゃあな。
縁が合ったら――。
ん?
何だ。
ああ、ちょっと待て。
追加だ。
たった今、新しい脱落者が出た。
放送と同時に死んだ奴がいたんだな。どっちつかずなのがいるとこういう面倒なことになる。
別に次に回しても良かったんだが。
まぁいい。ついでだ。こいつの名前も伝えておく。
一回しか言わんからよく聞けよ。
いくぜ。

アリソン・ウィッティン"トン"・シュルツ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・。
何か違うな。
ちょっと待てよ。

アリソン・・・・・・ここは合ってるよな・・・・・・ウィッティ・・・・・・ウィッティン・・・・・・ああ、『ティン』と『トン』の間に『グ』が抜けてたんだな。だから字面と読んだ感じの間に違和感があったわけだ。
では改めて読み上げておくとするか。さすがに名前を間違えたままじゃ死者に失礼というもんだ。
いいか。
一回しか言わんぞ。
いくぜ。

アリソン・ウィッティン"グ"トン・シュルツ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・。

あ。
悪い。

『ウ"ェ"ッティングトン』だった。

めんどくせぇな。
ああ。
もういいだろ。とにかくアリソンも脱落だ。
まぁ、たとえ俺がカミカミだろうとそうでなかろうとーーそんなことは同じことだ。


じゃあ。
今度こそ、縁が合ったらーーまた会おう。

274 ◆olM0sKt.GA:2009/08/08(土) 00:53:00 ID:2SSaoqC20
以上で投下終了です。
内容も含めて意見等あれば、よろしくお願いします。

275 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 12:55:20 ID:zt.2hyAo0
いろいろ問題あると思うのでひとまず仮投下

276泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 12:59:39 ID:zt.2hyAo0
 ――殺し合いが始まってからもうじき六時間が過ぎようとしている。

 この舞台においてはすでに幾つもの命が理不尽に奪われた。

 長門有希が。
 甲賀弦之介が。
 吉田一美が。
 高須竜児が。
 筑摩小四郎が。
 北村祐作が。
 榎本が。
 黒桐幹也が。
 そしてメリッサ・マオが。

 その命を散らし。
 いまだ生き長らえてはいてもその心に深い傷を持ったものも数多くいるこの舞台の片隅。
 白く、白く、白く、白く白く白く白く白く白く白く白く病的なまでに白いその部屋で。

「ぐーぐー」
 数多の不幸などまるで意に介さずに青い少女は眠りつづける。

 この舞台に呼び集められた六十もの人間、その中でこの少女の心を動かしうるのはただ一人きり。
 それ以外の有象無象どもがどれほど苦しみ、またどれほど命を失おうとも、彼女の心が動くことなどはありえない。

 ――ならば逆に。
 少女の心を動かす一人がこの舞台でその命を散らせるようなことがあったとしたら。
 ……果たして少女はどうするのであろうか。

「んー。いーちゃんらぶー」

 じたばたじたばた。
 ごろごろごろごろ。

 そんな寝言を呟きながら寝相悪くベッドの上を転がる少女。

 そのベッドの脇には少女に支給されたデイパックが一つ、ぽつんと放置してある。
 眠る前に少女が中身を調べたそのデイパック。

277泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:00:15 ID:zt.2hyAo0
 調べた後はそのまま放置されたそのバッグはきちんと閉じられてはおらず、支給された「武器」さえも露出している。
 一見すると紺色のスーツケースに見えるその「武器」の正式名称は五号。

 水素爆弾を内臓した熱核兵器である。

 起爆させればこの舞台全てを容易く吹き飛ばすだけの破壊力を秘めた武器を傍らに置き、無邪気にして純真そして残酷な《暴君》は眠る。

『いーちゃんが私のものでなくなったらそのときは地球を破壊するよ。昔んときみたく、今度いーちゃんが私の前からいなくなるなら、そのときは、今度はもう駄目。いーちゃんが私のものじゃないんなら、私は誰も欲しくない。全部跡形もなく壊す。全部消し炭残らず殺す』

 かつて少女が混じりけなしの本心で言ったこの言葉。
 それを可能とするだけの力を側に少女は眠る。


 ……放送開始まであとわずか。

 彼の名前が呼ばれることがないと信じているのか、それとも呼ばれればすぐ気が付くから無意味なのか。
 時間を気にせず少女は眠る。 

 その寝顔はまったくの無邪気で、何の悪意もなく、あたかも子供のようで。

 ――ひどく残酷に、幸せそうな寝顔だった。 


 ◇ ◇ ◇

278泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:00:58 ID:zt.2hyAo0


 ここからの話はあるいは現のことかもしれない。

 ここからの話はあるいは誰かの夢なのかもしれない。

 ここからの話はあるいはただの絵空事なのかもしれない。


 それはあたかも箱の中の猫の生死。
 しれない事ゆえに正しいことかどうかさえあやふやで。
 誰にも知れないこと故に、誰にも影響を及ぼさず。

 だからここからの話は何ら舞台の中とは関わりのない――

 つまりはただの戯言だ。


 ◇ ◇ ◇

279泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:01:38 ID:zt.2hyAo0


 殺し合いの舞台。
 その片隅――というのは正しくなく。
 そこから隔離された空間――というほど離れてはいないそんな場所。

 だから……そう、言ってしまえばそこは舞台裏。

 殺し合いに巻き込まれた参加者という役割(ロール)を演じる者達には、その役割を演じつづけなければならない限りは決して立ち入ることができない場所。

 そんな舞台裏のさらに片隅。
 そこにかなり狭い部屋があった。

 広さは二、三人程度ならばまだしも、五、六人も入れば窮屈に感じる程度。
 部屋に明かりはついてはおらず、かなり薄暗い。
 おまけに部屋に窓も一切ついてはおらず、その代わりというわけでもないのだろうが壁の一面が巨大な、ほぼその部屋の端から端までを占める大きなスクリーンとなっている。

 とはいえ今はそのスクリーンは灰色一色。
 早い話が何も映ってはいない。

 また、そのスクリーンの両端には縦に15個、横に2個。
 左右合わせて計60のランプがついていた。
 ただし付いていたといっても、全てのランプに明かりが灯っているわけではなく、そのうち8個ほどの明かりはなぜか消えている。

 ふと、新しくランプが消えた。

「――あら」

280泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:02:30 ID:zt.2hyAo0
 
 部屋に女性の小さな声が響いた。
 よくよく見ればその部屋には人影が二つある。

 人影の内、一人は男性。一人は女性。
 詳しく言うなら、一人はその部屋の一角で退屈そうに座っている男性。一人はスクリーンの前に座っている女性。 
 もっと正確に言えば一人は狐のお面をつけた男、いわずと知れた西東天。そしてもう一人は――

「あら、また一人お亡くなりになられたようですよ。えーっと……メリッサ・マオさんですか。これで放送を前にして九人目の死者。狐さん、なかなか順調なペースですね」
 女性の言葉に狐面の男――西東天はつまらなそうに返事をする。

「ふん、『なかなか順調なペースですね』か。そんなことはどちらでも同じことだ。
それだけ死んだことで、残りのやつらは慎重に動くようになるかもしれん。
それだけ死んだことで、復讐やらあだ討ちやらに燃えるやつらが大量に出てくるかもしれん。
順調かそうでないかなど――終わってみんことにはなんとも言えんさ」
 その返事に女性は微笑み、

「確かにそうですね。でもまあ私にとっては狐さんの言葉を借りれば順調だろうがそうでなかろうが同じ事、ですよ。――私としてはまた狐さんとご一緒できるだけで十分ですから」
 そう爽やかな笑顔で言う。
 しかしその言葉にかえって不機嫌そうに人類最悪は文句をこぼした。

「ふん、むしろそのことに関しちゃあ、俺は正直お前にはすまんと思っているんだがな。まったくあの時あんなことを言っておきながら、木の実、お前とここまであっさりと再会せざるを得なくなるとはな。ふん、われながら格好がつかんにも程がある」

 ……木の実と、西東天はそう言った。
 彼からそう呼ばれる存在はただ一人。
 
 ……一里塚木の実。 
 《空間製作者》にして西東天が世界を終わらせるために用意したメンバー十三階段の二段目。図書館で詩集でも読んでそうな、真面目で上品そうな外見の女性ではあるが、殺し屋匂宮出夢曰くかなりエグイ性格。
 また西東天にかわり十三階段の現場活動を統括しており、彼をして「裏切らない」と言わしめる程の女性である。
 しかし戯言使いとの戦いの果てに、他ならぬ西東天自身の手によって十三階段は解体され、その折に彼女もまた彼の命に従って彼の下を離れたのであったが――

281泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:03:07 ID:zt.2hyAo0

 《人類最悪》西東天。
 この殺し合いにおける司会進行役たる彼にはこなさねばならないさまざまな雑事があった。
 それは例えば、六時間ごとの放送や、それまでの脱落者――死亡者のチェック。その他にも書く参加者を適当な位置にばらしてスタートさせるための位置の指定や支給品の整理等々。
 雑事ゆえにその数は多く――面倒になった彼は雑事をこなす、そのための人手として一里塚木の実を呼び寄せた。

 《人類最悪》西東天。
 ……彼のいうとおり格好がつかないにも程がある。


「……ふん」
 ここで何かを思い出したのか、西東天は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
 それに気付いた木の実が彼に声をかける。
「……どうしたんですか?」
「しかし『アイツ』も頑固な奴だと思ってな。どうせお前が俺を手伝うことを許可したというならば、わざわざ俺に何かをさせる必要もなかっただろうに」
「――ああ」
 そのことですか、とばかりに彼女はぽんと手を合わせる。 

「私が狐さんのお手伝いをすることを許すための条件が『決して私の存在を表に出さないこと』でしたからね。
『あの人』にも、いえ『あの人たち』と言うべきでしょうか。きっといろいろ理由があるのでしょう」
「ふん、『あの人、あの人たち』か。 そんなことはどちらでも同じことだ。今までも、そしておそらくはこれからも俺たちの前に現れるのは『アイツ』ただ一人だけだろう。奴に部下やら仲間やら上司やら黒幕やらがいるかどうかは知らんが、どうであれ真心や出夢の奴が俺の手札にない以上は物理的に手の出しようがない」
「……ですね」
 その言葉に彼女も同意する。

 ……そして部屋にわずかの間、沈黙が落ち、

「狐さん、そういえば本当にあれでよかったのでしょうか?」
 木の実は西東天に問い掛けた。

「……? あれとはどれだ」

282泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:05:26 ID:zt.2hyAo0
「《暴君》への支給品のことです。本当に彼女にあんなものを支給して宜しかったのでしょうか?」
「ふん、奴以上にあれが似合う参加者などいるか。せいぜい次点に《戯言使い》や《人間失格》が並ぶ程度だろう。……大体あれを用意したのは『アイツ』のほうだ。本当にあれに問題があるとするならばそもそも最初から用意せんだろうよ」
「……それは、まあそうですが」
 頷く木の実に彼は言葉を続ける。

「それに奴の指示したとおりのことは決めたりはしてやったんだ。ならばそれ以外のことに関しては、ある程度こちらの好きにやらせてもらったところで文句をつけられてたまるかよ」
「狐さんがそうおっしゃるのでしたらよろしいのですが……」
「……ふん」
 そう言うと西東天は身を起こした。

「どうしました?」
「少し喉が渇いた。面倒なことではあるがもう少しで放送だからな、それまでに何か飲もうと思ってな」
「あら、私が用意しましょうか?」
「いらん」
 そうして彼は歩き出し、何かに足をとられてバランスを崩す。

「うお?」
「狐さん、大丈夫ですか?」
「構うな。しかし……なんだこれは?」
 バランスを崩した西東天の声を聞いて、振りむいた木の実は慌てて駆け寄ろうとした。
 それを止め、彼は自分が躓いたものを拾い上げる。
 
 ――それは一つのデイパックだった。
 デザインなどからほぼ間違いなく、彼らが、というかほぼ木の実一人で準備した、殺し合いの舞台に支給された4次元デイパックである。

「おい、木の実。『アイツ』は予備でも置いていったのか?」
「いえ……おかしいですね。用意されていたのは間違いなく60丁度だった筈ですが……」
 首を振りながら木の実も西東天の側にやってくる。

「中身は、と……何だこれは」
「あらそれは」 
 ずるり、とデイパックの中から取り出されたのは色鮮やかなチャイナ服やメイド服など。そして一冊の薄っぺらな書類だった。

283泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:06:16 ID:zt.2hyAo0

「えーっと、これは文月学園文化祭制服一式詰め合わせと支給品一覧表ですね」
「そんなのは見りゃわかる。問題は何でこいつがここにあるのかだ」

 ――そうして一瞬、部屋に嫌な沈黙が落ちる。

「木の実。こいつは本来どいつに支給するはずだった代物だ?」
「は、はい! ええと確かメモはあそこに……」

 慌しく木の実は動き出す。
 ――ややあって、

「あ、狐さんありました! ええとですね。本来この組み合わせを支給されていたはずの参加者は――」


 ◇ ◇ ◇

284泡沫の幕間劇 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:06:53 ID:zt.2hyAo0


「うにー」
 玖渚友は身を起こすときょろきょろと辺りを見回した。

「んー……何か変な夢でも見ていた気がするー。僕様ちゃんとしたことがいーちゃんが来る前に目を覚ますなんてね。…………あーでも放送までもう少しか。どうしよう、ちょっとだけがんばってみようかな。
……うにー、けどやっぱり眠りたいー」



【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・深夜】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
 基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
 1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
 2:んー、けど放送ぐらいは聞いてもいいかも
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。

285 ◆ug.D6sVz5w:2009/08/21(金) 13:09:42 ID:zt.2hyAo0
投下完了……っと一点だけミスをやらかしてました。
時刻は深夜→早朝です。

286 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/01(火) 23:47:21 ID:QxQJofwk0

【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(16/20)
[思考・状況]
1:当面、インデックスに付き合って、山または天文台を目指す
2:人識に対して不信。
3:登って来る彼らに対しては――?
[備考]
※封絶使用不可能。
※D−4ホールでのステイルの宣言は、部分的にしか聞き取れませんでした。大して重要視していません。
※自分を含めた、一部(あるいは全て)の参加者が「コピー」である可能性を疑っています。
※『とある魔術の禁書目録』の世界の魔術サイドについて、基本的な知識を得ました。

【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、シズのバギー@キノの旅
[思考・状況]
基本:島田特派員と共に精一杯情報を集め、平和的に園原へと帰還する。
1:「彼ら」と交渉。可能ならば情報交換や協力したい。
2:当面は島田美波に付き合って、人探し。
3:間接的な情報ながら、『涼宮ハルヒ』に興味。

【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、服が消火剤で汚れている、シズのバギーの助手席に搭乗中、精神疲労(中)
[装備]:大河のデジタルカメラ@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:水前寺邦博と行動。吉井明久、姫路瑞希、逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨と合流したい。
1:も う い や
2: 逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の三人を探して高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
3:竜児の言葉を信じ、「全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒ」を探す。

287 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/01(火) 23:50:01 ID:QxQJofwk0
最後の最後でさるさん。本当最後まで駄目でした……
多数のご支援に感謝。
さしてだらだらと長引かせた拙作を、許して待ってくれた住人様の全てに多大な感謝を

288第一回放送――(1日目午前6時)  ◆EchanS1zhg:2009/09/09(水) 01:45:34 ID:dx6FBCnI0
 【0】


Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.


 【1】


終わらせる為の始まりよりもうすぐ四半日。
人類最悪と名乗ったあの狐面の男はやはりか、または意外にと言うべきか、あの場所に座したまま、ただ傍観を続けていた。
固い床に一枚の座布団を敷き、その上に胡坐をかいて物語を読み逃すまいとじぃ……とそれを見続けている。

彼の目の前には”箱”があった。
あの”箱”である。今現在、世界の端という文面を右往左往している登場人物達。彼、彼女達が最初に入っていた箱がそこにあった。
円を描いてぐるりと囲うように並べられていたそれは、今は向きを同じに横に10箱、縦に6箱と積み上げられ一面の壁となっている。
彼、彼女達が覗き込んでいたガラス面を前にし、そして今はそこに世界の端の上での彼、彼女達の姿を映し出していた。

「――ふん」

マルチモニタとなった”箱”を前に狐面の男は息を漏らす。
映像を映し出すガラス面の内、8つ程がすでに登場人物を映すことを止め、ただの真っ暗なものへと戻っていた。
それは、そこに映っていた者の物語が潰えたという意味で、そして今また彼の目の前でひとつのガラス面が色を落としてしまう。

「確かに多少は煽りはしたが、しかし俺は生き残れと言ったのであって、生き急げと言ったわけではないのだがな。
 蜘蛛の糸――か。ふん。
 最近の若い奴らは専らライトノベルばかりで芥川龍之介なんかは読まない、か。尤も、俺もあんなものを面白いとは思わんがね」

狐面の男はぐるりと登場人物達の生き様を見渡し、ふむと頷く。
悲しみに暮れる者。今は安堵している者。切羽詰っている者。そうでない者。すでに死んだ者を含めて、それ相応の物語がそこにあった。

「しかしまぁ、ただ読ませてもらっているだけの身としては退屈することもないが故にここは奴らに感謝すべきところか。
 尤も、いつかは頁を捲り終える時が来るならば、その過程がどうであろうとも同じことではあるが――」

いくつかのガラス面がぱぁ、と明かりを強くする。世界の端に初の夜明けが来たのだ。
真白い朝日は登場人物達と世界をくまなく照らし、そしてそれはモニタを通して世界の外で傍観する狐面の男の元へと届く。
狐面の男は着物の袖を捲くると細いがしっかりした腕に巻かれた時計を確認した。
後、長針が何周かしたら午前6時。つまり、これから彼が持つ唯一の仕事である放送の、その第一回目が始まるということである。

「約束を反故にする理由もなければ面倒というわけでもない。
 ただ少しばかり億劫ではあるが、どうせやらねばならんことならどちらでも同し。となれば、やはりサボる理由はないか」

狐面の男は久しぶりに立ち上がり、その長身痩躯にモニタの光を浴びる。
見れば、モニタの中の人物達も何人かは彼の放送を待ちわびているようだった。

さて、では、丁度6時を迎えるということで狐面の男は放送を開始しようとし、それに、気がついた。

「……おいおい。初っ端から面倒なことになっちまいやがったな」



アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。彼女を映す窓が消える間際の蝋燭の火のようにチラチラと、明滅し始めていた――。

289第一回放送――(1日目午前6時)  ◆EchanS1zhg:2009/09/09(水) 01:46:09 ID:dx6FBCnI0
 【2】


第一回放送――(1日目午前6時)


『――聞こえているか? 言ったとおりに放送を開始する。
 今回も俺は同じことを繰り返し話したりはしないので聞き逃しをしないようよく注意しておけよ。

 では、お待ちかねの耳を閉じたくなるような脱落者の発表をしよう――と思っていたが、
 その前に少しだけ別の話をしてやろう。後でもかまわんが、そうなると聞いてもらえるかわからんから先にすることにする。
 まぁこれもお前達にとっては意味の薄くない情報だ。内容の吟味は任せるが、取り合えず聞いておくといい。

 さて、その内容とはお前達が少なからず感じている違和感の正体について、だ。
 お前達の中には、普段なら簡単にできることができない。または十全にできない。逆にできないはずのことができる。
 などと感じている者がいることだろう。
 魔法や、超能力や、忍法やら、果てには殺人技術やらとまぁ……そういう少し普通じゃあない部分に関してのことだ。

 出会った他人といくらか話したり、徒党を組みそれを仲間などと称して情報を交換し合っている者達にはすでに自明のことだと思うが、
 この世界の端に集められたお前達にとっての”元の世界”というのは必ずしも同一ではない。
 それぞれが別の世界。つまりは別々の物語でそれぞれの役を演じていた登場人物であったというわけだ。
 だが、そのこと自体については今は深く考える必要はないだろう。
 問題は、別々の世界。物語――文法。故に、そこに齟齬や矛盾が生じるということ。

 解りやすく、この世界をひとつの水槽だと例えるならば、
 今はその中に淡水魚と海水魚と、更には爬虫類やら両生類やらなんかを一緒くたに放り込んでいる状態と言える。
 そのまま放置すれば、それぞれは滅茶苦茶な環境に耐えられず時間を置かずして死滅していますだろう。
 なので、この世界自体が、お前達全員がそれなりに生きてゆけるようにと調整をしているというわけだ。
 海のものも、川のものも一緒に生きていられるようにと、な。

 その調整の結果。
 特に能力の秀でた……つまりはここにいる中で”異端”と判断されたものはそれを抑えられるということになっている。
 逆のパターンもありえるが、まぁそれらについては心当たりのある者が各自そうだと認識してくれ。

 実際にはそう単純なものではないが、大まかに言うと理屈としてはこんなところだ。
 何が言いたいかと言うと、別に何が言いたいわけでもなんでもない。
 ただ、お前達が無駄なことに時間を費やさないように口を滑らせているだけだ。
 口を滑らすついでにもうひとつだけ言うと――

 ”海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り。”

 ――この言葉の解釈はお前達に任せることにしよう。



 さて、少し喋りすぎたな。そろそろ脱落者を発表してやろう。

290第一回放送――(1日目午前6時)  ◆EchanS1zhg:2009/09/09(水) 01:46:44 ID:dx6FBCnI0
 ”長門有希”
 ”榎本”
 ”黒桐幹也”
 ”甲賀弦之介”
 ”筑摩小四郎”
 ”吉田一美”
 ”高須竜児”
 ”アリソン・ウィッティングトン・シュルツ”

 以上、8名に加えて、

 ”メリッサ・マオ”
 ”北村祐作”

 この2人を加えて、計10名が今回の放送までの脱落者だ。
 最後の2名については、気付いてはいると思うが配った名簿には載っていなかった登場人物だ。
 必要だと思うのなら各自、名簿にその名前を書き足しておくといい。全く無意味なこと、ではないだろう。

 このように、脱落したならば他と同じように名前を呼ぶ。
 逆に言えば、脱落するまでは名前は伏せておく。
 自分がいることを知られたくない……などと言う者もいる、かも知れないからな。

 では、今回の放送は以上だ。次回は6時間後の正午丁度に行う。
 気が向いたらまた何か解説してやらんでもない。
 何故なら、お前達が無為な事に時間を費やしているのは見ている方としてもつまらないからだ。

 では、縁があったまた会おう――』


 【3】


放送を終え、狐面の男はどことも知れぬ場所で深く息をつく。

「全く、考えてもなかったことをベラベラと喋ることとなってしまった。とんだリップサービスだ」

狐面の男はひとつのモニタを忌々しげに見やる。

「”ギリギリ”……か。それを想定していなかったとは、俺としては考えられんケアレスミスだな。
 とりあえず、今回はなんとか凌いだが……。
 ふん。”気が向いたらまた何か解説してやらんでもない”か。全然、凌ぎきれてねぇじゃねーか……」



アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。彼女を映していた窓は、今は暗く静かに、もう何も映してはいなかった――。

291 ◆EchanS1zhg:2009/09/09(水) 01:47:29 ID:dx6FBCnI0
以上、放送案の投下終了です。ご検討よろしくお願いします。

292 ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:06:57 ID:rTrnueHM0
すいません、少し遅れました。
寄生虫なので此方で投下を始めます

293What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:08:42 ID:rTrnueHM0
「…………え?」

朝日が既に高くまで昇った6時を境に流れた放送。
街の路上を進んでいた二人の少年少女は歩みを止め聞き耳を立てていた。
その放送にいの一番に呼ばれた名前に未来から現れた少女、朝比奈みくるは驚きの余り動きを止めてしまった。
破れかぶれのメイド服を抑えていた手を思わず離し、そのまま顔を覆ってしまう。

自分が所属するSOSの団員長門有希。
そして、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースであった彼女が。

「…………亡くなった?」

死んだのだ。
その告げられた事実がみくるにはただ信じられなくて。

「えっ?……ふぇ?…………え?……」

驚愕がみくるの心を支配していく。
みくるが知る長門有希は少なくとも簡単に死ぬような人物でないはず。
情報思念体が使わした対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースはみくるが知る限りでも万能に近かったのだ。
事実、彼女の力によって問題が解決していった事が幾つもあった。
その彼女が事もあろうか一番最初に呼ばれてしまったのである。

「嘘……そんな…………」

ただ、信じられなかった。
哀しみより驚愕がみくるの心を侵食していった。

「長門さん…………嘘……ふぇ…………」

長門有希の死亡。
それはSOS団の朝比奈みくるだからこそ。
長門有希の万能さを知っているからこそ。
彼女と接しているからこそ。

「そん……な……」


朝比奈みくるはただ、驚くしかなかった。


「…………大丈夫か」

そのみくるに対して声をかける少年――土屋康太。
彼は眼鏡をかけ直しながら心配そうにみくるに近寄る。

「……あ……ああ、はい。びっくりしたけど大丈夫です」

みくるはそんな彼の気遣いに気丈に笑いながら応えた。
彼を心配させてはならない、その一心で。
内心を悟られないように無理に笑ったのだった。
みくるの誰が見ても無理しているような仕草に土屋康太は無表情のまま、でも心配するように

「…………辛かったらいつでも言えばいい」

そう声をかけ、みくるを見つめている。
ただ、見つめている。
そんな彼の心遣いにみくるは顔を朱に染めて手をばたばた振りながら言う。

294What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:09:50 ID:rTrnueHM0
「ありがとうございます。わざわざ私の心配をしてくれて」
「…………どうと言う事は無い」
「ありがとうございます」

謝辞の言葉を述べてみくるはお辞儀をする。
彼の心遣いに感謝しながら。
余りにも予想外の出来事に気が動転しそうだったのを抑えてくれたから。
心からの感謝の意を籠めて彼に送った。


……最も土屋康太の目論見はそれだけではないのだが。

(…………グッ!)

土屋康太ことムッツリーニは心の中で指を立てる。
それは今も稼動しているこの眼鏡式のビデオカメラ。
そのカメラにみくるの溢れんばかりのボディを接近してとれた事。
しかも、服の切れ間からみれる柔肌。
余りのエロさに鼻血が噴出しそうだったがそこは我慢。
ただ、我慢してなるべく長い時間接近して映像を写すことが出来た。
その事に自ら賞賛を心の中で与えたのだった。



…………だから、土屋康太は気付いていない。

朝比奈みくるは驚きこそしたものの『哀しみ』すらしなかった事を。
あの長門有希がこんな早くに命を落とした事に驚いただけで。
長門有希の死に対しては哀しみすら見せなかった事に。
むしろ長門有希を屠る事が出来る人物が居た事にも驚いていた。
また長門有希を失った事でこの場所からの脱出方法が難しくなったと言う所まで推測できる。
正直、これからどうすればいいか解らない。
長門有希無しで果たしてこの殺し合いから脱出できるのだろうか。
また、それは可能性的に高いのだろうか。
その答えはもう闇の中でみくるには判断できない。

それほどまでに長門有希の存在は大きかったという事。

だけどそれまで。

その驚きで気が動転しそうになったが、それまで。

朝比奈みくるは長門有希に関して想いを巡らす事をやめた。


そんな様子で二人はあってるようで微妙に噛合ってなかったのだった。

295What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:11:26 ID:rTrnueHM0


「ふもーーーーーーーーーー!!!!」


突如、響く奇声。
放送の余韻に浸っていた二人を容赦なく現実に帰す声。
二人が振り返った先に見えるものは


「ふぇええええええええええええええ!? な、何なんですか!?」

緑色の帽子、赤い蝶ネクタイを纏った黄色い動物のような化け物。
みくるにとって未知の生物らしき存在がふもふも叫びながら突撃してくる。
白髪の少女に襲われた時よりある意味衝撃で腰を抜かしそうだった。
みくるはそのまま後ずさりを始め化け物から離れようとする。

「…………下がれ」

そのみくるを庇う様に前に出たのは土屋康太。
ロケット弾を肩に担ぎ化け物に向けている。
何かあれば、即座撃つつもりであった。
勿論、みくるへの好感度稼ぎもかねて。

「ふ、ふも!?」

逆に驚いたのは化け物の方。
向けられた銃口に何か脅える様に後退りを始めている。
そして二人、特に土屋康太に向かって見つめるように眼差しを向けていた。

「ふもっ! ふもっふ!」

手振り身振りで何かを言おうとしている化け物。
みくる達はその意外な行動にきょとんとして逆に戸惑ってしまう。
その様子にみくるは勇気を振り絞って尋ねる。

「害を与えるつもりはないんですか?」
「ふも!」

力強く頷く化け物。
ついでに手を上げて無害をアピール。
みくる達は互いに顔を見合わせて

「え、えと……どうします? 土屋くん、解ります?」
「…………解らない」
「ふ、ふも〜〜〜……」

296What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:13:00 ID:rTrnueHM0
首を振った。何かを伝えたいのは解るがさっぱり解らなかった。
二人はお互いに首を傾げ悩むばかり。
その様子に化け物は落胆した様子でいじけ始める。
みくるはそんな仕草を見てちょっと可愛いなと思ってくすっと笑ってしまう。
とはいえ、状況的には膠着し何も解決にはなっていなかった。

「…………困った」
「困りましたねぇ……どうしましょう」
「ふも……ふも……」

三者三様、互いに困った風に首をかしげる。
考えても、考えても解決するものでもない。
そもそも、言葉が通じないのだから理解しようがない。
まさに頭を抱え込みたいような状況になりかけていた時

「…………やっと追いついた。何を見つけたか知りませんけど駆け出さないでください、吉井さん」

現れたのは黄色のくすんだコートを纏った中性的な整った顔たちをした人。
少しうんざりとした様子で吉井と呼んだ化け物を睨む。
そして、みくる達に気付き話しかけ始めた。

「…………っと、貴方達は?」
「あ、朝比奈みくるです」
「…………土屋康太」
「……どうも、ボクはキノです。とりあえず害は与える気はないので。えっと彼は吉井明久さんです。今きぐるみの中ですけれども」

簡単な名乗りとついでに化け物――吉井明久の紹介をしたキノ。
キノは気だるそうに彼らを見て顎に手をを乗せ何かを考え始めていた。
そんな時だった。

「…………吉井明久?」

普段はむっつりした表情の土屋康太の顔が驚きに変わったのは。
それは聞きなれた名前が聞こえたから。
しかも、その人物が熊だかネズミだかよくわからない化け物に変わっている。
驚きと不思議が彼の心を染めていく。

「ふもっふ!」

反応する化け物もとい吉井。
何か変なポーズをとり存在をアピールし続ける。
どうやってこんな姿になったかは知らないがとりあえず吉井である事が判明した。
土屋康太はそんな吉井を見続け、そして

「…………馬鹿だ」
「ふもっ!?」

ただ、そう一言だけ呟いた。
過剰な反応をしてへこんでいる吉井もとい化け物。
そんな様子に大きな溜息をキノは吐きながら

「知り合いですか?」
「…………(コク)」
「……ああ、だからいきなり駆け出したんですか、なるほど」
「ふも!」
「……で、再会したのにまだ脱がないんですか?」

吉井が駆け出した理由をキノは理解したが新たに発生した疑問が一つ。
それは何故彼が未だにきぐるみを脱がないかという事。
キノは頭を抱えながら吉井に尋ねる。

297What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:14:16 ID:rTrnueHM0

吉井が駆け出した理由をキノは理解したが新たに発生した疑問が一つ。
それは何故彼が未だにきぐるみを脱がないかという事。
キノは頭を抱えながら吉井に尋ねる。

「ふも、ふもふも、ふもっふ!」

それを吉井は身振り手振り鳴き声で説明する。
だけど当然の事ながら3人に伝わらず困惑するばかり。
首をかしげ吉井を見つめている。

「ふも! ふも!」

吉井は必死に身振りを大きくするが全く伝わらない。
キノと土屋康太は顔を見合わせ、

「解りますか?」
「…………(ふるふる)」
「ですよね」
「ふも〜〜〜〜〜……」

落胆する吉井。
その姿を見てみくるは傾いていた首を更に傾け。
そして、何かが解った様に頷き

「…………もしかして脱がして欲しいんですか?」
「ふもっ! ふもっ!」
「やっぱりそうだったんですか〜何となくそんな気がしたんです」

大きく頷く吉井に会心の笑みをみくるは浮かべて喜ぶ。
その極上の笑みに土屋康太の心は癒されながらもどうして解ったんだろうと疑問が浮かぶ。
それはキノも同様で不思議そうに呟く。

「…………なんでわかったんでしょうね」
「…………さあ」
「……まぁいいか。脱がせましょう。手伝いお願いできますか?」
「…………(こく)」

互いに頷きあって吉井の下に向かう。
そして互いに息を合わせて吉井のきぐるみの頭の部分を一気に外した。
その瞬間

「あーーーーー苦しかった! 暑い!」

現れた極普通の少年で額に沢山の汗がにじんでいる。
そして、きょろきょろ辺りを見回して、そして左側に居る少年を見つけて。

「会いたかったっ! ムッツーリニ!」
「…………苦しい」

土屋康太ことムッツリーニに強く抱きしめたのだった。
吉井にとってまさか彼が名簿外の十人に含まれているとは思わなかった。
でもこの殺し合いの場で、生きて出会えた事、それはとても幸運で嬉しい事には違いなかったから。
だから、この久し振りに会った少年に喜びを露にして抱きしめる。
土屋康太も無表情ではいるが心のそこでは再会を喜んでいた。
こんなにも早く出会えた事は幸運の何者でもなかったから。

だからこそ、互いに再会を喜びあったのだった。

298What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:14:54 ID:rTrnueHM0
それをみくるは微笑ましげに見つめ。
キノは呆れたように見ていた。

こうして、一騒動の後に彼らは再会を果たしたのだった。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






色々あったけど、僕らは無事、ムッツリーニと合流する事ができた。
ついでにあの可愛らしくも忌々しい着ぐるみも脱ぐ事がやっとできたしね!
今はムッツリーニの提案に乗って病院に向かってる所だ。
本当は南下する予定だったんだけど実に魅力的な提案だったから僕もその通りにした。
なんたって……

「ナース……」
「ふぇ……どうかしましたか?」
「い、いえ、別に! 決して妄想してたわけじゃありませんからっ!」
「……ふ、ふぇ?」

不思議そうに首を傾げる朝比奈さん。
危ない、危ない。妄想していた事を口に出しそうだったよ。
しかし、こんなむっちりな子と一緒にいたなんて羨ましいね、ムッツリーニ。
僕はムッツリーニを横目で見るとグッと親指を立てやがった。

この野郎と思ったけどまあいいか。
なんたって病院にいく目的は朝比奈さんのナースを見るためなんだからね!
乗らない訳にはいかないから!
それを提案したムッツーリニに多大なる拍手を送りたいぐらいだ。
簡潔に一言『…………ナース』と呟いただけで意図も汲めたし!
持つべきものは友達だよ、やっぱり。

299What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:15:34 ID:rTrnueHM0
……だけど、気がかりといえば余り木野君が乗り気でなかった事だ。
今は渋々後ろをついてきている感じだけど、最初は護衛の役割をここで打ち切っていいかと提案してきたんだ。
僕とムッツーリニが合流できたのもあっての提案だったけど、その提案を僕は蹴った。
折角ここまで一緒に着たんだんだし、折角気もあったんだから一緒にいこうよとね。
朝比奈さんも乗ってくれて、木野君は本当に渋々という感じで付き合ってくれた。
うん、気の合うもの同士が行動する……こういうの呉越同舟(本来の意味は仲の悪い者どうしが同じ所に居合わせたり、行動を共にしたりすること)というけどいいもんだ。

でも、放送の件で姫路さんが呼ばれなかったのは本当によかった。
他にも色々言っていたけどその事柄だけは本当安心したんだ。
ムッツリーニと合流できたし早く姫路さんも合流しないと。
姫路さんは僕が護らなきゃ!

そんな決意を改めてした所で僕達は目的地である病院に辿り着く事が出来た。

「……ひゃあ……大きな病院ですねぇ」
「…………ここに目的のものがあるはず」
「うん、そうだね楽しみだねムッツリーニ!」
「………………(ぐっ!)」
「……何でそんな無駄にに気合入っているんですか。いきますよ」

木野君は盛り上がる僕らを冷ややかに一瞥し大きな赤い十字が掲げられてる病院の入り口まで先導し向かう。
どうしたのだろう? 放送を聴いてから余り機嫌がよくないようだ。
僕は不思議に思いながら彼の背を追った。
そして自動ドアの前に立って自動ドアが開けかかった瞬間、木野君が声を張り上げ

「……っ下がって! この匂いは……!」

僕達を急いで下がらせた。
僕はよくわからないまま木野君の指示に従い入り口から下がっていく。
木野君は僕達を下がらせた後、病院のガラス、自動ドアなど、割られるガラスに大きな石を投げて次々割っていた。
僕はこの行為を不思議に思いながらただ、木野君を見ている。
……一体何が起きたんだ?

やがて木野君も戻ってくる。
そして、皆、無言の時間が続いた後暫くしてから木野君が立ち上がった。

「……よし、もういいでしょう」
「……あの何があったんですか?」
「有毒な匂いがしましたから……何かの毒ガスの類でしょう」
「ど、毒ガス!?」
「ええ。まぁもう空気に流れて大丈夫なはずです」

300What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:16:29 ID:rTrnueHM0
木野君が淡々といった事に僕は驚くばかりだった。
木野君は何か場慣れしているような感じで、対応もなれたものである。
……凄いなぁ木野君は。

木野君は何事もなかったように歩き出し病院の入り口からはいっていく。

「さて、行きましょうか。もしかしたらここで何かあったかもしれません」
「ま、待ってよ木野君!」

僕達は慌てながら、慣れた様子で戸惑う事無く行動する木野君の後を追った。
そして綺麗に整った病院のロビーに入り僕が見たのは

「ひっ…………?!」
「ふぇ!?」
「…………っ!?」

倒れ伏せる中年の男。
赤い水溜り……いや、これは血だ……
つ、つまり……し、死んでる。

うわぁ………………

僕は余りの恐怖に後退りし、尻餅をついてしまう。
それは朝比奈さんも一緒でその場に座り込んでいる。
ムッツリーニは唖然とその光景を見ているだけ。

き、木野君は……


「――――そんな事が……可笑しい……有り得ない」


誰よりも驚き狼狽していた。
あの場慣れした木野君の表情が驚愕に染まり、視線は定まらない。

……あれ?

何か可笑しいな……
僕は、いや僕達はこの死体があった事にただ恐怖するだけなのに。

木野君はそんな死体の事より、何かそれ以上の事に驚きを隠せない様子で。
それなのに誰よりもその事が信じられない様子だった。
死よりも何かに驚き、そして戸惑っている。

木野君はそのまま恐れず中年の遺体に向かっていく。
そして中年の遺体を見て何かを呟いている。

「……撃った……治ってる…………有り得ない……何でここにいる……まさか……いや、ちゃんと死ん…………じゃあ…………」

木野君は遺体を見て何かを呟いているけどここらではよく聞こえなかった。
それでも、ここからただ驚いているのは解った。

…………僕は。

僕はただ、戸惑っていた。
はじめてみる死体に僕は動く事もできなかった。
ただ、そこに人が死んでいる。
それだけが怖くて堪らない。

301What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:17:35 ID:rTrnueHM0
情けない事に震えて動けなかった。
僕らがそうなる可能性。
姫路さんがそうなる可能性。
そんな事さえも考えて、ただ恐怖で。

僕は脅えるしかなかった。



そんな、恐怖に脅えてる時だった。


「――――なっ!? ま、まさか……な……!?」


木野君がその死体を見て改めて声をあげ驚愕して。
何か非常に戸惑って。

そして

「…………生きています。何とか一命を取り留めているみたいです」


そう冷静を努めて呟いた。


生きてる……?

「生きてる? 本当に?」
「ええ、いきてます……」
「よ、よかった……」

僕は安堵の溜息を大きく吐く。
死んでると思ったのにどうやら、生きているようだ。
その生存に僕はただ喜びを感じている。

よかった……本当に生きていてよかった。

朝比奈さん、ムッツリーニも安堵しているようで表情が明るい。
僕らはそのまま木野君とその男の下に駆け寄っていく。


「すいません……吉井さん達はここで看病してもらってていいですか?」
「……いいけどどうして?」
「まだ、この人をこうした人がここに居るかもしれません。ちょっと探索してきます」
「解ったよ、木野君も一人で大丈夫?」
「ええ、平気です」
「……気を付けてくださいね」
「はい」

朝比奈さんの気遣いに木野君は言葉を返して踵を返して病院の奥に向かう。

……そんな木野君の様子に僕は何処か違和感を感じていた。
なんだか、解らないけど何かに動揺しているような。

木野君が何かに揺れてるような感じが何故かして。


僕はそれを、見送ったのだった。

302What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:18:15 ID:rTrnueHM0








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






……有り得ない。

何が起きたんだ……?
ボクは戸惑うしかない。

吉井さん達は始めてみたらしい遺体に驚いたらしいけどボクは別の事に驚いている。

何故ならあの遺体は…………僕が『一度殺したはずの遺体』なんだ。

始まった当初、森であの男をパースエイダーで撃ち殺した。
そして、あの男は死んだ。
ボクはそれを一度確認している。
確かに死んでいたはず。

それなのにあの男は森から病院に移動した。
そればかりじゃない。
撃った銃創。それすらも無くなっている。

……正直、訳が分からない。

つまり、あの男は『死んだ』はずなのに蘇って、また病院で毒によって『死んだ』という事。

何かのトリックかと最初は思った。
最初の時、なにかしらによって死んだフリをしたとか。
だけど、それは間違いだという事に否が応にも気付かされたんだから。


それは……あの止まっていたはずの心臓が『再び』動き出した事実。


完全に止まっていた。
実際、ボクが確かめた時には動きもしなかったのだから。
それなのに突然、蘇生を始めていた。
正しく……蘇りが起きていたんだ。

ボクはあの男を吉井さんたちに任せて離れた。
もしかしたらあの男が吉井さんたちを襲うかもしれない。

まぁそれでも一度彼を撃ち殺したボクが居るより安全かもしれない。
ボクも撃ち殺した手前顔を合わすわけにもいかないし。


――――そもそも、撃ち殺した人間ともう一度顔を合わすという自体、有り得ない非常識なんだけどね。

303What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:19:42 ID:rTrnueHM0








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「むおっ!?」

そのキノに撃ち殺された男、薬師寺天膳の復活は急であった。
毒殺からの蘇生に目を開けるとそこに居るのは三名の少年少女。
天膳は寝かされていたロビーのソファーから起き上がるとその三名が反応する。

「あ……大丈夫ですか?」
「ああ、起きたんだね!」
「…………大丈夫か?」

天膳に駆け寄るみくる達。
天膳は状況がつかめず、目の前に居る三名は自分を毒殺した小僧の仲間かと考えるも自身を心配した事から違うと判断する。
ならば、蘇生の秘密を知られたかと思い、少し焦るも

「何か気絶してたようですけど……何があったんですか?」

その焦りもみくるの一言で雲散霧消した。
どうやら彼らは心臓が動き出してから見つけたらしいと天膳は考え少女に応える。

「おう、ちと……な。うぬらは何者じゃ?」
「あ、はい。朝比奈みくるです」
「…………土屋康太」
「僕は吉井明久」
「……ふむ、朝比奈、土屋、吉井か」

天膳はその三名の名を聞いて顔をそれぞれ見る。
どれも、普通の少年や少女のようで害は無さそうに見える。
つまり、自分は看病されていたのかと気付き、少し気をよくした。
友好的に此方に接しているのだから一先ず邪険に扱う必要は無い。
だから天膳は名乗った。

「俺は薬師寺天膳よ。うぬらはここで何をしておった?」
「えっと……私達は手当てなどをしに……そこで薬師寺さんが倒れていて」
「なるほどのう……」
「何があったんですか? 襲われたりしたんですか?」
「む……」

少女の先程と変わらない質問にどう答えようかと迷う。
正直に話してもよいのだが、天膳とて完全に信用しているわけではない。
目的は変わらず朧との脱出なのだ。
必要な情報さえ知りえればよい。
できるのならば、みくる達からも情報を聞き出したい。
それならば対価になるものは必要であろうとも思う。
なにより、先程の二回強行に事を進めようとして殺されてしまったのだ。
ならば、穏便に事を進めたほうが情報を得られるだろうと天膳は判断し

304What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:20:20 ID:rTrnueHM0
「何、ちと不覚をとってな。襲われてしまったのだ」
「そうなんですか……どうりで毒ガスの匂いが」
「……何、毒か……ふむ、あれは毒だったか……あの小僧め。小癪な真似を……」
「小僧……?」
「うぬらと同じような小僧だ、それに襲われたのだ」

事を正直に話した。
それを聞いた三名は驚きや籠めた顔をしている。
天膳はそれを見るに、表に生きる人物なのであろうと改めて思う。
殺し合いや、自分らのような闇に生きるものと無縁のものであると。
そんな事を思いながらも話を進める。

「うぬらは俺に会う前は何をしておった?」
「えっとですね……放送を聞いて」
「……放送?」
「ああ、はい。あの狐さんが話していた放送です……もしかして聞いていませんか?」
「……うむ、気を失っていたからのう」
「そうですか……では、話しますね」

本当は死んでいたのだがなと心の中で笑いながら天膳はみくるの話を聞く様にする。
そういえば、彼らの衣装は面白いものだと思いながらも。
南蛮のものだろうか、それとも自らが知らぬ世界のものかと期待しながら。
そして、みくるの露出された柔肌が気になりながらも。

みくるが語る放送を聴き始めたのだった。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

305What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:21:11 ID:rTrnueHM0
どうやら、吉井さん達は無事に話せてるようだ。
ボクは陰で隠れながらも彼らの会話を聞いている。

そして、薬師寺天膳といったかな……あの人も無事生き返ったみたいだし。
まぁボクが表立つ必要性も無いだろうし。

しかし、参ったね。
エルメスが居たなら聞いて欲しいぐらいだ。

どうやら放送によると僕らと彼らとでは文字通り生きている世界が違うらしい。

そう『世界』が。

つまりは国とか大陸とか海とかそういうものじゃない。
吉井さんの話を聞くと確かに別の世界である事がわかる。
日本という国、六つの大陸、国名がしっかりついている。

ボクと吉井さん、朝比奈さん達の世界ではまるっきり違ってる。

つまりは……この生き残りゲームみたいの上に立つ人はそもそも次元とかそこら辺が違うみたいなんだ。
何だかボク自身何言っているかさっぱり解らないけどね。

違う世界から切り取られてきた。

つまり、ここもボクが住んでいる世界と違うのかもしれない。

ねぇ、エルメス。

君はどう思うかな?

こんな世界すらも違う場所で『脱出』なんて可能なのかな?

素直に従った方が早い気がする。


……ああ、何かもうごっちゃごっちゃだ。

与えられた情報がスケールがでかいや。

まぁ……いいか。

もうちょっと……話を聞いてみようかな。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

306What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:21:58 ID:rTrnueHM0
「はっ……死におったか。そうか死におったか! 甲賀弦之介!」


みくるが語った放送。
その呼ばれた死者に天膳は心の底から笑った。
あの怨敵、甲賀弦之介がもう死んだのだ。
それは心の底からの大願であったのだから。
これで忍法勝負にも圧倒的に有利になるのだ。
小四郎が呼ばれたのが、多少痛いがそれに比べても弦之介の死亡は天膳にとって痛快であった。

少し朧の身が心配ではあるが、今はそれよりもまず始末したいものが死んだ喜びが勝っている。
この目で奴が死ぬ所が見えなかったのが唯一の残念だと思いながらも。

「……え、えと。こんな感じです。薬師寺さん」
「うむ、朝比奈、わざわざ難儀であったな」
「い、いえ別に……それよりも沢山の事がこの放送でわかりましたね」

死者の発表に何故か喜んだ天膳にみくるは少し驚きながらもこの放送で判明した事実をいう。
しかし、吉井はそれが理解できず

「…………ええと、どういう事? 朝比奈さん」

それをみくるに尋ねる。
土屋康太も頷き吉井同様解らない様だ。
みくるは苦笑いしながらも彼らにもわかりやすいように話し始める。

「えと……まず大きくわかった事は私達が居る『世界』が別々という事ですよね」
「うん、薬師寺さんなんて僕らの生きる四百年前の世界だったなんて……」
「それは俺の方が驚きじゃ……なれば、あの見慣れる世界は遥か先という事なのか……ふむ、面白い話よ」
「私も召還戦争なんて知らないですし……でも吉井君達と時代は一緒みたいですね」
「…………(こくっ)」

まずは彼らが住む世界が別である事。
本来ならば到底信じられないような話であっても薬師寺天膳という存在がその世界が別である事を認めている。
彼の話す世界、それはみくる達の遥か昔の事なのであるから。
それを吉井達は信じ固いものだったが受け止め、天膳もまた受け止めていた。
みくるはその彼らを見て話を続ける。

「まず……世界が別という事が判明した時点で狐さん、あるいはそのバックに居るものは持ちえる力は常識では考えられないものだと思います」
「…………何故?」
「それは、時間軸の移動、別次元の世界から人を集める事が出来る事が出来る人間……土屋君は知ってますか?」
「…………いや」
「普通は居ませんよね。だから、彼らは恐るべき力を持っていると推測できるんです」
「……でも、ちょっと変じゃない?」

307What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:23:13 ID:rTrnueHM0
みくるの推論に疑問を呈したのは吉井。
頭を傾けながら、多くの人に馬鹿といわれている彼の頭が思いついたのは単純な事。
それはある意味当たり前の事でもある。

「……そんな事出来る人。誰も知らないんじゃ無理じゃ……」
「……いえ、私は知ってます。少なくとも時間軸の移動に関しては出来ると断言できます」
「……朝比奈、それは何故じゃ」
「私自身が…………いえ、すいませんこれは【禁則事項】で詳しくは……」
「………………禁則事項?」
「はい、詳しくは話せないです……御免なさい」

深々と頭をするみくる。
こんな大事な時なのに未だにそれに縛られているのを心苦しくも思っていた。
そんなみくるに天膳は言う。

「……ふむ、掟のようなものか?」
「あ、はい」
「ならばよい。話せない事であろう。少なくとも存在する。それは確かなのだな?」
「はい、それは間違いないです」

天膳は知っている。
自らが忍者であるように人に言えぬ厳しい掟が存在する事を。
また、それを破る事はできず、強要されたならば自決も問わない覚悟もある事を。
同じようなものだと解釈し、天膳はみくるの立場に理解を示した。
みくるは感謝しながら話を続ける。

「兎も角、上にそんな者が居ると解釈して問題ないと思います。そして今回もう一つ明らかになった事があります」
「さっき纏めて言った『異端』という存在?」

吉井の返答にみくるは笑顔で頷きながら答えを言う。

「そうですね……魔法や、超能力や、忍法やら、殺人技術といったものです」
「…………召喚も同じものか」
「多分そうですね、超能力に関していうなら私にも知り合いが居ます」
「……忍法もまぁそうであるか」
「はい、そんなある意味非常識な存在といえますね。幸い私達は皆知っていますが……」

こほんと一息を吐いて真面目な表情を浮かべる。

「それを持たないもの、知らないものも沢山居るって事も解りますよね?」
「え? どうして?」

疑問を呈した吉井に対してみくるは笑いながらわかり易く伝わるように

「”海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り。” ってこの言葉には色んな解釈ができますが……」
「…………ふむ」
「海水魚を『異端者』とするならばその逆も然りですよね。つまり『一般人』としましょう」
「成程……」
「まぁ実際私達も一般人と変わりませんし。でも薬師寺さんはその……忍者なんですよね?」
「……いかにも」
「しかし、私達は一般人です……このように沢山の異端と一般が混ざってますね」
「僕たちも召喚無ければただの学生だしね」
「………………(こくっ)」
「しかも今使えないし…………ああ、姫路さんが心配だ。頭がいいといってもただの学生だし」

吉井は姫路さんのことを心配して暗くなっていく。
みくるはそれに表情を曇らせながらも言葉を紡ぎ続ける。

308What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:24:22 ID:rTrnueHM0
「つまり、異端者ばかりになると異端者本来の実力がだせたりする……逆に一般人ばかりになると更に力が出なくなると解釈で着ます」
「……それは解ったんだけどつまりどういう事かな?」
「……それを自由に操る事が出来るかもしれないって事です。狐さんは」

みくるはそう重々しく告げる。
つまりは、人の力の上限すらも自由に扱えるという事は恐るべき事であるという事。
その言葉に三人は黙ってしまう。
みくるはそれでも気丈に笑顔で振舞って

「放送に関してはこんな感じですけど…………それを踏まえてどう脱出できるかを考えて見ましょうか」
「どのような形なのだ?」
「まず…………この狭くなっていくこの場所で黒く消失するもの解明。そしてその先が続いているものかどうかを確かめないといけません」
「手立てはあるの?」
「……まだ、ありません。そして、たとえその手立てがあろうと狐さんたちが監視してるでしょう。脱出する為には彼の目をごまかさないといけません」
「手段はどうだ?」
「打倒か、それとも情報隠蔽かのどちらかでしょう」
「…………どちらも出来る見込みは」
「…………まだありません。そもそも何処にいるかさえ知りませんし。何者すらもわかりません」
「だよね……」
「兎も角脱出のプロセスとしては
 ①この場所からの脱出方法を見つけ出す。この島の場所の解明。
 ②狐さんを何とかする方法を探し出す。狐さんの情報集め
 ですね。大雑把に言うと……しかしながら、これができる手立てや手段は無きに等しいです」

その言葉に更に場が重たくなってしまう。
脱出の見込みがほぼ無いに等しいといってるのだから。
皆が暗くなる中、一人だけ吉井が声を上げる。

「……皆、たとえ暗中もずくだとしてもさ、きっと何とかなるよ! 希望を持とうよ!」

暗中もずくという意味の解らない言葉を発しながら。
その言葉に一度、沈黙して。
そして。

「ぷ……ふふふふふふ」
「……………くっくっ」
「……可笑しいな事を言い寄るわい」
「……え、なんでさ!」
「そ、それ暗中模索じゃないですか?」
「あ……ああ! そ、そうだった!」

そしてみくるは笑いながら間違いを指摘する。
吉井は酷く恥ずかしくなりながらも、それを無視して。

「と、兎も角さ! 何とかなるって! 何とかするよ! 希望を持たなきゃ始まらないと僕は思うんだ!
 だからさ、皆元気出して、そして皆で脱出しよう!」

309What a Beautiful Hopes ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:24:53 ID:rTrnueHM0
そう、元気を出して強く言った。
希望をもって脱出をと。
たとえ道がなくても。
皆が強く思っていれば何とかなるはず。

そんな希望を持って。

「……そうですね。そうしないと始まりませんね。希望を持たないと」

みくるはそれに笑いながら応えて。

「…………(こくっ)」

土屋康太は強く頷いて。

「……ふむ、まぁそれも悪くはないよの」

薬師寺天膳もまんざらではない表情を浮かべた。


「うん! だから、頑張ろう!」

そして吉井明久は大きく笑って。


手をつきのばした。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

310この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:26:28 ID:rTrnueHM0







なんだか、もう。

凄く、大変のように聞こえる。

別の世界が存在する事。

薬師寺天膳の忍法がもし、不死に関することだというのなら。

他にも存在するという魔法、超能力とはどのような現実離れしたものなんだろうね?


しかも、彼が言うようにあの狐の人はとても恐ろしい力を持っているようだ。
そんな相手に反抗して、果たして生き残れるのかな?

エルメス。君が居たらボクにどう言うかな?


ああ、何かもう考えるのすら面倒だ。
朝比奈さんの話はまだ続いてるけど。
何か気の遠くなる話だなぁ。
正直、ボクには想像つかないや。
脱出なんて。

吉井さんがいった姫路さん。
彼女ならぱっぱと脱出できる方法でも思いつくのかな。
あれだけ自身もっていったんだからきっと考えているの……




…………うん?
吉井さん。
今……君、こういったよね。

311この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:27:25 ID:rTrnueHM0
頭がいいといってもただの学生って。

なんだ、結局その程度なのか。
あの時、考え無しに言ったのかな。
そのまんま信じちゃったや。

…………うん。ってことは。

誰も脱出の手立てなんて無いのか。



ああ、なんというか……もう。

脱出方法のプロセスとして。

 ①この場所からの脱出方法を見つけ出す。この場所の解明。
 ②狐さんを何とかする方法を探し出す。狐さんの情報集め

と提示していたけど漠然して、そして余りにも無策すぎる。

出来るわけ無いと思うけど。
ボクが思うに。
正直、こんなプロセスを3日以内に出来るとは思えない。
そして、余りにも手立てが無いし難しい。
情報すら与えられていないのに。
砂漠の上で針を探すようなものだ。


ああ……なんかもう。

うん……。


希望……かぁ。

希望だけで脱出できるのかな?
希望だけで人は生きれるのかな?
希望だけで全てが解決できるのかな?

そんな縋りの言葉で。

脱出できるのかな?






―――有り得ない。

312この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:27:55 ID:rTrnueHM0


現実を見ていないだけの言葉。


うん。


ああ――もう、いいや。



決めたよ、エルメス。




――――もう、面倒だ。




そんな甘い言葉より。


もっともっと



――――現実的な道をとろう。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

313この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:28:34 ID:rTrnueHM0
「さて、ちょっと休憩しましょうか……お茶でもあるといいんだけれども」

朝比奈さんの言葉に皆が伸びを始める。
僕はそんな、明るい光景に少し満足していた。
うん……希望を持っていればなんとかなる。

「しかし、この世界は面白いのう」

薬師寺さんはそう呟く。
まるで子供のように辺りを見回して、そして何処か楽しそうだ。
殺し合いの舞台である事を忘れているように。

「もっと見たいものだ……この世界の全てをな」

そう言って大きく笑っていた。
うん、大丈夫。
姫路さん、待ってて。
今、護りに行くからね!

「………………ジー」

ムッツリーニはずっとみくるさんを見つめている。
何かいつもと変わらないようだ。
そんな光景に僕は安心して。


「………………かはっ」


そんな、ムッツーリニの断末魔を。



聞いてしまった。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

314この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:29:19 ID:rTrnueHM0


土屋康太、ムッツリーニは見ていた。
己がヴィーナスといった朝比奈みくるを。

ムッツリーニにとって今の朝比奈みくるは

癒しであり、
エロスであり、
とても可愛いものだった。


そんな朝比奈みくるをビデオカメラで取り続けていた。

正直鼻血が溢れそうである。

というか溢れ出てきていた。

何故なら、ナースみくるを妄想していたから。

そしてその着替えのシーンを。

なんというか、もう最高である。

こうなったら最後まで撮り続ける気である。

彼女の姿を。

そんな、エロスにまみれた思考をしながら。


ムッツリーニの首に、無骨なナイフが突き刺さっていた。


鼻血以外に溢れる赤い赤い血。


彼は結局、殺し合いを理解する事ができず。

そして彼の欲望のまま。


最期に思ったのは朝比奈みくるの姿。


これも着せたいと思いながら。


「…………バニー」


そんな普段通りの妄想と共に。


土屋康太―――ムッツリーニは命を散らしたのだった。



【土屋康太@バカとテストと召喚獣 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

315この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:30:07 ID:rTrnueHM0
「きゃあぁああああああああ!?!?」

朝比奈さんの悲鳴が響く。
よく……わからなかった。

僕の目線の先には首にナイフをさしたまま壁によっかかっているムッツリーニ。

赤く染まりながら……息絶えていた。

どうして?
どうして?

そして、物陰から現れる人。


「貴様っ……あの小娘っ!」


その姿は見慣れたされた黄色いコート。
黒装束の少年。

木野君。

明確な殺意を持って僕らに迫ってくる。

僕はその場に動く事ができずソファーの上で座っているばかりだった。
朝比奈さんも、動けず尻餅をついている。

「あの時、し止めていればっ……!」


薬師寺さんが木野君に向かって駆け出す。
薬師寺さんは尋常でない速さで向かうが武器も無い。

右、左、はたまた上と跳びながら木野君に迫っていく。
木野君はその動きに対応できないのかその場から動かない。

あわや、木野君に襲いかかろうとした瞬間。


「……がっ!?……小娘……おのれ……」

一発の銃声が響いた。

結末はあけなく。

薬師寺さんは倒れ伏せる。

316この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:31:39 ID:rTrnueHM0
……違う、対応できていないんじゃない。
ただ、おびき寄せて狙いが定まるのを待っていただけだったんだ。

…………あぁ。

どうしてなんだ?
木野君?


僕は自分の体に動け、動けというけど動きやしない。


木野君はそのまま、朝比奈さんの方に駆けて行く。
朝比奈さんは気付いて背を向けて逃げ出そうも。

「あぁぁああああああ!!!…………ど、どうして……キノ君」

そのまま、取り出した刀で切り伏せた。
朝比奈さんは……そのまま動かなくなってしまう。


僕は。

僕は動けなかった。
怖くて。
怖くて。

動く事なんて出来やしない。

畜生……

僕は何で弱いんだ。

317この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:32:25 ID:rTrnueHM0
木野君が此方を向かい駆け出していく。
次は僕の番なのかよ。

何か。
何か出来ないのか!

僕は必死になってディバックを漁ってみる。
まだ、一つ支給品があったはず。

そして、取り出したのは。


無骨な黒い銃。

重たくて大きい黒い散弾銃だった。
僕はそれを木野君に向け声を張り上げる。

「う、動くな!」

木野君は気だるそうに止まって僕を見つめる。
僕は……僕はどうしても聞きたかった。

「なんで……?……希望を信じれば皆で脱出を……」

そう言い掛けた瞬間。
木野君は本当にどうでもいい風に。
詰まらなさそうな表情を向けて。

「……希望? 信じるだけで生き延びる事ができますか?」
「……きっと、できるよ!」
「……そうですね。そんな淡い幻想を抱き続けてください」
「……木野君!」

木野君はそういって、僕に向かってくる。
……え?
じゅ、銃が怖くないのか!

ど、どうして!?

僕は戸惑うばかりで。

木野君は相変わらず向かってくる。
距離にして五メートルぐらい。

「う、撃つよ!」

僕は気丈に威嚇する。
でも、歩みを止めることは無い。
僕はトリガーにかけた指が強くなって。

「撃つからな!」

そういって。

震える指で。


トリガーを

318この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:32:59 ID:rTrnueHM0
「――――あれ?」


引けなかった。


「……それ、安全装置ついたままですよ。それに見た所、ポンプアクション式ですから一度引かないと撃てないです」


そう、木野君は僕の目の前に立って。
淡々と言って僕の銃を奪う。


「それと希望なんて信じるより―――ボクは生き延びる確実な道を選択します」

安全装置を外して。
弾を装填して。

そう簡単に言って。

何も感慨も無い顔をして。


「それじゃあ……さようなら」



銃を撃ち放った。


散弾によって貫かれる僕の体。

僕の意識は闇に落ちていく。


ああ、こんな銃の使い方も知らないなんて……馬鹿だなぁ僕も。

姫路さん。

逢いたかったな。



ううん……もう一度。

Fクラスの皆と。

ムッツリーニと。
秀吉と。
雄二と。
美波と。
姫路さんと。


「……馬鹿騒ぎが……したかった……なぁ」




【吉井明久@バカとテストと召喚獣 死亡】

319この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:33:48 ID:rTrnueHM0





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





痛い。
痛い。

痛みが私を襲う。

キノ君に斬られた傷が痛い。
致命傷らしい。

けど私はまだ生きている。
だから、何かを残したい。

SOS団の皆に。
脱出を目指している皆に。

何かを残したい。

何か……
何か……


何か……無い?


え……何にも無い?
私がこの島でやってきた事。
何か残せるものは…………無い……?

そ、そんな

ふぇ…………

320この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:34:51 ID:rTrnueHM0
な、なら他の事!



あ、でも……【禁則事項】が【禁則事項】で……


これも【禁則事項】で……


あぁ……

何にも無い。


何も残せない。

私は………………誰にも何も……残せない。


あ……あぁ


ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁぁああああああああああああああああぁぁああああああああ
ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁぁああああああああああああああああぁぁああああああああ
ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「私は……何も……残せ……ない……んです………………か?」




【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

321この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:35:36 ID:rTrnueHM0
陽がやや、動いた。――薬師寺天膳の変化は続いている。
じくじくした分泌物の中に、病理学的に言う肉芽組織発生しつつあった。
つまりいわゆる「肉が上がってくる」という状態になってきたのだった。
普通の人間では三日ぐらい掛かるこの治療過程が彼の肉体のうえでは既に始まっていた。
しかも彼は完全な死人だ。

――― いや、耳をすませて聞くがいい。
とどめを刺されたはずの彼の心臓が、かすかにかすかに拍動をしている音を。

ああ、不死の忍者!
いかなる驚天動地の秘術を体得した者も、これを知れば呆然たらざるをえまい。
深き森の中でキノが撃つ銃に心臓を打ち貫かれ、赤い十字の館の中、浅羽直之の毒に毒殺されたはずなのにふたたび、けろりとし顔でこの世に現れた秘密。
それこそが薬師寺天膳の絶大な自信の根源であったのである。

彼は、まだ動かぬ。目は白く、日にむき出されたままである。

しかし何やら、音がする。
鬼哭しゅうしゅうとも言うべき音が。

――

それは天膳ののどのおくから、かすかに鳴り出した喘鳴であった。
そして見開かれたまぶたが、ぴく、ぴく、と動きだしはじめた……。



だが、それは突如響く轟音によって遮られてしまった。
それは天膳の体に迫り来る無数の鉄の弾。
すぐさまに着弾し、天膳の、眼、鼻、耳、口、腕、足、脳髄、五臓六腑、全てを蹂躙し尽くしていったのである。
またその衝撃によって首と胴体は弾け跳んでしまい離れてしまったのだ。

ああ、なんという事か。
薬師寺天膳の体は未知の武器により凄惨に破壊されつくされてしまったのである。
千切れに千切れたその体では不死の忍術も叶わない。

そう、薬師寺天膳は胸に野望を秘めたまま、まだ見ぬ世界に胸を躍らせたまま。


ああ、不死鳥はついに翼を失い、煉獄へと堕ちたのである。



【薬師寺天膳@甲賀忍法帖 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

322この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:36:18 ID:rTrnueHM0
「ふう……」

溜息が静謐な病院に響く。
そのロビーに立っているのはたったの一名。
彼の周りには遺体が四つ並んでいる。
その一つ薬師寺天膳の遺体を手に入れた散弾銃で完膚なきまでに破壊した。

「まぁ……これでいいかな」

立っているのはキノ。
この四つの遺体を作った張本人である。
今は薬師寺天膳の蘇生をしないように遺体を木っ端微塵にした所なのである。
そのまま、キノは散弾銃をディバックにいれ、他三名の道具も回収した。

「さてと……どうしようかな?」

キノは顎に手を当て思案する。
いくら薬師寺天膳の遺体を木っ端微塵に破壊したからといって再び蘇る可能性だってあるのだ。
その可能性を考えて、放送まで病院で待機するのも一つの手。
しかし、ここまで破壊したのだからもう大丈夫だろうと思い、このまま当初の通り南下するのも有りとも考えた。
どっちにしようかと少し考え

「まぁ……後でいいか」

そのまま、ロビーのソファーに倒れるように寄りかかった。
特に疲れることもしてないのだけれども、何となく。
そんな気分でキノは座った。

「……希望か。そんなもの信じて何になるのかな……?」

ふと、吉井の言葉を思い出す。
希望を信じてと言った。
希望とは何だろう?
希望を妄信して何がなるのだろうとキノは考え。

「……生きていれば、食えるものになれば何でもいいか」

そこで思考をやめた。
今、キノが目指すのは一つのみ。
最後の一人になるまで生き残る事。
理由は簡単、そっちの方が手っ取り早く生き残りになると判断したから。
脱出など、あんな面倒な事より手っ取り早く終わる方を選んだだけ。
今まで、停滞していたのが歯痒く感じるくらいに。

まぁそれもいいやと今は置いておく。

今やるべき事は、この身を汚し前を生きていく事。
いつも前を向いて、前を進んで殺し尽くす事。

それだけである。

キノはそう思って大きな欠伸をして。

一つ思い出す。

323この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:37:03 ID:rTrnueHM0
「…………ああ、お腹減った。何も食べてないや」

ここにきて、まだ一度も食事をしていない事を。

それは一大事だとキノは思い。


「ご馳走があるといいな……」


何かを食べようと思い行動を始めたのだった。



【B-4/病院内ロビー/一日目・午前】

【キノ@キノの旅 -the Beautiful World-】
【状態】:健康、空腹
【装備】:エンフィールドNo2(4/6)@現実、九字兼定@空の境界、トルベロ ネオステッド2000(11/12)@現実
【道具】:デイパック、支給品一式×5 暗殺用グッズ一式@キノの旅、ボン太くん改造型@フルメタル・パニック、12ゲージ弾×72
    :ロケット弾(1/1)@キノの旅 、カメラの充電器、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ
    :ブラジャー、リシャッフル@灼眼のシャナ
【思考・状況】
基本:生き残る為に最後の一人になる。
0:一先ずご飯
1:南下するか病院に待機するか選択する。病院に待機の場合、放送の後に南下。
2:エルメスの奴、一応探してあげようかな?
[備考]
※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
※「師匠」を赤の他人と勘違いしている他、シズの事を覚えていません。


【トルベロ ネオステッド2000(11/12)@現実】
トルベロ・マニュファクチャラーズ社のアーモリー部門が、2001年より製造しているブルパップ・ポンプアクション方式の散弾銃。
デュアルチューブマガジンを採用し、装弾数は片側チューブに6発づつの計12発である。
装弾は上部のチューブマガジンを跳ね上げて行い、中折れ式散弾銃のように扱える。
排莢は後方レシーバー下部より行われる。照準はチューブマガジン上のキャリングハンドルに付けられた大型サイトで行う。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

324この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:37:39 ID:rTrnueHM0
撮っている。

その眼鏡は今も撮っていた。

四人の軌跡と生き様を。

そして一人の人間の三分ほどの殺戮を。

ただ、克明に撮り続けていた。

それは誰にも気付かれる事が無く。

ただ、ただ、今もなお。

映像を撮り続けていた。


【「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅は一部始終をとり、今もなお撮り続けています】

325この身汚し頷く強さと、いつも前を見つめたい弱さを ◆UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:38:48 ID:rTrnueHM0
投下終了しました。
このたびは少し遅れてしまい大変申し訳ありません。
今後気をつけるようにします。

それと申し訳ありませんが規制中のみのですのでよろしければ代理投下よろしくお願いいたします

326 ◆MjBTB/MO3I:2009/09/20(日) 16:51:28 ID:64YsE/260
さるったので引き続きこちらに投下します。

327FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I:2009/09/20(日) 16:52:24 ID:64YsE/260
「それを踏まえて、もう一度訊く。先生が私と同じ状況に立たされたら、どうする?」
「同じ……」
「うん、同じ状況に。私は今ね、北村くんと、好きだった人が……高須くんがいっぺんに死んで、悲しいんだよ!
 そう、私はね、高須君が好きなんだよ! 先生以外にはオフレコ、大サービスで話してやるよ! 好きだよ!
 でもさ、私なんかよりももっと可愛くて素敵でお似合いな女の子が今いるの!
 その二人は絶対欠けちゃいけないって思った。より一層そう思った! 先生達と話してたときも、考えてた!
 でも、でももう欠けちゃった……大河の、私の、大事な存在が、いきなり、消えた……っ!
 それに、それに北村くんだって! 私のクラスの皆にとっても大事な奴だったんだ! 知らないだろうけどさ!」

……でも、そうだとしても!

「だからって……! じゃあ、おまえ達を護るって決意した私の立場は……!」
「だから私は今、一番のヒントを持ってるはずのさっき会った二人を探しに行こうとしてる!
 危険かもしれない! でも、行かなきゃ二度とチャンスは来ない気がする! どうしようもないの!
 犯人もわからない。じゃあ北村くんと話してたって言うあの人達は何!? わからないなら……会うしかない!
 もう自分が止められないの……こうでもしないと、私が私じゃなくなってしまいそうで、全部失ってしまいそうで、怖いの!」

櫛枝実乃梨の捲くし立てる言葉には納得出来る部分もある。
それに言いたい事もわかる。どうしようもない状況を看破したいと思う気持ちは、わかる。
でも、だからって……! こんなの、滅茶苦茶じゃない!

「せめて北村くんの事だけは知りたいから……高須くんの助けに欠片も間に合わなかったから、せめて……。
 ねぇ、これはいけない事なの? もし今の放送で吉田一美って子と一緒に坂井くんの名前が呼ばれてたら、先生ならどうしてた?」

それは、私は……私だったら……!

「で、温泉にその一美さんの死体があって、事件を解くためのカギがないノーヒントの状態だったら!?
 ねぇ、先生だったらどう思う!? どんなに冷静に取り繕っても……先生、結局、私と同じと思う……!」

もうアラストールは沈黙に徹してしまった。
櫛枝実乃梨の言葉には、横槍を入れるのは許さないという意志が見えていたから。
そして今、そんな強い言葉が向けられている私は……私は……私まで、言葉に詰まってしまった。
……そうだ、結局そんな"仮"の話も考えないようにしてたんだ、私は。
急に引きずり出されてしまった。答えが出せなくて封印していた"IF"が、ここに来て私に牙を向けた。

もしかしたら、って考えてしまう。

今はともかく、これからも私は冷静に動こうと考えていた。
自分がしっかりしなくてどうするんだって、そう考えていた。
けれど、それはあくまで"考えていた"だけ。
もしものときのイメージトレーニングなんかをしていたわけじゃない。

「先生、どうなの?」
「私は……」
「答えてよ」
「私は、私も確かにそうよ! おまえに言われた通り! 悠二のことが、その……そういうことよ! 
 だからでも、だからって私は! 私はおまえみたいに……無謀なことは、私は……そんな……しな、い」
「なんで最後自信無さげに言うの? 私を説き伏せようとしてた先生は、どこに行ったの? ねえっ!?」
「私は私よ! 私は……だって…………っ!」

相手の声が怒号に変わっても、私は声を荒げるだけで……いや、それすらも続けられなくなって答えられなかった。
私には、私には自負があった。悠二も一美も、皆護ってみせる! って意志もあった。気合もあった。自信もあった。
せめて自分が目に見える範囲の全てを護ろう。そう考えていた。だから闘えた。フレイムヘイズの力を行使して、戦った。
でも、気付けばこんな場所にいて離れ離れ。贄殿遮那まで無くなってて、頼りになるのは一振りの木刀。
けれど、それでも私は決意した。櫛枝実乃梨達と共に行くのが茨の道と解っていても、そうしようと考えた。
仲間は誰一人欠けない、そんな理想へと辿り付く為に必死に走ろうと決めた。
でも、駄目だった。少し時間が経ったら"吉田一美が死んだ"なんて報告されて、いきなり計画は無に消えた。
いきなりすぎて、出鼻を挫かれて、こんな事が今までに無さ過ぎて、どうすれば良いのか。

328FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I:2009/09/20(日) 16:53:33 ID:64YsE/260
私は、慢心していたのかもしれない。
心のどこかで、不幸なんて全て切り伏せられると妄信していたのかもしれない。
"櫛枝実乃梨や木下秀吉にも大切な人や好きな人がいるだろうからそう決めた"?
その志は結構だけど、なまじ大事な存在がいる所為でこんな暴走を起こされる可能性を考えなかったの?
……答えが出ない。はっきりとした言葉で表現が出来ない。感情の篭った問いに、全く答えられない。
そうか、アラストールもこんな感じだったのかな。それに、あの時あんな事言ったから、余計に。

「先生。いや……シャナ。今はシャナっていう。"本当のシャナ自身に言いたい"から」

櫛枝実乃梨の声が、重い。

「私は、"決めた"。立ち止まりそうになったらまず"決める"のが私のやり方だから。
 そしていつでもはっきりとする。はっきりと立って、はっきりと返事する。
 でも先せ、シャナは、ハッキリしてないよ。今の放送と私の質問で揺れちゃったって、わかるよ」

空気も、重い。
言い返せない。

「でも、私はその気持ちもわかる。っていうか、今の私の質問はちょっと、いや、かなり卑怯だとも自分で思う。
 感情に任せてるんだなって自分でも理解してる。でもこの質問は、私の我侭かもしれないけど、シャナに"答えて欲しかった"!
 あやふやな、揺れてるシャナに、自己矛盾って奴に囚われそうになってるシャナには私は止められないし、止められたくない!」

いつから、私はこんな弱い奴になったんだろう。

「私を止めたいって思うなら、模範的な先生なんかじゃない"本当のシャナが決めてから"にして。
 私は行くね。言ってなかったけど、大河とあーみんだって探したいんだ、私。だから、うん。それじゃ」

そう言えば私も"もう決めた!"の一点張りで、ヴィルヘルミナと言い争ったことがあったっけ。
ああ、悠二に好きって言うって決めた時だ。今の状況は、それと一緒なんだ。
今は私があの子で、ヴィルヘルミナが私。

「いつかまた……それまでさよなら、シャナ」

櫛枝実乃梨が走っていく。私は、立ち尽くすだけだ。
西へ西へと進んでいくあいつの姿が豆のようになって、消えた。


……。


結局私は何がしたくて、本当のところ私には何が出来たんだろう。
何が間違って、何が正しいんだろう。


ああ、でも、一つだけわかる。

結局私、遠まわしに言われちゃったんだ。


「お前に私の気持ちはわからないんだ」


って。

       ◇       ◇       ◇

329FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I:2009/09/20(日) 16:55:21 ID:64YsE/260
"SIG SAUER MOSQUITO"。それがエルメスと一緒に支給されたこの銃の名らしい。
いや、一緒にとは言ったが別にセットで着いていたわけではない。
むしろセットにされてたのは予備の弾であって、そういうわけではない。
単にワシにはきちんとした武器もあったという事じゃ。うむ、それだけの事。

その拳銃を護身用として持ち、ワシは走る。射撃の経験? あるわけがなかろう。
つまりは、辺りに悪意ある何者かが潜んである可能性を考慮した上で、姫路を探しておるのだ。
そうでもせんと今は自分自身を納得させられぬ故に、ワシは独りでこうしている。
シャナに櫛枝よ、勝手をしてすまん。

そして姫路よ、もしも近くにいるならば、どうか、どうか、出てきてくれる事を望む。
本当に、望む。


       ◇       ◇       ◇


先生は……シャナは、もう追いかけてこない。
何度か後ろや空を振り返るけど、着いてきてない。

まるで試合中、いや、それ以上に走っている気がする。
いや、いつもそうか。私、騒いではしゃいでばっかだった。
楽しかったな。高須くんがビックリしてたり、北村くんが「いつも楽しそうだなあ」と一緒に笑ってたり。
大河も可愛いやつだよなー。あーみんもあれはあれでナイス。

もう、そんな"いつも"には戻れないね。

ねぇ、戻れないんだよね?
だってもう、さっき言ってた四人の中でもう二人死んじゃったよ。
あの男前の二人組が、死んじゃったんだよ。
大河とあーみんだって、悲しむ。私だって悲しい。
もう戻らない。元のあの楽しいグループは、無くなった。
物を壊すのは簡単だけど、直すのは大変なんだから。

「やだ……やだ、よ……やだよお!」

そんなことはもう、解ってるのに。
だからせめて大河とあーみんは、って思ってるのに。
その為に走ってるのに……!

「あうっ、あ……うあぁああぁあ……」

なんで今更、泣いてんの? 前見えないじゃん……やめろよ、私。
走りながらそんなの、みっともないよ……前、見えないよお……。


       ◇       ◇       ◇

330FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I:2009/09/20(日) 16:56:11 ID:64YsE/260
温泉は再び静寂に包まれる。

残ったのは暇を持て余したモトラドのみ。

もはやこの建物は、骸のみが佇む寂しげな廃墟の様。

手がかりを追う櫛枝実乃梨。

それを追えなかったシャナ。

見えざる姫路瑞希の影を追う木下秀吉。

再びの集結は、あるのだろうか。



【E-2/一日目・朝】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:櫛枝実乃梨の用心棒になりつつこの世界を調査する。はずだったが。
1:???
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。

【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:全身各所に絆創膏
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。つもりだったのだが。
1:上条当麻、千鳥かなめを捜索。西に向かう。
[備考]
※少なくとも4巻付近〜それ以降から登場。

※エルメス@キノの旅がE-2の温泉入り口前に放置されています。



【E-3/一日目・朝】

【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:SIG SAUER MOSQUITO(10/10)
[道具]:デイパック、予備弾倉(数不明)、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。
1:姫路瑞希の捜索。発見次第温泉に戻る。しばらく探して見つからない場合も温泉に戻る。
2:エルメスの乗り手を探す。


【SIG SAUER MOSQUITO】
ドイツのSIG社およびその傘下SAUER社が開発した自動拳銃。
「オリジナルP226の90%のサイズ」というのが謳い文句。
前述のP226の練習用としての趣が強い為、オリジナルの特徴を忠実に引き継いでいる。
MOSQUITO(モスキート)とは蚊の意味。小口径弾薬「.22LR弾」を使用する事からその名を冠した。

331 ◆MjBTB/MO3I:2009/09/20(日) 16:58:41 ID:64YsE/260
投下終了です。期限を過ぎての投下、失礼しました。
現在代理投下をしてくださっている方には感謝。
そして支援を下さった方にも感謝を。

◆ug.D6sVz5w氏には謝罪を。申し訳ないです。
投下時間を考慮しておりませんでした。すみません。

332 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:22:09 ID:FPwIhjwE0
こっちもさるです。
すみませんが代理をお願いします

333 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:22:47 ID:FPwIhjwE0
 走り出そうとした鮮花を引止め、クルツに向かって彼は叫ぶ。
「クルツ!」
「お…………うえっ!?」
 土御門の叫びに応じて、エアガンを構え、放とうとしたクルツの表情が驚きに彩られる。
 クルツの動きを察知した、その瞬間に敵の動きは蛇へと変わった。
 低く、速く、のたくるように蛇行を繰り返すケモノの動きは、鮮花はおろか、土御門やクルツでさえも捉えきれない。
 銃口を向けることも、その動きに反応することさえもできぬままに、間合いはあっという間に狭められて――
 三匹の獲物が白純の間合いの中に入ったその瞬間、あたかも爆ぜるかのような勢いで、蛇の動きは肉食獣のものへと再び変わる。

「――くあっ!」 
 そして苦鳴が響いた。
 ケモノの間合いに捕らえられたその一瞬、
 傭兵としての直感に、魔術師としての経験に、それぞれ従うがままに大きく回避行動をとることができたクルツと土御門とは違って、鮮花はその行動が遅れた。
 故にケモノの一撃を避ける事はできずに、駆け抜けざまに放たれたナイフの一閃によって左腕を切り裂かれていた。
 傷はそれほど深くは無い。が、皮一枚といったわけでもない。
 事実、咄嗟に傷口をおさえた右手から零れるように流れた血が彼女の左腕を紅く、赤く染めあげていく。

「……ちっ! おい、大丈夫か?」
「う、っく……ええ」
 注意の大半を相対する相手に向けながらも、二人は鮮花の様子をうかがう。鮮花も痛みに顔を歪めながらも応えてみせる。
 
 ――その一方、ケモノの方はというと、一撃を放った後、追撃を避けるかのように斬りつけた勢いそのままに大きく前方へと跳躍した。
 それは明らかに普通では有り得ない動作だった。ほんの一跳び、それにもかかわらず、それだけで数メートルの距離を稼ぐと余裕を持って彼は振り向き、ニヤリと笑みを浮かべた。

 その笑みを見て、彼らは悟る。

 ――次は本気、今よりも速い攻撃が来る。

「…………ヤバイな。どうする、土御門?」
 冷や汗を流しながらクルツは言う。

334 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:24:09 ID:FPwIhjwE0
 相手の戦闘能力は予想を大きく越えていた。
 万全の装備があるというのならばともかく、今の彼らの武装、彼らの能力であの相手にここまでの接近を許してしまった時点で、”詰み”だ。
「にゃー、俺に聞かれても困るぜい。……そうだな、こういっそバラバラに逃げ出して運悪く襲われた一人を囮に逃げ出すってのはどうだ?」
 土御門の言葉にも力は無い。
 そんな男二人をよそに、鮮花は一歩前に出る。
「お断りよ。わたしは例え刺し違えることになろうと幹也の仇を取るんだから!」
 彼女の瞳は純粋な憎悪に燃えている。

「…………」
「…………」
 そんな彼女の様子に二人は黙り込み、そしてはあ、と溜息をついた。

「しゃーねえ、付き合うか」
「にゃー、ま、確かに逃げ切れる可能性もそんなに高いわけじゃねえ」
 そう言うと二人は改めて身構えた。

 ……そんな言葉とは裏腹に、二人の思いはちらりと、目配せをするだけで一致した。二人の思いは鮮花を捨て石にすることに決まった。
 彼女が襲われている間に二人は逃げる、そんな生ぬるい話ではない。
 土御門も、クルツも鮮花を利用して、この強敵を排除する、そう決意したのだ。

 確かに彼らでは先の動きも捉えられなかった以上、本気でくる次の攻撃、より速い攻撃をどうにかできる可能性は低い。
 しかし、相手に重しがついているとなると話は別だ。
 人間の肉というものは意外と抵抗が強く、また人一人分の重量は重い。
 それがどういう事かというと、だ。
 つまり相手が本気で来る、止めを刺しに大きく斬りつけてくる瞬間こそが彼らにとっては最大のチャンスということにもなる。
 襲われる相手の重量と、その肉の抵抗は同時に奴を地獄へと引き摺り落とす重りへと、なる。

 そして戦場での鉄則は弱い奴から確実にしとめること。
 奴にとっても先の交錯でこちらの戦闘能力はほぼ、筒抜けだろう。ならば狙われる相手なんて、一人しかいない。

「覚悟は決まったか? なら、行くぜ!」
 そして、彼らの様子を余裕を持って、眺めていた白純も全員が再び身構えたのを見て、再び彼らへと躍りかかる。
 土御門達の予想したとおり、その動きはさっきの一撃をなお上回る速さ。
 先ほどの攻撃がケモノのような速さというならば今度の攻撃はケモノ以上。

335 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:25:09 ID:FPwIhjwE0

 狙いは――言うまでもなく、黒桐鮮花。

「あぶねえっ!」
 予想通りの動きに土御門とクルツも動く。
 セリフだけは仲間を気遣う、しかし実際には鮮花を救うには一拍遅く、その隙を突くには最適のタイミングで彼らも走る。

 そして、鮮花は。
 いかに相手が速かろうとも、反応できない動きをしようとも、鮮花とてむざむざ殺されるつもりは無い。
 交差必殺。
 相手が自分を狙うつもりならば、その瞬間に自分の攻撃だって、あの相手へと当たるはず。
 彼女は拳を握り締め、
「AzoLto――」
 拳の着弾を確認する前に、詠唱を解き放つ。
 彼女の呪文にしたがって、火弾が生まれ――拳も火弾も空を切った。

 鮮花が一撃を放ったその瞬間に、相手はスピードは落とさず、ただ姿勢のみをさらに落とすことで低く放たれた鮮花の一撃をかいくぐったのだ。

「――――っ!」
 見下ろす鮮花と見上げるケモノ、刹那の間に両者の視線が交錯する。
 鮮花の総身を悪寒が襲う。

「――――」
 ……声は、出なかった。
 腹部を貫く衝撃にただ、肺の中の空気が圧迫されて出ていき、げえっ、とそんな音が漏れただけ。
「「な!?」」
 だから代わりに響いた声は土御門とクルツのもの。
 理由は異なれど、まったく同じ驚愕の声を二人は漏らした。

 クルツの驚愕は自分目掛けて、吹っ飛んできた黒桐鮮花に驚いて。
 そして、土御門の驚愕は――自分目掛けて襲い掛かってくるケモノの姿に驚いて。 

 鮮花の一撃をかいくぐった相手は、手にしたナイフで鮮花を貫くことなく、体当たりを食らわせると――いや、体当たりをしたかのような勢いで鮮花にぶつかり、
そのまま彼女の体を足場にして土御門の方へと勢いを殺さずに方向転換を果たしたのだ。

336 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:26:50 ID:FPwIhjwE0
「……っ!」
 蹴り飛ばされた鮮花がクルツへと衝突し、二人まとめて吹き飛ばされる光景を視界の端に捉えながら、土御門の脳裏を死の予感が埋め尽くし――
(……舞花っ!)
 彼が守るべき、大事な妹の姿を思い出し、土御門は一撃を放つ。
 だが、相手は火弾と拳の双撃すら容易く回避してのけた猛獣だ。
 いかに土御門の攻撃が鮮花より速く、鋭い一撃であろうとも、彼に避けれぬ道理はない。

 ――そんなことは土御門自身わかっていた。

(――甘いんだよ!)
 土御門の拳は空を切る。
 ケモノがはっきりと笑みを浮かべるのが見えた。
 だが、彼の攻撃はここからが本番なのだ。
 空を切った拳は勢いを殺さず、いやむしろその速度を増して弧を描く。
 先の一撃が高速ならば、この一撃はまさに神速。
 敵の後頭部へと一撃は叩きつけられる――

 ――事はなかった。
「ば……ま……」
 鮮血と共に土御門の口から言葉が零れる。
 引かれる拳の速度さえなお上回り、白純の一撃は駆け抜ける勢いそのままに、今度は間違いなく土御門の腹部を貫いた。
 
「く…………う……」
 人一人分、××キログラムがぶつかった衝撃とその痛みに顔をしかめつつ、クルツはそれを見届けた。
 この距離、この状態ではとてもではないが、想定していたような攻撃を加えることは不可能だった。
 こうなってしまっては、逃げることさえできるかどうか。
 最悪というのも生ぬるい状況の悪さにクルツは歯噛しみした。

 ――しかし、彼はまだ知らない。
 この状況はまだ最悪ではなかったことを。

「よお、遅かったじゃねえか」
「…………?」

337 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:29:03 ID:FPwIhjwE0
 不意に、土御門を貫いたその体制のままでケモノは先ほど自分が向かってきた方角を向くと、にやりとそんなことを言って笑った。
 どうしようもなく嫌な予感を感じながら、クルツもその方向を向く。

「冗…………まじか……」
 絶望的な呟きが知らず、彼の口から漏れる。
 道路を小走りにやってきたのは一人の長身の男だ。

 派手なアクセサリー。
 赤く染めた長い髪。
 おまけに右目の下にはバーコードの刺青。
 
 そんな容貌の男、見覚えは無かったが、聞き覚えはあった。

 魔術師、ステイル・マグヌス。

 この瞬間をもって、状況は最悪になったというべきだった。

「逃げるぞ!」
「う……」
 そう叫ぶと、クルツは鮮花の体を無理矢理引き起こすと駆け出した。
 土産代わりに銃以外の支給品、缶ジュースの内二本を取り出すと投げつける。
「ガラナ青汁」「いちごおでん」
 二十本のジュースの中から選んだ、とりわけ禍々しい雰囲気の二本のジュースはその中身を散らしながらも狙い外さずケモノの元へと飛んでいき、
「ぐあっ!?」
 悲鳴が聞こえた頃には、路地裏に飛び込んだクルツと鮮花は最初の曲がり角を曲がったところだった。
 いつ、追いつかれるのかわからない、恐怖と絶望に満ちた逃走を続けることしばらく、それは数分か、それとも数十分か。

「はぁ……はぁ……」
「くっ、まけ、たのか……?」
 曲がり角があれば曲がり、必死に走りつづけた彼らは堀へと到達したところでようやく一息つく。
 クルツは注意深くあたり様子をうかがってみるが、とりあえず彼のすぐ側で、荒い息をついている鮮花以外には人の気配は無い。
 はあ、と安堵の息をついたところで隣の鮮花が彼をにらみつけてきた。
「……なんで!」

338 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:30:18 ID:FPwIhjwE0
「ああ?」
「何で、逃げるのよ! あいつは、あいつらは幹也の仇なのに!」
 そんな彼女の言葉をクルツは鼻で笑った。
「何言ってんだ? 一緒に走って逃げたのは鮮花ちゃんだぜ?」
「そ、それは! その……」
 鮮花は言葉に詰まる。
 それはそうだ。彼らが逃亡した時間はそれほど短い時間ではない。
 しかし、彼女は走って、逃げつづけた。

 そんな様子の彼女にクルツはさらに言葉をかける。
「なあ、鮮花ちゃん。君がやりたいのは敵討ちなんであって自殺じゃないだろう?」
「……?」
 クルツが何を言いたいのかわからずに、疑問の表情を浮かべたままで、とりあえず鮮花は頷いた。

「仇はわかった。それが簡単に殺されるような相手じゃないこともわかった。じゃあ、やるべきことは一つだろ?
確実に奴らを殺せるだけの準備を整える、違うか?」
「でも、そんなのどうやって……?」
 それを聞かれて、クルツはにんまりと笑った。
「プランはあるぜ。とりあえず、ここを目指す」
 そう言いながら彼はがさがさと地図を取り出すと、その一点を指し示した。
「え? ここって」
 鮮花はさらに疑問を浮かべた。
 クルツが指し示したのはエリアE−5、摩天楼。鮮花がスタートした場所だった。
「今更あそこに何の用があるというんです?」
「今の俺たちに必要なのは武器、とりわけ飛び道具の類だ」
 クルツは言う。
 それは確かに間違ってはいない。
 制限されていようともあれだけの運動能力を持つ相手がいるのだ。今後の状況如何ではより高い能力を持つ相手と戦う可能性も考慮するべきで、そんな相手に接近戦を挑むのは自殺行為以外の何ものでもない。
 
 しかし、と鮮花は言う。
「でも、ここに集められた施設のほとんどは日本のものが基本です。……銃や殺傷能力を持つ武器が売っているとは思えませんが?」
「ふっふっふっ、まだまだ甘いな鮮花ちゃん」
 しかし余裕たっぷりにクルツは笑った。
「どういうことですか?」

339 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:31:24 ID:FPwIhjwE0
「例えばさっきの喫茶店、ちゃんと皿やら何やらが揃っていただろ?」
 言われてみて思い返せば確かにそうだ。
「ええ、それが何か?」
「俺と土御門の奴が最初に詳しい情報交換をした家もそうだった。それこそ少し前まで住んでいた奴がいたみたいにいろんな道具が残されていた」
「回りくどい話は結構です。結論から言ってください」
 強い口調の鮮花にしょうがねえなあ、とクルツは笑うと答えを言う。
「摩天楼の高層マンション。どう考えたって金持ち専用の場所だ。そして基本的に家や施設にはさまざまな道具が残されたままだ。そん中の一軒ぐらい狩猟ややばい趣味をお持ちの方がいてもおかしくない」
「あ……」
 言われてみればそのとおりだ。
 そしてクルツは続けて言う。
「ああ、ちなみに鍵とかそういうのは基本的には心配いらないだろ。これまでのところ全部鍵はかかっていなかったからな。そんな中で鍵がかかったところがあれば……」
「そこには誰かがいる。場合によってはその人の支給品を《譲ってもらう》という手もありますね」
「そういうこと、じゃあ行こうぜ。いつまでもここにいたんじゃ追いつかれるかもしれねえ」
 そうして二人は行動を再開する。
 その前にクルツは一つ、缶ジュースを取り出すと堀へと投げ捨てる。

「……? 何をしているんですか?」
「別に、ここで死んだわけじゃないけどあいつへの手向けってところかな」
 
(じゃあな、土御門。俺は死なねえ)
 中身の入った缶ジュースはとぷん、と堀に沈んでいった。


【D-4/ホール西の堀付近/一日目・朝】


【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ 、疲労(中)、復讐心
[装備]:エアガン(12/12)
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサとの合流を目指す。
1:摩天楼に向かい、マンションエリアを物色して銃器を入手する。

340 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:32:31 ID:FPwIhjwE0
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:ステイルとその同行者に復讐する。
5:メリッサ・マオの仇も取る。
6:ガウルンに対して警戒。
【備考】
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。


【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:腹部に若干のダメージ、疲労(大) 、強い復讐心
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也の仇をなんとしても取る。
1:土御門と行動。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
※白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。



 ◇ ◇ ◇


「……ぐ……う」
 ずるり、と腹部を貫いた腕が引き抜かれて、土御門の体が力なく地面へと落ちた。
 そんな彼には構わずに
「ぐっ、あいつら、何をぶつけやがったんだ」
 顔を、体を塗らしたジュースを拭いつつ、不機嫌に白純里緒は吐き捨てる。
 味も、匂いも不愉快だ。

「何をしている、猛獣」
「よお、遅かったじゃないか魔術師。約束どおり襲われたから殺してやったぜ」
 全身を多少拭った後で、最後に頭から支給品の水をかぶると、白純はステイルへと話し掛ける。

「見ただろ? あと逃げた獲物も二匹いる。さあ、殺しに行こうぜ」
 このコンクリートの密林は彼にとっての狩猟場だ。

341 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:33:27 ID:FPwIhjwE0
 例えどれほど逃げ出そうとも、逃げ切れる道理はどこにも無い。
 
「待て」
 しかし、意気揚々と追跡をしようとした彼をステイルは呼び止める。
「何だ、魔術師? 言っておくが逃げた奴らも俺に危害を加えたんだぜ」
「そうか」
「ああ、気はすんだか? なら俺は行くぜ?」
 そう言うと今度こそ里緒は背を向けて、
「ま、今となってはどうでもいいんだけどね」
 背後から聞こえた言葉にどうしようもない悪寒に襲われた。

「炎よ(Kenaz)―――――」
 聞こえてくる言葉は先ほども聞いた魔術師の呪文。

「魔術師――!」
 振り向く、その一瞬の動作が致命的なロスとなった。

「――――――――巨人に苦痛の贈り物を(purlsazNaupizGebo)!」

 それはつい先ほども里緒が見た光景。
 火の粉を散らしたオレンジのライン。
そして轟と爆発し一直線に生まれた摂氏3000度の炎の剣。
それを構え、振るうのは『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』の名を持つ魔術師、ステイル=マグナス。

 ただし先ほどとは違う点もある。
 一つは彼の体勢。振り向こうとした今の体勢はさっきよりも悪い。
 もう一つはステイルはすでに炎剣を振るっている!

「くそっ!」
 それでもケモノの運動神経はギリギリのところで炎の剣を回避することを成功させていた。
 ――だが、ギリギリでは逃げ切ったことにはならない。

「――がっ!?」
 剣が白純の体のわずか前を通り過ぎた瞬間に、炎剣は爆発し、その爆風に吹き飛ばされた白純は炎と共に手近なビルの壁面へと叩きつけられた。

「な……んの、何のつもりだ! 魔術師ぃ!」
「へえ、やっぱりしぶといな」

342 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:35:09 ID:FPwIhjwE0
 痛みをこらえて叫ぶ白純を興味深そうにステイルは見る。
 その瞳は檻の中のモルモットを見るような、無慈悲な色をたたえている。

「こたえろ! 何のつもりだ!」
「うーん、まあ一言で言うとだね。猛獣ならばともかくとして、誰彼構わず噛み付くような狂犬はいらないってことさ」
 言うとステイルは無造作に近付いてくる。

「くそっ! 畜生! ちくしょう!」
 白純はうめく。
 彼の体に刻まれたダメージは大きかった。
 なんとか身を起こしはしたものの、がくがくと震える足にはまともな機動力は残されては、いない。

「じゃあな、猛……いや、違うね。じゃあな、狂犬」
「うわわああああああぁぁああああ!」
 絶叫をあげつつ、白純は体を横に転がした。
 
 ――奇跡が起きる。
 
 ステイルの一撃は見事に空を切った。
 勝機はいま、ここしかない。
 即座に彼は身を起こし―― 

「灰は灰に―――(AshToAsh)
  ―――塵は塵に―――(DustToDust)
    ―――吸血殺しの紅十字―――(SqueamishBloody Rood)!!」

 奇跡が起きるのは一度だけ。
 二本目の炎剣は白純の体を捕らえ、次の瞬間、彼の体は爆炎に包まれた。

「ま、まるっきり役に立たなかったわけじゃないし、これぐらいが妥当なところかな?」
 もはやぴくりとも動かない、右腕を完全に炭化させた白純に向かって取り出した、一つまみ分のブラッドチップを取り出すと、彼の周囲にぱらぱらと撒き散らして、ステイルはケモノに背を向ける。

 そのまま彼が歩み寄ったのはつい先ほど腹部を貫かれた土御門の元だ。
 ステイルは土御門の腹部から胸にかけて開いた5つの穴を見て軽く眉をしかめた。

343 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:37:49 ID:FPwIhjwE0
「まだ、生きているかい? 土御門」
「にゃー……使い魔の手綱ぐらいはきちんと握っていて欲しいものだぜい……」
 ステイルの言葉に力なく土御門は応じた。
 彼の下の地面はすでに赤く染まっている。

「ま、僕も今それを思い知ったところだよ」
「遅いっての……」
  そう力無く毒づいてから

「良いか、ステイル……」
 土御門はステイルに先の放送を聞いて、より深まった考察を伝える。

「聞いたとおり、ここが異世界とか言うのは間違いないぜい……。けほっ、ってあんまり余計なことを言っている余裕は無いみたいだにゃー」
 げほっ、と土御門は一度大きく咳き込み、そして言葉を続ける。

「結論だけいうと、やつらの力は魔術が基本かもしれないし、科学技術かもしれない。
だから、だ。可能な限り、禁書目録と、レベル5、御坂はなるべく死なないようにした方がいいぜい……。
ま、……あの……海水の話を信じるなら……俺たちの世界からきた人間だけに、てめえが知らない名前だと御坂美琴と白井黒子だけを会場内に残せば、
かみやんの「幻想殺し」で状況を、どうにかできる可能性はある……」
「なるほどね」
 短くまとめた土御門の言葉にステイルは理解を示した。

「礼代わりというのもおかしな話だが、止めはいるか?」
「けっこうだぜい……、魔力は無駄遣いするもんじゃない、ぜい……」
「そうか」

 それだけ言うとステイルは土御門に背を向けて、歩き出した。

「ぁ」
「…………」
 歩きながらも彼は静かに考え込む。
 土御門が短くまとめて伝えた言葉、それを解釈すればインデックスをただ一人の生き残りにする以外の、脱出の為に彼ができることが二つあることがわかる。
 ただし、その方向性は正反対といえるものだ。

 一つは機械や、魔術、そのほかありとあらゆる異能に対して何らかの知識を持つ人間を可能

344 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:40:32 ID:FPwIhjwE0
な限り生かしておくこと。
 一つ一つの知識では皆無に見える脱出のための手段も、それぞれの知識の穴を別の知識によって埋めていくならば、
彼の同僚、神裂のようにそうすることで打開の道が開く可能性はひょっとしたらあるかもしれない。
 だが、そうでない可能性もある。

 そして、もう一つの道は彼らの世界以外の人間を皆殺しにすること。
 今更あの《人類最悪》が嘘を言うとは思えないし、完全に元通りにまで威力を高められた「幻想殺し」ならばあの壁を打ち破ることはできるかもしれない。
 何よりこのプランの場合は、失敗に終わってもインデックスをただ一人の生き残りにするのが簡単だという点がメリットだ。

「――僕は、どうするべきなんだろうね」
 幻想殺しの少年ならば迷うことは無いであろう、この問いの答えを求めて魔術師は一人、町をさ迷っていく。


【D-4/ホール近く西の道路/一日目・朝】 


【ステイル=マグヌス @とある魔術の禁書目録】
[状態] 健康
[装備] ルーンを刻んだ紙を多数(以前より増えている)、筆記具少々、煙草
[道具] デイパック、支給品一式、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
1:どうする……?
2:上条当麻へ鬱屈した想い……?
3:万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。



◇ ◇ ◇


 ――そしてしばしの時が過ぎ。

「ふう、ステイルの奴はようやく行ったか」
 血色こそはよくないものの、土御門元春はゆっくりと、その身を起こした。

345 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:41:48 ID:FPwIhjwE0
「くっ、いやあ、危ないところだったぜい」
 そんなことを呟く彼の腹部からはすでに血が流れていない。よくよく見れば傷口をかさぶたとは違う、薄い膜のようなものが覆っていた。
 これこそが土御門が魔術と引き換えに手に入れた超能力。

 レベル0の肉体再生(オートリバース)。

 傷口に薄い膜を張る程度が限界のしょぼい能力ではあるが、今はその能力によってかろうじて命をつなぐことができていたのだ。文句の言葉なんて出てくるはずが無い。

「ふう、ステイルの奴はとりあえず北に向かったか。とりあえず次の放送で名前を呼ばれる誰かが治療してくれたって事にするかにゃー。
そしてその誰かは治療した俺をかばって殺人者と戦って死亡した。……うんうん、美しい話だぜい」

 そして、その能力をステイルに明かさなかったのはこれは彼にとっての切り札でもあるからだ。
 この力によって、魔術の使用も何とか耐え切ることができるが、それを前提にされるというのも勘弁願いたい。
 他の人間よりかはましというだけで、魔術の使用が命にかかわるのは彼もまた同じなのだから。

「さてと、もう少し傷が回復したらクルツ達を追うか」
 先ほど逃亡していった同行者達のことを土御門は考える。
 さいしょのほうの道取りは見えていたが、その後どこまで彼らが走っていったのかはわからない。
 とはいえまあ、あれほど余裕が無い状態での逃走劇だ。
 そこかしこに彼らの痕跡は残されているだろう。

 ――今の彼にできることはほとんど無い。

「んじゃ、少し休むか」
 とはいえ、まあ、このまま路上で休むというのはありえない。
 土御門はゆっくりと手近なビルの中へと歩いていった。
 

 【土御門元春 @とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜2、H&K PSG1(5/5)@ 予備マガジン×5
[思考・状況]

346 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:44:00 ID:FPwIhjwE0



――ぞふり。

 不意に、そんな衝撃が足元に走った。

「……ん?」
 疑問に思って、視線を下に向けようとして――バランスを崩して土御門は地面に倒れこむ。

「あ……、あ……?」
 声が、漏れる。

 ――足首から、先はなくなっていた。

 その事実を視認した瞬間、

「ぐわああぁあぁああぁぁあああああAAAAあああっ!?」

 閉め忘れた水道のように無くなった足首から大量に血が噴出し、激痛が脳髄で炸裂する。

「て、め――!?」

 最後まで言い切ることはできなかった。
 襲撃者の姿を視認した瞬間、それは相手が彼目掛けて飛び掛ってきた瞬間でもあり、

――相手の爪が土御門の喉を刺し貫いた瞬間でもあったからだ。

(んで、なんでおまえが!)
 襲撃者を視認して、土御門の脳裏を疑問が埋め尽くした。そこにいたのは死んだはずの人物だったからだ。
とはいえ、土御門の疑問は一瞬後には霧散した。
 
回答が与えられたわけではなく――疑問を抱くだけの余裕が彼から消えてしまったために。

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜Ma、いKKkkkkkkkkkA!!!!)
 全身を蹂躙される。 
 文字通り生きながら食われるおぞましさと、それを上回る激痛。
 思考は形にさえなっていなかった。

347 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:47:13 ID:FPwIhjwE0

 早朝の町には似合わない無気味な音が響いていた。

 ごしゃり。
 ぺきり。
 ぱき。
 ぐしゃ。
 ずるずる。
 ぐちゃ。

 人一人分の肉体、その大半を十分少々で食い散らかすと、ふらふらとケモノは路面へと出た。

 白純里緒、魔術師の炎剣をその身に浴びて、それでもなお彼は生きていた。

 ステイルが犯したミスは二つ。

 一つはケモノの生命力を見誤ったこと。
 例えば、サメなどは例え心臓を抉り取られようともしばらくは生き続けるほどの強い生命力を持っている。ありとあらゆるケモノの特性を併せ持つ白純里緒の生命力はそれに劣るものではない。
 だが、逆にそれだけでは右腕を完全に消し炭に変えられて、全身遍く炎に包まれて行動不可能なまでのダメージを受けていた彼は、遠からず死んでいたこともまた間違いのない事実。
 だからそれがステイルが犯した二つ目の失敗。
 白純里緒が欲していたブラッドチップは起源覚醒のために必要な道具であるよりも先に、強力な麻薬であり、そして理性を吹き飛ばす強力な毒物であった。

 だが、毒はまた薬にもなる。

 ブラッドチップはまた強力な代謝促進作用も併せ持っていた。その効果の程は額から頬までをナイフで深々と切り裂かれた黒桐幹也がその命を取り留めるほど。

 ばら撒かれたブラッドチップを摂取することでケモノは急速に回復をはたしていた。

「……ロして……」
 ぶつぶつと呟きながら白純里緒は歩き出す。
 その歩みは少し前までとは比べ物にならないほど、ゆっくりとたどたどしい。

「こ…………や……」
 しかしそれは当然といえる。
 いかに代謝が促進されようと彼が受けたダメージは極めて甚大なものであったし、炭屑とかした右手は失ったままだからだ。

348 ◆ug.D6sVz5w:2009/09/20(日) 17:52:37 ID:FPwIhjwE0

「殺してやるぜ! 魔術師いぃぃ!!」
 だが、そんなことは関係がない。
 今の白純を突き動かすのはただの怒りそれだけだ。

 かくして、手負いのケモノは野に放たれた。

【土御門元春@とある魔術の禁書目録 死亡】
【D-4/ホール南の道路/一日目・朝】


【白純里緒@空の境界】
[状態]:右腕消失、聴覚低下、右半身を中心に広範囲の火傷、薬物摂取、判断能力の低下、強い殺意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:殺す!!!
[備考]
※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦
※名簿の内容は両儀式と黒桐幹也の名前以外見ていません
※全身に返り血が付着しています


[備考]
※ 白純里緒のデイパック、中身は基本支給品(未確認支給品0〜1所持。名簿は破棄)が入ったものとアンチロックドブレード@戯言シリーズがホール南の道路に放置されています。
※ 付近のビルの側の一つに大量の血痕と、土御門元春の体の一部が残されています。

以上です。
割り込み投下という失礼な真似をしでかしたことをお詫びします。
そして支援ありがとうございました

349代理:2009/09/20(日) 17:56:33 ID:biHX2J320
俺もさるった

350 ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:24:15 ID:HLS7PuHw0
これから該当箇所の修正版とうかします

351本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:26:22 ID:HLS7PuHw0
「は〜い、お茶汲んできましたよ〜」

朝比奈さんの言葉に皆が伸びを始める。
あの後、少し休憩を取る事になった。
ロビーの事務室にあった所にお茶があったらしい。
それを朝比奈さんとムッツリーニが汲んでくれる事に。
荷物は僕と薬師寺さんが預かってロビーの一つのテーブルにまとめて置いておいた。
お茶汲むときに邪魔になるだろうし。
そして今、二人がお盆にお茶を載せて持ってきている。

僕はそんな、明るい光景に少し満足していた。
うん……希望を持っていればなんとかなる。

「しかし、この世界は面白いのう」

薬師寺さんはそう呟く。
まるで子供のように辺りを見回して、そして何処か楽しそうだ。
殺し合いの舞台である事を忘れているように。

「もっと見たいものだ……この世界の全てをな」

そう言って大きく笑っていた。
うん、大丈夫。
姫路さん、待ってて。
今、護りに行くからね!

「………………ジー」

ムッツリーニはお茶を運びながらずっとみくるさんを見つめている。
何かいつもと変わらないようだ。
そんな光景に僕は安心して。


「………………かはっ」


お茶を入れた湯呑みが割れる音と。


ムッツリーニの断末魔を。



聞いてしまった。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

352本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:28:23 ID:HLS7PuHw0
土屋康太、ムッツリーニは見ていた。
己がヴィーナスといった朝比奈みくるを。

ムッツリーニにとって今の朝比奈みくるは

癒しであり、
エロスであり、
とても可愛いものだった。


そんな朝比奈みくるをビデオカメラで取り続けていた。

正直鼻血が溢れそうである。

というか溢れ出てきていた。

何故なら、ナースみくるを妄想していたから。

そしてその着替えのシーンを。

なんというか、もう最高である。

こうなったら最後まで撮り続ける気である。

彼女の姿を。

そんな、エロスにまみれた思考をしながら。


ムッツリーニの首に、無骨なナイフが突き刺さっていた。


鼻血以外に溢れる赤い赤い血。


もし、荷物を持っていたのなら。
もし、お茶汲みなど行ってなかったら。
もし、キノをもっと警戒していたのなら。
もし、『非常手段』の入ったデイパックが手元にあったなら。

353本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:29:52 ID:HLS7PuHw0
結果は変わっていたのかもしれない。

でも、それもただの仮定。

だからこそ

彼は結局、殺し合いを理解する事ができず。

そして彼の欲望のまま。


最期に思ったのは朝比奈みくるの姿。


これも着せたいと思いながら。


「…………バニー」


そんな普段通りの妄想と共に。


土屋康太―――ムッツリーニは命を散らしたのだった。



【土屋康太@バカとテストと召喚獣 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

354本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:30:41 ID:HLS7PuHw0
「きゃあぁああああああああ!?!?」

朝比奈さんの悲鳴が響く。
よく……わからなかった。

僕の目線の先には首にナイフをさしたまま壁によっかかっているムッツリーニ。

赤く染まりながら……息絶えていた。

どうして?
どうして?

そして、物陰から現れる人。


「貴様っ……あの小娘っ!」


その姿は見慣れたされた黄色いコート。
黒装束の少年。

木野君。

明確な殺意を持って僕らに迫ってくる。

僕はその場に動く事ができずソファーの上で座っているばかりだった。
朝比奈さんも、動けず尻餅をついている。

「あの時、し止めていればっ……!」


薬師寺さんが木野君に向かって駆け出す。
薬師寺さんは尋常でない速さで向かうが武器も無い。

右、左、はたまた上と跳びながら木野君に迫っていく。
木野君はその動きに対応できないのかその場から動かない。

あわや、木野君に襲いかかろうとした瞬間。


「……がっ!?……小娘……おのれ……」

一発の銃声が響いた。

結末はあけなく。

薬師寺さんは倒れ伏せる。


……違う、対応できていないんじゃない。
ただ、おびき寄せて狙いが定まるのを待っていただけだったんだ。

…………あぁ。

どうしてなんだ?
木野君?

355本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:31:11 ID:HLS7PuHw0

僕は自分の体に動け、動けというけど動きやしない。


木野君はそのまま、朝比奈さんの方に駆けて行く。
朝比奈さんは気付いて背を向けて逃げ出そうも。

「あぁぁああああああ!!!…………ど、どうして……キノ君」

そのまま、取り出した刀で切り伏せた。
朝比奈さんは……そのまま動かなくなってしまう。


僕は。

僕は動けなかった。
怖くて。
怖くて。

動く事なんて出来やしない。

畜生……

僕は何で弱いんだ。


木野君が此方を向かい駆け出していく。
次は僕の番なのかよ。

何か。
何か出来ないのか!

僕は必死になってディバックを漁ってみる。
まだ、一つ支給品があったはず。

そして、取り出したのは。


無骨な黒い銃。

重たくて大きい黒い散弾銃だった。
僕はそれを木野君に向け声を張り上げる。

「う、動くな!」

木野君は気だるそうに止まって僕を見つめる。
僕は……僕はどうしても聞きたかった。

「なんで……?……希望を信じれば皆で脱出を……」

そう言い掛けた瞬間。
木野君は本当にどうでもいい風に。
詰まらなさそうな表情を向けて。

356本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:31:41 ID:HLS7PuHw0
「……希望? 信じるだけで生き延びる事ができますか?」
「……きっと、できるよ!」
「……そうですね。そんな淡い幻想を抱き続けてください」
「……木野君!」

木野君はそういって、僕に向かってくる。
……え?
じゅ、銃が怖くないのか!

ど、どうして!?

僕は戸惑うばかりで。

木野君は相変わらず向かってくる。
距離にして5メートルぐらい。

「う、撃つよ!」

僕は気丈に威嚇する。
でも、歩みを止めることは無い。
僕はトリガーにかけた指が強くなって。

「撃つからな!」

そういって。

震える指で。


トリガーを



「――――あれ?」


引けなかった。


「……それ、安全装置ついたままですよ。それに見た所、ポンプアクション式ですから一度引かないと撃てないです」


そう、木野君は僕の目の前に立って。
淡々と言って僕の銃を奪う。


「それと希望なんて信じるより―――ボクは生き延びる確実な道を選択します」

安全装置を外して。
弾を装填して。

「ああ、ついでに言っとくと……不味かったですね。姫路さんという人物がただの学生だったと言った事。それで、もう利用する気も信じる気も無くなりました」

ああ……!?

僕があの時言った一言。

そのせいで……

357本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:32:39 ID:HLS7PuHw0

ああ……僕はなんて馬鹿なんだろう……


「それじゃあ……さようなら」


そう簡単に言って。


何も感慨も無い顔をして。


銃を撃ち放った。


散弾によって貫かれる僕の体。

僕の意識は闇に落ちていく。


ああ、こんな銃の使い方も知らないなんて……馬鹿だなぁ僕も。

姫路さん。

逢いたかったな。



ううん……もう一度。

Fクラスの皆と。

ムッツリーニと。
秀吉と。
雄二と。
美波と。
姫路さんと。


「……馬鹿騒ぎが……したかった……なぁ」




【吉井明久@バカとテストと召喚獣 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





痛い。
痛い。

358本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:33:10 ID:HLS7PuHw0

痛みが私を襲う。

キノ君に斬られた傷が痛い。
致命傷らしい。
ああ、あの時もっと警戒していれば。
ああ、あの時キノ君が離れた事に疑問を抱いていれば。

こんな事にならなかったかもしれない……

けど私はまだ生きている。
だから、何かを残したい。

SOS団の皆に。
脱出を目指している皆に。

何かを残したい。

何か……
何か……


何か……無い?


え……何にも無い?
私がこの島でやってきた事。
何か残せるものは…………無い……?

そ、そんな

ふぇ…………



な、なら他の事!



あ、でも……【禁則事項】が【禁則事項】で……


これも【禁則事項】で……


あぁ……

何にも無い。


何も残せない。

私は………………誰にも何も……残せない。


あ……あぁ

359本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:33:41 ID:HLS7PuHw0


ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁぁああああああああああああああああぁぁああああああああ
ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁぁああああああああああああああああぁぁああああああああ
ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「私は……何も……残せ……ない……んです………………か?」




【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

360本スレ399から ◆UcWYhusQhw:2009/09/21(月) 01:34:19 ID:HLS7PuHw0
以上です。

361名無しさん:2009/09/21(月) 15:29:38 ID:45uPEZkUO
投下乙です
問題無いと思います

362名無しさん:2009/09/22(火) 00:05:45 ID:OBW2tnaM0
修正乙です。
これで特に問題はないかと。

363名無しさん:2009/09/22(火) 00:55:54 ID:blizd9z.0
乙です
問題ないと思います

364 ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 01:58:42 ID:fZ.4mqYI0
お待たせしました。規制中なのでこちらで投下を始めます。

365思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 01:59:35 ID:fZ.4mqYI0




  私はこうして失っていく。
  
  大切なものも、
  
  大切な想いも、

  みんな、みんな。 

  そして、私に残るのは何だろう?


                  /思慕束縛









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

366思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:00:57 ID:fZ.4mqYI0
黒桐幹也。

呼ばれた名前に私は止まった。
放送の時間に調度起きた私は静かに放送を聴いていただけ。
なのにその名前が呼ばれただけで、何もかも終わってしまった気がする。

「何だ……もう死んだのか、お前」

まるで、嘲るような口調でそう呟いた。

死んだのか?

死んだんだ。




ああ……今、私はどんな表情を浮かべている?

喜び?
怒り?
哀しみ?

解りたくない。
解りたくもなかった。


ただ、解りえるのは黒桐幹也って存在が死んだって事。


それだけなのにこんなにも止まっている。
火がつく所が更に静まるようで。

私はただソファーに埋没していくだけだった。


そうか、死んだのか。
何だ、早すぎるぞ。
どうして、お前なんだ。


そうか、もう無理なのか。

きみが私に語りかける事も。
きみの呼吸を感じる事も。
きみと一緒に居る事も。

もう、存在する事は無いんだな。

367思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:01:58 ID:fZ.4mqYI0
ああ―――なら、もういいのか。


両儀式を押し止めていた存在はもう、居ない。
両儀式の心の半分以上を占めていた存在はもう、居ない。

ならば、私に残るのは何だろう。


―――殺人。


そんな言葉が反芻する。

なんだ、結局それか。


結局の所、私はそれをどうしようもなく嗜好としているのだろう。
黒桐幹也を失ってまず最初に出てきたのが、それだ。

私は殺人をしたくて、堪らないのだろう。
その証拠に今、私は黒桐幹也を殺した存在を殺したくて仕方ない。

そして、そのまま私は殺人鬼になるしか残っていないのだ。

―――だって、黒桐幹也が、もう居ないから。

私はこんなにも殺し合いを求めている。
私はこんなにも殺人を嗜好している。

それはもう止める事が出来ないんだろう。


だから、もう、いいや。

黒桐幹也が居ないんだったら。




―――――後は堕ちるしかないだろう?

368思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:02:39 ID:fZ.4mqYI0
『――――でも人殺しはいけない事だよ、式』




っ!?


そんな、呟きが響いた。

おい、何で今そんな呟きが聞こえるんだ?

コクトー。

いいだろう?
もう、お前は居ないんだ。
お前を失った私は残されてるのは一つなんだ。


なのに。
それなのに。

そんな言葉を。
そんな想いを。


私にかけるな。


私にはもう、それしか残されてないんだ。


だから


『――――――君を、許さないからな』




――――ああ。


そんな事を言うな。


私から、殺人すらも奪わないでくれ。

369思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:03:14 ID:fZ.4mqYI0


じゃあ、私に残るのは何だ?


何も、残りやしない。


なのに。
なのに。


その呟きを聴こえたせいで。


私は何もできないじゃないか。




じゃあ、何も残らない私に何をさせたいんだ?


言ってくれよ。
言ってくれよ。




なぁ―――言ってくれよ黒桐幹也。


きみの言葉が好きだった。
きみの笑顔が好きだった。
きみが存在が好きだった。


きみが居てくれて嬉しかった。

そんな君と居れた日々は夢のようだったんだよ。



なのに、お前は居ないんだな。

370思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:04:02 ID:fZ.4mqYI0


最期に殺人すらもとろうとして。



じゃあ、私はどうすればいい?


空っぽにはもう戻れないんだよ。


両儀式はこれから……どうすればいい?


それすら応えてくれないのか?


酷いなきみは。



なあ。


殺人すらも奪うのなら。


私はどうしたらいいんだ?


「……あぁ」


目が滲んでいる。

そうか。

泣いて……いるのか。

371思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:05:35 ID:fZ.4mqYI0

ああ、駄目だ。

こんな表情見たくない。
こんな表情見せたくない。


私はそっと仮面を被る。

涙が流れないように。
涙を隠すように。


仮面で全てを覆い尽くした。


その仮面の中で。


私は黒桐幹也が永久に居なくなった事を確認し。


誰にも見られないように。

心も。
顔も。


全てを仮面に隠して。



――――涙を流していた。



【B-6/海沿いの倉庫街/一日目・朝】

【両儀式@空の境界】
[状態]:???
[装備]:狐の面@戯言シリーズ、伊里野のナイフ@伊里野の空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:?????????
1:????????

[備考]
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
「伊里野のナイフ」は革ジャケットの背中の下に隠すように収められています。

372思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:06:44 ID:fZ.4mqYI0
投下終了しました。

申し訳ありませんが規制中のみのですのでよろしければ代理投下よろしくお願いいたします

373玖渚友の矛盾点:2009/09/25(金) 18:37:30 ID:Xs4hyxn.C
突然で申し訳ないが。スレを見ていて疑問に思ったので。
本作ロワの玖渚友の設定はネコソギの後日談。ならば。黒髪じゃなくても歩ける筈だが何で歩けないの?
後。もしもネコソギ直後の設定ならいーちゃんと友は現在絶交状態なんだからいーちゃんはともかく友がいーちゃんを待つのは可笑しいよね?
むしろ友の方はいーちゃんとは遭わないようにすると思うんだが。今の内に友の話だけでも書き直した方が良いと思うんだが。

374名無しさん:2009/09/26(土) 00:09:39 ID:UmIqGERM0
>>373
本スレで言った方が…と呟きつつ、読んでしまったのでちょいと私見を。
突っ込まれるかもしれん(汗

>何で歩けないの?
階段等の縛りは無いはずですし、場所が場所だけにエレベーターもあるでしょうが、
基本的にヒキコモリっぽいので、外に出るのが面倒なだけなんじゃないかと思いましたw

>もしもネコソギ直後の設定なら〜〜
「第二十三幕 物語の終わり」の後ではあるけど、「終幕 それから」までの間でもあるから、
仲直りしてる可能性もあるのでは、と想像してます。

375名無しさん:2009/09/26(土) 00:25:37 ID:MPW6Y1a20
その辺の話は今後補完話を書ける余地ではあるけど、「書き直せ!」ってのは違うような。

376玖渚友の疑問点を書き込んだ者:2009/09/26(土) 16:57:45 ID:azqJClMMC
本スレに書き込もうかは迷ったんだが、どちらかというと修正のお願いなのでこちらに書き込んだ。
後。書き直せ、では誤解されて当然だが、アレは玖渚友の話の時系列の修正をいったつもりだったんだが自分でもう一度見てみると誤解されて当然だった。これは書き手に申し訳ない。
すいません。

それと友といーちゃんが仲直りした後なら、先の発言と矛盾するが、青色の友の寿命を考えるとあんな元気なんだろうか?
まあ、これは憶測だし。いつ仲直りしたかも分からないしね。それに少なくともネコソギ直後は割りと元気なんだから大丈夫なのかもしれないが。

377名無しさん:2009/09/26(土) 17:27:50 ID:QqeQS.to0
そもそも、前の話をさかのぼってまでの修正というのは厳しいと思う。
今回それを通すと他もOKになるかもしれない前例にもなるし。

後歩かないと歩けないは別問題だと思う。
今の友は「歩けない」とは書かれてない。ただ、歩かないとしかかれてないしやろうと思えば歩けるだろう
歩く気が無いんだろうが。

378名無しさん:2009/09/26(土) 19:23:51 ID:MPW6Y1a20
とりあえずここは「仮投下」や「修正作」の投下場だから、修正に関する動議を提出する場としては相応しくないと思う。
次に仮投下作や修正作が投下されたら、それで議論が「流れちゃう」もの。
規制巻き込まれ中の書き手が作品出すだけで議論が分断される。
「修正用」スレの名だけで判断するのは良くない。スレの利用目的とか使われ方まで考えないと。
むしろこういうのは議論用スレ(雑談・議論用スレ)だろう。

379玖渚友の疑問点を書き込んだ者:2009/09/26(土) 19:50:16 ID:7NChQ6SsC
『歩けない』と直接書かれてはいないが。
『彼女の中には自身がその扉を開くなどという考えは毛一本ほども存在しない。面倒だし、不可能』、と書かれてある。此処に『不可能』と書かれてあるので、間接的に。友は上下移動が不可能と書かれていると思ったんだが、もしかしてそうい意味と違うのか? だから疑問に思ったんだが。
もしかして勘違いなんだろうか? だったら申し訳ない。騒がしてすいません。

380名無しさん:2009/09/26(土) 21:03:35 ID:iLOoYKz.O
ネコソギ下巻開始時点では上下移動の縛りはなかった、はず。

『不可能』てのは、友がいーちゃんの立場になって考えた上での発言では?
自分から動くのが『面倒』で、自分で探すのは『不可能』という意味に取れた。

381行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 01:57:54 ID:/NATBB160
申し訳ありません。さるさんをくらってしまったので残りはこちらに投下します。

382行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 01:58:53 ID:/NATBB160
【7】


「玖渚機関じゃと?いや、すまぬが聞いたことはないのう」
「本当ですか?疑うのは気が引けるですけど、ク渚機関と言えばメジャーもメジャー、トップクラスでさえない頂点ですよ?」
「そう言われてものう・・・・・・世事に疎いつもりはないのじゃが」
「だったらなおのこと、信じられないです」
「うむむ・・・・・・そうじゃなぁ、さっきの放送の通りと考えることもできるが、しかしあまりにも荒唐無稽じゃ」
「放送?実は姫ちゃんあまりきちんと聞けなかったですけど、何か言ってたですか?」
「耳を貸したいものでもないがな。もって回った言い方をいておったが、つまりはこうじゃ・・・・・・」
「・・・・・・平行世界、パラレルワールドというやつですか?」
「というよりは異世界、アナザーワールドかの」
「いかにも、無惨臭い話です」
「胡散臭くもあるな。まぁ、信じろというのが無理なのかも知れん。ワシもまだまだ半信半疑というところじゃ」
「半分信じられるだけで十分偉いと思いますよ。普通の人なら疑うこともせずに笑ってお終いです」
「笑ってすませられればどれだけよいかと思うの。まぁ場合が場合じゃ。少なくともワシが玖渚機関とやらを知らんということは信じてもらって構わんよ」
「う〜ん・・・・・・まだ納得いかないところはあるですが、了解しましたですよー」
「しかし、一姫は冷静じゃのう」
「そうですか?姫ちゃんは普通にしてるつもりですが」
「それこそ落ち着いておるということじゃ。ワシなどはみっともなく慌ててしまって、情けないことよ」
「まぁ姫ちゃんはお気楽ですからね。脳天気なのが外からはそう見えてしまうのかも知れません」
「見習いたいものよ」
「気持ちだけは毎日がエブリウェアです」
「お主の明日はどっちなのじゃ・・・・・・」

一姫は秀吉となごやかな雰囲気を形作る。
これで、二つ。
残りは、一つ。

383行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 01:59:24 ID:/NATBB160
【8】


人一人を捜すことの難しさを私は痛感する。
土地鑑もない。行きそうな場所も分からない。封絶を張れば動きを止められるけど、今はそれもできない。
段々と、私の中でもう見つからないんじゃないかという気持ちが湧き上がりはじめた。もちろんすぐに頭を振って否定するけど、それくらい木下秀吉の居場所は一向に知れない。
高く飛んで俯瞰しても、コンクリートの道路に降りて路地裏を走っても、目指す相手の姿はない。それどころか、街はどこもかしこも奇妙に整然としていて、人間が存在していた気配さえなかった。
そのせいで、捜索の選択肢も無限に広がってしまう。右に曲がるのも左に曲がるのも条件は対等で、目標に近づいているという実感が得られない。逆に、どんどんと離れているような、そんな錯覚さえ感じる。

頭が悪い方に傾いてしまうのは気持ちが負けかけているせいだ。そう思って私は一際強く前を睨みつけた。
これが済んだら木下秀吉をふん捕まえて、温泉までひとっ飛びに戻る。言い訳なんて聞いてやらない。一発や二発ひっぱたいてもいいくらいだ。それで温泉に戻ったらエルメスを回収して、櫛枝実乃梨を追いかける。
追いついたら言ってやる。何を言うかは決まっていない。悠二が死んだらどうするかなんて、そんなの答えられるはずない。さっきはちょっと考えようとしたけど、頭の芯がジンジン痛むような変な感じがして、とても続けられなかった。
櫛枝実乃梨が北村や高須という人間をどれだけ好きだったかは知らないけど、もの凄く悲しいんだってことは分かる。正直、私も取り乱さずにいる自信はない。それはさっき少し想像しただけもすぐ分かった。
だから、櫛枝実乃梨に返す言葉は見つからないけど、それでもこのまま終わりになんかしてやらない。すぐに追いかけられなかった分はこれから取り戻す。

フレイムヘイズが一度立てた誓いをそう簡単に反古にすると思ったら大間違いだ。護ると言ったものは護る。私自身の決意のために。
多少のトラブルは承知の上だ。今度は拒絶されたって一緒にいてやる。そしたら悠二を。
悠二を。

悠二は見つかるのだろうか?
ぞわりとした感覚が全身に走った。思わず立ち止まってしまう。不審がるアラストールに、何でもないと告げる。
ずっと一緒にいた木下秀吉を見つけるのにさえ、こんなに苦労してるというのに、どこにいるかも分からない悠二を見つけることなんてできるのだろうか。
違う。そんなのは間違っている。悠二とは会える。理屈じゃないけど、これは絶対。

でも。
もしかしたら。
いやだ。考えたくない。前を向きかけていた気持ちが再び萎えそうになる。
早く木下秀吉と合流しよう。そう思い私はもう一度空に翼を広げた。

会えないなんてこと、ない。

384行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 01:59:56 ID:/NATBB160
【9】


最後の、一つ。


「姫ちゃん、人を捜してるですよ」
「人捜しか。ワシも同じじゃ。仲間が無事でいるかどうか心配でたまらん気持ちでおる」
「まったくです。姫ちゃんの場合は師匠ですけど名簿に載ってる師匠ではなくてですね。ええと、名簿では『いーちゃん』で載ってる人ですよ」
「ふむ、『いーちゃん』か・・・・・・」
「どこにいるか知ってるですか?」

答えたら、最後。


「いや・・・・・・」


これで、お終い。


「知らんのう」


くいと上げて、ついと振る。
その瞬間――。

385行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 02:00:31 ID:/NATBB160
【10】


――邪魔するものは、何もない。

386行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 02:01:35 ID:/NATBB160
【11】


ころころと転がしたらきれいにどこまでも転がっていくんだろうなと思わせる円柱形の物体が8つ。それぞれ大きさは違うけど小は手のひらサイズから、大きいものでも片手でつかめないことはない。
物体はすべてが円柱形というわけではなく、ほっそりと細長く伸びているものが11本ある。同じ形のそれはどれだけ多くても10本は越えないはずなのだが、良く見ると内の1本が半分に割かれていた。
ちょうど見えない位置に切り口あったので気付かなかったのだ。
細かいものはそれくらいで、あとはどれもごろごろした大きめのものばかりだ。落下の際に自重で潰れてしまったのか、何々形と言える程形を保っているものは少ない。中からはみ出していたり、飛び出していたりするものもあるのだが、そこにあるはずのそれらは正直あまり視界に入っていなかった。白。黒。ところどころ赤い。
糸の切れたマネキン人形という奴だろうか。違う。確かに組み立てられる以前のマネキンと通じる部分はあるだろうが、一つの素材から作られているに過ぎないマネキンはバラそうが切断しようが同じようにのっぺりした側面を見せるだけだ。
少なくとも、バケツを2杯も3杯もぶちまけたような、大量の液体をこぼすようなことはしない。
立ちこめる臭いもそれは酷いものだったのだが、ここで鼻を塞ぐのは冒涜になるような気がしたので、気力でごまかしている。

紅世。徒。燐子。トーチ。ミステス。いずれの場合もこんな風にはならない。基を一にするはずのフレイムヘイズでさえ例外ではない。
死してなお形を遺すことができるのは、唯一人間だけにのみ許されている。
木下秀吉は、全身を鋭利なワイヤーのようなもので細かく切り刻まれ、バラバラになって死んでいた。

387行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 02:02:24 ID:/NATBB160
道路を浸食するように染めているのは血液で、無数の物体になり果ててしまったもの達は元は一つの肉体だ。
頭部だけは分かたれることなくその形をとどめていたが、良く見ると登頂部の右側あたりに円形に小さく切り取られた跡があった。

「シャナ」

歴戦のフレイムヘイズとして誠に恥ずかしいことなのだが、シャナはこの一言に体が数メートルは飛び上がる程に、本気で驚いてしまった。胸元から響くアラストールの言葉が、とうにもの言わぬ身となった木下秀吉から発せられたものと一瞬誤解してしまったのだ。

「シャナよ、察してやりたいのは山々だが状況が状況ゆえ敢えて言うぞ。木下秀吉に対し凶行に及んだ者はまだ近くにいるとみて間違いない。その上、そやつは宝具か、それに準ずる強力な武器を持っている。
そのような場で、こともあろうに我を失するとは何事か!」
「ご、ごめん・・・・・・アラストール」

言われて初めて、シャナは自分が馬鹿みたいに呆然と突っ立っていたことに気付いた。やっとの思いでこの場にたどり着いてからまださほどの時間は経っていない。慌てたように夜笠を顕現させ、常態に戻っていた眼と髪を赤く染める。
厳しい表情で油断なく周囲に気を配るが、その動きは常に比べるとやはり僅かに精彩を欠くものだった。
紅世とフレイムヘイズの性質上死体慣れをしてこなかった弊害がこんな形で仇となったかと、アラストールは苦々しく思う。
同時に、慰めることより叱責を優先せざるを得ない状況と、それをもたらした何者かに対し、ないはずの腑が煮えくりかえる程の怒りを感じた。

388行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 02:03:01 ID:/NATBB160

シャナは思った。人間が死ぬとはこういうことなのだと。
木下秀吉は死んでしまった。恐らく、自分達がくるほんの少しだけ前に。
自分と、アラストールと、ヴィルヘルミナはこうはならないけど、それはあまり関係ない。いなくなってしまうのは一緒で、近しい人がどう感じるかも、多分一緒。
櫛枝実乃梨は。櫛枝実乃梨はただの人間なので、普通は木下秀吉と同じようになる。
今はどうしてるのだろう。無事なんだろうか。

二人は知らない。木下秀吉を殺害したのが紫木一姫であることも、情報を摂取し終えた瞬間一姫がなんの躊躇いもなく張り巡らせた糸を引いたことも、秀吉の鞄から愛用の曲弦糸と手袋を発見し、現在上機嫌で着々と二人から離れつつあることも。何もかも。

悠二の場合はどうだろう。櫛枝実乃梨は悠二が死んだらどうすると聞いてきた。
そんなことは分からないと思ったけど、本当に分からないことをシャナは理解していなかった。
出会ったときから既にミステスだった悠二は死ねば消えてしまう。そうなったら、その後は。
そのとき、残された自分はどうなってしまうのだろう。

シャナは。
悠二は。
悠二は、どこにいるのだろうか。

汗が一筋、頬を伝って流れ落ちた。


【木下秀吉@バカとテストと召喚獣 死亡】

389行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 02:03:36 ID:/NATBB160
【E-2/一日目・朝】


【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:この世界を調査する
1:周囲を警戒
2:悠二に会いたい
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。


【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) 、裁縫用の糸(大量)@現地調達、レーダー(電池なし)
[思考・状況]
1:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
2:SOS団のメンバーに対しては?
[備考]
※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。 
※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。


※木下秀吉の最後のランダム支給品は「曲絃糸&専用手袋」でした。
※その他の道具(デイパック、SIG SAUER MOSQUITO(9/10)、予備弾倉(数不明)が死体のそばに放置されています。

【曲絃糸&専用手袋】
曲絃師が用いる糸。本来は総称だが今回支給されたのは萩原子荻殺を切断したものと同種のもののみ。自分の手を傷つけてしまわないよう、専用の手袋もセットで。

390 ◆olM0sKt.GA:2009/09/27(日) 02:04:32 ID:/NATBB160
以上で投下終了です。支援ありがとうございました。

391 ◆olM0sKt.GA:2009/09/29(火) 22:37:01 ID:bKl71/mw0
お待たせしました。追加のパートを投下します。

392 ◆olM0sKt.GA:2009/09/29(火) 22:37:38 ID:bKl71/mw0
シャナが現場にたどり着くほんの少し前に、紫木一姫はその場を後にしていた。
平静を乱すフレイムヘイズに対し、木下秀吉を殺害した当人が何を思ったていたかというと、これは「特別何も思っていなかった」と言うしかない。
師匠のために他を殺し尽くすと、決意した以上一姫にとって殺人は日常となる。それは、延長線上でさえない。
明け方のうたた寝に感慨を抱く者がいないように、一般人を無抵抗のまま殺すことに特別な感慨を抱くことはなかった。
一姫の心理は、彼女なりのフラットを保ち続ける。

だが、喜ばしいことはあった。首尾よく情報を得られたことがそうだ。
異なる世界がどうとかという話は、どこまで信じていいかさっぱりだが、反抗は無駄と思わせる空気は変わらない。
どこまでが本当でどこからが嘘であっても、一姫たちが誘拐され追いつめられているのは同じので、やはり殺し尽くすのが手っとり早いだろう。
強いて言えばレーダーの電池が見つかっていないことは問題だが、マイナス材料は本当にその程度のことしかない。コンビニか、町の電気屋でも見つかれば事足りる。
捜し人の情報が得られないのは、メリットとデメリットの両方を持つので評価の外である。

一姫はひうんひうんと糸を飛ばす。誰もいない場所で得意技を振り回す様は一見すると調子に乗った小人物にしか見えないが、一姫は違う。
細い指に操られる糸は、木下秀吉や高須竜児を殺害した木綿から、プロも愛用する金属製のそれへと変わっていた。
もともとは秀吉に支給されていたもので、殺害後に覗いた荷物の中にあったのを頂いたのだ。ご丁寧に、自傷防止用の手袋も一緒である。
使うものは選ばない、それこそビニールテープで人体切断すらやってのけるのが曲弦師というものだが、得物が優れているのに越したことはない。学校で木綿の糸の弱点を見せつけられた矢先であるため、喜びも一潮だった。
糸は一種類、それも無尽蔵と言える程の長さはない。そのため、「見ることもできない程の遠距離攻撃」や、「広範囲に張り巡らせて情報を感知する」と言った使い方は流石にできそうにないが、それでも中、近距離戦を演じるには十分過ぎる。
一通りの試運転でそれらのことを確認した一姫は、心なし上向いた気分で歩き始めた。未だ立ち止まったままのフレイムヘイズから離れるように、着実に、小気味よく。

このまま何事もなく終わるといいですよー。
直前に犯した凶行については、とうに頭から抜け落ちていた。


【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) 、裁縫用の糸(大量)@現地調達、レーダー(電池なし)
[思考・状況]
1:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
2:SOS団のメンバーに対しては?
3:レーダー用の電池を見つけたい
[備考]
※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。 
※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。


※木下秀吉の最後のランダム支給品は「曲絃糸&専用手袋」でした。
※その他の道具(デイパック、SIG SAUER MOSQUITO(9/10)、予備弾倉(数不明)が死体のそばに放置されています。

【曲絃糸&専用手袋】
曲絃師が用いる糸。本来は総称だが今回支給されたのは萩原子荻殺を切断したものと同種のもののみ。自分の手を傷つけてしまわないよう、専用の手袋もセットで。

393 ◆olM0sKt.GA:2009/09/29(火) 22:42:01 ID:bKl71/mw0
二人は知らない。木下秀吉を殺害したのが紫木一姫であることも、情報を摂取し終えた瞬間一姫がなんの躊躇いもなく張り巡らせた糸を引いたことも、秀吉の鞄から愛用の曲弦糸と手袋を発見し、現在上機嫌で着々と二人から離れつつあることも。何もかも。

394 ◆olM0sKt.GA:2009/09/29(火) 22:46:47 ID:bKl71/mw0
あれ、書き込みの反映がおかしい……。
>>392のみが追加文になります。

>>393自体はミスなのですが、内容的に追加分と重複するため本編終了間際にあるこの一文を削除したく思います。よろしいでしょうか?

指摘等あれば、何なりとお願いします。

395名無しさん:2009/09/30(水) 00:06:11 ID:OCFiAfUA0
修正乙です。いい感じだと思いますよー

396 ◆LxH6hCs9JU:2009/10/04(日) 11:40:12 ID:gP.Y8bic0
全部投下しきったところでさるさんくらいました。のでこちらで。

投下終了しました。
ご意見ご指摘等あればどぞー。

397 ◆olM0sKt.GA:2009/10/09(金) 01:49:51 ID:xCBvk.SA0
姫路瑞希を仮投下します。

398冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA:2009/10/09(金) 01:50:23 ID:xCBvk.SA0
生きるものの絶えた校舎に放送が届く。
古泉一樹木は北に、紫木一姫は南に。それぞれの登場人物は各々の場所に舞台を移した。一時の邂逅を演出した学び舎は静寂を取り戻し、温もりさえ感じる穏やかさの中で日の出を迎えていた。
放送は誰にも聞かれることなく、しめやかに幕を閉じた。朝日の照り返しに光る真新しい校舎もまた、眠りにつくように動きを止めた。
無音の世界となってしばらく。声を無くした姫路瑞希が学校を訪れたのは、そんな曖昧で頼りない時間の中だった。

おぼつかない足取りで正門をくぐり、校庭を越え校舎に至る。その表情は亡霊のように不確かだ。弛緩しきった顔に涙の跡だけが目立つ。普段の爛漫とした美しさを反転したかのような絶望が、彼女の全身を包んでいた。
あてのない行軍を続ける姫路の心身は、救いを求める罪人のそれであった。犯した罪が、彼女を背後から追い立てる。
階段を上る足が鉛のように重かった。罪業を数えるように一歩一歩を段差を踏みしめる姿は、絞首台に向かう囚人のようでもあった。
彼女が真実死を欲していたのだとしたら、それもまた救いとなり得たのかも知れない。
だがそうではなかった。死によらぬ救済をもたらされず、彼女は決して許されない。冷たく乾いた校舎は何も語ってくれない。
愛する人は、影も形も見えなかった。

ろくに力も入っていないはずなのに、潔癖なまでに白く塗りあげられた廊下はよく音を返した。一定の間をおいて続けられるトントンという拍子だけが、僅かに彼女を刺激する。
学校は彼女を拒絶することも受け入れることもしなかったが、姫路にとって安らぎを得られる場所でもなかった。
身近だからこそ些細な違いが気にかかる。下駄箱の仕様が違う。職員室の間取りが違う。教室で使われている机が違う。
ここは、彼女がよく知る「学園」ではなかった。

399冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA:2009/10/09(金) 01:51:31 ID:xCBvk.SA0
立っていられなくなった。磨耗した精神は逆に崩れ落ちることを許さず、白壁にもたれながらずるずると腰を下ろす。
外気にさらされた足から何かいやなものがまとわりついてくる気がして、姫路は体を縮めた。無我夢中で働かされた体が、休息を要求していた。
体育座りのまま、ぼうとした時間を過ごす。光沢を無くした瞳は虚無を見ていた。
考えていることは特になかった。頭の中では黒桐幹也と吉井昭久が交互に現れ、ときおり朝倉涼子など他の人物もそれに加わってきた。
ひっきりなしに現れるそれらは像と呼べる程明確な形にはならず、ただ彼女の中の暗い影に吸い込まれるように消えていった。
吉井昭久。最後に残ったのはその名前だった。

姫路瑞希がいつの時点で吉井昭久のことを好きになったかと言えば、これは正確には答えることができない。
進級時のクラス分け試験のときかも知れないし、Aクラスを目指した試召戦争の最中だったかも知れない。それ以降ということは流石にないだろうが、確たる一瞬を断ずることも難しかった。
いつの間にか、だ。気づいたときには、明るさと活力では群を抜く文月学園Fクラスの中にあって、昭久は特別な輝きを持って姫路の中に存在していた。
同じ輝きを秘める親友と火花を散らしたことさえ、思えばかわいらしい思い出だったのだ。
帰りたかった。自分の背負った罪をどうしていいのか分からなかった。昭久と一緒に、何もかも忘れて元の場所に戻りたいという儚い望みだけが彼女を絶望の淵から繋ぎ止めていた。
あのとき助けてくれた「昭久君」は、まだ現れない。

400冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA:2009/10/09(金) 01:52:38 ID:xCBvk.SA0

座ってばかりいられないということは分かっていたが、どうしても体が動かなかった。
彼女の精神を支える芯がもう少し細かったならば、過去の思い出に耽溺し今を忘れられたかも知れない。あるいは太かったならば、己の所業と向き合い前に進むことができたかも知れない。
どちらでもなかった彼女は、ただ停滞することを選んだ。
絶望はやがて死に至るという。彼女がそのまま存在を止めてしまう未来も、可能性としてはあり得たのかも知れなかった。

姫路を動かしたのは臭いだ。階下か、階上か。いつの間にか一階に降りてきていたので階下ということはないだろうが、廊下の遙かから線香の煙のように細い臭いが漂ってきていた。
鼻腔への刺激は気付いことが不思議なくらい僅かだったが、姫路にとっては十分過ぎる程に不快だった。
押さえつけていた悪寒が復活して肌の表面に寒気を走らせる。気持ちが悪い。眼尻に枯れたはずの涙が溜まった。
全身が拒否感を訴えている。この臭いは厭だ。記憶にあるどれとも違っていたが、聡明な彼女は直感的に察していた。これは人が死んだ臭いだ。どこかに死体がある。
臭いがする程の死体の状態というのがどういうものか知っていたわけではないが、同じ空間にいるというだけで逃げ出したくなった。
顔を向けるとすぐそこに死体があるような気がして、姫路は臭いの元を見ることさえせずその場からよろよろと立ち去った。
その死体はさっきまで存在せず、姫路が臭いに気づいた瞬間廊下の真ん中にその身を転がしたんじゃないかという嫌な妄想が広がる。
途端、恐怖が走った。その死体が自分の後を追いかけてきているような強烈なプレッシャーを背後に感じたのだ。振り向けば目が合ってしまうような気がして、姫路は前を向くことしかできなかった。

臭いが完全に消える場所まで必死に逃げた。次に気が付いたとき、姫路は学校の廊下にうずくまるようにして倒れていた。どうやらどこかで気を失ったらしい。
それに気付くのにさえ、時間がかかった。

401冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA:2009/10/09(金) 01:53:39 ID:xCBvk.SA0
ブレーカーが落ちたことで少しだけ冷静さを取り戻せていた。怪談じみた恐怖はもうない。
そのまま、さっきまでの全てを妄想にしてしまいたかったが、あの臭いが嘘じゃないことは何となく分かっていた。
多分、自分も死ねば同じ臭いがするのだろう。
温泉も今頃は同じ臭いに満ちているに違いない。その責任の一端が姫路にあるのだとしても、じゃあどうすればいいかまでは分からなかった。
すん、すん、と。鼻音を立てて彼女は泣いた。寝ころんだ床とやたら遠い天井の間で、彼女は一人ぼっちだった。
安らげる場所などなかったのだと、ようやく実感として思い知った。この学校は彼女の通う学校ではなく、この世界はどこまで行っても彼女の知るそれには通じていないということを、まざまざと感じた。
動くこともできず、すすり泣く音だけが吸い込まれては消えていく。
やがてそれさえ聞こえなくなり、校舎は再び時間を止めたかのように思えた。
無音が続く。生者を抱えたはずの世界はガラス細工のような張りつめた静けさを湛えて存在していた。
やがて、床に打ち捨てられた彼女の指に、とん、と言う
柔らかい音が鳴る。視線をやったのは単なる反射だった。

廊下の直線に隠れるように、なだらかなスロープがある。そこから転がってきたのだろう。姫路の指に触れたのは、プルタブの開け放たれた、飲みさしのミルクティの缶だった。
冷えきった手に缶からこぼれた液体がかかる。薄茶色のそれも、冷たかった。
何が刺激になったわけではない。相変わらず、彼女は罪に怯えている。危険から逃げている。助けを求めて、しかし誰にも会えずにいる。
この世界は絶望しているのだ。死に向かってひた走っている場所なら、子供のように膝を抱えて小さくなっていれば一緒に消え去ることもできたはずだ。
なのに、姫路は立ち上がることを選んだ。缶が転がってきた方へ歩く。目は虚ろなまま、動作も緩慢だったが、逃げまどっているだけのときよりは生きている気がした。

それができたのは、やはり、彼女が誰かに支えられていたからなのだろう。


【E-2 学校前/一日目・朝】

【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:黒桐の上着
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
     ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:缶の転がってきたほうに向かう。
1:朝倉涼子に恐怖。
2:明久に会いたい

402冷たい校舎 ◆olM0sKt.GA:2009/10/09(金) 01:58:22 ID:xCBvk.SA0
終了しました。
仮投下したのはミルクティの扱いについて、亜美を予約せずに書いたにしては
後のリレーの組み合わせをかなり強烈に縛るのではないかと感じたからです。

このような書き方に問題はないか、意見を頂ければと思います。

403名無しさん:2009/10/09(金) 02:27:29 ID:grM001wc0
投下乙です。
問題ないかと思いますー
ただ、明久の名前が「昭久」になっていた所があったのでそこを指摘をさせていただきますw

404名無しさん:2009/10/09(金) 19:58:31 ID:KXscC1TAO
バカと姫路さんって小学生の時からイロイロあったんじゃなかったっけ?

405修正版 ◆UcWYhusQhw:2009/10/12(月) 05:43:05 ID:BRfcy7nI0
「これは……」

たった一人の大切な人を探す為に護るべき者であった少女と別れた少年、トレイズ。
その目的の為にはきっと切り捨てるものも出てくるだろう。
また、そうした覚悟をトレイズは持った、持たされた。
ある意味、気負いながらも彼がまず最初に見つけたのは人であって人ではないもの。
それは生前は黒桐幹也と呼ばれた者の顔が耕された死体であった。

亜美と別れ、何処かの施設にリリアは隠れているかもしれない。
そう考えたトレイズは地図に書かれた『温泉旅館』という場所に向かう事にした。
そして向かう中でかぎ慣れてしまった血の匂いに導かれて訪れた場所。
正しくそこは温泉旅館であったのだが、まず、見つけたのはその遺体と一台の二輪車であった。
死体を一瞥し、目の前の建物を注視した時、

「どーもー」

聞こえてきた声。
何処からか聞こえてきたのかと思えば、聞こえてきたのは二輪車から。
それはトレイズの常識範囲外のものであったが。

「えっと……遺体あるけど……」
「前からあったよ」
「そう……ああ、ちょうどいいや、リリアという少女探してるんだけれども、何か知らないか?」
「……んー知らないなー。知ってるのはここでは五人居るけど。何処に行ったかは知らないや……まったくもー酷いんだから。動けないの知って放置とか」
「それは災難だったね……えっと君は?」

難なくリリアの事を聞くトレイズ。
それほどまでに、リリアの事が気になって。
常識範囲外である事に気付いていなかった。
トレイズの目的はリリアをいち早く探し出す事なのだから。

「俺はトレイズというけど……君は?」
「エルメス」
「……どうも……バイクが喋ったっ!?」
「……今更気付くし……何回目だろこれ……バイクじゃなくてモトラドだから」
「そうですか」
「まったくもー……」

大きくため息をつくモノ、エルメスはバイクじゃなくてモトラドというらしい。
トレイズにとってはどう違うか見当もつかないが特には期待する事ではない。
喋った事に今更気付いたぐらいなのだから。
トレイズはリリアを探し出す事に精一杯でそれ所ではなかった。

何故喋ったかはよく解らない。
それとなく、放送で語られた事に関係するのだろうが、今はそれ所ではなかった。。
放送の事についても考えを巡らさなければならないのだが、それは二の次でしかない。
今は、探すべき人をいち早く探し出す事。
その為にもトレイズは目の前のモトラドに話しかける。

「ごめんごめん……それでこの中に人は?」

トレイズが指差すのは温泉旅館。
純和風の建物はトレイズにとっては始めてみるものだったが、特に気にする事も無く。
淡々と用事を済ませるのみだった。

406 ◆UcWYhusQhw:2009/10/12(月) 05:43:55 ID:BRfcy7nI0
指摘された黒桐部分、および前半部分を改訂したものを投下しました。

407 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/12(月) 13:40:31 ID:cpbw8F7Q0
最後にさるさんなのでこちらに

投下完了です。
大幅にオーバーしてしまったことを謝罪します。
また「壁」についての勝手な設定などにご意見等あれば、よろしくお願いします

408 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/12(月) 14:45:18 ID:cpbw8F7Q0
すみません抜けがありました。
正しくは410と411の間に以下の文が入ります

 そもそもこのガウルンという男、例え死病に犯されていようとも、それゆえの弱みを人に見せるような男ではない。それはガンに犯されてすでに全身ぼろぼろの、今このときも変わらない。
 そんな彼が見せた震えはただ単に――

 心から楽しげに嗤っていただけに過ぎない。
 
「くっくっく、こりゃあすげえ。俺かニンジャ、お前によほどの幸運がついているのか。それともあいつらによほどの厄病神でも憑いているのか、どちらだと思う? なあ、おい。お前は一体どっちだと思う? くっくっく。ははっ、はははははっ!」 
 そうして再びこらえ切れないと言わんばかりに、ガウルンは声を押さえつつ大笑いする。
 その一方で如月左衛門はどうしてガウルンがそこまで上機嫌になっているのか、まるで理解が追いつかない。
「一体どうしたのだ?」
 故に尋ねることにしたのだが、彼の言葉にガウルンはテンションが落ち着いたらしく、ようやく笑うのを止めるとはあ、と大きく息を吐く。
「察しがわるいぜニンジャ。お前ももう少し喜ぶべきなんだぜ。せっかく大事な弦之介サマが戻ってくる第一歩だっていうのによ」
「……まさか!」
 ガウルンの言葉に気付いた左衛門は驚きの声を漏らす。
「へッ、ようやく気付いたか。そう、あれがかなめちゃんだ」
「おお!」
 ようやく左衛門も喜びの声をあげた。

 ――とはいえ、実際彼にそれほどの非は無い。
 それというのもガウルンはカシムこと、宗介の事は特徴的な傷跡のことなどいろいろ詳しく話していたのだが、かなめに関しては髪の長さや背の高さなどに関してのことがほとんど。
 むしろそれだけの情報しか与えられずに、見分けられる方がどうかしている。

 しかしそうした己に非がない糾弾に対しても、今の彼には気にならない。
 これで一歩、弦之介様を取り戻す道が近付いた。

「――待て、ニンジャ」
 早速女を半殺しにし、その顔を奪いにいくべし、と駆け出した左衛門に対してガウルンが声をかける。

「なんじゃ? 言われんでもかなめとやらを殺さぬことぐらいは……」
「――心底バカか? お前は」
 振り返った左衛門に対して、さも呆れたといわんばかりに、ガウルンは嘲笑と罵倒の言葉を浴びせ掛ける。
「何だと?」
「あのなあ、お前は散々お預けを喰らった犬ッころなみのおつむしか持っていないのか? もうちょい頭は使えよこの阿呆。
いいか? 考えても見ろよ。せっかく今かなめちゃんは『お友達』といっしょに行動しているんだ。
かなめちゃんの『お友達』に対する話し方やらちょっとしたしぐさなんかをお前のものにするこれ以上のチャンスがあるのか?」
「……ぐっ!」 
 左衛門は言葉に詰まった。
 
 ……その口調こそ乱暴で聞いているだけで頭に来るものではあるが、ガウルンの言うことの大筋はまったく理に適っている。
 如月左衛門の忍術『泥の死仮面』はあくまでも相手の姿かたちを真似るだけのもの。己の姿を欺くことが目的というのであらばともかく、その容姿を真似た相手の知人を騙すとなれば、相手のことをよく知らねば術としては不完全。

「わかったらとっと様子を覗ってこい。
俺はここで待っているから適当に戻ってきな。どの程度の出来栄えかちゃんと確かめてやるからよ」

409 ◆LxH6hCs9JU:2009/10/13(火) 22:41:56 ID:JIEQHvJs0
またしても最後の最後でさるさんくらったのでこちらで。
「国語――(酷誤)」、投下終了しました。

410 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/13(火) 23:25:33 ID:A8162AKo0
「じゃあどうする? このまま他の人たちを探しにいく?」
 上条の言葉は逆にいうと今ここでできることは全て終わった、ということにもなる。ならばこれ以上ここにいることもないだろう。かなめの問いに上条は少しの間悩んでから結論を出す。
「一旦温泉に戻ろうぜ。北村があのエルメスってバイク……じゃなかったモトラドだっけか? あれに乗れるって言うんなら行動半径は大分広がることになるしな」
「あ、そうか」
 上条の意見に賛成してかなめは早速元来た道を戻ろうとした。
「あ、千鳥ちょっと待て」 
「何よ?」
 そんなかなめを上条は制止する。胡乱げに振り返ったかなめに上条は北東の方に建っている建築物、教会を指差す。 

「悪いけど、戻る前にちょっとあそこに寄っていっても構わないか?」
「え。別にいいけど……何? あそこに何かあるわけ?」
「まあ、インデックスとかステイルとか……魔術サイドの知り合いに関してちょっとな」
 インデックスやステイル、ひょっとしたら名前の載っていない十人の中にいるかもしれない神裂など上条の魔術サイドの知り合いほとんどが所属している組織、それが『必要悪の教会』だ。
 半分以上はこじつけに近いが、彼らがあの場所に立ち寄った可能性は十分にあるし、そこで知り合いに向けてメッセージを残している可能性だってある。
 幸いなことに位置的にも遠くない。よってみる価値は十分にあるだろう。

 そういうことなら別にかなめにも異論は無い。
 
 そして二人は教会へと足を運んだ。



 ◇ ◇ ◇



 ――それをそっと物陰から見つめる影が二つあった。
 甲賀の忍び如月左衛門と傭兵ガウルンの二人である。

 如月左衛門の忍術を活かすために、とりあえず草原へと移動、北へと動き出してからしばらく、彼ら二人は南のほうから声が聞こえるや否や、慎重にそれでも最大限急ぎ元来た道を駆け戻った。
 人の気配に足を止め、辺りを覗うとまだ若い男女の二人組みが今まさに教会の中へと踏み込もうとしているところへと行き当たったのであった。

「ふむ……。お主の読みどおり端を目指す愚か者がいたらしいな。まったくおぬしの読みは見事なもの……よ……な?」
 わずかにでもこの相手の気を緩めることができるならば儲けもの。ガウルンへと賛美の言葉を浴びせようとした如月左衛門の動きが驚きで止まる。
 振り返った彼の目に入ってきたのは、両腕で自らの体をかき抱き、それでも抑えきれずに全身を振るわせるガウルンの姿であった。

「いかがした?」
 ガウルンに声をかけつつ、左衛門は思い出す。
 あの忌々しいガウルンとの『交渉』の折、彼が口にしていたあの言葉『自分は病気で先が長くない』半ば以上はでたらめと思っていたあの言葉、あれは真実だったのか。
 そんなことを思いながら様子を詳しくうかがうために、ガウルンの側へと近付こうとした左衛門ではあったが、それは彼を止めるように突き出したガウルンの手によって、止めざるをえなかった。

411 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/13(火) 23:26:22 ID:A8162AKo0
指摘個所の修正です。

412iMRAgK0yqs★:2009/10/20(火) 00:46:03 ID:???0
仮投下、というかテスト投下失礼します。そのいち。

413 ◆iMRAgK0yqs:2009/10/20(火) 00:47:30 ID:MiocuO8c0
そのに。桁数変更め......_no

414 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/24(土) 19:35:53 ID:WgJLnQK20
さるったのでのこりはこっちで

415 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/24(土) 19:36:26 ID:WgJLnQK20
【C-6/一日目・午前】



【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:自信喪失。茫然自失。現実逃避。全身に打撲・裂傷・歯形。右手単純骨折。右肩に銃創。左手に擦過傷。 微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:デイパック、支給品一式 、ビート板+大量の浮き輪等のセット(三分の一以下に減少)@とらドラ!、カプセルを入れていたケース
[思考・状況]
0:????????????
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※浅羽が駆け出した方向は後の書き手にお任せします。 (ただし北〜北西方面ではない)




 ◇ ◇ ◇


 ……気がついたら地面に倒れていて、あさばが泣きながらわたしのことを叩いていた。
 それからいったいどれくらいの時間がたったのだろう。
 やがて、あさばは大声をあげながら、なんだかとても悲しそうな様子でどこかへ走って行ってしまった。

「……あ」
 わたしはよろよろと手を伸ばして、あさばのことを引きとめようとしたけれど、その手はあさばに届かなくて、何故だか声も出なくって、あさばの姿はやがて見えなくなってしまった。

「…………」
 わたしは黙ったままでゆっくりと体を起こした。

 あさばに叩かれたのはとても辛い。
 あさばに叩かれたところはとても痛い。

 でも、我慢しなきゃいけない。
 だって最初からわかっていたことだから。
 だってあさばは優しいからわたしがみんなを殺そうとしているって知ったらきっと怒るってわかっていて、それでもわたしはあさばを助けるって決めたから。

 ――たとえあさばがわたしのことを嫌いになっても、わたしはあさばがすきだから。

 そして彼女は再び進む。
 大好きな彼とは異なる道を。

【C-6/一日目・午前】

416 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/24(土) 19:38:14 ID:WgJLnQK20
【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:顔に殴打の痕。返り血で血まみれ。たまに視力障害。 とても哀しい。
[装備]:ベレッタ M92(13/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
     べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×3
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。
1:他の人間を探す。
2:晶穂も水前寺も躊躇いも無く殺す
3:さっき逃がした2人組を追いかけ、病院へと向かう。
[備考]
 不定期に視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。
 『殴られた』ショックのせいで記憶に多少の混乱があります。そのせいで浅羽直之を襲撃した事実に「気がついていません」

417 ◆ug.D6sVz5w:2009/10/24(土) 19:39:05 ID:WgJLnQK20
以上です。
ご支援ありがとうございました。

418 ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:47:21 ID:n1GJLoqU0
規制中につき、こちらに投下します。

419献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:48:19 ID:n1GJLoqU0
 【天文台】

 山中にひっそりと聳えるドーム型の建物は、来訪者をただひたすらに待ち続け今に至った。
 もともとは学者が星を観測し、天文学についての研究を行うために建てられたその施設。
 昨今ではそういった学術研究目的以外にも、純粋な天体観測をために訪れる者もいる。

 こんな山中では来訪者も多くは望めないかもしれないが、この立地環境にももちろん理由はある。
 天文台というのは天体からの微かな光を観測するため、光害のない暗い場所に建っているのが好ましい。
 夜でさえ電灯の光が絶えることはない、市街地から離れた山の中というの、まさに打ってつけだ。
 天文台の立地条件には高所であることも必須であると言われている。これは広い視界を確保するためである。
 実際、近年の有名な天文台はマウナケア山やアンデス山脈などの名だたる山々に建てられることが多い。
 山中というのは、以上の条件に最も適した、天文台を建築する上で最高の立地条件を揃えているのだ。

 天文台には、観測装置として天体望遠鏡が一つ、大きなところでは複数設置されている。
 この天体望遠鏡というのは、一般で扱えるような普通の望遠鏡とはものが違う。
 その名のとおり、天体を観察するための望遠鏡なのである。
 ほとんどが大型なため、持ち運びは不可能。観測の際にも必ずと言っていいほど架台に乗せなければならない。
 また、これらの天体望遠鏡はただ単純に星を見るための道具というわけではない。
 あくまでも天体を観測するための道具なのであり、その用途によって作りが異なってくるのだ。
 天体観測というのは、天体からやってくる電磁波や可視光線を受け、それを分析することである。
 これを可能にするのが天体望遠鏡という装置であり、天文台という施設であり、そして天文学者なのだ。

 この地に置かれていた天文台には、あたりまえだが天文学者はいなかった。
 傍には観測者用の宿泊施設と見受けられる小屋が建てられていたのだが、中はもぬけの殻。
 天体観測というものは複数夜に渡ることが多いので、こういった観測者用の施設も付属されることが多い。
 ただ、人がいないというのに布団が敷きっ放しになっていたのが気がかりと言えば気がかりだった。

 天文台内部は外観の素朴な印象に反して、一流企業のオフィスを思わせる近代的な空間が広がっていた。
 床を這うケーブルの数々、雑多に散らばった資料と思しきファイルの群れ、スクリーンセーバーが起動してるPC。
 近年の天文台では、膨大な量の観測データをまとめるためコンピュータを運用しているところが多い。
 遠隔地に建つ天文台には、通信ネットワークを利用した自動遠隔操作システムや解析ソフトを使っているところもある。
 ここも類に漏れず、その名残が散乱していた。PCモニターなどを指でなぞってみても、それほどの埃は溜まっていない。

 天体望遠鏡が設置されているフロアは、観測室とは違い綺麗さっぱりとしていた。
 冷房が効いているのか、どこか肌寒い。これは望遠鏡に余計な熱を与えないため、温度環境を一定に保つための処置だろう。
 間近に捉えてみると望遠鏡は実に巨大で、先端が空に向かった伸びる様はさながら大砲のようにも思えた。

 今ここに、インデックスとテレサ・テスタロッサの二人が立つ。
 来るべき天体観測の時刻に備えるため、少女たちは天文台の下見に来たのだった。

420献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:49:59 ID:n1GJLoqU0


 ◇ ◇ ◇


「――昔の日本では、天文台のことを『占星台』なんて言ってね。占星術に役立てたりしてたんだよ」
「占星台……ですか。ただ星を観測するための場所、という認識は間違いなのでしょうか?」
「間違ってはいないと思うよ。実際、現代の天文台は占星術を前提として作られてはいないわけだし。
 ここの天文台だってそう。純粋に、天体を観測するために作られている部分が多々見受けられるんだよ」
「占星術を前提として作るとなると、やはり天文台の作りからして変わってくるものなんでしょうか?」
「うーん、難しいところだね。私は機械には詳しくないから、この天文台がどれだけ優れているかはわかんないし。
 望遠鏡が発明されたのは17世紀のことだけど、天体観測や占星術はそれ以前からあったんだよ。
 それを踏まえるなら天文台なんてそもそもいらないし、逆に占星術に最適な天文台を作ることも可能ではあるだろうし……」
「占星術って、要は占いなわけですよね? だとすると、学問……というには少し違ってくるんでしょうか?」
「今じゃ科学とは違う別の技術と定義されているからね、占星術は。
 天体の位置や動きを、人間や社会の在り方に結び付けて考えてみる占いだから。
 星座占いってあるでしょ? あれだってもともとは占星術が起源なわけだけど、今じゃすっかり別物だし」
「科学とは違う別の技術、ですか? それって、例の魔術……っていうのと、同じものなんでしょうか?」
「定義が難しくはあるんだけどね。占星術も魔術の一端には違いないよ。私の中の十万三千冊の魔導書にも、ちゃんとそういうのは含まれてる。
 星を見たいっていうのも、私の頭の中にある星図と照らし合わせてこの世界の環境をよく知るため。
 あの神社を調べてみた感じ、この世界は日本のそれと当てはまる部分が多いんだけど、ただ模しただけっていう可能性もまだ捨てきれない。
 あっ……と、そのへんの詳しい話はヴィルヘルミナとしかしていなかったね。テッサにもこの場で説明しておくことにするよ」
「……インデックスさんって、なんでも知っているんですね」
「なんでもは知らないよ。知ってることだけ」


 天文台の中でささやかれる声。
 十万三千冊の魔導書を有する少女が語り、テッサが聞く。

421献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:50:54 ID:n1GJLoqU0
「――で、どうかな? この機械、使えそう?」
「ここまで専門的とは思っていませんでしたので……ちょっと、難しいかもしれませんね」
「え、そうなの……?」
「そんな不安そうな顔をしないでください。普通の人なら難しいかもしませんが、私になら簡単です。
 幸いにも、制御はコンピュータで融通が利くようになっていましたから。キーボードをちょちょいのちょい、です」
「ふーん。私にはあんな箱、とてもじゃないけど使いこなせないんだよ。テッサってすごいんだね」
「得手不得手はありますよ。私は機械が得意な人間として、インデックスさんに同行したんですから」
「頼もしい限りなんだよ。でもこれだけ大きな設備だと、活用できる人間も少なそうだよね」
「ええ。どういった用途でここに天文台が置かれていたのか……そこが少し、不可解ではあるんですけど」
「天体を観測するためじゃないの?」
「もちろんそうなんでしょうけど、椅子取りゲームの最中に天体観測をする人はいないんじゃ……って思ってみただけです」
「むむ。言われてみるとそうかも。私みたいに星に関しての知識を持っていたとしても、大抵はそれどころじゃないだろうし」
「コンピュータが使いっぱなしのまま放置されていたのも疑問と言えば疑問です。
 ざっと調べてみたところ、観測中と思しきデータも見当たりましたし、熱暴走気味の機械も少しだけありました。
 まるで今の今まで、そこで研究していた人がいたような……なんて、考えすぎかもしれませんけど」
「ネットワークには繋がってなかったの? 世界のいろんな人とリンクできるやつ」
「残念ながら。環境自体は整っていましたし、ケーブル等の機器もそのままではあったんですが、アクセスしてみても応答はありませんでした」
「あの箱って、他にもいろんなことができるんでしょ? なにか役立ちそうなものってなかったのかな?」
「天体の観測データが残されていましたけど、それが現在の環境と一致するという保障はありません。
 後はまあ、特に有益なものはなにも……ノートパソコンでもあれば、端末としていろいろ運用もできたのですが」
「あー、なんかいろんな色のケーブルがごちゃごちゃしてたよね。あれを運び出すのはちょっと面倒かも」
「欲を出して足を取られては元も子もありませんからね。ここは当初の予定どおり、観測を行うだけに留めましょう。
 観測を始める時間は、夜が更けてから……準備等も含めると、午後六時にはまたここに足を運びたいですね。
 コンピュータはもとより、CCDカメラや分光器も細かい調整が必要なようですから、その際には私も同行します。
 あ、でもただ星を見るだけで済むというのならそこまでの細かい作業は必要じゃありませんよ。
 機械に馴染みのある方ならあの望遠鏡も扱えそうですし、逆に詳細な観測データが欲しいというならそれなりの技術は必要ですが」
「……テッサって、なんでも知ってるんだね」
「なんでもは知らないですよ。知っていることだけです」


 天文台の中でささやかれ続ける声。
 ブラックテクノロジーの宝庫とも言われた存在が語り、インデックスが聞く。

422献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:51:44 ID:n1GJLoqU0
「それじゃあまた夜が更けた頃、ここに足を運ぶってことでいいかな?」
「そうですね……そのあたり、他の方々ともよく話し合ってみましょう」


 天文台を離れていく二人の少女。
 下見を終えたインデックスとテレサ・テスタロッサが次に向かう先は、北の山奥……。


 ◇ ◇ ◇


 【黒い壁】

 世界という名の環境を成立させるための囲い。もしくは塀。または柵。あるいは檻。
 絶対の不可侵領域。質量を持たない絶壁。立ち入り禁止の境界線。抜け出せない外側。
 御坂美琴曰く、それは電撃の類を弾くのではなく吸収したという。
 それは単に、耐電性に優れただけの防御壁というわけでは決してない。
 壁のように見えて壁とは考えがたい代物。その調査のために彼女らはここに訪れた。

 エリア【A-1】とエリア【B-1】、その左下隅と左上隅が交わる直角の位置。
 地図を辿るだけでは目星をつけるのも難しいそこは、『黒い壁』の存在感のおかげで容易く判別できた。
 インデックスとテレサ・テスタロッサは今、天文台からさらに山奥へ進んだ北西の果てを訪れている。
 山林は深く生い茂り、しかし大自然の繁栄は不可思議に、黒い境界線によって途切れてしまっていた。
 ここが境目。ここが世界の果て。これより先にそれぞれの帰るべき場所があるのかは定かではない。

 御坂美琴が見たという『黒い壁』、そして零崎人識が見たという『消失したエリア』。
 双方を同時に眺められる『かどっこ』で、彼女たちの調査は始まる。


 ◇ ◇ ◇

423献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:52:43 ID:n1GJLoqU0
「――黒い、ね」
「……ええ、黒いですね」
「夜だとイマイチわかりにくかったけど、日が昇ってから見てみると……」
「……壮観、ですね。こうやって間近にまで迫ってみると、余計にそう思えます」
「でも、こんなことで感動を覚えてはいられないんだよ」
「それはもちろんです。水平線を見て感慨にふけるのとは、わけが違いますから」
「まずはこっち。西側に立ってる『黒い壁』。ううん、立ってるって表現は適切じゃないかもしれないね」
「そうですね。聳える……いえ、置かれている……? この奥が見えないことには、なんとも言いがたいです」
「同感なんだよ。とりあえずどうする? テッサ、触ってみる?」
「え、遠慮したいところですっ……御坂さんは実際に、『黒い壁』に対して攻撃を試みたと言っていましたけれど」
「短髪のビリビリだね。電撃には耐性があるってことなのかな? 物理的干渉が可能かどうかも試してみたいんだよ」
「石でも投げてみますか? 都合よく転がっていましたけれど。まあ森の中ですし、不思議じゃないですね」
「あ、それ私やりたいかも! 貸して貸して!」
「はい、どうぞ」
「てぇりゃあぁぁぁぁぁ!」


 ひゅるるるるる〜……………………。


「……コン、って音すら鳴らないんだよ」
「……御坂さんが言うとおり、吸い込まれちゃった感じですね」
「肉眼で見ると壁のようだけど、やっぱり正体は壁じゃないのかもしれない」
「見ただけではわからない、ですね。ここはリスク覚悟で触れてみるしか……」
「待ってテッサ。それなら私が中に入ってみるよ」
「え……インデックスさんが? ですが……って、入ってみる……? 中に、ですか?」
「うん。自分の目で情報を得ることも必要みたいだしね。やってみて損はないと思うんだよ」
「き、危険すぎます! さっきの石みたいに、吸い込まれちゃったらどうするんですか!?」
「吸い込まれなきゃ中には入れないと思うんだよ。あ、でも外に出て来れなくなっちゃうのは困るかも」
「そんな危険な真似、容認できません!」
「だ、大丈夫だよ!」
「なにを根拠に大丈夫だなんて言えるんですか!」
「え、え〜っとね……ほら、私のこの服! これの加護があれば『黒い壁』の力なんてへっちゃらなんだから!」
「その修道服がですか? なにか特別な効力でも……?」
「うん。これは『歩く教会』って言って、その布地には幾重もの結界が張り巡らされているんだよ。法王級の防御力なんだからっ」
「……そんな安全ピンで無理やり止めているような服が、ですか?」
「うっ……テッサの瞳が欺瞞に満ちてるんだよ。こ、これはとうまが起こした事故の名残で……」
「あ、どうやら『黒い壁』の中に入ってもすぐに消えるということはなさそうですね」
「あーっ!? なにしてるのさテッサ!」
「木の枝が落ちていましたので、ちょっと差し込んでみました♪」
「それって抜け駆けだと思うんだよ!」


 わいわい。がやがや。

424献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:53:46 ID:n1GJLoqU0
「…………う〜ん」
「どうですかインデックスさん。『壁の向こう側に二、三秒ほど入り込んでみた』感想は?」
「……正直、あまり気持ちのいいものではないんだよ。むしろ気持ち悪い。鳥肌が立って止まらない感じ」
「気持ち悪い……ですか」
「中は真っ暗だし、足下も覚束ない。もう一歩踏み込んでたら危なかったかも。あとは……音がなかったんだよ」
「音というと?」
「無音なんだよ、この壁の向こうは。声なんかを出そうとしても、即座にかき消されちゃう感じだね」
「……私も試してみていいでしょうか?」
「ダメとは言えないよ。けど、私の手をしっかり握ってて。最大でも三秒が限界。そしたら強引にこっちに引っ張るから」
「はい、よろしくお願いしますね」


 ザッ………………ぐい。


「……どう? 感想は」
「インデックスさんの言ったとおり……ですね。声だけでなく、足音なんかも鳴りませんでした」
「視界も真っ暗だったでしょう? なんて言うのかな。この壁の向こう側はまるで別空間なんだよ」
「虚無……と言ったような感覚でしょうか。もう少し長く中に留まっていたら、消える……そう本能的に実感してしまうような」
「考えてみたんだけど、消えるっていうのとはちょっと違うかも」
「え、違うんですか?」
「うん。消えるっていうよりは、中に溶け込んじゃうって言ったほうが正しいかな」
「溶け込んじゃう……」
「たとえるとね、この中は迷路みたいなことになっていると思うんだよ。一度踏み込んだら絶対に戻っては来れない、永遠の迷宮だけど」
「永遠に闇の中……というわけですか。なんだかゾッとします……」
「消滅っていうのは、たぶんそういうこと。『黒い壁』に取り込まれて、この世からは消えてしまう。
 それはきっと、死よりも悲惨なこと……ううん、死すら奪われて、永遠に虚無の中で生き永らえるだけ」
「実際に中に入ってみただけで、そこまでわかるものなんですか?」
「ん、言ってることに確証はないんだよ。手持ちの知識から憶測して、推論を口にしているだけ。
 十万三千冊の魔導書だなんて言っても、この『物語』の中では必ずしもその知識が適用されるわけじゃないから」
「……インデックスさんは、この『黒い壁』の正体をなんだと考えますか?」
「類似しているものは挙げるとすると、やっぱり『結界』かな」
「結界? 結果って、あの――」
「そのあたりを説明するよりも先に、次はこっちのほうを調べてみたいんだよ」


 二人の視線は北側に聳える『黒い壁』――と似て非なるモノ、『消失したエリア』に向く。


「一見、『黒い壁』とまったく同じように見えますけど……」
「うん。黒いし暗いし高いし不気味だし、見た目はまったく一緒だね」
「あっ……やっぱりこれも、『黒い壁』と同じものみたいです。ほら、木の枝が普通に入ります」
「なら、さっきと同じやり方で中の様子も窺ってみたいんだよ。テッサ、手を繋いでて」
「三秒が限度、ですよね? 任せてください」
「それじゃ、入るよ」


 ◇ ◇ ◇

425献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:54:55 ID:n1GJLoqU0
 【消失したエリア】

 零崎人識が『零次元』と例えたそれ。つまりは三十六で区切られた升目の消失。終わった世界。
 外観はとにかく黒い。夜の闇に酷似した深い黒さ。見ているだけ吸い込まれそうな錯覚に陥る。
 空を仰いでも果ては見えず、そのまま宇宙と繋がってさえいそうな気がした。

 現在までで消えたエリアの数は五つ。【A-1】から【A-5】まで、横に五つ。
 あと小一時間ほどで【A-6】も消えてしまうだろう。そうなれば、【A】のラインは全滅。
 続いては【6】のラインから縦に侵食が始まり、そこから【F】、そして【1】と……会場は時計回りに狭められていく。
 そして最終的には、無になって消える。それがこの世界の宿命。制限時間は三日間。これは前提とされた絶対のルール。

 それをよく捉えているからこそ、消えゆく世界の中に閉じこめられた者たちは抗うのだ。
 自分たちを包囲している『黒い壁』、そして『終わった』という結果のみを残す黒い領域――『消失したエリア』。
 終焉が近いこの環境から脱するすべは、壁の突破こそが最短の道。そう考えるしかない現状。

 実地調査にあたるのは当然として、問題は真理を見抜けるかどうか……。
 少女たちは考察する。


 ◇ ◇ ◇


「…………う〜ん」
「あの、インデックスさん……? 先ほどと反応が同じみたいですけど……」
「そう? だって、感想もおんなじなんだもん。仕方がないよ」
「じゃあ、やっぱり?」
「うん。この『消失したエリア』も、中の感覚は『黒い壁』のそれとほとんど同一。同じものと考えていいだろうね」
「違いがないとするなら……攻略法も同じではある、と考えていいんですよね?」
「そうだね。その攻略法自体がまだ全然見えてこないけど……ねぇ、テッサは『結界』というものについてどれくらい知ってる?」
「私は魔術というものに関しての知識を持っていないので、イメージでの回答になってしまいますけど……」
「全然構わないんだよ。話してみて」
「そうですね……聖域、外界からの侵入を拒むもの、立ち入り禁止……つまりは壁、ですかね。どうでしょう?」
「その認識で間違いはないんだよ。結界魔術は多種多様に存在しているけど、不可侵領域を作るという部分はある程度共通してる。
 テッサ、日本文化についての知識は持ってるよね。たとえば障子や襖。身近なところだと、あれも結界の一種であると定義できる。
 日本って、本来は他国と比べても空間を仕切る意識が希薄だった国だからね。ああいったものにはそれなりの意味があるんだよ」
「この会場の作りは、日本のそれと近しいんですよね? だとしたら、結界の意味も……?」
「結界っていうものは、本来は仏教用語なんだよ。神道や古神道なんかでも同様の概念を持つものはあるけど。
 西洋魔術でも普通に使ってる言葉だったりするね。防御結界や隔離結界、あとは魔術をサポートするための認識結界なんかも。
 結界という言葉の原点は仏教だけれど、同様のものであると言える『空間に作用する魔術』はむしろこっち側で栄えたものなんだよ。
 広義の言葉としては便利だよね、結界。完全な魔術用語ってわけでもないし、こうやって会話に持ち込む分にはかなり便利かも」
「やっぱり、この世界を囲っている『黒い壁』や『消失したエリア』は、結界の一種だと言えるんでしょうか?」
「類似したもの……とまでしか言えないのが正直なところなんだよ。
 これが結界魔術の一種だと定義したとしても、私の十万三千冊の魔導書の中にそれに該当するものはないんだ。
 これだけ大規模な空間隔離、一番近いものを挙げるとなると魔術ではなくヴィルヘルミナが言ってた自在法、封絶になる。
 違う物語の話だからね。自在法についての知識は圧倒的に足りてないし、足りていたとしても該当するものが見つかるとは限らない。
 う〜ん、一度ヴィルヘルミナの視点からも意見が欲しかったかな。テッサの世界の技術ではどう? こういったものを作り出せる機械とかある?」
「あー……えーっと……」


 ……………………長々。

426献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:55:53 ID:n1GJLoqU0
「……それでね。この『黒い壁』や『消失したエリア』を、結界魔術や封絶等の自在法に類似したものと定義するなら、だよ?」
「はっ、はい……」
「大丈夫、テッサ? なんだか疲れてる顔してる」
「いえ、軽いカルチャーショックです。頭にはきちんと入ってるので、心配しないでください」
「そう? それじゃあ続き。これを結界に類似したものと定義するなら、問題はそれを行使している方法と、術者の存在なんだよ。
 まさか世界が消えるだなんて現象が自然の仕業だとは考えがたいよね。魔術にしても自在法にしても、術者はいて然るべきもの」
「あ、実際にエリアを消している人物は誰か……って話ですか?」
「そう。今のところ、考えられる人物なんて“人類最悪”以外にはいないんだけどね」
「彼の背後に別の人間がいる……と、そんな風にかぐわせてはいましたけど、存在が露呈しているのは一人だけですものね」
「“人類最悪”が魔術師や自在師かどうかなんてわかんないけど、裏になんらかの術者がいる可能性は高いんだよ」
「人間が行使する術式……ではなく、機械技術を応用した装置……という可能性はないのでしょうか?」
「もちろんあるよ。むしろ可能性としてはそっちのほうが高いかも。
 私の知識だけでは語るには忍びない事象だし、別の物語の技術っていうんならそのほうが納得もしやすい。
 別の物語の技術じゃないにしても、魔術効果を持つ霊装や自在式が込められた宝具って線もあるかな。
 まあ人間か機械がエリアを消しているとして、共通して考えられる事柄があるんだよ。なんだかわかる?」
「……所在地、ですか?」
「うん、そのとおり。この場合重要になってくるのは、術者、もしくは装置の居場所。
 私たちが目指すのは、『黒い壁』や『消失したエリア』の正体を突き止めた先、消えゆく世界を停止させること。
 そのためにはやっぱり、大元を絶たなきゃ問題の解決には至れない。
 だからまずは、術者か装置の所在地を突き止めなきゃいけないんだけど……テッサはどう? 心当たりはある?」
「正直なところ、皆目検討もつきません。ですが、観測的な希望を言わせてもらうとすると……『中』、ですかね」
「それには私も同意する。エリアを消している――結界を張っている術者か装置は、この会場の『中』にあると思うんだよ」


 地図を取り出し、揃って視線を落とす二人。

427献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:56:26 ID:n1GJLoqU0
「『黒い壁』と『消失したエリア』が同じものだとするなら、だよ? 私たちの認識は間違ってたことになる」
「この世界は、時間経過と共に消えていっているのではなく……『結界の範囲が増えている』というのが正しい」
「そう。そして結界魔術っていうのは、基本的には自分を中心にして周囲に張り巡らせるものでもある。
 隔離が目的だって言うんなら、『外』から張るタイプの結界魔術ももちろんあるんだけど、
 それだと地図に沿って四角い升目どおりに、それも二時間ごとだなんて細かく時間を設定して領域を増やすのは困難。
 結界魔術の常識で語るなら、術者は結界の『中』に……私たちと同じで、この会場内にいる可能性が高いんだよ」
「ヴィルヘルミナさんが言っていたという、自在法だとどうなるんでしょう?」
「私も詳しく知っているわけじゃないけど、因果孤立空間を作り出す自在法、封絶も要領は同じはず。
 自分自身を起点にして、周囲一帯にドーム型の結界を張るって感じのものと私は聞いてるし解釈してるんだよ。
 これにしたって改良の余地はあるだろうし、形や方式は使う術者によりけりなんだろうけどね」
「ただ一つ疑問なのは、術者が『中』にいるのだとしたら、その人物も世界の消失に巻き込まれてしまうという点ですよね」
「そこはいろいろ考えられる部分だと思うよ。一番簡単なのは、術者じゃなくて装置で結界を作り出してるって考え方。
 仕事をやり終えたらあとは機能を停止するだけ、っていうんならあちら側にしてもさほどデメリットはないだろうし」
「それも都合のいい解釈ではあるけれど、一番簡単と言えるのは術者本人が脱出の術も持っているという考え方じゃないでしょうか?
 大前提として、この椅子取りゲームは最後に残った一人だけは生きて帰ることができる。
 なら、“人類最悪”の一派はその方法も保有していて然るべきはずです。それを握っているのが、その術者なんじゃないかと」
「私たちが一人きりになったら、その人が顔を見せて私たちを会場の外に連れて行ってくれるのかもしれないね。
 もしくは、世界の消滅自体を停止させてくれるのかも。結界を全部キャンセルしてしまうってのも大いにアリかな」
「そうなると、次なる疑問も浮上してきます。術者は『中』にいると仮定して、いったいどこに潜んでいるのか……?」
「定石としては、領域の中央。さっきも言ったけど、結界って基本的には自分や術式を引いた陣を中心にして作り出すものだから。
 ただ今回の場合はちょっと考え方を改めなきゃいけない。なにせ、この世界は時計回りに消えていってるんだからね。
 真の意味で世界の中央と言えるのは、この地図を眺めた上での中心点じゃない。最後に残るここになると思うんだよ」
「……【D-3】、ですか」
「うん。時計回りにエリアが消失していくとなると、最終的に残るのはこのエリアになるよね。
 このエリアの中心点こそが、世界の中央。術式は領域拡大における範囲の誤差も込みで行使されているのか、
 それとも実際の地形と私たちに配られた地図には多少の狂いがあるのか、あるとしたら意図的だろうけど、そこは定かじゃない」
「このエリアに置かれている『警察署』が、少し気にはなりますけど……インデックスさんの言う中心点とは微妙にずれてますね」
「どうだろう。それだって誤差の範囲内かもしれないし。けどやっぱり、怪しいのはここだよね……」
「結界を張っている術者、あるいは装置。それらが隠れている、もしくは隠されている場所……それが、【D-3】」
「手持ちの知識と論理、それに常識をフル活用して導き出した確証性のない推論だけどね」
「いいえ、推論としてはなかなか上等だと思います。調査の価値は十分にあるかと。
 距離もそう遠くはありませんし、神社に戻ったら天体観測班とは別に、調査班を編成してみましょう」
「星を見れるのは私だけだし、機械に詳しい人は他にいないみたいだし、そうなると調査班は私とテッサ以外の人になるね」
「天文台には私たちで向かわないと意味がありませんからね……須藤さんたちが首尾よく人を集めていられればいいのですけど」
「そのへんは一度戻ってみてから考え直そうよ。私としては、とうまの右手を試してみたくもあるんだけど……」


 そんな風に、世界の端で議論は交わされ……やがて、時計の針は午前11時を回った。

428献身的な子羊は強者の知識を守る ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:57:43 ID:n1GJLoqU0
「……っと、そろそろ戻らないと、正午までの合流に間に合わなくなってしまいますね」
「天文台に世界の端、二つをじっくり調べるとなると、やっぱり結構な時間がかかっちゃうんだよ」
「このあたりは整備された道もないですし……山道は大変ですね。下山の際に迷わなければいいんですが」
「楽しいハイキングとはいかなかったね。っていうか……そろそろ、限界、かもなんだよ」
「限界? あ、あの……インデックスさん? なんだかぷるぷる震えてますけど……大丈夫ですか?」
「山を登るっていうのは結構な体力を消費するわけで、それ相応のカロリーはあらかじめ摂取しておかなきゃで……」
「あー……ほ、ほら! きっと須藤さんたちがなにか調達してきてくれますよ。だから、ここはもうしばらく辛抱して――」


「おなかすいたぁ――――っ! おひるごは――――ん!」


 ◇ ◇ ◇


 【お昼ごはん】

 山登りと考察の後にはおなかが空くということ。
 家に帰る頃にはお昼ごはん。
 はてさて、今日のメニューは……?




【B-1/北西部・『黒い壁』と『消失したエリア』の傍/一日目・昼】

【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:空腹
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、
     不明支給品0〜2個、缶詰多数@現地調達
[思考・状況]
0:おーなーかーすーいーたー!
1:神社に戻る。
2:神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
3:神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
4:とうまの右手ならあの『黒い壁』を消せるかも? とうまってば私を放ってどこにいるのかな?
[備考]
『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。


【テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500 残弾数5/5
[道具]:予備弾15、デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
0:い、いい子だからもうしばらく我慢してください! あ〜っ、噛み付かないで〜!
1:神社に戻る。
2:神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
3:神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
4:メリッサ・マオの仇は討つ。直接の殺害者と主催者(?)、その双方にそれ相応の報いを受けさせる。
[備考]
『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。

429 ◆LxH6hCs9JU:2009/10/26(月) 01:59:10 ID:n1GJLoqU0
投下終了しました。
お手隙の方がいましたら、代理投下のほうお願いします。

430修整 ◆MjBTB/MO3I:2009/10/27(火) 14:03:04 ID:U.3CJ5BA0
       ◇       ◇       ◇


フリアグネは目を見張った。

手玉が前進し、衝突したのは当然一番ボール。だがその一番のボールはポケットではなくクッションへ。
一番は僅かにクッションに衝撃を吸収されながらも、微妙に角度を変えて手玉に当たらないように進んでいく。
ここまでだと思った。ここで終わり、続いて和服から自分のへとターンが移るものだと思っていた。
しかし、その予想は一瞬の内に殺される。

なんと元気良く跳ね返った一番が、長方形の長辺を沿う様に疾走し"九番"ボールへと迷い無く激突したのだ!
テーブル上で唯一の"黄と白のストライプで彩られたこのゲームの主役"が、初回から真っ先に動く。
その先にあるのは、一番が鎮座していた場所と正反対の位置に存在するコーナーポケット。
然程時間もかからずに九番はいとも容易く吸い込まれ、手玉と残り八つのカラーボールが場に残される。
関心と驚愕で何も言えず静まり返るフリアグネとトラヴァス。そして不敵な笑みを浮かべる和服。


これにてナインボール終了。勝者、和服。


なんと。これは、まぁ。突然彼女が乗り気になった理由を探る間も無く終わってしまった。
というかまだ一度もキューを振るっていないのに。表向き"息抜きをしたい"と言った相手の事をまるまる無視している。

「オレの勝ちだな……もう一度、やるか?」

少し矜持を傷つけられたが何もおかしいことは無い。ナインボールとはそういうルールだ。
そもそものルールは"一から九までのボールを数字が小さい順に落として行き、九番ボールを落としたものが勝者"である。
そして"白い手玉をぶつける対象はテーブル上のボール中最も数が小さいもののみである"という縛りが発生する。
お気付きの通りこの制約は実際にプレイした際には非常に重く圧し掛かり、このゲームの難易度をかなり上げている。
だが同時に、実は"小さい数字にさえ当てれば、それが他のボールを間接的にポケットに落としてもセーフ"というルールも存在している。
つまり初っ端に一番ボールを使用して間接的に九番ボールを落とした場合も"セーフ"。しかもその時点で勝者が決まるというわけだ。
力量と運さえあればいくらでもプレイ時間を短縮させられる。ナインボールとはそんな大胆な側面も持つゲームなのだ。。

(この行動の意味するところは……"お遊戯など早く切り上げたい"ということかな?)

突然の世紀末ビリヤード大会開催のお知らせに、少々戸惑いを隠せないフリアグネ。
そこに更に和服の意味不明な高揚感丸出しの姿である。混乱しそうだ。

(いや、だが"もう一戦プレイするか"と挑発したのは和服の方だ……何か、何かを伝えようとしている)

ならば。
フリアグネは一瞬少佐と視線を交わし、

「……うふふ、そうしようか」
「ええ、そうですね」

乗った。


       ◇       ◇       ◇

431 ◆MjBTB/MO3I:2009/10/27(火) 14:09:04 ID:U.3CJ5BA0
修整すべき箇所があったので投下させていただきました。

432 ◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 02:37:57 ID:6a6d3yMs0
規制の毒牙にかかっておりますので、スペースお借りします。

433何処へ行くの、あの日 ◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 02:39:33 ID:6a6d3yMs0
伊里野加奈は人間だ。
だから、腹くらいはへる。


       ◇       ◇       ◇


胃が音を発した事で、ようやく彼女は"自分が働き詰めであった"という事に気付いた。
自分の体調を人一倍気を使わねばならない、そんな人間であるはずだというのに。
こんなことでは次は鼻血や視力では済まされない。しっかりしなければ。
といった事を考えながら、歩く。

目指すは病院。
突発的に起こる視力の急激な衰えなどに対処する為、善処する為、向かわなければならない。
だが腹は、正確に言えば胃は変わらず音を立て続けている。空腹のサインは止みそうに無い。
これは病院に行く前にどうにかした方が良さそうだ。ついでに休憩しよう。

目の前に、小さなコンビニエンスストアが見えた。
ついでに言うと無人だった。なので躊躇いなく入る。

理由は単純。盗みを働く、ただそれだけの為。


       ◇       ◇       ◇


流石にコンビニの建物内部で食すというのも節操の無い話だったので、既に民家へと場を移していた。
鍵はかかっていなかった。コンビニ同様、住人も皆無。
あったのは使い古された家具一式と、テーブルに僅かに残るお茶菓子。
醤油味で甘辛く仕上げられたそれら。その中に一枚だけ不自然に欠けたものが混じっている。
それはまるで、というより確実に齧った跡であり、妙な生活感を醸し出していた。
誰もいないというのに。

とりあえず居間らしき部屋、そこにあった椅子に腰掛けた。そしてテーブルに"戦利品"を置く。
"戦利品"はコンビニのカウンターから拝借したビニール袋の中。極めて乱雑に、まとめて入っている。
気になる中身はこれまた乱雑、というより統一感の無いものが揃っている。

ハムとレタスと卵とチーズが挟まれたサンドウィッチ。
海老天が中に仕込まれている大きめのおにぎり。
レンジで加熱されたことで更に旨みを増した棒状ピザ。
中身を苺ジャムとクリームとチョコレートで構成する三色パン。
冬のお供、コーンポタージュのカップスープ。

以上。少しボリュームがあるようだが問題はない。
伊里野はあの鉄人定食にすらチャレンジしたのだから、たかがこれくらいは。


伊里野加奈は人間だ。
だから、少しくらい贅沢はしたくなる。


       ◇       ◇       ◇

434何処へ行くの、あの日 ◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 02:40:34 ID:6a6d3yMs0
味気ない、と思わざるを得なかった。
こんなにも統一感の無い、それ故に濃い味のものも十分に集まった食卓であるというのに。

熱々のピザを食べた。美味しい。
続いて三色パン。美味しい。
カップスープにも手をつける。美味しい。
そこそこにして今度はおにぎりに。美味しい。
同時進行でサンドウィッチも。美味しい。
両方とも食べ終わったので、残ったスープにとどめを。美味しい。

そうだ。こうして並べてみても味に問題はなかった。それに、腹を丁度満たす量にもなっていた。
別に巨大な餃子や巨大なラーメンを食したわけでもないので、苦しくも無い。
それなのに、何が満たされていないのだろう。だが、だと言うのにこの溢れ出る違和感は何だ。
たった一度、こうして一人で食事をしただけで寂しさを感じてしまうのだろうか。
伊里野はただただ、目の前のそんな現実に一寸悩み、そしてすぐに悟った。

答えは単純。今の自分が"孤独だから"だ。
彼女がこの"椅子取りゲーム"が始まって以来、何もかもを捨てて"浅羽"という名の少年を優先したからだ。
ただ、彼が生き残れば良いと思った。初めて好きになった男の子の命さえ散らせなければ良いと思った。
だから行動に移したのだ。だから殺したのだ。あの榎本をこの手で、直接、あっさりと。
そして水前寺達も殺せば良いと思って、そうやって、孤独になる道ばかりを選んだ。
その決意は、あの優しい浅羽直之の心を傷つけるであろう事も解っていた上で。

だからこそ、あの事件が起きた。
浅羽にどういうわけか激しく拒絶された。あの出来事だ。

拒絶されること自体は、当然だと思った。自分がそれ相応の行動を起こしている事など、一目瞭然だ。
完全に覚悟が出来ていたとは言いがたいが、それでも"一応は"理解していたからこそ、伊里野は再び歩き出すことが出来たのだ。
それに、それ以前に、自分は浅羽を生かす為に、最後に死ななくてはならないのだ。
情など不要、未練など不要。孤独など望むところ、と日頃から言い聞かせなくてはならない立場であるはずだったのだ。

"一人"とは即ち"独り"である。
一人になるということは、周りに誰もいないということ。
飛行訓練等で次々と消えていく昔の仲間達を思い出す。
同時に、"遂にパイロットが一人になってしまったあの日"をも。

けれど、それでもやり遂げなければならないのだ。
吐いてしまいたいのだが、弱音というものは一度吐いてしまえばずるずると続いてしまうものだ。
そもそも榎本を殺した自分が、そんな事を出来る資格があるものか。
人間の価値を天秤にかけた。軽かった方を殺した。それだけで、自分は重罪なはずなのだ。
けれど、しかし、それでも、そのおかげで浅羽が助かるのならば。
結局自分が今ここに存在して、行動を起こしている理由は、ただ一つだけ。
最後の出撃、浅羽との最後の別れの後死ぬはずだった、そんな自分の生きる理由は、浅羽だ。
だから"どんなことが起こっても、動き続けなくてはならない"のだ。
そのはずなのだ。だが、今現に浅羽はそんな自分を、殴って、逃げて、そして、


もう、これ以上は考えたくない。


伊里野は逃避するように机に突っ伏した。
まるで授業中に学生が居眠りする、そんな姿のようだ。
すると、自分の体が擦り傷や土で酷く汚れていることに気付いた。まるで遊び盛りの子どものようだ。
儚げな伊里野の姿には似つかわしくないその汚れが生まれたのは、地面でひたすらに格闘した所為だった。
そう、浅羽との謎の格闘。わけのわからないままに自分を否定された、あの時に生まれたもの。

この傷や汚れは、ある種"この生き残りをかけたゲームで自分が頑張っているんだ"という証にもなるだろう。
だが同時にその"証"を見る度に、伊里野は浅羽のあの表情と言葉を思い出してしまい、どうしようもなく辛い。

だから、"全部洗い落とそう"と考えるのにそう時間はかからなかった。

435何処へ行くの、あの日 ◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 02:43:38 ID:6a6d3yMs0
       ◇       ◇       ◇


浴室前の小さな行為スペースで制服一式を脱ぎ、適当な場所に放置。
自分の体と同じように傷ついて土埃が付着したそれを一瞥し、下着も同じく外していく。
そうして一糸纏わぬ姿になると浴室へと侵入していった。
全ては、暖かな湯に綺麗にしてもらう為だ。

どうやら温度調節が出来る便利な類らしい。確認すると目当ての温度へと数字を合わせ、シャワーヘッドから湯を放射させた。
コルクを捻って数秒、ガスの通りは然程悪くは無かったのか水はすぐさま暖かくなった。
少し熱いくらいだったので微妙に温度調節を施し、完了。まずは洗髪に移行する。

白い短い髪。ある日を境にすっかり傷んでしまったそれを、伊里野は手に取ったシャンプーで優しく洗い始めた。
柔らかな白い泡が、清潔感漂う香りを生み出しながら広がっていく。頭を包み込む感覚がとても心地良い。
ゆっくりと、しかし念入りに指を這わせていく。しばらく続けた後、泡を洗い流した。
続いてトリートメント、と行きたかったが切らしていたのか中身が無かった。残念だった。

ボディスポンジを手に取り、石鹸で泡を立てる。牛乳石鹸の香りがこれまた実に良い。
泡を顔に近づけて堪能し、満足するとそのまま体中を洗い始めた。
気持ちが良い。だが時々違和感を覚える。ぴりぴりとしたような、痛みが染みる感覚。
ここで伊里野は、自分が小さな怪我をしていた事を思い出した。
白く細い腕や脚の擦り傷までは石鹸では洗い落とせない。我慢するしかないのだろう。
それでも、返り血や土や砂は除く事が出来るのだ。時折襲う小さな痛みに顔を顰めながらも、続ける。
そうして泡だらけになった自分の体に、再びシャワーを放射した。
雲の様な羽毛の様な泡が溶けて排水溝へと姿を消していく。残ったのは、細い伊里野の体だけだ。
それ以外は何も無い。何も起こらないし、誰もいない。故に、とても静か。

シャワー以外の音の無い浴場で、一寸の間が生まれる。
静寂の中、まるで自分がこの世界に一人で取り残されたような錯覚を覚えた。

「……っ」

それがいけなかったのだろう。
伊里野は食事のときに味わった孤独感を、再び呼び覚ましてしまった。
酷く怖くなって、脚が力を失った。すると偶然にも割座の姿勢で座り込む形となる。
頭上から降ってくる湯が髪を、顔を、体を、満遍なく濡らし始めた。

「からだ、洗ったのに……」

伊里野の体は、今はとても清潔であると言える。
体に残る少々の擦り傷と顔に残る殴られた痕はあれど、一度泡に包まれた体は綺麗になっている。

けれど、それはもはや無意味だ。

そんな綺麗になった姿ももう、浅羽は褒めてくれはしない。
全部洗い流して、石鹸の良い香りが漂って、綺麗になったのに、浅羽はきっともうそれを見ない。
もう嫌われてしまったから、いつか次に会うことがあっても、もうこんな事をしても、きっと、意味など皆無。


そんな単純な事実を、今更ながら実感してしまった。
やはり、受け止めなければならないのだろう。
浅羽に、浅羽直之に、大好きな浅羽に、拒絶されてしまった事実を。
けれどそれは、ちっとも容易くない。


受け止めたつもりだった。少なくとも殴られてしばらく、食事をする前までは人形のように疑問や不満を持たないまま振舞えた。
けれどそれは、"仕方なかったのだ"と必死に考えていただけ。事実を完全に受け止めようとせず、思考を停止させただけだったのだ。
現にこうして思考を巡らせるようになった自分は今、独りで何かをするだけで、それだけでこんなにも浅羽を求めてしまう。
嫌われてしまったのに、それでも好きでいてしまって、けれど浅羽がもう自分を見てくれないことが明白だから、辛い。
何故ここに来たばかりの自分が、あんなに高揚感を抱いていたのかさえも解らなくなりそうだ。
あの"初心"は一体、なんだったのだろう。

436何処へ行くの、あの日 ◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 02:46:25 ID:6a6d3yMs0


 あの日プールで出会った頃に戻れなくなっても、構わない。
 私はそれでも構わないから、この銃と刃物で浅羽を最後の一人にしてみせる。
 そうじゃないと、そうしないと今の私の命の意味が消えてしまうから。
 だから「解って」とは言わない。「許して」とも言わない。


灯台で、こんな事を考えていた自分。
あの時は、今この時の事をきちんと考えていなかったのだろう。
あれだけ決意を固めても、結局は実際に浅羽に拒絶されたら、酷く哀しい。

「やっぱり……辛い、よ…………」

今こっそりと涙を流しても、雨のように注がれる湯に紛れてくれるだろうか。
感情を全てぶちまけてしまえば、この気分もすっきりと晴れてくれるだろうか。
数秒、数分、数時間後の自分が、答えを定めてくれるだろうか。

そんな事をふと考えてしまったその瞬間、彼女は声を上げて泣いた。


       ◇       ◇       ◇


伊里野加奈は人間だ。
だから、涙くらいは流す。


けれど、その感情の奔流の先には何があるのだろうか。
彼女の物語の続きは、一体どんなシナリオなのだろうか。

再び殺人者としての覚悟を固めるのか。

それとも?





どちらにしろ、伊里野の愛した"浅羽とのあの日々"への道は、既に消え去っているのだけれど。




【B-5/ある民家の浴室/一日目・午前】

【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:顔に殴打の痕。体に軽い擦り傷など。たまに視力障害。号泣。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
    べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×3
    ベレッタ M92(13/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。はずだが、果たして?
1:???
[備考]
 不定期に視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。
 『殴られた』ショックのせいで記憶に多少の混乱があります。そのせいで浅羽直之を襲撃した事実に「気がついていません」

437 ◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 02:47:30 ID:6a6d3yMs0
投下完了しました。
申し訳ないですが、代理投下をしていただければと思います。

438 ◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 13:26:59 ID:6a6d3yMs0
すみません、訂正があります。
状態表の時間が午前になっていますが、「昼」に変更をお願いします。

439 ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:36:04 ID:pf5E8n2A0
本スレが未だに規制中のため、こちらに投下します。

440「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:37:41 ID:pf5E8n2A0
 両脇に土塀がある道を、一台のパトカー(注・四輪車。白黒のものだけを指す)が走っていた。
 パトカーの助手席には、セーラー服を着た十代中頃の少女が座っていた。
 運転席には、艶やかな長い黒髪の妙齢の女性が座っていた。
 後部座席には、修道服を着た少女が横になっていた。

「見えてきたわよ。師匠の目的地」

 助手席の少女、朝倉涼子が言った。

「何度か寄り道を挟みましたが、ようやくですね」

 運転席の女性、師匠が言った。

「…………」

 後部座席の少女、浅上藤乃はなにも言わなかった。

 塀を越えた先の景色に、空高く伸びる楼閣の姿が見える。
 日本という国の古き時代、王様が居城としていた建造物。
 豪勢な家屋か、防衛拠点か、ただの物置か、ここでの用途はまだ定かではない。
 ただ、金目のものは幾らか置いてあるはず。それだけは間違いないだろう。

 朝倉涼子と師匠は、火事場泥棒という目的を持って天守閣に向かう。
 朝倉涼子に拾われた浅上藤乃も、意識がない間にそれに同行する。
 今も尚、世界のいたるところで殺し合いが行われていた。
 彼女たちの横暴を取り締まる人間は、誰一人としていなかった。


 ◇ ◇ ◇


 石と木で造られた城は見た目にも堅牢で、中に入ってみてもその印象は損なわれなかった。
 侵入者用の罠を警戒してもいたが、そういったものはなく、城内潜入は滞りなく完了した。
 廊下は木の板で作られており、扉は当然のように襖や障子が並ぶ。
 朝倉涼子と師匠は物珍しそうに城内を進み、時折、感想を言い合う。

「まるで、戦国時代か江戸時代にでもタイムスリップしたような気分だわ」
「できるんですか、タイムスリップ?」
「ううん、できない。有機生命体の感性ならそんな感じかな、って口にしてみただけ」

 そうですか、と興味もなさそうに師匠は返す。
 朝倉の言動よりも、城内の景観に意識が向いている様子だった。

「で、どうする? 師匠はここを拠点にしたいって言っていたけれど」
「その前にまず、家捜しです。なにが隠されているとも限りません。手分けしましょう」
「わかったわ。もし誰か潜んでいたら?」
「見敵必殺で」
「ん、了解」

 朝倉と師匠はそう言葉を交わし、それぞれ別の道を行った。
 木造の廊下は歩くたびにぎちぎちと音が鳴り、侵入者の存在を知らせた。
 だからといって、誰かが出てくるわけでもない。
 城の中は、まったくの無人だった。


 ◇ ◇ ◇

441「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:38:20 ID:pf5E8n2A0
 城の外には、一台のパトカーが停められていた。
 その後部座席に、修道服を着た少女が一人横たわっていた。

 少女の名前は浅上藤乃。
 長いこと意識を失っていた彼女は、不意に目を覚ました。
 体をゆっくりと起こし、周りの状況を確認する。
 まず自分の身が車中にあるということを知り、続いて窓の外の景色を見る。
 すぐ傍に、大きな城があった。天守閣を備えた、日本の城だ。

 おぼろげに残っていた気絶する前の記憶を呼び起こし、藤乃は行動を決める。
 パトカーのドアを開け、自らの足で外に出る。
 日差しが眩しかった。何時間ほど気絶していたのだろう。時刻はもう昼らしい。

 あの二人はどこだろうか――導かれるように、藤乃は城の中へと足を踏み入れていった。


 ◇ ◇ ◇


 天守閣といえば、戦における防衛拠点や住まいはもちろん、物置としても使用される建物である。
 その造りは、侵入経路に乏しく、飛び道具による外からの攻撃にも強い上、耐火性にも優れている。
 建造された時代の情勢を鑑みれば、これほど防御性に特化した建物もないだろう。
 周囲を見渡せる櫓もあるため、篭城するにはもってこいの施設ではあるのだが、

「守りに徹するっていうのは、私の望むところじゃないのよね」

 廊下を歩く朝倉涼子の表情は、物憂げだった。
 彼女の最終目的は、涼宮ハルヒの生還。それを成し遂げるためにはまず、涼宮ハルヒの身の安全を確保しなければならない。
 ここは安全だからと一箇所に留まっていて、その間に涼宮ハルヒが他者に殺害でもされようものなら大惨事だ。
 効率的に動くなら、涼宮ハルヒの捜索を続けつつ、危険因子はパパッと排除してしまうに限る。

「まあ、師匠も拠点にするとは言っていたけれど、篭城するとまでは言ってなかったし……あの性格だものね」

 連れ添う相方は、女傑と称しても失礼がないほどの行動派だ。
 生き残るために最善の手を打つが、臆病風に吹かれて時間を無為に消化したりするタイプではない。
 長門有希が殺された、という事実を踏まえても、基本的なスタンスが揺らぐようなことはないだろう。
 無論、それは朝倉自身にも言える。

「有機生命体の恐怖っていう感情、私にはよくわからないんだけど」

 襖を開けて、誰にでもなく朝倉は言った。
 踏み入った畳の大広間には、夥しい量の鮮血が広がっていた。

「こういうのを見ても、なんの感慨も湧かないしね」

 けろっとした顔で、朝倉は血溜まりの畳を踏み渡っていった。


 ◇ ◇ ◇

442「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:39:16 ID:pf5E8n2A0
 師匠の家捜しは実に手馴れたものだった。
 金品に対しての嗅覚とでも言うべきか、ただの直感と言ってしまって済む能力なのか。
 師匠はまるで見えないなにかに導かれるようにして、そのこじんまりとした畳部屋に辿り着いた。
 そして、高価そうな掛け軸の傍に詰まれた千両箱にも辿り着いた。

「夢は大きいほうがいい……至言でしたね」

 千両箱の中には、大判小判がざっくざっく――誰の目から見ても価値のわかる、お宝だった。
 眩しいほどの金の輝きに、しかし師匠は表情の一つも崩さない。
 五つ積まれていた千両箱の中身を全て確認すると、まとめてデイパックに仕舞いこんだ。
 小判が収まっていた箱も見事なもので、丁寧な細工が施されており、売ればそれなりの額にはなるだろう。
 傍にかけられていた高価そうな掛け軸も、当然と言わんばかりに頂戴した。
 貰えるものは貰っておく。それが彼女のポリシーだった。

(しかし……)

 貰えるものは貰っておく。それはあたりまえ。が、なにかが引っかかる。
 これだけのお宝が、なぜ金庫にも仕舞われず、罠もなく、無造作に部屋に置かれていたのだろうか。
 城主がずぼらだっただけ、と断じればそれまでの話だが、こういう状況下だ。嫌でも勘繰ってしまう。

(車の鍵を入手するのとは訳が違う……とはいえ、見張りがいなければこの程度でしょうか)

 この城に欠けているものは、金庫や罠よりもまず住人だ。
 如何な難攻不落の要塞といえども、守衛が不在なら泥棒は容易い。
 それは警察署やフィアットが置いてあった家にも言えたことで、略奪者にとっては絶好の環境でもあるのだが、

(家の中はそのまま、では家主はいったいどこへ――?)

 どうにも釈然としない。あまりにも上手くいきすぎているが故に、釈然としない。
 釈然としないからといってこれをいただかない理由にはならないが、とにかく釈然としない。
 考えたところで釈然とするわけではないこの問題、考えすぎて自縄自縛に陥っては間抜けなので、

(――きっと旅行にでも出かけたのでしょう。ええ)

 師匠はすっぱりと、考えないことに決めた。


 ◇ ◇ ◇


 浅上藤乃は思い出す――あれはアイアンクローだった、と。

 プロレス観戦なんて趣味ではないし、興味すらないが、不思議とその名前が頭に残っていた。
 あの不良たちにも、あんな風に顔面を鷲掴みにされた記憶がある。もしかしたら、そのときに覚えたのかもしれない。

 数時間ほど前に藤乃の顔面を掌握してみせた、セーラー服の少女と、銃を持っていた傍らの女性。
 朝倉涼子と師匠。ただ一言、『協力し合えるかもしれない』という言が印象的だった、二人組。
 おそらくはあのパトカーを運転し、藤乃を連れ、この天守閣までやって来たのだろう。
 きっと中にいる。そう思い立った藤乃は、一人薄暗い城内へと足を踏み入れた。
 軋む廊下を拙い足取りで進みながら、あのときのことを考えていた。

(あの二人は私を――殺そうとした)

443「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:39:56 ID:pf5E8n2A0
 否定できない事実を胸に、セーラー服の少女が口にした誘いの言葉を反芻する。
 いったいなにを協力してくれるというのか。いったいなにを協力すればいいというのか。
 藤乃の目的は、この会場のどこかにいる湊啓太を見つけることだ。彼女らは湊啓太の所在に心当たりでもあるというのだろうか。
 仮にそうなのだとしても、彼女たちに情報を教えるメリットはない……ように思える。
 協力し合うという言葉の意味を探るなら、藤乃もなにかしら彼女たちに協力しなければならないということなのだろうが、

(……なにを?)

 彼女たちに協力できることなど、なにひとつとして思い浮かばなかった。
 あの二人はたぶん、殺人鬼だ。二人で組んで、出会った人間を殺して回っているに違いない。
 そんな危険な二人に、単なる復讐鬼にすぎない藤乃が、なにを協力できるというのだろうか。
 一緒に人を殺せ、というのなら無理な話である。彼女の本心は、決して人殺しを肯定してなどいないのだから。
 ただ。

 ――それが湊啓太に行き当たるために必要な代償だというなら、惜しげなく払うのだろうが。

 予感だけを頼りに、藤乃は廊下を歩き続けた。
 途中、閉ざされた襖を何度か開け閉めして、ようやく人の気配を感じ取った。
 見つけたのは、いつぞや藤乃に銃を向けた女性だった。
 二度目の邂逅も、同じく。
 女性は、藤乃に対し無表情に銃を構えていた。


 ◇ ◇ ◇


「痛みますか? 痛みませんか?」

 廊下の端と端で、二人の女性が対峙していた。
 師匠と呼ばれている妙齢の女性は、銃を構えながら修道服の少女に訊いた。

「……?」

 少女は質問の意図が飲み込めていないのか、すぐには答えを返すことができなかった。

「これは質問であると同時に、警告でもあります。痛みますか、痛みませんか」
「……質問、警告」
「復唱しろとは言っていません。痛むか痛まないか、それを訊いているんです」
「……あなたはどうして、わたしを」
「そちらからの質問は受け付けません。痛みますか、痛みませんか」
「…………」
「最後通告です。痛みますか? 痛みませんか?」

 五回に渡る問いの末、修道服を着た少女はコクリと頷き、

「――痛みます」

 と正直に告げた。
 少女、浅上藤乃はおなかの辺りを手で押さえていた。
 顔は青ざめていて、立っているのもやっとという様子だった。

「そうですか」

 師匠は言って、引き金にかける指に力を込めた。
 力を込めつつ、言う。

444「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:40:34 ID:pf5E8n2A0
「なら――」

 藤乃の口の端が、小さく歪んだ。
 なにかを言おうとして、唇が変形する。
 呼気の流れが、呪文を生み出さんとして、

「――選択して。曲げて死ぬか、曲げずに私たちとお話するか」

 言霊は外に出ることなく、内に留められた。
 いつの間にか藤乃の背後に忍び寄っていた、セーラー服の少女の脅しによって。
 藤乃の首筋には、冷たい刃の感触があった。
 視界の奥では、銃を構えたままの女性が依然、君臨していた。
 前門の虎、後門の狼。
 藤乃は、どちらの門を突き破ることもしなかった。

 師匠と、朝倉涼子と、浅上藤乃。
 三人の再会は、とりあえずはなにも凶(まが)らずに済んだ。


 ◇ ◇ ◇


 がらんとした大部屋に、座布団が三枚、女性が三人。お茶はない。
 朝倉涼子と師匠が正座して並び、その向かいには浅上藤乃が同じく正座していた。

「あなたとこういう風にお話できて、本当に嬉しく思うわ」
「無意味な社交辞令はやめておきなさい。交渉は手短に」
「あら、社交辞令なんかじゃないわ。本心よ」
「そうですか。とにかく手短に」
「はいはい」

 シビアなんだから、と朝倉は微笑みながら言った。
 藤乃のほうを向き、続けて言う。

「こういう席についてくれたっていうことは、私の誘いに乗ってくれたと解釈してもいいのよね?」
「……わたしたちは協力し合える、という話ですか?」
「そう、それ。ちゃんと覚えていてくれたのね。嬉しいわ」
「具体的に、わたしはなにをすればいいんでしょう。あなたたちは、わたしになにをしてくれるんですか?」

 おずおずと、藤乃は伏せ目がちに朝倉を見やる。

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。なにも取って食べようってわけじゃないんだから。
 私たちはただ、あなたと一緒に活動できればなぁ、って考えているだけ。ほら、こんな状況でしょう?
 味方は多いに越したことはないし、これはあなたにとってもいい話だと思うんだけど」
「えぇと、つまり……?」
「う〜ん……こういうとき、どういう言葉を用いれば一番適切と言えるのかしら」

 朝倉は数秒間、腕組みをして熟考した。
 たっぷり十三秒ほどかけて、

「単刀直入に言うとね――私は、あなたが欲しいのよ」

 と言った。
 藤乃は狼狽した顔つきで、言葉を失った。

445「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:41:44 ID:pf5E8n2A0
「それのどこが単刀直入なんですか。誤解を招きかねませんよ」
「え、そうかしら? 我ながら上手く言語化できたと思うのだけれど」
「仕方がありませんね。私から説明しましょう」

 師匠は嘆息し、朝倉に代わって告げた。

「私たちはあなたを、武器として所有したいと言っているんです」

 藤乃はより狼狽した。
 今すぐにでもこの場から逃げ出そうと、正座を崩し始めている。
 立ち上がろうとした寸前で、師匠が銃を構えた。
 師匠が引き金を絞るよりも先に、朝倉が藤乃の腕を掴んでまた強引に座らせた。

「逃げないでよ。もう少しお話しましょ?」
「逃げても構いませんよ。逃亡した場合、即座に射殺しますが」
「師匠ってば、脅かすなんて趣味が悪いわよ。彼女、怖がりみたいだし」
「知ったことではありません」
「もう」

 今度は朝倉が嘆息し、藤乃の腕を掴んだまま質問する。

「確認するけど、あなた、自分の能力に関してはちゃんと自覚しているわよね?」
「……はい」
「私のほうでも一応解析させてもらったんだけれど、あなたの口から説明してもらっていい?」
「曲げる力のこと、ですよね。この眼で視たものを、歪曲させて……」
「そうそう。それ、なにか制約みたいなものはあるのかしら?」
「……ない、と思います。けど、時々使えなくなってしまうんです」
「へぇ、そうなんだ。なるほど、やっぱりそういうことなのね」
「……?」
「ああ、大丈夫。こっちの話だから」

 藤乃は不可解そうに首を傾げた。

「で、その力のことなんだけれどね。私たちが欲しいのは、要はそれなのよ」
「わたしの、曲げる力……を?」
「さすがにもう感づいているんじゃないかしら。ねぇ、浅上さん」

 朝倉は親しげに藤乃の名前を呼び、

「私たちと組みましょう。この殺し合いを生き抜くために」

 と持ちかけた。
 藤乃はぽかんと口を開けたまま、なにも言えず固まってしまった。

「残念だけど、考える時間はあげられないの。これでも譲歩してもらったほうだから」
「家捜しの途中、時間を割いてこういう機会を設けているわけです。さすがにこれ以上は――」
「わかっているわ師匠。私だって、そのへんは弁えてる。ただ、長門さんのこともあるし……ね?」
「……決断を下すのは彼女です」

 朝倉と師匠は互いに目配せした後、揃って藤乃のほうを見た。
 ぶれのない、睨むような視線に、藤乃は萎縮しきっていた。
 同じように視線を合わせることは、できなかった。
 藤乃の側から視線を合わせにいけば、即座に殺されてしまうと、理解していたのかもしれない。

「……わたしは」

446「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:42:17 ID:pf5E8n2A0
 一呼吸置いて、藤乃は発言する。

「わたしは、あなたたちなんかとは違う」

 眼は伏せたまま、語気だけを強くし、朝倉と師匠の存在を否定した。

「わたしは人を殺したくなんてない。この力も、本当は使いたくなんてないのに……!」
「でも事実、あなたは私たちを殺そうとした。矛盾しているわよね?」
「違う……! わたしは、彼を……彼に復讐したいがために」
「彼?」

 藤乃の鬼気迫る表情が、畳に向けられていた。
 膝に添えていた手が、わなわなと震えている。
 そんな様子を観察しながら、朝倉は訊く。

「もしかして、生き残る以外になにか目的があるのかしら。よかったら聞かせてくれない?」

 藤乃はゆっくりと頷き、語り始めた。
 自身が町の不良少年たちから暴行を受けていたこと、数日前に彼らを惨殺したこと、
 湊啓太という少年を一人取り逃がしたこと、この椅子取りゲームに湊啓太が参加していること、
 浅上藤乃は湊啓太に復讐を果たすためにこの地で生きるのだ――と、たっぷりの憎悪を込めながら。
 一部始終を聞き終えた朝倉は、

「ふーん、大変だったのね。心中お察しするわ」

 と平坦な声で感想を言った。師匠は、

「はた迷惑な。その復讐に巻き込まれた人間の身にもなってほしいものです」

 と自分のことを棚に上げて言った。
 ギリッ、という歯軋りの音が鳴り、藤乃は顔を上げた。
 キッとした左目が朝倉を、右目が師匠を、余すことなく視界に納める。
 ほぼ同じタイミングで、朝倉は藤乃の首筋に刀を当てた。師匠はまた銃を構えていた。

「ところで、また訊きたいんだけれど」
「今は痛みますか? 痛みませんか?」
「…………今は、痛みません」

 そう、と言って、朝倉は刀を下ろした。
 そうですか、と言って、師匠は銃を下ろさなかった。

「断っておきますが、私はどちらでもいいんですよ。あなたがどんな選択肢を選ぼうともね」
「……仲間になるか、仲間にならないかという話ですか?」
「断るって言うんなら、残念だけどあなたはここで処分させてもらうわね」
「これは脅しではありません。重ねて言いますが、私はどちらでもいいわけですから」
「私は仲良くしたいなぁ、と思うのだけれど。どうかしら?」

 銃口は依然、藤乃のほうに向けられたままだった。
 視ただけで相手を曲げる歪曲の力は、今は使えなかった。

 朝倉涼子はにこやかに、藤乃の回答を待つ。
 師匠は無表情に、藤乃の回答後の処理に備える。
 浅上藤乃は、回答を迫られる。


 ◇ ◇ ◇

447「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:43:28 ID:pf5E8n2A0
 いくら相手を凝視しようとも、その身が凶(まが)ることはなかった。

 以前の自分に戻ってしまった。また、なにも感じない。
 代わりに、罪の意識ばかりが押し寄せてきた。

 殺人は忌むべき行為だ。
 湊啓太を見つけ出すための代償行為――と割り切っても、罪悪は身を縛る。
 だがその罪悪は、腹部の痛みを我慢するだけの原動力にはならなかった。
 復讐するのは痛みのため、湊啓太を捜し殺そうとするのは痛みの解消のため。
 無痛症は不定期的なものだ。またいずれ、痛みは再発するのだろう。

 なら、殺し続けるしかないのではないか――と、浅上藤乃は答えを出す。

 ごめんなさいと謝って、ごめんなさいと断って、ごめんなさいと頭を下げて。
 たとえそれで許してもらえずとも、湊啓太に行き当たるまでは殺すしかない。
 この場を切り抜けるためにも、殺人を肯定し選択するしか、道はない。

 ――――殺したくなんてないのに。

 藤乃は、今にも泣き出しそうなほど悲痛な顔を浮かべた。
 これからは彼女たちの武器として、罪のない人たちを殺さなければいけないのだろうか。
 そう思うと、総身が震えた。この震えこそが、彼女の殺人に対する罪悪感の証明。
 体は無自覚に、本能を代弁してくれるのだ。

 ただ、自分の唇の端が小さく笑んでいることには気づかずに――。


 ◇ ◇ ◇


「湊啓太という名前は名簿には載っていませんでしたが、彼がここにいるという確証は?」
「彼の携帯電話に連絡を取りました。声で確認したから、間違いありません」
「追われているって自覚してないのかしら。彼とはどんな会話をしたの?」
「……あなたの友人を殺した、って」
「殺したの?」
「ここに連れて来られる前のことです」
「そうですか。ちなみにその電話はどちらからかけましたか?」
「あれはたぶん……警察署からです」
「警察署かぁ。じゃあ、そこまで戻りましょうか。その湊啓太っていう人に、もう一度電話してみましょ」

 朝倉涼子、師匠の二人と行動を共にすることを受諾した浅上藤乃は、湊啓太についてより詳しく説明した。
 約束どおり、二人も湊啓太を捜すことに協力するようだった
 相手が『捨てられない携帯電話』を持っているなら好都合、と朝倉は電話での連絡を提案。
 しかしこの界隈に電話が置いてあるような施設は見当たらず、別所に移動する必要があった。

「私は反対です」

 言ったのは師匠だった。

「警察署は既に調査済みです。有益なものは全て頂きましたし、戻るだけのメリットがありません」
「でも、そこなら確実に電話があるでしょ? 私も見たし。下手に探し回るよりもいいと思うんだけど」
「電話くらい、他の家にも置いてあるでしょう。この国は電線が張られている場所も多いようですし」
「いいじゃない、別に。お宝はここでたんまり調達できたんでしょう?」
「収穫はなかなかでしたが、まだ足りませんね」
「……師匠って、どれだけ略奪すれば気が済むの?」
「無論、全部です」

448「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:44:22 ID:pf5E8n2A0
 朝倉と師匠の口論が続く。優位は師匠のほうに向いているようだった。
 藤乃は自分から口を挟もうとはしなかった。正確には、挟めなかった。

「そもそも、この城だってまだ調べつくしてはいません。出発前にもう一度探索しますよ」
「あ、そうだ。浅上さんのことで棚に置いていたけど、師匠に見てもらいたいものがあったんだわ」
「なにか見つけましたか?」
「見つけた……というより、見つけてしまった、かな」

 朝倉の言に、師匠は首を傾げる。
 言葉で説明するよりも見てもらったほうが早い、と朝倉は移動を促した。
 師匠はそれに従い、藤乃も最後尾を行く。


 ◇ ◇ ◇


 辿り着いた先は、三人が話し合いをした場所と大差ない広さの畳部屋だった。
 ただ一点だけ変わっていたのは、壁や床に彩られた、見るからに異質な赤の模様。
 思わず目を背けたくなるほどの、鮮血の跡だった。
 師匠は血溜まりの部屋を眺めながら言う。

「これは……既にここで殺し合った者がいる、ということですか?」
「いいえ、それは違うわ師匠。この血、見たところ十二時間以上前のものよ。始まってから付いたものじゃない」
「不可解な話ですね。では、この血はいったい誰のものだというんです」
「人間のものには違いないだろうけど、さすがに誰のものかまではわからないわよ。ただ」
「名簿に名を連ねる“参加者”のものではない。そう言いたいと?」
「ええ」
「……それでは、この血は殺し合いが始まる以前より、ここにこうしてあったと。そういうわけですか」
「でしょうね。なんの意味があるのかはよくわからないけれど」

 朝倉はたいして困ってもいない風に言い、続ける。

「これは車で移動している最中、ずっと不思議に思っていたことなんだけれどね。
 椅子取りゲームの舞台として用意されたこの会場は、いろいろと歪なのよ。
 なんて言ったらいいのかしら。人が生活するのに適していないっていうのかな。
 盤上にミニチュアの建物を並べて用意しました、みたいな。そんなちぐはぐさなのよ」
「なにを言いたいのかよくわかりませんが、それも有機生命体の言語機能の限界というやつですか?」
「そうね。そう受け取ってくれて構わないわ。私もね、精進はしているのよ?」
「聞いていません。それに、悩むような問題ではないのでしょう?」
「うーん、まあ、そう言われればそうよね。考えたところで答えは出ないだろうし」

 血まみれの畳を土足で踏み、師匠はあっけらかんと言う。

「なら、考えるだけ無駄です。かつて、ここで誰かが鮮血を撒き散らし派手に死んだ。それだけじゃないですか」
「師匠、少しは怖いとか思わないの? 現場を発見した側としても、張り合いがないのだけれど」
「血はなにも語りませんし、襲ってもきません。怖がる必要なんてないでしょう」

 女は度胸があってこそですよ、と師匠は諭すように言った。
 鮮血の跡など気にも留めず、そのまま室内を物色し始めた。
 押入れを開き、畳の下を除き、貴金属や骨董品がないか探す。
 そんな師匠の様子を眺めながら、藤乃は呆然。
 朝倉はやれやれ、と首を横に振り、

449「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:45:00 ID:pf5E8n2A0
「そんな風に足蹴にして、その血の持ち主に化けて出られても知らないんだからね」

 と外見年齢相応な人間の少女として、冗談を口にする。
 すると、師匠は猛然とした勢いで血の上から飛び退いた。

「えっ」

 師匠のふとした行動に、朝倉は意識せず声を漏らしてしまう。
 血まみれの畳の上を、わざわざ血が付着していない部分を縫うようにして歩き、師匠は部屋の出入り口付近まで後退した。

「あなたも、見えるんですか?」

 というのは師匠からの質問。
 矛先は朝倉に向いていたが、本人はなんのことだかわかっていない風だった。

「早急に答えなさい。見えているんですか? そしているんですか?」

 師匠は朝倉に肉薄して、詰問する。
 普段の彼女からは想像もできないような、焦りが感じられた。

「ちょっと、落ち着いて。質問の意図が読み取れないんだけど……」
「ですから、あの血の持ち主が――ここで死んだ人間の霊が見えるのかと、訊いているんです」
「なに言っているの、師匠? そんなもの――」

 朝倉が言いかけたところで、ゴトッ、と物音がした。
 三人が一斉に、そちらのほうに視線をやる。
 音は血まみれの部屋の奥から聞こえた。
 しかし奥には押入れがあるだけで、外から見た限りでは特に変わった様子はない。

「……出発です」

 しばしの沈黙を破って、師匠が言った。

「出発って……家捜しはもういいの?」
「金品は十分なほどに調達できました」
「さっきは足りないって言ってたじゃない」
「あれは言葉のあやです」
「言葉のあやって……」
「仕方ありませんね。一度しか言いませんからよく聞きなさい」

 師匠は朝倉と藤乃の顔をキッと見て、

「この血の跡、おそらくは私たちが来る以前に強盗が押し入ったに違いありません。
 城主は惨殺され、このように凄惨な血の跡が残った。
 そういった曰く付きの城が、今回の椅子取りゲームの舞台に置かれてしまった。
 死体はこの催しの企画者が回収したのでしょう。
 強盗が押し入った後ですから、お宝もそう多くは残っていません。
 私が見つけた小判は、強盗の見逃しでしょうね。なにせ広い城ですから。無理もありません」

 捲くし立てるように言い、無理やり納得させた。
 話を聞いた二人は唖然。その反応を鑑みず、師匠は廊下に出て、すたすたと部屋を離れていく。

450「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:46:02 ID:pf5E8n2A0
「なにをしているんですか。さっさとしなさい」
「あー……師匠、次の目的地は結局どうするの?」
「警察署で構いません。さっさとしなさい」
「待って。私はともかく、浅上さんはそんなに速くは歩けないわ」
「あなたが担いで歩けば済む話でしょう。さっさとしなさい」
「実は、こことは別の部屋でお宝を見つけたのだけれど」
「お宝はもう十分と言いました。さっさとしなさい」
「ここを拠点にするっていう話は?」
「やめです。さっさとしなさい」

 言葉を交わす間も、師匠は歩を止めなかった。
 追いかけないと置いていかれちゃうわね、と朝倉は駆け出した。
 傍らにいた藤乃は朝倉に両腕で抱きかかえられ、お姫様抱っこの要領で運ばれる。

 火事場泥棒たちがいなくなって、血まみれの部屋だけが残った。
 押入れの奥では、誰に知られることもなくねずみが鳴いていた。


 ◇ ◇ ◇


 城の門前に停めてあったパトカーに、三人が乗り込む。
 師匠は運転席に、朝倉涼子は助手席に、浅上藤乃は後部座席に。

「では、行きましょう」
「師匠、シートベルトが締まってないわよ?」
「ここでは必要ないでしょう。いざというとき、咄嗟に動けないと困りますしね」
「そう」

 運転手の師匠はキーを回し、車を急発進させた。
 南への道を爆走しながら、エンジン音が土塀だらけの区画に響き渡る。
 荘厳な天守閣はどんどんと遠ざかっていき、幾らか離れたところで師匠が、ふう、と息をついた。

「あの」

 後部座席に座っていた藤乃が、おずおずと訊く。

「師匠さんは、ひょっとして……」
「なんですか? 言いたいことがあるならどうぞ」

 師匠は振り向き様、P90の銃口を藤乃に向けながら言った。

「師匠、言葉と行動が矛盾しているわ。それと運転中。危ないわよ」

 朝倉が指摘すると、そうですね、と言って師匠は銃を下ろした。

「それで、私がひょっとして……なんですか?」
「……いえ、なんでもありません」

 それ以降、藤乃は貝のように口を閉ざしてしまった。

451「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:46:58 ID:pf5E8n2A0
【C-3/天守閣付近/一日目・昼】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康。パトカー運転中。
[装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、パトカー(1/4)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、パトカー(3/4)@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:天守閣から離れる。警察署まで移動する。
 2:朝倉涼子を利用する。
 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?

【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康。パトカー助手席に乗車中。
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、
     フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
 1:警察署に向かい、電話を使って湊啓太に連絡を取ってみる。
 2:師匠を利用する。
 3:SOS料に見合った何かを探す。
 4:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。

【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態。腹部の痛み消失。パトカー後部座席に乗車中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:湊啓太への復讐を。
 1:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
 2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
 3:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。

【千両箱@現地調達】
師匠が天守閣にて確保した。
彫り細工が見事な千両箱の中に、小判が40枚ほど収められている。

【掛け軸@現地調達】
師匠が天守閣にて確保した。
高価そうな掛け軸。売ればそれなりのお金になるでしょう、との鑑定。

452 ◆LxH6hCs9JU:2009/11/23(月) 01:48:48 ID:pf5E8n2A0
投下終了しました。
お手隙の方がいましたら、代理投下のほうお願いします。

453 ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:49:20 ID:4ObvhTFY0
本スレが未だに規制中のため、こちらに投下します。

454しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:50:45 ID:4ObvhTFY0
 なにがなんだかわけがわからなかった。
 目の前に立つ、今までは味方だと信じて疑わなかった存在が、胸元の命に狙いを定めている。
 悲痛そうでもなく、狂気に塗れてもおらず、見慣れた冷静沈着な表情でもって、少女の人生にチェックをかけていた。

 リリア・シュルツを苛めたのは、ただの混乱。
 命の危機を自覚するよりも先に、なぜ、どうして、なんで、という疑問に押し潰される。
 だから、彼が引き金を絞り、弾丸が胸元に命中し、短かった生涯がここで潰えるなんてことは、イメージできるはずがなかった。

 逃げなければ、なんて思考は当然働かない。
 胸に宿る疑問が、危機感を凌駕する。
 ワケが、わからなかった。

 ママの彼氏は、
 スー・ベー・イルの陸軍少佐は、
 トラヴァスは――なぜリリアに銃を向けるのか?

 彼女にはわからなかったのだと思う。
 そして、彼にもわかりはしなかったのだろう。
 娘にこんなものを向ける父親の気持ちなど、わかりたくもない。

 ――ヴィルヘルム・シュルツは表情一つ変えず、心中でのみ毒づいた。


 ◇ ◇ ◇

455 ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:52:07 ID:4ObvhTFY0
 そろそろ今日のランチでも考えようか――そんな時刻。

 温かくなって明るくなった街を、相良宗介とリリアの二人が歩いていた。
 飛行場から出発した彼らに、具体的な目的地はない。
 天気がいいから出かけよう、その程度の意識で、町を歩いて回っていた。
 前を歩いていたのは、リリア。後ろを歩くのは、宗介。
 見慣れない街並みにはしゃぐリリアを、宗介は優しい瞳を浮かべて眺めていた。

「ねぇ、見て宗介! これはなんのお店かしら? こんなの、イクスでも見たことがないわ!」

 それはさながら、女の子のウィンドウショッピングに付き合う口下手な男の子の図だった。
 少女が舗装された街路を縦横無尽に駆け回り、少年が大股で静かにそれを追いかける。
 リリアは満面の笑みを浮かべて、宗介は相変わらずの仏頂面で笑みはなく、街を行く。

「あ、ここはレストランみたい。ちょうどお昼だし、なにか……って、コックさんがいないか」

 ああ、どこかでフルーツ味の携帯食料でも調達できれば僥倖だ、と宗介は思った。
 リリアはもっと味にこだわったものが食べたいのだろうが、あいにく宗介にシェフを務められるほどの腕はない。
 しかもリリアが指差すレストランとは、よく見れば懐石料理店のようだった。

「このへん、お店屋がいっぱいよね。近くに飛行場もあったし、観光地かなにかなのかしら」

 顎に人差し指を添えて、天を仰ぐリリア。仕草だけの、考えているポーズ。
 彼女にはわからないだろうが、世界各地を渡り歩いてきた宗介にはわかる。
 この街の外観は、明らかに日本のそれだ。となればここは日本のどこか、もしくはそれを模したものなのだろう。

「にしても、食料くらいもっとマシなものを用意できなかったのかしら。あんなんじゃ味気ないわよ、まったく」

 今度は、この企画の首謀者たちに対して文句を言っている。
 しかもそれが、支給された食料のお粗末さに関してというから、またなんとやらだ。
 宗介とリリアのデイパックに入っていたのは、保存性に優れたカンパンの缶詰である。開封する気にすらなれなかった。

「……ねぇ、宗介」
「なんだ」

 リリアの呼びかけに、即座に応じる宗介。
 対応に早さがあっても、リリアはなぜか不服そうだった。

「さっきから相槌の一つも返してくれないけど、どうしたのよ?」
「問題ない。続けてくれ」
「続けてくれって……はぁ、もういいわよ」

 男の沈黙は女の機嫌を損ねる。宗介が黙りこくっているものだから、リリアまでもが仏頂面になってしまった。
 年頃の女の子の心の機微を察しろ、なんて命令は相良軍曹にとっては難易度の高い注文である。
 特に考え事をしていれば必然、女の子の話し相手になろうなどという気は起きない。

 ……それでも、リリアが懸命に空元気を見せようとしていることだけはわかった。

 彼女の実母、アリソン・ウェッティングトン・シュルツの死を知ったのが朝。現在が昼。
 浅羽なる少年との一悶着を計算に入れても、消費した時間は大きかった。
 結局、あれからリリアは疲れるまで泣き、宗介はリリアが泣き止むまで胸を貸し、気がつけばこんな時刻だ。
 随分と遅い出発になってしまったと、宗介は後悔の念を抱かずにはいられない。

 今頃、“彼女たち”はどうしているのだろうか――。

456しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:52:52 ID:4ObvhTFY0
 開始からわずか六時間でメリッサ・マオが死んだ。冷静に考えてみれば、これは由々しき事態である。

 メリッサ・マオ曹長――コールサイン“ウルズ2”――日頃から宗介とクルツの二人を牽引してきた、姉貴分。
 AS(アーム・スレイブ)の操縦技術はもちろんのこと、白兵戦においても男顔負けの実力を誇るスペシャリストだ。
 そんな彼女が六時間とて生き延びること叶わなかったという、異常と言ってしまえる事態。
 要因はなんだったのか。装備の不足か、コンディションの不調か、単純な実力差か。

 ――お荷物を背負ってしまった、と考えられなくもない。

 この地で宗介が遭遇した人間といえば、リリアとあの浅羽という少年の二人、おまけで謎のマネキン人形だけだ。
 それだけの情報で他の参加者たちと自分たちミスリル所属の者の差を推し量ることなどできないが、
 やはりどのような劣悪な状況下を想定したとしても、マオの早期離脱を只事で済ますわけにはいかない。
 故に宗介は、想像してしまう。

 ここはマオが早々に死んでしまうような、紛れもない戦場であり――なら、“彼女たち”は?

 と。
 心配と不安がどれだけ肥大化しようと、相良宗介という男はそれで足を止めるほどアマチュアではない。
 そう、自分の意思では決して、足を止めたりなどしないのだ。
 厄介なのは、この身を雁字搦めにして離さない荒縄とも言える“弱者”の存在。

 それが、目の前の“母を亡くした少女”だった。

 “彼女たち”のことを、“千鳥かなめ”と“テレサ・テスタロッサ”のことを思えば、足は途端に動き出す。
 が、リリアが無理やりに作り出している笑顔を見ると、動き出した足は途端に止まってしまう。
 精一杯の空元気とやせ我慢。リリアの顔から滲み出る感情を、宗介は手に取るように察することができた。できて、しまった。

 もし、正午の放送で“彼女たち”の名が呼ばれるようなことがあれば、宗介は心の底から後悔することになるだろう。
 ひょっとしたら、それでリリアを恨むこともあるかもしれない。それくらい、わかっているのに。
 なのに、宗介はリリアの傍を離れることができなかった。

 誰に頼まれたわけでもない、自分で下した決断だというのに、煮え切らない。
 かつての自分が、今の相良宗介を見たらどう思うだろうか。
 そんな問いは、自虐にしかならなかった。

「リリア」

 彼女の名前を呼ぶ。
 鮮やかな栗毛の髪が、視線の先で揺れた。
 リリアは虚勢の笑顔を宗介に向け、なに宗介、と呼び返す。

「…………」

 そんなリリアの顔を見ていると……宗介は彼女にかける言葉を見失った。

「もう。そんな石像みたいな顔してると、幸せが逃げてくわよ」
「……リリア」
「だからなに。わたしの名前、呼んでてそんなに気持ちがいいのかしら?」
「敵だ。下がっていろ」

 えっ、とリリアが背後を振り返った。
 その先に、一目で敵とわかる存在が居た。
 否、“在った”。

457しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:54:25 ID:4ObvhTFY0
「……飛行場で襲ってきたやつと、同じ?」
「そのようだ。今回は凶器が見当たらないが、な」

 あのときは薄暗い深夜だったが、今は明るい昼のため、容易に素顔を見ることができる。
 街路の奥で悠然と構える、着物姿の――体つきだけを見て判断する――女性。
 凹凸だけの顔、起伏に富んだスタイル、生気の感じられない立ち姿。
 数時間前に宗介とリリアを襲ったあれと同種の、マネキン人形だった。

「おばけにしても、こう真昼間に出てこられちゃね。怖がる気もなくなるっていうか」
「リリア、注意していてくれ」
「大丈夫でしょ。なにが狙いか知らないけど、今回も――」
「いや、注意するのはあれではない。近辺に潜んでいるだろう、あれを嗾けてきた張本人だ」

 二度目ということもあって緊張感を欠いているリリアに、宗介は警戒を促す。
 目の前のマネキン人形は、前回の交戦を踏まえるなら大した脅威ではない。
 しかし、敵は敵。相対するなら油断も躊躇もなく、実直に殲滅してこそ専門家だ。
 かといって、即座に撃ち殺すのも芸がない。それが二回目ともなれば、打つ手は練るべきだろう。

 真に警戒するべきは、マネキン人形ではなく、マネキン人形の背後に潜む人物。
 あれがなんらかの機械によって遠隔操作されていると仮定し、想定する。
 黒幕の狙い、段取り、最終的な目的――過程の末を見据え、対策を即時考案。
 二度目となる今回は、相手側からのさらなるアプローチも十分にありえると、宗介はそう判断した。

「では――行ってくる」
「――うん、気をつけて」

 マネキンの動きに合わせ、宗介も動く。
 敵は無手、行動は突進、標的は二人の内の一人、同じく向かっていった宗介だった。
 リリアは後方にて待機。周囲を気にかけながら、宗介の動向を見守る。

 突進の勢いに乗せて、マネキンが両腕を伸ばす。
 宗介は走りながらに身を屈め、接触を避けた。
 体勢を元に戻しながら、マネキンの左胴に蹴りを放つ。
 マネキンは悲鳴もなく路面に倒れ、衝撃で左腕が折れた。

 弱い。
 速度も耐久度もあれから進歩なく、改善点が見当たらない。
 二度目ともなれば人形自体になにかしら仕込んでくるかと思ったが、用途は単なる囮なのだろうか。

 宗介は倒れたまま起き上がろうともしないマネキン人形を見下ろしつつ、
 その視線をやがて街中、周囲の景色へと転じさせ、
 マネキンから注意が外れた、
 一瞬、

 チリン、

 とどこかで澄んだ音色が鳴り響き、
 次の瞬間にはマネキン人形の顔がぶくぶくと膨れ上がり、
 中で寄生虫が蠢いているかのごとく膨張と凝縮を繰り返し、末に破裂――爆砕。

 宗介のすぐ足下で、爆炎と爆風と大爆発が生まれた。


 ◇ ◇ ◇

458しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:55:25 ID:4ObvhTFY0
 その決定的瞬間を、リリアは見逃してしまった。
 周囲を警戒しておけと、事前に宗介から助言を受けていたがために。
 彼の言動を鵜呑みにする程度には、信頼を置いていたから。だから、見逃してしまった。

 気づかせてくれたのは、音。
 目をやって真っ先に捉えたのは、吹き飛ぶ宗介の身。
 可燃性物質もない白昼の路上で盛大に燃える炎は、どこか異質だった。

 しばし、体が硬直する。
 突然の出来事に理解が追いつけず、脳が体に信号を送れないでいる。
 空元気なんて、あっという間にどこかへ消し飛んだ。
 まさかの事態が、リリアに驚愕を与える。

「――宗介!」

 叫び、駆け出したのは、たっぷり九秒ほどかけてからのことだった。
 爆風に身を弄ばれ、アスファルトを何十回と転がった宗介の身に、走って寄り縋る。
 うつ伏せになっていた体を強引に仰向けにし、全身くまなく目をやった。
 初めて見る、宗介の苦痛に歪む顔がそこにあった。

「…………」

 リリアは顔面蒼白の状態で、息を呑んだ。
 なにも言葉が出てこない。
 たとえなにか喋れたとしても、宗介は喋り返せない。
 爆発に巻き込まれた人間を前には、絶句するしかないと知った。

「……ソー、スケ」

 それでも、リリアは声を振り絞った。

「しっかり……しっかりしなさいよ、ソースケぇ!」

 宗介の状態は、見るからに深刻だった。
 苦痛に歪む顔の半面は、赤く滴る血に彩られている。頭部からの出血。傷は吹き飛ばされた際、地面に打ち付けたものだった。
 黒い厚手の上着はところどころが破けている。露出した先の肌は、火傷を負っているようにも見えた。
 骨や内臓がどうなってしまっているかは、さすがに素人目ではわからない。

「とりあえず、血を止めて……火傷は冷やして……ああ〜っ、それよりも!」

 冷静になれ!
 とリリアは両手で拳を作り、自身のこめかみにそれぞれあてがった。
 ガン、ガン、ガン、と乱暴に数回叩いて、気合を入れなおす。

「うしっ!」

 今はなによりもまず、避難だ。
 宗介が言っていた。警戒しろ、と。まだ、終わってなんかいないのだ。
 リリアは宗介の両脇に腕を滑り込ませ、重たい男の体を引き摺って運んだ。

 すぐ近くにあった建物へ入る。
 どの道、男一人を引き摺りながらでは、長い距離を移動することなどできない。
 ならせめて、カモ撃ちにはされないよう遮蔽物の多い屋内に移らなければ、との判断だった。

459しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:56:38 ID:4ObvhTFY0
 建物の中には、皮肉なことに何十体もの数のマネキン人形が立っていた。
 リリアが入った店はどうやらブティックらしく、マネキンはどれもこれも綺麗な洋服で着飾っている。
 ショーウィンドウから見える外の光景に注意しつつ、リリアはなるべく店の奥まで宗介を運び、彼から手を離した。

 床には蛇が這ったような赤い血の軌跡が出来上がっていたが、構ってはいられない。
 リリアは宗介の体を探り、彼が所持していた拳銃を手にする。
 この場面、優先すべきは治療よりもまず自衛だろう。
 手負いとなった二人を、爆発を引き起こした張本人が仕留めにくるとも限らないから。

 リリアは半ば確信にも似た感覚を覚え、店外に目を向けた。
 ショーウィンドウの向こう側では、宗介の肌を焼いた炎が、今も煌々と燃えている。

 人影は、まだ、ない。
 人影は、いずれ、やってくる。
 人影は、そうして、やってきた。

「えっ――」

 リリアは店の入り口へと銃を向け、またもや固まる。
 ショーウィンドウ越しにちらりと映ったその姿には、見覚えがあった。
 規則的な速度で歩み、一瞬も躊躇することなく店内へと侵入してきた、事の首謀者。
 穏やかな顔つきに、知的な眼鏡がこれでもかというくらい似合う、大人の男性。
 リリアと目が合ったその瞬間から一時も逸らすことなく、近づいてくる彼。
 よく見ると目元がそっくりな――少女と男性が今、対面を果たす。

「こんにちは。久しぶりですね」

 かけられた言葉は、面識の有無を明白にするものだった。
 用いられた言語は、相手がリリアだからこそ通じるベゼル語だった。

「どうして……」

 リリアは、こんにちは、とも、久しぶり、とも返さない。

「ママが、死んだっていうのに……」

 ただ、銃を握る手に力を込めて。
 ただ、睨みつける双眸に涙を溜めて。
 ただ、理解不能な不条理に憤りを孕んで。

「……トラヴァス少佐っ! どうしてあなたが、こんなことやってるのよ!」

 リリアは、母の好きだった人を問い詰めた。


 ◇ ◇ ◇


 とある街のとある洋服店で、親子の再会があった――なんてことは、親しか知らない事実。
 子の側は、自分が子であることなど認識していない。故の純粋な怒り、そして敵意と殺意。
 わかっていたことだった。これでも上手くいってるほうだ。悪かったのは運と巡り合わせ。

 トラヴァスは、およそ最悪と呼べる形でリリアと再会してしまった。

460しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:57:43 ID:4ObvhTFY0
 だがそんな“最悪”くらいでは、彼は揺るがない。
 表情一つ変えず、非情な仕事に徹する。

「僕の名前を覚えてくれていたようで。光栄ですよ、リリアーヌさん」
「そうじゃないでしょ? どうして、そんな風に……」
「マネキンの人形を嗾けたのも、それを爆破させたのも、彼を傷つけたのも、全て僕の仕業です」
「なっ……!?」
「聞きたいのは、こんなところですか?」
「違う! そんなこと、わかってる。わかっちゃうわよ。わからないのは……なんでトラヴァス少佐が……!」

 言葉の整理がついていないらしいリリアは、いやいやと首を振りつつも、トラヴァスを睨みつける。
 彼女の泣き顔を見るのがつらかった。彼女に銃を突きつけられるのが痛かった。
 彼女に銃を向けなければならないのが、一番痛かった。

「君と彼には、申し訳ないことをしていると思っています」
「なら、今すぐそれを下ろしてよ! それで、一緒に宗介の治療、手伝ってよ……っ」
「それはできません。僕にも立場というものがありまして、今それを危うくするわけにはいかないんですよ」

 トラヴァスはリリアのすぐ傍まで歩み寄り、屈んだ。
 リリアの構える銃がすぐそこにあると知りながらも、彼女の荷物に手を伸ばし、これを奪い取る。

「じゃあ、わたしのことも……」

 また距離を取ろうとするトラヴァスに、リリアは言った。
 後に続く言葉は、言う側にも聞く側にも、必要なかった。
 トラヴァスは質問の意図を察し、正直に答える。

「僕に、君を傷つけることはできません」

 そう言って、銃を下ろした。
 それを見ても、リリアは銃を下ろさない。

「そこにいる彼にも、できれば生き延びて欲しい。リリアーヌさんなら応急処置くらいはできるでしょう。ぜひ助けてあげてください」

 白々しさしか感じられない台詞を、淡々と口にするトラヴァス。
 リリアは悔しそうに歯を食いしばり、キッとトラヴァスの顔を睨みなおした。

「そして君には、もっともっと長生きして欲しい。これは、本心からの言葉です」

 皮肉にしかならない祝福を、優しい笑顔に乗せてリリアに送る。
 リリアは、鬼の形相で怒っていた。
 目尻に溜まっていた涙は、とっくのとうに零れ落ちていた。

「……待ってよ」

 奪い取った荷物を手に、傷だらけの男女を残し、トラヴァスは洋服店から去ろうとする。
 完全に背を向けた後、リリアは背後からか細く語りかけてきた。

「お願いだから、待って」

 トラヴァスは止まらない。止まりたくても止まれない。彼女のためを思えば、なおのこと止まれない。

「そんなんじゃ全然、わかんないわよ。もっと、わかるように説明してよ……」

 リリアの懇願を聞きながら、これ以上の優しさは振りまけないと自身に言い聞かせながら、

461しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 01:58:43 ID:4ObvhTFY0
「……撃ちたいというのなら、どうぞ。僕はきっと、彼女の待つ天国とは別の場所に落ちるでしょうね」

 この場に残すべきただ一つの非情の言葉を、告げた。

「……うっ」

 リリアから返ってくる言葉は、なかった。
 背中に銃弾が穿たれることを十分に覚悟し、しかしついに、制裁は下されなかった。
 せめて罵詈雑言の一つでももらえれば、いくらかは救いになっただろうに。

 洋服店の出入り口を潜り、トラヴァスは外へ出る。
 近くの炎からくる熱気と、暖かな陽光が、じわりと汗を滲ませる。
 店内に取り残されたリリアには一瞥も寄越さず、その場を去っていった。

「……ああ」

 不幸な再会だった。
 彼女と彼が無事に長生きできることだけを、今は望む。

「――見逃したのか?」

 爆発の痕跡、燃え上がるアスファルトを通り過ぎたところで、声をかけられた。
 トラヴァスの眼前に、凛とした佇まいの少女が一人、待ち構えるように立っていた。
 和服の上にジャケットという異種なる組み合わせが、一目で彼女の存在を認知させる。

 “狩人”と“少佐”に与した三人目――すなわち、“和服”の少女。

 “和服”は手に無骨なナイフを携え、気だるそうにトラヴァスの進行を阻む。
 威圧感で立ち止まらせ、そして投げる質問は、『見逃したのか』の一言。
 『殺したのか』――ではなく、半ば最初から答えを知っている風に、“和服”は訊いてきた。

「彼に報告しますか?」

 故にトラヴァスは、“少佐”として答える。
 イエス、ノーの直接的な答えではなく、わかりきった答えを省いた上での質問返し。
 “和服”もまたすぐに“少佐”の意図を察し、

「少し気になってたんだ。“あんたみたいなの”が、なんで“あいつみたいなの”と一緒にいるのかってな」

 例に倣うようにして、遠回しな言動で返す。
 “少佐”は、なるほど、と一言口にし、

「私にもまた、彼とは違うところで目論見があるんですよ。それはもしかしたら、君の邪魔になることかもしれない」
「邪魔、ね……オレはそうは思えないけどな」
「それはよかった。私としても、不要な敵は作りたくありませんので」

 言って“少佐”は、微かに笑った。
 あんな最悪な対面の直後に、微笑むことができる――なら、この仕事はまだやっていけるだろう。
 トラヴァスは再びの自信を獲得し、改めて“和服”に訊いた。

462しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 02:00:01 ID:4ObvhTFY0
「彼に報告しますか?」
「やめとく」

 嘆息し、“和服”はナイフを仕舞った。

「一から十まであいつの思い通り、ってのも気に食わないからな」

 彼女の凶刃がリリアたち二人に届かなくなったことを、トラヴァスは幸運に思う。



【C-5/市街・ブティック/一日目・昼】

【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康、深い深い哀しみ
[装備]:IMI ジェリコ941(16/16+1)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:がんばって生きる。憎しみや復讐に囚われるような生き方してる人を止める。
0:なんで……。
1:今は宗介の治療に専念。
2:トラヴァスの行動について考える。
3:トレイズが心配。トレイズと合流する。

【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:気絶、頭部出血、全身各所に火傷及び擦り傷・打撲(他、骨や内臓にも損傷の可能性あり)
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)、予備マガジン×4
[思考・状況]
0:…………(気絶中)。
1:リリアの傍に居る。
2:かなめとテッサとの合流。
3:マオの仇をとる?


 ◇ ◇ ◇

463しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 02:00:55 ID:4ObvhTFY0
 ――そして舞台はまた、ここに。

 太陽は昇れど、店員や客による賑わいが蘇ることはない、無人のデパート。
 その階層中ほど、婦人服売り場の一角に、白い長衣を着た男性が浮いている。
 なにに吊らされるでもなく宙を舞う姿は、“紅世の王”たる彼の、力の一端にすぎない。

「手袋の上に指輪、というのもまた妙ではあるが……これはなかなか、上等な品のようだ」

 宙に浮く男性、“狩人”フリアグネの手には、純白の手袋が。
 純白の手袋に包まれた十本の指には、十個の指輪が。
 十個の指輪を嵌める手には、薄い白の炎が。

 力が指輪に伝わり、連鎖は炎を生んで、炎上、発現する。
 フリアグネはおもむろに、両の掌を交差させるように振り払った。
 掌に灯っていた薄い白の炎が散り、十の指より十の指輪が抜け落ちる。
 指輪に嵌められた宝石の奥で、薄い白の炎が宿り、それぞれ宙を駆け回った。
 フリアグネの両腕が指揮棒のように動作し、それに呼応するように、指輪も踊る。

「――飛べ」

 不意の号令に、指輪が即座の反応を見せた。
 ゆったりと宙を舞っていた十個のそれは、途端に弾丸の性質を持ち、売り場に佇むマネキンの群れを襲った。
 夏物の新作衣装がモデルごと、薄い白の炎を纏う弾丸に焼かれ、貫かれ、粉砕される。
 十ある内の一つは時折、小規模な爆発を起こし、マネキンを完膚なきまでに破壊する。

「――戻れ」

 フリアグネが指示すると、十の指輪は帰省本能に促されるように、彼の指へと戻っていった。
 マネキンを派手に粉砕したもの、爆発を起こしたもの、どれも指輪自体に損傷は見当たらない。
 攻撃力は込める“存在の力”しだいだが、使い勝手と耐久力は申し分ない。
 手持ちの武器は近接戦闘用の『吸血鬼(ブルートザオガー)』のみ。
 これはこれで強力な宝具だが、その特性ゆえ、なかなかに融通が利かない武器でもある。
 新たに入手した指輪が飛び道具であるという利点は大きく、コレクターとして歓喜を得るには十分だった。

 十個で一式のその指輪――名称は『コルデー』。
 自在法よりも宝具を活用した戦いを好むフリアグネとしては、願ってもない献上品と言えた。

「ご苦労だったね、“少佐”。“和服”も。『ダンスパーティー』は役に立ったかな?」
「ええ。フリアグネ様のご説明どおりの力を発揮してくれました」
「うふふ……“和服”には感謝しないといけないね。おかげで、“粗悪品”にも使い道が見えた」

 床に降り立ち、トラヴァス“少佐”とそんなやり取りを交わすフリアグネ。
 婦人服売り場のカウンターには“和服”が座っており、手の平の容器からスプーンでなにかを口に運んでいた。

「“和服”はなにを食べているんだい?」
「アイスクリームのようです。『コルデー』を持っていた少年の荷物に紛れていまして」
「ふむ。そういえば、人の世ではそろそろ食事の時間か。“少佐”、君も今の内に済ませておくといい」
「では、お言葉に甘えて。フリアグネ様は、食事は取られないのですか?」
「私は食には執着しないほうでね。“紅世の徒”やフレイムヘイズの中には、そういった楽しみを持つ者もいるが」

464しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 02:02:01 ID:4ObvhTFY0
 トラヴァスは、デパートの食品売り場から拝借した携帯食料を昼食として取り、小休止。
 フリアグネもまた、新たに手に入れた二つの宝具――コレクションを眺めながら、悦に浸っていた。
 “和服”は、トラヴァスが口止め料として渡したアイスクリームを黙々と食べている。
 時計を見ると、次の放送が近かった。

 ――『粗悪品共の舞踏会』、再演。

 今回の奇怪な事件もまた、すべては“狩人”フリアグネの暗躍によるものだった。
 しかし、一度は利用価値なしとして戦術に組み込まずにおいた粗悪品――“燐子”を、なぜ今になって再利用などしたのか。
 発端は、“和服”が所持していたハンドベル型の宝具、『ダンスパーティー』の存在をフリアグネが知ったことによる。

 宝具『ダンスパーティー』。これはフリアグネの説明によれば、“燐子”を爆発させる道具らしい。
 もともとは、敵の“燐子”を問答無用で潰すフレイムヘイズ向きの宝具なのだが、
 “燐子”の精製を得意とするフリアグネは、自らが生み出した駒を爆弾に変えることで活用していたようだ。
 爆発自体も、“燐子”に込められた“存在の力”を起爆剤とするため、他の宝具に比べても扱いは容易い。
 特性さえ知っていれば、“存在の力”を扱えぬ“少佐”にだって使えるだろう――とは、フリアグネの言である。

 その発言でトラヴァスは、『ダンスパーティー』に興味を持ってしまった。正しくは、興味を持った振りをした。
 フリアグネがこれを手にするということは、無尽蔵の爆弾を得るも同様。それは好ましくない展開だ。
 まずはその性能のほどを熟知し、対策を練らねばならない。と、そんな判断をあのときは下した。

 それが、不幸の始まりであり、リリアとの再会の引き金ともなったのかもしれない。
 フリアグネは『ダンスパーティー』と交換ということで、支給品の一つであるナイフを、“和服”に手渡した。
 トラヴァスはフリアグネから『ダンスパーティー』を預かり、これを試験運用してみることにした。
 『粗悪品共の舞踏会』のときと同様、デパートを一時的な拠点とし、トラヴァスが現地に赴くという形で。

 これには“燐子”に関心を抱いたらしい“和服”が同行。
 言い出したのは“和服”だが、フリアグネの側から見れば、トラヴァスの監視役としても機能したことだろう。
 実際、彼女の目があったせいで“仕事”がやりづらかった。
 仮に彼女がいなければ、『ダンスパーティー』は動作不良を起こし、“燐子”はまたもや敗北――という結末にもできた。

 トラヴァスの仕事は、フリアグネの行動を影ながらコントロールし、被害を最小限に抑えることである。
 あくまでも最小限が狙いであり、それを完全な“ゼロ”に抑えられるほど、トラヴァスは己を過信してはいない。
 “和服”と共に赴く、『ダンスパーティー』の試験運用。今回ばかりは、幾らかの犠牲もやむなしか、と覚悟していた。
 そうして出会ってしまったのが、よりにもよってリリアなのである。

 トラヴァスが愛すべき人。命に代えても守りたい大切な存在。それが、アリソンが残してくれたリリア・シュルツだった。
 本来なら、彼女を保護し命がけで守り抜くことこそが父親としての本懐なのだろうが、今のトラヴァスにはそれもできない。
 汚い仕事は依然継続中であり、フリアグネを攻略する目処は“まだ”立っていないから。
 主催者側からのアプローチも、“まだ”期待できる段階ではないから。
 リリアを思えば思うほど、フリアグネ一派の“少佐”という立ち位置は、“まだ”崩すわけにはいかないのだから。
 ……この“まだ”が早い内に解消されることこそ、トラヴァス抱く“二番目”の願いだった。

465しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 02:02:47 ID:4ObvhTFY0
 運もある程度は味方し、フリアグネの実質的な殺害数はゼロに抑えられている。
 だからといって仕事が上手くいっているかと言えば、トラヴァスは苦い顔を浮かべる他ない。
 被害は食い止められているが、フリアグネは着実にその力を増しつつある。
 新たに加わった“和服”のこともあるため、今後の仕事はもっとやりづらくなるだろう。

 今回の一件で、“和服”は“少佐”のことをどう思っただろうか。
 彼女は、トラヴァスがリリアたちを襲うことを躊躇ったこと、トドメを刺さなかったことを分析し、あえて沈黙している。
 行動だけで背徳者と見なされてもおかしくはないが、彼女も彼女で腹に一物を抱えている人間だ。
 アイスクリーム六個で口止めすることには成功したが、今後フリアグネに情報を漏らさないとも限らない。
 あの洋服店内でのやり取りが外に漏れていたとするなら、トラヴァスの目的にも、気づいてはいるのかもしれない。

 フリアグネ自身も、今回の一件を訝っている様子がある。
 『コルデー』の所持者は、『ダンスパーティー』による“燐子”の爆発に巻き込まれ死亡した――。
 そう報告してはみたが、はたしてどこまで信じてくれただろうか。
 彼は聡明なる“紅世の王”だ。トラヴァスの報告を、なんの疑いも持たず信用するなどありえはしない。
 だからこそ最低限、献上品で機嫌を取り、信用度の底上げを図る。
 結果フリアグネの戦力が増したとしても、この立ち位置は危うくするわけにはいかない。
 せいぜいがボロを出さないよう、非情に徹するしか――結局は、それくらいしかできないのだった。

 リリアと対峙してしまった痛みを癒す術は、ここにはない。
 口に運ぶ固形の携帯食料はパサパサしていた、味気がなかった。
 妻と、娘と、王子様とで囲んだ食卓が、恋しくなる――わけにはいかない。

 簡素な食事を終え、トラヴァスは胸元のポケットから一枚の封書を取り出す。
 それは、リリアの荷物に紛れていた手紙。アリソンからリリアに宛てた、遺書だった。

 リリアはきっと、これを読んだのだろう。読んでなお、母の死を受け止め、この場を生きようとしていた。
 手紙の内容が直筆なところを見ると、もしかしたらじかに会ってもいたのかもしれない。
 辛かっただろうに、苦しかっただろうに、たくさん悲しんだろうに。
 トラヴァスは、リリアのそんな罅割れた心を砕いてしまったのだ。
 なんて、

「……なんて、酷い」

 フリアグネにも、“和服”にも聞こえないくらい小さな声で、トラヴァスは自嘲した。
 同時に、願う。誰に向けてでもなく、ただの父親としての願いを、虚空に流す。

 王子様――どうか、名ばかりの英雄に代わり、リリアを守ってあげてください。

466しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 02:04:01 ID:4ObvhTFY0
「さて」

 トラヴァスが食事を終え、“和服”もアイスを食べ終えたところで、フリアグネが号令を出す。
 彼の周りには、婦人服売り場のマネキン人形――否、爆弾が計二十体、多種多様な衣服を着こなし直立している。
 込める“存在の力”は最小に押さえ、『ダンスパーティー』で爆破することを前提に量産した“燐子”たち。
 フリアグネはこれらを伴い、再びの戦場へと赴く。

「フリアグネ様。さすがにその数での大群列挙はいかがなものかと」
「うん? ああ、心配ないよ“少佐”。彼女たちには、ステージに上るときがくるまでこの中に入ってもらう」
「……まるで、悪趣味なお人形遊びだな」

 作られた“燐子”たちが片っ端から“狩人”のデイパックに入っていく。
 その光景を見ながら、“和服”は呆れたようにため息をつき、“少佐”はわずかな恐怖を感じた。

「正午の放送を聞き届けた後、再びこの地を発つ。うふふ……次なる狩りでは、どんな得物に出会えるかな!」

 ならばその得物は私が逃がしてみせましょう、と。
 トラヴァスは眼鏡の奥の瞳に、静かなる熱意を燃やすのだった。



【C-5/百貨店/一日目・昼(放送直前)】


【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ、ダンスパーティー@灼眼のシャナ、コルデー@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式×2、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、マネキンの“燐子”×20@現地調達、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:放送を聞き終えた後、百貨店より出立。再び狩りに赴く。
2:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
3:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
4:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。

467しばるセンス・オブ・ロス ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 02:04:43 ID:4ObvhTFY0
【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個、フルートの予備マガジン×3、アリソンの手紙
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。


【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:エリミネイター・00@戯言シリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)×5@空の境界
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、"人類最悪"を殺す。
1:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
[備考]
※参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。


【ダンスパーティー@灼眼のシャナ】
両儀式に支給された。
“狩人”フリアグネのコレクションの一つ。ハンドベル型の宝具。
鳴らすことで“燐子”を爆破させることができる。爆発力は“燐子”が持つ“存在の力”の大きさに依存する。
上記以外にも特別な使い方があり、フリアグネはこれを用いて『都喰らい』の発動を目論んだ。

【エリミネイター・00@戯言シリーズ】
フリアグネに支給された。
澄百合学園の一年生、西条玉藻が愛用する得物の1つ。
見るからに派手で無骨なナイフ。

【コルデー@灼眼のシャナ】
リリアに支給された。
“駆掠の礫”カシャが所有していた指輪型の宝具。十個の指輪で一式だが、単体でも機能はする。
“存在の力”を込めることで指輪の宝石に使い手の炎の色が宿り、弾丸として飛ばしたり、爆発させたりすることが可能。
弾丸として飛ばされた指輪は使い手の意思によって自由に操作でき、爆発を起こしても指輪自体が損壊することはない。

【マネキンの“燐子”@現地調達】
フリアグネが百貨店の婦人服売り場で精製した“燐子”。精製した時点での数は計二十体。
込められた“存在の力”は極めて少なく、意思総体を持たなければ単体の戦闘力も低い。
基本的にはフリアグネの命令にのみ従う。


※フリアグネが持っていたデイパック(肩紐片方破損)は百貨店に破棄。リリアから奪ったデイパックを代用しています。

468 ◆LxH6hCs9JU:2009/11/29(日) 02:05:44 ID:4ObvhTFY0
投下終了しました。
お手隙の方がいましたら、代理投下のほうお願いします。

469 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:02:38 ID:WCorcQNs0
相変わらずの規制中のため、こちらに投下します。

470競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:03:25 ID:WCorcQNs0
 目的地に向かってひたすらに走っていると、いろんなことを考えてしまう。
 まだ朝日も昇っていなかった頃に出発した、温泉施設のその後のこと。
 千鳥かなめと上条当麻の二人を見送り、温泉に残った北村祐作のこと。
 放送で狐面の男が語っていたことや、放送で名前を呼ばれた人のこと。
 たくさん、走りながらの考察では消化しきれないほどにたくさん、考えてしまう。

 この疾走の果てにどんな展開が待っているのか、なんてことも――。

「…………はっ!」

 大きく声を上げて、千鳥かなめは駆ける足を止めた。
 両膝に手を付き、ぜーはーぜーはー言いながら息を整える。
 ここまで全力疾走だった。周囲はとっくに明るくなり、高くなってきた気温は肌に汗を滲ませる。
 温泉に浸かりたい気分だった。都合よく、向かっている場所も温泉である。とはいえ、無事辿り着いても湯にありつけるとは思えない。

「で、どこよここ。あー、この道をまっすぐだったっけ? 土地勘もないのに、すぐに辿り着けるわけがないでしょうが」

 話し相手を欠いたかなめは、一人愚痴を零す。
 周囲の風景は、依然として住宅地だった。建っているのは民家ばかりで、ビルや商店はあまり見当たらない。
 手元の方位磁石を頼るに、温泉施設の場所は教会から東に一直線だったはずだ。
 多少道筋はずれれど方向は間違っていないだろう、とかなめはあたりをつけ、また走り出した。

 目指す場所は温泉施設。
 北村祐作が残った、シャナと櫛枝実乃梨と木下秀吉が向かっていった、北村祐作が死んだ――温泉施設である。
 そこでは間違いなく、“なにか”が起きたのだろう。かなめはその“なにか”を突き止めるべく、温泉への道をひた走っていた。
 ただ、突き止めるまでもなく、その“なにか”には大体の見当がついている……ということについては、認めざるを得ない。

(人を疑いたくなんて、ないけどさ)

 タイミングが絶妙すぎたのだ。
 北村の名前が呼ばれ、シャナと実乃梨と秀吉の名前が呼ばれなかったあの放送。
 上条当麻は微塵も疑ってなどいなかったのだろうが、千鳥かなめにはこのとおり、疑心が芽生えてしまっている。

 ――あの三人と、北村の間で、なにかがあったのではないか。

 そんな風に考えてしまうのは、ミステリー小説やサスペンスドラマなどに影響されてしまう一般人の性だろうか。
 かなめは内心、嫌だなぁ、とは思いつつも、疾走のついでとばかりに想像してしまうのである。

 ここでの“死”は、すべからく“殺人”と解釈してしまってよい。
 それを前提に踏まえ、温泉施設にいたはずの四人の内、どうして北村だけが死ぬ結果となってしまったのか。
 推理の必要なんてないくらいに決定的だった。少なくとも、素人判断を下すには十分なほど、これは明らかだった。

 つまり――シャナと実乃梨と秀吉の三人が結託して、北村を殺害した!

「……って、アホか」

 かなめは呆れるように呟き捨てる。
 ない。ありえない。ここはミステリをやる場面ではないのだ。状況はサスペンスにもなりえない。
 大体、北村と実乃梨は友達同士の間柄だ。それは互いが認めているわけで、かなめ自身がその説明を聞いている。
 シャナや秀吉とも実際に話してみたが、彼女たちはとても人を殺すような人間には見えない。
 自身の推理力と人を見る目、どちらを信じるかと言えば、明らかに後者だった。

471競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:04:03 ID:WCorcQNs0
 きっと、温泉にはかなめと上条が去ってから、すれ違いで誰かがやって来たのだろう。
 北村はその何者かに、殺された。
 シャナたち三人はその誰かと遭遇したのか、それともすれ違ったのか。
 問題はそこ。
 今この間にも、北村を殺害した何者かが――シャナたちを襲っている可能性だってある。

 なんにしても、放ってはおけない事態が温泉で起こっている。それだけは確かだった。
 具体的になにが起こっていて、どんな危険が待っているかはわからないが、そんな不安は足を止める理由にはならない。
 アマチュアはアマチュアなりに奮起するべき場面なのだと、かなめは今の状況をそんな風に捉えていた。

「ソースケなら、独断先行は危険だー、とかなんとか言うんだろうけどね」

 先の放送で、北村祐作の他に、メリッサ・マオという名前が呼ばれていたことを思い出す。
 宗介の同僚であり、気さくで陽気な格好いいお姉さん……いや、姐さんという印象だったあの人。
 名簿には記載されていなったので、まさかいるとは思わなかった。
 彼女の死を受け取って、宗介やクルツ、テッサはなにを思うだろう。
 未だ噂も聞かぬ知り合いたちのことを思い、かなめは少しばかり不安になった。

 不安の種はまだ、これだけではない。
 今向かっている温泉施設、そこにいるかもしれない北村を殺害した張本人。
 そんな危険人物と、今は一人きりの千鳥かなめが、一対一で相対することになったらどうすればいいのか――。

「一人でやるっきゃ、ないでしょ」

 常日頃から鬱陶しいくらいにつきまとっていたサージェントは、傍にはいない。
 唯一の同行者であった上条当麻も、その不幸体質のせいで離れ離れになってしまった。
 合流を先に済ませたいという気持ちも幾らかはあったが、あいにくと千鳥かなめは臆病風に吹かれるような少女ではない。
 やると決めたらやる。行くといったら行く。上条当麻とは温泉で合流。今さらこれを変更することはできなかった。

(自分の身くらい、自分で守ってやるわよ!)

 幸いなことに、装備は整っているのだ。
 素人にも扱える暴徒鎮圧用高電圧スタンガン、そして稲刈りに使うにしては鋭すぎる鎌。
 どちらも殺し合いをするには不向きな武器だが、自衛の道具として用いるならそれなりに有用だろう。
 それにいざというときは、今の今まで話題にも出さなかった“秘密兵器”を使えば――と。

(……いや、できれば使いたくなんてないんだけどね)

 かなめは足を止めて、デイパックの中に仕舞っていたそれを取り出す。
 宗介が握っていたものよりもかなり小型なそれは、かなめの支給品の最後の一つ。
 ワルサーTPHという名前の小型自動拳銃。もちろん、小さいとはいえ撃てば人が死ぬ代物である。

 これから先、ひょっとしたらこれを使わざるを得ない状況に追い込まれるのかもしれない。
 撃ちたくなんてないし、握ることすら躊躇われるし、本当を言えば所持すらしたくないのだが、決断する。
 かなめはワルサーTPHを制服の胸ポケットに収め、疾走を再開した。

 授業で使う15センチ定規よりも小さい凶器。
 見つかったら生活指導どころでは済まない危険物。
 引き金に触れることは、ないと信じたい。

「まあ、大丈夫……よね?」

 焦りと不安を押し殺して、千鳥かなめは温泉を目指す。

472競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:04:37 ID:WCorcQNs0
【E-3・温泉付近/一日目・午前】

【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:とらドラの制服@とらドラ!、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、小四郎の鎌@甲賀忍法帖、ワルサーTPH@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
[思考・状況]
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
1:温泉に向かって情報を集める。
2:何かあったら南、海岸線近くで上条を待つ。
3:知り合いを探したい。
[備考]
※2巻〜3巻から参戦。


【ワルサーTPH@現実】
全長:135㎜ 重量:325g 口径:.22LR 装弾数:6+1
軽さと小ささが最大の特徴と言える、ワルサー社が開発したポケットピストル。
あまりにも小さすぎるため、発砲時に高速で後退するスライドとハンマーが、
グリップからはみ出した人差し指と親指の間の肉を思い切り挟むことがある。
使用者の手が大きかったり、握る位置を高くしたりすると頻繁に起こり得る。
それゆえ、愛好家の中では「ワルサーバイト」というあだ名で知られる。


 ◇ ◇ ◇


 隠密行動は忍者の領分であり、破壊工作はテロリストの領分である。
 だから、というわけでもないが、ガウルンはほどなくして千鳥かなめの姿を見失った。
 追走劇の舞台となる住宅地はそれほど入り組んでいるわけでもないが、かなめの健脚はガウルンの予想の上をいったのだ。

(……ま、だからって追いつけないわけでもねぇけどな。むしろ追い越しちまうぜ、この分じゃな)

 それはかなめのほうがガウルンよりも足が速い、という単純なことではなく、
 答えはもっと単純で、ガウルンが単に自分の意思で尾行をやめたからにすぎない。
 理由は面倒くさくなったから。
 気配を殺し、足音を消し、気づかれないようにこそこそと……そんな真似は、それこそ“ニンジャ”にやらせておけばいい。

「目的の場所ってのもどうせわかってるんだからな。なら一足先に到着して、後からやって来るかなめちゃんを歓迎してやるのが、男の優しさだよなぁ?」

 髭面を下卑た笑いで染めて、ガウルンはゆったりとしたペースで東への道を進む。
 かなめは前か、それとも既に後ろか、定かではないがまったく気にしない。
 要はこの足で温泉に辿り着き、かなめと対面できればそれでいいわけだ。

 そこから先は、ちょっとしたイベントが始まる。
 かなめの同行者である少年の顔を盗んだ如月左衛門が、少年に扮してかなめと接触。
 左衛門はあの常世離れした性格だ。面と向かって話せば、かなめもすぐに異変に気づくことだろう。

 ねぇ、あんた喋り方変じゃない? ぬ? いや、そのようなことはあるまいよ――と。

 ガウルンはそんな茶番劇を観賞し、程よいタイミングで『ドッキリ』と書かれたプラカードでも持って現れてやればいい。
 お楽しみはそれから。かなめの驚く顔が、目に浮かぶようだった。

(いや……待てよ)

473競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:05:45 ID:WCorcQNs0
 ふと、ガウルンが立ち止まる。
 にたにたとした微笑は、きりりとした真面目なものに一変した。

(ニンジャが言ってたな……かなめちゃんの“仲間”が死んだって。そりゃつまり、殺されたってことだ。
 殺した野郎が今どこでなにしてるかは知らないが、万が一にでも、そいつにかなめちゃんを横取りされたら台無しだぜ)

 千鳥かなめが目指す先、温泉施設では、まず間違いなく湯気よりも血の香りが濃厚になっていることだろう。
 この状況下、獲物を狩る意思のある者が一箇所に留まるとは考えにくいが、だからといって楽観はできない。
 ここに至るまで、六時間と少し――我慢に我慢を重ね、やっとご馳走にありつけそうなのだ。
 それを第三者に横取りされるなど、冗談ではない。ガウルンはギリッ、と奥歯を強く噛み、そして見た。

 路上に放置された、肉と骨と血のゴミ捨て場――背筋を弛緩させるほど魅力的な、惨殺死体を。

「――ああ、すげぇなこりゃ」

 発見者のガウルンは、極めて冷静な、それを目にしての言葉であるなら異常すぎるほどに冷静な声で、感想を述べた。
 それはとても遺体とは表現できない、いや死体と言ってしまうのも躊躇われる、肉と骨と血の残骸だった。
 数時間前、ひょっとしたら数十分前、いやいや数分前という可能性だって十分にありえる、とにかく元・人間。
 肉という肉がバラバラに分断されてしまっていて、容姿や年齢、性別すら判別できない有り様である。

「おいおい、まさかこいつか? かなめちゃんのお友達を殺したとかいう、殺人鬼は」

 こいつ、とは目の前のバラバラ死体のことではなく、バラバラ死体を作り上げた張本人のことだった。
 これをやった犯人が、かなめの向かう温泉にいる――いないにしても、まだ近場にいる可能性が非常に高い。
 ガウルンの身に、珍しく危機感が訪れた。自分の身を案じる種のものではなく、獲物を横取りされるかもしれないという危機感だが。

「AS(アーム・スレイブ)の銃撃を受けたってこうはならねぇ。この綺麗すぎる断面はなんだ……?
 まさか、ジャパニーズ・ソードなんていうんじゃねぇだろうな。ったく、気にいらねぇ玩具を持ってやがる」

 何分割にされたのか数える気も起きない肉片は、どれもこれもが綺麗な断面をしていた。
 のこぎりでごりごりと断ち切ったような跡ではない。名刀でスパッとやってしまったような切り口。
 それにしたって、こうも数を拵えるわけがわからないが、大方、殺した野郎の趣味だろうとガウルンは解釈した。

(さ、て……いよいよもって、こりゃライバル出現ってやつか? ちんたらしてたら泣きを見ることになりそうだぜ、と)

 急がなければ。そう思い直した矢先、バラバラ死体の傍に血まみれのデイパックが置かれているのを見つけた。
 なにかの罠かとも懸念したが、ガウルンは、はん、と鼻で笑い、これを堂々回収していく。
 デイパックの中には、銃が一丁と予備弾倉が四つほど入っていた。
 他には、誰もが持つ基本支給品が数点。武器になりそうなものはなかったので、銃だけいただいてデイパックごと破棄する。
 使い慣れた武器はやはり心強い。戦争中ともなれば、銃と銃弾はいくら数があろうと困ることはない。

(ラッキーはラッキー。だが、これが手付かずで放置されてたってことは、だ。
 これをやった野郎は銃なんかにゃ興味がない。つまりそういうタイプの達人って線が強い。
 いいねぇ〜、ぞくぞくしてきやがる。かなめちゃんと遊ぶ前に、前菜としていただいとくか……?)

 真面目だった表情が崩れ、ガウルンの口元が思い切り笑む。
 目指す先には、かなめというメインディッシュの他にも、魅力的なオードブルが待っている可能性がある。
 また、それらを食らった後にはかなめ以上のメインディッシュが――カシムという名の大好物が控えてもいるのだ。
 ニンジャやその他の連中はデザートにでも回せばいい。ガウルンの標的は全、その内の好物は少。

474競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:07:21 ID:WCorcQNs0
 そろそろ、腹が空いてきた。
 朝食は取っていない。この空腹は、ちんけな食事などでは満たしたくない。
 どうせなら美味しく、贅沢に、飢えすらも調味料の代わりとして、最大限味わいつくしたい。

「ククク……拗ねんなよぉ、カシム。おまえの大事な大事なかなめちゃん、まずはそっちからいただいてやっからよぉ!」

 ガウルンが駆け出すと同時、足下の血の海が、盛大に飛沫を上げた。



【E-3・温泉付近/一日目・午前】

【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(小)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)、SIG SAUER MOSQUITO(9/10)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首、予備弾倉(SIG SAUER MOSQUITO)×5
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:温泉でかなめを補足しつつ、ニンジャが来るのを待つ。温泉にまだ殺人者がいるようならばそいつの相手も楽しむ。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
3:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
4:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心での行動はなるべく避けるようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。


 ◇ ◇ ◇


 ――駆ける!

 人が歩けぬ天井と天壌の間際、屋根の上を忍者の健脚が蹴り、跳び、過ぎる!
 空を舞うその姿は韋駄天のごとく、目的の場へと方向感覚だけを頼りに走り抜ける!

「なんとも櫓の多い里よの。おかげでこのような目立つところを走らねばならぬが……なに、早々に過ぎ去れば問題あるまい」

 赤を基調とした学生服に、風に翻るミニスカート。
 溌剌とした表情から出てくるのは、女の声色。
 身長、体系、髪型、それらの差異は極めて小さい。

 櫛枝実乃梨の姿をしたその者――甲賀卍谷衆が一人、名を如月左衛門。
 何者にも化け、何者をも欺く、変顔の忍者である。

 現代の地図の見方や、方位磁石の使い方など知らぬ彼女にして彼は、風向きと日の位置で方角を見極め、東を目指す。
 その先には、がうるんと、『かなめちゃん』なる女人が待ち構えているはずだ。
 あるいは追い越してしまうこととてあろうが、左衛門にとってはむしろそのほうが好都合。

 狙うは、かなめちゃんではない。
 狙うは、甲賀弦之介の首を奪った狼藉者、がうるんへの復讐――

 これはこの地にただ一人残された甲賀者、如月左衛門にとって正に千載一遇の機会!
 がうるんとの戦いの際にはおくれを取ったが、今回ばかりはしくじるわけにはいかない。しくじるわけにはいかないのだ!

「待っておれよ、がうるん。――」

475競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:08:06 ID:WCorcQNs0
 故に左衛門は、立ち並ぶ民家の屋根を伝いながら、東への道ならぬ道を駆ける。
 この身のこなしこそ、彼が甲賀十人衆に選ばれたもう一つのゆえん。顔を変えるだけが能の男ではないのだ。

「……しかし」

 ぴたりと、左衛門の足が唐突に止まった。
 何者の目にもつかぬよう配慮した位置(もちろん屋根の上ではあるが)で、悠然と佇む。
 吹き荒ぶ朝風が、なんとも心地よく……そして肌寒い。
 特に腿のあたりが。この感覚を言葉に表すならば、すーすー、といった感じだろうか。

「あの櫛枝実乃梨なる女子、よくもまあこのような召し物で外を歩き回れる。
 これならおれの妹のお胡夷のほうが、もう少し恥じらいというものを持っておったぞ……」

 左衛門は徐に、自身が穿くスカートの端をたくし上げてみる。
 ぺらりとひとめくりすれば、そこには女の痴態が……否、下にはもう一枚召し物があったが、それが丸見えだった。
 こんな格好で走れば、当然のごとく風が召し物を揺らし、痴態が覗かれてしまう。
 がうるんもなかなかにおかしな格好をしていたが、櫛枝実乃梨のこれはさらに上をいく。
 まっこと正気とは思えぬ赤の装束に、左衛門の気は狂いだしそうになった。

「里の女子の中には、色香を忍法として用いる者もおったが……まさか、櫛枝実乃梨もそういった類の?」

 それならそれで、かなりの使い手であったのかもしれぬ……と、途端に黙り込む左衛門。
 女人に化けるのは不可能ではないにしても一苦労、しかしその色香まで模倣するのは、さすがの左衛門といえど無理だった。
 とはいえ、今さら召し物を別のものに変えるわけにもいくまい。
 勘のいいがうるんのことである。どのようなほころびが災いへと変ずるか、わかったものではない。

「女子に化けるともなれば、徹底せねばなるまいよ。……『ううん、徹底しなくちゃね!』」

 櫛枝実乃梨は死んだ。だというのに……そこにはまさに、生き写しのような声が響き渡った!

「『うん、こんなところかな?』」

 おお、これを櫛枝実乃梨と呼ばずしてなんと呼ぶ……。
 今この場にいるのは、如月左衛門にあらず。
 一度は死に、転生を果たした、第二の櫛枝実乃梨なのだ!

「あの耳慣れぬ喋り方にはさすがのおれも四苦八苦したが、声のほうは完璧よの。
 なに、ようはがうるんにさえ悟られねばよいのだ。普段の喋り方を潜め、声さえ真似らればそれでよい」

 櫛枝実乃梨の陽気な顔が、にたり、と笑う。
 その内に秘めたるは、復讐を心に近いし魔性の忍者。
 本性いでるとき、がうるんの命はこの如月左衛門の手に落ちよう、と。

476競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:08:47 ID:WCorcQNs0
「がうるんを始末した後は、弦之介様に代わり朧や天膳を討つ。それこそが、甲賀者としてのつとめ」

 今は復讐こそが最優先、しかし、甲賀と伊賀の忍法合戦を忘れたわけではない。
 先の放送なる報せでは、伊賀者である筑摩小四郎の名前が呼ばれていた。
 朧や天膳の他にも伊賀者が紛れていたことには驚いたが、早速死んだというなら世話はない。
 破幻の瞳を持つ朧は厄介だが、薬師寺天膳こそは己が甲賀弦之介として討つべきだろう。

「なればこそ、まずは弦之介様の奪取よ。残り少なき余生、せいぜい満喫するがよいぞ、がうるん。――」

 そして、櫛枝実乃梨の顔をした如月左衛門もまた、温泉への道を進む。



【E-3・温泉付近/一日目・午前】

【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲。ガウルンに対して警戒、怒り、殺意。櫛枝実乃梨の容姿。
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック ×2、金属バット 、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持。武器ではない?)
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:温泉に向かい、 気付かれないようならガウルンを襲う。
2:気付かれたなら適当にごまかして、再び機を覗いながらガウルンの指示に従う。
3:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
4:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
※千鳥かなめ、櫛枝実乃梨の声は確実に真似ることが可能です。また上条当麻の声、及びに知り合いに違和感をもたれないはなし方ができるかどうかは不明。
※櫛枝実乃梨の話から上条当麻、千鳥かなめが殺し合いに乗った参加者だと信じています。


 ◇ ◇ ◇


 泉のごとく沸き上がる湯を、ただひたすらに目指す三人の者。

 三者三様、それぞれの思惑を持ってのデッドヒートは、横一線といった戦況。

 頭一つ抜け、いち早くゴールの温泉施設へと辿り着くのは、三人の内の誰になるのか。

 そして辿り着いた後、次なるゴールをきちんと二本の足で目指せる者はいるのか、いないのか。

 三者が辿り着く先は、憩いの地か――はたまた死地か、戦場か、鉄火場か、修羅場か、地獄か、狂戦士の領域か。

477 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/02(水) 01:10:26 ID:WCorcQNs0
投下終了しました。
お手隙の方がいましたら、代理投下のほうお願いします。

478 ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:16:02 ID:lkIsqh1c0
支援なしには投下しきれないと思うので、いったん仮投下します。

479CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:16:37 ID:lkIsqh1c0
 【0】


『キョンくん、でんわ〜』


 【1】


泣くに泣いて、そして泣いて泣き止んだ頃には目の前にまっすぐと立つ電柱の影も随分と短くなっていて、
それに気づいてようやく自分がどれだけの涙を零したのか大河は知って、ぐしぐしとブラウスの袖で涙の跡を拭った。

「……おなか減った」

眩しく輝く太陽を見上げて大河はぽつりと零した。
メイドさんが出してくれたラーメンも飛び出してきたせいでろくに食べていない。
運動もしたし泣いたこともある。おなかはさっきよりももっと減っていた。油断すればくぅと音を鳴らしてしまいそうなぐらいに。

「……おなか減った」

もう一度呟いて、今度は涙がぽつりと零れた。
思い出し、思い浮かぶ。何を食べたいのか。誰が作ったものを食べたいのか。それが叶った日々。そうでない今。
どこに戻っても、どこに帰ってもそれが実現しないということに、また小さな肩が揺れる。

「痛いなぁ……」

誰も聞いてないのに空々しく言って、大河は電柱を蹴りまくって痣の浮いた足をさすった。
さすりながらまた目元を擦る。今の涙はそのせいだと、小さな彼女のほんのちっぽけな強がり。
今更だが、見たら足は裸足で泥だらけ、上着は着てなくて、着たまま寝ていたブラウスはぐしゃぐしゃのしわだらけだった。

ぶんぶんと頭を振って跳ねるように立ち上がる。思いのほか身体は軽く動いてくれた。
とりあえず、今はここまで。
もう一度頭を振り、大河は社務所に帰ろうとして……そして、大河はその社務所から漏れてくる音に気づいた。

りーん、りーん、りーん……と、鳴り響くそれが何の音なのか、一瞬わからなくて、そして少ししてそれが電話の音だとわかった。

480CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:17:20 ID:lkIsqh1c0
 【2】


すこし前のこと。

対少女としては最も効果的でおぞましい方法を使われ、まんまと敵に逃れられてしまった二人の少女が道を歩いていた。
片方。10歳と少しかというほどの背に、膝裏までに達しそうな豊かな黒髪を持つのは《炎髪灼眼の討ち手》であるシャナ。
その隣を行くのは年を考えれば標準的で、しかし小柄なひとりの女子中学生である《超電磁砲(レールガン)》こと御坂美琴。
少女というくくりで言えば、間違いなく最強の1位2位を占めるであろう二人は、らしくもなく浮かない顔で歩を進めている。

「もうついてないかな……?」

シャナはあれから何度目かの問いをして、同行する美琴に背中と髪に毛虫がついてないかを確かめてもらった。
フレイムヘイズとしてはいささか以上になさけない姿ではあるが、気持ち悪いというのはどうしようもないのだ。
あのツンツンとした毛がわさわさとしていて、足がいっぱいあってうねうねと這う姿は思い返しただけで怖気が走る。

「それで、シャナさんは”アイツ”と会ったのよね?」
「うん。そうだけどそれがどうかした?」
「えっと、いや……別にどうともしないわよ! ただ、まぁ……無事でよかったなぁ、とか……」
「そう。でも私も安心した。あいつが悪いやつじゃなくて」

シャナは美琴がいうアイツ――上条当麻が危険な人物どころか真逆の正義漢であると知って胸を撫で下ろした。
その背中を黙って見送ることしかできなかった実乃梨。
彼女が北村殺しの犯人として追った彼がそういう人物ならば、おそらく彼女は大丈夫だろう。
当麻と一緒にいたかなめも美琴の仲間から安全な人物だと保証されているらしいので、これで不安が一つ消えたことになる。

「とは言え、ならばあれらとは別に得体の知れぬ殺人者が他にいたということになる。しかも、おそらくは複数だ」

シャナが首にかけているペンダントから遠雷のような響きを持つ威厳ある声が発せられた。
フレイムヘイズたる”炎髪灼眼の討ち手”の契約者であり、シャナの身に宿る紅世の王《天壌の業火・アラストール》の声である。

「秀吉をバラバラにした奴。北村を刺した奴。それと喉を切り裂かれたのと、滅茶苦茶に潰されてた奴……」
「どれも手口は違う。最悪、別々の者による仕業とすればあそこには4人の殺人者がいたということになるだろう」
「けど、温泉の3人は仲間割れとかかもしれない。上条当麻達が出てからそんなに誰かが来る時間はなかったもの」
「ふむ。確かに”一度”に起こったという可能性は高いだろうな」

シャナは事態に当たり敵を想定することで自身の冷静さが戻ってきていることに安堵した。
そして、おそらくはその為に話を切り出してくれたアラストールの気持ちに感謝し、その頼りがいを改めて実感する。

「中でも気をつけるべきは、あの鋭利な断面を見せたままに人間をバラバラにした殺人者であろう。
 尋常な状態ではなかった故に、おそらくは宝具の類を用いたか、御坂美琴の言う《能力》の使い手かもしれぬ」

ならば油断はできないし、無能力者である上条や実乃梨の命もまだ保証されたわけでないとアラストールは付け加える。
確かにその通りだとシャナは気を引き締めなおした。
ヴィルヘルミナの元には実乃梨が言っていた大河という少女もいるらしい。
ならば、神社についたらヴィルヘルミナに捜索隊を出すことを頼んでもいいだろうと、そうシャナは考える。

「……あのさ。多分だけど、そのバラバラってやつ。犯人がわかってるかも」

おずおずとかけられた美琴の声にぴくりと反応し、シャナは続きを促した。
そして美琴が説明するにそれは”紫木一姫”という少女の仕業であり、《曲絃糸》という殺人技術によるものだという。

481CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:17:52 ID:lkIsqh1c0
「紫木一姫と零崎人識が同じ世界の住人で、その紫木って方が秀吉と大河の大切な人を……」
「美波という娘を襲ったのが学校ならば場所も時間も近い。その紫木という娘が下手人と見て間違いないであろうな」

けど……と、シャナは言葉をつけくわえる。
普通の人間にそんなことができるというのは、フレイムヘイズ以前の自身を思い返すと少し信じられないことだった。
しかしアラストールはそれにこう答える。《物語》が違う以上、我々の普通は通用するものではないと。
現に、目の前にいる御坂美琴にしても《普通の人間》にしか見えないが、電撃を操る《超能力者》なのである。

「さて、もうちょっとよ」

路地から大きな通りへと出たところで美琴がそう口にした。
太陽を背に向こうを見れば新緑鮮やかでなだらかな山が見える。
どうやら、ここから道なりに進めばヴィルヘルミナらが拠点とする神社へと到達するらしい。

「シャナさんが他に探しているのは坂井悠二さん?」

不意にそう聞かれて、シャナは小さくそうだと返事を返した。
神社に集まっただけでも8人以上で、シャナ自身も少なくない人数と接触をしているが、想い人である彼の消息は未だ不明だ。
それなりの信頼もあるし、むしろこういう状況でこそ真価を発揮するとも知っているが、やはり心配なのは変わらない。

「大切な人?」
「うん。……御坂美琴にはいるの?」

無意識の内にそう問い返していた。
実乃梨にぶつけられた言葉が心の中でまだ強く残っていたせいなのだが、シャナ自身はそれには気づかない。
ただ、大切な人を想う気持ちというのを色々な人から教えてもらおうという無自覚な行動であった。

「いやいや……ないない! いや、あれはちょっと……いやでも……」

美琴の答えにシャナは少しだけがっかりする。
もっとも、ある程度心の機微に敏ければ美琴にそういう相手がいるというのは明白なのだが、生憎とシャナは気づかない。
そして、悠二のことを考えるとまた不安定な自分になってゆくので、今度は意識して敵の話題を切り出した。

「それで御坂美琴。古泉という奴。次会ったらどうするの。やる事は決まってると思うけど」
「……勿論ぶっ飛ばすわよ。許さないんだから……あの思い出すだけで腹が立つ」

案の定、美琴は大きな怒りを露にした。連続で飛び出す罵詈雑言は、少し引いてしまうほどである。
しかし、心の中に食い込んだ不安は深く、引き剥がすことも無視することも簡単にはできない。
取り返しがつかないことが起きる不安に心臓がドクドクと脈打ち、頭の中が真白になりかけたその時――、

「駄目だ……こりゃ……あーあ。部長も”悠二”さんもぶじかなぁ……」

――その名前が耳の中に飛び込んできた。

482CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:18:25 ID:lkIsqh1c0
 【3】


どこから出てきたのかも覚えていなかったので、大河は結局、外をぐるりと周って玄関から社務所の中に入った。
足の裏についた泥を玄関マットで落とすと、ぺたぺたと音を立てながら板張りの廊下を歩いてゆく。
あまり大きな建物でもないのでそれも長くは続かず、ほどなくして先ほどまでいた畳張りの部屋へと到着した。

「あ、おかえりなさい」

少しだけ目元に赤色が残り、無愛想な顔で帰ってきた大河を出迎えてくれたのは、ぎこちなくも明るい顔の美波だった。
うん。と、それだけ答えて大河は彼女の隣へと腰を下ろし、そしてメイドさん――ヴィルヘルミナの姿を探す。
暗色のワンピースに純白のエプロン。更にはヘッドドレスと正しくそれであり、目立つ彼女の姿はしかし部屋の中にはなかった。

「ねぇ、美波。あの人はどこに行ったの?」
「それなら、さっき電話があってそれを取りに……須藤さんからだって。何かあったみたい」

そっか。と、返事をして大河は膝を抱えて丸まった。
先ほどはほとんど上の空ではっきりとは覚えていないが、確か街に食料などを調達にしにいっている人達がいたはずだ。
ここまで一緒に来た(須藤)晶穂もそこに。そして記憶が確かならテッサの方は山の上の方に向かったと聞いている。
テッサのことは今は置くとして、晶穂のことが少し心配になる。
電話をかけて来たということはまだ余裕があると言えるが、しかし電話をかけるだけの理由(トラブル)もそこにあるのだろう。

「あの、ちょっといいかな……これなんだけど」
「んん……?」

膝の上に顎を乗せてむぅと唸っているところに、美波がおずおずと声をかけて何かを大河の方へと差し出してきた。
彼女の手のひらの上にあるそれは何の変哲もないただのデジカメだったが、しかし少しだけ別の意味がある。

「これ、大河のものじゃないかな?」
「……言われてみれば私のみたい、けどどうしてこんなところに?」
「うん。水前寺の鞄の中に入っていたんだって、それで今はウチが持っているんだけど返しておいたほうがいいと思って」
「別にいいけど……。そっか、じゃあよくわかんないけど返してもらっとく」

なんで自分のデジカメがここで誰かの鞄の中に、つまりは配られているのかさっぱりわからない。
けど、見てみれば確かに自分のものらしかったので大河はそれを素直に受け取った。
そして自分の鞄を引き寄せてごぞごぞと漁り、代わりと言ってはなんだがとひとつの缶を美波に手渡した。

「何これ……?」
「フラッシュグレネード。いざって時の為にいっこ持っておきなさい」
「え! ちょっと……これって、爆弾……!?」
「別に本物の爆弾じゃない。光が出て目くらましになるだけ。さっきのデジカメのお返し。一個貰ったから一個あげる。いい?」

美波が納得したのを確認して、大河はデジカメを鞄の中に仕舞おうとする。
しかしその直前にはたと気づいた。デジカメの中になにかデータが残っていたっけかと、脳の中の記憶野をぐねぐねこねる。
何を撮ったなんてよく覚えてないけど、もしかしたら”彼”の写真がこの中に残っているかもしれない。

そしたら……、そしたらどうしよう……?

483CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:19:10 ID:lkIsqh1c0
 【4】


「はい、それで部長は浅羽を探しに行って……はい、どこまで行ったかはちょっと。それで、ですね――……」

晶穂は電話口の向こうにいる硬質な声色のメイドとその相棒であるヘッドドレスの声にただただ恐縮していた。
助けを求めようと同行することとなった3人の方を見てみるが、そっちはそっちで忙しいらしく救援は望めそうにない。

そもそもとして、どうしてこんなことになったのか。
発端はやはり部長こと水前寺邦博のせいであると言えるだろう。比率で言えば、ほぼ100%部長が悪い。
まず、神社に残るはずだった自分を無理矢理連れ出した。
その時は納得というか、言いくるめられたが、別に浅羽の話をするのはあの時でなくともよかったのではと思える。
そして、物資調達に行った市街で件の古泉一樹に襲われることとなった。
これはボディーガードとしてついて来てくれていた美琴のおかげで事なきを得た……らしい。
戻ってきた美琴がものすごく怒っていたが、とりあえず怪我などがなかったのは置いていった身としてはほっとするところだ。
そう。彼女を置いていった。これも部長のせい。
超能力者同士の戦いになんて参加できないのは同意するところだけど、考えれば別の方法もあったんじゃないかと思える。
それは部長の狙いが戦場からの避難ではなく単独行動をすることにあったからだ。
部長は最初から浅羽を探しに行くつもりだったらしい。
よく考えたら美琴に荷物を預ける必要はなくて、そこで気づくべきだったろう。もっとも、気づいたからどうだという話だが。
2人きりになったところで部長は選択を要求してきた。ついてくるか、それともついてこないのか。
色々な理由が複雑に絡み合っていたけれど、要は勇気の問題だったのだと思う。
浅羽にもう一度会えたとして、何をどう言えるのか、どんな顔ができるのか。部長はそれを見抜いていたんだろう。
結局、ついてはいけない――そう部長に判断されてしまった。ほっとしたけど、逆に辛くもあった。

そこから展開は加速し、現状へと辿りつく。
ひとり戻るために車を降りたというところで、二人の男性が現れた。
片方は優しい感じ。学ランの高校生、坂井悠二。もう片方は少し怖い感じ。ブレザーの高校生、名前は……キョン?
二人は話を聞いていたらしく、部長に北東へと向かうことを止めるように言った。なんでもとても危険らしい。
その時耳に届いたのは部長の小さな舌打ち。
前言撤回しなくてはならないだろう。部長は最初から浅羽をすぐに助けにいかねばならないと考えていたのだ。
結局、学ランの悠二の方が部長についてゆくことになった。
そしてキョンという方が神社へと同行してくれることになる。少し心細かったが、そう思う間も僅かに更に急展開。

「悠二はどこにいるの。話しなさい」

呆気に取られるというか見惚れること数瞬。目の前に美少女。誇張なくそうだと言える小さな女の子が現れた。
美琴も一緒に出てきて、聞けば古泉との戦いの中で助太刀をしてもらったとか。
そして、ヴィルヘルミナが言っていた《炎髪灼眼の討ち手》とやらが、彼女であったらしい。
どことなく大河を連想させる彼女は同じ《物語》の登場人物である坂井悠二がどこにいるのかと喰いついてきた。

「そうだ。そういえば、あいつ携帯持ってたじゃないか!」

悠二がもうここにいないと知ってシャナが走り出そうとした時、キョンがそんなことを言った。
だったら、話は簡単。一緒に行った部長も安心だ。
……と思いきやそうはならなかった。肝心の携帯の番号を聞いてなかったのである。

「でも、電話するってのはいいじゃない」

キョンを使えないと罵倒するシャナの隣で美琴がポンと手を打う。
そもそも神社から出てくるにあたって途中経過を報告するということを失念していたのがアレと言えるが、そうすることになった。
4人で目の前のコンビニに入り、美琴からその役を押し付けられ、今こうして以上のことを報告しているというわけである。
電話番号は誰も控えてなかったけど、この街に神社はひとつしかないらしく、電話帳の中にそれらしいのはすぐに見つかった。

そして、以上にて報告は終わり。
”炎髪灼眼の討ち手”に電話を代わる様言われて、ようやく私はこの大任から解放されることとなったのだ。

484CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:19:52 ID:lkIsqh1c0
 【5】


「いかに合理的な理由があろうとも和を乱す行為は許されるものではないのであります」
「独断専行」

不意にかかってきた電話により、晶穂から事の顛末を報告されたヴィルヘルミナは水前寺の行動に対し論外だと断じた。
頭に頂くヘッドドレスの形をした相棒であるティアマトーも同意であり、表情に出さぬ代わりに受話器をミシと握る。

電話を”彼女”に変わってもらうよう要請し、その間に現状を頭の中で素早く整理する。

古泉と遭遇するも行方を消失。相手側の損耗の程度については、実際に戦った者から聴取する必要がある。
水前寺は独断にて北東方面に移動。普通の人間にとっては貴重な移動手段である車両を持っていってしまっている。
加えてそこに坂井悠二が同行しているという。どちらも重要でありながら別の感情もあるという……難しいところだ。
そして、電話口の向こうには須藤晶穂と御坂美琴。”彼女”とキョンという人物がいるとのこと。
”彼女”については考えるまでもない。何を置いてもまずは合流すべき、論議にアラストールが加わると心強いというのもある。
キョンという人物についても重要人物として扱う必要があるだろう。
あの古泉一樹と涼宮ハルヒと《物語》を同じくとし、それらについて事情を知っているという。貴重な情報源だ。



「……ヴィルヘルミナ?」

不意に”彼女”の声が耳を触り、ヴィルヘルミナはびくりと身体を振るわせた。

「大丈夫でありますか?」
「報告要請」
「うん。私は全然平気。ヴィツヘルミナは?」
「こちらも一切の問題は生じてないのであります」
「湛然無極」

互いの無事を確かめ合いヴィルヘルミナはほっと胸を撫で下ろす。
万が一などとは考えていなかったが、事態が事態だけにそうだと確かめられたのは嬉しいことだ。

「《万条の仕手》よ。確認したいことがあるがかまわないか?」

受話器からシャナとは別の厳しい音声が伝わってくる。誰と問う必要はない。聞きなれた声はアラストールのものであった。

「なんでありましょうか。こちらからも確認したいことがありますれば、手短に済ませたいのであります」
「うむ。では単刀直入に問おう。”狩人・フリアグネ”の存在についてだ」

その名前を聞いてヴィルヘルミナの表情がより真剣みを増したものに変わった。
紅世の王の一人である狩人・フリアグネ。それだけでも重要な案件ではったが、今はそれだけではない。
彼がすでに討滅されているという事実がそれで、それを成したのが電話の向こうの彼女らなのである。

「あれが存在すると坂井悠二――正確にはあやつと同行していたキョンという少年から聞き及んでいる。
 なにやら人間を手下として活動しているとのことだ。燐子にしても弱いものながら生み出しているとも聞いている」
「そうでありますか」
「そして、須藤晶穂という少女から万条の仕手がすでに行き会っていると聞いた」
「正しい情報であります。確かにあの紅世の王と相対したのであります」
「”本物”であったか?」

アラストールは問う。それはそうだろう。
討滅したはずの相手なのである。人間で言えば死んだということだ。それが蘇ってくるなどとは尋常な事態ではない。

485CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:20:25 ID:lkIsqh1c0
「少なくとも、”紅世の王”であることは間違いないかと」
「何か含みを持った言い方だな」
「知者である《禁書目録(インデックス)》によれば、”複製”の可能性もありうると。死者蘇生よりかはあり得る話なのであります」
「なるほどな……しかしこちらでは別の可能性が持ち上げられたぞ」
「何でありましょうか?」
「時間跳躍を可能とするものによる仕業ではないかというものだ」

ヴィルヘルミナの口から空白が零れた。言葉を失うとはこういうことかと、それぐらいに荒唐無稽な話であった。
封絶などを用いれば一時的に因果律を断ち切ることは可能だが、この場合はそのような程度の話ではない。

「俄かには納得しかねる童の空想が如き妄言なのであります」
「もっともだ。しかし彼が嘘をついているという風もない。
 そして、そちら側で捜索対象となっている涼宮ハルヒなる少女だが、彼に言わせれば《万物の創造主》であるらしいぞ」
「それは……確かにそうであれば、”全員が救われる方法”と言うのもありえるでしょうが……」
「ふむ。それもどうやら一筋縄ではいかないらしいがな」
「つまり、その”式”を発動させる”条件”が必要なのでありましょうか?」

自らが所属する世界とまた別の世界があるならば、自分達の《物語》以上に途轍もないものがあってもおかしくない。
とりあえずはそう納得してヴィルヘルミナは思考する。
須藤晶穂からは御坂美琴の世界が、御坂美琴からは自分の世界が”ありえない”のである。
ここで自分だけ首を振るわけにもいかない。

「詳細についてはまた合流後に話そう。
 そちらの事情も把握したいところであるし、何よりこちらも件の少年から全てを聞いたわけでもない」
「確かに。《世界の壁》などの問題も現在調査中なのであります。
 こちらは正午に合流。材料を持ち寄り考察を行う予定であったのであります。ですから――」
「うむ。我々も参加させてもらおう」

そして最後にシャナの声を聞いてヴィルヘルミナは受話器を置いた。
話の重さとこの先また議論が混沌とするだろうことに、知らずと小さな息が零れる。

「情報過多」
「《物語》同士が合わさればそれも必然でありましょう。そして――」

まだ、解決せなければいけない問題はあると、ヴィルヘルミナは廊下を辿り美波らが待つ部屋へと戻った。

486CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:20:58 ID:lkIsqh1c0
 【6】


長い長い夜が明けてより、ようやく希望の光が見えてきた俺の物語もまた怪しい雲行きとなってきた。
ジェットコースターに例えるなら、晩から夜明けまでが最初の急降下で、坂井と会った頃がゆるやかな昇り。
でもって今は目の前にきついカーブが見えてきたというところだ。まだまだ流されるだけの展開は終わらないらしい。

なんてことを考えながら俺ことキョン(誰かと出会うたびに同じ説明をしている)はコンビニで紙パックのジュースを飲んでいた。
やはり食事を採るなら味のあるものがいい。
そんなことを正直に思い、不貞腐れて粗末なカンパンで腹を満たした朝方の自分を叱責しに行きたいとも思った。
まぁ、我ながら調子のいいことだが、これでは話が進まないのでつらつらと現状について考えてみよう。

まずは現在地(ここ)。なんの変哲もないコンビニだ。
電話を借りる為に入ったというわけだが、みっともないことにその目的である坂井の電話番号がないときた。
あの時の女子3人の俺を見る目はしばらく忘れられないかもしれない。

その女子3人だが、これが我がSOS団に所属する彼女らにも引けをとらない美貌と肩書きの持ち主である。
須藤晶穂。よくも悪くも平凡な子である。部長に引っ張りまわされているという点では共感を抱かないでもない。
どこの世界でも割を食うのは普通の人間なんだと、それを再確認することになった。
御坂美琴。あの古泉と同じく超能力者である。しかも電撃を放つといういかにもかつ実用的な能力の持ち主だった。
今時ルーズソックスなんてのはどうかと思うが、まぁつっこむことはすまい。藪を突付いて感電なんてのは洒落にならない。
炎髪灼眼の討ち手・シャナ。フレイムヘイズという世界の裏側から来る異世界の敵と戦う戦士だそうだ。
しかも3人の中でもとびっきりの美少女ときており、首から提げたペンダントは魔法少女の定番よろしく口をきく。
今ここでどいつが一番漫画っぽいかと問われれば俺は遠慮なく彼女を指差すだろう。

今は、その3人の中でももっとも常識に通じていそうな須藤が仲間の待つ神社へと電話をしている。
もちろん、常識という点では俺も引けをとるつもりはないが、あいにくと神社には知り合いがいないのでその役目はこなせない。
代わりといっちゃなんだが、目の前に美少女二人と喋るペンダントに迫られての尋問中である。

いかついオッサン声で喋るペンダントはともかくとして美少女に迫られるというのは決して悪くはない。
しかしどうして俺がこう憂鬱な気持ちでいるかというと、その尋問の内容にあった。
古泉一樹。
あの一年中変わらない微笑を浮かべている美男子はここでも相変わらずで、最悪なことに人を殺しまわっているらしい。
とは言え、高須竜児というのは別の誰かが殺して、御坂に関しては未遂に終わったらしいのでまだ前科はないようだが、
しかし今もどこかで、またはこれまでのどこか預かり知れぬ所で犯行を行っていた可能性は否定できない。
全くなにをやっているんだと、今すぐにでも探し出し、襟首掴んで問い詰めたいところだ。

しかし、あいつが何を狙ってそんな非人道な行為に手を染めているのか、俺には大体予想がついていた。
そもそも、(俺が知る範囲に限定すればだが)あいつはそんな殺人なんてことが簡単にできる奴じゃ決してない。
買いかぶりと言われようが、身内贔屓と言われようが、俺はそれを断言できる。
ならなんであいつがそんなことをしているかと言うと――涼宮ハルヒの為であり、ひいては平穏な日常の為なのだろう。

ハルヒの持つ力についてはその理屈はなにもわかっていない。
ただ、願望したことがその時々の程度に差はあれ実現してしまうという事実だけがわかっているだけだ。
俺たちにできることは、ハルヒが無茶な願いを持たないようにその周りを右往左往するぐらいで、
その中でも古泉はそれに一番熱心なやつだったと思う。さすがは副団長といったところだろう。今更ながらに納得だ。

487CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:21:36 ID:lkIsqh1c0
そして、一番ご機嫌取りのうまかったあいつ(というかあいつの超能力もそもそもはそのためのものらしい)が、
どうしてハルヒが聞けばブチ切れそうなことをしているかと言うと、そのまんまハルヒをブチ切れさせたいのだろう。
どんな形であれ、ハルヒが「こんなのはなし!」って、そう思えばいいとそういう算段に違いない。
神人が現れてこの世界の端とやらをブチ壊してもいいし、この世界が崩壊しても、別の世界が新しく誕生してもいいわけだ。

と、そんなことを俺は聞かれるまま、吐き出したいままに目の前の美少女らに話した。
よほど突拍子もなく聞こえたのだろう。二人の目は懐疑的でやや引き気味である。悪かったな、俺が一番漫画っぽいよ。
しかしそれでも目のないペンダント(アラストールという名前らしい)は、俺の話を冷静に聞いてくれた。
声の通りに長生きしているのだろう。年配の男性の頼りがいというのをひしと感じるところだったね。

ほっとした俺は更にあれこれを聞かれるままに答えた。
朝比奈みくるや長門有希。朝倉涼子など、名簿に載っていた知り合いについて洗いざらいに喋ってしまう。
もちろん、朝比奈さんの胸元に星型のほくろがあるだとかそんなことは話さない。
言うまでもなく聞かれなかったが、一応俺自身の面子を保つ為にそれだけはここで言わせてもらおう。

ここらへんで、須藤が電話から帰ってきて今度はシャナが電話口へと走っていった。
なんでも神社で待っているメイドさん(少し難解な名前だった)が彼女の仲間らしい。
電話口とは言え、仲間と声を交し合い互いの無事を確認できるなんて、全く羨ましいことだ。

そう。俺の知りあいであるハルヒや朝比奈さん。古泉は勿論、朝倉にしてもその神社にはいなかった。
出会ったり話を聞いたという者すらいなかったらしく、古泉のせいもあって俺たち一派は謎の存在として見られていたらしい。
逆に言えば、神社に集まった8人とその関係者で名簿の大半は埋まったということになる。
なんでも別世界や異世界人というはみんなお互い様で、とりあえずはそれぞれを《物語》という単位で括っているらしい。

須藤が鞄から取り出した名簿とメモを見て、こいつはすごいと唸った。(ちなみに御坂はメモを取っていなかったらしい)
さすがは新聞部に所属しているからなのか情報を聞き出してまとめる力には長けているようだ。
ここにハルヒがいればきっとスカウトしていたことだろう。
もっとも、あの水前寺という部長と大喧嘩になることが簡単に想像できるので、実現してほしいとは思わないが。

そうこう思っているうちに、俺とシャナがこれまでに出会った人、聞いた名前を埋めることで名簿はほぼ完成した。
すでに放送で名前を呼ばれたやつを除けば所属の解らないのは8人で、名簿に載ってないのは3人となる。
このうちの数人が”忍者の物語”に所属するようだが、言われれば確かにそれっぽい名前がいくつかあるとわかるな。

さて、虜囚の捕虜よろしく情報を垂れ流すばかりだった俺だがそろそろいいところを見せなくてはなるまい。
言ってる間にシャナも帰ってきて、3人の美少女に揃って期待の”こもってない”視線を向けられるがそれも今のうちだ。

「坂井悠二と連絡を取る方法を思いついたぞ」

そう発言する。勿論、冗談なんかじゃない。手順は踏むが正真正銘あの携帯電話に電話をかける方法だ。
坂井は俺と出会った時にこんなことを言っていた。警察署から変な電話が携帯にかかってきた、と。
だからあいつは警察署に向かっていたわけで、水前寺と一緒に行く時も一応とその用件を俺に託したわけだ。
ここでポイントとなるのは、警察署から坂井の携帯に電話がかけられたという事実が確定しているというところ。
勿体つけるな? ごもっとも、俺は古泉じゃないからな、すっぱりと解答を披露しよう。

488CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:22:11 ID:lkIsqh1c0
警察署の電話に携帯へとかけた発信履歴が残っている。
つまり、警察署まで行ってその怪しい人物が使った電話を見つけて発信履歴を確認すればいい。
そうすればそこから先はいつでも坂井の持っている携帯へと電話をかけられる。

「じゃあ、警察署に行く」

メロンパンをほうばっていたシャナが発条のように飛び上がってズンズンと出口である自動ドアの方に向かってゆく。
止める間もないとはこういうことか、ドアを潜るとまさに風と形容すべき速度で行ってしまい――そしてすぐに帰ってきた。

「……発信履歴って何?」

少しだけこの魔法少女に勝った気がした。だからどうだという話だが。子供相手だし大人気ないこと甚だしい。
まぁ、ともかくとして一つの懸念事項として警察署には謎の、しかも物騒そうな女がいるかもしれないのだ。
ならば考えなしに飛び込むのも迂闊がすぎるものだろう。

「それもそうだけど、キョンは何か索敵の自在法でも使えるの?」

自在法というのは所謂魔法らしい。原理の説明を繰り返したりはしないが、とりあえず俺にはそんな力はない。
こちとら立派な一般人代表。フレイムなんとかのそれは今は使えないらしいが、それ以上をこっちに期待するのは間違いだろう。
なのでこちらは文明の利器を使用する。目には目を、歯には歯を、電話には電話だ。
とりあえず、警察署に電話をかけて、怪しい奴が出たら対策を練る。そうでないなら慎重に行く。ずば抜けた名案と言えるねこれは。

警察署の番号ならわざわざ電話帳を捲る必要もない、おなじみのたった3桁。
1・1・0とボタンを押して俺は何が出てくるのかと待ってみる。
トゥルル……トゥルル……と、耳元で繰り返されること20回ほど、そろそろ見切りをつけようかというところで誰かが電話をとった。

『もしもし、どなたでしょうか?
 あなたが意を持ってかけてきたのだとすれば、僕は期待通りの相手ではないかと思いますが』

電話口の向こう。いつどこでも変わらぬキザったらしいその口調。勘違いするわけがない。それは間違いなく、

古泉一樹の声だった。

489CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:23:35 ID:lkIsqh1c0
 【7】


帰ってきた大河と退屈を持て余すことしばらく、足音ひとつ、衣擦れの音すらさせずにヴィルヘルミナが戻ってきた。
その尋常ではない所作に驚くこちらをよそに彼女は電話の内容を例の特徴ある口調で丁寧に説明してくれる。

「水前寺邦彦が我々の協力体制を反故にし、独断で別行動を取ったのであります」
「手前勝手」

聞いて、美波はやっぱりなぁと納得してしまった。
それほど離れたところまで行ってなければ、多少の問題が起こってもすぐにここまで帰ってくればいいのだ。
にも拘らず電話をかけてきたということはそれなりのトラブルがあった証拠で、トラブルの元と言えば彼以外にない。

そして、6時には帰ると言ったらしいが、一度約束を破った者の言葉に信用は発生しない。
美波にしてもそうなのだから、より厳しそうなヴィルヘルミナならばよほどだろう。無表情の裏側に怒りの炎が見える気がする。
とは言え……、

「(……アキも一緒に見つかるといいな)」

そんなことを美波は考える。
水前寺が向かった北東方面と言えば、テッサが明久に会った場所でもある。
あの底抜けの馬鹿がその後にどう移動したなんか想像もつかないが、あまり離れてないならそういう希望もあった。



「では、逢坂大河。今のうちに確認しておかねばならないことがあるのであります」

ヴィルヘルミナは大河の方へと向き、姿勢を正して彼女に話しかける。
より真剣みの増した態度と、彼女の前に並べられた2本の義手とその説明書。
脇から見る格好となった美波からでも、これから何が話されどういう決断が迫られるのか、推測するのは難しくなかった。

「先に発言したとおりにその失われた右手に義手を接続することは可能であります」
「無問題」

ヴィルヘルミナの言葉を聞いて、大河は神妙な顔で頷く。
おそらくは彼女にも、いや当人だからこそ鋭敏に感じ取っているのだろう。
可能だと言ったその言葉の裏側に潜むなんらかの”問題”を。

「まずは、義手をつける施術についてその手順を説明するのであります」
「秩序整然」

そして、ヴィルヘルミナは大河に対して懇切丁寧にその手順を説明し始めた。

490CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:24:10 ID:lkIsqh1c0
「一番最初に、義手の長さに合わせて腕を切断するのであります。
 これに当たってはその準備として脇の下と切断箇所の直前で動脈を圧迫止血するので出血の心配はないのであります」
「心配無用」

言われた大河は酷く驚いていたが、言ったヴィルヘルミナは平然としている。
つまり、ここが”問題”というわけではないのだと美波は判断し、これ以上の問題があるのかと顔を青くした。

「その後、傷口を花弁状に切開。義手側の芯と前腕骨とをボルトにより接合。
 ボルトについては調達班に発注済みで、これを自在法にて消毒して使用するのであります。
 次に、義手を接続するにあたって不必要な神経を”殺す”工程に入るのであります。
 また並行して動脈の迂回路の作成及び、不必要な血管の封鎖を行ってゆくのであります。
 それらが全て完了した後、必要な運動神経を義手側の神経接続枝と結束。
 最後に傷口を閉じ、縫合することでこの手術は終了することになるのであります。」

大河はまた無言でこくりと頷いた。ヴィルヘルミナの方はというと相変わらず平然としたままだ。
あまりに平然としているので、手術そのものは本当に難しくないのだろうと思えるのが逆にとても怖い。

「これらを行う際は常に自在法による消毒を続けるので感染症などの心配はご無用なのであります。
 また、この義手はこの万条の仕手が知る限りにおいて最も精密で頑丈なものと言えるのであります。
 故に慣れれば元に腕よりも使いやすいぐらいでありましょう。
 慣れにしても術後半日もすれば違和感はなくなるはずなのであります」

大丈夫、問題ないといくつも重ねて、ついにヴィルヘルミナはこの手術の中にある”問題”についてきりだした。

「残念ながら、ここにはその手術の最中、痛みを麻痺させる為の麻酔薬が存在しないのであります。
 無論、自在法により痛みは軽減するのでありますが、それも完全ではないので――」

死ぬほど痛いのであります。と、ヴィルヘルミナは断言した。彼女が言うのだからそれは文字通りなのだろう。
逆に言えば、これ以外には問題がないのだろうが……ともかくとして、これは大河に与えられた”選択”だ。
メリットデメリットで言えばつけた方がいい。そうとしか言えない美波は発言を控え口を噤む

「調達班が帰還し、その後昼食を兼ねて情報の検討会を行う予定でありますから、考える時間はあるのであります。
 また、地図にある病院までゆけば麻酔が入手できる可能性はゼロではないのであります。
 なのでその時点で先送りしたとしてもかまわないでありますが、しかしその場合は――」

する――と、大河の声がヴィルヘルミナのものを遮った。

「熟慮を推奨するでありますが」
「三思九思」

ヴィルヘルミナは言葉を重ねるが、しかし大河は振り切った。
多分、おそらくは怖くなるのが怖かったのだろう。
猶予があれば弱き方に流れてしまうかもしれない。故に決断した。それが彼女らしい強さと弱さなのだと美波は思った。

「大丈夫……今更、痛いとかそれぐらいで止めるなんてできない。元々、自分でつけるつもりだったし。だから――」

お願いします。と、大河は顔を上げてまっすぐな瞳でそう言い切った。



そして、その時。

491CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:24:44 ID:lkIsqh1c0
「お腹が減ったんだよ――っ!」
「ただいま……って、インデックスさん? だから缶はそのままだと歯が折れちゃいますって!」
「ううー! ヴィルヘルミナー、缶切り返して――っ!」
「あぁ、もうっ! だから歩いて下さい」

天文台の調査班がハラペコという大問題を抱えて帰ってきた。
残りのカップラーメンの数は8個と心もとない。果たして彼女の無差別蹂躙いただきまーすを持ちこらえられるか?

なんてことを美波は思ったとか、思わないとか――。





【C-2/神社/一日目・昼(放送直前)】

【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(8/20)、缶切り@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:拠点となる神社を防衛しつつ、皆が揃うのを待つ。
 2:結集後、昼食と情報の検討会を行う。
 3:↑の終了後、大河に義手を取り付ける手術を行う。

【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:空腹、右手欠損(止血処置済み)、右足打撲、精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
      大河のデジタルカメラ@とらドラ!、フラッシュグレネード@現実、無桐伊織の義手(左右セット)@戯言シリーズ
[思考・状況]
 基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
 1:おなかがすいた。
 2:時間が空いたら義手をつけてもらう。
 3:デジカメの中身を確認する?
[備考]
 一通りの経緯はヴィルヘルミナから聞かされましたが、あまり真剣に聞いていませんでした。聞き逃しがあるかもしれません。
 また、インデックス・御坂美琴・水前寺の顔はまだ見ていません。

【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、精神疲労(小)
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、支給品一式、
      フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して生き残る。
 1:川嶋亜美、櫛枝実乃梨の2人を探し、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
 2:竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒを探す。

492CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:25:25 ID:lkIsqh1c0
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:空腹
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、
      試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、缶詰多数@現地調達、不明支給品x0-2
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して事態を解決する。
 0:おーなーかーすーいーたー!
 1:ヴィルヘルミナに得られた情報を伝達し、以下の2つを提案。
  ├神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
  └神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
 2:とうまの右手ならあの『黒い壁』を消せるかも? とうまってば私を放ってどこにいるのかな?
[備考]
 『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。

【テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500(残弾数5/5)
[道具]:デイパック、支給品一式、予備弾x15、不明支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:皆と協力し合いこの事態を解決する。
 0:い、いい子だからもうしばらく我慢してください! あ〜っ、噛み付かないで〜!
 1:ヴィルヘルミナに得られた情報を伝達し、以下の2つを提案。
  ├神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
  └神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
 2:メリッサ・マオの仇は討つ。直接の殺害者と主催者(?)、その双方にそれ相応の報いを受けさせる。
[備考]
 『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。

493CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:26:20 ID:lkIsqh1c0
 【8】


「おや、”あなた”でしたか。これは一体全体どういう縁なのでしょうか」

古泉一樹は電話の向こうから届いた声に大いに驚いた。
警察署に到着してより、自らの限界を知ったところで、さぁ次はどうするかと休憩を兼ねて思案していたところで、
その中でも随一のキーパーソンである”彼”をどう探したものかと考えてきた矢先に、彼より電話がかかってきたのである。

『そいつはこっちが聞きたいぐらいだぜ』

その発言を聞き、どうやら自分がここにいたとは知られてなかったようだと古泉は判断する。
こちらにしても突然鳴り出した電話を取るかどうかは悩んだ訳であるし、つまりは全くの偶然による邂逅ということらしい。

「では、先にお尋ねしますが、ここには誰がいると期待してかけてきたんですか?」
『誰がいるとかは知らん。というかその警察署から怪電話があったんだよ』

聞き出してみると、なにやら誰かが持っていた携帯に朝方頃にここから怪しげな電話がかけられたとのこと。
女性の声だったということで疑われなかったが、先客がいたらしいことに古泉は少しだけ肝を冷やした。

「なるほど。事情は理解しました。ところであなたの方はどちらからこの電話を?」
「そいつは軽々しく言うことはできないな。それよりも、だ。馬鹿な考えはよせ」
「馬鹿な考え……それは一体なんのことでしょうか?」

はぐらかし時間を稼ぎながら古泉は頭を回転させる。
どうやら彼は自分が計画していることをどこかで知ったらしい。重要なのは、誰から、どこまで、聞いたかだ。

「とぼけるのもいい加減にしろよ……」
「そちらこそ、なんら証拠もなくこちらに疑いをかけるような真似は勘弁してもらいたいですね。
 誰かに騙されているのではないですか? 何せ私達の間ですし、そういったことで疑われるのは僕としても――」
「御坂美琴に聞いた! 須藤晶穂にもだ。他にも知ってる連中はいる。言い逃れなんてできないぞ!」

なるほどと古泉は頷いた。
あの後、こちらが休憩している間に御坂美琴は須藤晶穂と合流を果たし、その過程で彼がそこに加わったらしい。
そしてこの剣幕。となると、こちら側が何を狙ってどう動いているのか、ほぼ察されたと考えるべきだろう。

「なるほど……では、言い逃れもできそうにありませんね」
「一体、何を考えてるんだてめぇは!」
「おやおや、これは異なことをおっしゃられます。理解しているからこそ、それほどまでに激怒しているのではないですか?」
「………………っ!」

ぴたりと彼の発言が止まったのをみて、古泉は彼が正しくこちらの策の意図を把握していると確信する。
状況の把握はこれにて完了。次に考えなくてはならないのは、彼をどう動かすかという点だ。
想定よりも早くコンタクトすることとなったが、この機を逃す手はない。今、彼をこちらの策へと取り込む。

494CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:26:55 ID:lkIsqh1c0
「……では、こちらから提案しますが。あなたも”協力”してくれませんか?」
「おい、ふざけるのもいい加減にしろよ」
「ふざけてなどいません。あなたも理解しているはずです。これがいかに合理的な手段なのかということを。
 この手の案件に関しては、僕はあなたの信頼を得ていると自負しているつもりです」
「そりゃ、何もかもがおまえの思い通りにいったとしたらだろうが。それにしたってこんな方法が――」
「では一体どんな方法ならば、あなたや彼女や僕が、何よりあの平穏が戻ってくるというのですか?」

再び彼の声が詰まる。そして、しばらくたって出てきたのは朝倉涼子の名前だった。

「なるほど。長門さんと同じく情報統合思念体の端末である彼女ならば、救助が要請できると考えたわけですか」
「もちろん。そんな簡単な問題じゃないぐらい――」
「いえ、それは論外ですね。考えるに値することもない無謀な試みですよ」
「…………なっ!」
「確かに長門さんは非常に頼れる仲間であります。その信頼性は僕なんかよりもはるかに高い。
 なので、同等の力を持つと想定される朝倉涼子にその代わりを頼む……と考えたのでしょうが……」
「……そうだ。可能性はゼロじゃないだろう」
「夏休みのことを覚えていますか?」
「は? 急に何を……」
「終わらない最後の2週間。何万週も続けられたエンドレスサマーのことですよ」
「それが今の話とどう関係するんだ……?」
「あの時、長門さんは最初から事態を正確に把握していたにも関わらず、一切自主的な救助を行わなかった。
 彼女達の目的は”涼宮ハルヒの観測”ですからね。
 つまり、涼宮ハルヒの存在に危険が及ばない限りは決して行動を起こそうとしない。
 むしろ中途半端な介入は彼女に無駄な影響を与えるとして忌諱されているぐらいです」
「だから朝倉も助けてくれないって言ってるのか?
 しかし、この状況はどう考えたってハルヒの生命に関わることだろうが。だったら……」
「ええ、その通りです。僕が言いたかったのは”我々”が”困って”いても彼女達は力を貸してくれないってことですよ。
 確かにこの状況の場合でしたら、彼女達は涼宮ハルヒの生命を守ろうと動くでしょう。
 しかし、我々の生命は守るに値しない。
 長門さんなら仲間としてそういった便宜を図ってくれる可能性はありますが、しかし彼女はもういません。
 そして朝倉涼子にそれを期待できるかと言うと……どう見積もっても可能性はないでしょう」
「それは……」
「少し、聞き苦しい話をしましょうか。
 以前にも話したことがあると思いますが、我々のいるポジション――つまりは今だとSOS団団員なわけですが、
 この”涼宮ハルヒの近くにある”という価値を狙っていくつもの組織が暗躍しています。
 情報統合思念体が朝倉涼子を涼宮ハルヒのクラスメートに置き、学内に複数の端末を置いているように、
 未来人からなる組織も、我々の組織だってあなたの預かり知らぬところであれこれと手を打っているわけです」
「だから、何が言いたい? お前の話はいつもまだるっこしいんだよ」

495CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:27:29 ID:lkIsqh1c0
「僕はですね。今回のこの事件で、長門さんや朝比奈さんが死んで帰ってこないというのも”あり”だと考えています。
 少なくとも僕の上司はそうなるよう動けと命令するでしょう。
 なんせ重要なポジションが”空く”んですから。そうなれば、手駒を滑り込ませる絶好の機会というわけです」
「そんなこと、お前は考えて……」
「違いますね。あなたと涼宮さん以外は全員こんなことを考えて、その結果が今の状態なのですよ」
「そんなことは聞きたくない! 一体、なにか言いたいんだお前はっ!」
「理解できませんか? 朝倉涼子もそうするだろうということです。むしろ、絶対にそうすると断言できます。
 彼女は我々に会ったら確実に殺しにかかってくるでしょう。なので、絶対に会うべきではありません」
「……………………」
「ちなみにですが、長門さんの死体を見ました」
「…………っ!」
「これもあの人類最悪という人物の言う調整や制限なのでしょうか。彼女は”人間”として死亡していました」
「それはどういうことなんだ……?」
「さて、わかりません。
 ただ、もしも朝倉涼子も同じ制限を受けているのだとしたら、そういう意味でも頼りにはできないということです」
「……………………」
「どうですか?
 やはり我々が取りうる手段は限られていると思いますが、それでも僕のやり方を理解してもらえないでしょうか」

長い沈黙が流れる。浅はかな希望は徹底的に粉砕したのだ。そう簡単に冴えたやりかたは出てこないだろう。
古泉としては、彼がこれでこっち側に降りてくれたとしてもそれはそれでよかった。
しかし、そんなことはないだろうという”信頼”もあり、そして帰ってきた答えはやはり想定内のものだった。

「……そこに行く。動かないで待っていろ」
「申し訳ありませんが、それは約束できませんね」

そう言って、古泉は電話を一方的に切った。



「さて、彼が来る前に逃げることにしますか……」

言いながら、古泉は今後の身の振り方を思案する。
とりあえずは第1手として彼の心に火をつけることに成功した。

「まったく、朝倉涼子を頼りにするなんてよっぽど堪えていたみたいですね。長門さんの死が」

この段階でそれを否定できてよかったと、古泉は苦笑しながらほっと息を漏らす。
彼に語ったことについては一切の嘘はない。多少の誇張はあるにせよ、朝倉涼子が危険なのは紛れもない事実だ。
そんな消極的で絶望的な解決策に飛びつかんとしていた彼を止められたのは幸いなことだろう。

「これで、とりあえずは彼も必死になって動き出すことでしょう。
 こちらとは違い、周りには頼れる仲間もいることから、ある程度は安全なようですし」

彼が涼宮ハルヒの為に本気を出して動く。ここまで動かせれば今の段階では大成功と言えるだろう。
その結果、どこかで散ろうとも、もしくは何らかの奇跡的なことを起こして事件を解決に導こうとも古泉としては困らない。

「しかし、僕はどんな結末を期待しているんでしょうね」

彼と通話していた電話をもう一度見やり、古泉はなんとも言えない表情でくすりと笑った。

496CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:30:39 ID:lkIsqh1c0
 【9】


「ここにも、その”必要”ってのがあるわけ?」
「あるといいな……かな?」

陽も頂上に近く暖かくなった頃、風雨によって白けたアスファルトが広がる駐車場の一角に一人の少年が到着しました。
少年はアスファルトだけしか見えないそこを何度か見渡してぽつりと呟きます。

「車がないね」
「出払っているんじゃない? だって人殺しがいっぱいいるんだもん。警察も大忙しでしょ」

少年の他にも声がしました。彼の乗ってきたモトラド(注・空を飛ばないものだけを指す)からのものです。
そのモトラドが飛ばした悪趣味な冗談にぽかりと燃料タンクを叩いて戒めると、少年は続けてこう言いました。

「じゃあ、僕は警察署の中に行ってくるけど、待ってる間は決して喋らないようにね」
「知らない人とお話したら誘拐されちゃうから?」
「その通り。僕は君が必要で失いたくない。だから、お願いする。いいかな?」
「随分と自分勝手だけどまぁいいか。保証はしないけど約束はするよ」
「ありがとう」
「でも、ということは必要じゃなかったら捨てられていたのかな?
 だとすればここに車がなかったのは、夜行性の沢蟹だったってわけだ」
「不幸中の幸い?」
「そうそれ」

こんなやり取りを経て、少年――トレイズは警察署の中へと慎重に油断なく入ってゆきます。
彼が、ここに来たのは警察署なら武器や戦いに役立つものがあるだろうからと目論んでのことでしたが、

「やられてるな……どうやら遅かったみたいだ」

しかし残念ながら、彼の期待するものはなにもありませんでした。
銃器の保管庫にも、押収品保管庫にも、証拠品保管庫にも、ありとあらゆる庫の中にも必要とするものはありません。

「鍵が開けられているってことは、先に誰かが来たってことか。全部持ち去られたのだとすればこれは厄介だ」

警察署の地下一階。押収品保管庫の隅でトレイズは溜息をつきます。
普通なら考えられませんが、自分も背負っている不思議な鞄を使えばそういうことも不可能ではないからです。
もし、この警察署にあったあらゆる武器や道具を持ち去った者がいるとしたら、それは大変危険なことでした。

では長居は無用だとトレイズが動き出そうとした時、頭の上からエンジンの音が聞こえてきて、止まりました。
どうやら、この真上がエルメスを置いてきた駐車場らしいです。
しかしこのエンジン音はエルメスのものではありません。トレイズは経験からさほど大きくない自動車のものだと判別しました。

「車か……ひとりでなく何人かいるかも知れない。リリアか、彼女を知ってる人がいるといいんだけど」

そう言いながらトレイズは拳銃を取り出し、安全装置を解除します。
トリガーに指はのせず、すぐに撃てる状態にだけしてゆっくりと足音を立てないよう動き始めました。

自分も誰かに気づかれていたなんて、そんなことを知る由もなく――。

497CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:31:21 ID:lkIsqh1c0
【D-3/警察署・地下一階/一日目・昼(放送直前)】

【トレイズ@リリアとトレイズ】
[状態]:腰に浅い切り傷
[装備]:コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック、コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、鷹のメダル@リリアとトレイズ、
[道具]:支給品一式、銃型水鉄砲、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
 基本::リリアを守る。彼女の為に行動する。
 1:警察署にやってきた何者かと接触。
[備考]
 マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
 人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)。
 以上二つの情報をトレイズは確認済。


エルメス@キノの旅-the Beautiful World-は警察署の駐車場に停められています。




 【10】


警察署のロビーに3人の女性の姿がありました。
3人は3人とも奇麗な黒髪を背中に流しており、美人さんで、それぞれが別種の剣呑な雰囲気を醸し出しています。
言うまでもなく、先ほど車でここに到着した師匠と朝倉涼子と浅上藤乃の3人でした。

「誰かがこの中に侵入したようですね」

師匠はマシンガンを構え油断なく辺りを伺いながら厳しい口調でそう言いました。

「ほんと。師匠ってこういうことに関してはマメよね」

玄関のドアの脇で転がっている鉛筆を指して朝倉涼子が感心半分、呆れ半分でそう言います。

「………………?」

3人目の藤乃はよくわからないといった顔で小首を傾げました。
実は師匠らが前回ここを立ち去る際に、こっそりとドアに鉛筆を立てかけていたのです。
それが倒れているということは、その後に誰かが進入してきたことを意味するのですが、彼女にはわかりようのないことでした。

「あの外に停めてあったバイクに乗ってきたやつかしら?」
「おそらくはそうでしょう。つまりまだこの中にいる可能性が高いことです」

今度の話は藤乃にもわかりました。なるほどとひとり小さく頷きます。
そして、師匠の次の言葉を受けて3人は揃って警察署の奥の方へと移動を開始しました。

「狩り出しますよ。生死は問いません。むしろ発見したらすぐに殺しなさい」

藤乃はその言葉と、そんなことを言う師匠と、楽しそうに返事をする朝倉とが、とても怖いなと思い――

――少しだけ笑いました。

498CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:32:28 ID:lkIsqh1c0
【D-3/警察署・一階ロビー/一日目・昼(放送直前)】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、
[道具]:デイパック、基本支給品、医療品、パトカーx3@現実
      金の延棒x5本@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:警察署内にいる人物を探し出し、殺害する。
 2:朝倉涼子を利用する。
 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?

【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、金の延棒x5本@現実
      フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
 1:警察署内にいる人物を探し出し、殺害する?
 2:電話を使って湊啓太に連絡を取ってみる。
 3:師匠を利用する。
 4:SOS料に見合った何かを探す。
 5:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。

【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態、腹部の痛み消失
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:湊啓太への復讐を。
 1:警察署内にいる人物を探し出し、……殺害する?
 2:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
 3:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
 4:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。


乗ってきたパトカー@現地調達は駐車場に停められています。

499CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:33:47 ID:lkIsqh1c0
 【11】


「やれやれ、悩ましい事態です」

あまりそうではなさそうな、いつもどおりの静かな笑みを顔に貼り付けたまま古泉はそんなことを言う。
彼との接触もとりあえずは済み、どうやらこちらに向かって来るようなので逃げようとした所に予期してなかった来客である。
最初はバイクに乗った少年が到着し、さてどうするかと考えているうちにパトカーに乗った3人組がやってきた。

「朝倉涼子さんですか……さきほど、他の女性らと一緒にいたのは」

顎に手を当てて古泉は更に思案する。
彼に言った通りに朝倉涼子はこちらに害をなす存在だとは考えている。もし彼女ひとりなら即座に逃げ出していただろう。
しかし彼女は3人で現れた。どのような過程を経てかは知らないが仲間を作っているということである。

「それに、彼が来るとわかっている以上、ここをそのままにして立ち去ることもできませんし」

2階の窓際からちらりと外を窺う。眼下にあるのは寂しげな駐車場と1台のバイクと1台のパトカーのみだ。
まだ彼がここに到着する気配はない。とは言え御坂美琴らと合流している以上、そう遠くはないだろう。
少なくとも1時間以内には到着すると思われる。そしてその間に4人の侵入者が立ち去るかは全くの不明だ。

「先に入った一人だけなら、交渉を持ちかけるところでしたが……、
 この状況。彼が乗り越えるべき試練として置いて行くべきでしょうか……いやはや、困ったものです」

そんな風なことを言い、やはり内面の読めない仮面のような笑みを彼は浮かべていた。




【D-3/警察署・二階/一日目・昼(放送直前)】

【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式×2、キャプテン・アミーゴの財宝@フルメタル・パニック!、
     我学の結晶エクセレント29004―毛虫爆弾(残り300匹ほど)@灼眼のシャナ、長門有希の生首
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを絶望させ、この『物語』を崩壊させる。もしくは、彼女の生還。
 1:警察署内で起きている事態に対処。または逃走。
 2:涼宮ハルヒを最後の一人にすることも想定し、殺せる人間は殺しておく。
 3:涼宮ハルヒが死亡した場合、『機関』への報告のため自身が最後の一人となり帰還する。
 4:帰還の際、『機関』と情報統合思念体への手土産として長門有希の首を持ち帰る。
[備考]
 カマドウマ空間の時のように能力は使えますが、威力が大分抑えられているようです。

500CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:34:37 ID:lkIsqh1c0
 【12】


「今度こそリベンジかましてやるんだから……っ!」

そんな物騒なことを言いながら隣を行く御坂がバチバチと音を立てて放電する。
彼女にしてみれば実戦の前のウォーミングアップなんだろうが、こちらとしてはおっかないこと極まりない。
一方で俺は、もし今が冬でウールのセーターなんか着ていたら、ケバだって仕方がないだろうとそんなことを考えるばかりだ。

戯言はさておき、俺(キョン)と御坂は2人で警察署へと向かうことになった。
勿論、それはあのとち狂った古泉の暴挙を止める為であり、ついでに警察署に残された発信履歴を確認する為でもある。
正直な話。まだ古泉が警察署に残っているとは思っていない。発信履歴のこともあるが飛び出してきたのは半ば勢いというものだ。

加えて、どうして俺と御坂なのかと言うと、その理由を語るのも難しくはない。
あの電話の後、俺たちはまた神社へと電話をした。
当然だろう。古泉の再登場は由々しき事態なのだから報告は必要だし、動くにしても指示と理解が必要だ。
結果としては、半々に分かれて片方は警察署に、もう片方は神社に早急に帰るということになった。
警察署に向かう面子として一番に手を挙げたのは俺……と言いたいところだが、一番は御坂で俺は惜しくも二番だった。
そんなこと競うものかと言われるかもしれないが、言いたいことは俺たちにはそれだけの意気込みがあったということだ。

そして、現在は二人並んで警察署へと向かっているわけである。
この組分けについて、須藤は何も文句を言わなかった。そりゃそうだろう。俺だって関係なければ神社に帰りたい。
逆にシャナの方は着いて行きたいと主張した。一刻も早く坂井の声を聞きたいらしい。全くあいつも罪作りな男だ。
しかし、あのおっさん声による忠告により、なんとか折れてくれた。
喋るペンダント曰く、神社で待っている仲間と即合流を果たすべきであり、また須藤を一人にはできないとのこと。
更には神社の方でなんらかの深刻な状況が発生しているらしく、それを早急に解決する必要があること。
でもって最後に俺が警察署から神社に電話をかけると言ったことで彼女は渋々ながらそれを了解してくれたのだ。

しかし驚いたね。まさか、飛んでいっちまうとは。
スパイダーマンもかくやという風にジャンプしたかと思いきや、燃える羽を広げて飛んでいってしまった。
コンビニでメロンパンを頬張る姿はちょこんとしていて、ただの可愛い美少女だったんだが、いやはやってもんである。
炎髪灼眼の討ち手なんて随分と大仰な渾名だと思ったが、百聞は一見にしかずとはこういうことを言うんだろうね。

「ほら、おっそい! あんた走りなさいよ。男なんでしょ」

そしてこのビリビリ女だ。
本当によくもまぁこんな二人から逃げおおせたもんだと、俺はあいつの抜け目のなさをただただ感心するばかりだった。




【D-2/市街地/一日目・昼(放送直前)】

501CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:35:09 ID:lkIsqh1c0
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、両足に擦過傷
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2(食料一食分消費)
      カノン(6/6)@キノの旅 、カノン予備弾×24、かなめのハリセン@フルメタル・パニック!
[思考・状況]
 基本:この事態を解決できる方法を見つける。
 1:警察署に向かい、以下の目的を達成する。
  ├古泉一樹を捕らえて、どうにか改心させる。
  ├電話に残された発信履歴を見つけて、それを神社に電話で知らせる。
  └坂井悠二に電話をかけた怪しい女の手がかりがないか探す。
 2:↑が達成できれば神社へと向かう。
 3:涼宮ハルヒ、朝比奈みくるを探す。
 4:朝倉涼子に関しては保留。

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:肋骨数本骨折(ヴィルヘルミナによる治療済み、急速に回復中)、全身各所に擦り傷
[装備]:さらし状に巻かれた包帯(治癒力亢進の自在法つき)、ポケットにゲームセンターのコイン数枚
[道具]:デイパック、支給品一式×2、金属タンク入りの航空機燃料(100%)、ブラジャー、
[思考・状況]
 基本:この事態を解決すべく動く。
 1:警察署に向かい、古泉一樹にリベンジを果たす。
 2:↑が達成できれば神社へといったん戻る。
 3:その後、上条当麻を探しに行く?


 【13】


心を洗われるような青い青い美しい空。そこに流れる真白な雲。流れる雲。急速に流れてゆく雲。そして景色。

「(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!)」

空を高速で飛ぶシャナの片手にぶら下げられている晶穂は景色を眺める余裕などなく、ただ声にならない悲鳴をあげていた。
そして、そんな普通の人間の事情などお構いなしでシャナはびゅうびゅうと風を切りながら(晶穂からすれば)勝手なことを言う。

「……重い。なんか上手く飛べない感じがする」
「自在法そのものが人類最悪の言うこの世界の異端に抵触するのだろう。いつもより慎重に行使を意識するのだ」

思春期真っ盛りの女子中学生に対して重いだなんて禁句もいいところだが、状況が状況だけに反論はできない。
晶穂にできることと言ったら、泣き出したくなるぐらいの怖さをこらえて、神社に到着するのを待つだけである。
空を飛んだなどと言えば部長は羨ましがるかもしれなかったが、とてもじゃないがそんな余裕はなかった。

「それにしても、ヴィルヘルミナが言う抜き差しならない状況ってなんだろう?」
「ふむ、《禁書目録(インデックス)》なる者が大暴れしているとの話だったな。知者と聞いたが粗暴な者なのかもしれん」
「早く行って、助太刀してあげなきゃ」
「そういうニュアンスではなかったような気もするが、まぁいい。くれぐれも彼女を振り落とさぬようにな」

そして、更に加速。
神社に到着するまでの数十秒。それは晶穂の頭を真っ白にするには十分すぎるだけの時間であった。

502CROSS†POINT――(交錯点)  ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:35:40 ID:lkIsqh1c0
【C-2/神社の前/一日目・昼(放送直前)】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品x1-2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:ヴィルヘルミナと合流する。
 2:実乃梨や当麻を探しに行くよう提案する。
 2:キョンと御坂から連絡が来るのを待つ。
 3:携帯の電話番号が判明したら、悠二に電話をかけて居場所を聞いて合流する。
 4:古泉一樹にはいつか復讐する。

【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック(調達物資@現地調達 入り)、支給品一式
[思考・状況]
 基本;生き残る為にみんなに協力する。
 0:………………………………(真っ白)。
 1:調達した物資をヴィルヘルミナに渡す。
 2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。
 3:大河を励ます。
 4:携帯の電話番号が判明したら、部長ともう一度話す。

503 ◆EchanS1zhg:2009/12/05(土) 07:36:36 ID:lkIsqh1c0
以上、投下終了しました。
人がいそうな時間を見て、また今晩にでも本投下したいと思います。

504 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:32:03 ID:h4JYTZCU0
ようやく規制解除されたので本投下しようとしたら、またまた規制されたでござる……
毎度毎度すいません。予約中の六人、こちらに投下させていただきます。

505問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:33:01 ID:h4JYTZCU0
 この光景を映しだすのも、もう何度目になるだろうか。
 愛しの彼を待ち望む眠り姫、玖渚友は白く光る白い部屋の白いベッドの上で、白いシーツにくるまれていた。
 窓からは燦々とした陽光が眩しいほどに入り込んでくるが、目を瞑ったままの彼女にはなんの影響もない。
 朝だろうと昼だろうと夜だろうと、《来たる時》がくるまで、玖渚友は眠り続ける……のだろうか?

「むにゃむにゃ……う〜ん、いーちゃん……」

 現在、彼女が住まいとしているこの摩天楼という建物。こことて、いつまでも無人の過疎地というわけではない。
 いずれは人が押し寄せ……というよりも、今、まさに、人が押し寄せてきているのだった。
 その事実に、彼女は気付けない。むしろ関心がない。寝ている子に関心もなにもあったものではないが。

 コン、コン、コン、と。

 蒼の眠る白い寝室に、三回のノックがやってくる。
 もちろん、玖渚友はその程度の騒音では目覚めもしない。
 あるいは、これが待ち望んでいた彼によるものだったならば、違うのかもしれないが。

 健やかな寝息が、寝室を埋める中――扉は、ゆっくりと開かれていった。


 ◇ ◇ ◇


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ……――。

 けたたましい目覚まし時計の音が、室内を埋め尽くさんほどに響き渡る。
 シングルベッドの枕元に置かれていたそれにそっと手が伸び、二度三度、空振りを経てから捕獲。
 パチン、とスイッチを切るとともに、騒音が鳴り止んだ。

「ん……」

 うつ伏せの状態から、眠りについていた少女――黒桐鮮花がゆっくりと起き上がる。
 手にある目覚まし時計に目をやって、時刻確認。十二時前。寝坊せず起きられたことに安堵した。
 目覚まし時計を再び枕元に置き、周囲を見渡してみる。
 特にこれといった変化はない。入室したときと同じ、殺風景な光景が目に付く。
 窓から差し込む光は微かにではあるが輝きが増し、日が高くなったことを告げていた。

「……案外、眠れるものね」

 そこは、礼園女学院の寮とほとんど変わらない、一人で暮らす分には不自由しない広さの部屋だった。
 ベッドの質はこちらのほうが若干上をいっていると分析できたが、快眠を得られたのはそのせいだろうか。

「あー……っていうか、ばか。わたしのばか」

 起き抜けの頭を左右に振りながら、鮮花はいきなり自己嫌悪に襲われた。
 よく眠れた。目覚めるべき時間に目覚めもした。それはいい。
 ただ、どうしてこうも“安心して”眠ってしまったのだと、鮮花は苦悩する。
 そもそもが、危険を孕んだ表面上だけの親切であったかもしれないというのに。

「……でも、ま、いっか」

 まずは顔洗お、と鮮花は部屋に備え付けられた洗面台へと向かう。
 彼女がこの部屋で眠っていたのは、ほんの二時間程度のこと。
 発端は、“先生役”を買って出てくれたあの男、クルツ・ウェーバーの言によるものだった。

506競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:33:55 ID:h4JYTZCU0
 銃を教えるのはいい。が、その前に体を休めておけ――と。
 ここ、摩天楼で目的の銃器を手に入れた鮮花は、クルツに仮眠をとることを勧められた。

 眠気は如何なるときでも障害となりうる。
 緊張感を維持できるならば問題はないだろうが、ただでさえ鮮花は身内を亡くしているのだ。
 この緊張がいつ、ぷつりと切れてしまうかもわからない。
 気休めでもいいからせめて肉体疲労だけは回復しておけ、と。
 いわばこれは、クルツ先生による初めての指導とも言えた。

 水道の蛇口を捻り、水を出す。
 豪快に洗顔を済ませると、傍にあるバスルームに目がいった。
 本音を言えばシャワーの一つでも浴びたいところだったが、さすがに自重する。

「あ……」

 ……鏡を見ると、目元に妙な違和感があることに気づいた。
 微かに赤くなっているような、一度の洗顔では拭い切れなかった変化。
 鮮花はその正体を確かめるべく、ベッドに戻った。
 使っていた枕を手にとると、ほんのりと湿っている。
 よだれではない。涙だった。
 自分のことだからこそ、すぐにわかってしまった。

「……幹也」

 ぽそり、とその名前を口にしてしまう。
 思い出すだけでも飲み込まれてしまいそうなのに、わざわざ口に出して、感傷に浸ってしまう。
 いけない――鮮花は咄嗟に、枕元に置いてあった黒い物体に手をやった。
 コルトパイソン。
 幹也の仇への復讐を誓った、力の代替物を視界に納め、意思を強く保つ。
 
 悲しむのは、寝ている間だけにしよう。
 泣きじゃくるのは、夢の中だけにしよう。
 覚えてなんていないけれど、きっと、二時間の間に見ていた夢は――心地良いものだったのだと思う。

 火蜥蜴の革手袋、デイパック、そしてコルトパイソン。
 今後を生き抜くために必要な道具の数々を点検、装備し、再出発のための身支度を整えた。
 正午の放送も近い。出発は放送を聞き終えてからの予定だが、その前にクルツと合流を済ませておいたほうがいいだろう。

「……銃以外に関しても、認めてあげていいのかな」

 仮眠を勧めたのはクルツだ。勧められたままに仮眠をとったのは鮮花だ。
 しかし、その勧めに危険性がなかったとは、夢にも思わない。
 眠っている間、鮮花は襲われてもおかしくはなかったのだ――他でもない、クルツに。

 一応、クルツとは“仲間”と言ってしまっていい関係を築いている、と思う。
 だからといって、クルツが完全に鮮花寄りの味方かといえば、一概にそうとは言えない。
 彼にだって、優先するべき目的があるだろう。隠し事の一つだってあるかもしれない。
 鮮花に銃を教える、という言もどこまで信用し、頼ればいいものか。
 裏切られることが容易に想像できるだけに、信用し切り、頼り切ることが、鮮花には難しかった。

507問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:34:51 ID:h4JYTZCU0
 結果だけを見るなら、杞憂だったのだろう。
 鮮花は警戒があったにも関わらずぐっすりと二時間睡眠、クルツはその間、こちらになんの干渉もしてはいない。
 鮮花が眠る間は摩天楼の調査をすると言っていたクルツだったが、今頃はどこにいるのか。
 時間になったら迎えに行く、とも言っていた。時間になったが、彼はまだやって来ない。
 摩天楼の調査を続けているのか、なにかトラブルがあったのか、鮮花を放って早々に出発したのか。答えは知れなかった。

「やっぱ、なかなかに難しいものよね。赤の他人を信用するのってさ」

 ただでさえ、軽薄で軟派な男は嫌いな鮮花だった。
 銃を教えてもらえるから、なんて単純な動機で、クルツの言いなりになる気はもちろんない。
 こういうときこそ、女は強くあるべきだ――というところまで思って、鮮花はいい加減、部屋を出ることにした。

 待っていても来ないというのであれば、こちらから探すしかない。
 現在鮮花がいるこの部屋は、例の銃器を見つけた部屋と同じ階層に位置している。
 この縦に広い建物の中から人一人探すのは大変だろうが、最悪、放送前にでも玄関口で待っていれば合流はできるだろう。

 扉を開き、廊下に出る。
 とりあえずはエレベーターで下に降りよう。
 鮮花は廊下を道なりに行き、エレベーターホールへと出た。

 そこに、クルツはいた。
 仰向けの状態で、床に倒れていた。
 彼の傍には、二人の少女と一匹の猫がいた。
 猫のほうは知らないが、二人の少女には見覚えがある。
 いつかの“ですの口調”白井黒子と、“RPG娘”のティーだった。

「なっ――」

 曲がり角を折れていきなりの光景に、鮮花は唖然とするしかなかった。
 白井黒子は鮮花の存在に気づくなり、「あら」と口にするだけで特になにもしない。
 ティーと猫――可愛らしい三毛猫だった――もこちらを一瞥するだけで、リアクションは薄かった。

「お久しぶり……というほどでもありませんわね。こうも早く再会するとは、妙な縁ですこと」
「な、な、な……」
「わたくしの名前、覚えていますか? 『風紀委員(ジャッジメント)』の白井黒子ですの」
「なん、で、あんた……」
「黒桐鮮花さん、でしたわよね? とりあえずはまだご存命だったようで、なによりですわ」

 わなわなと震える手で、白井黒子に向かって指を指す。
 まさかの場所、まさかのタイミング、まさかの状況での再会に、鮮花の唖然は驚愕へと変化した。

「な、んっ、でぇ! あなたがここにいるのよ、白井黒子――っ!」

 エレベーターホール一帯が、鮮花の大声で満たされた。
 あんまりな反応に、白井黒子は顰めっ面を浮かべながら言った。

「……そんなに力いっぱい驚かれなくても」
「こ、ここであったがひゃくねんめぇぇぇ!」

508問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:35:38 ID:h4JYTZCU0
 頭の中を、忌まわしき回想が駆け巡る。あのときの屈辱は、忘れてなんかいない。
 即座に右手を翳す、その手中にあるのは火蜥蜴の革手袋。
 鮮花が示すストレートな攻撃行動、発火が、白井黒子へと向く。

「またそれですの? 忠告しておきますけれど、こんなところで火花でも散らそうものなら、すぐさま火災報知器が作動しますわよ?」
「そそ。俺としちゃ、スプリンクラーを浴びてびしょびしょになった鮮花ちゃんってのも拝んでみたいが……ま、やめといたほうがいいぜ」

 呆れ顔の白井黒子の声と重なり響いてくる、軽薄な声。
 その一声で鮮花は制止し、仰向けに倒れていたクルツへと目がいった。
 彼は大の字になって天井を仰いでいる。どうやら、衣服のいたる箇所が釘か杭のようなもので床に固定されているようだった。
 いつもと変わらぬ飄々とした態度、出血の様子が見られないことを鑑みるに、身動きを封じられているだけに留まっているらしい。

「なんせこのアングルじゃ、見えるものも見えないしな。ああ、もっと短かったらなぁ……おっと、なんでもないぜ」
「…………」

 まるでリリパット国民に磔にされたガリヴァーのようだ、とは口に出さない。
 この男は、この状況下で、どうしてこのように余裕を保っていられるのだろうか。
 感嘆を通り越して、呆れる。やっぱり、こういうタイプの男は嫌いだった。

「それはそうと」

 ため息の一つでもつこうとした、そのとき。
 白井黒子の声が、鮮花の背後より発せられた。
 目の前にはもう既に、彼女の姿はない。
 すぐに鮮花が振り向こうとして――その身は宙を舞った。

「あ、ぐっ!?」

 自重を支えていたはずの両脚がふわりと浮き、視界が九十度ほど揺れる。
 受け身を取るという発想すら起こらないほどの速度で、背中のあたりを痛みが襲った。
 瞬間的に変わった視界が、天井と、白井黒子の顔を映す。
 腕を取られ、足を払われ、地面に叩きつけられたのだと知った。

「早速ですが、わたくしから一つ質問させていただきますの」

 言いながら、白井黒子は自身の太股のあたりに手をやった。
 スカートを少し捲った先に見える、ガーターリング。そこに装着された何本かの鉄釘。
 鉄釘に白井黒子の手が触れることによって、フッと消失。立て続けに、カカン、という小気味いい音が鳴った。
 音の正体はすぐに判明する。クルツと同じように、鮮花の衣服を鉄釘で床に縫いつけた音だった。

「お考えは以前と変わらず、なのでしょうか?」

 白井黒子の『空間移動(テレポート)』。
 対象を任意の空間に移動させる、魔法のような力。初邂逅の際には、これが要因となり勝敗を決した。
 百円ライターと大して変わらぬ鮮花の発火能力では、絶対に敵わない。白井黒子が保有する超上の武器。
 二度目であるということを踏まえ、十分に警戒をしていたとしても、攻略できるものではなかった。
 鮮花は為す術もなく、再びの拘束状態に置かれ、歯噛みする。

「答えはノーだぜ、黒子ちゃん」

 鮮花に先んじて返答したのは、クルツだった。
 両者ともに仰向けで磔にされている現状、互いがどんな表情をしているかはわからない。
 しかし鮮花には、クルツの飄逸な顔をありありと想像することができた。

509問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:36:30 ID:h4JYTZCU0
「君は要するにこう問いたいわけだろう? 黒桐鮮花に殺し合いを続ける意思はまだあるのか、ってさ」
「クルツさんでしたわね? 察するに、黒桐鮮花さんとは共闘関係にあるようですけれど……」
「おう、フレンドよフレンド。だから君のことも当然、鮮花ちゃんから聞いてる」
「興味深いですわね。彼女はわたくしのことをなんと?」
「魔法使いみたいな女の子にコテンパンにされちゃったので、馬鹿な真似はやめることにしました――ってな風にさ」

 そんなこと言ってない、と口を挟もうとして、鮮花は思いとどまる。
 誇張表現ではあるが、たしかに鮮花は、白井黒子との対峙をきっかけに考えを改めた。
 それは直後の放送――黒桐幹也の訃報も影響し、百八十度方向を転換することになる。
 今の鮮花は、白井黒子にケンカを売った頃の鮮花とは違う。白井黒子の鮮花に対する認識も、間違っているのだ。
 クルツはあれで、鮮花の弁護を試みようとしているのだと気づいた。

「懸命ですわね。まあ、黒桐幹也という方が亡くなられたとあっては、否応なしに目も覚めるというものでしょうか」

 あっさりと幹也の名前を出されて、ムカっとした。なんてデリカシーのない女だろう。
 挑発なのかもしれないが、いや挑発なのだろうが、ここは奥歯を噛み締めぐっと我慢する。

「そんなわけで、黒子ちゃんが心配するようなことは俺たち二人にはなにもないわけよ。いい加減、解放してくれないかな」
「そういうわけにはいきませんわね。なにせわたくし、ある方に『覚悟がなってない』だのと説教されたことがありますので。
 ここはわたくしの覚悟を示すためにも、厳格に、非情に、正しき『風紀委員(ジャッジメント)』として対応したいと、そう思いますの」

 もしかしなくても鮮花のことを言っていた。案外というか印象どおりというか、根に持つタイプなのかもしれない。

「黒桐鮮花さん。今一度お尋ねします。お考えは以前と変わらず、なのでしょうか?」

 白井黒子は鮮花を見下ろす形で、視線を合わせてくる。
 望む返答はクルツの弁護などではなく、あくまでも鮮花本人からの言葉ということか。
 沈黙の時間が流れ、黒桐鮮花はどう答えを返すか考え抜いた末に、それを言葉にする。

「――変わらないわ」

 強い一言に、白井黒子の表情が強張った。
 鮮花の視点からでは姿を捉えられないクルツ、それにティーという名の白髪の少女も、別段騒ぎ立てたりはしない。
 好都合だと言わんばかりに、鮮花は自身の主張を続けた。

「白井黒子さん。あなたが以前語っていた方針を否定する考えは、わたしの中ではなにも変わっちゃいない。
 あのときも言ったけれど、わたしたちは既に負けているのよ。与えられた選択肢以外を選ぼうだなんて論外もいいところ」
「それはつまり、あの人類最悪なる男の口車に乗り、決して逆らうこともなく、一つの椅子を巡る戦いに従事すると。
 生きて欲しいと願っていた方が既に亡くなられた今となっても、生存への願望が自分自身に転換されただけだと。
 そう仰られるわけでしょうか、黒桐鮮花さん? だというなら、わたくしも然るべき対処をしなくてはなりま――」
「いいえ、違うわ」

 諦観の様相を見せた白井黒子に、鮮花が言う。

510問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:37:44 ID:h4JYTZCU0
「わたしはもう、一つの椅子には執着しない。わたしが執着するのは、一つの椅子を巡るために他者を蹴落とせるという権利だけ」

 視線で相手の目を射抜くようにして、黒桐鮮花は白井黒子を見る。
 瞳と瞳が正面衝突し、どちらも逸らさず、向き合わせたまま。
 鮮花の目には確かなる決意が、白井黒子の目にはわずかな驚きがあった。

「ふくしゅう」

 ぼそっ、と口を開いたのが、意外なことにティーだった。
 鮮花が抱える願いを簡潔に表したその単語を、この場にいる全員が汲み取る。
 黒桐鮮花は、自分を含めた誰かが生き残ることよりもまず、復讐を優先する――と。

「……呆れてものも言えませんわ」

 鮮花の決意を汲み取って、白井黒子は率直な感想を述べる。
 理解してくれるとも思っていなかった。理解して欲しいとも思わない。

「復讐、いえ、この場合は仇討ちでしょうか。どちらにせよ、浅はかな指針ですこと」

 非難するだけならばまだいい。が、邪魔をするというのであれば容赦なく叩き潰す。
 鮮花は口には出さないものの、瞳を敵意の色を染めて、白井黒子を睨み続けた。

「……でもまぁ、以前よりはマシになったみたいですわね」

 敵意を受け、しかし白井黒子は睨み返しはしなかった。
 そんな価値すらない、と呆れ果てているのだろうか。
 白井黒子は身を屈め、鮮花の衣服を縫いつけていた鉄釘に触れる。
 フッ、とその内の一本が消えた。

「あなたの意思はお強いようです。それゆえに、邪魔をしない限りは安全である……とも解釈できるのですが。どうでしょう?」

 白井黒子はまるでこちらの考えを見透かしているような、いけ好かない笑みを浮かべた。
 鮮花が睨むことをやめなくとも、白井黒子は鉄釘を抜いていくことをやめない。
 体が自由になったら即、その脳天にネリチャギでもお見舞いしてやろうか――とも考えたが、思いとどまる。
 行動の意図を探り、言動の裏を読む。白井黒子が鮮花の身を自由にしようとしている、その意味を考えた。

「……なんのつもり?」
「無害な人間をいたずらに拘束する趣味はない、ということですわ」
「あら、それって信用を得られたってことかしら?」
「勘違いしないでくださいまし。完全に無害だと判断するのは、まだまだこれからですわ」

 気を許した、というわけではないらいしい。
 白井黒子はしたり顔で、次々と鉄釘を抜いていった。

「言っておきますけれど、覚悟なら十分ですわよ? 交渉に大事な要素は、なによりも誠意だと思いますので」

 以前のように誠意のない対応をしたならば――今度はこちらが打ち負かされる。
 鮮花は本能でそう察し、やはり、歯噛みした。


 ◇ ◇ ◇

511問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:38:49 ID:h4JYTZCU0
 三回のノックを経て、部屋に《侵入》してきた人物の性別は、男だった。
 眠りにつく蒼、玖渚友の待ち望んでいた人物も男ではあったが、これぐらいの一致点ではぬか喜びもできない。
 彼は玖渚友をどんな風に起こすのだろうか。まず、そこから試される。

 すぴー、くかー、ぐーぐー、といった寝息のシンフォニーが響き渡る。
 部屋の中に余計な騒音はなかった。男は足音の一つも立てず、少女の眠る寝台の横に立った。
 無機質な視線が、玖渚友という蒼の個体を見下ろす。見下ろして、大したリアクションはない。

 玖渚友の寝息に混じり、微かに、荒い呼吸音が響いたような気がした。
 男が女を見て抱く感情は、劣情――と言ってしまうのは彼の名誉に関わることなのかもしれないが、男は明らかに興奮していた。
 《侵入者》は、はたして玖渚友のロリィな体躯に欲情してしまったのだろうか……?


 ◇ ◇ ◇


「ところで、クルツさんはどうして拘束されていたんですか?」
「出会うなりそちらの彼女、ティーに対して劣情を抱いた様子でしたので。とりあえず、と」
「うわぁ……」
「おいおい、誇張しないでくれよ。俺は見るからに迷子な風だったこの子に、優しく話しかけてあげただけだぜ?」
「さりげなく話しかけるのはガールズハントの基本、でしたものね」
「そりゃ土御門の言葉だ。ま、俺も否定はしないけどよ」
「そういった趣味趣向をお持ちであることについて、ですか?」
「いやいや、そっちじゃなく」

 場所は変わらず、エレベーターホール。
 鮮花に続いてクルツの拘束も解いていった白井黒子は、すべての鉄釘を太股のガーターリングに収め、その場での話し合いを始めた。

 ちなみに、この鉄釘とガーターリングはここ、摩天楼で入手したものである。
 『風紀委員(ジャッジメント)』の勤務中に常備していたものよりは強度が劣るが、あればなかなかに便利なものだ。
 『空間移動能力者(テレポーター)』である白井黒子には、こういった軽く、硬く、小さいものが武器として向いている。

「さて、先程のお話の続きになりますが、まず黒桐さんの復讐のお相手……仇には、見当がついていますの?」
「ええ。っていうか、実際に襲われもしたわ。式に似た格好の、獣みたいな動きをする男……男、よね。あれ」
「ああ、ありゃ男だよ。俺が言うんだから間違いない。あと、ステイルとかいう魔術師もグルの可能性があるな」
「また妙な説得力ですわね……って、ちょっと待ってください。今、なんと? 魔術師……?」

 耳慣れぬ単語に、白井黒子は怪訝な顔を浮かべた。

「魔術師だよ、魔術師。黒子ちゃん、土御門と同じ学園都市っていうところの出身なんだろう。知らないのか?」
「魔術だなんて、そんな非科学的な……その土御門という方も存じ上げませんし、そもそもどういったものなんですの?」
「どういったものもなにも、わたしが一回見せたじゃない。初めて会ったときに使った、発火魔術」
「発火魔術……? あなた、『発火能力者(パイロキネシスト)』ではありませんの?」
「鮮花ちゃんは魔術師だぜ。もっとも、土御門が言う魔術師とは微妙に違うモンみたいなんだがな」
「微妙どころか、まるで別物ですよ。土御門さんの話は、橙子さんに聞いた話とだいぶ食い違っていましたし」
「……順を追って説明していただけますでしょうか」

512問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:39:55 ID:h4JYTZCU0
 彼女らと情報交換の席を設けたのは、正解だったかもしれない。
 と思う一方で、予想の範疇を超える情報量に、白井黒子は軽く混乱しかけた。
 ティーやシャミセンの例を踏まえたとしても、黒桐鮮花とクルツ・ウェーバーの齎す情報は信じがたい。

「魔術……能力とは違う別系統の力。ステイル=マグヌス……黒桐さんの上をいく炎の魔術師。
 黒桐さん自身は蒼崎橙子さんという方を師に持つ魔術師であり、そして獣じみた身体能力を持つ男……」

 だが、信じなければならない場面と状況なのだろう。ここは。
 なにより、クルツの話に出てきた“上条当麻”。この名前がキーワードになった。
 白井黒子が敬愛するお姉様――御坂美琴から、その名は聞き及んでいる。白井黒子自身、何度か顔を合わせたこともあった。
 土御門元春という人物が提供した学園都市の概要にも間違いはないし、上条当麻の知り合いという言も大いに納得できる。

 そういった面からくる信憑性が、魔術師なる存在の胡散臭さに拍車をかけてもいるのだが、目の前には鮮花という実例がある。
 彼女の発火能力について詳しく訊いてみると、確かに『発火能力(パイロキネシス)』とは発動のメカニズムが異なるようだった。
 学園都市という世界――その極めて近くに存在していた魔術――そしてそれともまた違った黒桐鮮花の魔術。
 初めて遭遇する――実は魔術師には不認知のところで既に遭遇しているのだが――異能力というものに、白井黒子は感嘆した。

「わたしにとっては、学園都市やら能力者やら、そっちの話のほうがよっぽど信じがたいけどね」
「わたくしにとっては、一般常識レベルの話なのですが……それにしても、魔術。魔術ときましたか」
「おいおい大丈夫か? そんなんでAS(アーム・スレイブ)の話なんてしたら、頭パンクしちゃう?」
「ま、まだなにかありますの……?」

 続くクルツからの情報。AS(アーム・スレイブ)なる巨大兵器の普及に関しては、もちろん頭を抱えた。
 普段なら正気を疑いたくなるような話。それでも信じざるを得ないという状況が、いい加減嫌になってくる。

「……なぜ、人型にしますの? なぜ、大きくしますの? コストにも見合うとは思えません。
 ロマンを求めたSF小説じゃあるまいし、そんなものが軍事運用されているだなんて、ありえませんわ……」
「ありえない、って言われてもなぁ」

 放送で人類最悪が言っていた内容、『元の世界』、『別の世界』、『物語』、そして『文法』。
 今なら、なんとなくレベルではあるが理解できるような気もする……それでも、多分にSF小説的な解釈を交えた理解だが。
 頭に浮かんできたのは、『パラレルワールド』――そんな単語だった。
 頭に浮かべただけで、決して口には出さない。まだ、仮説を立てるにも早すぎる段階だった。

「……で、今後のことですけれど。お二人は、その仇とやらをお探しになられるおつもりで?」
「いや、それよりもまず訓練だな。今の鮮花ちゃんじゃ、返り討ちに合うのが関の山だ」
「それはご本人も認めていらっしゃるようですけれど、些か考えが悠長すぎやしませんこと?」
「時間がないのはわかってる。だからわたしは、他のすべてを捨てたのよ。この身は、あいつを殺すためだけにある――」

 真剣な表情で、鮮花は銃を握っていた。
 自身の発火能力では仇を殺せない。ゆえの代替物が、このコルトパイソン。
 クルツはその筋のエキスパートらしく、これから鮮花に対し射撃指導を行う予定だったのだという。

「それで、その射撃訓練とやらはどこで行うつもりでしたの? まさかここで、というわけではないのでしょう?」
「候補地としては、二つある。一つは警察署。そこなら、射撃訓練場の一つや二つくらいはあるだろう」
「なるほど……もう一つというのは?」
「飛行場さ。ここは敷地が広い上に、照明灯も完備されている。なにより僻地で、すぐ近くには『消失したエリア』がある」
「部外者に邪魔をされる心配も少ない、というわけですわね。どちらにするかは、まだお決めになっていませんの?」

513問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:40:57 ID:h4JYTZCU0
 白井黒子の質問に、クルツは揃って首肯した。
 それは鮮花が仮眠から目覚めた後に決める予定だったらしい。

「わかりました。そういうことでしたら、飛行場へ向かいましょう」

 なので、今のうちに言っておくことにした。

「ちょっと待って。なんであなたが勝手に決めてるのよ」
「わたくしたち、ちょうど北へ向かう予定でしたの。飛行場なら、いろいろと都合がいいんですのよ」
「そういうことじゃなくて……決定権の話よ!」

 声を荒らげて突っかかってくる鮮花に、白井黒子は嘆息する。

「黒桐鮮花さんにクルツ・ウェーバーさん。当面の間は仇とやらを標的にし、それ以外は狙わないと、そう判断させていただきました。
 とはいえあなたには前科があるわけですから……ここは譲歩し、“監視”ということで一つ手を打たせていただくことにしますわ」

 と、わざとらしい作り笑顔で言ってのける白井黒子。
 今すぐ罰しないだけありがたく思え、そんな声が聞こえてきそうな、小悪魔めいた笑顔だった。
 これに対する反応は、当然。

「あ、ん、た、ねぇ……!」
「まあまあ、鮮花ちゃん。抑えて抑えて。別にいいじゃないの、旅は道連れ世は情けってね」

 鮮花は面白いくらい簡単に挑発に乗ってきてくれたが、すぐにクルツが諫めに入った。
 クルツ・ウェーバー。彼も彼で、謎が多い。そもそも、なぜ鮮花に協力をしようとするのか――。
 そのあたりも含め、この二人はもう少しじっくりと見定める必要がある。
 故に、行動を共にする。『黒い壁』と『消失したエリア』の調査も、同時に行う。
 北へ向かうというのなら、正に一石二鳥の良案だった。

「……いえ、上手くいけば一石三鳥ですわね」

 呟き、白井黒子はクルツに対して訊く。

「一つお尋ねしますが、車の運転はできますでしょうか?」
「クルマ? まあ、どんな車種でも一通り動かせはすると思うが……なんで?」

 問い返すクルツを見て、白井黒子はニヤリと笑った。

「よかった。わたくしやティーでは宝の持ち腐れでしたもの。ずっと探していたんですのよ? ドライバー」


 ◇ ◇ ◇

514問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:42:02 ID:h4JYTZCU0
 摩天楼一階、正面玄関口まで降り、ティーと鮮花、クルツの三人が外に出る。
 日は高く、正午が近い。寝起きの鮮花には、特に強烈な日差しだった。

「…………」

 ティーはなんの予告もなしに、デイパックを開け放った。
 中から出てきたのは、巨大な大型車両。ただし、車輪はついていない。
 一見してただのステージとも思えるそれは、使い手を選ぶがために死蔵されていた、ティーの支給品だった。

「ホヴァー・ヴィークル……ね。さすがに、動かしたことはねーや」

 一台のホヴィー(注・=『ホヴァー・ヴィークル』。浮遊車両のこと)が、クルツの目の前にあった。
 運転席と助手席、それに荷物が積める後部デッキという形は、軽トラックにも似ている。
 運転席を見るに、動かし方は一般車両とそう変わらないようだ。

「あなたにはそれを運転していただきます。移動するための足が手に入るわけですし、悪い話ではないでしょう?」

 ホヴィーをしげしげ眺めるクルツの横に、突如として白井黒子が現れた。
 彼女お得意の『空間移動(テレポート)』とやらで、摩天楼の中から飛んできたらしい。
 その証として、彼女の手には今までは持っていなかった“荷物”が握られている。

「まあ確かに、自転車で移動するよりは……って、黒子ちゃん。その手に持ってるのはなにさ」
「ああ、これですの。わたくしたちが摩天楼を訪れることになった原因……とでも説明しておきましょうか」

 それは、少年だった。
 歳はどちらかと言えば、黒桐鮮花よりも白井黒子に近い印象を受ける。
 あちらこちらに生傷が窺え、それを治療した形跡もあった。おそらくは白井黒子がやったのだろう。
 本人は気絶しているのか眠っているのか、白井黒子に首根っこを掴まれながらも、起きる気配がない。

「本当は彼が目覚めてから出発といきたかったのですが、ホヴィーが使えるのなら運ぶのに不自由はしませんものね」
「なるほどね。こればっかりはさすがに、デイパックに詰めておくってわけにもいかないもんな」

 白井黒子は『空間移動(テレポート)』を駆使し、ホヴィーのデッキに少年の身を置く。
 続いて、ティーを彼女が抱えていた猫ごと、同じ要領でデッキに乗せる。
 運転席と助手席にはクルツと鮮花が乗るよう指示し、白井黒子自身もデッキに身を落ち着かせた。

「……クルツさん。なんか、彼女の言いなりですね」

 白井黒子の仕切りに納得がいかないらしい鮮花は、助手席につくなり不満を口に漏らす。

「いいのいいの。それと、俺のことは先生って呼んでくれ。初めに言っただろ?」

 クルツはやんわりと返すが、

「まだ直接の指導は受けていませんので」
「ありゃりゃ、手厳しいことで」

515問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:42:49 ID:h4JYTZCU0
 鮮花はどうにも、不機嫌な様子だった。
 それは白井黒子との問答が原因か、はたまた新しく入ってきた女の子ばかりに目がいくクルツへのヤキモチか。
 後者であるなら嬉しいが、まあ、そんなことはないんだろうな……と、クルツは少し淋しげに黄昏てみた。
 もちろん、鮮花はまったく気づいてくれない。

「そもそもそれ、いったいどこの誰なのよ? 面倒事はごめんよ、わたしたち」
「それは彼が目覚めてから訊く予定でしたの。ま、今は疲れが溜まっているだけのようですから、その内目覚めるでしょう」
「せっかく車が手に入ったわけだしな。移動しながらでいいだろ、そういうのは」

 運転席とデッキでやり取りを交わしつつ、クルツはホヴィーのエンジンをかけた。
 と、

「待ちたまえ」

 デッキのほうからやたらと低い声が聞こえ、クルツと鮮花は揃って後ろを振り向いた。
 そこには、白井黒子とティー、気を失っている少年の三人だけが存在している。
 今の老獪な紳士のような声は、万が一にも少女二人の裏声などであるはずもない。
 だからといって、少年が実は起きているというわけでもなさそうだった。

「そろそろ放送だ。出発するのはいいが、この場で情報をまとめ終えてからでも遅くはあるまい」

 訝るクルツと鮮花の視線を買いながら、声の主は再び発声した。
 信じがたいことに、口が動いたのはただの一人――いや、一匹だけ。
 ティーが手に抱いていた、シャミセンという名前の三毛猫だった。

「……」「……」

 クルツと鮮花は一度顔を見合わせ、またすぐに、後ろのデッキに視線をやった。
 シャミセンは――世にも奇妙な喋る猫は、気持ちよさそうに「にゃー」と鳴いた。

「……猫がしゃべったぁぁ〜!?」



【E-5/摩天楼前・正面玄関口/1日目・昼(放送直前)】

【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:強い復讐心、ホヴィーの助手席に乗車中
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界、コルトパイソン(6/6)@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、包丁×3、ナイフ×3、予備銃弾×24
[思考・状況]
基本:黒桐幹也の仇を取る。そのためならば、自分自身の生存すら厭わない。
1:クルツと行動。飛行場へ向かい、クルツから銃の技術を教わる。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
※白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。

516問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:43:39 ID:h4JYTZCU0
【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ、疲労(中)、復讐心、ホヴィーの運転席に乗車中
[装備]:エアガン(12/12)、ウィンチェスター M94(7/7)@現実、ホヴィー@キノの旅
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋、予備弾28弾、ママチャリ@ママチャリ
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサとの合流を目指す。
1:ホヴィーで飛行場へ向かい、鮮花に銃を教える。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:ステイルとその同行者に復讐する。
5:メリッサ・マオの仇も取る。
6:ガウルンに対して警戒。
7:鮮花に罪悪感、どこか哀しい 。
[備考]
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。


【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、ホヴィーのデッキに乗車中
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖、鉄釘&ガーターリング@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣、
     伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏
     デイパック、支給品一式 、ビート板+浮き輪等のセット(大幅減)@とらドラ!、カプセルのケース
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
1:ホヴィーをクルツに運転させ、北へ移動。『消滅したエリア』の実態を間近で確かめる。また『黒い壁』の差異と、破壊の可能性を見極める。
2:移動中に浅羽が目覚めたら詳しい事情を聞く。その後の処遇はまだ保留。
3:“監視”という名目で鮮花とクルツの動向を見定める。いつまで行動を共にするかは未定。
4:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
5:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
6:伊里野加奈に興味。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。

517問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:44:30 ID:h4JYTZCU0
【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。ホヴィーのデッキに乗車中。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×1
[思考・状況]
基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
1:RPG−7を使ってみたい。
2:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3:シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
4:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
5:浅羽には警戒。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。


【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形。右手単純骨折。右肩に銃創。左手に擦過傷。(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
     微熱と頭痛。前歯数本欠損。気絶中。ホヴィーのデッキに乗車中。
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
0:????(気絶中)
1:伊里野の不調を治すため、「薬」と「薬に詳しい人」を探す。
2:とりあえず、地図に描かれていた診療所を目指そう。
3:薬に詳しい「誰か」の助けを得て、伊里野の不調を治して……それから、どうしよう?
4:ティーに激しい恐怖。
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※伊里野が「浅羽を殺そうとした」のは、榎本たちによる何らかの投薬や処置の影響だと考えています。
※まだ白井黒子が超能力者であることに気付いていません。シャミセンが喋れることにも気付いていません。


【鉄釘&ガーターリング@現地調達】
白井黒子が摩天楼にて確保した。
『風紀委員(ジャッジメント)』の勤務中に彼女が常備しているアレ。
摩天楼内にあった工具店から適当に見繕ってきたもので、鉄釘の明確な本数は不明。

【ホヴィー@キノの旅】
ティーに支給された。
正式名称は『ホヴァー・ヴィークル』。浮遊車両のこと。
宙に浮いているので悪路にも影響されることがなく、海の上を移動することも可能。
大人数が乗れるデッキがついており、車両自体はかなりの大型。


 ◇ ◇ ◇

518問答無用のリユニオン ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:45:45 ID:h4JYTZCU0
「――友! こんなところでなにやってるんだ!」
「う〜ん……うに? いーちゃんだ……おはろ」

 《侵入者》は興奮した息遣いで玖渚友を揺さぶり起こし、とっくに昼だということを告げた。
 僕様ちゃんには朝も昼もないんだよ、そういやそうだな、とどこかで見たようなやり取りを交わす。
 ふわぁ〜、とのんきにあくびをして、玖渚友はわずか上半身だけ身を起こした。

「髪くくって」
「ん」

 求められた《侵入者》は、玖渚友の長い長い蒼色の髪を、黒いゴムでポニーテールに結ってやった。
 その出来栄えに少女は大いに喜び、はしゃぎ、《侵入者》に好きと連呼し続けた。
 そして、もう一度寝た。


 ――――という夢を見たのさ☆


「さんくー、いーちゃん…………ぐー」


 眠り姫の蒼は、四人や五人不法侵入者が訪れたくらいで、起きるはずなどなかった。
 彼女を起こしに来る権利があるのは、どう足掻いても決められた一人だけ……?



【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・昼(放送直前)】

【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
 基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
 1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。
※第一回放送を聞き逃しました。

519 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/09(水) 04:46:54 ID:h4JYTZCU0
投下終了しました。
お手隙の方がいましたら、代理投下のほうお願いします。

520 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:27:27 ID:wEzxiBeY0
相も変わらず規制中の人です。
予約中の一名、こちらに投下させていただきます。

521お・ん・なビースト〜一匹チワワの川嶋さん〜 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:28:52 ID:wEzxiBeY0
 方位磁石というものがこんなにも心強く思えたのは、初めてかもしれない。
 小学校時代には理科の授業やらなんやらで使っていた記憶があるものの、中学に上がってからは触る機会もなくなった。
 高校生になってからはなおさら、プライベートやモデルの活動においても、わざわざ自分で方位を調べたりはしない。

 方位磁石片手に、知らない土地の知らない町で、南にあるはずの海を目指す。
 住宅が犇めき合う道を、学校指定のローファーで踏み歩く。
 車道に車はなく、路地に通行人はなく、町に人気はない。
 学校から出発したから、ちょっとした校外学習の気分だった。

 川嶋亜美。
 ティーン向け雑誌の表紙を飾ることもある彼女は、同年代の女の子には名の知れたモデルである。
 容姿やプロポーション、学生服の着こなし方、姿勢に歩き方にと、どこを見ても様になる、そんな女の子への歓声はない。
 同行者がいないからといってぶつぶつ独り言を呟くこともなく、手元の方位磁石で逐一進行方向を確認しながら、南へと歩く。

 初めは、川と海の、つまりは北と南の二択だった。
 自然に還す、という意味では川に流したってどうせ海に行き着くわけだし、と二択はすぐに一択になった。
 海のある南へ行こう。そこで『水葬』を済ませよう。亜美ちゃんの『おそうじ』は、とりあえずそれで完了としよう。
 歩きながらに思う、思いながらに歩く、わざわざ声に出す必要もない、川嶋亜美の思考。
 背負ったデイパックの中身に、わざわざ喋りかけることでもなかった。

 気兼ねなくおしゃべりできる相手は欲しいと言えば欲しいが、今はいらない。そんな感じ。
 トレイズや上条当麻みたいなデリカシーに欠ける男子ではなく、木原麻耶や香椎奈々子のような女子がいい。そんな感じ。
 いつもみたく尻尾振って愛想振りまいて仲良くなって……でもそれって億劫かも、とそんな感じで。

 川嶋亜美は、一人だった。
 川嶋亜美は亜美ちゃんではなく、川嶋亜美として一人でいることを望んだ。
 というか、今ばかりは亜美ちゃんではいられなかった。

 仕方ないよね、と心の中で吐き捨てる。
 トレイズを送り出してやったのも、それを止めなかったのも、川嶋亜美本人。
 上条当麻に同行を願わなかったのも、むしろ突き放したのも、川嶋亜美本人。
 一人でいることを選んだのも、川嶋亜美本人。だって、そのほうがよかったから。

 最後のお別れは、自分一人でやらなければいけないと思ったから。
 逢坂大河や櫛枝実乃梨はこの場にはいないし、北村祐作は彼と一緒にいなくなってしまった。
 ならやっぱり自分一人でやるべきだ。知り合いと呼ぶにも微妙な人たちには、面倒も迷惑もかけられない。

 なんて、ただの自己満足なんだけどね。
 人を『送る』正しい作法なんてものは、勉強不足の亜美にはわからなかった。
 それは最良や最善がわからないという意味で、確固として思い描くイメージは、あるにはある。
 水葬のために海を目指しているのも、そんな自分の中にあるイメージに従ってのことだった。
 誰だって、薄暗い学校の中でバラバラにされたままでは嫌だろう。
 きれい好きの彼なら、なおのこと。
 そう思っただけ。


 ◇ ◇ ◇

522お・ん・なビースト〜一匹チワワの川嶋さん〜 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:30:27 ID:wEzxiBeY0
 地図を見て、まさかそこが海岸になっているとは思わなかったが、まさか断崖絶壁になっているとも思っていなかった。
 崖の縁に立ち、視線を下へと落としてみる。落ちたらまず這い上がってはこれない。そのままあの世行きコースだった。
 直下の海をなぞるように、視線をついーっと前方へと向けてみると、例の『黒い壁』が聳えていた。
 それは夜中に確認したときよりもずっと鮮明に、それでいて険しく、絶望の黒一色を纏い君臨している。

 あれ、ちょっと待って、これ、どうやって流そう。
 問題なく済むと思った水葬は、直前で大きな問題に直面する。
 イメージとしてはもっとこう、水辺に遺体をそっと浮かべて、あとは流れのままに、という感じだった。
 ところがこのような断崖絶壁ではそうはいかない。
 崖下に下りられるような道も見当たらず、水面に近づくことは非常に困難だと思えた。

 となると、これはもう直接海に落とすか投げるかしか、方法がないのではないか。
 いやいやそんな不法投棄みたいな真似はどうなんだろう。
 ゴミ扱いする気など毛頭ないが、掃除の締めがそれではあまりにも彼に失礼だ。

 川嶋亜美は考える。

 デイパックから取り出したビニール袋三つ。一つ一つが結構な重さになっているそれを、じっと見る。
 こういうとき、掃除のプロフェッショナルたる彼ならどうするだろうか。
 これがちゃんとした清掃活動なら、そもそも海ではなくゴミ捨て場に持っていくのだろうが、言っても仕方がない。
 水葬は諦めて、やっぱり土葬にするというのはどうだろう。それもよくない。自分が納得できない。

 なにかいい案はないものか、と川嶋亜美はまたデイパックの中を漁り始める。
 出てきたもの。食料。水。地図。救急箱。名簿。メモ帳。筆記用具。懐中電灯。歯ブラシ。歯磨き粉。
 風呂桶。タオル。高須棒。コイン。本。包丁。遺髪。あとは手元に方位磁石と腕時計、それと拳銃。
 なにをどう活用したとしても、問題の解決には程遠い。知恵を借りようにも一人ではそれも成り立たない。
 孤立無援の八方塞がり。業界において、一人では仕事ができないのと同じように。

 同じにしたくはなかった。
 これくらい、一人でやらなきゃと思った。


 ◇ ◇ ◇


 たっぷり三十分ほど、そこで考え込んでいたことだと思う。
 土に埋めるにしても、川にそっと浮かべるにしても、海に放り投げるにしても、結局は不法投棄のようなものなのだ。
 ゴミはゴミ捨て場に。分別はきっちりと。なまものはなまもの、プラはプラ、ペットボトルはペットボトル。リサイクル精神。
 バラバラになってしまった人間のパーツを還すべき場所など、結局はどこにもない。
 これは単なる自己満足なのだから、完全に自己を満足させるためにはある程度の妥協も必要なんじゃないかと、妥協した。

523お・ん・なビースト〜一匹チワワの川嶋さん〜 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:32:53 ID:wEzxiBeY0
 川嶋亜美は、遺体をこのまま海に落とすことに決めた。
 海との距離が遠かろうが近かろうが、行き着く先は結局海なのだ。変に格好つけたって仕様がない。
 まさかどこからともなくカモメが飛んできて、遺体が落下し切るより先に啄まれる、なんて心配もまあないだろう。
 なら問題なんてのはただの一問。水葬を担当する川嶋亜美が、納得できるか納得できないか。
 納得することこそが、この場合は正解なのだった。

 考えてみれば、この海にしたってあと数時間後には『消滅』してしまう。
 正確には約十八時間後。正確と言いつつ約を使っているあたり国語力が足りていないが、この場は気にしない。
 消滅というのはつまり、例の狐面の男、人類最悪が説明してくれたとおりの意味での、世界消滅のこと。
 実際にその消える瞬間、消えた場所を確認したわけではないが、おそらくは目の前の『黒い壁』と同じような感じになるのだろう。
 そのとき、生きている人間はともかくとして――海を漂う遺体は、どうなってしまうのだろうか。

 これは確かめようのない難問中の難問である。挑んで解けずに不貞腐れるつもりもなかった。
 テストはスルーして、自己のスタイルでもって行為に採点をする。欲しいのはやはり、単位ではなく自己満足。
 彼が向こう側からお礼を言いに来てくれるというならそれはそれでロマンチックな話だが、一方で怖くもある。
 水葬にしても火葬にしても土葬にしても、葬送なんてものは結局、残された者が気持ちに整理をつけるためのものだと思うから。

 唐突に深呼吸。
 いや、全然唐突なんかじゃない。
 答えを決めたら覚悟も決めた、というだけの話。

 臭いが漏れないよう、しっかりと口を縛ったゴミ袋が三つ分。
 その内の一つを慎重に開け、中に視線をやる。すぐに逸らしてしまった。
 変だ。片付けている最中は、それほど気にならなかったのに。感覚が麻痺していたのだろうか。
 袋の中から放たれる異臭が、鼻を曲げる。グロテスクな絵面が、目を焼く。心が折れそうになった。
 嘔吐感もないといえば嘘になるが――それ以上に、反吐が出るほどの弱音だとも思った。
 今ここで吐き出したりしたら、すべてが台無しになってしまう。

 まだ、なにも終わっちゃいない。

 強く心で唱え、ゴミ袋の口を開けたまま、しかし中身は溢れないよう、軽く捻ったところを手で掴む。
 相変わらず結構な重さだったが、地面を引き摺って袋が破れでもしたら惨事である。
 筋肉痛覚悟でこれを膝の高さまで持ち上げ、そのまま崖っぷちまで移動。
 反動をつけて海のほうへ投げ込めば、あとはまっさかさまという位置に立った。

 そして。
 袋の口を持ったまま、腕を軽く後ろに振り、反動をつけて前へ。
 振り子の要領で、後ろへ、前へ、ゆらり、ゆらりと。
 数回やってから、川嶋亜美はその手を離した。

 ――高須竜児の遺体が詰まったゴミ袋は、ばしゃーんという音を立てて海に消えた。


 ◇ ◇ ◇

524お・ん・なビースト〜一匹チワワの川嶋さん〜 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:35:58 ID:wEzxiBeY0
 高須竜児の遺体が詰まったゴミ袋の三つ目は、ばしゃーんという音を立てて海に消えた。
 これでゼロ。もう残っていない。かつて高須竜児と呼ばれていたモノはすべて、自然に還っていった。
 唯一の例外は、家に持ち帰るつもりだった遺髪だけ。
 強いて言えば、あとは余韻と名残が少しばかり。

 崖の縁に乗り出し、顔を出す。漫画なんかだと、このまま崩れて落ちてしまいそうなシチュエーションだった。
 視線の先、海を揺らす波は穏やかで、遺体が詰まったゴミ袋は見当たらない。沈んでしまったのだろうか。
 きっとそうに違いない。仮に思い切って飛び込んでみたとして、もうそれを手にすることはできないのだろう。
 手放してしまったから。送るというのは、つまりそういうことだから。もう、お別れもおしまい。

 うん。
 おわり。

 さーて、これからどうしようかな。
 川嶋亜美はくるりと回って海に背を向ける。後方に聳える『黒い壁』からは、今もなお威圧感がひしひしと感じられた。
 あの『黒い壁』はなんなのだろう。壁というよりは境界と呼ぶべきものだと、トレイズはそんな風に言ってもいた。
 遺髪を高須家に持ち帰るともなれば、当然その手段についても考えなければならない。
 真っ先に思いつくのが、『黒い壁』を突破するという方法――なのだが、肝心の突破の方法が思いつかなかった。
 それって本末転倒じゃない。呆れつつも、川嶋亜美はデイパックを担いで歩き始める。考えるなら歩きながらだ。

 椅子取りゲームの趣旨に従い、最後の一人を目指すという手もあるにはある。
 誰にも害されないよう逃げて隠れて、最後にはちゃっかりと席についていればいいわけだ。
 別段、難しいこととは思えない。やってやれないことはないと思う。
 ただ、そうなると自分以外の人間は。この世界に組み込まれた、椅子を与えられなかった人間は――消えてしまう。
 たとえば、逢坂大河。たとえば、櫛枝実乃梨。たとえば、トレイズや上条当麻や名前も知らないあの女の子。
 エリアの消滅に巻き込まれて消えるか、高須竜児のように誰かに殺されて消えるか、その程度の違いはあるもののやっぱり消える。
 一以外の五十九が消えてしまう運命。なんて悲惨なお話だろう。今更ながらに思った。

 海との距離はどんどん遠ざかっていき、足元も土と草の地面からアスファルトに変わりつつあった。
 家に帰るという最終的な目標を定めたはいいが、そこにたどり着くまでの道程はどうしたものか、悩みながらに歩き続ける。
 遺髪を誰かに託す、という案も考えてはみたが、川嶋亜美の知り合いにそれほどの信頼を寄せられる人間はいなかった。
 いるとすれば、それは元から高須竜児のことを知っているあの二人なのだろうが、ここでは噂すら聞かない。
 今頃、どこでなにをしているのだろうか。あの手乗りタイガーと、高須竜児が恋していた女の子は。

 最後の椅子に着席する。そして帰る。これ自体はまあ悪くない。むしろ望むところと言える。
 だが、それを目指したりはできない。それを目指すということはつまり、他人を殺すということと一緒だから。
 腐ってもそんな人間にはなりたくなかった。いや、この場合は消滅してもそんな人間にはなりたくなかった、だろうか。
 だからまあ、隠れたり逃げたりはするだろうけど、誰かを傷つけたりはしないしできないだろう。
 そう思う。そうとしか思えないはずなのに、自分のことだというのに、ひどく曖昧な感じだった。

 で、結局どうする――という話になる。


 ◇ ◇ ◇

525お・ん・なビースト〜一匹チワワの川嶋さん〜 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:39:38 ID:wEzxiBeY0
 そういえば、祐作が温泉にいるんだったっけ。正確には『いた』と言うべきなのだろうが。
 上条当麻の話によれば、北村祐作はそこで留守番をしていたという。
 上条たちが発ってから放送が始まるまでの数時間、温泉でなにがあったかはわからない。
 夜が開けた今でも温泉を訪ねるのは危険と言えるだろうし、学校のときのような凄惨な現場に遭遇しないとも限らない。
 そもそも川嶋亜美はモデルであって、葬儀屋でも死体処理係でもないのだ。
 わざわざ知人の死体を拝みに行く、というのも気が引ける。というか、嫌だった。

 では学校に戻るというのはどうだろう。
 上条と彼女はまだ校内に残っているだろうか。上条は温泉に戻る途中のようだったが、それもあの女の子しだいだろうか。
 なんともまあ、世話好きというかおせっかいというか、他人に行動を縛られるタイプの人間なようである。
 あの、上条当麻という少年は。

 おせっかいというのなら、トレイズも負けていない。 
 好きな女の子がいると公言する一方で、別の女の子にかまけるだなんて、最低のクズ野郎だ。
 しかもその相手が天下の川嶋亜美ともなれば、はっ、鼻で笑い飛ばすことができる。
 腹ただしいから、トレイズにはぜひともリリアーヌさんと再会してもらって、幸せになってもらいたい。
 その瞬間に居合わせることはできないだろうが、もし機会に恵まれたのならば、精一杯祝福してやるとしよう。

 いろいろ考えながら歩いてたどり着いた、さてここはどこだろう。

 あたりの風景は相変わらず住宅街だったが、学校から海を目指したルートでは見られなかった風景だ。
 それほど遠ざかってしまったわけではないと思うが、おおよその隣町くらいの認識で大丈夫だろう。
 だとすれば、温泉は東か北か――目印らしい建物がなにもないので、方位と直感だけが頼りになる。

 川嶋亜美は結局、温泉に行ってみることにした。

 ひょっとしたら、そこでまた大掃除をして、遺髪を確保して、海に遺体を流す――なんて仕事を得てしまうかもしれない。
 正直、二度目となるとかなり面倒くさいが、それは行き当たってしまってから考えるとしよう。
 いつまでもうだうだ町を練り歩くばかりではいられないのだ。
 川嶋亜美は多忙な身の上なのだから。

 …………いや、全然多忙なんかじゃない。

 仕事はないし、学校にも行けないし、一人きりだから誰かに媚びへつらったり気を使ったりする必要もない。
 そりゃ、友達が死んでしまってそれなりの精神的苦痛を味わってはいるが、癒す時間は十分にあった。
 どこかに篭ってしくしくと泣いていればそれでいい。それはそれでメンタルケアになる。
 しかし川嶋亜美のスタイルは、悲しんで癒すよりも食べて癒す。それが主流ではないだろうか。
 暴飲暴食はストレスの消化としてこの上なく効果的。反面、モデルとしての質を落とすのが悩みのタネだった。

 お菓子やらお茶やらばくばく食っちゃって飲んじゃって、満腹になったところで切なげに体重計に乗って、
 ナイーブ入ったところでさらにお菓子をかじりつつ、その日の夕飯は寒天スープ27キロカロリーに抑える。
 翌日はジムに通って、しこたま汗を流した帰りにジョギング、家についてからはテレビの前でビリー。
 女の子は肥えた豚ではいられないのだ。特にクラスの人気者は。特にモデルは。特に川嶋亜美は。

 炭水化物は朝と昼だけ。夜でも基本的には最大400キロカロリーまで。たらこスパなんてもってのほか。
 勉強は学生との勤めだが、体型維持は年頃の女の子の勤め。小デブちゃんをざまあと嘲笑えるのは、努力した者の特権。
 我慢に我慢を重ねての体脂肪率10パーセント台。服は7号。サイズはS。デニムは24インチ。この数字を死守。
 自他共に認める『かわいい亜美ちゃん』は、努力家なのだった。

526お・ん・なビースト〜一匹チワワの川嶋さん〜 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:41:12 ID:wEzxiBeY0
 だけどもう、いいのではないか。リミッターを外してしまおうか。なにからなにまで喰らい尽くしてやろうか。
 デイパックの中を漁る。出てきた食料といえば、乾パン。あの、避難訓練のときなんかに配られるやつだった。
 こんなものでは腹の足しにもならないし、ぶっちゃけ美味しくない。口に入れるならやっぱりお菓子だろう。
 近くにコンビニでもないものだろうか。小走りに探してみるものの、見えるのは民家ばかりだった。
 いまどき近所にコンビニもない住宅地とか。そんなんどこの田舎だよ。ぼやきながら走り回る。
 足はだんだんと加速していって、いつの間にか全力疾走に。腹をすかせたチワワの激走だった。

 なんで。
 なんで亜美ちゃん、走ったりしてるんだろう。
 ストレス発散のため?
 カロリー消費のため?
 歩きっぱなしで、足、疲れてるってのに……。

「――うぉ」

 不意に。
 それは不意にきた。
 食べ物のことを考えたからだろうか。
 今までためてきたものが、はじけ飛んだ。
 抑えつけていた衝動が、暴れる。
 もう、川嶋亜美では制御し切れない。
 叫びという形で外に出る。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!」


 気がつけば。
 本当に、気がつけば。
 川嶋亜美は走っていった。
 あらん限りに叫びを町中に響かせて。
 走りながら叫びながら、泣いていた。


「ざっっっっけんなぁ――――――――――――っっっ!」


 なにか。
 だれか。
 どこか。
 別に対象があったわけではない。
 対象がないからこそ、こうなった。
 我慢には二種類あって、できる我慢と、できない我慢がある。
 訪れたのは、できないほうの我慢だった。

 ――そういえば。

 以前にも、似たようなことがあった。
 我慢が得意だったはずの川嶋亜美が、我慢しきれなくなったことがあった。
 思い出すのも不快なのでそのときのことについては触れないが、あれに近い感じだった。
 いやむしろ、これには我慢をする理由がないのだから、我慢なんてできなくて当然だったのかもしれない。

527お・ん・なビースト〜一匹チワワの川嶋さん〜 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:42:53 ID:wEzxiBeY0
 もう方角とか行き先とかどうでもいい。
 今はただ、思うがままに叫んで走りたい。
 それでどこに行き着くかは、運試しだ。

 うん、きっと大丈夫。
 なんせ亜美ちゃん、日頃の行いがいいから。



【F-2/住宅街/昼】

【川嶋亜美@とらドラ!】
[状態]:健康
[装備]:グロック26(10+1/10)
[所持品]:デイパック、支給品一式×2、高須棒×10@とらドラ!、バブルルート@灼眼のシャナ、
      『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』、包丁@現地調達、高須竜児の遺髪
[思考]
基本:高須竜児の遺髪を彼の母親に届ける。(別に自分の手で渡すことには拘らない)
1:今はただ、なにも考えずに走り続けたい。
2:温泉にいたはず、という北村のことが気になる。落ち着いたら温泉の様子を見に行く。

※高須竜児の遺体(ゴミ袋3つ分)は、F-2の海に水葬されました。

528 ◆LxH6hCs9JU:2009/12/17(木) 05:44:15 ID:wEzxiBeY0
投下終了しました。
お手隙の方いましたら、代理投下のほうお願いします。

529“幻想殺し”と黙する姫【レイディ】 ◆LxH6hCs9JU:2010/01/17(日) 03:35:59 ID:/GDzw42c0
【E-2/学校・屋上/昼】

【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身に打撲(行動には支障なし)
[装備]:御崎高校の体操服(男物)@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式(不明支給品0〜1)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣、
     上条当麻の学校の制服(ドブ臭いにおいつき)@とある魔術の禁書目録
[思考・状況]
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:姫路を迎えに校舎の中へ。温泉にも行きたいが、彼女を放ってはおけない。
2:温泉に向かう。かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。
3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。
4:教会下の墓地をもう一度探索したい。
[備考]
※教会下の墓地に何かあると考えています。


【E-2/学校・校舎内/昼】

【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:御崎高校の体操服(女物)@灼眼のシャナ、黒桐幹也の上着、ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣 (注:下着なし)
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
     ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:明久くん……明久くんに会いたい……。
1:……やっぱり、温泉には行きたくない。
2:朝倉涼子に恐怖。
3:明久に会いたい。

530 ◆LxH6hCs9JU:2010/01/17(日) 03:37:13 ID:/GDzw42c0
粘ってみましたがあとは状態表のみというところでさるさんorz
というわけでこちらに残りの分投下させていただきます。

とりあえず投下終了。夜分の支援ありがとうございました。

531「つまらない話ですよ」と僕は言う ◆olM0sKt.GA:2010/01/28(木) 00:28:14 ID:6c.4sOUE0
すみません、さるりました。続きはこちらに

532「つまらない話ですよ」と僕は言う ◆olM0sKt.GA:2010/01/28(木) 00:31:04 ID:6c.4sOUE0
それを本気で言ってるならお前は正真正銘の馬鹿だ。馬鹿の二乗だ。この大馬鹿野郎。
ったく、てめぇがそんな情けねえ姿じゃなけりゃ、二三発ぶん殴ってやりたいところだ。
そもそも俺達は電話の履歴を調べるために警察署まで行ったんだ。
手ぶらで帰ってきましたじゃ、俺まであのシャナとか言う子供に燃やされちまう。

「発信履歴なら僕が全て控えておきましたよ。それでおあいこということでいかがです」

……なんでそう一々抜け目がないんだよ、お前は。

「情報は貴重です。こういう場合は特に。まぁそんなことをしていたせいで、朝倉さん達に捕まってしまったのですがね」

とにかくだ。
まず傷を治せ。飯でも食って、反省したら全力で謝って回れ。
何をしでかすか分からん連中もいるが、何なら俺も一緒に謝ってやるから。
野郎のために頭下げるなんて死んでもゴメンだか、場合が場合だ。仕方ねぇ。
だからよ、古泉。

「はい?」

もう、ハルヒを悲しませるような真似はよせ。

「…………」

忘れてるようだから言ってやるがな、お前のSOS団副団長って肩書きは、そりゃハルヒが直々にくれたもんなんだぜ。
俺なんて、あれだけ雑用やら奢りやらやらされてるのに、未だにヒラのまんまだってのによ。
もう長門はいない。朝比奈さんだって居なくなっちまった。
この上、お前まで悪の魔王みたいな馬鹿な考えに染まっちまったってんじゃ、俺達SOS団は一体どうなるってんだ。
俺一人じゃ、とてもじゃないがハルヒのバカな妄想に付き合うことなんてできないぜ。

「ですが、ならば一体どうすると言うのです。涼宮さんの力を開放すること以外現状の打開策は」

んなもん、これから考えりゃいいんだ!
古泉、お前ハルヒを絶望させりゃこの世界はぶっ壊れるって言ったな。
だが実際はどうだ。あっというまにSOS団が半分になっちまったってのに、この世界はぴんぴんしてやがる。

533「つまらない話ですよ」と僕は言う ◆olM0sKt.GA:2010/01/28(木) 00:32:18 ID:6c.4sOUE0
「ええ、仰るとおり。やはり、残された可能性としては」

可能性なんかねぇんだ!
おい古泉、お前SOS団で一体何を見てやがった。
あれだけハルヒのご機嫌とりにヘラヘラしてやがったくせに、何にも見てなかったってのかよ。

「どういう、ことでしょう」

ハルヒが、まだ絶望してないなんて本気で思ってんのかって聞いてるんだよ俺は!
世界がどうとか、そんなことはどうでもいい。んなもん、見なくなって分かるだろうが。
長門も。朝比奈さんも。死んだって聞かされてあいつが今どんな気でいると思う。
嫌に決まってんだろうが。無くしちまえるもんならそうしてるだろうさ。
だけどな、死んだ人間はもう戻っちゃこねぇんだ。あいつはそれを知ってる。
お前があいつを神だなんだと崇めるのは勝手だ。ハルヒの力が実際どういものかなんて、聞きたくもないね。
俺に言わせればな、古泉。
ハルヒはただの、死んだ友達のことを忘れたくても忘れられない、どこにでもいる普通の女なんだよ!
そんな奴が、世界をなかったことにしてまで元の日常に戻りたがってたまるかよ!

「……………………」

どうした。
何とか言ってみろ。
得意の分かりにくくてやたら回りくどい御託はどこ行ったよ。
なぁ。

「御坂さんが"意図的に着付けを"してくれて助かりました。……お陰で、あなたにこれを託す時間を得ることができた」

なに、言ってやがる。
荷物?荷物がどうかしたか。
なんだよ。ただでさえ持ちにくくって仕方ねぇってのに。
本?こんなやたら分厚い本を一体なんだって。

おい。
こりゃあ。

534「つまらない話ですよ」と僕は言う ◆olM0sKt.GA:2010/01/28(木) 00:32:49 ID:6c.4sOUE0
「警察署で、僕に協力してくれた少年から譲り受けたものです。話を聞く限り、十中八九長門さんが遺したものと」

…………。
ちくしょう。
だからお前は馬鹿だってんだ!
あったじゃねぇか、何とかする方法が!
先走って早まりやがって……!

長門……!

「文言の意図は不明瞭です。言葉通り鍵とやらを集めたところで、どれだけ有効かは分かりません。
ですが……そうですね、我々がすがるとしたら、もうそれくらいしかないのでしょう」

当たり前だ!何他人事みたいに言ってやがる!
古泉、お前も手伝うんだよ。俺なんかよりよっぽどよく回るお前の頭は、こういうときのためにあるんだろうが。

「……それができれば……よかったのですが……」

何だと。
今、なんて言いやがった。

「…………願わくば、涼宮さんと御幸せに…………」

もっと顔を近付けろ!何言ってるか聞こえねぇよ!
手に力を入れろ!持ちにくくって仕方ねぇ。
ちくしょう、前が見えやしねぇ。
古泉、てめぇこんなとこで勝手にくたばっていいと思ってんのか。
お前にはまだすることがあるだろうが。できることがあるだろうが。
それを何か、全部放りだして、勝手に俺に押し付けて、自分だけ先に行っちまうってのか。
そんな無茶苦茶、許されると思ってんのか。

おい。
おい、古泉。

おい!

「おい」


【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】

535「つまらない話ですよ」と僕は言う ◆olM0sKt.GA:2010/01/28(木) 00:33:28 ID:6c.4sOUE0
【D-3/道路/一日目・日中】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、両足に擦過傷
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2(食料一食分消費)
      カノン(6/6)@キノの旅 、カノン予備弾×24、かなめのハリセン@フルメタル・パニック!、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱、発信履歴のメモ
[思考・状況]
 基本:この事態を解決できる方法を見つける。
 1:………………………………………………。

536 ◆olM0sKt.GA:2010/01/28(木) 00:34:15 ID:6c.4sOUE0
以上で投下終了です。支援ありがとうございました。
仮投下の分はお手数ですがどなたか代理投下をおねがいします……

537名無しさん:2010/01/28(木) 00:36:36 ID:o1pO4QBw0
代理投下いきます

538本スレ>>144差し替え ◆UcWYhusQhw:2010/02/21(日) 00:39:16 ID:/NofkREs0
さてと……黒子ちゃんにはちょっと疑われてる……かな?
小さい割に頭がいい子だけど。
坊主は気づいてないだろう。見た所平凡な少年だ。
ティーちゃんは読めん。無口な割に厳しい事を言う子にしか見えないな。
鮮花ちゃんは…………まぁいつも通りだな。

まあ、ばれてもそんなに支障は無い事ではあるけれども……まぁ言う必要も無い。

そう思いながら、ポケットに隠してあるモノを触り、思う。

正直、隠してる事はある。けどまあ大した事でもない。

気付いたのは土御門と会って少し経ってから。
見つけたのは偶然。
沢山あるジュースの中に混じっていたコレ。
恐らくカモフラージュでもされてたんだろうか。
今じゃ珍しいポケベルのような機械。

俺はそれ見て、特に何にも思わなかった。
まだその時は何も無かったのだから。

そして、鮮花ちゃんと会う直後ぐらいにメッセージがきた。
誰からも解らずに一つのメッセージが。

「摩天楼に行け」

示された言葉一つ。
とはいえ、鵜呑みする訳が無い。
怪しすぎて、話にならん。
摩天楼に何があるかわからないし、罠の可能性だってある。
誰から送られてきた訳でも無いし、それで行動に移せというのも厳しい。
だけど、鮮花ちゃんに会ってから、行動するに当たっての情報がある。

彼女は摩天楼から着たという。
聞いたところによると摩天楼には俺が警戒するような要素は無かった。

だから、まあその時行く事も視野には置いておいた。
んで、機会があったから鮮花ちゃんにそう提案したわけ。

…………なんで土御門に隠してたって?
言う必要も無いものだろう。
これがあったからって別に行動方針が変わる訳じゃない。
何より、あいつも俺に隠し事をしていた。
なら、こっちも何か隠し事をするのは別に悪く無いだろう。
もしあいつが話せば、こっちも手札を切るつもりで話すつもりでいた。

でもまあ、結果的にあいつは話す間も無く死んだ。

それだけの話。


まあ、それで鮮花ちゃんを言いくるめて、摩天楼へ。
元々武装強化もしたかったし、それができる可能性といえば摩天楼か警察署。
武装強化だけであるなら……早い話が警察署の方が最も得策だろう。
武器の管理庫ぐらいは大きさによるが、あるはずだ。
わざわざ何十階、何百もある部屋があるマンションを漁るよりよっぽどいい。
もし無かったとしても、それは徒労にはならないだろう。
だけど、そのメッセージを確認したいから摩天楼を選択した。
鮮花ちゃんに行った理由はまあそれも事実なのでそのまま。

539本スレ>>144差し替え ◆UcWYhusQhw:2010/02/21(日) 00:39:49 ID:/NofkREs0
それで、摩天楼へ。


……そして、結果的に見つかった銃。
これは武装を欲しがっていた俺に対するメッセージなのだろうか。
……その可能性は低いとは思うものの、とはいえ他に発見など無かった。
欲を言えばもっと探したかったが…………まあ仕方ない。
黒子ちゃん達と合流した以上我を張る訳にも行かなかったしな。

とはいえ、不可解なのも事実だ。
たかが銃だけの為にメッセージを送る必要も無い。
それに、わざわざこの言葉を残したってことはよっぽどだろう。
いけなかった場所に何かある…………? それともいる…………?

しかし、何故こんなものを俺に。
………………いや、俺だからか。
他にありえるとするならば、宗介辺りしか思い浮かばない。それか死んだ土御門か。
理由は簡単だ。
大多数に知られては困るんじゃないかなと俺は思う。
誰が送ったか解らない、けど身元不明の時点でありえるのはキツネヤローぐらいだ。
もしくは、その近縁の者か……まあ、そこら辺だろう。
他の一般、そうだな例えばかなめちゃんなら仲間にばらすかもしれない。
でもそれじゃあ、駄目だ。

多分それ以降のメッセージは来ないだろう。

あくまでその支給した者に教えたいならば。
集団でそのアイテムの情報が公になれば、きっともう意味が無い。
主催の者自ら、明らかにするようなものを明らかになっているのに送る訳がないからな。

つまりはそれを隠し通せるような人間で無ければならないって事。
そして、それが俺だった。

で、何故そんな情報を俺にくれる?
考えられるのはいくつか。

あのキツネヤローはこの殺し合いを一篇の物語といっていた。
別々の世界の物語を紡ぎ合わせて一篇の物語にするという。
そして、あいつ自身はあくまで舞台装置といった。
しかし、舞台装置が、何もしないという訳じゃないだろう。
一篇の物語を面白くするなら、それなりに工夫をするはずだ。
そう、なにか手を加えたり……とかな。
まあ、つまりだ面白くする為の手段と考えるのも一考だと思う。
それ以外の意図は俺には思いつかん。

じゃあ、それに対して俺に何の役割を望む?

540本スレ>>144差し替え ◆UcWYhusQhw:2010/02/21(日) 00:40:24 ID:/NofkREs0
単なる推論だが、このメッセージに拘束力は無いと思う。
ゆえにそのメッセージに従うかは俺の自由、判断に任されるだろう。
それに、脱出を望むならば従いすぎるとかえって思う壺だ。
奴は優勝を望んでいる。ならば従いすぎると待ってるのは優勝の道しかなくなる。
………………まあ、最悪の場合優勝を目指すのに抵抗は無いが。あくまで最悪の場合だが。

だけど、まあ、奴が送るメッセージ次第によって俺はどんな役割でも押し付けられる。

例えば、有益なメッセージを誰かに渡す為のメッセンジャーにもなれる。
例えば、俺に何らかの行動を起こすように促すという内容のメッセージによって、俺は奴の駒にもなる。
例えば、逆に仲間の腹の内を聞き出すように促すメッセージならば、スパイにもなる。

色々な役割があるという事だ。
だけどまあ、奴の言う通りのなるようなメッセージならば、それなりの対価がある可能性もある。
例えば先程手に入れた銃の様に。

だが、あくまでそのメッセージを受けるかは俺の自由。
俺の判断に任される。

つまり、だ。

俺は奴から送られてくるメッセージを選び、それを行うかどうかを判断し、行動しなければならない。

情報や行動の選択。
それによって開けてくる道が随分と違う。
基本的には俺の行動方針に大きな動きさせるようなのは無い。
……が、そのメッセージにおいては行動を起こす必要がある可能性はある。
どのくらいの頻度で来るかわからない。
罠の可能性だってありえる。

ならば。

俺は、その度に重要な決断をし、選び取らなければならない。

そういうことだ。

難儀なモノを押し付けられたが、まあそれが結果的にプラスになればいい。

仲間も増えた所だし…………さて、気を引き締めて頑張らないとな。

己の生還の為に。

嘘を吐きながら、俺しか知らない真実を隠し通す。


【C-5/北東/1日目・日中】


【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ、、復讐心、ホヴィーの運転席に乗車中
[装備]:エアガン(12/12)、ウィンチェスター M94(7/7)@現実、ホヴィー@キノの旅
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋、予備弾28弾、ママチャリ@ママチャリ メッセージ受信機
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサとの合流を目指す。
1:ホヴィーで飛行場へ向かい、鮮花に銃を教える。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:ステイルとその同行者に復讐する。
5:メリッサ・マオの仇も取る。
6:鮮花に罪悪感、どこか哀しい 。
7:メッセージを待つ。それを隠し通す。
[備考]
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。
※最初に送られてきたメッセージは「摩天楼へ行け」です

541 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:00:23 ID:tQKMQlq20
また規制をくらっただ……
というわけで、予約中の二人をこちらに投下します。

542零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:01:34 ID:tQKMQlq20
 【零】


 「鏡に映したように同一でありながら逆反対であった『あいつ』と俺との絶対とも言える唯一の違い――
  それは『あいつ』がどうしようもなく救えないほど『優しかった』ことに尽きるだろう。
  『あいつ』はその優しさゆえに、自身の『弱さ』を許せなかった――つまりはそういうことだ。
  だから『あいつ』は孤独にならざるをえない。
  『あいつ』の間違い、『あいつ』の間抜けは、その『優しさ』を他人にまで適用したことだ。
  素直にてめえだけを愛していればそれでよかったのにな。
  無論俺が言うまでもないように『優しさ』なんてのは利点でも長所でもなんでもない――
  むしろ生物としてはどうしようもねえ『欠陥』だ。それは生命活動を脅かすだけでなく進化をすらも阻害する。
  それはもう生命ではなく単純な機構の無機物みてえなもんだ。とてもとても、生き物だなんて大それたことは言えない。
  だから俺は『あいつ』のことをこう呼んだ――『欠陥製品』と」


 【0】


 「対して――きみは全然優しくなんかない。優しさのかけらも持ち合わせていない、それがきみだ。
  だがきみはその『優しくない』という、自身の『強さ』がどうしても許せない――
  孤独でもまるで平気であるという自身の『強さ』がどうしても許すことができない。
  優しくないってのはつまり、優しくされなくてもいいってことだからね。
  あらゆる他者を友人としても家族としても必要としないきみを、どうして人間だなどと言える?
  生物ってのはそもそも群体で生きるからこその生物だ。
  独立して生きるものはその定義から外れざるを得ない、落とされざるを得ない、生物として『失格』だ。
  こいつはとんだお笑い種だね。きみと『ぼく』は対極でありながらも――出てくる結果は同じだっていうんだから。
  まったく同じ、同一だ。辿るルートが違うだけで出発点も目的地も同じ――実に滑稽。
  きみは肉体を殺し『ぼく』は精神を殺す。他人どころか自身をすらも生かさない、なにもかも絶対的に生かさない。
  生物の『生』の字がここまでそぐわない人外物体にして障害物体。
  だから『ぼく』はきみのことをこう呼んだのさ――『人間失格』ってね」


 ◇ ◇ ◇

543零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:02:37 ID:tQKMQlq20
 【壱】


 ■《戯言遣い》からの出題
 「零崎人識が死んだそうなんですが……どう思います?」


 【1】


 その時間、テレビをつけてみると決まって陽気な音楽が流れてくる。正午とはそんな時刻だった。
 人によっては食事を取ったり休憩を挟んだりする一種の節目でもあるし、人によってはそろそろ起きようかなという目安でもある。
 では今回の登場人物、涼宮ハルヒと、彼女から『いー』と呼ばれる戯言遣いの少年にとってはどうかというと、吸収と把握の時間だった。

 知識の吸収。
 現状の把握。

 誰が脱落し誰が残ったのか、たった一つの椅子を巡る上で競争相手はいかほどに残っているのか、全体像を知る唯一の機会。
 人類最悪の独り言はちょっとした添え物、オードブルにもならないハッピーセットのおまけ的な扱いと言える。
 メインはやはり、誰にとっても脱落者の読み上げだった。境遇を同じくする縁者が数多くいるこの状況、ここだけは聞き流せない。

 涼宮ハルヒは、それを心して聞いた。
 結果、戯言遣いを置いて一人別の場所に移動してしまった。
 結果を受けて、一人になりたくなったのだろう。

 一人になってしまった戯言遣いはというと、涼宮ハルヒを追うこともなく劇場のスクリーンに目をやっていた。
 劇場には、地図が表示されている。戯言遣いが滞在している世界の全体図、極めて小さな世界地図だった。

 時計の針が12の数字を回る頃、地図上の【A-6】の座標が黒く染まる瞬間を、戯言遣いはしっかと目に焼きつけた。
 戯言遣いはここ、映画館でスクリーンに表示される地図を見つけて以降、とある疑問を胸に抱き続けていた。
 今、【A-6】の座標が黒く染まったことで、その疑問に対する一種の解答が提示されたわけだが、しかしここでまた別の疑問が生じる。

「結局これは、動画だったのか静止画だったのか……それともまた、ぼくのまったく知らない技術ってことなのかな」

 それは地味ではあるが、地味であるがゆえに、高等すぎる技術であるとも取れた。
 フィルムという構造を無視、あるいは超越した完全リアルタイム更新。
 ER3システムの端くれであるところの戯言遣いが疑問に思うだけの、限りなく微妙な辻褄の合わなさ。
 それは考えたところで詮なきことなのかもしれないが、しかしどうだろう、ここで切って捨て置くべき問題だろうか。

 もうすぐ、戯言遣いは映画館を発つ。
 そうなれば、この謎の地図とも縁切りになるのだろう。
 つまり考える機会は今回のみとなるわけだが、戯言遣いはここで考えるのはやめておくことにした。

 単純に、時間がもったいなかった。
 メインはやはり、脱落者の読み上げ。
 まさかの人物がこの競争より脱落した。
 事の重大さはそちらのほうが重い。

 ゆえに戯言遣いは、シートに深く腰を埋め、シアターの天井を仰ぎながら頭を抱えるのだった。


 ◇ ◇ ◇

544零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:03:17 ID:tQKMQlq20
 【弐】


 ■《殺人鬼》――零崎双識の答え
 「なんだって!? おいおい、そいつはまたとんでもない話を持ってきたものじゃないか。
  いや、皆まで言わなくてもいい。それが冗談にしろジョークにしろ、口にした時点できみは『不合格』だ。
  しかしそこで早まってはならない。落ち着け双識。これは私に対しての、『早まってはならない』だよ。
  たとえばきみが子荻ちゃんのような可愛らしい女子中学生で、私のメル友になってくれるような萌えっ子だとしよう。
  『合格』だ。それは一切の躊躇も考慮もなく百点満点『合格』を言い渡せるほどの逸材だ。わーい、素晴らしい!
  とまあ試験の合否はともかくとして、この問答には零崎が長兄であるところの私、零崎双識として答えるべきだろう。
  零崎人識といえば私の不出来な弟でね。いつになっても放浪癖が抜けない上に、これが性悪で小生意気な奴なのさ。
  特に私が遺憾に堪えないのはファッションセンスだな。聞いておくれよ。顔面に刺青だよ? 顔面に、刺青。
  いやいやそれはいったいどこのチンピラなのさ。まったく親からもらった身体をなんだと思っているのか。
  その上アクセサリーの趣味も悪い。耳にはつける飾り物といえば普通はなにが思い浮かぶ?
  当然、ピアスかイヤリングだろう。ところがどっこい、人識くんは携帯ストラップをつけるのさ。なぜか!
  本人はあれで格好いいつもりなのかねえ。いや格好いいつもりなんだろう。だからこそ、呆れて物が言えない。
  ああいや、すまんすまん。これは私個人の愚痴であって、別に家族仲が悪いというわけではないんだ。
  なにしろ――零崎。私たち家族には血の繋がりがなく、その代わり流血で繋がっている。
  零崎人識が死んだ。人識くんが死んだ、ねえ……しかしピンとこないな。兄である私がピンとこないとはおかしな話だ。
  おっと、気を悪くしないでくれよ。別にきみの言うことを疑っているというわけではないんだ。
  私は弟が簡単に死ぬようなタマじゃないなんてお決まりの妄言を吐くつもりもなければ事実を否定したりもしない。
  ただ問いたいのは信憑性だな。きみはどうやって人識の死亡を知った? 死体は確認したのかい?
  とと、質問される側が逆に質問してしまっては意味がないな。失敬、きみが女子中学生かと思うとつい興奮して。
  まあ、でも、そうだな……答えなんてわかりきっちゃいるんだけどねえ。零崎を始める以外に――なにがあるってのさ」

 ■《戯言遣い》のコメント
 「はぁ……ところであなた、どちらさまですか?」


 【2】


 朝比奈みくる。

 北高の二年生であり、涼宮ハルヒの上級生にあたる。
 彼女曰く、SOS団のマスコットキャラクター。とても可愛らしい少女ということだ。

 戯言遣いは特に、メイド服が似合うという部分にいたく興味を惹かれた。
 部室ではメイド服でいることも多く、彼女の淹れるお茶は極上だと聞いてさらに心揺さぶられた。
 しかし悲しいかな、女子高生。同じメイドといえば、鴉の濡れ羽島で出会った年上の魅力漂う三姉妹にはかなうまい。

 それはそれ。これはこれ。

 朝比奈みくるのメイド服姿はぜひこの目で拝んでおきたかったと、戯言遣いは落胆するほかなかった。
 欲をいえば、典型的な『黙っていれば美人』タイプの涼宮ハルヒにも、そういった一面が欲しかった。

 欲は内に留めておくに限る。

 本題。
 朝比奈みくるの名前が、先の放送で脱落者として読み上げられた。
 人類最悪を名乗る狐面の男、西東天の口から、十一人の内の一人としてさらりと告げられた。

545零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:04:03 ID:tQKMQlq20
 その結果、涼宮ハルヒは戯言遣いに一人になりたいと弱音を零し(実際はもっと気丈な台詞だったが)、
 二人で行動していた団長と平団員(仮)は、それぞれ別々に、放送後の精算を済ませることとなったのだ。

 長門有希に続き、朝比奈みくる。
 SOS団の団員が、二人続けての脱落。
 それ自体はどうでもいい。
 戯言遣いにとって、二人はその他でしかない。

 戯言遣いが懸念するのは、涼宮ハルヒの動向である。
 十二時間という短いスパンで縁者を二人も亡くした他称神は、事態をどう運ぶのだろうか。
 長門有希のときは、落ち込むばかりだった。
 落ち込んだ結果、一人の少女が死んでしまったが、それは涼宮ハルヒのみが要因となったわけではない。

 しばらく行動を共にしてわかったことだが、涼宮ハルヒは破天荒なようでいてその実かなりの現実主義者でもある。
 虚構を虚構と捉え、真実を真実と断定するだけの確か目を持っている。死は死、別れは別れと、割り切れるほどに。
 だからこそ涼宮ハルヒは、長門有希の退場――死亡を否定しなかった。縁者だからこそ、否定しなかったのだろう。

 朝比奈みくるもおそらく、同様の結果となるに違いない。
 この場合の同様の結果とはつまり、どうにもならないということだ。
 彼女は朝比奈みくるの死を受け止め、前に進む。
 方針も変わらず、方向転換もしない。
 しいて言えば、プラス一人分の悲しみを背負うだけ。
 それが涼宮ハルヒという少女なのだ。
 あくまでも、戯言遣い個人の見立てではあるのだが。

「となると気をつけるべきは、彼女への対応か……今回は穏便に、神経を逆なでないよう注意する必要があるな」

 今回、戯言遣いと涼宮ハルヒ以外に登場人物は存在しない。
 ので、あのような蘇りも起こりえないと仮定できる。
 ともなれば、戯言遣いが特に戯言を弄する場面でもないということ。
 このまま無難に流れよう。ページを捲る手を止めてはならない。

 しかしそれは――脱落者が朝比奈みくる一人だった場合の話だ。

 前回は、長門有希一人だった。
 厳密には甲賀弦之介という名も物語に関わってきたりなどしたのだが、あの少女のような第三者はこの場にはいないため割愛する。
 今回名を呼ばれた十一名の中には、涼宮ハルヒの縁者だけでなく、戯言遣いの縁者も含まれていた。

 問題はそこ。
 戯言遣いにとってはまさかの展開。
 予想外のところで足止めを食らうことになろうとは。

「ああ、いやまあでも、こういうのこそ……って感じなんだろうな」

 戯言遣いは、あと一時間と数十分ほどは変わらないであろうスクリーン上の地図を眺めつつ、一人ごちた。

「ホント、笑えない傑作だよ」


 ◇ ◇ ◇

546零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:04:52 ID:tQKMQlq20
 【参】


 ■《殺人鬼》――無桐伊織の答え
 「いやいや、はたしてそれはどうなんでしょうね。だって人識くんってば、健康優良児そのものでしたよ?
  大きな病気にかかってたって話も聞きませんし、まさか不注意で車に轢かれちゃうようなお間抜けさんでもないでしょ。
  そういや、これは学校の授業で習ったことなんですけどね。人間の死因って、悪性新生物が一番多いらしいです。
  要するに、ガンですよね。あとは心疾患とか脳血管疾患とか。いずれにしろ健康が大事って話になりますか。
  いやまあ、家族が揃って皆殺しにされたり、殺人鬼だとか殺し屋だとかいう人と関わった後となっちゃ、信じられませんけど。
  世の中ではもっとこう、『殺し』が渦巻いている感じがするんですよね。病死とか老衰とか、比べりゃ超健全ですよ。
  ……ん。あれれ。ああ、そうかそうか。人識くん、別に病気や事故で死んだってわけでもないんですか。
  もしかして、誰かに殺された? まあ、零崎ですからね。零崎単位で考えれば、死因なんて他殺十割でしょうし。
  はぁ。いやまあ、しかし……うなー。ですよ。人識くんがいなかったら、誰が伊織ちゃんの世話をしてくれるっていうんです?
  食事とかトイレとかお風呂とか、家族以外の誰が、可愛い可愛い女子高生のプライベート事情に介入できるっていうんでしょう。
  わたしはもう――人識くんなしでは生きられない身体だっていうのに! 性的な意味で!
  なんて、本人いたらどつかれるんでしょうけど。ああ、そうでしたそうでした。人識くん死亡についてでしたね。
  どう思います? って訊かれてもまあ、二、三思いあたるふしがあるがないわけでもないんですけど……。
  たぶん人識くん、あの赤い人との約束を守ったままなんじゃないですか? それくらいで殺されるような人じゃないですけど。
  でも納得はできますよ。あの赤い人か、もしくはあの人と同じくらい強い人が相手なら、人識くんでも墜とされちゃうでしょ。
  ああ、今のは別に性的な意味でとかじゃないですよ。女子高生は年がら年中思春期だとか淡い幻想抱かないでくださいね。
  はあ、それにしてもそうですか。そういう事態になりましたか。人識くんの家族になって幾数ヶ月、いよいよですか。
  未だに無桐伊織なわたしですけど、それでも零崎には違いありませんし……そうですね。そうなんでしょうね。
  お兄ちゃん……双識さんだったらどうするかなあ。うふふ……いえね、わかりきっちゃいるんですけど、想像するのが楽しくって。
  ところで、人識くんを殺した人ってどこの誰なんですか? わたしも約束は守り中なんですけど――零崎を開始してみたくなって」

 ■《戯言遣い》のコメント
 「はぁ……ところであなたも、どちらさまですか?」


 【3】


 零崎人識。

 それが今回の放送で脱落を告げられた、戯言遣いの縁者にあたる人物である。

 縁者。
 縁ある者。
 縁が合った者。

 零崎一賊の申し子にして、零崎の中の零崎。
 零崎同士の近親相姦によって生まれた、血統書つきの殺人鬼。
 『殺し名』七名、『呪い名』六名を見ても、例外中の例外であり規格外中の規格外。

 顔面刺青。
 ナイフ遣い。
 殺人鬼。
 人間失格。
 背が低い。
 仲良し。
 ジェイルオルタナティブ。

547零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:05:41 ID:tQKMQlq20
 吐き気を催すほどに似ていて。
 己とは対照的なまでに笑い、喋り。
 まるで鏡写しのような不愉快さが。

 戯言遣いにとっての零崎人識――なのだろう。

 零崎一賊唯一の――生き残りだったか。
 橙色の暴力によって殲滅された、零崎一賊の。
 いや、実際は唯一ではない。妹がいるんだったか。
 詳しくは、戯言遣いの知るところではないのだが。
 零崎人識と玖渚友の関係も、知るところではない。

「……っていうか、いたのかおまえ」

 放送を聞いた戯言遣いがまず得たものは、悲しみではなく驚きだった。
 そもそも配られた名簿の中に、零崎人識の名前は刻まれていない。
 名前を伏せられた十名の内の一人が、零崎人識だったわけだ。
 十名の中に自分の知る人物がいないとまでは思わなかったが、それでも。

 まさか、だった。

 この椅子取りゲームに零崎人識が存在したということもそうだが、
 その零崎人識が戯言遣いとなんら縁を合わせることなく退場したということが――まさかだった。

 零崎人識の名前が耳に飛び込んできたときには、びっくりするあまり危うくずっこけてしまいそうになった。
 同じく朝比奈みくるの名前を耳にした涼宮ハルヒの手前、さすがにそのような失態は起こさなかったが。
 それでもやはり、まさかだ。まさかあの人類失格にして二度も戯言遣いの窮地を救ってみせた零崎人識が――死ぬなんて。

「……いや、実はそれほどまさかって事態でもないのかな」

 考えてみれば――零崎人識という存在はそうそう、戯言遣いの物語には関与できないようになっているのだ。
 そうできているのだ。
 そういう風に配置されたキャラクターなのだ。
 だから今回の一件にしてみれば、あいつは脇役で、こっちは主役だった、そういうことなのかもしれない。

 それが、わずか十二時間。
 早々と言える期間で、脱落してしまった。
 こんな番外編のような物語の端っこで、死んだ。
 それは零崎らしい最期と、人によっては評価するのかもしれない。
 けれど、戯言遣いには――

548零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:06:19 ID:tQKMQlq20
「本来無関係なはずのセリヌンティウスが、一番酷い目にあってしまったってことなのか……」

 戯言かなぁ。
 そう呟いた。

 ただ――
 戯言で済ませるわけには、いかないのかもしれない。
 そんな風に、考えてもみる。
 考えてしまう。

 ここに零崎人識がいたということは確かな事実として、戯言遣いはその物語に関与することができなかった。
 同様に、戯言遣いが涼宮ハルヒを中心として描いている物語にも、零崎人識は関与することができなかった。

 この結果ははたして、全体の物語としては――どうだったのだろうか?

 戯言遣いの物語でもなく、零崎人識の物語でもなく、全体の物語。
 人類最悪を含めた現段階での登場人物六十一名、全員を主役と考えた生き残りの物語。
 そういった大きな観点でもって、戯言遣いと零崎人識の接点が皆無だったという結果は、幸か不幸か――という問題。

 戯言遣いは零崎人識の代用品であり、代替品だ。
 本来なら、涼宮ハルヒの隣にいたのは戯言遣いではなく零崎人識のほうだったのかもしれない。
 傍観者と殺人鬼のコンタクトは、赤き征裁と橙なる種に掻き回されたあの一件以来になるはずだったが――それもなかった。

「ここでも一度、誰かに殺されかけておくべきだったのかもしれない。朧ちゃんみたいなのじゃなく、本気でぼくを殺しにかかるような相手に」

 出会えなかったのが、戯言遣いの失敗だったのかもしれない。
 欠陥製品は人類失格に助けてもらうべきだったのかもしれない。
 そうしなければ、縁が合わなかっただろうから。
 無理矢理にでも、縁を合わせておくべきだったのかもしれない。

 同じ舞台にいながら、結局どちらがどちらと顔を合わせることもなく、また間接的にも関与することなく、欠け落ちた。
 浅く考えればそれまでの縁だったということなのかもしれないが、深く考えれば致命傷のようにも思えてしまう。

 致命傷――目には見えない、この段階では痛みも苦しみも伴わない、恐ろしい傷だった。
 後々、戯言遣いは後悔するのかもしれない。または、後悔しないのかもしれない。
 もしくは、本当は零崎人識は死んでいないという可能性だって零ではないのかも。

「狐さんだって、一度は勘違いしていたはずだしな……今回も、ってことはないかな」

 なんにせよ。
 この物語において、戯言遣いと零崎人識の縁が合うことはなかった。
 この結果が物語の全体像にどう影響するのかなど、一登場人物の戯言遣いにはわからないし、読み手にすぎない人類最悪もまた同じくだ。

 要は、激流に身を任せるしかない。
 本当に、笑えない傑作だ。
 戯言遣いは笑みなど一片も纏わずに、帰ってきた涼宮ハルヒを出迎えるのだった。


 ◇ ◇ ◇

549零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:07:32 ID:tQKMQlq20
 【肆】


 ■《殺し屋》――匂宮出夢の答え
 「んっんー? 零崎人識が死んだ? そいつはまた――おかしな話じゃねーかよ、お兄さん。
  あんたは僕の妹の理澄から、こう聞いているはずだぜ――零崎人識はとっくのとうに死んでるってな。
  いや、でも確かその後に、僕は言ったんだっけ――零崎人識は生きているぞって。ぎゃはっ。言った言った。
  こいつぁ傑作だ。二人で一人、一人で二人であるところの匂宮兄妹がそれぞれ別のことを言ってやがる。
  調査(フィールドワーク)担当の理澄は死んでいるといい、殺戮(キリングフィールド)担当の僕は生きていると言う。
  はたしてこれ、どっちが正解なのかねぇ。って、お兄さんはだから正解を知ってるんだったな! ぎゃはははは!
  うん? なによその疑いの眼差しは。お兄さん、僕を誰だと思ってるのさ。僕を誰だと思っちゃってるわけ?
  殺戮奇術集団、匂宮雑技団が団員№18、第十三期イクスパーラメントの功罪の仔(バイプロダクト)、匂宮出夢だぜ?
  標的が無関係でも関係なく標的が無抵抗でも抵抗なく標的が没交渉でも交渉なく、貪るように喰らい尽くす。
  殺し屋の中の殺し屋、人食い(マンイーター)の出夢なんだぜ? その僕が零崎人識を語るんだ――正解は正解だよ。
  あ、っていうかお兄さんは別に、人識の生死が信じられるかどうかってことを訊いているわけじゃないのかな?
  これが単なる意見問答だっていうんなら、そうだな。僕は殺し屋として、こう答えておくべきなのかもしれないねぇ。
  ――零崎人識が誰かに殺されたっていうんなら、匂宮出夢はその誰かを殺す。
  ぎゃはっ。なんつー顔してんだよお兄さん。ああ、そっかそっか。お兄さんは僕と人識の関係とか知らなかったもんな。
  まああいつとは結構古い仲でさ。それなりに親しかったんだぜ。どれくらいそれなりかってーと、べろちゅーするぐらい。
  裸で絡み合ったりもしたっけな。もちろんベッドで。僕ってこんなナリだから、いろいろお世話されちゃったりもしてたんだぜ?
  愛ゆえに殺し合って候、みたいな!? 僕としちゃ、ぜろりんが僕以外の奴に殺されるなんて信じたくもねえけど!
  勘違いするなよ。おまえを殺すのは僕だ――簡単に言やあ、そういう関係? 違う違う、愛し合ってたよ僕たち。
  どうした? 笑えよベジータ。ここは笑うとこだぜ。ぎゃは、ぎゃははははははははははははははははははははははははっ!」

 ■《戯言遣い》のコメント
 「はぁ……ところでそういうきみも死んだはずじゃ?」


 【4】


「ねぇハルヒちゃん。ちょっと話したいことがあるんだけど、聞いてくれないかな?」
「なによ、改まって」
「さっきの放送で、ぼくの友達の名前が呼ばれたんだ」
「えっ……あんた、友達なんていたの」
「その反応はちょっと酷すぎると思うんだけど」
「思わず本音が零れちゃったのよ。で、いったい誰?」
「零崎人識って奴。ぼくの親友でさ。同じ釜の飯を食った仲なんだぜ」
「へー」
「なんていうのかな、マブダチってーの? 拳と拳で語り合う関係、みたいな」
「露骨に嘘くさいわね……それよりもさ、あの放送って不親切だと思わない?」
「狐さん……人類最悪の放送が?」
「名簿に載ってない人の名前が呼ばれたけど、あれ放送で聞いただけじゃどういう字を書くかわからないじゃない」
「ああ……確かにそうだね」
「ゼロザキヒトシキだっけ? あんたの友達って、どういう字を書くの?」
「漢数字の零に長崎の崎、人間の人に良識の識で、零崎人識だよ」
「あからさまに偽名っぽい名前よね。あんたみたいにあだ名とかじゃないわけ?」
「さあ……そういえば、汀目俊希なんて呼ばれてた時代もあったって聞くな」
「そっちもそっちで、漫画かなにかに出てきそう」

550零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:08:44 ID:tQKMQlq20
「そういやハルヒちゃん。今更でなんだけど、零崎って名前には覚えはない?」
「あるわけないでしょ、そんなおかしな名前」
「だよね。ふむ、そうか。まあ、それがあたりまえか……」
「なにぶつぶつ言ってんのよ。友達っていうんなら、もうちょっと悲しむなりなんなりしたらどうなの?」
「ああ、いや。ぼくとあいつはそういうのじゃないんだよ。泣くよりかはそうだな、うぇーいって言ってひっくり返るほうが正しい」
「あんたってつくづく変な奴よね」
「その侮蔑の眼差しをぜひとも零崎の奴にぶつけてやってほしかったよ」

「で、なに? あたしにそれを話してどうしようっての? 傷心中だから慰めてほしいとでも言いたいわけ?」
「それはハルヒちゃんらしからぬジョークだね。もしぼくが、『うん、慰めて慰めて!』なんて言ったらどうするのさ」
「とりあえずぶん殴って捨てていくわ」
「その正直さにはある種の清々しさを覚えるよ」
「まったく……揚げ足取りはいいから、さっさと本題に進みなさいよね」
「じゃあ、そうさせてもらう。これは弱音なんだけど……ぼくはひょっとしたら、取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないだろうか」
「……唐突すぎてなにがなんだかわかんないんだけど。なに? それは零崎人識くんがなんか関係してるわけ?」
「まあ、そうだね。あいつは、そう――鏡みたいな奴でさ。ずっと見ていると気持ち悪くなるような、そんな存在だった」
「友達に対しての発言とは思えないわね……」
「ぼくとあいつは――そうだな。言ってしまえば、もう一人の自分ってところか。分身した片割れ、みたいな?」
「みたいなって言われても……分身なんてしないから、わかんないわよ」
「そりゃそうだ。ざっくばらんに、似たもの同士って認識で構わないよ」
「ふーん。だからこそ、悲しんだりもしないってことなのかしら?」
「え?」
「いーのそういう仕草って、想像できないし。少なくとも、自分がいなくなったからって悲しむようなタマには思えないわ」
「そりゃ、自分がいなくなったら誰だって悲しめないでしょ」
「半身みたいなのがいなくなったって話でしょ。でも、平然としてる。この冷血漢」
「そうは言うけどさ。ぼくがここで泣いたり嘆いたりしたら、あいつはきっとビビって生き返っちゃうと思うよ」
「……わかんないわね。結局、あんたにとっての零崎人識ってなんなわけ?」
「だから言ってるじゃないか。親友さ。メロスにとってのセリヌンティウスくらいにはね」

551零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:09:20 ID:tQKMQlq20
「……ま、いいけど。それで、取り返しのつかないことってのはなに? もっとわかりやすく言いなさい」
「ぼくはこの物語に、零崎がいることを知らなかった。知らないまま、あいつ会う機会を棒に振るってしまった」
「それが失敗だったって? そんなの、今更言ったところで――」
「でもよくよく考えれば、それはありえないんじゃないかと思うんだよ」
「はぁ?」
「ジェイルオルタナティブ――すべてのものには代わりが用意してある。ぼくがいなくても、あいつがいればいい」
「…………」
「逆にあいつがいなくても、ぼくがいればいい。だがどうだろう。ここには最初から、二人揃っていた。これじゃ代替えは効かない」
「……今回の話は特にわけわかんないわね」
「まあ聞いておくれよ。これが狐さんの語るように物語だっていうんなら――ぼくと零崎が同じ舞台に立っていたことには、やっぱり意味があると思うんだ」
「ねぇ、狐さんって誰のこと?」
「狐のお面を被っていたから狐さんさ」
「安直なネーミングセンスねぇ」
「人類最悪とどっこいどっこいだろ」
「はいはい。それで?」
「思うに、ぼくと零崎の縁はまだ切れたわけじゃない。あいつがどんな退場の仕方をしたかはしらないけれど、なにかしらの残滓が、きっとある」
「その零崎くんが、いーに向けてなにか残したってこと? 遺言とか遺品とか」
「さて、そこまでストレートなものではないと思うけど……でもやっぱり、この先ずっと意味のないままってことはないと思う」
「その自信はどこからくるのかしらねぇ」
「自信なんてないさ。あるのは信頼だよ」
「あんたには似合わないわね、その手の言葉」
「よくわかってるじゃないか」
「否定しておきなさいよ、そこは。っていうか、それをあたしに話してどうしたいわけ?」
「現状、ぼくと縁が合っているのはハルヒちゃん、きみだけだ。だからだよ」
「だから?」
「そう――だから」


「だからハルヒちゃん――きみにも覚えておいてもらいたいんだ。ぼくという欠陥製品の対に、零崎人識っていう人間失格がいたことを」


 ◇ ◇ ◇


 そして――

 戯言遣いと涼宮ハルヒは、劇場を出た。
 二人が脚としているサイドカーつきのバイクに乗り、次なる目的地として、温泉がある西へ向かおうとしていた。

「確認するよ。まずは温泉に寄って、その次に学校。進路はそれでいいね?」
「オッケーよ。そろそろあんたとの二人旅にも飽きてきたし、誰か別の人と出会いたいところでもあるんだけど……」
「ここでの出会いは危険も孕むってことを、ハルヒちゃんは理解しているのかな?」
「わかってるわよ、そのくらい。人を平和ボケした若者みたい言わないでくれる?」

 涼宮ハルヒはどこか不機嫌な様子だった。
 いつもどおりといえばいつもどおりなので、戯言遣いも特に言及はしない。

552零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:09:53 ID:tQKMQlq20
「この映画館を訪れることは……もうないかな」
「どうかしらね。そんなの、今後しだいでしょ」

 午前と午後の境目を過ごした映画館に別れを告げ、戯言遣いはバイクのエンジンをかける。
 出発の準備は整った。あとはこのまま、目的地に向けてサイドカーつきのバイクを走らせるだけ。
 放送が流れ、二人分の縁が途切れても、彼と彼女の物語にさしたる支障はなかった。
 いや――実際には支障はあったのかもしれないが、少なくとも現段階では、表に出ていない。
 後々の後悔など、後々に体感するからこそ後々の後悔となるのだ。

 今は。
 戯言遣いと涼宮ハルヒの二人で、温泉に向かう。

「さて、それじゃあ――殺して解して並べて揃えて晒しに行くとしますか」
「は? なにそれ」
「戯言だよ」



【E-4/映画館/一日目・日中】

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考・状況]
 基本:この世界よりの生還。
 1:次に温泉へと向かい、その次に学校へと向かって校庭に書かれた模様を確認する。
 2:放送で示唆された『徒党を組んでいる連中』を探し、合流する。
 3:↑の為に、地図にのっている施設を回ってみる。


【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、クロスボウ@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、22LR弾x20発、クロスボウの矢x20本、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[思考・状況]
 基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
 1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。
 2:↑の中で、いくつかの事柄を考え方針を定める。
 ├涼宮ハルヒの能力をどのように活用できるか観察し、考える。
 └玖渚友を探し出す方法を具体的に考える。
 3:一段落したら、世界の端を確認しに行く? もう今更どうでもいい?
 4:零崎人識との『縁』が残っていないかどうか探してみる。


 ◇ ◇ ◇

553零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:10:58 ID:tQKMQlq20
 【伍】


 ■《請負人》――哀川潤の答え
 「ふーん。
  それよりもさ、ここってなに? どういうシステムになってんの?
  なんか、いろんな奴がやたらめったら登場してるけどよ。こいつら全員、正規の登場人物じゃないんだろ?
  ああ、そういうあたしもそうだな。気に入らないことにあたしもそうなんだよな。
  ったく、このあたしを差し置いて物語を進めようとは、シナリオライターはどこの間抜けだ?
  んなもん、承太郎抜きでDIO倒しに行ったアヴドゥルみたいな話にしかならないぜ。盛り上がりに欠ける。
  でもまあ、あたしってばいろんな意味で規格外だから。ほら、主役は遅れてやってくるとも言うし。
  バランスとしてはちょうどいいのかもしれねえな。ライターは間抜けでも構成作家は優秀ってわけか。
  ふんふん。なるほど、わかってきたぜ。つまりあたしがこうやって問題解いてんのも、伏線なわけだ。
  たぶん、ここへの出演回数如何よって終盤登場する新キャラが決まる! みたいな仕組みなんだろ?
  あたしの情報網によると、なんだ、蒼崎橙子とかいうやつが今一番ポイント高いんだって? 目下のライバルはそいつか。
  こつこつ営業しているみたいでなんか癪に障るが、そうだな――そういうことなら、一つこんな話をしてやろう。
  これはいーたんには直接関係しない話だし、そっちの物語にもたぶん影響ない話なんだろうが、まあ、戯言だと思って聞いてくれ」


 ◇ ◇ ◇


 世界が灰色に染まっていた。

 空は暗灰色の雲に閉ざされ、切れ目のない平面的な空間がどこまでも広がり、周囲を陰で覆っている。
 雲の隙間から漏れる薄ぼんやりとした燐光だけが、世界を暗黒から救う唯一の照明だった。

 立ち並ぶビル群の中心に、青く光る巨人の姿が見られた。
 三十階建ての商業ビルよりも頭一つ高く、くすんだコバルトブルーの痩身は内部から光を放っている。
 輪郭がはっきりとせず、目鼻立ちといえるようなものもなく、目と口にあたる部分が暗くなっている他は、まるでのっぺら坊だ。

「なんだありゃ。ジブリ映画に出てきそうな化物だな」

 青く光る巨人は、緩慢な動作で腕を振り、周囲のビル群をなぎ倒している。
 咆哮も慟哭もない、ただの破壊音だけが響く様は、赤ん坊が積み木を崩す光景に似ていた。
 そんな様子を――灰色の世界に存在するには異彩すぎるほどの《赤》が、離れた場所にある交差点から眺めていた。

「――あれは我々が《神人》と呼称する存在です」

 巨人の破壊活動を見て怖じ気づきもしない《赤》に、一人のメイドが説明した。

「哀川潤さまですね」

 哀川潤と呼ばれた《赤》は、訝るようにメイドの姿を見やる。
 いつの間にかそこにいた存在に、しかし驚きを表に出すことはなかった。

「確かにあたしさまは哀川潤さまだが、そういうあんたはなにさまよ?」

 メイドに対して飄々とした態度で接する、哀川潤。
 一方のメイドも、従者が主人にそうするような教科書どおりの対応を取った。

554零崎人識の人間関係 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:11:54 ID:tQKMQlq20
「わたしはさまづけされるほどの者ではございません。見てのとおりのメイド――森園生と申します」

 名乗りを上げるメイド、森園生。そこで、哀川潤は合点がいく。

「ははん。なるほどなるほど――今回の依頼人はあんたで、今回の依頼は後ろのあれってわけだ」
「飲み込みが早いようで助かります。さすがは人類最強の請負人といったところでしょうか」
「おう、そのとおり。あたしは人類最強の請負人さ。けれども、後ろのあれはどう見たって人類とは呼べねえよな」

 人類最強はあくまでも人類における最強であり、非人類であるところの《神人》と強さを比べることはできない。
 もっとも、そんなことは森園生も哀川潤本人も知ったことではないという風だったが。

「おっしゃるとおりでございます。それを承知で、哀川さまのお力添えをいただきたく思いまして」
「おいこら。あたしを呼ぶなら苗字じゃなく名前で呼べ。あたしを苗字で呼ぶのは敵だけだ」
「失礼しました。では潤さま。改めてあなたさまに請け負っていただきたい仕事の説明をさせていただきます」

 そう言って、メイドは哀川潤により詳しい説明をした。
 神やら閉鎖空間やら涼宮ハルヒやら、哀川潤の知らない専門用語がたびたび飛び出したが、特に気にしなかった。
 請け負う依頼の内容は至極単純なのだから、その背景などどうでもいい。

「ふん――要はあの《神人》と遊んでろってことね」

 森園生が人類最強の請負人に期待することといったらやはり――人類最強。
 買いたいのは《神人》を撃退するための腕前であり、彼女は十分にその力を有していると言える。
 少なくとも、森園生――もしくは彼女が所属する組織は、そう判断しているようだった。

「いいね。四月バカがマジネタになるってのもよくある話だし、実は伏線でしたなんてご都合主義も大歓迎だ」
「なんの話でしょう?」
「他愛もない戯言さ」

 哀川潤は一笑して、暴れ狂う《神人》を睨みつける。

「この断続的な閉鎖空間が崩壊し切るまで――彼女の精神が安定するまで、潤さまにはご尽力いただくことになるかと思います」
「オッケーオッケー。今から本編への登場が楽しみだ。前哨戦の相手としちゃちょうどいい。張り切って伏線張ってやるよ」

 そうして、駆け出した。
 これは、本編(メイン)のための外伝(サブ)。
 語り継がれることはないが確かに存在する裏の物語。
 涼宮ハルヒが人知れず形成してしまった閉鎖空間に、今、死色の真紅が挑む。

 人類最強、哀川潤の激闘が始まった――!


 ◇ ◇ ◇


 「……ってのを考えたんだが、どうだ? 傑作だろ?」


 ■《戯言遣い》のコメント
 「エイプリルフールはもう終わりましたよ」

555 ◆LxH6hCs9JU:2010/04/02(金) 22:13:39 ID:tQKMQlq20
投下終了しました。
よろしければどなたか代理投下をお願いします。

556名無しさん:2010/04/05(月) 22:41:15 ID:lAejuusw0
さるさん食らいました。
>>550以降、どなたかヨロです。

557名無しさん:2010/04/05(月) 23:23:47 ID:3IcuX92c0
代理投下終了しました。

558 ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:49:58 ID:E.FeVn/Y0
規制中なので投下はこちらで。

では、ヴィルヘルミナ、逢坂大河、須藤晶穂、テッサ、インデックス、水前寺邦博、坂井悠二 以上7名の投下を開始します。

559CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:51:31 ID:E.FeVn/Y0
 【0】


−・−・・ −−−− −・−−− ・−・−− −・・− −−−・− ・−・・


 【1】


あなたは草原の中に立っている。
草原は広く暗い。
見上げればそこは星ひとつ瞬いていないただの漆黒で、真っ白な月が浮かんでいるだけだ。

草原には風が吹いている。
薄ら寒い風は長くのびた草とあなたの髪の毛を揺らす。

あなたは草原を当て所なく彷徨い始める。
草原はどこまで行っても草原のままで、あなたはどこにも辿りつくことができない。

声が聞こえたような気がする。
あなたは後ろを振り返る。するとそこにはいつの間にかに制服を着た少年が立っている。

”―― Kill You!”

少年は血に濡れたナイフをあなたに向けてそう言った。
そして、少年自身もまた血塗れであった。

”―― よくも!”

あなたは拳銃を構えようとする。しかし、身体は鉛のように重く、そうすることはできなかった。
少年は真っ赤な目であなたを睨みつけて叫ぶ。

”―― 人殺し!”

風が吹く。風がその声を四方八方へと運んでゆく。
あなたは人殺しだ。
運ばれた声はあらゆるところに届き、ほどなくしてあなたが人殺しだということは皆に知れ渡るだろう。


あなたは人殺しだ。


あなたは人を殺した。


あなたは人を殺してしまった。


だから、


あなたは人殺しだ。






 ■

560CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:52:01 ID:E.FeVn/Y0
薄暗い部屋。天井の木目。点いていない蛍光灯。少し埃っぽい空気。重たい布団。静まり返った空気。
荒い吐息。早鐘のように打つ鼓動。じっとり浮かび上がった汗。そして、うなじに張り付いた毛が気持ち悪い。
それは、つまり――

――夢。そうだと気づくのに、テレサ・テスタロッサは横になった布団の中で1分の時間を必要とした。



「……………………」

無言で布団を捲ると、テッサは上体を起こしシャツの袖で額に浮かんだ汗を拭った。
夢だと理解しても鼓動の高鳴りは簡単には治まってくれないらしい。
テッサは目を瞑り、一度深く息を吸い、そして吐いて、もう一度目を開いた。幾分か落ち着いたと、そんな気がする。

戸を閉じきった薄暗い部屋の中、テッサは枕元に手を伸ばし、腕時計をとって時間を確かめた。
時刻は短針が3を指し、長針が12より少し右に傾いたところだった。
起きる予定であった時間よりかはかなり早く、とはいえ寝なおすには少し足りない。そんな時間の頃である。
なにより、夢のせいで目が冴えてしまっている。汗に濡れた身体も気持ち悪く、また寝なおすという気は起きなかった。

「……………………」

悪夢だった。
この人類最悪による催しが始まってよりすぐ、草原の只中で吉井明久と出合ったあの時の夢だった。
しかし夢の内容は現実とは異なる。
あの時の彼はテッサに敵意を向けてはいなかったはずである。ましてや凶器など手にはしていなかった。

「………………人殺し」

果たしてそうなのだろうか。テッサはいつかの自問を繰り返す。
彼を助けることができたかもしれない。自分の取った行動は不適切なものだったのかもしれない。
同じことを、しかしあの時と今とではひとつ違うことがある。もうすでに吉井明久は死亡しているのだ。助けることはできない。

彼の級友である島田美波に件の話をした際、彼女はそのことを実に彼らしいと笑い話にしてくれた。
しかし、もう一度同じ話をした時、彼女はまたそう言ってくれるだろうか――いや、それはありえないだろう。
最早、吉井明久の存在は取り戻せない。
収束した結果はそれまでの過程にある情報を揺るがせないものへと固定してしまう。
テレサ・テスタロッサが吉井明久の死に関与しているという事実はこの先、揺るぐことはないのだ。
無論。そこにある意味は取りようにより変化するし、自己を弁護する論を導き出すのも難しくはないだろう。だがしかし、

”―― 人殺し!”

夢を見てしまったのだ。それはなにより、テッサ自身がその過去に罪悪感を抱いている証拠に他ならなかった。



たっぷりと5分は思考の中に沈んでいたか、テッサは喉が張り付くように渇いていることに気づくと布団から身体を出した。
鞄から水を取り出そうとし、しかしついでに顔も洗えるなら台所か洗面所がいいと膝を立て、何かに気づく。

「………………?」

それは、微かな女性の呻き声だったろうか?
油断をしていたかもしれない。今は、いつどこであろうが誰かに殺されるかもしれないという状況なのだ。
寝ている間に何かがあったのかもしれない。いや、それは現在も進行中なのかもしれない。

561CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:52:32 ID:E.FeVn/Y0
「インデ――……」

隣で寝ているインデックスに声をかけようとしてテッサはそれを中断した。
彼女の潜っている布団は寝息に合わせて軽く上下している。おそらくは心地よい夢の中なのであろう。
ならば下手に起こさない方が無難だと判断する。
もし襲撃者がいるのだとすれば、ここに誰かがいると気づかれるのはまずい。彼女を起こせば騒ぐ可能性がある。

再び枕元に手を伸ばし、テッサは脱ぎ捨てていた上着の下から拳銃を取り出した。
とても扱いやすいとは言えない重たいリボルバーを両手で握り、撃鉄をゆっくり起こして音を立てないように襖へと寄る。
耳を済ませる。だが何も聞こえてはこない。
もしかすればさっきのは気のせいだったのかもとテッサは思う。悪夢を見たせいで気が立っていたのかもしれない。

襖をゆっくりと引いて、顔だけを出して廊下を窺う。
一瞬、外の明るい日差しが目を刺したが、やはりこれといった変化はない。
右を見て左を見て、もう一度右を見て、胸元に構えた拳銃を下ろそうかとしたその時――

「………………!」

再び呻き声が聞こえた。間違いない、女性の声だ。誰とまでは特定できないが、確かに女性の呻き声だった。
拳銃を構えなおし、テッサは意を決して廊下へと出る。ミシリと板張りの床が音を鳴らし、緊張から熱い息が口から漏れた。
廊下の片側へと身を寄せ、一歩、二歩。少しずつ慎重に歩を進める。

テッサは決して戦闘が得意な方ではない。ならば、今あるアドバンテージを保持していなくてはならない。
おそらくはまだ相手に気づかれていないこと。そして一撃必殺の威力を持つ拳銃を手にしていること。
それを不意にしないよう、テッサは彼女なりに最大限の慎重さで廊下を先に進む。

ミシリとまた床が音を鳴らし、テッサは廊下の角へと辿りついた。
角の向こうから血の臭いが僅かに漂ってきている。
最早、非常事態であることは疑いようがない。

今度は選択を誤らないように、テッサは拳銃を強く握り締め、そして――――


 【2】

562CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:53:10 ID:E.FeVn/Y0
病院の広いロービーの端。
ここにはありそうで、しかし実際には普通、人の目には触れないであろう奇怪な赤色のオブジェが4つ並ぶ、その向こう側。
受付を待つ人の為に用意されたソファのひとつに、一見して男子の学生だとわかる二人が肩を揃えて座っていた。
片方が大きすぎてもう片方が小さく見えるというようなこのコンビは、小さい方が持つ携帯電話の画面を覗き込んでいる。

 【[本文]:死線の寝室 ―― 3323-7666   [差出人]:人類最悪】

表示されているのはたったそれだけで、たったそれだけの文字列が彼らにとっては非常に意味深であった。
果たして”死線の寝室”とは一体何なのか? 合わせて書かれている数列の意味とは?
これらを彼らはそのよく回る頭で検討し始める。
さて、彼らは一体どこから手をつけてゆくのだろうか? それはまず、こんなところからであった――



「――ではまず、我々が検討すべき事柄は”このメールの送り主は本当に人類最悪本人なのか?”だ」

ソファから立ち上がり人差し指を立てて問題を述べた大きい方――水前寺邦博の言葉に、小さい方の坂井悠二は驚いた。

「何を驚くことがあるのかね坂井クン?
 先ほど聞いた話によれば、君が所有している携帯電話には既に誰からか電話がかかってきたという事実があるではないか。
 つまり、その者が人類最悪と同一人物か仲間でもない限り、その携帯電話の番号を知っているものが他にいたということになる。
 ではその心はどこにあるか。おれは君が先刻見せてくれた交渉によってこの着想を得たのだがね?」

考える時間を与えるよう発言を止めた水前寺を前に、悠二はソファに座ったままなるほどと頷いた。
確かにこの携帯電話の番号を知る者がこの企みの主催者以外にいてもおかしくはないのだ。

「そう。我々に支給された物品についてはほぼ例外なく”元の持ち主”がいたのだと推測できる材料がある。
 先ほど、交渉により交換が成立したバギーと刀がよい例だな。どちらもワンオフ物故、個人の物であったと確定できる。
 まぁ、全ての支給品がそうかはともかくとして、その携帯電話も元々”誰かの物”であったと推定できるわけだ」

ふむ。と悠二は頷く。『シズのバギー』に『贄殿遮那』、どちらもこの世にひとつしかないはずのものだ。
そして悠二は支給品と名簿の名前の中に同じものがあると気付き、バギーに関心を寄せている人物をシズ本人だと看過した。
この携帯電話の名前は『湊啓太の携帯電話』といい、湊啓太という名前は名簿にはないが問題そのものは変わらない。
ちょっとした応用にてある程度の仮説が導き出されることになる。

「湊啓太と言ったかその携帯電話の持ち主は。いや、登録されている持ち主の名前はまた別だったようだが、
 まぁ、名簿に見当たらない名前なのは変わりないので細かいところは後回しにしておこう。
 では不可解な怪電話をかけてきた女がどうしてこの電話の番号を知っていたのか?」

それは簡単だった。ただ単純にその女性――おそらくは同じ参加者である誰かは最初から電話番号を知っていたのだ。

563CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:53:45 ID:JmBoojfg0
「そうだな。いくつかのパターンが考えられる。
 ひとつは件の彼女は名簿の中に自身の知りあいを発見し、連絡を取ろうとしたということだ。
 この場合、湊啓太などという名前が名簿にないことは問題にならない。
 そもそもとして名簿には本名らしからぬ名前がいくつも載っているのだ。名簿と電話の名前が一致しないことは不自然ではない。
 そしてもうひとつは件の彼女がここより外に連絡を取ろうとした場合となる。
 知りあいや家族などにまずは連絡を取ってみる。不自然な行動ではないし、こちらの方がもっともらしいだろう。
 だが、この可能性は通話の内容により否定されるので、先の可能性が有力であろう」

またふむと頷き、悠二は夜中にかかってきた電話の内容を思い出した。
それは”友人を殺した”などというまさに怪電話そのものであった。

「あなたの友人を殺しましたなどとは物騒極まる。
 言い捨てて切ったことから彼女は電話の持ち主が本人であると確信していたようだが、この点は間抜けと評価せざるを得まい。
 もっとも、実際に誰かを殺していたのだとすれば関係者にとっては笑い話にはならないことだが……」

悠二は水前寺の視線を追って、ロビーの中に横たわる4つの死体へと視線を移した。
そう、ここでは人が死ぬのだ。そしてはじめに脱落者として呼ばれた10人の内に、友人である吉田一美の名前があった。
もしかすれば件の彼女はこちらを知る人物だったのかもしれない。そんな可能性もまだ存在している。

「ともかくとして、
 おれが言いたいのはこの携帯電話にメールを送ることも、人類最悪の名前を騙ることも決して難しくはないということだ」

前提を語り終え、水前寺は次なる段階へと論を進ませた。



「では、まず第一の可能性として件の女がこのメールを送ってきた場合を考えよう」

了解したと、悠二は頷いた。

「この場合、死線の寝室とは彼女とその携帯電話の持ち主の間で通じる隠語だと推測するのが妥当であろう。
 併記されていた八桁の番号が電話番号だとするならば、そこにかけることで彼女とコンタクトできるかもしれん。
 無論。彼女の言動からこの行動には少なからず危険が伴う。
 そして我々はその危険の度合いを測る術を持ってはいない。故に判断は慎重に行わねばならんだろう」

”3323-7666”と書かれていた八桁の番号。確かに電話番号だと見るのがもっともなのかもしれない。
だが、これについても可能性は幅広い。
郵便番号から住所を割り出せるのかもしれないし、金庫や扉などの暗証番号かもしれない。
そもそもとして死線の寝室という言葉と合わせて謎解きになっているのかもしれないのだ。
ここらへんは一度発信者の意図を探ってみないことには特定することはできないだろう。
もっとも、電話番号であるならば、一度かけてみれば即座に判明するが――しかし、これはリスクが伴う。判断は慎重に、だ。

「では、第二の可能性として本当にあの人類最悪がこのメールを送ってきたのだと考える場合、
 その意図を探る為には大きな問題がひとつある」

それはなんなのか? 悠二は考えるが、水前寺が答えを言ってしまうほうが早かった。

564CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:54:14 ID:E.FeVn/Y0
「それは、その携帯電話を悠二クンが持っていることを想定しているか否かだ。
 あの男は鞄の中身はランダムだと言っていたが、それは当てにならんし、確定させることは不可能だ。
 ならば、そうである場合とそうでない場合を想定せねばならん。

 まずひとつに、その携帯電話を悠二クンが持っていることを人類最悪が想定し、君宛てにメールを送ったのだとする。
 その場合、このメールの内容には人類最悪の明確な意図。引いてはこの企画からの意図が篭められていることとなる。
 ならば、我々はあの男が我々を死線の寝室とやらにコンタクトさせようとする意図を推測せねばならない。
 それは今の所全くもって不明であり、解く当ても目には見えていない。
 だが! これを解決できれば、我々はそれを得るべくして動いていた事の真相とやらに一歩近づけることは間違いないだろう。
 無論。ことに対しては慎重に慎重を重ねなくてはならんが、この場合は最終的にはコンタクトすることが望ましい」

なるほとと悠二は水前寺の説に関心した。
つまりこの場合は、坂井悠二という登場人物に人類最悪が役を与えようとしているわけだ。
その意図を辿れば、つまりこの企画――あの男の言葉を借りるなら物語の向かう先がわかるということになる。

「では逆に、支給品は言葉通りにランダムであり、悠二クンが携帯電話を持っているというのは偶然、
 またはその電話を誰が持っていようが構わなかったとした場合、どうなるか。

 その場合は、メールが送信されてきたのはその携帯電話の付加価値だと捉えるのが順当だろう。
 つまりその携帯電話はただの連絡手段なだけでなく、時折メールが送られてくる携帯電話だったという訳だ。
 例えば、送られてきたのが電話番号だとして、そこに電話をかければなんらかの情報を得られるとかな」

悠二は手にした携帯電話を見る。もしそうなのであれば、これを引いたのはとても幸運なのかもしれない。
だが、水前寺はそこに冷や水をかけるような恐ろしい発言を浴びせかけた。

「電話だからといって、かけたら通話が始まると考えるのは早計だぞ悠二クン。
 携帯電話というのはだな、簡易の電波送受信機とするには実に優秀であり、それもそういう役割なのかもしれん」

つまり、送られてきた番号に電話をかければ、その信号を受けてどこかに仕掛けられた爆弾が爆発する。
などということもありえる。と聞き、悠二は電話を見つめたまま息を飲んだ。

「なんにせよ、迂闊には触れることはできんというわけだ。
 そもそもとしてオレは自分のものではない携帯電話を信用できん。
 スパイやテロリストの常套アイテムだからな。その電話にしたって何が仕掛けられているとも限らん。
 かかってくる当てがある以上、捨てるわけにもいかんが、……まぁ、時間を見て中を検める必要はあるだろうな」

僅かに動揺した感じでなるほどと頷き、悠二は携帯電話に対する印象を改めた。
今まではただの通信手段としか思っていなかったが、水前寺が言うにはそれ以外にも色々と用途があるようだ。
なるほど、電波を飛ばすのであれば、何らかのリモコンとして使うことも難しくないのだろうと納得する。



「さて、3つの可能性が持ち上がった。

565CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:54:53 ID:E.FeVn/Y0
 ひとつ。
 これは参加者の内の誰かが、同じ参加者に向けて送ったメールである。
 身に覚えがない故、我々にとっては間違いメールとなるわけだが、しかしなんらかの情報になるやもしれない。

 ふたつ。
 これは人類最悪より悠二クン宛てのメールである。
 このメールはこの企画においてなんらかの意味が持たされていると考えるべきであり、
 そして我々はそれがどういうものなのかを推測し、吟味した上でコンタクトを取るのが好ましいと言える。

 みっつ。
 このメールはこの携帯電話宛に送られた付加価値である。
 この場合、メールの意味やコンタクトの結果がどうなるかと推測するのは極めて難しい。
 当たるも八卦当たらぬも八卦の心持ちでコンタクトを試みる他はないだろう。

 これら3つの可能性及び、まだ浮かび上がってきていない別の可能性からひとつの結論を導き出すことは現在不可能だ。
 必要なのは”死線の寝室”及び”3323-7666”というワードに対する情報であろう。
 オレはどこかの誰かがこれを知っているという可能性は少なくないと思っている。
 なので、これよりの情報収集の過程でこれらに関してもアプローチし、知っている者がいれば何かと尋ね、
 その人物にもこのメールの意図がどこにあるのかを探るのに協力してもらうことが望ましい。

 と、思っているがどうかね?」

いいんじゃないかな。と悠二は答えた。
出会ってからというもの、感心しっぱなしだが、水前寺という男はなんにせよ頭が早く回る。
新聞部の部長ということらしいが、普段から膨大な情報を扱っていればこうなるのか、
それとも水前寺がこうであるから新聞部の部長というポジションにいるのか、なんにせよ感心し納得するばかりであった。

566CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:55:25 ID:E.FeVn/Y0
「では、ここからは君の仕事だぞ悠二クン。
 実のところを言うと”死線”という言葉にはどこかで聞き覚えがある。
 あー、まぁ、ぶっちゃけたことを言ってしまえば、神社で交わした情報交換の中で聞いた言葉のはずだ」

なので――という、水前寺の言葉の続きを聞く必要はなかった。
約束を反故にした手前、自分から電話をかけるのはばつが悪いから、悠二がそうしてくれという話である。
悠二としても、神社にいるはずのヴィルヘルミナには若干の苦手意識があったが、まぁかまわないと携帯電話の――

「待ちたまえ悠二クン! 君はオレの話を聞いていなかったのかね?」

ボタンに指を置いたところで水前寺にそれを制された。

「言ったではないか。他人の携帯電話は信用できんとな。
 かかってくるのは如何ともし難いが、できうる限りこちらからは使わないのが好ましい」

ならばどうするのか? 疑問に思う悠二に、水前寺は長い腕を伸ばしてホールの端を指差し、それに気づかせた。

「こちらからかける分に関しては電話などどこにでもあるだろう。
 そこらの電話が使えるのかという実験も兼ねて、まずはそこの公衆電話から電話をかけてみてくれたまへ。
 もっとも、この世界そのものがあの男の手の内となればこんなことに意味はないのかもしれんが、
 しかしできるだけ奴の意図しない行動を取るということは、いつか我々によい結果を齎してくれるかもしれん」

なるほどね、と悠二はソファから立ち上がり、水前寺と共に公衆電話が並べられたコーナーへと近づいた。
とりあえず右端の電話から受話器を持ち上げ、そこで足りないものがあることに気づく。

「先ほど、院内の売店よりせしめておいた。使いたまえ」

水前寺のポケットから出てきたテレホンカードの束を見て、悠二は本当にこの人はよく動くなとまた感心した。


 【3】


「――それでは、電話を切るのであります」

ヴィルヘルミナはそう告げると、持ち上げていた受話器を下ろし、小さな溜息をついた。

「多事多端」
「まったくであります」

電話をかけてきていた相手は悠二であった。
シャナが発見するか、キョンが電話番号を持ち帰るが先かと思っていたが、その前に本人より電話があったのである。
それについてはよいことだろう。いくら彼女とて彼が無事であることに安堵しないほど薄情ではない。
彼と同行しているはずであった水前寺の無事も確認されたし、杞憂は減った――が問題はまた増えた。

567CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:56:00 ID:E.FeVn/Y0
悠二と水前寺の二人は現在、この世界の北東に位置する病院に滞在しているらしい。
浅羽直之の捜索を主目的としていると考えればヴィルヘルミナから見ても妥当だと思える場所だ。
しかしまだ彼の発見には至っていないらしい。そして、彼ではない他の人物を悠二と水前寺は発見している。

島田美波の級友である吉井明久と土屋康太。キョンの仲間である朝比奈みくるであろうと思われるメイド服の女性。
どこの誰とも知れぬ着物姿の男。そして、ここから行方知らずとなっていた零崎人識。
合わせて5人。全て、既に物言わぬ死体に成り果てた後であった。
最初の4人は病院でまとめて、そして零崎人識はそこより離れた市街の中で発見したのだという。

彼や彼女らが死んだことをヴィルヘルミナは惜しいとは思わない。
話を聞く限り、彼らは戦力なりえないと思えたからだ。せいぜいが朝比奈みくるより未来のことを聞きたかったぐらいか。

「シズという人物でありますか」
「虚心坦懐」

そして、二人は多くの死体とは別に生きた人物とも出会っていたと言う。
シズという名前だけはキョンと会話を交えたアラストールより聞いていた。既に人を殺している危険人物とのことだ。
しかし、悠二は自身もそれを知っていながら彼と平和的な交渉を成し遂げたのだという。
まさにティアマトーの言う虚心坦懐の至りであろう。悠二が時折見せる機転と胆力にはヴィルヘルミナも感心するばかりだ。

交渉の結果、悠二はバギーを差し出し、シズの持っていた贄殿遮那と交換することができたらしい。
これは僥倖だとヴィルヘルミナも柄になく悠二を褒めたくなる。
シャナの手に愛刀が渡れば彼女も喜び、戦力の面から見ても十全を尽くせるようになるに違いない。
もっとも、それでシャナが悠二の評価をまた高め、喜びの表情を彼に見せる光景を想像すると心に波立つものもあるが。

だがしかし、そううまくいくならそれはそれでよいともヴィルヘルミナは考える。
贄殿遮那を取り戻せたのはいいが、バギーを失ったのはやや手痛い。
移動手段としてということもあるが、現在、シャナはそのバギーを目印に悠二を追っているのだ。
悠二の言によればシズは話の通じない相手ではないようであるし、シャナが負けるような相手でもないようでもあるが、
しかし何か誤解が起こってしまうかと想像すると心配になる。

「杞人之憂」
「……そうであります。今はいらぬ心配に気を割いている時ではないのでありました」

桜色の炎が揺れる一室にはそれより濃い赤の臭いが立ち込めていた。そう、只今手術中なのである。


 ■

568CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:56:50 ID:E.FeVn/Y0
ヴィルヘルミナは逢坂大河の失った右腕に義手を取り付ける手術を行っていたが、
その光景は万人が想像する手術とはいささか様子が異なり、傍目には随分と幻想的に映るものであった。

部屋の中は、《夢幻の冠帯》を展開したヴィルヘルミナの発する炎によって淡く桜色に染められている。
狐面のヴィルヘルミナは部屋の一端に座し、そして中央には繭のように包帯で包まれた逢坂大河の身体が浮かんでいた。
大河の身体のうち、繭の中より露出しているのは手術を施される右腕と、頭。そしてそこから垂れる豊かな髪の毛のみ。

これらは手術の痛みで彼女が暴れたり、そのせいで自身を傷つけないようにとの処置だ。
右腕を切断し義手を取り付けるという手術だが、あいにくとここには麻酔がない。故に途轍もない激痛が伴う。
彼女はそれでもいいと言ったし、始める以上ヴィルヘルミナにも途中で止めるつもりなどないが、並みの痛みではない。
あまりの激痛に心変わりが起き、途中で止めてくれなどと泣き叫ぶかもしれない――故の拘束であった。

「――――んぐううううう! ……ぐぅっ! んんんっ! ――――っ!!」

実際、始めてみればこの通り、大河はあまりの苦痛に悶絶している。
猿轡を噛ましている為に何を言ってるのかは不明だが、おそらくそれがないとしても意味のある言葉は吐けなかっただろう。

ヴィルヘルミナは彼女の進言通りにその悲鳴を無視して、手術を進めてゆく。
既にティアマトーの一閃により大河の右腕は適切な長さに断たれている。今は細かい作業を繰り返す段階だ。
包帯に持ち上げられた腕の切口を前に、ヴィルヘルミナは片手に鋏。片手に糸を通した針を持って器用に仕事をこなしてゆく。

「おぐううぅおおおお……! んんんんんんんん……ぐうううううううう…………っ!」

肉の中に鋏を突き刺し、チョキン。血管を引き出したら手早く糸で先端を括る。その間に鋏は湯を潜らせ炎で消毒する。
また鋏を突き刺して、チョキン。神経を剥き出しにしたら必要なものを残し、不必要なものを桜色の炎で殺す。

「がっ! がぁっ! ぐぅうううう……んぐうううううううううう……!」

チョキン。チョキン。チョキン。チョキン。チョキン――ヴィルヘルミナの動作に揺るぎは見られない。
鋏と糸とを交互に通してゆく姿はまるで機織り機のようでもある。
見る見る間に作業は進み、肉の断面でしかなかった傷口は生身と作り物を接続するコネクタへと変じてゆく。

「あぐおあぐあぐおおあ! ん――っ! んん――っ!! んんんんんんんうううううう……!!」

作業が進むにあたって漏れ聞こえる大河の悲鳴も大きく切羽詰ったものへと変化してきた。
なにせ、肘から先の神経がほとんど剥き出しにされているのだ。それは言葉に表すこともできないような苦痛なのであろう。
獣のような唸り声をあげる大河の顔は真っ赤で、噴出した汗が髪をべっとりと濡らし、目に当てた包帯に涙が滲んでいた。

「ぐがおおおおおお……! あぐあっ! があっ! がああああ……っ!」

桜色の炎が傷口を舐め、穢れを落とし、僅かに痛みを癒す。しかし、これとて大河の身を慮ってのことではない。
癒しにより彼女の身体が僅かに弛緩するのを見てヴィルヘルミナはより深い場所に鋏を突き込んだ。

569CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:57:23 ID:E.FeVn/Y0
「がああああああああああああああああああああああ……っ!!」

ヴィルヘルミナはこれらを丁寧に丁寧に繰り返す。
鋏を肉に突き入れ、必要なものを糸で縛り、不必要なものを炎で焼き、鋏を湯に通して炎で炙り、また突き入れる。
耳に届く悲鳴にも、鼻につく血の臭いにもヴィルヘルミナは揺るがない。


チョキン。チョキン。


チョキン。チョキン。


チョキン。チョキン。






そして、手術は進み、終了した。
時間にしておよそ1時間ほど。手術の内容からすれば神業の如き速さだろう。だがしかし、


「………………………………………………………………」


小さな彼女。逢坂大河が真っ白に燃え尽きるには十分以上の時間であった。


 【4】


「うえぇぇ…………」

薄暗い廊下の上を須藤晶穂がフラフラとした足取りでどこかへと向かっている。
ひとつ呻き声を漏らすと板張りの床がミシリ。またひとつ呻き声を漏らすと床もミシリ。
彼女がこんな風に廊下を歩いている理由は、その胸に抱えた中くらいのバケツのせいだ。

「これってどこに流せばいいんだろう……?
 台所の流し? お風呂? トイレ? それとも外に捨ててきたほうがいいのかな……?」

中くらいといっても、中にはなみなみと水が湛えられており、少女が抱えて歩くにはややという以上に重い。
そしてその中の水は赤く濁っており、これが彼女に嘔吐くような声を上げさせる原因であった。
最初に水を汲んだ時には透明だったものが赤く濁っているのは、先ほどまで行われていた手術に使われていたからである。

「……う」

未だ耳に残る大河の悲鳴と、濃い血の臭いに晶穂は顔を顰めた。
なんで自分がこんなことをしなくてはならないのかとも思うが、しかしこんなことしかできないのだからしかたない。
最初は晶穂も手術の手伝いをするつもりだったのだ。
だが、ヴィルヘルミナが最初の一刀を入れた時、それは無理だと悟り、部屋を飛び出してしまった。
手術だということはわかっていたし、血を見ることも覚悟していた。だが、大河が苦しんでいる姿を正視することができなかった。

570CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:57:54 ID:E.FeVn/Y0
「(あんなのどう考えても18禁じゃない)」

自己弁護するとすればこんなところか。
できるのならば、大河の傍についてがんばるよう応援できるのがよかったのだろう。
彼女とはこの事態に陥ってよりすぐに一緒となった間柄である。
言わば、ここでの物語の中ならば最初の仲間であり、無二の友になる存在のはずなのだ。
多分、これが映画やドラマだったのならば大河の友は彼女に付き添い励まし続けたはずだと、晶穂はそう思う。
しかし現実は苛烈だ。少女らしさを投げ捨て獣のように吠える彼女の姿は女子中学生には刺激が強すぎた。
まるで洋画の中に出てくる悪魔憑きの少女である。しかもそれは作り物ではなく、スクリーン越しでもないのだ。

「はぁ……あたしって……」

沈む気持ちに抱えたバケツも重さを増し、晶穂の足は止まってしまう。
誰かの役に立とうという気持ちはあったのだ。しかし、そのやる気がたいしたものでなかったのは現状が証明している。
できたことといったら大河の声に耳を塞いで、最後の最後に汚れた水を捨てに行くことだけ。

「うぅ……」

ともかくとして、汚れた水を捨てに行くことが現在の限界で、与えられた役柄だ。
涙も出ないがそれも仕方ない。せめてこれぐらいは全うしよう――と、再び足を踏み出した時、

「――動かないで下さい!」

その目の前に拳銃が突きつけられた。






「え……?」
「え……?」

須藤晶穂とテレサ・テスタロッサ。うまくいかない少女同士が狭い廊下の中で交差する。
しかし、勘違いに食い違い。この交差では物語は発生しえず。

互いに空しさを与えるのみであった。


 【5】

571CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:58:26 ID:E.FeVn/Y0
ヴィルヘルミナとの交信を終え、滞りなく情報の交換をし終えた悠二と水前寺の二人は再びソファへと戻っていた。
こちらから伝える情報があれば、こちらへと伝わってくる情報もある。また、求める情報への回答もあった。
故に、電話をかける前と同様に彼らは情報を整理する為に意見を交し合う。

「《死線の蒼》に《欠陥製品》か……」

悠二の隣で水前寺がヴィルヘルミナより聞いた二つの言葉を呟く。
それらは先刻、死体で発見された零崎人識が探し人として上げていた人の名前らしい。

「どちらも、最初から名簿に名前のあった者だと考えるのが順当ではあるな。
 零崎人識が我々と同じ一般的な参加者だとするならば、名簿外にその二人がいたとは知りようがないのだから」

するならば? 悠二は発言に疑問を感じて、隣の水前寺を見る。

「うむ。こういった陰謀論は拡大してゆくときりがないのだが、
 零崎人識及び死線の蒼と欠陥製品とが、人類最悪の仲間である可能性も考えられる」

悠二も最初にヴィルヘルミナより話を聞いた時からそういう可能性を考えていた。
人類最悪のメールにある死線の寝室が=死線の蒼であるならば、その名前を出した零崎人識も人類最悪に繋がるのだろうと。

「しかし、この線で押してゆくにはいまいち死線という言葉は一般的すぎるだろう。
 たまたま偶然そうだった……というほうが、まだ分があるようにおれは思える」

やや残念な感じもあったが、悠二としても水前寺の考えには同意できた。
多少近いからといってすぐにこれはこうだと決め付けてしまうなど、結論を急ぐとロクなことはない。
そもそもとして、メールの意図もそれが本当に人類最悪からのものなのかも未だ確定していないのだ。

「とりあえずは、《死線の蒼》と《欠陥製品》と呼ばれる者を探すことにしよう。
 零崎人識が死亡している以上、どのような人物であったかを聞き出すことは最早不可能であるが、
 この世界のどこかにいることは疑いようがないしな。すでに亡くなっているのなければ行く行く先で出会えるはずだ」

頷き、悠二はポケットから取り出したメモに二人の名前を記した。
《死線の蒼》に《欠陥製品》。果たして二人はどのような人物なのか――?



悠二はソファから立ち上がると、窓際へと歩み寄りそこから空を見上げた。
明るい青の空にはいくつかの千切れ雲が浮かんでいて実に和やかだが、しかし彼の探しているものは見当たらない。

「シャナ……大丈夫かな?」

ヴィルヘルミナに聞いた所、神社から自分を探してシャナが島田美波と一緒に出立したらしい。
さらによく聞けば、自分が水前寺と一緒にキョン達から離れた直後にシャナはあの場に現れたらしい。
そんなに近くにいたのかと悠二は悔しく思う。普段ならば彼女の気配に気づかないことなどないはずなのだ。

572CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:58:58 ID:E.FeVn/Y0
過ぎたことは置くとして、シャナがバギーを目当てに自分達を探していることが悠二には心配だった。
確かにバギーは道路の上を音を立てて走るし、それを目印にするのは悪くない。
だが、そのバギーに今乗っているのは自分達でなくシズなのだ。

「そんな浮かない顔をするものではないぞ悠二クン」

隣を見ると、いつの間にかに水前寺がいて同じように空を見上げていた。

「あのシズという男は我々がこの病院に向かうことを知っている。話が通じるのならばこちらへと誘導してくれるはずだ。
 それに前向きに考えれば、その子がシズと面識を持つことはいいことだとおれは思うぞ。
 言葉だけでは証明しきれない我々の側の実力というものをシャナという子が証明してくれるのならば、
 あのシズという男もこちら側へと転んでくれるかもしれん」

確かに。と悠二も思った。
それにシズには携帯電話の番号を渡してある。シャナと出会えば即座に電話がかかってくるかもしれない。
そう考えれば、シャナがバギーを追うことはなんら問題がないと言えるだろう。



「では、我々は我々としての行動を起こそうではないか。
 晴れてヴィルヘルミナ女史より行動の自由を保障されたのだからな!」

言って、水前寺は踵を返して病院の奥へと歩いていった。例の盗撮眼鏡に収められた映像を見れる機械を探すらしい。
悠二も最後にもう一度だけ青空を見上げ病院の奥へと歩を進めることにした。こちらは足となる救急車の確保だ。

「(うーん……)」

ヴィルヘルミナとの話し合いの結果。悠二と水前寺は遊撃隊として行動するよう彼女に任じられた。
その理由は、単純に人手が足りないからだ。
この不思議な世界の成り立ちや感じられる存在の力については彼女も同様の考察を行っており、
またあちら側ではこの後、天体観測をするなどのアプローチが考えられているらしい。
なのでこちら側、つまり悠二と水前寺の二人は地図でいうところの東半分を担当してくれると助かるとのことだった。

それは的確だと悠二も納得した。電話がある以上、わざわざ彼女達の元へといちいち帰る必要はないだろう。
だがしかし、少し残念なことがある。東側の捜索は”悠二と水前寺の二人だけ”で行うように、と言われてしまったことだ。

あの後、警察署に向かったキョンと美琴がまだ神社に戻っていないらしい。
またシャナと島田美波が神社から出たこともあって、結果、あるはずの人手が全く足りないとのこと。
なので悠二達がシャナと合流したならば、シャナと美波は即座に神社へと帰らせるようにとの彼女からの厳命であった。

「(しかたないけど……)」

キョンと美琴が向かった警察署には古泉一樹がいたらしい。
つまり、彼らが戻ってこないのはなんらかのトラブルに見舞われたからと考えるのが自然だ。
ならばそちらへと人を当てる場合、空を飛べて戦闘能力の高いシャナが向かうというのが最適だろう。
それは悠二もそう思う。ヴィルヘルミナの采配はどれも適切であり、自分が考えてもそうするだろうと断言できる。
だがしかし、

「(僕がシャナと一緒にいることを妨害しているようにしか思えない……)」

そんな意地悪も多分に含まれているのでは? と疑わずにはいられない悠二なのであった。




【B-4/病院/一日目・午後】

573CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 21:59:31 ID:E.FeVn/Y0
【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)
[道具]:デイパック、支給品一式、贄殿遮那@灼眼のシャナ、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 0:救急車を確保する。
 1:水前寺と一緒に浅羽を探す。
 2:シャナと再会できたら贄殿遮那を渡し、神社に戻るよう伝える。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
[備考]
 清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。


【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 0:眼鏡型カメラに記録された映像を検証するため、病院内で出力装置(PC)を探す。
 1:悠二と一緒に浅羽特派員を探す。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。






 【6】

574CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 22:00:20 ID:E.FeVn/Y0
手術の終わった部屋はもう幻想の色彩も去り、元の色褪せた畳敷きのものへと戻っていた。
明かりは桜色の炎から黄ばんだ蛍光灯のものへと変わり、逢坂大河の姿は宙にではなく敷かれた布団の上にある。

気を失いぐったりとした大河の姿は生まれたままのそれで、ヴィルヘルミナはその汗に濡れた身体を温かい布で拭いていた。
力の篭めすぎで筋などを痛めていないかを確かめながら、身体を冷やさないようにと素早く丁寧に布を走らせる。
薄く紅潮した胸元から、細い四肢の先までを。汗が浮かびやすい首元や背中はより丁寧に、
そして小さな口を開かせて歯が欠けたり口の中を切っていないかも確かめる。

あらかた終わると、最後に一瞬だけ桜色の炎を走らせ彼女の身体を清めなおした。
真っ白な身体に布団をかけ、一連の作業を終えるとヴィルヘルミナはそこでようやく一息をつく。

「これにて全工程を終了。後は大河が覚醒した後、義手が正常に作動するか確認するのみであります」
「一労永逸」

麻酔なしで腕を切るなどと、まるで戦国時代か極北での話かといった風ではあるが義手を取り付ける手術は無事終了した。
大河は心身ともに衰弱しきっているが、それも寝ていればじきに回復するであろうもので大きな問題ではない。

それもこれも、その小さな身体からは想像もつかぬ胆力のおかげだろうとヴィルヘルミナは思う。
寝ている姿は深窓の令嬢のようで、腕も足も細くまるで作り物のように見える。
しかし、逢坂大河はその見た目にそぐわぬ意気の持ち主であった。
そんな彼女にヴィルヘルミナは僅かなデジャブを感じる。

華奢な体躯に、幼さを残した未完成の美貌。その身に秘めた強靭な精神力。この子はどこか炎髪灼眼の討ち手を想像させる。
木刀を振りかざし突き進んでくる様は稚拙と他ならなかったが、その無鉄砲さにはどこかノルタルジーを感じていたかもしれない。

もしかすれば、逢坂大河は別の《物語》における炎髪灼眼の討ち手に相当する存在なのかもしれない。

勿論、それはただの空想だ。あるいはあの時をまた繰り返したいと思う欲が浮かび上がらせた妄想なのかもしれない。
ヴィルヘルミナは、自身を”シャナ”だと言い切った彼女の顔を浮かべ、そして大河の顔を見る。
似ているかもしれない。けど彼女達はそれぞれ違う子で、それは当たり前のことだ。

「……それでは、今一度近辺を見回ってくるのであります」

ヴィルヘルミナは大河に被せた布団を整えなおすと、すくと立ち上がりその部屋を後にした。
僅かに赤みの増した陽光を背に受け、板張りの廊下を音もなくしずしずと進む。

影に隠れて見えない彼女の顔。そこには母のような優しい表情があったのかもしれない――……




【C-2/神社/一日目・夕方】

575CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 22:01:15 ID:E.FeVn/Y0
【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(7/20)、缶切り@現地調達、調達物資@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。しばらくは神社を拠点として活動。
 1:神社を防衛しつつ、御坂美琴とキョン。炎髪灼眼の討ち手と島田美波の帰りを待つ。
 2:状況に応じて、警察署や南の方にいるであろう上条当麻への捜索隊を編成して送り出す。


【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:睡眠中、疲労(極大)、精神疲労(極大)、右腕義手装着!
[装備]:無桐伊織の義手(右)@戯言シリーズ、逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
     大河のデジタルカメラ@とらドラ!、フラッシュグレネード@現実、無桐伊織の義手(左)@戯言シリーズ
[思考・状況]
 基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
 0:…………………………。






 【7】


「はぁー……」

天上の方角を突く巨大な天体望遠鏡を見て、インデックスは改めて感嘆と脱力が混じった息を吐いた。
なんど見てもすごいものはすごい。目の前に屹立する望遠鏡の大きさは彼女が居候している部屋よりも大きかった。
突然。ごうんと、望遠鏡の鎮座しているドーム内に大きな音が響き渡る。

「お、おぉ…………、すごい……」

インデックスが見上げている前で、ドーム状の天井が展開し、空が開けてゆく。
隙間から見える空はまだ茜色で、観測を行えるまでには時間があったが、
まるでTVアニメの中で見た秘密基地みたいなその光景に、インデックスはきゃあという楽しそうな声をあげた。



別室。観測機器が並ぶ一室にて、はしゃぐインデックスの姿をカメラ越しに見ていたテッサはくすりと笑い声を零した。
天井が開ききるのを確認すると、キーボードを叩いて今度は望遠鏡が乗っている台を上昇させるよう操作する。
そしてマイクを口に当ててインデックスに近づかないよう注意すると、その光景をまたしばらく楽しんだ。

当初の予定では、ここに再来するのはもう少し後の時間になってからということであったが、
テッサとインデックスの二人はその予定を繰り上げて天文台へと登ってきていた。

576CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 22:02:26 ID:E.FeVn/Y0
大きな理由としては、警察署から戻ってくるはずのキョンと御坂が戻ってきていないことがある。
その内でも特に御坂美琴の存在がこの場合は大きい。
現在、散り散りではあるがテッサ達の組んだグループは11人の人間を抱えている。
当初からこの世界にいた総人数に対して6分の1。現在であれば4分の1ほどになるこの数は、数値だけを見るならかなり多い。
だがしかし、その中には戦闘をするどころか戦闘という状況すら知らない普通の女学生らも多く含まれるのだ。
故に、何かしら動くごとに戦闘に長けた者を同伴させる必要がある。そうでなければ危険だからだ。

そして、その戦闘に長けた者の一人である御坂美琴が未だ帰還を果たしていない。
もし彼女がいれば、彼女かヴィルヘルミナのどちらかがこちらに同伴し、もう片方が神社の防衛につく予定であった。
だが、いくら待っても帰ってこないので、望遠鏡の調整も兼ねてテッサとインデックスが先行することなったのだ。

他にも、手術を終えた大河が眠ったままであったり、テッサが寝ていた間にキノという来訪者が現れたとも聞いており、
そういう諸々の理由もあってヴィルヘルミナは神社に残り防衛の任につくこととなった。
既に一度は二人だけで来ていたわけであるし、地理的に考えても天文台は危険の度合いが低いということもある。

「さてと……」

テッサは再びマイクに口をよせ、インデックスに管制室に来るようにと声をかけた。
観測機器を操作するのはテッサにとって容易いことだが、何を観測すべきなのかは彼女の知恵を借りなくてはならない。

とりあえずは、システムから前日までの観測データを呼び出しデフォルトの設定をそれに合わせておく。
インデックスから見れば不思議な魔法に見えるこれも、テッサからすればキーを少し叩くだけの簡単な作業だ。
こんなことを感心してくれる彼女の姿を思い出し、テッサはそのチグハグな光景にまた頬を緩めた。

初期設定を終えたテッサは椅子から立ち上がると、会議机の端に置かれた湯沸しポットの前へと歩いてゆく。
空腹時におけるインデックスの凶暴性の発露はすでに体験済み。
そして、テッサは見越せる危機を前に対策を怠る少女では決してない。
彼女お気に入りのカップラーメンを筆頭に、物資調達班が持ち帰った数々の食料は既に配備完了している。

「テッサ、おなかすいたー!」

そして、ちょうどインデックスが扉を勢いよく開いて管制室へと飛び込んできた。
昼食の後の午睡と、神社からここまでの山登り。彼女の食欲中枢にレッドアラームを点すには十分だったのだろう。
間もなくして、テッサの予測通りに彼女と食料による第一次接触戦が始まった。
テッサの計算によれば戦闘終了までは20分ほど。食料側6%ほどの損耗で戦闘が終了する予定である。

「……………………」

とてもおかしな光景だと、自分もサンドイッチを齧りながらテッサは思う。
このような状況で、このような時間を過ごせる自分はなんと幸運なのだろうか。
しかし、そういではない者も多数いて、今まさに死の狭間を彷徨っている。そういう者もどこかにいるはずなのだ。

結果的に、見殺しとしてしまったあの少年のような者が幾人も。

577CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 22:03:38 ID:E.FeVn/Y0
それを考えれば浮き上がった心も奈落の底へと沈む。
罪悪感が胸を締め付け、それ以上に自分は正しいことをしているのかという自問が途絶えなくなってしまう。
こんなことで死んでいった者達に顔向けができるのか。仲間と再会した時に胸を張れるのか。


しかし、この問題に答えは存在しない。


ただ問い続けることしかできないのだ。全てが決するその時まで――……




【B-1/天文台/一日目・夕方】

【テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500(残弾数5/5)
[道具]:デイパック、支給品一式、予備弾x15、調達物資@現地調達、不明支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:皆と協力し合いこの事態を解決する。
 0:陽が落ちるまでは休息。
 1:インデックスと協力して天体観測を行う。
 2:メリッサ・マオの仇は討つ。直接の殺害者と主催者(?)、その双方にそれ相応の報いを受けさせる。
[備考]
 『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。


【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン(x1)@現実
     試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、缶詰多数@現地調達、不明支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して事態を解決する。
 0:陽が落ちるまでは休息。
 1:テッサと協力して天体観測を行う。
 3:とうまの右手ならあの『黒い壁』を消せるかも? とうまってば私を放ってどこにいるのかな?
[備考]
 『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。






 【8】

578CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 22:04:31 ID:E.FeVn/Y0
須藤晶穂は社務所の縁側に腰掛け、ひとりぼっちでただ陽が沈みゆく景色を眺めていた。

西日に当てられ朱色に染まる山は、知らない風景であるはずなのにどうしてか郷愁を誘い心を掻き立てる。
カラスが鳴くから帰ろう――なんて歌詞が童謡にあるが、晶穂の今の気持ちはまさにそれであった。

”帰りたい”と思っている。帰ることなんてできないのだが、気持ちはいっぱいだった。
別に元の日常に戻りたいとかそういうことではない。
もし、はいいいですよと帰してくれるならそれはありがたい話だが、今の気持ちはもっと短絡的なものだ。

現状から逃げ出したい。今、”この場”から離れたいという感情。

さっきまで、テッサとヴィルヘルミナ。そして半分寝ぼけていたインデックスとが難しい話をしていた。
晶穂も仲間の一員として同席していたから話を聞いたし、別にその内容が理解できないということもなかった。
しかし、自分から何か意見を出すことはできなかった。まるで手が出なかったともいう。

彼女達は専門家なのだ。軍人にフレイムヘイズ。抜けたところのあるインデックスだって何かすごいものらしい。
大河はちっこくて普通側の仲間だけど、彼女は自分なんかより全然すごい。
それに手術なんかして、片腕がロボットみたいになっている。もう普通側の仲間ではなくなっていた。
翻って自分は普通の普通オブ普通の一般人だった。まるで配役の肩書きが一般人ってくらい普通の女の子。
普通じゃない話の中で基準となる存在。スケールを表すために置かれる煙草の箱。それが須藤晶穂という存在だった。

だからなんだ。普通のどこが悪い――と、晶穂は思う。
それに、一口に普通と言っても人それぞれ尊重されるべき個性というものがあるのだ。
例えば大食いが得意……とか。

「はぁあああぁ〜…………」

既視感。それどころかマンネリズムすら感じる嫌な気分。
部活中に浅羽と部長が自分のわからない話で盛り上がっている時の感じ。
浅羽と部長がイリヤにかまって、私という存在をどうとも思っていない時の感じ。

浅羽も部長も、テッサやヴィルヘルミナも決して意地悪をしているわけではないのだ。
ただ単に、須藤晶穂を須藤晶穂として見ているだけのことにすぎない。
構って欲しければ、注目してほしければ自分から前に出て行かないといけないのである。
魔法使いでも超能力者でもない一般人は自身の個性を自らアピールしなくては非普通人の輪には入って行けないのだ。
それが、一般人の掟。

しかし自分はそんなことができない。
盛り上がっている輪の中に顔を突っ込んで、「何々?」とずうずうしく聞くこともできなければ。
「じゃああたしもやらせてよ!」とか分も空気も弁えない分不相応な突貫もできないのだ。

弁えている。そういうことにしておけば須藤晶穂はいい子ちゃんだろう。
けど実際は、「馬鹿じゃないの?」とか「そんなこと勝手にして!」とか言ってしまい、その輪から離れてしまう。
しかも、離れるなら離れるでどっかに行けばかっこいいのに、ギリギリ目の届く範囲でウロウロいじいじしているのである。

579CROSS†POINT――(交信点)  ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 22:05:22 ID:E.FeVn/Y0
かまってもらえなくて拗ねているだけ。そして向こうから声をかけてくれる期待を未練たらたらに諦めきれない。
すごく幼稚な感情だってことは晶穂自身がよくわかっている。わからないほど頭は悪くない。
けど、わかっちゃうからこそ悔しくもあり、そんな自分の小ささに悲しくなってしまう。

これがいつもなら、浅羽に「馬鹿!」と言って家に帰り、お気に入りの音楽を聴きながらベッドで丸まっていればいい。
それか部長に「こっちは勝手にします!」と啖呵を切って、取材兼自棄食いをしに商店街へと走ればいい。
でも、ここではそのどっちもできはしない。
みんなから離れると言っても、せいぜいこの縁側までが限界。がんばっても鳥居の前までだろう。

須藤晶穂は殺し合いの中で役に立てる人間でも、物語に彩りを与える華やかな人間でもない。
浅羽みたく無茶無謀ができるほど馬鹿ではないつもりであるし、
部長みたく力及ばない状況でも自分でできる範囲で全力を尽くせるほど肝は据わっていない。

ヴィルヘルミナやテッサにかまってなんて言えるはずもなく、かといってここから離れる度胸もない。
だから、

「帰りたい……」

ただそれだけを思うのだ。




【C-2/神社/一日目・夕方】

【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:意気消沈
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
 基本;生き残る為にみんなに協力する。
 1:どうすればいいってのよ……。
 2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。

580 ◆EchanS1zhg:2010/04/29(木) 22:06:08 ID:E.FeVn/Y0
以上、投下終了しました。誰か、本スレに代理投下していただけると助かります。

581 ◆MjBTB/MO3I:2010/05/15(土) 16:37:42 ID:RpfCo8PI0
見事にさるったのでこちらに。

582 ◆MjBTB/MO3I:2010/05/15(土) 16:39:48 ID:RpfCo8PI0
「……よし、少佐。これまでの情報を基に、ミステスの目的地の推測を」
「はい。可能性としては川沿いに南下したか、中央部の"天守閣"とやらを経ての南下。もしくは川の上流へと進んでいったか、でしょう」
「では和服。君は、自身の記憶に間違いがないと誓えるね?」
「こんなくだらない事で嘘をつくわけが無いだろ。さっきも言ったけど、オレは目的地がどこになろうと文句は無いんだ」

二人の答えをよく咀嚼し、頭に叩き込むフリアグネ。
彼はカナミン不在のまま深く深く深呼吸。目を閉じ、何度も繰り返す。
そうしてようやく冷静さを手繰り寄せ、取り戻し、両目を開いた。
そこにはいつも通りの紅世の王がいる。

「では、まずは“零時迷子”の解説が先かな。そうでないと納得してくれないだろうからね」
「お気遣い、感謝します」
「そしてもう一つ。ここで私が提示する指針として、"ミステスの追跡"を候補に挙げておく。
 少佐と、そして一応和服も……異論があるならばそれを考え、かつまとめる時間を与えよう。刻限は放送までだ。
 放送終了後に入口に集合。各々の意見を合わせて決定した行動を取る事にする……それまでは各人、再び自由行動だ」

すっかりその冷静さを取り戻したフリアグネは、そこまで言うと静かに息を吐いた。
そしてこれまたいつもの様に、不敵な笑みを浮かべる。

「では語ろう……私が求める、零時迷子の話を」


       ◇       ◇       ◇


フリアグネの視線が北東へと向けられた瞬間、トラヴァスは密かに焦りを覚えていた。
北東への期待値が存在しない事は、和服に出会うまでのフリアグネとの道中で証明済み。
だからこそそっと背中を一押しすれば、娘が潜む北部は安心だろうと思っていた。
それなのにあまりにもイレギュラーに過ぎる和服に、全てを壊されるところだった。

にも関わらず、同時にそれを救ってくれたのも和服。
彼女の供述と自分の発言に関連性があったことが、窮地を脱する鍵となったからだ。

マイペースで、敢えて悪く言うならば"空気が読めない"といったところである和服。
今回の件で学習した。今最もその発言に注意するべき相手は、間違いなく彼女だ。
彼女は誰の味方でもない。そして敵でもない。ある意味で空虚、ある意味で傲慢だ。
相変わらずフリアグネのことも、そして自分のことも信用してはいまい。

しかし、坂井少年の捜索を推されることになったのも、正直なところ予測外かつ困った話だ。
折角の若い才を潰してしまうのは避けたいが、生憎フリアグネは熱心な様子。
加えてイレギュラーな和服少女両儀式も、こと指針においては無気力の極みだ。
“零時迷子”の正体も謎だが、察するにフリアグネに手に入れられると困るのだろう。
更に言えばフリアグネが“零時迷子”を手に入れる為、坂井少年に何か良からぬ事をしでかす可能性が高い。
こうなればどうにかして、坂井少年の身を護る必要が出てくるだろう。出来る限り、全員に悟られぬよう。
坂井少年がフリアグネに見つからなかったという結果になれば幸いなのだが、果たして。

トラヴァスの瞳が静かに、眼鏡越しに光る。
その刹那、フリアグネによる零時迷子の解説が始まった。

583 ◆MjBTB/MO3I:2010/05/15(土) 16:42:36 ID:RpfCo8PI0
【C-5/百貨店・1F女性用衣服売り場/一日目・夕方】

【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ、ダンスパーティー@灼眼のシャナ、コルデー@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式×2、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、『無銘』@戯言シリーズ、
     ポテトマッシャー@現実×2、10人名簿@オリジナル、超機動少女カナミンのフィギュア@とある魔術の禁書目録(?)
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:零時迷子の解説後、しばし解散。放送後に再度集合し出撃。
2:放送後にトラヴァス、両儀式と集合。坂井悠二を追跡したい。
3:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
4:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。

【両儀式@空の境界】
[状態]:健康、頬に切り傷
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)@戯言シリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)×5@空の境界、日本酒
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、“人類最悪”を殺す。
1:フリアグネの話を聞いたら自由行動なので休憩する。悠二はご愁傷様。
2:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
3:幹也の言葉に対しては、今は考えないでおく。
[備考]
※参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
※自殺志願(マインドレンデル)は分解された状態です。

【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック×3、支給品一式×3(食料・水少量消費)、フルートの予備マガジン×3、
     アリソンの手紙、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器、早蕨刃渡の太刀@戯言シリーズ、
     パイナップル型手榴弾×1、シズのバギー@キノの旅、医療品、携帯電話の番号を書いたメモ紙、
     トンプソン・コンテンダー(0/1)@現実、コンテンダーの交換パーツ、コンテンダーの弾(5.56mmx45弾)x10
     ベレッタ M92(6/15)、べレッタの予備マガジン×4
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:フリアグネの解説を確認後、今後の策を練りたい。坂井悠二の身の安全の確保についても含めて。
2:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。まずは北に行かせない事
3:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
4:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
5:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
6:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい


【超機動少女カナミンのフィギュア@とある魔術の禁書目録(?)】
少なくとも学園都市内では好評放送中の魔法少女アニメ、その主人公のフィギュア。
作中ではインデックスが大ファンである。衣装のカラーリングは某主役MSの様なトリコロールらしい。

【日本酒@現実】
ただの日本酒。ラベルに関してはノーコメント。

584 ◆MjBTB/MO3I:2010/05/15(土) 16:43:29 ID:RpfCo8PI0
投下完了。
17時までに動きが無ければ自分で再投下してみます。

585最後の道 ◆olM0sKt.GA:2010/05/23(日) 02:35:31 ID:EOuiHjfA0
すいません、状態表をのこしてさるさんになりました。
のこりはこちらに投下します。

586最後の道 ◆olM0sKt.GA:2010/05/23(日) 02:36:14 ID:EOuiHjfA0
【B-4/市街地/一日目・夕方】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形、右手単純骨折、右肩に銃創、左手に擦過傷、(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
      微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセルx1
[道具]:デイパック、支給品一式、ビート板+浮き輪等のセット(少し)@とらドラ!
      カプセルのケース、伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏
[思考・状況]
 基本:伊里野と一緒にいる。
備考]
 ※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
 ※伊里野が「浅羽を殺そうとした」のは、榎本たちによる何らかの投薬や処置の影響だと考えています。
 ※伊里野に関する記憶が薄れていってること(トーチ化の影響)をなんとなしに自覚しています。

【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:“トーチ”状態。その灯火は消える寸前。
[装備]:トカレフTT-33(8/8)、白いブラウスに黒いスカート
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフの予備弾倉×4、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)
[思考・状況]
 基本:浅羽とデートする。
 1:10時にバス停で待ち合わせ。10時半からの映画を浅羽と一緒に見る。
[備考]
 ※既に「本来の伊里野加奈」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
   紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
 ※元々の精神状態と、存在の力が希薄になった為、思考をまともに維持できていません。
 ※伊里野加奈は皆から忘れ去られかかっています。



【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 1:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。

【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)
[道具]:デイパック、支給品一式、贄殿遮那@灼眼のシャナ、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:シャナと再会できたら贄殿遮那を渡し、神社に戻るよう伝える。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
[備考]
 清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。

587最後の道 ◆olM0sKt.GA:2010/05/23(日) 02:36:50 ID:EOuiHjfA0
以上で投下終了です。深夜にも関わらずのご支援ありがとうございました。

588名無しさん:2010/05/23(日) 02:38:52 ID:6WOIT/Xk0
代理投下しますね。

589 ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:10:24 ID:4AmVrw6Q0
師匠、朝倉涼子、浅上藤乃投下します。
本スレまた規制されていたので、こちらに。

590「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:11:14 ID:4AmVrw6Q0
 あかね色の空が夕飯のメニューを想起させる、車道沿いのファミリーレストラン。
 専用駐車場に停められている黒白の車は、サイレンの音とパトランプの色を消し、主人たちの会食を守る。
 店先の街灯が灯るまで、あと数時間。舞台となるファミリーレストラン『Bennys』では、三名の来客が席についていた。

「おなかがすきました……」
「これなんてどう? 苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアだって」
「メニューを広げるのは構いませんが、コックは不在なようですよ」

 修道服を着た少女と、セーラー服を着た少女と、長い黒髪を持つ妙齢の女性が、店内奥の禁煙席に陣取りくつろいでいる。
 会話からは健在な様子が窺えたが、三人の格好はボロボロで、どうしようもなくグシャグシャだ。
 スカートのプリーツは端が焼け焦げ、長い黒髪には埃が付着している。肌には汗や血の臭いが滲んでもいた。
 店内には彼女たちしかいないが、貸し切り状態であったとしても、あまり飲食店に入るのに好ましい格好とはいえない。
 どこでなにをすれば、こんな風に汚れてしまうのだろうか。
 疑問に思ったところで、これが電撃使いとの苦闘の結果であるという回答を飲み込める者はいないだろう。

「それじゃあ、そのへんのテーブルに残っている食べ残しをもらおうかしら? 一応、腐ってはいないみたいだし」
「あなたの力の応用力には驚かされるところですが、食べ残しをいただくくらいな自分で作る手間を取ります」
「おなかがすきました……」

 セーラー服の少女、朝倉涼子の分析によれば、このファミリーレストランに人が訪れた形跡はない。
 しかしながら、店内のテーブルには食べ残しの料理――『彼女たち以外の客』がいた痕跡が、確かに残されていた。

 緑、白、黄、色とりどりのソフトドリンク。大皿に盛られたチーズとスナック、それにバーベキューソース。
 フォークが墓標のように立つイカスミパスタに、手つかずのまま冷えて固まった地中海風パエリヤ。
 喫煙席のほうまで視野を広げると、すっかり炭酸の抜けた中ジョッキや、吸殻だらけの灰皿まで置いてあった。
 まるでいつかの天守閣みたいな――そう思い至っても、口に出す者はいない。今は、些事よりも食事である。

「意外っ。師匠、料理ができるの?」
「ごはん……」
「こういう店の食材は、冷凍物がお決まりです」

 師匠と呼ばれる、長い黒髪の女性が席を立った。向かう先は厨房である。
 朝倉涼子はおしぼりで手を拭きながら言った。

「よかったわね、浅上さん。師匠がごはんを作ってくれるって」
「はい」

 ぐきゅるるるるるるるるるるるる〜

 返事の後に、あうあう。
 修道服の少女――浅上藤乃のおなかから、空腹を訴える音が鳴った。


 ◇ ◇ ◇


 やがて、朝倉涼子、浅上藤乃、師匠の三人が座るテーブルに、ほとんど解凍しただけの晩餐が並べられた。
 からあげやフライドポテトなどのツマミ系は、元から温めるだけなので簡単だ。見栄えもメニューの写真と遜色ない。
 カニグラタンやコロッケ、トーストなども及第点と言える。が、やはり見劣りするものも幾つかはあるようだ。
 エビピラフはメインであるはずのエビの主張がおとなしく、アンチョビピザはどれがアンチョビかわからない。
 鉄板系はほぼ全滅と言えるだろう。この店の人気メニューらしいハンバーグにいたっては、ソースの色が違っていた。
 サラダ系は作るのが面倒くさかったのか、テーブルにはまったくと言っていいほど緑がない。まるで一人暮らしの男性の食卓だ。

591「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:11:59 ID:4AmVrw6Q0
 それら、用意したのはすべて師匠と呼ばれる女性であるが、いただきますのかけ声もなしに真っ先に食べ始めたのもまた、師匠である。
 食事は取れる内に取っておけ、という心得を同行者二人に実践して教えるがごとく、猛然と目の前の料理を食らう。
 三人の中で一番空腹に苛まれていただろう浅上藤乃は、フォークを握れどなかなか手を伸ばせなかった。師匠の食の迫力のせいである。

「――だからね、私たちに欠けているのはチームワークだと思うのよ」

 極めて事務的な夕食を進めつつ、朝倉涼子が話を切り出した。
 彼女も彼女で、喋りながら箸を止めるということはない。
 聞き手に回る師匠も、テーブルマナーの是非を問う気は毛頭ないらしい。
 浅上藤乃は料理の確保を一旦諦め、ドリンクバーからもらってきた冷たいカルピスをちびちびと飲んでいた。

「利害関係が一致しただけの一時的な関係であるとはいえ、私たちが三人一組のチームであることに変わりはないわ。
 チームで動けばメリットが得られるけど、同時にデメリットも生まれてしまうの。
 私たちの場合、比重としてはデメリットのほうが大きいわね。私たちに必要なのは、そのデメリットを少しでも多く潰す作業。
 デメリットによって生じた隙を潰す、と言い換えたほうがいいかしら。作業っていうのも語弊があるけど、これはそのための会議なの。
 特に、さっきみたいに相手も複数の場合。チームワークで挑んでくる有機生命体は、必ずこちらのチームの弱点を見抜いてくるから厄介なのよね」

 師匠は相槌を返さない。浅上藤乃も、意識は目の前の料理へと移っていた。

「チームである利点を正しく活用したいのよ、私は。ただでさえ、私たち三人はタイプが違うのだし」
「――そう、タイプが違う」

 ソースで汚れた唇が、艶っぽく動いた。
 師匠は、一度おしぼりで口元を拭う。

「世間一般で語られるチーム……私たちの場合はトリオ、いえ、三人一組(スリーマンセル)とでも言いましょうか。
 なんにせよ、私たちの間に広義の意味での『チームワーク』などという言葉は当てはまりません。
 あなたの言うとおり、タイプが違うのだから――これが決定的な答えではありませんか。証明終了です」

 朝倉涼子の先程までの弁舌を、一蹴するかのような師匠の発言。
 もちろん、これにすぐ納得できるほど朝倉涼子も寛容ではない。

「でもね、師匠。それは意地を張っているようにしか聞こえないのよ。協調性って言葉を――」
「一つです」

 食い下がろうとする朝倉涼子の言葉を遮り、師匠は強く断言する。

「銃で死ぬ相手は私が殺し、銃で死なない相手はあなたが殺す。
 私やあなたが殺せない相手は彼女が『曲げて』殺す。
 私たち三人が持ち合わせておくべき作戦など、これ一つで十分です」

 カチャリ――と、スプーンと食器の接触で音が鳴った。
 朝倉涼子と師匠はいつの間にか食べる手を止め、浅上藤乃だけが一人で食べ進めていた。
 もぐもぐ、という健康的な咀嚼音は、すべて彼女のものだろう。

「下手な連携は身を滅ぼします。必要なのは、役割分担とその徹底。先の戦闘でも、私は失敗したとは思っていません」
「役割分担は正しくできていたってこと? 確かにそうかもしれないけれど、結果を見れば――」
「ならばそれは、単純に実力の問題です」

592「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:12:33 ID:4AmVrw6Q0
 理性的に話を進めよう。そう心に決めていた朝倉涼子の顔が、見るからに渋った。

「はっきり言いましょうか。私たちに欠けているものは、チームワークではなく『情報』です。
 あなたたち二人に限って言えば、経験も不足していると断言してよいでしょう。
 特にあなたの能力は、情報あってこそのものでしょう。相手や状況に合わせ、適確に適応化し、応戦のための応用する。
 先の戦闘も……御坂美琴、電撃使いでしたか? もっと早い段階で相手の特性を見極められれば、完全勝利も容易だったはずです」

 朝倉涼子は師匠の指摘に対し、沈黙での肯定を返した。
 浅上藤乃は口に入れたナゲットをよく噛んでから、こくこくとカルピスを飲み干す。

 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス――パーソナルネーム『朝倉涼子』。
 彼女の強みは師匠が指摘するとおり、『情報』にこそある。
 人、場、あるいは個、空間に存在するありとあらゆる情報を操作し、結合し、連結し、凍結し、ときには書き換え、状況を有利に動かす力――。
 有機生命体の言語では到底説明しきれないであろう朝倉涼子の真価にして真骨頂を、師匠はよく見抜いていると言えた。
 いわば、朝倉涼子の能力とは完璧なまでの『応用力』――それを最大限に発揮するためには、人を、場を、そして個を、よく知ることが重要だ。

 浅上藤乃が席を立つ。からになったグラスを持って、とてとてとドリンクバーのスペースに歩いていく。
 朝倉涼子は嘆息の後、言った。

「完全勝利も容易、か……零点だった私も、いつの間にか高く評価されたものね」
「あなたの他にも、ああいった存在がいる。ああいった存在に、あなたは拮抗しうる。事実を鑑みての再評価です」
「ありがとう、と一応言っておくことにするわ。それからごめんなさい。師匠は師匠で、ちゃんと考えてくれているのよね」
「もう一方的にあなたを殴り続けるという手間はごめんですからね」

 一方的? 師匠、それは記憶障害よ――と朝倉涼子は言いかけて、寸前でやめた。
 グラスにオレンジジュースをついできた浅上藤乃が、また席に着く。

「でも、情報かあ。競争相手の知識なんて、情報統合思念体からダウンロードできる環境なら一発なのになあ」
「今はアクセスできない環境なのでしょう。なら、自ら諜報活動に専念するしか道はありません。敵を知り、己を鍛えるのです」
「温泉のときみたいに、他の有機生命体と接触を持てということ? 理には適っているけど、師匠らしからぬ提案ね」
「いえ、そうではありません。今後は、標的に対した場合はまず半殺しにし、情報を搾り取れるだけ搾り取ってから殺すことにします」
「やっぱり師匠は師匠だったわ」

 浅上藤乃は気品ある物腰で、優雅に口元を拭っている。さすがはお嬢様学校の出身。
 師匠が用意した食事はまだ二割ほど残されていたが、既に三人は食べることをやめ、作戦会議に没頭していた。

「全体で見れば、あなたや御坂美琴のような人間はやはり少数でしょう」
「少数でしょうね。ほとんどは銃で死ぬ、師匠が殺せる生命体ばかりだわ」
「心得るべきは、その見極めですね。接敵の際は注意力を、そして観察力を働かせるようにしなさい」
「見極めたら、適材適所。メインとバックアップに分かれるといったところかしら」
「連携と呼ぶにはずさんですが、これが私とあなたの最適解です。理解はできるでしょう?」
「そうね。さすが師匠だわ。あなたと一緒なら負ける気がしない――なんて、そういう慢心が身を滅ぼすのよね」
「そのとおりです」

 やがて――こっくり、こっくり、と。浅上藤乃が舟を漕ぎ始めた。
 師匠と朝倉涼子の二人が、揃って黙る。視線はお互い、浅上藤乃の今は無垢な顔にいった。
 あどけなさの残る、疲れ切った表情。まぶたは、とろん。ほとんど落ちかけ、やがて頭を垂れるようにして。

593「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:13:05 ID:4AmVrw6Q0
「…………すー」

 浅上藤乃は眠りに落ちた。
 朝倉涼子は苦笑する。

「あらあら、寝ちゃったわ。彼女、湊啓太に電話することをすっかり忘れているみたい」
「忘れているのなら好都合です。現状、湊啓太とコンタクトを取ることに利点はありませんから」
「それもそうね。ところで、師匠」

 朝倉涼子は浅上藤乃の身体をそっと横にしてやり、声を潜めて師匠に喋りかけた。

「師匠って、自分の分だけじゃなく私たちの分の食事まで用意してくれるほど面倒見がよかったかしら?」
「もののついでです。くだらないことを言わないでください」

 師匠は口に残ったソースの味を、水で流し落とす。
 テーブルの上の散らかった惨状を目にし、しかし片づけようという気は毛頭ないようだ。

「食べてすぐ寝ちゃうだなんて、浅上さんも行儀が悪いわよね。それとも、それだけ疲れていたってことかな」
「なにが言いたいんですか?」
「一服盛ったんじゃない?」

 コトン、と師匠がやや強めにグラスを置いた。
 朝倉涼子は薄ら笑っている。口の端を緩やかな三日月にし、瞳をぱっちりと開いた、優等生のポーズだ。

「私が、浅上藤乃の料理に睡眠薬を混入したと?」
「睡眠薬とは限らないわね。睡眠作用のある薬なら……そうね。スタッフルームを探せば、風邪薬くらいは普通にあるでしょうし」
「そんな暇がいつあったというのですか」
「師匠、料理を作るって言ってずっと奥に引っ込んだままだったじゃない。その間、私たち二人は師匠の行動に関与していないわ」
「そうかもしれませんね」

 師匠はまたグラスを持ち上げようとして、すぐに置いた。
 グラスの中は、既に空になっていたから。

「初めて立ち寄った建物で、師匠が家探しをしない理由もないものね。金庫くらいは見つかったのかしら?」
「貨幣や紙幣は国によって様々です。いただくならどこでも売り捌ける物品が好ましいのですが、そう上手くはいきません」
「まあ、ただのファミレスじゃあね。でもここに立ち寄ったのは、そもそも金品目当てじゃないでしょう?」
「なにが目当てだったと言いたいのですか」
「休むことが目的でしょう?」

 朝倉涼子は手の平を広げ、あっけらかんと言った。

「この椅子取りゲームが始まって、そろそろ十八時間。師匠だって人間だものね。疲労はごまかせないはずよ。私だってそうだもの」
「……私個人の疲労と、浅上藤乃を眠らせたことと、どう関係があると?」

 師匠の返事。その『種類』を鑑みて、朝倉涼子は、クスリ。声に出して笑った。

「結論から言ってしまえば、『湊啓太への連絡』という手間を省きたかったんじゃないかしら。
 浅上藤乃を今後も武器として使っていくのなら、湊啓太の存在ははっきり言って邪魔でしかない。
 私たちにとっては一文の得にもならない復讐なんだし、そのために時間を浪費するのはナンセンスよね。
 じゃあどうすればいいのか。答えは単純。疲れている子には、眠っていてもらいましょ。それだけのことよ」

594「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:13:54 ID:4AmVrw6Q0
 ちらりと、二人の視線が横たわる浅上藤乃の寝顔にいった。
 彼女は人間だ。人間で、普通の女子高生だ。経験豊富な旅人でもなければ、ましてや宇宙人でもない。

「もともと疲れていたんですもの。一時でも気が緩んでしまえば、朝までぐっすりよ。いざというときには、叩き起こせばいいんだしね」
「……テーブルに並べられた料理には、私やあなたも手をつけています。そのことについてはどう説明しますか?」
「師匠、大げさなくらいがっついていたわよね。浅上さん、すぐ近くの料理にしか手をつけられなかったみたい」
「意図的に、私が彼女のペースに掌握したと」
「私はそもそも、おクスリとか効かないしね」
「なるほど。しかし、私の疲労との関連性が皆無です」
「浅上さんが眠ってしまったんじゃ、私たちも休まざるをえないわ。なにしろ、チームなのだから」

 師匠はきっと、朝倉涼子に対して弱みを見せまいとしたのだろう。
 浅上藤乃への対応、もとい小細工は、要するに大義名分なのだ。
 経験豊富な旅人とはいえ、彼女も人間。人間は、疲れる生き物だから。

「……湊啓太の件については、あなたが適当に話をでっちあげておきなさい。今後、浅上藤乃を動かしやすいようにね」
「了解したわ。師匠はどうするの?」
「奥に従業員用の休憩室がありますので、そこで休ませてもらいます」
「あら、私が寝込みを襲うかもしれないわよ?」
「私が寝込みを襲われるような女だと思いますか?」
「……表のパトカー、回収しておくわ。安眠を邪魔されたくはないし」
「放送の記録もしっかり取っておくように」

 朝倉涼子の『探り』に対する答えを、自ら口にすることはなかった。
 師匠は店の奥に、朝倉涼子は店の表に、それぞれ分かれ、各自やるべき仕事をこなす。

 彼女たちはなにより、効率を重んじる。そんな彼女たちだからこそ、功を焦る愚は犯さない。
 休息は必要だ。食事は明日の勝率を上げ、睡眠は明日の生存率を高める。
 それに、休息は――『情報』を纏め上げる絶好の機会でもある。


 ◇ ◇ ◇


「杞憂よ、師匠」

 朝倉涼子はガラス張りの扉を開け、店の表玄関に出る。そこで、一声。

「これは教えてあげられないけれど――このゲームに、『湊啓太』なんて人物は存在しないわ」

 空に残した呟きを耳に入れる者は、いない。
 朝倉涼子の行動は、人間でいうところの『ひとりごと』に該当する。
 そこに、どんな意味が込められていようとも――ひとりごとは、ひとりごとだ。

「だから、つまり、正解はね。浅上さんの勘違いだったのよ」

 態度から見て、浅上藤乃が嘘をついているとも思えない。嘘をつく理由も考えられない。
 ならば、正答はそれ一本に絞れる。彼女が通話したという湊啓太は、湊啓太ではなかった――ということ。

 朝倉涼子は知っている。正確には、今しがた知った。
 この世界に、いやこの物語に、『湊啓太』という登場人物は存在しない。
 名簿外の十人、その内の生き残りと判断できる四人の中にも、いない。
 検索し、照合したから、絶対にいないと言い切れる。

595「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:14:42 ID:4AmVrw6Q0
 だって――長門有希の情報の中には、きっちり『湊啓太を含まない六十人の名前』しか記録されていなかったのだから。

「まあ、湊啓太という名前が偽名、もしくは浅上さんの覚え違いという可能性も、捨て切れないけれどね」

 さすがにそこまでは面倒見切れない。求めているのは楽観なのだから、ここは安易に楽観することにしよう。
 湊啓太はこの地にはいない。つまり、もう三日も持たないであろう浅上藤乃の復讐は、叶わないということだ。
 ご愁傷さま、と心には思えど、実際にねぎらいの言葉をかけることはありえない――朝倉涼子は、一人笑みを作る。

「島田美波。如月左衛門。紫木一姫。それに“狩人”フリアグネ。引き出せた名前はこの四つね」

 停車中のパトカーをデイパックに収納するという、案外の力作業を行いながら考える。
 警察署で得た、長門有希の持つ情報。正しくは、長門有希の中に詰まっていた情報。
 それをゆっくりと、時間をかけて消化・吸収していく中で、朝倉涼子はまだ見ぬ競争相手たちの名前を知った。
 といっても、名前だけだ。顔も、性別も、人間か非人間かもわかったものではない。

「名前が載っていなかった十人について、長門さんは最初から知っていたということなのかな?」

 朝倉涼子は仮定するが、その謎は現段階では解明できない。真実を情報として抽出するためには、さらなる時間が必要だった。
 今のところは、名前がわからなかった四人の存在確認と、湊啓太という名を持つ少年の不在確認だけ。
 あるいは、師匠と浅上藤乃が目覚め、再び動き出す頃には――新たな『結果』が、朝倉涼子の頭に下りてきているかもしれないが。

「なんにせよ、師匠が寝てくれているのなら好都合だわ。『湊啓太として電話を受けた誰かさん』とも、お話しておきたいし――」

 携帯電話の番号は、既に浅上藤乃から聞いている。店内に電話があることも確認済みだ。
 自身の弱さは情報量の少なさにあると考える朝倉涼子、だからこそ――交友関係は広く持たないといけない。

「友達を作らないと、孤立しちゃうしね。それは学校でも、急進派でも同じ。コミュニティは築いておきたいものだわ」

 あらたかの作業を終え、朝倉涼子はまた店内へと足を踏み入れる。
 時刻は午後六時に近づき、店頭の照明はいつの間にか灯っていた。



【E-3/車道沿い・ファミリーレストラン『Bennys』/一日目・昼(放送直前)】

596「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:15:16 ID:4AmVrw6Q0
【師匠@キノの旅】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:FN P90(35/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x17)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、ガソリン入りペットボトルx3
[道具]:デイパック、基本支給品、医療品、パトカーx3(-燃料x1)@現実
      金の延棒x5本@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 0:寝る。
 1:朝倉涼子を利用する。
 2:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?


【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、長門有希の情報を消化中
[装備]:なし
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4(−水×1)、軍用サイドカー@現実、人別帖@甲賀忍法帖
      シズの刀@キノの旅、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、フライパン@現実、ウエディングドレス
      アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣、金の延棒x5本@現実、パトカー@現地調達
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する(?)。
 1:長門有希の中にあった謎を解明する。
 2:放送後にでも、電話を使って湊啓太(と藤乃が思い込んでいる誰か)に連絡を取ってみる。
 3:師匠を利用する。
 4:SOS料に見合った何かを探す。
 5:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
 長門有希(消失)の情報に触れたため混乱しています。また、その情報の中に人類最悪の姿があったのを確認しています。
 長門有希(消失)の保有していた情報から、ゲームに参加している60人の本名を引き出しました。


【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態、腹部の痛み消失、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:湊啓太への復讐を。
 0:……すやすや。
 1:電話があればまた電話したい。
 2:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
 3:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
 4:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。

597「作戦会議」― IN Bennys ― ◆LxH6hCs9JU:2010/06/15(火) 00:16:19 ID:4AmVrw6Q0
投下終了しました。
どなたか代理投下お願いします。

598名無しさん:2010/06/15(火) 00:20:54 ID:.fnTI/Hs0
代理投下しますね

599名無しさん:2010/06/15(火) 00:36:51 ID:.fnTI/Hs0
代理投下終了しました

600晶穂パートの修正:2010/06/17(木) 03:00:04 ID:ZwyG1Q/s0
ふらふらと歩く。
よくわからなかった。
境内をぐるぐると回る。
どうして、こうなったのだろう。
わたしはどうして、こうなったのだろう。

わたしが何かしたのかな。
何かしたからこうなったのかな。
わからないな、よくわからない。


ハジマリは何時だったのだろう。
浅羽と出逢ったときから。

でも、それ自体はとても平凡な出逢いのはず。
そして、平凡な物語のはずなのに。

何処から狂い始めたのだろう。

一体何処から……






……………………………………あれ?


わたしと浅羽が拗れたのって何だっけ。

何があったから、拗れたんだっけ。






…………………………あれ?


ああ、そうだ、あの少女だ。
非日常な少女のせいだ。

名前は、


いり……いり



……あれれ?



そうだ、かなだ。
あの子が現れて。
何を……したんだっけ。

あの子はそもそも


……どんなの子だっけ?

601 ◆UcWYhusQhw:2010/06/17(木) 03:00:36 ID:ZwyG1Q/s0

何……なんだろう?
よくわからない。
これは、なんだろう?


この消失感は何だろう……?
この喪失感は何だろう……?


嫌だ、怖い。
嫌だ、怖い。


失いたくない。
何も、何も。




わたしは………………失いたくない。


何かがよくわからないけど

怖い。

ただ、怖い。


全てが無くなってしまう消失が。
全てが終わってしまう喪失が。




本当に――――怖い。







【C-2/神社 境内/一日目・夕方】

【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:意気消沈、『喪失』への恐怖
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
 基本;生き残る為にみんなに協力する。
 1:…………………………怖い。
 2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。

602 ◆UcWYhusQhw:2010/06/17(木) 03:03:18 ID:ZwyG1Q/s0
以上が修正した箇所です。
修正に伴いタイトルを「disappear/oblivion」から「disappear/loss」に変更します

603 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:14:09 ID:UQqv8M7s0
お待たせしました。
まずは、指摘のあった部分の投下をさせていただきます。
本スレ>>292


おやすみなさい。はい、目ぇ閉じたー。


の文章以降の修正、及び文章の追加になります。

604 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:24:21 ID:UQqv8M7s0
失礼、ちょっと順番を間違えておりました。
本スレ>>292の部分も確かに修整してますが、そこから投下すると流れがおかしいこと必至でした。
というわけで先の宣言は一度解除。解説から先にさせていただきます。

今回の修整箇所

【必須の修整】
・シャナが悠二と再会する流れを修整
・それにより、水前寺の元にシャナ達が到着するまでのシーンを追加

【自主的に修整】
・白井黒子とティー、シャミセンのシーンを追加
・シャナがマネキンを見て、フリアグネの燐子であると確信する理由を変更
・いくつかのシーン追加に対応し、浅羽以外の登場人物の状態表を変更


今回の内容はこうなっております。
まずは【必須の修整】から投下するべきと思いましたが、時間軸などの関係でかなり問題がありそうでしたので却下。
素直に【自主的な修整】の項目も含めて、時間軸順に投下させていただきます。

では、改めまして投下します。

605本スレ>>276以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:28:39 ID:3XtX9tzk0
「ではもう一度訊こう。君の風は、松明の炎を消す事が出来るほどに強いだろうか? ぶつかって直、競り勝てるだろうか?
 黒桐鮮花の件を別物とし、そしてなおかつ彼女を止めると言うならば……それには相応の風力が必要になると見受けられるがね」

炎を消し去るためには、吹き荒ぶ風にならなくてはならない。
巨人が泣いているかのような声を伴う荒々しい風にならなくては、ただの燃料と同義である。

「私は……」

中途半端な言葉ではまるで駄目であること。それは、理解も覚悟もしている。
しかし今は出来る事をするだけ。こちらとて譲れないものはあるのだと、そう意を込めて黒子は口を開こうとした。
が、その前に、

「……ティー?」

憎らしくも反論を放っていたシャミセンを、優しく抱いているティー。
雪の様に白い彼女のその繊細な腕が、小刻みに震えていたことに、黒子は気付いた。
そして更に、先ほどまでの態度が嘘だったかのように、ティーがこちらを見つめていた。
射抜くような力強さがあるわけではないが、背けてはいけない気がする、そんな瞳。
それは何かを懇願しているようにも思えた。目は口ほどにものを言うというが、まさかティーに当てはまるとは。

目は口ほどに、ものを言う。
目は、口ほどに、ものを、言う。

もしかしたら彼女は、口にしていない思いと願いも抱いているのではないだろうか。

「ひょっとしてあなた……」

例えば、

「その復讐が無謀だと、自分でも理解しているのではないですか?」

だとか、

「自分でも意志が固いのか柔いのかが、わからないのでは?」

だとか、

「本当は、私に、自分を止めて欲しいのではなくて?」

こういう具合に。

「……」

ティーは相変わらず無言だった。だがこちらをじっと見ていることには変わりは無い。
微かに震えている事にも、変わりは無い。なるほど、これはこれは。
言うべき言葉が、固まった気がした。

「ティー、あなたを見ていると思い出しますわ……彼らを」

黒子の脳裏に浮かぶのは、学園都市内部で暴れる低レベル能力者達の姿。
更にその層から"根っからの犯罪者気質"の能力者を除いて抽出した、""
彼らは自分達の力ではどうにも出来ない高い壁、そして受け入れがたい現実から逃避する為に、能力を行使して犯罪に手を染めていた。
突然突きつけられた"低能力者"というレッテルと、生涯を"それ"と付き合っていく運命に憤りと怖れを感じ、暴走してしまった為である。
勿論、本人の努力ではそんな壁は乗り越えられる――常盤台中学の"超電磁法(レールガン)"、御坂美琴の如く――のだが、それはまた別の話。
そんな不逞な輩を裁き、そして捌くのが"風紀委員(ジャッジメント)"であり、その一員である白井黒子の仕事だった。

だから、そんな人間に触れる機会が多かったからこそ判る。
ティーはきっと"今"を怖がっているのだ。"自分に才能が無い"という現実を突きつけられた(と喚いている)不逞の輩と同じ様に、だ。
大切な人を失ったという今が、これからは彼のいない人生を送っていかねばならないという現実が怖くて、怖くて、怖くて、受け入れがたいのだ。
そうでなくては、彼女の急なこの宣言は、何だというのだ。
元から口数の少ないティーの事。本気に本気を足して更に二でかけるような事ならば、既に黙って行動を起こしているはずなのだから。

606本スレ>>276以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:29:58 ID:UQqv8M7s0
「とはいえ……これも同じく私の主観。真実は彼女本人に訊かねば、断言は出来ません。
 "私は私であってティーでも猫でもないのですから、主観的な見解には誤りがあるかもしれません"」

シャミセンへの皮肉の言葉もそこそこに、黒子はまとめに入る。
目の前の猫がいう"風力"が強くなっている実感が、そこにはあった。

「ですが結局、そこのお猫様にどう言われようが、私は今彼女を止めなければならない事実に変わりはありません。
 よくよく考えればそれは至極単純であり真実そのもの。先程の仮定の話によって揺らぎはしましたが、今はそう断言出来ます」

松明に塗られているのが、本当に可燃性の液体なのか否なのか。それは確かに断言は出来ないけれど。
だが、いや、だからこそ黒子はティーを止めようと、再び動く。

「ティー。あなたはきっと知らないだけですの。だから貴女は、怖かったのでしょう?
 あのクルツさんに"生きろ"と言われても……どうやって生きればいいかがわからない事に、恐怖していたのでしょう?
 大切な人を失った世界をどう生きるのかが解らなくて、今あなたの心は不安定に浮遊している。少なくとも私には……そう見えます」

居所を失っているティーに対する、クルツの説明不足が忌まわしい。
幼い子どもにはきちんと説明だてる事も重要だというのに。
しかし今はそういうことが言いたいのではない。だからこそ自分は、しっかりと説明をせねばならない。

「じゃあ、どうすればいい?」

ほら、こうやって、

「あのひとをわすれて、いきていけってこと? それはいや。ぜったいにことわる」

彼女は少し、勘違いをしているようだから。

「違いますわ。貴女は根からまず間違っています」

きちんと導いてやらねばならない。
それが、彼女と最初に出会った自分がやらねばならぬ事だ。

「復讐を企てない事と、その人の事を忘れる事。この二つは、同じではありませんわ。
 "仇討ちは武士の華"など今は昔。過激な行動など起こさずとも……彼を想い、彼の分まで生きる事が、弔いになる」

ティーは、シズを弔う方法を知らない。
彼への大切な想いを抱いて生きる事自体が既に彼の為の行動なのだ、ということがわかっていない。
心中という選択肢を最初に選んだのも、今思えばその証拠であるとも取れる。
彼女は"彼の為にも何もしない"という選択肢を選ばないのではなく、その選択肢自体を知らないだけなのだ。

「そんなの、わたしは」
「いずれ解る事ですわ。そして、いずれ解ると言うことはつまり、"これから生きていかねば解らないということ"。
 ……無駄に命を捨てるのはおやめなさい。彼を追い、彼だけの為に死ぬなんて……思い出の中で、じっとしているだけですの」

"やはり、帰ってからもう一度話をするべきでしょうね"、と心底そう思う。
今度はクルツも交えてきっちりとだ。その為にも、と黒子はティーに右手を伸ばした。
意味は言うまでも無い。一緒に帰ろう、というメッセージ。
そしてそれだけではなく、言葉も続ける。

「"貴女が彼の事を想い続けている限り、ただそれだけで彼は貴女の心で生きている"という事を、貴女もいつか理解する日が来る。
 "彼が本当に死ぬとき"とは、"誰にも思い出されることがなくなった"時。貴女の今の行動は、彼自身を真に殺害する事と同義ですの」

ティーがこの手を取ってくれる事を、祈りながら、

「忘れないということは、それだけで素敵な事ですから」

言葉を重ね、松明を吹き消す風になれるよう努めた。


       ◇       ◇       ◇

607本スレ>>276以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:31:24 ID:UQqv8M7s0
「いない……どこか奥にでも入り込まれたかもしれない」
「参ったものだ……あの遺体も含めて、の話だが」

一方変わってシャナと美波、そしてアラストール。
彼女達は、結局あの謎の少女を追いかけて百貨店の近くにまでたどり着いていた。
現在はその巨大な建物の上空で静止。上空から俯瞰している状態である。
だが辺りは発展している事もあってか背の高い建物も多く見られ、全てを見通すのは少々骨が折れた。
これはどうももっと深く探索しなくては、という結論を出し、百貨店近くを鳶の様にぐるぐると飛行するシャナ。
だがそんなときに限って、外に遺体が一つことに気付いてしまう。見知った背格好でも顔でもないことから、どうも知り合いではない。
ついでに、誰にどうやられたかも不明。だが恐らく百貨店で何かあったのだろうとは簡単に予測出来た。

「検死でもするべきかもしれんな」
「うん。さっきの人間に関係あるかもしれないし……じゃあ、高度を下げる」
「えっと、こういうときなんていうんだっけ……"Kuwabara, Kuwabara."……だっけ?」

"まさかあの少女が殺したのだろうか"、という説までもを浮かべつつ、シャナはゆっくりと降下を開始した。
島田美波を吊ったままの状態であるため、その速度は遅い。この場に落下傘部隊が同席していたら、全員に先を越されていくだろう。
通学路を徐行する車の様な速度を保っている今は隙だらけ極まりないため、辺りを注視し警戒を怠らないのも忘れずに。

「ん?」

その判断は正解だったのだろう。今度は百貨店の屋上で何者かが歩いている姿が目に入った。
仲良く一列に設置された何台かの自動販売機の前を、ゆらりゆらりと横切っている。
性別は先ほど発見した遺体とは違い、女性だった。そしてその右手には大きな鋏がある。
力なく動くさまは、どこか夢遊病に苛まれる人間のようにも見える。
こんなときに次から次へと、と悪態をつきかけたとき、ふと目が合った。

「いや、違う……!」
「ぬぅ! シャナよ、あれは!」
「え、何?」

だがその謎の人物の顔を見て、シャナ達は自身の間違いに気付いた。
女性の顔には生気が無いとは思っていたが、それは当然のこと。
何故なら"彼女"はいわゆる有機生命体ではなく、無機物だったからだ。
人形。否、あれはマネキンだ。女性型のマネキンが、勝手に動いている。
更に言えばもっと違う。あれはただのマネキンではない。ましてや怪奇現象でも、都市伝説でもない。

「燐子か!」
「どうしてこんな所に……まさか!」
「だから何!? やばいの!?」

何の変哲も無いマネキンの、特に機能が備わっているわけではない作り物の瞳が、こちらを完全に捉える。
その瞬間、シャナとアラストールは見覚えのあるモノを目撃した。

「……ッ!」

視覚で捉えたもの、それはマネキンが宿している"白い炎"だった。
シャナは目を見開いたまま動きを止めてしまうが、同時にその脳裏にとある“王”が浮かび上がった。
その王は雪の様に白いスーツを着た優男。衣服と同じくらい白い炎を纏い、様々な宝具でシャナを追い詰めた実力を持っていた。
近代では五指に数えられる強大な“紅世の王”であり、フレイムヘイズ殺しの異名で恐れられていた圧倒的強者。

愛に生き、愛に殉じた彼の名は、フリアグネという。

間違いない、彼の燐子だ。
そう察した瞬間、百貨店からフリアグネの殺気を感じ取った。ビリビリとした重圧の激しさは全く笑えない。
建物越しであるにも関わらず、あの王のこの冴え。ここを根城にしていると見てまず間違いないだろう。
御崎市町での先の戦いを再演しているのならば、ここは絶対に捨て置けない。ここで討滅せねば、確実に危ない!

608本スレ>>276以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:33:13 ID:UQqv8M7s0
「「シャナ!」」

アラストールと美波の声で、思考中だったシャナが我に帰る。見ればあの燐子が、槍投げの要領で大きな鋏を投げつけてきていた。
直線的な動きに何とか対応し、持ち手の部分をキャッチするシャナ。すぐさまお返しとばかりに相手に投げつける。
鋏は狙い通りの機動を描いて燐子の頭部に命中。相手は沈黙し、それ以上動く事は無かった。あまりにもあっけない最期である。

「弱い……」
「うむ、恐らくはあの人類最悪が口にした"淡水と海水"の範疇であると言う事かもしれん」
「ね、ねぇ? で、結局なんだったの!?」
「でもあの炎の色は間違いなく……!」
「うむ、あの狩人と見て間違いないだろう……それは我も同意見だ。シャナよ、追跡対象は惜しいがここは……」
「ねぇちょっと、だから一体何!? さっきのは何なの!?」
「そうね……島田美波の為にも一旦引く! あのどこに行ったか解らない人間二人が百貨店に入ってなければいいけど……」
「うむ、今は確実に護られる者から護るべきだ。奴に見つかっている可能性もあるが、一度体勢を立て直すぞシャナよ」
「おーい」
「「後で説明はする」」
「……Jawohl(了解)」

一般人を伴った状態では、強敵の根城の近くになど長居は無用。結局彼女らは、来た道を戻る事となった。
再び高度を上げるとそのまま空中で機動を変え、その場から飛び去っていく。
追跡していた対象の少女のことは諦めざるを得なかったのは、実に惜しかったのだが。
街の上空をとんぼ返り。この島田美波との"まるで拷問スタイル"な飛行も、もはや慣れたものだ。

そう考えながら何度羽ばたいた頃だろう。地上をふと見下ろしたとき、南下している二名の人間を目撃した。
急いでブレーキをかけ、そうしてよく見ればただの二人組ではない。その内一人はまさかのトーチである。
二人は自転車に乗っている。川沿いに進んでいる様で、百貨店に立ち寄る気配は無い。

「あの女のほうはトーチだわ。しかも、もう後しばらくしない内に消えそうね……男のほうは普通だけど」
「逆に不可解だな。そればかりか、怪我を負ってはいるものの致命的ではないのもおかしい……接触するか?」
「けっ、消さないわよね!? 消さないわよねシャナ!?」
「うるさい! ああ、もう……それにしても全然こちらに気付かないわねあの二人」
「我々の高度の事もあるだろうが、何より必死なのだろう。少年の方は特に、動きや表情からその必死さが見受けられる」
「難儀なものね……じゃあどうにか気付いてもらうしか……」

気付くのが遅かった事と、すれ違った瞬間のシャナの飛行スピードも手伝ってか、少し位置が遠い。
恐らくコンタクトを取りたければ、近付きつつも派手に行動を起こすしかないだろう。
再びとんぼ返りの準備。そして自身の存在をアピールせんと、大きく息を吸い込んだ。

「シャナ!」

だがその行動に待ったをかけるかの如きタイミングで、別方向から声が聞こえてきた。
美波にとっては見当がつかず、そしてシャナとアラストールには聞き覚えのある少年の声が響く。
その聞き覚えがあるにも程がある声を前に、進行を止めて振り向くシャナ。
視線の先は小さなアパートの屋上。そこに、少年が一人立っている。
少年の名は坂井悠二。そう、つまりはシャナやアラストールが望んでいた邂逅が、遂に今ここで成されたということだった。
空中で忙しく軌道を変え、今度は悠二に近付くシャナ。美波はされるがままにされ、具合が少し悪そうだった。
そして一方の地上では、必死なあまり周りの声が聞こえてなかったらしい自転車乗り二名がその場から離れて行ってしまっている。

「ゆ、悠二! 無事だったの!?」
「シャナ、良かった! アラストールも!」
「ちょっとシャナ、アラストール! あの二人行っちゃったわよ!」
「う、うむ! 無事は無事だが……この邂逅で自転車に乗ったトーチを取り逃がした」
「自転車……ああ、それなら僕達の関係者だ!」
「僕"達"……?」

しかしその分大きな収穫はありそうだ。
というよりは、収穫があってくれないと困る流れであった。

609本スレ>>276以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:35:28 ID:UQqv8M7s0
       ◇       ◇       ◇


浅羽と伊里野の再会をプロデュースしたあの後、水前寺は彼と彼女を二人きりにして見送るという道を選んだ。
それはあの浅羽が、"伊里野の願いを叶えたい。ぼくは二人きりで映画館に行く"、と表明したからであった。
こんな場所で無力な人間が二人でのんびりデートと洒落込むなど愚の極みであり、そんなことは誰でも理解出来る事実である。
それに、可愛い特派員達がリスクの高い道を行こうとしているのならば、部長としてはノーを突きつけるべきだとも思う。
だが結果的に水前寺は、浅羽達二人の旅を許した。二人の意見を尊重し、全てを任せる道を選んだのだ。
理由など大量だ。

浅羽が本当に本気だったのもある。
伊里野だって浅羽と二人きりになった方が嬉しいだろう、と結論を出したのもある。
この二人の間には、もはや自分が入る余地など一切無いのだろうと理解出来たのもある。
最期くらい部員の願いを叶えてやらなくて何が部長か、という別方向での責任感に燃えたのもある。
そして。
どうせこのまま伊里野は消えてしまうのだから好きにしろ、と投げやりに考えてしまったのもある。
あまりにも儚げで、下手を打てばこのまま目の前から消失するであろう伊里野をこれ以上見たくなかったのも、ある。
浅羽を理由にして、目に見える現実を地平の向こうへ追い返してしまいたかったのも、ある。

「水前寺……その……ちょっと、見張りでもしてきて良いかな?」
「…………みはりとな」
「うん、手持ち無沙汰っていうのもあれだけど……何かをしていないと、不安なんだ」
「ん……そうか……気をつけてな…………」

水前寺は今、珍しく無気力な姿を晒していた。
なんと珍しい事に、ベンチに横になってただただぐったりしているのだ。
行動を共にしている現在の相棒、坂井悠二に見られようが知ったことかと言わんばかりだ。

そう。今回の出来事と選択は、破天荒な彼の心にもかなりダメージを与えていたのである。
悠二から伊里野の現状を聞いてから現在まで、かなりな痩せ我慢を決行していたのだが、それも限界が近い。
そうして心が随分と堪えたがために、こうして惰眠を貪る様な休息を続けているのだ。

苦楽を共にしていたと言える"伊里野特派員"が消えてしまうという現実。
消えると解っていて、それでも伊里野と一緒にいることを選んだ浅羽を煽るような自分の行動。
そして危険を承知で二人を見送るという、蛮行にも思える選択。
短い時間の中で告げられた事実と、正しいと思いつつも危険も孕んでいることも承知の発想。
浅羽と伊里野を"せめて最期は二人きりにしてやる"という、危険やリスクは承知での選択肢。
そしてその選択肢のおかげで嫌でも実感させられた、"結局はそれ以上に自分に出来ることは何も無かった"、という現実。
今までの"伊里野がいた"という当たり前の日常に戻れなくなる、という確実な未来。

水前寺の鋼の心をも疲弊させるには十分な要素が揃っている。
品揃えは抜群で、在庫もたんまりだ。取り寄せだってもってこい。
水前寺が何も言わず、何も言えずに立ち止まるのも頷けるだろう。
しかしそれだけではない。水前寺をここまで追い詰めた要素はまだある。

「…………はぁ」

結局、伊里野が消えて悲しむ浅羽の姿を見たくなかった水前寺は、彼に「ほんとうのこと」の詳しい説明をしなかった。
"理解をする間を与えなかった"以上、伊里野が消えたとき浅羽が彼女のことを忘れるであろう事を理解していたが、その上でである。
浅羽は存外に弱い。あの伊里野が消えてしまっては、心が壊れてしまうかもしれない。そうでなくとも暗雲を落とすのは明白だろうと予測出来る。
故に水前寺は浅羽に何も言わなかった。いっそ伊里野を認識出来なくなる方が、本人の幸せになるかもしれないと考えたのだ。

610本スレ>>292以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:37:59 ID:UQqv8M7s0
だがそれはある種の巧妙な罠。それこそが、水前寺が背負う一番のストレスを作り出すきっかけだった。
自分で選んだ道で、かつ今更だというのは理解している。
だから本来はこんなことで迷う資格は無いと承知で、けれどもしんどさを覚える。

浅羽を弱いといっておきながら、その実一番弱かったのは、自分。
"伊里野が消えた事実を前に苦しむ浅羽"を見たくないと思って"この選択をした"にも関わらず、
それと同時に、このまま"伊里野の事を綺麗さっぱり忘れた浅羽"を受け入れる勇気すらも無かったのだ。
伊里野を失って悲しむ浅羽も見たくなくて、伊里野を忘れた浅羽も見たくない。
どちらも不可能なのに求めてしまう、哀しき性。忌まわしいものだと思う。

そこで水前寺は今、このまま浅羽と同じ様に"忘却の彼方へと沈む道"を選び取ろうとしていた。
そうすれば自分も浅羽と共に、伊里野のことを忘れられるからだ。浅羽の姿を見ても、何の疑問も後悔も持たなくなるからだ。
何せ辛いのだ。逃げたいのだ。全て忘れてしまいたいのだ。何もかもが無かった事に出来るなら、それが一番いいとすら思えたのだ。
正直なところ自分は紅世の王やらなんやらをまだ目撃していない状況であり、非現実的な技を実際に食らったり観察したわけでもない。
どうも宇宙人にも関係無さそうな話題であったのも手伝って、この自分の頭と言えども理解に達していない部分も少なくないのである。
ヴィルヘルミナ曰く、理解度――今は仮にこう表現する――が低い、または少ない人間は忘却の渦に巻き込まれるという。
つまり、今の自分ならば伊里野加奈を忘れる事が出来る可能性が高いという事だ。

そこから"このまま忘れた方が辛い思いをしなくて済むならばもうそれで良いか"、という結論に至るまでは実にスピーディーだった。
伊里野の事を、この出来事を心に刻んだままならば、恐らくは想像以上にしんどい思いをしてしまうに違いないから。
だから、もう何も無かった事にする。
我ながら弱気だと思う。まだ二十年に満たなくとも常人のそれよりは遥かに濃い、そんな水前寺邦博の人生の中で初めて抱いた感情だ。
数十年後に今の自分を思い出したなら、きっと黒歴史扱いするかもしれない。いや、覚えてないのだから歴史も何も無いわけだが。

もう良い、もう疲れた。もうこの件についてはノーコメントで行こう。
ああ、このまましばらく仮眠としゃれ込むのも悪くないかもしれない。
目覚めた頃には伊里野は消失し、もうこのことに触れなくても済むというわけだ。
よし、その作戦でいこう。いっちゃおう。俺に出来ることはやりきった。
例えてみれば、100円玉一枚でラスボスにまで進んだものの、最後はわからん殺しで見事に撃沈。
これが自分の進んだルートだったのだ。今の自分にはお似合いのオチだ。
それじゃあ、もうこれでさようなら。お疲れ様でした、今日のお勤めはここまでです。
おやすみなさい。はい、目ぇ閉じたー。

611本スレ>>292以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:39:40 ID:UQqv8M7s0
       ◇       ◇       ◇


坂井悠二がどういうプロセスを辿り、空を飛ぶシャナ達を発見するに至ったか。
それは別段複雑な事情があったわけでもなく、運の向きが良かった事によるものが比重を占めていた。

きっかけは浅羽と伊里野が再会し、悠二が水前寺の行動の手助けをした後のこと。
彼は、事を成した水前寺に対して贈るべきであろう言葉を、未だ見つけられずにいた。
水前寺が沈んでいる姿に対し、どうすればいいのか。それが坂井悠二には判断出来なかったのだった。
付き合いがもう少し長ければとも思い、同時に自分が“紅世”に関する知識を持っていながら何も出来ない事が恨めしい。
あの伊里野という少女と浅羽という少年を見て、それからどうするかを選ぶのは水前寺自身。
彼が何も言わない限り、こちらから動く事は出来ないのだ。実に手持ち無沙汰を感じざるを得ない状況だ。
浅羽という少年を一人で見送った以上、このままどこかまた水前寺と二人で行動するわけにも行かないわけで。

やはりこうなると、自分に出来ることは付近の偵察くらいのもの。自分達を狙う存在がいないかのチェックだ。
そう決めた瞬間に悠二は既に動いていた。まずは水前寺に、少しだけ離れた場所へ移動する旨を伝える。
そして了承を得られた瞬間に思うが侭に作戦開始。建物の天井へと登り、続いて更に高い場所へと上っていく。
アクションゲームの主人公の様な挙動でそれを続け、とにかく高く、なおかつ辺りを視回せる場所へと進む。
最後に数階建てのマンション、その屋上へと立つ事になった。人外の動きに慣れ始めた自分が、ありがたくもあり少し恐ろしかった。

そして迅速な行動が功を奏したのは次の瞬間。
彼は人よりも優れ始めていた視力と、“存在の力”を感じ取る能力で、シャナの居場所を発見できたというわけである。

「フリアグネが、百貨店に……?」
「うん、間違いない。あいつは御崎市での戦いと同じ行動を取ってるみたい」
「だが一つだけ違うのは、貴様の言う"少佐"という人間が下についているということか……」
「フリアグネをを利用しているとは言ってたけどね、彼は」
「そんなの不可能よ……あいつは人間を麦の穂程度にしか考えてないのに。その少佐っていうのは人選を、"王選"を間違ってる」

そうして再会後。
まずは全員が各々、今までに取ってきた行動と今までに見てきた事を軽く報告。
その結果、水前寺が近くにいると知った島田美波という同世代の少女が彼の元へと走って行き、“紅世”の関係者だけが残された頃。
三名はそれを追いながら、更に濃い話を展開させていた。

「今思えば、呼び止められなかったあのトーチの炎も、フリアグネのものに間違いは無かった。
 気付くのがもう少し早ければ、あやつらに存在の力を与え、この会話に混ぜる事も出来たのだろうが、惜しかったな」
「僕がシャナ達を呼び止めたタイミングが最悪だったかな。ごめん……今思えばこっちも精神的にちょっと参ってたのかも」
「いや、悠二の所為じゃない。どっちにしろあのまま飛んでたら……うん、あの子が先に壊れてたかもしれないし。結構本気で……」
「えっと確か、島田さんだっけ? 彼女も揺られてた所為か具合悪そうだったよね……水前寺の話を聞いたらケロッと治っちゃったみたいだけど」
「あの少女の体も労わるべきであったな」

612本スレ>>292以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:41:22 ID:UQqv8M7s0
水前寺と美波の元へと戻るこの"関係者"三名が邂逅出来た事は、実に幸運であり大きな収穫だった。
少なくとも、フリアグネの話を聞くことが出来ただけでも大きい収穫なのだ。
自分達は決して迷うことなく一歩ずつ進む事が出来ているのだ、悠二は改めて確信をした。
出来ればこのまま行動を共にし、近々フリアグネ討滅にも乗り出すが吉、という案も浮かびかける勢いだ。

しかし、そうは行かないのが現実の厳しいところ。
確かにこの豪華メンバーが揃った現状、そうしたいのは山々だしそうするべきだと思う。
けれど今は違う。行動を共にするのはともかく、このままフリアグネの元へと突撃するのは、絶対に違うのだ。

というわけで、三名は遂に美波へと追いつき、水前寺が休息を取っているベンチ近くに、彼女を伴って到着。
それをいい景気と見て、悠二は彼女達から少し距離を置いた後、自身の希望的観測をばっさりと切り捨て始めた。

「とりあえずシャナ、アラストール……折角会えたばかりだけれど、僕達はこれから再び別れるべきだと思う」
「……やっぱり、か」
「む……一筋縄ではいかぬか、やはり」

悠二の言葉の意図。シャナとアラストールはその真意を理解してくれたらしい。

「流石にあの水前寺がいつも通りに好調だったとしても、フリアグネとの戦いにつき合わせるのは絶対に駄目だ」
「うむ……同じく島田美波にも、一度神社へと帰還してもらうべきだろうな……シャナ?」

悠二がフリアグネ討滅の為の電撃作戦を、ここまで来て立案しない理由及び要因。
それは互いがここまで連れて来てしまったあの一般人二名、水前寺と美波の身を案じてに他ならなかった。
悠二は水前寺に振り回されながらもその行動を黙認していたが、シャナの身の上話を聞いて決意したのである。

「うん、わかってる……温泉のときの二の舞だけは、私は絶対に、踏みたくない……!」

邂逅直後に聞いたシャナの身の上話に出てきた、櫛枝実乃梨と木下秀吉という可憐な少女。
彼女らが命を落とした事実とそこに至った理由は、決して無視出来なかった。
故に悠二は、ここでシャナ達と行動を共にする事に今は固執しない、という勇気ある決断をしたのだ。

「だがここに来てフリアグネを見逃すなど、あまりにも危険であろう。どうするというのだ?」

しかし決断だけで現状はプラスへと動きはしない。詳細が決まらなければ、話にならないのが今のこの状況だ。

「……今のところは、シャナが水前寺達を神社へと帰還させて、その間に僕が百貨店に先行する案を考えてる」
「悠二が……!? 危険よ! だったら私が……!」
「駄目だ。何せフリアグネの下にはあの“少佐”がいる。君を一人では行かせられない!
 少佐は君を利用するつもりだ……彼の最終目的が未だに判らない以上、君が向かうのは悪手だ」
「で、でも悠二はまだ実戦には早い! 今も“銀”の事があるし……万一の事がないとは言えないじゃない!
 フリアグネがどんな奴かなんて、人質にまでなったことのある悠二なら解ってるはずなのに、どうして!?」

613本スレ>>292以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:43:38 ID:UQqv8M7s0
シャナ達が今をどうするべきかを練るに辺り、最も大きな壁となる男。
本名不明の彼を示す呼称は“少佐”のみ。彼の立ち位置は、フリアグネの部下。
国籍、生年月日、年齢、職業、全て不明。そして彼が抱いている最終目的も、何もかもが不明。

未知数にも程がある彼の存在は、シャナ達が安息を得る為の道筋を明らかに阻害していた。
鋭い瞳は猛禽類、地に立つ姿は肉食獣。力強さと聡明さを併せ持っているであろう彼は、どう考えても危険だ。
少なくとも、シャナにとっては。

「多少のリスクを背負うものの……僕がフリアグネに気付かれずに少佐とのみ接触すれば、話は変わる」

しかし自分はまだ、フリアグネはともかく少佐になら生かされる理由があるのだ。

「フリアグネに対する抑止力……つまり君を呼ぶ為の駒なのだと、僕は彼から告げられた。
 これを活かさない手は無い。少佐を上手くコントロールし、彼の思惑を封じる策を、今から練る」
「つまり、どういう……」
「シャナには水前寺達を先に神社に送ってもらう。その間に僕は百貨店へ潜入、どうにかして少佐とコンタクトを取る。
 そして彼の思惑通りに君を連れてくると告げて時間を稼ぎ、君がフリアグネとぶつかるまでに、少佐の動きを僕が制限する」
「確かに貴様の言う“少佐”はただの人間であり、その作戦も不可能ではないだろうが……」
「それでも危険よ! あの“狩人”と一緒なら、危険な宝具を持っていてもおかしくない。それに"海水と淡水の話"だって……!」

シャナの誤記が段々と荒いものになっていく感触を覚えるが、それでも悠二は続ける。
これは確実な勝利を目指す為の大きな試練なのだと、そう確信しているが故に。

「水前寺達をここから離しながらフリアグネの行動を阻害し、かつ少佐の手札を増やさないのが理想なら、現状はこれしかない。
 そもそも僕達には、フリアグネ討滅の前にクリアしておかなければならない条件が多すぎるんだ。このままだと確実に出遅れる」
「一種の賭けだな。しかも貴様が一方的に危険な、分の悪いものだと言わざるを得ない」
「その通りだよアラストール。けれど、少佐を野放しにしたままシャナを一人で行かせるなんていう愚行よりは、ずっといい」
「そうか……では我はもう何も言わぬ。貴様の大胆な作戦に救われた事も、一度や二度ではないのが現実だ」
「ありがとうアラストール……ねえシャナ、僕は君に万一の事が起こって欲しくないんだ。解ってくれないかい……?」
「でも、姫路瑞希を探す約束だって……」
「シャナ……!」

あの少佐の行先が善か悪かどちらであろうとも、彼がシャナを“討滅の道具”でしかないと認識していることに変わりは無い。
だからこその作戦内容だ。少佐とコンタクトを取る事で、近々訪れるであろう恐ろしき"彼らの時間"までの一歩を、少しでも遠ざける。
例え不可能かもしれなくとも、少佐がシャナに対する考えを改めるよう説得するプランも含んでの、今回のこの作戦。
肝心な部分がふわふわしているものの、“徒”との戦いは常々こんなもの。事前にじっくりと作戦を練られた事の方が少ないくらいだ。
フリアグネの部下が今や少佐一人ではないという可能性すらあれど、そこはもう自分の地力でどうにかするしかないだろう。

「悠二……」

これまでになく迷い、惑っているシャナの答えを悠二は静かに待つ。
水前寺に対してまずはどう声をかけようかと迷っているのであろう、シャナに似た表情を浮かべる美波を視界の端に捉えながら。

「わかった。わかった悠二! あの自転車に乗ってた人間の方が戻ってきたら決行する! 絶対に、すぐに戻るから……!」
「うん。絶対だ」
「だから……死なないで……」
「うん、それも……絶対だ!」

苦渋の決断だと言わんばかりに不安な表情を浮かべていたシャナは、それでも了承してくれた。
仕方なく、なのだろう。けれどそれでも構わない。シャナにここまでさせた事の謝罪は、この後で必ずする。
今はただ自分に出来る最善を尽くすまでなのだ。

614本スレ>>292以降 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:44:13 ID:UQqv8M7s0
「まぁまずは、水前寺達がシャナの言う事を聞いてくれるかが第一の賭けか……」

そう呟いて振り返ると、目を閉じている水前寺の傍で仁王立ちしている美波と目が合った。
彼女はすぐに目を反らすと、離れていても判る大きなモーションで息を深く吸い始める。
どうやら荒っぽい方法で水前寺の覚醒を促すつもりのようだ。

「お互い、大変だな……」

彼女のあの不器用さを目にしてしまうと、この時点で賭けは少し分が悪い気がしてしまった。


       ◇       ◇       ◇


寝たいときに限って眠れない。人間誰しも、そんな経験はあるだろう。
水前寺が現在進行形で悩んでいるのはそれに近い。

現在彼は緩やかにまどろみながらも、深い眠りには至られない状態を彷徨っていた。
よく考えれば当然だ。浅羽と伊里野の事を考えながら、ゆったりと眠れるなどありえないのだ。
しかしそれでも自分の為に、睡眠をしようとどうにか気張る。だが気張れば気張るほど意識してしまい、目が覚めそうになる。
永遠にも思えるサイクル。負の連鎖に対し水前寺が抗える術は無い。半分睡眠出来ている事自体が、もう充分凄いくらいなのだが。
目を閉じ、耳を塞いで辺りの情報をシャットアウトするものの、そんな事は無意味だった。

「……! ……っ、…………!!」

しかもそれだけに飽き足らず、つくづく運が悪いことに状況は更に悪化した。
瞼を閉じて暫くした頃、なんだか騒がしくなってきたのである。物理的に。
暗闇の向こうから激しい声が聞こえてくる。超うるさい。マジでうるさい。
耳をふさいでいるのと、なんやかんやで現実逃避から未だ完全に戻ってこない脳のおかげで、言葉も聞き取れない。
凄く中途半端な状態のまま、聞こえてくる声に苦しむ水前寺。

「! っっ! ……!」

どうしたどうした何があった何が。何が起こってるんだこんなときに。
眠らせてくれ。おれはもう良いんだ、引き止めないでくれ。
今は生憎SOS団団長の気分じゃあないんだ。皆大好き水前寺部長というわけにはいかないんだ。

「水前寺ぃっっっ!!」
「ふぉあっ!?」

だが水前寺は目覚めた。理由など判らないが、唐突に言葉を聞き取れたのが理由だ。
そう、彼は耳が捉えた言葉の内容とその音量に驚き、閉じていた両目を見開くと同時に上半身が勝手に飛び起きたのである。
激しく聞き覚えのある声だった。芯の通った、活発な印象を覚えさせるすっきり感。
ゆらゆらと歩く酔っ払いにすら"気をつけ"と敬礼をさせてくれやがりそうな、強気の話し方。
そんな要素が詰め込まれた声が自分を呼んでいると知った瞬間、体が勝手に動いてしまったのだ。

しかし声の主の名が出てこない。寝ぼけたままの眼と脳は、どうにも働きが鈍すぎる。
確かテレビで似たような声の有名人を見たことがあったような気がしたのだが、思い出せるだろうか。
えっと、確か苗字が清水か水橋かで、それから名前が、

「あんた、何やってんの……?」

違った。目の前にいたのは、清水でも水橋でもない。島田だ。
そう、島田美波。水前寺目掛けて大声を出していたのは、あの"島田特派員"だったのだ。
その後ろでは、紅色の髪の少女が坂井悠二と一緒に立っている姿が見える。
まさか坂井悠二の言っていたシャナというのはあの少女のことなのだろうか。
現実逃避的にそんな風に推理をするもすぐにやめ、もう一度視線を戻す。

やっぱり目の前にいるのは、島田美波本人だった。

615本スレ>>346 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:46:07 ID:UQqv8M7s0
「アンタの選択は正しかったよ……Der Direktor(部長)」

更に、さっきとは逆に水前寺の頭を撫でる美波。
その行動に対し水前寺は文句の一つを言うかと思ったが、意外にも何もなし。
彼女の手を無言で受け入れ、同時に何かを喋っているのか、口を微かに動かしている。
予想に過ぎないが、きっと美波に対し小声で礼を言っているんだろう。多分、水前寺はそんな男だ。

「んじゃさ……もし良かったら、ウチのヘアゴム探してくれない? さっきの喧嘩でどっかいっちゃってさ」
「っと、そうだったな。すまないが坂井特派員も協力してくれ」
「うん、わかっ……ん? え? 特派員?」

背伸びをしながらの美波の頼み事を了承し、いつも通りの姿に戻った水前寺。
悠二は二人の様子に安心感を覚えていた途中だったが、突如水前寺が言い放った言葉に驚いた。
あのーどういう事なんでしょうか水前寺に島田さん、と思わず質問をする。
すると美波は苦笑いを浮かべながら「まーた始まった」と一言。明確な回答は無い。言った本人に聞けということか。

「あのー、つまりは?」
「今までの君の活躍と情報提供へと感謝の意を込め、今からそう呼ばせてもらう!
 同時に君を我がSOS団の団員に任命だ! これから改めて宜しく頼むぞ、坂井特派員!」
「は? ちょっと話の内容が唐突過ぎてよく……いや、そういえばSOS団って、ああ、そんな事も言ってたね……秘密組織とかいうやつ」
「そう、その秘密組織だ。というわけで団員が一名増えましたとさ、めでたしめでたし。頼りにしてるぞ坂井特派員よ!」
「あははは……」
「ちょっと! 何勝手に決めてるの!? 悠二を変なグループに引き抜かないで!」

水前寺の言葉を受け、苦笑しながら"そう言えばそんな言葉がちょくちょく出ていたな"と考えていた途中。
意外にもシャナが全力でお断り宣言を発してきた。会話に割り込んでまで、水前寺の言葉をぶった切っている。

「あーあ、遂にウチにも後輩が出来ちゃったかー。水前寺はほんと仕方ないわよねー」
「ちょっ、お前っ! まさか裏切る気!? あんな自分勝手な変人が統率するグループなんかにいて良いの!?」
「まぁまぁシャナ、島田さんにも考えがあるんだよきっと。だからそこまで言わなくたって……」
「うるさいうるさいうるさぁい! 悠二だって何まんざらでもないって顔してるのよ! そんなだから変なのに引っかかるのよ!」
「ではさっそくSOS団の活動を開始! まずは島田特派員のヘアゴム探しだ、キビキビ行くぞー!」
「些か活動内容が安い気がするのは我の気の所為か……まあ良かろう、シャナも手伝ってやるがいい」
「はぁい……」
「まぁ安心しろシャナクン。君も功績を上げれば、SOS団の特派員として認められるであろう。除け者にはせんさ。
 というかむしろ、今すぐでも別に構わんのだぞ? 島田特派員の身辺警護的なこともしてくれていたのだしな?」
「いらん!」
「"シャナ特派員"か……ふむ、特派員とは何をする者なのかは解らぬが、実に新鮮な響きだな」
「あ、アラストールまでぇ……っ!」

先ほどの重苦しい雰囲気は何処へやら。あっという間に、この場は和やかなものへと変わっていった。
皆はまるで仲良く四葉のクローバーでも探すかのように、全力かつ入念に事に励んでいる。
これを楽しいと思うのはまだまだ不謹慎かもしれない。けれど、今はこれでいい気がする。
出口の見えない鬱屈とした世界が広がるよりは、全然、健康的だ。


       ◇       ◇       ◇

616本スレ>>349以降、状態表 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:47:35 ID:UQqv8M7s0
【C-5/百貨店近くの裏路地/一日目・夕方】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:鉄釘&ガーターリング、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]:
[思考・状況]
 基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
 1:ティーの回答を待つ。
 2:ひとまずティーの確保を優先(放送の時間までには帰る)
 3:状態が落ち着けば、この世界のこと、人類最悪のこと、浅羽と伊里野のことなど、色々考えたい。
 4:御坂美琴、上条当麻を探し合流する。また彼ら以外にも信頼できる仲間を見つける。
[備考]
 『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
  現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。


【ティー@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:RPG-7(1発装填済み)、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG-7の弾頭×1
[思考・状況]
 基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
 1:黒子の手を取るか、否か。
 2:百貨店でシャミセンのごはんを調達したい。
 3:RPG−7を使ってみたい。
 4:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 5:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
 6:浅羽には警戒。
[備考]
 ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。

617本スレ>>354以降、状態表 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:50:22 ID:UQqv8M7s0
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:メリヒムのサーベル@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品×1〜2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン、
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:悠二も水前寺も見つかったので、ヘアゴム捜索及び浅羽直之待ち。
 2:百貨店にいると思われる“狩人”フリアグネの発見及び討滅。そしてその為に、一度水前寺と美波を神社に帰す。
 3:トーチを発見したらとりあえず保護するようにする。
 4:古泉一樹にはいつか復讐する。
[備考]
 紅世の王・フリアグネが作ったトーチを見て、彼が《都喰らい》を画策しているのではないかと思っています。


【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達、贄殿遮那@灼眼のシャナ
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:浅羽が戻ってきたら、シャナに贄殿遮那を渡して一度神社に戻ってもらい、作戦を決行する。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
 4:記録されていた危険人物(キノ)のことを神社に伝える。
[備考]
 清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。

618本スレ>>354以降、状態表 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:51:18 ID:UQqv8M7s0
【D-5/東側の橋の上/一日目・夕方】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形、右手単純骨折、右肩に銃創、左手に擦過傷、(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
      微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセルx1、ママチャリ@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、ビート板+浮き輪等のセット(少し)@とらドラ!
     カプセルのケース、伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏、伊里野のデイパック、トカレフTT-33(8/8)
[思考・状況]
 基本:映画館に行く。その理由とは……?
[備考]
 参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
 伊里野のデイパックの中身は「デイパック、支給品一式×2、トカレフの予備弾倉×4、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)」です。


 伊里野加奈に関連する全てを忘却し、世界を修復する力に飲み込まれました。




【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏 消失】

619 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/14(水) 00:55:27 ID:UQqv8M7s0
修整箇所は以上となります。
>>609-610には文章の直接的な変更は無いですが、
シーン追加により1レス分の文章量を変更せざるを得なかったので投下しました。

そして再び嘘をつきました。
浅羽以外の登場人物の状態表を変更、と言いましたが、
水前寺と美波の状態表は全然変わっていません。元のままです。


色々と失敗を繰り返し、また投下まで長い時間を要したこと、失礼しました。
必須であった修整も自主的な修整もどちらにしろシーン追加ですので、
もしも新たな違和感が生まれてしまいましたら遠慮なくご意見をお願いします。

620名無しさん:2010/07/16(金) 07:47:20 ID:1dSwMwl60
乙です

>>605
>更にその層から"根っからの犯罪者気質"の能力者を除いて抽出した、""
文末""には文字が入りそうですが、脱字でしょうか?

621名無しさん:2010/07/20(火) 15:28:30 ID:F0rqQpIk0
>我々猫にも派閥争いや「縄張りの争いなどで相手と闘う時はある。
Memories Off (上)の一文ですが、「が余計に入っているようです。

622 ◆MjBTB/MO3I:2010/07/22(木) 22:05:38 ID:TXMyXAaU0
おお、完全に見落としてました……ありがたいです。修整しておきました。

ついでに、拙作「龍虎の拳」にて金の価値を修整しておきました。
某所にてツッコまれていた部分であり、いい機会なので、ということで。

623 ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:52:52 ID:dsAv5QQw0
本スレ規制中につき、こちらに投下させていただきます。

624忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:53:54 ID:dsAv5QQw0
 夕闇に満たされつつある飛行場。
 長らく使われていないように思える滑走路の端から、音が響いてくる。
 飛行機の離陸と着地を補助するためのライトアップは必要最小限で、明滅する灯りからはどこか寂れた雰囲気が感じられた。
 寂寞とした僻地には違いない。だがそこに満ちる音は活気の表れであるともいえ、事実確かに、飛行場の隅には一組の男女が騒がしく活動していた。

「なんだそのへっぴり腰はっ。そんなことでは鴨にも逃げられぞ!」

 響く音は二種類。
 一つは女と銃が鳴らす発砲音。一つは男が発する罵声だった。

「いいか! 貴様は最低のウジ虫だっ! ダニだ! この宇宙で最も劣った生き物だ!
 俺の楽しみを教えてやろうか? それは貴様の苦しむ顔を見ることだ!
 腐った●●のようなツラをしおって、みっともないと思わんのか、この●●の●め!?
 ●●が●●たいなら、この場で●●●を●ってみろ! ●●持ちの●どもっ!」

 日常会話で用いるべきではない、それも女性に向けるには論外と言える下品な単語を多用しながら、男は銃声を鳴らす女を罵倒する。
 女の名前は黒桐鮮花。前方に置いたドラム缶、その上に置かれたさらに小さな塗料入りの缶を狙い引き金を絞っている。
 男の名前は相良宗介。鮮花の後方で姿勢正しく屹立し、鋭い眼光と激しい声でもって彼女の射撃を監督している。

「どうした! 命中精度がさらに下がっているぞ!? やはり貴様は●●の●か!
 悔しければ反論ではなく成果で見返してみろ! それができなければ貴様は●●以下の●●だ!
 ノルマがこなせるまでメシにありつけると思うなよ! ここは●●でもなければ俺は貴様の●でもない!」

 鮮花が引き金を絞り狙いが外れるごとに、宗介は罵声を放った。ドラム缶奥の壁には虚しくなる数、弾痕が刻まれている。
 相良宗介、彼の階級は『軍曹(サージェント)』だ。鮮花に浴びせる罵倒の数々は、訓練場では大して珍しいものでもない。

「もういい、いくらやっても弾の無駄だ! 貴様は無為に資源を浪費するだけの●●だ!
 ●●●でももう少し生産性があるぞ、悔しいとは思わんのか!? ●●を生むだけしか脳のないクズが!
 なんだその反抗的な目つきは、瞼よりも足を動かせ! 貴様の●はなんのためにある? ●●●を●●だけの役たたずか!?」

 塗料入りの缶がいつまで経っても弾け飛ばないので、教官は業を煮やし、教え子に飛行場での走りこみを命じた。
 しぶしぶといった様子で指示に従う鮮花。彼女は教えを請う側の人間だが、別に階級章つきの軍人というわけではない。
 ただの女子高生である。それも、世間ではお嬢様学校として知れ渡っているところの学生だ。淑女と言ってしまってもいい。

 そんな自分がなぜ、意味はよくわからないがおげれつであることだけはわかる罵声を浴びせられているのだろう……。
 根が素直な鮮花は、懊悩しながらも律儀に走りこみを続けていた。

625忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:54:34 ID:dsAv5QQw0
「そのたるんだ走り方はなんだ!? 貴様は目の前に●●●がなければやる気にもなれないのか!
 甘ったれるなよこの●●●●がっ! どうやら貴様の●に●をつけてやる必要があるようだなっ。
 まったく手をわずらわせやがって、貴様は俺の●●●か!? ●●の●●にでもなったつもりか!?
 戦場に立つ気がないのなら●●●●●●●●で●●でもやっていろ、このあばずれがっ!」

 しかしいい加減、堪忍袋の緒も切れそうになってきた、そのときである。


 スパン!


 快音が、宗介の後頭部から響いた。リリアがハリセンで思い切りぶっ叩いた音だった。

「痛いじゃないかリリア」
「うっさい! さっきからなに下品なこと口走ってるのよ!」
「なに、以前、所属する学校のラグビー部を指導したことがあってな。そのときの経験を活かしたまでだ」
「らぐびー……?」
「知らないか? 日本を初めとした国々で普及しているスポーツなのだが」
「ど、どこにそんなお下劣なスポーツをする奴らがいるっていうのよ!」
「お下劣などと言っては郷田部長が悲しむ。彼らは花を愛で、お茶の味を語り合う清い青年たちだった。もっとも、それも過去の話だが」
「過去の話ってどういうことなのよ……嫌な予感がするけど一応、訊いておく」
「うむ。弱小チームだった彼らを強豪校との試合で勝たせろとの指令を受けてな。同僚のマオの勧めにより、海兵隊式の新兵訓練メニューを取り入れてみたのだが……」


 スパン!


 再び快音が響いた。

「痛いじゃないかリリア」
「うっさい!」
「それより、なんだそのハリセンは。どこか懐かしい……いや、俺はそんなものは知らないが」
「あ、これ? クルツがくれたのよ。ソースケに『ツッコミ』するんなら、これを使えって」
「そうか」

 宗介は微妙な顔をした。いつも仏頂面な宗介の微妙な顔は、いつもと絶妙に違っていた。
 そんな宗介とリリアのやり取りを眉間にしわを寄せた目で見やりつつ、鮮花は一生懸命走り続ける。
 リリアも鮮花に目をやりながら言った。

「……彼女、本気なのね」
「向上心は見られるな」
「ソースケも、本気なの?」

 どこか物憂げな視線を向けてくるリリアに、宗介はいつもの調子で返した。

「本気になれと言うのなら、メニューを一から組み直す必要がある。なにしろ期間が限られているからな。
 目的の達成が困難になる可能性を考慮すれば、時間はかけていられない。一日、いや、半日が妥当といったところか」
「あの……なんの話?」
「もちろん、彼女を一流の兵士にするための特訓の話だ。設備もろくに整わぬ環境ではいろいろと不便だが、それも本人しだいだろう。
 食事と就寝、それに排泄の時間を削ればなにも問題はない。あとは体力との闘いだ。正直、あの歳の女性にはキツイ訓練になる。
 しかし曲がりなりにもクルツが見込んだ人物だ。衛生兵(メディック)の不在は痛いが、それでも一割の数字は保てると俺は見る」
「……わたしにはあんたがなに言ってんのかわかんないわ」

 頭をかかえるリリア。
 宗介は飛行場を走りまわる鮮花を目で追いつつ言った。

626忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:55:19 ID:dsAv5QQw0
「俺が見るに、彼女には技術よりもまず心構えが必要だ。現状の訓練に疑問点はまったく見いだせない」
「……前のほうには同意。後ろのほうは激しく否定しとく」

 目的のために自身を鍛え直す鮮花。
 彼女の教官役を務める宗介。
 その構図にため息をつくリリア。

 この奇妙な構図ができあがったのは、つい先ほどのことだった。


 ◇ ◇ ◇


 夕の帳が夜の帳に差し替わり、雲の流れも速くなっていく。
 北方に位置する飛行場では銃声もすっかりやみ、広大な敷地からは人の気配も消えていた。
 唯一、そこが飛行場であることを知らしめる格納庫の中だけは、足を踏み入れてみなければわからない未知の領域だった。


 男と女が一組、近づく。


 格納庫ははたしてもぬけの殻なのか、来訪者が足音を鳴らしても警告の鐘が響いてきたりはしない。
 これが車の走行音であればどうだろうか。中に人がいればあるいは、大慌てで外に飛び出すのかもしれない。


 男の女が一組、立ち止まった。


 ここから先をどう踏み込むべきか議論しているようで、小さな声を交わし合っている。
 男のほうは地べたに顔を寄せ、蟻塚でも探すような仕草で飛行場の敷地を眺め回したりもしている。
 そんな男を見ながら、女は盛大なため息をついたりもしている。


 男と女が一組、また歩を進めていった。


 どうやらまっすぐ格納庫の入り口を目指すようで、男のほうは銃を両手で握っていた。
 女のほうも負けじと、ナギナタと呼ばれる長柄の刃物で武装した。
 かえって邪魔になる、と男は女にナギナタをしまうよう指示した。女は反発した。


 また、ささやかな議論が始まる。そうやって、二人の姿は格納庫に近づいていった。


 ◇ ◇ ◇


「――ひょっとしたら連中、帰ってこないかもしれねえな」

 「え?」と黒桐鮮花が振り向いた。
 古ぼけた照明に照らされた、飛行場内の格納庫。その床に、六人分のマットレスと毛布が並べられている。
 クルツ・ウェーバーはマットレスの上に寝そべりながら、白井黒子が調達した物資の確認をする鮮花に話しかけた。

627忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:56:05 ID:dsAv5QQw0
「ん。いや、ここを出てった連中。戦場のド真ん中でグループが散り散りって、映画とかでもよくあるフラグだろ?」
「戦場って……いやまあ、否定するつもりはないけど、彼女がついっていったんだから大丈夫でしょう?」
「黒子ちゃんのことかい? 不思議な力を持ってるし、あの年頃の女の子にしちゃやるほうだけど」

 だらだら、ごろごろと、とても戦場を口にする者とは思えないリラックスした態度のクルツ。
 射撃の先生――いや、『殺しの師匠』とも言える男の緩みきった姿に、弟子の立場にある鮮花は少しだけムッとした。

「ま、しがない傭兵の予感ってところさ。あんま気にする必要はねーぜ」

 クルツも決して冗談で言っているわけではあるまい。実際にありえる可能性として、最悪の事態を口にしている。
 それでもまるで悪びれず、脳天気でいられるのは、それが彼にとっての最悪ではないからなのだろう。
 いや、『彼にとって』ではない。鮮花にとっても、このまま誰も帰ってこないという事態は最悪たりえない。
 黒桐鮮花は復讐者。復讐者の目的は復讐対象の抹殺。ただそれのみなのだから。

「一蓮托生ってわけでもないんだ。いい加減、そのへん切って捨てようぜ鮮花ちゃん」
「べ、別に心配とかしてるわけじゃ」
「ならそんな顔は見せねえこった。こっちも遊びでやってるわけじゃないんでね」
「……っ」

 ふと、物資の中に手鏡がなかったかどうか探してしまう。
 切って捨てた気ではあった。とっくに割り切ったつもりだった。
 なら自分は、どうして六人分の寝床を用意したりしているのだろうか……と、鮮花は自問し歯噛みする。

「あの、クルツさん」
「どーしたよ、急にかしこまっちゃって」
「もし、六時までに誰も戻ってこなかったら……どうするの?」
「そうだなあ。探しに行く義理はねーし、先に飯食って寝てていいんじゃないかね」

 そんなものか、と鮮花は思う。
 いつの間にか大所帯になってしまったが、今はまた、クルツとの二人きり。
 時間を訓練と休息に当てるのはもちろんだが、今は再認のときでもあるのかもしれない。

 憎悪の再認。復讐心の再認。悪意の再認。殺意の再認。死んでもいい、という思いの再認。

 ありったけを済ませるのに、少女である鮮花はどれだけの時間を費やすだろう。
 蒼崎橙子から魔術を習ったときは、ある意味簡単だった。学習し、理解すればそれでよかった。
 銃は……殺しは、違う。なにより覚悟を保つことが大切だった。鮮度のごとく大切だった。こればかりは記憶力の問題ではない。

「とはいえ、だ」

 緩慢な動作で身を起こし、クルツは頭を掻きながら言う。

「今ここで黒子ちゃんたちと縁が切れる、ってのは好ましい話でもねーな。やっぱ、好き勝手動きまわるんならグループにいたほうがやりやすい」
「逆でしょ? チームを組む際のデメリットって、個人の自由に制約がつくことじゃない」
「チームじゃなくてグループ。組織じゃなく単なる集団なんだよ、俺たちは」

 首を傾げる鮮花に、クルツは低い声で説明を加えた。

「ただ目的地が一緒だっただけ、利害が一致しただけ、特に争う理由がない。だからなんとなく一緒にいる。リーダー不在命令無視しほうだいの自由の集団さ」
「……確かに、それは言えてるかもしれないけど」
「な? 仮にだ、鮮花ちゃんが復讐したい相手――あの男が、黒子ちゃんたちの知り合いとかだったらどうする?」
「殺すわよ。わたしの意思はそれくらいじゃ揺るがない」
「即答はご立派だがね。そしたら今度は鮮花ちゃんが黒子ちゃんに恨まれる番だ。復讐ってのはそういうこと。そのあたりも理解してる?」

628忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:56:57 ID:dsAv5QQw0
 鮮花は即答できず、唇を噛んだ。
 復讐からはなにも生まれない。復讐はまた復讐を生むだけ――映画などでもよくあるテーマだ。
 自分が映画の登場人物であると考えれば、復讐などやめて、ここで話を終わらせることこそが美談の条件なのだろう。

 しかし鮮花はこう考える。
 復讐とは所詮、自己満足だ。

 復讐はまた復讐を生む。復讐を遂げることによってまた別の誰かに恨まれる。それがどうした。
 この身は既に、生きることを放棄している。いや、死んだも同然なのだ。この世界につれてこられた時点で。
 ただ、それでも、たった一つの目的、たった一つの生きる意味――復讐を果たすときまでは、生きていたい。
 もし、誰かが鮮花に復讐をしにくるというのであれば――そのときは甘んじて復讐されてやろうじゃないか。

「ま、覚悟があるのかないのかってのも今更か。話を戻すけど、俺たちみたいなのがグループに紛れるメリットはなんだと思う?」
「……囮と、盾よね」
「すげーな。正解だよ。鮮花ちゃんみたいに、他人の信頼を売ってでも成し遂げたい目的がある場合。仲間なんてのはデコイでしかねーのさ」

 なんともドライな発言だと、鮮花は思った。
 と同時に、クルツの言にかすかな引っかかりを覚える。

「クルツさんは?」
「うん?」
「わたしは目的さえ果たせればそれでいいけど、あなたは違うんじゃないの? 生きて帰る、それが最終目標でしょうに」

 これこそ今更だが――クルツが鮮花につきあう道理など、本来はないのだ。
 何時間か行動を共にしてわかったことだが、彼は面倒見がいいようで、その実かなりのプロフェッショナル思考だ。
 ここぞという場面では情よりも利を優先する、そういうタイプの人間。
 ある意味では、幹也の真逆とも言える――そういう、人間。

「ああ、そうさ」

 鮮花が予想したとおりの言葉が返ってくる。

「だからまー……俺だってずっと君の先生ってわけじゃない。いつかは絶対に、どっちかが切り捨てられる」

 どっちか――そう、それがクルツだとは限らない。鮮花がクルツを切り捨てる場合だって、ありえるのだ。
 両儀式に似たあの獣のような男には、クルツとて憎しみを抱いている。されとて、殺したいほどのものではない。
 利害は一致すれど、その温度差は実のところ大きい。いついかなる場面で、二人が対立する構図になるかはわからなかった。

(いつか……この銃を向ける相手が、彼になることもあるかもしれないってことか)

 鮮花は手元の銃に目をやった。
 コルトパイソン。いざ握るまでは、名前すら知らなかった.357口径リボルバー。
 引き金を絞れば弾はまっすぐ飛ぶと思っていたし、的に当てるのは縁日の射的くらいの難しさだろうと楽観していた。
 現実は、そんなに甘くなかった。そんな風に甘く見ていた自分を、銃に視線を落とすことで見つめ直す。
 わたしは橙子さんに習った魔術でなく、これを復讐の道具に選んだんだな、と。
 改めて、再認する。

「今はまだ足踏みの段階だし、そう怖い顔するもんじゃねーさ。ところでアレ、覚えてるか?」
「アレ?」

 クルツが立ち上がって伸びをする。覚えのない話題を出されて、鮮花はきょとんとした。
 その、一瞬の隙。
 クルツが右足を大きく蹴り上げ、鮮花の握っていた銃を掠め取るように弾き飛ばした。

629忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:57:31 ID:dsAv5QQw0
 コルトパイソンはカランカランと音を立て、格納庫の床を滑る。
 突然のことに驚いた鮮花は、思わず声を荒らげた。

「い、いきなりなにをっ!」
「あー、ごめんごめん。そう怖い顔しなさんな。言っとくけど、こりゃ鮮花ちゃんのためなんだぜ?」

 似合わないウインクをして、クルツは一笑。
 顔は二枚目だが、こういう仕草が似合うタイプの男ではない。
 鮮花はしかめっ面で答えた。クルツは構わず、蹴り飛ばした銃を拾いにいく。

「なんせ、俺の同僚は『用心で』学校の昇降口に地雷埋めるような野郎だからな。
 思いつめた顔で銃なんて睨みつけてりゃ、死角から撃たれたって文句は言えねーさ」

 なにを言っているのかわからない。
 なにを言っているのかはわからないが――銃を拾いにいったクルツのほうに視線をやってみると、

「なー、ソースケ?」

 その奥側、格納庫の入り口付近に、見慣れぬ男女が一組立っていることに気づいた。
 その内の一人、男のほうが、こちらに銃を向けていることにも気づく。
 鮮花はすぐさま警戒に努めようとするが、

「……肯定だ」

 男は、クルツの呼びかけに答えるとすぐに銃を下ろした。


 ◇ ◇ ◇


「こちらの接近に気づいたことはさすがと言っておこう。しかし今の行動には感心できん。
 素人の手から、それもセイフティもついていないコルトパイソンを蹴り飛ばすなど、暴発の危険性を考慮しなかったのか。
 それに飛行機の格納庫を拠点にしているのはいいが、対人トラップの一つも設置していないのはどういうことだ?」

 身体に傷と火傷の痕が見られるその少年――相良宗介との邂逅は、そんな風に始まった。

 格納庫に敷いたマットレスを会議のテーブルとし、まずは自己紹介、そして行動経緯についての説明と情報提供をお互いに。
 宗介はクルツと同じ〈ミスリル〉という組織に所属する少年で、いわば同僚だった。
 宗介と共にやってきた金髪の少女はリリアという名で、出会って以来彼と行動を共にしているらしい。
 二人は飛行機目当てに飛行場を目指し、さらには近隣で浅羽直之や白井黒子と遭遇し、ここにクルツがいることを知ったそうだ。
 つらつらと、お互いの辿ってきたルートを無駄なく齟齬なく伝え合っていく。

「……なんだか手馴れてるのね、二人共」
「作戦行動中の情報交換は迅速かつ的確に、要点のみを抽出して提供しあうのが基本だ。俺もクルツもアマチュアではない」
「こういうのは、ホントは仕切り役がいてくれたほうが楽なんだがね。ま、文句の言えるような状況でもねーけどよ」

 宗介とクルツは単なる同僚というだけではなく、チームを同じくする相棒とも呼べる仲らしい。
 その情報交換は自身らがスペシャリストを自称するのも頷ける手際で、まったくと言っていいほど無駄がなかった。
 相手がどこでどういった事件に遭遇し、どのような成果を得たのか。ほとんど同席しているだけの鮮花とリリアにも、それを事細かに理解することができた。

630忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:58:28 ID:dsAv5QQw0
「しかし、蜘蛛の糸ねえ」

 クルツが興味を持ったのは、宗介たちが飛行場を進路とした動機――飛行機を飛ばしてみる、という部分だった。

「空の上……ってのは、確かに盲点だったな。だがよ、実行するにはちとリスクが高すぎねえか?」
「四の五の言っていられる状況でもないだろう。現状の手札は極めて少ない。切れるカードはとにかく切っておくべきだ」
「言えてらあな。となると、必要になってくんのは航空機の燃料か。あいにく、俺たちの中に持ってる奴はいねえぞ」
「そうか。ならば、自動車用の燃料で代用するという案を本格的に視野に入れなければならないな」
「骨董品みてーなプロペラ機でお空の調査はいいんだけどよ。俺としちゃ、爆発するマネキン使いってのが懸念だね」
「トラヴァス少佐のことか。彼の目論見は不明瞭だが、未だこの近辺に潜伏している可能性は高いと見る」
「一度飛んじまえば、そこはもう逃げ場のない籠の中だ。ただでさえここには、RPGぶっ放す女の子がいるくらいだしな」
「被弾すれば最後、撃墜は免れないだろう。しかし空域が徐々に狭まっている現状、障害を取り除く暇も惜しい」
「せめてもうちょい、マシな機体が置いてあればなあ。ホヴィーみたいなのもあるんだし、誰か〈ペイブ・メア〉でも持ってねーかね」

 飛行機を飛ばす、それ自体はもはや不可能なことではないだろう。
 しかし設備も物資も限られるこの状況下、伴なうリスクもそれなりのものであると判断できた。
 宗介とリリアを襲ったトラヴァス少佐、その裏に潜む者、鮮花やクルツを襲った獣のような男に、
 炎を使う魔術師、それにティーの知己であるシズを殺害した人物と、敵も多い。

 加えて、外堀から埋められていくこの世界のルール。
 時間の制約を設けた背後の思考を辿れば、焦るのは得策ではないようにも思える。

 せめてこの場にもう一人、宗介とクルツの姉貴分であるメリッサ・マオがいてくれれば、判断は彼女に任されたのだろう。
 もしくは、二人の直属の上司にしてこういった作戦プランを検討することに長けたテレサ・テスタロッサ大佐。
 宗介もクルツも未だその所在を掴めずにいる、彼女との合流さえ果たせれば――より本格的な『プロの仕事』が行えたに違いない。

「ところで」

 議論も行き詰まり、宗介は話題を変えることにした。

「一つ訊くが、彼女に射撃の指導をしていたのはなんのためだ?」

 視線で示す彼女とは、響いていた銃声の正体にして発泡を繰り返していた張本人、黒桐鮮花。
 宗介は格納庫に入るよりも先に、外に即席の試射場が設けられていたことを確認している。
 発砲音から推測した銃の型も、先ほど鮮花が握っていたコルトパイソンと一致するため、宗介はそのように当たりをつけたのだ。
 紛れもない、戦場を生き抜いてきた兵士の鋭い視線に射竦められることもなく、鮮花は宗介の目を見て答える。

「復讐のためです」

 それは先んじて説明しようとしたクルツを制する結果となった。心なしか、渋い顔を浮かべている。

「話にもあったでしょ。わたしたちを襲った、式に似た男……わたしはあいつに、兄を殺されました。
 だからわたしは、あいつを殺す。兄さんの仇を討つ。銃は、そのために選んだ殺害手段。
 この目的を果たすためなら、他のものはなんにもいらない――格好悪く生き足掻いてみせるわよ、いくらでも」

 鮮花は、宗介やリリアからの心象など考慮に置いていない。
 この気持ちは正直に、たとえ他者に否定されようとも偽りなく、貫き通さなければならないのだ。
 そうでなくては、覚悟は保てないから。

「ちょっと待って」

 まず反応を返したのは、宗介ではなくリリアのほうだった。
 リリア・シュルツ。印象的だったのでよく覚えている。名簿に載っていたフルネームは確か、もっと長かったはずだ。
 そしてシュルツの名を持つ人間はこの地にもう一人、鮮花に対する幹也のように存在していたはず――

631忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:59:13 ID:dsAv5QQw0
「復讐って……なに? どういうこと?」
「仇討ちっていう意味ですよ。この恨みはらさでおくべきか、ってやつ。外人さんみたいだけど、わかる?」
「わかるわよ、そんなの。わかるけど、なんで、そんな……あなたが殺すとか、他はいらないとか……」

 言いづらそうにするリリアに、鮮花はふんと鼻を鳴らした。

「わかればそれでよし。邪魔さえしなければ。別に、理解や同情を求めているわけじゃないしね」

 外行き用の上品な態度を一変して、鮮花は陰険な素振りを見せつける。
 綺麗事を聞くつもりはなかった。好かれようとも思わない。この手の手合いは、鬱陶しいだけ。
 自分は結局のところ、堕ちた人間なんだと――ここにきて、また一つ再認する。

「あなただって、肉親の一人くらいは殺されたんじゃないの? アリソンっていう人は、ご姉妹かしら?」
「……ッ!」
「アリソン・ウィッティングトン・シュルツ空軍大尉はリリアの母だ。惜しい人材を亡くしたと言える」

 わざとらしい悪態をつく鮮花。
 そのフォローに宗介が回ろうとするが、どうやらそれは逆効果のようだった。

「人材って、なによ……ソースケ、ママのことをそんな風に見てたの」
「む……すまん。少し言葉が悪かった。気に障ったのであれば謝罪する」

 頭を下げる宗介に、リリアはきつく唇を噛む仕草をした。
 その姿に鮮花は親近感を持つと同時、言いようのない苛立を覚える。
 彼女は――自分とは違うな。
 そばにいた人間の差なのかもしれないが――とにかく、自分とは違う。

「しかしクルツ。非効率的にもほどがあるぞ。このような状況下で新兵訓練など、つけ焼刃にもならん」
「別に鮮花ちゃんを戦場に立たせよーなんて気はさらさらないさ。こりゃちょっとした『気まぐれ』」
「気まぐれで時間を浪費するなどナンセンスだ。そもそも、おまえが黒桐を指導する動機はなんだ?」
「だから、それこそ気まぐれだっつーの。なあおい、ソースケよ」

 クルツは頬杖をつきながら言った。

「おまえがカナメちゃんじゃなく、リリアちゃんを守ってんのだって、そういう『気まぐれ』なんじゃないのか?」

 抑揚もない、語気が強いわけでもない、そのなんてことはない問いに――宗介は、口ごもった。
 鮮花は直感で、この相良宗介という男の人間関係もなかなか複雑っぽいな、と思った。
 肯定も否定もしない代わりに、宗介はある提案を口にする。

「事情は把握した。リリア。俺たちもクルツたちのグループに加入し、しばらくはこの飛行場をベースにしたいと思うのだが、どうだ?」
「……異議はなし。ソースケに任せる」
「そうか。では、ひとまずは休憩ということにしよう」
「飛行機飛ばすっていうのは結局どーすんだ?」
「保留だ。他の者たちの意見も聞いてみたいしな。アマチュアに意見を求めるのは褒められた行為ではないが、こちらの専門外の知識が役に立つとも限らん」
「ま、魔術や超能力なんてーのは俺たちのほうがアマチュアだしな」
「さしあたって、俺も黒桐の射撃訓練につきあいたいのだが、腕前のほどを見せてもらってもいいだろうか?」

 思わぬ申し出に、鮮花は顔を顰めた。
 欺瞞に満ちた眼差しで宗介を睨む。

632忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 00:59:58 ID:dsAv5QQw0
「……あなた、他人に指導とかできるタイプの人なんですか?」
「問題ない。新兵訓練ならばそれなりに経験がある」
「クルツ先生。こう言ってますけどどうなんですか?」
「信頼していいと思うぜ? 狙撃屋の俺よりもかえって上手いかもな」

 ほわぁ〜っとあくびをするクルツ。
 どうにも心配だったが……プロはプロ。クルツの同僚ともなれば、鮮花よりも銃に秀でているだろうことは否定できない。

 結局、鮮花は宗介の申し出を受け入れ、日が完全に落ちきる前にもう少しだけ練習をしておくことに決めた。
 そして、冒頭のような『やりすぎのウォー・クライ』が始まった、というわけだった。


 ◇ ◇ ◇


「はぁ〜……」

 憂鬱なため息をついて、リリアは格納庫の中に戻っていった。
 マットレスの上ではクルツが寝そべり、ニヤニヤした視線をリリアに送っている。

「いやあ、いい音だったぜ。なんだ、ソースケもいい相方(ツッコミ役)を見つけたみたいじゃないか」

 ブロンドの長髪、タレ目でおどけていて、いかにも軽薄そうなお調子者。
 第一印象から覗えば、あの仏頂面の宗介の友人とはとても思えない。
 しかし、先の情報交換の場面を鑑みれば、紛れもないスペシャリストであることがわかる。
 飛行機の操縦ができるとはいえ、リリアはアマチュアもアマチュア。彼に意見するようなことはなにもなかった。
 ただ――アマチュアはアマチュアなりに、おせっかいをやきたくなることだってあるのだ。

「あなた、クルツさんだっけ?」
「クルツでいいぜ。俺も君のことはリリアちゃんって呼ばせてもらう」
「訊きたいんだけど」
「質問? なんでもどーぞ」

 リリアは膝をたたんでマットレスの上に座る。

「さっきは気まぐれって言ってたけど……クルツはどうして、アザカに銃を教えようとしたの?」
「せがまれたからさ。俺って、女の子の頼みごとは断れない奴なんだよねえ」
「……そんな理由で、仇討ちに加担なんてっ」

 目を伏せながら言うリリアに、クルツはおどけた態度を崩さない。
 ごろごろとマットレスの上を転がりながら、仰向けになて天井を仰ぐ。

「復讐はお嫌いかい? 人殺しはいけないことだって、リリアちゃんはそういうこと考えるような女の子なんだ?」
「そりゃ、状況が状況だし、すべてを否定するわけじゃないわよ。けど、アザカみたいなのが躍起になって銃を撃つのは……なんか、違う」

 リリアはまだ自分の中で意見がまとまっていないようで、言葉を濁す。視線も宙を泳いでいた。
 そんな彼女に、クルツは薄く笑う。

「ま、俺たちは人間だからな。ゲームの駒みたいに、規則正しくは動けないさ」
「どういうこと?」
「俺たちはみんな、それぞれ共通の目的を持ってるんだ。こっから家に帰る、っていうな」
「……アザカは違うみたいだけどね」

 哀しそうに言うリリアを見ても、クルツの声が重くなることはなかった。

633忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 01:00:45 ID:dsAv5QQw0
「どうすりゃいいのかなんて簡単だ。家族や同僚ととっとと合流して、脱出ルートを確保して、障害は排除して、三日以内に全部済ませればそれでいい。
 ただ俺たちは人間だから、こうやって休むことも必要になってくるし、別の目的を持った奴と人間ドラマしちまうことだってあるのさ。
 誰もがみんな博愛主義者ってわけじゃないし、守るより殺すほうが得意な奴がここにいたことだって俺は知ってる。そういう奴らはまだごまんといるな。
 いろんな奴がいるからこそ、諍いは避けられない……リリアちゃんにだって、知り合いはいるんだろう? 俺やソースケにだっているし、鮮花ちゃんにだっている。
 そいつらまとめてここに呼び寄せて、家に帰るための作戦片っ端から実行して、ってな具合に進められりゃ、話はそんなに長くはならないんだよ」

 上手くいかないな、とクルツは失笑気味に漏らした。
 本当に、上手くいかない。リリアもこればかりは同感だった。
 ママは死んじゃうし、トレイズはどっかほっつき歩いてるし、トラヴァス少佐は意味がわからない。
 ……本当に、上手くいかないことばかりだ。
 どうしてこんなに上手くいかないんだろう、とリリアもクルツに釣られるように天井を仰いだ。

「……って、なんかうまい具合にはぐらかされた気がするんだけど」
「うん? そうか?」
「結局のところ、クルツはアザカにどうしてもらいたいのよ? 復讐、遂げてほしいの?」
「そりゃ本人がお望みっていうんなら」
「それでアザカ、死んじゃうかもしれないのよ?」
「かわいい女の子が死ぬのはいただけないなあ」
「……ソースケも大概だけど、クルツもよくわかんないわ。わたしには」
「ふふん。男の子ってのは不思議がいっぱいなのさ」

 とことんまで嘲るクルツだった。
 まったく……と呟きながら、リリアは今日の寝所となるマットレスの周りを整え始めた。

 用意されているマットレスは《五つ》。
 現在別行動中の人間は《三人》だから、そこに宗介とリリアが加わるとマットレスは《二つ》足りなくなってしまう。
 クルツに尋ねると、一応予備も用意してあるとのことで、リリアは自分と宗介の分、合わせて二つのマットレスを準備した。

 これでマットレスの数は《七つ》。
 リリア、宗介、クルツ、鮮花、それに今はここを離れている《白井黒子、ティー、浅羽直之の三人》を加えれば、ちょうど数が合う。
 白井黒子と再会したらきちんと挨拶しなくちゃな、とか、浅羽直之に会ったらなにを話せばいいのだろう、とか、リリアはそんなことを考えながら毛布も引っ張り出していた。

「そういや、ぼちぼち放送か……そっちの準備も進めとかないとな」
「放送……」

 クルツがおもむろに起き上がり、鞄から筆記用具を取り出している。
 六時の定時放送ももう間もなくだ。そこでは何人か、新たに脱落者として名前が挙がる者もいるのだろう。
 リリアは息をのみ、手元の時計に目をやった。
 時間は残酷だから懇願しても止まってなんてくれないが、時計は覚悟を決めるくらいの猶予は与えてくれる。

「最初は《59人》もいたのにね。この世界どんどん狭くなってくるし、中にいる人はだんだん少なくなっていくんだ……」

 辛辣そうなリリアの言葉に、クルツは適当な相槌を打った。
 それくらいなもので、別段、違和感を覚えたりはしなかった。


 世界は既に、書き換えられた後だったから――彼も彼女も、この世の本当のことには気づけないでいた。

634忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 01:01:16 ID:dsAv5QQw0
【B-5/飛行場・格納庫内/1日目・夕方(放送直前)】

【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ハリセン@現地調達、早蕨薙真の大薙刀@戯言シリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:がんばって生きる。憎しみや復讐に囚われるような生き方をしてる人を止める。
 1:飛行場にてしばらく休憩。白井黒子らとの合流、意見交換を済ませる。
 2:飛行機を飛ばしてみる。
 3:トラヴァスを信じる。信じつつ、トラヴァスの狙いを考える。
 4:トレイズが心配。トレイズと合流する。

【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:復讐心、左腕に若干のダメージ
[装備]:ウィンチェスター M94(7/7+予備弾x28)
[道具]:デイパック、支給品一式、ホヴィー@キノの旅、ママチャリ
     缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、エアガン(12/12+BB弾3袋)、メッセージ受信機
     デイパック、支給品一式、黒子の調達した物資
     姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[思考・状況]
 基本:生き残りを優先。
 1:寝床と食事の用意をしながら黒子たちの帰りを待つ。
 2:その後は状況に応じて休息をとり、また今後の動きについて相談しあう。
 3:テッサ、かなめとの合流を目指す。
 4:鮮花の復讐を手助けする。
 5:メリッサ・マオの仇を取る。
 6:摩天楼で拾った3人。特に浅羽とティーの動向には注意を払う。
 7:次のメッセージを待ち、メッセージの意味を考える。
[備考]
 ※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。
 ※最初に送られてきたメッセージは『摩天楼へ行け』です。次のメッセージがいつくるかは不明です。

635忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 01:01:53 ID:dsAv5QQw0
【B-5/飛行場/1日目・夕方(放送直前)】

【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:全身各所に火傷及び擦り傷・打撲(応急処置済み)
[装備]:IMI ジェリコ941(16/16+1、予備マガジンx4)、サバイバルナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式(水を相当に消耗、食料1食分消耗)、確認済み支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:この状況の解決。できるだけ被害が少ない方法を模索する。
 1:鮮花の射撃訓練を監督。まずは体力作りだ●●●●! そんな●●のような走りでメシにありつけると思うなよ!
 2:飛行場にてしばらく休憩。白井黒子らとの合流、意見交換を済ませる。
 3:飛行機を飛ばしてみる。空港へ行って航空機を先に確保する? 航空機用の燃料を探す? 自動車の燃料で代用を試してみる?
 4:まずはリリアを守る。もうその点で思い悩んだりはしない。
 5:リリアと共に、かなめやテッサ、トレイズらを捜索。合流する。

【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:復讐心、疲労(中)
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界、コルトパイソン(5/6+予備弾x7)
[道具]:デイパック、支給品一式、包丁×3、ナイフ×3
[思考・状況]
 基本:黒桐幹也の仇を取る。そのためならば、自分自身の生命すら厭わない。
 0:な、なんで、わたしはっ、走ってるんだ、ろう……。
 1:寝床と食事の用意をしながら黒子たちの帰りを待つ。
 2:暇な時間は”黒い空白”や”人類最悪の居場所”などの考察に費やしたい。
[備考]
 ※「忘却録音」終了後からの参戦。
 ※白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。


【ハリセン@現地調達】
白井黒子が調達した物資の中に『なぜか』紛れていた紙製のハリセン。
安全快音を保証すると共に、宴会の席で使えば大ウケ必至な信頼のパーティーグッズです。

636忘却のイグジスタンス ◆LxH6hCs9JU:2010/08/19(木) 01:03:09 ID:dsAv5QQw0
投下終了しました。
規制されていない方いましたら、本スレへの代理投下のほうお願いします。

637名無しさん:2010/08/19(木) 01:33:25 ID:D3Qj1pjc0
サルったので、こちらで代理投下終了の報告を。

クルツ……かっこよすぎですw そして倉庫の外はフルメタ時空w GJでしたw

638 ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:38:44 ID:dh9efGCs0
2chのほうが規制中なので、こちらのほうで投下します。

639トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:40:56 ID:dh9efGCs0
とある海沿いの街。浜辺よりやや離れた場所にある宿を兼ねた温泉施設。
本来ならば安息の場所となるそこで、三つの現場から四つの死体が発見された。

滅多打ちにされた憂鬱な骸。
我利我利亡者の通りすぎた惨殺現場。
過ぎ去りし過去を思い出させる新しい首切り死体。

そこに居合わせる六人の男女。
彼らはそれぞれに知る情報を持ち寄り、事件の暗がりに潜む真相を想像してゆく。
果たして全ては明らかになるのか。
そして、そこから浮かび上がった真相という名のシルエットは彼らに安息を齎すのだろうか。

それとも……、それは誰かに牙を剥くのか――?






 【プロローグ 《melancholy girl x1》】


フレンチクルーラーにダブルチョコレート。

これらがなんなのかと言えば、それはぼくこと戯言遣い(いーちゃん)と、他称・《神》ことハルヒちゃんの昼食である。
一応、映画館でポップコーンやアイスなどを軽食と呼べるほどにはつまんだぼくたちではあるのだけど、
成人男子に片足を踏み込んでいるぼくとしても、またカロリー消費量が人一倍激しそうなハルヒちゃんにしても
それで満たされたかというと必ずしもそうではなく、温泉へと向かう道すがら通りにミスタードーナツを見つけるにあたり、
ぼくの進言とハルヒちゃんの許可を経て、ならばここで昼食をとろうということになった――ということの次第。

ならば、なぜミスタードーナツなのか? ――と問われれば、それに対しぼくは愚問だと言葉を返すしかない。
砂糖や油をふんだんに含んだものは痛みにくいので例え放置されてあったものでも食べられるだろうとか、
糖分は即効性のエネルギーとなり脳の働きも活発にしてくれるのだとか、たまたま目についたのがミスタードーナツだったとか、
理由に理屈をつけるのならばいくらでもそれは可能だろうとぼくも思う。
だがしかし、そんな理由も理屈もミスタードーナツには必要ない。
ミスタードーナツがミスタードナツである。ただそれだけが、戯言抜きにたったひとつのこの世界の真実なのだから。

という訳で、ぼくとハルヒちゃんはミスタードーナツの店内に入り、それぞれにドーナツを物色し、食していた。
ぼくはフレンチクルーラーばかりを。ハルヒちゃんはダブルチョコレートを含むいくつかのドーナツを。
この選択にどのような意味があるのか、やはりそこにも戯言の挟まる余地はない。特にフレンチクルーラーにおいては。

640トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:41:38 ID:dh9efGCs0
しかし、あえて語るとするならば、
物のありがたみというものに対してしばしば呆れられるほどに希薄なぼくにも理解できる価値のひとつがコレなのである。
この《フレンチクルーラー》というもの。
一見、ギザギザとした外見はまるで気を許さない針鼠のようだが、実際にその食感はというと――”もふもふ”。
戯言遣いがミスタードーナツでドーナツを10個買うと、持ち帰り用の箱の中にはフレンチクルーラーが10個入っている。
何故? どうして色々なものを買わないの? と、ぼくに問う人はいる。
ならばぼくは逆に問い返したい。フレンチクルーラー以外を選ぶ必要があるのかと。
最上の価値はぼくの中で疑いようもなく確定しているのだ。ならばぼくにそれ以外を試すなんて行為は必要ない。

それこそ、いちなる神を信じる者のように――。

と、ここまで言うといささか大げさすぎるきらいもあるが、それでもぼくはいつだってフレンチクルーラーを選ぶだろう。
フレンチクルーラーがフレンチクルーラーであり、ミスタードーナツがこの世に存在するかぎり。



「……ミスタードーナツには人を馬鹿にする成分が含まれているのかもしれない」

ひとりごち、自分で淹れたコーヒーを喉に流し込む。
砂糖の入ってないブラックの苦味ある液体はフレンチクルーラー3つを食した後の口の中には心地よかった。

「またわけわかんないひとり言? あんまり気分よくないからやめなさいよね」

テーブルの対面。ぼくに淹れさせたコーヒーを飲むハルヒちゃんは相変わらずの仏頂面だ。
いや、相変わらずというのは正確ではない。不機嫌な仏頂面であることは変わりないが、そこには明確な変化があった。

「人と一緒にいることに慣れてない性質でね。考え事とひとり言の区別が曖昧なんだよ」
「別にいいけど、それにしてもなんであんたは同じのばっか食べるのよ。もっと未知の可能性というものに興味はないの?」
「なにもわざわざこんなところで、はずれを引くリスクを負うことはないじゃないか」
「それは臆病とか面倒くさがりって言うのよ。まずいドーナツを引くリスクなんてひとつおいしいのを引けば一発で帳消しじゃない」
「なるほど。ハルヒちゃんの言うことはいつも正しい」
「納得した上でそれでも言うことを聞かないんだからあんたもたいした頑固者よね」

言って、ぼくから目をそらすと彼女は通りの方を向き、そして小さなあくびを噛み潰した。
疲労。睡眠不足。それらもあるかもしれない。しかし決定的に断言できるのは緊張感。それが不足していた。



なにも責めることはなくそれは当たり前のことだ。
俯瞰的に見ればぼくたちは常に危険と隣り合わせなのかもしれないが、主観から見れば今はそうでもない。
状況の開始よりぼくもハルヒちゃんも、それこそ一度たりとも危機一髪なんて目にはあっていない。
朧ちゃんの自殺という事件もあったが、あれもその後の結果が示すとおり、逆に現実味の薄い幻想的なものでしかなかった。
そしてあれから数時間。始まりからは半日強。緊張感を保てというほうが無理な話なのである。

641トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:42:15 ID:dh9efGCs0
ハルヒちゃんはあくびを噛み潰すように、自身が現状をどうとも思えないことを否定し続けているように見える。
長門有希の名前が呼ばれたとき彼女はひどく塞ぎこんだ。朝比奈みくるの名前が呼ばれた時はぼくの前から離れた。
友人の死を悲しむ気持ちは本心半分。しかし残り半分は彼女自身のポーズなんじゃないかとぼくは推察する。
ただ放送で名前が呼ばれただけで、それは否定するという判断もあるのだけど、彼女はその”逃げ”をよしとしなかった。
自身の弱さや曖昧さを否定する為にこの状況を精一杯受け止めようとする。
友人たちは無慈悲に殺害され、悪逆非道の輩が跋扈し、皆は必死にあらがい、脱出の鍵はどこかにある。
そう思い込むことで、自らが作り上げた正しさの中にいることを維持しようとしている。

ハルヒちゃんは自分から逃げない。だがそれ故に自分が作り上げた世界の中に逃げ込んでいる。

そうすることで自分を保っている。
悪に憤り、友人の死に悲しむ真っ当な人間だと。自身は薄情ではなく、常識的な人間であると。
しかしハルヒちゃん。実はそれが本当は非常識なんだ。
人間、わけもわからない状況に置かれて、そんな言葉だけの死に対して真には迫れないものなんだよ。
この場合、無感動なくらいで丁度いい。人間の心はそんな簡単には揺れない。揺れたりしないんだ。



そんなことを心の中で思いながらぼくもハルヒちゃんと同じく通りの方へと視線を移した。
天辺にまで昇った陽の光は街並みを照らし、風景は強い光に白けきっている。
その白けぐあいはまるでぼくたちの心を写し取っているかのようで。
もしかしたら、ぼくたちはこの美しい夢のような光景の中に囚われ続けるんじゃないかと錯覚するぐらいだった。

勿論。錯覚は錯覚で。錯覚は錯覚でしかなかったのだけれども。

30分ほどミスタードーナツで時間を過ごし、ぼくたちはいくらかのドーナツを箱に詰めてその場所を後にした。
そして、次にぼくたちを出迎えたのは、待ちわびていた(?)凄惨で凄惨さだけが鮮やかな真紅の殺人現場だった。

いやおうなしに目の冴える。無視することは不可能で、停止を余儀なくされる危険信号《レッドシグナル》がそこにあった。

642トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:43:04 ID:dh9efGCs0
 【第一殺害現場 《メッタウチメランコリー》 -実地検分】


それはあまりにもわかりやすく、あまりにもあからさまな殺人現場だった。

アスファルトに投げ出された四肢。飛散した血飛沫。じくじくと滲む赤色は何よりも雄弁な死の証だった。
なんらかの凶器で胸部から顔面を滅多打ちにされた死体は自殺や事故という可能性を頑なに否定しているようで、
死体は誰かに、他の人間に殺されたのだということを訴えているようにも思える。
そして、往来の真ん中に打ち捨てられた死体とはつまり生を終えたモノであり、生きていた人間の跡ともとれるそれは
まるでぽっかりと空いた穴のようにぼくたちを足止めし、回避できない現実というものをぼくたちに突きつけるのであった。



「…………ねぇ、いー」
「うん」

ハルヒちゃんがサイドカーの中から弱々しい声をかけてくる。
それを実に女の子らしい反応だと思いながらぼくはバイクのエンジンを切り、少し様子を窺った後、座席から降りた。

「大丈夫なの?」
「死体は襲い掛かってはこないよ。死んでない人間は襲い掛かってくるかもしれないけど」

やはり死体というものに目は取られるけど、アプローチをする際に気をつけないといけないのは死体(それ)以外だ。
これがここだけで完結《クローズド》しているのならば死体だけに注視していればいいのかもだけど、しかしそうじゃない。
あくまで、生き残りを賭けたステージ上の一場面に存在するひとつの死体。そうであるという認識をしなくてはならない。
つまり、死体を囮としてのトラップ。そういうものを警戒しながらぼくは一歩ずつゆっくりと死体に近寄ってゆく。
無論、死体そのものに罠が仕掛けられていることも考慮して、死体を含むこの一場面全体を警戒の対象としながら。

「こういうのはあまりぼく向けのシチュじゃないと思うんだけどな」

死体がある? オーケイ。確かに、自慢できることではないけどぼくは死体を見慣れている。それこそ飽きるぐらいに。
バリエーションだって記憶の中には様々にある。だから今更死体程度で緊張なんかはしないのだけれど、しかし
潜んで殺しあう――そんなシチュはやっぱり専門外だ。これはどちらかというとあの零崎人識の領分である。

いつでも走り出せるよう意識的に呼吸を整えながら、さも無警戒という風を装い死体へと一歩ずつ歩み寄る。
慣れない緊張を押さえ込みながら、あたりの気配を窺い物陰とそうでない場所へと等しく視線を走らせる。
もっともぼく程度がどれほど警戒したところで相手のスキルがそれを上回っていれば意味はないのだけれど。

「…………ふむ」

そしてどうやら、あくまで今のところはどうやらなのだけど、特に罠や仕掛けというものはなかったようだ。
とはいえ状況は常に進行中であるので、ここでゆっくりと時間をおくわけにもいかないのも事実。
ぼくは脳のチャンネルを切り替えると、改めて死体を注視することにした。

643トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:44:02 ID:dh9efGCs0
惨殺。乱暴な手段でもって惨たらしく殺された――というのが死体を見た第一印象で、それは遠目から見た時と変わりない。
死体には何度も刃物を叩きつけられた痕跡があり、その過剰な攻撃性は人体を損壊し尊厳を壊滅させグロテスクへと貶めている。
力なく伸びた手足と散り散りに飛び散った血飛沫が、おそらくは彼というべきすでに死亡した人物の無力さを物語っていた。
ろくな抵抗をすることもできず殺されたのだろう。ならばやはりそれは印象の通りの無惨な死体であった。

「ねぇ、いー」

声に振り返るとハルヒちゃんもバイクから降りて近くまでやってきていた。
しかし近くとは言っても、この死体とバイクとを結んだ線上のおおよそ半分というところらへんだ。
さすがに死体をまじまじと見たいとは思わないのだろう。いや、それが当たり前の感覚ではあるのだが。

「その人は…………その、どうなの?」
「死んでる――というのは間違いないね。死因なんかはもう少し詳しく見てみないとわからないけど」
「本当に死んでるの?」
「うん。とりあえず君の友人たちの誰かではないようだけど……確認してみる?」

ハルヒちゃんはぼくのその問いに対し、驚くように一歩後ずさりするとふるふると首を振った。
うん。けっこう新鮮なリアクションだ。ぼくの人生の中においても、ハルヒちゃん個人に対しても両方の意味で。
やっぱり死体を見た人間というのはこれぐらいおっかながるのが当然で、ぼくも含めて平気そうなのは皆異常なんだろう。
そういう意味で、ここ最近ぼくの周りには異常者しかいなくて、ハルヒちゃんは久々に接する普通の女の子ということだと言える。
はたして、これまでの人生の中でどれほど普通の女の子と接した機会があったかなんて、よくは覚えてはいないけれど。

「ねぇ、ハルヒちゃん。よかったらでいいんだけど、ちょっとそこらを軽く捜索してくれないかな?」
「捜索ってなにか探すの? 証拠品とか」
「いや、この人”持ってない”んだよ……”鞄”」

まぁ、殺されている以上、持ち去られたというのが正しいのだろうしハルヒちゃんも同じことを言ったけど、
ぼくとしてはあまり遠くから窺うように見続けられているというのも気持ちのいいものじゃないので、
もしどこか近くに転がっていれば儲けものだなってぐらいの気持ちでハルヒちゃんに近辺の捜索を頼んだ。
ハルヒちゃんの言った”証拠品”なんてのもひょっとしたら程度の可能性はあるし、多少の労力程度なら試してみる価値もある。
実際に探すのはハルヒちゃんなわけだしね。ちょうど昼食の後だし、少し運動するのも悪くない。

「さてと……」

改めて死体とこれが放置された現場とを検分することにする。
放っておけないのは性分もあるけど、殺害された方法と理由を知るのはぼく自身の安全の為でもある。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。だったらまず自分探しに行けというのがぼくのよく言われるところではあるんだけど。



まず殺害現場だけど、ぼくたちが向かっていた温泉。正確には宿を兼ねた温泉施設か――の目の前だった。
人が出入りする正面玄関の目の前。
であれば、なんらかの遭遇がここであり、この結果を生み出したと考えるのが自然な流れだろう。

死体になっている人物は上下ともに特徴のない地味な服装をした男性だ。
顔が潰されているので人相はわからないが、おそらくは年も背もぼくとそう大差ないんじゃないかと思う。
大きな違いがあるとすれば眼鏡の有無だろうか。リムが折れてレンズが粉々になった眼鏡がすぐ傍に落ちていた。

644トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:44:48 ID:dh9efGCs0
「致命傷となったのは……この傷かな」

死体には胸部から顔面にかけていくつもの裂傷があり、しかも顔面に関しては完全に崩れるほどに傷が重なり合っているが、
致命傷となったのはどうやら胸部の中心に叩き込まれた一際大きな傷ではないかと、そう見て取れた。
案外、顔面などはいくら傷つけようとも致命傷にはならないものだ。ならばこの推測はいい線いってると思う。

そして、おそらく。この致命傷が最初の一撃だとも思われた。
彼の両腕には専門用語言うところの”防御創”――生命の危機に瀕して防御しようとしてできた傷というものが見当たらない。
つまりまずは胸部への一撃を最初に受けて、直後に絶命したか、または抵抗もできないような状態に陥り、
その後、凶器を顔面へと繰り返し叩きつけられたのだろうと推察できる。

「わかりやすいな」

ここ半年ほどは随分と手の込んだ死体ばかり見てきた為か、不謹慎ではあるけどこういったわかりやすい死体は新鮮だった。
こういった状況に陥った経緯はまだ不明だけれども、被害者の傷を見ただけでも大体の犯人像というのが思い浮かぶ。
プロファイリングの初歩だが、このように被害者に致命傷を与えてもなお加害を加えるというのは女性に多い傾向だ。

どの程度負傷させれば死ぬのか、どこを狙えば致命傷になるのかがわからない。
なので生命維持に重要な役割を果たす器官や血管ではなく、イメージとしてわかりやすい顔面を狙い続けた。
そして、相手が致命傷を負ったことを冷静に観察できない故に、また反撃の恐怖から過剰に攻撃を続けてしまった。
また死体の足元にあるおそらくは犯人が吐き出したのであろうと推測される吐瀉物。
自らが作り上げた死体としでかしたことに対するおぞましさからだとすれば、これも推論を補強する材料になる。
と、常識の範囲内で考えれば難しい問題じゃない。もっともその常識がここでどこまで通じるのかは怪しいものであるけど。

凶器に関しては簡単に判明した。飛び散っている血飛沫の先を目で追ってみれば、すぐ傍に無造作に放り捨てられていたのだ。
手に取ってみるまでは鉈か手斧かと思ったが、それにしてはやや刃の厚みが薄いようにも思える。
使ったことはないけど、所謂肉斬り包丁の一種なのかもしれない。
刃にはべったりと血がこびりついているし、これが死体となった彼を絶命させるに至った凶器なのは間違いないだろう。

「血痕は死体を中心に広がってるし、死体を動かした形跡もない……とすれば殺害現場もここで間違いないか」

そして、ひとつ重要な手がかりが現場には残されていた。

「……いや、別にそうでもないか」

自身の思考を次の瞬間に否定しつつぼくは”それ”の前にしゃがみこんだ。そこにあったのは”足跡”である。
死亡した彼を殺害した人物のものだと思われるが、血で記された足跡がそこに残されていた。
おそらくは立ち去ろうとした時に流れ出た血を踏みつけ残ってしまったのだろう。
たった3歩程度で、しかもかすれてはいるが一応それなりに重要そうに見える証拠だ。

「あくまで重要そう程度だよな。靴の裏ならともかく裸足の跡っていうんじゃこんなかすれたものでは個人を判別できない」

残っていたのは”裸足の足跡”だった。
よく指紋というのは堅い証拠として扱われることがあるし、実際そうではあるのだと思うけれども
アスファルトの上に残されていた血の足跡は、残念ながら指紋が読み取れるほど鮮明なものではない。
それに読み取れたとしてもどうやって照合するのか。それならば靴の跡のほうがわかりやすい分、この場合は有益だ。

「でも、この殺人の犯人が裸足だったというのはひとつの収穫かな」

着るものも着ずにならず、履くものも履かずにというのは先のプロファイリングに沿っておりこれも補強する材料ではある。
これで足跡がずっと続いていれば向かった先もわかろうというものだが、そこはたった3歩では不明のままだった。

645トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:45:53 ID:dh9efGCs0
一応、これで一通りの現場検証は終りかとぼくは立ち上がり、掌を太陽に向けてぐっと伸びをする。
結局なにがわかったかというとなにもわかってないに等しく、この先情報が活かされるかというとそれも怪しかった。
広く見渡せばこの世界はクローズド・サークルではあるけれど、あまりに広すぎて実質的にはその意味合いはかなり薄い。
これはたまたま見つけた殺人現場でしかなく、そしてまたたまたまその犯人にこれから行き会う確率。
さらには今得た情報が活かされるとまでいくとそれはいかほどのものだろうというのか。

「まぁ、そんなこと言ってると足元すくわれるからいちいち立ち止まって情報を拾ったわけだけれども……」

転ばぬ先に杖というよりも、経験からくる生活の知恵みたいな。
それぐらいにはぼくはぼく自身の《事故頻発性体質並びに優秀変質者誘引体質》を信じているのだった。
あの人類最悪の言葉じゃないけれど、縁があった以上、この足跡の主とぼくとは絶対に”遭う”。

それは不可避の呪いか、神の采配を感じずにはいられないご都合主義のように。ぼくの意思とは関係なくそうなる。






 【第一殺害現場 《メッタウチメランコリー》 -検証】


「ねぇ、いーいー! こんなものが見つかったわよ」

ぼくが死体の傍からバイクの元に帰ってくるのと同じくして、ハルヒちゃんが”証拠品”を胸に抱えて戻ってきた。
まさか本当になにかが見つかるとは思ってなかったのだけど、たまには小さなリスクも負ってみるものなのかもしれない。
さておき、ハルヒちゃんが抱えてきたものだけども、それはかなり意外なものであると同時に納得できるものでもあった。

「そんなものどこにあったの?」
「温泉の入り口にある車止めにかかってたんだけど、これ制服だけじゃなくて下着もあるのよ。ほら」

ハルヒちゃんが抱えた中から持ち上げて見せたのは所謂女性用の下着であり胸部に装着するもの――ブラジャーだった。
それも一見してわかるぐらいに”大きい”。
ピンク色の布地に細かい刺繍の模様が浮かんでおり、もしこのブラジャーの持ち主の肉体を想像するならばと、いやそうではなく。
つまり、ハルヒちゃんが見つけたのはどこかの学校の制服であり、下着を含む衣装一式であった。
しかも女装用でないとしたならそれは間違いなく女の子のものだ。

「つまり裸の女の子がどこかにいるってことだね」
「ちょっといやらしい言い方しないでよ」

ただの事実にいやらしいもなにもないと思うが、ようするにそういうことに他ならない。
温泉。脱ぎ捨てられた衣装。裸足で逃げた犯人。おぼろげながら点と点との間に線が見えてきた気がする。



「あの死んでいた人を殺した”犯人”なんだけれども、女性で……どうやら裸足だったみたいなんだよね」

ぼくは死体とその周辺から得られた情報とそこから導き出された推論とをハルヒちゃんに説明した。
ハルヒちゃんは時折質問を挟みつつも素直にそれを聞いてくれる。
そして概ね納得してくれたらしく、説明を終える頃にはぼくが用意した答えへと彼女はたどり着いていた。

「つまり、この制服を脱いでいった子が犯人かもしれないって言いたいわけね?」
「うん。かなり乱暴な論だけどね」

ここから先は少ない情報を元に想像を重ねるしかないのだけど、今のところ浮かび上がるのはその可能性だけだった。

646トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:46:39 ID:dh9efGCs0
「でも、その子はどうしてここで裸になんかなったのかしら?」
「ここでとは限らないよ」

ここはただの往来だから、もしここで脱いだのだとしたらストリーキングそのもので、犯人が露出狂でないと辻褄があわないけど、
しかしここは女性が服を脱ぐにあたってなんら問題のない施設の目の前でもあるのだ。

「温泉でならそりゃ服は脱ぐんでしょうけど、でもだからってここに服があるからそうだとはいえないじゃない」

まぁもっともだ。いくら温泉施設だからってなにも玄関をくぐる前から裸になる必要はない。
普通ならば脱衣場で、そして犯人と思われる制服を置いていった子だって実際にはそうしたのは間違いないだろう。

「その発想は逆さ。この場合、犯人である彼女は裸のまま外に出てきたって考えたほうが辻褄があう」
「ふぅん……?」
「ここに衣装があったというのはひとまず置いておくとして、男性の死体と裸で逃げた女性というところから考えてみてよ」
「ええと……ちょっと待ちなさいよ。つまり……あぁ、そうか。それだったらありえるのかしら」

さすがに頭の回転が早い。どうやらハルヒちゃんもどういった条件ならばこういう状況ができるのか想像がついたようだ。

「うん。例えばこういうケースが想像できる。
 まずその女性は最初からいたのか、はたまたどこからかたどり着いたかでこの温泉施設の中にいた。
 そしてどうせならばと中の温泉に入ったんだろう。勿論、服を脱いだ状態でだ」
「けど、そこで温泉から急いで逃げ出さないといけない理由ができたのね? 例えば、あの男が痴漢だったとか」
「死んだ人の名誉を貶めるようなことはしたくないけど、結果的にそうなった可能性はあるね。
 女性の後にこの温泉にやってきた彼は温泉の中の彼女に声をかけようとした。
 けど、色んな意味で状況が状況だ。彼女が着るものも着ずに温泉を飛び出していってもしかたない」
「それで男も追いかけた。……そうか、あの衣装を持って出たのはその男かもしれないわね。
 ……だとしたら別に痴漢なんかじゃなくて、ただ誰かと一緒にいたかっただけなのかもしれないわ」
「うん。それで彼は半狂乱で逃げる彼女に追いついた」
「けど、そこで不幸な事故が起きた……というのが真相なのかしら?」

即興で組み上げたにしてはそれなりの推理だった。ここで納得して終わるだけならそれでいいって程度には筋は通っている。

「推理のベースとするにはいいけど、まだ色々と気になる部分はあるね。それにこれはほとんどが憶測でしかない」
「気になる部分って?」
「まずは殺害に使用された凶器だよ。かなり大振りの刃物だけど裸の女性が持っていたというのは不自然だ」
「じゃあ男のほうが持っていたのよ! 多分、護身のためにずっと握ってたのね。それで持ったまま彼女と遭遇した。
 だったら、彼女が裸のままで逃げ出したってのにも説得力がでるわよ」
「なるほど。確かに風呂に入っているところに刃物を持った男が現れたら服を着ている余裕なんかない」

あくまで与えられた情報を元にという条件であれば、この推理を支持するのは間違いではなさそうだった。
とはいえ、あくまではあくまでだ。現実には条件は限定されてないし、可能性はいくらでも存在する。

「だったらその女の子を捜してあげないと。すごく苦しんでいるはずだわ」
「いや、たったひとつの真実と言うにはこの推理はまだ杜撰だよ。行動の指針にするほど確かなものじゃない。
 登場人物は他にもいたのかもしれないし、足跡や衣装が犯人のものだってのも確証はないんだ」
「それも、そうよね……うん」

とりあえず、ぼくとハルヒちゃんとでの推理ごっこはこんなところだった。
グロテスクな死体を見たことで少し情緒不安定気味だったハルヒちゃんも推理に集中したことで回復できたようだし、
凶器を回収できたことと犯人と被害者両方の鞄が現場にないってのはぼくにとっても意味のある情報だ。

647トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:47:26 ID:dh9efGCs0
「とりあえず建物の中へと入ろうか。
 元々そのつもりで来たわけだし、殺された人のはともかくとして裸で逃げた彼女の鞄はそこに残ってるかもしれない」
「ええ、そうね。もっと決定的な証拠も残ってるかもしれないし」

今更また放置しておくのもなんだということでハルヒちゃんは見つけた制服を鞄に仕舞おうとする。
と、そこでぽとりと何かが服の中から滑り落ちた。

「これは……生徒手帳?」

腰をかがめて拾ってみるとそれは所謂生徒手帳というものだった。
そういえば学生はこれを身分証明として携帯してなくてはいけないんだっけ?
ぼくが中学生の頃はどうしていたか、それはもう記憶にはないけどどうやらこの制服の持ち主はちゃんと携帯してたらしい。
プライバシーという言葉はあるけれど、ここは緊急事態なので遠慮なく開いて中を見させてもらうことにした。

「いー、誰のかってわかる?」
「ああ、この名前は名簿の中にあったね」

生徒手帳を後ろから開いて1ページ目。
名前と連絡先などを書き記すための箇所はまるくかわいい文字で几帳面にも丁寧に全ての欄が埋められている。
もらったまま白紙にしている生徒も多いだろうに、なかなか真面目な子だ。


「彼女が”犯人”か」


そして、そこには――姫路瑞希――という名前が記されていた。

648トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:48:38 ID:dh9efGCs0
 【幕間 《melancholy girl x2》】


凄惨だと言えるかはともかくとして、もし目つきの悪いあの彼が見たならば悲鳴をあげるような現場がそこにもあった。

部屋の広さはそこそこ。畳敷きで中央にはつくりのしっかりしたテーブルが置かれている。
テーブルの上には包みの開かれたお菓子の袋や、発泡スチロールのトレイ、ペットボトルに瓶やコップなどが散乱していた。
いや、テーブルの上だけにはとどまらず、部屋中に包装紙が巻き散らかされ皿が積み上げられていた。
打ち上げでもあったのかそれは相当の量だったが、共通しているのはどれも綺麗に食べきられているということだ。
ポテトチップスの破片や肉汁が零れている程度ならいくらか散見できるが、しかし残っていると言ってもその程度でしかない。

円形のアルミの台紙の上にはホールケーキが乗っていたのだろうと想像できる。
使い捨ての燃料を使う焼き網には、おそらく貝を焼いて食べたのであろう痕跡が残されていた。
テーブルの端から畳の上に落ちている鳥の骨はけっして骨格標本などではなく、丸焼きにされたその成れの果てに違いない。

そしてその部屋には二人の人間が横たわっていた。
二人は同じ臙脂色の制服を着ており、また同じように長い黒髪を背中に流し、同じような格好で畳の上に横たわっていた。
片方は折りたたんだ座布団を枕に右側を下に身体を丸め、もう片方は大股を開き大の字で寝転がっている。

川嶋亜美と千鳥かなめ。
二人は、すらりと手足の長い姿がまるでモデルのような――というか片方は実際にモデルなのだが――所謂美少女であり、
この凄惨な現場をたった二人だけで作り出した、別腹というよりもはや別次元というべき胃袋を持った犯人なのである。

「………………ぅう、最悪」
「うぇえぇ…………、食べ過ぎたぁ…………」

――今現在は犯人というよりも被害者みたいな風であったが。これも自業自得か、はたまたは自爆というのか。
仮にここに警察が駆けつければ彼女達は無銭飲食および窃盗などの罪で逮捕されてしまうのだろうが、
しかしそんなことよりも、二人の白いおなかのぽにょっと出た部分が罪の証としてこれからしばらく彼女達を苛めるだろう。
また、明日の朝にでも鏡でテッカテカになったお肌を見れば、いかに自分たちが罪深い人間か自覚するに違いない。

まぁ、ともかくとして。特異な状況ではあるが女性の尊厳的な意味合いを抜けばそれほど危機的な現場ではなかった。



「あー、よっこらせっと……ふぅ」

地面に括り付けられたガリバーみたいになっていたかなめが、親父臭いしぐさでのろのろと起き上がってきた。
そして部屋を見渡し惨状に溜息をひとつ。げっぷをひとつ。もうひとつ大きな溜息をついてようやく立ち上がる。

「どうしたのぉ……?」

立ち上がったかなめの方へと横になったままの亜美が寝返りを打つ。
おなかの中のお菓子軍団もいっしょにでんぐりかえって口から激甘ブレスが漏れる。甘ったるさに亜美の顔が歪んだ。

「んまぁ、喰ったら後片付けぐらいはしとかないとと思ってねぇ。このままじゃ寝れないし」
「そんなの別に他の部屋に移ればいいだけじゃん……亜美ちゃんめんどーい」

それもそうだけど。と言いつつ、かなめはひとつひとつ畳に落ちたゴミを拾い集める。
大いにアバウトで融通のきく性格ではあるが、別にルーズというわけじゃない。むしろその逆なくらいだった。

649トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:49:22 ID:dh9efGCs0
「でも誰もいないとはいえ勝手に人様のものをいただいちゃったわけだしさ。
 それに……なんか、ここまで散らかってるのを見ると落ち着かないっていうか、ほっとくにしのびないというか……」
「……………………」

集めたゴミをゴミ箱に……といっても客間の小さなゴミ箱じゃとても収まりきれそうにないほどゴミはある。
ならなにかゴミ袋の代わりになるようなものがないかとかなめはキョロキョロと部屋の中を見渡した。
と、そこで芋虫からこのまま蛹へと変化するんじゃないかと思われた亜美がのそのそと起き上がってきる。
それはさながらゾンビのようで、寝癖で前にたれてきた髪の毛がすこしホラーな雰囲気を醸し出していた。

「ん、なに? どったの?」
「…………あたしも手伝うから……掃除」

いぶかしむかなめの前で亜美は髪を整えながら甘い息を吐く。文字通り、比喩でない甘い息を。
ふしめがちと表現すれば少女っぽかったが、しかし眼差しはちょっと虚ろといった感じでちょっと以上に危なっかしい。

「……ふーん。川嶋さんって掃除とか得意なタイプ?」
「亜美ちゃんでいいよ。私もかなめって呼ぶし。
 ……掃除は、まぁ得意かな。亜美ちゃんなんでもできるし。それに、掃除は…………くんに教えてもらったから……」

言いつつ、亜美はふらふらとよろけると壁に背をついてふぅと小さな溜息をついた。
同じ大食い美少女といっても、人間火力発電所のかなめとセンチメンタルシュガーポットな亜美では身体のつくりに差がある。
食べた分だけ活力を取り戻したかなめと、溜め込んだ分だけ心身ともに重たくなった亜美との違いであった。

「大丈夫? 別にこれぐらいだったら私ひとりでするし、お布団しいてあげよっか?」
「えへへ……亜美ちゃん華奢な女の子だからぁ☆ …………うぇっぷ」

心配するかなめへと、亜美ちゃんは作り笑顔でウィンクしたまぶたから星粒をひとつキラリ-☆
で、途端に亜美の顔がまるで明け方の空のように薄蒼い色に染まった。

「ああああああぁ〜! ここで吐くな! 吐いちゃだめだってば!」
「ぉぷ……、ぅ…………吐いたら楽になれるかなぁ……? 全部吐いたらダイエットしなくてもいいかなぁ……?」
「は、早まらないで! ほらトイレいこ。それまでしっかりね。ほらこっち……靴履いて」
「うぅ……ありがとぅ…………」

やはり食べすぎは食べすぎだったのだろう。
リバース寸前で真っ青のガクブルな亜美へとかなめは肩を貸してはげまし、ふたりは揃って客間を後にしていった。

そして、不在の部屋ができあがり、惨状を惨状のままほったらかしにされた現場はしばらくの間そのままだった。

650トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:51:20 ID:dh9efGCs0
 【第二殺害現場 《ガリガリモウジャ》 -実地検分】


そこもまた、まるでこれまでに足りなかった分を補うかのように血の色で塗りたくられた凄惨な殺害現場だった。

正方形に近い形の部屋の中、中央にテーブルを置いて奥と手前にひとつずつ死体が横たわっている。
奥の死体は仰向けに。手前の死体はうつ伏せにと、まるでシンメトリーのように。
そして激しい流血の跡が壁や床へと赤い線を走らせ、まるで部屋全体を狂気の芸術へと昇華させているようでもあった。
だがしかし、そんなのはただの印象で。
実際には工業製品のような、単純なロジックだけで組み立てられると理解できるそんな薄ら寒い現場でしかない。



「くそっ……、なんだって北村がこんな目にあっちまうんだ……! 畜生……ッ」

勿論のことだが、この台詞はこのぼくこと戯言使いのものではない。
冷たい言い方になつけれども、ぼくは見ず知らずの人の死体を前に憤るほど熱いキャラじゃないし、
北村なんて名前を――ここで亡くなっているふたりの名前のどちらだって知りはしない。
そして別にハルヒちゃんの台詞というわけでもない。彼女だって条件は同じだった。
この台詞は、ぼくたちにとっては新しい登場人物のものである。

「…………俺はどうすればよかったんだ?」

部屋の入り口で立ちすくみ顔に悔恨の情を浮かべているツンツン頭の彼の名前は上条当麻と言うらしい。
そしてその後ろ。死体を見ないように彼の背中へとしがみついて震えている女の子の名前は姫路瑞希と言うのだった。

そう、先ほどの件の彼女も一緒なのだった。
ぼくとハルヒちゃんとは、あれから建物の中と入る直前に、あの凄惨な現場の前でこの二人組と行き遭ったのだ。
偶然……であるはずだけど、あまりの間のよさに我ながら驚いたというのが正直なところでもある。
犯人は現場に戻ってくるとはよく言うけど、まさかそのまま、しかもこんないい(?)タイミングでとは思いも寄らなかった。
もっとも、殺人の件に関してはまだそれを問いただしてはないし、
しかるに彼女が犯人だと確定したわけではないのでその点においてはなんとも言い切れはしないのだけど。

「なんだかなぁ」
「どうしたの、いー?」
「いや別に。
 お揃いの体操服姿なんかでいるとどうもあの二人、できの悪い兄としっかりした妹のように見えるよねとか思ってないよ」
「なによそれ。でも、まぁ……上条くんのほうはともかく瑞希ちゃんの方は逸材よね……うん」

逸材か。確かにあんなものを押し付けられたら健康的な男子としてはとても冷静ではいられまい。
スタイルだけでなく顔も可愛らしい。実に保護欲をそそるタイプだ。ふんわりとした髪も相まって実に女の子という感じがする。
とまぁ、そんなことは本当にどうでもいいのだけど、ぼくが実際になんだかなぁと思うのは今この現状に対してだ。

遭遇してから、ぼくたちは互いに害意がないことを示すとグロテスクな死体を避けて場所を移し、それぞれに自己紹介しあった。
正確に言うなら、ひどく怯えた様子の姫路さんは自分で自己紹介をしなかったから、彼女の名前は上条くんから聞いただけで、
ついでに言うならば、できるだけ丁寧に、特に転がってた死体の件については色々と聞き出して確かめたかったのだが、
上条くんが急いでいると訴えたので、先に述べた通りにそれも叶わなかった。

彼いわく、この温泉施設の中で2回前の放送で名前が呼ばれた北村という人物と待ち合わせをしていたらしい。
それだけならばそれほど急ぐことでもないように思える――なにせ死体はいくら待たせても怒るわけでもないし――が、
千鳥かなめという女の子が上条くんより先行してここへと向かってきていたとのこと。
ならばまず彼女と無事合流して、それから改めて互いに話し合おうというのが彼のその場での主張だった。

そして、上条くんに先導されてぼくたちは件の北村くんが待っていたはずの客間へとたどり着き、
結果として想像以上に凄惨で無慈悲な殺害現場を発見したという次第である。

651トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:52:14 ID:dh9efGCs0
千鳥さんという女の子はそこにはおらず、出会うことは叶わなかった。
実はまだたどり着いてないのかもしれないし、もしくはたどり着いたがどこかに立ち去ったのかもしれない。
上条くんが来るのを待つといってもけっこうな時間が経っているらしいし、どちらの可能性もありえた。
誰も言葉には出さないが、千鳥さんが何者かに出くわし危機に陥っている――最悪、もう死亡しているということもありえる。

まぁ、そんなことよりも。そんな現状であり、ぼくがなんだかなぁと思っているのはこの現状であり、この流れだ。
つまり、目の前のイベント的に上条くん主導権――イニシアチブを取られているという状況。
このままでは次のターンの行動も彼の主張により決定されてしまうだろう。

断っておくと、なにもぼくは率先して何事かの主導権を握りたいだとか、場を仕切りたいなどという性分がある人間ではない。
集団行動は苦手で、むしろ放っておいてくれ、一人勝手にさせてくれというのが基本のスタイルである。
しかし、今はぼく自身の狙いや役割がいつもとは少し異なる。
ハルヒちゃんの存在がそれだ。彼女を観察し、彼女を考察し、彼女を検証し、彼女を見極めて、彼女の有用性を実証する。
それが今現在のぼくの狙いでありこの事態における役割でもある。
故に、主導権を握るとは言わないまでもシチュエーションをコントロールできる程度の立ち位置は必要だ。
流されるままに流されてというのが本来のぼくではあるのだけど、今はそれじゃあ少し問題がある……ということ。

さて、とはいえここで大声をあげて『やぁ、ぼくに名案があるんだ』なんて言って先導するのは好ましくない。
他称ながら神様らしきハルヒちゃんを試すにあたって、ぼくがそうしていると彼女に気づかれてしまっては全てが台無しだ。
精密な実験にそれが必要であるように、正しい観測結果が欲しいのならば実験されているという認識すら不純物なのである。
なのでシチュエーションの設定にぼくの意思を潜ませつつも、それが介在するとは絶対に気づかれてはならない。
では、どうするかというと――

「それで、ハルヒちゃん。ぼくたちはどうすればいいんだろう?」

――とまぁ、やっぱりこうするしかないわけで。
幸いなことにハルヒちゃん自身はリーダー気質かつわがままな女の子なので、主導権を握ることになんらいといがない。
そして、ぼくの意思決定を彼女に譲渡すれば、彼女の押しは2倍になるという計算。
鳴かずなら鳴いてと土下座だホトトギス。ややという以上になさけない気はするけれど、ようはハルヒちゃん主導の線狙い。
彼女に前面へと立ってもらい、目立たない位置からアドバイスという形でぼくが彼女の選択に調整を加える。
つまり、躊躇した上に長考してみたものの、結局今までと方針は変わらないということだった。

「どうすればって、そんなの決まってるじゃない。上条くんたちと一緒に千鳥さんを探しましょう。
 もしかしたら怖いものを見てどこかで震えているのかもしれないし、怪我だってしてるかもしれないのよ」

うん、この流れだ。そしてぼくはぼくの思惑に従い微調整を加える。

「そんなに大げさに考えなくとも、案外こういうのは近くにいたりする場合もあるんじゃないかな?」
「うーん、それもそうねぇ……。たまたまトイレかなんかに行っててすれ違っただけってこともありえるかしら。
 とりあえずこの温泉の中から探してみることにすればいいわよね。うん」

そう言って、ハルヒちゃんは部屋の中で死体へとシーツを被せている上条くんの下へと駆けていった。と、これでよし。
なにもしなくてもこの後に千鳥さんを探す流れは変わらなかったろうけど、誰が言い出すかには意味がある。

ひとつの杞憂が晴れたところで、上条くんについての印象を確認してみる。
どうやら少年らしい風貌とこれまでの言動を見る限り、見た目どおりに青い熱さと正義感を持った好青年のようだ。
多少の縁があった北村くんとやらだけでなく、筑摩小四郎とかいう忍者の人にもシーツを被せてあげている。
それだけでなく、その忍者の人が連れていたという立派な鷹――これも死んでいた――もシーツで包んでいた。
こういった善良さはぼくの周りでは貴重なので、せいぜい迷惑をかけずかけられない距離を維持させてもらいたい。

652トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:52:58 ID:dh9efGCs0
「そうだな、とりあえずは千鳥のやつと合流しないと面目が立たねぇし。姫路もそれでいいか?」
「離れるのは危ないからみんな一緒に行動しましょう。
 まずはこのフロアにある部屋から当たっていくのがいいわ。大丈夫、きっと無事に再会できるわよ」

と、どうやら話はすんなりまとまったらしい。これでハルヒちゃんの”言ったとおり”に千鳥さんが見つかれば万々歳だ。



さて、ハルヒちゃんを先頭に千鳥さん探しに出かける一行。
その一番後ろでぼくはこっそり部屋を振り返り、もう一度だけこの光景を脳髄に焼きこむようしっかりと凝視した。
目的は先ほどの現場と同じで、ここで何が起こったかを知り、それをその危機から身を守るための情報とするためである。
そしてこの現場の場合、先ほどの現場とはその必要性および重要性が全く違うレヴェルにあった。

”素人が素人を偶発的に殺害した現場”と”プロがプロを計画的に殺害した現場”とでは言葉どおりレヴェルが違う。

筑摩小四郎という人は忍者であったらしいけど、その言が正しければ彼はある種のスキルの持ち主であったわけだ。
それが所謂”殺し名”などに匹敵するほどのものなのかはわからないが、なんにせよ彼の方はプロのプレイヤーなわけで、
その彼をただの一撃で、おそらくは真正面から撃破――死亡に至らしめているというのは、これは大きな脅威になる。

また、部屋の中には鷹以外にも”人間ではない”死体が転がっていた。
部屋の中央。戸口から覗き込めば二つの死体よりもよっぽど目に入ってくるのはウェディングドレス姿のマネキン人形。
こんなものがなんでここにあったのかは知らないけれど、それはなんらかの手段によって前面を破砕されている。

まるでマネキンの表面でいくつもの小さな爆弾が爆発したみたいな有様だったが、しかし爆発物を用いた形跡はなく、
ならばそれこそ、今こそ魔法や超能力がぼくの目の前に現れる頃合いなのかもしれない。

「戯言だけで幻想(フィクション)の中を渡り歩けって言うのか?」

本当に、戯言だと言って何もかもを投げ出したくなるような、そんな恐怖と非現実とが存在する殺害現場だった。

653トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:55:05 ID:dh9efGCs0
 【第二殺害現場 《ガリガリモウジャ》 -検証】


そして、登場人物は出揃った。



先ほどの殺害現場とは別の、けど同じ正方形に近い間取りの客間の中。
部屋の中央には同じように足の短い大きなテーブルが置かれており、ぼくたち”6人”はそれを囲んで対面していた。

上座の位置には行方知れずとなっていた千鳥かなめさんが一同を見渡すように座っている。
彼女から見て右側には再会の際に一発殴られて頭にたんこぶをつくった上条くんがおり、
その隣には正座をして、未だ何も発言することなく妙に挙動不審な姫路瑞希さんが縮こまっていた。
対面には男女対応するようにぼくとハルヒちゃん。
ぼくは年下の人間ばかりという状況にやや居心地の悪さを感じているという程度だが、
ハルヒちゃんはというとまだ死体を目にした緊張が残っているようで、僅かながら顔がこわばっていた。
そして、6人目。
千鳥さんと対応する下座の位置には彼女と同じ制服を着た、同じように美人の川嶋亜美という女の子がいた。
彼女はここで千鳥さんと出会い意気投合したらしいけど、どうやら上条くんや姫路さんとも面識があるらしい。

簡単にまとめると、
体操服組の上条くんと姫路さん。制服組の千鳥さんと亜美ちゃん。そしてぼくとハルヒちゃんの3組6人だ。



しかし……、これは本筋とはなんら関係のない戯言なのだけど、出揃った女の子4人が4人ともすごい美少女である。
特に最後に登場した千鳥さんと亜美ちゃんはハッとさせられるような美人だ。
可愛らしい姫路さんを見て少し喜んでいたハルヒちゃんだったが、二人の登場の際には息を飲み、若干引いていた。
同じ美人系とはいえ、肩口までのセミロングのハルヒちゃんと違い、千鳥さんと亜美ちゃんは腰までのドストレートの黒髪だ。
ぼくは髪型で人を差別するような人間ではないが、しかしキャラとしてこの”武器”の有無はとてもじゃないが無視できない。

ゆえに、常にアイムナンバーワンなハルヒちゃんとはいえ、引け目を感じたとしてもそれはいたしかたないことだろう。
無論、こんなことは決して口にしない。Mを自覚しているぼくだけど、嫌われ主義者でも自殺志願でもないのだから。
この壁はハルヒちゃんが自分で乗り越えられるよう、ぼくは戯言を封印してただ見守るだけしかない。



閑話休題。
では、これからの流れを追う前に、ひとまずあれからこれまでの顛末をさらりと振り返ることにする。
あれからとは二人の死体があった部屋を4人揃って後にしてからのことで、これまでとは今この瞬間のことである。

ハルヒちゃんはトイレにでもと言ったが、実際にあの後すぐ千鳥さんと亜美ちゃんはすぐ近くのトイレで発見された。
正確には廊下を歩いていたら、トイレから出てきた二人にばったりと出くわしたのだ。
あまりのあっけなさに拍子抜けしたが、苦難を伴うよりかははるかにいい。
そして揃いの制服を着た美人姉妹みたいな二人の登場に、見蕩れること一瞬。
ぼくはそのままことの成り行きを後ろから見守ることにした。探していたのは上条くんで、ぼくがしゃしゃり出る場面じゃない。

「いつまでもどこほっつき歩いていたのよ……この馬鹿ッ!」

そう。わざわざしゃしゃり出て暴行を受ける必要はない。
探し人であった千鳥さんはというとどうやら少々暴力的なツッコミ属性持ちであるらしく、
謝罪の意思を土下座で示した上条くんに、空手の下段突きの要領でブラックアウトしそうな拳骨の一撃である。

「……まぁ、お互い無事でなによりだけどね」

まぁ、このいつどこで誰から襲われるともわからない状況。さらには近くに死体もある場所にレディを待たせたのだから
ゲンコツ一発で済んだのは幸運だろう。むしろここは千鳥さんの度量の大きさを褒め称えるところだ。
うん。彼女には絶対に逆らわないようにしよう。と、ぼくはひっそり心の中でそう決めた。

654トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:56:46 ID:dh9efGCs0
「ところで見ない顔が増えてるんだけど、どちらさま?」

その後、ぼくたちは彼女らの使っていた部屋に移り、でたらめに散らかっていたその部屋の惨状に仰天した。
現実的である分、さっきの部屋よりか酷く見えるというか、なんというか。

で、何故か全員で掃除することになった。
ちなみに、男女6人もいれば掃除が苦手な子もいそうなものだったが、この6人においては皆掃除が得意だった。
ぼくはどちらかというと掃除よりも、掃除をしないで済むように部屋を汚さないタイプだけども、
ハルヒちゃんも姫路さんも、若干粗暴そうな一面を見せた千鳥さんも、こういうことは苦手そうな亜美ちゃんにしてもだ。

そして、上条くんはというと、なんというかぼくと一緒だった。主義ではなく……その、使い走りっぷりが。
こういう場合において男が使役されるのは自然なんだけど、なんというか理不尽に対する受け入れっぷりみたいなものが
若くして年季が入っているというか、不幸慣れしているというか、その姿にどこか共感や哀愁を感じてみたり。

と、また少し話が脱線してしまったが、経緯としてはこんな感じである。
そしてぼくたちは改めて簡単な自己紹介をし、これまでと今現在、そしてできればこれからのことを話し合うこととなったのだ。



「――それで当麻。あんたはこのか弱い女の子であるかなめさんをほったらかしにして、今まで何してたのよ?」

彼女へのツッコミは各自心の中ですませておくように――ということで、ぼくたちの話し合いはこんなところから始まった。
これはぼくが提案させてもらったのだけど、千鳥さん、上条くん、姫路さん、亜美ちゃんの4人は顔見知りであるみたいだけど、
ぼくとハルヒちゃんは向こうから見たら完全な新顔にすぎない。
なので、お互いに馴染みあう準備期間という意味でも、まずはこれまでの経緯なんかを報告しあえばという話。
実際としては、いきなり殺人などというヘビィな話題に突入しては、信用のない新参のぼくたち二人はデフォで立場が危うい。
そういうところを懸念したというのが本音。人間、知らない人間に対しては思った以上に冷酷になれるものだから。

「あー……、話せば長くなるんだが。というか、上条さんからも重大な相談事があったりしまして……」
「ちょっと、これ以上イライラさせないっての。相談事ならいくらでも聞いてあげるからハキハキ喋る」

まずは改めてぼくたちは自己紹介しあった。
そして、詳しい部分は割愛するが所謂パラレルワールド論――各自、出身世界とその認識についてあれこれ。
ここはハルヒちゃんが大きく喰いついたところなんだけど、割愛するとして。
その後、千鳥さんから順にこれまでの経緯を簡単に説明して、今の話題は上条くんが遅刻した理由についてだった。

「まぁ、話すけどよ。
 あれから、教会の地下に落っこちてから……えーと、あれはなんて言うんだけっかな。ああ、そうそう”カタコンベ”だ」

カタコンベとは所謂地下墓所のことである。
ここが日本であると仮定するならかなり珍しいものだが、上条くんは不気味さに怖気づくことなくそこを突破し、
その先にあった下水道を伝って東進。地図で見れば1kmほどを踏破してあの学校の前でようやく地上に出れたらしい。
と、それをさも武勇伝のように語る上条くんに向けてハルヒちゃんが手をあげて問いかけた。

「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「なんだ? えーと、涼宮さん」
「その前のことなんだけど上条くんと千鳥さんは外っかわの壁を調べに行ってたのよね?」
「ああ、それはさっき話したとおりだけど、なにか気になるようなところがあったか?」
「壁の話のところでなにか悪寒を感じたって言ってたでしょ? それで、地下墓所を通った時もなにか気配があったって。
 上条くんはやっぱり超能力者だからそういう……その、超感覚みたいなのが備わっててわかるのかしら?」

異世界の話をして以降、ハルヒちゃんの好奇心および探究心スイッチはオン状態だ。
そこらへん、今は別に後回しでもいいんじゃないかな? と思わくもないが、下僕の身ゆえぼくは口をつむぐ。
なによりこの対話の目的は互いに馴染むこと。ならば多少の遠回りはむしろ歓迎するところで、
ぼくとしてはハルヒちゃんがこの世の不思議を肯定する方向に向かうのは好ましいところでもあったりする。

655トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:58:05 ID:dh9efGCs0
「あぁ……いや、期待させちまって悪いが俺自身は無能力者(レベル0)なんだ。
 だから涼宮さんが期待してるような能力ってのはぶっちゃけると、これっぽちもない。
 悪寒とか気配ってのは、説明が難しいけど実際、その場ではそう感じたってだけなんだ」
「そっか……、まぁいいわ。じゃあ私も後でそこに行って確認してみるから。
 いー、あなたも覚えておきなさい。施設調査リストに教会の地下墓所を追加よ」

ハイハイと返事をして、ハイは1回でいいとぼくはハルヒちゃんに怒られる。
映画館からこの温泉。そして学校へと向かうのなら、その先は図書館、教会と並んでいるわけだし特別面倒なことでもない。
先送りになっていた世界の端についての調査も行えるなら、ハルヒちゃんの提案に反対する理由はなかった。

「施設調査って涼宮さんたちは何をしているの?」

と質問したのは議長ポジションにいる千鳥さんだ。
ちなみに、彼女は通っている高校にて生徒会副会長を務めているらしく、ならば議長役は適任であった。

「調査は調査よ。地図に書かれた施設を回ってこの事件を解決するためのヒントがないか探しているのよ」
「元々はそういう施設を回っていれば誰かに出会えるんじゃないかってことだったんだけど、
 この前に寄って来た映画館でちょっと発見があってね。そういえば学校にもなにかあったなって思い出して――」
「そう。それだったら片っ端から足を運んで調査していこうって思いついたわけなのよ!」

ハルヒちゃんはオールマイティそうでいてけっこう抜けてるところがあるので、その分はぼくがフォロー。
関心を持った上条くんと千鳥さん相手に、ぼくは映画館で見つけたものとその不思議さを説明した。

「ああ、魔方陣みたいのなら俺も学校で見たな。そうか……、オーパーツ的なものか」
「ここがあの狐面のおじさんの言うとおりの世界なんだったら、そういうのを調べる方が解決に近そうよね」

そうでしょう。とハルヒちゃんはここにきてはじめて機嫌をよくした。
上条くんや千鳥さんにしても、一見具体性のありそうなこの方針は魅力的に見えるらしい。
人探しも兼ねられるなら各施設を渡り歩くのも悪くないと、そんな流れへと彼らの心は傾いていた。

「涼宮さんの案はいい感じね……と、そうそう、それであんたの方の話はどうなったのよ。
 どうして当麻が姫路さんと一緒なのかとか、まだ聞いてないわよ」
「ああ、そうだったな。こっちが本題だ。それで学校の前に出た俺は、姫路が廊下を歩いているのを見つけて――」

脱線していた話は本筋へ戻り、そして本題へと突入する。
ちょうど学校の前に出た上条くんはそこでふらふらと学校の中を徘徊している姫路さんを窓越しに発見したらしい。
早く温泉に向かわねばとは思ったらしいが、彼女にしても尋常な様子ではない。
迷いはしたが結局、上条くんは彼女に声をかけることにしたのだ。
で、そこで問題となるのが姫路さんのその時の尋常ではない様子だったのだけど……。

「――つーか、裸だったよね。その子」

意地悪そうな声は、これまで話しに加わらず退屈そうにしていた亜美ちゃんのものだった。

「はぁ!? それって何があったのよ?」

千鳥さんの声が大きくなる。それはそうだろう。女の子が裸で歩いていたなどと、それは尋常じゃない話だ。
どうしてそんな事態に姫路さんは陥ってしまったのか。そしてその後、上条くんは裸の女の子とどうしていたのか。
などと、掻き立てられる妄想に場の空気が少しだけ冷たくなった。凍りつく、その前兆のように。



ぼくとハルヒちゃんはどうしてその時、姫路さんが裸だったのかを知っている。
推測はまだ推測でしかないが、少なくとも現場に残されていた彼女の制服だけは紛れもない真実の一片だ。
そして、出会ってからの彼女の、なにかを恐れるようにおどおどとしたその態度もまた真実を語っていた。

隣のハルヒちゃんが息を飲むのがわかった。
ここから先、何が語られるのかを思い浮かべているのだろう。そして、それを受け止められるのかということを。
果たして。
果たして、ならばぼくはどうなのか。ぼくは殺人者を許容できるのだろうか――?

656トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:59:12 ID:dh9efGCs0
 ■


「まず、みんなに聞いてもらいたんだが、姫路は……今、声を出すことができなくなってるんだ」

周りを窺うような神妙な顔で、上条くんはこの話をここから切り出した。
聞かされた皆の視線が姫路さんへと集中する。
そこには好奇はあっても、悪意があるわけでなく、むしろいたわりを含むものだったが、彼女はどう感じたのだろうか。
姫路さんは誰とも視線をあわせることもなく、目の前のテーブルのなにもないところをじっと見つめているだけだった。

「それって姫路さんになにかあったってことよね? それが当麻くんの相談事なの?」
「ああ。姫路になにがあったのかを承知して欲しい。……それで、それからそれでも姫路を仲間だって認めて欲しい」

それが俺の頼みだと、上条くんは頭を下げた。
誰も、すぐに答えを返すことはできず、場にうっすらと沈黙の空気が流れはじめる。
これから何を告白されるのか。
まだ言葉はなくとも彼と、隣の姫路さんの様子を見れば、それだけでどれほど重いものなのかは想像できた。

千鳥さんは少し怒っているような、そんな真面目な顔で頷き。
上条くんは無理をしているとわかる優しい顔で姫路さんに『いいか?』と尋ねた。
姫路さんは蒼白な顔で視線を震わせながらこくりと首肯する。
それを見つめる亜美ちゃんの表情はとてもつまらないものを見るようで、
ハルヒちゃんは再びぼくの隣で息を飲んだ。
ぼくは……、ぼくはどんな表情をしていただろうか? それはぼく自身にはわからない。



「どうする姫路? 俺からみんなに話したほうがいいか? それともメモのほうを見てもらったほうがいいか?」

上条くんに尋ねられると、それまで虚ろな様子だった姫路さんはなにか芯が入ったかのように雰囲気を変え、
自分の鞄から折りたたんだメモ用紙を取り出すと、それをテーブルの上で開いた。
そこにはわずかに乱れた文字の羅列が並んでおり、そしてそれらはおそらく彼女自身によって記されたもので、
つまり上条くんが尋ねた『メモのほうを』とは、自分で語るか? と、それを問う意味であったにちがいない。

姫路さんは鉛筆を取り出すと、そのメモ用紙になにかを追記し始めた。
その筆跡はどこか力強く、まるで自分自身を断罪するかのような、ある種の覚悟が垣間見えた。
書き終えるまでの少しの時間。カリカリと紙を引っかく音だけを聞きながら、皆は沈黙してそれを見守る。

そして――

「じゃあ、まずは千鳥からこれを読んでくれ」
「うん、わかった」

――試される時間が始まる。

理解と許容。理解した上での許容。理性と感情と道徳と優しさと厳しさと人間らしさを。
例え相手が刃物を持ってなくとも、例え相手が一言の言葉を発さなくとも、眼差しすら交わさないとしても。
ひとつの過去。たったそれだけの事実が、過ちであろうと栄光であろうと関係なく、危機を生み出すことがある。

それが理解と許容の問題。
安寧の為の鈍感さか、自らを無意味化するような包容力か、動じないが故の許容力か。
または、嫌悪としての拒絶か、不利益対象としての断絶か、それとも保身の為の無視なのか。

選ぶのではなく、選ばされる。本人と上条くんとを除く4人が選ばされる。それが今回の理解と許容の問題。

657トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 21:59:52 ID:dh9efGCs0
「あたしは……、本当に何があったのかなんてわからないし、それに……あの死体を見ちゃったしね。
 だから、姫路さんのことが怖いというのがぶっちゃけた本音。
 けど……あたしは当麻のことは信用できると思ってる。だから当麻に免じて姫路さんの言うことも信じるわ。
 過ちを繰り返さないっていうんなら姫路さんはもう私たちの仲間よ」

これが千鳥かなめの回答。

姫路さんが温泉施設の前にあった死体――黒桐幹也という人物だった――を殺した犯人であるのは正解だった。
ディティールは異なるが、大まかな流れとしては推測したとおりでほぼ間違いはない。
温泉から裸で外に放り出された姫路さんは、偶々通りかかった黒桐という人物に優しくし介抱され、
それなのに些細なきっかけからトラウマを発症し、”不本意ながら”に彼を殺害してしまい。そして逃亡してしまった。
口がきけなくなってしまったのはこの結果ということらしい。所謂、心因性失声症というやつである。

情状酌量の余地はある。
それに申告通りなら、姫路さんは心身喪失状態だったのだから責任を問えないという考えもできるだろう。
千鳥さんは、証言の曖昧さを上条くんへの信頼と照らし合わせ、最終的には彼女を信じ、許容することにした。
そこにはなんら駆け引きもなく。
自らの考えをそのまま口に出すことのできる千鳥さんは本当に、お世辞抜きに立派で気持ちのいい人間だ。



「私は、どんな事情があれ人を殺すのは許されないことだと思う。
 殺された人も、残された人に対しても、殺した側の事情で片付けてしまうのはアンフェアな考えだと思うから。
 だから、姫路さんのことを私は弁護しない。ちゃんと自分の犯した罪は償うべきよ。
 けど、それとこれと仲間と認めないかは別問題よね。
 私は姫路さんはいい人だと思うから償うチャンスは与えるべきだと思うし、それを応援したいとも思うわ。
 それに……、そもそも姫路さんが人殺しをしなくちゃならなくなったのは、私のせいだとも言えるし。
 むしろお願いするわ。私にも姫路さんの罪を償う手伝いをさせてちょうだいって」

これが涼宮ハルヒの回答。

姫路さんが温泉から裸で放り出されることとなったのには、彼女が言うとおりハルヒちゃんに遠因があった。
上条くんと千鳥さんが立ち去った後、姫路さんと殺害されていた忍者の人はここにたどり着いたわけだけども、
そこには上条くんたちの帰りを待つ北村くん以外に朝倉涼子という人物もいたらしい。
ハルヒちゃんが言う、SOS団団員ではない知り合いである、あの朝倉涼子だ。
そして、彼女と一緒に温泉で入浴していた姫路さんはそこで彼女に襲われ、ハルヒちゃん以外を殺害するように、
でなければ想い人である吉井明久を殺害すると脅され、そのまま裸で外に放り出されたのだという。

まるでどこかで聞いた話――というか、確実にあの古泉くんと行動方針は同一なのだろう。
ぼくは朝倉涼子という人物自体は知らないが、ハルヒちゃんの周辺事情を聞いていればそう推測するのは容易い。
ハルヒちゃんは彼らの思惑など知るよしもないだろうが、これは正しくハルヒちゃんの存在が原因だ。
また、これは知っている人物が限られる情報なので、この部分に関して言えば姫路さんの証言に信憑性はある。

逆に言えば、ハルヒちゃんの視点からだと姫路さんの言い分は意味不明だろう。
けど、ハルヒちゃんはそれをそのまま受け止めた。
優しさでも許容でもなく、それは彼女自身の強い責任感がなせるものだ。
言動の端々から感じられるが、ハルヒちゃんには無意識として全世界を背負っているという気概がある。
それは彼女が神様だからなのか、それとも人生における全責任は自分にあるという矜持からなのかは不明だけど。
なににしろ、彼女の意識と決断。それはぼくからしても好感の持てるものだった。

658トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:00:32 ID:dh9efGCs0
「ぼくは、姫路さんに関してはなんとも判別がつかないというのが本音かな。
 許すにしても断罪するにしても、妥当な罰を与えるにしても確証がないというのが正直なところだよ。
 もっとも、今このような状況で日常世界の倫理観が通じるのかって話もあるけどね。
 まぁそれはさておき、ぼくは殺人を最低最悪の行為だと思っている。
 人を殺すということは、自身の望みが殺した相手の人命より優先されると考えたことに他ならないから。
 だから、そんな願いを持つ人間は最低の屑だ。許されていいわけがないと考えている。
 けど、姫路さんのケースは少なくとも聞くかぎりはそうじゃない。
 姫路さんは自らの逃避や欲望のはけ口として黒桐さんの命を意識的に上書きし、塗りつぶしたわけじゃなく
 あくまでリアクションの結果として彼が落命するという事態になった。
 まぁ、ありがちな言葉で言えば”不幸な事故”だよね。
 だから、ぼくは姫路さんを責めることも助けることもしない。それはそのままというのがぼくの答えだよ」

これがぼく自身の回答。

言葉にしたことにも、ぼく自身の感情としても、ここに嘘偽りはないつもりだ。
明らかになってしまえばそれは陳腐とも取れるし、ある一面において姫路さんが被害者なのは事実でもある。
ゆえにぼくからすれば特別嫌悪の対象とはならない。無論、好意の対象にもなるはずがない。なので許容する。

現実的な話をするならば、ここでもし諍いや分裂といった事態が起こったりすれば、そこに取られる労力が惜しい。
なのでこの程度は妥協。必要経費として考える。という計算もいくらかはある。
この先、姫路さんが殺人を重ねられるかというと実行力は乏しそうにも思えるし、そういう意味でも許容範囲内。
あくまで姫路さん程度のリスクなら負えないことはないという判断だ。
非道い考え方だと思われるかもしれないけど、殺人者に対しては冷たいのがぼくだからこの考えはしかたない。



ここまで3人の回答は程度の違いこそあれ揃って許容だった。
当人である姫路さんとすでに彼女の味方となっている上条くんを抜けば、残りは4人。その内の3人までが許容。
多数決ならばもう議論は終わっているだろう。しかし、これは多数決の問題ではない。
この世の正義と真実。不動のそれらに民主主義は採用されない。

最後の一人である亜美ちゃんは、姫路さんの書いたメモを読み終えると冷笑を浮かべてそれを突き返した。



「亜美ちゃん。ちょっとこのメモだけじゃわかんないっていうか……、どうなんだろうなぁ。
 上条くんもみんなもちょっとお人好し(イイヒト)すぎるんじゃない?
 こんなのだったら亜美ちゃんでも書けるしー。
 それに、そもそも人を殺した子の話を信用するのが、おかしくない?
 だって、それって嘘に決まってるじゃん」

これが川嶋亜美の回答。

軽薄で思慮浅い発言だろうか? ぼくはそうは思わない。むしろ非情に現実的で実践的な思考と回答だ。
口調はともかくとして亜美ちゃんの言うことは残酷なくらいに正鵠を射ている。

誰も証人がいない以上、何が起こったかなんていうのは自分の都合のよいように書けるだろう。
実際、姫路さんは見てもいない”師匠”という人物が北村くんと忍者の人を殺害したと推測しているが、
これを信用する根拠はどこにもないのだ。あの二人も姫路さんが殺したと推測することはできる。
朝倉涼子の件にしても、実際にあった彼女とのやりとりがメモに書かれたものと同一かは確かめようがない。
ぼくと古泉くんの場合のようにただ会話しただけで、姫路さんがその情報を利用したという可能性もある。

そもそもとして人を殺した者の話を信用できるか?
信用と罪のあるなしは別問題だが、この問いに正面から反論できる者は稀だろう。
姫路さんを許容した千鳥さんやハルヒちゃんにしても、その部分には正面から向き合ってはいない。
ぼくにいたっては信用なんか欠片もしていない。

659トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:01:11 ID:dh9efGCs0
だから、皆がこうあってほしいと考える希望的な結論を蹴って亜美ちゃんが彼女を拒絶するのはしかたない。
リスクを孕む因子を集団の中から取り除く。それは徹底的に冷たく、そして正しいことなのだから。
罪を告白する以上、それは姫路さん本人が背負うべきリスクで誰も亜美ちゃんを責めることはできない。

できない……が、
困ったことになったというのが皆の本音だろう。正直ぼくも困ってる。亜美ちゃんまじで空気読めないというやつだ。



「――違うっ!
 このメモだけを見て姫路のことを全部信じろってのは、確かに無茶だって俺にもわかる。
 けど、お前だって見てるだろう? ボロボロの格好をして、姫路がひとりで学校をほっつき歩いていたのを!
 川嶋はあれすらも嘘だって言うのか?」

ここまで姫路さんをエスコートしてきた上条くんがテーブルを叩いて亜美ちゃんに反論した。
姫路さんを信用しうる情報が足りないというのはぼくたち共通の問題だが、彼だけは立場が少し異なる。

元々、彼が姫路さんを保護しようと考え、実際にそうしたのは彼女がボロボロの状態で徘徊していたからだ。
殺害したその場面を見たわけではないが、その直後の彼女に接している分、彼には情報が多い。
今は一応服を着て、身だしなみを整え、その時よりかは冷静になっているだろう姫路さんを見るのと、
殺害直後の時点とその後彼女が立ち直るまでの姿を見てきたのとでは、そりゃあ印象が異なるだろう。
千鳥さんやハルヒちゃんは言うに及ばず、ぼくだってそれを見ていれば彼女に対しもっと同情的だったかもしれない。

「あー、アレね。なんかウザい態度だとは思ったけど……なんか助けてくださいオーラ出してるみたいな」
「だったら! わかるだろう。姫路が俺たちに嘘なんかついてないってことが」
「逆じゃない? あんな見え見えの態度で接してくるとかわざとらしくて演技っぽいし。
 上条くんってばチョロすぎ。やっぱ男の子はこういうおっぱいの大きな子のほうがいいのかなぁ……?」
「そんなこと言ってんじゃねぇだろっ!
 姫路は心底傷ついてまいってたんだ。助けを求められたのはお前も同じじゃねぇのかよ!?」
「だからぁ、なんでそれがこの子が嘘ついてないってことになるのよ!
 あんた頭悪いんじゃない? 逆に、嘘をついてでも生きようとしたって考えられるじゃない!」
「嘘で自分の爪なんか剥がせるかよ。
 可能性があるとか証拠がとかじゃねぇ……そんなもんは姫路を見ればわかるって話なんだ」
「へぇ、すっごい。そんなに女を見る目に自信があるんだ、トーマくんは?」
「いいか。聞けよ。
 姫路は俺の前で、殺してくれって言ったんだ……そんな、そんなことを口走っちまうぐらいに――」
「――それも嘘に決まってるじゃない。私だって同じことが言えるもん。亜美ちゃんもう生きてくのがつら〜い☆」
「てんめぇ……!」

これはまずい。亜美ちゃんの態度も態度だが、上条くんは思ってた以上に沸点が低いっぽい。
ここで言い争い以上に発展するのは好ましくない。最悪、ぼくが動かないといけないのか? この戯言遣いが?
と、ぼくがそう思ったところで議長が動いてくれた。

「ちょっと待った! 二人とも落ち着きなさい」

そう大きな声を出して、千鳥さんは立ち上がりかけていた上条くんの肩をつかんで座りなおさせた。
上条くんは千鳥さんの顔を見たことで自分が冷静でなかったことを自覚したらしく、溜息をつくと素直に従う。
逆に亜美ちゃんはというと、そんな彼に冷笑を浴びせかけるとぷいっとそっぽを向いてしまった。

「ほら当麻。そのグーの手をパーにする。どんな理由があっても女の子殴ったりしたらあたしが許さないからね」
「ああ、すまねぇ。けど姫路のことは――」
「わーってるつーの。ちょっとあんたは大人しくしとれ」

なんというか貫禄があった。彼女も彼女でこういうのに慣れているっていうか。
ぼくの周りは善人だけど不器用か、段取りのいい性悪ばっかなので、千鳥さんのような真っ当な人はちょっと珍しい。
千鳥さんは上条くんを諌めると、亜美ちゃんの方……にではなく、姫路さんの方をキッと睨み付けた。

660トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:03:59 ID:dh9efGCs0
「姫路さん。あんたがしたことってのはこういうことだってわかる?
 犯した罪を許されることはあっても、罪を犯したって事実は絶対になくならない。
 それでも受け止めてくれる人はいる。でもそうじゃない人もいるし、それは文句の言えないことなんだよ。
 だから亜美の言葉も甘んじて受けなさい。それはあんたが背負っていかなきゃならないことだから」

千鳥さんの言葉に、顔面を蒼白にしていた姫路さんはこくりと、ただ素直に頷く。
溢れそうになっていた涙が頬を滑り、顎の先から落ちたそれがテーブルの上に小さな水溜りを作った。

「亜美。あんたの言うことはもっともだけど、ここは私の顔に免じて姫路さんを受け入れてくれないかな。
 あたしは当麻のことを信じてる。だから当麻が信じる姫路さんも信じる。
 疑うのは仕方ないよ。私だって怖くないかって言われればやっぱそういうところもあるしね。
 でも疑いながらでもいいから彼女を受け入れて欲しい。でないと――」

姫路さんがひとりぼっちになっちゃうでしょ? と、千鳥さんは亜美ちゃんに、いや皆に聞かせるように言った。

「……べっつに、かなめがそう言うなら亜美ちゃんも我慢してもいーけど……でも、
 亜美だって根拠もなしに疑ってるわけじゃないから悪者扱いしないでよね」

そっぽを向いたままの亜美ちゃんは、そのままばつが悪そうな顔をして渋々といった風に承諾した。
けど、どうやら彼女にはそれでもはっきりさせておきたい疑念があるようだった。
亜美ちゃんは姫路さんを指差し……いや、姫路さんの後ろにあるものを指差して言った。

「バック。どうして2つ持ってきてるの? これって彼女の話と”ムジュン”してるんじゃないかな?」

皆は僅かな疑問を顔に浮かべ、指摘された姫路さんは涙の筋が残る顔にきょとんとした表情を浮かべた。

「そうでしょ? 服も一緒に持ってきてもらってるのに、そっちは忘れてバックだけ……、
 しかも殺した相手のも持っていくなんてどう考えてもおかしいじゃない?
 着るものはなくても、むしろ裸なくらいが油断させるのに都合がよかったけど、
 でも武器になるものは手放せなかったってことじゃないの?」

亜美ちゃんの言う”ムジュン”の意味をようやく理解すると、姫路さんは掌を顔の前でバタバタと振り出した。
そんなのは気が動転していたからだと、そういうようなことが言いたいんだろう。
実際にもそうだったんだろうと想像することは可能だ。
人を殺してしまい、気が動転してその場から少しでも早く逃げようとした。
その時、手を伸ばせば届く範囲に鞄は落ちていた。しかし制服はそうではなかった。それだけだと思う。
思うが……しかし、説得力の欠片もない想像だ。

「姫路は、人を殺めちまって……それで気が動転してたんだから、それぐらい――」
「そんなの、なんの説明にもなんないじゃない!」

その通りだ。これは釈明にも説明にもなりようがない。
混乱してたなんてワイルドカード。説得材料とするには万能すぎてなんの役にも立ちはしない。
とはいえ、逆に姫路さんが嘘をついていると証明するにしても亜美ちゃんの指摘には決定力が不足していた。
じゃあそれが逆に姫路さんが皆を殺そうとする証拠になるのかというと別にそうでもない。
本当に気が動転していた可能性も十分にあるため、解釈はあっても解答のない問題に議論の場は膠着してしまう。

「じゃあ、姫路さんの荷物は私が責任をもって預かるから、それでいいでしょう?」

宙ぶらりんの議場を取りまとめるのはやはり頼りがいのある議長さんこと、千鳥さんだった。

「姫路さんも当麻もそれでいいわよね?
 書くものとか水とかタオルとか必要なものは持っててもらっていいし、困ったことがあったら聞くから」
「千鳥がそうしてくれるなら俺も問題はねぇよ」

上条くんは声に出してそれを了承し、姫路さんは声の変わりに2つある鞄を差し出すことで了承の意を示した。
鞄を受け取った千鳥さんは、じゃあこれで問題はもうない? と亜美ちゃんのほうへと窺う。

661トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:05:10 ID:dh9efGCs0
「それは……それでいけど……」
「まだなにかあるの?」
「あるにはあるけど……別に、それはいい」

観念したというか、疲れきったという感じで大きな溜息をつくと亜美ちゃんも渋々それを了承した。
だがそれはあくまで千鳥さんに対してでしかなく、
亜美ちゃんは鞄を掴むとすっと立ち上がり、綺麗な足を伸ばし黒髪をなびかせて部屋の出口へと歩き始める。

「ちょっと、どこに行くのよ?」
「どっか適当な部屋。亜美ちゃん寝る時はひとりじゃないとイヤだから」

そして、そう言って部屋を出て行ってしまった。

亜美ちゃんの行動は、所謂こういったシチュエーションにて起こりうる定番中の定番。
所謂、『人殺しと一緒にいるなんて真っ平だ。俺は自分の部屋に引きこもる』というアレだった。
実際にはお目にかかれるとは貴重な光景かもしれない。シチュそのものが現実にはレアであるわけだし。

ともかくとして、亜美ちゃんを追って千鳥さんも出て行ってしまい、
ぼくたちの間での話し合いというのもここでいったん途切れることとなった。
まだまだ話す事柄については尽きないが、インターバルを取るというのならちょうどいい頃合だろう。
いや、こんなことになるならもっと早くてもいいぐらいだったか。

なんにせよ気が休まらない。これっぽっちもぼくたちの関係は気のおけるものへと進展してはいないのだから。

662トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:07:06 ID:dh9efGCs0
 【幕間 《melancholy girl x3》】


衝突の熱気が失せ静かな、そして微量の緊張を沈殿させる空間へと戻った正方形に近い形のとある客間。
その部屋の中に今、耳を澄ませば辛うじて捉えられるという程度の小さな衣擦れの音が聞こえていた。

「……………………」

やはり下着を有無は重要だ。と、姫路瑞希は下着のありがたさというものを改めて感じていた。
上条当麻から譲り受けた体操着で一応は服を着ているという状態であったわけだが、やはり全然違う。
たった一枚二枚の布地がもたらす安心感。
なるほど、下着というものも人類の英知の結集だったのだと、瑞希は感心し、心の中で先人達に感謝した。

濡らしたタオルで足の裏を拭いてソックスを履く。タイを締めて上着を着ればいつもの学生服姿だ。
瑞希は姿見の前に立ちその中に写る己の姿を確認する。
少し乱れていた髪の毛を手櫛で整え、襟を正し、スカートのしわを伸ばした。これでいつもどおりの自分自身。

「……………………っ」

瑞希は鏡から振り返り、後ろにいた涼宮ハルヒにぺこりと感謝のお辞儀をした。
てっきりどこかへとなくなってしまったかと思っていた服だが、彼女が見つけて取っておいてくれていたのだ。
本当なら感謝にはありがとうという言葉も添えたかったが、しかし口を開いても声は出なかった。
一度は出たのだが、いつものように戻るにはまだなにかきっかけが足りないらしい。

「うん。見つけた時にも思ったけど、姫路さんとこの制服って可愛いわよね。
 やっぱり可愛い制服って羨ましいなぁ。こんなことなら私も北高じゃなく光陽園の方に行っとけばよかったわ」

体操着も惜しいと言ってたハルヒだが、制服姿を見るとそれはそれで気に入ってくれたらしく上機嫌だ。
いや、そう振舞ってくれているのかもしれない。出会ってよりこれまで、何かと彼女は気を使ってくれていた。

「じゃあ座って座って。ほら、ドーナツもたくさんあるし、私たちはちょっとのんびりさせてもらいましょう。
 面倒なことは男連中に任せればいいしね。あ、姫路さんもいーのこと使ってもいいわよ」

言いながら、ハルヒは鞄からドーナツの箱をいくつも取り出し、それを次々と並べてゆく。
あっという間にテーブルの上はドーナツでいっぱいになり、食欲をそそる甘い匂いが部屋中に満ちる。
瑞希はドーナツの山に瞳を輝かせながら座布団の上に座る。そして、テーブルの上の湯のみを手に取った。
一口飲んでみると、彼女が淹れてくれた温かいお茶は、身体の中の緊張を溶かしてくれるようでとてもおいしい。

あの時――温泉施設の前でハルヒの姿を見た時、瑞希は気絶しそうなぐらい驚いた。
彼女があの朝倉涼子と同じ制服を着ていたからだ。そして、自己紹介で彼女は涼宮ハルヒだと名乗った。
多分、ひとりきりだったなら声をかけることもなく見かけただけで逃げ出していただろう。

「……………………」

朝倉涼子のことをより詳しく話し、そして彼女からも聞くべきなのだろうか。瑞希は考える。
しかし、もしかしたら彼女に嫌われてしまうのではないか。そんなことはないと思うのに、躊躇ってしまう。
いやそれよりも、本当はまだ彼女を信じきれてないのではないか、朝倉涼子のように突然牙を剥くのではと
考えている部分があるのかもしれない。人を信じきれないことに瑞希は申し訳なさと悲しみを覚えた。



何も言い出せないままの時間が過ぎ、
瑞希がフレンチクルーラーをもふもふとひとつ食べ終わったちょうどその時、千鳥かなめが戻ってきた。

「ただいまーっと、姫路さん着替えたんだ。その制服かわいいねー。姫路さんの学校の制服?」

かなめはさっきと同じ場所に腰を下ろすと、自分でお茶を入れてグっと一気に飲み干した。
大きな息を吐き、部屋の中を見渡してそしてようやくここにいるべき人間が何人か足りないことに気づく。

663トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:08:29 ID:dh9efGCs0
「あれ? 当麻といっくんはどこにいったの?」
「姫路さんが着替えるから出て行ってもらったの。
 それで、じゃあそのついでに千鳥さんの言ってたガウルンっていう人のを、……見に行くって」

なるほどねぇ。と、かなめは大量にあるドーナツからゴールデンチョコを選ぶと、パクリと食いついた。

「それで、川嶋さんの方はどうなの? ひとりで大丈夫?」
「うん。この廊下の突き当たりの部屋でね、今は一人になりたいって。
 フロントから鍵持ってきて戸締りはしてもらったし、なにかあったら内線使ってとは言ってあるから、一応は大丈夫」

言って、かなめはポケットの中からいくつかの鍵を取り出した。
鍵そのものは極普通のもので、それぞれに部屋の番号が記された棒状のキーホルダーがついてる。

「これがこの部屋の鍵。
 で、他の部屋のも一通り持ってきといた。寝るんだったら男連中には別の部屋使ってもらいたいしね。
 それで……これがマスターキー。どこでも開けられる鍵ね。何かあった時はこれ使って助けに行くから」

かなめは並べた鍵をジャラジャラと掻き集め、とりあえず使わない鍵は部屋の脇へと寄せた。
そして、この部屋の鍵はテーブルの真ん中に置き、マスターキーは自分のポケットの中に仕舞いこむ。

「じゃあ当麻たちが戻ってくるまでの間、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」

かなめはドーナツをまたひとつ取り、何気ない話のようにそれを切り出した。



「姫路さんを襲ったっていう朝倉涼子って子だけど、涼宮さんのクラスメートなんだよね?」

瑞希の中で心臓がドキリと音を鳴らした。

「んー、正確に言うとクラスメイトだった……よ。だって、一学期が終わる前に転校しちゃったもの」
「へぇ、そうなんだ。それで涼宮さんとは仲良かったの?
 その……、彼女のほうはあなたにかなり入れ込んでるみたいなんだけど」

ハルヒの顔が曇る。
いくら与り知れぬところとはいえ、自分のせいで被害を受ける人が出るというのは心苦しいものだろう。
そう瑞希は解釈した。口は出せない。出す資格もない。だから瑞希は聴いて観ることに徹する。

「……ちょっと見当もつかないわ。
 仲が悪かったってこともないし、彼女はクラス委員としては真面目で私にもよくしてくれたんだけど、
 でも言ってみればそれだけよ。学校の外じゃ会ったことないし、友達というほどでも……」
「そっか。じゃあ、朝倉って子が何を考えているかはわかんないか……」

かなめは腕を組んで溜息をつく。ハルヒも小さく息を吐くと腕を組んで同じように目をつむった。
瑞希も、溜息をついたり腕を組んだりはしないが、がんばって考えてみることにする。
辛い記憶ではあるが、その分鮮烈でもある。自分の記憶が助けになればと、その時を思い返し始めた。
そして、些細だが違和感のあるあることに気づく。
新しいメモ用紙に鉛筆を走らせ、それをかなめとハルヒの前へと差し出した。

「”涼宮ハルヒとずっとフルネームで呼んでいた”。かぁ……なるほどちょっと変だね。
 朝倉さんっていつも涼宮さんのことフルネームで呼んでるの?」
「別に、クラスでは普通に苗字で呼んでたけど……どうしてかしら?」

かなめは腕組みしたままで目をつむる。そしてしばらくしてハッと開いた。なにかに気づいたらしい。

664トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:09:22 ID:dh9efGCs0
「あのさ、転校のことなんだけど、なんかそこに変わったことはなかった?」
「変わったことっていうか、あれは明らかに何か変だったわ。
 前触れもなくその日になって急に海外に転校だってことになって、それで先生も驚いてたみたいだし。
 さすがに私もおかしいと思って、だからちょっと調べてみることにしたんだけど――」
「ふんふん、それでどうだったの?」
「それが、全然。
 彼女の家に……マンションだったんだけど行ってみたら、その日にはもぬけの殻になってて。
 管理人さんとかにも聞いてみたけど、誰も彼女がいつ引越ししたのか、連絡先だとかも知らなかったの」
「朝倉さんとはそれっきり?」
「ええ。こんなところで一緒になるなんて……しかもこんなことをするなんて驚いたわ」

薄気味悪い話だと瑞希は思った。
いきなり消息がわからなくなるなんて、それこそ神隠しか宇宙人の誘拐みたいである。
もしそんなことが起きたのだとしたらと想像すると、記憶の中の彼女がより不気味な存在だと思えた。

「……心当たりがあるかもしれない。もし私の思っている通りなら色々と説明がつくわ」

かなめは何かに納得すると、うつむいていた顔を上げてまっすぐ前を見ながらそう言った。
瑞希は、そしてハルヒも彼女に注目して耳を傾ける。一体、彼女はどのような解答を持っているのか。

「私の周りでも似たようなことがあったんだよね。
 まぁ、それは私の場合まだ現在進行中とも言えるんだけど――」

言いながらかなめは一枚の紙を取り出してそれを広げた。何かと思い覗き込むとそれは名簿だった。
かなめは羅列された名前のひとつに指を当てて話を続ける。

「この”相良宗介”ってのが私のクラスメートなんだけど、実はなんとかって組織の傭兵だったりするの。
 まぁちょっと胡散臭いってのは否定しないけど、本当のことだから信用して。後、これは他言無用でお願い。
 それで、なんでソースケが私のクラスにいるかって言うと、それは私を守るため。
 私ってばひょんなことからテロリストに目をつけられちゃってさ、
 だから極秘任務としてソースケが私を守る為に学生として学校に入り込んできたって話なの」

出そうと思っても今は出ないのだが、ぽかんと開けた口からは言葉が出なかった。
宇宙人。異世界人。超能力者。傭兵やテロリストも、日常の中ではそれらと等しく荒唐無稽に思える。
でも、かなめの周囲ではそれが日常なのかもと瑞希は思いなおした。
記憶が確かなら人型の起動兵器が闊歩する世界のはずだ。ならばそんなこともあるのかもしれない。

「ちなみにそのテロリストってのは、ここの女湯で死んでたガウルンってやつなんだけど。
 まぁ、それはいいとして私が言いたいのは涼宮さんと朝倉さんもそれと同じじゃないかってこと」
「えっと、それってつまり私がいつの間にかにテロリストに狙われていて、朝倉さんが傭兵ってこと?」
「傭兵かどうかはわかんないけど、そういうのだったら辻褄があうと思っただけ。
 知らないうちに涼宮さんは世界の秘密かなんかに触れていて狙われる身だったの。
 そこで朝倉さんが涼宮さんを守るために派遣されてきた。
 で、一旦は問題は無事解決して彼女は姿を消したんだけど、今回の事件が起きて――」
「――また私を守る為に働いてる? あの、朝倉さんが?」

ハルヒは身体を大きくのけぞらせるとうーんと唸り声をあげた。さすがに、簡単には受け入れられないらしい。
やっぱりかなめの言うことは荒唐無稽に思える。まるでスパイ映画かライトノベルのあらすじみたいだ。
けど、どうしてか。瑞希の目にはハルヒの表情は困っていそうでどこか嬉しそうにも見えた。

665トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:09:59 ID:dh9efGCs0
「そういえば、千鳥さんが狙われた理由って何? 失われたアークでも見つけたとか?」
「えぇ? あぁ、理由か。さぁ、……なんだろう。あたし自身よくわかってないのよね。
 お父さんが国連の高等弁務官だったりするから、その関係かな……?」
「へぇ、なんかすごい。私の家なんか全然普通なのに」

結局のところ。朝倉涼子がどういった理由でハルヒを守ろうとしているのか。その答えは出なかった。
やはり――瑞希としてはもう会いたくないのだが――彼女に直接会って確かめるしかないらしい。

「朝倉さんを見つけたら絶対、姫路さんに謝らせるからね。任せておいて」

ハルヒはまっすぐに、力強い表情でそう断言する。
それが本当にできるのか。とても危険なことじゃないかと、瑞希はそう想像し少し身体が震えたが、
けど彼女の真摯な眼差しに見つめられると、どうしてかそんなことは些細な風に思えて、
少しだけだけど安堵の笑みを浮かべることができた。

666トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:10:47 ID:dh9efGCs0
 【第三殺害現場 《クビキリメンバー》 -実地検分】


そこはそこでまた、これまでの二つとは異なる印象を持つ殺害現場だった。

これまでの殺害現場を、例えばアスファルトの上にグロテスクを晒したあれを無惨な殺害現場とするならば、
例えばミステリの1シーンのような流血に彩られたあれを無慈悲な殺害現場とするならば、
ここは、流れる湯の音と白い湯気に包まれたこの現場は、まるで無感動な、白けきった殺害現場だった。



「血が流れてないってのも……けっこう、それはそれで不気味っつーか、なんか違和感あるな」

現場を見に行きたいと言ったぼくに同行してくれた上条くんが、死体を覗き込みそんなことを言った。
こんな状況での単独行動には色々と問題があるので、快く同行してくれたのには感謝である。

さて、死体であるけれども、現場は温泉――と言っても銭湯の風呂場となにが変わるというわけでもないのだが、
そのタイルが敷かれた床の上に横たわっていた。
浴槽から流れ出るお湯が床を洗い続けているので、彼が言うとおり現場にはもう血の痕跡はほとんどない。
そして血に塗れていない死体はその生々しさだけが浮き彫りになって、やはり彼が言うように不自然な存在であった。

「この分だと、いわゆる証拠ってやつも流れちゃってるんだろうな。誰がやったなんかわかりっこねぇ」
「別にそれはいいよ。ぼくたちの中に犯人がいないってことが信用できれば、今はそれで十全さ」

実際、どれだけの登場人物がここを訪れ、そして今も潜んでいるかなんてわかりっこないのだ。
なので、ぼくは犯人を特定すること自体に興味はない。6人の中に犯人がいないと証明することが最重要課題なのだ。
今はまだ亜美ちゃんが部屋を別にするぐらいで済んでるけど、これ以上のトラブルはぼくのキャパを超えてしまう。

「しかし、凄腕のテロリストだっけ?
 正直なところ、ぼくはこの人がこうやって黙った状態になっていることに安心を覚えるよ」
「そりゃあ、俺もこんなゴツいオッサンとか相手にしたくねぇけどよ。それは死んだ人に悪くないか……?」

この死体となっている人物は、千鳥さんによるとガウルンと名前の国際的テロリストらしい。
そのスキルがどういったものかまでは聞いてないけど、しかしその身体の大きさだけで脅威としての説得力は十分だった。

黒桐って人や北村という人物。忍者の人など、ここには後3つの死体があったけれど、その体躯はどれも標準程度だ。
それに比べてこのガウルンという人物は、落ちた頭と身体とを合わせて見積もれば2メートル近くもある。
しかもその上、細身ではあるが引き締まった筋肉の持ち主でもあり、体躯とは関係ないが傷のある顔もやけにいかつい。
本当。こんなのと殺し合いなんかするはめにならなくてよかったと、心底思える人物だった。
しかし、考えてみれば彼を殺したという人物もどこかに存在するわけで、脅威の問題は解決はしていないのだが。

「しっかし、こいつも綺麗に切られてやがるな……」
「こいつも? 上条くんはどっかで似たような死体を見たことがあるのかい?」
「似てるといえば似てるんだけど、全然違うとも言えるかなぁ。
 学校で見た死体の話なんだけど、あれもこの死体みたいに切り口がいやに綺麗で印象に残ってんだ。
 まるでワイヤーで引いて切ったみたいにってな。
 もっとも、あっちは全身バラバラでこっちは首だけだから、やった人間が一緒かはわかんねぇけどよ」
「ふぅん……」

なるほど。確かに首の切断面は異常に綺麗だった。血がお湯で洗い流されている分、それがよくわかる。
剣術のスキルがあれば一刀両断ということも可能だろうが、上条くんの言うとおりワイヤーを使ってというのも考えられるか。
例えば、”曲絃糸”のような。もし”ジグザグ”な彼女がここにいればこんな現実を実現させることも可能と、そう言える。

「……戯言だけどね」
「ん? なんか言ったか?」
「いいやなんにも。気にしないでくれ」

しかし、学校の廊下に”ジグザグ”にされた死体……か。否が応でも”彼女”のことを想起してしまう。
無論。彼女はすでに死者であるので、こんなところで再登場するわけない。あくまでこれはぼく個人の妄想でしかない。
似たようなスキルの持ち主がこの場所にいる――それはそれで剣呑だけど、そう考えるのが現実的思考だろう。

667トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:11:19 ID:dh9efGCs0
スキルの持ち主と言えば、北村くんと忍者の人を殺害したのは”師匠”と呼ばれる人物である可能性があるんだっけか。
名簿上には確かに”師匠”という名前が記されているが、この呼称もまた”彼女”の存在を想起させる。
なんにせよ、それはぼく自身の感傷や思い出といったものでしかないけど。



「じゃあ、いっくん手伝ってくれるか?」
「手伝う?」
「ああ、このオッサンの死体。このままにはしておけねぇだろ?
 また誰かが風呂を使いたくなるかもしれねぇし、こんな湿っぽくて熱い場所に放っておいたらすぐに腐っちまう。
 大体、悪人って言ってももう死んだ人だしな。
 墓までは無理でもどっか落ち着いた場所くらいにはってのが、上条さんとしての礼節なわけですよ」
「なるほどね。それは賛成だ。少なくとも腐った死体なんてのは見たくもないしね」

幸いと言っていいのかどうか、死体は死後硬直が始まっているようで運びやすい状態だ。
上条くんの言うとおりこんな場所でほっとけば遠からず崩れてぐずぐずになってしまうだろうし、移動させるなら今の内だろう。

ぼくは死体の足元に回ると硬くなった足首を掴んで持ち上げた。
上条くんは”頭のない頭側”に回って、転がっていた頭部を身体の上に乗せてから肩を掴んで持ち上げる。
見た目どおりの重さだ。こいつはちょっとした棚なんかを運ぶ感覚に似ている。
そして既視感を感じる行為でもあった。
首切り死体の移送。それをぼくはこの春に2回も経験している。あれを2回と言うか1回だと言うかは微妙なところだけど。

「後で北村や黒桐さんの死体もどうにかしてやらねぇとな。あっちもあれでほったらかしじゃ悪いし」
「上条くんはなかなかに”いい人”だね」
「そんなことねぇよ。俺はただ自分の気持ち悪いことに我慢ができないってだけだから」
「普通の人はそういう時でも面倒くさがったり損得を考えちゃうものさ」
「だったら俺は頭が悪いだけだ。損な役回りだなって思うことばかりだしな」
「まぁ確かに、美徳と最善最良は似て非なるものだよね」

そして、ぼくと上条くんとは濡れた足場で足を滑らせないよう一歩ずつ慎重に浴室の中を横切ってゆくのだった。

668トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:12:21 ID:dh9efGCs0
 【第三殺害現場 《クビキリメンバー》 -検証】


運び出した死体を適当な空き部屋に安置したぼくと上条くんはその後、皆の待つ客間へと戻っていた。
途中、部屋の番号をド忘れして迷子になりそうになったけど、そこは上条くんの記憶のおかげで事なきを得て、
同じく戻ってきていた千鳥さんに女湯での成果を報告し、お茶をいただいて一息をついたというところ。

「なんですか、女の子は甘いものでできてるって本当なんですか――って、なによこの大量のドーナツ?」
「ああ、これは涼宮さんが持ってきてくれたんだけどね。当麻は甘いもの苦手だっけ?」
「いや嫌いじゃねぇよ。むしろ糖分の補給はありがたいですよ。けど面食らったっていうか、まぁいただきます」
「上条くんもじゃんじゃん食べていーからね。まだまだあるし」

なんというか和やかな空間になっていた。あのビクビクしていた姫路さんも今ではもふもふしている。
ミスタードーナツ万能説か。いや、やっぱりドーナツには人を馬鹿にする成分が混じっているのかもしれない。
どうせなら亜美ちゃんも戻ってくればいいのに。フレンチクルーラーもいっぱいあるのだから。



「それで、千鳥さんに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ん? いいけどなに?」

ほうっておくと皆がドーナツを食べるだけの人間になってしまいそうな錯覚を起こしたので自分から話を振ってみる。
この場所におけるミステリ的な状況のうち、大体は概要を掴めたのだけど、まだひとつ不明な部分が残っているのだ。
正確にはこの場所の外で起きたことだけど、風呂場の死体と大きな関連性があると見られるので無視はできない。

「千鳥さんが遭遇したっていう”櫛枝実乃梨”の姿をした何者かについてなんだけど」

なにがミステリかというと、これこそミステリというものが最後に残っていたこれだ。
千鳥さんいわく、偽物の登場である。怪盗百面相もかくやとなれば、もうミステリというより古い探偵小説の趣だった。

「ああ、それのことね――」

経緯を説明するとこういうことだ。
温泉施設に向かっていた千鳥さんは、その温泉施設の近くで櫛枝実乃梨と再会した。
再会ということは既に面識のある人物であり、彼女は特に警戒することなく櫛枝さん(?)と会話をする。

その櫛枝さんが言うには、
温泉施設の中で北村くんの死体を見て、千鳥さんと上条くんの仕業じゃないかと思って彼女らを探していたらしい。
だが幸いにも誤解はすぐに解けた。
そして、櫛枝さんは温泉施設の中にガウルンとおぼしき人物が入っていったから気をつけろとも助言してくれたのだ。

ところがここらあたりから彼女の言動がおかしくなる。
武器になるものがあるかと尋ねられた千鳥さんがスタンガンを見せると、それが何なのかわからなかったらしい。
千鳥さんはスタンガンの説明をしているうちにそれに気づくが、そこで唐突に投げ倒され、気絶させられてしまった。

しばらくして気づくと櫛枝さんの姿はなく、自分の荷物も持ち去られたらしいとわかる。
さて困ったが、上条くんとの約束もあるので千鳥さんは危険を承知で温泉施設へと向かうことにした。
そこで――

「――ガウルンが死んでるのを見つけたのよね」

ついでに、ガウルンが持っていたらしい銛撃ち銃と、気絶している間になくなっていた鎌もそこで見つかった。
もっとも、どちらも壊れて使い物にならなくなっていたので、この部屋を掃除する際にゴミと一緒に捨ててしまったが。
重要なのは鎌の方だ。奪われた物がそこにあったということは、つまり奪った者がガウルンを殺したと推測できる。

「その、櫛枝さんって前の放送で名前を呼ばれちゃってた、わよね……?」

ハルヒちゃんがおずおずと尋ねた。その通り、彼女の名前は呼ばれている。
つまりすでに死んでしまった人間だということなのだけど、そこが問題をややこしくしていた。
彼女が存命なら、また会った時に問いただせばいいと結論は出るのだが、もういないのならそうはできない。

669トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:13:10 ID:dh9efGCs0
「だったらあれか? 櫛枝が千鳥から武器を奪って温泉まで戻り、そこでガウルンってオッサンを殺して
 でもってその後すぐに他の誰かに殺されちまったってことになるのか?」

ひとつの可能性としてはそれも考えられた。
しかし時間的余裕や、千鳥さんや上条くんらの知る櫛枝実乃梨のパーソナリティを考慮すると大きな疑問が生じる。

「亜美は絶対偽物だって言ってたし、私もあれが本物の櫛枝さんだとは思えないのよねぇ……」
「だとすれば誰かが変装していたってことも考えられるね」

こういった状況下であるし、ましてや一度しか会っていない相手だ。
同じ制服を着たり、特徴を少し掴んだ姿をしていれば本物だと勘違いさせることは決して難しくはないだろう。

「だったら能力者ってのも考えられるぜ。
 学園都市には相手の感覚に偽の情報をつかませて、姿を消したり別の人間だって思わせるやつもいるんだ。
 そういう能力者や魔法使いみたいなのが千鳥を騙したのかもしれない」

変装の達人と言えばぼくはあの人を思い浮かべるが、なんにせよ一時的に騙すぐらいなら不可能ではないということだ。
そして、千鳥さんの前に現れた櫛枝さんが偽物だとすると今度は別の問題が生じる。

「えっと、じゃあ……なんでその櫛枝さんの偽物は千鳥さんのこととか北村くんのことを知っていたわけ?」

ハルヒちゃんの言うとおりだった。
偽の櫛枝さんとおぼしき人物は、本人かまたは彼女の近くにいた人物でないと知りえないことを知っていた。
そうだとするとあまり愉快ではない想像をしなくてはならないことになってしまう。

「ひとつの可能性としては、彼女と同行していた人物の中にその偽物になった人物がいたことになるね」
「木下さんか、シャナちゃんってこと? でも木下さんは亡くなってるし……」
「シャナがってのもちょっと想像できないな。絶対とは言えないけど、そんな柄には見えなかったぜ?」

千鳥さんが櫛枝さんと交流した時、その場にいたのは上条くんと、木下さんとシャナという少女がいたという。
もし犯人がいるとするならばこの中に潜んでた可能性が高い。
となると消去法で考えるとシャナという子しかいなくなるのだが、どうやら千鳥さんと上条くんはありえないと思っている。
だとすれば、どこからならば千鳥さんと櫛枝さんの情報を得られるのか?
盗み見していた人物がいたとも考えられるが、それよりも妥当で説得力のある解答がひとつ存在した。

「それじゃあ、こう考えるしかないね。偽者の櫛枝さんに千鳥さんの情報を教えたのは”櫛枝さん本人”であった」

これが、一番妥当で説得力のある答えだ。

「どういうことなのいっくん?」
「何も彼女が進んで話をしたとは限らない。
 彼女がもう死んでいる以上、無理やりに情報を吐かされ、その後入れ替わるために殺害された可能性がある」

犯人に自由に変装できるスキルがあり、ある程度腕に覚えがあって、偶然を挟まないとするとこれが最もありえる。

「なんにせよ、本物の櫛枝実乃梨を殺した人物と、その偽者となった櫛枝実乃梨とが同一なのは間違いないと思う。
 多分だけど偽物が千鳥さんに語った櫛枝さんの動向は真実じゃないかな」
「私を探してたってところ?」
「そう。本物の櫛枝さんも、本当にひとりで千鳥さんを探してここを出た。
 けれど運悪く、偽物となった人物に行き当たってしまった。
 そしてなんらかの方法で事情を聞きだされ――それは穏便なものであった可能性も充分あるけど、
 相手に有益だと思われてしまい、入れ替わりのために……つまり、入れ替わる以上本物は邪魔になるので――」
「――殺されたっていうのかよ」
「そうだね。それで衣装や荷物を奪われたと見るのが、今のところは一番想像しやすい真相かな」

もっとも、言葉の通りに今のところは一番想像しやすいというだけにすぎない。
ぼくが今思いつくパターンの中では可能性が高いだろうというだけで、実際の真相に近い保障なんてできやしない。
なにせ情報が圧倒的に不足しているのだ。あらすじだけでミステリを解いてみようとするようなものである。
実際に無視できない穴はある。例えば千鳥さんはどうして殺されなかったのか等々。疑問を数え上げればきりはない。
けど、この場においての着地点としては上々なはずだ。

670トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:14:07 ID:dh9efGCs0
「じゃあ、今頃シャナはどうしてるんだろうな?」
「ここから櫛枝さんが飛び出して行ったって言うのが本当なら、シャナちゃんも追いかけて行ったと思うけど」
「それで誰かに襲われて木下が……か?
 どっちにしろ、入れ違いになったのは変わらないみたいだな。
 だったら、涼宮が言ったようにこっから教会に向けてひとつずつ当たって行くのがいいんじゃないか?」
「そうよね。ソースケもどこにいるのかわかんないし、地味にいっこずつ見て行くのがいいみたい」

うん。これは悪くない展開のはず。
もっとも、ぼく自身に”無意式”がある以上、100%の保障はできないのが辛いとこだけど。おそらく、今は大丈夫なはずだ。
あれはあくまでぼくの外側にある流れを破綻させるものだから、ぼく自身がこの流れの中で前を向いている限りは……、

おそらく。
きっと。
多分。
楽観的に見れば…………、ちょっと自信なくなってきたけど、どうかうまくいきますように。……ねぇ、神様?

「じゃあ! そうと決まればちょっと休みましょう。川嶋さんも説得しないとだしね!」






「それで、川嶋さんの機嫌がなおったらみんなでまずは学校に向かいましょう!」
「おいおい待てよ涼宮。みんな疲れてるはずだし、腹ごしらえもだな――」
「ここにたくさんあるでしょう?」
「だからドーナツだけでなくてだな、上条さんはこう晩飯的なものをいただきたいと思ってるわけですよ。
 その、主にたんぱく質だとか脂質だとか」
「ああ、別に勝手にすればいいけど。そう言えば、私もここで温泉に浸かりたかったのよね。
 1日に1回ぐらいはお風呂に入っておきたいし、せっかく温泉が目の前にあるのに入れないのは癪だわ」
「別にそれはいいけど、単独行動は危険だよハルヒちゃん」
「だったらあんたが見張りに立ちなさいよ。でも覗いたら絶対死刑だけどね」

「姫路はどうする……って、ちょっと大丈夫か?」
「……………………」
「色々あって疲れてたのよね。
 今は休むといいわよ。あたしがお布団引いてあげるし……ってことで男子は退出ー!
 そこに鍵があるから適当な部屋に……じゃなくて隣の部屋にいなさい。なんかあったら呼ぶから」
「まぁ、別にいいけどよ。じゃあ晩飯はどーすんだ? どーせ作るんならあんま量は関係ねーけど」
「じゃあ私たちの分もお願いしようかな。なんならあたしも手伝うけど?」
「千鳥さん。そんなの、いーにやらせればいいわよ。ねぇ、料理ぐらいできるんでしょう?」
「まぁ、いいけどね。上条くんが言うとおり量は増えてもそんなに手間は変わらないよ」

そしてぼくは上条くんと一緒に追われる様に、もしくは解放される様にその部屋を後にした。

仮初めの平穏はまったくもって戯言のそれでしかないけれど。戯言で築き上げられた砂上の楼閣にすぎないけれど。
ばくたちは今、死体に囲まれていて。そしてその外側には更に多数の死体があり、死体の数だけ殺人があるけれど。
状況は、これっぽちも変化しておらず、ぼくらは未だ絶望する中にしかいないのだけれども。そうでしかないのだけど。

まぁ、それでも。今はこうでもいいんじゃないかと、思った。ここにはこんなにも心地よい人間ばっかりなのだから――


この6人ではミステリは発生しえない。それが今唯一の、ぼくが保障できる解答だった。

671トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:14:49 ID:dh9efGCs0
 【エピローグ 《melancholy girl x0》】


ゴウンゴウンゴウン――と、金属の桶がぐるぐると回っている。率直に言えば洗濯機がぐるぐると回っていた。
ここは温泉施設の中にある洗濯室。コインランドリーのような場所と思ってもらってくれればかまわない。

あの後、ぼくと上条くんは女性3人が陣取る部屋の隣にぼくたちの部屋を確保した後、すぐにそこを出た。
そして上条くんが下水の匂いが染み付いた制服を洗濯したいと希望したので今ここにいるのだ。
姫路さんならともかく、上条くんの体操着姿なんかずっと見ていたくもないのでぼくは一も二もなくそれに賛成した。



「悪いな。つきあわせちまって」
「いやいやこちらこそどういたしましてだよ」

見納めだからといっても、ぼくは上条くんの体操着姿を凝視することなどなく、何もない壁を見ながら思索に耽る。
とりあえず、慌しい状況が落ち着いたので、現状の確認と今回の自己採点だ。

今現在、亜美ちゃんだけは別室に引き篭もっているという状況だけど、人間関係はそこまで悪くはない。
千鳥さんや上条くんは言うに及ばず、姫路さんの状態もこの人間関係の中なら大丈夫だろう。
懸念しておかねばならないのは、彼女が殺害した黒桐幹也の関係者であると想像できる黒桐鮮花の存在だ。
姉か妹か母か従姉妹かは知らないけど、無縁でないとするならば恨みを買ってもしょうがない。

まぁ、それはその時として、ハルヒちゃんの状態も良好だ。
どうやら彼女は人がたくさんいる場合の方が気丈になるらしい。今までよりも明るい顔が何度も見れた。
流れとしてはこの後、いくつかのミステリアスなスポットを当たって行くわけで、
その場所自体にはなんの期待もないけれど、ハルヒちゃん自身がそこに”当たり”を生む可能性には期待できる。
それもその時だけど、都合よくことが運べば思ったより早くに解決の糸口みたいなものが見つかるかもしれない。

となると、問題は引き篭もった亜美ちゃんの存在か。
しかしぼくは女の子をかどわかすスキルなんて所持はしていないので、これは時間に頼るしかないだろう。
おそらく、こちら側が楽しくしていれば亜美ちゃんも姫路さんへの疑いを緩くするはずだ。
所謂、天岩戸作戦。まぁ、これは千鳥さんやハルヒちゃんに任せておけばいい。
時間がかかってしまうのも仕方ない。
元々1日の4分の1ぐらいは休息に使わねばならないのだから、今というタイミングは丁度いいと前向きに捉える。

で、自己採点だけど……ぎりぎり60点ってところか。赤点は免れたけど、満点には程遠い。

表面上の問題はだいたい取り繕った。ここらへんは戯言遣いの面目躍如である。
この6人のグループ内において大きな問題がすぐに噴出することはない。この点はクリアだ。

しかし、外側の脅威に対する策はこれっぽちも用意できていなかった。
第一の殺害現場の犯人は素人――つまり姫路さんの犯行であって、これはもう脅威足りないけど、他は違う。
朝倉涼子に師匠と呼ばれる人物。そして櫛枝実乃梨を騙った何者か。どれも対抗するにはリスクの大きな相手だ。
そして、脅威の数はそれだけではないだろう。
実効的な実力による脅威いう意味においてはこの6人は脆い。むしろグループと化したことでなお脆くなった。
この点はぼくにはフォローできない。
そういう意味では60点は満点だと言えるけど、しかしそんな自己満足じゃぼくたちはぼくたちの命を守れない。

「ほんと、なんであいつは死んでしまったんだ。ぼくから見れば唯一の頼れる実力者だったのに――」



「なにか言ったか、いっくん?」
「ああ、なんでもないよ。ただのないものねだりさ」

……なんでみんなよりにもよって”いっくん”なんだろうね。上条くんにしても千鳥さんにしても。
まぁ、彼らに”いーちゃん”とは呼ばれたくないし、
”いの字”とか”いのすけ”なんかよりかは”いっくん”が選ばれやすいんだろうというのは承知しているけど。にしてもだ。

672トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:15:42 ID:dh9efGCs0
「そうだ上条くん。ひとつ質問してもいいかな?」

ぼくのことを”いっくん”と呼ぶのなら。これも懐古のひとつだけど、この質問を彼にぶつけてみよう。

「君は、姫路瑞希を――殺人者としての姫路瑞希を許容できるのかい?」

庇護されるべき女の子としての姫路瑞希じゃない。殺人を犯した事実を持つ姫路瑞希を――だ。
それはつまり、現実的な妥協という意味での許容ではなく。一個人の価値観として殺人を許せるのかと認めるかということ。

「彼女のことを可哀想だって思ってあげることは容易い。彼女のことを保護するのは男性としてはある意味当然だ。
 けど、そういう問題ではなく、君は彼女が殺人を犯したという事実をどう捉えているのか、それを聞いてみたい」

本来ならば、この質問は姫路さん自身にぶつけるものだから、これは所詮戯言、所謂余興にしかすぎない。
ただの興味本位だ。上条当麻という人物が何者かであるのか。そこに対するちょっとした好奇心。

「そんなことは関係ねぇよ。やったことはやったことだ。”覆水盆に返らず”ってぐらいならこの上条さんだって知ってるぜ。
 姫路が黒桐さんって人を殺したのは事実だ。
 だからもしここに警察がいるってんなら、俺は姫路が警察に行くよう説得するだろうし引っ張ってでも連れて行く。
 姫路の罪自体を受け入れたり許したりってことはしない……っていうか、それは俺のすることじゃない。
 俺には姫路を裁く権利なんてねぇよ。だから罪を許容するとかしないとかは関係ないんだ。
 そして、俺は姫路を守る。
 誰にだって姫路をいたずらに傷つける権利なんてないし、そんなことは罪とは関係なく許されるもんじゃない。
 だから俺はここで最後まで姫路を守るって決めたんだよ。
 姫路を傷つける何者からも、姫路が自分自身を傷つけちまうってことからもな」

「どうして、君は姫路さんを助けるんだい?」

「困ってて助けを求めてたんだ。だったら助けるだろ。女の子でもオッサンでもな」

それが上条当麻の解答。

あぁ、戯言だ。この場合はぼく自身の存在がまごう事なき戯言。
彼は――上条当麻はぼくの意地悪に対し、見事なカウンターを返して見せた。
あまりに綺麗に決まりすぎて気持ちがよくなるくらいの一撃。そう。これこそが”正解”というものだ。

673トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:16:17 ID:dh9efGCs0
そして、”とある彼との共通点《メインヒロイン》”。

「そう言えば、いっくんも学校の校庭に書かれてた魔方陣みたいなのを見てたんだっけ?」
「ぼくは夜のうちだったから、そこにあると気づいたくらいだったけどね。上条くんは何かわかったのかい?」
「いんや。俺にはさっぱり――ここにインデックスがいたらなにかわかると思うんだけどな……」
「インデックスというと君が探している女の子だっけ?」
「ああ。いっくんのほうは玖渚友って女の子を探してるんだよな?
 まぁ、こっちの話だけどあいつは魔術(オカルト)の専門家だからな。それが魔術関係ならわかったろうになって話」
「なるほどねぇ。こっちのあいつは電子(デジタル)の専門家だけどね。だからこの場合は役に立たない。
 でも、記憶力だけは異常だからね。こういう場合、常に隣にいると便利なんだけど」
「インデックスも記憶力はすごいな。読んだ本の1頁1文字すら忘れない。
 もっとも食欲の方がすごいけど……あいつちゃんとメシくってるのかなぁ……」
「あいつは普段は食べないくせに食う時は異常に食うしなぁ。今がその飢えてる時でないといいけど……」
「玖渚友って子は小さな女の子だっけ?」
「インデックスって子は小さな女の子だっけ?」
「そうだな。ついでに貧相なお子様体型《ロリータ》だ」
「そうだよ。ついでに貧相なお子様体型《ロリータ》なんだ」
「…………」
「…………」
「早く無事見つかるといいな」
「早く無事見つかるといいね」



あの零崎人識を鏡の向こう側の自分とするならば、上条当麻は夏休み前に立てたスケジュールみたいな存在だった。
つまり、ある時描いた理想形というやつ。

ぼくと上条くんはおそらく、多分、本質や素材という部分で相似する部分が多くあるとそう思う。
そしてぼくは夏休みの宿題なんかこなす意味はないと置き去りにした結果、最後に痛い目を見た捻くれ者の愚か者だ。
彼の夏休みはこれからだろう。
そして、彼はぼくとは違って必要以上に宿題をこなす人物に違いない。それこそ、人の宿題にまで手を出すような。

「上条くんは夏休みの宿題はちゃんと計画立ててこなすタイプ?」
「いやー、そうしないといけねぇとはわかってんだけど、毎年八月末に大童ですよ」
「そう。じゃあこれからはちゃんと最初からがんばれるようにするといいよ。
 機会があるならぼくも少しぐらいは手伝ってあげてもいいさ。こう見えても、勉強を教えるのは得意なほうでね」
「それはありがたい……けど、どうして急にこんな話題に?」
「ああ、それはね――」


――戯言って言うんだよ。






【E-3/温泉/一日目・夕方】

674トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:16:47 ID:dh9efGCs0
【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康、まだ喰えるけど?
[装備]:とらドラの制服@とらドラ!、ワルサーTPH@現実
[道具]:デイパック、基本支給品x2、御崎高校の体操服(女物)@灼眼のシャナ、黒桐幹也の上着
      客間の鍵(マスター)、客間の鍵(女部屋)、客間の鍵(その他全部)
      血に染まったデイパック、ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、不明支給品x1-2
[思考・状況]
 基本:脱出を目指す。殺しはしない。
 0:姫路さんを休ませる。
 1:亜美を説得。
 2:施設を回り、怪しいモノの調査。
 └まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 3:知り合いを探して合流する。
[備考]
 登場時期は、長編シリーズ2巻、3巻の間らへん。

※「銛撃ち銃(残り銛数2/5)@現実」と「小四郎の鎌@甲賀忍法帖」は遺棄されました。


【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、基本支給品、大量のドーナツ@ミスタードーナツ
[思考・状況]
 基本:この世界よりの生還。
 0:姫路さんを休ませる。
 1:休憩しながら晩御飯を待つ。
 2:その後、出発までに温泉に入る。
 3:施設を回り、怪しいモノの調査。
 └まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 4:朝倉涼子に会ったら事情を説明してもらう。
[備考]
 登場時期は、一学期終了以降。


【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:失声症、左中指と薬指の爪剥離、微熱
[装備]:ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣
[道具]:
[思考・状況]
 基本:上条当麻と共に生き続ける。未だ辛いことも多いけれど、それでも生き続ける。
 0:安心したらぼーっと……。
 1:このみんなとなら一緒にいれそう。

※御崎高校の体操服から元々自分が着ていた制服に着替えました。

675トリックロジック――(TRICK×LOGIC)  ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:17:20 ID:dh9efGCs0
【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、クロスボウ@現実
[道具]:デイパックx2、基本支給品x2、大量のフレンチクルーラー@ミスタードーナツ
      ブッチャーナイフ@現実、22LR弾x20発、クロスボウの矢x20本、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[思考・状況]
 基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
 0:何か腹にたまるものを作ろう。
 1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。
 2:↑の中で、いくつかの事柄を考え方針を定める。
 ├涼宮ハルヒの能力をどのように活用できるか観察し、考える。
 └玖渚友を探し出す方法を具体的に考える。
 3:施設を回り、怪しいモノの調査。
 └まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 4:零崎人識との『縁』が残っていないかどうか探してみる。
[備考]
 登場時期は、「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。


【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身に打撲(軽)
[装備]:御崎高校の体操服(男物)@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣、不明支給品x0-1
      七天七刀@とある魔術の禁書目録、上条当麻の学校の制服(洗濯中)@とある魔術の禁書目録
[思考・状況]
 基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
 0:何か腹にたまるものを作ろう。
 1:姫路を守る。
 2:千鳥や一緒にいるみんなを守る。
 3:出発前に温泉にある遺体を安置したい。
 4:施設を回り、怪しいモノの調査。
 ├まずは学校の魔方陣(?)。その次に教会地下の墓所の予定。その次は図書館?
 └特に教会の地下は怪しく感じている。
 5:その最中に知り合いや行方知れずのシャナを探して合流する。


【川嶋亜美@とらドラ!】
[状態]:満腹、不安、疲労
[装備]:グロック26(10+1/10)
[道具]:デイパック、支給品一式x2、高須棒x10@とらドラ!、バブルルート@灼眼のシャナ、
      『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』、包丁@現地調達、高須竜児の遺髪
[思考]
 基本:高須竜児の遺髪を彼の母親に届ける。(別に自分の手で渡すことには拘らない)
 0:……………………。
 1:祐作のことはどうしようか?

676 ◆EchanS1zhg:2010/10/06(水) 22:18:56 ID:dh9efGCs0
以上、投下終了しました。
今回は長くお待たせして申し訳ありませんでした。以後、こういうことがないよう注意します。

規制中ですので、どなたか本スレに投下できるかたがいましたらよろしくお願いします。

677浅羽直之の人間関係【改】 ◆LxH6hCs9JU:2011/02/11(金) 02:47:07 ID:kGWL/FD20
フ「フフフ、それもそうだね。話を戻すと、このパイロットスーツは伊里野加奈が消えた時点でまだ世界に残っていた。
  ということはつまり、これも『伊里野加奈が存在した証』にはならないということさ。結果論かもしれないがね。
  では、このパイロットスーツはいったい誰のものなのか……仮説にしかならないが、伊里野加奈以外の誰かのものなのだろう。
  伊里野加奈は存在しないのだから、このパイロットスーツを着ていたのも伊里野加奈以外の誰かということになる。
  いや、着ていたとも限らないか。まあ、深い問題でもないさ。このパイロットスーツは灯台に落ちていて、白井黒子が回収した。
  彼らにとってはそれだけのものでしかないのさ。わかったかな、マリアンヌ?」
マ「真相は闇の中……ということはわかりました。やっぱり、釈然としませんけど」
フ「世界とはそういうものなのさ。さあ、最後のお手紙を読むとしようか」


 Q:マ『伊里野加奈が初めからいなかったことになるのなら、榎本は誰に殺されたことになるのですか?』
 A:フ『「もうここには存在しない伊里野加奈」だよ』


マ「……えっと、つまりどういうことですか?」
フ「真相は闇の中、さ」
マ「えー!?」
フ「存在が消えても、消えた人間が周囲に与えた影響はある程度残ってしまう。榎本の死は、まさにそれだね。
  伊里野加奈が消えても、榎本が誰かに殺されたという事実は覆らない。となると、彼を殺害した人物は誰かという話になる。
  ここで伊里野加奈以外の誰かが榎本殺害の実行犯になる……というわけではない。そういう風にはならないんだ。
  では、どういう風になるのか。どういう風にもならない。榎本は『誰か』に殺された。そういうことにしかならないのさ」
マ「釈然としません!」
フ「そうだろうね。だからこその『世界の歪み』だ。放置していれば災厄が起こってしまう……そうさせないのが、フレイムヘイズなのだよ」
マ「今回の一件で、『炎髪灼眼の討ち手』や『万条の仕手』はフリアグネ様を狙うでしょうか?」
フ「さあ、どうだろうね。彼女たちが私の意図を正しく読み取れれば、あるいは……?」
マ「なんにせよ、世界はこういう風に修復された。そこに疑問や違和感が生じるのは当然で、それが『世界の歪み』というものなのですね」
フ「素晴らしいまとめだね、マリアンヌ。つまりはそういうことなのさ。
  さて、質問もこれで終わりかな? ではここから先は私とマリアンヌの愛の語らいのコーナーということで――」
マ「……残念ですが、フリアグネ様。どうやらそろそろ、お別れの時間みたいです」
フ「な、なんだって……!? そうか……そうなのか……それは……残念だな……」
マ「そんなに気を落とさないでください、フリアグネ様。きっと次の機会がありますよ」
フ「……そうだね。よし、では最後は元気よくしめようか!」

マリアンヌ「では読者のみなさん、今回はこのあたりでお別れです!」
フリアグネ「また諸君に、私とマリアンヌの愛溢るる日々を見せられるよう願っているよ」

678浅羽直之の人間関係【改】 ◆LxH6hCs9JU:2011/02/11(金) 02:48:36 ID:kGWL/FD20
>>677
投下終了です。
さるさん食らったので、ラスト1レスこちらに投下させていただきました。

679 ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:23:56 ID:0SJ8MdD20
投下開始します。

680CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:25:11 ID:0SJ8MdD20
 【0】


――情報が多ければ判断が楽というものではない。


 【1】


「これでよし、と」

ショーウィンドウに写る自分の姿に満足すると島田美波は「うん」とひとつ頷いた。
あわせるように黄色いリボンとくくりなおしたポニーテールの髪の毛も頷くように揺れる。

先刻、水前寺と激闘を繰り広げたために髪は見るも無惨に、リボンもいずこへと飛んでいっていたのだが今はもう元通りだ。
右斜め45度から見ても、左斜め45度から見ても、もちろん正面から見ても。
どの角度から見てもこれまでの――まぁ、多少は激闘のなごりも残るものの――可愛い島田美波の姿である。
背筋をピンとのばし、ジャージにほつれた部分がないかを確認すると、短く息を吸って美波は皆の方へと振り返った。

「ん?」

美波の頭の上に“?マーク”が浮かび上がる。振り返ってみれば、どうしてかまた水前寺がぼうっとしているのだ。
まさか、またらしくもない虚無感やアンニュイに囚われているのだろうか?
叩く回数が足りなかったのか。ならばと拳を握ると、美波はアスファルトを踏んでつかつかと水前寺に歩み寄る。

「ちょっと水前寺。なにまたぼーっとしてるのよ?」
「……うむ、島田特派員か。
 呆けているなどとはひどい言いがかりだな。が、しかし今はそんなことで言い争うつもりはないのだよ」

少しばかり静かにしてくれたまへと、水前寺は目の前へと掌を突き出してきた。
どうやらぼうっとしていたのではなく考え事をしていたらしい。では、その考え事とはいったいなんなのだろうか?

「ねぇ、一体なんなのよ。また一人で抱え込んで、なんて許さないわよ」
「いや、そういった感情的な問題ではない。今、俺が脳内で行っているのはシミュレーションだ」
「……シミュレーション?」
「うむ」

集中することは諦めたのか、水前寺は美波の方へと向き直ると腕を組んで大きく頷いた。

「シミュレーションって、何のシミュレーション?」
「我々が今帰りを待ちわびている浅羽特派員の行動シミュレーションだ。今現在、彼はどのように行動しているのか? とね」
「こっちに向かって戻ってきてるんじゃないの? だからここで待っているんだし」

手を広げ美波があたりを示してみると、水前寺は「然り」と頷いた。
美波とシャナ、水前寺と悠二、この4人がここで合流して以降、ここに留まっているのは何もなくなったリボンを探すためではない。
そのうち“戻ってくるはず”の浅羽直之の帰りを待つためなのだ。だがしかし、そこに水前寺は疑問を呈した。

「確かに、じきに帰ってくるのではないかと踏んでいたのだが、よくよく考えるとそうならないのでは? と思い至ったのだ」
「え……、それはどういうことなのよ?」
「実を言うと、浅羽特派員に対してはトーチに関する“ほんとうのこと”を一切伝えておらん」
「アンタ、それって――」

絶句する。が、水前寺はまたも掌を突きつけて美波のリアクションを押しとどめた。

681CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:26:36 ID:0SJ8MdD20
「まぁ、このこと自体の是非については今は置いておこう。答えの出ない議論に時間を費やす暇はないからな。
 問題は、伊里野特派員が消失した後、彼は素直にこちらへと戻ってくるのか? ということだ」
「えっと、それは…………」

美波も水前寺と同じように腕を組んで頭をひねった。
伊里野加奈の消失。これは間違いない。なので今現在、浅羽直之はひとりだけでいるはずだ。
そして彼女の消失にともない彼が映画館へと向かう理由は失われる。ならばその時点で引き返してくる。……はずだが。

「映画館に向かってたんでしょ。それで、途中で隣にいる伊里野さんが消えた――」
「――そう。そしてその時、その伊里野クンが消えたことすら浅羽特派員が意識しないのだとすれば?」

しかし彼は“ほんとうのこと”を知らないらしい。じゃあ、どうなるのか?
確かシャナから話を聞いた時に、“周りの人間は存在の消失から発生する矛盾には気づかない”と教わったはずだ。
その空恐ろしさに驚いたので美波はそのことについてはよく覚えている。ならば、だとすれば――。

「……もしかして、浅羽くんはそのまま今も映画館に向かってるわけなの?」
「では、専門家に意見を伺ってみようではないか」

互いに冷や汗を一滴たらすと、美波は水前寺と揃ってシャナと悠二の方へと足を向ける。
彼女らは彼女らで何か相談でもしていたらしいが、こちらが近づいていることに気づくとそれを中断して振り向いてくれた。

「坂井特派員とシャナクンにひとつ尋ねたいことがあるのだが――」

悠二を特派員と呼ぶことにシャナがまた目じりを吊り上げたが、水前寺はそれを無視して二人に事情を話した。
浅羽直之には“ほんとうのこと”を一切伝えていないこと。そして彼と伊里野加奈が映画館へと向かうことになった経緯。
更にその上で、現在に彼が状況をどう認識しどう行動しているのか? それを専門家たる二人に問いかける。
答えたのは、悠二とシャナのどちらでもなく、シャナの首から下がったペンダントから響く声――アラストールだった。

「伊里野加奈が消失するまでに心変わりしていないのだとすれば、彼は今も映画館を目指しているのだろう」

彼の厳しい声は、重大な真実を伝えるにはあまりにも効果的だった。
それまではあまり関心なさげだったシャナの顔もわずかに強張る。美波の胸にもざわざわとした不安が湧き上がっていた。

「……で、でも、そうだったとしても一度映画館まで行ったらここまで戻ってくるんじゃない?」
「それを待つ猶予は我々には――いや、我々よりも浅羽特派員にはあるまい。
 あの満身創痍の身体では何かあった時逃げることもままならんぞ。いや、そもそも戻ってくる体力があるかどうか」
「じゃあアンタ、なんでそんな状態で行かせちゃったのよ!?」
「彼らには時間がなかったのだからそれについては仕方あるまい! と、言い争っている場合ではない――」

言うが早いか、水前寺は踵を返して駆け出した。
その先には一台の救急車が停めてある。どうやら、映画館に向かっているはずの浅羽を追いかけようということらしい。
時間が経てばいずれは浅羽もここに戻ってくるかもしれない。だがそれまで無事であるという保障はないのだ。
ならば確かに急いで彼を追いかけないといけないだろう。車を使うというのならそれはきっと最良の手段だ。
そう、少なくとも宙吊りで空を飛ぶよりかは大分ましなはずである。

682CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:27:11 ID:0SJ8MdD20
「ねぇ、美波」

ん? と、美波は水前寺を追っていた視線をシャナの方へと戻した。何か彼女から話があるらしい。
一瞬、心の中を覗かれたかと思ったがそんなはずがあるわけもなく、美波は彼女の口元へと注目して次の言葉を待つ。
思い返せば彼女は先ほどなにやら二人で相談していた。
彼女の第一目的は坂井悠二との合流だったわけで、ならばそのことに関することかもしれない。
神妙なシャナの顔。その小さな口が開き――しかし、次に聞こえてきたのはあの“人類最悪”の声だった。

数えて3回目になる定時放送が流れ始める。そして――

救急車のエンジン音が静かな夕暮れの中に大きく響き渡った。まるで、これから加速する物語を暗示するかのように。






 【2】


「御坂美琴に古泉一樹。なぁんだ、私だけでなく師匠もちゃんと仕留めていれたのね」

人類最悪の放送を聞き終え、一応とその内容をメモに記すと朝倉涼子はくすりと笑みを漏らした。

「もし古泉くんが死んでなかったらこちらが優位に立つための材料になったと思うのに、残念だわ」

言いつつもそうは感じさせない表情を顔に浮かべ、朝倉は滞在しているファミレスの中を滑らかな動作で進んでゆく。
浅上藤乃が眠る席を通り過ぎ、ひとつ、ふたつめのテーブル。そこまで行くと、そこであるものを手に取った。

「電池の残りが少ないけど問題はないかな。御坂さんじゃなても、充電くらいなら“私”でもできるし」

朝倉の手の中にあったのはピンク色をした二つ折りの携帯電話であった。
おそらくはこのファミレスに食事に来た客がテーブルの上に出して、そのままだったのだろうと推測できるものである。
どうして客はいなくなったのか。それはいつからなのかは依然として不明なままであるが、
ともかくとして、携帯電話自体は使用にあたって特に問題はないものだった。
彼女の言葉通りに電池の残量は乏しかったが、この程度の電量であれば情報改変を用いて充電することはわけもない。

「さてと、浅上さんはいったい誰に電話したのかしら。今もまだ生きている人だといいんだけど――」

あらかじめ聞いておいた電話番号をすばやく入力すると朝倉は電話を耳に当て、相手が出るのを待とうとした。だが、

「あれ?」

しかし聞こえてきたのは“通話中”を知らせる電子音のみであった。






 【3】

683CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:27:57 ID:0SJ8MdD20
物語の舞台の中央に位置する城。その城を囲む堀を右側に一台の救急車がややゆっくりとした速度で南下していた。
運転席にはハンドルを握る水前寺がおり、隣の助手席には悠二が、シャナと美波は後部の患者を収容するスペースの中にいた。
病人を搬送するという目的上、この車の乗り心地は決して悪いものではないが、
よくわからない医療機器などが犇いているからか、シャナや美波の表情を見るに居心地はあまりよくないらしい。

浅羽直之を追い越したり見逃さないよう徐行運転で進む中、悠二は携帯電話を耳に当て、ヴィルヘルミナと連絡を取り合っていた。
シャナと無事に合流できたこと。伊里野加奈がトーチとして消失したこと。病院で発見した凶行の証拠など、報告することは多い。
また御坂美琴と古泉一樹の死亡の報を聞き、キョンの安否が気にかかったこともあった。
元はと言えば、警察署に行こうとしていたのは自分なのだ。そのせいで犠牲が出てるのだとしたら悔やんでも悔やみきれない。



「――それで、キョンはまだ戻ってないんですね」

しかしキョンは未だ神社には帰還しておらず、警察署で何があったのかということも不明ということだった。
ヴェルヘルミナの声に悠二は自分がここでこうしててもよいものだろうかと、僅かな焦燥を募らせる。

『御坂美琴及びキョンなる者が順調に帰還を果たしたならば、次に上条当麻の捜索を開始する予定でありました。
 ですが、今はそうもいかなくなってしまったのであります』

常に冷静を務める彼女の声の中にも僅かな焦燥があるように思えた。
警察署の捜索は悠二捜索の足掛かりになるはずで、古泉一樹を捕らえれば貴重な情報源にもなるはずだったのだ。
そして、彼らが帰還すればシャナが出会ったという上条当麻なる“全ての異能を破壊する男”を探す予定でもあったのだ。
だがそれらは警察署で起こったなんらかのトラブルによりご破算となり、計画は大きく後退することとなってしまっている。

『炎髪灼眼の討ち手の早急なる帰還を要請するのであります』
『即時実行』

ヴィルヘルミナの声に彼女の冠するティアマトーの声が重なる。
御坂美琴という人員が失われた以上、その空白を埋めるためにシャナを帰還させるというのは当然の道理だろう。
悠二と合流するという当座の目的は達したのだ。
ならば、次に優先すべきはキョンの捜索と警察署で起きた事実の確認に他ならない。

「それは、そのつもりだったけど」
『何か公開していない事情が――?』
「……シャナがフリアグネの居所を掴んだんだ」

フリアグネの名前を聞き、電話の向こうにいるヴィルヘルミナの気配が変わったように悠二は感じた。

『詳細を』
「うん。直接フリアグネを見たというわけじゃないんだけど――」

悠二は、シャナが百貨店の屋上でフリアグネの燐子を発見したという事実を伝え、
また悠二自身も付近で燐子に遭遇したことから、フリアグネが百貨店を拠点にしているだろうという推測を語った。
そして、水前寺や美波の避難をシャナに任せた後、単独で百貨店に潜入。そこで少佐なる者の狙いやフリアグネとの関係を突きとめ、
その後にまたシャナと合流して二人でフリアグネの討滅に当たる予定だったと。

「アラストールは再び《都喰らい》が行われるかもと言ってるんだ。だからここは早く手を打たないと――」
『待つのであります』

悠二は事の緊急性をアピールしたが、ヴィルヘルミナはそれを遮り加えてその計画に問題が多すぎることを指摘した。

684CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:28:30 ID:0SJ8MdD20
『フリアグネは“狩人”の通り名が示す通りに強者として名高き紅世の王。
 尋ねるのでありますが、今現在あの王と合間見えたとして再び勝利を得ることが可能だと考えているのでありますか?』

それは……と、悠二は口ごもる。
シャナはあれ以来、戦闘の経験を重ね確実に強くなっている。悠二にしても“存在の力”を制御するに至った。
二人の実力は大きく高まっていると言えるだろう。だがしかし、そもそもとしてあの王に勝てた一回が偶然と幸運の産物でしかない。
フリアグネはヴィルヘルミナが言う通り、幾多のフレイムヘイズを狩ってきた最強の王の一人。
冷静に指摘されてしまうと、悠二としてもまた勝てるとは断言できなかった。

『加えて、今は“少佐”なる不確定要素が存在するとのこと。ならば事を起こすにはより慎重であるべきでありましょう』
『早計』

そして、万条の仕手なるフレイムヘイズがここにいるのにも関わらず、そちらだけで決めるとは何事かとも悠二は怒られた。
確かにそれはその通りで、そう言われてしまうと悠二としても返す言葉がない。
相手は紅世の王なのである。ならば、その討滅にあたってヴィルヘルミナも参戦するのが当然なのだ。
だが、悠二もそれらについてまったく考えていなかったわけではない。それを踏まえても今回は緊急性が高いと判断したのだ。

「けど、もしフリアグネが再び《都喰らい》を企てているのだとしたら――」

周辺の物質をすべて存在の力へと還元してしまう《都喰らい》。もしこれが実行されればこの狭い世界は跡形もなく消えてしまうだろう。
その後に生きていられるのは恐らくフリアグネ本人のみ。だとすれば、これだけはどれだけ犠牲を強いても回避しなくてはならないのだ。
打倒は無理だとしても計画の阻止だけは、と――だがそれについてもヴィルヘルミナは疑問を呈した。

『《都喰らい》……それを想定するに至ったトーチの存在についてでありますが、
 伊里野加奈は自然消滅したと、それで間違いないのでありましょうか?』
「その瞬間は見ていないけど、おそらくは……、存在の力も希薄だったし、間違いないと思う――」

自分で発言し、その瞬間に悠二はこの事態における根本的な矛盾に気がついた。
ヴィルヘルミナが疑問を感じるのも当たり前だ。
フリアグネが真に《都喰らい》を画策しているのだとすれば、用意したトーチが“自在法が発動する前に消滅してしまう”のはおかしい。
《都喰らい》の要は、同じ場所に多くのトーチを同時に存在させることにある。これではこの条件が満たされない。

『どうやら理解された模様』
『単純明快』
「うん、確かにフリアグネが《都喰らい》を狙っていると決めつけのは早かったよ。けど、何も狙いがないとも思えないんだ」
『同感でありますが、現状では情報が不足しているのであります。それについては後々に』

悠二は食い下がるも、ヴィルヘルミナはあっさりと話を切り上げてしまうとシャナと電話を代わるように命じた。
シャナから話を聞いてやってきたというトーチが今神社にいるらしく、詳しく事情を聞きたいらしい。
逡巡し、返す言葉がないことに気づき悠二はおとなしく従うことにした。

「シャナ。カルメルさんが聞きたいことがあるって」
「うん、わかった」

後ろで待機しているシャナに声をかけて携帯電話を渡すと、悠二は前に向き直り座席に深く身を預けて大きな溜息をついた。
相変わらずヴィルヘルミナ相手だと緊張するということもあるが、
それよりもフリアグネに対峙する為に決めた覚悟が肩透かしに終わってしまったからという部分が大きい。
決死の覚悟であり、また存在の力を扱えるようになった自身が紅世の王と対峙することに対する高揚も少なからずあったのだ。
ヴィルヘルミナの言うことはもっともで、今ここでフリアグネに接触することが必ずしも得策ではないことは理解できている。
けれども、機会を逃したことが惜しいという気持ちが離れないでいた。

685CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:29:03 ID:0SJ8MdD20
「(……もしかすると、僕はただシャナと一緒に戦いたかっただけなんだろうか)」

シャナがヴィルヘルミナと話している内容をそれとなく聞きながら窓の外の景色を眺める。
ゆっくりと流れる風景の中にはなんら剣呑なところはなく、そしてまた浅羽直之の姿もそこにはなかった。






 【4】


物語の舞台の中央に位置する城。その城を囲む堀を左側に一台のパトカーがゆっくりとした速度で東進していた。
その運転席には師匠と呼ばれる妙齢の女性がハンドルを握っており、隣の助手席には携帯電話を片手にした朝倉涼子が座っている。
そして後部座席では浅上藤乃が横になってすやすやと静かな寝息を立てていた。

「あなたの見込みどおりであればいいのですが」
「そんなこと言って、師匠ったら乗り気な癖に」

朝倉は携帯電話を耳に当てる。だがまだ相手は通話中のようだった。
そして、この通話中であるという事実が彼女と師匠にある可能性を想像させ動かしているのであった。






 【5】


「――うん、だから私の存在の力を注いであげた。ステイルはインデックスが言ってた仲間だから」

水前寺と一緒に浅羽がいないか窓の外を眺めながら、悠二は時折バックミラーに視線を移してはシャナの様子を窺った。
聞いたとおり、ヴィルヘルミナがシャナに確認したかったこととはもう一人のトーチであるステイルのことであるらしい。

「わかった。とにかく一度そっちに戻るから」

バックミラーの中のシャナは携帯電話を耳から離すと眉根を寄せた。どうやら彼女もヴィルヘルミナにやり込められたらしい。
シャナは電話を切ろうとする――と、そこで悠二はまだ報告していないことがあったのに気づいてシャナに声をかけた。

「シャナ。まだカルメルさんに報告しないといけないことがあるんだ。電話をかしてくれるかな」
「ヴィルヘルミナちょっと待って。悠二がまだ話すことがあるって」

シャナから携帯電話を受け取ると、悠二はもう一度バックミラーへと目をやって今度は美波の様子を窺った。
どうやら今彼女は救急車の中にあるものを色々チェックしているらしい。箱を開けてみたり、何かのボンベを持ち上げてみたり、
とにかく彼女がこちらに気を払っていないことを確認すると、悠二は彼女に聞こえないよう小さな声で喋り始めた。

「……病院で死体を見つけたって前に報告したけど、その犯人がわかったんだ」

その内容は、あの録画機能付きの眼鏡に残されていた映像に写っていた人物についてだ。
つまり、病院での4人殺しの犯人であり、美波の友人である吉井明久や土屋康太を殺害した人物のことである。
いつかは知らせるべきだろうし、彼女が彼らの遺体と対面したいと言えばそうさせるべきだろう。
しかし今は浅羽直之を探している最中でもあるし、彼女の心を悪戯に乱す必要はないと悠二は判断した。

686CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:29:41 ID:0SJ8MdD20
『なにか証拠を見つけたということであるのですか?』
「うん。その場面を写した映像がそこに残っていたんだよ」
『ではその人物とは?』
「“キノ”と呼ばれていたよ。本当の名前かはわからないけど、コートを着た背の低くて僕くらいの年齢の人物だ」
『その人物なら、先ほど面会したのであります』

思わぬ反応に、悠二の口から驚きの声が小さく漏れた。
相手はあの冷酷な殺人鬼である。一体二人の間に何があったのか。いや、神社にいた面々は大丈夫だったのか?

『物腰は柔らかなれど剣呑なるところも感じられた故に退去を願いましたが、なるほど殺しを行う人間でありましたか』
『不審人物』
「うん。どうやら集団の中に潜伏して、油断したところを一網打尽に……という戦略らしいんだ」
『納得したのであります。あの時、キノなる者は「手伝えることはないか?」と我々に接触してきたのでありますから』
『常套手段』
『間違いなく我らに対しても同じことを行おうとし狙っていたのでありましょう』
「でも無事ならなによりだよ、こちらも気をつけるからそっちも気をつけて」

どうやらヴィルヘルミナが追い返してくれたおかげで特に被害はなかったと知り、悠二はほっと胸を撫で下ろした。
あのモニターの中に見た光景を思い出すと、本当に何事もなくてよかったと思える。

『して、その殺しの手段はいかに?』
「見た限りでは銃と刀を使っていたよ。自在法のようなものを使っているようには見えなかった。
 それと……、これはシズさんが前に言ってたんだけど死体を見る限りかなりの手練だって」
『なるほど。そしてシズでありますか。味方になる可能性があったとしたら彼もまた惜しいことをしたものであります』
「うん……」

先程の放送で名前を呼ばれたのは御坂美琴と古泉一樹だけではなかった。シズの名も一緒に呼ばれたのだ。
悠二も彼の死は惜しいと思う。贄殿遮那を返してもらった時の感触から彼の本質は悪人ではないと感じていたからだ。
もし少しでも出会うタイミングが異なれば一緒に協力できたかもと、そう思うととても残念だった。

『しかし、この報告により新しい問題が浮かび上がってきたのであります』
「え?」
『キノなる者に我々が神社を拠点としていることが把握されているのであります。
 不審者の接近は警戒してるとはいえ、これでは拠点としての機能は半減したも同然。移動の必要がありましょう』
「じゃあ、今度はどこに?」
『天文台なのであります。
 現在、テッサとインデックスが先行し、更に天体観測中の警備として人員を送る予定でありましたが、
 もはやそれも難しいとなれば、全員が一度天文台へと集結し今晩を乗り切るというのが最善の選択であります』
「なるほど了解したよ。こちらのみんなにも伝えておく」
『ではこちらは移動の準備を開始し、炎髪灼眼の討ち手の帰還を待って天文台へと移動を開始するのであります。
 そちらも浅羽直之を確保次第こちらへと帰還することを改めて要請するのであります。
 フレイムヘイズはともかくとして、人間はちょうど疲労のピークを迎える頃合。
 寝て夜を越すにしても固まっていたほうが警備は行いやすいのでありますから』
「わかった。浅羽くんを保護できたらこっちも一度そちらと合流するよ」

ではこちらの者にも説明が必要なので、という言葉を最後にヴィルヘルミナとの通話は終わった。
悠二は携帯電話を握り締めながらまた溜息を漏らすと、隣の水前寺に車を止めるように声をかけた。






 【6】

687CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:30:14 ID:0SJ8MdD20
「この電話が鳴るたびに問題が増えるような気がするのであります」
「轗軻数奇」

溜息こそつかないが、傍から見ればそうしそうだと思うような台詞を吐いてヴィルヘルミナは受話器を置いた。
電話のせいかはともかくとして、言葉の通りに問題は増えるばかりだ。
しかし彼女がそこで止まってしまうことはなく、衣擦れの音をさせることなく身を翻すと他の人間が待つ部屋へと戻った。



日焼けした畳敷きの狭い和室に揃っていたのは、ステイル、大河、晶穂――つまりここ残っているうちの全員だった。
半日前はこの倍以上の人間がいたが、しかし今はヴィルヘルミナ自身を数えてもたったの4人しかいない。
そして、御坂美琴や零崎人識などもう戻ってこない者や、行方の知れない者もいる。

「長かったね。なにか重要な情報でも得たのか、それとも話が弾む相手だったのかな?」
「前半分は肯定。後ろ半分は否定なのであります」

詳しい事情を把握してないせいか、それともトーチなのでそうなのか、緊張感がない風にステイルが聞いてくる。
それを軽くあしらうとヴィルヘルミナはスカートの裾を折りたたみ、上品に畳みの上へと腰を下ろした。

「また悠二ってやつからの電話? だったらシャナと美波はちゃんと合流できたの?」
「大きな問題はなく坂井悠二の発見と合流は行われたのであります」

次に発言したのはいつもなにかに怒っている風に見える大河だった。
リハビリのつもりなのだろうか、彼女はずっと鋼鉄の義手の掌を閉じたり開いてガチガチと音を鳴らしている。

「炎髪灼眼の討ち手は速やかに戻ってくる手はずであり、また水前寺他の面々も浅羽直之を保護次第戻ってくる予定であります」
「浅羽が見つかったのッ?」

伏せていた顔を上げ驚くように声を上げたのは晶穂だ。
その顔は少し青ざめている。見知った人物の名前が続けて挙げられるのはかなり堪えるらしい。

「一度は合流し、その後“事情”により僅かに離れはぐれてしまったとのことであります」
「何やってんのよ部長も、浅羽も……」

再びうなだれる晶穂。彼女に対してヴィルヘルミナは“事情”については話さなかった。
彼女は伊里野加奈のことを忘れ去っている。話したところで理解できるはずもなく、逆に混乱し不安を煽ってしまうだけだろう。
そして、話さない、知らせないことがフレイムヘイズの常で、ヴィルヘルミナは常にフレイムヘイズであった。



「ともかくとして、今晩を乗り切るに当たって再び全員を集合させることになったのであります」

ヴィルヘルミナは3人にこれからの予定を説明する。
シャナは悠二と合流し、水前寺も当初の目的であった浅羽を保護しつつある。
美波の友人である姫路瑞希の捜索や、悠二が提案した人類最悪の居場所を探ることなど、他の案件もあるが
そのどちらも具体的な手がかりもなく、いつ達成できるのかも定かではない。
なのでひとまず仲間を集結し、できることからひとつずつ潰していこうというのがヴィルヘルミナの方針だった。

「じゃあ、インデックスもこちらに呼んでくれるのかい?」
「いえ逆なのであります。我々が現在インデックスとテッサが滞在する天文台へと移動するのであります」

なるほど。と、ステイルは頷いた。インデックスが天文台にいるというのは彼からするととても自然なことらしい。
同じ魔術師だけに相通じ理解できるところがあるのだろう。
居場所を知ればいてもいられなくなったのか、今にでも立ち上がりそうなステイルだったが、晶穂の発言がそれを制した。

688CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:31:02 ID:0SJ8MdD20
「あの、キョンさんはどうするんですか? 帰ってくるかも、しれないのに」
「それについては案があるのであります」
「用意周到」

御坂美琴と一緒に警察署へと出向いたキョンは現在行方不明だ。
定時放送で名前が呼ばれなかった以上生きてはいるはずだが、どこでどうしているのかはわからない。
今まさにここへと戻っている最中かもしれないし、逆に怪我を負ってどこかで動けなくなっているかもしれない。
待つか探すかしたいが、残念ながら今はどちらも難しい。なのでヴィルヘルミナは次善の策を用意していた。

「ここに書置きを残すのであります」
「書置き?」
「“後に迎に行くのでここで待たれたし”と記した紙を発見しやすい場所に置いておくのであります」
「天文台にいるって書けばいいんじゃないの?」

思いのほか単純で原始的な回答に晶穂はきょとんとし、大河は義手をガチガチと鳴らしながら疑問点を挙げた。
言葉の通りに、天文台へと誘導する旨を書いてもいいと思える。
しかしヴィルヘルミナはそれは問題があると、大河と残りの2人にその理由を説明した。

「先刻、ここを尋ねてきたキノなる人物が坂井悠二の報告により、集団に入り込み殺人を行う者だと判明したのであります」

晶穂の口から小さな悲鳴が上がり、大河の義手がガチッと音を立て、ステイルの目が剣呑に細められた。

「幸い、前回は追い返したのでありますが、再び訪問する可能性もなきにしもあらず、
 また我々がここを拠点としていることを相手に知られてしまっているのは看過できない問題なのであります」
「夜襲警戒」
「故に拠点を移動するに当たって次の移動場所を書き残すことは、その危険性から考えてできないのであります」

仮にキノが神社の面々に接触、または奇襲することを諦めていたとしても、来訪する危険人物はキノだけとは限らない。
逆に、キョンをはじめ行方の知れない上条当麻や姫路瑞希などの歓迎したい人間も来訪するかもしれない。
しかし前者を呼び込むことだけは絶対に避けたい――故に、待機を命じる書置きであった。

「天文台に拠点を移した後、定期的に神社へと偵察へ赴き、害のない人間がそこにいれば迎えるとするのであります」

そして、以上であります。とヴィルヘルミナは説明を終えた。


 ■


「……キョンさん大丈夫かなぁ」

晶穂がテーブルの上の“待たれたし”とだけ書かれた――いや、それだけしか書いてない紙を見て溜息をついている。
誰がとも、誰にとも、何時とも書かれてないのは期待してない何者かがこれを見た時、余計な情報を与えないためだという。
本当に大丈夫なんだろうかと、大河もそう思いながら鞄の中に自分の荷物を詰め込んでいた。

これもあの几帳面すぎるメイドが言うには、歓迎しない来訪者に余計な情報を与えないためらしい。
自分達がいた痕跡すら残さずに――というのはけっこう本格的っぽい。まるでスパイ映画のようだった。
そして冗談でも笑い事でもない。うきうきしたりなんてしない。本当に人が死んでいるのだから。

「ムカつく……」

右手をぎゅっと握り締めるとガチッと固い音がした。今置かれているこの状況が嘘でないという正真正銘の証拠だ。
結局つけることを諦めたブラジャーを乱暴につっこみながら舌打ちをする。
晶穂が肩をビクっと震わせ(ちょっとゴメン)、紙バックしか荷物のないステイルがクスっと笑った。

689CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:31:51 ID:0SJ8MdD20
「あんたさっきからなんかおかしーの?」
「……あぁ、いやなんだろうね。どこかで君みたいなのを見たことが、いや聞いたことがあるような気がしてね」

ゴシックパンク野郎の言うことは時々、意味不明だった。
神父で、魔術師で、巨人みたいな身長なのに年下。どんな面白存在だと、ツッコまざるをえない。



ゴミも残していかないほうがいいらしいので台所へとゴミ袋を取りに来たら、そこでヴィルヘルミナがシンクを洗っていた。
メイドがキッチンで洗い物をしているなんて当たり前のようでいて、ひどく奇異な光景。
呆れ半分、ピカピカのシンクを見て「洗いすぎ」と――そして不意にモヤモヤとムカムカが心に湧きあがってくる。

ゴミ袋をひったくるように取って部屋に戻ると、もう晶穂とステイルは準備を終えているようで部屋はすっきりとしていた。
元々、そんなに綺麗な部屋でもない。畳みは古くて薄黄色だし、テーブルには焦がした痕があるし、柱も傷だらけだ。
どこにでもあるようなこじんまりとした庶民的な和室。

「晶穂。終わったんなら私のも手伝って」
「う、うん……」

そう、どこにでもあるような、まるで普段から入り浸っている場所のような居心地のよさがここにはあったのだと気づいた。
そして、すこしだけすっきりとした引越し準備中みたいなこの部屋を見て、大河は行きたくないなと思う。
新しい「いってきます」は、これまでに対する「さようなら」みたいだったから。


拳を握ると、またガチッという音がした。






【C-2/神社/一日目・夜】

【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(7/20)、缶切り@現地調達、調達物資@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:シャナの到着を待ち、天文台へと移動。
 2:天文台を新しい拠点とし、今後の予定を改めて組みなおす。
 ├キョンを保護する為、また警察署で何があったかを確認する為に警察署へと人を送り出す。
 └上条当麻を仲間に加える為、捜索隊を編成して南方へと送りだす。
 3:ステイルに対しては、警戒しながらも様子を見守る。


【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、右腕義手装着!
[装備]:無桐伊織の義手(右)@戯言シリーズ、逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
     大河のデジタルカメラ@とらドラ!、フラッシュグレネード@現実、無桐伊織の義手(左)@戯言シリーズ
[思考・状況]
 基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
 0:ちょっとアンニュイ。
 1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
 2:ステイルのことはちょっと応援。
[備考]
 伊里野加奈に関する記憶を失いました。

690CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:32:23 ID:0SJ8MdD20
【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、意気消沈
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
 基本;生き残る為にみんなに協力する。
 0:……大河さんの機嫌が悪いなぁ。
 1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
 2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。
 3:鉄人定食が食べたい……?
[備考]
 伊里野加奈に関する記憶を失いました。


【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:“トーチ”状態。ある程度は力が残されており、それなりに考えて動くことはできる。
[装備]:筆記具少々、煙草
[道具]:紙袋、大量のルーン、大量の煙草
[思考・状況]
 基本:インデックスを生き残らせるよう動く。
 1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
 2:とりあえず、ある程度はヴィルヘルミナの意見も聞く。
[備考]
 既に「本来のステイル=マグヌス」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
 紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
 フリアグネたちと戦った前後の記憶(自分がトーチになった前後の記憶)が曖昧です。
 いくらかの力を注がれしばらくは存在が持つようになりました。


※神社の社務所内の一室のテーブルの上に「待たれたし」とだけ書かれたメモが残っています。






 【7】


「美波は私と一緒に戻らなくてもいいの?」
「うん、水前寺のことはほっとけないし、それに瑞希だってこの近くにいるかもしれないから」
「そっか。じゃあ悠二のこともよろしくね」
「まかせといて。ウチが二人にはバカなことはさせないから」

美波といくつか言葉を交わすと、シャナは夕闇の中へと飛び上がり火の粉を散らして優雅な羽を背中に広げた。
この世のいかなる生物も持たざるその羽で大気を打ち、フレイムヘイズの少女は飛び去ってゆく。
悠二は藍色の空の向こうに光の点となって遠ざかる彼女の姿を名残を惜しむように見送り、
小さなクラクションの音に急かされ、ようやく水前寺が待つ救急車へと戻った。



「なんならこの場合は坂井特派員が一緒に戻ってもよかったのだぞ?」

悠二が助手席につくと水前寺がそんなことを言う。

691CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:32:56 ID:0SJ8MdD20
「いや、いいんだ。贄殿遮那も渡すことができたしね。それに今はできることをしたいんだ」
「なるほど。引き続き浅羽特派員捜索の任についてくれることを部長として感謝しよう。島田特派員にもな」
「とってつけたような言い方。……でも、いいわ。まだしばらくは特派員でいてあげるから」
「なぁにがしばらくだ。部長の許可を得ない退部などこの俺は許さんからな」
「人権を無視して勝手に部員にしておいてよく言うわよ」

夕暮れの四つ角にエンジン音が響き渡り、浅羽直之を追って救急車が再び走り始めた。



「――しかし、トーチとフリアグネとかいう紅世の王の話だが」
「うん、当ては外れたし、思い違いもあったみたいだ」
「だがそいつの行動がただの無意味ではなかったと、坂井特派員は考えているわけだな?」
「そうだね。あの紅世の王が意味のないことをするとは思えないから何かしらの意味はあるはずだよ」

車の運転席と助手席で、またいつかのように二人は考察を開始する。
今回の議題は、『フリアグネがトーチを作った理由』についてだ。
あの紅世の王が《都喰らい》を企てているかもしれないという可能性はヴィルヘルミナからの指摘により否定された。
かといって、トーチを作った理由が皆無だとは考えられない。なので二人は今ある材料を元に思考を始める。

「トーチとしての伊里野クンに残された時間は通例よりもかなり少なかったらしいな」
「そうだね。本来、トーチの役割はフレイムヘイズに対する目くらましみたいなものだから数日以上もつのが普通だよ」
「ならば、そこから2つの可能性が考えられる」
「あえてそうしたのか、もしくはそうせざるを得なかった――だね?」

うむ。と水前寺は満足そうに頷いた。
確かに考えるべきはここからだったようだと悠二は認識しなおす。
シャナとアラストール、そして自分はトーチを見てすぐにフリアグネが策を打ってきたものだと考えたが、
そう考えること自体がまだ早まったことだったのだ。

「あえて消えるまでの時間を短くした場合であるが、
 この場合、トーチの消失に坂井特派員やヴィルヘルミナ女史らが気づけるのかを試したのかもしれんな」
「普段は気づかせない為のトーチを、あえて逆の目的に使ったってことか……」

フレイムヘイズは、トーチの消失を感知して現場に急行しそこから紅世の王を追い始める。
紅世の王は追跡を逃れる為、逃げる時間を稼げるようそれなりの時間をトーチに与えてその場を去る。
それが通常であるが、その時間差を利用すれば逆にトーチが消える瞬間の世界の歪みを囮にすることも可能だ。
存在の力を感知することが難しい今、気兼ねなくトーチを作れる紅世の王側にすれば、それはアドバンテージとなる。

「逆の場合、残り時間の少ないトーチしか作れなかったということになる」
「僕やシャナが遭遇した弱すぎる燐子と同じようにか……」
「だが安心はするなよ坂井クン。形勢不利とみて、あえてそういうふりをしているだけかもしれんのだからな」

確かにフリアグネの立場から見れば、シャナと自分だけならともかくヴィルヘルミナもいるというのは苦境と言えるだろう。
蓄えた宝具を持ち合わせていないのも、彼の王の性質から考えればかなりの痛手のはずだ。
ならば、力の弱い燐子やトーチにしてもそうしかできないのではなく、ただ力を節約しているだけなのかもしれないし、
弱まっているフリをしてこちらの油断を誘っているのかもしれない。

「そして、もうひとつの可能性がある」
「人類最悪だね」

先刻の放送で人類最悪の口から伊里野加奈の名前は読み上げられなかった。
果たして人類最悪は“ほんとうのこと”を知らず記憶が改竄されたのか、知っててあえて呼ばなかったのかは不明だが、
少なくともトーチとして登場人物が消失しても彼は名前を読み上げないということだけは判明したのである。
ならば、このリアクションこそがフリアグネがすぐに消えるトーチを作った理由だったかもしれない。

692CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:33:27 ID:0SJ8MdD20
「これらの可能性から何が導き出されるのか、……専門家ではない俺にはわからん。
 だが、何らかの意味があったのだとしたら、
 それ単体では意味をなさないトーチの存在は次のアプローチの為の布石ととらえるべきだろう」
「フリアグネが次に考えること、か……」

水前寺と考察する中、悠二はこれまでの思考の中にある考え方が欠落していたことに気づいた。
相手はあのプライドの高い“狩人”フリアグネなのである。
ならば、この状況において彼の視線や矛先を向ける相手が必ずしもフレイムヘイズや他の人間らだとは限らない。
彼に虜囚の辱めを与えた人類最悪――この事態を作り上げた者にも向かっていて当然だ。

「まぁ、そこらへんのことはヴィルヘルミナ女史と合流してから詰めてゆくのがよかろう。
 あちらはあちらで俺達が戻るまでの間に話を進めているだろうからな」
「そうだね。僕たちも早く浅羽くんを保護して戻らないと」
「まったくタイムイズマネーとは言ったものだ」

考えてみれば、自分達もフリアグネもこの場所で目的とするところは全く変わらないのかもしれない。
ただその立場と取りうる手段が異なるにすぎないのだ。
邪魔者を排除し、事態を解決し、この世界から元の世界へと帰還する。可能ならばこの事件を解決した上で。
フレイムヘイズは紅世の王を排除対象とし、紅世の王はフレイムヘイズを排除の対象とする。差はこれだけしかない。

「(だったら、あえてこの場は共闘することも可能なのか――?)」

もしフリアグネがすでに事態解決の切欠を掴んでいて、その方法が《都喰らい》のように犠牲を必要としないのだったら。
そうであるなら、この事件を解決するまでの間ならフレイムヘイズと紅世の王が手を組むことができるかもしれない。

「(……カルメルさんには虫がよすぎると怒られるかもしれないな)」

一度冷静になったことで、クリアになった頭の中にいくつかの道筋が見えてきた。
そして、悠二が討滅の対象としてではなくフリアグネに興味を持った時、不意にポケットの中の携帯電話が震え始めた。

「……カルメルさんからかな?」

なんとなしに思いながら悠二は携帯電話を取り出し、淡く光るディスプレイを見つめた。
神社の電話番号ならもう暗記している。表示されているのがその番号ならば相手は十中八九ヴィルヘルミナだろう。


だがしかし、番号は神社のものではなかった。






 【8】

693CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:34:00 ID:0SJ8MdD20
「しかし随分と長く通話していますね」
「そうね。多分このタイミングだし仲間内での報告会を兼ねた作戦会議じゃないかしら」

そうだといいのですが。と言って、師匠はハンドルをゆっくり切って車を誰もいない道へと進めた。
朝倉が放送の後から数分おきにかけている電話番号からの反応は、最初から今までずっと通話中のままだ。
もしかすればただ単に通話中の状態で電話が放置されているのでは、とも思えてくる。
だがもしそうでないのだとしたら、当たり前だが通話して連絡を取り合っている人間が最低二人はいることになる。
そう、つまり……彼女達からすれば最低でも二人の“獲物”が期待できるということになる。

「さっきの放送では御坂美琴、古泉一樹、シズと3人の名前しか呼ばれなかったわけだけど、師匠はこれをどうみる?」
「あなたの報告が正しいのならばその3人は実際に死んだのでしょう」
「もう、疑うふりなんてやめてよ。どうせ師匠も聞いてたんでしょう? それで師匠はどう考えるのって聞いてるの」
「そうですね――」

膠着状態に陥ったのでしょう。と、師匠はそれを簡潔に表した。

「3人のうち、御坂美琴と古泉一樹は我々が仕留めた獲物です。
 となると我々が関与しなかった場所では一人しか死んでいないことになります」
「そうね。私達の視点から見れば、私達を取り巻く環境はほとんど進行していないことになるわ」
「状況が開始してから半日強で、早くも安定した状態に落ち着いてしまったということです」

この場所には59名の人間がおり、それぞれが暗黙の了解として互いに殺しあうことを前提として理解しあっている。
なので人間同士が出会えばそこで殺し合いが発生し、大抵の場合いずれかが死亡する。
これが続き、ゲーム盤となる場所の広さに対して人の数が少なくなれば、結果として遭遇――死亡の数も減少する。

そして、進行が膠着する原因は他にもある。この催しの参加者はゲームの駒でなく人間なのだ。
温泉や警察署で遭遇したように、今現在生き残っている参加者は目的の為に徒党を組んでいる可能性が高い。
おそらく、その傾向は殺人を許容しない“人間らしい”参加者の方が顕著だろう。
つまり、遭遇して殺しあうパターンと同時に、遭遇して殺しあわないパターンもありえたことだ。
殺しあわないパターンであった場合、その2人が1組となれば殺しあった場合と同様に遭遇の機会を減らすことになる。

「結果として、こういうったゲームは参加者が殺し合いに積極的だろうがそうでなかろうが
 それなりに状況が進めば遭遇しあえるユニットの数が減り、膠着状態に陥ってしまうというわけね?」
「そのとおりです……が、それこそあなたには説明する必要のなかったことでしょう?」
「ふふ、師匠ったら。互いの認識を確認しあうのに会話はとても重要よ?」
「……なんにせよ、現状としては突発的な遭遇戦が起こりづらい状況となっているというのが私の見解です」

朝倉は満足そうにうんうんと頷いた。逆に師匠の方は何を今更という顔である。だからこそ彼女達は動いているのだから。

「つまり、この電話を使用している彼らは、それぞれに複数人で固まっている可能性も充分にありえるということよね」
「そうですね。この状況で電話口のそれぞれにいる人間が各自一人ずつというのは少し考えづらい。
 ある程度の信頼があるのならば二人で行動した方が安全ですし――」
「――もしその安全を確保しているのだとすれば、それは互いに複数人で行動してるって計算できる……ということよね」
「取らぬ狸の皮算用にすぎませんが」
「勿論、計算できない要因が多いのは私も承知の上よ。
 でも、師匠もその“期待値”に賭けた。だから運転もしてくれているんでしょ?」
「それもありますが、私が危険視しているのは時間切れですよ。膠着状態が続いたまま3日を終えるのは御免ですから」

言葉通り、師匠が一番危険視しているのは時間切れであった。
この手のゲームにおいて一番恐ろしいことは、ゲームが進まないターンを安易に見逃して
最終盤において決着に必要な手数が足りなくなってしまう事態であると、彼女は豊富な経験から知っている。
この人類最悪の用意した世界の場合、時間とともに舞台は狭くなるので兎の様に逃げ続ける獲物を追う手間は省けるが、
だからといって最終盤に人間を残しすぎると計算して生き残るのが難しい大混戦が発生しかねない。

694CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:34:32 ID:0SJ8MdD20
「師匠は楽をしようとは考えないのねぇ」
「怠けていい時間など人生の中にはありませんよ」
「生まれた時から時間制限付きってわけ? ふぅん、有機生命体はそんな風にも考えるのね」
「“今日終わらせられることは今日終わらせろ”という言葉を守っているだけです」
「確かに。実は私も待つのは苦手なの」
「では、そろそろもう一度電話をかけてみてはどうですか?」

了解。と、朝倉は携帯電話を開いて通話キーを押した。ゆっくりと電話を耳に当て、待つこと数秒――……。

「どうやらもう向こうの長電話は終わったようね」
「交渉は任せますが油断はしないように。とりあえず今はその相手さえ確保できれば十分です」
「残りの仲間の居場所は拷問でもして聞き出すわけ?」
「それで聞きだせるのならそうしますし、相手の電話番号が知れれば人質なりなんなりに使えばいいのです」
「本当、師匠ったら物騒なんだから」
「海老で鯛を釣るという方法ですよ。
 小さな獲物を釣り上げ、次の獲物の餌にすることで最終的には一番大きな獲物を釣り上げる算段です」
「はいはい。じゃあ、最初の獲物は私に任せて――と、もしもし、聞こえている?」






 【9】


『――もしもし、聞こえている?』

電話の向こうから聞こえてきたのはまたしても女の声だった。だがしかし以前に聞いたものとは声色が全く違う。
声色そのものが不幸の色を帯びていたあの不吉な声ではなく、それよりも随分と穏やかな感じのものだった。

「はい、聞こえています」

また不吉なことを聞かされるのではと身構えていただけに意表を突かれたが、
悠二はなんとか平静を保って返答することに成功した。そして、電話の相手に対しあなたは誰なのかと尋ねてみる。

『私は朝倉涼子よ。よろしくね』
「朝倉、涼子……」
『ん? もしかして誰かから私の名前を聞いていたのかしら? 涼宮さん? それともキョンくんかな?』
「キョンから聞いてますよ」

名前を聞き、悠二はこの通話が非常に重要であり、また油断すべきものではないことを認識した。
朝倉涼子とはキョンが頼りにしていた万能の宇宙人のひとりであり、かつては彼を殺そうともした人物(?)である。
味方にすることができればかなり頼もしいが、しかしそこには大きな危険が潜んでいるかもしれない。

『そうだったんだ。じゃあキョンくんはそこにいるのかしら?』
「いえ、今は別行動中ですよ」
『そう。彼の声が聞けないのは残念だわ。それであなたは誰なのかしら?』
「え? ……ああ。坂井悠二です。
 えーと、それじゃあ朝倉さんはどうしてこの電話の番号を知ったんですか?」
『ふふ、そうなの。私もこの電話番号にかけて誰が出てくるのか知らなかったのよ。
 知ってたのは番号だけ。藤乃さんてわかるかな? 浅上藤乃さん。一度、あなたに電話したはずなんだけど』
「前に電話をかけてきたのが、その藤乃さんなんですか?」

どうやら以前に不吉な電話をかけてきた女性は浅上藤乃と言うらしい。
悠二はこれまでに得た情報の中を探り、今のところ全く誰とも縁のない名前であったことを確認した。

695CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:35:06 ID:0SJ8MdD20
『ええ、こちらのほうで彼女を“保護”してね』
「保護?」
『そうよ。彼女ったら変なことを言ってなかった? 友達を殺したとかなんとか』
「ええ、聞かされました」
『じゃあ安心して頂戴。それは彼女の妄言で全部嘘なのよ』

少しだけ気持ちが楽になった気がした。
あれが嘘なのだとすれば、吉田さんかもしくは関係ない誰かがその彼女に殺されたのではないとなるのだから。
とはいえ、それも含めて全部嘘なのかもしれない。なので悠二は慎重に通話を続ける。

『彼女ったらどうやら最初から心身ともに失調をきたしているらしくてね、だから私達で保護したの』
「そうなんですか。…………私達?」
『ええ、私と師匠と藤乃さん。私達はこの3人で行動しているの。この世界から速やかに元いた世界へと戻れるようにね』

師匠とは名簿にそのまま師匠とだけ書かれていた人物だろうか。
悠二はもう一度記憶の中を探るが、その人物もまだ誰とも縁のない正体が不明なままの人物であった。

「元の世界に戻る、ですか?」
『ええ、そうだけど。あなたたちは違うの? キョンくんならそう考えると思うのだけど』
「いえ、こちらも同じですよ。僕たちも元の世界に戻りたい。できれば、全員でです」
『ならよかったわ。私達協力しあえるわよね。そっちは何人なのかしら?』

電話から聞こえてくる朝倉の声が弾む。
事前に聞いてなければ彼女が宇宙人だとは気づけなかったろう。
もっとも今でも彼女が宇宙人だとは感じられないが、ただの前向きで明るい女の子としか認識できなかったはずだ。
しかし、フレイムヘイズには変人が多いからという訳ではないが、
逆にこの人当たりのよさが油断ならないのではと、悠二は僅かに緊張の度合いを高めた。

「こちらも今は3人ですよ」
『それはキョンくんも含めて? 今はってことはもう他にも仲間がいっぱいいるのかしら』

物怖じがないのか、それともこちらの隙を見逃さないのか。それが宇宙人だからなのか、声色からは全くわからない。

「……ええ、そうですね。何人かいます」
『んー、すこし歯切れが悪い感じかなぁ。もしかしてキョンくんから何か言われて警戒している?』
「正直に言うと、その通りです。あなたは物事を解決するのに殺人を厭わない、と」
『そうね、それは否定しないわ。
 キョンくんにも言ったけど、命というものに対して私はまだあなたたち有機生命体と同じ価値観を持っていないの』

それはぞっとするような言葉であり、また覚えのある感覚だった。

『でも私がキョンくんを殺そうとした理由まで聞いていれば解るのだと思うけど、
 今現在の私には彼やその他の人物を殺す理由が存在しないわ』
「そうですね。キョンも同じように言ってました。だから、あなたを探して協力を要請しようとも」
『――でしょう♪ だったら私達は協力しあえるわよね』

朝倉の声にまた喜色が浮かぶ。話としては今のところ何もおかしくはない。キョンの言ってたことにも誤りはなさそうだった。
なのに、悠二の心にはまだなにかすっきりしない部分があった。まとまらない漠然とした不安のようなものが。

696CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:35:37 ID:0SJ8MdD20
『それで彼はどこまで私のことを話したのかしら?』
「あなたと長門有希という人は宇宙人の作ったロボットみたいなもので、ほぼ万能だとか」
『うんうん』
「それで、あなた達の目的は涼宮ハルヒの保護と観察だと」
『キョンくんったらそんなことまで……、でも話が早いわ。
 聞いてのとおり、私達の……と言っても長門さんは死んじゃったので私ひとりだけど、目的は涼宮ハルヒの保護と観察よ。
 ここは彼女の観察に適した環境とは言えないから、今の目的は彼女を元に世界に戻すことね。
 勿論、キョンくんにも生きて帰ってもらいたいわ。こんなところで死なれちゃったら、それはそれで困るもの』
「それがあなたの優先順位ですか?」
『ええ、そうね。あなた達もこの事態の解決と元の世界への帰還を目指しているなら私達が対立する必要はないはずよ。
 もしここから出られる手段が宇宙船のようなものだとして、その定員が2人だけなら
 私は涼宮ハルヒとキョンくんを生き残らせる為に仲間やあなた達に危害を加えることになると思う。
 けど、定員が10名ならその必要性は下がると思うし、全員が帰れるなら全く必要ないことになるわよね。
 そういう方法を一緒に模索してみないかしら?』
「ええ、そうできるなら僕達もあなた達にとっても一番だと思います」

実に冷静で、冷静すぎる。口調こそ普通の女の子だが、悠二の印象としては朝倉はヴィルヘルミナに近いと思われた。
交渉するにあたり、情に訴えず、ある程度の手札を曝し、あくまで理性的な取引を求める。
こちらが仕事をする限り、むこうも仕事をしてくれる。契約するのならば理想とも言える相手だ。

「……質問しますが、朝倉さんの方では何か事件解決の為の取っ掛かりのようなものは見つけているんですか?」

キョンは長門有希が生きていればどうにでもできると言っていた。そして朝倉も同等の力を有していると。

『うーん、痛いとこを突かれちゃったかな。正直に話すとこちら側の収穫は今のところゼロよ』
「キョンはあなた達ならなんとかできるかもと言ってましたが」
『まず、私達そのものは外宇宙に存在する情報統合思念体が辺境惑星に用意した端末でしかないの。
 そして普段使用している力のほとんどは上位体からダウンロードして初めて使用できるものばかりなのよ』
「つまり、情報統合思念体というものにアクセスできないと普通の人間と変わらないってことですか?」
『普通の人間よりかは頑丈だし、能力も持っているわ。でも、確かにこの事態の中ではそんなに変わらないかもね。
 あなた達にわかりやすく言うと、ネットワークに繋がってないPCのようなものよ。
 プリセットされた能力は所持しているけど、それ以上はまず統合思念体との接続を回復させる必要があるの』

なるほど。と悠二は頷いた。これで事態が迅速に終息しない理由や、長門有希が死亡した理由は判明したことになる。

『期待を裏切ってしまったかしら? でも人間はこういう時、“三人寄れば文殊の知恵”って言うでしょう?
 上手につきあえるなら、協力して互いが損をするってことはないはずよ。どうかしら?』
「その通りだと思います。できるなら僕も朝倉さんとは会って詳しいことを聞いてみたいですから」
『じゃあ――』
「けど、僕の一存じゃ決められません。少しだけこのまま待ってもらっていいですか?」
『うん、いいわよ。
 ただ、こっちには“時は金なり”ってすごく怒る人がいるの。だからできるだけ早くしてね♪』


 ■

697CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:36:10 ID:0SJ8MdD20
「ふう……」

携帯電話を耳から離し、いつの間にかに前かがみになっていた姿勢を戻すと悠二は小さく息を吐いた。

「どうやら交渉を受けているようだな坂井クン。相手と相手が要求している条件を述べたまへ」
「なんだか難しい顔でよくわかんない言葉使ってたけど、もしかして脅されてるの?」

すぐさまに隣の水前寺が口を、そして気づけば座席の間から顔を出してこちらを窺っていた。

「相手はキョンが言ってた朝倉涼子って女の子だよ。実は宇宙人に作られたロボットらしいんだけどね」
「実に胡散臭くて俺好みだな。それで用件とは?」
「むこうは、彼女と師匠と朝上藤乃の3人でいるらしいんだけど、脱出の為に協力しないかって」
「なんだそういうことだったんだ。ウチは女の子が増えるのは歓迎するわよ」

美波はほっとしたと顔を緩め、その向こうで水前寺は正面を見たままなるほどと頷いた。
しかしこのなるほどは納得したという意味ではなく、そこまでは理解したという意味のなるほどだ。

「それで、相手は坂井特派員が即座に決断できないような無理難題をふっかけてきているのかね?
 例えば物資を全てよこせだの、命令権はこちらによこせだのとかかね?」
「いや、それはないよ。彼女達は偶然にこの電話番号を知って、ただ仲間になりましょうって言ってるだけさ」
「それに何か問題でもあるの? もしかしてウチらの中の誰かの仇とか……?」
「それもないかな。僕が浅上さんに変な電話をかけられたけど、他の人は今回がはじめての接触のはずだよ」

だったらなぜそんな煮え切らない態度なのか。と、水前寺と美波が眉根を寄せた。
無論、こんな状況だから誰かと接触するのならばそれは慎重ではなくてならないだろう。
しかしこれまでの悠二の行動は慎重さを持ち合わせながらも、いつも大胆で素早いものであった。
それが何故、今回に限ってこんなにも躊躇してしまうのか。それは悠二自身にも明確な理由は見当たらない。

「どこかに引っかかりを覚えるというのなら、それはまだ見落としている問題があるということだろう」
「そうかな? キノのことで少しナーバスになっているだけかもしれない」
「……キノのこと?」
「島田特派員。現在君のクラスの者に対してはそれはトップシークレットとなっている。
 皆と合流すれば改めて説明するので今は余計な詮索はやめたまへ」
「説明が面倒なら面倒って言いなさいよ。……クラスが低いってのはちょっとヘコむわ」

心の中で美波に頭を下げつつ、悠二は病院で見たあの光景をもう一度思い浮かべた。
この場所には善人のふりをして近づき、不意をついて危害を加えるものがいる。
もし、朝倉や彼女の仲間の中にそんな人物がいたとしたら――それが、不安の元なのだろうか?

「(それとも、僕は朝上藤乃と接触するのを嫌がっているのだろうか?)」

この事態が始まって早々にかかってきた電話の内容と、その後の想像により彼女の印象はかなりおどろおどろしい。
だから無意識に恐怖を抱き、それを遠ざけたい心理が働いているのかもと悠二は考える。
しかし考えても曖昧な不安の理由はわからなかった。曖昧な不安はそのままの形で心の中に残っている。



「接触に慎重になりたいのならば時間を作ればよい」

水前寺の声に悠二は顔を上げた。

698CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:36:44 ID:0SJ8MdD20
「簡単な話だ。待たせておけばいいのだよむこう側をな。
 我々は目下浅羽特派員を捜索中だということも忘れたかね?
 ならば相手方にはどこか適当なところで待っててもらい、こちらが後から接触する形にすればよかろう。
 その時坂井特派員がひとりで接触すれば、いざという時、戦えない我々が足手まといになることもないだろうしな」

ああ、と悠二は納得した。そう。むこうからもち掛けられた提案ならば多少こちら側の事情も鑑みてもらえるはずである。
それに元々、どちらかが場所を指定しなければ合流することはできないのだ。

「ありがとう水前寺。そうすることにするよ」

言って、悠二はもう一度携帯電話を耳に当てた。
なんなら接触する際にシャナを呼び戻してもいい。こういった事情ならヴィルヘルミナも賛成してくれるだろう。
そしてシャナとふたりであれば、どんな問題であろうと乗り越えられるはずなのだ。


 ■


「もしもし」
『結論はでたかしら?』
「うん、でたよ。悪いけど、今こちらは人を追っている最中なんだ。だからすぐに合流ってのはできない。
 だから時間を置いて、どこかで待ち合わせる形になるけどいいかな?」
『別にかまわないけど……その必要はもうないかもしれないわ?』
「え?」
『確認したいんだけど、あなた達は自動車で移動してるわよね。私、耳がいいから電話越しでもわかるのよ』

悠二は顔をあげてゆっくりと流れてゆく周りの景色を見渡した。
こちらが車で移動していることを知って、もう待ち合わせの必要がない。では彼女はどこから電話しているのか?

『実はこっちも車の中から電話してたんだけど気づいた?』

サイドミラーの中に見える後方の風景。その中に速度を上げてこちらに接近する車両の姿があった。

『そっちは救急車でしょ? こっちはパトカーなの。こういうのって奇遇って言うのかしら。どう思う?』

白と黒のツートンカラーに赤色のランプを備えた特徴的なデザインはまさしく日本のパトカーそのものだ。


『はじめまして。よろしくね♪』


サイドミラーの中で朝倉涼子が綺麗な笑顔を浮かべ手の平をひらひらと振っていた。






【E-4/市街地(映画館より北)/一日目・晩】

699CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:37:15 ID:0SJ8MdD20
【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ、湊啓太の携帯電話@空の境界(電池残量75%)
[道具]:デイパック、支給品一式、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 0:どうする?
 1:接触してきた朝倉涼子達に対応する。
 2:浅羽直之を探して保護し、ヴィルヘルミナらと合流する。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。

[備考]
 清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。


【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康だがフルボッコ、髪の毛ぐしゃぐしゃ
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!、救急車@現地調達(運転中)
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、
     ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達、
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 0:む?
 1:接触してきた朝倉涼子達に対応する。
 2:浅羽直之を探して保護し、ヴィルヘルミナらと合流する。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
[備考]
 伊里野加奈に関連する全てからの忘却を免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。


【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康だがフルボッコ、鼻に擦り傷(絆創膏)
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ、ヴィルヘルミナのリボン@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、
      フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して生き残る。
 0:え?
 1:状況を見守る。
 2:人を探す。
 ├親友の「姫路瑞希」をがんばって探す。
 ├「川嶋亜美」を探しだし、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
 └竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない「涼宮ハルヒ」を探す。
[備考]
 シャナからトーチについての説明を受けて、「忘れる」ということに不安を持っています。
 伊里野加奈に関連する全てからの忘却を免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。

700CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:37:48 ID:0SJ8MdD20
 【10】


「どうやら電話している間に偶然見つけることになっちゃったみたいだけど、こういうのってどういうのかしら?」
「さぁ、ただの幸運ではないですか」
「彼らにとっては?」
「これからしだいです」

師匠はパトカーを救急車の後方15メートルほどの距離まで近づけると、アクセルを弱めスピードを落とした。

「それで、私達はどうするの師匠?」
「交渉がうまくいっているのならこのまま事を推移させていいでしょう。時に情報は金よりも価値があります」
「了解。上手くやってみせるわ」
「警察署から逃げ出したキョンという人物から情報が伝わっているのだとすれば、網にかけられているのは我々です」
「なので決して油断はしないように――でしょ?」

姿を現したことに対してまだ電話の向こうからリアクションはない。向こうとしても対応を決めかねているらしい。
携帯電話で連絡を取り合っている以上、警察署での朝倉達の行動を見たキョンの情報が伝わっている可能性は十分ある。
とするならば、先程の待ち合わせという提案は罠だったのかもしれない。

「言っておきますが、いざという時はあなたも後ろで寝ている子も見捨てますからね」
「じゃあ私が師匠を見捨てても恨まないでよ」
「恨みはしますよ。理屈と感情は別の問題です」
「ほんと、有機生命体の思考って理不尽だわぁ……」



朝倉は携帯電話を持ちながら。師匠はハンドルを握りながら。そして何も事情を把握してない藤乃は眠りながら。
次の相手の一手を待つ。






【E-4/市街地(映画館より北)/一日目・晩】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:FN P90(35/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x17)@現実
      両儀式のナイフ@空の境界、ガソリン入りペットボトルx3、パトカー@現地調達(運転中)
[道具]:デイパック、基本支給品、医療品、パトカーx3(-燃料x1)@現地調達
      金の延棒x5本@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:目の前の集団と接触。仲間の情報を引き出した後、始末か利用かする。
 2:朝倉涼子を利用する。
 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?

701CROSS†POINT――(交語点)  ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:38:20 ID:0SJ8MdD20
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、長門有希の情報を消化中
[装備]:なし
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4(−水×1)、軍用サイドカー@現実
      シズの刀@キノの旅、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、人別帖@甲賀忍法帖、フライパン@現実、
      ウエディングドレス@灼眼のシャナ、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣、金の延棒x5本@現実
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する(?)。
 1:坂井悠二と通話を継続し、直接接触できるように計らう。
 2:長門有希の中にあった謎を解明する。
 3:師匠を利用する。
 └師匠に渡すSOS料に見合った何かを探す。
 4:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
 長門有希(消失)の情報に触れたため混乱しています。また、その情報の中に人類最悪の姿があったのを確認しています。
 長門有希(消失)の保有していた情報から、ゲームに参加している60人の本名を引き出しました。


【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態、腹部の痛み消失、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:湊啓太への復讐を。
 0:……むにゃむにゃ。
 1:電話があればまた電話したい。
 2:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
 3:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
 4:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 登場時期は 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。


 ■


【D-4/上空/一日目・晩】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ、メリヒムのサーベル@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品x1-2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン、
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:まずは神社に戻りヴィルヘルミナと合流する。
 2:その後、一緒に天文台へと移動し、今後の対策を練ってからそれに沿って行動する。
 3:百貨店にいると思われるフリアグネはいつか必ず討滅する。

702 ◆EchanS1zhg:2011/03/20(日) 21:38:53 ID:0SJ8MdD20
以上で投下を終了します。

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