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あ艦これ文藝部

193「9,」 ◆xbIVZZ4e4A:2016/01/11(月) 00:16:29 ID:HiyCcgBM
1月9日は特I型駆逐艦9番艦の日だと聞き、イソナミストとしては居ても立ってもおられず、
夜打ち朝駆けして某所に投稿したものの、ロビンに初めて挑んだプニキの如くに空振ったものを、
供養がてらに奉納します。落胆して下さい、非エロですよ!

――――――――――
《磯波善哉》

焼き網の上の餅がぷうっと膨らみ、吐息ほどの微かな音を立てて、割れた。
それを磯波は、菜箸で摘んでひっくり返す。
火に当たっていた裏面はキツネ色に焼け、真ん中部分に黒い焦げが出来ていた。
磯波は、もう一つの焼け具合が良ければ、この焦げたものを貰おうと思った。

台所にはふつふつと鍋の煮える音と、甘い匂いが広がっている。
その鍋の中を、磯波はゆっくりと、
焦がさないよう、豆を潰さないよう、丹念にかき回した。
木べらが濃紫色の湯面に、柔らかい波の弧を描く度に、
台所の甘い匂いが少しずつ濃くなっていくようだった。

鍋に煮える小豆は、はち切れんばかりにふっくらと煮上がり、
焼き網の餅も、食されるのを焦らされているかのように、白い顔を膨れさせた。
既に用意は万端と整っていたが、磯波は今少し待ちたいと思った。

鍋の煮える音だけが、冷めかけたぬるい空気をさざめかせていた中を、
掠れた金切り音が飛び過ぎる。
磯波はエプロンを掛けたまま、玄関へ小走りに急いだ。
「お疲れ様です、提督!」

そう呼ばれた男は、カーキ色の戦闘帽に付いた雪の粒を払いながら、
「ああ」と頷いた。
「官舎周りの雪は大体片付いた。
が、また降りだしたから、2時間もすれば元の木阿弥だな」
大した感慨も無さそうに云いながら、
彼は帽子を玄関の壁に設えられたコートハンガーに掛け、黒い外套を脱いだ。

「こいつは酷い」
自分のナリをそう評しながら、コートもハンガーに引っ掛ける。
上着もネクタイも着けていない、第一ボタンを外した第三種軍装の若葉色のシャツは、
前面も背面も両の袖も、汗でペッタリと濡れ、濃い色に滲みてズボンにまで及ぼうとしていた。

「今、タオルをお持ちしますね!」
「宜しく、お願いする」
磯波は脱衣場に向かおうとするほんの一瞬、
上がり框に腰掛けてゲートルを外す彼の背中を盗み見た。
湯気の上がる背中には濡れたシャツが貼り付き、
痩躯中背といえど堅牢そうな骨柄と、山猫のような肉付きが窺え、
磯波の鼓動を早くさせた。


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