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【№H】仔狐クリス【PL転校生】【確定】
3
:
流血少女GK
:2015/07/26(日) 15:26:31
◇◇◇
それは満月の光が妙に眩しい夜だった。
いつもの様に先輩は空を見上げている。
そして同じく私もいつもの様に、仔狐クリスの姿で先輩の様子を木陰から見守っていた。
ふと、パキッと音がした。
地面に転がっていた木の枝が不自然に折れたのだ。
距離は離れていたが、仔狐クリスに変身することで視力などの感覚器官の機能が向上している為、見逃すことはなかった。
不吉な予感がした。
その瞬間、先輩の後方に白い人影が現れる。
「――危ないっ!」
私は、迷わず走りだした。
その人影が何か刀の様なものを振り上げていたからだ。
仔狐クリスとしての身体能力を全力で振り絞って走った。
――白いフードの女性にまつわる不穏な話は此処数年、妃芽薗で噂になっているという。
「わっ、きゃあっ」
私は先輩の元にたどり着くと、先輩を抱えて白い人影から距離を取った。
白いフードの女性は、空振った赤い刀の様な武器を携え、こちらに歩み進んで来た。
「コレ以上、近づくな……!」
右腕のガントレットから、牽制の意味を込めてエネルギー弾を放つ。
エネルギー弾は、相手の武器に弾かれてしまったが、白いフードを被った女性は歩みを止めた。
こちらを見据える女性と私の目線がかち合う。
「……」
無言の時が続いたが、すぅーっと周りの空気に溶けるように、女性は消えた。
私はしばらく構えを解かずに、周囲を警戒していたが、特にそれ以降人の気配がすることはなかった。
「あの……」
構えを解いたところで先輩に話しかけられた。
そこで気づく。
さて、仔狐クリスの姿で初めて土星先輩の前に姿を表した訳だが、どう説明したら良いのだろう……?
「あのっ、危ない所を助けて頂きありがとうございました!」
90度を越える勢いで腰を折って、礼をする先輩。
……確かに危険な場面を救ったことになるのだろう。
だが、実感としてはあまり大したことをした気はしないので、こうも大仰に礼を言われるとなんだか戸惑ってしまう。
「いや、そんな……頭を上げてください。それより怪我とかないですか?」
「はい、おかげで怪我はしてないです。その、良かったらお名前とか教えていただけないでしょうか?」
「仔狐クリス、です」
「クリスさん、ですね。お礼に何かしたいのですが、何かご希望とかあるでしょうか?」
お礼……うーん悩みどころだ。
目下、先輩にしてほしいことと言えば。
「では、こんな遅い時間に出歩くのをやめてもらえませんか? 女性が一人で深夜に出歩くのはとても危険です」
「それは……ごめんなさい。できません」
「どうしても……?」
「はい。私は家族の様な存在をほぼ全て失いました。こうして夜空を見上げないと、その寂しさを埋めることはできそうにないんです」
成る程。やはり先輩は空を見上げている間、他の惑星のことを考えていたらしい。
私に置き換えて考えてみる。
寮生活なので家族と離れて生活しているが、家族のことを考えてホームシックになることは時々ある。
家族が生きている私でさえこうなのだ。
家族同然の他の惑星を失った土星先輩の寂しさは如何程だろうか。その寂しさを埋める行為を、強く否定することなどできない。
だけど、このまま一人で夜の散歩を続けさせるのも心配で仕方ない。
「では、夜出かける時は私と共に行動してくれないでしょうか? そうすれば、危ない時はすぐに助けられますから」
「わかりました。私としても大変心強いです!」
良かった。
これで毎晩こそこそと隠れる必要がなくなる。
「あと、もう一つだけお願いがあるんですけど、いいでしょうか?」
「はい。内容によりますけど、なんでしょうか?」
さっきから、ずっとむず痒いと思っていたことがあるのだ。
「その……タメ語で話してもらえないでしょうか? あと名前も呼び捨てでお願いします」
「……? わかりまし……わかった。理由は分からないけど、クリスがそういうなら」
再び胸をなで下ろす。
やはり安藤小夜としての私に対しての口調と同じ口調で話してもらえる方がなんとなく気が楽だ。
こうして私達は毎晩一緒に過ごすことになったのだ。
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