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【№K】素極端役 蘭(サブGK)【PL転校生】【確定】

2流血少女GK:2015/07/26(日) 14:49:43
■エピソード

「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ! メロウズにようこそ!」

さわやかな挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
人魚の庭に集った乙女たちが、挨拶を受けて歓声を上げながら、ひとりひとり観光バスの出入り口から降りてくる。

汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツはちょっぴり乱して、セーラーカラーを翻して、たしなみも忘れたはしゃぎ様。
もちろん、移動中にねこけて涎を垂らしているはしたない生徒なんているはずも……あ、1人いた。

……なんて、かつて流行った少女小説のような書き出しでごまかしてみても、ちょっとはしゃぎすぎな感はあるなあ。
あと、きっちり施設名入れてる辺りがあざとい。
と、挨拶の声を上げながら私は思った。


ここは海浜リゾート「メロウズ」
(いや、正確には「メロウズ」付属のホテル「メロウズホテル」前のバスターミナル、だけどさすがにここまで細かい情報は必要ないよね)。
2009年創立のこの施設は、かつては一部華族の保養所だった時代さえあるという由緒ある土地柄のこの地に、突如喧嘩を売るような形で出現した商業主義の一大リゾート施設群である。
私がここに赴任になる以前の話だが、建設に際しての説明会はたいそうな大揉めで、無事着工にこぎつけ創立できたのが不思議なほどだ……というのは、私の前任の人に聞いた話。
それは完成してからも同様で、出来たばかりのころは反対運動家たちが列をなして日参してくるほどだったという。
でも、立地と場所、そして結構な弾丸(ゲンナマ)を駆使した広告攻勢が功を制してか、11年たった今ではこの地域の基幹産業の一つにまで成長した。
それによって、反対派の声はだんだん小さくなり、今ではほとんど見ることもなくなった。
表向きはね。
おっと、これは別の話だった。

ともかく、紆余曲折があって「メロウズ」は今もここにある。
で、リゾート施設が運営されて好評を博してるってことはお客さんが来ているってことだ。
たった今大量の観光バスに満載されていらっしゃった女子学生の皆様も、お金を払うのは彼女たち自身ではないにしろ、お客様には違いない。
私立妃芽薗学園。
奇しくもこの「メロウズ」の設立と同時に創立された、やや新興のお嬢様学校。
その学生さんたちが、「メロウズ」の今日からのお客様。臨海学校だそうだ。
ちなみに、全施設貸切だって話。うひゃー、いくら払えばそんなことができるんだろう。
私の給料何年分になるのかなー。
……。
……世知辛い話はやめよう。
彼女たちに笑顔を振りまかなきゃ、私のお給料はそもそも出ないんだから。
世知辛い思考は笑顔を曇らせる。それが私のここ十数年のモットーなんだからね。
だから私は、ちょうどバスから降りてきた少女に一礼し、言う。

「メロウズにようこそ!」

白い帽子の彼女は、にっこりと笑い返してくれた。

「ありがとう。ええと……スゴクハヤク、さん? 変わった苗字ですね」
「え?」

一瞬きょとんとしてしまうが、そういえば私は名前付きのプレートを胸につけていたのだった。不覚。

「あはは、よく言われます。ええと」
「鮫氷(さめすが)、です。鮫氷しゃち。さめにこおりって書いてさめすが、です」
「かっこいい苗字ですね! あ、私は素極端役 蘭(すごくはやく・らん)。こちらのホテルでの皆さんのフロント業務を担当させていただきます」
「じゃあ、しばらくはお馴染みさんですね。よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。いってらっしゃい!」

手を振って彼女がホテルに入っていくのを見送る。
楽しい臨海学校になるといいですね。私は心の底からそう思った。


まあ、その思いは数日後には全力で裏切られることになってしまったんですけど。


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