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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part6
1
:
名無しリゾナント
:2015/05/27(水) 12:16:33
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第6弾です。
ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。
(例)
①
>>1-3
に作品を投稿
②
>>4
で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③
>>5
で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら
>>6
で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告
ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp
948
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:07:33
「お店を経営してて、まるで、そう、学校のような家庭のような雰囲気があるんです」
「へえ?店を?そんなにも若いのに」
「ああいえ、私はまだ駆け出しなのでお手伝い程度しか。
でも先代達からずっと受け継いでるんです。やり方はずいぶん変わりましたけど」
「一度行ってみたいもんだねえ」
「ぜひ来てください」
ふと、加賀は思った。
言ってはみたものの、譜久村達の判断なしで招待してもいいのだろうか。
明日聞いてみた方がいいだろう。謝罪と共に。
当たりがないらしく、男が釣竿を握る右手首を返す。
釣竿の先の意図が銀の曲線を描いて戻り、釣竿を左手に取る。
また釣竿が振られ、糸と針が夜空を飛翔していく。
「私はずっと仕事の毎日だったからね。毎日毎日、飽きもせずに。
何度も縁はあったが、それも全て蹴って仕事に明け暮れた。
だが、最後の最後に親友だった男が裏切った。あいつはただ
利用できる人間を捜していただけなんだ。全ての厚意すらも。
だからどんな小さなことでも良いから恩を返したくて海の家を引き取った。
……数十年にも叩き込まれた警官の正義感でも、誰の心をも動かす事は出来ない」
暗い海面に釣り針を投げ込み、しばらくして手首を返し、糸を戻す。
釣り針には、漫画の様に海草が引っ掛かっていただけだ。
海草を外し、男は再び釣り竿を力強く振る。
釣り針は夜空を飛翔していき、海原に落ちた。
空から夜は去っていき、水平線の端が紫に染まっている。夜明けは近い。
949
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:08:11
「君達はまだ若い。だから、何度でも挑戦する事が出来る。
何度でも、何度でもね。それが人生さ」
「それは誰もが持ってる特権ですよ」
「……そうだね。もう少し、頑張る事にするよ。
君達の厚意を無駄にしないために」
背後から足音。
顔を向けると、突堤の根本に人影。横山と工藤が歩いてきていた。
「あ、おじさんこんばんわ。あ、おはようございますかな?」
欠伸をしながら工藤が進んでくる。
「午前10時まではおはようございます、らしいですよ」
「ふうん。加賀ちゃんもおはよう」
「おはようございます。どうしたんですか」
「迎えに来たんだよ」
「その割には遅かった気がするんだけど」
「二度寝しちゃったから多分そのせいかな」
「完全にそのせいでしょ」
加賀の言葉に横山が笑った。笑って受け流した。
950
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:10:18
「小田ちゃんが言い過ぎたってちょっと落ち込んでたんだけど
睡魔に負けて眠りこけてる」
「いえ、私もちょっと大人げなかったです。すみません。あとで謝りに行きます」
「加賀ちゃんは真面目というか、もうちょっと言ってやってもいいんだよ。
もう知らない関係じゃないんだからさ」
「……じゃあ、これからはもう少し言わせてもらいますね、たくさんありますから」
「あら、これはちょっと焚きつけ過ぎたか」
三人は再び海へ目を戻す。
暗い先の空が、紫から赤となっていく。
そして銀色の光が現れ始めていた。
「来たっ」
男の声で横を見ると、釣竿が揺れている。
一気に急な曲線を描いていくと、糸の先、浮きが上下し、沈んだ。
釣り針にかかった魚が、糸を右へと引っ張っていく。
海を右から左へ横切る。銀の線。
獲物はとんでもない速度だ。男の体も左へ流れる。
加賀は慌てて横から男が握る釣り竿を掴む、凄い引きだ。
「こいつあ二人でも無理だ。この竿の強度でも持つかどうか」
「おじさんっ、人手集めてくるから頑張って!かえでぃーも頼んだ!」
「力任せに引っ張らずに魚を泳がせて弱らせましょう!」
「あ、ああ分かった」
「私も手伝うっ」
三人で息を合わせて釣竿を操る。
951
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:13:29
竿先が一体なんの素材で作られているのかは分からないが、凄まじい曲線にも
耐えているという事はよほどの業物なのだろうか。
だがこれならば最悪の場合にも折れる事はない、ならば考える事は一つだ。
加賀も釣りの技術や経験が高い訳ではないが、基本知識ならある。
彼女の掛け声に男は糸を巻いては泳がし、泳がしては糸を巻き、魚を寄せていく。
「連れてきたぞ!あたし達はどうすればいい!?」
「とりあえず網の準備を……あ!」
「うわっ、なんだありゃ!」
十数分の格闘で距離が縮まっていた先、赤紫の波間に銀鱗が見えた。
三人が竿を引くと、海原を蹴立てて百、いや二百センチを超える大魚が跳ねた。
青に赤、緑の鱗。
無表情な魚類の目が、明けていく夜空から見下ろしていた。
巨体が波間に落下して、水しぶきを立てる。
「あれですっ、あれです工藤さんっ、あかねが見た影!」
「まさかあれがあの穴を作った犯人?」
「人じゃないから、犯魚ですかね」
石田と羽賀の背後から眠気眼の譜久村と小田も現れる。
尾形、牧野、野中はやはり熟睡中のようだ。
「よし、釣りあげるぞ!」
「能力使わないの?」
「でもおじさんも居るし、下手な事するとバレちゃいますよ」
「大丈夫ですよ工藤さん、絶対に逃がしませんから」
952
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:14:30
工藤は二人の背中を見つめている。
男が汗を滲ませている中、加賀と横山にはまだ余裕があるように見える。
「おじさん、大丈夫ですか?」
「ああ、手が痺れてるが俺が頑張らないとな。一緒に釣りあげよう」
「はい。よこももうちょっと頑張って!」
「分かってる、よおっ」
二十分近い格闘で、釣り糸は突堤にかなり引寄せられていた。
魚も弱ってきているが、あまりの大物で糸も限界に近い。
勝負に出なければ、負ける。
「おじさん、よこ、合図したら竿を引いて…………………せーーーのっ!」
三人は呼吸を合わせて、一気に竿を引く。
海面が弾け、大量の水飛沫とともに大魚が空中に引き上げられる。
全力で釣竿を引く、加賀の目が僅かに朱色に染まった。
放物線を描き、大魚が突堤に落下。
水中の銀鱗は、コンクリートの上で青や赤、緑の鮮やかな体色を見せる。
953
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:15:42
背鰭や尾鰭を振り、水を散らして大魚は突堤のコンクリートの上で跳ねる。
浜釣りの装備でよく釣れたと呆れるほどの大きさを誇る。
突堤の上で魚がまた跳ねる。
押さえようと伸ばした加賀の手から魚が逃げる。
男が先に居る工藤へ顔を向けた。
「網を!」
跳ねるように工藤が動き、男の構えた網で大魚を捉える。
青い網のなかで魚が暴れるが、徐々に落ち着いていった。
「やりましたね」
「ああ、はは。大きいなあ」
男が初めて心の底からの笑顔を浮かべた瞬間だっただろう。
横山も予想以上に大きな獲物に珍しいのか、加賀の肩越しに魚を見ている。
「やったね、凄いよかえでぃー」
「横山ちゃんも頑張ったね」
譜久村や石田から賛美され、笑顔を向き合って浮かべる二人。
羽賀と小田、工藤は腰を下ろして大魚を見下ろしていた。
小田が首を傾げ、少し神妙な表情を浮かべている。
954
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:16:41
「まさかこんな魚がこの海に居たなんて」
「でも凄い色してますよねこれ。こんな模様見たことない」
「だってそれ、普通の魚じゃないですからね」
「え?」
「残念ですが、それ食べられないです」
全員が小田の言葉に呆けたが、石田が反射的に口を開く。
「ちょっと小田ちゃん、またそんな空気読まない事を」
「不味いですよ。強烈な味で人が簡単に死んじゃいます」
「まさか、猛毒持ってる?」
「数年に一度しか見られないので希少価値は高いです。
でも食べるとなれば……止めませんよ?」
「止めなさいよ!全力で止めて!洒落になんないから!」
小田が優しい毒を含む微笑みを唇に宿す。
食べる為の釣りだったが、大魚の自然の防御が上回る。
魚は網の下で跳ねている。悲鳴が上がって思わず吹き出す工藤。
「なんだよこのオチーっ」
工藤の笑いに誘われて他の面々ももはや笑うしかない。
955
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:22:47
「あーあ、楽しみだったのになあ。私もう焼いてるイメージ出来てました」
「でも確かあかねちんが食べられないんじゃなかった?」
「今心底ホッとしてるでしょ」
「……えへへ」
「はーもう何この状況、ウケルんだけど」
笑い終えて、魚の処遇を考えたが、人の手が入らない沖合いに帰す事となった。
元々沖合に棲みついていたが、荒波に揉まれて浅瀬に留まっていたのだろう。
砂の穴は毒魚の特性によるものだと断定付けられた。
それによって被害者が出てしまう事態になったが、これでもう事故は起こらない。
きっと。
「ありがとうな」
男は何故か魚に感謝していた。強敵への賛辞にも似た爽快さを込めて。
その場には立ち会わなかったが、沖へ斜方投射された魚は頂点から放射線を描き
大海原へと落下すると、毒魚として雄々しい巨体に背鰭の戦旗を立てて帰っていったという。
「見て、赤い林檎だよ」
「何その表現、かっこつけー」
「でも長い夜だった気がします」
「ホントにね」
「寝オチしてたヤツらが言うことじゃないけどなー」
956
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:23:35
海原の左側から太陽が姿を現し、巨大な黄金の林檎となって陽光を投げかけていた。
「じゃあ帰ってもうひと眠りしようか」
「あれ、でも今日も警備の仕事が」
「大丈夫だよ。お昼からでも。途中で寝ちゃってもダメだしね」
「リーダーにさんせーい」
「よし、じゃあ帰ろう」
朝日の眩しさを片手で防ぎ、譜久村が告げた。
反転して突堤を戻っていく。彼女の背にそれぞれが続いていく。
加賀が男に礼を言って走り去っていくと、それを見届けた。
全員が笑い合い、進んでいく。
数時間後には予期しない、新たな出逢いを迎えるとは知らずに。
Continued…?
957
:
名無しリゾナント
:2017/09/07(木) 20:33:48
>>947-956
『黄金の林檎と落ちる魚』以上です。
お疲れ様でした。これで今年の夏を終われそうです…。
実はこの後、三人と合流して新しい子との絡みをと思ったんですが
工藤さんの記念作品に着手したいのでここまでとさせて頂きます。
ありがとうございました。
958
:
名無しリゾナント
:2017/09/27(水) 13:04:08
紅い刃が大地へ斜めに突きたつ。
反対側からはダガーナイフが交差して刺さる。
交差する刃の峰で、太陽の光が切断された様に煌めいた。
「はー、くどぅーもタフだねえ。風邪はすぐ引くクセに」
「やー鞘師さんこそ、よくもまあそんなに血を出して元気ですね。
貧血だからすぐ寝ちゃうんじゃないですか?」
鞘師里保の言葉に、戦闘訓練の直後の為、工藤遥かの息が乱れながらも言った。
笑う鞘師の隣に工藤が座り込む。
二人して”リゾナンターの為の秘密の特訓場”という名の丘に並んで
沈みゆく夕日を眺めていた。
「まあ、えりぽんよりは加減を知ってるから、訓練相手には助かってるかな」
「生田さん凄そうですよねえ。この前もボロボロになった二人が
鈴木さんに怒られちゃって、まるでお母さんみたいでしたね」
「あっはっは。香音ちゃんがお母さんか。くどぅーにはそう見えるって
香音ちゃんに言っておくかな」
「やっぱり譜久村さんですか、好きですねえ」
「くどぅーもじゃないの?一回触ってみれば?ハマるよ?」
「ハルは同意なしでハグしてますから、じゅーぶん堪能してます」
「む、なにそれ、うちだってフクちゃんのあーんな所やこーんな」
「分かってますって。そんなムキになんないでくださいよお」
「もう訓練に誘わない」
「ごめんなさい調子に乗りましたごめんなさい。次の依頼のためにどうしても
鞘師さんと組手してもらわないと。相手がちょっと強いみたいで」
「大丈夫だよ。ちゃんとやれてる。今のくどぅーなら負けない」
959
:
名無しリゾナント
:2017/09/27(水) 13:04:44
茶化さない、真面目で率直な感想に、工藤の唇が緩む。
鞘師は事実を言う。嘘は言わない。言えない、というのが正しいだろうか。
「チカラの使い方、人との触れ合い方、うちもずっと
悩んでた所だから、その苦労もちょっとは分かるよ」
「なるほど」
「うん。でも、本当によく乗り越えたなって、凄いと思う」
工藤が見ると、鞘師の横顔には夕暮れのような憂いの表情が浮かんでいた。
「うちは、まだまだだなって、そう思うぐらいに」
「何言ってるんですか。鈴木さんも言ってましたよ。
鞘師さんが皆を助けてくれてるって。ハルもそうだなって思うし
まーちゃんなんて鞘師さんに頼りきってる所あるし」
「あー、優樹ちゃんはほら、皆でサポートしてる部分あるから」
「でも、鞘師さんの存在は大きいですよ。それは、認めてます、皆」
不安そうに見つめる工藤に、鞘師がおかしそうに吹き出す。
960
:
名無しリゾナント
:2017/09/27(水) 13:05:30
「何で笑うんですか」
「いや、優樹ちゃんもさ、そんな顔をして言ったなあって。
ずっと一緒に居ようねってメールまでくれて」
「まーちゃんも感謝してるんですよきっと。素直じゃないから
本人には言わないけど、本心ですよそれも」
「うん。ありがとう。くどぅーだと説得力あるよ」
片膝を立てて座る鞘師の目は、前方を眺めていた。
夕日が橙色の煌めきを放ち続ける。
「綺麗だね。うち、オレンジ嫌いじゃないよ」
鞘師が再び告げた。工藤も暮れなずむ風景を眺める。
言われてみれば、訓練と戦闘が連続する半生で、こんなにも世界を
ゆっくりと見送った記憶が無かった。
リゾナンターはたくさんの感情を見てきて育った傭兵の様なものだ。
工藤もまた、ある機密的な異能者養成所で戦線に向かった事がある。
子供ばかりの傭兵たちに紛れて、夕日の下での悲喜劇を見てきた。
リゾナンターとして戦線に向かうのも、実はあまり変わらない。
生まれて死に、殺し殺されることが繰り返される光景。
目の前で倒れ伏す姿も見てきた。
乾く喉に血溜まりの川。溺れる屍に滑る肉。乱れる息。流れる汗。
工藤の胸の内で何かが軋む。
「消えちゃうのが勿体ないね」
「はい……でも、また明日見れますよ」
「そうだけど、今日だけしか見れないよ、この色は」
961
:
名無しリゾナント
:2017/09/27(水) 13:06:05
鞘師が告げる。先ほどの何かを無視して、工藤も肯定する。
世界が美しい。世界は美しい。残酷でも悲劇でも受け入れる、世界は、広い。
座る工藤の右手が動く。
大地に刺してあるダガーナイフではない、体毛が覆われた、鋭い爪。
鞘師が怪訝な顔を浮かべる。一閃。
紅い一閃、鮮血、問う鞘師との間で、静かに、殺意が芽生える。
「何で?この手は何?」
「ハルにも、分かりません」
他人が鞘師を殺すかもしれない。工藤は敵に復讐するだろう。
だが工藤は、それ以前に鞘師をどうにかしなければいけない気がした。
理解できないままに鞘師の上段の切り下ろしを工藤の爪が迎撃。
二つの彗星が激突し、離れていく。
鞘師の右上腕が切られて鮮血が噴出。工藤の右肩にも痛みと出血。
両者が追撃を放ちつつ駆け抜け、チカラが激突、拮抗。
裏切り、狂乱、工藤の顔裏から伸びていく体毛、浮き出る口角。
もう工藤の面影は、顔から半分のみとなっていた。
「何で急に、それはくどぅーの意志なの?」
「分かりません。分からない、分からないんです…!」
突きに薙ぎ払い、上段下段、左右と数十から数百もの紅線となって
双方の間で刃と爪が激突する。胸は激痛を訴えていた。
962
:
名無しリゾナント
:2017/09/27(水) 13:06:49
ア゛ウォオオオオオオオオオオオオオ!
工藤遥だった”獣”が人間とは思えない咆哮を空に吐き出す。
「くどぅー!」
訓練時の比ではないほどの閃光の嵐。
工藤は叫んでいた。心の底からの叫びだった。
既に自分が「大神」になった事を理解し、苦痛を訴える。
せめて鞘師に止めてほしい。今ならまだそんな心が残っていた。
この一片の良心が消えない内に、工藤は自身の命を止めるべきと考える。
「工藤、それでいいの?それで本当に……うちは……止めなきゃいけなくなる」
鞘師が構えをとる。”獣”の背筋が冷える、凄絶な構えに絶望する。
赤い刃は獣の頭部と身体を分断した。
跳ね飛ばされる頭部が丘の芝生に堕ちていく。
半生で最高の一撃といっても良いぐらいの、歪みのない切っ先。
貫通した刃先は背後の大木すら両断し、上半分が横倒しになり、重々しい音を立てた。
夕暮れに散った葉の間に、頭部の体毛がざわめく。
鮮血と共に獣が横へと倒れていく。
「工藤、ごめん。出来ないよ、うちには」
跳ね飛ばされた頭部が体液となって地面に染み込む。
純白の体毛に覆われた強固な骨格と筋肉は、”カワ”となって彼女を護る。
視神経や脳髄を切り離された”カワ”に意志は無く、”カワ”に覆われた
小さな工藤遥はまるで赤子のように丸まり、腹部の位置で生きていた。
赤ずきんが狼に食べられたかのように幻想的な異能。
筋肉、皮膚、体毛、骨格ですら自分のものではない、擬人化。
963
:
名無しリゾナント
:2017/09/27(水) 13:09:01
「……うちは、やっぱりこのままじゃいられない。
咲いても朽ち枯れるだけなんて、うちには出来ない。
世界を見るべきなんじゃうちらは、例え一人でも、独りじゃないから」
工藤の意識はまだ、あった。
思わず左手で自らの唇に触れる。唇は両端が上がり、半月の笑みを作っている。
笑っていた。工藤遥、笑っている。
「工藤、最近血の匂いがするけど、何をしとるんじゃ?」
心臓が跳ね上がる。体液もそのままに、工藤は体を起こす。
洗い流している筈の事実を、鞘師はきっぱりと言い当てた。
「うちにはもう何も出来ないけど、皆が居るから心配はしない。
きっと皆がなんとかしてくれる。くどぅーも、独りじゃない」
虚ろな視線の中に飢える光。工藤は何も言えなかった。
舌にこびり付いた血の味が鮮明に思い出せる。
本能が、吠える。
肉を食み、血溜まりの道を舌で這い舐めながら、どこに行けばいいと啼いていた。
964
:
名無しリゾナント
:2017/09/27(水) 13:12:43
>>958-963
『銀の弾丸Ⅱ -I wish-』
内容的に続編にするべきか悩んだのですが、この形になりました。
投げ出さない様にオープニングだけ置いておきます。
シリアス路線なので基本は深夜投下とさせて頂きますがよろしくお願いします(土下座)
------------------------------------ここまで
またしたらばでお世話になります…。
965
:
名無しリゾナント
:2017/10/16(月) 03:38:30
それは決戦前夜。
以前の日常を捨てるように前に進むための戦いへ。
体力温存のために僅かな休憩をする事となった。
異能者である以前に、彼女達は人間。
眠気眼が見開かれた先に、静かに佇むのは頼りの仲間。
「おはよう愛ちゃん」
「ごめ、どれぐらい経った?」
「まだ30分しか経ってないよ。皆まだ眠ってる」
「ガキさん交代しよう。あーしはもう良いから」
「その前に、愛ちゃんにもう一度確認したい」
「……二度は無い。もう引き戻れんよ」
「いくら生まれがあの組織からだとはいえ、愛ちゃんは
普通に暮らしても良いんだよ。全てを私に被せれば
あっちは今の生活を約束してくれる。
スパイである私を差し出せヴぁ…」
頬を摘ままれ、言葉が濁る。
その姿に笑って、歯を見せた。
「あーしが望む世界にガキさんがおらんのは、ちょっと寂しいな。
生きてさえいれば全てが上手くいく。そう思わんか?」
「…たくさんやりたい事、あったんじゃないの?
引き戻せないなら、二度と引き戻せない可能性だってあるんだ。
その可能性の方がきっと高い。やりたい事が全部消えるよ」
「いつも思うけど、あんたは頭使いすぎやよ。
もっと良い方に考えればいいのに、そのおかげで今までも
たくさん助けてもらっとるんやけどね」
「この道は真っ暗で、闇に溶けこんでる。まるで光が小さく見えるの」
「皆で照らせば怖くないやろ。頼りない光を、大きく皆で囲って。
ガキさんも一緒に囲ってくれるやろ、小さな、本当に小さな光を」
「…全部終わったら、どうするの?」
966
:
名無しリゾナント
:2017/10/16(月) 03:39:29
「そうやなあ…もっと光を増やす、かな。九人の光が小さいなら
もっともっと増やせばいい。あーしらの共鳴はそのためのものやから」
「もし、この戦いで減ってしまうことになったら…?」
「考えは変えん。この希望を途絶えない事が、あーしらに出来る小さな
光だと思っとる。増やす事がきっと、あーしらの運命とやらの願いやよ」
「…分かった。もう何も言わない。私もその希望、見てみたくなった」
無数の星々が煌めき、散っていった。
静かな世界が大きく揺るがされ、半数を失って、光が、現れる。
九つの光が瞬き落ちていく姿に誰かは両手を上げる。
掬いとった光に繋がれた細い線と、結ばれた共の心。
「どうしたとーみずき」
「ん?いや、なんか今星が落ちてった気がして」
「え?それ流れ星やないと?」
「そうなのかな?一瞬だったからよく分かんなかった」
「願い事を聞く暇もないって感じやんね。伝説だし」
「でも伝説になるぐらいなんだから、誰かは叶ってるのかも」
「叶わないから希望として伝説になったんやない?」
「えりぽんならどうやって願いを叶えてもらう?」
「そんなの、手と足で叶いに行くに決まっとるやん。努力努力」
「努力でも叶わないってなったら?」
「そんな事絶対ないから。人が努力しないって事ないから」
「どうして言い切れるの?」
967
:
名無しリゾナント
:2017/10/16(月) 03:40:28
「努力してなかったら、途中で諦めたりせんよ。本当に努力を
したことがないっていうんなら、苦しい事すらせんって」
「ふうん、そういうものなのかな」
「その証拠がえりだから」
「そっか。そうだね」
コーヒーの匂いが辺りに漂う。
壁には色褪せた写真の隣に、新しい写真たちが並ぶ。
常連客の中で譲渡の声を何度も聞くが、その予定はない。
再びその景色を眺める先輩の懐かしい表情を見てしまえば分かるだろう。
料理の詰まれた皿にフォークを刺し入れ、口に含む。
何十種類ものオリジナルレシピのノートを全て頭に叩き込んでいる。
いつか先代達に披露できるよう腕を訛らせない様に何度も作る。
「じゃ、そろそろ寝るよ。明日も早いけん」
「おやすみ」
「みずきー」
「んー?」
「…なんでもなーい」
明日もよろしく。その次の日も。そのまた次の日も。
星が散って、落ちていく。
辿り着いた先でもまた、多くの光に囲まれるだろう。
自分の手と足で集まれ光よ、胸の高鳴る方へ。
968
:
名無しリゾナント
:2017/10/16(月) 03:46:08
>>965-967
いい気分だったので保全作を載せてみました。
969
:
名無しリゾナント
:2017/10/16(月) 21:43:36
ごめん、約束の作品間に合わなかった
970
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:04:52
「はー…疲れたっと」
頭を下げた宇宙人のような街灯が、夜道に白い光を落としている。
街灯に羽虫が群がっていた。
蛍光灯にぶつかる音が夜に響く。
駅前ならともかく、アパートや個人住宅が並ぶ地区に人通りは少ない。
言い訳のように街灯が光を放つ夜道が延々と続いている。
噎せ返るような湿気を含む夜と、汗で肌に張り付くTシャツがただでさえ
暑い八月の夜をさらに不快にしている。
日本はそろそろ亜熱帯になってるんじゃないかとさえ思えた。
若者にありがちな、この現実は何か違うという自己逃避と切って捨ててしまいたい。
学生時代から今まで、全てに違和感がある。
なにかの遊びに思えて、世界がふわふわしていた。
なぜみんなは真剣に現実を受け入れているのだろう。
この焼かれて溺れてしまいそうな現実は理解できない。
「理解できても、きっと私はすぐに見捨てるだろうけどね」
一人呟いて、足でアルファルトを強く踏む。
そうえば今、あの店には誰が居るのだろう。
喫茶『リゾナント』はこの地一帯ではもう十年の節目を迎えた。
そこでは彼女、飯窪春菜は成人しているという事もあって責任者を任されている。
マスター代理は譜久村が担っているが問題はない。
最初の頃は不安がなかったわけではないが、今ではしっかりと責務をこなしている。
張り合いのある仕事は楽しい。未来は明るい。
このまま生活を送るのなら、それはそれで幸せな事なのだろう。
「きゃっ、何?」
971
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:05:43
靴の裏で何かが潰れる感触で、思わず飛び退く。
薄紙の塊を潰したような感触だった。
街灯の楕円が作る円の外れ、アスファルトの上には、虫の死骸があった。
羽はちぎれ、体液がスファルトに染みを作っている。
夏につきものの蝉だった。
「いいい……うそ、でしょー…」
路上に蝉が留まっているわけがない、元々ここで死んでいたのだろう。
ついていないというか、気持ちの悪さが勝る。
可哀想という気持ちが芽生えたのは、死骸の上を越えた後だった。
手を合わせて顔を上げると、半分の月が夜空に捧げられている。
まるで満月だったのに誰かが噛みついてしまったみたいだ。
喫茶店に辿り着く。
「Clause」のプレートが揺れて、微かに鳴り響く鐘の音。
だが本当に微かな音だった為に、店内からの反応はない。
そもそも、もしかしたら誰も居ないのかもしれない。
「まあ、明日には帰ってくるよね」
972
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:07:09
依頼の数も増加したり減少したりとバランスが悪い。
向かう人数もその時による上に、帰宅時間も一致しない。
ここ一週間のリゾナンターは多忙の毎日を過ごしていた。
飯窪も今しがた依頼を終えて帰宅したのだ。
喫茶店の風景も少し寂しそうに見える。
「明日からお店も開かなきゃいけないし、忙しいなあ」
以前は居住区として利用していた二階には空き部屋が三つある。
一つは空き部屋というよりロフトだが、そこは荷物置き場と化していた。
休憩室としてのリビングを抜けて、飯窪は違和感を覚える。
「あれ?」
テーブルの上に、鞄が乗せてある。
それはポシェットに近いサイズで、メーカーのマークが縫われている。
誰のかは判別できないが、触れて持ち上げてみるとそれとなく重量を感じた。
何かが入っている。
良心が痛むが、名前すら書いていないとすると中身を確認しなければ
このまま放置も出来ない。
チャックを引き、飯窪は覗き見をするように真上から見下ろす。
予想していたものと遥かに違っていて、一瞬怪訝な顔を浮かべた。
手を入れて、それを持つ。
973
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:08:04
「なにこれ」
その数は十四、弾丸だった。
個人が所持しているゴム弾とは違って先端が尖った銀製の小口径。
初めて見るものだったが、どうしてこんなものが放置されているのだろう。
飯窪の体が固まる。
背後の扉の奥から物音が聞こえ、息を止め、耳を澄ます。
立ち上がって、扉の前へと足を運び、耳を押し当てる。
空き部屋の筈だ。
鍵は一階の厨房にあるが、その場所を知っているのはこの店の関係者のみ。
どんな用事があろうとも滅多に開かれることは無い。
音は一種類だけではなかった。
ねちゃねちゃとした音と、途切れ途切れに熱を帯びた声。
心がざわざわと騒ぐ。
扉の前に静かに寄り、声を聴きとろうとする。
「ねえ、今どんな気持ち?当ててやろうか?」
部屋に踏み込みたくなる衝動を堪え、さらに聞き耳を立てる。
快楽に咽ぶ声の主に気付いて驚愕の色を隠せない。
「もしかして照れてんの?こんなにドキドキしてさ…。
この一瞬だけはハルも、緊張するよ…………はあぁ。
やっぱり、ハルの孤独を埋められるのは君だけだ…!」
974
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:08:52
瞬間、頭の内部で何かが切れた。
数百種類の恋愛漫画による妄想空想の嵐の中で、理性を保つ。
興奮と好奇心が今までの思い出を脳裏で真っ赤に染め上げる。
「どぅー!」
リビングに通じる扉を細身の腕でぶち破ろうと勢いをつけるが
外側に開くタイプだった為に一瞬態勢を崩す。
「っ、もうっ。どぅー!皆がいないと思って、誰と、なに、やって…」
再び内側に勢いよく足を踏み入れたが、飯窪を責める声は続かなかった。
ここでラブコメなら、彼女は実はテレビの猫だかドラマだかの映像でも
見て騒いでいて、少し卑猥に聞こえたみたいな展開が待っていただろう。
現実は予想の斜め上を行く。
手に持っていた弾丸が落ちた。床を転がっていく。
転がっていくフローリングの床の先には、一面に青いビールシートが
敷かれており、視界がカメラのように一部分ずつ切り取っていく。
分厚いシートの上には赤い水溜りが大量に出来ていた。
赤い水に弾丸が浸かる。
青いシートの中央にだらりと投げ出されているのは、長い肉片。
975
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:10:26
青白い肌の先に五本の指。指の先には爪があると、当たり前のように確認。
何をどう見ても、人間の腕だった。
肩の下から切断された右手がビニールシートの上に転がっている。
断面には白い骨と赤い肉、皮膚の下の黄色いイクラのような脂肪の層が見えた。
腕の先、部屋の奥へと視線が動いていく。
糸鋸に鉈、柳刃包丁に肉切り包丁、ハンマーにナイフという凶器が
青いビニールシートの上に几帳面に並べられている。
先には、また切断された白い足が転がっている。
愛するものの死体を想像して、飯窪の目は終点の窓際に向けられる。
しまわれていた筈のテーブルの上には、人間の胴体が横たわっていた。
首から上が無く、小さな胸が二つ、女性だ。
鎖骨に水平の線が描かれ、胸から腹部へと垂直に切り開かれている。
肋骨が折られ、赤黒い洞窟のような胸郭が見えた。
赤い穴の上には、光沢のある長い髪。
手先は血に染まり、赤い滴を垂らしている。飯窪の口は開いたままだった。
工藤遥がゆっくりと顔を上げ、飯窪の存在たった今気付いたようにこちらを見た。
濡れた様な目には暖色の鋭さの輝きに陶酔。
口から顎、そして前掛けをかけた胸が真っ赤に染まっている。
遥が正座をし、テーブルの上の女の胴体にフォークとナイフを当てて、硬直していた。
工藤の斜め左前には、皿があった。
皿の上に丸みを帯びる痙攣した物体、心臓が載っている。
食べていた。
976
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:11:35
それは関係の比喩ではなく、単純に、本当に、食事として食べていた。
生で食べる訳でもなく、ある程度は料理されている事を頭の後ろで理解する。
頭に上っていた血が急速に下がっていく。
手や足の先が冷えて、痺れる。
心臓がドキドキと鼓動を鳴らす。
恐怖なのか驚きなのか分からない、緊張していた。
ようやく飯窪の脳は冷静に現実を解釈し始めていた。
「は、あ?」
口が開き、開いたなら眼前の光景に感情が動き始める。
「なにこれ?ねえ、くどぅー?なに、やってんの?」
ビニールシートの前で、工藤の前で、飯窪は動けない。
「食べ、いや、くどぅーはお肉好きだし、でも、こ、殺し…」
「…あーあ、とうとう見つかった」
いたずらを見つかった子供のように、工藤は首を傾げる。
肩にかかる黒髪、滑らかく幼い頬。暖色の獣のような眼光以外は工藤遥だった。
その目に見覚えがある、異能発動時の、彼女の目だ。
「誰なの?あなた、本当にくどぅーなの?」
977
:
名無しリゾナント
:2017/10/27(金) 03:18:46
>>970-976
『銀の弾丸Ⅱ -I wish-』
お待たせしました。オープニングから少し間が空きました。
書き始めたのが夏場だったので季節は夏から冬へと入っていきます。
お食事中の人すみません。
978
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 02:49:45
>>73
続きです。
悪夢の光景に世界が回る。落ち着きを取り戻そうと息をすると
生焼けのレバーを食べた時のような味が喉に来る。
ようやく部屋に溢れる血の匂いに気付いた。
嗅覚は眼前の光景が嘘ではないと全力で主張している。
口角が上がっていて、工藤は微笑んでいるように見えた。
「やだ、やだこんなの、こんな」
「落ち着いてはるなん。とにかく聞いて、ちゃんと説明するから」
「ひっ」
工藤が腰を浮かせると、飯窪の足は後ろに一歩下がる。
少し寂しい笑顔で、工藤が腰を下ろす。
後方に引けていた飯窪の腰はその場で停止している。
「ハルはハルだよ」
工藤が淡々と告げる。
「でも、こうしないとハルは生きられないんだ」
979
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 02:50:30
工藤の口から出た言葉がよく分からない。
それでも頭の中で単語を分解して理解しようとする。
工藤遥。17歳。口が悪い。ショート。中二病。トリプルエー。
病弱でヘタレ。能力は。
「……あ」
出来てしまった。唐突に、いや既に答えは出ていた。
理解できたできないしないといけないできないでもできてしまった。
小柄な彼女の巨大な影に寒気を感じなかった訳がない。
だが、彼女の場合は肉体変異させる『獣化』ではない。
では彼女の異常性は一体どこから生まれているのか。
人を食べる、その本能がどうして彼女に芽生えたのか。
考えるが、この現状で冷静な答えが出てくる訳もない。
飯窪には他に考える事がある。
残念ながら日本では死体が道に落ちている事はないし、たまたま食卓に
出てくることもない、ましてや土葬の習慣もない。
なおかつ人間の死体を食べる習慣も、ない。
眼前の食卓や床のビニールシートの上にある死体は新鮮なものだ。
飯窪は唾を飲む。
血の臭いが喉に再び広がっていく
「どぅーが、殺した、の?」
工藤が口を開くが、言葉が出る前に予測できた。
「私も、食べるの?」
980
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 02:51:42
言葉にした瞬間、頭の中でサイレンが鳴る。飯窪は反射的に屈んで
ビニールシートに落ちている一番近い武器、ナイフを手に取った。
サバイバルナイフの柄についた血で手が滑る。
ホラー映画だと、主人公はパニックになって叫び声を上げて逃げる
シチュエーションだが、飯窪はナイフを握った。
リゾナンターとしての責務が、彼女にはある。
裏切り、その言葉に、だがナイフの刃先が迷う。
これまでにも先代のリゾナンター同士で争いが起こった事がある。
裏切り、意志の違い、分かれる未来、将来性。
まさか工藤とその立場になるなど、飯窪は考えた事がなかった。
だから悲しい。
工藤が人を襲ってしまった、その事実が既に目の前に置かれている。
飯窪の目が濡れて光りが籠る。
ナイフを握ったまま立つ飯窪に、座ったままの工藤が部屋で向かい合う。
工藤は白い手を床に伸ばす。
指先が血で赤く染まっており、現実だとさらに主張する。
飯窪のナイフが僅かに反応して、刃先が跳ねた。
切っ先は血に濡れた工藤の顔へ向けられていた。
981
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 02:53:11
「そんな事ある訳ないだろ?」
手が戻り、握った濡れタオルで口から喉、胸元を拭う。
一回では取れないので、顔の血をさらに拭っていく。
「はるなんを食べるなんて事、絶対にないよ」
血の赤が消えて、白い工藤の顔が現れた。飯窪のナイフは、動かない。
「だって、くどぅーは食べなきゃいけないんでしょ?」
「うん。でも、メンバーは食べない。はるなんを食べる訳がない」
「本当に?」
「言っても信じてくれないだろうけど、本当」
工藤の目に感情が渦巻く。
「多分皆にどんな目に遭わされても、ハルは皆を殺せない」
それでも飯窪はナイフを下ろさない。
部屋に横たわる死体、血液、内臓。鼻をつく血の臭いという現実が
工藤の言葉を信じる事を拒否させようとする。
真実であろうと頭が理解しても、体が拒否する。
「じゃ、ハルは出てくね」
982
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 02:54:59
遥が立ち上がり、飯窪のナイフがまた跳ね上がる。
自分の心に連動するようにナイフが動く。
向けてはいけないのに、弱い心が命令する。
「ずっと隠してたけど、バレたらもう一緒にいられない」
遥は寂しそうに微笑む。
両手を首の後ろに回し、前掛けを解く。
飯窪の手のナイフは遥が動くたびに刃先で追ってしまう。
「どこに行くっていうの?」
「言わない。必要な荷物は持っていくけど良いよね」
床に転がる弾丸を拾う。
指の中で遊ぶように回した後、静かにポケットに入れる。
「えっと、片付けできなくてごめん」
黒い髪が尾を引くように、遥が頭を下げた。戻った顔には微笑み、頬を掻く。
「片付けと掃除の方法は、流しの下の裏に封筒で貼り付けてあるから
それをやってみる方が良いと思う。臭いの取り方はコツがあるし。
あ、流しの下っていってもシンクの下じゃなくて横の方だから」
憂い顔のような笑顔。初めて見る表情だ。
何故こんなにも普通に会話をしているのだろう。
背後には食べかけの料理が残される。それなのに彼女はいつもの調子で話す。
983
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 02:56:12
「この店に来るのも最後かあ……好きだったなあ…」
血臭に囲まれる空間で呟いた工藤が飯窪の横をすれ違う。
「じゃ」
「待って」
思わず言ってしまった。ナイフを握っていない手が前に出る。
飯窪の手と工藤の間には、女性の胴体だけの死体や血だまりが広がっている。
二人の間には、血塗れの現実が横たわる。
すべきことは分かっている。
理解している。人間として、サブリーダーとしてするべき事を知っている。
其れよりも優先されたのはナイフを床に捨てて、両手で工藤を抱きしめる事だった。
工藤の熱い体が怯える様に震えた。
「はるなん?」
「私に押し付けないでよ。一緒に片付けるから、それから考えよう?」
「何、を」
「説明してくれるんでしょ。この有様を」
「……うん」
「なら、出ていくって言うなら、全部話してから出て行って」
「…分かった」
984
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 02:56:52
血が流れている肉の体。人間の体を飯窪は抱きしめている。
裏切る心は誰にでもある。
だからきっと、この感情は元々飯窪の中にもあったものだ。
だから認めるしかない。認めるしかないのだ。
彼女を信じるしかない事に。
工藤はただずっと困惑し、それでも笑顔のままだった。
985
:
名無し募集中。。。
:2017/10/29(日) 03:11:50
>>978-984
『銀の弾丸Ⅱ -I wish-』
工藤さんのセーラー服姿は女優さんになっても見れるのかな…。
>>86
おめでとうございます(他人事…w)
>>79
そうです。ファルスの台詞を貰いました。
興奮状態を表すために異常性を高めたかったので…w
986
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:49:54
飯窪から見て、工藤はまだ幼い。
大人の道に片足を突っ込んではいても、まだ17歳といえば子供だ。
リゾナンターは年相応に見えないメンバーも歴代を含めて多い。
彼女もその一人だが、生い立ちを考えると無理もないとは思う。
だが飯窪は、そんな大人びるだけの彼女があまり好きじゃなかった。
幼い子供が鉄の匂いを纏って死体に跨る姿などあってはいけない。
けれどそんな飯窪の想いを知る筈もなく、工藤は部屋の片づけを開始した。
慣れているとでも言いたげに既に首、手、足と切断されていたので
それぞれを市が指定するゴミ袋を二重にして入れて、口を縛る。
飯窪は言われるがままに解体に使った糸鋸や鉈、包丁やナイフに向かう。
指示通りに新聞紙に包んで同様にゴミ袋に入れる。
床の青いビニールシートは端から畳み、これもゴミ袋に入れる。
工藤がこちらを見つめていた。
「壁の下の方まで広がる大きめのを使うと汚れなくて便利なんだよ」
「…それ、あんまり役に立つ知恵とは思えないんだけど」
「まあね。時と場合と人による、考えるとけっこー範囲狭いなこれ」
笑い声。普段通りに会話している事に気付き、ぞっとした。
十二個のゴミ袋が出来たが、下の方に血が溜まって重くなっている。
道具と敷物で数十キロを十二個に分割したものの、それでも一個に
対する重量が大きいのは確かだ。
硬直していた体は時間が経つと慣れてきたのか落ち着いていた。
987
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:50:31
「ふう…で、これをどうするの?」
「ハルが決めてある場所に埋める、はるなんは待っててよ」
「どこに行くの?」
「一回で行けるよ、今までもそうしてきた」
「下、下まで手伝うよ」
飯窪は小さい袋を四つ持てた。工藤は一度に大きな八つの袋をまとめて持つ。
階段を軽やかに駆け下りていく工藤の背中を見る。
飯窪も続いて下りていく。
暑い夜のため、一階まで下りただけで汗が噴き出た。
「工藤さん、こちらです」
「すみません、また頼めますか」
車のエンジン音が聞こえたかと思うと、そこには見覚えのある
スーツを着た二人の男女がドアから現れる。
後方支援部隊、事前に応援を呼んでいたらしい。
つまりは、工藤の行動を以前から知っていた事になる。
それが少しだけ、悔しかった。
「一緒に、来る?」
二人は無言のまま、車は夜の街に出る。
コンビニや二十四時間チェーンの店からの灯りを抜けていく。
車は郊外に向かい、当たり前のことだが、そこでようやく死体が
夜の山かどこかに捨てるのだと気付いた。
988
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:51:08
工藤の横顔に、飯窪は口を開き、悩みながらも聞いてみる事にする。
「どぅーって本当は力持ちだったんだね」
「え?」
「ほら、さっきの私の二倍を運んだのに、この暑さなのに
汗も出てないし、息も切れてない……いつもなら前髪が引っ付くぐらい
もっと汗かいてるのに、もしかして隠してた?」
「あー……うん。隠してた」
考えて、工藤が肯定する。
「養成所に居た頃によく分からずにチカラを使いまくってたら
周りの子達に怖がられてさ、それから手を抜くようにした。
汗はチカラの分泌物でどうとでも見せられたし。
目立つ事をしてると監視もキツくなるし、自由が少なくなるし。
その頃から何度も抜け出してたしね」
車内にはまた沈黙。気まずい。
一時間ほどで、車は山中に入る。
国道は通っておらず、黎明技研の研究所と公務員の保養施設があるが
別ルートの山道を行けば、誰かに会う事もない。
山道を進み、中腹で停車する。
周囲に人がいない事を確認して、助手席の女はライトを脇に抱えた。
運転席の男は積んであったシャベルを担いで、ゴミ袋を持って外に出る。
工藤もゴミ袋を掴み、ガードレールをまたいでジャンプで越える。
重い荷物を持って飛び越えるなんて、どんな筋力だ。
飯窪はガードレールを跨いでようやく越えていく事がやっとだった。
989
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:51:43
ライトで照らしながら夜の山中を下っていく。
木々の梢の間から月光が降り注ぐが、森の闇は深い。
ライトで照らしても暗い下生えの雑草が足にまとわりつく坂を下っていく。
土の植物の匂い。
手に触れた枝が折れて、青臭さが鼻に突き刺さる。
飯窪は木の根で転ばない様に慎重に進むが、工藤は闇が見えているかのように
軽快に坂を下っていく。
飯窪は常に彼女の背中を見ながら降りていく。
月光がほとんど差しこまない夜の森を進むなど普通は怖いが、平気だった。
目の前に工藤が居るからだろう。
夜の闇の怪物だの、死者の霊だの、工藤の前では怖くともなんともない。
恐怖が目の前にあるのだから。
木々の間の開けた場所に出ると、雑草が茂る間に進み、工藤達が足を止める。
ゴミ袋を置いて、シャベルを握る。
垂直に下ろして、刃先を地面に深く突き立てた。
「ここ?」
「うん。はるなんは周りを見てて、大丈夫だろうけど念のために」
「う、うん」
990
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:52:41
刃先で掘り返した土を脇に捨てる。シャベルを突き立て、繰り返す。
機械であるかのように一定のリズムでさくさくと土を掘っていく。
まるでケーキのスポンジでも掘っているかのような速度だ。
「あのさ、穴ってどれぐらい掘るの?」
「2メートルぐらいかな。浅いと野犬が掘り返して見つかる」
「……焼いたりは出来ないの?」
「場所が確保できないし、人をまるまる燃やすのに時間がかかる。
あとは匂いですぐにバレるんだよ。だから埋めた方が簡単なんだ」
「それも経験から?」
「うん、経験から」
工藤が土を捨て、また地面にシャベルを突き立てる。
大人二人がようやく一回目の土を横に捨てる間に、工藤は三回も往復している。
まるで掘削機だ。
腰の深さまでになった穴に入り、工藤は男と共に本格的に掘っていく。
月光の下で数分ほど、無言で工藤は掘っていた。
男女二人も無言のまま言葉もなく手伝っていく。
胸辺りまで掘って、穴を広げる作業になる。
「聞いても、いい?」
「いいよ、なんでも」
工藤の手が止まった。動揺は一切浮かべない。
「なんでも答えるよ。もう隠す理由もないし」
「ええっと、工藤遥って名前は本名?」
「あーていうか、ハルはもう死んだ事になってるから。
でもこの名前で生きてきたから、この名前で呼んでくれると分かりやすい」
991
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:53:21
工藤の目は静かだったが必死さが籠る。冗談の表情では、ない。
「分かったよ、どぅー」
二人の上に不愛想な月光が降り注ぐ。
傍らには土の山。
そして地面に置いたライトと分割された女の死体が詰まったゴミ箱。
「この人は、どんな人間だった?」
「能力者だよ。だから名前も分からない、分かるのは、今回の依頼を
してきた人をつけ狙ってたから、返り討ちにした」
「まさか持って帰ってきたの…?」
「そのまま放置も出来なくて、せっかくだし」
「…食べるようになったのって、そのチカラのせい?」
「人の食べ物が食べられないって訳じゃないよ。
でも全然食べた気がしないんだ。食べても食べてもすぐに消化する。
牛肉や豚肉も好きだけど、気持ち的にも満たされるのはこっちなんだよね」
工藤はいつも肉類を美味しいと言って食べていた。
牛肉、豚肉、鶏肉、挽き肉。
彼女が食べて喜んでいる姿に微笑ましく感じていた。
だが人間の抱える飢えは限界を超えると相当、辛い。
意識が朦朧として正気を保てなくなる。それ以上の飢えを飯窪は知らない。
だが彼女はそれ以上なのだろう。
通常の食事では摂取できないほどの飢えを知ってるのだと遠回しに言っている。
彼女の気遣いを思うとかつての自らの愚かさを責めそうになる。
そんな飯窪に工藤は笑ってみせた。
「普通の人を殺すのは抵抗があるけど、能力者ならまだマシかなって」
992
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:53:56
飯窪は返答できない。
彼女を妹のように愛しているし、勢いで許容はしたが人を殺すという事を
当たり前の様にしてはいけない。
家族から切り離された天涯孤独でも、ホームレスやカフェ難民でも日雇い派遣労働者でも。
異能者だとしても立場は変わらない。
自分に跳ね返る現実に、飯窪は顔を俯かせる。
「ごめん」
「それは、何の謝罪?」
「黙ってた事、でもいくら皆でもこういうのって気味悪いでしょ、実際。
この人達はハルと行動するって聞かないから手伝ってもらってるんだけど
正直言って申し訳ないっていうか、やってほしくないんだよ。
もうハルのわがままに誰も巻き込みたくない」
それでも工藤はリゾナンターとして活動を辞める事はしなかった。
都合が良かったのかもしれない。
だが、工藤遥はそれを容易な事態だと受け入れる事はしない。
どれほどの葛藤があっただろう。
別の意志とは裏腹に、仲間と共に過ごしていた時、彼女の中でどんな思いだったのか。
それでも真っ先に謝罪したのは工藤だった。
993
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:54:36
「こんなヤツでも感情があって、普通に人間みたいに振舞うのって
まともな人間からしたら凄く異常なことだしさ」
「どぅーは怪物じゃないよ」
飯窪は反射的に言っていた。
本当は目の前の工藤が「悲しい」と言っている事に奇妙な違和感を覚えていた。
昨日までの工藤にだったらこんな感情は抱かなかった。
それでも好きだからと、納得させる。
「工藤さん、これで良いですか」
「あ、はい。これぐらいで大丈夫です」
既に穴は見下ろすほどに深く大きくなっている。
深さはすでに2メートル、幅は4メートルぐらいだろうか。
掘った土は小型トラックの荷台分ぐらいありそうだが、雑談をしながら
三人で十分の作業と思えば優秀過ぎるほど早い。
横に置いていた死体入りのビニール袋を運ぶ。重い。
振って投げようとして、工藤が声を上げた。
「中身出して入れてほしいんだけど」
「え?そんな事したら…」
「入れたままだと土と同化するのに時間がかかる。だから出してあげて」
工藤にしてみれば、土に同化していつか証拠が消える方が安心できるのだ。
飯窪の手は迷う。工藤が心配顔になっていた。
994
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:55:10
「きついならするよ。後ろ向いてゆっくりしてな」
「うん……ごめん」
結び目を解いた途端、鼻につく血の臭い。
口で呼吸しても血の味が喉に来るようで思わず手で口を塞ぐ。
袋の下を持って、穴に向けて逆さにする。
右か左か分からないが、血に塗れた腕が穴の底へと落下していく。
穴の反対側では男達が同じように袋を逆さにして、女の太腿を落としていく。
三人で黙々と袋の結び目を解いては、手や足や太腿、分割された
胴体を落としていった。動物の肉とは違う、生々しい。
分解に使った道具すらも捨てるらしく、少し気になった。
「道具も捨てるの?」
「うん。一回使うと酸でも使わない限り証拠として残る」
「ああ、ルミノール反応、ね」
「中古ならそれなりの場所で安く買えるしね。ネット様様だよ」
穴の縁で、工藤が両手を合わせた。睫毛を伏せ、目まで閉じる。
「ごめんなさい」
死者への礼儀と謝罪で自分の罪を誤魔化すための、偽善。
それでも工藤は手を合わせて、黙祷する。
する必要もないけど、それでもするのが工藤遥なのだ。
飯窪も手を合わせて黙祷する。男達も便乗する。
薄目を開けて前を見ると、工藤はまだ黙祷していた。
彼女は好きこのんで人を殺して、食べてる訳ではない。
もうすぐ死ぬ人に死んだら食べても良いですか、と聞くわけにもいかない。
生きにくい設定を二重に背負う彼女の心はまだ幼い。
どちらかがなければ普通とはいえないまでも、もっと楽に生きられただろう。
995
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:55:40
「じゃ、埋めよっか」
工藤の顔はいつもの表情に戻っていた。
目には罪悪感が見えたが、触れない方が良い。
今度は四人で穴に土を被せていく。
工藤は相変わらずとんでもない腕力でシャベルを動かす。
ほんの三分で土が埋まっていき、草原に小さな山が出来る。
土の小山に乗って、工藤は足で固めていく。飯窪も足で踏む。
「これでいいよ」
工藤が止まったので、飯窪も止まる。
まだ少し盛り上がってはいるが、そのうちに雨が降って土が固まり、周囲に
雑草が生えてくればもう見つかる事もないだろう。
こんな山に開発や建設で掘り返される事は、二人が生きている間にはないはずだ。
タオルで土塗れの顔や手を拭う。
終わった。全てが終わったのだ。儀式めいた事柄に、飯窪はようやく息を吐く。
「じゃ、今までお世話になりました」
「え」
「はるなんはこの人達に送ってもらって。ハルはここから山を越えて
向こうの街に出るよ。宛があるから、荷物はそっちに送ってもらう」
工藤のあの脚力なら山を越えるのに一時間も掛からない。
996
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:56:13
「今日の事は、皆には黙っててほしいけど、でも多分誤魔化せないから
話して良いよ。全部ハルのせいにして良いし」
「本当に、出ていくの?だってまだどぅーはリゾナンターなんだよ?」
「依頼は一人でもやれるヤツを連絡してくれたら動くよ。まあちょっと面倒だけどさ」
「……どぅー」
「また改めて皆には説明するし。ってどうにもならないか、どうしようかな」
その時にようやく溢れだす寂しさに、飯窪は泣きそうになった。
別れてしまう現実に、ようやく実感が沸いてきたのだ。
誰よりも罪悪を感じていた彼女。
二度と会えないような物悲しさ。手で口を籠らせる。
妹の様に愛しさを感じた彼女との別れがこんなにも辛いものだったなんて。
「なんだよはるなん。何泣いてるんだよ。二度と会えない訳じゃないんだからさ」
「……するから」
「え?」
「私が、なんとかするから、戻って来てよどぅー」
「……」
「大丈夫だよ、ちゃんと私も説明するから。だから帰ろう。一緒に」
「どうにもならないって。話したところで納得できる話じゃないし」
「それ、あゆみんやまーちゃんにも同じ事言える?」
差し出される手に、工藤の視線が注がれる。
立ち去ろうと足を引くが、再び下がる事はない。
飯窪が一歩進む。進む、手が、工藤の腕を掴んだ。
彼女は肯定も否定もせず、静かに飯窪と共に歩き出す。
鉄錆の匂いが濃度を増し、血の足跡が続いていく。
997
:
名無し募集中。。。
:2017/11/01(水) 03:58:11
>986-996
『銀の弾丸Ⅱ -I wish-』
拝啓、ハル君が面白そうなので見てみたいです。
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