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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1 名無しリゾナント :2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

2 名無しリゾナント :2014/07/26(土) 02:34:54
まさか、こんな日が来るとは。

鞘師里保は感動に打ち震えていた。
今日は願いつつも叶うことのなかった願いが、ついに叶った日。

「どうしたのりほりほ、箸止まってるよ?」
「え、は、はいっ!」

テーブルの向かいにいるのは、里保が尊敬するリゾナンターの偉大なるリーダー。
これまで、喫茶店が忙しかったり里保が学生生活で忙しかったりで機会がなかったのだが。
ついに、道重さゆみとの二人きりの食事にこぎつけることができたのだ。

能力を持つものとして、か弱き人々を守ること。
共鳴するものとして導かれた自分たちの、指名。
そしてさゆみがいなくなる将来への、不安。

色々と話したかったのだけれど、いざそのシチュエーションに立たされると言葉も出ない。
そもそも。さゆみはこんなに年の離れた自分と会話などして、果たして楽しいのだろうか。
自分のような口下手な人間が、さゆみと二人きりになっていいものか。
二人だけの食事会に相応しくない思考が頭をぐるぐると駆け廻っていた。

「さすが水軍流の剣士だけあって、自戒の念が強いのね。けど、そういう人間だからこそ、喰らい甲斐がある」

思わずさゆみのほうを見る里保。
いや、話したのはさゆみではない。
辺りを見回すが、声の主はどこにもいなかった。

「見回しても無駄よ。あたしはあなたの心の中にいるのだから」

頭の中に、邪な音色を帯びた声が響く。
里保は、ゆっくりと瞳を閉じた。下手に騒いでは、相手の思う壺。
さゆみの気分を害してしまうという、状況に相応しくない気遣いも含まれてはいたが。

3 名無しリゾナント :2014/07/26(土) 02:35:25
「あなたの自分を律するあまりに、がっちがちに固められた心。心の扉というものは固く閉ざせば閉ざすほど、逆に隙間を作る。あたしはその隙間に忍び込んだってわけ」
「どういうつもり?」

相手の不躾な話の切り出しに、里保は心の会話で答える。
すると、

「あたしはダークネスの能力者、って言えばわかるでしょ。あなたを潰しに来たのよ」
「なるほど」
「そしてその目的は半分果たされた。あとはあなたの心を乱し、狂わせるだけ。簡単なお仕事でしょう?」

勝ち誇ったように、その女は言った。
どうやら相手は精神操作系の能力者のようだ。

「どうする? あなたの水の刀であたしを斬る? 無駄無駄、あたしがいるのはそこからずっと遠くの場所。あなたの刃は、あたしには絶対に届かないんだから」
「そうですか」

里保は簡素にそれだけ言うと。

「ぎゃっ!!」

さゆみと里保が座るテーブルの、さらに奥。
薄汚いワンピースを着た中年の女が、苦しみながら床に倒れた。
いったい、何が起こったのか。

「昔、とある憑依能力者に体を乗っ取られたんです。その時に私の友達が精神系の能力で助けてくれて。多少…いやすごく強引な方法でしたけど。その時のことを思い出して、意識を集中してあなたを追い出すイメージを思い描いたんです。まさか、こんなに近くにいるとは思いませんでしたけど」
「……」

女の返事はない。
すでに、意識が落ちてしまっているようだった。

4 名無しリゾナント :2014/07/26(土) 02:36:15
「でも、慣れないことはするものじゃないですね…なんだか…すごく、ねむ…」


その後眠ってしまった里保は、さゆみによってお持ち帰りされた。

5 名無しリゾナント :2014/07/26(土) 02:38:07
>>2-4
「その日に何が起こったか」おわり
■■さんの後にこれとか恥ずかしい……

6 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:52:34
負ける気しない?

★★★★★★

「亀井さんってあの亀井さんですか?写真では道重さんの横におられた?
 あ、ありえないですよ!仲間同士で戦うなんてあってはならないことです!!」

いや、それは違うと鞘師は反論しそうになり、その言葉を飲み込んだ
たった今、目の前にいる道重さゆみという頼れるリーダーが仲間と闘った告白したばかりではないか
自らの手で掛け替えのない仲間、それも親友を消してしまったという告白
信じたくないのが本音なのだが、覚悟の告白は真実だと受け止めざるをえない

「飯窪、残念やけどホントのことや。受け止めるんや」
「まあ、さゆみんや愛佳のように私は自分の眼で見てはいないけど、信じざるをえないかな」
光井の声は揺らぎなく、新垣の声も普段通りのトーン

「ちょっと!!どうしてお二人はそんなに冷静でいられるんですか!
 かつての仲間だっなんですよ!!なんでそんな簡単に、受け入れられるんですか?」
石田が感情をむき出しにしたので、佐藤はびくっと体を震わせて、あゆみん、と肩をつかんだ
「なんだよ、まあちゃん」
「・・・新垣さん、爪割れてる」

佐藤の指摘した通り爪にひびが入っている。応急処置のだろうか、奇妙な光沢の跡がある
あれは・・・瞬間接着剤であろうか?
「新垣さん、その爪って」
「あっちゃー、後輩達を不安にさせまいと前もって準備しておいたんだけどね〜」
気まずそうに笑う新垣
「新垣さん、あんな強う拳にぎりはったら爪くらい割れますよ」
「あっちゃー、手厳しいところみるね、佐藤は」
「はい!!」
「いや、褒めてないから」

7 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:53:08
ため息をついて、顔を上げた新垣の瞳はいつもより濁っているように見えた。
「そりゃあさ、私達だって、できることなら戦いたくない
 さゆみんだけじゃなく私にとっても仲間だし、それ以上に友達だからさ
だけど、ダークネスと一緒にいるっていうことは『敵』って認識しなくてはならない」
心の内を隠すこと諦めたようだ
「それに、もしあの亀井さんが本気だしはったら、誰も勝てへん
 ダークネスにとっては亀井さんの能力はほしくてたまらん類のもんやろうしな」

「・・・あの、すみません。
 亀井さんってあの写真だけみると、すっごく優しそうで、何ていうか全然強そうにみえないんですが」
工藤が空気を壊すことを覚悟し、しかし、問わずにはいられなかったのだろう、失礼を承知で尋ねた
「亀井さんってそんなに皆さんが臆病にならなければならないほど強いんですか?」

「ねえ、くどぅ」
先輩たちに問いかけたにも関わらず、問い返したのが鞘師だったので工藤は慌てて鞘師の方を向いた
「強さ、ってなんだと思う?パワー、破壊力、スピード、それとも能力?」
「・・・すべての総合ではないでしょうか?たとえばはるなんと鞘師さんなら鞘師さんが強い
 感覚共有じゃ鞘師さんの太刀をさばききれないし、ぜったいにはるなんじゃ鞘師さんに勝てない」

「それは違うで」
「え?」
「工藤、もし愛佳の能力が飯窪の『感覚共有』やとしても鞘師に勝てる、かもしれへん」
「そ、そりゃ光井さんなら勝てるかもしれ・・・ない・・・ですけど」
光井に咎められているわけでもないのだが、その言葉の強さに押され、工藤の声が小さくなる

「愛佳だったら、じゃなくて、戦い方さえわかっていれば、今の飯窪でもやすしには勝てるよ」
そう断言する人物がいた、新垣だ
「新垣さん、無理ですって、私じゃ、鞘師さんには」
「いいや、戦い方を選べば勝てる」
グラスの水面に波紋が生じた

8 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:54:13
「弱い能力なんてあらへん、能力の長所は短所にもなる、裏表の関係にすぎへん、逆もある
結局は使い手の腕次第っちゅうことや・・・しかし、亀井さんの能力は反則的や」
「うん、あの力は頼もしいようで、恐ろしい両刃の剣だからね」
通じ合っている二人の表情は暗い

「・・・絵里はさゆみと一緒だった
それは仲が良かったから。さゆみに欠けているものを絵里はたくさん持っていた」
ずっと黙っていた道重が息を整えて、仲間達に顔を向けた
真っ青な顔、血色の悪い唇、泣き腫れた瞼
「だ、大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫じゃないけど、みんなには伝えなくてはいけないの」
光井から道重渡されたカップを受け取りながら、仲間達と一人ずつ目を合わせていく

「さゆみはリゾナンターとして多くの戦い、いろんな力を見てきたの
 さゆみの治癒能力、れいなの共鳴増幅能力、りほりほの水限定念動力・・・頼りになる仲間たちの力
 詐術師の能力阻害、永遠殺しの時間停止、マルシェの原子構成・・・圧倒的なダークネス幹部の力
 負けることは死、それを意味する中でさゆみたちは成長できたの
 死なずに今、こうやっているのは奇跡かもしれない」
G、天使、A、R、鋼脚・・・幹部たちとの死闘を思い出し、光井も「ほんまやなあ」とつぶやく

「ダークネスに比べて一人ひとりの力は弱かった。だからこそ、さゆみ達は気持ちを一つにして戦うしかなかった
 それが共鳴、というダークネスも恐れる形で現れたのだと思うの
 ただ、愛ちゃんの光使い、れいなの共鳴増幅能力など強力な力があったのも事実
 ガキさんの精神操作や愛佳の未来予知ももちろん心強かった」
「褒められても何も出せやしないよ、さゆみん」

「小春の電撃もジュンジュンの獣化もリンリンの発火能力もあるからこそ、こうやって今、生きていられる
 もちろん、絵里のあの力も・・・絶対に負けない力」
「『絶対』??」
あえてその単語を使用したように感じられ、石田が反応する
「絶対、ってどういうことですか?」

9 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:54:48
「石田、私達の戦いで負けることは『死』を意味するってさっき説明したよね?
 ただ、少なくとも私達、リゾナンターは極力命を奪うことはしないことを掟とした
でもダークネスは違う。邪魔するものは徹底的に排除する」
「そ、それはわかっていますよ、新垣さん」
何を言いたいのか全く予想つかない石田達
「ダークネスの破壊行動を未然に防ぐ、それがリゾナンターの役目であり、何も起こさないことが『勝ち』や
ただダークネスの幹部にとっては戦闘員の命の一つや二つが失われることはなんともないやろ
でも何も「事件が起きない」こと、それから幹部が命を失うことは作戦失敗、起こってはならないことや
一方で愛佳たち、リゾナンターにとっての負けはダークネスの行動を守れなかったこと。そこに命の有無は問わへん」

「前から不思議に思ってたんだけど、ダークネスは私達の命を本気で取りに来ればそれで終わる
それなのに、それをしない。なんでだろうね?」
「・・・なんでっちゃろ?」
その問いは昔から幾度となく繰り返されたものだが、未だに明白な答えが出ていない
「それは私達にもわからないことだけど、時々感じることがある、寧ろ、あえてしていないんじゃないかって
 ただ、その理由を説明できる理由の一つはある。それに関係するのがカメの能力」

「亀井さんは『死なない』能力者、なんですか?」
佐藤の答えに道重は首を横にふった
「まあちゃん、死なない人間なんていないよ。怪我をすれば赤い血が流れるし、痛みだって感じる
 絵里はいたって普通だよ。普通に笑って、普通に悲しんで、普通に怒って、誰よりも楽しんだ
何よりも自然体、それが絵里だった。力も自然そのもの、言うなれば『風使い』」
「・・・風ですか。」
小田が先程の鞘師の太刀を払う場面を脳裏に呼び起こしながらつぶやく
「・・・風ならばあのように宙を飛ぶのもすべて説明がつきますね」

「亀井さんは特にカマイタチを好んで使っていた。戦闘スタイルは中軸で支援と攻撃を使い分けるバランスタイプ
 せやけど、それは愛ちゃんと田中さんがおったからや。二人がおらんときは最前線で戦っていた」

10 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:55:25
「風か・・・風ならはるの千里眼に何も映らなくても仕方がありませんね
 でも、そんなに風だけで戦えるんですか?だって風ですよ?」
「くどぅ、台風だって竜巻だってすべて風ですよ、自然の力は侮れません」
「飯窪わかってるねえ〜その通り。風を操る力はみんなが想像している以上に強力な力
 台風並みの突風もそよ風程度のやさしい風もすべてカメは意のままに起こすことができた
カメのカマイタチは見えない刃、と評していいものかもしれないね。あらゆるものを切り刻んだから
巨木だろうと拳銃の弾であろうと、なんでもね。攻守のバランスで言えば9人の中でも一二を争うかもしれない」
「亀井さんが風を操るときはそれこそ、舞い踊っているようでしたわ」
「舞姫、亀井絵里さん、ですか」

「・・・しかし、風だけならどうしてそこまで恐れる必要があるのでしょうか?
 ・・・数が少ない私達ならともかくとして、ダークネスが恐れた力とは何なのでしょうか?」
小田に近づく新垣
「・・・なんでしょうか?新垣さん」
「ん?いや〜可愛い顔してるなって。いやいや、ただそれだけだって、ちょっと生田、顔をしかめない」
「え〜だって〜新垣さんが〜」
肩をポンポンと叩き、振り向いた生田の目の前には眉間にしわを寄せた鈴木の顔
「・・・なに?」「今の生田の顔真似」

「鈴木!!漫才しとる場合やないで、ええか?話続けるで。
亀井さんの能力のもう一つ、それこそが問題なんや。能力名は『傷の共有』」
「「「「「「「傷の共有?」」」」」」」
「自分が受けたのと同じ傷を相手に作ることができる能力や。
それも一人だけにやない、亀井さんが望むだけの相手に傷をつくることができる」
「・・・相討ちに適した能力、ってことですか?」
「そういうことや」
戦いのプロとしての直感的に鞘師は危険な力と感じ、身震いした
「で、でも、誰とでも相討ちにできるってわけではないんですよね?」
「もちろん、石田の幻獣が石田が視える範囲しか動かせないように」
「!! ちょ、ちょっと待ってください!なんでそれを知ってるんですか!誰にも話したことないんですよ!」
新垣がため息をつき、頭を掻きながら石田を落ち着かせようとやさしく声をかける

11 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:56:50
「あのね、石田、それくらい、私達くらいならすぐに気づくからね。話、戻すよ
 傷の共有にも届く範囲、射程距離っていうのがある。それは半径数百メートル」
「それなら、たいしたことないじゃないですね」
「カメだけならね。そこに田中っちがいると、範囲は数百キロメートル」
「は??数百キロ?それって」
あまりにもかけ離れた範囲に驚き声をあげてしまう工藤
「いや、それでけで済まへん。共鳴にも相性っちゅうもんがある。
亀井さんと最も相性が良かったんは道重さんや。道重さんがおったら数千キロメートルになる・・・かもしれない」
あまりにも桁が違うスケールに言葉を失う8人、佐藤以外は言葉を失った

「え〜でもたなさたんもみにしげさんもまさ達といっしょだから、そんなに心配はいらないんじゃないですか?」
光井が佐藤に笑いかける
「そう、距離のことは今回はあまり気にすることはあらへん。
 しかし亀井さんは元からダークネスにおったわけやない、ことが問題。そうですね、新垣さん」
「うん、どういう経緯があったかわからないけど、今はカメはダークネス側にいる
 そして、ダークネスにとってカメは『駒』の一つに過ぎないかもしれない」
「つまり、幹部、ではない、一介の構成員に過ぎない立場ということですね
 ダークネスとしては傷の共有をためらう必要はないってことですね
 ・・・下手に亀井さんを攻撃したら、回避不能の死のカウンターが来る、かもしれない」
譜久村が珍しく鞘師よりも先に新垣達の伝えたいことの本意を読み取った

「ダークネスは何をしようとしているのでしょうか?」
「それはこれまでとおなじだよ。世界を変える、そのために必要なことは何でもする」
簡潔な答え、それが答えなのだろう
「・・・でも私達、リゾナンターは戦わなくてはいけないの」
「道重さん?」
「たとえ、エリが敵でも・・・仕方がないの。エリもさえみお姉ちゃんと闘ってくれたんだんだもん
 さゆみはダークネスに泣かされる人が一人でもいるなら、その人を救いたいの」
その瞳からは決意の二文字が読み取れた

12 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:58:31
「・・・新垣さん」
「うん、愛佳、私達の心配は杞憂だったようだね」
さゆみん、強くなったね。初めはあんなにキャーキャー言ってたのが嘘みたいだよ」
面と向かって褒められ慣れていないのだろう、道重は視線を外す
(立派なリーダーになったもんだねえ)
新垣はそう思いながら、9人の後輩達に檄を飛ばす

「いい?みんな!カメは非常に危険な能力を持っている
 安易な考えだけで突っ走ることはしばらく控えた方がいい
 無理はしないで、変な感覚を覚えたらすぐに仲間に連絡するんだよ」
「変な感覚??」

「そもそもカメが生きているっていうことは愛佳の予知夢だけじゃなく、さっきの風で私も確信した
 元リゾナンターとしての絆は完全に切れてはいないようだからね」
「それで道重さんが私たちの誰よりも先にフードが亀井さんと気づかれたんですね」
「そや、工藤。千里眼で視えるもの以上に視えるもんもあるんや、覚えとき!」
「はい!!先輩」

★★★★★★

「いや〜さゆみんも強くなったね。それにあの子達も強くなった。
実に頼もしい、仲間達を持ったね!!」
新垣は満足げに鼻歌混じりに歩いていたが、しばらくして光井が先を歩いている新垣に声をかけた
「あの、新垣さん?」
「ん?」
振り返る新垣に光井は尋ねるべきか逡巡していた疑問をぶつけた
「一つだけ伺ってもよろしいです?先程の小田ちゃんの顔を覗き込んだのって」
新垣は改めて辺りを伺い、誰もいないことを確認したうえで光井だけに聞こえるように小さな声で語りだす
「愛佳も気になったよね?小田ちゃんはダークネスにいたのになんでその情報を知らないのかな?って
 リゾナンターのために派遣されたスパイなのに、カメを知らないって矛盾しているじゃない」

13 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 21:59:50
「ええ、確かにそれはおかしなことやなあって思っとったんです。知らへんかっただけ、で済みそうにないですね
 ・・・探りを入れる必要があるかもしれませんね」
「愛佳がやるの?あの子直感優れていそうだから、相当注意しないと危ないと思うよ
 せめて私も動ければいいんだけど、別のことで手が離せないから、不安だね」
光井はニヤッと笑う
「大丈夫ですよ、すでに調査には入っとる方がおるんですわ」
「・・・ま、私がカメの存在に気づいたってことは、だね」
新垣も笑い返し、宙を見上げた
「そういうことです」

★★★★★★

「ありゃりゃ、ワタシ達の行動、筒抜けみたいダネ」
やや身長の高い女性が口をもごもご動かしながら、モニターを覗き込んだ
モニターには自国のGPS衛星をハッキングして映し出した映像が映り、そこには新垣、光井の姿
「新垣サン、こっち見てマスヨ」
パソコンを操作するもう一人のやや小柄の女性に向かって笑いかける。その表情は嬉しそうだ
「新垣さんならそれくらい気づく、当たり前、いや、バッチリです」
「ソウダネ」
ガコンと音がして、ごみ箱に何かが落ちた。熟れたフルーツの甘い香りが漂った

★★★★★★

「いや〜今日は疲れましたね〜まさか200人も構成員がいるなんて思わなかったですね」
自分の肩を回しながらややハスキーな声で茶髪の女性が隣の背中のギターケースを背負った女性に笑って見せた
「でも、たいしたことなかったじゃん。
ま、これであいつら、ドラッグを流したりできないだろうし、いい仕事といえるんじゃない?」
いつもなら自分の横にワンテンポ遅れて、さらに低い声で同意してくれる仲間がいるのだが、今日は返ってこなかった

14 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 22:00:24
その相方は少し遠くで立ち止まり、さらに後ろで立ち止まったままのリーダーの姿を眺めていた
「どうしたの?疲れた?」
「・・・違う」
二人はリーダーが宙を仰いだまま立ちどまっているようであった
「風が吹いた」
ぽつりとつぶやいた。そして駆け出した
「ちょっと!どこに行くんですか!!」
立ち止まらずに声だけが三人の元に届く
「ごめん、ちょっと行かなきゃいけないところできたと!!」

★★★★★★

大気の震えを感じたとき、彼女は荒野の真っただ中にいた
流れる雲、果てしなき地平線、時折ふく風が鳴らす音のみが全ての世界
己の存在を一から問うための旅の途中
答えなど見つかるかはわからない、しかし存在する意味が欲しかった
「・・・絵里」
彼女もまた宙を仰いだ
そして・・・音もなく消えた。彼女のいた痕跡を示す靴跡のみが残された

15 名無しリゾナント :2014/07/27(日) 22:06:52
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(3)でした。
卒業までに書きたいのだが、遅筆が止まらないっw
連載止めないように頑張ります。
好きなキャラを好きなように、ではなく展開を中心に描くってやはり難しい
コメディ書きたいよ・・・でも我慢、我慢

16 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 00:09:49
初代行行ってきます!失敗したら許してね

17 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 00:26:38
行ってきましたー!緊張したw

18 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:15:42
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/838.htmlつづき投下いたします



ひしゃげた棚、飛び散ったガラスの破片、「なにか」に使われていた檻―――
この場所にはまるで生きた匂いがしない、と彼女は眉を顰めた。

ほんの数ヶ月前、此処にはいくつもの「生命」があった。
部屋の中心に「培養液」の入ったカプセルがあり、その中には実験体としてひとりの少女がいた。
それを眺めるように、檻の中には数人、孤児院などで「拾われ」、そして検体番号を振られた少女たちがいた。

此処では常に、生命は軽んじられ、人権など無視されていた。
いのちは平等などではなく、タイミングや境遇などで如何様にも変化する不安定なものだった。
非人道的と指差されるのは当たり前だ。
だが、再三言うが、いのちは平等ではない。

19 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:16:12
東京のど真ん中で通り魔殺人が起きれば日本は驚愕する。
アメリカのど真ん中でテロが起きれば世界は驚愕する。
だが、アフリカで飢餓が起きようとも、だれも驚愕しない。

そう。いのちは、不平等なんだ。
呪うのなら、運命を呪え。世界を呪え。期待するな。此処には、希望なんてないんだ。


そんなことを考えていると、じゃりっとなにかの破片を踏む音がした。
空気の色が変わる。
ああ、さすがだよ、と彼女は笑った。

「待ってたよ」

ゆっくりと顔を擡げる。
そこには、思った通りの人物がいた。

20 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:16:43
「返事は決まったのかな?シゲさん」

そう、シゲさんと呼ばれた彼女―――道重さゆみは前髪の奥に隠れた目を細めた。

彼女にはなぜか、シゲさんと呼ばれることが多い。その呼び名は、やっぱり嫌いだとさゆみは思う。
「シゲさんって言わないで下さい」と苦言を呈すと、氷の魔女は大袈裟に肩を竦めた。


「調子はどう?脚とか、治った?」

そう訊ねられ、さゆみは眉を顰めた。
以前もそうだったが、彼女はこちら側の情報に詳しすぎる。
黒衣を纏った氷の魔女と対峙しながら、ゆっくりとその距離を詰める。
あの日と同じように、闘う気はないと両手を挙げて丸腰であることをアピールした彼女は目を細めて笑った。

この人の言葉に、嘘はない。と直感する。
敵ではあるけれど、嘘をついてまで勝負を挑むようなタイプではない。
ダークネス側にも、いろんな人種がいることを改めて知る。
どんな卑劣な手段を使っても勝とうとする人もいれば、この人のように飄々と生きている人もいる。
前にこの人が言ったように、「集団」なのだけれどその中身は徹底した個人主義なのだと分かる。
それが少しだけ、羨ましくなったこともあるのは事実だ。

21 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:17:23
「3ヶ月前くらいにれいなと殺り合ったって聞いたけど。お腹に穴、開けられたって」

魔女に指さされ、さゆみは素直に右脇腹に手を翳した。
確かにあの日、あの血の気の多いヤンキーに風穴を開けられかけた。腸を抉り取られはしなかったものの、臓器はぐちゃぐちゃになった。
だが、さゆみはこうして、生きている。
その理由をホイホイ教えるほど、私は素直な人間じゃない。
沈黙がつづき、返答がないことに飽きたのか「まあ良いけどさ」と魔女は話を変えた。

「シゲさん、答えは決まったの?」

もういちど、最初の話に戻った。
4ヶ月ほど前、氷の魔女と此処で対峙した時、彼女はさゆみを勧誘した。

「ええ、もちろん」

ダークネスに入り、この能力を世界統一のために使わないかと。決心がついたらまた此処に来てと。
そしていま、さゆみが来たということは、その答えはおのずと、決まっているはずだ。

22 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:18:01
「断るに決まってます」

さゆみの凛とした言葉が、生の香りが失くなった監獄に響いた。
魔女は顔色ひとつ変えずにさゆみをじっと見つめる。
確信もあった。彼女ならこちらに来ると。だが今、その確信が揺らいだ。いや、むしろその確信こそが「確信」なのだ。
彼女は、こちらに来るという確信を揺るがし、最後までそこに残るだろうという確信―――

「私は、リゾナンターの一員です」
「あの泥船に、乗りつづけるってこと?」
「あなたから見ればその程度かもしれません。だけど、私にとってあの場所は……此処が、私の生きる場所なんです」

さゆみの目は恐れを知らぬ子どものように真っ直ぐに、氷の魔女を射抜いた。
あの日のように闇に迷い、それと手を取りかけた幼い少女はもういない。
此処にはただ、不器用ながらもなにかを決意し、がむしゃらに生きていくことを誓ったひとりの女性がいた。

「自分の意志で、さゆみは、私は、闘います。あなたたちと」
「その体でなにができる?脚も腹も完治してなくて、療養中って言われてんじゃん」

ああ、ホントになんでも知っている人だと口角を上げざるを得ない。
まさか情報が洩れているのか、内通者でもいるんじゃないかと疑ってしまうほどだが、所詮は杞憂で妄想だと肩を竦めた。
内通者がいるのなら、とっくに私は死んでいる。

23 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:18:35
「それでも私は、負けません」
「本気なの?シゲさん」
「本気ですよ、私は、いつでも」

その言葉に、氷の魔女はひとつ息を吐いた。
答えを知っていたような、それでもなお諦めきれないような、複雑な瞳の色を有していた。
その理由はさゆみには分からないし、分かりたくもないけれど。なんだかやっぱり、この人は変わっていると思った。
彼女は「勿体なさすぎるって…」と言葉を漏らしたあと、「ああ、そうそう」とすぐに言葉を紡ぐ。

「ついでに聞きたいんだけどさ」

直後、彼女はすっと右手を挙げた。
なにか来ると直感し、さゆみは慌てて構えた。
案の定、大気がゆっくりと動き出すのを感じる。彼女の右手の中に気が集まりだし、それが確かな形となって表象していく。
それは「あのとき」に見た「物体具象化能力」とは別物だ。これはただの、「氷塊能力」だ。

「キミらはなにを企んでんの?」

言葉の意図をはかりかね、さゆみはじりっと後退する。
なにがですか?と声に出して訊ねはしなかったものの、目がそれを訴えていたのか、彼女は口角を上げて応えた。
手の中に集まった氷塊は、いまにも走り出さんばかりに肥大化していた。

「こっちの“上”の連中がね、妙に気にしてたんだよ。そっちの解体があまりにも演出じみてるってさ」
「……なんのことですか?」
「用意された舞台みたいなもんじゃない?すべてを無に還すように見せて、実際は―――」

24 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:19:08
瞬間、だった。
バカン!となにかが派手な音を立てた。
魔女は虚を突かれたものの即座に振り返る。
そこには中空に派手に浮かぶマンホールの蓋と、それを握り締めて飛ぶ彼女の姿があった。

「いっけぇえええ!!」

彼女は体を大きく反らすと、まるで円盤投げのようにその蓋を勢い良く魔女へと投げつけた。
咄嗟に手中の氷塊を崩し、全面に広げる。氷の膜を張り、衝撃を受け止める。
マンホールの蓋が派手に氷に激突する。
氷にヒビが入り、ぴしぃっと音を立てる。

崩壊。
派手な音とともに、氷の壁が粉々に散る。
思わずミティは目を腕で覆い、破片から身を護る。
隙間から微かに、彼女が飛び込んでくるのが見えた。
まずいと思い、咄嗟に左手を繰り出すが間に合わない。
彼女の右拳が自らの左肩を抉った。重い、一発だった。思った以上の衝撃に奥歯を噛む。

「……ったいなぁ!」

ミティは強引に彼女の腕を掴み、ぐいっと捻った。
軽い彼女の体は簡単に中空で舞ったが、両脚を回転させて重心を動かし、そのまま魔女の両肩に乗っかった。

25 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:19:40
交差する手首をそのままに、強引に魔女の腕を持ち上げ、もぎ取ろうとする。
ごきんと肩の骨が鳴った時点で魔女は慌ててその手を離し、氷塊を放出した。
鼻先を掠められた彼女はぐるんと後方に回転し、さゆみの横に着地した。それはさながら、猫のようだった。

一瞬の判断は正解だった。
ぶらりと垂れ下がった肩は、骨が少し外れたらしい。脱臼状態だが、なんとか入れるしかない。
不意を突かれたとはいえ無様だなと魔女はその方向を睨み付けた。

「れいなへったくそー」
「はぁ?」
「なーにが、れなに考えがあるっちゃん!よ。左肩の骨外せただけで全然斃せてないじゃん」
「しょうがないやろ?マンホール結構重くて投げるの必死やったとよ?」
「じゃあ最初からふたりでいけば良かったじゃん。さゆみ超緊張したんですけど」
「さゆがそもそももう少し時間稼いでくれたら、れなやってあいつの顔面グーで殴れたとよ?」
「え、さゆみのせいですか?」
「そうよ」
「そうよってなんよ」

左肩の関節が外れた魔女は、目の前で繰り広げられる光景に目を細めて口角を上げた。
博多弁と山口弁が入り混じる言い合いは、まるで猫のじゃれ合いだ。ああ、やっぱりそういうことかと合点がいき、いまさら驚くことはない。
だからせめて、教えてほしい。教えてほしいんだよ、このお姉さんにさ。

26 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:20:29
「いつから演技してたんだよ、田中れいな」

声をかけられた彼女―――田中れいなは、口角泡を飛ばすことをやめ、魔女を睨み付けた。
その瞳は真っ直ぐで、だけど左の方が微かに濁っていて、彼女に抉り取られたのは事実のようだと理解する。
れいなはひとつ息を吐くと

「教えてやらん」

そう、応えた。

「さゆとれなの秘密やけん、あんたには教えてやらん」

ばっさりと斬り捨てるその言葉に、思わず喉を鳴らしてしまった。
ホント、何処までも面白い奴らだと、氷の魔女は心底、楽しんでいた。

うん、足掻く奴は、嫌いじゃないよ。

27 名無しリゾナント :2014/07/28(月) 23:22:51
>>18-26 ひとまず以上

28 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:28:49
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1044.html の続きです



夜が訪れる。
周囲が闇に満ちるこの時間、人々が住まう街は灯りを点すことで暗闇に抵抗する。だが、この場所はむしろそんな闇を受け入れてす
らいるかのように映る。
この世のありとあらゆる闇が集う地、すわわちダークネスの本拠地。
その地下深くに設けられているのが、彼女たちの会議の場。通称「蒼天の間」と呼ばれる場所であった。

円筒状の空間に、配された13の椅子。
会議に参加する組織の幹部たちは数人を除いて既に席に座っているものの。

「しっかしまあ何だ。うちの所帯も随分寂しくなったもんだな」

ライダースーツの金髪が、大げさにため息をつく。

「『守護者』と『詐術師』が死んでしまったわ。二人の粛清人もいない。今日の議題は差し詰め、組織の建て直しってとこかしら」

呼応するように、真向かいの迫力のある顔の女性が言った。
彼女の言うとおり、三人の幹部が殉職し、後の一人は再起不能。下部組織は右往左往の混乱中。まずは状況を収め組織の地盤固め
を行うことは急務だった。

「粛清人については後任が育つまで持ち回りでやるしかないっすね。ま、組織がガタついたって言っても痒い所に多少手が届きに
くくなるだけの話。そんなことより…あいつらを、何とかしないとな」
「リゾナンターのことね」
「ま、あたしは戦闘に関してはからっきしですから。お強い先輩たちに任せ…あたっ!?」
「ばーか、お前一応幹部だろ?」

隣でおどけるプリン色の頭を軽く小突くライダースーツ。
と同時に、先ほどから一言も喋らないある人物のほうへと視線をやる。

29 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:30:02
「なぁ。そろそろ気持ち、切り替えてくんねえかな?」
「…美貴のことは、ほっといて」

ようやく口を開いたゴシックロリータの女性。だがそれきり、瞳を閉じて外界から意識を遮断させてしまう。

その時だった。
部屋の扉が、ゆっくりと開く。
黒のローブを纏った妙齢の女性は、着席している四人の顔を見やりながら、中央の自分の席に深々と腰を落とした。

「…随分、静かやな」
「『詐術師』と『黒の粛清』がいませんからね」

皮肉ったような、迫力ある顔の女性 −「永遠殺し」−の言葉を聞き、深くため息をつく。
ただ、これも組織が前に進むための犠牲。割り切るしかない。組織のトップに立つものとして、それ以上振り返る事はしなかった。

「あいつらは?おらへんやん」
「…”任務”を終えて、とっくにこっちに来てるはずなんすけど―」

ライダースーツ −『鋼脚』− がそう言いかけた時。
爆発音。一瞬身構える幹部たちだが、すぐにその音の主は判明した。

「おーっす!!」
「ひっさしぶりやなぁ。アホの蟲使いぶっ殺したった時以来か」

爆発音は、現れた二人組の片方が扉を思い切り蹴飛ばして開けた音だった。
一人は、腹部を出したチューブトップにショートパンツ。明らかに近接戦が得意、といった格好。そしてもう一人は脇に布を合わせ
て止めるタイプの半袖のワンピース。どちらも布地は白を基調としていた。
ダークネスにおいて災厄の双子として恐れられた二人、「金鴉」と「煙鏡」が再び蒼天の間に足を踏み入れたのだ。

30 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:31:34
「反省した顔には、見えへんね」
「反省したっちゅうねん。反省しすぎて得体の知れない怒りが体中巡り巡ってるわ」

相変わらずの物言い。不遜な態度。
声をかけた「首領」をまるで恐れず、逆に挑発的な態度を取るのは「煙鏡」。
トレードマークだったお団子頭を解き、今は髪を軽く後ろで纏めている。

物珍しそうに、13の席を見回す二人の悪童。
今度はいつかのように二人で一つの席になることもない。と言うより空席が多すぎてどこに座ろうが、といった状態ではあるのだが。
「金鴉」が椅子が壊れるのではと思うくらいに勢いよく席に飛び付き、それを馬鹿にしたような目で見つつ「煙鏡」もまた自らの椅
子に深く体を沈めた。

「にしても、随分減ったなあ。亜弥ちゃんも梨華もおらへん」
「かおりんもいないじゃん。予知とかどうすんの?」
「ええやん。これからはうちらがダークネスの未来の導き手になるってな」
「…はしゃぐのもいいけど、そろそろ座りなさい。ここは遊び場じゃないのよ?」

「永遠殺し」が諌めるのも無視し、「おばちゃんうっせーよ」とか「あれ、お前誰やっけ。確かコバヤシ…」「てかまことが幹部?
冗談でしょ!」と好き放題。だがある事に気づき、ぴたりと動きが止まる。

「そういや、あいつがおらんやないか。うちらを呼びつけた、芋科学者が」
「カガクシャ先生は重役出勤ってか?うらやましいねえ」

毒づく二人の背後の扉が、ゆっくり開く。
いつものように一番遅れて件の科学者が登場、と思いきや。

31 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:33:30
「何なの、これ」

呆れた「永遠殺し」が一言。
何やら黒い布に包まれた大きな物体を持ち込んだ白衣の男たち。徐に椅子の一つに設置すると、勿体ぶった布切れを剥がし取った。
姿を現す、大きな液晶テレビ。

「おいおい、まさか…」
「その通りですよ、『鋼脚』さん」

頭に過ぎった想定を肯定する声。
テレビのモニターには、砂浜に置かれたサマーベッドに白衣のまま寝転ぶ女が一人。
日除けの為に挿されたパラソルと、テーブルの上のトロピカルドリンクが、嫌が応にも南国気分を醸しだしていた。

「おいこらお前!何してんねん!!」
「見ておわかりになりませんか?休暇ですよ」
「はぁ?うちら呼び出しといて暢気にバカンス、舐めたまねしてくれるわなあ!?」
「御不満があるのなら、そちらにいらっしゃる『首領』におっしゃってください」

テレビの画面に向かって噛み付く「煙鏡」。
休暇を楽しむ「叡智の集積」について問い質そうとするも、当の上司は優雅に寛ぐ白衣の女に腹を抱えて笑っていた。

「あんた…ほんまにそういう場所が似合わへんなあー」
「そうですか?白衣と砂浜という取り合わせは意外に悪くないと思いますが」
「まあええわ。ほな、早速会議のほう、はじめるで」

「首領」が、会議の開始を宣言する。

32 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:34:55
彼女たちが抱える今後の課題は。「永遠殺し」が、切り出した。

「Dr.マルシェが遂行した『プロジェクトЯ』は滞りなく終了しているわ。目論見どおり田中れいなを離脱させ、共鳴現象の再現
に関する大きな手がかりを手に入れた。そうよね?」
「ええ。田中れいなから奪取したモノのデータの解析ですが、それほど時間は取られないでしょう。田中れいなが抜けた代わりに、
こちらの貴重な実験体を取られてしまいましたが。まあよしとしましょうか」

貴重な実験体、というのはもちろんリゾナンターに加入した小田さくらのこと。
だが紺野の口ぶりからするに、それも想定内の出来事だったようだ。

「でもよ。それでよし、じゃ済まないんじゃねーの? 結局リゾナンターはれいなの穴を埋めきるだけの力を身につけちまったんだし」

「鋼脚」が冗談めいた口調でそう話す。
単なる冗談なのか、からかいなのか、非難めいたものなのか。薄笑いを浮かべた表情からは窺い知る事はできない。

「確かに完全に無視できるような存在じゃなくなったかもしれないっすね。例の組織に『蟲惑』さん再利用された一件も、完全にリゾ
ナンターに出し抜かれちゃいましたし」

『オガワ』が、へらへらしながらの追随。
もっともそれは、「永遠殺し」のひと睨みで意気消沈してしまう程度のものだったが。
そんな中、紺野は。

「そうですね。そこで私は。『金鴉』さん、『煙鏡』さんの両名をリゾナンターに差し向ける事を提案します」

俄かに場がざわつく。
共鳴の力を手に入れた今、組織にとってリゾナンターは粛清の対象でしかない。
となれば、本来であれば粛清人に任せるのが筋。ただ、今はその粛清人が空位であるからして、首領を除いた全員の幹部にその権利が
あるはずだった。が。

33 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:36:04
「さっすがこんこん!のんたちのこと、よくわかってるじゃん!!」
「錚々たる面々が持て余してたリゾナンターを、うちらが始末することで復帰早々の手土産にする。なかなかええシナリオやないか」

喜んでいるのは例の二人組だけ。
他の幹部たちは、それぞれが複雑な表情を見せる。唯一、「氷の魔女」だけは我関せずとばかりに手鼻をかんでいた。

「…どうでしょう?『首領』」
「ま、ええんやないの」

組織のトップの、嫌にあっさりした認可。
それに気を良くした「金鴉」「煙鏡」が忙しく席を立った。

「ちょっとあんたたち、まだ会議は終わってない―」
「だってのんたちの仕事はもう決まったんでしょ?」
「せやせや。リゾナンターを面白おかしく始末するええ方法、これから考えなあかんしな」

引き止める「永遠殺し」の言葉などまるで気にも留めず、足早に蒼天の間を去る二人。
普段から気苦労の多い副官は、ここぞとばかりに大きくため息をついた。

「はぁ…これだから私はあの二人の解放は反対だったのよ」
「ぼやきなさんな。幹部が一度に四人も欠ける異常事態。渋々ながらも満場一致の賛成だったじゃないですか、保田さん」
「くっ…」

「鋼脚」の言葉に言い返せず、苦虫を噛み潰したような顔をする「永遠殺し」。

「とは言え。さっそくうちの所属の人間が戯れに二人も殺されてる。あんまり悠長なことも言ってらんないよな、コンコン」
「そうですね」

燦々と降り注ぐ日の光をバックに、モニター越しの紺野は。
グラスを手に取りストローからゆっくりと色鮮やかな液体を吸う。
それから。

34 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:37:04
「のんちゃんとかーちゃん、いや。「金鴉」さんと「煙鏡」さんの扱いについては、私に任せてください。ただまあ、それよりも今は
リゾナンターです。エースを失っても尚立ち続ける若き能力者たちと、組織の異端児たちの対決。結果は見えていますが…きっと面白
いものが見れますよ」

と、そこで画面に黄色いノイズが広がってゆく。
紺野のいた砂浜の砂が、砂嵐でも起こったかのように風に巻き上げられたことによるものだった。
同時に、鋼鉄の風車が空をばさばさと切る音。黒いボディのヘリコプターが乱暴に着地しようとしていた。

「そろそろ時間のようです。まったく従業員にきちんとした休暇も与えないようでは、いつかブラック企業として訴えられますよ」
「…はは、考慮しとくわ」
「それでは、失礼」

「首領」の曖昧な返事を聞いた紺野が立ち上がり、ヘリに向けて歩き始めたところで映像が途切れる。
画面は暗転したのち、永遠に沈黙した。

「どいつもこいつも…勝手なものね」

後輩たちの理不尽な立ち振る舞いに、思わず「永遠殺し」が嘆息を漏らす。
その横ではま、それもええやろと言わんばかりの「首領」の顔があった。

「じゃあ、美貴も行くから」
「あんたまで…『ダークネス』もすっかり統制の取れない集団になったわね」
「て言うか悪の組織に統制なんて必要ですかね」

捨て台詞のような言葉を口にしながら、「蒼天の間」から立ち去る「氷の魔女」。
緩んでゆく冷気を肌で感じつつも、先輩は眉を顰める。

35 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:38:05
「あの子があんなふうになってしまったのもきっと、『赤の粛清』のせいよね」
「でしょうねえ。松浦のヤツが死んでからずっとあの調子ですから。かと言って『i914』に復讐を仕掛けるわけでもなく。正直あいつ
の考えてることはあたしにもわかりません」
「へえ!情報畑の吉澤さんにもわからないんですか!!」
「うっせえよ」

最後の「オガワ」の言葉が気に障ったのか、再びプリン頭を小突く「鋼脚」。

「ところで組織再統制っちゅうか。新しい粛清人の件なんやけど。この調子じゃよっすぃー、あんたんとこに仕事が集中するで?」
「確かにね。個人主義の塊みたいな連中じゃ、あんたんとこにしわ寄せが行くのは間違いないわ」
「ちょっと早い気はするんですけど。『ジャッジメント』に任せようかと」

組織を束ねる二人の顔色が変わる。
なるほど、紺野が嬉々として報告の役目を自分に任せるわけだ。
「鋼脚」は改めて可愛くない後輩の悪趣味に苦笑した。

36 名無しリゾナント :2014/07/29(火) 00:41:05
>>28-35
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
new WINDさんの更新の後という間の悪さに乾杯w

37 名無しリゾナント :2014/08/04(月) 23:50:20
>>28-35 の続きです



「だからさぁ、昨日の試合がチョー面白かったんだって。坂本選手がめっちゃカッコよくて」

べちっ。

「…て言うかタケってニワカだよね。イケメン選手のことしか話さないし」

べちっ。べちっ。

「うほっ!うほうほうほうほっほ!!」

べちっ。べちっ。べちっ。

「出た!かななんのゴリラのまね!じゃあめいも物まねやる!!」

べちっ。
べちっ。べちっ。

重たい緩慢な音が、部屋にこだまする。
音の主は、部屋の隅で座り込んでいる人物であることは間違いない。
その状況を、部屋を共にしている少女たちはまるでなかったもののように扱った。
いや、そうすることしかできなかったと言ったほうが正しいか。

艶やかだった髪は乱れ張りを失い、かつて怜悧な輝きを保っていた瞳は目の前の壁を見ているようでまったく見ていなかった。
なのに、手先だけは緩やかに一つの動作を続けている。

拾い掴んで、投げる。また拾い、掴んで投げる。
その度に投げられた「それ」は含んだ油で壁を汚してゆく。
彼女が投げているのは、唐揚げだった。

38 名無しリゾナント :2014/08/04(月) 23:50:54
皿に盛られた唐揚げを、ひたすら壁に投げつける。
そんなことを、ずっと繰り返していた。
彼女の後輩たちは。無視しているのではない。そのあまりの不気味さ、不可解さに目を逸らしているだけなのだ。
証拠に、交わされる会話もどこか上の空のように部屋に響きわたる。

虚ろな少女 ― 和田彩花 ― を筆頭とする能力者集団「スマイレージ」。
彼女たちは警察の対能力者部署に所属しつつ、共同生活を送っていた。拠点に関しては、

「ただいまー、ってあやちょまた唐揚げで遊んでるの?食べ物は粗末にしちゃだめでしょ」

部屋に入るなり躊躇無く彩花に話しかけた福田花音。彼女が都度”見つけて”くれるので不自由は無かった。

「ふ、福田さん」
「なに?まだあんたたち『あれ』に慣れてないの?」
「慣れるって言ったって、ねえ」

互いに顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべる四人の少女たち。
日がな唐揚げを壁にぶつける行為に耽っている光景に慣れろというのもまた、無理な話だ。

「メンバーの半分がさ、ぶっ殺されたんだよ。こんな風になってもしょうがないんじゃない?」

まるで他人事のように、花音は彩花のほうを見る。
相変わらずべちゃべちゃと唐揚げを壁に向けて投げているその姿は、狂気を通り越して哀れですらあった。

39 名無しリゾナント :2014/08/04(月) 23:52:49
スマイレージのオリジナルメンバーだった小川紗季は、止むことのない爆発によってその体を塵に変えられた。
同じく、前田憂佳は高出力の爆撃で心臓をくり抜かれた。もちろん、その頃彩花自身も全身に酷い火傷を負い意識を失ってはいたが。
二人の最期を知った途端、彼女の心は限界を迎えてしまう。

もちろん彼女たちと幼い頃から共に過ごしてきた花音もショックがないわけではない。
ただ、心のどこかでこんな日が来るかもしれないことを予想していたのかもしれない。そう言った意味では、花音は割り切っていた。

彩花は。花音とは違った。

右も左もわからぬ能力者の卵の集団において、彩花に光を見出した憂佳。
彼女と同じように、彩花もまた憂佳に希望の光を見ていたのだ。
彩花が親友として大事にしていた少女が永遠に喪われると、依存はさらに強まった。
それが、いきなり。何の前触れもなく、奪い去られてしまう。
足場を見失い、そして自分自身をも見失ってしまうのに時間はかからなかった。

「あー、一人が大丈夫な性格でよかったぁ、よかったぁ、よかったぁ」

彩花は壊れた機械のように、何度も同じ台詞を繰り返す。
手を差し伸べたいのに。
二人の仲間を見殺しにし、その上で最後の一人が底なしの闇に落ちてゆくのを皮肉に笑むことしかできない。それが何故なのか、花音
は知っていた。

この子を助ける事ができる人間は、もういない。

かつて彩花に光をもたらした少女は、先の戦いにおいて命を散らしてしまった。
つまり、闇に沈み天に掲げた手を引き揚げることのできる人間はいなくなってしまった。もちろん、自分にだってそんなことはできない。

40 名無しリゾナント :2014/08/04(月) 23:54:09
だから、諦めるしかない。しょうがないねと強がって見せるのが精一杯。

「で、これから和田さんのことはどうすんですか」
「ん?タケ、知りたい?」
「え、ま、まあ」

面倒くさい女だ、と思いつつも話を振られた短髪の健康優良児 ― 竹内朱莉 ― はそれを口にはしない。

「腕のいい精神潜行者(サイコ・ダイバー)に頼んでるんだよね。ま、ちょっと、って言うかかなり値は張るみたいだけど」
「いくらくらいなんですか、それ」

眉を下げつつ恐る恐る訊ねる少女 ― 中西香菜 ― の前で、花音が何本かの指を立ててみせる。うわ、ほんまですかそれ。細目を
見開いて驚く香菜を見て、おかめが般若になった、と毒舌を吐く勝田里奈。

もちろんのことだが。
腕のいいサイコダイバーに依頼したなんて嘘だ。いや、正確に言えば既に頼んでいたのだ。それも、一人二人などという生易しい数で
はなく。
だが、自称「腕のいい」能力者たちは彩花の内面を覗き込むとすぐに顔を青ざめさせた。それでも一応中を見たのだから、と図々しく
報酬を要求した輩は花音の隷属の洗礼を浴び、今頃どこで何をしているのかもわからない。

それではなぜ、花音は後輩たちに気休めに過ぎない嘘をつくのか。
花音は、答えを自分の中に思い描くことはしない。思い描いたが最後、それが描いただけのものに終わりそうな気がしたからだ。

41 名無しリゾナント :2014/08/04(月) 23:54:51
「あのぉ、福田さん」
「どうしたの、めい」

一言目から既に言いにくいけどやっぱ言っちゃおうかな、そんな空気を出していた。
だが、田村芽実は眉毛を斜め45度にしてはっきり口にする。

「新垣さんに、頼むわけにはいかないんですか?」
「…無理」

間髪入れずの即答だった。
彩花はスマイレージにとってなくてはならない存在。それは十分承知している。
けれど、それだけはありえない。
目の前で花音のプライドをずたずたにした、あの高橋愛の盟友に救いを求めることなど。

「新垣なんかより、腕のいいサイコダイバーは腐るほどいるんだから。あんたたちは安心して吉報待ってなよ」

花音は、自らそんなことを口にしながらも、知っていた。
相手の精神下に潜行し、最小限のリスクで相手を救うことの出来る能力者など、そうはいないことを。そして。
新垣里沙が、その数少ない能力者の一人であるということも。

それでも。
花音は一度決めたことを曲げるつもりなど、毛頭無かった。

42 名無しリゾナント :2014/08/04(月) 23:55:26
>>37-41
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

43 名無しリゾナント :2014/08/05(火) 22:11:15
何者かに追われ、襲われる一人の女。

「私は死ぬのか…?嫌だ…こんな惨めな死に様は。憎い…あいつらのせいで…!お前らのせいで…!」

そこに、どこからともなく声が響いてきた。

“憎め、憎め。憎しみこそ力だ。憎しみこそ闇だ”

ハッ!?

夢だった。
だが、直近の過去を象徴するような夢だった。

起き上がった女は、パソコンに向かう。
すると、珍しく組織からの通信が1件入っていた。

過去類を見ない失敗を犯し、それと共に以前の私腹を肥やす為の不正も明るみになり、女は粛清された。
息のかかった部下達も、多くは放逐された。
だが、それらを掻い潜った僅かな部下達の手で女は再生された。

しかし、組織に戻れる訳もなく、表立った動きも取れず、潜伏生活が続いていた。
そんな所に届いた、1件の通信。

『R 上がる模様』

そうか、ついにアイツもか…。
自分を手に掛けた“R”も、結局は人間らしい道へ戻るのか。

女は自身のした事を棚に上げ、人間という存在への一方的な恨みを募らせていた。
すると、何者かの人間に対する憎しみの声が呼応するように感じた。

「なんて激しい憎しみだ…。この憎しみが念力波となり、過去を呼び覚まし夢を見させていたのか…」

この聞こえてくる憎しみを、女は利用してやろうと思い付いた。

44 名無しリゾナント :2014/08/05(火) 22:14:09
「香音ちゃんどうしたの?なんか嬉しそう」
「えっ!?べべべべ別にそんな事ないよ!?」
「え〜なんかますます怪しいですね〜」

香音はそうは言うものの、表情や仕草からも何か喜ばしい事があったのは明白だった。
そして、紙袋を大事そうに持ちながら店を出ていった。

カウンターを見やる聖と亜佑実。それに対し、微笑みながら頷くさゆみ。
2人は香音に気付かれないように、後をつけていった。

着いたのは、ターミナル駅の改札。
香音は、誰かが来るのを待っているようだった。

「誰が来るのかな…?」
「やっぱり…彼氏?」
「キャー!そんなそんな!」

2人で興奮しあっていた、その時。

「…何してんの?」

香音に気付かれてしまった2人。

「あっ…こ、これからどこ行こうかな〜って…」
「そ、そうです!そうなんです!」
「ふ〜ん。…つけてきたよね?」
「…うん、ゴメン」
「ゴメンなさい」
「ま、いいや。別に隠すほどのことじゃなかったし。あ、来た!」

45 名無しリゾナント :2014/08/05(火) 22:15:45
香音が手を振る方を見ると、香音に似た雰囲気の小学生くらいの女の子が手を振って近付いてきた。

「お姉ちゃ〜ん!」
「え?お姉ちゃん?て事は、妹?」
「そうだよ」
「お姉ちゃん、この人たちは?」
「あっ、紹介するね、私の大事な友達。聖ちゃんと亜佑実ちゃん」

お互い挨拶を交わし、近くのファミレスに入店した一同。

「じゃ〜ん!」
「わぁ〜!クマちゃん!」

大事そうに持っていた紙袋から香音が取り出したのは、テディベアだった。
妹は、香音の持つちゃーちゃんとお揃いのテディベアを持っていたそうだが、最近した引っ越しのゴタゴタの中でなくしてしまっていたという。

「わたしは大丈夫だよ。くますけは立派な大きな熊さんになって山に帰っていったんだ」
「え〜、何それすごい大人〜!」
「可愛い〜!」
「じゃあこの子を私だと思って、大事にしてね」
「じゃあ名前は“くまのん”だね!」
「アハハw くまモンみたいw」

その後、あとは姉妹水入らずでと、聖と亜佑実は香音たちと別れた。

46 名無しリゾナント :2014/08/05(火) 22:18:17
その頃。

「ここか…」

女は、ある山中の洞窟の前に立っていた。
その奥から、強い恨みの念を感じとっていた。


その後。
街に熊の化け物が出現し、人々を襲いだした。

リゾナンター達も現場に駆け付け応戦するが、熊の圧倒的なパワーに押され、劣勢になりながらもなんとか撃退した。

リゾナントに戻り、さゆみによる傷の手当てを受ける一同。
その中で、今回の熊の化け物が、今まで現れたようなふざけた怪人とは一線を画していることを感じ取っていた。
それに関して、さゆみが口を開いた。

「これは結構大きな話題になったから覚えてる人もいるかもしれないけど、みんながここに来る前ね、大きな熊が次々に人を襲って騒ぎになったんだよ。山狩りで退治されたはずだけど…」
「ということは、その時に死んでるんですよね?」
「でも、人間への恨みや憎しみは残った」
「それを、ダークネスが利用して実体化したんですね」「だけど、熊だって好きで人間を襲った訳じゃあないですよね」
「開発が進んで、山が枯れ、餌を求めて人里に出てくるようになって」
「それを追い回され、次第に凶暴になっていったんですね」
「人間を憎みたくもなりますよね…」
「でも、その憎しみを利用するなんて許せない!」

47 名無しリゾナント :2014/08/05(火) 22:21:12
一同は三手に別れ、見回りに出掛けた。

一方、香音の妹は香音の家で留守番をしていたが、お菓子を買おうとコンビニに行こうとしていた。


「あ、ここ私ん家近く」

聖と亜佑実と共に見回りしていた香音が呟いた。

「…!!」

それと同時に、胸騒ぎを感じた。
駆け出す香音。

「どうしたんですか鈴木さん!?」
「香音ちゃん!?」

追いかける2人。
駆け付けた先で香音が見たものは。

「お姉ちゃん!!」

熊の化け物に捕まった、妹の姿。
そこに覆面で正体を隠した女も現れた。

「動くな!動くとこの娘は…。手も足も出せまい。恨み重なるお前ら。少しの間楽しませてもらおう」

そう言って、姿を消した。
残されたくまのんのぬいぐるみを持って、香音は妹の救出を誓う。

48 名無しリゾナント :2014/08/05(火) 22:26:51
>>43-47
「NO ESCAPE」(前編)
妹さんの名前をどうしようか考えましたが結局出さないことに
だけどそれって難しいですね

49 名無しリゾナント :2014/08/05(火) 23:25:10
転載依頼ないけど…行った方が良いのかな?

50 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 00:39:05
行ってきました

51 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 02:57:22

山道を進んでいく一団の姿があった。
狩猟用の大口径猟銃を持った男達。猟犬たちが革紐に
引かれて進んでいく。素朴な猟師達の顔に、晴れやかな表情はなかった。

 「今日はあまり獲物がいなかったな」
 「最近は南下してきた獣達が鹿や野兎を喰い荒らしてるからなあ」
 「隣町では木々を伐採して自然がほとんど無くなってるというから」

猟の成果を語らいながら、猟師たちが山道を下っていく。
道は村へと続くなだらかなものに変わる。
道を挟む木々に広葉樹が増えてくると、猟師の一人が呟く。

 「ゲンさんが参加してくれればな」
 「あの人は、十年前の事件で猟の生業は辞めちまったからな。
 参加はしてくれないよ」
 「あれは酷かったな…」

猟師達の先には、革紐でつながれた黒や灰色や茶髪の
猟犬たちが進んでいたが、突然立ち止まり、喉を低く鳴らす。
猟師が犬の首輪につながる革紐を引いて制止し、警戒した方向を眺める。
山道の向こうから、旅行者の一団が歩いてきていた。
老人に中年に若い男女という六人だった。
威嚇する猟犬に気付き、一行の足が止まる。
猟犬の無礼を謝罪しようと、猟師たちが軽く会釈をする。

旅行者の長らしき老人が戸惑ったようにうなづく。
害意はなさそうだと理解し、猟師は話しかけた。

52 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 02:58:54
 「旅行者かい?隣村から離れた山になんか用があるのかね?」
 「ああ、ただ知り合いに会いにいくだけだ」
 「これから雨が降ると言ってたが、間に合うのかい?」
 「お気遣い感謝する、だが急ぎの用なのでね」

老人が答えると、猟師たちは顔を見合わせた。
黒い猟犬が吠える。
その横に居た茶髪の猟犬が一団に向かって疾走を開始した。
突然の動きに、猟師の手から革紐が抜けていく。

 「あんた、危ないっ!」

猟犬は一団に向かって一直線に走っていった。
獰猛な牙が、老人の右手に突き立つ、悲鳴をあげて老人が手を振る。
噛み付いていた犬が、腕から抜けた。大地に四足をついて、犬はまた
地の底からのような唸り声をあげる。他の猟犬たちも老人を囲みだした。

 「ああ、なんてことを!」

飼い主の猟師が走る。他の猟師たちも惨劇を止めようと進み、止まる。

 「犬めっ!野生を忘れた人間の奴隷め!」

激昂した老人の姿は、見る間に変貌していく。
皮膚を剛毛が覆い、体が膨張し、衣服を破っていった。
大きく開いた口が、先頭の猟犬に向けられる。怯えた猟犬の足が止まる。

 「なんだ、なんなんだいったい!?」

53 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 02:59:29

猟師たちは異様な光景に叫ぶしかなかった。
老人が、風よりも速く動く。犬の頭部が老人の大顎に挟まれ、砕かれた。
唇からは脳漿と血液が零れ、胸元の剛毛を濡らす。
口から犬の死骸を垂らしたまま、巨大な人影が路上に立つ。
老人に倣って、他の旅行者達の姿も変貌していく。

 「あああ!ああああああ!」 

恐慌状態に陥った猟師が猟銃を抜き、目標も定めずに撃った。
旅行者の肩に命中し、獣毛と肉と血を散らせる。
猟犬たちが恐慌状態に陥り、変貌した群れに走っていく。
猟師たちは猟犬が戦う光景を背後に走った。村へと逃げ帰るために走る。

前方の道に人影が見えた。
夕暮れの大気に、紅い光条が疾走していく。
鞘師里保の振るう『紅い刃』が、毛皮に覆われた左肩から右脇腹までを両断する。
血と内臓を撒き散らし、獣の陰が怒号をあげる。
翻った刃が、左から襲撃してくる獣の右腕を切断。

苦痛の咆哮を上げて、影は後退する。獣の瞳と爪牙が光る群れに並ぶ。
影の群れは二足歩行で直立していたが、どこか違和感がある。
前方に長く迫りだした口腔には、鋭利な犬歯と門歯が並ぶ。
尖った三角の両耳は頭頂に立てられていた。
人間の戯画のような造形。
全身を暗灰色の剛毛に覆われた者達は
狼とも人間とも判別しがたい異形の群れだった。

 「<人狼>、くどぅー以外に見るのは初めてだ」
 「ハルも初めてですよ」

54 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 03:00:12

鞘師の傍らで工藤遥が苦笑する。
胴体を薙ぎ払われ、腕を斬りとばされた人狼たちの傷口が蒸気を噴きあげる。
傷口が癒着し、出血が止まっていく。

 「普段は人間の姿で、戦闘時には獣の膂力と俊敏性を持つ獣人に変身できる。
 つまりは本当の意味での<獣化能力者>」

咆哮をあげて、人狼たちが突撃を開始する。
迫る爪牙。鞘師が刃を振るい、血霧が舞う。

 「遠慮はいらないですよ鞘師さん。仲間じゃない人狼に同情する義理はないので」

工藤は4つのM67破片手榴弾の安全ピンを手や歯で取りはずし
Tの字に折れた安全ピンの先をまっすぐに戻す。投擲。
安全レバーが外れて眼前に迫る最前列の人狼に着弾。電球は人狼の上半身を
丸ごと消失させ、最後尾にいた人狼の頭をも消し去り、飛翔。
背後の木の幹にも着弾し、爆音と破片を散らす。
一拍置いて、人狼と巨大な樹木が大地へと倒れていった。

 「じゃ、遠慮なく」

上空からの紅い閃光、鞘師の『刃』が振り下ろされる。
逃走しようとした人狼の頭頂から、尻尾の生える股間までもが一気に両断。
続いて閃く水平の刃。傍らを駆け抜けようとした人狼の頭部を両断。
左右上下に分割された屍が、濡れた落下音を立てた。
再生すら許されない致命傷を受け、人狼たちは絶命する。

 「ほんの数分前まで依頼を受けてくったりしてたのに」

55 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 03:01:02

まるで本能とでも言うのか、眠気眼だった鞘師の瞳は爛々と輝いている。
木々が並ぶだけの辺境の街道の風景は、今では人狼たちや猟犬たちの
死骸が転がっている。血臭漂う酸鼻な戦場になっていた。

 「そういえばさっきの猟師さん達は?無事に逃げれたかな?」
 「逃げれたとは思いますけど、ハル達は完全に囮にされたでしょうね」
 「ふうん、まあ良いよ。居てくれたってどうしようもない」

鞘師の握っていた紅い刃が形状を歪ませ、最後には液体になった。
そして手の甲に刻んだ傷に吸い込まれ、掌にはべっとりと朱色が塗られている。
ハンカチで拭っていると、背筋に悪寒が走った。

 「くどぅー!」

鞘師の鋭い声に反射的に視線を向ける。
人狼たちの死体の陰から、陰が飛び出した。
人狼の生き残りが、突進してくる瞬間だった。

 「っ…なろっ!」

怒涛の一撃を、腰に仕込んでいたダガーナイフで辛うじて弾く。
割り込んだ鞘師が斬撃を放ち、人狼の左腕を肘で切断する。
片手から鮮血を噴きあげながら、人狼は人とは逆方向に膝を曲げて
大地に着地する。
獣と人の間の瞳が、殺意を持って二人を見上げる。
再度の突進が開始された。
人狼の右手を避けながら、右肩へとダガーナイフを突き立てる。
P226を構えて発砲。

56 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 03:01:51

苦痛の咆哮をあげ、人狼が工藤の体を蹴って後方飛翔。
泥土の飛沫をあげて着地する。
腕と肩の傷を修復しつつ、人狼の黄金色の双眸が仲間の死体を見下ろす。
哀感を帯びた黄金の瞳だった。
再び上げられた瞳が二人を見据える。
視線で殺すかのような、憎悪が煮えたぎる坩堝の瞳。
衝撃で咳き込みながらも、工藤は体勢を整える。

 「そんなに睨まないでよ。あんたが相手だって聞いたから人間として
 相手してやってるんだしさ…今後人間に害を成さないなら見逃す。
 というか見逃させてよ、勝手なことだって自覚してるんだから」

猟犬と人狼が内臓と血を撒き散らし、死屍累々と重なる夕暮れの山道。
工藤と人狼の視線は、時間を忘れたような静謐のなかで交差する。
人狼は工藤から視線を逸らさずに下がる。
そのまま山麓への一本道を狭谷まで後退。
喉を垂直に立てて、人狼は叫びを一声あげた。
悲哀を振り絞るような声だった。

人狼は膝を曲げて伸ばす。獣の体は、一気に後方跳躍。
続いて疾風をまとって山へと逃げ去っていく。

追おうと足を踏み出した鞘師だが、止めた。

57 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 03:02:28
 「あの人だけを生き残らせたとしても、寂しいだけだよ」
 「それでも人狼を絶滅させるのは、ハルのわがままです。
 すみません、さっきあんな強気で同情しないって告げたのに」
 「あの弾丸を撃ったならまあ、二度目の獣化はないと思いたいけどね」

拳銃を撫で、工藤は腰に納める。あれは誓約の縛鎖だ。
一方的な工藤の、"大神"としての身勝手な願いだ。
それでもあの人狼が再び変貌するというのなら、もうどうしようもない。

 「さて、帰ろうくどぅー、もう眠くてしかたがない」

空はさらに暗雲が垂れ込めている。
空気に湿気が増し、太陽が完全に落ちようとしていた。

58 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 03:05:15
>>57
タイトルは『銀の弾丸 -Night of clown-』とでもしましょうか。
長くなってしまったんですが、自分がさるを食らった時は
誰か代わりをお願いできませんか。いってきます。

59 名無しリゾナント :2014/08/06(水) 08:28:37
>>49-50
遅くなりましたが転載ありがとうございました
一言添えておくべきでしたね、すみません

60 名無しリゾナント :2014/08/07(木) 01:07:21
工藤の鼻先に冷たいものを感じた。
続いて周囲に雨粒が降り注ぐ。雨は水滴の足跡を見る間に増やしていく。

 「まーちゃんに連絡とれないし、どうしましょう鞘師さん」
 「とにかく歩くしかないよ。ああ困ったな、何とか私のチカラで
 操作してみるけど、範囲としては半径数メートル。このまま止むのを
 待ってもいいけど、それよりは雨宿りを探した方がいいよね。
 さすがに気温までは操れない」
 「とは言え、うーん………建物らしいのはまだ見えてこないですね」

工藤が数十メートル範囲に『千里眼』を向けている。
鞘師が数メートル四方に『水限定念動力』で雨のシールドを形成する。
三方を高い崖に囲まれ、闇に林や森が点在する広めの盆地に出た。
閉塞感を誘う陰鬱な風景だ。
小雨だった雨足は急速に強まり、地面を一面の泥濘に変えていた。
水滴で視界が不明瞭になりながらも、それでも何かがあると信じて進む。

 「それにくどぅー、怪我してるよね。さっきの人狼に蹴られた所」
 「あ、いえ、その…はい…我慢してました。正直泣けてきてます」
 「治療するための緊急避難。さてどうするかな」

鞘師が持っていた『治癒能力』付与救急パックは依頼の時に使ってしまっている。
工藤の体力を消耗させないために雨を避けながら数十分後。
雨の紗幕の向こうに灯る明かりが見えた。

61 名無しリゾナント :2014/08/07(木) 01:07:57
光源である山荘に接近してみる。
山荘は石造りの頑丈な二階建てだった。
地下室への入り口もあり、寂れた山には不似合いな程度には大きかった。
住人が手入れをしていないのか、敷地は泥の海となっている。
林から延びた下生えに侵食され、山荘の木材が腐り落ちている箇所もある。
窓からは目指していた人工の灯が漏れている。
どうやら先客がいるようだ。

 「どうします?」
 「うん。まあこの雨をしのぐ同志として話をつけてみよう、くどぅーが」
 「ハルがッスか」

鞘師は雨を振り払うように玄関口の石造りの階段を上る。
横にあったバケツの水で服を少しだけ湿らせておく。
杉材の扉の前まで忍び足で接近。
仕方なく工藤も後を追って、ダガーナイフを構えた。
扉をノックすると、それは簡単に開いた。

暖炉の柔らかな明かりが広がる室内には、目と口で三つの丸を作った
人間達の顔が並んでいる。対応した女性は少し驚いていたが、小さく微笑んだ。

62 名無しリゾナント :2014/08/07(木) 01:08:46
跳び込んだ山荘には、五人の先客が居た。
工藤が自己紹介のついでに山を越そうとしたら狼の群れに遭遇し
襲われて命からがら逃げてきたことを告げると、全員が不安そうな表情になる。

 「ふうむ、この辺りは南下してきた獣が多く生息しているとは聞いてましたが
 まさか人間を襲うなんて、可愛そうに。しかもこの豪雨だ。
 やはりこの家に避難したのは正解だったようですね」

向かいの椅子に座り、郷土史家だという青木が煙草の煙を吐き出す。

 「しかし、この家に住んでいるはずの源太郎さんが不在だからといって
 勝手にはいるのはどうかと……」

窓際に立って、風邪気味なのか神経質そうに小さく咳き込んでいるのが
役人の五十嵐という中年男だった。

 「緊急避難ってヤツだよ。嫌ならおまえさんだけ出て行けばいい」
 「そうよ、これは不可抗力。しょうがないことなのよ」

応接椅子に寄り添って座る若い男が安部、女が岸本という旅行者だ。
棚から勝手に酒を取り出し、安部は手酌で飲んでいる。
酒のせいか顔が赤くなっていた。

 「山の天気は変わりやすいというけれど、この季節に
 こんな急な変化は難しいですね。あ、蜜柑はどうですか?お二人共」

63 名無しリゾナント :2014/08/07(木) 01:09:36
椅子に座ってこの地方特産の蜜柑を食べているのが、山向こうの村に
住んでいるという行商人の道島。
二人の境遇を気にしてか、出会ってから何度も気遣いの言葉をかけてくれる。
何処となく風貌が道重さゆみに似ていた。
下の名前も「沙由美」というのだからこれほど偶然な出会いも無いだろう。
青木と安部も蜜柑を受け取ったが、岸本は「服に飛沫が飛ぶので」と丁寧に断った。

青木は裏の森で昔起きた事件で建てられた祠の調査をしていたそうだ。
そこで急な雨に降られ、この山荘に避難してきたという。
五十嵐は役所の仕事で山越えをしていた。
ついでにこの家の主人で、元自警団だった源太郎という老人に会いに寄った。
五十嵐は何とも陰気で冴えない中年男の典型的な顔をしている。

道島は山向こうの村から山を越えてきた唯一の山道が、背後で土砂崩れになって
どうにもならなくなったという。
安部と岸本は数キロ先の村で明日行われるイベントに参加する為に山越えを
していたが、土砂崩れで道をふさがれてしまい引き返してきたと言う。

全員がそれぞれの理由でこの山荘に留まることにした。
暖炉の前で工藤の負傷を治療しつつ、鞘師は全員の名前と顔を一致させる。
先程まで血生臭かったからなのか、人の存在がどこか懐かしく感じた。

64 名無しリゾナント :2014/08/07(木) 01:13:55
>>60-63 今回は短めです。
あと実は修正する誤字脱字が一部だけあるんですが、もしも
wikiに(ryするのであればリゾスレのものを(ry

65 名無しリゾナント :2014/08/08(金) 01:59:56
 「急な豪雨に襲撃事件。唯一の道も塞がれてる今は朝になるまで
 ここに待つしかないな。全く、なんて厄日だよ」
 「安部さん、私怖い」
 「全く、だから田舎は嫌なんだ」

しなだれかかる岸本に目尻を下げた安部が答える。
「田舎は関係ないですよ」と五十嵐が小さく反論した。
安部の視線が五十嵐に返されると、小役人は黙り込む。
不安のせいか、なんとも気まずい空気が流れる。

会話が無い時間の進みは、あまりに遅々としていた。
雨音と五十嵐の咳だけが室内に響く。

 「咳がうるさいぞ。止めろ」
 「そんなことを言われても」
 「咳の音にイライラする、こっちまで頭痛が激しくなるんだよ」

赤い顔の安部と彼に抱きつく岸本は棘のある言葉を投げつけあう。

 「そうよ、腹が立つわ」

彼女の赤い顔は濡れたための風邪なのかもしれず、不機嫌に拍車をかけている。
咳き込む五十嵐が気に障るらしく、険悪な雰囲気になる。
横目で見ていたが、このままの空気で朝まで過ごすのも気が滅入った。

工藤は少しばかり空気を変える為に口を開く。

66 名無しリゾナント :2014/08/08(金) 02:01:30
 「どなたか小銭を持っていませんか?三種類の小銭を二枚。
 出来れば六枚ほど貸してほしいんですけど」

言い争い寸前だった三人が、工藤の提案にそろって怪訝な顔をする。

 「は?小銭、ですか?」
 「ちょっとした退屈しのぎですよ」
 「なら僕のを貸そう」
 「おい」
 「いいじゃないか、子供には優しくだよ」

青木が小銭を工藤に手渡す。一円、五円、十円。
新しい煙草に火を点ける青木の向かい側の椅子に腰を下ろす。

 「では道島さんは三種類の小銭の中から、私や他の人にも
 見えないように一枚を取ってください」
 「え、ええ、分かった」

訝しげな表情の道島が近寄る。工藤が目を逸らしている内に選ぶ。

 「手を握ってください。他の人には見えないように」

工藤は見ないままに残った二枚を懐に入れる。次にもう一方の組
三種類の小銭を机の上に並べる。

 「青木さん、三種類の小銭から一枚を選んでください」

67 名無しリゾナント :2014/08/08(金) 02:04:21
向かいの椅子で煙草の紫煙をあげつづける青木が、興味を持ったらしい。
体を屈めて、机の上にある三枚の小銭のうち、一円玉を指先でつまむ。

 「では、捨てた小銭以外の小銭のどちらかを、手にとってください」
 「何をさせたいんだい?」

怪訝な表情の青木が、それでも素直に五円玉を取る。

 「青木さんが選んだ小銭は……机の上の十円玉ですね」

工藤の言葉に、青木や人々の視線が机の上に集中する。
残ったのは、赤銅色の十円玉。

 「それでは道島さん、掌に持っている小銭を皆さんに見せてください」

道島が五指を開く。
掌には机の上のものと全く同じ、赤銅色に輝く十円玉が表れた。
小さな驚愕の声が、全員の口から漏れる。

 「何で?どうして青木さんの選択が分かったの?」
 「それに順番的に本人すら何を選ぶか分からないはずだ」

工藤を囲む人々が、驚嘆や推測で騒然としている。
暖炉の横で暖かくなってきたのか、毛布を枕代わりに鞘師が眠っていた。

68 名無しリゾナント :2014/08/08(金) 02:05:19
 「小銭をすり替えたか何かがあったんだきっとっ」
 「そんな、このお金は青木さんのものですよ。それにこの子と
 私は知り合いでもなんでもない、打ち合わせだってしてないんですよ?」
 「そうです。道島さんが握ってから、この子に触られてもいない」

道島と五十嵐に指摘されて、青木が言葉に詰まる。

 「まあ単なる手品ですから、あんまり難しく考えないでください。
 あ、お金はお返ししますね、ありがとうございました」

憤然とした青木は机上の硬貨を握って考え始める。
まるで推理探偵のように批評を呟いていた。
どうやら青木は推理劇をするのが趣味らしい。
安部や岸本、五十嵐や道島も、それぞれに自分の財布から
小銭を持ち出して、ああでもないこうでもないと謎解きをしだした。

いくらか活気を取り戻した部屋の雰囲気と反比例して、工藤の思考は沈む。
雨足強まるばかり。
悲嘆を訴えるように激しく窓を叩いていた。

69 名無しリゾナント :2014/08/08(金) 02:06:30
>>65-68
ここに載せてスレに投下するのもなかなか大変ですね…。

70 名無しリゾナント :2014/08/09(土) 17:19:55
何故<人狼>が人を襲うのか。
漂白の民として距離を取りながら人類と共存する<人狼>は居る。
その場合は人狼であることを隠し、大部分の人狼は人類に敵対している。
<獣化能力者>としての過去の遺恨。
異能者と呼ばれる前から彼らは産まれ生きていたが、人間達によって
狩られていた事で、人間を憎むものも多い。
そして十年前、あの麓の村でも異能者によって人狼が退治された。

人狼達が、<獣化能力者>が何処から現れたのかは分からない。
もしかしたら別の場所でコロニーを作り、人間か狼として生きていたのかもしれない。
工藤達が討伐した人狼たちは何のために山を越えていたのだろう。

人間の姿で、何処へ行こうとしていたのだろうか。

71 名無しリゾナント :2014/08/09(土) 17:20:46
緩慢な時間の流れが続く。
安部や岸本に求められるまま、工藤は何度か手品の再演をする。
彼らの推理は続いていった。

 「すみません、ちょっと…」

道島が席を立つ。懐中電灯を片手に、部屋の扉へと向かう。

 「こんな時間にどこへ?全員でここに居ると決めたでしょう?」

青木の詰問に道島が困ったような表情を浮かべる。
それに対して工藤が気付き、道島に告げた。

 「ちょっとトイレ行ってきます!良ければ一緒に来てもらっていいですか?」
 「あ、ええ良いわよ、一緒に行きましょう」

道島と共に工藤は出て行く。
その間、道島は工藤に対して優しく声を掛けた。

 「さっきはありがとう。キミは勘が鋭いね」
 「いや何もしてないですよ。私こそ道島さんに
 凄くお世話になっちゃってますね、蜜柑ご馳走様でした」
 「ううん、いいよ。どうせお土産に買ったヤツだから。
 さっきの手品もキミが考えたの?」

72 名無しリゾナント :2014/08/09(土) 17:21:19
 「ああ、あれね。あれは……じゃあ道島さんにだけ種明かし。
 あれは手のなかで種類を判別して、相手の答えが正解なら
 それをもっともらしく予言していたと言ってやるんです。
 最初の解答が外れてたら次の解答が正解みたいに。
 さらに外れていたらって繰り返すだけの後出しの正解を言うだけ」
 「あ、なるほど。けどそれって手品じゃないよね」
 「手品なんてそんなもんスよ」

道島の微笑みに、工藤も自然と笑った。
薄暗い廊下を何度も左右に曲がり、奥へと向かう。
廊下を右折する合間、道島が唐突に言葉をかける。

 「胸の傷、痛む?」
 「あ、いえ、だいぶマシになりました」 
 「ごめんなさい。掘り起こそうって訳じゃないの。
 私の村も昔、ちょっと似たような事件が起こったから、そう、ちょうど
 キミぐらいの時にね。その時は強盗だったんだけど、とても怖かったわ」
 「そうだったんですか…」
 「…ねえ、狼がキミ達を襲ったって言ったけど、どうして狼が
 人を襲ったのかしら、普通の狼はそんな事をするかな?」
 「分かりません。一瞬のことだったので私には何も…」
 「うん、ごめん。止めようこの話は。傷を抉るだけだもの。
 でも、狼達が意味無く襲うなんてことはしないと思うんだ。
 きっと、人間に対してあまり好印象じゃないのね、恨んでるのかもしれない」
 「…道島さん、その強盗に襲われた時に、何かあったんですね」

73 名無しリゾナント :2014/08/09(土) 17:22:07
道島は伏せた瞳で廊下を見下ろす。

 「両親を失ったわ。でも、私は恨むことが出来なかった。
 怖かった、両親と同じになることがとても、怖かったの」
 「それがきっと普通のことだと思います。復讐は何も生みませんから」

工藤の愁いた瞳は、子供には似つかわしくない色を帯びている。

 「それに、その強盗たちは殺されてしまったわ」
 「え?一体誰に…?」
 「さあ、詳しくは分からない。でもお祖父ちゃんがそういう仕事を請け負う
 人間が居て、その人達に頼んだって言ってた。殺し屋というのかもね。
 もう7年も前の話だけど、"R"というイニシャルだけは覚えてる」

工藤が口を開こうとすると、自分の意志とは関係なく悲鳴が漏れる。
滑ったのだ。転がった懐中電灯の光は洗面所の一部を照らす。
闇に浮かぶタイルの床には、液体が零れている。

 「だ、大丈夫!?」
 「いてぇ…水で滑ったみたい、です…」
 「怪我しなかっ………」

そこまで言って、道島は工藤の靴裏を濡らす液体に気付く。
工藤も異様な匂いに気付いて床に鼻先を近づける。

 「血の、匂い……?」

74 名無しリゾナント :2014/08/09(土) 17:23:00
よく見ると、廊下には床を拭いた痕跡があった。
工藤は奥へと急いだ。廊下の奥に下りの階段。

 「遥ちゃんっ?」
 「道島さん、鞘師さんを呼んで来て下さい」
 「え?」
 「早く!」

地下室の鉄扉を開けると、暗い室内の床が覗いた。
警戒しつつコンクリートの階段を降りる。塵埃が鼻と喉に絡む。
扉から届く懐中電灯の光に、地下室の輪郭が浮かび上がってきた。
四方はコンクリートの壁。天井に嵌めこまれ、天窓がある。

立ち込める血臭が濃度を増した。
農機具や椅子、薬缶やフォークなどの物体が幾何学的な複雑さで
組み合わされた奇妙なものが中央に安置されている。
道具達は、どこか異教の祭壇めいたものに見えた。
最上段に飾られた物体を確認し、工藤は息を呑んだ。

背後では悲鳴。
鞘師を呼ぶように言った道島が心配になって追ってきたらしい。
祭壇を構成する全ての物体が黒血に塗れていた。
胸板に穴を穿たれて、心臓を抉られた年老いた男の苦悶の顔が浮かぶ。

75 名無しリゾナント :2014/08/09(土) 17:25:05
コンクリートの壁や床に、棚や家具に、血飛沫の痕。
そして手や足、内臓などの人体の無残な破片が不規則に転がっていた。
室内に充満していた血と様々な臭いが、ようやく工藤の鼻孔を刺す。
血の祭壇を見てしまった道島が大きな悲鳴をあげ、尻餅をつく。
血と肉の感触でさらに狂乱した絶叫をあげた。

76 名無しリゾナント :2014/08/09(土) 17:29:22
>>70-75 以上です。
夏用に書いたのに舞台が冬という変な矛盾。

77 名無しリゾナント :2014/08/11(月) 01:16:38
 「げ、ゲンさん!?ここの主人の源太郎さんだ!」

悲鳴によって駆けつけた五十嵐が叫び、床一面の血の海に手をついた。
喉が膨らみ、手で口を押さえる。だが堪え切れずに吐き出してしまう。

 「なんなんだ、これはどういうことなんだ!?」

血の海で尻餅をついた岸本を抱え起こし、恐慌状態になりかけの
安部の横を素通りし、鞘師は血の祭壇に接近する。
まるで老人の状態を検分するようだった。
ぽっかりと空いた胸の穴に刺さっているのは、壊れた猟銃だった。

 「この銃、強引に曲げられたみたいだ。それにおじいさんの首元に
 肉食獣が齧ったみたいな犬歯の痕があるよ」
 「鞘師さん、落ち着いてますね」
 「前にもこういうのを見た事があるからね」

道島を立ち上がらせる工藤が嘔吐感を堪えながら、そういえば
以前の猟奇殺人事件に鞘師は立ち会っていた事を思い出す。
そこまで考えて、工藤は悟って、鞘師が聞こえるぐらいの言葉を呟く。

 「<人狼>の仕業…ってことスか」
 「くどぅー、悔やまないで。私もここまで早い展開になるなんて思わなかった」

<人狼>の逃走した先が一本道で、人家があった。
住人がいて、出会って殺された。工藤は喉の奥に苦いものを感じる。

78 名無しリゾナント :2014/08/11(月) 01:17:15
 「思い出したことだけど、すぐ先の山道は土砂崩れで行き止まりに
 なってるって言ってたの覚えてる?」
 「あ、はい」
 「三方が切りたった崖に囲まれた盆地で、人狼の生き残りは
 山荘の方へと逃走したけど、道が塞がれて進めない。
 つまりあの人は山の向こうに抜けてない可能性が高い」
 「それはつまり…いやそれは…あんまり考えたくないッスね」

森の方へ向かったかもしれない、迂回して山を下ったかもしれない。
だがこの雨だ。
切り立った崖を登って、可能性が無い訳ではないが、あるという確証もない。

 「お、おい二人とも、あんまり近寄るな。子供が見ていいものじゃない」
 「もしかしたら二人を襲ったという狼の仕業でしょうか?」
 「バカな、こんな猟銃を噛み壊す狼なんぞ居るわけない」
 「だがこの噛み千切った痕はなんだというんだ?人間がこんな立派なものを
 持っているわけがないし、人間が人間を噛むなんて異常だろ」
 「青木さん、安部さん、一旦戻りましょう。道島さんが怯えてます」
 「まさかもうこの家に潜り込んでるんじゃ?」
 「はは、それこそまさかだろう。もしそうならとっくに俺達は殺されてる!」
 「いい加減にしてください!これ以上ケンカするなら追い出しますよ」
 「なんだとっ、子供のクセに…」
 「子供だからなんだと言うんですか?」

79 名無しリゾナント :2014/08/11(月) 01:18:42
鞘師の視線に、安部が、青木が慄く。血の色に煌く燐光が二人を貫いた。
人間のものとは到底思えない、静かな殺意に言葉が詰まる。
だが一瞬の出来事で、それ以上の喧騒は起こることを拒否した。

 「それよりももっと簡単な仮説があります。あくまで仮説ですが。
 ……この中に犯人が居る。それが一番可能性が高いんじゃないですか?」

沈黙する人間達に代わって、降りしきる雨音が哄笑していた。

80 名無しリゾナント :2014/08/13(水) 00:32:24
>>77-79
あ、ここを留めるのを忘れてましたごめんなさい。

81 名無しリゾナント :2014/08/13(水) 00:32:59
全員が無言のまま、重い足取りで広間に戻る。
血に塗れた服を替える者、応接椅子に座る者。
互いが互いに距離を取り、不振と疑惑の目を向けあう。

暖炉の炎の音や雨音、五十嵐の咳すらも、居間の静謐を強調させる。
出入り口に立つのは、どこか役者然とした顔の青木。
煙草の灰を床に落とした。

 「この場にいる誰かが犯人、いや…"人狼"と呼びましょう」

視線が部屋の六人を見回していく。
先程の現場を見てとっさにそう思ったのだろう。
まるで探偵気取りのように言葉を並べていく。

 「人狼を特定できれば解決できるでしょう。
 私の専門はこういう謎を解くことなのでね。つまりは研究と批評。
 論理的に考えれば、六人のうちの誰かが犯人なのですよ」

工藤は、隣の鞘師と同じぐらい苦々しい顔をしていた。
青木が言っているようことは正しいようで、間違っている。
さりげなく自分以外の人間が犯人だと言っていることも含めて、だ。

傍らの鞘師でも理解しているのに、この部屋の殆どの人間が分からない事。
推理する行為、その問題の境界条件自体が大きな間違いで、最悪の
事態を呼び寄せようとしているのだという事を。

82 名無しリゾナント :2014/08/13(水) 00:35:12
 「人狼なんてたいそうな呼び方をするじゃないか。それでどうするんだ?
 どうやってこのなかにいる人狼を探すんだ?」

暖炉の前で安部が問いを投げつける。
すでに人狼、殺人鬼の存在が前提となってしまっていた。
安部に寄り添った岸本は、連れあいの手を掴んで震えている。
部屋の中央に立つ青木が、芝居の台詞じみた言葉を続けた。

 「簡単ですよ。ルミノール反応を調べればいい。
 洗ったぐらいではまだ反応するはず、だからこの中で被害者の血で
 汚れた人が犯人だという訳です」

工藤は重い疲労感に襲われた。
何とも酷い言いがかりだ。あの場に居た全員が、それに該当する。

 「青木さん見てたでしょう?道島さんと岸本さんと五十嵐さんは
 それぞれ洗面所と現場で尻餅をついて、安部さんは岸本さんを
 抱え起こしたときに血に触れている。
 鞘師さんも青木さん、そして私は現場検証のときに血に触れてる。
 それにどうやって判別させるんです?道具もないのに」

青木は憮然とした表情で黙る。その時安部が口を開く。

 「ならこれならどうだ?もしもこの爺さんが俺達が来る前に殺された。
 土砂崩れの前で途方に暮れる道島さんに岸本が出会い
 雨に降られて山荘に戻った。少し経って青木が来た。
 だから最初に山荘にいた人間は……」

83 名無しリゾナント :2014/08/13(水) 00:36:25
安部に犯人とされた五十嵐が、咳き込みながら手を振って否定する。
青木が彼に詰め寄ることを無視できず、工藤は再度の指摘をした。

 「そんなのは過程にすぎません。豪雨の中を下山するのは
 不自然なために紛れ込んだだけかもしれない。
 山道は土砂崩れで封鎖中。犯行時刻も不明ではあるけど
 時系列なんてものはここに居る時点でもう意味がないんですよ」
 「そもそもお前達が俺らの中に犯人が居るって言ったんだろ?」
 「あくまで仮説と言っただけです。それに、そう言わないと貴方達は
 これ以上に意味のない言い合いをして身を滅ぼしてましたよ。
 それこそ殺し合いでも始めそうなほど」
 「なんだとっ?」
 「分かりました。犯人はあなただ、道島さん!」

安部の怒りを遮り、青木の指の先にあった道島の顔に驚きの表情が広がる。

 「え、わ、私っ?」
 「こんな夜遅くに、女性のあなたが一人で夜更けの山道を
 歩くのは奇妙ではないですか?」
 「あの、それはその、行商中に麓の村の親戚が急に危篤だって聞いて…」

混乱する道島は言い訳ができない。
工藤は眉をひそめて言い放つ。

84 名無しリゾナント :2014/08/13(水) 00:37:14
 「推理が急に雑になってますよ。それに、死体発見のきっかけを
 作ったのは道島さんの悲鳴です。人狼…と呼ぶ殺人犯がそこまでの
 拒否反応を示すでしょうか?あんな残酷な殺し方をするヤツが」
 「演技などいくらでも出来るだろう。それにさっきからずっと批判
 ばかりしてるが、お前達も例外じゃないんだぞ?」
 「それこそこの推理は成り立ちませんね。
 それに、ハル達がもしも犯人ならこんな余裕を持った批判を
 繰り広げてる間に皆さんに襲い掛かってるとは思いませんか?」
 「そうか、人狼は必ず行動を起こすはず!」

青木や安部、岸本や道島がそれぞれに納得する。

 「今すぐにでも山を下りよう。警察に行って全員を精密に検査すれば!」
 「残念ながら雨は今も降り続けてます。例えば視界が利かない森で
 人狼に背後から奇襲を受ける可能性もあります。
 最悪の場合、全滅の可能性もあるんですよ」

工藤の投げやりな分析に全員の顔が曇る。

 「今日は休みましょう。明日になれば天気も晴れて、山から
 下りられるようにもなりますから、それまでの我慢です。
 私達が見張ってますから、皆さんはどうぞ休んでください」
 「何故子供にそんな真似を…」
 「あ、じゃあ私も見てます。二人と一緒に」

85 名無しリゾナント :2014/08/13(水) 00:38:19
道島が二人を庇うように場を収めようとする。
それぞれに文句を言っていたが、それでも全員が応接室に散らばった。

86 名無しリゾナント :2014/08/13(水) 00:39:24
>>81-85
次で確信に迫っていきます。

87 名無しリゾナント :2014/08/15(金) 17:07:54
窓を通して外を見ると、雨は少し小降りになってきているようだった。
だが、時間は遅々として進まない。
源太郎老人の惨殺死体を目にし、しかも犯人がこの部屋にいるかも
しれないと思っていては、さすがに眠れる者もいない。
それでも暖炉の横に設置されたソファに倒れ込んでいた岸本は
風邪が悪化したような苦しげな寝息を立てていた。
連れの傍らで、安部は連れ以上に高熱を出しているのか、視線を
床に落としたまま動かない。

椅子に座る五十嵐は、眠りそうになるたびに自分の咳の音で起きる。
周囲に犯人がいないかと怯えた顔で見回し、また椅子に深く身を沈める。
道島は机に突っ伏し、小さく寝息を立てていた。
青木はまだ推理を続行しているのか、椅子に座ったまま紫煙を吐き続けている。
間延びした静寂。

 「ヒマだね、くどぅー」

鞘師が小声で工藤に語りかけてくる。

 「携帯も圏外だからアプリもできないし、くどぅーには辛い環境だ」
 「生田さんぐらいの依存症はありませんよ。それにこんな状態でよく退屈なんて…」
 「状況と言えばさ」

鞘師の目は天井を見上げたままだった。

88 名無しリゾナント :2014/08/15(金) 17:10:17
 「くどぅーはもう分かってるんだね、誰があの人狼なのか」
 「…漫画みたいに全ての手がかりを見つけられるわけじゃないし
 証人たちの記憶も曖昧です。だから安全策を選びました、けど…」
 「けど?」
 「人狼の動機が分からないんですよね。何があそこまであの人達が
 人間を憎むのか。いや、能力者な時点で辿る道なのかもしれません」
 「情でも湧いた?」
 「ハル達のやってることが正しいとは思わないです。
 どんなに弱いものでも強いものでも、悪い道に走るのはそれなりの
 理由があって、そうしてハル達もまた、非情なことをしている」
 「迫害されてきた過去を忘れろとは言わないけど、無関係な人間と
 敵対するのは筋違いだとは思うけどね」
 「人狼だけに、ハル達だけに譲歩を求めるなんて」
 「私達はそれでも人間と歩むことを選んだ。
 でもあの人達はそれを否定して、人類全体との敵対を望んだ。
 ならその先に永遠に続く戦いを引き受けるしかないんだよ」

人狼として生きる<獣化能力者>は、元々それが自然だからだ。
人類に敵対する人狼とって、自己の唯一の拠り所になってしまった。
彼らの存在を捻じ曲げようとした工藤の選択は、この現実を
見せられてしまったとなれば愚かな行動だったと言える。

 「ハルのせい、ですよね。あの時ハルがちゃんと……」
 「くどぅー、私にそれを責めることは出来ないよ」

89 名無しリゾナント :2014/08/15(金) 17:10:49
鞘師の正確な指摘は刃となって、工藤の口を閉じさせる。
源太郎老人に死を呼び寄せた原因が、工藤の判断に一因が
あることは認めざるおえない。
瞼が熱くなるのを感じると、腕で強引に拭った。

 「あの、すいません」

五十嵐が咳き込みながら声をかけてきた。
小用に行きたくて青木達に声をかけたが、誰も応じなかったらしい。

 「鞘師さん、私が行きます。その代わり…」

雑事を済ませてから、工藤がついて廊下を進む。
洗面所の前で時間が過ぎるのを待つ。
工藤の目は、廊下の窓の外を眺めていた。
銀の斜線が緩やかになっているから、雨はもうすぐ止むだろう。

 ―― さあ、道化の夜は終わりだ。
 銀の弾丸を埋め込まれた人狼の皮を剥いでしまえ。

五十嵐が出てきたのを確認し、工藤は深く呼吸をして、それから声を掛ける。

 「五十嵐さん、人狼はあなたですね?」

90 名無しリゾナント :2014/08/15(金) 17:11:26
>>87-89 いよいよ結末へ。

91 名無しリゾナント :2014/08/16(土) 01:16:16
>>28-35 の続きです



一方、里沙の連絡で負傷者がいるという現場に駆けつけたさゆみは。
黄色と黒の防護テープで囲われた一角に踏み込んだ時に目に入ったその光景に、反射的に顔を背けてしまう。

一体何をどうしたら、このような状況になるのか。
路地裏のその現場には、赤い、大きな染みがあった。染みの中央にある「それ」は。

「あ…あがが…た…たすけ…て」
「こ、こ、殺してくれ…」
「おれはおれはしにしにしにたくない」

「それ」が同時に別のことを喋っている。いや、そうではない。
雑巾が絞られたかのような肉の塊りと化していた「それ」は恐らく元は、三人の別々の人間だった。その唯一の証拠が、肉体に捻じ込まれ、
または割れた半熟卵のようにぐしゃぐしゃになりながら。そして互いの頭と脳味噌と目玉を混ぜ合わせながらも辛うじて三つの意志がそこ
にあるということだった。

「治療はそっちじゃないよ、さゆみん」
「ガキさん」

肩に手を置かれ、振り向くさゆみ。
久しぶりに会ったはずなのに、まるで彼女がリーダーをしていた時のリゾナント時代に戻ったかのように。さゆみは自然と新垣里沙の後を
ついてゆく。さゆみが先頭に立ち後輩たちを率いている現状からすると、えらく新鮮な感覚だ。

92 名無しリゾナント :2014/08/16(土) 01:17:54
里沙に案内され入った建物の中、薄暗い一室の壁に背をもたせ掛けた二人。
さゆみはその二人に見覚えがあった。

「あんたたち」
「はは、嫌な再会だねえ」

驚くさゆみを見て、皮肉な笑みを浮かべる女。
勝気な表情とは裏腹に、所々破れた服や血糊のついた頬が痛々しい。

彼女たちは。
かつてれいなとさゆみに襲い掛かったダークネスの一派。自らを「ベリーズ」と名乗った七人の刺客のうちの二人だった。

「茉麻や千奈美からたまにあんたの後輩には会ってるって話は聞いてたけど、まさかこんな状況であんたに会うとはね」

肩を竦めて冷笑してみせる勝気な女 ― 夏焼雅 ― だが、すぐに顔を顰める。体を動かすことで傷に障るらしい。

「ガキさん、これは」
「その二人は護衛をしてたのよ。うちで捕まえたダークネスの末端組織の人間をね。けど、襲撃者は一瞬にして護衛対象を
出来損ないのピザに変えた」

里沙の補足で、さゆみはようやく状況を掴む。
襲撃者はターゲットを戯れに再起不能の状況に追いやり、ついでに護衛の二人を嬲り去っていった。そういうことなのだろう。

「残念ながら。彼らには最早安らかな死を与える事くらいしかできない。その二人も、なるべく早く治療したほうがいい。
さゆみん、お願い」

里沙の言うとおり、雅はともかくもう一人の顔を青白くさせた金髪の少女 ― 菅谷梨沙子 ― は一刻も早く治療にかから
ないといけなさそうだ。
腹部の布地を朱に染めた梨沙子にさゆみは、そっと自らの掌を近づける。

93 名無しリゾナント :2014/08/16(土) 01:18:57
なるほど。この子はちょっとだけ外国の血が。それでこんなに逞しくなっちゃって。つまり子供の時はきっとさゆみ好みの
お人形さんみたいな女の子…成長の過程…デラックス…

「…殿堂入り」
「はぁ?」

さゆみの治癒の力が行き渡り、一瞬目を覚ました梨沙子だったが。
急速に体組織を再組成した反動なのか、すぐに気を失ってしまった。
続いて雅の治療に取り掛かるために、ダメージを受けているであろう部位に触れる。

「あいつは…あいつらは。何度かあいつらの『クローン』に会ったことはあるけど、そいつらより遥かに危険だった。あい
つらに睨まれた時、食われるんじゃないかと思ったくらいにさ。あんなちんちくりんな連中だったのに」

さゆみの治療を受けている雅が呟いた言葉に、里沙が反応する。



ほら、マメェ…楽しいよ?
モノクロームの世界。
里沙が目にした少女は、楽しそうに泥の団子をこねていた。
ぐっちゃ、ぐっちゃと音を立てながら練られる団子。
音と、映像だけがリアルに脳裏に刻まれる。
少し遅れて、色彩が戻ってきた。泥。泥。赤い泥。血溜まり。
泥団子だと思っていたそれが、少女に惨殺された肉の塊と気づいた時に。
里沙は両手を地に付き、そして吐いた。



94 名無しリゾナント :2014/08/16(土) 01:20:15
ふと我に帰る里沙。
その表情は思い出したくないものを思い出したかのように、苦渋に満ちていた。

「まさか…いや、そんなことは」
「どうしたの、ガキさん」
「さゆみん…覚えてる? 愛ちゃんがリゾナントに居た頃に、擬態能力で喫茶店に侵入したダークネスの能力者を」

何故里沙が突然そんなことを口にしたのか。
さゆみにはわからなかったが、首を縦に振る。折りしも、喫茶リゾナントは類似した能力を持った人間に襲撃されたばかりだ。

「ダークネスは、自分達の計画をより潤滑に進めるためにある擬態能力者のクローンを大量に生産した。そのうちの一人がさ
っきも言ったあの間抜けな侵入者だったんだけど」
「それがどうかしたの?」
「そのオリジナルがもしかしたら…表に出てきてるのかもしれない」

里沙は擬態能力者のオリジナル、つまりその危険性から長きに渡り幽閉されていたダークネス幹部・「金鴉」のことについて
説明しはじめた。気ままに殺戮を愉しみ、場合によっては身内すら対象としてしまう凶暴性。
もしそんな人間がリゾナンター殲滅の為に差し向けられるとしたら。

「でも…今日リゾナントを襲った輩はそこまで危険な能力者じゃなかったと思う。手薄な戦力でも簡単に撃退できたみたいだし」
「そうなんだ。でも、この子たちを襲ったのは」
「あたしたちが見たのがその『金鴉』かどうかはわからないけど。ひよっこリゾナンターたちの手に負える相手じゃないのは
確かだよ。もしかしたら、あんたの”お姉さん”や田中れいなですら」

若きリゾナンターはおろか、さえみやれいなですら危うくなる相手。
それは幹部クラスの能力者しかありえない。

95 名無しリゾナント :2014/08/16(土) 01:21:25
「でもねさゆみん。『金鴉』も恐ろしい相手だけれど、彼女には相棒がいるんだよ。そっちも、別の意味で危険かもしれない」
「別の意味?」
「ええ。『煙鏡』って言うんだけど。彼女は能力と言うよりも、こっちのほうがよく切れる」

言いつつ、自らの頭を指差す里沙。

「策略家、ってこと?」
「ある意味、あさ美ちゃん…Dr.マルシェに匹敵するかも」

さゆみは白衣のおまんじゅうみたいな顔をした女科学者を思い浮かべた。

リゾナンターを潰す、というより戯れに弄ぶために幾多の罠を仕掛けてきた彼女。そんな彼女に苦渋を舐めさせられてきた過去
からすれば、「マルシェに匹敵」がどれだけ厭らしい意味を持つのか、さゆみには痛いほど理解することができた。

負傷した梨沙子と雅の治療はすっかり終わっていた。
襲撃者がダークネスの人間の抹殺を第一に動いたのは彼女たちにとって幸運だった。でなければ、二人とも今頃は黒ずくめの死
体処理班に「適正に処理」されていただろう。
手配された救急車に彼女たちが運び込まれるのを見て、ようやく肩の荷が下りるのを感じるとともに、例えようのない疲労感が
さゆみを襲った。

「おつかれ。ごめんね、急に呼び出して」
「ううん、大丈夫」
「送迎の車呼んだんだけど、一緒に乗らない?」

治癒の力を存分に使ったさゆみにとって里沙の申し出は渡りに舟。
断る理由はなかった。

96 名無しリゾナント :2014/08/16(土) 01:22:26
「…金の鴉に、煙を吐く鏡、か」

不意に、里沙がそんなことを呟く。
さゆみが怪訝な顔をしていると、

「遠い外国の、双子の破壊神の別名にあやかってつけられたんだって。なるほどねって思って」

と言葉の理由を教えてくれた。
破壊神とはぞっとしない話ではあるが、あの無残に損壊させられた死体を見た後ではその異名もあながち大げさでないような気
さえする。

「ねえガキさん。もしその双子の破壊神がリゾナンターに襲い掛かることがあったら」
「そうねえ」

さゆみの仮定はもっともだった。
里沙の言うように彼女たちが幽閉状態から解放されているとすれば、いつその牙が自分たちに向けられるか。
さゆみはもちろんのこと、その「自分たち」の中に後輩たちが含まれているのは間違いなかった。

「私がもしリーダーだったら…迷うことなく『逃げろ』って言うわ」
「ガキさん」
「確かにあの子たちも成長した。全員で当たればいかにダークネスの幹部とは言え、打ち克つことだって不可能じゃないかもし
れない。でも。あの人たちは違うのよ。決して正面からぶつかっちゃいけない」

里沙の抱く不安が、伝染するようにさゆみの心にも染み渡る。
かつてダークネスに所属していた里沙がここまで言うのはよほどのこと。このことは、後輩たちに言い含めないといけない。
だが、その危機がすぐそこまで迫ってきていることをさゆみは知らなかった。

97 名無しリゾナント :2014/08/16(土) 01:30:56
>>91-96
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

98 名無しリゾナント :2014/08/17(日) 16:32:09
蒼白な顔色の五十嵐の肩を抱えながら、廊下を戻る。
応接室の扉の前で、苛々と煙草を吸っている青木と、離れて立つ
岸本が待っていた。

 「五十嵐さんはどうしたんですか?顔色が悪いですが」
 「どうやら過労がたたったようです」

五十嵐の返事を遮って工藤が答える。
扉を抜け、魂魄が抜けたかのように五十嵐を椅子に座らせる。
工藤は何をしていたのかと尋ね返すと、同時に喋りだす。

 「あの、私と安部さんの熱がひどいので、薬でも探そうと」
 「俺は眠気覚ましに顔を洗いに」
 「二人同時には見張りできません。では、岸本さんから」
 「なぜ?」
 「決まってるじゃないですか、岸本さんの容態の方が大事です」

憤然とする青木の横を抜けるときに、体がぶつかる。
青木が不愉快な顔をするが、無視して岸本とともに戻った。
懐中電灯で闇を照らしながら長い廊下を歩く。

 「それにしても、あのおじいさんを殺した犯人は誰なんでしょうね?」
 「え?さあ?私に聞かれても…」

二人で廊下を進み、暗い台所に到着した。
体調の悪さで気だるげな表情の岸本が棚を空け、薬を探す。
工藤は息を大きく吸い、宣告する。

99 名無しリゾナント :2014/08/17(日) 16:32:55
 「岸本さん、犯人はあなたですね」
 「え?」

調理棚から、薬の小瓶を出そうとしていた岸本の手が止まる。

 「あの、その、私にもその可能性があるのは当然です。
 でも違うと言っておきます。本物の犯人もそう言うと思いますけど」
 
岸本は困惑した表情でなおも続ける。

 「私は安部さんと旅行してるんですよ?
 もしかして、安部さんと共謀してあのおじいさんを殺したとでも?」
 「二人の旅行というのはそもそもいつからなんでしょう?」

工藤は声に意地悪な疑念を帯びさせていく。

 「それはこの数日間の関係、たとえば山荘の手前で
 帰り道用の偽装の同行者を探したのかもしれない。
 それとも土砂崩れの行き止まりで逃げ場を失ったのに気付き
 急いで引き返してからかもしれない。
 今頃は私の指示に従って、鞘師さんが安部さんに確認してますよ」

黙り込む岸本。

100 名無しリゾナント :2014/08/17(日) 16:33:56
 「まあこれは訊かれなかったから言わなかった、と言えばそれまでだ。
 証言も曖昧な記憶の産物なので、あの青木さん流の推理は
 全く役に立ちませんよね」

工藤はそこで言葉を切り、少し間を置いて説明する。

 「この事件の答えは、単純に好き嫌いの問題なんですよ」

岸本の表情はさらに困惑の色を強めるが、続ける。

 「人狼の好きなもの、嫌いなもの。狼や犬の特徴を
 持ってる人物を特定すればすぐに分かるんですよ、岸本さん」

工藤は右手を後ろに回した。

 「イソパールという成分は分かりますか?
 これは蜜柑などに含まれる苦味成分で、犬は大嫌いなんです」

理解できない岸本に、工藤は背後から取り出した橙色の塊
蜜柑を突きつける。

 「これは道島さんからいただいたものですが、道島さんと
 安部さんは食べたので容疑から外れます。が、岸本さんは
 断ってましたよね?」

101 名無しリゾナント :2014/08/17(日) 16:47:43
 「イソパールという成分は分かりますか?
 これは蜜柑などに含まれる苦味成分で、犬は大嫌いなんです」

理解できない岸本に、工藤は背後から取り出した橙色の塊
蜜柑を突きつける。

 「これは道島さんからいただいたものですが、道島さんと
 安部さんは食べたので容疑から外れます。が、岸本さんは
 断ってましたよね?」

掲げた蜜柑を、岸本の目が不思議そうに眺めている。

 「これは踏み絵です、自分が人狼じゃないと主張するなら
 この蜜柑を食べてもらえませんか?」

呆気に取られていた岸本だったが、咳き込むように笑い出す。

 「ちょっと待ってください。意味が分からない。
 人狼っていうのは青木さんが勝手に殺人犯のことをそう呼称
 しただけでしょう?何故そんなことで私が犯人だと決め付けるんです?
 それに他の人も食べてませんでしたよ。
 五十嵐さんと青木さんと三人がそうです。
 私は蜜柑の免疫過敏症で食べられないから断っただけです」
 「そうですか」

岸本の険しい表情に、工藤は蜜柑を食卓に置いて逆に微笑み返した。

102 名無しリゾナント :2014/08/17(日) 16:48:47
 「他にもそうだな、犯人の話をする時、あなたはずっと黙ってた。
 犯人を非難することもせずに周りの反応に賛同するだけで
 自分のことを主張するような真似もしなかった。五十嵐さんに対して
 言い放った口調を聞くと、あなたはもう少し感情的な性格をしていると思いましたが」
 「なんだかバカげていますね。私は素直に物を言うタイプなだけですよ。
 キミはなんなの?青木さんの時も茶々ばかり入れて、周りを混乱させてるだけじゃない」
 「じゃあこれならどうです?」

呆れだしている岸本に工藤は見せ付けた。
手には安部にぶつかった時に盗み取った一本の煙草が握られている。

 「狼や犬は嗅覚が過敏なので、煙草の煙を嫌います。
 つまり、喫煙者の青木さんは外れます」

工藤は台所を見回しながら続けた。

 「なんだったら玉葱や葱でも食べますか?
 人間には無害ですが犬系の動物に対しては有害なんです。
 場合には死に至ります。
 それか私か誰かの血液をあなたに輸血してもいいんですよ?
 人間と狼が持つ抗体は違いますから、輸血すれば死にます。
 都合よく免疫過敏症とでも言いますか?」

岸本は言葉を投げ返さなかった。

103 名無しリゾナント :2014/08/17(日) 16:49:55
 「ま、ここで決着が付かなくても明日、下山して警察に行けば分かることです。
 化けの皮を剥ぐのはこの蜜柑より簡単なこと。
 バレて命の危険性があるのは、あんただけだ」

薄笑いを見せて挑発する。全てが遅すぎると嘆く道化のように。

瞬間、工藤の体に横薙ぎの力が衝突した。
衝撃のままに吹き飛ばされて、背中から棚へと衝突する。
食器棚のガラスや食器類が割れ、耳障りな多重奏を奏でて
床へと落下し、破片を散らした。

104 名無しリゾナント :2014/08/17(日) 17:10:04
>>98-103
じゃっかんスレの方と台詞回しが違う部分がありますが
ごめんなさい。修正不足でした…。

105 名無しリゾナント :2014/08/18(月) 11:23:06
>>91-96 の続きです



喫茶リゾナント。
普段は店主のさゆみが腕を振るい客をもてなすこの店。とは言ってもその機会はめったに訪れないが。
今日はさゆみが朝から所用で出かけているため、同じく学生という立場から離れている春菜がキッチンに立っていた。
あまり客の訪れることはないリゾナントだが、今日に限ってはそのほうが幸せなのかもしれない。
春菜の料理のセンスは、絶望的だった。

からんからん。
さっそく朝から犠牲者第一号、もといお客様の登場に腕撫す春菜。
だがその人物の顔を見た途端、なぁんだ、という言葉が思わず漏れてしまう。

「なぁんだ、って何。衣梨もお客さんやろ」
「だって、生田さんお客様としてきたわけじゃないですよね」

春菜の反応に不満げなのか、それとも店に春菜しかいないことに不満げなのか。
ともかく学生ならば学校に通っているべき時間に現れた衣梨奈は、店の奥のテーブル席に座ると、鞄から取り出した音楽プレイヤ
ーを取り出してヘッドホンを被る。あっという間に一人だけの世界の出来上がりだ。

別に互いに仲が悪いわけではない。
ただ、互いに積極的にコミュニケーションを取ろうという仲でもなかった。
特に、このような二人きりの状況においては。

106 名無しリゾナント :2014/08/18(月) 11:25:02
ぱら、ぱらと常連客が来るものの、基本的には閑古鳥。
そんな状況に、春菜が動き出す。目を閉じてヘッドホンの中の音楽を追う衣梨奈の前に、オレンジジュースが差し出された。

「生田さん、何聞いてるんですか?」
「ん…」

春菜の存在に気付いた衣梨奈が、ヘッドホンを外し、お気に入りのアーティストの名前を出す。
だが、いかつい漢字で構成されたいかついアーティストは、春菜の興味の外だったようだ。一通り話を聞くと、すっとその場を離れ
てキッチンへと戻ってしまう。
それを見た衣梨奈は再び、ヘッドホンを装着して音楽に没頭していった。

緩い時間が、ゆっくりと過ぎてゆく。
さすがに退屈した春菜が、キッチンの裏手から数冊の漫画本を持ち込んだ。
流行らない喫茶店には必需品の暇つぶしアイテムだ。

その様子が、ちょうど衣梨奈の視界に入ったようで、その視線は春菜が開いた漫画本に注がれていた。
そしてヘッドホンを外し一言。

「その漫画、面白いと?」
「あの、これはですね…」

自らの手にしている漫画の魅力について、滔々と話し始める春菜。
普段漫画を読まない衣梨奈の顔に「わけわからん」の文字が浮かぶまでにそう時間はかからず、話が一区切りついたのを見計ら
って再び音楽の世界へと帰っていった。

107 名無しリゾナント :2014/08/18(月) 11:26:10
決して仲が悪いわけではない。
ただ、良くもない。そしてこれは彼女たちにとって当たり前のことだった。
里保と衣梨奈のように互いに救い救われた間柄でも、遥と春菜のように特殊な環境下で共に過ごした間柄でもない。
確かにリゾナンターの仲間同士ではあったが。それ以上でも、それ以下でもなかった。

それから再び、静かな時間が流れていった。
聞こえるのは春菜が漫画をめくる音と、衣梨奈のヘッドホンから漏れ聞こえる音だけ。
目を休めようと春菜が衣梨奈のいるほうを見ると、手前に置いてあるグラスが空になっていた。
新しい中身を注ごうと、冷蔵庫から取り出したオレンジジュースを持って衣梨奈の元へ向かおうとした。
その時だった。

衣梨奈の座る席の、窓越しに見える風景。
そこに、一人の女性が歩いているのが見えた。
春菜の視線は、その女性をすぐさま捉える。

ふらふらと、足取りも覚束ないまま歩いているその女性。
着ている服はよれよれで、黒いロングの髪も乱れていた。だが、春菜が彼女に気付いたのはその異様性からではない。

「わ、和田…さん?」

彼女は。
数か月前に春菜がふとした偶然から言葉を交わした人物だった。
そして、その時に再会を約束した相手でもあった。
メルアド交換までしたものの、春菜の送ったメールが返ってくることはなかった。
忙しいのかもしれない。そう思いつつ、春菜自身も日々の業務に追われて顧みることはなくなってしまったが。

108 名無しリゾナント :2014/08/18(月) 11:27:22
和田彩花。

彼女は春菜に、そう名乗っていた。
まるで絵画から抜け出したかのような、美しい女性。
しかし、春菜が今しがた見かけた彩花はまるで別人。
通りがかった姿を見ただけで、魂が抜けてしまったかのような印象を叩き込まれた。
明らかに、尋常ではない。

「生田さんごめんなさい!ちょっとお留守番しててください!!」
「え、ちょ、ちょっとはるなん!!」

言葉と同時に、体が動いていた。
春菜の慌てた様子に目を白黒させる衣梨奈を余所に、春菜はそのまま店を飛び出してしまう。

とにかく、和田さんを捕まえないと!!

何故彼女があんな風な姿で徘徊していたのか。なぜ彼女を捕まえないといけないのか。
春菜にはわからなかった。けれど、直感が訴えかけていた。。
今彼女を捕まえないと、もう二度と「彼女」に会えなくなってしまうかもしれないと。

109 名無しリゾナント :2014/08/18(月) 11:29:14
>>105-108
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
あの二人の空気感を再現するのは難易度が高いですw

110 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:16:18
転がる工藤が見上げると、迫る岸本の姿があった。
眼前で可憐な口唇が頬まで裂け、そのまま前方へと伸びていく。
口腔内に凶悪な牙が跳ね上がっていった。
さざ波が広がるように、白い肌に長い暗灰色の剛毛が生えていく。
隆起していく全身の筋肉が、服の布地を裂いていった。

人狼の正体は岸本だった。
人間の名残を留めていた瞳が、どこか出来損ないの悪夢めいている。
筋肉の束があわされた人狼の剛腕が振り下ろされた。
五指の爪をダガーナイフで受け止める。

工藤と人狼は衝突慣性のまま床に倒れ、転がった。
次の瞬間、視界一面に猛獣の口腔内の赤が広がる。
上下の顎の牙が工藤の顔面を狙った。

 「お前が喰らうのはこっちだ!」

ダガーナイフを強引に差込み、刀身で犬歯を押さえる。
真上に投げたM67破片手榴弾が炸裂し、衝撃と轟音を、人狼は
高速反射で顔面を逸らしたが、爆風が顔面を掠める。
衝撃波の刃は、人狼の体を吹きとばし、勝手口へと衝突させる。

111 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:16:58
運動慣性のまま扉を粉砕して戸外へと追い出される。
近距離爆裂で、工藤の頭が揺れた。意識を保つ。
破片で頭から流血する。耳もやられたようだった。
人狼の後を追って、工藤は屋外へと飛びだす。

いつの間にか雨は止んでおり、荒れ果てた敷地に月光が
静かに降りそそいでいた。
冷徹な月の光が、濡れた雑草と泥濘となった敷地を照らしている。
大地には人狼が四つ足で這っていた。
爆裂で顔面と口腔が爛れていたが、瞬時に修復していく。
腕を骨まで切断されても、完全修復するような異能者に、手加減した
チカラでは致命傷にならない。

 「獣化禁止の約束は、無意味になっちゃったな」

工藤のつぶやきに対し、人狼の目に嘲弄の色が浮かぶ。

 「ナニ言ッテル、人狼ト人間にナんノ約定がアるんダ。
 コの姿ニなルこトは爽快スら覚えル。コレコソガ本来ノ姿ダ」
 「人間と思うことを辞めて獣化して別の存在として生きる、ね。
 確かにそっちの方が楽だよな、何も考えず、ただ獲物を求める
 だけの獣になるなら、そっちの方が何倍も楽だよ」

溜息を吐く。異能者である自分を忘却するための殻。
<獣化能力者>として迫害された存在が目の前で嗤っている。

112 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:17:41
 「五十嵐さんも容疑者だったけど、蜜柑への嫌悪感も無く
 ヘビースモーカーということが分かって確信がとれた。
 必要ならば他にも追求する予定だったけど、ここまであっさりと
 正体を見せるなんてとんだ臆病だな」
 「まサかオ前、最初かラ知っテた上デ…」
 「さっきの説明は単なるこじつけに過ぎないけど、確信はあったよ。
 能力者同士にしか分からない気配みたいなものは簡単には消せないし
 何よりハル達は、あんたを逃がすつもりは毛頭無かった」

怒号。
二本の後ろ脚から泥濘を跳ね上げ、人狼が工藤に向かって全力疾走する。
工藤が放つ手榴弾の炸裂と轟音が風をを迎え撃つ。
人狼は爆発に高速反応し、影を残す高速飛翔で直撃を回避。
右前方、敷地にある木の幹に爪をめり込ませて着地。
人狼の強靭な筋肉組織から生み出される速度は、常人に捉えるものではない。

工藤がダガーナイフを構え直すよりも早く、人狼は木の幹を蹴りつけて再跳躍。
間合いを一瞬で無にし、重い横薙ぎの腕の一振り。
剛腕で工藤のナイフが弾かれた。
人狼は体当たりで工藤を大地に叩きつけ、組み伏せてくる。

 「時間稼ぎはここまで、狩人の登場だよ」

113 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:18:21
人狼の血が跳ねた。
自らの喉から生えた冷たい紅刃を、人狼は困惑した瞳で見下ろす。
人狼が視線を上げていく。
自らの喉には、血のように紅い刃先の角が刺さっていた。
人狼の視線は、刃に続く握る手、そして鞘師の紅い瞳に出会う。
異形の者が後方へ体を退くよりも早く、鞘師が喉に刺さった『刃』を
天空へと跳ね上がる。
喉から下顎、上顎まで切断されながらも、人狼は脳への致命傷を避ける。
地面を蹴りつけて後方飛翔。まるで猫のようだ。

 「派手にやったなあ、くどぅー」
 「すみません。でも今はあの姿にはなれませんから…」
 「うん、よくやった」

冴え冴えと零れる月光の下、荒れ果てた敷地に工藤と鞘師が並ぶ。
二人で顔面を黒血に濡らした人狼の岸本と退治する。

 「あれが狼なのか!?」
 「狼があんなにデカいのか…あれはもはや…あれこそが人狼っ」
 「おい、岸本さんが居ないぞっ」
 「ということは岸本さんが犯人っ!?」

山荘から出てきた青木や安部、道島や五十嵐が悲鳴と叫び声をあげた。
人狼は外野へは視線を向けない。
工藤のみを見据えて低い唸り声をあげる。

114 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:19:01
 「鞘師さんには分かるんだよ、ハルの位置がな。
 降伏してよ、これだけの距離が離れたなら、最初に遭遇した
 ときみたいに圧倒させることができる」

人狼の喉の奥で低い唸り声が響く。工藤は説得を続けた。
額から血が垂れ落ち、視界が赤く染まる。

 「鞘師さんが居ればやり方もいくらだってあるんだ。
 どんなに人狼の特性を生かしたところで、ハルや鞘師さんは
 その特性を知ってる上に打開策だって持ち合わせてる。
 その威力は二倍、いや三倍にできる」

人狼もすでに山麓で厳格な実力差を体験しており、理解している筈だ。
突然、人狼は蒼い月へと喉を垂直に立てた。

 あオるるるるルるるううっ!

長い長い遠吠えをあげる。
それはいつまでも続く無明の慟哭にも、痛切な哀歌にも聞こえ、耳に残った。
岸本だった人狼は顔を前方に戻す。
そして工藤へと一直線の突進。
鞘師が無言で歩き、人狼の疾走を迎える。二条の風が月下で交差する。
紅い光が疾り、肘から切断された人狼の右腕が宙に舞う。
翻った斬光は空いた右脇腹へと吸い込まれ、背面へと抜ける。

115 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:20:04
鞘師の交差剣術。
傷口から黒血と臓器を散らし、致命傷によめきながら、それでも突進はやめない。
左腕が宙に舞う。両腕を失った人狼は前進して口を伸ばす。
P226を持った工藤の右手首に、上下の犬歯を突き立てる。
静謐に凍える大気。
しかし、人狼は顎を閉じることができなかった。
口腔からは血反吐を溢れさせる。

 「ナ、んダこ、レは?」
 「あんたに埋め込んだ弾丸を覚えてるか?」

工藤は哀しみをこめて答える。

 「あれは普通の弾丸じゃない、<獣化能力者>の特性を封じるために
 特殊な金属で生成してある。遺伝子変位や複製阻害を
 起こすことで癌細胞を発生させ、増大させてしまう悪魔の弾丸」

人狼は理解できずにいた。全身に広がった癌細胞の苦痛で
理性が保てないのだろう。工藤は静かに死刑宣告を果たす。

 「あんたに回復してもらうために爆弾も惜しみなく使った。
 超高速細胞分離すると癌細胞も爆発的に増殖させてしまうから。
 源太郎さんを殺した時点で癌は芽を出し、そして二度目の獣化をした。
 それでもう決まってたんだよ、岸本さん」

116 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:20:58
ほぼ受け売りの知識ではあったが、それが工藤に告げられた経緯を
説明するとあまりにも長く、あまりにも思い出したくない過去が蘇る。
弾丸を使わなければいけなくなる事件があったからこそ、この銀の弾丸
は生成され、そして工藤へと渡されてしまった。

 「私ハ……」

工藤の腕に犬歯を突き立てたまま、人狼が牙と血泡の間から
小さな言葉を零す、そこにはもう、殺意はなかった。

 「私ハ人ト獣の、どチらノ地獄ニ行クんダろウ……?」

工藤は何も聞こえない表情を装った。
人狼は痙攣とともに大量の黒血を吐き、腕に牙を立てたまま崩れ落ちる。
そして人狼の生命と苦痛が永遠に停止する。
屍の顎から、血泡に濡れた右手を引き抜く。
<獣化能力>が消滅し、人間の姿に戻りながら力なく泥濘に落ちた。

117 名無しリゾナント :2014/08/19(火) 10:21:46
>>110-116
もしかしたらあと2回ぐらいの投下になるかもです。

118 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:05:16
跳ねた泥に汚れ、黄金色の瞳は輝きを失う。
岸本という人間の女の眼を手の平で閉じさせた。

 「ど、どういう事なんだ?なんなんだその女は…」
 「死んでしまったの…?」 
 「岸本さんが殺人犯だったのか…」
 「良かった、これで殺されなくて済んだ!」

青木と五十嵐が安堵の声をあげる。
岸本が"人狼"という殺人鬼であり、何故狼の姿なのかは分からないが
安部にも道島にも、自分達の命をこれ以上脅かされないことを理解したらしい。
微かに安堵の表情が見て取れた。
それでも目の前の現実を認めたくないという拒否反応が勝っている。

 「こんな得体の知れない者に命を狙われていたとは…。
 二人共、どういう事か説明してください。この殺人鬼
 このバケモノは一体どうしてこんな事をしでかしたのか」

工藤の胸の奥で、嫌悪感と憤怒が沸騰する。
振り向きざまに、工藤は探偵きどりの青木の顎を殴り飛ばす。手の骨が痺れた。
突然の暴力に、鞘師以外の全員が硬直する。
倒れて泥に塗れた青木が、腕で起き上がる。

 「な、なにするんだ!血迷ったか!?」

切れた唇から血を流した青木に、それでも言わずにはいられない。

119 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:06:16
 「青木さん、あんたが何をしたのか分かってる?
 確かに私達はこの中に犯人が居るとは言った。けどそれはあの人への
 警告のようなものだったんだ。密かに監視していれば、あの人は動かなかった。
 ハル達が居たからな。朝になれば、それぞれ疑念を抱きながらも別々の方向に
 去っていく事だって出来たんだよ」

泥濘となった敷地に、工藤の苦い言葉が響く。

 「けどあんたが名探偵きどって山から降りようと言い出した。
 無理にでもハル達を殺すしかなかった。人間の姿での生を守るために。
 逃げ道を塞いだのは、追い込んだのはあんたやハル、この場全員だ!」

工藤の激烈な弾劾に、青木の顔には感情の揺らぎも後悔も浮かばない。

 「あの人が獣化すれば死ぬようにしてた。
 犯人捜しに意味なんてなかった。ハルが、鞘師さんが余計に
 手を汚しただけじゃないか!」
 「だが、結局はこのバケモノを殺すことに変わりはなかった!
 なんの文句がある!?お前はあのバケモノと人間のどっちの味方なんだ!」

工藤は返すべき言葉を喪失した。額から血の滴が落ちる。
青木の言葉は、一面で正しい。
どうしようと、結局工藤は人間の側にしか立てない。
だから不平等な条件の弾丸をあの異能者に押し付けた。
獣の姿であるより、人の姿であることを肯定させる縛鎖を。

 自分もまた<獣化能力者>と同じ"変身"を用いることが出来るというのに。

120 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:06:59
異能者としての非情の責任から逃げ、先延ばしした偽善の払いもどしを
工藤自身が受けただけなのだ。
無力感に、工藤は泥土の敷地に立ちつくす、一呼吸した。

 「ハル達はなんだ?正義の代理人とでも思ってんの?
 バケモノと人間のどっちの味方?
 それが分かってんならこんな半端な場所に居るわけない。
 もしもハルが本当にバケモノの味方なら、ただの人間のあんたはもう死んでるよ」

青木は何も言い返さなかった。吐き捨てる工藤は一瞬瞼を閉じる。
背後も見ずに、工藤は疲れたように泥濘の大地を歩き出す。鞘師も傍らに続いた。

 「皆さん、危機は脱しました。雨も止みました。
 だからこれからは、皆さんで決めてください。道を進むか、留まるか。
 ここの事はあとでこちらで全て処理します。他言してもきっと良い事ないですよ」

道島がどんな思いで二人の背中を見ているかは分からない。
工藤は何かを踏みつぶすようにして泥土を踏みしめる。
月はただ、無表情な光を降らせているだけだった。

121 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:08:19
その後はなにも変わったことはなかった。
山荘を去った足で村に戻り、あとは始発電車の座席に座り
窓の外を流れ去っていく田舎の田園風景を眺めるという現在に繋がるだけ。
窓に映る自分の不機嫌な顔を、自分の目が眺めている。
横に座る鞘師は、目を閉じて体を工藤に預けて熟睡していた。

夜が明けた今でも、二人の間での会話はなかった。
電車の揺れる音が時折響くだけ。

 「気分の悪い事件でしたね」

工藤の口が勝手に告げている。続けるべき言葉を見つけられずに
電車だけが揺れている。鞘師は答えない。独白は続いた。

 「利益も生存闘争も意味もなにも無い戦いなんて、ドラマとしては
 最低最悪です。推理劇にすら出来ませんよ」
 「面白い推理劇なんてないよ。そんなのは漫画家に任せておけばいい」

瞼を閉じながら、鞘師は言葉を呟く。どうやら起きていたらしい。

 「結局、ハルはあの人のことを信用してなかったんですよ。
 あの弾丸を撃った時点でハルは、あの人の死を願ってしまった」

122 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:09:45
人狼の群れが村へと訪れたのは、あの十年前に起こった
人狼たちの復讐のためなのかもしれない。
殺された元自警団の源太郎老人は、岸本のかけがえのない同胞に
手を下した当人かもしれない。
あの獣達に対抗できた源太郎老人は、異能者だったのかもしれない。
さらには源太郎老人が引退した原因がその事件にあったのかもしれない。

全て推測。
工藤はすべてを明確にしたいという気もなかったし、今や当事者であった
全員の命が失われていただろう。
工藤は鞘師の横顔に問いかけようとして、止めた。

生きるべき道を選べない自分は、リゾンナンターとして正義の道を
進むのは向いていないかもしれない。
自らの存在の疑問を叫んだ人狼も、人と獣のどちらにもなりきれず
受け入れられないことに足掻き続けているのかもしれない。

自己弁護しているだけの過剰な感傷に吐き気がした。
工藤は急に全てがどうでも良くなり、少し眠ることにする。

 「すみません鞘師さん、街に着いたら起こしてくれますか?」
 「良いけど、私も寝るからアラームかけた方がいいよ」
 「…そうッスね」

123 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:10:48
携帯電話が使えるのを確認し、パスワードを入力する。
すると着信履歴に数件の受信があった。
連絡がつかなかった事による心配からだろうか。

 「すみません、電話かけますね」
 「んー…」

なんにしてもこのままなのもアレなのでかけてみる事にする。
すると三回ぐらいで相手に繋がった。

 ああ、はるなん。うん、ちょっとあってさ、あとで説明する。
 あゆみんにも謝って…いや、帰ったら謝るよ。
 ……あ、まーちゃんに代わって、約束破ったから問い詰める。
 うん。………あ、まーちゃん?まーちゃんだろ?
 昨日なんで連絡つかなかったんだよ。は?言ったじゃん。
 迎えにきてって。は?携帯が壊れた?なに言ってんだよ。
 携帯なんて使わなくてもまーちゃんは……ほらまた言い訳した。
 まーちゃんが居たら何も起こらなくても良かったんだぞ。
 皆に心配かけるなんてこともなかったんだ。
 意味分かるでしょ?分かれ。は?何怒ってんの、逆ギレかよ。
 ハルもまーちゃんなんてきらいだよ。
 なんだよホントに、こっちがどんだけ大変だったと思ってんの。
 …っ、上擦ってねぇし!泣いてねぇよ!もういい!

124 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:11:46
一方的に着信を切ると、工藤は身を丸くして泣いた。
泣きじゃくる工藤の肩に体を預けたまま、鞘師は彼女の頭を撫でる。
窓から工藤の髪をなぶる風が、昨夜の叫びを思い出させる。
今でもあの凍える月光の下で、あの人は啼いているのだろうか。
どこに行けばいいのかと問う、絶望と慟哭の咆哮を。
誰にも答えられない、哀惜の遠吠えを。

幻聴を遮るように、工藤はただ泣いた。

125 名無しリゾナント :2014/08/20(水) 01:13:27
>>118-124 以上です。
スレの方に投下した内容と違う箇所がいくつもありますごめんなさい。

126 名無しリゾナント :2014/08/21(木) 01:26:52
>>105-108 の続きです



国道沿いの、とあるファミレス。
全国的に有名なチェーン店ではあるが、店内には客はほとんど見当たらない。
それもそのはず、今はサラリーマンが眠い目を擦りつつ電車に乗り込むような早朝。そんな時間にファミレスで食事などという人
種はそうはいないはずだった。
普段なら厨房の中で暇を持て余したウェイトレスと調理担当のバイトが世間話に花を咲かせているような時間帯。のはずだが。

必死の形相をしたウェイトレスが、料理を両手に窓際のテーブルまで運び込む。
それが終わるとすぐさま厨房に向かい、次の料理を受け渡される。その、繰り返し。
昼のピークタイムと見紛うばかりの忙しさ。店内には、ひと組の客しかいない。だが、その客が大問題だった。

露出の多い服を着たギャルと、白衣の眼鏡の女性の二人組。
何の繋がりもなさそうな妙な取り合わせではあるが、彼女たちにはある共通点があった。
「それ」を見ずとも、ひたすら掻き鳴らされる金属音がそのことを教えてくれている。

「ぶっちゃけ…モグ…のんは…モグ…子供できたらさ…パク…「のあ」とか「せいあ」とか…パク…つけたいわけよ…ゴックン」
「それは世間で言うところの『キラキラネーム』ですね」
「ハァ?ちょーかっこいいじゃん…モグ…」
「まあ、価値観は人それぞれですから」
「それより…パク…さっきの話だけど…ゴックン」

127 名無しリゾナント :2014/08/21(木) 01:28:02
彼女たちの間のテーブルに山積みにされた、皿。
もちろんここにいる二人が全て平らげたものだ。ハンバーグ、ステーキ、スパゲティ、シーザーサラダ、クリームパフェ、ジャン
バラヤ、オムライス、コーンクリームスープ、チャーハン、ブルーベリ^パンケーキ…列挙すれば暇もないメニューの数々が彼女
たちの胃袋へと消えていた。

「ええ。キャンセル、とはどういうことですか?」
「だからさぁ…モグ…さっきも話したじゃん…クチャ…『リゾナンター襲撃』は…パク…中止だって…ゲフゥ」

喋りながらも絶えず食事を口に運び込む「金鴉」とは対照的に、あくまでもマイペースに自らの食事を摂る紺野。
だがその食事方法は別の意味で奇異と取れるものだった。

皿の上の茹で芋を、手術でもしているのではないかと思えるくらいに、器用に八等分する紺野。
その小さなひと片を口に運び悦に入っている様は、「金鴉」にとっては苛立ちとともに懐かしさを感じるものだった。かつて食事
を共にするような生活をしていた時に、嫌と言うほど同じ光景を見てきていたからだ。
細かく分ければ分けるほど、その回数分の幸せが得られる。後に叡智の集積と呼ばれるようになる人間にしては、いささか非論理
的な理由。今もそう信じているのか、それとも単なる習慣と化しているのか。見る限りは食べる時の癖は今と変わらないようだ。

その不思議な食習慣に合わせるように、自らの食事の速度を調整する「金鴉」。
懐かしさが先行するあたり、彼女の食事のペースへの合わせ方も忘れていなかったらしい。

128 名無しリゾナント :2014/08/21(木) 01:29:12
「しかし、解せませんね。昨日はあれだけかーちゃん…『煙鏡』さんも乗り気だったじゃないですか。あなたたちの興味を殺ぐよ
うな何かがあったんですか?」

もそもそと芋を食べつつそんなことを言う紺野に、「金鴉」は大げさに椅子の背に体を反らせる。
ただでさえ小柄な体が、目の前の皿の山に隠れてしまった。

「カンタンな話だよ。リゾナンター抹殺より”おいしい”仕事が舞い込んできた、ただそれだけ。あんなクソガキども、いつでも
殺れるけど…今度の仕事はそうもいかないんだよね」
「『鋼脚』さんからはそんな話が来たなんて聞いてませんでしたが…別口ですか」

皿の山から飛び出したポニーテールがゆらゆらと揺れた。
どうやら大きく頷いているらしい。

「ああ。例のこぶ平似のブタ野郎が率いてる『国民的犯罪組織』ね。あいぼんがコネを作ったみたいで、そこ経由で早速デカい仕
事が舞い込んだってさ」
「なるほど…」

ダークネスと彼女の言う犯罪組織は同業他社ながら、表立って対立しているわけではない。
「蟲惑」の死体を再利用された件では多少揉めはしたが、その程度の話だ。むしろ幹部の中には積極的にあちらのほうと付き合い
を持っているものまでいると言うが。

「ただ、こちらの仕事を放り出してよそ様の仕事を優先するのは感心しませんね」
「リゾナンターはいずれ潰す。けどまあ、別にすぐじゃなくてもいいじゃん」

皿に隠れて、「金鴉」の表情を紺野が窺い知ることはできない。
ただ、どんな顔をしているかは容易に想像がついた。

129 名無しリゾナント :2014/08/21(木) 01:30:34
「まあ、いいでしょう。その仕事が片付いて、段取りが取れたらご連絡ください。『首領』にはうまく話しておきますよ」
「…りょーかい」

何故、用件を伝えるのに「煙鏡」はわざわざ「金鴉」を寄越したのか。
人の心理を読みそして利用するのを好む彼女らしい、と紺野は考えた。「煙鏡」は口から先に生まれたと定評のあった「詐術師」
に師事していただけあって、弁舌に長けていた。本来ならば交渉ごとには彼女が出向くのは自然な話。しかし、彼女は敢えてそ
うしなかった。

知っているのだ。
紺野が「金鴉」に対して、どうしても甘くなってしまうことを。例え「金鴉」の話す理由に多少の齟齬があっても、彼女なら仕方
ない、と大目に見てしまうのを「煙鏡」は読んでいるのだ。

仕方がないのかもしれないですね…長い、付き合いですから。

高橋愛。新垣里沙。ついでに小川麻琴。
経緯は違えど、ほぼ同時に組織に所属することになった紺野を含めた四人。
さらに先輩ではあったが、年の似通った「金鴉」「煙鏡」とともに彼女たちは所謂同窓生のような感覚を持っていた。
もちろん世間一般のそれのように苦楽を共にした、という美談が似合う仲ではない。むしろ正義感の強かった愛や規律を重んじる
里沙と「金鴉」「煙鏡」は最悪の組み合わせだった。そんな中において、中庸な紺野の存在は集団においてまさしく緩衝材として
働いていた。

そのポジションが愛や里沙の思考の裏をかき翻弄し、そして今は二人の問題児の行動に想定をつけるのに役立っていた。

130 名無しリゾナント :2014/08/21(木) 01:31:13
「機会があれば、『煙鏡』さんともお話したいところですが」
「あいぼんが嫌だってさ。『あいつとの腹の探りあいは疲れんねん』、だって」

「金鴉」の言葉に思わず苦笑する紺野。
確かに。謀を巡らせ自らに有利な場を作る、そういう意味では紺野と「煙鏡」は似ている。それは互いに思うところだろう。

だが、紺野は二人の間には決定的な差があることも知っていた。
その差が、「煙鏡」の言うところの”疲れる”に繋がることも。

私は、一向に構わないんですがねえ。

「煙鏡」が嫌そうな顔をしているのを思い浮かべつつ、再び紺野は目の前の小さな芋を切り分けることに没頭し始めた。

131 名無しリゾナント :2014/08/21(木) 01:32:44
>>126-130
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
細切れ更新が続きますが何卒ご容赦を

132 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 02:55:40
■ ギルティ−中島早貴− ■

だから、これは、私への、罰なんだ

「いだぁいぃ!いだいよぉ!」
「…えりか…ちゃん、だいじょう…ぶ?」
「だいじょうぶなわげないでじょぉ!早貴ぢゃんなんでだずげでぐれながっだのぉ」
「…あっ足が…すくんで…」
「いだああああい!」
「ひぃっ」
「もうじょっどで!あどちょっどで!勝でだのにぃ!
早貴ぢゃんざえ!ちゃんどやっだら!あだじ勝でだのにぃ!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「もういい!みんなに言う!早貴ぢゃんのぜいで負げだっでいう!早貴ぢゃんが!逃げだがら!みんなに!」
「やっ…やめて…いわ…ないで」
「役立たず!役立たず!役立たず!みんなに言う!みーんなに!舞美ぢゃんに!」

あの日、私は「罪」を犯しました
絶対に知られたくないひとに
絶対に知られたくないことを

「あ、ああ…ああああ…うぞ…うぞだ…ぞんな!早貴ぢゃん…ぞれはなに?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「まざが!まざが!うぞだ!早貴ぢゃんの、ほんどうの、のうりょぐって…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「まっで!まっで!いわない!わだじは何も見でない!
だれにぼ!だれにぼいばないがら!や!やめで!やめ…やめで、やべでええええええ!

133 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 02:57:22
誰にも知られたくなかったから
誰にも知られないように

「ぎゃあああああ!やべえええええ!うぎぎ!うぎゃああああ!」

誰にも知られていない、私の、本当の

「や…べ…でぇ…ぜめで…ぜめで…ふづうに…ごろぢでぇ…」

あの日、私は見られてしまった
絶対に見られたくないものを
絶対に見られたくないひとに

「なっきー…?」
「舞美、ちゃん」

この世で一番知られたくなかったことを
この世で一番知られたくなかったひとに

「これって…」
「あ、あ、ちが…」

見られてしまった
知られてしまった

すべてを

私の「罪」の、すべてを

それなのに
彼女は、私を、

134 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 02:57:56
「辛かったね、なっきー」
「え…?」
「ひとりで秘密を抱えてきたんだね、ずうっとひとりで、苦しんできたんだね」

抱きしめてくれた
強く、強く、強く

「これは、二人だけの秘密」

彼女は言った
私を抱きしめながら

「これからは、二人だけの秘密」

さわやかな笑顔。
ただ、『さわやかなだけ』の、笑顔。

135 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 02:59:03
ただ、優しく
ただ、あたたかく

「私が、全部、許してあげる、私が、すべて許してあげる」

私は、もう、逆らえない
彼女は、私の、すべてだから
私のすべては、彼女のものだから

「もう何も心配しなくていい、ね?なっきー」

堕ちていく
どこまでも
堕ちていく


そして私は、彼女の『所有物』となった

136 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 03:00:33
>>132-135
■ ギルティ −中島早貴− ■
でした

137 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 12:19:54
>>126-130 の続きです



福田花音は、急いでいた。
今日は久々の「エッグ」のミーティングだ。いつものように「一部の人間を除いて立入りを禁じられている」エリアを顔パスで通り、早
足で会議室へと向かう。
今回のミーティングの内容よりも、彼女には気がかりなことがあった。スマイレージのリーダーである彩花のことだ。
別に彼女の症状がどうだとか、そういうことは考えていない。問題は、彼女を自分達の拠点に置き去りにしたこと。間の悪いことに
後輩メンバーたちには全員仕事が入ってしまい、呆けてしまった彩花を監視するものはいない状態。比較的軽い仕事の中西香菜
がすぐに戻るとは言ってくれたものの。

「随分急ぎ足じゃない。トイレにでも行きたいの?」

早足で歩く花音を追い越しながら、女が話しかけてくる。
自称「新宿のシンデレラ」などというふざけた異名を持つ、目の上のたんこぶ。

「エッグ」の中で比較的早くから頭角を現していった花音だが、人の思考を読み取り戦闘に利用するというかつての高橋愛顔負け
の能力を発揮したその後輩は。瞬く間に集団の稼ぎ頭となった。エリートとしてのプライドはその時、大きく傷つけられそして今に至る。

138 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 12:20:50
「別に。真野ちゃんには関係ない」

水色を基調としたフリフリのドレスを着た女 ― 真野恵里菜 ― を振り切ろうと、花音はさらに早足で歩き続ける。無視されたこと
で気を悪くした恵里菜の取った行動は。

「あっそ。て言うか私のこと真野ちゃんって呼ぶのやめてくれないかなあ。今は『サトリ』で通ってんだから」
「…ふん」

文句を言いながら花音を抜き返す恵里菜。
だが花音はそんな恵里菜を抜き返そうと、さらにスピードアップを図る。

「…さとります。『あんたになんて絶対負けたくない。て言うかシンデレラはあたしだから』って思ってるでしょ」
「勝手に人の心読むのやめてくれる?」
「あんただって今私に何とかレボリューションかけようとしてたじゃん」
「は?そんなことしてないし」
「さとります」
「疑うことなく信じるにょん」
「さとります」
「疑うことなく信じるにょん」

恵里菜が両手で作ったファインダーで花音の心を覗こうとすれば、対抗して花音も人差し指を恵里菜の眼前に突きつける。
精神に作用する能力者同士の、意地の張り合いと言ってもいい。

不毛な争いを繰り広げながら、肩と肩をぶつけ合い廊下を駆け抜ける二人。
互いが自らの精神にロックをかけているのは、本気で相手を自らの能力の支配下に置こうとしている何よりの証拠だった。
最終的に、会議室にもつれ込む二人。部屋の中の面々は慣れっことばかりに苦笑するのみだ。

139 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 12:22:11
「うんうん、ライバル関係大いに結構」

髪を肩まで伸ばした童顔の女性が、いいものでも見たかのように感想を述べる。
能登有沙。対能力者集団「キッズ」の最年長だ。

「エッグ筆頭のお前がそんなんでどうするんだ…これを毎回御してる俺の身にもなってくれ」
「そうですか?」
「まあ主任が御してるようにも思えませんけどねえ」

身も蓋もない突っ込みをするのは、派手な顔だちのワガママボディ。
どいつもこいつも、と顔を苦くしつつも主任と呼ばれる男はふう、と大きくため息をついた。仮初の地位とは言え、このひと癖もふた癖
もある連中を率いるのは自らの使命だ。そう言わんばかりに。

「取り合えず主だった面々は揃ったな」
「例の5人は来ないんすか?主任言ってたじゃないですか、そろそろ前線に配備してもいいかなって」

いかにもな軽いノリで、主任に語りかける友。

「あいつらには別の仕事をしてもらってる…まあお前らに比べたらまだまだ新人だ。この場に連れてくることもあるまい。ところで福田、
和田の調子はどうなんだ」
「当分復帰は無理です」
「そうか。とにかく。今回はお前らにどうしても知らせなければならないことがある。まずは…これだ」

花音の簡素な報告に肩を竦める間もなく、主任が正面のホワイトボードに二枚の写真を貼り付ける。一見、どこにでもいる普通の少女たち
だが。写真からですら伝わる、禍々しい黒い気配。

140 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 12:23:58
「うっわぁ、見るからにやばそうな人たちですねぇ」
「分かるか、吉川。そうだ。こいつらは最近『ダークネス』が招聘した新しい幹部だ。それぞれ『金鴉』『煙鏡』と呼ばれてるらしいが
それ以上のことはまだ調査中でな」
「…そいつらを、殺ればいいのか」

会議室の後方。
斜めにおろした前髪で表情は窺えないが、口元だけで笑みを作っている女 ― 北原沙弥香 ― がぽつりと言う。
彼女の抱えている影は深く、そのいでたちはさながら殺し屋のようだ。
実際、彼女の能力は隠密行動そして暗殺にもっとも適したものであった。

「いや、それには及ばない。本題は別件だからな。能登、頼む」
「はいよ」

主任の呼びかけに席を立ち、ホワイトボードの前に立つ有沙。
緊張感のない顔だが、その口から発せられる言葉の破壊力は。

「『組織』が『天使』を幽閉してる場所がわかったよ」

絶大だった。
ミーティングの参加者がそれぞれ言葉を発することさえせずに、顔を見合わせる。
「銀翼の天使」。ダークネスのとある実験の被験体となり制御不能となった彼女が、リゾナンターを襲撃し決して消えることのない傷を
残した事案。この場にいるもので知らないものは、いなかった。

「まさか、『天使』を解放するなんてことは言わないでしょうね。薬である程度はコントロールされてても、基本的には制御不能の破壊
兵器状態って聞きましたけど」

花音は言葉では否定しつつも、内心は主任の返答に期待していた。
敵サイドの人物とは言え、白き羽で全てを無に還す「能力者の最高峰」に憧れを抱いているものは少なくない。花音もまた、その一人で
あった。

141 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 12:25:20
「いや。我々には『天使』を制御することのできる切り札がある。『ベクレル』『セルシウス』という新たな戦力も手に入れた。『天使』
を手中に収めることができれば、幹部の一角崩しどころじゃない詰みの一手(チェックメイト)を打つことになるだろう」

そして、上司の言葉は期待以上。
切り札が何を指すのかは知らないが、実現可能ならばこれほど素晴らしいことはない。理想が齎す光に花音が胸を躍らせているその時。

懐のスマホが震える。
席を中座し通話に切り替えた花音は、通話相手の第一声に顔を青くした。

「・・・かななん、ほんとなのそれ」

受話器の向こうの力ない返事を聞いてから、通話を打ち切った。
主任に断ることもないだろう。事は一刻を争う。

和田さんが…いつの間にかいなくなってたんです…

香菜の泣きそうな声が、耳から離れない。いや、責任感の強い彼女のことだ。実際にもう泣いていたのかもしれない。
彩花自身が無気力になっていたせいで、まさか部屋を抜け出すなどという行動にでるとは思わなかった。そういう意味では花音のほうに咎
がある事態ではあるのだが。

やっぱ、あたしが決着(ケリ)、つけなきゃいけないのかな。

握られた拳が、意図せず固められてゆく。
彼女の中に、最悪の事態を想定した上での決意が焔のように揺らいでいた。

142 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 12:30:16
「いや。我々には『天使』を制御することのできる切り札がある。『ベクレル』『セルシウス』という新たな戦力も手に入れた。『天使』
を手中に収めることができれば、幹部の一角崩しどころじゃない詰みの一手(チェックメイト)を打つことになるだろう」

そして、上司の言葉は期待以上。
切り札が何を指すのかは知らないが、実現可能ならばこれほど素晴らしいことはない。理想が齎す光に花音が胸を躍らせているその時。

懐のスマホが震える。
席を中座し通話に切り替えた花音は、通話相手の第一声に顔を青くした。

「・・・かななん、ほんとなのそれ」

受話器の向こうの力ない返事を聞いてから、通話を打ち切った。
主任に断ることもないだろう。事は一刻を争う。

和田さんが…いつの間にかいなくなってたんです…

香菜の泣きそうな声が、耳から離れない。いや、責任感の強い彼女のことだ。実際にもう泣いていたのかもしれない。
彩花自身が無気力になっていたせいで、まさか部屋を抜け出すなどという行動にでるとは思わなかった。そういう意味では花音のほうに咎
がある事態ではあるのだが。

やっぱ、あたしが決着(ケリ)、つけなきゃいけないのかな。

握られた拳が、意図せず固められてゆく。
彼女の中に、最悪の事態を想定した上での決意が焔のように揺らいでいた。

143 名無しリゾナント :2014/08/24(日) 12:34:19
>>141>>142で二重投稿してしまいましたすいません
>>137-141
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

144 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 01:56:01
>>137-141 の続きです



彩花の姿を目にした時に、春菜が最初に思ったのが。

早くこの人を助けないと!!

必死だった。
ふらふらと、あてもなく彷徨う魂の抜け殻のような彩花。
まるで少しずつ輪郭を失い、消えていってしまうような。

リゾナントを飛び出し、春菜は自らの五感をフル解放する。
普段は絶対にやらない、無謀の極み。何故なら自らの五感を無限に研ぎ澄ますことは、五感を司る器官への大きなダメージとなって必ず
返ってくるからだ。引き際を間違えてしまえば、該当する感覚自体を失うことにもなりかねない。

だが幸いに、周囲の雑音や臭気が春菜に襲い掛かる前に彩花の痕跡を探り当てることに成功した。
ここから北東の方角、距離は300メートルほど。いつの間にそこまで距離を離されたのかはわからないが、春菜の能力ならば追う事の
できない距離ではない。

春菜は意を決して、探知した位置に向かって走り出す。
能力全開状態をいつまでも続けることはできないから、まずは必要最低限の出力で彩花の痕跡を追う。痕跡が途切れてきたら一時的に出
力を上げて、探知し次第再び絞りさらに追う。

145 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 01:58:10
春菜の能力は、リゾナンターの面々の中では索敵に向いていた。
物理的にはあらゆる障害物を無効化する千里眼を持つ遥のほうがやや有利ではあるが、逆に特定の条件さえ揃えば春菜の能力は遥のそれ
に比肩する。
ただし、周囲に彼女の能力の妨げになるものがある場合は効果が半減してしまうが。

例えば、共鳴しあうものたち(リゾナンター)。精密な計数器が強力な電磁波に弱いかのごとく、春菜の索敵精度が落ちてしまうのだ。
かつて喫茶店を飛び出した時に春菜が自らの能力を最大限に発揮できなかったのは、そういう理由からであった。

だから、逆に今の状況は春菜に彩花を探す上での絶対的な自信を植え付けていた。
研ぎ澄まされた五感から得られる情報を元に、路地裏を抜け、塀を越え、民家と民家の間を縫う。そして、ついに彩花を見つけるのだが。

「わ、和田さん!?」

鉄条網のフェンスの向こう。
彩花は、柵を乗り越えてその先に敷かれている鉄道の線路上をふらふらと歩いていた。
いかにも危険であるその状況は、春菜が予想するより早く最悪の事態を迎える。

遠くから聞こえる、鋼の軋む音。
轟音を上げながら、列車が彩花目がけて迫り来る音だった。

早くしないと!!

最早鉄条網を上品によじ登っている暇は無い。
触覚の無効化により、力のリミッターを外し金網を引きちぎる。もちろん反動は大きく、春菜の五指はずたずたになってしまった。指の
骨も折れているかもしれない。ただ、今はそれしきのことで泣き言を言っている暇などなかった。

146 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 01:59:15
彩花を安全圏に引き離そうと、春菜が走る。
全速力で、そして最大限の瞬発力で。
だが無情にも、列車は瞬く間に彩花との距離を縮めてゆく。
彩花はその様子を身じろぎすることなく、虚ろな瞳でただ眺めていた。

だめだ、間に合わない!!!!

これから繰り広げられる惨劇に、一瞬目を瞑ってしまう春菜。
そして再び目を開けた時、別の意味で驚愕することになる。

「え…」

彩花は、静かに佇んでいた。
片手を、停車している列車に添えながら。
停車。自らの頭でその単語を思い描きながらも、離れない違和感。
本当に列車が停止したのなら、急ブレーキの音が響き渡っているはず。それが一切聞こえないということは、その列車は急ブレーキをか
けることなくその場に停止したことを意味していた。

「わ、和田、さん…」
「…っちゃえ」
「え?」
「消えちゃえ」

小さく呟いた彩花の言葉を、春菜の耳が捉える。
もの凄く、嫌な予感がした。列車を止めた力を振るったのが彩花なら、それだけの力を再び目の前の鉄の塊に振るう結果は容易に想像で
きた。

147 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 02:00:31
「ダメですっ!!!!!!!」

何か途轍もなく大きな力を解放しようとした彩花を、春菜が体に組み付きそして押し倒した。春菜のことをまったく見ていなかった彩花
はいとも容易くバランスを崩し、そして線路脇の砂利の敷かれた地面に倒れこんだ。

春菜に倒され、しばらく呆けたように空を見つめていた彩花。
そんな彼女の視界に、覆いかぶさった春菜の手が映る。
限界まで力を使ったせいで、ずたずたになった、血まみれの手。

「い、いや…」
「和田さん?」

彩花の脳裏にあの光景が蘇る。
赤い死神に、成すすべもなく刈り取られた命たち。
全身を爆破され肉片すら残さず死んでいった、紗季。
そして。心臓を砕かれ、赤い花を咲かせて死んだ憂佳。
赤い花。真っ赤な、真っ赤な血の花。

「いやぁああぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

春菜を押しのけて、錯乱しながら絶叫する彩花。
体から溢れる禍々しい気に、思わず後ずさりしてしまう。

148 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 02:03:05
「死んじゃえしんじゃえ死んじゃえしんじゃえあははみんな死んじゃえ!!!!!」

眩暈のするほどの黒い感情は力となって、具現化される。
彩花の足元のバラストが数個浮き上がり、意志でも持っているかのように弧を描きながら空へ向かって飛んでいった。
それは飛翔と言うよりも散乱。しかも、計り知れない力が加わっているのか、飛ばされたバラストは軌道の途中で光となって消えてしま
う。あまりにも不可解な現象、しかし春菜は強化された視覚と聴覚・嗅覚でその理由を知ることができた。

あれは…物凄い加速を加えられて、空気抵抗の摩擦で燃え尽きた!?

彩花が能力者ならば、おそらく物体の加速度を操る類の能力を使役するのだろうと春菜は推測した。
しかしながら。今の彩花の状態は間違いなく普通ではない。そして彼女から溢れる、闇にも似たオーラは。

「能力の暴走…そんな…どうすれば…」

自然と、かつて仲間の小田さくらが陥っていた状況を彷彿させた。
もしそうだとしたら、とても自分ひとりで手に負えるものではない。どうすればいい。緊急でリゾナンター全員に呼びかけるか。いや、
全員の到着を待っていたら取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
迷う春菜の心を、ぴしゃりとよく通る声があった。

「はるなん!えりに任せて!!」

声のしたほうを振り返ると、そこには頼もしい先輩の顔があった。
その先輩は皮手袋に仕込まれたピアノ線を揺らしながら、すでに臨戦態勢に入っている。
春菜が必死の形相で店を飛び出したのを見て、跡をつけていたのだ。

149 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 02:04:09
「生田さん!!」
「えりが来たからにはもう安心やけんね」
「本当ですか!でもいったいどうやって」
「わからん!!」

なぜか自信満々な衣梨奈の言葉に、思わずずっこけそうになる春菜。
前後撤回。やっぱり少々不安かもしれない。

その間にも、虚ろな目をした彩花が能力の暴走でバラストを不規則な方向に次々と飛ばし続ける。
偶然にも春菜たち目がけて飛んできた石をピアノ線で弾こうとした衣梨奈だが、逆にピアノ線が切断されたことに驚愕する。

「このっ!!こうなったら…」
「待ってください生田さん!この子は私の友達なんです!!」
「友達やろうが関係ない!もしこの子の飛ばした石が上空の飛行機にでも当たったらどうすると!?」
「…そうだ生田さん!私を和田さん…この子の精神の中にダイブさせてください!!」

強硬手段に出ようとした衣梨奈を宥めるために咄嗟に出た案。
しかし春菜自身、もしかしたらとも思う。
さくらを闇の底から救い出した力、それはもともとは衣梨奈の精神潜航が成功したおかげでもあったからだ。

「でも、あの時はたまたま成功しただけで…」

意外にも、あまり自信のなさそうな衣梨奈。
それもそのはず。結果的に10人もの大人数による「サイコダイブの相乗り(オムニバス)」を師匠である里沙に胸を張って報告した衣
梨奈だが、「あんたねー…じゃあ試しにあたしの精神の中にダイブしてみなさい」の一言であっさりと落ちがついてしまった。簡単に言
えば、衣梨奈はただの一度もダイブに成功できなかったのだ。

150 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 02:04:46
「何言ってるんですか!生田さんならできますって!」
「はるなん…」
「だって生田さんは世界一の能力者を目指してるじゃないですか、うさぎ系女子じゃないですか!!」
「そ、そう?」
「ええ!リゾナンターの未来の看板にできないことなんて、ないはずです!!」

趣味も合わない。
二人だけだと会話も弾まない。
おまけに「はるなんと話しても何も得せん」などと言われる始末。
けれど、春菜は確信する。太鼓持ち体質の自分と、おだてに乗りやすい衣梨奈の相性は、決して悪くないと。

「わかった。衣梨奈に任せて」

先程までの不安顔が嘘のように、表情を引き締め意識を集中させる衣梨奈。
それを見て、春菜はうまくいったと拳を握る一方で、彩花のことを思う。
何故彩花が能力者なのか。そして彼女の身に何があったのか。
何ひとつわからないけれど、彼女の中に入ることできっと何かが得られる。
そして、それが彩花を救う唯一の方法だと信じていた。

春菜の思いを形にするかのように、蜂蜜色のオーラが彼女を包み込む。
そして、彩花に吸い込まれるようにして消えていった。

151 名無しリゾナント :2014/08/30(土) 02:05:52
>>144-150
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

152 名無しリゾナント :2014/09/04(木) 09:51:50
>>144-150 の続きです



はぁ…金がしこたま入って来るのはええねんけど、こんなんばっか続くとしんどいわぁ。
せっかくのあいぼんさんのつるつる卵肌にめっちゃ影響出るやん。
社長の机っちゅうのも案外居心地のええもんと違うな。
て言うか何やねんこの事業計画書の山は。「詐術師」のやつ、こんな山ほどみみっちい仕事抱えてたんか。そらチリも積もれ
ば山となるんやろうけど、なぁ。
欲かいて首領の首も狙うわな。それで死んだら元も子もないか。

何や。うちめっちゃ忙しいねんけど。
お客さん?そんなん聞いてへんわ、とっとと追い返し。
だいたいアポなしでうちに会おうなんて100年早いわ…
ほんまか。ほんまにそいつはそう名乗ったんやな。
成りすましてこともあるやろうけど、ま、ええわ。早よこっち通し。
しっかし随分久しぶりに聞く名前やな。うちらがあないな目に遭わされた前後で姿消しよったって聞いてたんやけど。
毎回ろくなことせえへん奴やったから、粛清人にでも消されたとばかり思ってたわ。
はーい、空いてますよ?

153 名無しリゾナント :2014/09/04(木) 09:54:31
ああ、いやいや、どうもお久しぶりです。
そちらもお変わりなく…って敬語はここまでにしよ。
今となっちゃ、あんたはうちらの「上の立場」でも何でもないんやからな。ざっくばらんにタメ語でいかしてもらおか。
はは、随分下品な顔に変えたみたいやけど、うちならあんたやってわかるわ。ま、座ってや。適当にお茶でも出させたるさかい。
おい、お客さんにお茶出しや。本場のアールグレイのやつやで。
ああ、ぼちぼち儲けさせてもらってるわ。とは言っても前任のクソチビのシマ、そっくりそのまま貰ろただけなんやけど。
あいつも身内殺すようなマネせえへんかったら、こないな美味しいポジション失うこともなかったのにな。アホ言え、あいつより
ももっと稼いだるわ。
せっかく娑婆に出たからには、腕の違いを見せ付けんとあかんやろ。

で、何の用や。
…なんでそんなんうちに聞くねや。ついこないだ戻ってきたばっかやぞ。
矢口さんと飯田さんと亜弥ちゃんは死んだわ。梨華ちゃんも半死半生。何でもリゾナンター、っちゅうやつらのせいでそないなこ
とになったらしいな。うちもよう知らんけど。
せや、あのi914が率いてた連中や。今は代替わりしてるみたいやな。ま、そんなんどうでもええわ。
のんの奴はともかく、うちが帰ってけえへんかったらどないするつもりやったんやろ。
美貴ちゃんも何やおかしなことなっとるし、よっちゃんだけで孤軍奮闘してるみたいやで。
って、知ってたんかい。
は?ただの挨拶やって?そんなくだらない用事のためにわざわざ顔出しよったんか。はっ、弟子によう似て食えないやっちゃ。
ええ、そうですそうです。あんたの弟子はあんたが見込んだ通りに立派に育ってますとも。底意地が悪くて常に人をおちょくった
ような態度なんてソックリや!!

154 名無しリゾナント :2014/09/04(木) 09:57:38
ところでほんまにそないな下らん挨拶しに来たん?大方あれや、うちらの動向探ろうと思て来たんやないか?
はっは、そんなん言えるわけないやん。
何で部外者のお前なんかにうちの可憐な胸の内をオープンハートせなあかんねん。
何やと。お前その情報どこで手に入れた。
ちょ、待てや。それはあかん。せや、こんなんはどうや。うちは今日、お前と会ったことは綺麗さっぱり忘れたるわ。べ、別に
取引のええ材料見つけたとか思ってへんで。最初から秘密にするつもりやったわ。その代わり。うちとのんがこれからしようと
してる事も組織には内緒や。

…ほう。何となく目的はわかる、やって?
目的はほれ、ただの遊びや。それ以上もそれ以下もあらへん。
は?お前何言うてるん?
ええわ。言うてみ。
あいぼんさんは心が広いから、お前の話が厨二病丸出しの最終ファンタジーでも聞いたるわ…
は、はは。意外とええ線言ってるやないか。まあ外れやけど。べっ別に顔なんて引き攣らせてへんわ。
アホ。ドアホ。はぁ…聞いて損したわ。うちの貴重な時間返せ。
ったくお前のつまらん妄想話でうちの毛根細胞1万個くらい死んでもうた。

155 名無しリゾナント :2014/09/04(木) 09:59:40
毛根細胞と言えば。うちの能力はなあ、「鉄壁」言うてな。
自分の精神力の強さで、周りの事象を「拒否」することで絶大な防御力を得ることができる。理論上は核ミサイルの直撃も防
げるんやて。
別にそんなんに使うつもりもないし、ほんまに防げるとも思ってへんけど。
チートな能力やな、今そんな顔してたで? ただな…
ダークネスの幹部が全員能力を二重底にしてるのはお前も知ってるやろ。自分の能力をひけらかす馬鹿は早死にする。つまり
はそういうこっちゃ。うちかて、ただぼけーっとあの地下で隔離されてたわけと違うからな。乙女の言葉にささやかな嘘はつ
きものやで? 
まあ、お前に今更こんな講釈垂れてもしゃあないか。
とにかく、精神めっちゃ使うから、こっちに来んねん。おかげで能力使うた翌朝は枕元に抜け毛がべっとり…
って何言わすねん! 誰が若ハゲじゃ、やかましいボケ。
おいお前何これ見よがしに商売っ気出して…いらん、そんなん要らんわ!! なんかめっちゃ頭髪で困ってる人みたいやんうち。

156 名無しリゾナント :2014/09/04(木) 10:01:44
は?もう帰る?
まさかお前、ハナからそのくっだらないもん売りつけるんが目的やったんか。
しょうもな。余裕のよっちゃんってやつか。
あんたが何企んでるか知らんけど、これだけは言うとくわ。
近いうちに組織の勢力図は塗り替えられるやろな…
せやから、さっきの話とは関係ない言うてるやろ。
うっさい、ひつこいわ。もうとっとと帰り。
おい、お客様がお帰りや。そこらへんに塩撒いとき。何やったらその胡散臭い男目がけて直接塩投げつけてもええねんで。
ってまだお前おったんかい。今日は午後からうちも出かけるんや。どこへ何でお前に話せるわけないやろ。
いい加減にしいや。あほ。ぼけなす。出てけ出てけ。その下品な顔二度と見せるなや。

157 名無しリゾナント :2014/09/04(木) 10:02:34
>>152-156
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
いつもと違うスタイルなので出来が心配ですがw

158 名無しリゾナント :2014/09/13(土) 13:16:56
>>152-156 の続きです



自らの体が溶けてゆくような感覚。
目の前が黄緑色の光に包まれ、そして視界が晴れてゆく。

これ、あの時と同じ感覚…?

衣梨奈は、さくらの精神にダイブした時のことを思い出す。
成功したのか。喜びに思わず握り締めた拳は、しかし目の前の光景が先ほどまでとまったく変わっていない。
当たり前のようなそうでないような。思わず首を傾げざるを得ない。

レールの上に停車している電車。
地面に敷き詰められたバラストに枕木。横たわっている黒髪の少女。
いや、これこそが彼女の精神世界なのか。

そんな想定は、慌てて電車から降りてやって来る若い男の姿に否定される。

「きっ君たち大丈夫かい!!!」

どうやら線路上に突如現れた彩花を轢いてしまったものと勘違いしているらしい。
顔は顔面蒼白、表情を引き攣らせながら駆けつけた運転手は、倒れている少女たちがほぼ無傷に近い状態であるのを見
てやや安心した様子ではあったが。

159 名無しリゾナント :2014/09/13(土) 13:18:15
「大変だ!その子手にひどい怪我をしてるじゃないか!!すぐに救急車を…」
「べ、別に大した傷やないと!!」

気を失った春菜の手が血まみれになっているのを見つけた運転手を、慌てて制止する衣梨奈。
サイコダイブが失敗したのなら、何故春菜が倒れているのか。理由もわからず何とかこの場を切り抜けようと考えていると、
頭の奥へと訴えかけるような甲高い声。

― 生田さん!生田さん!! ―

「は、はるなん?」

― よかった!返事が帰って来た!ところで生田さんはどこにいるんですか? ―

どこにいる、とはまた何とも要領を得ない問いではあるが。
とにかく、語りかけてくる春菜に対して衣梨奈は。

― どこにいるも何も、さっきと同じ場所っちゃよ。はるなんこそどこに… ―

訊き返そうとした衣梨奈だが、はるなんの「ということは…」や「もしかしてこれは…」「そう考えるとこの状況はたぶん」
などという独り言の嵐に飲み込まれてしまう。

― ちょっとちょっと、一人で納得しとらんと、衣梨奈にも説明してよ!! ―

痺れを切らした衣梨奈に、春菜は現在の状況を掻い摘んで話し始めた。
光に包まれ、その光が引いていった時に広がる不思議な光景。そしてその場に立つ感覚が、かつてさくらの精神にダイブし
た時にとてもよく似ていることを。

160 名無しリゾナント :2014/09/13(土) 13:19:30
それらのことをまとめ結論づけると。
衣梨奈と春菜の共鳴に伴なうサイコダイブはある意味成功し、そしてある意味失敗に終わった。というのは、春菜の精神は
無事に彩花の中に潜行できたものの、衣梨奈は現実世界に取り残されてしまったからだ。

― でも、生田さんの力がないときっと私は和田さんの中からはじき出されてしまうと思います。 ―

確かにその通りだと衣梨奈も思った。
今こうしている間も、春菜の言う「和田さん」という少女の中に自分の力が流れ込んでいっているような感覚がある。つま
りは彼女の精神を救うことは春菜と衣梨奈の共同作業になるということだ。

「君、さっきから何をぶつぶつと…もしかして頭でも打ったかい?」

そうと決まれば、あとは実践あるのみ。
と同時に申し訳ないがお邪魔虫にはおとなしくしてもらわないといけない。

「怪我はないですけど。あ、それより実はえり、魔法が使えるんです」
「はぁ?」

いよいよ怪我で頭がおかしくなってきたのか。
訝しげに衣梨奈を見る運転手を他所に、衣梨奈が人差し指を向ける。

161 名無しリゾナント :2014/09/13(土) 13:22:03
「傘の魔法って言うんですけど」
「ま、魔法?」

確かに空は今にも泣きだしそうではあるのだが。
困惑する男を無視して衣梨奈は話を続ける。

「ほら、今にも雨が降りそうやけん。じゃあいきますよ、ちちんぷいぷい魔法にかーかれ!」

効果範囲は半径55cm、でも何でもなく。
最初から魔法など信じてはいないが思わず自らの頭上に目を向けた若い男は、尋常ならざる力で視界がぐるりとひっくり返
されるのを感じる。そしてそのまま地面に頭をぶつけて気絶してしまった。

「…ちょっとやり過ぎやったとかいな。ま、いっか」

相手が頭上に気を取られている隙に、相手の足にピアノ線を巻きつけ前方に思い切り引っ張りこけさせる。衣梨奈の師匠の
里沙ならこんな手荒な真似をせずとも男の記憶を奪うことができるだろうが、なにぶん衣梨奈の力は調整が利かない。

おそらく回送列車だったのだろう。
運転手の他には誰もいなさそうだ。これなら「精神潜行」に集中することができる。
衣梨奈は彩花を、そして春菜を背負い線路脇の芝生まで移動した。

162 名無しリゾナント :2014/09/13(土) 13:23:18
>>158-161
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
さりげなく某スレのネタを入れつつ

163 名無しリゾナント :2014/09/14(日) 02:15:32
■ リホ −生田衣梨奈・鞘師里保− ■

「里保」

鞘師里保は生田衣梨奈にそう呼ばれていた。
たしか、出会ってすぐのころは「りほちゃん」だった気がした。
それが、知らないうちに呼び捨てになっていた。
そこまであっという間だった気がする。
なんだかでも、ちょっとうれしかったな、里保だって、んふふ…
あれ?いつからだったっけ?
いつから…


「里保」

生田衣梨奈は鞘師里保をそう呼んだ。
たしか、出会ってすぐのころは「りほちゃん」だった。
初めて、衣梨奈の気持ちを分かってくれた、初めての、大切な、友達。
衣梨奈は、いっぱいこの人に甘えていいんだ、そうおもった。
だって、りほちゃんは強くて、衣梨奈の気持ちを分かってくれて、だから、甘えてもいいんだ。

164 名無しリゾナント :2014/09/14(日) 02:16:15
でも今は違う

大切なだけじゃだめだ、大切だから、それだけじゃだめだ。
りほちゃんは強い、でもそんな里保が、衣梨奈のせいで、衣梨奈の甘えのせいで、傷ついた、ボロボロになった。

里保は、ちっとも気にしてなかった。
でも、それがくやしかった、たまらなく、くやしかった。

「イクちゃんは、ぽんこつだから…」

イクちゃんイクちゃん、ぽんこつえりちゃん、えりぽんえりぽん…

里保にとって、衣梨奈は、対等な存在じゃないんだ。
衣梨奈のせいで傷ついても、そのことを少しも気にしてもらえないほど、
この人の中に、自分はいないんだ。

だから、「里保」そう呼んだ。

もう二度と、里保を傷つけさせない。

衣梨奈は強くなる。

戦うんだ。
戦って勝つ、衣梨奈は里保に勝つ。
それが、いつか、里保を傷つけることになろうとも


かまわない!

165 名無しリゾナント :2014/09/14(日) 02:18:55
>>163-164
■ リホ −生田衣梨奈・鞘師里保− ■
でした。

166 名無しリゾナント :2014/09/16(火) 21:41:27
TIKI BUN…TIKI BUN…TIKI BUN…

「なんだ?この低周波は…」

発動時そのスーツは特殊な低周波を発生させる

「前方に敵影…もとい武装なし、民間人、8…10人、全員女性…
なんだ、まだ子供か…しかしなんだあの恰好は」

その右脇から、ゆらめく赤と黒の炎、
黒く沈み、赤く光るインナー、
そして揃いの白いジャケット、

彼女らの名は…

「…撃て…」
「なっ、正気ですか、相手は子供ですよ!」
「命令だ!今すぐ全弾撃ち尽くせ! 全滅したくなかったら、今すぐに!」

167 名無しリゾナント :2014/09/16(火) 21:42:09
>>166
以上です

168 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:30:04
★★★★★★

新垣と光井が去ったリゾナント、店内には残された10人
頼れるリーダーと頼もしき8人の仲間、そう9人は各々を信じて疑わない
「・・・」
ともに戦ったかつての友が去って行った扉をただ眺め、虚空に浮かぶ過去の偶像を描くのはリーダー、道重

ブーン、と空気清浄機の機械音がただただ空気を震わせ、こごもった芳香剤のにおいが鼻をつく
(こういう時になんて声をかければいいのだろう?)
同世代とは比較できない程多くの人と出会い、経験した鞘師ですら顔に浮かぶは困惑の色
『敵はかつての大親友』、気付いたとはいえ、改めて口に出すことで受け止めざる得ない現実を知り、傷ついたリーダー
それを齢一回りも離れた私なんかが簡単に『大丈夫ですか?』なんて平凡な言葉でいいのか?と悩む

「・・・ねえ、DOどぅ。まーちゃんが敵になったらどぅはまさを倒してくれる?」
「へ?」
突然空気をぶち壊して工藤にそんな突拍子もない質問をしたのは、本来空気を読めるはずの佐藤であった
「まあちゃん、何言ってるの?」
「ねえ?どぅだったらまさを殺してくれるの?」
「そ、そんなの・・・」
「まさはね、どぅが敵になったら、ためらいもなくスカーンって倒してあげる!!」
「な!!」

何を言い出してるのか、止めなくては、と自身の心拍数が明らかに警告を発しているのに喉から言葉が出ない
まあちゃんは変人だ、はっきり言ってしまえば一般常識がない・・・だけど何も考えていないわけでもない

「だってまさはどぅの友達だもん。それにどぅはまさと同じリゾナンターでしょ?
 まさがリゾナンターになって悲しむ人を減らせるように頑張ってるんだもん」
「そ、それはそうだけどさ」
「まさはどぅが悲しむの見たくない!どぅが悲しむ人を自分の手で増やすの見たくないもん!
 まさもそんなどぅ救いたいから。どぅはそんなこと望まないもん!」

169 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:30:42
何を佐藤が言いたいのか鞘師は理解した
佐藤は佐藤なりに道重に対して自分の意見を伝えようと必死なのだ
絶対的に語彙が足りない、でも・・・その思いは仲間達に伝わった

道重はふっと笑う
「何言ってるの、さゆみだってとっくに覚悟はしているの
 もしかしたら戦わなくてはならないそんなときもあるかもしれない、なんてね
 大丈夫、だって、さゆみはリゾナンターなんだから。心配いらないの」

その言葉を信じ、その夜はそれぞれ帰宅の途についた
帰り道の暗闇は明日、どうなるか知らない、とでもいうようにいつもより深く重く感じられた
目を瞑ったらすぐに寝れる筈の鞘師もその日は日付を跨ぐまでは夢を見ることができなかった

★★★★★★

それから二日後、再びリゾナンターはダークネスの気配を感じ、現場へと駆けつけた

鞘師の刀が幾千もの弧を描き、石田のリオンが縦横無尽に駆け抜ける
鈴木が敵を張り倒し、佐藤が無邪気に突き破り、生田がワイヤーで敵を絡めとる
小田が急所を的確に突き動けなくし、飯窪が仲間達の痛覚を麻痺させ疲労を軽減させる
工藤と譜久村は道重を守り抜き、道重が指揮を滞りなく務めていく

やはり、今日もリゾナンター優位のようだった
そんなダークネスを従えているのはまたしても詐術師だった
「な、なんなんだよ、おまえら、いつも、なんでおいらの邪魔をするんだ!」
誰もその問いに答えようとはしない。

二度と立ち向かってこないように、と思いを込めながら戦い続ける
傷ついた肉体と同じくらいに、気持ちが深く刻まれ、消えない思いとなってくれればいいのに、そう何度祈っただろう

170 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:31:51
しかし、願いは叶わない。何百回、こうやってダークネスと闘ったろう?それなのに一向に戦いは終わらない

(さゆみは正しいことしているのかな?変わらなきゃいけないのはさゆみのほうじゃないのかな?)
そのとき親友は答えた
(さゆはさゆのままでいい)
それだけでも嬉しかった。でもメール無精な彼女から数十分後にメールが届いた
(さっきの間違い。さゆはさゆのまま『が』いい)
涙が自然と出てきた、止まらなかった
嬉しかった、誰よりもわかってもらいたい人にそういわれることが

それから誓った、戦うしかない、自身の信念に従い、終わるともわからぬ永遠の中で
だから何を言われても構わない、それが私のできることだって信じているから

また一つ、近くで砂煙があがる。リオンに飛ばされたのだろう、男が背中を地面に打ち付け動かなくなる
現実に戻るといつも思う、なんでこんなに普通じゃないんだろうって
でも、それを選んだのは私なんだ、誰にでもできることじゃないし、普通じゃない私しかできないんだから

「さあいい加減あきらめてください! もうこれ以上傷つけるのはお互いやめましょう!」
「うるさい!!」
小さなその体から不釣り合いなほど強大で、絞り出したような悲鳴に近い声だった
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい・・・うるさい!!!!!
 もう、あとがないんだ、おいらには、なんとしてでも手柄を示さなくちゃいけないんだ」
その叫びに呼応するかのごとく突風が吹いた

(((!? これは)))(((もしかして?)))(((風ということは)))

砂埃が止み、開けた視界。座り込む矢口の近くに一人の女が棒立ちで立っていた
女は矢口に手を貸すわけでもなく、ただ矢口を見下ろしていた

「・・・えり」
名前を呼んだその声の主へ、彼女はゆっくりと顔を向ける

171 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:32:27
フードも被っていない、電灯に照らされたその顔、忘れることのできない親友
「なんで?えり、さゆみだよ。ほら」
亀井は表情を変えずに首を横に傾げた
「えりの風はダークネスなんかにこれ以上汚されちゃいけないんだよ!ほら、こっちに来てよ」
真顔のまま、先ほどと反対側に傾がれる首

「なにやってるんだ!カメイ!!そこにいるリゾナンター全員をやっつけるんだ!!」
這いつくばったままの矢口の命令に従うように亀井はゆっくりと手を掲げる

「道重さん、危ない!」と工藤が叫んだころにはすでに風の刃が道重に向かって放たれていた
慌てて佐藤が飛んで道重を捕まえ、間一髪のところで切り抜ける
「道重さん、あぶなかった〜でも、みんなも危ない。とうっ」
リオンで早く移動できる石田といえどもあの工藤以外には見えない刃を避けることは困難
小田が一時的に時を自分だけが動けない空間にしたところで、速度自体はかわらない
そんなことは考えず、直感的に危険、と判断した佐藤は仲間全員を少し離れた倉庫群の一つの倉庫内に移動させた

「な、なんでまーちゃん、ここに跳んだの?」
突然瞬間移動したことに対応できず、しりもちをついてしまった石田が尋ねるが、佐藤はうーんと唸っている
「・・・なんでだろ?なんとなくここに行きたいって思って」
「な、なんとなくってそんな理由で?危ないじゃない!まあちゃん、どうしたの?」
しかし小田は冷静に周囲を観察しながら、相変わらずのトーンで会話に入り込む
「・・・いえ、この場所は亀井さんの風をよけるためにはうってつけかもしれないです
 ・・・四方に壁がありますから、攻撃するには障害物を破壊しなくてはりませんから、攻撃を視覚化できます
 ・・・それに障害物があるということはその分、風が届きにくくなります」
道重も同じことを思っていたのだろう、表情を引き締めなおしていた

「すごいね、まあちゃん!一瞬でこんなことを思いつくなんて」
『違う』
そこに直接、頭に飛び込んできた声
『佐藤には、何かあったらそこにいくように刷り込んでおいただけだよ』

172 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:33:15
「だ、誰?姿を現せ!!」
工藤がその声に向かって吠えた
『いやいやいや、工藤、何言ってるの?姿見せたら作戦台無しでしょ?』
「さ、作戦?はる達を追い込むための作戦だと?」

『いやいやいや、そんなことひとっこともいっていないから
工藤、話しっかり聞く、状況考える、冷静になる。教わったでしょ?』
「お、教わった?」
きょとんとする工藤に暗がりから声がかかる
「そや、これはうちらの作戦や。そこでしっかりみとき」
「関西弁?ということは?」
月明かりが窓から差し込み、暗がりを照らした。そこには光井の姿、そしてその手にはトランシーバーが

「襲撃することは視えとった。せやから、次に何かあった時にはここにくるように新垣さんが佐藤にうえつけといたんや」
二日前に佐藤を褒めるように頭をなでている新垣の姿が思い出された
「あ、あのときですか?」

「それで愛佳がいるのはいいけど、何をする気なの?」
「・・・道重さん、やはりこの件は愛佳たちも手をかすべきやと思います
 もともとの原因がうちらにあるわけですから」
『そういうこと。さゆみん、私達も協力させてもらうからね』
トランシーバーから新垣の声が流れてきた

しかし、と鞘師は思う。いったい、どうやって新垣が亀井を捕えるのかと
『そろそろやすしが、どうするのかな?なんて思う頃だろうね』
自分の心を完全に読まれているようで、唇を少し噛みしめた
『さあ、その倉庫からでてみなさい。ただしゆっくりね』

「ゆっくりとってどういうことなんだろうね?香音の眼にはなんも見えないんだけど」
そういいさらに数歩踏み出そうとする鈴木
「! まってください、鈴木さん」

173 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:33:48
「ま、待ってっといわれても急には止まれない 痛いっ」
痛みを訴え倒れこんだ鈴木、その足首から血が流れていた
「・・・ピアノ線ですね。それも視えないくらいの細さ」
「ええ、はるの眼でようやくみえるくらいのピアノ線。それもこの倉庫群全部に張り巡らされています」
地面には鈴木のものと思われる血溜りができていた

「鈴木、動かないで。治してあげるから。ねえ、愛佳いつからこの準備をしていたの?」
「準備ですか?そうですねえ、作戦を思いついたのはこの前会う時より前ですね
 準備、という意味でしたら・・・数時間というところですかね」
「たった数時間で?」
驚くのも当然だろう。工藤の眼にみえているのは巨大な倉庫群だったのだから
そこにすべてピアノ線を張る、それがどれほどの労力がいるのか、精神力がいるのだろう
「・・・新垣さん、さすがやね」
『こら〜生田!感心している場合あったら、周囲を警戒する
 カメは私達を狙っているんだから、気を抜くと危険だよ』

しかし、と譜久村は疑問に思ったことを光井に問いかけた
「どうやって、亀井さんは私たちの居場所を把握しているんでしょうか?」
光井はニヤリと笑った
「それはな、愛佳と道重さんがおるからこそできる作戦なんや」
「作戦?」

「もともと私たちはリゾナンター、共鳴のもとに繋がっておることはみんなも知っとるやろ?
 今回は、その絆のために愛佳と新垣さんは亀井さんが復活したっちゅうことに気づいた
 っちゅうことは逆もありえるやろ?」
はっと気づいたように譜久村が手を口元にあてた
「お二人の共鳴の絆を頼りに私たちの居場所を突き止めることが亀井さんにできる」
「そういうことや。共鳴を逆手にとって亀井さんをここにおびきよせる」
『そして近づいたところを私が生け捕りにする』

174 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:34:47
「でも、風の刃でワイヤーを破壊することだって想定されるじゃないですか
 遠距離から攻撃してきたらどうするんですか?」
『だからこそ、そのためにこれだけ広範囲に結界をはっているの
 幾重にもワイヤーを断てば、風の刃の飛んでくる方向くらい簡単に解析できる』
穴はない、ってことですか、先輩、と鞘師は思う

「亀井さんは瞬間移動することはできへん、遠距離からの風または近づいてからの攻撃しかあらへん
 それにもしダークネスの瞬間移動装置を使ったとしても、この倉庫の周りにも幾重のワイヤーが張り巡らされてる
 近距離ならあんたらでも攻撃できるやろ?風の動きはこの使っていない倉庫にたまった埃で見えるようになっとる」
鼻を刺激する黴のような臭いが漂っているのはそのせいだった
「さすが愛佳とガキさんですね」
『何言ってんの、みんなにも協力してもらうんだからね。ただ自分の身は自分で守ってもらうよ、自己責任だからね』

先輩二人の作戦には落ち度はないように感じられた
新垣を攻撃する可能性もあるが、そこは新垣のことだ、安全な場所にいるのだろう
問題は亀井を捕えてから、ということも鞘師は考えていた
いずれにせよ、まずはその姿を捕えなくてはならないと、柄を持つ手にも力が入る

トクン、トクンと自身の心臓の刻むリズムが静寂を不気味に助長させる
一分が数時間にも感じられるような濃い時間が流れる

そして、その時が訪れる
「来るで」
『来た!!』
新垣の張っていたピアノ線が一斉に竜のように一か所に集まっていく

その中心には当然のように亀井の姿
目に見えないとはいえ、明らかに自分を狙っている何者かの気配を感じあらゆる方向にカマイタチを放つ
カマイタチにより切断された糸は地上にいる11人からは見えない
しかし、その後ろから新たなもピアノ線が次々と亀井の元へと集まっていくのだろう、亀井の手は動き続ける

175 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:35:21
「いける、これなら亀井さんを捕まえられます!」
「で、でも新垣さんは大丈夫なんでしょうか?あのピアノ線は新垣さんが全て操っているんですよね?
 あのピアノ線を辿れば新垣さんの元にたどり着くことになるんじゃ?新垣さんはいま、無防備なんですよ」

「だれが無防備なんだって?」
振り向くとそこには新垣が腕を組んでたっていた
袖からは操っているはずのピアノ線の束は全く見えない
「え?え?新垣さん?なんでここに?」
「新垣さんがここにいるのにどうやってピアノ線が亀井さんにむかっているんですか?」

「・・・あれはフェイクなんですね」
「そうや、もともと、ここの現場には詐術師が現れたっちゅう未来は視えとった
 新垣さんのワイヤー操作の根本は精神操作、それを阻害されたらすべて終わり
 せやから、新垣さんはこの工場を選んだ」
「そういえば、ここはなんの工場なんですか?」
その問いに答えたのは工藤であった
「繊維工場の倉庫ですね」
「御名答、前もって新垣さんはただの繊維に自身の念動力で亀井さんの位置をただ辿るように念をかけた
 そして、建物の周囲にだけ本物のワイヤーで亀井さんが攻撃をしてきたときに方角を把握できるようにした
 攻撃されたとき、その位置を座標で示し、念を込めた糸たちが自然と飛んでいくようにしただけや」
「・・・あの糸にはなんの殺傷力もない、ただ亀井さんの位置を示す、それだけの役割なんですね」
小田の眼をまっすぐにとらえて、新垣が満足そうにうなずく
「小田ちゃん、やるね」

「すごーい!!新垣さん!!それでこれからどうするんですか?」
生田の問いに振り返って新垣は袖から透明な糸を取り出した
「あの糸に集中している間に死角からこれで直接たたく。なるべく生け捕りにしたいからね」
無数の糸に絡み取られそうになっている亀井を地上から仰ぎながら、悲しそうな目でつぶやく
「カメを救わなきゃね」
そして、その糸を亀井めがけ、伸ばしていく

176 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:36:47
絶妙に亀井のカマイタチを避けながら糸は伸びていく
時折、新垣は「おりゃ」だの「およよ」だの呟きながらも集中力を欠かすことなく伸ばしていく
そして亀井にあと少し、というところまで伸びていったのだろう、小さく、「いくよ」と仲間達を振り返り力強く言った
ワイヤーが亀井の体をぐるぐると囲み、一気にその腕を縛り上げた
突然動かなくなり、縛り付けられた形になった腕を亀井は見上げた
地上からはその時の亀井の表情は判断できなかった

「さあ、みんな、ここからカメの動きを」

そこで新垣の言葉は途切れ、地面に吹き飛ばされた
突然、飛ばされた新垣に仲間達は驚き、慌ててかけよった

「新垣さん、どうしたんですか?」
「あ、愛佳、カメのヤツ、私のワイヤーをやぶった」

そんなはずはない、と鞘師は宙を見上げる
あのとき、『確実に』亀井さんの腕は動きを封じられていた
これまでの攻撃を見る限り亀井さんの風は掌の上から生み出されている
それをしってのうえで新垣さんは亀井さんの腕を縛り上げたはずなのに

そして、自分自身が風のように飛んでくる亀井の姿が目に映った
「な、やばい!こっちに来る!」
慌てて石田がリオンを呼び出し、鞘師が水の刃を生み出す
しかし、視えない風を相手に何ができるのだろう?
不安が急速に膨らんでいくと同時に、距離が縮まっていく

光井が叫ぶ
「2秒後、飯窪と譜久村、左に飛び込め!5秒後、佐藤、工藤と石田を抱え飛ぶ
 鞘師は鈴木につかまり、鈴木は透過を発動。小田は生田とともに倉庫の中に避難
 道重さんは9秒後に新垣さんの左腕を治してください!」

177 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:37:33
予言通り、7秒後新垣の左腕がはじけとび、道重が慌てて腕をつかみ患部同士を繋ぎ合わせる
「ちょっと、愛佳!!これはやばいんじゃない?」
「さ、佐藤、可能な限り早く、飛んで逃げるで」
「む、むり〜さっきの移動ですぐにはとべない!!」

こうしている間にも無表情の亀井は迫ってくる
目的はやはり、リーダーシップをとっている新垣、または光井か
それとも治癒を行える道重か、攻撃の要の鞘師か?

しかし・・・亀井はそんな4人を無視し、工藤達が逃げ込んだ倉庫へ向かいカマイタチを放った
轟音とともに屋根の一部が崩れ落ちる

「生田!小田ちゃん!」
道重は叫ぶが、次々とカマイタチが倉庫を襲いその声はかき消される
「な、なんであそこばかり?」
「そんなこといってられないですよ!このままじゃ、二人が」

豆粒ほどだった亀井の姿がもう肉眼でもその表情がはっきり見えるほどに迫っている
倉庫の二人以外に亀井の興味はないらしい、倉庫へ一直線

「こ、こうなったらえりがなんとかしなきゃいかんけん」
「・・・いやはや、きびしいですね」
倉庫の中の二人は臨戦態勢をとっているものの、能力は心もとない
小田が時を感じなくしてもカマイタチがなくなるわけではない、放っているカマイタチは存在するのだ
それを小田は避けられるかもしれないが、生田が避けられる保証はなかった
(・・・能力は使っても意味はない、ということですか)
万事休す、そう思ったのだろう、笑ってしまう
「なに笑っていると!さくらちゃん、構えると!」

178 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:39:12
どうすればいい、と鞘師はまたも考えをめぐらす
この距離でなにかできるのか?いや、できない。何もできないのか?後悔するしかないのか?
いやだ、いやだ、いやだ、でも・・・何もできない、のか?

そう思い、亀井の姿を目で捉えた
風になびく緩やかな黒髪、魅惑的なあひる口、柔らかそうな肌、仲間達に向けられた両手、ピンク色に輝く瞳
(・・・ピンク色?)

「え〜い、これでもくらうと!えりぽん必殺!ワイヤー攻撃」
新垣と比較するとどうしてもその粗さが目立つが、ワイヤーが亀井向かって伸びていく
しかし、そのワイヤーの先端は亀井に触れる、その直前で淡雪かのように崩れていく
「な、なんやと?」
小田は思い出す
(・・・あの時と同じ、私が投げたナイフが消えていったのと同じだ)

迫りくる亀井を生田が恐怖に満ちた目で眺め、ぺたんと座り込む
「む、無理やって、これは、さすがに」
「・・・大丈夫ですか?生田さん?」
ハハ、と引きつり笑いをうかべながら弱弱しく答える
「大丈夫じゃないと」

そのとき、目の前が突然、太陽が昇ったかのごとく明るくなった
「イヤ」
誰かの声が届き、次の瞬間には緑色の炎がたちあがり、亀井を飲み込んでいた
「バッチリデス」
小柄な女性が残っている倉庫の屋根の上から顔をのぞかせ、笑って見せた

179 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 00:43:06
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(4)です
今のメンバーに興味がないわけではないですよ。だーいし面白い!
初期のメンバーばかり活躍させているけど、後半に現娘。メンが活躍するのでご安心を。
卒業までには完結は厳しいな。

ここまで代理よろしくお願いします。

180 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 19:49:57
■ コールドウォール −新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹− ■

「たっなっさっ!たーーーーーーーん!」
空を切って跳躍する影、猛烈な速度で田中の背後から迫りくるは、魔獣か悪魔か。
もういい加減うんざりとしながら身構える。
同時に強烈な激突、衝撃が背中を襲う。
「ぐはっ痛ったい!佐藤!」
「ぐふふふーひゃー!」
「うーるさい!」
「たっ田中さんすんません!もうまーちゃん田中さんから離れろよ!」
「やですよーだ!まーちゃんのたなさたんだもーん!」
「やめろ!『の』ってなんだよ『の』って!失礼だろっ!」
「べーっだ!まーちゃんのったらまーちゃんのだよーん!ねー?たなさたん!ねー?」
「いやちがうけん」
「ほらー!まーちゃんはなれろよー!」
「ひゃー!やだー!ぐひひひひ!」

「…いやー、なぁんか、上が騒がしいねぇ…」
「そうですねぇ、ええことちゃいますかぁ?」
階下では新垣、光井が並んで食後の洗い物。
「まぁねぇ、そうだねぇ…」
複雑な思い。
新垣はもう一度、天井を見上げる。

”あの”たなかっちがねぇ…

181 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 19:54:52
朝からなぜこんなに騒がしいのか。

近くのアパートメントに仮住まいしていた10期、
――先日の入院騒ぎの後、
いつのまにか、あの4人はそう呼ばれるようになっていた――、
は、現在、リゾナント前の通りを挟んで向かい側、
新築マンションの2部屋を買い取り、そちらに移り住んでいた。

ちなみに2部屋なのは凰卵女学院で寮生活を続ける9期、
――ついでのように、
譜久村、生田、鞘師、鈴木の4人までヘンテコな呼び名で通るようになっている――
も、いずれは卒業するだろうからで、
まあとにかくも、その結果、当然のように起床と同時に4人はリゾナントに殺到するようになっていたのである。

朝食の後、石田は凰卵学院へ、道重と飯窪は開店準備、そして佐藤と工藤のお世話係が…

”あの”たなかっち…

なのである。

田中は難しい人間だ。
人間嫌い、子供嫌い、干渉嫌い、まさに野良猫のような性格。
とても子供の世話が務まるような”出来た”人間ではない。
実際、10期が身を寄せた当初、田中は完全に、この4人を拒絶していた。

拒絶。

明確で、巨大で、分厚い…、冷たい、壁。

だが佐藤優樹は、そんな壁をものともせず、頭から突っ込んでいく。
何度も何度も何度も…何度も、である。

182 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 19:55:40
新垣は、佐藤が田中に罵声を浴びせられ、
冷たく拒絶される場面を数えきれないほど思い出せる。
そう、こんな短期間で、すでに数えきれないほど。

怒号。

ほかの10期が小さくなるほどに怯え、縮こまるほどの鋭い罵声。
そのたびに、佐藤は、げらげら笑いながら、こっちに走ってくる。
「ひゃー!にがきさーんたすけてー!たなたさ…えっと、こわいひと怒ってるー!」
「ちょ、アタシを巻き込まないでくれるぅ?」
そのたびに、新垣が返す言葉。

ほんとうに、アンタはすごいよ…アタシはさ、そう、アタシはたった一回で…

ズキリ、かつての傷が、新垣の胸を突く。
佐藤が罵声を浴びせられる場面は、数えきれないほど思い出せる。
だが、新垣は一度しか、思い出せない。
新垣自身が田中に浴びせられた罵声、冷たい拒絶、その場面を。
ズキリ、また痛む。

「いやーしかし、すごいよねーあの子は、さ。」

田中の難しさは何も新人にだけ向けられているものではない。
その拒絶の壁は初対面に近かったころには、すべてのメンバーが
一度は向けられていたものだ。

道重や光井は慣れたもので、もう最初からそういうものとして田中と接してきた。
機嫌が悪そうならそっとしておき、機嫌がいい時はそれなりに楽しく盛り上がる。

183 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 19:56:21
では新垣は違うのか?
いや、道重や光井と変わらない、もともと関係は悪くはなかったはずだ。
それに、今でも仲が悪いわけではない。
皆が集まってワイワイしている中でならば、普通に会話もする仲だ。
だが、二人きりになった途端、完全に会話が途切れてしまう。
やがて、どちらともなく、二人きりになる事自体を互いが避けるようになり…
そんな状態が現在まで続いている。

いつからだろう?やっぱり愛ちゃんがいなくなった、あの時の…
ズキリ、新垣は強く言い過ぎたのかもしれない。
ズキリ、そしてそれは田中も…
お互いに、それがわかっていながら…

184 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 19:57:07
あのとき、アタシも、もう一度、飛び込むべきだったの、かねぇ…

ドシーン!バターン!ぎゃひー!
怒号と足音が降りてくる。

「ちょっ?ちょい?なにぃ?」

勢いよくリビングへ飛び込んでくる佐藤。
靴下履きの足でフローリングを文字通り滑走、両手を突いて減速させると同時に、
一直線で新垣へ向かって突っ込んでくる。
「キャハハハハ!ひゃー!にがきさーん!たすけてー!」

満面の笑み。
この笑顔が、田中の心を溶かしたのだ。
自分には出来なかった、あの壁を、この子はあっさりと…

「もう怒ったけん!ガキさん!そんガキつかまえて!今日こそは!」
「だーからさーアータシは巻き込まないでって…」

もしかしたら、さ、また、アタシたちも、もしかしたら、さ…
ねぇ?たなかっち…

185 名無しリゾナント :2014/09/19(金) 19:58:34
>>180->>184
■ コールドウォール −新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹− ■
でした。

186 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 09:24:16
>>179です
代理投稿ありがとうございました。
いつもありがとうございます。

187 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 13:56:59
>>158-161 の続きです



一方、彩花の精神世界に入り込んだ春菜は。

一面に草花が咲き誇る草原に立っていた。
見上げると、抜けるような青い空。それでも、春菜はその景色に違和感を覚えていた。
一番大きな違和感は、ここまで晴れ渡っているにも関わらず。
光差し込む源が存在していないということ。太陽が、ない。

吹き抜けるそよ風も、美しく咲く花も、どこまでも広がる草原も。
色彩だけが強調され、そこに温度と言うものが存在していなかった。
さらに、もう一つの異常な光景は。

目の前には、木枠に嵌った美しい絵画。
それと同じものが、無数に空間に浮かんでいた。

これが、今の和田さんの精神世界…

かつて春菜の前で絵の魅力について語った彩花。
だが、色彩だけが暴走し無数の絵画が不安定に浮かんでいる光景からは。
その片鱗すら、見受けられない。

188 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 13:58:26
それにしても、見たことのない絵ばかりだ。
絵画に関してはある程度の知識を持つ春菜だが、空間に浮かぶ絵画たちのタッチには見覚えがまるでなかった。
もしかしたら彩花の心が描くオリジナルのものかもしれない。

その絵画のうちの一つに、自然に目がいく。
そこには、繊細なタッチで描かれた四人の少女たちの肖像画があった。

これは…和田さん?

右手前に描かれた少女は、今よりも幾分幼さを残しながらも凛とした美しさを湛えている彩花。そして春菜は、他
の少女たちにも見覚えがあることに気づく。

この人たちは。そうか、そういうことだったんだ…

彩花の隣に立つ、色白で柔和な表情を浮かべる少女。
後ろに立つ、聡明そうな少女。その隣にいる、浅黒い活発そうな少女。
「スマイレージ」と名乗り、春菜たちに戦闘を仕掛けた三人の能力者たちだった。

― うちには隠し玉の『リーダー様』もいるしね ―

そして戦いの後、花音の残した言葉が春菜が見ている絵と符合する。
和田彩花こそ、彼女の言っていたスマイレージのリーダーなのだろう。
彼女が垣間見せた能力の一端は、その予測を補完するに十分であった。

彩花は春菜がリゾナンターだと知っていて近づいたのか。
否。春菜は首を振る。もし本当にそういうつもりなら、あの時に他のメンバーとともに姿を現すのが効果的だろう。
そのような小細工を弄するようなタイプにはとてもではないが、思えなかった

189 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 13:59:55
思い直した春菜の目に飛び込んで来たのは、傷だらけの四人が互いを支えあいながら辛うじてその場に立ってい
る絵だった。先ほどの絵とタッチは似ているが、そこには苦しさや忍耐のようなものが含まれているように思えた。
見ているだけで、胸が押しつぶされるような絵。息を呑むことすら忘れてしまいそうなプレッシャー。
この姿が、彼女たちが辿ってきた道だというのだろうか。

和田さん、どうしてここまで?

言葉と共に、自然に絵画に手が伸びる。
カンバスに手が触れた瞬間、電撃にも似た衝撃が春菜を突き抜けた。
とともに彼女の頭に流れ込んでくる、膨大な情報。
頭の中に描かれる、もう一つの世界。

190 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 14:00:30


人工能力者「エッグ」としてダークネスに育てられた、文字通りの能力者の卵たち。
とある幹部の思惑で組織を離れ、警察機構の手に渡る事になった彼女たちだったが、待ち受けていたのは苦難の連続だった。
ダークネス時代と変わらない過酷な実験、そして実戦さながらの訓練。

襲い掛かる苦難を耐え、そして地に伏せることなく立っていられたのは。
自分達が一人前の能力者として、認められたいという強い意志。
そして共に目標へと向かってゆく仲間の存在があったからだった。
だが無情にも、一人、また一人と脱落してゆく子供達。その中に、彩花が親友と呼んで憚らないある少女がいた。

いつもにこやかな笑顔を浮かべるその少女は。
人々を癒す力を持ちながらも、戦う力をほとんど持たなかった。
いつしか彩花が彼女を守り、傷ついた彩花を少女が癒す。
戦場で築いた絆はやがて永遠へと続いてゆくとすら思えた。しかし。

運命は彩花に苛烈な結末を与える。少女はとある訓練のさなかに命を落としてしまったのだ。

その少女を喪った悲しみ、絶望は計り知れなかった。
一度は闇の淵に落とされた彩花。
その心を救い出したのは、他ならぬ同僚の前田憂佳だった。
彩花は憂佳に心を預けるとともに、もう二度と「友」を喪わないと心に誓った。

191 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 14:03:14


どうやら、衣梨奈の能力と春菜の能力が共鳴しあった結果、通常ではありえない現象が起きているらしい。対象物に触れるこ
とでその情報を引き出すと言えばサイコメトリーとも言うべき能力であり、能力複写を得意とする譜久村聖の基本能力でもあ
る。それが春菜にも行えるというのは、一重に衣梨奈による精神世界の具現化と春菜の五感強化、さらに彩花の精神世界の中
にいるという条件が揃った結果の産物だった。

春菜は得心する。
「スマイレージ」の三人と交戦した時の、ともすればこちらが突き落とされそうになるほどの彼女たちのプライドの理由を。
彼女たちは、負けられなかったのだ。この程度の相手に遅れを取るようでは、先にある大きな目標など遠い夢。
確かに感じは良くはなかったが、彼女たちなりに高みを目指していたからこその態度。
彼女たちの未来へと足掻く姿と誇りが、目の前の絵には込められている。素直にそう思えた。

そこで初めて、春菜は疑問に感じる。
共に支えあった、目的を同じにした仲間たち。そんな仲間たちがいるのにも関わらず、今の彩花は廃人同然だ。一体、彼女の
身に何が起こったのか。

その答えは、無数に浮かぶ絵画たちの最奥にある絵にある。
そう春菜の直感が訴えていた。
その絵だけが、他の絵とは一線を画した禍々しい気に覆われている。
カンバスは黒く塗りつぶされていて、何が描かれているかもわからない。
それだけに、その絵画が今の彩花を形作る何かであるように思えた。

192 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 14:07:10
黒い絵に向かって、一歩踏み出したその時だった。
空間が激しく揺れ、所々に大きな歪みが生み出されてゆく。

「これはもしかして外の生田さんに何か…!?」

彩花の精神世界と言えど、それを形にしているのは紛れも無く衣梨奈の力。
その世界が揺らいでいるということは、明らかに彼女の身に何かがあったということだ。

だが、春菜には衣梨奈を手助けする術はない。
彼女自身は自らの意思で彩花の精神世界から脱出することはできないのだ。
いや。そんなことを考えること自体、衣梨奈に失礼な話。彼女は自分を信頼しているからこそ、サポートに回ったのだ。
自分が先輩である彼女を信頼できないはずがない。

ならば、やることは一つ。

あの絵を読み解いて、和田さんを助けるための鍵を絶対に…見つける!!

春菜の強い願い。
それを嘲笑うかのように、黒く塗りつぶされた絵はゆらゆらと、歪んでゆく空間に浮かんでいた。

193 名無しリゾナント :2014/09/20(土) 14:08:12
>>187-192
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

194 名無しリゾナント :2014/09/23(火) 22:28:41
■ サンクスフォア −工藤遥− ■

キラキラと床に広がる白い霧、その中心に立つは白狼と3人の少女たち。

「うん…かっこいいよすごく」
「ウチも見せてあげたいよ、けっこう似てるのリオンに」
「どぅーきれーい…」

「ありがとう…」

みんなありがとう

この姿を見ても
誰もハルを嫌わなかった。
誰もハルを恐れなかった。
みんなハルを認めてくれた。

「でもちょっと寒いかなこの霧」
「そぉ?ウチは平気だけど」
「どぅーの毛皮冷たくてきもちいー!でっかいどーの雪みたい!」

「おいおい…」

みんなありがとう

じゃあ、みんな、いこうか

195 名無しリゾナント :2014/09/23(火) 22:29:12

>>194
■ サンクスフォア −工藤遥− ■
でした。

196 名無しリゾナント :2014/09/25(木) 19:09:35
■ モックコンバット−新垣里沙・田中れいなX9期・10期− ■

リゾナント地下、モニター室に座るは道重、光井。
二人の見つめる先、4面の大画面と10面の小モニターには、様々な角度から映される2つの部屋。

一方は新垣と9期メンバー4人の姿が
一方は田中と10期メンバー4人の姿が

9期10期…変な呼び方や。
ほんまに佐藤は変なことばっかり考えるんやから。

「新垣さんのAルームのほうは生田が先鋒みたいですね」
「生田かぁ。生田もずーっと新垣さん新垣さんよね」
「生田にとっては貴重な体験なんちゃいます?
思い切り能力使ってもびくともしない相手とやらんと、体得できないタイミングというか」
「ガキさんが言うにはそれでも相っ当!痛いらしいけどね、生田の【精神破壊】受けるの」

「けどこうやって分かれてみるとそれぞれの色…というか
4人集まったときの性格の違いみたいなんがはっきりでるもんですね」
「ええ…」

Aルーム、新垣に対する4人は生田を先鋒に一対一の模擬戦を開始するようだ。
ところが一方、Bルームは…

197 名無しリゾナント :2014/09/25(木) 19:10:09
「もうはじまっとりますやん」
「前へ!前へ!って感じね」

総がかり。

あいさつもそこそこ、いきなり襲い掛かる。
最初から一対一なんて考えてもいない。
4人いるんだから4人で戦うのが当たり前、それが彼女たち10期の色。

「なんかずうっと喋ってますね」
「戦いながら作戦会議してる」
「手と口が同時に動くっちゅうか…あ、田中さん容赦なく飯窪行った、え?」
「佐藤が止める、あ、ふきとんだ…でもすごいね、読んでたんだ」
「あらー、田中さん飯窪への攻撃外しよりました?」
「モニター越しって面白いね、これ飯窪さんきっと自分の位置ずらしてるんだよ」
「そか飯窪のホントの場所がみえへんのや…
ある意味恐ろしい能力ですよね。あの田中さんですらあっさりかかってしまう」

「他の3人は見えてるの?飯窪さんをうまく庇いながられいなの左右に回り込んでる」
「そのようですわ、おー工藤当てた?いやぎりぎり避け、完全に引き裂きに行ったであれ、恐ろしい」
「速いね、狼になると。」
「あの子も思い切りええとこあります。普段は田中さんの目も見れんほどモジモジしとるくせに」
「うふふ。でも私とか愛佳には、普段からちょっと上からよねあの子。」
「生意気盛りで困ったもん…あー田中さんの膝が入った…全然効かんか…頑丈やなー」

198 名無しリゾナント :2014/09/25(木) 19:11:11
「石田はほんと愛ちゃんみたいな戦い方するね」
「テレポートからの格闘…ほんまです。
でも攻撃が似てるだけに、読心術の有無の違いが浮き彫りになりますね。
田中さんもそのへんの差で石田を読み切って…あ、でも石田当てた!お、お、お、おおっ?あ!
ふー田中さん打ち終わりに合わせて一発、あの返しで連打を切りましたね、今のあぶなー。
目にも留まらんような連撃、キレっキレや…あの子、ホンマ強い。」
「【幻想の獣】は使ってないみたいね。たぶん禁止はしてないんだろうけど…ねえあれ、
飯窪さんあの子なにやってるの?ほふく前進?」
「あーこれは…無茶やなぁ…」
「これ、偽の自分にれいなおびき寄せて足掴んで引き倒す気?
もーそんな手、れいなひっかかるわけないとおもうけど…でも…面白いかも」
「佐藤が誘導役ですね、普段あんなんなくせにこういうとこ察しが早いねん」
「きた…れいなきたよ…もうすこしもうすこし…あっ」
「あっ、掴ん」
「ばれてるしー」
「残念、ほかの子の動きから飯窪の場所読まれてましたやん…あ、飯窪KO」
「移動が遅すぎて不自然だったのもあるかも、あ…石田」
「まともに入りましたね、こら立てへんわ。残りは工藤と佐藤ですかって言ってるそばから工藤、
3、4、5…わからんけど、いま田中さんが何度も蹴り込んだあたりに顔が埋まっとったんやな」
「あー溶けてる溶けてる…こっちは決着ね、佐藤もう笑っちゃってるし」
「でも惜しかったー…皆ガンガン攻めて、飯窪みたいなタイプ普通後方待機するもん思たけど
あの子らは迷わず全員で攻撃に参加するんですね、あぶないわー」
「なんか途中から不思議と応援しちゃってたね…あそういえばガキさんたちのほうは?」

「もう2人終わってますね、生田・譜久村と」
「あとで録画みなおしましょ…あーおしい、鈴木が…」
「自分が攻撃してるときに同時に見えない角度から打撃されると、
【透過】が間に合わないみたいですね…あとは鞘師か。」
「はーん!凛々しいりほりほもかわいいの…」

「……(ホンマこの人は)……」

199 名無しリゾナント :2014/09/25(木) 19:11:46
――――

「やー完敗よ、もー鞘師には全然歯が立たないわ。
あーっと思ったらさ、もう腕も脚も極められちゃって。
ほぁー?って、もう参った。」

「でも新垣さんが【精神干渉】使ってたら逆に私たち全員何もできてないです」
「いーのいーの鞘師、細かいことは。
みんなも自信もってダイジョブだよー。前やった時よりみんな成長してる。」
「新垣さん!衣梨は?衣梨はどがいだったとですか?エリは?エリは?!」

「うー…なんでかなー?なんで上手くポンポンポンとこう、繋がってかないのかなー?うーっ」
「や、でもほら私たちだけであんなに協力してがんばれたんだし、みんなで
私の事、何度も守ってくれたし、私感動したの、あゆみんすっごい良かったと思うよ」
「……そう?」
「うん!すっごく!それに【幻想の獣】温存した状態であんなに戦えるなんてすごいよ!」
「えっ?そーかなぁ?えーっ?そーおぉ?」
「そーだよおー」「そーかなー?へへへっ」「そーだよおー」

「チェッ!チェッ!チェーッ!なんだよ!結局センパイに勝てたの鞘師さんだけじゃんか!
ちくしょー!つーかまーちゃん!なんで降参しちゃったんだよ!ちゃんと最後まで戦えよ!」
「だってどぅーがビターン!って倒れてビターンって、こんな感じ、ビターン!って!ぐひゃひゃ!」
「なっ、笑うな!モノマネするな!」
「ビターン!」
「やめろー!」


悲喜交々

リゾナントは今日もにぎやかだ。

200 名無しリゾナント :2014/09/25(木) 19:12:30
>>196->>199
■ モックコンバット−新垣里沙・田中れいなX9期・10期− ■
でした。

201 名無しリゾナント :2014/09/29(月) 18:44:54
■ アイエフブイ −鈴木香音・鞘師里保− ■

「もしかしたら、かのんちゃんの力って【物質透過】じゃないかもしれない」
あのとき、りほちゃんが言ってたことがなんなのか、
アタシには、まだよくわかんないんだけど、
それでも、りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
だから…

カカカカカカッ
シュシュシュシュシュ…
ズズズズズズゥンン!!ズシィン!!!

「うーぉっ!強烈っ!」
アタシは頭を抱える。
鼓膜がおかしくなりそうな轟音。土ぼこりがもうもうと巻き上がる。
アタシたちがなんでこんな目にあってるか、説明したいとこなんだけど、
いまちょっと取り込んでるんだよね。
だっからもーのすごく簡単に言うと、アタシとりほちゃん、
めっちゃくちゃ撃ちまくられてる最中なわけ…

…戦車に。

うわまた来た!

ズガン!ズズズズン!

戦車って言っても、なんだっけか?
ほへーせんとーしゃーりょ?なんかわからんけど、まあ戦車だよ戦車。

「やー、この位置、もうばれちゃってるねー」
もーりほちゃん冷静すぎてアタシのほうが焦るよ。

202 名無しリゾナント :2014/09/29(月) 18:45:58
「りほちゃん、どーする?後ろに見えるあそこの瓦礫まで走る?」
「んー、突っ込もうか」
「うんわかった…え?」
「かのんちゃん、あれに突っ込もう」
「お、おういいね…詳しく聞こうじゃないか」

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
りほちゃんが「やる」といったことにアタシが反対する理由なんかない。
でも、さすがにそれはさぁ。

「こないだ練習してた時の事、覚えてる?」
「うん、もちろん」

格闘訓練、りほちゃんの攻撃、アタシが【物質透過】、りほちゃんの突きが身体をすり抜ける。
ふと、りほちゃんが動きを止める。
じっと自分の手を見る、曲げたり伸ばしたり。
「どったの?りほちゃん」
「かのんちゃん、もっかい」
言うが早いか突き、アタシ【透過】
ズボ!すんごい音がして突き抜ける。
で、今度はそのまま、んーとか唸ってる。
なんか、手をにぎにぎしたりとか、やってたみたい、アタシの後頭部だから見えんかったけど。
そのうち、両手を突っ込んだり、その手をパタパタ交差させたり、
スリッパもってきて片腕突っ込んだままアタシの上から落として透過させたり、
しばらく不思議な動きを繰り返して、
で、こう言ったんだ。

「やっぱり…ちょっとだけ…『ズレ』る」

203 名無しリゾナント :2014/09/29(月) 18:46:29
ズズズン!ガラガラガラ!
うわぁ崩れてきたぁ!ここもとうとうオシマイだよ。

「そういうわけだから、かのんちゃん、今決めたリズムで突っ込んで。
あとはウチが合わせるから。」
「アタシはいいけど、りほちゃん戦車まで『そうする』つもりなの?」
「うん、だいじょうぶ、かのんちゃんとならウチやれるよ。」
そっかアタシとならやれるか…うん…じゃあやろう。

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
りほちゃんが「やる」といったことにアタシが反対する理由なんかない。

たしかに、忘れ物が多かったり、朝起きれなかったり、すぐ転んだり、
ちょっと足りないところもあるけど、大丈夫…
あれ?なんか不安になってきたよ?
まあいいや、とにかくやろう、うん、やっちゃおう。

「じゃあいくよ!かのんちゃん!」
「よし来い!りほちゃん!」

うおおおおおおおおおおおおおおお!

アタシは瓦礫から飛び出す!
【物質透過】全開!
足の裏を除く、全身を同時に【透過】、そのまま突っ込む!
ほんとだ、ギリギリ間に合う。
りほちゃんの言った通りの距離だ。

204 名無しリゾナント :2014/09/29(月) 18:47:07
戦車の上の小さいほうの鉄砲がこっちを向く、いっせいに撃ってきた!
信じられないだろうね、無数の弾丸がアタシを通過していくけど、
アタシには一切当たらない。
毛ほどの傷も、アタシには付けられないんだ。
でも、さ、白状しちゃうと、この状況、アタシもギリギリなわけ。
長い時間全身を【透過】させ続けるのって、めっちゃしんどいんだ体力的に。
水の中で息止めてるみたいな、そんな感じの100倍きつい。

だからきっと、戦車に届くギリギリの距離だから、アタシは、もうそこで限界。
戦車まで、戦車まで行くのが…限界…、きっとそこで、アタシはガス欠。
そしたらもうアタシはオシマイ。
でも、大丈夫、なんも問題なし、だってアタシには、アタシには…。

戦車まであと少し、目がかすむ、もう少し、もうちょっとだ。
あたしは最後の力を振り絞る、戦車の正面、思いっ切り、突っ込む。

装甲を、突き抜ける!

戦車の中は、思ってたよりずっと狭かった。
そこらじゅうにゴテゴテと機械がくっついてて、しかもなによりびっくりしたのは
中にすっごいたくさん敵が座ってて、ぎゅうぎゅうなの。
でみんなこっちみて口あんぐりしてんのよ。
でもそれも一瞬、即座に武器を構えて、銃口がぜんぶこっちに…
アタシはさ、もう無理なわけ、もう限界、もう【物質透過】させ続ける力は、残ってないわけ。
だから、アタシは、ここで、オシマイ、だから、あとは…

あとは!

205 名無しリゾナント :2014/09/29(月) 18:47:55
「いっけえええええ!りほちゃん!」

きらめく水の刀、りほちゃんが飛び出す。

もうすごいんだ、りほちゃんは、あんな狭くて、立ってることもできないほど天井も低くて、
あんだけの数の敵がさ、いてもさ、もうすんごいはやさで動き回れるわけよ、
みんな同士討ちが怖くて、全然撃てなくてさ、あっという間にどんどん倒していっちゃうわけ。

そう、アタシの中にずっと入ってたんだ、りほちゃんは。
りほちゃんが言うには、アタシの中は、真っ暗で、何も聞こえなくて、息も吸えない、
でもりほちゃんはどこまでがアタシで、どこから外なのかわかるって言った。
だから、アタシの動きを全部読み切って、アタシと寸分たがわず動いて、アタシに重なったまま、
一呼吸もせず、ここまで走って来ちゃったんだ。
それで、あの動きだもん、まいっちゃうよ。

りほちゃんはこうも言った。
「大丈夫、かのんちゃんに重なってる物同士が接触することは、無いから」
つまり重なってる間にアタシに撃ちこまれる弾丸は、りほちゃんにも当たらない。
なんでそんなこと確信できるのか、アタシには全然わかんないけど、ほら、

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」こと、だから、さ。

あーこらもう勝ったよ、うん。
たぶん、だけど、たぶん、いやだってアタシはサ、もう…気が遠く…なって…

…りほちゃん…あとは…よろしく…。

206 名無しリゾナント :2014/09/29(月) 18:50:18
>>201-205
■ アイエフブイ −鈴木香音・鞘師里保− ■
でした

スーツ設定も使いたかった…

207 名無しリゾナント :2014/10/01(水) 02:22:57
光。闇。そしてまた光。
常夜灯で照らされたアスファルトを縫うように、十の影が駆け抜ける。
赤と黒に彩られた、異能の少女たち。
目指すは噎せ返るような闇の奥、白塗りの無骨な建造物。組織の研究所の一つだ。

だが、そうやすやすとは突破させてくれないようで。
彼女たちの行く手を漆黒の魔獣が阻む。
熊ほどの巨大な体躯に、特製のプロテクターを装着された「戦獣」。
その数、4、5頭ほど。陸自の一小隊に匹敵する戦力だ。

「ちっ、相変わらずこんなもの使って!」
「可哀想だけど…殲滅するよ」

生命を弄ぶ非道に憤る亜佑美。
その気持ちを汲みつつも、リーダーのさゆみが決断する。
彼女の言葉が合図となり、二つの人影が前方に飛び出した。

208 名無しリゾナント :2014/10/01(水) 02:23:55
白のジャケットが基本デザインではあるが、肩から襟に取り付けられている赤い長布。
それが、踊るように撓り、そして鋭く魔獣の体を切り裂く。
赤く流れる閃光の布同様、血飛沫を上げる自らの体。激痛に身悶える異形の獣が、目の前に立つ少女の頭を叩き潰そうと剛
腕を振り上げたその時のこと。獣の腕は唸る太刀筋によって、あっさりと切断されてしまった。

「うーん、やっぱこっちのほうがしっくりくるかも」

自らの愛刀と、彼女の纏う戦闘服の機能による斬撃の鋭さを比べる里保。
自分の実力以外の何かに頼るのはあまり好まない性質ではあるが、実際戦闘が楽になっているプラス面は無視できない。
腕を斬り落とされ、それでもなお標的を食い殺そうと立ち上がる戦獣。
しかしその狂暴な顎が開くその前に、思いもしない方向から襲い掛かる音の塊によって聴覚器官が完膚なきまでに破壊された。

「なぁにさぼってんのさ里保ちゃん」
「大丈夫、信じてたから。かのんちゃんのサポート」

止めを刺してくれた親友に、里保は親指を立てて意思表示。
彼女の操る音もまた、戦闘服の赤い布によって増幅された代物だった。

一方、戦獣に立ち向かったもうひとつの影。
彼女は里保と違い、その手に得物を持っていない。
にも拘らず、漆黒の獣を飛び回るだけで分厚い毛皮が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。
「時間跳躍」は彼女の所有する能力だが特筆すべきはそこではない。

209 名無しリゾナント :2014/10/01(水) 02:25:29
端的に言えば。
さくらは、時間跳躍を最大限に活用することで「自分が一番効率よく相手にダメージを与えることのできる角度」に自分を移動
させることができた。ただの時間停止ならば相手が攻撃してくる方向を予測し防御することもできなくはない、がそれを許さな
いさくらの身のこなしと格闘センス。そして攻撃力は戦闘服の赤い布が補う。
だが、相手に致命傷を与えるよりもどの角度に自分を位置させるか。目的より手段が勝ってしまうことがままあるのは彼女の性
格ゆえか。

「小田ぁ!遊びすぎだぞ!!」

さくらが飛び跳ねている隙を見計らい、音もなく表れた少女が黒くごわごわした剛毛に覆われた獣の額に手をやる。
無限大の振動を加えられた戦獣の脳は、原型を留めないほどにシェイクされ、黒い巨体が地響きを上げて派手に倒れ込んだ。

「佐藤さん!私が戦ってたのに」
「いいじゃん、イヒヒヒ」

さくらと優樹がもめている間に。
同じ「赤組」の里保と香音、そしてさゆみが残りの戦獣たちを倒していた。

「これで全部かな」
「にしても凄いですね、この服」

辺りを見回すさゆみと、自らが纏う服の性能に改めて驚愕する香音。
戦闘力の高い里保とさくらだけでなく、本来は後方支援に向いている自分やさゆみまで飛躍的な攻撃力を発揮できるとは。
見た目は白のジャケットと黒のインナー。アクセントの赤い布が肩から垂れ下がっている。しかしこれが、戦闘服。
赤の布地は着用者の精神に感応し、時に武器となり時に能力増幅器官となり。また黒のインナーには防弾チョッキも真っ青な耐
久性が備わっているという。
あらためてこれを用意した、例の胡散臭い関西人のコネクションの広さに感心せざるを得ない。

210 名無しリゾナント :2014/10/01(水) 02:26:26
「…まだ、みたいね」

さゆみの視線は、緩められることなくアスファルトで覆われた通用路の前方へ。
彼女たちが立っている場所から数十メートル。戦獣が全滅することなど計算のうちだったのだろう。
ロケットランチャーを構えた数人の男たちが、その矛先をこちら側に向けていた。

「ここは私たちが!!」

叫び声とともに、四人の少女たちが正面に踊り出る。
さゆみたちとは違い、白のジャケットは共通点としつつもインナーと肩の布が正反対。言わば「黒組」。

組織の警備兵たちが、濛々とした煙とともに一斉にランチャーを射出した。
勢いに任せた弾頭が、瞬く間に少女たちに肉薄する。だが彼女たちは微動だにしない。

「じゃあ聖がやるね」

そのうちの一人である聖が、一歩前に出る。
彼女の肩口からの黒い布が、大きく広がる。その大きさは、前方の視界を完全に塞いでしまうほどに。
まるで黒い何かの生き物のような布が、飛んできたミサイルを呑み込んだ。行き場を失ったそれが強制的に着弾し、凄まじい
爆発を起こす。それさえ、黒い布の前には衝撃ごと吸収されてしまった。

「な、なんだあれは」
「ミサイルが…食われた?」

呆気に取られる警備兵、そうしている間に三人の少女が一斉に走り出す。
我に返った兵の一人が小銃を取り出し、躊躇うことなくトリガーを引いた。

211 名無しリゾナント :2014/10/01(水) 02:31:41
「だから、そんなん全然効かんとよ」

涼しい顔をして駆け抜ける衣梨奈。
彼女の黒い布はまるでプロペラのように高速で前方に回転、打ち出された銃弾をことごとく弾き返していた。

「今度はあたしが行きますね!!」

亜佑美の高速移動が、赤いインナーの身体能力増強によって切れ味を増す。
まさしく目にも止まらぬ速さで男たちに迫ると、同じく増強された蹴り技によって次々と警備兵たちをなぎ倒していった。

「おおー、さすがあゆみん。技のキレはピカイチだね!」
「太鼓鳴らしてるだけじゃなくてはるなんも働いてよ!!」
「みんながあまりにも凄すぎて、私なんかの出番はないかなぁって」

笑いながらそんなことを言っている春菜だが、倒れたふりをしていた警備兵の一人が不意打ちを仕掛けるのを余裕でかわし、
そして炸裂する裏拳。戦闘服の身体能力増強は、非力な春菜ですら立派な戦闘メンバーに変えていた。

さゆみたちが着ていた戦闘服とは違い、彼女たちの着ていた服は。
黒の布は伸縮自在の盾となり、身に降りかかるあらゆる攻撃を軽減または無効化する。
さらに、赤のインナーは着用者の身体能力を飛躍的に向上させる。仕組みは違えどこちらも戦闘服として絶大な効果を発揮
していた。

「今度こそ邪魔者はいなくなったかな。くどぅー、見てみて」
「よっしゃ、ハルの出番だぜ!!」

212 名無しリゾナント :2014/10/01(水) 02:32:11
さゆみの指示で、後方に控えていた遥が自らの瞳の力を解放した。
物陰に潜む敵、研究所内に配備されている兵隊。全ての可能性が「千里眼」によって丸裸にされる。

「大丈夫っす。あとはもう『標的』しかいませんよ」
「そっか。ありがとね」

先程の警備兵たちが組織の最後の切り札だったらしい。
安心するさゆみに、亜佑美に伸された警備兵が苦しげに笑いはじめる。

「お、お前らはたどり着けない。お前らは、知らないのだ。『m0202』の恐ろしさをな」
「うるさい。おやすみ」

男の額を、刀の柄で一突き。
鮮やかな技を見せながらも、里保はさゆみに不安な視線を送らざるを得ない。

「だいじょうぶだよ、りほりほ」
「道重さん?」
「『あの子』のことは、さゆみが一番知ってるから」

胸に手をやりながらそんなことを言うさゆみは、里保を安心させているようにも。
そして自分自身に問いかけているようにも見えた。

大丈夫だ、この人を信じよう。

いつだって、自分たちを引っ張ってきたリーダー。そこに疑う余地など一片もない。
さゆみが先頭を切って歩き始めると、やがて後輩たちも後をついてゆくように先へと進む。
目指すは、闇深き研究所。

213 名無しリゾナント :2014/10/01(水) 02:33:29
>>207-212
今日の結果を受けての撮って出しなので質はアレですが
単発もののくせに後半に続く…かも?w

214 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 20:14:58
あなたは何者なんですか?

私はごく平凡な家庭でうまれ、平均以上の愛情に包まれ、ごくごく幸せな日常を送りました
いろんなところに連れていってもらえました。動物園、水族館、博物館、そして教会
幼い私にとってはなにもかもが新鮮で、「あれはなに?」「これは?」「こっちは?」、いつも質問しては父を困らせてましたね
ただ、いつも笑顔で両親は私に教えてくれて、いい父でした

なんてことない普通の一日、父と母に連れられ、公園へ
帰り道、ふとめまいを感じ、座り込んだ。ほんの一瞬のめまい、目の前がゆがむような感覚
立ち上がり、ふと顔を上げると心配そうな父と母の顔がありました
しかし、私の目線は二人の上に向かわざるを得ませんでした。頭の上に数字が並んでいたのだから
『830』『826』、私は父に尋ねたんです。頭の上にあるその数字は何か、と

父は笑って答えました、何を言っているんだ?数字なんてないさ、と。
母も笑ってました。面白いことを言うのね、なんて言って
自分だけにしか見えない数字、その存在をその時は気にも留めませんでした

でもそれは冗談ではありません。周りを見れば、すべての生き物、人間だけでなく犬や鳥にも、数字が浮かんでいたから
『2000』『189』『3900』・・・いろいろな数字
そしてそれらはゆっくりと減っていて、そのスピードは個人差、いや種族差があるようでした

帰り際、近所の野良猫と出会ったのを覚えています―数字は『10』
頭を撫でようとするといつもなら逃げようとする、それなのにその日に限って静かににゃあ、と鳴くだけでした

家に帰ると飼っていた金魚の水槽にも数字が浮かんでいました、その数字は『8』
えさをあげると水辺にやってくるはずなのに、その日、沈んできた餌を食べていました

夜、夕食を囲んだとき、父と母の頭の上の数字は『750』『740』に減っていたんです

翌日、水槽を覗き込むと金魚が浮いていて、庭に行くと昨日頭を撫でた猫が倒れていました
あたまのうえに浮かんでいた数字はそれぞれ『0』になっていた

215 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 20:17:22
その時に直感的にわかってしまったんです
「この数字が0になったとき命が終わる」ことを
視えてしまっているのだ、他人の寿命を、なんて難しいことを今なら表現できます

そこに私の名前を呼ぶ父の声がして、金魚の墓を作ろうと提案してきました
父の頭の上の数字は『520』に減っていました

昨日から急激に数字が減っていたので、私は怖くなって父に抱き付いたんです
父は私が金魚がいなくなって寂しがっていると思い、大丈夫だよ、とやさしく抱きしめてくれました
父のたくましい腕が私の冷えた心を温めると当時に、すぐに恐怖のために冷えを感じていました

一日で300程度も減った父の数字
同じペースでへるなら明後日にも0になる
0になったとき父と私は永遠に別れなくてはならない
「ねえ、お父さん、お父さんはいなくならないでね」
「なにを言っているんだ?お父さんはずっとそばにいるからね」
・・・嘘だ。嘘だ。あと二日しかいられないくせに

いつも以上に両親にべったりだった私に両親はペットを失ったことの喪失感以上の原因がわからなかったと思います
だって誰が思います?明後日にも自分が死ぬ、なんて!!
朗らかに談笑する父も母も数字は明らかに減っていたんですよ

翌日も父と母と一日中、そばにいようとしたので、さすがに不思議がっていました。
適当に言い繕ってごまかしたのは覚えていますし、その一日のことは深く覚えています
夕食時には数字は100程度にまで減っており、眠れないの、といって両親の部屋で寝ることにしました
最後の夜になる、そう思っていましたから。

そして、その日の夜、暗がりの中でガラスの割れる音が響いたんです
その音に気づいた父が、母を起こし、動かないでいるようにと指示を出したのが耳に入ってきました
部屋を出ていく父の数字は一ケタになり、母の数字はもう3になっていました

216 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 20:18:11
突然、争うような音が起こり、ついでなにか固いものが倒れる音
母が私を起こし、押し入れの中に隠れるようにやさしくいってきました
私が戻ってくるまでここでいい子にしているのよ、なんて。
母は懐中電灯を手に、父を捜しに出かけた。暗闇でも光ってみえるカウントは2になっていた

幼い私は死ぬことよりもいなくなることが怖かったんです
はっきりいって死の恐怖というものを理解できなかった。ましてや自分が死ぬことは考えていなかった
だからこそ、私はこっそりと母の後を追って部屋を出ました

暗闇の中を壁伝いに歩いていくと、暗闇にあのカウントが浮かんでいたので、駆け寄りました
うつぶせに倒れているが、間違いなくそれは母でした
背中から殴られたのだろう、抱き起した私の手は血で濡れていて、その近くで壁に背をあずけている形で父もみつけました

私は父と母の名前を呼んで、起きて、と何度も大声で叫んだ
がたっと物音がし、振り返るとそこには黒い影と頭の上に光る数百万のカウント
「あ〜あ、ガキもいたのか。まいったな。ま、いいや、一緒にやっちゃえば」
私に向かってその影は蹴りを放ち、私の体は父と母の間に飛ばされる形となった
痛みで私は胃の中のものを吐き出しそうになりましたが、視線は男の陰に向いたままでした

私に止めをさそうと近づいてきた男の足をつかみました
必死の抵抗なのだが、所詮は子供、と思ったのでしょう、男は気にもせず、片膝をついて、私に話しかけてきました
「ムダで〜す、お兄さんには効きません」
その声はゲームをしているように弾んでいました

その時初めて、顔が見えないが、こんなやつに父と母を奪われるなんて、怒りを感じた
大好きな父と母の笑顔と目を見開いている今の父と母の表情
(許せない)
その怒りが天に伝わった・・・そう信じるしかない・・・でしょう
私の目に映る男の頭上のカウンターが数十万から急激に減少していったんです

217 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 20:19:09
・・・20万・・・10万・・・5000・・・・1000・・・500・・・100・・・50
そして、カウント5、4、3、2,1・・・0!

男は突然胸を押さえて倒れこみました

カウント0は終わりの印
この手で男の命を奪うことになった、それは恐ろしいほどあっけないものでした
自分が奪ったという実感はないのだが、それは事実、現実

それよりもこの男が両親を奪った事実、それがその時は何より大事でした
もうあの優しい声も笑顔も楽しい思い出もできない、それがつらかった
そこで私は気づいたんです。ガラスにうつった自分の頭の上に先程までなかった数字が浮かんでいることを
数十万の数字、それは先程、急激に減っていった男のカウント、そのままでした

もしかして、と思い、急いで父のもとにかけよりその腕を掴みました
(お願い、生き返って!!)
そう、願うと私の上のカウントは急激に減っていき、父のカウントが0から増えていくのです
0、1,2、3・・・・1000・・・50万!!
母の元にも駆け寄り、手をつかむとカウントを増えていきます
私の頭の上のカウントは0になっていたが、母のカウントは数十万まで上昇していた

そして、父がゆっくりと体を起こし、私の姿を見つけた父は私が無事なことを確認し、強く抱きしめてくれた
続いて、母もゆっくりと体を起こす。不思議なことに後頭部の傷は塞いでいるようだ
そして、倒れている男に気づき、警察に通報した

結局、警察は『犯人』の男が『突然死』したものと断定し、私達家族は「被害者」で事件は終了しました
後になってわかったことなんですが、この男は強盗殺人の常習犯でした
殺されずに済み、突然死を起こしたことが幸いでしたね、と警官は両親に話していました

218 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 20:19:53
でも、違うんです。私だけが知っている、父と母は『一度』死んだ、ということを。
それ以降も私の目には寿命のカウントは見える。ただ、あの日のようにほかの人のカウントを奪うことはありません

他の人の寿命が見える、それがどんな意味を持つのかわからない
ただ・・・見えてしまう。私は普通でないんです!!

だからこそ、カウントが見えない、あなたのことを私は知りたいんです
あなたは何者なんですか?

    −さゆみっていうの。よろしくね真莉愛ちゃん

219 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 20:25:17
>>
「カウントダウン」です。
思い付きだけで書いてしまった。
真莉愛ちゃんは共鳴系がいいってスレでは出ているけど、俺の中では真莉愛ちゃんは治癒能力系のイメージ
ま、名前からきているだけですが。真莉愛だし、あのビジュアルだから勿体ない!!
さゆの生命力増幅、マルシェの原子合成に続きあらたな治癒系として寿命の継ぎ足しを提案します
とはいえ、これは息抜き用に書いたものですから、スルーしていただいても構いませんよ

220 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 22:01:16
代理投稿行ってきます

221 名無しリゾナント :2014/10/05(日) 22:13:37
代理投稿完了!うまくできてなかったらごめんなさい

222 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:42:00
☆ ★ ☆

「その子は、特殊な能力の持ち主でして」

モニターに映る、白衣を着た女。

「うちの組織の被験体、いわゆる『エッグ』というカテゴリーに属するんですが」

薄闇に佇むその姿は、いつ見ても嫌悪感しか催さない。
なぜならば。

「さゆ。あなたなら、知ってますよね? 彼女の能力の『本質』を」

画面の向こう側の女が浮かべる笑みは、命を弄ぶ人間のそれだからだ。
白と、赤と黒が交差する戦闘服を身に着けた十人の少女たちはそのことを痛感する。

「まあ、あなたたちがその子を連れだすことを阻みはしません。どうぞご自由に」

だから、本能的に理解できる。
彼女が投げかける、次の言葉を。

「ただし、『できるならば』ね」

223 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:42:48
☆ ★ ☆

部屋が再び、沈黙に沈む。
研究所の最奥、隔離されたような作りの部屋にその少女は立ち尽くしていた。
身柄を拘束されている感じではない。むしろ、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せるような。
そんな状況ですらあった。
現に、建物内には護衛の人間が誰ひとりいない。

作戦開始時は夕刻だったのに、いつのまにか日が沈んでいたようで。
窓から差し込むのは、淡い月光。
言いたいことだけ言って切れてしまったモニターの光源が消えると、部屋は頼りない月の光だけが頼りとなる。

窓際に近い場所にいた、白いワンピースの少女。
その顔には年相応よりは大人びた幼さと、儚さが同居していた。
青みがかった月の光に照らされ、神秘的にさえ映るその表情。
それがどこから齎されているものなのか、すぐに知ることになる。

「もう大丈夫、だよ」

聖が、少女を安心させるために声をかけた。
少女の体が、ぴくっと跳ねる。

「私たちは、あなたを助けるためにここまで来たの。だから、もう大丈夫。悪い人たちは全員やっつけたから」

亜佑美が少女に近づき、手を差し伸べようとしたその時だった。
それまで黙ってこちらを見ていた少女が。

「だめっ!近づかないで!!」

大きく、叫んだ。
意外な少女の反応に、異能の戦士たちの表情に戸惑いが浮かぶ。

224 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:43:27
「なんで!えりたちはあんたを助けに―」
「無理です。あなたたちに私を助けることはできない」

窓の外から、一匹の蛾が迷い込む。
何かに誘われるようにひらひらと舞っていた小さな生き物は。
軌道の途中で、白い煙を上げて消えてしまった。

「え」
「どうしたの、どぅー」

些細な、見落として当たり前の出来事を。
優樹に訊ねられ、遥が事実を語る。

「が、蛾が…真っ黒な灰になってぼろぼろに崩れたんだ…何だよあれ…」
「そこの人には、見えたんですね。私の『能力』が」

言い放つ少女の顔は、どこか悲しげで。
けれども、諦めにも似た響きを伴っていた。

「生きとし生けるものは。私に近づくことすらままならない。私の力は、人を傷つける」
「…私なら、平気です」

一歩前に踏み出したのは、さくらだった。

「私の話、聞いてなかったんですか?」
「触れることで能力が発動するなら、その前に時を止めればいいんです」

225 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:43:57
世界が、灰色になる。
「時間跳躍」によって止められた時を、さくらが縫うように突き進む。
目標は白いワンピースの少女。1秒で彼女を捉え、1秒でこちらへ引き寄せる。
その目論見は。

「きゃっ!!」

止められた時に、色が戻る。
大きな力に弾かれ、床に転がるさくら。
彼女が纏っていた戦闘服は、焼け焦げたように崩れていた。

「小田ちゃん!!」
「だから、言ってるじゃないですか。人は皆、いつかは死ぬものです。そしてまた生まれる。破壊と創造は…」
「常に表裏の関係なのです。だよね?」

諦めと悲しみで満たされていた少女の、はじめての驚く表情。
少女が言おうとしていた言葉は、さゆみによって先に言われてしまった。

「道重さん…」
「さゆみは。この子の力がどういうものか、知ってる」

胸に手を当てながら、さゆみ。
さゆみの中にいる、もう一人の自分。
その力を、目の前の少女は再現させられていた。

「だから、どうすればいいのかも、知ってる」
「やめて、近寄らないで」
「大丈夫。さゆみが全部、受け止めてあげる」
「来ないで!お願い!あなたもみんなと一緒で、死んじゃう!!!」

226 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:44:27
さゆみが、ゆっくりと少女に近づく。
一段と濃い闇に差し掛かったところで、さゆみの体から立ち上る白い煙。
少女の発する「滅びの力」の射程圏内に入ったのだ。

「たっ大変だ!道重さんが消されちまう!!」
「大丈夫だよ、くどぅー。道重さんは消えないから」

自分が見た蛾と同じようになってしまう、そう思い慌てふためく遥を春菜が落ち着かせる。
その言葉通りに、さゆみは安らかな表情のまま、少女に近づいてゆく。
戦闘服はあらかた溶けてなくなってしまってはいたが。
その肌には、傷一つすらついていない。

「ほんとだ…でも、どうして」
「きっと、滅びの力を治癒の力が中和してるんだろうね」

香音の言うとおりだった。
さゆみは自らの体に治癒の力を纏わせることで、身を襲う滅びの力を打ち消していた。
自らもまた滅びの力を操るからこそ、できる芸当ではあるのだが。

そして、ついにさゆみが少女の体を捉える。
はじめは抵抗していた少女だが、さゆみが自分の力によって消滅しないことを知ると、操り糸が切れた人形のように脱力してしまった。

227 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:45:41
「あなたは…平気なんですか…みんな、みんな私に触れる前に消えちゃうのに」
「ふふ。平気ってわけでもないけど。でも、ちっちゃい子をハグできる喜びのほうが」
「え?」
「それは冗談だけど。あなたにはきっと、さゆみの力が受け継がれてる。だから、あなたの力のことは、さゆみが一番良く
知ってる」
「そんな…でも…」
「さゆみなら。あなたがこの力をコントロールする方法を教えてあげることができる。それに、聞こえるよ? あなたが苦
しんで、心の底から助けを求めている声が」

最早、声にならなかった。
能力を発現させてから、誰も自分に触れるものはいなかった。
だから、今自分を包み込む優しさが懐かしくて。うれしくて。
感情の流れは、自然に涙と大声になって溢れだした。

「ねえ、ところで」

泣きじゃくる少女を抱きしめたまま、さゆみが後ろを振り返る。

「誰か、替えの服、持ってない?」

困った表情を浮かべるさゆみは、一糸纏わぬ真っ裸。
全裸の女性が少女を抱きしめる姿は、冷静に見るとあまり褒められるようなものでもなかった。

さゆみは、かつて戦闘の度に必然的に全裸になってしまう同僚のことを思い出し。
はじめて彼女が能力を使うたびにこの問題で悩む気持ちを理解したのだった。

228 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:46:57
☆ ★ ☆

「真莉愛ちゃん、おいで。ハグの時間だよ」
「はぁい」

それから数か月後。
すっかり喫茶リゾナント名物となった、不埒な行為、もとい能力コントロールの特訓。
そのためにはハグをするのが一番効果的、というさゆみの妙に説得力のある提案により始まったこの行為。
あの日助け出された少女 ― 牧野真莉愛 ― も意外と嫌がるそぶりは見せず、むしろさゆみに抱きしめられるのを喜ん
でいる節すらあるようだ。

「真莉愛ちゃんだけずるい!まさもみにしげさんとハグする!!」
「佐藤はあとでやったげるから。ほらほら特訓の邪魔しない」

軽くあしらわれ、頬を膨らませる優樹。
おそらく特訓以外の疚しい何かを感じ取っているのだろう。
そしてその抱擁の様子をじっと見ていた里保は、誰に言うともなく「あー、なんだか私もお腹が痛くなってきたなぁ」と意
味不明な独り言を呟くのだった。

さゆみに抱きしめられている真莉愛。
嬉しそうに真莉愛を抱くさゆみ。その頭上に、妙なものが見えていた。

数字の、羅列。

何故自分がそんなものを見ることができるのか。
そもそも、その数字が何を意味しているのか。
真莉愛にはわからなかった。自分の能力が関与しているのかどうかすらも。

あの白衣を着た女の人なら知ってるのかな…

思いかけたことを、必死になってかき消す。
もう、あんな生活には戻りたくない。この優しいぬくもりを知った今となっては。
今は、さゆみにずっと抱きしめられていたい。

けれど、真莉愛は知らない。
さゆみの頭上に浮かぶ数字が、少しずつ、減っていることを。

229 名無しリゾナント :2014/10/06(月) 02:49:40
>>207-212 の続き
>>222-228 「闇を抱く聖母」 でした

設定の一部を直近の方からリゾナントしてしまいました
節操のなさにお詫びいたしますw

230 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:44:37
■ ロングレンジヘビーウェイト −鞘師里保・鈴木香音− ■

「えっそういうもんなの?」

鞘師にとっては意外な、そして鈴木香音にとってもまた意外な答え。

「刀と槍ってあんなに長さ違うじゃん」
「ん?んーそう?全体の長さはあんまり関係ないんだ」
「ぬぇー不思議だなー」
「不思議?ふしぎかなー」

鞘師にはその不思議がわからない。
刀と槍の優劣なんて比べること自体無駄なことだ。
目的が違うものを比べても意味はない。

先ほどまで二人は、銃剣付きの突撃銃を使った格闘を想定し汗を流していた。

そんな中「りほちゃん能力なしで刀しかなかったら、こうゆうときどうする?」
みたいな話となり、そこから槍の場合はどう?、という話となり、というわけである。
今は大きなエアコンの前、おせんべいとミネラルウォーター、休憩である。

本当はやって見せちゃったほうが早いのだが、今は、おせんべいだ。

「長いほうが遠くから戦えて有利なんじゃない?」
「あーそうかうんそゆことか。かのんちゃん、槍は全然遠くないんだよ」
「ぬぬ?アタシちょっとわからなくなってきたよ。遠くない?どゆこと?」
「えーとね…」

刀と槍に優劣はない。これは古典にもある真理である。
三尺三寸の刀、一丈の槍、長さにして概ね三分の一、
はるかに短い太刀に対し槍は相打ちとなる、
すなわち互角である、と。

231 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:45:08
もっともこの程度のことは古典にあたるまでもない、技の上達とともに勝手に体得する戦術上の真理だ。
「長い柄のついた槍でも、突いてくるなら尖ってるとこは自分の近くに来るじゃん。遠いのは持ってる人間だけでしょ」
「???」

俗にいう一足一刀の間合いと呼ばれるものがある。
実体的な距離のみではない、時間や心理といったものまで含んだ距離感。
あと一歩踏み込めば相手を斬れる、同時に相手にも斬られる間合い。
ここまでなら、だれでも容易に理解できる。
ではその次である。
両者の武器が同じならいい。
が、片方の武器だけ長ければ、どうなる?
長いほうは一歩踏み込まずとも当たり、短いほうは2歩3歩入らなければ当たらない。
それは明らかに長いほうが有利、ということではないのか?

いま鈴木香音の頭の中にある疑問もこれだろう。
当然の疑問である。
至って正しい考察、とくに現代人ならば、普通の感覚だ。

ところが鞘師は、そんな疑問を抱いたことすらない。
彼女のそれは「技術」を最初から、一足飛びで、身に付けてしまった者特有の感覚である。
戦術はそれを発想する者の「技術」によって決定される。
「技術」の低い者には高い「技術」を前提とした戦術は生み出せない。
推測することすら、できない。
鞘師の普通、それは鎌倉時代や戦国時代の、武に生きる者の「普通」なのだ。

相手の得物が長いならば、相手の「得物」に対して「一足一刀の間合い」を取ればよい。
それが答え。
武に生きる者は、誰に教わるでもなく、この解答を直感しうる。

232 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:46:04
「ええっ?ますますわからないよ」
「相手が持ってる槍だって突いたり叩いたりしないとウチをやっつけられないわけじゃん」
「うん」
「だったらさ、ウチに向かって突いてくる槍自体を切っちゃえば、いいんだよ」
「えーそんなことできんの?」
「長いってことは重たいってことだしね、そんなにひょいひょい動かないし難しくないよ」

ちょちょちょ、ちょっとまてまて、鈴木は心の中で突っ込む。
鞘師が槍を扱う、確かにその姿こそ鈴木は知らないものの、6尺棒8尺棒、あるいは、
それに準ずるような、長い棒を扱う姿なら、鈴木は数限りなく見てきている。

りほちゃん、あんたいつもとんでもない速さで突きまくって叩きまくってるけど?
あれで「そんなにひょいひょい動かない」って言われても説得力ゼロだよ。

「…そんなもんかなぁ、でも切っちゃうの難しくない?りほちゃんしかできない気がするんだけど」
「切り落とせなくても、たとえば切込み付けただけで相手は槍を手繰れなくなるから、
それでも相当の攻撃を封じられるし…というか、うん、なんでもいいんだよ、そうゆうのは。
柄を切ってもいいし、掴んでもいいんだけど、そういうのはなんでもよくて、その前に…」

すでに別の話。
より高度な、さらに、さらに高い技術を前提とした…

鞘師はおせんべいとストローの生えたペットボトルを向き合わせる。
「この真ん中の線を割って、相手の線を反らしちゃえば、ウチには当たらなくなるんだ。長さは関係ないんだ」
「あーりほちゃんがたまにいうやつね、でもアタシそれ全然わかんないんだ」
「そっかー」

鈴木は別に鞘師の弟子というわけでもない。鞘師も水軍流そのものを教えるわけではない。
格闘についてのレクチャーの際、鞘師の口から出る言葉は平易でシンプルなものばかりである。
もっともそれは鞘師自身が持つ武術的な言葉の知識が少ない、というのが実際のところなのだが。

233 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:47:46
鞘師が言っている事、これは正中の話である。
槍だの刀だのという些末なことで優劣が極端に変化するのは、
「ここ」を抑える技量のない者同士の世界のことであって、
鞘師が住む、戦国の技量の世界では、そもそもが考えるだけ無駄なことなのである。
だがこの「考えるだけ無駄」ということが、現代の人間には理解できない。

「無駄」?そんなことはないはずだ。
もし無駄なら、そもそも槍を生み出す意味がない。
なぜ槍がある?それは刀より強いからに決まっている。

そう考えてしまう。
その考え自体が初めから間違っている、とは思い至らない。

刀や槍、それらが実用されてきた時代において、
両者はどちらに対してどちらが強いか、といった理由ではなく、「何を」目的とするかで選択されてきた。
「何を」そう、両者の優劣が如実に変化するとしたらそれは戦術ではなく「戦略上において」、なのである。

ではある、のだが…

「でも一番いいのはやっぱり」
「やっぱり?」

鞘師は言葉をつづける。
それは、今までの話を根底から―――

「こっちもでっかい刀使うのが一番いいね」
「え?」

「だって、武器は、でっかいほうが有利だからね」

ずこーっ

234 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:48:41
今までの話を根底からご破算にする、身も蓋もない回答。
もう、なにがなにやら―――



―――戦国時代より前、鎌倉時代より後、この時代、武士たちの駆る得物は巨大化の一途をたどった。
より重く、より長く、そして、さらに重く…

武器の長さなど関係ないなどと言っておきながら、この時代の武器は信じられぬほどに長く、そして重かった。

大太刀、長巻、まさかり、大槌、金砕棒…

現代人では、振るうどころか、持ち上げることすら困難な、巨大で長大な『鉄と木の化け物』たち。
これを当時の武士は、それこそ尻の青い10代の少年であれ、軽々と、操ってのけた。

大きな得物には大きな弱点が「本来は」ある。
その重さゆえに、その長さゆえに、軽く手頃な太刀の動きについていけない。
それどころか、下手をすれば、振り上げて、振り下ろすことすら、できない。
だが武士は、この弱点を単純な「力」ではなく「技術」によってねじ伏せた。

一般的な日本刀の重さが約1kg前後、対して、
実在する大型武器の重さは大きいもので8kg程度、実用最大クラスでなんと20kgに到達。

これは、とても人に克服しうる重さではない。

ではどうしたか?
彼らはこの重さを、「克服」するのではなく、「活用」しつくした。

鞘師は完全な静止状態から一瞬でトップスピードまで加速する術を知っている。
すなわち戦国の武士たちも、その術を知っている。

235 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:49:49
己の体重の変化から全身に小さな落下エネルギーが生まれる。
部分部分は小さくとも、それが全身一度に起こったのなら…

瞬間的に加速された肉体は己の体重に比して大きな慣性力をもつ。
人の体重…少なくとも50kg以上、8kgの武器でも6倍以上ある。
その慣性力によって大型武器も同時に加速される。
その加速が大型武器による高速で激烈な一撃を生む。

加速された大型武器にはその重量に応じて大きな慣性力が生じる。
その慣性力に引っ張られ、いや、「乗る」ことで、
次なる体の変化、移動が引き起こされる。

身体が生んだ慣性により武器が奔り、武器の生んだ慣性により身体が奔る。
連関する重さと速さの天秤が無限に循環していく。

それが、大きな得物の大きな弱点をねじ伏せた「技術」。

技術によって武器の長さによる差をなくし、
さらに進んで、技術によって武器の重さによる差をなくした。

だからこそ「長いほうが有利、重いほうが有利」となった。

まさに今鞘師が口にした―――そして、到達しつつある境地。

236 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:50:55
武器の長短は関係ない、武器の軽重も関係ない、
だからこそ、一周回って、武器の長短と軽重は、やっぱり関係ある。

だが、まて、ちょっとまて、ということはだ。
そこまでの技術があるなら何も無理に「長く重いもの」を使わなくても、
手ごろなもの、すなわち「普通なもの」を使えば、より存分に技を発揮できるのでは?
それもまた真理、長すぎるもの重すぎるものは、やはりそれより短く軽い物に劣る。
あれ、では短く軽い物のほうが有利なのか?あれ?それは?え?

ぐるぐるぐるぐる…

ぐるぐるぐるぐる…いつまでも輪転する二匹の蛇。

ぐるぐるぐるぐる…ぐるぐるぐるぐる…

真ん中の線が反れるとかなんとか言う話どこいっちゃったんだっけ?
本当に回転する蛇が見えそうな気分だよ、りほちゃん。

だめだこりゃ、結局、鈴木には、何も理解できなかった。

237 名無しリゾナント :2014/10/09(木) 20:51:56
>>230-236
■ ロングレンジヘビーウェイト −鞘師里保・鈴木香音− ■
でした。

238 名無しリゾナント :2014/10/11(土) 09:22:12
■ サバーアップ −光井愛佳− ■

「黒い、人狼ですか?」
「そやぁ…知らんか?」
「そうですね、狼型の【獣化】能力者自体は、組織にも複数いるはずです。
でも、今のお話にあるような人狼が、あの施設の警備の中にいた記録は残っていなかった…
…私の方でも少し、調べてみましょうか…」
「うんたのむわぁ…いっつも堪忍な、困ったことがあるたび話聞いてもろて…」
「いいんですよ、私でよければいつでも…そう、さっきの話ですけど、
その…『保管庫』と呼ばれる場所で、黒い人狼に『喰われて』いた、
という大きなリボンの女の子についてですが、何かほかにありませんか?」
「いや、さっき話したんで全部や」
「そうですか…」
「ん?」
「いえ…それにしても工藤遥さん…でしたっけ?すっかり元気になったみたいで」
「そや!そやぁ!あの生意気盛りめ…
…でも、ほんまや、ほんまそうやってん…必死やってんな。
組織の人間やって負い目があってんな…みんながそれ知ったら追い出されるかもしれん…
…嫌われるかもしれん…そんなんなこと抱えて、言えへんかってんな…
一時期ずうっとふさぎ込んでる時期あってな…表向きは頑張ってな、
新垣さんつかまえて能力の制御にめっちゃ精出しとったけど、そんなんバレバレや…
でも、なんや、ふっきれたみたいでな、いろいろと過去の話も…してくれるようになってん…」

「はい…」

239 名無しリゾナント :2014/10/11(土) 09:22:46
「最近なウチ…うれしいんや…後輩がな、みんなええ子やん?
いままでずうっとウチが後輩で、年上ばっかと付き合うてきてんから、
意外と、後輩の扱い不器用やってん…
それで、譜久村とか鈴木とかにな、
きついこと言うたり…そんたびにああまたやってもうたって…
…また嫌われるて…」

「ええ…」

「でも、だあれもウチを嫌わへんかってん。
みいんな光井さん光井さんゆうて寄ってきてくれはるんや…
…なんや、ウチも同じや…工藤とおーんなじ…はは…ほんま可愛くて可愛くて…」

「…」

「…あれ?ウチなんでこんな話?今日ってたしか久しぶりに凰卵の卒業生の子らと…
そのあとみんなで居酒屋来て…あれ?…」
「やだなぁ光井さん、そのあと『同じリゾネイターである私』と、酔い覚ましに来てるんですよ」
「ああ?……ああ、そうや…そうやった…」
「それより光井さん、フクちゃ…いいえ譜久村さん?でしたっけ?彼女は最近どんな…」

240 名無しリゾナント :2014/10/11(土) 09:23:21
>>238-239
■ サバーアップ −光井愛佳− ■
でした。

241 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:21:51
>>187-192 の続きです



衣梨奈の鼻先には、鈍色の空を映すナイフが突きつけられている。
ナイフの持ち主は先ほど衣梨奈が気絶させたはずの、電車の運転手。
そしてその背後に、不敵な笑みを浮かべつつ立っている少女の姿があった。

「この前のリベンジにしては、せこいやり方っちゃね」

意識を集中しなければならない時に、まさかの状況。
衣梨奈は目の前の少女に対し、憎まれ口を叩くことしかできない。

「あの時の屈辱を、って言いたいとこだけど。今日はあんたには用は無い」

そして衣梨奈を急襲した少女 ― 福田花音 ― は。
以前会った時より幾分余裕をなくした表情で、衣梨奈に告げた。
それでも、立場の揺らぎを悟られないように表情に笑みを貼り付けることを忘れない。

「何であやちょとあんたたちが一緒にいるか知らないけど」

花音が一歩前に出るのと同時に、衣梨奈が男を押しのける。
鮮やかな手際で男を後ろ手に縛り無力化すると、身を挺して花音の正面に立ち塞がった。

「…なんのつもり? そこにいる子はあたしたちの仲間なの。返してくれない?」
「あんたの態度からは、そうは思えないっちゃけど」

花音の能力によって操られた男、そのナイフの切っ先から殺意が滲み出ているのは衣梨奈も感じ取っていた。しかしこうやって
本人と対峙していると、すぐにその過ちに気づく。

花音の殺意は、自分ではなく明らかに彩花に向けられているということに。

242 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:23:07
「この子を、どうすると?」
「言う必要はない。早くそこをどいてよ」

確かに衣梨奈と彩花は今日会ったばかり。
おまけに会話すら交わしていない。衣梨奈が現場に駆けつけた時には既に彼女は正気を失っていた。それでも。

「どかん。この子は…はるなんの大事な友達やけん」

直接春菜に聞かなくてもわかる。
五指をずたずたに引き裂いてまで助けようとした人間が、大事な友達じゃないはずがない。
その春菜は今、衣梨奈の能力に身を委ねてその友達の心の闇を打ち払おうとしている。
だったら、守るしかない。

「はぁ?そんなわけないじゃん」

ただ、衣梨奈の意志は花音には届かない。
それどころか。

「あやちょはあたしたちにすら心を開かないのに、そんなやつと友達? 寝言は寝てから言ってよ」
「生憎衣梨は目覚めがいいけん、寝言やなかよ」
「そう。だったら、あんたを…『排除』するまで」
「へっ。そんなことできると? 衣梨奈知っとうよ、あんた自身は大して強くないって」

慈悲の無い声で処刑を告げる花音に、衣梨奈は余裕の笑みを見せる。
彼女たちと直接戦った聖たちから、花音の能力は既に聞いていた。人を洗脳し操る能力の持ち主だが、あまり戦闘向きではないと。

243 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:24:18
「あんたごときに言われるとはね。でもまあ、確かに花音自身はそんなに強くない。あんたみたいなガチバカっぽいのと戦うなんてま
っぴら御免。でもね」

花音が、すっと片手を上げた。
停車した電車の陰からぞろ、ぞろと現れる群集たち。
サラリーマン、OL、工事現場の作業員、ご丁寧に警察官までいる。

ゾンビ映画に出てくるゾンビのように緩慢に、しかし確実に衣梨奈を取り囲んでいった。
あっと言う間に人間バリケードの完成だ。
その群集たちの中心に立ち、誇らしげに花音が言い放つ。

「あたしには百の…ううん、千の軍勢がいる。自分の手を汚さずに、目的を果たすことができる。これってすごいことじゃない?」
「…最低っちゃね」

目的さえ果たせればいかなる手段も厭わない。それではダークネスと一緒ではないか。
衣梨奈は憤るが。花音を糾弾している暇はない。一分一秒が、惜しい。今は衣梨奈の力は春菜が彩花の精神世界を潜行するのに割かれ
ている。集中力が途切れればそれで終わりだ。

「最低で、結構」

言うより迅く、衣梨奈たちを取り囲んでいた群集たちが一斉に襲い掛かる。
先ほどの緩い動きとは打って変わっての、野生の狼を彷彿させるような鋭い猛襲。だが哀れなるかな、理性を奪われた獣たちは悉く衣
梨奈の張り巡らせた罠に絡め取られた。

244 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:25:31
「能力を使わずに相手を無力化する…ねえ。馬鹿っぽいくせに頭使うんだね」
「衣梨奈は天才やけんね」
「あっそ。ところであたしが昔、何て呼ばれてたか知ってる?」
「そんなん知らん」
「…神童」

糸に絡め取られ、身動きの取れないはずの人々。
だが、機械的に動かされた手が、足が糸に逆らう。強靭な糸に阻まれた肉体はやがて切り裂かれ、血の筋を走らせはじめた。

「あんた何を!!」
「別にそいつらが傷つこうが、あたしは痛くも何ともない。いくら切り刻まれてもいい。手が足がちぎれたっていいの。最終的に目的
さえ果たされれば」

冗談か何かの類であれば。そう願わずに居られなかった。
けれど花音は、笑ってはいなかった。
衣梨奈に突きつけられる、二つの選択肢。
彼らを解放し餌食になるか、彼らを縛りつけ傷つけるか。

「ねえ、どうする? 正義の味方リゾナンター様は、罪も無い人々を傷付けるくらいなら自らの身を犠牲にする? それとも、正義を
貫くために敢えて心を鬼にでもしてみる?」
「……」
「苦しい? でもね、あんたたちみたいな『温室育ち』の感じる苦しみよりも…あたしらがここまで上り詰めるのに味わった絶望のほ
うが、何倍も辛いんだから」

245 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:27:06
その時、衣梨奈は花音の背後に暗い情念を感じた。
自分達を温室育ちと揶揄するほどの背景とは。
確か彼女たちは警察機関の所属だと言っていたことを衣梨奈は記憶していた。
とするならば、国の機関が彼女たちに「そのような絶望」を経験させたというのか。

そうしている間にも、花音の忠実な僕たちは血を流し、肉を切り裂きながらも糸の包囲網を打ち破ろうとしている。
躊躇している時間はなかった。

五指から伸びる、ピアノ線。
衣梨奈は瞳を閉じ、それから意識を集中させる。

まるで電気のように伝わる、鋭い力。
糸の中でもがく花音の軍隊たちは、体を大きく痙攣させ、そして動かなくなった。

「な、何をしたのよあんた…」
「ほんのちょびっとだけ。衣梨奈の『精神破壊』を開放した。あんたが操ってるおかげで、ダメージも少ない。やけん、あんたのほう
もこの人たちをコントロールできんやろ?」

正確無比な里沙の「精神干渉」と比べ、衣梨奈の「精神破壊」は文字通りの破壊する力。里沙のように必要最低限の干渉で対象を支配
下におくのは至難の業と言ってもいい。能力者ではない人間がこの能力に晒されれば、文字通りの精神の破壊を引き起こす。

しかし、対象が既に他の能力者によって精神的支配を受けていれば、話は別。
互いの能力への干渉によって、言わば双方の支配が及ばない状態にすることができるのだ。
対精神系能力者への対処。精神干渉の分野においてトップクラスである里沙は、事あるごとに衣梨奈に相互無力化の原理を教えていた。
そのことを思い出した、会心の一撃。

確かに一人の能力者としては、花音のほうが上手だった。
しかし、里沙を師匠に持ち、彼女の経験と知識を受け継いだ衣梨奈の思わぬ一手にしてやられた形となった。とは言え、衣梨奈はその
貴重な知識の都合のいい箇所しか覚えてはいないのだが。

246 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:27:59
振り出しに戻った戦況。
それでも花音の見下すような表情は変わらず。

「…言ったでしょ。あたしの兵隊は百…千、無限だって」
「させるかっ!!」

自らの能力「隷属革命」により新たな僕を呼び出そうとする花音に、衣梨奈が飛びかかる。
もとより戦闘力に乏しい花音、あっという間に衣梨奈に組み伏されてしまう。
能力の相克はあくまでも布石、本命は自らが勝るフィジカルの勝負に持ち込むことだった。

「くそっ、離せ!離せ!!」
「はるなんの仕事が終わったら離してやるけん、それまで大人しくしてるとよ」

大の大人でさえ、糸を手繰ることで鍛えられた衣梨奈の腕力から逃れるのは至難の業。
増してや、自らの手を汚したことのないか弱き細腕では。

「何が仕事よ!あんな、あんな胡散臭いやつにあやちょを救えるはずない!!だったらいっそあたしが!!」

激しい憎悪。それとともに伝わる、深い絶望。
おそらく彼女なりに、手を尽くしたのだろう。その上で、自らの手で終わりを選択するという結論を下した。衣梨奈はそう判断した。
だからこそ。

247 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:28:41
軽い破裂音が、花音の頬を打つ。
平手で叩かれたのだ。

「なっ…」
「黙って見とき。はるなんが、『あんたの友達』を助ける」

反論しようとする花音だが、両手首を掴まれ、身動きすらできない。
衣梨奈は、倒れている彩花と春菜のほうを見やる。

はるなんなら、きっとやってくれる。

そこには仲間への、揺るがない信頼があった。

248 名無しリゾナント :2014/10/19(日) 01:30:50
>>241-247
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
間を置いた割には短くてすみません

249 名無しリゾナント :2014/10/24(金) 02:25:27
■ ジョイフルドライブ −新垣里沙・田中れいな・光井愛佳− ■

高速を疾走する大型四輪駆動。
運転するは新垣里沙、助手席に光井愛佳、後部座席に田中れいな。
車内から溢れるは、絶えることのない笑顔、笑い声。

「…ぎゃっはっはっは!それで?それで?ガキさん!」
「ほぉ!そーで佐藤が言うのよ!『ガキさん鬼ごっこしましょ』って!」
「うそやぁん!そんな…ひひっ…そんな!」
「ほーんとよ!もー今!アンタ本気で怒られたばっかでしょうが!ってアータシもびっくりしちゃって」

倒れこみ、足をバタバタさせる田中、話し続ける新垣。
二人と共に笑いながら、光井は思う。

なんかええなぁ…お二人がこんな楽しそうにしてるん、ひさしぶりや…ええなぁ…
まるでピクニックや…ああ…ホンマこれがピクニックやったら、もっとええのに…

『N県山間部』

爆発、火災、たなびく煙…
組織に関わる、なんらかの施設があったと思われる、あの廃村。
その調査に3人は向っている。

きっと、この旅で「知りたくなかった」そんな陰鬱な事実を目の当たりにする。
きっと、この旅は「嫌な思い出になる」、わかっとるんや。

わかっとる、わかっとる…でも…それでも、ええやん。

うん、ええやん、それでも二人が、いま、こんなに楽しそうなら…

うん、きっと、ええこと…

250 名無しリゾナント :2014/10/24(金) 02:26:37
>>249
■ ジョイフルドライブ −新垣里沙・田中れいな・光井愛佳− ■
でした。

251 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 00:51:22
>>241-247 の続きです



春菜の目に、鮮やかな色彩が飛び込んでくる。
原色を基調とした部屋の中には、たくさんの子供達がいた。
ビビットな色に反比例して際立つ、白いワンピースを着せられた少女たち。
数人でかたまって無邪気に遊具で遊ぶものもいれば、一人で座り込み虚空を見つめているようなものもいる。そして彼女たちを。

マジックミラー越しに見ている、白衣の男たち。
春菜は、今自分が見ている光景が「研究所」のものだとすぐに理解する。
なぜなら、彼女もまた似たような環境に置かれていたから。

部屋の裏手にあるドアが、かちゃりと音を立てて開錠される。
現れた白衣の男。少女の一人に声をかけ、手を引いて外へ出て行った。

あの子は…それに、もしかして…

幼いながらも、はっきりとした顔立ち。浅黒い肌。
連れ出された子は、間違いなくこの精神空間の主である彩花。そして連れ出した男の目的は。

252 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 00:53:18
場面が暗転する。
部屋の中央に、機械仕掛けの椅子。その中に幼い彩花がすっぽりと納まっていた。
椅子の周囲には大小さまざまの計数器。一人の研究員がクリップボードを片手に、彩花に話しかけている。が、彩花の顔は青ざめ、
額には珠の様な汗を滲ませていた。

突然、男が片手をあげる。
それを合図に、ガラス越しに見ていた他の研究員たちが目の前の機器を操作する。
走る電流、痙攣する彩花。計数器の針が大きくぶれ、モニタのグラフが激しく上下した。

やっぱり。これは…「人体実験」。

春菜もまた、新興宗教団体が抱える研究機関によって同じような経験をしていた。
表向きは異能開発のための諸実験。だが、内容はとてもではないが人道に配慮したものとは言えなかった。目を固く瞑りたくなる
ような、耳を塞ぎたくなるような、そして声を枯らして叫びたくなるような記憶が蘇る。

いけない。私自身が後ろを向いてる場合じゃない。和田さんを、助けなきゃ。

そんな春菜の心情を反映するかのように、再び場面が転換する。
場所は先ほども見た、子供達の収容場所。そこに、背丈は変わらないが明らかに成人した金髪の女が入り込んでくる。

「あれ、矢口さん…こんな夜中にどうしたんですか?」

少女の一人が、訝しげな顔をして矢口と呼ばれた女に問いかける。
矢口は天使のような微笑を精一杯作り、こう言った。

253 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 00:55:15
「なあお前ら、ここから抜け出したくないか?」
「え…それってどういう」
「抜け出すってなに?」
「面白いこと?」

蜂の巣を突いたように、矢口に群がる子供達。
そんな様子に辟易しつつ。
お気に入りらしき牛柄のパーカーが上下左右に引っ張られるのを振り解きながら、

「ここから、脱走すんだよ。お前らは自由だ」

と半笑いの表情で言った。
子供達の熱狂が頂点に達し、牛柄パーカーは千切られるのではというくらいに引っ張られ、捻られる。ったくだからガキは嫌いな
んだよ、あいつら思いだすんだよこんにゃろ、と小さく呟きながら。全員に呼びかけ、部屋を後にする。
原色で彩られた部屋から、白が消えた。

春菜の感覚を、肌寒さが襲う。
一面の雪吹雪。唸るような風の音が鳴り止まない。
白く染められた世界を、尾根伝いに進む一行があった。吹き付ける鋭い風と雪に塗れ、それでもただひたすらに前を向くしかない
少女たち。

「ねえ、これ…本当にただの訓練なの…」
「警察の人もうそつきだ」
「いやだよ、まだ研究所のほうが…」
「なに言ってるの、あんなとこに戻るくらいなら」
「寒いよ…おなかすいたよ…」

極低温に晒され、もがき苦しむ言葉ですらも途切れ途切れの幼い子供達。
どうやら先ほどの研究所から別の機関 ― 恐らく警察組織なのだろう ― に彼女たちは所属したようだ。が、目の前の光景を
見る限りはとてもではないが、彼女たちが苦難から逃れられたとは思えない。

254 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 00:56:07
「あ…」

一行の最後尾、ついてゆくのがやっとだった一人の少女がバランスを崩す。
よろけた先は断崖絶壁、深淵に吸い込まれるように身を預けた少女。
春菜はもちろん、息を呑むことしか出来ない。たとえその手を差し伸べたところで相手は記憶の幻だからだ。
けれど追憶は春菜の思いを汲み取るかのように流れる。今にも闇に飲まれそうな小さな手を、掴むものがいた。

「桃香ちゃん!!」
「あ、あやか…ちゃん?」

間一髪で少女の命を救ったのは、彩花。
ただ、その力はあまりにもか弱く。

必死にその手を繋ぎ止めようとするも、無情にも桃香と呼ばれた少女は少しずつ、彩花の手からずり落ちようとしていた。

「あやかちゃん、もう、いいよ…このままだと…」
「なに言ってるさ!桃香ちゃんはあやが絶対に助けるから!!」

力強い言葉とは対照的に、抜けてゆく力。
彩花の体は桃香に引っ張られるように、絶壁へと近づいていた。

その時だった。
彩花の手を強引に振り解き、奈落の底へと桃香が落ちていったのは。

― もう、こんな思いをするのは、いや ―

春菜の視界が、黒く染められる。
響き渡るのは彩花の声だけ。

255 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 00:56:38
― だから。だから、スマイレージのみんなだけは失いたくなかったのに ―

黒の一部が切り取られ、そこに映るは。
赤い死神。崩壊したビルの瓦礫の山で、圧倒的な力でもって対峙する少女たちを屠ってゆく。

― 失いたくなんか、なかったのに ―

全身を吹き飛ばされ、無残に転がる彩花。
肉片すら残さず塵と化した、紗季。

心臓を貫かれ、崩れ落ちる憂佳。

― いらない。もういらない ―

春菜たちがさくらやれいなを救出するため孤島に赴いたのと時を同じくして。
このような無残な戦いが繰り広げられていたとは。
結果、今彼女を取り囲んでいる状況は。精神世界の入口で見た黒く塗りつぶされたカンバスと一緒だった。

塗り込められる、怒り。悲しみ、嘆き。それらを通り越した、絶望。
黒く歪んだ空間から彩花の悲痛な心の叫びが降り注ぐ。

256 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 00:57:55
時を同じくして、春菜の立っていた場所に亀裂が走る。
世界の崩壊。あまりに黒い、光無き闇が形をなすことにすら耐え切れず崩れ落ちようとしていた。

私が、私なんかが救えるような話じゃなかったんだ。

軋轢が、やがて破壊へと変わる。
砕けた闇は、さらなる深淵へと吸い込まれていった。
彩花の絶望をまともに身に受けた春菜は、いつ終わるとも知れない落下に身を任せながら思う。地獄のような試練の連続の果てに
彩花が辿り着いたのは、周りから誰もいなくなるような孤独。
そこに、過去に自らに降りかかった悲劇を重ねていた。

一片の希望すら差さぬ、闇。
春菜もまたその境遇を経験していた。教団の道具となるための悪夢のような日々。それを身を持って体験しているからこそ、春菜
は彩花を否定する事ができなかった。自分だって、あの時さゆみたちが助けに来てくれなければやがては同じような絶望に苛まれ
ていたかもしれない。

窮地を救ってくれた、さゆみたちリゾナンターと邂逅した時に見た、眩しい光。
それを思い出し、少しだけ春菜の心は温かくなった。
けれども、それすらも深い闇は呑みこんでゆく。

生田さん…みんな…ごめんなさい…

そして春菜の意識もまた、彩花の精神世界に溶け込むようにして消えていった。

257 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 00:58:38
>>251-256
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

258 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:48:57
【注意書き】
・冒頭で期待されるかもしれませんが娘OGのみで話が進みますw

『黄金の魂』


トリック・オア・トリート!!

不意を突かれて一瞬固まっちまった。
ああ、そういえば今日はそういう日だっけ。

髪を伸ばせばとびっきりの美少女になるだろうに、敢えてそうなるのを拒否しているかのような娘。
まっすぐ育てば白黒の頃の映画女優みたいな美人に仕上がりそうな雰囲気を漂わせた娘。
要するにこまっしゃくれたガキ二人がお菓子のおねだりをしてきたってわけだ。

目障りだ、くそガキどもが!
そんな風に言いたいのは山々だった。
ただそれをしてガキどもに泣かれたり、騒がれたりして時間を費やすと困る事情がこっちにはある。
だからジャージのポケットに突っ込んでいた酢こんぶをガキどもの前に差し出した。

「悪いがこれしか持ってねえんだ」

古風な美人顔のガキはきゃっきゃきゃっきゃと喜んでいるが、ショートヘアのガキはどこかすまなさそうな様子で礼を言ってきた。
どうやらこいつの方が飼い主らしい。
いいさ、と鷹揚に手を振りながら目的の場所に重い足を進めていく。
まーちゃんもお礼を言ってという飼い主の声を背中に聞きながら溜息を一つ吐く。

アタシはいま喫茶リゾナントのある町のメーンステーション、JRの在来線の駅前商店街を歩いている。
目的はアタシが所属している組織の同僚、というか先輩の一人に呼び出されて、指定の場所に向かっているわけだ。
正直に言うと気が重い。

259 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:49:29

バックれていいならとっととバックれたいところだが、もしそうしたらいま感じている気の重さの何倍もの精神的負荷を味合わされることになる。
だから体調や気分に余裕があるいまのうちに済ませておきたいというわけ。

ああ、にしても憂鬱だぁ。
私は一軒のカラオケボックスの前に立っている。
建築法だか消防法だかを厳密に適用すればほぼ確実に指導を受けそうなボロっちいビル。
ここの四階にアタシを呼び出した当人がいるわけだが…。

このビルたった今崩れればいいのにと思いながら自動ドアを潜った私の目に映った物、それは…。
人外だ。
人外の化け物どもが、闇から這い出てきた魑魅魍魎どもがカラオケボックスのロビーにたむろしていた。
息を止め、黙ってムーンウォークで店外に脱出したアタシは深呼吸した。

これはもう、二週間ぐらい高飛びする覚悟で呼び出しを無視するしかねえ。
そんな私の思いを見透かしたかのよう、メールを受信した旨を知らせる着信音が鳴った。
多分早く来いという催促のメールだ。
こんなことならさっきの電話に出るんじゃなかった、まったく。
やっぱ着信音とか細かく設定しとかなきゃなあと後悔したところで手遅れだ。

しょうがない、もう一度だ。
もう一度だけ、店に入ってみて人外どもが跋扈していたら全速力で離脱してその足で高飛びしよう。
意を決して再度、自動ドアを潜ると意外なことに十二、三匹いた人外どもの影も形も無い。
どうやら客として上階のボックスに入ったのだろう。
かちあわないことを祈りながらエレベーターに向かう私を呼び止める声。

「カラオケチェーン CYOIKARA へようこそ。 お客様はお一人様アルかっ、おお前は…」

一応は客に向かってお前呼ばわりする不届きな店員を睨んで震え上がらそうとしたアタシ。
店員の顔を見て意表を突かれる。
向こうも同じ思いなのか暫くの間、睨みあう形になった。

260 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:50:11

「お前は、リンリンじゃねえか!」
「氷の魔女、ミティ!!」

カラオケボックスの制服に身を固めた少女…いや、もう少女という歳じゃねえ。
アタシの仇敵にして旧敵。
喫茶リゾナントを拠点に活動する能力者集団、リゾナンターのオリジナルメンバーにして中国の国家機関、刃千吏の機関員。
銭琳ことリンリン。
いや、こういう場合はリンリンこと銭琳っていうのが正しいのか。
どっちにせよやつがロビーのカウンターに猫足立ちで身構えながら、目を緑色に輝かせている。

「悪い魔女は火あぶりアルね!!」

言い放つリンリンの手にはカウンター脇に置いてあったらしいパンフレットの束。
どうやらいきなり緑炎で攻撃してくるつもりらしい。

「ちょ待てタンマ。この状況で火熾せば火災報知器が発動して、スプリンクラーで店内水びたしになるぞ」
「心配ナイ。消防の査察がある時以外は報知器はちゃんと切ってアルね!」
「ちゃんとじゃねえ。物凄く心配だよ、大丈夫かCYOIKARAチェーン。 もしも火事とか出したらどうすんだよ」
「そんな時の為にニートの引きこもりを役員待遇で飼ってアルね。そいつに遺書を書かせて首を吊らせたらそれでしまいネ」
「しまわねえよ。もし犠牲者とか出たら保証もあるだろうし、営業だって出来なくなるだろうが」
「保証は誠意を以って対応するネ。店の利益から月額五百円でも支払ってる限り追求は出来ないアルね」
「しかし店の名前が報道されたら客足だって鈍るだろうが」
「その時は頭の CY を削って OIKARA にするネ。百円ショップで仕入れたサイリウムを千円で売ってぼろ儲けするアルよ」
「うりゃおい! うりゃおい! っていい加減にしろよ。 つうかさっきから聞いていると。お前相当深くブラックな経営に関わってるみたいじゃねえか」

アタシの言葉を聞いたリンリンは凄みある笑みを顔に浮かべた。

「ちっばれちまったらしょうがない。死人に口なしとはよく言ったものアルね」
「待て待て。どうでもいいから。 CYOIKARAの諸事情とかどうっでもいいから。そもそもお前とここでバトる気もねえし」

261 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:50:42

ともかく発炎能力を解除して気を落ち着かせるようにという説得を不承不承受け入れたリンリン。
どの程度の深さで店の経営に参画してるのかはわからないが、やはり金蔓の中で騒ぎは起こしたくないと見える。

「お客様はお一人さまアルか。今夜はハロウィンナイト特別キャンペーンを実施中アルね」
「だからアタシは先客に呼ばれ…、ってハロウィンナイトのキャンペーンって何だ」
「今宵ハロウィンのコスプレをして来店されたお客様にはお一人様五百円の御食事券をサービスサービス」
「ありがたいっつたらありがたいけど、これまた微妙な金額だな」
「CYOIKARAを見くびったらいけないアルね。 更に魔法少女のコスプレをされたお客様には魔法少女世界一決定戦への出場権が与えられるアルね」

要するにまどかだか、なのはだか。
はたまたクリィミーなマミだかプリティなキュアだか。
魔法少女のコスプレをしてそのアニメの主題歌を歌って高得点を出せば賞品が出るイベントがあるらしい。
全国規模で。

「一等賞品はなんと、だららららららららららららららららららららららららららっじゃじゃん♪ おこめ券五千円分」
「反応に困るわ。それは五千ありゃあ五?は買えるけど」

アタシの言葉を合図に朗らかな営業スマイルを浮かべていたリンリンの顔にどす黒い闇が翳った。

「ごご五千円で五?ってまじアルか。 お前金持ちアル」
「あんまし気にしたことはねえけど魚沼産の特Aとかだとだいたいそんなもんじゃね、あれ、もうちょっと安かったちょ待て」

明確な殺意を目に宿したリンリンが能力を発動しようとしていた。

262 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:51:30

「このブルジョワジーな小日本人。 魚釣島是一个独特的中国領土」
「どさくさにまぎれて政治的主張を行うな。つうかお前ん家だって中国じゃ名士の部類に入るんだろうが」
「アノクソオヤジ」
「はぁ? つうか待て。お前の親父スレのオリジナルキャラの中じゃ結構人気ある方だぞ。それをお前」
「わたしまだまだまだまだ日本で学ぶことたくさんあるアルよ。だからリゾナンターを離れても留学を続けたいって言ったらあの頑固親父」
「そういう金は自分で稼げって言ったんだな」

反抗期をこじらせた中国娘が不満そうに頷いてみせる。

「いやっそれはお前には厳しく思えるかもしれないけど、親父さんの言ってることももっともだと思うぜ」

アタシの慰めが耳に入ったのか入ってないのか。

「あ〜あ。昔みたいにパンダの密猟を見逃して結構な金が入ってきた時代が懐かしいネ」
「はい↑」

知らず知らずのうちに声が裏返っていた。

「あのなお前ちょっと言葉には気をつけてだな…」
「生きたパンダ一頭密輸すれば家が一軒立ったネ。 病死したパンダの毛皮を剥いでも車一台ぐらい」
「こら待てこら」
「何目を白黒させてるアルか。こういうの役得いうアル。、中国じゃ常識のことネ」
「いやほんとに待てしゃべるの止めろお前今すぐ」

全力で不測の事態を回避しようとするアタシに対してリンリンは素のままの様子だ。

「お前それ以上話したら、いろんなものが終わっちまうぞ」

263 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:52:04

アタシの言葉を耳にしたリンリンが不敵な笑いを浮かべ、掌に緑炎を宿す。

「では終わりの始まりを始めようアルか」
「火は止めろ火は」

終わりを始めようとか大層な台詞、カラオケボックスで働いている奴の言うことじゃねえし。

結局のところパッチリ眼の中国娘はなにやら日本で行われるイベントに参加したいという願いが親父さんに聞いてもらえず、それに反発して家を飛び出し単身日本にやってきて中国資本のこの店で働いているらしい。
いや何か違うかもしれないがそういうことにしておこう。

「つうかコミケに行きたいんだよな」
「はっどうしてわかったアルか?」
「いや前にアニメだかコミックだかのコスプレをUPしてたじゃねえか。それにどこかのスレではそういうキャラってことにおいなんでまた火を熾す火を」
「お前のこと見損なってた。乱暴で残忍でもストーカーまがいの陰湿な奴じゃないと思ってたアル、はっまさか」

今度は自分の意志で緑炎を収めたリンリンの頬が赤く染まりでれ〜っとしてきた。

「そうアルか?」
「何が?」
「そうだったアルか?」
「だから何がそうだってんだって多分っていうか絶対違ってると思うぞ」
「そんなに私のことが気になっていたアルか?」
「いやっ、別に」

何かよからぬ方向に妄想を始めたのか。
光と闇。炎と氷。相容れぬ仇敵同士などぶつぶつつぶやき始めたリンリンが妙に気色悪すぎる。
っていうかおぞましい。

「あはぁ〜。 美貴琳アルか。 いま時代は敢えて、敢えて一周回って美貴琳アルか」

264 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:53:02

受けとか責めとかもうアタシには訳がわからないことを口にし始めた妄想娘の鼻から紅いものが…。

「ぶはぁぁぁぁぁっ。 美貴琳キタ──ヽ('∀')ノ──!! 」
「来ねえよ。時代を何周回ってもそんなもの来ねえからな」

手刀で軽い当身を奴の後ろ首筋あたりにくれてやり、鼻血のストップに協力してやる。
そして数分後。

「お前の気持ちはうれしいアルがやっぱりそれはいけないアルね」
「まだ言っているのかテメー。無いから、それだけは絶対無いから」
「だったら今日はなんでこの店に…? まさかお前も魔法少女世界一決定戦にエントリーしにきたアルか?」
「それもねえよ」
「それはそうアルね。もう少女って歳じゃ…」
「テメーそれ以上ふざけてるとまじで凍らすぞ」

不毛なやり取りを続けながらふと思い当たったことがある。

「つうか、さっきこの店のロビーにたむろしてた化け物どもも」
「そうアル。魔法少女の仲間アル」
「いや魔法少女って、明らかな男もいたじゃねえか。いまいちデラックスじゃないマツコとか」
「お前何も知らないアル。仲間を守るため世界を救うため魔法を手に入れようとする人はみんな魔法少女アルね」

いやさっきアタシが見かけた人外の化け物ども。
カラフルな衣装にゴツゴツして厳つい身体を無理やり詰め込んでいた野郎どもは魔法少女というよりは使い魔が精々だと思うが。

「まあいいアル。とにかくそんなジャージ姿じゃハロウィンナイト特別キャンペーンの対象にはならないアル」

だから正規料金だと強く迫ってくる。
ようやく話の出口に近づいてきた、そんな気がする。

265 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:53:34

「いやっだからアタシは先にこの店に来てる人間に呼ばれてきたんだって」
「何だつまらない。そうならそうと早く…はっ」

おいまた様子が変になったぞ、まったく。

「その先客というのは男アルか? 女アルか。女アルね。女に違いないアルね、女同士の密会アルね」

口角から飛ばしてくる唾がなんか気持ち悪い。
アタシはジャージのポケットからスマホを取り出した。
メールの受信を知らせる青いライトが点灯したままだ。

受信ボックスを調べてみると、やっぱりそうだった。


送信者 保田圭
件名 「黄金の魂」

------------------

について早急に話し合いましょう

まったく何が「黄金の魂」なんだか。
運命に導かれて集いし戦士たちが邪悪な敵に打ち勝って、各々の帰るべき場所に戻る際の別れ際。
岸壁を離れる船と陸。
海を隔てて対峙する仲間に向かって、彼らには「黄金の魂」があるとかいうならちょっとばかし荘厳で清々しい感じはするだろう。
しかし場所は狭っ苦しいカラオケボックス。
対する相手は保田大明神。
気分はどんより曇るしかねえってもんだ。

266 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:54:15

そんなアタシの気持ちを知ってか知らずか。
メールを盗み見したリンリンは相手が女だと知って歓喜する。

「やすみきキタ──ヽ('∀')ノ──!」
「いやっ来ないから。金輪際来ないから」
「いいアルいいアル。いや〜それにしても意外なカップルアルね」
「だからカップルじゃねえし」
「保田さんというとあの将棋の駒みたいな顔をしたおばさんアルね」

こいつ。
ちょっと見ない間にいろんな意味で腐ってやがる。
まあそれはそれで構いはしないが、この調子でまとわりつかれると色々面倒だ。
そう思ったアタシは少しばかり話を盛って釘を刺しておくことにした。

「お前な。まあアタシだからまだそういう感じでもいいけど保田さんに対して同じ調子で絡んでみろよ」
「いったいどうなるアルか?」

たとえば…。
バスルームで髪を洗ってると、シャンプーを洗い流してる先から背後に忍び寄った大明神様にシャンプーをぶっ掛けられる。
それも墨の香りだとか納豆由来成分だとか。
髪のためにはいいんだろうが、オバハンくさい匂いプンプンになるまで延々シャンプーを続ける羽目になるとしたら。

「それは…いやアルけど私のマンション、安いけど一応オートロックアルね。 セキュリティ上の心配は一切…」
「要らねえって言いたいんだろうが、あの人の【時間停止】の前にはそんなもん何の役にも立たねえってことはわかるだろうが」

心なしか顔が曇った中国娘に追い討ちをかけることにした。

267 名無しリゾナント :2014/10/31(金) 12:56:49
>>-

とりあえず『黄金の魂』の(前)ということで
あと残り二回ぐらいで終了予定なので収録はまとめて一箇所にということで。

…しかし登場人物も読者も誰も得しないなこの話
書いてる人間はちょっと楽しいけどw

268 名無しリゾナント :2014/11/01(土) 02:04:55
■ ブラッドアンドペイン −新垣里沙− ■

ざくり

声は無い。
精一杯噛み殺した、声にならぬ、悲鳴。
砕かんほどに歯を噛み、苦痛に耐える。

ざくり

彼女は手にしたナイフを突き立てる。
突き立て、えぐり、その腱を切り、骨を削る。

ざくり

つうっ!ぐぎっ!
耐え切れず、声を漏らす。

これほどまでに、これほどまでに自分は、苦痛に弱い人間になっていたのか。

新垣は再び服を破り、素早く己の太腿を縛る。
止血。
だが、その間にも、四肢のいたるところ、次々と浅い切り傷が増えていく。

「うへへぇ…がきさぁん、がんばってぇ、痛いのはあたしもおんなじなんだからぁ〜」

おどけた態度、とぼけた声、いつものままの、いつもの彼女…

「なんで…なんで…なんでアンタがこんなところに…」

269 名無しリゾナント :2014/11/01(土) 02:05:27
新垣は止血をあきらめる。
どのみち、この出血では長くはもたない。
何分?おそらく、もう1分も…
助けが来ないのであれば、このまま気を失い、やがて失血死するだろう。
もはや、物理的な戦闘は、不可能だった。

ぼやける視界の中、新垣は顔を上げる…
視線の先、そこに彼女がいた。

彼女の両脚、自分と同じ個所、吹き出す真っ赤な血。
大きくえぐれた傷。

等しく同じ傷口を、等しく同じ苦しみを。

それが、彼女の能力。

防ぐ手段は、無い。

当然のことながら、能力で傷を負わせるならば、己も同等の傷を負う。
かつて彼女がこの力を使うとき、その傍らにはいつも…
だが今、彼女は一人…
こんな状態で能力を使うなど、自殺行為。

270 名無しリゾナント :2014/11/01(土) 02:07:47
己が目を、疑った。

塞がっていく。

彼女の傷が、見る間に塞がり、流れ出た血液までもが、皮膚から吸収されていく。

治癒能力者がどこかに?付近に姿はない。
いや、こんな治り方、見たこともない。
何?いったい?
まさか、これも、アンタが?

「…なんでアンタ…それ…」

いや、それ以前に、それ以前に、だ。
いまの彼女は、彼女の『心臓』は、その傷に耐えきれない、その苦痛に耐えきれない。
だから、彼女は戦列を離れた。
だから、彼女は入院していた。
彼女はもう、能力を使えない。
使えない『はず』だ。

それなのに…
それなのに…

「へへぇ気がづいちゃったぁ?そーだよねぇ…そりゃ気づくよねぇ…ガキさん、ねぇあたしさぁ」


―――あたし、化け物になっちゃった☆


「いやあ違うかぁガキさぁん!、もともと化け物だった!うん!そうだった!」

271 名無しリゾナント :2014/11/01(土) 02:08:18
彼女は敬礼する、片目をつぶり舌を出す。
おどけた態度、とぼけた声、いつものままの、いつもの彼女…
かけがえのない、かけがえのない仲間が、そこに…

新垣は、その名を―――

崩れ落ち、吹き出す血の海の中、新垣は、その名を―――

272 名無しリゾナント :2014/11/01(土) 02:09:03
>>268-271
■ ブラッドアンドペイン −新垣里沙− ■
でした。

273 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:08:21
>>251-256 の続きです



ダークネス本拠地、「首領」の部屋のさらに奥。
いくつものモニターが設置されたその空間は、「首領」がとある面々と謁見するためだけに存在していた。

政界、財界、そして公権力。
一線は引いたものの、未だにOBとしてこの国を支配し続ける古狸たちだ。
彼らは能力者を時に正義の、そして時に闇の力として扱い、従えてきた。今も昔も変わらない権力構造は、「首
領」の頭痛の種でもあった。

そんな彼女が、憂鬱そうな表情を浮かべつつ「謁見の間」に入る。
気の滅入るような茶番劇の幕開けだ。

「…ふん、ようやくのお出ましか」

モニターの一つが、目を覚ますかのように光を帯びて映像を映し出す。
恰幅の良いスーツ姿の中年は、不機嫌そうに不満を述べた。

「待ちくたびれたぞ」
「我々を待たすなど、いい根性をしている」
「しかも、今日は『例の日』だというのに。飽きれたものだ」

連続して、周囲のモニターも明滅する。
いずれもひと癖もふた癖もありそうな面々。
男の一人の言葉を聞き、そう言えば今日はその日だった。と「首領」は思い出す。
よりによってあいつらが来るんか。はぁ。めんどくさいわ。
口まで出かかった言葉を押し留め、恭しく頭を垂れる。

274 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:09:21
「すみません。本日は公務が立て込んでいたもので」

とりあえずの、謝罪。
今日は「下」から上がってくる報告の処理に時間を取られていたのは確かだった。
とりあえずは泳がせている「金鴉」「煙鏡」の監視の目も、相変わらず緩められない状況でもある。
けれど、約束の時間に来られないほどのものでもない。
要するに、面倒くさかったのだ。
その態度が伝わったか伝わらなかったか、男の一人が声を荒げた。

「何が公務だ!我々の小間使い程度の分際で!我々がその気になればいつだって他の組織に…」
「我々は常にあなた方の要望に応えているつもりです。けど、それでも我々を斬り捨てると言うなら、『仕方あ
りませんね』」

一瞬。ほんの一瞬ではあるが。
「首領」の双眸が、男を射抜く。モニター越しでも伝わる、凍てつく殺意。
忽ち男の心は大きく後退してしまった。

「な、何も本気で捉えることはないだろう。まったく、これだから…」

怯え恐れ、最後は語尾を濁してしまう男を軽蔑しつつ。
政財界を牛耳る妖怪たち。彼らは例外を除き、人生の大半を不相応な高台から眺めてきたものばかりだ。だから、
先ほどのような言葉も出る。事実、能力者を束ねる組織はダークネスだけではない。

けれど、本当にダークネスから鞍替えするほどの覚悟など彼らにはないことも「首領」は知っていた。
互いが決別するには、互いの暗部を知り過ぎている。
そして大前提として。こちらが異能を持つ者なのに対して、彼らはあくまでも異能を持たざる者であるということ。

275 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:10:11
部屋の奥が、眩しい光に包まれた。
「首領」は「彼ら」が降臨したことを知る。
前列に置かれているモニターとは比べ物にならないくらいの大きな画面が、五つ。
映し出されたのは五人の男だった。
それまで偉そうにふんぞり返っていた面々が、最敬礼で頭を下げる。

「久しいな、中澤」

枯れ枝のような風貌の男性が、口を開く。
佇まいは柔らかそうだが、その声は心すら凍らせそうな響きを含んでいた。

「先の、孤島での実験結果は聞いているよ。素晴らしいじゃないか」

続いて、目尻を下げて満面の笑みを湛える男性。
血色のいい苺色の頬を緩ませた表情からは友好的な印象すら与えるが。

「それで、実用化までどれくらいかかるのかね」

白髪交じりの短髪の男性が、訊ねる。
戦争を知らない子供に語りかけるように優しげな口調、だがそこに別の意図が隠されているのは明白で。

「同士Sよ、少々事を急ぎすぎでは?」
「何を言う同士T。共鳴の力の入手は我らの悲願だったはず。忘れたのか?」
「はは、同士Sは少々焦っておられるようだな」
「同士Bが悠長すぎるのだ」

壁一面に広がる大きなモニターに、大きく映し出される顔同士が諍いを始める。
彼らに比べたら小物と言っても差し支えない小さなモニターたちは、その様子を眺めながらやきもきしているしかない。

276 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:11:25
「落ち着きたまえ。進捗状況は『警視庁君』や『自衛隊君』からも報告が上がっているはずだろう。今は、ゆっ
くり待つだけだ。そうだろう、中澤君?」
「ええ、そうですね」

サングラスをかけた長髪の男性が、わかってくださいとばかりに三人の会話の間に入る。
ちなみに彼が「警視庁君」「自衛隊君」呼ばわりしたのは、その組織のトップに立ったこともあるOBたち。当
の本人たちはモニターの中で肩を竦めて居心地が悪そうにしていた。

「ところで中澤、聞きたいことがあるんだが」

口髭を蓄えた、ダンディーな佇まいの男。
体の中に1万ボルトを流されたような、嫌な予感が走る。

「例の地下施設に幽閉してた例の2人組を解放したそうじゃないか」
「…よく御存知で。ま、うちのマルシェの意向ですから」
「誰の意向だろうと構わないが、わかってるな。『次はない』ぞ」

口髭の男の声が、低くなる。
中澤は男の顔を一瞥し、それから、

「ええ、わかってます」

とだけ答えた。

277 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:12:05
「わかればいいのだよ。『悪餓鬼の悪戯』のせいで、かの軍事大国との密約が御破算になったこと。よもや忘れてはおるまいな」
「君が手を下していなければ、我らの名の下に処刑していたのだが」
「温情も二度目はないと思え」
「お前の、お前らの地位とて磐石ではないことを理解してもらわないとな」

「首領」は、俯いたまま言葉を発しない。
ダークネスの出資者とも言うべき、政財界の重鎮たち。その親玉的存在が彼ら五人であった。
文字通りこの国を動かし、搾り取り、甘い蜜を吸ってきた連中、能力者など彼らにとってのただの「手段」でしかなかった。

「さて、今日の本題はそんなことではない。ここ数ヶ月の、ダークネスの活動報告。聞かせてもらおうか」

278 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:12:35


「首領」が挨拶を終えて、画面から消える。
PCのモニターを見ていたその男は、マウスをクリックし四分割の画面に切り替えた。

「…どう思う?」

口髭を生やした男が、他の四人に問いかける。

「表向きは従順、だがね」
「『次はない』の言葉に返したあの表情を見たかね」
「あれは牙を抜かれた飼い犬の顔じゃない。激しい炎を内に秘めた、猛獣の顔だ」
「中澤裕子。あいつはやはり、危険だ」

長髪のサングラス、白髪交じりの短髪、人の良さそうな垂れ目、枯れ枝のような風貌の男が次々に感想を述べる。
そこにあるのは、警戒。そして危険視。

「我々も覚悟を決めるべきか」

5つのため息が、ほぼ同時に吐かれた。

「例のモノはいつでも使えるようになっているんだろうな」
「もちろんだとも」
「使う前に奴らに嗅ぎつかれる可能性は」
「ないね。『先生』のところの能力者に護られてるからな。それにあんな場所にあんなものがあるとは誰も思うまい」
「餌は既に撒いてある。連中がそっちにかまけてる間に」
「殲滅だ」
「代わりならいくらでもいる。それこそ『先生』のところに任せてもいい」

交差する言葉が示唆するもの。
それはつまり、ダークネスの粛清とそれに代わる組織の任命。

279 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:13:21
「なあ、同士H」

改めて、白髪交じりの短髪が問いかける。

「何だ、改まって」
「中澤が俺たちを睨む目つきを見てな。こう言っちゃあ何だが、昔の血が騒いだんだ」
「…狂乱の、学生闘争の時代…か」
「結局、俺たちは昔のまんまなんだよ」
「平和を標榜する割にはずいぶん荒っぽいことを言うんだな」
「いや、争いの火種を滅してこその、平和だよ」

平和、という言葉に反応し笑いあう五人。
その笑いが何を意味するのか。それを詮索し合うほど、彼らは若くはなかった。

「では、次回の会合は『その時』か…合言葉は『ほっこり』」
「『ゆっこり』」
「『おっとり』」
「『ほっこり』」
「『おっとり』」

老獪な男たちを映し出していたPCの分割画面が一つ、また一つと黒の向こうへと消えてゆく
そして最後には、何も映らない滑らかな闇だけが取り残された。

280 名無しリゾナント :2014/11/03(月) 12:14:44
>>273-279
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
登場人物がむさ苦しいおっさんばかりですみませんw

281 名無しリゾナント :2014/11/04(火) 17:41:54
■ ウィルキャッチニィザア −田中れいなX光井愛佳− ■

「いかせへん…」

光井は痙攣するその手でその脚を掴んだ。

「あかん…あかんのや…行ったらあかん…あかんの…田中さん…」
「愛佳…今、愛佳が何で止めるんか、れいなにはわからんし、言えん理由もわからん…言えんなら、れいなも聞かん」
「後生や…ここに…ここに…」
「でも、ガキさんが呼んどる…わかるやろ…だから、れいなは行く」
「あかん…あかん…ねぇ田中さん…後生や…ここにおって…ここに…」

その脳天に、田中の拳が、炸裂した。

勝てるわけがない。
止められるわけがない、それなのに光井は、力づくで、田中を行かせまいと…
なぜ?いったいなぜ止める?
新垣を助けに行くことの、どこに止めねばならぬ理由がある?
光井は答えなかった。
田中も聞かなかった。

気を失った光井を抱え、四輪駆動車の後部座席へ寝かせる。
自分の長袖を伸ばし、光井のほほについた涙の跡をぬぐう。

「あほ愛佳…」

助けを呼ぶ、新垣の心の叫び、いまは、その叫びに、応える。

だから、今は待っとって。

すぐに、ガキさん連れて、帰ってくるけん。

282 名無しリゾナント :2014/11/04(火) 17:42:45
>>281
■ ウィルキャッチニィザア −田中れいなX光井愛佳− ■
でした。

283 名無しリゾナント :2014/11/04(火) 17:47:39
>>281に重大なミスがありました
いったん白紙に願います

284 名無しリゾナント :2014/11/04(火) 17:48:28
■ ウィルキャッチニィザア −田中れいなX光井愛佳− ■

「いかせへん…」

光井は痙攣するその手でその脚を掴んだ。

「あかん…あかんのや…行ったらあかん…あかんの…田中さん…」
「愛佳…今、愛佳が何で止めるんか、れいなにはわからんし、言えん理由もわからん…言えんなら、れいなも聞かん」
「後生や…ここに…ここに…」
「でも、ガキさんが叫びよう…わかるやろ…だから、れいなは行く」
「あかん…あかん…ねぇ田中さん…後生や…ここにおって…ここに…」

その脳天に、田中の拳が、炸裂した。

勝てるわけがない。
止められるわけがない、それなのに光井は、力づくで、田中を行かせまいと…
なぜ?いったいなぜ止める?
新垣を助けに行くことの、どこに止めねばならぬ理由がある?
光井は答えなかった。
田中も聞かなかった。

気を失った光井を抱え、四輪駆動車の後部座席へ寝かせる。
自分の長袖を伸ばし、光井のほほについた涙の跡をぬぐう。

「あほ愛佳…」

新垣の心の叫び、いまは、その叫びに、応える。

だから、今は待っとって。

すぐに、ガキさん連れて、帰ってくるけん。

285 名無しリゾナント :2014/11/04(火) 17:49:03
>>284
■ ウィルキャッチニィザア −田中れいなX光井愛佳− ■
でした。

286 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 06:34:58
>>273-279 の続きです



竹内朱莉は先ほどから、度々深いため息をついている。
テーブルの正面には、ツインテールの少女。意思の強そうな眉とそれに反比例した子犬のような鼻、そして口元から
覗く八重歯は愛らしくすらある。ただ、朱莉のため息の原因は明らかにこの少女に起因していて。

「だからさ、めいたちはもうお笑い担当でいいと思うわけ」
「…能力者のお笑い担当って何よ」
「だって和田さんとか福田さんは一線級で活躍してるわけじゃん。でもめいたちはずーーーーっとサポートしかでき
なくてさ。何か悔しいじゃんそういうの」
「そりゃまあ。でもお笑いと関係なくない?お笑いの能力って意味わかんないし」

先ほどから目の前の少女・田村芽実が主張する「お笑い担当能力者」という存在について、改めて朱莉が疑問を投げ
かける。すると、

「めいたちははっきし言って能力も中途半端…まありなぷーのアレは何か便利そうだけど。けどさ、クライアントの
皆様がめいたちに求めてるのってさ、何て言うか、こう、お笑い要素みたいな感じだと思うのよ」

とやはり的を得ない回答を口にする。
朱莉のため息は増えるばかりだ。

287 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 06:36:32
「めいたちの立ち位置はさ、やっぱ面白いのじゃん。めいたち面白いの好きだし」
「うん」
「たけちゃんめっちゃ面白いから。お笑い担当になろうよ、って。めいが色々物真似とかやるから、それでかななん
がゴリラの真似して」
「あのー、田村さん? それって異能力と何の関係もなくない?」
「それだったらちゃんと活躍できるかなって」
「いやいやいや。もしかしたらうちらだって和田さんや福田さんみたいに一級線で活躍できるかもしれないじゃん。
たけ、かななん、りなぷーで『日本三大能力者』って祭り上げられるかもしんないし」
「何それ。たけちゃん可哀想」

可哀想、というキーワードは。
それまで何とかぎりぎりのところで耐えていた朱莉の防衛線を、いとも容易く突破した。

「君はねぇ、ちょっと、その、ねぇ、マイナス思考をやめた方がいいよ…いや、ほんとに」
「マイナスじゃない! ほんとにこれはめい考えたの!!」
「しかも自分だけなら…そのお笑い担当とかいうのに朱莉たちを巻き込まないでくれるかなあ」

本来、朱莉は相手に対しここまで無慈悲な言い回しはしない。
少々の芽実の愚痴なら笑い飛ばせるくらいの度量は持っている。だがしかし。
このマイナス具合は彼女の許容範囲を超えていた。下手をすれば殴り飛ばしてもおかしくない。
そこをやはり何とか留めているのは、やはり彩花のことがあるからだった。

リーダーが行方不明である、そんな状況が芽実をマイナス思考の泥沼に引きずり込んでいるのは間違いない。それ
に対して何とかしてやろう、助け舟を出してやろう。朱莉なりに考えはするものの、どうにもならないからため息
が出る。これこそ絶望的な有様だ。そう思った矢先の出来事だった。

288 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 06:37:50
口を尖らせて、なおぶつぶつと愚痴を垂れていた芽実。
その頬が突然、赤く腫れ上がる。

「え? いたっ! なに、ちょっと」

まるで、何かにぶつかった。
いや、まるで誰かに殴られたような。
否。芽実は実際に「誰か」に殴られたのだ。

「りなぷーでしょ!!」

涙目になってその名前を呼ぶと、芽実を殴った誰かがやる気なさそうにぼんやりと姿を現しはじめた。

「ひどいよいきなり殴るなんて!て言うかいつからいたの!?」
「さっきから。いつ終わるかなって待ってたんだけど、それかタケが切れて殴って終わるかなとか思ってたんだけど。
ぜんぜん終わんないし」

姿を現した脱力系少女・勝田里奈が、殴った拳をまじまじと見ながら、そんなことを言う。
朱莉のさすがに朱莉でもそこまではしないよ、という言葉などまるで耳に届いていないかった。
ちなみに彼女の能力である「隠密(ステルス)」は、厳密に言えば姿を消す能力ではない。

姿を隠す、と言えば今は亡き光の使い手・前田憂佳の十八番であったが。
彼女が光の屈折率を利用し、物理的に姿を隠していたのと、里奈が姿を消したのは根本的に仕組みが違う。

ざっくり言ってしまえば、射程範囲の対象から自分の存在を「消す」能力。
相手の精神に働きかけて自分の姿を認識できなくしてしまうので、能力の影響下にある人間には彼女が「見えない」。
無防備の芽実に放った拳は、まさにステルスパンチといったところか。

289 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 06:39:16
「それよりさ、かななんは? 一緒だったんじゃないの?」
「香菜なら、結界に和田さんっぽいのが引っ掛かったって言って、様子見に行った」
「あ、そう。りなぷーは見に行かなかったんだ」

たぶん面倒臭いからだろう。と朱莉は思いつつ口には出さなかった。
今は、殴られたことに気を取られている芽実の魔のゾーンから救い出してくれたことに感謝しよう。餅巾着を食べてい
るのを見て「共食いだ」などと揶揄したり、朱莉の鼻が低いのをもじって「はな ひくし」と悪口を言うのも3回くら
いは見逃してやろう。そう思った。

「でもさ…和田さん、大丈夫かな」
「さぁ。香菜の『結界』は何が引っ掛かったのかはわかるけど、それが生きてるか死んでるかまではわからないし」
「ちょ、りなぷー!!」

里奈のあまりな物言いに思わず目を剥く朱莉。
確かにその通りなんだけど、それをさっきまでネガティブモードに入ってた芽実の前で言うかね普通。と呆れつつ。

「そうだよね…和田さんにもしものことがあったら。福田さんはこう、引っ張ってくようなタイプじゃないし。そした
らめいたちが中心になって…やっていけるのかなあ」
「ほらきた」

想定内の芽実の反応に、思わず朱莉からそんな台詞が出てきてしまう。
これでは振り出しに戻ったようなものだし、芽実は殴られ損だ。案外里奈も自分でやっておいて殴り損だなどと思って
いるかもしれない。

290 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 06:40:05
「たったったたいへんや!!」

そんなところに飛び込んできた関西弁。
全速力で走ってここまで来たのだろう。中西香菜はぜえぜえと息を切らしながら、部屋に上がりこむ。

「おかえり香菜」
「反応が冷静すぎるよりなぷー」
「ちょっとかななん何が大変なの」

三者三様の対応に、少しずつ息が整ってきた香菜は。
何か言いにくいことを吐き出すような表情でこう言った。

「あんなあ、実は和田さんが…」

291 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 06:42:54
>>286-290
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

292 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:34:35
【お知らせ】
他の作者さんの作品に登場するキャラのスピンアウト的な単発を一本。
ぶっちゃけリゾナンターは出てきませんが、もしそのことに不満を抱かれるであろう方に一言。

>>155が悪い

293 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:36:34
「舞美、遅っ」

遅れて到着したリーダーをからかおうとして口にした言葉が途絶えた。
血が流れている。
矢島舞美の美しい顔から出血している。
誰にも傷つけることなどできないはずの“invincible”である筈の存在。
無敵でなければいけない矢島舞美の唇から血が流れているのだ。
驚かないわけには…。

「ひゅひゃあ、ついうっかりして」

うん、アホだ。
平常運転のアホ舞美だ。
舞美の両腕には直径20cm、長さ80cmぐらいの金属製の円筒が抱えられている。

「置時計の振り子の後ろに隠してあったんで分解しようと思ったんだけど」
「ごめん、話が見えてこないんだけど」

舞美の抱えているのはどうやら爆発物。
それを分解しようとしたことまでは分かるが、それがどうして唇から血を流すことに繋がる。

「よくハリウッドとかだとさ、爆弾解体の時には工具的な何か咥えてたりするじゃん」

洋画で描かれる爆弾の解体作業を真似しようとしたものの、適当な工具を持っていなかった舞美は…。

「愛用の銃剣を咥えてたら唇の端が切れたって馬鹿丸出しっていうか意味無いじゃん。 あんないかつい銃剣なんか細かい作業に仕えるわけないし、どうせ素手で分解したんでしょ」
「あぁ傷つくな、なっきー」

私たちのやり取りを聞いていた舞の顔が蒼ざめている。

294 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:37:36

「ごめん、舞美。それ私が担当したルートだよね。見落とした」
「う〜ん、いいよ。私だって何か食べるものが隠してないか探してたらたまたま見つかっただけだから」

嘘だね。
舞美は嘘を言っている。
譜久村家の所有する山荘を急襲、内部にいる人間を生死を問わず確保。
その指令に応えるべく、三つの経路からの侵入。
指令が文字通りの指令であるか、あるいは罠であるか。
いずれにせよ脱出経路を確保しておくために、セキュリティの解除と爆発物の有無を確認しながらの侵入を敢行。
簡単で単調な作業をゲームにするために、侵入時の最終目的地である大広間までのタイムトライアルに仕立てたのは私だ。

他のチームが二人一組。
自分は一人だというハンディを背負ってるのに、おそらくは他の2チームのルートもクロスチェックしたんだ。
三つのルートを回りながら、5分30秒程度の遅れ。
ほんとうに、このバカときたら。

「でもよかったよ」
「何が」

即時に反応したのは舞美同様、私たちの中では白兵戦担当のちっさーで。

「だって私たちに拘束されるかわいそうな譜久村家の一族なんて最初からいなかったんだから」
「もう舞美ったら〜」

状況から考えて今回の任務は最初から私たちを誘き寄せる為の罠だった。
かわいそうな譜久村一族はこの山荘にはいなかったっかもしれないけど、敵さんはわたしたちをかわいそうな目に遭わせる気気満々みたいなんだけど。

「ちっさー、この爆弾の匂い嗅いでみて」

295 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:38:08

片手でひょいっと投げた円筒を全身で受け止める千聖。
その意外な重さに驚いたのか、抱え込むようにしてその場に座り込む。

「火薬の量はそんなに多くないみたいだし、燃料系でもない。金属片が入ってるっぽいけど」

私には到底できない臭覚で爆弾の中身を解析していく千聖。
小型のクラスターで私たちに手傷を負わせるのが目的なのか。
たとえ捕まえることが叶わなくとも、千聖や舞美のDNAを採取できたら敵さんには御の字だろうし。

「いやっ、さっき振り回してみた感じだとチャフっぽいね」
「ちょなんで爆弾を振り回したりするかな〜」
「うふふ、ごめん」

チャフは通常、電波障害を引き起こすためのものだけど、それを実内で私たちに対して使う目的は…。

「ジャマー系の能力阻害」
「ピンポンピンポンだろうね。 おそらくは位置認識の阻害が目的かな。屋外には十中八九、大型の電磁波発生装置もスタンばってると見た」
「じゃあ早く逃げなきゃ」

能力の阻害というキーワードを聞いた舞が焦ったような顔をする。
通常兵器相手ならほぼ無敵というか完全に無敵なんだからもうちょっと落ち着いてもいいと思うんだけど。

「え〜お腹が空いてるのにすぐに動けないよ」
「あんたね、携行糧食はどうしたのよ」
「久しぶりに5人揃っての出撃じゃん。 あまりにも楽しみだったから昨日の晩寝れなくてさ〜、食べちゃった」

このアホリーダーは。
敵さんも決して馬鹿じゃない。
私たちの能力の全容までは把握してなくとも、その一端は掴みかけてるし、それなりに対策してるっぽい。
過大に評価する必要はないけど、甘く見すぎるのも禁物だと思うんだけど。

296 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:38:53

「ごうぢゃがばいリまじだよ〜」

ちょ愛理。
見かけなかったと思ったら、何暢気に紅茶なんか入れてんのよ。
ガスとか簡単に爆発させられるし、さすがにここはリーダーとして一言言っとかなきゃ。

「さすが愛理ママ、気が利いてる〜。あと何か食べる物は?」
「グッギーばぁっだばぁら開げざぜでぼぉらっばぁけど」

ダメだ。
他人のこと言えた義理じゃないけどアホばっかしだ。
舞なんか硬直し始めてるし。
そうだよね、薬物を仕込まれてる可能性だってあるし。
千聖!!

「ちょっと待って。 最初に私が毒見するから」

え〜っと嘆く舞美から取り上げたクッキーを咀嚼して、紅茶を半分くらい飲み下す。

「大丈夫。 多分だけど…」

わ〜いとクッキーに噛り付く舞美。
紅茶を口にする愛理。

「痛っ」
「熱っ」

だ大丈夫…なのか私たち。
口にするでもなくクッキーを割っている舞。
何事もなかったかのように紅茶を味わう千聖。
私は…私に何かあったら巻き戻せないから、うん。

297 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:39:25

「うわっビスケット。いいな〜」
「あんた昨日の晩に食べたんでしょ」

数枚のクッキーでは物足りないらしい大食漢が物欲しそうに私の手元を見つめてる。

「欲しいのならワンとお言い」
「ワワン!!」

馬鹿犬に糧食用のビスケットを放り投げる。
こんな時は同じバカでも舞の方がまだ話相手にはなる…筈だ。

「以前はともかくここ最近は防衛さんともトラブルはなかったよね?」
「…うん。多分あの喫茶店の案件で不満があったんじゃないのかな」

舞の口から発せられた喫茶店という言葉に私を含めた他のメンバーが反応する。
物憂げな表情を見せる愛理。
懐かしげな貌になる千聖。
私の心は高まるというほどではないが、少しざわつく。
舞美はというと不敵な笑いを浮かべ。

「はる坊に釘は刺しといたよ。あっ釘を刺したら怪我しちゃうね。まあ軽く警告ね」
「でも防衛さんの希望は…」
「シャーラップ」

いつになく強い口調で舞を黙らせる。

「あいつらの胸の内とか腹の中とか興味ないから。腹芸がしたいなら自分らの宴会で好きなだけやってりゃいい」

それはリーダーとしての最後通告だろう。
この状況を作り出した防衛省周辺との関係を丸く収めるつもりは無いという。

298 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:41:44

「舞、イエスかノーで答えて。 電磁波系のジャマーを喰らった状態で自分以外の誰かを銃弾から守れる」
「多分、無理。 私一人だけならデフォルト状態で問題ないと思うけど位置感覚をずらされると他の誰かはきつい」
「オッケー。 じゃあ一番ジャマーの影響が少ないであろうちっさーが先行して、阻害装置。多分トレーラーかなんかに偽装してるやつをぶっ壊して、ついでにその辺をしっちゃかめっちゃかにかき回して」
「了解」

矢島舞美はバカだ。
それもかなり残念な部類のバカだが、こういう状況。
仲間に危機が迫ってる状況下で彼女が下す判断は限りなく正しい。

「ちっさーが突撃してから時間差で愛理、早貴、舞が発進。舞は能力で二人を守って」
「あのさ…」
「何?」
「私だったら阻害装置が壊されることを想定して、他に何台か配置しておくけど。逃げ道を想定してさ」

舞のネガティブ思考がまた始まった。
舞美はというとその掌で舞の頭を撫でている。

「えらいね〜。舞のそういうところに私はいつも助けられてるよ」

ネガ舞を慰撫しながら、その恐怖心を取り除いていく。
能力阻害用の電磁波は指向性の強いものでなければ意味を成さない。
したがってその有効範囲は普通の電波のように広範囲というわけにはいかない。
かなり狭範囲になってしまう。

「ちっさーが一台ぶっ壊せば、一定時間の安全は確保できる。それでいい」
「でも…」
「私たちの生命線は愛理の歌で、私たちの切り札はなっきーの能力。でも今二人を守れるのは舞の能力しかないから」

両肩を抱かれ見つめられていた舞の瞳に炎が点ったのがわかる。
それはとても弱々しいけど決して消えることのない魂の焔。
でも肩、痛そう。

299 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:42:31

「四人はそのまま全速離脱。後は…私一人で殲滅するから」

千聖が私の顔を窺ってきた。
血みどろの白兵戦を展開する決意をした舞美を一人で戦わせていいのか。
自分たち、少なくとも自分ひとりだけでも反転して援護すべきではないかという思い。
矢島舞美は無敵のバカだ。
しかし自分の強さに驕り単独先行するような愚か者ではない。
今、舞美は自分に怒りを覚えている。

防衛省周辺との融和路線を選択することで、私たちを欲しがっているどの機関とも等距離の関係が築けるという甘い考えを抱いた自分に激怒している。
能力者に人格があるとは思わず、只の数値として捉え国益とやらに貢献させようという人間が国の中枢にいまだ存在する事実に憤怒している。
今宵これからの戦いで実際に血を流す兵士の殆どは自ら意思決定する権限を持たず、実際の責任者は安全な高みから見下ろすという不公平な構造に義憤を抱いている。
でもそんな状況でも矢島舞美は絶望しない。
絶望して、全てを投げ出して、壊れてしまった方が楽だとしてもそんな道を決して選択しない。
それが矢島舞美だ。

私たちを導くリーダーとして、全ての責めを負うことで辛うじて、舞美はかつて犯した過ちの贖罪を果たし続ける。
だったらそんな舞美の決断に口を挟むことなど誰が出来ようか。
ゆっくりと首を振った私に頷く千聖。
これから創り出す状況は決まった。
後は…。

「ちょ舞美、時計外してどうするの」
「いや〜、いろいろご馳走になったからせめて、ね」
「ねって、私たち罠にかけられたんだよ」
「でも譜久村の人たちもぐるだったかはわからないし」
「もしそうだとしても譜久村家ってちょっとした財閥並みの金持ちだよ」

300 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:43:32

腕時計を紅茶やクッキーの対価として置いていこうとする舞美を千聖と舞が諌めている。

「でぼ、じがんばばぜしじどがばいぼ、ぼればらのぼうぼうにじじょうぼぎだすんじゃ」
 (でも、時間合わせしとかないと、これからの行動に支障をきたすんじゃ)

ナイス、愛理。
滑舌は相変わらずだけど、ナイス。
でも舞美がここまで正しさを貫いてみせるってことは、逆に今夜これからとっても酷いことをするってことだからさ。

「そうだ、これ持っとく」

私はデジタルオーディオプレイヤーを舞美に投げた。
ディスカウントストアで買った安物なんだけど、ちゃんと動画も映るやつ。

「前に言ったでしょ。 私たちと同じ五人のグループの新曲。そのパート割を時間の目安・・・」

えっえっえっえっ。
私掴まれてる。
舞美の掌で頭を鷲づかみにされて、宙吊りにされて、痛っ。

「どうして、そんなことするのかなあ」

はぃ?

「そんな違法ダウンロードなんかアーティストの人に何も還元されないのに」

ちょ待ってって。
タップタップタップ。
離せないから少し手を緩めて地面に下ろして。

301 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:45:03

「ここれ公式のPVだから。違法じゃないから許してお願い」
「じゃあちゃんとシングル買う?」
「買うから。帰ったらちゃんと買うから」
「じゃあ許す」

鉄枷から解放された私の真似を千聖がしてる。

「私、帰ったらCD買うんだ。 はいなっきーの死亡フラグ立ちました」

お前なあ。
わたしはあんたと違って身体は普通の人間並みなんだから。
拳を振り上げる私に笑って見せるとジャケットのフードを上げる。
もう千聖は戦闘態勢に入りつつある。

「へえ、I miss you か。良さげだね」
「でしょ、でしょ。そのPVも大きなお屋敷で撮影してるし」
「でもここの譜久村邸よりはちょっと貧相かな」

肩耳にイヤフォンを挿し、小声で口ずさみながら冷静な比較。
愛理も自分向きのパートを歌ってる。
前から言おうと思ってたけど歌う時は滑舌良いよね。

「でも…この子たちいい気なもんだね。こんな衣装を着てお化粧して好きな歌を歌って踊って」

舞の気持ちもわからなくはないけどさ。

「それは違うよ」

おっバカリーダーが何か良いこと言いそうな雰囲気。

302 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:46:20

「多分、この子たちだっていろんな悲しみを経験して、それを引きずりながら何とか前に向かって歩いてるんだ、同じ」

みんなおんなじという舞美の言葉は現実とは多分かけ離れている。
でも舞美がそんなにまっすぐだから他のみんなもなんとかこの地獄の中絶望に飲み込まれず生きていける。

「わたしたちは大切なものを失った。それはもう取り戻せない。だからこれ以上失うわけにはいかない。あいつらにこれっぽっちもくれてやるわけにはいかない。だから…」

それは舞美の悲しみ、そして私たち全員の怒り。
二振りの銃剣を手にした舞美が号令を下す。

「これより状況を開始します」

私たちは独立特殊攻撃部隊“ Celsius ”
何度も打ちのめされてきた。
何度も大切なものを失った。
もう二度と負けるわけにはいかない。

303 名無しリゾナント :2014/11/07(金) 18:50:26
>>-
以上『I miss you』的な何か
うん■■さんならせいぜい2レスで描ききる話だよね


--------------------------------------------ここまで

↑とりあえずアリバイ作りというか転載禁止対策としてここに投下しときます
本スレの方には夜、皆さんが寝静まったころに行ってくる予定
もし他の方が投下される場合は気にせず自分の方を優先なさってください

304 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:44:28
「大丈夫カ?怪我してナイカ?」
屋根の上のポニーテールの小柄な女性がたどたどしい日本語で優しい言葉を問いかけながら、振り返る
緑色の炎は一瞬の輝きを放ち、それは幻であったかのように鮮明に脳裏に刻み込まれてしまった
「・・・大丈夫です」「えりも」
頭に降りかかった瓦礫を払いながら二人は体を起こす
「それはヨカッタ。でも、まだカメイサンは元気デスネ」
女性は右手を腰のベルトに携えていた拳銃に手を伸ばした
「ここは危険だから、離れたほうがイイネ」

突然、二人の体が浮かび上がった、いや何かに、捕まえられたのだ
「な、なんや?」
「・・・パンダ?」
小田と生田はパンダの背中にのせられた形になっていた
しかし、それは遊園地にあるような子供向けのファンシーなそれではなく、獰猛な一個体として、であったが
「動くなっていうとると?・・・て待つと!そっちは危ないやろ!!
 新垣さんのピアノ線が張り巡らされているとよ!!怪我するっちゃ」
恐怖で顔が引きつるが、ピアノ線がどこにはられているのかわからないこの状況では当然であろう
しかし、生田は知らない、すでに何十ものピアノ線の中をこのパンダが突き抜けていることを
野生の動物、それに加え、鍛え上げられた肉体によりピアノ線はただの糸に成り下がっていたのだ

「パンダつええ・・・ピアノ線の中につっこんでいるのに無傷っすか」
「工藤、何言うとるんや!パンダやないやろ!っちゅうか、なんであいつもなんでここにおるんや!!」
「愛佳、それよりもカメに集中!」
すでに道重に足を治してもらった新垣は新たなピアノ線を手袋につなぎ準備を整え終えていた
宙に浮かぶ、その影をその場にいる全員が注視する

305 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:45:00
緑色の炎に焼かれたというのに、身にまとっている御召物一つ燃えていなかった
ただ宙にふわふわと浮いており、時々呼吸に合わせて胸が膨らんだり縮んでいるのを確認できるのみ
銃口を向けられているのにもかかわらず、無心の表情を携えている

銃を向けている側もある意味では同じ、表情を変えることはなかった。浮かんでいる表情は笑顔だが
「ハハハ、さすが亀井サンですね、私の炎くらいじゃびくともシナイ」
場違いとも思える明るい笑い声をあげているが、三日月の目の奥には鋭い眼光が光り続けている
「風で私の炎で燃やされる前に身を守ったンデスカ。前よりも強くなってマスネ。デモ、私も成長してルンデスヨ」

緑色に輝く弾丸が数発、放たれ亀井に伸びていく
彗星の尾のように弾丸の通過した後には緑炎の道筋が放たれた弾丸の数だけ描かれる
「・・・」
亀井は迫ってくる弾丸にも顔色一つ変えずに、腕をふる
弾丸に無数の切れ目が走り、原型を失うほどの細かな破片になる
緑色の炎をあびた火の粉たちはさらにふきすさぶ風にあおられ、点に昇っていく
弾丸と同じ緑色に燃え上がった拳銃を持ち、女性は満足げに頷く
「・・・やりますネ。デモ、ワタシ、あきらめ悪いデスヨ」
次々と銃弾を放ち続け、亀井はそれを砕き続ける

「す、スゴイ、二人とも・・・あの人はいったい?」
新垣が準備を整え、今にも亀井にワイヤーを伸ばそうとしながら早口で答えた
「あの子はリンリン。私や愛佳、さゆみんと同じく始まりの9人の一人
 中国の秘密組織『刃千吏』の幹部、のはずだけど、なんでここにいるかな?」
「それはジュンジュンが答えようカ?新垣サン」

振り返るとそこには、全裸の女性

306 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:45:30
「ちょ!ジュンジュン!何しとんの!」
「光井サン、お久しぶりデス」
「いやいや、久しぶりやけど、それどころやないやろ!何しとんねん!まだ高校にも上がる前の子もおるんやで」
「デモ光井さん、私の姿、慣れているダロ?」
「愛佳は慣れとっても、ほかの子達が訳わからんやろ!!誰か、身にまとうものもってきて!」
慌てる光井に堂々としたジュンジュンと呼ばれた女性、その姿は滑稽に見えてしまう

「な、何者なんだろうね?」
こんな場所に突然全裸で現れた不審な女性に驚きを通り越し、引いている鈴木
その声を聴いたのか女性は鈴木はとっさに横にいた石田の後ろに隠れようとした(実際には隠れることはできなかったが
「・・・」
「な、なんですか?私の顔に何かついてますか!!闘るっていうなら闘りますが!?」
自分よりも背丈20cm以上高いであろう女性に対しても強気に出る石田
「オマエ、いい匂いするナ」
「!!」

「はい光井さん。服とってきました!」
「あ、それ、さゆみのジャージ!!」
「へ?なんで道重さんのジャージがなんでここにあるんや?」
その答えはジャージを持っている人物の無邪気な微笑みだった
「へへへ、まーちゃん、急いで跳んでとってきたんですよ!みにしげさん、褒めてくださ〜い」
凍り付く光井の表情、恐る恐る口を開く
「・・・佐藤、リゾナントまで飛んできたってこと?」
「はい!」
「・・・またテレポートできる?」
「え〜まさ、疲れたなう。しばらく無理うぃる」
「ドアホ!!!」
「え〜なんで怒ってるんですか?」

307 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:46:00
そんな喧騒に巻き込まれることなく鞘師は生田と小田のもとへと駆け寄っていた
「二人とも大丈夫?」
「えりは大丈夫やけん、ジュンジュンさんめっちゃ強くて速いと!」
「・・・石田さんのリオンと同じ、いやそれ以上かもしれないです
 ・・・それより、亀井さんと闘っているあの人、危ないです」
「危ない?」
小田の言いたいことの意味が分からず、同じ言葉を繰り返す鞘師
「・・・亀井さんは『何か』隠しています」

上空には浮かんだまま弾丸を弾き続ける亀井。そんな亀井に向かい屋根の上で弾丸を放ち続けるリンリン
「え?えりの目にはリンリンさんが一方的に押しているようにしかみえんと
 それにしてもリンリンさんの弾丸一向にきれないっちゃね」
「・・・あれは弾丸というよりも直接炎を発射しているようですよ、生田さん」
「うん、あの拳銃はただの飾り、といったところだね、なんでそんなことをしているのかわからないけど」
「え?小田ちゃんも里保も気づいてたと?」
「うん、もちろん」

そんな会話を知ってか知らずか、リンリンは拳銃をホルダーに戻した
その姿をみて、亀井も腕をおろし、ゆっくりと地上へと降りてくる
「やはり直接、組まないと倒せないデスカ」
両手を前に突き出し、膝を軽く折り曲げ構え、四肢に緑炎を纏う
そして、改めて笑い、左足で地面を強く蹴る

(速い!)
靴底から炎を放ち、その遠心力を利用し、さながらロケットの如き速さで詰め寄る
その速さの中で、的確に鋭く亀井の首めがけ、同じく炎をまとった手刀が振り下ろされる
亀井はその手刀に左腕を合わせ大きく払いのけ、同時に体の重心を落としリンリンの懐に潜り込もうとする
それを待っていたかのようにリンリンは伸ばし切っていた膝を折り曲げ、下りてこようとする亀井の顔面に狙いを定める
それを体の柔軟性を用いて反り返りながらも、リンリンの反対側の足に自身の足を絡ませて倒そうとする
それを瞬時に察知し、リンリンは炎を足底から噴射し空中に逃げこんだ

308 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:46:35
二人の攻防をみて何が起こったのかわからないメンバーも多かったであろう
鞘師や小田にとっては一つ一つの動きの意味を理解できただろうが、ただ逃げただけに見えないものもいた
飯窪にとっては何もみえなかった、と言わざるを得ないものであり、近くにいた工藤に開設を求めていた
しかし工藤自身もすべてを把握するには至らず、解説をする頃にはすでに亀井に向かいリンリンが再びとびかかっていた

「サスガ、亀井サン、強いですネ」
ジュンジュンはのんきに腕を組んで、瓦礫に腰掛けながらバナナを食べ始めていた
「ちょ、ジュン、どこにバナナおいてあったん?それおいてあるんやったら服用意してれば」
「ん?してたぞ。デモ光井サン、ジュンジュンの話聞かないで勝手に服もってコイとイッタ」
「・・・そうなん?」
「ソウダ」
そして大きな口でバナナを食べ、食べたそうにしている佐藤に向かい、食べるか?といって差し出した
食べる!といってジュンジュンの横に座り食べだした佐藤をみて、この子もかわいいナとつぶやいた

「ねえ、ガキさん、それよりえりをなんとかしないといけないんじゃないですか?」
「そ、そうだね・・・う〜んと、みんな、作戦言うからしっかりと聞く!いっかいしか言わないからね
 鞘師と小田は石田のリオンにのってカメに直接向かう、佐藤と飯窪、ふくちゃんはさゆみんの警護
 飯窪と工藤は愛佳の予知を私達に伝えて、生田は私と一緒にサイコダイブの用意を」
「新垣さんと一緒に?えり、がんば・・・」

そこで生田の近くに何かが勢いよく落ちてきた
砂埃があがり、じきにその何かが見え始めると、生田はひぃっと叫び声を上げた
「て、手首っちゃん」
それは間違いなく人の右手であったもの。切断された断面からは骨がのぞいている

あわてて亀井とリンリンのほうをむくとリンリンの右手首から上がなくなっていた
「アハハ、やはり亀井サンは強いデス」
地面に尋常ではない量の血だまりができあがっていた。左手で右手首をやいて止血しているようだ
「しかし、リンリンの右手で亀井さんにそれだけの傷を負わせられるなら本望ですね」
なぜか笑うリンリン

309 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:47:31
亀井はというと・・・来ていた衣服に穴が開き、そこから赤く焼き爛れた皮膚がのぞいていた
特に顔面は左目の周囲から頬にかけて真っ赤に腫れていた
「美人の亀井サンには申し訳ないデスガ、手加減できないですからネ」
しかし、亀井はそんな傷の痛みを感じていないのかゆっくりとリンリンに近づいていく
「とはいえ、あはは、リンリンマン、ピンチですね」

一歩、また一歩と近づく穴の開いたブーツを履いた女
煙をあげるパンツから覗く赤く爛れた肌
痛みを感じていないのであろうか、歪むことなき無表情

「ちょっと、何してるんですか!新垣さんも光井さんもジュンジュンさんも!
 仲間がピンチだっていうのに、なんで動かないんですか!道重さんも!・・・もう、私が行く!!」
しびれを切らしたように集中力を高める石田
月明かりに照らされ、青き幻獣が現れ、石田はその背にまたがる

そして、倒れこむリンリンの元へと向かわんと、リオンは強く地面を蹴った
しかし、リオンの動きは光と闇の色を持つ獣の腕に妨げられた
「な、なにするんですか!!」
獣は何も言わず、リオンを抑え込む
「仲間を助けないで何をしているんですか!いま、すべきことはリンリンさんを助けること」
「おまえじゃ、助けられナイ、かわいい後輩、無駄死にさせるわけイカナイ」
「な、なんですか!先輩とはいえ、私だって怒りますよ」
とはいうもののリオンは完全にジュンジュンに抑え込まれ、身動き取れなくなっていた

「せやから」
にじみ出るリンリンの汗が月夜に映える
「こういうトキは」
ザスッとした砂利を踏む亀井の足音
「ハァ、悔しいけど、頼りになる」
満月が宙に浮かび、影が大きくなる
「仲間に任せるの」

310 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:48:11
何者かの影が飛び出し、亀井の腹をけり上げ、亀井は勢いよく転がっていく
「ニシシ・・・ヒーローは美味しいところだけいただくものっちゃん」
不良にしかみえない佇まいはあの日別れたまま、しかしそこに秘めた頼もしさはあの日以上
「ほら、リンリン、立つと。エリに負けるとかありえんちゃろ?」

しかし、驚くのはそれだけではなかった
すぐに亀井が立ち上がった、しかし、ゲボッと血の塊を吐き出した
「ありゃりゃ、れいな手加減せんかったけん、やりすぎたと?」
「イエ、私も本気でしたカラ、バッチリです」
リンリンを背負いながられいながあほか、と呟き、笑う
「でも、えりがこんなんで倒れると思うと?」
「ナイデスネ」
その通りであった。己の吐いた血を見ても動じることなく、ただただ二人を、リゾナンターを眺めていた

血が得意ではない工藤にとってその光景はさぞおぞましいものであったのだろう
内心、気持ち悪かったのだが、逃げるわけにもいかない、とあえて他の視線から亀井を観察しようとした
・・・と、あるものに気づいた
「道重さん」
ぽつりと工藤が報告する
「なに、工藤?」
「亀井さんの力って・・・風使いと傷の共有、それだけですよね?」
「??? そうだけど・・・何?」
「・・・亀井さんの傷が治ってます」

そうなのだ、ゆっくりとであったが、亀井の傷が少しずつふさぎ始め、赤く爛れた肌も元の肉感的な色を取り戻していた

それをみて慌てるのは鞘師や生田、譜久村をはじめとした、始まりの9人以外
新垣、道重、田中、光井、ジュンジュン、リンリンは物怖じもしていない
それどころか、新垣はため息を漏らしていた
それを見逃さなかったのは鞘師と小田の二名
(今、新垣さんため息を??)(・・・何か知っているんでしょうか)

311 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:49:08
「何をしているんだ亀井!!何をもたもたしている!!
 田中に新垣に道重に光井、リンリン、ジュンジュン、それに9人もそろっているんだ!!」
甲高い声が糸のように張った緊張感を切り裂いた
「詐術師!!おったと?」
「な、このおいらのことを!!おい、亀井!」
「・・・」
「この、生意気ななんちゃってヤンキーをやっつけろ!!」
亀井は動かない
「おい、聞いているのか!!亀井、お前、先輩の言うことがきけないのか!
 おい、反応しろよ!時間の無駄なんだよ!!役立たずが!」
そこで亀井はぴくっと反応し、詐術師へ顔を向けた
「お、そうだ、それでいいんだ、少しは反省するんだ、おいらはオリメンにもっと・・・」
そこで詐術師は体の異変を感じた。人並み外れて饒舌なはずの口が動かしにくいのだ

「ふ、譜久村さん、あれ・・・」
「え、そうみえますけど、そんなこと・・・」
「いやいやいやいや、嘘だ、嘘だ、嘘だから、嘘だから」
慌てる敵の姿に急に不安になった詐術師は喉元に手を伸ばした。しかし、妙に風を感じるのだ
(なんだ?いやに体が軽いぞ)
喉に手を当てたが、おかしい、何も触れられないのだ
(???)

そして突きつけられる現実、水溜りに映る自分の姿
腕が、喉元に当てようとしたはずの腕が、途中から淡い光になって消えていっているのだ
月の光に照らされ、淡く桃色に光って自身の体が溶けていく
(な、なんだよ、これ!!)
そう、叫びたくても、すでに喉も光に溶けていき、声は静寂に置き換わる

人の体が闇に飲み込まれる、恐ろしいはずの光景なのにリゾナンター達は目を離せなかった
元々小柄の詐術師の体が少しずつ、桃色の光に浸食されていく
一人の人間が闇に溶ける、そんな光景が美しく目が離せないのだ

312 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:49:50
とはいえ、消えかけていく当の詐術師は気も狂わんばかりに暴れ続ける
口であった、大きな穴から、声が出ているのであれば壊れんばかりの叫びをあげている
その音は誰にも届かない
恐怖、それだけであろうか、絶望を受け入れなかった者の最後の表情をうかべた


詐術師は消えた、痕跡すら残されていなかった

しかし亀井は笑わない、怒らない、泣かない、悩みもしない
詐術師をけし、何事もなかったかのようにリゾナンター達の方を向いた
「・・・」

各々背中に汗が流れるのを感じ、無意識に力が入る
(いま、わたしに何ができるのだろうか?)
重苦しい空気に肺がつぶされそうになり、呼吸一つすらまともにできそうになる

しかし、意外なことに亀井はリゾナンターから視線を外し、自身の燃えた服に触れた
そして―何もすることなく浮かんでいく

「ま、まって、エリ!待つの!」
親友の声に耳を貸さず、空高く昇っていく
それを待っていたかのように、宙に穴が開き、そのなかに亀井は姿を消した
振り返ることなく亀井は去って行った

「あれはダークネスのワープ装置ですね。ということはまだ亀井さんは」
「うん、ダークネスの側にいるってことだね」
早くも周囲に一般人がいないか、確認しだす新垣と光井

「シカシ、リンリン派手にやられたナ」
「ハハハ、亀井サン、強かったネ。ジュン、バナナくれ」
「ダメダ」

313 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:53:12
「で、でも、助かったっちゃね。あの力、今のえり達じゃどうしようもないと」
地べたに疲れ果て大の字になって倒れこんだ生田
それを覗きこみながら「生田、お疲れ」と鈴木が笑う
「でも、あの力ってなんだろうね。あれって風の力なのかな?」
「ねえ、くどぅー、くどぅの目ではどう視えたと?」
寝ころんだ姿のまま首だけ工藤に向けて尋ねる生田

「はるの眼には、詐術師の体が、こう、溶けていくみたいで、風に吹かれるようではなかったです
 なんていうんでしょうか、こう、お風呂の中に温泉の元をいれたみたいに・・・」
「でも、きれいだったね!」
「まあちゃん!何言ってるの??
「だって、詐術師さんの体、ピンク色に輝いていたんだもん、はるなんも思ったでしょ」
強く否定しきれなかった飯窪は黙るしかなかった

「・・・あの、道重さん」
「なに、りほりほ?」
「・・・私達に隠していること、あるんじゃないですか?」
表情が答えを示していた、明らかに答えはYES
「私達と比べて道重さんたちはあまり驚いていないようにみえました。
 みなさん、なにか知っているのではないんですか?」
「さゆ、隠しても無駄っちゃろ、いわなきゃいけないこともあると。もうれーな達だけの問題やないけん」
「そうだね、私も田中っちに賛成なのだ。この子達もリゾナンターなのだから伝えておくべきだと思う」
いつの間にか新垣と光井も近くに来ていた

「ジュンジュンもそう思うゾ」
「私も同じデス」

「・・・そうね、わかった。れいな、でも、さゆみの口から言わせてほしいの。だって、始まりは・・・」
「わかっとうよ。さゆともえりともれーなは、くされ縁やけん」
「ありがとう。ねえ、みんな、大事な話があるの、しっかり聞いてほしいの」
そして、道重の口から真実が語られることとなる

314 名無しリゾナント :2014/11/08(土) 22:56:14
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(5)です
100話おめでとうございます。
これからも素直に面白いと思える話が出続けることを期待させていただきます。


ここまで代理よろしくお願いいたします。

315 名無しリゾナント :2014/11/09(日) 01:26:21
いってきます

316 名無しリゾナント :2014/11/09(日) 02:35:58
いってきました
途中連投規制回避のため間が空いてしまいましたw

317 名無しリゾナント :2014/11/10(月) 01:49:56
■ ミッシングメモリー −道重さゆみ− ■

ガキさん達に繋がらない。

嫌な予感が、大きくなる。

どうしよう…、どうしよう。

よりによって、こんなときに、ねえ絵里、どうしよう。

リゾナントへと戻る道重さゆみの足が早まる。


「『亀井絵里』です『か・め・い・え・り』、そんなはずないでしょ!」

はっとする、思わず声が大きくなった、だがそんなことをしても意味などなかった。
無駄、無駄だった。

「いいえ、『亀井絵里』さんという方が、入院している記録はありません」

だれも、亀井絵里を覚えていなかった、どこにも記録は残っていなかった。
看護婦さんも、担当の先生も、誰一人、誰一人、覚えていない。
「道重さゆみ」のことは、みな覚えている、それなのに。

318 名無しリゾナント :2014/11/10(月) 01:51:02
不自然だ。

そもそも、この病院の関係者にとって、
道重さゆみは「うちの患者の亀井絵里さんに面会に来る道重さゆみさん」だったはずだ。
それが「うちの患者に面会に来る道重さゆみさん」になっていた。
その患者が誰か、を、誰も覚えていない。
興味すら、示さない。

無かったことになっている。
存在しない。
最初から、いない。

拉致?能力者?組織?

思考が千々に乱れ、不安だけが心を支配していく。

立ち止まる。

だめだ、しっかりしてさゆみ、考えて!考えるの!

かけ続けていた携帯を切る。
はやる心を抑える。
暫く考える。
考える。

そして、再び携帯を。
踵を、返す。

「ふくちゃん、お願いがあるの、今すぐ来て!」

319 名無しリゾナント :2014/11/10(月) 01:51:50
>>317-318
■ ミッシングメモリー −道重さゆみ− ■
でした。

320 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:12:13
【お詫び】
「黄金の魂」という題名に相応しい崇高な物語になるはずだったんです
だったんですが、なんだか最低な話になりつつあります。
共鳴って素晴らしいねって思っておられる方にとっては許せない内容かもしれませんね
回避した方がいいかもしれないと誘い受け

>>-の続き

更にだ…。
朝目覚めると何故か立ってるんだ。
ちゃんとベッドで眠ったはずなのに立った状態で目覚めるんだ。
そして頭の上には大皿に盛られた汁満タンの冷やし中華。
足元にはお気に入りの服が広がってる。
腕は使えない。
何故か
ガムテープで後ろ手に縛られてるんだ。
別に金属製の手錠とかじゃねえ。
ただのガムテープだ。
力づくなら剥がせねえわけじゃねえ。
ただそうするには頭の上の冷やし中華が邪魔だ。
それをどうするか。
部屋や服が汚れるのを覚悟で冷やし中華をぶちまけるか、それとも何とかバランスを取ってせめて流しまで辿り着こうか考え中、不意に真横にあの人が現れて、鼻息も荒く耳元に囁かれるんだ。

「冷やし中華はまだ冷やし中か…なんて・ね」

ただでさえ曇っていたリンリンの顔が土気色に染まっていくのがわかる。

「そそれは恐ろしい。 というかとてつもなく嫌です」

状況を想像してあまりの恐ろしさゆえか、せっかく構築していたアルアルキャラが崩壊してしまっている。

321 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:12:41

「これが真っ向からの殴り合いなら望むところだ。正直そういうの好きだし。しかし地味に確実にHP削られてくの…辛いぜ」

更にと付け加えようとしたアタシを手で制したリンリンは、エレベーターの方へ向かうよう促した

「出来るだけ大人しくしてますから何とか穏便に。それとさっき私が言ったこと保田さんにはなにとぞ内密に」

ふぅ。
どうにかエレベーターに乗れた。まったく最初の関門でどれだけ時間を費やしてるんだか。
あとはさっさと保田の大明神に拝謁して「黄金の魂」とやらについて意見を交換して、あとはさっさと退散だ。

つうか遅い。
このエレベーターのスピードまじ遅いだよ。
いや遅ければご対面が遅れていいといえばいいんだが、遅すぎるのも苛つく。
どう考えたって階段を歩いて上った方が早いっていうぐらいの時間がかかって到着した四階。

このカラオケボックスの建物は大雑把にいうと凹形になっている。
勿論上からみたらの話な。
その左右がボックスになっていて真ん中の部分がエレベーターや階段、そしてトイレが設けられている。
但し一階当たりの面積は狭いので一フロアには男女どちらか一方の専用トイレが作られてるそういう感じの構造。
確か最初の電話では四階にある女子トイレに来てくれって話だった。
でもいきなりトイレに向かうってのもぞっとしない。
とりあえずこの階にあるボックスを覗いてみることにする。
ひょっとしたらそっちの方に鎮座されてるかもしんねえし。
四階の女子トイレを指定してきたってことは三階か五階のボックスに陣取ってる可能性あるわけだが。

とにかくエレベーターを出て向かって左側のボックスに向かおうとしたちょうどその時、そのボックスの扉が開いた。
中からは若い連中の賑やかな声。
違ったか。
出てきたのは基本リンリンのと同じ色調の制服。
ただし男verを着た店員だった。

322 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:13:28
イケメンの部類には入らないな。
こういう接客業で働いている人間特有のちょっと崩れた感が無いどちらかというと無骨な感じ。
髪も短めにカッとして、顎にはゴート髭。
ラーメン屋の大将とか創作居酒屋のマスターなんか似合いそうだな。
そんな感じのCYOIKARAの店員が空になった大皿を抱えて歩いてきた。

「いらっしゃいませ!! 前を通らせていただきます」
「あ、どぅも↓」

なんか活力に満ち溢れてる感じに軽く気圧されたみたいな。
まあアタシはこれからのことでちょっと落ち気味なこともあるけど。
どうやら左側のボックスは関係無いみたいだね、だったら一応右側を覗いとくか。
つうかゴート髭の兄ちゃん呼び止めて保田さんの取ってる部屋番訊こうかな。
らしくもない逡巡で立ち止まっているとジトッとした視線を感じる。
こ、この雰囲気は…。
女子トイレの扉が少しだけ隙間が開いている。
そこからアタシに視線を注いでいるのは。

「遅かったじゃない、藤本」

裏の世界では「永遠殺し」という二つ名で呼ばれている保田圭その人だった。

「つうかアタシ別にあんた直属の部下でもないんですけどね」

意外だと思われるかもしれないが、アタシが身を預けている組織には確固たる指揮系統だとか鉄の規律だとかは存在しない。
各々が心の中に抱く闇で世界中を覆い尽さんとする意志の集合体。
それがダークネスの真実だ。
だから【永遠殺し】と呼ばれる女とアタシの関係も本来なら上下関係なんか無い対等の筈。
だから事前のアポイントメントもない当日の呼び出しなんか応じる義理は無い。
なのにこうしてノコノコ顔を出しているのは個々の力関係とか器の大小とか。

323 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:14:16

まあそれ以上にリンリンにも言ったけどこの人特有の能力を利用しての嫌がらせがたまんないという面もあるんだが。
いまふと思ったんだが保田さんの能力を使った数々の嫌がらせこそ本当の「パワーハラスメント」ってやつじゃねえか。
ま、ともかく完全に無視を貫くのはキツイ相手だが、唯々諾々と従うのも業腹だってわけさ。
ま、そんなアタシの感情なんか目の前にいるオバハンには関係なさそうだが。

「まあいいわ。重大事なのよ藤本」

だからね〜もう少し手順を踏むとか相手に花を持たせるとか思わないのか。
思わないんだろうね。
そういう先輩風っつーかボス風を吹かせたいんならテメーのシンパ相手に吹かせて欲しいもんだが。
まあ来てしまったんだから仕方ない。
とりあえず話は聞いてやる。
が、その前にだ…。

「重大な話をこんな所で立ち話するのもなんでしょうが。 部屋に行ってますから何号室か教えてくださいよ」

初冬っていうには早い時期。
それでも外を出歩くのに少し肌寒くなってきたのは事実だけど、ビル内は空調のおかげでまあ快適にすごせる温度である。
一体型なのか女子トイレもその恩恵は被っている。
寒くてしょうがないというわけではない。
だったら何故場所を変えたいかというと。
臭いのだ。
いやっ、誤解しないで欲しい。
そっちの方の臭いじゃない。
芳香剤だかなんだかの匂いが強烈過ぎて、鼻が拒絶反応を起こしそうなんだ。
アタシは【永遠殺し】にそのことを伝えるために、わざと鼻をクンクンさせてやった。
こんな臭いところじゃ話をする気になれませんってなぐあいに。

「鼻が利くわね、藤本。Chloeのオードパルフォムよ。このひねりを加えた遊び心が気に入ってるのよね」

324 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:15:00

悪かった、Chloe。
あんたらの賞品を貶すつもりじゃなかった。
ただどんな香水でも度を過ぎてしまったら逆効果だと思う。
っていうか、このオバハンはいったいどれほどの量を使ったんだ。
それとも瓶ごとぶちまけたのかってぐあいの感じなんだが。

「とにかくここから離れるわけにはいかないの」
「ですけど他の客がいつ入ってくるかもしれませんし」
「その点は大丈夫。この階のもう一方の部屋は若い男の子ばっかりみたいだし」

いやっそれだけじゃ不十分だろう。
一階ごとに男女各々の専用トイレが交互にあるってことはこの階の上下階の女性客がやってくる可能性も高い。
女子会とかやってる部屋があったら、ただでさえ足りないだろうし。

「とにかく今ここを離れるわけにはいかないの。最悪誰かが来たときには【時間停止】を使用してでも排除するから」

オバハ…いや保田さんの口から【時間停止】という言葉が出たことでだらけてたアタシの中の緊張が高まった。
何故かって?
一口に能力者といってもいろんなタイプがある。
能力の種類に色々あるというのは勿論だが、今アタシが言っているのはそういうタイプ分けじゃない。
その能力者の品性というか人格、ようするに自分の能力を必要以上に誇示するかしないかっていうタイプ分けだ。

神様の気まぐれってやつで異能を手にしたことに不幸を感じるどこかの喫茶店の連中みたいな奴ばかりじゃないってこと。
人とは異なる能力を手にしたことに浮かれちまって使いまくることで自己主張するタイプも少なくない。
勿論誇示するといったってテレビのバラエティ番組で実演したり、動画サイトにアップしたりするとかじゃない。
そんなやつらは全てとまではいわないが殆どがまやかしのイカサマだ。

要はここで使うかってタイミングで必要以上の強度で能力を行使してみたり、その能力を応用した技にこっぱずかしい名前をつけたりする奴。
一番わかりやすい例えが石川梨華だ。

325 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:15:57
アイツのサイコキネシスは確かに協力だ。
そんなものに番付があるのかどうかわからないが、力の最大出力や精緻さ連発が効くか。
いろんな面を総合すれば、アイツはサイコキノの横綱級だろう。
その念動力を使って粛々と粛清人をやってればいいものを、アイツはそれだけに留まらなかった。
念動波による攻撃にオリジナルのネーミングをつけるという痛い真似をしえかした。
波動を刃状に形成した攻撃を念動刃(サイコブレード)と名づけたあたりはまだ良かった。

しかしバカなアイツはやらかしちまった。
銃弾状に調整した波動を念動弾(サイコブレッド)と名づけちまった。
弾丸といえばブレット。
ブレッドといえばパンのことじゃねえか。
念動で捏ね上げたパンはさぞかし弾力があって美味いことだろうよ。
アタシが皮肉交じりに教えてやっても間違いに気がつかねえ。
そればかりかその名を裏の世界に広めようと、サイコブレッドを放つ度に従属武官(取り巻き)の岡田とか三好とかに叫ばせる始末。

「石川さん、あかん。 サイコブレッドみたいな強力な技使ったら跡形も残らへん!」
「うぉぉぉぉぉぉ。 さすがは黒の粛清。サイコブレッド、っぱねえっ!す」

恐怖を世界に知らしめるべき粛清人が、バカっぷりを裏の世界中に知らしめてしまった。
っていうかv-u-denも気づけよって話だ。
当の石川はというとオリジナル攻撃第三弾として念動嵐(Psy-clone)を編み出すために修行中だ。
ホントまじサイクロンでどっか飛ばされていってくれねえか。

話は逸れた。
そんな不詳の弟子である石川梨華とは違い、【永遠殺し】保田圭はその能力を誇示しないタイプだ。
いや【永遠殺し】という二つ名自体が香ばしいといえば香ばしい、それは認める。
能力を発動する際、“時間よ止まれ”だの“時間よ私の前に傅きなさい”だの詠唱を行うのも微妙なところだ。
そもそもアタシをはじめ意に沿わない相手に能力で悪さをすること行為自体が能力の誇示でないかという見方もできる。

326 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:16:54
しかしアタシから見た保田圭は己の能力を誇示しないタイプに属する。
石川梨華が広く拡散するタイプなら、保田圭は一点に収束するタイプとでもいおうか。
石川梨華がバカみたいにくぱぁーっとおっ広げるタイプなら、保田圭はウジウジもったいぶるタイプとでもいうか。
とにかくそんな保田圭の口から【時間停止】能力を使用してでも機密を守ると言ったのだ。
緊張も高まるってものさ。

アタシが来るなり、重大事とやらについて話し始めようとしたってことにしても、アタシが頼りにされてるってことだろう。難儀なところもあるがその実力を認めざるを得ない先達に当てにされたんなら気分は悪くない。
密談に応じてやろうじゃねえか。
そんなこんなで香水の強烈な匂い漂う女子トイレに留まることを決めたアタシは、自分も警戒するつもりであるということを示すため、ドアに険し目の視線を注ぎながら話を促した。
そういや「黄金の魂」についてとかいう云ってたっけ。

「とんでもない事態に陥ったのよ」
「だからどんな事態だってんですか」

よく見るといつになく慌て気味のご様子だ。
こいつはほんとうに一大事が起こったのか。
例の喫茶店に新人が四名も入ったという情報は掴んでいるが、いきなり主戦力として使えるとも思えねえし。
ってことはやっぱり内向きの問題か。

「トイレの水が流れなくなったの」

は? 今なんと仰いましたかね。

「聞こえなかったの藤本。 トイレの水が流れないの」
「いやそれはおかしい。それはそれなりに大変だろうけどアタシをわざわざ呼び出すほどじゃないでしょうが」

これはからかわれてるのか。
いやっそれとも。

327 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:18:27
「黄金よ」
「あぁそういえばメールでそう書いてましたっけ。 確か黄金の魂」
「黄金の塊よ」
「はぃ?」
「本当に鈍い子ね。黄金の塊を詰まらせてトイレの水が流れなくなったって言ってるの」

あのすいません。
その黄金の塊っていうのは、まさか?

「ここ一週間お通じがすぐれなかったのよね。 だから午前中、前に効果があった骨盤矯正を整体院でやってもらったのよ」
「おい、アンタちょっと待てよ!!」
「午後は隠れ家でペーパーワークに没頭してたんだけど、全然来る気配が無くてね」
「言うに事欠いて何言ってるんだ」
「それで油断しちゃったのよね。で、執務が終わったからいつもみたくこの店に歌いにやってきたんだけど」
「語るな。しれしれと経緯を語るなっていうか聞かせるな。そんなもの聞きたくねえんだよ」
「ワインにシャンパンを空けて、あ勿論ミニボトルよ。それから定番の芋焼酎を頂いていると、来たのよ。ビッグウエーブが」

いやっ、もう何が来たのかとかは言うなっていうか言わせねえよ。聞きたくねえよ。
脱兎のごとくその場から立ち去ろうとしたアタシを【永遠殺し】の微妙に篭る声が制止した。

「そんなに今晩夢の国に辿り着くまで耳元で“おやすみきてぃ”って囁いて欲しいの?」

既に永遠に醒めない悪夢に迷い込んでいる気がするんだが。

「そんなに私の手作りの味噌汁の香りで目が覚めたいの? まな板で糠付けを刻む音で目が覚めたいの? ほっぺにチュッで目が覚めたいの?」

想像するだけで何かを催してきそうなシチュエーションから考えを逸らそうとするアタシ。
その原因たる【永遠殺し】は、あっと声を洩らしていた。

328 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:19:08
「よく考えると私の言ってること全部お仕置きじゃなくご褒美よね」

いえ、かなりキツイ地獄の刑罰なんですけど。

「とにかく待ちなさい。私の話を全部聞きなさい」

【永遠殺し】保田圭の口から語られたこと。
それは闇の、裏の世界における【永遠殺し】の存在意義。

さっきアタシは言った。
ダークネスには確固たる指揮系統だとか鉄の規律だとかは存在しないと。
ダークネスの幹部級は一国一城の主みたいなものだ。
ということはその稼ぎも自分の才覚によるってことだ。

勿論ダークネスの利益に繋がる破壊工作だとか粛清だとか。
そんな特別業務に携わった場合は特別報酬がきっちり支給される。
しかし基本的に二つ名持ちの幹部級の能力者は、自分の才覚で稼いだ金で自分を養っている。
そればかりかその稼ぎの中から少なからぬ献金だか上納金だかを上層部に収めてさえいる。
そこまでして組織に所属しているメリットがあるのかと言われたら、あるとしか答えられない。
詳しくは言えないけど、これまで散々派手に暴れてきたこのアタシが、警察の目とか気にせずお天道様の下を歩いているのはそのほんの一端なんだなあ。

とにかくアタシたちが口に糊するのにもっとも手っ取り早い稼ぎ口は、雇われの荒事だ。
石川なんかは粛清の他にどこかの金持ちの依頼で、貴重な美術品だかレアものの宝石だかを盗んだりしてる。
何を血迷ったのか岡田や三好を引き込んで“怪盗v-u-den”と名乗り、盗みの予告状を送り届けたり、盗んだ現場にメッセージを残したり。
まあ目立ちたがり屋のバカだ。
【催眠】能力を保有する吉澤あたりは、命知らずの密入国者や無知無教養なならず者に催眠を施して編成した一夜限りの軍勢、“Midnight shift”を派遣して結構な金を稼いでる。

329 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:20:02
かくいうアタシもそっちの方面じゃ【戦争魔女】として知られている。
アタシの異能は他の奴らの異能とは違っていて、発動やらに手順が必要で時間がかかる。
その所為で一対一のバトルでそのまま活用するのにはちょっと不利なんだが、一度発動すれば、ロングレンジかつワイドレンジの攻撃が可能。
つまり軍隊の援護射撃ってやつにおあつらえ向きってことさ。

そんな雇われの荒事がダークネスの利益に繋がらないと判断された場合は、依頼の段階で即時撤収命令が出る。
しかし利益を損なわないと判断された場合は何の連絡もない。
時に、戦争の相手側にダークネスの人間が立っていたとしてもだ。

あの時は熱くなりすぎた。
中央アフリカのとある国の守旧派と革新派の争い。
アタシの手駒は現地の正規兵が二百人ばかり。
革新派の支配してる地区に急襲を掛けた。
十三万発の氷槍を撃ち込んで突撃させた革命軍本拠はもぬけの殻。
正規兵とはいっても過酷な訓練を乗り越えた精鋭ってわけでもない。
所詮は烏合の衆。標的を見失って右往左往しているところに横槍を仕掛けてきたのが“Midnight shift”。
欧州で民主政権の発足を宣言した革新派に雇われた吉澤が指揮していた。

アタシたちダークネスは手を取り合って一つ船に乗り、同じ場所に向かって旅する同行者じゃない。
各々が約束の場所の方角に向けて走る船にたまたま乗り合わせただけの同乗者に過ぎない。
だから時にアタシたちは潰しあう。
だからこそアタシたちは常々蝕み合う。
戦い続け、最後に生き残ったたった一人の者に闇の王の王冠を授けることこそが、ダークネスの大義であるかといわんばかりに。

アタシたちの一人一人が心に秘めた目的と。
ダークネスが世界の闇に向けて掲げる一つの大義。
二つのものが必ず溶け合うとは限らない。

だからアタシは一杯喰らわされた吉澤の澄ました顔に最低三十発は叩き込むつもりで奴の率いる軍隊に突進した。
奴もアタシを殺る気満々で傀儡と化した部隊を展開した。

330 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:21:16
結界と地雷網。
氷矢と銃弾。
眩霧と十字砲火。

存分に潰し合った結果、馬鹿を見たのはアタシたちの尖兵となった者たち。
敵のアイツの凶弾に倒れたのか、味方のアタシに背中を撃たれたのか。
敵のアタシに胸を貫かれたのか、味方であるアイツに欺かれ非業の死を遂げたのか。
合わせて五百近い死者が出て、内戦は実質的に終わった。
勇ましい兵隊たちは馬鹿を見たけどその国の民衆たちにとってはそれほど最悪の事態ってわけじゃなかった。
武器を持つ力を持たず、現為政者からも未来の為政者候補からも穀潰しの無駄飯食いとしか扱われてこなかった女子供に怪我人たち。
軍事力を喪失したその国の異常事態を憂いた世界の首脳が国連のPKOを派遣した結果、失われるはずだった多くの命が救われることになった。
でもそれで一件落着と収まらないのがこの世の中だ。

安全地帯から資金を提供してアタシたちを動かした支配者たちは自分たちの権益が損なわれる事態を快く受け入れるはずも無い。
最悪の事態をもたらしたアタシたちに制裁を加えるべく、手元に残った有り金全部つぎ込んで別なる闇を動かそうする。
そんな時にあの人は現れる。

【永遠殺しの調停者】

あの人は緊迫した時間を止め、時にスケープゴートを仕立て、時に代案を示し、時に当事者を時間から排除することで、錯綜した事態を調停する。

“Gravity” 後藤真希
“Terrible Assassin”高橋愛

世界の災厄と恐れられる二人の能力者と比してなんら劣らぬ力を持ちながら、そのチカラを誇示しようとしない存在。
チカラを誇示しないことで、その存在を誇示する存在。

331 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:21:51
「つまり私の存在があってこそ裏の、いやこの世界の均衡は辛うじて保たれているといっていい」
「それは確かにそうかもしれませんけどね」
「そんな私が黄金の塊でトイレを詰まらせたという恥辱に塗れて尊厳を失ったら、…この世界の均衡は損なわれてしまう。違うかしら?」
「台無しだ! 八十行近く使ってハッタリかまして何とか盛り上げようとした努力が“黄金の塊”の一言で台無しだ!」
「私の黄金の塊は結構盛り上がってるんだけどね」
「言うなぁぁぁぁぁぁ」

ふてぶてしいオバハン。
いや往生際の悪い永遠殺しに対して思いの丈をぶつける。

「あのな、このスレだって大変なんだぞ。リゾナントブルーの原点の九人はどんどん卒業していって、作者だって代替わりしていって」
「安易なメタは見透かされるわよ、藤本」

あんたの言ってることも大概メタメタだけどな

「とにかく黄金の塊とかむちゃくちゃだ。 時に寂れたり、時に荒れたりしながらなんとか百話までやってきたこのスレが終わっちまうじゃないか」
「…ふっ。 そう、だったら始めましょうか。スレの終わりの始まりをこれから始めましょうか」
「アンタ女として、いや人として終わってるけどな」

あまりにも理不尽な状況に巻き込まれたことへの抗議を口にしながら、それでもどこか違和感を覚えていた。
たしかに女性が自分のう・・・黄金の塊で水洗トイレを詰まらせてしまうという事態は深刻な事態ではある。
しかしそれはその女が普通の人間であればこその話だ。
今、アタシの目の前にいる女はただの女ではない。
【永遠殺し】なのだ。
時間停止能力を使える存在なのだ。
私怨と私怨を胸に激闘を繰り広げる能力者の間に立ち、戦いを調停できる存在なのだ。
調停に応じない不逞の輩には制裁を加えられるほどの強者なのだ。
たかだかカラオケボックスのトイレの水の流れとか気に病む必要など無いではないか。

「あっはっはっ」

332 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:22:49

かなり不自然だが何とか笑うことができた。
別に気が触れたとかではない。
【永遠殺し】はアタシをからかってるのだ。
あるいは、あるいは本当に自らが創り出した黄金の塊でトイレを詰まらせたことでパニくってしまって状況を必要以上に深刻に捉えているのだったら、そのことに気づかせてやればいい。

「何も深刻な事態なんかじゃねえじゃねえか」

怪訝そうにアタシを見ていた永遠殺しは首を傾げる。

「そう…かしら」
「そうに決まりきっているじゃねえか。アンタの能力なら誰に見咎められることもなくこの窮地から脱出できるじゃねえか」

そう、【永遠殺し】保田圭の能力は時間停止。
時間を停止させている間にこの場から立ち去って、ついでに店からも退去すれば何の問題も残らない。
いやっ何も問題が残らないということはないだろう。
少なくともこの女子トイレに黄金の塊は残る。
それを放置プレイというというモラル的な問題も発生はする。
料金を清算せずに逃亡するという明らかな犯罪も起こしてしまう。
だがそれだけだ。
それだけのことで、闇の世界で囁かれる【永遠殺し】の名誉は守られるのだ。
いきつけのカラオケボックスを一軒失うことにはなるだろうが、その程度で…。

「それはダメよ」
「はぁそれはまたどうして?」

ひよっとしてまさかの公徳心でも目覚めたか?

「そんな真似をしたらもうこの店を使えなくなるじゃないの」

333 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:24:01
それはトイレに黄金の塊を放置した奴がどのつ面下げて顔を出せるかって話だよな。
まあでもこの界隈でカラオケを唄える場所がここ一軒ってわけでもあるまいし。
まあ駅から一番近いし便利といえば便利だけど。

「そんなことをしたら、彼に会えなくなるじゃない」

はぁ?
彼ってなんだよ彼って。
この期に及んで新しい登場人物か。
オリキャラか、それともモデルはいるのか。
いたら面倒くさいぞ。

「あなただってさっき会ってたじゃない」
「あ、ええっとすいません。その彼ってまさか」
「この支店を取り仕切っている主任の彼よ」

あのゴート髭か。
ああまあこのオバハンの年齢的には、あのぐらいが似合いなのか。

「それで藤本、さっきは彼と何を話してたの?」
「いや、別に」
「別にってことはないでしょう。さっきだってアンタらしくもなくしおらしくしてたじゃない」

何がアタシらしくもなくだ。
さっきはアンタに会うのが気が重たかったからああだっただけで。
いやそもそもこんな目に遭うと分かっていたら、どんなイケメンだって突飛ばして逃げてるさ。

なんとなく見えてきた。
つまりこのオバハンは自分が憎からず思ってる男に醜態を知られたくないから、何とかして黄金の塊を極秘裏処理したいんだ。
その片棒を担がせるためにアタシを呼び出したと。
ほぅ、上等じゃねえか。だが、しかしだ。

334 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:26:05
「残念ながらそれはできませんぜ」
「何ができませんよ。私はあんたが彼と何を話してるのか訊いてるの」
「うっさい。もうそんなことはどうでもいい」
「よくないわよ。はは〜ん。さてはあんたもあの男性を…」
「いやっ、まじカンベンしてくれよ。話がややこしくなるだけだからさ。とにかくアンタがアタシに何を望んでるかはわかった」
「…そうなの」
「いやっ、アンタ物憂げに喋ったらいい女に見えるとか思ってんじゃねえだろうな」
「そんなこと…ないけど」

うわ、むかつく。
アタシはわかってしまったんだ。
自らが創り出した黄金の塊で行きつけのカラオケボックスのトイレを詰まらせたこの女が、氷雪の魔女と呼ばれるこのアタシに何を望んでるかわかってしまったんだ。
何か雑学の本で読んだことある。
ひょっとしたらテレビのクイズ番組で知ったのかもしれないけど。

アラスカとか気温氷点下が当たり前の地域では、小用を足しているその先から凍っていって中々愉快なことになるとか。

「つまり大小の違いはあるけど、要するに処理しやすいように固めちまえってことだろう。アタシの魔術で」
「結構、固まってると思うんだけどね黄金の塊」
「だからしれっと状態を言うのはやめれって絵が浮かぶから」

本質的には常識人の部類に入ると思うんだが、どこかズレてるだこの人は。
魔法という自分の異能をそんな用途に使用するのはぞっとしないが、それでもそれを行使することでこの事態から抜け出せるのなら、使いもしよう、だが。

「今のアタシには新規の魔法は使えないんだ」
「…それはどういうこと」

だからその…は、まあいい。
とにかくアタシの事情を説明するのが先だ。

335 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:26:57
「アタシの魔法がアンタの能力とは仕組みが違うってことはわかってるでしょうが」
「確か魔法陣とか呪文とかが必要だったとかかしら」

厳密に言うと、アタシ藤本美貴は能力者ではない。
“普通”の能力者なら。
一度発現した能力を学習によって我が物にした“普通”の能力者は、自分の手足を動かす感覚で異能を行使できる。
しかし、“普通”の能力者ではないアタシの場合はそうはいかない。
アタシの異能は「魔法」だ。
「魔法」を使うには儀式という手順を経て、魔力を練成する必要がある。
「魔法」の種類によっては精霊の力を借りるだの、悪魔と交わって魂を売るだの表現は異なるが、要するに能力者と同じプロセスで異能を行使したりはできないということだ。
石川梨華や吉澤ひとみや保田圭たち“普通”の能力者にとって各々の異能を行使するということは、スーパーで買い物カゴに自分の必要な商品を詰め込む作業に等しい。
勿論、財布の中身が乏しければ買い物カゴに詰め込むことを諦めなきゃいけないだろう。
商品が大きすぎれば、買い物カゴが詰め込めないこともあるだろう。
しかし一定のレベルに達した能力者にとって、その能力を使うということは日常の延長戦にある。

だがアタシが「魔法」という異能を使う場合、ちょっとばかり面倒くさい。
買い物カゴの例えでいうなら、まずカゴを作成するところから始めなきゃいけない。
カゴが出来たら今度は商品の種類や価格を一つずつチェックしてそれを音読して、旦那様にお伺いを立ててようやくカゴに in みたいな感じ。
大喰らいの科学者なんかはアタシの魔法のプロセスをプログラミングみたいだと言うんだが、…そうなのか?

「藤本、あんたの方が格上なんだからお伺いなんか立てる必要ないでしょ」
「どれだけ出たがりなんだ。 ここ後々大事なところなんだからガメラみたいな首突っ込まねえでくれよ」」

何故、そんなプログラミングみたいな行程が必要なのか。
その件を科学者に尋ねたら、こんな説明をされたことがある。

336 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:27:27
どういうわけだか、能力者には女性が多い。
いやっ男の能力者だっているにはいるが、世界の災厄や最悪、最強と称せられるほどの高レベルの能力者。
たとえば、後藤真希。たとえば高橋愛。あるいは中澤裕子。
そして今目の前に居るガメラ、保田圭。
彼女たちはみな女性だ。
どうしてそういう分布になったのか。

女と男の脳神経の機能の仕方の違い。
脳梁と呼ばれる左右の脳を繋ぐ部分を中心に、右脳と左脳をつなぐネットワークが濃く形成されている女の脳。
左右の脳をそれぞれ使って、脳の前後を接続するネットワークが形成されている男の脳。
小難しい理屈はよくわからねえが、つまり女の方が男よりも左右の脳を連携して使っているということだ。
その差、情報処理力の差こそが高レベルの能力者は女に多く現れる原因だという仮説がある。
その仮説を元に人為的な処理を経ての能力者育成プログラムが世界のどこかの国ではすでに存在するとか、そんな噂はどうでもいい。

つまり“普通”の能力者と比べて情報処理能力に劣るアタシは魔法の儀式という拡張メモリーを使用して、処理能力の補完をしているのだと、科学者は言っていた。
自分ではそんな複雑なことをしているつもりは無いんだがな。

「でもアンタいちいち呪文とか唱えなくても、氷矢とか撃ってるじゃないの」
「それは細工があるんですよ。ちょっとした細工がね」

儀式を経て練成した魔力は強力だ。
厳選した強い地脈の上で練成した魔術は、気象にさえ干渉できる。
春だというのに遭難者が続出するほどの寒波さえ呼び込めるほど、強力かつ広大な魔法を行使できる。
しかしそんな魔法は能力者との近接戦では役に立たない。
特攻機に懐に飛び込まれた大型戦艦って感じだ。
儀式を必要とするタイムラグの問題も含めて、闘いの最前線に立つには通常の魔法では不利だ。
だから、あんまり気は進まないんだが練成した魔力を近接戦向きの能力に変換して蓄えるということをアタシはしている。
蓄えるものは出来るだけ、魔法ってものが発生した時代に存在していた形が望ましい。
古式ゆかしい杖とか箒でもいいし、装飾品であったり古式のドレスとか。

337 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:28:33
「アンタのドレスにもそんな意味があったのね。私はまた時代錯誤の痛々しいコスプレ女だとばっかり」
「コスプレとか言うなっ!!」

なぜ魔力から能力への変換に気が進まないか。
それは魔力を魔法のために使う場合に比べて、交換レートが悪いってこと。、
為替の円安ドル高みたいな感じの。

「ここのところの円安にも困ったものね」
「アタシは今、アンタに困らされてるけどな!!」
「どうしたの藤本、落ち着きなさい」

いやっ、アンタに言われたくは…まあいい。

「だから今アタシは護身用に氷矢と氷槍十発ずつぐらいしか魔力は確保してないんです」
「それは本当なの、藤本」

魔力の練成にはそれなりのコストが必要だし、体力だって消費する。
だから必要以上の練成は行いたくないし、擬似能力に変換するのもより効率良く行っておきたい。

「つまり氷矢用の魔法は最初から氷矢用の擬似能力として変換してるんで、それを凍結に転用したりは出来ねえってことです」

今すぐこの場で誰にも知られず、黄金の塊を処理しやすくするよう凍結させることはできないということだ。
新たに魔力を練成するにせよ、擬似能力を再変換するにせよそれなりの手順を踏まねばならない。
魔方陣をこの場で構築するには、必要なものが足りないし、アタシの家に一度は戻った方が早い。

「まあ残念ですけど」「それは好都合だわ」

えっ。
アタシは耳を疑った。
今アタシが魔法を使えないことが好都合。
どうやって隠蔽するつもりなんだ。

338 名無しリゾナント :2014/11/11(火) 14:29:24
真意を問い質そうとしたアタシの目の前で【永遠殺し】は言葉を発した。
それはまるで魔法のような事象をこの世界に顕現させるキーワード。
【時間停止】能力を発現させる際に為される詠唱の文句。

「時間よ、私の前に傅きなさい」

闇色の光というものがいったいあるのかどうかそれまでわからなかったアタシだけどたった今それを見ちまった。
それは保田圭の暗く燃える瞳から放たれる漆黒のオーラ。
収束していく時間の中でアタシが見たもの、それは…。


>>-

以上『黄金の魂』改め『黄金の塊』

次回完結。

339 名無しリゾナント :2014/11/13(木) 21:04:56
違和感。
一言で済ませると、たった三文字で終わる。
しかし、それだけでは終われない。何故なら今は、戦闘の最中なのだから。

「凄いですね。私のテリトリーに入って平気で居られる人、はじめて見ましたよ。さすがは『鞘師』の継承者、
といったところでしょうか」

目の前の、里保よりやや年下に見える少女が言う。
テリトリー、の発音がやけに流暢だ。

里保の肩が大きく上下する。息が、乱れる。
例の「違和感」は、彼女の精神のみならず肉体にまで影響を及ぼしていた。

「『鞘師』のもの、か。その言い回し、どういう意味かな」
「意味もなにも。私は貴方が『鞘師』である以上、倒さなくてはいけない。do you understand
?」

ドゥーユーアンダースタンドと来たか。
まるで英語の授業に出ているようだ、と思いつつ。
この状況を何とか打破しなければ。でなければ。
地に這い蹲る結末が待っている。

少女が懐から取り出すは、銀色のナイフ。
それが、まっすぐに里保に向かって飛ぶ。だが、里保は回避行動を見せない。
案の上、鋭い刃は里保の体を突きぬけ明後日の方向へと消えていった。

目に見えるものは。耳で聞こえるものは。そして肌で感じるものは。
信用するな。

それが少女と短い間交戦して学んだ、事実。
太腿を走る痛々しい赤い痕が、それを教えてくれた。

340 名無しリゾナント :2014/11/13(木) 21:06:00
「警戒してますね、鞘師さん。私の異能を」
「恐ろしい能力だからね。人の感覚を悉く”狂わせる”」

少女が里保の前に現れてから程なく、相手が仕掛けてきた。問答無用というやつだ。
違和感は既に始まっていた。
少女が投げるナイフ。速さはさほどではなかった。なのに。

避けられなかった。
いや、正確に言えば何かの嫌な予感から刀を咄嗟に下段に構えていたが故に、ナイフが深々と刺さる事はなかっ
たものの。
それでも、予想できなかった軌跡が里保の肌を裂く。
だがそれすらも、立て続けに続く不可解のほんの端緒でしかなかった。

攻勢に出た里保の一太刀はあっさりと空を切る。
避けられたわけではない。少女は涼しい顔をしてその場に立っていた。
まるで、里保自身が「目測を見誤った」かのように。

それからは。
こちらの攻撃は当たらず、相手の攻撃は読めず。
ナイフが飛んできた方向とはまったく異なる方向からの鋭利な痛み。
念のためにと張って置いた水のバリアもまた、投擲の直撃を避けるための気休めの防護策にしかならない。その
ことが、里保の精神をすり減らしてゆく。

「…じゃあそろそろ、本番と行きましょうか」
「!?」

その瞬間、少女の姿が掻き消えた。
違う。いつの間にか懐に入られていた。
そこから繰り出される、拳、蹴り。

341 名無しリゾナント :2014/11/13(木) 21:06:41
「…体術も得意なんだ」
「むしろこっちのほうが本領ですけど」

見えている動きとはまるで関係ない場所が軋み、打ちのめされる。
防戦一方。身を固めるしか術がなかった。
先ほどのナイフは間隔を空けて攻めていたから、何とか直撃を避けることができた。
しかし肉弾戦ではその隙さえ与えられない。

このままではいずれガードが打ち崩され、決定的な一撃を与えられてしまう。
その証拠に、これだけの乱打をしておきながら少女は汗一つ、かいていなかった。
フィニッシュブローを温存しているのは、火を見るより明らかだ。

目に見える軌跡が。空を切る音が。肌で感じる空気が。全てまやかしならば。
何を信じればいいというのだろう。
里保は相手のサンドバッグになりながら、それでも考える。
浮かんだのは、遥か遠くの故郷にいる祖父の顔だった。

342 名無しリゾナント :2014/11/13(木) 21:15:45
>>339-341
「幻影(前)」

野中さんの能力設定の叩き台になれば

343 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 02:28:38
わたしの敵はわたしの中にいるとずっと思ってた。
“精神破壊”
人の精神を焼き尽くす狂気の焔を吐く悪竜。
それがわたしの中にいる化け物の正体だ。

かつてわたしには三十人の級友がいた。
ある日わたしは三十人の級友を失った。
それはわたしが三十人の級友を地獄に突き落としたせいだ。

わたしが作り出した地獄。
それは級友を発狂させ、級友同士で傷つけ合わせ、体にも心にも決して癒えることのない傷を負わせた。
三十人、いや家族を合わせれば百人以上の人生をわたしは一瞬で壊してしまった。
決して救われることのない地獄のど真ん中で私はけたけたと笑っていた。
誰もが救えないと諦めかけたわたしにただ一人手を差し伸べてくれたやつがいた。

“なぜ、泣いてるの?”

狂乱の現場から昏睡状態で搬出された先で目覚めた私が目にしたのはペットボトルを手にベッドの横で佇んでいたあいつだった。
喉の渇きを覚えペットボトルに物欲しげな視線を注ぐ私を無視して、看護士を呼び出してから病室の外に出て行ったあいつ。
あん時はすかして小憎らしい奴やと思った。

身体の傷が癒えるにつれ、混濁していた記憶が回復していく。
自分の犯した罪を受け止めきれないでいたわたしにカウンセラーの人は言ってくれた。
わたしが悪いんじゃない。
あれは能力が暴走した結果、起きた悲惨な事故なんだって。

そんな曖昧な言葉に縋りつき、足掻いていたわたしにあいつは言った。

「能力に勝手に手足が生えて、イクちゃんたちの前にやってきたんじゃない。 あれはイクちゃんがやったことなんだ。だから…」

344 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 02:29:44
チカラを手にしてしまった者の責任。
そのチカラで人を傷つけないこと。
そのチカラで人を救うこと。

だからわたしはわたしの心の中の刃を二度と抜かないと心に決めた。
“精神破壊”
人の心を焼き尽くす狂気の紫を二度と燃やしてはいけないと。

今あいつは傷つき倒れ地に伏している。
わたしとの鍛錬では見せたことがないほんとうの本気を込めた一撃は敵には届かず、逆に倒されてしまった。

あいつを倒した奴は戦鎌を手に視界を睥睨している。
奴があいつの命を刈らないのはそうすることでわたしをこの場に留め、そして討ち果たすため。
今わたしがやるべきことは、奴が望まないこと。
この場を外界から隔てている結界を内から打ち破り、襲撃の事実を隠蔽できなくすること。
そして他の仲間をこの場に呼び寄せ、何人がかりでも奴を制圧して、一分一秒でも早くあいつを治療すること。

わかってる。
そんなことはわかってる。
あいつだっていざというときの覚悟はできているはずだ。
傷ついているあいつに背を向けてこの場を去ったって、わたしを責めたりなんかしない。
むしろそれが最善手だって褒めてくれる。
あいつはそういうやつだ。
わたしにそうさせるために、あいつは傷ついた体でなおも奴を足止めしようとしてくれている。
あいつの努力を無駄にしないために、背を向けろ。
そして走れ、走れ、走れ。

うるしゃい、そげなこつはわかっちいる。
黙れ、黙っちょれ。

345 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 02:31:01
これからの一生ずっと。
許されるなんて思ってない。
許されたいなんて思ってない。
許されようとも思ってない。
それだけの罪をわたしは犯した。

わたしはわたしの犯してしまった過ちから決して逃げないと決めた。
そんなわたしがいまやるべきことは。
そんなわたしがいまやりたいことは。

目を背けるな、過去の過ちから。
目を逸らすな、目の前の脅威から。
消えてしまえ、わたしの中の恐怖心。
冷静な判断なんてクソ喰らえ。

燃えろ、狂気の焔。
わたしの心を紫で染めろ。
怯えを狂気で塗りつぶせ。

346 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 02:31:36
わたしの敵はわたしの中にいると思っていた。
“精神破壊”
人の心を狂気の紫で焼き尽くす魔獣。
二度と目覚めさせないと誓った力。
今、その誓いを破ろう。
たとえこの身がどうなろうとも。
たとえこの心が破滅しようと。
わたしはわたしのなずべきことをする。
あいつの力が宿っている血刀を武器に。

「りほ、待っとき。こんどはうちが救っちゃるよ」

共鳴セヨ…蒼キ憎シミ二
共鳴セヨ…紅キ怒リニ
共鳴セヨ…紫ノ狂気二

347 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 02:32:06
>>-

『狂気の紫』

>>430の画像とか
>>433から想像してみた

リゾナント元は勿論、■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■ http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/430.htmlです

鞘師さんから朝食を誘われた先で赤の粛清さんから襲撃されたり、
改造して復活した赤の粛清を見て生田さんが魔進チェイサーみたいだと萌えたりするシーンもあったのですが冗長すぎると思ったのでこういう形で投下しました

348 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:45:40
話は長くなるから、と前置きをして道重はこほんと咳をする
「・・・とはいえ、なにから話せばいいのか困るね」
「ええっちゃない?話がながくなっても、それだけ複雑なことやけん」
「そうかもしれないの」
そやろ?と笑うれいなはどこから拾ってきたのだろう、ドラム缶に腰掛けている
そして当然のように、佐藤が田中の手を握りしめ隣に座り込んでいた

「あの子、田中サンのこと大好きみたいダナ。犬みたいになついてル」
壁際にもたれかけながらジュンジュンがそれを眺める
「デモ田中サン、嫌がっていないからバッチリデスネ」
リンリンは地べたにあぐらをかき、先ほど道重に治してもらった手の感触を確認する
相変わらずスゴイ、とつぶやきながら緑炎を灯したり消したりを繰り返す

一方新垣は腕を組んだまま道重のそばで立ったまま、あれこれと考えているようだ
それに対し光井はリゾナンターの9人に慌ただしく目を移す
「・・・」
「ど、どうかしましたか?光井さん??」
見つめられていることに真っ先に気づいた譜久村が不安げな声で問いかける
「・・・なんでもないんや」
「??」

何から言うべきか迷っていた道重もようやく心を決めたようだ
「ガキさんがいるのにさゆみが全ていうっていうのも変な話だと思うんだけど」
「ん?いいよ、あたしは。だって、今のリーダーはさゆみんなんだからさ」
「そ、そうですか?じゃあ・・・リンリン」
突然呼ばれ驚くリンリンは「はい?」と疑問形になり、慌てて「どうしましたカ」と付け加える

「リンリン、その炎はいつから使えるの?」
「『緑炎』デスカ?そうデスネ・・・日本に来る頃には使えてましたが、いつからかは覚えてナイデス」
「初めからその色だった?」
「そうですね、緑色の炎が、刃千吏の炎の証ですカラ」

349 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:46:13
「じゃあ、石田、リオンを出してみて」
「え?は、はい、リオ〜〜〜ン」
今度は石田が間抜けな声を出してしまった。咆哮を携え蒼く輝く幻獣が姿を現し、その姿をみて田中が口角を上げた
「ふーん、石田、リオン、前よりも逞しくなっとう、鍛錬積んどうやろ?」
「え、ま、まあ、それなりには」
田中に褒められ、涼しげな顔を張り付ける石田

「じゃあ、最後に小田ちゃん、こっちにおいで。額、怪我してるから治してあげるから」
「・・・はい、ありがとうございます」
小田の額に触れ、ゆっくりと傷口にそって指をなぞらせ、桃色の光が傷を覆い、完璧に傷は消えた
「はい、終わったよ。みんな、見てあげて」

「あの、道重さん、さくらちゃんを治していただくのはありがたいのですが、早く本題に入っていただけませんか?」
飯窪がいつも以上に言葉を選びながら、道重に声をかけるが、答えたのは新垣だった
「いや飯窪、すでに本題に入りかけているから」
「へ?」

「さゆみ達の家はどこかな?工藤」
「え?家ですか??リ、リゾナントです」
「正解。いつもみんなにお菓子だったり、お茶を出しているもんね」
「は、はい、いつもおいしいケーキと飲み物を」
「そう、だからみんな、9人分、さゆみも含めると10人分の個人用のマグカップを用意してあるの」

(マグカップ??)
亀井とマグカップ、それがどうつながるであろうか?どうやっても無関係に思えてしまうのだが
鞘師はあえて口に出さずにいた、しかし、そうはいかないものもいる
「え〜それと亀井さんの話になんの関連性があると?エリにはわからんと」
それを咎めるように新垣が、生田!というが当の本人は、何ですか〜とうすら笑いを浮かべるばかり

350 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:46:57
「まあ、そうかもね、確かに生田の言うとおりかもしれないっちゃね
 さゆ、やっぱもっと簡単にいわんとじれったいと。れーなにも少しだけ説明させてほしいと」
「う、うん、かまわないけど」
「ありがと、生田、生田のカップの色は何色と?」
気味の悪い笑顔を浮かべて答える
「今は黄緑色です!新垣さんと同じ色、前はむらさきでした!!」

なにやら頭痛を感じたのであろう眉間を抑える新垣をさておいて田中は続ける
「うん、フクちゃんはピンク、鞘師は赤、鈴木と佐藤は緑、飯窪は黄色、石田は青、工藤はオレンジ、小田は紫やったっけ?」
道重に確認しながらマグカップの色をあげた
「みんなと同じようにれーな達にもマグカップがあったと
 それは愛ちゃんが用意したものっちゃけどね。れーなは水色、愛ちゃんは黄色、さゆはピンク。
 愛佳は紫、小春は赤、リンリンは緑、ジュンジュンは青
 ここまで聞いて何か気づくことはなか?」

「・・・マグカップの色と能力発動時の発色が一緒ですね」
「御名答、小田のいうとおり。マグカップの色と能力の発動時の色が一致しとう
 まあ、れーなの場合は共鳴増幅やけん、目立たん。だからわかりにくいと
 でも愛ちゃんの光は黄色、ガキさんのサイコダイブの始まりは緑色の景色、小春の電撃も赤」

鞘師はそこでふと思い出した、家宝の水軍流の鞘も紅いことを
譜久村の複写の発動時、桃色の光がともる、生田の昔の精神破壊は紫色の光を放っていた
佐藤が跳んだ時にはエメラルドグリーンの光が輝く、小田の時間跳躍の瞬間目がラベンダー色になる

「そして、この写真をみてほしいの」
道重が取り出した一枚の写真、それは9人がリゾナントの店内で撮ったもの
それぞれが楽しそうな表情でふざけあいながらカメラに目を向けている
「奥の食器置場のマグカップを見て、9個あるでしょ?」
そうなのだ、9個ある、黄、緑、橙、桃、水色、赤、紫、青、緑の9個

351 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:47:32
「道重さん、この写真は9人がいたときの写真で間違いないんですよね?
 そうすると残ったこのオレンジ色のマグカップが、亀井さんということでしょうか?」
頷く道重と、そこで何を言わんとしているのか気が付いた鞘師と小田
「基本的にはマグカップの色にあわせたつもり『だけ』、らしいの、愛ちゃん的にはね
 まあ、私もわかりやすくていいよね〜なんて言ったんだけどね」
新垣も懐かしむように笑う

「さて、ちょっとさゆみ達の昔話を聞いてほしいの
 3年前のある日のこと、あるメンバーがダークネスと思わしき組織に拉致された」
あるメンバーとはこれを語る、当事者、道重のことを指すのはいうまでもない
「そのメンバーを奪還するがために8人は声の下へ駆けつけたが、その姿はなかった
 命の危機すら感じ、その子の『親友』は精神が不安定になった」
それが亀井、ということであろうか
「しかし、数日後、助けて、という声が8人のもとに届いた
 今度こそ、救わんと駆けつけたが、そこにいたのは、道重さえみ、私の中のもう一人のわたし」
これはこの前、リゾナントで聞かされた話、そのままであった
「私を独占しようとした私の中のお姉ちゃんと8人は戦ってくれた
 結果からすれば私はみんなの元に戻れた。だけど、親友を失った」

そこでいったん区切りをつけた
「ここまでは、みんなに教えたよね?さえみお姉ちゃんという存在とえりがいなくなった理由」
「そのさえみさん、ってそんなに強かったんですか?」
「強いなんてモノじゃナイ、化け物ダ」
いつの間にかまたバナナを食べているジュンジュンが割り込む
「大陸でもさえみさんに肩を並べられるほどの能力者をジュンジュン2人しかシラナイ」

「さえみさんの力ってなんだったんですか?」
「お姉ちゃんの力とさゆみの力は根底は同じ。どちらも『生命力を増幅』させることなの
 たださゆみは傷を治す時点で止めるけど、お姉ちゃんは『過剰に生命を増幅』させる」
「そ、そうなるとどうなるんだろうね?」
「体自体が治癒に耐えきれず、崩れていくんや。それこそ、ぼろぼろに溶けていくように」

352 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:48:20
『溶ける』という表現に仲間達は反応を示した
「溶けていくってそれじゃあ、まるでさっきの詐術師みたいじゃないですか!!」
「その通りっちゃね、さえみさんが消した敵はみんなああやって雪融けのように消えたと」

「いやいやいや、でも、ですね、田中さん、亀井さんの力は風使いと傷の共有ですよ
 それがどうやって、仮にですよ、そのさえみさんの力を手に入れたとしましょう
 どうやって手に入れるんですか?だって、亀井さんは道重さんの話では消えたはずですよ!」
石田が強く答えを求めてくる
「亀井サンは消されてないデスヨ、石田ちゃん。だってリンリン達の前に現れたじゃないデスカ」
「そ、そりゃそうですけど、それでは幽霊とでもいうんですか?」
首を振る道重
「違う、えりは間違いなく生きている。それになんでえりの中にお姉ちゃんがいるのか・・・なんとなくわかる」

「わかる」と断言した道重に新垣が顔を曇らせた
「・・・さゆみん、思い当たる節があるっていうの?」
「はい、ごめんなさいガキさん、えりの姿が再び現れた時から、わかっていたんです」
そこに割り込むれいな
「それってあの日にれいなに言ったあのこと?」
「そう、あのこと」

「えりがいなくなった次の日、れいなとさゆみは、えりも含めた三人にとって大事な丘にいったの
 そこでれいなと、えりがいなくなることで・・・なんていうのかな悲しむんじゃなくて
うん、誓いをたてたの、諦めないって、世界を幸せだって気づかないくらい幸せにするって
 そしてその時にれいなにだけいったことがあるの」
お姉ちゃんがえりとともに消えるときに、お姉ちゃんがさゆみと初めて会話をしたってことを」

「さえみさんと?」
「はい、ガキさん。夢の中みたいな奇妙な出来事でした
 お姉ちゃんは、私がいなくなってもさゆみをよろしくってみんなに伝えなさいと言ってた
それから『エリちゃんのことは償わせてもらいます』とも」
「『償わせてもらう』ですか?」

353 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:49:13
「あのときカメはさゆみんの居場所を奪った最大の原因が自分だと責めていた
 だからこそ、さゆみんを救おうと自己犠牲の道を選んだ」
新垣が言葉を選びながら歩みを道重の元へ進める
「それに応えるようにさえみさんもカメを守ることを結局は選んだ、そういうことと解釈していいのかな?」
「ええ・・・たぶん、そうだと思います。さえみお姉ちゃんが守る、と言ってたので
 それはすなわちお姉ちゃんがえりの中に取り込まれ、何かあった時には身を守る、そんな意味だったと思います
 そう、だからこそえりは傷を治すことができるし、詐術師を消す力を手に入れた
 一方でさゆみはお姉ちゃんの力を失った」
さゆみの考察をきき、光井がうーんと唸った
「ありえへんことではないと思いますが・・・なんというかすんなり入ってこないですわ」
「さゆみもそれが正解とは思ってはいないけど、あのとき詐術師が桃色の光とともに消えたことを考えると・・・
 えりは自分で傷を治すこともできたのだからそう考えるしかないと思うの」

「でも、それでも説明できないあるんですが・・・」
「飯窪?遠慮なく言ってみい」
「は、はい。でも道重さんの話だと亀井さんは一旦、みなさんの前から姿を消したんですよね?
 傷の共有も風使いもその場から姿を消す、なんてことできないと思うんです」
「まさみたいにポーンって跳んだってことはあるんじゃないの?」
「仮に瞬間移動できても、皆さんが共鳴で存在を確認できるはずですよ
 だからこそ、この3年も存在が確認できないのは奇妙というか・・・」

「それについてはリンリンが説明するネ
 飯窪ちゃんの言う通りリンリン達は生きている限り、絆があれば共鳴できる
 そして、この数年間、亀井サンの存在を感じるコトはできなかった」
「ですよね?それならばなぜ」
話終えないうちにリンリンが割って入ってくる
「それは亀井サンがいなくなる事件のトキにも起きた。
道重さんがさえみさんになっていたトキ、リンリン達はさゆみさんと共鳴できなカッタ」
 そのとき道重さゆみさんは『意識がなかった』状態にアッタ」
続くはジュンジュン

354 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:49:44
「おそらく亀井サンはこの数年間眠っていたと思う。それも強制的に、ダークネスの手によって
もし亀井サンが自分の力で寝ていたとしても長すぎる、眠り姫でも長すぎる
 それに、なぜダークネスと一緒にいたのカ説明ツカナイ」

「それではいったいどうやって亀井さんの意識をダークネスは沈めたんでしょうか?」
譜久村が道重に問いかけたが、答えたのは別の人物だった
「・・・時間停止、です」
それは小田であった
「・・・永遠殺し、この前のあの人、亀井さんの横にいた女の人の能力
 ・・・亀井さんの時を止めれば、意識を戻さずに、共鳴を、生存を隠し通すことができます」

あの亀井が消えた日、現場にあらわれた永遠殺しーその目的はマルシェたちの回収ではなかった
『亀井絵里』の回収の可能性

「多分、その通りだと思ウ。本当はさえみさんの時を止めるつもりだったのカモしれませんガ
 いずれにせよ、亀井サンの時をとめて、ダークネスは亀井さんを手に入れた」
「そして、亀井さんをダークネスに染めるために洗脳教育を施した、そういうことですね?」
首を振る新垣
「違う、工藤。それなら詐術師をカメが消すはずがない」
「え?それならどうして亀井さんはダークネスの言いなりになっているんですか!!」

ジュンジュンがゆっくり立ち上がる
「亀井サンの時は永遠殺しで止められた、強制的にダ
 ただ、そこでその力を強制的に打ち消す力が現れた」
「な、なんなんですか?その力って??」
ゆっくりと腕を伸ばし、指をある人物に向けた
「小田ちゃんのちからダ―時間跳躍能力」
「!!!!」

355 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:51:20
「さくらちゃんの力がなんで亀井さんを動かすことにつながるんですか!!」
「そうですよ!小田ちゃんはただ時間を時間を飛ばし、飛ばした間の出来事を『認識できなくする』能力なんですよ」
仲間達が強く現実を認めたくないのか先輩に問い詰める形となった
「その通りダ、今は。だけど、昔はそうでなかった、ソウダナ?」
「・・・はい、そうですね、昔の力はもっと強力で能力すら消すことができました
 ・・・ただそれだとダークネスの幹部の力すら消えてしまう、そう判断され、そんな制限をかけられました」

小田さくらの『時間跳躍』により、止められた時を強制的に動かされた『亀井絵里』

「当然、ダークネスは亀井絵里が動き始めたことに気づいたのであろう
 そして、当初からの予定、ダークネスの一員としての教育を行おうとした
 ただ、問題が一つアッタ」
道重がそこから先は受けついだ
「お姉ちゃんの攻撃を受け、体と心はボロボロになってしまった
 お姉ちゃんが傷は治したが、結局、精神までは救うことができなかった
 いまのえりにはさゆみ達の声は届いていない・・・可能性が高い」

道重、れいな、新垣・・・かつての仲間にためらいなくカマイタチを放ち、無表情な亀井
それはまるで人形のように、中身のないように見えたのであった

「じゃあ、亀井さんは操られている、ではなく」
「可能性としては言われていることをただ、忠実にこなす、作業みたいに感じているかもしれへんな」
「そんな・・・」

「リンリンとジュンジュンがここに来た、最初の目的は亀井さんの復活を感じたからではナカッタ
 本当の目的は小田ちゃん、あなたがどんな力を有しているのか確認シタカッタ」
「・・・」
「私達が心配するような悪の心はないようダ。ただ、そのためにとんでもない相手が生まれてしまっタ」
「別に小田ちゃんを責めるとかそんな気はナイ。ただ、亀井サンが復活した、それは緊急事態ダ」

356 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:52:16
「・・・私たちはどうすればいいんですか?」
譜久村が不安げな声をだす
「きまっとうやろ?戦うんや、えりと」
「・・・仲間と闘うってことですか?皆さんはそれでいいんですか?」
にやりと笑うれいな
「えりと一度、本気で闘ってみたかったとよ」
「田中ッチ、冗談言ってる場面じゃないよ
 フクちゃん、そりゃ私だって本当なら戦いたくはないけど、あんなカメを救えるのは私達しかいないんだ
 カメをダークネスの操り人形にさせる?そんなこと許せない!」
「せやからこそ、愛佳達で救わなあかんのや」
「別ニ命を奪うことが戦う目的ではナイ」
「亀井サンの記憶を要は思い出させればいいだけダロ」

『先輩』達同様に、リーダーも力強い口調、覚悟を決めているようだ
「みんな、えりの心をすくいましょう。それがダークネスとの戦いになるの
 みんなもリゾナンターならできるはずなの、力を貸してください」
そして深々と頭を下げた

「や、やめてください、道重さん」
慌てる仲間達をみて、れいなが道重の肩をたたく
ゆっくりと顔を上げる道重に仲間達は、当然とでもいうように力強い光を目に宿していた
「ありがとう、みんな、えりを、助けるのに、リゾナンターとしてではなく、友達としてよろしくなの」
自然と涙がこぼれ始め、慌てて涙をぬぐい始めた

「そんじゃ、一回リゾナントに戻るとしますか、作戦会議しなきゃね」
「そうですね・・・佐藤、そろそろいけるか?」
「うーん、もう少し」

「それなら、あっしがまとめて送るよ」
次の瞬間には道重達はリゾナントに戻っていた
「こ、これって一体?」
「みんな、期待してるがし」
その声の主―高橋愛はカウンターで笑って見せた

357 名無しリゾナント :2014/11/15(土) 23:56:30
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(6)です
チャット前にここまでは上げないとと思って急いでしまい、表現の稚拙が目立ちますが・・・
無理やりな論理ですかね?
ところで、■■さんと設定かぶったのは本当に偶然です

ここまで代理お願いします。

358 名無しリゾナント :2014/11/16(日) 10:36:57
>>357
ふ〜ん小田ちゃんの能力を亀井さんの復活につなげてきましたか
とりあえず行ってきます

359 名無しリゾナント :2014/11/16(日) 10:51:16
>>357
代行完了しました
最後の1レスが行数オーバーだった

360 名無しリゾナント :2014/11/16(日) 12:07:26
代理ありがとうございます。まあ・・・無理やりですかね?

361 名無しリゾナント :2014/11/18(火) 00:54:51
>>339-341 の続きです



「ああ!また『はずれ』じゃ!!」

しじみの目をした少女が、悔しげに叫ぶ。
少女の期待とは裏腹に、引き上げた糸に獲物は食いついてはいなかった。

口を尖らせる少女・幼き日の里保を尻目に、白髪痩身の翁が軽快に糸を引き上げる。きらきらとした川魚が連なる
姿が、里保の不満をさらに募らせた。

「どうしてじいさまはそんなにいっぱい釣れるんじゃ」
「ほっほっほ、どうしてじゃろうなぁ」
「うちもじいさまと同じようにやってるのに」

渓流での、釣り遊び。
傍から見れば祖父と孫が戯れているようにしか見えないが。
唯一つ、普通の釣りとは異なる点。それは彼らが釣竿を持っていないこと。

「糸を的確な場所に打ち込まんと、魚は釣れないけぇのぉ」

言いながら、祖父は再び糸を川面に垂らす。
頼りなげな糸一本のみで魚を釣る。餌すらつけずに、そんな不可能に近いことを目の前の老人はいとも容易くやっ
てみせるのだ。

362 名無しリゾナント :2014/11/18(火) 00:55:38
里保とて、何も知識がなくここへ来たわけではない。
彼女もまた、糸を使い魚を釣る事はできた。現に家の庭にある池では、祖父が目を丸くして感心するくらいに、錦
鯉をひょいと釣って見せてもいたのだが。

静止した水と流れる水では、条件が違う。
そんな言い訳じみたことは言いたくない。流れる水の速さなら、十分計算できているはず。
なのに、魚は一向に里保の糸には寄ってこない。

「そうじゃのう」

焦燥感を露にし始めた孫に、祖父が助け舟を出す。
と思いきや。

「川の水に手を入れてみるんじゃな」
「それってどういう」
「目に見えるもんが全てではない。じゃが、目に見えるもんを見逃してはいけん。そういうことじゃ」

と言ってにかっと笑って見せるだけ。
正直、里保には理解できなかった。だが、やってみなければ何もはじまらない。
意を決し、さらさらと流れる川の水に自らの手をそろりと漬けてみた。

「え…これって」
「ほっほ。もう気づいたんか。何じゃ、困らせ甲斐のない孫じゃのう」

何かに「気づいた」里保にそう言葉をかける祖父ではあったが。
その顔は満面の笑みに包まれていた。

363 名無しリゾナント :2014/11/18(火) 00:57:54


里保の意識が追憶から戻る。
糸口は掴めた。あとはどう「やれば」いいかだけ。

「どうしました? 意識が朦朧としているんですか?」

目の前の少女が拳を再び前に構える。
だがその表情には勝利に対する確信が見て取れた。
里保は分析する。確かに少女の格闘術はなかなか侮れないものだ。加えて彼女の能力の影響下で動きの予測が立て
られない。
そんな状況から畳み掛けるように。

「『鞘師』…数百年の伝統を誇る水軍流も、意外と大したことないんですね。こんなもののために『あかねちゃん』
の人生が翻弄されるなんて…馬鹿馬鹿しい」

水軍流とそれを綿綿と伝えてきた「鞘師」への侮辱とも取るべき、少女の言葉。
しかし里保は首を振る。そんなことで激昂するより、やらなければならないことがある。
ここで倒れてしまえば、里保自身が少女の言葉を肯定したことになってしまう。

次の瞬間、少女は信じられないものを見るように目を見張った。
里保が祖父から受け継いだ赤鞘から刀を抜き、徐に自らの腿に突き刺したからだ。
強烈な痛みが、瞬時に里保の全身を駆け巡る。

364 名無しリゾナント :2014/11/18(火) 00:58:36
「ぐっ!!」

叫びたくなるのを抑え、相手を見据える里保。
その炎にも似た視線を、少女は涼しげな顔で受け止めた。

「刺激を与えれば、能力の影響下から脱却できる、ですか」
「……」
「そんな程度じゃ、私のテリトリーは解けませんよ」

圧倒的な自信。
万が一にも、自らの敗北など考えにもない。

「ううん、わかった」
「は?」
「だいたい『わかった』」

里保は知っていた。
過信は時に、自らの身を危うくすることを。
それはこちらも同じ事。
だから一撃で、決める。

少女の視界から、里保が消える。
消えてしまったかと錯覚するくらいの、神速とも言うべき踏み込み。
なぜ里保が正確無比にこちらの懐に入ることができたのか、少女には理解できない。
だが、本能が警鐘を鳴らす。これは「危険な状態」だと。

365 名無しリゾナント :2014/11/18(火) 00:59:33
水平に襲い掛かる、太刀筋。
少女はそれを体を反らして何とか回避しようとする。
ただ、少女がいた場所を流水の流れのように静かに、それでいて鋭く薙ぐ刃。

美しくも、恐ろしい。

少女がその剣技に見惚れている暇はなかった。
さらに一歩踏み出た里保の足が、不安定な少女の体勢を崩しに掛かる。

先程のは囮で、これが本命か!!

虚を突かれ、あっけなく崩れ落ちる少女。
天を仰ぐ形で倒された少女の鳩尾を襲ったのは、燃えるように赤い鞘の先だった。

魂をもぎ取られているのではないかと思うくらいの、強烈な一撃。
倒れるわけにはいかない。落ちるわけにはいかない。
強固な意志とは裏腹に、意識は穴の底に落ちてゆくが如く。

「どうして…わたしの…」
「君の能力は、精神に働きかけるものじゃなくて、物理的に『ずれ』を起こさせるもの。だったらその『ずれ』を
修正すればいい」

366 名無しリゾナント :2014/11/18(火) 01:01:15
少女の能力は。
自らの領域内の気温や湿度を操作する。
それにより局地的に空気の密度を不均一にする。
言うなれば自由自在に陽炎や逃げ水を発生させるようなもの。
そして異常な湿度や不均一な空気、それに伴う気圧の変化が音の伝わりや皮膚感覚をも乱す。
彼女の「空気調律(エア・コンディショニング)」の領域に入った人間は文字通り、自分の立ち位置に迷うことに
なる。

しかし里保は、自らの体に刀を振るうことで、自らの身に齎された「ずれ」の具合を把握した。まるで目測を阻む
水の屈折具合を、自らの手を差し入れることで感覚調整するかのように。
自分が想定した刀の軌跡と、実際に打ち込まれた場所の「ずれ」。痛みの感覚と、実際に傷を負った場所の「ずれ」。

それらのずれ全てを把握し瞬時に調整することができたのは、里保が水軍流の看板を背負うこと、つまりは「鞘師」
の名を継ぐに相応しい資質の持ち主だからだろう。目に見えるものが全てではないが、目についたものは見逃して
はならない。祖父の教えを忠実に守ることで、里保は目の前の少女から勝利を得たのだ。

「そんなことで…やだ…ここで…あかねちゃん…」

それだけ言うと、少女は糸が切れたように気を失ってしまった。
里保は知らない。少女の言う「あかねちゃん」が自身の因縁に大きく関わっていることを。
そして。少女も含めた二人もまた、自身と同様に「響きあうもの」だということを。

367 名無しリゾナント :2014/11/18(火) 01:11:29
>>361-366
「幻影(後)」

叩き台にと書いたものなので設定とか色々甘いとは思いますが、
設定の甘い言い訳ついでに

>>  さん
小田ちゃんの能力は、すごく雑に言えば
自分が現在いる時間の前後5秒間の時間を切り取り、編集できる
その間にあったことはなかったことにできるし、あったことにもできる 能力です。
つまりまーちゃんの前で飛び降りたという時間は飛ばしつつ、まーちゃんの
「小田ちゃんが飛び降りた」記憶はそのままにしたという感じです

>> さん >> さんが考え出した説が公式になってもよかったのですが
一応作者自身も作中のどこかで説明はしていたはずなので(書いた本人が忘れるとは!!)
説明させていただきました。
遅くなってしまいすみません。

368 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:22:46
>>286-290 の続きです



ごく小さめな、宗教画。


中央、やや左上に天使。
両腕を上に掲げ、豪華な衣装がはためく。
天に向けられた顔は、なぜかぼやけ、その表情はわからない。
広がる地上には救済を求める人々が歓喜の表情で空を見上げる。

その救済を求める人々の中に、春菜はいた。
やがて天使の手から溢れる光は、春菜を包み込み…

そうだ。
わたし、和田さんの精神世界の中にいたはずなのに。
暗闇に包まれて、意識が溶けていって。
そして今、先ほどの絵画のような光景が春菜の目の前に広がっている。

わたし、死んじゃったのかな。

精神世界での出来事は、現実の肉体にも作用する。精神世界における死はつまり、現実の死。
春菜が初めて喫茶リゾナントのドアベルを鳴らした日。当時の店主だった新垣里沙はそんなことを言っていた。
コーヒーの淹れ方をレクチャーしながらの軽い雑談のようなものだったが、まさかそれが自分の身に降りかか
るとは。

369 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:24:16
天使が、春菜の手を引き天を目指して飛んでゆく。
なるほど、死んでしまうならこの光景も腑に落ちる。
たまに優樹を怒り過ぎたり、何とか相手のいいところを探して褒めようとしたけれど見つからなくて挫折したこと
はあったが。どうやら地獄に落ちるようなことにはならなかったらしい。

仲間のことを思う。
生田さんは無事だろうか。送り込まれたのが自分だけでよかった。しかし、志半ばで倒れることになってしまった。
道重さんは泣いてくれるだろうか。くどぅーとまーちゃんは仲良くやれるだろうか。小田ちゃんはみんなの輪の中
に入ってゆけるだろうか。

どうも心配事ばかり増えてしまう。
春菜は思い直し、天使のほうに目を移した。
長い黒髪。小麦色の肌。天使と言えば金髪で色白と相場が決まっているものと思っていたが、現実はそんな単純な
ものではないらしい。

天使が、振り返る。
大きい、潤んだ瞳と目が合う。
誰かにそっくり。そうだ、和田さんに似ているんだ。
そう言えば和田さんを助ける事はできなかった。あんなに大きなことを言っておいて。

― それと、次からは『和田さん』じゃなくて『彩ちゃん」ね! ―

絶海の孤島に旅立つ日の朝、偶然出会った彩花にそう言われたことをふと思い出した。
あんな綺麗な人を「彩ちゃん」だなんて。でも、一度呼んでみたかったな。ちょっと恥ずかしいけど。って言うか
もう死んでるからいいかな。天使さん、申し訳ないんですけど今だけ、和田さんの代わりになってくださいね。

370 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:25:31
「彩ちゃん!!」
「はるなん?」

天使が、大きな目を細めて笑う。
そこで春菜は違和感に気づく。自分の手を引いて空を飛んでいるはずの天使の顔が、なぜか自分の目の前にあ
るのだ。

「よかった。はるなん、気がついたんだ」

あれ? 天使さん? 何でわたしなんかの名前を知ってるの? それに親しげにはるなんだなんて。

そこでようやく春菜は、自分が布団の中で寝ている体制であることに気づく。
そう言えば天井も見慣れたもの。そうか、ここは喫茶リゾナント。じゃあ、この天使さんは。

「もしかして…わ、だ、さん?」
「なに?寝ぼけてるのはるなん」

いたずらっぽく笑う彩花を見て、春菜はようやく状況を理解する。
自分が、現実の世界にいるということを。

「えっと、あの、生田さんは!」
「えりぽんのこと?下にいるよ。彩、えりぽんからはるなんのこと、色々聞いちゃった」

少しずつ、情報の断片をつなぎ合わせてみる。
つい先ほどまで、自分は彩花の精神世界にいたはずだ。途方も無い闇に飲まれ、そのまま意識を失ってしま
った。ここまでは確実だ。

371 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:26:32
で。話の流れがぶった切られたかのように、現在がある。
見る限り、彩花に常軌を逸した狂気は見られない。となると彼女は「元に戻った」ということになる。ここで
問題。誰が、彩花を光の世界に連れ戻したのか。

A 生田さん
B わたし
C その他の第三者

Bはまずないだろう。私は失敗してしまった。だから、あの闇に呑まれてしまったわけで。
Aも考えられない。生田さん自身がサイコダイブしたならともかくだ。となると。

「おー、飯窪目ぇ覚ましたんだぁ」

部屋に入ってきた、良く知っている顔。
かつてリゾナンターたちを率いていた、前リーダー。
思わず反射的に体が飛び上がる。

「新垣さん、どうして!!」
「いやー生田に呼ばれたのよ、飯窪が倒れたって言うから。ま、あたしが何もしなくても、あんたたちは無事
生還できたみたいだけど」

そこで春菜はようやく実感する。
戻ってこれたのだ。現実の、世界に。

しかし先程の三択の答えはCである第三者、つまり里沙が自分たちを助け出したと思っていたが。今の里沙の
口ぶりだと、どうやらそうではないらしい。

372 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:27:50
「でも、私…和田さんの意識の中に取り込まれて、それで」
「ありがとう、はるなん」

そこで春菜の手に添えられた暖かな手。
あまりにも畏れ多い。春菜は自らの首をぶんぶん振る。

「いやいや、私お礼を言われることなんて何も」
「ううん」
「え?」
「彩の心が、深い闇に沈んで、どうしようもなくなって。辛いのは彩だけ、世界から取り残されたのも彩だけ
だと思ってた。でも、はるなんも辛い思いをしてたんだよね」
「それって」

春菜は思い返す。
彩花の精神世界に入り込み、壮絶な過去を垣間見た時。
確かに、フラッシュバックのように春菜自身も体験した思い出したくない出来事が甦った。
それが、彩花にも流れ込んだというのだろうか。

「でも、はるなんは立ち上がった。眩しいいくつもの光が、はるなんを導いてくれたんだね」

彩花の言うとおりだ。
異能力の詰まった肉の塊、そう形容するのが相応しいくらいの扱いを受け。
そして、闇に心を閉ざした。そこに光を当ててくれたのは、今ここにいる里沙やさらに先代のリーダーである
愛が率いたリゾナンターたち。今も春菜のかけがえのない仲間たちだ。
しかし面と向かって言われると。春菜は自分の顔に急激に血流が流れ込むのを感じていた。

373 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:29:33
「うん、確かにそうなんですけど、でも、和田さんにそんなこと言われるとわたし、何か恥ずかしくて」
「恥ずかしいのはお互い様でしょ?はるなんだって、彩の昔のことを見たんだし」
「え、それはその…はい…見ました」

肩を落とし項垂れる春菜。
そうだわたしったら和田さんの過去を勝手に見ておいて自分の過去を見られたのを恥ずかしいとか言ってもう…
そんな様子を見て、彩花はふふっと微笑んでみせるのだった。

「あやね、あの過去を見られたのがはるなんでよかったと思ってる」
「…どうして、ですか?」
「だって彩たちが背負ってるものはきっと似てるから」
「和田さん」
「だから、彩も光を見出すことができた」

そうか。そういうことか。
彩花はきっと、春菜が光に導かれ支えられているのを見て、自らもその道を選ぶことを決意できたのだ。
つまり、自身の闇から抜け出すことができたのは彼女本人の力なのだと。

「光の中にね、顔が浮かんできたの。たけちゃん、かななん、りなぷー、それにめいめい。あと誰だっけ…とに
かく、彼女たちがいる限り、彩は落ち込んでいられない、立ち上がらなきゃって。憂佳ちゃんや紗季ちぃのため
にも」
「そっか…和田さんは自分の足で立つことができたんですね」
「ううん」

自分のやったことは無駄だったのか。
そう思いしょげかえる春菜の手を、彩花が再び取る。

374 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:30:55
「彩が光を見つけることができたのは、はるなんのおかげだよ…ねえ、はるなん」
「和田さん?」
「…さっき彩のこと、『彩ちゃん』って呼んだでしょ」

思いも寄らない指摘。
再び春菜の顔に恥ずかしさの火が灯る。まさかあれを聞かれてたなんて!!

「いやっあれはその寝ぼけてただけって言うかそんなわたし如きが和田さんのことをいきなり…ぁゃ…ちゃんだ
なんて恐れ多くて」
「あれ?今何て言ったの?もう一度言ってみてよ」
「だ!ダメです!!」

彩花にからかわれ、手足をばたばたさせている春菜を遠目で見ながら里沙は。
衣梨奈から聞いていた話だと、和田彩花は心を闇に侵食された不可逆状態に陥っていたと思って間違いない。と
なると例え精神干渉のスペシャリストの里沙でも彼女を救えたかどうか怪しい。それを、春菜はやってのけた。

盗み聞きの趣味があるわけではないが、春菜と彩花の会話の断片から里沙は、二人の共通した過去が今回の事件
の解決に繋がったのだと想定した。奇しくも彩花は例の「エッグ」の被験者であり、春菜もダークネス傘下の宗
教団体の手により過酷な人体実験を受け続けたという。

「今回は、あやちょが自分の力で立ち直っただけだから。あんな奴らの力なんて、借りてない」
「…いたんだ」

里沙から、絶妙な距離をとった背後に。
苦い顔をした花音が立っている。

「増してやあんたたちに借りを作ったなんて、思ってないから」
「…あんたがどう思おうが知ったこっちゃないけど、今回御友達を救ったのは間違いなくうちの子たちだよ。あ
たしでも助けられたかどうか」
「くっ…!!」

375 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:32:38
明らかにこちらに敵意の目を向ける花音を見て。
彼女がまだダークネスの手の内にあった頃のことを思い出す。
里沙がダークネスのスパイとしてリゾナントと本拠地を行き来していた頃。隔離された研究施設にいた、虚ろな
目をした子供達の中に、彼女はいた。

一目見て、里沙は花音に精神干渉能力が備わっていることを見抜く。
それは自らの能力にとてもよく似たものを感じたから。
当時の研究主任は、今は同時に10人程度しか洗脳する力はないが、いずれ100人、ひょっとしたら1000人以上を
一度に洗脳できるくらいの能力に発展するかもしれないと誇らしげに語っていた。それほどまでの「神童」な
のだと。

結果的に彼の願いは叶うことは無かった。
彼女を含めた「エッグ」と呼ばれた子供達が何者かの手引きで奪われてしまったのだ。例の研究主任はその責
任問われた上に強奪事件の関与をも疑われたことで、即日粛清される。まるで仕組まれたかのように、迅速に。

「…あの子は連れてかないの?」

そのまま帰ろうとする花音に、里沙が声をかける。
小さな背中は、振り向くことなく。

「あやちょはもう一人で帰れるから。それと。今回のことも、『赤の粛清』の件も。あたしはあんたたちに助
けてもらったなんて、微塵も思ってない。『スマイレージ』は、あんたたちリゾナンターを超えてやるんだから」

リゾナンターという存在への、強烈な対抗心。
それは荊のように里沙の心に絡みつき、そしてなかなか消えてはくれなかった。

376 名無しリゾナント :2014/11/19(水) 20:33:51
>>368-375
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

377 名無しリゾナント :2014/11/20(木) 17:20:52
■ マスクオブホース −田中れいな− ■

衝撃波。

一撃は、破裂音に弾かれた。


「はいはい!聞いてくださーい!ちょっとだけっ!止まってくださいっ!
この先、ちょっと!お取込み中なんで!ここで!ちょっとだけ!お時間くださいっ!」

繰り返されるセリフ。

彼女は決して戦おうとはしない。
だが、決して、田中をのがさない。

立ち塞がるは覆面の少女。
パーティーグッズによくある『馬』のゴムマスク。
身長は、田中と同じほど。

ただし、腕と脚の太さは、倍ほどに違う。

ラフな赤地のTシャツ、デニムのハーフパンツ。
黒のニーソックス、黒のスニーカー。

「さっきからなん?そこどき!」
「いやー!ちょっと!それはっ!どけないっ!どけないです!」
「ちっ!なんね!」

378 名無しリゾナント :2014/11/20(木) 17:21:26
先ほどからこの繰り返し。

左へ行けば左、右へ行けば右。
踏み込めば退き、踵を返せば猛然と追随。
再び立ち塞がる。

どかんのなら、打ち倒しようだけったい。

「ストーップ!とーまってー!」

構わず踏み込む。

「ちょ!やめてって!」

フルスイング。
強引な一撃。
辛うじてかわす『馬』の少女。
そのまま距離をとるべく、さらに退く。

「まだまだ!」

田中の猛攻。
ことごとくかわす。

だが、起伏の激しい山腹、
植林された杉が連立し、斜度もある中、
途切れることなく繰り出される田中の連撃を、凌ぎきれるものではない。

ドン。

379 名無しリゾナント :2014/11/20(木) 17:23:09
一抱えほどの杉を背に、『馬』の少女が追い詰められる。
クロスガード。
交差した両腕の上。
叩きつけられる、田中の拳。

衝撃波。

田中の拳が『馬』の少女を捉えた瞬間、
まるで、見えない壁が、爆発したかのように、田中の拳は弾き返された。

破裂音。

拳に走る激痛が、自らの攻撃と、
衝撃波のそれとが、ほぼ比例していることを直感させる。

「だっから!あぶないって!ゆってるのにっ!」

「ちぃ!」

これが、少女の能力か。

380 名無しリゾナント :2014/11/20(木) 17:25:52
戦車の装甲の一種に”爆発反応装甲”あるいは”炸裂装甲”と呼ばれるものがある。
装甲板に対し、斜めに衝突した弾頭を、爆薬で吹き飛ばし、内部への浸透を防ぐ、
使い捨て、換装式の二次装甲。

本来の”炸裂装甲”は装甲板に対し角度をもって衝突した弾頭でなければ効果はないが、彼女の能力は、衝突の角度に関わらず、効果を発揮するらしい。

しかも、強く殴れば殴るほど、跳ね返る衝撃波もまた、強くなるのか?

もし、そうだとするなら、
能力として、直接の攻撃手段を持たない田中にとって、
これほど相性の悪い相手もいまい。

打撃はすべて防がれ、さらに、同じだけの衝撃波が田中を襲うことになる。

「もう!田中さん!あきらめて!じっとして!手ぇこわれちゃうよっ!」

『馬』の少女はへっぴり腰。
両手を前へ出し、田中を押しとどめる。
手のひらをこちらに向け、制止を促す。

手が壊れる?
なるほど、このまま殴り続ければ、結果は見えている。


…上等たい。


赤黒く腫れ上がる、自らの拳を握りしめる。

381 名無しリゾナント :2014/11/20(木) 17:27:24
こん道草食ってる暇、ないけんね。

「なん知らん、弾きようなら、もっと強い力で打ちよう!」
「だーっ!なんでっ!そうなるのっ!」

猪突猛進。

身を低め、一直線。

再び構える『馬』。

交錯する両者。

山林に、破裂音が響き渡る。

衝撃波。

382 名無しリゾナント :2014/11/20(木) 17:28:33
>>377-381
■ マスクオブホース −田中れいな− ■
でした。

383 名無しリゾナント :2014/11/22(土) 23:32:03
深い森の中を、走る一人の少女。
一人の少女を取り囲むようにして追う男達。その数、六。
目つきの鋭い少女は自分が追い込まれたことを知ると、観念したように立ち止まった。

「大人しくすれば、命までは取らんよ」

男のリーダー格が、言う。

「命とらん代わりに、慰み者にするんやろ。そんなんまっぴらごめんやわ」

男を睨む少女。
危機的状況からか、関西のイントネーションに棘が立つ。

「失礼な。あなたには被験対象になっていただくだけです。貴重な、ね」
「はん。要するにモルモットっちゅうわけか」

少女の両足から、ゆっくりと煙が立ち上る。
それは、地面の草が炙られ、焦がされた煙。

384 名無しリゾナント :2014/11/22(土) 23:33:36
「…『火脚』だ、気をつけろ!」

男の一人が叫ぶ。が、それは気休めにすらならない。
次の瞬間、独楽のように舞う炎が彼らに襲い掛かったからだ。

自らの体を回転させ、火を纏った両足での空中蹴り。
その威力もさることながら、灼熱の炎は確実に標的を蝕む。

「くそ、三人やられたか!」
「構わん想定内だ!対火炎能力バリアを張るぞ!!」

男たちの体を、青白い光が包み込む。
男の一人が炎の力を防ぐ防護壁を張り巡らせたのだ。

「どうだ、これでお前の力は封じられたも同然…」
「不用意に近づくな!こいつはまだ!!」

勝ち誇った男の一人が少女を拘束しようと、肩に手をかけたその時。
肩が、爆発でも起こしたかのように盛り上がる。いや、そうではない。

385 名無しリゾナント :2014/11/22(土) 23:35:05
男が少女だと思っていたそれは、姿形を大きく変えていた。
刹那、男の掌に焼け付くような痛みが走る。思わず手を離した後に見たそれは。

逞しい四肢。
纏っていた衣服は既に燃え散り、真紅の絨毛が赤く赤く燃え上がる。
その様はまさに、虎。

「はは、ついに正体を現したな。『火脚』を操り、炎で人の魂まで焼き尽くす…絶滅寸前の人虎が」

男たちのリーダー格は半笑いを浮かべつつ、自らが後ずさっていることに気付く。
立っているだけでも賞賛されるべきだ。他の二人は既に腰が砕け、戦意喪失していた。
煉獄の獣とでも言うべきそれは、地を焦がしながら、赤い瞳に男たちを映していた。

彼女の名は焔虎 ― 尾形春水 ―

386 名無しリゾナント :2014/11/22(土) 23:36:09
>>383-385
「焔虎」でした
やっつけ感がひどくてすいませんw

387 名無しリゾナント :2014/11/23(日) 01:32:03
■ ディープハグ −新垣里沙X亀井絵里− ■

叫びは、声となったかどうか。

崩れ落ちる。
立っていられない。
出血が、止まらない。

【リゾネイター】亀井絵里。

かつて、共に戦った、かけがえのない仲間が、そこに。
だらりとさげたナイフ、健康的な肌、ふともも。

そう、みちがえるほどに、健康的な。

それは、いつもの彼女だ。
だがそれは、彼女の知る彼女ではない。

病、入院、心臓…

いったい、何が?
彼女に、何が?

ぼやける視界でもわかる、屈託のない、いつもの笑顔。
いつもの笑顔が、ありえぬ言葉を紡ぐ。

388 名無しリゾナント :2014/11/23(日) 01:32:41
「さあ!ガキさん!もっと戦おう!」

ざくり

再び自らの腕にナイフを突き立てる。
亀井と新垣、等しく同じに傷が開き、
等しく同じに、血が噴き出す。

新垣に、なすすべはない。
そう、亀井には、勝てないのだ。

【精神干渉(マインドコントロール;mind control)】

不可能だ。

新垣は知っている。
目の前の彼女の、桁外れの『強さ』を。
『強い』そう『強い』のだ。

彼女は、『気』力も、『体』力も、常人ならざる『強さ』を持っていた。
人類として、ヒトという『種』として、『えげつない』ほどの『強さ』を。

だが、皮肉なことに、いや、それゆえにこそ、耐え切れなかった。
彼女の『心臓』は、彼女の『強さ』に、耐え切れなかった。

『心臓』のみが、ただ『心臓』それのみが…

彼女の精神は『強い』。
新垣の【精神干渉】は、彼女の『強さ』を凌駕出来ない。

389 名無しリゾナント :2014/11/23(日) 01:33:12
もし、凌駕しえる手段あるとするならば、それは直接亀井の精神に…
すなわち【潜行(ダイブ)】と呼ばれる、その手段のみ。

が、それも、今となっては手遅れ。
もはや一歩も動けぬ新垣に、直接の接触が絶対条件たる【潜行】など、絶対に。

どさり

倒れ伏す。
動けない。

「ガキさん?もう寝ちゃうの?これで、おしまいなの?」

プラプラとナイフをもてあそび、ゆっくりと近づく。

「そっかぁ、じゃあこれで」

くるり、逆手にナイフを持ち替え振りかぶる。

「えりの、勝っ」

ナイフ、逆手、振りかぶった、その手首。

「まだ、早いよ、カメ」

新垣が、手首を。

突然、跳ね起きた新垣が、手首をつかむ。
そのまま身体を、ぴたりと寄せる。
刹那に、押し倒す。

390 名無しリゾナント :2014/11/23(日) 01:33:43
―――右を小外に巻き込み、左を小内に刈り―――
浴びせ倒す。

全身は血まみれ。

だが、傷一つない、その身体。

「がきさん、傷は?」

生気に満ちた、その眼。

「さゆの、おかげだよ」

右手をひらく。

「それと」

ちいさな白い紙、単語カード。

「譜久村の」

【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】

道重の【治癒】の力をカードに。

「ああ、『ふくちゃん』だっけ?さゆ『も』言ってたよ」

完全に組み伏せられた、その姿勢から、ゆっくりと背を丸める。

「でも…」

391 名無しリゾナント :2014/11/23(日) 01:34:31
首が起き、肩が浮き、ほぼ背骨の力だけ、しなやかに上体が起き上がる。
新垣の、全体重を掛けても、抑えきれない。

「やっぱり、えりの勝ちだよ?ガキさん」

が、新垣に、焦りは、ない。

「カメ、ごめんよ」

謝った。

その心に直接触れることを。
その心に直接潜ることを。

やさしく、抱きしめる。
包むように、柔らかく、やわら…かく…

二人は抱き合い、そのまま深く…どこまでも、深く…

392 名無しリゾナント :2014/11/23(日) 01:35:31
>>387-391
■ ディープハグ −新垣里沙X亀井絵里− ■
でした。

393 名無しリゾナント :2014/11/24(月) 17:52:28
■ ストンプザホース −田中れいな− ■

衝撃波。

山林に、破裂音が響き渡る。

田中れいなは、吹き飛ばされた。

その距離、ゆうに5メートル。

だが

「なっ!」

動揺の声は『馬』の少女から。

衝撃で応える見えない鎧。
打ち付けられたのは、拳ではない。

クロスガード。
交差した両腕に視界が塞がれる一瞬に。

跳躍する。

突進の勢いを殺すことなく、駆け登り、蹴り下ろす。
拳より強い力、すなわち『脚』で。

『馬』の頭を。

「キックしたのぉ!」

394 名無しリゾナント :2014/11/24(月) 17:53:01
全力の蹴り込みが、破裂音に弾かれる。

衝撃は田中を吹き飛ばす。

『馬』の少女の頭上から、斜め後方へ。

そう、障害物を、飛び越えるために。
一気に距離を、かせぐために。

空中で木々の生い茂る枝を突き抜け、斜面山側へ落下。

立ち上がると同時に駆け出す。

下方に少女と山道を確認。
『馬』の少女との距離は、すでに10メートル以上。

一気に斜面を駆け降りる。

「やべっ!待って!!!」
「待つわけないっちゃろ!」

15メートル、10メートル、距離が詰まる、『馬』の少女が追いすがる。
凄まじい走力、加速力。
ぐんぐん追いついてくる。

「ちぃ!はっや!」
「まってっ!って!ゆっ!ハァハァ!って!」

395 名無しリゾナント :2014/11/24(月) 17:53:36
10メートル、15メートル、30メートル、さらに距離が…いや、離れていく。
目に見えて、速度が落ちる。

田中も決してスタミナのあるほうではない。
が、『馬』の少女は、それ以下だ。

どんどん離される。

「全力でふりきるっちゃ!ガキさんとこまでもてばいい!」

そんあとは、そんとき、考える!

396 名無しリゾナント :2014/11/24(月) 17:54:16
>>393-395
■ ストンプザホース −田中れいな− ■
でした。

397 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 19:31:35
■ プレシャスポートレイト −譜久村聖− ■

一目見ただけで虜になった。

その女性は、とても可愛かった。

とてもとても、可愛かった。


「えっ?あれっ!道重さん!この子…このひとっ!いったい誰ですか?!」

道重のシール帳、一枚のプリントシール。
くぎ付けになる。
おそらくまだ10代の道重、彼女お得意の『うさちゃんピース』。
そのとなり、目を細め、口元に指をあてる10代の少女…

「あっそれ?さゆみの親友なの。さゆみの親友で『えり』って…」
「『えり』さん…」
「うん、『かめいえり』いまはちょっと入院してるんだけど『えり』もリゾ…」
「かっ…かわいい…」
「ネイ…あ、でしょー?こっちのとかもかわいいのが…」
「はぁああん!かわいい!下さい!」
「へっ?」
「シール!画像!」
「あっああ…画像もあること前提なんだ…まあ、あるけどね…いいよあげる」
「やったー!」
「…ふくちゃんってさ…たまに…凄い迫力のとき、あるよね…」

398 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 19:32:20
  そんなに気に入っちゃたの?
  まあわかるけどさゆみも。
  じゃあいつか、一緒にお見舞い行く?
  いくいく!いきます!いきたーい!

結局、その機会は訪れなかった。
高橋が失踪したことで、なんとなく機を逸し、今に至ってしまった。

譜久村は一枚の画像を開く。
あのときもらった、『かめい』さん…すなわち『亀井絵里』の画像。

道重の声は、少しだけ、震えていた。

絵里がいないの。

そう言って、震えていた。

399 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 19:33:29
ふくちゃんの【能力】で絵里の痕跡を…

新垣さん達が調査に出かけて、今リゾナントには道重さんしか年上の人はいない…
責任感の強い道重さんが、あんなに声を震わせて…
きっとすっごい震えないように我慢して、我慢したけど震えちゃってるんだ。
すっごい不安なんだ、すっごい…

みずきがたすける!

聖が助けなきゃ!聖、道重さんの役に立ちたい!大好きな道重さんの!
大好きな亀井さんを!みずき探す!

400 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 19:34:16
>>397-399
■ プレシャスポートレイト −譜久村聖− ■
でした。

401 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:13:46
 
 
血の海にすべてが沈む姿を、ただ見ている事しかできなかった。
こんな事したくない。そう心が叫んでいるのに、止める術をそこには有していなかった。
目の前に立つものすべてを破壊し尽くさんと、両の手を紅く染め、世界を闇に閉ざしていった。

「やめて……」

懇願する声を振り払うように、私はゆっくりと刀を振り下ろした。

402 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:14:19
-------

「っ――――!!」

声にならない叫びをあげて、里保は目を覚ました。
悪夢を、何度も見る。
血の雨を降らせたあの夜光景は、里保の脳裏に焼き付いて離れない。
繰り返される夢は、現実の続きにも思える。
あの夜以降、一度たりとも「赤眼」の自分は姿を現していない。
だけど、いつ再び顔を出しても不思議ではない。

能力を行使するその手前で、里保は常に躊躇する。その隙に首を刈られそうになったことだって何度もあった。
その度に聖や衣梨奈、香音からの助けを得て、何とか窮地を脱している。
状況はあの時から、何一つ変わってはいない。そればかりか、さらに悪化の一途を辿っている。
里保が一歩踏み出すのを拒むその理由を、彼女はまだ、仲間に話せていないのだから。

403 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:14:51
「眠り姫はっけーん」

額に滲んだ汗を拭おうとした矢先、背中に声をかけられた。
「眠り姫」ということは、先ほどから見られていたのだろうかとも思ったし、そんな長い間声をかけたなかったのだろうかと疑問にも感じた。
深入りしない事が大人の約束だと里保は前髪を撫で「どうして此処に?」と訊ねて腰を上げた。
プールサイドという特殊な床に座っていたせいか、臀部と太腿に痕が残った。
ちくちくする痛みとジンジンという痺れに顔を歪めると「キミこそ何でこんな場所で寝るかな」と逆に返される。

「やっぱ、水が好き?」

さゆみはそう言うと、里保の隣に腰を下ろした。
道重さん、お尻痛くなっちゃいますよとは言わず、黙って見下ろす格好になる。
水が張られたプールに、微かに波が立った。壊れっぱなしの窓から、冷たい夜風が吹き込んでくる。
此処も随分、荒らしてしまったなと思う。

最初は、蛍光灯だった。
勢いに任せて水砲を打ち上げたら、プールサイドにいた彼女の服を濡らすばかりか、天井に設置されていたそれを破壊した。

次に壊したのは、窓。
先輩2人にそそのかされて、水龍を作り上げて天上へと走ったそれは、派手な音を立ててガラスが割り、巨大な黒雲に呑みこまれていった。

そして最後は、壁。
打ち上げた水龍を制御しきれず、勢いそのままにシャワーへとぶち当たった。
ガシャガシャと派手な音を立ててシャワーが蛇のように撥ねたかと思うと、壁に亀裂が入り、そこから水がちょろちょろと流れ始めた。
水道管まで破壊し、それはそれは青ざめたのを覚えている。

404 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:15:21
「水は、嫌いです」

記憶とともにじっとりとした湿気を振り払うように、風が通り抜けた。
彼女が顔を上げる気配を感じる。
怒られているようにも、慰められているようにも、そのいずれでもないようにも感じる瞳は、ただとても、美しかった。

「私は……壊します」

その瞳から逃れるように、両の手を広げた。
あの夜、真紅に染まったそれは、ただひたすらに、雨を降らせた。


―――「破壊と絶望を振り翳し、世界を統一するための、狂気を」


大切な人を、失いかけた。
自分が未熟故に。能力を過信した故に。
ポテンシャルという名の狂気、世界のすべてを闇に帰すほどの絶望を解放しかけた。
紅を纏った自らの姿は、血に飢えた、狼と同じだ。

「それもひっくるめて、キミ自身でしょ」

さゆみはいつの間にか立ち上がり、里保より視線を高くしていた。
黒髪が夜風に揺蕩い、心地良さそうだった。
両の手を広げて、世界を感じるその姿が大きくて、凛々しくて、美しい。

405 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:15:53
「寝るのが怖いからって、変な場所で寝落ちすると体壊しちゃうよ?」

そして案の定、ばれている。
お見通しなんだ、この人は。私のことを、メンバーのことを、仲間のことをなんでも知っている。

「鞘師―――」

リーダーとしてふさわしい器を携え、しっかりと私を捉えるその声に、応えられない。
怖いのかもしれない。
あと少しで此処から去っていくこの人に、なにひとつ私は返せない。


―――「そんなこと、鞘師は、しない」


覗き込んだ深淵の先、黒き翼を携えた魔王を見ても、さゆみは最後まで里保を信じた。
その黒曜石の瞳で、幼くて純粋な輝きを護ろうと必死に息を繰り返した。
そんな強くて優しい人に、私はなにを―――

と、思考を巡らせていると、さゆみはスタート台へと昇った。
その姿は、前にも一度目にしたことがある。
そうあのときは…確か、そう。柔らかい眼差しの彼女が、「よーしっ」と両手を挙げて「せーのっ」と膝を折ったんだ。

止める余裕もなく、気付いたときには、さゆみはは水の中に飛び込んでいた。
その様はまったく、2年前に見た彼女の姿とうり二つだった。

406 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:16:30
「道重さんっ!?」

思わず飛び込んで掬い上げようかとしたが、それより先にさゆみが水面に顔を出した。
ぷはぁっと水を受け、髪を濡らしたその姿は、雨に濡れた、女神と同じだ。
手足を少し動かし、ぷくぷくと浮かぶ彼女を見てほっとしたのも束の間、すぐに身体ごと引き上げようと水面に手を翳す。

が、遠雷を聞き、雨音が耳に飛び込んできた瞬間、その手に力を込められなかった。
何かが、自分の中の何かが警鐘を鳴らす。
動かしても良いのか。使っても良いのか。能力を解放しても良いのか。


―――「……虫みたい」


標本のように男を磔にした、あの赤眼の自分が、そこに居る。
動かすな。動かすな。ダメだ。これは。まだ。私は。私は……

「りほりほー。引っ張って?」

一瞬の躊躇の隙に、さゆみは既に里保のすぐ足元にまで泳いで、というか漂ってきていた。
ぺったりと貼り付いたシャツで肌が透ける。
風の彼女よりも真っ白な肌が眩くて、思わず頬が紅潮するのを感じた。

里保はぐっと息を呑み、膝を曲げる。
黙ってそっとさゆみに手を伸ばし、掴む。

「わわっ!」

引き上げようとしたときだった。
里保が膝を伸ばして力を込めるより先に、さゆみは両手で彼女の手首を強く引いた。
バランスを崩した里保は、そのまま水の中に飛び込んだ。

407 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:17:06
派手な水音を立てて、ふたりはプールの底へと落ちていく。
次々と泡が浮かび、たくさんの水が口から鼻からと浸食していく。
それらを空気とともに吐き出して、ぐんと右腕に力を込めるが、さゆみはそれでも、里保を奥底へと引きずろうとする。

何を考えているんですか―――!

そう言おうとした言葉は、当然のように泡になって消える。
水の中で、さゆみの顔が歪む。
この両の目に溢れていたのは、プールの水なのか、それとも体内から伝った涙なのか、それすら判別することができなかった。


―――喜んで


あなたは確かにそう云った。
私に聴こえるまで、その“音”を捉えるまで傍に居てくれる、とそう云った。
なのに。なのに私は。私はあなたを―――


―――「鞘師のこと、信じてるから」


言葉が想いとなって自らを包む。
気付けばすぐそこにあって、だけどいつの間にか遠ざかってしまう。
大切だと気付いたときには、もうカウントダウンは始まっていた。
それでも私はそれに縋る。彼女のくれる感情は、いつだって宝物だから。


里保は右腕でさゆみを引き上げると同時に、左手に力を込めた。
微かに熱くなるそれを水中で大きく回し、拳を握り締めた。

408 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:17:37
すると、水底が大きくうねりを上げた。眠りを覚まされた不機嫌な水龍が、ふたりの身体を一気に水面へと押し上げた。
ざばあっという派手な音のあと、ふたりはほぼ同時に顔を出し、息を吐き出した。

「っ…げほっ!!」

塩素の強い水を吐き出しながら、「道重さんっ!」と声をかける。

「大丈夫ですか?!」
「やーっとチカラ使ったねぇ……」

里保の問いには答えず、さゆみはいつものように柔らかく笑った。
くらくらするような輝きを携えたその眼差しに、思わず目を背けてしまいそうになる。
さゆみはそれを赦さずに、水面で揺蕩いながら、里保の身体を引き寄せた。
一瞬で、ふたりの距離がゼロになる。
互いの服は濡れ、ぺったりと貼り付いて気持ち悪い。
だけど、そのぶん、相手の温もりをしっかりと感じられて、何とも愛しかった。

どくん。と鼓動がしたのを感じ取った。
その心音がどちらのものなのか、里保にもさゆみにも、分からなかったけれど。

「一人じゃないって云ったじゃない」
「えっ……」
「さゆみは確かに鞘師を止めた。だけど、さゆみ一人で止められたものを、ほかのみんなが止められないと思う?」

さゆみ、リゾナンターの中で最弱王だよ?とおどけてみせる彼女に、「そんなことっ!」と言葉を継ぐ。
だが、さゆみはそれ以上里保に想いを語らせることなく、「自惚れないで」とつづけた。

409 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:18:07
「さゆみは鞘師を過大評価してないし、みんなを過小評価してない」

ふたりだけの地下プールに、さゆみの声が響く。
共鳴して、反響して、あちこちに弾かれた声が、最後に水面に浮かんで里保のもとへと飛び込んでくる。
感情の衝突は、不快さなどはひとつも携えていなかったが、まるで透明なガラスのように真っ直ぐに尖っていた。
さくりと抉ったその心の先で、紅き血が流れるのを感じる。
それでも里保は、何も言わずにさゆみを待った。
待つこと自体、弱さなのかもしれないけれど。それでも里保は、さゆみを待った。
いつだって、鞘師里保を護ってくれる、道重さゆみという大きくて尊い存在を。

「もっと信じて。さゆみだけじゃなくて、フクちゃんも、生田も、鈴木も…みんなのこと、もっと信じて」

波紋が広がり、そして凪が訪れた。
波が収まるのを感じるのは、あの日と同じ光景だった。
感情の刃ですべてを壊しかけたその瞬間さえも、彼女はバラバラになる心を繋ぎとめてくれた。
これが、時代を紡いできた彼女の、唯一無二のチカラなのだと実感する。

「みっしげさん……」

里保はそっと、彼女の背中に腕を回す。
いつかは、赤眼の己と対峙し、淘汰しなければいけない日が訪れるかもしれない。
だが、その時に自分は一人じゃないと、何度でも彼女は諭してくれる。

此処に来て4年。
人を斬り、心を殺し、時に仲間を傷つけ、膝を折りかけた日々が繰り返されてきても。
それでも絶えず時間は巡り、季節は流れ、仲間を送り出し、新しく迎え、変わらずに絆を結んできた。

410 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:18:37
初めて出逢ったあの冬も、地下プールを壊し始めたあの夏も、コインをひっくり返されて自分を失いかけたあの春も。
すべての時を超えて、彼女との最後の秋が訪れる。

「さゆみは、水が好きだよ?」

そうしてさゆみは、揺れる水面を掬い上げ、ぱちゃりと里保の頬にかけた。
真っ赤に染まった里保の瞳は、あの日に見た赤眼のそれとは全く違う、幼さと純粋さと、そして凛とした強さを有していた。

「道重さんっ……」
「うん?」

里保は鼻を啜り、ひとつ、息を吸う。彼女の瞳を、今度こそまっすぐに見つめる。
何度迷っても、何度振り返っても、何度立ち止まっても、必ず歩き出す強さを、この人はくれる。
だから私は、ひとつだけでも、返したい。
此処を、仲間を、私たちを護りつづけてくれたこの人に。愛をもって、支えてくれた、この人に。

「ちゃんと、直します。壁も、天井も、窓も」

里保の言葉に一瞬きょとんとしたあと、さゆみは周囲を見回して「ああ」と笑った。
破壊しつくされたこの場所は、修繕作業が追いつかなくて、結局放置されたままになっている。
そんなお金ないし、此処使うのぶっちゃけ鞘師だけだからねと、さゆみはいつも愚痴のようにこぼしていた。

「直ったら、また見に来てくれますか?」

そして再び、風が撫でた。
水滴を浴びて重くなったそれは、先ほどのように靡かないけれど。
鼻を擽る夜風は、すっかり冬の匂いを携えている。
何かが焦げたような、痛みと、鋭さと、そして切なさと、複雑に交じり合うそれが、身体の熱を奪っていく。
それでもさゆみは、彼女の肩をしっかりと抱き、新しい熱を授けてくれた。

411 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:19:08
4年も前から変わらずにくれたその温もりを、里保は大事に大事に受け止める。

「直すだけじゃなくて、もっと設備とかいろいろ豪華にしといてね?」

甘やかすことをせず、微かに突き放すそれは、白き鬣を揺らし、孤高の中で吠える百獣の王のようだった。
そんなさゆみに里保はすっかり絆されてしまい、出来が悪く叱られた子どものように、くしゃりと顔を崩して肩を竦めた。
閉じられた瞼から溢れる涙を拭うこともせずに、「がんばります、みんなと」としっかり笑った。
その笑顔が尊くて、ずっと見ていたくて、そろそろプールから上がりたいなぁという言葉を、さゆみはすっかり呑み込んだ。

412 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:19:39
>>401-411 以上「水辺の誓い」

413 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:48:21
>>368-375 の続きです



学校帰り。
石田亜佑美と小田さくらは、敵襲に遭っていた。
何故この組み合わせかと言えば。ただ単にあぶれもの同士。香音と聖、里保は日ごろお世話になって
いる先輩・愛佳の用事で先に学校を出ていたからだ。それはさておき。
相手はちょうど亜佑美たちと同じ、二人。一人はいかにも屈強そうな男ではあるが、もう一人は家でネ
ットゲーム三昧してるのがお似合いの痩身の青白い小男だった。
「敵」とは言え、ダークネスの手のものではない。
組織に属さず、フリーの立場にある能力者。ただ、こうやってリゾナンターの前に顔を見せる能力者た
ちの中には、ある共通項が存在することが少なくない。

自分たちの名を、闇社会に売る。
それが彼らの主たる目的であることがほとんど。
もちろん、目的のためならどのような手段を取ることも厭わない危険性があるから、こうして亜佑美た
ちは男たちが誘うままに近隣の公園へと足を運んでいるわけだ。

「さあて、どうするの? ここなら大の大人が女の人に伸されたとしても恥ずかしくないと思うけど」

公園の森にさりかかり、人気がなくなったのを確認した亜佑美が男たちに話しかける。
こういう輩にはまず言葉でクールに威圧するべき、歴代の先輩たちからの教えを忠実に守ったつもり
ではったが。

「そうだな。ここなら小学生みてえなチビをぶん殴ったとしても非難されることはないわな」
「違いないな」

明らかな侮辱とともに、顔を見合わせて笑われる始末。

414 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:49:33
こいつら、言うに事欠いて…いや、リゾナンターはいつでもクールであるべきだ。鞘師さんのように、
感情に流されることなく、ポーカーフェイスポーカーフェイス…

逆に挑発に乗りそうになってしまうのを必死に抑える亜佑美だが、伏兵は思わぬところに。

「石田さん、挑発しようとして逆に馬鹿にされてますよ」
「う、うっさい小田! 何であんたまでそんなこと言うのよ!!」

いともたやすく、感情爆発。
ポーカーフェイスもへったくれもない。

「悪いが、お前らの学芸会を楽しむ余裕はないんでな…行かせてもらうぜ」
「へへ、お前らみたいなもんでも一応はリゾナンターらしいじゃねえか。俺たち『ヘル・ブラザーズ』
の名を上げるため、おとなしくやられてもらうぞ」
「…今時ヘルブラザーズって。中学生でもそんな名前名乗らないですよ? ねえ石田さん」
「え、っと、ちょっと今はそんなこと言ってる場合じゃない、戦闘に集中!!」

調子が狂う。
理由は一つ、隣にいるさくらの存在だ。
彼女の醸しだす独特な世界、小田ワールドとでも言うべきか。その異世界に対して最も合わないなあ
と思っているのが何を隠そう亜佑美であった。
そして密かに、ヘルブラザーズという名称に少しだけ格好よさを感じてしまっていた。

体を前傾させ、今にも飛びかからんばかりの二人の男。
亜佑美は二人を見て、さくらに耳打ちする。

415 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:50:40
「小田ちゃん、あんたは小男のほうに行って。あたしはあのデカブツをやるから」
「そうですか? 私は逆のほうがいいと思いますけど。体格の割には自信満々だし何か隠し玉を持っ
てそう。逆に大男のほうは私の『時間跳躍』が嵌りそうだし」

ったく。あたしがあんたに気ぃ使ってるの、何でわかんないかなあ。
亜佑美は後輩に負担をかけないよう、わざわざそういうチョイスをした。しかしさくらはそんな配慮
などお構いなく。

「おしゃべりしてる暇なんてねえぞ!!」

大男が、亜佑美へ向かって猪のように突進してくる。
意外と素早い。そこへ割り込むさくら。早速「時間跳躍」を使ったようだ。

「しょうがない、そっちはあんたに任せるわよ!」
「任されます!!」

こうなったらもう仕方ない。
戦闘中に合う合わないなどそれこそ、そんなことを言っている暇などないのだから。
亜佑美は「相棒」を呼び出すために意識を集中させた。

一方、自らの背丈をはるかに超える大男と対峙したさくらは。
時間跳躍能力を小刻みに使うことで、相手を翻弄する。

「ちっ、ちょこまかとうるせえチビだ!!」

相手には、さくらが高速で移動しているようにしか見えない。
しかし、何とか体に見合わない反射神経でさくらの動きを追おうとしても、徐々に遅れが目立ってき
ていた。

416 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:52:03
「時間跳躍」。Dr.マルシェの壮大な実験の副産物としてさくらに残された能力だった。
もともと持っていた「時間編輯」に比べると、あまりに矮小な力。だがさくらは自らの能力の研鑽に
より、それを自分の必殺技に変えた。

陣取(じどり)、さくらはその行為をそう呼んでいた。
時間を跳躍し、相手の死角に移動する。それだけではない。彼女はそれまでに自分が得た経験から、
「どの角度に移動すれば自分の攻撃が最大限のダメージを与えるか」を計算し、その場所に移動す
る。まさに一撃必殺の、クリティカルヒット。

「無駄な努力、ご苦労様です」
「んなあっ!?」

まったくの予想外の場所に現れたさくらを、男は捉えきれない。
無防備な角度からの、鋭い蹴りの一撃。何が起こったのかすら把握することなく、ヘルブラザーズ
の片割れは意識の沼に沈み落ちた。

「小田のくせにやるじゃない」
「ふふ、向こうに気を取られてていいのか。お前は既に俺の術中に嵌っているというのに」

あっさりと大男を倒したさくらに対抗心を燃やす亜佑美。
しかしその体は蔦のようなものに拘束されていて。

小男の能力は、植物使役。しかも拘束を目的とした蔦状の植物を好むようだ。
おそらく亜佑美とさくらが話している間にこっそり種を蒔いておいたのだろう。

「へえ。でもこんな力があるなら、あっちの小田のほうも拘束してればあんたの相方は無様な負け
方してなかったのにね」
「生憎、一人を拘束するんで精一杯なんでな。だが、お前を倒してイーブンの状態で引き揚げるっ
てのも一つの案だな」

ちらと遠くのさくらを見る男。
どうやらさくらがこちらに来る前に決着をつけるつもりのようだ。

417 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:53:02
「は?あんた、こんなちゃちな蔦であたしを縛りつけられると思ってんの? カムオン、リオン!!」

亜佑美の叫びに呼応するかのにように木霊する、獣の遠吠え。
青き風、と形容してもいいくらいの素早さで、鋭い狼牙が亜佑美を拘束する蔦を引き裂き千切ってゆく。

「…ならこれはどうだ!!」

男と亜佑美の間の地面に、再び蔦の束が溢れだす。
それは意外にも亜佑美ではなく、男に向かって巻き付きはじめた。

「ちょっとあんた何考えてんの?自殺行為じゃない!」
「それは…どうかな」

一見自分で自分を絞めているかのような異様な光景。
ところが、出来上がったのは緑の人型。言うならば、蔦人間。

「うわっ、気持ち悪っ」
「ほざけ!攻守一体のこの技の真髄を味わうがいい!!」

男の手から、射出されるように伸びる蔦。
いや、表面に棘を纏ったそれは荊。鋭さは、亜佑美がかわした背後の木の幹を傷つけるほどに。

「カムオン、バルク!!」

亜佑美の背後に、天高く青い影が聳え立つ。
呼びかけに応じ現れた鉄の巨人が、男目がけてその拳を振るった。
響く轟音、舞う土煙。
跡形も無くぺっしゃんこ、と思いきや男は軽々とバルクの拳を受け止めていた。

418 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:54:01
「どうだ、蔦がバネとなってこの程度の衝撃なら耐えられるのだよ」
「…うっざ!!」

お望みならほんとの植物人間にしてやる!って今ちょっとうまいこと言っちゃったかも。
などと愚にもつかないことを考えながら、亜佑美は再び相棒に呼びかける。

「カムオン…リオン、バルク!!」

例の孤島での戦い。
さらに、先輩である田中れいなの「能力増幅」の影響を受けて自らの能力を強化させたリゾナントのメン
バーたち。それは亜佑美とて例外ではない。能力向上によって彼女が得た新しい技術、それが幻獣の二体
同時召喚。

「なっなっなんだぁ!!!!!!」

迅と剛が、慌てる蔦人間に襲い掛かる。
リオンの鋭い爪が、牙が緑のプロテクターを剥ぐ。丸裸になった男は憐れ、バルクの一撃で空の向こうへ
と消えていった。

「石田さん、リオンとバルクを両方呼びだせるようになったんですね」

飛んで行った男の軌跡をどや顔で眺める亜佑美のもとへ、さくらが駆けつける。
男のやられ振りを見て二体が同時に呼び出されたのを察知したらしい。

「おーだー!遅いっ!先輩より先に相手を片づけたんなら、さっさとこっちに来る!」
「えーっ、でも石田さんだったら私より先に決着つけてるかなって」
「むぅ…」

ここぞとばかりに先輩風を吹かせようとしても、まさに柳に風。
ある意味正論なので返す言葉もない。

419 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:54:30
「石田さん、私たちって…合わないですよね?」
「あのねえ…そりゃこっちの台詞…」

言いかけて、言葉を止める。
当のさくらは、何だか嬉しそうだからだ。

思えば、特殊な境遇からリゾナンターになったさくらだ。
自分だけのワールドというか、そういう空気を持っているとしても仕方がないのか。
亜佑美は、彼女の特殊性を彼女自身の生い立ちや歩みに求めた。だから。

「そうね、合わないんじゃない?」
「ですよね!同じ方向目指しても歩こうと思ってもどっかですれ違っちゃうみたいな!」
「その例え分かり辛いし第一合ってるかどうかわかんないからっ!」

合わない、ということでさくらを受け入れるのもまた一つの方法。
それはそれでいっか。

「ほら、さっさと戻るよ! はるなん一人で店番とか、すっごい心配だし」
「はいっ!」

先を歩く亜佑美に、さくらがひょこひょことついてゆく。
そのさらに後ろ。二人の姿を眺めているものがあった。

「なるほどねえ、こんこんのレポート通りってわけか」

露出の多い、黒を基調とした服。
少女は、短パンのポケットに手を突っ込み、無造作に丸めていたメモ紙を取り出す。

420 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:55:33
「石田亜佑美は見えざる獣の使い手。小田さくらは元ダークネスの実験体で時間操作能力の持ち主。あと
は…うわ、きったねえ字。読めやしないじゃん。ってのん自身がこれ書いたんだっけ」

不意に、誰かが現れた気配。
少女のポニーテールと、首元から大きく垂らしたチョーカーの布が揺れる。

「鞘師里保は水使いの剣士。鈴木香音は物質透過能力。譜久村聖は他人の能力をコピーできる。生田衣梨
奈は精神干渉系。飯窪春菜は自分および他人の五感を増減させる。佐藤優樹はわけわからん仕組みのテレ
ポート。工藤遥は千里眼や。そんくらい、頭で覚えとき」
「来てたんだ、あいぼん」

不満そうに口を尖らせた相手は、彼女の「永遠の相方」。

「お前なあ、どこほっつき歩いてんねん」
「あいぼんは用事、終わったの?」
「ああ、計画通りや…って、そんなにあの連中が気になるんか?」

亜佑美たちが去って行った方向を見ている「金鴉」に、「煙鏡」がからかい口調で言う。
すると「金鴉」は大きく肩を竦め、

「ぜーんぜん。確かに例のチビ剣士には少しだけ興味あるけど、所詮はのんの敵じゃないしね。それよりも」

「煙鏡」と顔を見合わせる。

「道重」
「さゆみ」

互いに発した声はユニゾンとなり。
不吉とすら思える響きを放つ。

421 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:56:06
「あいつだけは厄介や。特に『裏の人格』がな」
「美貴ちゃんとかとも互角にやり合ったって話だからね」
「…やるか」
「めんどくさいからさ、『あの場所』で済ませようよ」
「せやな。段取りはうちが組んだるわ」
「おっけー、よろしく」

それだけ言うと、「煙鏡」に背を向けて手を振る「金鴉」。
次の瞬間には、光の中に姿を消していた。

「簡単に言いおって。よっすぃーの目ぇ誤魔化すんも、一苦労なんやで」

そして悪態を突きながらも、「煙鏡」自身も。
それこそ煙のようにその場から消えていた。

422 名無しリゾナント :2014/11/25(火) 23:57:00
>>413-421
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

423 名無しリゾナント :2014/11/26(水) 22:46:17
■ レイアスネア −譜久村聖− ■

夕暮れの光が全てをオレンジに染めていく。

亀井絵里が入院していたはずの病室。
次の患者は入っていない。
まだ、無人のまま。

集うは道重さゆみ、譜久村聖、そして石田亜佑美。
連絡を受けてすぐ、譜久村と石田は道重のもとに【跳んで】きたのだ。

【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】

譜久村の能力。
物体に残った強い思念を読み取り、断片的なイメージとして【視】る。

424 名無しリゾナント :2014/11/26(水) 22:48:31
ベッドに手をかける。
白いシーツ、枕…

だめ、リネンは既に交換済み。

私物の類も、すでに無い。

でも、大丈夫。
私物以外にも、この部屋には、いろんな物が、まだまだいっぱい残ってる。
必ず、亀井さんが触ってるところがあるはず。

手すりのパイプを丁寧に触っていく。

あれ?これも交換されてるのかな?
ほかをあたろう。

周囲を見渡す。

シーツ、ベッド、無機質な引き出し、TV…
サイドテーブル、梨…

425 名無しリゾナント :2014/11/26(水) 22:50:03
ん?

梨が、サイドテーブルの上に。
皮の剥いていない、そのままの梨が。
ぽつんとひとつ、置き忘れたように。

あれ?さっきあったっけ?
なんだろう?わすれものかな?
たべものなのに、おいてっちゃったのかな?
まあいいや、それより、サイドテーブル。
亀井さん、きっと、このテーブルで何度も食事したりしてるはず。
これになら、きっと…

譜久村は手を伸ばす。
集中する。

と…その前に…
一応…確認だけ…
テーブルの前に…まずは…

 
…梨を…


手を…伸ばす…その手のひらで…その表面に…

426 名無しリゾナント :2014/11/26(水) 22:51:18
流れ込んでくる、イメージ。

夕日

亀井さん
100円
パジャマ
はさみ
タグ
TV
夕日

パジャマ

…梨

  ヤッパリコレヲ 
  【視】ルト思ッタヨ
  ”残留思念”二
  残シテオケル”量”ニハ 
  私モ限界ガ有ルカラ
  一寸強引ナ事スルネ 
  ゴメンネ…フクチャン

427 名無しリゾナント :2014/11/26(水) 22:51:56
>>423-426
■ レイアスネア −譜久村聖− ■

428 名無しリゾナント :2014/11/27(木) 18:16:18
■ レイアスネア −道重さゆみ− ■

「ぐがっ!ごっ!ごえぇえええっ!」

手掛かりを探ろうとした途端、異変は起こった。

卒倒、嘔吐、痙攣。

「ふくちゃん!」
道重の悲痛な声。

うかつだった!
さゆみは、何にも考えてなかった!

429 名無しリゾナント :2014/11/27(木) 18:17:08
思えば、空室のままだったこと自体、疑うべきだった。
どこの病院も、病室を無駄に空けておく余裕などない。
普通であれば、すぐに次の患者が入るはずだ。
なぜ、亀井の病室だけ、空いたままだった?
なぜ、病院の誰も、そのことに疑問を挟まなかった?

気付けるはずだ。
気付けたはずだ。

敵は譜久村の能力を知っていたのだ。
亀井がいないとなれば、その手がかりを探すため、
譜久村が【視】るだろうことを、当然のごとく想定していたのだ。
道重や普通の人間が触ってもなんともなく、
残留思念を感知できる譜久村にのみ発動する『罠』が、
―――おそらく最後に触った、梨に―――
仕掛けられていたのだ。

【精神干渉】の一種か?
だが、これは新垣のそれとは全く異質な『何か』だ。

病院関係者の記憶を操作し、
残留思念に『罠』を仕掛けておける能力。

だが、取り乱した道重に、そこまで分析する余裕などない。

「ふくちゃん!ふくちゃん!…ふくちゃん!!!」

さゆみのせいだ!さゆみのせいだ!さゆみのせいだ!

さゆみの!!!

430 名無しリゾナント :2014/11/27(木) 18:17:44
>>428-429
■ レイアスネア −道重さゆみ− ■
でした。

431 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 00:23:08
■ ガアデンオブザエア −新垣里沙X亀井絵里− ■

「なーるほど、そーゆーこと…」

えりの勝ち、そう彼女は言った。

「やってくれたな、カメ」

どこまでも続く、鮮やかな青空。

青い空、白い雲。

それで全部。
それで終わり。

これが、亀井の心象風景、深層意識。

天空に浮かぶ、巨石の庭園。

大理石。

庭園の淵に立つ。

銀の骨組み、巨大な天蓋。

天空に浮かぶ、巨大な鳥籠。

出口は、ない。

青白く静まり返る、磨き抜かれた床。

432 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 00:24:49
新垣は振り返る。

庭園の中央、水のない噴水。

足の細い2脚の椅子、丸テーブル。

そこに、亀井絵里が、立っていた。

「ようこそいらっしゃいました。」

小麦色の肌、黒髪。
張りのある二の腕、太もも、ふくらはぎ。
シャギーの入った、セミロング。
白のスカート、白のカーディガン、白の、ブラウス。

そして…

揺れる、オニクスのピアス。


それは、亀井絵里の”姿をしていた”

「ずいぶんとまわりくどいことしてくれちゃってぇ…
とーりあえず、アンタ、だれよ?なんでカメの格好してんの?」

亀井絵里の”姿をしたもの”は、小さく首を傾げ…

んふふ…
と、笑った。

「まずは、おかけください。いま、お紅茶、いれますね。」

433 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 00:25:25
>>431-432
■ ガアデンオブザエア −新垣里沙X亀井絵里− ■
でした。

434 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:02:06
>>413-421 の続きです



数日後。
福田花音は警視庁にある対能力者部隊本部に赴いていた。
昨日は思わぬ出来事で会議途中で離脱してしまっていたが、会議内容の詳細を部長代理に聞かなければな
らない。ダークネスにとっても切り札であろう「銀翼の天使」の保護は、国家権力に属する能力者たちにとって
重要な作戦と言っても過言ではない。

不本意ながらも、赤の粛清を討滅したことで「スマイレージ」というグループの実力を示すこととなった。ここで
さらに今回の作戦で功を成せば。

もうあんなやつらなんて、眼中になくなる。

花音は忌々しい連中の顔を思い浮かべ、舌打ちする。
赤の粛清戦で助けられたばかりか、一度は「壊れてしまった」和田彩花を救い出された。プライドの高い花音
にとって、それらの全てが屈辱でしかない。

ついでに、あの日から彩花がはるなんはるなん五月蝿い。
人に対して滅多に心を開くはずのない彩花が、命の恩人とは言えここまで依存しているという不可思議。つい
には「はるなんもスマイレージに誘おっか」などというわけのわからないことまで口走る始末。
そういう意味では、今回の作戦への参加は彼女の目を覚ますきっかけになるはずだ。

435 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:04:26
そして、「本部長室」の扉の前に立つ。
もちろん対能力者部隊を取り仕切る本来の主がいるはずもなく、中にいるのは主任と呼ばれる中間管理職。
だが、当の本部長がほとんど不在のために実際の責任者はその代理である彼と言っても過言ではなかった。

しんと静まり返った空間。
のはずが、部屋の中から話し声が聞こえる。先客だろうか。
構うものか。もし例のインチキシンデレラだったら蹴飛ばしてでも追い出してやる。意気込んで扉を開け
た花音が見たものは。

重厚な造りのデスクに居心地悪そうに座っている、主任。
そして彼を囲むように立っている、二人の女性。一人は背の高い、黒髪の凛々しい女性。そしてもう一人
は髪を茶色にした今時の女性。背丈は花音とあまり変わらない。二人とも花音とそう年は変わらないよう
に見えた。
どこかで見覚えのある、けれど記憶の扉からはうっすらとした光しか漏れてこなかった。

「…どうした。昨日は急に会議を」
「誰ですか、その人たち」

機先を制したのは、花音。
彩花の例の一件のことはあまり触れられたくない。与える情報は彩花が復帰した、それだけでいい。それ
よりも、目の前にいる見知らぬ人物たちのことを聞くのが先だ。

「おっと。顔合わせは初だったか。紹介しよう。『ベリーズ』のキャプテン・清水佐紀君と『キュート』の
リーダー・矢島舞美君だ」
「はじめまして」
「そっか。じゃああなたがスマイレージの…よろしくね」

436 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:05:27
「ベリーズ」に「キュート」。確かダークネスの下部組織としてリゾナンターと接触、交戦した集団の名前
だったか。花音はそのことを思い出し、やおら意地悪そうな笑みを浮かべながら、

「ああ、例の。半人前の連中にやられたあとどうなったとは思ってましたけど、まさかこちらに再就職する
とは思ってもみませんでした」

と早速毒を吐く。
さすがに顔色を変える佐紀、だが、

「そうなんだよねえ。でもまあある意味こちらでの理念は一致してるし、働かせてくれるならいいかなって」
「…え…はぁ…」

舞美の一言で拍子抜けしてしまう。
なにこいつ、ばかみたい。そんな皮肉すら出すのも馬鹿らしい。

「…で、こちらを伺った用件ですが」
「『天使』の件なら、もう済んだ話だ」

気を取り直し、本題に入る。
が、意趣返しのつもりか。今度は主任にハスキーな声で話を遮られた。

「おっしゃる意味がよくわからないんですが」
「簡単な話だ。今回の作戦から『スマイレージ』は外れてもらう」

さらに、畳み掛けるかのごとく。
ここまで単刀直入に言われてしまえば、最早腹の探りあいなど必要ない。

437 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:07:08
「何言っちゃってんの? あたしたちは『赤の粛清』を討伐してる。外れるどころか主力になってもおかし
くないでしょ。和田彩花もちゃんと復帰して…」
「…高橋愛でしょ、『赤の粛清』をやったのは」

予想外の、横槍。
思わず発言者の佐紀を睨み付ける花音だが、逆に佐紀にしてやったりの表情を返される。
公式にはスマイレージが「赤の粛清」を倒したことになっている。事実を知る者は組織でもごく一部に限ら
れるはずだったが。

「あんたたちみたいな連中までそんなこと知ってるなんてね。警察が秘密裏に組織した対能力者部隊の情報
管理も随分杜撰になったもんだわ」
「……」
「気に障ったなら謝るけど? ま、半人前の能力者たちに負けた上にかつての敵の軍門に下るなんて恥ずか
しいマネ、あたしにはできないかな」

相手が激昂するぎりぎりの毒を言葉に仕込む花音。
こんな馬の骨ともわからない連中に。侮蔑の感情を出すか出さないかのところで口を止めて、相手の様子を
窺う。だが。

「はぁ。だから改名なんかしたくなかったんだよね。『ベリーズ』とかちっちゃな果実がいっぱい集まった
感じでかわいいじゃん、って桃の言葉に流されちゃったけど」
「…あんた、何言ってんの」
「能力者の端くれなら聞いたことあるでしょ?『スコアズビー』通称『B』」
「スコアズ…まさか」

知らないはずがない。
「スコアズビー」と言えば、花音がダークネスの研究施設にいた頃。
彼女たちの先駆者として、人工能力者の成功者たちと称された一団。その活躍もまた、花音たち「エッグ」
の研究に役立てられていたことは嫌と言うほど聞かされていた。

438 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:09:03
「は、はったり言わないでよ。あんたたちがそんな有名な…」

うろたえながらも反論しかけた花音は。
急に思い出す。佐紀ではない。その隣でにこにこしている、舞美のほうだ。
花音は舞美に、一度出会っていた。



時は遡る。
人工能力者としての育成の最終段階。
花音はとある一般家庭にその家の「子供」として潜入する。
彼女が保有する精神干渉能力の精度をチェックするとともに、花音自身に人と関わる力の有無を確認するた
めのものだった。

経過は良好だった。
花音は風間家の娘「春菜」として何の齟齬もなく生活することに成功する。
父も母もそして兄も、疑問を抱くことなく花音を「春菜」と認識し、まるで生まれた時から一緒だったかの
ように接していた。

ただ、実験自体は中途半端なところで終了する。
花音自身に問題があったわけではない。風間家のあった地域が、別組織の「死体使い」によって襲撃された
のだ。
ゾンビの群れが、容赦なく町を覆い尽くす。ゾンビに襲われた人間は同じようにゾンビとなり、その数は瞬
く間に増えていった。

最早実験どころではない。
家族と呼んだものたちを見捨てて家を出ようとした花音だが、彼女もまた彷徨う死体たちの標的となった。
そこに現れたのが。

439 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:11:06


「せ、セル…シウス」
「えっ? 私のこと知ってるの? そっかー、何かうれしいなぁ」

かつての記憶の底から引きずり出された恐怖が、その名を口走らせる。
花音の青ざめた表情などお構いなしに、満面の笑みを浮かべてその両手を握る舞美。
この様子からして、相手はこちらのことは覚えていないのだろう。
頭の悪さはともかく、美しい女性だ。花音は素直に感じる。
ただ、花音の記憶の中の彼女は、今より幾分幼さを残した顔つきをしていた。



そこからは、ひどく現実味のない世界だった。
学生服に身を包んだ黒髪の少女は。
ゾンビと化した群集に殴られようが。バットを振り下ろされようが。拳銃で急所を貫かれようが。凛とした
表情を少しも崩すことなく。

その手勢全てを、文字通り叩き潰してしまった。
少女の拳が死人の顔を破壊し、少女のしなやかな蹴りが死人の胴を断ち切る。飛び散る赤黒い血と流れる輝
く汗が、同じ世界に両立する。手駒を全て失ったネクロマンサーは無数の打撃を浴びせられ、瞬く間に彼の
僕と似た姿と化した。
冬の凍てついた地面にへばりつく、血と肉の塊。冬の切れるような冷たい風に黒髪を靡かせ佇むその姿は、
美しさとともに底なしの恐怖を花音に植えつけた。

彼女がかの有名な特殊部隊「セルシウス」のメンバーだと知ったのは、そのすぐ後だった。

440 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:12:36


「ともかく、だ」

花音の脳裏に描かれた、美しきも忌まわしい冬の怪談を主任の声が遮る。
結論など、とっくの昔に出ていたような表情で。

「『天使』に関する作戦は、彼女たちに参加してもらう。『スマイレージ』は、各自待機命令が出ているか
ら、それに従うように」
「命令って!!」
「『本部長』からの、だ」

言葉は、冷徹だった。
そして花音は悟る。あの時、あの男に接触した時。既にこの命令は決まっていたのだと。

「…失礼します」
「半人前の能力者に負けたのは、お互い様でしょ。うちらのほうがいい勝負はできてたと思うけど」

踵を返す花音に、佐紀の発言が襲い掛かる。
言い返すことなく、部屋を後にした。

屈辱。ありえないほどの屈辱だった。
対能力者部隊「エッグ」結成後最大のプロジェクトであろう、「銀翼の天使」の奪取作戦。
そこから有無を言わさず外されるのは、かつて神童と謳われた花音からして、とてもではないが甘受できる
ものではなかった。

どうして。何故外された。
暗い渦のような感情は、ぐるぐると蛇のとぐろのように花音に巻きつく。
闇の奔流がやがて行き着いた場所は。

441 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:15:22
あいつらだ。

花音の頭に、ぬるま湯に浸かったような気の抜けた連中の顔が思い浮かぶ。
それは嫌悪を通り越して、より凶悪な感情を抱かせるに十分なものだった。

思えば、あいつらと交戦してからがけちのつき始めだ。
手を抜こうが、本気を出してなかろうが。佐紀の言うとおり、負けと判断されてしまった。だから、自分達
は戦力外として作戦から外されてしまったのだ。では屈辱を晴らすためには、どうすればいいか。

答えは、とっくに出ていた。
リゾナンターは、彼女にとって殲滅すべき存在だと。

442 名無しリゾナント :2014/12/05(金) 20:23:00
>>434-441
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

ベリメンたちにも「セルシウス」に匹敵するような格好いい名前を与えてあげたかったのですが
無い知恵を絞ってひねり出したのがセルシウス=月のクレーターの名前からの連想でした。

あとまろが一般家庭に潜入云々の元ネタは舞美と共演した「冬の怪談」という映画です。
まろの着替えシーンと舞美のターミネーターぶりのみが話題となった作品ですw

443 名無しリゾナント :2014/12/07(日) 00:24:04


海の見える、小高い丘。
響きあうものたちの原初となった女性は、丘の一番高い場所に据えられた墓碑の前に佇む。
日は既に暮れかけ、あの日と同じように血を流したかのような赤に海を染めていた。

海鳴りの風が、ひゅるひゅると音を立てている。
潮の香を含んだ風に、夕陽に照らされた髪が靡く。その流れを自らの目で追いながら、同じように風に揺れ
ていた朱のスカーフを思い出す。もう終わった。終わったはずなのに、生々しい彼女の色は何時までも瞼の
裏に焼き付けられ、消えてくれそうには無かった。

「ここか」

声と共に、体の芯まで凍らすような風が吹きつける。
愛の体を、海へと伸びる影が覆った。

「久しぶりやね、美貴ちゃん」
「お前にそう呼ばれる筋合いはない」

愛は、振り返ることなく「氷の魔女」に問いかける。
こうして二人きりで話すのは、それこそ組織に居た時ぶりくらいだろうか。
ただそこに、懐かしさなどというものは存在しなかった。

444 名無しリゾナント :2014/12/07(日) 00:24:34
「お前が、ここに埋めたのか」
「そうやよ」
「あの、破壊しつくされた高層ビルの瓦礫の山から」
「そうやよ」

不思議な空間だった。
魔女の感情の顕現化とも言うべき冷気が周囲を覆い尽くしているというのに。
愛にとっては、その温度すら感じられない。
それはまるで、砂漠のようで。生きとし生けるものが全て死滅した、乾いた砂の残骸。

「…あーしが言えた義理やないけど。帰って、くれんかな」
「それは」

「氷の魔女」の声が、低くなる。

「それは懇願(プリーズ)か。それとも…凍殺(フリーズ)か」

凍てつく空気から生み出される氷の矢は、オレンジ色を反射しながら。
一斉に、愛目がけて放たれる。
愛は矢の雨を縫うように夕陽に向かって跳躍し、魔女に正対した。

「…さけられん、か」
「黙れ」

黒のゴスロリドレスに、黒の外套。
いつもの魔女の姿ではあるが、その表情は。
先ほど感じた時のように、何も無かった。怒りも悲しみもない。
ただ淡々とした、「許さない」という事実だけがそこに漂っていた。

445 名無しリゾナント :2014/12/07(日) 00:26:55
愛の足元が凍結してゆく。一所に立ち止まれば、たちまちその凍気は愛の全身を侵食し瞬く間に氷像にして
しまうだろう。必然的に、相手の霍乱を兼ねた細かなステップを刻まざるを得ない。

魔女の目の前に氷が連なる。
それはまるで海面に突き出た鮫の鰭。血の匂いに惹かれるが如く、氷の猛獣は愛を捕殺しようと大地の海を
切り裂く。

「あれは、しょうがなかったんやよ」
「うるさい」

言いながら、「氷の魔女」も氷鮫に続くように愛に襲い掛かった。
空には再び、無数の氷の矢。加えて魔女と僕の近接二段攻撃。僅かな躊躇が、死に繋がる。

地から生える刃が愛の足を掠める。それは些細な傷ではあったが、バランスを崩させるには十分すぎるほど。
倒れこむ愛に追い討ちをかけようと、魔女が黒のドレスを翻して氷を纏った手刀を打ち込もうとしたその時
だった。

目の眩むような、光。
愛の掌から放たれた光の矢が、「氷の魔女」の背後にあった氷の矢を消滅させていた。
最後の一本は、ただまっすぐに魔女の心臓を射抜かんばかりに、愛の手の内で輝いている。

「もう…無駄な血は流したくない。あーしはただ、これ以上の犠牲は増やしたくない。ただ、それだけなん
やよ」

呪われし能力を振るい、人を殺す。
ただそれだけのために生み出された、i914という名の存在。
組織の在り方に、そして自らの生き方に疑問を覚え組織を飛び出し。
自分のような人間を二度と生み出してはならない、悲劇は二度と繰り返してはならない。
そんな気持ちがリゾナンターとして活動する原動力となっていた。

446 名無しリゾナント :2014/12/07(日) 00:30:10
仲間がなす術もなく蹂躙され、傷つけられた夜を経て。
いや、乗り越えてからも一層、思いは変わることなく愛を突き動かしている。
喫茶リゾナントを離れ、仲間と別々になった今もそれは変わらない。

ただ、一つだけ。
この手で自らを縛り付けていた因縁を断ち切ったあの日。
赤い赤い夕陽が沈んだあの日から。
自らの何かが欠けてしまったような喪失感を覚えているのも確かだった。
心の中を荒涼とした風が吹いている。終わらせたはずなのに、何一つ終わっていない。
夕陽の中に沈んでいった「彼女」もまた、組織の被害者のように愛には思えているからなのかもしれない。

その意味では、今愛の目の前にいる魔女も同じなのかもしれない。
同情でも、感傷でもなく。彼女の心のありよう、それは一歩間違えれば自らの身にも降りかかっていても
おかしくはないと。
もしも。仮にダークネスによって里沙が討たれていたら。
里沙だけではない。れいなが。さゆみが。絵里が。小春が。愛佳が。ジュンジュン、リンリンが。多くの
後輩たちが。
亡き者にされたら、きっと愛の心も決して潤うことのない砂漠になっていたことだろう。

ダークネスという組織を、このままにしてはおけない。
けれど、それが幹部全員を滅することと決してイコールになっているわけでは決してなかった。
甘い幻想なのかもしれない。不可能なことを謳っているだけなのかもしれない。
それでもなお。愛はその幻想を追うことを躊躇しない。
なぜならそれが彼女がリゾナンターという集団を率いていた原点でもあるのだから。

447 名無しリゾナント :2014/12/07(日) 00:32:50
だが。
現実は非情でもある。
心の風景を不毛の世界に変えてしまったような相手に、この声は届くだろうか。
それでも。

無駄な血は流したくない。

そう言わざるを得なかった。愛の搾り出した言葉、たとえそれが絶望の砂漠に撒かれ消えゆくとしても。

「…わかった」
「え?」
「あんたを殺すのは、無意味。それがわかった。あんたを殺したところで、美貴の心は満たされない」

目を見開き、呆然とする愛。
手の中の光が、消えてゆく。
魔女はゆっくりと愛から離れ、背を向けた。

だが、その魔女の発した言葉の真意は。
緩みかけた愛の心を凍らせるには十分すぎるくらいだった。

448 名無しリゾナント :2014/12/07(日) 00:34:42
「だから、あんたが可愛がってたガキどもをぶっ殺すことに決めた」

復讐。それが魔女の目的。それが彼女の心を荒涼とした光景にしているものの全て。
最も効率的で、最も効果的。相手の心もまた、砂漠に変えてしまえばいい。

「何で…何であんたらは!!!!!」

溢れ出す感情。それ以上は言葉にすらならなかった。
文句があるなら、自分に言えばいい。なのにあんたらはどうして、可愛い後輩たちに牙を向けるのだ。

「あの子たちは、関係ないやろ!狙うならあーしを狙えばいい!!」
「知ったことかよ」

纏うドレスの色と同様に心を黒く染めた魔女は、ゆっくりと背を向け、消えていった。
「ゲート」か。愛は今回の舞台のお膳立てをしたかつての旧友に歯軋りをする思いで、既に誰もいなくな
った空に目をやる。

すっかり夕陽が沈んでしまった海は、闇の砂に埋め尽くされた砂漠のように見えた。

449 名無しリゾナント :2014/12/07(日) 00:42:52
>>443-448
『リゾナンター爻(シャオ)』 番外編 「砂漠」

某所の砂漠の美貴愛から。
とは言っても引用したのはフリーズとプリーズのフレーズだけですがw

450 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 00:48:44
>>434-441 の続きです



「ぐはっ!!!!」

小さな体が、ゴム鞠のように地面にバウンドする。
蹴られ地に伏した女を見下ろすように、ライダースーツの金髪が仁王立ちしていた。

ダークネスの本拠地の、倉庫区画。
物々しいフェンスに囲まれた空間は、滅多に人が立入ることはない。

「何だ、やられっ放しかよ」
「…よっちゃん、意味わかんねーし」

ポニーテールの少女は苦痛に顔を歪めながら、否定のポーズを取る。
私刑を受けることも、それに対し反撃する事も納得のいってないような顔だ。
しかしそれも、金髪 ―「鋼脚」― が無防備な腹部を踏みつけることで即座に悲鳴に変わる。

「ほら、反撃してみろよ。なんならお前が諜報部の監視役たちをやったように、あたしのこともぶっ殺してみるか?」
「ぐっ…がっ!!!」
「歯ごたえねえなあ。市井さん殺った時みたいに、びっくりさせてみろよ」
「だから…よっちゃんとのんが戦う理由なんてないっての」

451 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 00:50:36
あくまでも抵抗しない少女 ―「金鴉」― 、に業を煮やした「鋼脚」はいよいよ彼女を呼び出した本題
に移る。もともと、駆け引きの類は彼女の得意とするところではない。
その間に、ライダースーツの攻撃が止む事はないが。

「こんこんから聞いたんだけどさ。お前ら、リゾナンターの殲滅の仕事ほっぽり出して…アキバの眼鏡ブ
タんとこの仕事請け負ってるんだって?」
「…は、はは。のんたちも、お金欲しいからねえ…ぐっ!」

返事の代わりに、蹴りが飛ぶ。
鋼を断ちし剛脚と謳われる足技、鍛錬してないものが受ければ臓腑の一つや二つは簡単に破裂してしまう
ことだろう。

「それはいい。けど、お前とあいぼん…『煙鏡』はリゾナンターたちの周囲を嗅ぎ回っている。ついでに
うちの放った『監視役』たちを殺しながらな」
「後々のための、調査だっての…例の監視役だって、鬱陶しいからちょっかいかけたら、勝手に死んだん
だって…ぐぼっ!!」

衣服から露出した腹に、再び蹴りが打ち込まれる。

勝手に死んだと言われちゃ、殺された連中も浮かばれないわ。

息を吸うように人を殺すのが、組織指折りの問題児たちの性質。そんなものは出会った頃から織り込み済
みの話ではあるが。
踏みつける足に体重をかけつつ、さらに尋問は続く。

「調査ねえ。それは、お前らが『夢の国』でうろうろしてることと関係してんのか?」
「ばっ!のんたちだって、かはっ!遊園地くらい行きたいっての、がっ!!いいじゃんか、何年監禁され
たと、ぐえっ!思ってんだよ、っ!!!!」

リズミカルに繰り出される蹴りはまるで楽器か何かを奏でているようにすら見えるが、実際に聞こえるの
は「金鴉」のうめき声だけ。

452 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 00:51:46
「まあいいわ。取り合えず額面どおりに受け取っとく」

あれだけの足技を連発しても息を乱さない「鋼脚」。
ゆっくりと、蛙の轢死体のように地面にへばりつく「金鴉」の側にしゃがみ込む。
そして、伏せていた顔を無理やり手で起こしながら、

「なあ覚えてるか?うちらは似た時期に組織に入り、似た時期に『幹部』に昇格した。言わば、家族みて
えなもんだって言ったのを」
「お、覚えてるよ」
「だから、お前らが取り返しのつかないことをやらかしたら。今度こそ、『家族』であるあたしがケジメ
つけなきゃなんない。わかるな?」

身を縮めたくなるような、迫力。凄み。
「金鴉」は必死に首を上下させることしかできない。

「言ったな。あたしもこれで『最後』だ。次は…ないからな」

掴んでいた顎を放り投げるように、「金鴉」を打ちやる。
最早、糸の切れた操り人形のように力なく地面に転がるだけだ。
振り返ることもせず、倉庫区画を足早に立ち去った「鋼脚」、遠ざかりつつ思うことは。

「金鴉」「煙鏡」が何やら怪しげな動きをしている。
諜報部の手の者によって入ってきた情報をもとに、訊ねてみたものの。「金鴉」が腹芸のできる人間でな
いことは「鋼脚」自身よく知っていることだった。

もう片方のほうを締め上げたいけど、あいつは滅多にあたしの前に姿、現さないんだよなぁ。

453 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 00:52:44
組織きっての、策士。

紺野あさ美がDr.マルシェとして頭角を現す前は専ら「煙鏡」がその名を恣にしていたのは紛れのない
事実だった。一見無軌道に暴れたいだけ暴れているように見えても、脳天気な片割れとは違い彼女には明
確なビジョンが存在していた。

組織のスポンサーたちを激怒させたあの事件もまた然り。
結果的には彼らの信頼を大きく損ねることとなったが、「煙鏡」からすれば自分達の力を誇示する目的が
あったようだった。

以前、「鋼脚」は紺野にこんな話を聞いたことがある。

454 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 00:54:01


「私と、かーちゃん…『煙鏡』さんの違い、ですか」
「ああ」

それは「鋼脚」がとある任務を終えて、休憩ついでに紺野の私室に寄った時のこと。
その頃にはとっくに悪餓鬼二人は収監されてはいたが、何かの拍子にふとかつての同期を思い出したので
聞いてみたのだった。

「妙なことを聞きますね」
「あいつもお前も、こっちじゃなくて、『こっち』で勝負するタイプだろ? あたしにはそういう世界は
わかんねえから、気になってさ」

最初に自らの腕を指し、次に頭のこめかみを指す「鋼脚」。
手にしていたコーヒーカップを置き、湯気で曇った眼鏡を拭きながら。
「叡智の集積」は、ゆっくりと口を開く。

「単純に言えば。彼女の計画には常に、何らかしらの『意思』が込められているということ、でしょうか
ね。あれは、『悪意』と言い換えても差し支えないのかもしれません」
「…『悪意』ねえ」

「鋼脚」は悪童の片割れの顔を思い浮かべる。
悲惨な境遇のもとに生まれた、そう聞いている。もちろん、異能を持つ人間は多かれ少なかれ悲惨な経験
をしている。そんな環境において「悲惨な境遇」と称されるということは、その境遇がとりわけ凄まじい
ものだということだ。

一番最初に、同期として後の「鋼脚」「黒の粛清」「金鴉」「煙鏡」が顔を合わせた時。
年の割には派手な化粧をした彼女の、昏い瞳がやけに印象的だった。
この幼い少女は、ここへ辿り着くまでにどれほどの地獄を見てきたのか。そう思わせるだけの闇を、少女
は抱えていた。

455 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 00:54:58
その印象は、やがて薄まってゆく。
少女は瞬く間に組織に溶け込み、「鋼脚」自体、人の深部にそれほど興味を寄せる性質ではなかったから
だ。それでも、初対面の印象はいつまでも彼女の心に残り続けた。

「『悪意』を用いて策を為さば、結果は『悪意』の流れるままに進んでゆく。ただ、それも大海原を進む
ための羅針盤だと思えば、これほど頼もしいものはないでしょう」
「で? お前のはどうなんだ?」
「そうですね。同じように例えるなら、私のそれは方位磁石も海図も持たずに航海に出るようなものでし
ょうか」

悪びれずに、紺野が言う。
ただの無計画じゃねえか、言いかけた「鋼脚」の言葉はすぐに遮られた。

「私の航海に、そのようなものは必要ありませんからね」

なるほど。
天才の考えている事はわからない。
「鋼脚」が理解できたのは、そのことだけだった。

456 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 00:55:54


倉庫区画を出ると、奥手にある和式建築物が解体されている様が目に入る。
主が生きている間は「拝殿」と呼ばれ、崇められていた建物だ。

思えば、短期間の間に何人もの幹部が死んだ。
「不戦の守護者」「詐術師」「赤の粛清」。半死半生の「黒の粛清」を含めれば実に半数近くのメンバー
を失ったことになる。道理で仕事が増えるわけだ。「鋼脚」はこれからさらに厄介な仕事を増やしてくれ
そうな例の二人に、恨み節を呟かずには居られなかった。

ふと、鋼脚は自らの右の拳が疼くのを感じる。
見ると、拳の先が擦り剥け、うっすらと血が滲んでいた。

「なんだよあいつ、ちゃっかり反撃してるじゃねーか」

「金鴉」「煙鏡」、「黒の粛清」。そして「鋼脚」。
長い付き合いになる間柄で、もちろん互いの性格を把握していた。
だが、彼女たちでも知らないことがある。それはダークネスの幹部として立つ以上、絶対に知られてはな
らないこと。

「鋼脚」は「金鴉」の能力の仕組みを、知らない。

457 名無しリゾナント :2014/12/10(水) 01:00:11
>>450-456
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

例の急所の貫通は急所を銃撃に脳内変換していただければ…
「冬の怪談」の内容に引きずられ過ぎてしまいましたw

458 名無しリゾナント :2014/12/11(木) 19:02:58
■ クリングステルスストリング −田中れいな− ■

疾走する田中の足に、何かが触れた。

油断。
田中自身は、そう思うのだろう。

油断した。
きっと、そう判断する。

また、油断しとった!

しかし、警戒などできようものか?

『無い』はずのものを。
そこには何も『無かった』のだから。

足が、地面から離れる。
空中で、もがく。
転倒。
身動きが、取れない。

硬く、細く、それでいて弾力のある、何か。
一本ではない。
それは次々と田中に絡みつき…

459 名無しリゾナント :2014/12/11(木) 19:03:36
「げっ!なん?」

これは俗にテグスと呼ばれる物だ。
ナイロン製、その太さも1mm以上はあるか。
大型の魚を釣り上げても、びくともしないその糸が、
山道の両脇、木と木の間、何条も張り渡されていた。

全力疾走していたとはいえ、そして、すでに日の暮れかける山道とはいえ、
こんな太い糸を田中が見逃すだろうか。

「って!なんこれ?くっつきよう!きもい!」

手に、足に、次々と糸が絡み、張り付いてくる。
糸の感触は、さらりとしたものだ。
接着剤のようなものが塗布されているわけではない。
にもかかわらず、まるで、磁石に吸い寄せられるかのごとく、
田中にへばりつき、はがせない。
もがけばもがくほど、新たに糸に触れる面積が増え、ますます糸に絡まっていく。

「くっそ!とれん!この!」
思い切り暴れる。
ガキさんとこまであとちょっと!あとほんのちょっとなのに!

「あははーひっかかったー」

ほんの一秒前まで、そこには誰もいなかった。

「ウッホウッホ!」

その声は田中の真正面から聞こえた。

460 名無しリゾナント :2014/12/11(木) 19:04:11
油断した。

きっと田中は、そう判断するのだろう。

妨害者は、

「まだほかにもおったんか!」

一人とは限らない。

『馬』にはまだ、仲間がいたのだ。

461 名無しリゾナント :2014/12/11(木) 19:04:57
>>458-460
■ クリングステルスストリング −田中れいな− ■
でした。

462 名無しリゾナント :2014/12/13(土) 21:29:03
■ フェイクスマイル −新垣里沙− ■

「それでカメってわけ…」
「はい。」

ティーポットを水平に、くるくると回す。

「要は、誰にも邪魔されず、新垣さんと、お話がしたかった。」

二つのカップ、交互に注いでいく。

「その為の一番の障害が…」

新垣自身の【能力】

「ですから、強力な【精神干渉】を無力化する…
新垣さんが絶対に無茶ができない環境下に、
お話しする場を設ける必要がありました。」

カップの一つを新垣の前に。

「絶対に、とは言っても…そう、最初に申しあげておくべきでしたね。
これは、亀井さんも同意の上での作戦です。」
「…でしょうね」

亀井絵里は『強い』
意に沿わぬものであれば、これほどの干渉を許すはずがない。

「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「いいからそうゆうの」

463 名無しリゾナント :2014/12/13(土) 21:31:03
ほのかな香りが漂う。

「んふふ…、新垣さんの目線で見れば、これは亀井さんがあなたを…
リゾナントのみなさんを裏切った、そうともとれますね。
ですので裏切り者に遠慮することは無い、無理やりにでも、
亀井さんの心を破壊してでも、この場を脱出する…
新垣さんほどのパワーなら、それは可能だと思います。」

その選択肢は、ない。
新垣には、亀井を壊すことなどできない。
壊そうと思えば、壊せる…だが、絶対に壊せない。

たしかに、新垣は、完全に無力化されていた。

(ほーんとにムカつくわーカメぇ…)

”亀井の姿をしたもの”が、角砂糖とレモンの小皿を促す。
新垣は軽く手を上げ、それを断る。

「それで、これ。『どこまでが』カメで『どこまでが』アンタなの?
こんなところに『これだけのものを』作って、本当にカメは大丈夫なの?」

テーブル越し、下に向けて指をさす。
そのままくるりと指を回し、上を差す。

「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「だからいいってそういうの」

464 名無しリゾナント :2014/12/13(土) 21:32:37
肘をつく。
頬杖。
だが、その視線は、真っ直ぐ”亀井の姿をしたもの”を、射抜く。

「それと、これ最初にも聞いたことだけど、
アンタ、だれ?…や、というより、アンタ…『何』?」

『何』と新垣は尋ねる。

「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「べつにすごかないよ、『そうゆうとこ』とかで、さ。」

『だれ』ではなく『何』と…

「お察しの通りです。」

”亀井の姿をしたもの”が、んふふ…と微笑む。

「私は今、この場には居ません。」

偽物の顔、偽物の微笑…

「亀井さんの安全、それから、ここへ新垣さんをお連れした目的。
この二つを誤解無く理解していただくためにも…」

偽物の声が、紡ぎだす言葉は…

「まずは、私の【能力】について、『正直に』お話しします。」

465 名無しリゾナント :2014/12/13(土) 21:33:22
>>462-464
■ フェイクスマイル −新垣里沙− ■
でした。

466 名無しリゾナント :2014/12/15(月) 00:49:55
>>450-456 の続きです



その国は、東京湾岸地区に「突如」出現した。
もちろん、魔法を使ったかのようにいきなり出現したわけではない。
突貫工事により、僅か数ヶ月で建設、完成した夢の国。

雲の上の大陸。海底神殿。宇宙空間。はたまた中世の騎士の世界。
古今東西、ありとあらゆる伝承をモチーフとした乗り物や建物。

東京ドーム数十個分、という広大な敷地におもちゃ箱の中身を広げたようなアトラクションの数々が配備
され。夜になると瞬くイルミネーションで敷地全体が光に満ち溢れる。
知事はもとより、政界・財界があらゆる力を結集したレジャーランド。
数年後に控えた国際イベント目当てにやって来る観光客たちの目玉としての役目を与えられたその娯楽
施設は、人々からこう呼ばれた。

「リヒトラウム(夢の光)」と。

467 名無しリゾナント :2014/12/15(月) 00:52:57


喫茶リゾナント。
この日は土曜日ということもあり、珍しくメンバー全員が店に集まっていた。
そんな中発せられた、複数の嬌声。
原因は、輪の中心にいる少女が持っているチケットだった。

「こ、これってリヒトラウムの入園チケットじゃん!!」

今にも白目を剥いて気絶しそうな顔をして、亜佑美が叫ぶ。
それも無理はない。開園前から半年先まで予約分だけでチケットは入手不可。ある意味プラチナチケット
に近い入場券を。優樹が持っていたからだ。それも、複数枚。

「どうしたんですか佐藤さん、これ」

そう訪ねるのは、さくら。
確かに一介の女子中学生が持っているにしては過ぎた代物だが。

「イヒヒヒヒ、商店街のー、お姉さんが話しかけてきてー、くじ引きで当たっちゃった」
「お姉さんのくだりはいらねーじゃん」

遥の突っ込みが冴え渡る中、どうやら優樹が商店街のくじ引きでその手にしたものを引き当てたというこ
とは全員が理解した。

「じゃあさ、みんなでリヒトラウム行こうよ!!」

香音の提案に、店内が一気にざわめく。
学校と喫茶店の往復が生活の大半を占める中、リヒトラウムのような大型施設に遊びに行くなどというイ
ベント、色めき立たないわけがない

468 名無しリゾナント :2014/12/15(月) 00:53:55
「でもさ、それって何枚あると?」
「えーと、いち、にい、さん…きゅうまい!!」
「…9枚じゃうちら全員は行けんやん」

そんな衣梨奈の一言に、メンバーたちに落胆の色が広がってしまう。
メンバーは10人、チケットは9枚。必然的に、1人行けない人間が出てくる。

「あ、じゃあさゆみいいよ。みんなで行ってきな」

そう言ったのはカウンターで洗い物をしていた、リゾナントの頼もしき店主。
しかしそれで収まらないのがリーダーを敬愛する後輩たちの性だ。

「あっあの!私行かないんで、道重さん行ってください!!」
「鞘師さん!?」
「だって道重さんがいないうちらなんて、何か考えられないし、だったらうちが我慢して道重さんに行っ
てもらったほうが…」
「りほりほ行かないの?じゃあさゆみと一緒にご飯でも食べにいく?」
「え!!」
「あーっ、またみにしげさん鞘師さんばっかり!もうきらーい!!」
「やったら、もう一枚ゲットすればいいと」
「でも言うなればプラチナチケットですから、そんなに簡単には手に入らないと思いますよ」

チケットが足りないという事実に考え込む一同。

「もう一枚『作ればいい』けん、みずきお願い!」
「わたしそんな能力持ってないよー」
「わかった!まさがみにしげさんをリヒトラウムの中にテレポートして…」
「それは難しいだろうね。中でもきっとチケットの提示を求められるし」

ついには能力による禁じ手まで飛び出す始末。
これにはさしものリーダーも眉を顰めざるを得ない。

469 名無しリゾナント :2014/12/15(月) 00:55:22
「あのね。前から言ってるでしょ。さゆみたちの能力は、そういう不正なことに使うべきじゃないって。
気持ちはうれしいけどね」
「でもそれじゃ道重さんが」
「別に今日が地球最後の日ってわけでもないんだし。みんなとはいつでも行けるから。そうだ、今日は今
のところ予定も無いしみんなで行って来たら?」

そこで、聖がはっとした顔になる。
一つの危険性について、思いが至ったからだ。

「でも、もし敵襲があったら…」
「確かに、そうですね」

春菜も聖の意見に頷く。
もしもさゆみが一人であることを狙って敵襲があったら。
そもそも、優樹がこのチケットを持ってきたのは敵の罠なのではないか。

そう思い聖がチケットの一つに手を触れる。
接触感応。チケットを通じ起こった出来事を読み取る。商店街を歩いている優樹。スーパーでお菓子を買
い、くじ引き券で抽選機を回し…
敵の罠というのは考えすぎのようだったが、それでもさゆみが一人になるというのは決して望ましい状況
ではない。

「さゆみなら大丈夫。だってさゆみには、『お姉ちゃん』がいるから」

言いながら、自らを指すさゆみ。
確かに、ダークネスの幹部クラスと互角に渡り合える「彼女」なら心配はいらないのかもしれない。しか
も今は「彼女」をさゆみの意思で自在に呼び出せる。

「じゃあ、お言葉に甘えて…遊びに行っちゃって、いいですか?」

遠慮がちにさゆみに視線を移す亜佑美。
その後ろで期待を隠し切れない顔をしている遥。
そして彼女たちの反応を見るまでもなく、当然のことに頷くさゆみ。

470 名無しリゾナント :2014/12/15(月) 00:56:30
「いやったぁ!!!!!」

優樹をはじめとして、喜びを体で表現するメンバーたち。
その一方で、本当にいいのか、と表情を曇らすものもいた。

「道重さん…本当にいいんですか?」

降って湧いたような突然のイベント。
里保も、本当は某オーバーオールの髭親父のように天高くジャンプしたいくらい嬉しい。が。
本当にさゆみを一人置いていっていいものだろうか。

「りほりほ、さゆみが一緒じゃないから寂しいの? いつもは拒否してるくせに」
「いやっそのっそんなことは断じてないんですけど!ってこれは拒否してるってことの否定で、最初のほ
うのはそのあの」

突然妙なことを振られたものだから、里保はしどろもどろになり、消え入るような語尾で否定することし
かできない。

「逆に私たちのほうが狙われるって、可能性もありますよね?」

そんなことを言い出したのは、普段から独特の視点を持つさくらだ。

「確かに」
「でも、それを敢えて送り出すってことは。道重さんも私たちのことを信頼してのことだと思うんですけど」

さくらの柔らかいけれどしっかりとした主張に耳を傾ける面々。
そこでようやく里保も不安が緩んだのか、

「わかりました。でも、道重さんの身に何か起こるようなことがあったら…いつでも駆けつけますから」

と自分達に寄せているだろう信頼に応えるように、そう言い切った。
さゆみはありがとう、とだけ口にして目を細める。

471 名無しリゾナント :2014/12/15(月) 00:57:32
本当に頼もしい後輩たちに成長した。
最初に喫茶リゾナントのドアベルを鳴らした時には、か弱い子供ばかりだったのに。
里保にしても、当初の何でも自分で背負い込もうとする身の堅さは徐々にだが取れて言っているように思
えた。それでもさゆみから言わせれば「まだまだ気負い過ぎている」のではあるが。

「でも」

そんなところに、聖が思い直したように言う。

「一応、高橋さんや新垣さんに状況だけは説明したほうがいいと思います。あと光井さんにも」
「そうだね。ありがとフクちゃん」

心配症とも言えるが、こういう時の聖の気配りはさしものさゆみも感心してしまう。
もし自分が何らかの理由でリゾナントを離れるとしたら、これほど心強いものはない。もちろん、彼女だ
けではない。9人のリゾナンター全員が、次の時代を託すほどの成長ぶりを見せているし、さゆみ自身も
そのことを実感していた。

「その時」が訪れる事を。
さゆみも、9人のリゾナンターたちも、まだ知らない。

472 名無しリゾナント :2014/12/15(月) 00:58:26
>>466-471
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

473 名無しリゾナント :2014/12/20(土) 01:36:08
>>466-471 の続きです



喫茶リゾナントからそう遠くない場所にあるマンション。
その一室に、光井愛佳が構えている事務所があった。彼女の生業は、所謂何でも屋。
迷い猫探しから、要人警護までをモットーに。今では海外進出をも視野に入れ、ニュージーランドと日本を
行ったり来たり。ちなみに事務所の代表は愛佳で社員も愛佳一人。人手不足はリゾナントの後輩たちに補
ってもらっている。今のところ、海外で得た英会話力を生かせるような仕事は、舞い込んで来てはいない。

愛佳の携帯電話が、鳴る。非通知。依頼者だろうか。
今日はいつになく忙しい。普段は一日一件くらいの依頼が、今日に限って10を超える本数。同業者に聞
いたところ、都内のその手の「能力者」たちが何らかの用事に掛かりっきりなのだと言う。どちらかと言え
ば暇を持て余している愛佳のような個人営業者には願ったりな状況ではあるが。

「お電話ありがとうございます。『痒い所に手が届く』でおなじみの、ミツイシークレットサービスです。何か
お困りですか?」

つい最近決めた宣伝文句を、淀みなく読み上げる愛佳。ついでに社名も横文字にしてみた。
何でも屋と言っても、サービス業。感じの良い第一印象が、いい仕事に繋がる。
不安や緊張で一杯の依頼者も、この一言で堅い表情を崩し…

474 名無しリゾナント :2014/12/20(土) 01:37:32
「……」

無言。
まあ、ない話でもない。
愛佳に掛かってくる電話の20人に1人くらいはこの手の輩だ。彼らは、無言の後にいきなり本題を切り
出すことが多い。「本当に何でも請け負うのか」「少々後ろ暗い案件だが」。非合法活動に関しては有無
を言わさずノーを突きつける、故にお決まりの常套句が飛び出た時点で電話を切ることにしていた。が。

「予知能力を失って、それで何でも屋ねえ」

聞こえてくるのは、少女の声。
いや、声質は問題ではない。「予知能力」。愛佳が失って久しい能力だ。
業界広しと言えど、愛佳の「かつての素性」を知っている人間はそうはいない。

「…あんた、何もんや」
「これから、そっち遊びに行ってもいい?」
「あほか。お断り…」

愚にもつかない問いかけを鼻で嗤おうとした愛佳が、思わず携帯を強く握り締める。
目の前には、携帯電話を耳に当てたポニーテールの少女がいた。
ドアが開いた形跡はない。彼女は誇張でも何でもなく、突然現れたのだ。

「お前!いつの間に!!」
「あはは、遊びに来たよ」

まるで知り合いであるかのように、軽く手を上げて挨拶する少女。
垂れ気味の大きな目、にっと笑った口からは八重歯がこぼれ出る。無邪気な少女、のように見えるが。

475 名無しリゾナント :2014/12/20(土) 01:41:38
どこからともなく、湧き上がる寒気。
愛佳の本能が、最大限の警鐘を鳴らしていた。
見た目はガキンチョみたいな格好をしてるが、こいつは危険や。
手が、自然に机の引き出しの裏へと伸びる。

「正義の味方を気取ってた、かつてのリゾナンターが拳銃だなんて反則じゃない?」
「なっ!!」
「別にあんたと争うつもりはないって。今日はただ、あんたに『会いに』来ただけなんだからさぁ」

少女が、一歩前へと踏み出す。
愛佳の拳銃は、まっすぐに少女の頭を狙っていた。

「これ以上近づいたらほんまに撃つで!!」

銃口を前にしても、少女は顔色一つ変えない。
一瞬にしてこの場所に現れた手口からして、相手は間違いなく能力者だろう。
つまりこの拳銃が愛佳の身を守る保障など、どこにもない。
ただ、相手を怯ませることはできるかもしれない。愛佳はこの場からどう逃げ失せようか、頭の中でシミ
ュレートする。
正面突破は難しい。ならば、背後の窓を突き破り…

「言っとくけど、逃げても無駄だから」
「ちっ…お見通しっちゅうわけか」

それなら、と愛佳は考える。
相手を撃つと見せかけて、背後の窓ガラスに銃弾を撃ち込むか。人間、不意の行動を見せられれば一瞬の
隙ができる。勢いのままに窓から身を投げれば、この場からは逃れられる。今の時間帯なら、人通りも多
いはず。その中で物騒なことをするほど、目の前の相手が馬鹿ではないと信じたいところだが。

476 名無しリゾナント :2014/12/20(土) 01:43:05
「うちに何の用や。いくらうちがトリンドル玲奈に似てるからって、芸能事務所のスカウトならお断りやで」
「はぁ…能力を失ったあんたになんて、のん興味ねーから。それに、距離は『これくらいで十分』だし」
「何言うて…」

そこで愛佳と少女の目が合う。
全身の毛穴が、痙攣するかのような感覚。
この目は。目から放たれている異常な力は。

精神干渉。

「くっ!やめろや!!うちの中に、入ってくんな!!」
「無駄な抵抗すんなって。こっちはさっきクソガキに力使ったせいで、疲れてんだからさ」

少女の背後から、いくつもの透明な手が伸びてきて愛佳の心に触れようとしている。
その光景は、あくまでも愛佳のイメージによるもの。しかし少女の「能力」は確実に愛佳を侵食しつつあった。

「…なめんな…リゾナンターだったうちを舐めんなやぁ!!!!!」

精神干渉に抗う術は、たった一つしかない。それが、心の強さ。
相手の能力に飲み込まれまいと、必死に心の根に力を込める。能力者同士の場合、簡単には相手の精神に干渉
できないのはこのためだ。

かつて、己の心の弱さから自らの命を絶とうとした愛佳。
だが、稀有な出会いが彼女を変えた。能力がなくなったからと言って、あの日々に得た心の強さまでは失われ
ていなかった。
だから、愛佳は抵抗する。呑まれたら、終わりだ。

477 名無しリゾナント :2014/12/20(土) 01:43:39
「…うぜえ。さっさとやられろよ、ばーか」
「ぐっ!!!!」

次の瞬間。
少女から愛佳へともの凄い勢いの風が吹き荒れる。
パーテーションが倒れ、ハンガーポールがなぎ倒される。
愛佳の背後の窓ガラスが破壊され、机の上の書類が派手に吹き飛ばされた。

「くそっ、これ全部レンタルやぞ!!」
「だからさぁ、うるせえよ」

言いながら、少女が愛佳のほうに自らの掌を向ける。
吹き付ける向かい風に、思わず目を細めたその時。

少女の姿は、跡形も無く消えていた。

「な…」

愛佳は思わず、部屋を見渡す。
パーテーションも、ポールハンガーも無事だ。
書類もきちんと、机に整理されている。

うちが見たんは、幻だったんか…?

彼女の推論、しかしそれは彼女自身に残る恐怖心が否定する。
確かに先ほどまであの恐ろしい存在は、この場所にいた。それだけは、間違いない。
あの少女は一体…

478 名無しリゾナント :2014/12/20(土) 01:44:19
少女?
果たして、自分が見たのは本当に少女だったんだろうか。
突如浮かんできた設問に、頭が混乱する。
まるで頭の中が急に靄がかったような感覚、記憶が記憶として信じられない。

「くそが!あいつ、うちに何をした!!」

湧き上がる怒りで、思わず机を叩く。

「あ」

それは、愛佳にとって久しく忘れていた感覚だった。
意識が遠くなり、今の自分とは遠く離れた場所にもう一人の自分がいるような錯覚を覚える。
「眩い光」「幻想の世界」「九人の少女」「赤」「終わり」
情報は断片的に降り注ぎ、彼女の中で少しずつ形を成していった。

「!!」

そして完成されたビジョン。
先ほどの闖入者のことなど、どうでもいい。
一刻も早く、このことを伝えなければならない。
愛佳は携帯を再び手に取り、震える手でボタンを押し始めた。

479 名無しリゾナント :2014/12/20(土) 01:44:54
>>473-478
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

480 名無しリゾナント :2014/12/26(金) 23:15:55
「痛ったい!痛ったぁああい!
血が!血が出てる!まりあ絶対血が出てるううう!」

脚を刺された真莉愛がピーピーと泣き喚く。

「そりゃ出るでしょ。刺されたんだから。」

何とも冷静な朱音。

「すぐ治せばいいよ。痛いの飛んでけだよ。」

言いながら自身の治癒能力を発動させる。

「真莉愛ちゃんの怪我は、たいしたことなさそうです。」

後ろに一瞥することなく美希がつぶやく。
その隣の少女に向かって。

「ひゃー。あぶなあぶな。
あれやな、連中殺す気やな、うちら。
やばー!ピンチやー!」

481 名無しリゾナント :2014/12/26(金) 23:16:33
はんなりとした関西訛り。
春水が胸をおさえ、芝居がかって後ろにのけ反る。

「ですね。もう後ろに抜かれるわけにはいきません。」
「や、ちゃうねん。さっきな、もうひとりおってな、そんでな」
「春水ちゃんのせいだって言ってないです。」
「そ、そうやねん。」
「数が多すぎますからね」
「そうそう、そうやねんて」
「でも、このままだと全滅です」
「そうそう…それは困るなぁ」

「全滅はしない。」

真莉愛の治療を終え、朱音が立ち上がる。

「はいおしまい。治った。」

そして、まだ足元で
ばたばたと痛がっている真莉愛に、
冷たく言い放つ。

「真莉愛ちゃん立って。もっかい『あれ』やって。」

涙目で、ばたついていた真莉愛が
その一言でぴたっと止まる。

「ィェア。さっきのやつですね。」
「そやで、うちらが勝てるかどうかは…」

482 名無しリゾナント :2014/12/26(金) 23:17:18
真莉愛が立ち上がる。
先ほどまでの彼女とは、まるで…

「まりあにかかってる」

10…20…いやもっとだ。
無数の敵が包囲の輪を狭める。
第二陣が来る。

「なんでこんなんなってもうたかようわからんけど、まあ」
「ええ、彼女がいてくれてラッキーでした」
「そう、あの子が”勝て”と命令すれば…」

真莉愛が前方を指差す。

483 名無しリゾナント :2014/12/26(金) 23:18:48
3人の背中を『あの感覚』が突き抜ける。


 いまみせろ
 お前の底力を


「これこれ!これ!来たで!来たで!」
「アイムシュア!パゥワーが漲ります!」

真莉愛の能力。
彼女の祝福を受けたものは、すべからく”勝利”する。
”勝利”以外を許さない。

「ほな野中ちゃん行くで!」
「オフコース!ヒゥイーゴー!」


 突き進め
 勝利を掴み取れ

484 名無しリゾナント :2014/12/26(金) 23:21:24
>>480-483
パンケーキ異聞

でした

485 名無し募集中。。。 :2014/12/30(火) 13:10:32
>>473-478 の続きです



「…テーマパークでお楽しみか。いい気なもんね」

皮肉交じりに、花音が呟く。
テーマパークのイメージキャラクターである猫とも鼠ともつかない動物をあしらった植え込み、それを囲む
ように。
日常生活では滅多にお目にかかれない、幅が100メートル近くはあるかと思われる円形状の階段。そこ
を昇りきれば夢の光溢れる楽園はすぐそこだ。
そこを行き交う、楽しげな人々。風船を配っている、イメージキャラクターの着ぐるみ。
絵に描いたような、幸せの風景。

一方、不安な様子で花音の様子を窺っているのは、先日「スマイレージ」の正規メンバーとして認定された
四人の少女だ。認定と言っても、どこかのお偉いさんが決めることではなく。単に先輩である彩花と花音が
正規メンバーに相応しい能力者であることを認めた時に、彼女たちは「スマイレージ」のメンバーになった。
しかしこれも適当な表現ではない。

もともと彩花は今回の彼女たちの昇格にまったく関わっていない。全ては花音の独断で四人を正規メンバ
ーとして選び、そして「リヒトラウム」へと同行させたのだ。

486 名無し募集中。。。 :2014/12/30(火) 13:11:31
「福田さーん、こんなとこまで来ていったい何するんですかぁ〜」

泣き言のようにそんなことを漏らすのは、芽実。

「言ったじゃん。中で暢気に遊んでるリゾナンターたちに現実を思い知らせてやるって」
「それって、うちらがやらなあかんことですかね?」
「ま、正式な任務じゃないんだし。適当にやろうよ」
「りなぷーはいつも適当じゃん」

異議を唱えるも、花音の気迫に押され押し黙ってしまう香奈。
気の抜けた声を出す里奈。
そして突っ込みを入れる朱莉。いずれも、その表情を窺い知ることはできない。
なぜなら。

「あーっママ、あんなとこにオバマがいるよ!」
「テレビの撮影か何かとか?ちょーうける」
「何だありゃ…ドンキで買ってきたんじゃね?」

何故か歩いてるだけで周りの注目を集める五人組。
彼女たちは各々が、パーティーグッズ用のラバーマスクを被っていた。

「これさぁ、超はずいよぉ」
「いいじゃんめいめいはマイケルだし。こっちなんてマツコだよ?最悪」
「1、2、3、ダーッ!!」
「かななんうるさっ!てかこの馬マスクちょーくさっ!!」

487 名無し募集中。。。 :2014/12/30(火) 13:13:04
やいのやいのと騒いでいる年下たちを見て、やや心配になる花音だが。
彼女たちの実力は信頼するに値する。「赤の粛清」の封じ込めに関しては四人の協力なくしては成しえなか
った。
例のリゾナンターたちにひけを取るとも思えない。
9人の中の要注意メンバーにそれぞれぶつけてしまえば、残りの連中など花音一人で事足りる。勝算のない
戦いは、決してしない。

「ちょ、ちょっと君たち!!」

入場門のゲートを潜ろうとしたその時。
不意に、慌てた声に呼び止められた。
花音はその男を値踏みするかのように、上から下へと目線を移す。

「この注意書きを見てないの?フルフェイスのヘルメットやそういうマスクをつけたままの入場はお断りだ
って、あそこに書いてるでしょ!!」

青の制服に身を包んだ、初老の警備員。
遠巻きに、リヒトラウムの設備スタッフと思しき男女数名がこちらのほうを見ている。
ラバーマスクの集団がご入場とあっては騒ぎになるのも当然だ。

花音はラバーマスクの中から、男に視線を向ける。
こんな男の制止など、何の意味もない。

488 名無し募集中。。。 :2014/12/30(火) 13:14:58
「警備員なんて、所詮かかし以下の存在…ですよねぇ?」
「はぁ?」
「疑うことなく…信じるにょん」

花音の呟き。
それはまるで小石を放たれた池の水のように、波紋を広げてゆく。
彼女のことを見ていた人たちの瞳から、瞬く間に色が失われた。

「…はい、チケット5枚…確認しましたぁ」
「…夢と光の幻想世界、リヒトラウムへ、ようこそ…」

警備員は本当にかかしになったかのように微動だにせず。
また、スタッフたちも虚ろな目をして次々と歓迎の挨拶をする。

大手を振ってテーマパークに入場してゆく、仮装集団。
その姿を一部始終、眺めているものがあった。

リヒトラウム中央コントロールセンター。
「東京ドームが何十個分」などと表現されるやたら広い敷地を、文字通り管理しているのがこのセンターで
ある。防災・防犯をはじめとしたありとあらゆる危機管理に対応するために設置されたこの場所は、まさに
リヒトラウムの「眼」。
その無数にある眼の端末の一つが、奇妙な来客の姿を捉えていた。

「おいおい、何だこいつら」

それまで退屈そうにモニターを眺めていた警備員の一人が、声を上ずらせて口にする。
尋常ではない事態に警戒するとともに、感情が高揚しているのが見て取れた。

489 名無し募集中。。。 :2014/12/30(火) 13:16:05
「なんだぁ?マツコにオバマにイノキとマイケル…馬? ふざけた奴らだな。現場の奴は何やってんだ、こ
んな連中通しやがって」

もう一人の警備員は不快なものを見る目つきで、画面を凝視する。
二人がモニターに集まっているのを見た他の警備員たちも、一斉にそこに群がり始めた。

「こいつら子供だろ。背も小さいし」
「まったく最近のガキときたら。どういう教育してやがるんだ」
「俺が行くわ。ちょっとデカイ声出して怒鳴り散らせば、泣いて謝るだろ」

一人の屈強そうな警備員がいざ往かん、と立ち上がりかけたその時。
部屋の奥のほうで。

「そいつらは、あんたたちじゃ無理だね」

パイプ椅子に深く腰掛け、カーキ色のツナギ状の服を着た女が言う。
肩のところで、緩くカールのかかった髪。一重に近い、幅の狭い二重。ぼーっとしているような、困ってい
るような。表情が読めないとでも言うべきその女は、言いながら手にしていたビニール袋からメロンパンを
もそもそと食べ始めた。

「あんた、そりゃ一体どういう…」
「そのオバマの子が『能力』、使ってたから」
「い!の、のうりょく!!」

目を白黒させ泡を吹く勢いなのは、女の傍らに立っていたスーツ姿の中年だ。
彼は、リヒトラウムの警備部門の責任者だった。

490 名無し募集中。。。 :2014/12/30(火) 13:17:37
「能力と言うとあの、その。テトラポットを海に浮かぶ船に投げつけたりとか」
「何それ。今使われたのは、精神操作系かな」

砂糖のついた手をぱんぱんと腿で払い、女が立ち上がる。

「こんな場所で物騒なこと、する人もいるんだね。じゃ、行ってきます」

それだけ言うと、ゆっくりとした足取りで部屋を出て行ってしまった。
終始落ち着かない言動の男とのやり取りを黙って見ていた警備員の一人は、おずおずと責任者に話しかける。

「あの…今のは一体? 我々、あの子はリヒトラウムのお偉いさんの御令嬢だって聞いてたんですが」
「よせ。詮索はするな。『アレ』は、我々のような普通の人間が関わったらいけない人種だ」
「え?それってどういう」
「堀内会長にクビにされるぞ。いや、クビならまだましなほうか」
「堀内って!あの、リヒトラウムに出資したベーヤンホールディングスの…!!」
「とにかくだ。今から室内の全てのモニターを切っておけ。一切の責任は私が持つ」

すっかり憔悴しきった責任者に、最早言葉すらかけられない警備員。
そう言えば、と彼は思い出す。

リヒトラウムの地下には、秘密がある。この広大の施設の地下は、国家を超えた巨大な権力によって秘密基
地と化しているのだと。

都市伝説もいいところの、根拠のない与太話。
実際存在を確かめようと、数人の若い警備員たちが肝試しがてらに地下の設備を無断で探検したものの、そ
こにはコンクリートの壁があっただけだと言う。

もちろん、そんな都市伝説自体は誰も歯牙にすら掛けない。
が。彼は思う。このテーマパークには、「何かがある」のではないか。
そんな漠然とした不安も同僚が責任者の滑稽な慌てぶりを茶化す耳打ちによって、あっという間に消えて
いってしまった。

491 名無し募集中。。。 :2014/12/30(火) 13:18:26
>>485-490
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

492 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:16:53


「うわぁ…」

先程から、目を輝かせて天井を見上げている里保。
それを隣で見ている香音はにやにやが止まらない。

二人は今、リヒトラウムが誇る大アトラクションである「ギャラクシー」に乗るために、長蛇の列に並んで
いるところ。宇宙空間に見立てたドーム状の巨大な建物の中を、10人乗りのコースターが縦横無尽に駆け
回る。特筆すべきは、CG技術と精巧なオブジェによってまるで本当の宇宙空間にいるのではないかと思え
るほどのリアルさ。これだけの列ができるのも頷ける話だ。

ちなみに列に並んで待っている間も、真っ暗な通路の上下左右全体に宇宙空間が映し出され、瞬く星たちや
巨大な惑星、美しく流れる彗星を楽しむことができる。里保が子供のようにはしゃいでるのは、その演出の
せいでもあった。

一度剣を構えれば、他を寄せ付けない圧倒的な実力を誇る里保。
「水軍流」という歴史ある流派の担い手であるが故に、武に明け暮れる日々を送っていたのかと思いきや、
どうやらそうでもないのだという。
じいさまと遊んでいるうちに、自然と身についた。実に簡素な言葉で、里保は香音にそう教えてくれた。
遊ぶくらいで千年を超える歴史の超武術が身につくくらいなら、かのも習いたいっての。そう思わずには
いられない。

493 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:23:42
まるで珍しいものを見るかのようにずっと首をあげている、そんな彼女の姿を見ていると、嫉妬交じりの感
情も薄れていってしまう。普段は年相応の子供らしさを抑えて、無理をしているようにすら見えてしまう里
保。今のリゾナンターの攻撃の要が彼女をおいて他にいないという事実がそうさせているのだろう。
だから、こういう時くらいは素直に羽目を外していただいたほうがいいのかもしれない。まあ、香音から言
わせて貰えば、普段の里保も十分子供っぽい上にドジっ子なのだが。

というわけで、普段は滅多に見られない彼女の肩肘張らない姿を香音は楽しんでいる。
ただそれも、長くは続かなかった。

空気が、急に変わったような気がした。
香音はすぐに、それが目の前の親友のせいだと理解した。
彼女の直感は正しい。先ほどまで無邪気にはしゃいでいた里保の姿はもう、どこにもない。香音の目に映る
は、一人の剣士。

驚いているのは香音だけではなかった。
里保を一瞬にして剣士へと変えた、張本人。
勝田里奈は、右手首を押さえながら舌打ちをする。

494 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:24:37
こいつ、私のことが見えてるのか?

里奈の能力は、「隠密(ステルス)」。
能力の射程距離にあるこの通路にいる限り、彼女の姿を視認するのは不可能だ。

…まさか、殺気だけで?

推測は当たっていた。
里保は、背後から迫り来る殺気に反応し、そして腰の鞘を後ろに思い切り押し込んだのだ。
まるで見えているかのように、正確にナイフの持ち手を打ち抜こうとする鞘先。咄嗟に手を引いたからまだ
打撲で済んだものの、まともに当たっていれば手首の骨を砕かれていただろう。

それでも、里奈は余裕の笑みを見せる。
なぜなら。

「あれ。うち、何で…?」

里保は辺りを見回し、そして首を傾げる。
彼女の脳内は、彼女自身が取った行動に混乱していた。

里奈のステルス能力の真骨頂。
それは、彼女の存在だけではなく、彼女の取った行動すら、相手の脳内から消してしまうことにある。
つまり、今の里保は「なぜ自分が刀の鞘を後ろに突き出したのか」が理解できない。
これは戦いにおいて致命的とすら言えよう。

495 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:25:13
極論を言えば。
頬を切り裂かれようと。
腿を抉られようと。
そして心臓を一突きにされてもなお。
里保はなぜそうなったのか理解できないまま、死を迎えるということ。

相手がわずかな殺気に対しても鋭く反応するのはわかった。
しかし、そんなものはいくらでも対策が打てる。

里奈は心を鎮め、一歩ずつ、そして確実に里保へと近づいていった。
里保は、じわりじわりと迫る危機に、気づくことさえ許されない。

496 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:26:31


花音の放った刺客たちは、他のリゾナンターたちにも既に接触していた。

ホラーハウス仕立ての建物内を、かぼちゃ風のゴンドラで移動するアトラクション「ミッドナイトハロウィ
ン」。
お化け屋敷は絶対に嫌だ、と残留した遥と優樹。特に遥は普段の強気はどこへやら、涙目になって必死に訴
えてきたせいでたった一人でかぼちゃのゴンドラに乗る羽目になった亜佑美は。

一人しかいないはずのゴンドラで、見知らぬ少女の訪問を受けていた。

「あんた、誰よ」
「誰よって言われましても」

のんびりとした、関西のイントネーションで喋る同乗者。
薄手のセーターから、白い肌を覗かせている。おっとりした態度からは敵意は見えないが。
そもそも。亜佑美は首を振る。乗り場で乗った時は確かに一人だったのに。

「うちの能力で、みなさんがどこにいるかはすぐにわかりました。鞘師さんは、宇宙エリアに。譜久村さん
は冒険エリア、生田さんはショッピングモール…そして石田さんは、ここに」
「あたしたちの名前を知ってる…何が目的?」
「つまり、4人の要注意人物にうちらが宛がわれたってことです」
「いいから答えなさいよ!!」

497 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:27:49
問答無用。
亜佑美は即座に蒼き鉄巨人を喚び出す。丸太ほどの太い腕が、ゴンドラをまるで豆腐のように叩き潰した。
箱が拉げるその前に亜佑美はゴンドラから脱出し、軌道レールから外れる。
非常灯の明かりのおかげで完全に暗くはなっていないが、視界が悪いことには変わりない。

「ひどいわぁ。いきなり仕掛けてくるなんて」

レールから脱線しぺしゃんこになったゴンドラから、少女が這い出てくる。
見たところ、まったくの無傷。いきなり現れた経緯から予測はついていたが、やはり何らかの能力者か。

「だってあんた敵でしょ」
「まあそうなんやけど…」

身構える亜佑美の前で、刺客の少女 ― 中西香菜 ― は両手から何やら白い靄のようなものを生み出し
てゆく。
そして。

「論より証拠や。もっぺん、うちのこと殴ってみてくださいよ」
「はぁ?」

これは明らかに、挑発。
先程のようにバルクの一撃を防ぐばかりか、逆に何らかの罠を仕掛けるつもりか。
ならばこちらにも考えがある。

498 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:28:54
「カムオン、リオン!!」

打撃が効かなければ斬撃。
陽炎のように揺らめきながら現れた蒼の獅子は、大きな唸り声とともに香菜に飛びかかるが。

まるで香菜の目の前に大きな壁でもあるかのように。
リオンは大きく弾かれ、回転しながら亜佑美の前で着地する。

「結界、っちゅう奴です。あんたの操る見えざる獣の攻撃はうちには効きません」

香菜が目を細め、にぃと笑う。
嫌な奴だ。自分の優位を疑うことすらない。

「効かないかどうか…やってみないとわからないでしょ!!」

大地が揺れ、青甲冑に身を包んだ巨人が姿を現す。同時召喚。
負けず嫌いの亜佑美の心に、火が付いた。

499 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:29:53


リヒトラウムのほぼ中央に、テーマパークのシンボルとも言える建造物があった。
「シャイニーキャッスル」と呼ばれるそれは、まるで中世の城そのもの。夜ともなると、城壁に散りばめら
れた照明が輝き、文字通りの輝く城と化す。
その城門の前に、人だかりがあった。
観光客、ではあるのだが、みな一様に目の光を失っている。
彼らを侍らせているのは。

「シンデレラ、なってみるとずいぶん呆気ないものね」

花音は、嘲笑交じりに輝く城を見上げる。
城の前で多くの人間を従えている現状を、おとぎ話の姫に準えているのだ。

「さて。りなぷー、かななん、めいめい、それにタケ。あの子たちの戦い…どうなると思う?」

花音が傍らにいる女性に話しかける。
その女性は生気のない表情で、

「それはもちろん、まろ様の勝利でございます」

と機械仕掛けの人形のようにそんな台詞を口にする。
満足そうな笑みを浮かべた花音は、その女性の顔を思い切りひっ叩いた。
抵抗することなく平手打ちを受けた女性は、表情を変えることなく、同じ言葉を繰り返す。

500 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:31:11
「これだから操り人形はつまらない。てかまろって何。何か高貴な感じだから別にいいけど。私の考えは…
聞きたい? どうしようかなあ…しょうがないから特別に教えてあげる。ぶっちゃけ…五分五分ってとこかな」

現在の戦力を、最も効果的な相手にぶつけたつもりだったが。
勝負事はどうひっくり返るかわからない。その意味においての、五分五分。
もちろん花音は勝算のない戦いなどしない。矛盾しているように見えて、決してそうではない理由。

策は、いくつも講じるものだ。
自分たちを「生み出した」白衣の科学者はそう言っていた。
確かにその通りだと思う。例え予想外のことが起こったとしても。

最終的に、花音自身が勝利すればいいだけの話。

四人がそれぞれの相手をを負かしてくれればそれに越したことはないが、しくじった場合でも。
リゾナンターがこの場所まで来れば、何の問題もない。

一つだけ、気がかりなのは。
リヒトラウムの警備について。
どういう繋がりかは知らないが、このテーマパークの警備を、例の金儲けが得意な能力者集団が担当していると
いう。
もちろん多忙な連中のことだから、テーマパーク如きに割く人員など1人が関の山だろう。
ただ、それが連中の言うところの「位の高い能力者」ならば面倒だ。できればそいつとの接触は避けたい。

「さて、誰が一番に私のところに辿り着けるかな」

そう言いつつも、花音は知っていた。
誰が最初に、自分の目の前に現れるのかを。

501 名無しリゾナント :2015/01/10(土) 10:32:18
>>492-500
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
本年もよろしくお願いします

502 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:37:22
>>492-500 の続きです



リヒトラウムに入園してすぐのところに、ショッピングモールが広がっている。
リゾナンターのおしゃれ番長こと衣梨奈と春菜は、ショッピングの真っ最中だ。

とは言え、仲良く二人でお買いものというわけでもなく。
衣梨奈は既に、単独行動。グッズのあれやこれやをカゴに詰めている。

はぁ…新垣さんと一緒に行きたかったなあ…

リヒトラウム行きが決まった時、衣梨奈は真っ先に里沙に電話をしたのだが。
忙しいのか、電話がまるで繋がらない。そもそも、プラチナチケットと名高いリヒトラウムの入場チケットが
そう簡単に手に入るわけがないのだが。

やや沈み込む気持ちも、目ざとく発見した豹柄グッズを見るや否や。
人だかりをかき分けるようにグッズコーナーに突入してゆく。

そんな衣梨奈の姿を遠目で見ているものがあった。
何てことはない。同行者のはずの春菜だ。

503 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:38:48
生田さんは買い物する時は面倒やけん、ばらばらでよかろ? とか言ってたけど。

春菜は、遊園地に入った時からずっと警戒を緩めていなかった。
何せこれだけの巨大なテーマパークだ。この中で物騒なことをしようなどという輩はそうはいないだろう。
それでも、一抹の不安はぬぐえない。入園した時の、聖の表情を見て確信した。
自分より年下だけれど、先輩でもある彼女は既に身構えていたのだ。

グループの攻撃の要だったれいなが抜け、リゾナンターは新しい体制になった。
そして新たに聖と春菜が、「サブリーダー」として任命された。春菜は、かつてサブリーダーだった里沙のこ
とを思い出す。
リーダーの愛を支え、盾となり、時にはリーダー不在時の代行として指導力を発揮していた姿をは、今でも春
菜の心に焼き付いている。
重責だ。自分にはとてもではないが務まらない。
だが、そんな弱音を吐いている暇などない。ダークネスという脅威は常にリゾナンターの近くにあるのだから。
ダークネスだけではない。先日亜佑美とさくらが襲われたように、リゾナンターを倒して名を上げようとする
輩などいくらでもいる。

春菜の思惑など、つゆ知らず。
大量に買い物をした衣梨奈は、カウンターで会計を済ませようとしていた。

「いらっしゃいませ。お買い上げ、誠にありがとうございます」

レジ係の少女が、やや大げさな口調でそんなことを言いながら商品にバーコードリーダーを当て始める。その
間、自分の財布を開き中身を確認する衣梨奈。いざという時ははるなんに借りればいっか。などという後先考
えない思考をしていると。

504 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:40:03
レジ打ちの少女が、こちらを見ていることに気づく。

「あの、えりの顔になんかついてると?」
「いいえ、お会計でございます」
「は?」
「お会計は…あなたのお命でございます」

身構えるよりも先に、少女の行動のほうが速かった。
カウンターを飛び越え、衣梨奈の手を後ろに固める。
さらに両脇から突如現れた二人組に両脇を抱えられ、声を出す間もなく拉致されてしまった。

尋常ならざる状況。
春菜はいち早くそのことに気づき、追いかけようとするも。

「はーい、ここから先は通しませんよ」
「な!どいてください!!」

前に立ちはだかる少女の顔を見て、春菜はぎょっとする。
何故なら、彼女の顔は。先ほどレジを打っていた少女と瓜二つだったからだ。
さらに。その少女は春菜の目の前で煙のように消えてしまう。

見失った!?

相手の衣梨奈を攫う手際のよさ。そして先ほどの姿の消え方。
相手は能力者で、自分達に敵意を持っている。
春菜はそう判断した。ならば話は早い。

505 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:41:12
五感強化。
聴覚と嗅覚を、徐々に高めてゆく。
得られた情報を統合し、春菜はカウンターの奥にある従業員室へ目を向けた。
あそこに生田さんがいる。素早くカウンターをすり抜け、扉の前で再び聴力を上げてゆく。呼吸音が、複数。
そのうちの一つは紛れも無く衣梨奈のものだった。

ゆっくりとドアノブに手をかけ、力を入れる。
ノブは抵抗無く、くるりと回った。鍵をかけていないのか。
罠か、それとも。中の衣梨奈は怪我のようなものは負ってはいない。心臓の鼓動も乱れてはいなかった。春
菜は、部屋の中に突入する事を決意した。

「生田さん、大丈夫ですか!!!」

意を決し、部屋の中に飛び込む春菜。
そして、思わず目を疑った。
OL風。ナース。劇団四季風。そして普通の格好をした少女が四人。
同じ顔。けれど、驚くべきなのはそこではなかった。

「はるなん、助けに来てくれたと!!」
「もう安心っちゃね!!」
「衣梨奈は何もされとらんよ」
「いつでも臨戦態勢やけん!!」

生田さん、いつから四つ子になったんですか。
思わずそんなボケをしてしまいそうなほどに、目の前の光景は現実味にかけていた。
同じ顔をした衣梨奈が、四人。
けれど、夢でもなんでもない。
強いて言うなら、悪夢だ。春菜は目が眩みそうになるのを堪え、不敵に笑う少女たちのほうに視線を向けて
いた。

506 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:42:04


一方、さくらと一緒に行動していた聖は。
ピラミッドを模した建物を探索するというアトラクションを楽しんでいる途中で、何者かに拉致されてしま
う。聖の前を歩いていたさくらは、当然それに気づかない。

口を塞がれ、身動きすら取れないままさくらの遠ざかる後姿を見送ることしかできない聖。
体を捩っても、見えない拘束は外れそうにもなかった。

「あなた、一体どういう…!!」

ようやく塞がれていた口が開放される。
しかし抗議した聖が見たものは。

「え?きゃああああっ!!!!!」

首から上が、馬の怪物。
まさか現代科学がここまで進歩していたとは。
恐れおののく聖に対し、馬人間は何故自分を見て悲鳴を上げているのかがわからない。

「聖ちゃん!久しぶり!!」
「ええっ?聖、馬の知り合いなんていない!!」

全力で首を振る聖。戸惑う馬人間だが、何せ馬マスク越しなのでまったくわからない。
そしてしばらくして、ようやく自分が馬のラバーマスクを被ったままだということに気がつく。

507 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:44:09
「あかりだよっ!聖ちゃん!!」
「え、え? 朱莉ちゃん!?」

馬マスクを乱暴に脱ぎ飛ばした少女の顔を見て。
少年のような短い髪。真ん丸な顔。低い鼻。富士山唇。見間違えようがなかった。

「朱莉ちゃん!!」
「聖ちゃーん!!」

感動の再会と見紛うばかりの抱擁。
聖が能力に目覚めてすぐに、送られることになった警察組織の能力者養成所。
そこには、既に能力者の卵として厳しい訓練に耐え抜いてきた少女たちがいた。
その一人が、目の前の少女 ― 竹内朱莉 ― であった。

既に大いなる力を手に入れ、精鋭然とした先輩たちと比べると、それこそ聖は「落ちこぼれ」であった。
あからさまな、そして目に見えない嫌がらせや侮蔑の視線を受け、それでも辛い訓練に耐えられたのは。
人懐っこく、いつも笑顔で接してくれた朱莉がそばにいたからだった。
自らも能力者の落ちこぼれだと語る朱莉と聖は、すぐに仲良くなる。

聖は能力制御を目的とした入所だったため、安定した制御が認められた時点で養成所を離れることとなった。
その時以来なので、実に3年ぶりの再会ということになる。

「久しぶりだねえ…朱莉ちゃん今、何やってるの?」
「今は、福田さんの下で働いてる」

懐かしさついでに何気なく聞いた言葉。
だが、瞬時に朱莉が表情を硬くしたことで、聖は気付いてしまう。

508 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:47:25
朱莉が、ここへ来た理由。

和田彩花が窮地に陥ったのを衣梨奈と春菜が救った時に、花音が悪意を持って接した話は聞いていた。
そしてその花音の名前がここで出てきたということは、どういうことになるのか。
例の養成所には、若き能力者のエリートとして花音たちが君臨していた。だから、朱莉が彼女たちとともに行
動していても不思議な話ではなかった。それにしてもだ。

「そんな、だって久しぶりに会えたのに」

思い出が、暗い色に塗り潰されてゆく。
聖が歩む道の先はいつだって。かつての旧友・佐保明梨の時もそうだった。
戦いたくないのに、戦わなければならない。

甘い、自分自身、そう思う。
今やリゾナンターのリーダーであるさゆみを補佐しなければならない立場の人間が、戦いたくないだなんて。
寧ろ、そのような難所において決断を下すのがサブリーダーの仕事ではないのか。

「福田さんの、命令なんだ。今きっと、ほかのメンバーたちも聖ちゃんの仲間の元に行ってるはず」
「……」

朱莉の顔色が明らかにすぐれないのが見てわかる。
きっと彼女自身、聖に会えた喜びで命令のことを忘れていたのだ。
それが今、険しい顔をして、何度も手のひらを握ったり開いたりしている。
覚悟を決めているのか、決めあぐねているのか。

こんな時、新垣さんならどうしてたろう。
聖は、かつてサブリーダーを務めていた先輩のことを思い出してみる。
闇と光の狭間にありながらも、愛のフォローをしつつ、グループ全体のことを見ていた彼女なら。

509 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:51:30
「ねえ、朱莉ちゃん」
「な、なに?」
「福田さんに、会わせてくれないかな。来てるんでしょ?」

自分でも意外な選択肢だと思った。
それでも、その言葉を口にした後でも、やはりその選択は理に叶っているような気がした。
まずは、花音がリゾナンターに抱いている悪意の正体を見極めなければならない。
そのためには、やはり直接本人に会って話をするしかない。

里沙が果たして同じ行動をしていたか。
たぶん、こんな選択肢は選ばなかっただろう。聖は、里沙が自分よりはるかにクレバーな決断を下していただ
ろうと想像する。
けれども。

「…わかった」

朱莉は短く、返事をする。
気のせいだろうか。聖の返事を聞いて、安心したかのようにも見えた。
何となく聖の中でもやもやしていたものは、今や確信に変わっていた。

聖の中には、彼女を疑う気持ちは微塵もなかった。
確かに3年という年月の中で、自分が知っている朱莉が変わってしまっていることだってあり得る。
けれどその不安を払拭することができたのは、今の彼女を見ても聖の中の朱莉が揺らがなかったから。
罠。策略。偽計。そういうところから最も離れた場所にいたのが、竹内朱莉という少女だった。
だから、彼女の「わかった」という言葉を信じる。

その結果がたとえ、朱莉と袂を分かつことになろうとも。

510 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 01:53:03
>>502-509
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

511 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 02:40:00
白に浮かんだ紅に、眩暈がする。
粘っこい匂いに鼻を曲げながら、胃からせり上がる液体を堪えた。

「ああ―――」

数えきれないほどの「死」が目の前に広がる。
それは、目を逸らせない現実で、受け入れるべき真実で、自分でやったという事実。

これまで何人を斬り、雨を降らせただろう。血という名の、紅い雨を。
それが宿命だと分かっていた。
自らの信念を貫き、先代からの想いを紡いでいくには、それ以外の術はなかった。
人に何を言われても、それが非人道的だとしても、正義ではなかったとしても、それでもただ、前に進む以外に道はなかった。
たとえ、最後に立っているのが、私一人だとしても―――


コートの襟を立て、ため息を吐く。それは白く染まって空へと消えた。
季節はすっかり冬だ。寒さを増していく時間に、ひどく痛みを覚える。

刀身を収め、一歩踏み出す。
死体を踏みしめつつ、帰ろうとする。
帰る?ああ、そうだ。帰るんだ。自分の居場所に。

512 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 02:40:33
 
―――「破壊と絶望を振り翳し、世界を統一するための、狂気を」


脚が、動かなくなる。
受け入れて、くれるのか?
何度も何度も何度も何度も人を斬り続ける私を。
誰よりも多くの生命を奪い、いつ暴れ出すかもしれない狂気を抱えている私を。


―――大丈夫だよ


ふと、髪に何かが落ちてきた。
顔を上げると、それは舞い降りてきた。

「雪―――」

寒空を染める、白い雪。
それはまるで、天使の羽のようで、私はそっと右手を伸ばした。
次々と降り注ぐ雪は、私の髪に、肩に、そして手へと触れた。

冷たい初雪は、私が斬り捨てたたくさんの死体へも平等に舞い落ちた。
まるで罪を覆い隠すような天からの贈り物は、私の行為を嘲笑っているようにも感じられる。

手に触れた途端に、雪は水へと形を変えた。
それが、私の中に温もりが残っている事を教えてくれる。
ぎゅうっと両手を握りしめ、天を仰ぐ。

淡雪と彼女から託された想いを重ねながら、どうか見捨てないでと私は息を吐く。
それに縋ってみたところで、白の吐息は何も語らず、ただただ夜の闇へと溶けていった。

513 名無しリゾナント :2015/01/18(日) 02:41:26
>>511-512 「snow」

514 名無しリゾナント :2015/01/21(水) 18:27:28
■ マインドタグ −新垣里沙− ■

「付箋と言ったらいいのか、タグと言ったらいいのか…あれ、どっちも同じですね」

そう言って”亀井の姿をしたもの”は、んふふ、と笑った。

「新垣さんの【精神干渉】になぞらえて説明するなら、
私の【能力】は、ごくごく単純な暗示―――弱くて小さな精神干渉―――を、
付箋のように精神に貼りつける…
一言でいえば、それが、私の能力のタネということになります。」

「…『付箋』ね…」

少女は説明を続ける。

「実際の付箋同様、剥がすのは、いたって簡単ですし、
貼りつけた対象を壊したり汚したりもしません。
ですので、亀井さんは心配無用です。
こちらの用が済めば、すべて自動的に剥がれるようになっていますから。」

「…自動?」

”すべて”、”自動的に”という言葉に、ひっかかりを感じる新垣。
その表情に”亀井の姿をしたもの”が回答する。

「お気づきになりましたか?そうです。
私の【能力】によって貼り付けられた個々の付箋には、
対象に与える暗示とは別に、『付箋それ自体』にも、
いくつかの単純な命令を与えておくことができる。
それらの付箋を組み合わせ、互いに関連させ、階層化し…
全体として、一個の構造物を作り上げる。」

515 名無しリゾナント :2015/01/21(水) 18:28:10
これは…そう、これはまるで…

「なるほどねー、アンタが『何』か、ようやっと納得できた感じだよ。」

『今この場には居ない』、そう少女は言った。
『何』と尋ね、『そうゆうとこ』でわかる、そう新垣は言った。

「そうです。
新垣さんとお話している私は、ロボット?アバター?
なんといいますか、想定問答集みたいなものです。
基本的には亀井さん自身をエンジンに…
新垣さんが疑問に思うだろうことをあらかじめ想定し、
それらにこたえられるよう構築された疑似人格、まあそんなところですね。」

…プログラム。

新垣は、”亀井の顔をした”ほほを、自らゆびでつつく少女を見つめる。

弱くて?小さな?とんでもないよ、これは。

驚愕、同系統の能力者だからこそわかる、驚愕。

今の話が全部本当だとしたら…、その【能力】で『ここ』を作ったんだとしたら…
…どんだけの数の付箋を使ったのよ?それ、全部把握して…
どんな頭してたら、これだけのもの組み上げられんのよ。

【能力】ではない。
まだ見ぬ、この少女の真なる恐ろしさは、その【能力】ではない。

あんた…『天才』、なんじゃないの?

516 名無しリゾナント :2015/01/21(水) 18:29:25
「私の【能力】についての概略は、以上です。さて、」

ティーカップ、湯気がくゆる。

「それを踏まえての、本題に入ります。」

少女の口から、言葉が発せられる。
その一言は、新垣をして、さらなる驚愕足らしめるに…



……さんが、目を、覚ましますよ

517 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 17:53:57
■ ラーフィングフォックス −田中れいな− ■

その少女たちは、”突然”そこに現れた。

「ほーんとに突破してきたー。」

覆面の、二人の少女。
一人は肩までのセミロング、大柄で、ふくよかな上半身、白く長い手足。

「『でれ』さんの読み通りかー、ははあーすごいすごい。」

指先だけを合わせる、やる気のない拍手。

「でも残念でしたー、せっかく頑張ったのに、無駄でしたねー。」

縁日などでは、今でも売っているのだろうか?
古典的な、白い『きつね』のお面。

『きつね』の、少女。

「くっ!はなせ!こん糸ほどけ!」
テグスにからめとられ、うつぶせで地面に転がり、もがきつづける田中。

「あははーほどけと言われて『ほどくわけない』でしょ、ねぇ?」
身動きの取れない田中のそばにしゃがむ『きつね』の少女。

「くっ…アンタら何ん?!ガキさんに何しようと?!」
「はぁ?ガキさんって誰ですかぁ?知らないなぁー『ごりら』、知ってる?」

518 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 17:54:32
『ごりら』のゴムマスク。
ノリノリでゴリラになりきっている、後ろの少女に話しかける。

「ウホウホ!ウホッ!」

「ほーらみんな知らないって言ってますよー」
「ふざっくんな!」
田中は思い切り上体を反らし、見下ろす少女を睨み付ける。

しゃがんだ膝に肘を乗せ、頬杖をつき、見下ろす『きつね』。
「まー落ち着いてー」

その目にあいた、黒い穴。
瞳の光は、うかがい知れない。
だが、わかる。

―――なめられている。

こんガキ!れいなをなめくさっとる!

「鬼ごっこも疲れたんじゃないですかぁ?ちょっと休んでてくださいよ。ほら、」
ふと、『きつね』が背後の闇へ目を向け、立ち上がる。

「やーっと、鬼がきた。」
走ってくる足音。
鬼、いや『馬』の少女が追いついてくる。

「はぁはぁはぁ…はぁっ!まってって!はぁはぁ…ゆったのにっ」
日が暮れ、下がってきた気温に馬の口から湯気が、もわもわと漏れ出している。
激しい息遣い、すでにへとへとになっているようだ。

519 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 17:55:08
「あっはは、なにやってんの『ひくし』」
「なっ!あか…俺のことは『うま』ってきめたろ!『きつね』!」
「あれ?ご自慢の体力は?フラフラだけど?」
「しょ…しょうがないだろっ!」
「だっさー、それしか取り得ないのに。」
「るさいっ!あかっ…俺はっ、こうゆう【能力】だからっ!知ってんじゃん!」
「おっと『でれ』さんからだ…」

そう、知っている。
当然ながら、知っている。
知っていて、からかっている。
これは悪い。
この『きつね』、相当に、たちが悪い。

『きつね』は、尚も文句を言い募る『うま』を無視、
ポケットから携帯を取り出す。

「鹿十かよっ!」
完全に無視。
「ちぇもういいよっ!」
そのまま、携帯を耳に当てる。

沈黙。

「了解」
携帯をしまう。

「あっち、おわったってさ。」

「え?終わった?」
「うん、おわった。」

520 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 17:55:48
「…はぁー…」

へたり込む『うま』。

「良かったー」
「ウホウホーッウホッ」

安堵する『うま』を『ごりら』がよしよしする。

おわった、とは新垣のことだろうか?

緊張の糸が切れ、すっかりたるみきった二人をしり目に、
”最初からたるみきった”『きつね』が、
ふたたび田中のそばにしゃがみこむ。

「ききましたぁ?うちらの用事は済んだんで、もう帰りまーす。
田中さんも、帰ったほうがいいですよ。」
笑っている。
仮面越しにでも、わかる。
嘲笑している。
身動きできぬ田中を、あざけっている。

「このっ!済んだってなん?ガキさんになんしよったと!」
「だからしらないって」
瞬間湯沸かし器、田中の顔が怒りで紅潮する。

「打っ倒す!!とにかく!打っ倒す!」
「んへ?ウッタオ?何語それ?だっさ」

『きつね』が立ち上がる。

521 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 17:57:19
「まてっ!こん卑怯もんが!」
「うるさいなぁ…」

ひとつ大きく伸びをする。

「さっきからキャンキャンキャンキャン…『弱い』くせに。」
「なん?!」

見下ろす。

「ほんとは『弱い』んでしょ?田中さんって。」

『きつね』が田中を見下ろす。

「常人離れしたパワーとスピード、ねぇ…」
「…お前…」

知っている。

「そのテグス、切れないでしょ?」

この少女は理解している。

「田中さんのことは調べたうえで、この太さ、この本数、用意してるんで。
まー、あたしが調べたわけじゃないけど。」

高橋と出会う前、【共鳴増幅】に目覚める前の…

522 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 17:59:47
「パワー?スピード?出せなきゃ無いのと同じ、『弱い』のと同じ。で、あとの頼みは、」

…嫌い…

「【共鳴増幅】でしたっけ?この状況じゃ結局それ何の意味もないじゃん。」

…なにが【共鳴】だ…なにが…そんなもの…

『きつね』の面。
その目にあいた、黒い穴。

…まあ、いいや…

穴の向こう、『きつね』は田中を見下ろした。

「しばらくすれば、糸はほどけるんで、そのあとはご自由にお帰りく…」

いや、見下ろせない。

―――真に強烈な打撃は、人が吹き飛ぶことを許さない。―――

田中が、見えない。

―――足は地面に根が生えたかのごとく、その場にとどまり―――

穴の向こう、すべてが真っ暗に。

―――脱力した全身は弓なりに”垂れ下り”―――

523 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 18:01:20
いや、見えないのは、田中ではない。

―――重い頭は、突き刺さるがごとく―――

”田中しか”見えていない。

―――真っ直ぐに落下し―――

真っ暗になるほど、目の前に、

―――地面へと―――

『きつね』の顔面に、両足を揃えた”田中の足裏”が

   激突する。
―――激突する―――

「『打っ倒す!』そう言ったっちゃろ!」

田中は”空中で”そう、言い放つ。

テグスにからめとられ、相変わらず身動きできぬまま、

”空中で”

そう、言い放った。

524 名無しリゾナント :2015/01/23(金) 18:02:33
>>517-523
■ ラーフィングフォックス −田中れいな− ■
でした。

525 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:23:16
>>502-509 の続きです



里奈は再び、凶悪な刃を握り直す。
相手の意識から自分の存在を消してしまう「隠密(ステルス)」ではあるが、先ほどのような殺気に対する
条件反射のようなものまで防ぐ事は難しい。

しかし。
里奈は殺気を消すことにも長けていた。
里保が里奈の殺気を捉えたのは、あくまでも「捉えさせた」だけ。その気になれば標的の目と鼻の先まで
近づくことができる。そして、いかなる反射神経の持ち主でも避け切れない近距離から、ナイフを相手の
体に滑り込ませる。

何が「水軍流」だよ、だっさ。

そう、こうやって、音も立てずに里保に近づいてゆく。
所謂猫足という歩き方。比喩でも何でもなく、僅かな足音すら立たない。彼女の道筋に蝋燭が絶え間なく
並べられていたとしても、炎は少しも揺れることはないだろう。
まさに、里奈は「隠密」に相応しい能力者と言えた。

不意に、足元に冷たさを感じる。
視線を移すと、水溜まりがそこに出来ていた。

526 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:24:34
あいつの、仕業?

里奈は忌々しげに、行列に並ぶ里保を睨み付ける。
初撃を殺気に対する反射神経のみで凌いだ里保。同時に彼女は周囲に水の粒子を展開させた。しかし里奈
の力により、結界も無に帰す。襲撃されたこと自体を認識できなければ、それはただの水溜りに過ぎない。

どうせ反射的に水を出しただけ…いや、違う。

相手を侮る気持ち、それはすぐに打ち消された。
先ほどの恐ろしいまでの反応。里奈の姿が見えていないにも関わらず、里保は彼女のナイフの持ち手に正
確な突きを繰り出している。
この水溜りもまた、彼女の水軍流のもたらす戦術なのか。

だとしても。
里奈はほくそ笑む。
もしこれが里保の張った罠だとするなら、おそらくこう使うはずだ。
里奈が水溜りを歩く。すると、足をつけた場所に波が立つ。あるいは、水から足を抜いた時に滴が落ちる。
その変化が、里保にとっての警報となる。

水溜まりの範囲は意外に広いが、迂回すれば避けられないこともない。
しかし里奈は。迷うことなく、水溜りを突き進んだ。

…そんなの。意味ないんだよね、ばーか。

里奈の能力である「隠密」は、能力の対象から里奈という存在を完全に消してしまう。
その中には、もちろん「彼女が触れているもの」も含まれる。
例えば彼女の身に着けている服、得物であるナイフ。
そして。彼女の足元を浸している、水溜まり。

527 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:26:16
よって水面が波打つのを里保が視認することは、できない。
すり足で移動すれば、水滴がしたたり落ちることも、ない。

楽勝過ぎる。
こんなことで、「下手を打った」スマイレージの名誉が回復できるとは。
今回の花音の召集で、最も乗り気ではなかった里奈。
対外的には、スマイレージはダークネスの幹部の一角を崩したということになっている、それでいいじゃ
ないかと思っていた。増してや花音の個人的な復讐に付き合うなど、馬鹿らしいとすら。

ただ、リゾナンター随一の能力の使い手をこの手で仕留めるというのは悪くは無い。
里奈自身の勲章は多ければ多いほど、いい。そう考えると、安いお使いではある。

ゆっくりと水溜りを滑りつつ、標的の様子を窺う。
里保はまるで何もなかったように、隣の恰幅のいい友人とたわいもない話をしている。
簡単だ。近くの自販機にコインを入れて商品を取り出すくらいに。

足元の感触が、変わった。
どうやら水溜りから抜けたようだ。ここからは音を立てないように歩き方を変えなければならない。とは
言え、もう里保は目と鼻の先の距離にいるのだが。

ナイフの柄を数度、握りなおす。
汗ひとつかいてない。冷静だ。ここ一番の時、最も心を取り乱さないメンバーとして花音は里奈を買って
いた。だからこそ、リゾナンターの「最強」にぶつけた。その期待に応える、ではない。当然の結果なの
だ。

里保の目の前で、立ち止まる。
がら空きの脇腹。そこに、ナイフを突き立てる。
あっという間の出来事だ。

528 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:27:46
そして彼女の思った通りに、本当にあっという間の出来事だった。
腹へ滑り込ませたはずの銀の凶器は里保の鞘によってまたしても弾かれる。さらに危険を察知して後ずさ
ろうとする里奈の足を、里保が思い切り踏みつけていた。

そこから空いているほうの足で、里奈の側頭部にハイキック。
綺麗に決まった蹴りは、里奈の意識を一撃で奪い去った。

ぱたりと倒れる里奈に、もう「隠密」の力は働いていない。
急にばたばたと動き始める里保に何事かと目を剥いた香音だったが。

「え、何里保ちゃん? この人誰!?」

ようやく、ナイフを握り締めたまま倒れている少女を認識する。
対して里保はポーカーフェイスを崩すことなく、床の一点を見つめていた。
そこにはくっきりと刻まれた黒い染みが、数個。

里奈の「隠密」は完璧だった。里保が作った水溜りのトラップにも対応できたはずだった。
だが彼女が最後に詰めを欠いたのは。黒い染み。濡れた靴が刻み込んだ、足跡だった。

「隠密」の能力は、里奈の触れたものを対象の意識から消す。
逆に言えば、里奈から離れてしまったものにはその影響は及ばない。つまり、床の足跡がゆっくり近づい
てゆく軌跡を、里保は目撃する事ができるということ。

姿を消して、こちらに気づかれないよう忍び寄る人間。
それは最早、里保にとって倒すべき敵であった。

529 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:31:17
「何でこんなとこに倒れてるの? 里保ちゃん、知ってる人?」

矢継ぎ早の香音の質問。
さあ? と答えようとした里保の表情が、険しくなる。
倒れた少女の傍らに、女がいた。
テーマパークには似つかわしくない、カーキ色のツナギのような服。
こちらを見ている、爬虫類を思わせるような目。
表情はどこまでも冷たく、そして見えない。

「侵入者…?モニターで見た連中とは違うみたいだけど、ま、いっか。その前に…と」

言いながら、倒れている里奈に掌を向ける。
すると。里奈の足が、何か白いもので覆われ始めた。
その行為が何を意味するか。里保の本能が強い警鐘を鳴らす。

「やめろっ!!!!!!」

危機感は激しい言葉となり、それは行動に繋がる。
里保は持ちうる力の全てを水の生成に費やし、里奈目がけて大量の水を打ち出した。
水流の勢いで、里奈の足に現れた白い何かが洗い流される。
一方、突然の水の発生に騒然となる利用客たち。

「その判断は、正しい、けど。周りを騒がせたって意味で…40点かな」
「あんた、何者?」

香音が里保を守るように、一歩出る。
その問いは明らかに、「危険な相手」へのものだ。

530 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:32:34
水の噴出を天井からの漏水か何かと思ったのか、並んでいた行列がばらけ、大きな隙間ができた。
その隙間を縫うように、女が動き出す。

迷いの無い動き。
ひと目見て、里保は相手が達人クラスの体術の持ち主であることを確信する。
香音の脇をすり抜け、ペットボトルの封を切る。即座に里保の手に収まる、水の刀。

「なるほど、水の能力ね」

言いながら、電光石火の勢いで里保と交差する女。
その時、里保は見た。女の手から、白く輝く結晶のようなものが析出しているのを。

一撃必殺のつもりで放った太刀筋はかわされた。
だが、こちらも攻撃を受けていないはず。そう思った里保だが、手の中の水の刀が急に制御を失ったよう
に暴れだし、そして破裂した。
四散した水が里保の顔にかかる。舌先に、わずかな刺激が走った。

「これは…塩?」
「どうでもいいけど、ここ、出ない? じゃないと」

そこで女にはじめて、表情のようなものが生まれる。
目を細め、笑っている。けれど、そこにあるのは。

「ここにいる人たち、全員巻き込んじゃいそうだから」

人をいくら殺めても、一向に構わないという機械のような感情。
里保と香音を、言い知れないほどの寒々しい空気が押し潰そうとしていた。

531 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:34:05
>>525-530
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

532 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:43:11
そして彼女の思った通りに、本当にあっという間の出来事だった。
腹へ滑り込ませたはずの銀の凶器は里保の鞘によってまたしても弾かれる。さらに危険を察知して後ずさ
ろうとする里奈の足を、里保が思い切り踏みつけていた。

そこから空いているほうの足で、里奈の側頭部にハイキック。
綺麗に決まった蹴りは、里奈の意識を一撃で奪い去った。

ぱたりと倒れる里奈に、もう「隠密」の力は働いていない。
急にばたばたと動き始める里保に何事かと目を剥いた香音だったが。

「え、何里保ちゃん? この人誰!?」

ようやく、ナイフを握り締めたまま倒れている少女を認識する。
対して里保はポーカーフェイスを崩すことなく、床の一点を見つめていた。
そこにはくっきりと刻まれた黒い染みが、数個。

里奈の「隠密」は完璧だった。里保が作った水溜りのトラップにも対応できたはずだった。
だが彼女が最後に詰めを欠いたのは。黒い染み。濡れた靴が刻み込んだ、足跡だった。

「隠密」の能力は、里奈の触れたものを対象の意識から消す。
逆に言えば、里奈から離れてしまったものにはその影響は及ばない。つまり、床の足跡がゆっくり近づい
てゆく軌跡を、里保は目撃する事ができるということ。

姿を消して、こちらに気づかれないよう忍び寄る人間。
それは最早、里保にとって倒すべき敵であった。

533 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 03:48:58
>>532
間違えてこちらにコピペしてしまいました
申し訳ありません

534 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 06:25:31
>>524
差し出がましいとは思いつつ代理投稿しました

535 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 09:53:36
>>534
おはようございますリゾネイター作者です
お手数おかけしました
どうもありがとうございます

536 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:21:11
■ レージフォックス −田中れいな− ■

それは【能力】によって、成し遂げられた。

『きつね』の言った通りだった。
田中は本来、『弱い』のである。
その身体能力は最大限高く見積もっても『普通』。
ただの普通の女性にすぎない。

だが、そこにひとたび、彼女の【能力】が加わるならば、たちどころ、
常人ならざるパワーとスピード、反射神経を獲得する。

かつて鞘師が田中に感じていた、戦闘能力の高さに見合わぬ『怖くなさ』とは、
すなわちこの『素の状態の田中』を、
直感的に看破していたからかもしれない。

狡猾さなど育たぬはずだ。
田中にとっての戦闘術とは、
見えたものを追い、見えたものを避け、見えたものを殴る。
ただそれだけで事足りたのだ。

単純で直線的。
ただそれだけで事足りたのだ。

【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】

己の肉体の機能を増幅させる。
かつて高橋と出会う前までの、元々の【能力】。
田中れいな、その本来の【能力】。
その蹴りの一撃は【増幅】によって、数倍の威力となった。

537 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:21:43
「ぎゃふっ!」
テグスによって身動きできぬ田中が、背中から地面へと落下する。

【増幅】によって、その蹴りの威力は高められた、だが。

だが、この状況は【増幅】のみで成し遂げられたものか?

否。

田中は身動き出来ないのだ。
体の自由を奪われ、地面に転がったままで、
なぜ空中にいた?なぜ蹴りを叩き込めた?

「『こんなんいらん』ゆって、一回つっかえしよったけど、
やっぱりさゆ達の言う事聞いとって正解やったと」

その右手に小さな紙片。
そう、これは、
【能力複写】によって作られた紙片、
そこに込められていたのは…

石田の【空間跳躍】

538 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:22:15
そう、それは【能力】によって、成し遂げられたのだ。

顔面に両足による蹴りの一撃を受け、『きつね』が、
頭からゆっくりと地面へ倒れ伏す。

「・・・」

その光景を『うま』と『ごりら』がぽかーんと眺めている。
何が起こったのかわからない。

蹴りの衝撃で『きつね』のお面が、ぐしゃりとつぶれ、顔から剥がれ落ちる。
落下したお面が、二人の足元に転がってくる。

「あっ…りな…」
『ごりら』が何事か言いかけ慌てて口を抑える。

「…はっ!ああっ!」
その声に『うま』も声を上げる。
ようやく、理解が追いつく。
事態を把握する。

「きっ『きつね』!しっかり!」
『うま』と『ごりら』が、倒れた『きつね』に駆け寄る。
「ねぇ!ちょっと!大丈夫?ねぇって!」

539 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:23:08
仰向けに転がる田中がその光景を眺める。
「でも、やっぱさゆの言う事、全部きいとったらよかった。」
もはや、ここまで。
「石田の、一枚だけしか、もっとらんっちゃ…」

一枚じゃ何かあったとき足りないかもしれないでしょ?って
その通りやん、さゆの心配性、もう笑えんけん。

「うっ…」

『きつね』が息を吹き返す。
なん?もう気がついたと?早くない?
どんだけ頑丈ったい。
さて、どうする?こんあとどうやってガキさんとこ行く?

「ほっ…ちょっと!鼻血すごいよ!大丈夫?」
「うるさいっ!大丈夫だよっ!」

心配する『うま』の手を振りほどく『きつね』。

フラフラと立ち上がるも、よろけて膝をつく。
脚に来ている。

「…てっめ…田中ぁ…」

お面は飛んでしまっている。
が、夜の帳のせいか、その顔は田中には見えない。

「…はっ!ちょっと『きつね』まって!だめだよ!」
何かを感じ取った『うま』が『きつね』を制止する。

540 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:24:01
「…」

『きつね』は答えない。

「ねぇ!もうてっしゅーでしょ?ほら、いこうよ!」
「…」

無視。

「だめだよ!田中さんは!『でれ』さんの計画では…」
「先、撤収しなよ…」
「は?」
「『ごりら』の時間は、もう切れる…『あたしのやつ』で撤収したほうがいい」
「うん、そうしよう…いや待って、先ってなに?『きつね』どうすんの?」
「あたしは田中さんをしばらく足止めして、それから行く…」
「いやいや!意味わかんないって!それいらないでしょ?一緒に消えれば…」
「嫌い」
「は?」
「…なんでもないよ…ほら」

『きつね』が右手を肩の高さに上げる。
「いやいやいや!だめだよ!まだっ!」
「…はやく行けっての」
「ちょっと!落ち着きなって!なんか変だよ!計画ではっ…」

 はー! やー! くー!

「ひっ!」

夕闇を『きつね』の怒号が切り裂く。
そして、長い、沈黙。

541 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:24:45
「…『ごりら』、先行って…」
「…う、うん…」

差し出された右手に『ごりら』が左を合わせる。

ぺちん。

瞬間その姿が掻き消える。
いや、消えた?のか?
田中には、その瞬間が、わからなかった。

確かに消えた。
おそらく『きつね』の右手に左手を合わせたときにだろう。
だが、それは…その瞬間は『いつ』だった?

「『うま』行って……行って。」
「じゃ…じゃあ、行くけど…無茶はっ、なしっ、だかんね?」
「うん」

『うま』の少女が消える。
またしても、その瞬間は、わからずに。

「その『消えようやつ』が、アンタの【能力】か」

田中れいなが、立ち上がる。
謎の粘着性を失い、ゆるんだテグスが、パラパラと落ちていく。

『きつね』は、答えない。
表情は、わからない。
ただ、こちらを向いたまま、動かない。

542 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:25:57
「ふん、しゃべらんか…べつにかまわんと…ただし」

消えよう相手か、やっかいやね、でも…

首を回し、腕を抱えて肩を伸ばす。
ざん、腰を落とす。

【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】

パワーとスピード、反射神経、そして、
視力が、聴覚が、嗅覚が、皮膚感覚が…
田中のあらゆる感覚が研ぎ澄まされていく。

「ただし、アンタは打っ倒す…
そんで、ガキさんどこやったか、そっちは全部、しゃべってもらうけん」

543 名無しリゾナント :2015/01/24(土) 20:27:02

>>536-542
■ レージフォックス −田中れいな− ■
でした。

544 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:42:42
>>525-530 の続きです



「痛ったっ!!!!」

これで何度目だろうか。
亜佑美は「見えざる何か」によって、標的の香菜に辿り着くことなく跳ね返される。
目の前にトランポリンの生地のようなものが張り巡らされているような、感触。
ぽーん、と跳ね返され、地面に尻餅をつく。お尻の部分がじんじん痛い。

「だからぁ、無駄なんですって」

柔らかな関西弁で、香菜が言う。
笑顔。街角でばったり会った友達だったら、きっと心が温かくなるんじゃないかと思うくらいの笑顔。けれど。

「むかつく!あんた何へらへらしてんのっ!!」

この状況下においては、腹の立つ笑顔だ。
少なくとも気の長いほうではない亜佑美にはそうとしか思えない。

「むかつく、言われましても。もともとうち、こんな顔やし」
「うるさいわね!大体攻撃も仕掛けて来ないで、何が目的なのよ!!」
「福田さんって、知ってますやろ?」

再び特攻をかけようとした亜佑美の動きが止まる。
福田花音。忘れられるわけがない。リゾナンターを襲撃した、警察の人間のくせに妙に自分達を敵視してい
た、いけ好かない奴。

545 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:44:00
「その福田って奴が、何の用なのよ」
「ええ。その福田さんが、あんたらを痛めつけてこいって。うちの能力なら、あの磨り減った鉛筆みたいな短
気なチビ…あっ香菜が言うたんと違いますよ? は勝手に自滅するやろ、って」
「な、なんですってえ!?」
「だからぁ、うちが言うたんと違いますって」

香菜の言葉も聞かずに、亜佑美は獅子と鉄巨人を同時に召喚する。
リオンが咆哮しながら飛びかかり、バルクが巨体を震わせて拳を繰り出す。
が、やはり相手が言うところの「結界」の前には無力。「結界」に思い切り拳をめり込ませた後に、反動で後
方へと吹っ飛んでいった。リオンの牙も、結界の隙間すら生み出すことができない。

突然、眩暈が襲う。息が苦しい。
周りの酸素が、薄くなっているような気がした。

「一応通気性はあるんやけど、あんま暴れると酸欠起こしますよ」
「ほんとむかつくわね!そんなことくらいわかって…」

そこで亜佑美の脳裏に何かが引っ掛かる。
通気性、ということは。どうやら結界の向こうのおかめ納豆の言葉を信じれば、結界には無数の細かい穴が空
いているようだ。でないと、通気性は確保されないからだ。

とは言え、空気が通るのがやっとの穴だ。リオンやバルクではそんな細い穴に入り込めるわけがない。無論、
いくら亜佑美が小さいからと言っても無理である。

546 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:45:26
「ま、しばらくおとなしくしといてや。他のお仲間さんはどうなるかわからへんけど、少なくともあんたは暴
れなければ無傷のままやし」
「そ、そんなわけにいかないじゃない!!」

香菜の言葉を額面どおりに捉えれば。
今この時に、みんなが福田花音の刺客に襲われているということになる。
すぐに駆けつけなければ、しかし相手の様子からして自分の周りに「結界」が張られているのは明白だ。

くそ!あたしの能力が召喚なら、もう一体くらい出てきてくれてもいいじゃない!!

亜佑美は正直、自分の能力が何なのか、把握しているとは言えなかった。
はじめは「高速移動」だと思っていた。古巣である「Dorothy」の研究所の人間も、そう言っていた。けれど、
実際はそうではなかった。

リオン。蒼き獅子。
高速移動は内に宿っていたリオンの力だった。
同様に、蒼き鉄巨人・バルクも。彼らが一体どういう存在なのか、亜佑美は知らない。能力開発の担当者も、
この世にはいない。

だったら…だったらあたしがこの手で、実践するしかない!!

亜佑美の中の「見えざる獣」がもう一体いるのか、それとも二体で終わりなのか。
念じる。リオンやバルクにするように、まだ見ぬ存在に向かって、呼びかける。だが、イメージは雲のよう
に掴み辛く、そして手ごたえは無かった。

「だから無駄やってー。そんなんより、うちと一緒にゴリラごっこしませんか。結構楽しいんですって、これが」

そんな亜佑美の苦悩などいざ知らず。
結界の向こう側の香菜は、ウホウホーッウホッ、とゴリラの真似をはじめた。体を屈め、両手をぶらぶらさ
せながら。ひょこっ、ひょこっと移動する。顔を見ると、目は白目を向き、鼻を限界まで広げている。全力
で、ゴリラ。

547 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:46:19
その物真似の完成度の高さは。
亜佑美の癇に障るには、十分すぎた。

「あんたっ!いい加減にしなさいよぉ!!!!!!!」

アトラクションの暗闇に響き渡る、怒声。
それとともに、何かが亜佑美の目の前に現れる。

「うそ!もしかして三体目!?」

期待に胸を震わせる亜佑美、しかしその期待は一瞬にして萎んでしまう。
何故なら、現れたのは。

「か、かかしぃ?」

思わずそんな間抜けな声が出てしまうくらいに。
しかも普通の案山子ではない。藁を幾重にも編みこんだだけの、簡素な作り。背丈こそ、亜佑美よりも高いも
のの、とても役に立ってくれそうには見えない。

「そんなぁ…」
「うちにはよう見えへんけど、残念やったなぁ。ウッホ!ウッホホ!!」

三体目、と聞いた時にはさしもの香菜も身を硬くしたが。
相手の意気消沈した姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
亜佑美の落ち込みが伝わったのか、案山子もまた霧のように散ってしまった。

548 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:47:33
いや。そうではない。
消えたはずの案山子は、再び姿を現す。
それも、結界の向こう側。香菜のすぐ、そばに。

ぞわぞわ、という感触とともに何かが体に巻き付く。
突然の攻撃に、思わずひっ、と声を上げる香菜。

「な、なななななんやぁ!?」
「さあ!おとなしくこの結界を解け!!」

してやったりのどや顔を決めつつ、綱状になった案山子を操り香菜の体を締め上げた。
そして今なら。この案山子の名前が良くわかる。

スケアクロウ。新しい、あたしのしもべ。

草の蒼さを残した案山子が、なぜ結界を超えて香菜のもとへたどり着いたのか。
その謎は、スケアクロウの特性とも言うべき性質にあった。

亜佑美が項垂れた時に消えてしまったと思われた藁の案山子は、自らの体をばらばらにしていたのだ。
それこそ、亜佑美の目に見えないほどの細かさに。
そして極細の繊維になった藁たちは、結界の細かな穴をいとも容易くすり抜けてゆく。あとは、結界の向こう
側で自らの体を編み直すだけ。

「早くこれを!何とかしなさいよ!!」

しかし、亜佑美がいくら目の前の空間に手をやろうとも、結界は消えてくれない。
香菜は、目を白黒させつつも必死にスケアクロウの攻撃に耐えていたからだ。

549 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:48:42
「これは…香菜が任された任務や。香菜が頼まれたんや…絶対に解かへんで!!」

香菜は、敵襲の前に花音に言われていた。
この作戦如何で、「スマイレージ」の将来が変わる。
そのためにも、香菜の能力「結界(スピリチュアルバリア)」が必要不可欠なのだと。

「意地張らないで結界解いてよ!」
「福田さんは、喧嘩もようでけへんかった香菜を『スマイレージ』に入れてくれた…なのに、香菜のせいで作
戦が失敗したら…だ、だから…そんなに通して欲しかったら、うちを殺して通ったらええやろ!!!!」

優位に立っているはずの亜佑美が、押される。
気迫。香菜が「スマイレージ」にかける想いが、彼女の精神力を支えていた。

「あんたが『スマイレージ』のために戦ってるのはわかった。けど。あたしだって!リゾナンターのために戦
ってるんだ!!!!!!」

スケアクロウが、さらに香菜の体を締め上げた。
このまま手を拱いては、仲間たちの身が危ない。その危機感と仲間を思いやる心が、再び香菜の精神力を凌駕
したのだ。

亜佑美の手を遮る感触が、徐々に薄れてゆく。
あれだけの強固な防御力を誇っていた結界が今、解かれてゆく。

「あ、あかん…あんたの行く手すら遮れんかったらみんなに申し訳…ない…」

消えてゆく結界にすがるように手を伸ばす、香菜。
けれどその手は何も掴むことなく、体ごと床に崩れてしまった。

550 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:50:11
亜佑美を阻んでいた抵抗が、ふっと軽くなる。
結界は完全に消えたようだった。

しかしながら、と倒れた少女に目を向ける。
敵ながら天晴と言ったところか。
でも、倒した敵に賞賛を送っている場合ではない。

早く、仲間のもとへ。

距離のせいか、それとも何かに妨害されているのか。
微かにしか感じられない仲間たちの気配を探りながら、亜佑美は暗闇の中を駆け抜けていった。

551 名無しリゾナント :2015/01/25(日) 20:51:18
>>544-550
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

お気づきの方もいるかと思いますが、かななんの元ネタ
http://www.colorful-hp.net/archive/entry-2848.html

552 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:38:27
■ ステルスフォックス −田中れいな− ■

月が出てきたようだった。

三日月。

木々の間、かすかな光が差し込み、
暗闇にグラマラスなシルエットが浮かぶ。

仮面の落ちた、その顔は、見えない。

無言。

先ほどまでの饒舌が嘘のよう。

何も語らず、身じろぎもせず。

『きつね』が、ただ、立ち尽くす。

静かな息遣い。

身を低く延べた田中が、全神経を眼前のシルエットに集中させる。

『きつね』は、まだ、動かない。
そして、『消え』ない。

なん?まだれいなのこと、ナメとる?んにゃ…

そんや、しばらく足止めして、そういっとったっちゃね。

時間稼ぎか

553 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:39:26
なんね頭に血が上っとっちゃおもっとったっちゃけど、えらいれーせーやね。

かまわんちゃ。

田中の五感が最大限研ぎ澄まされる。

おそらく『きつね』の能力は『見えなくする能力』だろう。
光学的なものか、感覚・精神的なものかはわからない。
自身はもちろん、触れた対象も一時的に見えなくさせる。
先ほどの『うま』や『ごりら』、そして『見えないテグス』のからくりだ。

であれば、『そういう能力者』がとる、基本的な戦術はこうだ。

田中の接近および攻撃と同時に『消え』、隙の出来た田中に反撃、
その後素早く位置を移動する。
時間を稼ぐ、ということであれば相手の攻撃は腰の引けたものになる。

ならば問題ない。

反撃の瞬間、田中が攻撃を食らっている、その瞬間は、
同時に確実に『きつね』が田中と接触している瞬間となる。

田中ならば、そこを必ず、捉えられる。

どん。

田中が突進する。

さぁ!さっきの消えようやつ、来いやぁ!

554 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:40:23
フルスイング。
フォームの上では隙だらけなその攻撃で、田中は数限りない猛者どもをなぎ倒してきた。
田中に倒されたすべてのものは、隙があることすら、認識できず、沈んでいった。
圧倒的なパワー、そして、スピード。

その一撃が、『きつね』の顔面へ打ち下ろされる。

パァン!

乾いた打撃音だった。

「なん?…ね?」

左の、ジャブ。

頭部の真芯を捉えた、綺麗な一撃。
スナップの利いた、『キレはあるが軽い』打撃が、
田中の目と目の間、鼻根を打ち抜く。

いや、それは大したことではない。
想定内の攻撃だ。
衝撃、音、力の方向。
『きつね』の位置は特定された。
これで終わり、あとは田中の猛烈な反撃が、連打が、叩き込まれ…

違和感

きつねの位置は特定『されていた』。

最初から。

555 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:41:12
「消えん?やっと?」

田中の眼前から真っ直ぐに腕が伸び、その向こうに顔。
『きつね』の素顔が、すぐ目の前にある。

違和感

『きつね』は、ずうっと、見えていた。
変らずに立ち尽くし、身じろぎもせず、そこにいた。

消えんならそれでええったい!このまま…

パン!パン!パァン!

顎、こめかみ、人中、軽快な打撃が次々と田中に突き刺さる。
見えている、聴こえている、だが『当たらない』。
一方的に『当てられ』続ける。

「ちぃ!」

ならぶつかって、身体で止めちゃろうもん!

ビシィ!

「ぐっ!」
いつの間に?
粘りのある蹴り。
踏み込む寸前の前足、膝の内側を捉えている。
出足を潰され、前へ出るタイミングを外される。

こいつ…ケンカ(格闘技)が…上手い!?

556 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:42:06
違和感

たしかに正規の訓練を受けていることは明白だった。

違和感

そこから繰り出されるコンパクトでキレのある打撃。

違和感

だが、問題はない。
大したことはない。
田中の【能力】は、その身体機能と感覚だけでなく、頑健さにおいてもまた【増幅】出来る。
相当な体重差があるならまだしも、女性の素手の攻撃だ。
たかが数発、耐えられる。

違和感

この程度の相手ならば今まで数限りなく倒してきている。
大の大人の、5年10年という血のにじむような努力を一瞬で粉砕する。
【能力】とはそういうものだ。

『きつね』の打撃もまた、過去倒してきた『普通の人間の』打撃と変わらない。

違和感

ならば、気にすることではない。
打たせておけばいい。

あとは田中の攻撃が一発『当たる』だけで…

557 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:44:13
パァン!

またも『きつね』が田中を捉える。
が、これも軽い。

違和感

突然『きつね』は間合いを切り、大きく後退する。
どうやら『きつね』も、己の打撃が効いていないことを理解したらしい。
その場にしゃがみ込む。

「なんで消えんかしらんちゃけど、そんなん気にせんけんね!」

休ませるつもりなど無い。
一気に畳みかける!

違う、違うのだ。
まだ、気づいていないのか。
この違和感に、気づいていないのか。

『きつね』が立ち上がる。
田中が突進する。

違和感

『きつね』もそれに合わせ、右腕を引く、大きく後方へ。
大振り、隙だらけだ。

よっしゃ、そん攻撃をかわして、そん顔に一発。
打っ叩いてやるっちゃ!
そん右を避けて、そっから、そん顔に一発…

558 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:47:00
違和感

…ん…?

違和感

…避けて、それから、そん顔…顔?

気づいていないのか。

顔って…なんやっとかいな?

―――出せなきゃ無いのと同じ、『弱い』のと、同じ。―――

ごっしゃぁ!

血しぶきが飛び散る。



『きつね』の右手に、その拳大ほどの、石。
素手では倒せぬならばと、拾った石で、顔面を。

559 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:48:41
気づいていないのか。
田中は、まだ、一度も…

膝が落ちる。
その膝が地面につくその前に。

ごっ!

左に持ち替えた石で横殴り。

意識が飛ぶ寸前、田中が見たのは、両手で持った石を振りかぶり
自分に向かって打ち下ろす『きつね』の…

顔…?

わからない

最初からそうだった

夜の帳のせいではなかった

見えないのではなかった

そう

『きつね』の

顔が

『わからない』!

560 名無しリゾナント :2015/01/29(木) 17:50:26
>>552-559
■ ステルスフォックス −田中れいな− ■
でした。

561 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 00:57:48
■ エンビアスフォックス −田中れいなX勝田里奈− ■

勝田里奈は、横たわる田中れいなを見下ろした。

真っ赤だ。
全身を朱に染め、立ち尽くす。

その両手、赤黒く、拳大の石。
鼻血、赤黒く汚れ、口元、胸元。
そして、両耳。
両の耳の穴から流れ落ちる、赤黒い筋。

ゴォオオオオオオ…

激痛。

世界の全てが不気味な轟音に支配される。

気が遠くなりそうになるのを必死にこらえる。

出血。

目、耳、鼻、じくじくと滲みいで、止まらない。

がくん

両膝をつく。

…嫌い…
…痛い…

562 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 00:58:28
目が、霞む。

…こんなやつ…

両手で、血に染まる石を

…こんなやつ…

頭上へと、掲げ…

死ねばいい

――――

ごっしゃぁ!

田中の顔面に拳大の石が打ちつけられる。

一瞬の空白の後、鼻の砕ける激痛。

損傷を把握する暇もなくさらなる激痛。
横殴りの一撃。

ゆっくりと倒れていく。
脚の踏ん張りがきかない。

意識が…とぶ…

田中が倒れていくごとに『きつね』の顔も傾いていく。

563 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 00:58:59
その表情は…わからない…
…顔が…わからない…

…そう、やったと

田中は気づく。
違和感の正体に。

もう…消しとったっちゃね…

『きつね』の【能力】

それは消える力、消す力。

姿を消すのではない。
自らの存在を『消す』すなわち『観察させない』力。

全身はもちろん、部分的にも、そして任意の他者も。

なるほど…全部消さんとれいながちゃんとアンタば狙うように…

田中との戦いにおいて全身を消さなかったのは、田中に己を見失わせないため。
完全に消してしまわず、攻撃目標としての意味だけを失わせる。
普通に戦っていると、錯覚させる。

…でも…なんかいね?…なんで全部消えようらんかいね?…やっぱりなめようっとかね?

それは田中に攻めさせるため、普通に戦わせるため…普通に…

564 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 00:59:33
普通に…?…そうだ…

普通ではないことを、させないため

…そうったい…そっちば…心配しとったちゃね…アンタマジ…れーせーやね…

それは単なる可能性の一つ。
田中れいなの性格からして、まずないであろうと思われた可能性。
だが、田中はその行為を実行した。

だから、『きつね』は『もう一度あり得る』ことを警戒した。
「もしかしたら、他にも…」その警戒が『きつね』に全身を消させることをためらわせた。
警戒したから、全身を消さず、田中からの攻めを誘い『その可能性』を潰した。

が、全身を『消さなかった』がゆえに、それゆえに今、『気づかれて』しまった。

れいなは少しも使う気なかったっちゃのに…

可能性は低い。

565 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 02:08:59
汎用性の高い『あの二つ』を新垣が所持してくる事はわかっていた。
だから田中が持っている可能性も確かにある、だが田中がそれを使う可能性など、ほぼない。
まして、それ以外のものを持っていることなど…
だが…

「あーっ!みにしげさんとあゆみのだけずるいっ!たなさたんっ!まーのも!まーのもぉ!」

強引に持たされた『それ』は『役に立たない』無用の長物であった。
『それ』は、田中がいつも目にする『それ』とは、まるで別物であった。

こんなん、使いもんにならんちゃおもっとったけど…

あまりにうるさい佐藤に強引に持たされたそれは…

それは、まさに『きつね』が警戒した、範…

――――

キーーーーーーーーーン!

世界から、すべての音が、消えた。

「ぎゃああああああ!!!」

絶叫。

引き裂かれる!
脳が、眼球が!内臓が!骨が!筋肉が!

バラバラにされる!ぐちゃぐちゃに!かき回される!

566 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 02:10:15
それは佐藤優樹の【能力】
普段彼女が使うそれとはまるで異質。
原始的で、強引で、愚かな、【能力】の『間違った』使用法。

【振動操作(オシロキネシス;oscillo kinesis)】!

譜久村聖によって【複写】された【能力】は当初、その力の半分も発揮されない。
それはたとえば威力、といったことだけでなく、
『操作性』という点でも、また同様にオリジナルを下回るものとなる。

振幅などまるで安定しない、強いか弱いかだけ。
指向性などまるでない、単に同心円状に。
距離などまるで選べない、ただ己の内側から。

すなわち…

その、ごく狭い範囲の、全ての物体が、『等しく』揺さぶられた。
地面が、空気が、木々が、虫が、小動物が、そして。

田中と!『きつね』が!

――――

勝田里奈は、その両腕を振り上げる。

手の痙攣が、止まらない。

…嫌いだ…こんなやつ…
…こんな…こんな『やつら』…

…だから…

567 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 02:11:01
だから…死ねばいい!

最後の力を振り絞る、思い切り、思い切り!

「もう、やめよう、りなぷー」

天使。

動けない。

朱に染まる石、頭上に掲げられたまま、動けない。

指。

小麦色の、長く細い、中指。

その指先が触れている。

【加速度支配(アクセラレートドミネーション;accelerate domination)】

「和田…さん…」

指先に固定された石が、そっと勝田の手から離され、はるか後方へ、打ち棄てられる。

「だって…だって…こいつ…こいつら…こいつらが!」

ひざまづく少女の後ろから、そっと頬に触れ、おでこを合わせる。

「うん…そうだね…」

568 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 02:12:54
勝田里奈。

脱力感と倦怠感、皮肉屋で嘲笑屋で冷笑屋。
冷静で、思慮深く、慎重。
だが、その裏に隠された、その内面、その本質…

どろどろと燃えたぎり、燃えさかるそれは…
『すべて』を台無しにするほどの、それは…

怒り

「なんで!なんでこいつらだけ!」

なまじ、知らなければ、よかったのかもしれない。

…共鳴…

作戦に当たり、リゾネイターについての説明を受けた時は、なんとも思わなかった。
ふーん、珍しい能力者もいたもんだ、そう思った。
だが、時間が経つにつれ、理解が進むにつれ、その感情は澱のごとく勝田の心に…

「アタシらは!アタシたちが!どんなに!どんなに!だれも!だれも!」

―――そう願えば、そこに、必ず―――

「なんなんだ!そんなご都合主義あるわけっ…あるなら…あったのに…なんで…」

みんな死んだ…みんな死んでいった…だれも助けてくれなかった…
それなのに…それなのに…

569 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 02:14:02
「こいつらは…『こいつらだけ』が…」
「ごめんね、りなぷー」
「!」
「彩が悪いんだ…りなぷーがこんなに怒っていたのに気づいてあげられなかった彩が…」
「…ちが…」
「彩はね、りなぷーのこころはわからない…誰のこころもわからない…」

【加速度支配】をもち【支配者の瞳】をもつ、無敵の能力者が…

「りなぷーがこころの中でどんなに叫んでも、彩にはわかってあげられない…」

後ろから、そっと。

「でも、彩には【力】がある…どんなものでも壊せる、どんな相手にも勝てる…だから」

さらり、長い黒髪が、勝田の顔にかかって…

「彩にまかせて…いつか、りなぷーがきらいなものは、彩がぜんぶ、壊してあげるから…」

…その表情は…

「だから、『今は』帰ろう?田中さんには、まだリゾナントにいてもらわなくちゃいけない」

「…うう…ううう…ぐぅ…ぐうう…」

570 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 02:15:55
慟哭

三日月

慟哭

――――

「なんとか、間に合ったみたいね」

いまだ泣きじゃくる勝田の声を切り、福田花音はインカムを外した。

彩が悪いんだ…

「そうリーダーは言ってくれてたけど、これは、どう考えても、アタシのミス。」

冷静で、思慮深く、慎重なはずの彼女が…
あれほどの怒り…その身を焼き尽くさんほどの…

嫉妬

「…あたしもホンット、ボンクラ」

今、倒してはいけなかった。
勝つべき時、倒すべき時というものがある。
この戦いの情報は、リゾネイター達に共有され、分析される。

…まずい…これは、実にまずい…

「多少、計画の修正が、必要だわ」

571 名無しリゾナント :2015/01/31(土) 02:17:30
>>561-570
■ エンビアスフォックス −田中れいなX勝田里奈− ■
でした。

572 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:20:21
数年ぶりに現れたにもかかわらず、その外見は驚くほど最後のときと変わっていなかった
伸びた髪の毛と染め上げた毛色を除けば、そう、時が止まっているかのようだった

「愛ちゃん!!」「高橋さん!!」
仲間達の驚きの声に対して、当の本人は、ただ笑みを浮かべるのみ
店内を懐かしげに眺め終え、ようやく「久しぶりやね」と新垣の肩に手を置こうとするが、新垣はその手を払いのけた
「久しぶりじゃないよ!!いったいどこに行っていたのよ!!
 愛ちゃんが突然いなくなって、どれだけ私達が混乱したのかわかっているの?」
肩を組まれた相方にいきなり怒られ目を丸くする高橋だったが、すぐさま笑い直した
「アヒャヒャヒャ、ごめんごめん、ガキさん。でも、なんとかなってるじゃない
 確かに、勝手に飛び出したのは悪いとは思ってるよ、ガキさんにも相談しなかったからね
 でも、あっしにもやることがあったがし。ガキさんがいま、動いているように、私もね、『あのこと』について」
「!! 愛ちゃん、それはこの場では!!」

「それにしても、れいな・・・ちょっと健康的になった?」
「れーなの好きなことできることになったし、しっかりと食べるようになったからっちゃろ」
「あっひゃーあんた、やっぱ化けもんやわ!全然かわってないって、魔法みたい!!」

「愛佳、元気そうだね」
「ええ、何とかって感じですね。この足が動けばって感じですけど」
「愛佳には申し訳ないことをしたって思っている。もっと私達が愛佳のことを守れれば」
「いえ、愛ちゃんには十分すぎる程守っていただいたので、これは愛佳自身の問題です」

「ジュンジュンは・・・変わらない」
「いや、ソウでもナイ。色々経験してるダ」
「・・・それは」
「ソッチもダ」

「リンリン!ずいぶん大人っぽくなったね!!」
「20歳も越えましたカラネ!!見た目だけではナイデスヨ。愛ちゃん、あとでお手合わせ願いマス!!」
「あーそれはちょっと勘弁で」

573 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:21:04
そして、ひときわ暗い表情の人物を浮かべた現リゾナントのリーダーの元へ椅子を持ち寄り、目線の高さを合わせて座り込んだ
「さゆ」
「・・・愛ちゃん」
「大丈夫、えりはきっと戻ってくる。泣き顔、可愛くないよ
さゆが今のリゾナンターのリーダーやろ?リーダーが凹んでいたら誰もついてきてくれない」
そして、最後に耳元で道重に聴こえないように何かを呟いた
道重は慌てて高橋の瞳を覗き込み、高橋は笑ってみせ、肩をぽん、と叩いた

「・・・それで愛ちゃんもカメを助けに来たんでしょ?」
「えり?ああ、そうやった、うん、えりをどうにかしてあげたいって思ったんだった
 久しぶりにみんなにあったからうれしくなって忘れるところやった」
振り返った高橋は無邪気な笑顔であり、それをみて新垣は頭痛を感じてしまう
「はあ・・・またか」

「・・・あの方が『高橋愛』さんですか?」
「ああ、そっか小田ちゃんは高橋さんに会うの初めてなんですよね?
 そういう私も数回しかお会いしたことはないんですがね。ジュンジュンさん、リンリンさんとは初めてですし」
小田がじっくりと新垣と夫婦漫才を始めた高橋を観察するが、意図せず冷や汗をかいていた
(・・・この人、こんな状態でも常に四方を警戒している。隙が無い)
新垣の頭をばしばし叩いて一人で笑っている、にも関わらずだ

「それで愛ちゃん、えりを助けたいっちゃけど、知恵を貸してくれんと?」
いつの間にかキッチンからポットを持ってきて、ホットココアをマグカップに注いでいる
「何かいい方法ないかなって色々考えたっちゃけど、ほら、れーなもともとそーいうこと、苦手やん
 昔やってガキさんとか愛佳に任せとったけん。拳で交わす、なんて通じそうもなさそうやし
 そりゃ、できることならえりを傷つけたくないっちゃけど、れーなにはわからん」
新垣に緑色、高橋に黄色のマグカップを渡しながら「どうすればいいと?」と口に出さずに問いかけた
田中からココアを受け取りながら、新垣は眉に皺を寄せた
「簡単に答えが出るなら、とっくに私と愛佳で動いているわよ・・・あ、田中っちありがと」
「いいえ〜どういたしまして」

574 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:21:43
でも田中さん、と会話に割り込むように光井が暗い声で輪に加わる
「愛佳と新垣さん、一晩考えたんですわ、どうしたら亀井さんに傷を負わすことなく、正気を取り戻させるか
 せやけど、実際にあの亀井さんをみて思ったんは策を練っても巧くいく保証なんてあらへんっちゅうことでした
 だから、力ずくでまずは『亀井さんを捕える』ことしか思いつきませんでした、恥ずかしいことですけど」
「ま、そういうことだね。田中っち、簡単にはいかないね」
「ふ〜ん、まあ、あんな死んだような目の絵里、頭使ってなんとかできるそんな気もれーなしなかったけん、驚かんけどね」

「なんか光井さんらしくないんだろうね、あんな不安定なこと言うなんて
さっきの高橋さんも何て言っているのか聴こえなかったし。あ〜あ、私が超聴力の持ち主だったらな〜」
「私にも聴こえませんでした。根拠のないことをしようとするなんて、らしくない」
光井本人に聴こえないように鈴木と石田は小さな声で『先輩』たちの会話に耳を傾ける
「里保の刀をさばく風、リンリンさんの体術を余裕でさばく身体能力、詐術師を消す消失の力、確かにチートっちゃね」
「チートって生田さん、まるでゲームみたいな表現ですね」
「あながち間違っとうないやろ?どうすればええか、策を練る、それって攻略法の一つやけん」

鞘師は仲間達の輪に加わらず、ただ沈黙を保つ。それは道重の一挙一動を逃さまいとするため
高橋が道重に囁いたその唇の動きから読み解こうとしたが、不運にもすべては説き切れなかった
とはいえ、一部は見えてしまい、その動きは・・・
(覚悟?)
そう言っているようにみえて仕方がなかったので、気が気ではない

何を覚悟しなくてはならないのか、亀井を救うことに覚悟がいる、ということなのであろうか
それならば・・・命を賭する必要がある、それを意味するのか?
それを今の頼れるリーダーであった、道重に鞘師達は求めてよいのか、泣き崩れている彼女に

575 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:22:47
いつの間にか田中と新垣、光井による今後の『作戦会議』も進んでいたようだ
ジュンジュンとリンリンは初めて会った後輩達が気になるようで、一向に会議には入ろうとしない
それがかつてのリゾナンターのあり方だったのかもしれないが、現リゾナンター達は知ることはない

「・・・それで愛ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「う〜ん、わかんない!」
「はあ!?」
新垣が大声をあげても、高橋は、いや、だってさ、とマイペースのままだ
「絵里があんな風に暴れているのをみて、絵里自身の思いがあるなんて到底思えないんだもん
 きっとジュンジュンが言ったように、絵里の時は止まったまま、体だけが動いているんだよ」
「・・・愛ちゃん、どこから私達のことみてたの?」
「え?佐藤があの工場にみんなを跳ばしたところから」
「そんな前から見てるのに、なんで助けてくれないのよ!私、腕吹き飛ばされたんだよ」
「ガキさんならそれくらいなんってことないと思ったし、さゆもいるから大丈夫だよ」

腕を吹き飛ばされた、それを「それくらい」と表現する高橋の発言を聞き、工藤の喉がごくりと動く
(この人はいったい、どんな道を進んできたんだ?)

「いま、できるのは絵里の動きを止めることじゃないと思う
 あの体とダークネスが操り人形のように動かしている。でも心は絵里のもの
 あの『絵里』は心と体が一体化していない不安定な存在だと思う。
 もし無理やりにでも捕えてしまったならば、心の居場所がなくなってしまうと思う
 ただでさえ『時』を止められている絵里の心は不安定なはず。もしかしたらあの行動も見えているのかもしれない
 そんな絵里の心をこれ以上傷つけたら、もう元には戻せないかもしれない」
「・・・それならばどうすれば」
「簡単なことだよ。絵里が自分で自分を取り戻せばいい」

自分で自分を取り戻す、簡単なこと、と高橋は言ったが誰もが思った
それができれば苦労しないのに、と
仲間達の顔を見ても、技を受けても、凍り付いたびくともしない、あの心にどうやったら傷つけることなく記憶を蘇らせようか

576 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:23:53
「愛ちゃん、簡単に言うけどそれができたら苦労しないって」
新垣が思わず弱気を漏らすが、高橋は気にする様子もなく急に立ち上がった
「愛ちゃんどうしたと?」
「ん?さゆが疲れてるみたいだから、二階に連れて行こうと思って」
話の途中でまた勝手な行動をしようとする高橋に新垣はまた大声をあげそうになったが、道重の顔を見て留まった
「そ、そうだね。手伝うよ」

しかし高橋は「ガキさんはいいよ。鞘師!!手伝って」と鞘師の名前を呼んだ
「え?は、はい」
「鞘師、左肩支えてあげてね」
そういい、右腕を自身の肩に回し、座り込む道重を立ち上がらせた
階段をのぼりながら高橋が、「あ、そうだ」と首だけを振り向き新垣に笑って見せた
「あっしは上でさゆの看病してるから、作戦はガキさんに任せるからね」
「ちょっと!嘘でしょ?愛ちゃん?」
「じゃあね、里沙ちゃん、よろしく♪」
「・・・」

唖然とする新垣
それと対照的に田中は「愛ちゃんらしいっちゃね」と表情を変えず、ゆっくりと立ち上がった
「田中さん、急に立ち上がってどないしましたん?」
「え?だって愛ちゃんが『作戦はガキさんに任せた』いうけん、れーなも帰る」
新垣の「はあ?」という声をかき消すように、佐藤が「えーたなさたん、帰るのやだ〜」とれいなの前に瞬間移動で飛び込んだ
「まさ、もっともっとたなさたんと話す!」

「ちょっと、まーちゃん、田中さんだっていろいろあるんだから、離れろって!」
「やだ、まさは大好きなたなさたんといるの」
「だめだって」
「ヤダ!!!!」

577 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:24:37
子供のけんかを繰り返す二人だったが、れいながにかっと笑い、二人の肩に手を置いた
「佐藤、工藤、喧嘩はやめると。ま、喧嘩と言ってもかわいいもんやけどね
 ねえ、愛佳、この二人、今日はれーなが送って行ってもいいと?
 もう遅い時間やけん、家まで送り届けると」
佐藤の「まさ、子供じゃないもん」という反論と工藤の「なんで私まで?」という表情のコントラスト
「え、ええ、田中さんがええんならお願いしますわ」
「よし、佐藤、工藤、帰るとよ」
元気に「おやすみなさやし〜」とあいさつする佐藤と「おやすみなさい」と丁寧な工藤を連れて田中は去って行った
「ほ、ほんとうに帰るんだ・・・・」
田中にまとわりつくように歩く佐藤の後姿を見て石田はあきれ顔を浮かべた
「新垣さんに任せる、っておっしゃった高橋さんの言葉を信じて帰る田中さんも田中さんですけど・・・
 そんなに高橋さんのことを信じているんですね」

「まったく、愛ちゃんも田中っちも私に任せる、なんて、もう・・・
 ああ、疲れた!!いろいろあったし、愛佳、悪いけど、私ももう帰らせてもらうからね」
半ばやさぐれ状態で新垣がコートを羽織る
「ええ〜〜新垣さん、帰っちゃうんですかぁぁぁ?」
ここにもまた一名、疲れさせる天才がいることを思い出し、新垣は軽い眩暈を感じた
「せっかく、こうやってお会いできたんだから、もっとお話ししましょうよ」
「・・・生田、うざい」
「またまた〜それは愛情の裏返しってやつですね〜」
そんな生田を無視するように一人、店を出ようとする新垣だが、当然のように生田もついてくる

「ちょっと、えりぽん、何してるの?新垣さんが疲れちゃうでしょ!」
「ええ〜だったらえりが〜送って差し上げますよ〜」
「・・・いらないから」
そういいながらも帰ろうとする新垣、それを追う生田、それを追う譜久村という奇妙な構図のまま3人の姿は小さくなっていく

578 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:25:35
「結局、フクちゃんも新垣さんの邪魔になっているんだろうね」
鈴木が残ったコーヒーを飲みながら半笑いでいると、光井も立ち上がった
「まあ、今日はなんやかんやあったわけやし、みんな、疲れたやろ?
 これで今日は解散ってことにせえへん?」
リンリンとジュンジュンに同意を求めるように顔を向けた
「そうデスネ、色々あって、ジュンジュン疲れた。休みたい」
「リンリンも久々に日本を楽しみたいデスネ」
すでにバナナを1房近く食べているジュンジュンは眠そうに、あくびをかみ殺している

「決まりやな、ほな、あんたらも帰りや」
「え・・・あの、光井さん、ちょっとだけ相談に乗ってもらっていいですか?」
「なんや鈴木?また相談?・・・まあ、愛佳でなんかでよければ話くらいは聴いてもええけど」
そう言って、浮かべてカバンを手にし、帰る準備を整え、コートを羽織った
「ほな、鈴木行くで」
身支度を整えた光井に飯窪が遠慮がちに「・・・光井さん、私もいいですか?」と伺いを立てた
「なんや飯窪、あんたもあるんか?」
「はい、お邪魔でしょうか?」
表情は不安げな飯窪に光井は「そんなことあらへん。ま、あってもおかしくないやろと思ってたんや」と返した

光井達を見送った後、リンリンが椅子に座っている小田の真正面の席に座った
「さて、これでミンナ帰っタ。ここからはリンリン達の時間デス
 ダークネスにより作られた能力者、小田さくらダナ」
「・・・はい」
「これから、私と一緒にキテもらおう。それはリゾナンターとしてではなくて、万千吏、リンリンとしてのお願いダ」
「・・・拒否権は」
「ナイ。そして、中国式のもてなし方というものをさせてモラウ」
小田は下を向き、一息ため息をついた
「・・・仕方ありませんね。素直に応じさせていただきます」
「やけに素直ダナ」
「・・・いけませんか?」

579 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:26:11
「そして、ジュンジュンは石田ちゃんをもてなしさせてモラウ」
「!! なんでだ!!」
「だって、石田ちゃん、かわいいカラナ」
「やめろ!変態!!」
大声を上げる石田と笑顔のジュンジュン、お互い真剣な小田とリンリン
焦り、思わずリオンを出しかける石田に対して小田が「何してるんですか?」といわんばかりに視線を向ける
「ジュンジュン、冗談いってるだけダ」
それを聞いて安心した石田だったが、小田は唇を尖らせた
「・・・冗談、なのですね。本気でもよかったのに」

にぎやかな夜は過ぎていく
田中にじゃれつく佐藤、新垣に纏わりつく生田、光井に相談を持ち掛ける飯窪、中国史のもてなしを受ける小田
リゾナントの二階では鞘師が寝込んだ道重に付き添い、時折冷えたタオルで額を冷やす
高橋はそんな様子を見ながら、時折、鞘師に問いかけ、鞘師は静かに答えを返す
深夜3時も過ぎたころ、道重が体を起こしたのをきっかけとし、3人は語り合い始めることとなる

★★★★★★

「・・・」
亀井は転送装置を使い、ダークネスの本部に戻ってきた
リンリンの炎で、新垣のワイヤーで召物はぼろぼろだが、気にする様子もない
無表情
無機質な表情
ただただ、歩き続け、与えられた部屋、単なる休憩室に戻り、眠り始める
夢などみない、みれない、夢の中で彼女は寝る、そしてその中で眠り、さらに眠り・・
眠って、眠って、眠って・・・
そして幾重の夢の中でようやく、彼女は笑う

580 名無しリゾナント :2015/02/01(日) 21:33:57
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(7)です
遅筆で申し訳ないです。言い訳すると忙しかった。
そして展開がΧや■と比べて遅くて申し訳ありません

ここまで転載お願いします。

581 名無しリゾナント :2015/02/02(月) 06:54:18
更新乙です!転載行ってきます

582 名無しリゾナント :2015/02/03(火) 23:14:53
>>544-550 の続きです



しかし見れば見るほど異様な光景だ。
異能力に目覚めて以来、大抵の異様なものには慣れていたつもりの春菜だったが。

「何を驚いているんだい? 見ての通りさ! 君の盟友である生田衣梨奈は今まさに! 四つの魂
に分けられたのだよ!!」

赤を基調とした、中世フランス的な軍服に身を包んだ男装の麗人。舞うように、踊るように春菜の目
の前に一歩踏み出す。どこかで見たことがあるような所作。
巻き巻きの金髪ロングからして、ベルばらだ。いや、宝塚か。

それよりも、問題はその衣梨奈のほうだ。

「はるなん、これどういうこと?」
「お前ら、元に戻すっちゃ!!」
「あーもう面倒臭いと。どうでもよかろ」
「全員ぶっ飛ばす! えりはいつでも臨戦態勢やけん!」

同じ顔した衣梨奈が、四人。
さっきのオスカルの言葉を信じれば、文字通り「魂を分けられた」のだろうが。
恐る恐る四人の衣梨奈に近づくも、今度は別の変な奴に遮られた。

583 名無しリゾナント :2015/02/03(火) 23:16:12
「…リリーに近づかないで」
「り、リリー?」
「あなたはリリーを不幸にする…取った!あなたのイニシアチブ!」

同じく意味がわからない。
春菜の前に立った、奇妙な白と黒のドレスを着た少女は、まるで観客に語りかけるようにそんなこと
を口にした。

「そーゆーことなんだよ。うちら福田さんにこいつを無力化しろって言われてんだよ。怪我したくな
かったら引っ込めよばーか」

今度は、特攻服を着た少女がガムをくちゃくちゃ噛みながら、顔を限界までこちらに近づけてくる。
迫り来る特大ロングのリーゼントは、存在だけで十分な威嚇である。

「説明補足させていただきますと。ワタクシ田村芽実は、『劇団田村』という能力によってですね。
自分はもとより、相手の魂も分裂させることができるんです。ちなみに、ワタクシのような熟練者
でなければ、分裂させられた人はそれぞれが好き勝手なことを言ってまるで纏まりがなくなります」
「は、はあ…」

最後に、メガネスーツの社長秘書風な少女。
それぞれが違う格好をしているが。共通点は、濃い眉、垂れ目、犬ッ鼻、特徴的な八重歯。
全員同じ顔なのに、違うキャラ。ある意味壮観ですらある。

「というわけでワタクシ達は退散させていただきます」
「ずらかるぜ!!」
「永遠の繭期なの!」
「それでは!ごきげんよう!!」

それだけ言って、すたすたと部屋を出てゆく四人の田村芽実。
奇妙。滑稽。そんな空気に押されていた春菜は、ようやくあることに気がつく。

584 名無しリゾナント :2015/02/03(火) 23:17:27
「逃げられた!!」

どうしよう。今から追いかけて捕まえるべきか。
聴覚を強化するも、足音はばらばらの方向から聞こえてくる。一体どっちを追えばいいのか判断がつ
かない。

「はるなん早く追っかけると!」
「いやいやその前にえりを元に戻して」
「あーもうおなかすいたけん」
「……」

矢継ぎ早に四人、と言っていいのだろうか。分裂させられた彼女たちに言葉をかけられる。
みんな言ってることがばらばら、しかも最後の一人は、ヘッドホンを被ってスマホをいじっている。
これは厄介なことになった。

いや、ちょっと待った。
確か芽実のうちの一人が、「福田さんの指示で」みたいなことを言っていたのを春菜は思い出す。こ
の前のことを逆恨みしてのことなのか。

だったら、この状況は明らかにおかしい。
それに。気になっている点が一つ、あった。
一人だけならまだしも、全員がだなんて、怪しすぎる。

春菜は、意識をある一点に集中させる…やっぱり。
確証を得た春菜が、部屋のロッカーのうちの一つに手をかけた。

「見つけた!!」
「ひいっ!?」

中から現れたのは。
二つ結びの、地味な格好をした少女。
顔はやはり先ほどの仮装集団と一緒の顔である。

585 名無しリゾナント :2015/02/03(火) 23:18:36
「ど、どうしてここが」
「あの人達。匂いがしなかったんです」

春菜が感じた違和感。
それは、その場にいた四人の少女たちから匂いがまったく感じられなかったこと。
さらに、福田花音の指示という事であれば、衣梨奈を分裂させてそれでおしまいなんてことはありえ
ないだろう。必ずどこかに自分達を見ている人間がいる。そういう結論に達した。

あとは、嗅覚と聴覚を少しずつ、絞ってゆくだけ。
微かな心音と呼吸音。それと、自分と衣梨奈以外の「誰か」の匂い。
辿るのは、簡単だった。

「さあ、おとなしく生田さんを元に戻してもらいます!」

芽実の計画では。
分裂した衣梨奈に春菜が戸惑っている隙に、不意打ちを仕掛けるというものだった。
しかしここまで簡単にばれてしまっては、計画もへったくれもない。
花音からは「呪いの人形みたいのがいるかもしれないけど、そいつ自身は弱いから」と説明されてい
たものの。芽実もまた、戦闘特化タイプというわけでもない。

頑張った。一度は相手の虚をついた。
やれるだけのことはやったんだからしょうがない。
ついこの間までサブメンバーだった割にはいい仕事をした。
そう思いかけた芽実の頭に、花音がかけた言葉が過ぎる。

586 名無しリゾナント :2015/02/03(火) 23:20:23
― この襲撃は、あんたたちの試金石でもあるんだから ―

そうだ。
この戦いに、自分達の今後が掛かっている。
こんなんじゃダメだ。ぜんぜん、仕事してない。
芽実の体が、小刻みに震えだす。

「ふ、ふふ、ふはははは!!!!」

気弱そうで地味な格好をしていた少女の姿が、ゆっくりと変わってゆく。
髪型が、そして服装が。
春菜の前に姿を現れたのは、ついさっき見た柄の悪い不良だった。

「テメー…よくも暴いてくれたなこの野郎ぉ!!」
「ひ、ひっ!!」

芽実の能力である、「分裂(スプリット)」。
文字通り、自らの魂を分裂させることができる能力。ただ、一人の本物以外は肉体を持たない分身の
ようなもの。春菜が匂いによって本体を突き止めたのはこの特性によるものだ。
また、能力の応用として他者の魂をも分裂させる事もできるわけだが、それはあくまでも副次的なもの。

その真骨頂は、芽実の持つ凄まじい「演技力」によって発揮される。
もともと芝居というものに尋常ならざる興味を抱いていた芽実は、やがて自らの能力に「演技」を結
びつけた。結果。

587 名無しリゾナント :2015/02/03(火) 23:21:18
不遇の人間と吸血種のハーフを演じれば、その圧倒的な生命力を。
中世の男装の麗人騎士を演じれば、その鮮やかな剣技を。
有能な社長秘書を演じれば、その聡明な思考力を。
そして凶悪なヤンキーを演じれば、不良喧嘩殺法を手に入れることができるのだ。

なりたい自分に、なれてしまう。
恐るべきは、芽実のアクトレスとしての才能。
それこそ頭の天辺から爪先まで不良と化した芽実は、春菜に凶悪な眼差しを向けていた。

588 名無しリゾナント :2015/02/03(火) 23:23:00
>>582-587
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

589 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 01:23:36
■ クシダノギナン −新垣里沙・田中れいな− ■

「おそい!遅いよぉ!田中っち!」

目を開けると、そこにガキさんがおった。

なん?バス?れいなたち以外誰もおらんと?貸切かいな。

「ちょぉっとぉ!いーつまでそこ突っ立ってんのぉ?
今日は田中っちが地元を案内してくれるってゆーさぁ」

そうやったっけ?れいな地元飛び出してから一度も帰ってないっちゃのに…
…もう…あれからどんくらい経っとるとかいね?
あっという間だったような…長かったような…

あれ?れいなどこ案内するつもりやったとかいね?
だってあの頃の流行のお店も行きつけのお店も
みんな無くなっとるかもしれんちゃのに…

590 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 01:24:46
「みて!田中っち!さくらだよぉ!さくら!あそこいこうよ!ほれ!
なんかでっかい神社見えてきたよぉ!」

えー!いつのまにバス走っとっちゃかね?
まいいかガキさんの行きたいとこいきましょう。
神社がええならそこに。

「いやーでっかい神社だったねぇ」

ですねー。

「ほぉっ!さくらだ!さくらだよ?田中っち!」

きれいですねー。

「田中っち!田中っち!…」

楽しい…楽しい…
なんやっとかね…
久しぶりったい…

ガキさんと、二人でこんなに…

楽しかった…楽しかったと…
また、また行きたいです…
ガキさんと…また…いっしょに…

―――そうだね…また、行けたら、いいね。―――

591 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 01:25:26
>>589-590
■ クシダノギナン −新垣里沙・田中れいな− ■
でした。

592 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:36:11
>>582-587 の続きです

本物さながらのヤンキーと化した芽実を前にして。
春菜は完全に、びびっていた。

「いっ!生田さんをははは早く元にいい!!」

春菜は。
ヤンキーという人種が苦手であった。
この世界に足を踏み入れる前はもちろんのこと、異能力を手にしてからも。
コンビニなどでこのような輩に遭遇する度に、五感全てをシャットダウンしてしまいたくなる。
サブカルガールと不良は、相容れない生き物同士なのだ。

「さっきからごちゃごちゃうっせえんだよ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!!!」

春菜の襟元を掴み、壁伝いに吊るし上げる不良芽実。
いつの間にか、ガムまで噛んでいる。

「俺はこの姿になるとなぁ、喧嘩最強になるわけよ? オメーみてえなモヤシ、3秒でボッコだっつー
の!あぁん?」
「生田さん!た、助けてくださいっ!!」

これがヤンキーの気迫なのか。
すっかり気押されてしまった春菜は、思わず先輩に助けを求めてしまう。
しかし。

593 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:37:02
「えー、五感強化があるやん」
「じゃあ準備体操してから」
「面倒臭い…」
「……」

春菜は絶望する。
最後の一人に至ってはヘッドホンで音楽を聴きながら頭をぶんぶん振っている。
あまりにも自由。それが生田衣梨奈なのか。

「もう頼みません!こうなったら私一人で…!!」

襟首を掴む手、その手首を逆に掴み返す春菜。
痛覚を最小限に絞ることで、春菜は痛みを感じない戦闘マシーンと化す。
皮膚を切り裂かれても。骨が折れても。決して止まる事の無い暴走機関車となるのだ。

594 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:41:01
……

結果は、春菜の完敗だった。
容赦なく叩き込まれる拳、拳、拳。それでいて春菜の攻撃は全てかわされる。
痛みは確かに感じない。しかし、攻撃が当たらなければただのサンドバッグだ。文字通
りの喧嘩の達人となった芽実に、春菜の格闘術はまったくと言っていいほど通用しなか
った。

「ご、ごめんなさいぃぃ…」
「もやしが逆らってんじゃねーぞコラァ!」
「や、やっぱり生田さんじゃないと…」

情けない声をあげながら、完全に敵意喪失。
何よりも、ボコボコにされた体がついて来ない。

やはりここは、衣梨奈を戦線復帰させるしかないのか。
床にへばりついたまま、顔だけ横に向けて衣梨奈のほうを見る。
相変わらず好き勝手なことをしている四人。
纏まりのない衣梨奈。彼女たちを、何とか一つのことに目を向けさせることができれば。

そこで、ふと思いつく。
人間の三大欲求の一つである食欲。そこを利用すれば、彼女、というより彼女たちの意
識を集中させることができるのではないかと。
もちろん、都合よく春菜のポケットにそんなものは入っていない。そこで。

春菜の能力である、「五感強化」。これを最大限に駆使する。
味覚。視覚。嗅覚。聴覚。そして触覚。これを衣梨奈と共有することで、春菜の思い描
いたイメージをそのまま衣梨奈にぶつけることができるはずだ。

595 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:42:06
五感を総動員し、春菜はある食べ物を思い浮かべた。
これなら、衣梨奈の意識を一つの方向へ向けることができるはず。
漫画で鍛えた妄想力が今、爆発する。

次の瞬間。
四人の衣梨奈が一斉に起立する。
その表情は苦悶に満ち、そして顔面蒼白。
口を人間がすることのできる限界までひん曲げた彼女たちの発した言葉は。

「ピ…ピーマン!!!!!!!!!!!!!」

そう。
春菜は敢えて、衣梨奈の大嫌いな食べ物であるピーマンを頭に思い浮かべたのだ。
口にした時の歯ごたえ。食感。色味や香り。まるで本当に食べているかのような感覚は、
そのままダイレクトに衣梨奈に伝わった。

「ううっ…えりピーマン食べれんのにはるなん酷いと…」

するとどうだろう。
四人の衣梨奈は徐々にその姿を寄せてゆき、元の一人の衣梨奈に戻るではないか。
ピーマンを忌み嫌う心が、ばらばらになった魂をひとつにした。まさに奇跡。

「てめっ!何で元に戻ってんだよコノヤロー!!」
「ん…お前は確か…えりに変な術かけた店員!!」

状況を把握した衣梨奈が懐から糸を仕込んだグローブを装着しようとする。
しかし芽実はその隙を与えない。烈火の勢いで襲い掛かり、衣梨奈の手を叩き落す。

「そうはさせねえよ!!」

糸を繰っての精神破壊という攻撃方法を封じられた衣梨奈、それでも彼女は動じない。

596 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:43:11
「糸を使えない時もあるって、新垣さんに言われとるけんね!」

迫り来る芽実の顔面に、衣梨奈の唸る拳がクリーンヒット。
それでも芽実の勢いは止まらない。そのまま足を踏み出し、衣梨奈を殴り返す。

「てめーのへなちょこパンチなんて、めいには効かねーんだよ!!」
「はぁ?それはこっちの台詞やけん!!」

互いに一歩も退かない乱打戦が始まる。
衣梨奈が殴れば、芽実も殴り返す。殴り、殴られ、殴り、殴られ。
加勢に出ようとした春菜も、戦いの激しさに思わず立ち尽くしてしまう。

一進一退、ほぼ互角の勝負。
だが、徐々に衣梨奈が押し始める。彼女の一撃は、ただの一撃ではない。
衣梨奈の能力である「精神破壊」の力が込められた、一撃。

えりだって、成長しとるとよ!!

能力が発現した当初は、能力を垂れ流し状態だった衣梨奈。
強すぎる力の抑制も兼ねて、先輩の里沙の勧めもあり彼女と同じように糸を媒介しての精
神攻撃の鍛錬を始める。
しかし、里沙はこうも言っていた。

生田、糸が使えなくなった時のことも考えなさいよ。

思うままに精神破壊の力を使うのは強力ではあるが、反面自身の消耗も激しくなる。
そうならないように、衣梨奈は稽古の中で、そして実戦の中で。力をいかに効率的に使えるか。
その効果は、如実に現れていた。

597 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:44:40
「ぐぅ、がっ!!」

一撃一撃が、芽実の精神力を削ってゆく。
それはついに、彼女自身の膝を着かせるに至った。

体の冷や汗が止まらない。
体に力も、入らない。最早ここまでか。

「…めいは。めいたちはっ!!ここで!倒れるわけにはいかないんだ!!」

花音の指示によるリゾナンター襲撃。
それが花音の単なる私怨だということは、芽実たち四人も知っていた。
第一、リーダーである彩花がこの計画から外されているのがいい証拠だ。
あやちょは病み上がりだから、という空々しい言い訳を聞いて。それでもなお花音につい
てきたのは。

一見ダークネスの幹部崩しに成功し、他の能力者たちの一歩先を行ったと思われているス
マイレージ。
けれどそれが仮初の評価であることは、能力部隊の本拠地から帰ってきた花音の様子から
は容易に窺えた。
そのことと、花音が口にした「試金石」という言葉がぴったりと重なる。

これは自分たちだけではない。
6人となった新生「スマイレージ」にとっても、試金石なのだと。

強い思いが強い力となり、衣梨奈の顔面を撃ち抜く。
だが。

598 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:45:17
「それは衣梨奈たちも、一緒やけんっ!!!!」

衣梨奈は倒れなかった。
寧ろ力強く踏ん張り、逆に芽実を殴り返す。
彼女にも、負けられない理由がある。

ここに、さゆみはいない。
チケットが1枚足りなかったというのもあるが、それだけではない。
さゆみ抜きでも、この子たちは自分たちの身を守れる。そう信じて、送り出してくれた。
ならばその信頼を裏切るわけにはいかない。

「うらあああああぁっ!!!!」
「しゃあぁぁ!!!!」

互いに、最後の一撃。
繰り出された拳は交差し、相手の顔面を捉える。
あまりに激しい攻撃、春菜は思わず目を瞑ってしまう。

結果として、再び目を見開いた春菜が見たのは。
倒れている芽実と、辛うじて両足を突っ張り立っている、衣梨奈。

「生田さん!!」
「それより、みんなが危ない…みんなを、助けんと」

勝利の美酒に酔っている暇はない。
今この時、他のメンバーたちも同じように襲撃を受けている。
よろけつつも前に進もうとする衣梨奈に、春菜はそっと自らの肩を差し出すのだった。

599 名無しリゾナント :2015/02/06(金) 08:46:05
>>592-598
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

600 名無しリゾナント :2015/02/07(土) 01:52:17
■ ウィスパーインザノースウィンド −光井愛佳・福田花音− ■

電光掲示板が搭乗可能な旨をインフォメーションしている。

「ほな、ウチ行くわ」

はい、お気をつけて

「堪忍な、急なことやったのに、なにからなにまで手配してくれて」

いいえ、私は…

「?」

本当に…

「んん?」

本当に、いいんですか?
この記憶を奪えば、リゾナントの皆さんは、もう光井さんを追えない…
たとえ共鳴したとしても…
光井さんには『それが共鳴だとわからない』し、自らも『共鳴を返そう』と『想え』なくなる。
…それは、きっといつか…

601 名無しリゾナント :2015/02/07(土) 01:52:48
「ええんや…どのみち…な…」



「ええんやて、ええんや…」



「なあ福田ちゃん」

はい

「もし…ウチの記憶がすべて戻ったとしたら…
…そんとき、ウチは、アンタを許せるんやろうか?それとも…」

許せない…でしょうね

「…そうか…堪忍な…」

…変な光井さん、なんで光井さんが謝るの?

「だってアンタ、ええ子やん?
なのにウチはアンタ憎まなアカンのやろ…そんなん悲しすぎるわ…」

…ちがいます…私は…

…私は…

光井を乗せた便を見送り、一人、つぶやく。

そのつぶやきは、北風だけが――

602 名無しリゾナント :2015/02/07(土) 01:53:31
>>600-601

■ ウィスパーインザノースウィンド −光井愛佳・福田花音− ■
でした。

603 名無しリゾナント :2015/02/08(日) 23:50:24
■ ツーデイズレイター −譜久村聖− ■

すべては終わってしまっていた。

道重さん…聖が目を覚ますまで、ずっといてくれたんだ…。

聖のせいだ。

聖を、選ばせてしまった。

道重さんに…捨てさせてしまった…

亀井さんを…親友を追うのを…諦めさせてしまった。

こんなはずじゃ、なかった…

道重さんの役に立ちたい!大好きな道重さんの!聖が探す!…絶対探すって…

何も訊かない

道重さんは何も訊かない

ごめんねって、譜久ちゃんが無事でよかったって…

今は、ゆっくり休んでって…

…そんな!…聖がわるいのに!…

聖は…役立たずだ…

みずきは…

604 名無しリゾナント :2015/02/08(日) 23:50:55
■ ツーデイズレイター −譜久村聖− ■
でした。

605 名無しリゾナント :2015/02/09(月) 22:23:35
>>592-598 の続き



白亜のお城をバックに、玉座に座るシンデレラ。
彼女を守るようにして、生気のない顔をした取り巻きたちが取り囲む。

「唐揚げ」

姫が命じれば、下僕の一人が跪き、白い皿に盛られた唐揚げを差し出す。
その山の一つを摘み、満足そうに口に入れ頬張る姫。
唐揚げだったら、無限に食べられる。そんな至福の表情だ。

「ティッシュ」

次の命令で、別の下僕が引き抜きタイプのウエットティッシュを御主人様の目の前に。
引き抜いたティッシュで油のついた指を丁寧に拭い、それから意地悪な視線を正面に立つ人物
へと差し向けた。

「タケちゃんさあ、あたし、何て言った?」

ゆっくりとした口調に隠された、鋭い棘。
名指しされた、茶色い頭の少年少女は途端に顔を引き攣らせる。
覚悟を決めてきたはずなのに、たった一言で朱莉は萎縮してしまった。

606 名無しリゾナント :2015/02/09(月) 22:25:01
「あの、て、敵を倒せって」
「だよねえ。びっくりしちゃった。あたし、間違った指示を出したんじゃないかって」

大げさに表情を緩め、朱莉に問いかける花音。
気にするでない、よきに計らえ。そんな台詞が飛び出てもおかしくないような、寛容さ。
薄く微笑みを作ったまま、花音は。唐揚げの一つを思い切り朱莉に投げつけた。水っぽい音を
立てて朱莉にぶつけられた唐揚げは、ぽそりと地面に落ちる。

「じゃあさ。なんでフクちゃんがここにいるの?」

ゆっくりと玉座から立ち上がった花音が、朱莉の目と鼻の先まで近づく。
油で汚れた指を朱莉の着ているパーカーで拭い、それから。

「ブクブク太ったアザラシの言うことは聞けないって?」
「いや!そんなことは」
「福田さん違うの!これは聖が朱莉ちゃんに」
「外野は黙ってな!!」

見かねて声をあげた聖を、花音が強く制する。

「あたし言ったよね?今回の襲撃が、『スマイレージ』の名誉を回復させる唯一の方法だって。
それをしないってことは、タケは『スマイレージ』なんかどうだっていいんだ?」
「だから、ちがっ!!」

近距離からの右フックが、朱莉の脇腹に叩き込まれた。
もちろん非力な花音であるから、大してダメージにはなっていないが。

607 名無しリゾナント :2015/02/09(月) 22:26:16
「何が違うの?」
「あかりはただ!こんなやり方…間違ってるって…」
「嘘つくなよ。あんたはただフクちゃんがリゾナンターにいるって知ったから躊躇しただけで
しょ。あたし、知ってるんだから」

朱莉の顔が、苦くなる。
花音の言う通りだ。スマイレージに敵対しているという、リゾナンター。その中に、聖がいる
ことを朱莉は知らなかった。だが、実際に聖に会い、話を聞くと。どうしても花音がお題目通
りの行動をしているとは思えなくなってしまった。

「福田さん、お願い、聖の話を聞いて!!」
「今あたし、タケと話してるの。フクちゃんの下らない話はその後に聞いてあげる」

聖は、覚悟を持ってこの場に来た。
何故、花音は執拗にリゾナンターをつけ狙うのか。そのことを問い質すために。
その答え如何によっては、戦うことも止むを得ない。けれど。
こんな朱莉を吊るし上げるような結果は、望んではいなかった。

「ねえタケ。『スマイレージ』としての決断より、フクちゃんのことが大事? もしかしてなん
か怪しい関係なんじゃないの?」
「だからっ!」
「なーんてね。わかってる。タケちゃんとフクちゃんは養成所時代からの仲良し。そうでしょ」

無言で頷く、朱莉。
それを見た花音は心底嬉しそうな顔をする。

608 名無しリゾナント :2015/02/09(月) 22:27:21
「じゃあさ。その美しい友情とやらに免じて。ここは退いてあげる」
「えっ!ほんと!?」
「ただし…これを耐え切ったらね」

花音が、指を鳴らす。
それを合図に朱莉に群がる、花音の下僕たち。

「福田さん何を…きゃあっ!!!」

それと同時に聖の周りにも操られた男女が集まる。
両手を取られ、さらに身動きができないように固められてしまった。

「フクちゃんは黙ってそこで見てな。お友達が頑張る姿をね」

朱莉を取り囲んでいた群集のうちの三人が、一気に襲い掛かる。
それに対する、当然の反応。朱莉は両手を合わせ、光り輝く何かを発生させる。合わせた手を
広げれば、それは棒状に伸びてゆく。

一瞬。
朱莉がその棒状の何かを翻し、回し、相手に叩き付ける。
崩れ落ちた男を飛び越え、なおも襲い掛かってくる二人。朱莉に打ち込まれる拳と蹴り。
しかし朱莉には傷ひとつ与えられない。先ほど朱莉が出した光る棒が、薄く延ばされ楯状にな
って相手の攻撃をシャットダウンする。

それでも怯まずに向かってくる敵の一人に、朱莉の派手な回し蹴りが突き刺さる。
足はやはり、光り輝く何かに包まれている。さらに背後を狙おうとにじり寄っていた最後の一
人に向き直り。
大きく弧を描いての突進で懐に飛び込んでからの、ゼロ距離からの拳。
光輝く何かに包まれた拳の一撃を受け、男はぐうと音を立てて崩れ落ちた。

609 名無しリゾナント :2015/02/09(月) 22:30:07
「ちょっとー。何やってんのタケちゃん。抵抗しちゃあダメなんだって。増してや『可塑錬気』
を使うなんて、論外」
「そんな!!」
「あれ?タケは、フクちゃんのために頑張れないんだ?」
「くっ…」

自らの気を練り、思いのままの形にして操る「可塑錬気」。
それが朱莉の能力だった。
ある時は棒状にして武器とし、ある時は手足に纏わせ攻撃力の強化に使う。さらに、盾として
展開することで相手の攻撃を凌ぐ装甲ともなる。
それを奪われるということは。

「がっ!がぼっ!!」
「いいねー。今のはみぞおち入ったかな?」

囲まれ、無防備の腹に一撃を加えられる。
操られている男に力の加減などできるわけもなく。
ただの少女となってしまった朱莉の体に、容赦ない拳が突き刺さった。

610 名無しリゾナント :2015/02/09(月) 22:31:57
「あかりちゃん!」
「みずきちゃんだ…大丈夫だって。こんなの、ぜーんぜん、効かねーから…ぐっ!!」

精一杯の強がりを見せて笑ってみせる朱莉。
だが、花音の下僕の一人の繰り出した足払いに、体勢を崩し地面に倒れてしまう。
そこへさらに無慈悲な追い打ちをかけられる。文字通りの、袋叩き。

「福田さんっ!もうやめて!!これじゃ朱莉ちゃんが!!」
「あたしは別にやめてもいいんだけど。タケがフクちゃんのために体張るって、どうしても聞
かないからさぁ」

まるで朱莉が自ら申し出て今の状況を作っているかのように話す、花音。
それでも朱莉は地に手をつき、立ち上がる。

「ふ、福田さん…あかりがこれを耐え切ったら…約束、守ってくれるんですよね」
「あったりまえじゃん、可愛い後輩の頼みだもんね」

満面の笑み。
それが何を意味しているのか。
大勢の手で上から押さえつけられ身動きできない聖は、ただ見守ることしかできない。
それが、途方も無く悔しかった。

611 名無しリゾナント :2015/02/09(月) 22:33:08
>>605-610
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

612 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 19:50:57
>>605-610 の続きです



里保と香音を引き連れ、歩く女。
元いた宇宙ワールドのエリアの端まで来ると、そこから先は「関係者立入禁止」の看板と鉄板
によるバリケードで封鎖されていた。そう言えばリヒトラウムの新しいアトラクションを擁するテ
リトリーが開発中であることを、ニュースか何かで聞いたのを二人は思い出す。

鉄の板に設けられた、扉が一つ。
そこにもご丁寧に「関係者以外立入禁止」とある。しかし女は。
自らのポケットをごそごそと探り、取り出した鍵で扉を開けてしまう。

「え」
「一応、関係者だから」

それだけ言うと、再び背を向けて歩き出す。
変な人。二人の率直な感想だ。
能力者のはずなのに、それらしき気配はまったく感じられない。ということはダークネスの手の
者か。いや、それとも違う。この感覚、どこかで感じたような。里保は思い返してみたが、うまく
それを記憶から掘り出すことができないでいた。

鉄骨が組まれただけの建物群を抜け、広い敷地に出る。
女は気だるそうに左右を振り返りつつ、ここなら誰にも邪魔されないか、と呟いた。

「あなた、何者なんですか」

里保が、何度目かの同じ質問をする。
女がゆっくりと、振り返った。

613 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 19:52:05
「このリヒトラウムの管理人、なのかな。ただ、この敷地に悪意を持って侵入してくるような
連中に対しての、だけど」
「悪意?そんなのあるわけない!だってうちら、ただ遊びに来ただけなのに…」

そこで香音は気づく。
いたではないか。里保がいつの間にかぶっ倒していた、いかにもな少女が。

「もしかして…」
「そう。あんたが倒したあの子を含めた数人が、悪意を持ってこの『夢の国』に入ってきた。
目的は、多分、あんたたち」

さして興味もなさそうな顔で、二人を指差す女。
話を総合すると、「外敵」がやって来たから出動した、ということは。間違いなく自分達はそ
の外敵ではないのだから、何の問題もないということになる。が。

「じゃあ何で、あたしたちをこんな場所へ?」
「…退屈しのぎ」

空気が、明らかに変わる。
やる気のある顔には見えないが、やる気のようだ。

「はぁ!?うちらが何であんたの退屈しのぎに付き合わなきゃなんないの!」
「そこのぽっちゃり、あんたのことは別に呼んでない」
「ぽ、ぽ、ぽっちゃり!!」

至極当たり前の疑問をぶつけただけなのに。
返って来た返答はあまりにも理不尽で、かつ日頃から気にしている事をぐさりと突き刺した。

614 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 19:53:01
「私はそこの子と一対一でやりたいから。さっさと帰って」
「そんなことできないし!てかぽっちゃりじゃなくてちょっとふくよかなだけだし!!」
「そうだよ、香音ちゃんはちょっと人より体が大きいだけだから」
「里保ちゃん…」

ここにも身も蓋もないことを言うやつがいたか。
しかも無自覚ときたもんだから、手の付けようがない。

「それにさ。今頃、さっきのゆるふわっぽい子の仲間たちがあんたたちの仲間に対して同じよ
うなこと、してるはずだし。助けに行ったほうがいいと思うけど」
「なっ…!!」
「香音ちゃん、うちからもお願い」

半身になり、構えを取りながら里保。
瞬間、背筋が寒くなる。こんな彼女を見たのはいつぶりだろうか。

「大丈夫。後から駆けつけるから」
「…わかった」

ここは里保の反対を押し切って二人で戦う、そんな選択肢もあったかもしれない。
しかし、香音は敢えて選ばなかった。女の言うように、他の仲間のことも心配だし。それに。
里保の言葉を、里保自身を信じているからこそ。

踵を返し、振り返ることなく駆け出す香音。
そのまま壁を透過したのだろう、足音はまったく聞こえなくなった。

615 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 19:54:16
「…あんた、リゾナンターでしょ」

二人きりになってすぐに。
女は表情を変えず、里保の所属を言い当てる。

「どうしてそれを」
「会ったことがあるからね、『高橋愛』に」

編上靴を鳴らし、里保との間合いを詰める。
ダークネスの差し向ける、人工能力者に良く似た感じ。それでも、やはり決定的な何かが違う。

「遠くにいたのを見ただけだったけど。一人だけ、オーラが違った。至高の、光使い」

そうだ。
里保はようやく思い出す。
これは。この感じは。ゼロから作られた、無機質なもの。

「あんたは。高橋愛の後継者でしょ?」

自らを、デュマの小説の登場人物に準えた、三人組。
そして元ダークネスの構成員が立ち上げた、能力者集団。彼女たちに共通する事項。
かつてダークネスに身を置いていた新垣里沙は言った。ダークネスが生み出した人工能力者を
「造る」技術、それが提供され大量生産という形で応用している組織があるということを。

「その肩書きに相応しいかどうか。力、見せてよ」

凄まじい風が、地面から吹き上げているような感覚。
ただそれは錯覚に過ぎない。あくまで相手がこちらに発する、威圧の具現化。

616 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 19:58:12
もうすでに、戦いは始まっている。
ファーストコンタクトで里保が感じた、達人クラスの相手という評価は間違っていなかった。そ
れどころか。かつて里保たちを圧倒的実力差で苦しめた「赤の粛清」の域に達している可能性す
らある。

「うちがどれだけ強くなったか。悪いけど、いいチャンスだと思ってるから」

香音を行かせたのは。
もちろん他のメンバーたちが心配なこともある。
けれど、自分自身の今の力。成長。もう敵ではなくなってしまった舞美や茉麻相手では出すこと
ができない、全力。
それをこの手で、確かめたかった。

女の右手から、白い何かが生み出されてゆく。
相手は、塩を操る能力者。倒れている刺客・里奈に向けて使った様子から、そう予測立てていた。
問題は、それがどう人体に影響を及ぼすか。

「はあっ!!!!」

愛刀「驟雨環奔」を地面に突き立てる。
舗装されていない、むき出しの砂利が敷き詰められた地面が砕け、礫となって女に襲い掛かる。
その瞬間。女の体の周囲に、白い輪のようなものが現れる。輪に軌跡を阻まれた石礫は、輪と
同じように白くなり、ぽろぽろと崩れ落ちていった。

やっぱり。
里保は確信する。
女の、塩を析出させる能力は危険だ。あの塩に触れたら最後、塩と化して崩壊してしまう。幸
い、人体に対してはある程度タイムラグがあるようだ。証拠に、里奈の塩にされた足は里保の
水流によって事なきを得ている。

617 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 19:59:15
「…塩に触れたら、危険。そう思った?」

女の問いに、里保は答えない。
答える必要も無い。気を抜いたが最後、あの塩の餌食になってしまう。

体勢を低くし、抜刀の構えを取る。
向かい合っているだけで、空気が焼け付く日差しのように肌を刺す。
強い。改めてそう感じる。だから。

一発で決める。そのつもりで女に向かって駆け出した。
刀を抜き、同時に携帯していたペットボトルを相手に向かって投げつける。
だが目的は相手にぶつけることではない。口の開いたペットボトルは回転しながら、水を撒き散
らす。それら全てが、里保の武器となる。

走りつつ、撒かれた水でもう一本の刀を象る。
二刀流。加えて中に舞う水の粒を珠に変え、集中砲火を浴びせる。持ちうる限りの、全力だ。

「勝たせて、貰う!!」

俊敏な動きで女の懐に入り、水の刀を逆手に持ち替え下から上へと薙ぐ。
塩の輪を崩し、返す刀で相手を斬る。
瞬時に出来上がった里保のイメージ、だがそれは予想もつかない出来事によって崩される。

破裂。
そう。先ほどまで自分の物だと思っていた水の刀が、まるで支配を拒むかのように。
形を崩し、砕け散った。
それだけではない。前方に展開していた水球、その全てが同じように破裂し消えていく。

618 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 20:00:46
「どうして!!」
「あんたの水は、あたしの塩が混ざることで、『あんたのもの』じゃなくなる」

アトラクションの行列の中で里保の水の刀を難なく霧散させたのも、そのせいか。
水が使えない。ならば、相手の意のままにならない「水」を使うしかない。
覚悟を決め、刀を振り上げようとしたその時だ。

「30から、300。あっという間だから。『それ』は、やめときなよ」
「何を」
「自分の血で刀を作ろうとしてたでしょ。やめたほうがいい」

切っ先を掌に這わせ、血の刀を作ろうとしているのを見抜かれた。
それだけではない。30から300とは何を意味しているのか。
考えあぐねていると、自らの足の感触が変わっていくことに里保は気づいた。

地面を覆いつくす、塩。
いつの間にか、湧き出るように。まずい。
目に付いた街灯に飛び移り、事なきを得る里保だが。

「塩の致死量って、30グラムから300グラムなんだって。傷なんてつけたら、すぐ死んじゃう。
特に、こんな嵐の中じゃ」

最初は、そよ風程度だった。
雪のように積もった塩が、ぱらぱらと舞うくらいの。
けれどもそよ風は円を描き、円を重ねるうちに勢いを増してゆく。舞い上げられる白い結晶。
ついには、街灯のガラスフードの上に乗っていた里保がバランスを崩し地上に降りざるを得ない
ほどの大嵐と化していた。

まるで、塩の吹雪。吹き荒れる風にすべてのものが白に染められる。
外灯の柱に白い結晶が吹きつけ、朽木が倒れるかのようにゆっくりと崩れ落ちた。
この空間は非常に危険だ。

619 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 20:01:45
「くそっ!!」
「どうする? あたしを止めないと、塩の嵐に塗れてそのまま固まるけど」

女の言うとおりだった。自らの身を守る水がない現状では、瞬く間に吹き付ける塩に絡め取られ
てしまう。水は。里保は周囲を見渡す。作りかけのアトラクションの他には…いや。里保は、見
つけた。お誂え向きのものを。

なるべく自分の体に塩がこびり付かないよう、転がりながらそこに移動する。
そして立ち上がり刀を一閃。
赤色の鉄の箱は見事に斜めから真っ二つになり、中のものをばらばらと撒き散らす。
ミネラルウォーターの、ペットボトル。

「なるほどね」

自販機を目ざとく見つけた里保。
里保が自らの武器とも言うべき水を探し当てたにも関わらず、女が動じることはない。
それは、いくら水があっても無駄なのを知っているから。

それでも里保は、水の入ったペットボトルを次々に斜斬りにしてゆく。
そして撒き散らされた水は、里保の体に張り付くようにして纏われた。水の鎧。同じ水使いとし
て一戦を交えた矢島舞美の得意とする戦法。

「行くぞ!!」

渾身の力で、大きく刀を振るう。
太刀筋を避けるかのように、塩の嵐が薄くなった道。
それを、一直線に駆け抜けた。

620 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 20:02:35
鎧がもつ時間は、おそらく僅か。
その僅かな時間で、一気に畳み掛ける。
女の眼前に迫った里保が、上段からの切り下ろし。これは女に読まれ、バックステップでかわさ
れる。だがそこからの素早い切り返し、斜め上への切り上げ、燕返し。女の着ていたカーキ色の
ツナギが切り裂かれ、下に着ている黒のTシャツが顔をのぞかせた。

「さすがに舐め過ぎたか」
「まだまだっ!!!」

さらなる攻勢を掛けようとする里保だが。
タイムリミット。水の鎧は塩分をたっぷりと含み、花が枯れるかのように形を崩し消える。
だが。躊躇している時間はない。

再び刀を上段に構える里保、それは敵の目を引くフェイント。
振りかぶる態勢を取りつつの、まさかの投擲。女は身を低く屈めて避けざるを得ない。

そこを一気に攻める。
れいなに仕込まれた格闘術の真価が発揮される時だった。
屈んだ体を刈り取るように中段の蹴り。すかさず、女が頭部を右手でガードする。
しかも、ただの防御ではない。里保の足を絡め取り、地面に引き倒す投げ技のコンボ。

この人、格闘術も!?

地面に打ち付けられる前に、空いたほうの足で相手の胸板を思い切り蹴りつける。
手を放した隙に距離を取り、再び相手に突っ込んだ。
腹部への右ストレート、半身になってからのひじ打ち。全てが女に当たる前に捌かれてしまう。

621 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 20:03:08
「そろそろ、塩になるよ?」
「…そう。そろそろ」

里保が無我夢中に繰り出したように見えた拳。
明後日に放たれたようなその攻撃は。
攻撃するためのものではなかった。空を掴んだかのように見えたその手には。
握られていた。投げつけたはずの、「驟雨環奔」。

「本命は、それか!!」

はじめて女が、大きく叫んだ。
投擲したかに見えて、ブーメランの要領で描いた弧の軌跡。
持ち主の手に還った刀が、女の体を一閃した。

「さすが、高橋愛の後継者。と言いたいところだけど」
「?」
「それじゃあ、切れないでしょ」

女に言われて、ぎょっとする。
刀には。びっしりと塩がこびりついていた。

622 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 20:06:47
咄嗟に距離を大きく取り、地面に刀身を叩きつける。
塩が剥がれ銀色の刃が姿を現した。損傷はないようだが。

「…退屈だ」

女が、塩の嵐を収める。
その表情には、不満がありありと映っている。

「お前の実力は、そんなものじゃないだろう。何を戸惑ってる?」
「な、何を…」

何を馬鹿なことを、と言いかけた里保だが。
彼女の記憶の海の奥底に、それは確かに沈んでいた。

自らを律することができずに能力を暴走させてしまった、幼き日。
そして水面に映る、深い赤の瞳。
水に揺蕩う、黒い髪。燃えるような、赤い毛先。
心の奥に封じ込めたそれは、ゆっくりと、浮かびつつあった。

623 名無しリゾナント :2015/02/12(木) 20:07:37
>>612-622
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

624 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 02:51:28
■ スパイラルラボラトリ -中澤裕子- ■

らせん階段。
巨大な、巨大な、らせん階段。

中央の支柱をくりぬく資材用エレベーターは、
生物が載ることを許さぬ構造となっていた。
殺菌と粉塵除去…
低温と低酸素…

その『実験室』の、主のもとにたどり着くには、
この階段を、降りていくしかない。

中澤裕子は、いつもそうしていた。
それが、この女に会うための、儀式か何かであるように…

やー中澤さん、おひさしぶりです…

「最近、定例に出てこんな…」

いろいろいそがしくて…

「それがこれ、か」

ええ、まあ…

「セルシウスを動かしたんは、お前やな」

ふふっ…

625 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 02:52:47
「勝手は困る…『あれ』の確実な回収…それが至上命題や。
お前の横やりのせいで、余計な犠牲が増えた。
…この責任、どう取るつもりや。」

責任?もちろん…私の責任は、いつでも、いくらでも、とりますが…
もし、矢口さんや保田さんのことをおっしゃっているのなら…
それは自業自得というものです…

「…なんやと」

何も知らずに首を突っ込むのが悪い…
『横やり』というのであれば、そもそも私の実験の邪魔をしてきたのは、
矢口さんですからね…中澤さんもおっしゃったはず…
…すべて、私に一任する、と…

「来たるべき時のため、『あれ』を完全に組織の制御下に置く…
その為の権限は与えた。
だが、それだけや。
その為のあの子らであり…そのための実験だけや…
『あれ』の制御どころか、回収すらできん状態で、
勝手にあの子らを殺すことまで許可した覚えはない」

ご期待通り、『あの人』には鎖をつけてあげたじゃないですか…
私は私の責任は果たしていると考えますが?

「その鎖が制御できとらんというのでは、元も子もない。
あの子らは生き残り…『あれ』の回収は失敗…
それで責任を果たしとると?」

…何をおっしゃるかと思えば…『あの人』の回収など…
もう、どうでもよいではないですか…

626 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 02:53:24
「なに?」

あの子たちにも『夢』は必要でしょう、と、言う事です…

「何が言いたい?何を言っとる?」

障害が大きければ大きいほど、『夢』への渇望は強固なものに…
もはや、あの子たちは、どんな犠牲を払っても、その『夢』を諦められない…
引き返せない…
あんなに失ったんですもの…あんなに失って、ここで諦められるわけがない…
たとえ、この先もっと…何倍も何倍も…失うとしても…
…『夢』とは、そういう『呪い』ですよ…

あの子たちの『夢』にとって、『A』の覚醒は、夢のとん挫を意味することになる…
…ふふふ…もう、放っておいても勝手に、あの子たちは、
こちらの意図したとおりに動いてくれます…

「ばかな…お前は、あの子らを捨てた…
セルシウスまで使って…お前は失敗した!
これでどうやって『あれ』を使うんや?
もう…時間は残されておらんのやぞ!」

先日、あの子たちから連絡が来ました、と言ったらどうです?…

「なん、やと?」

取引したい、だそうです…ふふふ…

ふふふふふ…

627 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 02:53:55
…良い子たちでしょう?

なんてすばらしい!

特にあの子!
私も!惚れ惚れするほどの!
完璧な!合理主義!

あんなにだましても!友人を二人殺しても!
地下深くに捨て去っても!それでもちゃあんと!戻ってくるんです!

しっぽをふって!

ははは!傑作!はらわたが煮えくり返っていることでしょうに!
今すぐ私を八つ裂きにしたいでしょうに!
それなのに、微笑すら浮かべて!

命の恩人で!全ての元凶で!
友のかたきで!裏切り者の!

この私!

この私に!まだ!利用価値があると!

628 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 02:54:53
ふふふ…ふふふふふふ…

私は取引に応じましたよ…
あの子たちの要求を す べ て 、飲みました…

だぁって…それは!私自身、一度『やってみたかった』ことだったんですもの!

あははは!

いやもう本当に!
思わず!この手で抱きしめたくなります!

『直接会えないのが!本当に残念!』

中澤さん!私たちは何も失いませんよ!すべてが私の!思い通りだ!

あはははは!あははははは!あはははははは!

629 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 02:55:30

■ スパイラルラボラトリ -中澤裕子- ■
でした。

630 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:40:10
月明かりに照らされた大通りから一本外れた小道に影が三つ
二つの陰、小柄な女性とそれよりも少し背の高いショートカットの少女
そして、その小柄の女性の左手を常に握ってぶらぶらとあたかも行進するかのように歩く少女
「それで、あゆみんなんて言ったと思います〜?『まあちゃんは、子供だから』
 3つしか違わないのに、そんなこと言われたくないです」
「アハハ、石田らしいっちゃね」
「・・・」

楽しそうな二人をみて、工藤はなぜだか苛立たしを感じた
(なにさ、まあちゃん、田中さんが来ると、田中さん、田中さんってなってさ
 はるだって、色々田中さんにせっかくだから訊きたいことあるっていうのにさ)

「・・・・あ!!」
突然、佐藤の足がピタッと止まり、真面目な顔で田中の真正面に立った
「タナサタン!!」
「まあちゃん、どうしたの?もしかして敵襲?」
千里眼で周囲を見渡しながら、身構える工藤
「まさ、おなかすいた」
膝から崩れ落ちる工藤と腹を抱えて笑い出す田中
「アハハハ・・・ほんと、佐藤は天然っちゃね。でもそうやね、もうこんな時間やん」
携帯に映し出された電子時計の光で顔が照らされる
「れーなもちょっと食べようかな、工藤もおなかすいとう?」
「え、そ、そうですね、はるも少しおなかすいてます」
本当は空腹なのだが、自分はそうでもないと取り繕う工藤
「それなら、コンビニ行こっか」
「ヤッホータイ」
「なんかいな、それ」
「イシシシシ」

631 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:40:55
コンビニでおでんを買った三人は偶然見つけた公園と名の付いた広場のベンチに横になって座った
当然のように田中が真ん中である
プラスティックのふたを開けた途端に広がる白い湯気とこぼれる白い息
「おいしそーまさ、がんも食べる」
「こら、佐藤、れーなが食べたいって思ったけん、買ったと!!」
「え〜じゃあ、たなさたんとわけわけする〜」
「もうしかたなかとね」
割りばしでいびつに二つにわけようとしたが、ふと田中は考え直し、みっつにわけた
「ほら、工藤も食べると」
「え・・・」
「イシシ、美味しいよ〜きっと」
ゆっくりと口元に運んで、かじりつく、甘みが広がる

一口一口でオーバーリアクションをする佐藤、それをみて笑う田中、適当に相槌をうつ工藤
「これも食べてください」と食べかけのおでんを田中に差しだし、田中は「ほんとやね」と優しく答える
工藤が「はるにもちょうだい」というと佐藤は「はい、DOどぅにゆでタマゴ」と食べたくないものを差し出す
「なんで、はるにはまあちゃんのおすすめくれないの!」
「だって、まさとたなさたんで食べたんだもん」
「答えになってない」
「ほらほら二人とも、まだおでんはあるっちゃ。仲良く食べるとよ」

まるで仲の良い姉妹のように寒空の下、暖かな夜食は進む
しかし、当然というか、必然というか、佐藤は事件を起こす
「あああああ」
おでんの汁をこぼしてしまったのだ
「何してんのまあちゃん」
「うう、ぬるくて気持ち悪いよ」
「ほら、佐藤、ハンカチ貸してあげるなら、洗っておいで」
ハンカチの臭いをクンクンと嗅ぎながら、は〜い、と言って佐藤は立ち上がり、消えた
どこに向かったのかはわからないのだが、跳んだのだ

632 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:42:14
「まったく、佐藤はちょっとお手洗いに行くだけでいいのに、わざわざ力、使わんくてもええやろ
 工藤もそう思うっちゃろ?」
しらたきを口に運びながら、田中があきれながら工藤に問いかける
「は、はい、はるもそう思います
 まあちゃんはいいヤツだけど、なんていうんでしょうか、ものすごく気分屋ですからね」
「アハハ、そうっちゃね。でも、それが佐藤らしさやん」
「・・・でも、それでいいんですかね?
 まあちゃんは本当にムラがあるんですし、何を考えているのかわからないときがはるにもあるんです
 友達として一緒に遊ぶには楽しいんですけど」

「それでもええっちゃろ?仲間であるまえに友達っちゃろ?」
今度は昆布を食べ始める
「でもリゾナンターです!!まあちゃんが何をかんがえているのかわからないと困る時もあるんです
 このまえもまあちゃんが道重さんの作戦を無視して一人で勝手に行動して・・・
 結果的には作戦は成功しましたよ。でも、まあちゃん、怪我して帰ってきて、なんといったと思います
 『みにしげさ〜ん、まさ、すっごいがんばったからほめてください』、ですよ
 協調性に欠けているんですよ」
「ふ〜ん」
「あれだけ自由にやっているのに、道重さんは怒りもしないで『うん、よく頑張ったね』って笑顔で傷を治したんですよ!!
 そうかと思えば、全く動こうともしないときもあって、この前全員集合なのに来なかったんです
 どうして来なかったの?って聞いたら、『まさ、忙しかった』の一点張りですよ
 理由きいてもぜんっぜん教えてくれないんです
 あ、ごめんなさい、田中さんにまあちゃんへの愚痴を聞かせてしまって」

何かを考えるように田中は宙を見つめ、そしてぷっと吹き出し笑い始めた
突然笑い出した田中を見て、工藤は茫然としてしまう
「アハハハハハ・・・」
「な、なんで笑っているんですか!」
「いや〜工藤、可愛いなって思って、それに佐藤のこと大好きっちゃね」
「! な、何言ってるんですか!!」

633 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:42:52
もう暗くなっているので田中には見えなかったが工藤は耳まで真っ赤だった
ただ、「工藤、真っ赤になっとるやろ」と笑いながら言った
「そ、そんなことないですよ」と必死に指定しながらも、早口になる
「工藤は昔から恥ずかしがりやし、隠さんでもいいやろ?」
「う・・・
 で、でも田中さんもまあちゃんのそういうところ、どうにかするべきだと思いませんか?
 リゾナンターとしてチームプレーは必要ですし、あのムラさえなければまあちゃんはもっと強くなると思うんです」

「でも、それって佐藤らしさなくなるやろ?
 佐藤の魅力って常識にとらわれない自由奔放なところだし、真面目やったられーな、佐藤を好きになれんと思う」
「で、でも、チームの一員としては」
「チーム、チームって別にそこまで考えんくてもいいっちゃない?
 れーなのときにも自由な子おったわけやし。それでも、問題なかったけん、気にする必要はなかよ」
「・・・」

「それより、佐藤をあーだこーだ言ってるけど、れーなからしたら工藤にもそれは言えることあるとよ」
工藤は田中の目をまじまじと見つめなおした
「れーなからみると工藤は起こりうることを予想している、そうっちゃろ?」
「も、もちろんです」
「でも、その想定している範囲が未熟っちゃね
 具体的にいうと、工藤は工藤が「できること」の範囲の中でしか自分を見ていない、そうれーなには見えると
 佐藤が、佐藤が、っていっとったけど、それは佐藤の動きを読まなきゃならんって考えとうわけやろ
 もう全てを把握していたいんじゃないのかな、工藤は」
そんなことはない、と言い返そうとしたが、返す勇気が出なかった
「佐藤なら、もしかしたら言うこと聞いてくれるかもしれんよ
 でも、それをダークネスが、はい、そうですね、それはフェアではありません、やめましょう、なんていうと思うと?
 ありえんやろ?想定外、想定外、想定外しかおきんよ」

634 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:44:35
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「ん?別にれーなはそれがいいとか悪いとかはいっておらんよ
 愛佳みたく未来が見えるわけでも、愛ちゃんがガキさんみたいに頭がキレるわけでもないけん
 それにリンリンみたいに技術があるわけでもないし、やれることって限られとう」
腕を頭の上に組んで月を見上げ、「まー、れーなの場合は出たとこ勝負っちゃね」とつぶやいた

「・・・最初ははるが、はるなんやあゆみん、まあちゃんを引っ張る気でいたんです
 でも気づけば、みんなはるの前にいるようになって
 自信はあるんですよ、はるが一番だって!絶対負けないって
 ただそうはならないことが不安なんですよ。はるは田中さんみたいに強くないから」
「別にれーなは強くなかとよ。泣きたい時だってあるし、逃げたいときだってあると
 でも、そんな自分を後から思い返したら悔しいけん、逃げんようにしとるだけっちゃ
 後悔しない、今の自分でできることをする、それだけでいいっちゃない?
 ・・・ま、れーなにはわからんけど、工藤の自信の大きさなんて」
ベンチに横になるれいな
「れーなはみんなにこうすればいいとか教えられんよ、元々一人やったし
 ただ、考えすぎないように、自分の限界とか決めないようにはしてるとよ
 工藤ももう少し考えるのをやめてみたらいいっちゃない?」
「・・・」

千里眼―すべての真理を見抜く力、だからこそ工藤は全てを理解しようとしていたのかもしれない
違うのかもしれない。工藤自身にもわからないが、田中の言葉は工藤の奥深くにすっと入ってきた
工藤もベンチに横になる
「田中さん」
「ん?」
「月、綺麗ですね」
「ニシシ、なんや工藤乙女みたいなこと言っとうとね」

そこにビューンと現れる、元気娘
「あ〜たなさたんとDOどぅ寝てる!!まさも入る!!」
間に割り込もうと大声を上げた

635 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:45:11
「ちょ、まあちゃん、やめてよ」
「ずるいよ、たなさたんの隣はまさのものなの」
子供の喧嘩はいつでも始まる

「・・・でも、確かに工藤の言うことも一理あるっちゃね
 よしっ。佐藤」
「はい、たなさたん」
「うわっ」
ベンチをがたがた揺らすのを急に辞めたので工藤は落ちそうになる

「なんですか?あ、これ、はんかちです。まさ、返しますね」
「はい、どうも。佐藤、さっきどこまで跳んだと?」
「う〜ん、おうちの洗面所です」
「そこの手洗い場じゃだめかいな?」
「え〜しっかりと着替えしたかったんだもん。たなさたんからもらった服着てるってみせたかったもん」
佐藤の頭をなでまわす
「うんうん、れーなのお古使っとうとね。服も喜んでるっちゃね」
「イヒヒヒ・・・」

「だけど、佐藤、ただ少し濡れただけやろ?それでわざわざ家まで跳ぶとか、疲れるやろ?
 着替えやなくて、少しだけハンカチできれいにするだけでいいっちゃない?」
「たなさたんに服みせたかったんだもん」
頬を膨らませ、やや不満げな表情を浮かべる
「もちろん、れーなもうれしいっちゃけど、すぐに能力を使ってまででもすることではなかとよ
 それよりもれーなは佐藤と少しでも長く話せるようにすぐに帰ってきてほしかったと
 そのためには着替えるんやなくて、ちょっとの水で洗い流す、でよかとよ」
「たなさたんはまさと一緒にいてくれるの?」
「あたりまえやん、れーなは佐藤が大好きとよ、もちろん、工藤も
 やけん、佐藤にはもっと自分の考えだけで決めるんやなくて、周りをみてほしいと」
「周り?誰もいませんよ」
「アハハハ、まあ、すぐにわからんくてもいいっちゃよ」

636 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:45:53
首をかしげ考えようとしたがすぐに諦め、田中に佐藤は抱き付いた
「わかんないけどわかった!!たなさたん、まさと一緒にいてください」
「・・・まあちゃん、足、足」
「足?」
「・・・はるの足踏んでる」
ごめん、といって足を上げる佐藤
「こういうことですか?」
「アハハ、うんうん、まずはこういうことからかいな」
田中はまた笑い始めた

楽しそうな田中を見て、佐藤も笑った、工藤もつられて笑った
「アハハハ」「イヒヒヒ」「ハハハ」
笑い声の三重奏、闇に包まれた周囲なのにその部分は明るく輝いて見えたことだろう
しばらくして笑いつかれたのだろう田中が立ち上がった
「ふぅ、疲れた、じゃあ、佐藤、工藤、帰るよ!」
「はい!」「え〜やだ」
「ほら、もう遅いし、明日のこともあるっちゃろ。学校を寝坊させるわけにはいかんとよ
 さあ、二人とも帰るよ」
「「は〜い」」

★★★★★★

誰かが呼んでる、私の名前を
あなたはだれ?
・・・
長い黒髪をなびかせ、彼女は大声で私を呼んでる
あなたはだれ?
・・・
声は聴こえないけど、間違いなく私の名前を呼んでる
あなたはだれ?
私は・・・だれだっけ?

637 名無しリゾナント :2015/02/14(土) 21:49:05
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(8)
執筆速度がムラあってごめんなさい。シリーズは一つしか書けんよ。
しばらくはこういう内容で行きます。
ハッピィバレンタイン。オリーブオイルのフレンチトーストを明日食べてはいかが?

638 名無しリゾナント :2015/02/15(日) 09:38:56
更新乙です!リゾキュア書いて欲しかったけどVanish!大好きだから諦めますw転載行ってきます

639 名無しリゾナント :2015/02/15(日) 20:18:19
代理ありがとうございます
プリキュア見たことないから、どんな感じでボケればいいのかわかんないっすw

640 名無しリゾナント :2015/02/16(月) 01:33:15
>>612-622 の続きです



奇しくも、刺客を打ち倒したリゾナンターたちが一所に顔を合わせたのは、ほぼ同時。

「あれ、亜佑美ちゃん何やってると!?」
「生田さんこそ!って言うか小田も!!」
「いや、あの譜久村さんが急にいなくなって」

互いが互いの状況を把握できていない。
我先にと口を開くものだから、収拾がつかなくなりつつあるところを。

「ちょっとみんな落ち着いて。まずはそれぞれの身に起きたことから話そう?」

さすがは最年長の貫禄と言ったところか。
春菜の言葉に従い、一人ずつ話し始める。能力者に襲われた、もしくは一緒にいた人間とはぐ
れてしまった。など。
互いに情報を交換してようやく、自分達が置かれている状況を理解するのだった。

「くそ!またあいつらかよ、しつけーな!!」
「まさが出会ったらぐしゃぐしゃって丸めて、ぽいってしてあげたのにね」

自分たちが敵方に放置してもいいだろうと判断されていたことも知らず、遥と優樹がそんなこと
を言う。
そんな中、さくらが聖と里保の不在に気づいた。

「あの、鞘師さんと譜久村さんは…」
「里保ちゃんなら大丈夫。後で駆けつけるって」

香音は敢えて、例の施設管理人のことは話さなかった。
ここで全員でそちらのほうへ向かおうものなら、里保の気遣いが無駄になってしまう。

641 名無しリゾナント :2015/02/16(月) 01:34:07
「じゃあ、聖は」

衣梨奈も、まるで見当がつかないわけではなかった。
先ほどから、痛いくらいに響き渡る悲鳴のような、心の声。全員が、それを頼りにしてこの地点へと集まっていた。
それを受けて、言おうかどうか迷っていた亜佑美が。

「…もしかして譜久村さん、あのお城のほうにいるんじゃ」

その場にいた誰もが、はるか向こうに聳え立つ瀟洒な城を仰ぎ見る。
リヒトラウムのシンボルであるあの城のほうから、心の声が聞こえる。悲痛な、何かを耐えているような、そんな声が。
最早疑いようもない。疑念が、確信に変わる。

「急がないと!譜久村さんが!!」

遥の叫びをきっかけに、優樹が、亜佑美が、春菜が。走り出す。
そしてさくら、衣梨奈、香音も。
彼女たちが聞いた心の声は、助けを求めるものではなかった。けれど、心が引き裂かれるような、悲しみと痛みが入り混じったような。

少女たちは、仲間の窮地を救うために、走り続ける。

642 名無しリゾナント :2015/02/16(月) 01:35:54


ほぼ同時刻。
リゾナンターのリーダーであるさゆみもまた、後輩たちがいるであろうリヒトラウムに向かって
いた。きっかけは、一本の電話。

「道重さん、大変や!あいつらが…あいつらが!!」

要領を得ない、後輩・光井愛佳からの突然の電話。
だが、彼女が落ち着いて話せるようになると、その内容の緊急性がさゆみに伝わる。

愛佳の予知能力が、血まみれで倒れている9人の少女の姿を映し出した。
そしてその9人の少女は。紛れも無く先ほどリゾナントを出発した後輩たちであると。

なぜ。どうして「失われていた」はずの愛佳の予知能力が復活したかはわからない。
ただ、これだけは言える。彼女の予知は、意図的に誰かが変えようとしない限り、必ず現実の
ものになる。
それはかつて行動をともにしていたさゆみが、嫌と言うほど見せられてきたことだった。

こんな時に、高速移動能力や瞬間移動の力が自分にあれば。

そう思わざるを得ないほど、状況は逼迫している。
里沙や愛にその手の能力者を紹介してもらおうとしても、連絡すら取れない。

頼れるのは、自分だけ。
自分の足で走るしかないのだ。

とは言え、能力者であること以外は一般の女性とあまりスペックの変わらないさゆみ。
いや、体力などはひょっとしたらそれ以下かもしれない。最近は鍛えているとは言えその効果
も雀の涙。そんなことも無視しひたすら走っていたが、ついに悲劇が。

643 名無しリゾナント :2015/02/16(月) 01:36:59
「あうっ!!」

足が、攣ってしまう。
走る勢いがそのまま体に加わり、転倒。周りに人がいないのがせめてもの救いだ。
まさか、駅に着く前にこんなことになるとは。
情けなさで泣きたくなるが、そんな暇は無い。一刻も早くリヒトラウムに到着しなければならな
いのだから。

「あのー、大丈夫ですか?」

倒れているさゆみに、声を掛ける女性がいた。
流れるような長い黒髪に、小麦色の肌。彫りの深い顔も相まって、エキゾチックな印象のある美
しい人。端的に言えば、さゆみの好みだった。

「え、はい、ちょっと転んだだけですから」
「道重…さゆみさん、ですよね?」

初対面なのに自分のことを知っている人間は、大抵。
身構えてしまうさゆみだが、相手の女性からは微塵の敵意も感じられない。

「向かってるんですよね、リヒトラウム」
「どうしてそれを」
「彩も、いるんです。迎えに行かなきゃいけない子たちがそこに」

それだけ言うと、すぐ側にあったコンビニの入口に敷いてあったマットを引き剥がし、持って来
る。こんなもので、一体何をしようと言うのか。

「一緒に行きましょ。急いでるんですよね?」

八重歯を覗かせ、にこっと笑う女性。
マットが魔法を掛けられたように、空に翻った。

644 名無しリゾナント :2015/02/16(月) 01:38:12
>>640-643
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

645 名無しリゾナント :2015/02/17(火) 20:45:20
>>640-643 の続きです



でぃんどんでぃんどん…でぃんどんでぃんどん…てんてけてんてん…てんてけてけてけ…

眩い電飾と床置きサーチライトに照らされた、大広間。
中年男性のアカペラ音楽とともに入場するのは、どこかで見たようなキャラクターたち。

目つきの悪い、鼠に似た団扇のような大きな耳をした男と女の二人組。
続いて、「ミツ」と書かれた黄色い壺を持っている茶色い生き物が、ふらふらと入ってくる。
さらに、緑色の四足歩行の馬のような、犬のような。そんな不思議な物体。
最後に、水色のセーラーを着た不細工な鳥の顔をした男。
よたよたと連なって歩く様は、何かのパレードのようにも見えた。

広間の中央に敷かれた、赤絨毯。その最奥の玉座に、ポニーテールの少女が座っていた。
しばらく少女は、その奇妙なパレードを眺めていたのだが。

「…うざ」

それだけ言うと、中年男性の声でずっとてんてけてんてけ言ってるのを流しているCDプレイヤー
を鼠の男に向かって投げつけた。
重量に速度が乗った物体は嫌な音を立てて鼠男の顔面を破壊する。飛び散り、床に赤い染みを
作る血。
それを見て、異形の者たちはパニックに陥る。緑色の馬犬はくるくると回り続け、鼠女と茶色い生
き物がひたすら相手を蹴り合い続ける。何をしていいかわからずに近くにあったサーチライトを持
ち上げた鳥男に、少女が襲い掛かった。

646 名無しリゾナント :2015/02/17(火) 20:53:10
懐に飛び込まれ、顔面を蹴り上げられる。
ぼきりという、首の骨の折れる音。明後日の方向に首を曲げた鳥男は、膝をついて仰向けに倒れ
それきり沈黙してしまう
少女の暴挙はさらに続く。くるくると回っている犬馬の背を掴み、その頭から垂れ下がった両耳
を。力任せに、引きちぎった。痛みで汚らしい悲鳴を上げる緑の生き物、それも少女の放った止
めの蹴りを腹に刺され、止まる。

少女の目は、壷を持った茶色い生き物にも向けられる。
自分が殺される事を察知したのか。おずおずと、「ミツ」と書かれた壷を少女に差し出す生き物。
その中に手を入れてくれ、という意思表示なのか。

躊躇せず、壷の中に手を入れる少女。
しかしそれは罠であった。その黄色い壷こそが、生物の真の口吻。好奇心で差し入れた人間の手
を、ばりばりと噛み砕くのだ。少女の手もそうなる運命だった。はずが。

「くっだらねーことしてんじゃねえよ」

少女は。壷に手を噛みつかれたまま、生き物をゆっくりと頭上に持ち上げる。
その高さが頂点に達した時。勢いのままに茶色の生物を床に叩きつけた。叩きつけ、いや、叩き
潰された生物は全身の骨を砕かれ、そのまま動かなくなった。

動かなくなった死体に、なおも攻撃の手は緩めない。
元々つくりの丈夫でない彼らは、忽ち自らの肉体を崩壊させた。
腕がもげ、眼球は飛び出し、腹が破け腸が噴き出る。
あちこちで血を流し、臓物を撒き散らして倒れている死体。
サーチライトに照らされ、返り血を浴びた少女は広間に響き渡るように高らかな笑い声をあげる
のだった。

647 名無しリゾナント :2015/02/17(火) 20:54:04
そんな血腥い惨劇を黙ってみていた、もう一人の巻き毛の少女が。
呆れ口調を交えて、語りかける。

「何や、のんが『リヒトラウム』のパレード見たい言うから、マルシェの研究室から盗んできたのに」
「これのどこがパレードなんだよ、きもいって」

言いながら、恐怖で固まっていた鼠女の首根っこを掴み、近くの柱に激突させる。
ごしゃあっ、という音と共に流れ出る、粘りのある赤い水。錆びた鉄の臭いが、辺りに立ち籠めた。彼
らは、彼女らは、組織の狂科学者が作り出した哀れな失敗作だった。

「のんはさ。純粋に夢の国を楽しみたかったのに。やっぱ中身は乙女だし」
「おええっ、そんな血まみれなツラして何が乙女や」
「は? あいぼんに言われたくねーし」
「ははっ、うちこそ真の乙女やで? 寝る前のリップクリームは欠かせへんし」
「バージニアスリムの間違いだろ」

些細なことから、しばし睨み合う二人。いつものことではあるが。
冷静になり引くのは、いつも巻き毛のほうだ。

「まあええ。自分、かなり苛立ってんなあ」
「”うちらの”敷地で余計なことしてる連中がいるみたいだけど」

ポニーテールの苛立ちの原因は、そこだった。
この夢と光の世界に、リゾナンターを招き入れて殲滅する。
その計画は順調のはずだった。

648 名無しリゾナント :2015/02/17(火) 20:55:02
「鋼脚」から掠め取った精神操作能力を優樹に使い、あたかも偶然このテーマパークに招待されるよう
な形を作った。
リゾナンターのアドバイザー的存在の光井愛佳に、「9人の後輩たちが血まみれで横たわる」未来を見
たかのように錯覚させた。
愛佳からそのことを聞いた道重さゆみは、一目散にリヒトラウムを目指すだろう。
あとは元々の目的が眠っているこの地で、さゆみを亡き者にするだけ。ところが。

自分たちの計画に、水を差す能力者たちが現れた。
福田花音が率いる「スマイレージ」のことだ。もちろん。
彼女、「金鴉」にとっては取るに足りない存在だが、目に入れば煩わしい。

「ええやん。そいつらもついでに”うちらの宴”に招待したろ」

不敵な笑み。
ハプニングさえも、自らの計画に取り入れる。
それくらい、あいつにできて、うちに出来へんわけないわ。
誰に言うとでもなく、もう一人の少女、「煙鏡」がひとりごちる。

「リヒトラウムの管理人はどうするよ」
「こぶ平のやつには言うたんやけどな。まあええ。遅かれ早かれ、あっちから連絡が行くやろ」
「ふーん。ま、いいや」
「珍しいな。のんもそいつと戦いたい、とか言わへんなんて」
「ツクリモノとか、興味ないし」
「…せやな」

肩を竦め、広間の窓際に立つ「煙鏡」。
眼下には、夢と希望で溢れる、楽園がどこまでも広がっている。

649 名無しリゾナント :2015/02/17(火) 20:57:29
「のんも見てみ。このおもちゃみたいな楽しいテーマパークの地下に、悪魔みたいな『ブツ』が隠され
てるなんて、あそこにいる誰も知らんのやで?」
「でもさ、それさえ手に入ったら。あいぼんとのんは」
「ああ。大逆転や」

偉そうにしている、弱い奴。
そいつを排除しただけなのに。彼女たちに組織の長が与えた懲罰はあまりにも不当。
そうとしか思えなかった。

そして「首領」に幽閉されてからずっと。
そのことだけを考えていた。隔離された、狂気の世界。
昏い思いは年月とともに凝縮され、一つの形になる。

復讐。

ずっとこの時を、待っていた。
偉そうな「首領」も。すかしている「叡智の集積」も。
自分たちを虐げていた連中は、痕跡さえ残さずに消してやる。

「ざまあ見晒せ。うちらが反省なんか、するわけないやろ」

懐から取り出したトランシーバは、敷地内の放送設備をジャックし、敷地全体に「声」を届ける役目を
果たす。
もうすぐ、楽園は地獄と化す。その瞬間を決めるのは。
自分だけだ。

あーあー。テス、テス。
ただいま、マイクの、テスト中…

650 名無しリゾナント :2015/02/17(火) 20:58:06
>>645-649
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

651 名無しリゾナント :2015/02/18(水) 21:23:27
>>645-649 の続きです



「Dr.マルシェ!こちらにおられたのですか!!」

息を切らし、黒服のサングラスといういかにもな格好の男が建物に入る。
ここは、ダークネスの本拠地に設置された、食堂。
非合法な組織にしては意外とまともな作り、一見どこかの大学の学食と見紛うばかりだ。
そこで紺野は、少し遅めの朝食を取っていたのだった。

「騒がしいですね。何か御用ですか、諜報部の方…ああ、すみません。マッシュポテトは大盛りでお願
いします」

自らの食事タイムの邪魔をされたせいか少々不機嫌になった紺野ではあるが、すぐに食堂の中年女性に
追加注文をする。テーブルには、少しずつ食べたトースト、目玉焼き、スクランブルエッグ。

「探しましたよ!てっきり研究室にいるものとばかり…」
「日夜部屋に篭り、わずかばかりの栄養ゼリーと煮詰まったコーヒーで腹を満たす。そんな典型的な研
究者像にでも惑わされましたか」

言いながら、小さく切り分けたスクランブルエッグを口にする。
このペースだと、食事を終えるのは随分先になるのは必至の遅さだ。

652 名無しリゾナント :2015/02/18(水) 21:24:55
「手短にお願いします。食事の時間は、なるべくゆっくりしたい」
「ええ。実は、消息不明になっていた『金鴉』様と『煙鏡』様の居場所が掴めました」

様、とつけてはいるが。
明らかにその名を口にする時に苦い表情をする、諜報部員。それもそのはず。彼女たちの所在を把握す
るまでに、何人もの同僚が戯れに命を奪われているのだから。
しかし紺野は。

「おそらくですが。『夢と光の国』では?」
「え」
「ある程度の予測は立てていましたが。しかし実際にそうなってみると、案外感慨深いものですね」

あまりにはっきりと言い当てるものだから、諜報部の男はしばらく二の句が継げない。
いや、確かにおっしゃるとおりなんですが、などと口淀む男に対し、紺野は。

「あそこには、管理人がいたはずです。オーナーの堀内さんが例の『先生』のとこの組織と契約して派
遣されている」
「はい。確か組織の7番手の実力者が配されていたはずですが…」
「やはり。密約が交わされていたようですね」

施設の守護者とも言うべき人間がいるにも関わらず、例の二人はあっさりと敷地内に入っている。いつ
ぞやの「先生がらみの仕事」というのも、どうやら単純なブラフでもなかったらしい。紺野は「煙鏡」
の抜け目の無さに、苦笑を漏らす。

653 名無しリゾナント :2015/02/18(水) 21:25:56
「…『鋼脚』さんには報告は」
「ええ。ただ、例の二人の件はDr.マルシェに任せているとのことで」
「なるほど」

すっかり冷めてしまったトーストを一口だけ齧り、考え込む。
とは言え、既に答えは出ているのだが。

「いかがいたしましょうか」
「そうですね…好きにやらせたらいいんじゃないですか?」
「は?」
「『金鴉』さんと『煙鏡』さんが目をつけたのは、きっと何か理由があるのでしょう。面白い。徹底的
に暴いてもらおうじゃないですか」

男は恐れおののいた。
もちろん、滅茶苦茶なことをやらかすであろう例の悪童どももそうだが。
この目の前の女も、まともではない。破滅が目の前にあるというのに、喜んですらいる。

「しかしそれでは…」
「あなたたちに、何ができるって言うんです?」

俄かに生まれた反駁の心、それも紺野の一言で消えてしまう。
この前の「詐術師」の内乱以降、ダークネスの本拠地は厳戒態勢を取り続けていた。そんな状況下にお
いて身内であるはずの、しかも目的すら読めない二人に対して人員を寄越すのは現実的ではない。

紺野は、暗に自分達でリヒトラウムに行ったらどうです、と問うているのだ。
もちろん、物言わぬ躯となって帰ってくることを前提にして。

654 名無しリゾナント :2015/02/18(水) 21:26:19
「わ、わかりました。引き続き、監視体制を」
「それが賢明でしょう。何か興味深い動きがあれば、またご報告下さい」

紺野は話は終わりました、とばかりに食事を続ける。
苦虫を噛み潰したような顔をしながら引き下がろうとする男、しかしそれは背後からの衝撃に遮られた。

「いたっ、な、なんだよ!」
「すまん、緊急事態なんだ!!」

別の黒服が、同じように慌てて食堂に入ってきたものだから、男と衝突してしまったのだ。
訝る先客を押しのけ、男が紺野の前に出た。

「まったく。落ち着いて食事もできませんね」
「Dr.マルシェ!大変です!!天使の、天使の檻の上空に…」
「ほう?」

紺野の表情が、変わる。
それは、想定の外にあるものを目にした時のような顔。
ただし。世の大半の人間が想定外の事態に驚き、顔を青ざめさせるのに対し。
笑っていた。まるで、新しい玩具を得た子供のように。

655 名無しリゾナント :2015/02/18(水) 21:26:50
>>651-654
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

656 名無しリゾナント :2015/02/19(木) 22:07:35
■ ベインズワークショップ -少女たち- ■

http://www.youtube.com/watch?v=GZKwPcZoX1o

…………で続くクーデターの続報です
本日行われた定例会見にて、国連軍は、
天候不順を理由に空爆の延期を発表、また来月の…
…事実上の撤退であるとし、激しく非難するとともに…
…度重なる作戦失敗をうけ…

また、このニュースか…
なんか、やなことおもいだしちゃうね…
うん…
きっと、あの子たちは、いまでも組織にいるんでしょうね…
うん…
きっと、私たちを憎んでいるんでしょうね…
うん…きっと…きっとそうだよ…

かつて「あの海上」で激突した。
まだ、あどけなさの残る、少女たち。

力づくで、蹴散らした。

あの子たちを助けたかった。
助けたかった。

657 名無しリゾナント :2015/02/19(木) 22:08:33
組織に囚われた、かわいそうな子供たち。
そう思った。
もう大丈夫、一緒に帰りましょう。
でも駄目だった。
間違いだった。
もう、遅かった。

658 名無しリゾナント :2015/02/19(木) 22:09:32
その戦場に不釣り合いな、派手なファッション。
その幼さに不釣り合いな、派手なメイク。

強制でも、命令でもない。
あの子たちは、自らの意志で、私たちに。

説得している時間は無かった。
選択しなければならなかった。
だから、あの子たちは捨てた。
その目的のために…

立ちはだかるあの子たちを…あの子たちを…

あの子たちは言った。
私たちはエリートだと。
いずれ、組織の上に立つ存在だと。

すべて私たちが支配する。

血と災厄。
絶望と焦土。

そのすべてを私たちが支配する。

すべての戦争を私たちが始める。
すべての戦争を私たちが終わらせる。

私たちは『ベインズ』…

【破滅の工房(ベインズワークショップ;banes workshop)】と…

659 名無しリゾナント :2015/02/19(木) 22:10:36

■ ベインズワークショップ -少女達- ■

でした。


(あとがきスレ用)
以前「なぜベリーズが出ていないのか?」というご質問を受けたことがあります。
その際は確か「作品には出てこないが動いてはいる」というようなあいまいなことしかお答えできなかったように思います

とっさのご質問だったため即答できませんでした
あのあとすぐ今解答できる情報の範囲内で拙作を書いたのですが
今度は社会情勢というか彼女たちが主に活動している場所が
娯楽小説の舞台にするにはあまりそぐわなくなってしまっているようです
今後予定通り進めるか変更するか
いずれにせよもうしばらく寝かせるしかないかもしれません

660 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:25:47
>>651-654 の続きです



ダークネスの外部施設に、「天使の檻」と呼ばれる場所がある。
飾り気のない、白く四角い建造物。だが、その内部はいくつもの厳重なセキュリティ、ミサイル砲を打ち込
んだとしてもビクともしないような隔離壁。
その最深部に、「天使」は隔離されていた。

「檻」の、はるか上空。
人の目では決して確認することのできない物体が、浮遊している。

「ここが機体をあちらさんに感知されない限界ってやつっすかねー」

ステルスバリアが張り巡らされた、飛空船のデッキスペース。
肉感的な、目鼻立ちのはっきりとした女性が下を覗き込み、言う。

「うん。ここから『転送』で直接人員を檻の敷地内に移動させるみたいだよ」

答えるのは、小柄な女性。

「こっからだと距離にして数キロメートルはありますよね」
「だねえ。でも作戦指令書にはそう書いてるから何とかなるんじゃない?」
「そんなもんすかね」
「大丈夫大丈夫」

言いながら、小さな女性がにかっと笑う。
げっ歯類のような大きな前歯が、唇から顔を覗かせた。

661 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:27:16
「それにしても、変な形っすね。この飛行機」
「何でも、コストダウンやら何やらで、元々の大きさの半分くらいにしたらしいよ」
「マジっすか? それでも機能とか半端なくない? この何だっけ、エリ、エリなんとか号」
「『エリックフクサキ号』ね。元は違う名前だったみたいだけど」

そんな中、デッキの扉が開かれる。
現れたのは、水色のドレスを着た、童顔の女。

「のっち、ここにいたんだ。それにきっかも」
「真野ちゃん」
「もう、『サトリ』って呼んでって言ってるのに! それより、本部長がみんなを集めて作戦の最終確認す
るって」
「おっ、あいあいさー」
「本部長、ねえ。対能力者部隊『エッグ』の結成以来かね、会うのは」

実際、彼女たちが本部長と呼ばれる人間と相対したことは数える程度しかない。
それはここにはいない「スマイレージ」のメンバーもまた然り。何せ、外部から彼女たちが警察組織に持ち
込まれると同時にプロジェクトリーダーとして就任。経歴は一切謎の人物、だが手腕だけは確かと専らの評
判だった。

船内に戻り作戦会議室と呼ばれる一室に入る三人。
そこに座したる、錚々たるメンバーたち。「エッグ」の精鋭と呼ばれる能力者揃いだ。

「あれ、のっち、あの子たちって」
「『セルシウス』に『スコアズビー』。改めて見ると、さすがにね」

662 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:28:40
会議室の後方、まるでこの場にいる「エッグ」たちを値踏みするかのように、五人組と七人組の集団が立っ
ていた。
彼女たちの存在は「エッグ」筆頭を務める能登有沙やミス破天荒としてその奇行ぶりが知られる吉川友、新
宿のシンデレラこと真野恵里菜が知らないはずもなく。
ついこの前まで、彼女たちは敵対関係にあったと言っても過言ではなかった。

ダークネス自慢の秘蔵っ子ったちとして。
いや、それ以前に「エッグ」のプロトタイプ的存在として。
この二つのグループの名前は彼女たちの頭に刻み込まれていた。
まだ未熟なはずのリゾナンターたちに倒されたダークネスの尖兵が今目の前にいるグループと同一であるこ
とを知ったのは、しばらくしてからのことではあるが。

一方、テーブルの端のほうで行儀よく座っている五人の少女たち。
赤と黒のツートンカラーで統一された衣装。緊張しているのか、幾分幼さを残した顔が強張っている。
見たこともない顔ぶれに、思わず。

「…誰?あの子たち」
「さあ。あの人がどっかからスカウトしてきた子たちでしょ」

友の問いに、面白くなさそうに席の最奥を指す。

「おうお前ら、久しぶりやな」

そんな二人に、指した人物から声がかかる。
特徴的な、少し掠れた声。
金髪と色つきのサングラス、そしてやや扱けた頬。白のタキシードという格好も相まってまるでどこかのホ
ストクラブの経営者にしか見えない。秘書のような出で立ちの二人の女性を従え、悠然と椅子に背をもたせ
掛けたこの男は。

663 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:30:02
警視庁対能力者新規特殊部隊「エッグ」本部長。
それがこの男。つんくを自称する男の、本来の肩書きであった。

「御無沙汰してます。悪趣味なファッションセンスはお変わりないようで」

席に座った恵里菜がそんな皮肉を込めるのも、致し方ない。
対能力者部隊立ち上げとともに、能力者の卵のスカウト活動と称してあちらこちらをふらふらと。怪しげな
「商品」を売り歩き、どこの馬の骨とも知れない連中に肩入れしている。エッグによる彼の評判は一言で言
えば、最悪だった。

しかしながら。彼が部署のトップとして上層部から重用されていることは明らかだった。
だから、ここにいる。

「さて。全員揃ったことやし、作戦の最終確認…言うても何も難しいことはあらへん。『転送』で天使の檻
の敷地に突っ込む。ただそれだけの楽な仕事や」

最終確認、と言うにはあまりに大雑把な説明。
本人の胡散臭さも相まって、場は何とも言えない空気に包まれる。

銀翼の天使こと安倍なつみ。
双璧を成していた「黒翼の悪魔」の不在によって、判明している限りではダークネスの最大戦力と目されて
いる能力者。
それをこちらの手駒にするという大胆な目的の割に、実に単純。単純すぎる。
当然のことながら、不満の声が上がる。

664 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:31:33
「潜入後のことはさておき。まずこのような高度から地上に『転送』すること自体、本当に可能かどうか」

普段はあまり口を開くことのない、クールな表情の女性。
暗殺者然としたいでたちの北原沙弥香が疑問を呈すのも当然の話。ダークネスが所有し運用する「ゲート」
でもない限り、物体の長距離転送は不可能と言ってもいい。

「そう言えば、つんくさんがこの前やった『お遊び』ではリゾナンカーなる乗り物を使用して母艦から遠距
離の移動を可能にしたんですよね。今回も、それを使うつもりですか?」
「リゾナンカーなら、前使った時に壊れてもうたわ」
「じゃあ、どうやって」

つんくの曖昧な回答に苛立つ恵里菜。
それに構わず、部屋の外に向かって呼びかけた。

「金子、入っておいで」

ドアが開かれ、一人の幸の薄そうな少女が姿を現す。
彼女の名は金子りえ。「転送」の能力を保有する能力者だった。

「ちょ、マジっすか! りっちゃんの能力じゃうちら空中に放り出されてペッチャンコっすよ?いくらきっ
かがワガママボディだからって、無理無理!!」

大げさな身振り手振りでそんなことを言う友。
彼女はりえのことを知っていた。その知識からすれば、とても長距離転送を実現させるような能力は有して
いない。

「それができるんやなぁ。この薬さえあればな」

そんなことを言いつつ、つんくが胸ポケットから小さな白い錠剤を取り出す。
一見ラムネ粒にしか見えないような、何の変哲も無い薬にしか見えないが。

665 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:33:02
「安心してください。この錠剤の効果は本人への投与も含めて実証済みです」
「最新の実験では、ドラム缶100個を10キロメートル先の場所に転送することに成功してますからね」

つんくの脇を固める二人の女性の、もっともらしい説明。
だが、その説明を聞いて最も安心しているのは、能力者であるりえ自身だった。

これが成功すれば私は…

りえは、エッグの中でも研修中を理由に前線に立たせてもらえない存在だった。
転送能力には、特筆すべき精度も威力もない。同期の仲間たちが適材適所の場所へ旅立つのとは裏腹に、り
えだけがいつ終わるとも知れない訓練をやらされていた。

そんな彼女にも、一筋の光が射す。
それがこの、安倍なつみの解放作戦だった。
幸運なことに、作戦に必要不可欠な「転送」の役目を任された。つんくの投与した薬剤による能力の飛躍的
向上のおかげではあるが、ともかく。

「天使の檻」の何重にも施されたセキュリティ網をすり抜けて能力者たちを転送することができれば、必然
的にりえの評価は上がる。つまり、かつて彼女を追い抜いていった人間を見返すことが出来る。
彼女が緊張し、気合が入るのも当然のことだった。

「じゃあ、早速『転送』はじめるで。みんな、準備は出来てるか…せや、いくら金子の転送能力が優れてる
言うても、ばらけた状態やとしんどいからな。隣にある小部屋に移動頼むわ」

その場に居た全員に場所の移動を促しつつ。
つんくもまた、小部屋に移動すべく席を立つ。
するとやはり不安が先立ったのか、りえがつんくに駆け寄った。

666 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:33:40
「あの、つんくさん」
「何や。何も心配することあらへん。早よ、この薬飲みや」

りえの手のひらに、そっと錠剤を置くつんく。
りえはその丸く小さな薬をしばし見つめ、それから意を決して口にした。

「ちなみにこの薬、いつもより少し強力なもんにしてるから。揺り戻しはきっついで?」
「は、はい!大丈夫です!!」

背を向け、後ろ手に手を振るつんくを見ながら。
りえは、自分がつんくのことをひどく誤解していたことを恥じた。

能力者の卵の、見境ないスカウト。
そして、怪しい商品の売り込み。
金に執着心の強い、強欲で心無い人物だとばかり思っていたが。

つんくさん、見ててください。私、やります!!

薬が徐々に自らの肉体に浸透してゆく感覚。
りえはただひたすら、能力を発動させる瞬間を待っていた。

667 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:34:56
………

「全員、小部屋の入室、完了しました」
「おう、石井に前田、ご苦労やったな。お前らも部屋に入り」
「はい。失礼します」

恭しくつんくに一礼し、部屋の中に入ってゆく二人の秘書。
つんくは、先ほどまで自分達のいた会議室のほうへと視線を向ける。
そこでは、りえがつんくのゴーサインを待っているはずだ。

頼んだで、金子。

「天使の檻」からの距離に加え、上空数千メートルという高度。
これら全てを飛び越え、『転送』を成功させるにはりえの能力が必要不可欠だった。そして、りえに与えた
薬は彼女自身との相性が抜群によかった。あの錠剤によって能力を最大限に使役できるようになった彼女な
らば、必ずや成功させてくれるだろう。

最新の実験では、ドラム缶100個を10キロメートル先の場所に転送することに成功してます。か。
秘書の石井が言った言葉をつんくは思い返す。嘘も方便とは、このことだと。
実験如きで、「彼女」を消耗させてはいけない。実際はドラム缶は実験場の敷地から少し離れた場所に転が
っていた。薬の効能がわかれば、それでよかったのだ。なぜなら本番では、普段与えている薬の数千倍の効
果が出るものを服用してもらうのだから。

あの薬のおかげで、生涯最高のパフォーマンスを見せてくれるやろ。
文字通り。命が、燃え尽きるまでな。

668 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:35:37
艦内放送に直結したピンマイクに向け、つんくは言う。

「今から全員部屋に入る。したら、『転送』の開始や。頼むで」

つんくの前で開かれた扉。
彼が部屋の中に入ると、ゆっくりと扉が閉められた。
ぱたん、と音を立て、沈黙する部屋の扉。

数秒後。どこからともなく。
人の声とは思えないような、阿鼻叫喚が聞こえてくる。
喉を極限まで絞り上げ、それでも飽き足らず喉に向け爪を立て、掻き毟り、抉る。
そんな行為の果てに生み出されたような、絶叫だった。
めらめらと激しく燃え盛る炎のように響き渡ったそれは、やがてすぐに小さくなり消えてゆく。
そして。何の音も聞こえなくなった。

669 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:41:51
>>660-668
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

研修生大喜利とか知ってる人いるのかとか思いつつそれでもネタにしてしまう…
一応貼っておきますw
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1377912821/

670 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:50:29
「潜入後のことはさておき。まずこのような高度から地上に『転送』すること自体、本当に可能かどうか」

普段はあまり口を開くことのない、クールな表情の女性。
暗殺者然としたいでたちの北原沙弥香が疑問を呈すのも当然の話。ダークネスが所有し運用する「ゲート」
でもない限り、物体の長距離転送は不可能と言ってもいい。

「そう言えば、つんくさんがこの前やった『お遊び』ではリゾナンカーなる乗り物を使用して母艦から遠距
離の移動を可能にしたんですよね。今回も、それを使うつもりですか?」
「リゾナンカーなら、前使うた時に壊れてもうたわ」
「じゃあ、どうやって」

つんくの曖昧な回答に苛立つ恵里菜。
それに構わず、部屋の外に向かって呼びかけた。

「金子、入っておいで」

ドアが開かれ、一人の幸の薄そうな少女が姿を現す。
彼女の名は金子りえ。「転送」の能力を保有する能力者だった。

「ちょ、マジっすか! りっちゃんの能力じゃうちら空中に放り出されてペッチャンコっすよ?いくらきっ
かがワガママボディだからって、無理無理!!」

大げさな身振り手振りでそんなことを言う友。
彼女はりえのことを知っていた。その知識からすれば、とても長距離転送を実現させるような能力は有して
いない。

「それができるんやなぁ。この薬さえあればな」

そんなことを言いつつ、つんくが胸ポケットから小さな白い錠剤を取り出す。
一見ラムネ粒に酷似した、何の変哲も無い薬にしか見えないが。

671 名無しリゾナント :2015/02/20(金) 01:57:39
>>670
投稿ミスです
申し訳ない

672 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 04:01:06
書き込めなくなったので代理をお願いいたします。
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1150.html#id_2d146de9 の続きです。

673 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 04:02:23

宮本、佳林さん

「私達には石田さんの力が必要なんです。お願いします! 私達の仲間になって下さい!」

思いっ切り頭を下げる、宮本さん

お願いされても困るよ……
それに

「ウチを仲間にして、どうするの?」

頭を上げる宮本さん
すごい真剣な顔してる

「私達はまだ、小さな集団です。強い能力者集団を相手にしたら簡単に負けちゃうくらい……だから、どこにも負けない強さ欲しいんです!」
「でも、ウチじゃなくたって……」

宮本さんが近づいて、両手でウチの手を掴んだ

「石田さんは強いですよ。私を助けてくれた時、ちゃんと見てたんですから!」
「でも……」
「お願いします!」

必要って言ってくれて嬉しいよ
嬉しいんだけど……
ウチはやっぱり

「……リゾナントが良い」

674 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 04:03:22

だって

楽しくて
優しくて
暖かくて

大好きな人が居る

「あの場所が、ウチの帰る場所だから」

宮本さんの顔が、険しくなった

「で、でも! 意地を張っても、あの人達の所へは戻れないんですよ!?」

『この店にあんたは要らない』

さっきの道重さんの言葉が、心に刺さる

「そうかも、しれないけど……だけどウチは、あの場所が良い! リゾナントがウチの場所なんだもん! 嫌われたって何されたって、ウチはリゾナントが良いの!」
「石田さん……」

ウチの手を離した宮本さん
そのまま俯いた

わかって、くれたのかな

「仕方ない……〝あの人〟に頼んで強引にでも……」
「亜佑美ちゃんは渡さないよ」

675 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 04:06:16
>>673-674
まだ続きます。
よろしければ、代理をお願いいたします。

チャットで話題に出た石田さんが登場していますが、非常に難しいです。

676 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 11:00:52
代理いってきます

677 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 11:04:42
いってきました

678 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 11:56:20
>>660-668 の続きです



あーっ、あかりちゃん。
どさくさにまぎれてみずきのむねさわったー、へんたーい。
ちがっ!ただあかりはみずきちゃんの穴をふさごうとおもって…
うそつきー。
だから!うそじゃないって!!
わかった。じゃあ、みずきのおねがい、ひとつだけ聞いて。
い、いいよ?
これからさき。どんなことがあっても、みずきのこと。まもってね。
まもるって?
あんぱんまんのね、しょくぱんまんがどきんちゃんをまもるみたいに。
あー。なるほどねー。いいよ。
ほんとに? そーいうの、やすうけあい、っていうんだよ?
そんなんじゃないから。あかり、みずきちゃんのこと、ぜったいにまもるから。
ぜったいだよ? やくそくだよ?

679 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 11:56:54


あれから、どれほどの時間が経ったのか。
わからない。殴られ、蹴られ、打ちのめされ。
それでも、朱莉は両足を踏ん張り、立っていた。

「もういいよ!朱莉ちゃん、こんなの間違ってる!!」

聖が、朱莉に向かって必死に呼びかけるが。
朱莉は倒れなかった。

だって、約束だから。

花音が何をしたいのかはわからない。
けれど、彼女は朱莉に「これに耐えたら撤収する」と言った。
だから、耐える。聖を、守るために。

意識は、遥か遠くへ。
それでも。倒れるわけにはいかない。
約束、守らなきゃ。

現実は、残酷だった。
群集の暴力にひたすら耐え続けていた朱莉だったが。
ついに、力尽きる。前のめりに、崩れるように。

「あかりちゃん!!!!」

聖の悲痛な叫びが、木霊する。
一方、花音はというと。

680 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 11:58:51
「これに耐えたら撤収する」なんて、真っ赤な嘘。
むしろ約束をしたとすら思っていない。
何故なら、最初からこうする予定だったのだから。

聖と付き合いの長い朱莉を、敢えて聖にぶつける。
単純思考の朱莉のことだ。戦いを望まない聖の言う事をまともに受け、のこのこと二人仲良く
こちらに来るはず。読みは、的中した。

まずは、精神的に甚振り、極上の苦しみを与えてやる。
それがこのリンチショーだった。その上で、悲しみに心を引き裂かれた聖に向かってこう言っ
てやるのだ。約束は約束だから、しょうがない、と。

怒ればいい。憎めばいい。
そんなものは。そんなちっぽけな感情は。

自分達が味わった地獄からすれば、何の価値もない。

何故同じ能力者であるはずなのに、自分たちだけがあんな目に遭わなければならないのか。
闇の組織によって生み出され、実験の名を借りた拷問を繰り返し受け。警察組織に売り渡され
た後も、過酷な訓練を施される。

何人もの仲間が、命を失った。
逆に言えば、自分たちはいくつもの困難を乗り越えてきたエリートのはず。
なのに何故。

リゾナンター、という少し特殊なだけの連中に遅れを取らなければならないのだ。
おかしい。間違っている。
間違いは、正さなければならない。
絶対に、許さない。

681 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:00:04
「どうして…どうしてこんなことを!あかりちゃんは、福田さんの仲間のはずなのに!!」

温室育ちの子はいい。
容易く「仲間」などという戯言を口にすることができる。
けれどあたしたちは…違う。仲間。信頼。友達。そんなものはとっくの昔に過去に捨ててきた。
スマイレージの結束は、ひたすら前を向いて進んできた、それだけの証。

そう。ただひたすら。周りの誰を見ることもなく。
誰を。誰も?
そうだ。
わかってた。

誰も、あたしのことなんか、見てやしない。

「こんなこと…? あれれ、フクちゃんさあ。もしかしてこれで終わりだとか思ってない?」
「それは」
「どうしてあたしがこんなことをしてるのか。どうせそれを聞きにきたんでしょ? 温室育ち
のぬるーいぬるま湯に漬かってきただけのことはあるね」

大勢の人間に押さえつけられたままの聖。
花音はすぐ側まで近づき、腰を低くして聖のことを見る。

「何人があの子たちに倒されて、何人があの子たちを倒すかは知らない。けど、どっちみちあ
んたのこと、助けにくるでしょ?」
「……」
「前に、言ったよね。その気になれば、何千、何万の人間を好きに動かせるって。そのことを、
身を持って教えてあげる」

682 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:01:00
この人は。
最初からそうするつもりだったんだ。
全ては、自分の屈辱を晴らすため。自分の力を、誇示するため。
聖は、花音のことを音が出る勢いで睨みつけた。

「そんなことのために…朱莉ちゃんまで…」
「ああ、タケはおまけ。辛いものを見せられた時ほど、悲鳴は大きくなるでしょ?」

悲痛。怒り。苦しみ。
複雑な感情の入り混じった聖の顔。これが見たかった。
さあ後は、のこのこと集まってきたリゾナンターたちを、リヒトラウムじゅうの客という客に襲
い掛からせるだけ。
スマイレージは。あたしは、こんなやつらの噛ませ犬なんかじゃない。

完璧な、非の打ち所のない勝利。
花音の目的は、果たされる。

「…違い、ますよね」
「は?」

それなのに。

「福田さんの、本当の目的は…そんなことじゃ、ないですよね?」

どうしてだろう。
何かが、心の中の何かが、満たされない気がするのは。

683 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:02:07
「譜久村さんっ!!!!」

誰かの大声で、ふと我に帰る。大通りの向こう側に、人影が見えた。
1、2、3…7人。差し向けた後輩たちがほとんど人員を減らしていないことに大きくため息を
つく花音。
それでも、すぐに気を取り直す。

駆け寄ってきたリゾナンターたちがこれ以上近づけないように、肉のバリケードが形成される。
聖への救いの手は、操られた群集たちによって阻まれてしまった。

「どうもお久しぶり。博多弁が下品な人とガリガリの黒い人は、あやちょの一件以来だからそ
うでもないかな」
「お前!また懲りずに!!」

花音の顔を見るや否や、スイッチが入ってしまう衣梨奈。
猪のように群集に突っ込むも、すぐにはじき出されてしまった。

「どう?この前みたいに能力相殺で、あたしの『隷属革命』を無効化してみる? さてこの人
数、どれくらい時間がかかるでしょう?」

うふふ、と笑いつつ次から次へと操られた人間を呼び寄せる。
若いカップル、老夫婦、家族連れ。子供の姿すらあった。

「くそ!まーちゃん、こいつら全員どっか転送しちゃえよ!!」
「うーんわかんないけどやってみる!」
「ちょっと!こんな大人数転送なんかできるわけないでしょ!!」

遥の無茶振りに、考えなしに実行しようとする優樹。慌てて亜佑美が制止に入るのも無理はない。
優樹の転送能力が特殊だとは言え、物質転送時にエネルギーを使うことには変わりないのだから。
これだけの人数はさすがに、と視線を群集に向ける亜佑美。
花音の下僕たちは、すでに百人前後に膨れ上がっていた。

684 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:03:03
「どうしてこんなことを…和田さんはこのことを知ってるんですか!?」
「あやちょは関係ないから。これはあたしと…あんたたちの問題」

言いながら、彩花の名前を出した春菜に挑発的な視線を送る花音。
聖は。そこに著しく違和感を覚えた。いや、違和感はそれよりもさらに前に。

聖の能力は、接触感応を基礎とした「能力複写」。
対象物の残留思念を読み取り、自らの力とする。その原理が故に、はっきりとはしていないもの
の、相手の何かが伝わることは珍しいことではない。それを言葉にするのは難しい。けれども。

この人の目的は、本当はもっと別のところにあるのではないか。

それが故の、先ほどの問いかけ。
もちろん聖は相手に精神に働きかける能力者ではないので、その問いによって花音の心がどう動
いたかはわからない。
それでも、一瞬だけ。あの一瞬だけは、花音がひどく苛立っているように思えた。

「そうったい!」
「どうしたんですか生田さん!?」
「香音ちゃんなら…香音ちゃんの『物質透過』なら何とかならんかいな」

衣梨奈の突然の思いつき。
確かに、香音ならば群集を通り抜けて聖を助け出すのは可能なようにも思えた。
しかし、香音は首をゆっくり横に振る。

685 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:04:10
「ダメだよ…一人二人ならともかく、あれだけの厚さの、不均質な『壁』は通り抜けられない」

その程度のことはすでに、想定済み。
自らは大して戦闘力を持たないという花音が、自らの身を危うくするような状況をそうたやすく
作るわけがなかった。

「さて、そろそろフィナーレね。後ろ、見てみな?」

全員が、恐る恐る背後を振り返る。
そこには、信じられない光景が広がっていた。

いくつもの、唸り声が聞こえる。
目の光を失った、大勢の人間が立っていた。
前面と、後方。完全に、挟み撃ちにされてしまっている。

「どうする? 強行突破でもしてみる? もしかしたら、フクちゃんを助けられるかもよ。でも
それまでに、何人の罪のない人間が傷つくのかなあ。せっかく夢の国に遊びに来たのに、取り返
しのつかない大怪我なんてしたら、かわいそう」

全員が、一斉に花音のほうに視線を向ける。
それを見て花音は、嗜虐の炎を燃え上がらせる。

どうせ「正義の味方」を気取ってるあんたたちにはそんなこと、できるわけない。
悔しい? むかつく? 心底軽蔑する? 勝手に思ってろ。もっと。そう、もっと。

その視線を、あたしに向け続けろ。

最上級の喜びに身を浸す花音。
しかし。その耳に、微かな音が聞こえる。
雑音。それは花音の頭上にある、鉄製のポールに据え付けられた施設内放送用のスピーカーから
聞こえていた。
音は徐々に澄んでゆき、それとともに声が聞こえる。

686 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:05:16
「あー、あー。本日は、晴天なり。本日は、晴天なり。ただ今、マイクのテスト中」

甲高い、少女の声。
不意に流される施設内放送に、リゾナンターたちは互いに困惑し顔を見合わせる。
その困惑は、花音も例外ではない。

「…本日は、夢と光の国、リヒトラウムにお越しいただき、まことにありがとうごじゃいます」
「ねーちょっと、のんにもしゃべらせてよ!!」
「これから皆様が向かう場所は、夢と光からは程遠い…」
「いいじゃんあいぼん、ちょっとトランシーバ貸して!おう、お前ら、ぶっ殺す!!!!!!!」
「ちょ、やめーや!これからがええとこなんやから!!」

傍にいるらしきもう一人の少女のやり取り。
収拾がつかない状況に、思わず香音が。

「なにこれ。これもあんたの、お仲間の仕業?」
「し、知らないわよ!!」

想定外の、第三者。
一見子供の悪戯のようにも思えるが。
本能が警告を鳴らしている。これは、とてもではないがそんな微笑ましいものではない。
自分の計画が、無粋な輩に邪魔されようとしている。

「おう、そこのアホみたいなツラしたシンデレラ。12時にはだいぶ早いけど、もう魔法の時間は
…終いや」
「なっ!?」
「こっからは…うちらの時間や」

地を突くような、激しい衝撃。
次の瞬間、この地を包み込む夢は、終わりを告げた。

687 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:06:34
空が、真紅に染まったのではないかと錯覚するほどの。
渦巻き、天を貫くような高さの火柱が上がる。一か所でない。いくつも、いくつも。
リヒトラウムは、無数の炎に包まれた。

「これは…」
「あらかじめ、施設の各所に仕掛けさせてもらったわ。いかに東京ドームがいくつも入るようなだ
だっ広い施設と言えども、小一時間でまっ黒焦げにできるようなごっつい奴や」

少女が、笑いを噛み殺したような声でそう嘯く。
その黒さ。厭らしさ。先ほどまでこの場を覆っていた空気とは、比較にならない。

「はぁ!?いきなり出てきて、何なんだよ!!!!」

不条理な状況に、ついに花音の感情が爆発した。

「誰だか知らないけど!あたしの!あたしの楽しみを邪魔するな!!あたしの行く手を、遮るな
!!!!!」

ついさっきまで、自分は玉座に座っていた。
場を、リゾナンターたちを支配していたはずなのに。
それを、唐突に否定される。そんな馬鹿げたことがあってたまるものか。
花音は自らの正当性を決して揺るがせない。
でも、彼女は知らなかった。

688 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:07:13
「…黙れや、三下」

子供のような声のはずなのに。
目に見えないそれは、音もなく花音の心に忍び寄り、巻き付き、そして締め上げる。
何かをされたわけでもないのに、じわりと冷や汗がにじみ出た。
そして知る。自分は既に、ガラスの靴を奪われていたことに。

「もうお前の出番なんか、ないねや。これからうちらがやること、隅っこでシンデレラごっこしな
がら見とき。ダークネスの幹部としての、うちら流のおもてなしをな」

ダークネス。
夢と光に溢れた楽園には似つかわしくない言葉。
それでも、楽園を闇が呑み込みつつあるのは、紛れもない現実だった。

689 名無しリゾナント :2015/02/22(日) 12:08:18
>>678-688
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

690 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:28:46
■ アフタースクールレクチャーアバウト -リゾネイターX   - ■

伝えきれるだろうか?
その言葉で。

伝えきれるだろうか?
その眼で見ずして。

伝えきれるだろうか?
その剣交えずして。

伝えきれないかもしれない。
伝えきれないかもしれない。
だが、それでも、伝えておかねばならない。
彼の者たちの、その力。

その、【能力】を。

691 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:29:23
■ アフタースクールレクチャーアバウト -リゾネイターX   - ■
でした。

692 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:31:25
■ アバウトイシカワリカ -   X石川梨華- ■

「うっぷ…むぐっ…おえっ…おえぇぇっ…」
「高橋!またなのアンタ!」
「ハァハァ…だっ…だいじょう…ぶです…」
「ケケケなんら?こいつ。」
「【読心術】やろ?戦場の殺意濃すぎて酔ってるんやて、なっさけな。」
「そこのふたり!ちょっとだまって!…ったく!いいわ!この作戦中【読心術】はセーブしておきなさい。」
「えっでも…」
「1班は作戦通り、2班の前衛はアタシが出ます。高橋と新垣はアタシの後ろにつきなさい!」

――――――――

「【念動力】…ですか?」

何重もの隔壁に守られた、秘密の地下施設。
そこに集うは、新垣里沙、そして8人の新しきリゾネイター。
学校終わり、放課後、喫茶リゾナントを愛佳たちお姉さんチームに任せ、
折を見てはこうした時間が設けられていた。

「そう、【念動力】、それも、とてつもなく強力な、ね」

【念動力(サイコキネシス;psycho kinesis)】

「効果範囲は、最大で、およそ十数メートル。
パワーは…そうね、自動車ぐらいなら軽く持ち上げちゃって、
潰したり、ねじ切ったり、もー、けちょんけちょんよ。
当然、人間なんかひとたまりもないのよ。」

破壊と防御。
強大な、見えない、巨大な力。

693 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:32:45
それが石川梨華の【能力】。

――――――――

閃光。

衝撃波。
無数のボールベアリング。

轟音。
そして爆炎。

恐怖、硬直、混乱。

なにもわからない。
身体が、動かない。

何も見えない。
ただ、網膜に写るだけ。

一瞬で呑み込まれる。
黒煙に、あの人の背中が…

ただ、写るだけ。
その腕に輝くエンブレム『有棘鉄球に鎖』、ただ、それだけが。

停止。

無数の、ボールベアリング。

694 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:33:45
炎と煙、その中に。
中空に浮かぶ、小さな鉄球群。
ゆっくりと蠢き、そして、バラバラと落ちていく。

「高橋!新垣!被害報告っ!」

何も聞こえない。
ただ、鼓膜を揺らすだけ。

「新垣!…新垣!…マメ!」
「……はっ!ハイッ!」
「被害報告!」
「あっ…ありません…被害ありませんっ!」
「なら後方警戒っ!」
「ハイっ!」

――――――――
「いやもー、強いなんてもんじゃないのよ!そりゃーもーなのよ。」

人差し指を立て、額にしわを寄せる

「でも、もともとの強さ以上に厄介なのが、
いまのあたしたちにとって、石川さんは、
あまりに『相性』が悪い、ってことよ。」

「『相性』が悪い?」

「ほーなのよ、今のあたしたちには…」


あたしたちには、愛ちゃんが、いない

695 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:34:44
――――――――

破壊、破壊、破壊。
その発射音の軽さからは想像もできぬ破壊力。
タイルが割れ、モルタルが飛び、コンクリートが削り取られる。
次々と頭上を脅かす、無数の風切音。

「石川さん…血が!」
「大したことはないわ。さっき『ちょっと広げすぎた』だけ。」
「『広げ?』…」
「無駄口叩いてんじゃないわよ。
新垣、さっき重機(関銃)の位置は『見た』わね。
ならあなたの【能力】で、あれ黙らせなさい。
あの火力はちょっと煩いわ…
『出来る』わね?」
「はっハイッ!」
「重機が沈黙したら残りはアタシが潰します。
高橋は新垣を守りつつ援護。
いい?じゃあ新垣!やんなさい!」

――――――――

「『石川梨華の【念動力】には、濃度のようなものがある…』そう感じたのよ。」
「濃度…ですか?」
「そう…濃くて強い所と、薄くて弱い…ううん、隙間のように何もない所。
その事実に気づいたからこそ、あの時、愛ちゃんたちは…」

696 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:35:30
――――――――

「がはっ!高橋っ…あんた…」
「あのときのあーしは何も気づかなかった。
でも、今ならガキさんの言ったことがわかる…はっきりと…」
「まさか…あのときに…」
「…あの作戦から帰還した後…ガキさんが言ってたんです。
「『石川さんの【念動力】には濃い所と薄い所が…『隙間がある』と…」
「そう…気づいて…いたのね…」
「石川さん、あーし達は先へ進みます…ガキさんは…返してもらう!」

――――――――

「【瞬間移動】と【読心術】、この二つの能力を一人で持つ愛ちゃんだからこそ、
石川さんを倒すことができた。
でも、田中っちのついた愛ちゃんでも、
石川さんに肉薄するほどのチャンスは一度しか作れなかった。」

697 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:36:22
沈黙、その場を重い空気が支配する。

「見えない力…巨大な、見えない力…」
鞘師がつぶやく。
ウチなら、どうする?ウチなら、何ができる?

「…さって、ここからが本題。
もし、みーんなだけで、石川さんと遭遇することがあったら、どう戦うか…」

それが現実…

「まず、最初にやるべきこと…」

冷徹なる、その事実。

「『逃げ』なさい。全力で。」

そう

逃げなさい!

698 名無しリゾナント :2015/02/26(木) 21:38:24
>>690
■ アフタースクールレクチャーアバウト -リゾネイターX   - ■
でした。

>>692-697
■ アバウトイシカワリカ -   X石川梨華- ■
でした。

699 698 :2015/02/26(木) 22:07:58
羽賀さんの新作が上がっている様子なので
そちらの方が再投稿するまで待機します

700 名無しリゾナント :2015/02/27(金) 18:46:23
「能力の原理ですか…」

カーメイ氏はそういって、
左手を顎に当て右手で肘を抱えるいつものポーズをとる。

伝統的な和室。
まだ肌寒い季節ながら戸は開け放たれ、
庭に面した縁側から淡い光と冷たい空気が流れ込んでいる。

「もともと超能力なんて、
原理をすっとばして機能のみを発揮するからこそ超能力なんで、
方向を狂わせるったら、もうそれでいい気もするんだけどね。」

客人は若い男性だ。
20代前半、典型的なリクルートスーツ。
これと言って特徴のない、やや細めの、どこにでもいる営業マン、
そんな風貌である。

「ただどうもそう言う事が気になって気になってたまらない、
ってのが、あの婆さんなわけでさ」

初老の紳士であるカーメイ氏に対して、少々不遜な、砕けた口調。
正座が苦手なのか、胡坐をかき、座布団を抱え肘当て代わりにしている。

「12期についての研究というのは意外なほどにあまり進んでないのが現状です。
その中でも特に野中美希という女性に関しては、まだまだ謎が多い。」

「ふーん…」

701 名無しリゾナント :2015/02/27(金) 18:47:00
「研究当初においては空気調律とも言われていましたが…
例の大戦の際の記録が出たことによって、この説はすでに否定されています。
一方、重力操作説、精神干渉説…どれも憶測の域を出ません…
結論から言えば、わからない、そうお答えするしかない。」

「だよねー。俺もそういったんだけどね。
あの婆さんは、納得しねーだろーなー…。
ま、いいや、この件はなんとかごまかしちゃおう。
どうせもう半分ボケてんだからあの婆さん。
適当に別のおもちゃ与えとけばおとなしくなるって。さて!」

若者がおもむろに立ちあがる。
「じゃ俺そろそろいくわ。わざわざ時間取ってもらって悪かったね。」

702 名無しリゾナント :2015/02/27(金) 18:50:38
>>700-701以上保全作

703 名無しリゾナント :2015/03/01(日) 06:03:22
■ サイコサイコ -石田亜佑美X石川梨華- ■

「あらあら、薄情なお友達たちねぇ。
いいの?アンタ一人におっかぶせて、みーんな尻尾巻いて逃げちゃったけど?」

「いいんです!」

走り去る軽を振り返りもせず見送る。

「これが!ウチらの!作戦です!」

ドヤ顔。
仁王立ち。

石田の自信は揺るがない。

「ふーん。」

ボンテージ。
体のラインがきわどいほどに強調された、艶やかな黒のエナメル。

石川梨華

その強敵に、石田亜佑美が一人、対峙する。

「さぁ!石川さん…かかって来い!」

――――

その凶事は、突然、幕を開けた。

704 名無しリゾナント :2015/03/01(日) 06:05:20
「はやく!はやく!はやく!」
「か、鍵!鍵!鍵!」
「ヒャー!」
「押すなって!押すなよ!まーちゃん!」

軽乗用車。
すし詰めの少女たちを乗せ、裏のガレージから飛び出す。

「ヒヒヒヒ!ヒャー!」
「お願いっ!まーちゃん!前見て!前!」
「ってゆうか、まさきちゃん運転できるんだね!」
「ハルだって!いちおう訓練受けてるっすけどね!」
「そこ張り合ってる場合?」

運転するは佐藤優樹。
助手席に鈴木、後部座席に工藤、石田、鞘師。
そして中央の隙間に折り畳まれるように、飯窪。

「うわぁ!来たぁ!」
「は…跳ね…てる…あんなのありなの?」
「追い付かれる!」
「まーちゃん!もっと速く!」

右に左に振り回される車内、その混乱の中、鞘師は石田の腕をつかむ。

「…あゆみちゃん…見た?」
「はい!見ました!鞘師さん!」
「どう?」
「はい!あのあと、『おっしゃってた通り』です!」
「…『やれる?』」
「もちろん!」

705 名無しリゾナント :2015/03/01(日) 06:05:50
「よし…香音ちゃん!ナビで…」
「ん、もう出してる。」
「鞘師さん!この場所どうですか?」
「…堤防?…うん、いける…じゃあ、一番近い『トラック』は…ここか、まずこの道をまっすぐ行って…」

――――

「まったく…マメもさゆも留守だなんて…間が悪かったわ…」

ボンテージ。

「まさか『高橋だった』なんてさ…
我慢できなくなっちゃって、そのまま来ちゃったのよね。」

体のラインがきわどいほどに強調された、艶やかな黒のエナメル。

「まあいいわ…アンタでいい…マメにも聞くけど、今はアンタでいい…」

脱色で傷んだ髪をかき上げる。


「ねぇ?アンタ…『高橋』…どこ?」

706 名無しリゾナント :2015/03/01(日) 06:06:20
■ サイコサイコ -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

707 名無しリゾナント :2015/03/02(月) 18:40:52
■ トランケイト -中澤裕子- ■

「石川が…?わかりました。
その情報は、あなたの所で留めておきなさい…ええ、ご苦労様」

中澤裕子は頭を抱えた。

「きっついわ…」

情報漏洩には十二分に配慮していた。
石川が知る余地は無かった、はずだ。

「どこや、どっから漏れた…」

  なに?また石川が暴走してるの?
  ああ、たのむわ、ちょっと行って捕まえてきてくれへん?

圭ちゃんがおったら、こないなん、なんでもないことやったのに、な…

かつての右腕は、もういない。
だがそれも、己の招いたことだ。

最悪の結末を回避する。
そのために必要なことは、すべてせねばならない。
その過程で起こるイレギュラーに、かまけている余裕はない。

708 名無しリゾナント :2015/03/02(月) 18:41:37
犠牲は、やむをえない。

そうや、ウチはもう賽を投げてしもうた。
いまさら日和るわけにはいかん。

ならば、どっちや?
どっちを、とる?

決断は、すぐに下された。

709 名無しリゾナント :2015/03/02(月) 18:42:53
■ トランケイト -中澤裕子- ■
でした。

710 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 17:56:44
■ スキュラ -石川梨華- ■

「【IB】の可能性ですか!?」

「ほーよ、石田から愛ちゃんの話を聞いたとき、
なんとなくそうじゃないかって思ってたのよ。
吉澤さんがそうなら、もしかして石川さんも、
そうだったんじゃないかって…」

【IB】、すなわち…

石田の目に映るもの。
今、目の前に居る、その凶事。

石川梨華

その女の、その周囲。

おぞましく、美しく。
うぞめき、のたうち。
うねり、反り返る。

『触手』

その不気味に脈打つ表皮は…背骨と胸骨…『あばら』を連想させる。
人の胴回りほどもある、触手の群れ。
醜怪な、異形の怪物。

それが、石川梨華の、真の、【能力】。

すなわち、

711 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 17:57:41
【幻想の獣(イリュージョナリービースト;illusionary beast)】!

712 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 17:58:32
■ スキュラ -石川梨華- ■
でした。

713 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 18:03:47
■ スキュラ -石川梨華- ■
ですが

一部訂正
>その不気味に脈打つ表皮は…背骨と胸骨…『あばら』を連想させる。

その不気味に脈打つ表皮は…背骨と肋骨…『胸郭』を連想させる。
にします

714 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 18:08:22
■ ライオンスタチユ -石田亜佑美X石川梨華- ■

「なるほど、それでアンタなの。」

大気が渦巻き、常人には見えざる、雄々しき獅子が、『現象化』する。

「アンタの【能力】も【獣】ってわけね。」

『リオン!アタックモード!』

主の号令に、咆哮で応える。

『GO!』

迎撃の触手をかわし、駆け抜ける。
その中心部、石川梨華めがけ、突進する。

だが

「でも、無駄。」

からみつく。
触手が獅子を捕える。
獅子が、触手を噛み千切る。
だが、その間に、さらなる触手が、胴に、脚に、
次々と絡みつき、締め上げる。
めきめきと音を立て、
獅子の身体がねじれ、潰れ、引き伸ばされる。

715 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 18:11:20
「…『カムバック!リオン!』」

寸前、獅子は、かき消すように、
空中に四散し、消滅した。

「あーあー、あっけなかったわね?
それにしてもアンタ、なんでさっきから、
わざわざ大声あげて【獣】に命令してるの?
考えただけで動かせるものだと思ってたけど、違うのね。」

「…ウチからしたら、コマンドも出さずに、自由に動かせるほうが、
よっぽど、おかしいんですけど。」

「はぁ…まあ、いいわ…
まだやる?またすぐ『出せる』んでしょ?」

「…」

「え?うそでしょ?私なんか子供の頃でも4〜5回はいけたわよ?」

「出来ないとか、言ってないし。
ウチだって、すぐ出せます…何回かは。」

「何回か?ずいぶんとまあ未熟な事。」

「…出せるけど!出さないんですよ!」

「まあ、なんでもいいわ…で?どうするの?
…まだやるの?それとも、おとなしく降参する?
降参するなら、許してあげてもいいわよ?
そうね…両手両足を、引きちぎる程度で。」

716 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 18:11:50
「…やってみればいいじゃないですか…どんとこい!このやろ!」

「へえ、まだやるの…じゃあ最後まで…」

ずるり、ずるり、と触手が立ち上がる。
そして、ゆっくりと凝縮する。
力を、ためる。
その瞬間を、待つ…殺戮の瞬間を…

「…やりましょう。」

触手が、殺到する。
殺到する、石田へと、殺到する。

『カムオン!バルク!バルク!アーマードモード!GO!』

「え?なに?」

獅子ではない。
凝縮する大気の中心。
再び『現象化』したそれは…

717 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 18:12:22
巨人

…巨大な板金鎧。

だが、触手は怯まない。
襲い掛かる。
幾重にも触手が、絡みつく。

「まあ!アンタそんなことできるの?」

見えざる巨人、その腹部、
中空の、その鎧の中、
石田亜佑美が、そこに、居た。

718 名無しリゾナント :2015/03/04(水) 18:13:01
■ ライオンスタチユ -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

719 名無しリゾナント :2015/03/05(木) 12:49:12
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1150.html#id_354290d0 の続きです。

720 名無しリゾナント :2015/03/05(木) 12:50:21

声がした方へ振り返る

「譜久村さん!」

そこには息を切らした譜久村さんが居た

「道重さん達の様子から、もしかしたら能力者にって思ったけど……まさか、佳林だったなんて」

え?

「聖、ちゃん……」

ウソ
譜久村さんと宮本さん、知り合い?

「私達の邪魔をしないでください」
「佳林達の事情は聖にはわからない。けど、亜佑美ちゃんの心を傷付けて引き込もうとするのは許さないから」

一触即発
睨み合う譜久村さんと宮本さん

だけど
どうして2人共が辛そうな顔してるの?

「聖ちゃんには分かりっこないですよ、佳林達の気持ちは」
「……佳林は、今の仲間と居れて良かったって思う?」
「え?」
「聖は思ってるよ。どんな辛い事があっても、仲間と一緒なら乗り越えられるって信じてる」

721 名無しリゾナント :2015/03/05(木) 12:51:11

ハッとした表情になった宮本さん
目線が一度ウチに向く
しばらくして、再び譜久村さんに戻った

「大切なんですね、今の場所が」
「……ごめん」

〝ごめん〟?
それって、どういう事ですか?

「……わかりました」

溜息をつく宮本さん

「さよなら……」

宮本さんは振り返って歩き始めた

行っちゃう!?
このままじゃダメだ!

「あの!」

宮本さんは振り返ってはくれなかったけど、立ち止まってはくれた

「えっと……」
「あぁ……店に居た人達なら大丈夫ですよ。もう元に戻ってる頃ですから」

道重さん達の事?
そっちも気になったけど

722 名無しリゾナント :2015/03/05(木) 12:52:01

「そうじゃなくて」
「……なんですか?」
「あなた達の仲間になれなくても、能力者同士みんなで助け合う事は出来ると思う! だから、また会えないかな?」

宮本さんが振り返る

「優しいんですね。でも、助け合いは無理ですよ」
「どうして!?」
「私達は、皆さんと一緒には居られない」

ねえ
どうしてそんなに辛そうな顔してるの?
助けて欲しいんじゃないの?

そもそも

「あなた達は一体何者なの?」
「こうなった以上、詳しくは言えません。ただ今は〝J〟とだけ伝えておきます」

そう言って振り返り、宮本さんは去って行った
その背中は、とても淋しそうに見えた

「あの、譜久村さん」

訊かなきゃ
宮本さんとの事

「宮本さんと知り合いみたいでしたけど、どういう関係なんですか?」

723 名無しリゾナント :2015/03/05(木) 12:52:54

目が合った譜久村さんは、気まずそうに逸らした

「……ごめん。言えない」
「え、どうしてですか!?」

私を引き込もうとしたのは宮本さん
その為に道重さん達をおかしくしたのも、きっと宮本さんのはず

その宮本さんと知り合いかどうかが言えないって
どうして?

「私はリゾナントを追い出されたんですよ!? それなのに
「今は駄目なの! 聖のワガママだって、勝手な事を言ってるってわかってるけど……いつか言う。だから、待ってて欲しい」

真っ直ぐ私を見る譜久村さん

その瞳から、後ろめたさは感じない
今の言葉が嘘だって思えない

だけど、 簡単に納得なんてできない

ウチはどうしたらいいの?

この瞳、信じていいの?

724 名無しリゾナント :2015/03/05(木) 13:02:53
>>720-723
全然生誕祝っていない内容ですが、ひとまずここまでです。
1年以上前の生誕作ですみません。

>>113の書き込みは私です。

>>133
ブラウザはプリインストールのSafariです。

>>137
リゾネイターシリーズの後に投稿する勇気がなく、タイミング待ちでした。

よろしければ、代理をお願いいたします。

725 名無しリゾナント :2015/03/05(木) 18:41:39
>>724
行ってきました

726 名無しリゾナント :2015/03/06(金) 01:40:47
■ ティンカンドラム -石田亜佑美X石川梨華- ■

「別の【獣】を出してきたときは、ちょっとびっくりしちゃったけども…」

鎧が、軋む。

「結局、それも見かけ倒し…」

見えざる巨人の、見えざる鎧が、聞こえぬ音を立てて軋み、歪み、悲鳴を上げる。
成長している。進化している。
新垣の知る頃とは、比較にならぬ、その破壊力。

もはや、これまでか。

『カムバック!バルク!』

鎧がひしゃげるのと、号令が発せられるのとがほぼ同時。

【空間跳躍】

その身を上空に転じた石田を、見えざる触手が追う。

【跳躍】

捕えられぬ。
触手は石田を捕えられぬ。
次々と【跳躍】し触手を翻弄していく。

再び【跳躍】
距離を取り、石川と対峙する。

727 名無しリゾナント :2015/03/06(金) 01:41:22
「おどろいた、今度は【テレポート】?まるで高橋もどきじゃん。」
「まだ、高橋さんには及びません。【読心術】も、ウチには無い、でも」

ざんと一歩前へ。

「ウチにはあなたの【獣】が見える。あなたのきもちわるい触手、一本一本はっきりと!」
「ハァ?いま、なんつったぁ?」
「ウチにはあなたの攻撃は通用しない。そういったんですよ!」
「アタシの…【獣】が、なんつったぁ?」

先端部ですら人の脚ほどの巨大な触手が群れをなして石田に襲い掛かる。
その尋常ならざる圧力を、軽やかにいなし、かわし、翻弄していく。

「無駄です、石川さん。私はまだ『もどき』かもしれない。
でも、あなたに対してならウチは高橋さんと一緒、あなたはウチらには勝てません。」

「へぇ?凄い自信だこと。」
うごめく触手その中央、石川が静かにこちらを睨む。

「そのわりにはアナタ、さっきから逃げ回ってばかりじゃなくて?」

「…」

「それってさぁ、直接アタシに触れる距離に【テレポート】してこれないってことじゃないの?」

「…」

「アタシの【獣】が見えるならわかるもんねぇ…、
アタシの周囲には、誰かが入れる隙間なんかないことが、ねぇ?
この子たちに守られている限り、アンタにはアタシを倒すだけの攻撃手段が、ないんじゃないのぉ?」

728 名無しリゾナント :2015/03/06(金) 01:42:13
沈黙が指摘の正しさを裏付ける。
かつて、高橋は田中の【共鳴増幅】により、研ぎ澄まされた【読心術】で、
見えない【念動力】の動きを読み切り、【瞬間移動】によって、石川の周囲に一瞬生まれた隙間を捉え、これを打倒した。
だが、今の石川に、その隙はない。
石川の周囲には、もはや他者が存在できるスペースが、無い。
巨大な触手の群れ、その根元、石川は、その中心にいた。

「だったらさぁ、これって我慢比べってことよねぇ?
アタシって、これでも結構執念深いの。
どうぞ、いつまででも、逃げ回ったらいいんじゃない?
アタシは、いつまででも、追いかけ続けるだけだからさ、ねぇ?」

『結構』執念深い?いやいや、見たまんま執念深そうだっちゃ…
でも、そんなの何にも怖いことないね!

「逃げ回る?とんでもない、そんなお手間は取らせません、石川さん。」

腰に手を当て、仁王立ち。

「攻撃手段なら!あります!」

「へぇあるんだ?だったらさぁ、さっさと、みせてもらおうかなぁ!」

再び、おぞましい圧力がうねり、石田に向かって殺到した。

729 名無しリゾナント :2015/03/06(金) 01:42:51
■ ティンカンドラム -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

730 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 00:57:27
□ ノーアイヴィー -石田亜佑美X石川梨華- □

【IB】、すなわち・・・

石田の目に映るもの。
今、目の前に居る、その凶事。

石川梨華

その女の、その胸囲。

おぞましく、美しく。
うぞめき、のたうち。
うねり、反り返る。

『乳房』

カントリー娘。で育ち、ROMANSで磨かれ、美勇伝で開花した。
それが、石川梨華の、真の、【能力】。

すなわち、

731 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 00:58:07
【幻想の乳(イリュージョナリーバスト;illusionary bust)】!

732 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 01:00:11
ぶつかり合う、乳と乳。
しかし圧倒的な質量差からか、石田の見えざる乳は空中に四散し、消滅した。

「あーあー、あっけなかったわね? 
ヘソは出てるのに乳はへこんでるって、どうなの?」

「…ウチからしたらそれだけの巨乳を操るほうが、よっぽど、おかしいんですけど」

「はぁ…まあ、いいわ…まだやる?もっと大きく『出せる』んでしょ?」

「…」

「え?うそでしょ?私なんかあんたくらいの年にはもうC〜Dはあったわよ?」

「出来ないとか、言ってないし。
ウチだって、杜の都の巨峰とか、正宗公が生んだスイカップとか、言われたことはあります。何回かは」

「今時そんな見え透いた嘘、たぐっちでもつかないわよ? 
…で?どうするの? …まだやるの?降参するなら、許してあげるわよ? 
そうね…『愛すクリームとmy プリン』のジャケ写の、恥ずかしいバニー服を着る程度で」

「やれるもんならやってみろ、こんちくしょう!!」

石田が吠える。
すると、地平線の彼方から駆けて来る、一匹の獅子。
その逞しい牙に咥えられた、パック状の物体は…

733 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 01:01:25
(ナレーション)あなた、最近乳揺らしてますか?

出生率の低下… 少子化問題… 無い袖も無い乳も触れない…

今、日本の女性が危ない…

しかし、そんな洗濯板な女性に救世主が!!

それが今回ご紹介する豆乳飲料、その名も…


「巨乳王」!!!!


日本に残された最後の秘湯と名高いあの「凡奇湯」の源泉で育てた黒大豆のみで作られた豆乳、そのイ
ソフラボン含有率は何と2981(フクパイ)ミリグラム!!

ここで実際にお使いいただいたお客様の声をお聞き下さい。

734 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 01:03:02
「いやー、最初は半信半疑だったんだけどね。飲んだ翌日からもー、バストがきつくてきつくて、バイ
ンバイン。最近は舞台でも巨乳の役ばっかなのよぉ。ありがたいねー。いくt…じゃなかった、後輩の
Ⅰ田にも勧めて、効果も出てるみたい」(神奈川県:眉毛ビームさん26歳)

「れいな通販の事は大体知っとうけん。こんなんインチキやろ、って。やけん、これもただの豆乳っち
ゃろって飲んでみたら、もうまりんの目つきが昨日と違いよる。これでライブでもお乳ぷるんぷるん揺
らせるっちゃんね。あ、おかまりにはあげんとよ?」(福岡県:ボーボーたい!さん25歳)

735 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 01:04:50
ともかく、その「巨乳王」を荒獅子から受け取ると、一気に飲み干す。これで石田の乏しい胸も…

「って、ぜんぜん大きくなってないじゃん」

「こ、効果には個人差があるんだから!!」

そう。こういうものは、毎日飲むことではじめて効果が出るのだ。
ローマの道も一歩から、万里は一日にしてならず、しゅごキャラエッグのアミュレットハートはぺったんこ。

しかし石田の攻撃はここで終わりではない。
突然、石田の幻想の乳が天を衝くほど上向き、そしてグランドキャニオンのような峡谷を作る。そこには、
鉄巨人の限界まで寄せて上げる努力と技術が。

「なによ!そんな見せ掛けの技には騙されないんだから!!」

あまりにもお粗末な仕掛けに啖呵を切った石川。
たがその次の瞬間、石川はとんでもないものを目にすることとなる。

「な…なんですってえ!?」

ふわふわと、石田の目の前に降り立った、中空の藁人形。
無数の管が、石田の乳に陰影をつけ、膨らんでいるように手を加える。フォトショップもびっくりの画像
加工に、石川も空いた口が塞がらない。

「どやっ!これがウチの…『Dシステム』だ!!」

736 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 01:05:29
【IB】たちの活躍によって、貧しい石田の乳は、あたかもグラビアアイドルのそれであるかのように偽装される。

すなわち、

(石田の乳を)D(カップに偽装する)システム

現代科学の粋を集めた技術が今、石川に襲い掛かろうとしていた。

737 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 01:07:28
      WORNING


この物語のキャラクター設定は、■シリーズにおけるオリジナルの設定とは著しく
異なっております。
作品のイメージは一端捨てて、新たな気持ちでお楽しみ下さい。

738 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 01:09:33
>>730-737
□ ノーアイヴィー -石田亜佑美X石川梨華- □  でした
…苦情は受け付けます

739 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 10:02:28
■ ストロウドオル -石田亜佑美X石川梨華- ■

『カムオン!スカークロウ!』

石田の眼前、空気が渦巻く。
ゆっくりと立ち上がる、物言わぬ、大きな案山子。
無数のストローの束が、そのまま人の形を成したかのような、異形。

「へぇ?そのぐにゃぐにゃしたのが『攻撃手段』?
触手には触手ってことかしら?でも全然甘いんじゃない?」

石川梨華は、真っ赤なマニキュアの光る、
その長い指をくるくると回し、石田の案山子を値踏みする。

「その藁人形の手と足、それと、頭も伸びるのかしら?
全部合わせても、たった5本だけじゃない?
それっぽっちで『攻撃』?それ以前の問題よね?
それっぽっちで、どうやって防ぐのかしら?アタシの【獣】をサ!」

石川の正面、触手の群れが立ち上がる。
巨圧がうねり、うち二本の触手が石田めがけて振り下ろされる。

『スカークロウ!アタックモード!』

主の号令に案山子は応える。
その両の腕を、ゆっくりと、上げる。

束ねたストローを、ざっくりと輪切りにしたような断面。
それが案山子の手のひらなのか?
襲いくる触手に、その指なき手のひらを向ける。

740 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 10:03:22
遅い。

とても間に合わない。

とても、防ぎきれない。


ずぼり。


その時、その断面に、指が、生えた。

指?ちがう。
黒光りする金属質な筒を、深い飴色の、木製品を連想する質感が包む。

これは、銃だ。

片手に5丁、合計10丁の、フリントロック。
かつて大西洋で暴れまわった、海賊たちが手にしていたかのような、単発銃。

『エイミーング!』

銃口が、バラリと向きを変える。
迫りくるその触手、左右からの一本一本へと。

『ファイヤ!』

轟音

741 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 10:03:59
触手が爆ぜる。
先端が千切れ飛び、一回転して、虚空に消える。
迫りくる脅威は、一瞬で消滅した。

『リロード!』

藁の断面から次々と抜け落ちる単発銃。
地面に跳ね、同じく虚空へと消えていく。

そして、新たな銃が断面に生え変わる。

スカークロウ、姿なき案山子の暗殺者、無言の、銃撃手。

742 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 10:05:07
■ ストロウドオル -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

743 名無しリゾナント :2015/03/07(土) 23:48:29
「だいじょーぶ? 朱音が〝なおして〟あげるー!」

「いたいのいたいのとんでけー!」

「ほら、もういたくないでしょ? おにごっこのつづきしよ!」

──

「なんで? なんで朱音とあそんでくれないの?」

「こっせつってなに? けがは朱音が〝なおした〟でしょ?」

「おれてるのにあそんだからわるくなった?」

「いたくなかったんでしょ? なおったんでしょ?」

「こわいってなによ!」

「朱音は〝なおして〟あげたのに!」

「ひどい!」

「もうあそんであげない!」

──

「朱音が力を使っても、みんなの傷は消せない」

「朱音は、なんで生まれたんだろう──」


なんという保全作だ

744 名無しリゾナント :2015/03/08(日) 16:51:13
■ ヘッジホッグ -石田亜佑美X石川梨華- ■

「おどろいた。銃が撃てる【獣】?
アナタすごいの持ってるのねえ。」

石川梨華が芝居がかった態度で大げさに驚いて見せる。

「でも、いまのは、たった2本。
アナタのその豆鉄砲みたいなのは?ああ10丁だけだったわね。
10丁あって、こっちの2本に精一杯って感じじゃない?
じゃあ次、こっちも10本に増やしちゃおうかしら…」

石川の周囲にうねる触手。
立ち上がり、反り返り、その先端を奔らせるべく、力をためる。

『スカークロウ!フォワード!』
案山子は石田を背に、迫る触手を阻まんと一歩前へ。

「さぁ!おてなみぃ!はいけええええええん!」

殺到。

10の触手がうなりをあげ、石田と案山子に殺到する。

完全不利な状況。
だが、ドヤ顔は、崩れない。

『スカークロウ!フルバースト!』

号令に案山子が応える。
無言の了解を、その身に示す。

745 名無しリゾナント :2015/03/08(日) 16:51:51
それは正に、針鼠のごとく、
全身から、無数に生え連なる―――

―――フリントロック、フリントロック、フリントロック!

火力を、数で、補う。

『エイミーング!ファイヤ!』

大轟音

10の触手の、その先端が。
爆ぜ、爆ぜ、爆ぜ、四散する、霧散する。
飛び散り、舞い散り、消滅する。

『リロード!』

無数の銃が滝のごとく抜け落ち、瞬時に新たな銃へと生え変わる。

『エイミーング!』

針鼠の、その針が。
無数の、銃口が。
先端を失った、その触手の根元、石川梨華へと。

『ファイヤ!』

746 名無しリゾナント :2015/03/08(日) 16:53:10
■ ヘッジホッグ -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

747 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 07:44:56
■ グレイトブレイド -石田亜佑美X石川梨華- ■

一斉掃射。
その無数の弾丸が、止まる。
虚空に、停止する。
被弾はしている。
いくつかの触手、その先端を、吹き飛ばしは、した。
だが、それでも、届かない。
それは、あまりにも、質量が、違いすぎた。

「うっさ…。音ばっかでかいけどさぁ…で、何が変わるわけ?」

案山子の打ち出す真円の弾丸、最終的に、その全てが阻まれた。

「もう、アナタもわかってるわよね?
そんなちっぽけな火力じゃ、せいぜい触手の先端を吹っ飛ばすことしかできない。」

根元に行くほど太くなる。
直径にしておよそ1m、巨木を思わせるその触手。
その巨塊に、阻まれる。

748 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 07:45:42
だが、石田の自信は、揺るがない。

「でしょうね。でも、石川さんの触手も素早く動かせるのは先端だけ。
その太い根元は動かせない、ちがいますか?」

ぴくり、石川が眉をしかめる。

「これは我慢比べなんでしょ?
スカークロウの弾が尽きるのが先か、石川さんの触手の再生が追い付かなくなるのが先か、
やってみましょうよ」

ざん、ふたたび仁王立ち、ドヤ顔。

「くくくく…」

石川が、嗤う。

「ばっかねぇアンタ…ねえ?アンタ、アタシがアンタごときにそんな時間使うと思うの?」

圧力、異様な圧力が石川の周囲に充満する。

「我慢比べぇ?やーめ!そんなのやめやめ!」

触手が石川の周囲に引き寄せられる。
殺意、質量をもった殺意が凝縮する。

「根本は動かないぃ?アンタさ、アタシがどうやってアンタらを追いかけてきたか、もう忘れたの?」

ドォオオオオン!

749 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 07:46:26
地響きとともに跳躍する、殺意の巨塊。

「まどろっこしいこたオシマイ!直接押し潰してやるよぉ!」

襲い来る、その巨塊に。

『ファイヤ!』

無数の銃口が火を噴く。
だが無駄だ。その巨塊は止まらない。
その火力では、阻めない。

一瞬で潰れ、のみこまれ、引きちぎられる、哀れな案山子。
触手が伸びる。
案山子の後ろ、もはや守る者のない、か弱く孤独な少女へと。

750 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 07:47:04
いやまだだ、少女にはまだ【空間跳躍】がある。
まだ逃げ切れる、そのはずだ。
さあ、はやく逃げろ。
いますぐ【跳】べ!

【跳】べ!



 いやだね!



少女は逃げない。
仁王立ち。
ドヤ顔は、崩れない。

獅子、鎧、案山子、全て阻まれた。
もはや、逃げ回るしか手は残されていない。
それでも、逃げない。
少女の自信は、揺るがない。
勝利への確信は、揺るぐはずがない。

なぜなら、少女は。
石田亜佑美は、一人ではない!

バツン!

破裂音。
広げた濡れタオルをしならせて空気を叩いた時のような。
その音が何倍もの音量で、周囲に鳴り響く。

751 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 07:47:36
内圧のかかった肉塊が、一気に切断されるときの音。
だがその音を耳にすることができたのは、『その場の3人のうちの2人』だけ。

「おそくなってごめん!亜佑美ちゃん!ウチも、やっと『捉えた』よ。」

直径にして1m、巨木を思わせるその触手、その根元から。

「なっ!なにさこれぇ!」

一刀両断

突然、上空から飛来したそれは、
きらきらと輝く水の太刀。
だが、それは『かたな』と呼んでもいいものなのか?

巨塊を両断した水の刃と、それを駆る小さな少女は、その勢いのままに地面に激突する。
衝撃音はない。
受け身。
音もなく地を転がる。
常人ならざるその技量。
立ち上がったその少女は、鞘師里保、そして…

ズシャン

その落下音の響き。
小柄な鞘師の肩に担がれた、その水の太刀、その切っ先は、はるか後方の地面にめり込んでいた。
人の腕ほどの身幅、人の指ほどの厚み…その刃渡り、ゆうに2mを超える。
巨大で長大な『水の化け物』。

そう、これは『太刀』なのだ。

752 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 07:48:20
かの時代の大太刀、人の身に余る長さ、人の身に余る重さ。
だが、もし振るうこと叶うなら、それはあらゆる【獣】を両断できよう。

今、まさに、『そうした』ように!

「石川さん、亜佑美ちゃんが、すべてを引き出してくれた。
ウチが、あなたの【獣】を『捉える』ために。
見えなくても、聞こえなくても、その、殺意は『観える』。
あなたの【獣】が、あなたの殺意が、ウチにはもう、はっきりと『観える』。」

「ぐぅ…くっ!」

「もう、あなたに、勝ち目は、無い。」

753 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 07:48:50
■ グレイトブレイド -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

大事を取り.scのほうへ投稿させていただきます。

754 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 19:23:41
本スレにて
本スレへの転載を提案してくださる方がコメントを残してくれているようです
書き込めるのに書き込まないというのはさすがに悪いかなと思ったのですが
もし転載していただけるならご厚意に甘えたいと思います

755 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 20:00:49
転載行ってきます

756 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 23:43:39
■ バスタアブレイド -鞘師里保・石田亜佑美X石川梨華- ■

『カムオン!リオン!』

再び現れる。
空気が渦巻き、見えざる獅子が、聞こえぬ咆哮を。
だが、鞘師には『観える』。

『リオン!ライディングモード!』

獅子の背に並ぶ鋭利な鬣が前後に分かれ、フラットな背が形成される。
【空間跳躍】、石田がその背に。

この日のために、そう、『あり得る可能性』、この日のために準備をしてきた。

見えざる【獣】を、『観る』ために。
見えざる【獣】を、『駆る』ために。

「鞘師さん!」
「うん!」

鞘師里保は、迷うことなく飛翔する。
巨大な水の太刀担ぎ、石田の後ろ、何もない、その空間へ。

両膝で、石田の背を挟みこむ。
ただそれだけを支えに、何もないその空間、その『気配』の上へと佇立する。

「行こう!亜佑美ちゃん!」
「はいっ!」

757 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 23:44:21
大太刀は、歩兵の武器である。
腕力では振るえぬその太刀は、脚によって、移動によって、振るわれる。
その身を晒し、その身を切らせる、だが、寸前でかわす、ながす、切らせない。
回避が、そのまま攻撃となる。
刀も、剣も、盾も、槍も、あらゆる得物を、人馬を、薙ぎ払う。

だが、それ以上に

『GO!』

かの太刀は

「おおおおおおおっ!」

馬上において、騎乗時において、絶大なる―――

もはや、そこに会話は無い。
石田は、ただ、突撃する。
左右から襲い来る触手を、『左右には』、かわさない。
ぶつかっても構わない。
だが、その突撃は、必要最小限、斜め前へ、斜め前へ、ゆるやかな弧を描いていく。
触手は触れない。
石田にも獅子にも寸毫とも、触れられない。

758 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 23:45:25
すべてが、断ち斬られる。
斬り、斬り、斬り伏せられる。
裂かれ、割られ、打ち倒される。

逆らわない。
鞘師の振るう、その太刀に。
石田と獅子、斬撃の度にかかる、その慣性に、逆らわない。
乗る、乗る、どんどん乗る。

鞘師の生む、その『計算されつくした慣性』に、すべてをゆだねる。
ただ、前へ!前へ!前へ!

「くっ!…くっそ!くっそ…」
石川梨華は、狼狽する。
怯えている。
恐怖を知らぬ、己が【獣】が、聞こえぬ悲鳴を上げている。

違う。
さっきまでとは、違う。
迫りくるその獅子は『違う』!

もう、逃げられない。
もう、遮れない。
獅子は!太刀は!もう!眼前に!

「くっそがああああああああ!!!」

759 名無しリゾナント :2015/03/14(土) 23:47:03
>>756-758

■ バスタアブレイド -鞘師里保・石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。


以上
代理投稿願います。

760 名無しリゾナント :2015/03/15(日) 00:09:45
代理投稿行ってきます

761 名無しリゾナント :2015/03/16(月) 22:52:03
■ ワンサイド -石田亜佑美X石川梨華- ■

71

それが激闘の、いや、一方的な暴力の、繰り返された回数。

断ち斬られ、再生し、また断ち斬られ…
追い立てられ、押し込まれ、攻め立てられ…
やがて、再生も滞り、『現象化』を維持することすら、出来なくなるまで、の…

想定内。
全てが、想定内。

荒い息。
黒のエナメル、べっとりと血に染まる。
肩が、ない。
いや、わずかに繋がり、ぶら下がっている。
消えかかる最後の触手は、両断されながらも主を守り、その斬撃を右肩までに、食い留めた。

ごふっ…

吐血。
泥のような血痰が、とめどなくあふれる。
もはや、立ち上がることも、できない。

だが、まだだ。
その眼は、光を失わない。
憎しみの、執念の、その光を。

762 名無しリゾナント :2015/03/16(月) 22:52:47
石田亜佑美は、視線を、真っ向から受け止める。

「石川さん、私、嘘をつくのが下手な人間なんです。」

既に言葉も発せぬ、その凶敵に、語り掛ける。

「私たちは本当に、だれも高橋さんの行方を知りません。
でもきっと、あなたは信じない。
いえ、言葉は信じても、それでもきっと、あきらめない。
何が何でも、私たちから情報を引き出そうとする…
…力づくで…」

「……」

「戦ってみてよくわかりました。
あなたはそういう人だ。
一回負けたぐらいのことでは、あなたは決してあきらめない。
死ぬまで…死んでも…あきらめない。
何度でも、私たちを襲う。」

鞘師は、石田に乞われ、二人の会話が聞こえない距離を、取った。
危険は承知、油断ではない。

「ウチ…私は、かつて高橋さんと戦い、負けました。
…完敗でした。
だから、私はもっと強くなって…いつか…
そのつもりで高橋さんの申し出を受けました。
でも正直…もうそれ、どうでもいいんです、私。」

凶敵から、目を離す。
天を見上げる。

763 名無しリゾナント :2015/03/16(月) 22:53:39
「みんなのことを守るのは、いつか、高橋さんに勝つためだった。
でも、そんなの、一瞬で忘れちゃった。
だってみんな、みんな大好きだから。」


 石川さん、あなたでは、絶対に、高橋さんには、勝てません。


「それでもあなたはあきらめないでしょうね…
だから、私は、迷うことなく『みんな』をとります。」

石田は懐に手を入れる、小さな『なにか』を…。

「私は高橋さんの行方を知らない。
でも、約束してくれました。」

 いつか再び会ってくれると
 いつか私が強くなって…

「高橋さんは、いずれ自分は共鳴を失うとおっしゃっていました。
それでも会ってくださるとおっしゃった。
これは、そのときに…」

ぽとりと石川の前に落とす。
血濡れのエナメル、その胸元に。

「私は何もしゃべりません。
ただ、大事な頂き物を、どこかで落としてしまっただけ…
それを、誰が拾おうが、どう調べようが、その人の自由。」

764 名無しリゾナント :2015/03/16(月) 22:54:37
もはや、再び見ることは無い。
その凶事を。その凶敵を。
踵を返す、背を向ける。

「石川さん、高橋さんに会ったら…いえ、なんでもありません。」

そうだ、謝る必要などない。
何も、伝えることなどない。
飲みこんだ言葉の代わり、白い紙片が、はらりと。
単語帳?
落ちる紙片を目で追いながら、歩み去る。



石田は元気です
石田は、リゾネイターのみんなが、大好きです

765 名無しリゾナント :2015/03/16(月) 22:55:47
>>761-764
■ ワンサイド -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

以上
代理投稿願います

766 名無しリゾナント :2015/03/17(火) 01:24:39
代理行ってきました

767 名無しリゾナント :2015/03/17(火) 19:26:38
>>678-688 の続きです



ダークネスの幹部「煙鏡」が流したアナウンスは、もちろん工事区画内の里保にも届いていた。
それ以前に、激しく舞い上がる炎の柱が鉄板の壁の向こうにはっきりと見ることができる。

「…厄介なことになった」

そう言いつつ、ちっとも困っている様子のない女。
寧ろ、元から困っているような表情をしているので判別が難しい。

「…あなた、リヒトラウムの管理者って言うなら。この状況はまずくないですか」
「確かにね。どうしよう」

里保の心は、「煙鏡」の悪意に満ちた声を聴いた時からすっかり落ち着いていた。
とてもではないが、こんな場所で遊んでいる時間はない。そう言った意味の落ち着きではあるが。

不意に、メロディーが流れる。
女が面倒臭そうに、自分のポケットから携帯を取り出した。

「もしもし…はい。はい…ああ、そうですか。了解」

実に、素っ気ない対応だった。
一体どんなやり取りがあったのか。今日は燃えるごみの日なんで、ごみは分けて出してください。
そんなことを言われていても、おかしくないような態度。

768 名無しリゾナント :2015/03/17(火) 19:28:05
「私は、これで帰るから。あとはよろしく」
「えっ…ええーっ!?」
「なんか、『先生』と今放送流してた子との間で話がついてたみたい。堀内のおじさんは、顔真っ赤
にして怒るだろうけど」

呆気に取られる里保を他所に、女は背を向け空を見上げる。
すると、程なくして慌しく風を切る音とともに、一機のヘリコプターが姿を現した。

「そんな!管理者の人がこんな状況で帰るなんて!!」

ゆっくりと高度を下げてゆく、黒い装甲の機体。
落とされた縄梯子に手をかけようとする女に、里保は非難の声をあげた。
しかし、返って来た言葉は。

「所詮、契約に過ぎないから。契約が終われば、何の義理もない。そもそもうちらは、基本的に『外』
の人間。あんたたちの抗争には…関わらない」
「外…? それってどういう」
「そうそう。さっきの話だけど。『本当の実力』、こんなところで出さなくてよかったね。あいつらは多分、
強い」

プロペラが巻き起こす強い風に目を細めながら、そんなことを言う女。
里保の脳裏に甦る、赤い瞳。制御しようのない、狂気。それを振り払うように、慌てて首を振った。

「それじゃ。楽しかったよ」

ちっとも楽しそうな顔ではないが。
それだけ言い残すと、女は左手と左足を梯子に掛けたまま、空に舞い上がった。

769 名無しリゾナント :2015/03/17(火) 19:29:40
去り行くものを見送る余裕などない。
それを教えてくれるかのように、遠くの火柱がごうごうと唸りつつもその勢いを増してゆくのが見えた。

…急がないと!!

仲間たちのこともあるが、今のこの状況で最も懸念すべき事態。
リヒトラウムの利用客の安否。
まずはここから出て状況を確認しなければならない。
区画を隔離している鉄板の壁まで走り、扉を開けた里保の前に飛び込んできたものは。

半狂乱になった人たちの、逃げ惑う姿だった。

半径数メートル、天を突く高さの炎の柱。それがいくつも、立ち上っていた。
それがアトラクションの建物を焼き尽くすような光景を見て、正気を保てるような普通の人間はいな
い。それが、如実に現れていた。

我先に、と走り、逃げる人々。
それが、幾重にも連なり、波が押し寄せるように続く。
何だ。何なんだ、これは。しばし思考停止に陥っていた里保の視線は、波に呑まれ、躓き転んでしま
った小さな少女へと向けられた。

「あぶないっ!!!!!」

下手をすると、後続の人間に踏み潰されてしまう。
危険を察知し少女の下へ駆けつけようとする里保。しかし、目の前を横切ろうとした男と衝突し弾き
飛ばしてしまう。

770 名無しリゾナント :2015/03/17(火) 19:34:31
「あっ、すいま」
「何やってんだよてめえ、ぶっ殺すぞ!!!!」

謝ろうとした里保に投げつけられる、罵声。
立ち上がった男は、怒りもそのままに振り返ることすらせず再び走り出す。
転んでいたはずの少女は、姿を消していた。彼女もまた、この異常な状況の中で立ち上がり逃げる道を
選んだのだろう。

まるで戦場の真っ只中にいるような、そんな感覚すら覚える。
炎を、消さなければ。
そう思い、炎の燃え盛る場所へと向かった里保は思いがけない事実を知ることになる。

ある一点から、噴水のように吹き続ける炎。
しかしそれを目の前で見た里保は、大きな違和感を覚えた。
よく見ると、その炎は燃え広がるだけで建物をまったく損傷させていなかった。試しに手を翳すと、よ
くわかる。

一種の、攻性幻術。

範囲内の相手に、攻撃性のある幻を見せる。
燃え盛る炎はもちろんのこと、火の爆ぜる音、そして高熱。
そのすべてがまるで現実であるかのように相手に襲い掛かる厄介なものだ。
訓練を受けていない人間がこれを見破ることはほぼ、不可能だろう。

炎の発生点には、チョコレートの箱くらいの大きさの機械が据えつけられていた。
この機械から燃え盛る幻の炎を生み出ているのだろう。
何かを合図に、予め施設各所に仕掛けられていた機械を作動させれば、これだけの広大なテーマパーク
を「あたかも火の海に包まれたように」見せかけるのも容易。

771 名無しリゾナント :2015/03/17(火) 19:36:11
ただ、その目的が解せない。
中の客を追い出すのが目的なら、もっと別の簡単な方法があるはず。
放送機器を乗っ取っているのなら、偽の情報を出して退出させればいい。
人々をパニックに陥れるだけの愉快犯なのか。
とにかく、この騒動を引き起こしている人物と対峙しないことには、何もわからない。
かすかに聞こえる心の声は、一箇所に集まっている。そこで、おそらく。

その場で待ち受けている未来を、里保はまだ、知らない。

772 名無しリゾナント :2015/03/17(火) 19:38:26
>>767-771
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

773 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 01:15:58
■ アンチマテリアル -鈴木香音・飯窪春奈・佐藤優樹・工藤遥X石川梨華- ■

「目標、ロスト…ふぅ…石川さん、引き上げたよ。」
塩辛い、工藤遥の声が白い狼の胸腔あたりから聞こえてくる。

「いや、なんにせよ、良かったよ。
こんなところで…『そいつ』をぶっ放さなくて済んで、さ。」

鈴木香音は、足元に目をやる。
空調の室外機と室外機の間、巨大な白い狼が伏している。
その隣には、佐藤優樹。
同じ姿勢のまま、静かに伏している。

静かに…
…静かすぎる。

一言も発しない、身じろぎ一つしない。
あの、佐藤優樹が、『沈黙して』いる。

眠っているのか?
いや、反対だ。
彼女は、覚醒している。
この場のだれよりも、集中している。

沈黙の原因は、彼女に与えられた役割に。
与えられた、その『武器』に。

 『PRCS-MG99RT』対物狙撃銃

装甲車すら貫通する大口径徹甲弾を、2000m先の目標にすら到達させる、死神の鎌。

774 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 01:16:29
「まーちゃん、終わりだよ。
よく頑張ったね、もう、大丈夫だから。」
飯窪が佐藤のふくらはぎに、ポンポンと軽く触れる。

「……スゥ…ふーーーーーーっ…」
大きく息を吐く。

「ピヒャー!ちょーきんちょうしたー!」
けらけらと笑う。
そのまま、驚くほどの手際、弾倉を外し、照準器を外し…
あっという間、巨大な死神を解体していく。

「くどぅーもスポッター、お疲れ、もう【変身】解いていいんじゃない?」
観測手の役を終えた白狼にも声をかける。
「ああ、そうすっかな。」
のそりと起き上がる。

「いや、それにしても…この距離で、よく細かい位置関係まで把握できるもんだね。」
鈴木香音は額に手をかざし、河川の先、はるか遠方に目を凝らす。

「アタシにゃぜんぜんわかんないけど。」

「ま、ハルも最初はビビったもんすよ。」

冷気が立ち込め、白い霧の中から、びしょ濡れの工藤が現れる。

775 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 01:18:12
「いちおう、スコープも測距儀も用意してあったんすけどね、裸眼のほうがよくわかるっつう…
ただなんか色の感じ方がいつもと違うのが、ん裸眼?いや『狼』の頭だから…」
「あは、そこどっちでもいいわ」
「まとにかく、『狼』の頭で見るときは、すげー遠くまで、はっきり見えるんす。」
「ほー、犬科ってあんま視力いいイメージないけど、『狼』だからかね?」
「さぁハルも知らないっす。」
「すっごいね!せんびきがんだね!」
「千匹?千里眼でしょ?それ。」
「そう!せんびきがん!」
「いやだから千里…ま、いっか…」

すべては想定されていた。

逃走中の会話、『トラック』という単語。
都内いたるところ、彼女たちは移動可能な『武器庫』を用意していた。
それぞれ、明確な意図をもって厳選され、整備された装備。

「石川さんの【念動力】にも、限界はあるのよ。」

新垣の教え。
石川梨華に通常の小火器は通用しない。
だが、例えばどうだ、重機関銃のような、大口径弾なら。
もっと強力な、徹甲弾なら。

鞘師と石田の連携、大太刀による、白兵。
佐藤と工藤の連携、徹甲弾による、狙撃。

そう、最初から勝敗は決していた。
石川梨華には、万に一つも、勝ち目は無かったのだ。

776 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 01:19:07
――――

「あーあーあー、ズタボロだったね…」
「あ?ああ…」

「で、どうすんの?」
「なにが?」

「やる?」
「別にいいっしょ。」

「そだね、いいね別に。」
「めんどくせー。」

「オバさんには?」
「知らねー。」

「怒ると思う?」
「…さあね…まあ…出したくて出した命令ってわけじゃねーだろうよ…」

「くくく…優しいんだー。」
「…ばかじゃねーの…」

「ねぇデザートは?」
「あん?」

「けっこう食べ応えありそうだったよ、あの二人。」
「あーパス…めんどくせー…どうせ邪魔が入る。」

777 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 01:20:32
「あっちの奴ら?じゃああっちから先に?」
「遠いだろ、めんどくせー。」

「そか、じゃあ、やめとく?」
「ああ、引き揚げだ」



―――でも、あたしはチョット、興味、あるかも?

778 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 01:22:59
>>755>>760>>766
ありがとうございます


>>773-777
■ アンチマテリアル -鈴木香音・飯窪春奈・佐藤優樹・工藤遥X石川梨華- ■
でした。

以上代理投稿願います

779 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 11:03:52
完了
最後に石川さんと話していたのは(■■においては)新キャラなのか
気になりますね

780 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 20:14:22
■ ダスヴィーダニィーヤ -石川梨華・吉澤ひとみ- ■

アタシたちは最強

【念動力(サイコキネシス;psycho kinesis)】

アタシたちの能力。
能力の中で最も戦闘に適した、万能の力…
すべてを遮り、すべてを跳ね除け、
ねじ伏せ、叩き伏せ、引き千切り、噛み砕く!

そう、アタシたちは知っている。
互いの本当の姿を。

【幻想の獣(イリュージョナリービースト;illusionary beast)】

美しいわ。
二対の腕と二対の脚、背中から不規則に乱立する長く鋭い棘。
そしてもちろん、その大きなお口も…。
―――アタシだけが知っている、あなたの本当の力。

美しいでしょう。
どこまでも伸びる、アバラの浮き出た無数の触手。
規則的に並んだ吸盤、その中に潜む鉤爪も…。
―――あなただけが知っている、アタシの本当の力。

781 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 20:15:23
アタシたちは最強
二人なら、怖いものなんてない
アタシたち、二人が最強

ああ…それなのに…なぜ?
アタシたちは最強…なのに、なぜ?
なぜ、高橋に…
高橋なんかに…
なぜ、アタシを残して…
いえ、いいわ、それは、もういいわ…

ええ、必ずアナタを追いつめる。
見つけだして、殺してあげる。
必ず、必ず、殺してあげる。
せいぜいお逃げなさいな、アナタの【テレポート】で。
でも、一瞬でも逃げ遅れれば、アタシの【獣】がアナタを捕らえる。
アナタををねじ伏せる、アナタを引き千切る、ぐちゃぐちゃに…
ぐちゃぐちゃに…ぐちゃぐちゃに…ぐちゃぐちゃに!!!

782 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 20:16:55
■ リゼントメントアンドリゼントメント -石川梨華・吉澤ひとみ- ■

そうか…そうだったんだ…ごめんね高橋…
アタシ、ずっと、あなたを逆恨みしてた…

逢いに来てくれて、ありがとう…

そう…吉は「一抜け」したのね…

それが"D"を"人類"を、"A"から"人類"から…、そう信じて…

でも…それでも…ごめんね…ごめんね高橋…
アタシは…それでも…あなたを…あんたを…アンタを…





…許せない…





許せない…許せない…許せない…許せない!

…ぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!

ゆるぜるわげねええええだろおおおおおがああああ!!!
あああああごのぉおおおメスザルがあああああああ!!!

783 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 20:18:02
ぐちゃぐちゃに!
ぐちゃぐちゃに!

ぐっちゃああああぐっちゃああああにぃいいいいい!!!

だあああああがああああああはじいいいいいいいいいっ!!!

784 名無しリゾナント :2015/03/18(水) 20:20:09
>>780-781
■ ダスヴィーダニィーヤ -石川梨華・吉澤ひとみ- ■
>>782-783
■ リゼントメントアンドリゼントメント -石川梨華・吉澤ひとみ- ■

でした。


以上代理投稿願います

>>779
ありがとうございます
会話に石川さんは含まれていません

785 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 00:55:07
いってきましたよー

786 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 11:56:34
>>767-771 の続きです



「いったい…どういうことなんだ!!!!!!」

会長室から聞こえてくる怒鳴り声。
部屋の主の直属の部下たちが、思わず顔を見合わせる。

ベーヤンホールディングスの総帥にして、関連会社数百社を束ねる会長。
ふてぶてしいまでの貫録を常に崩さない彼が、取り乱しているということは。
社員たちが抱く一抹の不安、それはすでに現実のものとなっていた。

「…もういい!貴様、明日もその椅子に座っていられると思うなよ!?」

不明瞭な相手の返事を遮り、受話器を机に思い切り叩きつけた。
それでも、部屋の主・堀内の怒りは収まりそうに無い。

「何が契約の終了だ…一方的に終了できる契約などあってたまるか!」

堀内の電話の相手は、リヒトラウムの警備部長。
彼の話によると、リヒトラウムの「有事」に備えていたはずの「能力者」が、自らが所属する組織の長の意
向により契約を終了する旨を伝えて立ち去ったのだと言う。それだけならまだいい。
問題は、リヒトラウムに複数の能力者が留まっているにも関わらず、という点だ。

警備部長の話によると、その集団は何らかの目的で敷地内に侵入し、あまつさえ施設の放送設備をジャ
ックしているのだという。まさか「あれ」の存在に気づくことは万に一つもないだろう。それでも、不安の芽
はたとえ小さなものでも摘んでおかなければならないはずだ。

787 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 11:58:00
何のために大金を叩いて契約したと思ってる?!
全て、大型テーマパークという上物で隠した「あれ」に対する万全の警備のためじゃないか!
それを、こちらの事情などお構いなしに一方的に契約終了だと?冗談じゃない!!

抗議の言葉を募らせながら、堀内と「先生」を繋いでいたエージェントの携帯に繋げようとするも。
オカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイツカワレテオリマセン…

最早怒りを通り越して、笑えてくる。
彼らはもう、堀内と話すつもりはないということを、彼は瞬時に理解していた。

「ふ…ふふ…まあよいわ」

気を取り直し、もう一度受話器を取りボタンを押す。
あちらが駄目なら、こちらに頼るまで。
この国を支える「五本の指」の一指を無碍にしたこと、必ず後悔させてくれる。
巧みに言葉を操り、両陣営の抗争を誘うのもいいかもしれない。
逸る嗜虐心を抑え、相手の声を待った。

「…何か、御用でしょうか?」

相変わらずの愛想のない声。
堀内は舌打ちしたい気持ちを我慢し、話を切り出す。

「しばらくぶりだな。私だ。堀内だ」
「ああ、ご無沙汰しております」
「早速だが面倒なことになった。リヒトラウムに、得体の知れない能力者が複数、侵入したらしいんだ。何
とかできないか」

相手の返答は無い。
堀内ははじめ、想定外の出来事で言葉が出ないのだと思っていた。
ところが。

788 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 11:59:32
「『金鴉』さんと『煙鏡』さんのことですか。それは大変ですね」
「な…」

二の句が継げないのは堀内のほうだった。
まず、電話の相手がリヒトラウムの、いや堀内をはじめとした政財界の大物たちが隠していた「あれ」の危
機に対して何の感慨も抱いていないと言うこと。次に、侵入した能力者が堀内たちが名前すら聞きたくない
二人の札付きだということ。そして何よりも、その事実を相手が既に把握しているということ。
結果、瞬時に堀内の顔が憤怒に歪んでゆく。

「な、な、何を言っている!!」
「どうもすみませんね。彼女たちが少し前からそこのテーマパークに興味を抱いていたのは知ってたんですが」
「しかもよりによって『金鴉』に『煙鏡』だと!?早く何とかしろ!今すぐにだ!お前のところの能力者を
総動員してでも、あいつらを排除するんだ、いいな!?」

喉が裂けんばかりに怒鳴り散らす、堀内。
彼の脳味噌が噴きこぼれるのも無理はない。
彼には、いや、自らをブラザーズ5と称する面々には。過去に、ダークネス、それも「金鴉」と「煙鏡」に
煮え湯を飲まされた過去があったからだ。

789 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 12:00:50


まだ、二人の能力者が「首領」により謹慎処分を受ける前の話。
堀内たちブラザーズ5はとある大きな案件を抱えていた。紛争により血で血を洗う泥沼状況の、某東欧の小
国。保守派と革命派はともに物資に乏しく、あらゆる武装兵器が飛ぶように売れる有様だった。その保守派
への兵器輸入を、ブラザーズ5の息のかかった総合商社が一手に引き受けることになったのだ。

最後の交渉を、海外の高級リゾート地で行うことになり、その会場の警護ということで例の二人組が派遣さ
れることになった。当時まだ準幹部としての地位しかなかった彼女たちが抜擢されたのは、彼女たちの可能
性、そして何よりも当時は組織に粛清の嵐が吹き荒れていてそれどころではなかったというのが理由だった
のだが。

ところがと言うか、やはりと言うか。
任務は失敗に終わる。革命派の襲撃があったのだ。
二人は、よく戦った。襲撃者は一人残らず、無残な死体となって転がった。
ただ、一つだけ問題があったとすれば。その山のような屍の中に、なぜか保守派の幹部のものが一体、あっ
たということ。
当事者たちはわざとではないと嘯いたが、後に、

「だって自慢するんだもん」
「あのおっさん、口臭いねん」

と漏らしたことから故意に戦闘に巻き込み殺害したことが判明する。

当然堀内たちは激怒した。
儲け話がふいになるどころか、下手をすれば国際問題に発展する可能性すらあった。
結果として彼らの東奔西走ぶりとダークネスのフォローが利いてか、取引が流れることはなかったものの。
「金鴉」「煙鏡」という名前は彼らの中に一種トラウマ的な響きを持つようになった。

790 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 12:02:01


で、今回の件である。
堀内が猛り狂うのも当然と言ったところなのだが。
それに対する電話越しの彼女の反応は。冷ややかな、ため息。

「申し訳ないのですが、こちらもそれどころではないので。そうだ。あなたたちが我々に内緒で雇っていた
『先生』のところの能力者にでもお願いしたらどうですか?」
「き、貴様!よくもそんなことを!!」
「もしかして、断られたのですか? まあ…彼女たちも多忙でしょうしねえ」
「は、はははははは!!!!!!!!!!」

人間、あまりにも理不尽な怒りに包まれると笑いすらこみ上げてくるという。
堀内の今の状況も、まさにそれだった。

「話にならんな!!!!貴様じゃ埒が開かん、『首領』を出せ!!!!!!」
「生憎、席を外しておりまして。まあ、この件であなたとお話になることはまず、ないでしょうけど」
「なら貴様の発言!『首領』も含めた組織の総意と思っていいんだな!?」
「…構いませんよ」
「そうか!そうか!!貴様らは表面では我々にへこへこしておきながら、裏ではしっかり舌を出してたわけ
だな!!!!いいだろう、我々を甘く見ていると…」
「ご用件はそれだけですか。じゃあ、長話はこれで。私も、そこまで暇ではないので」

まるで次に堀内が何を言うかを予想していたかのように。
絶妙な、堀内からすれば最悪のタイミングで電話は切られてしまった。

791 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 12:03:58
「…くっ、そがぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ぶつけるはずだった怒りのやり場も見つからないまま、獣のように吠える堀内。
しかし。気を取り直す。気持ちを、切り替える。

あいつは。我々が切り札、「あれ」を使わないと思っている。いや、使えないと思っている。

だからこそ、あのような舐めた口を利けるのだ。
確かに、「あれ」は先程まで話していた女が開発し、そして秘密裏に堀内たち5人の権力者に引き渡された
ものだ。
そこには開発者としての性能の把握、つまりおいそれとは使えないだろうという「常識」が思考の根底にあ
るに違いない。

悪童たちが何を目的にリヒトラウムに乗り込んだのかはわからない。
ただ、たとえ目的があれの掌握だとしても。案ずることはない。あのような連中に、使いこなせるはずがな
いのだから。
むしろ、奴らが妙な真似をする前に、こちらが使ってやる。

ノートPCを起動させ、ボタンを押す。
モニターに現れる、四人の同志たち。

「どうした」
「…使うぞ。『ALICE』を」

堀内が発した言葉に、しばし言葉を失う四人。
しかしその顔は、絶望など微塵もない希望。躊躇のない、好奇心。
そういったものに、溢れていた。

792 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 12:07:28
「そうか。いよいよか」
「リヒトラウムに緊急事態が発生した。最早一刻の猶予もない」
「まあ、使う時が少しだけ早くなっただけだ」
「幸い、ダークネスの有力者たちは本拠地に固まってる。一掃のチャンスだな」

彼らは、むしろ今が好機だとばかりに、口々にそんなことを言う。
体よく能力者を使っていた彼らの、傲慢のさらに向こう側にある根本的な感情。

恐怖。

自分たちとは、まったく異なる存在。
その異質さに、彼らは恐怖していたのだ。
だからこそ、決断する。やつらを完全に飼い慣らす必要があると。

「…ただ使うだけじゃない。あいつらに最大限の屈辱を与えてから、使ってやるさ」

能力者などというバケモノどもに、教えてやる。この地上に君臨するのは…我々だ。

堀内の暗い情念は既に、闇の底で蠢きはじめていた。

793 名無しリゾナント :2015/03/19(木) 12:08:13
>>786-792
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

794 名無しリゾナント :2015/03/23(月) 14:05:09
>>786-792 の続きです



施設各所から吹き上げる炎の柱は、光の国の居城前からもはっきりと見ることができた。
炎の根元がどういう状況になっているかは、想像しなくても理解できる。

「どうしよう、このままじゃ遊びに来た人たちが!!」
「とにかく、助けなきゃ!!」
「その必要はないね」

リゾナンターたちの言葉を遮るように、一人の少女が目の前に降り立つ。
へそ出しショートパンツという軽装の、ポニーテール。
その顔には、見覚えがあった。

「こいつ…この前の譜久村さんに擬態してた!」

亜佑美が、思い出す。
確かに少女の顔はあの時の襲撃者のそれによく似ていた。が。

「ざけんな。あんな出来損ないと一緒にすんなって。まいいや、”のん”が面白い場所に、連れてってあげる」

それだけ言うと、右手をリゾナンターの面々に翳す。
何かの攻撃か。身構えた一同だったが、次の瞬間には少女は姿を消していた。

795 名無しリゾナント :2015/03/23(月) 14:05:45
「何やったと、今のは…」

衣梨奈がそう言ってしまうほどに。
思わせぶりな登場の仕方にしては、拍子抜けな結末。
姿を消して不意打ちでも食わす、というわけでもなさそうだ。
しかし、傍らにいた優樹は気づいていた。重大なことに。

「生田さん…」
「何、優樹ちゃん」
「みんなが、いなくなっちゃいました」
「え!?」

優樹の言うとおりだった。
姿が、ない。
香音。春菜。遥。さくら。
四人の姿が、一緒に消えていたのだ。

796 名無しリゾナント :2015/03/23(月) 14:06:21


視界が、歪んだと思ったら次の瞬間に。
香音は、目と鼻の先に自分によく似た人物が間抜けな顔をして突っ立っていることに気づく。

「ひゃあっ!?」

普段は滅多に出さない、女の子らしい声。
驚き後ろに飛び退くと、正面の相手も同じような格好で後ろへと飛んだ。

「もしかして…鏡?」

言いながら、右手を上げてみる。
やはり同じように、左手を上げるぽっちゃり娘。
間違いない。上げた手を正面につくと、ひんやりとした感触が伝わった。

「みんなは?」

辺りを見回す。
しかし目に映るのは、たくさんの戸惑っている香音だけ。
上下左右、あらゆるところが鏡張りになっているようだ。

― 鈴木さん、大丈夫ですか? ―

心の声が、訴えかけてくる。
この声は。

797 名無しリゾナント :2015/03/23(月) 14:07:26
― 小田ちゃん? ―
― はい。今、どこにいますか? ―
― 何だか鏡だらけの場所にいるみたいで ―
― 私もです。どうやらミラーハウスみたいな場所に転送されたみたいで ―

「ちっ、四人しか転送できなかったか。しょぼい能力だししょうがないか」

そこへ割り込んでくる、少女の声。
先ほど香音たちの目の前に現れたあの少女のものだ。

「こんな場所に連れて来たのは、あんただね!」
「そうだよ。お前らが知ってるとおり、のんの能力は『擬態』。お前らの姿になら、いつでも化けられる。
鏡だらけのミラーハウスでそんな力を使われたら、どうなると思う?」

― 鈴木さん! 飯窪です! その人はきっと、私たちに擬態して混乱させるつもりです! ―

横から聞こえる、甲高い心の声。
さくらの他に、春菜も連れて来られたのか。敵の少女は確か四人連れて来たと言っていた。となるともう
一人、ミラーハウスにいるはず。

「鈴木さん!みんな!!ハルのところに合流してくださいっ!!」

鏡の向こうから、大声で叫ぶハスキーボイス。
最後の一人は遥だったか。擬態を得意とする相手、しかし春菜と遥がいればもしかしたら。

798 名無しリゾナント :2015/03/23(月) 14:08:24
「わかった!こんな鏡なんてすり抜けて…」

香音の持つ「物質透過」があれば、鏡の障害などものの数ではない。
勢いよく鏡に向かって突っ込んでいった結果。

殴られた。

走りこんだ香音と同じようにこちら側に向かっていく彼女の鏡像は。
途中で動きを止め、それから「鏡」の世界の外側の香音に向かって、綺麗な右ストレートを決めたのだ。ひ
っくり返り倒れる香音。
香音が鏡だと思っていたのは、少女が香音に「擬態」した結果のもの。

「けけけ、騙されてんじゃねーよ。ばーか」

明らかに香音を馬鹿にした言葉を残し、少女は足早に走り去ってしまった。

鏡像と、「擬態」。この組み合わせは。
早く他の三人と合流しないと、まずいことになってしまう。
殴られたダメージはそれほどではない。おそらく途中で「物質透過」を使ったせいだろう。気を取り直し、
立ち上がる。聞こえてくる心の声を頼りに、香音はすぐ側のの鏡を通り抜けていった。

799 名無しリゾナント :2015/03/23(月) 14:08:59
>>794-798
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

800 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:36:40
リゾナン史を編むということは砂漠でオアシスを探す行為に似ていると私は思う。
何千何万と残された膨大なリゾナン文書の中からたった一つの真実を見つけたと思った次の瞬間、他の研究者によって新説をぶつけられた経験が何度もある。
その時の私は乾ききった大地の中でようやく見つけた桃源郷が蜃気楼だと知らされた探検家の境地に立っていたことだろう。
だがしかしそれで研究を諦めようと思ったことは不思議と無い。
私にとって人生とは旅のようなもので、終着駅に辿り着くことは最優先される目的ではなく、旅の過程を楽しむことこそ目的だというのが私のモットーだからか。

これから私が紹介するのは、リゾナンターの一人が書き残した手記である。
新垣里沙、共鳴の原点を知る者にしてCカップのボンキュッボンなボディで世の男性を悩殺したと伝えられる女性。
以下の手記がかの新垣里沙の真筆であるかどうか、いまだ確定していない。
真筆だったとしても、手記の内容が新垣里沙の真意であるかどうかも定かでない。
あるいは私がこれからやろうとしている行為は輝かしきリゾナンターの足跡に泥を塗ることかもしれない。
幾千幾万と存在するリゾナン史研究家を蜃気楼で惑わせる行為なのかもしれない。
それがわかっていながら私がこのほど発掘された手記を皆様に公開するのは一重にリゾナン史を編むという行為を楽しみたいからに他ならないことを前もって記しておく。

リゾナン史研究家   エリソン・P・カーメイ

801 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:37:29

2007/5/13

最悪だ
まったくもって最悪だ
最悪なのには慣れっこだけどこんなに最悪なのはあの日以来
天使が翼を失ったあの日あの時以来のことだ  ------------------(注1)

白い家と呼ばれるこの研究施設の外で仕事をしたことは何度かある
慣れ親しんだ自分の部屋のベッドでないと眠れないほどのお子ちゃまってわけでもない
でも今現在この白い家の最深部にはあの人がいる。
傷ついて翼を失ってしまったあの人がいる
この世界にいつまで留まっていられるのかわからない私だけの天使
安倍なつみを残して外に出ていけるはずがない

これがこれまでと同じような仕事
強制的に組織の為に働かせた外部の人間の記憶を改竄したり、正義感から組織を司直に摘発しようとした人間の記憶を書き換えたり
そんな薄汚い洗脳屋の仕事ならどの程度で仕事を終わらせられるかの目途も立つ
何日で戻ってこれるか計算できるが今回仰せつかった仕事は取りとめが無さすぎる

何年も昔に組織から連れ去られた人工能力者製造実験の被検体の捜索なんか私向きの仕事とは思えない
どう考えたって今回の件には何か裏がある

誰かが安倍さんに不埒なことを仕出かさないか
傍らで目を光らせている私のことを遠ざけようとしているとか

802 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:38:03

一縷の望みは下命の場に統括管理官と一緒に居合わせた女帝こと中澤さんが個別に話す席を設けてくれたこと
私から見れば組織の高みにいる人だけれどそれでも中澤さんは私と同じ能力者だ
そんな中澤さんに訴えれば雲を掴むような人探しの仕事からは逃れられるかもしれない
だけど結局説き伏せられたとしたらどうしよう
私みたいな下っ端なんかに拒否権なんか無い
無期限での被検体捜索の仕事の為に安倍さんの傍から離れなければならないとしたらどうしよう
確かに今あの人にはこの白い家の高度な医療機器や能力者の生態に通じた科学者が必要なのは事実だ
だが一番必要なのはあの人のことを何よりも、自分の命よりも大切に思っている人間の筈だ
この私みたいに

とにかく明日だ
明日の中澤さんとの面談に望みをかけよう



2007/5/14

力が欲しい
精神干渉
他人の精神に土足で踏み込む薄汚い力なんかじゃない
あの人を守れる力
あの人に危害を加えようとする全ての者を打ち砕くことができる強い力が欲しい

803 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:38:35

2007/5/16

能力者狩りに駆り出されることが結局決まってしまった
中澤さんに言いくるめられてしまった感があるのは否めない
ただ今あの人をこの世界に繋ぎとめておくには組織が有する科学力や蓄積された知識が必要なのは事実
しかしそれらのものをあの人に無条件で注入する程この組織が甘いものでないことも真実
中澤さんはともかくとして5人の老いぼれども

日本という国を影から動かしていると戯言を吐く五老星とも5ブラザースとも呼ばれる男たちは結果を求めている  ------------------(注2)
奴らにとって今の安倍さんは天使ではない
奴らの濁った眼には傷つき斃れ力を失った能力者のなれの果てにしか映っていないんだろう
かつての力を失てしまった安倍さんに奴らが手を出さないのは安倍さんが力を取り戻すかもしれない可能性を捨てきれないでいるからだ
しかしそんな状況でも奴らは安倍さんの身体を調べ、DNAのサンプルを採取し、何らかの施術によって強制的に力を回復できないか
実験したくてうずうずしている
そんな奴らの関心から安倍さんを逸らすには、奴らの気に入りそうな玩具を差し出してやるしかない。

それがi914
膨大な失敗の果てに生み出された唯一の成功例
能力が本格的に発現する以前にその生理学上の母親によって連れ出された幼児  ------------------(注3)

そんな彼女の生存が確認されたという
組織で人工能力者の製造プロジェクトに関わっていた研究員が成長した彼女と思われる女性を都内の某デパートで目撃したという
同じ能力者を犠牲にすることには気が咎める
しかし安倍さんを助けるためなら仕方がない
私は何としてもi914を見つけ出す

804 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:39:36

2007/5/23
疲れた
足が棒になったみたいだ
首都圏だけで三千万を越える人間の中からたった一人を見つけるのは簡単なことじゃない
でもそんなことは最初からわかっていた
あきらめるわけにはいかない



2007/5/28

報告の為に一度白い家に戻ったら中澤さんの計らいで安倍さんとの対面を許された
今日は調子が良いみたいだった
まるで銀翼の天使と呼ばれていたあの頃と全然変わらない感じ
この状態が続いてくれたらいいのに
位相が違うと中澤さんは言っていた
安倍さんは天使だから私たちと同じ位相には長く留まっていられないと
中澤さんが言っていることは難しすぎて理解できなかったが、状態の悪い時の安倍さんのバイタルの数値は生きていることが不思議なぐらい悪いのは私にでもわかる
そんな安倍さんを守るためなら私は何でもする

805 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:40:12

2007/5/31
こんなに一人の人間の画像を見つめたのは安倍さんのを除けば初めてだ
i914
幼い頃の彼女の画像に彼女の生物学上の母親のデータを加えて20歳の女に修正した画像
先日彼女を目撃した研究員の証言も加えた画像はもう確認する必要が無いぐらい頭の中に焼き付いてしまった
彼女は今何を思っているのだろう
もし彼女が自分の立場を理解しているのなら人目に触れる場所には出向かないだろう
離島とか山村とかに隠れ住むのか
しかしそういった場所は一旦追求の目が入れば逃れにくいという欠点がある
都会で住めば人目に付く危険は多いが、人に紛れやすいという利点もある
明日は研究員が彼女を目撃したというデパートに行ってみようか
そこで彼女が見つかるなんて甘いことはないだろう
しかし彼女が何を思いどう行動しているのか
捜索の手がかりぐらいは掴めるかもしれない



2007/6/1
見つけた  -----------------(注4)
神様ありがとう
あの人のことを救ってくれなかったあんたのことを呪ったこともあるけど今日だけは感謝する
これが全ての問題の解決に繋がるとは思ってもいない
でも安倍さんの為にいくらかの時間は稼げた筈だ
あの女、高橋愛と名乗ったi914には悪いけど安倍さんの為に犠牲になってもらうしかない

806 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:40:49

(注1) 安倍なつみの立ち位置にはいくつかの説がある。 組織の幹部として前面に出て戦っていたという説や、組織の方針に反し幽閉されていたという説。
     今回の手記の中で述べられている安倍なつみは負傷により能力を失ってしまったようであるが、その経緯が触れられているリゾ文書としては(22)432 『堕ちた天使』が挙げられよう

(注2) リゾナンターと敵対した組織、ここではもっとも通りが良いダークネスと称させていただくが、その組織の構造にも諸説がある。
     ダークネスという男を首領に抱くという説。
     中澤裕子こそが絶対無二のボスであったという説。
     中澤など紺野あさ美や飯田佳織一派の傀儡に過ぎないという説も一時期有力であった。
     比較的新しい時代のリゾ文書が集められた『爻(シャオ)』においては、日本の政財界の有力者もダークネスに発言権を有していたという記述が見受けられる
     彼ら有力者とダークネスの力関係については未だ確定していないが、今回の手記によって『爻(シャオ)』の信憑性が高まる可能性がある

(注3) この辺りの記述-高橋愛が幼児期にその母親の手によって組織から連れ出され - はリゾ文書(08)893 『葉を隠すなら森へ、愛を隠すなら名へ』と合致する。
(注4) 新垣里沙が高橋愛をデパートで見つけたという記述はリゾ文書 (03)649 『A Summer Day』で触れられている事象とかなりの部分で合致する。
     とはいえ一部矛盾する事柄もあるため、両者の整合性を検証するに当たりより洗練された翻訳者の協力及び文書の書かれた時期を確定するための最新の技術による炭素測定の実施が必要であろう

807 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 12:41:43
>>800-806
『新垣里沙の手記・其の一』

808 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 22:12:18
>>794-798 の続きです



一方、同じミラーハウスの別の場所に転送されていた春菜は。
「擬態」能力の持ち主がこの場所を戦場に選んだ目的を早くも理解していた。
しかし、春菜は心の余裕を保つ事ができる。なぜなら。

「おーい、はるなん!!」

すぐに、遥のものだとわかる塩辛い声。
彼女の「千里眼」と自分の「五感強化」があれば、相手がいかに自分達のうちの誰かに擬態しようとも
見破る事ができるはず。

遥の声のするほうへ駆け寄ると、相手もまた春菜を探していたようで、出会い頭でばったりと出くわした。

「なんだ、こんな近くにいたのかよ。いるんだったら返事くらいしろって」
「えっ、あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

相変わらずの年上を敬わない態度、けれど今はそれが頼もしく映る。
能力者の少女の攻略に、遥の能力は不可欠だからだ。

809 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 22:13:39
「ねえくどぅー、『千里眼』で相手がどこにいるか、視える?」
「さっきからやってる。こっから斜め右方向でちょこまか動いてら」

忌々しげに遥が言うのを聞いたか聞いてないか、ミラーハウスの館内から大きな声が聞こえてくる。例
の少女のものだ。

「改めて自己紹介ね。のんは、『金鴉』。金のカラスって書いて、きんあ。”メインディッシュ”が来
る前にお前らと遊んでやるよ」
「くそ!とっとと出てこいよ!!」
「そうそう。のん、ダークネスの『幹部』って奴だから」

ダークネスの「幹部」。
この二つの言葉は、即座に緊張を齎す。
つまり、7人がかりで挑み、まるで歯が立たなかった赤い死神のことを、どうしても思い出させてしま
うのだ。

「そんな!まさか、あの子道重さんが言ってた…」
「幹部にしちゃ随分しょぼい能力使ってくるじゃん。『擬態』なんてせこい力、見破っちゃえばわけな
いって」

怖気づきかけた春菜の心を、遥の頼もしい言葉が支える。
確かにそうだ。彼女は自分のことを「オリジナル」と称していた。つまり喫茶店に現れたのは彼女のク
ローンなのだろう。しかし、使う能力が変わらず「擬態」ならば。

そこへ、鏡を通り抜けてきた香音が飛び出してくる。
ほぼ、同時に鏡の回廊を潜り抜けてきたさくらもやって来た。
「金鴉」と名乗った少女が連れ出したと思しき全員が、ここに揃ったわけだ。

810 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 22:14:48
「これで全員っすか?」
「多分…周りに他の子たちの気配もないし」

遥の問いに、香音が頷く。
香音。春菜。遥。そしてさくら。前線でも戦えるさくらを除き、見事に後方支援のメンバーが狙い撃ち
された格好だ。

「これはヤバいですね…」
「でも、逆に言えばチャンスかもしれない。私の『嗅覚強化』とくどぅーの『千里眼』があればね」

春菜の考えはこうだ。
いくら相手が「擬態」して自分達に化けようが、個人特有の匂いだけは誤魔化せないだろう。また、相
手の位置は常に遥の「千里眼」によってマークされている。

「それと、あの時道重さんに教えてもらった…」
「うん。これだね」

さくらと香音が、自らの右手の甲を見せる。
それを見て、他の二人も。甲には大きく「×」の文字が書かれてあった。

擬態能力者の襲撃があった日。
自分達に姿を変えて再襲撃してくるであろう刺客対策として、さゆみから教えてもらった策。

「ははは、あいつ、得意げに何か言ってたけど、うちらがこれだけ対策してるのなんて知らないだろうね」

そんなことを言いながら笑う香音。
しかし、その背後からナイフをかざした遥が。

811 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 22:16:20
「あぶないっ!!」

その瞬間を目撃したさくらが、時間停止を仕掛ける。
さくらが止められる時間など、瞬きするかしないかくらいの僅かな時間しかない。が、不意を衝いた襲
撃を防ぐには十分だった。

「いって!!」

さくらに突き飛ばされた遥が、後ろの鏡にぶつかり尻餅をつく。
止められた時間の中にいた香音と春菜は一瞬何が起こったのかわからないようだったが、すぐに事の重
大さに気づく。

「え?くどぅー!?」
「どうして!!」
「はるの千里眼舐めんな!お前、鈴木さんに擬態した偽者だろっ!!」

戸惑う三人を他所に、遥は大きくそう叫んだ。

「そんな!だってみんなの手の甲には×印が…」
「あいつの姿がどこにも見当たらないんだよ!!どこに消えたか探したら、見えたんだ!こいつの中に、
『金鴉』とかいうやつの姿があるのを…」
「かのは偽者じゃない!だってさっき、偽者に会ったばかりだし!ほら!『能力』だって使えるから本
物だって!!」

遥に疑われ、近くの鏡に自らの手を出し入れしながら、必死に香音は自分が本物である事を弁明する。
確かに、擬態能力の持ち主ならばそのような芸当はできないはずだが。

812 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 22:17:27
「いや…でもまさか…もし、『能力』すら擬態できる奴だったら」
「ええっ!そんなことできるんですか!?」
「わかんねえけど、もしそうなら『鈴木さん』のアリバイはあてになんないよ!!」
「そんなこと言ったらどぅーだって!!」
「はるはあいつの声が館内に響いてる時に、はるなんといたし!!」

疑念が疑念を呼び、収拾がつかなくなりつつあるが。
もしも相手が「能力」さえ擬態できるとしたら、四人のうちの全員が怪しいということになってしまう。

「確かにくどぅーの言うとおり、私は『金鴉』が大声で話してる時、一緒にいました」
「だよな。鈴木さんは? 小田ちゃんはどうなんだよ」
「それは…」

彼女たちには自分の身の潔白を証明してくれる人間がいないのは明らかだった。
となると、疑いはいよいよ二人のうちの一人に絞られてくる。

「か、かのはあいつの、『金鴉』の姿を見てるんだから…だとしたら」
「え、わ、わたしですか!?」
「・・・だったら『小田ちゃん』しかいないな。諦めて姿現せよ」

矛先を向けられたその瞬間。
さくらの姿が掻き消えた。

「やっぱりだ!あいつ、正体がばれたから逃げたんだよ!!」

そう。
この瞬間に、擬態していた真犯人は明らかにされた。
そのことを知らないのは、真犯人だけではあったが。

813 名無しリゾナント :2015/03/24(火) 22:18:36
>>808-812
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

814 名無しリゾナント :2015/03/26(木) 12:09:19
【但し書き】

・↓の話は〜 コールドブラッド〜の二次創作的な何かです
・設定の一部を使わせて頂いてますが完全に踏襲しているわけでもないです
・〜コールドブラッド〜を好きな方は不快に思われるかもしれません
 前もってお断りしておきます
・〜コールドブラッド〜なにそれ?食べたことないけどおいしそうという方は回避されることを一応推奨しておきます


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いたい……くるしいよ
いたい……だれかたすけて

…わたしに手を差し伸べてくれる「人間」なんかこの世界にいやしない
そんなことはわかってる
それがわかったからこんなことをしたんだ

でも…みじめだよ
苦しいよ
だれにも望まれずこの世界に生まれてきた
自分では望んでいない「力」の所為で振り回されて生きてきた
そして最後はこんな暗闇で一人苦しみながら死んでゆくなんて

ねえサブリーダーさん
あなたが自分の命を賭けてまで倒そうとした「吸血鬼」はまだくたばってませんよ
お堅いリーダーさん
どんな任務も完璧に果たしてきたあなたらしくないじゃないですか
「人類」の敵を殲滅するのがあなたのご立派な使命なんでしょう
さあ憎むべき「吸血鬼」にとどめを刺してくださいよ

815 名無しリゾナント :2015/03/26(木) 12:09:50


声も出ないや
そうだよね
わかってる
あの二人がミスってわたしが生きているのを見落とすはずがない
情けをかけて見逃してくれたわけでもない
わたしはもう助からない
そんなことわかり過ぎるくらいにわかってるんだ


わたしは「吸血鬼」だ
ノーマルの人間では有り得ない身体能力と超感覚を持っている
物理的なダメージにも強い
ちょっとぐらいの傷なら超速再生していくしほんと
どこの破面(アランカル)だってぐらいのものよ
我が名は第6エスパーダ、コハルーノ・クスミリエなりってなぐらいのものよ

わたしは「吸血鬼」だ
普通の人間では私の肉体は壊せない

でも痛いんだ
この痛みは肉体が感じている痛みなのかそれとも心が感じている痛みなのか

わたしは「不死者」だけど「最強」ってわけでもないし「無敵」の存在なんかでもない
闘争に負けることもあるし、その結果徹底的なダメージを与えられたら死ぬこともあり得る
その相手が脆弱な「人間」などでなく同じ「吸血鬼」だったら

あの人はわたしを斃すために「人間」としての生を捨てた
そして手にした「吸血鬼」の力で抉られた心臓を再生するのはさすがのノーライフキングでも無理みたいだ

816 名無しリゾナント :2015/03/26(木) 12:10:24


わたしが意識を保てているのは復活する兆しじゃない
「吸血鬼」の生命力があまりにも強靭すぎるから
即死している筈の傷を負っても惨めったらしく魂だけがこの世界にしがみついてるんだ
身体のそこここに残っている命の絞りかすがわたしに最後の夢を見させてるんだ
最低最悪の悪夢ってやつを


…ふん
それとも
もしかしてこれは仲間を裏切って殺めたわたしへ神さまが与えた罰?
いつ終わるとも知れない痛みの煉獄で苦しめとでも?
もしそうなら神さま
あんたはとことん間違っているよ

確かにわたしは「リゾナンター」のみんなを裏切ったかもしれない
でも、でも、でも、でも最初に裏切られたのはわたしのほうなんだ
わたしは「吸血鬼」として「人間」を狩っていくつもりなんてなかった
「人間」の「血」を欲する本能を抑えて「リゾナンター」として生きていくつもりだった
普通の「人間」に紛れて生きていくことは困難でも「リゾナンター」の「仲間」となら生きていけると思ってた
でもそれは間違っていた

結局、誰かが他の誰かと完全にわかり合えることなんてありえない
それはサイコフォース「リゾナンター」として戦ってきた日々が教えてくれた
「リゾナンター」の目的は普通の「人間」では扱い難い犯罪者を摘発検挙粛清することだった
その対象は普通の「人間」とは異なる能力者であったり、人知を超えた化け物であったわけだけどそれらですべてってわけじゃなかった

817 名無しリゾナント :2015/03/26(木) 12:10:59


偏執的な妄想に捉われたシリアルキラー
原理的な教義に殉じたカルト
「リゾナンター」の任務の対象は実のところ、生物学的には普通の「人間」の方が多かった
でも「人間」である彼らに「人間」の言葉は届かなかった
自分の中に築かれた価値観ですべてを判断し、他者の価値観など一瞥だにしない。

同じ「人間」同志であってもそうだった
だから「人間」とは異なる種族の「吸血鬼」のことなんて最初からわかろうともしない
「吸血鬼」が何者を愛し、何者を憎み、何を欲し、何に怯えるのか
そんな考えが頭を過ることもなく平気で駆逐していく

わたしの身体に「吸血鬼」の血が流れていると知ったらあの人たちは平気でわたしのことを駆除しただろう
わたしが笑っていたって怒りを見せたって涙を流したってその意味をわかろうともせず

だからそうなる前にわたしの方から仕掛けたんだ
自分の「生」を全うするために
与えられた「吸血鬼」としての生命を最後の最期まで生き抜くためにわたしは動いたんだ

これまでに「人間」はどれだけの種類の生命を根絶やしにしてきたんだろう
百?千?万?
だったらいいじゃん
万物は流転するんだよ
今度はあんたら「人間」が泣く番だよ
だからわたしは悪くない
悪くないわたしがこんなに苦しむなんて間違ってるよ

818 名無しリゾナント :2015/03/26(木) 12:11:42


痛っ

あ痛っ

あー痛っ

あー痛いっ

あ、痛たたたたたたた

誰か助けて! ヘルプミー!!

ホントまじ痛い

指先一本動かないのに痛みだけ増していくって感じ
これはやっぱ助からないかな
痛みで覚めた時は結構期待したんだけどな
一度は諦めたワンピースの最終回を読めるかなと思ったんだけどな
まあどうせこれまでの冒険で出会った仲間たち、経験の全てが一つながりの財宝だ(ドン!!
みたいなオチだとは思うけど
やっぱ想像するのと自分の目で確かめるのとは違うし

痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛っ

ちくしょうっ



ほんとうは居場所が欲しいだけだった
誰かにこんなあたしでも生きていていいって声をかけて欲しかった

819 名無しリゾナント :2015/03/26(木) 12:12:15


もっと違うやり方があったんじゃないかな
あの人たちの前から姿を消して
あの人たちの目の届かない場所で生きていくって選択だってあった

でも私は確かめたかった
「吸血鬼」に堕ちた仲間を救う道をあの人たちが選ばないか
もしも選べなくても仲間だった「吸血鬼」の粛清を一瞬でも躊躇わないかってこと

結局わたしの身勝手でみんな死んじゃったんだね
わたしが「人間」を否定するのも「人間」がわたしを否定するのもおんなじだ
わかってたはずなのに

取り返しのつかない過ちを犯してしまった
あやまったって許してもらえるはずもないけど

ご…め・んな…

へぇあなたは生き延びたんですか
どう考えたってろくでもない未来しか待ち受けてるように思えないですけど

・・・一人になったね

820 名無しリゾナント :2015/03/26(木) 12:13:11
>>-
『Regret d'agonie』
【但し書き】

・↑の話は〜 コールドブラッド〜の二次創作的な何かの一部です
・設定の一部を使わせて頂いてますが完全に踏襲しているわけでもないです
・〜コールドブラッド〜を好きな方は不快に思われるかもしれません
 前もってお断りしておきます
・〜コールドブラッド〜なにそれ?未読だけど何か面白そうという方は回避されることを一応推奨しておきます

821 名無しリゾナント :2015/03/27(金) 18:18:28

リゾナンターは実在したのか。
リゾナン史に興味を持たれている方にとっては愚かな問いかけに聞こえるだろう。
しかしリゾナン史の編纂に関わった初期の研究者の多くはその命題に頭を悩ませたのだ。
たとえば彼女たちの名称として使われる「リゾナンター」「リゾナンダー」「共鳴者」「リゾネイター」
彼女たちの果たすべき使命、「正義の味方として悪の組織ダークネスの野望を阻む」「巨大怪獣による地球の破壊を防ぐ」「日常を侵食する闇から生まれいずる人外の物を駆除する」「毎日を生き延びる」
リゾナン文書に綴られた多様なリゾナンター像に惑わされリゾナンターの実在を疑った者がいた。
他の能力者集団をリゾナンターと誤認しているのではないか懐疑的な考えを抱いた研究者もいた。

連想ゲームをしよう。
次の三つの言葉からあなたは何を思い浮かべるだろう。
動物、灰色、細長い身体器官。

同じ問いかけを私が教える学生達にしてみた結果、実にその九割までが鼠を連想した。
しかしながら私の思い描いた正解は……象である。
ある事象をいくつかの特徴をもって誰かに伝えるとき、特徴の一つ一つを正しく伝えたとしても、その事象そのものを正確に伝えられるとは限らない。
いくつものリゾナンター像という記述のぶれの原因は実のところこんなことではないかと私は考えている。
以下に紹介する「新垣里沙の手記」に綴られているリゾナンターをあなたたちはどう捉えるだろうか。

亀井絵里愛好家 エリソン・P・カーメイ

822 名無しリゾナント :2015/03/27(金) 18:19:41


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2007/6/5

上の人間の考えていることがわからない
せっかくi914を見つけたのに何故回収作業を行わないんだ
i914
確かに彼女は高レベルの能力者だ
私が確認したのはテレパシーだけだが本人によればテレポートも保有しているらしい
だがしかし私の目から見たあの女は躾の行き届いていない猿だ
回収担当の工作員の手を煩わせるまでもなく私一人でも蒼女を檻に閉じ込めることはできるのに、上の人間は何を考えているんだ
デパートで出会ったその日から、私の携帯にはあの女からの着信が絶え間ない  ------------------(注1)
よっぽど人との繋がりに飢えていたと見える
とりあず現在の住所は抑えてあるし姿を消す心配もないが一度顔を見せてご機嫌を取っておこう


2007/6/6
猿女と会った
今は喫茶店を開業する準備をしているらしい  -----------------(注2)
少し前から喫茶店を開きたいという願望あったらしいが私との出会いが背中を押したとか
ちょ何で勝手に私をあんたのプランに組み込むわけ
共同店主として運営に参加して欲しいとか冗談じゃない
あんな下品な山猿と肩を並べて仕事するなんてまっぴらごめんだ
そもそもあんな女が喫茶店を開いたって繁盛するとも思えない
いやパッと見だけはいいから顔や体目当てのエロおやじどもには人気が出るのかもしれないけど  ------------------(注3)
まあいい
ストレートに断ってご機嫌を損ねるのもマズい
今は別のところで働いてるとでも言っておくか
あの女と話すとイラついて血圧が上がりそうだ
メールを送っておこう

823 名無しリゾナント :2015/03/27(金) 18:20:34


2007/6/9
ヤバい展開だ
しばらくあの女を泳がせておくとか
周辺を観察しておくとか
私がその監視役とか冗談じゃない
監視のための拠点作りとかふざけてんのか
ピン=チャボ―なんてブティックこの世に存在しないんだよ  ------------------(注4)
あの女に断りのメールを送る時になんとなくそんな名前を思いついただけなんだよ
実在しないんだったら既存の店の関係者の記憶を弄って会社名を変えさせろとかどれだけ腰を据えて観察するつもりなんだ
つうかどれだけピン=チャボ―が好きなんだよ
中澤さんに直訴しようにもこのところ連絡が取れなくなったし
もしかして避けられてるのか
安倍さんの状態も芳しくないし
ああ、ユウウツ

824 名無しリゾナント :2015/03/27(金) 18:21:07


2007/6/11
あの女はバカだ
喫茶店のスタッフに加わってくれという頼みはなんとか断った
つうか一度や二度会っただけの人間を誘うかよ普通
私が働いているピン=チャボ―を見てみたいと言い出したのには困った
こんなこともあろうかと現在改装工事中のデパートで開業予定のアパレルを見つけてはいる
経営者の精神に干渉すればブティック、ピン=チャボ―の誕生だが正直そこまではしたくない
話を逸らすためになぜ喫茶店を開きたいのか尋ねてみたら興味深い話が聞けた
あの女が猿山から東京に出て来た時、一時期喫茶店に身を寄せていたらしい  -----------------(注5)
女性のマスターと先輩の女性
三人で暮らしていく中でいろんなことを学んだらしい
そして救われたとも言っていた
今度は自分が他の誰かを救いたいとも
猿女は今度開く喫茶店を自分のような能力者の為のシェルターにしたいような口ぶりだった
能力を持って生まれた故に苦しんだ者を救う為の城にしたいとも
私は感心した口ぶりで褒めておいた
まあその店が開店することはあっても繁盛することは無い
安倍さんを救う為にあの女には犠牲になってもらう
このことだけは確定しているんだから

825 名無しリゾナント :2015/03/27(金) 18:21:45


2007/6/18
許せないあの猿女
安倍さんと一つ屋根の下で暮らしていただなんて
そればかりか手に手を取って色んなことを教わったとか
いや、それは全部夢
夢の中での出来事だ
安倍さんがそんな喫茶店のマスターをしていただなんてありえないし
ただあの女が東京に出て来た時期と安倍さんのキャリアの空白の時期とが微妙に重なるようなのが気にかかる
もういいあの女潰してやる
あの女の所為でここのところ私のペースは狂いっぱなしだ
あの女がいなければ私は白い家を拠点に洗脳屋の仕事をしながら安倍さんのお世話も出来たのに
あの無警戒な女を潰すのは簡単だが、私がやったことを上の連中に知られるのはやはりマズイ
藤本美貴
氷の魔女として恐れられている狂犬をあの女にぶつけてやろう
猿と犬が仲悪くケンカすればいいんだ

826 名無しリゾナント :2015/03/27(金) 18:22:22


(注1) リゾ文書『(03)459 名無し募集中。。。 (メール三文字)』などで、高橋愛は仲間との連絡に関しては非常に素っ気ないことが知られている。
     そうした事実と高橋愛からの着信が多いという記述は矛盾すると考えられる方もいるだろう。
     そうした方にはこの時期の高橋愛と『〜(メール三文字)』の頃の高橋愛では周囲を取り巻く環状が違うということを考慮していただきたい。

(注2) この時点では喫茶リゾナントは営業していなかったという事実を証明する記述であろう。

(注3) そんなエロおやじ共の中で名前が明らかになっている数少ない人物が間賀時夫氏であろう。
     リゾ文書『暁の戦隊』(3rdシーズン-第16話「HEY!未来」)において間賀氏は女性の太腿の画像データを7GB近く保有していたとされている。
     同じ時代に生まれ酒を酌み交わしたかったとつくづく思う。

(注4) 新垣里沙が服飾関係の会社に籍を置いていたことはいくつものリゾ文書で証明されている。
     しかしながらその会社名が明記されているリゾ文書は(18)117 『じゃじゃ馬パラダイス☆激闘編』程度しか発見されておらず、その信憑性が疑われることもあった。
     今回の手記は「ピンチャボ―」という店が実在したという説の信頼性を高める材料になったのではないだろうか。

(注5) マスターやウェイトレスの描写も併せれば、(13)304 『常夜を引き裂く照空灯』で描かれている喫茶店でないかと推定される。
     高橋高橋愛が祖母の元で暮らした時期と喫茶リゾナントのマスターとして仲間に囲まれていた日々を繋ぐミッシングリンクとなるのか。
     今後の検証を待ちたいと思う。

827 名無しリゾナント :2015/03/27(金) 18:23:29

以上ここまで
『新垣里沙の手記・其の二』

828 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:15:25
「・・・」
彼女は歩き続ける
「まってくださいよ〜」
それを追うように歩く少女
「ちょっと、えりぽん、新垣さんも疲れているんだからやめたほうがいいよ」
そんな二人を追う少女

奇妙な奇妙な追いかけっこ

「だって、みずき、新垣さんと次会えるかわからんっちゃよ?
 もっともっと教えてもらわんといかんことあるとよ」
「だからって、新垣さんも疲れているんだよ!同じ糸使いのえりぽんならわかるでしょ?
あんなにたくさんの糸を一度に操ったんだよ。疲れないはずないでしょ」
足早に歩く二人を追いかけてきたためか、はたまた元来のものか頬が紅く色を帯びている
「え〜新垣さんなら、あれくらい大丈夫っちゃよ
 そりゃ、えりは一本で限界っちゃけど、新垣さんは最強っちゃもん
 ですよね〜新垣さん」
へらへら笑いながら生田は足を止めない、歩き続ける

「・・・」
新垣は何も話さず、歩き続ける

「だからってえりぽん、すべて新垣さんに任せるわけにもいかないでしょ?
 高橋さんがおっしゃってたように、聖達もどうしたらいいのか考えたほうが」
「え〜えり、そういうの苦手やけん。できることからすると。
そのためにはまず、えりはえりのできることをすると。そういうのはみずきに任せると」
「え〜えりぽん何言ってるのよ!聖だって頭良くないから、得意じゃないんだよ」
顔を真っ赤にしながら譜久村は生田を追いかける
「頭の良さと戦略に長けるって別っちゃろ?道重さんだって常識に弱いところあるけど、策士やろ?
 えりは自分でもわかっとうもん、周りをみれんってことは」
あっけらかんと自分の弱点を宣言する生田をここまで来ると逆に気持ちいいと譜久村は感じていた

829 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:16:00
新垣は無言だ

「えりは勉強や一般常識ならみずきには勝てる自信あると、みずきお嬢様やん。
 でも、戦略家としては才能ゼロやし、それならしっかりと指示通りに役割果たせるようになるとよ」
「戦略家って聖には無理だもん、聖、そういうのじゃないもん・・・」

新垣は次の角を曲がった

「あ、新垣さん、待ってください」
生田も次の角を曲がった

「あ、えりぽん、新垣さんもお疲れなんだよ!」
譜久村も次のry)

曲がった先の一本道を進むと川辺にたどり着いた
「あ、あれ?新垣さん、どこいったかいな?」
どうやら見失ったようで、眼をこらしてきょろきょろと辺りを見渡す
ようやく息を整え終えた譜久村もベンチに腰を下ろし、ハンカチで流れた汗を拭いてゆく
「まだまだ教えてほしいことたっくさんあるとよ、鉄は熱いうちに打てっいうやろ!」
「えりぽんは熱すぎるよ、聖、つかれたもん」

そこにカコン、と何かを打つ音、次いで、ぽちゃん、と水に何かが落ちる音が響いた
それも一つではなく、何回も続いた
「!!」
全力で駆け出す生田
「え〜?また、はしるの?」
(新垣さん!!)
音のする方へ、する方へ、次の角を曲がった
数十個の空き缶が一列になって川端のフェンスに並べられていた

830 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:16:35
しかし、新垣の姿はない
「あ。あれ?新垣さんはどこいったかいな?」
ゆっくりとフェンスに近づく生田の後ろに、足音が近づいてくる
その主は・・・
「なんだ、聖か」
「なんだってなんですか!!えりぽん、また勝手に走り出すから、なんか、今日走ってばっかりだよ」
生田の暴走に振り回されてばかりに譜久村は半分泣き顔だ

「それで新垣さんはおられましたか?」
「ううん、おらんと、せやけど、こんなんあったと」
フェンスに手をついて聖に示した
「空き缶がたくさん並んでいるね。さっきの音はこれかな?」
「多分そうっちゃろ。新垣さんがワイヤーで狙い撃ちしたっちゃろ」
「なんでわかるの?」
「ンフフ・・・えりの勘っちゃ」
過剰な笑顔を浮かべながら、生田は袖の安全装置を外した

「そして、これが新垣さんの訓練ならえりもやってみたいと
 たぶん・・・この辺かな?うん、このくらいっちゃろ」
フェンスから少し離れ距離をとり、生田は構えた
黙り込み、リズムを刻むように踵をコツコツとならす
頭の中ではワイヤーを右から左に薙ぎ払うように伸ばし、見える全ての空き缶の中心を打つ
打ち払った空き缶達は全て川の中に順序よく、水音とともに沈んでいく

イメージが完成した時点で、生田は右腕に仕込んだワイヤーをフェンス向かい伸ばしていく
始めの数個は完璧であった。鞭で払うかのように、しなやかな軌跡をたどってワイヤーは伸びていく
(よしっ)

831 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:17:08
しかし、そこからワイヤーの軌道は上へ下へ微妙にずれていく
全て川に飛ばすつもりであったが、そうはならずただ上にとぶだけのものも出てきた
そして最後の空き缶に辿りつく前にワイヤーはフェンスに当たってしまった
結果的にすべての空き缶を払うことには成功したが、イメージしたものとは全然違った

そんなことを露ともしらず、譜久村は「スゴイスゴイ」と手を叩いて喜ぶ
跳ねながら飛んでくる譜久村は生田の不満げな顔を見て驚く
「え?どうしたの?全部倒したのに、何か上手くいかなかったの?」
「・・・」
「すごかったよ、えりぽん、あんなにきれいにカカカカカカーンって」
「・・・すごくなんかないとよ」
「え?え?」
戸惑う譜久村の後ろから、アルトボイスの声
「そう、フクちゃん、全然すごくないよ」
「・・・新垣さん。どこにおられたんですか」

新垣は落ち込む生田に気づかないふりをしながら、空き缶を拾い上げた
「あのベンチから見てた。生田のことだから、ああしていれば『えりもやる!』っていうだろうと思ってね。
 正直、今の生田の技術をしっかり見ないといけない、そう思ってたからね」
「それは今日の戦いをみて、ですか?」
「う〜ん、それもあるけど、前から思ってたところもあったからね
 生田が私のことを慕ってくれるのは嬉しいんだけどね、言わなきゃいけないこともあるからね」
新垣自身も言い出すまいか迷っていることがその口調から譜久村は勘ぐった
「・・・あまりいいことではないみたいですね」
「ま、そういう部類に入るかな。ほら、生田」
拾い上げた空き缶を生田めがけて投げつけた
生田は下を向いていたにもかかわらず、空き缶をみることなくキャッチした
「うん、反射神経は相変わらずいいね」
ようやく新垣は笑顔をみせた

しかし、生田の表情は暗く、譜久村の表情はどうしていいものかわからず不安げだ

832 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:17:44
「新垣さん、えり・・・」
もう一本新垣が無言で缶を投げつけた
同じようにつかんだ生田は中身がはいっているとは思わず、つかんでその熱にやられた
「ほら、それでも飲んで落ち着きな」
新垣は自身のコートのポケットからあと2本取り出し、一本を自分に、もう一本を譜久村に投げてよこした
「あ、ありがとうございます」
「いいって、ほら、立ち話もなんだから座って話そうか」
空き缶のタブを開ける音と喉をごくごく言わせて一口新垣がのどを潤す
「・・・あ〜ビールがうまいっ
 ふぅ、二人とも今日は大変だったね」

二人の労をねぎらう新垣
だが、二人の顔は浮かない
「ん?どうした?なに暗い顔してるの?」
「・・・だって今日は新垣さんの作戦も上手くいかなかったですし、亀井さんを逃してしまいましたし
 いいことなんてないんですから、それに作戦も決まっていないから明るい顔なんてできませんよ」
譜久村の弱気をききながら新垣は缶の半分を一気に飲み干す
「そりゃー私だって、反省してるよ、今日はだめだって。
 でも、うまくいかないことのほうが多いんだからさっ、あんまり気にしないのさ」
あまりにあっけらかんとしている新垣を見て譜久村は驚いた
あれほど黙っていた理由をてっきり、今日の反省をしているものだと考えていたのだから

「でも、作戦とか考えるんですよね」
「うん、明日ね。いや〜生田、さっきいいこといったからね。私、嬉しかったよ」
新垣に褒められ、少し元気が戻ったのだろう、生田の顔色に血色が戻ってきた
「『できることからする』、その通りだよ、できないことを無理にする
 それって大変だから、余裕ができたときにすればいいんだよ
 はっきり言って、今日の作戦は無理があったのは認めざるを得ない
 今のリゾナンターを囮につかうとか、はっきり言ってリスクが高いからね」

833 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:18:26
「でも、それしか方法がないのなら聖達は」
最後まで言わないように新垣は首を振った
「いやいや、もうしないよ、約束する。あんな危険な賭けしても無駄だってわかったから」「そ、そうですか・・・」
譜久村は戸惑う、これが新垣が凹んでいた理由なのか?と

「じゃあ、新垣さん、えりに糸の使い方教えてくださいよ!!
 できるようになりたいんです!!えりは新垣さんみたいに強くならなきゃいかんとです」
急に立ち上がり声を荒げる生田に驚く譜久村と対照的に新垣は笑みを浮かべたまま
「うんうん、生田の気持ちわかるよ。でも、少しは落ち着きなさい
 ほら、フクちゃんも驚いちゃってるんだからね」
「ご、ごめん、みずき」

生田が座り、おしるこジュースを一口飲み、その甘さに舌がやられたのを譜久村はみた
「さて、生田の気持ちはわかった。精神操作、精神破壊、私と似た力だからね」
新垣は生田が甘さにやられていることに気づいていないようだ
「精神系能力、それは直接的な攻撃ではないが、使い方次第では反則的なダメージを与えることができる
 私が本気出せば、人格を崩壊させることも、別の人格を作り出すこともできるかもしれない
 ・・・したことはほとんどないけどね」
「は、はあ」
「その分、非常に繊細な部分も必要。人格を崩すほどの大胆さと緻密性、療法とも不可欠
 一朝一夕でできるようなものではないし、私だって人並みに使うには5年以上はかかった
 生田、あんたはまだ3年だから、焦る必要はないよ」

「さて、フクちゃん。フクちゃんの能力は『能力複製』だよね
 これまで生田や私みたいな精神系の力をコピーしたことはある?」
突然話が自分に飛んできたので驚いたが、一瞬、考えすぐに答えを出した
「あります。でも」
「うまくいかなかった」
譜久村が頷いた

834 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:19:06
「なんていうか自分自身の体じゃないものを、それこそ機械を操るみたいで、全然使いこなせませんでした
 どこをどうすればいいのかもわからなくて・・・糸を使うとかそんなところまで行きそうにもなかったんです
 えりぽんの力を試そうとしたときは、気持ち悪くなって・・・・動けなかった」
思い出したくない記憶の一つが生田の力をコピーした後の副作用
数時間、頭痛とめまい、脱力感におそわれ、見えない何かにつぶされるような幻覚に悩まされた

「精神系能力者の力は普通の能力者とは全く別。『ただ心を操る』『心を覗く』、そんなものではないの。
 耐えきれないほどの他人の心を自身の心をぶつかりあわせて、折れないように、かつ相手の心を崩さないようにする
 小手先の技術なんかじゃこの力は制御できない」
生田の目をみながら新垣はゆっくりと説う
「はっきり言う。生田、あんたはこの力に必要な繊細さが未熟だ
 今の生田じゃ、私には一生追いつけないし、一人前にはなれない」

「・・・わかっとうもん、そんなことは」
弱弱しく生田が眼に浮かべる
「わかっとうもん、えりは精神系能力者やけど、人の心を操る能力者やけど、人のこころがみえないと
 何をして笑って、何をして怒って、何をして悲しむか・・・わからんもん」
「えりぽん・・・」
「鍵穴のように、絡まったコードのように、かっちりと細かい技術が必要なのはわかっとう
 でも、えりにはそれは苦手なことっちゃ!!ドライバーで飛ばすのは得意やけどパターは苦手
 大胆なことは得意っちゃけど、繊細なことはできんとよ!!えりには」
それは隠していた思い。思わず零れてしまった弱音。
「えりは里保が羨ましいと、あんなにはっきりと闘える力があることを
 あゆみちゃんも小田ちゃんも羨ましい。前線に飛び込んでいける力やもん
 えりはこんな力望んでいないと!!もっとみんなにえりらしくなれる力がほしいと」
「甘ったれるな!!」
新垣が立ち上がり思いっきり生田の頬を殴り、生田は地面に倒れこんだ

835 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:19:38
「なにが『大胆なことは得意、繊細なことは苦手』だ
 『こんな力望んでいない』だって?ふざけるんじゃないよ!!
 それなら私だって、こんな力欲しくてもってるんじゃないんだよ
 生れたときからこの力は私の一部なんだよ、それを自分で要らない?こんな力じゃなくて他の力が欲しかった?
 生田、あんた、それでもリゾナンターなの?ちょっと見損なったよ」

「私だってこんな力、捨てたいなら捨てたい。でも、今の私があるのはこの力のためだ
 私の一部なんだ、私自身なんだ、変えられないんだよ。
 自分でできることをする、さっきそういったのは生田でしょ?それならそれも受け入れなさい
 少なくとも私が知っている生田はこんなことを言う子じゃなかった
 だからこそ、言わなきゃいけない、そう思って改めて場を作ったのに」
突然、立ち上がる新垣
「帰る。生田、あんた少し頭を冷やしなさい」
そして足早にその場をさっていく新垣

「ま、待ってください、新垣さん」
譜久村は新垣を走って追いかけた。生田を置き去りにして、今の新垣を追いかけるなんていつもの自分らしくない、と感じていた
しかし、気になってしまったのだ、いつもの新垣らしくないと
あの新垣里沙がこんなに強く、自分を慕う後輩に強く言うものか、と
その裏には何かがあるのではないか、と。

「ま、まってください」
急に立ち止まる新垣
「フクちゃん、生田を頼むね。あの子は本当に弱いから」
「は、はい・・・でも、新垣さんは何を本当は伝えたかったんですか?」
「・・・」
「こんな展開を予想しておられなかったと思うんですが、新垣さんは生田がしっかりと覚悟していると思ったんですよね?
 それなら何を」

836 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:20:10
「・・・フクちゃん、生田の言うことはある意味正解だよ
 向き、不向きがある。得意、不得手はあるよ。だから・・・私は生田に、私の後を追うのはやめろって言おうと思った」
「そ、それってどういうことですか?リゾナンターをやめろっていうことですか!!」
「違う、具体的にはワイヤーを使うのをやめろってこと・・・かな。
 あの子には人並み以上、それこそ私以上の身体能力がある。それを使っていけばいいんじゃないかってね
 ・・・だけど今の生田にはそんなことを考えさせる余裕はないね
 結局自分らしさを確立させていないんだからね。悩む年頃なのかもしれないけどね
 それに、フクちゃんも考えた方いいよ、自分の役割ってことを」
「え??それって??」
「生田がいってた参謀役、っていうのも悪くないよ」

自分自身が参謀??
考えられない、と思っているとふと残してきた生田が不安になって後ろを振り向いた
前を向くとすでに新垣は姿を消していた
(・・・)
夜風が身にしみた、涙が浮かんだが花粉のせいではないだろう

★★★★★★

「生田、フクちゃん、強くなるしかないんだよ。だって・・・愛佳の予知では」

837 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 21:22:52
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(9)です。
ベリロスしてた・・・有明コロシアム最高だった・・・
ようやく復活傾向。ゆっくり完結させますが、やはりネタ入れたくなる性分だなw

838 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 23:14:02
お帰りなさいまし
代行行ってきます

839 名無しリゾナント :2015/03/30(月) 23:30:42
行ってきますた

840 名無しリゾナント :2015/04/03(金) 13:59:46
【但し書き】
・〜コールドブラッド〜の二次創作的な何か
・原作の設定をお借りしておりますが完全に踏襲しているわけでもありません
・〜コールドブラッド〜を愛された読者の方々には不快な思いをさせるかもしれません
 前もってお詫び申し上げます
・〜コールドブラッド〜? 何それ食べたことないけど美味しいのという方も回避を推奨しておきます
・一応『Regret d'agonie』http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/