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企画リレー小説スレッド

5第1回1番(3):2007/08/19(日) 00:35:58

明朝、アルスタはただ一人、城の中庭を訪れていた。円形に並んだ花壇には淡色の花。簡素な手入れと単色で埋め尽くされた景観はお世辞にも美しい庭園とは評することはできず、静かにそよぐ芝生が柱廊の風通しの良さを示すのみだった。
そして、その場所もまた冬の色に満ちている。その年は、雪は未だ降る事が無く、しかし降り立つ霜が石柱や石畳を濡らし身を切り得る寒さを体現しつつある。
象徴のない冬景色。寒々しく、まるで何一つない断崖に一人立ち尽くしているかのような孤独感。言い知れない不安。大地の最果てで枯れていく涙。決定的な閉塞。
理性で抵抗することよりも、感性が全てを優先させる、血脈が意思を縛るのだ。肉親への愛は立場と責任という剣で引き裂かれ、誇りと尊厳は呪詛によって汚される。
世界はもう数年前からが色褪せている。
かつては華やかであった庭園。荒れ果てた植木は伐採し、色取り取りの花々は全て摘み取った。何故か。
先祖伝来のモノであったからだ。忌まわしい、この血脈が作り出した庭園であったからだ。
忌まわしい、呪わしき庭園。
その中央。急ごしらえの台座の上に、奇怪な繭がある。
金色の繭などというものがあるのならば、それは確かに繭であり、しかしながら同時に卵でもあった。人間の頭部ほどの大きさであるそれは、石の台座に粘性の糸を張り付かせつつも確かに蠕動しているのだ。
胎動。心音にも近いその震えは内部に存在する何らかの意思を感じさせ、同時にアルスタを悲嘆と憎悪に駆り立てる元凶でもあった。繭はその上から無数の鎖で緊縛され拘束されているが、それに如何程の意味があるというのだろう。贄の美貌が世に知れ渡ると同時に空より飛来したこの物体が何であるか、十人の学者を集めて調べ尽くしたというのに。
今宵、この繭が破られる。今代にて現出した災厄。アルスタにとって唯一にして最愛の人を奪う最悪。忌まわしい異形。
震える拳を、幾度この金色に叩き付けたことだろう。そのたびに拳を砕き、アルスタの片腕の握力は既に無いに等しかった。幾百もの名剣が歴戦の戦士によって叩きつけられ、その度に圧し折れた。北の最果ての氷よりもなお硬いと謳われる繭を破壊する事はついに叶わず、生まれ出でるそれを止める手段はそれにも増して見つけ難かった。
害虫。アルスタはただそうとだけ呼んでいた。それこそが最も相応しい呼び名であるように思えた。人の大切なものを路傍の花を摘み取るが如く、呆気なく奪い去っていくその傲慢なあり方を見上げる事は、彼の矜持にかけてできなかったのだ。アルスタはただそれを見下す事で自分を保っていた。でなければどうしてそれを正しく認識する事ができよう。
それが世に名を轟かす高貴にして偉大なる竜であるなどという、その事実を。


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