[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
企画リレー小説スレッド
21
:
第一回5番(2)
:2007/10/08(月) 06:17:42
「そう。有瀬昴。こいつの名前」
有瀬は肩を竦めた。相変わらず冷たいねえ、と小さく呟いていた。その癖全然悪びれたところがない。口元には薄い笑みが張りついていて、策略に長けたピエロ、といった風情。彼には申し訳ないけれど、あまり良い印象ではないな、とデフォンは思う。
「ええと、初めまして……ですよね。春から住みはじめた方ですか? 僕、あんまりここに帰ってこないもので……」
「そうですよ、春から。あなたは『星見の塔』の一員なんですってね。ケルネーさんから噂はかねがね」
どんな噂だろう、と思いデフォンはケルネーのほうを見遣るが、彼女はわざとらしく目を逸らしている。食えない人だ。
「で、もうこの際三人で見ちゃったらどうかと思うんですけど。だって、今まで『星見の塔』内部のメンバーでいくら考えてもどうにもならなくて、それで外部の人なら、って思ってるんじゃないんですか、デフォンさんは」
「む……まあ……」
「それならその外部の視点は多いに越したことはないんじゃないかな、と」
そう言われてもデフォンとしてはこの研究に関することをあまり大勢に見せたくはない。ケルネーのことは良く知っているし、口の固さも信用している。けれど、この男はどうだろう。ちらとケルネーを見遣る。彼女はデフォンの懸案を察したようだった。
「大丈夫。彼は、信用できる男だよ」
「そう……ですか」
有瀬は相変らずにこにこと笑っている。デフォンは迷った。ヘリステラ教授には『三日』と宣言してしまった。自分でも、強気に出すぎだと思う。この一刻を争う状況で、なりふりなど構っていられないのではないか。そもそも『星見の塔』の研究に明確な守秘義務があるわけではないのだ。他企業や他研究室と争うような類のことではないし、研究内容が盗まれて困るようなこともない。
意を決した。パチリと、鞄の蓋を開けた。
「わかりました。このファイルを見て下さい」
彼は二人にシナリオを見せ、説明をはじめた――
コーヒー二つとアイスティー一つを自販機で買った。当然デフォンのおごりで、それくらいは当然のことだと彼自身も思う。上手く両手を使って三つのカップを掴み、元のテーブルに戻って来るころには二人ともすでにシナリオを含めた資料全部を読み終えていた。腕を組んで天井を見あげるケルネーの前にコーヒーを、口元に手をやり俯いている有瀬の前にアイスティーを置き、デフォンは席に付いてコーヒーを一口啜った。熱さが胃に染みた。
ぼんやりとした口調で、ケルネーが呟いた。
「無茶なシナリオだね」
「無茶っていうか、破綻してる気がするんですけど……」
「破綻、って、言い切ってしまうのはどうだろう」
ケルネーはデフォンに向きなおり、一口コーヒーを啜った。むせた。
「だ、大丈夫ですか」
「……ごめ、ちょっと熱かった……」
しばらくげほげほやっていたら落ち着いたようだ。この人もしっかりしているんだか間が抜けているんだかよくわからないとデフォンは思う。彼女はふう、と息を吐いてから、再び話しはじめた。
「要は、破綻しているように見える箇所がシナリオの後半で回収されれば良いんでしょう。そうしたら破綻は破綻じゃなくなる。それに、破綻の回収によって、核となる人物も見えてくるかもしれない。まず、そこを明瞭にしましょう」
「破綻箇所……てことですか」
ケルネーは頷いた。デフォンはシナリオの内容を始めから辿りなおす。ケルネーはいつの間にか開いていたメモ帳にペンを走らせながら喋りはじめた。
「その一。どうして繭は災厄とわかったのか。学者が調べてもわからなかったのに、どうして竜の繭ということと、それが災厄をもたらすということだけは知られていたのか」
「それは、後に判明しているように、アルスタの中にアルセスが居たからじゃないんですか」
「うん、アルスタにとってはそうだろうね。でも、アルスタ一人が周囲の人間に説明して、それで本当に皆が納得すると思う? いきなり現れた妙ちきりんな繭を指して、『これは竜族のものだ、忌しい慣習に基づき私の美しい弟を差し出さねばならぬ――』なんて。気でも狂ったと思われるほうが普通じゃない?」
「それを言うなら、竜族の定義も曖昧ですね。竜族というものが一般に知られているという風でありながら、あれは宇宙から飛来した未知の生体機械であるという記述も併存している」
「そう、それも疑問。しかし、破綻とまではいかない。単に未知のものを、それに近しい既知のものの名で呼んだだけかもしれない。そこは保留して、二つ目の破綻。いきなり現れた北方警察のあたりだね」
「ああ……なんの伏線もなく出て来ましたよね……」
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板