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287二つの遺作・後編(10/20):2008/01/10(木) 01:32:41


「俺の親父が死ぬ前、俺にある一つの約束をさせた…
『我が羽を追え。我の生涯の汚点を。
 あれはもう我では無くなったが、我との繋がりが完全に絶たれた訳ではない。
 …我が過ちを我の手で正せない我を、許してくれ』とな」
凍りついた私の前で、男の話は続く。
手の中で【ティルヴィング】が熱を持っていくのが分かる・・・いや、これは私の手の熱なのか?
「俺の親父の羽は、物心ついたときはまだ2つあった。それが片っぽなくなったのはそう・・・
 …俺の【滑空】の儀式の少し前だから、20年以上前になるはずだ。」
20年以上前となると、私がまだ母の腹の中に居た頃の話になる…まだ、誰もが幸せだった時代の話。
つまり、自分が生まれる頃には、呪いは既に始まっていたのだ。
男は今までと打って変わった、何の感情も見えない顔と声だった。
月は真夜中をとうに過ぎたと告げていた。森もすでに眠るように静まり返っている。
その中で、焚き火の明かりは、彼は、私は、まだ始まりに過ぎないと感じていた。
静かな声で、淡々と話は続いていく。
「ある時、父は背中に幾つもの矢で貫かれた姿で村に帰ってきた。三日三晩生死の境を彷徨い、
 この世に戻って来た時、自分で自分の羽を、祖父の羽から削り取った斧で叩き折った。
 正気を失ったのかと思ったよ…そこからまた命の境目を漂い、帰ってきた父は別人みたいになっていた。」
オン、オンオンオンオンオンオンオンオンオンオンオンオンオンオンオンオン怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
手に持っていた其から、音が私の体に響いて行く。ヒビいて、いく。
「体を動かしても大丈夫になった位に…父は羽をどこかへ持っていった。
 今考えると鍛冶職人のところか、自分でその剣を打ったみたいだがな。
 ・・・そして、あんたの親父さんの所に持っていった。」
「父を…知っているんですか?」
「・・・人の良さそうな人だった。誰かを傷つけるような事ができるようにはとても思えなかった。だから
 ・・・理解できなかったな。あれほど親父が憎悪の念を、送っていたのかが」
彼の父上には悪いが、自分もそう思う。
それ位、気が弱く、優しい父だった。
小さな幸せを求めていた。母と、私と、父の小さな家庭の幸福。
叶わないと知りながらも、父が求めていたのはそれだけだった。なのに。
「結局俺の親父と、あんたの親父の間に何があったのか、聞く事は叶わなかった。
 ただ、病に倒れて死ぬ直前まで『許してくれ』『あの剣で呪われるべきは自分だったのに』とずっとうわ言の様に言っていた。」
ふと、記憶の奥底で何かがうごめく。
父と逃げるように暮らしていた日々、売りに出しても戻ってくる【ティルヴィング】を見つめながら言っていた
『…そうか。分かったよ。やっと分かった。』と。
今思うと、あれからしばらく、父はその剣を捨てる事は無くなった。
だが、自業自得とはいえ、目の前に迫る呪いを受けた者達を、彼らからの報復を目の当たりにし、
父はまた剣を捨てる事を繰り返すようになったのだ。
「その呪いは【継続】である。長はそう言っていた。
 呪われた本人自身を【変質】させ、その存在を【断絶】する呪いではなく、
 呪った本人のその周りに不幸を招き、それを結果的に――あんたの親父さんに不幸を招かせる事と言うのが
 【ティルヴィング】の大まかな【呪い】らしい。最終的に、【ティルヴィング】の刃で自身の命を奪うまでに追い詰めることが。」
確かに、合致する点は幾つも当てはまる。父自身の不幸は間接的で、周りの人々しか知らないのだ。
【ティルヴィング】が直接どう作用して、不幸に墜ちたかは。
…『あれのせいだ。あれを渡したお前のせいだ』。恐らくそう言う事なのだ。


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