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物語スレッド

179遺された紀憶(1) ◆hsy.5SELx2:2007/06/06(水) 07:39:20
時:a84nf-jk4l-9f3d

 とりあえず、ぼくは欠陥品だったらしい。最初にそれを知ったときにはううむ、そうか、なんて、柄にもなく唸ってしまった。欠陥品なりに精一杯働いていたつもりだったんだけどね。ある日突然、壊れちゃった。湖のほとりまでトントロポロロンズを取りにいって、それっきり。あまりに遅いぼくの様子を見にきた父さんはため息をついて言った。
「もう、帰ってくるなよ」
 でも、こういったセリフにも、ぼくはそれほど傷ついたわけじゃない。本当にショックだったのは、ぼく自身、ぼくが壊れるなんて思っていなかったことだ。大体、湖に行くなんて日課みたいなものだし、それまではごく普通に動いていたのに。まったく、困ったものだ。
 取り残されたぼくはずっと、湖のほとりでうずくまっていた。最初の星が空に光り、月が登り闇が立ちこめても、どうしても動くことができなかった。とはいうものの、身体はどこも正常だった。異常はどこにも見当たらなかった。だから、たぶん悪いのは心だったんだと思う。よくわからない。でも、ぼくは壊れてしまったんだ。
 夜の湖面はいつもとはまるで違っていた。女の子の瞳みたいにふうわりとした黒のうえで、星や月がきらきらと輝いていた。綺麗だった。
 何も考えられないままにただじっと見詰めていたら、不思議なことがおこった。そういうあれこれが段々とぼやけて滲んでいったんだ。ぼくはよくわからないままにただじっとうずくまっていたんだけど、やがてふっと奇妙な考えが浮かんで、思わずほんの少し、笑ってしまった。

 おかしいな。
 涙を流す機能なんて、ついていないはずなのに。

 それが最初の日のこと。以来ぼくはずっと、うずくまったままで、ここにいる。


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