■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part28

1 : ■■■■ :2014/11/12(水) 17:22:29 woiQOARw
上条さんと美琴のSSをじゃんじゃん投下していくスレです!
別に上条さんと美琴だけが出てくるスレじゃありません。
上条さんと美琴が最終的にいちゃいちゃしていればいいので、
ほかのキャラを出してもいいです。そこを勘違いしないようにお願いします!

◇このスレの心得
・原作の話は有りなのでアニメ組の人はネタバレに注意してください。
・美琴×俺の考えの人は戻るを押してください。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・レスする前に一度スレを更新してみましょう。誰かが投下中だったりすると被ります。
・次スレは>>970ぐらいの人にお願いします。

◇投稿時の注意
・フラゲネタはもちろんNG。
・キャラを必要以上に貶めるなど、あからさまに不快な表現は自重しましょう。
・自分が知らないキャラは出さないように(原作読んでないのに五和を出す等)。
・明らかにR-18なものは専用スレがあるみたいなのでそちらにどうぞ。
・流れが速い時は宣言してから書き込むと被ったりしないです。投稿終了の目印もあるとさらに◎。
・創作しながらの投稿はスレを独占することになりますので、書き溜めてから投稿することをお勧めします。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・以前に投稿したことがある人は、その旨記述してあるとまとめの人が喜びます。
・ちなみに1レスの制限は約4096byte(全角約2000文字)、行数制限は無い模様。

◇その他の注意・参考
・基本マターリ進行で。特に作品及び職人への過度なツッコミや批判は止めましょう。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・クレクレ(こうゆうのを書いてください)等はやりすぎに注意。
・読んだらできれば職人にレスしてあげましょう。職人の投稿するモチベーションを維持できます。
・誰か投下した直後の投下はできれば控えめに。
・倫理的にグレーな動画サイト、共有関係の話題はもちろんNG。
・書きたいけど文才無いから書けないよ!
  →スレの趣旨的にそれでも構いません。妄想と勢いでカバー(ネタを提案する程度でも)。

◇初心者(書き手)大歓迎!◇

前スレ
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part27
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1395680118/

まとめページ
とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫 / 上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/81.html

まとめページの編集方針
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/213.html

スレ立て用テンプレ
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/82.html


2 : ■■■■ :2014/11/12(水) 17:25:01 woiQOARw
■過去スレ
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1256470292.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part2
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1262324574.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part3
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1264418842.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part4
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1265444488.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part5
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1266691337.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part6
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1268223546.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part7
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1269624588.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part8
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1271074384.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part9
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1272858535.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part10
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1274888702.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part11
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1278386624.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part12
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1281121326.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part13
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1287267786.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part14
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1294570263.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part15
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1297888034.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part16
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1301665322.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part17
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1306158834.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part18
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1313080264.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part19
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1319498239.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part20
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1327581934.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part21
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1335861860.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part22
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1352112151.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part23
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1360844502.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part24
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1363802594.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part25
ttp://jbbs.shitaraba.net/movie/6947/storage/1369269992.html
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part26
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1381415914/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
part27
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1395680118/


3 : ■■■■ :2014/11/12(水) 17:26:17 woiQOARw
■関連ページ
とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/
とある魔術の禁書目録 Index
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/
御坂美琴まとめ Wiki
ttp://wikiwiki.jp/misakamikoto/

■関連スレ
上条当麻×御坂美琴 専用雑談スレ 追いかけっこ13日目ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1394592431/
とある魔術の禁書目録 自作SS保管庫スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1263738759/
とあるSSの禁書目録 PART11
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1318073465/
上条さんと○○のいちゃいちSS
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1269574273/
上条さんが好きそうな女キャラについて語ろう
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1361190443/
禁書目録シリーズヒロイン全般を語るスレ20
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1392724701/
上条さん専用スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1378522373/
【お姉様】御坂美琴スレ【ツンデレールガン】
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1137078534/
上琴の愛に溢れたSS・薄い本を教えあうスレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1372493514/
【とある魔術の禁書目録】上条当麻のあだ名はカ38んttp://ikura.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1392552832/
【とある魔術の禁書目録&超電磁砲】御坂美琴はウサミミかわいい233
ttp://ikura.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1394814125/

■関連スレ(R−18)
上条当麻×御坂美琴 いちゃエロスレ4
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1322814818/
禁書でエロばなし
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1137215857/
【とある魔術の禁書目録】鎌池和馬総合 38フラグ目
ttp://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1363161190/


4 : ■■■■ :2014/11/12(水) 17:27:35 woiQOARw
こんな感じでいいのかな?
初めて立てたので変なところあったら教えて下さい、すみません


5 : ■■■■ :2014/11/12(水) 19:25:17 MhpTjeNg
スレ立て乙です!


6 : ■■■■ :2014/11/12(水) 21:34:17 vcwCxGA2
            - '' '"´, ̄、`_- 、
          /   , '´,  , 'ヽ  \
          ,ィ゙  / //'´ 丶 ヽ 丶   ごきげんよう、みなさま。
        〃 / /  /  / /  i l  ヾ l   この小笠原祥子が>>6を頂戴致しますわ。
        /i / / / / /  , 〃イ'l ! i ヽ│
       /| / ' ' / ', // !\ !  |    鳥>>1江利子さま  今日もデコが光ってますね(プ
       l l゙ /  ,l !/_/、//_____ヽヾi !  |    >>2条 乃梨子    仏像オタクキモ!!
      ,l | ! /リ'f rテ' /''~-t rァ`lヾ) |    >>3藤 聖さま     私の妹に手を出すな、セクハラ大王!
      |  | ′!| ` ̄´  l   ~`'''´ lレ"`|    >>4ま津由乃      あなた、まるで令の金魚の糞ね(ププ
      |  |i  ヽ     !      /'〃!|    >>5きげんよう、水野蓉子お姉さま
      |  |i  i \  / ̄l   / 〃! |    
      |  |  i   lヽ ゝ-' ,イ ! 〃 |     蟹>>7 静さん     選挙で負けて学園を出て行く姿、無様ね!(ププ
       l |  !   l  ヽ‐ '  l、 〃 ! |     >>8せ倉 令     由乃のロボットなの?あなたは(w
      │ l ! i  /l     l/`〃 ! |     ふ>>9沢祐巳     そのニヤニヤ顔はやめなさい!!
                              >>10堂志摩子 随分背景と一体化した薔薇様だこと、一瞬気づかなかったわ(プ


7 : ■■■■ :2014/11/13(木) 23:25:05 GlCQzoH2
おつー


8 : ■■■■ :2014/11/15(土) 23:46:17 6hNhgf3U
私は、はりねずみさんの作品が大好きで待ってますので、続きをお願いします


9 : ■■■■ :2014/11/16(日) 00:57:17 hVtOz6S2
個人のHPなんかで書くのは勝手だけど、不快になる人間が一定数いるならこういう場でupして欲しくない
読みたい人ははりねずみのHPでも行って読めばいい
「どうしても書きたい内容がある」と言って描いたのが「美琴による妹達殺し」
本質的に美琴に人を殺させたいのがはりねずみの願望みたいだからね
そんな人に美琴の物語を一文たりと書いて欲しくない
元のタイトルが「美琴のレクイエム」でしょ
最初から葬送曲であり表面的なハッピーエンドしか頭になかったみたいだから
美琴の心なんてどうでもいいって考えの人は要らない


10 : ■■■■ :2014/11/16(日) 02:17:31 .xYNwt2w
>はりねずみさん
毎回投下時、最初のレスに注意書きしてくれれば構わないと思う


11 : ■■■■ :2014/11/16(日) 09:36:54 j9FKP2E.
暗い作品も上琴なら有りと思ってるけど、さすがにここではやめたほうがいいかもねー


12 : ■■■■ :2014/11/16(日) 11:23:09 akuPa5BQ
>>9
それはそれで一面的すぎるな
上条があれだけのフラグ野郎で、それとくっつく、ってことは裏にあまたの不幸少女を生み出してるわけで
そう考えれば表現はともかくあんまし変わらんように思うんだが


13 : くまのこ :2014/11/16(日) 13:43:54 zGE19KD6
>>ななくごさんGJです!
Crystal Kayの「こんなに近くで…」を思い出しました。切ねぇ!
あ、それとエロスレの方もいつも楽しく(そしていやらしく)読ませていただいてます。

>>・・・さんGJです!
相変わらず赤子ックスは可愛いですな〜…ほのぼの…
前スレの締めの投下、お疲れ様でした!



この流れで投下するのは若干怖いですが、
新スレ一発目、書かせていただきます。
過去話捏造している為、苦手な方はスルーしてください。
約3分後に3レスです。


14 : とある少女の初恋物語 :2014/11/16(日) 13:47:05 zGE19KD6
―――今にして思えば、あれは初恋だったのかもしれないわね―――


 ◇


特徴的な大きなアホ毛をピコピコと揺らしながら、
その小学校低学年の女の子は、公園でブランコを漕いでいた。
片手には鎖と一緒に大きなカエルのヌイグルミを握り締めて、「キャッキャ」と笑うこの少女、
まだ学園都市に移って間もないが、これでも立派な電撃使いの端くれだ。

彼女の名は「御坂美琴」。
今はまだレベル1ではあるが、数年後に「常盤台の超電磁砲」としてその名を轟かせる、
未来のレベル5の第三位である。

美琴は勢いをつけたブランコからジャンプし、そのまま前方の砂場にダイブする。
そこに人がいるとも気付かずに。
砂埃が舞い、土煙で周りの世界がもわもわと茶色く濁り、美琴はケホケホと咳き込んだ。
と同時に、煙の向こうからも誰かが咳き込む声。
ここでようやく、美琴は自分の他にも、もう一人いると気付いたのだった。

「ご、ごめんね!? 私、前見てなかったから!」
「ケホッケホッ…あ、う、うん、いいよ。別に何ともな……あーっ!!!」

煙の向こうからおぼろげに見える人影は、優しそうな声(という美琴の第一印象)で受け答えしたが、
突然大きな声を上げたので、美琴はビクッとする。
だが、やがて土煙が晴れた事で目の前の現状がハッキリと分かり、
美琴は何が起こったのかを理解した。

砂場には二人。その内の一人は勿論美琴だ。
もう一人は、ツンツン頭の少年。おそらくは小学校中学年ぐらいだろう。
少年の周りには、小さなスコップと水の入ったバケツが転がっていた。
そして美琴の足元には、砂で作られた小さなお城…の残骸。
完成間近だったと思われるそのお城は、進撃の巨人【みこと】によって破壊されていたのだ。

「あー…はははー……不幸だー…」
「ごごごごごごめんなさいっ!」
「あっ!? ううん、いいよいいよ!
 『不幸』って言ったのは口癖みたいなもんだから、気にしないで!」
「でも…でも……」

美琴は目に涙を溜め始め、ぐすぐすと鼻を鳴らす。
男の子は、そんな美琴の頭を撫でて、あやすようにこう言った。

「ホント、大丈夫だから。友達を待ってる間の、ただの暇つぶしだったし」

男の子は今日友達と遊ぶ約束をしていて、この公園で待ち合わせをしていたのだが、
しかしその友達が学校の用事で来るのが遅れているので、
こうして砂場で一人寂しく遊んでいたのだった。
スコップとバケツは、ここで遊んだ他の誰かが忘れて置いて行った物らしい。
確かに、小学校3〜4年生の男の子が、理由も無く一人でお砂場遊びというのは、
中々どうして悲しいものがない事もないが。

「ぐすっ……ホント…? お兄ちゃん、怒ってない?」
「う、うん。怒ってない怒ってない」

怒ってはいないが、美琴の『お兄ちゃん』呼びに、何故かむず痒く感じる少年である。
まだ、それが『妹萌え』だと理解するには早すぎる。

「そ、そう言えばお前、もの凄く嬉しそうにブランコ漕いでたよな! 何かいい事でもあったのか!?」

少年は、自分の心に芽生えそうな『イケナイ何か』を誤魔化すように、話を逸らす。


15 : とある少女の初恋物語 :2014/11/16(日) 13:47:46 zGE19KD6
「あっ! うん! 私さっきね! 良い事したの!」
「へぇ〜、どんな事?」
「あのね! お医者さんにね! 私のDNAマップをあげたの!」
「そっか〜……ってあれ? DNAマップって誰かにあげたら駄目って学校で最初に習ったような…」
「そうだけど…でもね! 私のDNAマップで治せる病気があるんだって!
 きん…きんじす……えっと…そう! 『きんじすとろふぃー』っていう病気なの!
 だからあげたの! お医者さんも『ありがとう』って言ってたもん!」
「へぇー! すっげぇじゃん!」
「えへへ〜」

男の子は、再び美琴の頭を撫でた。
この男の子に撫でられる度に、美琴は心の奥底が温かくなるのを感じていた。

「…お兄ちゃんの右手ってフシギだね」
「…っ! そう…かな?」

ふと、美琴の頭に触れていた少年の手が離れた。
「右手」という言葉に、何故か一瞬だけ顔をしかめた少年だったが、
美琴は気付いていながったらしく、話を続ける。

「うん! だって、胸の中をポカポカさせてくれるんだもん!」
「…俺は…自分の右手ってあんまり好きじゃないけど……でも何かに役立ってくれるなら俺も嬉しいよ」

そう言って笑う少年の顔には影があった。
そこでようやく何かを悟った美琴は、心配そうに少年の顔を覗き込む。

「お兄ちゃんだいじょぶ? お腹いたい?」
「ううん、何でもない。
 それよりさ、DNAマップを提供したって言ってたけど、お前どんな能力使いなんだ?」

再び話を逸らす。どうやら、右手については話したくない過去があるようだ。

「えっ!? えっと…電撃使いだよ」
「おー! じゃあビリビリってできる!?」
「そんなにすごいのはできないよ〜。いっぱい『ん〜〜〜っ!』ってやって、やっと火花が出るくらい」
「それでも羨ましいよ」

少年は訳あって無能力者だった。
レベル0でもある程度の能力は使えるが、少年は全く能力が発現しないという、
『完全』な無能力者だったのだ。
なので美琴の能力のように微々たる物でも、少々憧れがあったりするのだ。
まだ諦めの境地に至れる程、彼は大人ではない。

「もっといっぱい電気が出せるようになりたいな〜…」
「じゃあ将来はレベル5になるのが夢なのか?」

少年の問いに、美琴は「んむー…」と考え込む。

「レベルは上げたいけど、『夢』っていうのとはちょっと違うかも…」
「じゃあ夢は?」

美琴は、少年の目を真っ直ぐに見つめてこう言った。

「…うん! 私、お嫁さんになりたい!」

女の子らしい、純粋で可愛い夢だった。その答えに、少年は何の気なしに返事をした。

「お嫁さんかー…じゃあ―――」

しかしその返事は、

「―――じゃあ、将来俺が独身【ひとり】だったら、お嫁さんになってくれるか?」

小さな小さなプロポーズだった。
少年にとってはきっと、おままごと感覚だったのだろう。
しかしそれを受けた美琴は、突然胸の奥が「ドクンッ!」と跳ね、キュンキュンと苦しくなる。
だがその苦しさは、何故か心地の良いものだった。
自分の身に起きた謎の異変に戸惑いつつも、美琴は少年に笑顔を向ける。
ほんのりと、頬に火照りを感じながら。

「うん、いいよ! じゃあ、お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる!」


16 : とある少女の初恋物語 :2014/11/16(日) 13:48:27 zGE19KD6
(今にして思えば、あれは初恋だったのかもしれないわね)

その後、少年の友達が遅れてやって来たので、美琴と少年は、お互いに名前も聞かずに別れのだが、
「名前くらい聞いておけば良かったかな〜」と、『現在の』美琴は当時の事を思い出す。

(ま、よくある甘酸っぱい思い出の1ページみたいな物よね。
 もう、あの男の子の顔もよく思い出せないし)

あの時と同じ公園で、ベンチに座りながら淡い思い出にふける美琴。
そんな彼女の頬に、突然冷たい何かが当たる。

「ちべた(冷た)っ!?」

バッ!と振り返ると、冷えっ冷えのヤシの実サイダーの缶を2本持ってニヤニヤしている、
上条の姿がそこにあった。

「ビックリした〜……
 アンタねぇ! それ冬にやる事じゃないでしょ!? めっちゃ冷たかったわよ!?」
「そんな怒んなって。ほら、一本奢ってやるから」

そう言いながら、手に持っている缶ジュースを1本差し出してくる。
美琴はぶつぶつ言いながらも、上条の差し入れを受け取った。

「そう言や、何かボケ〜っとしてたけど、どうかしたのか?」
「ちょろ〜っと昔の事を思い出してただけよ」
「思い出?」
「ま、ちょっとね。昔ここで、ある男の子にプロポーズされたの」

上条は一口飲んだヤシの実サイダーを、盛大に噴き出した。

「ぶっふううううううっ!!! ププ、プロ、プロポーズ!!?」
「だから子供の時の話だってば。何、焦ってんのよアンタは?」
「い、いや焦ってねーけど!」

上条のこの反応に、もしかしてヤキモチでも焼いて、更には妬いてくれてるのかなと、
ちょっぴり嬉しくなる美琴。

「ゴホンッ! で、その…美琴は何て答えたんだ? そのプロポーズ」
「なに? 気になるの?」
「べ、べっつに〜? そういう訳じゃないけど…ただ、どうなのかな〜って思っただけです」

美琴はクスッと笑いながら言う。

「その『お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる』って…ね。おままごとみたいなものよ」
「おままごとねぇ…じゃあ、たまたまその子がプロポーズみたいな事をしたから受けただけなんだな?」
「まぁ…そう、なのかな…? 誰でも良かったみたいで、何か嫌だけど…」
「あっ、じゃあさぁ―――」

上条は何の気なしに呟いた。

「俺がもしその男の子だったとしても、同じように答えたのかな?
 俺のお嫁さんになってくれるって」
「ぶっふううううううっ!!!」

今度は、美琴が盛大に噴き出した。

「ばばばば馬鹿な事言わないでよっ!!! アア、ア、アンタとなんて有り得ないからっ!!!
 あ、あ、あの男の子はアンタと違ってず〜〜〜っとカッコ良かったしっ!!!」
「にゃ、にゃにおうっ!? まるで上条さんがカッコよくないみたいじゃないですかヤダー!」

ぎゃあぎゃあと、いつものように騒ぎ出す二人。
いつもの日常、いつもの風景。いつもの二人の姿。



美琴は気付いていないけれど、あの時の初恋は今もまだ―――


17 : くまのこ :2014/11/16(日) 13:49:14 zGE19KD6
以上です。
日曜日の昼間なので、爽やかなお話にしました。
ではまた。


18 : ■■■■ :2014/11/16(日) 16:30:42 yYvOBiRY
くまのこさん(*^ー゚)b グッジョブ!! 心が洗われるような話だなぁ


19 : ■■■■ :2014/11/17(月) 01:45:43 vXUXAu66
>>14
おもしろかったです。
ありがとうございました。


20 : ■■■■ :2014/11/17(月) 20:07:25 pBZ01qV.
くまのこさん、最近ネタのこさんからえろのこさんだったから、そっちに突っ走ってくのかと思ったら、
可愛いお話でした///


21 : ■■■■ :2014/11/19(水) 21:29:51 Oc/E3MXM
>>くまのこさん
何この可愛いのは♪こういう捏造ものは歓迎ですよー♪

・私的話
ネタの参考にしようと「佐天さんが美琴たんを弄りまくる」SSを捜索中なう。


22 : ■■■■ :2014/11/20(木) 16:34:17 Im0TzcNE
>>21 ネタの参考にしようと「佐天さんが美琴たんを弄りまくる」SSを捜索中なう。

くまのこさんの作品ならそういうの多いよ
佐天さんが出てくる話なら大体弄ってる


23 : くまのこ :2014/11/22(土) 00:17:28 kYXpG7LI
いい夫婦の日になったので、夫婦ネタを投下します。
台本形式なので、苦手な方はスルーでお願いします。
約3分後に2レスです。


24 : 上条美琴が新婚生活で幸せに感じる瞬間25 :2014/11/22(土) 00:20:27 kYXpG7LI
美琴 「ふあっ!………あぁぁ…んー、まだ眠…」
当麻 「くかー…くかー…」
美琴 「…くすっ」

01:朝起きると、隣寝ている彼の寝顔が見られる



美琴 「ほ〜ら、『アナタ』! 会社遅刻しちゃうから、もう起きなさい!」
当麻 「……んが…?」

02:彼を『アナタ』と呼べる



当麻 「ふあ、あああぁ……おはよー…」
美琴 「はい、おはよう。ご飯作るから、その間に顔洗ってきちゃって」
当麻 「ふぁ〜い」

03:お互いに『おはよう』と言い合える



当麻 「…あのー、美琴さん? 俺が髭剃ってる姿を見てて楽しいでせうか?」
美琴 「うん! かなり♪」

04:髭を剃る姿にキュンとくる



当麻 「ご飯できた?」
美琴 「もうちょっと待っててね。すぐでき、きゃっ!!?」
当麻 「ムギュムギュ〜」
美琴 「も、もうバカッ! 包丁使ってる時は危ないからダメって言ってるのにー!」
当麻 「いや〜…ミコっちゃんのエプロン姿を見るとつい」

05:台所に立っていると、彼が後ろからハグしてくる



当麻 「ん? 味噌汁の味変えた?」
美琴 「お味噌にちょっとアレンジ加えてみたんだけど…いつもの方が良かった?」
当麻 「いや、これも美味しいよ」
美琴 「そっか。良かった」

06:当たり前のように『美味しい』と言ってくれる



当麻 「んじゃ、行ってきます」
美琴 「あっ、ちょっと待って! ネクタイ曲がってる!」
当麻 「え、マジで?」
美琴 「んも〜う! 仕方ないんだから!」
当麻 「…お手数お掛けします」

07:彼のネクタイを直してあげられる



当麻 「じゃあ今度こそ本当に行ってきます、っと」
美琴 「…何か忘れ物してない?」
当麻 「え? カバンは持ったし、サイフもケータイも、必要な書類もあるし…」
美琴 「じー…」
当麻 「……はいはい、分かってますよ。………『ちゅっ』…これでよござんすかね?」
美琴 「うん! 行ってらっしゃい♡」

08:お出かけの前にはキスしてくれる♡



美琴 「さて、と! 今日はいい天気ねー! お洗濯日和だわ!」

09:彼の服を洗濯できる



美琴 「にゅふふふふ〜! あの人の匂いがする〜♪」

10:こっそり彼の使っている枕を抱き締めたりできる♪



美琴 「今日、遅くなる?」
当麻 『ああ、大丈夫。残業無いっぽいから、直帰できるよ』
美琴 「本当!? じゃあご飯作って待ってるね! 夜、何食べたい!?」
当麻 『えっ? んー、じゃあ…中華で』
美琴 「はいよー! まっかしといて♪」

11:お昼休み中に必ず電話してきてくれる



男性 「ごめんくださーい! 宅配便でーす!」
美琴 「あ、はーい!」
男性 「こちらにサインか印鑑をお願いします」
美琴 「はい。じゃあサインで」

12:サインをする時に「上条」と書ける



美琴 「今のうちにお買い物済ませちゃお。中華って言ってたけど、具体的には何にしよっかな?」

13:彼に作る夕ご飯の献立を考えられる



当麻 「たっだいま〜」
美琴 「あっ! お帰りなさい!」

14:『ただいま』って言ってくれる



当麻 「あ〜…つっかれた〜」
美琴 「じー…」
当麻 「……あのー、ミコっちゃん? 俺がネクタイ緩めるのを見てて楽しいでせうか?」
美琴 「うん! かっこいい♪」

15:ネクタイを緩める姿にキュンキュンする


25 : 上条美琴が新婚生活で幸せに感じる瞬間25 :2014/11/22(土) 00:21:18 kYXpG7LI
当麻 「しっかし腹減ったな〜」
美琴 「もう、ご飯できてるけど食べる?」
当麻 「マジで!? 食べる食べる!」
美琴 「ふふっ。どうぞ、召し上がれ」
当麻 「おう! いっただっきま〜す! はぐっ! もぐもぐ、うんめ! むぐむぐ、はぐ、もぐ」
美琴 「そんなに慌てなくても、逃げやしないわよ」

16:食べてる姿が可愛い♡



当麻 「ふぃ〜、ごっそさん」
美琴 「はい。お粗末様でした」

17:残さず食べてくれる



美琴 「じゃあ洗い物済ませちゃうから、その間にお風呂入っちゃって」
当麻 「ん…いや、いいよ。待ってる」
美琴 「…? お風呂冷めちゃうわよ?」
当麻 「だってさぁ…やっぱ一緒に入りたいし」
美琴 「………もう…エッチ…♡」

18:お風呂も一緒♡



当麻 「美琴って肌スベスベだよなー」
美琴 「これでもお手入れには気を使ってんのよ。エレクトロポレーションって知ってる?」
当麻 「いや…知らないけど」
美琴 「まぁ、簡単に言えば電気パルスを使った美容法なんだけど、私それをやってるの」
当麻 「はぁー…そんな能力の応用法が……流石は電撃使いだな」
美琴 「はい! じゃあ次はアナタの番ね。後ろ向いて?」
当麻 「へーい」

19:背中の洗いっこができる



当麻 「う゛あ゛ー! やっぱり湯船に浸かると一日の疲れが吹っ飛びますな〜!」
美琴 「あはは! 何それ、オッサンくさ〜い!」
当麻 「じゃあもっとオッサンくさい事してあげましょうか…?」
美琴 「え? …やっ、ちょ、やぁんっ!」
当麻 「うりゃうりゃうりゃ〜!」
美琴 「ちょ…ホントに、それ、以上…は………んきゅうぅんっ♡」

20:お風呂の中でエッチな事をされちゃう♡



当麻 「いや〜、随分と長風呂してしまいましたな」
美琴 「ア、アアア、アナタが『あんな事』までするからでしょ!? ったくもう…」
当麻 「何言ってんのさ! 愛する人と堂々と愛せるのは既婚者の特権だろがい!」
美琴 「はいはい。愛してくれてどうもね」

21:サラッと『愛してる』って言ってくれる



当麻 「………」
美琴 「………」
当麻 「この女優さん、この前の映画に出てたよな」
美琴 「あ、うん。先週一緒に観に行った奴ね。出てた出てた」
当麻 「………」
美琴 「………」
当麻 「この芸人って、奥さん誰だっけ?」
美琴 「えっと……あれ? その前に、もう離婚してるんじゃなかったっけ?」

22:テレビを観ながら雑談ができる



美琴 「あっ、もうこんな時間じゃない! 明日早いのよね!?」
当麻 「そう言やそうだな。もう寝るか。んじゃ、おやすみー」
美琴 「はーい、おやすみー」

23:お互いに『おやすみ』と言い合える



当麻 「……ミコっちゃ〜ん」
美琴 「や、ちょっと、今日はダメよ! 明日早いから寝るって言ったばかりでしょ!?」
当麻 「な〜んか眠れなくてさ。でも『疲れるような事』すればグッスリだと思うんだよ」
美琴 「そんな事言って、また『朝まで』とかになっちゃったら元も子もないでしょ!?」
当麻 「ムラムラしたままだと余計に眠れないしさ。という訳で…」
美琴 「ちょ、ホント、りゃめ、んっ…なの、に……あ、ん……ぁあ、は…ぁあんっ♡」

24:今夜も…♡



美琴 「ふあっ!………あぁぁ…んー、結局寝たのは5時過ぎか…まだ眠…」
当麻 「くかー…くかー…」
美琴 「…くすっ」

25:また今日も、いつもの一日が始まる


26 : くまのこ :2014/11/22(土) 00:22:43 kYXpG7LI
以上です。
上琴がメインではないので、こちらに投下する予定はありませんが、
支部の方で上琴未来設定(麻琴ちゃん含む)を絡めた話を書きましたので、
もし良ければそちらもどうぞです。
ではまた。


27 : ■■■■ :2014/11/22(土) 01:11:55 qbkdyDC6
くまのこさんエロスレで待ってるぜ


28 : 一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/22(土) 23:35:21 DQRf2bqI
お久しぶりでございます。

暴走のみこっちゃん編が浮かんだので投下しますw


29 : 御坂美琴の暴走  一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/22(土) 23:36:32 DQRf2bqI
「みーつけた♪」ギュッ

「み、み、み、み、み、御坂さん!?貴女様は一体何をしていらっしゃるのですかっっ!?」///

とある公園の自動販売機前で、ツンツン頭の高校生、上条当麻は悲鳴を上げた。

「なにって、アンタがいたから腕組んだだけなんだけど?」ギュッ

「な、な、な、な、なんで!?」(なんだこれ、しがみつかれてるから柔らかいものが上条さんの左腕に!)

「なんでって、アンタ、腕、組みたくないの?」キョトン

「御坂さんは組みたいんですか?」

「そりゃ、組みたいに決まってるでしょ。今まで我慢してたんだから」ギュッ

「そ、そうなの!?」(なにがあった?一体これはどういうこと!?)

「我慢する必要もなくなったし、今までの分、甘えさせてもらうんだから」ギュッ

「が、が、我慢する必要なくなったって、どういうことでしょうか?」///

「んー?彼氏に甘えるのって普通でしょ」ギュッ

「か、か、か、彼氏ぃっ!?」(どういうこと!?え?どういうこと?)

「そうよー。アンタはわたしの彼氏でしょー。うふふ」ギュッ

「いやちょっと待て御坂」

「なによ?」

「俺がいつ、お前の彼氏になったんだ?」

「は?」キョトン

「いや、上条さんにはそういった記憶がないんだけど…」


30 : 御坂美琴の暴走  一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/22(土) 23:39:25 DQRf2bqI

「…嘘、まさかまた記憶喪失…なの」

「いや、そうではないと思いますけど」

「やだ、やだよ。せっかく好きって言ってくれたのに…」グスッ

「……俺が告白したのか?」

「告白したのはわたしからだけど…アンタも好きって言ってくれた」グスッ

「いつ、どこで?」

「昨日の夕方、ここで」

「どんな風に?」

美琴は名残惜しそうに上条の左腕を離し、上条の正面に立った。

「こんな感じで、アンタの前に立って、…アンタが好き、って」///

「……」(なにこの可愛い娘)

「ね?本当に覚えてないの?」ウワメヅカイ

「御坂…」(真っ赤になって泣きそうな顔するなよ)

「…」///

「悪い、やっぱり俺にはそんな記憶はない」

「…っ」グスッ

「あー!もー!泣くな!」ギュッ

「ふぇっ!?」ビクッ

「そんな泣きそうな顔しないでくれ。ってか、お前の泣き顔は見たくない」ギュッ

「……」


31 : 御坂美琴の暴走  一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/22(土) 23:43:48 DQRf2bqI
「…あー、その、なんだ」ギュッ

「……」

「上条さん的にはだな、そういう記憶はないんだけどさ、さっきお前が再現してくれただろ?」

「…なにを?」

「その、告白?」

「…うん」

「それを聞いちまった以上、返事をしないといけないと思うわけですよ」

「…うん」

「あー、それでだな…」ポリポリ

「……」

「こういうのって顔を見て言うのがいいと思うんだけど、上条さんいっぱいいっぱいなんで、このまま言わせてもらう」

「……」///

「ってか、この体勢から判ると思うけど、その、よろしくお願いします」///

「……」///

「御坂さん?」

「……ふにゃあ」///

「零距離漏電!?」(よ、良かった。抱きしめてて)

幸い、抱き寄せていたため美琴にも上条の電気が流れることはなかった。


32 : 御坂美琴の暴走  一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/22(土) 23:50:35 DQRf2bqI
―――――

「落ち着いたか?」

「……う、うん」///

ベンチに並んで座る美琴に、上条はそう声をかけた。

「やっぱ、ちょっと無理。手、握ってくれる?」

「了解」

美琴の左手の甲の上に上条は右手を乗せた。

「…こうじゃなくて、その、ちゃんと繋いで欲しいな」

「はいはい、わかりました」ギュッ

「…ありがと」/// ギュッ

手を握り返し、大きく息を吸い込んでから美琴は口を開く。

「…その、アンタは、わたしの彼氏でいい?」

「そのつもり、だけど?」

「良かった…」


33 : 御坂美琴の暴走  一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/22(土) 23:58:56 DQRf2bqI
「あはは。その、思い出したんだけど、わたし、アンタに告白してなかったかなーって…」

「は?」

「その、わたしの夢の中でアンタに告白して、好きだって言ってもらった、みたいな」

「ゆ、夢ぇ?」

「うん。夢。でも限りなく現実に近かったんだと思う。わたしの中では」

「……そっか」

「それでも、アンタは彼氏でいてくれる?」

縋るように美琴は上条を見る。

「夢、か」

「うん」

「御坂」

「…」

「顔を上げてくれないか?」

「…」


34 : 御坂美琴の暴走  一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/23(日) 00:07:35 N3pXmCiw
美琴がおずおずと見上げると、そこには優しい微笑を浮かべた上条の顔があった。

「御坂、好きだ」

「……え」

「俺もお前が好きだ」

「…あ」ジワッ

「だから、泣くな、泣かないでくださいお願いします!」

「しょうがない…じゃない。嬉し泣き、なんだから」グスッ

「嬉し泣きでも、俺はお前の泣き顔は見たくないんだって」

「…じゃあ、止めて」

両手で涙を拭ってから、美琴は上条を見上げ、静かに瞼を閉じた。


おしまい

―――――

やばい上手い締めが思いつかなかったorz


35 : ■■■■ :2014/11/23(日) 07:03:11 tMjvzXjs
一哉さんGJですb
暴走御坂可愛いのぉ


36 : 一哉 ◆F/bQYgopwk :2014/11/23(日) 09:29:48 N3pXmCiw
ぬへ><間違い発見。

誤 幸い、抱き寄せていたため美琴にも上条の電気が流れることはなかった。

正 幸い、抱き寄せていたため美琴にも上条にも電気が流れることはなかった。

失礼しましたorz


37 : ・・・ :2014/11/23(日) 17:16:38 XG23WVHo
ども、・・・です。

昨日はいい夫婦の日でしたが、なにも思い浮かばなかったよ。

>>>21
っていうか、上琴SSで佐天さんでたら、大概御坂さんをいじってますよ。
私も、くまのこさんのSSを片っぱしから読んだらいいと思います。
くまのこさんのとこの佐天ちゃんは美琴いじりのプロだかんね。


では、感想

>>くまのこさん

幼馴染
もぐもぐ、ん? あの2人が無自覚にいちゃいちゃしてる?
前も言ったけど、昨日もおとといもやってたってば?
幼馴染属性? そんなもんまでた加えたら、ミコっちゃんに勝ち目のある奴はいないね
……って、この麻婆豆腐、塩と間違えて砂糖いれてね?

新婚生活
かっはっ!! 私の理想がここに!!
みこっちゃんが、いい嫁すぎて辛い。カミやんがいい旦那すぎて、苦しい。
会社ではただのろけてるんだろうなぁ。佐天は相変わらず弄ってるのかなぁ
あーもうちきしょう。もっと幸せになりやがれ!!


>>一哉さん
ぁぁぁぁあああああああ!!! ホント昨日今日は幸せだ!!
夢って!! 夢って!! 夢だけど夢じゃなかった―的な!!
あそこまでされちゃ、鈍感帝王も応えるしかないでしょうよ。
……もっと暴走してもいいのよ?

では投稿します。
長い夏休みも今回で終わりです。
それでは


38 : 夏祭り 後篇3 :2014/11/23(日) 17:17:57 XG23WVHo
花火が夜空を彩る。
1発目の音に驚き、美琴にしがみついたインデックスは、2発目で空に花開く光に言葉を無くし、4、5発目からはしゃぎだした。
その後、3人は近くのベンチに座る。

「ぱーぱ!! どー!!」

「うん? ああ、大きな音だな」

「まーま!! どー!!」

「ん? あれはね、花火っていうのよ」

「はーび?」

「そう、花火」

「はーび!! どー!!」

「…………飲み物買ってくるよ、美琴、なにがいい?」

「じゃあ、ヤシの実サイダー」

「了解」

上条の背中を見送る。
そして、思うのだ。

(こんぐらいで舞い上がっちゃうなんて、末期ね)

次々と夜空に大輪の花が咲く。
ひとつひとつの花が咲くたびに、上条との日々が走馬灯のように浮かんだ。

『連れがお世話になりましたー』『あーまたかビリビリ中が『で、何だコイ『だから泣くなよ』けは、きっとお前は誇『またな、御坂』らさ、一体何をやれば恋人っぽ『―――――』
ックスと風斬『探したぞ、ビリビリ』んだ!お前に怪我なんてして『そいつらと少しずつ変えていけばいいんだ。もちろん、俺も協力する』『お? 殺気!?』『しかし、そっかー。御坂にとって俺との出会いは宝物かー』しもし。恋人より重たくなってますよ御坂さん』イザーが欲しい!! お前だけが頼りなんだ! 任せられるか!?』ら最後の笑いが超胡散臭かったからッ!!』んだ。上条当麻っていうのは、記憶のあるなしぐらいで揺らぐものじゃないんだよ』えると、助かる。記憶喪失だなんてさ、変に気『……ダメ?』(まだ、やるべきことがある)り顔をしている俺だって今何が起きてい『必ずこの失敗を取り戻す。それをやるまでは帰れな『はいはい幻想をぶち殺す。ゲンコロゲンコロ』『頼むよ話が進まない』ットでややこ『頼む。あいつら「二人」を助けるためにお前達の力を俺に貸してくれ』『俺が、そうしたいからだ』

……。

(…………骨抜きじゃん)

つい苦笑する。
ちょっと悔しい。
これでは完全白旗武装解除平身低頭の完敗だ。
そんななか、この幸福が偶然転がりこんで来た。
もし他の人が先に彼に出会っていたら、まず間違いなく今の生活はない。
それをオティヌスが来たことで思い知らされた。
インデックスが元に戻るまで、上条の寮が修繕されるまで、常盤台の寮が完成するまでの生活。
できるだけ長くこのままでいたい。
そのためには、この想いを上条に受け入れてもらうしかない。

(…………やっぱり、恐いよ)

この生活が大事だからこそ、
彼が拒絶することを恐れる。
おそらく、失敗したら、今の幸せを失うだけでなく、以前の関係に戻ることさえかなわない。
その頬に、小さな手が添えられる。

「まーま、だーぶ?」

この子にも、不安が伝わってしまったか。
美琴は、そっとインデックスを抱き締める。

「ありがとう、インデックス。ママ、頑張るね」


39 : 夏祭り 後篇3 :2014/11/23(日) 17:18:28 XG23WVHo


その彼女の様子を見て高台を去る影が1つ。
雷神トール。
彼の笑みには力がない。
そこに、声がかけられる。

「やぁ、落ち込んでいるな、負け犬」

カッチーン

「なんだよ、見てたのかよ。性格悪いぜ」

上条クンにも嫌われるぞ、と付け加える。
元魔神はまだ姿を現さない。

「ふっ、まさに負け犬の遠吠えだな。今の状況を受け入れてしまっている貴様に、弁明の余地はあるまい?」

「ぐっ…………でも、わざわざ美琴ちゃんを困らせたくはないし」

「なんだ、うじうじと、貴様らしくないな」

トールは苦虫を噛み締めたような表情でうつむく。
ふん、とため息をついた後、オティヌスは言葉を続けた。

「なぜ、悩ませてはいけない?」

肩が震える。

「別にいいじゃないか。こっちも悩んで苦しんでるんだ。向こうにもそれぐらいしてもらわないと、割りに合わん」

そこで一端切り、それに、と彼女は続けた。

「それに、うまくいった後、それでよかったのだと、笑えるほど幸せにしてやればいい」

少し考えて、はっ、とトールは苦笑する。

「…………強いな」

「当然だ私を誰だと思っている」

木の影から出てきたのは、猫にまたがったオティヌスだった。
トールは歩くスピードを下げる。

「で、そっちはまだ気持ちを伝えられていないようだけど?」

「貴様とは違う。勝てる状況を作ってからだな」

「…………じゃあ、あっちは伝えないでいいのか?」

トールは立ち止まる。

「体をもとに戻せば戻すほど、寿命は減ってるんだろ?」

しばらく、魔神も無言だった、が、ゆっくり、誰かに言い聞かせる。

「同情で勝ち取るものではないだろう?」

「……ホントに、強いよ、アンタ」


40 : 夏祭り 後篇3 :2014/11/23(日) 17:19:06 XG23WVHo


420円飲まれた。

「…………てめぇ」

睨み付けても、自販機はうんともすんとも言わない。
おかしいと思ったのだ。
不幸な自分に、小銭がちょうどあるなんてことがおこったのだ。
嬉々として小銭をいれたらこの様である。
しかし、野口さんを召喚するのは癪だ。
上条はキョロキョロと周囲を見回すと、

「チェイサー!!」

と回転蹴りをはなった。
ちょうど2本出てくる。
1本ヤシのみサイダー、もう1本がガラナ青汁。
やはり、上条は不幸なようだ。

上条は花火を見ながら戻る。
その道はちょうど、美琴と出会い、警報を鳴らす自販機から逃走した時の道だった。
当時の自分と美琴の姿がぼんやりと浮かぶ。

『愉快に現実逃避してないでジュース持ちなさいってば』

「なんか、ずいぶん昔のように思えるなぁ」

一歩歩むごとに、彼女の虚像が目の前で暴れる。

『あの子達を助けるには、もう私が死ぬしかないんだから!『だ…から、あ、あり』『うるさい! 黙って!ちょっと黙って!お願いだから少し気持『アンタ、こんなトコで女の子に押し倒されて、何やってる訳?』『アンタ……どうして……?』ゃーっ!つっかまえたわよ私の勝利条件! わは『ん…』『だから今度は、みんなを守りたい』『べあっ』『べっ、別に男女って書いてあ『ごめんごめん、止める間もなく始めちゃうわよ』チのは母のアドレスが登『アンタの中にはそれぐらい大きなものがあ『ふにゃー』『あいよー。言っておくけどこれは貸しだかんね』どういうつも『ただし、今度は一人じゃない』『アンタと私は、同じ道を進んでいる。その事を忘れんじゃないわよ』『私これ訳したくない』あああ!!アンタこんな所で何『任せて』『初めて勝てたけど……思ったよりも虚しいわね、これ』

長い長い回想のなか、自然と笑みがこぼれる。

そして、
上条は固まった。

花火の音が遠く感じられる。
赤、青、緑、黄、さまざまな色で周囲が点滅する。
彼女は、赤子を抱き、微笑みかけていた。
それだけの光景だった。
しかし、それでも彼はたったひとつの事実を思い知った。





上条当麻はもう







御坂美琴なしには












生きられない。


41 : 夏祭り 後篇3 :2014/11/23(日) 17:19:36 XG23WVHo

おまけ!

(昂然!! やったぞ!!)

シルクハットはどこかに落とした。

(現然、赤髪と侍女からあの子を救い出せた!)

まだぐるぐる眼鏡と髭は装備されている。

アウレオルスは逃げてはいたが、その表情は明るい。
やみくもに逃走していた彼は、ついに袋小路に追い詰められた。

「……覚悟は、できているな?」

「なにか、言い残すことがあるなら聞きましょう」

白い男は肩で息をする。
そして、彼らがあの子を抱いていないことを確認し、獰猛に笑って言いはなった。

「決然!! 本望!!」

どごーん、という音とともに、花火とは別のなにかがうち上がった。


42 : 夏祭り 後篇3 :2014/11/23(日) 17:20:06 XG23WVHo


おまけ!!

「インデックス、寝ちゃったね」

「花火ではしゃいでたしなぁ」

インデックスは、美琴の腕の中でスヤスヤと寝息をたてていた。
上条の手には醤油とトイレットペーパーがぶら下がっている。
3人は家路についていた。
そして、上条はパニックになっていた。

(ぬぁぁぁぁああああああ!! 今の会話夫婦っぽいぃぃぃぃいいいいい)

今更いろいろ自覚しだしたのだった。

(死ぬぅ!! 恥ずかしくて死ぬぅ!! っていうか、同じ屋根の下どころか同じベットで寝てるんですけど、これってもしかして大問題!!?)

っていうか、同じご飯食べてるし、同じ洗濯機で服洗ってるし、同じお風呂に入っているのだ。
っていうか、今更である。

「どうしたの?」

いかん、すっかり自分の世界に入っていた。
冷静になれ上条当麻!

「いや、花火キレイだったなぁってさ」

実は、本気を出した上条の演技力はすごい。
クラスメイトや担任、親にさえ記憶喪失を気づかれないくらいだ。
今回も完璧な演技。誰にも見破ることはできない。





たった1人を除いて。

「当麻、なんか変よ?」

「へ? なにが?」

「なにが?と聞かれると困るけど」

そして、

「へ? え!!?」

突然、美琴は上条のデコに手を添える。

「熱はない…………あれ?」

どんどんどんどん体温が高くなってるような?
美琴は上条の顔が首の方から頭にかけて赤くなるのに気付かなかった。

「わふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

の言葉と共に上条の頭が ぼんっ という音とともに爆発した。

「は? ちょっと!? 当麻!!?」


43 : ・・・ :2014/11/23(日) 17:23:23 XG23WVHo
以上です。
『片思い篇』終了です。

ゆっくり上条さんの心情を変化させてきましたが、いかがでしたでしょうか。


44 : ■■■■ :2014/11/23(日) 19:07:02 tMjvzXjs
・・・さん、おみそれしましたm(_ _)m
二人が思い出思い浮かべるシーン最高です!
遂に上条さん陥落ですか…続き楽しみにしてます!


45 : ■■■■ :2014/11/24(月) 20:12:59 P/FJRDic
上条さん·····


46 : はりねずみ :2014/11/24(月) 23:21:29 dYPRma42
皆さん。ご迷惑をおかけしました。
しっかりと『上琴のいちゃいちゃ』を書きますので、今一度チャンスを下さい。

>>くまのこさん
日々いちゃいちゃ時々ムフフ。幸せで大人な上琴。GJです!!

>>一哉さん
夢が現実に。美琴ちゃん。上条さん。幸せにな!
もう夢でなくとも美琴ちゃんの隣には上条さんがいるんですから。

>>・・・さん
やっとか上条さん。その気持ちを伝えればハッピーエンド一直線さ!

それでは2レス、使わせて頂きます


47 : はりねずみ :2014/11/24(月) 23:21:52 dYPRma42
大覇星祭。学園都市の学校全てが参加して、能力を使用しながら競う、大規模な運動会だ。
一日目の昼。屋台が並び、昼食を求める雑踏の中にいる一組の男女。額に白いハチマキを着けた2人は、屋台に目を向けることなく、真っすぐに突き進む。

「美琴のお父さん、今年も来れないんだって?」
「うん。仕事で世界中回ってて、ママですらパパが今どこにいるのがわからないみたいだし」
「寂しいか?」
「ううん。むしろいる方が少ないから慣れてるわよ。それに、当麻のお父さんも私を本当の娘みたいに接してくれた」

一連の会話からわかる通り、彼らは付き合っているし、既に両親との挨拶もしませていし認められている。

「そ、それに…」
「ん?」
「やっぱ何でもない!」

プイッと顔を反らす美琴。
それもそれで可愛いと思うのだが、口にはしない。

買い物を済まし、焼きそばの屋台の列から外れた男女がいる。
浜面と滝壺。学園都市の生徒だから。といえば当然であるのだが、体操着を来ている。

「お、上条に御坂か」
「こんにちは。2人とも」
「浜面。お前、学校行ってたのか?それに滝壺。浜面と同じ体操着じゃん」

元武装無能力者集団である浜面が学校へ行っていた事自体疑問であるが、そんな浜面と同じ学校の体操着を来ている滝壺も気になる。

「あー、やっぱ得意な事で仕事したいにしろ、いろいろと学ばないといけないしさ。その事を滝壺に言ったら自分も行きたいって。2か月くらいから」
「学校で、はまづらが他の女に誘惑されないか見張らないと」
「そんな事しなくたって俺は滝壺一筋だって!」
「そんなことはわかってる。でも、私ははまづらと長く居たいから」

解っていたけれども。この2人がバカップルである事など周知の事実であるけれども!
ここまで表に出されていちゃいちゃされるとイラつくものだ。

「ほら行こうぜ美琴。美鈴さん達が待ってるぞ」
「あ、うん」

上条は、美琴を引き連れて浜面と滝壺から距離をとった。


48 : はりねずみ :2014/11/24(月) 23:22:08 dYPRma42

この屋台通りも後半分。であるのだが、美琴の様子がおかしい。
表情が暗い。口数も減っている。

「どうしたんだ?」
「…ううん。なんでもない」
「そう、か……」

いや、彼もわかっているのだ。美琴が、浜面と滝壺を羨ましく思っている事など。
彼自身、彼らの様にできればいいとは思っていても、それを表に出すことが出来ない。それでも、美琴のあんな表情を見てしまうと……。

「あ〜ったく……」

上条は、繋いでいた左手から美琴を離すと、その手で美琴の肩を掴んで抱き寄せた。

「ちょっ!?」
「こうすれば、もうちょっとカップルっぽく見えるか?」

美琴は何も言わない。反応を見たいのだが、生憎と上条自身、恥ずかしさで顔を真っ赤にしてしまっているので美琴と目を合わせたくないのだ。
もう少しで通りを出れるかというところで、



パシャリ!




「「……へ?」」

カメラのシャッター音のような音に、2人して素っ頓狂な声を上げた。
音がしたのは2人の正面。5mかそこらしか離れていない距離だ。
その正面には大人が三人。それも上条と美琴がよく知る人物達だ。

「美琴ちゃーんこっち向いてぇ」

カメラを向けている美琴の母親。

「あらあら。」

微笑ましく見守る上条当麻の母親。そして一番後ろで「GJ!」とでも言いたげな父親。

「は、ははは。ははっはははは!」

どこかで聞いたことのある高笑い。

「い、いいい、いつの間に!?」
「うーん。当麻君が美琴ちゃんと抱き寄せたところから?」
「あ、あわわわわわ」

プルプルと、美琴が震えているのが肌から伝わってきている。その振動は1秒ごとに早くなる。

「ははは。あははははは!!」

そして、何かを諦めきったこの笑い声。上条には聞き覚えが会った。それを聞いたあの時はどうなったか、上条は思い出す。

「うわああーーん!!」

掴んだ腕を離すタイミングを逃した上条は、美琴に引っ張られながら、大人達の間を縫ってすぐ近くののレストランへと入りこんだ。


49 : はりねずみ :2014/11/24(月) 23:22:21 dYPRma42
以上でございます


50 : ■■■■ :2014/11/25(火) 06:57:36 Ww.JfExo
労いや感想の前にはりねずみ氏に確認です
同じ作品を某所でも上げてるようですが
その際に「ある方の画像をSSにした」とありますが
そのある方には事前に了承得てるんですよね?
要するに文字化ははりねずみ氏ですが「他人の作品である」
という認識で構いませんね?


51 : ■■■■ :2014/11/25(火) 07:04:38 0xc62Y26
はりねずみさんGJですb
まだ人に見られてる状態で甘えられないみこっちゃん…最高です…
二人きりの時だけ上条さんに甘えてると考えると…ぅぁヨダレが…


52 : ■■■■ :2014/11/25(火) 20:03:35 HuC418xY
良ぇ作品いっぱいですなぁ♪(*´▽`*)


53 : ■■■■ :2014/11/27(木) 00:14:12 vT8GmPss
>>50
むしろ渋の話をここに持ち込まないでー<スレチ

はりねずみさん可愛い話乙乙!


54 : ■■■■ :2014/11/27(木) 00:24:01 wJLn83J.
本人が「今一度チャンス」と言いながら他人の褌で相撲をとるのは違うんでない?
その意味では確認取るのは自然なことじゃないかな
スレチって言うけど内容が良ければこのスレはパクリでもOKってことでいいのかな?
みんな自分で考え頭悩ませて書いてるんじゃないの?
第三者が作った話を文章にして「自分の作品」としてアップするのはOKなんだね。


55 : ■■■■ :2014/11/27(木) 06:40:20 ntXspUAQ
他人の絵を見てインスピレーション受けたってだけでしょ
渋の話は渋でしなよ


56 : ■■■■ :2014/11/27(木) 08:54:24 6CU2Rqv6
>>54
pixivでの事をワザワザここに書き込んで持ち込まないで
pixivの方で抗議しなよ


57 : ■■■■ :2014/11/27(木) 08:57:38 vT8GmPss
>>56
感想も書かずに他所の事をここに持ち込んで、文句言うだけのレスは既に荒しなんだけど
本人は大正義のつもりだから、触れると長くなるからスルーしようか


58 : ■■■■ :2014/11/27(木) 12:43:00 wJLn83J.
pixivにせよ此処にせよ、説明する気が無いなら中途半端な事を書かなければいいんだよ
「今一度」とか「ある人の動画」とか
はりねずみさん自身がきちんと意図を説明していれば問題のない話なのではないか
向こうであれこちらであれ二度と書くなと批判されたあとだよな
俺は別に書くなと言ってるんじゃない
説明する気がないならそんな一言添えなければいい
添えるならきちんと書けばいい
言葉足らずなんだよ


59 : ■■■■ :2014/11/27(木) 13:17:53 EEI37rBw
前スレあたりから自分では正論言ってるつもりの屁理屈じみた批判しかしない荒らしが常駐してるね


60 : ■■■■ :2014/11/27(木) 15:46:20 badFdzhc
>>59
そう
語彙荒くて自分だけの意見をさも正義然と宣うから大迷惑

ココは元々ある程度ストーリーのある話も載せられてたのに
叩くだけ叩くから他の書き手さんまで気遣いしなきゃならん状態になってたよ

荒らしとしても質の悪い方


61 : くまのこ :2014/11/28(金) 22:02:15 u3JanNTI
>>一哉さんGJです!
夢だけどー! 夢じゃなかったー!
こんな可愛い暴走なら、ずっとバーサーカー状態でいいんじゃないですかね?

>>・・・さんGJです!
上条さんが落ちた!(歓喜)
はよ続きを! 楽しみすぎて眠れませぬ!

>>はりねずみさんGJです!
はい、どう見てもカップルですありがとうございます。
写真まで撮られたんじゃ、言い訳もできないですね2828。



昨日更新された、とある日常のいんでっくすさんの
「とある日常.26」が見事な上琴回だったので、書いてみました。
なので先にガンガンオンラインで、「とある日常.26」を読んでから、
この先をお読みください。

 ネ  タ  バ  レ  が含まれてます。

ガンガンオンラインは無料で読めますので。
約3分後に2レスです。


62 : ハートにビリビリ& ◆DQR3XSYjuU :2014/11/28(金) 22:05:19 u3JanNTI
よくわかるあらすじ

上条さんがミコっちゃんの頭で下敷きをごしごしごしごししたら、
ミコっちゃんの髪がもわわんとして怒ってバリバリしてきたので、
上条さんが右手でぽすってやって、なおしなおししたら、
ミコっちゃんが顔を赤くしながら頭から煙を出してハートにビリビリ♡だった。


 ◇


「よし。髪、直ったかな」

髪型も整ったので、上条は美琴の頭から手を離す。
上条に頭をなでなでされていた美琴は、上条の手が離れた後も、
余韻が残っているのか「はわわわ」と言いながら小刻みに肩を震わせている。
しかし美琴のその様子を怒りで震えていると勘違いした上条は、

「…何だ、まだ怒ってんのか? 髪ならちゃんと直ったってば」

と鈍感力を遺憾なく発揮した言葉を口に出す。

「そ、そそ、そんにゃんじゃ、にゃい、けど……」

真っ赤になったままの美琴は何とか一言ひねり出すが、やはり顔の熱が引く事はなく、
相変わらず煙を出し続ける。
それが帯電に代わり、バチバチと音を立てるには時間がかからなかった。

「ちょー、御坂っ! またビリビリしそうですよ!?」

上条は慌てて、再び美琴の頭を右手で押さえる。
先程の静電気と違い今回は美琴の漏電【のうりょく】なので、髪が「もわっ」とする事はなかったが、
それはそれとして漏電の被害を広げる訳にはいかないので、幻想殺し【みぎて】で押さえたのだ。
だがそれは勿論、新たに美琴を赤面させる要因になるだけであり、
美琴は背筋をビクンと跳ねさせながら、「みにゃっ!!?」と可愛らしい悲鳴を上げる。

ここに、頭を触る事でビリビリの原因を作り、手を離せばビリビリする。
そしてビリビリを防ぐ為には右手で頭を触らなければならないという、
2828な悪循環が完成してしまった。
おかげで上条は、美琴の頭から手を離せなくなってしまったのだ。

「…はぁ…しゃあねぇな。ちょっとこのままでいるか」
「えっ………ええええええぇぇぇっ!!!?」

仕方がないので、その状態のままベンチに座る上条。
どうやら美琴が落ち着くまで、持久戦に持ち込むようだ。
対する美琴は、落ち着くなどとは程遠いと言わんばかりに大声を出す。
が、上条は気にせず雑談をし始めた。

「そう言えばさ、御坂の能力があれば静電気とか何とかなるもんなんじゃないのか?
 電気なら干渉できるだろ?」
「し、自然発生するものは…ど…どうしようも……にゃい…かりゃ……」
「ふ〜ん。そんなもんなのか…」

冷静に受け答えしているつもりの美琴だが、言語中枢に明らかな異常が見られる。
美琴にとって、この状況【あたまなでなで】は、それ程までに破壊力があるという事なのだろう。

「じゃあこれからもコンビニの自動ドアに喋りかける生活を送る訳ですなぁ」
「そっ! その事は忘れてって言ったでしょ!?
 それにあんな事、何度もしてる訳じゃないんだからっ!!!
 あれが通常運転みたいに言わないでよ!!!」

この状況に加え、先程コンビニでやらかした自分の天然行動も掘り返され、羞恥心も2倍である。

「つーか御坂、さっきから顔が真っ赤だけど大丈夫なのか?
 冬なんだし、風邪とか気をつけなきゃダメだぞ」
「かっ、風邪とかじゃないからっ! これは…その……な、何でもないのっ!」

言えない。
「アンタとこんなに密着状態で、しかも頭とか触られてるから」なんて理由、言える訳がない。
だがそんな美琴の「何でもない」という言葉を聞いてか聞かずか、上条は美琴の顔をじっと見つめる。

「はにゃっ!? な、何よ…そんな真面目な顔しちゃって……」
「………」


63 : ハートにビリビリ& ◆DQR3XSYjuU :2014/11/28(金) 22:06:42 u3JanNTI
上条は無言のまま、徐々に顔を近づけてくる。
しかもそれだけでなく、美琴の頭に触れている手をグッと引き寄せてもくるのだ。

「えっ!? えっ!? ちょ、まさか…えええっ!!?」
「……御坂…」
「〜〜〜っ!!!」

上条が「御坂」と呟くのと同時に、美琴は『何か』の覚悟を決めたらしく、『何故か』目を瞑った。
心臓もバックバクである。が、次の瞬間、

「ん〜……熱…は無いみたいだな」

上条は自分のおでこと美琴のおでこをくっ付けていた。まぁ、お約束であり様式美であり鉄板である。
普段ならこれでも充分な攻撃力があるのだが、『予想してた事』よりはランクが低い行為なので、
美琴もちょっぴりガッカリ―――

「にゃわわわっ!!! おおお、おでこ! ぴとって! おでこがぴとってええええ!!!」

―――でもなかったらしい。少ないご褒美で満足のできる、燃費の良い娘である。
美琴は自分のおでこに何か(とは言っても上条のおでこだが)が当たった感覚と同時に、
カッと目を見開く。するとそこには、当然ながら上条の顔が間近にある訳だ。
少し顔を動かせば、『予想してた事』ができる程の距離に。

「べあっ!!?」

美琴は目を回しながら、「ぼひゅんっ!」と音を立てて再び煙を出す。

「…おいおい、本当に大丈夫か?」
「……にゃに、よ…アンタが……紛らわしい事…する、から……じゃにゃい…」

その『紛らわしい事』を期待していたのは、どこの誰だと言うのか。
的外れな心配する上条に、美琴はボソボソと小声で返す。

「そ、そうよ…紛らわしいア…アンタが悪い、のよ……思えば春にも『あんな事』したし…」

美琴がここで言う『あんな事』とは、花見の時の事だ。
その場には上条と美琴、そしてインデックスの3名がいたのだが、
美琴の買ってきた桜もちを食べたインデックスが春の暖かい日差しの誘惑に負けてうたたねを始めた。
そして二人っきりになった瞬間に、上条が美琴の肩に顔を乗せてきたのだ。
「べべべ別にイヤってわけじゃあないんだけど、いきなりで心の準備」ができていなかった美琴は、
それはもう見事なまでに、てんやわんやしていた。
しかしながら結局は、上条もうたたねして寄りかかっただけというオチだったのだ。
まぁ、お約束であり様式美であり鉄板である。

「…? あんな事って、どんな事?」

だが勿論、上条はその事を覚えていない。何しろ、うたたねしていたのだから。
なので美琴は、

「っ! わ、分かんなきゃいいわよ…別に…」

と言いながら、プイッと顔を背ける事しかできなかった。
その様子を見て頭にクエスチョンマークを浮かび上がらせた上条だったが、
すぐに「ま、いっか」と切り替える。
もうちょっと長考しろ、と言いたくなるだろうが、考えた所で美琴の心情を察せる訳がない。
インデックスの言葉を借りれば、「だって、とうまはとうまだから」である。

「っと、そろそろ大丈夫かな?」

美琴も落ち着いたようなので、そっと手を離す上条。

「じゃあそろそろ俺、帰るわ。御坂も早めに帰れよ? 風邪が悪化すると良くないからさ」

上条はそう言ってベンチから立ち上がると、そのまま自分の寮へと帰っていった。
美琴は徐々に小さくなっていく上条の背中を見つめながら、

「……だから…風邪じゃないっつの…」

と呟くと、自分の髪をそっと触ってみる。
先程まで上条が優しく触れていたその部分は、じんわりと温かくなっており、
美琴は本日何度目かも分からない赤面をしながら、顔をにやけさせるのだった。

たまには静電気もいいかもね。


64 : くまのこ :2014/11/28(金) 22:10:28 u3JanNTI
以上です。
こちらからお読みの方の為にもう一度。
昨日更新された、とあるの日常のいんでっくすさんの、

 ネ  タ  バ  レ  が含まれてます。

先にガンガンオンラインで「とある日常.26」をお読みください。

それとタイトルが文字化けしてます(自分だけ?)が、
タイトルの『ハートにビリビリ』の後は記号のハートマークです。

ではまた。


65 : ■■■■ :2014/11/28(金) 23:19:21 8mBIRrxQ
>>62
かわいい美琴ありがとう!またお願いしますね。


66 : くまのこ :2014/12/01(月) 21:39:14 Fnbahvic
連投すみません。
・・・さんからのリクで、ホラー映画を見る二人の短編を書いてみました。
約3分後に3レスです。


67 : おばけなんてないさ :2014/12/01(月) 21:42:07 Fnbahvic
「いやー上条さん、映画なんて久しぶりですよ」
「ふっふ〜ん、私に感謝する事ね!」
「へいへい。どうもありがとうございますです、っと」
「うむ、よろしい♪」
「けど本当にいいのか? 俺の分の金、出さなくても」
「い、いいのよ! どうせ、たまたまクジ引きで当たった物なんだから!」

そんな会話を映画館の入り口でしている男女が二人。ご存知の通り、上条当麻と御坂美琴の両名だ。
二人の言葉から察せるように、「一緒に映画」というこのイベントは美琴の発案である。
そして更に察せるように、美琴の持っている2枚のチケットはクジで当たった物ではない。
と言うか、そもそもクジ引きなんてやっていない。
この映画券は、美琴が自腹を切って購入した物なのだから。
では何故そんな事をしてまで上条と一緒に映画を観にやってきたのか。そんな事は決まっている。

上  条  と  映  画  デ  ー  ト  を  す  る  為  で  あ  る 。

たまたま当たった物だという大『偽』名分があれば、
「捨てるのも勿体無いし誰か誘おうかなでも黒子や初春さんは風紀委員で忙しそうだし
 佐天さんは柵川中学【おなじがっこう】の人と遊びに行くって言ってたわね
 婚后さん達はホラーとか苦手だろうしじゃあどうしようそうだわあの馬鹿でも誘おうかしら
 確かアイツっていつも金欠状態だから映画なんて暫く観てないわよねきっと
 『年下に奢ってもらうのはちょっと…』とか言ってきても『いやこれ当たったモンだしw』
 って言えば気を使う事もないでしょうしうんやっぱりアイツを誘ってやろう
 これはあくまでも唯の親切心なのよ私がアイツとデートしたいとかそんな感情は微塵もない訳で
 ―――(以下略)」という言い訳ができる訳だ。
実際、上条を誘う時に、これとほぼ同じような事をまくし立てるように言ったのだ。
有無を言わせない美琴の謎の迫力に圧され、上条も「お、おう…」と了承したのだった。

「にしても俺、ホラー映画なんて初めてだよ」
「私も…あんまり観ないのよね」

美琴の(長〜い)言い訳にもチラッと出てきたが、
美琴が当てた【こうにゅうした】チケットは、ホラー映画のそれである。
美琴は恋愛映画が好きなので本当はそうしたかったのだが、おそらく上条には興味がないだろう。
途中で寝られても困るし、そもそも上条と二人っきりで恋愛映画を観るなんていうのは、
今の美琴には、まだまだハードルが高すぎる。
そういう事は、もうちょっと距離が縮まってから(?)なのだ。
ならばアクションはどうだろうか。これなら上条も美琴も、二人とも興味のあるジャンルだ。
しかしそれは、いくら何でも色気がなさすぎる。
美琴だって中学二年生の女の子なのだ。
「気持ちに気付かれるのは困るけど、ちょっとくらいは意識してほしい」という、
複雑な乙女心【めんどうなせいかく】を持っているのである。
そこで間をとってホラーにしたのだ。何がどう間なのかは疑問だが。
しかしホラーならば、怯えるついでに相手の手を握ったりできるし、
怖がるついでに相手に抱き付いたりもできる。
つまり、美琴が「きゃー、怖ーい!」と言いながら上条に抱き付く事が可能なのだ。
…と『お約束』を期待した人も多いだろうが、残念ながらその幻想はぶち殺される。何故なら、

「だって結局は作り物な訳じゃない? 幽霊なんていないんだし」
「おまっ…! それ、映画観る前に言うか〜!?」

美琴のキャラじゃないから。

「つーか、だったら何でホラー選んだんだよ」
「えっ? だからそれは、アクションだとちょっと色気がない……って、そうじゃなくてっ!!!
 そ、そもそもクジで当たった物なんだから、映画の内容までは選べなかったのよっ!」

という体である。

「それに絶叫マシンでも言える事だけど、適度な恐怖は人間に必要な心の栄養素なのよ?
 作り物でも…ううん、作り物だからこそ本物以上の恐怖が体験できるんじゃない。
 …って、本物なんていないって言ったばかりだけどね」
「本物以上…ねぇ…」


68 : おばけなんてないさ :2014/12/01(月) 21:43:01 Fnbahvic
返事をしながら上条は、自分の分のチケットに目を向ける。

「けどそれって、こんなB級臭いタイトルの映画でも味わえるモンなのか?」
「意外と評判なのよ。…確かにタイトルはアレだけど」

上条が訝しげに見つめるこの映画のタイトルは、「着信アリング」。
アウトと刻んだアウトを鍋で煮込んで、仕上げにアウトを入れて味を調えたようなタイトルだ。
しかし美琴の言ったように、これが意外とウケているらしい。
その理由は三つ。その一つ目は、普通に怖い事。
ふざけたタイトルではあるが中身はかなりの硬派で、ホラーとしての完成度は高いらしい。
二つ目はVFXを一切使っていない事。
どうやら「アナログな撮影方法の限界に挑戦」がコンセプトらしいのだが、
これが科学技術に慣れ親しんだ学園都市の住人達から「逆に新しい!」と絶賛されたのだ。
そにて三つ目は、

「そう言やこの映画、スタッフの意図してない所で変な声が入ってるって噂があったよな」

という事だ。
ホラー映画ではよくある話だが、映画本編とは全く関係のないノイズが混じっている事がある。
この映画も例外ではなかった、というだけの話だ。

「ただの噂でしょ? それにその噂自体も映画を宣伝する為にスタッフが流したって話もあるし…
 要するにステマよステマ。だから何度も言うようだけど、結局は幽霊なんていないのよ」
「んー……」

美琴の言葉に、何かを思い出そうとして唸る上条。喉の奥に小骨が引っかかっているような感じである。
そうこうしている間に、美琴は受付を済ませて戻ってきた。

「6番シアターだって。丁度入れ替えの時間だし、もう入っとく?」
「…ん? あ、ああ」

美琴が戻ってきても上条はまだ考え中だったが、美琴に急かされて一旦思考を止める。
そして6番シアターの自分の席に座り、美琴と雑談しながら映画が始まるのを待った。

「―――でさー、そしたら佐天さんが『本当に怖い都市伝説』とかいう怪しい本を持ってきたのよ」
「へー、怖かったのか?」
「面白いとは思ったけど、特に怖くはなかったわね。やっぱり幽霊とか非科が」
「あっ! そっか!」
「く的な……何よ?」

美琴の『幽霊』という言葉に反応して、やっと何かを思い出した上条。小骨は無事に吐き出せたようだ。

「いや、美琴が霊的な事を否定してからずっと引っかかってたんだけどさ。
 幽霊って本当にいるっぽいぞ」
「………へ?」

唐突に何を訳の分からない事を言っているのだ、このツンツン頭は。

「い、いやいやいや。いる訳ないじゃない」
「俺もそう思ういたいんだけどさ、美琴はもう魔術がある事は知ってるだろ?」
「ま…まぁ、一応…」

何か風向きがイヤな方に変わった予感がする美琴。
確かにガッチガチの科学脳である美琴には詳しい仕組みは理解できないが、
この世に「魔術」という異能の力がある事は事実として受け止めている。
実際に第三次世界大戦以降、美琴は何度かその力を目視しているのだから。

「前に土m…魔術サイドに詳しい奴が言ってたんだけど、
 イギリス清教が『魔女狩り』に特化してるのに対して、ロシア正教は『幽霊狩り』に特化してるんだとさ」
「ゆ…ゆうれい…がり…?」
「ああ。要はゴーストバスターズだって言ってたよ」
「ゴースト……」

知らなきゃ良かったトリビアを聞かされて、美琴は徐々に顔を青ざめさせていく。
上条としては親切心だったのだろうが、
美琴としては「ありがた迷惑」…いや、ありがたくもないので『めいわく迷惑』である。

「なっ、なななな何でこのタイミングでそんな事言うのよ!!?」

何もこれからホラー映画を観るって時に、そんな話をしなくてもいいだろう、と美琴は声を荒げた。
恐怖心を最大限に引き出したという意味では、ベストなタイミングではあるが。
一方、上条は全く悪びれた様子もなく一言。

「いや、思い出したから。…っと、もう始まるぞ」

非常にも、映画開始のブザーが鳴り響く。
先程まで余裕たっぷりだった反動も大きく、必要以上にビクビクとする美琴。
何かもう、「妖怪・カメラ頭」が踊り狂うだけでも怖いと感じてしまうのであった。
いつの間にか、無意識に上条の手を握ってしまっている程に。


69 : おばけなんてないさ :2014/12/01(月) 21:44:00 Fnbahvic
 ◇


そんな訳で、映画中も美琴は大騒ぎだった。
霊的な物が存在しないのならホラーもエンターテイメントとして楽しめたのだが、
存在してしまうなら作り物でも怖くなってしまう。おかげでビックリシーンが流れる度に、

「○※△×☆♧□%&◇#☺♨♀!!!!!」

と声にならない叫びを出しながら、上条に抱き付いているのだった。
『お約束』を期待したが残念ながら幻想はぶち殺されていた方々には、お詫びと訂正をしよう。

「みみみ美琴さん!!? 首っ! 首が絞まる! ってか胸が当たってらっしゃるううぅぅぅっ!!!」

しかし美琴の抱き付きは好感度アップの為の、あざとい「きゃー、怖ーい!」ではなく、
本気で怖い時の「きゃー、怖ーい!」なので、抱き付き方に容赦がない。
思いっきり胸が押し付けられ『役得感』はあるものの、やっぱり苦しさの方が勝り、
トータルでは不幸だと思う上条であった。爆発しろ。

そして例の「変な声が入ってる」というシーン。
小さく『……ッコイー………剝けやが……惚れちゃいそ………アクセ……』と、
死者の声らしきノイズが聞こえてきた瞬間、美琴はついに泣き出した。


 ◇


「…ひぐっ…えっぐ……ぐすっ…」
「え、えっと……な、何かゴメンな…? 美琴…」

映画が終わりシアターから出る頃には、美琴は恐怖のあまり大粒の涙と嗚咽を溢れさせていた。
普段は強気な態度をとっているだけに、「怖くて泣いた」なんて姿を上条に見られて、
恥ずかしくて余計に泣けてきてしまう。
上条も上条で、自分の無駄なトリビアのせいで女の子を泣かせてしまったという罪悪感と、
泣きじゃくる美琴の姿に、どうしてあげればいいのか分からずオロオロする。

「べづに…アンダのぜいじゃ……ぐじっ…だいんだがら……ひっぐ…
 謝んだぐでぼ……ずずっ…いいばよ………」

いいようにはとても見えないが、美琴はハンカチで涙を拭いながら気丈に振舞う。
上条は思わず、頭でも撫でてあげたくなる衝動に駆られたが、グッと我慢した。惜しい。

「じゃ、じゃあせめて寮まで送ってくよ。流石に一人で帰るのは怖いだろ?」

2時間映画を観た後で外へ出ると辺りはすっかり暗くなっており、
この状態の美琴を一人で帰すのは可哀想だと思い、上条は提案する。
美琴も、これから一人で帰宅した時の恐怖を想像して、再び涙ぐむ。
なのでいつもならば
「はぁっ!? 一人で帰れるわよ! …で、でもアンタが一緒に帰りたいって言うんなら―――」
とか言って、また面倒くさい問答を交わす所なのだが、今回ばかりはちょっとシャレにならないので、
上条の服の裾をクイッと引っ張りながら、

「……お願い…」

と素直に答える。
上条は思わず、優しく抱き締めてあげたくなる衝動に駆られたが、グッと我慢した。惜しい。

「ま、まぁ寮に帰れば部屋に白井もいるしな! 夜は怖くないだろ!」

普段の美琴とのギャップに、内側から『よく分からない感情』が湧き出てきた上条だが、
それを誤魔化すように話題を変える。
が、その直後、件の白井から美琴にメールだ。携帯電話の画面を見てメールの内容を確認した美琴は、
その内容を読み進める内に顔から血の気が引けていく。

「ど、どうした!?」

その様子に上条も慌てて美琴に詰め寄る。すると美琴はメール画面を見せながら、一言呟く。

「く…黒子……風紀委員の仕事が忙しすぎて……今日…帰れないって……」

ここでまさかの「黒子や初春さんは風紀委員で忙しそうだし」という冒頭の言い訳の伏線回収である。
白井が帰れない…つまり今日は一人で寝なければならないという事である。こんな状態のままで。

何と声をかけていいのか分からずに、声を詰まらせる上条。
そんな上条に、恐怖心に負けた美琴は普段ならば絶対に言わないであろう言葉で懇願する。

美琴は近くのビジネスホテルを指差しながら一言。
























「きょ、今日一緒に泊まって!? 今夜だけでいいからっ!!!」



……………
え?


70 : くまのこ :2014/12/01(月) 21:44:49 ctHbiIJ6
以上です。
ちょっと中途半端な所で終わってますが、仕様です。
ではまた。


71 : ■■■■ :2014/12/01(月) 22:14:05 .YHtwvnM
おおぉぉ*凄く良いところで終わってる。惜しい…
相変わらずくまのこさんの美琴はテンパり可愛いですね…大『偽』名分を掲げる美琴とか特に!
もう上条さんは爆発してしまえ!


72 : ■■■■ :2014/12/01(月) 22:42:23 x/ySvH7.
エロスレの方で続きをplease


73 : ■■■■ :2014/12/02(火) 07:23:26 HeQ/D.Io
続けw


74 : ・・・ :2014/12/02(火) 07:35:46 HXF.XrE6
ども、・・・です

冬ですね、上琴の季節ですね。

>>はりねずみさん
ういういしい二人、いいねぇ
大丈夫、すぐに浜滝と接戦になるほどのバカップルになるよ。
親御さんたちと一緒に彼らを弄りたい
GJ!!

>>くまのこさん
日常は、かわいいけど、上琴が少ないのよねん。
インちゃん主役だからしゃーないけど。
ドアに謝るミコっちゃん可愛かったですね
上条ちゃんの前であたふたするほうがもっと可愛いけどね

いやー、自分が思いつかないネタを2日でこのクオリティであげられたら、
うれしいのとともに、尊敬して、悔しいですな。ネタ1つ1つのセンスも相変わらず高いし。
どうです!! この可愛さ!! カミやん、なんで動かなかったし!!
付き合い始めたら、毎月ホラー映画に連れて行ってあげなよ上条さん
GJ!!

では、投稿します。
それでは


75 : 新学期1 :2014/12/02(火) 07:36:39 HXF.XrE6
目が覚めた。
うつろだった御坂美琴の目が釘付けになる。
ぷにぷにしたほほ、細い眉、天使と見間違えそうになるかわいさ、隣で眠るインデックスの寝顔に。

ではない。

そう、彼女を挟んで向かい側、
だらしなくヨダレを垂らす口、いつもはへたれてるのにここぞというときは引き締まる目、今はあまり元気のない髪。
正直、あまりイケメンとも思えない。
しかし、間違いなく、自分の想い人、
上条当麻のその寝顔。

でもない。

さらに、その後ろ。
壁にかけられた時計から目が離せない。
8:20
今日は始業式のはずだった。


「新学期」


ヤバい、通学路に人影がない。

「ねぇ!! インデックス大丈夫かな!!?」

そう声をかけられた上条は思う。
全力疾走して、息を切らして、顔を紅潮させてる美琴色っぽい。

いや、そんなこと考えている場合じゃないのはわかってるよ、うん。

「大丈夫だろ? 始業式から戻るまではステイルも神裂もいてくれるって言ってるし」

美琴も思い出す。

『インデックス、お利口さんにお留守番しててね』

といったら、

『あい!! おるーば!! がんがる!!』

と両手をグーにしてぶんぶん振り回していたのを。
後ろで侍が身を悶えて、神父が片手で顔を覆いプルプル震えていたことを。

「ま、早めに戻ってやろうぜ」

と上条は笑う。

大丈夫、汗を煌めかせて、真剣な表情のなか、こちらを安心させるために笑顔を浮かべる当麻、格好いい!! なんて思う暇はない。

ごめんなさい、嘘です。すごく格好いいです当麻。

そうして別れ道でそれぞれの学校に進む。

が、美琴は少ししてバッとうずくまった。

(あれは反則でしょ!!)

朝のドタバタのなかオモチャのボールを踏みつけて、後ろにたおれそうになった。
そこを颯爽と駆けつけたのが上条だ。
キレイにお姫様抱っこの形になる。

「大丈夫か?」

上条は着替えの途中なのか、上半身裸だった。

(ふにゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜)

遅刻が決定した。

一方、

ゴツン

という音が響く。
上条は額を風車の柱にぶつけていた。
しかし、わざとである。

(あれは、ズルいだろ!!)

朝、頬をぺちぺちと叩かれて目を覚ました。

「起きて!! このままだと遅刻しちゃう!!」

単語ひとつひとつは聞こえるのだが、上条は認識していない。
目の前に美琴がいる。
睫毛まで細かく見える距離だ。
しかも、四つん這いでこちらの顔をみている。
だから、その、少し、パジャマに、よ、余裕ができて、首元のすきまから、その、小さい、ながらも、きちんと自己主張する、かわいい、胸の、下着、が、見

ゴツン

とまた音がした。
遅刻が確実なものになった。

さて、そんな二人だが、



実はまだくっついていない。


76 : ・・・ :2014/12/02(火) 07:38:28 HXF.XrE6
以上です。

え? すぐくっつくとか言った覚えはないっすよ?

第2幕、「両片思い篇」スタートっす!!

……長いなぁ


77 : ■■■■ :2014/12/02(火) 09:39:55 h1AQNU1s
>>75
・・・さんGJです!
甘いですね〜。もうお前らはよくっついちゃえよ…、見てる(読んでる)こっちが恥ずかしいよw

次回もワクテカしながら待ってます!(バッ


78 : ■■■■ :2014/12/02(火) 22:13:09 obape/bM
・・・さん、グッドです!
上条さんがモヤモヤするのが大好きな自分にとって両片思い編とか…最高です!
続き楽しみにさせて頂きますね〜!


79 : くまのこ :2014/12/07(日) 07:06:58 ZTDZJkfI
>>・・・さんGJです!
両片思いだと!? なにそれニヤニヤする!
もどかしい関係ってのも良いですね〜、続き待ってます!



短編書きました。
一年後の、ちょっとだけ未来設定になってます。
約3分後に6レス使います。


80 : とある盛夏の提琴独奏【ソロコンサート】 :2014/12/07(日) 07:10:09 ZTDZJkfI
ここに一人のメイドさんがいる。
彼女はお客様に対して、「いらっしゃいませ! こちら本日のパンフレットになります」
と愛想良く対応しているが、お客様が離れて一人になった瞬間、
憂鬱そうに表情を曇らせて溜息を吐いた。

「…はぁ…今年も来ちゃったか………盛夏祭…」

季節は夏。今年もまた、彼女はステージに立たなければならない。


 ◇


「平素、一般へ開放されていないこの常盤台中学女子寮が、年に一度門戸を開く日。
 それが盛夏祭だ! 今日は諸君等の招待した大切なお客様が来場される。
 寮生として、恥ずかしくない立ち居振る舞いを以って、
 くれぐれも粗相無きよう御持て成しするように」

という寮監のお決まりの挨拶を皮切りに、今年も盛夏祭が開催された。
中学3年という最上級生になった美琴は、去年以上に尊敬と憧れの視線を集めるようになっており、
今年も寮生代表に推薦され、バイオリンを弾く段取りとなっている。

(このままパンフレットを配るだけで一日終わってくれないかなぁ…?
 …なんて、そんな事ある訳ないか……)

去年も緊張してステージに出るのを躊躇っていたが、今年はその時の比ではない。何故なら、

(……アイツも…来るのよね………)

「アイツ」とは勿論、上条当麻の事である。
今年も繚乱家政女学校が料理を監修しているので、
そこの生徒である舞夏が、去年同様インデックスを招待したのだ。
そしてインデックスが来ているという事は、その保護者(?)の上条も来ているという事である。
ちなみに、オティヌスは人目に付く場所に出てきたら騒ぎになるので、上条の寮でお留守番だ。
今頃はスフィンクスと仲良くケンカ(ただしオティヌスは命がけ)している事だろう。
リアル・トムとジェリーである。

去年は、ステージの裏で出会うまで上条が来ている事は知らなかった。
知らなかったが故に、ステージ直前で彼とバッタリ会った時には、驚きのあまり逆に緊張も解れた。
が、今年は違う。初めから来ると分かっていると、それはそれで緊張してきてしまう物なのだ。
しかも今の美琴は、去年の盛夏祭の時期には無かった心の変化がある。

(う〜〜〜! ヘマして嫌われちゃったらどうしよう……)

恋心である。
絶対能力進化計画で妹達と自分の命を救われて以降、彼女は本気で上条に恋をするようになった。
あれから約一年。彼女の中の恋心は失われること無く、むしろ膨らむばかりである。
自分だけの現実に、大きく影響する程に。
演奏を失敗したぐらいで上条が自分を嫌う訳がないとは分かっているのだが、
それでも「万が一」という可能性を捨てきれない。

「私って、いつからこんなに弱くなっちゃったんだろう…」と、
本日何度目かも分からない溜息を吐く美琴。すると、二人のお客様が近づいてきた。
美琴は気持ちを切り替えて、精一杯の営業スマイルを浮かべながら、

「いらっしゃいませ! こちら本日のパンフレットになります」

と二冊のパンフレットを取り出す。だがそこには。

「こんにちは御坂さん! やっぱり雰囲気が違いますね! お嬢様の匂いがしますもんね!」
「初春、興奮しすぎだよ。去年も来たじゃん。
 っと、こんにちは御坂さん。相変わらず、メイド服姿が似合ってますね〜!」
「初春さん! 佐天さん! いらっしゃい、楽しんでってね!」


81 : とある盛夏の提琴独奏【ソロコンサート】 :2014/12/07(日) 07:10:53 ZTDZJkfI
親友二人の来場に、少しホッとする美琴である。
彼女達は去年と同じく、白井に招待されていた。そして件の白井はと言えば、

「はーい…いいですわよー…オーケー…そのままそのまま…」

とフラッシュをたきまくりながらカメラのシャッターボタンを押しまくっていた。いつの間に、である。
彼女はどうやら今年も記録係に立候補したらしく、
相変わらず何の記録なのか美琴の姿ばかりを写真に収めている。
寮生は全員メイド服を着用する事になっているので、白井も美琴と同様メイド姿なのだが、
あまりメイドさんにしてほしくない奇行である。
一応補足しておくと、白井は誰に対しても変態行動を取る訳ではない。美琴限定である。

だが美琴は、とりあえず白井を焼いた【ビリビリした】。

「あっふん! ほ、本日もお姉様への愛が痺れておりますのっ…!」
「二人はこの後どうするの?」
「こことこことここ! それからこことここにも行ってみたいです!」
「だから興奮しすぎだってば…
 とりあえず初春と適当に回ってみますよ。去年も来たから、どこに何があるか大体分かりますしね」

白井はまだ軽口を言える程度の余裕はあるようだが、そんな彼女を放置して会話をする三人。
一年以上も行動を共にすれば、変態さんの扱いにも慣れてくるという物だ。

と、そんなタイミングで、

「おーっす、美琴」

と手をひらひらさせながら上条が来場してきた。
一瞬にして顔を真っ赤にさせた美琴に、
初春は釣られて赤面(上条に対してではなく、美琴が赤面した事でその理由を想像したから)し、
佐天は何やらニヤニヤし始め、白井は上条に牙を剥いて「ガルルルル」と唸り声を上げた。

「い…いら、いらっしゃいませ…」

先程までの営業スマイルはどこへやら、顔を俯かせてボソボソと喋る美琴。
上条はパンフレットを受け取りながら、いつものように冗談めいた事を言う。

「あれ? その格好なら、『お帰りなさいませ、ご主人様』とかじゃないのか?」
「こ、ここはそういうお店じゃないわよっ!」

売り言葉に買い言葉。上条のいつもの態度に、美琴もつい釣られていつもの態度で言い返してしまう。
すると上条はニカッと笑い、

「ん! やっと美琴らしくなったな。…ったく、いっちょまえに緊張なんかしてんなっつーの」
「〜〜〜っ!!!」

と美琴の頭をポンポンする。どうやら美琴が緊張している事を察した上条は、
その緊張を解してあげる為に、美琴が軽く怒りそうな事をわざと言ったらしい。

その結果、美琴は既に真っ赤だった顔を更に真っ赤にさせて、
初春も釣られて更に赤面し、佐天は更にニヤニヤし、白井は上条に「キシャーッ!」と威嚇する。

「ところで上条さん! 御坂さんのメイド服を見ての感想は?」

このまま眺めているのも面白いが、もっと面白くなるように佐天が口を開いた。
感想、と言われても上条にはこうとしか答えられない。

「ん? 普通に似合ってるんじゃないか? すげー可愛いと思うし」
「にあっ! かわっ!!?」

上条からサラリと出てきたワードに、口をパクパクさせる美琴。
佐天の策略通り、やはりもっと面白い事になったようだ。

「はーい、もう時間切れですのー!」

が、そこで我慢の限界を迎えた白井が両者の間に割って入ってきた。
白井は上条を睨みつけると、

「さぁ、もうお姉様への挨拶は済みましたでしょう! ならば、さっさと去ねや類人猿! ですの!」

あまりメイドさんの口から聞きたくない暴言である。
一応補足しておくと、白井は誰に対しても厳しい態度を取る訳ではない。上条限定である。
と、そんな白井に一人の少女が話しかけた。


82 : とある盛夏の提琴独奏【ソロコンサート】 :2014/12/07(日) 07:11:45 ZTDZJkfI
「おー、いたいた白井、探したぞー」

上条とインデックスを招待した舞夏だった。

「あー…悪いな。インデックスだけじゃなくて俺まで招待されちまって」
「むー? 気にするな上条当麻ー。一人も二人も違いは無いぞー。
 と言うか、あのシスターが一人で10人前も20人前も平らげているからなー。
 料理長の源蔵さんも悲鳴を上げていたぞー」
「……ウチの子がご迷惑をおかけして申し訳ありません…」

インデックスは現在、上条と別れてビュッフェを満喫しているようだ。
唯でさえレベルの高い料理なのに、それが食べ放題となれば、
インデックスにとってはパラダイスであろう。

「っと、そうだー。その件で白井を探しに来たんだったー。
 白井ー、ビュッフェの手伝いはどうしたー? 去年もサボっていただろー」
「うぐっ!? で、ですが今ここを離れる訳には…」

自分が防波堤にならなければ、このまま愛しのお姉様と憎き類人猿が良い雰囲気になりかねない。
白井としては、少なくとも上条が別の場所へ移動するまでは安心して他の仕事ができないのだ。

「またそんな事言ってー。ほら、来るのだー」
「あっ! ちょっ! お、お待ちくださいまし〜!!!」

だが舞夏はそんな白井もお構いなしに、襟を掴み、引きずる形で連れて行く。
これで白井【じゃまもの】は消えた。
佐天は「チャンス!」とばかりに美琴の持っていたパンフレットの束をひったくると、
近くにいた他の寮生に声をかける。

「すみません! これからあたし達、御坂さんに案内してもらうので、残りのパンフ頼めませんか!?」
「勿論構いませんわ。ごゆっくりお楽しみくださいな」
「ありがとうございます!」

こういう時の佐天さんのアクティブさは、見習わなければならないと素直に思う。
佐天はパンフレットをその寮生に託し美琴の下へ戻ってくると、舌の根も乾かぬ内に、

「じゃっ! あたしと初春は二人だけで回ってきますので、
 御坂さんは上条さんを案内してあげてください!」

と言ってきた。

「えっ……ええええぇぇぇぇっ!!? さ、佐天さん達を案内するんじゃないのっ!?」
「言ったじゃないですか。去年も来たから、どこに何があるか大体分かるって。
 でも上条さんは慣れてないみたいですからガイドが必要だと思うんですよ!
 ねっ? 初春もそれでいいでしょ?」
「も、勿論私も構いません!」

佐天ほど積極的ではないが、初春も美琴を応援する側である。
佐天の提案に、初春は赤くさせたままの顔をコクコクと上下させて頷いた。

「い、いや…でも…その…あの……」

抗議しようとした美琴だったが、口を「あうあう」させるだけで言葉が出てこない。
その隙に佐天は初春の手を引きながら、

「じゃ、『頑張って』ください♪」

と美琴に向かってウインクをした。
初春もまた、佐天に手を引かれながらも上条と美琴に向かって会釈をする。
しかしその会釈は、別れの挨拶という意味以上に、
佐天と同じく『頑張れ』という、応援としての意味合いの方が大きかったのだろう。

こうして美琴は、上条と二人っきりにされてしまった。
ステージまでには、まだ時間がある。

「じゃあ、せっかくだから案内してもらおうかな?」

上条とのプチデートが始まった。


83 : とある盛夏の提琴独奏【ソロコンサート】 :2014/12/07(日) 07:12:31 ZTDZJkfI
『仕方なく』上条を案内する美琴。
しかし彼女は常盤台を代表する二人のレベル5の内の一人であり、
この盛夏祭で、もっとも注目を浴びている人物だ。
上条と二人で歩いているだけで、自然と視線を集めてしまう。

「ご覧になって! 御坂様ですわ!」
「お隣の殿方は、御坂様のお知り合いの方なのでしょうか?」
「もしかして御坂様の好い人なのでは…?」
「まあ! 流石は御坂様、大人の女性ですわ〜!」

おかげで周りでは「きゃーきゃー」と黄色い声が上がっている。
美琴は頭から煙を出し、もはや爆発【ふにゃー】寸前だ。

「な…何かゴメンね…? 周りが勝手に勘違いしちゃって……」
「いや、俺は別に構わないけど…
 つーか俺の方こそゴメンな。美琴が有名人だって気付くべきだった」
「わっ! わわわ私は気にしてないからっ! むしろ………えと…その…」

『むしろ』の後がうまく出てこない美琴である。
しかもテンパりすぎて、上条が「俺は別に構わない」と言った事も聞き流してしまう始末だ。

「と、とりあえずどこか入りましょうかっ! このままウロウロしてても始まらないし!」

と理由付けをしている美琴だが、
真の理由は「このまま周りから煽られ続けたら、本当に『ふにゃー』しかねないから」である。
美琴は咄嗟に、近くにあった「茶道体験教室」と書かれたブラックボードに目を向ける。

「こ、これ! これやりましょ! 暑い日に飲む熱いお茶ってのも乙な物なのよ!?」

必死である。

「ああ、いいぞ。お茶なら周りも静かだろうしな。
 けど俺は茶道なんて全然分かんないから、手取り足取りのご指導でお願いしますぞ?
 美琴センセー」
「ててて、手取り足取りいいいいぃぃ!!?」

頭の中で、体を密着させながら教え合う自分と上条の姿が思い描かれ、益々テンパる美琴であった。


 ◇


しゃかしゃかと茶筅を使う音が教室に響く。
メイド服の少女が、茶室(に改造された教室)で茶を点てる光景は中々にシュールではあるが、
それを感じさせない程に美琴の姿は板に付いていた。上条も見惚れてしまう程に。
先程は軽い気持ちで「手取り足取りのご指導」なんて言っていた上条だったが、
この雰囲気に思わず緊張してしまった。

(う〜、なっさけねぇ〜…美琴に『いっちょまえに緊張なんかしてんな』とか言ったくせに、
 俺が緊張してちゃ格好つかないよな〜……けど美琴が何かいつもより綺麗に見えるし…
 いや、お嬢様なんだから茶道の嗜みとかもあるんだろうけど、普段とのギャップのせいかな?)

そんな事を思われているとは露知らず、美琴はお茶を差し出す。

「ど、どうぞ…」
「あ、いただきま…じゃなくて、えっと……お…お手前頂戴いたします…」

上条は周りの見よう見まねで茶碗を数回まわし、恐る恐るお茶を口に運ぶ。すると、

「っ!? 美味ぇ! 何だコレ、苦くない! いや、苦いは苦いんだけど、ほんのり甘味があるような…?
 高い抹茶使ってるからなのか、美琴の淹れ方が良かったからなのか…
 もしくは両方なのかも知れないけど、とにかく美味いよ! 素人の俺でも分かるくらいに!」

あまりの美味しさに大声で絶賛してしまった。厳かな空気が台無しである。
しかし上条の素直すぎる感想に美琴も「ぷっ!」と吹き出してしまい、
幸か不幸か、ようやくいつも通りの関係に戻れた。


84 : とある盛夏の提琴独奏【ソロコンサート】 :2014/12/07(日) 07:13:22 ZTDZJkfI
「あはは! まぁ、喜んでもらえたなら何よりだわ!」
「…何だかバカにしているように見えるのは、ワタクシの気のせいでせうか?」
「気のせい気のせい! そう見えたならゴメン!」

カラカラと笑う美琴に若干の不満を持ちつつも、
「まぁ、やっと笑ってくれたからいっか」と安堵にも似た溜息を吐く上条。

「あ、そうだ。ゴメンついでにもう一つ謝っておくけど、
 ちょっとこの空気じゃ色んなトコ案内できなさそうかも」
「ああ、いいよいいよ。また俺と一緒に歩いてる所を見られて、騒ぎにしたくないもんな。
 俺なら、美琴のステージの時間までずっと茶室【ここ】にいても平気だから、気にすんな」
「そ、そう? そう言ってくれるとありがたいけど…」
「それに―――」

すると上条は、少し照れくさそうにして言葉を続けた。

「…それに、美琴と一緒にいるだけで退屈なんてしないからな」
「っ!!!」

何故この少年は、自分が言ってほしい言葉を当たり前のように言ってくれるのだろう、と美琴は思った。
顔に熱が帯びてくる。それは夏の暑さのせいでも、茶の湯の熱さのせいでもなく。

その後二人は、美琴のステージの時間まで特に会話する事もなく、お茶を飲み続けた。
しかし二人の間に流れる沈黙は、何故か心地の悪い物ではなかったという。


 ◇


「じ、時間だから、私もう行くね!?」
「ん? ああ、もうこんな時間だったか。分かった、頑張れよ」

ステージの時間が迫ってきたので、美琴は着替える為に立ち上がる。

「じゃあ、俺はどうしよう。観客席で待ってた方がいいのかな?」

流石に着替えを手伝う訳にはいかない。
そもそも一緒に歩くだけでも騒ぎとなって美琴に迷惑がかかるので、
上条はここで美琴と別れようとする。しかしここで、美琴が思いも寄らない事を言ってきた。

「……い…一緒にわた、私の部屋…に………来…て、くれない…かな…?」
「………へ?」

上気させた顔を俯かせて、目にはうっすら涙を溜めて、モジモジしながらも精一杯の素直な気持ち。
先程までの時間でいい雰囲気になれたので、またツンツンとした態度を取ってしまう前にと、
美琴は頑張って勇気を出した。

「え、いや…でも……」
「ド、ドレス! 着替えたら一番にアンタに見てほしいのっ!!!」

どういう訳か、美琴はドレスアップした姿を一番初めに上条に見てほしいのだと言う。
理由は分からないが、美琴がここまで言うのだから、何か特別な意味があるのだろう。
と、一応上条も理解した。
「どういう訳か」とか「理由は分からない」とか「何か」とかが普通に出てくる辺り、
やはりそこが上条の上条たる所以なのだろう。

上条と美琴は、茶室を出てそのまま美琴(と白井)の部屋に向かった。
その道中…更には二人が一緒に部屋に入る所を他の寮生に目撃され、
大騒ぎになったのは言うまでもない。


85 : とある盛夏の提琴独奏【ソロコンサート】 :2014/12/07(日) 07:14:15 ZTDZJkfI
 ◇


「お、おおぉ…」
「な、何よそのリアクションは……良かったの!? 悪かったの!?」

美琴の部屋に通された上条は、そのままベッドの上に座って待たされた。美琴の着替え待ちだ。
ちなみに、部屋には上条がいるので、更衣室の代わりとしてバスルームを使用している。
しばらくしてバスルームから出てきた美琴は、
これから行うバイオリンのソロ演奏の為に、ドレスを着飾っていた訳だが、
あまりの美しさに上条は、「おおぉ…」としか言えなかったのだった。

「いや、その、何つーか……すっげぇ綺麗で…えと、うまく言葉が出てこなかった…」
「えっ!? …そ、そう………あ、りが…と……」

上条が「かあぁ…」と赤面するのに釣られるように、美琴も「かあぁ…」と赤面する。
しかしここで、美琴のドレス姿を見て何かを思い出した上条が、ふとこんな事を言ってきた。

「…ん? あっ、そう言や去年のあの時の女の子って、もしかして美琴だったのか!?」
「へ? いや、そうだけど………えっ、何!? 今まで忘れてたの!?」

あの時の出会いはフライングのような物で、
上条にとっては記憶を無くしてから初めて美琴と会話を交わした瞬間だったのだが、
すっかりと忘れ去られていた。
上条が覚えている美琴との一番古い記憶は、自販機にハイキックをかました、
例の「ちぇいさーっ!」事件だ。
あの時は偶然とはいえ、自分の為に緊張を解してくれたという思い出があるだけに、
普通に忘れられていた事は地味にショックな美琴である。
しかしフォローする訳でもないと思うが、上条は頭をポリポリと掻きながら。

「あー、悪い。全っ然気付かなかった。多分、その後に会った美琴の姿とかけ離れてて、
 盛夏祭で出会った人だとは思わなかったんだろうな」
「何よ…そのちょっと嬉しいような、全く嬉しくないような理由は……」
「だからゴメンって。ほら、一年前の時の美琴…つーか今の美琴もだけどさ、
 正直、思わず見惚れちまうくらい綺麗だったから、
 美琴と別人だって認識しちゃっても、仕方ないんじゃないかな〜って上条さんは思う訳ですよ。
 …ま、いつものミコっちゃんはいつものミコっちゃんで、別の魅力があるんだけどな」
「なっ!!? ……ば…馬鹿ああああぁぁぁぁっ!!!」

サラサラと出てくる嬉しい言葉の数々に、もう顔を合わせられなくなってしまう美琴。
結局そのまま美琴は飛び出し、ステージへと走って行ってしまった。
これ以上、上条と話していると演奏どころではなくなりそうで。


 ◇


この日、ステージで美琴が弾いたその曲は、アントニン・ドヴォルザーク作曲の『糸杉』。
あまり有名な曲ではないが、美琴はどうしてもこの曲を弾きたかった。
ドヴォルザークは、片想いをした相手に素直に告白できなかった為、
その想いを込めて「糸杉」を作曲したのだという逸話が残されている。

美琴は、どうしてもこの曲を弾きたかったのだ。

そんなエピソードは勿論、曲のタイトルや作曲者も知らない上条は、
観客席で「綺麗な音色だなぁ…」と思いながら、演奏する美琴を眺めつつ、
ほんのりと顔を熱くさせるのだった。


86 : くまのこ :2014/12/07(日) 07:15:17 ZTDZJkfI
以上です。
朝っぱらから失礼しました。
ではまた。


87 : ・・・ :2014/12/08(月) 06:40:14 ZTt2Rnaw
ども、・・・です。

漫画一方通行で出た、トウテツだとかコントンだとかキュウキだとかイインだとかのワード。
全部中国の仙人だとか仙術のキーワードですねー。
西洋魔術よりそっちに詳しい私歓喜。

>>くまのこさん
盛夏祭は忘れてたんじゃないよ、もう過ぎてる設定だったんだよ、ホントダヨ!!
さっすが佐天大先生です。私たちがやってほしいことを平然とやってくださいますなぁ。
んで、なにこのカップル。なにこのカップル!! なにこのただのカップル!!!!
あーもうもどかしい!!!!!


では、くまのこさんに引き続き投稿します


改めて、諸注意です。
この物語はフィクションです。実在する人物・団体には一切なんの関係もありません。
で、自分設定が多分に入ります今更ですが!!
また、この中編、『片思い篇』の後半におきまして、
多大な鬱展開になるかと思います。無論、3人には乗り越えて貰いますが……。
「その設定は絶対に許せない」という方は絶対にいるかと思います。
そういう方はスルーしていただければ助かります。

それでは


88 : 新学期2 :2014/12/08(月) 06:41:06 ZTt2Rnaw
上条当麻は自分の美琴に対する感情の正体を知った。
だからといってすぐ行動できるわけではない。
だって

(告白して、成功するイメージができない!!! 難易度はフィアンマやっつけるほうが簡単!!)

この心の声を聞いたら間違いなく、上条はフィアンマに殺される。

(どうやったら振り向いてくれるだろう? )

すでに彼女がてめぇしか見えてないことに気付かない上条。
勝手に勝率を低く設定し、泣きながら教室の扉を開いた。
去年とほぼ変わらない面子が、一斉に上条の方を向く。

上条は挨拶ができる偉い子なのだ。

「おはようございます」

もちろん小萌は

「おはようではないのです!!
初日から遅刻とか学校をなめすぎなのですよ !!
ちょっとこっちに来るです!!」

と、いおうとした。
が、実際は「おはようではない」という言葉の途中で黙ってしまう。
ガタタッ
という音と共に、3人の生徒が同時に立ち上がったからだ。
吹寄、青髪、姫神はそのまま上条に向け走り出す。
まず吹寄がボディを決めた。
くの字に曲がった上条に、青髪はアッパーを繰り出す。
とどめに姫神が魔法のステッキで殴り付けた。
上条ダウン。
一年戦争で名を馳せたジェットストリームアタックだった。
もちろん小萌は「なにやってんのー!!」と叫ぶ。
しかし、姫神がボソボソと耳打ちすると、担当教師はてちてちと上条にかけより、

「ていっ」

と頭をはたいた。
軽いパワハラだ。
もちろん、土御門は訳がわからない。
再び姫神がボソボソと耳打ちする。
そして、嘘つきは笑って言った。

「あー、そういえば、カミヤンは他に美人のお姉さんも振ってたぜい」

ガタタタッガタタタタッ

と全男子が立ち上がる。
彼らが走って来るのを見た上条が「あぁ、美琴、時が見える」と言ったとか言わなかったとか。


89 : 新学期2 :2014/12/08(月) 06:42:02 ZTt2Rnaw

その美琴を固法は見ていた。
お昼時の風紀委員第177支部で、彼女はただ同情するばかり。

「あうあう」

「そろそろ、白状してもらおうか、御坂さん」

わざわざ照明を落とし、机の上のライトを美琴に向けている。
顔を真っ赤にした美琴の正面。
佐天涙子はいつもは微塵もない落ち着きを見せていた。
ノリノリである。
部外者2人なんだが、なんか今更だ。
美琴の斜め後方では、黙々と初春が書記の仕事をしている。
ノリノリである。
で、どっから持ってきたそのカツ丼?

「いい加減、吐いて楽になったらどうですか?」

「あうあう」

「あうあうじゃわからないです。固法先輩が証人ですし、知らないなんて言えませんよ?」

固法は思い出す。
始業式が終わり、ここに向かう途中だった。
そこで今あうあう言ってる子に声をかけられた。
しかも第一声が、

「どうやって黒妻さんを落としたのか教えてください!! やはりその胸部に食いついたんですか!!」

だった。
は? と言ったら眼鏡が落ちそうになる。
しかし、彼女は真剣だ、アホなことに。
頬を紅潮させてるため、残念ながら、言ってることもわかっているようだ。
しかし、目はまっすぐこっちをみている、馬鹿馬鹿しいことに。

正直固法は困った。
本人に聞いてほしい。
いや、聞かないでほしい。
さて、先輩らしくごまかさねば、
自分の魅力を磨いたほうがいい?
いや、逆にキズつけるか。
あの人は中身をみてくれた?
いや、ただのノロケになる
まったく、いったいなんでこんな面倒な質問を…………ん?

「「どうして急にそんな質問を?」」

あれ? ハモった。
気付くと美琴がガクガク震えている。
自分の後ろを見て。
振り替えると、フッフッフと悪役の顔で笑う佐天と初春がいた。

バンッと机が叩かれた音で、固法の意識は今の時間に戻る。
佐天はあの時と同じ表情で美琴に詰め寄っていた。

「往生際が悪いですよ!! さっさとしゃべってください! 上条さんを落としたいんですよね!!」

「も、黙秘権を行使する!!」

「……話してくれたら、上条さんの好きなタイプを聞いてきてあげますよ」

「ホント!!?」

「やっぱりそうかぁぁぁあああああああ!!」

「し、しまっ!! も、黙秘権を行使する!!!」

わいわい、騒ぐ後輩をしり目に、
固法は窓から青空を眺めた。

「平和ねぇ」


90 : 新学期2 :2014/12/08(月) 06:42:35 ZTt2Rnaw



平和だと? 冗談ではない。
ここに、戦場から帰還した戦士がいる

「お、オレがなにしたっていうんだ」

帰宅途中の上条は不満をこぼす。
姫神を怒らせることをした記憶はまったくない。せいぜい悩みを聞いてもらったくらいだ。
美人のお姉さんを振ったなんて冤罪もかけられた。

「そんなイベントはなかったはずだよなぁ」

あったのはある少女と赤ちゃんとの共同生活くらいで……

また、頭から湯気が出る。

そのまま犬の尻尾を踏みつけて、あちこちに歯形をつけることになった。
この痛みも懐かしいね。

上条は昨日から満身創痍である。
結局宿題が大量に残った夏休み最終日。
数少ない休憩時間に、ステイルを外に連れ出した。

『お前に、インデックスに関して聞きたいことがある』

そう彼に伝えると、向こうも面倒だという表情が消えて、真剣な目になってくれた。
ステイルは無言で先を促す。

『お前って……片思い歴、長いよな』

パチパチと、彼はまばたきした。
ん? 何だって、だと?
聞こえなかったか、それとも意味が伝わってなかったか、
じゃあもう一度いおう。

『だから、お前ってうちのインデックスにずっと片思いしてんだろ?
実はオレも最近、み、みこ、御坂に片思いしてて、片思い歴の長いお前に先輩としていろいろ教えてほしいといいますあぎゃぁぁあああああああああ!!!!』

いつの間にかイノケンさんが目の前にいた。
真っ黒に焦げて、なんの手掛かりもなく自分は帰ることになった。
驚きの顔で出迎えてくれた美琴を思いだし、そんだけでまた顔が赤くなる。
でも、彼女はなんで自身の頭と同じサイズのタンコブを作ってたのだろう?


91 : 新学期2 :2014/12/08(月) 06:43:18 ZTt2Rnaw
(なんであの時の当麻は焦げてたんだろう?)

そう疑問を抱いているのは、御坂美琴。
つい先ほどまで佐天にいじられ、ボロボロになっている。

いや、わかっている。
第三者に自分の気持ちをいえないのに、本人に伝えられる訳がない。
でも、

(今のままじゃ、全盛期の一方通行に勝つより勝率が低い)

とりあえず一方通行のファンには謝っといたほうがいいと思う。
恐らく、天罰だろう。
一方通行戦の上条を思いだし、ふにゃりかけた美琴は、ボールを踏んで噴水にダイブした。
風紀委員のお仕事体験以来だね。

まったく、美琴は昨日からさんざんだ。
すっかり忘れていた上条の宿題を、必死に片付ける合間。
休憩時間に上条がステイルと散歩に出てくれた。
その隙にインデックスと遊んでもらっていた神裂と対面する。

神裂は驚いた。

『神裂さん、聞きたいことがあるの』

神裂は、動揺を悟られないようにする。
彼女は、上条、美琴、インデックスのために身を引いた。
18にして初めて抱いたこの感情を、捨てる決意をした。
だから、感づかれてはならない。
彼女達の力になると、決めたのだから。

『どうしました?』

『どうやったら、そんなきれいな凹凸ができるんですか?』

『……………………は?』

『く、悔しいけど、神裂さん、メッチャクチャ美人じゃない!!
大和撫子の落ち着きも、む、胸のスイカもわたしに足りないものなの!!
と、当麻も神裂さんみたいなのが、好みなのかなぁ、とか、いや、別に当麻は関係なくて、ただ私があこがれてるだけの話!!
ど、どうやったら神裂さんみたいになれるんでガフッ!!』

神裂は無表情で、鞘に入れたままの刀を降り下ろしていた。
美琴は床に倒れ付している。
ついやっちゃったのだ。
いろいろ複雑な思いを持ってるのに、
目の前で、諦めたきっかけがこんなことほざいていたら、仕方ないとは思う。
どんどん膨らむタンコブに、インデックスはうー、と驚嘆していた。

鈍感な美琴は一切神裂の感情に気付いていない。
なんで殴られたのかなー、という疑問もその後すぐ帰って来た上条のことに思考が移る。
そんなとき、わかれ道で目の前にご本人登場。
ちょっと昔の自分なら、きっとあたふたして、八つ当たりでもしていたのだろう。
でも、今は違う。

「おっす、相変わらずボロボロね」

今はまだできないけど、この想いを伝える覚悟ができた。

「相変わらずってのは聞き捨てならんねぇ、いつも俺がボロボロみたいじゃねぇかそのとおりだチキショウ」

それに、

「はいはい、いじけないの。
で、これから、学校始まるけど、インデックスどうしようか?」

あの子が、私たちを繋いでくれている。

「ん? アイツらに頼むしかねぇだろ」

彼女は気付かない。

「そうねぇ、でも気が進まないなー」

隣にいる想い人も、同じように考えていることに。


92 : ・・・ :2014/12/08(月) 07:36:48 ZTt2Rnaw
以上でさぁ


93 : ■■■■ :2014/12/10(水) 07:23:14 x27YfwxM
>>くまのこさん
いや〜……もどかしい!だけどこのもどかしさは最高ですわ!
早よくっつけ!って言いたいけどゆっくり愛を育んでもいいのよ?とも言いたい!こんな気分にされてしまうとは、やはりくまのこさんは凄いで!

>>・・・さん
……なんやこの似た者夫婦は??
私をアレですか?萌え死させるきですか??それこそ本望、どんと来いや!
……っあ、でも禁書最終巻でるまで死ねないや( ´・ω・`)
ってな訳で続き期待!超期待!鬱?んなもんあの三人で越えられないわけないやろ!


94 : くまのこ :2014/12/12(金) 20:34:49 GdSxc7LY
>>・・・さんGJです!
「あうあう」なミコっちゃん可愛すぎっ!
そしてミコっちゃんを弄る時の佐天さんは、いつも生き生きとしてますなぁw



短編書きました。ネタ系です。
約3分後に3レス使います。


95 : 上条さん、明日は不幸な目に遭うけどね :2014/12/12(金) 20:37:38 GdSxc7LY
今週の日曜日、上条と美琴の両名は一緒に出かける事になっている。
美琴としては清水の舞台から飛び降りる覚悟で遊びに誘ったのだが、素直になれない性格が災いして、
「友達誘おうとしたけどみんな都合が悪かったからアンタを誘ってあげるわよっ!!!」
とツンデレ全開にしてしまった。美琴、自己嫌悪である。
上条も上条で鈍感な性格が災いして、美琴の言葉を『美琴が言った通りの意味』に受け取ってしまった。
しかし特に予定もなかった上条は、友達と遊びに行く感覚で、
「ああ、別にいいよ」と美琴の誘いを了承したのだった。美琴、欣喜雀躍である。

そして本日、約束の日の当日だ。
今日の二人の行動を、目撃者の証言と共に追って行こうと思う。


 ◇


 証言者・1 白井黒子 08:11
ああぁ…憂鬱ですの……朝からお姉様がご機嫌すぎて…
こういう時のお姉様は、決まってあの類人猿が関わっていますから………はぁ…
あ〜〜〜〜チクショウ!!! 憎々々々々々しいですわね類人猿っ!!!



 証言者・2 インデックス 08:15
…何だかとうまがお出かけの準備をしているんだよ。
しかも短髪と遊ぶ約束があるって言ってたんだよ! とうまのバカとうまのバカとうまのバカっ!!!
…………とうまのバカ…



 証言者・3 オティヌス 08:16
あの人間…休日に女と遊びに行くという事がどういう事なのか、本当に理解しているのか?
あの人間の事だから、「女友達と遊ぶ」程度の認識しかしていないのではないだろうか。



 証言者・4 海原光貴(エツァリ) 10:02
今日こそは御坂さんをお食事に誘って…おや? 御坂さん、誰かと待ち合わせですかね?
っと、お相手が来たようですね。一体誰と―――……………諦めましょう…



 証言者・5 浜面仕上 10:03
ん? ありゃ大将と超電磁砲か? もしかしなくてもデートの待ち合わせだよな、アレ。
っとヤベッ! 俺も滝壺とのデートに遅れちまう! 人のデートの心配とかしてる場合じゃなかった!



 証言者・6 佐天涙子 10:24
っ!!? 今、映画館に入ってったのって、確かに御坂さんと上条さんだった!
これは…さっそく拡散しなきゃ♪



 証言者・7 初春飾利 10:24
あれ? 佐天さんからメール…………ぬふぇ〜〜〜っ!!!



 証言者・8 婚后光子 10:24
佐天さんからメールですわ。一体何のご用…………みみみみ御坂さんが殿方と!!?



 証言者・9 打ち止め 10:30
今日は一方通行とデートだ!ってミサカはミサカはウキウキしてみる!
…あれ? あそこにいるのはお姉様…? …ハッ! お姉様とあの人もデート!!?
でもでもミサカはできる女だから、ここは敢えて声をかけないであげるの、
ってミサカはミサカは気を使ってみたり!


96 : 上条さん、明日は不幸な目に遭うけどね :2014/12/12(金) 20:38:29 GdSxc7LY
 証言者・10 御坂妹 10:30
ミサカネットワークを通じて上位個体の見た光景が頭に流れてきました。
これより妹達【ミサカたち】全員で緊急ミーティングを開きます、
とミサカは「どうせお姉様は素直になれないだろう」と高をくくっていた事を後悔します。



 証言者・11 一方通行 10:32
チッ! 打ち止め【ガキ】のお守りとか、めンどくせェ…
しかも何だァ? この『劇場版ゲコ太』とか言うモロにガキ向けの映画はよォ。
こンなもン観る奴は打ち止めぐれェしか…………あ゛? ありゃ三下とオリジナルじゃねェか。
……まァ、見なかった事にしとくかァ…



 証言者・12 番外個体 12:22
…黄泉川に言われて第一位と最終信号を迎えに(ついでに冷やかしに)来たけど、
それ以上に面白い物見ちゃったぜ! な〜にやってんだか、おねーたま!



 証言者・13 姫神秋沙 12:34
私がハンバーガーショップで昼食をとっていたら。偶然。上条君が同じお店に入ってきた。
最初は。「これって運命的な何かだったりして」なんて思ったけど。
よく見たら上条君。他の女の人と一緒だった。……今日は。とことんヤケ食いしてやる。



 証言者・14 鉄装綴里 13:17
今日は非番だから久しぶりにゲーセンに来てみたら、デート中の御坂さんとバッタリ。
はぁ〜……いいなぁ…私も彼氏ほしいなぁ…



 証言者・15 フレメア=セイヴェルン 13:35
やっぱりガンシューティングは大体ゲーセンでやるのが一番だな!
前の人達、早く終わんないかな! にゃあ!



 証言者・16 垣根帝督(元・カブトムシ05) 13:36
浜面【ほごしゃのかた】が恋人とデートをするとの事で、
フレメア【おこさん】を預かってゲームセンターに来た訳ですが…
先にゲームをやっている方達に見覚えがありますね。
まぁ第三位や幻想殺しも息抜きに来ているのでしょうし、声をかけるのは無粋ですね。



 証言者・17 土御門舞夏 14:47
おー? 上条当麻と御坂がゲーセンから出てきて、そのままセブンスミストに向かったぞー?
これはアレだなー。完全にアレしてるなー、これはー。



 証言者・18 土御門元春 14:48
…舞夏と休日デート楽しんでたら、とんでもない物見ちまったぜい……
ま、とりあえず拡散しとくかにゃー。



 証言者・19 青髪ピアス 14:48
お? つっちーからメールや。何やろ。…えっと、なにな……に…?
…………………………ウソやろ…? ウソやって言うて〜〜〜〜っ!!!



 証言者・20 吹寄制理 14:49
か〜み〜じょ〜う〜と〜う〜ま〜〜〜!!!
もしもこのメールの内容が本当だったとしたら貴様、明日覚えてなさいよ!



 証言者・21 雲川鞠亜 15:15
…姉と服を買いにセブンスミストに来たら、それどころじゃない現場に出くわしてしまった。
これは姉のプライドもズタボロだろうな。


97 : 上条さん、明日は不幸な目に遭うけどね :2014/12/12(金) 20:39:17 GdSxc7LY
 証言者・22 雲川芹亜 15:15
べべべべ別に動揺なんかしてないけど!
男女で買い物して「こっちの服とこっちの服、どっちがいい?」「う〜ん…俺はこっちが好きかな」
「じゃ、じゃあアンタが選んでくれた方を買っちゃおうかな…」なんて会話するのは、よくある事だけど!



 証言者・23 結標淡希 15:59
そろそろ寒くなってきたから新しいコートでも……って、あら?
あそこにいるのは、あの時の彼と超電磁砲…? 二人で買い物かしら、靴を選んでいるわね。
…あっ、もう店を出るみたい。……て言うか、付き合ってたの…? あの二人って…



 証言者・24 月詠小萌 16:07
はわわわわっ!!! 上条ちゃんが常盤台の生徒さんと楽しそうに歩いているのですよ!
ままままさか不純異性交遊なのですか!? ここは教師として止めるべきなのでしょうか…!
い、いえしかし、何でもかんでも頭ごなしに否定するのも―――
って! ごちゃごちゃ考えてる間に、上条ちゃん達が喫茶店に入っていってしまったのですよ〜〜〜っ!



 証言者・25 食蜂操祈 16:10
あ〜あぁ…せっかくお気に入りのカフェで寛いでたっていうのにぃ…不快力の高い物見ちゃったわぁ!
上条さんが来るのは別にいいけどぉ、何でその隣に御坂さんがいるのかしらぁ?
しかもカップルシートなんて座っちゃってぇ…
あ〜もぉ! これ以上、苛々力が増しちゃう前にお店出よぉっと!!!



 証言者・26 削板軍覇 16:23
ふぃ〜、食った食った! やはり、ここのパスタは美味いな! さて勘定を……ん?
そこにいるのは上条と嬢ちゃんか? 随分とデカいパフェを食ってるな!
…何? 食いきれないかも知れない? 根性が無ぇなあ。なら二人で食えばいいじゃねーか。
スプーンが一つだけ? そんなもん、交互に使えばいいだろう。…何、赤くなってんだ嬢ちゃん?



 証言者・27 木山春生 16:27
ふむ…どうも落ち着いてコーヒーを飲めないと思っていたら、彼らが騒いでいたのか。
こういうのを何と言ったかな……確か…そう、「リア充爆発したまえ」…だったかな?



 証言者・28 冥土帰し 16:45
僕の病院の常連さん達が、喫茶店から出てきたんだね?
しかし何だか彼女の方は顔が上気している? ……若いってのは良い物だと改めて思ったね…?



 証言者・29 御坂美琴 16:57
か、顔っ!!! 顔が熱いいいいいいぃぃぃ!!!
あ、ああ、あんな事しちゃった………お店の中であんな事しちゃたよおおおおおお!!!!!



 証言者・30 上条当麻 17:00
いや〜、今日は不幸という不幸も無かったし、いい日でしたなぁ〜!
にしても美琴、大丈夫かな? あんなに顔、真っ赤にしてたし……まぁ、もう外も寒いもんな。
さて、と帰るか。明日も今日みたいな日になればいいな〜…なんて。


98 : くまのこ :2014/12/12(金) 20:39:59 GdSxc7LY
以上です。
ではまた。


99 : ・・・ :2014/12/17(水) 21:53:35 tOD9AgZA

ども、・・・です。


>>くまのこさん
数名涙を誘う。
数名の拡散がもう流石。
数名GJ
最後の温度差に、泣いて笑って


では投稿します。
諸注意!
まだないけど、いつか鬱くるよ!!
オリジナル設定の嵐だよ!
現実世界と関係ないフィクションなんだからね!!

それでは


100 : 新学期3 :2014/12/17(水) 21:55:22 tOD9AgZA
「と、いうお願いだ」

上条当麻はそう言って説明を終えた。
上条宅でその会談は行われている。
上条が話した相手は一方通行、打ち止め、番外個体、浜面仕上、滝壺理后。
コの字のソファーに皆座っている。
小さなテーブルの上には人数分の麦茶が置かれていた。
黄泉川家の対面にアイテムの2人が座る形だ。
上条の隣にはインデックスが座り、さらに1人分のスペースが空いている。
その空間の主は、皆に配った麦茶を片づけにキッチンに立っていた。

「……」「……」「……」「……」「……」

しかし、珍しいこともあるものだ。
あの一方通行と、浜面仕上が、いや打ち止めも番外個体も滝壺理后も全く同じ表情をしている。
目はジトっと効果音を発し、口は横一文字で表現可能だ。
皆上条の話よりも気になることがあるようである。
ここから、皆さんはなにを予想しただろう?
上条が美琴の頬をつついたり、
美琴が上条の腕に抱きついたと考えているだろうか?
申し訳ないが、まだ、二人は付き合ってすらいない。
故にそのようなことはない。

「なぁ、美琴、アレどこだっけ??」

「ん? アレなら戸棚に当麻が片付けてたと思うけど??」

「おお、ほんとだ、ほれみんな、煎餅だ、食えよ」

「ねぇ、アレも出しちゃう?」

「そうだな、出すか」

なにかがおかしい。
とてとて、と団子を持った美琴が歩いてきた。
上条のリアクションはないから、団子で正解だったのだろう。

浜面はたまらずに尋ねる。

「お前達さ、ホントに付き合ってないの??」

「な!! ななななに言ってるのよ!! なんで私がコイツなんかと!!!!」

「そそそうだぞ!! どうしてコイツなんかと!!」

そう言った後、二人は互いに顔をそむけ、壁に向かってしくしく泣きはじめる。
上条と美琴の周囲が無駄に暗い。インデックスはもくもくとミルクを飲んでいる。
が、注意する点はそこではない。
そう、この二人は付き合っていないはず。

「ん? あぁ!! あーもうダメじゃないインデックスこんなにこぼして」

「あぅ、ごめーたい」

「あちゃー、ほれ、ティッシュ」

「ありがとう。もう、インデックスったら、パパに似ちゃったのかな?」

「こら、美琴さん、何言ってんの!!」

「昨日のシチュー」

「ぐっ」

「ぱーぱ、ごめーたい?」

「ぱぱは昨日謝ったよ、インデックス」

「あ、そういえば、夕飯なにがいい?」

「美琴が作ってくれるならなんでもいい。うまいし」

「うまーし!!」

「うまいじゃなくて、おいしいでしょインデックス。
そういうのが一番困るのよね、昨日は洋風だったでしょ……」

「おい、みんななに黙ってんだよ? 質問とかないの?」

いやいや質問しかない。

「付き合っては、ねェンだな?」

「「しつこいな(わね) 当然だ(よ)」」

その場にいる全員が思った。

(((((そのレベルで!!?)))))


101 : 新学期3 :2014/12/17(水) 21:57:10 tOD9AgZA
2人がインデックスにかまっている間に、5人は目で会話する。

(ねえ!! あれで付き合ってなかったら、何をもって付き合ってるっていうの!!? ってミサカはミサカは実際付き合ってるお2人に回答を求めてみる!!)

(いやいや、あれは付き合ってるだろ!! どう見ても!!)

(でも、あの2人付き合ってないっていってたよ?)

(Zzzzz)

(てめェのツレは寝てンじゃねェか使えねェ。アイツらが付き合ってたら、さっきの話がおかしくなるだろ)

ここには皆、ほぼ強制的に集められていた。
上条達は夕飯をご馳走するという。
しかし、食事の招待は幻想殺しや電撃で脅したりせずにやるものだと思うのだ。
で、行ったら行ったで、

「あ、ごみぶくろきらしてたー」

と、第3位がいい、

「!! そっかー、じゃあおれとあくせられーたとはまづらがかいにいくよー」

と、ヒーローがほざき、

「よろしくー」

と、今度は外に連れ出された。
上条家に拉致されて3分後の出来事だった。
顔面を右手で掴まれながら引きずられていた一方通行と、襟の後ろを掴まれていたため、窒息しかけていた浜面は、公園で自由になった瞬間に猛抗議しようとする。
しかし、その前に上条は地面に土下座していた。

「頼む!! 助けてくれ!!」

どういうことだろう?
また魔術師でもきたのだろうか?
はたまた統括理事会の暴走か?

「どうやったら御坂と付き合えるか教えてください!!」

「やっぱり、醤油だって。目玉焼きって和名じゃん。じゃあ和風にするべきだろ?」

「甘ェな。通説では普及したのは明治以降、西洋料理としてなンだよ。洋風に味付けすンのがセオリーだ。ソース1択だな」

2人はすでに背を向けて帰途に就いている。
そこに慌てて回り込んだ。

「おい!! 無視すんなよ!!」

「いちいち、アホに付き合えるか」

「まったくだ」

「頼む、教えてくれよ!! 浜面みたいにバカで脳筋でパシりでなんの魅力もない男がどうして彼女できたんだよ!! 絶対参考になるだろ!!? 貧弱でぼっちで中二病全開でもやしな一方通行でも、御坂DNAには詳しいはずなんだ!!なんか情報をください!!」

ごみ袋を買って帰ったのは2人だけだった。


102 : 新学期3 :2014/12/17(水) 21:58:09 tOD9AgZA

上条が土下座していた時、
御坂美琴もまた上条家の床に土下座していた。
打ち止め、番外個体、滝壺理后は?を頭上に浮かべる。
インデックスは、ママの上に登りご満悦だ。

美琴は、いまからいう内容を考えると微動だにできない。
しかし、学校から帰る途中に考えたではないか。
『この想いを第三者にいえなくて、本人に伝えられるわけがない』
だから、勇気を振り絞っていった。

「実はわたし!! 上条当麻のことが好きなの!! なんとかうまくいく方法を一緒に考えてください!!」

しばらく続いた沈黙。
美琴の上の重さが無くなった。
顔をあげると、インデックスを抱いた打ち止めがいる。
そして



両サイドから他の2人によって、ほっぺを思いっきり引っ張られた。

「ちょ、いふぁいいふぁいいふぁいってば!!!!!」

おかしなママの顔にインデックスは大はしゃぎだ。
打ち止めと番外個体、滝壺は、驚きを隠せない。

「「「ゆ、夢じゃない!!!???」」」

「自分のでしろやーーーー!!!」

ぼそっと打ち止めが呟く。

「まさか、お姉さまの偽物? ってミサカはミサカは名推理」

納得の顔でそちらを見る滝壺と番外個体。

「どういうこと!!? 素直なわたしってそんなにあり得ないの!!?
 え? なにじりじり近づいて……さっきもほっぺ引っ張ったじゃん!! 2度もやる必要は……!!!」

ぎゃーーーーー!!! という叫び声が響いた後、
きゃっきゃと笑う赤子の声が響いた。


で、今に戻る。
こんな状態の2人が付き合うにはどうすればいいのだ?
もう告白して事実をつくるしかないだろう。
でも、こいつらにそれができるのか?

「ムリじゃ、ねェか?」

「いや、でもやるしかないだろ?」

「……そうだな」

大変だなアイツら。

「ホント!!? ありがとう!!」

「いやぁ、断られたらどうしようかと思ったよ」

あれ? なんの話だっけ?

「学校に行ってる間インデックスを頼むな」

「お世話になるときは、おりこうさんにしてるのよ、インデックス」

「あい!! いんでっくす、おりこう!!」

新手の詐欺だろ。

ちょっと待てだとか、今のは無しだとかまくしたてる2人を置いて、
上条家は、笑顔だった。


3人は知らない。
この後の数カ月で彼らの人生が大きな変化を迎えることを。
特にあの少年にとっては、今までの人生を否定するような試練が待ち構えている。

さあ、新学期の幕開けだ。


103 : 新学期3 :2014/12/17(水) 21:58:51 tOD9AgZA

おまけ!!

上条当麻の右手には、

「見て!! 先生よ!!」

幻想殺しが宿っている。

「こんな屋上にお1人で…… 誰かと一緒にいるところを見たことがないわね」

「またため息、いったいなにをそんなに悩んでいるのかしら?」

「この前聞いてみたけど、笑ってごまかされてしまったのよ」

「あ、抜け駆け!!!」

「先生って実は年齢も分かんないのよね、もしかしたら私たちと結構お年も近かったりして」

「コラ、先に私が目に付けたのよ!!」

「最初にファンクラブを作ったのは私。恋の前に友情なんてのは無力なのだ!!」

「な、なんだと!!? くっそー、こうなれば手作り弁当で」

「それは私が毎日断られているわ」

「もう終ってるイベントだった!!?」

「あぁ、また悩ましいお顔、私がそれを癒してあげたい……」












(寂然、マイエンジェルはいまどうしておられるのだろうか?)

できるだけ早急にあの少女たちのもとに上条が現れることを願う。


104 : 新学期3 :2014/12/17(水) 21:59:50 tOD9AgZA

おまけ!!

さて、帰宅途中の相談の中、
インデックスをお隣さんに預けることが決まった。
で、

(なんで美琴さんはヌレヌレのスケスケになっておられるのですか!!!!!?)

彼女は先ほど、噴水でフェスティバルしていたのだった。
思春期の上条は悩む。

(ちょ!! アウト!! いろいろアウト!!)

スカートやサマーセーターは体にくっついてラインを明確にしてるし、
白いシャツはすけて下着のひもがうっすら見えてるし、
髪も濡れて、首筋がなんか色っぽいし、


っつーか、濡れた美琴ってだけでプールのこと思い出すし、
というか、結構隅々まで見てますね。

(ぬっぎゃあああああああああああああああああああ!!!!)

上条は急にどこかに走り去った。
へ? なんていって固まる美琴のもとに、すぐ彼は戻ってくる。
どこかのコンビニにいっていたようだ。

「ほれ、なんで濡れてんだよ? タオル買ってきたから拭きなさい」

優しい彼の行動に、彼女は感激だ。

「ぅん、ありがと」

上条はその笑顔にまたモンモンとするのだが、
美琴は気付かない、だって

(ちょ、直視できなぃぃぃいいいいいいいいいい!!)

上条がせくすぃーだからだ。
彼は野良犬と格闘した後なのだ。
それはもう壮絶な闘いだったようである。

だってボタンがとれて胸元が空いている。
さらに服が破れておへそが丸見え。
しかもベルトが壊れてズボンがちょっとギリギリのところまでずり落ちている。
見えそうで見えないところが悩ましい。

直視できないにしては情報量が多いのだった。

「ね、ねぇ」

「な、なんでせう?」

「帰ったら、消毒してあげるね」

ホント、美琴は優しいなぁ、と彼は感動する。

「ありがとな、美琴」

「う、うん」




もう一度言うぞ、
彼らはまだくっついていない。


105 : ・・・ :2014/12/17(水) 22:01:58 tOD9AgZA
以上です
どもです


106 : ■■■■ :2014/12/18(木) 21:55:13 anWEucIE
>>・・・さん
こ、これで付き合ってない……?
そ、そうだ!二人はお付き合いの段階をすっ飛ばして夫婦になってるんだ!そ、そうに違いない!(錯乱)

続き楽しみにしてます( `・ω・)


107 : ■■■■ :2014/12/19(金) 02:11:23 qXMcFL/2
ある程度の鬱は許容するが、ハッピーエンドじゃなきゃ許さない。絶対にだ。


108 : ■■■■ :2014/12/19(金) 14:12:22 aElFys76
・・・さんGJです
でも鬱が書かれてから解決まで間を置かれるとキツイです
鬱と解決一緒に載せられませんかねぇ


109 : 我道 ◆XksB4AwhxU :2014/12/21(日) 22:27:09 F8zJhrAk
どうもこんにちはこんばんはおはようございます。
いつもはくまのこさんと組んでる『こぼれ話』でございますが、今回は、くまのこさんの了承を貰いまして、私、ピンでお送りさせていただきます。
というのも、大覇星祭こぼれ話の中で、本編【禁書】と外伝【超電磁砲】のメインキャストの中で一人だけ一回しか出演していない方がいましたのと、一つ、伏線を回収していなかったことがございましたので、大覇星祭こぼれ話Ⅷ(最終話)の前に、一つ、幕間を挟ませていただきます。
今回のこぼれ話Ⅰ〜Ⅶで上条さんと美琴さんの絡みエピソードをピックアップした、題して『大覇星祭こぼれ話かみことせれくしょん』。
今回はピンでございますから、くまのこさんの世界観がうまく出ているかどうか。出ていなかったとしても暖かくも広大な御心で見てくださると嬉しいです。
ではどうぞ。


110 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:31:45 F8zJhrAk
初春「さて、それでは今回も元気よく行きましょう!」
佐天「大覇星祭こぼれ話最終回! もちろん中身はメインイベントのフォークダンスです!!」
美琴「うぅ……黒子ぉ……この面子だとアンタだけが頼りだからね……」
白井「お、お姉様!?/// ふっ! 分かりました! この不肖白井黒子、不逞の輩から必ずやお姉様をお守りいたします!!」ぴぴぴぴぴ
上条「ん? おい白井、何か電話が鳴っているようだが?」
白井「ったく、こんなときに誰ですの? って、固法先輩!?」
初春「ええ!? そんなはずないですよ!? だって今日のお仕事は全部片付けてから来たじゃないですか!!」
白井「まあそうなのですが――はい、こちら白井黒子。はい。え? 不審者の乗った車がこちらに向かっておりますの? もうしばらくで通過予定? 分かりました。ではこの付近で待機して、不審な車両を見かけましたら停車させて警備員に連絡いたします」ぴっ
初春「えーお仕事ですかー?」
白井「仕方ないですわ。不測の事態までは片付けられませんから。という訳でわたくしと初春は少し外します。三十分ほどで戻ってきますのでお待ちいただけますか?」
上条「まあそういう事なら仕方ないな。分かった。待っててやる」
白井「ありがとうございますの。では行きますわよ初春」
初春「はーい……」


111 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:32:23 F8zJhrAk
――――

佐天「とは言え、どうしましょう? 白井さんはともかく初春も楽しみにしてた今回ですし、先に三人で始めるってのも悪いですよね」
美琴「何気に黒子の扱いがアレなんだけど、まあ確かに三人で始めちゃうと佐天さんの暴走を止める人が居ないってのもマズイわね」
上条「さらっとお前も酷いこと言ってんな。佐天さんが暴走するってどういう事だよ」
佐天「まあ、御坂さんからすると『暴走』に見えるんでしょうなぁ。でも、御坂さん(と違う意味で上条さん−−;)以外の人には『暴走』じゃなくて『奔走』って受け取ってもらえるんですけどね」ニヤニヤ
美琴「うぐ……」
佐天「でもホント、どうします? 時間潰しに井戸端会議でもやりますか?」
美琴「それはスレ主旨に問答無用で逸脱している上にコースアウトしながら走っているようなものだから却下ね。まあ逆走ではないけど」
上条「ついでに俺が話に入れん。ガールズトークに男子高校生が入れると思うなよ」
佐天「あは。それもそうですね。ごめんなさい。じゃあ何しましょうか?」
??「だったら、あの二人が戻ってくるまで、ここまでの大覇星祭こぼれ話で坊やとお嬢ちゃんの絡みのシーンだけをピックアップするってのはどうかしら?」
佐天「をを! ナイスアイディアです! 実は、合作作者の片割れが、あたしが呼ばれた回数が一回って言うのはどうかって思ってたらしくってですね、それで今回はピンで――って、あれ? さっき、空港まで送ってもらった車のお姉さん?」
上条「うぉい! Ⅰで確かに意味深みたいなこと言って伏線張ってたけどここで回収すんのオリアナ=トムソンさん!?」
オリアナ「そういうことよ坊や。また会ったわね」
美琴「てことは佐天さん。この人に空港まで送ってもらったわけ!?」
佐天「ええそうです。だって、空港まで布束さんとフェブリとジャーニーを送らなきゃいけなかったですし、白井さんは一度に二人までしか抱えてテレポートできないじゃないですか。タクシーもなかなかないですし、たまたまヒッチハイクした車のドライバーがこの人だった訳です。だからまず、このお姉さんにあたしと白井さんも一緒に空港まで連れてってもらって三人を見送ってから、こっちへは白井さんに送ってもらったんですよ。いやー本当に助かりました」
オリアナ「私の職業は『運び屋』よ。その辺のタクシーよりも迅速に目的地までお届けできるわ」
美琴「……前回(Ⅶ)の裏で、結構緊迫感ある時間との戦いみたいなサイドストーリーが展開されてたんだ……本編は思いっきり緊張感と無関係だったのに……」
上条「……佐天さんの不思議な遭遇スキルが知らないところで発揮されてたんだな……」
佐天「そんじゃ、このお姉さんの提案通り、今回は大覇星祭こぼれ話御坂さんと上条さんの絡みシーンピックアップ版と行きましょう!」
美琴「ちょ、ちょっと待って! この人と佐天さんで今回やるの!?」
オリアナ「そうなるわねお嬢ちゃん…でも大丈夫よ…お姉さんがお嬢ちゃんに大人の階段を昇らせてあげるから……」
美琴「だから反対したいんですよ!! 私はまだシンデレラで充分ですから!!/// あと階段は『上る』であって『昇る』じゃないですから!!///」
佐天「えー? 『大人の階段』なんだし『昇る』で正しいですよ。御坂さんもそろそろ上条さんの部屋のシングルベッドで、上条さんに夢と一緒に抱いてもらって、くだらない事だって笑い合いたい年頃じゃないですか」
上条「昇天!? いやいやいや佐天さん!? 何やら不穏な発言が聞こえた気がするのですが御坂はまだ児童福祉法に守られているお歳なのですよ!?」
オリアナ「バレなきゃ犯罪じゃないのよ…ぼ・う・や・♡」
美琴「いぃぃぃぃやぁぁぁあああああああああ!! このこぼれ話やる度に、何か大切なものを失っていく気がしてるけど、今回は何か大切なものを全部失ってしまいそうな気がするぅぅぅううううううううううう!!」


112 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:33:34 F8zJhrAk
 ――――人混みの向こうに、――――ツンツン頭が見える。彼は大覇星祭の参加者であるため、当然ながら半袖短パンの体操服だ。その隣には、彼とは違ってランニングに短パンの、本格的な陸上競技用ユニフォームを着た女の子がいた。


オリアナ「あの後、私なりに考えてみたわ。どうして何の脈絡もなく坊やと嬢ちゃんがこの時、一緒に歩いていたのかを」
上条「はてしなく嫌な予感しかしないので言わないでください。むしろ、辿り着いた答えは墓の中まで持って行っちゃってください」
佐天「そんなの決まってるじゃないですか。二人仲よく朝帰りですよ。ラ○ホ○ルから」
美琴「がががががが学園都市に、そんなのあるわけないじゃない!!///」
オリアナ「あら? どうしましょう坊や。お墓の中まで持っていく前に黒い髪のお嬢ちゃんが答え言っちゃったわ」
上条「やっぱりかよ!!」


「ねぇねぇ、結局アンタって赤組と白組のどっちなの?」
「あん? 赤だけど。なに、もしかして御坂も赤組か」
「そ、そうよ」
「おおっ、そっかー赤組か。ならお互い頑張らないとなー」
「じゃあ、あ、赤組のメンバーで合同の競技とかあったら―――」
「なんつってな! 実は白組でしたーっ!!」


佐天「上条さんが鬼畜にも乙女の儚い幻想をぶち壊したことはともかく、ちなみに合同競技とかあったら、御坂さんは何て言うつもりだったんですか?」
上条「さらっとディスってくれやがりましたねお嬢さん」
美琴「ふぁえっ!!? そ、そんなのもう忘れたわよ!」
オリアナ「きっとこうね。『合同の競技とかあったらそのまま夜の大覇星祭で貴方の「赤」黒い肉棒から特濃の「ホワイト」ソースを―――』」
美琴「やっぱり前と一字一句違わない答えだし!! だから言わないって言ってんでしょうがっ!!」
佐天「ほほぉ。なかなかに興味深い発言ですな。ここは是非詳しく聞かなければなりません、と言いたいところですが、ちょっと残念ですけど御坂さんは言わないと思いますよ」
美琴「え? え? そ、そうかな?」
オリアナ「そうかしら?」
佐天「ええ。だってこの場所、公の往来ですもん。そういうセリフは二人きりのときにベッドの上で言うセリフですよ」
美琴「だぁぁぁぁああああああああああ!! 真顔で何サラッと言ってんのよ佐天さん!!!///」
オリアナ「なるほどね。ところで坊やは、お嬢ちゃんに本当に言われたらどうする?」
上条「うぇぇぇえええええええ!? そんな話を振る!?」
オリアナ(……というより、(胸はともかく)禁書目録より年下の黒髪のお嬢ちゃんも私の言った意味が分かるなんて、日本ってどれだけHENTAIの国なのかしら)


113 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:34:42 F8zJhrAk
「――――もしお前に負けるような事があったら罰ゲーム喰らっても良いし! 何でも言う事聞いてやるよ!」
「い、言ったわね。ようし乗った。……何でも、ね。ようし」
「――――その代わり、お前も負けたらちゃんと罰ゲームだからな」
「なっ。そ、それって、つまり、な、何でも言う事を……


オリアナ「ふふ。いつ聞いてもなかなか楽しそうな罰ゲームね。もし、坊やが私と戦っていたときに、こう言ってきてたらお姉さん、容赦なく勝ちに行ってたかも…」
上条「……俺にはアンタが結構本気に見えたんだが?」
オリアナ「本気の意味合いが違うってことよ。魔術よりも肉弾戦で迷わず寝技とか関節技に持っていったわ……」
上条(そ、そんなことされちゃったら負けてたかも……!!)
美琴「ね、そんなことされちゃったら負けてたんじゃない?」
上条「何か最近、色んな人に俺の心の声が寸分の狂いもなく読み取られまくるんだけど!? って、ちょっと待った。俺、御坂にオリアナと戦ったこと話したっけ?」
美琴「……」
上条「……」
美琴「世の中、科学で説明できることばかりとは限らないわ。たとえ学園都市でも例外じゃないのよ」
上条「お前の記憶力も最近、時々謎だよな? あと俺の目を見て話せ」
佐天「ちなみにお二方はお互いどんな罰ゲームを課すつもりでいたので?」
美琴「――――!? そ、それは次の次のこぼれ話の予定だからネタばれできないしコメントは控えさせていただくわ!!///」
上条「……えっと、ここはミコっちゃんにチュウしてもらう予定だった、って言えばいいんだよな?」
オリアナ「そんなのでいいの? お嬢ちゃんの××××をもらう予定だった、って言うところじゃない?」
佐天「えええええええええええ!? 御坂さん、何で勝っちゃったんですか!?」
美琴「ツッコミどころが違うから佐天さん!? というか学校対抗なのよ!? 常盤台は2位で上には長点上機学園しかないのよ!! 負けるわけないじゃん!! そもそもいくらなんでも罰ゲームで××××をあげるつもりなんてないから!!」
上条「お、おい御坂、読者さんには伏字になってるけど、そんなカタカナ四文字を大声張り上げて言わなくても……」
美琴「はうっ!!!!!!!!?!///」


 彼女のために、何度でも歯を食いしばって立ち上がってくれた、あの姿を見せて。
 (……、)
 美琴はほんの少しだけ思考を空白にした後、
 (ああ、やだやだ! 何を唐突に照れてんのよ私!!)


美琴「にゃああああああああああ!! 見るな見るなあああああああああああああ!!」
佐天「いえいえ可愛いですよ御坂さん。でも思い出し呆けって結構恥ずかしいですよね」
オリアナ「それにしても坊やもやるわね。このお嬢ちゃんのために相当頑張ったみたいじゃない?」
上条「え? そりゃまあ……こんときは何としてでも御坂を助けなきゃ、って思ってましたから……」
佐天「をを! 上条さん、何かカッコイイこと言ってますね! ほら御坂さんが赤くなってうつむいちゃいましたよ!!」
美琴「!!/// さ、佐天さんそういうのいいから!!///」
オリアナ「あら? ちょっと待って。もしかして私とあなたたちの会話はかみ合ってないんじゃ?」
上条「?」
オリアナ「私は坊やがお嬢ちゃんのために歯を食いしばって何度も勃ち上がってくれたものだとばかり思ったんだけど」
美琴「ん? ええ……まあ、コイツは歯を食いしばって何度も立ち上がってくれたんです…わ、私のために…////」
佐天「……」
上条「……」
佐天「? 何がどう違うんですか? 発音からだと読みとれないんですが」
上条「………………なんとな〜〜〜〜〜〜〜く分かったような気がしたんで、これ以上は深く追求しない方がいいな。絶対に話が明後日どころか十年後くらいに吹っ飛びそうな気がする……」
オリアナ「あら? 坊やったら十年後くらいにまた何度も勃ち上がる気満々なのね♡ このお嬢ちゃんのために…」
上条「やっぱりそういう意味なのかよ!? 気付いてしまった俺も俺だけど!!」
佐天「はて? 御坂さん、意味分かります?」
美琴「さあ? 高校生以上になったら分かる会話なのかしら……」
オリアナ「違うわよお嬢ちゃんたち…ハイスクール以上の話じゃなくて、坊やのように思春期以上の男の子なら分かるって話で当て字の」
上条「うぉぉぉおおい!! まだまだ思春期の入り口をくぐったばかりの純真無垢で清らかな女子中学生を淫らで腐敗した世界に引き込むんじゃない! そこの大人!!」


114 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:35:59 F8zJhrAk
(だとすると、やっぱりウチの学校が勝っちゃうけど……あれ。勝っちゃったらどうしよう?)
 美琴は少し考え、それからブンブンブン!! と勢いよく首を横に振った。


佐天「えっと御坂さん? やっぱり××××(カタカナ四文字)を捧げるつもりだったんじゃないですか?」
美琴「いやいやいや! 前のときも言ったんだけど、そこは『何を考えたんですか?』って突っ込むところよ!? いきなり核心を付くツッコミっておかしいから!!」
佐天「あれ? ということは本当に××××(カタカナ四文字)を捧げるつもりだった、ってことですか?」
美琴「ぶっ!///」
オリアナ「いいえ。そこは違うわよお嬢ちゃん。そっちのお嬢ちゃんは勝った場合の想定になるから、お嬢ちゃんが坊やの××××(漢字二文字で読み四文字)を頂くつもりだったって表現が正しいわ」
佐天「あー、そうですね。勝った時は『貰う側』が御坂さんですもんね」
上条「同じ意味じゃね!?」
オリアナ「全然違うわ。坊やが勝った時は正常○だろうけど、お嬢ちゃんが勝った時は騎j」
美琴「やめて!! 本当にやめて!! 伏字にしてあるけど生々しい表現が続くのは健全スレとしてどうかと思うから!!///」


(……一体何なのよあの覚悟!? アイツ、こんなトコでなんて無駄なカリスマ性を発揮してんの! ま、まさかマジで勝ちに行く気な訳!? アンタ私に勝って罰ゲームで何を要求する気なのよーっ!?)


上条「何も喋らないでくださいお願いですオリアナさんと佐天さん」
オリアナ「どうしてかしら?」
佐天「何でですか?」
上条「お二人のことですから、きっと、さっきと同じ言葉が続くとしか思えませんので聞く意味ないですから」
佐天「えー? でもぉ。大事なことは二回言わなくちゃいけないんですよぉ?」
オリアナ「あら? 何か誤解しているようね。私は同じことを言うつもりはないわ」
上条「特にあんたは絶対に喋らないように! 同じことを言うつもりはなくても同じ意味のことを言うつもりは満々だから!!」
佐天「あ! つまり、この場合は上条さんが勝つ場合の想定でですから、御坂さんの××××(カタカナ四文字)を要求するってことですね!!」
上条「どうして貴女様が言いやがりますの!? せっかく大人の人は止められたのに俺と御坂より年下の中学一年生が大人の人と同じことを考えないでよ!!」
オリアナ「ちなみにお嬢ちゃんはナニを要求されると思ったのかしら?」
美琴「って、何でナニがカタカナなんですか!?///」
上条「おい御坂! 最近のお前の謎の優れた洞察力をこんなところで発揮させるなよ!! それ自爆だぞ!!」
美琴「はっ! し、しまっ……!!!///」
佐天「ふっふっふっふっふ。さ〜〜〜て御坂さん? どうして『ナニ』がカタカナだって理解できたのでしょうか〜〜〜?」
美琴「くっ……!///」だかだかだか
佐天「おっと、どこに行く気ですか御坂さん?」だかだかだか
オリアナ「『お嬢ちゃんは逃げ出した。しかし回り込まれた』ってところかしら?」
上条「うんにゃ。『知らなかったのか? 佐天さんからは逃げられない』ってところじゃないですか?」


115 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:37:19 F8zJhrAk
 ――――右から高速で飛び出してきた御坂美琴が、上条の首の後ろを掴んで勢いよく左へと消えていったのだから。
「おっしゃーっ! つっかまえたわよ私の勝利条件! わははははーっ!!」
「ちょ、待……苦じィ! ひ、一言ぐらい説明とかあっても……ッ!!」


オリアナ「確か、この日本では結婚できるかどうかで勝ち組、負け組に分かれるって伝統が無かったかしら? とすれば、お嬢ちゃんは『勝ち組』になるために坊やを捕まえた、でいいのよね?」
美琴「それは伝統じゃなくて一時だけ蔓延った『流行り言葉』でしかないから!!/// てか、これカットされてるから分かり辛いけど、コイツを引っ張ったのは借り物競走の勝利条件だからなのよ!!」
佐天「借り物競走? お題は何だったんですか?」
上条「おう。あとから見る機会があったんだけど『第一種目で競技を行った高等学生』だった」
佐天「え? 学園都市初日の第一種目で出場した高校生なんて、大覇星祭中ならその辺りに溢れてません?」
上条「まあな。俺もこんときは同じことを思ったよ。だから何で俺が引っ張られたのかなぁ、って」
佐天「んっんっんっ……何か面白そうな理由がありそうですな御坂さん? ここは詳しく話してもらいたいところですが……?」
美琴「ええっと、その……(ヤ、ヤバイ! 佐天さんの目が古畑任三郎みたいに笑い目なのに探りを入れてくる目つきになっちゃってる……!!)」


「ルールには第三者の了承を得て連れて来るように、とあるようだが目の錯覚ですか?」
「あーあー錯覚錯覚。っつか事後承諾が駄目とは一言も書いてないじゃない」


佐天「まあ世の中には、結婚前に避妊しないで情事に勤しんだ結果、子供ができた『できちゃった婚』っていう、事後承諾の権化みたいな結ばれ方もありますからね」
美琴「だから意味が違うって言ってるでしょうがっ!?」
オリアナ「……ちょっと待って…あの……さすがにお姉さんもちょっと引いちゃったんだけど、日本は妊娠したら『子供ができた』って言うのかしら?」
佐天「え? 違うんですか?」
美琴「あれ? 私もそうだとばかり」
オリアナ「……あのね、子供って、一番子供を生むのに適した二十代半ばの体でさえ、しかも排卵日であったとしても30%の確率でしか誕生できない生命の神秘にして奇跡なのよ。それもそのチャンスは一ヶ月にわずか数日。それを『できた』って、そんな『物』みたいに言うのはどうかと思うわ。だから『子供を授かった』って表現が正しいんじゃないかしら」
上条(オ、オリアナさんがまともなことを言ってる!? でも、あんまり説得力を感じられない!!)
オリアナ「…ねえ坊や? 私がまともなことを言っている。だけど、あんまり説得力を感じられない、ってどういう意味かしら?」
上条「ちょー!! 俺の心の声を読まないで!! あと、そのたくさんの速記原典を取り出さないでください! 謝りますからこの通り!!」


116 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:38:28 F8zJhrAk
 美琴は自分の体を覆っていたスポーツタオルを上条の頭に被せた。その上から両手を使ってわしゃわしゃわしゃー、と顔の汗を拭っていく。子供が濡れた髪を拭いてもらうような仕草に似ていて、上条はやや屈辱的だったが、結構強引な力加減なので振り払えない。バタバタと両手を振る仕草が余計に子供臭く思えてきたので、上条はもう黙って身を任せることにした。


オリアナ「マグロは良くないわよ坊や」
美琴「……マグロ?」
佐天「……魚の名前? それともお寿司のネタ?」
上条「ふっふっふっふっふ。オリアナさん。残念ながら女子中学生に『マグロ』の意味は通じないようですな」
オリアナ「ふぅ…さすがにこの言葉はまだ難しかったようね――って、あら? でも坊やは知ってるのよね?」
上条「!?」
美琴「え? アンタ知ってんの? じゃあ教えてくんない?」
佐天「あたしも知りたいです!」
上条「ええっと……いや……その……お願いだからそんな純真な瞳で好奇心いっぱいに問いかけないでくれますでしょうか……?」
オリアナ(あぁ……坊やが攻め立てられておどおどしている姿が何かいいわ……お姉さんゾクゾクしちゃう……)


「ええいホントに腑抜けているわね! 仕方がないからあげるわよ! ほら!!」
「ぐあーっ!!」
 ぐいーっと上条のほっぺたにドリンクボトルの側面を押し付けた。――――
 顔を真っ赤にした彼女は、上条から背を向けると表彰台の方へ消えていく。――――
 ――――もらったドリンクをチューチュー吸いながら――――


オリアナ「計画通り、って嬢ちゃんの心の中が叫んでるわ」
美琴「思っていませんから! ずえぇぇぇぇぇぇっっっっったい微塵も考えてませんから!!///」
佐天「違いますよ。計画通りなのは上条さんの方です。カットされてますけどなんかわざとらしく咳き込んだみたいですし」
上条「……計画通りとはまったく思ってなくて偶然の産物なのでございますが、佐天さんは何故、わたくしめがこの時咳き込んでいたことを知っておられるので?」
佐天「そりゃあ、学園都市中に設置されてるオーロラビジョンに映し出されていたんですから、見てた人は大抵知ってますよ」
美琴(そ、そう言えばそうだった!!///)
オリアナ「だから言ったでしょ、黒髪のお嬢ちゃん。そっちのお嬢ちゃんの心の中が『計画通り』って叫んでるって」
佐天「は? えーっと……んーと……ああ!! そういう意味ですか!! なるほど! 確かにそれだと上条さんじゃなくて御坂さんが計画通りですね!!」
上条「どういう意味だ?」
佐天「たくさんの衆目を集めてるわけですから、ありていに言ってしまうと既成j」
美琴「言わせないから!!」


117 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:39:47 F8zJhrAk
「――――そこは危険なんだ! お前に怪我なんてしてほしくないんだよ!!」
 うっ、と美琴の動きが止まる。
 何故かそのほっぺたがみるみる赤くなっていく。――――
「これぐらいの競技で、そこまで心配してくれなくても。私の能力があれば、どんなヤツが攻撃してきたって、どうにでも、できるんだから……」


オリアナ「これってもしかして私がこの現場に速記原典を仕掛けてた時のこと?」
上条「そういうことです。でも、大覇星祭ってお祭りの中だし、この時はまだ学園都市で魔術は認識されてなかったし、説明できなくて苦労しました」
佐天「えー? その割にはセリフが妙ですよ。事情を知らない人が聞いたら完璧に誤解する言い回しじゃないですか。ねえ御坂さん」
美琴「ななななな何で私に話を振るわけ!?」
佐天「そりゃあ当事者ですから。誰よりも確実な答えを聞けるのは御坂さんじゃないですか」
美琴「とっても筋の通った理由だし!!」
オリアナ「まあ、普通なら『お前に怪我なんてしてほしくない』じゃなくて『そこにいると怪我するぞ』って注意するものなんだけど、どうして坊やは『お前に怪我なんてしてほしくない』と叫んだのかは疑問ね」
佐天「上条さんに聞かないんですか?」
オリアナ「聞くだけ無駄よ。私たちが期待する答えが返ってくるわけないじゃない」
佐天「あー……」
美琴「それは確かに……」
上条「うわ。なんか思いっきり馬鹿にされたような気がする。しかも御坂まで一緒になって同意見て」


 両手を美琴の細い腰に回すようにして、地面へ叩き付けるように一気に押し倒す。
「黙ってろ。ちょっと動くな」
 言って、彼は美琴を押し倒したまま、彼女の顔を真近から覗き込んだ。
 ――もっと間近で観察するため、上条はさらに顔を近づけていく。
 美琴はパチパチと瞬きをした後、真剣な顔を近づけてくる上条に何かを察すると、やがてゆっくりと両目を閉じた。


美琴(あぁ……佐天さんのニヤニヤが普段の倍以上になって追及して来そうな……って、あれ?)
佐天「……」
美琴(あ、あれえ? なんかすごく神妙な顔してる。でも、声かけると藪蛇になりそうなので黙って流すのが一番――)
オリアナ「ねえ、この続きは?」
美琴「はい?」
佐天「あたしもこのお姉さんと同じ意見です。続きは?」
上条「ん? この後か? 吹よ――と言ってもここにいるメンバーは誰も知らんよな――運営委員の一人から声をかけられて競技一時中断。まあ、その後、もっと大変なことになったわけなんだが」
佐天「ぶー。何それツマンナ〜〜〜イ」
オリアナ「はぁ……せっかく坊やとお嬢ちゃんの砂煙に紛れて××(漢字二文字)シーンが見られると思ったのに残念だわ」
佐天「ですよねー。未遂で終わったなんてオチなんて面白くないです。運営委員の人も気を利かせてくれればいいのに」
オリアナ「まったく……HENTAIの国なんだからコトが終わるまでそっとしてあげればいいのよ」
美琴「いやいやいやいやいや! ちょっと何その感想!? 佐天さん? ここはとってもニヤニヤしながら『御坂さんどうして目を瞑ったんですか?』ってツッコミ入れるところじゃないの!?///」
佐天「はへ? そんな程度のツッコミで良かったんですか? あたしは『この先』の方に期待しちゃいましたから、前段階なんてどうでも良かったんですが」
オリアナ「右に同じね。この程度のこと、この坊やなら日常茶飯事じゃない」
美琴「え、えぇぇぇぇええええええええ!?」
上条「何気に俺、酷い評価じゃね!?」


118 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:41:06 F8zJhrAk
「くそ、本気で食べる専門ですかインデックス!? 一方美琴はどうなの家事とか!」
「は? ま、まあそりゃ私だって学習中の身ですから多少はね。流石にペルシャ絨毯のほつれの直し方とか、金絵皿の痛んだ箔の修繕方法とか完璧に覚えているって訳じゃないけど」


佐天「ねえ上条さん。一ついいですか?」
上条「ん? 何だ?」
佐天「上条さんって、御坂さんの事を名前で呼ぶときと名字で呼ぶときとあるんですけど、何で名前で統一しないんですか?」
美琴「さらっとさりげなく名前一択にしやがった!?///」
上条「いやぁ? 特別、基準はない、かなぁ? まあ、こんときは御坂の母親が一緒だったし、区別する意味で名前で呼んだんじゃね?」
美琴「言っとくけど、ママがアンタに私の母親だって自己紹介したのはこの会話よりも後の話よ」
上条「……」
美琴「……」
上条「結構似てたから最初はお姉さんが一緒だと思ったんだよ。だから区別するために名前で呼んだんだ。うん」
オリアナ「取って付けた理由にしては一応、筋は通ってるわね」
美琴「まあ、目を逸らしていなければ疑われなかったんだけど」
佐天「それじゃあ、話を戻しますけど今後は名前で統一しては如何でしょう?」
美琴(ちちい! やっぱり佐天さんはブレないわね!!///)
オリアナ「でも、そっちのお嬢ちゃんは坊やのことを『ダーリン』って呼ぶと似合いそうよ」
美琴「ダダダダダダーリ!!!!?!///」
上条「オリアナさん? それ絶対にネタで言ってるよね?」


「うわぁ。えっらい混んでるわね…持ち込みOKみたいだし、こりゃ外に買いに行った方が早いか」
「…って、こっちも似たようなもんか」
「お? オマエもか?」
「アンタも? やんなっちゃうわよね。どこもかしこも並んでて」
「いや〜〜〜上条さんなんてこの歳でお漏らししちゃうところでしたよ」
「アンタなんの話を…」
「トイレが混んでて危うくチビりかけたって話だろ? オマエも」
「私は飲み物を買いに来ただけよ!!」
「ああそっちか」
(ほんっとコイツは…デリカシーのない)


オリアナ「本当にこの時期は学園都市外からの人が多かったわ。おかげで仕事がやりやすかったけど」
上条「まあな。本当に危なかったよ。もうあんなことしないよな?」
オリアナ「――――さぁて、どうかしら…?」
上条「おーい」
美琴(はぁ……やっぱコイツ私の知らないところで相変わらず危ないことしてんのね……ちょっとは相談してくれればいいのに……)
佐天「そうだ。上条さんが御坂さんの知らないところでいつも危ないことしてるなら、親身になって相談に乗ってあげたらどうですか御坂さん? 好感度もグンとアップしますよ」
美琴「――――!!/// 読まれた!?///」
佐天「へ? 何をです? あたしはただ御坂さんの事を思って提案しただけなんですが?」
美琴「ア、アーソーユーコト。ソウネ。考エテミルワ」
上条「何ぎこちなくなってんのお前?」


119 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:42:23 F8zJhrAk
「なら俺が御坂たちの分も買ってくるよ。ウチもオフクロが用意してきた分じゃ足りないだろうし」
「後で持ってくから席で待っててくれよ」
(そして変にお人好しなのよね///)
 ――――
(なかなか戻って来ないわね)


美琴「おかげでこの後、会いたくもない奴に会っちゃったのよね。アンタが遅かったおかげで」
上条「? お前、この時、誰かに会ってたのか?」
美琴「は? アンタも一緒に、この時、食蜂に会ったじゃない。忘れちゃったの? 確かⅤだから前々々回でそんな話をしたわよ」
上条「食蜂? 食蜂……食蜂……って、誰だっけ?」
美琴「マジで言ってんの? ついさっきまで一緒にいたのに?」
上条「そうなのか? いや、本当に覚えていないんだけど……」
佐天「それはつまり、上条さんは御坂さん以外の女のことを覚える気がないってことですね?」
美琴「ちょっ!/// な、何を言って……!!///」
上条「うんにゃ。御坂以外でもたまにしか会わない女子でも覚えてないこともないぞ。例えば佐天さんとか初春さんと白井とか」
美琴「あー……そりゃそうよね……いくらアンタでもそこまで馬鹿じゃないわよね……」
オリアナ「私のことも覚えていたものね。あら? ということは逆に言うと一度会った女の人は忘れないんじゃない?」
美琴「!! ほっほ〜う?」
上条「いや! それは明らかに誤解だから!! 別に女子じゃなくても男でもある程度覚えているから!!」
佐天(あれ? そうだとしても、じゃあ何で『食蜂』って人は覚えられてないのかな?)


「――――罰ゲームで何でも言う事聞くってルール、忘れんじゃないわよ」
「い、いや、罰ゲームって言われても……」
 ――改めて美琴の顔を眺め、
「み、見ての通り、とある事件に巻き込まれて体中がボロッボロなのですが。この状態で大覇星祭の競技に参加したっていつもの実力なんて出せる訳はないし、こういった場合、勝負は一体、どうなってしまうのでせう?」
「……、うーんとね」
 美琴は腕を組み、上条の半泣き顔を見て、わずかに息を吐いた。今まで見るからに怒っていた彼女の眉が、ほんのわずかに下がる。それから、ゆっくりと肩の力を抜くと美琴は口元を綻ばせて、小さく笑った。それを見た上条は助かった、と胸を撫で下ろした、が、

「死ぬ気でやれば?」

「それだけ!? いや無理だって! すでに八方死んでる上条さんがこれ以上頑張ったらホントに死んじゃいます!! 大体、吹寄とか姫神とか土御門とか、俺以外にも欠員がいんのよ!? だから無効とまでいかなくてもせめてハンデを……って、あ、あ、あーっ! 無言で帰っちゃうのーっ!?」


オリアナ「これって確か坊やから持ちかけた勝負だったわよね?」
上条「ええまあ……」
佐天「上条さん。持ちかけた方が逃げようとするなんてちょっと酷いんじゃないですか?」
上条「うぅ……それはそうなんだけどさぁ……」
美琴「別にこの時だけじゃないわよ。実際、罰ゲーム当日も何かと理由付けて逃げようとしまくってたから」
オリアナ「はぁ……」
佐天「最っ低……」
上条「うわー女性陣の目がめがっさ冷たいにょろー……」
美琴「………………誰のモノマネ?」


120 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:44:02 F8zJhrAk
 ………? ノイズが…
「ッ… このタイミングなら届… いっ!? ぐあッ 痛っ…」
 ? なに…


オリアナ「ふふっ。久しぶりに見たわ。坊やの熱い姿」
佐天「をを! とってもカッコイイじゃないですか上条さん!!」
上条(よーしよし。これでさっきの白眼視の件は帳消し、と)
佐天「ところで御坂さん」
美琴「ん? 何?」
佐天「この時の御坂さんって記憶あるんですか?」
美琴「全然ないのよ。だからちょっと鬱なのよね……こういう自分見るって……」
佐天「ほほう。全然記憶がないのに朧けながらでも上条さんのことは認識できた、と?」
美琴「!!///」
佐天「ふっふっふ。それはつまり想いの力、ってやつですね?」
美琴(初春さんが同じことを言ってきたときは仮定形だったのに佐天さんは断定形だし!!/// 認識が甘かった! 前回、初春さんが佐天さん化してたと思ってたけど全然到達してないじゃん!!)
上条「うんにゃ。俺の幻想殺しは異能の力を全部打ち消しちまうから『自分だけの現実』への影響力も大きいんじゃね? だからオモイノチカラなんて非科学的な力じゃないと思うぞ」
オリアナ「ふぅ。そこは嘘でも『想いの力』ってことにしておけば悦ばれるのに――」
上条「だから字面が違うって!!」
美琴「……」
上条「? どうしたんだ御坂?」
美琴「今のセリフ、アンタ自分で考えたセリフ?」
上条「ふっ。上条さんだって、こういう学園都市の考え方に基づいた理論も展開できるんだぜ。んで、それがどうした?」
美琴「……前回、同じようなことを言った奴がいたんだけど本当に覚えてないの?」
上条「誰が言ったんだよ? 軍覇は根性で片付けるだろうから言うわけないし、想いの力とか言い出したのは初春さんだったし、ひょっとしてお前が言ったのか?」
美琴(……まったく淀みない瞳ね。本当に本気で食蜂のこと覚えてないみたい)


「さっき言った通りあいつは俺の知り合いだからさ 俺の手でなんとかしたいんだ」


佐天「上条さんもなかなかのツンデレさんみたいです」
オリアナ「ふふ。『嬢ちゃんだから』って言いたかったんだろうけど、人に話す手前、照れくさくて『知り合いだから』って言葉を濁してる辺りが奥ゆかしいわね――」
美琴(いや……それはないわ。コイツのことだからホントに『知り合いだから』でしかないから。それが分かる自分がちょっと嫌だけど)
上条「何だよそれ。言っとくが、これが御坂じゃなくても佐天さんやオリアナがこういう事になっていたら同じことを言うぞ。知り合いが危ない目に遭ってたら、俺の知らん奴に任せようとは思わん」
美琴(ほらやっぱり。はぁ……)
オリアナ「はぁ……ホント、この坊やを焚きつけるのは難題……」
佐天「……上条さん。そこは嘘でも私たちの言葉に同意しておかないといい加減、誰かに刺されますよ? 特にあたしとか初春とか――って、あれ? もしかすると原作も外伝も作中だとあたしたち二人だけ?」
オリアナ「ここのスレには沢山いそうだけどね」


121 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:45:08 F8zJhrAk
「俺以外にもお前を助けようとがんばってたやつ、心当たりあるだろう? そいつらと少しずつ変えていけばいいんだ。もちろん俺も協力する」
「ん…」


上条「オリアナさんの次のセリフは、『坊や、ジャージを貸すタイミングが早いわよ』、だ」
オリアナ「くっ……! なかなかやるわね坊や……!」
美琴「うわー。本当に心の底から悔しそうな顔……」
佐天「まぁ、上条さんの気持ち分かりますけど」
オリアナ「どういうこと?」
佐天「だって、この場にもう一人、男がいるんですよ。御坂さんの裸を上条さん以外の男に見せるわけないじゃないですか」
美琴「さらっと何か言ってるし!?///」
オリアナ「なるほどね。そういうことなら納得だわ」
上条「さりげなくそんな理由にされるの!?」
佐天「そ、れ、に〜〜〜ふっふ〜〜〜ん♪」
美琴「な、何かな佐天さん……? その極上スマイルは……」
佐天「いえね。この時借りたジャージってどこでいつどうやって返したのかが興味あって」
美琴「!!!!!!?!/// そ、それは作中で触れられなかったからコメントは差し控えさせてもらうわ!!///」
オリアナ「しかも、『文字通り』坊やの血と汗と香りが染み込んだジャージを生肌で羽織ってるし、ホント、どうしたのかお姉さんも興味が湧いちゃうわ……」
佐天「というかジャージ一枚の御坂さんを上条さんが放ったらかしにして帰ったとも思えないんですよね?」
美琴「いや……あの……その……本当に、あなたたちが想像していることはなくて、ね……///」
佐天「ふっふっふっふっふ。きっちり答えてもらいますからね〜〜〜」
オリアナ「私たちが何を想像したのかも一緒に教えてもらえるかしらお嬢ちゃん?」
美琴(うぅ……)
上条(う゛……お前【御坂】の助けを求めるような視線には気付いているけど、何も無かったことは事実なんだし、下手に俺が入ると余計ややこしくなりかねないことくらい俺でも分かるんだからなんとか耐えてくれ……!)
美琴(酷っ!! 鬼!! 悪魔!! 薄情者!!)




(スタジオの外)

白井「まったく。不審車も不審者も現れないではありませんか。何だか随分と時間を無駄にしてしまった気がしますわ」
初春「ですよねー。これで三十分ほど待ちぼうけ。退屈で仕方ないですよー。せめて警備員が到着すればいいんですけど、あ、来たみたいです」
 ききっ
白井「ご苦労様でございます」
??「ご苦労さんじゃんよ風紀委員のお二人さん。おお! しかもちゃんと不審車を停車させてくれてありがとじゃん!」
初春「は?」
??「そこの車のことじゃん、不審車両というのは。で、中にいた奴はどこじゃん?」
白井「え?」


122 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:47:35 F8zJhrAk
(スタジオの中)

佐天「いやぁ。本当に楽しい時間と言うものは早く過ぎますよねー」
美琴「ホントウデスネー。佐天サンハ、イロイロ楽シカッタデショウネー。肌ガトッテモテカテカシテマスモンネー」
上条「御坂? 御坂? しっかりしろオイ。思いっきり言語中枢がいかれてカタコトになってるぞ? 目も小さい○(しかも縁が太いもの)になってるし、口から魂が抜けかかってる」
オリアナ「賢者タイムみたいになってるってことは、このお嬢ちゃん、とうとうイっちゃったのかしら?」
上条「いや! オリアナさん、貴女様が言ってる『イっちゃった』は絶対意味が違うだろ!?」
オリアナ「どうかしら? ところで、それにしても、そこのお嬢ちゃんにはビックリだったわ」
佐天「へ? あたし?」
オリアナ「そ。私の大人の話にきちんと付いてこられて、しかも、そっちのお嬢ちゃんみたいにウブな反応も見せないし、お姉さんとしては少し残念、と言うかエクスタシーを感じられなくて寂しかったのよ」
佐天「まあそれはアレですよ。あたし、ネット大好きですし、徘徊してると意図せず否応なしにその手の情報はわんさか入ってくるんです」
オリアナ「……なるほど。こうやって日本は世界最先端を突っ走るHENTAI化が進んでいくのね――ん?」
??「そこまでじゃんよ! そこの女! 学園都市に不法侵入の罪で逮捕じゃん!!」
オリアナ「あら? バレちゃったのかしら? でもそうはいかないわ! じゃあね! 坊や! お嬢ちゃんたち!」
上条「へ!? って、オリアナさん!? ここX階なんだけど!?」
??「ちちい! 待つじゃんよ!!」


123 : 大覇星こぼれ話かみことせれくしょん :2014/12/21(日) 22:48:06 F8zJhrAk
佐天「わぁお! あの警備員の人もオリアナさんの破った窓から飛び降りて行くなんて、まるで怪盗ルパンとそれを追いかける銭形警部みたいな展開だし!!」
白井「……まさか、あの女性の方がお尋ね人とは思ってもみませんでしたわ……」
初春「……佐天さんも白井さんも知ってる人で知ってる車でしたもんね……しかも自然に中に入って行きましたし……」
佐天「あ、初春と白井さん。って、今何て……?」
初春「私たちの仕事があの人の車とあの人の足止めだったんです。まあ、理由はどうあれ任務は果たしてたみたいなんでお咎めなし、なんですけど」
上条「う、うわぁ……今回もOPで伏線張ってたんかい……まあ、言われてみればあの人は魔術サイドの人だし見た目も怪しいもんな。つーか、知人が不審人物なんてまず思い至るわけないわ……」
美琴「はれ? 私今何してたんだっけ?」
上条「お。やっと目が覚めたか御坂」
美琴「んー? そう言えば、何だか記憶があやふやね。今まで金髪の女が居たような気がしたんだけど、ここにいるのは黒子と初春さんだし幻覚でも見てたのかな?」
上条「(って、おい……ひょっとして、今回のこぼれ話の記憶が御坂の中からすっ飛んでしまったのか?)」
佐天「(あはははー。どうやらそのようです。人間、無意識に、一つの事象に対してあまりに神経に支障を来たすと判断されると、脳が記憶を拒否するってことありますからね。ちょっとやり過ぎました。てへ♡)」
上条「(特に最後のやつが原因だろうな……まぁ……俺も少なからず関係してしまっているが……)」
初春「それじゃあ、任務も完了しましたし後方の憂いなく、早速、今シリーズのメイン、大覇星祭フォークダンスこぼれ話を始めましょー!!」
美琴「うぅ……黒子ぉ……この面子だとアンタだけが頼りだからね……」
白井「お、お姉様!?/// ふっ! 分かりました! この不肖白井黒子、不逞の輩から必ずやお姉様をお守りいたします!!」
上条「(会話までループしてるわ。御坂の記憶がここまでぶっ飛んでるんだな)」
佐天「(みたいですね。でも、まあこれはこれでいいことなんですよ。ふっふっふっ)」
上条「(な、何故、悪い顔で含み笑いを浮かべているので!? あ、つっても――)」
佐天「(まあ、そうですね)」
上条「あーちょっと待った」
初春「?」
佐天「いやぁ。それがさ、その話は次回になるんですわ」
初春「ええええええええええええええええええええ!? 何でですか!? ていうか何があったんですか!?」
白井「よっしゃぁぁぁあああ! でしたら早速この企画をぶっ潰して次回からはお姉様とわたくしの日常こぼれ話にほぎょおおおおおっ!!」
美琴「さ、佐天さん!? その金属バットどこから出したの!?」
佐天「え? これ金属バットじゃないですよ。これは北海道の知り合いから貰った『月に吼えるもの【ルナジジョーカー】』、記憶消去バットです。まあ形が似ていることは否定しませんが、別に白井さんの命に別状はありませんのでご安心ください。単に今の記憶を消して、次回まで眠ってもらっただけですから」
上条「……佐天さんの不思議な遭遇スキルは作品までも飛び越えるのか……?」
初春「まあ、今回が何故スキップされたのかの理由は聞きませんが仕方ありませんね。白井さんが静かになったところでまた次回お会いしましょう」
美琴「……本当に次回、黒子は目を覚ますわよね?」
佐天「…………………………モ、モチロンデストモ」


124 : 我道 ◆XksB4AwhxU :2014/12/21(日) 22:49:45 F8zJhrAk
以上です。
次回はいつも通りくまのこさんと合作で大覇星こぼれ話Ⅷ(最終話)の予定です。
でも多分、年明け。年内は無理っぽいのでご了承ください。


125 : ■■■■ :2014/12/22(月) 08:10:47 j/ZR.4KI
>>我道さん
乙です(`・ω・)
ゲスト二人が美琴に対して凶悪すぎるww
こうして見ると大覇星祭は本当色々ありましたなぁ(しみじみ)
大覇星祭編最終話楽しみにさせて貰います!


126 : くまのこ :2014/12/24(水) 00:01:32 t4bo1/lQ
>>・・・さんGJです!
いやいやいや、これで付き合ってないとか、そんなご冗談を。
最後にハッピーなら、鬱ってても大丈夫ですよ。最後がハッピーなら! (大事な以下略)

>>我道さんGJです!
いやぁもう、補足の話を本当にありがとうございます!
次回はいよいよ長かった大覇星祭編ラストですね。
フォークダンスの時の佐天さんになった気持ち(?)で頑張りましょう!



イヴになったので、クリスマスネタ投下します。
珍しく恋人設定です。
約3分後に4レス使います。


127 : とある聖夜の恋人空間【スウィートタイム】 :2014/12/24(水) 00:04:33 t4bo1/lQ
「ピンポーン」とチャイムが鳴る。
今まで時計とにらめっこをしながらソワソワしていた上条は、
待ってましたとばかりに玄関のドアを開ける。

「メリー・クリスマス!」

「おじゃまします」の代わりにそう言った美琴は、
片手にプレゼントの入った大きな紙袋を持ったまま、もう片方の手を小さく振った。

「いらっしゃい。外、寒くなかったか?」
「ん、平気。…てか、楽しみすぎて寒さとか忘れてたわよ♪」

コートを脱ぎながら、満開の笑顔を上条に向ける美琴。今日という日が、本当に楽しみだったようだ。
それもそのはずだ。何しろ本日はクリスマス・イヴ。
恋人達の恋人達による恋人達のための祭典だ。……少なくとも、ここ日本では。
そしてそれはこの二人としても例外ではない。
それどころか、今回のイヴは特別で、おそらく一生の思い出になるはずなのだ。何故なら。

「…やっぱ、ちょっと緊張するな。付き合ってから初めてのクリスマスだし」
「そ…そうね。お互いにこ……恋人…ができたのも初めてだもんね…」

改めて『初めて』を意識してしまい、上条は照れくさそうに頬をかき、美琴は俯く。
お互いに、ほんのりと顔を赤くさせながら。

「あっ! ホ、ホントにプレゼント以外何も用意しなかったけど、良かったの!?
 ケーキとかチキンとか!」

いつまでもモジモジしていても始まらないので、美琴は話題を変える。

「…ん? あ、ああ。それはこっちで用意したから大丈夫。
 つか、招く側の俺が何もしてなかったら失礼だろ」
「でもアンタ、いつもあまりお金がないって嘆いてるじゃない」
「あのなぁ! 上条さんにだって、いざって時に使う用の貯蓄ぐらいありますよ!…少ないけど」

なけなしのヘソクリを使ってまで、美琴とのプチパーティ用の会場を用意したらしい上条。
彼もまた、今年のクリスマスを特別な物にしたいようだ。
美琴はそんな彼の様子にクスッと笑った。しかし直後、ふと疑問が浮かんできた。

「…あれ? 料理…これだけ?」

テーブルの上にはケーキにチキンにピザにサラダ、更にはノンアルコールのシャンパンと、
二人で楽しむには充分なクリスマスメニューが並べられていたが、
美琴からの思わぬ不満の意見に、上条は慌てた。

「えっ!!? す、少なかったか!? それともメニューがショボかった!?
 で、でも上条さんの懐事情を考えるとプレゼントも買ったしこれ以上のクオリティは―――」
「あー、違う違う! 料理にケチつけたいんじゃなくて、
 あの子も食べるならちょっと足りなくないかって思っただけよ!」

あの子とは勿論、腹ペコシスターことインデックスの事だ。
彼女は上条と同居しており、彼女も一緒に食べるならば最低でもあと2〜3人前は必要なはずだ。

「ああ、その事か。大丈夫、インデックスは一時的にイギリス帰ってるから。
 やっぱクリスマスは十字教徒には神聖なイベントだしな。
 インデックス自身もイギリス清教にとって特別な存在だし、
 どうしてもって神裂…あー、神裂ってのはインデックスの知り合いな。…が、連れてったよ。
 ついでにオティヌスとスフィンクスもな」
「えっ!!? ちょ、待! じゃ、じゃじゃ、じゃあ今日は私とアンタの二人っきり!!?」
「ああ……そう…なるな」

寝耳に水である。
インデックスやオティヌスがいるであろう事を想定して上条の寮に訪問した美琴は、
彼と二人っきりになるというプランを全く考えていなかった。
ルームメイトの白井にも、「部屋には他にも人を入れる」というのを絶対条件に、
クリスマスデートを渋々ながら了承させたので、この現状を知ったら白井は発狂するかもしれない。

色々と覚悟を決めて望んだクリスマスであるが、
二人っきりとなると、『別の覚悟』が必要になってしまう。美琴は耳まで赤くなってしまった。

「んじゃあ、さっそく乾杯するか」

しかし上条は特に気にした様子もなく、グラスにシャンパン(ノンアルコール)を注ぐ。
美琴が赤面する事など、上条にとっては『日常茶飯事』なのだ。


128 : とある聖夜の恋人空間【スウィートタイム】 :2014/12/24(水) 00:05:15 t4bo1/lQ
 ◇


「むぐむぐ……けど本当に良かったのか?
 せっかくのクリスマスなのに、どこかに出かけないで俺の部屋で済ませちまってさ。
 外はイルミネーションとか綺麗なんだろ?」

ピザを口の中でもぐもぐしながら、上条がそんな事を聞いてきた。
美琴は骨付きのチキンステーキをナイフとフォークで切り分けながら答える。

「んー…私としては人ごみで騒ぐよりも、少人数でゆったり過ごしたかったし。
 ……ま、まぁ、流石にアンタと二人だけってのは予定と違ったけど…」

「予定と違った」という台詞の前に、「いい意味で」という言葉が隠させているのはご愛嬌。

「んー…じゃあ美琴の友達でも呼ぶか? 佐天とか」
「ふぇっ!!? あ、い、いや佐天さんは中学の同じクラスの友達とパーティーするみたいだし、
 黒子や初春さんは風紀委員だから、この時期は交通整理とかで忙しいみたいだから!」
「…そっか」

美琴の言った事は、半分本当で半分ウソであった。
実は美琴、当初の予定ではいつものメンバー
(先に挙げた三名に加え、婚后、湾内、泡浮、固法、春上、枝先など)とパーティーする予定だった。
しかし、そこに待ったをかけたのが佐天だったのだ。ファミレスで美琴から誘いを受けた際、
「彼氏との初めてのクリスマスだってのに、何考えてんですかっ!!!」と大却下されたのだ。美琴も、
「だだだって! 前に『クリスマスは皆でパーティしようね』って約束したじゃない!」
と反論したのだが、佐天曰く「そんなもん御坂さんに彼氏が出来た時点で無効ですよ無効っ!」
なのだそうだ。佐天さん、ファインプレーである。

「そ、それにイルミネーションだって、わざわざ外に出なくても見られるし!」
「…? いや、ここからだと見れないぞ?」

上条は窓に目を向けるが、いつもの風景しか映らない。
上条の不幸体質がそうさせたのか、
ちょうど角度的に街のイルミネーションがギリギリ見えない位置に、この部屋はあるらしい。
しかし美琴は、「違うわよ」と言いながら立ち上がり、そのまま部屋の電気を消した。

「おわぁっ!? 急に暗くしてどうし…た…?」

真っ暗なはずの部屋に明かりが灯る。しかしそれは、部屋の電気ではない。

「えへへ〜…どう? 美琴センセーの自家発電イルミネーションは」

美琴が自らの能力を使い、体の周りに火花を散らしていたのだ。
その幻想的な光景に、上条は「おぉ…」と感嘆の声を漏らした。

「すげーな…そんな力の使い方もあるのか。これは上条さんも負けてはいられませんなぁ」

言いながら立ち上がり、腕まくりして右手の準備をする。

「しかと見よ! 俺の右手の第二の能力を〜〜〜!」
「えっ、えっ!? わきゃっ!!!」

上条はそのまま美琴の後頭部に右手を回し、そのまま優しく抱き締める。
ぽふん、と美琴の顔が上条の胸元に埋まった。

「ふっふっふ…これは彼女殺し【ミコっちゃんブレイカー】と言って、
 ミコっちゃんの能力を打ち消しつつ、更には大人しくさせる事もできるのですよ!」
「……………」
「これこそが上条さんの右手の真の使い方…って、美琴? 聞いてるか?」
「……………」

美琴からの返事がない。が、その代わりとして心臓の音が徐々に大きくなるのが伝わってきた。
火花が消えて暗闇となった部屋の中では、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされ、
しかも体を密着させている事で相手の心音が直に届く。
その場のノリと悪ふざけで美琴を抱き締めてしまった上条だが、
この美琴の様子に自分が何をしたのかを理解し、急激に恥ずかしくなってきた。

「わ、わーっ、ごご、ごめん美琴! す、すぐ離れるからっ!!!」

バッと体を離し、そのまま部屋の電気を点ける上条。
するとそこには、顔を茹で上がらせたまま呆ける美琴の姿がそこにあった。
「もう少しだけ、抱き締めたままでも良かったのに…」という思いすら浮かばない程、
思考を硬直させて。


129 : とある聖夜の恋人空間【スウィートタイム】 :2014/12/24(水) 00:06:07 t4bo1/lQ
 ◇


「じゃあそろそろ、プレゼント交換でもしますかねぇ」

食事も終わり、ケーキを食べた際に指に付着した生クリームをチロッと舐め取りながら、
上条は立ち上がり、そのまま押入れにしまってあった紙袋を取り出す。
ちなみに上条が指を舐めた時、美琴はその仕草を少しセクシーに感じてしまい、
ちょっとだけドキッとしてしまったのだが、それは内緒だ。

「私からは…これ! この前、新しいフライパンが欲しいって言ってたから」
「おおお、サンキュー! もうボロくなってたから買い換えたかったんだけど、
 イマイチ踏ん切りがつかなくてさ! すっげぇ助かるよ!」
「ふふっ! そんなに喜んでくれるなら、選んだ私としても嬉しいわ」

美琴が取り出したのは、高級な鍋やフライパンなどの入ったキッチンセットだった。
クリスマスプレゼントとしては少々ロマンスが足りないが、
上条の本当に欲しい物を選んだという意味では、流石は彼女と言ったところか。

「俺からはコレな。……美琴のに比べるとお安い物なので申し訳ないのですが…」

上条が取り出したのは、紙袋いっぱいのヘアピンだった。

「わぁ! いっぱいある…どれも可愛い〜!」
「本当はゲコ太の何かグッズを買おうとしたんだけど、コレクター相手には逆に失敗するかと思ってな。
 プレゼントした物が『実はそれ持ってます』じゃカッコつかないし…
 てか俺の場合、その確率のが高そうだしな。
 で、美琴っていつもヘアピンしてるから、こっちに変更したんだよ。
 これなら量があっても困らないし、色んな種類も買えるからな」
「ありがとう! 大事に使うわね!」

心の底から嬉しそうに、ひまわりのような笑顔を向ける。
上条からのプレゼント。ただそれだけで、美琴が幸せを感じるには充分な理由だった。
と、ここで大量のヘアピンの中に、一つだけ不恰好な物がある事に気付く。
美琴はそれを紙袋の中から取り出す。

「あれ? これだけ他のと違う…?」

ギクリ!と上条が冷や汗を流した。

「あー…バレちまったか……こんだけ多ければ、うまく紛せられると思ってたんだがなぁ…
 実はそのヘアピンだけ……その…ワタクシの手作りなのでござんす…」
「えっ…」

その時、美琴は自分自身の胸がキュンと高鳴るのを感じた。

「いや…せっかくだから手作りの物とかいいかな〜とか思ってネットで調べながらやってみたんだけど、
 やっぱ慣れない事はするもんじゃないな…おかげでその有り様ですよ。
 けど捨てるのもアレだし、大量の既製品と混ぜればそれっぽくなるかと…」

説明しつつ、気恥ずかしそうに頭をかく上条。
美琴はそのヘアピンを胸の前でギュッと握り、瞳を潤ませながら。

「……これは…これだけは使えないわよ…」
「だよなー…そんなん付けて街歩けないよな。ごめん! いらなかったら置いてっても―――」
「違う! そうじゃないのっ!」

上条の言葉を遮るように否定する。


130 : とある聖夜の恋人空間【スウィートタイム】 :2014/12/24(水) 00:07:00 t4bo1/lQ
「使うのが嫌だ、とか…そういうんじゃないの!
 付けたまま外に出て汚れたり…ましてや壊したり落としたりしたくないもん!
 こんな素敵なプレゼント貰っちゃったら…大切に取っておく事しかできないじゃない!」
「えっ…あ、そ、そうか…? ま、まぁ気に入ったんなら…別にいいけど…」

美琴から実直な気持ちの塊をぶつけられ、上条も思わず「かあぁっ…!」と赤面し、
美琴から目を逸らしてしまう。

この雰囲気ならば、もしかしたらこのまま…

おそらく自分でもどうにかなっていたのだろう、と美琴は自己分析した。
上条からの心のこもったプレゼント。
美琴には、もう抑えきれない程の「ありがとう」と「大好き」が溢れ出していた。だから―――

「ね…ねぇ……も、もう一つ……その…プ、プレゼント…が…あ、ある、んだけど…」
「へっ? あ、いや…このセットかなり高そうだし、これ以上は―――」

上条が言い終わるその前に、唇に、柔らかい感触。
上条は一瞬、何が起きたのか分からなかったが、すぐにそれが何なのかを理解する。

上条にとって、そして美琴にとっても、それは初めての口付けだった。

「なっ!!! ちょ、きゅ、急に何をっ!!?」

慌てて離れて大声を出す上条とは対照的に、美琴は顔をトロンとさせながら呟く。

「私の…初めて……あげる…」
「い、いやいやいや! ご自分が何を仰ってるのか分かってらっしゃりますかっ!!?」
「何よ…私だって…すっごく恥ずかしいんだから……」
「〜〜〜っ!」

目を伏せて、指をモジモジと弄りながらそんな事を言う美琴に、
上条も一瞬、どうでもよくなってしまいそうになるが、相手はまだ中学生だ。
流石にキス以上の事をする訳にはいかない。なので、

「、きゃっ!!?」

上条は美琴をベッドに押し倒した。ただし、このまま襲うためではない。

「……あのな、美琴。
 俺だって男なんだから、彼女からそんな事を言われたら我慢できなくなっちまうんだよ。
 こんな風に無理やり美琴を…なんて事も出来ちまうんだ。そんなの怖いだろ?
 だからあまり大人ぶらなくてもいいから。こういう事はさ、ゆっくり時間をかけて……」

自分の中の本能と葛藤しつつ説得を試みる上条。
しかし美琴はベッドに横たわったままの状態で、首をゆっくりと横に振る。

「…怖くなんて…ないわよ……だって…だってアンタが相手だもん。
 それに…私、言ったじゃない。………私の、『初めて』あげるって…
 キスだけじゃなくて………ね…? 『こっち』も…アンタにプレゼント…したいの…」
「っ!!!」

美琴の言葉に、上条は生唾の呑み込み、額からは脂汗が流れ出す。
しかしここで、美琴から更なる衝撃の一言。美琴は少しだけ困り顔を浮かべて。

「あっ…で、でも………優しくしてくれると…嬉しい…かな?」

この瞬間、辛うじて保たれていた上条の理性が完全に途切れた。



二人のクリスマスは、まだ始まったばかりだ。


131 : くまのこ :2014/12/24(水) 00:07:58 t4bo1/lQ
以上です。
続きをエロスレに投下する予定はないので、
ここから先は想像と妄想で補完してください。
ではまた。


132 : ■■■■ :2014/12/24(水) 00:54:05 oZQqMjws
くまのこさん!!
何て残酷なw

蛇の生殺しがクリスマスプレゼントですね?!


133 : ■■■■ :2014/12/24(水) 06:52:22 gEmihyp2
くまのこさんGJです!!


134 : ・・・ :2014/12/26(金) 16:09:43 V.vq98D.
ども、・・・です。

サンタさんからプレゼント貰ったよー
なんと、い・ん・ふ・る・え・ん・ざ
……なんだよ、笑えよ

長編の鬱に関してですが、
私の考えうる最高のハッピーエンドにはさせていただきます。
間に関しては、現在3回投下で1話としてますが、鬱った次の話で解決にする予定。
前後篇になる可能性はあるけどね。よって、最長6回投下の時間が空きますかねぇ。
私も鬱は苦手な方なのでちゃっちゃとそこは片づけたい。
まぁ、そもそもこんくらい鬱じゃねぇよっていわれるかもだけどね。

さて、

>>我道さん
鬼が金棒でなくてロケットランチャーしょってきやがった
歩く18禁の異名はだてじゃないな。
何回か向こう(エロスレ)にいきかけたよね!!?
ある種最強タッグだったんじゃなかろうか。


>>くまのこさん
くまのこさんがホンマもんのサンタやったんや……
にやにやからほっこり、やれやれからエロスまで
完璧な作品、お見事!!
未完の美しさは罪だねぇ

っつーことで遅れてしまったクリスマス記念
くまのこさんのあれのあとだと、なんとも心苦しいが、
まぁ、ハードルは下げましょい。

それでは


135 : なによりの :2014/12/26(金) 16:17:41 V.vq98D.
上条当麻は疲れていた。
23才の彼はお仕事からの帰りである。
内容は御坂旅掛の後継者だ。

とはいえ、人生経験もなければ知識もない。
最初は勉強だと、上司のお知り合いの国際的大企業でお仕事中だ。
加えていつものように騒動に巻き込まれる毎日。
レベル5の力を使ったうんたらは24、
死んだはずの過去の怪人は18、
木原が2、魔神が3。
今月の戦績だ。

うなだれながら自宅のドアを開ける。














玄関にプレゼントが置いてあった。


136 : なによりの :2014/12/26(金) 16:21:35 V.vq98D.













とにかくデカイ。
腰よりも大きい。
「上条当麻へ」と見慣れた字で書かれている。
まぁ、蓋を開ける。

「メリ〜クリ「パタン」

蓋を閉めた。
そのままあくびをしながら着替え、
ソファーに座ってテレビをつけた。
いつも見ている番組は、クリスマスの特番で潰れていた。
相変わらず不幸であ「無視すんなやこらーーーーーーー!!」

「ごぶふっ!! おいこら嫁!!首に全体重かけたタックルしてんじゃねぇ!!」

そんなに早く未亡人になりたいんかぇ!!?
と、怒鳴る当麻に、ミニスカサンタも負けずに言い返す。

「うっさい旦那!! アンタが無視するから悪いんでしょーが!!」

せっかくビックリさせようとしたのに!!
と、上条美琴は叫ぶ。
しかし、当麻は思うのだ。
先が読めてしまうビックリ箱はビックリ箱でない。まぁ、中身が飛びてきてはいるけども。

「この寒いなか3時間も前から箱の中で待機してたのに」

「暇なの!!?」

「失礼ね!! 家事も論文も研究も実験も昼までに片付けたわよ」

「バカなの?天才なの?」

「天才ですけど」

「自覚あるのね。 で、その天才様はなんのつもりであんなことしてたんでぃ?」

「え? プレゼントはわ・た・し」

「バカに付き合う体力なんて残ってねー」

「ひどい!! せっかくのクリスマスなのに!!」

「疲れてるの!!「せっかくのクリスマスなのに!!」そんな格好しても「せっかくのクリスマスなのに!!」相手できない「せっかくのクリスマスなのに!!」ので、着替えて「せっかくのクリスマスなのに!!」きてはいかが「せっかくのクリスマスなのに!!」うるせーー!!」

このままのほうが疲れるので、折れることにする。

「わかった、わかった。なにすればいいんすか?」

「クリスマスプレゼント寄越しなさい」

寄越せといわれて渡すものをプレゼントというのかどうかは、いずれ結論をだすとする。
まあ、この日にプレゼントを用意しないわけがない。仕方ないのでカバンを取りに「アンタがいい」はい?

「だから、アンタをちょーだい」

「なにいってんの?」

「もしくはわたしのプレゼント受け取れ!!」

「それってyouのことだよね?」

「当麻が英語使ってる!!?」

「なめすぎだこらぁ!!」

「で、どっちがいい?」

「あーーーーーも〜〜〜〜〜!!」

疲れてるっつうのに!!!

「きゃあっ/////」

ツンツン頭のヒーローは、ツンデレをやめたサンタを ひょいっ とお姫様抱っこした。

「オレを御所望ってことでよござんすね!!」

腕の中のサンタの顔が真っ赤になった。
顔を旦那の胸にうずめる。
無視された怒りで我を見失い、めちゃんこ恥ずかしいことを言っていたのにようやく気がついたようだ。
それでもがっしりと抱きついてるのを見ると、撤回する気はないらしい。

そのまま上条達は寝室へ向かう。
明日も上条は疲労困憊なのだろう。

これが、麻琴が生まれる10か月前のお話。


137 : ・・・ :2014/12/26(金) 16:33:14 V.vq98D.
以上です。

実はまだ熱があったり。
しっかーし、もともと上琴病にかかっていた私には何の問題も(以下病人のたわごとが続きます。どうぞ皆さまよいお年をお迎えください。皆さまにとっても上琴にとっても来年がよい年になるよう願っております)


138 : くまのこ :2014/12/27(土) 13:32:17 wCY8SEZQ
>>・・・さんGJです!
何してんだ、このバカップル夫婦!
これが麻琴ちゃんの誕生秘話とか、成長した麻琴ちゃんが知ったら何て思うんだろw



支部でリクを受けたので、短編書きました。
上条さんとミコっちゃんの家族が、海に行ったり旅館に行ったりする話です。
約3分後に5レスです。


139 : 水着回と温泉回 :2014/12/27(土) 13:35:06 wCY8SEZQ
室内プール完備のいつものフィットネスクラブの更衣室で、
いつもの母親二人が、いつものように子供達の話で盛り上がっていた。

「あらあら。それではそちらも、外出許可が出たのかしら?」
「そうなんですよ! まぁ、学園都市から許可取るのに、ちょっと苦労したみたいですけど」
「うふふ。お嬢さんはレベル5ですものね。それで、旦那様の方は?」
「それも大丈夫です。何とか長期休暇を貰えたみたいで、『その日』には間に合いそうですから」
「あらあら。それはお嬢さんも喜んだのではないかしら」
「あはは! むしろそれが決め手になったみたいですね!
 電話口で『パパも来るのっ!?』って驚いてましたから。
 レベル5だとか常盤台だとか偉そうな事を言っても、何だかんだでまだ子供って事ですかね?」
「あらあら。親にとって、子供はずっと子供のままですよ」
「…それもそうですね」

そんな会話をしながら、二人の母親は笑い合う。
『その日』に何が起こるのか、この時はまだ子供達には知る由もなかったのだった。


 ◇


夏である。そして海である。

海は広いな大きいな、という歌詞の通り、
ビーチパラソルの下で体育座りする上条の目の前には、
一面真っ青な水と塩分と微量な鉄分の塊が広がっていた。
海に来るのは、少なくとも人生で二度目であり、去年来た時は御使堕しの事件で偉い目に遭った。
その時の浜辺とは違う場所ではあるが、青髪ンデピアックスのトラウマは強烈で、
海にはあまり良い感情を持っていないのが現状である。
御使堕しその物よりも、そちらにトラウマを持っている辺り、
如何に『アレ』の衝撃がハンパなかったのかがお分かり頂けるだろう。
もっとも、当のインデックスは現在サマーホリデー(アメリカで言う所のバカンス)で、
イギリスに帰省している為ここにはいないので、そこは安心なのだが。
ちなみにその間、オティヌスは監視の意味も含めて隣部屋【つちみかど】に預けられている。
その天敵のスフィンクスも同様だ。

「あらあら。
 当麻さんは『海に来ても、はしゃがずにたそがれちゃう俺カッケー!』な人なのかしら?」
「こら当麻! せっかく家族水入らずの旅行なのに、
 そんな高二病みたいなモノを発症してるんじゃない! 母さんが心配してるだろ!」

そんな上条に、海から戻ってきた両親が話しかける。
高二病も何も、上条はリアル高校二年生なのだが。

「そんなんじゃねーよ!
 つかむしろ、いい年して水の掛け合いしてるご両親の方がどうかと思うのですが!?」

上条もお年頃だ。夏休みになり、学園都市から特別に外出許可を貰い、そのまま家族旅行…
というのは上条自身も楽しみではあったが、流石に両親と一緒に、
海できゃっきゃ言いながら遊べる年齢ではない。だって恥ずかしいんだもん。
だが直後、そんな若干テンション低めの上条に、とんでもないサプライズが待っていた。

「あれ〜? もしかして、そこにいるのは上条さんですか〜?」

聞き覚えのある声だ。どうやらこちらに話しかけているらしい。
その声に反応するように、上条一家が一斉に首を曲げると、そこには何故か、

「あらあら。これはこれは御坂さんの奥様ではありませんか」
「これはこれは、こんな所でグウゼンですね。上条さんの奥さん」

美琴の母、御坂美鈴が立っていた。そして双方の母達達は、どこか微妙におかしい挨拶を交わす。

「やっ! これはどうも、御坂さん」
「こんにちは、上条さん。…って、皆さん『上条さん』ですね」
「あらあら。それでは下の名前で呼んではいかがですか?」
「なるほど! 構いませんかね? 刀夜さん」
「わ…私は構いませんが……」

下の名前で呼ばれて頬を赤らめる刀夜に、詩菜から無言の圧力。と、その時。

「ちょっとママ。急に『こっち来て』って、一体どうした…の…?」

美鈴の後ろから、遅れて駆け足でこちらに近づいてくる人影が一つ。
その人物は勿論。

「なっ! みみ、美琴っ!!?」
「ア! アアア、アン、アン、アンタァァァァァ!!? ななな何でこんな所にっ!!?」


140 : 水着回と温泉回 :2014/12/27(土) 13:35:50 wCY8SEZQ
上条と美琴、学園都市の外でバッタリと出会うの巻である。
しかし驚く子供達を横目に母親達は、

「それじゃあ美琴ちゃん! 私はちょっと疲れたから、上条さん達と向こうで話してくるわね」
「当麻さん。あまりハメを外しすぎてはいけませんよ?」

と言って二人っきりにさせてしまう。
しかも言葉を返す暇も無く、美鈴から間髪を容れずにトドメの一言。

「あっ! そうそう、さっき上条さん達と下の名前で呼び合うルールになったから、
 くれぐれも『アンタ』とか失礼な呼び方しちゃダメよ?
 ちゃんと『当麻くん』って呼ぶ事! 分かった?」

「分かった?」とは聞いているが、美琴の返事も待たずに、
そのまま上条夫妻と共に海の家に行ってしまった。
残された上条と美琴は、

「…ど…どうすっか……」
「どどど、どうするって…別に…ふ、普通でいいんじゃないの…?」

とぎこちない会話をするのだった。


 ◇


強制的に二人っきりにされてしまった上条と美琴は、レンタルのゴムボートに乗りながら、
海の上でプカプカと浮いていた。

「じゃ、じゃあ美琴の親父さんは後から来るのか」
「う、うん。夜には間に合うって言ってた」

やはり、どこかぎこちない。
美琴は『いつもの事』なので大した問題ではない(?)が、上条が挙動不審なのは一体何故だろうか。

「この後は…美琴達も温泉宿に泊まるのか?」
「『も』って事は…アンt…………と…当……麻…も…なの…?」
「あ…ああ……うん」

律儀にも、ママの言われた事を実行する美琴。
実はさっきから、上条の名前を言う度に真っ赤になっているのである。

「そ…そっかぁ。美琴も温泉なんだー……な、なら、もしかしたら同じ温泉宿だったりしてな」
「そ…それはない……事もない気がするわ。今日のママと詩菜さんの感じからすると」

悪い予感はよく当たる…とは言うが、この場合は果たして、『悪い』予感なのだろうか。
上条はボートを漕ぎながら「だよなー」と苦笑するが、すぐにハッとなって美琴から視線を逸らす。
二人っきりになってから上条がずっとこんな調子なので、美琴は少々ムッとして、問い詰めてみた。

「…ねぇ、さっきから私と目が合うと、故意に顔を逸らしてるわよね」
「い、いやっ!!? そんな事は…別に……なぁ!?」
「じゃあ! ちゃんと私の目を見て話してよっ!」

美琴の勢いに圧され、「うっ…」と口ごもる上条。
だが、やがて観念したように、溜息を吐きながら正直に話す。

「あのなぁ……ハッキリ言って、目のやり場に困るんだよ。
 …そ、そんなビキニみたいな水着見せられるとさ……」
「っ!!!」

上条からの思わぬ指摘に、美琴は急激に顔を茹で上がらせていく。
要するに上条が挙動不審だった原因は、美琴の水着姿にあったという訳だ。
敢えてどのような水着なのかは詳しく描写せずにおくが、
少なくとも中学三年生が着る水着にしては、少々大胆な代物である。

美琴の水着は、実は母・美鈴が買って来た物で、美琴も「恥ずかしいからヤダ!」と反対したのだが、
「せっかく美琴ちゃんの為に買って来たのに…」と悲しそうな顔をされたので、渋々着たのだ。
思えば、全ては美鈴の陰謀だったのかも知れない。と言うか、絶対にそうだろう。
先程説明した大胆な水着も、攻めすぎると流石に着てくれないので、
「恥ずかしいけど、着られない事もない」というギリギリのラインを保っており、
美鈴のセンス(?)の高さが窺える。

美琴は真っ赤な顔を俯かせたまま、ポソッと呟く。

「……か…可愛く……ない…かな…?」
「っ!!!」

今度は上条が顔を茹で上がらせる番だった。上条は照れを隠すように頬を指でかきながら。

「い…いや。可愛くない事は…ない…と思うぞ?
 つ、つーか美琴……その、何だ…み、水着………似合ってるな…なんて」
「はにゃっ!!? あああ、あの、その……あ、あり…ありが…と……」

ボートの上で、視線も合わせらせずに沈黙してしまう上条と美琴。
二人してお互いに顔が熱くなっているのは、夏の日差しが強いから…というだけではなさそうだ。


141 : 水着回と温泉回 :2014/12/27(土) 13:36:48 wCY8SEZQ
 ◇


数時間後、日も暮れてきたので二人は別れ、
それぞれ自分の家族と共に今日宿泊する旅館へと足を運んだ訳なのだが、

「み…美琴…」
「と、とと、当! ………麻…」

やはりと言うべきか何と言うべきか、二人は旅館で再会した。
しかしそれ以上に驚いていたのは、

「まさか上条さんとこと俺んとこの家族に付き合いがあるとはな…
 あ、いや挨拶が遅れて申し訳ない。妻と娘が世話になっています」
「いえいえこちらこそ! いやはや何と言いますか、世間ってのは広いようで存外狭いものですね」

刀夜と、遅れてやってきた美琴の父・旅掛であった。
海外を飛び回る父親【サラリーマン】同士が、お互いに深々と頭を下げる。
どうやらこの二人(と刀夜の部下の田中君)は、以前にロンドンの飲み屋で一杯やった事があるらしい。
すぐさま原石を巡るいざこざに巻き込まれた為、あまり呑む時間は無かったが、
それでも遠い異国の地での同じ日本人客同士だったという事で、それなりに仲良くはなったのだった。

旅掛は刀夜と詩菜に挨拶を済ませた後、その息子の目の前にもやってきた。

「…君は……当麻くんだね?」
「えっ!? は、はい。…そうですけど」
「妻から色々話を聞いてるよ。まさか上条さんのお子さんだとは知らなかったがね」

すると旅掛は顎鬚をなぞりながら豪快に「ニカッ!」と笑みを浮かべ、
そしてとんでもない爆弾を放り込んできた。

「何でも、美琴のボーイフレンドなんだって? んで、どこまでヤったんだ?」
「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」」

旅掛の一言に、上条と美琴は同時に絶叫した。
旅館到着直後で、しかも初対面な相手に、いきなりそんな事を聞く旅掛も旅掛ではあるが、
美鈴も美鈴で、何を当たり前のように旦那に誤報を伝えているのか。
しかし娘とボーイフレンド(仮)のリアクションを見て、旅掛は首をかしげる。

「…ん? 何だ、違うのか?」
「照れてるだけよ。美琴ちゃんも当麻くんもシャイだから♪」
「あらあら、二人とも固まってしまいましたわ」
「ととと当麻っ! ま、ま、まさか本当にヤってしまったのか!?
 現役JCと…一体どこまでナニまでヤってしまったと言うんだ当麻ああああぁぁぁぁぁ!!!」

この保護者連合は、何かもう既に酔っているのではないだろうか。
上条と美琴は、ただただ顔を真っ赤にさせたまま、口をパクパクするしかできないのであった。


 ◇


「あー…サッパリした…」

宿自慢の露天風呂から上がり、上条は「男湯 ♨」と書かれたのれんを潜る。
海での水着事件【サプライズ】から調子が狂ってばかりだったので、
このモヤモヤを一旦リセットする為に、両親よりも先に温泉に浸かっていたのだ。
ちなみにその両親は、御坂家と共に広間で食事をしているらしい。
今頃は、本格的に『出来上がっている』事だろう。

「……俺の分の料理、ちゃんと取っといてあるよな…?」

そんな心配をしながら広間へと向かおうとする上条。
だがここで、もう本日何度目かも分からないドギマギを、再び食らわさせられる事となる。

「…あっ」

と声がしたので上条が振り向くと、女湯から出てきたばかりの美琴と目が合った。
どうやら美琴も、上条と『全く同じ理由』で、両親より一足先に温泉を堪能していたらしい。

「アンt……と…当麻……も…温泉入ってたんだ…」

未だに「当麻」と呼ぶのに慣れない美琴である。
と言うか、美鈴の見ていない所で彼女【ママ】の言い付けを守る必要など全くないのだが、
美琴も根が真面目なのだろう。相変わらず、律儀に上条の名前を呼び続けている。


142 : 水着回と温泉回 :2014/12/27(土) 13:37:47 wCY8SEZQ
「……………」
「…? あれ、どうかした?」

上条からの返事が無い。妙に思った美琴は、上条に近づき、上目遣いで顔を覗き込む。

「っっっ!!! いいいいいや、まったくもって何も問題ありませんですことよ!!?」
「でも、そんなに顔が真っ赤になってるし…もしかして、温泉でのぼせた?」
「ホ、ホントに大丈夫でござりまするですからっ!!! 上条さんの事は気にしないでっ!!!」

上条がこれだけ慌てふためくには、勿論、理由がある。
湯上りで上気した頬。濡れた髪。しっとりと汗ばんだうなじ。裾からチラリと見える生足。
そして覗き込まれた時に見えてしまった(小さいながらも)胸の谷間。もう、お分かりだろう。

(風呂上りで浴衣姿の美琴に見惚れてた…なんて言えませんよね〜〜〜!!?)

という事だ。言えばいいのに。
言   え   ば   い   い   の   に  。

「そう? なら私達も広間に行きましょ。お腹すいちゃった」
「だ、だよな!? うん、あんだけ海で遊んだんだし、腹減るよな! うん!」

自分の脳裏に浮かんだ邪念を振り払うように、不自然なまでに元気良く返事をする上条。
両親が既に宴会をしている広間に、美琴と共に向かっている途中も、こんな事を思ってしまっていた。

(何だか今日のミコっちゃんは色っぽすぎて、心臓がドキドキしっぱなしになってる…
 なんて言えませんよね〜〜〜!!?)

言     え     ば     い     い     の     に   。


 ◇


広間に到着した二人が見た物は、

「まままま! もう一杯もう一杯! 刀夜さん、グイ〜〜〜っと!」
「とっとっとっと! いやいや、もうこれ以上は飲めませんよ旅掛さん!」
「あらあら美鈴さん。私ちょっと飲みすぎてはいないかしら?」
「そんな事ないですよ! 詩菜さん、全然酔ってないじゃないですか」

やはり、ほんのりと酔っ払った双方の父と母の姿。
上条と美琴は軽く嘆息すると、自分の席に座って「いただきます」をする。

「おっ、来たか当麻! 早く来ないから、せっかくの料理が冷めてしまったぞ!」
「…刺身は元々冷めてるよ。鍋は今から火を入れるし」

お酒が入って変に絡んでくる刀夜【ちちおや】に軽く受け答えし、上条は鍋に火を入れた。
一方で美琴の方も、

「お〜い、美琴! 風呂上りなんだから、ちゃんと水分取れ! 水分!」
「分かってるわよ」

旅掛に絡まれていた。逆らうと面倒なので、美琴はコップに入った一杯の水を飲む。
しかしそれは、水のようで水ではなかった。

「っ!!? かっ! 何…これ…!? 何が……ぎ…ぎもぢ悪い゛………うっぷ…」

クイッ…と一口、そのコップの中の液体を飲んだ瞬間、喉が焼けるような感覚。
美琴の異変に、上条は慌ててその液体の臭いを嗅いでみる。これは、まさか。

「ちょー、これーっ!!! 美琴が飲んだこれ、何かアルコールの臭いがするんですけどーっ!!?」

ご想像通り、お酒である。
どうやら美琴は、自分のコップと旅掛のコップを取り違えてしまったらしい。

「だ、大丈夫か美琴!?」
「…ちょ、無理…かも……」

美琴の背中をさすってあげる上条だが、美琴の体調は回復する様子もなく、
手を口に当てたまま真っ青な顔をしている。

「美琴ちゃん。夜風にでも当たって来たら?」
「……そうする」

美鈴の提案に、美琴も頷いた。

「あらあら、それでは当麻さん。付き添いをお願いしますね」
「分かった。ほら、立てるか? ゆっくりでいいぞ」

詩菜からの指名で、上条は美琴に肩を貸す。
まだ一口も手をつけていないのだが、料理はまたお預けのようだ。


143 : 水着回と温泉回 :2014/12/27(土) 13:38:39 wCY8SEZQ
 ◇


「どうだ? 多少は治ったか?」
「……うん…さっきよりはいいみたい…」

二人は縁側に座りながら、中庭の池をボーっと眺めていた。
夏の夜風が湯上りの肌に心地良く通り過ぎ、美琴の顔色も大分良くなってきたようだ。

「何か…ごめんね? 私のせいで、ご飯食べられなくなっちゃって……」
「いや、気にすんなって。不幸体質の上条さんにとって、こんなのはいつもの事ですから。
 それに、こんな状態のミコっちゃんを放って、暢気にメシなんか食ってらんねーって」

少し困ったように頬を指でかきながら、「ははっ…」と笑みを浮かべる上条。
照れ隠しなのか冗談交じりに言ってはいるが、当たり前のようにサラリと優しい言葉をかけてくれる。
胸の奥が「きゅん…」と締め付けられるような感覚がするのは、きっとお酒を飲んでしまったせいだろう。
だから美琴は、全部お酒のせいにして、ちょっとだけ大胆になってみる。

「っ! ちょ、えっ!? みこ、美琴さん!?」
「………何よ?」
「いや、『何よ』って!」

ふと、上条の右肩に重みがのしかかる。美琴が頭を乗せているのだ。
普段とは違う、美琴の妙に女の子らしい仕草に、
今日一日中ドキドキしっぱなしだった事も手伝ってか、上条は変に意識してしまう。
美琴も、この雰囲気と少量のお酒に後押しされ、いつもよりも性格が丸くなっているようだ。
ツンデレの「ツン」の部分の刺の先端が、ヤスリで削られているのである。

だから全てお酒のせいだ。
こんな言葉が言えてしまうのも。

「……ねぇ、私、今すごく…ドキドキしてるの、分かる…?
 ううん。本当は今だけじゃなくて、いつもドキドキしてるの。
 アンタと……当麻と一緒にいる時はずっとね」

何だろう。と、上条に妙な緊張感が走る。今から美琴が言おうとしてる事は、まるで―――

「………私…ね…? ずっと………ずっと、当麻の事が」
「美琴ちゃ〜ん! 気持ち悪いの治った〜?」
「あらあら、随分と月が綺麗なのね」
「いや〜…すっかり飲んじまった。ここは酔い醒ましには丁度いいな」
「当麻、それに美琴さんも。料理は旅館の方が取って置いてくれてるから、安心しなさい」

と、このタイミングで邪魔な大人達の登場である。
いい雰囲気【げんそう】ぶち殺された事で正気に戻った【まほうがとけた】美琴は、
今、自分が口走ろうとしてた事に対して、急激に恥ずかしくなってきた。
いや、これはもう恥ずかしいなんてもんじゃない。美琴は顔を爆発させ、そのまま俯く。
しかしここで、美琴に更なる追い討ち。

「なぁ、美琴。今さっき、何て言おうとしてたんだ?」
「ん? なになに? もしかして美琴ちゃん、何か大切な事を言おうとしてたの?」
「あらあら。私達、お邪魔だったのかしら?」
「…美琴。言いたい事があるならハッキリ言いなさい」
「ととととと当麻!!? 女子中学生に何を言わせようとしてたんだ!?」

この場に美琴の味方はいなかった。


 ◇


後日である。
美琴はいつものファミレスで佐天に呼び出され、居心地悪そうに椅子に座っている。
テーブルを挟んだ向かい側の席には、いやらしくニヤニヤした佐天が座っており、
テーブルの上には美琴の携帯電話が置かれている。
携帯電話は現在、佐天の手によってスピーカーモードに設定されており、
通話中の相手の声が、美琴にも佐天にも届くようになっている。
その通話中の相手とは、お察しの通り美鈴だ。

「さぁ、御坂さん! その時、上条さんに何を言おうとしたのか吐いてもらいますよ!」
『美琴ちゃん! あの時、本当は何て言おうとしてたの!? ママ気になるにゃ〜ん♪』

同時多発的に親友と母親に問い詰められ、美琴はテーブルに突っ伏しながら答えた。

「お願いだから、もう許してえええええぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


144 : くまのこ :2014/12/27(土) 13:39:52 wCY8SEZQ
以上です。
何か最近の自分の作品って、
上条さんがデレすぎてる気がするんですけど、大丈夫ですかね?
ではまた。


145 : ■■■■ :2014/12/27(土) 18:34:44 T5ONweyA
>>144
GJです!!
個人的にデレ条さん最高なので、ガンガンデレさせてくださいw


146 : ■■■■ :2014/12/28(日) 00:01:10 jfACT8eE
>>144
(*^ー゚)b グッジョブ!! 相変わらず(;´Д`)スバラスィ


147 : ■■■■ :2014/12/28(日) 06:56:28 gfGOg836
相変わらずここには良い上琴SSが投稿されてるなあ
乙!!


148 : ■■■■ :2014/12/28(日) 08:54:30 WlEsaQSI
>>137
結婚しても変わらないなこの二人は!そしてそれが良い!
後……麻琴はサンタさんから二人へのプレゼントって事ですね分かりますw

>>144
甘い!だけどこの甘さは自分の
好物ですwデレてる?無問題ですね……むしろ逆に考えるんだ、デレちゃってもいいさと(


149 : くまのこ :2014/12/28(日) 19:47:57 oVcjnXSY
連投失礼します。
・・・さんからのリクで、
両親の真似してキス魔になっちゃう麻琴ちゃんの話を書きました。
未来設定ですので、苦手な方はスルーしてください。
約3分後に2レスです。


150 : 親の背中を見て育った結果がこれだよ! :2014/12/28(日) 19:51:03 NoNb.AZ6
「子供は親の真似をする」なんて事はよく聞く話だ。
物心のつき始める乳幼児は、親と言う最も身近な大人の真似をする事で、
文字通り「生まれて初めて」の学習をするのだ。
そしてそれは、今年で5歳を迎えた上条麻琴も例外ではなく、
よくパパとママの真似をするようになったのだが、

「ど…どうしよっか……」
「ど…どうしようったって……」

結果、当麻と美琴の上条夫妻は、重苦しい空気の中で家族会議する事態となっていた。


 ◇


事の発端は上条と美琴の生活態度が原因だった。
二人は結婚して、子供【まこと】が産まれてからも、倦怠期とは無縁の結婚生活を送っていた。
朝起きた時、夜寝る時、家から出かける時、嬉しい時、寂しい時、痴話喧嘩した後に仲直りする時、
したい時、されたい時、イタズラする時、良い雰囲気の時、ムラムラした時etc.etc.…
それはもう、挙げればキリがない程、普段の二人は事ある毎にキスしているのだ。
365日欠かさず、朝から晩までむやみやたらに、
飽きる事もなくチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュしているのだ。
夫婦なんだから何も問題は無い。…問題は無いが、流石にちょっとどうなのか、とは思う。
だがそれだけならば、少々愛情表現の度が過ぎるだけのバカップル夫婦というだけで、
別段、何かに実害がある訳ではなかった。
しかしだ。子供は親を見て行動を真似してしまうモノである。

「ア・ナ・タ♡」
「そのおねだりの仕方…ミコっちゃん、またキスですか?」
「だって! チューしたいんだもんチュー!」
「へいへい、分かりましたよ」

  ちゅっ♡

こんな両親の会話を毎日見ている訳で、そして子供は真似してしまう訳で。
つまりはそう。両親の影響をダイレクトに受けた麻琴は、僅か齢五つにして、

「まこともちゅー! ちゅっちゅちゅっちゅ! ちゅっちゅしようよー! ちゅ〜う〜!」

既  に  キ  ス  魔  と  化  し  て  い  た  の  で  あ  る 。

だがそれでも、家庭内だけで収まるのならば被害は防げただろう。
しかし麻琴は5歳。家庭の事情によって違う為、必ずしもそうとは言えないが、
大体は保育園や幼稚園に通っている年齢である。
事実、麻琴は第13学区にある「あすなろ園」に通っている。
ちなみにだが、あすなろ園は美琴が中学二年生だった頃は、
「置き去り」を保護して育てる為の児童養護施設だったのだが、
現在では特別な事情の無い園児も普通に通っている。麻琴もその一人だ。

話を戻すが、麻琴はあすなろ園に通っている。そして彼女はキス魔だ。
後は…何が起きるかは何となく察していただけるだろう。
麻琴は、他の園児【おともだち】も保育士【せんせい】も男の子も女の子も一切関係なく、
パパとママの真似してキスしまくっているのである。
当麻【パパ】や刀夜【おじいちゃん】の血を色濃く受け継いだのか、
麻琴は無自覚にフラグを建築し続け、麻琴にファーストキスを奪われた男の子(と一部の女の子)は、
そのまま麻琴に対して初恋を経験してしまうという、ど偉い事になっていたのだった。

そんな事が繰り返さていた、ある日。
上条と美琴は、あすなろ園の園長先生に呼び出しを食らってしまった。

「麻琴ちゃん…大変元気が良くて、とてもよい子なのですが……ちょっとだけ困った癖がありまして…」

と園長先生の不穏な切り出し方から説明された麻琴の現状に、呼び出しを食らったご両親は、
真っ赤になりながら真っ青になるという、何とも器用な顔色をしていたのだった。
その時の二人の様子は、ある意味で見ものだった事だろう。


 ◇


と、いう訳で、

「ど…どうしよっか……」
「ど…どうしようったって……」

二人はリビングで、頭を抱えていたのであった。

「やっぱり……暫くキスするのを控えるのが一番いいと思うんだ」

上条はテーブルに置かれたお茶を一口飲み、解決策を提案する。
…解決策と言える程、大した提案ではないが。
しかしこれに対して、美琴はテーブルを手で叩きながら、声を荒げて反論した。

「いやよ! 私、最低でも6時間に一回はアナタとキスしないと死んじゃうんだからっ!」


151 : 親の背中を見て育った結果がこれだよ! :2014/12/28(日) 19:51:56 NoNb.AZ6
その理論だと、上条が会社に出勤して、
五時まで仕事をしている間に美琴は死んでしまう事になるのだが、
残念ながら、この場に救い【ツッコミ】は存在しない。
と言うか、どんだけキスしたいのだ。この美琴【ママ】は。

「でもな、美琴。もし麻琴がこのままの状態で成長したらどうなると思うよ?」
「それは……そう…だけど………でも! やっぱりアナタとキスはしたいのっ!」
「けどやっぱり、ここは大人な俺達が我慢するべきなんじゃないのか? 何よりも、麻琴の為に」
「じゃあアナタは私とキスできなくてもいいって言うの!?」
「そうは言ってないだろ!? 俺だってキスしたいよ!
 てか、今だって美琴の唇見てるだけでムラムラしてるよ!」
「そんなの私の方がムラムラしてるもん!
 アナタがいっぱいエッチなキスするから、最近じゃあキスするだけで感じちゃうのよっ!?」

何だこの会話。
この後も非常にくっだらねー議論は続いたのだが、
最終的に「何とかして麻琴を諭す」という結論に到ったようだ。
という事は、結局これからもキスは続ける方針らしい。


 ◇


その日の夜。麻琴がクレヨンでお絵かきをしていると、
上条【パパ】から「ちょっとおいで」と部屋に呼び出された。

「な〜に、パパ?」
「うん、いや……そのな? 麻琴最近、あすなろ園でいっぱい色んな人とチューしてるんだって?」
「うん! そうだよ!」

元気良く返事をする愛娘【まこと】。本人も自白したので、容疑は確定となった。
上条は「そっかぁ…」と呟きながら、腕を組んで天井【そら】を仰ぐ。
そのまま暫く何かを考え込んだ上条は、やがて意を決したように、麻琴の目を見つめる。
そして言い聞かせるように、優しくゆっくりなトーンで話しかけた。

「あのな、麻琴。キスってのは、本当はやっちゃいけない事なんだ」
「なんで? パパとママはいっぱいちゅーしてるよ? パパとママもいけないの?」
「う、うん。パパとママは何て言うか…結婚してるからいいんだけどね?」

麻琴の鋭いツッコミに、しどろもどろになりかける上条。

「そ、そう! 大人になれば、やってもいいんだよ!」
「おとなってどれくらい?」
「そうだな…麻琴が中学生に上がったらかな」
「でもまこと、いっぱいちゅーしちゃったよ? まこと…わるいこ…?
 もう…サンタさん……こな、い…の…?」

自分の今までの行いが、大人になるまでやってはいけない事なのだと告げられ、
今にも泣き出しそうになる麻琴。
ちなみに、急にサンタの名前が出てきたのは、
「悪い子の所にはサンタさんはやってこない」と教えられているからである。
上条は慌てて麻琴の頭をナデナデして、泣かないようにあやす。

「だ、大丈夫だぞ! 麻琴は知らなかっただけだもんな!
 サンタさんもちゃんと来てくれるから、安心しろ! な!?」
「……ほんと…?」
「ホントホント! パパ、ウソなんて今までついた事ないから!」

今まさについているソレは、嘘以外の何だと言うのだろうか。
ともあれ、これで麻琴のキス魔【クセ】は何とかなりそうだ。
しかし上条は、念には念を入れて、ここで更なる一手で畳み掛ける。

「あっ! でも、もし今度チューするような事があったら、
 もしかしたらカレーが辛口になったり、オムライスの中のピーマンが増えたりするかも知れないな」
「………まこと、もうちゅーしない」

その一言の効果は抜群であった。
ママ特製のカレーとオムライスは麻琴の大好物なのだが、まだまだお子ちゃまの舌なので、
辛い物や苦い物【ピーマン】は大の苦手だったりするのだ。



こうして麻琴は、パパとの約束を守り、
むやみやたらに人にキスをするという困った癖は直ったのだった。

「ア・ナ・タ♡」
「そのおねだりの仕方…ミコっちゃん、またキスですか?」
「だって! チューしたいんだもんチュー!」
「へいへい、分かりましたよ」

  ちゅっ♡

なので上条夫妻は、今日も何の気兼ねもなくキスをするのだ。

「んっ…♡ んちゅ、くちゅ♡ れぁ…ぁむ、ぢゅちゅっ♡ は、ぁ…アナタぁ……♡」
「んっぶ…! ちゅる、ずちゅ…れおっ……ぷちゅりゅ…! はぁ、はぁ…美琴ぉっ!」

爆発しろ。


152 : くまのこ :2014/12/28(日) 19:52:36 NoNb.AZ6
以上です。
二日連続の投下、すみませんでした。
ではまた。


153 : ■■■■ :2015/01/05(月) 15:23:36 EKy0Q/Rs
エロのこさん本領発揮ですなー
エロ過ぎ

所でそろそろ・・・さんも出てきてー?


154 : くまのこ :2015/01/06(火) 22:48:50 lHRWC.9A
支部でリクを受けたので、スフィンクスの話を書きました。
いつものように短編です。
約3分後に3レス使います。


155 : 私は猫であるが名前はある :2015/01/06(火) 22:52:01 lHRWC.9A
スフィンクスと言う。
白いご主人がつけてくれた名前なのだが、どうやらコレ、どこかの怪物の名前が由来らしい。
怪物とは所謂、恐ろしい生物の事だ。きっと大型犬に違いない。
下品は犬の名前を高貴な猫である私につけるとは、逆にアッパレなセンスの持ち主のご主人だ。

しかしながら、今この空間にご主人はいない。数匹の人間のメスと共に、どこか遊びに出かけたようだ。
まぁ、ご主人にも息抜きは必要なのだろう。いつもこんな狭い空間に閉じ込められ、
ずっとフカフカした椅子に座りながら、黒くて薄い箱(確か『てれび』と言ったか?)を眺め続け、
充分な食事も与えられずに常に空腹のまま…そりゃあイライラも溜まるってもんだ。
だから気分転換に外へ出る事は私も反対しない。反対はしないが、しかしご主人。

何故、私のお気に入りのオモチャまで持って行ってしまったのか!

ご主人が「おてぃぬす」と呼んでいるそれは、私の中で今最もブームなオモチャなのだ。
何故…何故、私の一番の楽しみを奪うのか、ご主人…!

っと、話が大きく逸れてしまった。申し訳ない。
今この空間にご主人はいない訳だが、何も私一匹だけと言う事ではない。
私の他に2匹の人間がいる。
1匹はご主人と共にここで暮らしている人間のオスだ。
ご主人の下僕で、いつもご主人や私のご飯を作る人間である。
地位がご主人よりも下にいる為か、食事の量はいつもご主人の半分以下だ。
だがそれでもご主人には足りないらしく、よく頭を噛み付かれて「しつけ」されている。
私は猫なので犬のように序列を決める事はないが、あえて順位付けするならば、
ご主人>>>私>>>>>>>>>>>>>>>>>>>下僕の人間、と言ったところだろうか。
ああ、いやすまない。彼にも名前があったな。
しかし「あんた」「かみじょうくん」「カミやん」「きさま」などと、
彼には72通りの名前があるから、何て呼べばいいのか。確か最初に会った時はイーノ…ではなく、
「とうま」と呼ばれていたな。ご主人から。

その「とうま」と、もう1匹の方の人間は「みこと」と言う。
とうまが何度も「みこと」と呼んでいるので間違いはないだろう。
みことはいつも威嚇しているので私は苦手だ。
どういう訳か、全身からピリピリした何かを全身から出し続けているのである。
その上やたらと私に触りたがってくる。もしかして喧嘩を売られているのだろうか?
それはそうと、このみこと。人間のメスなのであるが、どうやら発情期を迎えているらしい。
人間のフェロモンなど嗅ぎ取れはしないが、その態度を見ていれば一目瞭然だ。
とうまの言動に対して、イチイチ一喜一憂している。
しかし、それにしても人間の発情期というのは期間が長いのだな。
私の知る限り、みことがとうまに発情したのは「暑い時期」だ。
そこから今の「寒い時期」までずっと発情しっぱなしである。

とうまもとうまで、とっとと交尾してやればいいものを…と私も初めは思っていたが、
どうやらこのオスの人間は発情期に入っていないらしい。
度重なるみことからの接近(もっとも、とうまに接近を試みるメスの人間はみことだけではないが)を、
ことごとく台無しにしているのだ。所詮は下僕といったところだろうか。

っと、とうまがご飯を作る場所に行ったぞ。私も追いかけてみよう。
あの白くて冷たい箱の中に、お肉が入っているのを私は知っている。
だがどうやら、今回とうまは白くて冷たい箱を開けないようだ。残念。
代わりに、その上にあるカンカンを手に取った。
そのままカンカンから細かい葉っぱを取り出し、変な入れ物に葉っぱと熱い水を入れる。
そして再び変な入れ物から熱い水を出してコップに入れる。
…いつも不思議に思うのだが、何故あの変な入れ物に入れた熱い水は、
出てくる時に色が変わっているのだろう。緑とか赤とか茶色とか。
余談だが、私はあの熱い水が大の苦手だ。舐めるとベロが死ぬ。


156 : 私は猫であるが名前はある :2015/01/06(火) 22:53:07 lHRWC.9A
「はあぁ……な〜んか最近、美琴と話してると胸が苦しくなるんだよなぁ…
 何つーか、ドキドキするような…いやむしろキュンキュンするような…?」

とうまが独り言をする。しまった…考え事をしていたので聞き逃した。
「何て言ったの? ねぇ今何て言ったの?」と私は問いかける。

「にゃーん」
「…ん? ああ、腹減ったのか? ちょっと待ってろ。今キャットフード出してやるから」

違う! そうじゃねぇ!
けど、それはそれとしてご飯は貰う! 今日はカンカンに入ったベチャベチャした奴が食べたいな!
ガサガサに入ったカリカリの奴じゃなくて!

「あれ? 猫缶もう切れてたか…袋のは、まだあったかな?」

ああ、ちくしょう! カリカリの奴が入ったガサガサを取りやがった!

「にゃー! にゃー!」
「はいはい、ちょっと待ってろって。その前に美琴にお茶出さなきゃだから。
 せっかく淹れたのに冷めちまうし」
「ふみゃーっ!」

とうまは熱い水の入ったコップ2つと、カリカリの私のご飯の入った皿を持って、
みことが座っている方へと向かう。
おのれ…全っ然話を聞かねーでやんの、この人間……

「お、お待たせ。緑茶で良かった…かな?」
「ふぇっ!!? あ、う、うん! お構いなく!」

そんな会話をしつつ、とうまは台の上にコップを、床に皿を置いた。
ベチャベチャの奴が食べたかったのに…仕方ない、文句ばかり言っても始まらないか。
私は大人なのでカリカリの奴でも我慢美味っ! はぐはぐ、もぐもぐ、ぺちゃぺちゃうんま!

「あっ! ご飯食べてる。可愛い〜! …でも能力のせいで触れないのよね〜……」
「……み、ミコっちゃんだって充分可愛いと思いますが……(ぼそっ)」
「……え…?」
「あ、ああいや! その、何でもありませんですことよ!!?」

何やらお互いにはぐはぐ、うま! 顔を赤くするバクバク、コレうま! 人間2匹うまうまっ!
だが、私は今うんま! コレうんま! カリカリの奴にはぐ、うま、はぐ! 夢中なのでうま〜!
それどころクチャクチャうまうま! ではなうまーーーっ!
っと、いけない。夢中になりすぎてカリカリの奴が一粒転がって行ってしまった。
みことの股の間に挟まってしまったようだ。仕方ない、取りに行くか。
こう…顔を押し込んで、と。

「わきゃっ!?」
「っ! ちょ、何やってんだスフィンクス!?」

ああ…狭い所って落ち着くなぁ〜……何か良いスメルもするし…
これはピリピリを我慢してでも顔を突っ込む価値がありますなぁ〜……

「ひゃんっ! く、くすぐったい、って、ば、ぁっ……あぁあんっ!」
「み、美琴さんも美琴さんで、変な声出さないでくださいませ!
 ほらスフィンクス! んな所に顔突っ込んでないで出てこいエロネコ!」
「に゛み゛ゃーっ!」

なっ! 何をするだァ―――ッ!
無理やり私を引っ張り出そうとするな! 私は狭い所に顔を挟んでおきたいのだ!

「おぅわっ!?」
「きゃーっ!」
「にゃーん!」

ほら見ろー! とうま、お前が無理やり私を引き剥がそうとするから、
バランスを崩して転んでしまったではないか!
お前はやたらと「フコウ」とやらに巻き込まれるのだから、こういう時は気をつけ…おや?

「っ!!! ちょ、ちょちょアンタっ!!! ど、どどど、どこに顔突っ込んでふにゃー」
「もごもご!?」

とうまがみことの股に顔を突っ込んでいる。な〜んだ、要は私と同じ事をしたかっただけか。
確かにみことの股の間はクセになる狭さとスメルだからな。


157 : 私は猫であるが名前はある :2015/01/06(火) 22:54:12 lHRWC.9A
 ◇


2匹は今、お互いに俯きながら正座をしている。何か気まずい事でもあったのだろうか?

「その…さ、さっきはスマン……」
「いいい、いや、べ、べべ、別に私は気にしてないし! わ、わ、悪気がなかったのは分かってるから!」
「確かに悪気はなかったんだけど……けど、み、美琴の……な? だから、えっと…」
「いいいいいいからっ! 詳しく言わなくてもいいからっ!
 そ、それにホラ! 私、短パンはいてるから! セーフだから!」

「せーふ」という言葉の意味は分からないが、
私の野生の勘が「せーふ」とやらではないと言っている気がする。

それにしても今のとうま、何だかとうまと接している時のみことと似ている気がする。
顔は赤く、目線は揺れ動き、妙に慌てている。
これはもしや…このオスの人間に、ついに発情期が来たのか?
みことがとうまに発情している時と同じ、という事は、とうまがみことに発情している?
いや、きっとそうに違いない。
しかしこの人間、どうやら初めての発情でどうしていいか困っている様子だ。
ここは一つ人生(私の場合は猫生であるが)の先輩として、
とうまがみこととうまく交尾できるように手伝ってやるか。

「うみゃ〜ん」

私は出来るだけ甘ったるい声で鳴き、2匹の気を引く。

「な、何か呼んでるみたいだな」
「そ、そうね」

作戦成功だ。2匹の視線が私に集中する。
このまま気まずい無言が続くよりも、私という話題を介した方がマシという判断だろう。
だから私も手を抜かない。
私はこの2匹がうまく交尾できるように誘導する、仲介人…いや、仲介猫なのだから。

まず私は、小さくて冷たくて硬い人間
(とうまは「かなみんのふぃぎゅあ」と言っていた。とうまがご主人に献上したモノだ)
を横に置く。そして私がそれに覆い被さり、あとは腰を―――

「なっ!!?」
「ふにゃー」

―――このようにして振るのだ。どうだ? これが交尾だ。…ちゃんと見てる?
勿論これは擬似的な交尾だが、実際は…って、な なにをするきさまー。

「何やってんだバカ猫っ!」
「に゛ゃー、に゛ゃーっ!」
「『に゛ゃー』じゃねーっつのっ!」

ええい、だからお前の為に交尾の仕方を教えてやってんじゃねーか! 引き剥がすな!
ほらほらお嬢さん。あなたはちゃんと私を見て、そして参考にしてくださいな。

「ふにゃー」

あ、ダメだ。こっちはこっちで私の話を聞いてない。
何だよー! せっかく擬似交尾までやって見せたのによー!

「わ、悪いな! 何か盛ってらっしゃるようで!」
「い、いいいいや、ききき気にしてなな、ないからっ!!!」
「そ、そっか! な、ならいいけど! …ほら、お前はもうあっち行け! シッシッ!」
 
チッ! じゃあもう知〜らない! 私は一人で遊ぶもんね〜!

「と、とりあえず何か映画でも―――」
「あ、さ…さっき借りたDVD―――」

2匹が私を放って黒くて薄い箱を観始める。
むぅ…どうやら本格的に私を無視しているようだ。少し寂しい。
私は構われている時は鬱陶しく感じるが、いざ離れられると遊んで欲しくなるのだ。
猫なのだ。仕方あるまい。
しかしこのみことというメスの人間。人間なのに我々猫と同じような習性があるように思われる。
確か人間達の言葉で「つんどら」だか「ほんだら」だか…いや、「かんぶり」だったか?
…段々遠ざかっているような気がするが、そんなような響きだったはずだ。
まぁ、ともかくだ。私は今、猛烈に寂しい。だから構って〜! ねぇねぇ構ってよ〜!

「うわっ! 急に頭に登ってくんじゃねー! 今テレビのリモコン取ろうとしてバランスが―――」
「………え―――」

ドダン!と大きな音を立てて、とうまが転んだ。全く、本当によく転ぶ人間だ。
しかもまたみことを巻き込んで倒れている。
その上、口と口までぶつかっているではないか。
……もしかして、私がとうまの頭によじ登ったのが原因なのだろうか?
というかこの2匹、口と口がぶつかってから微動だにしないのだが、そんなに強くぶつかったのか?
見た感じではそこまででは―――

「うおおおおおあああああぁぁぁぁっ!!!!! ごごごごごごめんっ!!!」
「ご、ごめ、ったって、い、いい、今、キ………キキキキキキキキーーーーーっ!!!?」

やれやれ、口と口がぶつかったくらいで大袈裟な人間達だ。
と言うか、発情してんだったら早く交尾しろよ。


158 : くまのこ :2015/01/06(火) 22:55:16 O4p2zwKA
以上です。
何だか自分ばっかり投下してますが、大丈夫ですかね…?
ウザいとか思われたら、ヤダなー怖いなー。
ではまた。


159 : ■■■■ :2015/01/06(火) 23:07:53 eROKVBxU
くまのこさん、乙です
くまのこさんがハイペースで投下してくれるから、上琴病患者は何とか生きていけると思うの
むしろ1日2回位が良いなとか思っちゃう位
でもくまのこさん死んじゃうと困るからご自身のペースで是非是非
因みにとある元旦の事後漫才【ピロートーク】は
何故か何回もお世話になってます

…ふぅ


160 : ・・・ :2015/01/07(水) 05:54:40 a4c1b8ts
ども、・・・です

くまのこさん

うざいどころか、いつもお世話になってます。
くまのこさんの上琴で生きてます

>>水着&温泉
王道の素晴らしさここにあり!!
い え よ ち く し ょ う!!
そして親自重しろ

>>まこちゅっちゅ
いや、ホントかなわんなぁ。ありがとうございました。
まこっちゃんが、いい子過ぎて辛い。親に似るなよ
赤も青も同時にこなすバカップル上琴にもう爆笑。

>>スフィンクス
このバカネコが!! GJ!!
カナミンのじゅうかゲホンゲホン。
考えてみれば、この猫にとって、オティヌスはカミやん以下だよなぁ、魔神なのに。



なんかうれしい言葉をいただいたので、頑張ります。
死なない限り投げ出しませんのでご安心を。

注意書きは、もういいよね?

それでは


161 : 大冒険 :2015/01/07(水) 05:56:16 a4c1b8ts
『……なんとおっしゃいました?』

『いや、だから、新婚旅行。ハネムーンでしょ? これ』

『お、おほほぉい、後ろを見てご覧なさい。あの地平線を←から→まで埋めている黒い粒々は、全部オレたちに放たれた追手です。さて、問題。今私たちがしているのはなんでしょーか!!』

『はい!!『どうぞ!!』新婚旅行で『逃走ですよバカ!!』

『そんな食いぎみに……よく考えて』

『こっちのセリフだ!!』

『まぁまぁ。いい? まず私たちは新婚さんでしょ?』

『そうですね』

『で、海外にいっている最中です』

『ですね』

『ほら、新婚旅行じゃ『なんでだよ!!』

『どんな状況でも、私たちが新婚旅行っていったら新婚旅行になるでしょ? 楽しまないと!!』

『……はぁ、なんつー嫁だよ』

『あら、今更? 旦那様』

『わかったよ、新婚旅行、楽しもうか』

『うん!! そのためにまずは……』

『逃げる!!』













ダウンロードエラー
システムの復旧を行います
復旧率 0%


162 : 大冒険 :2015/01/07(水) 05:57:12 a4c1b8ts

大冒険


残暑がまだ強い土曜日。
しかし、空に入道雲の影はなく、
鳴く蝉はアブラゼミからつくつくぼうしに変わっている。
そっと夏が過ぎ去ろうとしていた。
が、それを感動する余裕は彼らに無い。
ベンチには男性が2人座っていた。
ぐだーーーーーと。

1人は浜面、もう1人は一方通行である。
彼らが疲れている原因は同じだ。
上条と美琴が学校に行っている間、交代で担当している、
赤ちゃんのお世話にあった。

浜面は初日の事を思い出す。
インデックスを家に入れたら、予想通りのリアクションが待っていた。

『ふざけてんのか浜面!! いつからここは保育所になったんだゴラァ!!』

『超まったく麦野の言うとおりです!! 浜面は顔から超教育に悪いのに!!』

メキャドカメキャドカと、
もちつきのようにテンポよく浜面はミンチになる。
でも、彼の嫁はインデックスの相手をしていた。

『あう?』

『あっちが麦野、あっちが絹旗だよ。あいさつできるかな?』

『う、むぁの、きーはた、こーちゃ!!』

ピタッ と止まった後の
きゅるきゅるきゅーーん!!

『は? なんだ今の擬音は?コイツらには無縁の音がきゃぐるべぶ』

もちつきのように略。
そんなこんなで 浜面はくったくただったのだ

で、一方通行の場合、

『アナタ、ほらアナタの子よ』

と、あのクソガキがほざき、

『わたしとは遊びだったのかー。よし、復讐にアンタの家庭をグシャグシャにしてやる』

と、あの性悪がほざいて、

『そんな、じゃあ、このお腹の子はどうするの!!?』

と、あのニートがほざいた。
思い出すだけでめんどくさいのだった。


163 : 大冒険 :2015/01/07(水) 05:57:54 a4c1b8ts

で、
目の前のジャングルジムではしゃぐ打ち止め、フレメア、フロイラインを眺めつつ、2人はつかの間の平和を満喫していた。
まぁ、そんな時間はこの2人にはそうやすやすとは訪れない。

「あくーた!!はーづら!! こーちゃ!!」

と元気に挨拶された。
そちらに目を向けると、案の定ヤツらだ。

「「おっす!!」」

いちいちハモるな。
疲労の原因の赤子、インデックスは御坂美琴の腕の中で、笑顔に手を振っている
彼女の御両親、上条当麻と御坂美琴も彼らが疲れている原因である。
コイツらの話をしょっちゅう聞くようになって、大体何を考えているかわかるようになった。
上条は自分の心境を隠すのがうまい。
美琴もようやくテンパりを隠せるようになった。
つまり、

((ぎゃぁぁあああ!! ハモったぁぁあああああ!!))

実は内心で2人はめちゃくちゃあたふたしている、と予想できる。
で、大正解なのだった。

「……なにしてんだよ?」

「なにって、買い物だよ」

「近くのデパートでバーゲンやってるの」

「そこまでは聞いてねェ」

「だぅ、どぅーだう!!」

「ダメよ、インデックス、お買い物しなくちゃ」

インデックスは自身の小さな手を、一生懸命打ち止めたちに伸ばす。
正直、一方通行達はめんどくさい。
めんどくさいが、

彼らの共通点として、上条と美琴には大きな借りがあるのだった。

「あー、置いていっていいぞ」

「「へ?」」

「怪我しねェくらいには見といてやる」

「ホント!!? ありがとう」

「いつも悪いな」

美琴は、打ち止めたちにインデックスを預けると、
上条と肩を並べて仲良く買い物に行った。
よくよく見ると、2人とも緊張で背中はガチガチに固まっている。
ため息がでた。

「……お互い、大変だよな」

「……うるせェ」


164 : 大冒険 :2015/01/07(水) 05:58:38 a4c1b8ts

少ししてなにか違和感。
ドタバタと音が聞こえる。
上条達が消えた出入り口と、ちょうど反対の方からだ。
浜面と一方通行がそちらに顔を向けると、なにかが大声を出しながら猛スピードで走ってきていた。

「あぁ、オレが間違っていたぜ!! 恋は戦争だ!! 勝つか負けるかの世界に、遠慮なんてしてらんねぇよな!! 上条ちゃんよりオレのほうがいい男になればいいだけの話だったぜ!!」

金髪の女みたいな男が爆走してくる。

「それでこそ、私の元部下だ。互いの目的のために全力を尽くそうではないか!!」

恥女も猛スピードで向かってきていた。
両者ともに上条とのつながりで、顔見知りなのだった。

((メンドクセェェェェエエエエエエエエエエエエエ!!))

もし、ヤツらにあの2人が追いつかれたら、なんのためにインデックスを預かったのか分からなくなってしまう。
だから、浜面は餌を投げた。

「よかったな、第一位。さっき話していたトールがちょうど来たぞ」

浜面たちの目の前で、魔神と雷神は走っているポーズのまま固まった。
ついでに白いアイツも固まった。

「は?」

「だから、今お前が雷神と手合わせしたいっていってただろ?」

ぴくっ っとトールの耳が動く。

「て、テメェ!!「いやー、どう考えてもお前の言うように、勝敗は決まってるけどな。圧倒的にお前が勝ち越すと思うぜ、さっきお前が言ったとおり」

うずうず。

「わ、悪い、オティヌス。こんな楽しそうなケンカ、ほっとけねぇ」

「……まぁ、好きにしろ。私は奴らを追うぞ」

一方通行は浜面をにらみつけるが、ヤツは明後日の方を向き口笛を吹いている。
しょうがない、乗ってやろう。

「ふ、はーっはっは!! テメェのような三下、軽くひねりつぶしてやンよォ!!」

しかし、

「で、チンピラ、さっきテメェは『自分にとって魔神なんて赤子も同然だ』っていってたが、どうやって倒すンだ?」

テメェも道連れだ。

は? と呟いた瞬間、浜面はどっと汗を流す。
プレッシャーが半端ない。

「……そうか、赤子も同然か。いい度胸してるじゃないか」

そちらに目を向けると、憤怒の形相をした魔神様がいらっしゃった。
後方ではすでになにかしらの戦闘が繰り広げられている。
浜面は、覚悟を決めた。

「早口言葉だ!!『生麦生米生卵』!!」

「は!?」

「早くいえよ!! 『生麦生米生卵』!!」

「な、なまむぎなまもめなまなもも!!」

そんなこんなをやってる間に、
3人の幼女と、その1人に抱かれた赤子が公園から出て行ったのに、だれも気付かないのだった。


165 : 大冒険 :2015/01/07(水) 05:59:14 a4c1b8ts

上条は緊張していた。

(どうしよう、買い物デートだよ!!)

美琴も動揺していた。

(どうしよう、買い物デートだよ!!)

上条の左を美琴が歩く。
上条君に言いたい。
右上には別段なんにもないよ。
美琴君にも言いたい。
足元ばかり見て歩くのは危ない。
2人に言いたい。
熱があるなら帰りなさい。


なにか話題なにか話題。
お、ちょうどいい。

「ちょっとこの書店によっていいかな!?」

「もちろんよろしゅうございますよ!」

よし、会話になった!!

「で、なにしに行くんです?」

「ん?次の授業で『破骨細胞』がもう一度出てくるから、軽く復習しとこうと思って』

「……なんだって?」

「だから、『破骨細胞』よ。数個から数十個の核を有する多核巨細胞で、細胞質は好酸性を示していて酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性をもってるアレがもう一度出てくるから、ちょっと関係する本をざっと流し読みしようって話』

すんません、会話になりませんでした。

「あー、オレマンガのとこいるから、終わったら声かけてくれ」

そういって頭が痛くなる本棚から離れる。
すっかり忘れていた。
彼女はスーパーウーマンだった。
仕方がないじゃないか。
いつもの彼女はただの女の子なのだ。料理が上手で気が利いて、ちょっと短気で照れ屋で、子供が好きで母性に溢れて、笑顔がキュートで……。

上条さん、顔真っ赤です。

頭を振ってマンガコーナーに向かう。
が、途中にエロ本コーナーが出現!!
正常な男子たる上条はチラッと視線が動く。
あれ? あの子美琴に似てないか?
いや、もう少し美琴のほうが美人でって、イカンイカン!!

あわててマンガコーナーに逃避する。
煩悩をはらうために手に取ったマンガ雑誌を開いた。
内容がちょっとえっちいやつだった。
さらに触手にいじめられている女の子が、またまた美琴に少し似ている。

「ごめん、おまたせ!!」

「タイミングがえげつない!!!!!」

「え? いいとこだった?」

「あ、いや、そうじゃなくて、終わりかた!! 次週が気になる終わりかたでさぁ!!」

「なるほどねぇ。あ、密室×密室探偵どうなった?」

「いやぁ、また釣竿だった「何で言うのよ!!」聞いたのそっち!!」

「結果じゃなくて、感想を聞いたの!!」

「さいで」

お、自然に会話できるじゃん。

「じゃ、この雑誌買ってデパートに行くか」

「あれ?」「ん?」

「今、インデックスの声がしなかったか?」

「わたしも聞こえた気がしたけど」

気のせいか。


166 : ・・・ :2015/01/07(水) 06:01:25 a4c1b8ts
以上です。

しまった、タイトルを「大冒険1」に変更をお願いします。


どうぞ、本年も宜しくお願いします。


167 : ■■■■ :2015/01/08(木) 20:01:20 .4Kq/Fs2
あ、…さん生きてた良かった(T-T)
なんか入院とかレスあってピタくりと存在が無くなってたので(ワタクシの中で)死亡説が流布してたんです


168 : くまのこ :2015/01/08(木) 20:49:11 kWz64vLQ
>>・・・GJです!
ヒーロー達は大変だなー(棒)。
今回も面白かったです! 続き待ってます!



また短編書きました。
約3分後に3レス使います。


169 : モテようと思って、イメチェンしようとしてる男がいたんですよ〜 :2015/01/08(木) 20:52:00 kWz64vLQ
「上条さん、イメチェンしようと思ってます」
「………はあ?」

深刻そうな顔をしながら話を切り出されたので、
今度はどんな事件【めんどうごと】に巻き込まれたのかと心配した美琴だったが、
その表情とは180度違う、全く予期しなかった素っ頓狂な言葉が上条の口から出てきたので、
美琴も一瞬、返事をするのが遅れてしまった。

ここは二人の通学路。
学校も学年も違う二人は、本来なら同じ道を歩いて帰宅する事はないなずなのだが、
毎度の事ながら帰宅途中で『偶然』バッタリと会ってしまうので、
もはや二人並んで帰るのが日課となっている。

そのままいつものように雑談しながら歩を進めていたのだが、
ふいに上条が真面目な顔になった。
美琴が「どうかしたの?」と聞くと、上条はおもむろに口を開けて「いや、実は―――」
と話し始めた。が、その結果が「上条さん、イメチェンしようと思ってます」だったのだ。

「イメチェンって…何、アンタ冬休みデビューでもしたい訳?」

グレムリンとの戦いが終わりを告げて、現在季節は冬。
確かにもうすぐ冬休みが始まるのだが、普通そういう事は夏休み明けにするのではないだろうか。

「俺だってこの時期に恥ずかしい事言ってるって自覚はあるよ!
 けどなぁ…このままじゃいかんと思うのですよ……」

すると上条は、嘆息しながらポツリポツリと語り【グチり】始めた。

「何かさぁ…俺ずっとモテないままでいいのかなって。
 いや、確かに『俺なんかと付き合ってくれる子はいない』とは思うんだけど、
 それでも彼女が欲しい訳ですよ。灰色の高校生活は嫌な訳ですよ。
 で、そんな俺を変える為にはイメチェンするしかないのかな〜…ってさ」
「……………」

上条の一人語りに何度もツッコもう【ビリビリしよう】とした美琴だったが、我慢した。
上条が朴念仁【こういうヤツ】だという事は、美琴も嫌と言うほど知っている。

「…で? 具体的には何をどうしたいの?」
「それなんだよなぁ……今までの上条さんとは全然違うキャラにしなきゃ意味ないし…
 それに振り幅がデカいほど、周りのインパクトもデカいだろうしな」

真面目な顔して何を言ってやがるのかコイツは。
そのまま数秒間「んー…」と考えて、上条は閃く。

「あっ、そうだ! 俺様キャラとかどうかな!?」
「ぶふっ!………ばっふーっ!!!」

あまりにもな上条の提案に、美琴も思わず吹き出してしまう。
そしてそのまま「俺様」な上条を想像して、更に盛大に吹き出した。
似合わない。似合わなすぎる。

「なっ!!? そんなに笑う事ないだろ!? こっちは真剣なんだから!」

真剣だからこそ笑ってしまうのだが。

「そ、それにさっきも言ったろ!? こういうのは振り幅がデカい方がいいんだよ!」
「だ、だからって、ア、ア、アンタが、俺様、とか……くくくっ!
 あーーーっはっはっはっはっはっはっは!!!」

美琴はついに決壊した。お腹を抱えて笑う程に。
美琴の反応に、上条は恥ずかしさで顔を真っ赤にさせる。

「〜〜〜っ! じゃあいいよ! もうこの話は無しで!」
「はー、はー……ごめんごめん! 悪かったってば!」

美琴は笑いすぎて出た涙を拭きながら軽く謝る。上条は頬を膨らませて美琴を睨んだ。

「…ホントに悪いと思ってんのか…?」
「思ってるって! お詫びにアンタのイメチェン(笑)に付き合ってあげるから!」

上条がイメチェンしようとしている動機はアレだが、上条の機嫌を直す為にも敢えて付き合う美琴。
というか、こんな斜め上を行く提案なら、イメチェンしようが何しようが結果は同じと判断したのだ。
要するに、美琴も遊び半分である。(笑)とか付いてるし。


170 : モテようと思って、イメチェンしようとしてる男がいたんですよ〜 :2015/01/08(木) 20:52:46 kWz64vLQ
しかし、これが後に美琴を地獄(?)へと叩き落す事となる。

「…じゃあ、練習するから付き合ってくれ」

上条としては何だか腑に落ちないが、練習相手がいるのはありがたい。
デビューするのに、その練習風景をクラスメイトに見せる訳にはいかないし、
インデックスやオティヌス相手では、
これからも一緒に暮らしていく以上、その事をネタにされ続ける。
そういった意味で、美琴は非常にやりやすい相手ではある。何より、

「ま、一番気の許せる女の子って美琴だしな。正直助かるっちゃ助かるよ」

という事だから。
何気ない上条の一言に、美琴は瞬時に赤面させてしまう。
やはり、この男の天然は恐ろしい。イメチェン(笑)とか必要ないだろうに。

「ん゛! んん゛っ! …そ、それで私は何すればいいの!?」

咳払いして感情をリセットした美琴は、あまり上条を目を合わせないように話しかける。

「そうなぁ…とりあえずそこに立っててくれ」
「…? ここに?」

美琴は言われるがままに、ただそこに突っ立った。
ここは何の変哲も無い、ただの二人の通学路。
周りにある物と言えば、美琴の背後に建物の外壁があるくらいか。
上条が何をするつもりかは知らないが、こんな所では大した事は出来ないはずだ。

だが次の瞬間、上条は美琴の正面に立ち、そのまま左手を伸ばしてきた。

「ふぇっ!!?」

と美琴が声を出したのと同時に、上条の左手は壁を叩いた。
所謂『壁ドン』である。
上条が想像する俺様キャラとやらは、少女マンガか何かを参考にしたモノらしい。

「ちょ、あ、あの…か…顔、近、いんだけど…」

せっかくリセットした顔色に、再び赤みが差していく。
だが上条は俺様キャラになりきっているのか、
普段とは別人のような受け答えで美琴を更に困惑させる。

「怖いのか? けど俺をその気にさせたのは美琴なんだぜ?」
「ひゃいっ!!? わわわ、私っ!!?」

ワタワタする美琴。上条はそんな美琴の顎を右手の指で摘み、そのまま持ち上げる。
所謂『顎クイ』である。
普段は幻想を殺す為にあるその右手が、
今は美琴の幻想【ゆめ】を実現させる為に動いているとは、ちょっとした皮肉である。

「えっ、えっ、えっ!!!? ちょちょちょ、それは流石にっ!!?」

と言いつつも、『何故か』ゆっくりと目を閉じてしまう美琴。
大覇星祭中に『床ドン』された時と全く同じ反応だ。

ぴと。

目を閉じていて何をされたのはか分からないが、唇に何かが当たった。
しかしそれは、明らかに上条の唇ではない。唇にしては感触が硬いからだ。

美琴はそ〜っと目を開けて見る。すると、上条が右手の親指で美琴【じぶん】の顎を持ち上げたまま、
人差し指で唇を押さえているのが分かった。
所謂『口チョン』である。
上条はそのままクスっと笑い、顔を更に接近させる。そして美琴の耳のすぐ隣に顔を持っていき、

「キスは…夜までお預けな」

と妙に色気のある声で、甘い言葉を優しく囁いた。
所謂『耳ヒソ』である。

対して美琴は、
上条が想像を詰め込んだ【ぼくがかんがえたさいきょうの】俺様キャラのコンボに、
耐え切れずに顔を爆発させた。
所謂『顔ボン』である。


171 : モテようと思って、イメチェンしようとしてる男がいたんですよ〜 :2015/01/08(木) 20:53:35 kWz64vLQ
 ◇


「こんな感じなんですが、どうでせうかね?」
「ま…まぁ何と言いますか…その………はい…」

数分後、いつもの調子に戻った上条は感想を聞いてみたのだが、
美琴はそれどころではなく、曖昧な返事をする。

「じゃあ…冬休みが終わったら、このキャラで試してみるわ」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってっ!」

美琴の曖昧な返事を肯定的に捉えた上条だが、美琴は慌てて止める。
こんな破壊力のある爆弾を、クラスメイトに投下されては堪ったものではない。
恐らく…と言うか絶対に、上条のクラスメイト達も自分と同様にフラグを建てられているだろう。
という事は、自分と同じような反応になってしまう。それは非常にマズい。なので、

「ま、まだ練習する必要があるんじゃないかしら!?
 ホ、ホラ! いきなり変わったら、それこそネタにされて終わっちゃうわよ!?」

と提案する。
本当は完全に止めさせるのが一番の安全策のはずなのだが、
美琴は何故か練習不足を理由に引き止める。まだ練習が必要だから続けるようにと。
あっ…(察し)。

「う〜ん……それもそうだな」
「だ、だだ…だから………そ…その時はまた私が付き合ってあげるからっ!
 で、ででで、でも私以外の女の人にやっちゃダメよ!?
 ちゃんと完成するまで、練習相手は私だけにしなさいよね!?」
「ん。そっか、ありがとな」

こうして、上条イメチェン化計画は頓挫した。
いや、正確に言うならば終わってはいないのだが、
これで完成版・俺様キャラな上条が日の目を見る事はなくなった。
美琴がこれから付きっ切りの練習相手となる。
という事はつまり、彼のイメチェンが完成する事は一生ないのだから。

「じゃ、じゃじゃじゃあ! さっそく練習の続きを始めましょうかっ!」


172 : くまのこ :2015/01/08(木) 20:54:20 kWz64vLQ
以上です。
ではまた。


173 : ■■■■ :2015/01/08(木) 22:11:16 4KKCBUro
さすがはくまのこさん
旬ネタの壁ドン条さんですか!
破壊力凄そう…///
しかしそんなにミコっちゃんに顔近付けたり触ったりして何も感じないのか?
鈍感すぎる(暴発してしまえ)
気付いたらガチガチになんだろなw


174 : ・・・ :2015/01/12(月) 23:22:22 gX13/XBU
どもども、・・・です生きてます。

最近、ここの上琴が少なくて、うち、寂しい。

>>くまのこさん
本気出した上条さん恐い!!? 
こんなん毎日されたら、周りの女子が血圧上がりまくって死んじゃう!!
ついでにカミやんもぼこられて死んじゃう!!
平和のためによく独占してくれたねミコっちゃん

では投稿しまさぁ。
この長編は、フィクションでちょっと鬱があってインデックスが元気です
それでは


175 : 大冒険2 :2015/01/12(月) 23:24:10 gX13/XBU
夢が溢れるオモチャコーナー。
上条は心を鬼にしていた。

「うちに大量にあるだろ」

「で、でもこのウィンクしてるのはない!」

「右手上がるパターン、左手上がるパターンなどなど、全245種のすべてのゲコ太集める気かよ?」

渋々美琴はもう一度ゲコ太に抱きつき、棚に戻す。
上条はウィンクゲコ太をじーっと見た。

(……うらやましい)

「ねぇ」

「すんません!! そんなつもりはないんすよ!!」

「なにが?」

「あ、いや、どうした?」

見ると、ゲコ太モデルの車がある。
赤ちゃんが座れるようにできていて、ハンドルはあるが動く飾り。
後方についている棒を押して動かす、ベビーカーだ。
きっとあの子は喜ぶだろうし。

「これ、買ったら、ダメかな?」

彼女はいうまでもない。

「はぁ、仕方ないな。いいでしょう」

「やった!!」

「はいはい、かわいい笑顔ですこと。インデックスより喜んでんじゃねえか? さて、そろそろあの食いしん坊を迎えにいくか」

美琴はうなずくと、レジに向かう。
浜面に電話すりゃいいかな?

『な、なんだ? 大将?』

「いや、そろそろ迎えに行こうかと思ってさ」

『ま、待て!! 困る!!』

「へ?」

『い、いやぁ……そ、そうだ!! まだ服の買い物とかして2人でいろよ!! あの子はまだ遊びに夢中でさぁ!! 』

「そっか///// わかった。よろしくな」

ちょうど美琴が会計を終えて戻ってきた。

「どうしたの?」

「インデックスはまだ遊びたりないんだと。仕方ないし、季節の変わり目でバーゲンだし、 秋物の服でも見にいこうか」

「そっか、早く見せてあげたいけど、楽しみはとっておいてもいいよね」

ちょっと寂しいが、2人ともデートが続けられて、少し嬉しいのだった。


176 : 大冒険2 :2015/01/12(月) 23:25:01 gX13/XBU
「ど、どう、かな?」

茶色のワンピースを着た天使が立っていた。
上条は、平静を装い、顔を真っ赤にしながら応える。

「あぁ、驚いた。似合ってるよ」

「ホント!!?」

顔をほころばせる美琴の前に、
ひび割れた理性を突貫工事で修復する上条さん。
彼は考えていた。

(そもそも美人の美琴はなんでも似合うに決まってんじゃねえか!!)

「ね、ねえ、この服の上に着るなら、どっちが、いいかな?」

「ん? えーっと……えー…あー……えー………っと……」

「ど、どうかなってなんで片づけちゃうの!!?」

「どちらも小学生ものじゃん!! ゲコ太が可愛かったわい!!」

「え!!? だから持ってきたのに!!」

「せっかくの大人の魅力が台無しだよ!!」

「えー、じゃあ、また今度でいいや」

「ほんとにも〜……っお? ベビー服か」

「かわいいわね!!」

「これなんかどうだ!!?」

「え? おさるさん? かわいい!! でも、動きづらそう」

「お、見た目の可愛さ優先でインデックスが窮屈になったら意味ねーな」

「これなんかどう? ひらひらがいっぱいついたスカート!!」

「水色でアイツの銀髪も映えそうだなぁ」

「かわいいでしょ」

「が、敢えてこのボーイッシュルックをオレは薦めてみる!!」

「うぅ、ベレー帽ってところが憎いわ!!」

「……」「……」

一方通行にTELTEL。

『よ、よォ、三下。元気か』

「? さっき会っただろ?」

『そ、そういやァ、そうだったな。元気なのはいいことだよな』

「気色悪い。キャラが大崩壊時代ですよ。そろそろ迎えに行っていいか?」

『ダメだ!!』

「へ?」

『ほ、ほら、せっかく2人きりなンだから、もう少し楽しめ。夕飯の買い物でもしたらどうだ? 時間はこっちから連絡するからよ!!』

「え? お、おい『ガチャ』あら? 切れた」

「?」

「まだ時間かかるんだと。……夕飯でも買いにいくか」

「……そうね、そうしますか」

自分たちといるよりも、インデックスはみんなと遊ぶほうが楽しいのだろうか?
ちょっとジェラシー。


177 : 大冒険2 :2015/01/12(月) 23:25:40 gX13/XBU
「「うおっしゃぁぁぁあああ!!卵ゲットぉぉぉおおおおお!!」」

タイムセール。
それは戦場である。
買い物かごを二人で持って、キャッキャウフフな展開を考えた我々のにやにやを返してもらいたい。

「ふぅ、なかなかの収穫だな」

「今晩は腕がなるわね♪」

「なんの予定?」

「オムレツかな?」

「楽しみですなー」

「あ、ミルクも買っとかないと」

「そうだな。そういやぁ、そろそろ離乳食にしなきゃなのか?」

「どうなんだろう? ママに聞いとく」

「おう、ありがとな」

「……」「……」

「ねぇ、もう迎えに行っていいんじゃない?」

「そうすっか」


いつのまにか空は夕焼けに染まっていた。
帰路につく上条と美琴の手には大量の荷物がぶら下がっている。

「持とうか?」

「ううん、大丈夫。……インデックス、喜んでくれるかな?」

「確かに喜んでくれなかったらショック……? おや?」

上条達は公園に入り、固まった。
人数が多い。
インデックス、打ち止め、フレメア、フロイライン、一方通行、浜面という最初の面子のほかに垣根とドレス姿の見慣れない女性がいる。
あと、垣根って白くなかったっけ?
彼らが纏う空気が重い。


178 : 大冒険2 :2015/01/12(月) 23:26:44 gX13/XBU
フロイラインの腕の中で彼女はバタバタと垣根に手を伸ばす。
確実にそれが空気を変えた。
虚を突かれた表情をした垣根は少しして微笑む。
垣根は屈伸の要領で膝を曲げると、インデックスの頭を撫でた。

「今日はもう遅くなりました。また、今度遊びましょう」

微笑みかける垣根に、インデックスは不満だったようだが、しぶしぶうなずく。
垣根は立ち上がると、再び一方通行と浜面を一瞥したが、
そのままなにも言わずに立ち去った。
上条たちが知らない女性を連れて。

「ばいばい!! カブトムシさん!! ってミサカはミサカは元気にあいさつ!!」

「大体ドレスお姉ちゃんもまたな!!」

「さようなら」

ちびたちの手を振る姿を見て、
ようやく上条と美琴も互いに笑顔を浮かべ、彼らの方に歩みを進めた。



一方通行が家のドアの前に立ったとき、もう空は暗くなっていた。
背中では打ち止めが眠っている。
なぜ子供はエネルギーを0にするまで遊ぶのだろう。
一方通行はあの後の事を思い出していた。
浜面が上条に対し成果を尋ねると、アノヤロウ

「いやぁ、やっぱりインデックスがいないと寂しいな」

などとほざいた。
こちらの気もしらないで。
当然ボコボコにして帰路に着く。

上条は思い出すだけでイライラするだらしない笑顔だった。
うんざりしながら家のドアを開けると、またため息がもれる。
家中がキラッキラに輝いていた。
廊下に自分の顔が反射する。
チリひとつ落ちていない。
あの性悪も居場所がないのか、ソファーの上で体育座りしていた。

(……今度はなにしでかしやがった?)

犯人はすぐ見当がついた。
始末書ものの失敗をすると、家を片付ける癖がある家主だろう。
ただ、これほど徹底的なのは珍しい。
相当落ち込んでいる証拠だ。
取り敢えず、打ち止めをベッドに投げようと思ったとき、
リビングに入る影があった。
家主ではなく、その親友である。
が、彼女の顔色も悪い。
片方の眉を上げ、最強はその理由を問う。
その女性は動揺を隠さず理由を伝えた。

「……愛穂が……プロポーズされたって」

一方通行の演算能力を大幅に上回る事態なのだった。


179 : 大冒険2 :2015/01/12(月) 23:27:25 gX13/XBU
おまけ!!

こうして、アウレオルス=イザードは星になった。

「……え? いきなり結論でいいの?」

ドレスを着た少女はついついメタな質問を隣の白い男性にする。

「はい、読者にはお馴染みの展開なので詳細を説明する必要はないでしょう」

説明を聞いても空を見上げざるおえない。
そんな大人の事情も知らず、

「おー、流石カブトムシさんだー。ってミサカはミサカは今は見えなくなったお星さまを眺めてみる」

「ゲコ!! ばーばい!!」

「大体あれは多分このドレスのお姉ちゃんの手下で、シーアイビーの一員なんだにゃあ」

「あれは、ドレスお姉ちゃんの、手下ですね。認識しました」

と、少女達は突然の参加者にも寛大なのだった。
じゃあ、まぁいっか。

「あら、お気に入りの手下がやられちゃった。次の手を考えないと」

まだまだ少女達のスパイごっこは終わらない。


180 : 大冒険2 :2015/01/12(月) 23:28:02 gX13/XBU
おまけ!!

「「ご馳走様でした」」

「ごーしゃまー!!」

オムレツは美味しかった。

「さて、インデックス。今日はパパとお風呂入ろう」

「じゃぶぶ?」

「おう、ジャブブだ」

「よろしくね。いってらっしゃい、インデックス」

「はいよ」「いっまーす!!」

脱衣所の扉が閉まる。
そして、 ゴンッ という音がリビングに響いた。
テーブルに衝突した美琴の頭からモクモクモクモク湯気が出る。

(なんなのよ、当麻!!!)

今日は死ぬかと思った。

(可愛い笑顔とか、大人の魅力とか、うれしい言葉のバーゲンセールなんかしちゃって!!
こっちの気持ちに気付かないくせに!!)

まぁ、てめぇがいうなって感じである。
しかし、美琴は踏ん張ったのだった。
今日も一日頑張った。











「あがりましたよー」

「あぢゃりあうよー」

「ん?………………湯気出しながら寝てらぁ」

「あう?」


181 : ・・・ :2015/01/12(月) 23:29:25 gX13/XBU
以上です。

裏側はいずれまたどこかで


182 : くまのこ :2015/01/15(木) 01:02:08 HwaWEaHk
>>・・・さんGJです!
確かに最近、寂しいッスねー…また賑やかになってくれないかなー…
あ、裏側の方も楽しみに待ってます。



いつも通り短編です。
一端覧祭の話です。
約3分後に3レス使います。


183 : 行列のできるたこ焼き屋 :2015/01/15(木) 01:05:01 HwaWEaHk
一端覧祭。
学園都市で毎年11月に行われる、学園都市内の全ての学校が参加する世界最大級の文化祭である。
『学園都市の科学や超能力を当たり前に受け入れている学生達さえ驚くような』何かを提供する、
という原則【ムチャぶり】が掲げらており、
しかも体験入学やオープンキャンパスの意味合いも兼ね備えている為、
文化祭と言えども学校側としては必死である。

が、それは長点上機学園や常盤台中学などのエリート校から、
中堅クラスの学校までに限った事であって、
上条の通う学校のような所謂底辺校は、あまり真面目に取り組んでいない。
校風は平々凡々、生徒の能力レベルも平均して並以下の学校など、
わざわざ体験入学感覚で訪れる者はいないからである。
実際、上条のクラスの出し物は、何の変哲も無い「たこ焼き屋」であった。
小さい学校の一クラスの出し物なので、屋台も小さく、従業員【クラスメイト】も二人しかいない。
なので一日にお客が20〜30人も来れば御の字だろう…と上条は思っていた。

のはずだったのだが。

「な、何でこんなに忙しいんだよっ!?」
「うるさい! 口を動かす暇があるなら手を動かしなさいよ上条当麻!」

屋台の前には行列ができ、上条と吹寄の二人は慌ただしくタコが入った小麦粉を丸く焼いていた。

「つか繁盛しすぎだろ! しかも何で女性客ばっかなんだ!?」
「何度も言わせるな! 口を閉じろ! そして焼け!」

吹寄は、若干イライラしながら上条の問いに返事をする。
確かに、たこ焼きと言うのはどちらかと言えば男性客のイメージがあるが、
目の前の行列は、九割九分九厘が女性客であった。
その理由が分かるからこそ、吹寄は益々イラつくのである。

恐らく…と言うよりも確実に、お目当ては上条なのだろう。
要するに、ここに並んでいる人のほとんどは、上条にフラグを立てられた人物達なのであった。
上条の手作りのたこ焼きが食べられると、評判になっているらしい。
だがそのせいで吹寄【じぶん】が作った物はハズレ扱いされてしまい、
口には出されないが、受け取ったお客の顔は明らかに不満そうであった。
しかし売り上げが伸びるのは上条のおかげなのも事実であり、文句を言えないのが現状だ。
それでも、一端覧祭が大覇星祭と違って内部向けのイベントなのが、不幸中の幸いとなったようだ。
吹寄は知る由も無いが、そうでなければ外部から一万人弱の美琴そっくりの客が押し寄せてきたり、
二重まぶたが印象的な隠れ巨乳の女性が「全部ください!」とか無茶な大量発注をした事だろう。

吹寄はチラリと時計を見る。そろそろ11時を回る頃だ。と、同時に、

「おーっす、交代に来たぜい。吹寄、休憩入れよ」

と土御門が屋台の外から声をかけてきた。

「丁度いいタイミングね。見ての通り混雑してるから、気をつけなさいよ」
「あ〜…こりゃ青ピが見たら狂喜乱舞だにゃー」

狭い空間で入れ替わる吹寄と土御門。
隣で千枚通しを使ってたこ焼きをクルクルと回している上条は、
二人の様子を横目で見ながら自信なさそうに抗議する。

「…あ、あの〜……上条さんの休憩はないのでせうか…?」

すると吹寄がギロリと上条を睨みつける。

「準備期間中バックレ続けたのは貴様じゃなかったかしらっ!?
 そんな奴に休憩時間が用意されてると思っているの!?」
「…ですよねー……」

思っていた通りの反応に、上条は縮こまる。
ハワイやバゲージシティで魔術組織・グレムリンとドンパチしたり、
昨日もフロイライン=クロイトゥーネを巡る争いに巻き込まれていたりと、
一応は正当な理由【サボったわけ】が無きにしも非ずなのだが、それを口にする事は出来ず、
泣き寝入りするしかない上条。不幸である。


184 : 行列のできるたこ焼き屋 :2015/01/15(木) 01:05:52 HwaWEaHk
 ◇


吹寄と土御門が交代してすぐの事だ。ある客が訪れてきた。
その者は名門・常盤台中学の制服を着て、興味なさそうな『フリ』をしながらも、
ゲコ太型のサイフを握り締めて行列の先頭に立っている。

「あれ? 御坂じゃん。お前も来たのか」

上条が鉄板に油を引きながら話しかける。美琴を目を逸らしながら答えた。

「ま、まぁね! ちょ、ちょろ〜っとヒマだったし、冷やかしに来てあげようかな〜って」

冷やかしに来る為だけに、長い行列で順番待ちなどするだろうか。
しかも美琴は常盤台が誇る二人のレベル5の内の一人だ。
一端覧祭という大イベントの中で、ちょろっとでもヒマが出来るとは思えない。
しかしそこまで考えが及ばない上条は、

「へいへい。そりゃ、ありがとうごぜぇますですよ」

と嘆息する。そんな上条に土御門も嘆息する。

と、その直後だ。土御門はある事を閃いた。
売り上げは見ての通り繁盛しているが、ここで更に売り上げを伸ばす方法を。

土御門と美琴はほぼ初対面に近いが、土御門が暗部に身を置いていた事や義妹・舞夏からの情報で、
御坂美琴という人物がどんな性格をしているかを知っている。
美琴が注文しようとしたその瞬間に、土御門は口を挟んできた。

「じゃ、じゃあたこ焼―――」
「っと、そうだったぜい! 今から特別メニューのお知らせがある事を忘れていたにゃー」
「「……へ? 特別メニュー?」」

聞き返したのは美琴…だけでなく、上条も同時だった。
上条サイドからしても寝耳に水な状態である。

「お、おい土御門。俺、そんなん聞いてねーぞ」
「カミやんはほら、準備期間中にいなかったからにゃー。
 実はこの前、ホームルームで決まったんだぜい」

土御門お得意の「嘘」だ。この『特別メニュー』は、たった今、土御門が思いついたモノである。
土御門はコホンと咳払いすると、後ろの客にも聞こえるように大声で宣伝した。

「えー、今からプラス100円追加でカミやんが『あーん』で食べさせてくれるぜーい!!!
 しかも『フーフー』して冷ましてくれるオマケ付きだにゃー!!!」

一瞬の静寂。
上条が呆れて「あのな、そんなもん誰が喜ぶんだよ」と苦言を呈そうとしたその時、
「「「「「きゃーっ!!!!!」」」」」という黄色い歓声が巻き起こった。

「え? え? 何これ!?」
「さぁ? 何かにゃー♪」

何がなんだか分からない上条は目を丸くし、土御門は想像通りの客の反応にニヤリとする。

「つか勝手にそんな事していいのかよ!?」
「カミやん、いい言葉を教えてやるぜい。…『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』」
「いやバレるだろ! 売り上げと利益が違ったら!」
「あ、そこはピンハネするから平気だにゃー」
「全っ然平気じゃないんですけどっ!!?」

土御門の思いつきなので、当然ながら正規の手続きを踏んだサービスではない。
どうやら土御門は、プラス100円分を自分の懐に入れるつもりらしい。
大方、義妹とデートする際の軍資金の足しにでもする気なのだろう。

と、そんな店員同士【かみじょうとつちみかど】の言い争いを聞きながら、
行列の先頭に立つ客【みこと】は固まっていた。

(え、えええぇぇぇっ!!? コ、コココ、コイツに『あーん』とか『フーフー』とか!
 してもらっちゃうとか! そそそそんな事、人前で出来な……って、いやいやいや!
 そそ、そもそも人前だろうとなかろうと、この馬鹿とそんな事したくないし!
 ひゃ、百円ドブに捨てるようなもんだし!)

と心の中では思いつつも、百円玉を探す美琴。
そんな美琴の心理を読み取ったのか、土御門が小声で話しかけた。

「あー、お客さん?
 ここだけの話オレが交代したらこのサービスも終了するから、チャンスは今だけだぜい。
 今から最後尾に並んで、もう一度店先に来ても、その頃には交代してるからにゃー」
「ふぇあっ!!?」

自分の本心を見透かされているかのような台詞に、思わず飛び上がりそうになる美琴。
だがその手にはしっかりと、350円(たこ焼き代250円+『謎』の100円)が握られている。


185 : 行列のできるたこ焼き屋 :2015/01/15(木) 01:06:46 HwaWEaHk
「さ〜、お客さん。早く決めてもらわないと、後ろのお客さんにも迷惑だぜい」
「〜〜〜っ! し、ししし仕方ないわねっ!!! う、うう、売り上げに貢献する為に、
 そ、そ、そのサービスとやらを追加してあげるわよっ!!!
 わわ、私としては別にいらないんだけどねっ!!?」
「毎度ありだにゃー♪」
「えっ!!? マジで!?」

上条としては、こんなサービス誰も頼まないだろうと思っていただけにビックリである。
ましてや、その第一号が他ならぬ美琴なので尚更だ。

色々とツッコミたい所であるが、しかしここで下手に断ると逆に面倒になりそうだ。
なるべく早くこの客【みこと】をさばかなければならない。まだまだ後ろは長蛇の列なのだから。
上条は「御坂ってそんなに猫舌なのか」と自分を納得させ、出来立てのたこ焼きに楊枝を刺す。
そしてそのまま自分の口元に持っていき、

「ふ〜! ふ〜!」

と息を吹きかけた。

「っ!!!」

自分で注文したとはいえ、その光景は顔を真っ赤に染め上げるには充分であった。
美琴は顔から煙を出して、正に焼きだこのように赤面していた。
そしてそのまま。

「ほら御坂。口を大きく開けて。…フーフーしたけど、また熱いから気をつけろよ?」

上条は楊枝に刺したたこ焼きを、美琴の口元まで持っていく。

「ちょ、ちょちょ、待って! こ…心の準備がまだ…だから……」
「お客さ〜ん…後がつかえてるんだけどにゃー」
「っ! わ、分かったわよ!」

美琴は土御門に急かされ、後ろを振り向く。
先程よりも更に行列が延びているので、慌てて意を決さざるを得ず、
心の準備とやらが出来ていないにも関わらず、上条に言われた通りに口を大きく開ける。
心臓とかもうバックバクである。

上条も上条で「何でこんな事になってんだ…?」という疑問が頭を過ぎるが、
ツッコんだら負けかな、の精神で流れに身を任せる。

「はい、あーんして?」
「…あ………あー…ん……………あむっ…」

美琴の口の中に、熱々のたこ焼きが入ってくる。
素人の手作りながら、外はカリッと中はふわっと出来上がっており、
噛むほどに旨味がジュワっと溢れ出してくる。
ソースとマヨネーズが口の中で絡み合い、後から青ノリとカツオ節と紅生姜の風味が―――
なんてグルメ漫画的表現が出来る程の心の余裕は無い。
と言うか今の美琴には、味わって食べるなんて高等な技術は、できはしないのだ。

「美味いか?」
「……………」

上条の問いに、美琴は返事をする代わりにコクンと頷く。
先程説明した通り味なんて分かりゃしないが、それを言う訳にはいかない。
言ったら『味がしない理由』も伝えなければならないからである。

「はーい、サービス終了だぜい。次のお客さんどうぞー」

行列が続く以上、一舟八個入りのたこ焼きを全部を食べさせる訳にはいかないので、
一個だけ食べさせてもらった美琴は、残りの七個のたこ焼きが入った舟皿を手渡されて、
そのまま横にずらさせる。

が、次の瞬間。

「あっ! 御坂、口の横にソースついてんぞ」
「………にゃ?」

上条が何気なく美琴の顔についていたソースを指で掬い取り、そのまま自分でペロッと舐めた。
そして何事も無かったかのように、作業と続ける【たこやきをやく】。その結果、

「なななななアアアアンタなな何してくれちゃってくれてんのよっ!!!!?」

美琴の脳内処理能力が限界を超えた為、とうとう顔を爆発させてしまったのだった。


 ◇


その後、上条と土御門がどうなったかと言うと、

「全くもう! 上条ちゃんも土御門ちゃんも後で反省文を書いてもらいますからねっ!」

小萌先生に怒られていた。
小萌先生は二人の様子を見にやって来たのだが、タイミングが良いのか悪いのか、
美琴が顔面爆発をした直後であった。
そこで不自然なまでにザワザワとしたお客さん達に話を聞いた所、
土御門の不正が発覚したのだ。上条はその巻き添えである。

結局、上条からのサービスを受けられたのは、幸か不幸か美琴一人だけとなったのだった。


186 : くまのこ :2015/01/15(木) 01:07:46 HwaWEaHk
以上です。
よし、じゃあもう寝よう。
ではまた。


187 : ■■■■ :2015/01/15(木) 15:53:27 Zm08pAoE
>>186 くまのこさんGJです!
あと土御門もGJ!(笑)もうニヤニヤが止まりません。


188 : くまのこ :2015/01/18(日) 09:50:47 GYp6zUzA
連投失礼します。
また短編書いたので、投下しにきました。
約3分後に7レス使います。


189 : 食蜂さんの大誤算 :2015/01/18(日) 09:53:34 GYp6zUzA
「……アイツだったら、こういう時は『不幸だー』とか言うんでしょうね…」

そんな事をぼやきながら、美琴は土砂降りの雨の中を溜息交じり歩いていた。
季節外れゲリラ豪雨にさらされて、あっという間にびしょ濡れになってしまった彼女は、
「今更、雨宿りするのは無意味かな…」と開き直り、真冬の冷たい風雨が肌に当たりながらも、
帰宅の途に就いていた。
今はとにかく自分の寮に帰って、一刻も早くシャワーを浴びて着替えたい。

「へ…へ……へぇっくちっ!!! うー、寒っ!
 ったく、今日は一日中晴天とか言ってたくせに…本当に最近の天気予報って当たんないわね!」

樹形図の設計者が破壊されて以降、確かに天気予報は絶対ではなくなったが、
それにしても外れすぎではないだろうか。と、美琴は不満を漏らす。
とそんな時だ。

「…?」

何故か急に雨が当たらなくなった。一方通行のベクトル変換でもあるまいし。

「…あのなぁ、女の子が体を冷やしたらダメだろ?」

同時に後ろから声をかけられた。聞き覚えがありすぎるその声に、美琴は慌てて後ろを振り向く。
案の定、そこには呆れ顔をした上条が立っていた。
右手に持っている安物のビニール傘を、美琴【じぶん】にも差すようにしながら。
突然話しかけられてビックリするやら、上条の優しい言動にドギマギするやら、
ずぶ濡れ【みっともない】姿を見られて恥ずかしいやら、いきなりの相合傘でドギマギするやらで、
急激にテンパりを見せる美琴。顔に赤みが差しているのは、寒さのせいではないようだ。

「うぇあっ!!? な、そ……あ、ありが、と…」

とりあえず何とか搾り出した一言でお礼を言う。
本当は、他にも言いたかった言葉がたくさんあったのだが。

「これから帰るのか?」
「う、うん…そうだけど…」

美琴の返事に上条は「んー…」と考え込む。そして。

「じゃあその前に、ウチに来てシャワー浴びてけ。
 常盤台中学女子寮【みことんとこ】より近いし、そのままだとマジで風邪引くぞ」
「にゃっ!!!?」

上条からの大胆すぎるお誘いに美琴は固まった。
いや、上条が『そういう意味』で言ったのではない事は分かりきっているのだが、
どうしても頭の中で『そういう事』を想像してしまう。

「濡れた制服は乾燥機にでも……って、どったのミコっちゃん?」
「…にゃ……にゃんれもないれふ……」

真っ赤になった顔を俯かせて、頭から煙を出している美琴を不審に思った上条。
美琴からの返事もどこか元気がなく、ろれつも回っていない。

(…こりゃ早く体を温めてあげないと、本格的に風邪引いちまうな)

美琴の様子を風邪の引き始めだと勘違いした上条は、見当違いな優しさを見せる。
結果的にはオーライだが、やはりこの男は鈍感の中の鈍感である。


190 : 食蜂さんの大誤算 :2015/01/18(日) 09:54:12 GYp6zUzA
上条は美琴の腕を引っ張り、自分の寮へと連れ込むべく歩き出す。
余談だが、この時、美琴が現在ドギマギしている理由の一つに、
「上条と手を繋いだから」が加わった。

そんな二人の様子を、面白くなさそうに見つめる少女が一人。
少女はその苛立ちを隠す事なく、手に持っていたテレビのリモコンを「ガリッ」と噛んだ。

(…豪雨力でびしょ濡れになった時は「ざまぁw」とか思ったけどぉ、
 その直後に上条さんから声を掛けられるとか、どんだけ幸運力が強いのかしらぁ)

食蜂である。
彼女はお気に入りのカフェで紅茶を飲みながら、ボーっと外の様子を眺めていたのだが、
たまたま通りかかった美琴が目に入ったので、そのまま何気なく意味もなく美琴を見ていたらしい。
そんな時にゲリラ豪雨が降ってきたので、
美琴が慌てふためく姿から諦めの境地に至るまでの彼女の動きを、お茶請け代わりにしていた。
が、そこへ偶然にも上条が来た、という訳だ。
店の中からでは会話までは聞こえてこないが、『あの』上条ならばこの後どうするのか、
大体の行動パターンは読める。

(上条さんの事だからぁ、
 『このままだと風邪引いちゃうからぁ、とりあえずウチに来て入浴力で温まってけぇ』
 とか言って、御坂さんを自分の部屋に連れて行こうとしてるって所じゃないかしらぁ…)

ぐうの音も出ない程に、まったくもってその通りである。
食蜂は自分の視界から二人がフェードアウトしてしまうその前に、リモコンを上条に向ける。

(上条さんなら危険力は無いと思うけどぉ、念には念をって言葉もあるしねぇ)

そしてそのままリモコンのボタンを押した。
彼女の能力は「心理掌握」。学園都市最高の精神系能力だ。
美琴には電磁バリアによってその能力は阻まれてしまうが、上条は別だ。
幻想殺し【みぎて】で頭に触れさえしなければ、能力が効く事は実証済みである。

上条に『何らか』の意識を植え付けた食蜂は、一息つく為に紅茶を飲んだ。

(まぁ、これで何も起きないでしょぉ。
 …上条さんはもう『御坂さんを女性として認識しない』んだしぃ)

食蜂はどうやら、美琴に対して性的な感情が湧き上がってこないようにしたらしい。
これで万が一上条が美琴を「フガフガ」してしまう可能性が、万に一つも無くなった訳だ。

しかしまさか『上条が美琴を女性として認識しない』事が、
逆にとんでもない事になってしまうとは、予知能力を持たない食蜂には知る由も無いのだった。


191 : 食蜂さんの大誤算 :2015/01/18(日) 09:54:57 GYp6zUzA
 ◇


美琴を連れて自分の寮に帰った上条は、
まず浴槽の近くに付いているガス風呂給湯器のリモコンの、「追いだき」ボタンを押す。

「今お湯あっためてるから。朝の残り湯だけど、いいよな?」

上条は別に朝風呂派ではないが、実は今朝ちょっとした寝相【ふこう】で、
浴槽の蛇口のハンドル部分に足を引っ掛けてしまったのだ。
当然そのまま水は流れ、浴槽に布団を敷いて寝ている上条は、
自分も布団もびしょ濡れになって、その冷たさで起床するという最悪な起き方を経験したのだ。
皮肉にも今、美琴が置かれている状況と非常に似ている。
そんな訳で上条は、朝から風呂を沸かして体を温めた訳なのだが、しかしそれは。

「って、ちょっと待って!
 そ、そそ、それってつまり、アンタが朝入ったお風呂って事!?」
「…? そうだけど、それが何か?」
「い、いや、その……べ、別に…」

また一つドギマギする理由が増えてしまったが、
あまり気にしすぎると変態【くろこ】みたいになりそうなので止めた。
他人が入った後の湯船に浸かるなど、普通によくある事だ。
まぁ、その他人が上条だからこそ(美琴にとっては)大問題なのだが。

「とりあえずお湯が沸くまで、これで体拭いとけ」
「あ、うん…どうも…」

美琴は上条から渡されたバスタオルで頭を拭きながら、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。

「……あれ? そういえばインデックスとオティヌス【あのこたち】は? 姿が見えないけど…」

部屋を見渡してみたが、上条と同居している例の二人がいない。
ついでに言えば、飼い猫【スフィンクス】もだ。

「ああ、インデックス達なら明後日まで帰ってこないぞ。
 何かイギリス清教の方で大事な会議みたいなモンがあるとかないとかで、
 この前ステイルって奴がインデックスを迎えに来たんだよ。
 で、その間にオティヌスが『何か』しでかさないようにって、
 監視する為にインデックスが一緒に連れてった。
 今更オティヌスが『何か』危険な事をするとは思えないけどな。
 ちなみにスフィンクスは、インデックスの手荷物の中に紛れて、
 一緒にイギリス旅行に旅立ったみたいです。空港の検査で引っかかってなきゃいいけど」

インデックスが危惧する『何か』とは、オティヌスが「世界」をどうこうする危険ではなく、
上条と二人っきりになる事で「上条」にどうこうするかも知れない危険なのだが、
鈍感な上条は当然ながら気付いていない。だがそのせいで、

「へ…へぇ〜……じゃ、じゃあ今、私達って二人だけなんだ〜……ふ、ふ〜ん」

奇しくもオティヌスよりも危険(?)な短髪【みこと】を、
上条と二人っきりにさせてしまっていたのだった。
平静を装ってはいるが、『二人っきりの彼の部屋』と『これからシャワーを浴びる自分』、
という二つのキーワードで否が応でも思い浮かんでしまう情景に、
美琴の頭も心臓も爆発寸前になっていた。
と、そんなタイミングで浴室から「ピー」という安っぽい電子音が鳴り響いてきた。

「おっ! もう沸いたみたいだな。じゃあシャワー浴びてこいよ」
「べあっ!!? そ、そそそそうね! じゃ、じゃ、じゃあ、おさ、『お先』に失礼しまふ……」

誰も「『先に』シャワー浴びてこいよ」とは言っていないのだが。


192 : 食蜂さんの大誤算 :2015/01/18(日) 09:55:47 GYp6zUzA
 ◇


「はぁ…」と美琴は溜息を吐いた。
冷え切った体には追いだきされた風呂のお湯が心地良く染み渡り、少し落ち着きも取り戻せていた。
しかしやはりこのお湯は上条が入ったお湯である事は変わりないので、
油断すると長湯もしていないのに、のぼせてしまいそうだ。なのであまり考えないようにしている。
そんな時。

「美琴ー! バスタオルと着替え、洗濯機の上【ここ】に置いとくからなー!
 あ、それと濡れた制服とか全部まとめて乾燥機に入ってっからー!」

上条が脱衣所から話しかけてきた。

「あ、うーん! ありがとー!」

返事をする美琴。しかし彼女は、物事を深く考えないようにしていた事が災いし、
この時の上条の『とんでもない異変』に気が付く事が出来なかったのだった。
着替えはどこから持ってきたのか。全部まとめてとは、つまり美琴の下着ごとではないのか。
仮に美琴の下着ごと乾燥機に入れたのだとしたら、上条は何故こんなにも平然としていられるのか。

そんな疑問が頭を過ぎるか過ぎらないかという瞬間だった。
美琴は『そんな事』などどうでもよくなるくらいの事件に遭遇する。

「よーし美琴。それじゃあ今から上条さんが、直々に背中を流してさしあげましょうぞ」
「……………………ふぁ?」

突然上条が、腕まくりしながら浴室に乱入してきたのである。
湯船に浸かっていて湯気も立ち込めている為、ハッキリと見られていないとは言え、
美琴【こちら】は生まれたままの姿である。ちなみにDVD版では湯気が消えます。

「なななななななに堂々と入ってきてんのよアンタはああああああああっ!!!!?」

直後、美琴は大声を出しながら、右手で上半身の、左手で下半身の『大事な部分』を隠した。
ちなみにBD版では隠しません。

「何って…だから背中を流してあげようかと」
「いらないからっ!!! いらないから出てってよっ!!!」

美琴は鬼気迫るように叫ぶ。
本能に従えば「お願いします」なのだが、理性がブレーキをかけてくる。
そういう事は『まだちょっと』早すぎる。
そんな美琴とは対照的に、上条は「あ、そう?」と暢気な返事をする。

「まぁ、確かにもう体洗った後みたいだしな。すんません、失礼しやした」

言い残しながら、浴室から出て行く上条。突然やって来た嵐は、突然過ぎ去った。
いやもう嵐どころか地震と雷と火事と親父が全部一遍に来たような感じだったが、とにかく過ぎ去った。

上条がこんな大胆【へんたい】行動を取れるのには、勿論理由がある。
これは全て食蜂の能力で、『上条が美琴を女性として認識していない』からだ。
普段の上条ならば紳士を自称している為こんな事はしないが、
今は美琴に性的興味を抱いていないので、
下着も普通に触れるし、風呂も当たり前のように入っていける。ちょっと悲しい。
しかしそんな事情など知らない美琴は、

(な、ななな、何なのよアイツ……きゅ、きゅきゅ、急にこんな…事……しちゃって…
 わ…私にだってその………こ…心の準備ってもんが―――って! 心の準備って何よ!?
 それじゃまるで『準備が出来たらOK』って言ってるみたいじゃないのよーっ!!?
 だ、だだ、大体アイツが変な事するからっ!!!
 …? でも、ホント何で急に? 今までこんな大胆な事しなかったクセに……
 っ! ままままままさか、まさかアイツ!
 つつつ、ついに私の事を意識しちゃうぃthな得ヴぃjんfひqq@s武っ!!!!?)

色んな考えが錯綜しすぎて、思考が「はじめてのおつかい」状態となっていた。迷宮入りである。

結果的に、美琴はのぼせた。
長考による長湯と、『もう一つの方の理由』による合併症である。


193 : 食蜂さんの大誤算 :2015/01/18(日) 09:56:34 GYp6zUzA
 ◇


風呂から上がった後も、美琴は暫し挙動不審だった。
忙しなくソワソワしているかと思えば、不意にポケ〜っとしたり、かと思えば嘆息したり、
上条の方を向いているかと思ったら目が合った瞬間に電光石火の速さで顔を背けたり。
何しろ、これまでの上条の行動に振り回されただけでなく、
今、美琴が着ているその服は、上条の汗やら汚れやら何やらが染み付いた、彼の私服なのだから。
制服がまだ乾いていないから仕方ない…
とは言え、美琴としてはインデックスの服を借りる予定だったのだ。
しかし上条が「留守の間に勝手にインデックス【あいつ】のタンスを開けるのは気が引ける」と、
そんな正論めいた事を言うので、結果としてこうなった。
だがお忘れではないだろう。上条は美琴の『下着ごと』乾燥機に入れたのだ。
まさか常日頃から替えの下着を持ち歩いている訳もなく、
そして下着まで上条の物を借りる訳にもいかないので、
美琴は今、ノー・パンツ&ノー・ブラジャーなのである。
何も身に着けていない状態から、直接上条の私服を着る。もはやこれは。

(な、ななな、何なのっ!!? 何なのこれ!?
 これ今、私達一体どんなプレイしてんのよおおおおぉぉぉっ!!!?)

しかし上条は冷静である。
こんな状況なのに大して気に留める様子も無く、窓から外の様子を見ている。

「う〜ん…雨、止まねぇなー……ゲリラ豪雨っつーより台風だな、こりゃ」

それはそれで一大事なのだが、部屋の中【こちらがわ】が百大事くらいなので、
止まない大雨など、どうでもよくなってくる。
しかし食蜂の能力が効いている上条は、大雨の方が問題だと思っている。

「まだ制服、乾ききってないし、外も暗くなってきてるし……」

と上条が呟いた所で、美琴はハッとした。
今の上条の話し方からすると、次に言うであろう台詞は―――

「今日はこのまま俺ん家に泊まってけ」
「やっぱりかあああああああああ!!!!!」

美琴は絶叫した。
しかし何故か、『断る』という選択肢は無かったのだった。


194 : 食蜂さんの大誤算 :2015/01/18(日) 09:57:24 GYp6zUzA
 ◇


「う、うん。そういう訳だから黒子、悪いんだけど寮監の目はソッチで何とかごまかし……
 ふぇっ!!? ち、ちち、ちが、違うわよっ!?
 あ…ああ、あの馬鹿の所とか、そんな訳ないじゃないっ!
 えっ!? …いや…ば…場所はその……企業秘密…だけど……で、でも違うから!
 いや、いい! いい! 迎えとか大丈夫だから! …うん、はい。おやすみー…」

ルームメイトへの言い訳も済んだので、美琴は電話を切る。
これで自分の寮に帰らなくても、白井には不審に思われないだろう。別の意味で疑われてはいるが。

美琴は上条のベッドに座り、一度思いっきり深呼吸した。
そして頭の中で、ここまでの状況を整理してみる。

1:ここは上条の部屋
2:上条と暮らしている同居人二人とペット一匹は今いない
3:上条からシャワーを借りる
4:自分が入浴中に上条が乱入
5:自分の制服(下着含む)を上条が乾かす
6:制服がまだ乾いていないので、上条の私服を借りて素肌の上からそれを着ている
7:そのままお泊りコースが決定
8:上条のベッドの上に座る ← 今ここ

やはり、いくら脳内でシミュレートしても、そこから導き出される答えが一つしかない。
しかし今日の上条がどれだけ大胆だとしても―――

(―――大胆だとしても、『そこ』まではしない…わよね…?)

と思いつつも、心のどこかで期待してしまっている自分がいる。
そんな複雑な気持ちが渦巻いている美琴に、相変わらず能天気一直線の上条が話しかける。

「うっし! ちょっと早いけど、もう寝るか!
 明日朝早く起きて、美琴を帰らさなきゃだもんな。
 美琴のとこの寮監って怖いみたいだから、バレたらマズイだろうし」

上条のこの様子から察すると、寝る…というのは文字通りの意味だろう。
つまり睡眠を取る、という意味であって、決して『そっちの意味』での『寝る』ではない。
美琴はホッとしたような、それでいてちょっとだけ残念だったような溜息を吐いて、
横になろうとした。…と、思ったのだが。

「そういう訳で一緒に寝るから、もうちょっと詰めてくれ」
「わっしょおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉいっっっ!!!!!」

お約束である。

「ちょちょちょままま待ってっ!!! い、いいい、いく、いくら何でもそれは!!!」
「いいじゃねーかよ。減るモンでも無いし」

大切な何かが減る気がする。

「それに俺の布団、朝に濡らしたっきり、まだ乾いてないんだよ。
 他に寝られる場所も無いしさ。だからお願い! ……ダメ?」

ちょっと困った顔をしながら両手を合わせてくる上条。
そんな可愛らしく頼まれてしまった日には、こう言うしかないのだった。

「ダメじゃない!」

美琴の長〜〜〜〜〜い夜が始まる。


195 : 食蜂さんの大誤算 :2015/01/18(日) 09:58:16 GYp6zUzA
 ◇


朝である。美琴は結局、一睡も出来なかった。
上条の部屋で、上条の服を着て、上条と一緒に一夜を共にする…
というだけも既にいっぱいいっぱいなのに、文字通り目と鼻の先で熟睡していた上条が、
自身の無自覚フラグ建築能力を遺憾なく発揮し、
眠っているにも関わらず『あらゆるドッキリ』を仕掛けてきたのだ。
そのせいで彼女は現在、絶賛放心状態を継続中なのである。

「ふあ、あ、ぁぁぁ〜……んー…はよー……」

そんな美琴を横目に、ドッキリの仕掛け人【かみじょう】が起床する。

「昨日は良く眠れたか?」

どの口が言うのか。おかげ様で、ある意味『良い夢』は見られたが。
と、ここで上条は何気なく、「右手」で自分の頭をかく。
小さく「パキン」と音がした。食蜂から受けていた洗脳【まほう】が解けたのだ。

昨日の内に上条も風呂に入れば、頭を洗った時にでも解けたのだろうが、
上条は朝(心理掌握される前)に入ってしまったので、「夜は入らなくてもいいか」となったのだ。
上条にとっては不幸な事に、美琴にとっては『富』幸な事に。

さて、洗脳が解けた上条は、今のこの状況を、頭の中で整理してみる。

1 :ここは自分の部屋
2 :本来一緒に暮らしている同居人二人とペット一匹は今いない
3 :美琴がシャワーを借りた
4 :美琴が入浴中に乱入した
5 :美琴の制服(下着含む)を自分が乾かした
6 :美琴の制服が乾いていなかったので、自分の私服を貸して、
   美琴がそれを素肌の上から直接着ている
7 :そのままお泊りコースが決定
8 :一緒のベッドで寝る
9 :美琴を抱き枕代わりにしている ← 今ここ
10:足と足を絡ませ合っている ← 今ここ
11:自分の左手が美琴の背中を抱き寄せている ← 今ここ
12:美琴が自分の胸に顔を埋めている ← 今ここ
13:美琴の着衣が乱れている ← 今ここ
14:ノーパン・ノーブラなので、感触がモロに当たっている ← 今ここ
15:ちょっと胸の谷間とかも見えてる ← 今ここ
16:放心状態の美琴 ← 今ここ

やはり、いくら脳内でシミュレートしても、そこから導き出される答えが一つしかない。
上条は最後に、『あの一言』を口に出した。今まで何回、何十回と耳にした、『あの一言』を。

「……………ふにゃー」


196 : くまのこ :2015/01/18(日) 10:00:00 GYp6zUzA
以上です。
朝からこんなん投下してすみません。
上条さんが「ふにゃー」するっていうオチをやってみたかったもので…
ではまた。


197 : ■■■■ :2015/01/18(日) 10:40:56 exgqAIvA
朝からふにゃああああ!!!
上条さんのふにゃーイタダキマシタ!!!
くまのこさんの上→琴な貴重なバージョンですね
ほとんどが相愛かミコっちゃん暴走ですからね
非常に美味しくイタダキマシタ////


198 : ■■■■ :2015/01/18(日) 13:15:36 gQvR78Bg
BD版ぜひ譲ってください。(>人<;)


199 : コスモス :2015/01/18(日) 23:12:09 mT4qDKFQ
お久しぶりです。1年くらいここに来てなかった気がします。大学で5ヵ年計画が発動するなどいろいろと忙しくて…まぁ暇つぶしにでもどうぞ。


200 : コスモス :2015/01/18(日) 23:14:07 mT4qDKFQ
ある日の自販機前で

美琴「最近あのバカに会わないわね。そりゃまぁ大学入って忙しいのはわかるけど、恋人たるこの私にかれこれ3ヶ月も連絡ないってどういうことなのよ!!!」
  「もしかして私がまだその気でいるだけで既にもう愛想つかれてるとか…!?いやないないな…ないわよね?」
  「まぁもし大学でほかの女に手出してたら監禁してあげるだけなんだけどねー ウフフ…アハハ」

そんな不気味な笑い声を上げる高校生のもとに一人の青年が近寄る。我らがヒーロー上条さんである。

上条(やべえ、大学になれるのに必死ですっかり忘れてたなんて言えねえ とりあえずここは俺の秘技DOGEZAの出番ですね)

上条「よ、よー久々だなーみこっ美琴「あんたねええええええええええ」ちゃん」
美琴「どこの世界に恋人に3ヶ月も音信不通になる奴がいるかああ!!こんのヘタレ彼氏!!」
上条「本当に申し訳ありません!大学のゴタゴタですっかり忘れていまして…どうかこのとおり平にご容赦!!」

一切の無駄が省かれた芸術の域に達しているであろう土下座をなんなくこなす上条さん。普段からどれだけ鍛えられているかがうかがい知れる。

美琴「ふ、ふん!そんな土下座程度で許してもらえると思ってんのかしら?私はそんな安い女じゃないわよ!」

そうは言いながらも顔のニヤつきが抑えられないのか、必死に隠そうとそっぽを向いている。
流石に何年も付き合っていれば彼女の本心が読めるのだろう。

上条(よし、あとはここで一気に畳み掛けて頭を撫でてやれば電撃は喰らわない。上条さんも学習するのだよ(キリッ)

上条「な、なぁみこっちゃんこれで許してくれないか?頼むよ」

これまた慣れた手つきで美琴を抱き寄せ、頭を撫でていく。

上条(勝ったな…!計 画 通 り!)

このまま平穏に事が済むかと思われたその時、誰も予想し得なかった出来事が起きた。

美琴「アンタがそこまで言うなら、今回は特別に許してあげるわ」


201 : 上条提督 :2015/01/18(日) 23:15:12 mT4qDKFQ
???「えっと、特にやることはないの?んー…もっと私に頼っていいのよ?」

美琴「ん?」
上条「げっ」

急に挙動不審になって慌ててPCで何かを確認する上条。

美琴「アンタなにやってんの?それにさっきの声…女の子よね?なにスカイプでもしてるのかしら?ちょっと見せてもらうわよ」
上条「やめろ、やめるんだ美琴!俺にもプライバシーはあるんだ!!」
美琴「そんなもん守ってたらアンタのハーレムができちゃうじゃない!おとなしく観念してさっさとそれを渡せええぇ」

PCをかけて必死の戦いを繰り広げているが、戦況は美琴に有利。当然といえば当然だ。結局上条さんが尻に敷かれる構図は既に完成してる。今更ひっくり返るものでもないのだろう。

激戦の末上条からPCを奪うことに成功した美琴の視線は画面に釘付けになった。
まず目に飛び込んできたのは、右の方に立っている可愛らしい女の子。
なにかのゲームなんだろうということしか理解できなかった美琴は即座にこういったことに詳しそうな知り合いに連絡を取る。

美琴「あ、もしもし初春さん?今ちょっといいかしら。写メで送ったものが何かわかるかしら?」
初春『はい、これは巷でブームになっている擬人化された軍艦の某育成ゲームですね』
美琴「育成?この右の子を?」
初春『そうですね、その子以外にもレベル上げできるんですけど、たいていそこの子は秘書艦と言って提督の一番のお気に入りの子なんですよー』
美琴「へ、へーこの子がお気に入りね…」
初春『しかもこのゲーム面白いイベントがありまして、レベルを99まで上げるとなんと結婚できちゃうんですよ!これをケッコンカッコカリなんて呼んでます』
美琴「レベルが100超えてる子がたくさんいるのだけれど…?」
初春『結婚しなければレベルが99から上がるということはありません。なので100レベル以上の子とは全員結婚したということになりますねー』
美琴「ほーう。そう…ありがとね初春さん。また」

情報を整理しよう。今画面には指令Lv115とLv100超えのキャラが14人、さらに結婚待ちのLv99のキャラがざっと30人はいることを示す文字が並んでいる。

上条「違うぞ美琴!これは遊びじゃない!これは仕事…そう仕事なんだ!日本を守る立派な仕事なんだ!」
美琴「……」
上条「\(^o^)/」
美琴「とうまー最期に言いたいことはあるかしら…?」

上条(朝潮のための指輪買ったんだけどなぁー渡せなかったなぁ)

上条「やっぱ駆逐艦は最高だぜ!」

その日上条当麻は3度目の死(仮)を迎えることとなった。


202 : コスモス :2015/01/18(日) 23:17:11 mT4qDKFQ
以上です。これからはたまに駄作置きに来ますw温かく見守って下されば幸いです。ではー


203 : ■■■■ :2015/01/19(月) 00:01:44 hzezNJt.
艦これw


204 : ■■■■ :2015/01/19(月) 15:23:32 u1iQgYuQ
楽しいけど
艦コレ如きにミコっちゃん負けちゃうのか


205 : ■■■■ :2015/01/20(火) 00:21:04 R4ofCO4I
レールガンを搭載した戦艦を建造して美琴と命名すればよい。


206 : ■■■■ :2015/01/20(火) 19:22:37 UXGD79lA
ミコっちゃんがイタく書かれてるのより正統派イチャイチャが読みたい


207 : ・・・ :2015/01/20(火) 23:37:06 JjZCt5.k
ども・・・です。

極寒ですね。上琴の季節ですね!!
上琴の2人は山で遭難して、互いの体温で暖を取れ!!

では、感想を

くまのこさん
>>186
※注 この上条さん、腹に穴開けてます。
いや、長蛇までできるとは……確かに過去の分のフラグもあるだろうしなぁ
どこかから「とうまは相変わらずとうまなんだよ」という声が聞こえた

>>196
……よく見ると、いつものラッキースケベと同じじゃねぇか
でも、上条さんはふにゃ〜〜してくれて、私はニヤニヤ
でもミコっちゃんは意識ないんだろうなぁ

コスモスさん
おかえりなさい!! またコスモスさんの作品が読めて感激!!
115? ゴミですね。美琴の司令レベルは50000です(笑)
ただの夫婦喧嘩ですね、カミやん大破!!


ではでは投稿します。
この長編『育児日記』は
フィクションでオリジナル設定多数で鬱がちょっとあって美琴がママです。

それでは


208 : うえでぃんぐ :2015/01/20(火) 23:38:18 JjZCt5.k

『へ? 好みのタイプ? ……寮の管理人のお姉さん? 』

『うるせーよ、憧れなんですよ。優しい包容力とか母性本能とか!!』

『ん? お前の姉? 確かに優しい包容力と母性本能があるのは認めるし、美人で可愛いと思うよ』

『しかし、お前の姉ちゃん短気で怖いじゃん。もう少し丸くならねーと、嫁の貰い手も見つから……あれ? どちらへ行くのかね、そんな全力疾走で?』

『ハッ!? 後方から殺気!!? お、おう、いつからいたんだい? あぁ、全部聞いてた? じゃあちゃんと褒めたのも……あ、そっちは聞いてなぎゃぶべ!!』




システム復旧率4%


209 : うえでぃんぐ :2015/01/20(火) 23:39:07 JjZCt5.k

空が少しずつ明るくなるころ、
上条宅に侵入者がいた。
その気配に、上条は目覚める。
はっきりしない視界に入ったのは、見知った人物だった。

「御坂……妹?」

「アナタとお姉さまに、お願いがあります……ミサカと、ミサカの妹達を助けてください、とミサカは2人が同じベッドで寝ていることに衝撃を受けながらも、目的をきちんと果たします」


うぇでぃんぐ

日曜の朝は子供アニメの独壇場だ。

最近、インデックスは物に掴まって立てるようになった。
今もソファーに掴まり立っている。
それだけではない。
テレビに映っているゲコ太が踊るリズムに合わせて、ひょこひょこしゃがんだり、立ったりを繰り返す。
上条達が「インデックスダンス」と呼ぶそれを披露している。

その横で同じタイミングで揺れる頭が2つ。
もちろん美琴と御坂妹だ。
3人とも視線がテレビに釘付け。
上条はため息を吐きながら尋ねる。

「御坂妹、お前は何しにきたんだよ? まさかわざわざゲコ太を見にきたんじゃねーだろうな?」

「違います、とミサカはもうそれでいっかなぁと妥協しつつも否定の姿勢は見せておきます」

「じゃあ、いいかげんなにすればいいか教えてくれませんか?」

テレビから目を離さず、そろそろのはずです、と彼女は呟く。
上条と美琴が疑問を感じたとき、玄関のドアが吹き飛んだ。
直したばかりなのに。
そちらに目を向けると、メチャクチャ動揺している一方通行が立っていた。
が、次の瞬間には上条とともに消えていた。
さすが上条、拉致されるプロである。

「な、なんだったの?」

「だぁ、ぱーぱ、あくーた、たゃぁう?」

「駆け落ちです、とミ「え? そ、そんな、当麻が……で、でもあまりに女性に興味を示さないし、わたしが一緒に住んでもなんにも感じてな」いやいや信じんなよ、とミサカは……マジかコイツ」


210 : うえでぃんぐ :2015/01/20(火) 23:39:58 JjZCt5.k
少しして上条は困っていた。
公園まで拉致されたと思ったら、
拉致した犯人は無言でうなだれたままだ。
なんなんだよ。

「どうしたんだよ? オレがここにいる理由はなんなんだい?」

どいつもこいつも説明能力が無さすぎる。

「……三下ァ」

「?」

「よ、黄泉川がよォ」

「おう」

「ぷ、プロポーズされたんだ」

「へぇ……おめでとう」

「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか――ッ!!!!!」

「ま、まてまてまて!! 黒い翼が出てるって!! 落ち着けって!!」


211 : うえでぃんぐ :2015/01/20(火) 23:40:37 JjZCt5.k
公園に上条の絶叫が響いたとき、
美琴もまた、ビミョーな顔で固まっていた。
ここは、黄泉川宅である。
美琴はインデックスを抱えてソファーに座っていた。
横では10032号が無表情で紅茶を飲み、作り方が下手くそだと酷評している。
で、3人の前では面倒な展開が繰り広げられていた。

「黄泉川の結婚式はどうなるかなぁ? きっとおとぎ話のような素敵なものになると思うの、ってミサカはミサカはどうやったら新郎に毒を飲ませられるか考えながら微笑んでみる」

ちょっと待て後半。

「えー、そんな結婚式ミサカはつまんなーい。
そうだ!! 2人が式場から出た瞬間、お米を投げつけて、その恥ずかしい姿を激写してやる!!」

悪どい顔でライスシャワーの計画をたてる末の妹。
なんだこれ?

「見てわかるとおり、黄泉川さんのご結婚の話が妹達の司令塔と悪意に大きな混乱を与えています。これが他の妹達にまで派生する可能性があるのです。とミサカは説明責任を果たします」

正直なにが問題なのかわからない。

「このままでは、まったく関係のない私達が式場を戦場にしてしまうかもしれません、とミサカは実はやべぇぞと戦慄します」

あ、それはヤバイ。
美琴が納得したとき、玄関から人影が現れる 。
困った顔した上条と、暗い闇を背負った一方通行だ。
ただしその闇はコメディ色が強い。

とはいえ、こんなの相談されたところでどうすればええんや?

そんなとき、救世主現る。
芳川だ。

「さぁ、アナタたち、支度しなさい」

「へ? どこか行くの? ってミサカはミサカは当然の疑問を提示してみる」

「今、愛穂が下見をしている式場よ。祝うにしろ反対するにしろ、相手の顔は見とくべきでしょ!!」

そこからの行動は早かった。
ドタバタと外出の支度を整えた一同は2台のタクシーで出発した。





冷静になって、なんで自分達も着いてきたのだろうと、今更ながら思う上条達なのだった。


212 : ・・・ :2015/01/20(火) 23:41:41 JjZCt5.k
いじょうでありんす


213 : 我道&くまのこ :2015/01/21(水) 21:07:04 gnA6j6.s
>>コスモスさんGJです!
お久しぶりです〜! 艦これやってないんでよく知らないですけど、面白かったです!
上条さんのフラグ能力はゲームの中でも健在なのかw

>>・・・さんGJです!
黄泉川先生の結婚イベント、すげー気になります!
いつもながら、続きお待ちしてますぞー!



どうも、くまのこです。
こぼれ話の続きが完成したので投下しますです。
大覇星祭編ラストです。

今回も我道さんとの合作です。

約3分後です。8レスです。
です。


214 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:10:01 gnA6j6.s
初春「さ! いよいよ大覇星祭最終回ですよ御坂さん!」
美琴「あー……うん、そうね……」
上条「? どうしたんだ御坂。やけにテンション低いな?」
美琴「んー……黒子の意識がまだ戻ってないし、ねぇ佐天さん?」
佐天「あれ? 何だか御坂さんの目が怖いんですけど?」
美琴「ほほぉ。どうして黒子が白目を向いているのかを忘れたと?」
佐天「あはは。そんなわけないじゃないですか。大丈夫ですよ。あと5つ数えると目を覚ましますから」
美琴「ふーん。じゃあ数えてみるね。5、4、3、2、1――」
佐天「0! はい!」
上条「って、俺の右手を白井の頭に付けるのかよ!!」
白井「はっ! わたくしはどこ!? ここは誰!?」
美琴「うわ。ベタな反応……って、あっそうか。さっきの金属バットもどきは『異能の力』だからそいつの右手が触れると打ち消されるってことなのね」
白井「ううん……はて? どうしてわたくしは気を失ってましたの……?」
佐天「ふっふ〜ん! どうです! この完璧な計画!!」
初春「あれ? でもさっきの『月に吼えるもの【ルナジジョーカー】』って、『異能の力』じゃなくて『宇宙の科学技術』で作られたものじゃなかったでした?」
佐天「……」
美琴「……」
初春「……」
佐天「細かいこと言いっこなし! 白井さんの目が覚めたんだからいいじゃないですか!!」
上条「なんか、すげーゴーインなんだが?」
佐天「ささ。では全員揃ったところで始めましょう!!」
美琴「佐天さん!? 人の話を聞きましょうよ、ねえ!?」


215 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:10:48 gnA6j6.s
「お二人を荒事に巻き込むなど…申し訳ないと感じなければいけないはずなのに わたくし… 嬉しい気持ちが止まらないのです」
 ――――
「わたくし 常盤台に転入して本当によかったです」


佐天「おー! 婚后さん赤くなってる! 可愛いですね〜!」
初春「婚后さん、お怪我の方も大した事なくて本当に良かったですね」
白井「ま、簡単にくたばるようなたまではありませんし」
佐天「そんな事言って〜! 白井さんも心配だったクセに♪」
白井「わ、わたくしは別に…」
美琴「それにしてもこの時の婚后さんの言葉、湾内さんや泡浮さんが聞いたらどんな反応するかしらね?」
初春「ふふっ。きっと婚后さんと同じ事を言うんじゃないでしょうか」
佐天「は〜あぁ! いいな〜! あたしも常盤台入りたかったな〜! …あ、でもそうなるとアケミ達とは一緒になれなかったのか……う〜ん、難しい所だね…」
初春「その前に、私達のレベルじゃ常盤台には入学できませんよ? …私もお嬢様生活を送ってみたかったっていう願望はありますが…」
上条(んー…微妙に入り込めない話題だな……)


「おねーさまー!」
「御坂さんこっちこっちー」


美琴「こんときは嬉しかったなぁ。事情があったって言ってもみんなに忘れられたのは正直悲しかったもん」
白井「わたくしは例え記憶喪失になったとしてもお姉様のことだけは忘れませんの」
初春「思いっきり忘れてたじゃないですか」
美琴「ううん。確かに記憶からは消えてたけど、黒子は私のことを『完全に忘れてた』わけじゃ無かったわ。まだ治りきってない体で協力してくれたのよ」
白井「お、お姉様! お姉様がわたくしに優しい言葉をかけてくれて笑顔を向けてくださいますとは!!」
佐天「あれ? どうしたんですか上条さん?」
上条「あ、いや……『記憶喪失』って単語にトラウマが……」
美琴「えー? アンタまだ引き摺ってんの? もう私(とあのちっこいのも)知ってんのに気にする必要ないじゃない」
上条「アホか! まだ父さんと母さんやクラスのみんなには言ってねえんだよ!!」
佐天(☆_☆)きらーん!
初春(☆_☆)ぴきーん!
白井「? 二人ともどうしましたの?」
初春「御坂さん! 他の人には言えない上条さんの秘密を知っているんですか!!」
美琴「はっ!」
佐天「ふっふっふっふっふ。つまり! 何か大事な秘密を上条さんは御坂さんだけに伝えてるってことですね!!」
上条「……いやまあ、一応そういうことになるの、かな……? もう一人知ってるのがいるけど、御坂の方に先に教えたことは確かだし」
美琴「ば、ばか! 何意味深に言ってんのよ!!/// 誤解を招くように言うな!!///」
白井「ほっほ〜〜〜う? 上条さんの秘密をお姉様に『だけ』伝えたと……? いったいどういうシチュエーションでそうなったかを是非詳細にお聞かせ願えませんか……?」
上条「し、白井さん……? 何故あなたは金串を俺の首筋に付きつけているのでせうか……?」


「初春ったらまたゲテモノを…」
「いっ イチゴもんじゃはゲテモノじゃないですよっ!」


佐天「いや〜、ゲテモノでしょ」
初春「違いますって! 皆さんはどう思いますか!?」
上条「と、言われましても…」
美琴「学園都市って研究所とかの実地テストで変な商品で溢れてるからね。外の世界だとゲテモノでも、中だったらOKなんじゃない?」
佐天「えー?」
初春「ほらー!」
上条「いや、中でもマズイもんはマズイだろ。いちごおでんとガラナ青汁は二大地獄とか、御坂言ってたじゃねーか」
美琴「だって、おでんにイチゴは無いでしょ普通」
佐天「おでんがダメなら、もんじゃもダメですよ!」
初春「おでんともんじゃは全く別の食べ物じゃないですか! ちなみに私は、いちごおでんも有り派です」
美琴「いやいやいやいや。おでんは無いって」
初春「それに佐天さん! 変なジュースシリーズでも、ヤシの実サイダーはお好きじゃないですか!」
佐天「アレはヒット商品でしょ!? 次元の壁を越えて、リアル世界でも売れたんだよ!?」
上条「まぁ…最悪腹が減ったらどれも食えなくもないけどな」
白井(何だか変に盛り上がっていますが…『全部ねーよw』という意見は誰からもありませんの…? あ、でも西瓜紅茶は美味ですが)


216 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:11:52 gnA6j6.s
 彼女(食蜂操祈)にも彼女なりの正義や信念があるのなら――…
 いつか歩み寄れる日が来るかも――…そう思える


美琴「……こんな風に考えたのは多分魔が差したのね。それ以外に思い当たる節がないわ」
佐天「御坂さん? 笑顔なのにちっとも目が笑ってませんよ?」
白井「ふん。あの牛乳女とお姉様が歩み寄れるはずがありませんわ」
初春「白井さんはその人を知っているんですか?」
白井「まぁ、同じ常盤台の方ですし、お姉様の足元にも及びませんけれどもレベル5の方ですから」
上条「ほへぇ。さすが常盤台だな。レベル5が二人いる学校ってお前らんトコだけだろ。で、そいつってどんな奴? どんな能力?」
美琴「食蜂よ。食蜂操祈。前回、アンタに教えたし、今回の大覇星祭こぼれ話シリーズでⅤからⅦまで一緒だったじゃない」
上条「は? 誰だそいつ? いつ教えられた? というかそんな奴いたか?」
美琴「……前回も聞いたけど、マジで言ってんの?」
佐天「そう言えば、前回も『食蜂』って人をまるっきり覚えてませんでしたね。まあ上条さんが御坂さん以外の女の人を覚える気がないのは分かりますけど、あたしや初春、白井さんのことは覚えているのに、それはさすがに不思議ですよ」
美琴「さ、佐天さん!? 何かさらっととんでもないこと言ってない!?///」
初春(あ。食蜂さんって人のことを追求する気なさそう)


「御坂さん、お腹はもういいんですか?」
「え? なに?」
「屋台の食べ物に当たってお腹を壊したって…」
「一日中、お手洗いに篭って外に出られなかったんですよね?」
「迎えに来た食蜂派閥を威嚇してトイレに籠城したと、この話題で校内持ち切りですわよ」

 よし殺そう


白井「さ……流石は腐ってもレベル5の精神操作系能力者……まんまとわたくしも騙されてしまいましたわ……」
美琴「分かってくれて嬉しいわ」
上条「お、おい御坂? 何で白井をこんがりミディアムにしてんだ……?」
佐天「言い方とこの時の表情がまずかったんでしょうね」
初春「完全に八つ当たりですけど」(^^;)


≪位置についてよーい…パーン≫
「うおおおおおっ!!」ぐるぐる
「うぷ。目が回って能力が…」
「佐天さん、トップです」
「フフ…バットの扱いならお手のものよ!」


上条「うお!? すげーな佐天さん! 個人競技でトップってそうそう取れないぞ!!」
佐天「ふふん。今でもこの時の1位リボンは宝物で部屋に飾ってありますよ」
初春「はぁ……ホント羨ましいです……柵川中でも個人競技でトップを取った人って数えるほどもいなかったんですから……」
美琴「そんなに凄いことなの? 私、この時の大覇星祭だけで十以上貰ったけど」
白井「ふぅ。わたくしも体調万全で参加できてさえいれば、いくつか獲れた自信はあるのですが……」
佐天「……」
初春「……」
上条「何か今、初めて御坂と白井に殺意が湧いた」
佐天「これが学園都市格差社会の現実、ってやつなんでしょう……」
初春「……今度、白井さんにたくさん事務仕事を押しつけて差し上げます」


「風神・雷神コンビ」
「復活!!」


上条「……なぁ、御坂。このコンビ名、何気に気に入ったのか?」
美琴「いや、まぁ…大覇星祭のノリで……」
初春「ちなみに、上条さんと御坂さんがコンビを組まれたらどんなコンビ名をつけますか?」
上条「うえっ!? え、えと……げ、『幻想電磁』…とか、『上条美琴』とか?」
初春「…な、何だかカップリング名みたいですね……///」
美琴「ぶっふぉうっ!!? かかか、かみ、『上条美琴』ってっ!!? 『上条美琴』ってアンタそれもう完全にあのそのふにゃー///」
佐天「だったらいっその事、更に縮めて『上琴』とかどうですか!?」
上条「シンプルすぎねぇ? まぁ、別にそれでもいいけど」
美琴「ええええええええええ!? いいの!? それホントにいいの!!!?!///」
白井「よーし全員わたくしの敵ですのね!? OK、よーく分かりましたのっ!!!」


217 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:12:47 gnA6j6.s
「七日間あった大覇星祭もついに終わりですねー」
「長かったよーな、あっという間だったよーな」


美琴「あ、私、飲み物買ってくるよ。みんな何がいい?」
初春「え?」
上条「あん? 急にどうした?」
白井「原作再現ですわ」
佐天「おっと。どこへ行く気です御坂さん?」がしっ
美琴「あ、ありぇ〜〜〜? さ、佐天さん? 佐天さんのセリフは『いっ、いいんですか?』じゃなかったかなぁ〜〜〜?」
白井(ちちぃ! やはり佐天さんは引っかかりませんの!!)


「あ」
「見て見てフォークダンスやってる」
「ま、一緒に踊る相手がいないけどね」
「右に同じです」
「体調さえ万全ならお姉様と…」


上条「なぁ。ちょっと思ったんだけどフォークダンスって女同士でもOKだったんか?」
初春「いえ。男女ペアじゃないと参加できません」
白井「ルールは守るためにあるものではなく、破るためにあるものですわ」
美琴「風紀委員がそれ言っちゃマズイでしょ?」
佐天「ですよねー」
初春「あ、でも例外的に男性同士なら大丈夫です」
佐天「大丈夫じゃないし」
初春「ルールは守るためにあるものではなく、破るためにあるものですから」
美琴「だから風紀委員がそれ言っちゃダメだって」


「あれ?」
「上条さん!!」
「やっ」
「よかった。借り物競走のお礼 ちゃんと言えなかったから」
「あー…そうでしたっけ?」
「よかったら屋台で何かおごらせてくれ」
「いや〜そこまで気を遣わなくていいッスよ?」


白井「佐天さん、どうです? 上条さんを頂く気はございませんか?」
佐天「いやぁ……それなんですけど……そのぉ……」
初春「この時点ですでに佐天さんには上条さんに興味がないことを示している会話ですから」
上条「だよな。借り物競走のお礼のこと忘れてるわ、奢りを拒否するわ」
白井(チッ……)
美琴(ほっ……)
佐天「ん? 御坂さんから何か『ほっ……』って声が聞こえたような?」
美琴「ききききき気のせいよ気のせい!///」
上条「そもそも俺に興味を持ってくれる女の子なんて、なかなか………って、何でみんなそんなに微妙な顔してるのさ?」
美琴「…いやー、アンタの『ソレ』、もう何回目だろうなー…って」
上条「?」
佐天「だ〜か〜ら〜! 上条さんの事を好きな女性なら目の前むぉがががっ!!!?」
白井「ふ〜…セーフですの」
初春(佐天さんの口の中にハンカチが詰め込まれてる! 白井さんがご自分のハンカチを佐天さんの口の中に空間移動させて、佐天さんの口を塞いだんだ!)


「おまたせー!! ええっ!? アッ アンタがなんで… ってか知り合い!?」
「お守りを借りた縁で」
「おおおおおお守り!? …どゆコト?」
佐天&初春
((ピン))
「はー借り物競走 そ、そーなんだ」
「あー上条さん?」


佐天「あたしのターン!! ドロー!!」
美琴「いやいやまあ確かにそうだけどさ!!///」
初春「ついでに私のターンでもあります!! 佐天さんに――じゃなくて、ひょっとして御坂さんに協力するって意味になるのでしょうか!!」
美琴「いやいや明らかに佐天さんと共謀だから!!///」
上条「なあ白井? あいつらはいったい何を言ってるんだ?」
白井「ウフフ。我が身が愛おしいのでしたら知らない方がよろしいですわよ。ウフフフフフフフ」
上条「そ、そうか……」


218 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:13:37 gnA6j6.s
「借り物競争お返しに…と言っては何なんですけど フォークダンスを一緒に踊ってもらえませんか?」


佐天「更にあたしのターン!! フィールドに上条さんを召喚!! そしてカードを一枚セットしてターンエンド!!」
白井「トラップカードですのぉーっ!!! 今セットした伏せカード、絶対トラップカードですの!!!」
佐天「さぁ? 一体何の事やら♪」
上条「つかこの時も思ったんだけどさ、何で俺とフォークダンス踊る事がお返しになるんだ?」
佐天「さっき言ったじゃないですか。『一緒に踊る相手がいない』って。せっかくの後夜祭ですから、こうなったら即席カップルでもいいからダンスパートナーが欲しかったんですよ」
上条「ああ、なるほどな」
佐天(勿論、『本当の理由』は別ですけど♪)
上条「あれ? でも結局、後から来たのは御坂だったよな。……何で?」
美琴「うぇあっ!!? な、ななな、何でって言われても…その……///」
佐天「ふっふっふ…それについてはこの後の展開を見てもらえれば分かります!」
初春「佐天さん、何だかとてもイキイキしてますね!」
白井「……わたくしは逆にイライラしておりますがっ!」


「わ―――ッ」
「えぇ!?」
「おおおおおおおおお!!! いまごろ障害物競走の影響がぁ〜!!」
「ちょ…っ 大丈夫!?」


上条「………え、えっと…大丈夫だったのか…?」
佐天「はい! この時『何故か突然』左足にキたんですけど、すぐに治りましたから!」
上条「にしても見事に転んだな〜…」
白井「うへへへひゃははは……お望みとあらば、今すぐにでも貴方の足をへし折ってさしあげますが…?」
上条「いや、お望んでねーわ。どっから出した、その釘バット」
初春「んー…白井さんがそろそろ我慢の限界っぽいですね」
白井「限界など初めからK点超えしてますわよ! ああぁ…この後の展開を思い出すだけでも憂鬱なのに、それをリプレイされるなんて…」
上条「この後の展開って、白井が『時間切れ』とか言いながら俺にドロップキックしてきた事か?」
白井「その直前じゃボケェ!!!」
上条「その直前って言うと…御坂とフォークダンスしてる所…?」
美琴「………///」
初春「御坂さんも限界っぽいですね」
佐天「そうだね。これはもう、K点超えしてるね」
美琴「い、今話しかけないで……この後の展開を思い出すだけでも憂鬱なのに、それをリプレイされるなんて…///」


「これは足をひねってしまったかもしれない可能性がぁ〜!」
「いけませんお姉様ッ!! これは罠でモゴッ!?」


白井「ほら出ましたのー! 伏せカードオープン! 『足をひねったとか言って実はお姉様と類人猿を…』が発動したではありませんかっ! こうなったらわたくしが直々にモゴッ!?」
初春「はい、白井さんは少し黙っていましょうね〜」
白井「ムグムグッ!!!」
上条「…? 何か白井が言いかけてなかったか?」
美琴「ききき気のせい気のせいっ!!!///」
佐天「そうそう、気のせいです♪」


「うーん これだと激しい動きは難しいなぁ… あ そーだ! 御坂さん代わりに踊ってくれます?」


上条「なるほどね。それで御坂が俺と踊った訳か」
佐天「そういう訳です!」
上条「けどそれじゃあ佐天さんへのお礼になんないんじゃ…?」
佐天「あ、大丈夫です。お二人が踊っている姿を見てる方が色々と楽しいので、あたし的にはそれがお礼代わりになりますから」
上条「………へ?」
美琴「なああああぁぁぁん!!! 違う違う違う違うっ! ア、アンタと踊る約束しちゃった以上、誰か代役を立てないとアンタに悪いって佐天さんは思ったのよっ!!! それだけだからっ!!!///」
上条「…何故に美琴センセーが佐天の代弁をしているので?」
美琴「いいから気にすんなっ!!!///」
白井「ムグムグ、ムグーッ!!!」
初春「はいはい白井さん。もうちょっと我慢しましょうね〜」


219 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:14:17 nJHplF6M
「だ…だけど…急に…そんな 準備が…ま またの機会に…」


佐天「準備って一体何のだろうね2828」
初春「それは勿論『心の』、でしょうね2828」
佐天「じゃあ何で心の準備が必要なんだろ2828」
初春「お相手が上条さんだからですよ2828」
美琴「2828すんの止めてーーーっ!!!///」
上条(『俺が相手だと』…って、どういう意味なんだろ…? 心なしか、何かドキドキしてるんですけど)
白井「…っ、ぶはっ!」
初春(あ。強引に腕を解かれました)
白井「ええい、大人しくしてれば貴女方好き放題してくれましたわねぇ! 覚悟はできておりますの類人猿!!!」
上条「『貴女方』って言ったのに、何で俺に矛先を向けるのかそれを知りたい!?」(何か大切な事に気付きそうだったのに、それどころじゃなくなっちまったよ)


「踊ってくれます よね? どんちゅ?」
「イ…イエスアイドゥー」


上条「すげー迫力だな」
佐天「だって御坂さんったら、何だかんだ言い訳して逃げようとするんですもん!」
美琴「いい、いや、その、け、決して逃げるとかそういうんじゃないんですけどその…///」
上条「美琴さんは俺と踊るのがそんなに嫌なんですか? 上条さんショックです」
美琴「ち、違うわよっ!!! 私だって本当はアンタと一緒に踊―――……」
白井&初春&初春「「「!!!?」」」
美琴「…あ、いや………何れもないれふ…///」
初春&佐天「「惜しいっ!」」
白井「セフセフ!」
上条(今もの凄くドキッとした)


「御坂? お お? 殺気!? おおおおおおおお」


上条「すげー迫力だったな」
美琴「し、し、仕方ないでしょっ!!? 何かもうこん時は色んな事情とか感情がぐっちゃぐちゃに渦巻いちゃって私でもどうしたらいいのか分かんなかったんだからっ!///」
初春「いや〜、御坂さん顔真っ赤ですね〜」
佐天「しかもちょっと涙ぐんでるね」
白井「ムキー! お姉様にこんな表情をさせるだなんて、何て憎たらしいのですの類人猿!」
上条「…御坂以外の感情も渦巻いてるっぽいな。今まさに」


「うわぁカッチコチだなあ」


佐天「あれあれ〜? 何だかいつもの御坂さんぽくないですね〜!」
初春「確かに、御坂さんならダンスの経験くらいあるでしょうし、何か緊張しちゃう理由があるんでしょうか〜?」
美琴「ううぅ……今日の佐天さんと初春さん嫌い…///」
白井「わたくしもですの! +類人猿!」
上条「『+俺』は白井にとっていつもじゃね?」
佐天「え〜? だって、こんだけ面白いオモチャ…もとい弄るネタがあるのに、何もしない訳にいかないじゃないですか」
美琴「もといって、言い直す意味あったの!? 今の!」
上条「なぁ、それより俺フォークダンスとか初めてだったんだけど、ちゃんと踊れてたかな?」
美琴「そんなん分かんないわよっ! 私だってアンタと一緒に踊ってて手とか繋いじゃってずっとドキドキしっぱなしだったんだからっ!!!」
上条「………え…?」
白井&初春&初春「「「!!!?」」」
美琴「なああああああああああ!!!!! いいいいい今のウソ!!!///」
白井「そ、そうウソですの!!! 今すぐにお忘れくださいまし!」
上条「何だウソか。(今もの凄くガッカリした)」
初春&佐天「「惜しいっ!」」
白井「セフセフ!」


220 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:15:00 gnA6j6.s
「でもこの街に来たからみんなと会えたし その出会いが私の宝物になってて だから今度はみんなを守りたい それだけが…せめてもの恩返しになると思うから」


初春「御坂さん…」
佐天「えへへ…」
白井「やはりお姉様はお姉様ですわね」
美琴「あ、あはは…改めてみんなに聞かれると照れちゃうわね…」
上条「…いや、いいんじゃないか? それが御坂の本心だって分かってるから、みんな茶化さないんだろ」
初春「そ…ぞうでずよっ! 何が私…感動しぢゃいまじだ…」
佐天「こらこら初春。泣かないの」
白井「ですがお姉様。あまり無茶はなさらないでくださいな? お姉様がわたくし達を守りたいと願うのと同じように、わたくし達もお姉様を守りたいのですから」
美琴「…うん、分かってる。ありがと黒子」
上条「俺もな」
美琴「アンタはいいわよ」
上条「うえっ!? 何で!?」
美琴(アンタはどうせ…私が何も言わなくても守ってくれちゃうんだから…///)


「そっ それが言いたかっただけ!」


美琴「そ、そう! それが言いたかっただけなのよ! アア、アンタとフォークダンスしたのも、それを言いに来ただけなんだから!」
佐天「おっと御坂さん。さっきまでのシリアスな本心を、上条さんと踊った事に対する建前に使いましたよ?」
初春「私の感動と涙を返してください」
白井「ムキャー! やっぱり許すまじですのよ類人猿!」
上条「あっ。いつもの雰囲気に戻った」


「しかしそっかー 御坂にとって俺との出会いは宝物かー」
「べあっ」


美琴「べあっ///」
佐天「はい! 生『べあっ』入りましたー!」
上条「生て」
初春「『ふにゃー』に続くヒット作ですね」
上条「作て」
白井「ぐぎぎぎぎぎぎ…」


「いやだってその言い方だと俺も含まれるだろ そっかそっかー」
「う あ」
「アレ? 御坂さん? 今のツッコミどころ…」


佐天「ほい来たぁーーーっ! これもう、まんま図星って感じですよね!」
初春「そうですね! 何も言い返せないって事は、つまりはそういう事なんでしょう!」
美琴「いいいいや、あああのあの、ちち、違うから!///」
佐天「お? お? 今度はどんな言い訳するおつもりですか?」
美琴「ここここれは、その、だから………とにかく違うのっ!!!///」
初春「とうとう言い訳の理由も出てこなくなったみたいですね」
佐天「あたし達の勝利だね!」
上条「え? って事は何? 上条さん的にはツッコミ待ちだったんだけど、御坂的にはマジでそう思ってくれてたって事…?」
佐天「はいっ!!! 全く見事にまるっきり文句無しに完膚なきまでにその通りです!!!」
美琴「……………///」
上条「へ、へぇ〜…そっか……(な、何でこんなに心臓がバクバクしているのでせう!?)」
白井「ぬおぅあ〜〜〜っ!!! も〜う本当に限っ界っですのっ!!! これ以上いい雰囲気にさせてたまるかあああああぁぁぁ!!!」


「時間切れですの―――ッ」


白井「時間切れですの―――ッ」
上条「グボッ!!?」
佐天「あ、こっちでも跳んだ」
初春「結構耐えましたねえ」
美琴「……何でこっちは完璧に原作再現なのよ……ねえ?」


221 : 大覇星祭こぼれ話Ⅷ :2015/01/21(水) 21:15:56 gnA6j6.s
上条「いっててて…えっと、今回はこれで終わりかな?」(ん? なぁんか、御坂のことでとっても大事なことに気付きつつあったような気がしたんだけど、さっきの白井のドロップキックで頭を蹴られたら完全に忘れちまった)
美琴「や…やっと終わった……///」
上条「あれ? 白井達は?」
美琴「ああ、うん。さっき帰らせた。これから大覇星祭編の総評するのに、あの子達がいたら話せない事もあるじゃない? 魔術サイドの事とか、妹達の事とか」
上条「そう言やそうだな」
美琴(これ以上アンタとの仲を弄られるのを避ける為でもあるんだけどね…///)
上条「…しっかし大覇星祭編は本当に長かったな。1話目やったのが去年の7月の初め辺りだから…かれこれ半年以上になるのか」
美琴「そんなにっ!!? はぁ〜…やっぱり禁書目録編と超電磁砲編で合わせてやったからかしらね…」
上条「ゲストも多かったよな。オリアナにインデックス、白井に吹寄、それに俺の両親と美鈴さん」
美琴「私の妹に布束さん、婚后さんに…食蜂。ウチの女子寮の寮監なんてのも出たわね」
上条「それに軍覇な。……って、ちょっと待って。食蜂って誰だっけ?」
美琴「…アンタわざとやってない? まぁ、いいわ。それと初春さんと佐天さんね」
上条「計15人か」
美琴「改めて数えてみると、確かに凄いわね…それだけネタに事欠かなかったって事ね」
上条「そりゃネタがあるだろうよ! 二日連続で学園都市の危機とか、上条さんのスケジュールどうなってんだ!?」
美琴「あはは! 今更でしょ!」
上条「はぁ…ま、いっか。次はどうするんだ?」
美琴「こぼれ話? さぁ…まだ未定みたいだけど。でも超電磁砲のドリームランカー編はまだ終わってないし、書籍化もされてないから、原作の方じゃないかしら」
上条「つーと禁書か。11巻…は御坂が出てないからダメなんだっけ」
美琴「んー…そうね。多分、飛ばされると思うわ。んまあ、もしかしたらほんのちょこっとだけ触れるかもしれないけど」
上条「そんな場面あったかな? まあ、次回分かるか。んじゃあ12巻だな」
美琴「そうなるかし…ら……?」
上条「ん? どした?」
美琴「じゅじゅじゅ、12巻ってアレじゃないのっ! ばば、罰ゲームの時っ!///」
上条「ああ、俺達がペア契約した時か。恋人っぽくツーショット写真撮ったりした」
美琴「いいから! 詳しく言わなくてもいいからっ!///」
佐天「ほっほ〜う? ペア契約にツーショット写真ですか。これは次回も目が離せませんなぁ♪」
初春「いいい今! 上条さんの口からハッキリと恋人って……ぬふぇ〜〜〜///」
白井「おんどりゃああああ類人猿! まだドロップキックが足りないようですわねそこに直りやがれですのコンチクショウ!」
上条&美琴「「まだ帰ってなかったんかいっ!!!」」


222 : 我道&くまのこ :2015/01/21(水) 21:17:04 gnA6j6.s
以上です。
やー…本当に長かった…
次はお待ちかねの罰ゲーム回(予定)ですので、
以前書いた「鉄橋は恋の合図編」の時並みに、今から書くのが楽しみです!
ではまた。


223 : ■■■■ :2015/01/22(木) 21:28:18 t8EdXdHA
>>コスモスさん
艦これは分からないけど上条さん……リアル嫁は大切にしないと仮想嫁達消されてしまうぞぉ!(データ故に)

>>・・・さん
黄泉川家……いったいどうなっちゃうんですかぃ??して同じベッドで寝る二人を見て冷静な妹……流石です(
続き楽しみにしております!

>>我道さん&くまのこさん
こぼれ話大覇星祭編お疲れ様です!ついに漫画版に追い付いた……って感じですねw次はいよいよ……楽しみにしてます!


224 : くまのこ :2015/01/23(金) 21:06:18 GFReFzXc
連投失礼します。
>>169-171の続編書きました。
続編ですが、別に前のを読んでなくても大丈夫だと思います。
約3分後に2レスです。


225 : あま〜い! 甘いよ、甘すぎるよ。新婚一年目ぐらい甘いよぉ :2015/01/23(金) 21:09:13 GFReFzXc
美琴は一度ゆっくりと深呼吸した。
そしてそのまま自分の頬を両手で「パチン!」と叩き、自らに気合いを入れる。
これから始まる猛特訓に最後まで耐え抜く為だ。
「…よし!」と一言だけ言いながら、目を見開き前を見据える。
厳しい能力開発を受け、レベル5となった彼女を以ってしても、
そこまでしなければならない『特訓』とは、一体如何なる物なのだろうか。

「じゃ…じゃじゃじゃあっ!
 今日もアアア、アンタのその…イメチェン化計画! 始めるわよっ!」
「おう」

ただし、特訓するのは美琴の方ではなかったようだが。


 ◇


『上条イメチェン化計画』…その名の通りの計画【ちゃばん】である。
実は以前、上条は「このままモテないのは嫌だ」とかふざけた事を抜かして、
今の自分を変えるべくイメチェンしようとした。
上条が挑んだイメチェンは『俺様キャラ』へのシフトチェンジだったのだが、
美琴はその実験台にされてしまい、壁ドンされるわ顎クイされるわ、しかも最後には、

「キスは…夜までお預けな」

なんて事を耳元で言われちゃうもんだから、
美琴は胸を「キュン…」どころか「ズキュウウウン!」とされてしまったのだった。
しかし、そんな爆弾を野放しにはできない。
放っておいたら自分以外の犠牲者が出るかも知れない。
なので美琴は、この戦いに自分一人だけで挑むと心に決めたのだ。
決して『俺様』な上条を独り占めしたい訳ではない。美琴本人が言うのだから間違いないだろう。


 ◇


と、いう訳で。

「じゃ…じゃじゃじゃあっ!
 今日もアアア、アンタのその…イメチェン化計画! 始めるわよっ!」
「おう」

今日も特訓(笑)が始まるのだった。

「でで、で!? …今日は一体…な…何をするつもりなのよ…?」
「今日は…そうだな。キザったらしい台詞でも練習してみようかな」
「キザ…?」
「ああ」

上条が言うには、「口に出すのが恥ずかしい事」を言われると女性は喜ぶのだそうだ。
また少女マンガか、もしくは三流の女性誌でも読んで、おベンキョウでもしたきたのだろう。
情報源も怪しいが、その情報その物もどうなのだろう。
「口に出すのが恥ずかしい事」を言われると女性は喜ぶ…との事だが、
それ完全に「ただしイケメンに限る」ではないだろうか。しかも、

(アンタ割と普段からキザな事とか言ってんじゃないのよ!)

である。しかし上条は無自覚なのだ。
美琴は軽く肩を竦め、手のひらが上になるように右手を差し出して「続きをどうぞ」のポーズを取る。
すると上条は「お言葉に甘えて」とばかりに、美琴の目の前にずいと立った。

「ひゃいっ!?」

と美琴が声を出すのと同時に、上条は親指で美琴の唇をスッと撫でる。
そしてクスッと笑い、一言。

「……美琴の唇って柔らかいんだな。思わずキスしたくなっちまうよ」

瞬間、「ボヒュン!」という音と煙を出しながら、美琴は真っ赤になった。
やはり俺様条さんの破壊力はハンパない。

「どう? どう? 俺、今かなり恥ずかしい事言ってみたんだけど!」
「いや…あにょ……け…結構なお手前で……」

頭をフラフラさせながら、何故か茶道のような受け答えする美琴。
成功した(?)上条は気を良くし、次の実験を始める。
おもむろに美琴の背中に手を回し、そのまま抱き寄せたのだ。


226 : あま〜い! 甘いよ、甘すぎるよ。新婚一年目ぐらい甘いよぉ :2015/01/23(金) 21:10:22 GFReFzXc
「にゃにゃっ!?」

と美琴が声を出すのと同時に、上条は抱き締めた腕にギュッと力を込める。
そして美琴の耳元で、ボソッと一言。

「…悪い…美琴が可愛すぎたから、つい……」

瞬間、「ボバーン!」という音と煙を出しながら、美琴は真っ赤になった。
やはり俺様条さんの破壊力は以下略。

「今度のは!? 今度のは、どうだった!?」
「あああ、あのその、よ、よよよ、よかろうもん!」

背筋をピンと伸ばしながら、何故か博多弁で受け答えする美琴。
神奈川生まれ学園都市【とうきょう】育ちのクセに。

「良し! じゃあ次は日常会話にキザな台詞を織り交ぜていくか!」
「まっ! まだ続けるのっ!?」

正直「もうやめて! とっくに美琴のライフはゼロよ!」な状態なのだが、
上条はお構いなしに続ける。と言うか、美琴がそんな状態なのだと気付いていないのだ。
鈍感【かみじょう】だから。

「つー訳で、今から普通に会話な。はい、スタート!」
「え!? や、あぇ…きょ……今日はいい天気ねー!」

日常会話をしろと言われて、とっさに出てくる話題が天気の事である。ベタすぎる。
しかし上条は、そんなベタな話題【てんかい】すらも肥やしにする。

「そうだな…日の光がキラキラして、美琴の笑顔がより一層眩しくなっちゃったな」
「ひむっ!? そ、そそ、そう……あ、きょ、今日は冬にしては暖かいものね!」
「確かに…温かいな。美琴と一緒にいると心がポカポカしてきてさ」
「ぎみゅっ!? えええ、ええと、あの、き、昨日何食べた!?」
「今すぐ美琴を食べちゃいたいです」
「たたたた食べっ!!? きょ…きょうは…そにょ……いい…てんき…ね………」
「もっと甘えてもいいんだぜ…?」
「ほにょ……あ、の……き、きの、う…にゃ、にゃにたべひゃ…?」
「俺さ、美琴以外じゃ駄目みたいなんだ」
「ひゃえ……いみゃむほろふなもりょにうおみえわぬりゃふぁふん………」
「だからもう、俺と付き合っちゃえばいいんじゃないか?」

………何だこれ。
ツッコミどころが多すぎて面倒なので、ツッコミは各々で自由にやってほしい。

「このまま美琴と一緒に……」
「ちょちょちょちょっと待って! きょ、きょきょ、今日のところはこれくらいにしない!?」

薬でも大量に摂取しすぎると毒になる。
これ以上、上条の特訓に付き合い続けると『どうにかなってしまいそう』なので、
美琴は一時中断を提案した。

「え、あ…そう? まだまだ用意してた台詞はいっぱいあったんだけど」
「いや、いいから! それは、ホラ…また明日って事で!」
「んー…そうか」

若干、消化不良気味な上条ではあるが、
相手役【みこと】がこれ以上やりたくないと言うのであれば、無理強いは出来ない。
なのでここは上条【じぶん】が折れる。

「分かった。じゃあ続きは明日にするか」
「ホッ…」

その一言に安堵する美琴。
しかし最後に上条からの止め【サプライズ】が待っていた。

去り際に上条は、最もシンプルで最も破壊力のある一言を試してきた。

「あ、そうだ。美琴………愛してる」



心臓が

跳ね上がった



上条が「どう? 今のドキッとした?」と聞こうとした矢先、
美琴はついに『どうにかなってしまった』のだった。


227 : くまのこ :2015/01/23(金) 21:11:26 GFReFzXc
以上です。
上条さんのキャラが崩壊してるのは、
イメチェン中だって事で許してください…
ではまた。


228 : ■■■■ :2015/01/23(金) 21:53:10 K2UdrEi2
(*^ー゚)b グッジョブ!!?遙癲Α丰悄?)ъ(゚Д゚)グッジョブ!!


229 : ・・・ :2015/01/25(日) 17:18:53 kEHRMnFI
ども、・・・です。

最近寒いですが、皆さま体調崩さないように気を付けてください。
この時期、美琴ちゃんは上条座イスとこたつでぬっくぬくです。

>>くまのこ&我道さん

お疲れさまでしたー。
もう、ホント、この時の佐天さんのイキイキした様はさすが原作でしたね。
こぼればなし、大覇星祭見直しましたが、感想をコメントにするとスレの半分くらい埋めそうなのネタの数々、最高です。
でもって、デートだデートだ!! いっろいろ言い訳できないシーンがあるよー。楽しみすぎる!!

>>くまのこさん

楽しそうでなによりです。
ただしイケメンに限る、ならカミやんで問題ないね足の小指をタンスにぶつけて死ね!!
タイトルは芸人なのに、ツッコミ不在の恐怖がヒシヒシつたわるなんなのこれ?(笑)
ただ、この爆弾を放置はできまい。彼女の孤高の戦いは続くようだね好きにしな。


じゃ、投稿しまっす!!
来月のネタをそろそろ考えなきゃだねー
……最近、生活が上琴を中心に動いていて恐い

それでは


230 : うえでぃんぐ2 :2015/01/25(日) 17:20:00 kEHRMnFI
第12学区のとある教会。
わざと魔術的記号が外されたそこに、近くのファミレスで昼食を終えた一同が揃った。
一同とは、真剣な表情の一方通行、打ち止め、番外個体、芳川、やる気のない上条、美琴、10032号、好奇心旺盛なインデックスである。

「いい、愛穂が『結婚しましょう』と言われたのは昨日の事」

今から最終決戦に挑むかのような黄泉川家の横で、上条達は浮かない表情だ。

なんでオレ達ついてきたの?

「まだ、あの書類に著名するまでは時間があるはず。反対、応援、どちらにするにせよ情報が足りないわ」

神妙にうなずく残りの黄泉川家。

なんでオレ達ついてきたのでせう?

「そのために、私たちはここに立っている。愛穂を見つけたら、全員に連絡すること!! 解散!!」

思い思いに散る黄泉川家。

なんでオレ達はついてきたのか!!?

「あー、トイレいってくる。インデックス頼む」

「あいよー」


231 : うえでぃんぐ2 :2015/01/25(日) 17:21:13 kEHRMnFI

上条が離れる。
残ったのは美琴と妹とインデックス。
そこで、以前から考えていたことをお願いしてみた。

「ねぇ、インデックスを抱っこしてみてくれない?」

「別に構いませんよ、とミサカは実はずっと抱っこしたかったという願望を隠し、ウキウキ了承します」

隠せてないって。と、いいながら美琴はインデックスを渡す。
さらに、

「ちょっとごめんよー」

と、いいながら、妹のゴーグルを拝借する。
そのまま気分で頭に着けてみた。
インデックスは終始キョトンとしていた。
ママが2人いて混乱しているのかもしれない。
美琴は2人を見る。

(まぁ、やっぱり親子には見えないよねぇ)

無理なのはわかっている。
でも、この子を抱いている自分が、この子の母に見えないのが、少し、悔しかった。


232 : うえでぃんぐ2 :2015/01/25(日) 17:21:51 kEHRMnFI

一方通行は黄泉川を発見。
彼女はレストランスペースで男性と話していた。
どでかい植木の裏に隠れ、
携帯を取り出す。
しかし、そこで彼の動きが止まった。

(……アイツ……)

あんな顔、できたのか?

いつもと違う、女性らしい和やかな服装。
靴はあれほど嫌っていたヒール。
髪もまとめていない。
うっすら化粧もしている。
いつもの豪快な笑みはなく、風で草木が揺れるような笑み。

いつもの黄泉川とは全く違う。
しかし、幸せそうな女性がそこにいた。

(……オレが行動するのは……)

アイツにとっては幸福なのか?


233 : うえでぃんぐ2 :2015/01/25(日) 17:22:29 kEHRMnFI

美琴がちょっと落ち込んでいた時、上条はトイレから出てきた。
そして、ふむ、と一息ついた上条は、
てくてく歩み寄って ビシッ と美琴にチョップする。

「いった!!」

ゴーグルが妹に返された。

「悪ぃな御坂妹。うちのジャイアン女子バージョンが無理やり取ったんだろ?」

「なにおう!!?」

「そ、そうなんです、とミサカはここぞとばかりにお姉さまを落としにかかります」

「おいコラ!!」

「あんまり妹をいじめちゃだめだろ」

「……じゃあ、アンタが代わりに痛い目みる? スネ夫」

「髪の毛しか見てませんよね!! どちらかというとのび太ですよ!!」

「いばるな!!……ん?」

2人の近くに見知らぬおばさんが立っていた。

「さぁさぁ、お待たせしました。準備できましたよ。では行きましょう」

「「へ?」」

次の瞬間、妹とインデックスの前から2人は消えていた。

流石上条と美琴、トラブルに合うプロである。


234 : ・・・ :2015/01/25(日) 17:23:24 kEHRMnFI
以上でせう。


235 : ■■■■ :2015/01/26(月) 21:53:38 N1N.wK6I
やっぱ上琴はいいね!


236 : ■■■■ :2015/01/27(火) 13:04:01 0/1qc9hg
財 布
extn.msu.montana.edu/contact/lvwallet.htm


237 : ましろぷーど :2015/01/29(木) 14:59:07 wLITTiwM
お久しぶりですこんにちはー
まずは感想をいくつか

>>くまのこさん
みこっちゃんは常にフィルターかかってるから上条さんはいつでもイケメンだというのに。
あ、プロポーズの練習だったんですね分かりましたw

>>こぼれ話
大覇星祭編完結お疲れ様です。安定したニヤニヤでとても良かったです。

>>・・・さん
まだほんわかしている空気のはずなのになぜだろう…いやな予感がひしひしと…


短編投下したいとおもいます。全部で4レスです


238 : 溺れてほしーのっ! :2015/01/29(木) 14:59:50 wLITTiwM
愛しい人と唇を重ねる時。
それは不幸である自分が最高に幸せだと感じることが出来る数少ない瞬間の一つであると上条は思う。

「(とは思いますけどね…)」

それが息継ぎがままならないほど連続で長時間であると苦しいと幸せがない交ぜになり、止めたい、止めたくないの鍔迫り合いになる。
キスに、ひいてはキスをしている彼女に集中できないのは自分がそういう感情に疎いせいなのか。それともただ単に経験値が足りないだけなのか。

「…とう、ま…はっ、んぅ……ちゅ、ん」

「(こちらのお嬢様は完全にスイッチ入っちゃってんのにな)」

上条と唇を重ねる少女――美琴は今現在、目の前の恋人以外眼中にないらしく、無心に、どこか余裕のなさそうな苦しげな表情でキスを繰り返す。

「(まあ、余裕がないから速攻で飛び掛ってきたんだろうし)」

今から行くから、と唐突にかかってきた電話から聞こえた彼女の声。
反応する間も無いままに切れてしまった携帯電話を握りしめて手持ち無沙汰に玄関でうろうろしていたところに来客を知らせるインターホンの音。

あまりにも早い到着に、何か彼女を怒らせるようなことでもしてしまったかと記憶を掘り返しながらドアを開けると、そこには息を切らせた美琴の姿が。

「よ、よう。今日はいったい…」

焦った心理を悟らせまいと浮かべた愛想笑いで先手を切った上条のどてっぱらに、美琴はノーモーションダイレクトタックルをかました。
あっと言う間の攻撃に全く反応できなかった上条はそのまま美琴に押し倒されてしまう。
己の腹の上に馬乗りになった美琴に、やっぱりなにか失態を犯したのだと思った上条はひたすら胸の中で彼女に謝罪を繰り返しながら、

「うごぅ!? み、美琴さん、超電磁砲キャッチボールだけは…」


239 : 溺れてほしーのっ! :2015/01/29(木) 15:00:17 wLITTiwM
そう言いかけた上条の唇を自分のそれで覆い塞いだ美琴は、以降ただひたすらに上条とのキスを求め続けていた。

「つ、か! ちょっとタンマ美琴!」

さすがにキスのし過ぎで酸欠を覚えた上条は、美琴の両肩を掴んで無理やりひっぺがす。

「…っ」

引き剥がされた美琴は恨めしそうに上条を睨むものの、息切れしているのは彼女も一緒だった。

上条と触れ合っている時は何故か自然と涙が出てきてしまう。

以前語っていた涙の理由。
双眸を涙で潤ませた美琴は、赤い頬のままぜぇぜぇと酸素を吸い込んでいる。


全く、反論もできないほどキスに夢中になって。
キスしてたせいで窒息するとか、そりゃまるで……


「キスで溺れるみたいだな」

ぽろりとこぼれた言葉の意味を数瞬かけて理解した時、上条は自分で言ってて恥ずかしさがこみ上げてきた。

「あ、いや、その…これはだな…」

似合わない。あまりにも似合わなさ過ぎる。
キスで溺れるとか、臭いセリフにもほどがあるだろ上条当麻!
仮にその表現がアリだとしても、それを言っていいのは美琴が持ってきた漫画に出てくるような
バラを咥えられる輝かしいイケメンか、周囲に花を撒き散らせる美少女のどちらかだ。


240 : 溺れてほしーのっ! :2015/01/29(木) 15:00:41 wLITTiwM
美琴の視線が見下ろしてくるそこで、上条の頭はわたわたと直前の発言について思考を繰り返す。
こんな考えが浮かぶのは美琴センセーの乙女回路が上条さんにも組み込まれてしまったということなのでしょうか。

キスで燃え上がったのとは別の理由で顔を赤く燃やした上条は美琴の視線から隠れたい気持ちになったのに、

「私はもう溺れてるのに…」

ふいに耳に届いた美琴の拗ねたような声に釣られ、彼女を見上げた。

「私は、アンタにこれ以上ないほど溺れてて、アンタがいなきゃ息もできない」

いじけたような声色で、美琴はくしゃくしゃにするかのように掴んでいた上条のシャツから手を放すと、そのまま上条の首に両腕を巻きつけて体を密着させる。

「私に溺れてくれないなら、キスでくらい溺れなさいよっ」

美琴からゴツンと胸に頭突きを食らわせられたその場所の奥のほうに、今まで感じたことがなかった新たなモノが生まれたことに、上条は気付いた。

いつも美琴からは色んな感情を教えてもらう。
それは全く自分が知らないモノだった時もあったし、元々自分の中に眠っていて気付いていないだけのモノだった時もあった。

これからももっと多くのモノを手に入れたいと思う。しかしそれは美琴と一緒に手に入れて行きたい。
つまり、これからずっと美琴と一緒に過ごして生きたいということなのだろうか。だとすれば、

「…俺も大概溺れてんじゃねーか」

「当麻?」

「ん、なんでもねーよ」

新たに色づいた赤を見られたくなくて、上条はスルリと自分と美琴の体勢を入れ替えると、美琴の視界を手のひらで覆ってキスを仕掛けた。


241 : 溺れてほしーのっ! :2015/01/29(木) 15:01:00 wLITTiwM
おまけ

「そういやお前なんでいきなり飛びついてきたわけ?」

「そ、れは…アンタが…」

「俺が?」

「…わたし…以外の、子と…」

「ん? 何、聞こえないんだけど?」

「う、うっさい! ばか! フラグ男! 天然タラシ! 早く私に溺れなさいよ!」ビリビリ

「ぐは!? ふ、不幸だぁ!」


242 : ましろぷーど :2015/01/29(木) 15:03:36 wLITTiwM
以上です。
依存状態をこじらせるとヤンデレ化する恐れがあるので、相方をあまり寂しがらせないようにしましょう。では


243 : ■■■■ :2015/01/29(木) 22:30:02 lQYgUcC2
>>ましろぷーどさん
おまけ見た感じ嫉妬美琴ってことですかねwご馳走様ですw
後上条さん……何をしたかは知らないけど最後の電撃は上条さんが悪い!甘んじて受けるべし!


244 : ・・・ :2015/01/30(金) 23:09:12 2kf1oMpo
ども、・・・です。

雪が積もりました―。
きっと雪合戦してるね上琴は

>>ましろぷーどさん
お久しぶりです!! 復帰早々最高っすね!!
二人とも余裕ないなー。必死だなー。によによがとまんねぇぜ!!
見ててこっちも胸が苦しくなりましたわい



では、投下します。
今回はひっさびさに彼らをいじめれました。

この長編はフィクションでオリ設定多数でちょっと鬱?があって、当麻がパパです。

それでは


245 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:10:05 2kf1oMpo
カーテンがゆっくり開く。
目の前の光景を見て、彼女は固まった。
カーテンの向こうで待っていたのは、想い人。
彼は、自分と対になる真っ白なタキシードを着ていた。

めちゃくちゃカッコいいっていうか、自分がいつか本当に彼の横に立てたらなぁっていうか、ウエディングドレスとかはじめて着たっていうかスッゴク恥ずかしいっていうかなんていうか

結局そんな思いが暴走する。


「う……ぁう……」

そんな声が出るばかり。
美琴には、相手も自分同様顔を赤く染めていることに気付く余裕はない。

実は上条の方が追い詰められていたのである。
美琴のウエディングドレス姿が上条の理性を吹っ飛ばした。
うつむいている美琴に、上条の右手が伸びる。
彼女の顎にその指が「まあまあ!! 予備のサイズがピッタリ!! お二人ともお似合いですよ!!」届かなーーーい!!

ギュインなんて音と共に、上条の右手も本能もひっこんだ。
上条と美琴がその声の方を向くと、さっきのおばさんである。

「おばさんも若いころはアンタ達のようにラブラブだったんだよ。で、2人の結婚式はいつなんだい?」

「「いやいや結婚しませんって!!」」

互いにラブラブを否定してないことに気づかない。

「結婚の前にはそういう気分になぁるのよー。マリッジブルーっていうんだけどね」

「いやいや、そうじゃなくて、わたし、中学生」

「オレ、高校生」

「へ? 嬢ちゃんがチューが癖で、お兄さんがこうこうしろとリードする? あら、おばさんノロケられちゃったよ」

「「いやいやいやいや」」

おばちゃんは最強である。

「おや、もうこんな時間だよ、さぁ、次のプログラムは式場で撮影だ」

2人ともまたまた引きずられていく。


246 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:10:43 2kf1oMpo

一方通行は、結局皆を呼ばなかった。
いや、正確には、呼んでいいのかわからなかった。

この光景を見て、アイツらはどう思うだろうか?
黄泉川がこの結婚を望んでいた場合、自分は祝福したいのか、反対したいのか。

できれば、相手に暗い匂いがあれば良かった。それならキチンと反対の姿勢を示せた。
しかし、どうもそうではない。働き盛りの真面目な男性。
隙も多い。アンチスキルのような戦闘経験者でもないようだ。

「いい人みたいね」

いつの間にか右隣に芳川がいた。

「ヨミカワを褒める言葉がここまで届いてくるって、ミサカはミサカは相手の熱気を微笑ましく見守る大人なのだ!!」

左側にクソガキが、その奥にワルガキがいる。

「因みに、わたしはあなたより先に愛穂を見つけてたわよ」

「ミサカは真っ白な怪しい人がこそこそしてるという話を聞いてきたの、ってミサカはミサカはアナタの保護者として当然のってチョップはやめて!!」

ドタバタしだした空気を止めたのは、
意外にも、番外個体だった。

「……ヨミカワ、幸せそうだね」

3人も黄泉川の方を向く。
テーブルの辺りは日光に照らされている。
彼女は、楽しそうに笑っていた。
彼女が幸せなら、祝うべきなのだろう。
だが、

「わたしたち、ヨミカワの、邪魔なのかなぁ、って、ミサカは、ミサカ、は……」

窓からの光は、ここまで届かない。


247 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:11:28 2kf1oMpo


日光がステンドグラスを通り、カラフルな光が降り注ぐ。

「はーい、こっち向いてー」

祭壇の前で上条と美琴は並んで撮影されていた。
このカメラマンもノリノリで人の話を聞かない。

「あ、あの、わたしたち、まだ結婚しようとか、考えてなくて……」

「ね、年齢とか、オレたちには、いろんな壁がありまして」

付き合ってすらいねぇだろ。

「うんうん、わかったから」

わかってない!!と突っ込む前に、
後がつかえてるから、早くポーズとってといわれ、かれこれ5枚目だ。

「じゃあ、次は腕を組もうか」

「「へ?」」

腕組んでー、と繰り返される。
聞き間違いではないようだ。
ゆっくり上条が作った腕の隙間に手を通す。
もう、顔が暑くて仕方ない。

「2人とも、もっとくっついて」

上条は自分の頭から湯気が出てないか心配になった。
??? あれ?なにこの腕の柔らかい感触? ダメだオレ!!考えるな!!

「よーし、ありがとう」

ふぅ。

「じゃあ次はねぇ」

!!!!???


248 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:12:21 2kf1oMpo

無限に続くかのような長い撮影の後、
上条と美琴は式場で待機を命じられた。
地獄……ではないけどもいろいろ辛かった。
今のうちに出ればいいのだろうが、そんな気力がない。

(あ、あんなことをしてしまった!!)

上条は、隣に顔を向けられない。
しかし美琴はそのレベルでない。
立ったまま意識を失っていた。

彼女は夢を見ていた。
新郎と新婦が教会のドアを開ける。
新郎のツンツン頭はハニカミながら言った。

『これから、夫婦ってわけだが、至らないことも多いと思うけど、よろしくな』

それに、新婦は微笑んで返すのだ。







『任せとけェ、三下ァ』




「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!」

「ぬおっ!!?」

「結婚が!! 当麻で!! 一方通行に!! 夫婦にゃああああああああああ!!」

掴みかかってきた美琴の肩を必死に押さえつける上条さん。

「落ち着け美琴!! 意味がわかんねぇ!! そ、それに……」

近い。という言葉を発する前に、入り口の大きめのドアが開く。

「お二人とも、スタッフの方がようやく人違いをしていたことを把握しました、とミサカは説明が面倒だったぜ、という愚痴………………」

「あぅ!! まーま!!ぱーぱ!!」

御坂妹の動きが止まる。
彼女の視界に飛び込んできたのは、
密着している2人。
上条の胸に飛び込んでいる美琴は爪先立ちして彼の胸ぐらを掴み、
上条は美琴の肩を包み込むように掴んでいる。
2人の、現状は、まるで、誓いの、口づ……


249 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:12:58 2kf1oMpo


その映像がミサカネットワークに流れた瞬間、動いた影が1つ。

「その結婚!! 待ったぁぁぁああああああああ!!」

ドタバタ飛び出て番外個体は黄泉川に抱きついた。

「!!??? ワーストじゃんか!! どうしてここにいるじゃんよ!!?」

「そんなんどうでもいいよ!! とりあえずこの結婚には反対だーーー!!」

少しして、てちてちと走ってきた打ち止めも黄泉川に抱きついた。

「ヨミカワには幸せになってもらいたいけど、まだ離れたくないよ!!ってミサカはミサカは自分でもどうしたいかわからないことを正直に叫んでみる!!」

「打ち止め!!? とういことは……」

「……よォ」

「一方通行、桔梗……お前たち、なにしてるじゃん?」

「えーっと、愛穂さん、この方たちは?」

な、名前呼び!!?

「あぁ、さっき話した今一緒に暮らしてるやつらだよ」

「なるほど、この方たちが」

番外個体が涙目で彼を睨み付ける。

「ヨミカワを嫁にやってたまるか!!」

「どうしてもというなら、私達と一方通行を倒してけー!!ってミサカはミサカはめちゃくちゃムチャぶり!!」

勝手に名前を使われた一方通行は、男の左手に、あれを確認する。

(薬指に指輪!!?? コイツ、そこまで……)

そのとき、

「……やっぱり、この話はなかったことにしてほしいじゃん」

と言って、黄泉川は鞄から髪止めの輪ゴムを取りだし、髪をまとめる。

「……わかりました、お母様にも伝えておきます」

親公認だと!!??

「いいの? 愛穂?」

「今じゃなきゃいけない理由はないじゃんよ」

男がふと気付いた。

「おっと、失礼しました。ご挨拶がまだでしたね」

がさごそと名刺を取り出す。

「わたくし、結婚コンサルタントをしているものでございます」

……………………ん?

「キチンと好みをリサーチし、最適な人物とのお見合いをセッティング。デートのスケジュール管理やアドバイス。式、ハネムーンのマネジメントとその後の生活のフォローまでワンストップで行います」

んん!!??

「『結婚しましょう!!』を合言葉に活動しております。今回は愛穂様のお母様に、愛穂様のコンサルティングを依頼され、お伺いいたしました」

………………。
視線が1ヶ所に集まる。
彼女は危険を察し、すでに逃げ出していた。

「「「ヨシカワァァァァアアアアアアアアアアアア!!!」」」


250 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:13:37 2kf1oMpo



数十分後、帰路に笑い声が響いていた。

「はっ、ひぃ、はっはっはっ!! わ、私が、ぷ、プロポーズされたと思って、み、みんなそんなに、ぷっ、くっく、動揺したのか?こ、これは、傑作じゃんよぉ、くぁはっはははははははははは!!」

3人はそれはもう不機嫌な顔である。
もう1人はいつもの表情だが、大量のたんこぶが似合わなすぎる。

「そういえば、なんであんならしくない格好をしてたの?」

「あのあとお見合いのために写真をとる予定だったじゃんよ。あの格好とウェディングドレス姿の2パターンなんだが……」

なんでお前たちが撮影されてたんだ?
といいながら、後方を向く。
ついてきてるのは、顔を真っ赤にした上条と美琴。
そして美琴に抱っこされたインデックスは、すやすや寝息をたてていた。
妹はさすがに黄泉川に会うのは面倒なので、先に退散している。
なんでなんて、こっちが聞きたい。

なにも答えない後ろの2人に対し、仕方なく黄泉川が話を続ける。

「まぁ、おかげで今回のキャンセル料は迷惑料としてチャラになったし、よかったじゃん」

「でも、愛穂、いい機会だったんじゃないの?」

「なんだよ桔梗、それだと追い出したいみたいじゃんよー」

そんな会話を聞きながら、一方通行は考える。
そう、今回は勘違いだったが、いつかは別れが来る。
別に悲しい理由とは限らない。
例えば、先に芳川に縁談が来るかもしれない。
打ち止めが学校に行けるようになって、寮生活になるかもしれない。
もしくは自分や番外個体が……。
一方通行の足が止まる。
彼の後ろを歩いていた大人2人も立ち止まった。

「テメェら……」

「「???」」

「もし、本当に……幸せになる、チャンスが、あったら、俺たちの事は、気にすンじゃねェぞ……」

あっけにとられた2人は、少しして同時に彼にチョップを入れる。

「「生意気」」

「っ!! テメェら!!」

「さぁ、帰って食事にしましょう」

「おい、桔梗、作るのは私じゃんか」

「無視すンじゃねェ!!」

そんなわいわい騒ぐ後方に耳を傾けていた2人の姉妹は、
知らないふりして歩を進める。

「よかったね、おチビ。ヨミカワが結婚しなくて」

「ん〜、実は喜んでいいのかどうかをまだ決めあぐねているんだ、ってミサカはミサカはヨミカワの冬が長いことに一抹の不安を感じてみる」

「ギャハ!! 最後まで売れ残ったりして。……でさぁ」

「うん」

彼女たちの意識は、いちばん後方を歩く2人に向いた。

「妹達【私たち】はあの2人にどうなって欲しいんだろうね」

「こっちの方が関わる妹達は多いもんね、ってミサカはミサカはそれでもみんなが……」

最期の言葉は、出なかった。
全員が幸せになる道を祈っているが、
そんな道は、この問題に存在するのだろうか?

10032号は、帰路の途中で立ち止まり、オレンジ色に変わりゆく空を眺めていた。


251 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:14:20 2kf1oMpo


おまけ!!

その男は、とあるマンションの一角で目を覚ました。
汗の量が尋常ではない。

今日は休日。
とある病院に付属している医薬会社に研究員として勤める彼は、
最近の激務の疲れをいやそうと、昼寝を試みていた。

しかし、結果は散々だ。
あの過去の出来事が悪夢として彼を襲う。

『実験は、凍結することになりましタ』

『このガキが、見殺しにされて良いって理由にはなンねェだろうが!!』

『ならば道連れにはわたしを選びなさい』

彼はかつて、天井亜雄と呼ばれていた。
カエルの顔をした医者の助けで、
新しい名、顔、地位を得たが、
捨てたはずの過去が彼を苦しめる。
あの時の苦痛が、後悔が、恐怖が、いつまでも体にまとわりつく。

仕事が激務な理由もそこに帰結する。
なにかに夢中にならなければ、心が休まることもない。

「ハァ、ハァ、いや、睡眠は無意味か。なら、いっそ仕事や家事に集中したほうがいいかもしれないな」

とりあえず天気もいいし、布団でも干そう。
しかし、窓を開けると、ベランダにすでに白い布団が干してあるのが見えた。
よくよく見れば布団なんて干してなかった。

干してあったのは白い服を着た男だった。

「はあ!?」

「……ん、くっ、唖然、ここは、どこだ?」

「い、生きてる」

「空前、私はここはどこだと聞いているんだが?」

「あ、あぁ、ここは私の家のベランダだが、お前は誰でなんでこんなとこにいるんだ?」

「喟然、私は記憶を失ったただの教師だ。灼然、レストランで食事をする天使を見つけたんだが、皚然、窓に張り付いて観察している途中に白い少年に気付かれ、彼がテーブルをたたいたと思ったら、私は空を飛んでいた。駭然、気が付いたらここにいたのだ」

話を聞いて余計に訳がわからなくなった。
白い少年という言葉にまたトラウマを刺激されるが、天井は平静を装う。

「毅然、さて……ぁ」

「あ」

「アアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

落ちた。
ガンドコバキバコグシャァア!!
なんて洒落にならない音が聞こえる。
ちなみにここは4階である。

「…………無視、はしてはいけないのか?」

こうして、過去を捨てた男と、過去を失った男が出会った。


いや、ホント、どーでもいい。


252 : うえでぃんぐ3 :2015/01/30(金) 23:14:55 2kf1oMpo

おまけ!!

上条達は腕を組んだ写真を撮られた

「よーし、ありがとう」

ふぅ。

「じゃあ次はねぇ」

!!!!???

終わりじゃないの!!?

「ん? 依頼の内容はいろんなポーズを10種以上だろ?」

依頼なんてした覚えないし!!

「10はなかなか思いつかないなー。
んー、よし、じゃあそのまま彼の腕に抱きつこうか」

なにいってんの!!?

「ほら」

ほら、じゃねぇ!!
しかし、美琴ちゃんとしてはやりたかったのだ。
いや、違う、

「へ? え? み、美琴さん!!?」

「し、仕方ないでしょ!! さっさと終わらせたほうがいいっていうかなんというかでしょ!!」

いや、違わない。
そして

「そ、そうだな!! 仕方ないよな!!」

上条は仕方ないのだそうだ。
彼女とは交際していないことを話せばいいはずだが、
そんなことは考えつかないというかいいたくないというかなのだ。
腕に感じるなにやらフニッとした感触から意識を反らすのに必死なだけかも。

「よーし、ありがとう」

もう終わりか……

「次は彼女の肩を抱こうか」

ですよねー!!
その後、

「手をつないでー。そうじゃない。恋人繋ぎでー」

「じゃあ彼女は彼氏に抱きつこうか」

「じゃ、次はおんぶねー」

「お姫様抱っこねー。彼女はちゃんと彼氏の首に手を回してー」

「おでこどうしをくっつけてー。目ぇつぶったらだめだよ。あと固いなー。笑ってー」

と続いた。
カメラマンGJ!!
1回仕方ないと言ったために、今更後に引けない2人は顔を真っ赤にしながら全部こなした。
気絶しそうになったり、理性が砕けそうになったり、それはもう壮絶な戦いだった。
次が最後のポーズである。

「じゃあキスしようか」

ホワッツ!!??

「ん? キス、接吻、ちゅー」

「「ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!」」

今までとは格が違う。

「ですよねー」

ですよー

「本番にとっとかないとねー」

そうじゃねぇ!!

「じゃあデコチューでいいよ。彼女にしてあげてー」

できるか!!

「えー? 仕方ない、じゃあする直前でいいよ」

不安げに2人は視線を交差したが、
覚悟を決めた美琴は目をつぶる。
しぶしぶ上条は唇を彼女のおでこに近づけていく。

(ま、まだ?)

シャッター音がならない。

(まだか!!?)

ならない。
上条はゆっくり目を細める。
目の前にいたのは……まぶたををギュッとつぶった想い人。
上条は、そっと彼女の肩を掴んだ。
ビクッと震える。

……いとおしい。

少しずつ、自分の口と彼女のおでこの距離が縮まる。
上条は、自分の理性がもう木っ端みじんに壊れたのがわかった。
いっそ、このまま、おでこではなく、彼女の、唇を「はい撮るよー」

ビックゥゥゥウウウウウウウ!!
と体が震え、触れるはずのなかった口とおでこが……。

「よし、撮影終了。それじゃあ2人はここで待っててねー」

無論、2人からの返事は無い。


253 : ・・・ :2015/01/30(金) 23:16:00 2kf1oMpo
以上です。

最近、スレがにぎやかになってきてくれて、うち、うれしい


254 : くまのこ :2015/01/31(土) 00:34:01 RInfMeEg
>>・・・さんGJです!
あっちもこっちも大騒ぎで面白かったです!
ついでに本当に結婚しちゃえばいいのにw 年齢? んなもん関係ねぇ!

>>ましろぷーどさんGJです!
最初から最後まで2828が止まりませんでしたw
二人とも、もっと溺れてもいいのよ。



・・・さんが投下されて一時間以上経ったので、
自分も投下させていただきます。
いつも通りあまりイチャイチャはしてないので、
過度な期待はしないでください。
約3分後に4レスです。


255 : とある第二の巨乳御手 :2015/01/31(土) 00:37:03 RInfMeEg
「幻想御手」、「不在金属」、「軍用クローン」、「虚数学区・五行機関」…
外界から半隔離された学園都市という特異な空間において、
このような超能力に関する都市伝説は数多く存在する。
その中の一つに『巨乳御手【バストアッパー】』なる物が存在する事を、皆さんはご存知だろうか。
簡単に言えばそれは、多くの人間(女性・男性どちらも)の夢と希望である、
『女の子のおっぱいを簡単に大きくしてくれる』を実現させてくれるという、ありがたい代物だ。
しかしこの手の都市伝説は基本的にマユツバで、そこには「ウソかホントかわからない」や、
「信じるか信じないかはあなた次第」というワードが纏わり付く。
現に、都市伝説マイスターを自称で自性…ある意味で自傷する佐天を以ってしても、
その詳細は分からなかった。

吹寄や固法などの「高校生にしては規格外」なバストの持ち主が愛飲しているという、
『ムサシノ牛乳』に何らかの効果があるのではないか、との声も上がってはきているが、
同牛乳と巨乳御手の因果関係は、未だ不明のままである。
しかしだ。ここに来て「ムサシノ牛乳」以外の方法でも胸が大きくなるのではないかという、
新たなる説が浮上してきたのだ。その方法とは―――


 ◇


美琴はその裸体にバスタオル一枚だけ覆い、緊張の面持ちで『ソレ』と対峙していた。
額から冷や汗がポタリと滴り、カラカラに乾いた喉に無理やり生唾を流し込んだ。
汗をかいているのも喉が渇いているのも、風呂上りだから…という理由だけではなさそうだ。

しばらくその状態で固まっていた美琴だが、やがて意を決したようにカッと目を見開く。
そしてそのまま、ゆっくりと『ソレ』に片足を乗せる。
「ピピピ…」と『ソレ』が鳴き出した。
思わず顔を背けたくなる美琴だが、ここで逃げ出す訳にはいかない。彼女にも意地があるのだ。
己の中の恐怖心を振り払うように「よしっ!」と気合を入れ、美琴はもう片方の足も『ソレ』に乗せた。
『ソレ』…つまりは『体重計』に、である。

「ピピピ………ピー」と体重計は鳴き止んだ。
美琴はそーっと下を向き、そこに表示されている自分の体重を薄目で見つめる。

「や…やっぱり……『増えて』るうううううぅぅぅぅ!!!」

直後、美琴はへたり込んで絶叫した。

「どどどどどうなさいましたのお姉様っ!?」

美琴の絶叫を聞いた白井は、空間移動を使って瞬時に脱衣所へと駆けつけたが、
美琴が浴室に入る前に脱衣カゴに置いて(明日クリーニングに出そうと思っていた)おいた、
脱ぎたてホヤホヤの下着を頭から被っていたので、
とりあえずその白井【へんたい】は電撃で撃退した。


256 : とある第二の巨乳御手 :2015/01/31(土) 00:37:53 RInfMeEg
「ギャババババババッ!!? …ひ、酷いですの……わたくしはただ、お姉様の事が心配で……」
「ううう、うっさい! 心配してる人間が人のパンツなんか被るかっ!」
「これはただ、お姉様の汗やらナニやらの香りを愛でながら【クンカクンカしながら】、健康かどうかチェックをしてい
 いやあのすみませんお姉様ですからそれを床に置いてくださいまし」

美琴の手にはヘアピンが握られており、そのまま超電磁砲を撃つ準備をしていた。
白井は慌てて被っていた下着を脱ぎ捨てる。
ちなみに美琴がいつものゲームセンターのメダルコインではなく、
ヘアピンを弾丸代わりに構えていたのは、脱衣所【ここ】にコインを置いていないからである。
加えていつもは制服のポケットにコインを忍ばせているのだが、
今はバスタオル一枚しか身に纏っていないからだ。

「それで…どうなさいましたの? お姉様があんなに大声を出されるだなんて……
 ハッ! まま、まさか…まさか『G』が出ましたのっ!?」

ここで言う『G』とは、雲川鞠亜が姉の芹亜に言う「Gめ!」の意味ではなく、
カサカサ動いたり飛んだりする、あの『G』である。
奴が現れただけでも一大事なのに、美琴が叫んだように『増えて』いたりしたら、
常盤台中学女子寮始まって以来の大事件になる事だろう。

だが勿論、『増えて』いたのは「G」ではない。「g」ではあるが。
美琴は慌てて体重計から飛び降り、ぎこちない笑顔を作る。

「あ、ああ、な、な、何でもないのよ!? きき、きに、気にしないで!」
「……………」

美琴の様子から瞬時に『何でもなくない』事を見抜いた白井だったが、
目の前の体重計を見て全てを察した。

「そうですの。ではわたくしは部屋に戻りますので」
「う、うん。そ、そうね。私はまだ、髪とか乾かしてないから」

察したからこそ、何もツッコまずに知らないフリをする白井。
同じ女性として、その悩みは痛いほど分かる。
と言うか、全ての女性(特に日本人女性)の共通の悩みなのである。

そう。美琴はふt…もとい、体重が増えていたのだ。
中学二年生である彼女は成長期真っ只中。身長が伸びれば体重も増えるのは自明の理だ。
しかしながら美琴の身長は161㎝をキープしており、縦は変わっていない。
縦が変わっていないのならば、その質量はどこへと行ったのか―――
…なんて、そんな残酷な事が言える訳がないだろう。

美琴は白井がいなくなった脱衣所で、一人膝を抱えていた。

(ううぅ…確かに最近、服とかキツくなってきてたのよね……
 でも初春さんとか佐天さんが、美味しいクレープ屋さんとかいっぱい知ってるからつい…)

己の自己管理の甘さを、親友達【ういはるとさてん】のせいにする美琴。
甘い者は別腹とはよく聞くが、無情にも人間の胃袋は一つだけなのだ。
もっとも二つあろうが三つあろうが、消化吸収してしまえばどの道脂肪に変わってしまうのだが。

美琴は深い溜息を吐き、ある決意を固める。

(………明日からダイエットしよう…)


257 : とある第二の巨乳御手 :2015/01/31(土) 00:38:39 RInfMeEg
 ◇


翌日。朝6時という早朝にもかかわらず、
美琴は校則違反のジャージ姿(常盤台中学では、外出時は制服着用が義務付けられている)で、
第七学区の街をひたすら走っていた。
冬の朝は激しく寒いが、走っている内に温まり、
何より自分の能力で体の周りを発電させ、その放電熱で暖を取りながら走っていたので、
体はポカポカ…どころか少し熱いくらいになっていた。
熱いあまり、上のジャージのファスナーを引き下げて、中のTシャツが丸見えになる程に。
少々お嬢様らしからぬ、けしからん状態である事は美琴も自覚しているが、
早朝で誰もいない時間帯なので、開き直って堂々としている。
これが中途半端な深夜だったら、夜遊び中のスキルアウトに話しかけられて、
面倒な事になっていたかも知れないが。

と、急に美琴の足がピタッと止まった。
どうやら少し休憩する…という訳でもなさそうだ。何故なら美琴の目の前には…

(…しまった……『いつものクセ』でアイツの学校まで来ちゃったわ……)

そこには上条の高校の校門があった。
美琴は普段から、学校の帰りに上条と『偶然』出会う事が多い。
誰が何と言おうと、美琴本人が『偶然』だと言い張っているのだから、そういう事にしておいてほしい。
そしてその『偶然』のクセが抜けておらず、美琴は歩き慣れたこの道を、
無意識にジョギングコースにしてしまっていたようだ。

少し迷ったが、流石の上条でもこんな時間に学校にいる訳もないので、
そのまま美琴は回れ右を

「…あのー、美琴センセー?
 あなたは俺の学校の校門前【こんなところ】で、一体何をなさっているのでせう?」
「にゃあああああああああああっっっ!!!!!」

しようとした瞬間、背後から上条に声を掛けられて絶叫する。

「なななな何でアンタこんな早くから登校してんのよっ!!?」

それを言うなら美琴こそ…ではあるが、
とりあえず上条はその疑問を置いといて、自分の事を話す。

「いやさぁ…実はいよいよ放課後の補習だけじゃあ追いつかなくなっちゃいまして…
 今から補習を受けなきゃならんのですわ……
 朝練ならぬ朝補ですよ………ははは…不幸だー……」

なるほど、一発で納得する理由である。納得できてしまう事が悲しいくらいに。

「で、美琴の方は?」
「えっ!!? わ…私…は、その………」

言えない。
『ダイエットする為にジョギングしていたら、無意識にアンタの学校に向かってた』などと。
とっさに言い訳が出てこなかった美琴が選択した行動は、

「ぐ……『偶然』だからっ!」

伝家の宝刀、『偶然』なのだった。
だが自分でもこれはあまりにも苦しいと自覚しているようで、上条から色々とツッコまれる前に、
美琴はその場から脱出しよう【にげだそう】とする。
上条が何か言い出す前に、美琴は再び走り出したのだ。
しかしそれがマズかった。慌てて走り出したせいで足がもつれ、
更に足元に落ちていた小石にも躓き、美琴は転びそうになったのだ。

「うわっ!?」
「危ねっ!」

だがそんな時こそフラグメイ化する上条さん。
すぐさま美琴を抱きかかえて、美琴が転倒するのを防いだのである。
『いつもの事』ながら、美琴は顔を真っ赤にさせる。

「あ……あああ、あり…ありが―――」

赤面しながらも「ありがとう」と言おうとする美琴。
しかしそんな時こそフラグブレイ化するバ上条。
せっかくの美琴からの「ありがとう」をキャンセルして、凍りつくような一言を残す。

「……あれ? 美琴、ちょっと重くなった?」

「ビキッ!」と音を立てて、美琴の中の何かにヒビが入る。
例え美琴がダイエット中でなくても、
その言葉は女性に言ってはいけないワードのワースト5内にランクインするだろう。


258 : とある第二の巨乳御手 :2015/01/31(土) 00:39:31 RInfMeEg
美琴は頭から大量の電撃を撒き散らして叫んだ。

「ああ、そうよ! 太ったのよ! 悪い!?
 だからダイエットしてんじゃないのよ! こんな朝っぱらから走ってんじゃないのよ!
 笑えばいいじゃない! そんな私を笑って馬鹿にすればいいじゃないのよ!
 うわぁぁぁぁあああああん!!!!!」
「えええええっ!!? ちょ、み、美琴さん!? おち、落ち着いて!!!」

泣き出すわ電撃ぶっ放してくるわで、収拾がつかなくなる美琴。
上条は右手で電撃を打ち消しながら、慌てて弁解する。

「ち、違ぇーって! 太ったなんて言ってねーよ! つか、まずは落ち着こう!? な!?」
「言い訳なんか聞きたくないもん! うわああああぁぁぁぁん!!!!!」
「だから違うって! ああ、もう胸だよ胸! 太ったんじゃなくて、胸がデカくなってんだよ!」
「わああぁぁ……あ? ………………………ムネ?」

上条の口から飛び出した意外すぎる言葉に、美琴はキョトンとして泣き止んだ。
ついでに放電の方も止まった。

「はぁ…自分じゃ気付いてなかったのかよ。その…なんだ。
 だから体重が増えたのは脂肪が増えたからじゃなくて……いや、脂肪には変わりないんだけど、
 とにかく美琴の『ソレ』が大きくなったからではないですかね?」

『ソレ』と言いながら、上条は美琴の胸元を指差す。
上のジャージのファスナーを引き下げて、中のTシャツが丸見えになっていたおかげで、
そこには汗で濡れてブラがうっすらと見えている、二つの小山がそびえていた。
確かに言われてみれば、服がキツくなってきた割には、ウエストは特に変化がない。
となれば上条の言ったように、胸が大きくなってきたと考える方が自然である。

今まで自分の慎ましい胸がコンプレックスだった美琴なだけに、
例え見た目では分からないくらいだったとしても、それは本人としてはとても喜ばしい事だ。
これは周りの人間にとっては小さな一歩【へんか】だが、美琴にとっては偉大な飛躍である。
しかしながら、今はそれを手放しで喜んでいる余裕は無い。何故なら、

「アアアアンタねぇっ! なに変なとこジロジロ見てんのよ!
 し…ししし、しかも! 何で私のバストサイズ知っとんじゃゴルァァァ!!!」
「えー!? 親切に教えてあげたのに、何で上条さんが怒られんの!?」

という訳だから。今日は朝から大騒ぎしてしまった二人である。
ちなみに、この騒ぎのせいで上条は朝の補習に遅れてしまい、
教室では一人で待ち続けていた小萌先生が涙ぐんでいたのだった。


 ◇


食蜂という少女がいる。
彼女もまた中学生とは思えない程のバストサイズを持っているが、
実は彼女、一年前は今の美琴とどっこいどっこいであった。
ならば何故、彼女の胸が大きくなれたのだろうか。

食蜂は一年前、『ある少年』と出会った。
たわいのない会話をして、たわいのない事で言い争って、たわいのない事で笑い合った。
その、『ツンツン頭の少年』と共に。

さて、話を冒頭に戻すが、「ムサシノ牛乳」以外の方法でも胸が大きくなるという、
新たなる説の事を覚えているだろうか。
ムサシノ牛乳説を、飛ぶ鳥を落とす勢いで急浮上してきた新たなる説。
それは、『 ツ ン ツ ン 頭 の 少 年 と 仲 良 く な る 説 』である。
そう、今まさに美琴が行っている事その物なのだ。
ムサシノ牛乳説同様、科学的な根拠は何も無い。
何も無いが、「ツンツン頭の人と仲良くなると胸が大きくなる」という新たな都市伝説は、
胸の事でお悩みの女性を中心に、ジワジワと広まっていく事になるのだった。

とは言っても、結果的にその恩恵にあずかったのは美琴だけだったようだが。



それはそれとして、いつもお姉様の事を見ている白井や、
美琴本人ですら気付けなかった胸の変化に、何故上条一人だけが気付いたのかは、
まぁ…お察しである。


259 : くまのこ :2015/01/31(土) 00:40:32 RInfMeEg
以上です。
爽やかな下ネタを目指したんですが、
あまり爽やかじゃなかったかも…
ではまた。


260 : くまのこ :2015/02/04(水) 01:05:08 67mPjsyY
連投失礼します。
いつもみたいにドタバタ系の短編書いたので
投下させていただきます。
約3分後に6レスです。


261 : だからさ、一体何をやれば恋人っぽく見える訳? :2015/02/04(水) 01:08:04 67mPjsyY
「すまん美琴! 次の日曜日【やすみ】、俺の恋人としてデートしてくれ!」
「ふぁっ!!!?」

そんな会話をしたのは、3日ほど前の事だった。
上条が頭を下げながら衝撃の一言【こくはく】を急にしてくるものだから、
美琴も一瞬何を言われたのか分からなかったが、
頭の中で何度も何度も考えを反芻しても『俺【かみじょう】の恋人としてデートしてくれ』という言葉は、
『上条の恋人としてデートをする』という意味にしかならなかった。
美琴は『当然』いつもの気絶【ふにゃー】をしかけたが、
そうなる前に上条が事の顛末を説明したので、事なきを得たのだった。

上条の説明によれば、今度の日曜日に乙姫【いとこ】が半分は社会見学、
半分は観光(と言うかこちらがメインイベントなのだろうが)目的で学園都市にやってくるらしい。
外部と完全に遮断されているイメージのある学園都市だが、以外と観光事業などにも力を入れている。
第3学区や第6学区などが特に有名だ。勿論、厳しい監視体制が敷かれるが。

そんな訳で乙姫から電話を一報もらった上条だったのだが、
会話の流れで乙姫から『そう言えば、おにーちゃんって彼女さんとかいるの?』と聞かれた。
乙姫の計画としては、その後『いないんだったら私が立候補しちゃおっかなー…な〜んて』と、
冗談交じりに告白しようとしていたのだが、その前に上条が、
「い、いるね! めちゃくちゃいるね彼女なんて! しかも相手は超有名人でめっちゃ可愛いし!」
と見栄を張った返事をしやがったのだ。
おそらく従妹からナメられたらアカンとでも思ったのだろうが、
流石はフラグブレイクに定評のある上条さんである。
予定が大幅に狂った事と愛しのおにーちゃんに彼女がいると分かった事のダブルパンチで、
急激に不機嫌になった乙姫は、『じゃあその彼女さんも連れてきてよね! 絶対だからね!』と、
半ば逆ギレされる形で電話を切られたのである。

結果、上条は架空の彼女持参で乙姫をお迎えする事となった訳だが、
しかしその相手役に困ってしまった。
まず同居人【インデックス】は無理だ。
乙姫とインデックスは夏に会っているので、ウソがすぐにバレてしまう。
それに上条はとっさに『超有名人』などと言ってしまった。
確かに魔術サイドでは超有名なのだが、乙姫のような一般人にはピンとくる人物ではない。
となると必然的に、その矛先はレベル5に向けられる。
学園都市においてレベル5以上に有名な人物など、後は統括理事会のメンバーくらいしかいないが、
そんなお偉いさんとデートもクソもないだろう。
だが第四位とは顔見知り程度だし、第五位は顔すら知らない。
(正確に言えば第五位とは何度も会っているのだが、事情があって上条はその事を記憶できない)
第一位、第二位、第七位は男性なのでそもそも論外だ。第六位は何かもう全然知らん。
で、結局お相手役に選ばれたのは美琴だった、という訳なのだ。

こうして美琴は、上条の一日彼女となってしまったのである。
奇しくも夏休みの終わりの日と状況が全く同じだ。
あの時と違うのは、恋人をやってくれと頼んだのが今度は上条だという事と、
美琴が上条への気持ちを自覚してしまっている、という所だろう。


262 : だからさ、一体何をやれば恋人っぽく見える訳? :2015/02/04(水) 01:08:52 67mPjsyY
そんなこんなで、日曜日【デートとうじつ】。

「こんにちは! 竜神乙姫です!」
「お、おーよく来たな。今日は俺…達が色んな所を案内してやっから」
「うん! ありがとう、おにーちゃん! ……で、こっちの人が…?」
「あ、ああ、は、はじめまして! 御坂美琴です! よ、よろしくね竜神さん!」
「…乙姫でいいよ、おねーちゃん。…ふ〜ん? この人がそうなんだ〜……確かに可愛いね…」

乙姫は美琴を値踏みするようにジトーっと見つめる。

「ねぇ…おねーちゃんはおにーちゃんの……その…彼女さんなんだよね?」
「はにゃっ!!? そ、そそそ、そうよ!?
 わわ、私がコイツの……か…かか…彼……女…です。はい……」

顔を真っ赤にして歯切れの悪い返事をする彼女【みこと】。
若干疑わしいが、付き合い始めならこんなウブな反応をしてもおかしくはないので、

「…そっかー…本当にいたんだー……彼女さん」

と頬を膨らませる乙姫。やはり、地味にショックらしい。

「よ、よし! じゃあ簡単だけど自己紹介も済んだ事だし、観光案内といきますか!
 乙姫、どっか行きたい所とかあるか? やっぱ第6学区かね」
「あっ! 私、学園都市っぽい所がいい! 何か昔のSFみたいな、未来未来した場所!」
「それなら第22学区がいいんじゃないかしら。第7学区【ここ】からも近いし」
「第22学区ってどういう所?」
「うん。ずーっと地下まで施設開発が続いてる所なんだけど…どうかな?」
「ホント!? 行ってみたい行ってみたい!」

学園都市の外からのゲストという事もあり、学園都市に近未来的な憧れを持っている乙姫。
美琴の提案した「ずーっと地下まで施設開発が続いてる所」に瞳をキラキラさせた彼女は、
先程までの沈んだ気持ちはどこへやら、一気にテンションを高くさせる。

どうやら行き先は決まったようだ。
三人は第22学区へと向かうバスへと乗り込んでいった。

そんな三人の後ろ姿を見つめながら、石の様に固まる別の三人組。

「き、聞いた…?」
「は、はい聞きました…」
「お…おおお…おね、おね………」
「御坂さん…確かに言ってたよね…?」
「は、はい確かに言ってました…」
「おおおおねおねおねねねねね………」
「かかかか彼女って言ってたよねぇっ!!?」
「はははははい確かに彼女って言ってましたっ!!!」
「お姉様あああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


263 : だからさ、一体何をやれば恋人っぽく見える訳? :2015/02/04(水) 01:09:44 67mPjsyY
 ◇


「うわ〜、すっごいねぇ〜! 綺麗〜…」

乙姫は天井を見上げながら、感嘆の声を漏らしていた。
第22学区へとたどり着いた三人は、さっそく地下市街に降りたのだが、
学園都市でも屈指の近未来的な街並みに乙姫は感動していたのだ。
中でも天井部の巨大スクリーンに映し出されているプラネタリウムには甚く感激したようで、
先程から首を下に向けようとしない。
その素直で純粋な様子に、美琴もクスッと笑って同意する。

「ふふっ、そうね。私もこの雰囲気は好きかな」
「だよね! ロマンチックでいいよね!」
「あ、そう言えばあっちのお店に可愛い小物が売ってんのよね」
「そうなんだ! じゃあ後で行ってみ…アレ!? 何あのお菓子、見た事ないんですけど!?」
「ああ、あれは学園都市でしか作ってない―――」

女子同士の会話に入れず、ただただ沈黙する上条。
しかも女性特有の「オチもなく、あっちこっちに飛ぶ話題」にも付いて行けなかった。
気付けば上条が自分のお耳をそっ閉じしている間に、いつの間にか二人は、
理想のデート場所について語り合っていた。
ほんの数秒前は、全く関係ない話【スイーツのはなし】で盛り上がっていた筈なのだが。

「そうねぇ…私は雪が降ってる桟橋とかがいいかな」
「あはは! おねーちゃん、本当にロマンチストだね!
 おにーちゃんとの初デートがそうだったの?」
「えっ!!? …あ、ああ、うん。そ、そそ、そうなの!」

普通に友達感覚で乙姫と話していた美琴だったのだが、
彼女のふいの一言で、今現在、上条と付き合っている設定だという事を思い出した。

「アアア、アンタとの……そにょ…初デ……デート…とかも! そそそんな感じだったわよね!?」
「……えっ!!? あ、ああ。そうだな。美味しかったよな、アレ」

とっさに話を振られた上条は、
まさか「二人の会話を聞いてませんでした」とは言えず、適当な返事をする。
しかも、その直前に二人が話していたスイーツの話が頭の中に僅かに残っていたのだろう。
上条は「美味しかった」と相槌をしてしまった。
しかし二人は初デートした時の事を話してると思っているので、

「おお、お、おに、おにーちゃん!!?
 美味しかったって…美味しかったってまままさかおねーちゃんをっ!!?」
「アアアアアンタああああああああ!!! だだだ、誰がそこまで設t…いや、
 そんな事までしてないでしょっ!!? ごご、誤解されるような事言わないでよ馬鹿っ!」

上条の「美味しかった」を意味深に捉えてしまった二人は、瞬時に赤面してしまった。
対して上条は、二人のリアクションに訳が分からず、

「……へ?」

と目を点にさせるのだった。

そんな三人の後ろ姿を見つめながら、石の様に固まる二人組。

「…な、なぁ……今カミやん…何て言うた…?」
「……オレの記憶が確かなら、初めてのデートであの常盤台の子を美味しく……
 的な事を言っていたぜい…」
「ゆ…夢なんとちゃうの…?
 カミやんがあんなかわええ子と付き合ってたんもショックやのに、その上……」
「…残念だけど現実っぽいにゃー……」
「……………」
「……………」
「うぉおおおおおおああああああ!!! あんのボケカスコラァアアアアアアアア!!!」
「戦争だぜぇぇぇぇい!!! こうなったら戦争だにゃーーーーーー!!!」


264 : だからさ、一体何をやれば恋人っぽく見える訳? :2015/02/04(水) 01:10:32 67mPjsyY
 ◇


三人はゲームセンターに来ていた。
ここは以前、上条が風斬と初めて会った時に、インデックスも連れて三人で来た所なのだが、
実は美琴もご贔屓にしている場所だった。
と言うのも、美琴の代名詞でもある超電磁砲。
その弾丸【コイン】の補充場所として、普段から重宝しているのだ。
おかげでイメージキャラクターにでもされたのか、
メダルゲームの近くに美琴のポスターとかが貼ってあったりして、
美琴は顔を真っ赤にして縮こまっている。超有名人【レベル5】にも辛い事があるのだ。

さて。何故、観光に来た乙姫をゲーセンなんてありふれた場所に連れて来たのかだが、

「うわっ! すっごいすっごい! これって立体映像って奴!?
 うわぁ! しかも実際に触れるんだ! うわ、うわ〜っ!」

という事だから。
科学技術が20〜30年進んでいる学園都市のVFXに、乙姫は興奮しっぱなしである。
学園都市の外にも3D映像を使った映画などはあるが、それとは正に比較にならない。
乙姫の観光目的は学園都市の科学力を肌で満喫する事なので、
その為にゲームセンターというツールは、あながち間違ったチョイスでもないのだ。

「あっ! おにーちゃん、このプリクラ撮ろうよ! 何かコスプレもできるみたいだよ!?」

そんな中、乙姫はやや古い型のプリントシールに機に食いついた。
これは外の世界にも普通にあるタイプの物だ。
どうやらこの娘、学園都市の科学力云々とか完全に忘れて、
単純にゲーセンで遊んでいる感覚になっているらしい。
それにしてもこのプリントシール機、上条にとって嫌な思い出【トラウマ】があるのだが。

「い、いや。せっかくだから、もっと学園都市っぽい物をだね……」
「いいからいいから! ほら、おねーちゃんも!」
「えっ、えっ!? わ、私も!?」

乙姫は上条【おにーちゃん】の制止を振り切り、
やや強引に美琴【おねーちゃん】の腕を引っ張りながら、近くの試着室に連れ込み、
そのまま試着室のカーテンを閉めた。その目的は勿論、一緒にコスプレをする為である。
もう完全にデジャヴだ。上条の中で、嫌な記憶が鮮明に蘇る。

「うん、OK。じゃあ上条さんはしばらくぶらついてますので、終わったら声かけて―――」

この後の展開が容易に想像できるので、二人を残してその場から立ち去ろうとした上条。
しかし、それすらも『あの時』と同じだったのだ。
あの、インデックスと風斬の着替えをガッツリと覗いてしまった『あの時』と。

すとん、と。
何の前触れもなく、いきなりカーテンが真下に落ちた。

「「「あ」」」

三人が同時に声を出した。
試着室の中には、乙姫が無理やり脱がしたのか、半裸の美琴がそこにいた。
白くてきめ細かい肩とお腹をさらし、胸には可愛らしいピンクのブラを着けている。
幸か不幸か、乙姫はまだ着替える前だったので被害は無かったが、
美琴は思いっきり見られてしまった。よりにもよって上条に。

「にゃあああああああああああああ!!!」
「うおおおおい!!! 今の上条さんのせいではありませんですことよ!?」

瞬間、うっすらと目に涙を浮かべながら、美琴は上条目掛けて電撃をぶっ放した。
上条の反論もごもっともなのだが、何故なのか同情できない。
ちなみに電撃は、いつも通り右手で打ち消したのでご安心を。

そんな三人姿を見つめながら、石の様に固まる二人組。

「………ひょうか…」
「い、言わないで……分かってるから……」
「…だよね。じゃあ思いっきり噛み付いてもいいのかな…?」
「それは…うん………いいんじゃ…ない、かな…?」


265 : だからさ、一体何をやれば恋人っぽく見える訳? :2015/02/04(水) 01:11:25 67mPjsyY
 ◇


「あ〜、楽しかった〜!」

乙姫は満足げにゲーセンを出た。
その両腕には美琴と撮ったコスプレ姿のプリクラや、クレーンゲームのぬいぐるみなどが、
所狭しと抱えられている。

「じゃあね、おにーちゃん。今日は来て良かったよ」
「もう帰るのか? まだ午前中だぞ」
「うん。ホントはもっといたかったんだけど、時間が限られてるから」

冒頭で説明したように、観光客には厳しい監視体制が敷かれる。
それは学園都市の科学技術を外部に漏らさないようにする為な訳だが、
今回の乙姫にも「午前中のみ」という制約があったようだ。

「おねーちゃんも、ありがとう! …おにーちゃんと仲良くしてあげてね」
「へにゃっ!!? う、うん! ま、ま、任せといて!」

何をどう『任せて』なのか、小一時間ほど問い詰めてみたいものだ。
終始ギクシャクしていた美琴に、乙姫は何か感じ取っているのか、
「う〜ん」と首をひねり、ずっと疑問だった事を口に出す。

「おにーちゃんとおねーちゃん、本当に付き合ってるんだよね?」

上条と美琴は、一気にビクッと背筋を伸ばす。

「あああ、当たり前だろ!? もう、超ラブラブだもんなっ! 美琴!」
「ふえっ!!? そ、そそ、そう、ね! 私とアンタは…そにょ…こいびろ…なんらひ……」

その返答に、乙姫はとんでもない爆弾を放り投げた。

「なら証明して見せてよ。例えば……チューするとか」
「「………え…?」」

目が点になる二人。その直後。

「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」」

同時に絶叫する。

「い、いいい、いや、待て乙姫! 俺たちはもっと健全なお付き合いをしておりましてですね!?
 そ、そういう事はまだちょっと早いと言いますか何と言いますか!!!」
「ききき、きしゅ…こいちゅと……きしゅ………ふにゃ…」

上条は慌てて言い訳をして、美琴は上条とのキスを想像してトリップした。
しかし乙姫は逃がしてくれない。

「できないの? 恋人なのに? じゃあやっぱり……」
「わーっ! でで、できるぞ! そんなんできるに決まってますがな!
 よよよし! そんなら今からやってやろうじゃねーかコンチクショウ!」

乙姫に怪しまれて、とっさにとんでもない事を言ってしまう上条。
寝耳に水なのは、当然ながら美琴である。

「えええええええええっ!!!!? ホホホ、ホントにしちゃう訳っ!!?
 今から私とアンタが!? ホントに…キ…キスしちゃうのおおおおおおおおお!!!!?」
「ちょ、美琴! 落ち着けって!」

頭から蒸気機関車のように勢い良く煙を出す美琴に、上条は人差し指を立てて小声で話す。
勿論、乙姫に聞こえないようにする為だ。

(安心しろって! 実際にする訳じゃなくて、フリだけだから!)
(……え? フ、フリ…?)

どうやら上条は、寸止めのキスで何とか誤魔化そうとしているらしい。
直接唇と唇を接触させる訳ではない。とは言え、それだけでも美琴にとっては大きな試練である。
だがそうでもしなければ乙姫の疑いを晴らす事はできないだろう。
冷静に考えれば、上条の見栄に付き合わずに、「実は恋人じゃなかったんだ〜。ゴメンね!」
とでも謝れば【ぶっちゃければ】良いだけの話なのだが、
テンパっているのか、それとも本心ではフリでもキスしたいと思っているのか、
美琴は上条の提案に乗る。

「わ…わかっひゃわよ!!! きしゅすりぇばいいじゃらいっ!!!」

ろれつが回ってはいないが、美琴は目をギュッと瞑り臨戦態勢に入る【こころのじゅんびをすませる】。
心なしか少し顔を上に向けて、ほんのり唇も突き出して。


266 : だからさ、一体何をやれば恋人っぽく見える訳? :2015/02/04(水) 01:12:37 67mPjsyY
だが美琴のそんな苦労は報われる事はなかった。何故なら。

「させるかあああああああああああでぇぇぇすのおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
「おおおお!? 初春! 今まさに決定的瞬間だよ! 白井さんが邪魔に入ったけど」
「みみみ御坂さんもしかしてそれキスぬふぇ〜〜〜」
「おうおう、カミやん! 見せ付けてくれるやないけ」
「こりゃあ、一発ぶん殴るぐらいじゃ済まなさそうぜよ」
「とうま。今なら言い訳ぐらい聞いてあげるんだよ。
 ただし聞くだけで許しはしないかも。 ねっ? ひょうか」
「う、うん。私も…これはちょっと擁護できない…です。すみません…」
「上条…貴様という奴は何故いつもそうなの!!!」
「上条君。今日の私はかなりデンジャラスだから。魔法のステッキも。MAXパワーでいくね」
「か、か、上条ちゃん!? せせせ先生はそういう事はちょっと早いと思うのです!
 しかもお相手は常盤台の生徒さんじゃないですか! ちゅ、中学生とだなんてそんな!」
「どうにも嫌な予感がすると思ったら案の定だけど…
 そのリビドーを少しは他にも向けてほしいんだけど!? 例えば私とか!」
「あ〜らぁ…どこぞの泥棒力全開のメス猫さんが上条さんを誘惑してるみたいねぇ、御坂さぁん?」
「ありゃ? 大将と第三位って、いつの間にあんな仲になってたんだ?」
「知らねェよ。三下とオリジナルがいつから付き合っていよォが、そンなのは本人達の勝手だろ」

このタイミングでこの状況を、大勢の知り合いに見られていたからだ。
と言うか、佐天初春白井青髪土御門インデックス風斬以外にも、
どれだけの人が二人を目撃していたのか。ちょっと見られすぎではないだろうか。
ちなみにだが、他の者に目撃されると面倒なのでこの場にはいないが、
少し離れた場所には打ち止め、御坂妹、番外個体の妹達【ミサカ3しまい】もいたりする。
今頃はこの映像がMNWに流れ込み、悪い意味でお祭り騒ぎになっている事だろう。
そう、お忘れではないだろう。上条当麻が「不幸体質」だという事を。



上条はお決まりの「不幸だー」という台詞を言う間も無く、『不幸』な目に遭うのだった。
後に乙姫はこの時の事をこう語っている。

「あ…ありのまま起こった事を話すよ!
 『おにーちゃんとおねーちゃんがキスしようとしてると思ったら
  いつのまにかおにーちゃんがたくさんの人から酷い事をされていた』
 な…何を言っているのか分からないと思うけど私も何が起きたのか分からなかった…」

と。


267 : くまのこ :2015/02/04(水) 01:13:39 67mPjsyY
以上です。
せっかくの「恋人のフリ」って設定が、
あまり生かしきれてなかったかも…
ではまた。


268 : ■■■■ :2015/02/04(水) 01:37:47 t9Snw.rs
('∀`)スンヴァラッッスィィィィィィィ 乙姫ちゃんにはぜひ学園都市に進学してもらいたいですねえ


269 : ・・・ :2015/02/08(日) 14:27:22 e2weBTxk
ども、・・・です。

来週はあれだねぇ、たくさんの上琴が読みたいです。



くまのこさん

>>おむねの話
…………
…………
…………
…………よかったね、みこっちゃん


>>乙姫GJ!!
それが数年前、
まさかその嘘が現実のものとなり、
いま、2人がこうしてゴールインするとは思いませんでした。
今後も、私たちは、上条当麻をボコボコにし続けようと思います。


くまのこさんGJです!!

では、投下します。
この長編はフィクションでオリ設定多数でちょっと鬱?があって、インデックスが娘です。

それでは


270 : ぱぱ :2015/02/08(日) 14:28:24 e2weBTxk
『〜〜〜♪…………ふぅ』

『おう、眠ったか?』

『うん、気持ちよさそうにね』

『ほんとだ。でもさぁ』

『なに?』

『いやぁ、この子がその歌を気に入っていて、子守唄にしてんのはわかるよ』

『うん』

『内容が娘を持つパパには、ゼンッゼン優しくないんだけども!!』

『…………自業自得じゃない?』

『なぜに!!?』





システム復旧率9%


271 : ぱぱ :2015/02/08(日) 14:29:14 e2weBTxk

「もしもーし、どうしたの? 久しぶりじゃない」

『おはよう、美鈴。いやぁ、美鈴の声が聞きたくなったんだよ』

「こんばんは、こっちは夕方よ。はいはい、ありがとー」

『美鈴ちゃーん、もう少しかまってくれよー』

「また今度ねー」

『冷たいねー。美琴ちゃんは似て欲しくないな。そんで、その美琴ちゃんは元気かい?』

「そう!! 聞いてよ!!」

『なんだ!!?』

「美琴ちゃんに好きな子ができたの!!」

『……………………え?』

「しかもいろんな事情があって、一緒に住んでるんだって!!」

『な…………なん………………だと?』

「私達が知らないところでいろいろ経験してるみたいでさぁ」

『……………』

「ほんと、親がなくとも子はそだ『ガチャ、ツー、ツー』ん? もしもし? もしもーし!! ……また何かに追われてんのかな?」


272 : ぱぱ :2015/02/08(日) 14:30:35 e2weBTxk


【ぱぱ】


黄泉川の結婚騒動から1週間たった土曜日。

今日の上条家の朝食は1人分多い。

「はい、インデックス、あーん」

「むー……やっ!!」

「お願い食べてー」

「うー……あーん」

「やった!! いい子よインデックスー!! はいあーん」

「あー…………ムニュムニュ……べぇ」

「あららら、ダメじゃないかインデックス」

「これもダメか」

「市販の離乳食は全滅だな」

「ん〜自分たちで作るしかないか」

そろそろインデックスはミルクを卒業する時期だが、
離乳食を食べた試しがない。
上条と美琴は試行錯誤の真っ最中である。

「レシピは後で調べるとして」

「明日は大覇星祭の準備もあるでしょ?」

「だーしゃーはい?」

「大覇星祭な、インデックスーコショコショー」

「きぅーーー!!」

「明日も、忙しそうね」

「明日は明日の風が吹くっと。さーて、テレビはなんか面白いのやってないかねー? 」

ポチッ

『2人の運命の出会いが、ここまでの道を作ってきた。そして、ここから、また未来が生まれる。結婚式はホt「ポチッ」







…………………………。


273 : ぱぱ :2015/02/08(日) 14:31:05 e2weBTxk











「「あはははははははははは!!」」

わ、話題を反らせ!!

「よ、黄泉川先生の結婚の話がなくなって残念ね!!!!」

「よーかわ?」

「浜面たちが先に結婚したりしてな!!!!」

「ぶ? はーづら?」

「まさかのインデックスが先に結婚したりして!!」

「う? いんちぇっくちゅ?」

「………………なんだって?」

「どしたの?」

「ぱーぱ?」

「い、インデックスが…………」

『パパ、ママ、紹介したい人がいるんだよ。パパは、よく知ってると思うけど、私の、彼氏の……』

『ステイルだ。上条当麻、君の娘はもらっていくよ』

「ゆ、許さん」

「なにが?」

「インデックスは嫁にやらん!!」

「へ?……い、いやぁ、まだ先の話だし。っつーか、じゃあずっとインデックスが独身でもいいの?」

「そんなのかわいそうだろ!!」

「じゃあ結婚は必要だけど」

「う、うぅ」

インデックスにチラッと視線をむける。

「あぅ? ぱーぱ!!」

ダイヤモンドもかすむ笑顔だ。

「で、でも結婚なんてパパは許さぁぁぁぁあああああん!!」

「え? ちょっと!! どこいくのよーーーー!!」

「あーう?」


274 : ぱぱ :2015/02/08(日) 14:31:38 e2weBTxk

セブンスミストで買い物をすれば、大抵のものは揃う。
さらにファッション関係のものも多く、流行に敏感な若い世代には、休日を過ごす場としてはもってこいだ。
無論、彼女達も例外ではない。

「どーよ!! 初春!!」

「佐天さん、もうすぐ秋なのになんで水着の試着してるんです?」

「あのねぃ、来年の水着を来年買ったら高いでしょ? シーズンを過ぎた瞬間が狙い目な訳。
流行遅れとも言わせない。流行は、自分でつくってなんぼでしょ!!」

「な、なるほど」

「あと読者サービスの一環だね」

「メタ発言すぎますの。しかし、なんでお姉さまはいませんの!! なんでお姉さまの隣にはハリモグラがいるんですの!!」

「しかたないじゃないですか、付き合って……る……ん……」

「……え?」

「付き合ってはいませんの!!」

「 で、ですよね!! 彼氏なんていません!!」

「そうですの!! まだ付き合ってないってのに、あの猿めが!! お姉さまと1つ屋根の下などと〜〜〜!!」

「ま、まさか、御坂さんに限ってそんなこと、するわけないじゃないですか〜〜!! 変な白井さん!!」

「は? なに言ってますの? いつもあなたたちがこの話題でわたくしを苦しめているではありませんの? あれからもうすぐ1ヶ月。も、もしかしたらお姉さまの貞操はもう…………。そ、それは「それは許されない事態だな」そうですの!!……へ?」

目の前で初春と佐天が歯をガチガチと鳴らしていた。
ゆっくり、白井は後方に視線を向ける。
白井は見た。
恐怖が、君臨していた。

「り、寮監さま!!」

「白井、詳しく話せ」

数時間前、学園都市に飛行機が着陸した。
男性が降りてくる。

「美琴に、手を出したやつは……」

潰す。なんて真顔で呟く御坂旅掛だ。
現状を把握していない上条は呑気に走っていた。

「うわ〜〜〜〜ん!! 結婚なんて許さーーーーん!!」


275 : ・・・ :2015/02/08(日) 14:32:42 e2weBTxk
以上です。

SSを書き始める前からあった妄想を形にしますはずかしい


276 : くまのこ :2015/02/14(土) 00:01:01 SM94hTp2
>>・・・さんGJです!
全国のお父さんは大変だなぁ…w
そして上条さん逃げて超逃げて。



バレンタインネタ書きました。
いつもの如く短編です。
そしてこれもいつもの如くドタバタしてます。
約3分後に4レスです。


277 : 妄想バレンタインデート :2015/02/14(土) 00:04:47 SM94hTp2
〜現実はチョコのように甘くない〜



自分だけの現実【パーソナルリアリティ】とは、
現実の常識とはズレた世界を観測し、ミクロな世界を操る能力の事である。
超能力の土台となる力だが、詳しい説明をすると長くなるので原作を読むかググってほしい。
とにかく、その力は能力者の妄想や信じる力に左右する所が大きく、
乱暴な言い方をすれば、高レベルな能力者ほど思い込みや妄想が激しい、という事だ。

そんな訳でレベル5の第三位たる御坂美琴は、目の前のチョコレートを湯煎で煮詰めながら、
完成したチョコを渡した時の状況を妄想【シミュレーション】しているのだった。
そう。本日12月14日はバレンタインデー。現在時刻は0時を回った所だ。
今から十数時間後、美琴はこのチョコレートを渡す予定がある。
そこで失敗しないように、念入りにイメージトレーニングをして。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

[注意] 以下、美琴の妄想内での出来事の為、
     多少本人に都合のいい展開となっているので、ご了承いただきたい。


美琴は固まったチョコレートを綺麗にラッピングして、そのまま学校を飛び出した。
一刻も早く相手に渡したい為、一日中カバンの中にチョコの箱をしまっておいて、
寮へと帰らずにそのまま『あの馬鹿』の下へと走り出したのだ。
ちなみに学校でも、「頑張ってくださいね御坂さん! 応援しておりますわ!」と婚后から。
「わたくし…諦めましたの。お姉様とあの殿方は、誰がどう見てもお似合いですから…」と白井から。
「仕方力がないわよねぇ…あの人には御坂さんが相応しいと思うしぃ。
 私なんて、乳袋力が高いだけの金髪雌豚運痴野郎ですものねぇ」と食蜂から、
それぞれエールが送られた。ここで逃げては女がすたるというものだ。

美琴が走った先には、毎度の事ながら偶然にも『あの馬鹿』がそこに立っていた。
いつもこうやって出会ってしまうのは、きっと『あの馬鹿』と結ばれる運命だからに違いない。

「よっ、美琴! 前髪ちょっと切ったんだな。うん、可愛い可愛い」

いつものように『あの馬鹿』は自分をスルーせず、
しかも今日の日の為にちょっとだけしたオシャレにも気付いてくれる。
美琴はほんのりと照れながら、『あの馬鹿』に笑顔で返した。
すると『あの馬鹿』は、顔をボッと赤くしてこう言うのだ。

「お、お前の笑顔は反則だぞ……ったく…」

恥ずかしそうに目を逸らす『あの馬鹿』に、美琴はくすくすと笑い、
そのままカバンから箱を取り出す。
それは勿論、『あの馬鹿』の為に自分が手作りしたチョコレートと、
たっぷりの愛情が込めらている箱だ。
『あの馬鹿』は一瞬だけ驚いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ありがとな! もう、美琴から貰えなかったらどうしようとか考えてたよ。
 おかげで今日一日、気持ちがフワフワしっぱなしでしたよ」

だが美琴は、他の女の子からたくさんチョコを貰ったのではないか、
と『あの馬鹿』に問いかける。すると。


278 : 妄想バレンタインデート :2015/02/14(土) 00:05:35 SM94hTp2
「はぁ…あのなぁ。俺が美琴以外の子からチョコを受け取ると思うか?
 美琴からの本命だけで充分なのっ!」

その答えに、美琴は心臓が飛び上がりそうになるくらいドキリとする。
何故このチョコが本命なのだと分かったのか、
『あの馬鹿』は、いつから自分の気持ちに気付いていたのかと。

「……俺だってそこまで鈍感じゃありませんですことよ?
 好きな女の子の気持ちくらい察せますよ、そりゃ」

再び『あの馬鹿』からのサプライズである。
その言葉の意味はすなわち、『あの馬鹿』も自分の事を……

「ああ、そうですよ! 俺だってその…み…美琴の事が大好きですよ!
 だから美琴が俺の事を好きなのかもって気付いた時は、もの凄く嬉しかったよ。
 でも確信がなかったから怖くて言えなかった。今日このチョコを貰うまではな」

つまり、今しがた自分が本命チョコを渡した事によって、両想いなのだと確信し、
『あの馬鹿』は告白に踏み切れたのだ。
どうしていいか分からずにアワアワしている美琴に対し、
『あの馬鹿』はさっそく箱を開けて、中のチョコを一欠けら口に含み、そして―――

「んっ…」

そしてそのまま口付けしたのだ。
口の中のチョコレートが、とろとろに溶けるほどの熱い口付けを。
気持ちがどこかへと飛んでいきそうになる自分に、『あの馬鹿』はこう唇を離しながらこう言った。

「…ハッピーバレンタイン。今日は世界一甘い日にしてあげるからな」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



と、ここまでが美琴の妄想なのであるが、とりあえず一つ。
『あの馬鹿』さん、誰だお前!?
モデルはご存知、『あの馬鹿』こと上条当麻なのだが、キャラ崩壊が激しくてもはや別人である。
いくら妄想の中とはいえ、流石にやりすぎではないだろうか。
しかし美琴は自分の夢だか何だか分からない世界にどっぷりと浸かっており、
今も湯煎しているチョコレートをゴムベラでかき混ぜながら、

「やぁん、もう♡ そんな、私達まだ学生なんだから〜!」

と謎の相槌を打ってクネクネしている。
寮の厨房で作っている為、美琴同様にチョコ作りをしている白井や寮監、その他大勢の寮生など、
多くの人に見られている事も忘れて。


 ◇


ちなみにだが、その数十時間後に実際はどうなったかと言えば。

「とととと友達にあげようと思ってた奴だけどその子が学校休んじゃったから特別にアンタにあげるわよでも勘違いしないでよね別に本命とか全然そんなんじゃないしただの義理だしむしろあげなくてもいいかって思ってたくらいだしでも捨てるのも勿体無いし自分で食べるのもアレだしどうしようか悩んでたらたまたまアンタが通りかかったからじゃあアンタにあげちゃえばいいかって―――(以下、長いので割愛)」

人間、何でもかんでもシミュレート通りにはいかないものである。
現実はチョコのように甘くはないのだから。


279 : 妄想バレンタインデート :2015/02/14(土) 00:06:21 SM94hTp2
〜チョコのように甘い現実〜



上条は困惑していた。

本日がバレンタインデーである事は知っていたが、自分がモテないと自覚している彼は、
どうせ誰からもチョコを貰えないと思っていた。
事実、学校ではチョコを貰えなかったし、貰える気配すらなかった。
もっともそこには上条自身の不幸体質が発動したり、
上条に渡そうとしている女子同士で牽制し合っていたり、
青髪達【モテないやろうども】の妨害や暗躍など、裏で色々あったのだが、
そこに気付ける程に上条は敏感ではない。

なので帰り道も深ぁ〜い溜息を吐きながら寮へと歩いていたのだが、
その途中、美琴が信じられない速さでこちらにダッシュしてきたのだ。
あまりの勢いに、右手を構えてしまう程だった。
そして上条の目の前で急停止した美琴は、
カバンから何か箱のような物を出して矢継ぎ早にこう言ったのだ。

「とととと友達にあげようと思ってた奴だけどその子が学校休んじゃったから特別にアンタにあげるわよでも勘違いしないでよね別に本命とか全然そんなんじゃないしただの義理だしむしろあげなくてもいいかって思ってたくらいだしでも捨てるのも勿体無いし自分で食べるのもアレだしどうしようか悩んでたらたまたまアンタが通りかかったからじゃあアンタにあげちゃえばいいかって―――(以下、長いので割愛)」

簡単に言えば、「チョコが一つ余ったから、義理として自分にくれる」という事らしい。
それが分かった時、上条の顔色は困惑から歓喜へと変わった。
義理だろうと何だろうと、女の子からのチョコは女の子からのチョコだ。
それを貰った数が、0と1では大きく違う。
上条は美琴の持っているチョコの箱…ではなく、
それを持っている美琴の手を握りながら、感謝の意を表した。握った手をブンブンと振りながら。

「うおおおおおお!!!? ありがとおぉぉぉ!
 いやー、マジで一つも貰えないと思ってたよ! ……ううぅ…何かもう、上条さん感動で涙が…」

一方で、思いっきり手を握られている美琴は。

「にゃあああああ!!!? て、ててて、手ぇ握……手ぇ握いいいぃぃぃぃ!!!」

と顔を真っ赤にして目も回して、テンパりまくっている。妄想の中ではもっと凄い事をしていたクセに。
しかし、美琴のそんな事に気付く様子もないくらいテンションが高くなっている上条は、

「あ、そうだ! ついでに食べさせてくれないか!?」

と調子に乗ってそんな提案をしてきたのだ。

「ふぇあっ!!? たたた食べ、食べさせ…って、
 ままままさかく、くく、くくく口移しでええええええ!!!?」

「食べさせる」という言葉に、十数時間前の妄想を思い出してしまう美琴である。
しかし上条は勿論そこまでしようとしていない。美琴の幻想はぶち殺されたのだ

「いやいやいや。いくら何でも上条さんはそこまで鬼畜ではありませんことよ?
 ミコっちゃんが指でつまんで、『あ〜ん』してくれたらいいな〜、って思いましてですね…」

予想の斜め上すぎる美琴の口移し発言【はんのう】に、若干冷静さを取り戻してしまう上条。
しかしテンパり度が最高潮である美琴は、もはや妄想の暴走が止まらない。

「つつつつつまんだチョコを私の指ごと食べてしかもそのまま私の指をペロペロちゅぱちゅぱして私が『それ以上はらめ変になっちゃうから』って言ってんのにアンタは執拗に舐り回して指から口を離してくれずにしかも『指だけじゃなくてこのまま美琴の全身をペロペロしてあげようか』とか言ってきちゃうフラグじゃないのよそんなのまだ心の準備が―――(以下、長いので割愛)」
「落ち着け美琴おおおお!!! 俺が悪かったから!
 俺が柄にもなく変な事言っちゃったのは悪かったから、とりあえず戻ってこい!
 あと、そんなフラグはないからね!?」

いつも以上にバグっている美琴に、上条も反省した。
やはり慣れない事はするもんじゃないと。例えテンションが上がっていてもだ。


280 : 妄想バレンタインデート :2015/02/14(土) 00:07:14 SM94hTp2
 ◇


「ぜぃ、ぜぃ……まぁ、さっきまでの事はひとまず忘れようぜ…」
「はぁ、はぁ……そ、そうね。そうしましょう」

数分後、なんやかんやで落ち着きを取り戻した二人。
お互いキャラが崩壊する程に様子がおかしかったのは、
やはりバレンタインデーという特殊な環境がそうさせたのだろう。

しかしチョコをくれたのが美琴だけだった(少なくとも現時刻では)のは事実なので、
やはり何かお礼はしておきたい上条。
だが妙なテンションで「食べさせて」とか言ってしまったが、それはお礼ではないだろう。
正確に言えば美琴にとってはご褒美なのだが、上条がその事に気付ける訳もないし。なので。

「あ、ちょっとこの後、時間あるか? お礼に何か奢るよ。…あまり高い物は無理だけど」
「えっ!!? い、いやまぁ…行け、なくもないけど……その、私にも予定があるし…」
「そっか。まぁ、無理なら仕方がな―――」
「無理とか言ってないでしょっ!!?」

どっちなのか。
結局はOKだったらしく、この後二人はちょっとしたプチデートを楽しんだのだった。
そのデート中も、美琴はいつもの美琴らしく、上条に対して素直な態度は取れなかったのだが。

余談だが、最後に雑学を一つ。

みなさんは「ツンデレ」の語源を知っているだろうか。
「今まで『ツン』ツンした態度を取っていたが、ある時を境に『デレ』デレになってしまう」
もしくは、「本当は『デレ』デレしたいのに、つい『ツン』ツンした態度になってしまう」
そのどちらかだと思っている人が大半だと思われるが、実は本当の語源は別にある。
それは、「『ツン』ツン頭の少年と『デ』ートした時の『レ』ールガン」
その様子から「ツンデレ」という言葉が生まれたのだ。
つまり超電磁砲【レールガン】こと御坂美琴が、ツンデレの起源にして元祖なのだと言える。
民明書房刊『知って得する? あの言葉のウソホント』より。


281 : くまのこ :2015/02/14(土) 00:09:34 SM94hTp2
以上です。
せっかくのバレンタインなのに、
ロマンスの欠片もなくてすんません…
あと「民明書房って何ぞ?」と思った方はググってみてください。
ではまた。


282 : ■■■■ :2015/02/14(土) 00:58:42 7.8hWTCU
おつです


283 : ■■■■ :2015/02/14(土) 01:06:26 SM94hTp2
すみません。冒頭の部分が、
本日12月14日はバレンタインデー
になってました。正しくは
本日2月14日はバレンタインデー
ですね。12月14日じゃあ忠臣蔵の日ですし…


284 : ・・・ :2015/02/14(土) 10:52:37 ICu4lehU
ども、・・・です。
たぶん今の時間、あっちこっちでそわそわ人を探す超電磁砲が目撃されているはずだ。

>>くまのこさん
寮に戻った時が悲惨なことになりそーだぜミコっちゃん
……これで気付かない上条さん、いっぺん死ねば……なんども死んでたね、コレ
で、実はデートだと気付いてないよねこの2人
12/14から妄想してたんだろうかとか考えたら萌えた


それでは、投稿。
育児日記じゃなくてバレンタインもの。
でも、大分引っ張られてしまったなぁ。反省。

甘さは控えめ

それでは


285 : 詰め込め!! :2015/02/14(土) 10:53:45 ICu4lehU
「チョコの作り方、教えてください!!」

そう土下座されたのが昨日のこと。
バレンタインの早朝に、上条美琴は娘の麻琴とともにキッチンに立っていた。

「教えるだけでいいからね!! わたしが作るんだから!!」

「はいはい。そっかーー。ようやく麻琴ちゃんも素直になったかーニヤニヤ」

「ぶっ!! ばっ!! な、なにいってんのよ!! べ、別に素直だとかそんなんじゃなくて、か、感謝の気持ちというか友チョコというか、社交辞令というか……」

「……素直に感謝するって意味だったんだけどな〜ニヤニヤ。そもそも特定の誰かとは言ってないけどな〜ニヤニヤ」

「なっ!! だっ!! にっ!! と、とりあえずニヤニヤをやめろーーー!!」

現在、上条麻琴も中学3年生。
美琴自身が勇気を振り絞って、あの鈍感バカ野郎に初めてのチョコを渡した年齢となった。
ちょうど去年から麻琴にも片思いの相手ができたようである。

(……でもねぇ……)

麻琴を誘導尋問したり、彼女の友人から証言を集めて、だいたい進展具合は把握している。
だから笑えない。
からかって楽しみながらも、自分とほぼ同じ過程を踏んでいる娘に、
ちょっとした不安を覚えるのだ。

(……第二次レベル6計画とか起こってないよね?)

「チョコ刻んだけど、これでいい?」

「ん? うん、いい感じ!! 次は生クリームを鍋で温めて」

沸騰しないよう丁寧に温められた生クリーム。
サラサラと細かくなったチョコも鍋に入り、
白かった生クリームは茶色に染まっていく。

「麻琴ちゃん、料理も覚えないとあの子に振り向いてもらえないわよ?」

「な、なんでここでアイツが出てくんのよ!! そ、そもそも料理できるし!!この前だってフランス料理のフルコースだって作ってやったし!!」

美琴は麻琴がチョコを型に流し込むのを見ながら思う。
だからこそ、なのだ。
常盤台で習ったその手の料理はたまに食べさせるなら問題ないが、一緒に住むと困るのだ。
毎回それでは内臓が疲弊する。
結局美琴は結婚した後、ママやお義母さまに電話でレシピを聞きながら、1年くらい試行錯誤を重ねた。


286 : 詰め込め!! :2015/02/14(土) 10:54:43 ICu4lehU
「ねぇ、ほ、本当にただの生チョコでいいの? もっと手のかかる奴がいいんじゃない?」

「いいの、いいの」

「…………ねぇ、ママ」

「なに?」

「わたし、前にもママとチョコ作ったこと、ある?」

「あれ? 思い出した?」

「断片的に、ね。誰にあげたんだっけ?」

「そろそろいいわよ」

「あ、うん」

あとは、冷やして固めるだけだ。

「ねぇ、いつ作ったんだっけ?」

「ん?」

「だから、いつママと緒にチョコ作りしたっけ?」

「えーっと、あぁ、アンタが4歳のときね」

「そんな昔なんだ」

「そんでね、今日と同じように1人でやるって聞かないの」

「ふーん、やるじゃん!!」

「チョコは、最初は手伝わしてくれなかったんだけどね、チョコ切る時、手をちょっと切っちゃってさ」

「あー……」

「鍋を触ってやけどもするし、気が気じゃなかったんだけど。やるじゃん、じゃないわよ」

「あはは……、面目ない」

「でも、一生懸命作ってね、アンタが大好きな人に渡しに行ったのよ」

「そうそう!! わたし、誰に渡したの!!? 好きな人って誰!!?」

「ヒ・ミ・ツ。さぁ!! そろそろできたわよ!!」

「ちょ、ちょっと!!」

麻琴の抗議を無視しながら二人は工程をすべて終えた。
のに、

「……じゃ、じゃあこれ、友達みんなに配ってくるね!!」

彼女はへたれだった。

「……あの子にはアンタからチョコもらったらメールするよう約束してるから」

「先手必勝!!? っていうか、だからなんでママがアイツのアドレスを知ってるの!!?」

「そのメールなかったら、二度と家に入れないから」

「あ!! たまに見るマジな目だ!!」

「…………」

「う、う、うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

泣きながら出て行った娘に嘆息しながら、美琴は再びキッチンに立つ。
あの時のことを思い出しながら。

『だいとーぶ!! わたちにまかせて!! ままはおせーてくれるだけでいいから!!』

『いたいよ〜!!』

『まぜまぜすればいいんだね!! よーし!!』

『あちゅいよ〜!!』

『ちょこれーと、こげちゃった』

『もういっかいやる!!』

『ひやせばいいの?』

『まだ? まだ?』

携帯が鳴る音でふと我に帰る。
気付けば、いつの間にか夕日が傾いていた。
ソファーに座って物思いにふけっていたら、いつのまにか寝ていたらしい。
目をこすりながら携帯の画面を見ると、メール到着の通知だった。
思わず笑みが浮かぶ。

そこで玄関のドアが空いた。
あの鈍感バカ野郎が帰って来たのだろう。

「ただいま帰りましたよ〜。ったく、あの野郎、結局補修に来なかった」

明日は課題三倍じゃあ〜!! ケケケケケなどと言っていた上条当麻が、
ふと、キョロキョロしだす。

「……麻琴は?」

「まだ帰ってないけど」

「もう最低下校時間過ぎたよ!!」

教師というオレの立場も考えて―!! と叫ぶ旦那をしり目に、
美琴は娘のことを考える。

麻琴は、昔もきちんとチョコレートにそれを詰め込めていた。
渡す人は変わったかもしれないが、
今回も、たっぷりと入っているはずである。

『ぱぱ!! はい!! わたちがつくったちょこれーとあげる!!』

くすっ。と微笑む美琴に、旦那は怪訝な顔をする。

「どしたの? ミコっちゃん? 急に笑って、気色悪いよ?」

「やかましい!! っつーか、ミコっちゃん呼び懐かしい!!」

「で、なんで笑ってたんだい? ママ?」

「ん? パパが泣きそうなこと」

「それで笑ったの!!?」

「はいはい、いじけないの。これあげるから」

美琴は、冷蔵庫からラッピングされたそれを渡す。

「はい、美琴様がたっぷり愛情を詰めたチョコレート!!」


287 : ・・・ :2015/02/14(土) 10:56:04 ICu4lehU
以上なんだよ。

もっと多くの上琴を求む!!


288 : ■■■■ :2015/02/16(月) 21:25:53 40Q7aZoQ
ミコトニン、ミコトロゲン等不足で、上琴病は死亡率8割まで上がっちゃうのです


289 : ・・・ :2015/02/21(土) 18:19:34 LMxLeQ82
ども、とある動画が復活してはしゃいでる・・・です。
お守り持って恋人が合格するのを祈る高1ミコっちゃんはよ

連投失礼。
育児日記続編です。
この長編はフィクションでオリ設定多数でちょっと鬱?があって、美琴がビリビリです。


290 : ・・・ :2015/02/21(土) 18:31:55 LMxLeQ82
昼間だろうが、闇は存在する。
例えば、地下、閉鎖された工場や研究所、トラックの荷台。
いや、そんなものはなくとも、高い建物に囲まれた路地裏には、日光が届かず闇が蠢く。

「なぁ、頼むよ〜。俺達金ねーのよ〜」

スキルアウトとも呼べないような不良が、誰かを囲んでいた。

「ちょっと借りるだけだってー。……500年後に返すって」

ギャハハハハと汚なく笑う集団の中に、とある少年は入り込んでいく。

「どーもー、連れがお世話になりましたー」

囲まれていた人の手を掴み、
ハハハハと笑いながらツンツン頭の少年、
上条当麻はそのまま逃げようとしたのだが、

「ん? 君は誰だ?」

「は?」

時間が、止まる。

「ちょっとアンタ!! 知り合いのフリして連れ出す作戦が台無しじゃねぇか!!」

「ん? なんだ、そうだったのか。悪かったなはっはっは!!」

「はっはっはじゃねーよ!!……あ」

ふと気づくと
しばらく傍観していた不良達が、機嫌悪そうに近づいてきた。

「ぐっ……」

上条はちょんちょん、と肩を指でつつかれる。
助けようとした男が耳元でささやいた。

「右の痩せた男だ」

そして、

「ぬぐぁ!!」

上条とその男は同時に痩せた不良にタックルし、そのまま囲みを突破。
不良達はあわてて低レベルながらも、攻撃を繰り出す。

「おお、流石学園都市」

「余裕か!!? ぬぅぉおおお!! 髪が少し焦げた!!」

「鉄砲玉の嵐よりはだいぶマシだからなー」

「なんでオレが知り合う連中はどいつもこいつも平和な世界にいきてないのよもーー!!」


291 : ・・・ :2015/02/21(土) 18:32:53 LMxLeQ82

ベランダにタオルがはためく。

「ふふふん、ふっふふん、ふっふっふーん♪ ……よし、完了!!」

洗濯は一段落ついたようである。
最初はわたわたしていた上条の洗濯物にも慣れた。

「さて、今日こそ気絶せずに当麻の分も洗うぞ!! エイエイオーー!!」

嘘じゃないんです、慣れてこれなんです。
部屋に戻るとインデックスがケロヨンとピョン子で遊んでいた

「どーだゃぁぶ、どぅっでーだよー!!」

オモチャのテーブルと椅子もあるし、おままごとかな?

「だう!! だぁ!!ぢゃるぶい!! ぶぶぶぶぶぶ!!」

ん?

「ぱーん!! ぶっぶーよ!!だぅだ!!」

(な、なんか叫んだピョン子がなにかをぶぶぶって出して、ケロヨンがそれを打ち消したように見えたけど……)

ケンカはインデックスの見てないとこで今度からやろう。
そこで、ピンポーンと玄関のベルが鳴った。


292 : ぱぱ2 :2015/02/21(土) 18:34:45 LMxLeQ82

眼鏡をクイッと上げる。
寮監は、もう一度ベルを押した。
後ろには、佐天と初春が着いてきている。
あ、いや、白井もいるけど、意識がない。
初春よ、もう少し優しくひきずってやってはくれまいか?

「で、出ませんね?」

「い、いないんじゃないですか?」

「ふむ、白井が吐いてくれたらよかったんだがな」

最後まで彼女はこの場所を寮監に教えなかった。
しぶしぶ学校まで戻って住所録を確認するはめになったのである。
上条と美琴の不幸もしくは上条と美琴の幸福、
白井が寮監に言うかどうかが分かれ道だったが、血の涙を流しながら美琴の幸福を選んだ。

「見事だ、白井」

「えーと、なんで私たちも行動をともにしてるんでしょう?」

こくこくと、佐天も頷く。

「こういうものは奇襲……もとい抜き打ちであることに意味がある。君たちが彼女に報告してしまっては台無しだ」

あ、よまれてーら。
悔し涙を流す。

「すまんが、もうしばらく付き合ってくれ。後程お詫びになにかご馳走しよう」

「「やったーーー!!」」

変わり身はえーな!!
そんな時、隣のドアが開いた。
絶賛ニート芳川さん登場。

「あら? 確か、初春さんと佐天さん、だったかしら?」

「えーっと、よし、かわさん?」

「御坂さんはついさっき出かけたけど?」

芳川が先日の写真を届けにお邪魔したとき、
届いたメールを見てドタバタと出て行ったらしい。

「そうですか、すみませんが、ここには御坂の他に誰か住んでいませんか?」

見知らぬ女性のその問いに、キョトンとする芳川だが、
問いを放った女性の後ろで、必死にジェスチャーする中2女子×2の思いを汲み取ると微笑んだ。

「ごめんなさい、少なくとも私が見たのは御坂さんだけ。他にいたとしても、ここ防音がしっかりされてるからわからないわ」

「そうですか、ありがとうございます」

そういって、彼女達は去っていった。

「……ふぅ、私って本当に甘いわね」


293 : ぱぱ2 :2015/02/21(土) 18:36:51 LMxLeQ82
上条はレストランにいた。
ちょっとカタギじゃないっぽい男性を助けたら、お礼に食事に誘われた。
美琴には経緯をメールしたので、昼食を余分に準備することもないだろう。

「なんかすみません」

「いやいや、こっちも巻き込んで悪かった」

彼、御坂旅掛の目的を考えればとんでもない状況なのだが、

((ん〜、自己紹介のタイミングを逃した))

互いに相手の正体にきづいていない。

「わざわざ学園都市になにしに来たんです?」

「ん? 実はな、娘がオレの知らない男と同棲しているらしい」

「な、なんですと?」

『パパ、ごめん、実はもうステイルと同棲してるんだよ』

『もうこの子が帰る場所はお前のところじゃないよ』

「それは、許せませんな!!」

「だろ!! 潰してやりたいと思っても仕方ないだろ!!」

「はい!! 上半身と下半身に離婚してもらいましょうや!!」

いや、それってフレn……
っつーか自分の体のことでっせカミやん?

「しかし、どうして君はそんなに熱くなってくれるんだ?」

「あー、実は女の子の赤ちゃんを預かってまして」

「感情移入したのか。しかし、1人で育児とは大変だな」

「いや、成り行きで、その、知り合いの女の子とも同居してまして」

「おっ!! 恋人か!!?」

「あ、いや、最初はそんなつもりなかったんですけど、一緒に暮らしていくうちにーですね」

「だんだん惹かれていった、と。手は出したの?」

いや、アンタの娘でっせ?

「そ、そんなの無理ッス!!」

「はぁ、シャイだねぇ、男はガンガンいかないとさぁ。ま、応援してるよ」

いや、え? いいの?

「オレも応援してます。娘さんをたぶらかしたやつをギッタンギッタンにしちゃってください!!」

いや、え? いいの?

「もちろんだ!! あー、いいなぁ、君みたいな男の子も欲しかったなぁー」

応援し続けたらできまっせ?

「へたしたら娘をたぶらかしたバカ野郎が息子になりますよ。なんとか娘さんの目を覚まさせないと!!」

そうだねバカ野郎。

「よし、戦の前の腹ごなしだな!!」

「「いっただっきまーす」」


294 : ぱぱ2 :2015/02/21(土) 18:37:42 LMxLeQ82

「ごちそうさまでした」

「ごちゃしゃまーた!!」

美琴はとあるレストランを出る。
この前買ったゲコ太カーにインデックスを乗せ歩いていた。

「当麻が人助けして食事に誘われたんだってさ、インデックス」

「あい!!」

「きっと、また、女よ」

「う?」

「昼御飯がわりに100万アンペア食らわしたるわ!!」

1時間前の決意はどこへやら、
怒れる雷神が降臨した。


295 : ・・・ :2015/02/21(土) 18:39:06 LMxLeQ82
以上です

最初の方タイトルつけ忘れてすんません。


もっと上琴増えないと、ホント体調悪くなるから困る


296 : くまのこ :2015/02/22(日) 22:24:02 ts8VYC5k
>>・・・さんGJです!
>>287 幸せほのぼの家族いいですね〜! しかしこの夫婦、結婚して何年経っても新婚当時のままですねw
>>295 上条さんと旅掛さんが完全にアンジャッシュ状態w 続き楽しみに待ってます!



支部でリクを受けたので、みこにゃんネタを書きました。
以前似たようなのを書いた気もしますが…
まぁ、猫の日って事で大目に見てください。
約3分後に4レスです。


297 : とあるにゃんにゃのにゃーにゃにゃー :2015/02/22(日) 22:27:01 ts8VYC5k
第七学区にある、とある高校の学生寮。
男子寮でありながら上条の部屋には2人の女性(+ペット一匹)が一緒に暮らしている訳だが、
本日は更にもう一人。常盤台のお嬢様、美琴が来客中だ。
美琴は上条の目の前で、ネコミミ&ネコしっぽを生やして恥ずかしそうに正座している。

「いや何でだよっ!!! 展開が唐突すぎるわ!」

思わずツッコむ上条である。

「わ、私だって分かんニャいわよ! 今朝起きたらこうニャってたんだもん!」
「何気に『な』を『ニャ』とか言ってるし!」

朝、目を覚ましたら突然こんな姿にニャっていたらしい。
そしてパニクった美琴は、なんやかんやで上条の寮まで駆け込んできてしまったのだ。
フードを被ってネコミミを隠し、下着の中にしっぽをしまい込んで。
その間つやつやもふもふのしっぽが美琴の敏感な部分をサワサワしてしまった為、
色々とビクンビクンしてしまったが、それは敢えて言う必要はないだろう。
ちなみにルームメイトである白井がネコミミモードな美琴の第一発見者なのだが、
そのあまりの可愛さに鼻血をリットル単位で垂れ流して、現在は失神中である。
大変危険な状態だが、ギャグ補正で死ぬ事はないだろう。

上条は軽く嘆息し、右腕の袖をまくる。
原因はサッパリだが、こんな物が物理現象である訳がない。
ならば幻想殺しの出番だ。それが異能の力なら、その右手は問答無用で打ち消すのだから。

「はーい、そげぶー」

上条は半ば投げやり気味に美琴の頭を触る。
すると読み通り、「パキィン」と音を立ててネコミミが消滅した…のだが。

「…あれ!? また生えてきた!」

消滅した直後、新たなネコミミがにょきっと再生する。
美琴がレベル6へと進化した(正確には未遂だったが)時と同じだ。
外から何かを注入され続けているようで、その場で打ち消しても解決にはならない。
力の元凶や核の部分をどうにかするしかないようだ。

「これは…学園都市の技術じゃないんだよ。ここは私の出番かも」

それまで静かだったインデックスが、突如口を開く。

「…? どういう事だよ」
「これは魔術による作用だね。今短髪は、ある種の呪いにかけられてるんだよ」

魔術関連の専門家の解説役 【インデックス】は、美琴にかけられた魔術について説明した。

「ペ〜ラペラペラ、ペラペラペ〜ラ、ペラペラペペラペ、ペラッペペラペラ、
 ペラララペララ、ペペペペラ〜ラ、ペランペペラペラ、ペラリンチョ
 (お好きな宗教用語や猫に関する神話などを、ご自由にお入れください)…という訳なんだよ!」
「なるほど! サッパリ分からん!」

魔術に関しては素人に毛が生えた程度の上条には、
インデックスの丁寧な説明でも理解できなかった。
おかげで耳から脳を通るまでに、言語が全て「ペラペラ」に自動変換されてしまう程だ。
決して魔術とか術式とか考えるのが面倒だから適当な表現をしたとか、そんなのではない。


298 : とあるにゃんにゃのにゃーにゃにゃー :2015/02/22(日) 22:27:48 ts8VYC5k
「おい、ちょっと待て! その前にコイツらを何とかしろ! と言うか私を助けろ!」

そんな中オティヌスからの、ひっ迫したような声が。
インデックスが説明している間も妙に黙っていると思ったら、
またスフィンクスからちょっかいを出されているらしい。
いつもの事なので上条も放っておこうとしたのだが、

「……ん? コイツ『ら』…?」

オティヌスが助けを呼んだ時、確かに「コイツらを何とかしろ」と言った。
何故複数形なのか。まさかスフィンクスが増殖した訳でもあるまいに。
原因は何とな〜く察しが付くが、あまり考えないようにしながらオティヌスの方へと振り向いてみる。

「う゛う゛う゛う゛ぅ゛……ふみゃーっ!!!」
「ああっ!? ダ、ダメ…こんな事しちゃダメ、ニャのに……
 あぁでも、やめられニャいとまらニャいいいいいいぃぃぃ!!!」

やはりと言うか何と言うか、美琴も一緒になってオティヌスに手を出していた。
しかもオティヌスにとっては厄介事が倍になっただけではない。
猫【スフィンクス】の体躯ですら扱いに困るのに、ましてや人間【みこと】の体躯だ。
正直シャレにならんし、下手したら命に関わる。
力は失っても魔神の端くれなので、その程度で死にはしないが、何か精神的に死ぬ気がする。
その上スフィンクスも美琴の事を「一つのオモチャを巡るライバル」だと認めたようで、
対抗心を燃やして、いつもより余計に力が入っている。

上条はその一部始終を見た上で、

「…で、インデックス。どうすれば治るんだ?」

改めてインデックスの方へと振り向く。見なかった事にしたいようだ。

「おい人間っ!!!」

オティヌスは目に涙を溜めながら上条に怒号する。
そして自力でスフィンクスも入れない場所【すきま】に体を滑り込ませた。
そのまま小さく舌打ちをして、インデックスに話しかける。

「おい、禁書目録。この人間がこんな様子では、元を断つのは無理だ。
 我々だけで何とかするぞ」
「む…確かにとうまじゃ無理かもだけど、今の短髪と二人っきりにさせるのは無謀じゃないかな?」
「時間が惜しい。グズグズしていると、この娘の猫化が激しくなるが…それでもいいのか?」
「…っ! そ、それはマズイかも!」

何だか緊迫したご様子の二人。
二人の会話から、時間の経過と共に猫化とやらが進んでしまう魔術だという事は理解できた。

「……で、その猫化とやらが進むと一体どうなるので?」

と上条が素朴な疑問を投げかけると、インデックスとオティヌスは「ギロッ!」と上条を睨みつけた。
とりあえず、ろくな事にならないというのは伝わってきた。

睨み付けられて萎縮する上条を尻目に、インデックスとオティヌスの二人は急いで部屋を出る。
ネコ状態の美琴にちょっかいを出す可能性があるので、スフィンクスも連れて。
つまり残された上条は、ネコミミコトと二人でお留守番する事と相成ったのだった。


299 : とあるにゃんにゃのにゃーにゃにゃー :2015/02/22(日) 22:28:40 ts8VYC5k
 ◇


上条はスフィンクス用に買ってあったオモチャ
(当のスフィンクスは、普段オモチャそっちのけにしてオティヌスで遊んでいるが)
を使い、美琴と遊んでいた。

「ほ〜れほれミコっちゃん。ネコじゃらしですよ〜」
「ア、アンタ私を馬鹿にしてんでしょ!? そんニャのに食いつく、訳、ニャいで、しょっ!」

と言いながらも、美琴はネコじゃらしを目で追いつつ手も動いているので、
猫化なる物が着々と進行しているのかも知れない。早めに何とかしなければ危ない―――

「ミコっちゃ〜ん。ほらほら、ボール」
「ニャニャっ!!? だ、だからそんニャのに、興味とか……フニャー!」

―――危ないとは思えない程、ほのぼのとした空気である。
このままでも、誰かに見られたら社会的には危ないが。

「おー、よく取って来れたな〜。偉いぞー美琴ー」
「うにゃ〜ん、ゴロゴロ……って! く、くく首の周りを撫でる【ニャでる】ニャ〜っ!」

本物の猫をあやすように、美琴の首を触ってゴロゴロ鳴らせる上条。
もはや楽しんでいるのか馬鹿にしているのか。美琴も猫の本能には抗えず、
普段の美琴ならば『やりたくてもできない』ような事を、体が勝手にやってしまう。
自分の意思とは関係なく体が動くのだから仕方が無い。

「ニャッ!!? こここ、こんニャ…格好……み、見ニャいで〜〜〜っ!!!」

だから上条に対してお腹を見せる形で仰向けになったりするのも、

「ちちち、違うニャッ! これは…その……わ、私の体が…その……」

スリスリと顔を擦り付けてきたりするのも、

「ニャ〜〜〜!!! ちちち近い近い近い近いっ!!!
 何【ニャに】これドキドキするのに落ち着く何【ニャに】これっ!!?」

上条の膝の上に乗ってきたりするのも全部、仕方が無いからなのだ。
ちなみにいずれも、猫が飼い主に甘えたい時に取る行動である。
つまり美琴は何だかんだと文句を言いつつも、
本能の部分では上条に甘えたいと思っている…という訳なのだ。
知   っ   て   た   け   ど   ね  。

(わー…ミコっちゃんおもしろ〜い)

一方で上条は、普段ならば絶対にしないであろう美琴の姿と行動に、
ニヤニヤするやら、ほっこりするやら。ネコじゃらし片手に完全に遊んでいた。
しかしこの直後、上条には調子付いたツケが回ってくる事となる。

「ほ〜れほれ。ちゃんと届くかな〜?」

上条はネコじゃらしを持ったまま手を上げる。
対して美琴にも人としてのプライドがあるので、

「みにゃー! わ、私を…ネコ扱い…すんじゃニャいわよ!」

と抗議するが、しかし体は正直だ。高く掲げられたネコじゃらしに手を伸ばしてしまう。
そしてその時、事件が起きた。

………チュ…

「………へ?」
「………ニャ?」

美琴が手と一緒に上半身も伸ばした瞬間、微かにだがしかし確実に、唇が上条の頬を掠めたのである。
両者共に、顔が「かぁぁ…」と熱くなる。

「おおおおっ!!? いいい、今、今美琴、なな、何をしやがりましたですか!?」

珍しく上条がテンパりながら、美琴の唇が掠った箇所を手で押さえた。
上条ですらこの慌てようならば、この後の美琴の反応は大体こんな感じだろう。
「ちちちち違うわよっ!!? い、いい、今のはその……じ、事故! そう事故なのよ!
 だ、だ、だから別に特別な意味とか全然そんなのはないのっ!!!
 私がアンタに……キ…キキキキス! とかしちゃったとしても! ただのノーカンだからっ!」
…みたいな。
だが今日の美琴は普段とは違った。
猫化が進んでいるせいか、赤面したまま顔をポケ〜ッとさせている。そしてそのまま、

「……みゃぅう〜ん…♡」

何か妙に色っぽくて艶っぽくて官能的で肉感的な…簡単に言えば、エロい声で鳴き始めた。
先程の「ほっぺにチュウ」が、美琴の中の変なスイッチを入れてしまったらしい。
美琴は突然上条に覆い被さり、上条が逃げないようにガッチリと抱きついた【ロックした】。


300 : とあるにゃんにゃのにゃーにゃにゃー :2015/02/22(日) 22:29:25 T4cKycA6
「え、えええっ!!? み、美琴さんっ!?」

ほっぺちゅー → 発情期(?) → だいしゅきホールド
という3連コンボだけでも混乱してる【おなかいっぱいな】のに、上条には更なる試練が待ち受ける。

「ペロ…♡」

お察しの通り、そしてご期待の通りペロペロである。おそらく8割近くの方が望んだ展開だ。
毛繕いでもしてあげてる気なのか、『それ以上の意味』なのかはこの際置いておくとして、
その行為自体は完全にアウトである。

「うおおおおおおぉぉぉい美琴おおおおおっ!!!?」
「ちゅぴちゅぴ、レロォ…♡ ………みゃぉ〜ん♡」

上条も大声を出して抵抗するが、抱き締められているので抜け出せない。
しかし辛うじて右手は動くので、

「お願いだから、正気に戻ってくださいっ!!!」

と半ば呪文を唱えるように、美琴の頭を触る。

「……はっ!!? あ、アレ? 私ニャにをして……?」

そう言いながら、美琴は目をパチパチさせる。幻想をぶち殺す事には成功したらしい。
例によってネコミミは消えた瞬間に再生したが、どうやら洗脳のような物は解けたようだ。
上条もホッとした……のは束の間だった。

「ちゅる…♡ えっ!!? ちゅぱちゅぱ♡ ニャ、ニャにこれっ!?
 じゅるじゅる…♡ こん、ニャの…くちゅ♡ は、恥ずかしいニャ〜〜〜っ!!!」
「みみみみこみこ美琴さんっ!!!? あっちょ、待!
 そ、それ以上、上条さんの体をペロペロしちゃらめぇえええええええ!!!」
「だだ、だってっ! んっ、チロ…♡ 体が、言う事! ちゅぴちゅぴ♡
 聞い、て、くれ……ぺちゃぺちゃ♡ ニャいん、ちゅるっ♡ だもんっ!」

再び美琴の舌が這い回りだしたのだ。
言葉を話す以上美琴としての意識はあるようだが、体が勝手に動いてしまうらしい。
双方、顔が熟れたトマトのように真っ赤になりながらも、「理性」と「本能」でせめぎ合う。
本能に身を任せてしまえば気が楽になり、『とても気持ちのいい事』にもなるのだが、
そこは倫理的にも社会的にも法的にもどうなのかと思うし、
大人の都合【エロスレじゃないというの】もあるので、二人は何とかして離れ―――

「「んむちゅうぅ……」」

―――離れようとはしたのだが、抵抗空しくそれは起こった。
美琴の舌は上条の口まで侵攻し、唇と唇を重ね合わせた状態でペロペロしてきた。
それが何を意味するのかはお分かりだろう。


 ◇


数十分後。

「とうま! 戻ったんだ…よ……?」
「人間! 無事…か……?」

猫化の魔術を発動させる術式を破壊して、事件を解決してきたインデックスとオティヌス。
二人が駆けつけるように部屋に入ると、
そこは毎度お馴染みの「ふにゃー」によって大災害となっていた。
そして黒焦げになった部屋の中央には、抱き合ったまま気絶している上条と美琴がそこにいた。
美琴のネコミミとネコしっぽは消滅していたが、それより何よりとんでもない事になりながら。

「……ねぇオティヌス…何だかとうまの体中に、よだれの跡みたいな物があるんだよ…」
「……あぁ…しかも唇の周りは、他の場所よりも一際多く跡が残っているな…」

上条さんの本当の不幸は、ここからだった。


301 : くまのこ :2015/02/22(日) 22:30:21 ts8VYC5k
以上です。
次に投下する作品は、こぼれ話の続きになる予定です。
ではまた。


302 : ■■■■ :2015/02/23(月) 21:27:36 gdFqnPLk
pixivでも読みました。オティヌスから見たらちょっと小さいライオンかトラの大きさですからね。


303 : ☆珈琲豆☆ :2015/02/23(月) 22:00:48 rFP5MOzQ
>>295
・・・さんGJですw
すれ違うぱぱs二人と迫る雷神様……修羅場の予感っ‼︎続き楽しみにしてますw
何気に寮監も来そうで怖い(ガクブル

>>301
くまのこさんの書くみこにゃんはいつも発情してる気がしますw
……いやっ‼︎発情してるのは美琴か‼︎
まぁどっちにしろ大好物ですがねw


初投稿になります。1日遅れですが猫の日ネタです。
少ししたら3レス消費させて頂きます。
投下にグダるかも知れませんが、温かい目で見てやってください。


304 : 美琴がふにゃーしてるだけ :2015/02/23(月) 22:04:14 rFP5MOzQ
本日休日にも関わらずいつもの通り補修があった帰り道、いつもの公園で上条当麻は

「……上条さんは一体何をどうすればいいのでせうか?」
「ふにゃー」

『ふにゃー』してる美琴を支えながら途方に暮れていた。



〜美琴がふにゃーしてるだけ〜



「もしもーし?御坂さーん?聞こえてますかー?」

『ふにゃー』してる美琴放って置くわけにもいかないので、とりあえず近くのベンチに美琴を座らせた上条は何故『ふにゃー』してるのか聞くために美琴に声を掛けてみる、が

「ふにゃー」
「……ダメだこりゃ」

やはり『ふにゃー』は治らない……というか今回上条は何もしてないのだ。
補修の帰り道いつもの公園を通りかかった時、初春と佐天の二人と話してる(何故か顔を真っ赤にした)美琴を見かけ、見かけたならと挨拶して帰ろうと声をかけたら……急に『ふにゃー』したのだ。
上条からしたらワケが分からない。
ちなみに美琴と一緒にいた二人は上条が慌てて美琴を支えるのを見た瞬間
「「御坂さん‼︎私達急用が出来たので帰りますね‼︎」」
と大変息の合った挨拶をして上条が止める間もなく走り去って行ってしまった。

「……とりあえず今日で良かったと考えるべきだな」
「ふにゃー」

なんとな〜く今日は『ふにゃー』が終わるまで時間がかかると踏んだ上条は、昨日美琴に手伝って貰い明日の分までの食材を入手してた事に安堵する。
もしこれが食材無しで特売に行かなければならない日だったのならインデックスに長時間噛みつかれるのが確定していただろう。

「っと、昨日は特売付き合ってくれてサンキューな……っても聞いて無いだろうけど」
「ふにゃー」

そんなこんなで今日は多少遅くなっても問題はない。それは間違いなく美琴のおかげなのだ。
……美琴のせいで帰りが遅くなりそうだという事に気付いて無いのは幸か不幸か

「まぁ、たまにはのんびりするのも悪くないよな」
「ふにゃー」
「……ん?」

と、先ほどから暇を紛らわすため独り言を呟いてた(周りから見たら痛い事なのだが、本人に自覚はない)上条はある事に気付いた。
それはーー


305 : 美琴がふにゃーしてるだけ :2015/02/23(月) 22:06:02 rFP5MOzQ
「さっきから御坂返事してね?」
「ふにゃー」

というどうでもいい事だった。
だが美琴は今ハタからみたら寝てるため、話し掛けたら返事してくるのは中々面白い。
そこに気付いた上条は

「ミコっちゃーん?」
「ふにゃー」
「ビリビリ?」
「ふにゃー」
「御坂たん?」
「ふにゃー」

と美琴を使って遊び始める。

「今度また特売付き合ってくれなー」
「ふにゃー」
「課題のお手伝いもお願い出来ますでせうか?」
「ふにゃー」
「ついでにビリビリの回数も減らして下さい」
「ふにゃー」

更にここぞとばかりに普段プライドやら怖さやらが先立って頼めずにいる事を頼みまくる上条。
外から見るとなんとも情けないのだが……多分本人はその情けなさには気付いてないだろう。

「ふにゃーふにゃーってまるで猫みたいですよ?」
「ふにゃー」
「猫美琴ってかー?んーそれだと安直過ぎるな……」
「ふにゃー」
「ねこ……にゃんこ……にゃん?…そうだ!みこにゃんとかどうでせう?」
「ふにゃー」
「よし、今からお前はみこにゃんな!」
「ふにゃー」

挙句の果てに勝手に名前を付けてしまった……そもそもふにゃーって肯定の意味でいいのだろうか。

「みーこにゃん」
「ふにゃー」
「いやぁ、それにしても……癒されますなぁ」
「ふにゃー」
「かーっ!猫耳とかあれば付けたい気分ですよっ!」
「ふにゃー」

と、アニマルセラピー効果なのかなんなのかみこにゃんの返答に癒されていた上条は、猫耳を付けた美琴を妄想するために美琴の顔をよく見ようと観察を始める

のだがーー


「さてさて、どんな感じに……」
「ふにゃー」


そこにいたのは当然、癒しを与えてくれる"みこにゃん"という名の"猫"

などではなくーー


「ふにゃー」
「…………っ‼︎」


だらしなく顔を綻ばせながら静かに眠るーー



"御坂美琴"という名の"女の子"だった。


306 : 美琴がふにゃーしてるだけ :2015/02/23(月) 22:07:25 rFP5MOzQ
美琴が女の子であるという事を意識した途端鼓動が加速し出した心臓を、落ち着かせる術を持たない上条はーー

「み、さか……」
「ふにゃー」

自身も気付かない内に自らの顔を美琴の顔に近づけーー

「んにゅ」
「っ‼︎‼︎⁉︎」

突然出た『ふにゃー』じゃない言葉に驚いてベンチの反対側まで遠ざかった。

「んー……んぁ?あれ、私なんでこんな所に……ってア、アンタッ⁉︎………なんでそんな変な格好してんの?」
「み、御坂‼︎起きたのか⁉︎」
「えっと……うん、起きたけどアンタ」
「そうか‼︎良かった良かった‼︎お前の友達が急用で帰っちゃってなっ‼︎急に寝ちまった御坂を置いてくワケにいかないから起きるの待ってたんだよ‼︎」
「そ、そうなの?てかアンタどっかおか」
「スマンッ‼︎俺ももうすぐに帰らないとインデックスに何されるか分からないから帰るなっ‼︎御坂も気を付けて帰れよ‼︎」
「しい気が……ってもう行っちゃった」

ドタバタと退散して行く(何故か顔を真っ赤にした)上条と、余りに突然過ぎてポカーンとする美琴。
そして少し離れた草陰からはポツンと二つの言葉が溢れた。

「……今とんでも無いのを見ちゃった気がするよ初春」
「……そうですね…録画して無かったのが残念です」


ちなみにこの日から数日間上条は美琴を避けたせいでビリビリの回数は増えてしまったらしい。


307 : ☆珈琲豆☆ :2015/02/23(月) 22:10:49 rFP5MOzQ
以上になります。
ついに自分の意思でSS書いてしまったな(遠い目)


308 : ■■■■ :2015/02/24(火) 23:01:27 uAQpVU8I
GJなんだよ!


309 : ・・・ :2015/02/25(水) 06:41:51 9obNZl.w

ども・・・です。

>>くまのこさん
おかしい、最期の2人の服装の描写がな……
魔術師GJ!! 動機はなんだ!!? まさかエツァリか!!?
今まで幸せを堪能したんだから、とことん不幸にしていいと思うよ。

>>珈琲豆さん
最期の感慨が身に覚えがありすぎて……
ホントにふにゃーしてるだけでしたね(笑)
上条さんがデレても、美琴が鈍感で気付かないこの関係が好き。


皆さまの良質な上琴で急に降りてきた小ネタです。
それでは、


310 : どっち!!? :2015/02/25(水) 06:42:47 9obNZl.w
「さ、寒い〜!!」

「もうすぐ、春とはいえ、寒いもんは寒いな」

「…………ねぇ、当麻」

「なにかね?」

「冬と夏、どっちが好き?」

「美琴」

「へ?」

「美琴が好き」

「そ、そっか……え、えへへ//////」

「美琴はオレとゲコ太どっちが好き?」

「ゲコ太」

(゜□゜)

「冗談!! 冗談だって!!」

「どーせ上条さんはゲコ太よりかっこわるいですよ。来世は爬虫類に生まれてやる」

「いや、カエルは両生る……ごめん!! ごめんってば!!」

「つーん」

「よ、よし!! 今日は美琴センセーが料理作りに行ってあげよう!!」

「ピクッ」

「洋食と和食どっちがいい?」

「……………………洋食」

「肉とお魚どっちがいい?」

「…………肉」

「デザートはプリンとケーキどっちがいい?」

「美琴」

「ふぇっ!!?」

「美琴が食べたい」

「ふにゃ〜〜」

「ええい、まだダメか!!」

「ふにゃふにゃ〜〜〜〜」

「……………………」

「ふにゃにゃ〜〜」

「起こし方は抱きしめるのと口付けとどっちがいい?」

「どっちも」

「起きてんじゃねーか」ズビシッ

「あいたっ」

「まったく」

「ねぇ、当麻」

「ん?」

「赤と青どっちが好き?」

「赤かな?」

「犬と猫はどっちが好き?」

「猫」

「歴史と数学嫌いなのは?」

「どっちも」

「一方通行とわたし、恐いのは?」

「美琴」

「はい?」

「い、いや…………」

「スカートは長い方?短い方?」

「んー、短い方かね?」

「活発な娘? おとなしめ?」

「おとなしい娘かな」

「ん? 髪はロング? ショート?」

「ロングかなぁ?」

「おや? 年上?年下?」

「お姉さん属性」

「…………胸は?」

「無いよりはあったほうが…………」

ビビバリビシャーーーン!!

パッキーーーン!!

「ふざけてんの?」

「ふざけてはないかな!! って顔こわっ!!」

「……………………」

「も、もしかして怒らせた?」

「怒らせたわね」

「どして?」

「なんでことごとくわたしの属性じゃない方を選らんでんのよ?」

「あれ? いろんなとこに自覚があったのね? なんだよ、仕返しの冗談じゃ…………」

「…………」

「あ、あれ?」

「…………」

「す、すみませんでしたーーー!!」シュババッ

「まてやこらーーーーー!!
アンタの焼き加減をミディアムかウェルダンか選べーーー!!」

「い、イヤだーーーーー!!」


311 : どっち!!? :2015/02/25(水) 06:43:28 9obNZl.w







































「暑いわね」

「あっついな」


312 : ・・・ :2015/02/25(水) 06:45:51 9obNZl.w
以上でせう


313 : 我道&くまのこ :2015/02/25(水) 22:17:11 ot.Xe7c6
>>☆珈琲豆☆さんGJです!
こちらでは初めましてになりますね。
初春さん…何故に録画してなかったのか!
物的証拠があれば、ミコっちゃんをもっとふにゃーさせられたのに!

>>・・・さんGJです!
いや〜、あっついあっつい。
お熱い二人のせいで、真冬なのに顔がポッポしてますわw



くまのこです。
予告したので、こぼれ話の続きを投下しに来ました。
コテ通り、我道さんとの合作です。
約3分後に9レス使います。


314 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:20:06 ot.Xe7c6
上条「さて、今回は原作12巻。罰ゲームの話か」
美琴(あ〜あ……やっぱ、コイツの意識の中だと『罰ゲーム』扱いなんだ……)
上条「ん? どうした御坂。なんか表情が暗いんだが?」
美琴「……そう?」
上条「おいおい。ちょっとは明るく振る舞えよ。罰ゲームつったって超電磁砲永遠キャッチボール(しかも俺受け専門)じゃなかったし、今思えば、案外楽しめたと思うぜ俺は」
美琴「はへ? そ、そうなの?」
上条「おう。あん時は『罰ゲーム』って括りだったからちょっとビクビクしてたんだけど、振り返ってみると『罰ゲーム』というよりは『二人で遊びに行ってる』って感じだったしな」
美琴「へ、へぇ〜? ア、アンタにしては意外な反応ね。んじゃあそろそろ今回のゲストに入ってもらいましょうか!」
上条(あれ? 何で御坂は急に元気になったんだ?)
??「あの……御坂さん? 本当にわたくしでよろしいので……? 原作には出ておりませんし、外伝でも名前がまだないのですが……」
美琴「うん、おけおけ。大丈夫よ。名前はなくても作中だと縦ロールが魅力の娘ってあなただけだから。あと私と趣味が合う同世代の子ってのもそうそう居ないし、私も嬉しいのよ。でも、ちょっとごめんだけど名前の表記は今回はこれでお願いね」」
縦ロ「それは構わないのですが、一応この度のことを女王には報告してから来ましたわ」
美琴「え゛? そうなの? アイツ何て言ってた?」
縦ロ「とっても不機嫌になられて『呼ばれなくて良かったぁ』と仰られました。正直意味はよく分からなかったのですが」
美琴「まあ、アイツが来ないのは別に構わないけど『不機嫌に「呼ばれなくて良かった」』って意味は確かに分からないわね」
??「どうもお久しぶりです。御坂さんと上条さん」
美琴「うげ! 常盤台中学理事長の息子・海原光貴!」
海原「いきなり第一声が『うげ!』というのははしたないですよ御坂さん」
上条「お。久しぶりだな。(で? お前は本物じゃなくて魔術師の方だよな?)」
海原「(でなければ『お久しぶり』ではなく『初めまして』と挨拶しています。それと魔術師の方の名前を出さなかった理由は分かりますよね?)」
上条「(もちろんだ。それとなるほどな)にしても妙な面子だな今回は。何でこの二人なんだ? 本編でまったく登場してないのに」
美琴「あ、うん。佐天さんと初春さんはゲスト担当のスタッフと誠心誠意話し合って除外してもらったんだけど、今回はゲスト選定が難航してるらしくって、代わりに誰か一人でいいから紹介してほしい、って言われちゃったから、この子に来てもらったの。海原さんはよく分かんないけど」
上条(…………スタッフミーティングにいきなり乱入して、ゲスト担当の鼻先をかすめるように一発超電磁砲を撃ってから、もう一発コインを突き付けて殺気漲る眼差しとドスの利いた声で「今回は、佐天さんと初春さんを呼んだらこの世に骨すら残らないわよ」の第一声から始まったアレは、はたして『誠心誠意話し合った』と言っていいものなのだろうか……)
海原「自分はつち……こほん、知人から行ってくるように言われました。彼曰く、友人全員に断固拒否されたらしく、それで自分に話が回ってきたのですが一体どういうことなんでしょう? 彼自身も『行くたくない』と言ってましたが」
縦ロ「断固拒否とはまた凄い話ですね。女王といい、海原様の周りの人といいどうされたのでしょうか」
美琴「なんか問題でもあったっけ? 実は黒子にも断られちゃってるのよね。いつもは頼まなくても付いてきたがるのに」
上条「さあ? そういやインデックスも嫌だって言ってたな。御坂が一緒に居るって分かってるのに行かないなんて珍しいことがあるもんだと思ったよ。あとオティヌスも」
全員「「「「う〜ん?」」」」


315 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:20:57 ot.Xe7c6
『そうそう。最近病院に来ている見舞い客の可愛らしい女の子がね、僕が君に連絡を入れると言ったら是非伝えて欲しい事があるとお願いされてしまってね?』
「はあ???」
 可愛いって誰のことだろう、と上条は思う。今病院にいるのは、白井黒子か姫神秋沙か。姫神の知り合いだとすると、吹寄整理か小萌先生か、白井の辺りに目をやると御坂美琴辺りが――――。
「――――待て。御坂美琴?」
 うん、とカエル顔の医者は適当に頷いて、

『良く分かったね。何でも「帰ってきたら大覇星祭の罰ゲームは覚悟しなさい」だってさ?」


上条「あ、ここか。今回は原作12巻エピソードだけど、もしかしたら11巻を少し挟むかもしれない、って言ってたのは」
美琴(こ、コイツの『可愛らしい女の子』って範疇に私入ってたんだ……///)
縦ロ「? どうされました御坂さん。顔が赤いですわよ?」
美琴「へ? あ、ああいや何でもない何でもない!!///」
海原「それにしても上条さんって『可愛らしい女の子』の知り合いが多いんですか? 御坂さんも含めて即座に五人浮かぶとは」(澄ました顔で棒読み)
美琴「…………………………そう言えば……そうね……」
上条「うううううううう海原!? 何か俺に恨みでもあんの!? 御坂の機嫌が急転直下で悪くなったじゃねえか!!」
海原(ええ多少は)


 上条当麻と御坂美琴は大覇星祭でちょっとした賭けをしていて、それに敗北した彼は美琴の言う事を聞く、という罰ゲームを強いられるはずだったのだ。それをすっぽかした挙げ句、呑気にイタリアへ旅行へ出かけた事が知れたとなれば……。
「待っているのは地獄のみ! より一層帰りたくない! うわ、ちょ、放して放して! そのプロの道具で俺を固定するのはやめてーっ!!」


海原「自分でしたら迷わず、何を差し置いても真っ先に帰りたいと思います」
上条「お前ひょっとしてM? Mなの? こん時の俺はどんな酷い目に遭わされるんだろうとしか思わんかったんだけど?」
美琴「う゛〜〜〜〜〜〜〜ん……」
海原「御坂さん? 何を難しい顔をしているのですか?」
美琴「……いや、一度コイツの脳内の私と会ってみたいかな、って。いったいどんなキャラ付けなのよ私、って感じだし」
縦ロ「ですわね。わたくしからしましても上条さんの脳内御坂さんは相当おどろおどろしいようですから」
海原「上条さんはいったい御坂さんの何が不満なのでしょうか」
上条「おいおいみんなして何だよ。それじゃ俺だけ御坂の印象が違うみたいじゃないか」
縦ロ「そうは申されましても、御坂さんは女王と双肩を誇るほど常盤台中学では見本となる存在で尊敬の念と羨望の眼差しを一身に賜っておりますし、御坂さんを慕う在学生も大勢いらっしゃいますよ」
海原「あと、とっつきやすい性格で分け隔てなく誰とでも気さくに接している姿をよく目にしますし、常盤台の誰に聞いても同じ答えが返ってきますね」
美琴「ん〜〜〜。私はそんなつもりないんだけど、そう見えるのかな? てことでアンタの脳内私だけがとっても変なんだけど?」
上条「えー? お前、常盤台に居る時、猫かぶってないかー?」
美琴「えー? 私は私のままよ。ここに居る時も常盤台に居る時もそんなに変えてるつもりないんだけどなぁ」
縦ロ「わたくしと常盤台で接する御坂さんの雰囲気と、今この場での御坂さんの雰囲気に相違はございませんわ」
上条「う、う〜ん……そう、なのかなぁ……?」
海原(ひょっとして御坂さんは、あなただけにしか見せない表情があるのでは…? と、口には出しませんがね……)


316 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:21:47 ot.Xe7c6
「……んふふ……。罰ゲームなんだから、何でも言う事聞かなくちゃいけないんだからねー……」
 何だかとんでもなく幸せそうな笑顔と共に、可愛らしい唇からそんな寝言が飛び出した。


海原「ぬおー! 御坂さんの可愛らしい寝姿を拝見させていただけたのは至上の眼福ですが、この御坂さんって何なんですかー!? 一体夢の中ではどちら様に向かって宣言してるんですかーっ!!!」
縦ロ「ど、どうされたんです? 海原さん。いきなりご自分の髪をグシャグシャグシャーッ!! と掻き毟りながらブリッジされるほど思いっきりのけぞられるとは……」
上条「……いや、『罰ゲーム』って単語が出たんだから明らかに夢の中の俺だろ……?」
美琴「う、うわ恥ずっ!/// 寝言って自分じゃ分からないけど私、こんなこと口走ってたんだ……///」


 ――御坂美琴は、本来ならば自分の頭を乗せるべき大きめの枕を両手でギュッと抱き寄せると、
「……まずは何をしてもらおうかなぁー……むにゃ」


海原「うおのれえええええええッ!! み、みさ、御坂さん!! 何故そこで枕に向かって頬ずりなんですかーっ!! このふかふか枕は何の代用ですか!!」
縦ロ「ど、どうされたんです? 海原さん。頭を抱えられたままゴロンゴロンと床の上で左右に何度も転げ回られて? というかキャラ崩壊してますよ?」
上条「……いや、夢の続きなんだから明らかに夢の中の俺だろ? って、御坂さん!? この様子だと夢の中の俺に抱きついてません!?」
美琴「し、知らないわよ!! 夢のことなんて覚えてるわけないじゃない!!///」
縦ロ「いえ、この映像を見る限りですと間違いなく夢の中の上条さんを抱擁していると思われますわ。しかも胸元辺りに頬ずりしているのではないかと」
美琴「し、ししし、してないですからっ!!! 夢の中でこの馬鹿を抱き締めて胸元辺りで頬ずりしてそしたらこの馬鹿も私を抱き締め返してきて私の耳元で『美琴の望む事なら何でもしてあげるよさぁ言ってごらん』とか優しく囁きかけてそのままあんな事やそんな事までしちゃったりなんかしたりなんて、ぜぜぜ全然ないですからっ!!!///」
上条「やけに具体的だね!? 覚えてないんじゃねーのかよ!」
海原「のおおおおおおおおおおッ!!」


 上条当麻は窓枠に肘を突き、残暑の厳しさも引いた秋の初めの緩やかな風を浴びつつ、ポツリと呟いた。
「はぁー……出会いが欲しい」


 グシャア!!
縦ロ「あ、あの……? 上条さんを挟むように、右に御坂さん、左に海原さんが立たれて、上条さんのこめかみに正拳突きされたのは何故ですか……? 上条さんの顔が万力っぽく押し潰されたようになっておられるのですが……」
美琴「いえ、どう考えてもこのセリフ、普段のコイツからするとツッコミ待ちのセリフですから適切な行動をとらないと」
海原「まったく……御坂さんとの出会いで充分でしょうに何を贅沢言っているんですか……」
上条「ばっ、にゃにすんれすかーっ!?」


「一生のお願いだから揉ませて吹寄!!」


美琴「…ほ〜う?」
上条「いやいやいや! ここだけ切り取られると何か『そういう意味』にしか聞こえないけど、もっと前から読めばちゃんとした意味があるから落ち着いて話を聞いてって言うかすみません謝りますからコインしまってください」
美琴「うっさい馬鹿! そんなに大きい方がいいんかアンタは、うわあぁ〜ん!」
上条「泣きたいのはこっち〜! 違うから! 揉ませてって、肩をって意味だから!」
縦ロ「??? あの…お肩を揉むかどうかで、何故お二人が争われますの?」
海原「さ、さぁ…自分に聞かれましても…(性知識の無い方は扱いが難しいですね…)」


317 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:22:39 ot.Xe7c6
「いたいたいたクソいやがったわねアンタ!!」


縦ロ「一つ分からない事があるのですが、『クソ』とは如何なる意味なのでしょうか?」
美琴「……え゛?」
縦ロ「いえ、確かお通じのスラングでそのような言葉があったと記憶しておりますが、御坂さんがそのような品性に欠ける事を仰るとは思えませんし……もしかしたら同音異義で別の意味があるのではと思いまして」
美琴「えっ!? あー、うん……そ、そうねー…」
上条「ほ〜ら、やっぱり猫かぶってんじゃねーか」
美琴「そ、そんなんじゃないわよ!」
海原(…やはり彼にしか見せない表情があるようですね……口には出しませんが…)


「これは、まあ、あれだな――――不幸だー」
「人の顔見るなりその反応は何なのよ!!」


縦ロ「上条さん……つかぬことをお聞きしますが……」
上条「ん? 何だ? おずおずして聞いてくるって」
縦ロ「ひょっとして上条さんは御坂さんの事をあまりお気に召されていない、とかなのでしょうか?」
美琴「!!!!!!!!!?!」
上条「んにゃ。そんなことはねーよ。それだったらつるんだりしたいとも思わんからな。 ただ、エンカウント時にはいつも電撃の槍を頂戴するから、これから己が身に降りかかるであろうことを先に言っておこう、ってだけだ」
美琴(ほっ……)
海原(チッ……)
上条「それに、こんなセリフは御坂じゃないと言えんぜ。普通、女の子じゃなくても、他の誰にだってこんなこと言ったら逆に俺の方が嫌われるだろ? けど御坂なら悪ふざけとか単なる憎まれ口の挨拶とかでしか受け取らないからさ。まあ、そんだけ接しやすい相手ってことだな」
美琴「はへ!?」
海原「くっ……」
縦ロ「上条さん? 今の貴方のセリフは先ほど仰られました『御坂さんは常盤台に居る時と上条さんと居る時とで態度が違う』というのを否定しているのでは?」
上条「あ゛」


「で、なんか用事でもあんのかお前? 手短にな。できれば歩きながらな。いっそもう帰っていいか?」
「ただでさえムカつく対応により拍車がかかってるわね……つっか、今のアンタにそんな大それたクチを聞くだけの権利があるとでも思ってんのかしらー?」
「あん?」

「罰ゲームよん♪」

 罰ゲーム、というのは九月十九日から七日間にわたって、繰り広げられた、学園都市総出の大規模体育祭『大覇星祭』で上条と美琴の間で取り決めを行った『賭け』にまつわるものだ。簡単に言って、順位の低かった方が相手の言う事を聞く、という内容である。


美琴「いったいアンタこの日何があったの? いくらなんでもこの対応は酷過ぎるわよ」
縦ロ「ですわね。別段、御坂さんには何の落ち度もないはずなのですが。ましてや、この日は、これが初顔合わせなんですよね?」
上条「まあそうだけどさ。つってもこん時の御坂は全然気にしてねーじゃん。むしろお前が俺を気使え」
美琴「はぁ? 何で私がアンタに気を使わなきゃいけないのよ。そもそもいつもアンタの方が私にまったく気を使ったことないじゃない」
上条「おいおい、お前が気を使わなきゃならんほどのタマか? 年上を年上とも思わんその態度。お前こそ、人生の先輩である俺に気を使え」
美琴「言ってくれるじゃない。そっくりそのまま返すわよ。年上なら年上らしく、人生の後輩を暖かく包み込んであげなさいよ」
縦ロ「つまり、お二人はお互いに気を使う必要がないほど親密な関係ってことですね?」
美琴「はぅっ!!!///」
上条「う゛……否定できん……って、どうした海原? 何で俺たちに背を向けてうずくまってるんだ?」
海原「……いえ……何も……」(……危うく、仮面が剥がれるところでした……)


318 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:23:35 ot.Xe7c6
 ――――御坂美琴の『罰ゲーム』発言は正統なる手順に従って放たれたものだったのだが、
「あれ? それってまだ有効だったっけ?」
「一人で勝手に水に流してんじゃないわよアンタ!! とにかく本当に何でも聞いてもらうんだから! はん、今の今まで利子とかつけずに待ってた美琴さんに感謝しなさいってのよ!!」


上条「うん。なんだろ? こう見ると妙に御坂が微笑ましいなあ。こん時は昼間のことがあってちょっとうんざりしてたから少し鬱陶しい感じがしてたんだけど、今見ると可愛い妹がキャイキャイ言ってるみたい」
美琴「……なんかむかつく褒められ方ね……」
海原「それにしても上条さん、よく常盤台相手に『学校対抗の勝負』の賭けをできましたね。五本指以外の学校の生徒でしたら勇気を通り越して明らかに『無謀』でしかないと思いますよ」
上条「う゛……ま、まあそうなんだけどさ……俺も後から何て無謀な賭けを持ちかけたんだと思ったよ」
縦ロ「え? 『上条さんから』持ちかけたんですか?」
上条「まあな」
縦ロ「あの……それでしたらここまでの一連の上条さんの態度は酷くありません? 言い出された上条さんが率先して逃げようとしているように感じるのですが……」
上条「……やっぱ俺の方が悪いのかね? 最近、どうも避けようとしていた俺を非難されっ放しなんだよな」
美琴「言い出しっぺが逃げようとするのは詐欺だしね。潔くないように映っても仕方ないじゃない?」
上条「でもさー…御坂の事だからきっと無理難題を言ってくるんじゃないかって思うと、多少は逃げ腰にもならないか? 『何でも』って約束だしな。もし仮に『私とキスしなさい!』とか言われたら、上条さんどうしたらいいのよ」
美琴「んなっ!!? そっそそ、そんな事言う訳ないでしょ馬鹿じゃないのっ!!?///」
上条「……いや、勿論冗談ですよ…?」
海原「……とてつもない勢いで帰りたくなってきました」


「そーよねー。アンタみたいな凡人じゃできる事なんて、た・か・が、知れてるもんねぇ? あら大丈夫よ、アンタと違ってとっても素晴らしい美琴さんはその辺もしっかり考慮してるから。馬鹿にできない事を頼むつもりはないし、凡人は凡人らしくヒーヒー頑張ったらー?」


上条「ほらもう、嫌な予感がビンビンするじゃないですかー」
美琴「な、何よ! 実際はそんな大それた事は要求しなかったでしょ!?」
縦ロ「では御坂さんと口付けはなされませんでしたの?」
美琴「ひゃえっ!!?///」
上条「あの、だからさっきのは冗談でしてね…?」
海原「自分、帰ってもよろしいですか? 割と本気で」


「よろしい!! ならばこの愛玩奴隷上条当麻に何なりと申し付けるがよい!!」


美琴「今考えると凄いこと言ってるわねアンタ」
上条「うん。ここ往来の場だもんな。これを目撃した周りには『女王様に媚び諂う執事』という風に映っただろうね」
縦ロ「いえ。残念ですけど上条さんを『執事』と思われた方は皆無かと思われます」
上条「へ?」
海原「まあ確かに『執事』とは上流階級に勤める人に仕える方のみに許される高貴な職業ですからね。この場合もある意味間違いではないかもしれませんが、『愛玩奴隷』と言った時点で『執事』じゃなくてドMで『下僕』か『家来』を連想される人が大多数だったのではないでしょうか」
上条「あれ? 執事ってそんなに高尚なお仕事だったの? 俺はてっきりコスプレで女性受けする役としか思ってなかったんだけど? 知り合いにメイドさんをコスプレとしか見てない奴がいるから、執事もそうかと」
美琴「……この辺りは常盤台と普通校の常識の違いなのかしら……」
上条「うわ! なんだかとっても馬鹿にされた気分!?」
縦ロ「はい? 御坂さんは素で仰っておられますけど?」


319 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:24:31 ot.Xe7c6
「ちょ、馬鹿!! アンタ色々とノリが良すぎるしスカートの下から思い切り扇ぐな!!」


縦ロ「まぁ。そんなにお暑かったのですか?」
上条「いや…そういう訳じゃないんだけど…」
美琴「てか改めて見ると、これ思いっきりセクハラよね!?」
上条「どうせ下に短パン穿いてんだろ」
美琴「気分の問題よ気分の! 公衆の面前でスカートがめくれたらどうしてくれた訳!?」
上条「『おっ、ラッキー! …って何だよ、短パン穿いてんのかよ。損した』…って感じかな」
美琴「周りの反応じゃなくて私に対してどうしてくれたのかって言うか『損した』って何じゃいゴルァアアア!!!」
海原「………自分の場合は『得した』と思うでしょうけども(ぼそっ)」


「な、なんという潔い直球従属姿勢……。しかしその役目は本来わたくしだけのものだッ!!」


美琴「それはそれでどうなのよ…」
縦ロ「わたくしは白井さんのお気持ち、とても良く分かりますわ」
美琴「えっ!!?」
縦ロ「わたくしも女王に身も心も捧げておりますから」
美琴「ああ、なるほど…」
上条「えっ? ちょっと待ってくれよ。その女王って人が誰かは知らないけど、同じ常盤台生なら当然女子だよな? しかも白井の気持ちが分かるって事は…縦ロールのお嬢様も百合というヤツなので?」
海原「いえ。その方の場合は恋愛感情ではなく、どちらかと言えば忠誠心のような物でしょう」
美琴「ううぅ…黒子が私をどう見てるのか改めて言われると、背筋がゾッとするわね……悪い子じゃないんだけど…」
縦ロ「白井さんではご不満なのですか?」
美琴「不満とかそれ以前に、私にそっちの趣味はありませんよ」
縦ロ「ああ。そう言われれば、御坂さんには気になる殿方がおられるのでしたわね」
海原「っ!!!」
美琴「ぶっ!!!///」
上条「あー…度々出てくる、御坂の好きな人か。けど、この手の話題になると毎回誰かに話をはぐらかされるんだよな〜」
美琴「そそそそんな事ないけどっ!!?」
海原「そうですとも! そんな事はありません! それよりも昨日の夜、何を食べたか覚えていますか!?」
上条「…今まさに話を逸らされた気がするんだけど……」


「何の儀式だこれ私はどこぞのカルト教団の教祖様かーっ!!」


上条「御坂教か」
美琴「止めてよ! 何かシャレにならなそうだから!」
海原「入信いたします!」
??「わたくしもですの!」
美琴「ほらー! いきなりシャレになってないじゃないの!」
上条「ちなみに十字教が十字架を首にぶら下げるのと同じように、御坂教はゲコ太の首飾りをするのが決まりです」
美琴「えっ!!? そ、それはちょっと…いいかも…」
縦ロ「あぁ……わたくしはどうすれば良いのでしょう…ゲコ太の首飾りは大変魅力的ですが、しかし女王を裏切る訳には参りませんし……」
上条「新しい宗教法人を立ち上げて5秒で入信者が3人(内一人は予定)か。すげーな御坂教」


 待ち合わせの時間は午後一時だった。
「すでに一時三〇分ってどういう事なのよーっ!!」
 ――――
「やーすみませんでしたーっ!!」


縦ロ「上条さん。約束は守らなければなりませんよ?」
上条「いやー…俺にも色々と事情がありましてですね……」
美琴「何よ事情って。この時はそんな事言わなかったじゃない」
上条「だって下手に言い訳すると余計に怒るじゃん」
美琴「怒んないわよっ!」
上条「…こんな風に」
美琴「怒ってないっつってんでsy―――……こほん。怒りませんから、理由を仰ってみなさいな」
上条「え、何その口調。変なモンでも食った?」
美琴「ア〜ン〜タ〜ねぇっ!!! 人がせっかく―――」
海原「自分達はいつまでこの漫才を見なければならないのでしょうか」
縦ロ「これが世に言う…お漫才という物ですか! わたくし生まれて初めて拝見いたしましたわ!」
海原「……それは何よりです…」


320 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:25:27 ot.Xe7c6
「かれこれ一時間もボケーッと突っ立たされたさらし者の気持ちがアンタに分かる? 待ってる途中で変な男どもに声かけられるし、いちいち雷撃の槍で丁寧に追い払うのもとっても面倒臭かったのよー?」


縦ロ「まぁ! 世に言うおナンパですの!? わたくし一度見てみたいですわ!」
美琴「そんなにいいモンじゃないですよ…? というか、多分、貴女でしたら一人で街を歩くだけで思う存分気が済むまでおナンパを拝見できると思います」
縦ロ「そうですの? でしたら今度、女王にお願いしてみようかしら」
美琴「いやいやいやいやアイツにお願いしてまでなら止めた方がいいから! あなたのためにも、そのナンパしてきた奴らのためにも!!」
上条「にしても、『丁寧』に追う払う…ねぇ…?」
美琴「何か文句ある?」
上条「いいえ。メッソウモゴザイマセン」
海原「…御坂さんは、よく街中で変な男に声を掛けられるのですか?」
美琴「う、うん。まぁ、ナンパはよくされるわね…(その中の一人にアンタが入ってるってのは…言わない方がいいかしら)」
海原「まぁ、自分としてはとてつもなく不本意と言いますか、むしろ腸が煮えくり返るような思いではありますが…しかし御坂さんの魅力ならば、ナンパされるのも仕方ないのかも知れませんね」
縦ロ「ふふっ、そうですわね。わたくしがもしも男性でしたら、思わずおナンパをしてしまうかも知れません」
上条「ま、確かに御坂は可愛いもんな」
美琴「ちょ、ちょっと止めてよ! 何か恥ずかしいから―――…………って!!! 何アンタまでサラッと『可愛い』とか言ってのよおおおおおおっ!!!///」


「って、あれ? 待ち合わせの時間って一時だったよな」
「……アンタ、まさかそれすらスルーしてたとかっていう話じゃないでしょうね」
「そうじゃなくて。 一時間前から待ってたって事は、お前って待ち合わせの三〇分も前からここにいたの?」


縦ロ「あら? そう言われればそうですわね…」
美琴「い、いいいいや違いますよっ!!? べべべ、別にコイツとの約束が楽しみすぎて早めに来ちゃったとか、そういう訳じゃないですからっ!!!///」
縦ロ「え…? では何故―――」
海原「御坂さんは几帳面なのです。待ち合わせ場所に遅刻すると相手に失礼だと考えたのでしょう。少々早めに到着して、相手を待つ事にしたのです。ええ、それ以外の理由はありませんとも!」
上条「…何で海原が解説するんだ? しかもそんなに必死に」


「違っ……ば、馬鹿ね。大雑把に言ってるだけで、別にきっちり六〇分前からここにいた訳じゃないわよ。な、何で勝負に勝った私がアンタを待つ側に回らなくちゃならないの? 勝手に変な想像膨らましてニヤニヤしないでほしいわね」


上条「ちなみに変な想像って、俺がどんな想像してると思ってたん?」
美琴「は、はぁっ!!? そ、そそ、そんなの…も…もう忘れちゃったわよ!///」
上条「いや、でも―――」
海原「上条さん。御坂さんはお忘れになったと仰っているのですから、追求するのは如何なものでしょうか」
上条(…何かさっきから、妙に海原が邪魔してくるなぁ……何でだ?)
縦ロ(先程から御坂さんが妙に赤面していらっしゃいますが……何故なのでしょう?)


321 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:26:18 ot.Xe7c6
「……そんなに罰ゲームで俺が苦しむ姿を見るのが楽しみだったのか」


海原「……貴方が貴方であって、非常にホッとしました」
上条「何その、安心したけど哀れむような複雑な目つきは。つーか今の言葉、インデックスにもよく言われるんだけど。『とうまはとうまだから仕方ない』って」
美琴「うん。私もアンタはアンタだって心から思うわよ」
上条「どういう意味なんだよ…」
縦ロ「上条さん! それはそうと、御坂さんは人が苦しむ姿を見て喜ぶような方ではありませんわよ!」
上条「あー…常盤台のお嬢様には分からないかも知れないけど、世の中には色々な趣味の人がいるのですよ」
美琴「特殊な性癖を持ってるみたいに言うな! そもそも、そんな趣味も持ってないし!」
??「わたくしでしたら! お姉様に罵られて足蹴にされても一向に構いませんの〜っ!!!」
上条「……な? 色々な趣味の人がいるだろ?」
縦ロ「は、はぁ…」
美琴「いや…あの変態を例に出されても…ていうかアンタも早く帰りなさい!」ゲシゲシ!
??「あぁ! お姉様! いいですわ! ああああああああああ!!」
海原(御坂さんに罵られたり足蹴にされたり…ですか………ゴクリ)


「……お前、まさか何にも考えてなかったんじゃ」


上条「ノープランで呼び出すなよな。罰ゲームのご利用は計画的にって聞くだろ?」
美琴「知らないわよ! そんな消費者金融のキャッチコピーみたいなの! そもそもアンタは私に口答えできる立場じゃないんだから、黙って私の言う事を聞けばいいの!」
上条「だったらその『言う事』とやらを決めとけっての!」
美琴「じゃあ何よ! 『私とキスしなさい』とか言ったらアンタはした訳!?」
海原「ちょちょちょお待ちください御坂さん! 売り言葉に買い言葉で、とんでもない事を仰ってますよ!? と言うかその言葉、御坂さんご自身が否定したじゃないですか!」
美琴「………へ?」
縦ロ「いえですから、今しがた御坂さんが口付けについての発言を…」
美琴「っっっ!!!!!///」
海原(…今、気付いたようですね……ご自分で言った言葉の意味に……)


「黙ってついて来なさいっつってんのよ! それが最初の罰ゲーム!!」
「最初!? 罰ゲームって一つじゃねーの!?」


上条「つまり何度もキスしろ、と。そういう訳でせうか?」
美琴「………………ぷしゅー…///」
縦ロ「大変ですわ! 御坂さんから謎の煙が!」
海原「はああああぁぁぁぁぁぁ……」
縦ロ「そして海原さんは深い溜息を!」
上条「あの〜…だから冗談ですよ?」


322 : 罰ゲームこぼれ話(前編) :2015/02/25(水) 22:27:09 ot.Xe7c6
上条「あん? 今回ここまでなの? 意外に進まなかったな」
美琴(う、うわー……じ、次回が本番ってこと!?/// ひ、引っ張るんだ!?///)
上条「この続きで俺と御坂が出る所って事は…アレか。あのペアk」
美琴「わーっ、わーっ、わーっ!!! い、い、言わなくていいから! ネタバレになるし!///」
上条「…ネタバレも何も、アニメでもやった所だぞ?」
美琴「そ、それにホラ! まだ次回の台本も手元に無いし―――」
縦ロ「あっそうでした。わたくし、次回予告の台本預かってるんでした」
美琴「あるんかいっ!!!///」
縦ロ「では読みあげますわね」
海原「はいどうぞ」
縦ロ「こほん。――――ここは上条当麻と御坂美琴の二人ともに関わった人たちが誰も居ない世界。そこに存在していたのは、二人ともに関わっていながら何も知らない海原光貴のみ。これは、海原光貴の心を挫く物語――――って、何ですのこれ?」
上条「うわ。どこかで聞いたような予告でちょっと鬱」
海原「え? え? 罰ゲームですよね? 上条さんが受ける罰ゲームですよね? この予告ですと何だか自分が罰ゲームを受けるような気分なんですけど? 」
上条「その予告だと、海原さん何万回も殺されちゃいますぜ」
海原「そんなゴールド・エクスペリエンス・レクイエムじゃあるまいし!」
美琴「確かに罰ゲームを受けるのはコイツであって海原さんじゃないわよね。何でこんな予告なの?」
上条「言い回しはさておき、確かに妙だよな? はて?」
全員「「「「うう〜〜〜〜〜〜〜〜ん?」」」」


323 : 我道&くまのこ :2015/02/25(水) 22:28:35 ot.Xe7c6
以上です。
次のこぼれ話は罰ゲーム本番ですね。
原作が最大手すぎて、
あれ以上のニヤニヤを提供できるのかどうか、少し不安ですw
ではまた。


324 : くまのこ :2015/02/26(木) 21:46:47 e8v.5PhA
連投すみません。
いつものように短編書きました。
>>169-171>>225-226の続編ですが、
多分、前作も前々作も読まなくても大丈夫だと思います。
約3分後に2レスです。


325 : 惚れてまうやろ& ◆Pt/5yGxXms :2015/02/26(木) 21:50:28 e8v.5PhA
「うっし! じゃあ今日もヨロシクお願いいたします」
「きょ、今日も……『アレ』やるの…?」
「え? だって練習に付き合うって言ってくれたじゃねーか」
「そりゃ…そう、なんだけどさ……」

上条から目を背け、早くも赤面してしまう美琴。
それもその筈だ。何せ今から、あの地獄のような【うれしくもはずかしい】練習が待っているのだから。
確かに上条の言うように、「練習に付き合う」とは美琴から言い出した事だ。
そうしなければ上条が自分以外の女性を相手に『練習』してしまっていたかも知れないし、
何より美琴自身も、その『練習』を何度も味わいたかった。
だが想定外の事が二つあった。それは『練習』の破壊力と頻度である。
一発一発が非常に重く、心臓が爆発する勢いの衝撃があるというのに、それをほぼ毎日だ。
学園都市で『七本の指』に入る実力者と言えども、内側からの攻撃(?)には流石に脆いのである。
その上、日に日に『練習』の破壊力が高くなっている。
それは上条が『練習』の成果として、徐々に連度が増している…というのも原因ではあるが、
それ以上に美琴の『防御』も甘くなっているのである。何故なら―――

「んじゃやるぞ? 『俺様キャラ』の練習」
「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!!!」

何故なら練習を重ねれば重ねる程、美琴は上条に惹かれてしまっているからである。
慣れてしまえばどうという事もなくなるのだろうが、これに慣れるには相当の時間がかかりそうだ。


 ◇


数日前、上条は「モテたい!」との切実【アホみたい】な理由でキャラチェンジを試みた。
転職先のキャラは、ナウなヤングギャル達のドキをムネムネさせるという、
イケイケゴーゴーな『俺様キャラ』だった。
これをマスターすれば、脚がグンバツでパイオツがボインなイカしたちゃんねーと、
ザギンでシースーも夢ではないらしいのだ。

「そ、それで今日は…ど…どんな練習するのよ…?」

指をモジモジさせながら、ぼそっと呟くように尋ねる。
すると上条は腕を組みながら「んー…」と考え、暫くしてからこう答えた。

「今日は日常生活っつーか…普段通りの事をしながら、
 その合間に『俺様』な上条さんを挟んでみようかと思います」
「日常生活…?」

言われてもピンときていないようなので、上条は例を出す。

「例えば、いつもみたいに手を繋ぎながら一緒に帰るとするだろ?」
「ななななっ!!?」

例題がおかしい。
まず、いつも手を繋いでる訳ではないのだが、上条はそんな事もお構いなしに美琴の手を取る。

「けど、ここからが違うんだよ」
「は! はわ! はわわわわわわっ!!!」

ここ『からが』も何も、ここ『までも』既に違うのだが、
残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。
上条は目をグルグルさせている美琴の手をグイッと引っ張り、抱き寄せる。
そしてそのまま、お互いの鼻先が付くか付かないかという距離で、とどめの一言。

「いいから俺に付いて来いよ」

美琴の顔が、「ボフン!」と音を立てて爆発した。
しかしそれだけでは終わらない。上条の「とどめ」は二段構えだったのだ。
普段の彼ならば絶対にしないであろうが、一つキャラが乗っかっている事で、
多少の大胆行動にはブレーキが利かなくなっているようだ。
上条は掴んでいる美琴の手にそっと―――

「……チュ…」
「っっっ!!!!?!?!!?」

―――そっと口付けした。
それはどちらかと言えば『俺様』ではなく『王子様』なのだが、
残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。


326 : 惚れてまうやろ! :2015/02/26(木) 21:52:04 e8v.5PhA
 ◇


上条と美琴は、第7学区のふれあい広場にオープンしている、
クレープハウス「rablun(らぶるん)」に来ていた。
いつか美琴が先着100名様のゲコ太マスコット、その最後の一個を手に入れた【ゆずってもらった】、
あのクレープハウスである。
普段通りの事をする、と言っても、いつもはあのまま雑談しながら一緒に帰るだけなので、
俺様キャラの練習も兼ねて、少しだけ寄り道したのだ。
上条は右手に持ったチョコバナナを一口かじりながら、

「ほら、美琴の分」

左手に持っていたクリームチーズベリーを美琴に差し出した。

「あ…あり、がと……」

先程の二段構えの「とどめ」が相当効いたのか、美琴は未だにふわふわしていた。
ポケ〜っとしながらクリームチーズベリーパフェを受け取り、そのまま「はむっ」と口に含む。
クリームチーズの濃厚な味わいとラズベリーの爽やかな酸味が口の中を―――
なんて、今の美琴に味なんぞ分かる訳がなかった。
広場のベンチにちょこんと座り、俯いたままモソモソそしゃくをしているが、
この状況で脳が別のお仕事にいっぱいいっぱいらしく、味覚まで手を回してくれていないのだ。
そんな美琴の現状を知ったこっちゃないと言わんばかりに、
上条は俺様キャラを練習するべく攻めてきた。

「おい美琴。お前のパフェ、一口くれよ」
「………え?」

ふいにそんな事を言われ、素っ頓狂な返事をしてしまう。

「ええええええええええっ!!!?」

一拍置いて、その言葉の意味を理解し、美琴は声を荒げた。
先程の手にキスも中々どうして高度だったが、今回はそれ以上だ。何しろ今度は、

「だだだだって! これ! わ、わわ、私もう一口食べちゃったしっ!!!」

間接キスだから。
手にキスよりも簡単ではないか、とお思いの方も多いだろうが、しかし考えてみてほしい。
手にキスはロマンチックだが【ケツがかゆくなるが】、キスした部分が口に付く訳ではない。
対して間接キスは、自分が口を付けた部分に相手も口を付ける…
つまりイヤらしい言い方だが、『粘膜接触』が起こるのだ。
自分の唾液が、少なからず相手に感染るのである。
以前、佐天とは何の気なしにそれをやった訳だが、相手が上条では話が違う。
友人なら気兼ねはしないが、好きな人が相手では、その意味合いが大きく変わるのだ。
が、上条は相変わらず気にした様子もなく、

「いいんだよ。お前の物は俺の物、俺の物は俺の物なんだから」

俺様の代表格でもある、ジャイアニズムを披露する。

「だから美琴自身も俺の物な」
「んなっ!!!?」

しかも、こんなとんでもない事まで言ってくる始末。
一度冷静になって、その言葉の意味を深く考えてほしい物である。
上条は、自分で言った「美琴自身も俺の物」発言で固まっている美琴を横目に、
当たり前の様に彼女が握り締めているパフェをかぶりつく。

「…うん! こっちも美味いな」
「がっ! が、かっ!!?」

上条の言葉が耳に届いているのかいないのか、固まったまま口をパクパクさせている美琴。
上条も流石にマズいと思ったのか、練習中の俺様キャラを解く。
鈍感な上条は、今の美琴の態度を不機嫌な状態だと思ったようだ。

「いや…悪かったよ。確かに調子に乗りすぎた。
 ほら、俺の分のも一口食っていいから機嫌直せって」

キリッとした表情から一変して、いつもの気だるげな表情に戻る上条。
少し困り顔をしながら、自分のチョコバナナパフェ(勿論、食べかけ)を差し出してくる。

「っっっ!!!!?!?!!?」

それはつまり、間接キスである。
しかも今回は先程と違って、「される側」ではなく「する側」だ。
そして唾液は「感染る側」ではなく、「感染される側」になる。

その瞬間が、この日の美琴にとって最後の記憶となったのだった。
あの後美琴がどうなったのかは、上条ただ一人だけが知っている。


327 : くまのこ :2015/02/26(木) 21:55:03 e8v.5PhA
以上です。
段々「俺様キャラとはいったい……うごごご!!」
ってなってる気がします…
あと何かタイトルでエラーが出たので、「惚れてまうやろ!」に変更しましたが、
元々は「惚れてまうやろ〜! そのウチ唇でもキスしちゃうパターンの奴や!」でした。
まぁ、どうでもいいですけどw
ではまた。


328 : くまのこ :2015/03/01(日) 00:06:26 TsOzDp.U
また連投になります。すみません。
小ネタを2本書いたので、投下します。
約3分後に2レスです。


329 : 御坂美琴に関する重大なネタバレ :2015/03/01(日) 00:09:14 TsOzDp.U
※ 注意
今からご覧になる話は、常盤台の超電磁砲こと御坂美琴に関する重大なネタバレが含まれています。
原作未読の方やネタバレを気にする方は、絶対に読まないでください。


 ◇


美琴はテンパっていた。
急な雨だったが学校に置き傘を置いてあったので、濡れて帰るという事にはならなかったが、
美琴が差す傘の中には、美琴の他にもう一人の人間がいるのである。

「いや〜、助かりましたよ。上条さんの傘は風で吹っ飛んでちゃったからさ」

上条である。

「べべべべつに私は構わないけど!?
 あ、あああ、相合傘なんて! そんな大した事でもないしっ!!?」

狭い傘の中という事もあり、肩と肩は重なるし、腕と腕はぶつかるし、
何より顔と顔が非常に近い。当然ながら、二人は密着している状態なのだ。

「…あれ? 美琴、何だか顔が赤くないか? もしかして風邪気味なのか?」
「な、なな、何でもないけどっ!!?」

何でもないという事はないだろう。
上条の指摘通り、顔は赤いし熱も出ている。
ついでに心臓は破裂しそうな程にバクバクしているし、呼吸も荒い。
上条が耳元で喋るだけで、思わず跳ね上がってしまう。
しかしこれらの症状は、実は風邪ではない。

そしてここからがネタバレになるので、お気をつけいただきたいのだが―――











(そんなのっ! こんだけアンタが近くにいるからに決まってんでしょうがっ!!!)


[ ネタバレ ] 実は美琴は、





























!!!


330 : とある子供の質問攻め【ねぇ、なんで?】 :2015/03/01(日) 00:10:33 TsOzDp.U
子供と言うのは親や兄姉、祖父母に先生と、
何かにつけて大人に「ねぇ、なんで○○なの?」と聞いてくる物である。
ここにいる上条麻琴(5歳)もそんなお年頃であり、両親は質問攻めに遭っていた。


 ◇


Q 「どうしてママはビリビリするの?」

A 「ママは電撃使いだからよ」
  「しかもレベル5だもんな」



Q 「じゃあどうしてパパにはビリビリがきかないの?」

A 「パパの右手には超能力を打ち消しちゃう力があるんだ」
  「その変な力のおかげで出会った頃は苦労したわよね〜」



Q 「なんでママはすぐにパパをビリビリさせるの?」

A 「パパがす〜ぐ他の女に人にデレデレしちゃうからよっ!」
  「……そんな睨まれてもワタクシには覚えがないのですが…」



Q 「なんでパパはいろんなおんなのひととなかよしなの?」

A 「それは是非、私も聞きたいわねぇ……ねぇ、ア・ナ・タ!?」
  「だ、だから俺にはそんなつもりは無いんだって!」



Q 「パパ、ママのことはすき?」

A 「当ったり前だろ? 大好きだから結婚したんだよ」
  「…サラッと言ってくれちゃうんだから…///」



Q 「どんなとこがすき?」

A 「ママの? そうだな……全部かな。ママの全部が好き」
  「ちょっ!!?///」



Q 「じゃあパパは、ママとまことどっちがすき?」

A 「ん〜…選べないなぁ。ママも麻琴も、どっちも好きじゃダメかな?」
  「あら! アナタってば、私と麻琴ちゃんで二股をかける気かしらん♪」



Q 「ママはパパのことすき?」

A 「うん、好きよ。大好き♡」
  「そ、そっか…ありがとな。……改めて言われると照れるな…」



Q 「パパのどこがすき?」

A 「そうね〜…一言じゃあ言い表せないかな。好きな所がいっぱいありすぎて♡」
  「……ちょっと待って麻琴。一回ママを抱き締めるから」



Q 「なんでパパ、ママをギュってしたの?」

A 「ごめん。ママが可愛すぎたから、つい」
  「やっ、ちょっ! ……も〜う♡」



Q 「まことは!? まことにはギュってしないの!?」

A 「勿論するぞ! むぎゅ〜!」
  「ママも、むぎゅ〜!」



Q 「……あれ? なんでギュってすると、こころがポカポカするのかな…?」

A 「んー? 大好きな人をギュってするとポカポカしてくるもんなんだよ」
  「ふふっ! だからパパもママも、麻琴ちゃんをギュってするとポカポカするのよ」



Q 「それとね、いいにおいもするの。なんで?」

A 「えっと…親は子供を落ち着かせる為に、安心させる匂いを分泌―――」
  「…なぁ、ママ。麻琴にそんな難しい事言っても分かんないんじゃないか?」



Q 「??? ぶんぴ…つ…?」

A 「あ、ほら。分かってないって顔だ」
  「で、でも他に何て言えばいいのか……」



Q 「なんでいいにおいになるのか、パパもママもしらないの?」

A 「えぇっと、そうだな……大好きなモノの匂いは、いい匂いに感じるもんなのさ」
  「そ、そう! 麻琴ちゃんの大好きなホットケーキがいい匂いになるのと同じなのよ!」



Q 「じゃあパパとママがいっぱいチューするのはなんで?」

A 「え゛っ!!?」
  「そ、それは……その…ねぇ、パパ…?///」



Q 「それからたまによるにおふとんのなかでプロレスごっこしてるのはなんで?
   『もっとつよく』ってなにをつよくするの? 『いく』ってどこにいくの?
   『あかちゃんできちゃう』ってどういうこと?
   あかちゃんはコウノトリさんがはこんできてくれるんじゃないの?
   ねぇ、なんでなんで?」

A 「……さ、さぁー…? ナ、ナンデナノカナー?」
  「……………///」


331 : くまのこ :2015/03/01(日) 00:11:27 TsOzDp.U
以上です。
ではまた。


332 : ■■■■ :2015/03/01(日) 04:35:22 F6YDSM46
くまのこさん(*^ー゚)b グッジョブ!!


333 : ■■■■ :2015/03/01(日) 15:23:32 TS5Ta4AI
ディ・モールト・ベネッ!!!!!


334 : ・・・ :2015/03/05(木) 06:46:46 .tH6V1Z6
ども、・・・です
花粉で涙目になった美琴を見て、真っ赤になるカミやんが見たい。

くまのこさん&我道さん
うん、ミコっちゃんかわいい
この無自覚バカップルめ!!
あー、海原、葬式の準備はしといてやるよ。アステカの風習調べとくわ。

くまのこさん
>>きをつけなはれや!!
……いつもの上条となにが違うんだ(混乱)
俺様キャラが成功しつつあるな(美琴限定で)
あのバカ気付いてねーけどな(処刑の時間だぜ)

>>ネタばれ
……いや、いまさらかよ
相合傘って、こんだけでうれしくなるミコっちゃんお得
まったくもー、オレは新約2巻で気付いてましたぜ(ドヤァ)

>>なんで?
まこっちゃんはいいこですね〜
結婚しててもあんまり変わってな……気のせいか
とりあえずてめーらが幸せなのはわかったおめでとう!!



では投稿します
育児日記続編です。
この長編はフィクションでオリ設定多数でちょっと鬱?があって、とうまはとうまです。
それでは


335 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:48:18 .tH6V1Z6
「そっか、君が……」

「いや、そんなに大したことしたつもりはないんですけどね?」

食後の一服。御坂旅掛と上条はコーヒーを飲んでいた。

(オティヌスを止めたのが、大したことない、か……)

彼の仕事がら、あの時の情報はあちこちから入っていた。
いや、それだけではない。
そのあとしばらく続いた争乱も、第三次世界対戦も、最後の審判事件も、断片的だが、確かな情報を手にしている。
その全てに登場するキーワード、「ツンツン頭の日本人の少年」

(…………間違いない)

旅掛には、それでも信じられなかった。

彼は、どう見ても恋に奥手なただの男子高校生だった。

(こんな子供が、世界に多大な影響力を持っているとはな)

もうすぐコーヒーもなくなる。


336 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:48:56 .tH6V1Z6
皆さんはとっくの昔にご存知だと思うが、
上条当麻は不幸であり、

御坂美琴も結構不幸である。
そんなこんなで




彼女達は出会ってしまったのだった。

「あ」

「あ」

「あ」

「ん?」

くるり、と美琴は後ろを向き、
ばったり会った寮監たちから全力疾走で逃げ出した。
いや、未来へ向かって走った。
ゲコタカーに乗っているこの子のことで尋問されたら、当麻との同居がばれてしまう。
殺される!!

「待て、御坂」

シュバッと走りだす寮監を止めた人物が2人。

「み、御坂さん!! 逃げて!!」

「は、早く!! できるだけ遠くへ!!」

かわいそうに、白井は初春に投げ捨てられた。
それでも寮監につかみかかった初春と佐天はそれぞれ1秒で片付いた。

「うわー」とか、「あーれー」とか叫んで飛んでいったが、デフォルメされてたし、ギャグ補正で無傷だろう。
しかし、美琴は一切笑えない。

(ギャァァァアアアアアアアアア!!)

半泣きで走る美琴。
でもインデックスは猛スピードで走るゲコタカーにご満悦である。


337 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:49:41 .tH6V1Z6
上条と旅掛はレストランを出ていた。
後でおこるであろう殺人事件の犯人と被害者は、すっかり意気投合したようだ。

「なるほど、そんなに焦る必要はないんですね?」

「あぁ、その子のペースに合わせるべきだ。まだ離乳食を食べたくないなら、無理に食べさせるもんじゃない」

ゆっくりで大丈夫だ、という旅掛。
やっぱりリアルな先輩パパの助言は頼もしい。
その時、目の前から何かが走ってくる。
ドドドドドドドという効果音がうるさい。
後方は「歴戦の勇者」だとか「戦場の死神」だとか「首刈り女」だとかの異名が似合いそうな怪物。
そして、前方を走るのは、

「!!?美k「美琴ぉぉぉおおおお!!!」!!!?」

旅掛が動くよりも先に、上条は彼女達の間に入っていた。
あと2秒遅かったら間に合わなかったかもしれない。

「当麻!!」

「ぱーぱ!!」

上条は、寮監の右手を左手で防いでいた。
そのあと迫ってくる左手をしゃがんでかわし、もう一度近づいた右手を左手ではじくと、再び襲いくる左手をバックステップでよける。
ザザッ、と地面をこする音が耳に入るとともに、冷や汗が頬を伝う。

(……コイツ、強い!!)

手合わせするだけで強さがわかるようになってしまったか、上条よ。
なんか泣けてきた。

「テメェの狙いはインデックスか?」

「私の目的は御坂だ。キサマは誰だ?」

「へっ!!ただの高校s「ちょ、ちょっと、当麻」御坂、悪い、庇いながら闘うのは難しい。インデックスを連れて逃げ「いや、うん、嬉しいんだけども、あの「早く行け!! ……こっからはオレが相手だ!! お前が美琴を好き勝手できるっていうなら、まずは!! その幻想を!!ぶちこ「当麻!!」なんだよ!!「あの人、うちの寮の寮監なの」

へ?
彼らの頭上を赤トンボが通過する。
上条は顔色が悪くなり、さっきとは違う冷や汗がドバドバ流れる。

「美琴、お前、この当麻くんと、一緒に、暮らして、いるのか?」

「へ? え? なんでパパがここにいるの?」

パパ?
上条の顔は完璧に血の気が引いた。
なんとまぁ、さっきまでわたくしは自分を殺してくれなどと申しそうろうか。


338 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:50:19 .tH6V1Z6
「どうも、御坂旅掛です。娘がいつもご迷惑を」

「ご挨拶が遅くなりました。寮の管理をさせていただいています。確かに娘さんは少しやんちゃな面がありますが、生徒のいい見本ともなっていまして、私も助かっています」

保護者どうしの話の横で上条夫婦はドタバタ……いや、失礼まだ夫婦でなかったね。

「な、なんでパパと一緒にいたのよ!!」

「いや、不良から一緒に逃げたんですよ!! メールしたでしょ!!」

「と、とりあえず、アンタと私は別の場所に住んでる、いいわね!!」

「い、いや、悪い、知り合いの女の子と住んでるって言っちまった」

「ちょっ!! ……い、いや、別の……」

別の……?

「そ、そうだな、別の「ダメ!!」へ?」

「別の子と住んでるって設定はなしで!!」

でも、それって寮監に殺されることを意味しますよね?

「あ、うん、わかっ……」

あれ? でもそれって御坂パパにいろいろと宣戦布告することになるんじゃ?
しかし、ここで、嘘だけはつけない。つきたくない。

「「……」」

あ、ここまでか。

「美琴、短い人生だったが、楽しかったよ」

「わたしも、本当に、幸せだった」


339 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:51:10 .tH6V1Z6
カツンとハイヒールの音がする。

「……さて、御坂、その彼とその赤ん坊について、説明してもらおうか」

そっと、上条達2人は手を繋いだ。

「彼は……」「オレは……」

「彼は美琴の許嫁ですよ」

「「「へ?」」」

「おい、美琴、ちゃんと報告しないとダメだろ」

旅掛は2人に歩みよりながら続ける。

「へ? え!!?」

「な、なん!!」

何かを言おうとした上条と美琴の耳元で、

(本当のことを言って欲しいのか?)

と旅掛が呟いたため、ピタッと2人は固まった。
その状況を見て、クイッとあの眼鏡が上がる。

「許嫁?」

「えぇ、最初付き合わせて欲しいと彼に言われた時には、殺してやろうと思いましたがね」

その覇気を知っている上条は笑えない。

「まぁ、話をすると、気に入ってしまいまして」

え? へ?

「まだ清い関係のようだし、付き合うからには最後まで責任取れって言ったら、わかったなんて言うもんだし、じゃあ許嫁だということに……」

「ちょっ!!? ちょっと!!」

「なんだ? 美琴、今更恥ずかしがるなよ」

そして、父親は、今日の目的に目を向ける。

「お前は今でもその覚悟があるんだろ?」

一瞬の迷いもなかった。

「はい、もちろんです」

バブフンッ!! と美琴が爆発したのを全員無視。

「ね? こんなやつだから、寮が壊れたんなら、
いっそ今から2人で暮らして慣れておけってことになったんです」

キョロキョロいていたインデックスがはっとした。
彼女はお利口さんなのだ。

「だっ!! あう!! こーちゃ!!」

「おぉ、よく挨拶できたなぁ、偉いぞ〜」

しゃがんだ旅掛に、その子は? という問いが投げ掛けられる。
旅掛はなでなでをやめない。

「あぁ、うちの親戚ですよ。いろいろあって預かることになったんですが、
オレは仕事で海外にいるし、妻は朝から晩まで大学ですしね」

さらに、能力の才能があるみたいなので、学園都市に早めに入れたかったのだと続ける。
寮監はしばらく考えた。
視線が美琴と上条を交互に見る。
そして一瞬微笑んだが、すぐいつもの表情に戻った。

「大変失礼しました。不純異性交遊ならば対応が必要かと思いましたが、
ご両親公認の仲なら問題ないでしょう」

「いえ、こちらも美琴がきちんと報告せず、ご迷惑をおかけしました」

失礼します、といって寮監は立ち去る。
美琴の横を通りすぎるとき、「よかったな」という言葉を残して。


340 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:52:45 .tH6V1Z6

「さて、こんな感じで良かったか? ミコっちゃん?」

「ふにゃ〜……はっ!! ミコっちゃんいうな!! いや、えっと、いろいろ聞きたいけど、何しに来たのよ?」



「違うだろ、美琴」

美琴は息を飲む。
いつものふざけた空気はない。
厳格な父親がそこに立っていた。

「まずは、『ありがとう』だ。
何かをしてもらったら礼をする」

一瞬インデックスに視線を移し、
そのまま父は娘を叱った。

「子育てをしている自覚を持て。
お前の行動全てがこの子の手本なんだぞ」

「ご、ごめんなさい」

その言葉を聞き、ようやく旅掛はいつもの表情に戻った。

「……いろいろあったんだが、お前の楽しそうな顔見て、
安心したんだろうな。まぁ、許してやるかってなった」

「??? 仕事の、話?」

「……もっと大事なことさ。まぁ、済んだことだ」

チラッと上条を見た。
再びツンツン頭にナイアガラの滝のごとく汗が出る。

「上条くん、少し美琴と話をしたいんだが、いいかな?」

「え? あ、はい」

インデックスを連れて上条が少し離れたことを確認すると、
旅掛は突然美琴を抱きしめた。

「わ!! ちょ!! なに!!? どうしたの!!?「美琴……」…………??」




頑張ったな。




たった一言だった。
恐らく、父はなにもわかっていない。
自分か怪物と戦ったことや、自殺をしようと考えるまで追い詰められたこと、
何度も死にかけたなんて考えもしていないだろう。
でも、




暖かい。

「…………うん、ありがとう」

「1つだけ、確認したい」

「なに?」

「いま…………幸せか?」

目を閉じる。

「………………ぅん。今までにないくらい」

「…………そうか」

ゆっくり、旅掛は美琴から離れた。

「じゃあ、オレは帰るとしよう。
大覇星祭、楽しみにしてるぞ」

父は立ち去ることにした。
ただ、これだけは忘れて行けない。
彼は最後に上条の正面に立った。

「1つだけ、言っておく」

「はい」

「美琴を泣かせたら、地の果てまで追いかけて、潰す」

「大丈夫です」

驚いた。
先ほどと同様に少しも怯まない。
まったく我が娘ながら、

「掘りだしもんだな。買い物上手め」

頭に?を浮かべる上条を尻目に、旅掛は手を振りながら去っていった。
しばらく、その背を見送っていた上条のズボンが引っ張られる。
もちろん、彼女だ。

「ぱーぱ!! たゃえお!!」

「当麻、帰ろう。私たちの家に」

「…………そうだな」

上条は帰る。
決意を新たに。


341 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:53:34 .tH6V1Z6
おまけ!!

アウレオルス=イザードは、例によって、インデックスを見つけ、飛び出した。

「楚然マイエンジェル!! 嗒然今日もなんとキュートな「ぎゃぁぁぁあああああああああ!!」ぎゃぁぁぁあああああああああ!!」

物凄い勢いで交通事故に合った。
超スピードで走るゲコタカーと美琴に踏み潰されたアウレオルス。
ピクピクと痙攣した後に、座ろうと試みる。

「ぐぬ、ガフッ、遽然、お急ぎなら、お急ぎと言ってくれれば………………」

言葉が続かない。
彼の顔面に寮監のヒールが食い込んだからだ。
そのままなにも気づかずに彼女は走り去るのだった。
アウレオルスにもう意識はない。

アウレオルスの顔面に必殺の一撃が入ったその時、
ちょうどそれを見た男がいた。

「…………無視、はしてはいけないのか?」


342 : ぱぱ3 :2015/03/05(木) 06:54:10 .tH6V1Z6

おまけ!!

「連絡ぐらいしなさいよね」

グラスにワインがそそがれる。
美鈴は、ため息を吐きながらふたを閉じた。

「だゃってよー!! みこっちゃんにへんなむしがついたってんならとんでいくでしょーが!!」

テーブルに突っ伏す旅掛はべろんべろんである。
美鈴は呆れながらも対面に座る。

「で、変な虫だったの?」

「…………いいや、めったにない掘り出し物だったよ」

「そう」

ワインを口に含む。

「……美琴が……あの子が……」

「うん」

「……女の顔を、していたんだ」

「そう」

「今までにないくらい、幸せなんだそうだ」

「そっか……」

子供の成長は、予想以上に早い。
今日のワインは苦い癖にうまくて仕方がなかった。


343 : ・・・ :2015/03/05(木) 06:55:25 .tH6V1Z6
以上です。

雛祭りだった〜〜!!忘れてたぁぁぁぁぁぁああああ!!


344 : ■■■■ :2015/03/09(月) 20:30:53 teNh/9V2
乙である。


345 : くまのこ :2015/03/10(火) 22:44:02 2Kzs6Vuo
>>・・・さんGJです!
これで晴れて旅掛さん公認ですね!
そしてアウレオルスさんブレないなぁw



新約12巻ネタ書きました。
今日発売の新刊ですので、まだお読みでない方は









に注意してください。
約3分後に3レスです


346 : 終章その後  デートスポットはデートする為にある訳で :2015/03/10(火) 22:47:02 2Kzs6Vuo
上条はこの世の物とは思えない程に鬱々とした表情を浮かべながら、
その口から重苦しくて、こっちまで気が滅入りそうな深ぁ〜い溜息を吐いた。

上 「はああぁ……結局また来ちまったか…」

上条は『今度こそ』、巨大複合商業ビル「ダイヤノイド」。その五階へと足を踏み入れていた。
ラーメンの麺を敢えて伸ばして少しでも食事の量を増やしているような上条が、
学園都市最大最強のオシャレスポットである第15学区の、しかもセレブ御用達のランドマークの、
更にクリスマスムードで辺り一面恋人だらけの場所に来ているのには理由がある。
…まぁ、理由も無しにこんな魔窟へと来る筈もないが。

きっかけは先日のオティヌスの一言【わがまま】だ。
魔神は大型モンスター【にゃんこ】の脅威から逃れる為に、
ここで売られているという、有名デザイナーが手がける「ドールハウス」をご所望なのだそうだ。
そんな訳で上条は、その日げんなりしながらも、
犬【スフィンクス】、猿【インデックス】、雉【オティヌス】を連れて、
鬼ヶ島【ダイヤノイド】にやって来たのだが、
そこでサンジェルマンやら重力爆弾やら、まぁ簡単に言えば、
いつものお約束の一悶着があった為、買い物どころじゃなくなったのだ。

上条としては余計な出費も出ずに、このまま有耶無耶になればいいな〜なんて思っていたのだが、
しかし帰ってからも、その事を諦めきれないオティヌスが、
オモチャ屋で駄々をこねる子供のように「買って買って!」言いながらジダバタしたので、
現在上条はここにいる訳だ。前回同様、イン・オティ・スフィというお供に連れて。
にもかかわらず、本日の買い物の主役でもあるオティヌスは、
上条の頭の上で胡坐をかいて、不機嫌そうにムスッとしている。

上 「おい、どうしたオティヌス? せっかくまた来てやったってのに」

オ 「その理由を平然と聞く辺り、やはりお前はお前だと言う事だな!」

訳が分からない。なので上条は、隣で歩いているインデックスに話を振る。

上 「なぁ…俺、何かオティヌスを怒らせるような事したか?」

イ 「知らないんだよっ!!!」

だが話を振られたインデックスは、何故かオティヌス以上にイライラしていた。
腕の中のスフィンクスを、(抱き)締め上げる程に。
スフィンクスが堪らず「ニ゛ャーッ!」と悲鳴にも似た鳴き声を出す程に。
上条は再び溜息を吐き、『もう一人のお供』に話しかける。

上 「はぁ…どうしちまったんかねぇ? なぁ、『御坂』」

美 「さささ、さぁっ!!? わ、わわ、私に聞かれても!?」

そこには前回はいなかったパーティメンバー、御坂美琴がいた。


347 : 終章その後  デートスポットはデートする為にある訳で :2015/03/10(火) 22:47:44 2Kzs6Vuo
美琴が上条から連絡を受けたのは、つい数時間前だった。
「……この戦いが終わったら、女の子と一緒に学園都市最大の繁華街・
 第15学区のさらにてっぺんにあるオシャレデートスポット・
 ダイヤノイドに出かけるんだ」
という、死亡フラグの皮を被ったスネ夫風自慢を、つい先日聞かされた美琴と食蜂は、
お互いに「このままではマズイ」と本能で察した。
その結果、二人は手を取り合い、クリスマスに「外出禁止令」という名の壁を破壊し、
いかにして学生寮【ろうごく】を脱獄するかについて話し合っていた…のだが、
そんな中、御坂に上条から電話で、
『悪い御坂、今から付き合ってくれないか!? お前だけが頼りなんだ!』というラブコール。
嗚呼、何という悲劇か。美琴と食蜂【しゅくてきどうし】が手を取り合った歴史的瞬間も、
正に瞬間的に水泡に帰し、美琴は顔を真っ赤にしてテンパリ、食蜂は「ペッ」と唾を吐いた。
上条は食蜂の事を覚える事ができないので、二人のウチ美琴が選ばれたのは、
仕方ないと言えば仕方ないのだが。

そんなこんながありまして、美琴は現在ここにいる。

イ 「そんなこんなって、一体どんなどんななのかな!?」

オ 「おい! せめて理由を説明しろ理由を!」

しかしインデックスとオティヌスが待ったをかける。
まるで「私達が不機嫌な原因はそのビリビリした娘さんです」と主張するかのように。
しかし上条は、至極真っ当理由でそれを跳ね返す。

上 「あのなぁ、お前ら。前回行って分かっただろ。俺達は、おハイソな雰囲気に全く耐性が無ぇ!
   初めて上京した地方出身者かってくらい、周りの雰囲気に呑まれてたじゃねーか。
   だから今回は、常盤台のお嬢様【ほんもののセレブ】に来て貰ったの!
   最大MP0の賢者【インデックス】と最大HP1の賢者【オティヌス】とスライム【スフィンクス】、
   それとしがない村人Aの俺…そんなメンバーで魔王が倒せますか!?
   心強い戦士【みこと】が必要なのよ。このパーティーには」

色々とツッコミたい所はあるが、言っている事は間違いなく正論(?)なので、
インデックスもオティヌスも、「むぅ…」と押し黙る。
確かに、圧倒的に戦力不足だった事は否めない。
その点美琴ならば、こういった場所には慣れているだろうし適任ではある。ではあるのだが。

イ 「でも…」

オ 「しかしだな…」

理解はできても納得ができない。そんな様子の二人である。
何故ならばチラリと目線を向けると、

美 「えへ…えへへへへへへ〜………私だけが頼り…かぁ…///」

何やら夢見心地な美琴がいるから。

イ 「短髪! 何か、だらしない顔してるんだよ!」

オ 「おいお前! 我々も同行しているという事実を忘れてはいないだろうな!?」

美 「へにゃっ!!? わ、わわ、分かってるわよ!
   どういう経緯で私が呼ばれたのかも、ちゃんと聞いたし!」


348 : 終章その後  デートスポットはデートする為にある訳で :2015/03/10(火) 22:48:36 2Kzs6Vuo
と言いつつも、頬の緩みが止められない美琴。
インデックス達の言っている事を、納得はしても理解はしていない。そんな様子だ。
そんな三人の乙女心やら何やらが複雑に絡み合っている事など気付く訳もなく、
本日も上条の上条たる上条は、

上 「さて、と。じゃあどんなドールハウスにするかだが…」

と暢気な提案をしてくる始末だ。
とりあえずインデックスは上条の腕を噛み、
オティヌスは上条の頭の上でポカポカと地面【かみじょうのとうひ】を殴る。
ついでにスフィンクスも上条の顔面を爪で引っ掻いた。不幸である。

美 「それで、具体的にはどんなのがいいの?」

上 「お前ら止めろって! 痛い! ……あ? ああ、そうだな。
   せっかくだから待避所【シェルター】として使うだけじゃなくて、
   住み心地がいい方がオティヌスもいいだろ?」

オ 「む? …まぁ、贅沢を言えばな」

イ 「前に観た映画【アリエッティ】で小人達の為に用意しておいたドールハウスがあったよね。
   ちゃんと暮らしやすく作ってあるの。あんな感じがいいのかな?」

オ 「……それ最終的に私は家を出る流れにならないか?」

インデックスの意見には苦言を呈した魔神ぐらしのヌスオッティだが、
暮らしやすい作りになっているというのは、確かにありがたい。

上 「となると実際に暮らせそうな家か……ちなみに御坂」

と、ここで上条が突然

上 「将来結婚したら、どんな家に住みたい?」

とんでもない事を言ってきやがった。

美 「ひゃえっ!!!? しょ、しょしょ、しょら、将来っ!!?
   けけけ、結婚したら…って……えええっ!!?///」

イ 「ちょちょちょ、待ってほしいんだよとうまっ! 何でそんな事を短髪に聞く必要があるのかな!?」

オ 「そ、そうだぞ人間! そもそも、実際に住むのはこの私だろ!」

上 「だって実際に住むっつったら、やっぱ結婚生活を想像した方が具体的でいいだろ?
   それに御坂はアドバイザーとして呼んだんだから、意見を聞くのは当然じゃねーか」

イ 「でも!」

オ 「しかしだな!」

言い争いを始める上条、インデックス、オティヌス。
三人が店先でギャーギャーを騒ぐ片隅で、美琴がポツリと呟いた一言は、
この喧騒の中でかき消され、上条の耳に届く事は無かったのだった。

美 「……わ…私は……アンタと一緒…なら………ど、どんな…家でも……いいん…だけど……///」


349 : くまのこ :2015/03/10(火) 22:49:36 2Kzs6Vuo
以上です。
こちらから読んでる方の為にもう一度。
今日発売の新約12巻ネタが入ってます。


  ネ    タ    バ    レ


に注意してください。
次回は我道さんとのこぼれ話です。
ではまた。


350 : 我道&くまのこ :2015/03/14(土) 01:12:38 KzM7pfQ2
連投失礼します。くまのこです。
こぼれ話の続きを投下しにきました。
コテ通り今回も勿論、
我道さんとの合作になっております。
約3分後に12〜13レスです。


351 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:15:20 KzM7pfQ2
(スタジオの外)

??「ふぅ。どうもいけませんわ。呼ばれたかと思うと反射的にお姉様の元にテレポートしてしまうとは……」
??「あれ? 白井さんじゃないですか。どうしてこんなところに?」
白井「今回はわたくし、正式なゲストではないのですから名前は出してはいけませんの!! って、初春?」
初春「はい? 正式なゲストって何の話ですか? ていうか白井さん。確か今の時間ですと、パトロールの時間のはずですよね? 建物から出てきたところをみますとサボってたんですか?」
白井「なななななな何を言いますか初春! ささ、いつまでも油売ってないで行きますよ。初春も一緒に!!」
初春「ちょ、ちょっと、白井さん!? どうしてそんなに慌てて、しかも私を掴んで早足で行くんですかーっ!? ていうか私、今日非番ですよ!? ここに居たのはさ「ここに居たのは何かの縁ですわ! 初春も手伝いなさい!!」さんと待ち合わせで!! って、私もですかー!?」
白井(冗談じゃありませんわよ。今回のこぼれ話には絶対に絶対に絶対に『彼女』を入れさせるわけにはいきませんの。ここはさっさと離れてしまうのが得策ですわ)(テレポートで二人とも消滅)

 …… …… ……

??「そっかそっか。ここってよく見たらこぼれ話のスタジオがある建物の前じゃん。てことはさっきの白井さんの様子からすると――ははぁ〜〜〜ん……今回のこぼれ話って今日だったんだ……確か、今回は御坂さんと上条さんの『ペア契約にツーショット写真の話』のはず――水くさいなぁ、御坂さん。あたしに声をかけてくれれば上条さんとの仲を一気に進展させてあげられるのに――って、待てよ? 今からでも乱入してもいいんじゃない? 乱入してもいいよね? 乱入してもいいと思うな」

 …… …… ……

??「さぁて! 行きますか!!」
白井「どこへ、ですの? 佐天さん?」
佐天「って、あれ!? 白井さん!? どうして?? さっき、初春を連れてテレポートしたんじゃ……!?」
白井「ふふふ。このわたくしが初春が言った『待ち合わせの相手云々』という話を聞き洩らしたとでも思いまして? ましてや非番の初春のところに佐天さんがいないはずがありませんの。これは当然にして必然、自明の理ですわ」
佐天「いや……それは暗に初春には友達がいn、じゃなくて、少ないって言ってませんか?」
白井「という訳で貴女にも消えてもらいますの」
佐天「あ、待って白井さん? いつもと違う白井さんじゃないですか? なんだか笑顔なのにちっとも目が笑っていませんよ?」
白井「今日のこぼれ話に貴女と初春は絶対に参加させるわけにはいきませんの」
佐天「で、でもほら。白井さんだって御坂さんと上条さんの仲が進展するのは嫌なんですよね? だったら二人で乱入しませんか?」
白井「いいえ! 今日は例えどんなことがあろうともわたくしは参加するつもりはありませんの! 誰も好き好んで火中どころか業火の中の栗を拾いに行きたくありませんわ! では佐天さんも行きますわよ!!」
佐天「え、ええええええええええええ!? そんなご無体なぁぁぁぁああああああああああ!!」(黒子のテレポートで佐天さん強制退場)

(スタジオの中)

上条「ん? どうした御坂。何か盛大に安堵したため息をついたようだが?」
美琴「いや……なんとなく今、自分の身に降りかかりそうだった絶体絶命の大ピンチから逃れられたような気がしたから……」
縦ロ「まぁ。御坂さんを脅かす存在とはいったい如何なるモノだったのでしょう? 恐ろしいですわ」
海原「レベル5で学園都市第三位の御坂さんですから第一位の一方通行さんか第二位の垣根提督さん辺りでしょうか」
上条「どっちにしろ厄介な相手だったんだろうな。まあ、何にせよ何事もなくて良かった、って思うところだろ」
美琴「……それもそうね……ただ、なんとなく、なんとなくだけど一方通行とか第二位とかよりもはるかに恐ろしい相手だったような気がする……」
縦ロ「寮監様とか?」
美琴「……それは確かだけど、そういう意味じゃない怖さで、今この場だと学園都市で一番恐ろしい相手だったんじゃないかなと」
上条「ちょっと待て。あの寮監さんは御坂にとって一方通行よりも怖い相手なのか?」
海原「まあ、それが常盤台中学在籍の生徒の宿命ですから」
上条「……宿命とまで……」


352 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:16:03 KzM7pfQ2
 ――――上条当麻と、――――御坂美琴。
 密かに手と手を繋いで街を歩いている状態なのだが、幸か不幸か、二人とも全く自覚がなかった。


海原「ぐはぁっ!!」
縦ロ「あ、あれ? どうされましたの海原様? いきなり吐血とは?」
上条「何だ? 体調が悪いのか? だったら無理せず横になってろよ」
美琴(う、うわぁ。そう言えばそうだった……全然気付かなかった……///)
海原「……い、いえ……大丈夫です……というか上条さん? 上条さんは御坂さんと手を繋いでいる状態を全く自覚してなかったんですか……?」
上条「ん〜〜〜。何というか、俺と御坂って結構手を繋いでる時が多くてな。だからあんまり何とも思わなかったというか」
美琴「ちょ、ちょっと!? いきなり何を!?///」
上条「いやだってそうだろ? 前にこぼれ話で出てきた俺が記憶喪失になる前でも、ガレージの前とか、河原とか、記憶があるところからでも夏休み最後の日なんて一時間くらい手を繋いでたけどお互い気付いてなかったじゃん。あと前にやったフォークダンス」
海原「ごほぉっ!!」
縦ロ「あぁ! また海原さんが吐血されました!!」


「おー。そろそろ冷房も弱くなってきてんな―」
「あと二週間もすれば暖房に切り替わるでしょうよ」
 美琴はてくてくと前を歩きながら、
「あったあった。こっちよ」
 彼女は細い指で店舗の一店を指差す。


上条「ほら。さっきも言ったろ。こういう会話とか御坂の歩き方とかは遊びに来ている感満載じゃん。ホント、『罰ゲーム』なんて括りがなかったら、って今さらながら思うぞ」
美琴「へ? そ、そうかなぁ?///」
縦ロ「ふふ。とっても微笑ましい光景ですよ。ちょっと羨ましいですわ。何気ない会話なのにとっても自然で仲睦ましさ満載ですもの」
美琴「うわ。何の邪心もない純粋な笑顔で言われると、ちょっと照れちゃうじゃない……///」
上条(おぉっ! もしかして御坂ってば素直に笑うと可愛いんじゃね?)
海原「……もしかしなくても御坂さんが素直に笑うと可愛いのは当たり前のことですよ?」
上条「ぶっ! 久しぶりにこのネタ来るか!? って、うぉい! 前髪の影が濃くなった笑いが何か怖いぞ海原!?」
美琴「ん? 何か言った?」
海原「いえ何も」
縦ロ「どうして海原様が答えますの? しかも0.2秒で速答とは次元大介の早撃ちよりも早いですわ」
上条「……お嬢様が世界一の大泥棒の相棒を知ってるってどうよ?」
縦ロ「ちなみに原作での彼には、妹さんとお兄さまがおりますわ。残念ながらお兄さまの方は既に亡くなっているのですが」
上条「詳しすぎだろ!」


『超難解なゲームをワンコインでクリアせよ。さもなくば土下座』とかとんでもない要求が出てくるかと思ったのだが……そういった上条の予測は大きく外れた。


美琴「……アンタ、私の事どう見てた訳?」
上条「あんなに怒ってる顔見ちゃったら、否が応でも最悪のケースを想定しちゃうもんだろ?」
美琴「そこまで陰険じゃないわよ!」
上条「え〜? だってミコっちゃんって、お茶請け代わりに俺の不幸を見て楽しむタイプの人間じゃないですか〜」
美琴「私はドSかっ!」
海原(サディスティックな御坂さん……我々の業界ではご褒美ですね…)
縦ロ「??? S…磁石のお話でしょうか?」


353 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:16:48 KzM7pfQ2
 携帯電話のサービス店である。
「アンタ、『ハンディアンテナサービス』って知ってる?」
「ん? あれだっけ。個人個人の携帯電話がアンテナ基地代わりになるってサービスだよな。近くにアンテナ基地がなくても通話できるようになるやつ」
「私さ。あれに登録してみようかと思ってんのよ」
「えー。でもあの激マイナーな制度って、利用者みんなが携帯電話の電源を常にオンにして持ち歩いてないと中継アンテナ効果は期待できないんだよな。そのせいでバッテリーの減りがメチャクチャ早いんじゃなかったっけ? それ以前にサービス加入人数が少ないと何の意味もないって話じゃ……」
「だからそのサービスを普及させるためにも加入するっつってんでしょうが。ペア契約にしちゃえば『ハンディアンテナ』だけじゃなくて、その他の通話料金も随分安くなるみたいだしね」


上条「……」
縦ロ「どうされました? 上条さん」
上条「あーうん。俺が御坂と素で会話してるシーンってそんなに無いなって。こう見ると御坂が普通の可愛い女の子に見えるし、ひょっとして俺、すげー勿体ない事してる気がして」
美琴「ちょ、ちょっ! 何を言って!?///」
縦ロ「そうですの? それは実に勿体ない話ですわ。御坂さんはとても素敵で愛嬌があって接しやすい方ですのに」
上条「やっぱそうなのかね? ったく、俺と一緒に居る時もそういう御坂でいればいいのに。何でいつもケンカをふっかけてきたりムスッとしたりしてるんだか……」
美琴「え、えっと……あの……!!///」
縦ロ「まあ、御坂さんが上条さんの前ではいつもムスッとしておられますの? それはひょっとしなくても上条さんが御坂さんを怒らせるような真似しているのではないでしょうか? それを改めれば素敵な御坂さんに出会えますわよ」
上条「え゛? 御坂がムスッとしてるのって俺の所為なの?」
縦ロ「普段の御坂さんからすれば他に考えられる理由はございませんわ。御坂さんは本当に嫌がられている相手ですと、愛想笑いを浮かべられてもらえればいい方で、そうだとしても、それでもさっさと会話も早急に切りあげられ、そそくさと離れようとしますもの。わたくしとしましてはとても残念なのですが、御坂さんが女王に接するときに見せられる態度がそれに当たるかと。でも上条さんには御坂さんから話しかけられるという事は御坂さんが上条さんに少なからず好意を抱いている証でございますし、だとすれば、上条さんの前ですと御坂さんがムスッとされます理由は上条さんが御坂さんを怒らせるようなことをしている、以外は思い浮かびませんわ」
美琴(うぉい! さらっと『少なからず好意を抱いている』って!?///)
上条「う、ううん……まあきみは御坂と同じ学校の生徒だし、俺よりも御坂と接することが多いだろうから、やっぱ間違いじゃないんだろうなぁ……」
美琴(え? 肯定するの!?)
海原「……」
上条「どうした海原? 笑顔のなのに妙にどんよりした陰気なオーラが漂ってるが?」
海原「いえ何も……」(自分が夏休みのときに声をかけた御坂さんの態度が今まさに縦ロールの彼女が言った通りだったことが多大なショックです……)
美琴「……」
縦ロ「どうされました? 御坂さん」
美琴「いやなんでも」(この子がさりげなく言った『好意云々』に、やっぱアイツ【上条】は気付かないわよねー。気付くわけないわよねー。はぁ……)


354 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:17:27 KzM7pfQ2
「ペア契約って……あれだよな? 確かあらかじめ登録しておいた二人の間だけ、通話料とかパケット代がかからないとかっていうヤツ」
「そうそう。で、さらに今『ハンディアンテナサービス』とペア契約をセットで受けるとラヴリーミトンのゲコ太ストラップがもらえるのね、カエルのマスコット」
「……、オイ」
「即ゲット。だから一緒に契約しなさい」
「ようはストラップ目当てかよ!?」


縦ロ「はぁ……わたくしもこのキャンペーンは知っておりましたけど、とても残念なことにわたくしには一緒にペア契約してくださる殿方のお知り合いがおりませんでしたし、実のところ、御坂さんの携帯に付いているストラップを見る度に羨ましくて……」
美琴「あははは。そ、そう、だったんだ……前にMフェスの通販限定版を貰ったのにごめんね……」
縦ロ「いえ。そのストラップは誇り高きゲコラーとしまして、正規ではない方法でお譲り頂くわけにはいきませんわ。ですから、わたくしは御坂さんのそのストラップを眺めることで自分を満足させておりますの」
海原「おや? でも上条さんも持っていますね。何でしたらそちらを彼女にお渡ししたらいかがですか?」
上条「ん? これか? まあこん時のペア契約のもんだから俺も持ってるってわけなんだが、さすがにこれを渡すのは御坂に悪いだろ? これがないとペア契約解除されるかもしれんし、実はせっかく通話料が安くなって助かってて、俺も解除する気ないから。それに何だかんだ言っても、割と愛着もあるし思い出も多いしな。第三次世界大戦の時に失くしたこれを、御坂が拾って持っててくれたってのもすげぇ嬉しかったし…だからこれは誰にも渡せないな。悪ぃ」
縦ロ「いえ。お気持ちだけで嬉しいですわ。上条さんって優しい方ですのね」
上条「え? そ、そうかな?///」
美琴「くぉら!! 何赤くなってんのよ!?(で、でも、動機はどうあれ、「誰にも渡せない」、って言ってくれて嬉しいかな……///)」
上条「あ、赤くなってなんかないやい!! って、お前、器用な顔してんな? 怒ってんのに笑ってんぞ」
美琴「う゛……!!///」
海原(ちっ……せっかく御坂さんとのお揃い品を排除できると思いましたのに……)


「大体カエルならもう持ってんだろ!」


美琴「ゲコ太とこの子を一緒にすんなッ!!」
縦ロ「そうですわ! ゲコ太はこの子の隣に住んでるおじさんで乗り物に弱くてゲコゲコしちゃうからゲコ太って呼ばれているのですよ! このような簡単な違いも分からないとは学生というか若者失格ですわ!!」
上条「うわお!? ゲコラーJC二人がかりで原作再現ツッコミしますか!? つーか、海原分かったか? って、お前何やってんの?」
海原「いえ。今の内に携帯で調べておこうかと。ゲコ太を知れば御坂さんの好感度がアップするみたいですし」
美琴「……」
上条「遅いわい! しかも今の魂胆聞かれちゃったからますます引いてるわ!!」
海原「ぐ……い、いえまだです! 例えばこの『ゲブ太』などは―――」
美琴「…それパチモン」
海原「えええっ!!? い、いえしかし違いが全く分かりませんが!?」
美琴&縦ロ「「……」」
上条「海原さん、ゲコラーの方々の好感度が急転直下で失われていってますよ!? もう、そこら辺で止めとけ!」


355 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:18:17 KzM7pfQ2
「……そのゲコ太おじさんのキャラ付けは本当にラヴリーなのか?」


美琴「はぁ……アンタの鈍さはこんな所でも如何なく発揮されんのね……」
縦ロ「ふぅ……これを理解できませんとは……少々いただけませんわ……」
上条「うわ。何その、可哀想な人を見る目は。しかも思いっきり今、幻滅のため息吐いたろ?」
縦ロ「至極当然の行為ですわ」
美琴「アンタ、頭の中だけじゃなくて感性も鍛えた方がいいわよ」
上条「いや、絶対お前ら二人だけだって!! そのキャラ付けで『ラヴリー』って思えるのは!!」
海原「そうですか? 自分はお二人の気持ちを結構納得できますよ。少し変態っぽいかもしれませんが、乗り物で気持ち悪くなったことが理由とは言え、上条さんも『少し弱っている涙目の女性』って結構そそりませんか? それと同じで御坂さんと縦ロールの彼女からすれば異性と言ってもいいゲコ太おじさんの、その仕草はラヴリーに見えなくもないのではないでしょうか」
上条「ぶっ! 否定できないしとっても正論だし!?」
縦ロ「なるほど。男女の感性の違いでございましたか」
美琴「なら、アンタが理解できなくても仕方ないわね」
上条「うぉい! 何、勝ち誇ってんだお前ら!?」


「一緒にお店に行ったりいっぱい書類を書いたり何時間も待たされたりするからさー、その辺の融通が利く人じゃないと協力してもらうのは難しいのよね。ま、半日はかからないだろうし、ちょっと我慢してもらうわよ」


上条「上条さんは体のいい便利屋さんと言う訳ですかそうですか」
美琴「何度も言うけどね…アンタは罰ゲーム食らう側なんだから、文句を言う資格は無いのっ!」
縦ロ「ですが、それにしても御坂さんならば他にも条件を満たす殿方はいらっしゃるのでは? 上条さんでなければならない理由はおありでしたの?」
美琴「うっぐ…!?/// い、いいやあの、私こう見えても男性の知り合いって実はコイツくらいしかいないんですよ! だ、だってほら私たち『女子校』じゃない? だ、だから仕方なく…ですね…」
海原「……あれ? 自分は?」
縦ロ「あら? ちょっと待ってくださいな上条さん」
上条「はい?」
縦ロ「少し気になったのですが、上条さんは『体のいい便利屋さん』扱いではご不満なのではないでしょうか? ですから御坂さんに一言申し上げたくなったのではないかと」
美琴「まあ、『便利屋』って言われて喜ぶ人は世間一般では少ないですからね。でも、こん時のコイツは罰ゲームだから不満すら言う権利はないってことなんですよ」
縦ロ「まあ、そうでしたの。でしたら納得ですわ」
上条「う、ううん……そう、なのかなぁ……? なんとなく『不満に思った理由』が違う気がしたんだが……」
海原(……どうやら鈍いのは上条さんだけではないようですね。自分としては喜ばしいことですが)


「このペア契約ってさ、そもそも普通は恋人とかで交わすものなんじゃねーの? 男女限定とか書いてあるし」


美琴「恋び、と……///」
上条「だってそうだろ? 男女のペアっつったら、やっぱ恋人だろ」
縦ロ「そ、そうですわね…確かに言われてみれば、恋人同士の方がなさるサービスのように思えます」
上条「あれ? つー事はこの時、周りからは俺たちも恋人に見えてたのかな?(想像すると…すげードキドキしてくるな…)」
縦ロ「ええ、きっと周りの方々からは恋人なのだと―――」
美琴&海原「「ああああ、あまり恋人恋人連呼しないで!!!///」ください!!!」


 彼女は鞄についているカエルのマスコットをムミューッ!! と握りつつ


縦ロ「みみみ御坂さん! ケロヨンを愛でる時はもっと優しく!」
美琴「ごごごごめんなさい! この時は焦ってたからつい……」
海原「あの…貴方にお聞きしますが、あの『ケロヨン』というカエルと『ゲコ太』というカエル…どこがどう違うのか分かりますか?」ヒソヒソ
上条「見た目的には、ヒゲの有る無ししか違わないんじゃないかな…」ヒソヒソ
海原「…ですよね。良かった、自分だけがおかしいのかと思い始めていましたから」ヒソヒソ


356 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:19:08 KzM7pfQ2
「い、いいいいや馬鹿違うわよナニ口走ってんのアンタ! べっ、別に男女って書いてあるだけで恋人同士じゃなきゃいけないとかって決まりはないじゃないそうよ例えば夫婦だって問題ないでしょうが!!」
「もしもし。恋人よりも重たくなってますよ御坂さん」


美琴(うわあああぁぁぁもうっ!!! 何言ってんのこの時の私何言ってんのおおおおおお!!!?///)
上条「御坂と夫婦ねぇ…(想像すると…すげードキド)」
海原「想像するのを止めてもらえませんか…?」
上条「うおあっ!?」
縦ロ「ふふっ。こんなお言葉が口をついて出てくるなんて、もしかして御坂さん、深層心理では上条さんとご結婚なさる事を望んでいるのでは?」
上条「………え…?」
海原「ゴバァッ!!!」
美琴「ふにゃー///」
縦ロ「あ、あら? ほんの冗談のつもりでしたのに、皆様のこの反応は一体…?」


「さっきから何なんだお前!!」
「あ、アンタの方が訳分かんないじゃない! ほら、良いからさっさと済ませるわよ!!」


美琴「そ、そうよ! アンタが訳分かんないのが悪いのよっ!///」
上条「俺何も悪くなくね!? それにどっちかっつーと訳分かんないのは御坂の方じゃね!?」
美琴「うううううっさいうっさい!!! アンタが悪いって言ったら悪いのっ!///」
上条「え〜? もう、取り付く島もないじゃないですかー…」
縦ロ「た、大変ですわ! 御坂さんと上条さんがお喧嘩を! すぐにでもお止めしなければ!」
海原「……いえ、アレは止めなくても大丈夫な類いのケンカですから。というかむしろ止めないでください。このままケンカ別れになれば――」
美琴「だだだ誰と誰が痴話ゲンカしてるってのよ!!!///」
海原「誰も言っておりませんよ!? 痴話ゲンカなんて!」


 カウンターの前に座っていた店員のお姉さんは、引きずられる上条と引きずってきた美琴の形相にやや笑みが崩れかけていたが


上条「ほらもう、お店の方にも迷惑かけてんじゃねーか」
美琴「だ、だって! ……だって…///」
縦ロ「ちなみに御坂さん、その時はどのようなお顔でいらしたのですか?」
上条「そりゃもう…こーんな(変顔)」
美琴「そんな顔してないわよ!」
海原「そうです! 御坂さんはそんな顔はしません!」
上条「いや、結構するぜ? 何度も見てんもん」
縦ロ「もしかしたら、それも上条さんの前でしか見せない御坂さんの表情の一つなのかも知れませんわね」
海原「うぐっ!? …また血を吐きそうです……」
美琴「だから! そもそもそんな顔しないってば!」


「これはペア契約でして、登録に当たって『このお二人はペアである』事を証明して欲しいだけなんです。――――」


海原「あ、改めてハッキリ言われると中々に効きますね……現実を突きつけられるようで…」
上条「ペア契約の事か?」
海原「言わなくても結構です!」
美琴(あ、改めて考えると割と凄い事よね……ペア契約って…///)
縦ロ「あら? 御坂さん何だかお顔が真っ赤ですわ。どうなされましたの?」
美琴「ななな何でもないですから!///」


「……つ、つーしょっと?」


海原「あの…つかぬ事をお聞きしますが……まさか撮ったのですか…? 御坂さんとのツーショット写真を…」
上条「ん? ああ、撮ったぞ。この後すぐの話だけど」
美琴「……///」
海原「」
縦ロ「あら? 海原様が固まってしまいましたね」
上条「多分、放っておいて大丈夫なんじゃないかな」
縦ロ「そう言えばお二人は、こういったお写真は、よくお撮りになりますの?」
上条「いや、初めてだったな(少なくとも記憶があるうちは)」
縦ロ「では御坂さんが初体験ですのね」
上条「えっ!!? あ、ああ…まぁ……」
美琴「ははははは初体験て! 初体験てえええええええ!!?///」
海原「ごぶっ!」
縦ロ「ああ!? 海原様がまた吐血を!」


357 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:20:04 KzM7pfQ2
「写真証明のボックス探すの面倒だし、携帯のカメラでさっさと済ますか。御坂、お前って他のデジカメとか持ってないよな」
「え? ええ、まぁ、私の携帯電話はカウンターに預けちゃったし」
 どこか上の空な感じの美琴だったが、上条は気づかない。


上条「あー…言われてみれば、あの時の御坂って何かそわそわしてたかも」
美琴「そそそ、そうかしら!?///」
海原(彼の鈍感スキルに助けられたようですね…)
縦ロ「あの…つまり上条さんの携帯電話でお二人はお写真を撮られたのですわよね?」
上条「ああ、うん。そうだけど」
縦ロ「では今もそのお写真は上条さんの携帯電話の中に?」
上条「そうだな。データは消してないし、今もあるよ」
縦ロ「まぁ! ではそのお写真、わたくしの携帯電話にも送っていただけませんこと!?」
美琴「ちょっ!!?///」
上条「俺はいいけど…御坂は?」
美琴「いいの!? ホントにいいのそれ!!?///」
海原「止めておいた方が良いのではありませんか? 一応は個人情報ですし」
縦ロ「そう…ですわね。残念ですが」
海原(ふう…危ない危ない。これがきっかけで常盤台に二人の写真が流出したら、状況しだいでは恋人認定されるところでしたよ)


 いつの間にか、美琴が若干遠くにいる。


上条「そんなに嫌なのでせうか?」
美琴「そ、そんな事言ってないでしょ!? ただちょっと…その……///」
上条「…今日のミコっちゃん、いつにも増して歯切れが悪いな」
海原(彼の鈍感スキルに助けられっぱなしですね…)
縦ロ「はっ! もしかして御坂さん…上条さんの―――」
美琴(気付かれた!!?///)
縦ロ「―――上条さんの香りが気になったのでは? 上条さんいけませんよ。香水を付ける場合は適量でなくては」
上条「…上条さん、香水とか使った事ないッス」
美琴(……違ったか)
海原(彼女の天然スキルにも助けられているようです)


 実は美琴の顔はちょっと赤くなって学生鞄を握る両手がそわそわと動いていたのだが、上条には好意的に映らなかったようだ。


海原「……考えられませんね。この御坂さんを見て何も感じないとは」
上条「だって御坂から言い出した事なのに、何か知らないけどもたついてんだもん」
海原「はぁ…御坂さんも、こんな人のどこに惹かれ―――っとと、何でもありません」
上条「?」
美琴(今何かとんでもない事を口走ろうとしなかった!!?///)
縦ロ「ところで御坂さん」
美琴「あ、ひゃ、ひゃいっ!!?」
縦ロ「見た所、相当我慢しておられるようですが…お手洗いでしたら恥ずかしがらずに行った方がよろしいのではありませんか?」
美琴「………へ?」
縦ロ「御坂さんは以前にも一日中お手洗いに篭もられた事がありますし、そこまでそわそわするのでしたら行った方が良いのではないかと思いまして」
美琴「………ウン、アリガトー。ツギカラハソウスルワー」(食蜂……次に会った時がアンタの命日よ……)


 ぐいっと上条の肩にぶつかるように、彼女は一息で急接近した。肩と肩を擦り、美琴は首をわずかに傾げて、上条の肩に頭を置いた。携帯電話の画面の中にキチンと二人の顔が収まる。


上条「う、う〜ん……改めて解説されると…何つーか生々しいな…」
美琴(わ…私こんな事してたんだ……あの時はいっぱいいっぱいだったから、この瞬間の事よく覚えてないけど…///)
海原「ぐっ……ぐううぅぅ! そろそろ…自分のライフはゼロに近づいています…ね…」
上条「何にダメージ食らってんのかは知らないけど、大丈夫か?」
海原「…貴方にだけは心配されたくありませんよ」
縦ロ「あの〜。お写真が頂けないのでしたら、今ここでこの時の状況を再現してはいただけませんか? わたくし、普段では見られないという、上条さんにだけ見せる御坂さんのお顔…とても興味がありますの」
美琴「えっ!!? さ、ささ、再現んんんっ!!?///」
上条「ん、まぁいいけど。えっと、こうやって御坂を抱き寄せてだな…」
美琴「ひゃああああああああいっっっ!!!!!///」
海原「あっ。たった今ライフがゼロになりまグォッフバラァッ!!!」
縦ロ「海原様が! 海原様がリットル単位の吐血をっ!」


358 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:20:46 KzM7pfQ2
「顔が引きつってんぞ御坂」
「何でアンタは私から遠ざかるように目を逸らしてんのよ」
 上条と美琴は顔を見合わせて、
「これはペアではないと思う」
「も、もう一回撮ってみましょうか」


海原「撮り直しまでしたのですか…」
美琴「だだ、だって仕方ないじゃない! 変な感じに撮れちゃったんだから!///」
海原(まさかとは思いますが、もう一度撮りたいが為にわざと顔を引きつらせた…なんて事はありませんよね…?)
縦ロ「でも分かりますわ。殿方と肩を寄せてお写真を撮るだなんて、緊張してしまいますものね」
上条「まぁ、確かに俺も少〜しだけ緊張したもんな。何て言うか…ドキドキしたっていうか」
美琴「ふ、ふ〜ん? アンタ『も』ドキドキしてたんだぁ……///」


「だから何で表情が固まってんだよ御坂!!」
「アンタはどうして重心を私から遠ざける訳!?」


海原「二度目のNG…ですと…!?」
縦ロ「しかも何だか先程よりも悪化しているような…?」
美琴「だって…だって……///」
上条「いやー、フィルムじゃなくて良かったよな」
海原「そういう問題じゃありませんよ! 貴方、何回御坂さんを抱き締めるつもりだったのですか!」
上条「そりゃまあ、成功するまで何度でも…じゃないか?」
美琴「ななななな何度でも! 何度でもおおおおおお!!?///」
縦ロ(今日の御坂さんは、何だかいつもよりも可愛らしいですわね)


「とにかくツーショット写真ってな恋人っぽい感じで撮りゃ良いんだろ! 御坂こっち来い! こうしてやるーっ!!」
「え、なに? きゃあ!!」
 ガシィッ!! と細い肩に腕を回された美琴の顔が急激に真っ赤に染まっていく。


上条(こうしてじっくり見てみると、御坂すげぇ可愛い反応してたんだな)
美琴「ぁぅ…ぁぅ……///」
上条(つーか今もこの時と同じようなリアクションしてんのな。……可愛いな)
海原「……自分は何故ここにいるのでしょう…」
縦ロ「…? 海原様が遠い目をされておりますわ。この微笑ましい光景に対してきっととても哲学的な事を考えていらっしゃるのね」


「笑え御坂! これ以上いちいち撮り直すのは面倒だ! ようは書類を作れりゃ何でも良いんだろ! 割り切っちまえば問題ねえよこんなの!!」
「え? ま、まぁ、そうよね。あはは! 別にそれっぽく写真を撮るだけじゃない。そうよねそうそう写真を撮るだけ! よおし行っくわよーっ!!」


海原「そうですよね。あくまでもペア契約をする為に割り切っているだけで、つまりはこれっぽっちも『そういった感情』はないのですよね」
上条「『そういった感情』って何だよ?」
海原「分からないのなら、それで結構です」
縦ロ「海原様は、『御坂さんと異性として意識しての行動ではないのですね』、と仰りたいのでは?」
上条「ああ、そういう事か。うん、やっぱ多少は意識するよな。…どうしても」
美琴「べあっ!!?///」
上条「そうでなきゃ、ここまで緊張してねーって」
美琴「あ、あははー……そそそそ、そうなんだー…///」
海原「く……何この展開……」
縦ロ「ああ! 今度は海原様が血涙されておられます!!」


359 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:21:31 KzM7pfQ2
 美琴はヤケクソというより顔の赤さを悟られるのが嫌で無理矢理に気分をハイに変えている。美琴の肩に腕を回す上条に合わせるように、自分の腕を上条の腰に回して距離を縮めていく。二人……というより美琴と他一名を眺める通行人が、『おおっ』と少し羨ましそうな目で見ているがハイになっている彼女達には見えていない。


海原「も〜〜〜我慢できません! 何ですかこれ何なんですかこれ!?」
上条「何ですかって…だからペアである証明をする為にツーショットの写真をだな」
海原「そんな事は分かってますよ! 自分が聞きたいのはそこではなくてと言うより自分が聞きたくないのはそこではなくてと言った方が正しいでしょうか!?」
上条「お前…言ってる事が支離滅裂だぞ?」
海原「うるっせぇんだよ、ド素人が!!」
上条「あれ!? 神裂さん!?」
縦ロ「ふふっ。殿方達はヤンチャですのね」
美琴(アレを「ヤンチャ」で済ませるのね…)
縦ロ「ところで御坂さん。御坂さんはこの時、周りが見えていなかったと記載されておりますが…改めて客観的に見て、ご自分をどう思われます?」
美琴「にゃっ!!? どど、どうって……や…やっぱり恋人…みたいに見える………のでは、ない…でしょうか…///(あ…アイツが海原の相手をしてて、聞いてなくて助かったわね…///)」


 空間移動で急速接近した白井黒子上条当麻の後頭部にドロップキックを喰らわせた。


海原「うははははーっ! ざまぁないですね! 白井さん、GJですよ!」
上条「お前キャラ崩壊してないか!?」
縦ロ「あら。白井さんもヤンチャですのね」
美琴「だからヤンチャて…」
上条「つーか大覇星祭のフォークダンスの時もそうだったんだけどさ。白井のこれって、俺と御坂が二人っきりで体を密着させてる時に決まって来るんだよな。何でだ?」
美琴「いい、い、言われてみれば確かにそうね! な、ななな、何でかしら〜!!?///」
海原「フォークダンスまで経験済み、だと!?」
縦ロ「はっ! また海原様が固まられてしまいましたわ!!」


「私だって好きでやってんじゃないんだってば! ただ私はゲコ太ストラップが欲しいからペア契約を頼んで、そこで必要って言われた写真を撮ってただけなのよ!!」


海原「そ、そうですよね。自分もつい熱くなってしまいましたが、これは! あくまでも! ストラップの為なだけ! なのですよね」
上条「……何で俺を真っ直ぐ見つめながら力説してんだよ」
海原「いえ、貴方が勘違いしないようにです」
上条「へぇへぇ。(確かにちょっと残念な気もするな)」
縦ロ「そうですわよね。何しろ限定品ですし、御坂さんが必死になるのも痛いほど分かりま……あら? 御坂さん、何をそんなにしょんぼりしておりますの?」
美琴「いやー…何でもないですよー……」


360 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:22:27 KzM7pfQ2
「え? それでオッケーなら俺はもう帰っちゃって良い?」
「男女のペアじゃなきゃ駄目だっつってんでしょ!!」


上条「恋人じゃなきゃ駄目なんだもんな」
縦ロ「夫婦ではありませんでしたか?」
美琴「それはもういいからっ!!!///」
海原「はい、もう終わり終わり! 撤収ですよ撤収!」
縦ロ「あら? ちょっと待っていただけます? もしかして、この時も撮影がうまくいかなかったのではないでしょうか?」
美琴「へ?」
縦ロ「いえ。白井さんがシャッターを切る寸前に闖入なされたという事は、『ツーショット写真』ではなくなりましたわよ」
美琴「びくぅッ!!」
上条「ああ。こん時もうまくいかなかったよ。撮れてしまった写真は、さすがにもう削除したけどこんな感じのやつだったから」


 ――――ツーショットのつもりが高速でブレる上条の頭とびっくりした美琴と白井のパンツという極限のスリーショットになっていた。


縦ロ「くすくす。微笑ましいですけど、白井さんったら何とはしたない」
上条「『はしたない』で済ませるの!? 俺、思いっきり蹴られてんだけど!?」
縦ロ「はい? でも上条さんはとても頑丈なのでしょう? 女王から、上条さんはちょっとやそっとでは壊れない屈強な方とお聞きしてましたから、華奢な白井さんの蹴撃程度ではなんともないのでは?」
美琴(ちっ……やっぱ、アイツも日常会話にコイツのことを組み入れてやがったか……しかも包み隠さず名前まで出してるなんて……)
上条「うわ。俺って常盤台でそんなキャラ設定されてんの? って、あれ? 何であんたの女王さんとやらは俺のこと知ってんだ? 俺、どこかで会ったことあったっけ?」
縦ロ「ええ。と言っても会われたのは最近ではなく、一年ほど前だとか」
上条「……あー悪い。その女王さんに謝らなきゃな。俺って高一の七月二十八日以前の記憶を失くしちまったから、その女王さんのこと忘れてしまったんだわ……」
美琴「アンタ……」
上条「何だよ御坂。そんな殊勝で物悲しそうな視線を向けるなよ。気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、俺だって辛いんだからな」
美琴(いや。意味が違うんですけど。思いっきり頭の可哀想な人を見ているつもりなんですけど)
縦ロ「さて、ではお話を戻しますけど、この時もうまくいかなかったのにペア契約なされている、ということはもう一度撮影された、ってことですよね?」
美琴「ひききききっ!!」
上条「ん? ああ、それはこんな感じ」
美琴「って、さらっと公開すんなあああああああああああああああああああああ!!!///」
縦ロ「あらあら。こちらはまたとても仲睦ましいツーショットで」(邪気のまったくない笑顔)
海原「グボフヘホヒハグバラゴバラグァバァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!!!」
上条「あ。海原が火山噴火のように吐血した」


361 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:23:36 KzM7pfQ2
上条「という訳で海原が救急車で運ばれちまったんで今回はここまでだな」
美琴「まあ、アレだけ吐血してりゃ血が足りなくなるわよね。体調が悪いなら来なくても良かったのに」
縦ロ「そこは海原様の義理堅さなのではないでしょうか。体調が悪くても知人からのご依頼を無碍にするわけにもいかず無理をなされたとか」
美琴「世間体ってやつかしら? 常盤台の理事長の孫ともなると大変ね」
上条「まぁとりあえず、海原の事はいつものカエル医者に任せておけば大丈夫だろ。それにしても今回は結構楽しかったというか、わき合い合いだったな。うん。御坂、お前が呼んでくれたこっちの子、感じいいわ」
美琴「ほほぉ。それはどーゆー意味かな?」
上条「あん? 何でお前怒ってんの? 俺は単に俺の周りの女の子の大半がやたら野蛮だったり元気過ぎたりして、『普通の女の子』っぽいのがいねーから、こういう素朴な子と強烈かつ猛烈、具体的には咬み付きだったり電撃だったりドロップキックだったり日本刀だったり鉄拳だったり、っていう過激なツッコミなしの会話できるのもたまにはいいな、って思っただけだ」
縦ロ「え……? 『たまに』でよろしいのですか? 今のご発言からは、わたくしには上条さんの日常が相当大変な目に合っておられるような印象を受けるのですが……」
上条「はっはっは。まあ、俺は不幸体質だから、過激なツッコミに出くわすこと自体、文字通り『日常茶飯事』なんだよ。だから今はもう気にならないし、むしろ何も無い時の方が怖くなってしまったくらいなんだなこれが」
美琴「うわ。さわやかな笑顔で朗らかに言えるアンタに同情するわ」
上条「言っとくが、お前も俺の『日常茶飯事』に含まれているんだからな」
縦ロ「まあ、それはそれとしまして、ところで御坂さん。わたくし、実は女王からこのチケットを預かっているのですが」
美琴「こ、これは『ゲコ太のスーパーパラレル大冒険記』劇場版のチケット!! どうしてこれをあいつが!?」
縦ロ「いえ。わたくしが女王にお願いして購入していただきましたの。ただペアチケットでして、誰かとお誘い合わせのうえでないと行けないものなのですが、女王が是非、御坂さんをお誘いしてあげなさい、と」
美琴「そ、そう? な、ならせっかくのチケットだし、是非行きましょう! さあ行きましょう! 早速行きましょう!!」
縦ロ「はい♡ 御坂さんならそう言っていただけると思ってましたわ♡」
上条「ああっと、じゃあ今日はこれでお開きなのか?」
美琴「うん、そうね。あ、でも少しだけ次回予告やっとかなきゃ。えっと、次回は多分、原作複数巻に跨るんじゃないかしら。ロシア編に入るまで、私の出番が結構減っちゃってるし、まとめてやっちゃう感じになると思うの」
上条「ん? つまり何だ? SS01から始まって何巻くらいまでの予定ってことか? ちなみにどれくらいのつもり?」
美琴「17巻か18巻くらいまでじゃないかしら。15巻と19巻は私たちの出番無いし、20巻からロシア編になるから区切り的にそんな感じで。じゃ、また今度ね」
上条「おう。またな」
縦ロ「では行きましょう御坂さん」
美琴「うん☆」


362 : 罰ゲームこぼれ話(後編) :2015/03/14(土) 01:25:26 KzM7pfQ2
 …… …… ……


(上条当麻一人の帰り道)


上条「あれ? よく考えたら、今回って12巻の途中で終わってねーか? この後、御坂妹やちっちゃい御坂妹と会って、ヴェントとか風斬とかのことで大変なことになったような気がするんだが、それ全部スルーなのか? ん〜〜〜……」
??「くすくすくす☆ 上条さぁ〜〜〜ん? 今、お帰りなのかなぁ〜〜〜?」
上条「あん? 誰だお前?」
??「ふふん。まぁ、今日は私のことは思い出さなくてもいいわよぉ。そうねぇ、私のことは『女王』とでも呼んでくださるぅ?」
上条「『女王』? ってことは、お前はあの縦ロールの彼女の言ってた女ってことか?」
女王「そういうことよん☆ さぁて上条さぁ〜〜〜ん。さっき、病院に運ばれてきた海原さんの頭の中を覗いてみたんだけどぉ、私ぃ、上条さんにとってもとっても殺意が湧いちゃったのよねぇ〜〜〜」
上条「え゛? アンタ、俺と初顔合わせだよな? なのに何でそんな殺意漲る目で俺を見てんの?」
女王「でもぉ。それって私だけじゃないみたいなのよぉ〜〜〜」
??「その通りですわよ〜〜〜カミジョーさぁ〜〜〜ん?」
上条「げっ!? その声は白井!! お前まで何でここに!?」
女王「せっかくだから彼女にも海原さんが見た映像を教えてあげたのよねぇ。そうしたら快く私の協力要請を承諾してくれたわぁ。あと、ついでだからこの人達の脳にも書き込んじゃったんだゾ☆」
??「とうま……今日のこぼれ話は短髪とデートの話だったから参加を断ったんだけど、『私の知らないところ』で短髪とあんなことやそんなことしてたんだね……」
??「……人間よ……今日の私は、この体躯でも全盛期の力が存分に漲っているぞ……」
上条「インデックス!? オティヌス!?」
女王「でさぁ、何だか知らないけど、たまたますれ違った通りすがりのこの人にも教えてほしい、って言われたから教えちゃったぁ♡」
??「ふっ。流石は一度は世界中を敵に回した男だな。ひょっとして『複数の誰かを敵に回すこと』に長けてるのではないか?」
上条「レイヴィニア=バードウェイ!?」
女王「まだまだいるわねぇ」
??「上条君。これはどういう事なのか。ちゃんと説明してほしい」
??「貴様は本当に一度死んでみるべきだと思うわ!」
??「流石の私でも、これは擁護できないけど」
上条「姫神!? 吹寄!? それに雲川先輩まで!?」
??「」
上条「五和!!! 無言で槍構えるのは止めようぜ!!? すげー怖い! あと目に光がないんですけど何でヤンデんの!?」
女王「もう説明はいらないわよねぇ?」
上条「し、四面楚歌!?」
全員「「「「「天誅ぅぅぅぅぅぅううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!」」」」」
上条「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁあああああああああああ!! 助けて御坂ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」


(映画館)

縦ロ「――――上条当麻。彼は三度目の死を迎えることになる、ところだった」
美琴「ほへ? 何そのナレーションっぽいの」
縦ロ「いえ。前回の予告台本と一緒に渡されました今回の台本の締めにそう書いてありまして読み上げるようにと言われていたのですが、恥ずかしながら忘れてしまっていたものですから」
美琴「いや。流石に遅過ぎるから。って、これまた何か妙に嫌な感じのナレーションなんだけど」


363 : 我道&くまのこ :2015/03/14(土) 01:26:18 KzM7pfQ2
以上です。
ではまた。


364 : くまのこ :2015/03/16(月) 08:06:39 jsB/UqAs
再び連投失礼します。
・・・さんからのリクで、
テレビショッピングを絡めた短編を書いてみました。
ちょっと時間ないんで、すぐに投下します。3レスです。


365 : とある幸運の通販商品【ペンダント】 :2015/03/16(月) 08:07:45 jsB/UqAs
「なぁ、吹寄ー。こういう奴って、本当に効果があると思うか?」

そう言いながら吹寄に近づいてきたのは、マンガ雑誌を広げている上条だった。
生活を切り詰めている上条には週刊のマンガ雑誌など高級品だが、
学校生活においては誰かが買った雑誌は回し読みされるという、有り難い制度がある。

そんな訳で上条も、こうやって毎週マンガを読めるのだが、
上条はその雑誌の最後のページ…巻末の作者コメントが載っているページの左隣を指差している。
ビフォーアフターで明らかに顔が違う髭剃りや、
飲むだけで痩せられるという怪しい薬が通信販売されている、あのページである。

吹寄は本当に効いているのかどうか本人でさえ分かっていないような、
健康グッズや健康食品を通販で買い漁っている、自他共に認める通販マニアの健康オタクである。
だからこそ上条は、吹寄に意見を聞こうと思ったのだろうが、
吹寄は上条が指を差す場所を見て訝しんだ。

「『幸運のペンダント』…ねぇ。流石に私もコレはどうかと思うわ。
 ここは学園都市なのよ? 実際に幸運がどうとかって、科学的に証明できないじゃない」
「そうだけどさ。けど実際に使った人の感想も書いてある訳じゃん?
 ほらここ。『コレを付け始めてから急にモテ出しました』って」
「そんなの、感想だけなら使わなくても書けるでしょ。何? 貴様、そんなにコレが欲しいの?」

上条には幻想殺しがある。
このペンダントの効果がニセモノならば言わずもがなだが、
例え本物だろうと、その右手を持っている以上はペンダントの効力を打ち消してしまうだろう。
それは分かっている。分かってはいるのだが、それでも上条は。

「……だって…モテたいんだもん…」

次の瞬間、上条の顔面には吹寄のおでこが激突していた。


 ◇


「ねぇ、黒子ー。こういう奴って、本当に効果があると思う?」

美琴はベッドの上で横になりながら、テレビを観ていた。
何気なく観ているその番組は、よくある通販番組だった。
健康食品や調理用具や家電などの機能をリポーターがオーバーに説明し、
体験者がオーバーに個人の感想を述べ、特別価格という名の定価が伝えられ、
さらに今だけって全商品で言ってるアレである。
「でもお高いんでしょ〜?」からの「やっす〜い!」という定番の茶番【コント】も忘れていない。

それまで鏡に向かって髪をとかしていた白井だったが、
美琴に話を振られてテレビの方を振り向く。すると。

「『幸運のペンダント』…ですの? 流石にコレはどうかと思いますわよ。
 こういったマユツバ商品の管轄は、佐天さんの担当ですし」

テレビに映し出されているのは、マンガ雑誌にも載っていた商品だった。
美琴は毎週月曜日と水曜日に、コンビニでマンガを立ち読みをしているので、
その商品の事を知っていたのだ。どうやらそれなりに、知名度も売り上げも上々の商品らしい。
だが白井は、半信半疑どころか無信全疑な目でテレビ(と佐天【ゆうじん】)に毒づいている。
美琴もその意見を聞いて、

「そ、そうよね! こんなの信じる方がどうかしてるわよね!」

と妙にギクシャクした笑顔を作り出す。
言える訳がない。
『「これを付けただけで好きな人も振り向いてくれました!」
 という個人の感想()を真に受け、パソコン部品の名の下に、
 既にこの商品を自分宛に注文してしまった事』など、白井に言える訳がないのであった。


366 : とある幸運の通販商品【ペンダント】 :2015/03/16(月) 08:08:31 jsB/UqAs
 ◇


数日後、美琴は『パソコン部品』を首からぶら下げながら
(ただし周りからは見られないように、ペンダントの本体部分は服の下に隠している)
上条を待っていた。
別に待ち合わせをしている訳ではないのだが、上条の高校の校門前で腕を組む常盤台生。
美琴は全く気にしていないが、
平凡な高校【こんなところ】に常盤台生【エリートさま】がいるという光景に、周りはどよめいている。
だが校舎から『奴』が出てきて、「あれ? 美琴だ」と声を発すると、
周りも「ああ、何だいつものあの野郎か爆発しろ」といった空気になる。

「あれ? 美琴だ」
「っ!!! あ、ああら!? ここってアンタの学校だったんだー! し、知らなかったわー!」
「いや、知らなかったって…何度か来てるだろ。
 それに明らかに…って言うより、あからさまに誰かを待ってたじゃねーか」

すると美琴から、照れ隠し【でんげき】が飛んできた。上条はいつもの調子でそれを打ち消す。

「うううっさいわね! べ、別に私が何でここにいるのかとか、そんなの些細な問題でしょ!?」

誰も「美琴が何故ここにいるのか」とは聞いていないし、そもそも些細な問題でもないのだが、
上条の経験上、ここを掘り下げて【ツッコんで】も余計にビリビリされるだけなのは分かっているので、
敢えてそれ以上は追求しない。だがその代わりに、

「ああ、はいはい。とりあえず校門前【こんなところ】で突っ立ってると下校する皆さんの邪魔なんで、
 エスコートしてやるから一緒に帰ろうぜ?」

と溜息混じりに一緒に下校【ほうかごデート】のお誘い。
周りからは「やっぱりかよあのツンツン頭マジでもげろ(男子談)」や、
「上条くんがまた知らない女の人を口説いてる私の事は遊びだったの?(女子談)」といった、
あらゆる方向からの嫉妬の視線が、弓矢の如く上条に突き刺さっているのだが、
そんな事に気付けるような性格ならば誰も(特に上条にフラグを立てられた女性達)も苦労はしない。

一方、倍率10000倍以上の中から見事当選した美琴は、上条からのエスコートを手に入れる事となった。
もしかしてこれも、首から下げている『パソコン部品』のおかげなのだろうか。

「ふ、ふ〜ん? エスコート…ね。ま、まぁアレよね。
 そそそそれなら手を取るくらいの事もしてもらわないとね」

言いながら美琴は、自分の手を前に出す。上条がその手を握りやすいように。

「へーいへい。これで良うございますかね、お姫様?」
「っ!!?」

美琴としては、上条にして欲しい事を冗談に偽装しての犯行であり、
万が一上条に断られても「や〜ねぇ! 冗談よ冗談!」で済まそうとした。
と言うよりも、美琴のプランではそちらの確率の方が高いと思っていた。
しかし上条の選択は『美琴の冗談に乗ってミニコントに参加する』だったので、
差し出された美琴の手を、何の躊躇も無く握り返してくる。


367 : とある幸運の通販商品【ペンダント】 :2015/03/16(月) 08:09:18 jsB/UqAs
「えっ、あ、えええっ!!?」

上条の予想外の反応に、自分から仕掛けたくせにテンパる美琴。
手がじんわりと温かくなり、そのおかげで顔まで熱くなってくる。
が、上条はそんなのお構いなしに、

「ほら、もう行くぞ」
「にゃにゃにゃ!? ここ、この、このままっ!!?」

そのまま歩き出した。何をトチ狂ったのか美琴の手を握ったままで、である。

「え、ちょ…? っ! わきゃ!?」
「あ? うおっ危ね!」

しかし急に歩き出した事と手を握られているというダブルパンチで、美琴は足を縺らせてしまう。
毎度お馴染みの転んで上条が覆い被さって胸とか揉んでしまうパターンの奴だ。
…と、思っていたのだが、今回は少々いつもの状況と違っていた。

「いった〜! 大丈夫だっ…た…?」
「あ、ああ。俺は大丈夫だけど…ただ早めにどいてくれるとありがたいかな」
「………へ?」

上条が下になり、美琴が上条を押し倒す形で覆い被さっていた。
つまりは逆床ドンをしていたのだ。しかしそれだけでは終わらない。

「うわわわわわごめんなさいっ!!!」
「え!? おい、ちょ待、美k―――」

慌てて腕を立てて立ち上がろうとする美琴。
しかしこの状況で手に力が入らず、起こそうとした上半身は墜落し、



―――んちゅ―――



二人の顔と顔は衝突した。だが、その割には何故か双方共に痛みは無い。
いや、それどころかむしろ気持ち良いと言うか何と言うか
つまりはアレとアレがごっつんこしているのでその行為は要するに。

「みみみみみ美琴さんっ!!?
 たった今わたくしの口に美琴さんの何かが当たったのですけども!!?
 唇のような柔らかさで唇のような温かさで唇のような湿り気がある『何か』がっ!!!」

瞬間的に真っ赤になり、自分の口に手を当てる上条。対して美琴は、

「whブ度y4grひょqwぽぐ。ぇfbs時0\らぇkvあfあij:非ウェ@ヴぃり画h23!!!!!」

と文字化けする程の叫びを上げていた。
ちなみにお忘れかかも知れないが、ここは上条の学校の校門前である。
この校門を通り過ぎる人達は、この二人の行動をどう思ったのだろうか。



「パソコン部品」改め『幸運のペンダント』。
どうやら美琴には、幸運を言うよりもラッキースケベを提供してくれたようだ。
それも、飛びっ切りの奴を。


 ◇


よくあるマンガの最終ページ。
ビフォーアフターで明らかに顔が違う髭剃りや、
飲むだけで痩せられるという怪しい薬が通信販売されている、あのページに、
今日も『幸運のペンダント』なる怪しいグッズが載っている。
そこに実際に使った人の感想がいくつか書かれているのだが、
その中の一つに、次のような新たな一文が加えられた。

『こ、これを使ったその日に…好きな人と手を繋いだり、キ……キキキキキスっ!!!
 までしちゃいました! それまで素直になれずに、
 その人を目の前にするとツンツンしちゃってた自分がウソみたいです!』
                       東京都学園都市  M・Mさん

ちなみに勿論だが、
※ あくまでも個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません。
である。


368 : くまのこ :2015/03/16(月) 08:10:03 jsB/UqAs
以上です。
やべー、仕事遅刻しそう…
ではまた。


369 : ■■■■ :2015/03/16(月) 14:41:30 BQa3SdHE
ニヤついた ( '-^ )b


370 : ■■■■ :2015/03/16(月) 20:31:17 UYOHw1pc
くまのこさんってここが仕事場じゃなかったのか。


371 : ■■■■ :2015/03/17(火) 00:02:06 GDA7h.AI
美琴よかったね!


372 : ■■■■ :2015/03/18(水) 08:49:43 XeS5kvUE
乙である。


373 : ・・・ :2015/03/18(水) 21:52:10 62zyQRRg
ども、・・・です。

新生活の準備にいそしむ上条夫妻がみたい。

くまのこさん

〉〉髪ぐらしのヌスオッティ
別に一人暮らしを始めたらでいーじゃん
わざわざ結婚生活をテーマにした理由を小一時間問いただしたい。
そんで、その発言の責任をとらせてお祝いした後みんなでフルボッコにしようぜ!!

〉〉「さぁ言ったげて!! 神裂はん!!」「七閃円」
リク消化ありがとうございます。オレのせいで遅刻したらすみません(笑)
あとは、あのツンツンにこのペンダントプレゼントしたらくっついたりしないのか?
まぁそんなものの前に拳骨をプレゼントしてやるよー

くまのこさん&我道さん
う、海原……。あれ? 考えればこいつも病院でハーレムじゃね? 心配して大損した
やはりいいなぁ罰ゲーム【二回目のデート】。結婚式のスピーチに絶対入ってるはず
新約10巻のボスラッシュと同等かそれ以上の悲劇だぜ。味方いないし。


さて、それでは投下します。
育児日記ではなくホワイトデーものです。
ん? ホワイトデーはもう過ぎた?
大丈夫、時間など、上琴の概念には不要なのだよ!!!

それでは


374 : ぶち込め!! :2015/03/18(水) 21:53:12 OKWtUYiw
とあるツンツン頭の少年が、公園で夕日を見上げていた。
彼には今日やりたいことがあったのだ。
昨日手にいれたそれを、とある少女に渡したかったのだ。

「…………」

しかし、手元にそれはない。
とあるいざこざに巻き込まれ、木端微塵になったのである。

「…………ハッ、まぁ、いつもの不幸さ」

くるり、と踵を返した彼は、1歩、2歩と
歩みを進めた後横に飛んでった。



違う。
誰かに蹴り飛ばされた。

「グフッ…………い、いったい…………」

起き上がった彼の顔はその瞬間ひきつった。

「げぇ!! 上条先生!!」

「よう、サボり常習犯くん。今日も補習をぶっちぎってくれやがって。なんですかぁ? キサマはオレと嫁とのホワイトデーイチャイチャを阻止し隊の隊長ですかぁ?」

「ち、違うんだよ!! ど、どうしても抜けられない用事ができましてですね!! だが、アンタのイチャイチャは阻止したい!!」

「言い訳なんぞききとーないわ!! 最後の方は素直でよろしいからパンチをたっぷりプレゼントだ!!」



子供のケンカが始まりました。
暫くお待ちください。


375 : ぶち込め!! :2015/03/18(水) 21:53:53 62zyQRRg
2人はベンチでへばっていた。
特に少年の方は実は世界を救った後だったりする。

「ハァ、30…代の…ハァ、動き…じゃねーだろ」

「なんで、ハァ、その根性が、ハァ、授業には、活かされないんだ」

先に息が整ったのは、上条の方だった。メールを確認した後、ゆっくり話しかける。

「で、どうした?」

「うん?」

「なんか困ってたんだろ?」

「い、いや」

「いいから先生に言ってみろって!!」

「…………先月、さ、チョコをもらったんだ」

(コイツ、モテるからなぁ)

「チョコをくれたヤツは、正直今までそんな風に見たことがないやつで、でも、ソイツは一生懸命で……」

「…………」

「どう答えたらいいのか悩んでるうちに今日になっちまって……」

「よっこいしょ」

「昨日慌ててお返し買ったけど、今日無くしちまって……」

「あーもしもし、オレオレ」

「合わせる顔がねぇし、悲しませてるだろうし……」

「そう、そう、いや、頼むよ」

「もういっそ会わないほうがいいっておもったんだけど、それは、結構オレも辛くて……」

「ん、おう、サンキュ。じゃ後で」

「てめぇがふった話題だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「まぁ、落ち着け青少年」

「ん、あぁ、そうだな。で、第2ラウンドはどこでする?」

「だから落ち着けって、とりあえず入れよ」

「は? へ?ここどこ?」

「オレんち」

「いつの間に!!?」

「『よっこいしょ』ってのは、立ち上がるのと同時にお前を引っ張りだしたときの掛け声だ」

「描写しなくちゃわかんねぇよ!!」

「いいから早く入れって」

突き飛ばされるように入った家は、どこにでもある普通の家だった。
いつも自慢してくる奥さんや娘さんがいない。

「…………逃げられた?」

「うぉぉうらぁぁあああ!!」

結局第2ラウンド開始。
からの

「ハァ、ハァ、メールで出かけたって連絡がきたんだよ」

「ハァ、ハァ、で、オレは何すんの?」

「そろそろ来るはずさ」

「???」

その瞬間玄関のベルが鳴る。
ドアを開けると、ガヤガヤと複数人入ってきた。
で、一発ずつ上条を殴った。

「ふんっ、これは舞夏の分だ」

「滝壺へのアリバイ証明は、ちゃんとやれよ」

「……」

荷物を置いて彼らは去っていく。
嵐のような連中だった。
いや、アイドルグループの方ではなく。
白髪の男性の無言の圧力が一番怖かった。

「……な、なんだったんだ?」

「ぶぶひぶふぅ」

「へ? お菓子の材料を持ってきてもらった?」

「ぶふひべふぅ、ばぶぶぶひ」

「なになに? 今からお菓子を作るとな!!?」

「べふぅ」


376 : ぶち込め!! :2015/03/18(水) 21:54:25 62zyQRRg
上条の顔面が修復したのは、キッチンに立って少ししてからだった。
上条がアーモンドプードルと粉糖をこしザルでこし、
少年が別のボウルに卵白を入れて、グラニュー糖を入れながら泡立て器でメレンゲを作る。
メレンゲにバニラエッセンスを入れながら少年は不良教師に尋ねた。

「なんで先生がこんなもんの作り方知ってんの?」

「オレってば自炊できるんだぜ。今は嫁の飯以外食う気ねーけど」

「いや、聞いてねーよ」

「……実はな、オレもホワイトデーに作り方を教わったんだよ」

メレンゲにザルでこしたアーモンドプードルと粉糖を加え、
切るようにさっくり混ぜ合わせる。

「オレもバレンタインにチョコもらったんだけど、やっぱりそんな風に見たことがないやつからでさ……」

でも、ソイツも必死だったんだ。
と続ける。
今でも目をつぶれば、途中から言葉が消え、びくびく震えてうつむきながら、赤い箱を押し付ける少女の姿がまぶたの裏に浮かぶ。

粉っぽさが無くなってきた。
すると、ゴムベラでボウルに生地を押しつけて、泡を潰すように上条から指示された。
生地にツヤが出て、ヘラですくうとゆっくりリボン状に落ちていく感じになればいいらしい。
2、3回繰り返したが、この作業、マカロナージュというそうだ。
得意げにいう上条に、話の続きを催促する。

「あー、オレもさ、ホワイトデーに準備したんだが、面倒ごとに巻き込まれて、無くしちゃったんだ」

世界規模のもめ事なんだが、本題ではないので割愛。

「そんでお前みたいに泣き寝入りしようとしたら、当時の担任と同居人に怒鳴られたんだよ」

天板にクッキングシートを敷いて、その上に出来上がった生地を絞り出していく。
次に、生地を乾燥。指で触ってもくっついてこない程度まで乾けばいいらしい。
その間、いつの間にか上条はオーブンを130°Cに余熱していた。
生地を25分間焼く。焼いたらそのまま冷ますのだそうだ。
生地を乾燥させている間、少年はためらいがちに声をかけた。

「…………先生」

「ん?」

「オレは、アイツの気持ちに、どう答えていいかわかんねぇんだ。好きって気持ちもわかんねぇし、好かれることをした覚えもない。でも、アイツを悲しませることは、絶対にイヤで「いいんじゃねえの?」!!???」

「整理できない戸惑いも、今は自覚してない喜びも、答えられないけど悲しませたくないというわがままも、全部これにぶちこんで、後は出たとこ勝負で」

そこまで言って、担任の不良教師は少年のようにニカッと笑い、昔、同居していた少女の言葉を紡いだ。

『まっすぐ、自分の感情を相手にぶつけた方が……』

「お前らしいだろ?」

後はチョコクリームを挟むだけ。
その間、言葉は消えた。


377 : ぶち込め!! :2015/03/18(水) 21:54:55 62zyQRRg
ラッピングをした後、感謝もそこそこに出ていこうとした少年はピタッと玄関で固まった。

「どうした?」

「アイツの家、わかんねぇ」

「……電話は?」

「今日コナゴナに……」

「「…………不幸だ」」

「しゃーない、嫁の友人に情報盗んでもらうか」

「さらりとなに言ってんだ?」

「安心しろ、そのひとアンチスキルだから」

「なんに安心すりゃいいのかわからん」

漫才の途中で玄関が開く。
入ってきたのは、上条自慢の嫁と目を真っ赤に腫らした彼らの娘だった。
空気が、変わった。
子供たちは、驚きの表情で固まっていた。

「な、んで…………」

「なんで、お前が、ここに……?」

ようやく親も?を頭に浮かべる。

「ねぇ、当麻とこの子がなんで一緒にいんの??」

「うちのクラスのワルガキだよ。 話したことあるだろ?? それよりなんで美琴がコイツのこと知って……ハッ!! ま、まさか……浮k「んなわけあるか!!」

ここまでコントをやって、ようやく2人は気づく。
空気が桃色に染まっている。
なんかふわふわしたものが当麻の顔にまとわりついた。
それを振り払ってようやくこの鈍感は気づくのだった。

「ま、まさか、バレンタインの日コイツにチョコを渡したのって!!「ハイハーイ!! ホワイトデーのお返しを奥さんは要求します!! まずはデートだデート!! すぐ行こう!! 今すぐ行こう!!」ちょ、待て!! まずはって要求は1つじゃねーのかよ!! 麻琴ーー!!パパは許しませんよーー!!」

バタン、と玄関は閉められた。
混乱し、ついていけなくなっていた麻琴はボケ〜っと見送った。
そんな彼女に、

「…………麻琴」

と、意を決した声がかけられた。
ビクリ、と肩が震える。
もう、彼女たちの関係は、後戻りできない。


当麻と美琴は夜の散歩を楽しんでいた。

「うぉぉぉおおおおお!! オレは帰る!! あんな不良に麻琴を託せるかってんだ!!」

「気が早いうえに自分のことを棚どころか宇宙エレベーターでステーションまで上げやがって!! あ き ら め な さ いーー!!」

当麻と美琴は夜の散歩を楽しんでいた。

「人の恋路を邪魔するやつは電撃に焼かれて黒子になる、と」

「よ、ようしゃが…………ガクッ」

当麻と美琴は夜の散歩を楽しめってんだよ。

「…………明日から課題倍増だ」

「職権乱用!!?」

「いーや、アイツのためだ!! 別に小萌先生も意味なく課題増やしたしいーじゃんとかいう考えはある!!」

「日本語を使いこなせてない!! で、あの子と当麻は麻琴が泣いてる間何してたわけ?」

「ん? ああ、ほい」

美琴の手にお菓子が渡る。

「????? マカロン?」

「あれ? なに? そのリアクション?」

「そういえば、最初にお返しもらったのもこれだったよね。なんでこんなに面倒なものを?」

「飴の意味は知ってんのに、それはしらねーの?」

「い、いや、当麻からもらったものならなんでも特別な意味になっちゃうし…………!!! い、今の無し!!」

「…………はへー、いやー、まぐれで当てるもんなのな」

「???」

「さ、遅くなりましたが、デートに行きますよー」

「ちょっ!! 教えてくれてもいいじゃない!!」


それがとある夫婦が結婚式を挙げる10年前のお話。


378 : ・・・ :2015/03/18(水) 21:55:54 62zyQRRg
以上です


379 : くまのこ :2015/03/21(土) 14:21:37 nqJnIm86
>>・・・さんGJです!
上条先生質問です!
あの後先生と奥さんがどんなデートしたのか、詳細が気になります!



短編書きました。
ほんのり未来設定についての話が入ってますので、
苦手な方はご注意を。
約3分後に3レスです。


380 : それはまだ『麻琴』という名前もこの世に生まれていない時代 :2015/03/21(土) 14:24:21 nqJnIm86
「そう言えばあたし昨日、面白そうなアプリをダウンロードしたんですよ!」

そう言って話を切り出してきたのは、怪しげな噂やトラブルに定評のある佐天である。
彼女は自分のバッグから携帯電話を取り出し、テーブルの上に置く。

お察しの通り、ここはいつものファミレスだ。
美琴、白井、初春、佐天。
学校帰りの超電磁砲【なかよし】四人組は、今日もまた飽きずにプチ女子会を開催している。
とは言ってもその内容は、話した数時間後には忘れるような話題で盛り上がりながら、
お茶を飲んだりスイーツを食べたりするだけだ。そのままの意味での放課後ティータイムである。

そんな中、佐天が何かを思い出して話を切り出してきた【ネタフリをしてきた】訳だが、
美琴は今までの経験から、佐天の言う『面白そうなアプリ』がろくでもない物だと直感した。
現に彼女は、今まで「幻想御手」や「不在金属」などといった都市伝説に首を突っ込み、
色々と『痛い目』に遭っている。しかし美琴は、そこだけを危惧している訳ではない。
美琴は顔をしかめながら苦言を呈した。

「えっと…佐天さん? そのアプリが何だかは知らないけど、とりあえず止めておかない?」
「大丈夫ですよ! それに御坂さんだって興味ありませんか?
 上条さんとのお子さんがどんな子になるのか!」
「やっぱり『ソッチ系』かあああああぁぁぁ!!!」

そして美琴は絶叫した。
アプリに関する詳しい内容はまだ分からないが、
佐天のその言葉だけで『ソッチ系』の話題である事は分かる。
『ソッチ系』…つまりは美琴と上条の関係について尋問する【いじりたおす】系の話題である。
美琴は危惧したのは、むしろこちらだった。
佐天も流石に懲りたのか、最近は危険そうな都市伝説には警戒をするようになっていたが、
その代わり『ソッチ系』の都市伝説を集めまくるようになっていた。
美琴は佐天が都市伝説【オモチャ】を使うのに、体のいい被験者【モルモット】なのだ。

「実はこのアプリ、父親役である男性のデータと母親役である女性のデータを入力すると、
 その二人の子供の顔や性格を予想してくれるんですよ」

嬉々として、そして目をキラキラさせて説明する佐天。
しかし毎度の事ながら、ここで待ったをかける人物が一人。

「ちょっとお待ちくださいな!
 そのような聞くからに如何わしい代物、風紀委員として見過ごす事はできませんの!
 何よりお姉様と類人猿の…だなんて想像しただけで虫唾が走りますわよっ!」

白井である。前半部分が建前で、後半部分が本音だろう。
風紀委員云々などと言ってはいるが、要は二人の子供の顔なんざ見たかねーよ。という事なのだ。

「別にいいじゃないですか。危険な物じゃないみたいですし」

そしてこれも毎度の事ながら、初春がそれをたしなめる。いつも通りパフェを頬張りながら。
初春もまた、佐天ほどではないにしろ、美琴の色恋話に興味がある側の人間である。

「危険なら大有りですわよっ! わたくしのSAN値がガリガリ削られますの!
 ライフがゼロになったらどうしてくれますの!?」
「HPの表示をSAN値にするのかライフにするのか、ハッキリ決めてください」

どうでもいい事に丁寧にツッコミを入れる初春である。

「そうですよ!
 それにあたしが使うかどうか聞いてるのは、白井さんじゃなくて御坂さんなんですから!」
「でしたら! でしたらせめてまずは! わたくしとお姉様の子供の顔を!」
「あっ、同性同士だとデータ入力ができません」
「ガッデム!」

白井は悪態をつきながら、テーブルをドンと叩いた。
振動で美琴と白井の紅茶、佐天のコーラ、そして初春のミルクセーキに波紋が広がる。


381 : それはまだ『麻琴』という名前もこの世に生まれていない時代 :2015/03/21(土) 14:25:19 nqJnIm86
「で? で? 御坂さんはどうしますか? 何かさっきから黙っちゃってますけど」
「どどどどうしますかって言われてもあ、あの馬鹿との……その…ここ、子供! とか!
 全然全くこれっぽっちも興味ないし、そもそもそんな事になる訳もないし、
 大体私とあの馬鹿の間にあ、あか、あかかあかあ赤ちゃんなんて出来ないんだしそれに」
「よし! 御坂さんのデータ入力OK、と。あとは初春、上条さんのデータ分かる?」
「あ、はい。今、書庫をハッキングしてますから」
「うおおおおおおおい!!!?」

「私の話を最後まで聞いて」とか「何でもう私のデータ入力してんのよ」とか
「なに堂々とハッキングとかしてんの初春さん風紀委員でしょ」とか
「どんだけ真剣なのよ二人とも」とか「そもそも最初に断ったわよね」とか、
ツッコミたい言葉が山のように頭に浮かんだが、それらを一言にまとめて、
「うおおおおおおおい!!!?」と叫ぶ美琴。
しかし佐天も初春も聞く耳を持たず、件のアプリにデータを入力していく。

「よし、終わり! あとは[完了]を押すだけですけど…どうしますか御坂さん?」
「え、あ、えっ!!?」

敢えて最終的な決定権を美琴に与える佐天。
隠す事も無く、こちらに歯を見せてニヤニヤしているその顔が実に腹立たしい。

「あ〜もう、お貸しなさいな! わたくしがデータを消去してさしあげますの!」

けれども美琴の返事を聞く間も無く、白井が佐天の携帯電話を奪い盗る。
だがそれがマズかった。白井の能力は空間移動。
美琴のように電撃使いならば、手で触れずに携帯電話に干渉して、
そのままデータを破棄できるかも知れないが、白井にそのような芸当は不可能だ。
空間移動を使って携帯電話をどこかへ飛ばす【ポイする】事はできるだろうが、
それでは何の解決にもならないし、万が一飛ばされた先で携帯電話が高い場所から落下し、
そのまま壊れでもしたら佐天にも申し訳が立たない。
美琴と上条への奇行(奇行する理由はそれぞれ真逆だが)が激しい為に誤解されやすいが、
白井は基本的に気遣いのできる女性なのだ。
つまりだ。白井は自分の能力を使わずに、直接佐天の携帯電話を操作して、
データを消去しなくてはならない。
しかし学園都市には正に多種多様な携帯電話が売られており、
白井は佐天の持つタイプの物には慣れていなかった。
ちなみに佐天はスマホ型、白井はSFっぽい型(?)である。
普段ならば冷静に対処もできたのだろうが、今回は少々焦りもあった為、

「あっ。……あああああああああ!!?
 わわわわたくしとした事がうっかり[完了]を押してしまいましたのおおおおお!!!」

と分かりやすく説明をしながら青ざめている。対して美琴も、

「なっ、何やってんのよ黒子!」

と慌てだしたが、先に述べた電撃使いとしてのスキルで携帯電話に干渉して、
アプリを強制終了できるのに、それをやらない美琴である。理由はまぁ、お察しだ。

画面の表示が『しばらくお待ちください』から『終了しました』に変わる。
するとそこには、美琴そっくりで黒髪(心なしか髪が多少ツンツンしている気がする)の、
可愛らしい女の子の顔が映し出された。

「うわ〜! 可っ愛いですね〜!」
「おおう! これはまた、見事にお二人の遺伝子を受け継いでますね!」

初春と佐天が、思わず感嘆の声を上げる。

「ほらほら白井さん! ちゃんと見てくださいよ!」
「だから何度も仰っているではありませんか!
 わたくしはそんな物見たくはな………あら可愛らしい」

佐天に無理矢理画面を見せられ否定しようとしたが、思わず素直な感想が漏れてしまう白井。
佐天が白井を担当したので、初春は美琴に話を振る。


382 : それはまだ『麻琴』という名前もこの世に生まれていない時代 :2015/03/21(土) 14:26:06 nqJnIm86
「どうですか御坂さん。何かご感想は?」
「ひゃえっ!!? あ…あー、そうねー…
 ま、まままぁ、あ、あの馬鹿との……その…ここ、子供! とか!
 全然全くこれっぽっちも興味ないし、そもそもそんな事になる訳もないし、
 大体私とあの馬鹿の間にあ、あか、あかかあかあ赤ちゃんなんて出来ないけど、
 うん…この子は…か、可愛いと思うわよ。あ、でででもべべべ、別にアレよ!?
 『アイツとの間に生まれた子はこんな感じになるんだ〜』とか
 『アイツはどんなパパになるのかしら…』とか『あんな風に子育てしたいな』とか
 『子供ができるって事はつまりアイツと……け、けけけ、けこ、けっこ、結婚して!!!
  しかもあの…つまりは……そ、その………あ、あ、赤ちゃんができちゃうような行為も!
  しちゃったりなんかしちゃったりするのかしらっ!!!?』とか、
 そんな事は一瞬たりとも考えてないけどねっ!?」

美琴はこういった話題を振られると、
勝手に自滅して自白(ただし本人には自覚なし)してくれるので、非常に楽である。
初春は顔を真っ赤にし、佐天は引き続きニヤニヤしており、白井は白目を剥いて泡を吐く。
美琴ただ一人だけが、自分の言ってしまった事の重大さに気付かず、目をパチパチさせている。

「じゃあニヤニヤこの子のニヤニヤ性格のニヤニヤ方もニヤニヤ見てみまニヤニヤしょうかニヤニヤ」

佐天はやたらとニヤニヤさせながら、[性格]の部分をタッチする。
すると某ポケモン図鑑よろしく、機械っぽい女性の声で解説が流れてきた。

『性格はやや母親寄り。社交的で誰とでも分け隔てなく接する事ができる。
 ただし気になる人にはツンデレ気質になる傾向があるため注意が必要。
 また無自覚にフラグを乱立させ恋愛関連のトラブルに見舞われる恐れあり』

美琴と上条の二人を知る者ならば、10人中10人が認知しただろう。
「間違いなく、この子は二人の子供だ!」と。
これはあくまでもお遊び系アプリの診断結果であり、これが現実になるという保障は無い。
しかしそれでも美琴にとっては顔を爆発させるのに充分な威力であり、
また、その美琴の様子は白井の口から魂を出させるには充分な威力であった。


 ◇


一方その頃。

「とうま、どうしたのかな? ずっと変な顔をしてるんだよ」
「おい人間。先程から携帯電話を握り締めたまま何を悩んでいる?」
「いやー…実はさ。もし俺と美琴に子供ができたらどんな顔になるのかな〜、
 と思ってこのアプリ使ってみようとしたんだけど、
 よく考えたら俺、美琴の詳細なデータとか知らなかったからって言うか、
 何故にインデックスさんはお口を大きく開けて歯を尖らせていて
 オティヌスさんもマチ針二刀流なんてしているのでせう
 しかも何で上条さんにそんな敵意剥き出しでって言うか何かもう不幸だーっ!!!」

上条は今日も元気に不幸であった。


383 : くまのこ :2015/03/21(土) 14:26:53 nqJnIm86
以上です。
花粉症がつらい…
ではまた。


384 : ■■■■ :2015/03/23(月) 15:14:10 f1HhMNiA
くまのこさんGJです。
上条さんとみこっちゃんは既に付き合ってるんですね、だから上条さんは美琴との子供が気になったんですよね!(上琴病末期患者)


385 : ・・・ :2015/03/28(土) 16:45:29 LP6Rx9aY
ども、・・・です。
花見してへべれけに酔って、いちゃいちゃしたけど記憶がなくなる上琴が見たい。

〉〉くまのこさん
通常運転の安心感がたまらん。
データに対し、うん知ってる。と頷きました
カミやん、データがわからないなら聞きに行こうか。理由もちゃんと言えよ?

では、投下します。
育児日記の続きです。


それでは


386 : 1!2!1!2! :2015/03/28(土) 16:46:08 LP6Rx9aY
『ここ、どこかわかってる?』

『ロシアね』

『なんでお前もいんの?』

『いちゃ悪い?』

『悪いよ。なんで関係ないお前がいんだよ』

『わたしはたまたまロシアにいて、アンタもたまたまロシアにいて、知り合いがピンチだから助けようと思った』

『いや、だから……』

『わたしがわたしの意思でこの場に立っている。アンタになんか言う資格ある?』

『……はぁ、わかったよ。危なくなったらさがるんだぞ!!』

『アンタもね!!』





システム復旧率17%


387 : 1!2!1!2! :2015/03/28(土) 16:47:14 LP6Rx9aY
大覇星祭全てが終わった後、
上条と美琴は家のテーブルに突っ伏していた。
いろいろ疲れたのだった。

まず、

(あ、あれじゃあ、お見合いじゃないのよ……)

初日の食事はファミレスの席をとった。
んでもって、

「いやぁ、世界は狭いもんだ。アンタが上条くんのお父さんだったとはね」

「え、あ、その、あの時はセスナ機を用意していただき、ありがとうございました」

「上条さん! まさかこんなことになるなんて思いませんでしたね!!」

「あ、は、はい、その、まったく、理解が追い付いてなくて……」

上条家と御坂家が対面で座っている。
御坂夫妻はニコニコしているが、
上条夫妻はおどおどしている。
で、当の美琴と上条は湯気を出しながらテーブルに突っ伏していた。
インデックスはそんななかでも、もくもくとミルクを飲んでいた。


388 : 1!2!1!2! :2015/03/28(土) 16:47:38 LP6Rx9aY
その後のことを思い出しながら、上条は思う。

(なんか御坂家にはもう挨拶済ませたことになっちゃってたしさーーー!!)

確かに旅掛になんか美琴のことは任せろ的なことを言った気もする。
交際の許可を本人からもらう前に親公認になってしまった。
でも、

(あの能天気な親が不安そうにオレを見てた……)

違うんです、父上、母上。
好きになった娘が中学生だったんです。
ロリコンではないんです!!

美琴は美琴でおびえていた。

(し、詩菜さんの真剣な目つきが半端なかったんですけど!!)

なんか、年末年始にご挨拶に行くことになった。
めっちゃくちゃ恐い。

(『アナタみたいな乱暴で短気でビリビリした娘に当麻は任せられません』なんて言われたらどうしよう)

うーうーうなる美琴の耳に、インデックスがグズる声が聞こえた。
トテトテとインデックスに歩みより、オムツを変える。
オムツを変えたら満足したのか、またハイハイでオモチャのとこまでいき、遊び始めた。
そこに、そっとココアが入ったマグカップが差し出される。

「ほい」

「ん、ありがと」

ソファーに座り、二人はまた静かにインデックスを見守る。
大覇星祭は、この子に助けられた。


389 : 1!2!1!2! :2015/03/28(土) 16:48:02 LP6Rx9aY

食事を終えて親と外に出たら、
周囲の状況はより混乱を極めた。

「カーミやん!! 今回は安心していいぜよ。魔術師が侵入した形跡は0!! 存分に青春を謳歌しようぜい。具体的には古今東西、義妹の萌ポイント大会!!」

「ああ!! ま、まさかこんなところでお義父さまにお会いするなんて!! わたくし、お嬢様のパートナーであります、白井黒子と申しますの!! い、いずれむ、娘になる可能性も……」

「せっかく今年は常盤台中学や柵川中学と同じチームになったんや。カミやんばかりいい思いはさせへんよ!! ワイの活躍にお嬢様やJCの目がハートになってムッフムハムハなハーレムエンドまっしぐらや!!」

「御坂さん!! いつの間に両家公認になってるんですか!!そういうことは早めにいってくれなきゃ傾向と対策が打てないじゃないですか!!困るんですよ御坂さんをいじるのに誤差がでるじゃないですか!!」

「上条くんと。御坂さんが。り。両家公認。お。おめでぐ。ぐすっ。か。簡単に。割りきれるほど。大人じゃ。ない」

「こんにちは、インちゃん。今日はパパやママ以外にもいっぱい遊んでくれる人がいて良かったね」

「うーは!! う!! じーじ、ばーば、ちゃあい!!」

やだもう帰りたい。

(今日インデックスに読んであげる本はなんにしよう。昨日シンデレラだったから白雪姫がいいかな?)

(お、あそこに砂場セット売ってるじゃんか。この前シャベルとバケツ欲しがってたんだよな。安いといいんだけどなぁ)

家には帰れないので、現実世界から全力疾走で逃避する2人だった。

そこに、「あ、ちょうどいいところに!!」なんて声をかけられる。
もう回れ右をした上条と美琴だが、土御門と佐天にそれぞれ肩を捕まれる。

「どうしたんだにゃー? 吹寄運営委員様?」

「ばかにしてる?
それが、私達赤組の男女二人三脚の選手2人が怪我で出れなくなったの。代理を探してるんだけど、なかなかいなくて……」

もう走り始めた2人だったが、笑顔の美鈴と旅掛にがっしり捕まるのだった。

「よし、美琴ちゃん、当麻くん。アンタ達代打ででなさい」

「「予想通りの展開だよちきしょぉぉぉぉぉおおおおおお!!」」


390 : ・・・ :2015/03/28(土) 16:50:07 LP6Rx9aY
以上です。

ドラマや映画、漫画でいい夫婦の描写があれば、
全て上琴に変換する私は上琴病末期患者。


391 : ■■■■ :2015/03/28(土) 21:57:46 iVfeEw9c
>>390
・・・さん乙です!
大覇星祭…一体何があったというんだ⁉︎(ドタバタは確定)

とりあえず恋愛ソングは一旦上琴で置き換えられないか考え始めた私は上琴病深刻化の真っ最中。


392 : ■■■■ :2015/03/29(日) 23:51:19 fjxTxTdM
それを書いて欲しいです。上琴病レベル5


393 : くまのこ :2015/03/31(火) 20:00:46 2H16I9Z6
>>・・・さんGJです!
次は、二人三脚で組んず解れつのてんやわんやで「どこ触ってんのよバカー!」…
みたいな展開を期待してもいいんですよね!? ねっ!?



短編書きました。
4時間ほどフライングですが、エイプリルフールネタです。
約3分後に4レスです。


394 : :2015/03/31(火) 20:03:30 2H16I9Z6
その『事件』は、3月31日の夜から始まった。
夕食を済ませ、風呂にも入り、後は寝るまでダラダラと過ごす時間。
美琴はパジャマ姿のまま、ベッドの上でゴロゴロしながら佐天と通話をしていた。

「それで、そのお店のパンケーキが凄く美味しくてさー」
『へぇ! じゃあ今度、初春と白井さんも誘ってみんなで食べに行きましょうよ!』
「あはは! 初春さん、甘い物に目が無いものね」

そんな当たり障りの無い言葉を交わした直後である。

『あっ! そう言えば御坂さんは、いつ上条さんに告白するんですか?』

佐天から、前後の会話と全く脈絡がない爆弾が突然放り投げられたのだ。
そう言えばも何も、どう言えばそんな話になるのだろうか。
その爆弾をモロに受けた美琴は、ベッドから転げ落ちるという爆死【リアクション】をする。
床に落ちた衝撃で「ドタン!」と大きな音がして、
隣のベッドで本を読んでいた白井がハッとして美琴の方を振り向いた。

「おおお、お姉様!!? どうなされましたの!?」
「いいい、いや、なな、何でもないわよっ!!?」
『え? 何でもないって…どういう事ですか? ま、まさかもう告白しちゃったんですか!?』
「いや違うから! こっちの話!」
「こ、こっちの話って、どっちの話ですの!?」
「ああ、もう! だから!」

同じ部屋にいる白井と通話中の佐天で板挟みになり、会話があっちこっちへ大忙しだ。
とりあえず美琴は白井に自分の掌を見せるように手を上げて、
無言で『今、電話中だから少し黙ってて』と、ジェスチャーで伝える。
そして先程転げ落ちた自分のベッドに座り直し、改めて佐天の爆弾【かんちがい】発言について問い詰めた。

「え…え〜っとね? 佐天さん…こ…こここ、こく、こく、告白っていうのはね?
 その……す…すすすす好きな人にするモノなの。
 そして私はあの馬鹿の事なんて何とも―――」
『だって御坂さん、上条さんの事が好きじゃないですか』

「あの馬鹿の事なんて何とも思ってない訳でね」と言おうとした美琴の言葉に被せるように、
佐天からアッサリと真理(笑)が告げられた。
思わず再びベッドから落ちそうになった美琴だったが、
また白井が心配して【かんぐって】くるので、何とか耐えた。
ただし、顔の火照りまでは耐える事ができず、真っ赤になって頭から煙も出ているが。

「なっ! な、なな、何を…い、言っているのかしら〜?
 わわわわ私があの馬鹿を、すっ! ……す…き……とか! そんな事は微塵も」
『あぁ、はいはい。もう、その手の言い訳は聞き飽きてますから。
 普段の御坂さんを見ていれば、上条さんの事が好きなのは一目瞭然ですし、
 それにみんな知ってますよ?』
「み、みみみ、みな、みんなって誰!?」

じっとりと汗をかきながら聞き返す。嫌な予感が止まらない。

『だから、あたしに初春に白井さん。春上さんに枝先さんでしょ?
 それから婚后さんと湾内さんと泡浮さん…あっ! 固法先輩もだ!
 あとはアケミ、むーちゃん、マコちん。それと―――』
「もういいからっ!!!」

気がつけば叫んでいた。赤面したまま、目にうっすらと涙まで溜めて。
要するに、一通りの知人友人には知れ渡っているという事だった。
しかも自分とあまり関わりの無い、アケミ、むーちゃん、マコちんまで知っている辺り、
美琴の手の届かない所にまで噂が広まっているのだろう。
『自分が上条の事を好きだ』という風評被害【かんちがい】が。


395 : :2015/03/31(火) 20:04:28 2H16I9Z6
美琴はベッドに突っ伏しながら、もうもうと煙を出し続けている。
そんな美琴の様子を見透かしているかのように、佐天はニヤニヤを含んだような声で通話を続ける。

『あ〜…その感じじゃあ、まだまだ先は長そうですね〜!』
「…だ…だから…私と…アイツは…そんな関係…じゃ……」
『あっ! だったらせめて、上条さんが御坂さんの事をどう思ってるかだけでも確かめてみませんか?』

もはや美琴の言い訳など、全く聞く耳を持たない佐天である。

『明日はエイプリルフールじゃないですかぁ。
 だから上条さんに、「ウソ」の告白をしてみるっていうのはどうですか?
 その瞬間の上条さんのリアクションによって、
 御坂さんへの好感度がどれ位あるか、分かるかも知れませんよ!
 それに仮に「ウソ」の告白を上条さんが受け入れちゃったら、それはそれでオイシイですし♪』

相変わらず滅茶苦茶な事を、さも当然の様に言ってくる娘である。
美琴はもはや独り言でも言っているかの様に、

「…そんにゃこと…ぜったいに…しにゃいんりゃかりゃ……」

とブツブツ呟くのだった。
そして白井は一連の美琴の行動と、端々で聞こえてきた不穏なワードで、
それがかの類人猿に関する事なのだろうと推測し、
血の涙を流しながら、かの類人猿に負の感情【おんねん】を送り続けるのだった。


 ◇


4月1日 07:23
新年度にはなったが始業式はまだ先なので、学生達は春休みを満喫中である。
昨年度中に何とか補習を終わらせた上条も、もう一度一年生をやり直す心配もなくなり、
悠々自適に同居人達【インデックスとオティヌス】の朝ごはんを作っている。
いつも通りだろ、とか野暮なツッコミはナシである。本人が自適だと思ってんだから。
そんな中、ズボンのポケットに入れていた携帯電話が鳴り響いた。

「はいはい。今、出ますよっと」

上条はフライパンにかけていた火を一旦止めて、電話に出る。

「はい、もしもし?」
『あっ! で、出ちゃった!?』

電話をかけてきたのは向こうなのに、「出ちゃった」とは、これ如何に。
声で電話の相手が分かった上条は、その辺の事を突いてみる。

「いや、そりゃ出るだろ。で、何の用なんだ? …美琴」
『ふぁえっ!!? あ、いや…その…べ、べべべ、別に大した事じゃないんだけどさ!
 その……きょ、きょきょきょ今日! わたた、私とデートしてくれない!!?』
「………へ?」

すると何故かデートのお誘い。
美琴はどうやら、いきなり『ウソ』の告白をする勇気が無く、
上条とのデート中に隙を見て告白するつもりのようだ。
目的【こくはく】だけでいっぱいいっぱいになっている為、手段【デート】にまで頭が回らなかったのだろう。
自分で今どえらい事を言ってしまっているのに、気付いていない。
と言うか昨日あれだけ佐天の提案を断っておいて、
エイプリルフール当日になったら、何しれっとウソ告白を実行しようとしているのか。

「あ、ああ。俺は別にいいけど…今日ヒマだし…」

突然のデートに上条も少々ドギマギしつつ、美琴からの誘いにOKする。

『いいいいいのっ!!?』
「いいよ。つーかだから、そっちから言ってきたんだろ」
『じゃ、じゃあ…10時にいつもの公園で……』
「了解」

こうして、四月馬鹿達のデートが始まった。


396 : :2015/03/31(火) 20:05:19 2H16I9Z6
 ◇


同日 10:15
いつもの如く色々と不幸に巻き込まれて遅刻した上条。
待ち合わせ場所の公園には、既に美琴が待っていた。

「悪い、待たせちまった!」
「にゃっ!!? べ、べべ別に待ってなんかないわよっ!
 電話の後すぐ寮を出ちゃって7時半からここで待ってたとか、そんな事してないんだから!」

そんな事してたようだ。

「しっかし驚いたな…何たって、いきなり『デートしてくれない』だもんな。
 まぁ、美琴にも何かしらの事情があるんだろうけど」

普段、美琴からそんな誘いを受けないだけに、軽くいぶかしむ上条。最初のチャンス到来だ。
ここからの流れは、まず美琴が
「今まで言えなかったけど、実はアンタの事が好きだったの。デートに誘ったのもその為よ」
と言って、そこから上条のリアクション次第で
「な〜んてね! 今日はエイプリルフールよ。ウソに決まってんじゃない」
のプランAか、もしくは「じゃ、じゃあ……私達、つ…付き合ってみる…?」のプランBの、
どちらかに移行する計画である。理想は勿論プランBの方だが。

「あっ! ああ、あの、それは、その……じ、じじじ実は私!
 アアアンタに言いたい事があったようななかったような!?」
「どっちだよ」
「だ、だからあの…実は…アンタの事が……
 す…
 す……
 ………す、少し肌寒くない!?」

しかしあくまでも理想は理想。
美琴にとって『好き』というたったの二文字は、城壁よりも高い壁なのだ。
不自然に会話の方向性が変わったが、鈍感な上条に気付くはずもなく、素直に答える。

「ん? ああ…確かにちょっと寒いな。つーか今日、二月の陽気らしいからな。
 4月になったばっかなのになぁ〜」

どうでもいい。


 ◇


同日 11:02
二人は古本屋に来ていた。二人ともマンガ好きという事もあり、
お互いにオススメの本を立ち読みしながら笑い合う。中々に良い雰囲気のようだ。

「やー、少女マンガとか今まで読んだ事なかったけど意外と面白いな」
「でしょ!? でね、次のページで女の子が告白するシーンがまたいいのよ!」
「へぇ〜…あっ! ここか」
「そうそう! 特に台詞が……ハッ!?」

と、ここで唐突に第二のチャンス到来だ。
マンガの中の女の子の台詞に合わせて、上条にウソの告白をするパターンである。

「と、特に、台詞がね? い、いいのよ…ずっと…ず、ずっと君の事が……
 す、すすすす、
 す、
 ……数十年前のマンガとは思えないわよね!」

だが今回も失敗だ。美琴は再び会話の脈絡に関係なく、全く違う話を振る。

「うん。絵柄はちょっと古いけど、でも話の展開とかは今のマンガにも負けないと思う」

どうでもいい。


 ◇


同日 11:54
古本屋を出た二人は、特に予定もなくプラプラと街を歩いている。
ただの散歩だが、それでも美琴は嬉しかった。上条と一緒に歩いているだけで。

「……なぁ、周りからは俺達もあんな風に見えてるのかな?」

ふいに上条がそんな事を言ってきた。
上条が「あんな風に」と言ったその先には、手を繋いで歩くカップルの姿。
つまり上条は、周りからは自分と美琴もカップルに見えているのか、と美琴に問いかけたのだ。
第三のチャンス到来だ。
ここから美琴は、「だったら嬉しいな。だって私、アンタの事が好きだもん」と繋げれば良い。

「だだだだたら嬉ししいなっ! だだ、だて、だって私、アアアアンタの事が、
 すっ、すす、す…
 すすすすす!
 ……寿司! お寿司食べたくない!?」

やはりダメであった。

「そうだな。もう昼飯時だし、どこか安い回転寿司でも食べるか」

どうでもいい。


397 : :2015/03/31(火) 20:06:14 2H16I9Z6
 ◇


そしてその後も何度かチャンスが到来したのだが、美琴は、
「す、す……スタイルいいわね〜! あの人!」だの、
「す…すす、す……住むとしたら北海道と沖縄、どっちがいい!?」だの、
「す、す、す……凄く美味しいパンケーキ出すお店見つけたのよこの前!」だの、
「すすすすす……ストーブもそろそろ片付けなきゃならない季節よね〜!」だの、
「…す……スマラッパギって言うのよ! インドネシア語で『おはよう』の事は!」だの、
毎回毎回そのチャンスを自ら踏み潰してしまっていた。
もはや、しりとりで「す」攻めされている人状態である。

そんなこんなが続き、現在時刻は17:49。そろそろ帰らなくてはならない時間だ。
結局一度もウソの告白すらできず、美琴自己嫌悪中である。

「じゃあ、今日は楽しかったよ」
「う…うん……私も楽しかったわ…あははははは……」

楽しかったのは間違いないが、当初の目的は果たせなかった為に笑いも乾いている美琴。
しかし、「またあとでな!」と言いながら背中を向ける上条に対し、
美琴はついに、決心をした。本能的に、このままではいけないと思ったのだ。

「ね、ねぇっ!!!」

大きな声で呼び止められ、上条はクルリと振り返る。

「どうした?」
「あ、あああ、あ、あのっ!!! わわわ、わたわた、私っ!!!
 アン、アア、アンタのっ!!! こっここ、こ、事がっ!!!
 すすすすすす、す、すす、すっ、すぅ〜〜〜〜〜……っ!!!」

それは「少し」でも「数十年」でも「寿司」でもなく。

「    好    き   !!! だからっ!」

一瞬、上条には何を言われたのか分からなかった。
聞きなれない言葉が、言うはずの無い人物の口から飛び出した事で、脳が処理しきれていないのだ。
そして脳の演算が終わるその前に、美琴は真っ赤な顔のまま走り去ってしまった。
やっと「好き」と言えた達成感と、直後に湧き出してきた猛烈な羞恥心で、
居ても立っても居られなくなり、上条の目の前から逃げ出したのである。
あまりにも慌てていた為に、
「な〜んてね! 今日はエイプリルフールよ。ウソに決まってんじゃない」
を言うのも忘れてしまう程に。それはつまり、上条からしたらマジ告白にしか映らない。

美琴がこの場から消えて数分後、上条の脳もやっと美琴の行動を理解し、
「かあぁ…!」と顔も熱くなってくる。

「え、ええぇっ!!? み、みこ、美琴がまさか…俺の事を!?
 いやでも、今のってやっぱ、そういう事…だよな…?」

流石の鈍感王でも、ここまでストレートな告白をされてしまってはその鈍感を発揮できず、
赤面したまま、ただただ美琴の走り去った方向を見つめるのであった。

一部では、エイプリルフールでウソを吐いて良いのは午前中までという設定【ルール】がある。
だから午後に吐こうとしていた美琴のウソ告白も、本当の告白になってしまった…のかも知れない。
エイプリルフールでのウソのご利用は、計画的に行おう。


398 : くまのこ :2015/03/31(火) 20:07:18 2H16I9Z6
以上です。
あ、それとエロスレの方にも1本書きましたので、
良ければそちらも読んでやってください。
ではまた。


399 : くまのこ :2015/04/07(火) 22:27:56 FgeT62kk
連投失礼します。
小ネタを3本書いたので、3本とも一気に投下します。
約3分後に3レスです。


400 : もしも上条さんが自分の恋心に気付いてしまったら :2015/04/07(火) 22:31:00 FgeT62kk
「はああああぁぁぁぁぁぁぁ………」

上条は重苦しい溜息を吐いていた。

つい先日まで彼は『ある条件下』で発症する、
謎の動悸と息切れと発熱と緊張状態に悩まされていたのだが、それが無事に解決した。
が、解決したからこそ、彼は溜息を漏らすのである。

悩みの解決の糸口となったのは、意外な事に浜面だった。
それまで上条はその悩みの事を、同居人を始めクラスメイト達にも相談したのだが、
何故かみんなキレ気味で「知らない」と言ってきたのだ。
しかも相談した相手が、男性だった場合は5割近い確率でぶん殴られ、
女性だった場合は6割近い確率で泣き出されてしまった。
そんな時、偶然街中で出会った浜面にも(殴られる覚悟で)相談した所、
目から鱗が落ちるような回答が返ってきたのだ。浜面はこう言った。
「それ、惚れてるからじゃね?」と。
そう。『ある条件下』とは、特定の人物と話している時や、その人物の事を考えている時だった。
動悸や息切れは心臓がドキドキしていたからで、
発熱や緊張も要するに、その相手の事が好きだったからなのだ。
その相手…つまりは御坂美琴の事を、である。

浜面に言われて美琴への恋を自覚した上条な訳だが、
自覚してしまったが故に新たな悩みをかかえている。

「……これから先、美琴にどう接すりゃいいんだ…?」

今まで普通に友人として接してきたつもりだったが、一度意識してしまったら、
それまでと同じような態度で接する事は出来ない。
しかも「美琴の事が好き」なのだと自覚してしまうと、今まで彼女に行ってきた行為が、
黒歴史となって彼に重く伸し掛かってきたのである。
例えば、偽デートの時のホットドッグ間接キス(したのかも知れない)事件。
例えば、大覇星祭の時のドリンク間接キス事件と床ドン事件。
例えば、罰ゲームの時の抱き寄せてからのツーショット写真事件。
ちなみに一端覧祭準備期間中の胸タッチ事件もあるのだが、
上条はその時の美琴をトールだと思っているのでノーカン扱いだ。

「うわああああぁぁぁ! 何やってたんだ俺ええええ!!!」

思い出した瞬間に急速に赤面して、その場でうずくまってしまう上条。
天然フラグメイカーな彼だが、本人的には全て無自覚だった為、
自覚してしまうと年齢=彼女いない歴の童t…もとい、純情少年になってしまうのだ。
だがそんな彼にも、運命というのは情け容赦なく厳しい試練を与えてくる。
いつものように学校から帰宅する途中に、

「ちょ、ちょろっと〜?」

いつものように話しかけられたのだ。
その声の相手は言うまでもなく、現在上条の悩みの元凶でもある、美琴である。

「うおぁあっ!!? みみ、みこ、美琴っ!!?」
「な、なな何よっ!? そんなにビックリしなくてもいいじゃない!」
「い、いやその…ちょうど美琴の事を考えてた所だったから…」
「えっ…? ……えええええっ!!? わわ、私の事って、そのど、どんな事!?」
「あああ、いやあの! べ、別に大した事じゃないからっ!」
「あ、そ、そうよね! あはは…何期待してんだろ私……って! 期待とかしてないわよっ!」

何だこの二人。
両片想いとなった鈍感少年とツンデレ少女は、
お互いに真っ赤になりながら言い訳合戦を始めてしまった。
今どき小学生でも、ここまで初々しくないだろうに。

「じゃ、じゃあ……か、帰ろうか…?」
「そ、そう…ね……」

二人はお互いに「かあぁ…!」と熱くさせた顔を背け合いながら、
心地良い沈黙が流れる中で、一緒に下校するのだった。

二人の恋は、まだ始まったばかりである。


401 : 風が吹けば上琴が潤う :2015/04/07(火) 22:32:07 FgeT62kk
「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺をご存知だろうか。
意味としては、一見すると全く関係がないと思われる物事にも、
巡り巡れば何かしらの影響が出る…という事である。
本来は
1・強風で土埃が舞う。
2・土埃が目に入れば失明した人が増える
3・失明した人は三味線を引いて生計を立てる
4・三味線が大量に必要になる
5・三味線の材料となる猫の皮も大量に必要になる
6・数多くの猫が殺される
7・猫の数が激減すると捕食されていたネズミが増える
8・ネズミは桶をかじる
9・桶の需要が増えて桶屋が儲かる
という中々に残酷なストーリーなのだが、江戸時代の諺なのであしからず。

では「風が吹けば上琴が潤う」とは一体如何なる意味なのか、それをご覧頂こう。


 ◇


「きゃっ!!? ああ、もう! 急に突風…が…?」

突然の風でスカートがヒラリと舞い、美琴は慌てて下を押さえた。
幸い誰にも見られていなかった…と思ったのだが。

「なななな何でアンタがここにいんのよっ!!?」

よりにもよってこのタイミングで、上条がいつの間にかそこにいた。

「いいい、いや、か、上条さんは何も見ていませんですことよ!!?
 ミコっちゃんのカエル柄のおパンツなんて全然全く見てませんからっ!」
「ゲコ太はただのカエルじゃな…いや、今はそれを置いとくけど!
 しっかりはっきりと見てんじゃないのよっ!!! 今すぐ見たモノ忘れろ!!!」
「うう、うっせぇ! 大体何で今日に限って短パン穿いてねーんだよ!?」
「たまたま全部洗濯しちゃってたんだもん! いいから責任取れ馬鹿っ!!!」


 ◇


という訳で「風が吹けば上琴が潤う」の意味とは、
1・突風が吹く
2・上条さんがミコっちゃんのパンチラを目撃する
だったのだ。

一見すると全く関係ないどころか、もう直接である。起承転結ではなく、起結なのである。


402 : いやんばか〜ん そこはお耳なの :2015/04/07(火) 22:33:11 FgeT62kk
「もう…馬鹿…」

唐突だが、美琴は顔を赤らめている。
理由は簡単。背後から、上条に抱き締められているからだ。

「美琴って抱き心地最高だよな…ずっとこうしてても飽きないよ」
「ず、ずっとって……ひゃんっ!?」

思わず「ひゃん」と変な声を上げてしまったのは、急に自分の首筋に、
上条が鼻先をくっ付けてきたからである。

「しかも何か甘い匂いもするし…
 何? ミコっちゃんの身体は上条さんを誘惑する為に出来てる訳?」
「そんな、訳っ! ん、ああっ!」

そのまま上条は、首筋をキスをした。

「あ、ああ、だ、めぇ! あむあむしちゃ…んくぅっ!」

上条は気にせず、キスしたまま唇を開けたり閉じたりする。
イメージ的には、鯉が餌を食べる時みたいな感じの口の動きだ。
だがそれだけでは上条の『お遊び』は終わらず、

「や、め……ふぁっ!?」

そのまま口を上へスライドさせ、美琴の性感帯である耳たぶを甘噛みし始めたのだ。

「カジカジ…美琴って、ホントここ弱いよな?」
「そん、にゃ! 事…言ったって、仕方……んんっ! ない、じゃ、らぁあんっ!!!」

美琴の反応を楽しむように、上条は執拗に耳を弄る。
軽く歯を立ててみたり、舌を使ってチロチロを舐め回してみたり。

「あー…あー、りゃめぇ……頭…ほわほわしてきひゃうかりゃああぁ……」
「ほ〜? だったら、是非ともほわほわしてもらおうじゃありませんか!」

美琴の顔がトロトロになっても、上条は容赦なく耳を舐るのである。

「も…りゃめ……」

限界を迎え、頭をパチパチと帯電する美琴。
だが上条は咄嗟に右手を美琴の頭に乗せ、ナデナデしながらそれを打ち消す。
上条は、美琴の漏電すらも許してくれないのだ。

「じゃ! 放電も阻止出来たし、また首筋キスからな?」
「にゃあああぁぁぁ…! も、もう許してよおおおぉぉぉ!」
「ダ〜メ」

アッサリと美琴の言葉を否定して、上条は再び背後から抱き締める。
そしてこれを、もう何度も繰り返しているのだ。

早く爆発すればいいのに。


403 : くまのこ :2015/04/07(火) 22:34:03 FgeT62kk
以上です。
ではまた。


404 : ■■■■ :2015/04/08(水) 04:15:14 MqYcw3ag
くまのこさんGJです。
風が吹かなくてもくまのこさんのおかげで上琴病患者はかなりツヤツヤに潤ってます。


405 : くまのこ :2015/04/11(土) 14:10:35 o.CR.SEw
また連投ですみません。
懲りずに短編書いたので、投下します。
やく3分後に3レスです。


406 : ラブコメディからラブストーリーへ :2015/04/11(土) 14:13:23 o.CR.SEw
突然だが、ここに友達以上恋人未満(ただし限りなく恋人に近い位置にいる)な、
学生カップル予定の少年少女がいる。

少年の名は上条当麻。
鈍感な性格が災いし、今まで自分の気持ちにすら気付けなかった、不幸な少年である。
そんな性格なので、当然ながら相手の気持ちにも気付いていない。

少女の名は御坂美琴。
ツンデレな性格が災いし、中々素直に気持ちを伝えられない、もどかしい少女である。
それでも彼女なりに、今まで散々アプローチはしてきたつもりだ。
しかし相手の鈍感力はレベル6並みだった為、何度もスルーされてしまっていた。
故に彼女は、今現在の彼が自分に好意を寄せているなどとは夢にも思っていない。

つまり二人は、実は両想いでありながらそこに気付いていないという、両片想いな状態なのである。
そんな状態である為に、いつも通りの帰り道、いつも通り一緒に歩くだけなのだが、

「きょ、今日はその……い、いい天気だな〜!」
「そ、そそそそうね! 洗濯物とかよく乾きそうな天気よね!」

会話がギクシャクしてしまっていた。
上条にとっては初恋な訳で、おかげで相手を変に意識してしまっているようだ。
確かに美琴と接している時は、何と言うか心が穏やかになったり心地良かったり、
かと思えばふいにドキドキしたり、でも一緒にいると楽しく思ったりしていたのだが、
それが恋なのだと自覚した瞬間から、美琴への接し方が分からなくなってしまったのだ。
それまで普通に会話できていたはずなのに、今ではその「普通」が思い出せない。
そのせいで上条は、美琴に妙に余所余所しい態度になってしまい、
美琴は美琴で、元から上条への気持ちを自分でもどうしていいか分からなかったのに、
ここへ来ての上条のこの態度だ。普段より緊張してしまうのも、無理からぬ話である。
おかげで会話も続かず、無駄に天気の話などしてしまう始末だ。
そのうち「し、しりとりでもしよっか!?」とか提案してきそうで怖い。

二人がお互いに顔も見ずに、真っ直ぐ前を向いたまま、無言で歩き続けて2〜3分。
おそらく本人達的には、一時間くらいの体感時間だった事だろう。
突然、上条が口を開いた。

「な、何か喉渇いたな! ジュースでも飲むか!?」
「あ、う、うん! ちょうど自販機あるし!」

上条がジュースを飲もうと提案してきたのは、何も沈黙に耐え兼ねたからだけではない。
本当に喉が渇いていたのだ。どんだけ緊張していたというのか。
しかしここで上条の不幸体質が発動する。


407 : ラブコメディからラブストーリーへ :2015/04/11(土) 14:14:08 o.CR.SEw
「…あっ。そういや今日、財布を家に置きっぱなしだったんだ」
「…し、仕方ないわね。私が奢ってあげるわよ」
「それは悪いから! だから俺はいいよ。美琴だけ飲んでくれ」
「アンタも喉渇いてんでしょ!?
 そんな人の横で私だけジュースをゴクゴク飲んでたら、そっちの方が悪いじゃない!」
「いや、でも…」
「…はぁ。分かったわよ。じゃあ一本だけ買うから、半分ずつ飲みましょ。
 それならアンタの不要な罪悪感も、多少は晴れるでしょ?」
「じゃ、じゃあお言葉に甘え―――」

上条が「お言葉に甘えて」と言いかけた瞬間、彼はとんでもない事に気がついた。
何度も申し出を断ると逆に相手に失礼になる為、美琴の「半分ずつ」を承諾したのだが、
さて、ではどうやって「半分ずつ」にするのだろうか。
当然ながら、コップなど持ち合わせていない。となると一つの缶ジュースを回し飲みするしかない。
つまり間接的にキスする方法でしか、ジュースを「半分ずつ」飲むすべが無いのだ。

「ちょちょ、待て美琴っ!」

その事に気付いた上条は、慌てて美琴を止めようとする。
美琴との間接キスなど、今まで何度か経験してきただろうに。
だが時すでに遅し。美琴はもうジュースを買っており、しかも二口ほど飲んだ所で、

「ほら、アンタも飲みなさいよ」

と缶ジュースを上条に差し出している。どうやら美琴はまだ気付いていないらしい。

「い、いい、い、いいのかよっ!?」
「…? いいに決まってるじゃない。喉カラカラなんでしょ?」
「そ、そう…だけど……その、こ、これ…間接………」

上条が言いかけた事で、やっと美琴も気付いたようだ。
美琴は顔を「ボンッ!」と爆発させながら、精一杯の強がりを言う。

「べべべ、別に大した事でもないじゃらいっ!!!
 い、い、い、いみゃ時、そんにゃ事を気にする人がどこにいるってにょよっ!!!」

そんにゃ事を気にする人が、とりあえずここに二人いるのだが。

「そ、そそそそうだよな! き、気にするような事じゃないよな! あはははははー!」
「ああああ当たり前じゃない! ぜぜ、全然普通よこんなの! あはははははー!」

そんなコントをしつつ、上条は美琴から缶ジュースを受け取る。
そして一瞬のためらいの後、意を決してその缶の飲み口に口を付けた。
つい先ほど、美琴の唇が触れていたその飲み口に。

「ゴクッ! ゴクッ!」と上条も二口飲み、缶から口を離す。
そしてそのまま缶を美琴に渡し、

「……ん。次、美琴な…」

と顔を真っ赤にしながら言ってきた。美琴も顔を真っ赤にしながら、その缶を受け取った。
共に二口ずつ。缶の中には、まだまだジュースがなみなみと残っている。
もはや喉を潤すという当初の目的はどこへやら、何か変なゲーム【プレイ】が始まった。
ちなみに、何故わざわざ交互にやるのか、とか、無粋な質問はナシである。


408 : ラブコメディからラブストーリーへ :2015/04/11(土) 14:14:52 o.CR.SEw
 ◇


あれから更に数分。何度も何度も間接キスを繰り返し、
やっとの事で一本の缶ジュースを飲み干した二人が今どうなっているかと聞かれれば、

「……………」
「……………」

悪化していた。お互いに顔から煙を噴出させ、
上条は美琴と間逆の方向を、美琴は自分の足元を見ながら歩いている。
ジュースを飲み終わって冷静に考えてみたら、
その場のテンションでとんでもない事をやっていた事実に気付いてしまったのである。
ただの友人同士なら回し飲みでも、それが好きな相手だと唾液交換の儀式になってしまう。
二人はもはや、「会話をしなきゃ!」という使命感も忘れる程に、地に足が着かなくなっていた。
だがそこへ救世主が現れる。…いや、正確に言うならば救世『店』か。
歩きながら、二人はあるペットショップの前を通りかかる。
その時、美琴は思わず「…あっ」と声を出したのだ。会話の切っ掛けとしてはまずまずだ。

「ど、どうした?」
「…え? あ、うん。いや、ここのお店、前に婚后さん…って言ってもアンタは知らないか。
 常盤台の友達なんだけど、その人と一緒に来た事があるのよ」
「え…? でも美琴って電磁波が出てるから、犬とか猫とか怖がらせちゃうんじゃあ?」
「うん。だからその時は触れなかったの。
 ……ああぁ〜、あの時のわんちゃん、可愛かったな〜!」

言いながら、その時の事を思い出し、「にへら〜」と笑みをこぼす美琴。
上条はしばらく何かを考え込み、かと思えば自分の携帯電話を取り出した。
どこかに電話をかけるのか…と思いきや、今現在の時刻を調べただけだった。

「……まだタイムセールまで、ちょっと時間があるな。
 よし! じゃあ今度こそ触らせてもらおうぜ? その『わんちゃん』をさ」
「……へっ!? 触らせてって…今アンタが言ったじゃない! 私には電磁波が―――」

美琴が言い終わるその前に、上条は右手を美琴の頭にポンと乗せた。
そのままニカッと笑い、一言。

「ほら、こうすりゃ電磁波も消えるだろ?」

あらやだイケメン。
上条のさり気ない優しさやら、やらしくないカッコ良さやら色々と直撃で食らった美琴は、

「…あ……はい…」

と顔を「ぽー…っ」とさせて完全に落ちてしまった。いや、最初から落ちてはいるのだが。
と、ここで上条は、何だかいつもの感じに戻れている事に気がついた。
美琴に恋をしている事自体に変わりはないが、先ほどまでのギクシャクした会話とは違い、
以前のように自然と会話できている。そのおかげか、心にも少々余裕ができていた。
美琴の頭に触れながら、こんな事を思える程に。

(しっかし、やっぱり可愛いよな美琴って。髪もすげーサラサラで…ってアレ?
 いつもと匂いが違うけど、シャンプーとか変えたのかな?
 つーか昔だったら髪の匂いが違うとか、絶対気付いてないだろうな、俺。
 ここ最近…って言うか、美琴の事が好きだって気付いてから、
 ずっと美琴の事、見てたもんなぁ……ヤバイな…ストーカー一歩手前じゃねーか…
 はぁ…美琴も、俺が『好きだ』とか言ったら、困るんだろうな〜……
 好きな人とかいるのかな? いるとしたら、その相手が俺だったら…なんて都合良くは…
 ………ん?」

ふと見ると、目の前の美琴が口をパクパクさせたまま硬直している。
では何故か。それはついさっきの上条の独白にヒントが隠されている。
よ〜く見てみよう。最初上条は、『 (しっかし、やっぱり 』と『 ( 』を使っている。
つまり心の声なのだ。少なくとも出だしの時点では。
それでは今度は、最後の部分を見てみよう。『 ……ん?」 』となっている。
そう『 」 』で終わっているのだ。だから何なのか、と言われれば、つまり分かりやすく言うと、

「……あ…あの………もしかして途中から、声に出してましたですか…?」

という事である。対して美琴からの返事はない。ただひたすらに固まっている。
だがだからこそ、上条の悪い予感が的中している事も意味している。

こうして上条の『告白』は、本人の全く意図していなかった所で伝えられてしまった。
ペットショップの中の店員さんや、その場を通り過ぎる街の人たちが、
全員心の中で盛大に舌打ちした、その瞬間にである。


409 : くまのこ :2015/04/11(土) 14:16:06 o.CR.SEw
以上です。
この前書いた小ネタの一本目と内容が丸被りなのは、
仕様って事で気にしないでください…
ではまた。


410 : ・・・ :2015/04/12(日) 22:49:55 OdZBcL6c
ども、・・・です。
いや、アタイも忙しいときくらいあるんよ?

くまのこさん
〉〉す……っぱいものといえば梅干しだよね!!
四月バカッぷるという新たなジャンル!!?
で、普通にデートしてたけど?してたけど!!!??
嘘から出た麻琴。なんてうまいこといってみたりなんたり……。

〉〉両片思い⇒バカップル
だからといって鈍感が治ったわけではない(重要)
〉〉ウニ東風
ウニの耳に念仏と同意。こいつにはなんの意味もないこと。無駄なこと。
〉〉青ピ君、くまのこさんに座布団3枚!!
いちゃいちゃの時だけ攻守交代してるとホント萌える

〉〉自爆
し、しりとりはやめろーーーー!!
2人とも意識してないと無自覚にイケメンだと思います。
しばらく2人でアウアウなってろよ。チッ



では投下します。
育児日記です。
それでは


411 : 1!2!1!2! 2 :2015/04/12(日) 22:52:19 OdZBcL6c
ファミレスを出て、次の競技場までの道のりの途中、
いろいろあって上条と美琴は急遽二人三脚をすることになった。

「なんでや!! なんでカミやんばっかりいい思いしてんねん!! ワイが出る!! 二人三脚でオンにゃの子といやんあはんするんや!!」

そこまで叫んで彼は残像を残して消えた。
少ししてズドーンという音が響く。

「…………ここには誰もいなかった。そうだな?」

土御門のその言葉に皆神妙な顔で頷くのだった。
そんで上条と美琴は急遽二人三脚をすることになった。

「…………ってさせませんの!! お姉さまとわたくしが参加いたしますわ!! さあ!!お姉様!! 黒子と一緒にランデb「「男女のペアだっていってるでしょ!!」」

腹と後頭部に初春、佐天からそれぞれツッコミが入る。グーで。

「……ガ、ゴブフゥ……な、ならば、わたくしが別の殿方と出れば……」

そのセリフを聞き、
初春はゴソゴソパソコンを取り出した。

「えーっと、白井さんのデータ、『ガウスの法則Part3』の「フッ、例えそれを削除されようとも、ここで類人猿とお姉さまが2人の未来を歩むよりはましでs「御坂さんのお父さん、お母さん、お見せしたいものがあるんですけ「さぁ!! お姉さま、上条さん!! 早く準備なさってくださいな!!」

血の涙を流しながら、
なんて笑顔で笑いやがるんだ……。
そんで上条と美琴は急遽二人三脚をすることになった。

「「い、いや、その!! 美琴(当麻)は出たくないかもしれないし!!」」

なんだこの2人、めんどくさい。
互いになんで拒否しないの?という視線を送っている。
もちろん、その意思を汲み取れるほど鋭い2人ではない。

しかし、今までの上条なら、
『なんでオレと美琴なの? 組み合わせいろいろあるじゃんか?』
と、言っていただろう。
今までの美琴なら
『な、なんでコイツとやんなきゃいけないのよ!! べ、別に嫌だとは言ってないでしょ!!』
もしくは、
『ふにゃ〜〜〜〜』
となっているはずだ。

変化は着実に訪れている。

「嫌なんですか?」「嫌なのかにゃー?」

「「い、嫌ではないけど…………」」

その返答の間にも2人の足首は繋がれていた。

「え? あ、あのー、吹寄さん?」

「ごちゃごちゃうるさい」

「で、でも、吹寄先輩、まだ、競技まで時間がかかるっていうか、なんていうかじゃないですか?」

「美琴さん、まさか練習もせずに参加するつもりじゃないわよね?」


412 : 1!2!1!2! 2 :2015/04/12(日) 22:53:43 OdZBcL6c

さて、会場の近くの公園で練習開始なのだが、
それどころじゃない。

(近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い)

(近いnear相近procheблизкийcerca가깝다vicinoใกล้, เกือบnahePerto)

「さぁ足を動かすだけですよ!! 1、2、1、2!!」

佐天の掛け声が公園に響く。

シーーーーーーーン

動き、なし。

「なめてんのかあんたらはぁ!!」

「佐天さん、キャラが、キャラが崩壊してるって」

「はい!! まず肩を組んで!!」

ビクン!! と2人の肩が跳ねる。
できるわけねーだろ!!

(こ、こんな時にドロップキックでウヤムヤにする役のアイツはどこだ!!)

キョロキョロ見回して、ヤツを見つけた。
しかし、

「当麻くんが探してるのは、この子かしら?」

ヤツはベンチに座る美鈴に抱きかかえられていた。

「…………」

鼻血を出しながら、
なんという満たされた顔で気絶してやがる……

((や、役立たずめぇぇええええええ!!))

ふと気付く。
佐天がいない。

「こうやるんですよ」

佐天が2人の手を既に動かしていた。
上条の手に美琴の肩の柔らかい感触が、
美琴の手に上条の肩の固い感触が伝わる。

「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

またフリーズした。
買い換え時なのかもしれない。

「はい、1、2、1、2!!」

頭が動かず、
言われるままに2人は動き出した。
少し離れたところで少女は?を浮かべ、
頭を傾ける。

「う、いーにー?」

「はい、1、2、1、2ですよー」

ベンチに座る初春は、抱っこしていたインデックスの足を掛け声と共に左右で動かす。

「あう? いーにー?」

「そうですよー。歩くのに1、2、という掛け声は不可欠です」

1、2という佐天の掛け声に従って、
上条と美琴はギチギチとロボットのように歩を進める。
それではつまらない人物がいた!!

「ふん!!」

土御門だ。

彼は足払いを繰り出した。
当然上条と美琴は倒れる。

「男女二人三脚の醍醐味はこれぜよ。現実世界【リアル】ではありえないなんて無粋なことは言わせないぜい」

美琴を庇った上条は、自然と抱きかかえる形になる。
つまり美琴on上条である。

「ちょっ、ちょっと!! 土御門さん!! なにやってるんですか!!」

佐天は土御門に駆け寄った。

「GJです!!」

「お褒めいただき光栄だにゃー。あの超電磁砲の周りにわかってくれる子がいてうれしいぜい」

固い握手が交わされた。
上琴包囲網は着々と狭まりつつある。
で、当の本人達は?

((ふ、ふわぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!))

いっぱいいっぱいだった。
美琴はすっぽり上条の腕の中に収まっていた。

なんで同じシャンプー使ってるのに美琴はいい匂いがするんだ、だとか、美琴って細いけど抱き心地はやわらかいな、だとか、じ、実は柔らかい控えめなお山が当たっちゃってたりなんたりして、だとか考えるまもなく、

「…………」

上条は気絶していた。

一方、美琴は頑張っていた。
あ、やっぱりこの匂いに包まれると安心するなー、だとか、結構引き締まった体よね、だとか、ふ、太ももにあ、アレの感触が、だとかを考えて、

「…………」

やっぱり気絶していた。
気絶しても美琴を離さなかった上条のおかげで漏電は免れた。

そんな2人だが、
今、スタート地点に立っている。
練習なんかできていないのだった。


413 : ・・・ :2015/04/12(日) 22:54:57 OdZBcL6c
以上です。

うん、タイトルのチョイスはミスった!!


414 : くまのこ :2015/04/14(火) 00:07:06 X924NI5g
支部でリクを受けたので、短編を二本書きました。
一本目は別の方からですが、二本目は・・・さんからです。
それと一本目は未来設定で、オリキャラの麻琴ちゃんも出てきます。
苦手な方はスルーしてください。
約3分後に、二本合わせて6レス(3レス+3レス)です。


415 : くまのこ :2015/04/14(火) 00:09:40 X924NI5g
あっ! 感想書くの忘れてました!

>>・・・さんGJです!
気絶してばっかりじゃねーかっ!
ゴールまで遠いなぁ…まぁ、その方が長く二人三脚を楽しめますけどw


416 : もうあの頃に戻りたいなんて言わないよ絶対 :2015/04/14(火) 00:10:25 X924NI5g
現在季節は八月の半ば、所謂お盆休みである。
上条当麻とその妻である美琴は、押入れから秋物の服を引っ張り出しつつ、
ついでに部屋の掃除もしている。衣替えには少々早いが、どうせすぐに秋になるし、
面倒な事は連休中にやってしまおうと話し合いが為されたのだ。
幸い、一人娘の麻琴(14)は今、友達とプールに出かけている。ドタバタするには絶好の機会だ。
そんな訳でこの夫婦は、押入れやタンスやクローゼット、果ては物置まで引っ掻き回し、
年末の大掃除並みにてんやわんやな状態となっていた。
だが逆に言えば、それだけ真剣に掃除と衣替えの準備をしている訳で―――

「お〜! 何か昔のアルバム出てきたぞ!
 これって美琴が、俺の高校に入学してきた時の写真だよな!?」
「うわっ、ホントだ! やだ、懐かしいけど恥ずかしい〜!
 あっ! 見て見て、こっちには初代のゲコ太携帯があったわよ!?」
「あぁ! 美琴が中学ん時に使ってたヤツか!
 確かいっぱい思い出が詰まってるからって、機種変しても取って置いてたんだっけか?」
「うん! もう使えないけど…でもやっぱり捨てられないわよ」

―――している訳ではなさそうだ。
二人は掃除中に見事に気が散ってしまい、思い出の品探し【おおそうじあるある】の罠にハマっていた。
おかげで掃除は遅々として進まず、
「コレもあった!」 「ソレ懐かしい!」
「アレはどこ置いたっけ!」 「…てかナニ探してたんだっけ?」
と不毛な会話を繰り返している。挙句、やっと服を手に取ったかと思えば、

「ね! ね! これこれ、これ見てっ! 大覇星祭でアナタが着てたジャージ!
 ほら、私が変な力で暴走しちゃって、アナタが助けてくれた時のヤツ!」
「うっわ! すげーボロボロじゃん…それは流石に捨てようぜ? 右袖も無いし」
「絶対にイヤっ!!!」

全く関係の無い服とか発掘していた。秋物はどうした。その上、当麻は当麻で、

「なぁ、これってミコっちゃんの水着か? 俺、見覚えないけど」
「うわっ!? みんなで水着のモデルやった時のだ……なっつかしぃ〜」

また余計な物を掘り出している。
ちなみに当麻は、その水着を着た美琴の姿を街頭ビジョン越しに見ているのだが、
記憶喪失になる前だった為、『不幸にも』その時の事は覚えていない。

その後も思い出話に花が咲き、「あーでもない、こーでもない」と無駄なお喋りが続く。
そしてついには完全に当初の目的から脱線してしまい、

「ねぇ、アナタ! せっかくだから、私達が出会った頃の制服とか探してみない!?」
「出会った頃って、俺が高校で美琴は中学の時のか? …えっ、まさか着るのか!?」
「うん♪」

何故か二人してコスプレする事態に。

「確かこの辺にしまったはず……っと、あったあった!」

しかも見つかったようだ。十数年ぶりの、母校の制服である。

「…いや、マジで着るのか? 俺ら、もう三十代だぜ?」
「だからこそ尚更よ! 今着とかないと、これから先は益々着にくくなっちゃうじゃない。
 それに麻琴ちゃんもいないし、ね? いいでしょ?」

可愛い奥さんに「いいでしょ?」なんて上目遣いでお願いされたら、
旦那としては「勿論ッス」と即答するしかないのである。
こうして二人は、お互いに着替える為に一旦別れた。
当然ながら、片付けなどしていない。部屋は散らかったままで、である。


417 : もうあの頃に戻りたいなんて言わないよ絶対 :2015/04/14(火) 00:11:29 X924NI5g
 ◇


『着替え終わった〜?』

部屋の中から美琴の声が聞こえてくる。着替えが終わったらしい。廊下で着替えていた当麻は、

「おう、いいぞ〜」

と返事をする。
高校の時の制服だが、少しサイズが小さく感じる程度で、他は特に問題なく着られたようだ。
当麻はその時代に『ありすぎた』様々な出来事を思い出して苦笑しつつ、
美琴が着替えをした部屋のドアに手をかける。

「じゃあ、入っていいか〜?」
『どうぞ〜』

美琴の承諾も得たので、当麻はガチャリと音を立ててドアノブを回した。すると、

「お、おお、おおう……」

常盤台中学の制服を着た、愛する妻(三十代)がそこにいた。

「な、何よその感想!?」
「いや…何つーか、色々とすげーなと思って…」
「わ、分かってるわよ…もう似合ってないのは自覚してるから…」
「いやいやいや! すげーっつったのは悪い意味じゃなくて、むしろその―――」

当麻が思わず声を漏らしたのは、美琴のその姿が色々とヤバイからであった。
当麻は少しサイズが小さい程度だったが、美琴はそうではなかったのだ。
あの頃より体のある一部分が大きく成長した美琴は、制服がパッツンパッツンだったのである。
体のある一部分とは、何と言うか詳しくは説明できないのだが、つまり

  お  
    っ
 ぱ
   い

の事である。なので上条は、素直な感想を述べたのだ。

「―――むしろその、すんごいエロい」

しかも胸だけでなく太ももとかお尻とかもやたらとムチムチしており、
更に中学の制服という背徳感も加わり、その露出度の少なさとは反比例して、
もはや全身が男【とうま】の性欲を掻き立てる為の兵器と化していた。
もはやただのコスプレではなく、イメクラに近い。

当麻は、今すぐにでもルパンダイブしたくなる気持ちを抑える。
万が一、本能のままに『事を起こしてしまったら』それこそ掃除どころではなくなるし、
麻琴が帰ってくるまでに『事を終わらせられる』自信もない。
当麻は頭をブンブンと左右に振り、煩悩を少しでも紛らわせる。

「ま、まぁ美琴の制服がエr…か、可愛いのは置いといて、俺のはどうよ?」

一度ハッキリと『エロい』と言っておきながら、今更ごまかそうとする当麻である。
しかし妻としては、夫から魅力的な女性として映っている事は素直に嬉しいので、
スルーせずに追求するのだ。ニタニタと、意地の悪い笑みを浮かべながら。

「ん〜? な〜んかさっき、エロいとか聞こえたんですけど〜?」
「だ、だからそれは置いとけって! それより俺の昔の制服姿はどうなんだよ!?」

だが当麻としても非常にばつが悪いので、何とかして話を逸らそうとする。
すると美琴は意外な程に素直に答えた。

「カッコイイわよ? だって、私が初めてアナタを好きになった時の格好だもん」

その瞬間、再びルパンダイブをしてやろうかと当麻は思った。だが我慢である。
と、ここで当麻は、気を紛らわせる【エロいことをかんがえないようにする】為に、ふいにこんな事を言ってきた。

「その自販機な、どうもお金を呑むっぽいぞ?」
「………へっ!?」

美琴からしたら、「急に何言ってんのこの人」状態であり、顔をキョトンとさせてしまった。
だが当麻は、気にせず続ける。

「呑み込まれると分かってて金入れんの? なんかの賽銭箱かこれ?」


418 : もうあの頃に戻りたいなんて言わないよ絶対 :2015/04/14(火) 00:12:26 X924NI5g
すると美琴も、当麻が何を意図してそんな事を言い出したのかを汲み取った。
美琴はクスッと笑いながら、

「裏技があんのよ、お金入れなくってもジュースが出てくる裏技がね」

と一言残し、「ちぇいさーっ!」の掛け声と共に空を蹴る【ハイキックする】。
それは、二人が初めて出会った時の再現だった。
より正確に言うならば、『今の』当麻と美琴が出会った時の、であるが。
瞬間、二人は「ぷっ!」と吹き出して、そのまま同時に笑い合った。

「あっははははははは! そうね! こんな事もあったわよね!」
「くくくくくっ! いやー、改めて思うと出会い方最悪だったよな! 俺達って!」

笑い疲れて、二人はその場に座り込む。ほんのりと、肩を寄せ合いながら。

「色々あったわよね…」
「恋人のフリとかさせられたな…」
「大覇星祭でフォークダンスも踊ったわよね…」
「罰ゲームとか言われてペア契約したりな…」
「ロシアまでアナタを追いかけたり…」
「ハワイも一緒に行ったっけ…」
「デンマークで初めてアナタに勝ったのよね…」
「俺の高校に美琴が入学してきた時はビックリしたなぁ…」
「大学も同じ所に進学したりね…」
「そのうち付き合い始めて…」
「大人になって結婚して…」

そして

「「麻琴(ちゃん)も産まれて…」」

ふいに声がハモッてしまい、二人は顔を見合わせ、お互いにフッと笑った。
そしてほんの数秒間、柔らかい空気が二人の間に流れる。見詰め合ったままで。

「…ねぇ、キスしていい…?」
「…ダメ。キスだけじゃ済まなくなっちゃいそうだから…」
「キスだけだから…ね、お願い……」
「…分かったよ。本当にキスだけな…?」
「…うん……♡」

そのまま夫婦は目を閉じて、ゆっくりと唇を重ねた、

「……………何やってんの…?」

と思ったのだが、キスする寸前でピタッと止まる。
プールから帰ってきた愛娘【まこと】は、家の中の惨状にこめかみをヒクヒクさせている。
掃除と衣替えの途中で散らかり放題の部屋の中で、何故か良い雰囲気を醸し出している両親。
だが着ている服は若作りと言うにもおこがましい程の学生服コスプレで、
しかも何かそのままキスとかしようとしている直前だった。
子供としては、親の見たくない姿のハットトリック満塁ホームランである。
一気に血の気が引いていく両親は、慌てて言い訳を見繕う。

「ちちちち違うのよ麻琴ちゃん!!! ここ、これには色々と事情があってね!!?」
「そそそそうだぞ!!! ちゃんと説明すれば分かるから!!!」
「ふ〜〜〜ん…? じゃあ、ちゃんと説明してもらおうじゃない…
 その『色々な事情』ってのが、どんなものなのかをっ!」

これが最後のチャンスだった。
麻琴の怒りが爆発しないように、慎重に言葉を選ぶ必要があったのだ。
しかし学生時代の当麻をご存知の皆さんならばお気づきだろう。
彼は、自らの言動を自分を弁護しようとした時、大抵裏目に出てしまうという事を。故に。

「こ、これはその………プレイの一環なんだ!」

その瞬間の美琴の心境を端的に表すならば、 全部\(^o^)/オワタ ← である。
案の定、麻琴は髪を逆立て(能力【せいでんき】による作用と思われる)て、

「パパっ!!! ママっ!!! ちょっとそこに正座っ!!!」

と怒鳴り散らす。当麻【パパ】直伝の、お説教タイムを始める為に。


419 : 超能力者フィギュア化計画 :2015/04/14(火) 00:13:37 X924NI5g
超能力者【レベル5】は学園都市の広告塔だ。
230万人の能力者の頂点に立つ7人は、学園都市の内部にも外部にもアピールするには打って付け…
という訳ではない。何故なら彼らは、人格破綻者の集まりだからである。
しかしやはり本音を言えば、学園都市としては彼らをメディアに推していきたい。
そこで考えられたのが、

『超能力者フィギュア化計画』である。

彼らは性格に難はあれど、少なくとも見てくれは美男美女ばかりだ。
なので学園都市の広告代理店【おえらいひとたち】は知恵を絞り、このフィギュア化という無謀な企画を発足したのだ。
まずはフィギュアとして売り出し、レベル5達のイメージアップを図ろうとしているのである。
しかし大覇星祭のデモンストレーションの時の事を思い出して欲しい。
そもそも彼らが、そんなお花畑みたいな企画を、すんなりと承諾してくれるだろうか。
答えは否である。だって彼らは人格破綻者なのだから。
では広告代理店の方達には申し訳ないが、彼らの断りっぷりを拝見させて頂こう。



Case ♯ 1

「例の企画、アンタは受けないじゃん?」
「当たり前だろ、くっだらねェ。あンなもン誰が―――」
「でもでもミサカは一方通行のフィギュア欲しかったかも、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる…」
「………チッ…」

第一位、承諾。



Case ♯ 2

「貴方は、フィギュアと、やらに、ならないのですか?」
「にゃあにゃあ! 私も大体欲しい!」
「……仕方ありませんね。お二人がそこまで仰るのならば、やってみましょう。
 『本体の』私ならば絶対に引き受けない仕事でしょうが…まぁ、私は私ですし」

第二位、承諾。



Case ♯ 4

「麦野はあの依頼、超やる気ないみたいですね」
「だって自分のフィギュアとかキショク悪いでしょ」
「それは超残念ですね。浜面も超欲しがると思ったんですが」
「……そ、そう言えば最近お金に困ってたのよね。この際、背に腹は代えられないかしら?」

第四位、承諾

「……はまづら。ちょっと話があるんだけど」
「俺、何も言ってなくね!?」



Case ♯ 5

「女王は件のお話、どう思われますか?」
「興味力が無いわねぇ。キモオタ達のオモチャにされるのは、我慢力ができないしぃ」
「そうですか…わたくしとしては少々残念ではありますが、女王がそう仰るのなら―――」

「なぁなぁ。例のフィギュア、つっちーも買うんやろ?」
「当然だにゃー。特に第五位の体付きとか堪らんぜい。
 興味なさげにしてたけど、多分カミやんも楽しみにしてるんじゃないかにゃー?」

「……やるわよぉ」
「―――女王がそう仰るのなら…って、ええぇっ!?」

第五位、承諾。



Case ♯ 6

「あ? いいんじゃねぇの? 勝手に作れやボケがっ!」

第六位…の仲介役の横須賀さん、承諾。



Case ♯ 7

「何だか全く分からんが、別に構わんぞ」

第七位、依頼内容を理解しないまま承諾。



Case ♯ 3

「はぁっ!? な、く、黒子っ!!! アンタ、勝手に何してくれちゃってる訳!?」
「ううぅ…申し訳ありませんですの、お姉様……
 確かにお姉様の姿形を象ったご神体【フィギュア】を、
 どこの馬の骨とも知らない者共がお買いになるというのは、わたくしも大変心苦しいのですが……
 それでも…それでもこの黒子! お姉様のフィギュアが欲しいんですの〜〜〜!!!」
「泣くなっ! てか、泣きたいのはこっちなんですけど!?」
「そしてお姉様のフィギュアとご一緒にお風呂に入ったり就寝したり、
 舐めるように見つめたり時には本当にprprしたり……」
「止めれっ!!!」

第三位、ルームメイトが勝手に承諾。



意外すぎる事に、レベル5の全員が承諾してしまった。
この数週間後、『超能力者フィギュアシリーズ』は無事に発売され、
学園都市内部を中心に爆発的ヒットとなったのである。
ちなみに男性には第三位と第五位が、女性には第一位と第二位が特に売れているらしい。


420 : 超能力者フィギュア化計画 :2015/04/14(火) 00:14:34 X924NI5g
 ◇


「で、これが噂のフィギュアですか…」
「はい♪」

上条は佐天に呼び出され、ファミレスに来ていた。
そして目の前には、テーブルの上に乗った小さい美琴がそこにいる。
オティヌスと同サイズ程度のその美琴は、当たり前だが本人ではない。フィギュアである。
どうやら例のフィギュア化計画によって作られた物らしいのだが、
しかし何と言うかこのフィギュア、美琴本人をそのまま縮小したかのように、
正に精巧に出来ている。しかし一つだけ大きな問題があるのだ。

「……ちょっとエロくね?」

テーブルの上の美琴は、膝を突いて上半身だけ立った格好となっているのだが、
着替え途中に覗き見されたように厳しい表情をしながらも、恥ずかしさで頬に赤みが差している。
しかも下半身を隠すように上着を前に引っ張っており、
そのせいでお尻のラインがハッキリと出てしまっているのだ。
もっとも『残念ながら』短パンを穿いていて、
『更に残念ながら』キャストオフ機能は搭載されていないのだが。
そんなエロフィギュアを、堂々とファミレスのテーブルに置く佐天さん。
やはり彼女は恐ろしい子である。

「それで、俺に『コレ』をどうしろと?」

呼び出された理由はまだ聞いてはいないが、どうせこのフィギュア絡みだろうと確信する上条。
というか流石の佐天と言えども、意味もなく美少女フィギュアを置いたりはしないだろう。

「はい! 実は『コレ』を、上条さんにプレゼントしようと思いまして♪」
「ああ、なるほ………って、はいいいいぃっ!!?」

上条は、思わずノリツッコミもどきをしてしまった。

「いや、あの…何故に!?」
「元々、上条さんに渡すつもりで購入した物ですから。
 どうせ上条さん、本当は買いたいのに買ってないんでしょ?」

『本当は買いたいのに』という決め付けは、一体どこから出てきたのだろうか。

「じゃ! あたしはもう帰りますから、上条さんは御坂さんを『お好きにして』ください!」
「…えっ? あっ、おい! ホントに置いてくのか!? ちょ待……行っちまったよ…」

そのまま佐天は、嵐の様に去って行った。本当に『コレ』を渡す為だけに上条を呼び出したようだ。
残された上条は、ファミレスで美少女フィギュアと睨めっこする、
イタい上にアブない男となってしまったのである。


421 : 超能力者フィギュア化計画 :2015/04/14(火) 00:15:31 X924NI5g
 ◇


美琴はどんよりとした空気を身に纏い、とぼとぼと歩いていた。
白井の勝手な行動で自分のフィギュアが出回ってしまっただけでなく、
その完成したフィギュアが、妙にエロかったのだ。
おそらく買った人は白井のように、一緒にお風呂に入ったり就寝したり、
舐めるように見つめたり時には本当にprprしたりしているのだろう。
おかげで周りがみんな、こちらを見ながら笑っている…ような気がする。

「はあああぁぁぁぁ……何かもう、どうでもいいや…」

しかし出回ってしまった物は美琴もどうしようもなく、
深い溜息を吐きながらも諦めの境地に到っている。
そんな中、ふと視界に見知った顔と「ツンツン頭」が目に入ってくる。
ファミレスのガラス越しに難しそうな顔をしているツンツン頭は、
『何か』と対峙しながら腕を組んでいた。
その瞬間、美琴は頭で考えるよりも早く体が動き、そのファミレスに駆け込んでいた。
このモヤモヤした感情を払拭する為には、『あの馬鹿』と話でもした方が良いと、
本能的に悟ったのだろう。

しかし美琴は、あまりにも慌てていた為に上条が『何』と対峙していたのかまでは見えなかった。
まさかそれが、今自分を苦しめている元凶なのだと、知る由も無く。


 ◇


「ちょろっと〜?」

美琴はファミレスに入り、軽く上条に挨拶しながら近づいた。
美琴としては、上条が「よう美琴、お前も来てたのか。…あっ、何か頼むか?」とでも言いながら、
メニュー表をこちらに渡してくるものとばかり思っていた。

「のわあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

だが上条の反応は、予想していた物と大分違っていた。
上条は相当ビックリしながら大声で叫び、テーブルの上にあった『何か』を隠すように、
上半身ごと覆い被さったのである。あからさまに怪しい素振りに、美琴は追求し始めた。

「え、ちょ、な、何!? アンタ何してるの!?」
「ななななな何もしてやいませんが!!?」
「いやいやいや、明らかに今、何かを隠したじゃない!」
「かかかか隠してなどおりませぬぞ!!?
 上条さんはやましい事など何一つしていませんですとも!!!」
「ウソ言いなさいよ! じゃあ何なのよ! その不自然な体勢は!」
「ちょ、ちょっとお腹が痛いだけだい!!! そこまで言うなら、証拠出せ証拠!」
「だから! 目の前に証拠が転がってんじゃないのよ! いいから体を起こしなさいよ!」
「いや! だめ! そんなに激しくしないでぇ〜〜〜!!!」

美琴は強引に、上条をテーブルから引っ剥がす。すると、

「んなっっっっっ!!!?」

そこには、悩みの種である自分のフィギュアがあったのだ。
どう考えても上条の物だろう。真相は別【さてん】にあるのだが、美琴からはそうとしか思えない。

美琴は顔を真っ赤にしながら、店内に響き渡る大音量で叫び倒した。

「アアアアアアアンタァァァァァ!!!!!
 こここ、これ、これまさかっ!!! 一緒にお風呂に入ったり就寝したり、
 舐めるように見つめたり時には本当にprprしたりするつもりなのおおおおおお!!!!?」
「うおおおおおい!!! 何言ってんの!!? 美琴さん何言ってくれちゃってんの!!?
 違うから!!! 色々と誤解だから、ちょっとだけ俺の話を聞いて!!?」

大声で叫び合う二人を横目に、ファミレスの店員は心の底からこう思った。
『帰れっ!!!』、と。


422 : くまのこ :2015/04/14(火) 00:16:36 X924NI5g
以上です。
流石にちょっと疲れました…
ではまた。


423 : ■■■■ :2015/04/14(火) 00:20:36 Qsw77IT2
(*^ー゚)b グッジョブ!! 相変わらずいい仕事しまんなぁ


424 : ■■■■ :2015/04/14(火) 14:16:22 BxevO.OM
乙です。オティヌスがそんな上条さん見つけたら針刺しますね。


425 : くまのこ :2015/04/17(金) 23:20:48 deanjRJs
また連投すみません。
短いの書いたので、投下しにきました。
今回は珍しく恋人設定です。
約3分後に2レスです。


426 : それが美琴の悩む理由 :2015/04/17(金) 23:23:20 deanjRJs
ここはいつものファミレス。
美琴はいつもの席で、スプーンをカチャカチャと回してカップの中の紅茶をかき混ぜている。
よく見る光景だが、しかし本日美琴と共にテーブルを囲むのは、白井初春佐天【いつものメンバー】ではない。
現在、彼女が付き合っている男性【かれし】・上条である。
上条は今、ドリンクバーでウーロン茶をおかわりする為に席を外しているのだが、
待っている間、美琴はどこか浮かない表情を作りながら軽く嘆息する。
せっかくの上条とのデートだというのに、である。

実は彼女、ここ最近、ある大きな悩みを抱えているのだ。
それは付き合う前ならば頭に過ぎりもしなかった悩みだった。
付き合ったからこそ、そして付き合ってしばらく経ち、
心にも多少の余裕が出来たからこその悩みなのだ。
美琴は目を伏せて、紅茶の水面に映った自分の顔を見つめながら、
誰に言うでもなくポツリと呟く。内に秘めた、その悩みを。

「…はぁ………最近、アイツとキスしてないなぁ……」

さぁ、急速にどうでもよくなってまいりました。
つまるところ美琴の悩み(笑)とやらは、上条とのキスがご無沙汰なのだという事だ。

付き合い始めの頃は人目…は流石にはばかってはいたが、頻繁にキスしていた。
自分から誘った事は無いが、事ある毎に上条が唇を奪ってきていたのである。
しかしどういう訳か、少し前から上条がキスしなくなってしまった。
美琴としては、「やっ! ダ、ダメよ…」とか「ちょっとは我慢しなさいよね…」とか、
そんな事を言いつつも心の中では『もっとしてほしい』とか思っていたので、
今のこの状況は、何だか面白くない。

「……キス…飽きちゃったのかな…? それとも…私に飽き―――」

それ以上は怖くて考えられなかった。
美琴は頭に浮かびそうになった事を忘れ去るように、頭をブンブンと振る。
そして上条とのキスを思い出すように、自分の唇を人差し指でスッと触れた。
と、そんなタイミングで、

「ん? どうした美琴。何か俯いちゃったりして」

コップになみなみとウーロン茶を注いで、暢気な顔をした上条がご帰宅してきやがった。

「…別に何でもないわよ」
「そうか? ならいいんだけど…けど何かあるんだったらちゃんと言えよな。
 美琴って何でもかんでも一人で抱えて、誰にも言おうとしない悪いクセがあるからな」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」

目の前の上条は、美琴の悩みなど何処吹く風だと言わんばかりにいつも通りで【アホづらをぶらさげていて】、
美琴もほんの少し気が楽になる。
だがしかし、美琴の悩みが根本的に解決した訳ではない。
上条は何故キスしてくれないのか。そしてどうすればキスできるのか。
その解決法を見出さない限り、美琴は今夜『も』悶々としてしまう事だろう。
美琴【こっち】から「キスしてほしいな…?」と誘ってしまえば何よりも早いのだが、

(でも…私からそんな事を言ったら、エッチな女の子だって思われるかも知れないし……)

純情すぎて無理なようだ。上条からすれば、エッチな女の子【みこと】は大歓迎だと思うのだが。
なので美琴は、
「そう言えばさっき、ウーロン茶なのにミルクとガムシロ入れようとしちゃってさぁ〜」
と非常にどうでもいい話をしているこのツンツン頭に、
何とかしてキスしてもらおうと画策する。と言うか美琴は美琴で、どんだけキスしたいのか。

「そしたら隣のお客さんがさ―――」
「…あっ、ごめん! ちょっと目にゴミが入っちゃった」

上条が話しをしている途中だが、ふいに「目にゴミが入った」と言って目を瞑る美琴。
どうやら自分が目を瞑れば、その隙にキスしてくれるんじゃあないかと期待したようだ。
浅い作戦である。

「大丈夫か? ちょっとトイレ行って、手洗い場で目ぇ洗ってきた方がいいんじゃないか?」
「……ん。大丈夫、もう取れたっぽいから」

が、作戦失敗である。
割と長い時間、正確に言えば一分ほど目を瞑っていたのだが、上条はキスしてこなかった。
だが美琴はまだ諦めない。プランAが失敗したのなら、プランBに移行すれば済むだけの話だ。

「あっ、ちょっとアンタのウーロン飲んでもいい?」
「ん? ああ、全然いいぞ」


427 : それが美琴の悩む理由 :2015/04/17(金) 23:24:14 deanjRJs
そう確認を取ると、美琴は上条の持ってきたコップを手に取り、
中に刺さっているストローを口に含み、そのまま唇をほんの少し尖らせてアヒル口を作る。
どうやら自分が唇を突き出せば、そこからキスしてくれるんじゃあないかと期待したようだ。
薄っぺらい作戦である。
ちなみに自分の紅茶を使わずに、わざわざ上条のウーロン茶を使ったのは、
ホットの紅茶にはストローがついておらず、アヒル口を作れないからだ。

「ウーロンもたまに飲むと美味いよな」
「ゴクゴク……うん、美味しかった」

が、作戦失敗である。
割と多い量、正確に言えばコップの半分くらいは飲んでしまったのだが、上条はキスしてこなかった。
しかしそれでも美琴は諦めない。プランBでも駄目なら、次はプランCがある。

「あ…あー! 何か最近、お口が寂しいなー!」

美琴はさり気なく(と本人は思っている)そんな事を言って、アピールする。
ついでに目も瞑り、唇も尖らせる。今までの作戦も総動員である。
酷い作戦である。

「…あっ、ならガムか何か買ってこようか? 確かレジ横に食後に噛む用のが売ってたから―――」

が、作戦失敗である。
「お口が寂しい」という美琴の発言を、そのままの意味で受け取った上条は、
ガムを買いに立ち上がろうとしたのだ。
その瞬間、上条目掛けて紫電が走る。その電源は勿論、目の前の美琴だ。

「ぅおうっ!!? 何か久々だなこれ!」

上条は右手でそれを打ち消しながら、どこか懐かしいやり取り【ノリ】に少しだけ嬉しくなった。
だが、もしも当たったら思うとやっぱり怖いので、一応は抗議してみる。

「あの〜…美琴さん? わたくし何か、美琴さんを怒らせるような事をしましたかね…?」

ただし抗議は弱気であった。
すると美琴は、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すように声を荒げた。店内に響き渡る音量で。

「あ・ん・た・ねぇっ!!!
 さっきから私がお膳立てしてあげてるんだから、ちょっとはキスしようとしなさいよっ!
 3回チャンスあげたのよっ!? 3回もよっ!!?
 なのにアンタ、全然乗ってきてくれないし…あんなに頑張ったのに…
 ってか私がここまでしなくちゃなんないのも、
 アンタが最近キスしてくれないからじゃないのよっ! 全部アンタのせいなんだから!
 何なのよ! 以前は何も言わなくてもキスしてきたクセに!
 不満があるなら言いなさいよ! 飽きたなら…飽きたならそう言えばいいじゃないの馬鹿っ!!!」

美琴はぜーぜーと息を切らしながら、内に秘めていた物を全てぶちまけた。
主張している事は無茶苦茶だが、とりあえず気持ちは伝えすぎるくらい伝えられた。
その気持ちをぶつけられた上条は、「あー…」と気まずそうに頬をポリポリとかく。

「あー…あのな? 美琴…俺は別に、キスする事に飽きたとかそんなんじゃないぞ?
 って言うか、むしろ出来るもんならもっとしたいくらいでな?」
「なら! 何でしてくれないのよ!」

すると上条は困り顔を浮かべつつも照れながら、その理由を口にする。

「いや…段々キスだけじゃ我慢できなくなっちゃってさ…
 キスしたら『その先』もしたくなるから、自重しようかと思いまして……」
「…? 『その先』って―――」

と、言いかけた所で『その先』とやらが何なのかを理解し、顔を瞬間沸騰させる美琴。

「ななななな、ばっ! アア、アンタ! そそ、それって!」
「うん、だからな? それは流石に、『まだ早い』んじゃないかな〜、と…」
「そ、そそ、そう、ね……『まだ早い』…わね……」

すると美琴は赤面したまま俯いてしまい、上条は照れたまま天井を見上げる。
そのまま数秒間沈黙が流れた。…のだが、意外な事にその沈黙を破ったのか美琴だった。

「あ……あの、さ。べ、別に…わた、私は別にいいわよ…?
 その…そっ、そそそ、『その先』とか…しちゃ…って、も……だかr」

その瞬間、上条は美琴にキスをしていた。あれほど待ち望んでいた、上条からのキス。
美琴はゆっくりと目を閉じながら、その幸せな数秒間を噛み締めるのだった。

はいはい良かったね。じゃあもう解散解散。


428 : くまのこ :2015/04/17(金) 23:25:01 deanjRJs
以上です。
ではまた。


429 : ・・・ :2015/04/19(日) 10:30:30 u54bE4Po
ども、・・・です。
老後、縁側に座って騒乱時のことを思い出す上琴が見たい。

くまのこさん
〉〉大掃除
ほんっとくまのこさんの上条家が理想すぎて困る。
最近、バカップルってのがこの2人のためにある言葉だと考え……
パパ直伝の説教って、たしかレッサーが泣いちゃったがちな奴よね?

〉〉人形
ありがとうございました!!!
たまに佐天さんが上琴患者の願いが具現化した存在なのかと考え……
Level5の方たちは大変心が広いようでせう

〉〉勝手にやってろ
浅く薄く酷く中身のない作戦。第3位の頭脳どこ行った。
ここってファミレスのはずだよねバカップルさんよ
営業妨害以外の何でもねーぞ。あ、上琴患者の聖地の1つとしてPRすれば(バカ)



では投下。
育児日記です
この物語はフィクションで原作無視でキャラ崩壊でオリ設定多数でちょっと嫌な展開があって上条と美琴とインデックスが家族です
で、今回長い。切るとこ間違えたか?

それでは


430 : 1!2!1!2! 3 :2015/04/19(日) 10:31:39 u54bE4Po
「位置について!!」

上条と美琴は急遽二人三脚をすることになった。
とはいえ、両片想い、思春期真っ只中の純情まっしぐらな2人である。
肩を組むだけでいっぱいいっぱいだ。

(ぎ、ぎゃ〜〜〜!! 抱いてる!! 当麻がわたしの肩を抱いてる!! なにこれ幸せ!! ど、どうしよう!!? わたし汗臭くない?? 顔赤くない?? ドキドキ震えてるのばれてない!!??)

(ぎ、ぎゃ〜〜〜!! み、美琴柔らかい!! び、微妙に脇にあ、当たって……!! だ、大丈夫か?? 汗臭くないか??心臓の音聞こえたり、顔が赤いのバレてないよな??)

こんな感じで。

「よーい……!!」

頬が赤い。
体が熱い。
呼吸ができない。
心臓がうるさい。
頭が回らない。
足に力が入らない。
隣の、ぬくもりが、ここちよい。

「ドン!!」

敵の白組が3組、味方の赤組が2組、
自分たちの横から一斉に飛び出す。

「な、なにやってるぜよ!! 早く走れ!!」

「お、お、お姉さまがあんなふにゃふにゃな顔に!!…………あの類人猿がぁぁぁあああああ!!」

「…………当麻さん…………」

「美琴ちゃん!! 当麻くん!! がんばれー!!」

「こら!! さっさと走れ!!上条!!」

応援なのか、ヤジなのかわからない言葉が耳に入る。

「なんでや!! なんでカミやんばっかりいい思いしてんねん!!?」

「御坂さん!! 転んで!! そんで上条さんにジコチューしてください!!」

「…………当麻…………」

勘弁して欲しい。
心臓は現在オーバーワークなのだ。
労働基準法違反なんです。
ドキドキバクバクいってて、これ以上動かないのよ!!

「上条くんと。御坂さんが。仲良く。二人っきりで。うぅ。グスッ」

「はっはっはっ!! 上条くん!! もう少ししっかり娘をエスコートしてくれ!!」

「御坂さん!! 上条さん!!頑張ってくださーーい!!」

2人には全然聞こえていない。
もういっぱいいっぱいだってばよ。
上条はアウアウ言い出したし、
美琴はふにゃふにゃ変な声で鳴き始めた。

(……みょ、みょう、だめぇ)


431 : 1!2!1!2! 3 :2015/04/19(日) 10:32:14 u54bE4Po
しかし、

「いーー!! にーー!! いーー!! にーー!!」



そのたどたどしい声が、



「まぁま!!ぱぁぱ!! がんがれぇぇぇえええええ!!!!!」



美琴の耳に、届いた。



熱が冷める。
視界が広がる
一方で雑音が消える。

(あの子が……)

全身に力が入る。
隣を見ると、

(わたしたちを見てる!!)

上条の視線が、
力強く、
微笑んでいた。

(あの子の前で……)

手でがっしり上条の背を掴む。
上条の手が肩を掴んだのがわかる。
なんの掛け声もなく、

(情けない姿をさらせるかぁぁぁあああああ!!)

2人は同時に大地を蹴る。

会場から音が、消えた。
周囲の表情が驚きに染まる。
しばらく、歓声もかき消される。
それほど、

2人は、

速い。

「まぁま!! ぱぁぱ!! がんがれーー!!」

味方の赤組を追い抜く。
ギョッとしていたが、知ったことではない。
ようやく先頭を走る白組3チームが後方の異常に気付いた。
あわてて能力を使って妨害を試みる。
が、

「「無駄!!!!!!!!!!」」

幻想殺し、超電磁砲の前に、
時間稼ぎにすらならなかった。

あっけにとられていた解説が慌てて叫ぶ。

「ゴーーーーール!!!」

スタートで半分以上あった差が、
覆されると誰も思ってなかった。


432 : 1!2!1!2! 3 :2015/04/19(日) 10:32:46 u54bE4Po
「美琴」

息を調える美琴に声をかけたのは、
もちろん共に走ったパートナー。
奴はもう息が切れていない。
少し悔しいが、さすがだなという感情が先立つ。
よくよく見ると、彼は片手を挙げていた。
微笑み、

パァンと自分の手のひらをぶつけ、音をならす。

そのとき、可愛く声がかけられた。

「まぁま!! ぱぁぱ!!」

振り返ると、先程まで一緒にいたみんながいた。
美琴達はインデックス以外が呆然としていることに気付いていない。
周りを無視してインデックスを抱っこした。

「インデックス!! ママ頑張ったよー!!」

「まぁま、ぱぁぱ、ごーう!!」

「そうそう!! 一番でゴールしたの!!」

「いーば!! ごーう!!」

「ぱぱも頑張ったんだけど?」

「ぱぁぱ!! りこー」

「ありがとなインデックス。なんか適当に褒められた気もするけど」

「次は当麻の綱引きだっけ? 頑張って」

「おう、任せとけ‼」

その後は怒涛の快進撃だった。
上条と美琴が前線に立ち、皆を引っ張る。
2人のどちらかが出る競技では必ず赤組が勝利。
上条の高校はいままでで一番の好成績を残し、
常磐台は長点上機、霧ヶ丘等を下して頂点に立った。
美琴は中学3年で有終の美を飾ったのである。

その成功の背景として、
2人の競技では、必ず言葉足らずな応援があったことは、一部にしか知られていない。

そして、


433 : 1!2!1!2! 3 :2015/04/19(日) 10:33:13 u54bE4Po
「もう!! どこ行ったんですか!!? 御坂さん!!」

「フォークダンス始まっちゃいますよ!!?」

「せっかくフォークダンスの後のデートコースをピックアッ…………いたぁ!!」

「さすがです佐天さ「何をやっておりますの?」え? 白井さ」シュン

「初春ーーー!! …………あー白井さん、 初春をどこにやったんですか?」

「どこって、問題ありませんの。ちょっとここでは言えない場所に飛ばしただけですわ」

「どこが問題な…………し、白井さん、そこまで御坂さんと上条さんの邪魔をしたいんですか!!?」

「…………今回に限っては逆ですの」

「逆??…………あ、ちょストッ」シュン

「ふぅ」

白井はため息をつき、
振り返ると、
そっと微笑んで消えた。

別の場所で刀夜は詩菜の手を握る。

「……………………刀夜さん……」

「大丈夫だよ、母さん」

「そうですよ!! 上条さん」

「うちの娘とアンタ達の息子の息はぴったりだったじゃないか。心配しなくてもあの2人なら大丈夫だ」

その背後、屋台をまわる影が4つ。

「次は。あの焼きそばパン」

「ひ、姫神、ちょっと待ってほしいぜい」

「せやせや、確かにみんなでなんか奢るって言ったけど、ちょっと、量が…………」

「姫神さん、そのー、食べ過ぎはあんまり体に、よくないんじゃないかしら?」

「きっと。失恋のストレスの方が体に悪い。その上。見せつけられたら。どうすればいいかわからないし。やけ食い。仕方ないとは思わない?」

…………。

「だにゃー」「やね」「そうね」

そして、彼らの視線の先。
3人はベンチに座っていた。

「だう!!」

「ん? フォークダンスね」

「いーにー?」

美琴の膝の上で、
インデックスは一生懸命指をさす。
答えたのは上条。

「ん? あぁ、あれも1、2だな」

「いーにーいーにー♪」

「お気に入りですね」

美琴はインデックスの足を動かす。

「1、2、1、2」

「うー……あい!!」

「ゴール!! インデックス選手1番でゴールしました!!」

ばんざいをしたインデックスを、
拍手する美琴。
急に膝が軽くなる。

「1番でゴールしたインデックス選手はパパが高い高いでお祝いでーす!!」

上条がいつのまにか立ち上がり、
インデックスを高い高いする。
きゃいきゃいはしゃぐインデックスを見て、
美琴は、やさしく微笑んだ。


434 : ■■■■ :2015/04/19(日) 10:33:51 u54bE4Po





「まぁま!!!!!」

目が覚めた。
ソファーで眠ってしまっていたようだ。
隣に座っていた上条も同様のようである。
ごしごしと目をこすってあくびしていた。

キョロキョロと自分を呼ぶ声の主を探す。
少し離れたところにその姿を捉え、


眠気が一瞬で消えた。


インデックスが、なんにも掴まらずに立っている。
足はプルプル震え、今にも倒れそうだ。

息が、止まった。

上条と美琴は慌てて駆け寄ろうとする。
しかし、途中で2人は動けなくなった。

「ぱ、ぱぁぱ。まぁ……ま……」

彼女のその小さな足が、1歩進んだように見えた。

「い、いー……に、にぃ……」

ぎこちない動きで、
その小さい足を前に出す。
1、2という声が口から漏れるたびに、
数㎝前に進む。
美琴はその場で膝をつき、手を広げた。

それしか、できなかった。

少しずつ、少しずつインデックスが進む。
3分の1の距離を残して、
彼女は一度立ち止まった。
まま、ぱぱ、と呼び、
満面の笑みを浮かべる赤ちゃんに、美琴達はかける言葉を見つけられない。

再び正面を向いた銀髪の少女は、
数秒かけて最後まで自力で歩ききり、
母の温もりに包まれた。

美琴は、ただ、抱きしめる。
ようやく、

「……インデックス」

とだけ、言葉が出た。
インデックスはその言葉に対し、
まぁまと笑顔で返す。

上条もまた、言葉を失っていた。
おずおずとその右手をインデックスの頭に伸ばす。
しかし、ぴくりと、手が震えて止まった。

(…………)

何かにおびえた上条は、ふと視線を感じる。
あの子が、美琴の肩越しにこちらを見つめ、
ぱぁぱと自分を呼び、微笑んでいた。
その光に助けられて、
ようやく父は、少女の頭を撫でて、称えることができた。

しばらくそのまま上条達に言葉はなかった。


435 : 1!2!1!2! 3 :2015/04/19(日) 10:34:53 u54bE4Po
おまけ!!

「うぉい!! オレたちの出番はどうなってんだ!!」

ふざけんじゃねーぞ作者!! と叫ぶのは、戦神トール。
あー、ごめんね、忘れ……いや、出番あったんだよ!! 描写されてないだけで。

「……今、記憶を植え付けられた気がするが、とにかく出番がなければ私たちライバル役も動けないだろうが」

「おーい、オティヌス、メタ発言やめろよ、やる気でないだろ」

そんなぼやきを呟きながら、視線を動かすと、
上条、美琴、インデックスの3人がトールの視界に入った。

「よっしゃー!! 見つけたぞ!! ミコっちゃ「待て!!!」……なんだよ?」

「今までの過去を振り返ってみろ。おまけの前半部分の役割は何だ?」

「あん? うーん…………はっ!!? アウレオルス!!?」

「そうだ、奴をボコすことがこのテリトリーの役割だ」

「そ、それがなんだって……」

「ゆえに、ここで私たちが人間たちに声をかけようとすると、奴が邪魔に入る」

「それでアイツをオレたちがボコってオチか」

「私は当然それでは不服だ」

「じゃあどうすんだよ?」

「ゆえに先手を打っておく」

「先手?」




ちなみに、アウレオルスはこの前の競技中流れ弾に当たり瀕死の重体だ。




「……この一文を加える」

「おい、自由すぎだろ?」

「今まで忘れられていたんだ。これぐらいやれ、作者」

「……まぁ、いっか。では改めて、お〜い!!!! ミコっちゃーーーーん!! 上条クーン!!!!!!」

ウオッ!!トールジャネーカ!! アトオティヌスモナニシテンノ?
ナッ!!オティヌス!! アトアイカワラズアンタハナレナレシイワネ!!
ダブ?




ちなみに、アウレオルスはこの前の競技中流れ弾に当たり瀕死の重体だ。

「あ、唖然。な、なぜか、とんでもない、理不尽に、あった、気が、す、る」ガクッ


436 : 1!2!1!2! 3 :2015/04/19(日) 10:35:27 u54bE4Po
おまけ!!

月明かりの下、二人は帰っていた。
御坂家とは途中で別れた。
どこかで食事をするらしい。

「……刀夜さん」

「……なんだい?」

「……親は無くとも子は育つのですね」

「母さん……」

刀夜は詩菜の手をやさしく掴んだ。

「大丈夫です。そんな意味で言っているのではないんですよ」

「…………」

「あの子を、学園都市に入れてよかった……」

妙に月明かりがきれいな夜だった。


437 : ・・・ :2015/04/19(日) 10:36:07 u54bE4Po
以上です


438 : ■■■■ :2015/04/19(日) 15:40:21 ff6RaWvs
乙です。インデックスが立って歩いた! あとシステム復旧率ってなんですか?


439 : くまのこ :2015/04/25(土) 00:27:39 pR2D1kYw
>>・・・さんGJです!
子供の応援があれば、親は何だってできちゃう訳ですなぁ…
そしてインちゃんが歩く姿に両親も感動! もう完全に家族ですねw



短編書きました。
ミコっちゃんがほとんど出てこないので注意してください。
約3分後に6レスです。


440 : なぁ、美琴の好きな人って誰だか知ってる? :2015/04/25(土) 00:30:21 pR2D1kYw
『実は、美琴ちゃんの好きな人について調べてきてほしいのよ!』
「……はあ」

美鈴さんと電話でそんな会話をしたのは、つい先程だった。どうやら美琴には好きな人がいるらしい。
そりゃあ、まぁアイツだって女の子な訳で、いてもおかしくはないだろうけど。
…っと、自己紹介が遅れて悪かった。俺の名前は上条当麻。どこにでもいるような平凡な学生だ。
今日は全国的に日曜日。そして現在の時刻は朝の7時半を回った所だ。
学校も無いし、昨日の残りのカレー
(同じ鍋で大量に作るとその日の内にインデックスが全部食っちゃうから、
 あらかじめ違う鍋にも分けて冷蔵庫に隠しておいた)もあるから朝食の用意もしなくていいし、
上条さんも二度寝でもしようかな〜、なんて思ってた所だったんだけど、
そんな時に携帯電話が鳴ったんだ。相手はさっきも言ったように、美鈴さんからだった。
珍しいなとは思いながらも電話に出たら、何か困ってる事があるみたいな事を言われたんだ。
話を聞いてみると、どうやら最近、美琴が恋愛事で悩みを抱えているらしい。
好きな相手とうまくいっていないのか、もしくは何か騙されているのか…
とにかくその相手の愚痴を、よく美琴から聞かされているみたいでな。
それで母親としては心配だから、俺に美琴の好きな人について調べてきてほしいんだとさ。
ちなみに「何で俺が?」って俺も聞いたんだけど、
美鈴さんは『他に学園都市で知ってる男の子がいないから♪』だって。
いやでも相談相手が男である意味はあんのか…? 白井や佐天だっていいだろうに…
しかしまぁ、依頼されたからには俺も調べてみようと思う。
美琴の知り合いに手当たり次第に聞いてみれば、誰か一人くらいは知ってる奴がいるだろ。
今日は特に予定も無いし、何より美琴の好きな相手ってのも気になるしな。
いや〜、それにしても……

美  琴  に  好  き  な  人  が  い  た  な  ん  て 、
全   然   知   ら   な   か   っ   た   な  !


 ◇


俺は冷蔵庫から出したカレーを温め直しながら、インデックスに聞いてみた。
何故かいつも美琴と顔を合わせる度にケンカをしてるイメージがあるけど、
だからこそ何か知っているのかもしれない。

 [ 一人目 ・ インデックス ]

「なぁ、インデックス。美琴の好きな人って誰だか知ってる?」

すると、それまで上機嫌に「カ・レ・ー♪ カ・レ・ー♪」と、
スプーンを振り回しながら鼻歌を歌っていたインデックスの動きが、急にピタッと止まった。

「……とうま…? どうしてそんな事を聞くのかな…?」
「ん? いや、ただの興味だけど…」

アレ? 何だろこの空気。ものっ凄い嫌な予感がするんですけど。

「ふ〜ん…興味なんだ。へぇ〜」

マズイ! 上条さんの経験上、これはマジで噛み付く5秒前ではありませぬか!?
何か分からんけど急激に不機嫌になってる!
俺はインデックスの注意を逸らす目的で、オティヌスにも話を振ってみた。

 [ 二人目 ・ オティヌス ]

「オティヌス! オティヌスは何か知らないか!?
 美琴の好きな人…ああ、美琴ってのはお前も何度か会った事があるだろ!?
 あのいっつもビリビリしてる人! あの子の―――」

と、俺が言いかけているのに被せるように、オティヌスさんが一言。

「知るかっ!!!」

一喝でした。そしてインデックスさんの気も紛れてはくれませんでした。
こうして上条さんは、朝から頭を噛み付かれ、不幸な目に遭いましたとさ。…ちくしょう。


441 : なぁ、美琴の好きな人って誰だか知ってる? :2015/04/25(土) 00:31:13 pR2D1kYw
 ◇


あー、くっそー…ま〜だ頭部がズキズキする……
このままじゃ上条さん、すぐに毛根が死滅して若ハゲに悩まされるようになる気がする……
まぁ、今から悩んでも仕方ねーし、それはとりあえず置いておこう。
俺は今、部屋を出ている。理由は単純に、美琴の好きな人について聞き込みをする為だ。
べ、別に部屋の中のインデックスとオティヌスが怖いからじゃないんだからね!?
そりゃ確かに、何でか知らないけどあの二人、妙に気が立っていらっしゃるけれども。
触らぬシスターにも触らぬ魔神にも祟りなしだけれども。
でもそんな事で逃げるように部屋を出る程、上条さんは臆病じゃないからね!
ホントだからね!?
っとまぁ、そんな事を言ってる矢先、さっそく何か知っていそうな人物がやって来たようだ。

「おはよー、上条当麻ー。今日も生傷だ絶えないなー」
「はよー。…ついさっき、インデックスに噛まれてな……」
「あははー! いつも通りだなー」

土御門舞夏。俺のクラスメイトで部屋もお隣に住んでる土御門元春…の、義妹だ。
今日も掃除用ロボットに座って、クルクル回っている。
確か彼女は繚乱家政女学校の研修で、常盤台の生徒とも交流があったはずだ。

 [ 三人目 ・ 土御門舞夏 ]

「なぁ、舞夏は美琴の好きな人って誰だか知ってるか?」
「んー? 知ってるぞー」
「えっ!!? マジで!?」

意外とアッサリ終わった。…舞夏が変にニヤニヤしてるのが気になるが。

「だ、誰なんだ!?」
「んー…私は言ってもいいんだがなー…それじゃあ御坂に失礼だろー?
 だからその人物のヒントだけでもいいかー?」
「ああ! 充分だ!」
「そうだなー…実はそいつ、兄貴や上条当麻と同じ学校に通ってる奴なんだなー」
「マジでかっ!!?」

衝撃の事実! 俺の学校に美琴の好きな人が!?
もしかして、俺も知ってる奴なのかな?

 [ 情報① ・ 美琴の好きな人は俺の学校の生徒 ]


 ◇


「そ、それで私にしか聞けない用って一体何だけど?」
「すみません雲川先輩。こんな朝っぱらから呼び出しちゃって」
「い、いや別に気にしてないけど!
 何だったら、むしろ頻繁に呼び出してくれてもいいんだけど!?」

俺は、俺の学校の事に詳しい、雲川先輩を電話で呼び出した。
つっても自分の携帯電話を部屋に忘れてきちまったんで、公衆電話からかけたんだけどな。
本当はファミレスとか喫茶店とか気の利いた場所でも良かったんだが…
俺の懐事情を考慮してくれたのか、先輩は人気の無い公園を待ち合わせ場所に指定してくれた。
う〜ん、先輩。できた人だなぁ…(しみじみ)
心なしか、何かいつもよりオシャレしてる気がする…けどそれは多分気のせいだろう。
俺なんかと話すのに、わざわざ着飾る必要なんかないし。
さて、と。いつまでも二人っきりで公園のベンチに座ってる訳にはいかないよな。
先輩は気を使ってくれてるけど、本当は迷惑だろうし。

 [ 四人目 ・ 雲川芹亜先輩 ]

「ところで先輩。美琴の好きな人って誰だか知ってます?」
「……は?」

アレ? 何か先輩の目が怖くなったような…気のせいか?

「いえ、今ちょっと美琴…って知ってますよね。あの第三位の。
 で、訳あってその美琴の好きな人が誰なのかを聞いて回ってるんですけど、
 どうやらそれが、俺たちの学校の生徒らしいんですよ。
 それで先輩ならウチの学校の事にも詳しいし、知ってるかな〜って」
「ふ〜〜〜〜〜ん…?」

先輩、何かイライラしてきたような気もするけど…気のせい…だよな?

「ああ! 知ってる知ってる! 確かに知ってるけど!?」
「本当ですか!? それで、誰なんです!?」
「けど! お前には絶っっっ対に教えてやんないけどっ!!!」
「えええええ!!?」

そう言うと先輩は、すぐに立ち上がると、
そのまま不機嫌っぽいオーラを撒き散らしながら帰って行った。
お、俺…何か先輩を怒らせるような事言ったかなぁ…?


442 : なぁ、美琴の好きな人って誰だか知ってる? :2015/04/25(土) 00:32:05 pR2D1kYw
 ◇


ん〜…困ったな。先輩なら協力してくれると思ってたんだけど…
こうなったら、佐天にでも聞いて…って、携帯電話、部屋に置きっぱなしだった…不幸だ…
じゃあもう一回公衆電話から…いや、ダメだ。もう小銭がねーわ……
仕方ない。このまま常盤台方面に歩いてくか。常盤台の人なら、知ってる人もいるだろ。
という訳で、俺は常盤台中学が建っている方向へと歩き出した。
っと、さっそく常盤台の制服を着た女生徒を見つける。
知らない子だけど、いきなり常盤台生に会えるなんて…
もしかして今日の上条さんはツイてるんじゃあ!?

「あの〜、すみません。ちょっとお話よろしいでしょうか?」
「…へ? あっ、な! ど、どうしてアナタがぁ!?」

えらくビックリさせてしまった。参ったな…ナンパだと思われたのかも。

「あ! だ、大丈夫ですから! 本当に話がしたいだけですので!」
「あ、ああ、あらそぉ!? それならそれでぇ…私も会話力を出してもいいけどぉ?」

何か顔が赤いな、この子。やっぱ外、寒いもんな。
長話しちゃ悪いし、それにこの子も知らない男と話なんかしたくないだろうし。
手っ取り早く本題に入ろう。

 [ 五人目 ・ ???? ]

「あの、あなた常盤台の人ですよね? 御坂美琴って知ってます?」
「……知らなぁい」

…え? てっきり美琴って、常盤台では知らない人はいないくらいの有名人だと思ってたのに…
あっ、もしかして俺みたいな知らない男には、軽々しく情報を漏らせないって事か?
そりゃレベル5だもんな〜…
そう言えば、常盤台には美琴以外にも、もう一人レベル5がいたんだっけか。
って、今はそんな事を考えてる場合じゃないな。

「いや、あの…信じてもらえないかも知れないですけど、俺、美琴の友達なんですよ」
「…友達力…ねぇ……」
「そうそう。だから―――」
「知らないったら知らないわよぉ! そんな貧乳力がレベル5の人の事なんてぇ!
 何よぉ! 私とお話したいっていうから期待力全開にしたのにぃ!
 ああ、もう! バーカバーカ! 『上条さん』の鈍感力ぅぅぅ! うわぁ〜ん!!!」

……何か、泣きながら逃げ出してった。
んー…やっぱり知らない子に話しかけたのはマズかったかな…
次からはちゃんと知り合いに……って、あれ? 俺、『上条』って名乗ったっけか?


 ◇


「風紀委員ですの! 女性が変態に襲われて泣きながら逃げたとの通報がありましたわ!
 おとなしく捕まり―――って、貴方は類人え…こほん。もとい上条さん?」
「あっ、白井だ。『類人え』まで言ったんなら、『ん』も言っちゃえよ」

んー…どうやら、さっきの事を様子を見てた人が誤解して、風紀委員に通報したみたいだな。
にしても、こいつにだけは変態とか言われたくないな…

「お〜ほっほっほっほ! どうやら本性を現したようですわね!
 貴方が痴漢を働いたと知れば、お姉様の目も覚めて、そしてわたくしがお慰めを……
 うひっ! うひゃひひゃはははひょふはひゃははひょひょひほはひゃほはぁ!!!」
「こ〜わい! 笑い方こ〜わい! つーか誤解だってば!
 あーそれと、そのお姉様の事でちょっと聞きたい事があるんだけど」
「はひゃほひゃひ……へ? お姉様の?」

白井に聞くのは何故か危ない気がするが…でも俺は敢えて危ない橋を渡ってみる事にした。
理由は二つ。白井は美琴のルームメイトであって、普段の美琴を一番よく見ているからという事。
そしてもう一つは、とにかく話を逸らしたかったからだ。
このままじゃ上条さん、冤罪で風紀委員にタイーホされちまう。

 [ 六人目 ・ 白井黒子 ]

「なぁ、美琴の好きな人って誰―――」

と俺が質問しかけた瞬間だった。
俺の頬をかすりながら、俺のすぐ後ろの壁に金属矢が突き刺さったのだ。
こ、これが噂の壁ドン…って訳じゃないよな…?

「あ、あの…白井…さん?」
「お喋りにならないでくださいまし。次に口を開いたら、先程のを脳天に突き刺しますわよ」

こ〜わい! 考え方こ〜わい!
俺も脳天に突き刺されたくはないので、喋らずに無言で頷く。

「何とか仰ったらどうなんですの!?」

どうしろと!?


443 : なぁ、美琴の好きな人って誰だか知ってる? :2015/04/25(土) 00:33:00 pR2D1kYw
「大体お姉様の好きな人が誰かなど、わたくしの口から言える訳ないではありませんの!
 しかも本人を目のm」

すると白井は、何かを言いかけてハッとする。『本人を目のm』…と言いかけて。

「ちちち違いますわよ! 今のはついウッカリと口を滑らせてしまっただけですの!
 決して『本人を目の前にその名を言えない』と言おうとした訳ではありませんからっ!!!」

そして白井は、慌てて逃げるように空間移動して消えた。
何はともあれ、俺が痴漢の冤罪で捕まる事態は避けられたらしい。
にしても、『本人を目の前にその名を言えない』………って言おうとしてなかったんなら、
白井は結局、何て言いかけたんだろう?


 ◇


俺は再び常盤台方面に向かって歩き出していた。
俺の学校について詳しい雲川先輩でも、
美琴のルームメイトの白井でも教えてくれないとなると、
もうこうなったら美琴本人に聞いた方が早い気がする。
っと、歩いて2〜3分だが、いきなり美琴を発見―――

「ミサカに何かご用ですか、とミサカはほんの少し期待してみます」

―――美琴を発見…した訳じゃなかったみたいだ。

「ご用っていうか…何してたんだ? 御坂妹」
「はい。ミサカはこの猫と遊んでいました、とミサカは足下でゴロゴロしていた黒猫を抱きかかえます」

御坂妹が飼ってる(?)黒猫か。名前は確か…何て言ったっけかな? ……まぁ、いいか。
それより御坂妹は美琴のDNAマップから生まれた体細胞クローンだ。
もしかしたら好きな人も美琴と同じかも知れない。
なので俺は、御坂妹にもあの質問をぶつけてみる事にする。

 [ 七人目 ・ 御坂妹 ]

「でまぁ、用が無い訳でもないんだけどさ。今、好きな人っているか?」
「えっ!? な、何故そのような事を聞くのですか、
 とミサカはミサカ自身の体温の上昇を感じながら質問を返します」
「ん…いや、実は今、美琴の好きな人が誰かってのを調べてて、
 それでもしかしたら御坂妹も同じ人が好きなんじゃないかな、っと」
「……期待したミサカが愚かでした、
 とミサカはミサカの体温が下がっていくのを感じながら嘆息します」

何か分からないけど、もの凄くガッカリされたぞ。

「それで…どうなんだ?」
「…確かにミサカとお姉様の好きな方は同一人物です、とミサカはぶっちゃけます」
「本当か!? って事は、御坂妹も美琴が誰を好きなのか知ってるって事だよな!?」
「はい、とミサカは肯定します。
 ついでに言えばその人は貴方もよく知る人物です、とミサカは最大限のヒントを与えます」
「俺が…よく知る人物? ん〜、誰だろ…」
「それ以上はミサカも言えません、
 とミサカはやたらと意味ありげに貴方を見つめながら立ち去ります」

結局誰かまでは分からなかったけど、重要そうな手がかりは貰えたな。

 [ 情報② ・ 美琴の好きな人は俺のよく知る人物 ]


444 : なぁ、美琴の好きな人って誰だか知ってる? :2015/04/25(土) 00:33:51 pR2D1kYw
 ◇


常盤台中学へと進む道、その途中。
俺のすぐ目の前には、風紀委員第177支部のビルがそびえ建っていた。
ん〜…どうしようかな。ここには美琴の友達が多く在籍してるけど、白井もいるんだよなぁ。
さっきの事もあって顔会わせ辛いし、入るのもちょっと気まずいよな…

「あれ? 上条さん、こんにちは。風紀委員に何かご用ですか?」

と、丁度良いタイミングでこの支部の人が話しかけてきてくれた。
うん。やっぱり今日の上条さんは、いつもより不幸じゃない気がする。

「よう、初春。まぁ、ちょっとした聞き込みをな。
 それよりも初春こそ、こんなとこでどうしたんだ?
 デスクワーク派の初春が、ビルの外を歩いてるなんて」
「私は今、休憩時間ですから。なのでコンビニに行ってスイーツを買ってきたんですよ」

確かに初春の両手のレジ袋には、大量のロールケーキやらプリンやらが詰め込まれている。
それ…休憩時間に食いきれる量なのか? どこかの腹ぺこシスターさんじゃあるまいし。

「それで、ご用と言うのは? っと、その前に中に入りませんか?」
「ああ! いや、いい! すぐ済むから!」

中に入ったら白井がいるしな。

 [ 八人目 ・ 初春飾利 ]

「長話すると悪いから単刀直入に聞くけど、美琴の好きな人って誰だか知ってる?」
「ぬふぇっ!!?」

ぬふぇ?

「どどどどうしてそんな事を!?」
「聞いた人、聞いた人みんな同じような反応するな…」
「ほ、ほほ他の方にも聞いたんですか!?」
「うん、まぁな。…ちょっと気になるんで」
「そ、そそ、そうですか〜。気になるんですか〜」
「それで、知ってる事があれば何か教えてくれないか?」
「えっ!!? で、でで、ですが…その…私が言ってしまっても良いものかどうか…」
「せめて特徴だけでも」

俺がそう言うと、初春は渋々ながら口を開く。相当、名前を出したくない人物らしいな。
初春は、俺の顔をじっと見つめながらその特徴を言う。
まるで俺の顔を見る事で、その人物の顔を思い出しているかのように。
……似てるのか?

「そ…そうですね……髪はその…ツンツンしてます」
「なるほど。ツンツン、ね」
「それから…えっと…いつも気だるそうな顔をしていらっしゃいますね」
「へぇ…」
「わ、私からはそんな所でしょうか!」
「そっか。ありがとな」

 [ 情報③ ・ 美琴の好きな人はツンツンした髪型 ]
 [ 情報④ ・ 美琴の好きな人はいつも気だるそうな顔をしている ]

「おおっ!? 何ですか何ですか!? 随分と面白そうな話をしてますね♪」
「わひゃっ!? 佐天さん!」
「よう、佐天。……って、待て。YOUは何しに風紀委員へ?
 佐天って、風紀委員のメンバーじゃないよな」
「こんにちは上条さん! あたしはただ、初春と白井さんの所に遊びに来ただけですから」

風紀委員って遊びに来てもいい所なのか…?

「いえ、佐天さんだけです。そんな事をするのは」

心を読むな、心を。

「そ・ん・な・こ・と・よ・り・! さっきチラッと聞いちゃったんですが、
 上条さん、御坂さんの好きな人を知りたいんですって!?
 あたし知ってますよ! それはもう、ハッキリと!」
「ほ、ホントか!?」

 [ 九人目 ・ 佐天涙子 ]

「ちょ、さ、佐天さんっ!!? ままままさか!」
「いやいや、流石のあたしでも直接名前を言う程無粋じゃないよ。
 でも初春みたいに、その人の特徴を言うだけならいいでしょ?」
「それは…まぁ……」
「心して聞いてくださいね上条さん。その人のイニシャルはK・Tで最初の『K』は『か』ですつまり苗字が『か』から始まる人ですねそれと御坂さんとおそろいのストラップをつけてる人ですそう言えば上条さんも同じのを付けてますね偶然ですねあと他には大覇星祭の後夜祭で御坂さんとフォークダンスを踊ったりもしてましたねあっこれは御坂さんを問い詰め…じゃなくて御坂さんから聞いた話なんですけど何かにつけて『不幸だー』って言ってるみたいですよまるで誰かさんみたいですねっ!!!」
「そ…そうか。うん、ありがとう」


445 : なぁ、美琴の好きな人って誰だか知ってる? :2015/04/25(土) 00:34:43 pR2D1kYw
……よくもまぁ、息継ぎ無しで言えたもんだな…
しかも心なしかニヤニヤしてるし。で、それを聞いてる初春はあわあわしてる。
さて。佐天からの情報をまとめると、だ。

 [ 情報⑤ ・ 美琴の好きな人のイニシャルはK・T ]
 [ 情報⑥ ・ 美琴の好きな人の苗字は『か』で始まる ]
 [ 情報⑦ ・ 美琴の好きな人は美琴とおそろいのストラップを付けている ]
 [ 情報⑧ ・ 美琴の好きな人は大覇星祭の後夜祭で一緒にフォークダンスを踊った ]
 [ 情報⑨ ・ 美琴の好きな人は何かにつけて『不幸だー』と言っている ]

「……なるほど。その人、どこかで会った事がある気がする。少なくとも他人とは思えねぇ。
 まぁ、他の人からの情報も踏まえると、俺の学校の生徒でしかも俺の知ってる人だって言うんだから、
 他人だと思えないのは当たり前だけど…でもK・T…K・Tだろ?
 しかも頭が『か』…かー、かー……あっ! 垣根帝督かっ!!?
 いやでも、アイツはウチの生徒じゃないよな…? 大覇星祭にいたって話も聞かないし…
 ん〜…俺も同じストラップは持ってるし、フォークダンスも踊ったけど、
 周りに美琴の好きな人とかいなかった……って、あれ?」
「「……………」」

何でだろう。二人がゴミクズでも見るかのような目でワタクシを見つめているのですが。


 ◇


常盤台に到着した。けどもうめんどくさいので、直接本人に聞いてみた。

 [ 十人目 ・ 御坂美琴 ]

「なぁ、美琴の好きな人って誰なんだ?」
「いいいいいいないなななないないないわよそんな人っ!!!
 べ、べべべ、別にアンタの事が好きとか全然そんな事ないんだからっ!
 きゅきゅ、急に変な事聞くのやめてよねっ!」

何だ、いないのか。じゃあ今までの情報は、全部誤報だったって事かよ。
はぁ…不幸だー。
まぁ、美琴に好きな人がいないって分かっただけでも良しとするか。
何かちょっとホッとしたし…あ、でも少しだけ残念な気持ちもするのは何でだろうな。

 [ 情報⑩ ・ 実は美琴に好きな人はいない ]


 ◇


「という訳で美鈴さん。美琴には好きな人はいないそうですよ」
『………あー、そう。ありがとう上条くん。
 あっ、ごめんなさいね。ちょっと詩菜さんに急用が出来たから、もう電話切るわね』
「あ、はい。母さんによろしく伝えてください。それじゃ」

こうして俺の日曜日は幕を閉じた。
にしても、今日はいつもと比べて大した不幸がなかったけど、
後でその分の不幸がキャリーオーバーでキャッシュバックしてくる…なんて事はないよな…?


446 : くまのこ :2015/04/25(土) 00:35:49 pR2D1kYw
以上です。
や、最近イチャイチャしたのばかりだったので、
たまにはこんなの書いてもいいかな〜と…すみません…
ではまた。


447 : ・・・ :2015/04/25(土) 13:01:11 1br1p//A
ども、・・・です。

し、システム復旧率??
ナンノコトカナ〜

伏線です(笑)


〉〉くまのこさん

……日常だな
あとこの後に起こる参事も日常だけどな

あれ? このバカほっとしてモヤモヤしてない??

くまのこさんのいちゃいちゃも大好物だけど、
鈍感とツンデレの絶妙なハーモニーも大好きです。



さて、育児日記ではなく小ネタです。
お、思いついちゃったんだもの!!
拙作、『ぷらん』の続編です。
見てないとわかんないかも。
よければお付き合いください。

それでは


448 : じっこう :2015/04/25(土) 13:01:59 1br1p//A
統括理事長はあの無理しかないぷらんを実行に移したそうです。


美琴「まぁぁぁああああああああてぇぇぇぇえええええええい!!!」

当麻「御坂さん!! 俺は伝説的泥棒の三代目じゃねぇんだ!! こんなに追いかけまわされる必要はない!!!」

美琴「いや!! アンタは大変な物を盗んで行きました!!!」

当麻「はあ!!!? なにをだよ!!!!」

美琴「私の…………言えるかボケぇぇえええええ!!!!!!」

当麻「むちゃくちゃだぁぁぁぁああああああ!!!!」

佐天「とりゃぁぁぁああああああああああああ!!」

当麻・美琴「げぶふぅ!!」

佐天「あー!! 上条さんが御坂さんを押し倒してるー!!」

当麻「いてて、正確にはアンタがオレを突き飛ばして御坂が巻き込まれた、だろ」

美琴「い、いいから早く離れてよ!!/////」

佐天「上条さん、御坂さんを押し倒したんで慰謝料として御坂さんにキスしてください」

当麻「な、なに言ってんスカ!!」

美琴「なに言ってんのよ!!///」

???「なにいってんのよと聞かれたら!!」

???「答えてあげるが世の情け!!」

当麻・美琴・佐天「???」

???「世界の破壊を略」

???「世界の平和をry」

???「を貫く」

???「な敵役」

アケミ「アケミ」

むーちゃん「むーちゃん」

アケミ・むーちゃん「「銀河を以下略!!!!」」

マコちん「!!!?????」

当麻「ネタが古い……誰でせう??」

マコチン「ネーネーワタシハ??」

美琴「確か佐天さんたちのクラスメートの……」

マコチン「ワタシノセリフハー??」

佐天「アケミ、むーちゃん、マコちん、なにしてんの?」

アケミ「こっちのセリフだよ、ルイコ」

むーちゃん「アンタがその2人のデートを邪魔してるって聞いたから回収に来たんだって」

マコちん「あ、私、忘れられてたわけじゃないんだね」


美琴「で、デート!!??///」

当麻「???」

アケミ・むーちゃん「「じゃ行くよー」」

マコちん「じゃ、無視してたんだね」

佐天「ちょ、ちょっと待って!! ひ、引っ張るなー!!!!」

マコちん「ねぇ、どういうことなの? ねえ」

美琴「じゃ、じゃあねー」

当麻「どたばたにぎやかな奴らだったな」

当麻・美琴「「さてと……」」


449 : じっこう :2015/04/25(土) 13:02:41 1br1p//A
美琴「覚悟はできてるかコラァァァ!!!」

当麻「ぎゃあああ!! つい逃げるのやめてしまったあああああ!!!」

美琴「くらえええええええええ!!!!!」

当麻「ちくしょおおおおおお!!!!!」

黒子「せいやぁぁぁああああああああ!!」

当麻「へぶっ!!」

美琴「??」

黒子「お姉様!! なんで類人猿討伐戦に私も呼んでくださらなかったんですの!!」

当麻・美琴「討伐って……」

黒子「さぁ、類人猿。冥途の土産に遺言だけは聞いてさしあげやがりますわ!!」

??「聞くのは貴様の遺言だ」

黒子「へ? あべぶっ!!」

当麻「……だから誰だよ」

美琴「げっ!! 寮監!!」

寮監「『げっ!!』?」

美琴「いえいえ!!」

寮監「能力を使って暴れる常盤台生がいると連絡があってな。白井か? お前か?」

当麻「……時間軸的にどちらかというと「黒子です!!」……お前……」

寮監「ふむ、じゃあコイツは回収する。御坂、くれぐれも常盤台生というじ・か・くのある行動をするように」

美琴「は、はぁ〜い」

当麻「お前、結構ひどいな」

当麻・美琴「「さてと……」」

美琴「覚悟はできてるかコラァァァ!!!」

当麻「ぎゃあああ……と、常盤台生の自覚!!!」

美琴「くらええええ……っと」

当麻「ちくしょおおお……ん?」

美琴「うぐぐぐぐぐぐぐ……」

当麻「……ふぅー」

美琴「今日のところは勘弁してやるわ」

当麻「……で、何の用だビリビリ?」

美琴「アンタ、なんで追いかけられてたかをもうちょっと……」




禁書「見つけたんだよ!!」

オティ「また女といるなアイツは」

禁書「私がおなかすかせてる時に……よし、まずは!!とうまの頭にかじりつく!!」

??「見つけたぞー」

禁書「???? あ、まいか!!」

舞夏「ほれ、こんなのがポストに入ってたぞー」

禁書「何これ?」

舞夏「おひとり様専用中華料理食べ放題券だなー」

禁書「……あー、とうまを見失ったんだよ」

オティ「おい」

舞夏「ぶれないなー」

禁書「だって見失ったから仕方ないし、これ期限今日までだし、おなか減って仕方ないから行ってくるんだよ!!」

オティ「……好きにしろ、私はアイツの「ザッ」???」

スフィンクス「ニャー(よっ)!!」

オティ「!!!!!!!!!!!!!!!」


450 : じっこう :2015/04/25(土) 13:03:36 1br1p//A

当麻「ん?叫び声?」

美琴「…何も聞こえなかったけど、気のせいじゃない??」

舞夏「お、みさかみさかー」

美琴「あ、土御門」

当麻「お、舞夏」

美琴 ムカッ

舞夏「……上条当麻、なんでみさかは機嫌悪いんだー?」

当麻「ビリビリが機嫌悪いのはいつものことだよ舞夏殿」

美琴 ムカッムカッ

舞夏「……みさかみさかー、名前で呼んで欲しいなら自分も名前を呼ばないとだぞー」

美琴「ぶっ!!」

当麻「なんだ、そんなことでキレてたの美琴?」

美琴「にゅむっ!!?」

舞夏「じゃあなー」

当麻「おう」

美琴「ま、待って!!」

当麻「さて、美琴さん」

美琴「うっ」

当麻「美琴さん、名前で呼んでもらいましょうか」

美琴「う、うぅ」////

当麻「……」

美琴「うぅ……と、と」///////

当麻「うん?」

美琴「と……と、ぅまぁ」/////////////

当麻「お、おおう」////////

美琴//////////////////

当麻//////////

美琴「あぅ」////////////////////

当麻「//////////……あー!!」

美琴「!!?」

当麻「やばい!! 特売!!」

美琴「えっ!!?」

当麻「美琴!! すまん!! またこんd「よぉ、大将、第三位」ん?」

美琴「えーっと、浜面さん?」

当麻「なんでそんなボロボロなの?」

浜面「あぁ、向こうのスーパーで買い物してたらいつものように暗部に襲われたんだよ」

当麻「あるあるだな」

美琴「あってたまるか」

浜面「まぁ、麦野もいたし、第一位や第二位もいたから、余裕だったけど、
買い物できる状態じゃなくなってな」

当麻「なんだって?」

浜面「だから向こうのスーパーでな……」

当麻「じ、じゃあ特売は?」

浜面「?? 廃墟で特売ができるわけないだろ?」

当麻( ;∀;)

浜面「さて、シャケ弁シャケ弁。じゃまたな」

当麻( TДT)

美琴「さ、サヨウナラー……な、泣き止みなさいよ」

当麻「う、うぅ、これから大量の課題に頭をかじられながらとりくまにゃぁならんと思うとなぁ……」

美琴「あー、け、携帯鳴ってるよー」

当麻「うぅ、はい、こちらかみじょー」

元春「カミやん!! 大変だ!!」

当麻「どうした!!? また魔術師か!!?」

元春「また、ってところが泣けてくるがその通りだ!!」

当麻「魔神じゃないだけましさ」

美琴「判断基準がおかしい」

元春「だが、もうステイルと神裂が片付けた」

当麻「あん? じゃなにが大変なの?」

元春「あー、戦場がカミやんの部屋だったんだぜい」

当麻「は?」

元春「あの狭いなかで七閃やらイノケンティウスやら赤の式やら使うもんだからさー、
もう部屋の原形ないよね」

当麻「ふざっけんな!! てめえも参加してやがるし!!」

美琴「あれーここ上琴スレよね?」

当麻「……はっ!! 課題は?」

元春「ん?」

当麻「机の上の課題は?」

元春「……とりあえず、インデックス達は小萌センセーのとこに預かってもらうにゃー。
じゃ」

当麻「おい、おい!! 土御門!!……不幸、だ……」

美琴「あ、あはは、大丈夫……じゃないわよね」


451 : じっこう :2015/04/25(土) 13:04:59 1br1p//A

初春「あ、いたいた、御坂さーん!! 落とし物ですよー」

美琴「初春さん!! 落とし物?」

初春「はい、遊園地の1日フリーパス2枚です。
支部に学舎の園で御坂さんが落としたって連絡がありました」

美琴「記憶にないな〜?(学舎の園じゃ、あの娘達って訳でもないし)」

初春「とぼけないでください」

美琴「はへ?」

初春「上条さんと行く予定だったんですよね!!」

美琴「ぶぶふっ!!」

当麻「?」

初春「じゃ、頑張ってください!!」

美琴「ちょっ!! ちがっ!!」

当麻「ふふっ、うらやましいですな、わたしは特売逃して課題どころか家も燃えてて、
美琴さんは夢のくにを満喫ですか」

美琴「え、えと、その」

当麻「しかも、2枚ってことはあれか? 白井と行くならとうの昔に行ってるだろうし、
誰かとデートですかぁ? けっ、爆発しろ」

美琴「……一緒に、行く??」

当麻「まったく最近の若者は…………は?」

美琴「違うからデートとかじゃないからそうたまたま2枚もらったけどみんな都合があって仕方なく捨てたんだけど戻って来たところにたまたまアンタがいただけだから!!!」

当麻「いや、白井とか、佐天とか暇そうで「みんな都合があったの!!」はい」

美琴「いいから行くの!!?行かないの!!?」

当麻「……ま、現実逃避したかったしな、夢のくになら都合がいいか」

美琴「ヤ,ヤッタ‼」

当麻「で、なんてとこなの?」

美琴「ウセキーランド」

当麻「行く気の失せる名前だが、まぁ、美琴さんとのデートだしいっか」

美琴「で、ででで、デートぉぉおおおおお!!?」//////////////////////

当麻「いや、冗談ですよ?」

美琴「……なんだ、冗談か」

当麻「へ?」////////

美琴「!!! なんでもない!! ほら早く行くの!!!」//////////////////

当麻「うぉぁ!! 待て!! 引っ張るなって!!」


452 : じっこう :2015/04/25(土) 13:05:32 1br1p//A



















『夕刻、寮監に現状況の報告を本物の海原光貴にさせるよう手配、御坂美琴の帰宅阻止』

『2人の行動予測』

『行動予定地周辺に夕立が降るよう天候制御』

『雨をしのぐ場所をホテルの一室に限定するよう手配』

『2人がその部屋で一晩開けることになる確率84.3%』

☆「まさかと思うが、上琴病の諸君【お前達】は私をただの馬鹿だと侮っていたのかね?」


453 : ・・・ :2015/04/25(土) 13:06:30 1br1p//A
以上です。

そうさ、オチがしたかっただけなのさ。


454 : ■■■■ :2015/04/27(月) 00:02:30 0qMcA9Dg
☆wwwww
おつ!


455 : くまのこ :2015/04/28(火) 19:19:10 QyNj5OmU
>>・・・さんGJです!
☆さん何やってんスかw
で、結局二人はホテルの一室で一晩ナニをしてたんですかねぇ?(ゲス顔)



我道さんからリクを頂いたので、
いんでっくすさんの3巻の、
とある日常.33の後の話を書いてみました。
ネタバレが含まれてますので、
いんでっくすさんの後にお読みになる事をオススメします。
約3分後に9レスです。


456 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:22:02 QyNj5OmU
美琴は大量のクッキーが詰め込まれた紙袋を二つ、それぞれを両肩にかけながら歩いている。
いや、歩いているという表現は正しくないかも知れない。どちらかと言えばスキップだ。
足取りは軽く、口元は緩み、鼻歌も交え、頬には赤みが差している。
どこから誰がどう見ても分かるくらいに分かりやすく、彼女は上機嫌なのである。

本日はホワイトデー・イブ。
バレンタインデーで食べきれない程のチョコを貰った美琴は、
明日のホワイトデーでお返しする為に食べきれない程のクッキーを買っていたのだ。
常盤台中学は女子校ではあるが、美琴に贈られたチョコには本命もチラホラ(主に黒子)あった。
そんな彼女達に美琴は、クッキー【おともだちでいましょう】で返すつもりなのだ。
キマシタワーは建てられなかったのである。
そう。ホワイトデーのお返しには、選んだお菓子によって異なる意味があるのだ。
初春によれば、クッキーはお友達。マシュマロは嫌い。そしてキャンディは「好きです」。
と、そんな訳で先程まで買い物をしてたのだが、その帰り道に上条とバッタリ会ってしまったのだ。
最初は上条も自分と同じでホワイトデーのお返しを買いに来たのかと危惧した美琴だったが、
どうやら上条はバレンタインでチョコを貰えなかったらしく、ホッとした。
上条にチョコを贈ろうとしている女性など、本来は数え切れないくらいいただろうに、
恐らくは何かしらの不幸が働いたのだろう。可哀想なのは上条か、それとも女性達か。
事実、美琴もバレンタイン前からチョコの好みやらをいろいろと聞かれ、
しかも当日もそのチョコを受け取ったりで、自分の分を用意できなかったのだ。
だがここで上条と出会えたのはチャンスだ。
チョコが渡せなかったのならば、キャンディを渡そうと画策した。
しかしそこでも上条の不幸…と言うよりも、鈍感スキルが発動する。
上条がそのアメに食いつかなかったのである。美琴も妙に不自然だったし。
その上、アメの代わりに特売の卵パックを一緒に買ってほしいと頼まれる始末。
ロマンスもへったくれもあったもんじゃねぇ。
ところが、まぁ相手がコイツならば仕方ないかと諦めて帰ろうとしたその時、
上条からのまさかのサプライズ。
卵のお礼だと上条から手渡されたのは、棒付きキャンディだった。
やたらと美琴がキャンディを推していたので、美琴がアメ好きなのだと勘違いしたようだ。
なので上条はアメに込められた意味【すきです】など知らない。
知らないのであろうが、それでも美琴は嬉しかった。来年のバレンタインにリベンジを誓う程に。

そんな事があったほんの数分後である。
美琴の全身からウキウキオーラが放出されているのも無理はない。
美琴は二つの紙袋を両肩にかかえ、手に持った棒付きキャンディの眺めながら、
ニヤニヤしつつ歩いて【スキップして】いるのだ。
これから自分の身に惨劇に起こるなど、知る由もなく。


457 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:22:52 QyNj5OmU
 ◇


ふんふふ〜ん♪ と口ずさみながら歩いていると、ふいに背後から話しかけられた。

「みさかみさかー。何だかあからさまにご機嫌だなー。何かいい事でもあったのかー?」
「ひゃえっ!!? つ、土御門!?」

鼻歌を歌っている所と知人に見られるのは、レベル5でも恥ずかしい物である。
突然声を掛けられた事も手伝い、美琴は「ひゃえ!!?」と変な返事をしてしまった。

「い、いや別に、た…大した事はないけど!? って言うか普通だし!」

やましい事は無いのだが、咄嗟に手に持っていた棒付きキャンディを後ろに隠してしまう。
その様子と明らかに挙動不審な美琴の言動に、舞夏は目をキラリと光らせた。

「んー? 大した事はないなら、今後ろに隠した物も見せられるよなー」
「バレてるっ!!?」

バレバレである。美琴は観念して、舞夏にそのキャンディを見せた。
だが、これが上条から貰った物なのだと言うつもりはない。やましい事は無い筈なのに。

「…? 何だ、ただのアメかー。そう言えば明日はホワイトデーだもんなー」
「そ、そうなのよ! ほら、紙袋にいっぱいお菓子が入ってるでしょ!?
 これ全部お返し用なのよねー! いやー、バレンタインでいっぱいチョコ貰っちゃってさー!
 だからこれもその一つなのよ! うんうん! 全然変な意味とかじゃないんだから!」

人はウソをつく時、妙に饒舌になったりするものだ。
舞夏が聞いてもいない事まで、ペラペラと説明する。しかし舞夏には、どうしても腑に落ちない事が。

「んー…確かにお菓子はたくさんあるがー……でもこれ、全部クッキーだぞー?
 何で一個だけアメなんだー?」

ギクリとした。そして固まった。しかも舞夏の追及は、これで終わりではない。

「それに、そうだとしても隠す必要は無いよなー?
 そのアメには、何か他に特別な意味があるんじゃないのかー?」

土御門舞夏は意外と鋭い子である。
美琴が「それは…あの、その……」と顔を真っ赤にしながらアワアワしているのを、
舞夏は含み笑いを我慢しつつ見つめていた。
この娘、すでに大まかな事情を察しているようだ。ホワイトデーのキャンディがどんな意味なのかも、
そしてそのキャンディが本当は買った物ではなく貰った物なのだという事も。
更に言えば、その貰った相手が誰なのかという事も。

「だ、だから…これは……その…へ、変な意味はなくて…」
「んー、まぁ言いたくないのなら別にいいぞー。私は私で、勝手に推測するだけだからなー。
 じゃあ、上条当麻からのプレゼントをじっくりと味わうがいいー」
「なななななな何の話っ!!!?」

バレバレである。


458 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:23:41 QyNj5OmU
 ◇


舞夏と別れて数分後。美琴は未だに先程のダメージ()が抜けていなかった。
顔を赤くしたままトボトボと歩き、

「このアメは…ただの卵のお礼ってだけで…別にそういうんじゃ…ないんだから…」

こんな風にブツブツと呟いていた。言い訳ならば、独り言ではなく舞夏に言えば良かったものを。
そんな時だ。美琴は今一番…と言うよりも、普段から話しかけて欲しくない人物に声を掛けられた。

「あらぁ? 御坂さぁん、そんな浮かない表情力でどうしたのぁ?
 もしかしてバストが磨り減って、貧乳力に磨きがかかっちゃったのかしらぁ?」
「うげ……食蜂…」

ロングな金色の髪をファサーっとかきあげ、
その豊満な胸を強調するかのように、わざとバインバインと揺らせるように歩いてくる。
実にけしからんのである。……………ふぅ。

「『うげ』だなんて酷ぉ〜い! それに下品力も満載だゾ☆」
「ただでさえ疲れてるのに、これからアンタの相手しなきゃなんないとか考えたらそうなるわよ。
 今日だけは貧乳とか言ったのもツッコミ【ビリビリ】しないであげるから、
 とっとと私の目の前から消えなさいよ」

美琴は犬猫でも追い払うかのように、シッシッと手首を動かす。
しかしそれがマズかった。美琴の右手には、例のキャンディが握られたままだったからだ。

「…? そのアメ、もしかして明日の分かしらぁ?」
「ぴゃっ!!?」

食蜂も美琴と同様、常盤台を代表するレベル5であり、そして美琴同様にチョコを貰う側である。
面倒くさいとは思いつつも礼くらいは必要かと、これまた美琴同様にクッキーを買った所だった。
もっとも美琴と違う所は、能力を使って知らない誰かに買いに行かせてる
(流石にクッキー代は自分持ちだが)という所だ。
そして食蜂もお返しを買う前にお菓子の意味を調べており、勿論キャンディの意味も知っている。

「あらあらあらぁ? ひょっとして御坂さん、そのアメは白井さんの分なのかしらぁ?」
「………へ?」

黒い笑みを浮かべながら、トンデモ推理をぶつけてくる食蜂。
美琴も「何言ってんのこの人?」と、顔をキョトンとさせる。

「だぁ〜ってぇ、他のはクッキーでそれだけキャンディっておかしいじゃなぁい。
 それって一つだけ本命力があるって事でしょぉ?
 そうなると一番可能性が高いのは、やっぱり白井さんだしぃ。
 いやぁ〜ん。百合力全開で、いいですわゾ〜これぇ」

食蜂としては、美琴が誰とくっ付こうが知ったこっちゃないが、
とりあえず上条とだけは困るのだ。
なので無理矢理でも白井と百合展開になってくれれば、ありがたいのである。
しかし美琴も、勝手に白井を「相棒」から「恋人」にジョブチェンジされては堪らない。

「はあ!? んな訳ないでしょ! これはアイツから貰ったものなのよ! お礼としてね!」

思わず声を荒げてしまった。
瞬間、美琴は「…あっ」と我に返り、食蜂は一気に顔を青ざめさせた。

「……え…? アイツって、か、上条さん…よねぇ…?
 し、しし、しかもお礼って……ま、ままま、まさかチョコのって事ぉぉぉ!!?」
「ふにゃ!!? いや、あの、食蜂さん!!? ち、違―――」

お礼と言ったのは、お一人様一パック98円の特売卵の事だったのだが、
そんな事情など知らない食蜂は、バレンタインのお礼だと勘違いしたらしい。
しかも食蜂ですら出来なかった上条へのチョコの手渡し(実際は美琴も出来ていないのだが)を、
美琴がしてしまった(実際は美琴もしてしまっていないのだが)事にもショックである。
更に言えば、上条からの贈り物がキャンディである事にもショックだ。その意味はつまり。

「何よ何よ何よぉ!!! 御坂さんの馬ぁ〜鹿!
 そんなんで勝利力だと思わないでよね! うわぁ〜ん!!!」

「ち、違うから! 誤解だから!」と弁解する余地も与えてもらえず、
食蜂は泣きながら走って逃げた。
運痴の為に美琴のジョギングよりも遅いスピードで、運痴の為に途中で転んだりしながら。


459 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:24:34 QyNj5OmU
 ◇


舞夏には煽られ、食蜂には誤解されて、美琴は心身共にボロボロとなっていた。
美琴はニヤけそうになる顔を必死に我慢して、キャンディを睨めつける。

「ああん、もう! それもこれも、全部アイツのせいなんだから!」
「どれとどれが誰のせいなのですか、とミサカは背後から声を掛けます」
「にぎゃっ!!?」

本人の言うとおり突然背後から声を掛けられて、舞夏の時と同様に変な声で返事をしてしまう。
後ろに居たのは妹達の一人。
上条【アイツ】から買って貰ったというネックレスを身に着けている所を見ると、
どうやら10032号…上条曰く、御坂妹と呼ばれている個体のようだ。

「い、いや何でもないわよ!? 大した事じゃないから!」

そして舞夏の時と同じような言い訳をする。

「そうですか。お姉様の様子がいつもと違って見えたのですがミサカの見間違いでしたか、
 とミサカは疑心を拭いきれてはいませんがここは敢えてお姉様を泳がせてみます」
「……思いっきり口に出てるわよ」

自分の計画がアッサリと漏洩した所で、御坂妹は話を切り替える。

「ところでお姉様。そのキャンディは何か特別なのですか?
 とても大事そうに持っているようですが、とミサカはキャンディに視線を移します」
「んっ!? えっ!? あ、い、いや!? ぜ、ぜぜ全然特別じゃないけど!?」

どう見てもウソである。美琴のそれは、完全に何かを隠している態度だ。
なので御坂妹は、鎌をかけてみる事にした。

「そうですか。ではそのキャンディをミサカにください。
 丁度甘い物を口にしたかった所ですので、とミサカはキャンディに手を伸ばします」
「ダ、ダダダメよっ! これだけはダメ!
 甘い物なら、そこのコンビニで私がいくらでも買ってあげるからっ!」
「おや? そのキャンディは特別な物ではないのではなかったのですか、
 とミサカは尋問します。それにミサカは我慢の限界です。
 今すぐにでも甘い物が欲しいのです、とミサカは再び鎌をかけます」
「今、鎌をかけるって自分で認めたじゃないっ!!!
 とにかくダメなの! これはアイツに貰った物なんだから〜〜〜!!!」

鎌をかけられているを理解しつつも、そのアメが特別なのだと自白してしまう美琴。
姉妹そろって詰めが甘いのである。
瞬間、御坂妹はミサカネットワークを通じて脳内会議を開始する。


460 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:25:44 QyNj5OmU
『なるほど。あの人からのプレゼントですか、とミサカ15508号は納得します』
『確かにそれは特別ですね、とミサカ16549号は頷きます』
『ですがあの貧乏暮らしの彼が意味もなくプレゼントをするでしょうか?
 とミサカ12002号は疑問を提示します』
『12002号の言い方は気になりますがその疑問自体にはミサカも賛同します、
 とミサカ10055号は意見を述べます』
『ちょっと待ってください。明日はホワイトデーなのでは?
 とミサカ10993号はとんでもない事に気がつきます』
『それだ! とミサカ16380号は10993号の言葉に目からウロコを落とします』
『ではあの人はバレンタインのお返しにキャンディを贈ったと言うのですか、
 とミサカ11836号は膝をガクガクを震えさせます』
『しかもそうなるとお姉様もバレンタインにチョコを渡したという結論になりますね、
 とミサカ13000号はお姉様を侮っていた事に後悔してもしきれません』
『正直お姉様はチキン野郎だと思っていましたからね、とミサカ14443号は毒づきます』
『お姉様は女性なので野郎とは言わないのでは?
 とミサカ17221号は話の腰を折るのは承知で14443号にツッコミを入れます』
『で、でもミサカ達もあの人にチョコ渡せなかったのに、やっぱりお姉様って凄いね、
 ってミサカ19090号は改めてお姉様を尊敬します』
『まぁそれはそうですが、とミサカ18221号は素直に認めます』
『そんな和やかな事も言っていられないみたいですよ。
 ミサカは更にとんでもない情報を仕入れてしまいました、とミサカ10033号は驚愕します』
『どういう事ですか、とミサカ19925号は聞き返します』
『どうやらホワイトデーのお返しには意味があるようです、とミサカ10033号は説明します。
 例えばクッキーならお友達。マシュマロならごめんなさい。そしてキャンディは……』
『もったいぶらずに言えよ、とミサカ16208号は10033号を急かします』
『では心して聞いてください。キャンディは…「好きです」という意味らしいです、
 とミサカ10033号は衝撃の事実を伝えます』
『な、なんだってー? とミサカ18959号は驚きを隠せません』
『ではあの人はお姉様からの告白を受け入れたという事ですか、とミサカ14572号は絶望します』
『ちょ、ちょっと待って!? あの人の事だから、
 お一人一パックの卵を一緒に買ってくれたお礼とか、そんな感じなんじゃないの!?
 ってミサカはミサカは思ってみたり!』
『このタイミングでそれはねーだろ、とミサカ10032号は空気の読めない上位個体にガッカリです』

そして会議の終わった御坂妹は、

「つまりお姉様はあの人に告白して、このキャンディはその成功報酬という訳ですか、
 とミサカは立ち直れない程に打ち拉がれます」
「何がどうしてそんな結論になったのよっ!!?」

御坂妹は訳の分からない誤解をして、その場に崩れ去った。


461 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:26:31 QyNj5OmU
 ◇


「お姉ええええ様あああぁぁぁぁ!!!」

御坂妹が崩れ去ってから数分。
舞夏 → 食蜂 → 御坂妹の3連コンボでヘトヘトになっている所に、
更に美琴を疲れさせる人物が突撃してきた。

「く、黒子!?」
「うふふふふふふ! お姉様からのお返しが待ち遠しくて、つい追ってきてしまいましたの!」

どうやら美琴をストーキングしていたらしい白井。
幸いな事に御坂妹と会話している姿は見られなかったようだが、危ない所だったようだ。
よほどお返しが楽しみだったのだろう、白井はすぐさま美琴の持っている紙袋に目をつける。

「あらあら。あらあらあらあら! これがお返し用のクッキーですのね?
 それでわたくしのは…黒子用の物は何処【いずこ】ですの!?」
「あ、ああ、それならここに―――」

紙袋から白井の分のクッキーを手に取ろうとした瞬間だった。
白井は目ざとく見つけてしまったのだ。美琴が手にしているキャンディに。

「っ!!? お、おおお、お、おね、おね、お姉様っ!!?
 そ、そそそ、そのキャンディは一体!?」
「……え? あっ!!! い、いや、これは、その!」

もう今日で何度目だろうか、この手のテンパり具合は。
しかし白井の反応は、美琴の想像していた物と違っていた。

「これはまさか! まさかこのわたくしにご用意された物ですの!?
 わたくしが『キャンディがいい』と言ったから…そうですのね、そうなんですのね!!?
 という事はお姉様…ついに…ついにわたくしの愛を受け取ってくだひゃらひへひゃっはー!!!」
「えええええええ!!!?」

奇しくも食蜂と同じ事を言ってきやがった。
しかも食蜂よりもタチの悪い事に、白井の場合は本気でそう思っている。

「んな訳ないでしょうがあああ!!!」
「ぎゃばばばばばば!!! う、うふふ…痺れる程の愛……やはりそうですのね!?
 照れなくてもよろしいんですのよお姉様! この黒子、全て分かっておりますの!!!」
「何一つとして分かってくれてないわよ!?」

今にもルパンダイブして襲ってきそうな白井の頭を冷まさせる為に、美琴は電撃をお見舞いした。
しかしあまり効果はないようだ。普段から美琴の電撃を浴びているせいで、慣れているのである。
このままでは駄目だ。白井の暴走を止めるには、真実を言うしかない。
美琴が再び顔を赤く染め上げて、言い放った。

「こ、ここ、こ、これは! アアアイツが私にくれた物なのっ!!!
 だ、だ、だから黒子にもあげられないのっ!!!」
「……………何ですって…?」

恥ずかしさに耐えて言った甲斐があったようで、白井の動きがピタッと止まる。

「ほ…ほほほほほほ……あ、あのお猿さんったら、お姉様の気を引こうと必死ですのね…」
「さ、最初は私からアイツにアメをあげようとしたんだけど、アイツは―――」
「あ゛ーあ゛ーあ゛ーっ!!! 聞きたくありませんのー!!!
 そんな甘酸っぱくも切ないけどどこか胸の奥がキュンとするような失敗談なんて、
 聞きたくありませんのー!!! 黒子は…黒子は決して諦めませんですの〜〜〜っ!!!」

美琴の話を最後まで聞かず、白井は耳を塞ぎながら空間移動で美琴の目の前から消えていった。
ほんの少し、目に涙も溜めていた気がする。


462 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:27:20 QyNj5OmU
 ◇


度重なる知人の襲撃で、美琴はもはや限界【ふにゃー】寸前である。
もう一刻も早く寮へと帰って、自分のベッドの上で横になってクールダウンさせたい所だが、
そもそも部屋にはルームメイトの白井がいる為、にっちもさっちも行かない状態だ。
なのでとりあえずノープランのまま、近くにあったベンチに何気なく座っていると、

「あっ、御坂さん。もうお買い物は済んだんですか?」

今度は初春が話しかけてきた。
だが美琴もバカではない。今回は変な詮索をされないように、自分から牽制する。

「う、初春さん! そうなのよ、ほらコレ! 全部クッキーなの!
 さっきはアドバイスありがとね! ちゃんと初春さんの分も買ってあるから!
 あ、ちなみにこのキャンディは私が買った物ね!
 変な意味とかじゃなくて、私が食べたかっただけだから!」
「は、はぁ。そうですか…」

矢継ぎ早に不自然な程の説明をしてくる美琴。
しかも勘ぐられないように、キャンディについても自分用に買った物だとウソをつく。
もう同じ轍は踏まないのである。

「じゃあ、明日どんなクッキーを頂けるのか楽しみにしていますね。
 それとそろそろ完全下校時刻なので、御坂さんもお気をつけて帰ってください」
「う、うん。ありがと。それじゃね」

どうやら初春の事は、何とか誤魔化せたようだ。二人はそのまま別れて―――

「っと、そう言えば上条さんには何か渡さないんですか?」

―――別れてはいなかった。別れ際に初春が、何かを思い出したかのように一言追加してきたのだ。

「…へ? あ、い、いやいや。ホワイトデーってお返しをする日じゃない。
 私、バレンタインにアイツから逆チョコとか貰ってないし」
「そうですけど、普段のお礼って事で渡せばいいんじゃないですか?」
「ううん、無理無理。て言うか、丁度さっきアメ買って渡そうとしたのよ。
 それこそ初春さんが言った通りにね。
 でもアイツってば、あんまりアメ好きじゃなかったみたいで―――」

言いかけて、美琴はハッとする。
初春は別に、美琴を罠に嵌めようとした訳ではないだろう。
しかし美琴が勝手に嵌って自爆して、先程の出来事を自白してしまった。
結果、同じ轍を踏みまくってしまったのである。


「あ、ち、ちち、違うわよっ!!?
 別にチョコを渡せなかったから代わりにキャンディを買……じゃなくてっ!!!
 全部ウソ! さっきの話は全部ただの冗談だからっ!
 わ、わわ、私はアイツにキャンディ買う訳ないじゃない!
 だ、だだだ第一、キャンディに込められた意味って……その…す……キ…とかでしょ!?
 私はアイツにそんな感情とか持ち合わせてない訳でしてねっ!!?」
「わわわ分かりました! 分かりましたから、落ち着いてください御坂さん!
 何かもう、お腹いっぱいですから! ごちそうさまでしたから!
 これ以上聞くと、私もどうしていいのか分かりませんからっ!」

説明をする方も、それを聞く方も、どちらも赤面してしまうのだった。


463 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:28:07 QyNj5OmU
 ◇


今度こそ本当に初春と別れ、美琴はホッと一息…できる訳がない。
何故なら美琴は分かっているからだ。この流れで、『彼女』が現れないなど有り得ないと。
そう、つまり

「あれ〜? 御坂さん、こんな所で偶然ですね♪」
「やっぱり出たああああぁぁ!!! 佐天さんっ!!!」

佐天【ラスボス】である。

「もう、『出た』って何ですか。人をオバケみたいに」

ある意味、オバケよりタチが悪い。
佐天は全てを見透かしているかのように、イヤらしくニヤニヤと笑っている。

「あ、ああ…ごめんなさいね。急に話しかけられたから、ついね」
「……ま、ホントは気にしてないからいいんですけどね。
 だ・け・ど! そのアメちゃんの事は気になりますね〜…どうしたんですか? それ」

やはり、である。佐天はピンポイントでキャンディにロックオンしてきやがった。
美琴は心の中で深呼吸をして、悟られないように言い訳を開始する。

「こ、これは私が食べたくなって買った物でね?」

初春の時と同じパターンで逃げ切るつもりのようだ。失敗したクセに。
だが美琴の目論見は、今度は自白するまでもなく失敗する事となった。次の佐天の言葉によって。

「ああ、はいはい。分かってますって。自分で買ったんですよね?
 バレンタインでチョコを渡せなかった代わりに御坂さんが『アイツさん』にキャンディを買って、
 そのお礼として『アイツさん』から貰った物とかじゃないんですもんね?
 そしてその『アイツ』さんは、御坂さんの気を引こうとしてるとか、
 全然そんな事はないんですよね?」
「えええええええええええ!!!?」

おかしい。いくら何でも詳しすぎる。所々真実と違う箇所はあるが、概ね事実だ。
だがあの場に佐天はいなかったし、まさか読心能力でも身に付けたとでも言うのだろうか。

「え、あの、佐天…さん? そ、その『妄想』は一体どこから…?」
「そうですね〜…強いて言うなら、
 『それでわたくしのは…黒子用の物は何処ですの!?』って所からでしょうか♪」
「おうふ…」

美琴としては、その妄想はどこから捻り出したのか、という事が聞きたかったのだが、
佐天はそのままの意味で、どこから聞いていたのかを暴露した。
つまりはこういう事だ。佐天は、美琴と白井が会話している所を目撃して、そのまま盗み聞き。
更に初春との会話まで、たっぷりと聞き耳を立てていたのだ。
佐天の語る妄想【しんじつ】に、ちょいちょい白井の勘違い情報や、
初春との会話の内容が混じっているのはその為だ。あの時美琴は
「別にチョコを渡せなかったから代わりにキャンディを買……じゃなくてっ!!!」
と途中で言葉を止めた為、本当は「キャンディを買おうとしたけど失敗しちゃって」
の所を、佐天は「キャンディを買ってあげちゃった♪」に脳内補完したようだ。
だから彼女は、「御坂さんが『アイツさん』にキャンディを買って」と間違って言ったのである。
だが今はそんな考察など、どうでもいい。問題は、

「それでそれで!? その後はどうなったんですか御坂さんっ!!?」
「た…助けてえええぇぇぇぇぇ………」

目を輝かせながら問い詰めてくる佐天を、どのようにして対処すればいいのか、という事である。


464 : とあるホワイトデー前の日常の後の日常 :2015/04/28(火) 19:29:06 QyNj5OmU
 ◇


ちなみにその頃、上条家では。

「見ろ! インデックスにオティヌス! 今日は卵が二パック買えたんだぞ!?」
「おおおお!? どうしたのかな、とうま! 今日は何かのお祝いなのかな!?」
「……何故だ。悲しい事が起きた訳でもないのに、泣けてきたぞ」

上条の経済状況に慣れている二人【かみじょうとインデックス】は素直に喜び、
上条家に引っ越してきてまだ間もなく、状況に慣れていないオティヌスはそっと涙を流した。

「だが人間よ。その特売卵とやらは、確か一人一パックが原則ではなかったのか?」
「ん? ああ、そうなんだけどさ。でも買い出しに行く途中で、御坂とバッタリ会っちまって。
 そんで一緒にレジに並んでもらったんだ。いや〜、いい買い物できましたですよ♪」
「…へぇ〜…短髪とねぇ……」
「それで浮かれている訳か、お前は……」

美琴の話をした瞬間、急に不機嫌になる二人である。
上条もその空気を察したのか、慌ててフォローした。

「あ、で、でもちゃんとお礼もしたぜ!? 御坂ってアメが好きみたいだからさ!
 近くにあった安い棒付きキャンディを買って渡してだな!」

慌ててフォローしたが、逆効果であった。
皆さんならご存知だろう。彼が誰かのフォローをしようとすると、大抵裏目に出てしまうという事が。
インデックスとオティヌスは、先程までテレビを観ていた。
インデックスが食べ物関係の番組に異様に食いつきやすいという事と、
明日がホワイトデーという事から、番組の内容はお菓子特集であった。
そこで二人は知ったのだ。ホワイトデーのお菓子、その意味を。
クッキーはお友達。マシュマロは嫌い。そしてキャンディは……

「とーーーーーまーーー………」
「に〜ん〜げ〜ん〜〜〜!!!」

その直後、上条の身に何が起こったのか…それはご想像の通りである。


465 : くまのこ :2015/04/28(火) 19:30:39 QyNj5OmU
以上です。
この話を書くにあたって、
いんでっくすさんのホワイトデーの回を何回も読み返したんですけど、
何回読んでも全然飽きねーでやんのw
ではまた。


466 : くまのこ :2015/05/02(土) 00:01:42 dDGfyOCY
連投失礼します。
日付が変わって5月2日になったので、
ミコっちゃんの誕生日ネタを投下しにきました。
約3分後に3レス使います。


467 : 誕生日と贈り物と秘めた想いと込められた意味と :2015/05/02(土) 00:05:07 dDGfyOCY
本日は5月2日。郵便貯金創業記念日であり、
野茂英雄が大リーグで初登板した日であり、レオナルド・ダ・ヴィンチの命日であり、

「はぁ…重いわ……」

そして御坂美琴の誕生日である。
美琴は両手に大量のプレゼントが入った紙袋をいくつも持ちながら、
よったらよったらと歩いている。
今日は、クリスマスとバレンタインに続く、美琴にとっての3大憂鬱日の一角なのだ。
後輩達から慕われるのが嬉しくない訳ではない。
しかし慕われすぎるのも考え物で、このように一人の許容量を超えるプレゼントを貰ってしまうのは、
嬉しさも一周回って困るのである。
その上、白井の様に美琴へ尊敬や敬愛以上の気持ちを込める者も多い為、とても重いのだ。
物理的にも、精神的にも。
更に美琴が持って帰った量は、正に持って帰れる量だけに留めており、それ以外は郵送してある。
つまり、寮に帰ればこの数倍から数十倍のプレゼントが贈られているという事だ。

そんな訳で美琴は、どんよりとした気持ちのまま常盤台中学学生寮【わがや】へとたどり着く。
するとその時だ。

「だ、だから俺は怪しい者じゃないですって!」
「怪しい奴は大体そう言うがな」
「えっと……じゃ、じゃあ美琴か白井…208号室に繋げてもらえないですか!?」
「……何故その二人が208号室なのだと知っている…?」
「だからっ! 俺はその二人と知り合いなんですって!
 それに前に一度だけ、部屋の中にも入っ………あ」
「ほう…? 君は女子寮の中に入った事があると…?」
「いやあのそれは…ああ、もう! 不幸だっ!」

寮の玄関先から、寮監と誰かが口論している声が聞こえてきた。
その誰かは、本人が言ったように美琴や白井とは知り合いだったのである。

「ア、アアアアンタ!!? 何やってんのよ、こんな所でっ!」
「うおおお、美琴! 悪い、ちょっと、この寮監【おねえさん】に説明してあげてくださいっ!」
「っ! お、お姉さん…か…」

お姉さん呼ばわりされた寮監は、露骨に態度を軟化させて、ほんのり頬も赤くさせる。
美琴は「ああ、なるほど。普段もこうやってフラグを立ててんのかこの野郎!」と、
露骨にイライラし始めた。

「知らないわよアンタなんかっ!」
「えええええええ!!!?」

不機嫌になった美琴は、そっぽ向いて今の彼が一番困るであろう言葉を言い放つ。
ここで美琴に知らん顔されてしまったら、寮監が警備員に通報してバッドエンドである。

「いやいやいや、ほら上条さんですよ!?
 ミコっちゃんが大好きな人でお馴染みの、あの上条さんですよ!?」
「だだだ誰が誰を大好…だってのよっ!!?」

笑いを取って美琴の態度も軟化させようとした上条(と名乗る少年)だったが、
それはある意味では逆効果で、ある意味では抜群の効果だった。
美琴は瞬時に顔を真っ赤にさせてしまう。

「こほん! それで御坂。この少年…上条と言ったか。本当に御坂の知り合いなのか?」
「えっ? えーっと…まぁ、そんな感じです。はい」

これ以上引っ張ってもどうしようもないので、ここは潔く認める。
寮監は上条と美琴を交互に見比べ、ふと何かを思い出す。

「……そう言えば、彼の顔には見覚えがあるな。
 確か去年の夏休み最終日に、御坂と逢引をした―――」
「わーわーわーっ!!! そ、その事はいいですからっ!!!」

あの日の事を思い出すと、『その後の出来事』も芋づる式に思い出してしまう為、
寮監の言葉を遮る美琴。別に嫌な思い出がある訳ではないのだが、
思い出すだけで「ふにゃー」してしまいそうになるからだ。

「…ふん。まぁ、いい。だが男性を女子寮に入れる訳にはいかないから、
 用事があるのならばこの場で済ませてもらおう」
「あ、はい。それで充分です」

ホッとする上条。しかし。

「それと御坂。その少年が一度だけ寮内に進入したというのはどういう事か…
 後で白井共々、じっくりと話を聞かせてもらうからな」
「私その話、知らないんですけど!!?」

あの時、美琴は部屋にいなかったのだが、巻き添えを食らってしまうようだ。
白井【ルームメイト】の罪と罰は、美琴も連帯責任なのである。不幸な事に。

最後に寮監は美琴へ理不尽な釘を刺し、寮内へと帰って行った。


468 : 誕生日と贈り物と秘めた想いと込められた意味と :2015/05/02(土) 00:05:55 dDGfyOCY
 ◇


「…で? 結局アンタは何しに来た訳?」

部屋に戻ったら寮監からの面倒な尋問が待っていると思うと頭が痛いが、
それはそれとして、今は上条【こっち】を片付けなければなるまい。
美琴は若干肩を落としながらも、上条に問いかける。

「ん? あ、ああ。それなんだけどさ」

すると上条は、近くに隠してあった一束の花束を取り出した。
上条に花束。そのミスマッチすぎる姿に、美琴の頭上には「???」と浮かび上がる。

「えっと…それ何?」
「いや、何って…誕生日プレゼント」

あまりにも当たり前のように、アッサリと答える。
誕生日プレゼント…という事はつまり。

「え…あっ、えええ!!? わわ、わた、私にっ!!?」
「…他に誰にあげるんだよ」
「あ、ああ……そ、そ、そうなんだ………あり…がと……」

まさか上条から誕生日を祝ってもらえるとは思ってもいなかった美琴は、
心の準備が間に合わずにギクシャクしてしまう。体温も絶賛上昇中だ。

「これって…ラ、ライラック……よね…?」
「ああ。ネットで調べたら、5月2日の誕生花だって書いてあったからな。
 ……意外と高かったから花『束』って言うには少ないけど…」

上条が差し出したのは、紫色のライラックが数本刺さった花束だった。
美琴が両手いっぱいに抱えていたプレゼント…の入った紙袋に比べたら、
見た目が少々寂しいのは上条も自覚しているようで、「あははー…」と乾いた笑いをする。
しかし美琴は、その花束をギュッと、しかし優しく抱き締めて、

「…ううん……凄く…嬉しい…」

とライラックを愛おしそうに見つめる。
プレゼントで大切なのは、『何を貰うか』よりも『誰に貰うか』なのだ。
美琴の予想外の反応に、上条もドキッとしながら、

「そ、そうか…まぁ、気に入ってくれたんなら良かったけど……」

と呟いた。
だが上条からのサプライズは、これで終わりではなかった。
よく見ると花束の奥底に、何かキラリと光る物がある。
不思議に思った美琴は、何気なく手を伸ばしてみた。すると、

「……え…? こ、れ……エメ…ラルド…?」

花束の中から出てきたのは、エメラルドがはめ込まれたネックレスであった。

「お? 気がついた? エメラルドも5月の誕生石らしいから、丁度いいかなって。
 ただ結構高くてな〜…つっても本物なんて買えないから、合成エメラルドだけど。
 それでも5000円くらいしてさ。上条さんのヘソクリ残金0円ですよ。
 おかげで花束に回す金もなくなっちゃってそれで―――」
「なっ、何でそんなに大切なお金を私なんかの為に使っちゃってんのよっ!!!」

美琴は嬉しさで零れ落ちそうになる涙を必死に堪え、頑張って上条を叱る。
出来るならば思いっきり抱き締めてあげたい、という気持ちを自ら抑えて。
しかし上条は呆気なく。

「まぁ、ヘソクリなんていざって時に使う為に取って置いてあるんだし、
 それに美琴には普段から世話になってるだろ?
 上条さんだって、例えささやかでもお返ししたくてな。それじゃダメか?」
「っ!!!」

胸の奥がキュンキュンする。
分かりきっていた事だが、美琴は今、改めて確信した。

自分は、上条【このバカ】の事が好きなのだと。


469 : 誕生日と贈り物と秘めた想いと込められた意味と :2015/05/02(土) 00:06:44 dDGfyOCY
だが上条は、美琴がそんな事を想ってくれているなど知る由もなく、
数本しかない花束と合成のエメラルドをプレゼントしてしまった自分に、やや負い目を感じている。
喜んでくれてはいるが、美琴のようなお嬢様へのプレゼントとしては、どうなのだろうと。
しかし基本的に経済的な余裕の無い上条にとって、これ以上の品は用意できない。
そこで上条は提案する。

「な、なぁ! 美琴は俺にしてほしい事とか、何かないか!?
 ほら! いつかの罰ゲームん時みたいにさ!」

お金がないなら自分の体で支払えばいいのだ。…いや、エロい意味ではなく。
上条としては、「じゃあアイスか何か奢ってよ」くらいの物がくるだろうと軽く考えていた。
しかし今の美琴は、上条からの度重なるサプライズで頭がホワホワとしており、
恐らくは冷静は判断力が失われていたのだろう、こんな事を言ってきたのだ。

「じゃ、じゃあ……私が……キ…キス…してって言ったら……アンタ…してくれる…の…?」

下を俯きながら、普段の美琴ならば絶対に言わないであろう一言。
上条も一瞬頭の中が真っ白になり、「……え…?」と聞き返した。
だがその上条の反応でハッと我に返った美琴は、慌てて訂正する。

「あっ! あああああ、い、いい、今のはウソ! た、たたただの冗談よ冗談っ!
 わ、わ、わた、私がアンタにキっ!!! ……とかホ、ホントに言う訳ないじゃないっ!!!」
「あっ! あ、ああ! 冗談な! い、いやー、マジでビビりましたよっ!
 そ、そうだよな! 美琴が俺にキっ!!! ……とか言う訳ないもんなっ!!!」

お互いに顔を真っ赤にしたがら、「あははははー!」と無理矢理笑い合うが、
二人は心の中で、こんな事を思っていた。

(うわ〜っ! 私のアホアホアホー! な、何その場の勢いで変な事口走ってんのよっ!
 コイツだってドン引きじゃない! 『まだ』そこまでの関係じゃないでしょうに!!!
 ……でも、もしあそこで冗談って言わなかったら…コイツはどうしたのかしら…)
(……な、何か分かんないけど、すっげードキドキした…)

上条が美琴に贈ったのは紫色のライラックと、エメラルドのネックレス。
紫のライラックの花言葉は、『愛の芽生え』と『初恋』
エメラルドの宝石言葉は、『幸福』、『希望』、『安定』
更にエメラルドには『愛のパワー』が宿っていると言われており、
『恋愛成就』や『夫婦円満』の効果があるとされている。
それらが事実かどうかなどは分からないが、偶然か必然か上条はライラックもエメラルドも、
これまで直接右手で触っていなかった。
花束は当然ながら周りの包装紙を握っていたし、ネックレスはケースに入っていた。
ネックレスを花束に隠した時も、右手に花束(の包装紙)を握っていた為に、
ケースから出してそれを花束の奥に入れるまで、全て左手で行ったのだ。

さて、美琴の誕生花と誕生石だからと、上条が選んだ紫色のライラックとエメラルド。
果たして上条が美琴にドキドキしてしまったのは、一体どんな意味があったのだろうか。


470 : くまのこ :2015/05/02(土) 00:07:37 dDGfyOCY
以上です。
改めまして、ミコっちゃん誕生日おめでとー!
ではまた。


471 : ■■■■ :2015/05/02(土) 01:25:20 gr0MZqgU
本当おめでとう!!
美琴


472 : ・・・ :2015/05/02(土) 03:32:37 s.zmbuWs

ども、・・・です。

まずはハピバです、上条夫人。


くまのこさん
〉〉あめちゃん
運痴でこけるミサキちゃんかわいい。
知らなかったか? 佐天からは逃げられない。
どいつもこいつもいつも通り、平和な日々である。

〉〉やだ、イケメン
あ、あの聞きしに勝る、夜の(略)あの上条当麻……っ!?」(by加納神華)
不純異性交友ではない異性交友が始まるのも時間の問題ですな。
なんたって『初恋』と『希望』を一緒にカミやんが手に入れたわけで。


では、わたしも投下します。
上条美琴さん誕生記念作。

それでは


473 : いっちばーん :2015/05/02(土) 03:33:34 s.zmbuWs
今までで、一番嬉しかったプレゼントはなんですか?



「わたくしが御坂さんに差し上げたものの中でしたら、わたくしとお揃いのピョン子マグカップでしょうか」

「あれもったいなくて使ってないのよ!! ……しばらくして食蜂ともお揃いのだということが発覚して複雑な感情になったけども」




「私たちが差し上げたものの中でしたら、ヘアピンでしょうか?」

「いつも日替わりで使っていただいて、本当に嬉しいですわ」

「ほんとたくさんくれたの。2ヵ月日替わりで使ってもかぶらないくらいに」




「わ、わたくしは、何を差し上げればいいかいつも思いつかなくて。喜んでいただけたものがあればよいのですけど……」

「そんな!! 全部わたしの宝物よ!! 中でもこの前もらったオルゴールは、静かになりたいときはホント助かってるわ」




「お姉さまには全員で世界各国から毎年短いビデオレターを送っています、とミサカ達はもはやテロであることを自覚しつつもこの習慣をやめないことを宣言します」

「1日じゃ見切れない量なんだけどさ、やっぱり、あの子達が、元気な姿を見ると……ごめん、言葉にできないや」




「あたしがプレゼントした中ではあれかな? 上条さんに頼んで撮影してもらったタイトル『上条さんの1日』!! ただ1日ビデオカメラで上条さんに自分を撮影してもらっただけのノンフィクション!!」

「いや、うん、そ、そうなんだけどね、嬉しかったけどね、昔のことだけど、恥ずかしいからね。つか、なに了承してんのよ!!」




「私がプレゼントした中では『上条美琴コラ画像集』がダントツでした!! 学園都市と私の技術を駆使して作ったコラ画像集です!! もちろん動画も後日プレゼントしました!!」

「わたしは動画のほうがうれし……じゃなくて!! 佐天さんも初春さんも自重して!! あの後婚后さんにその画像集見られて大変なことになったんだから!!」




「わたくしが差し上げたものの中でしたら間違いなく『セクシー黒子セレクション』ですわ!! 艶やかなわたくしをおさめた写真集にお姉さまは当分睡眠が浅くなりましたの!!」

「うん、いらなかった。寝不足はそれ貰った後毎晩布団に忍び込む黒子への対応が原因だし。でも、結婚直前にウェディングドレスプレゼントされて、幸せに、なってくれって、いわれた、時は、さ、すが、に……ちょっと、ごめん、グスッ」




「美琴ちゃんに渡した1番のプレゼント? …………ビンタ、かな?」

「ママからの1番のプレゼントは、ビンタ、かな? ほら、当麻と大喧嘩したときがあったじゃない? あの腐ってた時にもらったビンタが1番、温かかったな」




「うーん、美琴ちゃんへのプレゼント、か。もうあの子は覚えてないだろうが、オーストラリアで一面の星空を見せたことがある。あれが、1番大きなプレゼント、だな」

「そっか、そんなこと言ってたんだ。確かに覚えてないけど、もしかしたら、私の原点ってさ……」




「……わたしがみことにあげたプレゼントは、1つしか心当りないんだよ」

「……あの子とは、いろいろ因縁があったから、この十字架のネックレスを貰った時は、言葉が、出なかったな……」




「まことね!! まことね!! このまえね!! かかかたきけんあげたの!!」

「『肩たたき券』のことよ。早速1枚使ったら、5回くらい叩いてやめちゃったの。どうしたの?って聞いたらさ、『後はパパがやる』だって!! ホント面白くて面白くて!!」


474 : いっちばーん :2015/05/02(土) 03:34:16 s.zmbuWs

「フェブリから貰ったケロヨンの人形も、土御門から貰ったレシピや春上さんから貰ったペンダントも大事な宝物よ」

「いや、本題のfromオレの一番はなにさ?」

「なんでそんなの聞くのよ?」

「せっかくだから喜んでほしいだろ? いろいろお互いに渡したわけだが、1番がなにかはきになるところです」

「まずは当てる努力」

「あん? うーん、この前の小さくケロヨンが描かれた大人用バック」

「お気に入りだけど1番じゃない」

「うーん、付き合いはじめのケロヨンのぬいぐるみ?」

「手作りのくせに素晴らしいクオリティだったけど1番ではないかな」

「あれ? 今も抱き枕にしてるから、結構本命だったけどなぁ。……キューピッドアローのタグリング?」

「ま、まさか先にそっちから渡されるとはね」

「似た柄が2つになっちゃったよな」

「でも1番じゃなーい」

「うーん……オ・レ!!」

「え?///// あ、はい///// 毎年嬉しいけど、2番です/////」

「今夜も楽しみですな」

「ぅ、ぁぅ」//////////

「最初のお揃いのキーホルダーは『こんなもの仕方ないから受け取ってあげる』なんて言ってたからこれな訳ないしなぁ」

「い、いや当時は素直じゃなかったの!! 帰って跳びはねて喜んだんだから!!」

「そうなの?」

「でも、1番ではありませーん」

「あー、なんでせう?」




























「いつも一緒にいてくれてありがと♡!!」


475 : ・・・ :2015/05/02(土) 03:36:26 s.zmbuWs
以上

麻琴のママさん、お誕生日おめでとうございます。




……あれ?『御坂美琴』を祝ってないや、あれー?


476 : くまのこ :2015/05/06(水) 15:46:16 NpEShcns
>>・・・さんGJです!
いいんじゃないですかね? 『御坂美琴』さんじゃなくて、『上条美琴』さんの方を祝ってもw
改めまして、ミコっちゃんハピバでしたー!



その・・・さんからリクを受けましたので、投下します。
白井さんと同じような行動をしてしまうミコっちゃんの話です。
約3分後に5レスです。


477 : とある葛藤の本能理性【バトルブレイン】 :2015/05/06(水) 15:49:08 NpEShcns
美琴は今日も深い溜息を吐いていた。
その原因はすぐ隣のベッド…いや、『自分のベッド』にある。
寮へと帰り、部屋のドアを開けた瞬間、美琴の目に飛び込んで来たモノは、

「はぁ! はぁ! あ゛あ〜、お姉様お姉様お姉様! くんかくんか! くんかくんかhshs!」

ルームメイトである白井が、何故か自分のベッドの上で枕やらシーツやら毛布やらを、
匂いを嗅ぎつつ抱き締めている最中の姿であった。
『いつもの事』ながら、どっと疲れが出る美琴である。

「……何やってんの…黒子…」
「すんすんすんす………ハッ!? お、お帰りなさいですの」

お帰り、とは言いつつも美琴の寝具を放そうとはしない白井。

「あのね…いい加減にしないと放電する【やく】わよ」
「お姉様の愛の電撃【ムチ】で文字通り身も心も焦がされるのならば、この黒子本望ですの」

目がマジである。タフなドM相手では、叱ろうがお仕置きしようが通用しない。
それどころか罵りの言葉を吸収し、自らのエネルギーへと変換するのだ。
我々の業界ではご褒美です状態なのである。
しかも厄介な事に、シカトしても「その冷たい態度も素敵ですのー!」と繋がる為、
もはや対応策が無いのである。故に美琴は、今日も深い溜息を吐いているのだ。

ただし一応断ってはおくが、美琴は別に白井を嫌っている訳ではない。
彼女に助けられた事も一度や二度ではないし、
(あくまでもルームメイトとして)パートナーだとも思っている。
しかしそれを口にするとまたややこしい事になるのは分かりきっているので、
敢えて言わないようにはしている。

が、しかしそれはそれ。これはこれである。
白井の暴走っぷりは日に日に面倒くささを増しており、美琴にとっても悩みの種だ。
この前は美琴の使用済みストローを舐めようとしていたし、
その前は夜中に美琴と同じベッドに忍び込もうとしていた。
更にその前は美琴が寝ている隙に口付けをしようとしていた…なんて事もあるくらいだ。
そろそろ本気でルームメイトを代えて欲しいと、寮監に直談判しようかと思った程である。
そして今もこうして、美琴のベッドを我が物顔で占領している訳なのだ。

美琴はガックリと肩を落とし、とりあえずシャワーでも浴びようと浴室に足を運ぶ。
すると当たり前の様に「お背中をお流しいたしますわ!」と服を脱ぎ始める白井に、
美琴はここでようやく電撃をぶっ放した。
痺れながらも満足げな白井ではあるが、足止めにはなっただろう。

美琴は溜息を吐きながら、ぬるめのお湯を浴びるのだった。


478 : とある葛藤の本能理性【バトルブレイン】 :2015/05/06(水) 15:49:56 NpEShcns
 ◇


その翌日である。昨日の様子とは打って変わって、テンションが高ぶっている美琴。
正確に言えば、あくまでも顔は必死に呆れ顔を作ってはいるのだが、
心の中では満面の笑みなのである。
その一方で、昨日の美琴と同様に深い溜息を吐いている人物が一人、
美琴と向かい合わせに座っている。それこそが美琴が上機嫌な理由でもあるのだが。

「はああぁ……終わらねー…休みてー…寝てー………不幸だー…」

上条である。
彼は左手で頭をガリガリかきながら、右手で目の前の問の答えをガリガリ書いている。
本日はゴールデンウィーク最終日。
だが彼には黄金な週間など一日も無く、補習・課題・宿題・小論文・感想文の毎日を送っていた。
小萌先生の頑張りで、もう一度一年生を送る事はなくなったのだが、その代償も大きかったのだ。
しかし最終日だと言うのに、彼のテーブルの上には真っ白な宿題の山。
そこで年下(しかも中学生)に教えを請うという恥を忍んで、美琴に手伝ってもらっている。
勉強の事ならば、学園都市でも最高の演算能力を持つレベル5に聞くのが一番だし、
レベル5の中でも最も気安く仲が良いのは美琴である事も上条は自覚している。
ちなみに現在、インデックス・オティヌス・スフィンクスの「○○ス」三人組はここにはいない。
彼女達(スフィンクスは雄だが)がいると絶対に宿題に身が入らないし、
美琴とインデックスは、何故か顔を合わせれば小競り合いが始まるからだ。ナンデカナー。
と長々と説明した訳だが、つまり何が言いたいかと言うとだ。

上条と美琴は今、部屋の中で二人っきりだという事だ。

上条は視線を問題集に釘付けにしたまま、テーブルを挟んで向かい側の美琴に質問する。
どうやら今は、数学の時間らしい。

「あのー、美琴センセー? ここが分からないんですけどー…」
「全く仕方ないわねアンタは。ほら、さっきやった公式を当てはめれば簡単でしょ?
 こうすると…ね? yの値が出てくるから後は」
「あー、あー。なるほどね。サンクス、ミコっちゃん」
「べ、別に大した事じゃないし! 勘違いするんじゃないわよ!
 ただアンタから頼りにされるのが嬉しいだけなんだからねっ!」

嬉しすぎて、ツンデレ具合もこじれる美琴である。
緩んで落ちそうになる頬を頑張って引き上げてはいるが、
気を抜くとすぐにでもニマニマしてしまいそうになる。
と、そんな時だ。上条が急に立ち上がった。

「…? どしたの?」
「悪ぃ。ちょっとトイレ。……ジュース飲みすぎたのかも」

テーブルの上には勉強道具の他にも、ストローが刺さったコップが二つある。
勿論、上条の分と美琴の分だ。
中には安物のオレンジジュースが注がれているのだが、
大量の宿題を片付けているとやたらと喉が渇き、上条はゴクゴクと飲んでしまっていたのだ。
トイレが近くなるのも当然の事である。

上条がお花を摘む【ようをたす】姿を不覚にも想像してしまい、
ボンッ!と音を立てて、勝手に顔を爆発させる美琴。

「わ、分かったから早く行ってきなさいよ馬鹿! わざわざ言わなくてもいいから!」

上条は「えー? そっちが『どしたの?』って聞いてきたんじゃんかー」と不満を漏らしつつも、
オシッコまで漏らす訳にはいかないので、そそくさとトイレに駆け込む。


479 : とある葛藤の本能理性【バトルブレイン】 :2015/05/06(水) 15:50:44 NpEShcns
さて、ここからがある意味本番である。
上条の暮らしている空間で、一人っきりになってしまった美琴。
ここで彼女の中で、悪魔が囁いたのだ。
美琴の目の前には、先程まで上条が座っていたペラッペラの座布団が一枚ある。
無意識なのか意識的なのか、美琴はごく自然にその座布団を手に取っていた。

(……あ…まだ温かい…)

座布団には、まだ上条の体温がほんのりと残っており、その温みが手からじんわりと伝わってくる。
何だろう。とてもイケナイ事をしている気がするのだが、
その思いとは反比例して、心臓はもの凄くドキドキしてくる。
美琴は頭をポーっとさせながら、その座布団をギュッと抱き締めて、そして、

「………すん…」

匂いを嗅いだのだ。だが頭をポワポワさせたまま、
「…アイツの匂いがすりゅ〜……」などと感想を漏らした瞬間、彼女はハッと我に返った。

「って!!! ななな何やってんのよ私はっ!!!
 こ、ここ、これじゃあ昨日の黒子と一緒じゃないのよっ!!!」

今更である。出来れば座布団を手に取った所で気付いてほしかった物だ。
しかも先程までケツが乗っかっていた物【ざぶとん】のスメルを堪能するとか、
寝具で楽しんでいた白井よりも遥かに上級者である。
しかし、そんな事は言いつつも、
自分の座っていた座布団と上条が座っていた座布団を、『しっかり』と入れ替える美琴。
だが悪魔の囁きはそれで終わりではなかった。
自分が白井と同じような事をした事で、今までの白井の奇行が頭の中でフラッシュバックしてくる。

(……そう言えば…黒子【あのこ】、私のストローを舐めたりもしてたわね…)

既に説明した通り、テーブルの上には上条の飲みかけのジュースのコップと、
そこに刺さったストローがある。先程まで上条が口にしていたストローが。

「ま、ままままたお手洗いが近くなっても可哀想だし!!!
 わ、わ、私がチョロっとアイツの分のジュースを飲んであげようかしら!!?」

無茶苦茶な言い訳を自分自身に言い聞かし、美琴は上条のコップに手を取る。
いいのかそれで。
しかし美琴はそのまま止まる事なく、「はむっ」とストローを口にくわえた。その瞬間、

「何してんの?」
「にゃあああああああああああああ!!!!!」

トイレから戻った上条に声を掛けられビクゥッ!としてしまった。
男の小便など手を洗う時間を入れても、ものの数十秒で完了するのだ。
逆に言えば数十秒という短い時間で美琴は、
上条の座布団を抱き締め、匂いを嗅ぎ、自分の座布団と入れ替え、
言い訳をして、ストローを口にくわえた事にもなるが。どんだけだよ。

美琴の様子がおかしいようにも見えたが、そんなのは『いつもの事』なので、
あまり気にせずに宿題の続きを再開する上条。
自分のジュースのストローに美琴の口が付いた事にも、
自分の座布団が美琴の座布団と入れ替わっている事にも気付かずに。


480 : とある葛藤の本能理性【バトルブレイン】 :2015/05/06(水) 15:51:31 NpEShcns
 ◇


それから数十分。今は国語の宿題に取り掛かっている上条なのだが、

「だぁ〜もう! 『この時の私の気持ちを説明せよ』とか言われても知るかよ! 
 そんな事、夏目漱石【これかいたひと】本人に聞けよ!」

身も蓋もない事を叫びながら嘆いていた。対して、

「く、口を動かす前に手を動かしなさいよ!」

と注意をする美琴ではあるのだが、下に敷いた座布団が気になり、
どうにも据わりが悪くモジモジとしてしまう。自分で取り替えたクセに。
だがそんな事を知る訳もない上条は、シャーペンを放り投げてベッドに横になってしまう。
ちなみにこのベッド、普段はインデックスが使っている物である。

「ちょ、アンタ! 何してんのよ! まだ宿題こんなにあるのよっ!?」
「いやダメだ…すげー眠くて集中できねー……昨日も課題やってて、ろくに寝てなかったし…
 悪い、30分だけ寝かせてくれ…起きたら続き…やる……か…ら…………くかー」

勝手な言い分だけ言うと、上条は光の速さで眠りに就いた。
美琴は「ったく、もう…」と呆れながらも、上条に毛布をかけてあげる。
何だかんだ言いつつも、上条には甘いようだ。惚れた弱みという奴なのかも知れない。

30分経ったら上条を起こすとして、それまで暇になってしまった美琴。
とりあえず部屋の中にある漫画本でも読んで時間を潰そうかと思った瞬間である。
美琴の脳内に、本日三度目となる悪魔の囁き。

(そう言えば……黒子ってば、夜中に私のベッドに忍び込もうとした時もあったのよね…)

再び白井の奇行がフラッシュバック。そして目の前には、無防備な姿で仮眠を取る上条の姿。
寝息を立てて、可愛らしい寝顔(美琴談)で眠りこけているその様子から、
ちょっとやそっとじゃあ起きないであろう事が窺える。
美琴はそこで何を閃いたか、言わなくてもお察し頂けるだろう。

「そ、そう言えばこんな所で寝ちゃったら風邪引いちゃうわよねー!!!
 こっ、こ、こうなったら、ひ、ひひと、ひと、人肌で温めてあげた方がいいのかしらっ!!?」

またも無茶苦茶な言い訳を独り言でぶちかます。
もう5月に入り春真っ只中であり、周りの空気は寒さとは無縁で温める必要もないだろうし、
そもそも『こんな所で』も何も、上条が横になっているのはベッドの上だ。
ベッドの上で寝たら風邪を引くと言うのなら、人は一体どこで寝ればいいと言うのか。

と、そんなツッコミを入れる者など、この場にいる訳もなく、
美琴はいそいそと上条のベッドに潜り込む。
白井と全く同じ事をしていると思うと複雑ではあるのだが、
これはあくまでも上条が風邪を引かないようにする為の予防処置()なのだと割り切る。
美琴には大義名分()があるのである。仕方ない()のである。セーフ()である。

「ふぉ…ふおおおおおぉぉぉぉ………」

自分でやっておきながら、美琴はいざ上条の隣で横になってみると、
今更恥ずかしさのあまりワナワナと震えてきた。
目と鼻の先には上条の背中があり、少し手を伸ばせば思いっきり抱きつく事も可能である。
しかし羞恥心やら背徳感やら罪悪感やら理性やらがそれを塞き止め、
美琴を硬直したままの状態にしていた。


481 : とある葛藤の本能理性【バトルブレイン】 :2015/05/06(水) 15:52:49 NpEShcns
ここまでやったのだ。もういいだろう。
普段の自分では絶対にできないような経験を、思う存分楽しんだではないか。
白井の事を棚上げして、自分もこんな事をしては、彼女にも申し訳が立たない。
美琴はそんな事を思い、ベッドから立ち上がろうとする。
しかしその時、事件が起きた。

「んっ…んー……むにゃ…」
「っ!!!?」

ゴロン、と寝返りを打ち、上条がこちらを向いてきたのだ。
先程まで背中だった眼前は、くるりと回って上条の胸元が現れる。
そしてほんの少し顔を見上げれば、「すーすー」と寝息を立てる上条の寝顔。
しかも美琴の顔との距離は、わずか数㎝だ。
それはちょっとだけ首を伸ばせば、お互いの唇と唇がぶつかってしまう距離だった。

美琴は再度思い出した。

(く…黒子……私が寝てる隙に、キ…キキ、キス……とかもしようとしてた…のよね…)

心臓はバックンバックンであった。
もしも今から、頭に過ぎった『その行為』を自分がしてしまったらと思うと、顔が沸騰しそうになる。
だが流石にそれはマズいだろうという認識はあるらしく、美琴は思い留まった。
美琴は絶賛熟睡中の上条に語りかける。『何故か』小声で。

「あ…あー、そろそろ起きなさいよ。もうすぐ30分経つんだから」

いつの間にか、あれから25分程が経とうとしていた。
随分と長い時間、ベッドの上でお楽しみだったようだ。
しかし上条は起きる様子がない。小声なのだから当然である。

「お……おお、おき、おき、起きない…と、キ…キキキキスっ!!! しちゃうわよ!?」

訂正しよう。美琴は思い留まっていなかった。
始めから上条が眠っている間に、口付けをする気満々だったのだ。
小声だったのも、本気で起こす気がなかったからである。
ここで上条が起きてしまったら、口付けをするチャンスもなくなってしまう。

「お、おお、起き…ないの…? ホホ、ホントにしちゃう…わよ…?
 も、もう遅いんだからね! 私は何があっても知らないんだからっ!」

何があってもと言われても、だったら大声で上条を叩き起こせばいいし、
そもそも「起きないとキス云々」というのも美琴発信な訳で、嫌なら止めれば良いだけなのだが。
しかし夢の外【げんじつせかい】の自分周りでそんな事が繰り広げられているなど知る由も無い上条は、

「んー……いいから…美琴…早く………むにゃ…」

と寝言をほざくのだった。その一言が美琴の引き金を引くなど、知りもしないで。


 ◇


「…………あれ?」

上条が目覚めると、既に3時間が経過していた。仮眠の筈が、本眠りへと突入していたようだ。

「えっ……えええええええええっ!!?
 な、何で美琴は起こしてくれなかったんだ!?
 いやそれ以前に、何で美琴センセーも俺と一緒に寝てんのーっ!!?」

上条の隣には、気持ち良さそうに寝ている【きぜつしている】美琴の姿。
残されたのは、終わっていない宿題とベッド周りの謎の焦げ【ふにゃー】跡。
そして微かに感じる、唇の柔らかい感触だけだった。


482 : くまのこ :2015/05/06(水) 15:53:44 NpEShcns
以上です。
何とかGW中に書き終わりました…
ではまた。


483 : くまのこ :2015/05/10(日) 00:03:08 5d0RrMaY
連投で失礼します。
母の日用の小ネタを2本書いたので、投下しにきました。
2本目は未来設定です。オリキャラが苦手な方はスルーしてください。
約3分後に、2つ合わせて4レスです。


484 : 学園都市より愛やら何やら色々なモノをこめて :2015/05/10(日) 00:06:00 5d0RrMaY
「……結構、高いな…」

上条はフラワーショップの店先で、カーネーションの値札を睨んでいた。
本日が母の日という事もあり、シーズン真っ只中な為に普段よりも割高になっているのだ。
記憶をなくした後の上条にとっては初めての母の日であり、
せっかくなので母さんにフラワーギフトでも…と思ったのだが、
上条家の懐事情を考えると少々尻込みしてしまう。主に食費【インデックス】的な理由で。

「どーすっかなー…こんなに買えないし、だからって2〜3本ってのもなぁ……
 …いや待てよ? 逆に一輪だけってのもシンプルでいいのかも?」

母の日どころか女性に花を贈るのも初めてな上条にとって、
花をどのようにしてどれくらい包めばいいのか見当もつかない。
加えて財布の中身とも相談すると、どうしても考え方が安い方へと移ってしまう。
と、そんな時だ。

「アンタ何やってんの? ずぅ〜っとお花と睨めっこしてるけど」

背後から話しかけられた。
上条は振り返りながら、その者に返事をする。ついでに、ツッコミを入れながら。

「おう、美琴。いや、母の日の贈り物をどうしようかってな。
 …つーか何で俺が『ずぅ〜っと』ここにいるって知ってんだよ。
 ミコっちゃん、どんだけ俺の事見てたん?」
「はっ…は、はぁーっ!? はぁーっ!?
 べ、べべ別にアンタをずっと見てた訳じゃないし!
 私はただ、何となく景色を眺めてただけだから!
 そこにたまたまアンタが視界に入ってただけだから!
 かかか勝手に勘違いしてんじゃないわよ馬鹿っ!」

軽く冗談を言っただけなのに、全力でマジレスされてしまった。不幸である。

「で、美琴もカーネーション買いにきたのか?」
「わ、私は昨日買ってもう送ったわよ。
 今日買ったんじゃ、ママの所に届くのは早くても夕方だし」
「あーなるほど…」

と納得しかけた所で再び疑問。

「…あれ? じゃあ何で美琴は花屋【ここ】にいるんだ?
 そもそも何となく景色眺めてたってのも何の為に?」
「だっ! だだだだから! たまたま通りかかったらアンタがいて!
 そしてアンタがお花を見つめてる姿に見惚れてそのままだったとか!
 そんな事は全然ないんだから勘違いすんなって言ってんでしょ!?」

誰もそんな事を聞いてはいないのだが。この場に佐天さんがいないのが悔やまれる所である。
いたら間違いなくニヤニヤしながらツッコんでいただろうに。
しかし鈍感な上条は「ふ〜ん、そっか」と気付く素振りすら見せずに、
再びカーネーションと向き合った。すると。

「……ん? んんんっ!? 何だこれ、すっげー安いっ!!?」

すぐ隣に驚くべき安さのカーネーションが置いてある事に気付く。
一輪まさかの50円以下…先程まで見ていたカーネーションの、1/3にも満たない価格である。
しかし美琴は呆れ顔で、その安さのネタばらしをする。

「あのねぇ…よく見なさいよ。それ造花よ?」
「えっ!? ……あ、ホントだ」

確かにその安いカーネーションは、香りもなければ瑞々しさもない。紛れも無く造花であった。
しかしこんな安物とて腐っても学園都市製だ。
一般的な造花とは比べ物にならない程の完成度を誇っている。
上条はその造花のカーネーションを数本手に取った。

「うん。これにする」
「えっ!? いいの!?」
「これだって母の日用に売られてる物なんだし大丈夫だろ。
 それに造花は造花でいいもんだぜ? 枯れないし、世話をする必要もないし」
「そりゃそうだけど…」

美琴はまだ何か言いたげだったが、上条はとっととレジへと行ってしまった。


485 : 学園都市より愛やら何やら色々なモノをこめて :2015/05/10(日) 00:06:52 5d0RrMaY
 ◇


「…で、結局買ってきた訳ね」
「まぁな♪」

上条は、造花が箱詰めされたギフトボックス(ラッピング済)を持ち、
顔をホクホクとさせながら店から出てきた。
おそらくこのまま郵便局にでも向かうのだろう。
せっかくだから一緒に付いて行って、このままプチデート気分を味わっちゃおうか、
とそんな事を美琴が考えていた瞬間だった。ふいに、髪に何かが挿さる感覚。
不思議に思った美琴は、その違和感があった所を手で触れてみる。すると、

「……え…? これ…さっきの…」

そこには先程上条がレジへと持って行った造花のカーネーションが一輪、
かんざしのように挿してあったのだ。

「何本か買ったから、一本だけ箱詰めしないように店員さんに頼んどいたんだよ」

上条は冗談っぽく笑っていた。対して美琴は、顔が「かあぁ…っ」と熱くなる。

「な、ななな、なん、何のつもりよコレはっ!!?」
「ん〜? いや〜、ミコっちゃんに似合うかな〜と思いまして。
 …あっ、でもどんなに綺麗な花でも、美琴の美しさには敵わないかな?」
「んっ、なっ!!!?」

それはただの一発ネタのつもりの一言だった。
上条としては、この後美琴から「何言ってんの? バッカじゃないの?」
「その台詞、アンタに似合ってなさすぎ」 「あ〜、はいはい。ありがとねー」
とでもツッコまれながら、一笑いある物だと期待していた。
しかし美琴からのリアクションは、

「そ、そそそ、そんにゃこ、と……いわ、いわれてみょ…
 じぇ…じぇんじぇんうれひく………にゃ…いんりゃかりゃ……」

とボソボソ言いながら顔を真っ赤にして俯くという、
思いのほかガチな反応が来てしまった。

本日は母の日。
上条の母・詩菜と、美琴の母・美鈴の下には、
『愛する我が子達の仲が、ちょっとだけ進展した』という最高の贈り物が送られたのだった。


486 : 三種類のカーネーション :2015/05/10(日) 00:08:00 5d0RrMaY
上条当麻とその娘・上条麻琴は、混雑する大型フラワーショップの中をウロチョロしていた。
ここ第13学区は幼稚園や小学校が多い学区であり、麻琴の通う小学校もこの学区にある。
その為か、店内は小さなお子さん達でごった返していたのだ。
理由はとてもシンプルだ。本日が『 母の日 』だからである。
あの子もその子も、みんなカーネーションをお買い求めに来店している訳だ。
そして勿論、当麻と麻琴が花屋【ここ】にいるのも、それが目的となっている。
店側としては嬉しい悲鳴だし、その光景もとても微笑ましい物ではあるのだが、
それはそれとして当麻は後悔していた。やはり空いている日【きのうのうち】に来れば良かった、と。

「麻琴ー!? ちゃんと良いのを選ぶんだぞー!」
「うーん! パパもねー!」

二手に別れ若干距離がある為、音量を気持ち多めで会話する父娘【おやこ】。
カーネーションは色のバリエーションが豊富である為、
せっかくだから色々な種類を買ってこようというと父娘会議で決定した。
選ぶ色は三種類。当麻と麻琴がそれぞれ好きな色とチョイスし、
もう一つは美琴【ママ】の好きな色…つまりは緑色の物を見つけてくる事。
美琴の好きな色が緑なのは、乗り物に弱く髭を生やしている某カエルの影響だが、
理由はどうあれ好きな色に間違いないのだから、野暮なツッコミは止めておくべきだろう。


 ◇


「どうだった? 麻琴」
「あたしはね! あたしはこれ!」

数分後に二人は合流し、お互いに選んできたカーネーションを見せ合う。
先に選んでいた緑色に加え、当麻が選んだのはオレンジ。麻琴が選んだのはピンクだった。

「おー、ピンクかー。やっぱり麻琴も女の子なんだな」
「えっへへ〜…可愛いでしょ! ママ喜んでくれるかなぁ?」
「当たり前だろ? 麻琴が選んでくれたお花だもん。喜ばない訳がないって」

その言葉を聞き、麻琴は嬉しくも恥ずかしそうに「にしし」と笑った。
そして照れ隠しでもするかのように、パパの選んだカーネーションの話題を振る。

「パパのは大人っぽいね!」
「ああ。ママって何か温かいイメージがあるから、暖色系にしようと思ってな。
 定番の赤も良かったんだけど…でも、こっちも素敵だろ?」
「うん! 素敵ー!」

そんな会話をしながら、三色のカーネーションをレジへと持って行く。
それぞれ別々だったカーネーションは一つにまとめられ、色鮮やかな花束となった。
あとはママに渡すだけだ。日頃の感謝の気持ちと、愛情たっぷりの想いを込めて。


487 : 三種類のカーネーション :2015/05/10(日) 00:08:52 5d0RrMaY
 ◇


「美琴!」「ママ!」
「「母の日おめでとう!」」

当麻と麻琴は「おめでとう」と声をそろえ、先程買ったばかりの花束を差し出した。
差し出された美琴は、ビックリして一瞬だけ目をパチクリさせたが、
すぐに柔らかい笑顔を浮かべ、優しく花束を受け取った。

「ありがとう。パパ、麻琴ちゃん。ん〜…いい香り……とっても嬉しいわ!」

ママが心底喜んでくれた事で、当麻も麻琴もホッと胸を撫で下ろす。
母の日の主役は、あくまでも母【みこと】なのだから。

貰った花をさっそく生けようと、花瓶を用意する美琴。
ガラス製の花瓶に三色のカーネーションを挿しながら、ふいにこんな事を聞いてきた。

「ねぇ。カーネーションって、色ごとに花言葉が違うって知ってる?」
「いや…知らないな。麻琴は?」
「知らなーい」

美琴には初春飾利という、中学生時代からの親友がいる。
彼女は情報処理と甘い物【スイーツ】に関する知識が豊富だが、もう一つ得意な分野がある。
それが花言葉だ。
学生時代から初春と親しくしている事もあり、美琴も花言葉に詳しくなっていた。
だが当麻【だんな】も麻琴【むすめ】も、そちらの知識については乏しいようで、首を傾げる。
つまり二人とも、花言葉は分からないが『偶然』にもその色を選んだのだ。
麻琴はピンクを、当麻はオレンジを。

「じゃあ俺達が選んだのはどんな意味があるんだ?」

当麻が問いかける。
しかし美琴は悪戯っぽくクスッと笑い、「べ」っと舌を出してこう言った。

「教えてあげなーい♪」

美琴のその態度に、当麻も麻琴も頬を膨らませて抗議した。

「え〜? そこまで言ったんなら教えてくれてもいいだろ〜!」
「知りたい知りたい知りたい! 知〜り〜た〜い〜!」
「やーよ! 自分達で調べなさい♪」

ママの上機嫌っぷりを見る限り、どうやら悪い意味ではないらしが、
父娘は納得できず、いつまでもブーブー文句を言うのだった。

ピンク色のカーネーション…麻琴がママに贈った花には、
『感謝』・『気品』・『暖かい心』・『美しい仕草』
オレンジ色のカーネーション…当麻が美琴に贈った花には、
『純粋な愛』・『あなたを熱愛します』・『清らかな慕情』
そして緑色のカーネーション…二人から贈った花には、『癒し』

そんな意味が込められた三色のカーネーションは、
ガラス製の花瓶の中で春の風に吹かれ、そよそよと優しく揺れた。
その姿は、まるで花達が笑っているかのようだった。
どこにでもある温かい家族を、微笑ましく見つめるように。


488 : くまのこ :2015/05/10(日) 00:09:58 5d0RrMaY
以上です。
本当はこの2本の他に、もう一本小ネタを書いたんですが、
上琴がメインの話ではないので、こちらに投下するのは止めておきます。
ではまた。


489 : ■■■■ :2015/05/10(日) 01:39:21 P/lK3cHw
天晴れ!!


490 : ■■■■ :2015/05/10(日) 02:31:32 qjoqgjDw
初春はまだ独身か・・・佐天・黒子はどうなんだろう?


491 : ・・・ :2015/05/12(火) 06:21:10 92Z677SQ
ども、・・・です。

7月発売新刊のあらすじでテンション上がりまくる。
しかし新約7巻の前科(笑)があるけんねぇ


くまのこさん

〉〉変態の階段の〜ぼる〜♪
これで白井の気持もわかることでしょう受け入れはしないだろうが。
ツンデレをこじらせて素直になっとる。帰って自己嫌悪の嵐だろうなぁ。
ん?3時間って寝てたの感電で気絶してたの?
リク対応ありがとうなんだよ。

〉〉母の日×3
・ようやく気付いたか鈍感を極めしものよ……
・毎年娘とお花を買いに行く。理想の父親像だにゃー
・ラストの1つはここにはないが大好きです。
 タイトルになっとくですわい

2日遅れの母の日です。
未来設定です。
よろしければお付き合いください。

それでは


492 : 捨てがたい :2015/05/12(火) 06:22:47 92Z677SQ
まま、mama、ママ。

あれ? これって、誰を呼ぶ声だっけ??







「……a、…ま、まま!!!」

「ぅ、ぅ……ん?」

「ママ、起きて!! もう10時だから!!」

「……あれー? 麻琴、なんでいるの?」

「娘が休みの日に寮から遊びに来ちゃいけないの??」

「うーん、いや、いいけどさぁ、もう少し寝かせて……昨日も研究がうまくいかなくてさぁ……」

「だめだめ!! こんないい天気なんだから!!」

「ぅあ〜〜〜〜!!」

私の名前は上条美琴。学園都市に住む数少ない大人の1人だ。

娘の麻琴は名門、常盤台中学に通っている。自分の母校ゆえ、名門と言えば自画自賛になるか。
寮で生活しているが、たまにこうやって戻ってくる。
母としては、そんなことより『アイツ』君とデートの1つしてもらいたいものだ。

旦那の名は当麻。数十年前のグレムリン戦の動画で高校生当時の姿を知っている人も多いだろう。
その世界規模の問題に巻き込まれる性質や、困っている人を助けないと気が済まないヒーロー性、私との関わりから、現在は父の後継として世界を走り回っている。
本人曰く、天職なんだそうだが、あちこち飛び回ってて今はどこでなにやってんのかも分かんない状態だ。ちゃんと誕生日だけは一緒にいてくれるいい旦那だ。

最初は一緒に旅していたが、お腹に麻琴ができたときに学園都市に戻った。
麻琴が小学生になるまでは旦那も週3はこっちにいてくれた。できた旦那だ。
そんなわたしも、今は研究の手伝いをしながら悠々自適な1人暮らしをしている。
給料ももらうが、それをもらわなくても十二分な生活費を旦那が稼いできてくれる。
さらに旦那は恨みを買うことも多い仕事だが、本人の人脈がパネェので私たちに手を出す人間は当時と比べ、すくな……いや、その分増えてる気も……ま、気にしないでおく。
どうせ、ピンチになったら駆けつけてくれるのだ。理想の旦那すぎるのだ。

「……ちょっとママ、モノローグで惚気てないで、早く顔洗って着替えて」

「あー、そうね」

まったく、口うるさい娘だ。睡眠不足が若さを奪っていくというのに。
ピチピチの10代にはその苦しみがわからんのだろうな。

「そういえばさっき浜面のおばさんと黄泉川姉さんが一緒に出かけようってさ」

「え? 浜面さんと打ち止めが?? どうしよっかなー?」

「わたしも友人から遊ぼうってメール来たし、いってきなよ」

「……『アイツ』く「違うから!!!」

まったく、素直じゃない。
あーいう鈍感の手合いは直接気持ちを伝えないと理解が及ばない脳構造をしている。
他者の気持になって考えるという人間社会の進化から取り残されている種族なのだ。
「アンタのことなんか好きじゃないんだからね!!」と真っ赤な顔してプルプル震えても、
そのかわいらしくいじらしい様をわかってくれないニブチン族なのだ。
……なんか腹がたってきた。

いっぽう娘はそんな種族に対し、相性最悪の部類にいるといえよう。
「別にアンタのためにやってあげたんじゃなくてただの暇つぶしなんだから!!」
と電話していた声をこの前聴いた。
あの子は言語をもってコミュニケーションをとり、自身の感情を相手に伝えるという人間社会の進化を全力で逆走しているのだ。
残念ながら気になるアイツくんは鈍感Level5の実力者だというのに。
一体誰に似たんだか。


493 : 捨てがたい :2015/05/12(火) 06:24:06 92Z677SQ
と、そんなことを考えている間に待ち合わせ場所のコンサートホールに着いた。
打ち止めたちも直接ではなく、娘に言伝を頼むというのはどういうことだ?
たぶん子供が遊びに誘うメールに便乗したんだろうが。

「やーすみませんでしたーっ!!」

……??
なぜコイツがいる??
そりゃまぁ誕生日一緒に過ごして、その翌日空港で見送り、
1時間後には寂しいと電話して、娘には呆れられていたけども。
あー、そっか、偽物か。
もしくは私が生み出した幻想なのだろう。だから、

「その幻想をぶち殺す!!」

バリバリビリビリバリピシャバーン!!

「それオレの決め台詞!!!」

パキーン!!

へ? あれ??
ものほん???

「なにしてんのよ、パパ??」

「ママ、そんなところも娘が似ちゃってると思うとパパは悲しいよ」

きゃー!! やっぱりスーツ姿も似合うわね!!
じゃ、な・く・て!!!

「どうしてここにパパがいんのよ??」

「いやぁ、寂し、かったから???」

あー、幸せ。

「……ママ、急に、抱き着かないで」

「し、しまった!!! つい本能に負けてしまった!!」

「……付き合い始めて半年後以降、勝ったためしがない気がしますよ?」

「……そ、それはパパもでしょ!!」

「パパは2年も我慢したんですよ!! ママが高校卒業するまで日々我慢だったんでぃ!!」

いや、知ってるけども!!
我慢してたのが自分だけだと思ってるところが相変わらずむかつく!!
いやいやそうじゃない。
なんで海外で大活躍しているはずのパパがこの日曜日、白昼の学園都市に……

「日曜日、白昼の、学園都市……??」

「……どした?」

このニブチン族村長の男はキヅイテイナイノカ?
周囲の人々がヒソヒソ言ってたり、ピコピコ携帯を操作していることを!!

「あ、あはは」

「ん? どしたの?」

「あはははははーっ! うわーん!」


494 : 捨てがたい :2015/05/12(火) 06:24:45 92Z677SQ
かくして私たちは1時間も街を走り回った。

「って待て! なんか時間の進み方がおかしい! 何で1時間もノンストップで走り続けてんだよ俺達は⁉」

「うるさい! 黙って! ちょっと黙って! お願いだから少し気持ちの整理をさせて!」

あんな状態になったら噂は学園都市中に広まるだろう。
絶対後で麻琴に叱られる。
パパ関連の話ではママの威厳なんてないに等しい。
その苦労をいつも家にいないこの鈍感はわかってないのだ。

「……まぁ、とりあえず飲み物でも飲もうぜ」

スタスタと自販機に向かう旦那は、まったく危機感がない。
あーどうしようどう言い訳しよう。
ん? あれ? あの自販機……。

「ちょ、ちょっとストップ!!」

「あれー、なん、で? なんで5000円入れたのにウンともスンとも言わないの?」

「あー、この自販機、麻琴が2000円飲まれたのよ」

「コイツもあれと同類かよ。ん? なんでそんな中途半端な額……ま、まさか」

「ぷっ!! そ、その、ぷくーっ!! まさかでぶぷーっ!! あっはっはっはっはっはっは!!!!」

「……麻琴よ、オレはお前の味方だぞ」

「まぁ、まぁ、落ち込まない。小銭なら大じょう……あれ? あれれ??」

「あー、小銭もダメかって美琴!! ビリビリすんな!! やめて!! ほらー警報鳴っちゃったじゃん!!」

そっからはいつも通りの逃走劇。
うーん、ちゃんと運動してたから年の割には走れたわね。
別にいつも騒動に巻き込まれて体が老いる暇がないとかそんなことはない、はず。

「もー美琴さんってば全然大人になってないんだから」

「うっさいわねー」

……ん? なんだこの違和感??

「お、懐かしいものがあるじゃんか。食うか?」

「え? あ、うん、そうね。ついでに飲み物も買いましょ」

なんだったんだろう??

「しかし、2000円は高いよな」

「今考えるとねー。……なに泣いてるの?」

「美琴が普通の金銭感覚になって上条さんは嬉しいんですよ」

「なに? 当麻は喧嘩売ってんの?」

あれれ?? また違和感が……。

「好戦的なとこはほんと変わりませんよね」

「当麻が悪い!! あー打ち止めたち心配してるかなぁ」

なんだろう? 違和感が消えない。

「ん? 打ち止め??」

「そう、麻琴に出かけようって言伝されてさ」

「あー、たぶんそれオレだ。秘密にしてくれって麻琴に頼んだから」

「なんでそんなことしたのよ?」

「美琴に、喜んでもらいたくてさ」

あー、幸せ。

「……美琴、不意打ちのキスは勘弁してくれ」

「うれしくないの??」

「うれしいに決まってんでしょうがばヵーーーー!!」

でも、なんだろう、違和感が消えない。

「とはいえ、時間もそんなにないんでな、ちょっと来てくれ」

「???」


495 : 捨てがたい :2015/05/12(火) 06:25:18 92Z677SQ
2人でツーショットを撮ったりしながらのデート。
そして、たどり着いた場所は、やはりあそこだった。

「ここは」

「ああ」

鉄橋。
ここで、コイツに会えなかったら、私は……。

「なぁ、御坂?」

「なに?」

「生きてくれて、ありがとな」

「ん? アンタ、何言ってんの? ふつう助けてもらった方が礼をいうものでしょ?」

「いいんだよ」

「……アンタも生きてくれてありがとね」

「おや? ビリビリのくせに素直だな」

「うっさいバカ!!」

なんだろう? また、変な感じ??
どちらかというと、懐かしい??

「さて、素直なミコっちゃん」

「ミコっちゃん言うな!!」

「オレの今日の目的をしようと思います」

「なによ? なにしゃがんで膝ついてんの? スーツが汚れ「美琴」

なんだろう、なんなんだろう。

「これからも、オレと一緒に生きてくれ」








「ただいまー」

「お帰りー。ほい」

「お、きれいなカーネーション!!」

「お礼とかいいからね。惚気聞くのが面倒だから」

「わかったー。で、聞いてよこの指輪!! キューピーッドアローの最新作でね!!」

「ちくしょう!! どっちにしろ同じ展開だったか!! ええいやめろ!! ママ!! ストップ!!!」

「…………」

「あれ? 本当に一時停止した? ま、ママー?」

あー、そっか。

「なに? 急にニヤニヤして、なに? また惚気??」

「ん? 違う違うたださ……」





(じゃ、また行ってきます。麻琴を頼んだよ、ママ)





「ママと呼ばれるのも捨てがたい」


496 : ・・・ :2015/05/12(火) 06:25:57 92Z677SQ
以上なのよな


497 : くまのこ :2015/05/18(月) 21:55:38 kE8Z7fp6
>>・・・さんGJです!
学生時代と同じような事してますね、この夫婦w
末永く爆発したらいいよ。



短編書いたんで投下しにきました。
3レス目からは、自分としては珍しい恋人設定です。
約3分後に4レス使います。


498 : DKの悲劇 :2015/05/18(月) 21:58:23 kE8Z7fp6
「マズい事になっちまった…」

美琴をファミレスに呼び出した上条は、開口一番そんな事を言ってきた。
どうやら何か相談事があるようなのだが、しかし相談する側の上条よりも、

「ななな何よ急に電話で『今すぐ会いたいんだけど』って!!!
 ま、まま、まるでこっ! こ、こ…恋人みたいじゃないのよ馬鹿っ!
 おかげで何着てくか迷……ってなんかないんだけどねっ!!?」

何故か美琴の方が余裕ゼロであった。しかも色々と勝手に自白している。
まぁ、美琴のこの反応は『いつもの事』なので、そこは敢えてツッコまずにスルーする上条。
それよりも相談の続きだ。

「とりあえず落ち着け美琴。ほら、俺のアイスコーヒー飲んでいいから」

美琴が注文したドリンクはホットの紅茶であり、
喉を潤して落ち着かせるにはアイスの方がいいだろうと、自分のアイスコーヒーを勧めた上条だが、
そのグラスに突き刺さっているのは上条が二口ほど飲んだストローであるという事実が、
美琴を余計にテンパらせている。…という事には、当然ながら上条は気付いていない。

「で、話を戻すけどさ。マズい事になっちまったんだよ」
「ふぇ、ふぇえ〜……ど、ど、どんにゃ…事が…?」

上条から受け取ったアイスコーヒー…のストローを、
口を付けるべきか否かチラチラ見ながら、上条の言葉にも相槌を打つ。飲めばいいのに。

「いや…ここ最近、美琴を何度も助けただろ?」

美琴を助けた、というのは、美琴がスキルアウト達からやや強引にナンパされている所を、
例の「知り合いのフリして自然にこの場から連れ出す作戦」で上条が救った、という話だ。
しかも「何度も助けた」、という口ぶりからすると、一度や二度ではないらしい。

美琴の能力とレベルならばスキルアウトを簡単に蹴散らせられるという事は、
上条も重々承知しているのだが、かと言って幸か不幸か、
困っている女の子を見す見すスルーできる性格を上条は持ち合わせていない。
美琴の為にも、そしてスキルアウト達の為にも。
しかし自分達の身の危険を案じてくれているなど知る由もないスキルアウト達は、
上条が割って入る【じゃまする】度に、「ザッケンナコラー!」とか「スッゾコラー!」など、
罵声を浴びながら追いかけられた。不幸である。

この作戦は実は二人が始めて出会った時や、夏休み初日の前夜にも実行されているのだが、
記憶を失った上条は当然ながら覚えていない。
しかし「連れがお世話になりましたー」では効果が薄いと体が覚えているのか、
『今』の上条は美琴を連れ出す時に、こんな口説き文句で乗り切ろうとしていたのだ。

『いやー、俺の彼女がお世話になりましたー』

と。その度に美琴は顔を爆発させていたのだから、
スキルアウト達から顰蹙を買う【ザッケンナコラーされる】のは当たり前だと思うのだが。

つまり要約すると、だ。上条は美琴がナンパされる度に、
「俺の彼女がお世話になりました」と言いながら、美琴をその場から連れ出していたのだ。
それも一度や二度ではなく、何度も何度も。結果、上条の相談事に繋がるのだが。

「どうやらそれで、俺と美琴が付き合ってるっていう噂が広まっちまったみたいなんだ」

自業自得、インガオホーである。
美琴は常盤台の超電磁砲、レベル5の第三位だ。
学園都市内でそれだけ有名な人物ならば、噂が広まるのも当然と言える。
しかも相手は一部で有名な『あの』上条なのだ。
聞きしに勝る、夜の街を駆け巡り、握った拳で並み居る猛者どもを薙ぎ払い、
気に入った女は老いも若きも丸ごとかっさらって草の根一本残さない…
で、お馴染みの『その』上条なのだ。
いい意味でも悪い意味でも、二人は学園都市で最も注目を浴びる事と相成ったのだ。


499 : DKの悲劇 :2015/05/18(月) 21:59:17 kE8Z7fp6
「でさぁ、今日も寮の同居人やらクラスの奴らやらに尋問(物理)されてさ…
 どう誤解を解けばいいのか分かんなくて……美琴の方はどうだ?」
「へっ!!? わ、私っ!? そ…そう、ねぇ……べ…別に何とも!?」

ウソである。今現在、常盤台中学を中心に学舎の園内の5つの学校と、
更に柵川中学や繚乱家政女学校では、大変な大騒ぎとなっている。
だが美琴の言葉をそのままの意味で受け取った上条は、

「ふ〜ん…? お嬢様達は俗世間の卑しい噂話なんて歯牙にも掛けないって事なのかね?」

と素直に勘違いする。
とりあえず美琴サイドにまで迷惑がかかっていない事にホッとする上条だが、
かと言って自分サイドの問題が解決した訳ではない。
「どーやって誤解を解けばいいかなー…」と呟き、腕を組んで天井を見上げた。
しかしここで、美琴から目からウロコな鶴の一声。

「べ……べ、別…に…ご、誤解を解く必要はないんじゃないの…?
 実際に付き合ってるって事にしちゃえば…いい…じゃない……」
「……え…?」

まさかの一言に、上条は顔をキョトンとさせた。

「あっ!!! いいい、いや、あの、わっ、私がそうしたいって言ってる訳じゃなくてね!?
 いっその事そうしちゃった方がトラブルも少なくなるんじゃないかっていうアレな訳で!」

アレな訳とは一体ドレな訳なのか。

「えっと……お、俺はいい…けど…」
「いいのおおおおおおおお!!!?」

美琴【じぶん】から提案しといて、OKされたらされたで大声を出す。面倒な子である。

「いいけど……でもそれって美琴に迷惑かけちまうんじゃ?」
「き、気にしなくていいわよ! さっきも言ったでしょ!?
 わ…私の周りでは、そんなくだらない噂する人はいないんだからっ!」

ウソである。
今現在、常盤台中学を中心に学舎の園内の5つの学校と、
更に柵川中学や繚乱家政女学校では、大層なお祭り騒ぎと化している。

「そ…それとも……ア…アンタは迷惑な訳…?
 その……私…との関係が……う、噂になっ…たら…」
「えっ!? あ、いや…その……」

今度は上条がテンパる番だった。美琴と本当に恋人になった時の事を想像してみる。
すると自然と顔が「かあぁ…っ!」と熱くなってきた。
これは恐らく、つまるところ『そういう事』なのだろう。

「お…俺は嬉しい…かな。ブラフでも美琴と付き合ってるって事になったら。
 ……あ、でも贅沢を言えば、ブラフじゃなくて本当に付き合えたらいいな〜、
 なんて思っちゃったり何かしちゃったりして……」

冗談っぽく言ってはみたが、それは誰がどう聞いても告白だった。
瞬間、つい言ってしまった事に上条は後悔した。
美琴の今までの態度を見ていれば、美琴が上条【じぶん】に気がない事など明白だ。
まぁ、実際にそう思っているのは上条ただ一人だけではあるのだが。
しかし、美琴からの反応は(上条にとって)意外にして、良い意味で予想外であった。

「ほ…ほ、んと……に…わ、たし、で……い、いの…?」

それが、二人が付き合い始める切っ掛けとなったのだった。


500 : DKの悲劇 :2015/05/18(月) 22:00:07 kE8Z7fp6
 ◇


上条はその時、缶コーヒーのプルタブを開けながら軽く溜息を吐いた。
公園のベンチ。自分の隣には、最近できたばかりの彼女。
そんな甘くて酸っぱくて青くて春なシチュエーションだと言うのに、上条は浮かない顔をしている。
原因はその彼女、御坂美琴にある。

「なぁ、美琴」
「わきゃっ!!?」

上条は美琴の耳元で彼女の名前を囁いた…ただそれだけで、
美琴は耳まで赤くなり、飛び上がって上条との距離を50㎝も空けてしまう。
体温も大分上昇しているらしく、美琴が握り締めているヤシの実サイダーも、
手の熱でかなりぬる〜くなっている。
そう、上条が浮かない顔をしていたのはコレなのだ。

1レス前の出来事があって、付き合う事となった上条と美琴。
しかし美琴は元々ツンデレ畑の出身者であり、それは今も変わってはいない。
鈍感畑出身の上条も、付き合い始めてからはそれを理解しており、
それも美琴の魅力なのだと(やっと)気付いたのだが、
しかしそれでは色々と不都合もあるのだ。つまり、

(ああ、くそ! これじゃあイチャイチャできないじゃねーかっ!)

という事だ。
上条とて高校一年生。せっかくの初彼女と、もっとバカップルになりたいのである。
本当は手を握りたい。本当は頭を撫でてあげたい。本当は抱き締め合いたい。
つまり美琴に甘えたいし、甘えられたいのだ。
だが先に説明した通り彼女【みこと】が意地っ張りなので、進展したくてもできないのである。
耳元で名前を囁いただけでテンパってしまうような純情【ウブ】な子を、どう攻略すれば良いのか。
今まで女性からモテた事のない上条(!?)には、難易度が高すぎるのだ。

(ん〜…これはこれで可愛いんだけどなぁ…)

上条は、隣からチラチラと上条【こちら】を見ながら、
ぬるくなったジュースをくぴくぴと飲む美琴の仕草にほっこりしたが、
これでは付き合う前と同じではないかと思い直し、思い切って行動に出る。
このままではキスするのに10年とか、冗談じゃなく長い計画【スパン】になってしまいそうである。
彼女が甘えづらい性格ならば、彼氏の方から甘えるしかないのだ。

上条は、美琴が空けた距離をベンチに座りながらグッと詰め寄り、
コーヒーを置いて、そのまま右手で美琴の肩を抱き寄せた。

「わっ!!! にゃにゃにゃ、にゃにっ!? きゅ、きゅ、急にそんな!!!」
「……か、上条さんだって、こんな事したくなる日もありますよ」

上条に強引に抱き寄せられた事で肩と肩がピッタリとくっ付き、
美琴は目をグルグルさせながら「あわわあわわ」言っている。
だが上条は、ここで手を緩めるつもりはない。


501 : DKの悲劇 :2015/05/18(月) 22:01:05 kE8Z7fp6
「今日はとことん恋人っぽくするからな!
 手だって握るし、美琴の頭も撫でるし……だ…抱き締め合ったりもするしっ!」
「だっ! だだだだ抱きいいいいいいいい!!!?」

顔色が赤一色に染まったまま、美琴は絶叫した。それはあまりにもハードルが高すぎると。
というか今更だが、そもそも付き合う以前にも、
手ぐらい握ったし、頭ぐらい撫でたし、抱き合ったりぐらいもしたのだが。

「い、いいいい、いいわよ! そ、そん…にゃの……し、してほしくなんか……ない、し…」

上条の提案を、もじもじモゴモゴしながら拒否する美琴だが、今の上条はもう知っている。
この反応は本当は嫌がっていないという事に。
もしも本気で嫌ならば、普段の美琴は強く振り払いハッキリとした口調で断るだろう。
それでも相手が食い下がるような事があれば、自慢の電撃でもお見舞いする筈だ。
だがそれをせずに、未だにその身を上条に委ねている。つまりは『そういう事』なのだ。
故に上条は、美琴からの口先だけの苦情など気にもせずに、
その小さく震えている手を握ろうとした。
だが忘れてはならない。上条は不幸体質なのだ。
「握ろうとした」という事はつまり、結果的には握れなかったという意味だ。

「させてたまるかあああああああでぇぇぇぇすのおおおおおおお!!!!!」
「ぶがっ!!?」
「んぶっ!!?」

上条が手を握ろうとした正にその瞬間、上条の脳天目掛けて空間移どロップキックが炸裂した。
犯人は言わずもがな、白井だ。
彼女は自慢のお姉様危険センサーを働かせ、こうしてお姉様の貞操を守る為に馳せ参じたのだ。

「ふぃ〜…危ない所でしたの。
 例のくだらない噂を信じた訳ではありませんが万が一という事もありますし、
 悪い芽は早めに摘み取らなけれ…ば…?」

しかし人の恋路を邪魔する奴は…を地で行くかのように、白井には天罰が下った。
ふと二人を見ると、先程自分が蹴り飛ばした上条の顔が勢いよく美琴の顔をごっつんこしていた。
より正確に言うならば、上条の唇と美琴の唇が思いっきりぶち当たっていたのだ。
いや…『ぶち当たる』と言うよりも、『ぶちゅっと当たる』と言った方が正しいか。

このままではキスするのに10年などと思っていた上条だったが、
まさか十数分で、しかもこんな形で叶ってしまうとは、これはこれで不幸…なのだろうか。
そして美琴は美琴で、ごく当たり前のように「ふにゃー」した。もはや伝統芸能である。

白井は今日のこの事件を『DK【ドロップキック】の悲劇』として、自らの心に傷と共に深く刻み込み、
それからは二度とドロップキックをしなくなったのだった。


502 : DKの悲劇 :2015/05/18(月) 22:01:55 kE8Z7fp6
以上です。
たまには白井さんにキューピッド役(本人不本意)をと思いまして。
ではまた。


503 : ■■■■ :2015/05/18(月) 22:46:02 8qjIdOhg
ヘッズだったか…


504 : ・・・ :2015/05/21(木) 07:11:36 ZiLBHAio
ども、・・・です。

最近暖かいですな。
上琴は無自覚公園デートでもすればいいよ。

くまのこさん
〉〉Dんなに白井が頑張ってもKぁみことには勝てないんだよ
こっからキスがくせになった上条がいたり、
美琴がキスしてもらえなくて欲求不満になったり、
上条が美琴の首筋や耳をハムハムしちゃったりするんですよねわかります。


小ネタです。
こっちにおいていませんでしたね。

それでは


505 : ・・・ :2015/05/21(木) 07:12:40 ZiLBHAio
皆さま御唱和ください

上条当麻と、御坂美琴が付き合い始めたそうだ。

《待ち合わせ》

美「ごめん、ごめん、待った?」

上「いや、今来たとこだよ」

美「なら、いいんだけど……さ、行きましょ!!」

上「て!! 手をつな、つ、つない……!! つな!!」

美「って、めちゃくちゃ手が冷たいじゃない!!? どんだけ待ってたのよ!!?」

上「い、いや、美琴に会えるかと思うと、我慢できなくて……」

美「もう……ほら、これならあったかいでしょ?」

上(お、同じポケットに手がーーーーー!!!)


《みそ汁》

美「おいしー!!」

上「どーよ、上条さん自慢のお味噌汁だ」

美「ホント、おいしい!! 毎日食べたいくらい!!」

上「えっ!!? そ、それってプロ、ポーズ?」

美「!!!!?? い、いや、そ、そんなつもりじゃ!!」

上「そ、そうだよな!! さすがに早いよな!!」

美「……そんな、つもりじゃなかったけど、当麻がいいなら、そう受け取ってくれても、いいよ?」///

上「べあっ!!??」//////


《肌》

上「一面に広がる海!! 空は快晴!!」

美「……」

上「絶好の海水浴日和になんでオレは―パーカーを装備している!!?」

美「……」

上「海パンに着替えた瞬間、泳げない装備に着せかえられた理由を聞かせて貰おうか」

美「え、えっとね」

上「……」

美「と、当麻の肌を他の人に見られたくなかったというか、やっぱり男の人なんだなぁというか、泳ぐどころじゃなくなっちゃうというか、理性が崩壊しそうだったと言うか……」

上「///////」


《ピンチ》

上「や、やばい!! このままじゃ……」

美「やっほー。彼氏、苦戦中みたいね」

上「み、美琴!!」

美「まったく、当麻はわたしがいないとダメみたいね」

上「う、うるせぇ!!」

美「それで、あれがアンタの敵?」

上「あ、あぁ。アイツは……」

美「いや、細かい話はいいの」

上「???」

美「そこのアンタ!! うちの彼氏をここまでボロボロにしたこと。どんな理由があろうとも、絶対に許さない!!」


506 : 皆様ご唱和ください :2015/05/21(木) 07:13:38 ZiLBHAio
それでは皆様ご一緒に……








イン&オティ&白&佐&初&その他「逆だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


507 : ・・・ :2015/05/21(木) 07:14:34 ZiLBHAio
以上です


508 : くまのこ :2015/05/23(土) 12:08:24 lUQBO/Sc
>>・・・さんGJです!
ああ、何だ。
いつもの上琴の日常風景ですね(錯乱)



短編書きました。
タイトルに「Ⅱ」って入ってますが、
以前書いた「食蜂さんの大誤算」とは直接の関係はありません。
食蜂さんがやらかす所が同じなだけです。
約3分後に4レスです。


509 : 食蜂さんの大誤算 Ⅱ :2015/05/23(土) 12:11:14 lUQBO/Sc
上条当麻は「食蜂操祈」という人物を認識する事ができない。
かつて上条が重症を負った際、食蜂が応急処置で上条の脳の構造を変化させた為なのだが、
その時の後遺症によって、残酷にも食蜂に関する事は一切記憶できなくなったのだ。
以来食蜂は上条に直接干渉する事を控え、いつか上条が自分の事を思い出すその日まで、
小さな奇跡を待つ事にしたのだ。

が、ここへ来てそう悠長な事も言っていられない事態になりつつあった。
理由は単純。御坂美琴の台頭だ。
何やら最近、美琴がやたらと上条のポイントを稼いでいるらしいのだ。
(おそらくは某・柵川中学の生徒の仕業ではあろうが)

同じ常盤台のレベル5にして、お互いに忌み嫌っている存在。
美琴は食蜂の性格が、そして食蜂は美琴の境遇が気に入らなかった。
歴史に「たられば」は無いが、それでも一年半前のあの事件がなかったら、
上条【かれ】の隣に立っていたのは美琴【かのじょ】ではなく食蜂【じぶん】であったはずなのに、と。
だから美琴にだけは負けられない。美琴にだけは上条を(寝)取られたくはないのだ。
故に食蜂は、上条の学校の近くのカフェで、こんな事を暗躍していた。

(いっその事、私の洗脳力を使っちゃおうかしらぁ…
 あ、でも御坂さんは電磁バリアで能力の遮断力が利いてるのよねぇ。本当に厄介だわぁ。
 となると上条さんの方を洗脳するしかない…かぁ…
 あんまり気は進まないけど、背に腹は代えられないって言うしぃ、仕方力がないわよねぇ)

食蜂はカバンからリモコンを取り出し、頬杖をつきながら考える。
どうやらターゲットを上条に絞り、洗脳によって食蜂【じぶん】への恋心を植え付ける気のようだ。
おそらく美琴に能力が通用すれば、
手っ取り早く美琴の上条への想いを消去していたのだろうが、残念ながらそれはできない。
しかし先程説明した通り、上条は食蜂の顔も名前も記憶できない体質である。
「食蜂操祈に恋をする」と脳を書き換えても、その食蜂操祈が誰だか分からないのだ。
これでは上条は、誰だか知らない人の事を無性に恋焦がれるという、
悶々とした日々を送ってしまう。見ている分には面白いが、本人的にはあまりにもむごい。
だが食蜂もそんな事は分かっている。

(要は上条さんが私に好意力を向けてくれればいいんだしぃ、
 「私を好きになる」じゃなくて「目の前の女性を好きになる」って洗脳すればいいのよねぇ)

上条へ「目の前の女性に惚れる」という暗示をかけて、
食蜂と認識しなくても自分を好きになってくれるように作戦を立てた。
これならば瞬間的に食蜂の事を忘れても、自分が上条の目の前に顔を出すだけで、
その度に自分を好きになってくれる、という算段だ。

こんな物、所詮その場しのぎだという事は食蜂も理解している。
そもそも上条が右手で自分の頭を触ってしまったら、洗脳の効力も簡単に失うのだ。
しかしそれでも。

(…それでも私と上条さんがラブラブな所を御坂さんに見せ付ければ、
 御坂さんに傷心力を与える事は出来るかも知れないものねぇ…)

食蜂は黒い笑みを浮かべた。
しかし残念ながら、彼女の思惑通りには行かないだろう。
だってここ上琴スレだし。


510 : 食蜂さんの大誤算 Ⅱ :2015/05/23(土) 12:12:03 lUQBO/Sc
 ◇


上条が下校してくる時間。
食蜂は校門近くの曲がり角から、リモコンを構えながら様子を窺っていた。
上条のいつもの通学路なら、このままこの曲がり角に歩いてくるはずである。
ちなみにだが、すでに自らの能力で人払いは済んでいる。
この高校の女生徒全員に、下校時は上条に近づかないように操作しているのだ。
理由は勿論、これから上条に行う「目の前の女性を好きになる」という洗脳で、
関係ない女生徒に誤爆させない為だ。その生徒の為ではなく、自分の為に。
上条の通う高校の生徒数は数百人程度。その中で女性は単純計算しても1/2だ。
食蜂の心理掌握は単純な命令ならば三桁近い人間を操る事が出来るので、これ位は余裕である。

数分後、人払いも効果もあってか上条の周りに女生徒の姿はなかった。
邪魔な金髪グラサンアロハ野郎と、青髪ピアスエセ関西弁野郎はいたが。

「今日はカミやん、珍しく小萌先生の補習がないんだにゃー。
 こりゃ明日は雪かも知れないぜい」
「小萌てんてーの個人レッスンが無いとか、カミやんとちゃうけど不幸やわー…
 ほんなら一体何の為に宿題忘れたんか分かれへんやん」
「俺だって補習が無い日くらい普通にあるわっ!
 それと青髪。小萌先生が泣くから、わざと宿題忘れるのは止めとけ」

本当に邪魔である。
食蜂は気にせず、上条目掛けてリモコンのボタンを押した。
後はこの曲がり角で待つだけだ。

(…あっ、今から上条さんが私の事を好きになると思ったら、
 何だかドキドキしてきちゃったわぁ……)

今更ながら、乙女力を全開にしてしまう食蜂。
しかし妙な事に、それから1分、2分と過ぎても上条は来なかった。
不思議に思った食蜂は、そっと曲がり角から顔だけ出して様子を見てみると、
何故かそこには、口をあんぐりと開けたまま固まる、
金髪グラサンと青髪ピアスの姿しかなかった。

「えっ、えっ!? か、上条さんはぁ!?」

残念ながら、ここから先は上琴の時間なのである。


511 : 食蜂さんの大誤算 Ⅱ :2015/05/23(土) 12:13:00 lUQBO/Sc
 ◇


食蜂が近くの曲がり角でドキドキしているのと同時刻。
デルタフォースに近づく一人の少女の姿があった。

「ちょ、ちょろっと〜? アンタ今帰り? ぐ、偶然ね私もなのよ」

その正体は言わずもがな、美琴だ。偶然も何もわざわざ(以下略)。
食蜂は人払いする為に、この学校の女生徒全体に暗示をかけたのだが、
そもそも美琴はこの学校の生徒ではない為、食蜂の能力から逃れられたのだ。
もっともそうでなくとも、美琴には食蜂の能力は効かないのだが。

食蜂も元々美琴に見せ付ける為に上条を洗脳した訳で、そこは予定通りではあるのだが、
彼女は二つだけミスを犯した。それも飛び切り致命的な奴を、である。
一つ目は、まさか美琴が上条の学校まで足を運ぶとは思わなかった事だ。
上条が食蜂【じぶん】に惚れた後、そのまま街を練り歩いて噂にでもなり、
あわよくばその様子を美琴の目に直接焼き付けてやろうかなどとほくそ笑んでいたが、
思いのほか美琴が偶然的【せっきょくてき】だったのだ。
そして二つ目は、上条がすでに食蜂の洗脳を受けてしまっている事である。
上条は今、食蜂の能力によって「目の前の女性を好きになる」脳をしてしまっている。

「…? どうしたのよ、アンタ。何か呆けてるけど」
「……な、何で今まで気付かなかったんだろ…美琴って、こんなに可愛かったんだな…」

つまり上条は、目の前の女性【みこと】に対してトゥンクしていたのだ。
頬をうっすらと桜色に染めながら美琴を見つめる上条。そして歯の浮くような台詞。
あまりの出来事に、土御門も青髪も、美琴本人ですら、「……へ?」と呆気に取られた。
しかし上条の奇行はこれで止まらなかったのだ。
上条は美琴の手をギュッと握り、とんでもない事を聞いてきた。

「なぁ、美琴って彼氏とか…もしくは好きな奴とかっているのか?」
「えっ!? ひゃ、はぇ!!? べ、べべべ別にそんなのいないけどっ!!?」

突然手を握られた事と突然の色恋に関する質問で、即座に顔を爆発させる美琴。
好きな人がいないと言うのも、当然ウソである。
好きな人なら今、目の前で自分を見つめながら手を握っているのだから。

だが洗脳されていても鈍感が直った訳ではない上条は、その言葉をそのままの意味で受け取る。
そしてホッと息を吐いた後、上条は―――

「じゃあさ、俺が付き合ってくれって言ったら…ダメ、かな?」
「かっっっ!!!!!??」

その瞬間、美琴の思考が停止した。ついでに、土御門と青髪も。

「ま、まぁ今すぐ返事くれとは言わないけど、この後デートするくらいはいいよな?
 つー訳で、俺ちょっと急用できたから、また明日な」

言いながら、上条は硬直して動けなくなった美琴を『お姫様抱っこ』しながらその場を去った。
口をあんぐりと開けたまま固まる土御門と青髪に別れを告げ、
寄り道でもするのか、いつもの通学路と違う道へと足を進ませながら。


 ◇


「……ハッ!?」

美琴はそこで目を覚ました。状況を把握するべく、周りを見回す。
何か記憶が飛んでいたようだが、いつの間にかカフェにいるらしい。
上条も美琴も知らないが、ここは奇しくも冒頭で食蜂が暗躍していたカフェである。

「あ、あれ…? なに、夢…? そ、そうよね。アイツがいきなりあんな事を―――」

記憶があやふやなので、上条の衝撃的な告白もきっと夢だったのだろうと落胆する美琴。
しかし美琴の幻想はぶち殺される事となる、珍しく、いい意味で。

「あんな事ってどんな事?」
「わっしょいっ!!!」

ひょいっと視界に入ってきた上条の顔に、思いっきりテンパってしまった。

「ななななアアアアンタどどどどどうして!!!?」
「ん? いや、お恥ずかしながらトイレ行ってきてまして。
 美琴が寝てる間にコーヒー3杯もおかわりしちまってさ」

美琴としては「どうしてこんな所に」とか「どうして私はここに」とか
「どうして何がこうなった」とか「どうしてあんな事を」とか色々な意味で聞いたのだが、
上条は「どうして席を外していたのか」と勝手に解釈をして、
「トイレに行ってきたから」なのだと、どうでもいい情報をくれた。
しかしそのどうでもいい情報の中にも、気になる事が一つ。


512 : 食蜂さんの大誤算 Ⅱ :2015/05/23(土) 12:13:56 lUQBO/Sc
「さ、3杯もおかわりしたの…?」
「ああ。あれから結構時間が経ったからな。美琴ってば、全然起きねーんだもん」

どうやら美琴【じぶん】が気絶したのは間違いないようで、
上条はそんな自分を担いで近くのカフェで休ませていたらしい。
本来ならば寮に送るか病院に送るのが妥当なのだが、
美琴が上条の目の前で顔を爆発させて気絶するのは『いつもの事』なので、
大した事ではないと判断し、こうしてカフェの中でまったりしている訳だ。

「で、でもだったら、さっさと起こしてくれれば良かったじゃない」
「んー…まぁ、無理に起こすのも可哀想だし、何より美琴の寝顔を見ていたかったからな」
「にゃぼっ!!?」

上条から再び歯の浮くような台詞。やはり気絶前に聞いたあの告白は…

「ねねね、ねぇ…ア、アア、アンタさっき言った事、おおおお、おぼ、おぼぼ、覚えてる?」
「さっきって……いつだ?」
「だか、だから、アンタのががが学校の校門でアンタが……わ…私の事を……その…………」

ぼそぼそと口ごもる美琴の様子に、流石の上条も察しがつく。

「あぁ、俺が付き合ってくれって言った事か? 勿論、覚えてるよ」
「にゃっしゃらあああああああいっっっ!!!!!!」

あの告白が夢じゃなかった事で、美琴の中のあらゆる感情が総動員する。
おかげで意味不明な言葉(らしき奇声)を発してしまう程に。

「ふ、ふぅん? で、でで、でも何でいきなり? て言うかいつから?
 そもそも私のどんな所が好っ! ……スキ…なの?」

しかし一度思いっきり奇声を出した後は意外と冷静になり、
カタカタと手が震えてはいるが、お冷を飲んで喉を潤すくらいは落ち着いている。
ついでに上条に対して、質問攻め出来る程に。
どうやらテンパり具合が限界点を超え、一週回って逆に平静さを取り戻しているようだ。
後々この時の事を思い出して、とんでもないぶり返しが来そうだが、とりあえず今は大丈夫だ。

「どんな所が好きって…そうだな。
 抱き締めたくなるその小さい背中も、握りたくなるその温かい手も、
 撫でたくなるそのサラサラの髪も、キスしたくなるその柔らかい唇も、
 そして太陽みたいなその笑顔も、全部…美琴の全部が好きだぞ」
「ばっひゅうううううううううう!!!!!」

どこが好きなのか聞かれたので素直に答えたら、
美琴の口から含んだばかりのお冷が自分の顔目掛けて噴射された。不幸である。

「にゃにゃにゃにゃにへんにゃこといってんのよばかじゃにゃいのっ!!!?」

美琴【そっち】から聞いてきたのに素直に答えたら馬鹿呼ばわり。不幸である。
冷静になれたのはほんの一瞬だったようで、美琴はいつもの美琴に戻る。
上条も上条で「おっ! いつものミコっちゃんらしくなったな」と笑いながら、
濡れた顔をおしぼりで拭く。

「で、結局どうかな。その…俺と付き合ってくれっていうのは……」
「っ!!!」

顔を拭きながら、さらりと人生の分岐点を聞いてくる上条。
美琴も肩をビクッとさせて、そのまま俯き、黙り込む。
やはりこんな大事な返事を急かすのはよくないか、と上条がそう思った時。

小さく、「パキィン」と音がした。

上条が『右手』におしぼりを持って頭を拭いた時、親指が直接頭に触れてしまったのだ。
当然ながら上条本人は知らないが、それは食蜂の洗脳が解けた瞬間だった。

(………俺、こんな所で何してんの…?)

洗脳はされていたが、その間の記憶が無くなった訳ではない。
自分が今、何をしているのか、また何をしたのか理解はしている。
しかし納得は出来ていない。明らかに先程までの自分はおかしかったのだから。

(なななななんつった俺っ!!? い、いい、いや、『確かに』、
 美琴の小さい背中は抱き締めたくなるし温かい手は握りたくなるし
 サラサラの髪は撫でたくなるし柔らかい唇はキスしたくなるし
 笑顔も太陽みたいだけどもっ!!!)

洗脳は解けたはずなのに、美琴の好きな所が何故かスラスラと出てくる上条。
そして訳が分からず頭をかきむしる上条を目の前に、美琴はポツリと呟いた。

「わ…私、で良ければ……その、ふ、不束者…です、が…ど…どうぞよろしく……です…」


513 : くまのこ :2015/05/23(土) 12:14:55 lUQBO/Sc
以上です。
すまぬ、みさきち…これも全部上琴の為なんや…
ではまた。


514 : ■■■■ :2015/05/23(土) 14:57:38 hW1DdyPY
改心の出来ですなぁ…2828ものありがとうなのですよー


515 : くまのこ :2015/05/23(土) 19:51:34 lUQBO/Sc
連投すみません。
今日がキスの日だって知って急遽書きました。
約3分後に1レス使います。


516 : 初キス記念日 :2015/05/23(土) 19:54:21 lUQBO/Sc
上条と美琴が付き合い始めてから早1ヶ月。
今日も二人は学生らしく、健全で清純で誠実なお付き合いをしていた。
下校時の放課後デート(と言っても一緒に並んで帰宅するだけだが)は毎日の日課となっており、
本日も二人は顔を赤く染め、こうして影を重ね合わせながら歩いている。

「……て、手とか…あの…に、握るか…?」
「ひゃえっ!!? アアアアンタがそうしたいなら…に、握ればっ!?」

しかし何と言うか、いくら何でも健全で清純で誠実すぎる気がする。昭和じゃねーんだから。
鈍感をこじらせて今まで彼女を作れなかった上条と、
ツンデレをこじらせて彼氏にすら現在進行形で素直になれない美琴。
そんな二人の恋の進展具合は、正に亀の歩みの如くであった。
お互いに初彼女・初彼氏で、付き合い始めてからまだ1ヶ月なのだという事を差し引いても、
高校一年生と中学二年生のカップルが手を握るまでしか進んでいないのは、流石にどうだろう。
しかしそれは上条も同じ事を思っているらしく、実は今日こそは『決める』つもりでいた。

(よ…よし! 今日こそは絶対に、別れ際にキ、キキキ、キス! するぞ!)

気合充分である。
美琴を握る手にも心なしかギュッと力が入り、じっとりと汗もかき始める。
しかし美琴はそれに気付く様子がなかった。何故なら。

(コイツと手ぇ握コイツと手ぇ握コイツと手ぇ握コイツと手ぇ握っ!!!)

上条と手を握っているだけでいっぱいいっぱいだったからだ。
上条を握る手にも心なしかギュッと力が入り、ピリピリと微弱な電気も流し始める。
握っている手が上条の右手だった為に事なきを得たが、
しかし美琴は上条と違ってキスしようとする余裕も無いらしい。大正浪漫じゃねーんだから。

と、そうこうしている内にいつもの別れ道。二人はここで毎回別れるのだ。
片方は上条が住む学生寮への道。もう片方は美琴が住む常盤台中学学生寮への道。
住んでいる場所が違うのだから通学路が違うのは当然なのだが、
分かっていても美琴はこの別れ道が嫌いだった。
上条との放課後デート(とは言っても一緒に並んで以下略)が終わってしまうから。

「……じゃ、じゃあまた明日ね…」

少し寂しそうに手を振る美琴。
だが今日はいつもの別れ際と違っていた。突然、上条が肩をガッと掴んできたのだ。

「えっ、えっ!? きゅ…急にどうしちゃったの!?」
「美琴っ!!!」
「は、ひゃいっ!?」

上条の勢いに押され、美琴は思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。
その雰囲気から、今から上条が何か大切な事を言おうとしているのは分かる。
そして上条は真剣な表情でこう口にした。

「あのっ! そ、そのっ! キっ! キキ、キシュしてもよろしいでしょうかっ!!?」

真剣な表情をしていたが、だからと言って全てうまくいく訳ではなく、
声が裏返ってしまった。ついでに、「キス」を「キシュ」と噛んでしまった。
ここ一番で決めなくてはならない場面で失敗してしまい、
上条は恥ずかしさで顔を真っ赤に染め上げる。
しかし美琴は、そんな所も彼らしいと、思わずプッと吹き出した。

「〜〜〜わ、笑うなよっ!」
「だ、だって…ぷくく……『キシュ』って…ぷっ………あは! あははははっ!」
「もういいよ! ああ、そうですよ! 上条さんは所詮、上条さんですよ!」

ふてくされて顔をプイッと背ける上条に、
美琴は「可愛いなぁ、もう…♡」などと思いながら、指で上条の背中をチョンチョンと突く。
背中を突かれた事でそっぽ向いた顔を美琴の方へと戻す。

「…え? えぁ、み、美琴?」
「……は…早くしなさいよ…私だって…は、恥ずかしいんだから………」

するとそこには目を瞑りながら、気持ちつま先立ちをして背を伸ばし、
ぷるんとした唇をこちらに向ける美琴の姿があった。
それは鈍感な上条でも分かる、OKのサイン。

上条は緊張のあまりゴクリと生唾を呑み込み、そして―――

「……………ん…♡」

二人の影は再び一つに繋がった。ただし先程と違い、繋がった影は手と手ではなく。


 ◇


ちなみにその数日後。

「んっ、ちゅるっ♡ れおれお、んっぶ♡ 当、麻ぁ♡ は、ぁ♡ んっ、ぁは♡
 にゅぶにゅぶ♡ んぢゅるっ♡ もっと♡ もっとキスしゅりゅろおぉ〜♡」

健全で清純で誠実どこ行った。


517 : くまのこ :2015/05/23(土) 19:55:03 lUQBO/Sc
以上です。
ではまた。


518 : ■■■■ :2015/05/27(水) 17:39:28 oB6irVAQ
くまのこさんいつもありがとうございます。

だってここ上琴スレだし!水戸黄門の印籠みたいな言葉ですね(笑)


519 : ・・・ :2015/05/28(木) 00:30:00 AEQnT49k
ども・・・です

〉〉がんばれみさきちゃん
誰も触れていないが、美琴の裏に、SょかつRょう がいんだけど。
とにかく明日上条さんは不幸な目に合あうけどね

〉〉DぉーKょうもいちゃつくんでしょ?
それは、彼女なりの声援だったのかもしれない(絶対ない)
健全で清純で誠実は青ピが持ってなかったからあげたんじゃないかな(超適当)

それでは投下します。

先日キスの日だと知らず、
慌てて書いたけどまとまらず、
諦めたら別の小ネタが浮かんだでござる

それでは


520 : ○○喧嘩は犬も食わぬ :2015/05/28(木) 00:31:27 AEQnT49k
「ほんと、信じられない。これで8人目よ? 誤解だとかそんな問題じゃない。だってわたしの目の前よ? そんなに怒らせたいのかって話だし。いつもデートに遅刻するし、なにかあれば金がないっていうし、服を買うときもなんでもいいとかいうし、デートすっぽかして誰かを助けにいくし、夜は連絡してこないし、ホント、なんであんなのと付き合ってるんだろう?」

「まったくやってらんねーよ。だって目の前で見てたんだぜ? 事故だってわかってるだろ? わかっててキレるとか訳わかんねーよ。待ち合わせの時間はこっちのこと考えてねぇし、お嬢様の金銭感覚は狂ってるし、違いがわからん服を選べっていうし、オレに一言もなしに誰かを助けに危険に突っ込むし、夜は連絡しろってうるさいし、なんであんなやつの告白にOKしたんだろ?」












佐天はここまで思い出してジュースを飲み干した。

「……彼氏欲しいな」

目の前ではとあるバカップルが、笑いながらデートしていた。
佐天がここにいることに気づいてないようだ。
互いに相手しか見えていないようである。


521 : ・・・ :2015/05/28(木) 00:35:19 AEQnT49k
以上

そ、そろそろ続きかくね〜


522 : くまのこ :2015/05/28(木) 21:12:11 Hz3sNoZA
>>・・・さんGJです!
ケンカップルなバカップルが居ると思ったら、上条さんとミコっちゃんでした。
うん、爆発してしまえ!



短編書いたので投下します。
いつも通りのドタバタです。
約3分後に4レスです。


523 : パペットカミコット :2015/05/28(木) 21:14:06 Hz3sNoZA
何気に佐天は家事スキルが高い。料理・洗濯・掃除という家事の3大基本は勿論のこと、
今では出来る人の方が少ない、裁縫まで網羅している。
そして彼女は今日、その恵まれた家事スキルを遺憾なく発揮し、

「どうですか、これ! 御坂さんと上条さんのペアパペットですよ!
 家庭科の授業で作ってみたんですけど、結構いい出来だと思いませんかっ!?」

余計な事をしてきやがった。
佐天が鼻息荒く自慢しながら鞄から取り出したのは、一組のパペット人形だ。
なるほど、自画自賛するだけあって中々に良く出来ている。
モデルとなった(と言うか、勝手にモデルにされた)美琴と上条は可愛らしくSD化され、
クオリティも「実は売り物です」と言われても信じてしまうくらいに高かった。
しかし本来ならばここで「それ授業で作ったの? 凄いわね」と、
賞賛【ツッコミ】を入れる場面なのだが、佐天の目の前にいる美琴にはそんな余裕はない。

「ささささ佐天さんっ!!? それを何にどう使うつもりなのっ!!?」

今までの経験から、『ろくな使われ方をされない』のは目に見えているから。
現在、いつものファミレスのいつもの席で、いつも通りに喋っているのは佐天と美琴だけだ。
白井と初春は風紀委員の仕事で遅れるらしい。それはまぁ、よくある事なので構わない。
しかし問題なのは、白井が居ない時【じゃまがはいらないとき】の佐天は美琴【じぶん】弄りが激しい事である。
その内容は、ほぼ200%確実に上条関係だ。
そんな佐天がわざわざ作ってきたペアパペット。嫌な予感がしない訳がない。

「え〜? どう使うって〜?」

佐天は悪っそ〜うなニタニタ笑いをしながら二つのパペットを両手にはめる。そしてそのまま、

「た・と・え・ば…こんな事とかっ!」

と言いながら二つのパペットを抱き合わせた。

「にゃああああああああ!!! や、やや、やめてええええぇぇぇぇぇ!!!」
「『ああ、美琴! 俺はお前の事を愛しているんだ(低い声)』
 『嬉しいわ! 私もよ!(高い声)』」
 『ずっとこうしていてもいいかい?(低い声)』
 『ええ、いつまでも…いっそこのまま時が止まってしまえばいいのに…(高い声)』」
「何その台詞うううううううううぅぅぅぅ!!!?」

やめて、という美琴の悲痛な叫びは佐天に届かず、何か寸劇【ちゃばん】が始まってしまった。
ご丁寧にも声色を変えて、上条【だんせい】と美琴【じょせい】の声を使い分けながら。
顔を真っ赤にしながらテーブルをバンバンと叩く美琴。
上に乗っている紅茶とアイスコーヒーにチャポチャポと波が浮かぶ。
それを楽しむかのように寸劇を続ける佐天は、とどめとばかりに。

「『んちゅ〜〜〜〜〜』」

二つのパペットにキスをさせた。流石の美琴も、これには限界だった。

「んにゃああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!?」

と叫びながら、佐天が両手にはめていたパペットを二つ共ひったくる。
これ以上この寸劇を見せられては堪らない。色々な意味で。

「没収っ!!! こんな物は没収します!!!」

しかし佐天は「え〜? これからもっと面白くなるのに〜…」と不満そうにブーたれる…訳ではなく、
むしろ想定の範囲内と言わんばかりに、悪っそ〜うなニタニタ笑いを維持したままだった。

「あっ、いいですよ? 元々それ、御坂さんにプレゼントするつもりでしたし♪」
「なん…だと…!?」
「その代わり、大事にしてあげてくださいね!
 それと白井さんに見つかると後が怖いので、その辺も注意してください」

佐天は始めからこうなる事が分かっていたようだ。流石は美琴弄りの天才である。

その後、仕事で遅れてやってきた白井初春組もファミレスで合流したのだが、
パペットを白井に見つかる訳にはいかない為、
ペアパペットは二人仲良く、美琴の鞄の中で眠りに就かされたのだった。


524 : パペットカミコット :2015/05/28(木) 21:14:52 Hz3sNoZA
 ◇


「け…結局そのまま貰っちゃった……」

美琴は鞄を開けて中のパペットを見つめながら、とぼとぼと歩いていた。
完全下校時刻が近くなり、ファミレスにたむろっていた美琴ら4人も解散したのだが、
帰りにコンビニに寄りたいからと理由付けて、美琴は白井と別方向に歩き出したのだ。
しかし実際はコンビニが理由ではない。
佐天から半ば強引に譲ってもらった【おしつけられた】このパペットの処遇をどうするべきか、考える為である。

「どうしよう………………―――い、いい、いやいやいやいやないからっ!!!!!」

一瞬だけ、自分が二つのパペットを両手にはめて遊ぶ姿を想像してみたが、
同時に二つのパペットの動きを本物の美琴【じぶん】と上条の姿でも想像してしまい、
顔を真っ赤にさせて、自分の妄想に対して全否定した。
頭の中でパペット達に一体どのような事をさせたのか、非常に気になる所である。

「……やっぱり、佐天さんに返すべきよね…これ…」

元々佐天が作った物で、しかも自室に置いておけば地雷が爆発する【しらいにみつかる】という危険も孕んでいる。
やはり早々に製作者【さてん】に突き返すのが得策だろう、と美琴は考えた。ちょっと惜しいが。
美琴は鞄からパペットを取り出し、それを見つめながら決意する。

「よし! 明日、返そう!」
「何を?」
「わきゃっ!!!?」

しかし決意した瞬間、突然背後から何者かに話しかけられ、「わきゃ」と変な声を出してしまった。
とっさに持っていたパペットを鞄に戻したのだが、鞄の中に戻ったのは上条パペットだけで、
美琴パペットはポロっと鞄の外へと転げ落ちてしまう。ついていない。
その上、運の悪い事に話しかけてきた何者かというのがまたよりにもよって、

「…ん? これって美琴…だよな。自分で作ったのか? へー、よく出来てんじゃねーか」

上条である。上条は美琴の姿をしたパペットを拾い上げながら、本物の美琴と見比べる。

「あ、いや…それ作ったの佐天さんで私じゃないけど……
 って言うかそうじゃなくてっ!!! 何でアンタがこんな時間のこんな所にいるのよっ!!!
 いつもはとっくに寮に帰ってる時間でしょっ!!?」

何故か上条の平日のスケジュールをよく知っている美琴である。
『いつも上条が帰る時間帯を狙って、偶然を装って一緒に下校しようとしてる』訳でもあるまいし。

「いやぁ、今日は補習がある日だったんでな。帰るのも遅くなっちまった。
 夕飯どうしよう…今からじゃスーパーもろくな物置いてないだろうし、
 かと言って何も買って行かなかったら白いシスターさんが噛み付いてくるし……」


525 : パペットカミコット :2015/05/28(木) 21:15:44 Hz3sNoZA
ブツブツと独り言を呟き始める上条。本日も順調に不幸イベントのフラグを立てているようだ。
しかし今の美琴に上条の不幸に構っていられる余裕はない。
上条が自分(のパペット)を握り締めているというこの現状、
美琴は自分のパペットを自分自身で想像してしまい、顔をボフン!と爆発させる。

「と、ととと、とにかくっ! それ返しなさいよ! 佐天さんからの借り物なんだから!」
「…ん? ああ、悪い悪い―――」

と、手に持っていたパペットを美琴に返そうとした瞬間、
上条の中でイタズラ心が芽生えてくる。このまま、すんなり返すのも面白くない、と。

「いやでも、ちょっと待ってくれ。せっかくだから、もう少し触らせてくれ。
 …ん〜、ホントによく出来てるな。美琴そっくりじゃん」
「なっ!? がっ、ちょっ!!!?」

やはりだ。美琴のパペットで遊ぶと、釣られて美琴も面白いリアクションをしてくれる。
上条は調子に乗って、パペットの頬を指でツンツンしてみる。

「ほれほれ〜! ミコっちゃんのほっぺ、ぷにぷにしてやるぜ〜!」
「は、はわ……はわわわわ……」

美琴の脳内で、パペットが本物に置き換わる。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

『ほれほれ〜! ミコっちゃんのほっぺ、ぷにぷにしてやるぜ〜!』
『ば、馬鹿ぁっ! そんな事、んっ! し、しないでよぉっ!』
『ヤだね。こんな触りたくなる頬をしてる美琴が悪い』
『そ…そんな、事、にゃい……んんっ!』
『あー…でも触ってるだけじゃ満足できなくなってきちゃったな』
『へっ!? あ、ちょ、こ、これ以上何をするつもりなの!?』
『そりゃあ勿論、ほっぺにチュー…ですよ』

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「今度はチューしたくなるほっぺしてるのが悪いとか言うつもりかああああああ!!!」
「何が!?」

突然、意味不明な事を口走る美琴。この数秒間の内に何が起こったのか、上条にはサッパリである。
だが斜め上を行く美琴のリアクションは見ていて飽きない。上条は新たな一手を繰り出す。

「じゃあ今度は…ほ〜れ、すりすりすりすり〜!」
「にゃにゃっ!!?」

パペットの胸元と自分の顔を擦り合わせてきたのだ。当然、これも美琴の脳内でリアルに変換される。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

『じゃあ今度は…ほ〜れ、すりすりすりすり〜!』
『あぁん! も、もう! 変な所に顔埋めないでよっ!』
『いやいや。こんなにフカフカで気持ちいいのに、やんなきゃ勿体無いでしょ』
『そ、そういう問題じゃないでしょ!?
 こ、こんな事…普通はその…こ、恋人同士とかとやる事で……』
『え? 俺ら、もうとっくに恋人だろ?』

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


526 : パペットカミコット :2015/05/28(木) 21:16:42 Hz3sNoZA
「いつからそうなってたのよ私全然記憶に無いんだけど
 でもどうしてもって言うなら私もやぶさかじゃないって言うか!!!?」
「だから何が!?」

またしても訳の分からない事を言い出す美琴。頭から、プスプスと煙も燻り始める。
このままではまた「ふにゃー」してしまいそうなので、ここらで止めておこうとする上条。
しかし今度こそ本当にパペットを返そうとした時、上条はパペットの『ある事』に気付く。

「…あ、これ口ん中が空いてんだ」

その『ある事』とは、パペットの口だった。
このパペット、実は口の中が小さな空洞になっていて、
(パペットによくある口がパカパカ開くタイプではなく、あくまでも穴があいているだけ)
飴玉くらいなら入れられるようになっていた。本当に良く出来た物である。

「へぇ〜、すげーな………あっ」

そのまま弄っていたら、上条の人差し指が美琴パペットの口の中に、
「すぽっ!」と音を立てて挿入されてしまった。
美琴パペットは上条の指の第一関節まで、しっかりと咥えている。
この様子を、美琴はまたも妄想してしまう。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

『あーあー、もう。美味しそうにしちゃってまぁ。そんなに気持ちいいのか?』
『にゅぶ、ちゅぶ…あんひゃが、むりやり…んっぶ、ひゃへてるん、じゃらいろよ』
『ふ〜ん、そうなんだ? でも言葉では嫌々言ってても、
 美琴ちゃんのお口自体は上条さんの指を離したくなくなってるぞ』
『ぢゅる、れおれお…ひょ、ひょんらこと、らい、わよ! …ん、れろ』
『はいはい。ほら、もっと舌と涎を絡ませて』
『ん、ぶぢゅりゅ、にゅぶびゅぶ、ちゅっぴ……こう、かひら…?』
『くっ! ん…い、いいぞ。じゃあ次は、指を2本にしてみようか』

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「アンタどこまでエスカレートするつもりにゃのよふにゃー!!!!!」
「いやだから何が、って言うか危ねっ!」

盛大に漏電しそうになったが、とっさに上条が右手でそれを防ぐ。
しかし上条の幻想殺しは異能の力だけを打ち消す能力。
妄想は異能の力ではない為に、上条の右手が触れても打ち消される事はない。
故にその後も美琴の脳内の上条と美琴【じぶん】は、益々エスカレートしてしまうのであった。


527 : くまのこ :2015/05/28(木) 21:17:23 Hz3sNoZA
以上です。
ではまた。


528 : くまのこ :2015/06/02(火) 00:58:17 Rpaz8mBM
連投失礼します。
また短編書いたので、深夜にこっそりと投下しにきました。
ちょろっとまだ発売していない新約13巻のあらすじの情報が含まれてます。
ネタバレって程でもないですが、気になる方はご注意ください。
約3分後に5レスです。


529 : 例えアンタが私の事を全て忘れてしまったとしても :2015/06/02(火) 01:01:08 Rpaz8mBM
「記憶…喪失…?」

カエル顔の医者からその言葉を聴いた瞬間、美琴の背筋がゾッと凍りついた。

ここはいつもの第七学区の病院。
体の調整をしている妹達は勿論、白井や佐天もお世話になった場所である。
そして今、美琴が立っている病室には、この病院の常連客とも言える上条が入院している。
どうやら上条がいつもの様にいつもの調子で、どこかの誰かを救う為に戦ったらしいのだが、
その際に敵からの一撃で頭を殴打され、記憶を失ってしまったのだと言う。

美琴は風紀委員から、事件の事と上条が入院しているという事実を聞き、
こうして見舞いにやってきた訳だが、彼の担当医の診断結果を耳にして戦慄したのだ。
上条はそれまでにも一度(食蜂の事もカウントすれば二度ではあるが)記憶をなくしており、
美琴はその事を知っている数少ない人物である。
再び彼が全てを忘れてしまったという事が、とても恐ろしく感じたのだ。
自分とのこれまでの思い出も、全て消えてしまったかと思うと―――

しかしそんな美琴の心情を察したのか、カエル顔の医者は上条を診察しながら、
美琴だけでなく『この場にいる全員』にも聞こえるように安心材料を伝える。
この病室には今、美琴の他にも3人の見舞い客が居るのだ。

「とは言っても『今回』の症状は殴打された事による物理的なショックが原因だからね?
 そんなに心配しなくても、しばらくすれば回復するんだね?」
「ホ、ホントですか!?」
「当然だね? 僕を誰だと思っている?」

ホッとする美琴。続いて初春が質問する。

「あの……しばらくって、時間的にはどれくらいなのでしょうか…?」
「そうだね…少なくとも今日中には治るだろうね?
 ただ脳に刺激を与えれば、早く回復する可能性もあるんだね?」

それを聞いた佐天が、どこからともなく鉄バットを取り出した。

「あ、あの! じゃあこれは役に立ちますか!?」
「ん〜…確かにショック療法というやり方もあるにはあるけれど、
 出来れば物理的な刺激ではなく、精神的な刺激がいいんだね?
 それと病院内でそんな物騒な物を持ち歩かないでくれるかな?」

言いながら、医者は佐天からバットをやんわりと没収する。
そのやり取りを聞いていたインデックスが、ぽそっと呟いた。

「今日中って事は、晩ごはんまでには間に合うのかな?」
「それは保障できかねるけれど、どっち道、退院するのは明日以降なんだね?」
「むぅ…それは残念かも…」
「…アンタ、随分と暢気ね。コイツの事が心配じゃないの?」

上条の体よりも夕食の心配をするインデックスに食って掛かる美琴だが、
インデックスもムッとして反論した。

「私だってとうまの事は心配したもん!
 でも短髪より早く病室【ここ】に居たから、とっくに診断結果も聞いてたんだよ!
 だから記憶喪失も大した事じゃないって知ってたんだもん!
 遅れてお見舞いに来た短髪とは違うんだよ!」
「は、はあぁっ!!? わ、私だってもっと早く知ってれば、すぐに来てたわよっ!」


530 : 例えアンタが私の事を全て忘れてしまったとしても :2015/06/02(火) 01:01:51 Rpaz8mBM
言い争う美琴とインデックスを見た初春と佐天は、すぐさま二人の関係を見抜いた。

(ここここれってつまり修羅場って奴ですか佐天さんっ!!?)←小声
(そうみたいだね。う〜ん、三角関係か…御坂さんも大変だね、こりゃ)←小声

初春と佐天は小声で話している為、美琴とインデックスには声が届かず、
二人の言い争いはそのまま継続中である。

「それでも短髪は遅すぎるんだよ! 本当にとうまの事を大切に思っているのかな!?」
「たっ、たたた、大切って何よ大切って!
 つーかそれなら、私が来るまでに他にお見舞いに来た人が居るって言うの!?」
「いっぱい来たんだよ! 私に、オティヌスに、ひょうかに、あいさに、まいかに、こもえに、
 せいりに、あいほに、せりあに、まりあに、みさきに、クールビューティーが13人。
 それからでんわーで連絡があったんだけど、イギリスからこっちに向かって来てるのが、
 かおりと、いつわと、オルソラと、アニェー…」
「ストップストップ。うん…もういいわ」

インデックスは完全記憶能力者であり、見舞いに来た客
(それまで面識の無かった者も何人かいたが、病室で軽く挨拶しただけでも、
 インデックスが顔と名前を記憶するには充分である)
の名前を順番通りに言ってみせるインデックスではあるのだが、
言っているインデックスも聞かされる美琴も、双方げんなりしていた。
上条【このやろう】、どんだけだよと。
しかもサラリと『みさき』の名前がある事が余計に腹立たしい。

その二人の様子を見た初春と佐天は、顔を真っ赤にする。

(ぬふぇ〜〜〜っ!!! かかか、上条さんどれだけモテモテなんですかっ!!?)←小声
(さ、三角関係どころじゃないね! しかも海外【イギリス】からもアプローチって!)←小声

そんな中、今まで成り行きを黙って見ていた入院患者【かみじょう】が、
おずおずと会話に割って入ってきた。

「あ、あの〜? それで皆さんは、俺とどういうご関係なのでせうか…?
 インデックスさんとは、どうやら同居しているらしいんですが…」
「「どどどど同居っ!!!?」」

事情を知らない初春と佐天は、驚きのあまり大声で聞き返す。
病院内ではお静かに、という常識も吹っ飛んでしまう程に。

これはマズイ。非常にマズイ。
上条の普段の鈍感一直線な態度から察すると、上条が同居人【インデックス】と、
アレやコレやしていないのは明らかではあるが、
しかしそれでも美琴にとって、とんでもない壁【ライバル】である事は間違いない。
その上、上条が予想以上に女性にモテるという問題も発生した。
だが肝心の美琴はツンデレ全開で全く素直になれず、
上条も鈍感な為に美琴の気持ちに全く気付いていない。
今はまだ他のライバル達と膠着状態にあるようだが、美琴がこのままグズグズしていては、
いつ上条がNTRれてしまうか分からない事態なのだ。
と、初春と佐天は、この時初めて知ったのである。

が、次の瞬間、佐天は自分の脳裏に悪巧み【いいアイデア】を思い浮かばせる。
このピンチをチャンスに変える一手を。


531 : 例えアンタが私の事を全て忘れてしまったとしても :2015/06/02(火) 01:02:43 Rpaz8mBM
「…上条さん。あたし達とどういう関係か、と仰いましたよね…?」
「え、ええ、まぁ…」
「えっとですね。こちらにいる方、名前を御坂美琴さんと言うのですが」
「はぁ、御坂さんですか」

「御坂さん」と他人行儀に呼ばれて、胸がズキッと傷む美琴。
しかし、すぐにそんな余裕も無くなる事となる。佐天からの、

「実は上条さん! この御坂さんとお付き合いしてたんですよ!」
「「「な、なんだってー!?」」」
「しかもお二人のご両親も公認してて、婚約も済んでて、
 キスは勿論のこと一線も越えてると、この界隈ではもっぱらの噂です!」
「「「な、なんだってー!?」」」

爆弾発言によって。
ちなみに「なんだってー」と大声を出したのは、上条、インデックス、そして美琴である。
記憶の無い上条と、当人ではないインデックスは分かるとして、
付き合っていたなら何故、美琴まで驚愕しているのだろうか。

「ちょっ、何、言っ、佐て、いや、わた、待っ、あの、ど、どういう事っ!!!?」
「ですから、上条さんに『本当の事』を教えてあげようかと思いまして。
 それに脳への刺激は早く回復するのにいいんですよね!?」
「確かにそう言ったね? …ふむ、恋人との会話か。良いアイデアかも知れないよ?」

医者も佐天の茶番に乗っかったようだ。
彼は患者を助ける為ならば治療の手段を選ばない医者【おとこ】である。
そして今の彼が最も優先する事は上条の記憶の早期回復なので、
佐天の提案した、上条の「脳への刺激」が最も期待される方法に同調したのだ。
故に、『本当に上条と美琴が付き合っているかどうか』など、知ったこっちゃないのである。
が、そこに納得できない者が一人。

「ちょっと待ってほしいんだよ! とうまと短髪は別に付き合モゴッ!?」

と間違った情報を訂正しようとしたインデックス。
しかし背後から初春に羽交い絞めされた挙句、口を塞がれた事で未遂に終わる。
初春が行ったのは、大覇星祭のフォークダンス事件の際、白井にやった事と同じだ。
この場に白井がいない事で余裕ができ、標的をインデックス一人に絞れたのである。
ちなみに件の白井はと言えば、上条とイザコザを起こした犯人達の事情聴取中だ。
初春は非番なので見舞い【こちらがわ】だが、もしここに白井がいたら、
佐天の作戦もご破算になっていた事だろう。危ない危ない。

「と、言う訳で…邪魔者【あたしたち】は出ますんで、お二人で仲良くイチャラブってください♪」
「そ、そそそれでは失礼します!」
「もごもご、もごーっ!!!」
「次の回診は3時間後だからね? それまでごゆっくりと?」

勝手な事を言いながら、4人は病室を後にした。
インデックスは初春に引きずられながら、強引に、ではあるが。
そして病室に残された患者とそのガールフレンド(仮)は、
顔を真っ赤にしたまま口をパクパクとさせたのだった。


532 : 例えアンタが私の事を全て忘れてしまったとしても :2015/06/02(火) 01:03:28 Rpaz8mBM
 ◇


病室に取り残された二人は、お互いに顔を俯かせていた。

「…あ、あの、御坂…さん。その…お、お友達が言っていた事は本当なのでしょうか…?
 その……お…俺と御坂さんが、つ…付き合ってて、しかも…えっと……
 い…一線を超えてしまっているというのはっ!!?」
「わひゃっ!!? え、えええええと、そそ、それは何と言いますかそのっ!!!」

俯いたまま、とりあえず今現在で一番の疑問をぶつけてくる上条。
美琴もどう返して良いのか分からず、ただただテンパる。
違うなら違うとハッキリ言えば良いだけなのに、そうしないのは何故なのか。

「も、もしも本当だったら…俺、ちゃんと御坂さんに責任取りますから……」
「……ちょ、ちょっと待って」

上条が何かとんでもない事を口走っている気がするが、ここは置いておこう。
それよりも美琴には、気に入らない事がある。

「さっきからアンタ、私に対して他人行儀すぎない?
 そりゃ今のアンタからしたら、私は初対面の人なんだろうけど、
 私からしたらアンタはいつものアンタなのよね。
 だからその…さん付けとか敬語とかやめてくれないかしら?」
「っ! そ、そうで…いや、そうだよな。恋人に敬語ってのは違う…よな」
「あっ!!? い、いいいやだからこっ、こここ、恋人とかそういうんじゃなくてねっ!?」
「けど俺、いつも何て呼んでたのかも分からないから…」
「はぇっ!? あ、ああ、うん。名前で呼んでくれればいいわよ。美琴って―――」

言いかけてハッとした。ちょっとした欲が出たのだ。
せっかくだから、いつもと違う呼び方をされちゃってもいいんじゃないかと。

「み、みみみ美琴…ちゃん! って、普段は呼んでるわね! 私の事!」
「そ、そっか。…じゃあ、美琴ちゃん」
「〜〜〜っ!!!」

自分から「ちゃん付け」で呼ばせたクセに、激しく身悶える美琴。思わずゾクゾクしてしまう。
何だろう。この嬉しいような恥ずかしいようなイケナイ事しているような、そんな複雑な気持ちは。

「美琴ちゃん? どうかしたのか?」
「にゃにゃにゃにゃんでもにゃいからっ!!! き、きき、気にしないでっ!!!」

明らかににゃんでもにゃさそうな様子ではあるが、
普段の美琴を知らない上条は、これが美琴の普段の姿なのだろうと勝手に解釈する。
それは当たっていないが、当たっている。
上条が記憶をなくす以前から、美琴は上条と対面すると『大体こんな感じ』だったのだから。

そんな美琴を見つめ、上条はふとある事を思う。

「なぁ、美琴ちゃん。俺が記憶なくす前、どんな風に付き合ってたのか教えてくれないか?」
「ふわっ!!?」

「美琴ちゃん」呼びにまだ慣れない様子の美琴。
もう一度言うが、この呼び方は自分から呼ばせたモノである。

「いや……あの医者の先生が言うには、今日中には記憶が戻るらしいけど…
 でもやっぱり知りたいんだ。俺と美琴ちゃんが、今までどんな事をしてきたのか」
「あ、え、えっと…そ、そう、ね―――」

そこから美琴は上条との思い出を語った。
最初の出会いは最悪だった事、自分が何度も勝負を挑んだ事、恋人のフリをした事、
自分とその周りの世界を守ると誓ってくれた事、大覇星祭で賭けをした事、
競技中に上条が乱入してきて自分を押し倒した事、一緒にフォークダンスを踊った事、
ハンディアンテナサービスのペア契約をした事、その際ツーショットを撮った事、
上条を探しにロシアまで追いかけた事、今度は一緒に戦える為にハワイへ同行した事、
一端覧祭の準備期間中に胸を触られた事、列車の上で初めて上条が自分を頼ってくれた事、
デンマークで上条を抱き締めた事、アクロバイクで二人乗りした事、
そして何度も自分を助けてくれた事―――


533 : 例えアンタが私の事を全て忘れてしまったとしても :2015/06/02(火) 01:04:19 Rpaz8mBM
思い出を楽しそうに語る美琴を見つめながら、上条は聞き入っていた。
何一つ思い出せないが、彼女がこれだけ嬉しそうに語るのならば、やはり自分と美琴は…

(やっぱり俺と美琴ちゃんは恋人だったんだな…早く思い出してあげたいな)

上条はふっと薄く笑った。
しかし何かいい話風に話が進んでいるので、ここらでツッコんでおくが、
そもそも、元々付き合っていないからねこの二人は。
だが記憶の無い上条には、そんな事が分かる訳もなく、
いい感じに打ち解けてきたこのタイミングで、最初の最大の疑問を再びぶつける。

「―――それでね! その時アンタが学舎の園に潜り込んで」
「美琴ちゃん」
「たから私が……へっ!? あっ、な、何?」
「もう一度聞くけど…その……お、俺たちって一線を越えちゃってる訳…だよな?」
「……えっ!!? ぇあ……そ、れは…あの! ……………はぅ…」

その話題を持ち出されると、縮こまってしまい言葉を発する事も困難となり、
「それは違うよ!」と論破する事もできなくなってしまう。
本当は一線を越えるどころか、まだ付き合ってすらいないのに。
だが恋人だと思っている上条(美琴が否定しないのも原因)は、
ここでとんでもない提案をしてくる。

「じゃあ、さ。その…キ…キスとかしてみない…か…?」
「…………………………へ?」

美琴の時が止まった。

「あー…だから、そこまで進んでるならキスくらい何度もしてるだろうし、
 美琴ちゃんとキスすれば、脳への刺激にもなるんじゃないかと…思いまして…」

恥ずかしそうに頬をポリポリとかきながら、しかし中々に大胆な事を言ってくる上条。
美琴は見る見るうちに顔を完熟トマトのように赤くさせる。

「え……ええええええええええええっっっ!!!!?
 ちょちょちょちょままままま待って!!?」

顔を超高速で左右に振りながら、美琴は両手を前に出して距離を取る。
いくら何でも、ここは拒否する必要があるだろう。

「いいいいやほらまだっ!!! こ、こここ、心の準備ができてないからっ!!!」

しかし微妙に拒否しきれていない気がする。心の準備ができたらキスしても良いのだろうか。
が、次の瞬間、運良く(悪く?)この事は有耶無耶になる事となる。

「と〜〜〜う〜〜〜ま〜〜〜っ!!!!!」
「あ痛ぁーっ!!?」

ガラリと病室のドアが開いたと思ったら、瞬きする間にインデックスが病室に突入し、
疾風怒濤の勢いで上条の頭にかじりついたのだ。
どうやら初春の拘束を解いて急いで駆けつけたようだが、
むしろここまでインデックスの動きを封じていた初春に称賛を送りたいものである。

頭をかじられた事で(物理的な)刺激が与えられた上条。
この瞬間、上条の脳内が一気に冴え渡る。

「思い…出した!」

そう、上条は全てを思い出した(当然7月28日以前の記憶は依然として戻らないが)のだ。
思い出したが故に、上条は三度目となるこの疑問を口に出した。

「……あれ? でもだったら、俺と美琴『ちゃん』が付き合ってて一線も越えてるって、
 どういう事なのでせう?」

瞬間、美琴はついに顔を爆発させたまま気絶し、インデックスの歯は益々上条の頭に食い込み、
初春は赤面して「ぬふぇ〜」と呟き、佐天は面白い物を見たと言わんばかりにニヤニヤしていた。
どうやら初春と佐天は、病室を出た後もドアを少し開けて、中の様子を覗いていたようだ。

カエル顔の医者が回診しに来るまで残り2時間弱。
ここにいる5人がこっぴどく怒られるまでの時間も、残り2時間弱である。


534 : くまのこ :2015/06/02(火) 01:05:17 Rpaz8mBM
以上です。
新約13巻めっちゃ楽しみです。
はよ7月来い。
ではまた。


535 : ・・・ :2015/06/02(火) 22:58:03 LWBGmHYA
ども、・・・です。
先週末から体調悪かったんですがね、
月曜日に上琴のまとめを徘徊して、少し、ましになり、
今日くまのこさんの作品見て、体調戻りました。
とんでもない病気になったようです。


〉〉てっきりカミやんが俺様を目指すネタの続編と思ったぜい
カミやん、不幸が積み重なるのは、順調とは、言わないんやで
しかし。間違いなく。営業妨害。
佐天ちゃんが考えていた人形の使い方としては、正しいと思うのですよー

〉〉きっと麻琴が生まれる
そもそもこの話の前に禁書1巻分の事件があったであろう件は無視ですかそうですか。
先生、医療ミスです。その判断は、患者さんの傷を増やしただけです(物理)
自分で呼ばせたくせに……



では、投下します。
育児日記の続きです。

この物語はフィクションで、二次創作で、
オリ設定多数で、ちょっと鬱設定あって、
まだ上琴は付き合ってませんで、
インデックスが赤ちゃんです

それでは


536 : 衣替え :2015/06/02(火) 23:06:03 LWBGmHYA

『そ、その人、誰?』

『ん? あぁ、この間一緒に戦ったやつでさ』

『一緒に住んでんの?』

『あぁ、事情があって匿ってんだ』

『お、男の子よね!!?』

『これがなかなかこう見えて男らしいやつで『アンタがそんな趣味してたなんてぇぇぇぇぇえええええええ!!!!』とんでもなく愉快な勘違いしてらっしゃる!!!!? ま、待ちやがれぇぇぇぇぇえええええええ!!!』



システム復旧率23%


537 : 衣替え :2015/06/02(火) 23:06:51 LWBGmHYA
木の葉が舞う。
どんなものにも終わりがある。
夏が、過去になる。

「へくちっ!!」

「くっちょっ!!」

「ふぁぐしょおい!!」

美琴、インデックス、上条の3人がハーモニーを奏でた。
今日も3人は仲良く外出である。

「うー、最近、気温の変化が激しいな」

「明日から学校も衣替えだしね」

「うー……くっちょっ!!」

「あらら」

「はい、インデックス、ちーんして」

「ちゅーん!!」

「それじゃ、さっさと買い物終わらせるか」

「そうね、掃除まだ終わってないし」

「あい……くっちょっ!!」


538 : 衣替え :2015/06/02(火) 23:07:22 LWBGmHYA

変化、というものは少しずつ訪れる。
変化があった本人達は気付かない速度で。






第一次上琴条約。
仰々しい名前だが、要は遊びに誘われたら遊びに行けってことだ。
だがしかし、

「えーと、お姉さま?」

「えっ? 何?」

「何見てるんですか?」

「インデックスの靴がね、小さくなったのよ」

「はぁ、ですが何で靴ではなく裁縫セットを見てるんです?」

「あの靴この間買ったばかりなのよ? いっそ、当麻の服が破れたときみたいにわたしが縫った方が安くすむかなぁって思って」

(主婦か!!)

(嫁か!!)

(ツッコミ雑!!)



「なぁ」

「どうした? カミやん」」

「これと、これ、どっちがいいと思う?

「……どっちも同じだと思「「ふざけんな‼」」なんだ!?」

「「こっちはゲコ太でこっちはケロヨン!! ゲコ太はケロヨンの隣に住んでいるおじさんで乗り物に弱くてゲコゲコするからゲコ太と呼ばれてるんだ(よ)!! こんな簡単な違いも分からんの(か)!!?」

「……全然わからんぜよ。つか、なんでそんな詳しいんだニャー?」

「そりゃ一部の女の子に大ブームなラブリーミトンシリーズやもん。ボクが、チェックしてないわけがないやん!!」

「一部なのか大ブームなのか、そこが問題だぜい」

「は? なにいってんだよ。こんくらい常識だろ?」

「「……常識ではないかな?」」

「知ってるか? ゲコ太は第63話でケロヨン達とバスに乗ってんだ。別にミスとかじゃなくて、そのあとしばらく登場しないし、後で旅行の時はトイレにこもったっていってるから、やっぱりゲコゲコしてたみたいだぞ」

「カミやんが遠くに行ってしまった感があるぜい」

「そ、そんな、ボクが追い付けへんなんて……」

「オレから見たらどっちも同じカエルだぜよ」

「……そうだよな、どっちもとればいいんだよな」

「「???」」

「ここにあるのは今朝、美琴からもらったお小遣い!!」

「お小遣い制なんやね」

「1週間分!!」

「にしては心許ないにゃー」

「それをこのクレーンゲームに注ぎ込む!! インデックスと美琴の笑顔のために、唸れおれの右手!!!」

「「待て!! カミやん!! 死亡フラグだ!!!」」


539 : 衣替え :2015/06/02(火) 23:08:00 LWBGmHYA

自覚のない変化は周囲にも派生し、
周囲もまた、変化していく。





「どうしたら美琴と付き合えるだろう?」

「どうやったら、当麻に振り向いてもらえるんだろ?」

あんだけ熟年夫婦っぷりを見せつけて、隙があれば互いのノロケを撒き散らす。
そんな公害からもちかけられた相談が、週4回とも同じ台詞だった。
もう、こてんぱんにするしかないのだった。

「ま、待って!! なんで怒ってんの佐天さん!!? 初春さんもシカトしてないで助けて!!」

「ごべぶはぶっ!! にゃにしゅるんふぇふゅか!!  あと白井はどっから出てきた!!?」






木の葉が舞う。
どんなものにも終わりがある。






「……こんなに、早く、ですか。綿辺先生」

「ええ、ようやくです。寮監さん、あなたがいちばん喜ぶと思ってましたが、何かあったんですか?」

「……いえ」

「しっかりしてください。貴女がしゃんとしないと、示しがつきませんよ」



どんなものにも終わりがある。



「せっかく来週には寮が完成するんですから」





変化、というものは少しずつ訪れる。
変化があった本人達は気付かない速度で。





「……くっちょ!! う、くっくっちょ!! くっちょ!! コホッ コホッ コホッ」


540 : ・・・ :2015/06/02(火) 23:15:27 LWBGmHYA
あーうん、
次は、ちょっと暗いよ〜


541 : ■■■■ :2015/06/03(水) 21:13:55 POKbIAiU
乙。


542 : くまのこ :2015/06/05(金) 23:56:05 j9fRwIqY
>>・・・さんGJです!
何だか次回、しんみりしちゃいそうな予感ですね…
続き待ってます!



短編書きました。
今月のガンガンオンラインのいんでっくすさんの後日談になります。
6月24日まで読めますので、まずはそちらをお読みください。
約3分後に3レスです。


543 : 心理掌握・佐天さん :2015/06/05(金) 23:58:35 j9fRwIqY
「はあぁ〜……」

と冒頭からいきなり後ろ向きな溜息をついているのは、
たった一つのポケットティッシュを大事そうに抱えた上条だ。
彼の両隣には、「あはは…」と苦笑いしている美琴と、プリプリと怒るいんでっくすさんの姿が。

「もぅ! もぅもぅ! だから私が福引するって言ったのに!」
「だってお前、やり方が分かんないってモタモタしてたじゃねーか!」
「せっかく券も10枚集めたのに!」
「ぐっ…! ティ…ティッシュだって立派な景品なんだぞ!?」

上条といんでっくすの会話を聞くに、どうやら彼らは福引をやったらしい。
しかし抽選機を回してしまったのは上条のようで、不幸な彼は当たり前に白玉【ハズレ】を出した。

「ま、まぁいいじゃない。たかだか福引くらい―――」
「たかだかぁ…?」

フォローしようとした美琴だったが、言い方が悪かったのか逆効果になってしまったようだ。
上条はゆらりと美琴の方へと顔を向ける。

「お、お前はお嬢様だから分かんないだろうけどな!
 俺みたいな平民庶民にとって、福引は一攫千金を狙う大チャンスであってだな!」
「わわわ、分かったわよ悪かったわよ! 謝るから、そんなに顔近づけんな馬鹿っ!」

美琴の間近まで顔を詰め寄らせる上条。美琴も、ホントは嬉しいクセに。

「はぁ…じゃあ私が買い物したら、またアンタ達に福引券あげるから。
 だからとりあえず今日はティッシュ【それ】で我慢しときなさいよ」

嘆息しつつ、双方が納得できそうな妥協案でその場の収束を試みる。
すると上条は、『再び』地面に自分の頭を擦りつけた。

「ありがとうございます女神様っ!!!」
「だ、だだ、だからやめなさいよそれっ!!!」
「とーまとーま! 私もやった方がいいのかな!? DOGEZA!」
「やんなくていいって言ってんでしょっ!!?」

と、美琴が二度目の神転生を成し遂げたこのタイミングで、

「あれ? 御坂さんに上条さん! …っと、シスターさん?」

お米を一袋、重そうに抱えながら歩く佐天と曲がり角でバッタリと出会う。

「あっ、佐天さん。そのお米どうしたの?」
「にしし! ほら、例の福引あるじゃないですか。
 券10枚拾ったんでやってみたら、お米10㎏が当たっちゃったんですよ♪」
「んなにーっ!?」

佐天の言葉を聞いた上条は、思いっきり膝を突いた。
しかし今回は土下座としての意味ではなく、 orz ←これである。
福引券10枚全てを『貰った』ではなく『拾った』というのも衝撃だが、
それで更にお米まで当ててしまうとは、(上条にとっては)想像も出来ない程の幸運力である。
その上お米10㎏…それは毎月毎週毎日と食費に悩まされている上条にとって、
正に喉から手が出る程に欲しい代物だ。

「とーま! あれだけあれば、ご飯がいっぱい食べられるんだよ!」
「そうだね…でも食べるのは俺たちじゃないけどね…」

そんな世知辛い会話をする上条たちの様子を察してか、佐天からある提案が成された。

「え…えっと……よ、良かったらお米【これ】、差し上げましょうか…?」
「「いいのっ!!?」」

即座に、上条といんでっくすが食いついた。

「「女神様ー!!!」」

ついでに佐天も崇め奉った。美琴に続いて、二人目の神の誕生である。
いんでっくすは十字教徒として、本当にそれで良いのだろうか。

「えっ!? えっ!? な、何ですかこれ!?」
「ああ、うん。気にしなくていいと思うわよ。私もそれやられたから」

と恥ずかしくて真っ赤になる佐天ではあるが、彼女もただで転ぶような性格ではない。
上条のこの喜びようを見て、佐天はピーンと閃いたのだ。そう、お待ちかねの悪巧みタイムである。


544 : 心理掌握・佐天さん :2015/06/05(金) 23:59:19 j9fRwIqY
「あー、上条さん? あげてもいいですけど、ただと言う訳には…
 って言うか、いい加減に土下座やめてくださいよ!」

まだやっていたのか。

「うぇっ!? そ、そりゃそうだよな…仕方ない、佐天にはこのティッシュを…」
「要りませんよそんなの!」

上条はハズレで引いたポケットティッシュと物々交換しようとしてきやがった。
完全なる不平等条約である。何だこのコント。

「でも…今、他に交換できそうな物なんて持ってないぞ?」

上条は自分のポケットをまさぐりながら答える。
中から出てくるのは、絡まりあった毛玉や糸くずばかりである。
すると佐天はニタリと邪悪な笑みを浮かべた。美琴の背筋に、ゾッと寒いモノが走る。

「じゃあ体で支払ってもらうしかないですね…
 今から上条さんには、あたしの言う事を何でも聞いてもらいます!」
「ああ、そういう事か。うん、全然OK」

お米欲しさに、佐天の言う『言う事』がどんな物なのかも聞かずに、
アッサリとOKする上条。こうして佐天は能力も使わずに、上条を心理掌握したのである。
美琴からしたら、否が応でも嫌な予感が止まらない状況だ。
佐天がこんな顔の時に企んでいる事と言えば十中八九…

「じゃあまずは、御坂さんを抱き締めてください!」
「ほらきたやっぱりいいいいいいいい!!!」

美琴は絶叫しながら顔を真っ赤にさせた。
しかも『まずは』という事は、これ一つでは済まさないご様子だ。
ここで上条が取るべき正しいリアクションは、
「…何で佐天との交換条件なのに、御坂が出てくるんだ?」と顔をキョトンとさせる事だ。
しかし今の上条は米に目が眩んだ状態であり、佐天の言う事には絶対服従の身だ。
疑問など持たず、瞬時に美琴との距離を詰める。

「すまんな御坂…これも上条さんの食費を助ける為なんだ。我慢してくれ」
「そそそそそれは私には関係ない事じゃな、って言うか逃げられないだとっ!?」

上条との距離を離そうと後ろに一歩下がろうとした美琴だったが、
何故か足が動かない。見ると自分を足をガッシリと掴んでいるいんでっくすの姿が。

「ごめんね短髪…これも私がお腹いっぱいになる為なんだよ。我慢してほしいかも」
「だからそれ私には関係ない事でしょっ!!!?」

上条と同じような事を言いながら美琴をロックするいんでっくす。
彼女とて本当は上条と美琴が抱き合う姿など見たい訳ではないが、
それよりも何よりも、まずはご飯が優先なのである。

「じゃ、御坂さんが逃げられなくなった所で…やっちゃってください上条さん♪」
「アラホラサッサー!」

上条は上官【さてん】に向かって敬礼をした後、美琴を思いっきり、

「え、えっ!? ちょ、待、ほ、本当にやる気―――」

思いっきり抱き締めた。

「にゃあああああああああああっ!!!」
「こうか!? これがええのんか!?」
「みょわあああああああああああっ!!!」
「そ〜れそれそれ、むぎゅ〜〜〜〜!」

何かもう、上条も変なテンション(そうでもしないと我に返りそうだから)になり、
訳の分からない事を口走りながら抱擁する。そして美琴は大絶叫する。地獄絵図である。
ちなみにこの際、美琴は本能的に頭から電撃を垂れ流しているが、
上条の右手によって打ち消されている。仕方ないね。

「はい! そこでこれを読んでください! 出来るだけ、御坂さんの耳元で!」

美琴を抱き締めている後ろで、佐天から一枚のメモを手渡された。
上条は左手(右手を放すとビリビリが来るから)を美琴から放し、それを受け取る。
さぁ、上条が真面目な顔を作り、これからそのメモの内容を読み上げる訳だが、
皆さんは件のイケメン条さんの顔(イケメンAA)を思い浮かべ、
念の為に牛乳かウーロン茶を口に含んで読んでいただきたい。


545 : 心理掌握・佐天さん :2015/06/05(金) 23:59:59 j9fRwIqY
「………俺は美琴にラブラブチュッチュでゾッコンハニーなんだぜ…?」
「ふぉあああああああああああっ!!!」

ひっどい台詞である。
しかも何となくニュアンスは伝わってくるが、微妙に細かい意味が分からない。
美琴の耳元で囁いた上条だが、佐天のメモ通りに言わされた台詞の為、上条本人も不本意である。
しかし本来なら百年の恋も一気に冷めてしまいそうな台詞であるが、
千年の恋をしている美琴には効果抜群だったらしく、真っ赤な顔を更に赤くさせてしまう。

「さぁ! ここでとどめ(?)ですよ!」
「ま、まだやるのか!?」

すでに頭から煙を出してノックアウト状態の美琴だが、佐天の死体蹴り【みこといじり】は止まらない。
上条も流石に「これ以上はちょっと…」と目で訴えるが、
目の前でお米10㎏の袋をチラつかせられては、どうしようもない。
無言で渋々ながら納得する上条に気を良くした佐天は、ついに。

「じゃあ最後って事で…御坂さんにキスしてください!」
「「「えっ…………えええええええええええええ!!!?」」」

上条、美琴、そして美琴の足をこれまでずっと掴んでいるいんでっくすの三名が、同時に叫んだ。

「いいいいいやああああのさささささ佐天さんっ!!? そそそれはささささ流石にっ!」
「そ、そうなんだよ! キ…キスはちょっと『ズルい』かもっ!」

慌てて否定する美琴といんでっくす。それは勿論、上条も同様だ。

「……く、口は無理だから…ほっぺでもよろしいでせうか…?」
「「えっ…………えええええええええええええ!!!?」」

しかし微妙に受け入れてる上条に、美琴といんでっくすは再び叫んだ。

「う〜ん……本当は唇が一番いいんですけど…まぁ、それで手を打ちましょう」
「いやいやいやいや!!!
 て…ててて、手を打つも何も、何で佐天さんに決定権があるの!? 私の意志は!?」
「ですから御坂さんの意志を尊重して、唇は大切な時に取っておいてあげてもいいかなと」
「微妙に会話が成り立ってないわ佐天さん!!!」

「とーま! いくら何でも、それはやりすぎじゃないのかなっ!?」
「よく考えろ、いんでっくす。ほっぺにキスするだけでご飯がいっぱい食べられるんだぞ?
 逆に考えるんだ。『キスぐらいしちゃっていいさ』と」
「うううぅ……でも…でもっ!」
「たまには、おかわり何杯でも自由って奴をやってみたくないか?」
「……………やってみたいかも…」

佐天は美琴を、上条はいんでっくすをそれぞれ説得させる。

「いや私は説得させられてないんだけどっ!!?」
「もう! 往生際が悪いですよ!?」
「私が悪いの!? ねぇ、これって私が悪―――」

―――……… ちゅっ

美琴が佐天に対して、まだ抗議している途中だった。
突然『ちゅっ』と音を立てて、頬にじんわりと温かい体温と、柔らかい感触が当たる。
何が起こったのかは、ご存知の通りだ。



こうして上条は、約束どおり佐天からお米10㎏を貰ったのである。
上条は食費が助かり、いんでっくすはお腹いっぱいのご飯を食べられるようになり、
佐天は面白い物を見る事に成功し、そして美琴は―――
つまり、全員でWin-Winな関係…いや、4人なのでWin-Win-Win-Winな関係になったのだった。


546 : くまのこ :2015/06/06(土) 00:00:46 zEqTR2BI
以上です。
ミコっちゃんは女神様だった!
ではまた。


547 : くまのこ :2015/06/08(月) 22:10:56 QRK9dq1Y
連投すみません。
支部でリクを受けたので、とある少女の初恋物語の続編を書いてみました。
なので>>14-16を先に読んでいただけるとありがたいです。
約3分後に4レスです。


548 : とある少女の初恋再現 :2015/06/08(月) 22:14:02 tQiP83M.
「お姉様は幼少期どのような生活をしていたのですか、とミサカは質問します」
「………はい?」

紅茶を一口飲もうとティーカップの取っ手を持った瞬間、美琴は妹からそんな質問を受けた。

ここはいつものファミレス…ではなく、レトロな雰囲気の小さなカフェである。
今日は白井や初春や佐天ではなく、妹(ミサカ10032号)とお茶をする約束をしていたのだ。
しかしJoseph's【いつものみせ】では白井たちと鉢合わせする危険がある為、違う店を選んだのだろう。

しばらく妹と、紅茶飲みーのスイーツ食べーのしながらオサレな雑談をしていたのだが、
ふいに妹が、冒頭の質問をしてきたのだ。

「えっと…どうして急に?」
「ミサカには幼少期というモノが存在しないので、少々興味があります、
 とミサカは表情に影を落としてお姉様に同情を買わせます」
「ぐっ…!」

あざとい作戦ではあるが、効果は抜群だ。美琴の心にズキッと痛みが走る。
彼女たち妹達は、その開発に紆余曲折はあったものの、
最終的には絶対能力進化計画で一方通行に実験される【ころされる】為に生まれた。
カプセルの中で強制的に成長させられた【ばいようされた】彼女達には、当然ながら幼少期など存在しない。
だから自分のオリジナルである美琴が、どのようにして成長していったのか興味があるのだ。

「そ…そんな事言われても、私だって子供の頃の事なんてよく覚えてないわよ?」

美琴としても答えてあげたいのは山々だが、人の記憶というのは劣化していく
(どこぞの完全記憶能力者の腹ぺこシスターさんなら話は別かも知れないが)モノだ。
小さい頃の記憶なら、尚の事忘れてしまっている。
今はもう美鈴【ママ】との大切な思い出などが、断片的に思い出せる程度である。
他に思い出せる事と言えば―――

(……私の初恋の、あのツンツン頭の男の子の事…とかかしら)

美琴が学園都市に移って間もない時…
そう。正に研究者にDNAマップを提供し、妹達が生まれる切っ掛けを作った直後だった。
彼女は小さな公園で、ある男の子と出会った。
記憶の劣化と共に顔もおぼろげになってしまったが、そこで彼と一つの約束をしたのだ。

『お嫁さんかー…じゃあ、将来俺が独身【ひとり】だったら、お嫁さんになってくれるか?』
『うん、いいよ! じゃあ、お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる!』

小さな公園の小さなプロポーズ。そして美琴の、小さな初恋。
だがそれも今となっては良い思い出であり、美琴は初恋よりも現在の恋に精一杯【いっぱいいっぱい】なのだ。
だから妹の期待にも応えられそうにないのである。
しかし妹は、そんな美琴の様子も想定の範囲内と言わんばかりに、一冊の本を取り出す。

「大丈夫です。こんな事もあろうかと退行催眠の本を入手しました、
 とミサカは本当は幼少期云々はどうでもよく
 実はこの本を試したかっただけなのだという事を絶対に聞かれないように口をつぐみます」
「おいコラ」

口をつぐむ気が全くない様子の妹。
先程の心の痛みと、初恋のアンニュイな気持ちを返してほしいところである。

「まぁまぁ、可愛い妹の頼みですから、とミサカは両手を顎に添えて首を傾げてアピールします」
「……分かったから、ちゃっちゃと試してみなさい」

もう色々とツッコムのも面倒になった為、美琴は妹の退行催眠の実験【やりたいこと】をぞんざいに受け入れる。
美琴から(一応の)了承を得た妹は、ふんすと荒い鼻息をしながら本を広げた。
どんだけ催眠術を掛けてみたかったのか。

「ではまず、頭の中で白い階段を思い浮かべてください、とミサカは―――………」

妹の言葉に耳を傾けながら、美琴はゆっくりと目を閉じた。心の中で、

(どうせ掛からないだろうけど、ちょろっとだけ付き合ってあげますか)

と高を括りながら。


549 : とある少女の初恋再現 :2015/06/08(月) 22:14:55 QRK9dq1Y
 ◇


「ま、まさかここまでとは…とミサカは遊び半分でやっちまった事に後悔を隠せません」
「……お姉ちゃん、ママに似てる」

それから数分。
御坂妹の催眠施術は完了した訳だが、結果から言えば大成功だった。
と言うよりも、むしろ成功しすぎな程である。美琴は見事に幼児退行してしまった。
今の美琴の精神年齢は、おそらく小学校低学年くらいだろう。
美鈴【ママ】に似た御坂妹の顔を、じぃ〜っと見つめている。

「いえ、ミサカはお姉様の母親【ママ】ではなく妹です、とミサカは返答します」
「? 私、妹なんていないよ? だからお姉ちゃんでもないし」
「ですからそれはあの、とミサカは珍しく手をバタつかせて焦っててんやわんやです」

想定外なまでの催眠効果に、御坂妹はキャラ崩壊しかける程にテンパっていた。
今頃はミサカネットワーク内も、相当なお祭り騒ぎとなっている事だろう。

「ここはやはり再び催眠術を掛けて元に戻すべきでしょうか、とミサカは他の妹達に問いかけ―――」

ブツブツと脳内会議【ひとりごと】を始める御坂妹。
と同時に美琴は、ふと窓から外の景色を覗いてみた。すると。

(ゲコ太だっ!!!)

カエルのキャラクターのぬいぐるみを持った高校生くらいの少年が、
街中を歩いていく姿が目に映った。そして次の瞬間には、美琴は店から飛び出していた。
精神年齢が小学校低学年となった今の美琴には、
小学生の行動力と好奇心、そして中学生の体力と運動神経が備わっているのである。


 ◇


「―――いやいや、きのこ厨のクセに口を開くんじゃねーよ味覚障害が、
 とミサカ10032号はたけのこ様こそが唯一絶対神なのだと声を大にして宣言します」

ミサカネットワークは白熱し、いつしか御坂妹の脳内では、きのこたけのこ戦争が勃発していた。
妹達にも個性が生まれ、味覚もそれぞれ変わってきた事による弊害…なのだろうか。
しかし御坂妹は、それよりも今はお姉様の事について話し合っていたのだいう事を思い出す。

「はっ! こんなくだらない事を議論している場合ではありませんでした。
 ではかなり脱線してしまいましたが、お姉様の処遇について決を採ろうと思います、
 とミサカ10032号は……」

と、ここでやっと目の前に美琴【おねえさま】がいない事に気付いた。
御坂妹は無表情のまま顔を青ざめさせ、再び脳内会議を開始する。それも、かなり緊急で。


550 : とある少女の初恋再現 :2015/06/08(月) 22:15:42 QRK9dq1Y
 ◇


「しっかし、どうすっかなー…これ」

上条は小さな公園のベンチに腰掛け、手に持っているカエルのぬいぐるみを見つめる。
実は先程、小さな女の子が迷子になっていたので、近くの風紀委員支部まで送り届けたのだ。
このぬいぐるみは、その際に女の子から、
お礼として貰った(ついでにその女の子にフラグも立てた)物だ。
しかし上条は別にゲコラーではない。はっきり言って要らない物である。
だが女の子からの好意を無下にする事は、紳士を自称する上条さんにはできなかった。
と言うよりも、断ったら風紀委員からの視線も痛い物に変わっていただろう。
故に受け取るは受け取ったのだが、しかしこれを持って帰るべきか否か、
持って帰らないとしたら具体的にどうするべきか。
それらをじっくりと考える為に、公園に立ち寄ったのである。すると。

「ねぇ、そのゲコ太いらないの?」

隣から誰かに声を掛けられた。上条が振り向くと、そこには。

「…ああ、美琴か」
「…? うん、そうだけど……」
「そういや美琴ってこのカエルが好きだったっけ。うん、いいよ。やるよ、これ」
「…えっ!? いいの!? わーい、やったーっ!」

名前を呼ばれた瞬間、妙にいぶかしんだ美琴だったが、
上条がゲコ太を差し出すと、まるで『子供のよう』に大はしゃぎした。
いつもと違って普通に素直な反応に、上条はほんの少し違和感を覚える。

「えっへへ〜…お兄ちゃん、ありがとう!」

そして一瞬で違和感は確信に変化した。

「誰だお前っ!!?」
「誰って…美琴だよ? お兄ちゃんがさっき、そう言ったじゃない。
 ……あっ! そう言えば何でお兄ちゃんは私の名前知ってたの?」

この性格、この口ぶり。それは明らかに上条の知る御坂美琴ではなかった。
熱でもあるのか、さもなければ。

「…あっ。あーあー、はいはい。なるほどね。
 つまりアレだ、ミコっちゃんは何かしらの異能の力で性格が変わってると。
 うん、そうかそうか。よし、じゃあさっそく…そげぶー」

魔術か超能力かは分からないが、この異変は間違いなく性格の改竄が行われている。
そう思った上条は、右手で美琴の頭を触り、そのままナデナデとまさぐる。

「んにゅ…にしし。くすぐったいよ、お兄ちゃん」

すると美琴は、ほんのりと顔を赤くして恥ずかしそうに笑った。
可愛い。しかし思ってたリアクションと違う。右手も何の反応もしていないし。

「あれっ!? な、何で!?」

美琴の頭から手を離した上条は、幻想を殺さなかった自分の右手をまじまじと見つめる。
実は美琴は現在、『何者か』によって退行催眠を掛けられているのだが、
催眠術は異能の力ではない為に、幻想殺しも通用しないのだ。
そして美琴が催眠術に掛かっているという事実も、当然ながら上条は知らない。


551 : とある少女の初恋再現 :2015/06/08(月) 22:16:32 QRK9dq1Y
一方で、上条に頭を撫でられた美琴は、胸がキュンキュンとしていた。
しかしこのドキドキ感は、以前にも感じた事がある。
しかもよく見れば、この上条【おにいちゃん】のツンツン頭も、見覚えがある気がする。
そう、確かこの公園で―――

「……お兄ちゃんもしかして…あの時、私をお嫁さんにしてくれるって言った人…?」
「……………へ?」

訳の変わらない事態が解決する前に、訳の分からない疑問が増えていく。
上条は『美琴をお嫁さんにする』などと言った覚えは無い。
記憶喪失になる前だろうか…?
いやいや。記憶を失ってから大分経つが、美琴から一度もそんな話を聞いた事がない。
小さい頃ある男の子にプロポーズされた、というのは聞いた事があるが。

疑問符が頭に浮かび続ける上条をよそに、美琴は無邪気な笑顔で上条の腕を引っ張ってきた。

「お兄ちゃん! せっかくだから新婚さんごっこしよ!?
 お兄ちゃんがパパで、私がママで、ゲコ太【このこ】が赤ちゃん!」

そしてそのまま、おままごとのお誘い。
一向に解決しない疑問の数々に頭がパンクした上条は、

「……よ〜し、やったらぁ! パパでも何でもやってやりますとも!
 おーい、ママ〜! 今、帰りましたでございますよ〜!」
「は〜い、パパ〜! 今ご飯作りますからね〜!」

考えるのをやめた。
今の美琴は確かに異常事態である。異常事態ではあるが、しかし非常事態ではなさそうだ。
放っておいても危険な状況にはならなそうなので、
とりあえず上条は半ばヤケクソ気味に、パパを演じる事にしたのだった。


 ◇


その十数分後の事である。
あれから御坂妹は、消えた美琴を探すべくカフェを出た。
学園都市内にいる妹達が総出で捜索し、目撃情報もミサカネットワークで逐一情報共有した為に、
結果としては早期発見する事ができ、こうして公園にやってきた…のだが。

「こ…この状況は一体どういう事なのですか、とミサカは混乱します」

彼女が目撃したモノは。

「はいパパ! 泥だんご【ごはん】ができたわよ!」
「はーい、いただきまーす。もぐもぐもぐ。うわー、オイシイナー」
「うふふ! じゃあゲコ太【このこ】にもご飯あげないとね! 今おっぱいをあげまちゅからねー!」
「いやいやいやいや待て待てママ! お…おっぱいは後でいいんじゃないか!?
 カエル【このこ】もホラ、もう寝ちゃったし!」
「そう? じゃあお風呂に入りましょうか」
「だから待てってママっ!!! 脱ぐな脱ぐなこんな所で!
 きょ、今日はもう疲れたし俺達も寝よう! なっ!?」
「じゃあパパ、おやすみのチューして?」
「…………ちゅ、ちゅー…で、せうか…?」

御坂妹は、一刻も早く一目散に駆け寄って美琴の催眠術を解いたのだった。


552 : くまのこ :2015/06/08(月) 22:17:48 QRK9dq1Y
以上です。
思いっきり過去捏造しちゃってますが、
まぁ、大目に見てやってください…
ではまた。


553 : くまのこ :2015/06/12(金) 20:52:35 7GHGFfZo
また連投ですみません…
短いのを書いたので、性懲りもなく投下しにきました。
>>426-427の続編なので、もし良かったらそちらから読んでみてください。
約3分後に2レスです。


554 : それも美琴の悩む理由 :2015/06/12(金) 20:55:21 7GHGFfZo
ここは某ホテル。
美琴はベッドに横たわりながら、ポワ〜っとした頭を働かせる。
現在、自分のすぐ隣には付き合っている男性【かれし】・上条がおり、
その上条は今、「あれ? パンツどこ行った?」と能天気な事を言いながら、
ベッドの中をまさぐっている。
これはつまりどういう状況かと聞かれれば、『おたのしみでしたね』としか言えないのだが、
そこら辺はまぁアレがナニしたという事で察してほしい。

しかし美琴の身体は「はぁはぁ」と荒い息を吐いて幸せの絶頂だというのに、
その顔はどこか浮かない表情を作っている。
せっかくの上条とのデート、そしてその仕上げに、
世界で一番の幸福な時間を味わったはずなのに、である。

実は彼女、ここ最近、ある大きな悩みを抱えているのだ。
それは付き合う前ならば頭に過ぎりもしなかった悩みだった。
付き合ったからこそ、そして付き合ってしばらく経ち、
心にも多少の余裕が出来たからこその悩みなのだ。
美琴は目を伏せて、胸に手を当てて自分の鼓動を感じながら、
誰に言うでもなく心の中で思う。内に秘めた、その悩みを。

(………当麻が1回イク前に…私、4回もイっちゃった……)

さぁ、急速にどうでもよくなってまいりました。
つまるところ美琴の悩み(笑)とやらは、自分は少々イキやすすぎるのではないかという事だ。
ちなみに、どこへ『行く』のかは、ちょっとよく分からないので割愛しよう。
それと美琴は普段、上条の事を「アイツ」だの「この馬鹿」だの呼んでいるが、
今は『おたのしみでしたね』の後で甘々モードなので、「当麻」と呼んでいる。

「お〜、あったあった!」

と安物のトランクスを穿きながら、上条は美琴に顔を向ける。
すると瞬時に、美琴の顔に不満の表情が広がっている事に気付いた。

「ど、どうかしたのか美琴!?
 あの、その…も…もしかして気持ち良くなかったでせうか!?
 あ、えと、か、上条さんも慣れてない、っていうか美琴さんが初めてのお相手でして、
 経験不足は否めませんが何か無作法があっても致し方ないと言いますか
 何かもう本当にすみませんでしたーーーっ!!!」

上条は、自分に何か不備があったものと思い、ベッドの上【そのば】で土下座した。
それは刀夜直伝の、それは綺麗なそれは土下座であった。
美琴と『おたのしみでしたね』をするのは今回が初めてではないが、
これまでの『おたのしみでしたね』も、もしかしてご満足いただけなかったのではないかと、
上条さん自己嫌悪である。そんな上条を横目に、美琴は慌てて否定する。


555 : それも美琴の悩む理由 :2015/06/12(金) 20:56:12 7GHGFfZo
「あっ! ちち、違うの! 当麻が悪いんじゃなくて!
 って言うかその…気持ち良すぎたのが原因って言うか、私のせいって言うか……」

しかし、その後の言葉が続かずに、美琴は「かあぁ…っ!」と赤面してしまう。

(う〜っ! 『4回もイっちゃったから』なんて言える訳ないじゃないの!
 それじゃ私、まるで……す…すごくエッチな女の子みたいじゃない!)

すごくエッチな女の子なのだから仕方ないのではなかろうか。
結局は言えなかった美琴(言えばいいのに)だが、
とりあえず自分に非が無かった事だけでも分かった上条は、ホッして一言。

「良かった〜…ミコっちゃんが4回くらいイってたのが、
 俺の事を気遣っての演技なのかと思ったよ。焦った〜」
「べあっ!!?」

バレてやがる。

「ななななな何の事っ!!? よよよ、4回なんてイってないけど!!?」
「えっ?」

何度もイってしまった事を必死に無かった事にしようとする美琴だが、
上条はそんな美琴を見つめて、「何を今更」と目で訴える。バレてやがるのである。

「いやいやいや。美琴センセー、4回くらい『アレ』してたじゃないッスか」
「し、ししし、してないわよっ!!! 『アレ』したのは3回だけだもん!」

『アレ』が一体、何なのかは一先ず置いておくとして、
美琴は4回中3回は『アレ』しながらイって、残り1回は『アレ』せずにイったらしい。
それはともかく、どんだけイったイった言っているのだろうか。

上条はふいに距離を詰め、美琴を抱き寄せる。
そして突然、美琴のおへそに人差し指を「つぷっ」と突っ込んだ。
美琴のおへそは、上条の指先をぱくっと咥え込む。

「ひんっ!?」

いきなりの不意打ちに、美琴は声を漏らしてしまう。
上条はそれを楽しむかのように、そのまま指をクリクリと掻き回した。

「な、に…んんっ! すんの、よ、ぉ…!」
「いやぁ。本当は感じやすいのに、それを必死に隠そうとするミコっちゃんが可愛いもんで」

そう言いながら美琴の反応を面白がる上条だが、
しかしせっかく弄るなら、おへそより『上』とか『下』を弄れと思わなくもない。
まぁ、その辺りは『おたのしみでしたね』中に散々弄り回したのだろうが。

「馬っ、鹿、ぁ…そんな、あっ! こ、と……は、ぁあ…ない、も…んぁっ!」

それでも尚、抵抗する美琴ではあるのだが、しかし抵抗しているのは言葉だけで、
もはや美琴の顔はトロトロにとろけていた。
上条はそんな愛しの彼女の頭を撫でてクスっと笑った後、美琴の唇に優しい口付けをする。
そして耳元で、甘い言葉を囁くのだ。

「なぁ、もう一回…しようか」

すると美琴は無言ながら、恥ずかしそうにコクリと頷く。
それは二人の2回戦を告げる、ゴングの代わりになったのである。

はいはいおめでと。じゃあもう撤収撤収。


556 : くまのこ :2015/06/12(金) 20:57:19 7GHGFfZo
以上です。
ここ最近は恋人設定で書いてなかったせいか、
急にいちゃいちゃ物を書きたくなりました。
ではまた。


557 : ■■■■ :2015/06/13(土) 03:30:46 Qsj2wqHY
くまのこさんGJです。ごちそうさまです、本当にありがとうございます。6/12は恋人の日なので恋人でイチャイチャする上琴が見られて満足です。

続きはエロスレで全裸待機してればいいですか?


558 : ■■■■ :2015/06/13(土) 07:23:53 aSH9omtQ
くまのこさんへそが大好きなんですねえ


559 : くまのこ :2015/06/13(土) 20:38:43 iRFvhr6.
>>557さん。
恋人の日、知りませんでした…偶然とはいえ、恋人設定にしといて良かった〜

>>558さん。
おへそだけじゃないです。耳たぶはむはむも大好きです



連投&連日で失礼します。
・・・さんからリクがあったので、
上条さんとミコっちゃんの好感度が入れ替わる話を書いてみました。
約3分後に3レス使います。


560 : とある交感の好感交換 :2015/06/13(土) 20:41:59 iRFvhr6.
自覚がある。最近どうも、自分の様子がおかしい。
そんな主観的なのか客観的なのかよく分からない気持ちを漏らしたのは、
ご存知、上条である。彼は学校の帰り道、歩きながら考えている。
実は彼、ここ数日ある事が気になって気になって仕方がない状況に陥っていた。
ある事…つまり、

(……今頃、美琴はどこで何してるんだろうな…)

美琴の事である。どこで何ももクソも、美琴【むこう】もただの帰宅途中だろうに。
だがこれこそが、彼の悩みの原因でもあった。
この数日間、何故か美琴の事が頭から離れなくなってしまっているのだ。
おまけに厄介な事に、この現象、幻想殺しが通用しない。
頭を触っても何も変化がなく、それはつまり、そこに異能の力が働いていない事を意味する。
おかげで上条の頭の中には常に美琴の顔がチラついている。
料理中も食事中も移動中も勉強中も入浴中も排便中も睡眠中も、それはもう24時間である。
しかもただ考える訳ではない。色々と妄想までしてしまうのだ。
例えば、もしも美琴と付き合ったらどうなるか、とか。もしも美琴と結婚したらどうなるか。とか。
今日なんか授業中、自分のノートに何気なく『美琴』と書き、その上に『上条』と書いてしまい、
ハッと我に返り慌てて消したくらいだ。
美琴の事を考えると心臓の鼓動が速くなるし、顔が熱くなってしまう。
鈍感が売りの上条と言えども、流石にこれは理解せざるを得ない。

(……そう、だよな)

知らず知らずの内に、彼は自分の胸に手を当てていた。
上条当麻という一人の少年は知る。
それが、倫理や理性や体面や世間体や恥や外聞までもが関係ない、ただただ(以下略)
つまり、16巻の253ページの美琴と全く同じ事になってしまっている訳だ。
しかし何故それまでは全く意識していなかった美琴への感情が、
ここ数日でカンブリア大爆発を起こしてしまったのか…思い当たる節がなくはない。

(やっぱ…あの時か?)

数日前、上条は街角で美琴とぶつかった。
原因は美琴が『偶然』にも上条の学校付近を散歩していたところ、
何か『妄想』でもしていたのかボーっとしてしまい、
前方不注意になったところに上条の不幸が重なってしまった、というのが顛末だった。
が、今は責任追及をする場ではない。
肝心なのはその次なのだが、ちょうどこの後からだったのだ。上条の体に異変が起きたのは。
その現象は、漫画などでよくある心と体が入れ替わる例のアレに似ていた。
しかし上条の心は依然変わらず上条のままである。変わったのは、美琴への感情だけだ。
まるでそう、『美琴への好感度だけが入れ替わってしまった』かのように。
だがそうなると当然、次の問題が浮かんでくる。
好感度が入れ替わったのなら、今感じている美琴への感情は、
元々美琴の胸の内にあったという事になり、つまり美琴は上条【じぶん】の事を―――


561 : とある交感の好感交換 :2015/06/13(土) 20:42:49 iRFvhr6.
「いやいやいやいやっ!!! そ、そ、そんな訳ないだろっ!!?
 みみみ美琴が俺の事を……好っ! ……とか、ありえねーって!
 だ、大体今まで、そんな素振りとか全然無かったじゃねーか!」

訂正しよう。変化したのは美琴への感情だけではないようだ。
性格も、ちょっとだけツンデレ【ミコっちゃんっぽく】なっている。
この様子では、今頃は美琴も鈍感【かみじょうさんっぽく】なっているのだろうか。

しかし上条の意見も最もである。
美琴は今まで、上条の事を想っていたなんて素振りを見せていない。
ただちょっと恋人役を上条に頼む時に顔を真っ赤にしていたり、
一緒にフォークダンスを踊る時に顔を真っ赤にしていたり、
一緒にツーショット写真を撮る時に顔を真っ赤にしていたり……

「………あれ?」

ふと気付いた。素振り見せまくっていた事に。
瞬間、上条はその場でうずくまり、髪をかきむしったのだった。

「うわああああああ!!! 何で今まで気付かなかったんだ俺っ!!?
 あん時もそん時も、めっちゃ俺の事見てんじゃあああんっ!!!」

ツンデレ属性が追加されたせいか、同じツンデレの気持ちを理解してしまう上条。
色々と分かったのは良かったが、何かもう死にたくなってくる。

「って事はちょっと待てよ!?
 それじゃあ美琴も普段から、ノートに『上条美琴』とか書いてたのか!?
 いや、それだけじゃない! 他にも枕でキスの練習したり、妄想の中で一緒に旅行したり、
 結婚式の引き出物考えたり、子供の名前を考えてみたりしてたってのかよ!!?」

つまり上条も、この数日間は同じ事をしていた訳だ。

「し…しかもあまつさえ! みみみ、美琴が俺の事を想像しながら!
 オ…オオオ、オナ、オナ―――」
「おな?」
「同じ志を持つ仲間って素晴らしいですねっ!!!」

オナなんとかと言いかけた瞬間、背後から話しかけられて背筋をビクッと伸ばす上条。
とっさに「同じ志云々〜」と言って誤魔化しはしたが、実際に何と言おうとしたのか、
そして上条は美琴の事を想像しながらナニをしたのか、非常に気になるところである。

「…何、急にちょっと良さ気なクサい台詞言ってんのよ。アンタそんなに熱い奴だったっけ?」
「っ! …み、美琴」

振り向くと、そこには今最も会いたいような、
それでいて絶対に会いたくないような相手、御坂美琴が立っていた。
上条の心臓が、バックンバックンと暴れだす。
美琴は上条と対峙した時、いつもコレを食らっていたというのか。

「え、あっ、美琴さん…その、どうしてここに?」
「どうしてって…いつもの通学路じゃない。アンタこそどうしたのよ。顔、真っ赤よ?」
「いいいいや大丈夫っ! ちょっと暑いだけだからっ! ホラ、今日真夏日だし!」
「…曇ってるし風もあるから、そんなに暑くないと思うけど。今、冬だし」
「あ…あーそうだっけー!? あははははははーっ!」


562 : とある交感の好感交換 :2015/06/13(土) 20:43:45 iRFvhr6.
何だか上条の様子がおかしい。そう思った美琴は、自分の手のひらを上条の額に宛がう。
その結果、上条の心拍数と体温が更に上昇してしまう。

「んがっ!?」
「熱は…ないみたいね。……いや、あるのかしら? どんどん熱くなってるような気も…」

それは美琴【あなた】のせいでせう。
そんなツッコミも言えない程に、今の上条には余裕がない。
それにしてもこの状況、ものすごい既視感である。配役を逆にすれば、いつもの上琴の風景だ。

「ホホホントに大丈夫だからっ!」
「そう? ならいいけど…」

慌てて美琴から距離を取る上条。やはりこれも、普段の美琴がよく取るリアクションだ。
対して美琴は、いつもよりも淡白というかクールで冷静な印象を受ける。
お互いの好感度が入れ替わっているせいで、普段の上条の態度に近いのだろうか。
そう思った上条は、美琴に自分の事をどう思っているか、聞いてみようとした。

「な、なぁ美琴。美琴はその………あの…お、俺の事を、さ…………えっと…」
「ん?」
「……いや…何でもないでふ…」

しかし一歩踏み込めない。新たに実装されたツンデレ属性が邪魔をするのだ。
そうでなくても今までモテ期を経験した事のない上条(失笑)には、
こんな質問、ハードルが高いというのに。

しかしここで不幸の発動だ。ただし上条の、ではなく美琴である。
美琴のポケットから、パサッと一冊の手帳型の写真入れがこぼれ落ちる。
上条が美琴のツンデレを受け継いだように、美琴も上条の不幸を受け継いだ…のだろうか。

「…? 何か落ちた」
「えっ? ………あ、ちょっ! それダメ―――」

上条が写真入れを拾い、何気なく開いてみる。
と同時に、それまでクールぶっていた美琴が一気に慌てだした。
中に入っていた写真は…

「……俺…?」

その写真は、ツーショット写真を撮った時の上条であった。
携帯電話で撮ったあの写真を、プリントアウトした物だろう。
美琴が写っている左半分を切り取り、その分上条が写っている右半分を拡大してある。
これを持ち歩いていたという事はつまり。

「ちちち違うのよこれはそのたまたま持ってただけで別にいつもアンタと
 一緒に居たいなって意味とかじゃないんだから勘違いとかしないでよねっ!!!?」

耳まで真っ赤にしながら言い訳をまくし立てる美琴。おかしい、いつも通りである。
上条との好感度が入れ替わっているのなら、このリアクションはどう考えてもおかしいのだ。

例えば、入れ替わり云々が単純に上条の杞憂だった場合、
美琴のこの反応はごく自然だが、上条の説明がつかなくなってしまう。
『上条が美琴の事を普通に好きになった』というなら話は別だが。

そして入れ替わり云々が実際にあった場合、
上条の変化に説明がつくが、美琴がいつも通りな筈がなくなる。
『元々上条も美琴に対して、美琴が上条を想っているのと同じくらいの想いがあった』
としたら、入れ替わっても好感度に変化がない事に納得ができるが。

という事はつまり、

「だっ、だだだ、だからっ!
 夜寝る前にこの写真におやすみのキスとかも全然してないからっ!!!」
「だだ、だよなっ!? 俺も枕を美琴の顔に見立ててキスの練習とかしてないしなっ!!!」

どういうことだってばよ?


563 : くまのこ :2015/06/13(土) 20:45:08 iRFvhr6.
以上です。
オチは特にないので、
結局どういうことだったのかについては、
ツッコまないでください…
ではまた。


564 : くまのこ :2015/06/18(木) 18:47:56 OgsiTYdA
すみません、また連投になります…
二人がひたすらイチャイチャする短編を書いたので、投下しにきました。
約3分後に3レスです


565 : ふにゃー克服特訓 :2015/06/18(木) 18:50:57 OgsiTYdA
『ふにゃー』…それは電撃使いが特定の条件下でのみ発動できる、ある種の必殺技だ。
能力者を中心に半径数メートル〜数百メートルに渡って、漏電を垂れ流すのである
本人の意思とは関係なく周囲を巻き込むその技は、大変危険ではあるがしかし、
先に述べた通り特定の条件が必要になるので、滅多にお目にかかる事はない。

その条件とは、まず一つ。能力者はレベル5級でなければならないという事。
この技は自分だけの現実が崩壊した時に発動されるのだが、
崩壊させた際に高レベルの能力者の方が、AIM拡散力場への影響が高いからだと言われている。

次に二つ。能力者が好きな相手に素直になれない性格…所謂「ツンデレ」である事。
これは普段から本心を言う事ができず、その我慢が爆発するから…
と言われているが、詳しいメカニズムは未だ不明である。
しかし「ツンデレ」と「ふにゃー」には何かしらの因果関係がある事は確かなようだ。

最後に三つ。能力者の羞恥心が限界を超える事。
これは一つ目と二つ目の条件にも関係のある事なのだが、
羞恥心が限界を超える事によって、ツンデレ状態で蓄積された感情が爆発し、
結果的に自分だけの現実の崩壊が起こるのである。
「ツンデレ」が銃本体で、「自分だけの現実の崩壊」が弾丸。
そして「羞恥心の限界」で引き金を引くと言えば分かりやすいだろうか。
ツンデレであるがこそ、羞恥心の限界を超えた時に、自分だけの現実も激しく崩壊するのだ。

以上三つの厳しい条件を満たせる者など、
230万人の能力者を有する学園都市といえども、いる訳がない―――

「ふにゃー」

―――いる訳がないこともないのである。
たった今「ふにゃー」をぶちかました人物は、レベル5の第三位、御坂美琴である。
周りに被害を出してはいけないと、彼女の『彼氏』である上条が、
その右手で垂れ流されそうになった漏電を、全て打ち消す。

「うおおおおおい、美琴おおおおおぉぉ!
 いい加減にしてくれよ! ちょっと手ぇ握っただけだぞ!?」
「だ、だだ、だって……きゅ…急だったんだもん! こここ、心の準備とかさせなさいよ馬鹿っ!」

手を握るのに心の準備もクソもないと思うのだが、
簡単に羞恥心が限界を超えて、すぐに自分だけの現実を壊してしまう、
このツンデレベル5にとっては、心の準備とやらが必要不可欠らしい。

この二人…上条と美琴は紆余曲折【だいれんあい】を経て恋人となった。
しかしその事は周囲にはまだ秘密にしており、
二人が付き合っている事実を知っているのは、一部の人間だけである。
インデックスや白井などは、その一部の人間であり、
渋々々々々々々々々ながら二人の交際には納得した。
ただしその代わりに、お互いに成人するまでは『一線は越えない』と誓い合わされてしまったのだ。
インデックスも白井も、それまでに二人の恋も冷めるだろうとの目論見だったのだろう。
だがロミオとジュリエットに代表されるように、
恋というのは障害が大きければ大きいほど燃え上がる物である。
誓いの通り未だに一線は越えていないが、結果的に二人は益々愛を深めてしまった。
ところがその弊害もあったのだ。
元々純情だった美琴は、上条への愛を深めれば深めるほど更に純情になってしまい、
このように手を握るだけで「ふにゃー」を発動する仕様となってしまった。
……ところで『一線を超える』とは一体何の事なのか詳しく教えてほしいものである。


566 : ふにゃー克服特訓 :2015/06/18(木) 18:51:40 OgsiTYdA
「…よし、今から『ふにゃー』しないように特訓しよう」

右手から「しゅうしゅう」と音を立てて煙を出させながら、ふいに上条がそんな提案をしてきた。
今の美琴の状態では、落ち着いてデートもできやしない。
清く正しい不純異性交遊に支障をきたすのである。

「で、でも特訓って…具体的には何するの…?」

不安そうに見つめる美琴に、思わず抱き締めて安心させてあげたくなってしまう上条だが、
ここは心を鬼にして、特訓を開始する。

「ま、まずは…そうだな。抱き合ってみようか」

と思ったが結局抱いてしまうらしい。
…あっ。一応補足しておくが、『抱く』と言っても『そっち』の意味ではない方だ。
一方で美琴は、上条の言葉を聞いた瞬間、
やかんから湯気が噴き出すように、頭から「ピュィーッ!」と煙を出した。
当然だ。手を握るだけでもアウトなのだから。

「でででででもそんないきなりそんな確かにそんな嫌ってそんな訳じゃないけどそんな!!!」

何回「そんな」を言えば気が済むのか。
美琴は真っ赤な顔をキョロキョロさせながら、手をわたわたと振る。
そんな美琴に上条は、ゆっくりと落ち着かせるように言い聞かせた。

「いいか、美琴。荒療治かも知れないけど、要は慣れだ。
 抱き合っても大丈夫になれば、ちょっとやそっとじゃ漏電【ふにゃー】もしなくなるだろ?
 それに美琴から電気が流れないように、右手でしっかりと頭を撫でてやるから。なっ?」

美琴は「ううぅ…」と涙ぐんだ目で上条を睨みつけると、小さくコクリと頷いた。
上条は思った「可愛い、そして可愛い」と。

「よ、よし! じゃあ…いくぞ!?」
「お…お手柔らかにね…?」

その言葉を合図に、上条はガバッと美琴に抱きついた。

「はうっ!!?」

瞬間、美琴は目を回して頭から帯電音が鳴り響いたが、
上条がすかさず美琴の後頭部に右手で触れ、子供をあやす様によしよしする。
勿論、抱き締めたままで、である。

「ぁぅぅ……」

結果、上条の思惑通り美琴は「ふにゃキャン(ふにゃーキャンセルの略)」されてしまい、
抱かれたまま【されるがまま】で立ち尽くす。
一方、上条は上条で、この状況にテンパっていた。自分から抱きついたくせに。

(うわああぁぁ! 何だこれ何だこれ何だこれ!?
 美琴の体ってこんなに柔らかいのかよっ!
 しかもすげー甘くていい匂いするんですけど、どうなってんのこれ!!?)

医療行為(?)とは言え、仕方なく(…)美琴を抱き締めた上条だったが、
何かもう女の子の体の神秘に、ものっそいドギマギしてしまっていた。
重要な事なのでもう一度言うが、自分から抱きついたくせに、である。
しかも無意識に、

「あー…もう、ずっとこうしてたいなー…」

とポソッと心の声を呟いてしまったのだ。
偶然なのか必然なのか、美琴の耳元で息を吹きかけるように囁いて。
上条の囁き【こうげき】がモロに直撃した美琴は、瞬時に「ぴゃっ!!?」と奇声を上げる。
ちなみにこの間も、美琴の頭と上条の右手から、
『バチバチパキィンバチバチパキィン』と音が鳴り続けている。
『バチバチ』は美琴の帯電音、『パキィン』は上条のそげぶ音である。


567 : ふにゃー克服特訓 :2015/06/18(木) 18:52:24 OgsiTYdA
「アアアアン、アン、アンタっ!!! ななな何言ってくれちゃってんのよ!?」
「…? 何言ってって………………
 えっ!? も、もしかして今、声に出しちゃってましたでせうか!?」

美琴に指摘され、ここでようやく気付いた上条。美琴に負けず劣らずの赤面っぷりである。
しかしすぐに気を引き締め直す。
今日は自分が狼狽する日ではない、美琴を特訓しなければならないのだから、と。
若干、使命感的なモノが明後日の方向に向かっているような気がしないでもないが。

「じゃ、じゃあ次は……キ…キスするぞっ!」

上条からの衝撃発言に、美琴は凍りついて固まった。
だが美琴の体温は絶賛上昇中だった為、自らの湧き出る体温で、その氷結もアッサリと解ける。

「ええええええええっ!!? な、そ、きゅ、キ……ええっ!!!?」
「だ、だって仕方ないだろ!? 美琴の漏電、全然治まってないんだからっ!」

先程から鳴っている『バチバチパキィン』は未だに収束しておらず、
それどころか『バチバチ』の勢いが増しているのだ。
辛うじて実力が五分五分な「ふにゃー」と「そげぶ」のせめぎ愛(笑)だったが、
ここへきて「ふにゃー」勢力が押し始めてきたのだ。
理由は簡単。上条に抱き締められたり耳元で囁かれたりしてるから。
荒療治はやはり荒い療治な訳で、結局のところは悪化させているだけなのかも知れない。
しかし今更あとには引けない。こうなったら、行く所までとことん行くしかないのである。
…あっ。一応補足しておくが、『行く』と言っても『そっち』の意味ではない方だ。

「目…目を瞑ってれば、すぐに終わるから…」
「あ……ひゃい…」

上条に言われるがまま、美琴はギュッと目を瞑った。
心臓とか、もう張り裂けそうになるくらいバックンバックンさせながら、『その時』を待つ。
すると―――

チュッ

おでこに、柔らかい感触。続いて、

チュッ、チュッ…チュッ

ほっぺ、耳たぶ、鼻先と、次々にキスされているのが分かる。
美琴は心の中で「ひ〜〜〜っ!」と叫びながらも、心なしか唇を気持ち尖らせる。しかし。

「……こ、こんなもん…かな? 帯電音もしなくなってきたし…美琴、もう目ぇ開けてもいいぞ」
「……え…?」

お口がお留守で寂しいまま、突然上条から終了宣言が為された。
あまりの極限状態で「ふにゃー」を克服したのか、確かに美琴の頭から電気は流れていない。
当初の予定から言えば成功と言えるかも知れない。だが、何か腑に落ちない。

実は上条、唇へのキスは、もっと良い雰囲気の時にしてあげようと気を使ったのだ。
美琴がロマンチックな事に憧れているのは知っているし、
こんなやっつけ的にキスするのも可哀想だと思ったのだ。思ったのだが…

「ア…アンタがもし、したいって言うんなら……く…口にすればいいじゃない……」

それはツンデレベル5からしてみれば、精一杯のおねだり。
次の瞬間、上条は頭が真っ白になり―――


 ◇


「それで、そのあとはどうなったの?」
「勿論チューしたよ。でもそしたら、ママってば結局『ふにゃー』しちゃったんだよな。
 あの時、一時的に漏電が止まったのも何かの偶然だったみたいでさ。
 …まぁ、不用意に右手離した俺も悪いんだけど」
「ちょっとアナタっ!!!
 麻琴ちゃん寝かしつけるのに、私達の昔話を聞かせるのやめてよ! 恥ずかしいじゃない!」


568 : くまのこ :2015/06/18(木) 18:53:13 OgsiTYdA
以上です。
最後の会話だけ未来設定になってます。
ではまた。


569 : ■■■■ :2015/06/21(日) 15:48:38 ZZ43gI.6
最近くまのこさん以外の職人さんが少ないな


570 : ■■■■ :2015/06/23(火) 06:54:45 LdM3gH9I
エロスレの方にも書いてくれて良いのよ?


571 : 我道&くまのこ :2015/06/23(火) 21:06:44 8PBgaIj.
どうも、くまのこです。
こぼれ話の続きが出来ましたので、投下します。
コテ通り、今回も我道さんとの合作になってます。
約3分後に9レスくらいです。


572 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:09:40 8PBgaIj.
美琴「ほへぇ。久しぶりね。こぼれ話」
上条「それは俺が入院してたからだな。前回のこぼれ話の後、酷い目に合ったんで回復にここまでかかっちまったんだよ」
美琴「ああ、聞いたわよ。アンタも大変ねー」
上条「うわ。全然心配している口調じゃねえな。むしろ冷ややかで目一杯呆れてやがるだろテメエ」
美琴「当然でしょ。いったい何人の女の子を敵に回せば気が済むのかしら」
??「なるほど。これが日本で言うところの天然ジゴロ、というやつですね」
上条「うお!? 今回のゲストは神裂なのか!?」
美琴「あれ? 貴女は……随分お久しぶりですね?」
神裂「ふふ。よろしくお願いします。それと今日は私の部下で一番信頼を置けるものを連れてきましたよ」
??「お久しぶりです上条さん。ところで、えっと……そちらの方は……?」
上条「うぉぉぉい!? にこやかに会釈して挨拶してきたのに、顔を上げた途端、急に前髪の影を濃くしてグラデーション化した目と槍を向けるのよそうぜ五和!?」
神裂「これこれ五和。そんな態度を取るものではありませんよ。こちらに来る途中に話したではありませんか。こちらは御坂美琴さん。か・が・く・サ・イ・ドで上条さんと一番仲よくしているお嬢さんです。まあ、あくまでもか・が・く・サ・イ・ド限定ですが」
美琴「……なにゆえスタッカート?」
五和「お久しぶりですね…」
美琴「ええ、そうね…」
上条「あれ? 二人って知り合いだったっけ?」
五和「え、ええ。以前、銭湯でお会いしまして。あっ! 彼女もご一緒でしたよ」
神裂「あの子と一緒にお風呂ですか!? うぅ…私も一緒に入りたかった…」
美琴「そう言えばあの日、アンタこの女に抱きついてたのよね〜。どういう経緯であんな事してたのか、詳しく聞かせてもらおうかしら?」
五和(抱きついて…///)
上条「美琴さん!? 目が恐いよ!? 五和も何で顔赤くしてんのさ! ま、まぁ、その話もこぼれ話でおいおいやると思うから、今は置いとけ!」
美琴「ふ〜〜〜〜ん…?
五和「ところで御坂さんが科学サイドで一番という事は、魔術サイドで一番仲よくしてるのって誰ですか?」
神裂「それはあの子でしょう。今回はゲストではありませんので名前は出せませんが」
五和「あ、そうですね」
上条「って神裂!? お前は前髪を濃くした笑顔で俺の首筋に七天七刀を刃の方を当てるのは止めてくださいませんか!? あと五和!? 槍が近い近い!!」
美琴「はぁ……『また』、なのアンタ……」
上条「みみみみ御坂さん!? 助けてくださいませんか!? 上条さんの命が大ピンチなのですよ!?」


573 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:10:25 8PBgaIj.
「おっしゃーっ!! 年下の坊やげっとーっ!!」
「ぐおおおあっ!?」
 むぎゅー、ぐらいなら胸も高鳴るが、どうも美鈴は普段から運動を欠かさない人物らしく、背骨の辺りがメシメシミシミシ!! と変な音を立てた。


美琴「……アンタ、なに人の母親に抱き締められて興奮してんのよゴルァ!」
上条「興奮って言うか悲鳴だよね。それに抱き締めって言うよりサバ折りだよね完全にコレ」
五和「か…上条さんは年上がお好きなのですか…?」
上条「え? あー、まぁそうかな。こぼれ話でも何度か言ってるかも知れないけど、寮の管理人のお姉さんみたいな人がタイプだから」
神裂「なるほど。管理人のお姉さん、ですか…メモメモ」
美琴「で、でも好きになる人が自分のタイプ通りとは限らないし!」
上条「そういうもんかね?」
美琴「そういうもんなの!」


「こーんな時間にぶらぶらしちゃってえ、美琴ちゃんはどうしたのよー? ぶはー」
「ぎゃわー刺激臭!?」
「あれえ? 酒臭くて目がとろんとしてるお母さんはセクシィじゃありませんー?」
「プラスの材料一個もないよそれ!! た、助けてインデックス!!」


美琴「ふーん……こんな遅い時間までいったいあのちっこいのとどこ行ってたのかしら……?」
神裂「まあ、私としましてはあの子にやましいことをしていないのであれば許容範囲ですが……」
上条「ちょっと待てお前ら! この酔っ払いは無視か!? 特に御坂! この人、お前の身内っつーか、母親じゃねーか!!」
美琴「わ、私にはアンタが何を言っているのか分からないナー」
上条「さっき人の母親になんちゃらって言ってたよね!?」
神裂(身内の恥というものは目を背けたくなるものですからね……私も最大主教のことを思うと……はぁ……)
五和「へぇ……つまり、上条さんは既に親子どんぶりでお召しあがる気満々なのですね……?」
上条「いつわああああああああああ!! どうしたのよそのエキセントリックな妄想は!? あんな良い子だったお前がどうしてそんなにヤンでんの!? しかも相変わらず槍の切っ先が近い!!」
神裂(………親子どんぶり?)


「そうだ、電話番号とアドレス交換しよう」
「唐突!?」
「どうせ美琴ちゃんとも交換してんでしょー。こっちも仲間に入れなさいよー。んでね、私のアドレスはあー」
 つらつらとアルファベットや数字を並べていく美鈴。かくして美琴が汗と涙の機種変大作戦によって得た成果を、この母親はものの三分でゲットしてしまった。


神裂「まあ日本ではよくある光景と聞きますし、別に大したことではないでしょう。そうだ。今後とあの子のこともありますし、私とも交換していただけないでしょうか?」
五和「ででででででしたら上条さん! わわわわわわ私とも番号交換を!!」
上条「ん? まあいいけど」
美琴「……」
神裂(? 御坂さんが無反応? 何か気になるのですが……)
五和「ありがとうございます! それでは早速……って、あら? 随分可愛らしいストラップですね?」
上条「おう。俺の携帯って御坂とペア契約になってるからな。そん時のおまけ……って、五和……取り出したそれ……携帯じゃなくて槍だよな……?」
神裂「ほほぉ、上条当麻。つまり、あなたは御坂さんと『電話番号とアドレスを交換した』のではなく、『同じ契約を交わしている』と、そういうことなのですね?」
上条「神裂ぃぃぃぃぃいいいいいいいい!! お前も七天七刀の切っ先を俺の顎下に当てるのは止めようぜぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!」


「はいはーい。君の番号は『友達』のカテゴリに登録しとくからねぇ」


五和「お、お友達…ですか……ホッとしたような、そうでないような…」
神裂「五和が危惧しているような事態にはならないでしょう。彼女は所謂、人妻なのですから」
五和「ですが女教皇様! お相手は上条さんですし…」
神裂「むっ!? む、ぅ…確かに…」
上条「え、なになに? お二人の中で上条さんは、どんなジゴロ野郎に脚色されてんの?」
美琴「脚色じゃないでしょうに…(ぼそっ)」
??「ん〜、思ってた以上にライバルが多いみたいね。ここは『友達』から『家族』のカテゴリに移した方がいいかしら? 勿論、『娘婿』的な意味で!」
美琴「勝手に出てきた挙句に勝手な事言わないでよ!!?///」


574 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:11:09 8PBgaIj.
「ついでに美琴ちゃんの顔でも見てやろうかと思ったのによー、なーんか常盤台中学の女子寮はチェックが厳しいから駄目だってさ。親なめんなよー」


美琴「あっ、ママ来てたんだ。まぁ、あの寮監が酔っ払いを入れるとは思えないけど…でも、ちょっとだけ会いたかったかな」
上条「会ってもろくに会話もままならなかったと思うけどな。あの時、美鈴さんホントにへべれけだったから」
美琴「慣れてるわよ。あの人がへべれけになるのは、しょっちゅうだし」
神裂「そう言えば小耳に挟んだのですが、貴方も以前、酔っ払った事があるそうですね」
上条「あ? あー…浜面に飲まされた時だな…」
神裂「お酒は二十歳になってからです。みなさんも未成年の飲酒は法律によって禁止されていますからね」
上条「う、うん。ごめんなさいだけど、『みなさんも』って誰に向かってのメッセージなのそれ?」
美琴「…そう言えばアンタが酔っ払った時、わ、私の事を…ミ…『ミコっちゃん』とか呼んでたわよね…///」
五和「っ!!! か、上条さん! ちょっと私の事を『イツっちゃん』と呼んでみてください!」
上条「イツっちゃん語呂悪いな! 響きもあんまり可愛くないし!」
??「これは手厳しいですね」
五和「いえ、貴方はイツっちゃんではなくいっちゃんなのでは?」
上条「………………いや、この人誰なの? 何か歯磨きのCMが似合いそうなくらい白い歯の笑い浮かべた美少年ってことは分かるけど」
神裂「確か頭髪と一体化する学帽を嵌めてましたよね?」
美琴「それ、中の人ネタあああああああ! ついでに中の人は禁書目録にも超電磁砲にも出てませんからあああああああああ!!」


『っつーかメールの返事はいつになったら返ってくんのよ!?』
 メール? と上条は首をひねる。


美琴「アンタいっっっっっつも私のメールスルーしてるけど、わざとなの!? ねぇ、わざとなの!!?」
上条「いやいやいやいや! 偶然! 偶然ですよ!!? だからその帯電すんのやめてくんない恐いから!!! か、神裂と五和も見てないで止めて―――」
五和「つまり上条さんと御坂さんはいっっっっっつもメールのやり取りをする仲という事ですか…?」
神裂「こっ…の! ド素人が!!」
上条「あれあれあれ!!? 上条さん謎の四面楚歌で大ピンチの巻!!!」


 ――――彼女は笑った。
 上条の顔を見て、自然とこぼれたようだった。
「でもまぁ、安心したよ」
 何が、と上条が尋ねる前に、
「――――下手にあの子の居場所を移すよりは、君みたいな子の側に置いておいた方が安全かもしれないわ」
 ――――やや早口で結論を言った。
「つまり、君達みたいな子が美琴ちゃんを守ってくれれば、何の問題もないって話よん」


美琴「あー……うー……///」(ママってば、いつものからかい口調じゃないから何も言えないじゃないこれじゃ!!///)
神裂「ふふっ。この方も私と同じなのですね」
五和「と、言いますと?」
神裂「私も上条当麻にあの子を預けている理由が同じなのですよ。私の立場を考えますと本来であれば学園都市にあの子を置いておく、というのはあってはならないでしょうが、こと『あの子を守ってくれる』という点に絞れば、上条当麻の側が一番だと思っています。安全なだけではなく、あの子の笑顔も守ってくれますから」
五和「い、良い話ですね……うぅ……」
上条(よーしよし。この流れから上条さんの命が危険に晒されることは……)
美琴「はれ? あの子ってアンタといつも一緒に居るシスターのこと? あの子がアンタの側に居て笑ってることってあるの? 何かいつも怒ってるかアンタに噛みついてるかの印象しかないんだけど」
神裂「………………なんですと?」
上条「みさかあああああああああああああああ!! そりゃお前が一緒のときだけの話なんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」
五和「うわ。何回も同じ締めを使っていいのでしょうか」


575 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:11:57 8PBgaIj.
 そんなこんなで駅前辺りに行ってみると、常盤台中学の制服を着た茶色い髪の少女、御坂美琴の背中を発見してしまった。
 しかもジュースの自販機にハイキックをぶち当てては、『ここの自販機は駄目なのか。あれー……?』などと首を傾げている。
 その様子を見た上条は、そのまま無言でくるりと一八〇度回転すると、急いでその場を離れることにした。
「……君子危うきに近寄らず、または触らぬ神に祟りなしとも言う」
「何がよ?」
 さりげなく放った独り言にすぐ後ろから返事が聞こえて、ビクゥ!! と上条の背が真っ直ぐになった。
 上条が恐る恐る、もう一度一八〇度回転してみると、そこにはキョトンとした顔の御坂美琴が。


神裂「上条当麻。私は思うのですが、貴方は事あるごとに人を逆なでするような言動を吐いていませんか? 後から私のときも……ま、まあできればカットしてもらえるととっても嬉しいですが……同じようなことがありましたし」
上条「いや。それはお前が御坂を知らないから言えるんだ。御坂を知れば知るほど俺と同じことを思うって」
五和「ん? ひょっとして今まさに『人を逆なでするような言動』を仰ったのでは?」
上条「はっ!?」
美琴「ふっふ〜〜〜ん♪ なぁんか、アンタにとって私はトラブルメーカーっぽいんだけどぉ、原因はアンタの言動だって気付いてなかったのね〜〜〜☆」
上条「ははは……穏便に話し合いませんか……御坂さん……?」
美琴「うん、それ無理(はぁと)。だって私は本当にアンタを真っ黒焦げにしたいんだもの♪」
神裂「あーとっても良い笑顔……」
五和「まるでどこぞの夕焼けの教室に佇んでいた委員長さんのようです」
上条「またこのネタかよ!?」


「っつーかことあるごとに会話を切り上げようとすんじゃないわよ! この前送ったメールの返信も放ったらかしだし、あれどうなってんのよちょっとアンタのケータイ見せてみなさいよ!!」
「メール……? そんなのあったっけ?」
「あったわよ!!」


上条「ちなみに何てメールだったんだ?」
美琴「ふえ!? そそそそそそそんなのもう忘れちゃったわよ!!/// たたたたたたた多分、たわいのないメールだったんじゃないかなッ!!!///」
神裂「しかし、その割にはなかなかの形相で詰め寄っておられるようですが? 本当にたわいのないことでしたらここまでムキになることは無いのではないでしょうか」
美琴「う、うぐ……っ///」
五和「何かのお誘いメールだったとか」
美琴「ひくっ!!///」
神裂「どこかに一緒に遊び行こうとか」
美琴「ぎくっ!!///」
上条「はぁ? んなの電話してくりゃいいじゃねえか。何でわざわざメールでやり取りしなきゃなんねえんだよ」
美琴「第一の解答ですが、それはアンタのことだから口約束だと忘れるからです」
五和「もしもしキャラが違いますよ御坂さん? まあ分かる気がしますけど」
上条「五和の中でも俺ってそんな扱い!?」
美琴「第二の解答ですが、メールの返信があれば証拠になるからです」
神裂「そう言えば上条当麻の質問は二つありましたね」
上条「分かった分かった。で、結局何てメールだったんだ?」
美琴「ふえ!? そそそそそそそんなのもう忘れちゃったわよ!!/// たたたたたたた多分、たわいのないメールだったんじゃないかなッ!!!///」
五和「あ。元に戻りましたね」


576 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:12:46 8PBgaIj.
 上条はちょっと考え、自分の携帯電話を取り出し、美琴に見せるようにメールボックスを開いて、それから小首を傾げると、
「……あったっけ?」
「あったっつってんでしょ!! ぎえ、受信ボックスに何にもない!? もしかして私のアドレスをスパム扱いしてんじゃないでしょうね!!」


神裂「私、少々機械に疎いので良く分からないのですが、ペア……もとい、同じ契約を交わしている者同士でも科学サイドでは相手を拒否できるものなのでしょうか? 魔術の契約ですと基本一蓮托生で拒否などできないのですが」
上条「んなことできたらペア契約の意味ない気もするんだが――実際はよく分からん」
五和「それもそうなのですが上条さん。受信ボックスが空なのですか? それはそれでちょっと寂しいような……」
上条「いやいやいやいやいや! 違うって! こん時はまだ契約したばっかで受信ボックスがたまたま空なだけだって!!」
美琴「ほへ? アンタのは別に機種変じゃなくて、前から持ってたやつを継続って形で契約したんじゃなかったっけ?」
上条「うぐ……み、御坂……お前という奴は……言ってはならんことを……」
美琴「あ゛……。あははは……ごめんごめん。悪かったわよ。じゃ、じゃあお詫びにこれから毎日メール送ってあげるから、それで許して」
上条「ほ、本当かっ!? 絶対だな!? 絶対なんだな!?」
美琴「って、アンタ何感極まったうるうる瞳してんのよ!? そんなにメール貰えるのが嬉しい訳!?」
五和「か、上条さん!! そそそその!! 私たちからも送ってよろしいでしょうか!!///」
上条「え、いいのか! 私たちってことは神裂も、ってことだよな!! 大歓迎だぞ!!」
美琴「……アンタ、どんだけメールに飢えてんのよ。これじゃどこかのラノベのタイトルと同じで『アンタには友達がs」
上条「言わせねえよ!!」
神裂「つかぬことをお聞きしますが御坂美琴さん」
美琴「何ですか?」
神裂「もしかして、ペアけ、もとい同じ契約を交わしている者同士ですと、契約者以外のメールが弾かれてしまう、という設定があってそうした、という事はありませんか?」
美琴(ぎくっ)
五和「まさか、そんな設定があるなんてことは――ちょっと送ってみましょうか……どうです上条さん?」
上条「んー。んーーー。んー…………来ねえな…………」
神裂「御坂美琴さん?」
美琴「ささささささささああああああああて、なななな何のことやら?」(ごそごそ)
上条「あ、届いた。誤作動だったんかな?」
美琴「ソウソウ。誤作動ヨ。誤作動」
五和「ほっ」
神裂(……これはなかなか侮るわけにはいかないようですね……)


 メールの件で愕然とする美琴だったが、そこで彼女はさらなる真相に辿り着く。
 ボタンを操る上条の手をガシッと摑んで差し止め、受信メールフォルダにある名前を凝視すると、
「……アンタ、何でウチの母のアドレスが登録されてる訳?」
「は?」
 言われてみれば、確かこの前酔っ払いの御坂美鈴と学園都市で遭遇したが……とか上条が思っていると、美琴は眉間に皺を寄せたまま親指で上条の携帯を操作し、件の美鈴へ通話してしまう。
「待てって、おい!?」
 特にスピーカーフォンのモードにはしていないが、元々の音量が大きかった事と美琴までの距離が近かった事もあって、上条の耳までコール音が聞こえてくる。


五和「……上条さん? この描写ですと相当御坂さんと身を寄せ合ってますよね……?」
上条「『寄せ合った』んじゃなくて御坂が一方的に『寄って来た』だけですというか俺が手に持ってる携帯を御坂が操作しようとすれば必然的にこうなると思いますので、その槍をしまいましょうよ逸話さん?」
神裂「ニヤリ。わざと名前を間違えて怒りを誘っているという訳ですね上条当麻。貴方は根っからのギャンブラーです」
上条「そんな気さらさらないよ!! つか、単なる誤変換でしょ!? しかもこの『ギャンブラー』って意味が違うだろ絶対!! た、助けて御坂!?」
美琴(う、うわぁ。私無自覚だと何でこんなこと出来んのかな!?/// 手握ってるわ!! 思いっきり顔が近いわ!!!///」
上条「ちょーっ!!!!! みさかさあああああああああああああああああんんんんん!!!!!」


577 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:13:38 8PBgaIj.
「ア・ン・タ・は、人ん家の母を酔わせて何をするつもりだったァああああ!?」


五和「か、上条さん…やはり親子どんぶりをする為に…?」
上条「んな訳あるかい! 美鈴さんが最初から酔っ払ってたのは、もう見たでしょ!?」
神裂「ちょっと待ってください五和。先程も疑問に思ったのですが、その『親子どんぶり』とは一体何なのでしょう?」
五和「……え?」
神裂「いえ、私の知る限り親子丼とは、鶏肉やたまねぎを甘辛く煮た物を白飯の上にかけ、更にその上から玉子で閉じたどんぶり飯の事なのですが…話の流れからして食事の話をしているとは思えませんでしたので」
五和「えっと……そ、それは…///」
神裂「御坂さんとその母上が、彼と何かをするという意味なのは何となく伝わりましたが…具体的には何をするのでしょう?」
五和「………///」
神裂「…だんまりですか、仕方ありませんね。では御坂さんにお聞きしま」
美琴「知らないけどっ!!!?///」
神裂「いえですが、その反応は知っ」
美琴「知らないからっ!!!/// この馬鹿とナニするとかありえないからああああ!!!///」
神裂「? 何故ナニがカタカナなので?」
上条「神裂さんは純情天然、と」


「ほっ、ほらっ。上条さんは寮に帰ってお米を研がなきゃいけないし……。っつーかお前の寮も門限とかあるだろ! もう日没なんですよ!?」
「はあ、門限? そんなんちょろっと工夫すればどうとでもなるんだけど」


神裂「確か学園都市には、完全下校時刻なる物がありましたよね?」
上条「そうな。それが過ぎたら、どんな理由があっても帰らなきゃならなくなるんだよ。まぁ、一端覧祭の準備期間とかの例外はあるけど」
神裂「良い制度だと思います。能力者と言えど、やはり学生は学生。夜遊びはまだ早いですからね」
五和(女教皇様もまだ18なので学生の年齢なのですが…何故がツッコミにくい雰囲気…)
神裂「五和? 何やら今、とっても失礼なことを考えませんでしたか?」
五和「いいいいいいいえいえいえいえいえいえいえ!! まったく考えてないですよハイ!!!」
美琴「そうは言っても、実際は守ってない人がチラホラいるのも現状よ? 私もその一人だから、あまり声を大にしていいにくいけどね」
上条「スキルアウトがうろうろする時間だしな」
五和「ちなみに、御坂さんの言う『ちょろっと工夫』とは具体的には?」
美琴「んー…私が一番使う手は、やっぱり黒子…あぁ、私のルームメイトの子なんだけどね? その子に見回りを誤魔化すように頼む事かな。一番手軽な方法だし」
??「ほう…? その話、これが終わったらじっくりと聞かせてもらうぞ。御坂」
美琴「いやああああああ! 聞かれてたあああああああ!!!」
神裂「こうならない為にも、約束や時間は厳守しましょう」


578 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:14:22 8PBgaIj.
(つか、七日あった大覇星祭の内の半分以上はあの馬鹿絡みのトラブルの連続だったのよね。あんな風になるぐらいなら最初から手綱を握っておいた方がまだマシだわ……)


上条「ん? 俺絡みっつーか、御坂と俺が巻き込まれたトラブルって二日目のアレだけじゃなかったっけか?」
美琴「まあ、そのはずなんだけどね。一体他に何があったのかしら? 今後、偽伝とかで公表されるのかな? 外伝はもう、大覇星祭終わっちゃってるしね」
五和「え? 二人とも記憶に無い、ってことですか?」
上条「まあな。もしかしたら記憶を操作されたのかもしれんけど、とにかく覚えが無い」
美琴「一日目のトラブルなら覚えてるけどね。アンタがあのちっこいののスカートを破って剥いだやつ。まあ私が直してあげたんだけど」
神裂「……上条当麻……貴方はあの子にそんな狼藉をはたらいたのですか……?」
上条「いや待て! 確かに事実はそうなんだけど原因は違うから!! 御坂が俺を殴り飛ばした拍子に起こった不慮の事故なだけだから!! だから七天七刀を目の前にかざして柄に手を添えるのはやめようぜ!!」
美琴「私が殴り飛ばしたのだって、アンタがあのちっこいのに抱きついてたからじゃない」
神裂「……ほほぉ……スカートを剥いだだけではなく……そのような破廉恥行為にまで……」
上条「違うって! 確かにそういう事もあったんだけど理由は違うから!! 俺はただインデックスのウエストを測っていただけだから!! だから七天七刀を柄からすーっと抜いていくのは止めようぜマジで!!」
五和(ああ! 女教皇がマジで切れる5秒前、MK5です!!)


(……一端覧祭)
 美琴が考えているのは、学園都市全域で行われる文化祭のような行事についてだ。今年の開催はまだ一ヶ月以上先なのだが、九月に行われた体育祭の集合体である大覇星祭が散々な結果であったため、一端覧祭の方は早めに手を打っておこうかな、などと考えていたのだ。
 ――――手を打っておく、とはもちろん『一緒に回る』約束を取り付けることだ。


美琴「ちちちちちちちち違うから!!/// ここここここれは天の声が勝手にそう言っているだけだから!!!///」
五和「ちなみに約束は取り付けられたのですか?」
美琴「う゛……」
神裂「(五和五和。もし本当に約束できたなら、上条当麻と御坂美琴さんの関係はもっと進展しています。ですが、ここまでの展開でそう思えますか?)」
五和「(な、なるほど! さすが女教皇!! 鋭い分析です!!)」
上条「まあ、考えてみりゃ御坂と一緒に回ってりゃ良かったかもな」
美琴&神裂&五和
  「!!!!!!!!!!!!!!?!」
上条「なんせ大覇星祭以上の大トラブルに巻き込まれたもんな。それこそ、開催期間中ほとんどで。んまあ、当時の俺が御坂を巻き込むなんて真似したかどうかは分かんねえけど、今の俺なら迷わず協力を求めたろうぜ、って、どうしたお前ら。鳩が豆鉄砲くらったような顔して」
美琴「……いや、アンタのことだから、どんでん返しのくだらない理由【オチ】になると思ってたから……」
五和「……もしかして上条さん、変わったのでしょうか……まるで、アックアと対峙した時の女教皇のようです……」
神裂「い、五和!? そ、その話は……!!///」


579 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:15:11 8PBgaIj.
 今度は向こうが圏外のようだ。
「つっ、使いづらい……。話したい時に話せない携帯電話なんぞに価値なんかあるかーっ!!」


美琴「アンタいっっっっっつも留守電になってるけど、わざとなの!? ねぇ、わざとなの!!?」
上条「さっきも似たような事言ってたよね!? だから偶然だってば! 上条さんの不幸が色々と重なってですね!?」
五和「上条さん…その言い方だと、御坂さんからの着信に気付かない事が『不幸』であると言っているように聞こえるのですが…?」
美琴「………え?///」
上条「だから五和! 槍先をこっちに向けないで!? ヤむの禁止!」
神裂「ごほん! 御坂さんも御坂さんです。何をそんなに、彼に電話をする事があるのですか?」
美琴「え、あっ!!? べべ、別に大した事がなくても電話くらいするでしょ!? へ、変な意味とかじゃないわよ!///」
上条「変な意味って?」
美琴「うっさい馬鹿っ!!! アンタには関係ないわよっ!!!///」
上条「いや、関係ないって…むしろ俺、何か話題の中心だった気がするんですけど…」
五和「うふふふふ…お二人はイチャイチャしないと気が済まないんですかぁ…?」
神裂(ふぅ。初登場の五和には少々厳しいようですね。私は二回目ですから多少の免疫は付いていますが)


(……、そもそもあの馬鹿の寮ってどの辺にあるのかしら? ストーカーじゃあるまいし、どこに行けば会えるかなんて分かんないのよね)


上条「え、何。御坂ってば、そんなに俺に会いたい訳? いや〜、そんなに好かれてるとは上条さんも隅に置けませんなぁ〜」
美琴「なっ、ばっ!!!?!!?!?!!!?///」
神裂&五和「「!!!!!!!!!?」」
上条「なんて冗談も織り交ぜつつ……って、あれ?」
美琴「ああああ会いたいとかそんなんじゃないしましてやすすすす好きとか別に全然ないんだけどただそのアンタがどこにいるのかちょろっと気になるだけって言うかまぁそんな感じな訳で!!!///」
五和「………ぷぁー…」
神裂「ああ!? 五和の口から魂らしき物がっ!」
上条「あれ〜?」


(まぁ、一端覧祭の事はそんなに急いでる訳じゃないし、今日は素直に帰るか)


上条「そんなに一緒に回りたいのか」
美琴「ぷしゅー…///」
神裂「とどめを刺した!?」
五和「」
神裂「五和【こちら】にもとどめが! 真逆の意味で!」
上条「…さっきから御坂と五和、どうしたんだ?」
神裂「そして自覚なし!? 今、貴方は二人の女性の命を握っているのですよ!?」


(……い、いや、最後にもうちょっとだけ)
 そんな風に思いつつ、まだ調べてない道とかあったかな、と美琴は携帯電話の画面にGPS地図を呼び出したが、


美琴「こ、ここ、これも違うからね!!? そこまでしてまでアンタの寮の場所を知りたかったとか、そういうアレじゃないんだから!!!///」
上条「いや、別にいいよ。俺だって、友達の家とかどこにあるか気になるし」
五和「と、友達っ! そうですよね!? 上条さんと御坂さんは、あくまでもお友達なんですよね!?」
神裂「五和…復活できたようで何よりです」
上条「けどまぁ、今は御坂も俺ん家の住所知ってるんだし、いつでも気兼ねなく遊びに来いよ」
美琴「え。あ、う、うん…じゃあ、お言葉に甘えて…///」
五和「ぐっはっ!」
神裂「五和っ! 五和あああああ!!!」
上条「そうだ。日本に来たときだけでも神裂と五和も来ればいい。そうすりゃアイツも喜ぶだろうし」
五和「え? いいのですか!?」
神裂「うわお!? 復活早っ!!」


 ――――白井黒子の顔を発見した。
 ズバッ!! と凄まじい音を立てて美琴は建物の陰に隠れる。
(あ、あれ? ……何で隠れてんのよ私?)


上条「…声かけりゃいいじゃん。ホント、何で隠れてんの?」
美琴「だだだって! 何かよく分かんないけど、体が勝手に動いたんだもん!」
神裂「黒子さん…と言うのは先程名前をお聞きしましたね。確か御坂さんのルームメイトだと」
美琴「う、うん。今思えば多分、黒子には私がコイツの事を……そ…その…探…してる………って、バレたくなかったんだと思う…何言われるか分かんないし……///」
上条「白井って俺の事を目の敵にしてるもんな〜。理由はサッパリ分からんが」
五和「ああ、何となく…」
神裂「三人の人間関係が見えましたね…」


580 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(前編) :2015/06/23(火) 21:16:02 8PBgaIj.
上条「ん? 今回はここで終わりか? 随分と中途半端だな…」
美琴「ああ、何かね? 14巻から先は私の出番が少ないから、前編〜後編でSS、14巻、16巻、17巻、18巻まで一気にやっちゃおうって感じらしいのよ。だから今回は、14巻の途中まで一旦終わりみたいなのよね」
五和「これから上条さんは、左方のテッラと戦う為にフランスへ渡るんですね。そして私と再会して私と一緒にアレやコレやな事をっ!///」
美琴「おうコラ! アレやコレやって一体何をしたのかしら〜ん?」
上条「ビリビリ恐い〜! 別に何もしてないよ!?」
神裂「私としては、その次の16巻部分を早くやっていただきたいですね。それまで私の出番がありませんから」
上条「アックア編か。OPトークで言ってた、御坂と五和が出会った銭湯の話があるのも16巻なんだよな?」
美琴「うん、そこでこの人と出会……………ああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!///」
神裂「っ!? ど、どうしたのですか急に!?」
五和「て、敵襲ですか!?」
美琴(おおお、思い出したああああああ! その日私ってば、コ、コココ、コイツへの気持ちに気付いちゃってんじゃないのよおおおおおお!!!!! こぼれ話って私の内面の事も赤裸々にバラされちゃうから、コイツに気持ちが…うわああああああどうすればいいのよおおおおおおおおおお!!!!!///)
神裂「何やら突然、御坂さんが頭を抱えて顔を真っ赤にしてしまいましたが…」
上条「ああ、よくあるよくある」
神裂「よくあるんですか!?」
美琴「ね、ねぇ…16巻は飛ばしてもいいんじゃない…?///」
五和「何言ってるんですか駄目ですよ! 女教皇様を含む、我ら天草式十字凄教の最大の見せ場なんですから!」
美琴「い、いやそうかも知れないけれど、ここはあくまでもこぼれ話だから、私とコイツ以外の見せ場はカットしてもいいんじゃないかと…///」
神裂「…? 先程と話が矛盾していませんか? 例え少なくとも、貴方の出番は約束された巻なのでしょう? そうでなければ、15巻のように飛ばされる訳ですし」
美琴「それは…そうなんだけど……そうなんだけどさ…///」
上条「まぁ、いいや。とりあえず次は、14巻のフランス編からって事でいいんだよな? 16巻までは行くと思うけど、17、18巻まで行くかどうかは、まだ分からんって事で」
美琴「って、16巻はやるの確定!? ちょ、ちょっと待っ///」
上条「という訳で、次回もお楽しみに〜」
美琴「私の話を聞きなさいよバカぁ〜〜〜〜〜っ!!!!!///」


581 : 我道&くまのこ :2015/06/23(火) 21:19:01 8PBgaIj.
以上です。
という訳で、次は14巻の続き部分からになります。
あっ。それと、くまのこ単体としてですが、
エロスレの方に1本書きましたので、
良ければそちらも読んでやってください。
ではまた。


582 : ■■■■ :2015/06/24(水) 01:09:33 IO.906U6
>>581
さすが天草式が誇る夜叉二人、恐いわw
美琴そんな小細工を……無効なのは上条さんだから仕方がない
ちと??な人多くないか?今回ちょい分からんかった
確かに16巻のアレは……まぁ上条さんだし残念な誤解してくれるやろw

……ここら辺からロシア編まで美琴派のわしら辛かった……(遠い目)
けど、ここ(だけじゃないが)のおかげ…で頑張れてるよ!


583 : ・・・ :2015/06/25(木) 06:53:55 uKEr2/0M

ご無沙汰です。・・・です。
一回作って気に入らず消して、もう一回作ってデータ消えて、ふて寝してました。

くまのこさん
〉〉上琴LEVELファイブS.R
最近いんでっくすさんでも上琴描写が増えてきてうれしい。
シスターさんがマリア以外を崇めとる……修業中だからOK?
あの顔ならどんなセリフも許され……ねーよ!!!!(くわっ)
結局ご飯を食べた後この件で噛みつかれるんだろうさ不幸だ


〉〉美琴は催眠術にかかりやすそうだね
妹も表情豊かになってまー。
上条さんにはぜひ催眠術を習得してもらって、付き合い始めた後にげふんげふん
元に戻った美琴に八つ当たりされるんだろうさ不幸だ


〉〉よかったな、じゃ解散解散
に、逃げろ!! バカップルだ〜〜〜。
早く原作でこんなんしないだろうか。
後日「御坂さんっておへそもよわいそうですね」ってS・Rさんに言われるんだぜ不幸だ


〉〉交換の好感が交換で好感だったら交換したのに……
感謝!!
オナ、かがすいてしかたがないとかインデックスがいってたね
所詮美琴ちゃんの日常もそんな感じ。
インデックスや白井が不幸だ


〉〉おっもっい〜いこんだ〜らっしれん〜の……
そろそろ美琴の頭がIHの代わりになる。
能力の関係は喧嘩したままだけどね。
でも数十年後にはいい家庭を気づけてるじゃないか、超幸せ!!


我道&くまのこさん
待ってましたともさ!!
3人の美女に囲まれてるけどヤンデレばかりであんまうらやましくない。
次回が!! 次回が!! 次回がああああ!!!
楽しみすぎます。これで気づかない訳が……あれ? な、ないよ、ね?


では投下します。
育児日記の「衣替え2」はシリアス調なので、
小ネタ「麻琴の憂鬱な日々」を後に投下します。
時間つぶしにどうぞ。

それでは


584 : 衣替え2 :2015/06/25(木) 06:55:14 uKEr2/0M

「ごめんね」

デジタル時計が20:00をさしていた。
暗い部屋のなか、ベッドの隣で美琴が呟いた。

「お前は悪くないだろ」

「わたしの、体調管理が甘かったから……」

「それはオレも同罪だ」

「……」

美琴が沈黙したあと、ベッドから咳き込む声が聞こえた。

「コホッ、コホッ、うぅ、まコホッまぁコホッコホッまあ、ま」

慌てて美琴はインデックスを抱き上げる。
異変に気付いたのは、 学校から帰ってしばらくしてからだった。
美琴がインデックスを抱き上げた時にあまりに元気がなかった。
体温を計り、慌ててゲコ太先生の病院に行った。

『ただの風邪だね。季節の変わり目だし、仕方ないかもね。大丈夫だ』

自分たちが入院した時よりも安堵した。
そして自分たちの意識の甘さに悔いた。
美琴は、インデックスに語りかける。

「これからは、気を付けるからね」

「美琴……」

「気を付けるから……」

テーブルの上に、常盤台中学から届けられたある書類が置かれている。

『寮の修繕完了予定日と寮への帰還予定日の通知書』

ステイルや神裂、一方通行、打ち止め、垣根、フレメア、浜面、滝壺、そして白井が訪ねてきたのは、その書類が来た後だった。

ほとんどがインデックスの見舞いだったが、
白井は、この通知を喜び、駆け付けた。
しかし、彼女が美琴から受けた言葉は

『黒子も、この子とわたしを引き裂く気?』

という言葉だった。
いつもの美琴なら言わなかっただろうし、いつもの上条ならフォローがあっただろう。
しかし、彼らは追い詰められていた。
暴言や暴力はない。
言葉はいつも通り。
だが、有無を言わさず、上条と美琴は皆を追い出した。
最後まで、彼らは白井の表情に気付かなかった。

「コホッ、ぐしゅっ、まぁ、コッコホッまぁま、ぱコホッぱぁ」

「これからは、ちゃんと気温の変化に注意しないと。ね、当麻」

「…………あぁ、そうだな、美琴」

現時点で、その「これから」は残り7日。


585 : 衣替え2 :2015/06/25(木) 06:55:51 uKEr2/0M
白井は、星空を見上げる。
もうこのパジャマでは過ごせないほど肌寒くなってきた。

「……お姉様……」

そして、決めた。
これは正義の行いとはいいがたい。
ただの、わがままだ。


夜が明ける。
インデックスが熱を出して2日。

「うん、熱もひいたし、喉の腫れもない。咳も鼻水もないし、もう大丈夫だね。念のために2、3日は安静にするんだよ?」

とゲコ太先生から診断された。
安心して疲れが出たのか、夕方に病院から帰ってすぐインデックスの横で上条も美琴も眠った。
それから18時間。
美琴はまだ目を覚まさない。
上条は、美琴とインデックスにかかった布団を整える。
振り返ると、ソファーとテーブルの上で寝ている2人が視界に入った。
オティヌスとトールだ。

『貴様ら、その子が元気になったとき、代わりに倒れる気か!!?』

インデックスに熱が出た翌日、オティヌスとトールがなにも知らずに訪ねて来た。
白井やステイルたちと同様追い出そうとしたら、怒鳴られた。
そこではじめて、二人は食事をしてないことに気付いたのだった。
彼らがいなかったら本当に倒れていたかもしれない。

「……さて……」

上条は制服に手を通すと、
玄関のドアノブに手をかけた。


586 : 衣替え2 :2015/06/25(木) 06:56:21 uKEr2/0M
上条が家を出たちょうどその頃、
常盤台の寮の屋根に2人の男が立っていた。

「さぁ、覚悟はできたか? 第一位!!!」

ホストのような男、垣根帝督は翼を広げながら笑う。
絶体絶命な状況で、正面に立つ男は

「……いや、それじゃダメだな」

ため息を吐いた。
一方通行はだるそうな目で続ける。

「前からてめェはクソガキと遊んでンだからよ、今さら殺し合いは不自然だろォが」

「クソガキじゃなくて打ち止めさんと呼べや、いつも面倒みてもらってる相手にその態度はなんだ? アァ?」

「いつもおせわになってます」

「いえいえ、気になさ……そうじゃねぇ」

「なンだよ?」

「オレとてめぇが殺し合いして、その余波で完成間近の寮が壊れました!! このシナリオに文句あんのかよ?」

「文句だらけだっつの。カブトムシになって知能も虫並みになったンですかァ?」

「てめぇも他に考えつかなかったんだろぉが、知能もやしレベル」

「……」

「……」

「お望み通り殺してやるよ!! ついでにツノへし折ってメスにしてやらァ三下!!!!」

「上等じゃ!! いい具合に炒めてくれるわ!!!!」

その瞬間、目の前をビームが横切った。

「ま、待てって!! 麦野!!!」

下を見ると麦野が浜面に羽交い締めにされている。
もともとは寮を狙っていたようだ。

「なんだよ? お前もあのチビには第三位が必要だといってたじゃねえか。だからこうやって完成間近の寮を……」

「だからってぶっ壊すのはダメでしょうがよーーーーーー!!」

ゆっくり超能力者トップ2は顔を見合わせる。

(……発想あれと同レベルかよ)


587 : 衣替え2 :2015/06/25(木) 06:56:50 uKEr2/0M

日も大分登ったころ、
上条はとある目的地に向かって歩いていた。
公園を横切ろうとした時、不意に目の前に少女が現れる。

「おっす、白井」

「おはようございます。上条さん。インデックスさんの体調はいかがです?」

「あぁ、治ったよ、心配かけたな」

「それはなによりですの。上条さんはなにをされてるんです?」

「あぁ、常盤台の校長先生に、美琴が寮にへ戻らなくてもよくなるようにお願いしに行くんだよ」

「……話すら、聞いてもらえないかもしれませんわよ?」

「それなら、その上の、理事長になるのか? に頼むし、それでダメなら統括理事の誰かに頼むし、それでダメでも別の手を考えるさ」

「……なるほど、流石ですわね」

「お前はなにしてんの?」

「……実は、上条さんと、まったく同じ理由でしたわ」

「へぇ、奇遇だな。一緒に行くか?」

「そうですわね、いろいろな面から意見を言ったほうがいいと思いますし」

「美琴を慕う風紀委員の意見は確かにあるにこしたことはないな」

「その前に、お願いがありますの」

「ん? なんだ?」

「私と、戦ってくださいまし」

木の葉が風で舞った。

「な、に……?」

「そして、私が勝てば、何も言わずにお姉さまから離れてくださいまし」

「何を言ってるんだ!!」

「別に会うなと申している訳ではありませんの。 あと数ヵ月、せめてお姉さまが常盤台から卒業するまでは、距離を置いてくださいませ」

「ふざけ……っ!!」

言葉が途中で遮られた理由は単純。
上条が話すのをやめ、回避に専念したからだ。
後ろに飛んだ上条の目の前に鉄矢が浮かぶ。
気付くと白井の姿がなかった。

「くっそっ!!」

しゃがむと、頭上を鋭い蹴りが通った。
捕まえようとするが、すぐにまた消える。
目論見が外れた上条は慌てて前転の要領で跳ぶ。
鉄矢が服を裂いた。

「……わかったよ」

上条は、ようやく敵を見据える。

「理由やなんだは、取っ捕まえて聞いてやる!!!」


588 : ・・・ :2015/06/25(木) 06:59:21 zPAV8OWA
以上、
育児日記でした。

次は小ネタです。打って変わって馬鹿っぽいので、
気楽にお読みください。

それでは


589 : ・・・ :2015/06/25(木) 07:01:26 uKEr2/0M

日曜日

夜やっていた映画を家族で見ていた。

「ほんと、この女優さん綺麗よねー」

「……ふんっ、ママの方が綺麗だし」

……。

「うおっ、今のアクションカッコいいなー」

「なによ、パパの方がカッコいいもん」

……。
なぜそっちが拗ねる。


月曜日。

お風呂からあがったら、ケンカしていた。
間に入る。理由を聞く。

「オレはただ、いつも家事してくれてありがとうって、お疲れ様って気持ちで肩もんであげようとしただけだ!!」

「おかしいわよね!!? いつも外で働いてきて、くたくたになりながらも家族サービスしてくれて、おつかれさまって肩もんでもらうのはパパの方がいいでしょ!!?」

なんだこれ?



火曜日

家族でボケーとテレビを見ていた。
バラエティー番組だった。
夫婦にインタビューするという内容。

『旦那が高校時代、学校で一番の不良から私を助けてくれたんです』

『俺が苦しんでいるときに、わざわざ九州から東京まで駆けつけてくれるいい嫁さんです』

なんでそこでドヤ顔してんのかわかんねぇ。


590 : 憂鬱な一週間 :2015/06/25(木) 07:02:05 uKEr2/0M
水曜日

「ぱ、パパを、迎えに、行ってきます」

いそいそと出ていく母。
たまに母が父を駅まで迎えにいく。
だいたい4時間以上かかる。






因みに駅まで徒歩3分。
その日は二人ともお風呂に入らない。

忘れてない?
わたし!! 思春期の!! 娘!!


木曜日

同じ空間で、
母は夕飯を作っていた。
父は持ち帰った仕事をしていた。
わたしはテレビを見ていた。
雑談をしてたら、宇宙の話になった。

「宇宙って今も光より速い速度でどんどん大きくなってるんだって」

「へー、そうなのか。ママー、オレ達の愛と同じだなー」

「ホント同じねー」

なんだこれ?


金曜日

昼休み、友人達と弁当を食べる。
週末遊びに行く予定とか話ながら弁当箱を開けた。
父の弁当を間違えて持ってきたようだ。



白米の上にデカデカとハートが鎮座していた。



わたしも友人達も固まった。

因みに父は、帰ってすぐ「なんで今日ハートないの?」と子犬のように母に尋ねていた。
毎日かよ。

土曜日

リビングに入ると、バカ親どもが抱き合っていた。
最近、あまりにひどすぎる。

向こうもこっちに気づいた。
今日こそ一言もの申してやる。
と、意気込んでいたのだが、

「「まーこと!!」」

といって、二人で手を広げてきた。

「〜〜〜〜〜‼////////」

こんなの、わたしも抱き締めるしかないじゃん。
悔しいが、この2人に勝てる気がしない。


591 : ・・・ :2015/06/25(木) 07:03:03 uKEr2/0M
以上です。
タイトルは同じようなのがあった気がして急遽変更しました。


592 : くまのこ :2015/06/26(金) 00:55:29 fQhAUuWY
>>・・・さんGJです!
>>584-587 続き待ってたー! 緊迫したまま終わりましたねぇ…次回も楽しみにしてます。
>>589-590 麻琴ちゃん諦めろ。ご両親はこれからもずっとバカップル夫婦だから。



短編書きましたー。
ミコっちゃんが酔っ払う話です。
約3分後に3レス使います。


593 : その酒癖の悪さは母親譲りにつき :2015/06/26(金) 00:58:28 fQhAUuWY
それは何気ない日常から始まった。
この日の放課後、美琴は白井、初春、佐天という三人の馴染みのメンバーと、寄り道をしていた。
最近第七学区で話題のアイスクリームショップ、そこに四人で買い食いをしているのである。
あまり褒められた行為ではないが、風紀委員が二人いるので大丈夫(?)だろう。

「ん〜〜〜っ! やっぱ美味しいですね、ここのジェラート!」

言いながら幸せそうに顔を綻ばせたのは、この中で一番の甘党、初春だ。

「…にしても初春。五段重ねはやりすぎじゃない?」
「甘いものは別腹ですから!」
「腹は一つしかありませんわよ」
「ま、まぁ確かに美味しいから、分からなくもないけどね」

しかし初春の食べる量に、総員総ツッコミである。

「それに、そんなに食べたら太るのではありませんの?」
「うっぐ……そ、それは言わないでくださいよ白井さ〜ん…」
「あ〜…あたしもちょっと、お腹周りが心配なんですよね〜。
 御坂さんはいつもスタイルいいですけど、ダイエットとかしてるんですか?」
「(私は佐天さんの胸の方が羨ましいけど…)別にダイエットとかはしてないわよ?
 私って何か、いくら食べても太らない体質みたいだし」

瞬間、美琴以外の三人の動きが止まった。そして、

「何ですかそれケンカ売ってるんですかっ!?」
「う、初春! 気持ちは分かるけど落ち着いて!
 きっと御坂さんは、自分の能力の発電エネルギーで脂肪も燃焼できるんだよ!」
「と言うよりも、お姉様は普通によく運動するからだと思いますの」

今度は美琴に総ツッコミである。
普段、大人しめな初春が声を荒げる程に。

とまぁ、そんないつも通りの雑談をしている時だった。ふいに佐天が、

「あっ! みんなで一口ずつ交換しませんか?
 ちょうど全員、バラバラの味のを買ったみたいですし」

そんな提案をしてきた。
白井は親指をグッと立てて「ナイスアイデアですの!」と叫んだ。
白井は以前、美琴と同じ物を注文してしまったが為に、美琴との「あーん」をしそびれた過去がある。
今回はそんな事が無いように美琴と別の味のアイスを買っておいたのだ。
ちなみに美琴はチョコミント、白井はモカコーヒー、佐天はラムレーズン、
そして初春は上から順に、
ストロベリーチーズ、オレンジシャーベット、抹茶、シャリシャリコーラ、濃厚バニラだ。
彩りを考えるだけでなく、ねっとり系とさっぱり系を交互に挟んでいる辺りも流石(?)である。
だが白井にとっては残念な事に、愛しのお姉様との「あーん」計画は、今回も白紙に戻される事となる。

「あ、じゃあ佐天さんのから」
「どうぞ! このラムレーズン、ちょっと多めにお酒が入ってて美味しいんですよ」
「へぇ〜、楽しみね」

と言いながら、美琴は佐天の買ったアイスをパクッと食べる。
すると美琴は味わいながら、「ん〜、おいひ〜♪」と頬に手を当てた。
そこまでは良かった。だが次の瞬間、美琴にある異変が。

「ホ〜ントおいしいにゃ〜!」
「…? 御坂さん?」
「な〜にゃ〜?」

明らかに言動がおかしい。
目をトロンとさせながら、顔には赤みが差し、頭をフラフラとさせる。
これは誰がどう見ても。

「えっ!? み、御坂さん酔ってるんですか!?」
「えええ!? た、確かに佐天さんのジェラートにはラム酒が入ってますけど!」
「で、ですがアルコール分など飛んでいるはずですわよ!?」

そう。佐天の注文したラムレーズンにはラム酒が含まれている。
ただし白井の言った通り、アイスを作る過程でラム酒には加熱処理が施されているので、
普通は酔う事はない。『普通』ならば。


594 : その酒癖の悪さは母親譲りにつき :2015/06/26(金) 00:59:16 fQhAUuWY
しかし美琴は『普通』ではなかった。
レベル5の能力者である美琴は、学園都市でも指折りの演算能力と、
そして自分だけの現実を確立している。
だが自分だけの現実の力の源泉は、信じる力…そして妄想力である。
つまり美琴は人よりも妄想する力が高い訳で、それ故にプラシーボ効果も高いのだ。
「アルコールが入っている」という情報だけで、酔ってしまえる程に。

と、そこに気付く前に、美琴の介抱をする三人の前には新たなトラブルの種が。

「…あれ? どうしたんだお前ら」
「げっ! る、類j…もとい上条さん…!」

トレードマークのツンツン頭。上条だ。

「あの、上条さん! 実は御坂さんが―――」

この状況を上条に説明しようと、
「御坂さん何故か酔ってしまって」と初春が言おうとした瞬間、それは起きた。

「にゃあああ! 当麻だあああぁぁぁ!」

満面の笑みを浮かべた美琴が、突如上条に抱きついた。
そしてそのまま、上条の胸元に顔をコシコシと擦りつけてきたのである。
あまりに唐突且つ荒唐無稽で、普段の美琴では有り得ない行動に、
四人は目を丸くして固まる。ただ一人美琴だけが、幸せそうに「にゅふふ〜♪」を笑っていた。
普段は上条の事を、「当麻」だなんて呼びもしないクセに。
どうやら、いつもは理性やら恥ずかしさやらでツンツンする所が、
酔っ払った事でそれらを取っ払ってしまい、素直にデレデレになっているらしい。

「なっ、え、こ、えっ!!? これ、ど、どういう現象なのでせう!?」

色々と柔らかい感触やら淡く甘い香りが鼻をくすぐるやらで、顔を真っ赤にした上条だが、
これが正常な状態ではない事は分かっているので、目の前の三人に問いかける。
しかし誰一人として答えられる者はいない。彼女達も、美琴の急変に頭がついていかないのだ。

が、時間が経つにつれて頭の凍結も徐々に解凍されてきた三人は、
美琴の異変が何なのかは分からずとも、今やるべき事は理解する。

「………ハッ! と、とりあえずお姉様から離れなさいな!」
「とと、そうだった! ケータイケータイ!」
「ぬふぇ〜〜〜」

まず白井が二人の中に割って入ろうと立ち上がり、
佐天はこの様子をムービーで録画しようと携帯電話を取り出す。
そして初春は…まだ赤面したまま固まっている。
だが止めに入ろうとした白井に、『バヂヂィッ!』と威嚇電撃が飛ぶ。
この場で自由に電撃を飛ばせる人物など一人しかいない。そう、美琴だ。

「お、お姉様!? 何を…」
「何をじゃらいわよ〜…黒子! アンタ、私と当麻の仲を邪魔する気れしょ〜!
 当麻は私のなんりゃからっ! 誰にもあげたりしらいんだからねぇっ!」
「要りませんわよ、そんなものっ!」
「そんなもの!?」

白井に『そんなもの』扱いされ、地味にショックを受ける上条である。
しかし上条自体は要らなくとも、邪魔はしたい白井。
ここは美琴の電撃を恐れている場合ではない。強引に突き進もうとする。

「ここは強行突破を―――」

が、次の瞬間だ。

「―――っ!!? もご春っ!?」
「ししし白井さんっ! ここは黙って見守りましょう!」

ようやく動けるようになった初春に、羽交い絞めされてしまった。
ついでに口まで塞がれた為に「初春」と言う所を「もご春」と、どもってしまう。
初春もまた佐天側の人間であり、美琴の恋を応援しているのだ。面白半分に。
ちなみに当の佐天はと言えば、黙々とムービー撮影を継続中だ。この子はブレないのである。


595 : その酒癖の悪さは母親譲りにつき :2015/06/26(金) 01:00:19 fQhAUuWY
一方で、困惑しているのは上条だ。
とりあえず右手で美琴の頭を触ってはみたが、特に反応はない。
酔っているだけなので当然だが、そこに異能の力は加わっていないのだ。
しかし美琴の態度がおかしいのは見ての通りなので、
どうすればいいのか分からないやらドギマギするやら、離れようとするやらドギマギするやら。
結果ドギマギしているのである。

だが美琴はそんな上条などお構いなしに、悠々自適にイチャイチャを満喫していた。

「んふふ〜、当麻当麻当麻〜♡」
「ちょ、みこ、美琴さん!?
 そんなに抱き締められるとその…お…お胸が当たってましてですね……」
「なぁ〜に〜? 当麻ってば照れてんの〜? もう、か〜わ〜い〜い〜!」

ケラケラと笑いながら、抱きつく手に更に力を込める。完全に「当ててんのよ」状態である。
ところが美琴の攻めは、これで留まらなかった。

「ねぇ、当麻ぁ。チューしよ? チュー」
「……………へ?」

見ると美琴が「ん〜♡」と唇と突き出して目を瞑っている。
上条は慌てて美琴の両肩を掴み、離れようとする。

「おおおオチケツ美kとっ!!! それはホラ何と言いますかアレですからっ!!!」

まずはお前がオチケツ。こういう事態に耐性のない上条は、相当にテンパっているようだ。
対して美琴は、チューをさせてもらえなかった事に「ぷくっ」と頬を膨らませる。ご立腹である。

「……や!」
「いや、『や』っと言われましても…」
「や〜あぁ〜! チューしゅりゅろ〜!」

もはやただの駄々っ子に成り下がる常盤台の超電磁砲。
げに恐ろしきは酒の力(正確には『酒』というキーワードとプラシーボ効果の力)である。
だがそれでも彼女は、腐ってもレベル5だ。
酔っ払いながらもその卓越した演算能力をフル回転させ、上条を罠に嵌める。

「……あっ。アレな〜に?」
「え?」

ふいに美琴が、上条の後ろを指差した。
そして上条が後ろに振り向いた瞬間―――

「隙あり♡」

と美琴はキスをした。
上条の唇のすぐ右斜め下。もう少しでダイレクトアタックする所であった。

「が、ががっ!!?」

突然のキスに、上条は顔を真っ赤にさせながら美琴を見つめる。
けれども美琴は悪びれた様子もなく、ニコニコしながら一言。

「えっへへ〜! 焦らされてやんの〜♡」

そしてその一言を最後に、美琴は「かくん」と落ちた。
眠ってしまったようだ。上条にその身を預けたままで、である。

結局最後まで何が何やら分からなかったが、とりあえず事態は収束した。
上条がホッとしたような少し勿体無かったような、そんな複雑な心境で幕を下ろ―――

「る〜い〜じ〜ん〜え〜ん〜……お覚悟はよろしいDEATHの…?」

幕を下ろす訳がない。
ようやく初春の拘束を振りほどいた白井は、
美琴と上条の行動(と言うか行動を起こしていたのは美琴だけなのだが)の一部始終を見せ付けられ、
我慢などとっくに限界を超え、修羅と化していた。
聞き慣れたはずの白井の「ですの」に、妙に殺意も込められている気がする。
上条さんは何も悪くない。悪くはないが、何故だろう。全く同情する気が起きないのは。

訳の分からない事に巻き込まれた上条は、訳の分からないまま白井の怒りを買い、
訳の分からないまま不幸な目に遭うのだった。
そして後日、この時の全ての記録をるいぴょんと風紀委員の守護神がばら撒くのである。

四人のアイスがドロドロに溶けるそのすぐ近くで、トロトロにとろけきった寝顔の美琴は、

「もう…当麻ってばエッチなんだかりゃ〜…♡」

と暢気に夢を見るのであった。


596 : くまのこ :2015/06/26(金) 01:01:00 fQhAUuWY
以上です。
ではまた。


597 : ■■■■ :2015/06/26(金) 01:08:09 AW7NBz/Q
乙です 佐天さんのムービーを見せられたみこっちゃんの反応が
気になるw


598 : くまのこ :2015/07/01(水) 00:17:08 FYc1vFLw
連投すみません。また短編書きました。
>>169-171>>225-226>>325-326の続編になります。
でも多分、前のを読んでなくても大丈夫だと思いますのでご安心を。

タイトル長すぎてまたエラーが出そうなので、名前の欄にタイトルは入れませんが、
『 もしかしてだけど〜それってミコっちゃんを誘ってるんじゃないの〜♪ 』
というタイトルです。
約3分後に3レス使います。


599 : ■■■■ :2015/07/01(水) 00:20:01 FYc1vFLw
美琴は今朝から…いや、前日の夜からドキドキしっ放しであった。
その理由は上条からの突然の電話。何やら、ちょっと頼みたい事があるらしい。
ただでさえ滅多に向こうから電話をかけてくる事がなく、
それだけでドキドキ要因は完備されているというのに、
上条の『頼みたい事』というのがまた厄介な代物だったのだ。

『悪い。また練習に付き合ってくれるか?』
「えっ!!? ア、アレやるの!?」
『…ダメか?』
「だだだダメじゃないけどっ!!! ダメ…じゃ、ないんだけどさ…」

上条の言う『練習』。美琴の言う『アレ』。
この短い会話で、美琴のテンパり度数が一気に上昇したのには理由【わけ】がある。

それは以前、上条からの「上条さん、イメチェンしようと思ってます」の一言から始まった。
上条はある日、自分がモテる為にキャラを変えてみようと思ったのだ。
性格など無理矢理変えても長続きする事などないのだが、
それ以上に美琴を驚愕させたのが「俺様キャラとかどうかな!?」という上条の提案だった。
上条と俺様。そのあまりにもな不釣り合いさに、美琴も最初は笑っていたが、
いざ練習に付き合ってみると、「キスは…夜までお預けな」で顔を爆発させてみたり、
「美琴………愛してる」でどうにかなってしまったり、
「俺の分のも一口食っていいから機嫌直せって」と間接キスをさせられて記憶を失ったりと、
散々な結果(?)となったのだ。
ならば練習などに付き合わなければいいとお思いの方も多いであろうが、
そうしない…と言うよりも、そう『できない』理由が美琴にはある。
その理由? それはホラ、ミコっちゃんも乙女な訳で色々と察してあげてほしい。

とまぁ、そんな経緯があって美琴は上条のイメチェン化計画の練習台となったのだが、
そのせいで練習日の前日から当日まで、ずっとドキドキしていたのだ。
こんな状態で眠れる訳もなく、結果的に美琴は徹夜で悶々とする羽目になったのだった。


 ◇


「はよ〜っす、美琴!」
「あ、ああ。うん…おはよ…」

今日が休日という事もあり、二人は午前中から待ち合わせしていた。
心の準備が間に合わなかった美琴は、冷静を装ってはいるが内心では心臓が大暴れ中である。

「それできょ、今日は…ど、どんな練習する訳…?」
「それなんだけどさ。今までより本格的に練習する為に、
 キャラ変えたまま二人でどっか遊びに行ってみないか? ほら、せっかくの休日だし」
「……………へ?」

美琴は一瞬だけ考えて。

「ええええええええええっっっ!!!? な、そっ! それ!
 ももももしかしなくてもその、デ…デデ、デーっ! トっ! なんじゃないのっ!!?」
「うん、そう。デート」

上条もアッサリと認める。今からデートするのだという事を。

「いや。元々これ、俺がモテる為の練習だろ? そろそろ実践的な訓練も必要かと思って。
 んで、これの実践って何だろうと思ったら、やっぱりデートしかないかなと」

つまり上条は、今日一日だけ美琴に恋人役をやってほしいと言っているのだ。
理屈は分かる。理屈は分かるのだがしかし。

「で、でもデートなんでしょ!?」
「だからそうだって」

この男は悪びれる様子もなく、いけしゃあしゃあと。
美琴も前日から寝ずに悶々とさせられ、幸か不幸か強制的にあらゆる妄想【イメトレ】をしてきたが、
上条の想定外の発言に顔は真っ赤に、そして頭は真っ白になる。紅白である。おめでたいのである。

「で、でも…いきなりデート、とかは、流石にちょっと……」

目線をあっちこっちに移しながら、やんわりと断ろうとする美琴。
しかし上条はお構いなしに、美琴のその幻想をぶち殺しにかかる。


600 : ■■■■ :2015/07/01(水) 00:20:34 FYc1vFLw
「は? お前の意見なんて聞いてねーっつの。
 いいから美琴は黙って俺に付いてくればいいんだよ。…これからも、ずっとな」

髪をファサっとかきあげながら、キザったらしい口説き文句
(とは言っても『ぼくのかんがえたさいきょうのくどきもんく』ではあるのだが)
を一言。どうやらすでに、俺様キャラを実演中のようだ。
どんなタイミングでスイッチを切り替えてやがるのか。
しかし美琴はツッコミを入れる余裕などなく、顔をさらに赤くして、ポーっと上条を見つめる。
常盤台の超電磁砲は、上条さん限定のちょろインなのである。だってとっくの昔に攻略済みだから。

「ほら行くぞ。手ぇ握るぐらいは許してやるからよ」
「あ、その…おね、お願いしまひゅ…」

さあ。ツッコミ不在の恐怖【デート】、はっじまーるよー。


 ◇


それは正に、『定番』と言えるデートであった。
午前中に映画を観て、ちょっとオシャレなカフェで昼食を取り、
午後は水族館に入って、最後にショッピングモールを回る。
何の変哲も無い、ありふれたデート。まぁ、一回目のデートにしてはそこそこである。
しかしそれを行う初々カップルは、どこかありふれていなかった。

例えば映画館では。
「おい、なに逃げようとしてんだよ。
 カップルシートってのは、こうやって肩を寄せ合う為にあるんだろうが」
「にゃあああああああああ!!!」

例えば喫茶店では。
「バ〜カ。お前の右手とフォークは、俺の口にパスタを運ぶ為にあるんだよ。
 ほら、口開けててやるから早く食わせろって。…あ〜〜〜ん」
「にゃあああああああああ!!!」

例えば水族館では。
「ははっ! 美琴も魚達【こいつら】みたいに水槽ん中に入れば、いい客寄せになるんじゃねーの!?
 …美琴は絵本に出てくる人魚みたいに綺麗なんだからさ」
「にゃあああああああああ!!!」

例えば雑貨店では。
「おっ! このヘアピン可愛いな。美琴にも似合いそ…じゃなくて!
 えっと……べ、別に似合ってなんかないけど、ネタとして買ってやるから付けてみろよ」
「にゃあああああああああ!!!」

つまりはこんな感じだったのだ。
美琴など、毎度毎度「にゃあああああああああ!!!」と同じ奇声を発してしまっている。
それにしても上条さん、一個キャラが乗っかっているとは言え、
よくもまぁ恥ずかしげもなく次から次へとクサい台詞を言える物である。
流石は世界を救ったヒーローと言ったところだろうか。
もっとも雑貨店では、一度だけ素の反応をチラ見せしてしまったような気もするが。

だがそんな幻想【デート】の時間もそろそろ終わりだ。
ショッピングモールを出る頃には大分日が傾いており、完全下校時刻も近づいていた。
上条の猛攻に何とか耐えていた美琴も流石に限界を迎えており、もはや心身共にヘロヘロである。
しかしそれでも最後の挨拶くらいはしなきゃいけないと、フラつく足を必死に踏みしめ、
赤面した(と言うよりも朝から赤面したままの)顔を上条に向ける。
ただし微妙に目は合わせていない。直接上条の顔を見たら、多分だけど爆発するから。

「あ…じゃ、じゃあ今日はその……色々ありがと…結構…楽しかった…から……
 そ、それじゃあ…また明日―――」


601 : ■■■■ :2015/07/01(水) 00:21:17 FYc1vFLw
と、その時だ。美琴が言い終わるその前に、上条が美琴の腕をガッと掴んだ。
突然の出来事に、美琴も「えっ、えっ」と慌てる。

「えっ、えっ!? ど、どうしたのよ急にって言うか近い近い近い近いっ!!!」

気付けば上条が、言葉通りの意味で美琴の目と鼻の先まで顔を接近させていた。
そして更に、その距離でポソッと一言。

「…お前、何で俺に許可なく勝手に帰ろうとしてる訳?
 っつーか、このまま大人しく帰す訳ないだろ。どう考えてもさ」
「えっ!? はえ!!? ででででもあのそろそろ完全下校時刻とかそういうのがあのそのっ!!!」
「関係ねーよ。美琴だって、本当は期待してたんだろ? …俺と『そうなる』事に」
「そそそそれは確かに考えなくもなくもなくもなくもなくもなくもなくもなかったけどもっ!!!」
「じゃあ…とっとと目ぇ瞑れよ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

上条の「目を瞑れ」という言葉を合図に、美琴は『何を期待した』のか言われるがまま目を瞑った。
そして上条はそっと美琴の後ろ首に腕を回す。その唇に、優しくキスをする為に―――

瞬間、『カシャ!』という音と共に、謎のフラッシュ。
上条がビクッとして音と光がした方を見るとそこには。

「…あっ! あたしには構わず続けてください!」

と、ものっ凄〜くニヤニヤした佐天がそこに居た。
そしてその手には、スマホ型の携帯電話がしっかりと握られている。
おそらく…ではなく確実に、その携帯電話で先程の行動を激写されたのだろう。

上条は本来キスする直前で、「じゃあ、今日はここら辺で終わりにしようか」と、
俺様キャラの練習を止めるつもりだった。何より、もうすぐ完全下校時刻だし。
しかしその直前で横槍が入ってしまうと、本当に別れ際にキスしようとしていたように見えてしまう。
更に不幸な事に、見られてしまったのは『あの』佐天である。それはつまり…

「い、いや待てこれは違うぞ!? 決して佐天が思ってるような事じゃなくてだなっ!」
「『…お前、何で俺に許可なく勝手に帰ろうとしてる訳?
  っつーか、このまま大人しく帰す訳ないだろ。どう考えてもさ』
 『関係ねーよ。美琴だって、本当は期待してたんだろ? …俺とそうなる事に』
 『じゃあ…とっとと目ぇ瞑れよ』…でしたっけ?」
「何で一言一句間違えずに言えんのっ!!? どっから見てたんだよっ!」
「大丈夫です! あたし、これでも口は堅い方ですから!」
「それこの世で一番信用できない台詞〜〜〜!!!」

つまりはこういう事である。
ちなみに、この騒ぎの中で美琴は何をしているかと言えば、
周りが声が聞こえていないのか、あれからずっと目を瞑ったまま、

(〜〜〜っ! あぁもう早くしなさいよ! 焦らすんじゃないわよ馬鹿ぁ…!)

とトリップしながら『その時』を待ち続けていたのだった。
何かもう、いつの間にか上条のキャラ変更の練習とか、そんな事は忘れてしまっていたらしい。


602 : くまのこ :2015/07/01(水) 00:22:28 FYc1vFLw
以上です。
だんだん上条さんがノリノリになってる気が…
ではまた。


603 : くまのこ :2015/07/03(金) 23:07:56 UkwrpXY.
また連投ですみません。
ミコっちゃんが色々と頑張ろうとする短編を書いたので、
投下します。
約3分後に4レスです。


604 : 実践! モテ仕草10連発 :2015/07/03(金) 23:11:02 UkwrpXY.
美琴は待ち合わせ場所に指定した小さな公園で、
ベンチに座りながら相手が来るのを待っていた。
待ち合わせの時刻は既に過ぎてはいるが、
この相手が時間に遅れてくるのはよくある事なので、
美琴はただひたすら待ち続けている。その相手…お察しの通り、上条をだ。
しかし結果としてそれで良かったのかも知れない。
待たされている間、心の準備ができるのだから。

(だ…大丈夫よ美琴! 落ち着いて実行すれば…このメモ通りに行動すればアイツだって!)

心の中でそう呟きながら、カバンから一冊のメモ帳を取り出す。
ページをめくると、中は丁寧な殴り書きで埋め尽くされていた。
そこに書かれていた事は…

『あの馬鹿を落とす為のモテ仕草!』

あぁ、今日も美琴の空回りしそうな臭いがプンプンである。





モテ仕草。それは異性を落とす為のさり気ない行動だ。
有名どころで言えば、女性なら上目遣いやボディタッチ。
男性ならネクタイを緩めたり並んで歩く時は車道側を歩くなどだ。
どうやら美琴は、そのモテ仕草とやらを女性誌、バラエティ番組、ネットなどからかき集め、
それを逐一メモしていたらしい。今日という決戦の日に備えて。
…ぶっちゃけメモ帳にびっしり書かれた事を全部やってしまったら、
相手からは『あざとい』と思われるのだが、美琴はそこに気付ける程の余裕もないし、
あの鈍感野郎ならば、やりすぎぐらいが丁度良いだろう。
何しろ上条は、この日の前日に美琴から電話がかかってきた時も、
『あああ、明日ちょっとい、いい、一緒にお食事したい所があるんだけどっ!!!
 あ、えと、ふ…深い意味はないんだけど凄く美味しいイタリアンのお店があってそれで!』
という意味深すぎる言葉に対し、
「おう、いいぞー。明日の日曜は特に予定とかないしな」
と実にアッサリとした返事をしたくらいだ。この男、な〜んも気付きゃしないのだ。
しかしそれでも、このメモ帳に書かれたモテ仕草をフルに活用すればあるいは。

(アイツでも落とせ…はできないかも知れないけど、
 少なくとも多少はドキッとはさせられる可能性がない事もないわっ!)

でも微妙に弱気な美琴である。それだけ敵の鈍感能力が高いという事だ。
美琴は一度深呼吸をして、改めてメモ帳に目を通す。
大丈夫、準備はしてきた。すでに戦いは始まっているのだ。

[その①・いつもと違う服装]
これはいつもとは違う自分を演出して、ギャップ萌えを狙う方法である。
美琴は常盤台の生徒であり、本来は外出時の制服着用が校則で義務付けられている。
故に彼女はただ私服になるだけで、かなり印象が変わるのだ。
それでも部屋のクローゼットから一番可愛い服を選んできたし、
これならいかに上条といえど、ドギマギしてしまうこと請け合いだ。
バレたら寮監からのお説教が恐いが、それでも勝負>>>>>>>>>>校則である。

だがそれだけではない。
美琴は上条が来た時に、もう一つの作戦も考えている。

[その②・大きく手を振る]
これは元気さと健気さを演出する方法だ。
しかも普段の彼女なら遅れてきた上条に対して、
「遅いわよバカ!」と電撃を飛ばすのが通例なので、
そこを我慢して手を振って出迎える事で、ついでにギャップも演出できるのである。
上条の頭に「アレ? 今日の美琴っていつもより可愛くね?」と
少しでも過ぎってくれれば重畳である。

と、その時だ。

「おーい、美琴ー! 遅れて悪かったー!」

と上条の声が聞こえてきた。
美琴は声のした方に顔を向け、手を振る為に腕を上げたのだがその瞬間、美琴が固まった。

「なっ、が……ひゃえっ!!?」

見ると上条が先に、[手を大きく振りながら]走ってきていたのだ。
遅れたのは上条なのだから、その態度は殊勝だが、
その健気さに美琴の心はまんまとキュンキュンしてしまう。ミイラ取りがミイラである。
しかしそれ以上に美琴をドキドキさせたのが。


605 : 実践! モテ仕草10連発 :2015/07/03(金) 23:11:32 UkwrpXY.
「アアア、アン、アン、アンタっ! ななな何で『スーツ』なんか着てんのよっ!!?」
「……え? 美琴が電話で『美味しいイタリアン』とか言ってたから、
 常盤台のお嬢様が言う美味しい店って事はドレスコードがあるもんだと思って、
 レンタルしてきたんだけど…え、なに、違うのか?
 うわー、やっべー……完全に浮くじゃん、俺…」

上条の[いつもと違う服装]に、完全にやられてしまう美琴。
いくら何でもこれは卑怯だ。かっこ良すぎる。…あくまでも美琴視点では。
だがここで上条に見惚れていては『いつもと同じ』だ。
美琴は頭の中で素数を数え、冷静さを何とか取り戻して切り替える。

[その③・無防備]
これはほんの少しだけだらしなさを演出する方法である。
やりすぎると本当にだらしないと思われるので、注意が必要だ。
美琴は「ん〜〜〜」っと両手を上げて伸びをして、
服を上に引っ張ってチラッとお腹が見えるか見えないか絶妙なラインをやってみようとする。
『ようとする』という事はつまり、結果できなかったという事だ。

「あ〜…全力で走ってきたから、あっちぃな」

見ると上条がスーツのジャケット部分を脱ぎ、下のワイシャツのボタンを一つ外して、
襟をうちわ代わりにパタパタと扇いでいる。
じっとりと汗ばんだ鎖骨やら胸元やらがチラチラと見えてしまい、
その[無防備]さに、美琴は更に胸をドキドキさせてしまった。

(〜〜〜っ! だだダメよ私っ! このままじゃ、ずっとアイツのターンだわ!
 こ、これはチャンスなのよ! ピンチとチャンスは紙一重なんだからっ!!!)

この状況がピンチなのかどうかはよく分からないが、
とにかく美琴は、次なる一手を打ち出そうとする。

[その④・相手の乱れた服装を直す]
男性は女性のおせっかいな所にも魅力を感じるモノであり、これはそれを演出する方法だ。
しかも幸か不幸か上条は自らワイシャツのボタンを外している。
ここで「もう、だらしないわね」とボタンをはめ直してあげれば、
上条も少しは意識するだろう。しかし。

「…あれ? 美琴の肩の上、糸くずついてんぞ」

ふいに上条が美琴の肩をパッパッと掃う。そのさり気なさ過ぎる優しさとボディタッチ、
そして[乱れた服装を直された]というトリプルパンチで美琴は、

「あ、え、あにょ、そにょ、あああ、あり、ありが、と……」

ノックアウト寸前になっていた。
だがここで負けてなるものか。美琴は消え入りそうな闘志を再び燃え上がらせて、
次の作戦を繰り出そうとする。もはや何と戦っているのか、本人にも分かっていないが。

[その⑤・手を握る]
これは鈍感な上条相手でも、ストレートにドキドキしてくれる…かも知れない演出だ。
美琴にとっては少々ハードルが高いような気がするが、
今までも突発的とはいえ、何度か自分から行った事がある。これなら美琴でも頑張れば―――

「まぁいいや。じゃあ早く行こうぜ? 俺、楽しみすぎて朝メシ抜いてきてんだよ」
「にゃああああああ! 手ぇ握られてるううううううう!!!」

―――いつの間にか、上条が美琴を急かすように[手を握りながら]引っ張っていた。
手から手へと体温が伝わり、体中がじんわりと熱くなる。そして心臓の音も偉い事に。
美琴はこれからお腹いっぱいにする訳だが、その前に胸がいっぱいになってしまうのだった。

ともあれ、件のイタ飯屋に歩き出した二人なのだが、突然、上条がピタリと足を止めた。
そして。

「……あっ! 言い忘れてたけど、その服すげー似合ってんじゃん。
 俺なんかの意見じゃ何の参考にもならないだろうけど、可愛いと思うぞ」

トドメであった。


606 : 実践! モテ仕草10連発 :2015/07/03(金) 23:12:02 2zUEccDs
 ◇


「お〜! ホントに美味そうだなぁ…値段見るのが恐いけど」
「で、でで、でしょっ!? 一度アンタを連れて来たかったのよね〜!」

と何気ない会話をして冷静を装ってはいるが、正直なところ心臓が爆発しそうな美琴である。
せっかくメモを取ってまで頭に叩き込んだモテ仕草の数々、
それらが全て、空振りどころか未遂に終わってしまっている。
何故なら、美琴が行おうとする仕草を上条が先に、それも意識せずにやってのけるから。
おかげで始めから上条の好感度は100%だったのに、
限界突破して200%くらいまで上昇している。
しかし今日はドキドキさせられる為に来たのではない。ドキドキさせる為に来たのだ。
美琴はカバンの中のメモ帳を信じ、それを実行する。今度こそ成功させるのだ。

[その⑥・美味しそうに食べる]
『いっぱい食べる君が好き〜♪』なんてCMソングがあるように、
細いのにたくさん食べる女の子が好きという男性は意外と多い。
これはそれを演出する方法である。
ただしあくまでも『美味しそう』であって、『ガツガツ』ではない。
そこを注意しながら食べようと、目の前のジェノベーゼをフォークで巻いた瞬間だった。

「ん〜〜〜…うんまぃなぁ〜、マジで!」

頬パンパンにボロネーゼを詰め込み、幸せそうに感想を漏らす上条がいた。
そのあまりにも[美味しそうに食べる]上条の姿に、
母性本能をくすぐられたのか美琴はキュンキュンしてしまう。やっぱりダメだったよ。
しかしただでは転べない。美琴はすかさず、次の作戦に移行する。

[その⑦・笑顔]
これはもうシンプル且つ絶大な威力を発揮する演出だ。
男女共に、突然の笑顔は否が応でも相手を意識してしまうものである。
美琴はあくまでも自然にクスッと笑って、「どう? 美味しい?」と聞こうとする。
が、しかし。

「ありがとな美琴、こんな美味い店に連れて来てくれてさ!
 これ今まで食ったパスタで一番美味いよ!」

と自然にニカッと上条が笑う。美琴はとっさに「あ…そ、そう?」と返したが内心では、

(何なのよ、この馬鹿ぁ〜! 可愛すぎるじゃないのよ〜!)

と更なる混沌へと足を踏み入れてしまっていた。
だがそれでも美琴はへこたれない。次こそは…次こそは必ず。

[その⑧・ミラーリング効果]
これは相手と同じ動作をする事で、相手に親近感を与える事ができる演出である。
例えば、相手が腕を組んだらこちらも腕を組み、
相手が何か言ったらこちらも同じ事を言ったりなどだ。
これもあざとすぎると逆効果になり、気をつけようと心に誓う美琴。

だがその前に、カラカラになった喉を潤す為に、お冷を一口飲む。
すると同じタイミングで、上条もお冷を一口飲む。
まぁ、偶然だろうと気持ちを切り替えて、美琴は身だしなみを整えようと口を拭く。
すると同じタイミングで、上条もナプキンを手にとって口を拭く。
まぁ、たまたまだろうと気持ちを切り替えて、美琴は一度「ふぅ〜…」と深呼吸をする。
すると同じタイミングで、上条も「ふぅ〜…意外と腹にたまるな」と深呼吸をする。
これはつまり。

(されてるううう! 私、今コイツに同じ動きされてるううううう!)

上条が意識的に美琴と同じ動作をする訳がないので、
彼は無意識に[ミラーリング効果]のある動作をしているのだ。
無意識とはいえ、上条が自分と同じ動きをしてくれているという事実に、
美琴は親近感どころか、それ以上の感情まで行ってしまう。
けれどもまだだ。ここで終わる訳にはいかない。次だ、次の作戦だ。

[その⑨・一口貰う]
この演出は女性同士では何でもない仕草だが、
男性からすると間接キスを連想してしまい、ドキっとしてしまうのだ。

「あ…ちょ、ちょろっとアンタの分を一口ちょうだ―――」


607 : 実践! モテ仕草10連発 :2015/07/03(金) 23:12:32 UkwrpXY.
…が、ここで美琴は気がついた。それはこちらも同じなのではないかと。
間接キスを連想するのは上条だけでなく、自分もそうなのではないかと。
気付かなければそのまま行けたのだろうが、一度気付いてしまったらそこで試合終了だ。
美琴はフォークを手に取ったまま空中で止まる。顔を茹でダコのように真っ赤にさせながら。
と、その時である。

「そう言や美琴のも美味そうだよな。ちょい一口貰ってもいいか?」
「え………みゃえっ!!?」

美琴から了承を得るその前に、上条は勝手に美琴の皿からバスタを一巻き取り、
そのまま自分の口へと運んでしまった。つまり勝手に[一口貰われてしまった]のだ。
「おー! これも美味いなー!」と暢気な感想を述べているが、美琴はそれどころではない。
間接キスを連想した美琴は、

「〜〜〜〜〜っ!!!」

と声にならない叫びで絶叫したのだった。


 ◇


結論から言えば散々だった。
結局美琴の作戦は何一つ成功せず、勉強してきたモテ仕草は一つも実行できなかったのだ。
それどころか上条が次から次へと先読みしてくるので、もう完全にやられてしまっている。
その上、例の間接キスもどき事件をきっかけに、美琴の心は完全に折れてしまったのである。
ドキドキが許容範囲を超えて、まともに上条の顔を見る事すらできなくなってしまった。
そんな状態では、メモってきた仕草を実演する余裕などある訳もなく、
食事を終えた二人は、そのまま解散する事となった。
本当はこの後の展開も色々考えてきたのだが、
上条がドキドキさせてきたせいで、全て水の泡である。

「じゃあ、今日は楽しかったよ。また今度な」
「は…ひゃい……まりゃこんろ…」

もはやフラフラになり、ろれつも回っていない。
しかしここが最後のチャンスだ。せめて一回くらい、成功させて帰りたい。
余裕がないのは変わらないが、終わりよければ全てよしと言うように、
別れ際くらいは何か爪痕を残しておきたいのだ。
もうモテ仕草を行う事が、目的なのか手段なのか分からなくなっている模様だ。

[その⑩・別れ際に寂しそうな顔をする]
これはもう説明する必要もないだろう。寂しそうな顔をされる事によってキュンとさせ

「でも…ちょっと寂しいよな。楽しい時間って、何ですぐに終わっちまうんだろうな?」

速攻である。
上条は少し表情をシュンとさせて、わざわざ[別れ際に寂しそうな顔を]作りだす。
これで完全敗北だと悟った美琴は、勢いに任せて告白してしまいそうになったが、
ここはグッと我慢して、左手でバックンバックン鳴っている心臓を押さえ、
真っ赤な顔でキッ!と睨み、右手で上条を指差しながら負け惜しみの一言をぶちまけた。

「つ、つつつ、次は絶対に負けないんだからっ!!! 覚悟してなさいよっ!!!」
「えっ!? 何か勝負してたっけ!?」

ちなみに、終始一日中余裕のなかった美琴は、とても大事な事に気付けていなかった。
上条と休日に出かけ、食事をする。
それはつまり俗世間で言うところの、『デート』だという事に。


608 : くまのこ :2015/07/03(金) 23:13:13 UkwrpXY.
以上です。
ではまた。


609 : ■■■■ :2015/07/04(土) 08:20:51 I5hy68Rg



610 : ・・・ :2015/07/07(火) 06:47:33 8knlbVVk
ども、・・・です

〉〉お酒は20になってから
美琴フレンズが自由すぎる。
美琴は数十年後も飲んで同じようなことやってそう

〉〉俺様
結局、美琴の自業自得ですから―!! 残念!!
上条独占禁止法違反斬り!!

〉〉ただのデート
これが、第一級フラグ建築士の実力か。
付け焼刃で敵うわけないのだ。
だから日々練習が必要なので何回も無自覚デートしたらいいよ



では、投げます。
七夕短編
通行止め・浜滝要素有


それでは


611 : 短冊 :2015/07/07(火) 06:49:05 8knlbVVk
『上条当麻と付き合えますように♡     御坂美琴』

そう短冊に書いた少女は、お馴染み、御坂美琴嬢である。
今日は七夕。
寮の部屋で机に向かい、願い事を書き終えた彼女は
よし、と大きくうなずき、
次の瞬間からどんどんどんどん顔を赤く染めた。

(…………ないないないないないないないないないないないない)

そうして新しい短冊に

『猫を思う存分なでなでしたい     御坂美琴』

と書いている時、後方の扉から白井が入って来た。
おう、ギリギリセーフ

「お帰り、黒子」

「ただいま戻りました。お姉さま、何をなさっておいでですの?」

「今日、七夕でしょ? だから、ほらっ」

「ほー、なるほど、お姉さまらしいですわね、ゲコ太でもありませんし。
 ですが、それでしたら先ほど風で窓から飛んで行った短冊はいったい……
 ってお姉さまが突然の窓からアクロバティック外出!!?」


612 : 短冊 :2015/07/07(火) 06:49:43 8knlbVVk
5分後、まだ美琴は走っていた。

(あんなの誰かに見られたら死んじゃう!!!!!!!)

もし、知り合いにでも見られたらと思うと、軽く、死ねる。
その拾った人物経由で佐天がその情報を手にしようものなら、学園都市じゅうにその情報は広がるだろう。世界中の人類を手にかけなくてはならなくなる。

(それだけは絶対阻止しなくっちゃ!!)

さらっと恐ろしいことを考えちゃう美琴の、切実な願いが記されたそれが少しずつ高度を下げる。

しかも、その先には見知った人物がいた。

「佐天さんお願いなんて書きました?」

「ドキドキわくわくする事件に会いたい!!」

「この話、本編の大覇星祭の前なんですか? 後なんですか?」

「初春は? 願い事何にしたの?」

「パフェは自分で何とかするんで、世界平和を」

「そんなつまらない本編を、見たいかい?」

「でも、そろそろ1巻分日常回があっても……」













(直通かよぉぉぉおおおおおおおおおお!!!)

拾った人経由なんて甘っちょろい考えなのだった。

「おや? 初春見なさいな。誰かの願い事が、この織姫佐天に届けられそうだよ」

「彦星いないですけどね」

「初春でいいじゃん」

そういいながら佐天は初春のスカー(略)カポカとたたく。
初春を左手であしらいつつ、佐天の右手が短冊に届こうとした時、

二人の顔の間を閃光が通った。
さらに閃光が向かった先から襲いかかる爆音と爆風。
短冊は再び空へ上る。
耳に、足音が届いた。
正面からやって来たのは、
完全無敵の電撃姫。
表情は陰の入った笑み。

「「……ひぃ!!」」

「佐天さん、初春さん……」

ガタガタ震えながら美琴の顔を見る。

「……蚊が、飛んでたの」

あれ? 陰影で気付かなかったけど、
顔めっちゃ赤くない?

「と、いうことでじゃーねー!!!」

かのビリビリは再び短冊を追っていった。

「……とりあえず、願い、叶いましたね。ワクワクはありませんけど」

「…………」

「佐天さん?」

「……全力で御坂さんが追う短冊、
 レールガンを焦って撃っちゃうほどの内容、
 さらに、真っ赤な表情ときたら……
 ぐふ、ぐふふ
明日が楽しみすぎて、おら、ワクワクがとまんねぇーぞ!!」

「この人凄い」

世界平和はさっそく叶わなかったのだった。


613 : 短冊 :2015/07/07(火) 06:50:10 8knlbVVk

「ア・ナ・タ。ようやく願いが叶ったのねって、ミサカはミサカは赤面しつつ喜びを噛み締める」

「……」

「二人きりね、ってミサカはミサカはついにこの時が来たのだと溢れんばかりの感動を「オイ、早く帰ンねェと晩飯が遅くなって黄泉川がうるせェだろ。さっさと来い」きーー!! もう少しムードを感じてもいいじゃん!!ってミサカは……」

セリフの途中でしらけさせる一方通行の言葉に激怒する打ち止め。
彼女から視線を外した一方通行は、自分たちの頭上に何かを見つける。
あれは……短冊??

「とうっ!!」

不覚!!
一方通行は後方から迫る影に気付かなかった。
衝撃を受け、前のめりに倒れる。

「ちぃっ!!!」

自分を踏み台にした人物は舌打ちしてそのまま去って行った。

「あンッのオリジナル!!!」

正面に顔を向けるが、すでに見えなくなっていた。
ふと、気付く。
自分の前にはあのクソガキがいなかったか?

「あ、あの…」

見下ろすと、さくらんぼのように赤い顔した打ち止めがいた。
美琴に踏み台にされた一方通行が、打ち止めを押し倒したことになっている。

「み、ミサ、カはアナタといちゃ、いちゃしたいと願った、けども……って、ミサカは、み、

ミサカは、こ、ここまで、積極的になるなど予想外で〜〜」

「何言ってやがンだ?」

「ふ」

「アン?」

「ふにゃーーーーーーーーーーー!!」

「ナンジャソリャァァァァアアアアア!!!!」






狭い通りを歩くカップルが一組。

「はまづら、あれ」

「おー、ありゃ短冊か。風で飛ばされたのかね?」

「そういえば、はまづらはさっき何をお願いしたの?」

「麦野、絹旗、フレメアのオレに対する扱いがよくなりますように」

「無理だね」

「いえーい!! 速答速攻大否定!! そりゃないんじゃない? 滝壺?」

「むぎの達の願いが『はまづらがもっと従順になるように』だったから」

「がっでむ」

「わたしは、それでもはまづらの願いが叶うように応援するよ」

「さっき速攻で否定したけどね。で、滝壺の願いってなんなの?」

「わたしは「どいてどいてどいてーーーーーー!!!!」??」

目の前からもの凄いスピードでなにか来た。
浜面は慌てて滝壺を庇う。
狭い通りで、なんとか衝突せずに済んだ。

「な、なんだ? 第三位?」

「は、はまづら……」

珍しく動揺する滝壺の声に、訝しげに下を向くと、
がっしりと自分に抱かれた彼女がいた。

うっわ!! やっべー!! やわらけー!!
なんて間抜けな感情を持ったのは一瞬。
慌てて離れようとした浜面の腕を、滝壺は掴んだ。

「は、はま、づら……」

「滝壺?」

「わたしの、願い、叶えて……」


614 : 短冊 :2015/07/07(火) 06:50:38 8knlbVVk

7月7日。
珍しく雨の無い日だった。
未だ美琴は短冊を手にしていない。

美琴には追いかけなくてもよくなる方法があった。
自分の能力で短冊を焼き尽くせばいい。
だが、

(そんなこと、絶対に!!!)

「うぉぉぉぉおおおおおおりゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

叫びながら走る美琴はついに鉄橋で短冊を手にした。

「「ふぃー」」

????

「何やってんのよ。アンタ?」

「こっちのセリフだっつうの。門限はどうした?」

「諸事情よ。ん? なにそれ? 短冊??」

「あ、い、いや、こ、これ、は…………ん?」

美琴も自分の手元にある短冊を見る。
あれ? 自分の字じゃない???

『御坂美琴に思いが通じますように        上条当麻』

ゆっくり顔を上げる。
上条が間抜けな顔を真っ赤に染めてこっちを見ていた。
だけど自分の方がすっごい変な顔している自信がある。

「へ? え? あ、あああの……」

「いや、でも、え? その、あれ、でもそれじゃ、え??」

2人は川の真ん中でしばらくアタフタしていた。







翌年も学園都市の空は晴れた。
笹に括り付けられた短冊がゆらゆら風で揺れている。
短冊には2人の名前と1つの願い。

内容は……飛んでいったときに必死に追いかけてご覧ください。


615 : ・・・ :2015/07/07(火) 06:51:55 8knlbVVk
以上!!
上琴に幸あれ!!


616 : くまのこ :2015/07/07(火) 22:18:57 PHkgXtkg
>>・・・さんGJです!
三カップルみんな幸せそうで何よりッス!
これから第二第三と願い事を叶えていく訳ですねw



小ネタ書きましたー。
>>426-427>>554-555の続きですが、
前のを読まなくても大丈夫です。
約3分後に2レス使います。


617 : それぞ美琴の悩む理由 :2015/07/07(火) 22:22:01 PHkgXtkg
ここはとある公園。
美琴はベンチに座りながら、今日一日のデートを振り返っていた。
デート…そう。彼女は今日デートしていたのだ。相手は勿論、上条【かれし】である。
その上条は今、彼女【みこと】をベンチで休ませてからジュースを買う為に席を外した訳だが、
待っている美琴は、どこか憂いを含んだ表情で、溜息を吐いている。
楽しいデートを振り返っている表情とは程遠い。一体、何があったのか。

実は彼女、ここ最近、ある大きな悩みを抱えているのだ。
それは付き合う前ならば頭に過ぎりもしなかった悩みだった。
付き合ったからこそ、そして付き合ってしばらく経ち、
心にも多少の余裕が出来たからこその悩みなのだ。
美琴は空を見上げて、流れ行く雲を見つめながら、誰に言うでもなくポツリと呟く。
内に秘めた、その悩みを。

「はあぁ……私いくら何でも、アイツの事が好きすぎるんじゃない…?」

さぁ、急速にどうでもよくなってまいりました。
つまり美琴の悩み(笑)とやらは、上条への気持ちが強すぎるのではないかという事だ。

例えば今日、待ち合わせに現れた上条には寝癖がついていたのだが、
その瞬間に美琴は、『可愛い!』と思ってしまった。
そして寝癖を指摘されて慌てて髪の毛をセットした上条を見て、
今度は『カッコいい!』と思ってしまった。

他にも移動販売のクレープ屋に寄った時などは、最初は注文するメニューが被ってしまい、
美琴は『コイツと同じ感性で嬉しい!』と思ってしまった。
ところが上条が「せっかくだから、お互いに違う味にしようか」と提案してきた時は、
『コイツと違う味を食べ比べできて嬉しい!』と思ってしまった。

更には一緒にショップに入った時なんか、
美琴はAとBの二つの服を手にとって「どっちがいい?」と上条に聞いてみたのだが、
上条はAの服が好きだと言ってきた。美琴は個人的にはBの服の方が好みだったが、
その時『コイツはこっちの方が好きなんだ〜…また一つコイツの好みを知っちゃった♪』
などと思ってしまった。
ちなみにその後、上条が「あ、でもBも可愛いな」と言った瞬間、
やはり『コイツと同じ感性で嬉しい!』と思ってしまった。

つまり上条が何をしても、何を言っても、結局OKになってしまうのだ。
おまけに、付き合って大分経つのに未だに手を握るだけでドキドキするし、
名前を呼ばれるだけでドキドキするし、キスするだけでドキドキするし、
抱き合うだけでドキドキするし、夜『おたのしみでしたね』するだけでドキドキするし。
本来ならば恋人になって付き合い出せば、そのウチ相手にも慣れてくるものなのだが、
美琴の上条に対する恋心は、むしろ日に日に増しているのだ。
美琴はそれで悩んでいるらしい。
……いや待て。落ち着いて頂きたい。お気持ちは察するが、ツッコんだら負けである。

と、そこへ。

「お待たせ〜。えっと、冷たいお茶とホットのコーヒーあるけど、どっちがいい?」

と二つの缶を持った上条が、自販機から帰ってきた。そしてこの時もまた、
『私の事を気遣って、わざわざ冷たいのと温かいのを用意してきてくれたんだ〜…』
などと思ってしまう。自分でも自覚しているようだが、重症である。


618 : それぞ美琴の悩む理由 :2015/07/07(火) 22:23:01 PHkgXtkg
「じゃあ…お茶で」

美琴がそう言うと、上条はお茶の缶を美琴に手渡し、上条【じぶん】はコーヒー缶のプルタブを開ける。
そして一口グビっとコーヒーを喉に流し込み、
(ちなみにこの時も『飲んでる姿がカッコイイ…!』と思ってしまう美琴である)
「ふぅ…」と一息ついた所で。

「…なぁ、もしかしてまた何か悩んでるのか?」
「ぶふっ!!!」

突然の不意打ちに、美琴はお茶を吹いてしまった。
さすがに上条も、美琴に元気がない事くらいは分かってしまうのだ。

「で、どうなんだ? 俺に原因があるなら何でも打ち明けてくれ。
 …美琴を悲しませるなんて、自分で自分を許せねーからさ」
「〜〜〜っ!」

その言葉だけで、泣きそうになる程に胸がいっぱいになってしまう。
本当に、我ながらチョロすぎると思う美琴である。
しかしここで「アンタの事が好きすぎるのが悩み」などと言ってしまうのは、
何か負けた気がするし癪だ。だから美琴は、モジモジしながら言葉を濁す。

「た、確かにアンタが原因かって言われれば…否定はできないけど……
 だ…だからってアンタが悪い訳とかじゃ…ないし……そんなに気にする事でも…
 その………ごにょごにょ…」
「美琴?」

真っ赤にした顔を下に俯かせて、モジモジごにょごにょする美琴に対し、
上条は心配するかのように、美琴の顔を覗き込む形で下から見上げる。その瞬間。

バヂヂィッ! 「おぅわっ!?」

美琴から照れ隠し【でんげき】が飛んできた。
美琴と付き合っている以上、上条も慣れたもので、ごく自然に右手をかざす。

「み、美琴…さん?」
「ううう、うっさい馬鹿! 何でもないって言ってんでしょ!?
 『アンタの事が好きすぎるのが悩み』だなんて、恥ずかしくて言える訳ないじゃない!
 ちょっとは察しなさいよもう! ……………………あっ」

と、恥ずかしくて言えないような事が、思わず口を衝いて出てしまう美琴。
それに対し上条は。

「…えっと……それなら俺も悩まなきゃいけなくなるんですが…
 俺も美琴の事、好きすぎる訳だし………? え、あ、ちょ、美琴っ!?」

突発的に悩みをぶち撒けた事で、先程よりも更に赤面する美琴を目の前に、
ばつが悪そうに頬をかきながら、精一杯のフォローをする上条なのであった。
そして気がつけば、美琴は上条に抱き付いていた。

ちなみに二人は、このあと滅茶苦茶『おたのしみでしたね』したのでした まる

はいはい良かったね。じゃあもう閉会閉会。


619 : くまのこ :2015/07/07(火) 22:23:55 PHkgXtkg
以上です。
七夕ネタ出てこなかった…
ではまた。


620 : ■■■■ :2015/07/08(水) 19:15:44 nAIIYqy2
育児日記の寮を破壊しようとする垣根と一方通行と麦野がまたwwwwww


621 : ■■■■ :2015/07/09(木) 20:31:22 Hp.j5u4.
それぞ???


622 : ■■■■ :2015/07/09(木) 21:26:25 3UtmrcCA
くまのこさーん
明日の禁書13巻ネタまた書かれるのでしたら
できれば夜24:00以降に投稿お願いします
ラノベ板共通解禁時に合わせた方がいいでしょうし
フラゲって訳じゃないし警告あるんでそんなに問題でもないんですが、よろしければ


623 : くまのこ :2015/07/09(木) 22:35:03 QhtwHxms
>>622さん
了解しました。
では、こちらに投下する際には、
早くても日付またいでからにします。
ミコっちゃん回なので、100パー書くと思いますのでw


624 : ■■■■ :2015/07/10(金) 18:52:34 0ahp5uIU
があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
発売日に新刊が手に入らないこの苦しみたるや!!!!!!!!


625 : ■■■■ :2015/07/10(金) 20:17:56 jjZje8kA
くまのこさんは今回の内容でどうやって上琴を描くというんや・・・


626 : くまのこ :2015/07/11(土) 00:28:37 Cq8.4fjU
連投すみません。
新約13巻のネタを書きましたので投下させていただきます。
当然ながら









必須です。
新刊を読んでいない方はご注意を。
約3分後に2レスです。


627 : 第二.五章  ゴールなき逃避行の、ちょっとした休憩所 :2015/07/11(土) 00:31:26 Cq8.4fjU
フィアンマが一瞬でやられた。
頼みの綱の『妖精化』とやらは失敗し、もはや状況を打破する手立ては無い。
いや、考える時間さえあれば対策も練られるかも知れないが、
アクロバイクのペダルを全力で漕ぎ続けている上条も、
魔神はおろか魔術のまの字も知らない美琴には、それを考える時間すらない。何故なら、

僧 「うっほほほほーい☆」

真後ろには時速50㎞以上で走って追いかけてくる、
パワフルおじいちゃんこと、僧正がそこにいるのだから。
大分離したと思ったのだが、流石の上条にも疲労が足にきているのか、
徐々に僧正との差は縮まりつつある。

僧 「ほれほれ〜い! もうすぐ追い抜いてしまうぞい!」

上 「はぁっ! はぁっ! くっそ…余裕ぶっこきやがって…!」

美 「ちょ、このままじゃホントに追いつかれるわよ!?」

アクロバイクの後部シートに横座りの『お嬢様スタイル』で陣取っている美琴は、
身をひねらなくても後方確認ができる。
手足を釈迦釈迦【シャカシャカ】と動かし、ものっそい速さで走る『お尚様スタイル』の派手な即身仏というのは、
かなりシュールだが、それが目と鼻の先まで近づいていては、当の本人の美琴は笑えないだろう。

と、その時だ。僧正が、横座りの美琴を見て一言。
彼は「上条の心の動揺を誘う」などという姑息な事は考えない。
何故ならば、魔神である彼には、そんな事をする必要すらないからだ。
だからこれは、単純な疑問。本当に分からない事を聞くだけの、ただの疑問。

僧 「……時に、お嬢さん。何故に普通に抱きつかんのかのう?
   ほれ、上条当麻に胸を押し付けるチャンスじゃろうて」

美 「ごぶっはっ!!?///」

瞬間、美琴は真っ赤になって大きく咳き込んだ。
考えないようにしていたのに。このシリアスな展開で、
(うわー、二人乗りだ。私、今、自転車で男の子と二人乗りしちゃってる!
 こうなるって分かってたらゼッタイ白いワンピース着てきたのに、ぽやー……)
とか、せっかく考えないようにしてたのに。木乃伊ジジイのせいで思い出してしまったのである。
だがこの美琴も百戦錬磨のツンデレだ。その程度の煽り、友人Sさんから何度も受けている。

美 「なっ! ば、そ! そんにゃ事! す、すす、する訳ないでしょうがっ!!!///」

僧 「…ああ、そうじゃったな。お嬢さんの胸では押し付けたところで」

美 「ぶっ殺!!!」

しかし、ひんぬーネタに対しての煽りには弱かった。
というかこの魔神、結果的に即身仏になり損ねたが生前は徳の高い僧だったはずだ。
随分とまぁ、煩悩に塗れた一言を言ってのけるものである。

だがそんな一言に本気でブチッときた美琴は、背後の僧正に向かってコインを構える。
けれども上条は、必死にペダルを漕ぎながらそれを止めた。

上 「止めろって! そんなんじゃアイツに勝てないのは、もう分かってるだろ!?
   ただの挑発なんだから乗るなっつの!」

美 「だっで! だっでアイヅがっ…!」


628 : 第二.五章  ゴールなき逃避行の、ちょっとした休憩所 :2015/07/11(土) 00:32:08 Cq8.4fjU
美琴、半泣きである。そんなに気にしていたのか。
ヘタしたら、自分の無力さとか上条が遠いとか、『そんな事』よりも深刻かも知れない。

そんな二人を見て、僧正が「かかか!」と笑う。

僧 「まぁ、横座りも中々にハイカラじゃからのう!
   あの…何と言ったか、『鼻をほじれば』じゃったか?
   アレのラストシーンでも後ろに座ったおなごが、そんな座り方をしとったわい」

多分『鼻』ではなく『耳』で、『ほじる』のではなく『すませる』映画だろう。

上 「テメェ、どこでそんな偏った知識を…!」

僧 「言うとらんかったか? ねっと喫茶じゃよ、ねっと喫茶」

確かに、最近嗜んだとか言っていたが。

僧 「あのラストシーンみたいに、告白なんぞしてみてはどうじゃなお嬢さん?
   せっかくの良い雰囲気なんじゃしのう! かかっ! かっかっかっかっ!」

美 「っ!!!///」

ハンドルを握るせい…ではなく、上条はロマンスの欠片もない程に素早くペダルを回し、
背後からは妖怪・超速ジジイが追ってきていて、良い雰囲気もへったくれもないが、
美琴の頭の中でカントリーロードが流れてきて、
実は今ちょっと良い雰囲気なんじゃねーかと錯覚してしまう。
だがすぐさま首をブンブンと振り、

美 「い、いやいやいやいやないからっ!///」

と我に返る。できれば、カントリーロードが流れる前に我に返ってほしかったものだ。

僧 「ひょほ! 噂には聞いておったが、中々に強情な小娘じゃのう。
   そんなんでは嫁の貰い手がないぞい?」

美 「だだだだれがコイツの嫁だってのよ!!?///」

上条【コイツ】の、とは誰も言っていないのだが。
そして僧正は僧正で、どこでどんな噂を耳にしているのか。
そんな僧正は美琴の言い訳を聞いているのかいないのか、マイペースに続ける。

僧 「直接伝えるのが難しいのなら、恋文なぞどうじゃ?
   この男、儂が送りつけた『とらっぷ』にアッサリ引っかかったからのう。
   以外とそっち方面で攻めたらチョロいぞい」

上 「てめぇ思い出させんじゃねええエエエえああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

挑発に乗るなと言っていた上条が、まんまと僧正の挑発に乗ってしまう。
そして美琴は。

美 「あのラブレターにはそんな理由があったんがゴルァアアアアアアア!!!」

あの時の怒りを思い出し、上条への殺意が再発するのだった。
結果その手にギュッと力が入り、奇しくも強く抱き締める形となったのである。
もっとも、上条も美琴もそれどころではない為、二人とも気付いてはいないのだが。

ちなみにこの後、なんやかんやあって再びシリアスな雰囲気に戻ったのだが、
そのなんやかんやの部分は、各々で勝手に想像していただければ幸いだ。


629 : くまのこ :2015/07/11(土) 00:33:07 Cq8.4fjU
以上です。
こちらから読んでいる方の為にもう一度。

新約13巻の   ネ タ バ レ   が含まれています。

まだ読んでいない場合は、
すぐに戻るボタンを押してください。
ではまた。


630 : ■■■■ :2015/07/11(土) 00:40:06 DFk98ou6
くまのこさん頑張った!!
いやアレは後日談無理よねぇ……
つくづく僧正いいキャラだわ、惜しい方を亡くした

「ぽやー……」は「ふにゃー」より流行らなそうだけど割と好きですw


631 : ■■■■ :2015/07/11(土) 01:13:16 hs95kE5c
フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

わ〜い上琴だ〜☆


632 : ・・・ :2015/07/14(火) 06:53:51 /2gwjdZc
ども、・・・です。
13巻、美琴の感情が一喜一憂するたびに、
こちらも一喜一憂した巻でした。
しかし、美琴ががむしゃらに戦ってきたものの正体が、
くっきりと明確になったことは、辛いけど彼女にはプラスなのでしょう。

あとがきで、「恋愛感情を自覚した」とありますね。
明確に記述されたのは、この娘が初めてなんじゃないでしょうか??
気のせい??


さて、
くまのこさん

〉〉どうでもよい!!!!!
だんだん素直になってきた美琴と、
美琴には鋭いカミやん。
これからもずっと悩んでろよバカ

〉〉ブリーフを脱いで真剣モード、じゃと……ッ⁉
お前そんなキャラだったのかよ!!!!!!!!!!!!!!!
あのシリアス巻でここまで笑えられた彼の功績は大きいのだが
……
……
……姫神!!!(泣)


では、投下します。
育児日記の続きです。
毎回新刊でるたびにこっちの設定が崩れないか心配すぎる。
それでは


633 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 06:54:49 /2gwjdZc
完成間近の常盤台寮の前で、浜面の叫びがほとばしっていた。
第一位と第二位は隣で「浜面の顔って不細工だなー」とか考えている。

「ぶーーーー」

「唇尖らせて不満そうな顔すんな!!」

「なんで壊したらダメなんだよ?」

「人の物壊したらダメなんだって!! じょーしき!!」

「わたしに命令する気かこら?」

「まあまあ、浜面さん、年増、落ち着かれてください。おい、ロリコンレベル第一位、止めんの手伝え」

「と、し、まぁ?」

「ホントてめェは、オレをキレさせンのがうまいよな」

一方通行がまたキレた後、上空からなにかが降ってきた。


634 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 06:55:24 /2gwjdZc
白井は戦慄した。
確かに、彼が自分より何歩も先を歩いていることには気付いていた。
憧れのあの人の隣、いや、あの人ですら届かない場所を彼は歩いている。
そんなことは承知しているはずだった。

(私が矢を放つ位置を向こうが把握する術は無いはず)

しかし、実際に対峙すると、驚きを越えて恐怖すら覚える。

(だというのに、なぜ私が誘い込まれていますの?)

瞬間移動で矢を放ち、上条を追い詰めたように見え、逆に白井自身の行動範囲が狭められていた。
慌てて攻撃を止め、距離を置くことに専念する。

「あ!? バレた!!」

など向こうは余裕すら見せるのだから、悔しいったらない。

「そんな気軽に戦われたら、私の立場がありません。
殿方のくせに女性に恥をかかせる気ですの?」

「こう見えて必死だぞ?」

「……」

「まぁ、似たようなヤツと戦ったことがあるんだよ、どこからでも攻撃できたり、自分の信念で殺さなかったり…」

「なるほど、経験の差ということですのね」

「まぁな」

魔神だったり、聖人だったりするが割愛。

「とはいえ、オレは多分お前を捕まえられないし、今回は引き分けってことで……」

「出来ませんの」

再び白井は飛ぶ。
上条もまた鉄矢を避ける。

「くそっ!! 理由もなく戦えるかよ!!」

「お姉さまには、限りない未来がありますの!!」

戦いが始まって、もう38本ほど矢を放ったはずだ。

「ですが、今回あなた方のためにお姉さまは自分の学校すら捨てようとされました!!」

しかし、最初に服をかすって以降、1つも彼に届いていない。

「例え私がお姉さまから嫌われようと、お姉さまの可能性を狭めることを、わたくしが許しませんの!!」

ここにきてようやく、
彼の表情に敵意が見えた。


635 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 06:56:24 /2gwjdZc



「なンだ? アイツら?」

一方通行たちは、視線を常盤台の寮の上に向ける。

「ええいっ!! まさか必要悪の教会[ネセサリウス]がいようとは!!」

小物です!!
と自己主張する変な服を着たオッサンが3人ほどいた。
?を浮かべる4人の近くに、見覚えのある侍女と赤髪神父が降り立つ。

「おい、アレはなンだ?」

「はい、土御門の罠……ゲホンゲホン!! たまたま学園都市に攻めてきた魔術……ゲホンゲホン!! テロリストです」

とりあえず、「土御門」の名前ですべて察した。
原作では語られることすらないレベルの雑魚に対し、
第四位が照準を合わせ、魔女狩りの王[イノケンティウス]が召喚され、第二位は羽を繰り出し、聖人が刀を構え、第一位がチョーカーのスイッチを入れた。
怪訝な顔をするモブの代わりに、浜面が白目で悲鳴をあげる。


636 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 06:57:43 JvDRHgVc
白井は己の手を数える。
残り、48本。
だが、冷や汗を流す白井とは対照に、奴の表情に敵意が見えたのは一瞬。
いまでは笑みが浮かんでいる。

「最初はカチンときたけどさぁ」

鉄矢は瞬間移動【テレポート】で出た瞬間にはたき落とされた。
残り、42本。

「やっぱ、おかしいよな!!」

「なにがです?」

鞄から先に残りの矢を取り出しておく。
その間飛ばしていた矢も軽々とかわされる。
残り、36本。

「お前らしくねぇよ!! 戦う理由を美琴のせいにするなんて!!」

瞬間移動しながら数本放ったが、制服にかすりもしない。
残り、29本。

「じゃあ、理由はなんだ?」

上条が駆ける後を追うように矢が地面に刺さる。
残り22本。

「まずは、嫉妬だ。いつも一緒にいるオレのことが気に食わない」

動きを追って放った矢は木の幹に入った。
残り15本。

「でも、美琴が笑っていたから今までは放っておいたんだ。」

上条が蹴り上げた石に矢が突き刺さる。
残り、11本。

「だが今回、美琴が泣いた。それで不安に思っちまったんだろ?」

矢を囮にして蹴りを放つ。
が、読まれていた。
残り、7本。

「確かめたくなったんだろ? アイツの隣にオレが立っていて大丈夫なのかどうかを!!」

白井は上条の八方に矢を飛ばす。
が、現れる前にあの右手に打ち消された。
残り、1本。

「違うか? 恋敵」


637 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 06:58:51 /2gwjdZc
上条の首筋に矢の先端が突きつけられる。
白井の目の前には上条の拳があった。

白井は全力を尽くした。
だが、上条はその気になれば白井に拳を当てることができたはず。
つまりは、そういうことだ。

「さて、引き分けみたいだけど、どうする?」

「…………ふぅ、そうですわね、そろそろ終わりにいたしましょう」

ようやく、白井は上条の顔を見る余裕ができた。

「なにを笑っているんです?」

「ん? 美琴の味方が多くてうれしくてさ」

まったく、この男は……。

「さ、アホ面さらしてないで行きますわよ」

「……へいへい」

その時、地面が揺れるほどの爆発音が響いた。
慌てて2人は現場に駆けつける。
そこには満足げな顔をした知り合いと、
ぼろ雑巾のような見知らぬ男たち、
そして、原型をとどめていない常盤台の寮があった。

「こ、これは……」

「いったい……」

「仕方なかったンだ」

「敵がここを戦場にしましたので」

「僕たち5人がかりでやっとだったよ」

「いやー頑張ったわー」

「強敵でした」

「お前ら5人でやっとだと? こいつらこんななりで木原だったり魔神だったりすんの?」

「よく見てくださいまし、あの人たち無傷ですの」


638 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 06:59:47 /2gwjdZc
「ちょっと!! どうなってんのこれ!!?」

「あぶっ!! ぱあぱ!!」

「お、美琴?」

「お姉様」

「あ、おはよう黒子。当麻!! 『お、美琴?』じゃないわよ!! 急にいなくなって心配したでしょ!!」

「ぱぱ!! メッ!!」

「お、おお、悪い……。ん? インデックス、元気になったか!!」

「あい!!」

「そうなの、朝起きたらもう元気元気!! でもパパいないんだもん」

「いあいんだおん!!」

「だ、だから悪かったって」

すっかり3人だけの世界が作られたことに、複雑な笑みを白井は浮かべた。
そんな彼女の耳に、こちらに駆け寄る足音が入る。

「こ、これは?」

「あ、寮監様」

寮監も上条たちと同様、爆発音を聞いて駆けつけたのだろう。
ぽかん、とした表情にいつもの覇気は見られない。
が、すぐに自分を取り戻した。

「これをしたのはお前たち6人か?」

一歩進み出たのは垣根だ。

「はい、ですがテロリストに対応した余波で壊れてしまったものでして、私たちに悪意は無いんです」

「おい、オレは止めてただろうが」

「そうか」

寮監は、答えた垣根に近づくと、そのまま首を折った。

「か、垣根ーーー!!!」

「え? 効いてるの?」

「かきね、ねんね?」

「おい、オレは止めてただろうが」

「「ザマァ」」

「すごい技ですね」

「神裂、君がそれほど評価してしまうのかい?」

「そもそもテロリストへの対応はアンチスキルの担当だ。君たちの管轄ではない。言い訳にはならん」

メガネが光る。

「よって、処断する」

「あぁ?……???」

麦野がガンを飛ばしたが、すぐに怪訝な顔をした。
視界から寮監が消えたのだ。
はっとした時には後方に回り込まれていた後だった。
くぎごきゃ

「は、速い!!」

「神裂、君が驚いてしまうのかい!!?」

そのセリフをステイルが言った次の瞬間、神裂とステイルは地面に倒れていた。

「なっ!!?」

チョーカーにのびた手は既につかまれていた。
くびきょ

「お、オレは止めてたってんだろぉがよぉぉぉぉおおおおお!!」

ぐびばきゃ

「ふむ、御坂、白井、そしてそこの御坂の許嫁は今回の件に関係しているのか?」

「「「いいえ全然!!!!」」」


639 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 07:00:32 /2gwjdZc
「そうか、ならばいい。しかし、これでは今年度中は寮が修復されることはないだろう」

「えっ? そ、それじゃあ!!!」

「あぁ、寮に戻るという話は白紙だろうな。この壊れようでは、本年度中は無理だろう」

3人は笑顔を浮かべた。

「よかったな、御坂」

美琴が見ると、寮監は寂しさを隠しきれていない笑顔を浮かべていた。
そう、今年度、つまり卒業まで美琴が寮に戻ることがないということは、つまり、寮監のもとに美琴が戻ることはないということだ。
気付いた美琴は堪らずインデックスを上条に預け、寮監の胸に飛び込んでいた。



木の葉が舞う。
どんなものにも終わりがある。



「どうやったら当麻に気持ちが伝わるんだろ?」

数日後の公園にて、
美琴はそうボヤいた瞬間、横からハリセンで叩かれた。

「痛い!! なにすんのよ黒子!!」

「てっきりツッコミ待ちかと。伝えようとしてないのに伝わるわけがありませんの」

「うぐっ」



変化、というものは少しずつ訪れる。
変化があった本人達には気付かない速度で。



「白井さん、最近は上条さんに八つ当たりしませんね」

「だねー。お、噂をすれば上条さんだ」

「追われてません?」

「み、美琴、インデックスを頼むあぎゃぁぁぁああああ」

「あ、うん。って当麻ぁぁぁあああ!!」

「ぱぁぱ!! ……あう」

「今日はこのくらいで勘弁してやるぜい」

「明日も覚悟しとくんやで」

「……当麻、なにやったのよ」

「美琴にはまだ言えないっす」

「……ふーん」

「やましいことはねえ」

「わかったわかった。さ、みんな、行きましょ。インデックスも一緒にいこうか?」

「あいっ!!」

「あ、えーっと、待ってください!!」

「あれ? 御坂さん!! 上条さん置いて行くんですかー!!?」



自覚のない変化は周囲にも派生し、
周囲もまた、変化していく。



「なぁ、白井」

御坂たちを追おうとした白井に上条は声をかけた。

「なんです?」

別に白井が足を止める必要はない。

「俺は今、あの約束をちゃんと守れているか?」

上条には彼女の背中しか見えていない。

「……ええ、ちゃんと守れていますわ。今のところは」

だから最後まで、上条はその笑顔を見ることはなかった。


640 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 07:01:02 /2gwjdZc
おまけ!!

「コホッコホッ」

ベッドの横で、ただ立ちすくむ。

「コホッコホッ、コホッコホッ」

今の彼に、出来ることはない。











「だ、断ぜコホッん、苦しゴホッゴホッい」

「お粥は食べた。薬も飲んだ。水分補給もした。もうやることはない」

「あ、ゴホッ暗然ゴホッ死んでしまう」

「ただの風邪だ。死んでたまるか」

「ゴホッゴホゴホッゴホッ」

「そもそもそんな状態で、なんで外出していたんだ?」

「慨然、マイゴホッゴホッエンジェル、も、体調ゴホッを崩しているようなゴホッ気がしてな」

「そんな状態で会う方が迷惑だろう。って、私はなんでこんなアホの面倒を見ているんだ?」

「裕然、元気になってきた気がする」

「流石あの医者だな」

「躍然!! 今から会いに行くぞマイエンジェ「寝てろボケぇぇぇええ!!」がべぶはっ」

「おとなしくなったか。あんなツッコミは私のキャラじゃないというのに」

ボヤキながら天井は冷えタオルを取り換えた。


おまけ


ジョセフス。
上条や御坂、インデックスと別れた3人はだべっていた。

「インデックスちゃん風邪だったんですねー」

「周りが見えなくなるほど動揺したって御坂さんいってましたね」

「もう、ホントの両親みたいだよねー」

「少し、落ち着きも必要だと思いますわよ?」

「……白井さん、変わりましたね」

「???」

「うん、いつものように『あの類人猿コロス!!』ってならないもん」

「……わたくしは、お姉様が幸せなら何でもいいんですの」

「「白井さん……」」

「それに」

「?」「?」

「源氏物語、ってご存知です?」

「「えっ?」」

……。
ぞわわわわわわわわわわわ

「ふふっ、うふふふふふふ」


641 : 衣替え3 :2015/07/14(火) 07:02:46 /2gwjdZc
以上!!

今回の投下分は13巻の前に大体はできていました。
いやぁ、ちょっと驚いた。

少し長くてごめんなさいね


642 : くまのこ :2015/07/17(金) 21:05:10 09CrbbqI
>>・・・さんGJです!
とりあえず一段落ってところですかね。
インちゃん、やっとパパに会えて良かったね!



その・・・さんからリクを受けたので、
扇風機が原因でケンカップルになる話を書いてみました。
ちなみに、タイトルも・・・さんのリク通りです。
約3分後に3レス使います。


643 : 独占したいの♡ :2015/07/17(金) 21:08:04 09CrbbqI
7月も半ばを迎えた今日この頃。上条は一足先に、夏休みの宿題に取り掛かっていた。
いや、正確には『春休みの宿題』が未だに終わっていないと言った方が正しいだろうか。
成績がよろしくない上に出席日数も絶望的だった上条さんが、高校二年生に進級する為には、
担任の小萌先生が何百・何千と各所に頭を下げ、防犯オリエンテーション等でポイントを稼ぎ、
その上で大量の宿題・課題・レポートを提出しなくてはならなかった。
結果的にどうにかこうにか進級は許されたものの、
勉強机の上に積み上げられた問題集やプリントの山は、目にするだけでゲンナリする程に残っている。
幾度となく世界を救った上条【ヒーロー】に対し、世間【がっこうがわ】は非常な仕打ちである。
だが泣き言を言ったところで宿題が減ってくれる訳でもないし、
これらを二学期が始まるまでに提出しなければ、二年生をもう一度やるどころか、
下手をしたら一年生をやり直さなければならない可能性すらある。
故に上条も本腰を入れて宿題をやっているのだがしかし、
もはや上条一人で終わらせられる量ではないのは明らかだ。
そこで上条は自らのプライドやら何やらを捨てて、ある人物に助けを求めた。

「ったく、もう! コツコツやんないから土壇場になって焦るんじゃない!」
「お説教なら後で聞きますからっ!」

ご存知、美琴である。
たとえ相手が大学レベルの勉強をしていたとしても、中学生である事には変わりなく、
上条も頭を下げて教えを請うのは微妙だったが、贅沢など言っていられない。
ここは学園都市第三位の演算能力に頼るしかないのだ。
ちなみに科学の知識がまるで無いインデックスは戦力外【べんきょうのじゃま】なので、
オティヌスやスフィンクスと共に部屋から出て行ってもらった。
かな〜り渋々だったが、上条から(なけなしの)五千円を貰い、風斬と遊びに出かけたのだ。
仕方が無い。五千円は大金だが、留年するよりは遥かにマシだ。
と言うか、上琴的にその方が都合が良いのである。

「いやホント悪いな美琴。こんな事で呼び出してさ」
「ま、まぁ私も丁度ヒマだったから別にいいんだけど…」

手を動かしながらも軽口をたたく美琴だが、内心では小躍りしたい気分である。
上条が自分を頼ってくれたという事も嬉しいのだが、それより何より、
普段上条が暮らしている部屋で、その上条と二人っきりなのだという、
この何ともワッショイワッショイなシチュエーションが、美琴のテンションを爆上げしているのだ。
表面上は平静を装ってはいるが、見る人(と言うよりも上条以外の人間)が見たら、
それはもうバレバレであろう。
何しろ美琴は、先程からチラチラと上条を見つめては赤くなり、
落ちた消しゴムを拾おうとしては上条の手とぶつかり赤くなり、
上条の飲んだ麦茶を間違って飲んでは赤くなったりしているのだから。
怒涛のラブコメお約束イベントコンボに、体温は上昇するばかりである。
ただでさえ、今日は真夏日だというのに。

「ちょ、ちょろっとエアコン入れていい?」

部屋の暑さと自分の熱さでにっちもさっちも行かなくなった美琴は、
扇風機だけでは我慢できなくなったらしく、エアコンのリモコンに手をかける。
しかしここで、上条から思いも寄らない一言が。


644 : 独占したいの♡ :2015/07/17(金) 21:08:33 09CrbbqI
「ああ、悪い。エアコン壊れてんだわ」
「えっ…」

実は去年、まだ上条が記憶喪失になる以前の話だが、
夏休み初日の前日に、上条の学生寮近くで『謎の落雷』があったのだ。
その際に上条は部屋の電化製品の八割をやられた訳なのだが、
生活に必要不可欠な冷蔵庫や洗濯機などの家電は修理したものの、
無くても生きていける家電の修理は後回しにしたのだ。
ましてや何だかんだで月日は過ぎて、エアコンを使う時期でも無くなった為か、
結果エアコンの修理は翌年…つまり今年に先送りされたのである。
で、結局まだ修理も買い替えもしていないという訳だ。
ちなみに、『謎の落雷』が誰のせいだとか、記憶の無い上条には知る由も無い。
もっとも、その誰かを煽った以前の上条にも、原因があると言えなくも無いのだが。
まぁ、とにかくだ。とりあえずエアコンは使えないという事なのだ。

「じゃあ…しょうがないわね」

そう言いながら、美琴はこの部屋で唯一の冷却装置【せんぷうき】の首を、美琴側に向ける。
しかしそうなると、家主【かみじょう】も黙ってはいられない。

「いやいや、こっちにも向けろって」

上条は美琴側に向いている扇風機の首を、グリンと上条側に向けた。
だがそうなるとやはり、美琴が黙ってはいられない。

「ちょ、ちょっと! 暑いじゃないのよ!
 私はアンタのせいでドキド…じゃ、じゃじゃじゃなくてっ!!!
 えと、その…と、とにかく! 私の方が暑いんだからこっちに風よこしなさいよっ!」

美琴は上条側に向いている扇風機の首を、グリンと美琴側に向けた。
けれどもやっぱりそうなると、上条が黙ってはいられない。

「んな事言ったって、上条さんだって暑いんだぞ!?」

上条は美琴側に向いている扇風機の首を、グリンと上条側に向けた。
もはや、白ヤギさんと黒ヤギさん状態である。
扇風機なんだから首振り機能を使えば済むだけの話なのだが、
何かもういつの間にか、両者共に一歩も引けないくらいヒートアップしてしまったようだ。
扇風機の首がグリングリンとあっちこっちに向き、関節部分がゴキボキと嫌な音を立てる。

「ぜぃ…ぜぃ……こうなったら!」

終わりの見えない小競り合いで息も絶え絶えになった上条は、
この平行線の諍いを打破するべく、ある強攻策に打って出る。

「こうしてやる!」
「あっ! ちょ、ズルい!」

上条は扇風機の首を回すのではなく、扇風機本体を抱きかかえたのだ。

「うははははー! これで風は独り占めしてやるぜー! あー、涼しー!」
「んにゃっろっ!」

するとすぐさま、美琴は扇風機(とそれを抱えた上条)目掛けて飛び掛った。
二人とも小学生じゃねんだからとか、つか宿題はどうしたとか、野暮なツッコミはナシである。

「アンタなんかこうしてやる!」
「んだとー!? ならミコっちゃんのここを…うりゃー!」
「にゃー! どど、どこ触ってんのよスケベ!」
「へっ! 手段なんざ選んでられっかい!」
「え、あ…待っ、そんな事まで!?」
「っ! み、美琴!? それは、流石に、マズいって!」
「ぁんっ♡ ば、馬鹿ぁ! それ以上やったら、変な気持ちに、なっちゃうじゃない!」
「美琴って…その……い、意外とこういうのウマいんだな…」
「ひゃっ!? あ、らめ…♡ ん、はぁ! もう、ホントに……んんんっ!♡」
「美琴、何でこんな…! ああ、くそっ! そんな顔されたら我慢なんてできるかよ!」


645 : 独占したいの♡ :2015/07/17(金) 21:09:33 09CrbbqI
もはや扇風機など何処吹く風(扇風機だけに)と言わんばかりに、
二人は直接取っ組み合いを始めた。
美琴が上条の頬を引っ張ったかと思えば、上条は美琴の脇腹をくすぐり、
上条が美琴の耳をフニフニ触ったかと思えば、美琴は上条の胸に自分の顔を押し付ける。
美琴が上条の二の腕に甘噛みし、上条が美琴のおへそに息を吹いて、
上条が美琴の頭をクシャクシャに撫で、美琴が上条の膝の上に乗り、
美琴が上条の太ももを指でなぞり、上条が美琴のおでこに口付けをし、
上条が美琴の首筋をチロチロと舐め、美琴が上条の指をチュパチュパとしゃぶり、
美琴が上条の顔をうっとりと見つめ、上条が美琴の背中をギュッと抱き締めて、
上条が美琴の体を押し倒し、美琴が上条の首に腕を回す。

…途中から明らかに様子がおかしくなっている。
どうやらこの暑さで、二人とも頭をやられてしまったようだ。
空気がこもった部屋の中で、扇風機と宿題そっちのけで痴話喧嘩をした結果、
暑さにより逆に変なスイッチが入り、最高に「ハイ!」ってやつになってしまったのである。

上条と美琴は、お互いに床に押し倒し倒されの状態で相手を見つめ合う。
蒸し蒸しとした暑さに加え、先程まで暴れていた事による相乗効果で、
美琴の鎖骨はじっとりと汗ばんでおり、顔は上気し、瞳は潤み、
その艶のある唇からは「はぁ…はぁ…」と荒い呼吸が聞こえてきた。
中学三年生とは思えない程の妖艶さに、上条は思わず息を呑む。

「……美琴…」

と上条が真剣な顔で一言漏らすと、美琴も何かを覚悟したようにキュッと目を瞑る。
そしてそのまま、上条はゆ『プルルルル!』っくりと美琴との距『プルルルル!』離を近づけて

…電話である。
もう少しでいい所だったのに、上条の不幸が呼び寄せたのだろう。
上条の携帯電話が、突然鳴り響いたのだ。
瞬間ハッとした二人は、ものっそい速さで飛び起き、一気に距離を離した。

「も、もももし、もししもし!? どどど、どちら様でせうか!?」
『どちら様とはご挨拶なのです!
 先生は上条ちゃんがきちんとお勉強をしているのか、確認する義務があるのですよ!?』

小萌先生からだったようだ。
上条は先程の妙な桃色空間の影響が抜けずに、顔を真っ赤にしたまま、
ヘコヘコと頭を下げながら受け答えしている。
だが相手と会話できるだけ、気が紛れて良いのかも知れない。
何しろもう一人の桃色空間の犠牲者は、気を紛らわせる手段がなく、

(ささささっきの私達何だったのっ!!? な、なな、何かその場の空気に呑まれて、
 とんでもないような事をしようとしてた気がするんですけど!!!?
 てかもしあのままだったらもしきゃしひゃらきしゅしちゃりゃはみゃひろぴゃむふぉあえ!!!)

と悶々とするしかないのだから。
あまりの事態に、後半は何を言っているのかサッパリである。まぁ、大体分かるけど。



この後、二人は真面目に黙々と宿題をしたのだが、
あの記憶を消去できる訳もなく、お互いに思いっきり意識しまくっていたのは、
まぁ、言うまでもない事だろう。


646 : くまのこ :2015/07/17(金) 21:10:09 09CrbbqI
以上です。
ではまた。


647 : ■■■■ :2015/07/19(日) 13:35:10 8eMWLqT2
乙です。このSSにおいて13巻はあらゆる設定を破壊しかねない内容でしたからね。育児日記のほうのパパ上条さんは上里ととも決着つけたと解釈しときます。
「君の勝ちだ。幻想殺しの右手・・・!」苦汁を味わった上里の面を妄想して。


648 : ・・・ :2015/07/19(日) 18:00:57 xMsf6N7o

ども、13巻を読み、読み、読んで、
苦しみを感じている上琴病患者の・・・です。
扉絵が美琴の理想が叶っている状態だからこそ、
内容がねー。辛いのですよ-。

〉〉くまのこさん
リク対応ありがとうございます。
期待以上にいちゃいちゃしてくれて、もう暑いのなんの!!


さて、投下します。
くまのこさんの作品や、
過去にあった数々の良作ssに影響されてできた短編です。
あたいの作品では糖分高めな方でやんす
それでは


649 : ・・・ :2015/07/19(日) 18:03:57 xMsf6N7o
の前に、先日から感想感謝です!!!
書く気力がみなぎります。

ただ、E-mail欄に「sage」と入れていただけると、うれしいです。


650 : 飴と私 :2015/07/19(日) 18:04:48 xMsf6N7o

「ランダムキャンディ?」

「はい!!」

ジョセフスは、今日も4人の少女がやかましく騒ぐ場を提供していた。
普段は得てしてトラブルメーカーの少女が話題を提供するのだが、今回は珍しく彼女の親友がその大任を果たしている。

「で、結局なんですの?」

「この飴はですね、食べてる間にいろんな味に変わるんです!!」

「ふーん」

そういいながら、テーブルの上に転がっている飴を佐天は1つ口にする。

「ファミレスにお菓子持参していいの?」

「たまたま持ってたのをテーブルの上に置いただけです」

美琴も白井もため息を吐き諦めた。

「いろいろな味がする飴なんて、外にもありませんこと?」

「それがですねぇ……」

初春が含みを持たせて沈黙した後、
少しして佐天がおおっ!!と叫んだ。

「メロン味の後、空の味がする!!」

「「???」」

「共感覚性って覚えてます?」

「1つの刺激から2つの感覚を得るっていうあの?」

「そうです!! この飴は味覚を切り口にして脳に働きかけ、共感覚性を活用して、味がないものまで味わうことができたりする飴なんです!!」

「「「おおーー!!」」」

「飴を舐めてる本人の視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚すべての記憶をランダムで『味覚』として味わえるんです!!」

「へー、面白い!!」

美琴の言葉の後、佐天以外の3人も飴に手をのばす。

「おー!! 空の次は最新の都市伝説の味がする!!」

「……春上さんのやさしさの味がした後に、数学のテストの味になっちゃいましたぁ」

「これは、トルストイ『戦争と平和』の原文ね、訳だと味が違うのかしら? あっパガニーニのヴァイオリン協奏曲の味が始まった!!」

「おや? これはサモトラケのニケの味……本当にそうとしか言えないんですのね。と、思ったらビバリーシースルーの最新作の味ですの!!……まだCMでしか見たことないはずですのに……んっ!! この味は!!」

「「「???」」」

「お姉さまの過激な愛の味ですの〜〜!!」

「ぬうふぁ!! そんなもん与えてないのになんで記憶して……ッ!! どさくさに紛れて抱きつくな!!」ビリビリ

「そうそう!! これこれ!! で、すの」ガクッ


651 : 飴と私 :2015/07/19(日) 18:05:19 xMsf6N7o

「ってことがあったのよ」

ところかわって上条の寮。
家主は「こうやって女の子向け商品の販売ルートは広がるのかぁ」と、口コミが作るマーケットの活用法を実感していた。

「お!! 昨日読んだ『密室×密室探偵』の味になった!!……と、いうことでアンタも食べない?」

「いや、不幸な予感がするからいい」

不用意に舐めると、ジジ魔神の恐怖やアックアのパワー……いや、オティヌスの幸福な世界や記憶を失った喪失感をわざわざ味わうことになりかねない。

「楽しいのに」

しかし、

「白井は、お前の愛を味わったって?」

「ん? そうなのよ。勘弁してほしいわ」

おっ、次はゲコ太の味だー幸せ!!
なんて叫ぶ美琴に上条は歩み寄り、隣に座る。

「やっぱり、舐めさせてくれよ」

「うん、はい、どー……」

唇が、塞がれた。

「んっ、うんっ…」

「あっ、んぷっ、ふぁ、はぁ」

さらに、上条の舌が、美琴の口内を蹂躙する。

「あっ、ちゅ、ふぅ……くふぅ、れろっ、と、うま、ぁ、んんっ」

「みこ、と、んく、はぁ、れろれろ、ちゅ、はぁ」

しばらく、上条は美琴を貪り続けた。
解放したときに、美琴の瞳はすでに焦点があっていない。

「ぷはぁ、はぁ、飴、美琴の味しかしなかったな」

「わ、らひも、はぁ、はぁ、当麻の味しか、しなかゃった」

「……20個入りか」

「ふぇ?……んぐっっ!!」

少女の口に入れられたのは、新たな飴と、男の舌。

美琴は意識が朦朧とするなか、これが幸せの味なのだと認識する。

いま口の中で溶けているのは、
飴か、それとも、己の自我か。


652 : ・・・ :2015/07/19(日) 18:08:00 xMsf6N7o
以上です。

あの長編書いてると、たまーに初々しいのやいちゃいちゃしてるのを書きたくなるんです


653 : 飴と私 :2015/07/19(日) 18:09:03 xMsf6N7o
以上です。
無性にイチャイチャしたのが書きたかったのだ


654 : ・・・ :2015/07/19(日) 18:09:44 xMsf6N7o
二重になってる。
大変失礼しました


655 : ■■■■ :2015/07/21(火) 06:40:31 kTYkySw6
上条さんがネフティスと結城リト的なエッチ展開になったのを、
美琴が目撃してしまった際の反応を見てみたい。


656 : 我道&くまのこ :2015/07/25(土) 08:15:41 brTZFSFE
>>・・・さんGJです!
もうアレですね。
飴を舐めてるのかただ単純にミコっちゃんをねぶってるのか分かりませんねw



どうもくまのこです。
毎度おなじみこぼれ話です。
そして我道さんとの合作です。
いつも通りです。
約3分後に13レスです。


657 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:18:24 brTZFSFE
美琴「(ね、ねえ!)」
上条「(何だよ? まだ駄々コネてんのか? 今回は14巻途中〜16巻ってのは規定事項だぞ)」
美琴「(ほほほほほほ本当にいいのかな!? だってほらアンタ記憶喪失のこと隠してるんでしょ!? あの二人にバレちゃっていいの!?)」
上条「(あ、そうか)」
美琴「(でしょでしょ? だからさ、16巻を飛ばしても!!)」
上条「(ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜まあ別にいいや)」
美琴「(え、えええええええええええええええええええええええ!!?)」
上条「(だって、このこぼれ話に出てきたゲストにゃ、白井、佐天さん、初春さん、あと一方通行には話してるから、クラスメイトや両親と関わらないあいつらならいいだろ。特に五和と出会ったのは『記憶喪失後』だし。まあ神裂はビックリするかもしれんけどこのこぼれ話は二次創作だし)」
美琴「(それって究極のメタ発言じゃない!?)」
五和「さて、と――上条さん? 御坂さんと仲睦まじげにヒソヒソ話するのを止めてそろそろ中編を始めませんか?」
上条「な、なあ五和? 何かあるごとに槍の切っ先を突き付けるのは止めようぜ……背後だから見えないけど延髄に当たってる感覚は分かるんだからさ……って、ん? 神裂? 何お前目逸らしてんの……?」
神裂「い、いえ……単に映像がなくて良かったと思ったまでです……」
上条「ん? 御坂お前も……?」
美琴「そ、そうね。では早速始めましょうか。」
上条(レベル5と聖人が恐れ戦くって……? 見たいけどやっぱ見ない方がいいんだろうな……)
五和「……」


658 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:18:51 brTZFSFE
「……あれ。そういやインデックスはどうしよう」
 彼女を危険な場所へ連れていくのは反対だが、かと言ってご飯のない部屋に放ったらかしというのもまずそうな気がする。
「舞夏がカミやんの部屋に行ってるから大丈夫だよ。多分いつもの食いしん坊より三割近くツヤツヤしてるはずだにゃー」
 その言葉を聞いてホッとする反面、自分の存在意義はもう『ご飯を作ってくれる人』しかないのか、と上条はやや呆れる。


神裂「ふむ。あの子を危険な場所に連れて行かないという姿勢は評価できるのですが上条当麻。この発言からですと貴方の方も、どちらかというとあの子の身の安全よりも食の心配しているように感じるのですが?」
上条「そりゃ、まあ……」
美琴「まあ、あの子が満腹のときって見たことないしね。確か大覇星祭のときだって、朝食後2時間くらいでもう空腹で行き倒れてたし。アンタが貧乏というかいつもお金がないのは貰ってる奨学金の大半をあの子の食費に回してるからなんでしょ? いくら普通校でも趣味や娯楽を我慢すれば二人分の食費くらい出るはずなのに、ホントあの子の胃袋はどうなってるのかしら」
神裂「飢えさせている、という訳ではなさそうなので安心しました」
上条「なあ。今まで聞いたこと無かったんだけど、あいつが神裂と一緒に居た頃の食欲ってどんなだったんだ?」
神裂「さあ?」
上条「さあ、って……」
神裂「彼女の食事は別の担当が居ましたし、相伴という事もありませんでしたから答えようがないのです。食事以外の時間はほとんど一緒に居ましたけど」
上条(…………当時のコックだか調理師は大変だったのか……それとも必要悪の教会は相当裕福なのか……)
五和「でしたら上条さん! 私が毎日作りに行きましょうか!!」
上条「何でそんな話になるのか分からんし、別に作りに来てもいいけど毎日って一体どこに住み込むつもりだ? さすがにイギリスからは来れんだろ」
五和「そ、それは……その……やはり上条さんの部屋……に……/// って、あれ? 上条さん? 上条さん? どこ行ったんですか? あ。女教皇様と御坂さんも居なくなってます。はて?」


 上条は少し考えてから、やがて携帯電話の登録メモリを呼び出した。そこにある番号の一つに電話をかける。
「御坂!!」
『な、何よ』
 電話の相手は御坂美琴だ。


五和「……」
上条「な、何でせうか……? そのジトー……っとした眼差しは……」
五和「えっとですね上条さん……これ、カットされているから分かり辛いんですけど、いくら学園都市の駆動機だからって、すぐ傍に私が居るのに意見を求めることなく御坂さんに電話したのは何故ですか……?」
上条「え? 俺間違えてる? だって、学園都市製のモノなら学園都市の人間に聞くのが当然じゃね? これが魔術のことだったら俺、御坂じゃなくてインデックスに聞いてるぜ?」
五和「………………………………ちょっと待ってください………………私がすぐ傍に居るのに、ですか? この際ですから駆動機のことは納得しますけど……」
上条「いやだから何でそこで俺が恨みがましい視線を向けられなきゃいけないんだって。戦闘中だよ? 適切な判断だと思うけど違うの?」
神裂「上条当麻……五和の矛先が変わった事にも気付かないくらい鈍感だとは……」
美琴「そりゃー、科学サイドならまだしも魔術サイドのことをすぐ傍に居る魔術師に聞かないんじゃね。科学サイドで例えるなら、私が傍に居る時に妹達に電話するようなものよ」
上条「あ。」


659 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:19:16 brTZFSFE
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今大丈夫か?」
『へ、へえ。それって私じゃないとダメな訳? 他の人でも別に良いんじゃないの? 例えばウチの母とか』
「ん? ……そうか、そうだよな。別に御坂じゃなくても、美鈴さんとかに尋ねても――――」
『ノンノンノンノン!! ちょ、アンタ私に何か聞きたいことがあったから掛けてきたんじゃなかったっけ!?』
「??? まあ、美鈴さんよりも、学園都市内のヤツの方が良いか」


神裂「御坂美琴さん。敵に塩を送るという訳でもありませんが、もう少し素直に対応しては如何でしょう?」
美琴「んな!? そそそそそそれはですね!!///」
神裂「素直に返事しておけば、別の誰かに連絡されそうになることもなかったのではないでしょうか?」
美琴「いやそうなんだけどさ!!///」
五和「ああ! なんと素晴らしい!! 女教皇様が寛大にもサルバーレ000(救われぬ者に救いの手を)なところを見せてらっしゃいます!!」
上条「ところで神裂。『敵に塩を送る』って、どういう意味だ? いや言葉自体の意味は知ってるよ。けど、ここで使った理由が分からなくてさ」
神裂「んな!? そそそそそそれはですね!!///」
上条「まあ御坂は科学サイドで、神裂は魔術サイドだから敵味方と言えなくもないか」
神裂「いや……そうなんですけど……」
五和「……上条さんって相変わらず上条さんです」
美琴「デスヨネー」
上条「え? 俺間違ってないよね?」
美琴「うん。間違ってないわよ。ただ、私たちとアンタの間に『敵』という言葉の意味の捉え方でかなりの乖離はあるけどね」
神裂「ですよねー」
上条「???」


『――――テレビなんてどこを点けても臨時ニュースしかやってないじゃない。アビニョンってフランスの街でしょ。――――』
『――――……つか、アンタ今どこにいる訳? むしろこの情報が入ってこない場所を探す方が難しいんじゃないかしら』


美琴「で、その中心にいたと」
上条「ま、まぁ結果的にはそうなりますよね」
美琴「アンタねぇ! そうならそうってちゃんと言いなさいよ! 心配するじゃない!」
上条「いや、言えなかった理由も分かるだろ!? それに言ったら言ったで、結局心配かけちまうし!」
五和「……つまり上条さんは、御坂さんに心配をかけたくなかった訳ですかそうですか」
神裂「五和。何でもかんでも病んでしまうのはやめなさい」


 御坂美琴は携帯電話を手にしたまま硬直していた。
 スピーカーの向こうから聞こえてきた、雑音混じりの言葉を聞いて身動きが取れなくなっていた。


五和「ん? あれ? 随分とシリアスというか深刻な展開に? 随分飛びましたけど、ここら辺だと左方のテッラを退けた後なのに?」
神裂「一体何があったのでしょう?」
美琴「……」
上条「……あー…OPトークの時は思わんかったけど、いざ、このシーンが来ると結構緊張しちまった、な……」


660 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:19:48 brTZFSFE
 彼女の胸を締め付けているのは、たったの一言だ。
「……、」
 口に出そうとして、美琴は声が出ないことに気づいた。
 ――――体の震えが収まるまでじっとしていようと思ったのだが、いつまで経っても収まる様子はなかった。
 ――――意図していないのに、不気味なくらい掠れた声が自分の口から放たれるのが分かる。
 彼女が放ったのは、小さな声だ。
「……忘れて、いる……?」
 言葉に出してから、御坂美琴はその意味についてもう一度考えてみる。
 記憶喪失ですって?


神裂「な……!」
五和「え……?」
上条「……そういう反応になるよな。けど五和は心配するな。俺がお前と初めて会ったのは記憶喪失になった後の話だから」
五和「そ、そうですか……それは良かったです、でいいのでしょうか……」
神裂「ちょ、ちょっと待ってください! それでは私は!? 私と初めて会ったのは……!?」
上条「……悪い。今まで黙ってたけど、今の俺が神裂と初めて会ったのは御使堕しのときだったんだよ……あん時はまだ誰にも、というか……アイツに知られたくなかったからな……」
神裂「そう……ですか……あ、アイツとはもちろんあの子の事ですよね……?」
上条「まあな」
神裂「……でしたら仕方がありませんね……って、今はどうなのですか!? 今でもあの子は知らないのですか!?」
上条「いや、もう知ってる。アイツも受け入れてくれたっぽい。本心はさすがに分からないけど、表面上は今までと何ら変わりないぜ」
神裂「……それならばいいのですが……ところで原因は何なんです……?」
上条「知らん」
神裂「はい?」
上条「だって俺、原因を聞いてねえもん。分かっているのは七月二十八日以前の記憶がないから、記憶喪失になったのは七月二十八日ってことだけだ。原因を知ってるのは多分あいつだろうから聞けねえだろ?」
神裂「な、なるほど……」(とすると原因は竜王の殺息によって生み出された光の羽……ッ!!)
五和「女教皇様?」
神裂「い、いえ……何でもありません……」(これはさすがに私からも話せませんね……永久に記憶の奥底に封じ込めておかなくては……)
??「優先する。――――――記憶を下位に、秘密を上位に」
上条「わざわざ生き返ってまでシリアスブレイクすんなよ」


「――――それより十二月のスケジュールが決定しました。時期が時期ですから、最大主教にはサンタクロースの格好をして四三ヶ所の児童養護・福祉施設を回ってもらいます。これも公務ですので、どうかご了承ください」
「うむ。鼻血必至の悩殺ミニスカサンタセットはすでに調達できたるのよ」
「ッ!!!??? 今、自信満々にウムとか頷いて変なことを言いませんでしたか!?」


上条「はい!? 最大主教って一番偉い人ですよね!? イギリス清教って厳格な十字教ですよね!? いったい何言っちゃってんのこの人!!」
神裂「……そういう反応になりますよね……はぁ……」
五和「あ、あの……女教皇様……我々はこんな淫らな輩の下に居るのでしょうか……」
神裂「世の中にはどんなに理不尽なことでも受け入れなければならないというときがあるのです……それにロシア成教・殲滅白書のトップよりはマシでしょう」
美琴「ふーん。珍しくアンタにしては『ミニスカ』サンタに喰いつかなかったわね」
上条「いや御坂さん!? 『珍しく』って何ですか!? 紳士で硬派たる上条さんは『いつも』そういったモノには喰いついていないはずですよ!?」
五和「女教皇様、ちょっと左足をこの台の上に乗せてもらえます?」
神裂「? こうですか? と、随分高い台ですね。膝が腹部に付きそうな……って、上条当麻? 何、凝視しているのです……?」(ジト目)
上条「はっ!!」
美琴「やっぱり太股に喰いついてんじゃんかゴルァァァァアアアアアアアアアアアア!!」
上条「すすすすすすんませぇぇぇえええええええんんんん!! 男の性なんですぅぅぅぅぅぅううううううううううううう!!」


661 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:20:13 brTZFSFE
「やかましいこのド素人が!!」
「ッ!?」
「さっきっから黙って聞いてりゃベラベラとと!! ――――」
「かっ、神裂? 神裂さーん……? あの、ええと、先程から先ほどから口調がおかし―――」
「言葉遣いに関してテメェにゴチャゴチャ言われる筋合いはねぇこのクソ野郎!!」


上条&美琴&五和「「「……………」」」
神裂「う゛う゛んっ! ごほんごほん!」
美琴「えっと…もしかしてハンドル握ると性格が変わるとかそういうアレですか神裂さん?」
上条「いや、これは普通にキレるとこうなるってだけだろ。そうですよね神裂さん?」
神裂「な、なぜ急に敬語なのですか!?」
五和「女教皇様は怒ると恐いですから…」
神裂「五和に言われたくはありませんよ!!?」
美琴「キレると性格が荒くなるのも、キレると病んじゃうのも、どっちも恐いと思うけど…」
神裂&五和「「うっぐっ…!」」
上条「まぁ、御坂はいつも軽く怒ってるけどな」
美琴「なっ! そ、それはアンタが…その…いつも無意識で私に変な事するから……///」
上条「変な事って?」
美琴「そ、そそそ、そんなの言える訳にゃいじゃない!!!///」
五和「…ちょっと目を離した隙に、す〜ぐそうやって……うふふふふふふ…」
神裂「イチャイチャしてんじゃねぇよド素人共がっ!」
上条「病んでる病んでる。荒くなってる荒くなってる」


「わ、私は、それだけじゃないと思いますけど……」
「?」
 ごにょごにょ言う五和に上条が首を傾げると、彼女は慌てて両手を振ってごまかした。


五和「………///」
美琴「へー。ほー。ふーん」
上条「え、な、何? ミコっちゃんから何やらやたらと痛い視線が突き刺さるのですが…」
美琴「べーつーにー!? アンタがそういう奴だってのは、よ〜〜〜〜〜く知ってるし!?」
上条「だから何がだよ!? 俺が…どういう奴だって!?」
美琴「何でもないって言ってんでしょ!? バーカバーカ!」
上条「なっ!? 古来より、馬鹿って言った方が馬鹿だって相場が決まってんだぞ!?」
神裂「…何ですかコレ。ただの痴話喧嘩にしか見えないのですが…」
五和(おかしい…私が上条さんと……ごにょごにょ…する流れのはずだったのに……)


「五和の野郎……さっきから業務連絡ばかりで、ちっともアタックしませんね」
「まったくよな。せっかく上条当麻にゼロ距離攻撃できるチャンスを与えてやったというのに――――」


五和「ううう牛深さんも建宮さんも何言ってんですか!!!///」
上条「…なぁ五和」
五和「あっ! ひゃ、ひゃいっ!!?///」
上条「五和ってアックアから俺を守る為に学園都市に来たんだよな? なのに何で建宮達は、五和に俺を襲わせようとしてんの? アタックしないとか、ゼロ距離攻撃できるチャンスとか」
五和「………デスヨネー」
美琴「うん。分かってた分かってた」
神裂「上条当麻ならば、そう言うだろうと予想はしていました」
上条「よくは分かんないけど君達、そこはかとなく馬鹿にしてるね?」


「――――そう、それは『五和隠れ巨乳説』ッッッ!!」


五和「………」
神裂(建宮ェ…)
上条「大声で何言ってんだこのクワガタ」
美琴「くっ」
上条「あれ!? でも何か御坂一人だけ大ダメージ受けてる!」


662 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:20:44 brTZFSFE
 ――あの少年は身近なところにいるように見えて、実は良く分からないことがかなり多かった。


美琴「あー……そう言えばこの時点でもうすでに私、何周くらい周回遅れだったのかしら……」
上条「なあ御坂? あの僧正のときのことなら気にしなくても良いと思うぞ? アレはそういう存在なんだから多分、五和どころか神裂だって歯が立たないと思うぜ」
美琴「だからなんじゃない!! 東京湾の時にやっとアンタと同じステージに立てたと思ってたのに、それなのにアンタはもっと先に行っちゃってて……」
上条「いやあのな? 俺だってできればあーゆーのと関わり遭いたくないわけで、たまたまお前より先に関わっちゃってたってだけで」
美琴「……何かアンタのフォローはフォローじゃなくてトドメっぽいわよ……はぁ……」
上条(ううん……どうやって御坂を元気づければ良いものか……)
五和「上条さん! 何やら聞き流せないようなことをサラッと言いませんでしたか!!」
神裂「その通りです。確かに私にだって太刀打ちできない相手は多々存在することは認めますが、だからと言って『歯が立たない』とまで言われるのはどこか心外ですね」
上条「…………魔神って知ってる、よな?」
神裂&五和「!!!!!!!!!!!!!?!」
美琴(え? この二人も魔神って存在が分かるの? だったら私ってもしかしてこの人たちよりも周回遅れ??)
上条「お、おい御坂! お前なんだかさっきよりも精神的なダメージを受けてないか!?」
??「優先する。――――――プライドを下位に、メンタルダメージを上位に」
上条「だから、わざわざ生き返ってまでシリアスブレイクすんなっての」


(知り合いの精神系能力者に相談するって選択肢もあるんだけど)
 常盤台中学には、美琴の他にもう一人、第五位の超能力者がいる。


上条「ああ、噂には聞いた事あるな。まだ会った事はないけど」
美琴「…? ねぇ。前々から思ってたんだけど、アンタあいつの事忘れすぎじゃない?」
上条「へ? あいつって?」
美琴「だから、その第五位の事よ。何だったら、こぼれ話にもゲストで来てたでしょ」
上条「えっ!? いつ!?」
美琴「……本当に覚えてないの? …ま、まぁ私的にはそっちの方が都合がいいけど」
神裂「……………」
五和「あの、女教皇様? どうかなされましたか? 何だか難しい顔して…」
神裂「…ああ、いえ。何でもありません」(科学サイドの力を借りれば、もしかしたらあの子の記憶も…なんて、この少年の前で言える訳はないですね)


(だぁーっ!! くそ、そもそも何で私があの馬鹿の事でこんなに頭を悩ませなくちゃならないのよ! なんか下手に焦って頭が回らなくなってるし、そのせいで余計に焦りまくってるし――――)


美琴「そ、そうよ! 何で私がアンタなんかの為に悩まなくちゃなんないのよ!」
上条「いや何でって聞かれても…それを一番知りたいのは上条さんなのですが?」
美琴「っ! いや、だから、それは、そのっ!///」
神裂「…墓穴を掘りまくっていますね」
五和「あの…女教皇様。一応確認いたしますが、この巻って私がヒロインなんですよね?」
神裂「諦めなさい五和。この『すれっど』には、何か見えない力が働いているようですから」


 バゴン!! という良い音と共に、上条当麻の側頭部にボールが激突する。
 しかもその勢いに押され、上条の頭が隣を歩いていた少女の胸の谷間へと突っ込んだ。


五和「ききき、来ました! これは流石に私のターン///」
美琴「へー。ほー。ふーん」
上条「え、な、何? ミコっちゃんからの何やらやたらと冷たい視線で凍りつくのですが…」
美琴「べーつーにー!? アンタがこういう奴だってのは、よ〜〜〜〜〜く分かってたし!?」
上条「だから何がだよ!? 俺が…どういう奴だって!?」
美琴「何でもないって言ってんでしょ!? バーカバーカ!」
上条「なっ!? 古来より、馬鹿って言った方が馬鹿だって相場が決まってんだぞ!?」
五和「なん…だと…?」
神裂「だから言ったでしょう。何か見えない力が働いているのですよ。この二人をくっ付けさせようとする、謎の力が」


663 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:21:12 brTZFSFE
 ――ツンツン頭の少年は、なんだかんだで未だに少女の胸にめり込みっ放しだ。しかも『うっ、ううん……』と言いながら、寝ぼけて少女の膨らみをわし掴みだ。


美琴「……」
神裂「……」
五和「……///」
上条「い、言っておくが、この時の記憶が俺には無いから、な……?」
神裂「上条当麻。ちょっと、これを左手で持って天に突き上げてくれますか?」
上条「ん? 抜刀状態の七天七刀、だな。こうか? って、神裂? お前何俺の左手をぐるぐる巻きにして刀から手を離せないようにしてんの?」
神裂「はい。それでよろしいかと。では御坂美琴さん。よろしくお願いしますね」
美琴「うん。おっけー」
上条「って、おい! これってアレだろ!? この刀に雷落とそうって腹だろ!? お前ら何打ち合わせもなく息ぴったりに俺を抹殺しようとしてんだよ!?」


(……お、女の子のお料理風景だ)


上条「や〜、やっぱ自分ちの台所に女の子が立って料理するっつーのは男の夢だよな〜」
五和「あ、ありがとうございます…嬉しいです……///」
美琴「…わ…私だって料理くらいできるし!」
上条「いや常盤台で教わるのって、大体が聞いた事のないようなオシャレ料理だろ? オリーブオイルドバァの野菜ザクザクーの塩コショウファサーの。そういうのとは違うんだよな」
美琴「どこ'Sキッチンの話してんのよ! 家庭料理くらい作れるわよ! ご家庭にない物は使わないわよ!」
神裂「ちなみに私も料理は得意です。和食が特に」
五和「私は…ご覧の通りです!」
上条「え? え? 何みんなして。何この料理得意自慢大会。これはアレですか? 三人で食戟して上条さんが審査するフラグですか?」
美琴「お望みならやってもいいわよ」
神裂「公平に判断してくださいね?」
五和「三人とも旨い、なんてのは無しですから」
上条「……何故だろう? 相当旨そうな料理が出てくる予感は漂ってくるののに、どんな判定をしても上条さんの身の危険しか感じないのは……」


「……湯上りゲコ太ストラップ……」


上条「……………」
美琴「な、何よ! 言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ!」
上条「…じゃあ言うけどね。お前、俺とペア契約した時に同じ奴もらってたじゃん。何でわざわざもう一回もらおうとしてんの?」
美琴「は…はああああ!? 全っ然同じのじゃないし! アンタと一緒にもらったのはペアゲコ太でしょ!? こっちは湯上りゲコ太なのよ!? 全然違うじゃない!」
上条「だから違いが分かんねっつの!」
五和「……………この短い会話の中に気になるワードがてんこ盛りだったんですけど…」
神裂「ああ、変温動物のカエルが銭湯のような高温のお湯に浸かっても大丈夫なのか…という所ですね?」
五和「いえ。そこは全く気になってないと言いますか考えもしなかった所です」
美琴「て言うか! ゲコ太はカエルじゃないわよ!?」
上条「…天然神裂さんのおかげでツッコミが錯綜してるな」


――――脱衣所に入って手早く衣服を脱ぐ。淡い色のタオルを体に巻き、ロッカーの鍵をかければ突撃準備完了だ。
(……意外に短いのがネックなのよね)
 バスタオルの端、太股の辺りをやや気にしながら、美琴は大浴場への扉を開く。


美琴「目潰しっ!///」
上条「ぎいいいやああああ!!! な、なな、何をしますか急に!!!」
美琴「ううう、うっさい馬鹿! 人の着替えをまじまじ見ようとしてんじゃないわよ!!!///」
神裂「それにここから先は五和やあの子の入浴シーンもあるのでしょう? まさか貴方は、そこも覗くつもりだったのですか…?」
五和(私は…別にいいんですけど……///)
上条「ううぅ…ちくしょう不幸だ……どうせ規制がかかって湯気で見えないクセに…」
美琴「そういう問題じゃない!!!///」


664 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:21:34 brTZFSFE
 実はあんまり熱いお風呂が好きではない美琴は、三分割された浴槽の内、一番子供向け方へと足を進めていく。


美琴「ち、ちち違うわよ!? 私はただ脳卒中とか心筋梗塞の危険があるから熱いお風呂に入りたくないだけで別に子供だからとかそういうんじゃないからね!?」
上条「…何も言っておりませんが」
五和「女教皇様は熱いお風呂お好きですよね?」
神裂「そうですね。比較的好きな方かと思います」
上条「まぁ…大気圏に突入しても平気だもんな。そら熱いのも大丈夫だろ」
美琴「えっ!? た、大気圏!?」
神裂「そ、それはこの話と関係ないでしょう!?」


(意外とデカそう……)
 素直に負けを認めるしかない状況だと気付いて舌打ち。


美琴「くっ」
上条「また御坂が大ダメージを!?」
五和「一体どうしたんですか!?」ポヨン
神裂「ご気分でも悪くなりましたか?」ボイン
美琴「アンタら、わざとやってんじゃないでしょうねっ!!? てか、何でアンタの周りには胸のデカイ奴ばっかりなのよおおおおおおおお!!!」
上条「美琴さんが血の涙を流しながら怒りを爆発させていらっしゃる!?」
神裂「このようなモノ、あっても日常生活には邪魔なだけなのですが…」
上条「神裂さん!? その台詞、絶対に言っちゃダメなやつ!」
美琴「うわああああああああああん!!!」
上条「落ち着けミコっちゃん! 女性の価値は胸だけじゃないって! それにほら、今のミコっちゃんだって充分魅力的な訳だしさ!」
美琴「うわああああああああああん!!!」
五和(今…上条さんがサラッととんでもない事を仰ったような気がしましたが……き、気のせいですよね…?)
上条「そ、それにだな! 俺の周りに居る奴でもミコっちゃんより胸小さいのは結構いるぜ!! インデックスとかオティヌスとかバードウェイとか白井とか」
美琴「あ。」
上条(ふぅ〜〜〜やっと御坂が泣きやんだ……って、あれ? どうしてだろう? 今度は俺が泣きたくなって来たような……背後から猛吹雪のような冷たくて射殺されそうな視線を感じるんだが……)
??「……」(歯がギラリと光っている娘)
??「……」(槍を掲げている体長15cmくらいの娘)
??「……」(槍を掲げている娘その2)
??「……」(金串を構えている娘)


 他人に心配をかけさせるような事は全部内緒にしているから、誰かに声をかけてもらう事なんて絶対にありえないと、何も言わなくても誰かが自分のピンチを察して助けに来てくれるなんて都合の良い事は起こる訳がないと、本当のそう信じている顔。
 その小さな事が頭にきた。
 心の底から。
「何で……言わないのよ」
 気がつけば、美琴はポツリと呟いていた。
 後戻りはできなくなると分かっていながら、言葉を止めることはできなかった。


美琴「アンタ、本当に馬鹿でしょ」
上条「何おう!? じゃあ何か? お前が俺のピンチに颯爽と登場してくれるってのか? んな都合の良い偶然あるわけねえだろうが!! 幸運の塊のような神裂ならあるかもしれねえけど不幸体質の俺に『都合が良い偶然』なんて起こるわけねえんだよ!!」
五和「ううん……こういうことになると上条さんって本当に卑屈になりますね」
神裂「くっ……私が『幸運』を引くから上条当麻は『不幸』を引き当ててしまうのでしょうか……」
五和「女教皇様? それは考え過ぎですよ?」


665 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:21:58 brTZFSFE
「助けてほしいって、力を貸してほしいって! ううん、そんな具体的な台詞じゃなくて良い! もっと単純に!! 怖いとか不安だとか、そういう事を一言でも言いなさいよ!!」
「御坂……。なに、言って……」
「知ってるわよ」
 この期に及んでまだごまかそうとするように……いや、美琴を巻き込ませないように演技を続ける上条に、美琴は切り捨てるようにこう言った。

「アンタが記憶喪失だって事くらい、私は知ってるわよ!!」

 その瞬間、上条の肩がビクンと大きく動いた。
 大きな――――それこそ人生を左右するほど大きな『揺らぎ』が見えた気がした。
 戸惑っている上条を見て、美琴の方にも衝撃が走る。
 だがそれがどうした。


神裂「あー……正直申し上げまして私には上条当麻の気持ちが少し分かる気がします……」
五和「でしょうね。でもまあ女教皇様は上条さんよりも早く、自分の過ちに気付いていただきましたから、もう私たちは女教皇様に対して何のわだかまりもありませんよ」
神裂「ありがとう五和」
上条「けどなー。俺は『助けが来てくれる』ってのは『幸運』に分類されると思ってるから、『不幸体質』の俺だから、『助けが来る』なんてどうしても思えないんだ」
美琴「はぁ。アンタのは『不幸体質だから助けが来ない』んじゃない、って何で分かんなかったのかしら。現実、東京湾まで気付きもしなかったもん」
神裂「ですね。なぜなら現実として言いますと、この時でさえ御坂美琴さんが『偶然』あなたを見つけているのに、どうしてそれを『都合の良い偶然』と思えないのでしょうか」
上条「あ。」


 ――――上条当麻は現れたのだ。全てを一人で抱えて死のうとしていた美琴の心の奥底へ、土足でズカズカと踏み込んでくるようなやり方で。
 確かにそれはデリカシーの欠片もない、ともすればプライバシーすら侵害するような意地汚い方法だっただろう。しかし御坂美琴という少女は、――――そういう方法で救われたのだ。
 そのやり方を、上条当麻だけには否定させない。
 この少年だって、そういう方法で救われたって良いはずだ。


美琴「アンタ覚えてる?」
上条「もちろんだ、と言いたいところだけど、ここまで罵倒されるやり方だったか俺?」
美琴「当然でしょ。私の居ない間に私の部屋に入り込むわ、そこで私が隠していた秘密を盗み出すわ、挙句の果てに、それを私に突き付けるわで、どこをどう考えてもえげつないやり方だったと思うわよ」
五和「か、上条さん? いくら非常事態だったからと言ってもちょっと酷いような……」
神裂「いえ、逆に上条当麻らしいとも言えるのではないでしょうか?」
美琴「ん?」
神裂「女心に誰よりも鈍い上条当麻が『女の子の繊細な心』を理解できるはずもないから、このような行動に出られたのではないかと」
五和「あー」
美琴「なるほど」
上条「うわ。何その『納得』って表情は。俺だってあん時は一生懸命だったんだぜ!?」


666 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:22:24 brTZFSFE
「私だって戦える」
「私だってアンタの力になれる!!」
 それは学園都市第三位の『超電磁砲』があるからではない。そんな小さな次元の話ではない。たとえこの瞬間に全ての力を失ってただの無能力者になったとしても、それでも美琴は同じ事を言えると絶対に誓える。
「アンタが一人傷つき続ける理由なんてどこにもないのよ! だから言いなさい。今からどこへ行くのか。誰と戦おうとしているのか!! 今日は私が戦う。私が安心させてみせる!!」
「み、さか……」
「人がどういう気持ちでアンタを待っているのか、そいつを一度でも味わってみなさい! 病院のベッドに寝っ転がって、安全地帯で見る事しかできない気持ちを知ってみなさい!! アンタ、妹達を助けた時もそうだったじゃない!! こっちには相談しろって言っておきながら、自分だけ学園都市最強の超能力者に挑んで!! 何で自分の理論を自分にだけは当て嵌めないのよ。どうしてアンタ一人だけは助けを求めないのよ!!」


上条「……うん。こん時は意識が朦朧としていたから気付かなかったけど、確かに御坂の言ってる事は、そのまま俺が御坂に言ったことだな」
美琴「でしょー。なのにアンタはこの時も結局は私に何も言わないいでフラフラ消えちゃったんだから。あのね、今思い返してみても本気でアンタに説教したくなるんだけど」
五和「(プ、女教皇様……この時って、ひょっとしなくてもアックアと我々が対峙していた時なのでは?)」
神裂「(ま、まあ、御坂美琴さんが来てくれたら来てくれたで相当有難かったかもしれませんけれども、曲がりなりにも彼女は科学サイドの方です。魔術サイドのいざこざに巻き込むのはどこか心が痛むと言いますか……)」
五和「(それを言ったら上条さんも、なのですが?)」
神裂「(いえ。正直言って五和も上条当麻が来るとは思っていなかったはずですよ)」
五和「(それはそうですが……)」
美琴「で? これからはどうなの?」
上条「分かった分かった。つーか、東京湾のときもそうだったし、この前の僧正ん時もお前を巻き込んだろうが。これからもああいった事があるかもしれんが、そん時は側に居て一緒に戦ってくれるんだろ?」
美琴「ふっ! モチのロンよ!!」
五和(あれ? 何だか上条さんと御坂さんが良い雰囲気?)
美琴(と、言いたいところなんだけど、ちょっと自信失くしてんのよね。コイツは相当先に行っちゃってるだけに……)
神裂(おや? 御坂美琴さんの表情が何だか急に曇ったような……)
上条「じゃあ、遠慮なく呼びつけるからな。あとから文句言うなよ?」
美琴「わ、分かってるわよ!!」


(……そう、なんだ)
 知らず知らずに内に、彼女は自分の胸に手を当てていた。
 御坂美琴という一人の少女は気づいた。


美琴(…ん? ここって……………)
上条「ちょっと飛んでるから説明するけど、ここで俺は、御坂が俺の記憶の事を知ってるって聞かされたんだよ」
神裂「貴方がボロボロの体で病院を抜け出してきた時ですか」
五和「あの時の上条さん、とても…その……カッコ良かった…です…///」
上条「いやあ、あん時は必死だっt」
美琴「ああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!///」
神裂「っ!? ど、どうしたのですか急に!?」
五和「て、敵襲ですか!?」
上条「あれ!? 前回もこんな事なかったっけ!!?」
美琴(おおお、思い出したああああああ! この後じゃないのよ『あのシーン』!!! どどどどうしようこのままじゃコイツに私の気持ちがふにゃああああああああ///)


667 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:22:48 brTZFSFE
 御坂美琴は知る。
 自分の内側には、こんなにも軽々と体裁を打ち破るほどの、莫大な感情が眠っている事を。
 学園都市でも七人しかいない超能力者として、『自分だけの現実』という形で自分の精神の制御法を熟知しているにも拘らず、それらを全て粉砕するほどの、圧倒的な感情が。


美琴「にゃああああああああああああああ!!!!!!!! ちちちち違うからこれはアンタの事が好!!!…って事に気付いたとかそういうんじゃなくてただあのあれよほらそのつまりだから違うのよおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!///」
上条「」
美琴「だからアンタも勘違いしないで/// ……ってアレ? 何か白目むいてぐったりしてるのは気のせいかしら?」
神裂「いえ。彼は今まさに気絶をしています」
美琴「え、えっと……なんで?」
神裂「当て身です。あなた方の言葉で言うならば、確か『腹パン』…でしたか」
美琴「えっと…誰が何の為に?」
五和「私がやりました。何だか本能的に、上条さんに聞かせてはいけない気がしましたので。…あっ! ご心配しなくても、すぐに目が覚めますのでご安心を」
美琴「う、うん。そこは別に心配してないんだけど……」
五和「私もよくは分からないんですが、急に頭の中に『御坂さんの話を上条さんに聞かせちゃ駄目なんだゾ☆ アナタのその当身力でぇ、上条さんを気絶させちゃってくれないかしらぁ? 私の超能力で上条さんの記憶を操作する事もできるんだけどぉ、幻想殺しがある限り一時的にしか効果力がないしぃ』と謎の声が流れてきたもので」
美琴「しいたけェ…」
神裂「他にもおへそを出したカチューシャの女性、巫女服の似合いそうな女性、御坂美琴さんにそっくりな女性、ツインテールな女性、高飛車でワイルド口調な女性等々、数多くの女性から同様の意見が出ている模様です」
美琴「あっ、そう…ですか……」
上条「………ハッ! 俺は一体何を!? 何だかとてつもなく人生で最大の損をしたって気がするけど気のせいなのかなどうなんだろ!?」
五和「え? 上条さんはいつも何だかとてつもなく人生で最大の損をしてるじゃないですか。口癖が『不幸だー』なんですから」
神裂「ですよねー」
美琴「まあ……言われてみればそうよね……」
上条「えええええええ!? 今のはいつもの『不幸』で済ませられるの!? 済ましちゃっていいの!?」


 ――――呆然と戦いを眺めていた現天草式の面々は、その瞬間、確かにその声を聞いた。
「―――、……を」
 世界で二〇人もいない、本物の聖人の声を。
「……、して、ください」
 かつて天草式を率いていた、元女教皇の声を。
「力を貸してください、あなた達の力を!!」
 神裂火織の声を。


五和「おお! ついに来るのですね! 天草式十字凄教の一番の見せ場が!!」
神裂「い、五和……そのように興奮しなくても……というか、このこぼれ話でどうして私たちのシーンがクローズアップされるのですか!? 確か、上条当麻と御坂美琴さんのシーンだけを切り取られるのではなかったのでしょうか!?///」
上条「いやまあ……さて何ででしょうね……?」
美琴「……」


668 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:23:14 brTZFSFE
 あれだけ絶対に届かないと思っていた神裂火織が、所詮は生まれた時から持っているものが違うのだと思っていた神裂火織が、大切な仲間を傷つけたくないと言って貧弱な自分たちに背を向けた、あの神裂火織が。
 協力を求めている。
 自分一人では倒せない敵を倒すための協力を。
「――――あ」
 震えている自分に気づいた者は何人いたか。
 涙を流しかねない表情を浮かべていることに気づいた者は、何人いたか。


上条「え? 神裂お前って、そんな風に考えてたん? それって五和たちに悪くね?」
神裂「し、仕方ないでしょう……/// わ、私だってこうなるまでは分からなかったのですから……///」
五和「ですよね。そう! 強い弱いじゃないんです!! 才能の有無じゃないんです!! 同じ目的を持った者同士であればどんなことだって力を合わせられるんです!!」
美琴「――っ!!」


 あの女教皇様が認めてくれた。
 単なる重荷としての仲間ではなく、共に肩を並べる戦力という意味での仲間として。


五和「いやーほんと、この時は嬉しかったですよ。正直、女教皇様を少し恨んだ時期もあったんですが、それは自分たちが弱い所為だって決めつけてたことが全部晴れたみたいで、あの時の感動は今でも忘れません」
神裂「いえ、あのだからですね……///」
上条「おぉ! あの神裂を五和が圧倒してる!!」
美琴(……そっか。そういうことなのね……)


「行くぞ! 我ら天草式十字凄教のあるべき場所へ!!」
 叫び声と共に、我先にと――――戦場へと突き進む。
 無力である事など百も承知。
 それでも戦うべき理由は揺らがない。
 だからこそ、天草式十字凄教は束になって強敵へ立ち向かう。


美琴「なるほど。これを入れてきたのはそういう事だったのね」
上条「御坂?」
美琴「本編の私はどうなるか分からないけど、ここに居る私は、今回、どうしてこの件【くだり】を入れてきたのか理解できたわ。おかげでちょっと楽になったかな?」
上条「?」
美琴「クス。アンタは分からなくても良いわよ。私の中であの時の魔神のことで納得できる答えが見つかった、ってだけだから」
神裂「そ、そう言えばちょっと待って下さい御坂美琴さん。貴女は上条当麻と共に魔神に立ち向かったんですよね?」
美琴「……アレって立ち向かったって言えるのかしら?」
上条「まあな。どっちかつーと逃げ回ってた、だよな?」
神裂「ま、まあこの際どっちでもいいですが、重要なのはそこではなくて、今、この場に上条当麻と御坂美琴さんが居ることなのです。正直申し上げまして、魔神と関わって生き残れただけでも奇跡という言葉すら生易しい事象なのですが……」
上条「あの魔神の力が一兆分の一まで落ちてたからじゃね?」
五和「あの……魔神の力が一兆分の一まで落ちていたとしても、地球を文字通り瞬間で丸ごと壊せる力はあるのですよ……?」
美琴「なら力が落ちてたプラスあの魔神が遊んでたからでしょうね」
神裂「そ、そんな簡単な話でもないのですが……いえ、むしろ知らぬが仏だからこそ生き残れたのでしょうか……」
上条「な、御坂。あの時、一緒に居たのがお前だったから助かったって俺の言葉、間違いでも気休めでも無く純然たる事実だっただろ? 下手に魔術サイドの奴(インデックス、オティヌス含む)だったらアイツに委縮して俺もろともやられてたってことになるんじゃねーの? この神裂と五和の反応からすると」
美琴「う、うん……そうだね……///」(な、なんか嬉しい……///)


669 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(中編) :2015/07/25(土) 08:23:39 brTZFSFE
上条「っと、今回はここまでだな」
神裂「次回はイギリス清教王室派編ですね」
上条「キャーリサがクーデター起こす話だよな。…って事は神裂は関係してる回だから、次回もゲストで出るのか」
神裂「ええそのはず…」
??「ふっふっふ…そうだと思ったら大間違いだぜい。まっ、せいぜい次回を楽しみにしているがいいにゃー!」
??「女教皇様のアレに触れないとか、有り得ないのよな!」
神裂「っ!!? な、何だか悪寒が…」
上条「…? まぁ、いいか。五和は?」
五和「私も少しだけ出演してますので、多分次回も。……予定ではですけど」
神裂「ですがやはり、お二人が出ているシーンがメインなのでしょうね」
五和「はぁ……そうなんでしょうねぇ…」
上条「何故に溜息?」
美琴「そう言えばさ、アンタ英語とかからっきしなのにイギリスとかよく行けたわね」
上条「まぁ何だかんだで、みんな日本語が通じてくれたからな。ありがたい事に」
美琴「ふぅん? でも毎回そうとは限らないんだし、今度海外に行く時は通訳くらい連れて行きなさいよ? た、例えばその…私とか…///」
上条「そうだな。御坂って何ヶ国語も喋れるもんな」
五和「わ! 私だってそれくらい!」
上条「いや、五和は学園都市にいないし。御坂なら一緒に行けるし」
美琴(一緒に…///)
神裂「ですがこれからの事を考えると、英語くらいは勉強した方が良いかと」
上条「う゛っ…!」
五和「だ! だったら私が! 教えてさしあげます!」
上条「いやだから、五和は学園都市にいないじゃん? 一緒に勉強するなら近場にいる御坂の方が」
美琴(一緒に…///)
五和「………もう、この話はやめましょう。で、さっさと締めましょう」
上条「おおう!? 五和は急激に不機嫌に! ま、まぁダラダラ話してても仕方ないしな。つー訳で、今回のこぼれ話はここまで。また次回会いましょう、さような………あっ! ちょっと待って」
神裂「? どうかなされましたか?」
上条「んー、さっき寝る…って言うか気絶?する直前にチラッと耳に入ったんだけど、御坂の内側にある体裁を打ち破るほどの莫大な感情って、一体何だったのでせう?」
神裂&五和「「!!!!?!!?!??!?!!!?」」
美琴「!!!!?!!?!??!?!!!?///」
上条「あっ、あれだろ? 大覇星祭の時に御坂の内部から生み出されてた莫大な力。レベル5を越えるものだったし、俺や軍覇も太刀打ちできなかったし――――って、違うの?」
美琴「……」
五和「……なるほど、これだから私のおしぼり作戦が通用しないのですね」
神裂「……さすがにアレを作戦と呼ぶのはどうかと思いますが、まあそういう事です」
美琴「アンタって奴は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 『感情』って言ってんでしょうが!! このどアホォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」(9巻巻頭イラストののジェットアッパーをご想像ください)
上条「なんでぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええ!!!」(車田飛びをご想像ください)


670 : 我道&くまのこ :2015/07/25(土) 08:25:05 brTZFSFE
以上です。
余談ですが、今月のガンガンオンラインのいんでっくすさん読んだらほっこりしました。
ではまた。


671 : ・・・ :2015/07/29(水) 06:52:20 f2THE1.c
ども、・・・です。
最近、いい夫婦ものの本を読んだんです。
脳内で上琴に演じてもらっていたんですよ。
もうずーっとニヤニヤしてたの。



死別ものでした。



大の大人が職場で泣いて帰って号泣したようわああああああああああん!!


さて、

〉〉くまのこ&我道さん

おしぼりとしいたけこのやろう!!
青筋を浮かべて読んでたけど、
例の件で私も救われたのでよしとしましょう。
13巻は上琴に大きな影響を与える巻でしたねぇ


さて、投下します。
育児日記の続きです。
いまさらですが、オリジナル設定多数。人によっては嫌悪感を抱くLEVELかも。
最後には上琴的に、インちゃんも含めてハッピーエンドにはちゃんとします。
あと、ミコっちゃんがいいママです。

それでは


672 : 激劇 1 :2015/07/29(水) 06:53:42 f2THE1.c

『おっす!!』

『……』

『??……おっす!!』

『いや、聞こえてるよ。ここ、どこかわかってる?』

『もちろん!!』

『いーや、わかってないね。なんといってもここはこの世で最も上るのが難しい山!! 標高8611m!! 世界で2番目に高い山、K2のの頂上です!!』

『違う』

『違わねーよ!! なにしに来てんのさ!! 冗談で来る場所じゃないんですよ!!』

『違う、ここはそんな場所じゃない』

『じゃあなんだって『アンタの、戦場よ』ん、だ……』

『アンタの、戦場でしょ』

『……』

『助け、させなさいよ』

『……じゃあ、オレの代わりに麓で守ってて欲しいやつがいる。そいつを任せられるか?』

『そんなやつ知るか』

『!!?』

『どーせすでに誰かが守ってるか、そんなことよりこっちをなんとかした方が早いんでしょ』

『だけど!!』

『わたしだって戦える!! わたしは他の誰でもない、アンタを助けに来たのよ!!』

『っ!!!……くそっ、勝手にしろ!!』

『ええ、勝手にする!!』

システム復旧率
32%


673 : 激劇 1 :2015/07/29(水) 06:55:05 f2THE1.c

「いはなーしゃい?」

「違うぞー。一端覧祭だぞー?」

「う?」

「学園都市全体でやる文化祭だぞー。まだお前には難しいかもなー」

「まーま、ぱーぱ?」

「ああ、あの二人はそこでやる劇の練習中なんだぞー」

インデックス、舞夏が視線を向けた先に

「どっ、どどどどどうかわた、私とけけけ結婚してくりゃさい!!」

「ふにゃ〜〜〜〜〜〜〜」

アホがいた。
時間を数日戻そう。


*******************************************


「へー、常盤台も劇とか普通にするのな」

「あう、すーのな!!」

「なんだかんだ定番だからねー。世界屈指のオーケストラや、学園都市の最新技術を使った3D映像とか、一流の演技指導やらは将来その道を目指す人にとってはいい経験だろうし」

「……すまん、全然普通じゃなかった」

「だう?」

とある秋の夕方、
学園都市でも屈指の規模の劇場。
その通路を3人は歩いていた。

「いやー、助かったわ、ありがとう」

「どーいしゃしれ!!」

「台本を忘れるとかなにやってんだよ?」

「いやいや、昨夜インデックスが夜泣きして、寝不足な上に遅刻しそうになって……なんで当麻は平気なの?」

「へーきあの?」

「夕方に事件に巻き込まれて、徹夜で解決して翌朝学校、なんてことはしょっちゅうだったからな」

「ぱーぱ、えあい!!」

「すごい体力ね」

「だから学校で回復を……」

「勉強しなさい!!」

「ぱぱ、めっ!!」


674 : 激劇 1 :2015/07/29(水) 06:56:17 f2THE1.c
ドアを開け放つ。
ステージでは、多くの常盤台生によって下見が行われていた。
一斉に視線が集まる。
あ、やべっ。この3人だから、つい自宅のつもりで行動してしまった。
自分たちの関係を説明しなければ。

「あ、えーっと、こ、この人は……」

美琴の説明が途中で終わったのには訳がある。

「あ、あの人が御坂さんの許嫁!!?」

「高校生くらいでしょうか?」

「予想よりパッとしませんわね」

「そうかしら、わたくしは好みですわ」

「あら? あの赤ん坊はどちら様でしょう?」

「ま、まさか!? 御坂様の!!?」

「そ、そういえば、あの殿方、去年、寮の前で御坂さんと逢い引きされた方ではなくて!!?」

きゃーーーーー!!





そうでした、常盤台ではそういう設定でした。

「そ、そうなの!! こ、ここここここっこっ」

え? わ、私、言うの??

「ここここここ「コイツの婚約者の上条当麻です」べあっ!!」

見上げると、顔を赤らめながらも笑顔を見せる、自称自分の婚約者の顔があった。
一瞬だけ、視線が交差する。

「こっちは共通の親戚、インデックスっていいます。いつも美琴がお世話になってます」

きゃーーーーー!!
という叫び声が再び広がる。
そんなとき、

ドタン!!

と誰かが倒れる音がした。
振り向くと通路には、

「く、黒子!!」

無表情のまま倒れた白井と、

「あ、あはは、久しぶりだな」

「ええ、お久しぶり、です」

漆黒のオーラを纏った海原光貴がいた。


675 : 激劇 1 :2015/07/29(水) 06:58:02 f2THE1.c
数十分後、上条とインデックスは劇場の観客席に座っていた。

「ぜひ見ていけ、なんていわれてもなぁ」

何をだ?
なんてツッコミを聞くようなお嬢様方ではない。

「しかも、アイツらまで……」

上条自身も一端覧祭の準備があったはずなのだが、姫神に連絡したら戻らないでいいと吹寄に怒鳴られた。
なんで途中で代わったのかわからない。

「まーま?」

「ん? ああ、とりあえず、衣装合わせと台本の読み合わせやるんだと」

美琴はお姫様役をやるらしい。
当然の配役だとは思う。
そして、末期だなぁとも思う。

「主役じゃないらしいけどな」

「うーばら!!」

ステージを見ると、
風を感じたと錯覚するほど、
颯爽と王子が現れた。
もともと、○○王子とあだ名をつけられていてもおかしくない外見だ。
普通の人間なら似合うはずのない衣装も、彼の私服だと言われても納得する。
何人かの生徒は黄色い歓声をあげていた。
この学園都市に、海原ほど王子役に相応しい人物はいないだろう。

「おおぉ」

「??……おおー」

ついつい感嘆の声を上げる上条と、意味も分からず追従するインデックス。
主役がまだ到着していないらしく、ほかの場面から台詞合わせが行われた。
ヨットに王子が乗る場面は、実際に水流操作や浮力使いの力でヨットに海原が乗った。
ヤバい、自分と違う。アイツはイケメンの国に生きている。オレはごみだね。

「……はぁ」

「ぱーぱ?」

ハリウッドから来たという演技指導のプロが大声で指示を出した。
次の場面に移るのだろう。
そして、美琴の名を呼んだのがわかった。


676 : 激劇 1 :2015/07/29(水) 07:00:37 f2THE1.c





息を、飲んだ。

「まーま!!」

あれは、本当に美琴か?
誰一人として動けない中、彼女は一歩一歩ステージの中央に歩みを進める。
白いプリンセスラインのドレスは、光を吸い込むかのように輝き、数万円するであろうティアラはいくつもの光を反射していた。だが、そんなものは目に入らない。

1年という時間が、
いつの間にか少女を、女に変えていた。

その目の輝き、鮮やかな唇、細い首、鎖骨・肩の肌は消え入りそうなほど白い。
膨らんだ胸、細い腕・手・指、くびれた腰、一挙手一投足、小さな吐息……。

いや、
言葉に表そうとすることすら、ばかばかしいほどの美が、存在していた。

「…………」

上条は、気づいていない。
自分の周りにいる生徒の顔が赤らんでいくことを。
彼女たちは、美琴ではなく、上条を見ていた。

それほど、今の上条の表情は……。


677 : 激劇 1 :2015/07/29(水) 07:02:12 f2THE1.c
最初に金縛りを解いたのは、海原だった。
珍しく、緊張した面持ちで美琴に歩み寄る。

そして、片膝をつき、台本を取り出した。

「『助けていただいたあの時から、あなたの姿が瞼の裏から離れないのです』」

それは、台本通りの言葉だった。

「『どうか、私と結婚してください』」

再び誰かが息をのむ音が聞こえる。
脚本家も驚いていた。
これほど、絵になろうとは、だれも考え付かなかったのだ。




だが、

少しして、違和感が周囲を襲う。
美琴が、声を発しない。

「お姉様……」

その表情が苦悶に彩られているのに気付いたのは、
長くともに過ごした白井と、
正面から顔を窺えた海原、
そして……

海原が寒気を覚える気配を放っている人物。
本人は気づいていないのだろうか?
先ほどまで彼の表情にフラグを建てられていた少女が、
叫び声もあげられないほど恐怖に震えていることを、
自分がその重圧に気圧され、
振り向くことすらできないことを。

彼は、これほどの殺気を放てる人物だっただろうか?

息を吐いた海原は、当初の予定通りに動くこととする。

「ゴホッゴホッ」

???

「じ、持病の脊柱管狭窄症が……」

「え? それ咳が出る病気だっけ??」

「どうもこれ以上演技を続けられそうにありません。ですので、今回の王子役は」

海原は上条を見る。

「あの男に任せたいと思います」

「「へ??」」

「あう?」


678 : 激劇 1 :2015/07/29(水) 07:03:32 f2THE1.c






「終わらせるのか?」

月光が降り注ぎ、枯葉が舞うビルの屋上。

「あぁ」

少年の長い金髪が風に靡く。

「……そうか」

隻眼の少女もまた、風を受け入れた。

終わりは、すぐそこまで来ている。


679 : ・・・ :2015/07/29(水) 07:04:48 f2THE1.c
以上です。
次は小ネタになります


680 : ■■■■ :2015/07/30(木) 01:25:10 h25fay7Y



681 : くまのこ :2015/08/01(土) 15:55:14 00G8XRF.
>>・・・さんGJです!
持病か大変だなー王子役はイッタイダレガヤルンダロウナーw
続き期待してます! 次の小ネタもねw



短編書きました。
久しぶりに思いっきりドタバタしたヤツです。
約3分後に3レス使います。


682 : わがままママのワナ :2015/08/01(土) 15:58:06 00G8XRF.
御坂美鈴は学園都市の大学に通う生徒ではない。
しかし小論文を書く為の資料集め…という理由を建前に、
実の娘・美琴の顔を見にちょくちょく学園都市の門を潜っている。
故に美琴は、たまにこうやって母親と会えているのだ。最も、その母親は大体酔っ払っているが。

そんな訳で美鈴から電話があった美琴は、呼び出し先のファミレスへと出かけたのだ。
どうせ今日もビールジョッキ片手に近況報告【どうでもいいはなし】を聞かさせるのだろうと鬱々していたのだが、

「…あっ! 美琴ちゃん、こっちこっち!」

珍しい事に、美鈴はアルコールを嗜んではいなかった。
だがそんな事よりも何よりも、この場にはそれ以上の違和感が、美鈴と面と向かって座っていた。

「よう、美琴」

上条である。
美琴はすぐさま進行方向を180度回転させ、先程まで入口だった出口に直進する。
美鈴は慌てて、美琴の足にしがみついた。

「ちょちょちょ美琴ちゃん! 来たばっかで何帰ろうとしてんのよ!」
「だだだだって! アイツがいるなんて聞いてないし!」

そうなのだ。美鈴は電話で、上条の事には一切触れていなかった。
美鈴的にはサプライズのつもりなのかも知れないが、
美琴的にはありがた迷惑…ではなく、めいわく迷惑である。ありがたくないから。
しかも美鈴は、この手の件に関してはアノサテンサンに匹敵する程の厄介な人物だ。
わざわざ上条も呼び出したという事は、間違いなく面倒な事を企んでいるはずである。

「まぁまぁ! 上条くんだって、美琴ちゃんが来るまで待っててくれたんだし!」
「そ、そんな事言ったって! ……って、ん?」

ドギマギしながら上条の方をチラリと見た美琴だったが、上条の表情が気になり、疑問を持つ。
真面目な時や緊迫した状況ではイケメンモードな上条だが、
普段は基本的に気だるげだったり、ひゃらんぽらんな顔をしている。
しかし今の上条は、先に述べたようなキリッとした真剣な顔【イケメンモード】なのだ。
一瞬、「やだ…カッコいい…///」とかウッカリ落ちそうになったが、
これを何とか思いとどまった美琴である。

「ど…どうしたのよ。そんな顔しちゃって…」

上条の表情が気になった美琴は帰るのを取りやめて、
先程まで美鈴が座っていた席の隣に腰を下ろした。
どうせなら上条くんの隣に座っちゃえばいいのに…なんて事を心の中でツッコむ美鈴である。

「ん…いや、何でもねーよ。それよりも、とりあえず美鈴さんの話を聞こうぜ?
 もしかしたら、ただの俺の杞憂かも知れないし」

明らかに何でもない事はなさそうだが、
まずは美鈴が二人を呼び出した理由を聞かない事には話が進まないらしい。
嫌な予感はプンプンするが、美琴も覚悟を決めたようだ。仕方ない、黙って聞く事にしよう。
上条と美琴がこちらに視線を向けたので、美鈴はニヒッ!と口角を上げながら話し始める。
二人を呼んだ理由、そのとんでもない真相を伝える為に。

「今から10年くらい前の話なんだけどね?
 私と詩菜さん…勿論、上条くんのお母さまなんだけど、その詩菜さんと出会ってたのよ」

美琴は、「ん? いきなり何の話?」と頭上にいくつもの疑問符を浮かび上がらせる。
対して上条は、やはり真剣な表情のままで耳を傾けている。


683 : わがままママのワナ :2015/08/01(土) 15:58:43 00G8XRF.
「私も詩菜さんも、その時とは大分印象が違ってたから、
 大覇星祭で再会した時は気付かなかったのよね。
 でもこの前、一緒に通ってるスポーツジムで、私がその10年前の話をしたら、
 詩菜さんも同じような事があったって言われてね。
 そこからお互いの記憶を話してる内に、
 『あれ? じゃあもしかして、あの時の奥さまって詩菜さんだったの!?』ってなって、
 そしたら詩菜さん【むこう】もビックリしてたわね」
「え、えっと…ママ? それで、ママとコイツのお母さんが実は昔に面識があったって話と、
 私とコイツがここに呼ばれた事って、何か関係があるの?
 確かに、ちょっとした偶然ではあるけど…」
「話は最後まで聞きなさい美琴ちゃん。ここからが伝えたかった事なんだから。
 それでね、その時に出会っていたのは私と詩菜さんだけじゃないのよ。
 そもそも、私と詩菜さんはお互いに『保護者』っていう立場で軽い会話をしただけなの。
 まっ、だから忘れてても仕方なかったんだけどね」

何となく話が見えてきた。美琴の額に、じっとりと汗が滲む。
そして相も変わらず上条は、黙って美鈴の話を聞いていた。

「実はね! その時に親しくしていたのは、小さい頃の美琴ちゃんと上条くんだったのよ!」
「やっぱりそういうオチかコンチクショウ!!!」

思わず叫ぶ美琴。
美琴が上条と出会ったのは、6月の中旬頃。それは間違いない。
つまり10年前云々も、詩菜と面識があった云々も、勿論美琴と上条が親しくしてた云々も、
全ては美鈴の作り話なのである。わざわざこんな与太話を、
美琴だけでなく上条【よそさまのこ】にまで話すとか、美鈴は一体何を考えているのか。
だが恐ろしい事に、美鈴の話はこれで終わりではなかった。

「しかもね! 実は美琴ちゃんと上条くんは、その頃に将来の約束も誓い合っていたのよ!
 なんたって美琴ちゃんのその頃の夢は『とうまくんのおよめさんになる』だったもんね!
 小っちゃい頃の話だから、二人共もう覚えてないかも知れないけど」
「うおおおおおおい母親あああああ!!! どこまで適当な事言えば気が済むのよ!!!
 わわわ、わた、私がコイツのおよ! お、およ……め…さん……とか! ありえる訳ないでしょ!?
 ほらっ! アンタも何か反論しなさいよ!!!」

上条に同意を求めるべく話を振ったのだが、ここで上条が思わぬリアクション。

「やっぱり…そうだったのか!!!」
「えええええええええええっっっ!!!?」

まさかの肯定である。

「そうだったのかって…どどどどういう事よ!!?」
「いやな。実は俺の所にも、昨日の夜に母さんから電話があったんだよ。
 内容は、今さっき美鈴さんが話してくれた事とほぼ同じ。
 子供の頃、俺が美琴にプロポーズしたって話だったよ。
 俺もさっきまでは母さんの悪い冗談なんじゃねーかって半信半疑だったんだが…
 今の美鈴さんの話で確信した。やっぱり…本当だったんだなって」
(騙されてるっ!!! コイツ完全に騙されてるううううぅぅ!!!)

念の入った事に、上条の所には事前に詩菜が伏線を張っていたようだ。
お分かりだとは思われるが、つまりは詩菜も美鈴とグルなのである。
その上、詩菜も美鈴も知らない事だが、上条には子供の頃の記憶がない。
なので過去に美琴へプロポーズしたと言われても、本当かどうか分からない為に否定できないのだ。
更に言えば、仮に詩菜の電話が冗談だとしても、美鈴まで同じ冗談を言うとは考えにくい。
しかもわざわざファミレスに呼び出されて、美琴も一緒に聞かされるなんて、
そんな事をする理由も必要もある訳がない…と上条は思っているのだ。
故に上条はこの状況、話を信じるという選択肢しか残されていないのである。


684 : わがままママのワナ :2015/08/01(土) 15:59:28 00G8XRF.
「それで…ぷっ! 詩菜さんは…他に……くくっ…何て?」

美鈴は、体を小刻みに震わせながら質問する。笑いを堪えているのがバレバレである。

「えっと確か…美琴と俺は、お医者さんごっこをしたり…」
「お医者さんごっこっ!!?」
「後は…一緒にお風呂に入ったり…」
「一緒にお風呂っ!!!?」
「ちゅ、ちゅーとかも…よくしてた、と…」
「ちゅーとかもよくっ!!!!?」

詩菜から聞いた情報を上条が言う度に、イチイチ大きくリアクションしてしまう美琴。
ウソだと分かっているはずなのに、つい想像してしまうのである。

「ぷっくく! あー、そ、そんな事も…ぶふっ! してた…わね…ばふーっ!」

ついには吹き出してしまう美鈴。
しかしそれどころではない上条は、そんな美鈴に気付かずに頭を抱える。

「クソッ! 前の上条さん【むかしのおれ】ってば大胆すぎるだろ!
 10年前って事は、まだ5歳とか6歳じゃねーか!」
(ななな何で普通に信じてんのよ!!! そんな訳ないじゃないのよ!!!
 アホなの!!? ねぇアンタ、アホなの!!?)

確認するまでもなく、アホである。
しかしそんなアホな上条でも、もう一人だけ真実を知る者がいる事くらいは分かる。
それは当然、目の前で真っ赤な顔でテンパっている、美琴本人である。

「なぁ、美琴。その…本当なのか? 俺と美琴が…そ、そういう関係だったって事…」
「ぇあっ!!? え、えっと…それは、その…」

美琴は上条が記憶喪失なのだという事を知っている。
だからこそ、アッサリと美鈴と詩菜の言葉を信じ、
そして最終確認をする為に、今、自分の言葉を信じようとしているのだ。
だが、それはつまり、ここが上条が騙されていた事に気付ける最後のチャンスでもある。
美琴が肯定すれば、上条は二人の母親の話を完全に信じ込み、美琴の婚約者となり、
逆に否定すれば、今までの茶番は、ただのドッキリだったで終了する。
ならば美琴の選択は一つしかないだろう。

(い、言わなきゃ…コイツにちゃんと言わなきゃ!
 『バ〜カ! 何、本気で信じてんのよ。そんなの冗談に決まってんじゃない』って!)

そう決心した美琴が、次の瞬間に口をついて出てきた言葉は―――

「そ…そそ、そんな事も…あああ、あったような、
 で、でも、ななかったような気がしないでもないような!?」

日本人特有の、肯定も否定もしない、お茶を濁したような言い方。
先程の一瞬で、もの凄い数の葛藤と演算を繰り返した結果、
普段の竹を割ったような性格を捻じ曲げてまで、そんな言い方をしてしまったのである。
つまるところ、否定しなければならないのに、それはそれでちょっと勿体無いような…
などと欲が出た、というか魔が差してしまったのだろう。
しかしその言葉を肯定と勘違いした上条は、「そっか…」と一言呟き、天井を見つめる。
そしてその数秒後、何かを決心したように深呼吸して、再び美琴の顔を正面から見据える。

「……美琴…」
「はっ! はひゃ、ひゃいっ!!?」
「俺は、その時の事は思い出せないけど…
 でもそれがマジだったんなら、やっぱ責任は取るべきだと思う」
「せせせせき、せきき責任ってっ!!!?」
「だから…改めて、もう一回……プ、プロポーズをですね………」
「にゃああああああああああ!!!?」

完熟トマトのように真っ赤になりながら、
二度目(?)のプロポーズをしようとする少年と、それを受ける少女。
そしてこの席にいるもう一人の女性【みすず】はといえば、
お腹を抱えてソファーをバシバシと叩きながら、呼吸困難に陥る程に大爆笑していたのだった。


685 : くまのこ :2015/08/01(土) 16:01:10 00G8XRF.
以上です。
ああ何か…自分で書いたくせにノリが懐かしい気がする…
あっ、それとエロスレの方にも短いのを1本書いたので、
よろしければそちらもどうぞです。
ではまた。


686 : ■■■■ :2015/08/04(火) 06:30:02 d1MWQGB6
GJ!!


687 : ・・・ :2015/08/04(火) 07:05:35 erRAZHRw
ども、・・・です。

13巻の余韻がなかなか抜けませんねぇ


〉〉くまのこさん

ママのリアクション見て、自販機前のミコっちゃんを思い出した。
シリアス顔の無駄遣い…………いや、無駄じゃないなこれ。
外堀最強は親じゃなく両同居人というね……


さて。投下します。
短編ですたい
糖分高めやで〜
暇なら付き合って

それではなのですー


688 : 日常 :2015/08/04(火) 07:06:59 erRAZHRw
AM.8:30

とあるおんぼろアパートの一室。
この狭い部屋があの英雄の部屋だといって、世界のどれだけの人物が納得するだろうか?
しかし、事実なのだから仕方ないのである。

「……んぐ、ふぁあ…」

ベッドの上でもぞもぞと動き、目を覚ましたのは、とある少女。

「……あ〜、寝足りない。ふぁ〜」

現在、高校2年生の御坂美琴である。
彼女は、服を着ていなかった。
シーツさんが鉄壁のガードをしてくれてなければ、あられもない姿になっていただろう。
美琴はパチパチと瞬きすると、服を着るのも後回しにして、隣にあったものに抱きつき、目を閉じる。
もちろんそれは、世界を何度も救った英雄だ。

「……んふくぅ」

愛しの人、上条の胸に顔をこすりつけ、マーキングする。
これは、わたしのものだと主張する。
まるで猫である。
もちろん上条もシーツさんがいなければ、Jrを見られることにおぇぇ。
つまり、昨日はナイトのフィーバーで、フェスティバルだったのだ。

「……えへー、えへへへー」

「どんだけデレデレなんですか、美琴さん」

「……………………いつから起きてたの?」

「『寝たりない』あたりから」

「さ、最初からじゃない!!」

バフン!! と美琴はシーツを頭からかぶる。
逆に足の方をカバーするシーツの面積が狭くなるが、み、見えない。

「美琴さん」

少しシーツをめくると、真っ赤な顔で、恥ずかしがってるのか、怒ってるのかわからない彼女の顔が見えた。

「……な、なによ」

「……美琴さんが可愛い過ぎるせいで、朝から我慢出来ません」

「へ? ちょ、ちょっ!! ふぁっ……♡」


AM.10:00

ガスコンロの火が消える。

「……まったく」

後は魚を焼いて、ご飯が炊き上がるのを待つだけだ。
しかし、時間的に昼食に近い。

「盛りすぎよ、犬なんか? アンタは」

ランニングシャツに短パンというお気楽な服装にエプロン姿でため息を吐く美琴。

「悪かったって」

狭いキッチンに入ってきたのは、
シャツにジーパンという、こちらもラフな格好をした上条だ。

「絶対悪いと思ってないでしょ」

「い、いや〜」

「1時間も予定がずれたんだけど?」

「で、でもさ」

「なによ」

「どちらかというと、喜んでません?」

「な、なにいってんのよ!!!」

「だって、鼻歌歌いながら、ニコニコと料理してるんだもんさ」

「う、ウソ!!?」

「自覚なく、図星なんですね?」

「ぁぅ」

「……すまん」

「な、なにがよ」////////

「正面から見ると裸エプロンでして、さらに可愛いリアクションされて、自制ができません」

「ちょっ!! 待って!! ひゃっ!! お、おろしなさひぐっ、くふぅぅぅ……♡」


PM.0:15

「「いただきます」」

「……じゃないわよ、朝食の前にわたしが2度もいただかれたんだけど?」

服を着るのが面倒になった2人は、下着姿である。

「ん? おお、そうだな。ごちそうさまでした」

「お粗末さ……なんだとコラ」

「自分でいって、勝手にキレるなよ」

「誰の胸が残念だ!!」

「言ってねーし、最近大きくなってきたし。というか、オレは胸が好きなんじゃなくて、美琴が好きなの」

「…あ、ありがと」/////

「で、1時間で2ケタくらいイッちゃったミコったん」

「か、数えてんじゃないわよ!!」////////

「いかがでしたか?」

「ぴゅっ!!?…………け、結構なお手前で……」////////////////////

「うん、お粗末さ……あぁん?」

「なんでよ!!?」


689 : 日常 :2015/08/04(火) 07:07:44 erRAZHRw
PM.0:45

「「ごちそうさまでした」」

「これからどうしましょうか?」

「ちょっと、今週……っていうか、昨晩から寝不足なのよ。一緒に昼寝しない?」

「ま、まさか美琴さんから誘っていただけるとは!!」

「へ? ち、ちがっ!! ふにゅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡」

PM.2:20

「zzz…に、にげろ…オティヌスぅ〜、インデックスに食われ……zzz」

「zzzzzz……大じ、ょうぶ、げこたゃがなんとかして……zzzzzz」

「zzz……むにゃむにゃ、その幻想をぶち殺す…ぐこー」

「げこたがぁ〜〜〜むにゃzzz」


PM.4:30

「どうしたんだよ?」

「ぐすっ、なんか、思い出せないけど、えぐっ、悲しい、夢を、ひぐっ、見た」

「大丈夫だ、お前を泣かせる奴は、オレが全力でぶっ飛ばす」

「うん、ありがと」


PM.5:00

2人はようやく服を着た。

「あれ? これなんていうんだったかな?」

「ん? チズホルムの第一法則の発展型だろ?」

「あ、そうだったそうだっ…………」

「どした?」

「当麻から勉強、教えてもらうなんて……」

「限りなく失礼だな」

「ついこの間まではかけ算も微妙だったくせに」

「バカにしすぎだろ!! ……勉強が好きになったんだよ」

「なんでまた?」

「教え方がうまい先生がいてな、その先生、好成績だすとすっごい誉めてくれんの」

「へぇー、月詠先生? 親舟先生?」

「…………秘密」

「うん? また女か!!」

「まぁな、その先生の笑顔見たさに頑張っ………帯電すんなよ、お前だよ……ってなんで火力上げてんのさ!!」


PM.6:34

「さて、帰ろ!!」

「ん、彼女が特売を使いこなすようになって、上条さんは満足ですよ」

「ハイハイ、晩御飯でも満足させてあげましょう」

「昼御飯なかったし、楽しみだ!! 今日はなにかな?」

「昼御飯は自業自得でしょ!! ったく、今日はドリアでもしようと思ってる」

「まさにミコトンドリア!!」

「……ミトコンドリアって言いたかったの?」

「…………」//////////

「フフッ、まだまだ先生は補習しなくちゃダメみたいねん」


PM.6:38

「とうっ!!」

「こ、コラッ!! 急に背中に飛び乗るな!!!」

「さぁ!! 出発進行!! イケイケ当麻号!!」

「イケイケじゃねーよ!! 重いっつーの!!」

「なによ!! レディーに重いって失礼でしょ!!」

「そうじゃなくて買い物の荷物持ってるじゃん!!……仕方ねぇ、しっかりつかまってろよ!!」

「ちょっ!! は、走るなーーー!!」


PM.7:15

「ふっふふん、ふふふん、ふっふっふーん♪」

「お〜い、なんか手伝うかー?」

「うーん、じゃ、ご飯いためといて」

「おう」

「……さすが自炊してただけあってうまいわね」

「ダマにならないよう鍋振るだけだしな。ほい、終わり」

「じゃ、オーブン温めといてー」

「ほーい」

「はい、じゃあ今度はー。ん!!」

「ん?」

「んー」

「?? あぁ、はいはい」

チュッ

「はい、ありがと。座っててー」

「あいよ」


690 : 日常 :2015/08/04(火) 07:08:08 erRAZHRw
PM.8:30

「「いっただっきまーす」」

「パクパク……明日どうしようか?」

「もぐむしゃ遊園地は先週、水族館は先月先々月いった、動物園は3日前いったしなぁ」

「プールは来週行く予定だし、映画は昨日いったわよね」

「……遊びすぎだろ、俺たち」

「……そうでもないわよ、基本的に邪魔されてばかりだし」

「……敵味方ともにってとこが悲惨だよなぁ」

「数年前から変わらないわよね」

「そういえば、この前あのスパリゾートが改装してたな」

「昨日完成したんだっけ?」

「じゃそこにしよっか」

「うん」


PM.9:00

「いい!!? 今からお風呂入るけど覗かないでよね!!」トタトタ

「あぁ、レポートもあるしな、わかったよ」ノートパソコントリダシ

「覗かない代わりに一緒に入るとかもダメだからね!!」ドアアケテハイリシメル

「はいはい」ノートパソコンカチカチ

「堂々と見るってとんちも期待してないから!!」チョットアケテカオダケダス

「へいへい」カチカチ

「……」

「……」カチカチ

「……」

「……」カチカチ

「……ね、ねぇ、ホントに来ないの?」

「……はぁ、素直に一緒に入りたいって言えよ……」ヨッコイショ


PM.10:30

「頭にあご乗っけないでよ」

「お前がどかねーんだろーが」

「ここが落ち着くんだもん」

「じゃ俺もあごが落ち着くんだよ」

「あごが落ち着くって何よ」

「しかし、お前はジャストフィットだよな」

「わたしのためにある場所だからね、予約席よん」

「すでにてめぇに購入されております」

「じゃ満喫します」

「ご自由にどうぞ―」


PM.11:25

「明日もあるし、早めに寝ますよー」

「……」

「しかし、昼寝しただけで他なんもしてないのに、今日もつかれたな」

「……」

「じゃ、お休「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

「なんだどうした?」

「わたしの今の格好見て言うことないのか!!?」

「……夏とはいえ風邪ひくぞ?」

「目の前でパジャマ脱いだのにその態度!!?」

「暑かったんだr「違うわ!!」

「で、電撃は勘弁してよう……」

「こ、ここまでやってんのに、あ、アンタはスルーするのか……」

「え? い、いいの? 寝不足だとか、盛った犬だとか、午前中不満たらたらだったじゃん」

「うっ……」

「???」

「う〜……」

「?????」

「う〜〜………………」

「……素直になってくださいよ。いいのか?」

「……しよ?」

「よくいえました」


幸福な日常


691 : ・・・ :2015/08/04(火) 07:09:37 erRAZHRw
以上だ。

長編の2人がじれったいのでたまに爆発したくなります。


692 : くまのこ :2015/08/04(火) 19:40:44 FBKDE1Bg
>>・・・さんGJです!
ああ、何だ。いつも通りの二人ですね(マヒ)
永遠に爆発してろバカップル共!



その・・・さんからリクをいただいたので、
「せっかくの初デートなのに、
 上条さんが不幸な事を色々と思い出しちゃう」っていう話を書いてみました。
約3分後に3レス使います。


693 : おもひでぼろぼろ :2015/08/04(火) 19:43:34 FBKDE1Bg
その日、美琴は若干の緊張をしながらも、今にも躍り狂いそうになる胸を何とか抑えていた。

好きな人の前では素直になれない性格と、その好きな相手の鈍感すぎる性格のせいで、
美琴の恋が進展するのは正に亀の歩みの如くではあったが、
それでも紆余曲折ですったもんだなアレやコレやがなんやかんやとありまして、
最終的には、その恋は見事に成就した。鈍感すぎる性格の相手、上条の心を射止めて。
そして本日、記念すべき初デートなのである。
故に美琴はデートの約束をした日から今日まで、常にソワソワしていたのだ。というか今も。

(お、落ち着け…落ち着くのよ美琴。
 これから先も何度もデートする訳だし、これくらいで緊張してちゃ身が持たないわよ)

そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと深呼吸をする。
これまでだって、それなりに多くの修羅場を潜り抜けてきたはずだ、と。

そんな事を胸に秘めながら、美琴はここ、第7学区にあるコンサートホールの前の広場で、
上条が来るのを待っていた。
待ち合わせ場所をこの場所に指定したのには、勿論理由がある。
9月30日。美琴が罰ゲームと称して上条を(実質的には)デートに誘ったあの事件。
ここは、その時に使われた待ち合わせ場所なのである。
しかしその時は当然ながら恋人関係ではなかった為、
美琴は改めて、ここで待ち合わせしたかったのだ。初デートを、やり直す為に。
ちなみにその前にも恋人のフリをするという大義名分の下、偽のデートをした事はあったが、
あれは海原(エツァリ)を追い払う為の突発的な事故みたいなもので、
自分発信の計画ではない為、美琴の中では初デート判定がギリギリでノーカン扱いらしい。

と、その時だ。

「やーすみませんでしたーっ!!」

あの時と同じように、約束の時間に遅れてきた上条が、
両手を合わせて頭を下げながら全力で駆け寄ってきた。
流石の美琴も彼が不幸に巻き込まれて【しらないだれかをたすけて】遅刻するのには慣れたようで、
特に気にした様子もなく迎え入れる。と言うよりも、ず〜〜〜〜〜っとドキドキしていたせいで、
上条が遅刻していたという事実にすら気付いていなかったのかも知れない。

「べ、別にいいわよ。それじゃ行きましょ」

本当は上条が来ただけでも飛び上がりたいくらいに嬉しい美琴ではあるが、
まだまだ付き合いたてで『ツン』成分が抜けきっておらず、つい素っ気無い態度を取ってしまう。
しかしそこは無自覚フラグメイク男の出番である。上条はニコッと笑顔を作り、一言。

「にしても今日も可愛いな、美琴」
「〜〜〜っ!!!」

それは付き合う前【いままで】の上条からは想像もできない程にストレートな愛の言葉。
彼氏から彼女への、ごく当たり前の囁きである。
しかしそのごく当たり前の囁きが美琴にとっては何よりも嬉しい一言であり、
美琴は「ああ…私たち本当に恋人になったんだ…」という実感を噛み締め、耳まで真っ赤になる。

「あ…あの……わ、わた、私もアンタの、事…か、カッコいいと…思」

釣られて美琴も、『デレ』成分を多く含む言葉を言おうとした。
しかしそこは無自覚ブレイク男の出番である。
いい感じになりかけたこのタイミングで、わざわざ余計な事を言ってきた。

「そう言や、あの時もここで待ち合わせしたんだよな。
 で、その後にヴェントが学園都市襲ってきて大変な事になったっけ」
「……………」

上条としては、ただ単純に会話を途切れさせないように思い出話を振っただけなのだろう。
しかし、何故あと数秒間だけでも待てなかったのか。せっかく彼女がデレそうになったというのに。
しかもである。思い出を語るにしても、何故「0930事件」をチョイスしたのか。
確かにあの事件は件の罰ゲームの後ではあったが、
ならばそもそも罰ゲームその物の話をすれは良いではないか。
美琴とペア契約したりツーショット写真を撮ったりゲコ太ストラップを分け合ったり、
恋人同士で盛り上がれそうな話題には事欠かないだろうに。

「…? あれ、美琴? 急にどうした?」
「…別に。何でもないけど」

何だか頬をぷくーっと膨らませる美琴に気付いた上条だったが、時すでに遅し。
美琴は急転直下で不機嫌になるのであった。


694 : おもひでぼろぼろ :2015/08/04(火) 19:44:00 FBKDE1Bg
 ◇


地下街である。
学園都市で地下街と言えば第22学区が有名だが、他の学区にも数多く存在する。
ここ第7学区も例外ではなく、地下には色んな学校が実験的に出している店が立ち並んでいた。
上条と美琴の二人は面白そうな店をプラプラとハシゴしながらキャッキャウフフとお喋りするという、
学生カップルの初デートらしい、初々しくも甘酸っぱくなるようなデートを楽しんでいた。
詳しく内訳そ説明するならば、
雑貨屋に入って「あ! これ可愛い!」「うん、美琴に似合ってるよ」「もう馬鹿…」
眼鏡屋に入って「ちょっとコレかけてみてよ!」「…どうでせうかね?」「カッコいい…」
定食屋に入って「ん〜美味しい♪」「美琴美琴! あ〜ん!」「っ! し、仕方ないわね…」
洋服屋に入って「どう、似合う?」「…すっげぇ可愛い」「じゃ、じゃあ買っちゃおうかな」
などなどだ。もう甘酸っぱすぎて、お腹いっぱいごちそうさまでしたである。

その後も二人であちこち店を回っていたのだが、
そんな中、美琴は一軒の携帯電話のサービス店の前で立ち止まった。

「ここって…」
「ん? どうした美琴?」

どうしたもこうしたも、この店は先ほど説明した、
罰ゲームでペア契約したりツーショット写真を撮ったりゲコ太ストラップを分け合ったりした、
あの店である。あの時の事を思い出し、美琴は「ポッ…」と顔に赤みが差す。

「ね、ねぇ……ここで何したか、覚えてる…?」

「覚えてる…?」とは聞いているが、上条も忘れられる訳がない事を美琴は確信している。
しかしそれでも上条の口から、「当たり前だろ、覚えてるよ」の一言が聞きたいのだ。
女性特有の、相手に選択権がない選択肢。
「仕事と私、どっちが大切なの?」とか「こっちの服とこっちの服、どっちがいい?」みたいな感じだ。
だがそうまでしても、やはり好きな相手に言ってもらいたい一言というのはあるのである。
だから上条は答える。美琴の期待に応える為に。

「当たり前だろ、覚えてるよ。………ここでシェリーや、ゴーレムのエリスと戦ったんだもな。
 あの時は美琴の他にも、インデックスと風斬と、あと白井もいたっけ」
「……………」

だが思ってたのと何か違う。
確かに、地下街【ここ】で何したか、という問いの答えとしては間違ってはいないが、
美琴の言う、このお店【ここ】で何したか、という問いの答えではない。
と言うよりも、この流れで何故そのエピソードが出てくるのか。
これには流石の美琴も、異を唱えずにはいられない。

「いやいやいやいや!!! そうじゃなくて!!!
 このお店を見れば分かるでしょ!? ホラ、9月の始めじゃなくて終わりの方で!!!」
「…? ああ、そっちね」

そっちね、じゃねーよ。

「アレだろ? ツーショット写真撮って………そんで白井に飛び蹴り食らわされた事」

そっちじゃねーよ。
ツーショット写真の話をするのなら、何故に白井に飛び蹴りされるもう少し前の話にしないのか。
だがここまでの流れを考えると、もはやその回答も想定内だ。
美琴はそこから、更なる一手を打ち出してくる。

「く、黒子に飛び蹴りされたって言えばさ! 大覇星祭での事とか覚えてる!?」

ここでの模範解答は、勿論フォークダンスでの出来事について語る事だ。
そこから借り物競争や、家族で昼食をとった事に話を広げるのが、最もベストである。
しかし上条はやはり上条。悪い意味で期待を裏切らない。


695 : おもひでぼろぼろ :2015/08/04(火) 19:44:36 FBKDE1Bg
「大覇星祭か…色々あったよな。美琴が変な力を注入されて、大変な事になって―――」
「いやだから! そっちじゃなくてね!?」
「ん? じゃあ初日の話か? オリアナやリドヴィアが使徒十字を―――」
「何の話それっ!!?」

それは美琴が魔術サイドに深く関わる以前の話なので、
幸運と不幸のバランスを捻じ曲げてローマ正教にとって全てが都合が良くなる霊装の事など、
当然ながら知る由はない。事件と深く関わった上条でさえ、実はよく分かっていないのに。
が、今はそんな事にツッコんでいる場合ではない。
度重なる上条の唐変ボク念仁っぷりに、もう何か引っ込みがつかなくなった美琴は、
絶対に上条【コイツ】から私との思い出を引っ張り出してやろうと決意する。
もはや手段と目的がゴッチャになっている気もするが、いいのだろうか。

だが、それでも上条は強かった。
例えば、キューピッドアローのタグリングの話をしようとハワイでの出来事を話に振れば、
グレムリンと抗争した日々の事を語り、
上条が心配でロシアまで追いかけた事を話そうとすれば、
第三次世界大戦でフィアンマと戦った事を返してきて、
一端覧祭の準備期間中に上条の学校を視察しようとした事を言い出そうとしたら、
フロイライン=クロイトゥーネを巡る事件の話が飛び出し、
アクロバイクで二人乗りした思い出は、
やたらとパワフルなおじいちゃんに「うほほーい☆」された恐怖へと変わる。

こちらが必死に二人の思い出でいい感じになろうと頑張っているのに、
上条は、それを絶妙な程のらりくらりと回避する。
もう、のれん越しのヌカに釘を腕押ししたかのような手応えの無さである。
これには流石の美琴もカチンときて、ついつい声を荒げてしまう。

「アンタねぇ!!! もしかして、わざとやってんじゃないの!!?」
「へ? 何が?」

対して上条は顔をキョトンとさせる。
分かってはいた事だが、この男は本気で分かっていないのだ。

「だぁ〜かぁ〜らぁっ!!! 何でそっちに行くのよ!!!
 他にもあるでしょうよ私との思い出とか色々っ!!!」

ぜぃぜぃと肩で息をしながら大声で叫ぶ美琴。
その魂の叫びを聞いた上条は、しばらくポクポクポクポクと考え込み、
チーンという鐘の音と共に、手をポンと叩く。そして「ああ! そっちか!」と暢気な一言。

「そっちかって…アンタねぇ……」
「いや〜、悪ぃ悪ぃ。そりゃそうだよな〜。
 美琴とデートしてんだから、美琴との話だよな普通」

悪びれた様子もなく、あははーとカラカラ笑う上条。
何とも軽いリアクションに、美琴もヘナヘナと力が抜けていき、「はぁ…」と小さく溜息を吐く。
しかし上条は「でもなぁ」と続けた。

「でもなぁ…美琴との思い出ったって、とっさには出てこないぞ?」
「っ! な、何よ! 私との…思い出なんて……べ、別に…ないっていうの…?」
「いやいやいやいや違う違う違う違う!!! そういう意味じゃないんだ!
 ……美琴と一緒にいるだけで、楽しい思い出なんて無限に増えていくからさ。
 どの話しようかって迷っちまって…それで、とっさに出てこないってだけだよ」

頬をポリポリとかきながら、照れくさそうに語る上条。
美琴は自分でも自分の事がチョロすぎると分かっていても、
それでも胸をキュンキュンさせずにはいられなかった。
その一言で、上条の事を全て許してしまえるのだから。



ほっこりした所で、二人は再び地下街をプラプラと歩き出す。
上琴の初デートは、まだ始まったばかりなのだ。


696 : くまのこ :2015/08/04(火) 19:45:13 FBKDE1Bg
以上です。
こんなんで大丈夫でしたかね、・・・さん。
ではまた。


697 : ■■■■ :2015/08/07(金) 00:25:42 oBNI6gkE
さすが!です
もっと甘い甘いのが読みたいです。


698 : くまのこ :2015/08/08(土) 09:02:14 uxY80YY.
連投すみませんです。
支部でリクを受けたので、上琴が夏祭りデートする話を書いてみました。
支部ではゲームブック的な展開で書いたのですが、
ここではそういう訳にはいかないので、そこそこニヤニヤできるルートを選びました。
約3分後に3レスです。


699 : 君がいた夏は :2015/08/08(土) 09:05:09 uxY80YY.
夏である。
8月に入り、学生達は夏休みを満喫している今日この頃。リア充が最も輝く【ばくはつする】季節でもある。
その例に漏れず、恋人同士となった上条と美琴も、この夏は色々とイベントをこなしてきた。
レジャープールに行ってみたり、肝試し大会に参加してみたり、キャンプでお泊りしたりと、
まぁ見事なまでにカップルカップルしてやがったのである。

そして今日も、二人は夏祭りという格好の遊び場【デートスポット】にやってきていた。
先に来て待っているのは、いつもながら美琴の方だ。
しかし美琴は、この時間が嫌いではなかった。
美琴としては、彼氏が来るのを待つのも楽しみの一つであり、待つのもデートの内らしい。

「ごめん! 待たせて悪かった!」

言いながら、上条が遅れてやってきた。
美琴は頬を膨らませながら、プイっとそっぽ向く。無論、怒っている訳ではない。

「ふーん? 遅れてきたクセに、その程度で許されると思ってんだー。へー」
「うっぐ! じゃ、じゃあどうすりゃ許していただけるので…?」

すると美琴はニヤッと笑い、一言。

「ふっふ〜ん! それなら、私が言われて喜ぶ事を三つ言ってくれたら許してあげる♪」

許してあげるも何も、始めからそのつもりだっただろうに。
上条は頭をポリポリとかき、美琴から許しを請う為に、
美琴が喜ぶであろう言葉を三つ口にする。

「…その浴衣、すげぇ似合ってんぞ」

美琴はこの日の為に新しい浴衣を買っており、
校則違反で後々寮監から罰を受けるのを覚悟で、それを着て待っていた。
淡い桃色の生地に花柄。ピンポイントのゲコ太は美琴的にどうしても外せなかったのだろう。

「ふふっ、ありがと。じゃあ、あと二つね」
「…今日も…その、綺麗だな」

美琴は、恋人の贔屓目なしに見ても端正な顔立ちをしており、
正直なところ先程から道行く男性の3〜4割くらいは、こちらを振り向いてくる。
しかも今日は浴衣姿という事で、普段とのギャップもあり、
上条はちょっと直視できないくらいまで、実はドキドキしていたりする。

「そっか♪ じゃ、ラス1ね」

上条がドギマギしているのを見抜いている美琴は、楽しむように最後の一つを聞いてくる。
しかし、それは逆に美琴がドギマギさせられる為のフラグでしかなかった。

「えっと……あ…愛してるぞ」
「っ!!!」

あまりの不意打ちに、美琴は背筋をピーンと立てて顔を瞬間沸騰させた。
確かに、それこそが美琴が言われて最も喜ぶ言葉ではあるのだが。

「あああ、あり、ありがと…」
「お、おう…」

お互いに「かあぁ〜」と顔を赤くしてしまう。
ちなみに、ここまでまだお祭りの入り口付近での出来事である。
他のお客さんからしたら、もうめっちゃ邪魔なのだがどうしよう。


 ◇


「そ、そろそろ行こうか!?」
「あ、ああうん! そそ、そうね!」

二人してモジモジすること約5分。ようやく動きを見せたバカップル。
二人は一緒に手を繋ぎながら、祭りの中へと歩き出す。

「まだ花火まで時間あるし…屋台でも回ってるか」
「遅れてきたんだし、アンタの奢りね♪」
「…男としてカッコつけたいのは山々なんですが、
 上条さんの経済状況ではそんなに多くは奢れないので何卒お手柔らかに……」
「アンタ、私の事をどれだけ大食いだと思ってんのよ!」

女の子の食事の基本量を、インデックスのそれで記憶している上条。
美琴の言葉でサイフの中身を即座に確認するが、有り難い事に美琴はそこまで食べはしない。

「って言うか冗談よ。自分の分くらい、自分で払うってば」
「いや! 男として、そして高校生として! それは何か負けた気がする!
 だからやっぱり俺が払うよ! …三つくらいなら」

何とも心もとないプライドとサイフの中身である。
しかし美琴は、そんな上条を横目に、

「ふふっ、分かったわよ。三つね」

と上条を立ててあげるのであった。

「で、まずはどこ行こっか」
「とりあえず定番のタコ焼きでも」


700 : 君がいた夏は :2015/08/08(土) 09:05:57 uxY80YY.
 ◇


上条の奢り一つ目はタコ焼きである。

「おじさん! タコ焼き一つ!」
「あいよ! 毎度あり!」

上条が買ったのは一パックのタコ焼き。それをアチアチ言いながら美琴の元へ持ってくる。

「…? 二つじゃないの?」
「一つだけの方がお互いに食べさせ合ったりできるだろ?
 決して上条さんがケチった訳ではありませんので!」

何やら言い訳しながら、上条は8個入りのタコ焼きの一つに楊枝を刺し、
それを美琴の口元に持っていく。

「ほら美琴。あ〜〜〜ん」

美琴も若干の恥ずかしさがあるものの、それでもやはり誘惑に負け、
「あ〜ん」と口を大きく開ける。

「あ〜〜〜…あむっ! はふはふほふ! あっこいあっこい!」

相当熱かったらしく、美琴は口の中ではふはふさせながら租借する。
そしてそのまま、流し込むように飲み込んだ。

「そんなに熱かったか!? 悪い!」
「はー、はー…ううん、気にしないで。美味しかったし」

と言いつつ、今度は美琴がタコ焼きに楊枝を刺した。
だが先程の経験を踏まえて、すぐには上条の口元には持っていかず、

「ふーっ! ふーっ!」

と冷ましてくれる。上条は、美琴のその口元に何かドキドキしちゃったりしていたり。

「はい! もう大丈夫だと思うから…どうしたの?」
「い、いや何でもありませんですことよ!?
 そ、それよりタコ焼き【これ】食べ終わったら次はどこ行こっか!?」
「そうねぇ…次は冷たい物が食べたいわね。カキ氷とか」


 ◇


上条の奢り二つ目はカキ氷である。
シロップは上条がコーラを、美琴はレモンをそれぞれ注文したのだが、

「〜〜〜〜〜っ!!!」
「くぁーっ!!!」

二人とも見事にアイスクリーム頭痛の洗礼を受けていた。

「う〜…こ、この痛みもカキ氷の醍醐味と言えば醍醐味よね」
「まぁ、な。これがあって始めてカキ氷食ったって実感がわくよな」

頭を抑えながら、精一杯の強がりを言う両者。
そんなもん、無きゃ無いで無い方が良いに決まっているのに。
と、ここで上条がふとある事に気付く。

「っ! 美琴、ちょっと口を開けてみてくれないか?」
「何で? …まぁ、別にいいけど」

言われるがまま、美琴は口を大きく開けてみる。すると。

「お〜…! ベロが真っ黄色だな」

レモンのシロップで染まり、美琴の舌は黄色く変色していた。
上条はそれをまじまじと見つめているのだが、しかし、それ以上に何より、
彼はとんでもない事をしちゃっていたのだ。

「あ、あああろほろ、ららら、らんえわりゃひろへろをひゃあっへいうおかひあっ!!?
 (あ、あああのその、ななな、なんでわたしのベロをさわっているのかしらっ!!?)」

気付けば上条は、無自覚に美琴の黄色い舌をプニプニと指で突いていたのである。
カキ氷を食べて舌の色が変わるとか、珍しい現象でもない所かむしろあるあるネタだろうに。
美琴に言われてハッと我に返った上条は、即座にテンパり上げた。

「うわわわわごめんっ!!! 何か自分でもよく分からん事してたっ!!!」
「べ、べべべ別にいいけど…いいんだけど、さ……」

二人して真っ赤になり、体温も一気に上昇する。
そのせいなのかどうなのか、手に持ったカキ氷はとっくに溶けてしまい、
カップの中はただの甘い水に成り下がってしまっていた。

「と、溶けちまったし、つつ、次の店に行こっか!!?」
「ききき気分転換にくじ引きでもやりましょう!!!」


701 : 君がいた夏は :2015/08/08(土) 09:06:27 uxY80YY.
 ◇


上条の奢り三つ目はくじ引きである。
が、挑戦するのは美琴一人だけだ。
不幸体質な上条が引いた所で、ハズレるのは目に見えているから。

「これは…ガチで行くしかないわね」

くじも抽選箱も紙で出来たアナログな作りの為、美琴の能力が介入する余地はない。
まさかガチで行かなくても大丈夫だったら、イカサマを使う予定だったのだろうか。

「うりゃー!」

と勢い良く美琴が引いたのは―――

「やった! B賞だわ!」

美琴が引いたのはお目当てのB賞。
いくつかの景品の中から好きな物を選べるのだが、美琴が選んだのは勿論。

「ゲコ太ぬいぐるみをください!」
「はい。おめでとう、お嬢ちゃん」

どもまで行ってもゲコラーな美琴である。

「良かったな美琴」
「うん! 一生大事にするわね♪」

上条と初めて行った夏祭りでの、ゲコ太ぬいぐるみゲット。
それは美琴に一生ものの宝物と、一生ものの思い出ができた瞬間である。

「よし! そんじゃあそろそろ、花火の方に行ってみますか!」


 ◇


広場に着くと周りは既に人混みでごった返していて、何発か花火も打ち上がった後だった。

「やべーやべー! 完全に出遅れちまったな!」
「もう! アンタがあんなに出店を回るから!」
「それ上条さんのせいじゃないよねっ!?」

と、一通り口喧嘩【ちわげんか】をした所で。

『ひゅるるるるるるるる………ド―――ンッ!!!!!』

花火の音で喧嘩する声もかき消され、空中に広がる大スペクタクルに目を奪われる。
次々に咲く色とりどりの火薬の大輪は、少女をウットリさせるには充分すぎる威力であった。

「……綺麗ね…」
「…あ、ああ。そうだな」

上条が一瞬だけ返事をどもってしまったのは、
そのあまりの美しさに思考が停止してしまったからだ。
花火に…ではなく、それを見つめる美琴に、である。
打ち上げられた花火の光は美琴の顔をカラフルに彩って、
その浴衣姿とのコントラストは、まるで絵画のような印象を受けた。
上条は思わず美琴の肩を抱き、グイっとこちらに引き寄せる。

「わわっ! な、何!?」
「ん…あー、その……ひ、人混みが凄いからさ、逸れないようにしなきゃと思いまして」
「も、もう! そんなに子供じゃないんだから!」

と、言いつつも自分の身を上条に預ける美琴である。
そして多くの花火が打ち上がる中―――

―――……… チュッ

恋人達は、優しく口付けするのだった。



ちなみにだが、花火が終わった後に二人がどうなったかと言うと。


 ◇


「もっとしてぇ!♡ もっと激し…んんっ! ♡ 当麻の、好きにしていいからぁ!!!♡」

まぁ、そうなるよね。


702 : くまのこ :2015/08/08(土) 09:07:44 uxY80YY.
以上です。
最後のオチは、描写を書いてなくて何をしてるのかよく分かりませんので、
セーフ…ですよね…?
ではまた。


703 : くまのこ :2015/08/12(水) 00:16:52 TsxwG.Ww
また連投で失礼します。
初心に戻ってベタ(だと自分が思う)な上琴書いてみました。
イチャイチャ度は少なめなので、ご注意を。
約3分後に4レスです。


704 : スーパー彼女のスーパーデート :2015/08/12(水) 00:20:04 TsxwG.Ww
「頼む美琴! 俺と付き合ってくれ!」

出会い頭、上条からそんな事を言われた美琴である。
いつものように上条の高校付近で上条を待ち伏せ、
上条が下校してきた瞬間を狙って偶然を装い声を掛け、
そのまま一緒に並んで帰ろうと画策していた美琴だったのだが、
この日は上条から声を掛けられ、力強く手を握られ、そしていきなりの告白である。
しかし美琴とて、いい加減に上条の性格と無自覚フラグ能力は熟知している。
どうせこの後、「スーパーまで付き合ってくれ」とかそういうオチが待っているのだろうと、
冷静に、あくまでも冷静に対処した。

「つききつ付きゃ合うってどどどどういう意味にゃのかしらっ!!?
 それに手とかそんないきなり握って手ぇ握じんわ熱なてっ!!!」

まぁ、冷静に対処できてると思うのは美琴の勝手な訳で。
あっという間に顔を茹で上がらせ、目も泳がせる美琴に対し、
上条は気にせず、美琴の想像した通りの台詞を吐いてきた。

「ホント頼む! スーパーまで付き合ってくれ!
 今日は卵だけでなく、米やトイレットペーパーまで安いんだ!
 丁度どれも切れかけてて困ってたし、買い足そうと思ってた所だったんだよ!
 でもやっぱりそれらは、お一人様お一つまでだから、
 美琴が来てくれるとスゲー助かるんだ! レジに二回並ぶ必要もなくなるし!」

やはりである。予想はしていたし、何度も同じ手に引っかかるような美琴でもないので、
特にショックを受ける事もなく、普通に、あくまでも普通に対応した。

「ああ……うん、分かってたし…そんなの全然分かってたしね…」

まぁ、普通に対応できてると思うのは美琴の勝手な訳で。
あっという間にガックリと肩を落とし、深い溜息を吐く美琴に対し、
上条は気にせず、握ったままの美琴の手をブンブンを上下させた。

「うおおおおぉぉおありがとう!!! もう大好きですよミコっちゃんっ!!!」

まるで宝くじでも当たったかのような喜びようである。
何気に「大好き」とか言ってはいるが、これも『そういう意味』ではないのは明らかだ。
なので美琴は冷静に、あくまでも冷s

「だだだだだ大好きいいいいいいいい!!!?」

もはやコントである。


705 : スーパー彼女のスーパーデート :2015/08/12(水) 00:20:29 TsxwG.Ww
 ◇


ここは上条がよく来るスーパーマーケット。
ご贔屓にしている理由は、安いからというのも勿論あるが、
それよりも通っている高校や自分の住んでいる寮から一番近いから、という方が大きいらしい。

上条はいつも通りに慣れた手付きでカートの上に買い物カゴを乗せ、入り口へと足を運ばせる。
いつも通りでない所は、その隣に美琴がいる事だけである。

「さ〜って、まずは青果コーナーからだな」

カートをカラカラと押し、上条は目の前の野菜や果物達を見回す。
ここでの上条のお目当ては、主にもやしとバナナである。
もやしは栄養価が高く基本的にどんな料理にでも合い、そして何より『  安  い  』。
バナナはインデックスのおやつ代わりだ。甘くて量も多く、何より『  安  い  』。
…何だか胸が切なくなるような理由だが仕方ない。

と、上条がそんな事を思っている横で、美琴は全く関係ない事を考えていた。

(一緒にスーパーでお買い物……って!
 も、もも、もしかしてこれって周りから見たら、私達ふ、ふふふ、夫婦っ!
 とかに見えちゃうんじゃないのっ!!? そ、そんなのちょっとだけ困るんですけど!!!)

お互いに学校の制服を着ているクセに何を言っているのかこの子は。よくて恋人だろうに。
しかも困るのも『ちょっとだけ』でいいのかレベル5の第三位。
勝手な妄想で勝手にアワアワしている美琴は、勝手に周りからの視線が気になってくる。
そんな状態なので、ちょっと上条から「おい美琴?」と肩をポンと叩かれただけで、

「にゃあああああああああっ!!! な、なな、何っ!!?」

と大声を出してしまう。

「い、いや…『何?』はむしろ上条さんのセリフだと思うのですが…
 急に顔を真っ赤にして周りをキョロキョロしてるんで何事かと思って声掛けただけなのに、
 そんなに驚かれるとはこちらがビックリです…」
「あっ、いや、その…ちょ、ちょろっとアンタとふ―――」

言いかけてハッとした。まさか上条を目の前にして、
『アンタと夫婦だと思われちゃってたらどうしようと思って』なんて言える訳がない。

「……ふ?」

訝しそうな目でこちらを見つめる上条に対して、美琴は、

「…ふ………ふにゃー」

とりあえず誤魔化し(?)た。
もう『ふにゃー』という単語を聞くだけで、条件反射的に美琴の頭を右手で抑えてしまう上条。
今回はいつもの気絶する時の無自覚『ふにゃー』ではなく、
美琴がこの場を誤魔化す為に行った自覚あり『ふにゃー』なので漏電はしなかったが、
スーパーの中【こんなばしょ】で漏電なんかされた日には、上条は最悪出禁になってしまう。

「あっぶねー……急にどうしたよ美琴!? ここまでで何かふにゃる要素あったか!?」

ふにゃる要素は基本的に上条自身なのだが、そこには気付いていない鈍感野郎上条。
今回も当然、分かる訳がない。

「い、いや何でもないのよ!!? ただ私とアンタがまるでふ―――」

言いかけてハッとした。まさか上条を目の前にして以下略。

「……ふ?」
「…ふ………ふにゃー」

以下、同じ事が数回あるので割愛。


706 : スーパー彼女のスーパーデート :2015/08/12(水) 00:20:58 TsxwG.Ww
 ◇


青果コーナーを通り過ぎると、鮮魚コーナーや精肉コーナーが見えてくる。
奨学金支給日から数日間となれば話は別だが、今現在は月末の支給日前であり、
上条家の主なタンパク源は玉子料理や豆腐や納豆などの大豆製品となる為、
ここは素通りする予定だ。…何だか目頭が熱くなってくるような理由だが仕方ない。
しかしである。そんな貧b…もとい、苦労話とは無縁のお嬢様は、
素通りしようとする上条に疑問を感じちゃったりする。

「…? お肉とかお魚は買わないの?
 ……あっ、そっか! 寮部屋【いえ】の冷蔵庫にストックがあるのね」

もうやめて! とっくに上条さんのライフはゼロよ!
まさか「おぜぜが足りないの」とは男として、そして高校生【としうえ】としてのプライドが許せず、

「そ、そうなんですよ〜! 冷蔵庫にまだ余ってたからな〜! マグロの大トロと松坂牛!」

と大見得を切る上条。そんないらないプライドなど、捨ててしまえばいいのに。
しかもナメられないように、できるだけ高級そうな魚と肉をチョイスしたかったのだろう。
とっさに出てきた名前がマグロの大トロと松坂牛という、見事な程の安直さである。
だが美琴は。

「あ〜、分かる! 美味しいけど脂っこいから途中からキツくなって、
 全部食べきれずに、つい残しちゃうのよね」

まさかの分かられてしまった。
美琴からの返答に上条は表情を『無』にして、「ソウデスネー…」と呟いた。
女の子とはいえ中学生の胃袋でキツくなる程の油というのは、
おそらく質ではなく量の問題だろう。
つまり美琴は、かなりの頻度で食いきれなくなるくらいの大トロやら松坂牛やらを、
どこからか頂いているという事なのだろうか。常盤台ェ…。
しかしだからなのか、美琴はスーパーのやっすいやっすいお肉に興味津々だ。
100gでギリギリ百円台の豚ばらブロックを見て、
「どうやって採算がとれてるのかしら…」とか呟く始末である。常盤台ェ…。
そんな中だ。

「お一つご試食いかがですかー?」

試食販売をしている店員の声が聞こえてきて、上条と美琴は思わずそちらに顔を向けた。
食欲をそそる香ばしい匂いと肉が焼けるいい音。
その場で焼いたウインナーに楊枝を刺して、店員は周囲の客に笑顔を振りまいている。

「せっかくだから食べてみましょうよ」
「んー…そうだな」

上条としては全く買う気は無いが、試食でお金は取られない。
故に上条は、試食は必ず行う事にしている。それが彼の数少ない楽しみの一つでもあるのだ。
…もう泣いちゃってもいいかも知れない。

「じゃあ、二ついただきます」
「はい、どうぞー!」

上条は店員が手に持っている小皿から、ウインナーの刺さった楊枝を二本取る。
そしてそのまま一本は自分の口に持っていき、もう一本は―――

「ん。ふぉら【ほら】、みほほもくひあけへ【みこともくちあけて】」
「………え?」

もう一本は、美琴の口まで持っていったのである。
そう、お決まりの「あ〜ん」パターンなのである。

「えええっ!!? あ、その、いや…そんな、こ、こここ心の準備的なアレがまだ…」

試食一つするだけで、どんな準備的なアレが必要だと言うのか。

「もぐもぐもぐ…ごくん! ほれ、とっとと食わんとお店にも迷惑だろ?」
「ちょ、待―――」

上条は半ば強引に美琴のお口へウインナーを挿入する。
字面にすると何だかとても卑猥に感じるが、事実なのでどうしようもない。

「どうよ?」
「もむもむ……ひょへも【とても】……おいひぃれふ【おいしいです】……」

正直、味だの香りだの食感だのを感じる余裕など今の美琴にはなく、
真っ赤な顔から煙をモクモクと出しながら、俯いてモソモソと租借している。
店員も初々しいカップル(だと思われている)に「あらあらうふふ」と含み笑いしつつも、
自分の仕事は全うするべく袋詰め【ちょうりまえ】のウインナーを上条に差し出す。

「よろしかったらこち「あっ、すみません。間に合ってますので」らお一ついかが……」

しかし食い気味に断る上条。
先程「とっとと食わんとお店にも迷惑だろ」とか美琴に偉そうに語っていたが、
どちらが迷惑なのかは一目瞭然である。

ちなみに、その間に美琴はどうなっているのかと聞かれれば。

「あ〜んとか…あ〜んとかされちゃへへへへへへへへ…」

だらしない顔で、だらしない笑いを漏らしていたのだった。


707 : スーパー彼女のスーパーデート :2015/08/12(水) 00:21:49 TsxwG.Ww
 ◇


上条は床に手と膝をつけた状態で真っ白になったまま固まっていた。
上条の右手に宿っている幻想殺し。
それは異能の力ならば、魔術だろうと超能力だろうと打ち消す代物だ。
しかしその副作用として、神の加護とやらも無意識に打ち消してしまい、
彼は不幸体質となってしまっている。つまり何が言いたいかと言うと、だ。

「卵も米もトイレットペーパーも売り切れとか……不幸だ…」

こういう事である。
彼は今日よりにもよって、お目当ての品だけが買えなかったのである。
先程の店員さん目線からすれば、「ざまぁw」ではあるが。
しかし美琴は不思議そうな顔を上条に向ける。

「…? 何言ってんのよ。卵もお米もペーパーも、腐る程あるじゃない」

確かに美琴の言う通り、このスーパーから全ての卵と米とトイレットペーパーが消えた訳ではない。
訳ではないが、しかし。

「あのなぁ! それらは特売品じゃなくて、通常価格のヤツなの!
 俺が求めてたのは、お一人お一つまでの安いヤツで!」
「でも、こっちの卵もあっちのお米も、
 アンタが買おうとしてたのと味はそんなに変わんないんでしょ?
 ペーパーだって、こっちの方が使い心地良さそうだし」
「味っ!? 使い心地っ!?」

上条は愕然とした。誰が味だの使い心地の話などしただろうか。
そりゃ上条だって、できる事ならお値段も商品のグレードも、
ちょい高めのヤツを買いたいに決まっている。
しかし先立つものが無ければ無い袖も振れずフトコロも寂しい状態なのだからどうしようもない。
常盤台のお嬢様は、とことんお金に困った事がないらしく、
当たり前のように、安いのが無かったら高いのを買えばいいという暴論を振りかざしてくる。
きっとパンが無ければ普通にお菓子を食べるのだろう。

「いやいやいや! それじゃあ来た意味が…って、おい!」

上条が美琴に対して、ちょっとしたお説教を食らわせてやろうとした矢先、
美琴は一番高い卵と、米と、トイレットペーパーを買い物カゴに入れてきやがった。

「何してんの!!? ちょ、この卵、一個でウン百円とかしてるんですけどっ!!?」

これには第三次世界大戦の戦場を潜り抜けてきた上条でも、顔面蒼白にならざるを得ない。
だが美琴も、流石に上条がこんなに高い買い物をする訳がない事くらいは分かっている。

「な〜にテンパってんのよアンタは。それ全部、私が買ってあげるわよ」
「………へ? マジで?」
「うん。だって無いと困るんでしょ?」

アッサリと、それはもうアッサリと肯定する美琴。
瞬間、気付けば上条は思いっきり美琴を抱き締めていた。

「うおおおおおマジかああああああ!!! もうミコっちゃん超愛してるっ!!!」

そして告白。男として、そして高校生としてのプライドどこに落としてきた。
ついでに美琴は。

「ああああああ愛してりゅとくぁにゃぬぃいべっきゃらのまふぉいむぇぷほぱららい!!!!!」

うん。何言ってんのか全然分かんね。


 ◇


この日、上条(とインデックスとオティヌス)は、
高級卵と高級な米で作った超高級卵かけご飯に舌鼓を打ち、
高級なトイレットペーパーでケツを拭いた。

そして美琴は、終始何かを思い出してはポケ〜ッとしたりニヤニヤしたりしていた。

しかしそれぞれの部屋で、それぞれの同居人(ルームメイト)に、
「ところでとうま! 今日はどうしてこんなに美味しい玉子を買えたのかな!?」
「お姉様。何だか今日はとてもご機嫌な様子ですが、何か良い事でもありましたの?」
と聞かれ、誤魔化しきれずに結局は不幸な目に遭うのだった。上条一人だけが。


708 : くまのこ :2015/08/12(水) 00:22:27 TsxwG.Ww
以上です。
ではまた。


709 : くまのこ :2015/08/17(月) 18:03:09 ONhaddc6
度々連投すんません。
上琴の二人が電車内でエロエロ(R-18じゃない程度)する短編を書いたので、
投下しに来ました。約3分後に5レスです。


710 : 電車でGO!(意味深) :2015/08/17(月) 18:06:03 ONhaddc6
彼の名誉の為に先に断っておくが、上条当麻は決して変態さんではない。
男子高校生としてごく当たり前の感情を持ち、青少年としてごく当たり前の『反応』はするが、
それは健全な男の子ならば、誰しもそうなるモノなのだ。
現に彼は御使堕しを巡る事件の際、犯人だと疑われてしまい、
神裂から体中をあちこち触診され、海パンの中のアレがアレしてしまっている。
第二次性徴【ししゅんき】真っ只中なのだから、仕方ないのである。
しかしここ最近彼は、その仕方ないアレを発散させる機会を失っている。
言葉を濁してばかりでも伝わらないので、ここはコードネーム[O-721【オー・ナナニーイチ】]としておくが、
彼は以前まで[O-721]を行うチャンスは夜中しかなかった。
記憶を失ってからは既にインデックスと同居状態にあった為、
まずリビングで堂々と[O-721]する事はできない。
となれば、インデックスが寝静まった後の浴槽【ふとんのうえ】しか、一人になれる時間がなかったからだ。
しかし、である。最近になって彼にはもう一人の同居人ができてしまった。
いや、同居人と言うよりは同居神と言った方が正しいだろうか。
オティヌス。魔神である彼女は、なんやかんやあって全長15㎝程の大きさになり、
その罪を償う為に、上条の側にいなければならないという罰を、
かの英国女王と米国大統領から与えられたのだ。
それはいい。それはいいのだが、先程も説明した通りオティヌスの全長は15㎝程だ。
その小さな体躯を利用して、彼女は度々浴室【かみじょうのしんしつ】に出入りしている。
その行動には、ほぼ100%襲い来るスフィンクスからの逃走という真っ当な理由があるのだが、
これにより上条は最近、浴槽での[O-721]を禁止せざるを得ない状況なのだ。
つまりは[O-7]禁である。
もしもヤってる最中にオティヌスが浴室に入ってきてしまえば、上条は死ぬ。
精神的にも社会的にも、下手をすれば物理的にもだ。
なので彼はここの所ナニを発散できず、悶々とした日々を送っているのである。
「だから何だよ」と思われるかも知れないが、これは健全な男子高校生にとっては、
ちょっとした拷問に近いとか近くないとか。

さて。長々どうでもいい説明をしたのは、これから起こる事件の予防線だ。
今から上条は、持ち前のラッキースケベ体質によりアレがアレしてしまう訳だが、
「上条さんは暫くナニを発散できてなかったから、
 ちょっとした事でアレが反応しちゃっても仕方が無かったんだよ」
という事を分かって貰いたかったのである。


711 : 電車でGO!(意味深) :2015/08/17(月) 18:06:49 ONhaddc6
 ◇


学園都市ではバスや地下鉄、モノレールなど、公共交通機関が充実している。
住人の8割が学生で占めるこの街では、自家用車での移動は一般的ではないのだ。
上流階級のお嬢様や所謂エリートな学生ならば、送迎などもあるのだが、
ここにいる御坂美琴は、そういった特別扱いされるのを嫌っている為、
今もこうして地下鉄を利用している。
が、この日はそれを現在進行形で後悔している所であった。

(う〜〜〜…っぐ! 何で今日って、こんなに込んでんのよっ!)

何故なら満員電車に乗り合わせてしまい、人の波に溺れてしまっているから。
この混雑では座れないのは仕方ないが、この状況、立っている事以上に不快な事が山程ある。
美琴は自身の能力で、鉄の棒【スタンションポール】と自分を磁力で引き合わせて、
揺れへの対策は強化しているが、だからといって快適という訳ではない。
特に知らないオッサンとか寄りかかってくる時は最悪である。

普段は滅多な事では混雑しない学園都市の電車内だが、
大覇星祭や一端覧祭などの大きな催しがある際には、ダイヤが乱れる事も稀によくある。
美琴は興味が無い為に知らなかったが、
この電車は何かオタク向けのビッグイベントに向かっているらしいのだ。
こっちの世界で言えば、舞浜や海浜幕張に向かう京葉線や、
東京ビックサイトへ向かうりんかい線のような感じである。
イベントに興味の無い美琴が何故こんな目に遭っているのかと言えば、
たまにはいつもと違う路線で乗って行こうとした結果、
この大惨事に巻き込まれてしまったという訳なのだ。

(あ〜もう最悪! 次の駅で降りちゃお!)

美琴の目的地はまだ何駅か先だが、この混雑に耐えるのはしんどい。
なので次の駅で乗り換えてしまおう。と、そう考えたのだ。
と、その時である。タイミングよく車内アナウンスが流れてきて、電車は無事に停車した。
美琴はここぞとばかりに人の波を掻き分けて、開いたドアに向かおうとした。
その矢先である。

「うっわ、相当込んでんな…って、アレ? 美琴?」
「……………へ?」

新たに流れ込んできた乗客の中に上条の姿が。
いきなりの上条の登場により虚をつかれ、一瞬だけ動きを止めてしまった美琴は、
見事に乗り過ごしてしまったのだった。
無常にも電車のドアは閉まってしまう。新たな乗客を加えて、乗車率も更に上がる。
そして美琴と上条は、この満員電車でとんでもない事件を引き起こしてしまうのだった。
大方の予想通り、まぁ、くっだらねぇ事件なんだけどね。


 ◇


駅に降り損ねてしまった美琴は、いきなりだがテンパっていた。

「うぐぐ…だ、大丈夫か美琴?」
「だだだ、だいじょばってるわよっ!!!」

だいじょばってはいない様子だ。まず日本語がおかしい。
上条は電車に乗ると、真っ先に美琴の目と鼻の先に陣取りやがったのである。
上条とて知らないオッサンが近くに居るよりも、
可愛い女の子(しかも気心の知れた友人)が居た方がいいに決まっている。
だからその行動には納得はいくが、だからと言って美琴が急に心の準備()を済ませられる訳がない。
下手をすると意識しまくって、最悪漏電【ふにゃー】しかねない。
満員電車内【こんなところ】で電撃を垂れ流せば、大事故になるのは目に見えている。
故に美琴は自分の気を逸らす為に、敢えて上条と雑談をする。

「そ、そう言えば…今日って何でこんなに込んでる訳…?」
「ん? あー…そう言やこの前、青髪が何か言ってたな。
 ああ、青髪ってのは俺のクラスメイトなんだけど、確かデカいイベントがあるらしい。
 俺は興味ないけど」
「…? 興味ないなら、何でアンタはこんなスシ詰め電車に乗ってんのよ」
「いや〜、この路線の方が俺が行きたい激安スーパーまで近いんだよ。
 私鉄だから運賃も若干安いし」

上条は最近第16学区(商業が盛んな学区)にオープンしたという激安スーパーへと向かう為、
わざわざ地下鉄に乗ってまで遠出しているのだった。
電車代、満員電車に乗るリスク、そして上条の不幸体質を考えると、
近場のスーパーで食材を買った方が安く済むような気はするが、本人には黙っておこう。


712 : 電車でGO!(意味深) :2015/08/17(月) 18:07:39 ONhaddc6
「で、美琴はそのイベントに行くのか?」
「ち、違うわよ! ちょろっと16学区まで買い物に行こうとしてただけ!
 ったく、こんなに込んでるって知ってれば違う路線で乗ったのに…」

だがそのおかげで予期せず上条と鉢合わせたと思えば、
それまでの不快な気持ちがチャラになる程のラッキーではあるのだが、
そう考えると意識してしまい、やっぱり漏電しそうになるので止める。
しかし意識しないようにするという事は、意識しているという事と同義であり、
会話が途切れてしまうとどうしても。

(うわ〜! 何か凄い密着してるんですけど〜!
 てかコイツの匂いとか体温とかダイレクトに……って、何考えんのよ私の馬鹿っ!!!)

けれども意識しているのは美琴サイドだけではないようで。

(……美琴ってスゲーいい匂いするんだな。
 やっぱシャンプーとかボディソープとか、上条さんが使う物とは根本的に違うのかね?)

お互いにドギマギしてはいるが相手に悟られないように、表面上は平静を装う二人。
しかしこの直後、電車がカーブに差し掛かったのか車体は揺れ、事態は急展開を迎える事となる。

突然、ガタン!と車内が大きく揺れた。その瞬間。

「うおっ!」
「えっ!? ちょ、危な―――」

美琴はスタンションポールと自分を磁力でくっ付けてはいるが、当然ながら上条はそうではない。
周りの乗客同様、体勢を崩してしまった。
崩してしまったのだが、その崩し方は絶妙に上条らしい結果となった。

「ちょちょちょちょなな、何してんのっ!!? ねぇアンタ何してんのっ!!!?」
「わわわ悪い! 悪気があった訳じゃないけどすんませんっ!!!」
「もっ! もごもご喋るにゃああああああああ!!!!!」

ぎゅむっと上条は美琴の胸に顔を埋め、左手は美琴の背後にある支柱【スタンションポール】ごと、
美琴の体を抱き締めていた。二人して顔が真っ赤に染まってしまう。
しかも胸に顔を埋めたまま会話を続行するもんだから、胸がじんわり熱くなっちゃう訳である。

「…ぶあっ! ホ、ホントにごめん! その…み、美琴のお胸に……その、あの…」
「いいいいいいわよ説明しなくても!!! ふ、不可抗力なのは分かってるから!!!
 だからちょっと離れてくれない!!?」

美琴の胸から無事に脱出した上条は、すぐさま顔を上げる。
顔が近い。
本当はこのままくっ付いていてもらいたいクセに、ついついツンデレてしまう美琴。
しかし上条も上条で反論してくる。

「い、いや上条さんとしても離れたいのは山々なのですが……
 言いにくいけど、この状況じゃあニントモカントモ…」

ギュウギュウに押し込められ、上条も身動き一つ取れない。

「だから申し訳ないけど、このままって事に…なります、かね…」
「んなっ!!?」

思わず口をあんぐりと開けてしまう美琴だが、上条は更なる追い討ちをかけてくる。

「そ、それにホラ! こうしておけば、美琴を守ってあげられるし!」
「っ!」

確かにこのまま抱き締める形で美琴をガードしておけば、揺れや痴漢などから守るのはたやすい。
上条的には少しでもポジティブな情報を与えて、美琴から好印象を受けたかったのだ。
何しろ上条は自分の不幸体質を身に染みて分かっている。
ここで少しでも美琴が嫌がれば、自分が痴漢と間違われてしまうかも知れない。
しかしだからと言って身動きが出来る状況ではないので、離れる事も不可能だ。
なので上条がここで選ぶ選択肢は、
「美琴にこの状況を受け入れてもらえるように説得する」事なのである。

だがそれはあくまでも上条サイドの言い分だ。
美琴サイドからすれば、いきなり胸に顔を埋められ、思いっきり抱き締められ、
しかもとどめに、上条から「守ってあげられるし」の口説き文句だ。
目をグルグルさせて頭から煙を出すには、充分すぎる流れである。

「うおーい美琴ー! ここで『ふにゃー』は止めてくれっ!」
「にゃにゃ、にゃにいっへるのよ。『ふにゃー』にゃんてしにゃいんりゃから…」


713 : 電車でGO!(意味深) :2015/08/17(月) 18:08:59 ONhaddc6
どう考えても『ふにゃー』しそうである。
上条は他の乗客との間にギチギチに挟まっている右腕を何とか引っこ抜き、
そのまま右手を美琴の頭の上にポンと乗せた。勿論、幻想殺しの作用で漏電を防ぐ為だ。
これにより美琴の磁力も消失しスタンションポールと引き合う力も無くなった為、
揺れへの耐性も激減したが、車内で『ふにゃー』されるよりは遥かにマシである。
なので上条も力いっぱい抱き締める。
右手は漏電対策、左手はガードの為ではあるが、それ以上に周りからの圧力も加わって。

この展開に美琴は赤面したままアワアワしているが、
先程も言ったように意識しているのは上条も同じだ。
抱き締める美琴の身体は柔らかく、否が応でも男【じぶん】とは体の構造が違う事を理解してしまう。
相変わらず淡く甘い香りは鼻をくすぐるし、人混みと熱気でジワリと汗をかいた鎖骨も妙に艶かしい。
その上、頬は上気し瞳は潤み、俯いて困っている顔も可愛いときたもんだ。
さっきまではてんやわんやしていてそんな余裕は無かったのだが、
美琴も落ち着きを取り戻した
(実際は未だにテンパってはいるが、人混みで身動きが取れないのでそう見えるだけ)
今では、上条も色々と考えてしまえる余裕が出てきてしまう。

(うお〜、ヤバイ! このままじゃあ上条さん、イケナイ子になってしまいそうです〜!)

美琴の体温・匂い・感触・可愛さ・色っぽさなどなど、直に体感してしまい、
しかもそれを自覚してしまった上条は、いよいよお待ちかね(?)の、
冒頭で説明した通りに健全なアレがアレしてしまう。

瞬間、美琴は何か違和感を覚える。
どうも先程から、ちょうどお股の辺りに『硬くて棒状のナニか』が当たっているのだ。
上条がポケットの中に小型の懐中電灯でも仕込んでいるのか、と思った。
しかしよく考えると、ポケットに入ってるにしては妙に中央に寄っているし、
そもそも上条が乗車してきた直後はそんな物は無かった。
いつの間にか、突如出現していたのである。その『硬くて棒状のナニか』は。

「ねぇアンタ、この硬いのって何―――」

「この硬いのって何なの?」と聞こうとしたその時、
学園都市が誇るレベル5の第三位の演算能力が、その答えを導き出した。

「っっっっっ!!!!?!!??!?!?!!?
 ばっ、な、あっ、馬鹿っ!!! 何考えてんのよアンタはっ!!?」
「う〜…すみませんすみませんすみません。生理現象なんですどうしようもないんです」

本来なら一気に『ふにゃー』してしまうような事案だが、
上条の右手で漏電をそげぶされている為にそうもいかず、
美琴は上条が持っている『硬くて棒状のナニか』を堪能するハメとなった。
対して上条も、目からだーっと涙を流しながら平謝りである。
上条の言った通りこれは生理現象であり、悪気もなければ仕方もない。
尚且つ美琴は知らない事だが、上条は最近[O-721]を封じられていた事もあり、
発散(何を?)出来ず、アレがアレしやすいコンディションだった。
そこへきての美琴と体と体の密着だ。一体、誰が上条を責められようか。
(けど何故か同情する気が起きない。不思議である)

上条の右手で頭を優しく撫でられ、上条の左手で体をギュッと抱き締められ、
間に上条の下着とズボンと、自分のスカートと短パンと下着を挟んでいるとは言え、
お股には上条の『硬くて棒状のナニか』が当たり、
しかも車体が細かく揺れる度に、その『硬くて棒状のナニか』はグリグリと押し付けられる。
これはもう完全なるアウトである。純度100%の、アウト中のアウトである。

「やっ…! ちょ、んんっ♡ はぁ、はぁ…何と、かぁあ♡ し、てよぉ…♡
 あ、あぁあん!♡ やめ、は、あっ♡ そんなの、グリグリさせ、らぁいれ、よ、ぉおあん♡」

もはやアウトを超えている様子の美琴。この状況でそんな甘い声を出されたら上条は―――

「やめてええええ!!! これ以上、上条さんを刺激しないで!!!
 ギリギリだから!!! もう色々な意味でギリギリだからあああああ!!!!!」

やや半狂乱である。
だがこれでもまだ上条の不幸(?)は終わらない。
再び電車がカーブしたのか、車体はまたもや大きく揺れる。
ガクン、と上条が前のめり(前かがみではなく)したその時だ。


714 : 電車でGO!(意味深) :2015/08/17(月) 18:09:46 ONhaddc6
―――………チリッ

「「……?」」

二人共、一瞬だけ唇に違和感。これはまさか。

「アアアアアアアンタ今キキキキキキシュしぴゃあああああ!!!!?」
「え、あ、えっ!!? きき、気のせいではないでせうかっ!!?
 た、たた、確かに唇に何か当たったような感触があったような気がしないでもないけど!!!」

いや、完全に気のせいではなかっただろう。
そもそも、お互い全く同時刻、しかもこんなに顔が接近している状態で、
二人して唇に何かが当たったのなら、『それ』しか考えられないはずである。
しかしだ、この辺りはカーブが多いのか、間を空けずにまたもや車体が大きく揺れる。

ムチュ〜〜〜ッ!

「「っっっっっ!!!?!??!!?!!??!??!!?!?!!?!!!?」」

すると今度は、さっきのような、やったのかやってないないのか微妙なのとは訳が違う、
濃厚でしっかりとした口付けをしてしまう。
だが更に運の悪い事に、先程の大きな揺れで周りの人間のポジションも変わってしまったらしく、
上条の周りで足の踏み場が完全になくなり、言葉通り一歩も動けなくなってしまう。
加えて美琴は背後にスタンションポールがあるので、これまた動けない。
首だけでも動かして自分の唇を美琴の唇から離そうとする上条だが、
そうすればするほど周りからの圧力が加わって、深く口付けしてしまい、

「むーっ!!! むーっ!!!」

と美琴の口の中に息を吹き込んでしまう。
右手で美琴の頭を押さえ、左手で美琴の体を逃げられないように締め付け
間に自分の下着とズボンと、美琴のスカートと短パンと下着を挟んでいるとは言え、
美琴のお股に『硬くて棒状のナニか』を当て、
しかも車体が細かく揺れる度に、その『硬くて棒状のナニか』をグリグリと押し付け、
そして更に強引且つ濃厚なまでに、美琴の唇を奪い続ける。
これはもう、痴漢モノの大人向けビデオを撮影していると言った方が納得出来る状況である。

二人は結局そのまま真っ白に固まり、
電車が例のオタク向けのイベントがある会場から、一番近い駅に停車して乗客が捌けるまで、
ず〜〜〜っとキスしなくてはならなくなったのだった。


 ◇


「  す  み  ま  せ  ん  で  し  た  っ  !!!  」

駅のホームに降りた上条は、同じく一緒に降りた(と言うか上条に降ろされた)美琴に対して、
土下座…は流石に出来ないが、土下座したつもりで頭を深々と下げていた。
上条は自分でも何も悪い事をしたつもりはないが、
事故とは言え女の子に『あんな事』や『そんな事』までしておいて、
タダで許されるとは思っていない。しかし美琴は怒っているのか何なのか、
ホームにあるベンチに腰掛けた(と言うか上条に腰掛けさせられた)まま、何も言わず動かない。

実は美琴、あまりの衝撃の連続に脳がショートし、自分だけの現実は完全に崩壊し、
『ふにゃー』すらも通り越して『無』になっている。分かりやすく言えば放心状態である。
そんな美琴を置いて駅に降りる訳にもいかず、そもそも一度ちゃんと謝っておきたかったので、
上条は放心状態の美琴を担いでホームに降り、そのままベンチに座らせたのだ。

「あ、あの…み…美琴さん…?」
「……………」

しかしやはり、美琴は応えない。口をポヤ〜っと開けたまま、物の見事に呆けている。
これは相当キレている(と上条は勝手に思っている)状態だ。
普段、言いたい事はハッキリ言う美琴が、ここまで何も言わないのは逆に恐い。
上条が超電磁砲百連発とか覚悟したその時だ。美琴の口がポソッと動いた。

「…せきにん…あんにゃことしひゃんらから……
 せきにん…とって…お…およめしゃんに……しにゃしゃいよね……」

夢現気味に美琴がとんでもないような事を言ったような気がしたが、
うわ言でその声もボソボソだった為に、上条の耳には届かず、
ホームに吹いた風に乗って、かき消されてしまったのだった。


715 : くまのこ :2015/08/17(月) 18:10:37 ONhaddc6
以上です。
これくらいならエロスレじゃなくても大丈夫…ですよね…?
ではまた。


716 : ■■■■ :2015/08/18(火) 00:51:50 HFSIWk36
乙です
今回もニヤニヤしながら拝見しました





ところで、隠語解除版をいちゃエロスレに投下の御予定はあったりしますでしょうか?


717 : くまのこ :2015/08/18(火) 07:38:27 AtSxeUOI
>>716さん
ありがとうございます!

ん〜…他スレとはいえ、ほぼ同じ内容のSSを投下する訳にはいきませんので、
隠語解除版の予定はないです。すみません。


718 : ■■■■ :2015/08/19(水) 19:51:19 IkL1eUDk
くまのこさんGJです。

あー…ニヤニヤが止まりません。隠語解除版なしは残念ですが、この続きをいちゃエロスレで全裸待機したいなって(チラッ

責任取ってホテルとかに行けばいいんじゃないですかね?(チラチラッ


719 : くまのこ :2015/08/22(土) 17:05:50 Hy7/fOQ2
また連投になっちゃってすみません…
懲りずに短編書いたので、また投下しに来ました。
前回程ではありませんが、若干のエロ要素が含まれてます。
約3分後に5レスです。


720 : とある術式の七大罪源 :2015/08/22(土) 17:08:59 MspzkhMg
「じゃあまさか、また魔術師が学園都市に攻め込んでるってのか!?」
「……平たく言えば、そういう事だにゃー」

土御門から、ひと気の無い路地裏へと呼び出された上条は、緊張を走らせていた。
第三次世界大戦が終わり、グレムリンとの戦いが終結した現在でも、
未だに科学サイドを憎む小規模な魔術結社は少なくないらしい。
現に今も土御門は、攻め込んできた魔術結社に対して裏で対応している最中なのだと言う。
そして彼の言葉を裏付けるのが、土御門の隣にいる二人の存在。

「そんな事でもなければ、わざわざ僕が学園都市【こんなごみごみしたばしょ】へ来ると思うかい?」
「…貴方にまた借りを作ってしまって申し訳ないのですが……事態は一刻を争うのです」

ステイル=マグヌスと神裂火織。
二人は土御門と同様に必要悪の教会のメンバーであり、今回の対・魔術結社の強力な味方である。
彼らは最大主教【ローラ=スチュアート】の命令で土御門の応援に駆けつけたのだが、
それよりもインデックスが暮らすこの街で好き勝手な事はさせないという、
個人的な感情でも動いている。というよりも、そちらの理由の方が大きいのだろう。

「それで…敵はどんなヤツなんだ…?」

上条はこの中では一番魔術について素人だが、それでも全く情報を知らないのと、
多少でも知っているのとでは、いざ敵と遭遇した時の対処に大きな差がある。
真剣な面持ちで土御門たちに探りを入れてみた…のだが。

「……あ、あれ? 何なのですか皆さん? その顔は…」

何故か土御門は半笑い、ステイルは心底ウンザリしたように、そして神裂は真っ赤に、
それぞれ三者三様の表情を浮かべるが、共通してあまり緊張感がないように見える。
だが黙っていても始まらないので、土御門が代表して上条の問いに答えた。

「あー、カミやん。その前にまず『七つの大罪』って知ってるかにゃー?」
「…? マンガとかゲームで、たまに見かけるけど…」

七つの大罪…それは主に十字教の西方教会で使われている用語である。
十字教において最も重いとされる七つの罪業の名称なのだが、正確には罪そのものではなく、
人間を罪へと導く可能性があるとされている欲望や感情の事をさしている。
『憤怒』 『怠惰』 『嫉妬』 『傲慢』 『強欲』 『暴食』 『色欲』
それら七つの欲望や感情は人ならば誰しもが持ち合わせているが、
それが大きく膨れ上がると人は罪を犯す…と考えられている。

「けど、それがどうかしたのか?」
「今回の敵さんは、それらを増大させる術式を使うって事だぜい」

科学サイド【こちら】で言えば、精神操作系能力のようなものだろうか。
上条は『一度も会った事は無い』が、おそらく第五位の能力に近いと思われる。

「大罪は七つ…つまり魔術をかけられた人数も七人。
 七人の能力者を欲望の赴くままに暴れさせて、
 学園都市を内部から崩壊させるのが連中の狙いって所かにゃー」
「…ん? でもそれならあまり被害は大きくならないんじゃないか? たった七人じゃ―――」

言いかけて、上条はハッとした。
この学園都市には、たった一人で軍隊と戦える程の力を持っている能力者が、
『ちょうど』七人いるのである。

「ま、まさ…か…?」
「そのまさかだぜい。連中は学園都市が誇る最強の能力者、
 『レベル5』に術式をぶつけたんだぜよ!」

あらゆるベクトルを操作し全てを破壊する力を持つ能力者、一方通行。
この世に無い物質を創り出し物理現象までも捻じ曲げる能力者、垣根帝督。
最強の電撃使いであり幅広い応用力や対応力を持つ能力者、御坂美琴。
下手をすれば自滅する危険性もある程に絶大な威力を持つ能力者、麦野沈利。
全ての人間を指先とリモコン一つで操る事の出来る能力者、食蜂操祈。
未だ実力を見せないがレベル5の一角として確かな実力を持つ能力者、藍花悦。
木原一族すら匙を投げる程の繊細な力を根性の一言で片付ける能力者、削板軍覇。
そんな怪物共が一斉に暴れたら、確かに学園都市は呆気なく崩壊するだろう。


721 : とある術式の七大罪源 :2015/08/22(土) 17:09:28 Hy7/fOQ2
「ヤベェじゃねーか! お前ら何でそんなに余裕あんだよ!?」

上条は妙に緊張感の無い表情を浮かべる三名を怒鳴るように、声を荒げた。
レベル5達が本当に敵の術中ならば、過去に類を見ない程の緊急事態である。
が、土御門は相変わらず飄々としながら答える。

「あ、それなら意外と大丈夫っぽいぜい。
 ちょっと様子を見てきたんだが、レベル5達【あのアホども】の周りは平和だったにゃー」
「………へ?」

そうなのである。
確かにレベル5達は七つの大罪によって欲望や感情を増幅されてはいたが、
敵の狙いである「学園都市を破壊する程の大暴れ」はしていなかったのだ。

例えば『憤怒』を増幅された一方通行は、
「テメェ番外個体ォ! 今、俺の酢豚ン中の肉盗りやがっただろォ!!!」
「ギャッハハハ☆ 盗られる方が悪いんだぜ第一位!」
「まぁまぁ一方通行。ミサカのピーマンあげるから、ってミサカはミサカはなだめてみる」
「そりゃァ自分で食いたくねェだけだろォが好き嫌いすンなくそガキィ!!!」
「こらこら、食事中にケンカはよくないじゃんよ」
「うっせェよ黄泉川ァ!!!
 つーか元はと言えばテメェがケチって肉少なめにしたンが原因だろォがァ!!!」
「どうでもいいけど埃立てないでくれるかしら?」
「どォでもいいけどテメェはとっとと職探せや芳川ァ!!!」
これといって特に普段と変わらず。

『怠惰』を増幅された垣根帝督は、
(今頃、本体である私…垣根はどこで何をしているのでしょうか…?
 まぁ、私には関係ないですかね。私は私ですし、考えるのも無意味なのかも知れません)
これといって特に普段と変わらず。

『嫉妬』を増幅された麦野沈利は、
「はぁ〜まぁ〜づぅ〜らぁ〜……」
「うおわぁ!? むむむ麦野!? さっきから原子崩し乱発とかシャレになってねーぞ!?
 何なんだよ! 俺に何か文句とかあるんなら言ってくれれば―――」
「……ート…」
「へっ!?」
「テメェまた滝壺とデートしやがっただろぉ!!!
 ふっざけんな私にも構えよブッ殺すぞ浜面の分際でゴルァ!!!」
「ええええええええええ!!!?」
これといって特に普段と変わらず。

『傲慢』を増幅された食蜂操祈は、
「貴方は私の肩を揉みなさぁい」
「はい女王」
「貴方はお茶を淹れてくれるかしらぁ?」
「はい女王」
「貴方と貴方はお茶菓子を買ってきてぇ。ダッシュでねぇ」
「「はい女王」」
「貴方達はそうねぇ…私を楽しませる為に、即興力の高いコントでもしてちょうだぁい」
「「「はい女王」」」
「みんな私へ奉仕できる事を、光栄力で満たされなさいよねぇ」
「「「「「「「「「「はい女王」」」」」」」」」」
これといって特に普段と変わらず。

『強欲』を増幅された藍花悦は、
「ああっ!? おい、ちょっと待ちやがれクソ第六位!
 今日だけで『藍花悦』の名前貸すの何人目だと思ってんだボケカスオラァ!
 なんでもかんでも救おうとしてんじゃねーよ、どんだけ援助欲求高ぇんだよテメェは!
 いくら内蔵潰しの横須賀さんでも身体は一つしかねーんだから、ちったぁ休ませ…
 え? 時給30%アップ? ……チッ、仕方ねぇなアホンダラ」
これといって特に普段と変わらず。

『暴食』を増幅された削板軍覇は、
「ガツガツもぐもぐバクバクはぐはぐ!
 ごくん…おばちゃーん! カツ丼と豚汁おかわりー!
 あとついでに唐揚げとフライドポテトとだし巻き卵も追加で!」
「はいよー! お客さん、豪快に食べてくれるから作る方としても気持ちがいいよ!」
「俺は、そんじゃそこらの学生とは根性が違うからな! 胃袋も根性がすわってんのさ!」
これといって特に普段と変わらず。


722 : とある術式の七大罪源 :2015/08/22(土) 17:09:57 Hy7/fOQ2
とまぁ、そんな感じで件の魔術結社の思惑とは大きく外れ、
結果的に言えば何一つ変わってはいなかったのである。
なので土御門たち必要悪の教会は、悠々と敵を探しに行けるのだ。
先程の余裕も、それが原因なのかも知れない。
しかし少なくとも、上条に助力を求める程度の事態である事は間違いない。
わざわざこんな路地裏に呼び出したのだから。

「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「ん〜…何をって言うかナニをって言うか…」

すると土御門は、半笑いな顔を更に不気味な程にニヤニヤさせ、
ウンザリしていたステイルは、何故か上条にゴミ虫でも見るかのような目を向け、
神裂は顔を真っ赤にさせたままゴホンゴホンと咳払いし始めた。

「あー、カミやん。確かに他の六名のレベル5は大丈夫だったんだけど、
 一人だけ面倒な事になってるのがいてにゃー」
「面倒…?」
「まぁ、論より証拠。実際に見てもらった方が早いかにゃー。
 ねーちん、例の子を連れて来てくれだぜい」
「…わ…分かりました……」

土御門に言われるがまま、神裂は路地裏の奥へと引っ込んでいった。
そしてそのまま、ものの数分もしない内に一人の女性を連れてきたのだが、
その連れて来られた女性は上条のよく知る人物だった。
しかし、上条のよく知る女性は、明らかにいつもの様子ではなかった。

「み、美琴っ!? どうしたんだそんなに息荒くして!?」
「はぁ、はぁ…当麻……当麻ぁ!」

美琴だった。それは紛れも無く、御坂美琴だったのだ。
美琴は「はぁはぁ」とヨダレを垂らしながら上条の名前を連呼して、
潤んだ瞳でこちらを見て、何かに耐えるように体を小刻みに震わせていた。

「え、これ……えっ!? なにがどうなってらっしゃるので!?」
「『色欲』だぜい」

混乱する上条の問いに、土御門はこれ以上ないくらいに簡潔に答えた。
七つの大罪の術式を受けた他の六名のレベル5達は、
これといって特に普段と変わらなかったのだが、
それはそれぞれが受けた罪が普段の性格と大して変わらなかった
(一方通行で言えば、普段から『憤怒』する機会などザラにあった)おかげである。
しかし美琴は普段から『色欲』を前面に出す事などない。
それをやっているのは白井や青髪、オリアナ姉さん辺りである。
故に美琴だけ魔術の効きがハンパなく発揮され、こんなにエロエロしてしまったのだ。
もっとも、美琴も『憤怒』や『嫉妬』ならば普段と変わらなかったのかも知れないが。
だが、どんな効果であろうとも魔術は魔術。異能の力に変わりはない。ならば―――


723 : とある術式の七大罪源 :2015/08/22(土) 17:10:30 Hy7/fOQ2
「じゃあ、とっとと美琴の体を元に戻そうぜ。幻想殺しなら一発なんだろ?」

ところが。

「あっ、それ無理」
「えっ……」
「この術式は、確かにカミやんの右手で触れれば一発で解決する。
 けどその触れる場所が問題なんだぜい」

土御門のサングラスがキラリと光った。嫌な予感がする。

「えっと…どういう事だ…?」
「この術式を受けた者は例外なく特殊な刻印が浮かび上がる。
 けどその刻印は、それぞれの大罪に関係のある場所に現れるんだぜい。
 例えば『強欲』なら何もかも奪うその『手』に、
 『暴食』なら全てを貪る『口の中』って感じでにゃー。
 で、ここで問題なんだが、『色欲』を司る体の部位とは一体どこでしょう?」

その問いに、上条は冷や汗を滝の様に流す。

「ま…まさか……」
「そう、そのまさかだぜい。つまりおま」

土御門が放送禁止用語を言いかけた瞬間、神裂が土御門の顔面目掛けて鉄拳【ツッコミ】をめり込ませた。
これはつまり、美琴の『色欲』の刻印を打ち消す為には、
上条が右手で美琴のイケナイ部分をアレやコレやしなくてはならないという事だ。

「い、いやそれは色々とマズイだろっ!?」
「いってて…それが無理なら、オレ達が敵さんをブッ倒すしか方法はないんだが…
 その間、超電磁砲をこのままの状態で放っておく訳にもいかないだろ?
 それでカミやんを呼び出したって寸法だぜい」
「っ!? ちょ待っ! まさか俺に今の美琴のお守りをしろと!?
 一緒に敵と戦えってんじゃなくて!?」
「自惚れるな。君は本来、魔術サイド【こちら】とは関係ない人間だろう」
「それに貴方には、あの子の為にも危険な事はしてほしくないのです」

すると今まで黙っていたステイルと神裂が口を挟んできた。
上条を戦場へと引っ張るのは、彼らの本意ではないのだ。しかも。

「それにその超電磁砲、捕まえた時からずぅ〜〜〜っとカミやんの名前を呼んでるぜい?
 って事はカミやんしか面倒を見られないって事じゃないかにゃー?」
「丸投げしてるだけだろそれっ!」

とは言っても、確かに土御門の言う通り美琴をこのままの状態で放っておく訳にはいかない。
こんなフェロモンを撒き散らしたまま外に出せば、すぐさまスキルアウトの餌食となり、
ヒャッハーされて薄い本みたいな展開になってしまうかも知れない。

「だから、もしその超電磁砲が大事なら、カミやん自身が守っとく必要があるんだぜい」
「ぐっ…! わ、分かったよ! けど出来るだけ早く解決してこいよ!」
「カミやんこそ、いざとなったら『色欲』の刻印を解除しろよにゃー。
 路地裏でヤルのが気まずかったら、そこの角を曲がった所にホテルがあるから―――」
「いいからとっとと行けよこの野郎!」



こうして上条は、半ばキレ気味に土御門たちを見送った。
彼らが無事に魔術結社を潰してくれるのを祈るしかない。

「当麻ぁ…! キスぅ…キシュしてぇ…」

あとは事件が解決するまでに、自分の理性を保てるかが問題である。


724 : とある術式の七大罪源 :2015/08/22(土) 17:11:07 Hy7/fOQ2
 ◇


「ねぇ当麻ぁ…! 私もう…我慢、でき、らいろぉ!」
「そこを何とか我慢してください美琴さんっ! 上条さんも色々と我慢しますからっ!」

何だかよく分からないが、何故か敬語になる上条である。
美琴はあざとく自分の胸を上条に押し付けながら、服の上からボディタッチしてくる。
いや、ボディタッチなんて生易しい物ではない。完全に『誘ってる』手付きだ。

「…なんで…? 当麻は私の事…嫌い…なの…?」

上条に拒否されると、途端にシュンとする美琴。
上条だって男の子だ。据え膳を出されれば食べたいに決まっている。
しかしそれでは動物と同じだ。人間である上条には理性があるのである。

「い、いや、嫌いって訳じゃ…」
「じゃあ好き!? 好きならキスして!? キスキスキスキスぅ〜〜〜!!!」
「〜〜〜っ!!!」

嫌われてないと分かった瞬間、表情をパァっと明るくさせてキスをねだる美琴。
可愛い。上条も思わず抱き締めてあげたくなってしまう程に。
だってしょうがないじゃないか。人間だって動物だもの。

「で、でもダメだ! 今の美琴は魔術でおかしくなってるだけなんだから!
 こういう事は、お互いに正気を保ってる時にだね!」

まるで正気を保ってる時ならキスしてもいいかのような物言いである。

「やだ…だって我慢できないもん……ほら、触って…?」
「っ!!!?」

すると美琴は、上条の右手をグッと掴み、そのまま自分の胸に当てた。

「…ね? ドキドキ…してるでしょ…?
 当麻だから…私がこんなになってるのは当麻がいるからなのよ…? だから…」

そして美琴は、制服の上着をスルッと上にずらし、お腹を見せ付けたまま一言―――

「だから……して…?」
「し、ししし、してって何をっ!!?」

何を、と言っているが上条もそこまで馬鹿ではない。
本当は分かっているのだ。美琴が何を求めているのかを。
そんなテンパる上条を楽しむかのように、美琴はクスッと笑い、突然思いっきり抱き締めてきた。

「何って…こういう事!」
「っ!!? ぐっ…がっ!?」

抱き締めたと思ったら、美琴はそのまま放電した。
極寒のデンマークで、美琴が初めて上条に勝利した、あの時のように。

「な、にを!?」
「だって…こうでもしないと当麻ってば素直になってくれないんだもん…」

美琴は上条を痺れさせて、動けなく【にげられなく】なった所で行為に及ぶつもりらしい。
行為が何か分からない場合は、家族の人に聞いてみよう。気まずくなる事請け合いである。

「いっぱい…気持ちよくしてあげるね…?」
「い、いや待て待て美琴! 話せば分かるから、まずは離して!」
「ダ〜メっ!」

『色欲』を増幅された美琴は、半裸の状態のまま上条に覆い被さった。
対して上条は、先程の放電で体が痺れて身動き一つできない。
上条が逃げられない状態のまま、美琴は上条のズボンのファスナーに手をかけた。

「……………あれ? 私こんな所で何してるんだろ?」

ファスナーに手をかけた所で、突如として美琴は正気に戻った。
土御門たちが無事に敵の魔術結社を殲滅させたのだろう。
路地裏【このばしょ】で別れてからまだ数分しか経っていないが、
土御門ら必要悪の教会が非常に優秀だったのか、それとも敵が予想以上にアホだったのか、
とにかく事件は過去に例がない程にスピード解決したのである。

が、今はそこにツッコんでいる場合ではない。
ふと美琴が下を見ると、何故か上条がそこにいる。
しかも何故か自分は半裸の状態で、何故か馬乗りになっている。
ついでに、何故か自分の身体がじんわりと火照っている。

「えっ!? えっ!!? ええええええええええぇぇぇぇっ!!!?!!?!??!?」

美琴は瞬間的に顔を沸騰させて絶叫した。
さて、どこから説明したものか。
いや、そもそも今の美琴に説明を聞けるだけの冷静さがあるのだろうか。
上条は『あらゆる意味』を込めて、いつものセリフで締めるのだった。

「…はぁ、不幸だー……」


725 : くまのこ :2015/08/22(土) 17:12:02 Hy7/fOQ2
以上です。
何か自分が書いたのばかりで飽きられてないか、ちょっと心配です…
ではまた。


726 : ■■■■ :2015/08/23(日) 04:35:11 ooZmkahg
そんなことないです��いつもROMってます。


727 : くまのこ :2015/08/28(金) 00:11:58 m/YGuquc
ホント何度もすんません、また連投になります。
訳あって女装する事になった上条さんとデートするミコっちゃんっ…
ていう特殊な構図の上琴を書いてみました。
約3分後に4レスです。


728 : カミー=ジョナサン :2015/08/28(金) 00:15:01 m/YGuquc
一端覧祭二日目。
上条のクラスはたこ焼きの屋台を営業しているが、準備期間中もサボりまくっていた上条は、
罰として二時間に一度のトイレ休憩(10分)と午後二時からの遅めの昼休憩(30分)以外に、
屋台から出る事を禁じられていた。
(ちなみに上条の昼休憩が遅めなのは、客のピークも昼時だからである)
二人一組で屋台を切り盛りしているのだが、事実、初日は上条の相方役は何度も交代したのに、
上条だけはずっとたこ焼きを焼き続けさせられた。
なので二日目である今日も、そうなのだろうとウンザリしていたのだが。

「……え? 今日は屋台出なくていいのか?」
「まぁ、そういう事だにゃー」

土御門から思わぬ一言。

「えっ、えっ!? いやでも、吹寄とか小萌先生とか何て言うか…」
「あー、その辺は大丈夫だぜい。ちゃんと一日外出許可は貰ってあるからにゃー」
「……………」

何故だろう。嬉しいはずなのに、手放しで喜べない。
出席日数と成績の悪さをここで補わせようとしている小萌や、
上条の天敵とも言える吹寄が、ここでアッサリと上条を見逃すはずがない。
何より、目の前の土御門の怪しいニヤニヤ顔が、
何も言わずとも「勿論タダって訳にはいかないけどにゃー」と語っている。

「……で、上条さんにどこで何をしろと…?」
「女装コンテストですたい」

上条の頭の中が真っ白になった。


 ◇


ここは第9学区。工芸や美術関連の学校が集まる学区である。
この学区にあるという、とある美術学校で、本日女装コンテストがあるらしい。
女装が美術なのかどうかは分からないが、まぁ一端覧祭も文化祭の括りなので、
楽しめればいいんじゃね的なノリなのだろう。
だがそこはやはり美術の専門学校。
毎年イベントの参加者はレベルが高く、優勝者には賞金も出るらしい。

そしてそこへ向かう一人の『少女』がここにいる。
長く艶やかな髪を後ろで束ね、男物のタキシードを着ているものの、
薄く化粧を施した端正な顔立ちと、そのささやかながらも主張する胸の膨らみは、
隠しても隠し切れない女性らしいラインを醸し出していた。
彼女の名は『上条当麻』。自称・世界一不幸な人間である。

「って、なんじゃこりゃあああああああ!!!」

その絶叫に、道行く人が振り向く。
男装の麗人(笑)が突然大声を上げたというのも理由だが、
単純に目を奪われる男性も多いのだ。

上条の女装は完璧だった。
元々そこまで悪くない容姿だった為、ほんの少し化粧をしただけで見違えるように美人となり、
敢えてタキシード姿という男装にする事で、逆に女性っぽさを強調している。
女装の上に男装を重ねている為、『装』が渋滞を起こしているが、
コーディネーターに言わせれば計算しつくされた女装なのだとか。
そして胸には、丸めたタオル等を詰め込んでいるのだ。触れば一発で偽乳【ぎにゅう】だと分かるが、
見た目だけで判別するのは、その道のプロ(?)でなければほぼ不可能に近い。
ちなみに化粧担当は姫神、コーディネート担当は青髪である。青髪はその道のプロである。
更に念の入った事に、首につけた蝶ネクタイは変声機となっており、
阿○敦さんみたいな声だったのが、佐藤○奈さんみたいに変わっている。
この変声機、土御門がスパイ活動する際に役立つと思って(遊び半分で)開発した物なのだが、
性能は無駄に良く、今の見た目も相まって誰も上条とは気付かない。
余談だが、腕時計型麻酔銃はつけていない。おっちゃんごめん。

と、そんな時だ。

「すみません御坂さん! 第9学区来るの初めてで道に迷っちゃって!
 って言うかさっきの『なんじゃこりゃああああ』ってどうしたんで…あれ?」

先程の上条の叫びに反応して、佐天がやってきた。上条は一気に青ざめる。
こんな姿を知り合いに、それも女の子にバレたら、上条さんの黒歴史が確定する。

「あっ!? い、いえ何でもございませんですことよオホホホホホホ」

とりあえず、とっさに誤魔化す上条。

「あっ! あたしこそすみません! ちょっと待ち合わせしてる人と声が似てたもんで…」

佐天が待ち合わせしているのは、おそらく美琴だろう。
彼女もまた、変声機で声が変わっている今の上条と同様、佐○利奈さんみたいな声をしている。


729 : カミー=ジョナサン :2015/08/28(金) 00:15:33 hhV2YpXs
「そ、そんなに似てんのか…じゃなくて! 似ていらっしゃいますですか?」

微妙にキャラが定まっていない上条。

「もうソックリですよ!
 あ、そうそう。ソックリって言えばこの前その人とソックリな人を見かけまして―――」

佐天が目撃した美琴ソックリな人とは、100パー妹達の誰かだろう。
が、そんな事よりも何よりも、この佐天、
たった今知り合ったばかりの女性と当たり前の様に雑談を始めている。
彼女のコミュ力はハンパないのである。と言うかそもそも、待ち合わせ【みこと】はどうした。

「―――っとと! こんな所で話し込んでる場合じゃなかった!」
「あっ! そういや俺もだ!」

ようやく気付いた佐天。
話し込んでる場合じゃないのは上条も同じだが、ついつい佐天のペースに巻き込まれていたらしい。

「あ、じゃああたしはこれで! っとその前に、一応お互いに名前くらい名乗っときましょうか。
 あたしは佐天涙子。柵川中学の一年です」
「ああ、俺は上条さ………………」

上条さんウッカリである。

「…え? カミジョウサン…?」
「えっ!!? あ、い、いやいや違いますわよっ!?
 俺…いや私は上じょ、じゃなくてその…かみ…じょ…さ……じょ、なさん……
 そ、そう! カミー=ジョナサン! カミーって呼んでくださいデース!」

とっさに誤魔化しはしたものの、まさかの外国人設定である。
しかも「ジョナサン」は普通、苗字ではなく名前なのだが。

「……へぇ〜…カミーさん、ねぇ…」

佐天は一気に疑いの眼差しを上条改めカミーに向け、何かを悟ったかのようにニンマリする。
彼女の面白に対する勘の鋭さはハンパないのである。

「そう言えばカミーさん。
 今日この学区にある美術学校で、女装コンテストがあるのは知ってますか?」

カミーは背筋をビクウゥッッッ!!!とさせた。

「そそそそうなんだあ!!! し、しし、知らなかったわいな〜〜〜!!!」
「そうですか〜知りませんでしたか〜」
「ええもうそりゃもう全然知りもしませんでしたともっ!!!」

佐天は含み笑いをしながら相槌を打つ。
何かもう完全にバレている気がするが、ここまで来たら突っ走るしかない。
と、このタイミングで。

「あ〜、いたいた佐天さん! もう探したわよ!」

言いながら駆け足で近づいてきたのは美琴だ。佐天の待ち人来たってしまった。
そしてカミーの背筋が凍りつく。これ以上、知人に痴態をさらすのは勘弁してほしい。
佐天には何か、もうバレてるっぽいし。

「…ってあれ? こちらはどなた…?」

美琴はすぐさま佐天の隣にいる見覚えのない男装の麗人(笑)に目を向ける。
どうやら彼女(笑)の正体には気付いていないようだ。
佐天は先程以上に面白そうな笑みをこぼしながら答えた。

「ああ、こちらはカミー=ジョナサンさんです。さっきお知り合いになりました」
「は、はぁ。えっと、初めまして。御坂美琴です」
「え、えっ!? あっ! は、はじ、初めましてカミー言いマスイギリスから来たデース!」

イギリス清教と関わりがあるせいか、とっさにイギリス人設定を追加【いらんこと】をするカミー。
自分で自分の首を絞めているのが分かっているのだろうか。
しかし美琴が、ここでちょっとした疑問をぶつけてくる。

「あれ…? イギリスから『来た』って最近学園都市に来たみたいな言い方ですけど、
 一端覧祭って大覇星祭とは違って外部からの一般客って入れないんじゃ…?」
「あっ、それはですね」

ここで何故かカミー本人ではなく、佐天が口を挟む。な〜んか嫌な予感がヒシヒシと。

「カミーさん、柵川中学【ウチのがっこう】の留学生なんですよ。
 実際に転校してくるのは三学期に入ってからなんですが、
 それまでに学園都市の中を見学しておきたいって言うんで特別に許可貰ってあるんです。
 ねー、カミーさん。そうですよね? ねっ?」
「ええええええええええええぇぇぇ!!!?」

そして何故か、その言葉にカミー本人が一番驚いている。


730 : カミー=ジョナサン :2015/08/28(金) 00:16:16 m/YGuquc
「そうだったんですか」
「あ、うっ、ぇあ!? あ、ああ、うん、そそ、そうなんですわデースよ!
 佐t…ルイーコにはお世話になりっぱなしでオホホホホホホ!」

佐天の出任せに話を合わせるカミー。
佐天が何を企んでいるのかは知らないが、もう今更後には引けない状況だ。

「じゃあ、改めてよろしくねカミーさん」
「う、うん…ヨロシク…」

美琴が手を差し伸べてきたので、カミーもそれに応えて握手する。
カミーはまるで『高校生くらい』大人びてはいるが、
日本人は外国人から見たら幼く見えると言うし、
逆に日本人から見たら中学生(笑)でも、これくらい大人っぽく見えてもおかしくはないのだろう。
もっとも、おかしいのはそんな表面的な部分ではなく、もっと根本的な所にあるのだが。

「ん〜? あれ〜、電話だ〜! はい、もしもし〜?」

カミーと美琴が握手したそのタイミングで、佐天が自分の携帯電話に出た。
着信音もバイブ音もしていなかったような気がするのだがどうなのだろうか。

「えー? 初春そっち大変なのー?
 そっかー、じゃああたしもそっち行った方がいいかー。うん、分かったよー」

妙に棒読みなセリフを言いながら、通話を切る佐天。
本当に電話の向こうに初春がいたのかどうか疑問は残るが、
そこへツッコむ間もなく佐天が矢継ぎ早に言い訳(のような物)を繰り出してくる。

「やー初春から電話があったんですけど一端覧祭中は風紀委員の手が足りないってんでちょっとヘルプに行ってきますねでもカミーさんを一人にはできないんで御坂さん学園都市を案内してあげてくれますか勿論二人っきりであっそうそう人混みが激しいですからはぐれないように手とか握った方がいいですよではカミーさんをよろしくお願いしますではあたしはこれでさようなら!!!」
「えっ、ちょ、佐天さ…えええぇっ!!?」

そして佐天は美琴に制止させる暇も与えず、あっと言う間にその場から姿を消した。
どうしよう…と美琴は思った。
確かにカミー一人を取り残す訳にはいかないが、美琴とカミーは初対面(笑)である。
案内するにしても、ギクシャクする事請け合いだ。

「え、えっと…カミーさん、具体的にはどこへ行きたいの?」
「え、あー…その……な、何と言いますデスカ…」

カミーの目的地は美術学校の女装コンテストなのだが、それを言ってしまっては、
自分が女装している事がバレてしまうかも知れない。思わず言葉に詰まってしまう。
しかしそのどもりを特に目的地がないからなのだと解釈した美琴は、
佐天に言われた通りカミーの手を握り、引っ張る。

「あ、じゃあ私がオススメの場所を案内してあげる。行こ?」
「あ、ああうん、ありが―――おぅわっ!!?」

しかしここでカミーの不幸体質&ラッキースケベ体質が発動した。
いきなり腕を引っ張られた事でバランスを崩し、前につんのめってしまう。
そしてそのまま、ぽふん、と顔を美琴の胸の中にダイブさせてしまった。
カミーは慌てて美琴から離れ、精一杯の平謝りをする。『何故か』よく見かける光景である。

「うわわわわすまん美琴っ! わ、わざとじゃないんだっ!」

テンパったせいでカミーも素の反応を見せてしまう。
妙にどこかで見覚えのあるカミーのリアクションに疑問を持ちつつも、美琴はカミーをなだめた。

「落ち着いてカミーさん。別に怒ってないから」
「…え? でもいつもは…」
「…? 『いつも』?」
「あ、ああいや、ななな、何でもありませんですことよ!?」

『いつも』はこんな状況になると美琴は、
「にゃああああ!!! ななな、何やってんのよ馬鹿っ!!!」みたいな反応を見せる。
しかしそれは相手が『ある特定の男性の場合』であり、今ここにいるのはカミーという『女性』だ。
いつもと違う反応をしてもおかしくないのである。

「そう…? それならいいけど…」

何なのだろう。先程からカミーに感じる、この既視感は。
だが変な事を言っては失礼になるかも知れない。
美琴はその既視感を自分の胸の内にしまい、今度こそオススメの場所を案内した。
相変わらず、カミーの手を握り締めながら。


731 : カミー=ジョナサン :2015/08/28(金) 00:16:51 m/YGuquc
 ◇


あれから美琴は、色んな場所をカミーに連れて行った。
美味しいと評判のパンケーキ屋で、カミーと『一つのフォークで「あ〜ん」させ合った』り、
カミーの指先に付いた生クリームを『ペロッと舐めてみた』り。
ランジェリーショップでは、カミーのサイズを測る為に『あちこち触ってみた』
(ちなみにその際カミーの胸を触って偽乳だと気付いた美琴だが、パッドなのだと解釈し、
 自分でも思うところがあるのか泣きながら「うんうん」と頷いていた)り、
カミーの目の前で『下着を試着してみた』り。
どれもこれも女性同士だからこそ出来る事であり、女性同士なら何の気概も必要ない事だ。
なのだが先程からどうもカミーの様子が、

「ミミミミコミミコミコっちゃんっ!!?
 ああ、あの、さ、さっきから少々大胆すぎやしませんでせうかっ!!?」

何だかず〜〜〜っと赤面しっ放しなのである。
しかし美琴としては何一つ大胆な事をしている自覚はない訳で、首を傾げる。

「そう? 友達同士なら普通だと思うけど」

まぁ確かに初対面の相手には流石に失礼だったかな、とか、
イギリスって女性同士であまりスキンシップってしないのかな、とか、
色々と美琴の頭を駆け巡ったが、先ほども説明したように問題はもっと根本的な所にある。
カミーはこれ以上美琴と一緒にいると『色々と危ない』と判断し、美琴と別れる事を決意する。
そもそも、そろそろ美術学校へ向かわないと女装コンテストに遅れてしまう恐れもあるし。

「あっ! そ、そうだわー! 私ちょっと急用を思い出したデースので、もうこの辺で!」
「えっ!? あ、そうなの? じゃあ駅まで送ってくわよ」
「うえっ!!? いい、いや、だ、大丈夫ですぞ!? それくらいなら一人で―――」

手をわたわたさせて美琴の申し出を必死に断ろうとしたその時、
再びカミーの不幸体質が発動した。ただし今度は、ラッキースケベは無しである。

ズルッ…と突然、カミーの髪の毛が落ちた。
驚くべき事に、ジツハカミーハウイッグヲツケテイタノデアル。
そしてウイッグの下からは、見覚えのありすぎる特徴的なツンツン頭が。
瞬間、今までの既視感の正体が晴れるように理解できてしまった。

「っっっ!!!!!???!??!!!?!!?!??」
「いいいいやちちち違うぞ美琴これには事情があってだなっ!!!」

カミー改め上条が女装していた事とか、それを黙っていた事とか、
追求するべき事が湧水の様に溢れ出てきたのだが、それより何より美琴が気にするべき事は。

上条を連れ出す時に何をした? → 手を握った。
上条が転んだ拍子に何があった? → 自分の胸に顔を突っ込ませた。
上条とパンケーキをどう食べた? → 同じフォークで「あ〜ん」をし合った。
上条の指先に付いたクリームは? → 自分がペロッと舐めた。
上条のサイズを測る時は? → 自分があちこち触った。
上条の目の前で何をした? → 下着の試着を―――

そこまで考えた瞬間、美琴は記憶を失った。
その後二人がどうなったかは記録されていないが、
原作で一端覧祭の後も話が続いている事から、まぁ結果的に無事だったんじゃねーの?


732 : くまのこ :2015/08/28(金) 00:17:30 m/YGuquc
以上です。
ではまた。


733 : ・・・ :2015/08/29(土) 12:43:16 uO04iCiY

ども、ご無沙汰してます・・・です。
長い夏休みになっちゃいましたね。

さてさて、くまのこさん


〉〉愛は花、君はその種子
「思い出」だけだとボロボロだけんども、
「美琴との」がつくとどれも倒しい思い出にリメイクされる。
途中のデート風景もニヤニヤものでっすね!!


〉〉夏祭りなんてリア充め!!
こっちは1つの道しか行けないですもんね。
全ルートニヤニヤしました。オチは、変えようがない運命だよね。
あれ?? 当麻くん、中学生に手を出してる!!!


〉〉格差是正が今後学園都市にとって大きな社会問題の……
オチは、変えようがない運命だよね
スーパーに付き合うたびに、毎回美琴は無理やり上条からウインナーを挿入される
……なんか間違えた??


〉〉お願いだからぁぁぁ!! 外に出してぇぇぇぇぇえええ!!
電車からって話だよ?
情状酌量の余地なし。やったって!! 吹寄はん!!
美琴ちゃんは幸せそうだなぁ(棒)


〉〉今日も学園都市は平和である
おかしい、過激なのに前のがもっとひどすぎていろいろ麻痺してる
ねーちんのツッコミを受けたのに、土御門、お前はまだ立つというのか!!
立つってそっちの意味じゃないよ……下ネタ多すぎる!!!(笑)


〉〉真実はいつも1つ!!!!
名探偵シャーロック=涙子は真相を解き明かした後、主犯になりやがったのである
美琴ちゃんが男装すれば……ほら!! いつも通り!!!
ん? 青ピの守備範囲に「ショタ」と「男装の麗人」があったような……?


くまのこさん、いつも笑いありエロあり涙ありエロあり笑いあり笑いありの作品感謝です。


さて、投下します。
この「激劇」長くなってしまった。
もともと2つに分ける予定だった話をまとめたんで無理ないですが……

注意!!!!
オリ設定(笑)多数。なんちゃってシリアス多数。鬱モドキ多数。
荒らしたくないので、不快な方は読み飛ばすか、あっちでメッセージ機能でお言葉をください。
そして、美琴がママで当麻がパパでインデックスが赤ちゃんです。
以上がよければお付き合いください。


それでは


734 : 激劇 2 :2015/08/29(土) 12:48:45 uO04iCiY
テケテケテケと小さな2つの足が駆けまわる。
それをさっと抱き上げたのは、ツインテールの少女。

「あう、くおこー」

「ダメですわよ。邪魔になってしまいますわ」

「まーま、びりり?」

「えー、あれは……」

白井の視線の先にいるのは、ドレスを着た美琴。
この前は美琴のあまりの美しさに息を飲んだ周囲が、
現在は恐怖に固唾を飲んでいる。
雷神様の堪忍袋がパンパンなのだ。

「アンニャロウ」

美琴の視線の先は、
嵐。
3D映像が見せる情景は、荒れ狂う大海。
水をぶっかけられ、ずぶ濡れの上条はリフトに揺られている。
映像でリフトは隠れ、まるで2人は本当に大波に揉まれているように見える。
そう、彼に寄り添う姿が1つあるのだ。
こっれが美琴が気に入らない。
プリンセスドレスを着た自分に対し、
マーメイドドレスを着た人物。

「早くセリフいいなさいよ!! 先に進まないじゃない!!」

ついに堪忍袋が切れた。

「いい加減にしろや!! 食蜂!!!」



735 : 激劇 2 :2015/08/29(土) 12:49:38 uO04iCiY




「やはり、あの約束を遂行するのは、自分ではなく、貴方でなければならないようですね」

数日前、
衣装合わせで海原は仮病をした後、上条とすれ違い様にそう言った。
退場した海原に代わり、王子姿に変身した上条。

「ばぶふっ!! に、似合わなすぎでしょ〜〜!! ふっ、くっあははははは!!」

海原と違い、当然似合わない。
大爆笑の美琴。周りも笑いを堪えている。
上条ももちろんおもしろくない。
だからクラスの連中に、自分の学校でも執事&メイド喫茶の催しものがあるから無理だ、と言ってもらおうとした。
しかし姫神に連絡したら、青髪にこっちに戻らなくていいとキレられた。
なぜ、姫神は他の奴に代わるのだろうか。

「ぶぷぷー!!」

「まぁま!! ぷぷー」

美琴はまだ笑いが止まらないようだ。
つられてインデックスからもバカにされた。

上条がため息を吐いた瞬間、入り口が大きく開かれる。
中央に立つ人物のポーズは見覚えがあるのに、そのシルエットは記憶になかった。

「主役の登場だゾ☆」

で、現在。

「アンタは!! いつまでアイツの凶器に甘える予定だったのよ!! 揉まれているのは波だけでなくてだとふざけんな!!」

「いやいや、美琴、オレはあの場面、意識がない設定なのにどないすればいいの!!?」

確かにドキドキしたのは認めるが、
今の方がドキドキしている。
美琴さん、顔近すぎなのですよー!!

「毎回毎回アイツとイチャイチャしやがって!!」

「台本的にしょうがないかと!! あとあの子とは初対面のはずなのに昨日も同じ内容で怒られた気がする!! 」

「金髪ロングがそんなに魅力的かい!!」

「えー!! 一言もいってないよー!!?」

「そんなにたゆんたゆんぷにぷにがええんかコラ!!」

「嫌い、ムキムキが好きって答えた方が問題だと思います!!」

「で、アイツとはどういう関係なの!!?」

「アイツって誰さ?」

「……」

「あれ? さっきから舞台の練習してるけど、いつになったら主役来るんだろうな?」

「毎度毎度しらばっくれやがって!! 大概にしろビリビリーー!!」

「あっぶね!! 効果音が口癖になってらっしゃる!!? 昨日もこんなくだりした気がする!!?」

そこにかわいい乱入者が現れた。

「ぱーぱ!! まーま!! けーか、めっ!!」

「うぐっ、ご、ごめんなさい」

「えっ? オレは悪く……わ、悪かったよ、泣くなよインデックス」

ぐずりそうだったインデックスを白井から受け取り、慌てて2人であやす。
そこに、声をかける人物が1人。

「みぃーさぁーかぁーさぁーん」

「みしゃき!! こーちゃ!!」

「こんにちわぁー、インデックスちゃん。相変わらずキュート力抜群だゾ☆」

睨み付ける母に代わり、娘が元気に挨拶する。
もう一人も挨拶する。

「お、アンタが主役の食蜂か、よろしくな」

そろそろ美琴のデコに青筋が浮かんだと、気づく鋭さが欲しいところだ。

「……はじめまして、上条さん。わたしぃー、 御坂さんのお友達の食蜂操祈っていいますぅ。ヨロシクね♡」

「あれ? オレ名乗ったっけ??」

「ええい!! 毎日なによ!! おんなじコントしやがって!!」

「えー? 毎度毎度なんで美琴さんはお怒りになるの?」

「……死ぬ?」

「目にハイライト入れてよー、 恐いよー」

「ほんと、御坂さんこわ〜い。ね、上条さん」

「へ?」

「アアン? アンタ、もう少しまじめに練習しなさいよ」

「え〜? 監督は大絶賛力だけど?」

「能力使ってんだろォが!!」

「み、美琴さん、声が一方通行になってますよー……って顔も!!?」

白井はため息をついた。
このやり取りを何度見たかわからない。

呆れた白井の後方で、監督から練習再開の声がかけられた。


736 : 激劇 2 :2015/08/29(土) 12:50:13 uO04iCiY

そして、しばらくして再び白井は息を吐く。
息の中身は異なる。
感嘆だ。

「『助けていただいたあの時から、あなたの姿が瞼の裏から離れないのです』」

視線はスポットライトの中にいる二人。

「『どうか、私と結婚してください』」

数日前までは、2人とも演技がボロボロだったはずなのだ。
上条は演技力どころかセリフを覚えてこれなかったし、
美琴は高い演技力を持っているはずだが、相手が相手なので、しょっちゅう気絶していた。

彼らはそれを3日で修正してきたのである。
監督も素人の2人を絶賛していた。
それほどの演技だった。

きっと想像できないほどの練習をしているのだろう。

さらに上条は人のために動くとき、通常の数倍のポテンシャルを発揮する。
それが好きな人ならやる気も数倍だろう。
戦闘時の頭の良さが発揮されれば、演技やセリフの習得や記憶も簡単なようだ。
しかも教えるのはあの美琴だ。観察眼は鋭く、説明は的確。
考えてみれば彼らが本気を出せば、すぐに上達するに決まっている。

このシーンも、文句なく終わった。

その演技を見た後、休憩の時間。
息を吐いたのは、外のベンチで座る食蜂。
あの景色を見るのが辛いというわけではない。
ただ、やはりあの「はじめまして」という挨拶が、重い。
だから、もういいかな? と思った。
そろそろ誰かに役を押し付けてさっさと消えよう。
頷いた瞬間、あの毎日想っている声が聞こえた。

「おい、なにしてんだよ、食蜂」

比喩ではなく、心臓が止まった。

いつの間にか、頭が動いていた。
瞳には、幻でない彼の微笑む顔が写る。
枯れ葉が、風で舞い上がった。
その日から、毎日数時間上条の姿が消えるようになった。


737 : 激劇 2 :2015/08/29(土) 12:50:51 uO04iCiY


数週間後、

「ん? またその話?」

今日は劇の本番。
白井は美琴に駆け寄った。
しかし、対応は劇の練習期間中、なんども繰り返したものと同じ。

「しかし……」

「くおこ、だーじょぶ?」

「ほら、インデックスも心配しちゃった。気にしすぎよ、アンタは」

白井もそうだとは思う。
なんたって先日彼の覚悟を問うために、決闘を申し込んだのは自分だ。
あの覚悟が演技とは思えない。
しかし、

「では、あのお二人は毎日どこで何をしていますの?」

もし、食蜂に彼が操られていたらと白井は懸念する。

(その可能性は0なんだけどねぇ)

幻想殺し。
白井はその詳細を聞いていない。
それに…

「さ、そろそろ出番よ」

ステージを見ると、食蜂が演技をしている。

「相変わらず、演技だけは素晴らしいですわね」

「……そうね」

広い劇場の客席、
あちこちから感嘆の声があがる。
食蜂の叫ぶ嘆きが、悲鳴が、観客の心をかきむしる。

最後のセリフだ。

「私は!! こんなにもあの人を愛しているのに!!」

食蜂が舞台の袖に駆けてきた。
次は美琴の出番だ。
食蜂とすれ違う際、
互いを一瞥するが、かける声はない。

美琴が出て、演技を始めた。
再び会場がざわめく。
息つく暇もなく、劇に飲み込まれたのだろう。
指の動き、表情、声、
その全てが、観客の心に突き刺さる。

「なんで!! あの人はこんなにも遠いの!!!!?」

一部の警備員【アンチスキル】は防衛を忘れて泣いていた。
凶悪犯が脱獄したという噂があるけど、いいの?それで?

そんなことは考えもせず、白井は美琴の演技に見とれていた。
しかし、途中から、バタバタという無粋な音がする。
最初は無視していたが、ついに我慢の限界だ。

「なんなんですの!!?」

目をやると、一部の生徒が慌てふためいていた。
理由を聞き、白井は目を見開く。

「少し前から、上条さんが戻っていない??」


738 : 激劇 2 :2015/08/29(土) 12:51:30 uO04iCiY

時間を少し遡る。
上条と美琴、両者の演技がない空白の時間。
2人は近くの公園にいた。

いや、違う。

「で、なんの用だよトール?」

美琴にヒビが入る。
中から現れたのは金髪の戦神だ。

「お? よくわかったな」

「いいから要件いってくれよ、この王子の格好であまり出歩きたくない」

「……」

「……なんだよ?」

「今まで、ずっと言うのを我慢していたんだ」

「……」

雷神は大きく息を吸った。

「くっそ似合ってねーぞばぶふふふくふあはははははは!!」

「うっせーよ!! 自覚あるわ!!」

「ちょーうける!!」

「うるせぇ!! さっさと用件を言えって!!」

「悪い、悪い、あのさ、拳を構えてくれ」

木枯らしが木々を揺らす。
あまりにも、自然に言葉は紡がれたため、上条はその言葉を飲み込むのに多少時間を要した。

「殺し合おうぜ!!」

トールは笑顔で話す。
ようやく言葉の意味を理解した上条は、口からこぼれるままに音を発する。

「な、にを、言っているんだ?」

「だから、殺し合おうぜ!!」

「い、いや、オレとお前が戦う理由なんてないだろ?」

「御坂美琴」

風の音がやんだ。

「1人の女に2人も男はいらない」

そうだろ?
ニヤリ、と笑いながらトールは拳を握った。
周囲の喧騒がフェードアウトする。
世界に2人しかいないような錯覚に陥りそうになっていたトールの耳に、

「なにいってんの? 用事ないならオレ戻るよ?」

という信じられない言葉が飛び込んできた。

「は?」

今度はトールが混乱していた。
何かの間違いだと思った。
しかし、目の前の男は自分に背を向け戻っていく。

何故だ?

ヤツは自分の気持ちを知っているはずだ。
夏祭りで当て付けるように自分の感情を聞かせたから。

だというのに

ヤツは冗談だと笑いやがった

オレがどんな気持ちでここに立っているかも知らずに!!

あの少女の気持ちも察せないくせに!!

この覚悟を踏みにじる気か!!!!

呆けた顔が歪んだ時、
少年の覚悟が殺意に変わった。


739 : 激劇 2 :2015/08/29(土) 12:52:29 uO04iCiY

「まま??」

婚后の腕に抱かれたインデックスが、不安を込めて声を紡ぐ。
視線の先には愛しの母。
ドレスを纏った彼女はステージの上で佇む。
観客がざわつき始めた。
あまりにも、間が空いていた。

「もう少しお待ちください!!」

白井は叫ぶ。
相手は困った顔をした監督や責任者だ。

「とはいっても、これ以上時間を空けるわけにはいかない」

「代役を用意しますので、そちらで対処するしかないでしょう」

白井はくじけない。
あの人が待っているのは、代役なんかではない。

「お願いです!! 時間を稼ぐ方法ならありますの!!」

「そんな不確定の要素に賭けれるわけがないだろう? なにを用意すればいいんだい?」

「昭明をおねえ…御坂さまに集めるだけで構いません」

「よし、指示を急げ!!」

誰も、自分にリモコンが向けられたことに気付かなかった。

血が、飛び散った。

「て、めぇ!! 衣装に血がついちまったじゃねぇか!!!!」

「衣装?? …おまえは!! いつまでふざけてやがんだ!!」

攻撃を避け続けていた上条に、ついに拳が届いた。
口からこぼれる赤い液体が、王子の衣装を黒く染める。

「ふざけてんのは、てめぇだろうが」

「……わかった。ふざけてたかもな。手加減せず、きちんと殺してやるよ」

「……わかってねぇよバカ野郎。時間切れだ。もう付き合ってやれねぇ、沈めてやる!!」





「ふ、ふぇぇ」

「あぁ、どうしましょ!! どうすれば!!?」

観客席のプレッシャーに耐えられなくなったインデックスが、婚后の手のなかでグズりだした。

(インデックス…)

すぐに駆け寄ってあげたい。
抱きしめて安心させてあげたい。
すべてを投げ出したい衝動にかられた美琴の正面、
段々と階段のようになっている観客席の最上段、その奥の入り口付近に一瞬、

(黒子?)

瞬間移動能力者の姿が見えた。
そして、次の瞬間、手元に荷物が届く。


740 : 激劇 2 :2015/08/29(土) 12:53:09 uO04iCiY

3メートルは浮かんだだろうか?
2、3度バウンドして上条は地面を転がる。

「ガハッ、グフッ」

酸素を吸おうとしているのに、
喉は血を吐くことしかしてくれない。

「あの雪原とは違ってここには鉄道はない」

上条の吐く血を浴びたトールの足が、そのまま上条の頭を蹴りあげる。
再び距離が開いた。
トールは呆れている。
流石のタフさだ。
普通の人間ならもう気絶してもおかしくない。

「てめぇにオレを攻撃する術はない」

だが、
自分の覚悟を踏みにじったコイツを賞賛する気には、さらさらなれなかった。

「ここでてめぇを乗り越えて、アイツを奪い取ってやる」

この言葉を言い終わった後だった。
ヤツが、モゾモゾと動いた。
それだけではない。
虚ろな瞳で、ふらつく足で、朦朧とした意識で立ち上がり、
かすれた、しかし、強固な意思を孕んだ声を放った。

「…奪う?」

「あれは……ヴァイオリン?」

客席に座る硲舎佳茄は呟いた。
いつもお世話になっている御坂美琴が手にしたのはヴァイオリン。
美琴は弦を構えると、舞台の脇にいるインデックスに優しく笑みを送った。
視線が交わったのを確認すると、心のなかで頼りになる後輩に感謝し、弦を動かす。
戻った白井は、流れるメロディーを聞き、ふと声を漏らした。

「キラキラ星?」


741 : ・・・ :2015/08/29(土) 12:57:58 uO04iCiY
以上

いっとくけど、わたしゃトール大好きだかんね!!


742 : くまのこ :2015/08/31(月) 21:30:27 vq7relGU
>>・・・さんGJです!
続き! 続きはよプリーズ!
この状態でまた一ヶ月近くも待たされるのは酷ですぜ!



またネタネタしい上琴書きました。
約3分後に3レス使います。


743 : とある昨日の『あんなこと』 :2015/08/31(月) 21:33:24 vq7relGU
「んっ……んぁ…?」

心地良い肌寒さが身を包む中、美琴は目を覚ました。
冬の朝という事もあり、まだ眠く、このまま二度寝でもシャレ込もうかと思う美琴である。

(うぅ、ん…あと5分だ……け…?)

寝返りを打って反対側に体を向け、もう一度夢の世界に行こうとした瞬間、
美琴は今現在、異常事態なのだと理解する。
…いや、正確には異常事態だと『思い出した』と言うべきだろうか。
美琴の目の前、そこには。

「っっっ!!!!? なっ、ひゃえ!?」
「う〜ん…むにゃむにゃ……ミコっちゃ〜………くかー…」

上条の顔。
ちょっと近付けばキス出来てしまう程の距離にいるというのも問題だが、
それより何よりこの状況、明らかに一つのベッドで、
二人一緒に一夜を明かした事を物語っている。
しかも上条は幸せそうな寝顔で美琴の名前を寝言でほざき、その上、

「ん、ん〜……むぎゅ〜〜〜………むにゃ…」
「『むにゃ』じゃないわよっ!!!
 何、私を抱き枕代わりにしてくれてんのよアンタはぁあああああああ!!!」

思いっきり抱き締めてきやがったのだ。本当に寝ているのかコイツは。
だがここで、美琴は奇妙な点に気付く。(もっとも、現時点で奇妙な点など腐る程あったが)
上条に抱きつかれた感覚が、何と言うかダイレクトな感じがしたのだ。
いや、服は着ている。服は着ているが、いつもより遮蔽物が無いような感覚。

「っ!!? ま、まさか!?」

美琴はハッと何かに気付き、自分の体をあちこち触ってみる。
すると、とんでもない事に気が付いた。サーッと血の気が引いていくのが自分でも分かる。

「……私…下着つけてない…?」

そう。美琴はいつもの制服を着用しているものの、
その下には上下共に下着を着けていなかったのだ。
つまりはこのJC、ノーブラにしてノーパンなのである。
どうりでスカートの中がスースーする訳だ。
何しろ、いつもの短パンも穿いていないのだから。

益々混沌極まる異常事態。
しかし美琴は、普段ならとっくに「ふにゃー」していてもおかしくないこの状況で、
意外な程に冷静だった。彼女は頭を抱えて、一言呟く。

「あ〜……そう言えば昨日、『あんなこと』があったからなぁ…」

どうやら何かあったらしい。この異常事態が平常化するような、更なる異常事態が。
しかし昨日の出来事を思い出して、いつまでも後悔しても始まらない。
美琴は抱きついている上条の腕を(後ろ髪を引かれる思いで)振り解きながら、
毛布を捲り、上条の体を揺さぶって叩き起こそうとする。

「ほら! アンタも起きて…って、ええええええぇぇぇ!!!?」

だが毛布を捲った瞬間、上条のあられもない姿が飛び込んできた。
いや、下着は着けている。下着は着けているが、逆にそれ以外を着ていなかった。
つまりはパンツ一丁な状態である。ある意味、今の美琴とは対極的な姿だ。
美琴は顔を真っ赤にしながらも、「やっぱり『あんなこと』が…」とブツブツ呟く。
その声が脳に届いたのか、上条はうっすらを目を開けた。

「んぁ、あ…? ふあっあああぁ…う〜、はよー、美琴…」
「あっ、お、おはよ……じゃなくて! 服着なさいよ馬鹿っ!」
「……ん…? あ〜、そういや昨日『あんなこと』があった後そのままだったか…」

上条は目をこすりながら、ぼんやりと周りの状況を把握する。
大きなあくびをしながら、もそもそとベッドから起き上がった。

「えっと、着替え着替え…昨日脱いだ奴でいいか」
「っ!!!」

まだ半分寝ている頭を必死に働かせ、
上条はベッドの周りに無造作に脱ぎ捨ててある自分の服に手を伸ばす。
その姿をポヤ〜っと見つめていた美琴は、ハッとして目を逸らした。
でもすぐチラチラと見てしまう。「くやしい…! でも見ちゃう…!」な状態である。
上条からすると自分の下着姿など見られても大して恥ずかしくもないが、美琴は違う。
肌色率80%以上の上条の姿に、否が応でもドギマギしてしまうのだ。


744 : とある昨日の『あんなこと』 :2015/08/31(月) 21:33:54 vq7relGU
「あっ、そうだ! 結局あの後、電池切れの方は大丈夫か?」

上条はTシャツを着ながら話しかけてきた。
電池切れとは美琴が能力を使い続けた為に、
まともに立っている事も出来なくなる状態の事である。
美琴は確認するように、小さな火花を「パチッ!」と散らせた。

「う〜ん…まだ本調子じゃないけど、一応もう使えるみたいね」
「あんま無理すんなよ? 『あんなこと』があった後なんだからな」
「そ、そう、ね…気をつけるわ……」

とは言いつつも、そのおかげで上条と一夜を共にする事が出来たと思うと、
あながち電池切れも悪くないかな、なんて思ってしまう美琴。
そんな美琴の様子に気付く筈もない着替え途中の上条は、そのままズボンを穿こうとする。
しかしズボンを手にかけた瞬間、ポケットに違和感が。

(…あれ? 何だこの布…俺ハンカチなんて持ち歩いてないし…)

妙に膨らみのあるズボンのポケットに手を突っ込むと、布製の何かがある。
不思議に思った上条はそれを出し、広げてみると。

「………………へ?」

そこには、お馴染みのカエル(美琴曰く「ゲコ太」とかいうキャラクター)の顔があった。
そしてその布は、綺麗な逆三角形で大きな穴が三つ開いているという特徴的な形をしていた。
何となく見覚えのある形である。
上条はその布を広げたまま、美琴に聞こえないように心の中で絶叫した。

(これミコっちゃんのおパンツではありませんかああああああ!!!?)

大正解。
上条は美琴に見えないように布改めミコパン(ミコっちゃんのおパンツの略)を広げたが、
背後から「何してんの?」という声に反応し、背筋をビクリと伸ばしてしまう。
ちなみに美琴がノーパンでこんなにも落ち着いていられるのは、
上条に隠れてこっそりと短パンを装着したからだ。
美琴のブラジャーと短パンも上条の衣服と同様、
ベッドの周りに脱ぎ散らかっていたのである。
ただし『何故か』ショーツだけが見当たらなかったようだが。
ゲコ太の顔がプリントされた、お気に入りのショーツだけが『何故か』。

「何してんの?」
「っ!!! ななな、何でもありませんですことよっ!!?」

上条はとっさに元あった場所にしまい込む。ズボンのポケットに、違和感が戻ってきた。
だが瞬間、本能的に隠してしまった事を後悔した。

(あっ! 隠さないで、美琴に事情を話して返せば良かった…
 『あんなこと』があったのは、美琴だって分かってるだろうし…)

だが後悔は先に立ってはくれない。
「何でもない」と言ってしまった手前、今更ポケットの中身を出すと逆に変に思われる。
タイミングを計って、もう一度取り出すとしよう。このカエルの顔がついたミコパンを。

「そ、そう言えばアレだな!
 昨日の夜に美琴がカレー作ってくれたから、朝飯はそれの残りでいいよな!?」

上条は話を逸らす為に、無理矢理話題を変えた。
コンロの上には鍋が置きっぱなしになっており、食欲をそそるスパイスの香りが漂ってくる。

「えっ!? あ、うん…そ、そうね。昨日…カレー食べたもん、ね…」

すると美琴はたちまち「カアァ…」と赤面してしまった。その理由とは。

「ね、ねぇ…アンタ、カレー食べた後に何て言ったか覚えてる…?」
「うっ、え、あ…ま、まぁ…覚えてるけど……」

そして上条も、美琴に釣られて「カアァ…」と赤面する。

「ア、アンタ…あの時『あんなこと』言っちゃったけど、アレ本気…だったの…?」
「い、いい、いやあのその…た、確かに『あんなこと』言ったけど、
 でもアレは、その場の勢いって言うか、
 テンション高くなって思わず言っちまったって言うか…
 でも…わ、割と本気だったような気がしないでもないかと思われますです…はい…」
「そ、そそそ、そうなんだぁ……へ、へぇ〜、ふぅ〜ん…」

お互い甘酸っぱ気まずそうに目を逸らし、ポリポリと頬をかく。
何だかラブコメの波動を感じるが、
やられっ放しというのも腑に落ちないので、ここで上条は反撃に出る。

「で、でもだぞ!
 それは美琴が先に、カレーで『あんなこと』をするから悪いと思うのですよ!
 上条さんだって男なんだから、女の子から『あんなこと』されたら思わず……」


745 : とある昨日の『あんなこと』 :2015/08/31(月) 21:34:42 vq7relGU
言いかけて、美琴の様子がおかしい事に気付く上条。
美琴は赤面したままの顔を俯かせて、「だって…だって…」と呟いている。

「だ、だって…アレは、その……アンタがあんなに美味しそうに食べてくれたから、つい…
 そ、そりゃ確かに、私も『あんなこと』したのは…今考えると、は、恥ずかしいけど…」
「ううぅっ…!?」

俯いてモジモジするその姿に、鈍感王たる上条さんも思わずキュンとしてしまう。
何だかじっとりと変な汗が額から滲んできた上条は、
ポケットの中の『ハンカチのような物』を取り出し、汗を拭う。
普段はそんな事しないだろうに、テンパっているせいで、
いつもと違う行動を起こしてしまったようだ。それが不幸の元なのだと、気付きもしないで。

「い、いや〜…ま、まぁ実際に美味かったしなぁ……」
「……あれ? アンタ、そのハンカチって…?」
「えっ? ……………ああぁっ!!?」

しかしその『ハンカチのような物』は当然ながらハンカチではない。
見覚えのあるゲコ太の顔に疑問を持った美琴が詰め寄ると、
上条も『それ』が何なのかを思い出し、ハッとする。だが勿論、そんなのは後の祭りだ。

「ちょちょちょっ!!! アアア、アンタ!!! そのハンカチ広げてみなさいよ!!!」
「あっ!!! いや、ダメ!!! 激しくしないでえええええ!!!」

上条が額を拭った『ハンカチのような物』を巡り、ドスンバタンと取っ組み合いが始まった。
二人は小競り合いをしているつもりのようだが、
端から見ればイチャついているようにしか見えない。その証拠に、

「「っっっ!!!!!?」」

最終的に上条が美琴を押し倒す形で床ドンしてしまったから。通常運転である。

「あ、その、わ、悪い…」
「あ、や、べ、別にいいけど…」

顔が間近にある状態で、見詰め合う男女。
このままキスしちゃいそうな雰囲気だが、そこは上条の不幸体質。
上空からヒラヒラと舞い落ちた『布状の何か』により、その幻想はぶち殺される事となる。
お忘れではないだろう。そもそも二人が、何故取っ組み合いを始めたのか、その原因を。

押し倒し倒されな二人の横に、ファサッと落ちてきた『布状の何か』は、
先程まで上条のポケットに入っていた物だ。そして、ゲコ太の顔がプリントされている。
瞬間、美琴の頭からバチバチと電撃は放たれる。
まだ本調子ではないものの、それでも相手を気絶させられるだけの威力はある。
もっとも上条には電撃の威力など関係なく、とっさに右手をかざして打ち消す。
だが上条にとって脅威なのは電撃そのものではなく、その後の美琴の剣幕である。

「アアアアンタやっぱり私のパ、パパ、パ、パン、パン〜〜〜!!!」
「おおおおお落ち着け美琴〜〜〜!!!
 上条さんだって隠してた訳じゃなくて、その、ほら、アレだ……
 そ、そう! 昨日は『あんなこと』があったから仕方なく!!!」

それを聞いた瞬間、美琴の怒りは嘘の様に消火した。

「…ま、まぁ確かに『あんなこと』があったんだから、
 アンタが全部悪いって事はないんだろうけど…」
「だ、だろ!? 『あんなこと』があったんだから………あっ」

すると上条は昨日の事を思い出して、ふと、こんな事を言ってきた。

「なぁ、美琴。『あんなこと』しちゃったんだから、その…
 た、試しにキスとかしてはみませんでせうか?」

すると美琴は。

「ふぇあっ!!? だだだ、ダメよっ!!! それとこれとは話が別じゃないのよっ!!!
 そ、そりゃ私だって……『あんなこと』の後なんだし、
 キキキ、キスくらいなら…しちゃってもいいかな…なんて思うけどゴニョゴニョ…」

さて、ここまで読んで頂いた方には先程から気になっているワードがあると思う。
  『 あ ん な こ と 』
どうやら昨日は二人の間で相当な事件があったらしいのだが、
では具体的に何をしたのかと聞かれたら、実はまだ語られていない。













































!!!


746 : くまのこ :2015/08/31(月) 21:35:57 vq7relGU
以上です。
すんません…たまにはこんなオチも使ってみたかったんです…
実際に何があったのかは、ご想像にお任せします。
ではまた。


747 : くまのこ :2015/09/04(金) 21:33:49 f5k7rbDg
相変わらず連投ですみません…
>>593-595の続編を書いてみました。
途中で雑なあらすじが入ってるので前のを読まなくても大丈夫だとは思いますが、
できれば前のから読んで頂けるとありがたいです。
約3分後に3レス使います。


748 : そのフリーダムさは父親譲りにつき :2015/09/04(金) 21:37:06 f5k7rbDg
「はああぁぁぁぁぁ………」

のっけから景気の悪そうな深い溜息を吐いたのは美琴である。
彼女は今、考え事をする為に一人で喫茶店に入り、ロシアンティーを注文した所だ。
ではそこまであからさまな溜息をする程の考え事とは一体、何なのだろうか。

(ああああああもう!!! まさか私があそこまでお酒に弱くて…し、ししししかも!
 あ、ああ、あの、あの馬鹿にだ、だ、抱きついて、そそそその上キっ…!!!
 ……………キス…とか…つ、次にアイツに会った時、どんな顔すればいいのよ〜〜〜!!!)

笑えばいいと思うよ。
美琴は自分が行ってしまった奇行に激しく後悔し、頭を抱え、
真っ赤になったばかりの顔をブンブンと左右に振った。

美琴は先日、白井、初春、佐天ら三人【おなじみのメンバー】とアイスクリームショップへと出かけた。
そこで佐天の注文したラムレーズンを一口食べて、有ろう事か酔っ払ってしまったのである。
勿論、店側も客層を考えてアルコール分など飛ばしていたのだが、
美琴に強い妄想力【パーソナルリアリティ】によりプラシーボ効果が働いてしまい、
しかもそこへ運の悪い事に、その状況で上条が通りかかってきやがったのである。
その後の美琴の反応を端的にまとめると、「にゃあああ! 当麻だあああぁぁぁ!」
「当麻は私のなんりゃからっ! 誰にもあげたりしらいんだからねぇっ!」
「んふふ〜、当麻当麻当麻〜♡」「ねぇ、当麻ぁ。チューしよ? チュー」
「隙あり♡」「えっへへ〜! 焦らされてやんの〜♡」とまぁ、こんな感じだったのである。
美琴にはその記憶など全くないが、後日『るいぴょん』と名乗る者や、
風紀委員の守護神が、その時の動画を拡散したのだ。
美琴はその動画を観て自分の痴態を初めて知ったのだが、それは周囲の者も同様である。
常盤台の超電磁砲【ゆうめいじん】である美琴の噂は、その動画と共に広まってしまった。
常盤台中学内でも『あの御坂様がこのように心を許す殿方とは一体どなたなのかしら』と、
美琴だけでなく上条にも矛先が向けられているのだ。
ただでさえ普段の素直になれない性格とは全く違うキャラで上条に思いっきり甘えてしまい、
恥ずかしいやら恥ずかしいやら恥ずかしいやらで、いっぱいいっぱいだと言うのに、
そこへ来てのこの騒動。一人になって、冷静に考えたい気持ちも分からなくはない。

「お待たせいたしました。こちら、ロシアンティーになります」
「あっ! ありがとうございます」

そんなタイミングで、店員さんが注文の品を運んできた。
ロシアンティーの甘酸っぱくも『芳醇』な香りが鼻をくすぐる。

「…とりあえず、しばらくはアルコールの入った食べ物・飲み物には要注意ね」

美琴はそう一言呟きながら、ジャム入りの紅茶を口に含んだ。
申し訳ないが、完全なるフラグにしか見えないのである。


749 : そのフリーダムさは父親譲りにつき :2015/09/04(金) 21:37:39 f5k7rbDg
 ◇


「はああぁぁぁぁぁ………」

のっけから景気の悪そうな深い溜息を吐いたのは上条である。
彼は今、考え事をしながらも買い物を済ませ、一息つく為に喫茶店に入った所だ。
ではそこまであからさまな溜息をする程の考え事とは一体、何なのだろうか。

(あの後…白井を始めとした色んな人から殺意を向けられるし、
 そうじゃなくても質問攻めにされるし、偶然動画を観たインデックスから噛まれるし、
 って言うか美琴は本当はどう思ってんだ? 酔ってたとは言えあんな………)

上条は先日、偶然通りかかった某・アイスクリームショップの近くで、
酔っ払った美琴に抱きつかれて以下略。
その騒動を切っ掛けに、上条の不幸は一段と大きくなった。
何が起こったのかは、まぁ、大体想像して頂いた通りだ。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「あっ、えっと……」

店員がお冷を持って話しかけてくる。上条は慌ててメニューに目を向けた。

「…ロシアンティーなんてあるんですね」
「はい。当店ではピュレワインのジャムを使用しております。
 勿論、学生さんでも美味しく頂けるように加熱処理を施してありますが」
「へぇ〜…そうなんですか」

上条は「もし美琴がそんな物を飲んだら大変な事になるんだろうなぁ〜」などと思いつつ、
一番安いアイスコーヒーを注文した。と、その時だ。

「にゃあああ! 当麻だあああぁぁぁ!」

つい先日聞いたような掛け声と共に、誰かが抱きついてきた。
いや、それが誰かなど分かりきっている。
上条の顔色が、血流が増加して赤くなり、同時に血の気が引いて青くなる。

「ミミミミミミコっちゃんっ!!!?」


 ◇


紅茶を一口飲んだ美琴は、そのピュレワインの芳醇な香りにやられ、
一瞬でふわふわと夢心地になってしまった。フラグ立てから回収まで、僅か1ターンである。

「ありぇ〜? にゃ〜んか気持ちいい気がしゅりゅ〜!」

それはそうだろう。何と言っても酔っ払ってらっしゃるのだから。
この状態で上条に会えば、先日の二の舞になる事だろう。
だが同じ学園都市の敷地内と言っても、敷地面積は東京都の3分の1程の広さがある。
こんな小さな喫茶店で鉢合わせる可能性など―――

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「あっ、えっと………ロシアンティーなんてあるんですね」
「はい。当店ではピュレワインのジャムを使用しております。
 勿論、学生さんでも美味しく頂けるように加熱処理を施してありますが」
「へぇ〜…そうなんですか」

―――鉢合わせる可能性など意外と100%だったりする。
背後から聞き慣れた声。どうやら店員さんとのやり取りのようだ。

「じゃあ…アイスコーヒー一つお願いします」
「はい。かしこまりましひゃわっ!!?」
「にゃあああ! 当麻だあああぁぁぁ!」
「ミミミミミミコっちゃんっ!!!?」

注文を聞いた店員が一礼しようとしたその時、美琴は既に上条へと突撃していた。
上条の胸に飛び込んだ美琴は、ものっそい幸せそうな笑顔でムギュ〜ッと抱き締めてくる。

「あ、あのお客様っ!?」
「あ、い、一応知り合いです! 大丈夫ですんで!」

店員もあまりのマニュアルに載っていない事態にわたわたとするが、上条がフォローした。
いくら何でもこの状況で、美琴に対して他人のフリは通用しない。
ならば下手に店員に介入されるより、早々に立ち去って頂いた方がまだマシというものだ。
店員は「そ、そうでしたか。失礼いたしました…」と若干納得のいっていない顔をしながらも、
キッチンの方へと引っ込んでいく。が、当然ながらそれで問題が解決した訳ではない。

「うにゅ〜! 当麻の体、あったか〜い♡」

美琴は相も変わらず訳の分からない事を口走りながら、思いっきり胸を押し付けてくる。
男として大変に嬉しい状況ではあるのだが、先日の事を思うと、
これ以上美琴と変な噂が立つような事をするのは避けたい。


750 : そのフリーダムさは父親譲りにつき :2015/09/04(金) 21:38:17 f5k7rbDg
「あ、あのですね美琴さん!?
 とりあえず、ちょ〜っとだけでも離れて頂けるとありがたいのですが!」

すると美琴は悲しそうな顔をして一言。

「……当麻は…私の事…嫌い…?」
「い、いや…嫌いって訳じゃないけど…」
「じゃあ好き…?」
「ま、まぁ……」
「だったらずっとこうしてるっ♡」

そして今度は満面の笑みを浮かべる。
酔っているせいなのか元々こういう性格なのか、コロコロと表情が変わる美琴である。
上条も思わず「可愛い…」なんて思ってしまう。しかし結局また美琴は抱きつき、
離れようとする上条の思惑とは裏腹に、振り出しに戻ってしまった。

「お待たせいたしました。アイスコーヒーです。
 それからそちらのお客様のロシアンティーも、こちらのテーブルに置かせて頂きますね」
「え、あ…はい、ありがとうございます……って言うか美琴、やっぱりこれ飲んでたか…」

店員が上条の注文した品を持ってきた。
しかも気の利いた事に、美琴の紅茶も持ってきてくれるというサービス【ありがためいわく】付きである。
そして美琴の飲んでいたという紅茶を見て、この惨状にも納得した。
不幸中の幸いとも言うべきか、今回は前回と違って周りに知り合いがおらず、
佐天のように拡散される恐れも白井のように襲われる恐れもないが、
しかしそれでもやはり、美琴には離れて頂かなければならない。だって放って置けば、

「ねぇ、当麻ぁ〜……頭ナデナデしてぇ…?」

このようにして甘えがエスカレートしてくるから。

「ダ、ダメだ! ナデナデはナシ!」
「や〜あぁ〜! ナデナデしゅるの〜!」
「ダメなモノはダ〜メ! いいから離れなさい!」
「…ナデナデしてくれないと離れてあげないもん」
「うっぐっ…!?」
「じゃあ代わりに、お腹ナデナデでもいいわよ?」
「あれっ、おかしいな!? 代案の方がハードル高いよ!?」
「お腹ナデナデしてくれたら〜…ご褒美にチューしてあげちゃう♡」
「じゃあしませんよっ!? 尚更しませんよそんな事!」
「え〜!? しないと罰としてチューしちゃうかりゃねぇっ!」
「どっち道チュールート確定っ!!?」

分かっている。これは美琴が酔って絡んでいて、上条は必死でそれに抵抗しているという事に。
しかしそれが分かった上で、改めてただのバカップルにしか見えない。
だが当の上条は割と必死で、何かにつけてチューしようとする美琴をいなしつつ、
どうすれば離れてくれるのか思案する。だが解決策が見つからない。
この様子では、仮にナデナデした所で「もっと〜♡」とか言ってくるのは目に見えている。

「なぁ、離れてくれよ美琴〜…チューとか以外で…」
「じゃあ……『好き』って言って…?」
「さ、さっき言いましたよね!?」
「言ってない! ちゃんと言ってないもん! 当麻の口から『好き』って聞いてないもん!」

もん、ときたか。
どうやら美琴は、上条から直接『好き』と言われる事をご所望のようだ。
確かに先程は、美琴の「じゃあ好き…?」という問いに対して、
「ま、まぁ……」という曖昧な返事しかしていない。
正直、死ぬほど恥ずかしい。しかしそれで終わるなら、言わなくてはならない。
上条は過去に例が無いくらいに赤面し、そして―――

「す……好き、だよ…美琴の事……」
「私も好きっ♡ ―――」

上条の告白(?)に、美琴も応える。そしてそれと同時に。

「私も好きっ♡ ―――チュ♡」

口付け。
先日のようなニアミスではない。唇と唇が重なる『マジなヤツ』である。
だが上条にはキスに対して、テンパる間も頭が真っ白になる間も余韻に浸る間も無かった。
美琴の告白と同時に起こったのは、キスだけではなかったのだ。
喫茶店の入り口では、新たに来店してきた3名の客の姿が。

「全く…佐天さんと初春のおかげで、ここ数日お姉様がどれだけ苦労を………あら?」
「だ、だからそれはもう何度も謝ってるじゃないですかっ! ………って、ん?」
「た、確かにやりすぎちゃったかも知れませんね…でも、だからこそこうして、
 白井さんと佐天さんと私で、これから御坂さんにどうお詫びするか話し合い………え?」

仕方ないよね。上条さんは不幸だから。


751 : そのフリーダムさは父親譲りにつき :2015/09/04(金) 21:39:12 f5k7rbDg
以上です。
最近ドギマギする上条さんばかり書いてる気がします。
ではまた。


752 : ・・・ :2015/09/06(日) 18:20:51 7gT1u1Lo

ども、・・・です。

見事にラブコメ漫画ばかりの我が家に苦笑。


くまのこさん
〉〉あんなことやそんなことってどんなこと?
ネタネタしいって、なんぞ??
オチが無いのがオチだと!!??
画期的!!


















ふっざけんなぁぁっぁぁぁああああああああああああああ!!!

〉〉親父さんとばっちり
……でもないか。
20過ぎてもお酒は禁止されるに違いない。
でも、きっと佐天さんなら、佐天さんならうまく酔わしてくれるはず!!
もっとドギマギさせてもいいのよ?



さて、投下します。
そろそろ佳境ダス。

注意!!!!
これからは特に!!
オリ設定(笑)多数。なんちゃってシリアス多数。現実とは関係なしのフィクションダス。
荒らしたくないので、不快な方は読み飛ばすか、あっちでメッセージ機能でお言葉をください。
そして、美琴がママで当麻がパパでインデックスが赤ちゃんです。
以上がよければお付き合いください。


それでは


753 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:21:43 7gT1u1Lo

美琴は、ステージの上でなにもいわず上条を待つ。
しかし、待たされる観客の我慢も限界に近づいていた。
プレッシャーが伝わったのか、インデックスがぐずり始める。
その時、美琴に親友の手でヴァイオリンが届けられた。
美琴は、弦を動かす。始まりを聞くだけで、白井は曲を把握する。

「キラキラ星?」


754 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:22:13 7gT1u1Lo

沈黙が支配する公園。
トールの頭の中で警鐘が鳴り響いていた。

(なんだ? アイツに何ができるってんだ!!)

目の前には、立っているのもやっとな状態の宿敵。
しかし、あれに手を出すなと、ここから立ち去れと、敵わないから逃げろと本能が叫ぶ。
だが、でも、
しかし、それでも、
いつもはヤツに向ける優しい微笑みを、あの人がこちらに向ける幻想が見えてしまった。

「……これで、終わりだ」

そして神、トールは世界を動かす。
誰にも避けられない攻撃が、上条の脳を揺らした。
意識を失った上条がゆっくり倒れるのを見たトールは追撃に移る。



その金髪が不可思議な方向に揺れた。



トールの動きがおかしい。
何かに引きずられるように地面に倒れた。

「な、なにが!!?」

そして気付いた。

ヤツが自分の髪を掴んでいる。


755 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:22:51 7gT1u1Lo

「あぶ、ふぅ」

インデックスがこくり、こくりと頭を揺らす。
彼女のお気に入りキラキラ星、子守唄でも大活躍の曲だ。
なにも聞き入っているのはインデックスだけではない。
会場にいる全ての人間が、ヴァイオリンの唄う歌に聞き入っていた。
彼女もそのうちの1人。

(………)

食蜂操祈。
彼女は上条が再び自分から彼女の名を呼んだ声を思い出していた。

『あ、あれー? 人違いかー?』

『な、なんで?』

『金髪で巨乳で目をキラキラさせたヤツだっていってたのになぁ??』

ガックリと肩を落とす。
所詮は誰かの差し金か。

『そうよぉ、私が食蜂、はじめまして☆』

『はじめまして、じゃないんだろ? さっきも一緒に舞台に立ったし』

再び、食蜂の表情が歪んだ。

『え……?』

『正直心当たりがないんだけど、こうも毎回文句を言われると、オレがお前を覚えられていないみたいなんだ。なんか理由があるんだろう』

今、心臓が動いた音は聞かれてないだろうか。

『お前は、オレにとってどんな人間なんだ?』

『……かつて、あなたに助けられた女の子の一人。そんな風にでも思ってくれれば結構よぉ☆』

でも、私にとって貴方は特別だった。
口には出さない。
口にしてはいけない気がした。

『…そっか』

『それで、何の用かしらぁ?』






『……頼みがある』


756 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:23:25 7gT1u1Lo

トールの顔面に拳が入った。
上条は一瞬気を失ったが、倒れた衝撃でまた目を覚ましていた。

「な、ぜ……!!?」

「お前の力は、『必ず勝てる位置に世界を移動する』こと……」

世界を動かしても、上条が自分の髪を掴んでいる限り意味がない。

「なら、こっちが問題を出せば、電卓をはじくように予想通りの答えをくれるわけだろ?」

「!!!」

例えばチェス。
最適解を導くはずのコンピューター相手に、人間が勝つこともある。

「お前が白井のように自分で位置を決めるようなやつだったら、できない博打だ」

攻撃には、カウンターが入る。
防御しようとしてもその上から重い一撃が入るか、髪を引っ張られ体制が崩される。
優劣は逆転し、今トールに口を動かす力はない。

「……オレとお前で決闘してふさわしい男を決める?」

頭突きが額に入る。

「アイツの心を無視しやがって」

腕を折ろうとすると、髪を握られた手で頭を掴まれ、顔面に膝が入る。

「最終的には奪うだと? 物扱いしてんじゃねぇよ!!!!」

怯んだ瞬間に背負い投げの要領で地面に叩きつけられる。
その痛みより、ヤツの言葉の方が辛かった。

「悪いが、オレとお前のどちらかを決めるのはあくまでアイツだ」

トールは、ヤツのこんな表情を知らない。

「だが、テメェがアイツの幸せを考えずアイツの名前を使って暴れるっていうんなら」

知らない。

「何度だってオレが相手になってやる」

拳が数回振り下ろされた。


757 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:24:17 7gT1u1Lo

ヴァイオリンの音は食蜂を過去に繋いだままだ。

『頼み?』

『あぁ』

『内容は?』

『演技をもう少し頑張って欲しいんだ』

なぜ?
当然の疑問に、上条は真剣な声で答えた。
その表情を、彼女は始めて、見た。

『アイツが、辛そうなんだ』

心がえぐられた。

『なんで食蜂は真面目にやらないのかと、なんで全力を尽くさないのかって、いつも悔しそうなんだ』

言葉が出なかった。
泣き叫んで、そのまま逃げ出したかった。
でも、その前に、確認しなければならないことがある。

『……貴方は、私が……真剣に頑張ったほうが……』

幸せ?

そこまで回想した時、
観客席の最上段にある入り口の方が騒がしくなる。
そして、ちょうど演奏が終わった時だった。

入り口が大きく開け放たれた。
そこに立っていたのは、この物語の主人公。
傷だらけのその男は、警備員【アンチスキル】の制止も振り切り、ゆっくりと階段を降りる。

最初に気付いたのは、ヒロインだった。
少しして、眠ったインデックスを抱く婚后も気付いた。

「なんで上条さんは血まみれなんですの!!?」

その言葉の前に、既に美琴はステージを飛び降りていた。

が、そこで動きが止まる。
彼が、片腕をまっすぐ伸ばし、大きく手のひらを開いていた。

意味は、制止。

美琴を含む周囲が固まったのを見ながら、上条は息を調える。
しかし、彼女はそんなものわかりのいい人間ではない。
一瞬止まり、上条の制止を無視して階段をかけ上がる。
上条は呆気にとられたが、眉を下げて笑った。
ゆっくりと階段を降りる上条を、階段の真ん中で抱き締めるように支えた美琴。
ドレスが、上条の血で汚れた。

「……遅くなった」

「当麻にしては早い方よ、バカ」

少し言葉を交わして、
上条はゆっくり美琴を離し、
その場にひざまずく。

「助けてくれたあの時から、お前のことばかり考えている」










「頼む、オレと結婚してくれ」


758 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:25:02 7gT1u1Lo
次の場面、
舞台の上では、浮力使いや念動力使いの力で水が巨大な球の形で浮いていた。
その球の中を縦横無尽に泳ぐ水泳部。
水を球の形に維持するだけでも難しいはず。
さすが常盤台というべきであろう。

その舞台裏、

「いったーーーい!! 超痛い!! 白井さん、白井さま!! もう少し優しく治療してくれませんかね!!」

「は?…………ま、まぁ!! 上条さん!! 大丈夫です? ほら、痛いの痛いの〜飛んでけー!!」

「……すみません、オレが悪かった。鳥肌たったんでやめてください」

「私こそ、すみません。気まぐれでこんなことして……じんましんがはんぱないですの」

それを少し離れて赤子を抱きながら眺める少女が一人。
御坂美琴だ。

「まったく、なにやってんだか」

たまたま治療具を持っていた白井に治療を任せた。
演奏が終わり、またぐずり始めたインデックスもあやさなきゃならなかったし、

『大丈夫だから!! 主人公補正で巻を跨げば治るから!!』

なんて本人が阿呆なこと言ってて、心配する気が失せたのも大きい。
ため息が出た。
そのまま後ろに声をかける。

「ありがとね」

「なにそれぇ?」

「しらばっくれるならいい」

「……これでチャラよ」

「なんのこと?」

「ならこっちもいいわぁ」

美琴が気付いてないわけがないのだ。
自分が上条と毎日会っていることに。

「……まず、アイツの行動を制限する権利なんてわたしにないしね」

「私がアナタだったら、必ず邪魔するわぁ」

嘘つけ。
美琴は食蜂から顔が見えないのをいいことに笑う。
いつも小賢しい手を使うコイツが、上条が関係すると妙に筋を通すことにはとうの昔に気付いている。
しかし、違う言葉を紡いだ。

「……それに、アンタの演技もぐんぐん上手くなってたし」

やればできるじゃん。
という言葉は飲み込む。
彼女にとっては不快でしかないだろうし、
逆に自分が言われたら一所懸命に罠を探すだろう。

「放っておいた理由は……それだけ?」

食蜂は上条から聞いていた。
自分の演技が上達すれば、御坂美琴が喜ぶと。第三位のお嬢様は一端覧祭を一緒に成功させたいと願っている熱血バカだと。

その話を聞く度に、練習を終えて上条と別れる度に、人知れず泣いた。

彼のそんな表情を知らなかったから。



263。



練習を続ける間、食蜂が上条に告白し、上条から振られた回数である。

もしも。
この考えは意味がないとしても。
もしも、この「御坂美琴」という少女が存在しなかったら、
食蜂が望んでいた、淡い希望は、叶ったのだろうか。

その美琴の口が、ゆっくり開かれた。

「理由ってほどじゃないけど、アイツがあんな顔したとき、なに言っても無駄なのよ」

そう微笑んで話す彼女の表情を、食蜂は最近まで見たことがなかった。
しかし、この頃は毎日同じような表情を見る。

あの人が、自分を振る理由を告げる時に。

「準備はいいか?」

いつの間にか、二人の前に上条が立っていた。

「いや、当麻待ちだったんだけど?」

「ご、ごめんなさいよ」

「さぁ、クライマックスね!!」

「あぁ、頼んだぞ、主役!!」

御坂美琴は背を向けたままだった。
食蜂は言葉が出ない。
彼がそっと頭を撫でていた。

「練習したんだな、周りの反応が全然違うじゃんか」

頑張ったな。
彼はそういった。
ありとあらゆる感情が爆発しそうになり、ただ頷くことしかできない。
手を下ろされ、ようやく顔をあげると、

御坂美琴の後ろ姿を見つめる彼の顔が視界に入った。
食蜂の瞳が揺れた。


759 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:25:44 7gT1u1Lo
舞台裏の分かれ道。
右の袖には王子と王女が、左には少女が向かう。
別れる際、食蜂の蜂蜜のような声が、美琴の耳に何かを囁いた。

とある公園。

「アイツ、さっすがだよな!!」

少年は大の字で倒れていた。
その側に佇むのは一人の眼帯をつけた少女。
彼女はなにも言葉を発しない。

「全力のオレを軽々と倒しやがった!!」

秋空は今日も清みきっている。

「しかも、オレよりも彼女のことを考えてやがった!! 完全敗北さ!!」

しかし、少しずつ木枯らしが肌に刺さる冷たさを帯びてきた。

「だけど、上条も酷いぜ!!」

数少ない葉が、木枯らしに吹かれ枯れ葉となって地面に落ちる。

「アイツの心ではとっくに決着なんてついてんのにさぁ!!」

「もうやめろ」

落ちた葉が地面を駆け抜けた。

「…………なんだよ?」

「……諦めて、しまったんだな」


760 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:26:40 7gT1u1Lo

舞台の上で行われていたのは、
王子とお姫さまの結婚式。
社交ダンスの場面だ。

「大丈夫?」

「あぁ、上手くお前がカバーしてるから怪我していることも感づかれてないっぽい」

「そっちじゃなくて怪我」

「……大丈夫!!」

「短い沈黙の意味は?」

「い、いつもに比べたら」

「なら平気ね」

「この子お姫さまじゃなくて氷の女王じゃないっすかー」

こんな何気ない会話も、
内容が聞き取れなければ、
周囲から、食蜂から見たら恋人どうしのじゃれあいにしか見えない。

「アイツ、頑張ったみたいだな」

「……そうね」

きっと当麻が助けたからだとは言わない。

『毎日19:00に第21学区の湖に行く!!
オレでは記憶できない!! 頼む。 オレの代わりに覚えていてくれ!! 』

アイツもそれを望んでいるだろう。

2人が踊る光景を見て、食蜂は静かに目を閉じる。
常盤台の3年間を走馬灯のように振り返った。
もうすぐ、この舞台も終わる。















「そう、だな」

公園で寝そべるただの少年の声は、
風で霧散して聞こえなくなりそうなほど小さい。

「勝てるかどうかでなく、勝ちたくないと、思っちまった」

ニヘラ、と表情が崩れる。

「コイツに任せたら、きっとアイツも幸せだろうなぁってさ。オレよりも頼もしい!!」

「そうか……1つアドバイスだ」

そういって、彼女は近い将来の自分に背を向ける。

「泣くときを見誤るなよ。泣かなければ、死ぬまで後悔するぞ」

息を飲む声が聞こえる。
暫くして、彼女の後方から絶叫がほとばしった。
それを耳に入れながら歩いていた魔神は、ふと立ち止まる。

「……人払いは貴様の仕業か?」

「流石に、魔神の目は誤魔化せませんか」

木の陰から、現れたのは好青年だった。

「すまないな、感謝する」

「いえ、嘗ての自分を見ているようでして、つい助けてしまったんです。
ですが彼と違って自分はあの時泣けませんでした」

少し羨ましいですね、と寂しそうに彼は笑う。
少女はなにも語らない。
ただ、そうか、とだけつぶやき、再び歩き始めた。


761 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:27:14 7gT1u1Lo

ステージの上で食蜂は右手をゆっくり挙げる。
その手には、リモコン。
とっさに美琴は上条の右手を彼の頭に乗せた。
リモコンが床に落ちた音が聞こえた時、
電撃が拒絶する音と幻想が打ち壊される音が二人の耳に聞こえた。

ちょうどその時二人を除く会場の全員に心理掌握の声が脳内で響いた。

『あなたと出会って、私の世界は一変した』

スポットライトが金色の髪をそっと照らす。

『灰色の世界が虹色に輝きだした』

彼女の表情は秋空のように透き通っている。

『でも、いつの間にかあなたの幸せは、わたしの幸せから離れてしまっていたわぁ。
もともとわたしが立っていた場所に、
別の人が割ってはいったの』

自分の能力がきいていない2人に視線を向ける。

『最初は辛かったわぁ。
そこは私の場所だって、
そこから出ていけって叫びたかった』

そこには、こちらを見つめる、4つの目があった。
視線を合わせるのが辛くて、
でも、彼に見つめられるのがうれしくて仕方ない。
結局そのままにして『演技』を続ける。

『でもね、あなたが笑うの』

美琴が上条を握る手にギュッと力を入れているのが見える。
彼女にこのセリフは聞こえてはいないはず。
美琴の行動に、ただ食蜂は微笑む。

『あなたが、幸せなのがわかるのよぉ。
私が、そこに割り込めば、その笑顔は必ず曇る』

だから!! だから!!!

『さようなら。あなたに会えて、幸せだった!! だから!!』

とびっきりの、誰にも忘れられない笑顔と、
たった一筋の涙を見せて、

「出会ってくれて、ありがとう!!」

人魚姫は泡と消えた。


762 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:27:54 7gT1u1Lo
いつまでも終わりのないと錯覚するほどのスタンディングオベーションの後、上条当麻は、

「「「「「「きゃ〜〜〜〜!!♥♥♥ 上条さま〜〜〜!!!♥♥♥♥♥♥」」」」」」

「いて!! 痛い!! ちょっと!! そこ傷口!! ゆ、指を捻るな!! 髪を引っ張るな!!ちょっ!!君!! 顔が近いよ!! 待て!!う、後ろ誰!!? あ、当たってますよーー!! のわっ左手の君!! こ、これは不可抗力なんですっ!!」

俗にいう、男の子の夢を満喫していた。

「あ、あの常盤台を、数週間で内側からハーレムに変えていた、だと?」

「まぁま? だーぶだ」

つい最近顔芸まで覚え始めた母に、呆れた顔を向けるインデックス。
因みに父は男の夢の中にいても、傷口が開きかけていてそれどころではない。
そこに、針に糸を通す精度で電撃が放たれた。

「「見境無しかこら!!」」

フラグ的にと場所的に。
こうしてハーレムは分散。
2人の追いかけっこが始まる。

「こんなにボロボロなのにーー!!」

「待てこらーー!!………どうかした?」

ふと、上条は立ち止まっていた。

「ぱぁぱ、どしゃたの?」

「いや、この匂い」

「ん? なにかしら? 甘い……蜂蜜?」

「みしゃき!!」

「……なんか、ただ懐かしくてさ」

暫くそのままだったが、追いかけっこの途中であることを思いだし、再び2人は走り出す。

それをビルの屋上から眺める影が2つ。
爽やかな青年に声をかける少女がいた。

「エツァリ……」

「彼は、自分との約束を守ってくれているようです」

日が暮れるのが、早くなってきた。

「貴女の気持ちをわかっていながら……すみません、未練たらしい男で」

彼はようやく少女の方を向いた。

「まだ彼女のことを忘れられない。こんな中途半端では、貴女に失礼だ」

「……ならば、御坂美琴を倒せばいい」

「!!! なにを「勘違いするな」??」

「戦場は、貴様の心だ」

「…………どこまで自分についてきてたんです?」

ストーカーですよ、と伝えたら、
お前の教育の賜物だと伝えられた。
耳も頭も痛い。

「……彼女は、強敵ですよ」

「知ってるよ」

「ハァ……ありがとう。こんな自分ですが、応援します」

そこまで話して、2人は並んで立ち去った。


763 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:28:42 7gT1u1Lo
上条はようやく息をつく。

「ちきしょう、なんで美琴怒ってんのよさー」

「貴様が節操なしだからだ」

「オレってば節操の塊だかんね!!ってオティヌス??」

2人は何気ない会話をしながら歩く。
いや、そう思っているのは上条だけだ。彼は、自分の話題に偏りがあることに気付いていない。

「楽しそうだな」

「いやいや、育児って予想以上にキツイぞ?」

そこではないのだが……
輝く笑顔を見て、どうでもよくなる。

オティヌスは、今幸せだった。
全てに一区切りつき、
上条とインデックスの制止も聞かず、
見た目だけでも元の姿に戻りたいと大統領達の罰も無視して出ていったのは、
こうしてコイツと肩を並べて歩くためだ。

「そしたら美琴のやつがケロヨンがいいって言うんだぜ? あの場面だとゲコ太が妥当だとオレは思うんだよ」

あの選択は、間違いだっただろうか?
あの姿のまま残っていたら、結末は変わっていたのだろうか?

(いや、変わらなかっただろうな……)

なんて重い、罰だ。
しかし、元の力があろうと、この世界を壊そうなどとは思えない。
隣に立つ人物の笑顔は、夕日に輝いて、それはもう言葉に表せないほどに……。
この世界を壊すなど、そんなもったいないことは出来ない。
そう思ったら、自然と口が動いていた。

「お前は御坂美琴を、愛しているんだな」













「ああ、愛してる」

即答だった。
思ったより、あっけない。
あまりにも冷静な自分に驚きながら、
オティヌスは、上条の後ろに見える夕日に見とれていた。


そこから少し離れた木の影で、

「い、いま……当麻が………オティヌスに………」

シャンパンゴールドの髪が不自然に揺れた。
そのことに、誰も気づかなかった。

「大変だ!!!」

大きなドアが勢いよく開かれた。

「田中くん、こっちは大事な会議中なんだよ!! すみません、コイツまだ常識を知らない新人でして……」

「なに悠長なこと言ってやがんだ!!」

「そうそう、時間がないんだ、だから邪魔しないでくれな……」

胸ぐらが掴まれた。
彼を雇うと決めた時も、この熱さに惚れたんだっけと回想する。
しかし次の瞬間、上条刀夜にありとあらゆる余裕が消えた。

「アンタの嫁がパラグライダーやっていて落ちたんだぞ!!!」


764 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:29:16 7gT1u1Lo

『でも、でもっ!!!』

『ぱぁぱ!!!』

『悪い、今回はこの船で先に帰っててくれ。大丈夫だよすぐ帰るから』

香港の港。
ミャンマー、中国、ベトナムと連戦だった。
次のインドで決着がつくはずだ。

『ぱーぱ?』

『この娘を、頼む』

『っ!!』

妻に口づけし、抱きしめる。
自分が戻れるかはわからない。
これが最後となるかもしれない。

『帰ったら、また抱きしめてくれよ』

『ぅん』

少しずつ、距離が空く。
絡まれた手が、ほどけていく。
しかし、一瞬彼の動きが止まる。
赤子の手が、腕の服をつかんでいた。

『ぱぱ!!!!!』

顔がくしゃくしゃにゆがんだ。
だが、彼女のためにも退けない。
指を1本1本解き、最後にその手を握りしめて、
全てを振りほどき、駆け出した。
後方で泣き叫ぶ、愛しき2人を守るために。



システム復旧率46%

54%

62%

73%

86%

98%……


765 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:32:55 7gT1u1Lo
今回は以上。

いやー、盗み聞きは定番だよね!!
…………そこじゃない??

次3回の投下で落とします。人によっては嫌悪感も出るLEVELです。
その次の3回で思いっきり持ち上げますので、少し我慢してくだしぁ。






あ、あの人はピンピンしてるんで。


766 : 激劇3 :2015/09/06(日) 18:32:55 7gT1u1Lo
今回は以上。

いやー、盗み聞きは定番だよね!!
…………そこじゃない??

次3回の投下で落とします。人によっては嫌悪感も出るLEVELです。
その次の3回で思いっきり持ち上げますので、少し我慢してくだしぁ。






あ、あの人はピンピンしてるんで。


767 : ・・・ :2015/09/06(日) 18:35:08 7gT1u1Lo
あ、ごめんなさい。その前に次は小ネタだ。


768 : ■■■■ :2015/09/07(月) 19:06:28 kvH7MymA
乙。パパ条さん、上里翔流が相手でも勝てそう。


769 : くまのこ :2015/09/08(火) 00:35:55 REaPwY.s
>>・・・さんGJです!
おお! 今回は投下早くて嬉しいです! 続きはよ見たかった〜!
でもまた気になる! 次回も楽しみにしてます。それと小ネタも。



支部でリク受けたので、
ミコっちゃんが上条さんになって彼の日常を体験する話を書いてみました。
約3分後に5レスです。


770 : ユメミコ :2015/09/08(火) 00:38:53 REaPwY.s
目を覚ました時は、これがまだ夢の中なのだと気がつかなかった。
寝起き直後の頭はボンヤリと霞がかっており、
大きなあくびをしながらシパシパする目を擦った。だがここで、美琴はふと疑問に思う。

(……あれ? 私いま、『いつ手を動かした』のかしら…?)

確かに目を擦る感覚はあったのだが、それは自分で手を動かした訳ではなく、
むしろ勝手に動いたような気がしたのだ。
そして完全にまぶたを上げたその瞬間、美琴は現在異常な状況である事を理解する。

(っっっ!!!? な、えっ!!? どこよここ!!?)

視界に入ってきたのは見知らぬ天井。
当然、いつも自分が寝泊りしている常盤台中学学生寮・208号室ではない。
ルームメイトの白井もいないし、ふかふかのベッドもない。
と言うかそもそも、ここは本来、人が寝られるような部屋ですらなかった。

(よく見たらここ、お風呂場なんじゃないのっ!!?)

そうなのだ。実は美琴は今、浴槽に布団を敷いて、その上で寝ていたのである。
あまりにも訳の分からない状況に頭がついていかず、それなのに謎は増えていくばかりだ。
だが次の瞬間、それらの謎は一気に解決する事となる。

再び自分の体が勝手に動いた。自分の体は掛け布団を剥ぎ取り、もそもそと起き上がる。
そして『妙に聞き慣れた声』で、一言呟いたのだ。

「ふあっああぁぁぁぁぁ…あ〜、まだ眠ぃー…」

それは紛う事なき上条の声だった。
聞き間違う筈などない。何しろ、美琴にとってこの世で最も特別な人の声なのだから。
その瞬間、美琴は悟ったのだ。この体は自分の体ではなく、上条の体なのだと。
勝手に動いたのは上条が動いたからで、喋ったのも上条なのだと。
そう、つまりこれはどういう事かと言われればそれは勿論。

(夢だこれえええええええええ!!!)

そういう事である。
意識はある。しかし美琴自身は上条の視界を通じてしか物を見る事が出来ず、
上条が触れた物でしか触覚に感じず、上条の聞いた事しか自分も聞く事が出来ない。
感覚は共有しているものの、美琴からは何一つとして動く事が出来ないのである。
ちなみに考える事は出来るようだが、その考えが上条に伝わる事はなさそうだ。

自分自身と他者の感覚を共有させる…この学園都市ならば、
そんな能力者がいても不思議ではないが、少なくとも美琴の能力では不可能だ。
更に多重能力者は事実上存在しない。脳への負担が大きすぎて、能力者が自壊するからだ。
つまりこれは美琴が突然新たな能力に目覚めた…なんて都合のいい事ではない。
故に結論としては、これは『夢』だという事になる。
そしてその推論は間違っていなかった。何故ならここは夢の中なのだから。

「とりあえず…顔洗って歯ぁ磨くか…」

頭をポリポリとかきながら、上条は気だるそうに浴室を出る。
何故彼が浴室で寝ているのかとか、ツッコミたい事は山ほどあるが、
美琴には声を出す手段も考えを伝える手段もない為、
上条とはコミュニケーションが取れないのだ。残念。
もっとも、そうでなくても今の美琴には、会話する程の心の余裕など無いかも知れないが。

洗面所の鏡に映った自分の顔は、紛れもないあのツンツン頭の顔で、
上条が鏡を見る度に美琴もそれを見る羽目となる。
シャコシャコと歯を磨く音だけが流れるその空間で、上条の頭の中は大騒ぎであった。

(うわわわわわ近い近い近い近いっ!!!
 で、でもコイツ自身が目線をずらさないと私も目を逸らせない〜〜〜!!!)

鏡に映る上条【じぶん】の顔にドギマギするミコっちゃんの図である。
だが彼女の試練はこれで終わってはいない。
この直後、彼女はいきなりクライマックスを迎えさせられる事となる。


771 : ユメミコ :2015/09/08(火) 00:39:42 REaPwY.s
「ガラガラガラガラ……ペッ! さて、と。歯も磨いたし、朝食の用意でも…
 あっ、いやその前にションベンしとこう」

………今、何と言っただろうか。いや確かに、それは生理現象なので仕方がないのだが。
美琴の考えがまとまらない内に、上条はトイレのドアに手をかけていた。

(えっ!!!? いい、いや、あの、ちょ、ちょっと待ってっ!!!?
 ゆ、夢なんでしょこれ!!? 夢なんだからオシッコとかしなくても―――)

ジョボボボボボボ…
美琴の決死の叫びも上条には届く事はなく、上条は「ふぃ〜…」と声を漏らしながら、
体内に溜まっていた物を吐き出していた。
しつこいようだが今の美琴は上条と感覚を共有しており、上条の見た物は美琴も見てしまう。
しかも美琴自身は自分から目を閉じる事も目を逸らす事もできない。
つまりミコっちゃんは、上条さんが自分の下条さんを見ながら放尿する姿を、
自分の視界を通して強制的に見なくてはならない訳で。

(※%○#☎□△♨&√#☺☭〄$※♂☞♠○×!!!!!!!!!)

美琴は叫びにならない叫びを上げた。しかも不運な事に今は自分の体でもないので、
「ふにゃー」して現実から逃れる事もできないのだ。何だこのプレイ。


 ◇


美琴が落ち着きを取り戻したのは、あの下条さん事件から暫く経ってからだった。
気が付けば、学校も終わって放課後の時間帯である。
その間にも朝食中にインデックスやオティヌスと一騒動あったり、
学校でも金髪グラサンのアロハ男や青髪でピアスのエセ関西人と一緒に、
一騒動起こしたりしたが、美琴はあの時のショックでそれ所ではなかったのだ。
しかもトイレ休憩が朝の一度で済む訳でもなく、
上条がトイレに駆け込む度に美琴は絶叫したのである。何だこのプレイ。

(ううぅ……もうやだぁ…早く起きなさいよ私ぃ…)

とっととこの悪夢(?)から解放されたい美琴である。
意識だけの存在である為に、その顔色は窺い知る事は出来ないが、
もし生身の体があったのなら、顔だけでなく全身真っ赤になっている事だろう。

と、その時だ。ふいに「ドン」と音を立てて、上条の体が誰かとぶつかる感覚がした。

「うおわっ!? わ、悪い!」
「やぁ〜ん! いった〜い!」

その声の主はまさしく。

(ゲッ! 食蜂!?)

その特徴的な目のキラキラとロングの金髪。
自分と同じ常盤台中学の制服を着ているが、自分と決定的に違う胸を持ったその女は、
同じくレベル5の第五位にして、美琴最大の天敵であった。
食蜂は何を企んでいるのか、普段美琴に見せる顔とは180度違い、
気持ち悪いくらいの猫なで声で、急速で上条に擦り寄ってきた。
…いや、これはもう『何を企んでいるのか』など、一目瞭然である。

「あらぁ、ごめんなさぁい。
 でも確かに私の注意力も散漫だったけどぉ…そちらにも責任力はあると思うのよねぇ」
「は、はぁ…責任ですか……不幸だ…」
(な、何言ってんのよ! わざとぶつかってきたに決まってんでしょ!?
 てか何でアンタも満更じゃなさそうなのよ! 男って本当に馬鹿なんだから全く!)

美琴、夢の中の上条に嫉妬丸出しである。

「そうねぇ…それじゃあ今から、一緒に買物力にでも付き合ってもらおうかしらぁ」
「ん〜……まぁ、買い物くらいなら別にいいか…」
(良くないわよ馬鹿っ!!! その女、完全にデートするつもりよっ!?
 目ぇ覚ましなさいよアンタ〜〜〜!!!)


772 : ユメミコ :2015/09/08(火) 00:40:42 REaPwY.s
夢の中の上条に目を覚ませとは、何だか皮肉にしか聞こえない。

「じゃあ、行きましょうか♡」
「うわ、ちょっ!? む、胸、当たってるんですが!?」
(だからそれわざと!!! わざと当ててんのよ、あざとくね!!!
 ってか何をドキドキしとんじゃアンタは〜〜〜っ!!!!!)

上条が興奮すれば、その鼓動は美琴の意識にも感じ取れる訳で、
食蜂があざとくもわざと胸を押し付けて上条がそれに反応すれば、
当然ながら美琴もそれが分かってしまう。
これは夢だ。夢だがしかし、それでも我慢出来る事と出来ない事がある。
しかし憤慨する美琴に思わぬ助け舟が。

「おい食蜂」

誰かがこちらに話しかけてきた。これまた聞き慣れたような声だ。

「(チッ)もう何よぉ! 今いい所だった………ギャッ!!?」
(ギャッ!!?)

何故か美琴も食蜂と一緒に「ギャッ!!?」である。

「ほう…? 私の顔を見て悲鳴を上げるとは、中々度胸があるな」
「りょりょりょ、寮監…さん!? ど、どうしたのかしらぁ!?」

それは美琴の暮らしている女子寮の寮監であった。
常盤台中学には学舎の園の外と中にそれぞれ一つずつ寮があるのだが、
彼女は外の方の寮監だ。美琴は普段(あらゆる意味で)お世話になっているが、
中の女子寮に住んでいる食蜂には、あまり関係のない人物の筈である。
ちなみに、レベル5である食蜂の怯えようから分かるように、
彼女は完全な無能力者でありながら、超能力者や暗部をも徒手空拳だけで撃退できる、
ある意味で学園都市最強の人物である。

「完全下校時刻が近付いてもお前がまだ帰ってこないと、
 学舎の園の中【あちら】の寮から連絡があってな。私が連れ戻しにきたという訳だ」
「で、でででも! まだ時間力はある筈―――」
「  何  か  文  句  で  も  あ  る  の  か  ?  」
「………ありませぇん…」

寮監【ヘビ】にギロリと睨まれた食蜂【カエル】は、
先程までの勢いはどこへやら、一瞬で縮こまってしまった。

「すまなかったな。彼女が失礼をしたようだ。
 それから余計なお世話かも知れないが、君も完全下校時刻になる前に帰りなさい」
「あ、は、はい」

寮監は上条に一礼をすると、食蜂の首根っこを掴みながら学舎の園へと帰っていった。


 ◇


食蜂と寮監が消え、上条は寮監に言われた通り下校を再開する。
しかしせっかく夢の中の世界なのだから、
もっと自分に都合のいい展開になってもいいんじゃないか、と美琴は思っていた。
よりにもよって、食蜂と寮監という苦手な相手が二人も出てこなくていいだろうにと。
そんな事を思っていると、向こうから誰かが近付いてきた。
さて、今度は誰が邪魔に入るのだろう。白井だろうか、それとも海原だろうか。
しかしその相手は、ある意味では必然で、ある意味では美琴の想像の斜め上を行っていた。

「……………はえっ!!? な、なな、何でアンタがここにっ!!?」
「いや何でって…ここ上条さんの通学路なんですが。てか美琴こそ、何でいるんだよ」
(っっっっっ!!!!?!??!!!?!? わっ! わわわわ私っ!!!?)

そこにいたのは、紛れもない自分自身。御坂美琴であった。
何故美琴が上条の通学路にいるのか、それは美琴自身が一番良く分かっている。

「え、あ…べ、別に偶然よ偶然っ!」
(ああ…偶然を装ってコイツの通りそうな道をウロウロしてはみたものの、
 全然来ないから入れ違いでもう帰っちゃったのかなってガックリしながら諦めた瞬間、
 突然現れたもんだから、心の準備が間に合わずにテンパっちゃって、
 でも嬉しいなこのまま一緒に帰ったらプチデートになるのかな…とか思ってるのね私)


773 : ユメミコ :2015/09/08(火) 00:41:29 REaPwY.s
流石である。
しかし何気にその作戦、さっき食蜂が同じような事してたのも見ているだけに、
上条の頭の中の美琴は、目の前にいる美琴に同情せざるを得ない。

「そう言えばさっき、寮監って人が常盤台の子を引きずってったぞ」
「うぐっ!? マ、マジで…? まっずいわね…私もターゲットかも…」

一瞬にして目の前の美琴の顔が青くなる。今更ながら、寮監恐るべしである。
一気にプチデートとか暢気な事を言っていられない空気になってしまった。
しかしここで、上条からまさかの提案。

「帰りづらいんだったらさ、今日だけでも俺んち泊まるか?」
「……………………へ?」
(……………………へ?)

一瞬の時間停止。そして。

「えええええええぇぇぇ!!!!!? えっ、な、ば! 何考えてんのよアンタは!!?」
(そそそそそうよっ!!! そ、そんなの…そんなの、ダ、ダメに…決まってんじゃないの…)

同時に言い訳をする二人の美琴。すると上条は少し残念そうな顔をして一言。

「ん〜、そっか。まぁ、帰らないと余計にまずいかも知んないもんな。
 じゃあ、気をつけて帰」
「あーっ!!! で、でで、でも一晩くらいならっ!!! 一晩くらいなら平気かなー!?
 寮監も一日経てば怒りも治まると思うしなーっ!!!」

だが上条が断ろうとした矢先、目の前の美琴が意見を180度変えてきた。
どっちだよ、と思わなくもないが、普段から心当たりがありすぎるだけに、

(ううぅ…私っていつも、端から見るとこんな感じなのね…)

と泣き寝入りするしかない。
上条は「そ、そうか?」と若干戸惑いつつも、そういう事ならと手を差し出す。

「…? えっと、この手は何?」
「え? あー別に深い意味は無いけど、手を繋いで行こうかと」
「……え、て、てて手をっ!!?」
(繋ぐっ!!?)

上条曰く深い意味は無いらしいが、美琴にとっては深い意味ありまくりである。
美琴は言われるがまま、恐る恐る上条の手を取る。じんわり、と手から手へ体温が伝わってくる。
上条を通して自分の手の体温を、というのが少し紛らわしいが。

(うわわわわ何これ!? 何この状況、何この展開っ!?)

こっちが聞きたい。

「あ、ああ、あり、ありがきゃわっ!!?」

「ありがとう」も満足に言えぬまま、手を引かれた美琴がバランスを崩した。
頭の中の美琴には分かっている。手を握られた事で、緊張してしまったのだ。
改めて客観的に見て、普段自分がどれだけ上条にテンパらされているのかが分かってしまう。

「うわっと! 気をつけろよ?」
「っ!!!!?」

そして次の瞬間、バランスを崩して前のめりしそうになった美琴を、
上条が抱き締めて支えていた。ああ、うん。よくあるよくある。

「にゃわわわわわわっ!!!?」
(にゃわわわわわわっ!!!?)

そしてやはり、同時に奇声を発する二人の美琴。
だが頭の中の美琴は、目の前の美琴とはその奇声の意味が少々違っていた。

(えっ!? えっ!? コイツ、私を抱き締めた事でドキドキしちゃってるっ!?)

食蜂の時に説明したように、上条が興奮すればその鼓動も美琴に伝わる。
そう。上条は今、思いっきりドキドキしているのだ。
つまり上条は、普段から実はモテるのに全く浮ついた話が無いが、
しかし女の子に抱きつかれたり抱きついたりすれば、ちゃんとドキドキするという事だ。
何かもうたまに「仙人かな?」と思ったりもしたが、やはり単純に鈍感なだけだったようである。
だがこれは、これからの頑張り次第で彼を落とせる可能性がある事も示している。
そして逆に、モタモタしていたら彼が誰かのモノになってしまう危険がある事も同様である。
事実、ついさっき食蜂が襲撃してきたばかりなのだから。だったら―――

(だったら、私がもっとアンタをドキドキさせてやるんだから!)


774 : ユメミコ :2015/09/08(火) 00:42:22 REaPwY.s
 ◇


「だったら、私がもっとアンタをドキドキさせてやるんだから!」

盛大な寝言を言いながら、美琴はその寝言で目を覚ました。
どうやら、ようやく長い長い夢から覚めたようだ。

「……あ〜…変な夢見…た…?」

目を擦りながら周りを見回すと、自分よりも先に起きていたらしい白井が、真っ青になっている。

「…? どうしたの黒子」
「い、いえあの、お、お姉様…? 一体どのような夢を見ていらっしゃいましたの…?
 わ、わわ、わたくしの耳が正常ならば、る…類人猿の寮にお泊りになるとか、
 お手を握るとか、だだ、抱き締められたとか寝言で仰っておられたのですが…?」

それを言われた瞬間、美琴は夢の中で出来なかった「ふにゃー」を、
盛大にぶちかましたのだった。そして勿論、寮監にはこってり絞られた。


 ◇


「あ〜、もう……今日は本当に酷い目に遭ったわね…
 朝から寮監には叱られるし、何か一日中調子悪かったし…
 それもこれも、全部アイツが変な夢を見せるから悪いのよ…!」

完全下校時刻が迫る中、美琴は中学から女子寮へと帰る途中だった。
寮監に叱られたのも調子が悪かったのは事実だし、それがあの夢が原因なのも頷けるが、
ただ上条さん本人は何も悪くはないだろう。彼が夢を見せた訳でもないんだし。

と、そんな事をブツブツ言いながら歩いていると、
いつの間にかいつもと違う道を歩いていた事に気付く。
いや、ある意味いつも通りの道と言えるのかも知れない。何故ならここは。

「……あっ。ここってアイツが帰りによく通る道だ…」

無意識だった。
いつも偶然を装って上条の通りそうな道をウロウロしている為、
自然と足がこの道に向いていたのだ。しかし上条は全然来ないので、
恐らく入れ違いにでもなって彼は既に帰ったのだろう。
そう気付いた瞬間、美琴はガックリしたのだが。

「あれミコっちゃん?」
「……………はえっ!!? な、なな、何でアンタがここにっ!!?」
「いや何でって…ここ上条さんの通学路なんですが。てか美琴こそ、何でいるんだよ」

そしてこの後、美琴は上条に手を握られ、抱き締められ、
何故か一晩上条の住む寮で一夜を共にする流れとなる。
どこかで見た事のある、布団を敷いた浴槽で、どういう訳か上条と一緒に―――


775 : くまのこ :2015/09/08(火) 00:43:03 REaPwY.s
以上です。
次の投下はこぼれ話になる予定です。
ではまた。


776 : ■■■■ :2015/09/08(火) 00:48:35 LYVP0HUs
あざす!まさかリアルタイムで読めるとは!正夢ってこんな感じかも?


777 : くまのこ :2015/09/11(金) 20:43:07 .DFOlcwg
すみません…次はこぼれ話とかドヤ顔で予告しておきながら、
また短編になります…
次こそは本当にこぼれ話になりますので…

支部でリクを受けたので、
大覇星祭で上条さんがミコっちゃんにジャージを着せてあげたあの回の、
その後の話を書いてみました。
約3分後に3レスです。


778 : 借りたままの貴方の温もりを :2015/09/11(金) 20:46:00 .DFOlcwg
常盤台中学学生寮208号室、その美琴用のクローゼット。
ここには白井も知らない隠し引き出しがついている。

ご存知の通り、この部屋には美琴と白井の両名が生活を共にしている訳だが、
ただでさえ一緒に暮らしているのに、そこに加えて白井の空間移動の悪用と、
彼女のストーキング行為&ストーキング好意により、美琴のプライバシーは無いに等しい。
現に白井は度々美琴の下着を盗み出し、それを被ったりクンカクンカしたりしている。
まずは自分自身を「風紀委員ですの!」した方がいいのではないか…とお思いの方も多いだろうが、
そんな物は散々周りの人間【みことやういはる】から言われているので、今更である。
そういった経緯があるので、美琴は自分のクローゼットに隠し引き出しを作ったのだ。

クローゼットの中身は、殆ど学校の制服と短パンと寝巻きと下着と小物類で埋め尽くされている。
これは常盤台中学が校則として、外出時は制服着用を義務付けているからであり、
そのおかげで私服を着られる機会があまりないからだ。
なので変態さん【ルームメイト】に盗られて困るような物は無い(下着は諦めた)のだが、
そこはやはり女子中学生。他人に見られたくない乙女の秘密的な物もあったりする。
例えばそう。今、美琴が持っている

「う〜〜〜っ…ど、どうしよう…」

片袖の無いジャージとか。
美琴は自分のベッドの上で、何故か顔を赤くしながらそのジャージを広げているのだが、
しかしこのジャージ、片袖が無い以外にもおかしな点が多くある。
まずサイズが合わない。
美琴は同学年の人間と比べて、特別小柄(胸の話ではなく)という訳ではないが、
それでも一回りくらいサイズが大きいのだ。
そして何よりこのジャージ、驚くほどにボロボロなのである。
あちこちが破れており、およそ常盤台のお嬢様が持つには似つかわしくない状態となっている。
明らかに美琴の物ではない上、白井に隠しておいた事からも察っせるように、
どうやらかなりのワケアリなジャージらしい。

「はぁ……やっぱりアイツに返さなきゃよね…これ…」

美琴はジャージを持ったまま、ゴロンと横になった。
アイツに返す…つまりこのジャージは、元々上条の物だという事になる。

    知    っ    て    た    け    ど    ね

大覇星祭の二日目、美琴はある事件に巻き込まれた。
詳しい説明は省くが、その時助けてくれた人達の中には上条もいた。
上条の役割は暴走した美琴と止める事だった。つまり上条は直接美琴と対峙していたのである。
最終的には美琴も元に戻った訳だが、暴走中に美琴の着ていた衣服などは弾け飛んでしまい、
つまりは美琴は裸同然…というよりも裸そのものだった。
紳士を自称する上条がそんな状態で放っておくなんてプレイをする筈もなく、
自分の着ていたジャージを美琴に着せたのである。
そしてその時のジャージこそが、今、美琴の手にしているジャージという訳だ。


779 : 借りたままの貴方の温もりを :2015/09/11(金) 20:46:25 .DFOlcwg
(今にして思えば…私ってアイツに……は、裸を…み、みみみ見られて〜〜〜!!!)

あの時はそれ所ではなかったが、今になって冷静に考えてみると中々にショッキングな事実だ。
こうなったら責任を取って貰って、お嫁さんにしてもらうしかないのではないか、
とまぁ、そこまで妄想した所で、美琴はハッと我に返った。

「いやいやいや! 今はコレをどう返すかって悩んでるんだったわ!」

美琴は再びジャージに目を向ける。
上条のジャージは、あの時の状態のままで保存されており、
クリーニングはしたものの、それでも上条の汗やら何やらが染み付いている事は間違いない。
返さなきゃならないのは美琴も分かっている。
おそらく上条の事だから
『え? わざわざクリーニングして返しに来てくれたのか?
 そんなの、別に捨ててくれても良かったのに…』
とか言いながら、ちょっと困った顔でもするのだろう。
いくら毎月ギリギリの生活費でやりくりしている上条でも、
ここまでボロボロになったジャージは流石に着ない。
運が良くても、雑巾として生まれ変わり第二の人生が始まるだけである。
しかしそれでもやはり、美琴は返しに行かなければならないのだ。何かそんな気がする。
だが今までタイミングが合わず、ズルズルと気付けば11月も末。
9月に行われた大覇星祭から大分経ち、もう一端覧祭も終わっている。
その間にも上条とは何度も顔を合わせている筈なのだが、結果はこの通り散々なものだ。
その理由の一つには、やはり上条への恋心の自覚が挙げられるだろう。

ある日第22学区で見た、このジャージ以上にボロボロになった上条。
そして彼の口から聞いた覚悟の言葉。その瞬間、美琴は知ってしまったのだ。
自分の内側にあった、自分だけの現実すら粉砕する、その圧倒的な感情を。

それで何が変わったのかと聞かれれば、端的に言うと「テンパりが酷くなった」の一言だ。
それ以前にも上条と顔を合わせればワタワタしていた美琴だったが、
自分の感情を自覚してからは、殊更ワタワタするようになった。遅めの初恋故の弊害である。
美琴は中学生でありながら、小学生以下の初々しい反応をしてしまっているのだ。
その圧倒的な感情は悪化の一途をたどっており、
今では「上条」の文字を見るだけでドキドキしてしまう始末である。
そんな状態の美琴が、上条の着ていたジャージなどを手にしてしまった日には、
もう心臓が破裂するんじゃねーかってくらいバクバクしてしまうのである。

美琴は目の前で広げたままのジャージを穴が空くほど(最初から空いてはいたが)見つめ、
何を思ったのかそれをクシャクシャにして抱きかかえた。


780 : 借りたままの貴方の温もりを :2015/09/11(金) 20:47:07 .DFOlcwg
(か、返さなきゃなんないのは分かってるけど、
 も、もも、もう少しだけ堪能しちゃってもいいわよねっ!!?)

いいわよねって、誰に対して言い訳をしているのか。
これもジャージを未だに返却できていない理由の一つである。
美琴は現状のように部屋に一人きりの【しらいがいない】時に限り、
このようにしてこっそりとジャージを抱き締めたりしているのだ。
冒頭で白井が美琴の下着を云々と説明したが、実は美琴も同じような事をしているのである。
美琴は上条のジャージを大切そうに抱き締めたままウットリとする。

「こうしてると…アイツに抱き締められてるみたいな気がしゅりゅ〜♡」

何とも小っ恥ずかしい独り言を漏らしながら、恍惚の表情でベッドの上をゴロゴロ転げる美琴。
こんなだらしない姿を、彼女に憧れを持つ後輩達(主に白井)が見たらどう思うだろうか。

「アイツの…匂いがする………♡」

かと思えば今度は何とも痛々しい独り言も漏らしながら、ゆっくりと鼻で深呼吸する。
クリーニングに出している為その匂いは有機溶剤の物なのだが、
それでも気分的に、上条の匂いがしているような気がするのだろう。
初恋をこじらせるとこうなってしまうのだ。
そんな事をしていて、時間が経つのすら忘れてしまっていたばっかりに、

「お姉様〜! ただいま黒子が帰って参りましたの〜!」
「びゃアアアアあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

このようにルームメイトが風紀委員の仕事から帰ってきた瞬間、
死ぬほどビックリさせられるハメとなるのである。
美琴は一人でエッチなビデオを観ていたら突然家族が帰ってきた男子学生の如く、
ものっそい速さで証拠を隠滅し(具体的にはジャージを毛布の中に隠し)、誤魔化す。

「おおおおおおおかえり黒子っ!!!
 思ってたより早かったのね! もう少しゆっくりしてても良かったのにっ!」
「いえ…いつも通りの時間でしたが……
 それよりお姉様…今、何か隠されませんでしたか…?」
「にゃにゃにゃにゃにゃんの事っ!!!? べっ、べべ、別に何も隠してないけどっ!!!?」

白井の目がジトっとする。完全に疑われているようだ。
それはそうだ。ここまであからさまに挙動不審で、怪しまれない方が不思議である。
しかし美琴も慣れたもので、こういう時の白井の気の逸らし方も熟知している。

「そ、そう言えば黒子! 今日プリン買ったんだけど、一緒に食べない!?」
「まあ! まあまあまあ、お姉様がわたくしの為に!? 是非とも頂きますの!」

どうやら、うまく誤魔化されてくれたようだ。
しかしこれで白井が次に部屋を出るまでジャージをベッドの中から出す事も出来なくなり、
こうして今日も、美琴は上条にジャージを返す機会を失ってしまったのだった。


 ◇


ちなみにその後、結局ジャージの行方がどうなったかと言えば。

「ね! ね! これこれ、これ見てっ! 大覇星祭でアナタが着てたジャージ!
 ほら、私が変な力で暴走しちゃって、アナタが助けてくれた時のヤツ!」
「うっわ! すげーボロボロじゃん…それは流石に捨てようぜ? 右袖も無いし」
「絶対にイヤっ!!!」

さほど遠くない未来。未だに上条へ返却はされていなかったが、
そのジャージは美琴と上条…いや、『二人の上条』の共有物となっているのであった。


781 : くまのこ :2015/09/11(金) 20:47:57 .DFOlcwg
以上です。
オチは以前に自分が書いた、>>416-418の話とリンクさせてみました。
ではまた。


782 : 我道&くまのこ :2015/09/11(金) 23:26:47 .DFOlcwg
こんな短い間隔で連投すみません、くまのこです。
お待たせしました…かどうかは分かりませんが、こぼれ話の続きが完成したので投下します。
今回も勿論、我道さんとの合作になります。
約3分後に10レスくらい使わせていただきます。


783 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:29:37 .DFOlcwg
上条「よう五和、n……もとい神裂。休憩終わりぜよ」
五和「ん? まだ早いような気がしましたがそうですか。それじゃ、と」
神裂「ふぅ。結構疲れますね。どうしてあんなおちゃらけゆるゆるトークで疲れるのでしょうか……」
五和「そりゃー上条さんと御坂さんが妙にイチャイチャしまくるからですよ。まったく」
上条「んにゃ。多分、単純に大声出しまくってるからじゃねーかな? 時々、アグレッシブにドタバタする事もあるしな」
神裂「でしょうね。って、おや? 御坂さんは?」
上条「お? そういやr……じゃなくて御坂はちょっと遅れるっつってたな。俺たちで先に始めちゃってて良いんじゃね? いつ来るか分からないんだしよ」
五和「……本当に良いんですか?」


784 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:30:23 .DFOlcwg
 ――――病室の手前、直線的な廊下に立ち尽くしている女性が一人。神裂火織である。彼女も彼女で見舞いに来たのだが、何だかタイミングを外されてしまい(五和に先を越されたとも言う)、どうして良いのか分からなくなっている訳だ。


五和「あ、これはアックア戦の後ですね。……そう言えば、女教皇様も来ていらしてましたね……」
神裂「ま、まあそれは私もお礼を言わなければいけない立場ですし……」
上条「ふぅ……相変わらず奥手だねぇ……」


「(……どうしましょう。明日にはロンドンに戻らなくてはいけないのでスケジュール的には今しかないのですが、しかしまさにこの瞬間五和や『あの子』がいるようですし……」
「ねーちーん……そうこうしている内に日が暮れちゃうぜーい?」
 唐突に真後ろから聞こえた声に、神裂の肩がビクゥ!! と大きく動く。振り返るとそこにいるのは金髪サングラスの少年、土御門元春だ。


上条「んー? 五和は神裂と一緒にロンドンへ行く予定は無かったのか?」
五和「ええ。この時点ですと、まだ私は日本が活動拠点の天草式十字凄教の一員ですからね。この後、女教皇様がロンドンに戻られてから正式にイギリス清教の傘下に入ってロンドンに拠点を代えることになるんです」
神裂「時間制限なし……何ともうらやましい……」


「で、堕天使メイドセットは持って来たんだろうな?」
「ぶふげば!? も もも持ってくる訳がないでしょう!! 七天七刀以上に税関が厳しいんです!! そもそも、その馬鹿げた計画を実行に移すならより一層、一対一に決まっています!! 間に五和や『あの子』が挟まるなど絶対にありえません!! 『あの子』の完全記憶能力がどれほどのものか分かっているでしょう!!」


上条「そうか? 案外、K……とと、インデックスなら神裂の意外な一面を見れて喜ぶかもしれねーぞ」
神裂「そんなわけないじゃないですか!!/// 明らかに変態扱いされて、前に敵に見られて怯えた視線を向けられた時期がありましたけど、あんな姿を覚えられたら、金輪際、思いっきり変なもの扱いされて二度と目を合わせてくれないか、距離を思いっきり置かれてしまう視線を向けられてしまうかですよ!!」
五和「? 女教皇様? この土御門さんとの会話ってどう考えても前振りですよね?」
神裂「いいいいいいいいいい五和!! ななななな何を言って!!///」


「そんな気真面目で恥ずかしがり屋のねーちんのために……じゃーん!! 今日はより進化した堕天使エロメイドセットを持ってきたにゃーっ!!」
「一体どこがどう変わったと言うんですか!?」
「え、何言ってんの? ほらこの胸の開き具合とスカートの透け具合がですね―――」


五和「あ、私何か用事が思い立っちゃいました。少し外して良いですか女教皇様。」(棒読み)
神裂「って、ちょっと待ったぁぁぁぁぁあああああああああ!! 五和、貴女は何逃げようとしているのです!? 『用事が思い立っちゃいました』って何ですか!?」
上条「そりゃー。五和だって理解してるんじゃないか? 神裂のあの姿は、K……おっと。俺にしか見せられないものだってことを」
五和「ソウソウソウデスヨ、プリエステス。私ニハプリエステスノアノ姿は恐レ多クテ見ルノモ憚レルモノデスカラ」
神裂「いや明らかに言葉を選んでますよね!? というか私と目を合わせようともしませんよね!?」


785 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:31:01 .DFOlcwg
「挟んで擦るぐらいの事はできんのか貴様はぁ!!」
「??? 挟むって、何をです?」
「こんのっ、お高くとまりやがって……ッ! ハイ質問ハイ質問!! ねーちんのそれは何のためについているのですか? その哺乳類のアカシすなわちおっぱいは何のためについているんですかって聞いてんだよォォォ!!」
「す、少なくとも、挟んで擦るために使うものではありませんけど……」
 土御門の言いたい事を頭の中でイメージできないのか、不可解な表情になる神裂。


五和「……///」
神裂「ん? 五和はイメージできるのですか? 土御門の言っている事が」
五和「!! できませんよっ!?///」
神裂「そうですか? ですが先ほどの表情を見ますと何か知っているような気がしたのですが」
五和「知りませんから!! ぱふぱふとかしこしことか全然分かりませんから!!///」
神裂「? 何ですかその擬音? ますます分からなくなったのですが、というか擬音が表現できるってことは五和本当は知っているんじゃないですか?」
五和「本当に分かりませんから!! 男の人のアレをアレしたりソレしたりだなんて想像できませんから!!///」
上条(いやー……マジで分かってねーんだな、このアマ……ッ!!)


 ――――神裂はゆらりと手を伸ばす。手刀のように五本の指を真っ直ぐ揃え、手の掌を上に、そのまま土御門の首をスッパリ切断できそうな感じで。
 神裂は言う。
「土御門」
「は、はい?」
「覚悟が決まりました。例の物を」


神裂「ふむ。今思えば、あのまま土御門の首をこの例え通りスッパリ殺ってしまっても良かったかもしれませんね」
上条「!!!!!!!!!!?! 何言ってくれちゃってんの!? 字面がおかしいよね!? ていうか何でそんなマジ顔なの!?」
五和「? どうしたんです上条さん? 何だか随分焦っているようなのですが、女教皇様は上条さんじゃなくて土御門さんの首を刎ねてしまえば、って言ってるだけですのに」
上条「『言ってるだけ』って何!? 『首を刎ねる』なんて表現なのに『言ってるだけ』ってどういう意味よ!! オレの身の心配してくんない!? ねーちんの手刀でやられたらマジで首が飛びかねんぜよ!?」
神裂「ん?」
五和「え?」
上条「あ゛」
神裂「上条当麻? 『オレの身』とはどういう意味でしょうか? 私は『土御門の首を刎ねてしまえばいい』と言ったのですが?」
上条「ええっと……その……」
五和「あーそう言えば、土御門さんもツンツン頭でしたね。金髪だけど黒く染めてしまえば髪型だけは上条さんと同じになるかも」
上条「う……か、神裂さん? 五和さん? 何故に二人は刀と槍の切っ先をか、上条さんに向けて、前髪の影を濃くしたとっても良い笑顔なのでしょうか……?」
??「あれー? 随分早いわね二人とも。まだ休憩時間終了までもうちょっとあるわよ……って、ん? 何で、と……あ、いやいや。ソイツがそこに居んのよ?」
上条「ぎくっ!?」
五和「あら御坂さん? ……ふーん、てことはやっぱこの上条さんは偽物なのですね……?」
神裂「そう言えば、学園都市には人の皮を利用して変装の魔術を使うアステカの者が居るとの情報がありましたか。しかもその者は、どこかの誰かさんと知り合いだとも。さらに言えば、その知り合いは過去に上条当麻の戦闘の最中に居た事もありますし、抜け目ない奴ですから、その時に『皮』を入手していたとしても不思議はない、かもしれません」
上条「ぎくぎくぎくぎく……」
??「どうした御坂。早く中に入ろうぜ……って、俺?」
上条「――――!!!」
神裂「……」
上条「ち、ちちちちち違うぞ! オレはねーちんの堕天使エロメイドの姿をもう一度見たくてカミやんに変装してこのスタジオに入り込んだ土御門元春じゃないにゃー!!」
神裂「ほほぉ。そうですか。では最期に何か言い残す事はありますか? 辞世の句くらい詠ませてあげますよ」
上条「いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」


786 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:31:31 .DFOlcwg
 およそ10分後。
 ゲラゲラ笑う土御門の顔面に拳を叩き込み、女性としての引き出しを増やし、また一段とレベルアップした天草式女教皇・神裂火織が一つの病室に突撃していく。


上条「あ〜あ。ご愁傷様なり土御門……」
神裂「これこれ上条当麻。今回、あ奴は正式なゲストではないのですから名前を出してはなりませんよ」
美琴「いや、もう前の一節で暴露されてるし」
五和「え? ちょっと待ってください。上条さんも御坂さんも女教皇様も、このシーンの土御門さんが顔面を殴られたことに対しての感想ですよね? 何か少し違う気がしているのですが?」
上条「ン? モチロンデスヨ? 聖人ノ力デ殴ラレタラ、タダジャ済マナイジャナイデスカ。」
神裂「当然です五和。『この場に居ない男』のことなど論ずる意味はないではありませんか」
美琴「そ、そうですよね! じゃ、じゃあ早速次に進みましょう次!!」
五和(な、なんか女教皇様、とっても怖い……)


 その後、世界にどういう混乱が巻き起こったかは女教皇の名誉を守るために割愛する。


五和「……」
美琴「……」
上条「……」
神裂「!?」


 ただ言えるのは、上条当麻はミーシャ=クロイツェフとも風斬氷華とも違う、第三の天使の影に今後しばらく怯え続けるという事だけだ。


上条「いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」
美琴「ちょ、ちょっと!? いくら怖いからって何、絶叫して飛びついて力いっぱい私に抱きついてんのよアンタは!?/// てか、前にもこんな事無かった!?///」
五和(う、羨ましい……上条さんの側に居れば良かった……)
神裂「いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」
五和「って、女教皇様!? いくらトラウマだからって、絶叫しながらしゃがみ込んで私の腰にしがみつかないでください!! 聖人の力なんですよ!? わ、私の腰がミシミシ言っちゃってますからぁぁぁぁあああああああ!!」


『ウワサの新商品の名は大精霊チラメイド!! 相変わらず作っている人間の脳がZ区分になっているとしか思えない破壊力! なんか微妙に需要があるらしく今秋発売決定!!』
――――
「う、うう……私にはこんなの着れないッッッ!!」


神裂「そうですよね普通はこんなの着れないですよねこんなの着る奴は頭のおかしい人だけですよね私のような人間だけですよねいやむしろ私は人間ではないから着られたのかも知れませんねだって私は堕天使ですものねそしてエロメイドですものね所詮私は」
五和「ププププ女教皇様っ!! す、すみませんそんなつもりはなかったのですがっ!!!」
美琴「ちょっと! 何か変なトラウマスイッチ入っちゃったわよ!?」
上条「それだけあの堕天使の破壊力が凄まじかったって事さ。そんな破壊兵器を持ってきた土m…どこかのグラサン金髪アロハ野郎の罪は重い」
美琴「でも微妙に需要はあるみたいよ」
神裂「それだけ日本という国には特殊な趣味を持った者が大勢いるという事でしょう。全く嘆かわしい…」
上条「まぁオタクの聖地がある国だからなぁ。俺のクラスにも二次元星人がいるし」
美琴「……アンタはどうなの…? た、例えばその…わ、私がこんな服とか着たら…」
上条「えっ? あ、いや…可愛いとは思うぞ?」
美琴「そ、そそそ、そう…へ、へー、ふーん……///」
五和「なん…だと…?」
上条(……つってもまあ…「でも胸のサイズ的に着れないんじゃねーか」ってツッコミはしないでおこう。上条さん、この若さでまだ死にたくはないし)
神裂「上条当麻? 何故、彼女の胸のサイズでは着れないのではないか、という感じの表情をされておられるので?」
上条「うぉぉぉぉいいいいいいいい!! せっかく押し殺せたツッコミを暴露するんじゃねええええええええ!!! ――――って、ハッ!?」
美琴「……」(体全体が金色に輝いて髪の毛が逆立ち始めている)
上条「え、ええっと……御坂さん……? 貴女様はひょっとしてレベル6半覚醒状態を自覚して制御できるようになったのでしょうか……?」
美琴「……」
五和(こ、怖……)


787 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:32:08 .DFOlcwg
 御坂美琴はそわそわしていた。
 ――――彼女がそわそわしている理由は明白だ。
(……とっ、とんでもない事を言ってしまった!! 後先考えずになんかものすごい事を言ってしまった……ッ!!)


美琴「ええっと……その……///」
上条(ぬおっ!? お、おい御坂、その胸の前で両手人差し指の先をくっつけてこねくりながら、顔を赤くした上目づかいでこちらをチラチラ見るそのお姿は反則的に可愛いのですが!?)
五和「はぁ……上条さん? 御坂さんの胸の前で両手人差し指の先をくっつけてこねくりながら、顔を赤くした上目遣いで上条さんをチラチラ見てるその姿が反則的に可愛い、なんて顔しないでください。何だか私の目が猫化(瞳孔が細い状態の時のやつ)して髪が伸びそうですから」
上条「!!!!!!!!!!?! いやもう髪伸び始めてるし!? つーか、それそんな槍なの!?」
神裂「五和? 貴女の持っているその槍は別に二〇〇〇年以上前に中国で創られた槍ではないのですよ? プラシーボ効果は薬での話なんですから」
美琴(うへぇ……一瞬で頭が冷めちゃったわ。というか、本当にあの人の持っている槍はあの槍じゃないのかしら? 前回OPで変身してたような……)


 脳裏にあるのは、第二二学区――学園都市最大の地下街で繰り広げられた、とあるツンツン頭の少年との一連の会話だった。
 ――――とにかく上条を止めるために、打算も出し惜しみもせず、自分の心の中にあった言葉を全部吐き出してしまったのだが……。


美琴「ななな、何よ悪いの!!? し、しし、仕方ないでしょあの時はとにかく必死だったんだからっ!!!///」
上条「いや誰も悪いなんて言っておりませんが」
神裂「恥ずかしさのあまり自分と周りを誤魔化すように虚勢を張る…これが若者言葉で言う所の『逆怒り』という物ですか」
五和「……あの、女教皇様? もしかして『逆ギレ』の事ですか? しかもそれ、今は別に若い人だけが使う言葉でもありませんが…」
上条「それにむしろ、その……お、俺は嬉しかったぞ…? 御坂に…そんな風に想われててさ…」
美琴「っ!!! そ、そう…それ、なら……い、いいん、だけど……///」
神裂「ああ、これは知っていますよ。『マルコメの波動を感じる』という奴ですね」
五和「…いや、お味噌の波動を感じてどうするんですか。ラブコメですよ。っていうか今はそんな事にツッコんでる場合じゃありませんよ女教皇様っ!!! またイチャイチャし始めちゃいましたよお二人がっ!!!」
神裂「はっ!!」


 ――――唯一の救いは(おそらく美琴自身の防衛本能が働いているおかげでもあるのだろうが)、件の少年と街中で遭遇する機会がなかった事だ。
 今、顔を合わせたら間違いなく意識が飛ぶ。


上条「何で?」
美琴「な、なな、何でってっ!!! 何でってそれは、その、あの、だから、ほら……///」
神裂「体が緊張している時に急に後ろから声を掛けられたら驚くでしょう。それと同じです」
上条「うん、それは分かるんだけど…この場合、俺がその緊張の元凶なんだろ? 御坂がそこまで緊張する理由がイマイチ分かんないんだけど…」
五和「そこは分からなくても大丈夫ですっ!」
上条「いや、けどさ」
五和「だ・い・じょ・う・ぶ・ですっ!!!」
上条「………はい」


「んー? あれ、ビリビリじゃん。お前ここで何やってんの?」
「ッ!!!???」
 突然後ろからかけられた声に、美琴はビックゥ!! と肩を大きく振るわせる。


神裂「ほら、このように」
上条「だからそれは分かってるんだってば。俺が聞きたいのは」
五和「だっ! いっ! じょっ! うっ! ぶっ! でっ! すっ!!!」
上条「………はい」
美琴「で、でもこの時は本当にビックリしたんだから……///」
上条「つっても俺はいつも通りに話しかけただけだぞ? 別に驚かすつもりもなかったし」
美琴「アアア、アンタにとってはそうかも知れないけど、私にとってはある意味最悪のタイミングだったのよっ!!!///」
上条「何で?」
美琴「な、なな、何でってっ!!! 何でってそれは、その、あの、だから、ほら……///」
神裂「体が緊張している時に急に後ろから声を掛けられたら驚」
五和「みなさん!? 会話がループしてますよ!?」


788 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:33:04 .DFOlcwg
 ――――美琴は美琴で今の状態に内心で『あれ???』と首を傾げていた。
 ……そんなに嫌じゃない。


美琴「何か…意外とホッとしちゃったのよね。ひ、久しぶりにアンタと喋ったら…///」
上条「まぁ俺としても、御坂に緊張されるよりはその方がいいけど」
神裂「それだけお二人が、お互いに心の許し合えるの間柄なのだという事でしょう」
美琴「そそそそそんな事はないけどねっ!!?///」
五和「そ、そうですよ女教皇様! 旅先から実家に帰ってくるともの凄く落ち着くじゃないですか、アレと同じですよきっと!」
美琴「じっ! じ、じじ、実家ぁっ!!? こ、ここここの馬鹿が実家…!///」
五和「ああぁっ!? しまった逆効果だコレ!」
上条「ん〜、ミコっちゃんのこのテンパり具合…実家のような安心感だな」


「ど、どうにゃってんのよ……。普通はここで思いっきり拒絶してとりあえず走り去る場面でしょ何で居心地良くなってんのよ私のココローっ!?」


上条「確かによく見るな…何か急に走って逃げる御坂の背中。そういう時は、決まって顔が真っ赤になってるけど」
美琴「それはアンタがっ! 変な事言うからでしょっ!?///」
上条「変な事って例えば?」
美琴「はえっ!? た、例えば…あの、その………ごにょごにょ…///」
神裂「と言うか御坂さん、先程から赤面しっ放しですね」
美琴「気のせいじゃにゃいかしらっ!!? 暑いからそう見えるだけよきっと!!!///」
五和「では冷たいおしぼりを差し上げますので、クールダウンしてください」
美琴「あ、う、うん…ありがと…」
上条「じゃあほら、俺が顔拭いてやるから」
五和「何ですとっ!?」
美琴「えっ!? あの、ちょ、ちょっとっ!!?///」
神裂「…再び赤面してしまいましたね。彼女の熱で、結局おしぼりも熱くなってしまいましたし」
上条(冗談でも言ってこの場を和ませようと思っただけなのに、何かえらい事になっちまった)


「ふにゃー」
「ふにゃァァあああああああじゃねェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


上条「『ふにゃー』誕生の瞬間です」
神裂「こ、これが噂に名高いあの『ふにゃー』ですか!」
五和「私、本物の『ふにゃー』って初めて見ました!」
美琴「何その観光名所でも見たかのような感想!!? え、何、噂になってんの!? てか誕生の瞬間も何も、この時の一回しかしてないわよ多分!」
神裂「ええ…ですが貴方の『ふにゃー』はあらゆるSSで使われておりますから」
五和「言ってみれば『ふにゃー』は御坂さんの代名詞ですからね」
美琴「私の代名詞って『超電磁砲』じゃなかったっけ!!?」
上条「で、結局の所コレの原理って何なんだ?」
美琴「そ、それは…私の自分だけの現実に影響に及ぼすくらいの…アンタのその……///」
上条「やっぱり俺が原因なのか…けど俺に御坂の自分だけの現実に影響するだけの力なんてないと思うんだけどなぁ」
美琴「そんな事ないわよっ!!! だってアンタは私にとって」
上条「……え…?」
神裂&五和「「っっっ!!!!?」」
美琴「私にとって………………………………ふにゃー///」
上条&神裂&五和「「「ふにゃァァあああああああじゃねェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」」」


789 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:33:37 .DFOlcwg
 問答無用の午前中授業だ!!
 なので、超能力開発の名門校・常盤台中学のエースである御坂美琴はファミレスにいた。
(……それにしても――――何よこのファミレスは。たまたま今日初めて入ったけど、ここは巨乳の国なのか……?)
 ――――長い黒髪におでこな巨乳セーラー(とその向かいに座る、特に胸も大きくない巫女装束の似合いそうな女)に、そこの学校の教師なのか、緑色のジャージを着たもう馬鹿みたいに爆乳の体育教師、おまけに、あの窓際の座席に座っている、メガネで巨乳の……立体映像?


上条「あれ? ここって俺の学校の近くのファミレスじゃないか。へぇ、吹寄に黄泉川センセ、それに風斬、か……おいおい姫神は( )扱いかよ……」
美琴「何? やっぱ、ここにいる全員、アンタの知り合いなの?」
上条「ちょっと待った。やっぱって何だよ? たまたま知り合いが集合してるだけじゃねーか」
美琴「ほー。つ・ま・り、アンタの知り合いには胸のデカイのが多い、と?」
上条「たまたまつったろ? 俺の知り合いにだってそんな胸の大きくないのは居るって。インデックスとか白井とかバードウェイとかオティヌスとか小萌センセーとか、御坂妹とかアニェーゼとかレッサーとか。あとお前」


 その瞬間、大神ゼウスも真っ青な落雷が上条に降り注いだ。


五和「というか、スラスラとそれだけ女の人の知り合いが浮かぶのもどうかと思いますけど」
神裂「これが上条当麻の上条当麻たる所以なのでしょう」
上条「って、お前ら何達観してやがんの!? 俺の命、危うく消し飛ぶところだったのよ!?」
美琴「ちっ……」
上条「コラ御坂! お前今、舌打ちしなかったか!?」


(なっ、何で!? 何の用なの! あの馬鹿の方から電話がかかってくるなんて滅多に……だーっ! 事前にメールで何の用かを送ってくれれば、こんなに慌てなくて済んだのに―――いやダメだその場合だと今度は緊張してメールを開けない……ッ!!)


上条「……ミコっちゃんの中で、上条さんてどういうポジションなの。何かもう、学校の先生から直接呼び出しをくらった勢いのリアクションなんですが…」
美琴「アアアアンタが普段、電話してこないのが悪いのよっ!!! きゅ、急に来るから心の準備とか…間に合わなくてその……///」
上条「だから、何で俺の電話に出るのに心の準備とか必要なんだよ! それに特に用も無いのに電話するのも迷惑になるだろ!」
美琴「そんな事は!」
上条「…そんな事は?」
美琴「そんな事は……あ、あるけど…///」
神裂(今、明らかに『そんな事はないわよ』と言いかけましたね…)
五和「で、でも御坂さんの気持ち、私にも分かります。私も…上条さんから電話がきたら、同じように緊張しちゃうと思いますし…///」
上条「え〜…五和も〜? じゃあ聞くけど、五和は建宮と電話する時って緊張するか?」
五和「いえ全く」
上条「断言!? しかもその『何言ってんのこの人』的な表情は何!? ……御坂は海原と電話する時って緊」
美琴「する訳ないでしょ。そもそも電話した事ないけど。てかする気もまったくないけど」
上条「否定早っ! ………つーか、何が違うん……?」
神裂「その違いが分からないようなら、先はまだまだ長そうですね」


790 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:34:21 .DFOlcwg
――――混乱する美琴の耳に入ってきた最初の言葉は、
『悪りぃ御坂! これから地下鉄駅に忍び込みたいんだけどシャッターの電子ロックの開け方とか分かるか!?』

「………………………………………………………………………………………………………、」
 御坂美琴は携帯電話を耳から遠ざけ、一度大きくため息をつくと、極めて冷静な動作で親指を使って通話を切った。


美琴「この瞬間の私の気持ち分かる…? さっきまで緊張してたのが馬鹿らしくなって、怒りを通り越して呆れたわよ」
上条「え? いや、この後思いっきり怒ってたじゃん。俺がもう一度かけ直したら、出るまでに随分間があって、出たらいきなり、『聞こえた上でシカトしてんのよ!! 気付けこのド馬鹿!!』って」
美琴「それはアンタが当たり前のようにもう一度同じ事言ってきたせいでしょうが!!!」
神裂「確かに、開口一番で犯罪の片棒を担いてくれと言っている訳ですからね。貴方の事ですから何か事情があるのは想像に難くはないですが、それでも普通はお断りする場面ですよ」
上条「うっ…! そ、そう言われるとそうだけど…でもこの時は緊急事態だったし、それにこんな事を頼れる人も御坂以外にいなかったし」
美琴「っ! へ、へー。そう…ま、まぁ確かに電子ロックの構造には、他の人よりはちょろっと詳しいつもりだけど…///」
五和「ああっ!? さっきまで口喧嘩モードだったのに、上条さんから頼られてるって知っただけで御坂さんが上機嫌に!」


「いやそれは大丈夫だけど……ちょっと待ちなさいアンタ。時差って、今どこにいんのよ?」
『ロンドン』
 その回答に、美琴はもう一度電話を切ろうとした。


美琴「この瞬間の私の気持ち分かる…? 一気に気分がどんよりしたわよ」
上条「ロンドンだけにどんよりか。晴れたらパリなんだな」
五和「カルメン麺よりパエリア好きですね」
神裂「……また私が知らない話題を…」
美琴「いや、そんな事はどうでもいいんだけどさ。ってか誤魔化すんじゃないわよアンタ! フランス行ったりイギリス行ったり、しかもイタリアにも行ったんでしょ!? その後もロシアだのハワイだのデンマークだの…何なのアンタ!? この短い期間で世界一周旅行でもするつもりなの!?」
上条「いやいやいや、上条さんだって伊達や酔狂で世界中あっちこっち飛んでる訳ではありませんですことよ!? 毎回魔術師関係の事件に借り出されてですね!?」
神裂「くっ…! 本当に申し訳ありません…無関係な貴方を巻き込んでしまっている事は、魔術師を代表して私が謝罪いたしますので、どうかご容赦を…!」
五和「プ、女教皇様! 頭をお上げください! 謝罪ならば私がいたしますから! という訳で上条さん! わ、わわ、私に思う存分おしおきしてくださいっ!///」
上条「ああ、もう! それぞれ別の意味で面倒くさい!」


『……ダメ?』
 ダメじゃない、と美琴は思わず口に出しそうになった。


上条「そのまま口に出してくれれば良かったのに……って、あれ? 何故にみなさん、お顔が真っ赤になってらっしゃるので?」
五和(か…可愛い……///)
神裂(普段はこんな言い方をしないだけに、甘えた声を出されると破壊力が違いますね…///)
美琴(コイツは天然でこんな事しちゃうんだから…///)
上条「…?」


791 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:35:09 .DFOlcwg
「……俺は南京錠も開けられないのですが」
『アンタの技術レベルは江戸時代ね』


上条「いやいや、普通はそんなピッキングスキルを持ってる方がおかしいって。どっかのスキルアウトじゃねーんだから」
美琴「でもアンタ、私の部屋に入った事があるんでしょ?」
上条「そりゃお前のルームメイトに開けてもらったからだろ。…まぁ神裂ならそんなスキルなくても、力づくで鍵とか開けられるんだろうけど」
神裂「ひ、人を怪力なバケモノみたいに言わないでください! ………確かに、やろうと思えば可能ですけれども…」
五和「流石は女教皇様です!」
神裂「ううぅ…そんな事で尊敬の眼差しを向けられても…」


「開いた! サンキュー御坂!」
『あいよー。言っとくけどこれは貸しだかんね』


上条「そう言や、この時の借りって返してなかったな」
美琴「へ? いや、別にいいわよ。半分冗談で言ったんだから」
神裂「よくありませんっ!」
美琴「おうわっ!? え、いやでも私がいいって言ってるんですけど…って言うか、何で神裂さんがそんなに声を荒げるんですか?」
神裂「……私も彼には多くの借りを作りました。自分でも不甲斐ないと思います…が、過去は変えられません。ならばこそ私は誓ったのです。多くの借りを作ったのならば、全て返せば良いのだと。以来私は、彼に借りを返すべく悪戦苦闘の日々を…!」
美琴「えっと…何か語り始めちゃったんですけど?」
五和「女教皇様は真面目な方ですから」
神裂「という訳で、今から御坂さんを抱き締めてあげてください」
上条「…はい?」
美琴「っっっ!!!!?///」
五和「女教皇様あああああああ!!!? ととと突然何を仰っているのですか!? たった今、真面目な方だとフォローしたばかりなのですけど!?」
神裂「私は至って真面目です。御坂さんを抱き締める事こそが、何よりの恩返しになりますから。その理由は五和ならばお分かりでしょう?」
五和「いいいいえ、それは分かりますがしかしですね急にそんな事言われても上条さんも困ると言うかその」
上条「えっと…理屈は分からないけど、とりあえずこんな感じか? むぎゅ〜〜〜…」
美琴「ぴゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!///」
五和「」
上条(…あれ? 何かすげードキドキする…)


『って、ちょっと!? これからほら「一端覧祭」の準備期間で午前中授業が増える訳じゃない? だからええと時間を調節すれば色々遊べる時間も―――ッ!?』


上条「な〜んだ、ミコっちゃんってば俺と遊びたかったんですか。それならそうと言ってくれれば…って、あら?」
美琴「ぷしゅー……///」
上条「何か煙出して気絶してらっしゃるね」
神裂「…少々借りを返しすぎて、お釣りが余ってしまいましたか」
上条「えっと…どうしようか五和?」
五和「」
上条「……こっちは白目剥いて固まってる」
神裂「思わぬ二次災害を生んでしまいましたね…申し訳ありません、五和……」


792 : 気付かれてしまった事、気付いてしまった事こぼれ話(後編) :2015/09/11(金) 23:35:59 .DFOlcwg
上条「じゃあ二人が再起不能になっちゃった所で、今回はここまでにしとくか」
神裂「そうですね。ここから先は、御坂さんの出番も無いようですし。次は第三次世界大戦編ですか?」
上条「そうだな。19巻は暗部関係の話だし、今までの傾向からすると20巻になると思うぞ」
神裂「ではいよいよロシアですか…旧約の大詰めですね」
上条「……一回目のこぼれ話をやった時は、まさかここまで長編になるとは思わなかったけどな。っつーか、おーい! もう締めやってんだから、そろそろ起きれお前らー!」
美琴「………えっ…? あ、はぇ? 私、今まで何を……」
五和「……ハッ! ゆ、夢を見ていたようです。何だか、とてつもない悪夢を…」
神裂「おはようございます。お二人共」
美琴「あ、お、おはようございます…? いやー、変な夢見ちゃいましたよ。きゅ、急にコイツがその…だ、抱き締め…てきたり……なんて…///」
五和「私もそんな夢を見ました。あくまでも、ただの夢ですけど」
上条「…え? 夢じゃないよそれ。ほら、さっきもこんな風に………むぎゅ〜〜〜…」
美琴「ぴゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!///」
五和「」
神裂「はい。同じ事を繰り返した所で、今回はここでお開き。また次回お会いしましょう、さようなら……って、あれ? よく見たら五和は白目剥いて固まった訳では無さそうですね? というか、何だか前髪の影に目を隠しているような……」
五和「か〜〜〜〜〜〜み〜〜〜〜〜〜〜じょ〜〜〜〜〜〜〜〜さ〜〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜〜」
上条「は、はひぃ!?」
五和「何だか私ぃ〜〜〜〜〜瞳が猫化(ただし瞳孔が細いやつ)して、歯が全部牙に変わってぇ〜〜〜〜〜頭髪がとっても伸びてくるんですけどぉ〜〜〜〜〜〜どうしてでしょうかぁ〜〜〜〜〜〜?」
美琴「え? え? 私、電撃使いだけど雷獣とか長飛丸とか字伏とかシャガクシャとかとらとかいう名前の金色の妖怪じゃないわよ!? だ、だから協力できないからね!?」
神裂「み、御坂美琴さん! ツッコミどころはそこではありません! というか五和の槍もあの槍じゃないはずですのに!?」
上条「ま、まさかこれがヤンデレレベル6!? てかこれ! 中編OPの伏線回収だろ!?」
五和「この槍をぬきな…小僧!」
上条「抜いてんじゃん! まず俺を食らって、昔のようにこの辺の人間どもを地獄へひきずりこむ気満々じゃん! てか五和、今どっちのポジションだよってツッコむ余裕はないみたいでギャアアアアアアアアアァァァ!!!!!」
神裂「……はい。五和が七教七刃を放った所で、今度こそ本当にお開きです。ではまた次回」
美琴「いいのかしら…こんなオチで……」


793 : 我道&くまのこ :2015/09/11(金) 23:38:31 .DFOlcwg
以上です。
次はロシア編ですねー…3巻分あるから、また長くなりそうですねw
ではまた。


794 : くまのこ :2015/09/15(火) 19:27:04 WsAo8Gl2
また連投になりまして、ホントすみません…
また短編書いたので投下します。
今回はあまりイチャイチャしていないので、ご注意を。
約3分後に4レス使います。


795 : 一時停止した恋を再生する為の巻き戻し :2015/09/15(火) 19:30:00 WsAo8Gl2
第19学区。ここは23もの学区の中で唯一再開発に失敗し、荒廃してしまった学区である。
科学の発展(ここ学園都市では特に)と共に廃れてしまった技術、
蒸気機関や真空管などを研究する機関が今なお残っており、その街並みもどこか古臭い。
当然ながら、そんな所に用もなく来る学生はあまりおらず、街の中も閑散としている。
だがここに、そんな場所にやって来ている物好きな男女が二人。

「お〜…俺、第19学区【こっちほうめん】って初めて来たかも」
「まっ、ここと第10学区(学園都市の中で一番治安が悪い学区)だけは、
 わざわざ避けて通る人とかもいるくらいだしね」

お察しの通り、上条当麻と御坂美琴である。
無論彼らも唯の散歩コースとしてこんな場所を歩いている訳ではない。
用もなく来る学生はいないと説明したが、用がある学生はその限りではないのだ。
では彼らがわざわざ廃れた学区に足を運ぶ程の用とは、一体何なのだろうか。

「…しっかし、いくら第19学区でも、今どきVHS用のビデオデッキなんて売ってんのか?」
「分からないけど…でもここに無かったら、それこそ売ってる学区なんてないわよ!
 学園都市の外からお取り寄せすると、手続きとかに時間かかっちゃうし」

VHS…今の若い子は知らない者も多いかも知れないが、
PS2の影響でDVDが普及する以前に主流だった、かつての一般的な記録映像媒体である。
見た目は巨大な長方形の物体で、中にあるテープに映像を記録するのだ。
乱暴な例えをするならば、DVDがCDだとすると、
VHSはカセットテープ(これも知ってる人は少なくなっていそうだが)だと言えるだろう。
だがVHSはあくまでもテープ【ソフト】であり、
それを再生する為には当然ながらデッキ【ハード】が必要になる。
上条達は、どうやらそのデッキを買いに来たらしいのだが、
では今度は、何故わざわざそんな物を、という疑問が出てくる。

「にしても…ママから送られてきたこのビデオテープ、何が映ってるのかしら?」
「しかも一緒に同封されてた手紙には、『観る時は上条くん【おれ】と一緒に』
 って書いてあったんだよな? マジで何だろう…」

美鈴が美琴宛に送ってきたビデオテープ。
しかも上条にも一緒に観てほしいと、わざわざ一筆書いている。
この時点で何とな〜く嫌な予感がしているのは、一人や二人ではないだろう。

「っと、ここだわ」

そんな事を話している内に、目当ての店の前にやって来ていた。
ビデオデッキを今でも売っているだろうと美琴が踏んだのは、
第19学区の中でも更に寂れた中古の骨董品店のようで、
中には昭和生まれが「懐かしい!」とテンションの上がりそうな品がゴロゴロ置いてある。
だが学生が8割の学園都市では、やはり人気があまりよろしくなく、
どうやって生計を立てているのか不思議なくらいに、店内には閑古鳥が鳴いていた。
事実、店の中には現在、上条と美琴の二人しかお客がいない。
しかし当の本人である上条と美琴は、当初の予定とは違い、思いのほか盛り上がっていた。

「うおっ!? このパソコン95年モデルだぜ!? 作られたの前世紀じゃんスゲー!」
「見て見てっ! これってもしかしてフロッピーディスクじゃない!?
 こんなの、近代史の教科書の写真でしか見た事ないわ!」
「それよりこっちの方がヤバイぞ!
 ほらほら、このデカイのってノートパソコンじゃなくて電卓だってよ!」
「ねぇ、このコントローラーのマイクって何に使うのかしら!?」
「テレビ分厚いなオイ! これ後ろにブラウン管が入ってるヤツだろ!?」
「いや待って! まさかこれ…し、白黒テレビ!!? まさか生で現物を見られるなんて…!」

二人にとって前時代的なアナログ機器は逆に珍しく、
子供のようにキャッキャとはしゃいでいる。博物館にでも入ったような感覚なのだろう。
意外と『デートコース』としては悪くないのかも知れない。


796 : 一時停止した恋を再生する為の巻き戻し :2015/09/15(火) 19:30:32 notzTDbU
…そう、本人達が気付いていないようだが、これは立派なデートなのである。
実はこれも美鈴も目論見の一つであった。
一緒にビデオを観る為には、まずデッキを探さなければならない。
上条も美琴も、VHSを再生するビデオデッキなど絶対に持っていないと確信していたからだ。
そしてデッキを探す為にはアチコチ回る必要がある。
だが上条の事だ。自分にも関係のある案件を、美琴一人だけにやらせる事はしないだろう。
これは詩菜からの助言によるものだったのだが、まんまとその通りになった。
現に上条は美鈴の手紙の事を知った時に「じゃあ俺も探すの手伝うよ」と買って出た。
故にこうして、二人はデート(本人達無自覚)する事と相成ったのである。
母は強しと言うべきか何と言うべきか。

珍しい品々に目をキラキラさせていた上条と美琴だったが、
しばらく遊んだ後ハッと我に返る。ここに来た理由を思い出したのだ。

「っとと、ビデオデッキ探さねーと…」
「あっ、そ、そうね忘れてたわ。こんな事してる場合じゃないわよね」

本来の目的を思い出した美琴は慌ててPDAを取り出し、ネットに接続する。
最強の電撃使いである美琴と言えど別に家電製品に詳しい訳ではなく、
前時代的な機械【ビデオデッキ】の形もうろ覚えなので、それを調べる【ググる】為だ。

「え〜っと……あっ! これね。じゃあこれ買ってくるから、ちょっと待ってて」

骨董品という値段設定がよく分からない物の値札を一切見ずに、
そのまま品物をレジへと持っていく美琴。
お嬢様の買い物を間近で見た上条は、「値段とか気にしないんだな…」と遠い目をした。

「お待たせー! これでママから貰ったテープが観れるわね」
「お、おう」

そんなこんなで、二人は店を後にした。


 ◇


二人は歩きながら、どこでビデオを観るか話し合っていた。
ちなみにビデオデッキの入ったダンボールを抱えているのは上条である。
美琴は女子としては身体能力が抜群に高い方だが、
だからと言ってこんなデカくて重い物を持たせたまま街を歩かせるのは、
例え上条じゃなくてもどうかと思うだろう。

「で、どこで観るよ? 俺んち来るか?」
「それじゃインデックス【あのこ】達がいるじゃない。出来れば二人っきりで観たいのよね」

ビデオを観る為には当たり前だがテレビに接続する必要があり、
加えて二人で落ち着いて観られる環境でないとならない。
美鈴が送ってきたビデオを、勝手に第三者に見せる訳にもいかないからだ。
もっとも美鈴本人から指名された上条は、その限りではないが。
そういった意味での『出来れば二人っきりで観たい』発言なのだが、
美琴の上条への気持ちを知っているだけに、何だか意味深に聞こえてしまう気がする。

「そうだな〜…じゃあ、どうすっか…」

しかし美琴の気持ちに気付く気配すらない上条は、その言葉通りに受け止める。
すると美琴が、一つ提案してきた。

「あっ! じゃあウチに来ない!?
 今日、黒子は風紀委員の強化合宿みたいなのがあって帰って来ないみたいだから―――」

自分で言いかけて、その意味に気付いた美琴は固まった。
一つ、上条と二人きり。二つ、白井【ルームメイト】は今晩帰って来ない。
さぁ、導き出される答えとは。

「い、いやちょちょちょっと待ってっ!!? い、いいい、今のナシ!!!
 他にいい場所が無いか考えるから少し時間をちょうだい!!!」

今さっき発言した事を慌てて撤回する美琴だが、上条はあっけらかんと言い切った。

「いや、美琴んちでいいんじゃないか? それ以上に好条件な場所ないだろ」
「えええええええ!!!? でで、でもその、ア、アンタはあの……い…いいの…?」

何に対しての『いいの…?』なのかは分からないが、
白井【じゃま】が入らないなら確かに、これ以上に条件を満たした場所はないだろう。
なので上条は自信満々に答える。

「ああ。全然いいぞ」

この瞬間、美琴が「ふにゃー」しかけたのは言うまでもない。


797 : 一時停止した恋を再生する為の巻き戻し :2015/09/15(火) 19:31:05 WsAo8Gl2
 ◇


「ど…どうぞ、上がってくりゃはい…」
「お邪魔しまーっす、と」

美琴に言われるがまま、上条は常盤台中学学生寮208号室へと足を踏み入れた。
常盤台中学は女子校であり、つまり学生寮も女子寮だ。
加えて古めかしい外観からは想像もつかないが、中は最新鋭のセキュリティの塊であり、
上条のような怪しい男子学生が侵入する事など、本来は出来ない。
しかし、寮生【みこと】が手引きすれば話は別だ。
事実、上条は過去にも白井の案内でこの部屋に入った事がある。

「さて、と。じゃあさっそく配線つないじまうけど…いいか?」

例えビデオを観る為に来たのだとしても、
流石に部屋の住人に一言も許可を取らないでテレビを触るのは気が引けたらしく、一応確認する。

「………あっ!? う、うんありがとヨロシク! わ、私はお茶でも淹れるからっ!」
「あいよー」

上条に話しかけられた事で、ホワホワした気持ちから我に返り、
テンパりつつもいつもの調子に戻す美琴。それでもやはり、まだ顔は熱いが。
上条はテレビの裏側に回りカチャカチャと弄り、美琴はティーカップをカチャカチャさせる。

「お、おまたせ…お茶が入ったわよ」
「ん、こっちもOKだ。いつでも観れるぞ」

そう言うと、上条は美琴のベッドの上に腰を下ろした。
美琴はティーカップをその手に持ったまま石化した。

「なっ!? ななな、なにしてくれちゃってんのよアンタぁああああ!!!?」
「…えっ? いやだって、もう一つ【そっち】のベッドは白井のだろ?
 本人がいないのに勝手に座る訳には…」
「そうじゃなくてっ!!! そもそも何でベッドに座ってんのよ!?」
「ここからの方がテレビ観やすいし…大丈夫だって。お茶をこぼすようなヘマはしないから」

不幸体質の上条が『ヘマをしない』とか言っても何の説得力もないが、
美琴が心配しているのはそこではない。普段、自分が寝ているベッドの上に上条が座る…
それはもう何だかとても恥ずかしい事のような気がするのだ。
だが美琴がワタワタしているのはいつもの事なので、上条は気にせずリモコンを手に取る。

「んじゃ、再生すっぞー」
「きききき聞きなさいよ人の話っ!!!」


 ◆


『ママぁー! ちゃんとうつってる!?』
『んー…ちょっと待っててね? あっ、大丈夫だ。録れてる録れてる』

画面に映し出されたのは、10年ほど前の美琴と美鈴。
やはりと言うべきか、どうやら御坂家のプライベートビデオのようだ。
美琴は打ち止めを更に幼くしたような姿をしており、
美鈴は…恐ろしい事に見た目は今と変化がない。
詩菜や小萌もそうだが、本当に彼らの周りのアラサー〜アラフォー女性の、
アンチエイジング事情は一体どうなっているのだろうか。

その後、暫くたわい無い親子のやり取りが続いていた。
とても微笑ましくはあるが、他人である上条は、
これを見てどうリアクションしていいのか分からず気まずい雰囲気を醸し出している。
対して美琴も一人で観る分には懐かしめるが、上条が居る事で恥ずかしさ10割り増しで、
こちらもやはり気まずい雰囲気が漏れ出している。
美鈴は何故『観る時は上条くんと一緒に』と、わざわざ手紙に書いたのだろうか。


798 : 一時停止した恋を再生する為の巻き戻し :2015/09/15(火) 19:31:42 WsAo8Gl2
と、その時だ。ふいに美鈴が、とても気になるワードを口にした。

『ねぇ、美琴ちゃん。美琴ちゃんは今、好きな子とかいるの?』
『んーっとねー…パパとママ!』
『ん〜! ありがとー! ママ超嬉しい!』

親としてこれ以上ないくらいに嬉しい回答が帰ってきた美鈴は、
思わず我が子【みこと】に頬ずりしてしまう。
そしてそれを観させられる二人は、やっぱり気まず恥ずかしい。

『でもね、ママが知りたいのはそういう「好き」じゃないのよ。
 美琴ちゃんが気になってる男の子…例えば、
 その子の事を考えるだけで胸がドキドキしてきちゃうような、そんな子はいないのかな?』
『いないよ? なんで〜?』
『このビデオ、せっかくだから美琴ちゃんの結婚式…
 あー、美琴ちゃんがお嫁さんになった時に流そうと思ってね』
『およめさん!? なる! なりたい!』
『そうねー。美琴ちゃんはママに似て美人さんだから、
 きっと将来モテモテになるでしょうね。
 でも今の美琴ちゃんには、まだちょっと早かったみたいね』
『え〜、なんでー!? なーんーでー!? はやくおよめさんなりたい!』
『お嫁さんっていうのはね、さっきママが言ったような、
 考えるだけでドキドキしちゃう相手とするものなのよ。ママとパパみたいにね。
 でも今は美琴ちゃんにはそういう男の子がいないみたいだから、まだ出来ないのよ』
『う〜! じゃあみつける! ドキドキするおとこのこみつける!』
『じゃあ将来、美琴ちゃんに好きな人ができたら、このビdブツンッ!!!』


 ◆


10年ほど前の美鈴が『美琴ちゃんに好きな人ができたら』と言った瞬間、
現在の美琴がリモコンを手に取り、急いで停止ボタンを押した。
ここでようやく、美鈴が何故このビデオを送ってきたのか、
そして上条にも一緒に観せようとしていたのか理解した。
当時はまだ4〜5歳だった為に記憶もあやふやだったが、
美琴の脳はフラッシュバックするかのように、この後の美鈴の言葉を思い出させた。
そして思い出したが故に、美琴は急いで上条にそれを観せないように阻止したのだ。
毎度の如く、顔を真っ赤に染め上げながら。

「…? 続き観ないのか?」
「つつつつ続きって何!!? そんなの無いけど!!?」
「いやでも、美鈴さん何か言いかけて……」
「なななな何でもないって言ってんでしょっ!!?
 この後はそのアレよ! 延々とママの惚気話が流れるだけだから消したのよ!!!」
「…そんな話の流れには見えなかった気が……」
「うううううっさいうっさいっ!!! 私がそうだって言ってんだからそうなのよっ!!!
 はい! もうこのビデオの話は終わり!
 そろそろ完全下校時刻になるんだし、ほらアンタも帰った帰った!!!」

結局はいつも通り、美琴のツンデレが炸裂した為に最後まで観る事は叶わなかった。
本当はあの後、美鈴は自分の惚気話をした訳ではない。
だが、どうしてもそれを上条に聞かせる訳にはいかなかったのだ。
その気持ちを伝えるのは、ビデオの中の美鈴ではなく、やはり自分自身の役目だと思うから―――



『じゃあ将来、美琴ちゃんに好きな人ができたら、このビデオを一緒に観なさい。
 美琴ちゃんがどこに居ても、ママが必ず送ってあげるから』


799 : くまのこ :2015/09/15(火) 19:33:22 WsAo8Gl2
以上です。
回想でもいいから、またロリミコっちゃんが見たいなー…と思って書きました。
ではまた。


800 : ■■■■ :2015/09/15(火) 22:43:50 3.9bxFgU
我道さん&くまのこさん、こぼれ話お疲れ様です。
最初土御門がなりすましていると気付かずかなり驚きました(笑)

あと、くまのこさん短編ありがとうございます。いつもニヤニヤして読んでますが、今回は、美鈴さんの愛情とかそういうのにほっこりしました。くまのこさんの上琴大好きです。


801 : ■■■■ :2015/09/15(火) 23:10:42 Bzl5Db7Y
>我道&くまのこさん
こぼればなし乙 面白かったです
次はいよいよロシア篇ですか できれば読んでみたいなぁと密かに期待してましたので楽しみにお待ちします!


802 : ・・・ :2015/09/16(水) 06:42:06 qvGCak76
ども、・・・です
食欲の秋。
インちゃんの食費で苦しむ夫をかいがいしく助ける妻の図、が見える。

くまのこさん
〉〉どりかむ
動揺しなくていいよ。少ししたらすぐ見慣れるさ。
あ、うん、あるあr……ねーよ。
寮監、この日LEVEL5を2人狩ったのか……

〉〉思い出の積み重ね
周  知  の  事  実
しかし、改めて上条はイケメンだなぁ
マコっちゃんの説教って、上条似ならめちゃんこ怖いね

〉〉母子
しょ、諸葛亮!!!
若さは、まず心から!! 皆さま10代の精神ね……心をお持ちだし!!
自分自身の役目、か。この着地点も計算のうちなんだろうなぁ


我道&くまのこさん
〉〉決戦前夜
すっごい出落ち!! すぐわかったわい
祝!! ふにゃー誕!! 魔術サイドの知名度高いな
あとお前  の破壊力たるや



では、1日遅れでこっちにも投げます。
「育児日記」ではなく小ネタです。
堅苦しいのは最初だけです。

それでは


803 : if :2015/09/16(水) 06:43:30 qvGCak76











もしもの話は面白い。
もし、世界の共用語が日本語なら?
もし、宝くじの一等が当たったら?
もし、本能寺の変がなかったら?
もし、宇宙人が攻めてきたら?

もし、DNAサンプルを提供していなかったら?
もし、記憶を無くすことがなかったら?

もし、もし、
そんな仮定のお話。


804 : if :2015/09/16(水) 06:44:10 qvGCak76


















「と、いうことで!! もし!! 御坂さんと上条さんがお付き合いをしたらどうなるでしょーか座談会!!」

佐天は、数行前のシリアスを全力でシカトしやがったのだった。

「「「「ちょっと待とう!!!」」」」

安心していただきたい。
置いていかれたのは何も読者諸君だけではない。

「なにがどうしてそんなことになったんだよ?」

「な、なんで!! わ、わたふにゃーー「早い早い」

ぱきーん、と音がする。

いつものファミレスにいるのは、
いつもの少女4人組と、上条家3人。

数分前、ほぼ満席の状況のファミレスに入った上条達。

「相席でいいですかー?」

と聞いてきた巨乳でドジッ子のウェイトレスに、了承の返事をしたらここに通された。
家族連れの隣、指定された6人席には例の4人がいたのである。
そして、白井が手洗いに行っていたのをいいことに、佐天と初春がソファ席の両サイドを固め、ドリンクバーに行っていた美琴の侵入を阻止。
上条の選択肢は右に美琴を、左にインデックスを侍らせる、「両手に花」の陣形を組むしかない。
美琴は最近、顔を見ただけでふにゃーとビリビリ爆発する娘(略してふにゃ娘)となっているので(理由は不明)右手が届く位置に置いておきたい。
ファミレスで、インデックスと距離をおき、秘奥義『エンドレスオーダー』を制止出来ないなんて自殺行為をするわけにもいかないのだった。

で、現在。
正面には結局移動した佐天。
向かってその左には佐天同様笑顔の初春。
右には鉄矢を研ぐ般若。
机の上は爪楊枝を装備した魔神。
自分の右にはふにゃ娘。
左にはガンガンと鳴る歯の音。

隣の席で人形遊びをする女の子の声が、あまりにも遠くから聞こえる。
上条は、今日が自分の第3の命日かもしれないと、本気で思った(伏線)。

「なんで、美琴と付き合う仮定の話をしなきゃなんないのさ?」

そう話ながら、大丈夫か?
と 美琴に問いかける。
肝心の彼女は首を縦に振ることしかしない。
彼女の友人はそんな状況なんて知ったこっちゃないのだった。

「ただの仮定の話ですよ。それとも、『このあと上条さんが不幸になるなら』って話題がいいです?」

「いえ、さっきのタイトルでかまわないです」

上条としても、空想まで不幸にはなりたくない。しかし、なにをどうしても不幸になる気がするのはなぜだろう(伏線)。
こうして上条は陥落した。

「御坂さんも問題ないですよね?」

「へ?……あ、ひゃい」

美琴も陥落。


805 : if :2015/09/16(水) 06:44:42 qvGCak76
しかーし、そうはいかねーのだ!!

「意義あり!! ですの」

テーブルをバン!! と叩いて白井が立ち上がった。

「やるなら、『もしも!! 黒子と御姉様が付き合ったら』とするべきですの!!」

お昼時、一斉に集まる視線なんて目もくれない。
上条としては知り合いがいないことを祈るしかないのだった(伏線)。

「まずは!! 毎週のようにデートしますの!! デートコースは公園を散歩して、わたくしが作ったお弁当を食べて、ショッピング!! 水族館、映画鑑賞の後にホテルでついにふたrあひゃびゃふぇひゃ」

「…………ほんと、ゴメン」

正気に戻った美琴が呟くのと同時に、雷に撃たれた白井はテーブルに崩れ落ちた。

「あー、大丈夫か? これ」

「大丈夫ですよ」

輝く初春の笑顔の周囲の影が濃い。
苦笑する上条を余所に、佐天は話を続けた。

「白井さん、人物の組み合わせはあれでしたが、コースは悪くないですよね?」

「え?」

瞬時に第3位の演算能力が発揮された。

『太陽は眩しいけど、美琴の笑顔には叶わないな』

『うぉ、美琴の弁当うまいなぁ。毎日食べたいくらいだぜ!!』

『驚いた、似合ってます。天使かと思いましたよ』

『あまり、はしゃぐなよ? お前は僕にだけ微笑んでくれればいいんだ。僕だけの、マーメイド…』

『ぐすっ、ぐすっ、流石に、超大作ですね。でも、ケロヨンが……』

『ここまで、来たんだ、お前もその気なんだろ? 今日は、寝かさないぜ?』

「誰だよ!!!? せめてキャラの統一くらいしようよ!!」

「はっ!! ……や、やさしく、してね❤「はやく戻ってきなさい!!」

「そうですねー、さすがにそれはなさそうです。実際はどうなると思いますか? 上条さん」

「んぁ?」

右手を美琴の頭に乗せたまま、へんな声を出す上条。
ここにきて危機を察したのが、
フィギュアサイズのアンドロイド、オティちゃん(設定)だ。
桃色空間になるのを阻止しようとテーブルの上に立って、

「忘れ物しちゃだめよ」

「はーい!!!」

隣の席の女の子に鞄に「ないない」された。
周りはかわいい人形ばかり、
リアルトイストーリーだ。
動揺している上条は、オティヌスが冒険に出たことに最後まで気づかないのだった(伏線)

「実際……ねぇ。最初はゲーセンとかになるんじゃ?」

「ゲーセン?」

「そ、格闘ゲームしたり、エアホッケーしたり、プリクラ撮ったり」

美琴も納得した。

「あぁ、音ゲーとかレーシングとか?」

「そうそう、クレーンゲームであのケロポンとったりな」

「ケロポンってなによ!!? ケロヨンだってば!!」

「はいはい」


806 : if :2015/09/16(水) 06:45:16 qvGCak76
もう限界なのだった。
インデックスは大きく口を開き、
目の前の良質な(中身は少ないかもしれない)ウニにかぶりつ「お待たせしましたーー」こうとしたが止まった。

目の前にハンバーグが現れたのだ。
あの針山はいつでもかじれる。
しかし、熱々のハンバーグは今しか食べられない。
怒りに顔を歪ませながら、インデックスはハンバーグにかじりつく(伏線)。
ドジッ子のウェイトレスは、インデックスに怯えながら配膳を続けた。
だから、テーブルに突っ伏した白井の頭の上に皿を置いたことに気付かなかった(伏線)。

「とりあえず食べましょう」

初春の一言で箸やフォークを思い思いに取る面々。
上条と美琴の指が触れ合い、甘酸っぱい空気になったりもした。
佐天は、わざと一息ついてから話を続ける。

「御坂さんが作るお弁当って、どんなのですかね?」

「…………こいつが、弁当?」

「ちょ!! 失礼でしょ!!」

「でもー」

「なめんな!! 弁当くらいつくれるわ!! 卵焼きとか唐揚げとか入ってるわ!! 」

キュウリでケロヨン作ったるわー、と叫ぶ美琴に、全体的に真っ黒の?と聞いたら至近距離で電撃がとんできた。死ぬかと思った。
初春はなにごともなかったかのように話を続ける。

「上条さんは、料理するんですか?」

「ん? 自炊してるよ。何より自分で作ったほうが安い」

「でも、味の保証がないんじゃねー」

クスクス、と蔑みの目で笑う美琴。
上条の頭に分かりやすく血管マークが出てくれた。

「オレのかわいいキンピラゴボウと豆腐ハンバーグちゃんをバカにしたな!!」

「ぶさかわいい?」

「上等じゃ!! 貴様に味わって貰おうか!! オレの『上条幕の内』を!!」

「アンタにも見せてやるわ!!『ケロヨンランチ』の前に、跪かせてやるんだから!!」

「じゃ来週御坂さんの予定空けときますね」

ようやく、インデックスはハンバーグ定食を食べ終え……早えぇよ。

「ちょっと待って欲しいか……」

目の前の皿が引き、代わりにコトン、と置かれたのはチキンカツ。

「!!!!」

「どうぞ、食べてください」

初春の誘いに抗えない。
今、噛みつくべきは、ウニ頭であって、トサカ頭ではないはずなのに!!

「お、美味しいんだよ〜〜〜!!」

泣く泣くインデックスはチキンカツに貪りつく(伏線)。


807 : if :2015/09/16(水) 06:45:49 qvGCak76
「食事の後はやっぱり買い物ですかね?」

「んー、そうなるかな?」

「洋服とか買うんですかね?」

「でも、ウチ校則があるからなぁ」

「じゃあ、雑貨屋行って小物でも買うか?」

「小物?」

「ヘアピンとか、キーホルダーなら少しくらい許されるだろ?」

「そうね!! アンタにしちゃいい考えじゃん!!」

「一言余計だっつの」

「じゃ、お互いにプレゼントとかするなら、どんなのがいいですかね?」

「そうだなぁ、オレはヘアピンでもやるかな」

「じゃあわたしは財布」

「おっ!! ちょうど欲しかったんだよ」

「やっぱりそのあと水族館とか行きますか?」

「好きは好きなんだけどね……」

「問題はこれかな?」

美琴の頭が撫でられる。

「これで、魚もイルカも、ラッコだって逃げはしない」

「……そ、そうかもしれないけど……」

「けど?」

「恥ずかしい、かな」//////

「…あっ……わ、わるい」//////

ゆっくりと手が離れて、代わりに桃色の空間が出来上がる。

チキンカツ定食最後の一口を食べたインデックスはってだから早いって!!
……コホン。 インデックスは上条に飛びかかろうとした。
しかし「お待たせしました!! 追加のサイコロステーキ定食でーす」の声に震え上がる。
そして、初春と目が合った。
目が、合ってしまった。

「あ……あぁ……」

「どうぞ」

「うっ…あっ」

「食べないんですか?」

「ぁぁぁぉぉあああああああああ!!!」





















「ぅぅうおぉぉぉいしいんだよぉぉぉぉぉおおおお!!!」

インデックスは決めた、
もう上条を噛むのは後でいいや(伏線)。


808 : if :2015/09/16(水) 06:46:23 qvGCak76
「で、ホテルに行くじゃないですか?」

「「行かないよ!!」」

2人のハモリを耳にしても、
佐天は微動だにしなかった。

「なにいってるんですかー!! もし、もしも、たーだの仮定の話ですよー」

ただの仮定の話。
その魔法の言葉に美琴は動揺する。
お姫さま抱っこされて、ベットに寝かされるところまで妄想した。
どんどん赤くなる美琴の耳に、

「仮定でも、ありえない」

という上条の言葉が聞こえた。
一瞬にして熱が退いていく。
それほど、彼にとって、自分は魅力がないのだろうか?
震えながら、続く彼の言葉に耳を傾ける。






「どんなに『もしも』を重ねても、オレが美琴を傷つけるわけがないだろ」

佐天も、初春も顔を赤らめた。
美琴はもう、もう、あれである。

「ふにゃ〜〜〜〜〜〜〜」

ふ、の段階で上条の右手が美琴の頭の上に置かれていた。これぞプロの領域。

「ぽー………はっ!! 初春!!私達用事あるし帰ろ!!」

「ぽー……へっ? えっ!!? 用事!!? 用事ぃ? …あっ!! はい!!帰りましょう!!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!! このふにゃ娘どうすんの!!?」

「白井さんは持って帰るんで、そっちはお願いします!!」

そのままドタドタと2人は白井(メシ抜き状態)を引きずって帰った(伏線)。
金銭面でなにかをするのを忘れている気がする(伏線)。

((今日録音したやつダビングしなきゃ!!))(伏線)

こうして、ほっとかれた上条は、呆然とするしかない。

「お願いったって……」

視線を美琴に移す。

気を失い、あどけない表情で眠る、彼女の唇に目が行った。

心臓が跳び跳ねた。

(な、なんなんだよ〜〜)//////////////////

上条は大きく息をすると、
少し影が薄い女性とオデコ巨乳(伏線)や、最強の超能力者とその家族(伏線)や、金髪アロハと青髪ピアス(伏線)や、扇子を持った少女とその友人(伏線)や、アステカ(伏線)、ショタコン(伏線)、赤髪神父(伏線)、侍女(伏線)、二重瞼(伏線)、クワガタ(伏線)、カチューシャ(伏線)とその妹(伏線)、女王(伏線)、アイテム(伏線)、科学的天使(伏線)、忍者(伏線)、魔術結社のボス(伏線)、レッサー(伏線) 、雷神(伏線)、カブトムシ(伏線)、不死の少女(伏線)、冒険を終えたオティちゃん(伏線)、食べ終わりかけのシスター(伏線)、無理して大量の食器を持っている(なぜかクビにならない)ウェイトレス(伏線)
がいるこのファミレスで、このふにゃ娘を次の週末デートに誘うことを決めた。

「汝の欲するところをなせ!!」

「佐天さん、誰と話してるんですか?」

そして上条と美琴は週末、互いの弁当を絶賛しあったのだった。

まぁ、その前に上条はファミレスで史上最大の不幸に会うんだけどね(伏線回収)。




809 : ・・・ :2015/09/16(水) 06:47:03 qvGCak76
以上です!!


810 : くまのこ :2015/09/23(水) 18:50:33 3lvaREzw
>>・・・さんGJです!
最後の一行で、ほとんどの伏線を回収しましたねw
でもあれだけ桃色の空間を体験したんですから、多少の不幸は仕方ないね。



支部でリク受けたので、短編書きました。
>>728-731の続編になってます。
オリキャラ(?)が出てくるので、ご注意を。
約3分後に4レスです。


811 : 三沙神 小兎 :2015/09/23(水) 18:53:27 3lvaREzw
「全くもう! この前はエライ目に遭ったわよ!」
「そんな事言って〜、本当はいい思いをしたんじゃないんですか?」

そんな会話をしながら歩いているのは、ご存知、美琴と佐天である。
美琴は顔を真っ赤にしながらも、佐天にプリプリと怒っている最中だ。

「そ、そそそ、そんな訳ないでしょっ!? 本当に大変だったんだから!
 アイツが女装してるなんて知らなかったし、
 そのおかげ…もとい、そのせいであ…あんにゃことしちゃひゃうしぃ…!」

思い出しただけでも顔が爆発しそうになる美琴。
実は先日、美琴はひょんな事から女装した上条
(上条の趣味ではなく、一端覧祭のイベントに出る為)とプチデートをするハメとなった。
ただし美琴はその相手が上条だとは気付いていなかった為に、同じ女性として接してしまったのだ。
結果、手は握るわ自分の胸に上条の顔を突っ込ませるわ
同じフォークでパンケーキを「あ〜ん」し合うわクリームの付いた上条の指をペロッと舐めるわ
体のサイズを測ろうと上条の体中をアチコチ触るわ上条の目の前で試着するわと、
それはもう、色々とやらかしてしまっていたのだ。

「あ〜もう! 何やっちゃってんのよ、あの時の私〜〜〜!!!」
「おっ? おっ!? その様子だと、相当面白い事があったみたいですね!
 何があったんですか!? ねぇねぇ何があったんですか御坂さん!?」

あの日、上条(女装中)と美琴がデートするように仕向けたのは佐天だが、
しかし彼女は実際に二人がデートしている間の出来事は知らない。
なので何があったのか非常に興味があり、こうやって美琴本人から、
情報を根掘り葉掘り引き出そうとしている。ぶっちゃけウザい。

「〜〜〜っ!!! し、知らない知らないっ! はい、この話はもうおしまい!」

当人である美琴が知らない訳はないが、
これ以上深く突っ込まれると色々と危ない(ふにゃー的な意味で)ので、
ここは誤魔化す事に決めた美琴。佐天はブーブー言ってくるが、知ったこっちゃない。
しかしここで、佐天が思わぬ提案をしてきた。

「むー…! ………あっ! じゃあ今度は御坂さんが女装してみるってのはどうですか!?」

何がどうなって『じゃあ今度は』なのか、全く以って理解不能だが、
それ以前にまずツッコんでおかなければならない箇所が一つある。

「いや、あの…佐天さん…? 女装も何も、私、元から『レディ』なんですけど…?」

美琴は『レディ』よりも、どちらかと言えばまだ『ガール』寄りなのだが、
そこはちょっと大人びたいお年頃だったりするのだろう。

「あっ。確かにそうですね、すみません。この場合は女装じゃなくて変装でした」

美琴は髪も短く、性格も男らしい部分がある。
身体能力も男子顔負けな程に高く、胸も同い年の女の子に比べると、まぁ…頑張れだ。
しかしそれでも誰がどう見ても、彼女の事は女性として認識するだろう。
流石に『女装』は失礼だったと謝る佐天。だがしかし、すぐに気を取り直す。

「それでですね、まずはエクステつけて髪をロングにして…
 いや、いっその事、黒髪のウイッグとかにしちゃいましょうか!
 それから胸にパッドも詰めて、少しメイクもした方がいいですかね?
 あっ! 勿論、制服も着替えますよ! そのままじゃ常盤台中学丸出しですから!」
「ちょちょちょ、待って待って佐天さん!
 何か私の知らない所で勝手に話が進んでるんだけど!?
 大体、何で私がそんな事しなくちゃならないの!?」


812 : 三沙神 小兎 :2015/09/23(水) 18:54:09 3lvaREzw
佐天が先ほど口に出した、美琴の女装…もとい、変装計画。
どうやら冗談で言った訳では無さそうだが、しかしそもそも美琴本人は承諾していない。
しかし佐天はその反論(と言うよりも、美琴にとっては当然の意見)も想定の範囲内で、
わざとらしく大きく溜息をつきながら、諭すようにその理由を語った。

「はぁ〜〜〜……いいですか、御坂さん。
 この前、女装した上条さんと御坂さんが一体何をしたのか、当然ご存知ですよね?」
「うっ…!」

無理矢理思い出さされて、再び赤面してしまう美琴。
一体何をしたのかは先ほど説明した通りだし、当人である美琴も当然ご存知だが、
佐天には何が起こったのかご存知ではない。
しかし美琴の様子からして、『何があったのか』は分からずとも、
『何かがあった』のは一目瞭然なので、容赦なく煽ってくる。

「何だかんだあって御坂さんがドキドキするような体験をした事は分かってます。
 なら今度は、御坂さんが変装する事で、逆に上条さんをドキドキさせられるって事ですよ!」
「っ!!?」

佐天の言葉には何の根拠も無い。
しかし上条への高感度が上限の100%を余裕で超えてしまっている美琴には、
『上条をドキドキさせられる』という響きは、とても魅力的に脳へと届いた。その結果。

「べ、べべべ別にああ、あの馬鹿をド…ドドド、ドドキドキキドキドとか、
 そんなの全然させる気は全然ないけど、で、でもたまには、
 今までと違う自分になってみるのもいいわよね!? たた、例えば変装してみるとかっ!
 で、で、でもそしたら、ちょろっとドッキリでも仕掛けるつもりで、
 変装したままアイツに会ってみたりとかするのも悪くないって言うか!!?」

長々と言い訳をしながら、まんまと佐天の口車に乗ってしまう美琴であった。
目に見える罠だと分かっていたはずなのに。


 ◇


「すみません上条さん! 突然呼び出したりして!」
「いや…それは別にいいんだけど……えっと…」

佐天から着信があり、「用があるから」と呼び出され、待ち合わせ場所にやってきた上条。
しかし待ち合わせ場所にいたのは佐天だけではなかった。その隣には。

「こ、こちらの女性は、一体どこのどちら様でせう…?」
「あ、え、わわ、私っ!!?」

上条が佐天から視線を横にずらすと、そこには黒髪ロングでメガネをかけた、
真面目っぽい女の子がいた。佐天の知り合いなのだから中学生だとは思うが、
その胸はとても中学生とは思えない程に特盛である。服も何か全身大人っぽくコーディネートしており、
年上好きな上条でも、ほんのりドギマギしてしまう程だった。
もしかしたら、どこか名家のお嬢様なのかも知れない。
上条がそう思ってしまうくらい、気品という気品が溢れ出ている。
しかし何故か、その女性は上条以上にドギマギしていた、そして何故か佐天は笑いを堪えていた。

「ぷぷっ…! こ、こちらはあたしの学校の先輩で、名前はええと……
 あっ! 『三沙神【みさかみ】 小兎【こと】』さんです!」
「ぶふーっ!!!?」

三沙神は盛大に吹き出した。自分の名前に何かコンプレックスでもあるのだろうか。


813 : 三沙神 小兎 :2015/09/23(水) 18:54:46 3lvaREzw
「へぇ〜、綺麗で可愛い名前だな…じゃあ改めてヨロシクな三沙神。
 俺は上条当麻。佐天とはまぁ、友人だ」
「あ、あははははは…よよよ、ヨロシクお願いいたしますね、かっ!
 か…かみ、上条……さん…」

三沙神は『上条』という呼び名が相当言い慣れていないのか、
顔を真っ赤にしてかなり口ごもってしまう。
確かに三沙神と上条は『初対面』だが、普通は名前を言うだけでどもってしまうものだろうか。
「上条」など、さほど珍しい苗字でもないし、発音がしにくいとも思えないが。
ついでに、その様子を妙にニヤニヤしながら見つめる佐天も気になって仕方がない。

「どうしたんだ…? 佐天…」
「いえいえ! 何でもありません♪
 ところで実は今日、御坂さんも一緒に来る予定だったんですよ〜」
「なっ!!?」

『御坂』の名に、三沙神が過剰に反応した。
だが上条は特に気にした様子もなく、佐天に相槌を打つ。

「そうなんだ。美琴は何で来れなかったんだ?」
「さぁ…ただ、何だか『今までと違う自分になってみる』とか言ってましたけど」
「ささささ佐天さんんんんんん!!!?」

さっきから三沙神のテンパり具合がハンパない。まるで『どこかの誰か』を見ているようだ。
美琴が言ったという『今までと違う自分』発言に、上条は首を捻った。

「何だそりゃ? 自分探しの旅にでも出たのか?」
「そんな訳ないでしょっ!!? ……あ、その、そんな事はないではありませんか…」

どうして美琴の事を三沙神が否定するのか。
そんな所にツッコむ間もなく、佐天がうんうん頷きながら、こんな事を言ってきた。

「自分探しですか…あー、確かに最近の御坂さん、ちょっと悩んでましたからねぇ」
「え…あの、佐天さん…?」

三沙神は嫌な予感がしたのか、佐天の発言を止めようとする。
何を言う気なのかは分からないが、どうせロクな事ではないだろう。

「御坂さん…最近、気になってる人がいるらしいんですよ」
「佐天さああああああああああああああん!!!!?」

予感は的中した。
今この場に『美琴がいない』のをいい事に、この佐天、やりたい放題である。

「み、美琴に!?
 あー…そりゃまぁ、美琴だってそういうオトシゴロなんだし、不思議じゃないけど…」

しかし何だか、胸の奥がチクリとする上条。この小さな痛みは何なのだろう…?

「ちなみにですけど…上条さんは御坂さんの事とか、どう思ってます?」
「えっ、俺っ!?」
「っ!!!」

三沙神も興味のある話題なのか、佐天と追い立てるのは一旦置いといて、
めちゃくちゃ聞き耳を立ててきた。上条は頭をポリポリとかきながら。

「そう…だな。この前……あー、三沙神は知らないだろうけど、
 俺と美琴ってちょっとしたデートみたいな事をしたんだよ」
「へ、へぇ〜…か…かみ、じょ…上条さん…は、デートしたつもりだったんですか…」

三沙神は真っ赤な顔を俯かせて、モジモジしながら相槌を打つ。
どういう訳か、『デート』という言葉が琴線に触れたようだ。
ちなみに上条の語る『ちょっとしたデート』とは、件の女装した時の事を言っているのだが、
知り合いに知られるのも恥ずかしいのに『初対面』である三沙神にそんな事を言える訳もなく、
上条は自分が女装したくだりの話は、はしょっている。

「その時にすごくドキドキしてさ…いや、あの時は『ちょっと特殊な環境』だったから、
 美琴もいつもより大胆になってただけなんだろうけど」


814 : 三沙神 小兎 :2015/09/23(水) 18:55:21 3lvaREzw
『ちょっと特殊な環境』とは、つまり上条が女装している事に気付いていなかった美琴が、
上条の事を女性として扱ってしまい、手を握ったり自分の胸に上条の顔を突っ込ませたり
同じフォークでパンケーキを「あ〜ん」し合ったりクリームの付いた上条の指をペロッと舐めたり、
体のサイズを測ろうと上条の体中をアチコチ触ったり上条の目の前で試着した事である。
その辺の事情をまだ聞かされていない佐天は、
「御坂さん、大胆になって一体どんな事をしたんですか!?」と問い詰めたかったが、
ここには『美琴はいない』し、上条の話の腰を折るべきタイミングでもない為、
珍しくそのまま黙って聞いていた。

「それを差し引いても、『あー、改めて見ると美琴ってスゲー可愛かったんだなー』
 って思ったよ。だから美琴に気になる人ができたんなら、
 思いっきりアプローチすれば、誰だって」

上条が語っている途中だが、急に『ボンッ!』と音を立てて三沙神の頭から煙が立ち上った。
このリアクション、な〜んか見覚えがある気がする。

「お、おい大丈夫か三沙神!?」
「………………………ぴゃー…」

大丈夫ではないようだ。
と、その時である。ふいに佐天が『パン!』と拍手を打ってきた。

「さてと! じゃあ上条さん。
 あたしはこれから急用ができる予定ですので、三沙神さんの事をお願いしますね!?」
「え………ええええええええぇぇぇぇっ!!!? この状態で!!?」

寝耳に水な上にいきなりな提案に、上条は大声で叫んだ。
たった今、目の前で先輩が顔を爆発(?)させたというのに、そのアッサリした反応は何なのか。
しかも『急用ができる予定』というのも日本語的にかなり怪しい。何かを企んでいるのは明白だ。

「え、いや、そもそも『用がある』呼び出してきたのは佐天だよな!?」
「だから、これから急用があるのに三沙神さんを一人にできないから、
 あたしの代わりに、上条さんに三沙神さんとデート…お相手をしてもらおうかと♪」

今、思いっきりデートって言った佐天さんである。
佐天は満面の笑みを浮かべながら三沙神の髪をつかみ、そのまま何の躊躇も無く剥ぎ取った。
一瞬何が起きたのか分からなかった上条だったが、それがすぐにカツラなのだと理解した。
そしてそのカツラの下から見えたのは…

「っっっ!!!!??!!?!?!!? みみみみ美琴さあああああああああん!!!?」

それは毎日見ている短い茶髪。見間違う筈もない、御坂美琴の髪だった。
そしてよくよく見てみると、メガネとメイクはしているものの、その顔は確かに美琴の顔だ。
ロングな黒髪と豊満な胸というだけで、『美琴ではない』と上条の脳は解釈していたのである。

そして固まる上条と爆発したまま放心する美琴に対し、
佐天は「にしし」と笑い、こう言いながら去って行った。

「じゃ。あたしは帰るんで、お二人はデート楽しんできてくださいね!
 上条さんは『スゲー可愛かった』って思った御坂さんと、
 そして御坂さんは、『最近、気になってる人』でもある上条さんとね♪」

最後の最後に、とんでもない爆弾をポイ捨てしながら。


815 : くまのこ :2015/09/23(水) 18:56:10 3lvaREzw
以上です。
ではまた。


816 : くまのこ :2015/09/27(日) 20:49:44 bboAsY9Q
また短編書きましたので、投下させていただきます。
ミコっちゃんが上条さんの為に、朝ごはんを作る話です。
約3分後に5レスです。


817 : ブレックファースト・ブレイクファイト :2015/09/27(日) 20:52:29 bboAsY9Q
とある高校の学生寮、その上条の部屋。そこは朝から騒ぎの絶えない部屋である。

「とうま! 朝ごはんがシリアルだけってどういう事なのかな!?
 ちょっと手抜きすぎると思うんだよガツガツバリバリガツガツボリボリ!」
「うっせぇうっせぇ! 上条さんだって朝食作るのがめんどい日とかあるんです〜!
 ってか何だかんだ言いながらも既に5皿は食ってんじゃねーか!」
「おい、ちょ…人間……そんな事より私を助けブクブク……」
「うぉわっ!!? オティヌスが皿の上に落ちて牛乳のプールで溺れてらっしゃるっ!!?」
「ちょ、ちょっとだけ羨ましいんだよ…!」


 ◇


「―――という事がありました まる」
「あ…あぁ、そう……」

上条は歩きながら、朝の出来事を愚痴でも言うかのように美琴に吐露した。
しかし美琴も、それを聞かされた所でどうしようもなく、
「あぁ、そう」と素っ気無い相槌を打たざるを得ない。

現在二人は、それぞれの学校から寮へと帰る途中であり、所謂「下校デート」の最中だ。
上条は高校生、美琴は中学生で、当然ながら通う学校は違うのだが、
何故か毎日『偶然』にも美琴が上条の学校付近を通る事があり、
『たまたま』一緒に帰るタイミングが合う事も多いので、『仕方なく』二人で並んで歩いている。
ツッコミたい事は山程あるだろうが、ここは諦めて呑み込んでほしい。キリがないから。

「はぁ…インデックスの奴、ちったぁ毎日朝飯を作る俺の身にもなってほしいよ…」
「………ふ〜ん…」

溜息を吐きながら泣き言を漏らす上条に、美琴は少し不機嫌になる。
上条とインデックス(とオティヌス)が同棲状態になっている事は、
美琴も納得は出来ていないが諦めはついている。
しかしその熟年主婦の愚痴みたいな上条の言葉は否が応でも、
『彼らが一緒に暮らしている』という事を意識させられてしまい、ついジェラジェラしてしまうのだ。
だが美琴は、その事を口に出せないツンデレさんなので、こうして不機嫌になるしかないのである。
美琴は口を尖らせながら、直接言えない分、心の中で文句を言う。

(何よ…デレデレしちゃって…)

上条としてはデレデレしてるつもりもないし、そもそもデレデレしているようにも見えないが、
美琴からするとデレデレしているように見えるらしい。
一方で、美琴からそんな風に思われているとは全く気付く様子もない上条は、
トボトボ歩きながら愚痴を続ける。

「誰かが俺の代わりに作ってくれりゃあいいんだけど…
 インデックスは家事できないし、オティヌスはあの体だしなぁ…
 まさかいくら何でもスフィンクスには無理だろうし…」


818 : ブレックファースト・ブレイクファイト :2015/09/27(日) 20:53:05 bboAsY9Q
猫の手も借りたい…そんなことわざがあるものの、実際に手を借りる人などいる訳はない。
ましてや料理をさせるなど正気の沙汰ではないが、
それを分かった上で口に出してしまう程、上条は疲れているのだ。
だが上条の「誰かが俺の代わりに」というその言葉が、美琴の心に火をつけたとかつけないとか。

「う゛、うん゛ッ! ゴホンゴホン! あー、ウォッホンッ!」

わざとらしく急に咳払いをする美琴。
これが普通の人なら、その咳払いの理由も察せる所だが、
鈍感な上条は「風邪かな?」とか明後日の方向から答えを導き出す。

「あー…そ、そそ、その……も、もももし良かったら、わた…私がー、あの、
 ごぁんつくるぃーにいてーもいっかりゃーなんてごにょごにょ……」

目を泳がしながら噛みまくってしまって、何を言っているのか分からないので通訳させてもらうと、
美琴は「私がご飯作りに行ってもいいかなーなんて」と言ったのだ。
すると上条が予想外の反応を見せる。

「……えっ、いいの? マジで?」
「えっ!!!?」

あまりにもアッサリと真意が伝わった為に、逆に美琴がビックリする。

「ホントにいいのか!? スゲー助かる!」
「えっ!? あ、い、いいけど、アンタこそいいのっ!!?
 わ、わわわ私が朝からアンタん家に行く事になるんだけどっ!!?」
「おう、全然いいですよ! うわ〜、ありがとうミコっちゃん!」
「〜〜〜〜〜っ!!!」

上条が美琴の両手を握り、そのままブンブンと上下させて激しい握手をしてきた。
美琴は上条からのお誘い(と言っても元々は自分発信だが)と、手を握られたという事で、
毎度の如く顔を真っ赤にさせてしまっている。上条は当然ながら無自覚ではあるが。

「あっ! じゃあコレ渡しとくわ! …えっと、ちょっと待ってろよ? どこやったかな…」

ひとしきり握手をした上条は、学生鞄の中をガサゴソと探りだす。
しばらくすると、「おっ! あったあった!」と一つの鍵と取り出した。

「コレ、俺の寮部屋の合鍵。美琴にやるから、いつでも来てくれよ。
 勿論、美琴が来たい時でいいからさ」
「…っ!!! え、あ、あい、合鍵っ!!?」

まさかの展開である。
美琴の能力があれば電子ロックは勿論の事、科学技術が使われていないアナログな錠前ですら、
磁力を操作して解除出来る為、彼女に鍵など必要ない。
しかしながら美琴にとっては、上条本人から部屋の鍵を受け取るという行為自体に意味がある。
それは「いついかなる時でも、美琴の訪問を受け入れる」という証なのだから。
美琴は受け取った鍵を手の中でギュッと握り、赤くなったままの顔を俯かせて一言。

「あ…あり、がと……大切に…するから…」

これは気合を入れて朝食を作らねばならない。


819 : ブレックファースト・ブレイクファイト :2015/09/27(日) 20:53:47 bboAsY9Q
 ◇


カチャリ…
極力音を立てないように、ゆっくりと鍵を回し、そ〜っとドアを開ける。
その鍵は勿論、昨日上条から受け取った鍵だ。

「おじゃましま〜す…」

美琴は両手のビニール袋に大量の食材を入れて、
まだ周りが暗く、陽が昇りきらない内から上条の部屋へと足を踏み入れる。
その理由は、昨日の上条との約束である「朝食を作る為」なのだが、
こんな早朝から来たのは、料理の仕込みもする為だ。
常盤台中学の学生寮にも当然厨房はあるのだが、そんな場所で仕込みしている所を、
誰か(主に白井とか寮監)にでも見られたら、言い訳のしようがない。
まさか「知り合いの男に朝食を作る為に、他校の男子寮に行ってくる」なんて言える訳もなく。

「よっし! せっかくだから美味しいの作ってやんなきゃね♪」

美琴はウキウキしながらエプロンを身につける。
やはりと言うか何と言うか、そのエプロンはゲコ太柄だ。
ちなみに残念ながら裸エプロンではない。本当に残念である。

「ふんふふ〜ん♪」

エプロン姿に着替えた美琴は鼻歌を歌いながら、
持参したビニール袋から取り出した食材をキッチンに並べていく。
上条の冷蔵庫に何が入っているか分からないので、念を入れて多めに食材を用意したのだが、
そんな苦労すらも楽しみの一つだとでも言うかのように、分かりやすく美琴は浮かれている。
それもその筈だ。美琴は今、通い妻にでもなったかのような気分でいるのだから。

「あん、もうダメよアナタ! 今はご飯作ってるんだから…もう、しょうがないわね♡
 なんちゃってなんちゃってっ!!?」

この部屋の住人である上条もインデックスもオティヌスもスフィンクスも、
寝静まっているのをいい事に、美琴は勝手に面白い妄想をしては勝手にクネクネしている。
なんちゃってとか言っちゃってる辺り、相当テンションが高ぶっている事がうかがえる。
これを上条本人の目の前でやれば、鈍感な上条でも気持ちに気付いてくれるかも知れないのに。

「さて、と。まずは…」

まず美琴は調理を開始する前に、冷蔵庫を開けて中からマヨネーズを取り出す。
そしてキャップを取ると、容器に口をつけたままマヨネーズをチューと吸い出した。
ネットで調べた知識だが、これは他人の家に上がり込んで朝ごはんを作る際に、
必ず行わなければならないという儀式、通称『マヨチュッチュ』なのだそうだ。
もっとも世代ではない美琴は、そこにどのような意味があるのかは分かっていないが。
ちなみに昨日の夜、上条が夕食を作る際に容器からマヨネーズがちょろっと垂れた為、
今の美琴と同じようにペロッと舐めてしまっている。
つまり美琴は、知らない内に上条と関節キスをしていた事になるのである。

「…じゃ、始めますか」

儀式も無事(?)済んだので、改めて朝食作りを開始した。


820 : ブレックファースト・ブレイクファイト :2015/09/27(日) 20:54:21 bboAsY9Q
 ◇


「ん〜…うん! 我ながら上出来!」

美琴は完成したばかりのミネストローネを小皿に移し、味見をする。
どうやら美味しく出来たらしいが、普段の上条の部屋ならば、
まず間違いなく食卓に上がらないメニューである。
美琴は何気なく時計を見て、「そろそろ起こさなきゃよね」と呟く。

「アイツって浴槽に布団敷いて寝てんのよね? じゃあお風呂場か」

インデックスとオティヌスは早く起きても遅く起きても大した差は無いが、
学生である上条は仕度やら何やらが色々とあるので、二人よりも先に起こさなければならない。
それでも今日は朝食を作る時間が丸々カット出来るので、いつもよりもたっぷりと寝られたが。

「お…おはよーございまーす……」

寝起きドッキリでもするかのように小声で挨拶しながら、ゆっくりと浴室のドアを開ける。
ちょうつがいが錆びているのか、キキィ〜と嫌な軋み音がしてきて、美琴は思わずビクッとする。
だがそんな苦労も、上条の貴重な寝顔を見てしまえば。

(うわうわうわっ! か、可愛い〜! どどど、どうしよう! えっと、まずは写真写真!)

美琴は慌てて自分の携帯電話を取り出した。そしてそのまま盗撮した。
だが罪の意識など皆無のようで、ケータイの画面内の上条の寝顔と、
本物の上条の寝顔を見比べては、ご満悦な表情でニマニマしている。
本心ではこのまま上条と一緒に寝たり、逆にお目覚めのチューとかしたりしたい所だが、
倫理的にも美琴の性格的にも、そしてそんな大胆な事が出来る時間的余裕もなく、
色々と惜しいが上条を起こす決意をする。

「ほら、もう時間よ。起きなさいよア…アナタ……」

美琴は上条の体をユサユサと揺らしながら、起きるように促す。
せめてもの爪痕として、「起きなさいよアンタ」と言う所を、
「起きなさいよアナタ」とアレンジを加えつつ、しかし小声で言いながら。

「んっ…ん〜…? あれ、美…琴…?」

寝惚け眼を擦りながらモソモソと起き上がる上条。
寝起き直後で頭が回っていなかったが、やがて思考回路が働き出すと、
目の前に美琴がいる事への違和感がハッキリと浮かび上がってくる。

「っ!!? えっ、ええぇ!? な、何で美琴がこんな所に!?」
「あのねぇ…アンタが朝ごはん作ってくれって言ったんでしょ?」

上条の様子がいつも通りに戻ったので、
それに合わせて美琴も先程までのデレデレモードから、いつものツンデレモードに切り替える。
上条は「ああ、そう言えば…」と昨日の出来事を思い返しながら呟くと、

「マジで来てくれたのか…!」

と感動で胸がいっぱいになる。美琴はすぐに顔をボッと赤くしながら返事をした。

「あ…合鍵まで借りといて、そのまま何もしない訳にはいかないじゃない!」
「そっか〜! サンキューな美琴!」
「べ、べべべ別にいいわよ! た、ただのついでだし!」

わざわざ大量の食材を持ち込み、早朝にやって来て、合鍵を使って部屋のドアを開けて、
住人が起きないよう音を立てずに調理し、味見をして、頃合になったら上条を起こしておいて、
何がどう『ついで』なのかサッパリ分からないが、とにかくこれは何かの『ついで』らしい。

「そんな事はいいから、とっとと起きなさいよ馬鹿!
 …あ…朝ごはんなら、もう用意してあるんだか……ら…?」
「わっ!!? ちょっと待て美琴―――」

照れを隠すかのように、強引に上条の掛け布団と剥ぎ取った美琴だったが、
その瞬間、男なら誰しも経験した事のある生理現象『朝テント』を目の当たりにしてしまう。
浴室に電撃が走ったのは言うまでもない。


821 : ブレックファースト・ブレイクファイト :2015/09/27(日) 20:55:03 bboAsY9Q
 ◇


「お…おおおおぉぉぉ〜………」
「とうま…もしかしてここは天国なのかな…?」
「馬鹿な! これが朝食だと言うのか!?
 どうやら我々が今まで食べていた物は、ブタのエサに過ぎなかったようだな…!」

上条とインデックスとオティヌスの三名は、
目の前に広がっている信じられない光景に、ただただ感嘆の声を漏らしていた。
食卓を彩っているのは既に紹介したミネストローネを始め、エッグベネディクト、
モンティクリストのベシャメルソースがけ、トマトとアボカドのミルフィーユサラダ、
キュービックフルーツのギリシャヨーグルトがけの5品だ。
もうどこの国のテーブルかも分からないが、とにかくカラフルで美味そうな事態になっている。
上条など、この中の一品たりとも料理名を言えない事だろう。

「ごめんね。時間が無くて、5品ずつしか作れなかったわ。
 もっと朝食バイキングみたいにしたかったんだけど…」

謙遜でも誇張でもなく、本気でそんな事を言っている美琴に、
上条は手をブンブンと左右に振って感謝を伝える。

「いやいやいや充分だって! つーかそんなに作られても食いきれ…なくはないけど、
 いつもの千倍は豪華だよ! 本当、ありがとな!」

食いきれなくはないのは上条ではなく、その隣の腹ペコシスターの事を指しているのは言うまでもない。
その腹ペコシスターはと言えば、天敵である短髪が部屋にいる事に対するイライラが吹っ飛ぶ程に、
目の前の料理に目をキラキラ、そして涎をダラダラさせている。
オティヌスはインデックスほど食に執着はしていないが、それでも圧倒されている様子だ。
しかしこの直後、インデックスとオティヌスが急転直下で不機嫌になり、
それに反比例して、美琴がふにゃる程に心臓をバクバクさせてしまう言葉を、
上条が言い放つのである。

「もういっその事ミコっちゃんには、お嫁に来て欲しいくらいですよ!
 毎朝こんな朝食が食べられるなら、一生上条さんのお側に………って、あれ?」

しかし周りの様子がおかしい事に気付いた上条。
この後どうなったかは、まぁ大体ご想像通りだ。
結局は今朝も、昨日の朝と同様に騒がしくなってしまうのだった。


822 : くまのこ :2015/09/27(日) 20:55:44 bboAsY9Q
以上です。
ではまた。


823 : くまのこ :2015/10/02(金) 23:43:29 3ZJqrGLo
また連投になります。
今回は自分にしては珍しく、いちゃいちゃさせてあります。
あとタイトルに「第二十三話」とか入ってたり
「前回のあらすじ」とかで始まったりしてますが、
前回までとか元から無いので、お気をつけください。
約3分後に3レスです。


824 : 第二十三話 だってチューしたいんだもん :2015/10/02(金) 23:46:18 3ZJqrGLo
前回までのあらすじ



土御門「カミやん、第三位と付き合ってもう半年だろ? キスくらいしたらどうかにゃー?」
食蜂「ぷークスクス! 御坂さん、上条さんから倦怠力満載で飽きられてるんじゃなぁい?」
婚后「こここ恋のお悩みならば、ひゃ、ひゃ百戦錬磨の婚后光子にお任せくださいなっ!」
一方通行「クソ、どォなってやンだァ!? テメェは俺が殺した筈だろォがよ木原ァァァ!」
小萌「いいですか、上条ちゃん。女性に恥をかかせるものではありませんよ?」
インデックス「とうまはやっぱりとうまだから仕方ないと思うんだよ」
上条「美琴…ちょっと目を瞑っててくれないか…?」
美琴「えっ? こ、こうかしら…? …………っ!!!??!?!!?」
佐天「って、それ思いっきりキスされてるじゃないですかっ!」
吹寄「主文。被告人・上条当麻を死刑に処す」


 ◇


「はぁ〜…」

美琴は自分のベッドの上で横になりながら、先日のデートを思い出していた。
デートの帰り際、ふいに上条に呼び止められ、彼に言われるがままに目を瞑った。
そして次の瞬間に美琴が唇に感じたあの柔らかい感触が、今でもまだ残っているのである。
美琴は指でスッと唇をなぞり、ウットリと天井を見つめたまま、一言漏らす。

「やっぱり…キス、しちゃったのよね………って、うわああああぁぁぁぁ〜〜〜!!!」

自分で確認しておきながら、改めて自覚すると恥ずかしくなってしまい、
美琴はフカフカ枕をギュッと抱き締めると、そのままゴロゴロと転がり始めた。
こんな姿、今は風紀委員の仕事で部屋を留守にしているが、
ルームメイトの白井には見せられないだろう。
ただでさえ彼女は、美琴と上条が付き合い始めてから真っ白になっているというのに。

「はぁ…」

ひとしきり転がった【あばれた】美琴は、再び横になって上を見上げる。
そして再び唇を指でなぞりながら、こんな事を思っていた。

(また…キスしたいなぁ…)

一度しただけで相当ハマってしまったようである。どんだけ気持ち良かったのか。
そんな事を考えつつ何気なくテレビに目を向けると、
つけっ放しだったワイドショー番組は、いつの間にか古い洋画に変わっていた。
どうやら前の番組【ワイドショー】が終わって次の番組【えいが】が始まった事にも気付かない程、
真剣にゴロゴロ(?)していたらしい。

(映画とか途中から観てもアレだし、チャンネル変えよ)

美琴は横になったまま、テレビに向かって能力を行使しようとする。
ちなみにリモコンを使わず能力でテレビに干渉するのは、単純にリモコンが手の届く所になく、
尚且つ今の美琴は家ダラモードになっている為、動くのが面倒だからだ。
しかし結局、美琴は能力を使ってチャンネルを変える事はなかった。
変えようした次の瞬間に流れてきた、映画のワンシーンに釘付けになってしまったのだ。

(っ!!! しゅ、しゅごい…きゃも!)

それは洋画によくある、「ここ本当に必要か?」と思うくらいの激しいベッドシーンだった。
家族だんらん中に流れると急激に気まずくなる、アレである。
今まではこんなシーン観ても何ともなかった美琴だが、なまじキスの味を覚えてしまったが為に、
その濃厚なディープキスに心ときめいてしまったのだ。一回しかキスしてないクセに。

(こんな、キス……も、もも、もしアイツとしちゃったら…
 わ、わ、私どうなっちゃうの!? ねぇ、どうなっちゃうのっ!!?)

知らんがな。


825 : 第二十三話 だってチューしたいんだもん :2015/10/02(金) 23:46:45 3ZJqrGLo
 ◇


その日、美琴がデート中ずっと気持ちがうわの空だった事に、
上条は思う所があるのか、じっとりと嫌な汗をかいていた。
恋人繋ぎしている右手にも、思わずギュッと力が入ってしまう。

(う〜…! やっぱ、この前キスしたこと怒ってるんですかね!?
 いや、まぁ確かに急だったけど、何かいい雰囲気だったし
 上条さんだってお年頃な訳で、そろそろかな〜とか色々と考えてですね!)

言い訳なのに何故か心の中で済ませようとする上条。
念話能力者でもあるまいし、美琴に伝わってほしいのかほしくないのか。
とまぁ上条がそんな事を考えている一方で、うわの空だった当の本人【みこと】はと言えば。

(たいチューしたいチューしたいチューしたいチューしたいチューしたいチューしたいチュ)

先日に観た映画のベッドシーンを、頭の中で何度も再生させていた。
映画の中の男優と女優を、ご丁寧にも上条と自分で置き換えながら。
しかしツンデレ時代が長かった美琴は、
無事に好きな人【かみじょう】とお付き合いが出来るようになった現在でも、
その頃【ツンデレ】のクセは抜けきっておらず、思いっきり葛藤してしまう。

(でででも、私から『チューして?』なんて言うのは…は…恥ずかしいし!
 それに当麻にエッチな女の子だって思われたくないし……あぁでもチューしたい〜!)

知らんがな。
ちなみに美琴は普段、上条の事を『アンタ』だの『あの馬鹿』だと呼んでいるが、
心の中ではしっかりと『当麻』と言っていたりする。これは恋人となって一番の大きな変化である。
あくまでも美琴の心の中では、であるが。
だがそんな事になっているとは露知らぬ上条は、意を決してキスしてしまった事を謝ろうとする。

「あ…あのさ、美琴……こ…この前その、キ、キスし―――」
「はっ! ひゃひゃひゃひゃいっ!!!」

『キス』という単語を聞いただけで、過剰に反応してしまう美琴。
内心では「もう一回しようとかそんな流れっ!!?」と小躍りしている所だろう。
しかし次に上条の口から出てきた言葉は、美琴が望んでいるそれとは180度違うものだった。

「―――キ、キスしちまった、だろ…?
 えっと…美琴が嫌…だったんなら、もうしない…からさ。き、機嫌を直」
「イヤっ!!!」

再び食い気味に割って入ってくる美琴。
この流れは、恥ずかしいから言えないとか言っている場合ではない感じだ。

「あ、ああ、うん。だから嫌ならもうしないから」
「違うそっちの意味じゃないっ!!!
 もう馬鹿っ!!! 全然私の事分かってくれてないじゃないっ!!!」

美琴は思わず声を荒げてしまった。このまますれ違ってしまうなんて耐えられなかったのだ。
…何だか妙にシリアス風味な空気を醸し出してはいるが、
要はキスするしないでケンカしてるだけなので、いっそ爆発してしまえばいいと思う。


826 : 第二十三話 だってチューしたいんだもん :2015/10/02(金) 23:47:20 3ZJqrGLo
「私はね! アンタとキッ! ……キ…ス…した時! すっごい気持ち良かったんだから!
 むしろいっぱいしてほしいと思ってるし! 何だったら!
 も、もももっと激しいヤツとかしてくれちゃっても全然いいかもくらいに思ってんのよ!」

大声で何を言っているのかこの娘は。
美琴は気付けば内に秘めていた思いの丈を、存分に吐き出し、そしてぶつけてしまっていた。
勢い余ってツンデレを凌駕してしまったとかそんな感じっぽいけどどうなんだろうこれ。
そしてその思いを知ってしまった上条は、顔を真っ赤にしながら聞き返す。

「も…もっと激しいヤツって…?」
「だっ! だからあのアレよ! そ、その……つつ、つまり…ベ…ベロチュ……ってのを…」

勢いで言ってしまった美琴だったが、改めて確認されるとやはり恥ずかしくなってくる。
上条と同様、顔が真っ赤になってしまった。
もっとも美琴は付き合う以前から、しょっちゅう赤面していたけども。
しかし女の子にここまでさせて、肝心の上条が何もしないでは男が廃る。
上条は握ったままの手(ここまでずっと恋人繋ぎを持続させていたらしい)をグイッと引っ張り、
何か表情をキリッとさせて、自分で考えられる一番のイケメン顔を作り出す。

「……い…いいんだな…? 上条さんだって男だって事…分かってて言ってるんだよな?」

すると美琴は、赤くしたままの顔で小さく頷く。
そのサインを合図に、上条は美琴の腕を引っ張ったまま、ひと気の無い路地裏へと連れ出した。


 ◇


人通りの無い路地裏で、卑猥な音と艶かしい声が響いている。
そこにいるのは二人の男女…いや、これはもう雄と雌と言った方が正しいだろうか。
クチュクチュと音を立てながら激しく舌を絡ませ、お互いの唾液が混ざらせ、
口から溢れた唾液が滴り落ち、ハァハァと熱い吐息が漏れ、抱き締め合っているその姿は、
発情した獣その物のようだった。

「ずぢゅ、んくちゅくちゅ♡ は、あぁ、んっぶ♡ にゅぶぶ、ちゅぷ♡ ぺちゃぺちゃ♡
 んっ、ぁむっ♡ ふー、ふー♡ れおれお、ぢゅりゅっ♡ にゅちゅ、ぷちゅるる♡」

生まれて初めて男の味を知ってしまった美琴の舌は、
それを喜ぶかのように上条の口内をうごめき、その快感は容赦なく美琴の脳を破壊していった。
上条とキスすること以外、何も考えられなくなってしまう程に。
キスだけでこんな事になってしまったら、
『それ以上』の事をしたら、それこそ一体どうなってしまうのだろうか―――


 ◇


次回予告



美琴「ねぇ、当麻…このまま………シよ…?」
上条「もう後には引けないからな! ここまでさせた美琴が悪いんだぞ!?」
刀夜「とととと当麻っ!? せ、せせ、責任はどどどうするんだ!!?」
初春「ぬふぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
建宮「教皇代理として総員に告ぐ! 今すぐ五和の半径100㎞圏内から離れるのよー!」
一方通行「つまりありゃァ木原のクローンって訳かよ! めンどくせェもン作りやがって!」
舞夏「お…おおぉ…そ、そうかー。まぁ、ヤっちゃった物は仕方ないんじゃないかー?」
オティヌス「……それが貴様の選んだ答えなのだろう?」
白井「オホホホホ類人猿さん。少々お聞きしたい事がありますので面をお貸しくださいな?」
美鈴「つまりね美琴ちゃん。いっその事、お嫁さんになっちゃえばいいのよ」


827 : くまのこ :2015/10/02(金) 23:48:01 3ZJqrGLo
以上です。
ちなみに次回もないです。
ではまた。


828 : くまのこ :2015/10/08(木) 18:11:57 YkubFBLg
また懲りずに連投です。
いつものようにドタバタした上琴書きました。
全部で7レス使いますが、
前半4レスはミコっちゃんサイド、
後半3レスは上条さんサイドで若干別々の話になってます。
約3分後に投下します。


829 : とある二人の異種悪夢 :2015/10/08(木) 18:15:03 YkubFBLg
美琴サイド 〜覚めない悪夢〜



『ど、どうしたのよ…そんな真剣な顔して、し、しししかも…
 たっ、たたた大切な話がある…とかっ!』
『……実はな、美琴…俺、好きな人が出来たんだ…』
『っ!!! そそっそそれってももももしかかしててっ!!?』
『ああ。それは勿論―――』
『わわわわた―――』
『あたしですよ! 御坂さん!』
『―――し……………はぇ? ……えっ!!? ちょ、さ、佐天さんんんんんんん!!!?』
『そうなんだよ! 俺、今日から佐天と付き合う事になったから!』
『あたし達、幸せになりますね御坂さん! …それじゃあ、行きましょうか上条さん♡』
『え、待っ、ちょ、えええっ!!? いいい、行くってどこへ!?』
『何言ってんだ。付き合うっつったらデートしに行くに決まってんだろ?』
『いや、あの、ちょ、待って―――』


 ◇


「っば!!!」

そこで美琴は悪夢から覚めた。
目の前にあるのは上条でも佐天でもなく、いつも毎朝見ている部屋の天井である。
ベッドの上に横たわったまま、じっとりと汗をかいていた美琴は、
「はー…」と溜息とも深呼吸とも取れる息を吐き、全く爽やかではない朝を迎えた。
同時に妙な違和感があった為、何気なく隣を見てみると。

「むにゃむにゃ……お姉様〜」

何故かそこには自分のパジャマを掴みながら幸せそうな寝顔を浮かべるルームメイトがいたので、
美琴は目覚まし代わりの電撃をぶちかました。

「お…おおぉ、おはようございますですの……」
「はい、おはよう。もう今更『何で黒子が私のベッドにいるの』とか聞く気力は無いけど、
 一応とりあえずは正当防衛【ほうでん】しとくわ」

聞く気力が無いのは、白井が美琴のベッドに忍び込む事など日常茶飯事だからだ。
しかも厄介な事に、例え掛け布団で包んで簀巻き状態にして紐で縛り、
夜中に襲われないように対策しても、白井は空間移動を使ってすり抜けてしまう。
白井にも倫理とか良心、もしくは風紀委員としてのプライドでも残っているのか、
ベッドに潜り込む以上の事はしてこないが、それでも充分迷惑である。
しかし上記の理由により、白井のセクハラに対して泣き寝入りするしかないのだ。
だが今日に限っては、どうしても苦言を呈さざるを得ない。八つ当たりだと分かっていても。

「全くもう…黒子のせいで変な夢見たわよ!」
「夢…ですの? 一体どのような?」
「それ! …は、その………な、何でもないけど…」

しょっちゅう美琴の電撃を食らっているおかげか、すっかり雷属性への耐性がついた白井は、
ギャグ漫画の次のコマのように完全回復し、美琴の夢について聞き返す。
しかし美琴から返ってきたのは、妙にしどろもどろな答えである。
しかも目は泳ぎ、冷や汗を流し、トドメに頬はほんのりと赤く染まっている。
この瞬間、白井はその夢が類人猿【かみじょう】関連なのだと確信した。
普段、竹を割ったような性格のお姉様【みこと】が、こんなにも乙女な表情を見せるのは、
認めたくはないが上条の事を考えている時だけなのだ。

「ぐぎぎぎぎぃぃぃいいいいいいい!!!
 お姉様の夢の中にまで現れるとは、どこまでも憎々しいお猿さんですわね!!!」
「あっ!!? ちちち違うわよっ!!? 今回は佐天さんも一緒だったし!!!
 あの馬鹿と佐天さんが付き合う事になる夢を見て落ち込んでたとか、
 全然そんなんじゃないからホント心配しなくてもいいのよ!!?
 『アイツと付き合うのは私なのに』とか全く思ってないから、大丈夫大丈夫!!!」

白井が聞いてもいない事、そして聞きたくない事までペラペラと白状してしまう美琴。
次の瞬間、美琴の本音を聞かされた白井は真っ白になり、
ウッカリと本音を言ってしまった美琴は真っ赤になったのだった。


830 : とある二人の異種悪夢 :2015/10/08(木) 18:15:38 YkubFBLg
 ◇


「…? どうしたんですか御坂さん? もしかして、あたしの顔に何か付いてます…?」
「……えっ!? ああ、いえ何でもないわ!」

その日の放課後、美琴は佐天と二人っきりで小さな喫茶店に入り、お茶をしていた。
白井と初春は例の如く風紀委員で忙しい為この場にいない。
ちなみに白井は本日『何故か』無気力気味で、仕事に身が入っていないらしいが。

「ご、ごめんなさいね、何かジーッと見つめちゃって!」
「いえ、あたしは別に構わないですけど…」

しかし美琴は今も朝に見た夢を引きずっており、
もしかして本当に上条と佐天が付き合ってしまうのではないか、とか考えてしまっていた。
思わず佐天を凝視してしまう程に。

(ううぅ…確かに佐天さんって可愛いし、家庭的だし、人から好かれるし、
 私と違って素直だし、胸…も……去年まで小学生だったとは思えないくらいボリュームあるし…
 ってか、もしかしなくても私が勝てる要素が見当たらないっ!!?)

強いて言うなら美琴は常盤台のお嬢様であり、レベル5の超電磁砲という強力な武器【ネームバリュー】があるのだが、
上条がそんな上辺だけの評価をする人物ではない事は美琴もよく知っており、
しかしながら上条のその性格が今は逆に災いし、美琴は佐天への劣等感に苛まれてしまう。
もしも佐天が本当に上条の事を好きになってしまったら、
自分に勝ち目は無くなってしまうのではないか、と。
急に焦りが溢れ出してきた美琴は、遠回りな質問で探りを入れてみる事にした。

「ね、ねぇ…さ、さささ佐天さんってさ……ああ、あの、馬鹿…の事とかどう思う…?」
「へ?」

一部訂正しよう。『遠回りな質問』ではなく、『遠回りな質問(笑)』だったようだ。
しかも佐天も、唐突な質問で一瞬キョトンとしてしまった。

「それって上条さんの事ですよね? どうって…ん〜、いい人だと思いますよ」
「いい人っ!!!?」

佐天が言ったのは『良い人【いいひと】』という意味だったのだが、
美琴には『好い人【いいひと】』という意味で聞こえてしまった。恋は盲目ならぬ、恋は難聴である。

「へ、へぇ〜…そそ、そうなんだ〜……
 でででも佐天さんにはもっと好い人がいるんじゃないかしら〜…?
 ア、アア、アイツじゃ勿体無いって言うか〜…」

美琴は冷静を装う為に紅茶の入ったティーカップを持ちながら話しかけるが、
カップの取っ手に触れるその手はガタガタと震え、
カップの中のスプーンはカチャカチャと鳴り、中の紅茶もビッチャビチャに零れている。

「うわわわわっ! ちょ、テーブル拭いてくださいよ御坂さん!
 っていうか、何でそんな事を聞……」

何故急に上条の事を聞いてきたのか疑問に思った佐天だったが、
この美琴らしからぬ行動に、すぐさまピンときた。そしてその直感が正しければ、
先程美琴が佐天【じぶん】にはもっといい人がいるとか、アイツ【かみじょう】には勿体無いなどと、
妙に上条と距離を置いて欲しそうな事を言った理由も納得できる。
佐天は全てを理解した上で表面上は素の表情を保ち(ただし心の中ではほくそ笑み)、
あえて何も気付いていない体で会話を続けた。

「……こほん。何でそんな事を聞くんですか? 御坂さんには関係ないじゃないですか」
「えっ!!? あ、い、いや…関係なくもなくないって言うか……
 あっ、ほ、ほら! アイツって私の…と、友達だし!」

流石に『好きな人』とは言う勇気は無いらしく、『友達』で逃げる美琴。
だが佐天はそれを逆手にとって反撃する。


831 : とある二人の異種悪夢 :2015/10/08(木) 18:16:10 YkubFBLg
「そうですね。でもそれなら、あたしだって上条さんの友達ですよ?」
「そう…だ、けど…」
「どうしてそこまで気になるんですか? もしかして御坂さんって、上条さんの事を男性として意識しt」
「ちちちち違うわよっ!!?」

まだ佐天が話し終わっていないのに、美琴は食い気味に否定してきた。

「べべべ別に私がアイツの事を好きとかそんな気は全然無いから勘違いしないでね大体今朝夢に出てきたのも私が意識しちゃうような事をアイツが普段からするのが悪いんだし昨日だって無意味に頭ポンポンとかしてきたのよアイツそんなのドキドキしちゃうに決まってんじゃない夢にだって見るわよそりゃしかも私が何でそんな事したのかって聞いたらアイツ何て言ったと思う撫でやすかったからですって何なのよその答えは無自覚にも程があるわよ乙女心弄ぶんじゃないわよそんな事言われたら余計に心臓バクバクすんじゃないのよそんで何よあの笑顔はあんな顔されたら何も言えないじゃない胸がキュンキュンしちゃうじゃないいつもはチャランポランなクセにたまに見せる優しさとかギャップヤバいじゃないだから私がアイツの事を意識しちゃってもそれは私のせいじゃなくてアイツが悪いの分かったっ!!?」

ぜーぜーと息を切らしながら、上条を意識しているという点を完全否定(?)する美琴。
だがどうも余りにも焦って言ってしまった為に、思いっきりツンデレをこじらせてしまっている。
というか、辛うじてツンデレ口調を保っているものの、その内容はただのデレデレである。
佐天は気付かないフリを続行しているので笑いを堪えてはいるが、
鼻の穴は開き、頬の中を空気でパンパンにし、プルプルと小刻みに震えている。
今にも「ブッフー!」と吹き出してしまいそうだ。

「そ、そうで…ププ! …すか……わ…分かりま…プッ、クク…した…
 上条さんの事は…ブフッ! 何と、も…おも、おも、思ってないん、ですね…?」

決壊寸前である。

「そ、そうよ! 分かってくれて嬉しいわ!」

しかし佐天が自分の言い訳【ウソ】を信じてくれたと思った美琴はホッとする。
だがそうなると問題は最初に戻ってしまう。
つまり、佐天が上条の事を好きなのか否かという問題に。

「で…でさ、もう一度聞くけど…さ、佐天は本当に……その…」
「でも上条さんって結構カッコイイですよね」
「……………へ?」

美琴が再び佐天へ質問しようとしたその時、
佐天は美琴の問いを聞く間【きくつもり】もなく、間髪入れずに急に上条の事を褒めだした。

「それに優しいですし…けど上条さんって彼女とかいないんですよね?
 あたし、御坂さんが上条さんの事が好きなんだって誤解してたから言わなかったんですが、
 御坂さんが何とも思ってないなら我慢する必要もないですよね!
 あたし今度、上条さんに告白してみようかな〜!」
「えっ………エエエええええええええええぇぇぇぇぇぇえええ!!!!?」

思わず絶叫してしまう美琴。


832 : とある二人の異種悪夢 :2015/10/08(木) 18:16:57 YkubFBLg
「ダダダダダダメよそんなのっ!!!!!」
「おやおや〜? どうしてですか〜?
 あたしが上条さんに告ると、何か御坂さんに不都合な事でもあるんですか〜?」
「ひゃえっ!!? あっ、いや、そ、そんな物は無いけどっ!!!
 無いけども、とにかくそれだけはダメなのっ!!!」
「御坂さ〜ん…それじゃあ流石に納得できませんよ〜! ちゃんと理由を言ってくれなきゃ!」
「っ!!! そ、それは……その…」

追い詰められた美琴。
この場を切り抜けるには真実を言うかウソで誤魔化すしかないだろう。
はぐらかそうとした所で、今の佐天からの追求を逃れる事は出来なさそうだ。
だがしかし、真実を言うという事はつまり『自分が上条の事を好き』なのだと、
佐天にバラす事と同義(とは言っても既に佐天には大分前からバレているが)なので、
美琴は口から出任せを言って誤魔化す事に決めた。

「アイツには……そ、そう! 他に好きな人がいるのよ!」
「へぇ〜、そうなんですか。それは残念です」

どうやら無事に切り抜けられた―――

「で、上条さんの好きな人って誰なんですか? もしかして御坂さんとか?」

―――切り抜けられたと思ったら大間違いである。

「ななな何でそこで私の名前が出てくるのよっ!!? 私、関係ないじゃないっ!!!」
「じゃあ御坂さんの好きな人が上条さんって事ですか?」
「じゃあって何!!? てかそれはさっき違うって言ったばかりよね!!?」

佐天の猛攻にノックアウト寸前の美琴。
おかげで喉がカラカラになるまで叫んでしまった。当然、お店の人には睨まれている。
美琴は喉を潤す為、そして落ち着きを取り戻す為に、
もうとっくにぬるくなってしまった紅茶を、一気にグビグビと飲み干した。
そして「はぁーっ!」と大きく息を吐くと、一度咳払いをして説明する。

「いい? 佐天さん。私はアイツの事なんて本当に何とも思ってないの。
 第一、アイツに他に好きな人がいるように、私にも他に好きな人がいるのよね。
 って言うかもう付き合ってる。勿論その人は、アイツとは全く関係ない人よ」

先程の誤魔化しの応用である。美琴は再び出任せをぶつけた。
しかしそれで佐天が納得してくれる筈もなく、次なる質問は当然ながら。

「それは初耳ですね〜。御坂さんと付き合ってる人って誰ですか?」
「え…えっと、そ、それは……」

そこまでは考えていなかった美琴は、架空の彼氏の名前を言いあぐねてしまう。
だが天は美琴を見捨てなかった。次の瞬間、美琴は背後から誰かに声を掛けられた。
その者は馴れ馴れしくも美琴の肩に手をポンと置き、こう言ってきたのだ。

「あ…あの〜、よろしければ、わたくしとお茶などをしては頂けませんでせうか…?」

男の声だった。どうやらナンパ目的で声を掛けてきたらしい。
背後にいるので顔は見えないが、その声は妙に聞き慣れたというか、美琴が落ち着く声質だった。
誰だか知らないが、今はこの男を使うしかない。
ナンパなどいつもは威嚇用の電撃で蹴散らし、
それでも引かないしつこい野郎は、手加減はするが直接電撃をお見舞いするところだ。
しかし今は背に腹は代えられない状況だ。美琴は見知らぬその男【じぶんのはいご】を指差し、言い放った。

「こっ! この人よ佐天さん! この人が私の付き合ってる人!」

一瞬呆気に取られていた佐天だったが、徐々にその顔にイヤらしいニヤニヤが戻っていく。

「へぇ〜、そうなんですか〜。その人が御坂さんの…ふ〜ん?」

何だろう、このリアクションは。
この顔は、まるで上条の事で自分を弄ってくる時の佐天さんのようである。
美琴は「まさか!?」と思いつつ、ゆっくりと背後の男に顔を向ける。するとそこには―――


833 : とある二人の異種悪夢 :2015/10/08(木) 18:17:32 YkubFBLg
上条サイド 〜その一言が悪夢の始まり〜



「はぁー……彼女欲しい…」

悪夢は上条のこの一言から始まった。そのふざけた戯言【げんそう】を吐露した上条に対し、
当然の如く土御門と青髪は、両サイドから上条をぶん殴った。

「いってぇな、お前ら! 何だよ! 上条さんが何か悪い事言ったのかよ!」
「おうおう、自分の言った事の重大さが分かっていないような奴に容赦なんて出来んぜよ」
「もうホンマ、カミやんは一度死んだ方がええんとちゃうか?」

ご存知の通り、本人的には無自覚であるが上条はフラグ建築士だ。
数多くの女性に好かれており、特にここ上条の教室では、
吹寄以外の全ての女生徒に想いを寄せられていたりする。爆発すればいいのに。
おかげで上条が何気なく呟いた「彼女欲しい」発言で、
女生徒達がもれなくソワソワと浮き足立ってしまったのだ。
その中でも最も上条への好感度が高い姫神などは、「これは。チャンス」などと呟きながら、
拳をギュッと握って気合を入れてしまう始末だ。
この状況に土御門と青髪、そして上条以外の男子生徒は全員、心の中で舌打ちをした。
これはマズイと、青髪は上条に聞こえないように土御門に耳打ちする。

(どないすんねん! このままやと誰かがカミやんに告ってまうかも知れへんぞ!?)
(今までの傾向からすると、告白しようとしてもカミやんの不幸が発動して、
 結果的には大丈夫だと思うけどにゃー…でも万が一って事も有り得るぜい)
(ほんなら何か手ぇ打たな!)
(だにゃー。ま、ここはオレに任せろだぜい)

この者達、友人【かみじょう】に彼女を作らせない為にどんだけ必死なのか。
土御門は一度コホンと咳払いすると、上条にこんな事を言ってきた。

「あー、カミやん。それならナンパでもしてみたらどうだぜい?」
「ナ、ナンパァ!?」

思いも寄らない一言に、上条も面を食らってしまう。

「そうだぜい。古来より出会いの無い者は、ナンパによって相手を見つけてきたんだにゃー」
「そ…そうなのか!」

得意の適当な言葉【ウソ】で、それっぽい理由を取って付ける多角スパイ。
上条もまんまと信じてしまう。土御門の狙いは上条にナンパさせ、そして失敗させる事だ。
確かに上条の事を好いている女性は多く、それは教室の外でも同じ事だが、
かと言って流石に、全ての女性にフラグを建てている訳ではなく
(教室内は上条との距離が近いから例外)、中には上条に嫌悪感を持っている者も存在する。
例として挙げるならば、白井とか白井とか白井などである。
つまり上条の事を何とも思っていない人物をナンパすれば、当然ナンパは失敗する訳だ。
そして上条は不幸体質。ナンパ失敗が彼にとっての不幸なのだとしたら、
彼はほぼ100%、自分に好感度のない女性をナンパのターゲットにする事だろう。
これをほんの一瞬のうちに計算した土御門は、上条にナンパを持ちかけたのである。
本当に、どんだけ必死なのだろうか。
しかし上条には一つ気がかりな事がある。先程説明した通り、彼はフラグ建築士と言えども無自覚だ。
彼自身は、自分の事をモテない男なのだと自覚【ごかい】している。なので。

「でもなぁ…俺なんかがナンパ【そんなこと】しても、失敗するのは目に見えてるしなぁ…」
「カミやんの…………バカーッ!」
「ボグァッ!!?」

上条が弱音を吐いた瞬間、まるで昔の青春アニメのようなノリで、土御門が上条に平手打ち【ビンタ】した。

「やる前から諦めてどうするぜい!」
「せや! ボクらぁ、カミやんをそないな子に育てた覚えはあれへんよ!?」
「お…お前ら…」


834 : とある二人の異種悪夢 :2015/10/08(木) 18:18:19 YkubFBLg
何だこの茶番。
そもそも青髪に育てられた記憶など、記憶喪失になる以前でもある訳がない。あってたまるか。
青髪まで乗っかってきたこのノリは、何かいい話っぽい雰囲気を醸し出しているが、
あくまでも上条がナンパをするしないで揉めているだけなので騙されないように。
土御門の狙いは上条にナンパをさせて失敗させる事ではあるが、
その前に上条が諦めてしまったら元も子もない。
そんな事になったら。クラスの誰かが「じゃあ私が上条くんの彼女になってもいいですか!?」
なんて言い出しかねない。それだけは阻止しなくてはならないのだ。
だが土御門の説得の甲斐もあって、
上条は口をグイッと手で拭う(別に口から血が出てた訳でもないが)と。

「へっ…効いたぜ、お前のビンタ【パンチ】…そうだよな。
 やる前から諦めてちゃ、何も始められないよな! 俺やるよ! 絶対ナンパ成功させるよ!」
「ああ! その意気だにゃー!」
「くぅ…! ええ話や…」

こうして立ち上がった上条。
そしてクラスの三バカによるコントの一部始終を見ていた吹寄は、

「………もう、すっかり冬ね…」

と我関せずを決め込んだ。だって巻き込まれたら面倒だから。


 ◇


「はぁ〜…ナンパって言ってもなぁ…」

さっきまでの勢いはどこへやら。上条は溜息を吐きながら、第7学区の街をトボトボと歩いていた。
教室の中では土御門と青髪による煽りと、その場の変な空気にあてられて了承してしまったが、
冷静に考えてみると、やはりナンパなど成功する気がまるでしない。
しかし大見得切って「俺やるよ!」なんて宣言してしまった手前、
一度くらい誰かに声を掛けないと格好がつかない。例え玉砕してしまうとしてもだ。
もしも結局、誰にも声を掛けられませんでしたで終わってしまったら、
きっと奴らの事だ。「おや〜? あの時の意気込みはどこ行ったのかにゃ〜?」
「『絶対ナンパ成功させるよ! キリッ!』とか言うてへんかったっけ〜?」
などと、ここぞとばかりに馬鹿にしてくるに違いない。それは何かもうムカツクのである。
しかも周到な事に、件の土御門と青髪はと言えば、上条の後方20m付近にある、
風力発電のプロペラの支柱の影から、こちらの様子をうかがっている。
これは本当に上条がナンパをするのか監視する為でもあるが、それとは別に、
ナンパに失敗した直後の上条をとことん馬鹿にする為でもある。この二人、本当に友人なのだろうか。
とは言え、フラれるのが前提のナンパなどモチベーションが上がる訳もなく、
こうして途方もなくフラフラとしているのだ。
しかし、いつまでもこうしていても何も解決はしない。上条は両手で頬をバチンと叩き、気合を入れる。

「っしゃ! もう次に目に入った人、誰でもいいからナンパしよ!
 そんでとっとと終わらせよう! 今日スーパーの特売日だし!」

最後の一言が本音らしいが、とにかくナンパする事を決意する上条。
キョロキョロと周りを見回すと、小さな喫茶店の中で何やら言い争いをしている女性二人を見つけた。
ガラス越しで何を話しているのかは聞き取れず、しかも太陽の反射光でちょうど顔は見えなかったが、
一人は柵川中学の制服、そしてもう一人は常盤台中学の制服を着ていた。

  お    約    束    通    り    で    あ    る  。

中学生をナンパするのは主義に反するが、元々自分の主義に則って始めたナンパでもあるまいし、
上条は呆気なく自分の主義()を曲げる。そして、その小さな喫茶店に入っていくのであった。


835 : とある二人の異種悪夢 :2015/10/08(木) 18:18:53 YkubFBLg
 ◇


喫茶店に入った上条は、先程見た中学生二人の下へ、真っ先に駆け寄った。
最初に目に入ったのは柵川中学の制服の子(ただし顔は見えなかった)だったが、
喫茶店の入り口に近いのは常盤台中学の制服の子(ただし顔は以下略)だったので、
ナンパするのは常盤台の子にするようだ。
上条はその子に近寄り、しかし緊張のせいかあまりその子の顔を見ないように視線を下にずらし、
その子の肩に手をポンと置き、こう言ったのだ。

「あ…あの〜、よろしければ、わたくしとお茶などをしては頂けませんでせうか…?」

ナンパなどやった事のない上条は、その手口や知識も20〜30年ほど昔のモノであった。
既にお茶をしている女性に対して「お茶などを」と言うのも不自然である。
元々フラれるのは前提だったので、ナンパのやり方などどうでも良かったのかも知れないが。
しかし次の瞬間、ナンパをした女性から思いも寄らない一言が飛び出してくる。
常盤台中学の制服を着た女性は、背後にいる上条を指差し、こう言い放ったのだ。

「こっ! この人よ佐天さん! この人が私の付き合ってる人!」

聞き覚えのある声。『佐天』という名前。そして常盤台中学と柵川中学の制服。
上条は下を向いたまま、とてつもなく嫌な汗が流れ落ちてくる。

(ま、まさか…いやいや、まさか! そんな事がある訳は…!)

上条がゆっくりと顔を上げるとそこには―――

「みみみみ美琴ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!?」
「アアアアアンタァァァァァアアアアアアアアアア!!!!?」

目と目が合った上条と美琴は、同時に叫び声を上げた。

「そっか〜。御坂さんが付き合ってる人って、やっぱり上条さんだったんですね〜!
 そうならそうと早く言ってくださいよ〜、いや〜残念残念♪」

この言葉とは裏腹に、口調は全く残念そうじゃない佐天。

「ちょちょちょ、どないなっとんねん!? カミやんのナンパ成功しとるやないかい!」
「こ、これは予想外だにゃー! どうしてこうなったぜよ!?」

上条の後方20m付近で待機していた土御門と青髪も、ショックのあまり喫茶店に来店してしまう。
そして肝心の二人は。

「えっ!? えっ!? 俺と美琴が付き合…ど、どういう事なんだ!!?」
「ななな何でアンタが私に、ナ、ナナナ、ナンピャ―!!!」

ただただ混乱するばかりなのであった。
ちなみに不幸体質の上条が何故ナンパを成功させられたのか、
しかもよりにもよって上条への好感度が飛び抜けて高い美琴をナンパ対象に選べたのかは、
不幸をも超える『愛の力』って奴が働いたとか、そんな感じなんじゃないでしょうかねぇ(ドヤァ)


836 : くまのこ :2015/10/08(木) 18:19:55 YkubFBLg
以上です。
風邪引いて、少し頭がフラフラする中書き上げました…
ではまた。


837 : ■■■■ :2015/10/09(金) 08:35:59 dGPWUqxQ
>>836 くまのこさんお疲れ様です!いつも面白い上琴SSありがとうございます。


最近朝晩寒いですからご自愛下さいね。


838 : ・・・ :2015/10/12(月) 03:19:29 WbnNEHmc
ども・・・です。
ご無沙汰です。

長編が進まない……。
暗い話が終わってまとめてあげるので、お時間ください。
重い話だから……筆も重いのよ

それはそれとして導師のRPG面白かったー


〉〉くまのこさん

・みこっちゃんへんしーん
ホント、佐天さんには頭が上がらないニャー
しかし、なんてバカな会話してんだろこの2人
「ロングな黒髪と豊満な胸というだけで、『美琴ではない』と上条の脳は解釈していたのである」
いや、ちょっと待て

・おっはー
くまのこさんの上琴、真髄ここにありって作品だったかも
これが通い妻生活初日。
ここから彼女がいることが普通になった上条は徐々に……
って展開には障壁がまだ多そうだ

・いや、23話って……
っていうか、前回て、半年て、木原て
……知らんがな
なんだこのバカップル爆発して雲散霧消して愛の結晶産め!!
というか、キスからのスピードがっていうか、責任というか天草式というかクローン??

・いつもの日常
最後のドヤ顔で一番噴いた
美琴の顔と白井の顔で紅白か、めでたいな。
吹寄――!!お前があきらめちゃダメ―!!
美琴の悪夢は夢だけどカミやんの悪夢は現実なのね。


上琴が少ないと具合悪くなるよねー
冗談は置いといて、お大事になさってください。
それでは息抜きに書いてた小ネタです。

それでは


839 : 自販機前の数十年 :2015/10/12(月) 03:20:17 WbnNEHmc
「げ、ビリビリ……」

「ビリビリじゃなくて御坂美琴だっつってんだろ!!」

「はいはい。お前缶ジュースを2本も持って…優柔不断なのか?」

「違う違う、自販機で2本出たのよ。いる?」

「お!! いいのか? いやぁ、喉渇いてたんだよー。お前もたまには優し……ガラナ青汁かよ!!」

「アンタ、貰っといて文句言う気?」

「これなら貰わない方がよかったんじゃ……ゴクッ ……まずい」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「おっす!!」

「あ、アンタ!! この前はどこに行ってたのよ!!」

「なんでどこかに行くのに御坂に許可もらわなきゃなんだよ?」

「そ、それは……その……」

「まぁ、いいや。おっ!! 一口もーらいっ!!」

「あっ!!!!」//////

「ゴクッゴクッ ……っくー!! 喉渇いてたんだよー!! ヤシの実サイダーもおつなもんだな!!」

「なっ、なにしてんのよ!!!」/////////

「そんなに怒んなくても……ほら、返すよ」

「え、ええっ!!!???」//////////

「ほらっ」

「えっ!? あ、あの、その…ぜ、全部あげるわよバカーーーーー!!」

「あっ、おい!!……なんなんだよ? ゴクッ」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「よ、よお」

「お、ぉおっす!!」

「ぐ、偶然だな!!」

「そ、そうね!!」

「…………」

「…………」

「な、なんか飲むか!!?」

「う、うん!!!」

ガタタンッ

「ほいっ!!」

「あ、ああありがと!!」

ゴクッゴクッ ゴクッゴクッ

((あ、味なんてわかんない!!))


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


840 : 自販機前の数十年 :2015/10/12(月) 03:20:49 WbnNEHmc


「ふふふん、ふっふふん、ふっふっふーん」

「えい」

「ちべたっ!!」

「お待たせ」

「お待たせじゃないわよ!! どんだけ待たされたと思ってんのよ!! 」

「わ、悪かったよ」

「40分よ!! 40分!! アニメ1話より長いのよ!!?」

「あー……」

「なによ?」

「集合時間の30分も前から待ってたの? そんなに楽しみだったんだ」

「えっ? あ、ち、違う!! そうじゃなくて!!」//////////

「違うの?」

「っ!!……ち、違わないわよ、楽しみでしょうがなかったわよ!!」

「オレもだよ」

「!!!!」

「さ、ジュースのんだら行こうぜ」

「うん!!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「なんか飲むか?」

「うん!!」

チャリン、ガタタンッ

「ほい」

「ありがとう。ゴクッ……はい」

「おう……ゴクッ……ほい」

「ゴクッ……はい」

「なぁ」

「ん?」

「残りは帰って口移しな」

「〜〜〜〜//////////」コクッ


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「なんか飲むかー?」

「ん〜温かいお茶で」

「この暑いのに温かいお茶なんか売ってるかよ。なんでまた?」

「お腹冷したくないのよ、もう自分だけの体じゃないんだから」

「……えっ?」

「そんくらいの気は使えるようになってよ? ぱーぱ?」

「ほ、ホントか!!?」

「1ヶ月だって。……産んでも、いいかな?」

「あたりまえだろ!!!!」ガシッ

「あははっ!! ちょっと!! く、苦しいってば!!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「何か飲む?」

「そうだな」

「まことがっ!! まことがぼたんおす!!」

「よしよーし、頼んだぞ麻琴!!」

「あっ!! 麻琴!! それはっ……あーあ」

「が、ガラナ青汁……」

「はいっ!! ぱぱどーぞ!!」

「……」

「……」

「頑張って」

「…………ま、まずい」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「げ、ビリビリ……」

「ビリビリじゃなくて上条麻琴だっつってんだろ!!」


841 : ・・・ :2015/10/12(月) 03:22:26 WbnNEHmc
以上です。

ミコっちゃんだけでなく、
皆さんも温かくしましょうね


842 : くまのこ :2015/10/14(水) 18:50:01 JvqLaD4U
>>・・・さんGJです!
自販機さん、いつもご苦労さまですw
まさか数十年にわたって上琴のイチャイチャを見せつけられるとはね…w



その・・・さんからリクを受けたので、
佐天さんの秘密道具シリーズを書いてみました。
ミコっちゃんが素直になる薬を飲んで、その副作用でてんやわんやする話です。
約3分後に4レス使います。


843 : お薬出しておきますね :2015/10/14(水) 18:53:01 JvqLaD4U
ご存知の方も多いと思われるが、佐天涙子は都市伝説や噂話に目が無い。
友人達【みことたち】と集まった時は必ずと言っていいほど進行役を務める為、
常にその話題【ネタ】を探しているのである。
故に今日も彼女は自分の部屋で、スマホのディスプレイとにらめっこしていた。

「う〜ん…何か面白そうなの無いかなぁ。
 また実地テスト用の試供品が売られてるサイトでも見てみようかな?」

言いながら、佐天はお気に入りのWebページを開く。
わざわざブックマークしている辺り、相当頻繁に覗いているページなのだろう。
学園都市には、大学や研究所などで作られた薬品や機械が数多くある。
それらを商品として売り出し、実地テストと称して購入者の反応を見るケースも少なくない。
「ガラナ青汁」や「いちごおでん」等々の、学園都市名物・変な缶ジュースシリーズも、その一環である。
言ってみれば人体実験に他ならないが、能力開発の為に進んで人体実験を繰り返している
学園都市の生徒にとっては、今更気に留める事でもない。
佐天が開いたページは、そういった商品を専門で通信販売しているサイトである。
かなりコアだが、だからこそ固定客【じょうれんさん】などが多く(佐天もその一人)、
扱っている商品の種類も豊富なのだ。
未確認情報だが白井の怪しげな『パソコン部品』も、ここから取り寄せているとかいないとか。
佐天はこのサイトで、過去あらゆる面白グッズを買っていた。
ある時は、人の心が簡単に分かる嘘発見器型のオモチャを、
またある時は、その香りの中で眠ると未来が見えるというアロマオイルを。
佐天は事ある毎に珍しい物を購入しては、遊びながら実験している。

主に美琴を実験動物代わりにして。

そう。これらのグッズは、先に述べた通り話題作りの意味もあるが、
それ以上に美琴を弄る為の意味合いが大きい。
佐天は、美琴が上条に惚れている事を知っている。ちなみに初春も白井も知っている。
だが美琴が素直な性格じゃない為(そして上条が鈍感すぎる為)、その恋は中々進展しない。
だから佐天はその背中を押す為…という大義名分の下、あらゆる手段を使って弄っているのだ。
実地テスト用の商品で実験するのも、そんな理由が半分ある。もう半分は単純に遊んでいるだけだが。
事実、嘘発見器では美琴の上条に対する本当の気持ちを(無理矢理)聞き出せたし、
アロマオイルは美琴と上条が将来家族になるという夢を見せてくれた。
これらの経験から佐天はこのサイトをご贔屓にしており、
今日も今日とてカートの中に何か入らないかと探している。すると。

「……んっ!? 『スナオニナール』…?
 これは商品名からして危険【オモシロ】な臭いがしますなぁ〜♪ 購入決定!」

その分かりやすすぎる名前と、『飲んだら3分間素直になります』という説明文だけで、
特に考えもせずカートへと入れてしまう佐天。
その後に小さく書かれている、『※副作用として―――』という箇所には気付きもしないで。


844 : お薬出しておきますね :2015/10/14(水) 18:53:30 JvqLaD4U
 ◇


もう説明するのもめんどいが、ここはいつものファミレスである。
美琴、白井、初春、佐天という毎度お馴染みのメンバーは、しかし少々いつもと様子が違っている。
佐天は終始ニヤニヤしており、初春は周りの反応を見てソワソワし、
白井は目の前を睨みつけながら歯軋り、そして美琴は顔を真っ赤にしたまま固まっている。
その元凶は、大方の予想通りこの男の存在だ。

「あ、あの〜…わたくしは一体、何故この場に呼ばれたのでせうかね…?」

上条当麻。4人掛けの席に無理矢理座らされた、5人目の人間。
初春と白井の反対側の席に、佐天と美琴と上条が座っており、
しかも美琴は佐天と上条に挟まれているので、上条と肩と肩が当たる密着状態にある。
更に佐天が隣からグリグリとお尻で美琴を押してくるので、尚更上条との距離が近い事に。
その様子を白井が良しとする訳もなく、愛しのお姉様とゼロ距離な上条を睨みつけているのだ。
その原因を作ったのは上条ではなく佐天の筈だが、
白井の怒りの矛先は何故か上条なのだから不幸な話である。
上条も白井からの痛い視線と、隣の美琴から髪の匂いやら体温の熱さやらを直に感じたりで、
とても居心地の悪い状況になっている。美琴の心音が妙にドキドキしているのも気になる。
白井はイライラしながら、「何故この場に呼ばれたのか」という上条の問いに答えた。

「嫌ならば今すぐお帰りになっても構いませんの!」

否。問いに答えるつもりはなく、手で「しっしっ」と追い払うようなジェスチャーである。
そもそも上条がここにいる理由など特にない。
佐天がこっそり上条に電話して呼び出したのだが、どうせろくでもない事でも企んでいるのだろう。
そんな佐天は含み笑いをしたまま不気味に沈黙しているので、初春が口を開く。

「ま、まぁたまには男性も交えてお茶会もいいじゃないですか! ねっ、御坂さん!?」
「そそそそうね! べ、別にコイツがいようがいまいが関係ないしねっ!」

チラチラと上条を見て、全く関係なくなさそうな態度を取る美琴。
と、美琴は手元にティーカップの取っ手部分を摘んだ。カラッカラに乾いた喉を少しでも潤す為だ。
しかし美琴がそのまま紅茶を一口飲むと、佐天は心の中で「来たっ!」とガッツポーズを取る。
やはり、何か企んでいたようだ。分かってはいた事だが。
紅茶を飲んだ美琴に対し、すかさず佐天は美琴にある質問をぶつけてみる。
さぁ、弄りタイムの始まりだ。

「ところで御坂さん。さっきから何か緊張してるみたいですけど、どうしたんですか?」

すると美琴から、驚くべき言葉が飛び出してくる。
そしてその一言は、ここにいる佐天以外の人間を凍りつかせる物だった。

「き、緊張ぐらいするわよ! すぐ隣に好きな人がいるんだから!」

………………………え? 彼女は今、何と言ったのだろうか。
先にも説明したが美琴が上条の事を好きだという事は、佐天も初春も白井も知っている。
しかし美琴は基本的にツンデレなので、その気持ちを表に出す事はない。
(ただし本人は表に出すつもりはなくても、自然と溢れ出れいる事は間々ある)
その為、いきなり上条の事が好きだなどと、しかも上条本人を目の前にして言うなど有り得ないのだ。
数秒間空気が凍結した後、堰を切ったように白井と初春が絶叫した。

「えええええええええええええみみみみさみさ御坂さぁぁあああああああんんん!!!!?」
「おおおおおねおねおねねおね姉様っ!!!? ななな何を仰っておりますの!!!?」
「…え? な、何々? どうしたのよ二人共?」

自分で何を言ったのか分かっていないのか、美琴はキョトンとしている。
実はコレ、冒頭で佐天が購入した「スナオニナール」の効力だ。
飲んだら3分間素直になるというその薬を、佐天はこっそりと美琴の紅茶に一服盛っていたのである。
それをまんまと飲んでしまった美琴は、今現在、自分の気持ちにウソがつけなくなっているのだ。
しかし上条の鈍感も斜め上を行っており、美琴の「すぐ隣に好きな人が」という言葉を、
まさかの方向から解釈する。上条は『美琴の隣』にいる佐天の方をチラリと見ながら。


845 : お薬出しておきますね :2015/10/14(水) 18:53:59 JvqLaD4U
「隣って…まさか佐天が美琴の!?」
「んな訳ないでしょ! 私が好きなのはアンタよアンタ! 上条当麻ただ一人よ!」

だが上条のトンチンカンな推測も、アッサリと美琴が否定する。これも普段では見られない光景だ。
「んな訳ないでしょ! 私が好きなのはアンt……じゃ、じゃなくて! 何でもないわよ馬鹿!」
というのが普段の美琴の反応である。
こんなストレートな言葉をぶつけられたら、如何に鈍感な上条と言えども。

「あ、ああ…なるほどね。俺の事が………って、ええええええええええええええええ!!!!?」
「な、何よアンタまでそのリアクション…ただ本当の事を言っただけじゃない」

美琴のとてつもなく予想外な返答と、過去味わったことの無い衝撃に、
上条は顔を真っ赤にして大声を上げてしまう。
だが相変わらず美琴は、むしろ驚かれる方が意外だと言わんばかりに平然としていた。
これには流石の白井も、類人猿【かみじょう】に怒りをぶつけるより先にお姉様【みこと】の心配を優先する。

「お……お姉…様…? た、大変失礼ですが…何か、わ、悪い物でもお召し上がりましたの…?」

口から半分魂が出掛かっている状態ながら、搾り出すように質問する白井。
美琴が不思議そうに「何で?」と聞き返すと、今度は初春が口を開いた。

「だ、だって明らかに様子がおかしいですよ! と、ととと、突然上条さんの事をぬふぇ〜〜〜」

しかし最後まで言い切る事が出来ず、「ぬふぇ〜」する。
普段の彼女達ならば、佐天が『何か』した事くらいは見抜けたのだろうが、
あまりの出来事すぎて頭が回らないのかも知れない。
美琴の素直ショックで白井、初春、そして上条の三人が固まっているので、佐天が助け舟(?)を出す。

「みなさん、何をそんなに驚いてるんですかね? 上条さんの事が好きだって言っただけなのに」
「ホントよ! 私は出会った頃から、ずっと当麻が好きなんだから」

益々固まる三人。白井など、もはや完全に魂が抜けてしまった。
しかし佐天は攻撃の手を緩めない。薬の効果は3分。今の内に、聞き出せるだけ聞き出さなければ。

「ところで上条さんのどんな所がお好きなんですか?」
「そんなの決められないわ。言ってみれば全部かしら。
 当麻の目も、鼻も、口も、背中も、指先も、声も、ちょっと抜けてる所も、優しい所も、
 笑顔が可愛い所も、一緒に歩くと歩幅を合わせてくれる所も、エッチな所も全部好き。
 本当はまだまだいっぱいあるんだけど、言い出したらキリがないし」
「ほほう、なるほどなるほど。エッチな所も…ってのが気になりますね」
「当麻って、転んだ拍子に私の胸とかお尻とか触る事がよくあるから。
 でも私もそれが嫌じゃないって言うか、むしろ当麻になら触られてもいいって言うか」
「うほう! それは中々の大胆発言ですね! じゃあキスとかも…?」
「それはまだないけど…でもそうね。してはみたいかな。
 多分、ドキドキしすぎてどうにかなっちゃうと思うけど」
「どっ、どうにかって具体的にはどんな風に!?」
「ん〜…例えば何も考えられなくなって、そのまま当麻に身を委ねたり…と……か…?」

言いながら、美琴がふっと何かに気付く。そしてそのまま、見る見る内に真っ赤になっていった。
残念だが、どうやら時間切れのようだ。

「ふにゃーーーーーっ!!!!! ななな、なに、なに、何言っちゃってんのよ私いいいい!!?
 こここ、こ、これはウソ!!! 今さっき言った事は全部ウソだから!!!
 わ、わわ、私がこの馬鹿の事を、す、すすす、好………き…だなんて!!!
 有り得る訳ないじゃないそんな訳ないじゃなぁぁぁあああああああああい!!!!!」


846 : お薬出しておきますね :2015/10/14(水) 18:54:34 JvqLaD4U
目をグルグルにして手をバタバタと振り回し、必死で否定する美琴だが、
その言葉を信じられる者は誰一人としていない。勿論、上条も含めて。
何故なら、上条の事が好きだと言っていた時の美琴は、真実を語る目をしていたから。
愛する人の事を語る、乙女の目をしていたから。
上条は突如突きつけられた好意に、どう対処すれば良いのか分からず、
口をパクパクさせながら、恐る恐る言葉を発する。

「美…琴? えっと、その……い、今のは……」
「だ、だだ、だか、だから違うっつってんでしょっ!!?
 アアアアアンタの事なんて何とも思ってにゃい、はら…………………っ!!!?」

再び否定しようとしたその時だった。美琴は自分の身に起きている、体の異変に気付く。

「あ…れ…? ハッ…ハッ…な、にこ、れ……体が、ハッ…ハッ…熱、い…?」

それはあまりに突然の出来事だった。
美琴が(佐天の薬から)我に返って数秒後、彼女は謎の発熱で息が苦しくなってしまったのだ。
火照った体からはジットリと汗が浮かび、目は虚ろ、頬は熱で上気する。

「あの…み、美琴…?」

先程とはまた違う美琴の異変に、上条は心配そうに美琴の顔を覗き込む。
するとその直後、佐天すらも驚愕する行動を美琴が取り始めたのだ。

「当…麻ぁ……♡ んむ、ちゅる♡」
「「「っっっっっ!!!!!!?!!??!?!?!!!?!?!?!!???」」」

それは紛れもなくキスだった。
上条、初春、佐天の三名は、急転直下なこの状況にただただ目を丸くする。
魂が抜けて絶賛死亡【きぜつ】中の白井は、ある意味良かったのかも知れない。
この惨劇を直接見ずに済んだのだから。
上条の頭が働きだすまでは、まだ数分かかりそうなので、代わりに初春がツッコミを入れる。

「どどどどうなってるんですかコレ!!!?」
「いや…あたしがちょっと御坂さんの紅茶に自白z…もとい、
 スナオニナールを入れただけなんだけど…あたしの手に負える事態を超えちゃってるね…」
「何なんですか、その聞くからに怪しげな名前の薬!!?
 それと今、明らかに自白剤って言おうとしてましたよねっ!?
 て言うか佐天さん!? 何だか御坂さんのご様子が尋常じゃないんですが!?」

見ると美琴は、あのまま執拗に上条の口内を舐っていた。所謂ベロチューである。
先程「キスしたらドキドキしすぎてどうにかなっちゃう」と美琴本人が語っていたが、
まさかこんな形でどうにかなってしまうとは、思いも寄らなかった事だろう。
そしてそれは上条も同様で、頭の中は完全に真っ白になっている。

「あ、あれ!? おかしいな、副作用でもある訳じゃなし………あっ。あった」

流石の佐天もこれはおかしいと、もう一度よく薬のビンを調べてみる。するとそこには、

『※副作用として、使用後に異常なほど性欲が促進される場合がございます。
 過度な使用は控え、用量・用法を必ずお守りください』

さて。ご存知の通り、佐天はこの注意書きを読んでいない。
薬の量も、考えなしに紅茶へと入れてしまった。
つまり、促進される性欲も計り知れないという事だ。
サーッと血の気が引けていく佐天に、初春が絶叫する形で声を掛ける。

「さ、さささ佐天さんっ!!? これちょ、と、止めないとマズイですよっ!!!?」
「うわわわわわっ!!! み、御坂さん!!! お店の中でそれ以上はヤバイですってばっ!!!」

見ると美琴と上条は、もはや『目も当てられない状況』になっていた。
今回ばかりは流石にやりすぎたと、佐天も反省するのだった。



…えっ? 目も当てられない状況って具体的にはどうなってるのかって?
それに副作用の効果が切れた美琴と、美琴から告白とディープキスをされた上条の、
その後の反応も気になる?

ちょっと何言ってるのか分からない。


847 : くまのこ :2015/10/14(水) 18:55:34 JvqLaD4U
以上です。
風邪は無事に治りましたw
ではまた。


848 : くまのこ :2015/10/17(土) 22:09:20 lXfoE1vU
性懲りもなくまた短編書いたので、投下させて頂きます。
ミコっちゃんが進路の事で悩む話です。
約3分後に3レス使います。


849 : とある爆弾の進路希望 :2015/10/17(土) 22:12:09 lXfoE1vU
進路。それは誰もが悩んだ事があるであろう、将来の自分への第一歩。
住民の8割が学生であるこの学園都市では、その手の悩みを抱える者は特に多く、
ここにいる御坂美琴も例外ではなかった。彼女は自分(と白井)の部屋で、
今日、学校で配られた進路希望調査票とにらめっこしている。
中学二年生の冬を迎えた美琴は、そろそろ本気で考えなくてはならない問題なので、
腕を組んで自分の未来について思い描いてみようとする。しかし。

(ん〜…私って、特に夢とか無いのよね〜。
 昔、雑誌の取材で『みんながみんならしく生きられる世界の手伝いができたら』
 なんて言ったけど、じゃあ具体的に何がしたいかって聞かれると答えられないし)

進路というのは将来の方向性を決める人生の分岐点ではあるが、
あくまでも過程であって目的ではない。
就職するにしろ進学するにしろ、達成されてハイ終わりという訳には行かないのだ。
就職するならば、そこから社会人としての第二の人生が始まり、
進学するならば、新たな環境で学ばなければならない。
そして学ぶのは、自分の夢へと近付く為の知識や技術だ。
だが美琴にはその夢がぼんやりとしか無い。故に進路希望に何を書くべきか、
さっぱりとした性格の彼女には似つかわしくない程に、悩んでいるのだ。

(どうしようかしら…とりあえず進学ってのも、何も考えてないみたいだし、
 かと言って就職するにしても今の所行きたい職場も無いし…)

一般的な中学二年生ならば、とりあえず進学して高校生活中に将来を考える者も少なくないだろうが、
彼女は常盤台中学の生徒だ。授業内容も大学レベルであり、そもそも学校側としても、
「義務教育終了までに世界に通じる人材を育成する」という教育方針を掲げている。
勿論、強制ではないので、そのまま普通に高校へと進学する者も多いが。

(…………で、でもアレよね。私の人生なんだから、私の自由にしていいのよね。
 好きな学校に進学しても、全然問題ない訳で…って、い、いいいいや、
 好きな学校って言ってもそこに好きな人がいるからとかそういうのじゃなくてねっ!!?)

しばらく考えた美琴は、進路の答えが出たらしく急にテンパる。
ご丁寧にも、心の中で自分自身に言い訳をする程に。
第一希望の欄を埋めたのは、とある高校の名前であった。つまりは進学だ。
実はこの高校、美琴が一端覧祭の準備期間中に見学しに行った場所である。
一端覧祭は世界最大規模の文化祭であると同時に、入学希望者の体験入学も兼ねている為、
美琴のその行動事態には問題はない。だが一つ、大きな疑問が残る。
美琴が訪れたその高校は、低レベル能力者向けの平凡校なのだ。
先程、常盤台でも高校へと進学する者も多いと説明したが、
それはあくまでも長点上機学園や霧ヶ丘女学院などの、所謂エリート校への進学だ。
少なくとも名前を言っても「どこそれ?」といったリアクションが返ってくる高校ではない。
ましてや彼女は常盤台の中でも二人しか、そして学園都市全体でも七人しかいないレベル5だ。
そんな底辺校に進学して何か役に立つ事など無いと思うのだが。
しかし彼女が悩みに悩んで出した答えだ。きっと彼女にしか分からない意味があるのだろう。
まさか本当に『その学校に好きな人がいるから』なんて浅い理由ではないだろうし。
ともあれ、とりあえず第一希望の欄は埋まった。次は第二希望と第三希望の欄だ。
東大レベルですら余裕な美琴の学力なら滑り止めなど必要ないが、
しかし空欄で提出するのはそれを自慢するみたいで感じが悪い。
美琴は再び「ん〜〜〜……」と唸りを上げる。だが。

(……特に無いわね。第二希望が第一希望より偏差値高いってのもおかしな話だし、
 それに長点上機も霧ヶ丘も、あまり良いイメージって無いのよね。
 て言うかアイツがいる学校以外に行きたい所なんて無いし…って、い、いいいいや、
 別にアイツがいるからその学校に進学したいとかそういうのじゃなくてねっ!!?)

そして再び急にテンパる。またもや自分自身に言い訳しながら。


850 : とある爆弾の進路希望 :2015/10/17(土) 22:12:39 lXfoE1vU
(だ、だだ大体、アイツと同じ高校に行った所で一年間しか一緒にいられないんだし、
 そんな事で進路を選ぶ訳ないじゃない何言ってんのよっ!)

正直、「何言ってんのよ」はこちらの台詞である。
美琴は頭を抱えながら、真っ赤な顔を振り回して言い訳を続ける。
心の中で、一体誰と戦っているのだろうか。
と、その時だ。何かを思いついたのか、不意に美琴の動きがピタリと止まった。
そしてそのまま暫く長考したかと思うと、突然「ボン!」と音を立てて顔が爆発した。
すると今度は勢い良くシャープペンを持ち、第二と第三希望の欄を埋めていく。

(た、たたた試しにねっ!? 試しに書いてみるだけだからっ!
 だ、だ、誰も本気で『こんな事』書く訳ないし、ただのお遊びよっ!
 それにほら、シャーペンで書けばすぐに消せるんだしそれに―――)

相変わらず心の中で言い訳をしながら、自分で書いた二つの欄を眺める美琴。
その顔は内心の言い訳とは裏腹に、隠しても隠し切れない程にニヤケきっている。
美琴自身は平静を装おうとしているらしいが、自然と頬が緩んでしまうようだ。
と、そんなタイミングで。

「お・姉・様〜! 黒子、ただいま帰りましたの〜!」

風紀委員の仕事から帰ってきた白井が、勢い良く部屋のドアを開けた。
瞬間、美琴は本能的に進路希望調査票を隠し「にゃっぽぁっしゃい!!!!!」と謎の奇声を上げる。

「にゃ、にゃっぽぁ? お姉様、今のは一体…?」
「にゃにゃにゃにゃんでもないわっ!!! ちょっとクシャミしただけ!!!
 い、いやーちょっと風邪引いちゃったかも知れないわねー!!! ゲホゲホゲホ!!!」

とっさに誤魔化す美琴。若干(?)不自然な態度ではあったが、
お姉様が第一の白井は特に疑う事もなく、これを信じた。
白井はワキワキとイヤらしい手付きをしながら、美琴の近くまでにじり寄ってくる。

「まあ! それは大変ですの!
 では、わたくしが人肌で温めて差し上げますので横になってくださいませ!
 ですがその前に汗を拭いてお着替えもしなくてはなりませんわね!
 今すぐ制服を脱いでくださいなゲヘヘヘヘヘ」
「……いや、大した事はないから大丈夫」

ゲヘヘヘヘヘ部分に身の危険を感じた美琴は、白井の申し出をやんわりと断る。
そもそも風邪を引いたというのはウソだし、それを一番分かっているのは美琴自身だ。
だが、にじり寄ってきたせいで、白井は美琴がとっさに隠した例の紙を見つけてしまう。

「…あら? 進路希望の紙ですの?」
「っ!!!?」

美琴は一気に血の気が引いた。白井が進路希望調査票に手を伸ばしてきたのだ。
お姉様の進路という事で、白井も興味があったのだろう。しかし見られる訳にはいかない。
第一希望を見られるだけでもアウトなのに、もしもあの第二希望や第三希望を白井に見られたら…
いや、白井だけじゃない。あの第二と第三の希望は誰にも見られてはならないのだ。
特に『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』になど、『絶対に見せられない』のである。
美琴は白井が進路希望の内容に目を通す前に、その紙を奪う。

「わーわーっ、待って黒子!!! これは違うのナシナシナシ!!!
 えっと、そ、そう! まだ何も書いてないから!!! 白紙だから見てもつまんないわよ!!!」
「……いえ、確かに欄には何か書かれておりましたが…」

何が書かれていたのかまでは読めなかったが、何かしら書かれていたのは確かだ。
流石の白井も、ここまで様子がおかしければ愛しのお姉様と言えども疑惑の目を向ける。

「お姉様! 一体何を書かれましたの!? 風紀委員権限でお見せして頂きますわ!」
「お、横暴だわ! そんなの職権乱用よ! 絶対に見せないからね!」


851 : とある爆弾の進路希望 :2015/10/17(土) 22:13:14 lXfoE1vU
一枚の紙切れを巡って、ルームメイト達の争いが始まってしまった。
二人の高レベル能力者が一つの部屋の中でドスンバタンと暴れ回る。
その結果、哀れ進路希望調査票は。

「ああっ!!?」

美琴の手から放れ、ヒラリと窓から落ちてしまった。マズイ。このままでは非常にマズイ。
先程説明した通り、あの紙を誰かに見られてはならない。
大事な事なので二度言うが、『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』には、
『絶対に見せられない』のである。『絶対』にだ。
なので美琴は誰よりも早く、その紙を回収しなくてはならない。
そう考えた美琴は、気付けば窓から飛び降りていた。
寮の一階まで降りている時間など無かった。何故なら白井の能力は空間移動だから。
こちらが暢気に階段を降りていたら、白井はとっとと紙を拾ってしまうだろう。
そしてその中身を読んでしまう。それだけは避けなければならなかった。

「おっ、お姉様っ!!?」

白井の制止する声も振り切って、美琴は飛び出す。
そのまま空中で紙を掴み、「っしゃ!」と小さくガッツポーズを取った。
しかしその後がまずかった。突発的な出来事だった為に、美琴は着地の事を考えていなかったのだ。
美琴が住む学生寮は石造りなので、磁力で自分の体と引き合わせる事は出来ない。
しかも下はアスファルトで、運悪く周りにも鉄柱などは無かった。
「ヤバイ!」と背筋がゾッとした美琴。しかしそんな時こそ助けに来るのがヒーローである。

「あっぶねぇなー…何やってんだよ、お前」

ドスンと下に落ちた美琴だったが、その体に痛みはない。
何故ならぶつかったのはアスファルトではなく、そこに偶然通りかかった上条だったから。
上条は窓から飛び出した美琴を見つけるや否や、全力でその着地点まで駆けつけ、
こうして下から彼女を支えたのだ。しかも何気にお姫様抱っこである。
こんなシチュエーション、何とも思っていない相手でも胸がキュンキュンしてしまうのに、
もしも好きな相手にされてしまったら、もうまともに顔も見れなくなってしまうだろう。
それと関係あるのかは分からないが、美琴は顔を茹で上がらせて、
上条とまともに顔を合わせる事なくそっぽ向いてしまう。
一応は「ありがとう」と感謝の言葉は忘れなかったが、まるで蚊の鳴く様な声だったという。
上条は溜息を吐いて、そっと美琴を下ろす。すると、美琴の右手から何か白い紙が落ちた。
それは先程、美琴が決死の覚悟で掴んだ物だった。
白井に読まれるのを恐れ、窓から飛び出してでも真っ先に回収したかった紙だった。
しかし美琴は落ちた所を助けられたという吊り橋効果でドキドキ。
そしてお姫様抱っこで更にドキドキも二倍になっていて、頭がポワポワしていたのだ。
つい右手の力が抜けてしまい、あれだけ頑張って掴んだその紙を落としてしまったのである。
だがそんな事情など知らない上条は、その紙を何だろうと思って拾ってしまう訳だ。
ついでに何気なく、その内容を読んでしまう訳だ。
美琴が『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』に『絶対に見せられない』と思っていたその紙を、
偶然にも『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』な上条が、である。
すると何の気なしにその紙を見た上条の顔が、徐々に赤くなっていく。
上条は動揺しまくりなのが丸分かりな程に声を震わせながら、それでも美琴に問いかける。

「えっ…いや、あの……み、みみ、みこ、美琴さん…? これは一体…」
「………はぇ?」

美琴は未だに頭がポワポワしており、気付いていなかった。
その進路希望調査票が、上条に読まれているという重大な事実に。
だがそんな時間稼ぎも数十秒程度だ。数十秒後、美琴はそのとんでもない事実に気付き、
自分だけの現実は完全に崩壊する事となる。


第二希望:当麻のお嫁さん♡
第三希望:当麻との赤ちゃん♡


と書かれた箇所を読まれてしまった事によって。


852 : くまのこ :2015/10/17(土) 22:13:50 lXfoE1vU
以上です。
ではまた。


853 : ■■■■ :2015/10/18(日) 01:14:03 dL8Rrsi2
(*^ー゚)b グッジョブ!!  にやけました


854 : ■■■■ :2015/10/18(日) 20:50:31 HbL.BgOE
いいですね〜


855 : くまのこ :2015/10/21(水) 19:50:57 VdctotAs
すみません、また短編書きました。
今回は珍しく、上条さんが嫉妬しちゃう話です。
約3分後に4レス使います。


856 : モヤモヤ当まぁ〜ず2 :2015/10/21(水) 19:54:01 VdctotAs
日曜日。それは本来ならば休日の筈である。
しかしここにいる上条当麻は、度重なる無断欠席とテストの赤点によって、
日曜でも情け容赦なく補習を受けなくてはならない身の上となっている。
休日に学校を出入りする姿も、もはや違和感がなくなる程に慣れた物だった。

「はぁ…不幸だ…」

そう呟きながら校門を出る上条。どうやら本日の補習は終了したようだが、
本当に不幸なのは小萌先生なのだという事を、上条は肝に銘じるべきだと思う。
それにしてもこの男、補習が終わったのに妙に浮かない顔をしている。
どうやらその原因は、彼の鞄の中にあるようだ。
いつもは本当に中身が入っているのか疑いたくなるくらいにペラッペラの鞄が、
今日はパンパンに膨らんでいる。実はこれ、小萌先生から出された宿題の山なのだ。
上条の苦手な科目を重点的に詰め込んだ、小萌先生の心憎い思いやり【スペシャルメニュー】である。

「にしても古文とか現代社会に必要なんですかねぇ!?
 英語だって話せなくても日本じゃ生きていけるし、
 日本史とかも過去ばっか振り返るくらいなら未来を見据えるべきだと僕は思います!」

上条は半ばヤケクソ気味に叫んだ。どうやら出された宿題は古文・英語・歴史のようだ。
彼も学園都市の生徒らしく、科学や物理、機械工学に情報処理など、所謂理系の分野では、
それなりに成績は良い。(それでも学園都市全体から見たら平均以下ではあるが)
しかし反対に、文系の成績は壊滅的に悪いのだ。
何度も海外に飛んでいる割には、英語は「This is a pen」レベル
(現地の人でも大体日本語が通じるし、通じなくても通訳できる人が周りに必ずいた)
だし、日本史に至っては伊能忠敬すら知らなかった程である。

「しゃーねぇ…帰ったらインデックスやオティヌスに宿題手伝ってもら……ん?」

インデックスもオティヌスも、流石に科学的な内容ならばお手上げ(特にインデックス)だが、
本来の日常会話である英語は勿論、魔術に深く関わる古文や日本史
(昔話の「桃太郎」の原書が10万3000冊の魔道書の中の一冊だったり)などにも詳しい。
ましてや文系は記憶力が必要な問題が多く、そして記憶と言えばインデックスだ。
と、そこまで考えた所で、ある人物が上条の目に入ってくる。

「ありゃ? 美琴だ」

上条の歩く先には、美琴の姿があった。そこで彼は考え直す。
いくら詳しいと言っても、インデックスとオティヌスの知識には偏りがある。
専門的な魔術的解説とか教えられても、まず間違いなく宿題には必要ないだろう。
そこへいくと美琴は常盤台の生徒だけあって、総合的に高い基準で知識と学力がある。
しかも彼女ならば、テストで出そうな部分を抜粋してくれるというオマケも付いてくるかも知れない。
そう思った上条は、アッサリとインデックスから美琴へと鞍替えし、そのまま声を掛けようとした。

「おーい、美こ……と…?」

しかしその時、上条の視界が美琴の隣にいる男の存在を捉えた。
特攻服のような白い学ランに旭日旗柄のTシャツ、頭には鉢巻を巻いたその特徴的な服装は、
学園都市広しと言えども他にはいないだろう。

「軍…覇…?」

この距離では二人が何を話しているのかまでは聞き取れないが、
美琴が普段上条と接している時のように、顔を真っ赤にして怒鳴っている様は見て取れる。
チクリ、と上条の胸に小さな痛みが走った。鈍感である上条は自分自身の感情にも鈍感らしく、
その痛みの原因が分からないまま、妙なモヤモヤを抱える事と相成った。

「お、おーい二人共! 楽しそうに何をお話になってらっしゃるので!?」

居ても立ってもいられなくなった上条は、すぐに二人の近くに駆け寄ったのだった。


857 : モヤモヤ当まぁ〜ず2 :2015/10/21(水) 19:54:36 VdctotAs
 ◇


時を遡る事、数分前。美琴は上条の学校の近くにある公園でウロウロしていた。

(う〜、どうしよう! やっぱりアイツに電話してみようかな…
 でも私から電話したら、き……ききき気があるとかって誤解されそうだしっ!)

美琴は公園内をグルグルと回りながら、アレコレ考えつつ自分の携帯電話を握り締めている。
とりあえず、上条【アイツ】に気があるのは誤解でも何でもないだろうに。

(だ、だけどやっぱり限定品だし…しかも期限は今日までだし……)

どうやら美琴は今、ある悩みを抱えているらしい。
然る有名なハンバーガーチェーン店に、ハッピーなセットがあるのを皆さんもご存知だろう。
そのハッピーなセットにはオマケが付いてくるのだが、
今回はラヴリーミトンのキャラクターのミニフィギュアが貰えるのだ。
そして美琴はそのメーカーのキャラ、特にゲコ太シリーズがお気に入りであり、
自他共に認めるヘビーゲコラーである。しかしミニフィギュアの種類は全部で8種類あるのだが、
美琴はコンプリートまで後3つも残っている。しかも運の悪い事に、残る3つというのが、
よりにもよってゲコ太・ケロヨン・ピョン子の3種であり、更に更に運の悪い事に、
今日を逃すと明日からはオマケの内容も変わってしまうのだ。
だが女子中学生がハンバーガーのセットを3つも注文するのは流石に恥ずかしい。
そこで上条の力を借りようと電話をかけようとしたのだが、
それによって気があるのだと誤解()されてしまうのではないかと心配になった…
というのが現在の美琴の状況である。
ちなみに上条の学校の近くでウロウロしていた事には特に意味はない。
上条に補習がある事など知らなかった美琴だが、
つい放課後になったら上条の学校に寄るいつものクセで、
日曜だと言うのに無意識に足が向いてしまったのだ。と、そんな時だった。

「む? よう、嬢ちゃん。こんなとこで奇遇だな。何か悩み事か?」
「……そんな事よりアンタ、何もない所から一瞬で現れたんですけど…?」
「根性があれば、それくらい誰だって出来るぞ」
「……ああ、そう…」

ランニング中(音速)だった削板が、何かに悩んでいそうな顔をした美琴を見つけ声を掛けてきた。
彼は困っている人を見かけたら助けずにはいられない性格なのである。
しかしその登場の仕方は常人には、あらゆる意味で理解できない程に速く、
あまりの速さに、人間【みこと】の目には瞬間移動でもしたかのように映ったのだった。
実はこの二人が出会うのはこれが四度目である。
一度目は木原那由他の介入を切っ掛けに二人で決闘した時。
二度目は大覇星祭の二日目に木原幻生の実験により絶対能力者へと進化しかけた時。
三度目は『人的資源』プロジェクトを巡る事件の際に7500人のヒーローと激突した時。
もっとも二度目の時は美琴も意識が無かった為、
彼が上条と共に自分を助けてくれた事は、あまり覚えてはいないし、
三度目の時も他のレベル5と同様にバラバラに戦っていたので、特に会話する事もなかったが。
ちなみにこの二人、未だにお互いがレベル5だと言う事は疎か、
お互いの名前すら知らなかったりする。まぁ、そこまで深い仲でもないからなのだろう。


858 : モヤモヤ当まぁ〜ず2 :2015/10/21(水) 19:55:16 VdctotAs
「それより悩みがあるなら吐き出した方が楽になるぞ」
「べ、別に悩みなんてないわよ!
 ただちょっと…どうしようかな〜って思ってる事があるだけで…」

世間一般では、それを「悩んでる」と言うのだが。
削板は「ふ〜ん、なるほどな」と理解したのかしていないのか(多分していない)相槌を打つと、
もう悩み相談に飽きたのか、突然全く関係ない話題を振ってくる。

「そう言えばアイツはどうしたんだ? 上条」
「びゃっ!!?」

ただし美琴にとっては、全く関係なくない話題だった。
美琴は一瞬、上条に電話しようとしていた事を削板【このおとこ】に読まれたのかと思ったが、
そうではなかった。削板は腕を組むと、ふいにこんな事を言ってきたのである。

「上条とは一度手合わせしてみたいんだが…中々会えなくてな。
 嬢ちゃんはアイツの知り合いらしいから、どこで何してるとか知らないかと思ったんだが」
「し、知らないわよ! そんなのむしろ私の方が教えて欲…って、何言わせんのよ馬鹿!
 大体、べ、べべ別に四六時中アイツの事を考えてる訳じゃないんだから……」

削板は何か美琴の地雷を踏んでしまったらしく、急に怒鳴られてしまう。
しかも美琴は顔を真っ赤にまでさせている。
「風邪かな?」と思った削板だったが、ちょっと様子が違うっぽい。削板は首を傾げた。
と、その時だった。

「お、おーい二人共! 楽しそうに何をお話になってらっしゃるので!?」
「…おっ?」
「みにゃっ!!?」

美琴と削板、それぞれ全く違った意味で会いたいと思っていた人物が声を掛けてきた。
その特徴的なツンツン頭は、忘れたくとも忘れられない。上条だ。

「ちょうど良かった。今、お前の話をしてたとこだ」
「俺の…?」
「ああ。だがお前の名前を出した途端、この嬢ちゃんが真っ赤に」
「わーっ、わーっ、わーっ!!! ななな何でもないわよ何でも!!!」

余計な事を言われては敵わないので、削板の台詞に被せるように割って入る美琴。
しかし意味も無く会話を途切らせたままでは不自然なので、
そのまま勢いに任せて美琴が本来、上条を呼び出そうとしていた用件を語り出す。

「あ、えと、ああ、あの! ちょろっと相談なんだけど! 実は今やってるハッピー―――」

美琴は上条と削板の二人に、ゲコ太達のミニフィギュアの事を説明した。

「…アンタ、そんな事で悩んでたのか。根性が足りねぇな」
「…まぁ何つーか、美琴らしいっちゃらしいけどな」
「ななな、何よその目は! コレクターにとっては重要な事なのよ!」

説明した直後、二人から呆れ交じりの眼差しを食らった美琴は、
ゲコ太が子供っぽいグッズなのだと自覚しているのか、ちょっと恥ずかしい思いをする。
上条は溜息を吐きながら、やれやれと言った具合に、
次に美琴が頼み込んでくるであろう言葉を先読みする。

「そんで一人でセット3つも注文するのは恥ずかしいから、俺も一緒に来て欲しい…って所か?」
「ま……まぁ、そんな感じです…はい…」

上条に考えを読まれてしまい、「私ってそんなに『嗜好』回路が単純なのかな…」と凹みつつ、
しかし「私の思ってる事、分かってくれるんだ…えへへへへ〜」と上機嫌にもなり、
感情があっちこっちに飛び回ってしまう。
上条は「仕方ねぇな」と切り出すと、美琴の頭に手をポンと置いた。

「ふにゃっ!!? あ、あああ、頭ポンって!」

当然ながら、上条のこの無自覚な行動に、美琴は再び耳まで真っ赤にさせる。
それを見た削板も何か考えるように再び首を捻ったが、上条はそれらを気にせず会話を続ける。


859 : モヤモヤ当まぁ〜ず2 :2015/10/21(水) 19:56:05 VdctotAs
「一緒に付いてってやるよ。美琴があのグッズを集めてるのは知ってるしな」
「〜〜〜〜〜っ!!!」

これだ。上条のこれがズルイのだ。
普段は無気力&ぶっきらぼうなクセに、困ってる時は優しくしてくる。
美琴は赤いままの顔を俯かせて、小さく「あ…ありがと…」と呟いた。
…と、本来ならここで大団円となるくだりだが、ここに一人空気の読めない男が。

「そうか。なら俺も行ってやろう」
「「……………へ?」」

思わず同時に聞き返す上条と美琴。

「その月光太郎とかいう奴は残り3種類必要なんだろう? なら3人で行った方がいいじゃねぇか」
「えっ? あ、いや…うん、そうなんだけど……
 ってかそれ以前に! 月光太郎って誰よ! ゲコ太よゲ・コ・太!」
「遠慮すんな嬢ちゃん。何だったらセットの二人前くらい余裕で食えるから、
 上条が行きたくないんなら、俺と嬢ちゃんの二人で行っても構わんぞ」
「……そ、それはちょっと…」

削板の提案はごもっとだし、削板自身に悪気もないが、
せっかくの上条とのプチデートを邪魔されたくはない。
削板には申し訳ないが、その申し出をやんわりと断ろうとした瞬間だった。

「い、いいよ! 俺と美琴だけで行くから!
 それに余れば俺ん家の同居人にお土産として持って帰るし!
 あと俺も元々美琴に用があったしな!」

上条が珍しく少しムッとしながら、削板に食って掛かる。
何故かは分からないが、美琴と削板が二人で仲良くファーストフードを食べる姿を想像したら、
妙にモヤモヤした気持ちが大きくなり、ものすごく嫌な気分になったのだ。
美琴としては嬉しい言葉だったが、嬉しすぎて逆に何も話せなくなってしまう。
なので削板が代わりに上条に質問する。

「何だ? 用って」
「…ちょっと厄介な宿題を出されちまったんで、美琴に手伝ってもらおうと思っただけだよ」
「宿題?」
「ああ。英語と古文、それと日本史だな」
「おお! 日本史なら俺も自信あるぞ! 根性ナシ【574】の聖徳太子誕生だろ!?
 何だったら宿題【そっち】も俺が教えてやろうか!?」
「年号覚えやすいけど聖徳太子【ものすごくえらいひと】をディスってんじゃねーよ!
 つーか美琴に教えてもらうからいいって!」

美琴と同様、上条も削板の申し出を断ってしまう。
どうやら、上条自身にも理由は不明だが、どうしても美琴が相手じゃなければならないようだ。
上条のこの様子に、削板はまたも首を捻って考える。
上条の名前を出しただけで赤くなる美琴。どうしても美琴と二人っきりになりたい上条。
削板は数秒間「む〜?」と考え込むと、やがて何かを閃いたようで、分かりやすくポンと手を叩く。
そして空気の読めないこの男は、空気を読まずに爆弾を放り投げた。

「ああ! つまり、お前達は惚れ合ってんのか!」

時が、止まった。
美琴は上条への気持ちが本人にバラされてしまった事に対する焦りと恥ずかしさ、
そして上条ももしかして自分の事が好きなのだろうかという期待感や、
その他諸々の感情が渦巻いて脳が収拾をつけられなくなり、
上条は心の中のモヤモヤが晴れたかと思ったら、今度はまた別のモヤモヤが立ち込める。
そんな中、空気の読めない男がまるで空気を読んだかのように、

「うんうん、やっぱりそうか。それならそうと言ってくれりゃあ良かったのに、水臭ぇな。
 んじゃあ俺は帰るから。後は惚れ合ってるモン同士で仲良くやってくれ。それじゃあな」

と言い残しつつその場から消えた。
残された二人は、お互いにギクシャクと意識しまくってしまい、
もうゲコ太とか宿題とか言い出せる雰囲気では無くなってしまうのだった。


860 : くまのこ :2015/10/21(水) 19:56:59 VdctotAs
以上です。
たまには上条さんも、こんな目に遭ってもらわないと。
ではまた。


861 : ■■■■ :2015/10/21(水) 22:31:52 Q5bH9DCE
いつもgjです


862 : ■■■■ :2015/10/22(木) 00:21:36 aAULZ3b.
月光太郎にザブトン3枚、上手いわあ
軍覇って想像以上にキューピットだな、空気読まないで読む所w


863 : くまのこ :2015/10/27(火) 00:05:26 ikGCqPWM
今回も自分ですみません。また短編書きました。
色々な偶然が重なって最終的に上琴がイチャイチャする話です。
ただイチャイチャまでの前フリがちょっと長いのでご容赦を。
約3分後に5レス使います。


864 : 策士達が策に溺れた海で利を得る漁夫 :2015/10/27(火) 00:08:19 ikGCqPWM
〜食蜂操祈の策〜



食蜂操祈。精神操作の分野で、彼女の右に出る者はいない。
精神系最強の能力を保有する彼女には、一部の人間(美琴など)以外に操れない者はないのだ。
しかしながらそんな彼女でも、どうにもならない事もある。
こと自身の恋愛においては、その自慢の能力も何の役にも立ってくれなかったのである。

それは一年前、食蜂はある事件に巻き込まれた。
詳しい経緯は省くが、その時に助けてくれたのが上条だった。
しかしその事件で上条は重傷を負ってしまう。
その際、応急処置をする為に食蜂は自らの能力で上条を痛覚を遮断した。
かなりの荒療治だった。おかげで上条は、その時の影響で脳に障害を患ってしまう。
それ以降、上条は食蜂に関する事を記憶できなくなってしまった。
それでも良かった。あの時、自分が何もしていなければ上条は死んでいたのかも知れないのだから。
彼の命が守られた。それだけで良かったのだ。

…と、思っていたのだ。少なくとも御坂美琴が現れるまでは。
元々上条は(本人の意思や自覚とは関係なく)女性からモテる。
不幸に陥ってはフラグを立て、誰かを助けてはフラグを立て、
日常生活を送っているだけでもフラグを立て、何もしなくてもフラグを立てる。
彼はそんな男なのである。事実、食蜂自身もそのフラグ建築力にコロッとやられてしまっている。
なので他の女が上条に言い寄ってくる事は、勿論面白くはないが、さして気にする程でもなかった。
何故なら上条は、無意識に立てたフラグを無意識に折ってもいるのだから。
しかしながら最近、何度フラグを折られてもしつこく言い寄ってくる女(※食蜂目線)がいる。
それが先程名前が出た美琴だ。同じ常盤台中学の同級生で、同じレベル5。
しかもお互いに性格も能力の相性も反りが合わずに忌み嫌っており、
極めつけは上条との出会いから辿ってきた道のりまで自分と何となく似ている。
それだけでも腹立たしいのに、ここ最近の美琴はやたらとアプローチが激しくなっているのだ。
友人に提供された変なオモチャやら薬品やらアプリやらを使っては上条の気を引いたり、
偶然を装っては上条と下校デートやらお買い物デートやら勉強会デートを楽しんだり、
上条のラッキースケベ体質を利用して抱き締められたり胸を揉まれたり裸を見られたりと、
もう本来の意味で壁ドンしたくなる程やりたい放題なのである。

「仕方ないわねぇ…今まで沈黙力を高く設定して見てたけどぉ、
 私にも我慢力の限界ってのはあるんだしぃ…!」

メラメラと嫉妬の炎を燃やしながら、食蜂は立ち上がる。
いつか上条が自分の事を思い出したら…そんな小さな奇跡を待つ事にした食蜂だが、
そんな奇跡が起こる前に誰か(と言うか美琴)に上条を奪われてしまっては元も子もない。
となれば、自分の恋路の邪魔になるその元凶(と言うか美琴)を排除せねばならない。
しかし先程チラリと説明したが、美琴とは能力の相性が悪い。
こちらが何度能力を使用したとしても、
美琴が無意識に垂れ流している電磁バリアに防がれてしまい、干渉できないのだ。ならば。

「御坂さんに洗脳力が通用しないんならぁ…上条さんに能力をかけちゃえばいいのよねぇ♪」


865 : 策士達が策に溺れた海で利を得る漁夫 :2015/10/27(火) 00:08:55 ikGCqPWM
そう呟いた食蜂の顔は、「にへー」と口元を緩ませた。
上条には幻想殺しがあるので、右手が触れれば異能の力は打ち消してしまう。
それは勿論、食蜂の能力も打ち消してしまえるのだが、
逆に言えば右手で触れなければ能力は通用するという事だ。
食蜂は朝のうち、上条が自分の高校に登校するタイミングを見計らって、
寮から出てきたばかりの彼にリモコンを向けながら、こんな暗示をかけた。

(学校を出た後、最初に目に付いた常盤台の女の子を、好感力全開で好きになっちゃいますように♡
 それと右手で自分の頭を触りたくなくなっちゃうように…とぉ)

上条に食蜂の記憶が出来ない以上、「食蜂を好きになる」という暗示は不可能だ。
しかし「常盤台の女の子を好きになる」ならば、自分が常盤台の制服を着ていれば暗示にかけられる。
食蜂操祈という個人としては若干複雑な気分だが、背に腹は代えられないのだ。
そして上条が好感力全開で好きになった自分の姿を、美琴に見せ付ければ作戦完了だ。
美琴はよりにもよって敵対している食蜂に上条をNTRれた事で、
これ以上ないくらいにショックを受け、食蜂は食蜂で、一時的とは言え上条の彼女になれるという、
一石二鳥で一挙両得な作戦なのである。だがこの作戦には一つだけ問題が。

「…さて、と。後は御坂さんの方を何とかしなきゃよねぇ。
 御坂さんも常盤台だしぃ、それ以上に厄介力なのが、
 いつも上条さんの学校の付近力をウロウロしてるって事なのよねぇ」

美琴は普段、隙を見ては上条と出会うチャンスをうかがっており、
今日も上条が下校してくる所を出待ちする可能性が高い。
しかしその結果、上条が自分より先に美琴を目視してしまったら、とんでもない事になる。
何故なら、上条は食蜂の暗示によって
『学校を出た後、最初に目に付いた常盤台の女の子を好感力全開で好きになってしまう』のだから。
そう考えた食蜂は、もう一つ手を打つ事にした。上条の寮から大急ぎで柵川中学まで移動する。


 ◇


「ぜひゅーっ! ぜひゅーっ! な、何で、ぜは! ぜは! こん、なに、
 ぜは! ぜ、ゲホゲホゴホッ! と、遠い、のよ!」

上条の住む寮と柵川中学は同じ第七学区内にあるので、言うほど距離が離れている訳でもないが、
運動音痴の食蜂にはフルマラソンくらいの体感距離だったのである。
だが苦労した甲斐はあったようで、目的の人物はまだ校舎に入る前だった。
その者はセミロングの黒髪をなびかせ、「うわ、ヤッバイ遅刻だ!」と叫びながら走ってくる。
佐天涙子。ある意味、食蜂にとっては美琴以上に厄介な存在。何故なら彼女こそが、
先に述べた変なオモチャやら薬品やらアプリやらを美琴に提供している人物なのだから。
佐天は面白半分本気半分で美琴の恋を応援しており、彼女の暗躍がなければ、
ツンデレ女王の美琴が鈍感王の上条と急接近はする事はなかったかも知れない。
だからこそ食蜂は、佐天を利用する事にしたのである。
食蜂はリモコンを佐天に向けて、上条の時と同様に暗示をかける。

「放課後、御坂さんが上条さんの学校の校門前にいたら、
 『大切力な話がある』とか言って御坂さんを連れ出しなさぁい…と」

これで準備は整った。これで万が一にも美琴が上条の学校の校門前にいる事はなくなった。
そして美琴以外に、そんな平凡学校に用のある常盤台のお嬢様はいない。
後は自分が上条の学校の校門前で待っていれば、
上条が勝手に自分を見つけて、好きになってくれるという算段だ。
そう思っただけで今から放課後になるのが楽しみになってくる食蜂。
さて、彼女の目論見は果たして成功するのだろうか。


866 : 策士達が策に溺れた海で利を得る漁夫 :2015/10/27(火) 00:09:34 ikGCqPWM
〜雲川芹亜の策〜



雲川芹亜。人心掌握の分野で、彼女の右に出る者はいない。
統括理事会のブレインたる彼女は、その優れた話術で相手の心の奥底を簡単にこじ開けてしまう。
しかしながらそんな彼女でも、どうにもならない事もある。
こと自身の恋愛においては、その自慢の話術も何の役にも立ってくれなかったのである。

記憶を失う前の上条に無血開城された雲川だが、それ故に上条との関係を大切にしており、
自分が学園都市の闇に関わっている事を彼に知られぬように行動してきた。
あくまでも同じ高校の先輩という立場で上条と接してきたし、これからもそのつもりだ。

…と、思っていたのだ。少なくともあのラブレター事件が起こるまでは。
防犯オリエンテーションの際、上条は自分の下駄箱から一通のラブレターを発見した。
その時の上条の浮かれっぷりときたら、それまで秘密基地で雲川がアレやコレやと提供した、
ラッキースケベのコース料理をも蹴飛ばすかのような喜びようだった。
(もっとも、そのラブレターもどきを送ってきたのは、
 バッキバキに乾いた皮膚を割って笑う謎のジジィだったが)
そんな経験をした雲川だからこそ、考え直したのだ。
このままただの先輩として接していても、上条は攻略できないのではないかと。
千のラッキースケベを「不幸」と切り捨てる上条が、一のラブレターであれだけ狂喜乱舞したのだ。
つまり彼を攻略する為には、こちらも純情っぽく振舞った方が良いのではないかと。

「仕方ないな…今までは裏方に徹していたけど、
 そろそろ私も表舞台で本気を出す時が来たみたいだけど…!」

メラメラと嫉妬の炎を燃やしながら、雲川は立ち上がる。これまでは得意の暗躍で、
上条を落とそうとしていた雲川だが、そうなる前に誰かに上条を奪われてしまっては元も子もない。
妹の鞠亜の言葉を借りるならば、目的を達成させる為には、
時には自分のプライドを折る覚悟も必要…という事なのかも知れない。
そこで統括理事会のブレインである雲川が、
暗躍ではなくストレートに気持ちを伝える為に選んだ手段が、

「ふっふっふ…私もラブレターには、ちょっとした自信があるけど!」

ジジィと全く同じ手法であった。
確かに彼女はラブレターを出す事で、敵対勢力の釣り上げに成功したという実績はあるのだが。
しかし上条を攻略出来るかも知れないという期待感で胸(Gめ!)が膨らんでいる雲川は、
顔が綻ぶのも気にする事なく筆を進める。

「『放課後、裏門にて貴方をお待ちしておりますけど
        K・S   ヘソ出しカチューシャより』…と」

イニシャルの『K・S』。そして自分の特徴である『ヘソ出しカチューシャ』を表記する事により、
鈍感な上条でも分かってくれるように細工する。
手っ取り早く本名を書いてしまえば、そんな苦労をしなくても済むのだが、雲川曰く、
「そうしてしまうと奥ゆかしさが半減してしまうけど」なのだそうだ。
これも純情っぽく振舞っているように見せる演出の一つらしい。

「さて、と。これをあの少年の下駄箱に仕込めば、準備完了だけど♪」

言いながら、ハートのシールで封をした淡いピンクの手紙を上条の下駄箱に忍ばせる雲川。
さて、彼女の目論見は果たして成功するのだろうか。


867 : 策士達が策に溺れた海で利を得る漁夫 :2015/10/27(火) 00:10:12 ikGCqPWM
〜御坂美琴の利〜



御坂美琴。ツンデレの分野で彼女の右に出る者はいない。
常盤台の超電磁砲と呼ばれ、周囲の人間からは一目置かれている彼女だが、
こと自身の恋愛においては、ヘタレ中のヘタレである。
好きな相手に素直になる事が出来ず、しかもその相手というのがよりにもよって上条なのだ。
鈍感に対してツンデレというのは相性が最悪であり、全く気持ちが伝わらない。
しかし美琴はそんな現状でも自分の性格を変える事が出来ず、ズルズルと今の関係を続けている。
そして今日も、放課後に偶然通りかかったというお決まりのウソで、
上条の高校の前まで足を運ばせていた。

「し、仕方ないわよね! ちょっとこっちの方に用事があったんだから!」

誰に対しての言い訳なのか、そんな事を口に出す美琴。
じゃあその用事って何だよ、と聞かれたら、きっと彼女はしどろもどろになる事だろう。
だってそんな物など始めから無いのだから。と、そんな時だった。
美琴が上条の学校の校門前に差し掛かかると、思いも寄らない人物が話しかけてくる。

「あっ! 御坂さん!」
「…えっ!? あ、さ、佐天さん!?」

どういう訳か、そこには友人の佐天が立っていた。
佐天がこの学校に来る事など、今まで一度もなかったので首をかしげた美琴である。
そして佐天はすぐさま美琴の側に駆け寄ると、
瞳の中を星が輝いたようにキラキラさせながら、こんな事を言ってきた。

「大切力な話があるんですけど、ちょっと連れ出させてもらってもいいですか?
 ただ別の場所でお話したいので、一刻も早く校門前から離れましょう」

何だか佐天の台詞が不自然なような気もしたが、
わざわざ大切な友人が先回りまでして「大切力な話」があると言うのだ。
美琴は二つ返事で了承する。

「…分かった。でもどこで?」
「……………へ?」

どこで、という美琴の問いに、佐天は明らかに目が点になった。まるで、
『美琴を校門前から連れ出すように命令されていたが、
 具体的にどこに連れて行けばいいのか聞いていなかった』かのように。

「え…え〜っと……と、とりあえず裏門の方にでも…?」

何故か語尾が疑問系になる佐天。
裏門はここから校舎を挟んで真逆の位置にあり、言ってみれば校門とは反対の場所である。
校門前の美琴をどうしても連れ出したい佐天は、とっさに真逆の場所を選んだのだ。
対して美琴は、大切な話をするのに落ち着いて座れる場所ではなく、
この高校の裏門で、おそらく立ち話する形で聞かされる事に、またも違和感を覚えたが、
きっとそれにも何か訳があるのだろうと考え直す。

「それじゃあ行きましょうか」

さて、佐天の大切な話とは一体何なのだろうか。


 ◇


上条の学校の裏門まで回り込んだ美琴と佐天は、
そこである意味居て当たり前で、ある意味居るのが予想外な人物に出くわす。
上条当麻である。
上条は何やら手紙を持ったまま、裏門の外でソワソワと周りを見回している。
元々こっちに用事があったという体で上条に会いに来ていた美琴は、
その上条を見つけるとビクリと背筋を伸ばしてしまう。
が、今は佐天の話を聞く方が大切だ。惜しいが、今は上条にどいてもらうしかない。

「あ…あー、ごほん! ちょろっとアンタ? 悪いけど少し席を外してくれないかしら。
 言っとくけど『立ってるのに席は外せねーよ』とか、そんなツッコミは要らないからね?」

いつもの軽口で上条に話しかける美琴。すると振り向いた上条が、
『学校を出た後、最初に目に付いた常盤台の女の子』である美琴を見つめる。
瞬間、上条も佐天と同様に瞳の中を星が輝いたようにキラキラさせた。
そして同時に「かぁ〜」と顔を赤くさせて、耳を疑うような言葉を口にしてきた。

「……そ、そっか…ラブレターくれたのって、美琴だったんだな」
「………は?」


868 : 策士達が策に溺れた海で利を得る漁夫 :2015/10/27(火) 00:10:58 ikGCqPWM
当然ながら、美琴には上条にラブレターを書いた記憶などない。
そんな度胸があるのなら、とっくに告白の一つもしている。
上条の事だ。また何か厄介な勘違いでもしているのだろう。
身に覚えの無い誤解を解いて、佐天の話を聞く為にとっとと退場してもらおうと思った矢先だった。
上条が再び、訳の分からない事を言ってくる。

「そう…だよな。よく考えたら、K・Sって美琴のイニシャルだし、
 美琴っていつもヘソ出してるし、カチューシャだし…」
「……………」

お前は何を言っているんだ。
美琴のイニシャルは言うまでもなくK・Sではないし、
ヘソを出していなければ、カチューシャも着けていない。
美琴はツッコむのも面倒だと言わんばかりに大きな溜息を吐き、頭を押さえる。

「あのねぇ…アンタが何を勘違いしてるのか知らないけど、とにかくどいてくれない?」

すると上条は真っ赤な顔を更に赤くする。

「と、とと、『とにかく抱いてくれない』って! みみみ、美琴ちょっと大胆すぎやしませんか!?」
「だだだ誰が『抱け』なんて言ったってのよっ!!?」

美琴が言ったのは「どいてくれない」であって、決して「抱いてくれない」ではない。
しかし上条の耳は何でも自分に都合よく捉えてしまうように聞こえてしまい、
そして思考回路の方も同様に、自分に都合よく考えてしまう。
まるで『好感力全開で美琴の事を好きに』なってしまったように、
何でもかんでも美琴の発言をポジティブに誤変換している。
だがその弊害なのか、上条は美琴の制止も聞く気がなく、
『抱いてくれない』と美琴が言った(言ってない)事に対して、忠実に実行する。
上条が突然、美琴の背中に手を回したと思ったら、そのままギュッと。

「っっっ!!!!??!?
 ちょ、えっ!!? アアア、アンタきゅ、急に何してくれちゃってる訳っ!!?」
「な、な、何って…み、美琴がそうしてくれって言ったんだろ!?
 おお、俺だって恥ずかしいけど…で、でも好きなモン同士なんだから、
 べ、別に不自然な事でもないしな!」
「へ…は、はああああああああああああ!!!!!?
 すすすす好きゃらモンびょうしってにゃにゃにゃに言っぴきゃらもはらうぃふぇえええ!!?」

上条の口から初耳すぎる言葉が次々に飛び出してくるので、美琴も脳が追いつかず混乱する。
特に言語中枢は被害が甚大であり、美琴も何を言っぴきゃらもはらうぃふぇなのか、
自分でも分かっていないと思われる。しかし上条はその手を緩める事はしてくれない。

「だ、だってラブレターを出してくれたって事は美琴も俺の事…す…好きって事だろ!?
 だから…その……俺も自分の気持ちに正直に、だな…」
「ぴゃあああああああああぁぁぁぁああぁああああっっっ!!!!?」

そもそもラブレターを送ってもいないのだが、
そんな事などどうでも良くなるくらいに破壊力を持った台詞である。
それはつまり、上条も美琴も事が好きなのだと言っているような物なのだから。

「もう…このまま絶対に離さないからな! 美琴!」
「ぴゃあああああああああぁぁぁぁああぁああああっっっ!!!!?」

上条が甘い言葉を囁き腕に力を込める度に、美琴は奇声を上げる。
この惨状は偶然裏門を通りかかった(美琴とは違って本当に偶然)吹寄が上条に頭突きを食らわせ、
その拍子に上条の右手が自分自身の頭にぶつかってしまうまで、延々と続いたのだった。
ちなみにこれを目の前で見せ付けられていた佐天は、ただ黙々と携帯電話でこの状況を録画し、
上条に一世一代の告白しようとオシャレしたせいで遅れて裏門にやってきた雲川は、
上条と美琴の姿を見て真っ白になったままその場で固まり、
反対側の校門前では、うずくまって「何で来ないのよぉ…」とグスグス涙ぐみながら、
ず〜〜〜っと上条を待っている食蜂の姿があったのだった。


869 : くまのこ :2015/10/27(火) 00:15:27 ikGCqPWM
関係ないですが、
とある科学の超電磁砲 11巻
とある科学の一方通行 4巻
本日発売です!
ではまた。


870 : ■■■■ :2015/10/27(火) 21:08:26 f.F2YpIw
乙です! 食蜂と雲川先輩にとって、反撃のときは来た! 乗り越えろその壁!的な事になるはずだったんでしょうけどwwwww


871 : ■■■■ :2015/10/30(金) 16:04:47 TvwzRmA6
良いね


872 : ・・・ :2015/10/30(金) 21:50:46 VYi2Hvvg
ご無沙汰です。・・・です。
新刊でちゃんと散財しました!!
青ピ、結標、土御門……。
一冊で3回も頭抱えました。
イキイキしてたね。いいと思うようん。でもこっちくんな。



くまのこさん、いつもありがとです。
爆笑しながらニヤニヤさせてもらってます。

・用法用量は正しく使えっつってんのに!!
リク対応感謝です!!
とりあえず、どうせ結婚して麻琴と動物園行く二人だし。
その日ハッスルするし、早いか遅いかの違いうわなにするんだしらいやめ……
今日から毎日同じ量処方すればいいんじゃないかな?

・爆弾によってリア充が爆誕
上条さんの進路希望は確か「幸せになりたい」
なるほど、これでどちらの進路もかなうわけですね。
ミコっちゃんに至っては第1から第三3までフルコンプ
だが白井の進路は叶わなまってやめてくれしんじゃうって

・ジェラシーと根性とツンデレと鈍感とハッピーセット
実は3人の中で1番削板が鈍感じゃないっていう……
これから先は2人のスマイル0円ってことで
……白井に頼んでも2人ぶん頑張ってくれそうだが?
あぁ、上条じゃないからアンハッピーセッすとっぷとまってだめだったら

・どの子もかわいい
何を言ってるんだお前は。
キャラ崩壊上条、大好きです
とりあえず佐天さんその画像くれ、あと吹寄オレも手伝う
んでもって、君らは上条に関すると急にポンコるよね〜



くまのこさんがハードルあげる前に、
ハロウィン小ネタです。
ではでは


873 : 魔法は解けるもの :2015/10/30(金) 21:52:17 VYi2Hvvg
「おー、すごい!!」

低い声、毛深い皮膚、
鋭い牙、尖った耳、
今にも誰かに襲いかかりそうな狼男だ。

「本当に狼男だー!!」

しかし、なんか能天気である。

「さ、佐天さん!! なんでそんなのチョイスしてるんですか!!?」

「あ、ダメ? じゃあジェイソンに「もっとダメです!!」

ここはいつものファミレス。
テーブルの上に置かれた映写機のような装置。
御坂美琴、白井黒子、初春飾利、そして狼男が席に着いている。
ベテラン諸君はなんとなく展開が読めたのではないだろうか?

「本当に狼男になったわね」

「いやー、凄くないですかこれ!!?」

「佐天さん、元に戻ってくれませんこと? 隣に座っている初春が気の毒ですわ」

あー、はいはい、と答えた狼佐天は、装置のボタンを押す。
機械からの光が消えると、佐天は元に戻った。

「すごいですよねー!! どういう仕組みなんだろ?」

「『波長』を活用しているみたいですね。サーモグラフィーの原理で対照の動きを把握、声で個人を特定してるみたいです」

「光や声の波長を変えれば、見た目や声の変更も出来るわけですのね……佐天さん、なにかもわからずに使用したんですの?」

あははー、と頭をかく彼女に腹が立たないのは、きっと彼女の人徳だ。


874 : 魔法は解けるもの :2015/10/30(金) 21:53:19 VYi2Hvvg

「お化けにしか変身できないし、ハロウィンの小道具には大袈裟ね」

「期間限定でレンタルしてるみたいで、手に入れるのに苦労したんですよー!!」

「ハロウィンまではまだ日がありますわよ?」

「ええ、ですから……」

佐天と目が合った瞬間、美琴は逃亡を図る。
しかし、タックルを喰らい倒れた。
ラグビーなら佐天のファインプレーである。

「い、いやだー!! なにする気よーー!!」

「だから、御坂さんが変身して上条さんに女の子の好みを聞いてくるんですよー」

美琴に馬乗りで笑顔の佐天。
いま、キミは輝いている。

「そ、そんなのするわけないでしょ!!」

「……んー、じゃいいです」

「へ?」

あっけなく、それはもう呆気なく佐天はどいた。

「別にあたしは上条さんの好みなんて興味ないですし」

「え? あの…え?」

テーブルから白井と初春は全く動かない。

「珍しいですね。止めないんですか?」

「事前情報があったから驚きませんでしたが、あの姿で急に声をかけられたら、誰でも間違いなく驚きますわ」

無様を曝してお姉さまに絶望されるといいですのクケケ!!
と、笑う白井に、訳のわからない安心感を覚える初春。
横では茶番が続いている。

「御坂さんは恥ずかしくて聞けないだろうなって思ったんですが、違いましたかー」

「え? あ、その…」

「じゃー、この話は終わりにしてー、ハロウィンパーティーの段取りでもしましょー」

「ま、待って…」

「ん??」ニヤァ


875 : 魔法は解けるもの :2015/10/30(金) 21:54:02 VYi2Hvvg





数分後、
公園の植木の陰に人影が4つ。
白井(恐ろしい顔)、初春(パソコン装備)、佐天(変身装置所持)、そして魔女(ボンキュッボン)である。

ここに来るまでに美琴氏の言い訳だとか、魔女を選んだ際の美琴氏の言い訳だとかあったが、省略。

「話が違いますの!! この姿では恐がる訳がないではありませんの!! さぁ、すぐに中止しま「ゴン」……」

バットって凶器になるよ。

「黒子ぉぉぉおおおおお!!」

「さぁ!! 行きましょう!! 御坂さん!!」

「佐天さん!! いま自分が何したか分かってる!!?」

「え? ツッコミですよ?」

「ギャグ補正でなんとかなりますよ」

「初春さんまで…風紀委員なのに…」

「ほら!! 上条さん来ましたよ!! さぁ行った行った!!」

佐天に押されて、バランスを崩しながら植木から飛び出る魔女。
そこには、間抜けな顔をしたアイツがいた。
後ろからの視線も痛い。
やるしかねぇ!!

「上条当麻!!」

「へ? あ、はい」

「お前の好みを述べよ!!」

「い、いきなりなんだ? 薄味より濃い味の方が好きだ」

「そうじゃない!! 異性の話よ!!」

「わっと どぅーゆー せい!!?」//////////

「いいから答えなさい!!」

「……別に特にはねぇよ。一緒にいて楽しかったり、安心できることが、大前提だろ」/////

「…そっか」

「なんだ? 急に…」

「あと!! 御坂美琴についてどう思ってる!?」

「あ、え…?」////////

「素直に、いいなさいよ…」

「あ、あぁ、そうだな…もう少し、自分の身を省みて欲しい」

「うん」

「なんでも真っ直ぐなところが凄いと思う」

「うん、他」

「…なにもしてないのに、攻撃するのはやめてほしい」

「うん、他」

「……いつも支えてもらって、申し訳ない」

「外見は?」

「え?……凄く、かわいいと、思うぞ……な、なぁもう終わりにしませんか?」////////

「最後に……異性として、どう思う??」/////

「…………」//////////

「答えて」/////

「……凄く、魅力的だと、思います」/////

「ホント? なら、告白とかされたら断らない??」/////

「こちらこそ、よろしくって感じかな」/////

「そっ、そうなんだ…」/////

「こ、ここまできて冗談だとかいわないよな、御坂」////////

「ん?」

「まさか御坂がオレに気があるなんて、考えもしませんでしたよ」

ん??

「魔女が飛び出したと思ったら、急に御坂になるし、驚いた」

ん?んん!!!???

「恥ずかしかったろ? オレも恥ずかしかったよ」

ゆっくり、装置を持ってる佐天を見る。
あ、アイツら顔真っ赤にしてニヤニヤしてやがる。
いつの間にボタン押してたんです??

「直球とか、お前らしいな。今まで気づかなくてわる「ふにゃーーーー」我慢の限界でしたかっ!!?」

気絶した美琴を抱きかかえる上条。
顔が真っ赤なのは、美琴だけではない。
恥ずかしそうに美琴から顔をそらす上条もそうだし、
その視線の先にいた白井も顔が真っ赤だ。
こっちは怒りのあまりだけども。
数度の瞬きの後、上条は美琴をお姫様だっこして、地獄の大魔王から逃げ出した。

Trick or Treat

お菓子をくれないと、イタズラとお化けだぞー


876 : ・・・ :2015/10/30(金) 21:55:53 VYi2Hvvg
以上です。

あー久しぶりできんちょーした


877 : くまのこ :2015/10/31(土) 00:09:44 u4F6bQwY
>>・・・さんGJです!
佐天さん…あんた最初からイタズラする気だったでしょ!
何て事してくれたんだありがとうもっとやれ!



・・・さんがハードルを上げまくっちゃいましたが、
自分もハロウィンネタを書いたので、投下します。
約3分後に6レス使います。


878 : モンスター美琴のいる日常 :2015/10/31(土) 00:12:43 u4F6bQwY
10月31日…その日も上条家は、いつも通りの一日が始まり、そしていつも通りに終わる筈だった。
現に上条は、今日も普通に起床して普通に朝食を作り、普通に登校して普通に遅刻しそうになって、
普通に授業中居眠りして小萌先生を困らせ、普通に転んだ拍子に吹寄の胸を揉みしだき、
普通に頭突きを食らって、放課後も普通に補習を受け、そして帰りに普通にスーパーに寄ってきた。
一部、普通じゃなさそうな事が混じっているような気もするが、上条にとっては日常なので仕方ない。
ともかく、そんな感じでいつも通りの日常を送っていた上条は、このまま夕食後の洗い物を済ませて、
後は風呂に入って就寝前にゴロゴロして、平穏無事に一日を終了させる予定だったのだ。
しかし洗い物の最中、突然玄関のチャイムが鳴った事により、彼の日常は終わりを告げる。
夕方よりも夜に近いこの時間帯に、『ピンポーン』と安っぽい音がキッチンまで聞こえてきた。

「とうまー! お客さんなんだよー!」
「おい人間。とっとと出ろ」
「……へいへい」

同居人二人の無情な仕打ちにより、上条は洗い物を一時中断させざるを得なくなった。
上条は掛けてあるタオルで軽く手を拭き、いそいそと玄関のドアを開ける。するとそこには、

「………何してんの…? 美琴…」
「な、何してんのって見りゃ分かんでしょっ!!? ハロウィンよっ!!!」

露出度高めの黒いゴスロリなワンピースに、黒猫用のネコミミカチューシャ、
肉球付きの黒い手袋に、モコモコでフワフワな黒いロングブーツ、
更にスカート部分に付いているのか、尻尾まで生やした美琴が目の前に立っている。
手に持った紙袋の中身も気になるが、なるほど。誰がどう見ても、THE・ハロウィンな格好だ。
ディスイズハロウィン、ディスイズハロウィン、パンキスディーウェルベーランワイ(適当)である。
思いがけない美琴の突然の訪問と、これまた思いがけない美琴のちょいセクスィーな格好に、
一瞬見惚れてしまった上条だが、頭を冷静に切り替えて、まずはツッコミを入れる。

「……え、えーっと…それでネコっちゃんなミコっちゃんは、
 そんな浮かれポンチな服着て、ワタクシめにどのようなご用件で?」
「トリック・オア・トリート!!!」

美琴は半泣き状態で、ヤケクソ気味に叫んだのだった。


879 : モンスター美琴のいる日常 :2015/10/31(土) 00:13:22 u4F6bQwY
 ◇


話は数日前に遡る。ファミレスに集まったのは、毎度お馴染みのメンバー。
その中の一人である佐天が、身を乗り出してこんな事を言ってきた。

「皆さん! 今週末にやるハロウィンイベント、みんなで参加しませんか!?
 ほら、第七学区のメインストリートでやる奴です!」

すると初春が、右手のスプーンでパフェを食べながら、
左手で持参のノートパソコンのキーボードをタイピングする。
パソコンの画面には、佐天が話したハロウィンイベントのウェブページが映し出された。

「あー、色んなお店でお菓子を無料配布してくれるってイベントですね。
 参加するには二人一組でこのサイトに名前を登録して、
 当日は二人共コスプレしなきゃいけないって条件があるみたいですけど」

それを聞いた白井が、紅茶をすすりながら初春を制止する。

「とは言っても初春。
 わたくし達は風紀委員の仕事がありますから、どちらにしても参加は出来ませんわよ?
 ただでさえイベント事がある日は、普段以上に風紀委員が忙しくなりますのに」
「…ですよねー……ううぅ…お菓子欲しいなぁ…」
「ありゃ〜、残念。じゃあ、あたし達だけでも行きませんか? 初春を弔う意味でも」

話を振られた美琴は、「う〜ん…」と唸る。
楽しそうではあるが、コスプレするのは若干恥ずかしい。知り合いに見られるかも知れないし、
万が一食蜂にでも目撃されたら、一ヶ月はそのネタで馬鹿にされるだろう。
と言うかそれ以前に、弔うも何も初春は死んでいないのだが。

「どうしようかな…」

答えあぐねる美琴に、佐天は取って置きの情報でゆさぶりを掛けてきた。

「そう言えば御坂さん。お菓子を配ってくれるお店の中に、
 ゲコ太のカップケーキを出す所があるのはご存知ですか?」
「っ!!?」
「しかもそのお店、ラヴリーミトンがスポンサーになってて、
 書き下ろしのメッセージカードとかも貰えるらしいですけど」
「っっっ!!!? 行くわっ!!!」

今度は美琴が身を乗り出した。佐天のゆさぶりは抜群の効果だったらしい。
ゲコ太コレクターとして、そんな二つの意味でおいしい情報を聞かされて、
行かない訳にはいかないのだ。むしろお金を払ってでも行きたいくらいである。
美琴のテンションの上がりようを見た佐天は「にしし」と無邪気に笑うと、
そのまま初春のパソコンを借りる。画面はまだ、例のページのままなので。

「じゃあ、あたしと御坂さんの名前で登録しときますね。
 参加者は二人一組じゃないといけませんか…ら…? ………あっ」

しかしタイピングしていた佐天の手が、ふいにピタリと止まった。
そして何かを思いついたらしく、急にニヤ〜と不敵な笑みを浮かべる。
彼女が「………あっ」と言った箇所で何となく察して頂けたとは思うが、お得意の悪巧みだ。
だが偶然にも、その瞬間、美琴は未来のゲコ太カップケーキとメッセージカードに
思いを馳せてポワポワ夢心地になっており、
白井はそんなお姉様に呆れつつも、「そのフニャフニャなお顔も素敵ですの」と、
美琴に見惚れてこちらもポワポワになっていた。
その為、幸か不幸か二人は佐天が何かを企んだ瞬間を見逃してしまったのだった。
一瞬のフリーズと悪い笑顔の後、再び指を動かし始める佐天。
不穏に思った初春は、自分のノートパソコンで佐天に何をされたのかとディスプレイを覗き込む。

「ぬふぇっ!!?」

すると何故か、顔を真っ赤にさせてしまった。
初春は赤面しながらも、そ〜っと元に戻り、またパフェを食べ始める。

(こ、これは…見なかった事にしましょう…)

やはり、何かとんでもない事が書かれたらしい。


880 : モンスター美琴のいる日常 :2015/10/31(土) 00:13:56 u4F6bQwY
 ◇


時は戻り、ここは上条の寮部屋の玄関である。
ざっと数日前の出来事(とは言っても美琴目線での話なので、佐天の企みのくだりは無いが)
を聞かされた上条は、至極当然な疑問を口に出す。

「…? じゃあ佐天と行きゃいいじゃねーか。何で俺ん家に来てんだ?」

すると美琴は、低く唸るような声でボソッと呟く。

「……騙された」
「は?」

意味が分からず聞き返す上条。
そんな上条に、美琴は持っていた紙袋から中の衣装を取り出して、説明する。

「さっきね、佐天さんから電話があったの。
 『すみません! 急用が出来て行けなくなりました!
  でも代役として、あたしの代わりに上条さんの名前で登録しておきましたので、
  二人で行ってきてください! それと上条さんのコスプレ衣装も用意しましたんで、
  御坂さん宛てに常盤台中学学生寮に送っておきますね。それじゃ!』…ってね」
「いや、ちょっと待てよ。おかしいだろ。
 このイベント、事前に名前を登録しなきゃなんだろ?
 佐天がドタキャンしたのは、ついさっきみたいだし、
 登録キャンセルして俺の名前で再登録するのって時間足らなくないか?
 それにこの衣装も、とっさに用意したようには見えないし…
 つーか、さっき送ってすぐに美琴の所に届くもんなのか?」
「だから言ってんじゃないのよ! 騙されたって!
 佐天さん、始めから私とアンタで組ませるつもりだったのよ!」

正確に言えば始めからではなく途中で思いついたのだが、
美琴はその事を知らないし、そもそも大して違いはない。
佐天が美琴と上条をくっ付けようとしたのは事実なのだから。
しかしそうなると、上条には疑問に思う事が再び出てくる訳で。

「…何の為に?」
「…へ?」
「いや、佐天は何でそんな事したのかな〜って。
 美琴の口ぶりじゃ、佐天だって相当楽しみにしてたんだろ?
 なのにわざわざ自分で行く権利を捨ててまで、何の為に俺と代わったんだ?
 俺の分の、替えのコスプレまで用意してさ」
「はえっ!!? え、えっと……いや、あの…そ…それは、その…」

痛い所を突かれて、途端にしどろもどろモードになる美琴。
その理由ならば、おおよその見当は付いている。
佐天は前々から何かと上条との関係について、良い意味でも悪い意味でもちょっかいを出してきた。
半分は上条との進展を応援し、もう半分は美琴を弄って遊んでいるのである。
しかしそれを上条に言う訳にはいかない。何故ならそれは自分が、
上条の事を異性として意識しているという事を、上条本人に思いっきり暴露する事と同義だから。
なので上条の疑問をどう対処すればいいのか、わたわたする美琴。
だがここで、美琴に救いの手が差し伸べられる。

「とうま? お客さんって誰だっt………ゲッ! 短髪!」
「…ゲッって何よ、ゲッて」

上条が玄関先で来客と長話しているので、痺れを切らしたインデックスがリビングから顔を出した。
そして美琴の顔を見るや否や、あからさまに顔をしかめる。
が、美琴にとってはありがたい事に、それが原因で上条の疑問も有耶無耶に出来たのだった。

「何しに来たのかな!?」
「さっきコイツにも言われたけど、見て分からない? ハロウィンよ」
「ハロウィンは元々、古代ケルト人が秋の収穫を祝ったり、
 それに伴って悪霊を追い出す為の術式をうんたらかんたらなんだよ!」
「知らないわよ(知識としては知ってたけど)そんなの。
 日本じゃコスプレして街中を練り歩くイベントだし」
「ムキー! これだから結婚は十字式、お葬式は仏式、
 クリスマスパーティーで騒いだ一週間後には神社で初詣する国の人はーっ!」


881 : モンスター美琴のいる日常 :2015/10/31(土) 00:14:33 u4F6bQwY
敬虔な十字教徒のインデックスには、
日本特有の節操が無い八百万の神々や、神仏習合思想に納得がいかないようだ。
ちなみに美琴が知識として知っているのは、
「秋の収穫を祝ったり、それに伴って悪霊を追い出す為」の部分だけであって、
「術式をうんたらかんたら」の部分はガッチガチの科学脳である美琴には知る由もないし、
そもそも知る必要のない知識である。なので美琴は、インデックスの説明を右耳に入れて、
そのまま右耳から出していく。情報が脳を経由する事すら拒否したのだ。

「…あっ、一応言っとくわ。トリック・オア・トリート」
「この部屋にトリートするような余分なお菓子は無いんだよ!
 とうまは貧乏だし、そもそもあったとしては私が食べちゃうかも!」

世知辛い世の中である。このままではどんどん話が逸れそうなので、上条が間に入る。

「落ち着けインデックス。イライラすんな。夕飯なら、さっき食ったばかりだろ?」
「誰もお腹が空いたからイライラしてる訳じゃないんだよ!? お腹は空いてるけども!」

空いてるのかよ、とツッコミそうになった言葉を呑み込む上条。

「…まぁ、だったら丁度いいや。
 今から美琴とハロウィン行ってきて、お菓子いっぱい貰ってくるよ」
「なっ!? ど、どういう事なのかなとうま!?」
「っ!!? え、あ…い、いいのっ!?」

インデックス美琴、両者共に、上条の一言に驚きのリアクションである。
上条は慌てず、それぞれ一人ずつに返事をする。

「どういう事って、そのままの意味だよ。
 お菓子たくさん貰えるんだから、インデックス的にはいい話じゃねーか。
 美琴も美琴で、お前から提案してきたのに何でキョドってんだよ。
 二人一組のイベントなんだから俺が行かないと、
 そのゲコ太のカップケーキとか、イラストが入ったカードとかは貰えないんだろ?
 あ、…っと、それと美琴が欲しいのはそれだけなんだし、
 他の店のお菓子は俺が貰っていいよな。インデックスのお土産用にさ」
「うっぐ…!」

確かに、誰一人として損をしない話なので、インデックスも押し黙ってしまう。
しかしインデックスも美琴も、気にしているのはそこではない。
二人でコスプレして一緒にイベントを満喫する。
それは同性同士なら二人で遊びに行くというだけの事だが、
異性同士となると話は別になる。つまり、これは立派なデー―――

「だーっ!!! わわわ、分かったわよ! 行けばいいんでしょ行けば!」

それ以上考えると、また頭が爆発してしまいそうになるので、考えるのを止めた美琴である。
行けばいいんでしょも何も、ハロウィンの話を持ちかけたのは美琴なのだが。

「はい! じゃあ、これとっとと着替えてきて!」

美琴は勢いに任せて、紙袋から出してからずっと握り締めたままだった衣装を上条に突き付ける。
綺麗に折りたたまれていて、どんな衣装なのかは分からないが、
どの道ハロウィンのコスプレ用だ。それなりに恥ずかしい格好である事には間違いないだろう。

「へいへい、分かりましたよ……っと、どこ行くんだインデックス?」

渋々ながら衣装を受け取ったそのタイミングで、インデックスが不機嫌なまま部屋に戻っていく。
インデックスは一度だけ振り向くと、やはり不機嫌そうに「お風呂っ!」と一言叫んだ。
何がそんなに気に入らないのか上条には理解出来ないが、まぁいいか、とすぐに考え直す。

「んじゃ、ちょっくら着替えてくるわ」

そう言うと、上条もリビングの方に消えていった。


882 : モンスター美琴のいる日常 :2015/10/31(土) 00:15:06 u4F6bQwY
 ◇


数分後、着替え終わった上条が登場すると、美琴は顔を茹でダコ状態にしたまま固まっていた。
上下そろえた真っ黒なタキシードに、赤い裏地の黒マント、口には牙付きのマウスピース。
その姿はワーキャットの美琴と同様、非常にポピュラーなハロウィン・モンスターである。

「…吸血鬼か。ベタっちゃベタだn…ああ、もう! 牙のせいで喋りにくい!」

ただし、そのフォーマルな見た目と違って、中身は所詮上条なので、
言葉遣いからは吸血鬼らしい不気味な色気や、お上品さなど欠片も感じられない。
しかし普段見慣れない上条の服装に、美琴は見事にやられてしまった。チョロい。
これではヴァンパイアと言うよりもインキュバスである。

「…? どうした美琴? ……やっぱ似合ってないかな、俺…」
「………っは! あ、あああの、いや、ま、まままぁ、アレよね!
 馬子にも衣装って言うか、その…そこそこ似合ってなくもないって言うか、
 ちょろっと写真に撮っておきたい程度には、それなりなんじゃないのっ!!?」

上条に話しかけられて慌てて返事をした美琴である。
本当はちょろっとどころか、永久保存したいくらい撮りたいクセに。
だが上条もお世辞と分かっていても(本当はお世辞ではなく本心だが)、
褒められて悪い気分はしない。なので上条もお返しに。

「そっか、サンキューな。俺も言い忘れてたけど、美琴の衣装も似合ってるぞ。
 うん、スゲー可愛いよ。それに美琴って、元々のイメージが猫っぽいしな」
「みにゃっ!!?」

上条に言われたからなのか関係ないのか、猫の鳴き声のような奇声を発してしまう美琴。
似合ってるとか可愛いとか、あまりにも不意打ちすぎる。

「あ…あああ、あり、あり……あり、がと…」

顔を「かあぁ…っ」と熱くさせ、尚且つモジモジしながらも、一応の礼は言う美琴である。
普段なら「う、うっさいわね! アンタにそんな事言われても、別に嬉しくないんだから!」と、
ツンデレ全開にする所だが、ハロウィンという特殊な状況がそうさせたのだろうか。
美琴はいつもよりも若干素直な反応を見せる。上条も思わずドキッとしてしまう程に。
しかしこうなると、もうちょっとだけイジめてみたくもなるなと、上条にもイタズラ心が芽生えてくる。
ふいに上条は、そっと美琴の手を取って、手袋越しだがその甲に軽く口付けをした。

「ふぁえっ!!? て、ててて手ぇ握…て言うか今キキキキーッ!!?」
「それではこのドラキュラ伯爵めが、迷子の仔猫ちゃんをエスコートして差し上げませう」


883 : モンスター美琴のいる日常 :2015/10/31(土) 00:15:39 u4F6bQwY
キリッとイケメン顔を作り、キャラにないキザったらしい台詞を吐く上条。
ちなみに、「仔猫ちゃん」は美琴の今の見た目とも掛けているらしい。
勿論、本気で言っている訳ではなくウケ狙いだ。
上条としては、ここで「…何、似合わない事言ってんのよ」とツッコミがくるものと思っていた。
そして、そうなれば美琴も普段通りの感じに戻るものだと。
しかし美琴は今現在、上条に可愛いと言われた事に対するショックに続き、
上条のヴァンパイア姿での手にキスという特殊すぎるシチュエーションで、
もう心臓がバックバクになりすぎて、まともに会話する事もままならない状態になっていた。
おかげで上条の小粋なジョークも逆効果に終わり、赤い顔を更に赤くしながら固まっている。
だが上条は何の反応もない美琴を見て、「あれ? スベったかな…?」と勘違い。
なのでもう一度、一発ネタをぶちかます。

「ト…トリック・オア・トリート!」
「は………へ? ひゃえっ!!?」

いきなり上条に「お菓子をくれなちゃイタズラするぞ」と言われ、
テンパる(今までも充分テンパっていたが)美琴。

「あ、え? え? い、いやあの、お、お菓子とか持ってないけど…」

それはそうだ。何せ、今から貰いに行くのだから。
しかしそれは上条もご承知であり、美琴の「お菓子持ってない」発言を聞くや否やニヤリと笑う。

「ほっほ〜う? お菓子は持っていないと…じゃあイタズラだな」
「えっ!? ちょ、何を―――」

美琴が「何をするつもりなの」と叫ぶその前に、上条はイタズラをしていた。
具体的に言えば、美琴の白くてきめ細かい首筋に、その付け牙をカプッと突き立てていたのだ。
つまり吸血鬼の食事風景に見立てて、甘噛みしやがったのである。
普段インデックスから散々頭を噛まれて慣れている上条だからこそ、
その力加減は絶妙で、痛くはないがこそばゆい、でもちょっとだけ気持ちいいといった具合だ。
ちなみに関係ないが、吸血鬼には血を吸う相手に性的な快楽を与えたり、
血を吸った相手を同じ吸血鬼に変えて自分の下部にするという能力がある。関係ないけど。
上条はツッコミ待ちだったのだが、美琴としてはこんな事されて冷静にツッコめる訳もなく、
美琴は一度漏電と爆発(勿論上条がそげぶしたが)をして色々と溜め込んだ物を発散した後、
性的な快楽を与えられて上条の下部となったかのように、ぐったりしてしまったのだった。

まだ街に出かける前の玄関先からこんな状況では、
ハロウィンイベント自体もろくな事が起きないのは目に見えている。
事実この後二人は、同じくゲコ太カップケーキ目当てで店に来ていた常盤台の縦ロール先輩に、
上条との仲を恋人関係なのだと誤解されたり、
色んな店から貰った大量のお菓子を抱えてよろけて倒れてしまった上条が、
案の定美琴を巻き込んで押し倒して、ついでに胸を揉んでおへそにキスしてしまったり、
途中から雨が降ってきたので雨宿りする為にビジネスホテルに入り、
そのまま二人っきりで一泊する羽目になったりなど、色々と『事故』が起きてしまうのであった。


884 : くまのこ :2015/10/31(土) 00:16:47 u4F6bQwY
以上です。
改めまして、ハッピー・ハロウィンです!
ではまた。


885 : くまのこ :2015/10/31(土) 14:01:41 u4F6bQwY
14時間くらい前に「ではまた」とか言っておきながら、
一日のうちに2本も投下しに来てすみません。
支部でリクを受けたので、
ミコっちゃんがお酒を飲んでエロい展開になる短編を書きました。
未来設定になってるので、苦手な方はお気をつけください。
約3分後に4レスです。


886 : だからミコっちゃんにアルコールを飲ませるなとアレほど :2015/10/31(土) 14:04:34 u4F6bQwY
上条は鍋料理店の個室内で、料理にも酒にも手をつけずに、ただただ自分の腕時計を睨んでいた。
時刻は、23時59分55秒。今日が昨日へと、そして明日が今日へと変わる瞬間である。

「………4…3…2…1…」

秒針が12を指す5秒前、上条はカウントダウンを開始する。
今日に限りなく近い明日は、どうやら上条にとって、とても大切な日らしい。

「ゼロッ! 美琴、二十歳の誕生日おめでとー!!!」
「えへへ…ありがと♪」

上条に祝われて、照れながらも満面の笑みを浮かべるのは、
合い向かいの席に座っている上条の恋人、美琴だ。
大学2年である彼女は、本日5月2日に誕生日を迎え、ただ今を以って、めでたく成人した【おとなになった】のである。

「でもいいのか? せっかくの一生に一度の記念日なのに、こんな居酒屋みたいな店でさ」

言いながら、先に頼んでおいた美琴のカシスオレンジ
(美琴はアルコール初めてなので、軽いのを選んでおいた)を美琴に渡す上条。
ここは以前…と言っても、もう6年前になるが、上条が高校1年の時に、
当時のクラスメイト全員とクラスの担任教師(+上条の同居人1人と猫1匹)で、
大覇星祭の打ち上げを行った鍋の店だった。その時は当然ながら飲めなかったが、
ここは地ビールだけで30種類も揃えている、アルコール最高の店なのである。
しかしだからと言って、恋人同士が誕生日を祝うにはロマンチックさの欠片もなく、
店内はワイワイガヤガヤと賑わっている【うるさい】。
だが美琴は大して気にした様子もなく、カシスオレンジのグラスを持ったままこう言った。

「別にいいのよ、どこでも。
 私にとって重要なのは、どこで祝うかなんかじゃなくて、『誰と』祝うかなんだから」
「っ!」

思わずドキッとしてしまう上条。
つまり美琴にとっては、上条と一緒に居られればそれだけで幸せ、という事だった。
中学2年生の時【あのころ】と比べて、随分と素直な性格になったものである。
もっとも彼女のツンデレ姿がもう見られないというのは、少し寂しい気もするが。

「…そっか。じゃあ、まずは飲もうか」

気を取り直して、上条は自分のビールジョッキを手に取る。
何はともあれ、お酒の席でする事と言ったらまずはこれだ。

「それでは! お酒を飲める年齢になったミコっちゃんを祝して! カンパーイ!」
「カンパーイ!」

カチンと音を立てるグラスとジョッキ。こうして二人っきりの誕生日【のみかい】が始まった。
それがまさか、あのとんでもない事件の幕開けになるのだとは、この時の上条には知る由も無く。


887 : だからミコっちゃんにアルコールを飲ませるなとアレほど :2015/10/31(土) 14:05:06 u4F6bQwY
 ◇


まさか…そうまさに、まさかである。
美琴の母、美鈴の酔っ払った姿を見た事のある上条には、ある意味では納得だが、
しかしそれにしても、まさか―――

「にゃふふふふ〜…当麻当麻当麻ぁ〜♡」
「まさか美琴センセーがカクテル一口飲んだだけで、
 ヘベレケになってしまうくらいお酒に弱いなんて、流石の上条さんも予想外でござんす…」

美琴は上条への好意+アルコール摂取によって顔を真っ赤にしながら、
その赤くなった顔で、まるで無邪気な子供の様に笑顔を作る。
しかし中学生の頃に比べて色んな意味で成長した体…と言うよりも肉付き(特にお胸)は、
全く子供の様でも無邪気でもなく、しかもその体で惜しげもなく抱きついてくるのだ。
THE・泥酔である。カシスオレンジはアルコール初心者でも飲める、ライトなお酒の筈なのだが。

「ちょ、ちょっと美琴さん!? お願いだから少し離れて!」

上条とて、恋人に猫なで声で擦り寄られて悪い気がする訳がない。
だが飲み会は今しがた始まったばかりであり、『そういう雰囲気』になるには早すぎる。
鍋だって、まだろくに箸をつけてもいないのに。
けれども美琴には、そんな上条の気持ちなど関係ないと言わんばかりに、
酔った事により脳のリミッターを解除して、自分の本能の赴くままに行動する。

「やぁ〜だ! 離れたくないもーん!」
「い、いやでも、このままじゃご飯も食べられないじゃないですか!」
「じゃあ私が食べさせてあっげりゅ〜」

そう言うと美琴は上条に抱きついたまま(本当に離れる気はないらしい)、
箸で鍋の中から肉と白菜を摘み上げる。これはアレだ。「あ〜ん」してイチャイチャするコースだ。

「はい、あ〜ん♡」

そしてそのまま、上条の口に入れようとした…のだが。

「熱っちゃちゃちゃちゃ!!!」

酔って手元が狂ったのか、鍋の具は上条の口内ではなく、ほっぺに直撃する。
上条はリアクション芸人のように叫びを上げた。イチャイチャとは程遠いシチュエーションである。
対して美琴は、さほど悪びれた様子もなく、「ごめーん」と謝りつつもカラカラと笑っている。

「きゃはははは、ごめんごめん! 熱いんだから、ちゃんとフーフーしなきゃよね!?」

そういう問題ではない。
が、美琴は上条にツッコミを入れる間も与えず、自分で言った通りにフーフーする。
しかし美琴も酔っているとは言え、学園都市で第三位の演算能力を持つレベル5だ。
同じ過ちを繰り返さない程度には、学習できる脳構造を保っているらしく、
再び「あ〜ん」で食べさせようとはしなかった。
とは言っても、上条に鍋の具を食べさせる事を諦めた訳ではない。
美琴は箸で摘んだ肉と白菜を、自分自身の口の中に放り込むと、

「ぁん…っむ♡」
「うぶっ!!?」

そのまま上条にキスをした。
器用に舌と舌を絡ませて、上条の口内に唾液と共に鍋の具が流し込まれる。

「っぷぁ! どう? 美味し?」
「……………」

醤油ベースのキスをされた上条は、租借しながら美琴を軽く睨む。
正直、抱きつかれただけでもヤバかったのに、そんなエロいキスをされてしまったら、
何と言うかもうムラムラしてしまうのだ。血液が下半身に集まってくるのが分かるくらいに。
しかし忘れてはいけない。ここはお店の中なのだ。
個室とは言っても薄い壁の向こうには他の客もいるし、
その壁ですら上は隙間があいているので、喋り声もダダ漏れなのである。
ここがもしホテルや寮の自室だったのなら、上条も躊躇する事なくルパンダイブしているのだが、
今そんな事をしたら、不幸体質である上条は間違いなく面倒な事になる。
なので溢れ出る性欲の捌け口が無く、ただただ我慢するしかない。
上条は「ゴホン!」とわざとらしく咳払いをして、美琴を諭す。


888 : だからミコっちゃんにアルコールを飲ませるなとアレほど :2015/10/31(土) 14:05:40 u4F6bQwY
「ゴホン! あ、あーよろしいですか美琴さん?
 とりあえずお料理を食べてしまいましょう。お店の迷惑にもなりますから。
 ……後で思いっきり甘えさせてやるから、今はまず―――って、おうわっ!!?」

上条さんお得意のお説教の最中だったが、美琴がそれをキャンセルさせた。
上条の我慢【くろう】など知ったこっちゃないと嘲笑うかのように、
美琴は新たなる攻めで上条を追い込むのである。

「あ〜…何かあっついわね〜」

気付けば美琴は、むかし学園都市を(一部で)騒がせた都市伝説「脱ぎ女」の如く、
下着姿となっていた。鍋料理、アルコール、酔い、ハグ、ベロチュー口移し…
体温を上昇させる条件は、揃いすぎるくらいに揃っていたのである。
しかもその下着たるや、中学生の頃の美琴からは想像出来ないくらいに大人っぽい。
何と、まさかの上下揃えた黒のレースである。その上、薄っすらと透けている。
ここでゲコ太パンツとかお披露目してくれたのなら、非常にガッカリする反面、
性欲も激減出来たのだが、『不幸』な事にそうはならなかった。
このムチムチな体にフィットしたエロすぎる下着姿に、
上条はバキバキのガチガチのギンギン(何が?)になってしまう。
これで何も手を出す事が出来ないなんて、生殺しにも程がある。

「ちょっ!? み、みみ、みこ、美琴っ!!?」
「んふっ♡ いつでも当麻に『されてもいいように』、最近は毎日こういうの着けてるの。
 ねぇ、どう…? 似合う…?」

似合うか似合わないかと問われれば、似合いすぎていて困っているくらいである。
美琴は酔い始めのキャッキャウフフなイチャイチャモードから、
ジットリネットリなヌレヌレモードに移行している。完全にスイッチが入ってしまったようだ。
だが何度も説明したように、お店の中で『事を済ませる』訳にはいかない。
上条は慌てて美琴を振り切り、まずはこのゼロ距離状態から脱却しようと試みる。
しかしその瞬間、美琴が上条の左を掴んだ。
美琴も上条と出会ってから6年弱になる。いい加減、上条の弱点くらい熟知している。
能力が通用しないのは右手のみ。つまり、左手からならば。

「おがががががががっ!!?」
「ダメ…逃がしてなんか、あげないから」

美琴は上条の左手を掴んだまま、弱めのスタンガン程度の電気を流す。
その目的は、上条を痺れさせて動きを封じる為だ。

「み…美琴…! これ以上は、ほ、本当にダメだ!」
「ヤダ…もう、我慢なんて出来ないもん……
 ほら、心臓だってこんなにドキドキしちゃってるのよ…?」
「ちょっ!!?」

掴んだままの上条の左手を、今度はグッと引き寄せて、美琴はそのまま自分の左胸を触らせる。
ブラ越しとは言え、そのボリュームは布切れ一枚ではガード出来ない程の弾力と柔らかさで、
ぶっちゃけ「こんなにドキドキしちゃってる」とか言われても、
それ以上にこっちがドキドキしてしまっているので、どれだけなのか分かる訳がない。
上条は一瞬、「もうこのままヤっちゃってもいいかな」なんて頭に過ぎったが、しかし。

「いやいやいやいやダメだ!!! やっぱダメだ、どう考えても!!!
 み、美琴! まずは一旦落ち着こう、な!? ほら、せっかくの料理が冷めちまうしさ!」

この状況下でもまだ理性的な上条に少しムッとしながら、
それでも上条をその気にさせようと、トドメを刺しにくる美琴。
美琴の右手が、上条のズボンのファスナーに伸びてくる。

「っっっっっ!!!!?!??!?!?!??!!!?
 うおおおおおーい美琴、いや美琴様!!! そ、それだけはマジでヤバイって!!!
 ちょ、ねぇ!!! 俺の話聞いてる!!? お願いだから止めてって!!!」

すると美琴は、クスッと艶っぽい笑みを見せて一言。

「ヤダ、するもん…♡」

そしてそのままファスナーを下ろし、そして―――


889 : だからミコっちゃんにアルコールを飲ませるなとアレほど :2015/10/31(土) 14:06:11 u4F6bQwY
 ◇


一方その頃、上に隙間があいている薄い壁で隔てた隣の個室では、
二人の風紀委員が、本日の治安維持活動が無事終了した事を祝して、打ち上げをしていた。

「ではまずは、何かお飲み物でも注文しましょうか」
「そうですわね。とは言っても、わたくしも貴方もまだ未成年ですので、お酒はNGですけれども」
「あはは、分かってますよ〜。それにしても、
 まさか大学生になってもまた風紀委員でコンビを組む事になるなんて思いませんでしたね」
「腐れ縁という奴ですわね。今日だって本当はお姉様のお誕生日だと言うのに、
 こうして貴方と二人きりで鍋を突かなくてはなりませんし…」
「まぁまぁ。御坂さんからメールで、
 『外せない用事があるから、誕生日とか祝わなくてもいい』って送られてきたんですから、
 潔く諦めてくださいよ。それにどちらにしても、私達は風紀委員のお仕事で忙しくて、
 誕生日パーティーを準備する時間なんてなかったんですから」
「それはそうですけども……あら?」
「…? どうかいたしましたか?」
「いえ…お隣の部屋から、妙な物音とお声が聞こえてきたものですから…」
「もう! お隣のお客さんの会話を盗み聞きするなんて、あまりいい趣味じゃありませんよ!?」
「そうなのですが…けれどもこの声、もの凄く聞き覚えがあるような気がいたしまして…
 しかもまるで、酔った女性が男性を押し倒して、
 その男性のファスナーを下ろそうとしているかのような物音まで聞こえておりますわよ…?」
「ぬっふぇっ!!? そ、それは流石に気のせいなんじゃないですか!?
 お店の中で、そ、その…じょ、じょじょじょ情事だなんていくら何でも…!」
「わたくしもそうだとは思いますが、しかし世の中には色んな性癖をお持ちの方がおりますの。
 万が一の事があったら……」
「貴方もその『色んな性癖の持ち主』の中のお一人ですけどね!?」
「ああ、もう! 今はそんな漫才している場合ではないのかも知れませんわよ!?
 念の為、隣の部屋の様子を見てきますの! 初春も一応、本部に連絡する準備を!」
「あっ、ちょ!? 白井さん!」

さぁ、地獄の始まりだ。


890 : くまのこ :2015/10/31(土) 14:06:55 u4F6bQwY
以上です。
今度こそ本当に、ではまた。


891 : くまのこ :2015/11/02(月) 22:21:23 76j7SNYw
すみません、また書きました。
今回は初心に帰って、かなりのバカ話です。
約3分後に3レス使います。


892 : カミコトキシン4869 :2015/11/02(月) 22:24:17 76j7SNYw
『俺は高校生不幸体質、上条当麻。  テレテーテー♪
 友人で中学生の御坂美琴と遊園地へ遊びに行って  テレテーテーテッテー♪
 黒ずくめの暗部の怪しげな取引現場を目撃した。  テレテレテーテテ♪
 取引を見るのに夢中になっていた俺は、  テーレーテッテー♪
 背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかった。  テーレーレーレーテーレーテーッテー♪
 俺はその男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら…  テレレー♪

 体が縮んでしまっていた(ショタ声)。  テレテーッテー♪
 上条当麻が生きていると奴らにバレたら、  テーレテテーテー♪
 また命を狙われ、周りの人間にも危害が及ぶ。  テーレテーテテテー♪
 カエル顔の医者の助言で正体を隠すことにした俺は、  テレレテーテテー♪
 美琴に名前を聞かれて、とっさに「神裂ステイル」と名乗り、  テーレレテテッテー♪
 奴らの情報をつかむ為に、  テテテテ♪
 ルームメイトが風紀委員をやっている美琴の寮に転がり込んだ』  テレテーテー……

「って、何でだよ!」

寮に転がり込んだ所で、上条は叫びを上げた。
色々な事がありすぎて、一度大声を出して発散でもしなければ、やってられなかったのである。

事件のあらましは大体上条が言った通りだ。つまり上条は今、小学校一年生くらいの体になっている。
しかも体が縮んだ原因が超能力などの異能の力ではなく、薬品を投与されたからなので、
幻想殺しの力を持つ右手で体中あちこち触っても、効果は無かった。
だが上条がこの体で厄介だと感じたのは、そこではない。
実はここに来る途中、この姿を目撃された御坂妹や姫神、
雲川先輩に『見た事はないけど金髪巨乳の常盤台生』など、
成長を見守るという大義名分の下、お持ち帰りされかけた
(上条本人だとはバレなかったようだが、姿形がまんまミニサイズの上条なので、
 彼女達も本能的に心がときめいてしまったらしい)のだ。
特に残骸事件の際に上条が救急車を呼んであげた、胸にサラシを巻いている赤髪の女性からは、
まるで肉食動物のような目つきで「ウチにいらっしゃい! 良い物あげるから!」とか言われて、
よく分からない身の危険を常に感じていたので、ひたすら逃げてきたのである。
そして今、何の因果か遊園地デート(上条は無自覚)してきたばかりの美琴の部屋に、
お呼ばれされている。そんな経緯があっての「何でだよ!」なのだが、
どちらかと言えば、そう叫びたいのはこっちである。

「ステイル君、何か飲む? オレンジジュースとコーラがあるけど」

奥から美琴が話しかけてくる。
ちなみに彼女も、ミニサイズの上条を目の前にして胸キュンしてしまったクチである。

「……………」
「…? ステイルくーん?」
「……ハッ! そう言えばステイルって俺か! な、な〜に〜? 美琴お姉ちゃーん!」

自分で付けた偽名ではあるが、呼ばれ慣れないので返事が一瞬遅れてしまう。
そもそも、とっさに付けたから大して思い入れもないし。
「神裂ステイル」という名前も、知り合いから取っただけで明らかに適当だし。


893 : カミコトキシン4869 :2015/11/02(月) 22:25:01 76j7SNYw
上条は周りにバレないようにする為に、『元ネタ』よろしく子供っぽい声で受け答えをする。
美琴に対して「お姉ちゃん」とか、何だか背徳感たっぷりでアブノーマルなプレイっぽい。
しかしそこにいるのが上条ではなく、限りなく上条に似ているだけの子供だと思っている美琴は、

(ん〜〜〜〜っ! かんわいいにゃあぁ〜〜〜!)

と顔を綻ばせてしまう。母性くすぐられまくりである。
結局美琴は、オレンジジュースとコーラ二つ共リビングに運ぶ。激甘やかしである。

「あ…ありがとうございます」
「遠慮なんてしなくていいのよ? ステイル君はまだ子供なんだから」

何だか美琴がいつもより優しい…と上条は思った。
いつもは何と言うか、常にツンツンしているイメージがあっただけに、
普段見られない表情に、ちょっとしたギャップ萌えを感じてしまう。
もっとも、普段もツンツンの裏に隠された、真実はいつも一つな感情があるのだが、
鈍感なバーローである上条には、それが気付けないのである。
だが今は、美琴の事を「いいかも…」とか考えている場合ではない。
部屋の中には、もう一人いるはずのルームメイトが見当たらないのだ。

「ね、ねぇ美琴お姉ちゃん。この部屋って二人部屋だよね? そっちにもう一つベッドがあるし」
「ん? ああ、そこは黒子っていう私の一つ下のお姉さんが寝てるの。
 でも黒子は風紀委員でお仕事が忙しいみたいで、今日は帰れないんだって」
「へ、へぇ〜…そうなんだ……」

マズッた。元々は風紀委員に保護してもらう目的でここまでやってきたのに…と考えた所で。

(つーかよく考えたら、わざわざここまで来なくても、
 普通に風紀委員とか警備員の支部にでも行けば良かったんだよな。
 姫神達に追いかけられて、相当テンパってたんだな、俺…)

女性に追いかけられた事よりも、体が縮んだ事に対してテンパっては如何だろうか。
科学技術が20〜30年先を行く学園都市だから、年齢が戻る薬品があっても、
そしてそれを元に戻す薬品があっても、不思議じゃないとでも思っているのだろうか。
確かに、かつて一方通行がレベル6へと進化するには、
通常の時間割りで250年の歳月が必要だという演算結果が算出された為、
細胞の老化現象を抑える研究が秘密裏に行われ、
その成功例として月詠小萌が生み出された(?)りしたのだが。

ともあれ、風紀委員が今日は帰ってこられないのなら長居は無用だ。
上条はいそいそと帰り仕度を始める。しかし、これに待ったをかけたのが美琴である。

「えっ、えっ!? もう帰っちゃうのステイル君!?」
「う…うん。いつまでもお姉ちゃんのお世話になる訳にはいかないし」
「でも、もう真っ暗よ!? 完全下校時刻も過ぎてるし…」

確かに窓を見ると、とっくに月が昇っている。まだ18時前なのだが、冬は日が落ちるのが早いのだ。
この時間帯はスキルアウト達が活発になるので、小学校一年生がウロつくのは大変危険である。
なので。

「今日だけでも泊まっていきなさい! ねっ!?」
「えっ………ええええええええ!!!?」

まさかのお泊りイベント発生である。しかも、今日は白井が帰ってこないとの事なので、
てっきり白井のベッドを使わせてくれるのかと思いきや、

「ねー? 今日はお姉さんと一緒におねんねしましょうねー♪」
「えっ………ええええええええ!!!?」

まさかのベッドインである。
勿論、美琴はショタ条に『ナニか』しようとしている訳ではないが、
そのショタ条くんの頭の中は通常営業の上条さんなので、色々とよからぬ妄想をしてしまう。
例えば、ミコっちゃんとの『おねショタ』とか。
例えば、ミコっちゃんとの『おねショタ』とか。
例えば、ミコっちゃんとの『おねショタ』とか。
だがそんな事は絶対に有り得ないので、上条はブンブンを頭を振り、冷静さを取り戻す。


894 : カミコトキシン4869 :2015/11/02(月) 22:25:40 76j7SNYw
「い、いいいいや、だだだ、大丈夫っ! 一人で寝れるから! お、おやすみ!」

上条は逃げるように白井のベッドに駆け込もうとする。
しかし「ダ〜メ!」と言いながら、美琴が背後から上条を抱き締める形で、それを止めた。
美琴は超能力を使わなくても中学二年生離れした身体能力を持っており、
そうでなくてもこちらは小学校一年生程度の身体能力しか持っていない。
抱き締められた腕の中でジタバタともがいても、全く離れられる気配がしない。

「こら、暴れないの! ステイル君は小っちゃいから、
 もうおねむになるのは分かるけど、でもその前にお風呂に入んなきゃ!」
「えっ………ええええええええ!!!?」

今度はまさかのお風呂イベント発生である。
しかも言うが早いか、美琴はさっさと上条の服を脱がせてしまう。
これ以上暴れられる前にやってしまおうという事だ。

「はい! 次はおズボンとパンツね」
「いやあああああああああああ!!!!!」

上条の決死の叫びも虚しく、下も下ろされてしまう。
だが流石の上条も最終防衛ラインは護り、両手で股間を隠す。
その様子に、美琴はクスクスと笑った。

「ふふっ、恥ずかしいの? ステイル君はおませさんなのね♪」
「は……ははは…」

上条さん、真っ赤な顔で泣きながら乾いた笑い声を出すの巻である。
こんな状況、もはや周りに危険が及ぶからとバレないように気をつけていなくても、
今更自分が上条だと言えない。言えば一番危険なのは、周りではなく上条自身だ。
と、そんな事を考える余裕もなく、今度は美琴が服を脱ぎ始める。

「みみみみみみここ美琴さんっ!!!!!?」
「もう…『美琴さん』だなんて他人行儀にしなくても、
 さっきみたいに気軽に『美琴お姉ちゃん』って呼んでいいのよ?」

言いながら、スルスルと制服を脱ぎ、あっという間に下着姿になる。
しかしその瞬間、上条の体にある異変が起きて、
美琴のストリップは下着の段階でストップする事となる。
助かった? いやいや、上条は高校生不幸体質なのだという事を忘れてもらっては困る。

「うぐぁっ!!? くっ…だ、ぁ…うあああああぁぁぁ!!!」
「っ!!? ステイル君っ!? ステイル君どうした……の…?」

ステイル君(仮)が急に苦しみ出したので、慌てて駆け寄った美琴。
するとそのステイル君(笑)は、見る見る内に体が成長し始めたではないか。
否。正確には、元に戻ったと言った方が正しいだろう。

実は上条が飲まされた謎の薬、まだまだ開発途中であり、効果も数時間しか持たなかったのである。
上条は「はぁはぁ」と荒い息遣いをしながらも、元の体に戻った事に感激する。

「お、おおおおお! 戻った! 良かった〜〜〜!」

どこか体におかしい所はないか、自分の体中をあちこち確認する上条。
その際、両手も広げて見た訳で、それまで隠していたモノも解放してしまった訳で。

さて、では美琴目線ではどうなっているか説明しよう。
現在彼女は下着姿である。そしてお風呂に入れようと服を脱がせた上条似の小学生が、
どういう訳か上条そのものになっている。更に、その股間には上条さんのチンアナゴ。
その結果。

「み゛に゛ゃアアアアアアアアアあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

まぁ、そりゃ漏電するでしょうね。



ちなみに冒頭で出てきた黒ずくめの暗部とやらは、
何かアイテムのメンバーが殲滅させたらしいから、あんま気にしなくていいよ?


895 : くまのこ :2015/11/02(月) 22:26:16 76j7SNYw
以上です。
ではまた。


896 : ■■■■ :2015/11/03(火) 23:31:31 qiq4GQEs
>>891
いいね!


897 : くまのこ :2015/11/06(金) 19:28:12 8/xuUCF6
毎度連投ですみません。
また短編書いたので、投下させていただきます。
前回がアレだったので、今回はネタ少なめです。
約3分後に3レスです。


898 : 紅染めし木々と夕日と君の頬 :2015/11/06(金) 19:31:03 8/xuUCF6
「ねぇ、今度の日曜日【やすみ】にでも紅葉見に行かない!?」

美琴からそんなお誘いがあったのが数日前だった。
第21学区。平坦な地形が多い学園都市において唯一の山岳地帯なのだが、
11月に入ったばかりの今日この頃、聞けば今が紅葉狩りシーズンの真っ只中なのだとか。
科学一辺倒な学園都市の住人でも…いや、だからこそなのかも知れないが、
たまには大自然を満喫したくなる者も多い。
現に今の時期、美琴のように第21学区へ向かう人が後を絶たなくなるのである。

その日は小萌先生がどうしても外せない用事があるらしく、珍しく補習も無かったし、
他に予定がある訳でもなく、特に断る理由もないので、上条は二つ返事で了承する。
その際、上条が冗談っぽく「何かデートみたいだな」と言うと、
美琴は紅葉のように顔を真っ赤にしていたという。


 ◇


そんな訳で日曜日、上条と美琴は第21学区に来ていた。現地集合である。
二人とも山を登るにしてはかなりの軽装だが、あくまで紅葉狩りが目的だし、
急勾配な山でもないし、頂上もさほど高くないので、これで充分なのだろう。
つまり、本格的な登山よりもハイキングに近いのだ。
しかし問題はそこではなく、現地集合にした為に、二人はお決まりのやり取り【ケンカ】が始まる。

「おっそいわよ! とっくに待ち合わせの時間すぎてるじゃない!」
「う…わ、悪い……ちょっと道に迷ってた女の子を風紀委員の支部まで案内してたり、
 ヒールが折れて足を挫いたお姉さんをおぶって病院まで連れて行ったり、
 風船が風に飛ばされて泣いてた幼女の代わりに俺がおうわっ!!?」

説明している途中だが、美琴は威嚇用の電撃【イライラしたきもち】を上条目掛けて飛ばした。
どうせ右手で防がれるのは分かっているのだが、それでもどうしてもやらなければならない。
上条が不幸に巻き込まれて遅刻するのは毎度の事だが、
何故に助けた相手が必ずと言っていいほど若い女性なのだろうか。
きっと助けられた女の子もお姉さんも幼女も、まとめてフラグったに違いない。
しかし美琴のイライラの原因が、自分が遅刻したせいなのだと勘違いしている上条は、
やはり美琴の思った通り右手で電撃を打ち消しながら、こんな疑問を口に出す。

「…つーかそんなに怒るんなら、わざわざ現地集合にしないで、
 第7学区【さいしょ】から一緒に行けば良かったんじゃないか?」
「っ! そ、それは…そう、だけど…」

上条からの思わぬ反撃に、たじろいでしまう美琴。
言えない。待ち合わせした方がカップルっぽいからなんて理由、上条に言える訳がない。
どうやら美琴は、上条の無自覚な「デートみたい」という一言を相当引きずっているご様子だ。

「べ、別にいいのよ!
 お手て繋いでお迎えしないと迷子になっちゃうような年齢でもあるまいし!」

照れ隠しなのか、美琴はいつもの調子【ツンデレ】でプイッとそっぽを向く。
その様子に上条は、溜息交じりに頭をかき、「ま、いっか」と苦笑する。

「じゃあ、まぁ…とりあえず歩くか。この季節は暗くなるの早いからな。
 夜紅葉も綺麗だろうけど、完全下校時刻もあるし」

言いながら、足を一歩前に出す上条。
だが斜面が緩やかとはいえ山道は山道だ。紳士を自称する上条は、ふいに美琴の手を握る。

「えっ!? なな、何よ突然っ!!?」
「だって転んだりしたら危ないだろ?」

テンパる美琴とは対照的に、さも当たり前のような態度の上条。
この男の、こういう無自覚さがズルい…と美琴は思った。
そしてそのズルさに、まんまとドキドキさせられてしまう自分も、
我ながらチョロいとも思ってしまうのである。

だがそれは上条も同様で、手を握った瞬間、何故かほんのり心拍数が上がったのだった。


899 : 紅染めし木々と夕日と君の頬 :2015/11/06(金) 19:31:35 EiXuZ7aU
 ◇


「おおぉ〜! 綺麗だなー!」
「うん…! とても綺麗……」

山頂へと歩く道すがら、上条と美琴は色鮮やかな木々を目の保養に、感嘆の声を漏らしていた。
上条は圧倒的な大自然に鼻息を荒くし、美琴は美しい情景にうっとりする。

「ホント来て良かったよ。こうなると、頂上からの景色とか余計に楽しみになってくるな」
「ふふっ。そう言ってくれると、誘った方としても悪い気はしないわね♪」

開放的な気分がそうさせるのだろうか、美琴は先程までより素直な反応を見せる。
イタズラっぽく笑う美琴に、「可愛いな…」なんて思った上条だが、その直後。

『グゥ〜〜〜…!』

ホッと安心したせいか、上条のお腹がグウと鳴る。

「……お腹すいたの?」
「ま、まぁ結構歩いたしな」

美琴は「仕方ないわね」と嘆息しながら、どこか座れる場所がないかと周りをキョロキョロと見回す。
と、すぐにおあつらえ向きのベンチを発見する。実はこの山、
元々登山客の多いコースらしく、所々休憩出来るようにベンチが置かれているのだ。
美琴はそのベンチを指差しながら、上条に提案する。

「あそこでちょっと、お弁当でも食べましょうか」
「えっ!? 弁当まで用意してくれてたの!?」

思わぬ朗報にテンションの上がる上条。
美琴は自分のカバンの中から二つの弁当箱を取り出しながら、会話を続ける。

「そりゃまぁ、一応ね。流石に飲まず食わずで山を登るのは疲れるし、
 どうせアンタは食べ物持ってきてないと思ったしね」

と言いつつ、美琴も本当は楽しみすぎて、
朝5時に起床してまで上条の分の弁当を作っていた事は、上条本人には内緒である。

「にしても、あの小っこいシスターじゃないけど、アンタも花より団子ってタイプよね。
 あんなに大きいお腹の音とか鳴らしちゃ『グゥ〜〜〜…!』って……」

何やら得意げに上条をイジっていた美琴だったが、その途中で今度は自分のお腹が鳴り響く。
たちまち、美琴は「かあぁ〜!」っと顔を紅潮させてしまう。

「あの〜、美琴さん? 今の音は一体…?」
「〜〜〜っ!!! ば…馬鹿ぁ! 聞き流しなさいよ無デリカシー男っ!」

ニヤニヤしている上条に対して、美琴は若干目に涙を溜めながら、ポカポカと上条の胸を叩く。
どうやら、相当恥ずかしかったようだ。

「ああ、もう! いいから好きな方を選びなさいよ!」

先程の空腹音で素直になれる魔法は解けてしまったらしく、
美琴はいつもの調子に戻って二つの弁当箱を上条の目の前に差し出す。
上条も、流石にこれ以上イジると可哀想かなと、話を逸らされてあげる。

「好きな方って…中身違うのか?」
「あっ、うん。こっちの黒い方のお弁当箱がおにぎりで、
 こっちの白い方のお弁当箱がサンドイッチ。おにぎりの方は沢庵とか鳥の唐揚げも入ってるけど」
「マジでか!? いや、嬉しいけど二人で食うんだから、
 中身同じでも良かったんじゃないか? わざわざ分けて作るの、面倒だったろ」
「だ…だって! アン……………」

素直なままなら言えたのかも知れない。
「だってアンタに『色んな味を食べて』もらいたかったんだもん」と。
しかしツンデレに戻ってしまった美琴には、「だって」の後が言えなくなってしまう。
だが当然ながら、途中で話をブツ切りされてしまった上条は続きが気になる訳で。

「だってアン…何だよ」
「アン…アン……ア、アンタの好き嫌いが分からないから、いっぱい作ってきたのよ!」

とっさに、半分ウソを織り交ぜて誤魔化す美琴。すると上条は申し訳なさそうな顔をして。

「そ、そっか。それは悪かったな。でも俺、食い物っていうジャンルなら大概の物は食えるから、
 今度からは気を使わなくていいぞ? それに美琴の作った物なら何だって美味いしな」
「っ!!!」


900 : 紅染めし木々と夕日と君の頬 :2015/11/06(金) 19:32:07 8/xuUCF6
まただ。この男は再び、無自覚に嬉しい事を言ってくれる。
「今度からは」というのは「また次もよろしく」…つまりは次回があるという意味で、
「美琴の作った物なら何だって美味い」というのは言わずもがなである。
美琴は胸がいっぱいになってしまい、お腹が減っている事も忘れてポワポワしてしまう。
そんな美琴の様子に気付かずに、上条は暢気に。

「でもせっかくだから、『色んな味を食べたい』な。これ全部半分に割ろうぜ?
 そうすりゃ二人で食っても全部の味を楽しめるだろ?」

おにぎりとサンドイッチを全て半分ずつに割り始める上条。
こうしてお弁当タイムが開始された訳だが、
その最中、上条のほっぺに付いたご飯粒を美琴がつまんで食べたり、
美琴の指に付いたマスタードを上条がそのままペロッと舐めたりして、
お互いにドギマギしたとかしないとか。


 ◇


山頂に着いた上条と美琴は、その雄大な景色に思わず息を呑んだ。
赤、黄、緑の三色から成る自然のコントラストは、学園都市【かがくのさいせんたん】にいる二人を以ってしても、
その感想は「美しい」だった。思わず、どこかの哲学者が言った
「人は自然を美しいと感じる唯一の動物であり、自然を破壊する唯一の動物でもある」
という言葉を思い出した。

「凄いね…」
「そうだ…な…?」

「凄いね」と美琴が言った。上条は景色から美琴に視線を移して「そうだな」と返事をした。
その時、さわさわと風が吹いた。
サラサラと髪がなびかせ、目の前の山々を見つめるその美琴の横顔は、
夕日に照らされてキラキラと輝いていた。

ドキリ、と胸が跳ねた気がする。
上条は自分でも何故そんな事をしたのか分からない。
気が付くと彼は―――

―――………え」

本当にそんなつもりはなかった。
だが上条は、美琴の横顔を見た瞬間、衝動的にキスをしてしまったのだ。
勿論、言い訳なんて出来るはずもない。
上条は勿論だが、おそらくは美琴にとってもファーストキスだ。
それがどんなに大切なものかは、鈍感な上条でも流石に理解できる。
すぐに我に返った上条は、バッと美琴から離れて、真っ青な顔で頭を下げた。

「ご、ごごごごめん! いや、謝って許してくれるとは思わないけど、本当に悪かった!
 何か…雰囲気に呑まれちまったっていうかその……美琴があまりにも綺麗だったんで、つい…」

上条は超電磁砲ですら右手で防がずに、甘んじて受け止める覚悟だった。
しかし美琴から出てきた言葉は意外なもので。

「……あ…あああ、あんなのじゃ、や、やや、やったのかやってないのか分かんないじゃない…
 せ、せ、せっかくの『初めて』…なんだから……ちゃ、ちゃんとした奴をしなさいよ……」
「………えっ…?」

上条がゆっくり顔を上げると、そこにはギュッと目を瞑り、
肩や手を震わせながら『その時』を待っている美琴が立っていた。
瞬間、上条は自分自身の気持ちに気がついた。

(そうか…今日一日美琴と一緒にいて、胸がドキドキしてたのは……
 いや、『そうなってた』のは、もっと前からだったのかも知れないな…)

これ以上、彼女に恥をかかせる訳にはいかない。
上条は再び、美琴の花片のような唇に、そっと、

「………ん…♡」

口付けをするのだった。


901 : くまのこ :2015/11/06(金) 19:32:41 8/xuUCF6
以上です。
ではまた。


902 : くまのこ :2015/11/11(水) 00:04:16 hIoPIcRQ
日付が変わりましたので、昨日発売した新約14巻のネタを投下します。
当然ながら






が多く含まれてますので、もう原作を読んだ方かネタバレを気にしない方以外は、
そのまま読まずに戻るボタンを押してください。
約3分後に2レスです。


903 : 第一章合間  その具材だけは鍋に入れてはならない :2015/11/11(水) 00:07:06 hIoPIcRQ
御坂美琴は寒空の下、ただただ何の気なしに歩いていた。
僧正という正真正銘の魔神【ばけもの】を目の当たりにし、己の無力さを痛感し、
それと同時に、今まで共に歩けていたと自分が思っていた…
いや、正確には『思い込もうとしていた』と言った方が正しいだろうか。
隣にいたはずの上条当麻が、自分の遥か遠くを歩いている事に気付いてしまった。
僧正との壮絶な戦いに幕を下ろし、どうにかこうにか常盤台中学の学生寮まで戻ってきた美琴は、
バスルームの中で深呼吸を何度も繰り返した。
しかしそんな事で落ち着きを取り戻せる訳もなく、こうして頭でも冷やす為に、
夜風に当たりながらトボトボと歩いていたのである。

美 「はぁ…何やってんのかしら、私……」

誰に言うでもなくポツリと呟く。やはりこうして歩いていても、気が晴れる事はなかった。
むしろ街を見渡せば建物や道路など、僧正が暴れた爪痕が所々残されており、
否が応でも今日一日の悪夢のような出来事が頭を過ぎってしまい、美琴は益々自己嫌悪に陥る。

美 「……帰ろうかな…」

そんな事を思いながら、今来た道を逆戻りしようとした、その時だった。
美琴のいる場所のすぐ近くから、『とても聞き覚えのある声』が聞こえてきたのだ。

上 「……お前は本当に、俺の『理解者』なんだな」

オ 「今さら何を言っている。定義の確認でもしたいのか?」

それは美琴が今、最も会いたくない人物であり、最も逢いたかった人物、上条だった。
上条は誰かと話をしていたようだったが、今の美琴にはその会話まで耳に届く余裕はない。
とっさに身を隠そうとしたが、その前に上条と目が合ってしまう。

上 「…ん? あれ、御坂?」

美 「……あ…あぁ、うん…」

歯切れの悪い返事である。
ちなみに、上条と会話をしていたのは全長15㎝の魔神オティヌスだったのだが、
上条が美琴に話しかけると途端に上条のマフラー内に隠れてしまった。
「ズボンのポケットに美少女フィギュアを突っ込んで外出しているように見える」
という上条の言葉を、オティヌスはオティヌスなりに気にしたのかも知れない。

上 「どうしたんだ、こんな所で? しかもこんな時間に」

いつもと同じ調子で、まるで今日も平和な一日だったかのように言葉をかけてくる上条。
美琴は一度息を呑んで、必死に笑顔を作りながら、『いつも通りの美琴』を演じる。

美 「べ、別に? ただの散歩よ。アンタこそどうしたの?」

すると上条は、真剣な顔でこう答えたのだ。

上 「鍋の具材を買いに行くんだよ」

美 「……………は?」

あまりにも予想外な回答に、美琴も思わずシリアスな雰囲気を吹き飛ばしてしまう。
「は?」と素っ頓狂な声が出てしまう程に。
そんな美琴に、上条は「めんどいから三行で説明するぞ」と前置きして。

上 「夕ご飯に鍋食べたい
   でも冷蔵庫の中しょうゆと味噌だけ
   だから具材買いに近くのスーパーへ」

美 「………………………」

美琴は本気で上条【コイツ】を思いっきりぶん殴ってやろうか、と思った。
こっちが本気で凹んでんのに、この能天気野郎は、と。
美琴は「はぁ〜〜〜〜〜…」と深い溜息を吐きながら脱力すると、
上条に軽く睨みながらも会話を続ける。

美 「ああ、そう。んで? 具体的には何買う訳?」

美琴としては、さして興味の無い話題なのだが、かと言って今更シリアスな空気に戻せもしないので、
とりあえず上条の献立を聞いてみたりする。


904 : 第一章合間  その具材だけは鍋に入れてはならない :2015/11/11(水) 00:07:44 hIoPIcRQ
上 「ん〜…細かい事はスーパー行って残りモンとか値段とか諸々見てから決めるけど、
   とりあえず白菜とか豆腐は欲しいかな。鍋の定番だし。
   それと何と言っても、もやしだもやし! 安い上に栄養価があるからなアイツは!」

美 「そうねー」

適当に相槌を打つ美琴。
そんな美琴に、上条は冗談でも言うかのように(というか確実に冗談なのだろうが)、
突然こんな事を言ってきやがった。

上 「あとはそうだな…料理は愛情とか言うし、ミコっちゃんの愛とか入れてくれると助かるな」

美 「ぶっふぁっ!!?///」

不意打ちすぎる一言に、美琴は一気に心拍数を上昇させた。

美 「な、なな、何よいきなり突然!!? てか、その前の台詞から脈絡無さすぎるんだけど!?」

上 「いやいや、ほら。鍋って食べると体が熱くなるだろ?
   そして人の愛情やら温もりやらも体を熱くさせる訳だよ。
   つまりそれは鍋には必要不可欠な要素という事であって、
   ここは一つ上条さんが大好きなミコっちゃんの愛情をだね」

美 「ぴゃあああああああああああああああっ!!!!!///」

鈍感界の第一人者である上条の口から飛び出したとは思えないような言葉。
確かに美琴は上条の事が大好きなのだが、それを上条が知っているはずも気付いているはずもない。

美 「な、ななな、なな、なに、なに、言っぴゃへっ!!!?///」

真っ赤な顔でしどろもどろになる美琴。そんな美琴の顔を見て、上条は「ふっ」と笑顔になる。

上 「…やっと美琴らしくなったな」

美 「…へ? ひゃえ?」

上 「いや、会った時から無理にいつもらしく振る舞ってるような気がしてたからさ。
   御坂が何に悩んでるのかは知らないけど、とりあえず元気は出たみたいで何よりだよ」

美 「〜〜〜〜〜っ!!!」

つまり上条は美琴の顔を見た瞬間から、彼女が何かを誤魔化している事を見抜いていたらしい。
そして少しでも美琴の元気が出るようにと、愛情云々と冗談を言ったのである。
また、自分の無力さへの劣等感に苛まれていた美琴は、まんまと上条の思惑に乗っかってしまい、
胸の痛みは胸の高まりへと変わってしまった。
ああ、やっぱり自分は上条の事が好きなのだと、改めて再確認してしまう。
上条の笑顔に釣られるように美琴も『本当の』笑顔になる。そして一言、

美 「あ〜! 大分冷え込んできたわね。そろそろ帰ろうかしら」

と踵を返しながら、上条に小さく「…ありがと」と呟いた。
それが聞こえたのか聞こえていなかったのかは分からないが、
上条は「暗いから気をつけて帰れよ」と声をかけて、その小さくなる背中を見送っのだった。

さて、それでめでたしめでたしになる訳がなく、
この間もオティヌスは上条のマフラーの中で延々と二人の会話を聞かされていた訳で、
当然ながら面白くないオティヌスはズボンのポケットに戻り、
再び内側から名状しがたい一撃をお見舞いした。それも先程よりも更に強烈な奴をだ。
「前屈み上条」は「悶絶上条」へとクラスチェンジしたのである。


 ◇


  本日の鍋パーティ、具材一覧その一.五



しょうゆ、味噌
美琴の笑顔と愛情



インデックス「……………」
上条当麻  「ああっ!? インデックスさんが無言でお口を開けていらっしゃる!?
       上条さんの頭は鍋の具にはなりませんですことよ!?」
ネフテュス 「ばっ、ばぶあ、へぐぶぐ……笑顔と愛情だな゛んて…ぐすっ。いい話ねぇ〜」
オティヌス 「お前は涙腺弱すぎだろっ!」


905 : くまのこ :2015/11/11(水) 00:08:39 hIoPIcRQ
以上です。
こちらから読んでいる方の為にもう一度。
新約14巻の


ネ   タ   バ   レ


が含まれています。
原作未読の方はご注意ください。
ではまた。


906 : ・・・ :2015/11/12(木) 07:53:12 c4OY9Wyo
ども、・・・です。
新刊で書きたかったところがまた書かれてしまった……
ひっくり返ってないだけましかもだけど。
たびたび出ていた「第三者から見た上条」がより具体的でしたね。
次巻どうなるんだろ?


さて、くまのこさん

〉〉実は上条は吸血鬼だったのだ!!
姫神さん出番ですよー
……下部?? 下部??? 誤変換? 意図的?
美琴+猫耳=正義
これで付き合ってないとか言うんだもんなぁ

〉〉飲んでも飲まれるな
酒にも空気にも勢いにも精えゲフンゲフン
美琴+酒=泥酔
ミサカDNAの法則という。試験にでるよ!!
ここでも鍋は食べられないのね

〉〉魔神連続殺人事件(後編)
真実は!! いつもそげぶ!!
頭の中に一瞬で西の高校生探偵浜面、とか怪盗一方とか、木原の組織とか出てきた
ショタ条+美琴=至上のおねショタ
よし、くまのこさん、実行を許可する!!

〉〉真っ赤だなー真っ赤だなー
帰宅後の上条が白井と禁書により真っ赤だなー
く、クマの子さんのほのぼのイチャラブだ!!
馬鹿っぽい夫婦漫才もエロエロも好きだけど、甘酸っぱいのも大好き
くまのこさん+上琴=底が知れねぇ!!

〉〉鍋
あの材料表、本編のシリアスガン無視だもんなぁ
っつーかついに話をまたいでも日付変わらなくなったよ(笑)
まて、カミやんその材料は将来毎日食べられるから!!
美琴の笑顔+美琴の愛情=プライスレス


では、一日遅れのポッキーの日短編です。
長編はシリアスの今真ん中らへん
もう少しまってね……誰か、待ってる人いる??
ま、まぁ、それでは


907 : ・・・ :2015/11/12(木) 07:54:07 c4OY9Wyo


ポッキーゲーム、わたしが期待したのは、

「いくぞ、美琴、ユニゾンアタックだ!!」

これじゃない。


908 : ・・・ :2015/11/12(木) 07:55:19 c4OY9Wyo

本日、11月11日。快晴なり。
若干寒さを覚える学園都市の公園
御坂美琴が腕を組む前で、上条当麻は美しい土下座をしていた。

上里翔流は? 「赤」とか「黒」は?
っつーかこの頃バゲージシティにいるんじゃ?
……いんでっくすさん時空なんだと思うよ。

怒りを主張していた美琴の表情が、ため息とともに諦めの表情へと移行する。

「で、今回はなに?」

頭の中でルーレットが回る。
赤、宿題が終わらない。
黒、買い物に付き合ってくれ。
さあ、賭けた賭けた!!

「オレとポッキーゲームをしてくれ!!」

……。
大穴すぎる。

「って、ぇぇぇえええええ!!」

「だ、ダメ?」

「ダメじゃない!!……ダメじゃ、ない、けど……」

「良かった、じゃ、早速行こうぜ」

「手!! 手が!!!手が〜〜!!」

ポッキーゲームだけでいっぱいいっぱいなのに、手まで握られてしまった。
心の器から幸福感が溢れてとまらない。

「え、えへへ…」////////

暫くして、目的地に着いたのか、手が放された。

「あっ……」

名残惜しそうにするが、
かの鈍感は気づかない。
上条の横顔に暫く見とれた後、
彼の視線を追う。

「ごっがぁぁぁあああああああああ!!」

叫び声と、眼前に広がるK.O.の文字。
目を点にしたあと、まばたき数回。
そのとき、ようやく周囲の騒音に気付いた。
ここは、ゲームセンターだ。

「……ちょっと」

「さぁ、やるぞー」

ヤツはさっきのゲームに100円入れやがった。
有名な宇宙戦争の映画に出たようなビーム状の剣を持ち、勇者の服を着た上条が3D映像として映写される。

「急に青ピが風紀委員にジャッジメントされて来れなくなるんだもんなー」

「……ポッキーゲームは?」

「ん? …あぁ!! この呼び方うちだけなのか? このゲーム名前長いだろ? だから、この剣の見た目からポッキーゲーム」

ピキッ、となにかが鳴った。

「この2人1組のトーナメントに参加してたのに、途中棄権になるとこだったよ。1位の賞品が商店街の商品券10万円分!! これを逃す手はねぇぜ旦那ってなもんだ!!」

勝手に美琴も登録される。
このビキニアーマーどっかで見た気がする。

「いくぞ!! 美琴!!」

目に影が入っている美琴の耳に、
対戦相手の声が入る。

「ふふふ、このオレ、『不死身のゾンビ』と」

「『運命を操るシギン』が相手になってやるぜ!!」

瞬間、ちゅどーーーーん!!
という音とともに、敵が吹き飛んだ。
K.O.という表示の真下で、美琴さまは白い息を吐いている。
上条さん絶句。

「い、いやーー……。さ、さっすが美琴せんせー、お見事!!」

「……いいから、さっさと殺るわよ」

「変換ミスですよね? ね?」

以降怒涛の快進撃。
そもそも運動神経抜群の美琴と、最近人間を辞めつつある上条に勝てるやつはごく少数だろう。

あの僧正にだって対向してたんだぜ!!

と、いうことで決勝戦。
二人はユニゾンアタックで敵を降し、見事10万円の商品券をゲットし、意気揚々とゲームセンターを出たら『上条勢力にも上里勢力にもあえて加わらなかったイレギュラー』なんて名乗るやつらと戦闘し商品券は燃えかすになった。


909 : ・・・ :2015/11/12(木) 07:55:42 c4OY9Wyo








「不幸だぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!」

世界が夕日によって染められるなか、

「うぅポリポリひっぐポリポリポリぐすっポリポリモグモグえっひぐっポリポリポリポリ」

公園のベンチで上条はポッキーを食べていた。
ポッキーは不憫に感じた美琴の奢りである。
その美琴も上条の隣でポッキーを食べている。

「な、泣き止みなさいよ」

「ひぐっ、そ、そうだなポリポリ泣いたところでモグモグ戻ってくるわけポリポリでもモグモグないポリポリもモグモグんな」

食うのやめろ。
美琴はため息をつき、ポッキーを咀嚼する。

「ま、昼は美琴と楽しめたし、よしとするか!!」

ビクンッ!!
と肩を震わして、ポッキーを食べる速度がゆっくりになる美琴。
隣の上条はなんにも考えてないようだ。
一時ポワポワしていた美琴だが、どんどん眉がつり上がっていった。

腹がたった。
腹がたったのだ。
自分ばかり振り回されているこの状況に、腹がたったのだ。

「……ちょっとこっち向いてくれる?」

次のポッキーをくわえた上条は、?を浮かべながら美琴を見る。
すると、バッシーン!!と両頬をはたかれた。
いってぇ!! と思った瞬間だった。

ポキポキポキポキポキポキポキポキポキポキポキポキポキポキムチューーーーー

と、いう音が聞こえ、
ようやく視覚と触覚が追い付いてきた。

次の瞬間、目の前にあった少女の顔はパッと離れ、彼女はスタタッと走り去る。
呆然と目で追うと、彼女はクルリと振り返った。

「約束のポッキーゲームよ!! 鈍感バカヤローーーー!!!」//////////

夕日より真っ赤な顔で叫んだ少女を呆然と見送った後、
上条はただただ湯気を出し続けるのだった。


910 : ・・・ :2015/11/12(木) 07:56:08 c4OY9Wyo
以上!
やばい遅刻する!!


911 : くまのこ :2015/11/12(木) 17:59:30 SaAYSGfQ
>>・・・さんGJです!
鈍感バカヤローも、これで少しは意識するようになりますねw
シリアスの長編、待ってる人がここにいますぜ?
ちなみに「下部」は、「しもべ」を変換したら出てきました。他にも「僕」とも書くみたいです。
分かりにくいので、ひらがなで書こうかとも思ったんですが、
「自分のしもべにするという能力」って読みにくかったので、漢字の「下部」を使いました。
「僕」にしなかったのは、「下部」より更に分かりにくかったからですw



短編書きました。
ただ今回は、イチャイチャ部分が最後だけな上に、
大体が旧約12巻の内容と丸被ってます。しかも主人公役は黒子です。
一応は上琴ですが、気になる方はスルーしてください。
約3分後に4レスです。


912 : とある災悪の未来予知 :2015/11/12(木) 18:02:23 SaAYSGfQ
9月30日の昼。白井は大きく溜息を吐いていた。
翌日から衣替えで、学園都市の全学校は午前中授業である。
勿論それは常盤台中学も例外でなく、白井も学校は午前中で終了したのだが、
とてもそうは見えない程に不景気な顔をしている。この日は朝から、何か嫌な予感がしていたのだ。
彼女は別に予知能力者ではない。嫌な予感というのも、これまでの経験則に基づく直感である。
何しろ本日の早朝、時刻にして午前5時20分頃、ルームメイトでもある愛しのお姉様・御坂美琴が、
ふかふか枕を抱き締めながら、幸せそうな笑顔と共に、
「……んふふ……。罰ゲームなんだから、何でも言う事聞かなくちゃいけないんだからねー……」
「……まずは何をしてもらおうかなー……むにゃ」
などと、とんでもなく気になる寝言を言っていたから。
一体どんな夢を見ているのか、そしてその枕は何の代用なのか、想像するだけでも恐ろしい。

「お姉様に限ってそのような事があるとは思えませんが…」

ぶつぶつ言いながら歩く白井だが、自分の言葉とは裏腹に一つだけ心当たりがある。
類人猿…白井がそう呼んでいる、あの例のツンツン頭の高校生。
6月の半ば辺りから約一ヶ月、美琴が勝負を挑んでいた(と思われる)人物であり、
その後、美琴が何かに悩んでいた時に助けた(と思われる)人物でもあり、
夏休み最後の日に、寮の眼前で堂々と美琴と逢引した人物でもある。
白井自身も残骸事件の時には助けられたし、大覇星祭の時も、
『大会を狙ったテロリストを捕まえる』のに裏で助力してもらっていたらしい。
上記の経緯から、悪い人間でない事は白井も分かっている。
しかしそれはそれ、これはこれだ。愛しのお姉様に纏わり付く悪い虫である事には変わらない。

「今度見かけたら、あのお猿さんに立場をいう物を教えてさしあげ…おや?」

独り言を言いかけて、ふと前方を見ると、そこには件の猿とお姉様は居るではないか。
白井は「お姉様ぁーっ!!」と勢い良く飛び込み、
ついでにさっそく猿に説教の一つでもかまそうとした。しかし。

「こ、これは……ッ!?」

瞬間、白井は上条(猿から進化したらしい)の直球従属姿勢に、絶望と嫉妬、
そしてわずかな尊敬の念を浮かばせた。見ると上条は、恭しく跪きながら、
ペラペラの下敷きで美琴のスカートの下から思い切り扇いでいるではないか。
その姿は正しく忠義の徒。立場を教えるどころか、上条はその立場を充分に理解し、
麗しのお姉様の専属奴隷として、身を粉にして従順に働いているのである。
だが白井とて負けてはいられない。その役目は本来、自分のだけのものなのだから。
故に白井も自分の鞄から下敷きを取り出し、上条と同様にお姉様を下から扇ぎ始めた。
相手は強敵だが、しかし負ける訳にはいかないのだ。お姉様の、唯一無二の伴侶(?)として。

「何の儀式だこれ私はどこぞのカルト教団の教祖様かーっ!!」

教祖様の叫びは二人の教徒に届く事はなく、上条と白井は無言で下敷きを扇ぐのだった。


 ◇


しばらくして、ここは風紀委員第177支部。
午前中授業とはいえ、風紀委員としての業務活動は普通にある。
美琴や上条と別れた白井は、帰宅せずにそのまま支部へと向かったのだが。

「あ、白井だ」
「また来てますのね…一応、風紀委員の関係者以外立ち入り禁止の場所ですのに…」

脱力する白井。部外者が風紀委員の支部に遊びに来るのを禁止する事は、
佐天という前例が黙認されている時点であまり効力は無いようだ。
支部の中で待っていたのは、美山写影という小学校四年生の予知能力者だった。
白井と彼は、ここ最近手を組んで、人命救助に勤しんでいる。
美山は惨劇の瞬間をカメラに写す予知能力者なのだが、自分ではその惨劇を変える事は出来ない。
三次元の枠内の演算では、未来を覆す事は不可能なのである。
しかし白井は十一次元演算を必要とする空間移動能力者。
彼は白井と組む事によって、初めて未来を変える力を得られるのだ。
そんな訳で美山は、学校帰りに支部へやってきたのだ。
中学校より小学校の方が早く終わるのは当然なので、彼はここで待っていた形になる。


913 : とある災悪の未来予知 :2015/11/12(木) 18:02:58 SaAYSGfQ
「まぁまぁ、いいじゃないですか。事故や事件が未然に防げるのなら」

そう割って入ってきたのは、二人の関係を唯一知る人物、初春だった。
彼女は書類の山をドサッとデスクの上に置き、事務処理を開始する。

「そうは言いましてもですわね……あら?」

苦言を呈そうとしたその時、白井の携帯電話が鳴り響いた。

「はい、もしもし?」
『…あっ、黒子?』

電話の主は、美琴だった。

「どうかなされましたの、お姉様?」
『うん悪いんだけど、私の鞄とバイオリンケース、寮まで持ってってほしいのよね。
 これからその……あ、遊びに行くんだけど、これ持ってると邪魔だし。
 それに自分で置いてくると、途中で寮監に捕まっちゃいそうだしね。
 けど黒子なら、空間移動で寮監にも見つからずに置いてこれるでしょ?』
「は、はぁ。まぁ、それくらいは構いませんが…」

確かに構わないが、それ以上に『遊びに行く』という台詞を噛んでいた事が気になる。
まさかあの類人猿とデートではあるまいか…と思ったが、詮索するのは止めた。

「それで場所はどちらですの?」
『コンサートホールの前』
「分かりました。すぐにそちらに向かいますの」
『ありがと黒子』
「いえいえ、お姉様のお力になれるだけで黒子は満足ですの」

と通話を切った白井だがすかさず。

「その役、私がやります!」

シュバっと手を挙げながら、初春が立ち上がった。
この野郎(野郎ではないが)、どうやら通話を傍受していやがったらしい。

「…どういう風の吹き回しですの?」
「も〜、何を疑っているんですか。
 私はただ、白井さんの荷物運びの用事を手伝ってあげたいだけですよ〜」

怪しい。とてつもなく怪しい。
しかし白井には美山と共に事故や事件を未然に防ぐ役目がある。
それは白井にしか出来ない事で、対してお姉様の荷物運びは、初春が代役でも何の問題もない。
白井は渋々ながら了承し、初春は嬉々として支部から出て行った。しかしである。

「…いいの?」
「良く…はありませんが、わたくしは貴方と共に事故や事件を」
「ううん。そういう意味じゃなくて」

白井の返事を遮り、美山は初春のデスクを指差す。
そこには、先ほど初春が置いた書類の山がドッサリと。

「初春がいなくなったら、アレ全部白井がやらなくちゃいけないんじゃないの?」
「おうっふ…」

思わず頭を抱えた白井。と同時に、初春への殺意が湧き出してくる。
だが事務処理よりも人命が優先だ。白井は書類の山の事を一旦忘れて、改めて美山に向き直る。

「それで…貴方がここへ来たという事は、また何か予知いたしましたのね?」
「うん。今回はこの2枚なんだけど」

美山がポケットから取り出したのは、マーブル模様の念写写真。
このままでは何が写っているのか分からないので、白井はアプリを使ってその写真を写してみる。
するとそこには…

「…? なにこれ?」

写し出された2つの『惨劇』に、美山は顔をキョトンとさせる。
一体、これのどこが『惨劇』なのだろうかと。

「うーん…ごめん。どうやら念写に失敗しちゃったみたいだよ白…井…?」

白井の方を振り向いた美山だったが、白井の顔を見た瞬間ギョッとした。
その顔はまるで、鬼か悪魔か般若か修羅か羅刹か閻魔か…とにかく、そんな顔だったのだ。
白井は2枚の写真を手でグシャっと握り潰し、地獄の門番のような低い声で、唸るように言った。

「ふっ…ふふふ…! わたくしが…わたくしが間違っておりましたの…
 あの類人猿を少しでも尊敬してしまったわたくしが愚かでしたのよ…!」
「え、ええと…白井…さん?」

思わず「さん付け」してしまう美山。
そんな美山を見向きもせず、白井は支部の部屋から駆け出す。
一刻も早く美琴から『初春を引き剥がさなければ』ならなくなったのだから。


914 : とある災悪の未来予知 :2015/11/12(木) 18:03:41 SaAYSGfQ
 ◇


1枚目の写真は、『上条が美琴のスカートの中に顔を突っ込んでいる写真』だった。
周りの風景からして、昼に白井が通った場所だろう。
つまり、白井が上条と共に美琴を下から扇いだ場所である。
だがもし、あのまま十一次元演算を持つ白井が割って入らなければ、事態はどうなっていただろう。
これはあくまでも白井の推測だが、本来は上条だけが美琴を扇いでいた筈である。
白井が干渉しない以上は当然なのだが、問題はその後だ。
例えば、「止めなさいよこの馬鹿っ!」と美琴が自分のスカートを押さえようとした瞬間、
何らかの『事故』が起こり、そのまま上条が美琴のスカートの中に(短パン越しとは言え)、
ダイブするという『不幸』な『惨劇』が起こっていたのではないだろうか。
そう思った瞬間、白井はゾッとした。万が一あの時、自分があの通りを歩かなければ、と。

そして今は、2枚目の写真の場所に向かっている。
2枚目の写真は逆に、『美琴が上条を押し倒して、上条の股間に美琴の顔をぶつかっている』
という写真だった。写真の中には、真っ赤な顔の初春と散乱した学生鞄やバイオリンも写っている。
これも白井の推測だが、例えば、美琴が初春にバイオリンの手解きをしていたら、
待ち合わせの上条が接近してきて「…俺、お邪魔でしたかね?」とか変な誤解をされて、
美琴が慌てて「ちちち違うわよっ!!?」とか言いながら手を離すもんだから、
初春が「うわわっ!?」なんて奇声を発しながらバランスを崩し、
そのまま後ろから美琴を押してしまい、将棋倒しに美琴も上条を押し倒して、
そして美琴は上条の股間へとダイブするという『惨劇』が起こるのかも知れない。

「急がなくては…急いで初春をお姉様から引き剥がさねば!」

百歩譲って美琴が上条と待ち合わせしているという事実には目を瞑るとしても、
お姉様が類人猿なんぞの醜い場所に、
その端整なお顔を埋めるという、最悪の未来だけは回避しなくてはならない。

そして現場に到着してみたら、案の定初春は、美琴に後ろから両腕を回してもらう形で、
何やら顔を真っ赤にしながら優しくレクチャーされていた。
白井は妬みやら嫉みやら、または仕事を押し付けられた事による怒りやらを込めて、

「う〜〜〜い〜〜〜は〜〜〜るぅっ!!!」

と禍々しいオーラを放ちながら距離を詰めた。
そして初春の首根っこを掴みながら、風紀委員第177支部へと帰っていく。
ともかく、これで美山が念写した『惨劇』は回避出来たのだった。

この時点では。


 ◇


「うへ〜〜ん、白井さ〜ん! 謝りますから、少し手伝ってくださ〜い!
 こんな量のお仕事、私一人じゃどうにも出来ませんよ〜!」
「お黙りなさいな! その一人じゃどうにも出来ない量の仕事を、
 わたくし一人に押し付けようとしたのは、どこのどちらさんですの!?
 それにわたくしは、これから3枚目のお写真の検証をしなくてはなりませんし!」

支部へと帰ってきた初春は、自業自得と言うか何と言うか、仕事に追われていた。
そして白井を待っていたのは、二人がいない時に美山が念写した、3枚目の惨劇の写真だった。

「でもさっきの2枚が訳分かんない写真だったから、今回も自信ないな」
「いいえ、アレは間違いなく最凶にして最狂の惨劇でしたの」

白井にとってはそうなのだろうが、上条も美琴も二人の関係についても知らない美山にとっては、
何がどう『惨劇』なのか、全く以って理解は出来ない。
しかし白井がここまでハッキリと言い切るのだから、きっと自分には分からない理由があるのだろう…
と、まだ純粋な心を持つ小学四年生の男の子は思うのである。何だか罪悪感である。

「それでその3枚目というのは?」
「うん、これなんだけど…」

やはりこれだけでは、何の現場かよく分からない。
白井は再び携帯電話を取り出し、アプリ越しにその写真を見てみる。その瞬間―――

「っっっ!!? がっ、ごぁばっ!!!!?」

見た瞬間、明らかに白井の様子がおかしくなった。
具体的には顔は青ざめ、白目を剥き、口から泡を吐き、体は硬直している。


915 : とある災悪の未来予知 :2015/11/12(木) 18:04:23 SaAYSGfQ
「し、白井さん!? 一体何を見ぬっふぇっ!!?」
「……やっぱり、僕にはサッパリ分からないや」

白井が尋常な状態ではないので、どんな写真を見たのだろうと初春と美山も覗いてみたのだが、
初春はその写真を見ただけで顔を真っ赤にしてしまった。
そして美山はアプリに写し出された写真の真の姿に、困惑する。

「どう見ても、男の人と女の人が抱き合いながら『キスしてる』ようにしか見えないよ」

白井と初春は、当然ながら知っている。
その男の人の名前は「上条当麻」で、女の人の名前は「御坂美琴」だという事を。

「しししし白井さんっ!!? ここここれって…!」

初春のテンパりまくった声に反応したのか、白井はゆらりと立ち上がり、
支部内の窓ガラスが割れるのではないかと言う程の大声で叫びながら、初春に一つの命令を出した。

「今すぐにお姉様と腐れ猿の居場所を突き止めなさいなっっっ!!!!!
 監視カメラでも人工衛星でもハッキングして構いませんから今すぐにっっっ!!!!!」
「はっ! ははははいいいいいいいいぃぃ!!!」

仮にも風紀委員支部の部屋の中で、とんでもない事を言う白井。
初春も初春で、本来は「邪魔しちゃ駄目ですよ〜」とか言って白井をたしなめる役目なのだが、
あまりの白井の迫力に、思わず言われた通りに実行してしまう。ご丁寧に、敬礼までしながら。


 ◇


「笑え御坂! これ以上いちいち撮り直すのは面倒だ!
 ようは書類を作れりゃ何でも良いんだろ! 割り切っちまえば問題ねえよこんなの!!」
「え? ま、まぁ、そうよね。あはは! 別にそれっぽく写真撮るだけじゃない。
 そうよねそうそう写真を撮るだけ! ようし行っくわよーっ!!」

初春が場所を割り出し、白井は空間移動で現場に到着した頃には、二人は既に抱き合っていた。
上条が携帯電話のカメラ部分を自分達に向けている事から察すると、
どうやら二人はツーショット写真でも撮ろうとしている様子だった。
しかし白井には分かっている。この後、なんやかんやと事故が起こり…
例えば、もっとフレームの中心に収めようと、上条が美琴を抱き寄せる力を強くして、
そんな心構えの出来ていなかった美琴は、バランスを崩して上条に寄りかかってしまい、
そして唇と唇がぶつかってしまう…なんて考えるだけでも吐き気を催すような、
最悪を超えた災悪な未来になってしまう可能性がある。
いや、白井が動かなければ、100%そうなってしまうだろう。何しろ美山の未来予知能力は、
白井の干渉が無ければ運命を変える事が出来ない程の精度を持っているのだから。

「撮るぞーっ!」
「イエス!!」

上条が携帯電話のシャッターを押す瞬間、彼は美琴を抱き寄せる力を強くした。
が、次に待っていたのはバランスを崩す美琴の姿ではない。
いや、正確に言えば美琴はバランスを崩してはいたのだが、それは上条も同様だった。
気付けばシャッターの電子音が鳴る前に、上条は前方へと吹き飛んでいたのである。
その原因は勿論。

「ひ、人がちょっと目を離した隙にナニをやっているんですの…?」

間一髪。白井は、上条と美琴がキスをするという災悪の未来の直前に、
空間移動で急速接近し、上条の後頭部にドロップキックを食らわせたのである。

こうして、美琴お姉様の大事なファーストキスと貞操は護られたのであった。


 ◇


ちなみに、その一年後の9月30日。現在、白井は中学二年生である。
果たして、中学一年生の白井が苦労して護った美琴は、一体どうなったのだろうか。

「ねぇ〜、当麻ぁ…チューしようよ、チュー」
「ま、またですか美琴さん!? さっきやったばかりな気がするのですが!?」
「何回やってもいいの! だって私と当麻は恋人同士なんだから♡」

「黒子の……黒子の力が未熟だったばっかりにっ!!!」

残念ながら、やはり決定された未来を変えるのは中々に難しいようだ。


916 : くまのこ :2015/11/12(木) 18:05:02 SaAYSGfQ
以上です。
初めて美山くんを書きました。
ではまた。


917 : ■■■■ :2015/11/13(金) 17:18:20 DInA04yw
>>916
ガンガン連載の方の裏話ですがニヤニヤ、やっぱ上手い
美山くんには罪はないw

ところで口移しで風邪移されるミコっちゃん早うw


918 : くまのこ :2015/11/13(金) 17:50:06 wST6nmac
>>917さん
ありがとうございます書いてみます!
がっつり恋人設定で思う存分口移しするのと、
恋人未満だけどその場の雰囲気に流されて思わず口移ししちゃうの、
どっちがいいですかね?


919 : ■■■■ :2015/11/13(金) 22:50:41 DInA04yw
下でお願いします! 微糖好きなんでw
ドタバタも大変好みです(ニッコリ)

今月ガンガンのインデックスさんもう美琴が準備完了すぎ
ミッフィーな口バッテンでプルプル待機が可愛すぎました


920 : くまのこ :2015/11/14(土) 17:57:20 f5639Kgg
>>917>>919さんからのリクです。
口移しで風邪移されるミコっちゃん
を元に書かせて頂きました。
約3分後に3レスです。


921 : これが風邪を舐めたらいけないという典型(?)例 :2015/11/14(土) 18:00:13 f5639Kgg
上条は「はぁはぁ」と荒い息を吐きながら、虚ろな瞳で天井を見上げていた。
体は熱く動悸も激しい。汗ばんでいるせいで、制服が張り付き気持ちも悪い。
咳とくしゃみと鼻水が止まらず、吐き気もする。これは勿論。

「…100パー風邪ね。お医者さんには行ったの?」

体温計を見ながら美琴が言う。
39度3分。どうやら上条は、たちの悪いウイルスにやられてしまったらしい。

「ぜぇ…ぜぇ……ざっぎ行っでぎだ……第七学区の…ゲホゲホッ! いづもんどごの…」
「ああ。ゲコ太先生の所ね。ってか、すごい鼻声ねアンタ」

美琴の中では、カエル顔の医者はゲコ太先生として認識しているようだ。

「薬…貰っだがら……先生は…一応入院じでげっで言っでだげどへ…へ……
 へっくしょいっ!!! う〜、寒っ! 入院ずる金なんで無いがら断へ…へ……
 へっ!!! …………あ〜、もう! ぐじゃみ途中で止まっだよ気持ぢ悪りぃ!」
「……意外と余裕あんじゃないの」

さて、ここらで状況を説明させて頂こう。
ここは美琴の部屋…つまりは常盤台中学学生寮・208号室だ。
朝から尋常じゃないくらい体がダルかった上条は、先に上条本人が言ったように、
冥土帰しのいる【おなじみの】病院まで行って診察してもらった。
冥土帰しも風邪だとは言っていたが、しかしまだ熱が上がるだろうとの事だったので、
彼は今夜だけでもと入院を勧めた。だが万年金欠の上条には、風邪如きで入院する金など無い。
そこで薬だけ貰って自分の寮へと帰ろうとしたのだが、その矢先に力尽きて倒れ、
そこをたまたま通りかかった美琴が、自分の寮まで運んだ…という経緯で、現在こうなっている。
ちなみに、ルームメイトの白井は今ここにはいない。美琴の携帯電話に、
『本日は風紀委員の強化合宿がありまして、申し訳ありませんが帰宅できませんの。
 お寂しいでしょうが、黒子の使用済み下着を置いておきますので、
 それを黒子だと思ってクンカクンカしたりペロペ』
というメールが入っていたので、少なくとも明日にならなければ帰ってこないだろう。
ついでに言うとメールが途中で途切れたのは、美琴が最後まで読まずに消去したからである。
そして置いてあった白井の使用済み下着は、とっとと洗濯機の中に放り込まれた【なげすてられた】。
本来ならば上条が住んでいる学生寮に電話して、居候組【インデックスやオティヌス】に連絡を取るべきなのだろうが、
せっかくの二人っきり、しかも確実に邪魔が入らないというこの貴重な時間を手放すのは惜しい。
故に美琴は、ちょっとだけ罪悪感を胸に秘めながら、上条を看病しているのである。

「う〜…服がベダ付いでマジで気持ぢ悪い……ぢょ、脱ぐわ」
「ぬぬぬぬ脱ぐって! 脱ぐってえええええ!!!」

しかし美琴は、看病というビッグイベントを舐めていた。
上条はベッドから上半身だけを起こし、汗でびっしょりになった制服を脱ぎ始めたのだ。
普段は上条がラッキースケベを体験する側なのに、この特殊な状況ではそれが逆になる。
美琴は両手で自分の顔を覆いつつも、指と指の間はしっかりと開き、
見ないフリをしながらも上条の半裸姿をしっかりと見ている。
だが次の瞬間、美琴はわざわざ指の隙間から覗かなくても、ガッツリとその姿を凝視する事態となる。


922 : これが風邪を舐めたらいけないという典型(?)例 :2015/11/14(土) 18:00:49 f5639Kgg
「……ごめん美琴…ぢょっど体を拭いでぐれるどありがだいんゲーッホゲホゲホ!」
「みゃうわっ!!?」

まさかの汗拭きイベント発生である。このままではヘブン状態になること請け合いだ。

「こここ、こ、こう、かしらっ!!?」
「うー…ありがど…」

なのに、やるっていうね。
美琴はすぐさま乾いたタオルをタンスから取り出し、上条のその大きな背中を優しく拭いていく。
看病の範疇なのだから仕方ない…そう自分に言い聞かせ、自らの羞恥心と戦いながら。
だがここで、美琴はとんでもない事に気付く。

「っ! ま、ままままさか…まさか前もっ!!?」
「……いや、流石に前は自分で拭げるがらいいよ」
「あ、あぁそう…」

露骨にガッカリする美琴。どんだけ上条さんの胸板をふきふきしたかったのか。
しかし汗でびっしょりに濡れた上条のワイシャツを眺めると、再び疑問が浮かび上がる。

「……ねぇ、着替えどうするの? 制服【これ】はもう、洗わないと着れないし」
「…あっ! ゴホッ! ぞうだっだ…」

上条は病院の帰りにぶっ倒れた。つまり着替えなど持っている訳がない。
残念だが、ここはやはりインデックスに連絡して、上条を引き取ってもらうしかないか…
と美琴が思った瞬間だった。上条の口から、とんでもない発言が飛び出してくる。

「…本当に悪いんだげど、ぞの……美琴のバジャマ貸じでぐんない…?」
「ま゛っ!!!!!」

予想外すぎる提案。
確かに、二人は致命的に身長差がある訳ではなく(上条は168㎝、美琴は161㎝)、
パジャマなら多少はダボっとしているし、美琴の胸も……その、なんだ。
どちらかと言えば『男性に近い』ので、少しきついのを我慢すれば上条でも着られるだろう。
だが、当然ながらそれはかなり色々とギリギリである。
熱で意識がもうろうとしているのかは知らないが、どうやら冷静な判断が出来なくなっているようだ。
普段の上条ならば、まず間違いなくしないであろう発言である。
美琴も美琴で、いくら相手が意中の人であろうとも、流石にパジャマを貸すなんて事は

「お、おお、おき、お気に入りの奴なんだから、だ、だ、大事に着なさいよね!」

ああ、うん。どうやらこちらも冷静な判断が出来ていないご様子だ。
美琴は件の花柄パジャマを上条に差し出す。本当に、いいのかそれで。
そして上条は何の疑問も持たずに着替える。やはり少々サイズは小さいが、着れない事はない。
ついでに美琴はワイシャツだけでも軽く洗濯しようと洗濯機に持っていくが、
その道中、たっぷりと上条の汗【におい】が染み込んだワイシャツを、

「……すん…♡」

と嗅いだとか嗅いでないとか。もう一度言う。本当に、いいのかそれで。


 ◇


「う〜…頭いでー…体だりー……」

花柄パジャマに身を包んだ上条は、
その情けない姿のまま横になっているが、一向に熱が引く気配はない。

「お薬飲んだ方がいいんじゃない?」

そう言いながら、美琴は上条の学生鞄から、今日貰ってきたという錠剤を取り出す。しかし。

「あー…これ食後に飲む奴だわ。今おかゆ作ってるから、飲むのはそれ食べた後ね」
「……食欲どが全然ないんでずが…」
「駄目よ! ちゃんと栄養取らなきゃ、治るもんも治らないわよ!?」
「ぞんな事言っでも……へ…へっくしょん!!!」
「あ〜あ〜、もう。大人しくしてなさい? 私が食べさせてあげるか…ら…?」


923 : これが風邪を舐めたらいけないという典型(?)例 :2015/11/14(土) 18:01:27 f5639Kgg
言いながら、その意味に気付く美琴。食べさせてあげるというのは、つまり。

「あ…あ〜んで食べさせろって事おおおおおお!!!?」
「ずんまぜん…お手数おがげじまず……」

お約束である。
そして美琴はポワポワとしている間に、おかゆが完成した。

「ほ、ほほほ、ほら! ちゃ、ちゃちゃちゃんと、フ、フーフーもしてあげたわよ!
 と、ととっとと食べべなさいよっ!」

レンゲに一口分の卵粥を装い、フーフーして冷ました後、上条の口元へと近づける。
これも上条に薬を飲ます為である。別に好きでやってる訳じゃないんだからね、である。
しかしここで、本日何度目かも分からないアクシデントが起こった。

「うー……うー……」

上条が本格的に、熱に浮かされ始めたのだ。
これはマズい。一刻も早くおかゆを食べさせ、そして薬を飲まさなければ。

「これ! ちゃんとこれ食べて!?」
「うー……あー……」

上条の口に、無理矢理おかゆを流し込む美琴。

「…どう? 美味しい?」
「あー……かゆ…うま…」

おそらく「おかゆ美味い」と言っているのだろうが、
何だかどこぞのゾンビの日誌のようなうわ言になってしまった。
しかも飲み込む力がないのか、おかゆは上条の口から零れ落ちてしまう。

「ど…どうしよう…ちゃんと食べないといけないのに……」

これは困った。困ったが、打開策がない。
無理なく上条の口におかゆを流し込み、そして口から零さないように食べさせる方法。

「っっっ!!!!!」

いや、一つだけある。そして美琴もその方法に気付いてしまった。
だが本当にやるのか。やってしまっていいのだろうか。
そんな事は考えている暇はない。上条は刻一刻と、悪化の一途を辿っている。
あの冥土帰しが入院を勧める程、上条の容体は悪いのだ。だから―――

「……あむ…」

美琴は自分で作った卵粥を、上条…ではなく、『自分の口』に放り込む。そしてそのまま―――

「んっ…ちゅ」

直接、上条の口に流し込んだのだった。
恥ずかしいとか言っている場合ではなかった。ファーストキスとか言っている場合でもなかった。
意外とコイツの唇って柔らかいのねとか、なにこれドキドキしすぎて死んじゃいそうとか、
治ったら責任取んなさいよバカとか、もっとチューしたいとか、言っている場合でもなかった。
そしておかゆを食べさせ終わったら、同様の手順で薬も飲ませるのであった。


 ◇


数日後、美琴の看病のおかげか上条はすっかり全快していた…のだが。

「…100パー風邪だな。医者には行ったのか?」
「ぜぇ…ぜぇ……ざっぎ行っでぎだ……第七学区の…ゲホゲホッ! いづもんどごの…」

しかし今度は、美琴がたちの悪い風邪を引いてしまっていた。
どうやら上条の菌が移ったらしい。
その原因の心当たりなら、めっちゃある。しかもドデカイ奴が。
もっとも、熱に浮かされていた上条には、その時の記憶はないだろうが。

…と、美琴は思っていたのだが。

「あ…そ、その……それで、さ。俺も口移しでお薬とか飲ませた方がよござんすかね…?」
「ゲーッホゲホゲホゲホ!!! なっ! ななな、アン、アンタ何で覚えゲーーーッホ!!!」

美琴の熱が急激に上がったのは、言うまでもない。


924 : くまのこ :2015/11/14(土) 18:02:12 f5639Kgg
以上です。
ではまた。


925 : ■■■■ :2015/11/14(土) 19:58:52 khC6s/y2
>>924
早ぅとは言ったもののホントに早! ありがとうございます!!

つまり粥と薬と水で3回は口移しした訳ですねミコっちゃん……もっとしてもいいのよw
上条さんももの覚えがよくなったもんだ
ウィルスがリレーするかもだけど免疫あるから大丈夫だよね(そうか?)


926 : くまのこ :2015/11/17(火) 22:02:29 XXztsf8Y
また連投になります、すみません。
支部でリクを受けたので、
ミコっちゃんが裸ワイシャツで濡れ透けになる短編を書いてみました。
エロスレに出す程ではありませんが、ちょっとエッチぃのでお気をつけください。
約3分後に4レスです。


927 : 部屋とYシャツと私…とアンタ :2015/11/17(火) 22:05:17 XXztsf8Y
御坂美琴は、今まで味わった事のないくらいにドキドキしていた。

恋人となった上条から、「今日、俺んちに遊びに来ないか?」とメールが来たのは今朝の事だ。
インデックスは必要悪の教会から呼び出されてイギリスへと一時帰国。
しかも呼び出された内容というのが魔神に関する事らしく、
必然的にオティヌスも付いて行く事となった。そして主【インデックス】と餌【オティヌス】が行くのなら、スフィンクスも付いていく。
つまり今日は二人っきりになれるチャンスなので、上条は美琴に自室デートの誘いをしたのである。

不幸な上条の寮部屋らしく、色々とトラブルには見舞われた。
例えば突然浴槽が壊れたり、上条が洗濯物を外に乾かしていたら、
突然のゲリラ豪雨が降って洗濯物が全てダメになったり。
しかしそんなこんながあって、今現在、時刻は23時36分。
美琴はそろそろ帰らなければならない時間である。
だが美琴の方にも上条の不幸が伝染ったのか、彼女にもトラブルが舞い込んだ。
白井からメールが来て、今から帰ってくると確実に寮監にバレるとの情報。
翌日の早朝ならば流石の寮監も寝ているだろうから、
帰ってくるならそのタイミングが良いとの事だった。さて、ではここからが問題だ。
早朝まで、美琴はどうやって時間を潰せば良いのだろうか。
漫画喫茶、カラオケボックス、ビジネスホテル…当ては色々とあるがしかし、
上条が提案したのはそのどれでもなかった。
そしてそれこそが、冒頭で美琴がドキドキしている理由なのだが。

(お、おおおおと、お泊りって!!! そ、そんな、いきなりそんな!!!)

つまりはそういう事である。
だがそれだけではない。浴槽は壊れたが洗い場は普通に使えるのでシャワーを浴びたのだが、
先に説明した通り洗濯物は全てダメになり、もう一度洗う事となった。
美琴もお泊りセットなどを持っている訳もなく、つまりは着替えが無いのである。
上条はタンスというタンスをひっくり返し、何か着られる物がないかを探した。
すると一枚だけ残っていたワイシャツを発見する。
緊急事態なので美琴はそのワイシャツを着る事となったのだが、
裸ワイシャツにお泊り。これはもう何と言うか、アダルティな展開の臭いがプンプンする。

(いいい、いや、で、でも当麻だって初めてのお泊りでそ、そんな事とかしないと思うし…
 ……あっ…ワイシャツから当麻の匂いがすりゅ…♡
 って! トリップしてる場合じゃなかったわ! だだ、大体私にも心の準備が…
 ……あっ…何だか当麻の温もりとか感じる気がしゅりゅ…♡
 って! だから変な事考えてる場合じゃないんだってば! そ、そもそも私はまだ中学…
 ……あっ…よく見たらサイズ大きい…やっぱり男性なんらりゃ〜…♡)

…この状況を楽しんで頂けているようで、何よりである。と、そこへ。

「美琴さ〜ん? 着替え終わりましたかね………って、うおっ!!?」

美琴が着替えている最中、覗かないようにトイレに引きこもっていた紳士【ヘタレ】な上条だが、
着替える時のガサゴソ音がやんだので、そっとトイレのドアを開けてみた。
すると確かに着替え終わった美琴がそこにいたのだが、素肌に直接自分のワイシャツを着る彼女…
という男なら誰しも一度は夢見たシチュエーションを目の当たりにして、一気に顔を紅潮させた。
今の美琴の姿を一言で表す言葉を、上条は頭の中で瞬時に導き出す。

(エ……エロいっ!!!)

それは「可愛い」でも「美しい」でもなく(それらの言葉も含まれてはいるが)、「エロい」である。
当然ながら美琴は下着を着けていない。着替えは持ってきていないし、
シャワーを浴びる前に身に着けていた下着を、シャワー後にも着けるのは着心地が悪い。
なのでノーブラ&ノーパンである。つまりワイシャツを少し上に捲るだけで、
破壊力抜群の「そーれぴらーん(© 絹旗)」が拝めてしまうのだ。

「え…えっと、ど、どう…かな…?」
「……えっ!? あ、いやその…た、大変似合っているのではないかと思われますです…」


928 : 部屋とYシャツと私…とアンタ :2015/11/17(火) 22:05:54 XXztsf8Y
美琴に感想を聞かれたが、素直に「今すぐむしゃぶりつきたくなる程エロいッス!」なんて、
言える筈もなく、しどろもどろに「似合っている」と返事をする上条。それもウソではないが。
美琴はワイシャツの裾をギュッと握り、顔を「かあぁ…」と赤くさせて、

「あ…ああ、あり、ありが…と……」

とモジモジしながらお礼を言う。上条は心の中で、

(何なんですかね……この可愛すぎる生き物は…)

と思いつつ、このままでは負けてしまいそうな理性を孤軍奮闘させる為、洗面所の冷水で顔を洗った。
真夜中に出歩かせたらスキルアウトに狙われて危ないからとの理由で、美琴に宿泊を勧めたのに、
このままでは自分自身がスキルアウトのように美琴を襲ってしまいそうだ。エロ同人みたいに。
冷水如きで完全に冷静さを取り戻せる程、今の状況は楽観視出来ないが、
それでも多少頭を冷やす程度の役目にはなる筈である。

「よ、よし! じゃあそろそろ寝るか!」
「えっ!? あ、あぁ、うん……そ、そそ、そうよね。明日は早く起きなきゃなんないし」

美琴は早朝に起きて、寮監が寝ている隙に帰らなければならない。
街の不良共【スキルアウト】が活発に活動するのは、大体深夜の0時〜4時くらい(のイメージ)だ。
5時に起きて上条の部屋を出るのがベストだろう。6時になったら寮監が起きる危険性も出てくるし。

「じゃあ、美琴はこのベッド使ってくれ」

言いながらベッドメイキングをする上条。
このベッドはいつも、インデックスが寝ているベッドである。
だが今日はそのベッド主がイギリスに行っている為、美琴が寝る事になるのだが、しかしそうなると。

「…? 当麻はどこで寝るのよ」
「俺はいつも通り、浴槽に布団敷いて寝るけど…」
「なっ!? そんなのダメよ! 浴槽壊れててヒビが入ってるんだから、危ないじゃない!」

そうなのだ。突然浴槽が壊れたと説明したが、それは給湯器が…ではない。
そもそも、給湯器が壊れていたのならシャワーだって浴びられないし。
文字通り、「浴槽」その物が壊れたのである。
何がどうなってどんな不幸が働いてそうなったのかは分からないが、
上条家の浴槽は本日、地割れしたかのようにバックリを裂けてしまったのだ。

「大丈夫だろ、上に布団敷くんだし。そりゃ直接寝たら危ないかも知れないけどさ」
「布団の上からだって充分に危ないわよ! 万が一、怪我とかしたらどうするの!」
「そんな事言われてもなぁ…」

心配してくれるのは嬉しいが、現実問題、他に寝る場所がない。
リビングで寝るという手もあるが、その場合はベッドと布団の間にテーブルを置くなどして、
バリケードを作らなければならないだろう。高校一年生の性欲を舐めてはいけない。
美琴の為に。そして上条が、自分自身を抑制する為に。……と、思ったのだが。

「ってか、布団はどこにあるの?」
「あー、ヤベェ。まだベランダに干しっ放しだ…った…? ……………あ」

そこで上条は気がついた。ゲリラ豪雨で、洗濯物が全てダメになった事を。
洗濯物がダメになる程の雨で、布団だけが無事だったなんて奇跡は有り得ない。
それが不幸体質の権化である上条ならば、尚更の事である。
となると、上条は今夜は布団無しで寝なければならなくなる。
えげつない程に水を吸って、びっしょびしょに濡れた布団に包まって眠る訳にもいかないし。

「…しゃーねぇ。バスタオルでも敷いて寝るか」

そう上条が呟いた瞬間だった。美琴から、まさかの提案。
それはちょっとした仕返しだったのかも知れない。
上条に「ウチに泊まってけ」と言われ、ドキドキさせられた美琴の、ちょっとだけ勇気の要る復讐。

「……じゃ…じゃじゃあっ!!! い、いい、いしょ、一緒に寝ればいいじゃないっ!!!」
「ほわっつ!!?」

美琴からの大胆発言に、思わずなんちゃって英語で聞き返す上条。
一緒に寝るという事はつまり、一緒に寝るという事である。それ以上でも、それ以下でもない。
…いや、『それ以上』はあるにはあるが、上条はそうならないように欲望と戦ってきたのに、
このまま一緒に寝てしまったら、『それ以上』の事に対する我慢が限界を迎えてしまう。
ちなみに限界を迎えたらどうなるのかは、オリアナ姉さん辺りにでも聞いて頂きたい。


929 : 部屋とYシャツと私…とアンタ :2015/11/17(火) 22:06:23 XXztsf8Y
「だ、だって…ふ、布団無かったら、か、風邪引いちゃうかも知れないじゃない…
 このベッド、つ、詰めればもう一人くらい寝られそうだし…だ、だから、その…」
「わっ! 分かった、分かったよ! だからそんな泣きそうな顔すんなって!」

提案したはいいが、やはり後から羞恥心が込み上げてきたらしく、
美琴は恥ずかしさのあまり目にうっすらと涙を溜め始めていた。
本来はここで、一緒に寝る事を断固拒否しなければならない上条なのだが、
これ以上断ると美琴の中で何かが決壊して、本当に泣いてしまうかも知れない。
なので上条は二つ返事で、美琴とベッドインする事を了承するのだった。

(う〜…息子よ、今日だけは元気にならないでくれよ…?)

そんな事を思いながらベッドのヘッドボート(オティヌスの寝室として取り付けたらしい)に、
水の入ったコップを置く上条。それよりも上条には息子などいない筈だが、
詳しい説明を聞きたい人はオリアナ姉さん辺りにでも以下略。

「…? このお水、何なの?」
「ん? ああ、加湿器代わりにしようと思ってな。
 この時期、乾燥とかが気になるだろ? でも上条さんには加湿器なんて買う余裕は無い訳ですよ。
 けどこの前『寝るときに水が入ったコップを枕元に置いているだけでも加湿効果がある』
 ってテレビでやってたから、試してみようと思ってな。水ならタダだし」
「へぇ〜…そうなんだ」

加湿器くらい私が買ってあげるのに…と思った美琴だが、
そこへ踏み込むと上条の男としてのプライドをズタズタにしてしまいそうなので、止めておいた。

「それに…」
「それに?」
「…あっ! いや、何でもないであります…」

何でもなさそうな上条の態度。明らかに何かを言いかけていた。
言うのを止めた上条の台詞を代弁すると、
「それに今日は、喉がカラカラになる夜を過ごさなけりゃならないからな」である。
裸ワイシャツの美琴と一緒のベッドで一夜を共にする。しかし手を出してはならない。
この拷問に耐えるには、コップいっぱいの水だけでは心もとないくらいだ。
下手をすれば、喉が渇きすぎて加湿器【コップ】の中身を直接飲んでしまうかも知れない。
それくらいの覚悟で臨まなければ、上条は己の中のオオカミに打ち勝てないだろう。
いくら幻想殺しでも、欲望という感情は消えてくれない。
それは幻想ではなく現実だから。更に言えば、動物しての本能なのだから。
…今更だが、「とっとと襲っちゃえばいいじゃん」というツッコミなナシである。
上条さんもミコっちゃんを大切に想っているからこその我慢なんだから。

「そ、それじゃあその……お、おやすみ…」
「お、おう。おやすみ…」

二人は一緒のベッドに入り、部屋の電気を消す。
視覚が奪われた分、他の五感が無駄に研ぎ澄まされてしまい、
お互いの匂い、呼吸する声、触れ合う感触、味(!?)がハッキリと伝わってしまう。
…いや、すまない。味は流石に言いすぎだった。しかしそれくらい密着しているのは確かである。
心臓がバクバクする。こんな状態で眠るのは、やはり不可能で、上条も美琴も目をギンギンに

「…すー………すー………」

してはいなかった。美琴、まさかのご就寝である。
どうやら上条の部屋に入ってから、ずっと緊張しっ放しだったらしく、
ベッドに横になった事でその疲れが一気に押し寄せてきたようだ。
だが残されたもう一人、上条は血の涙を飲む羽目となる。
何しろこちらが手を出せないこの状況で、美琴が寝惚けて抱き付いてきたり、
ふとももを絡ませてナニに当たってきたり、頬を撫でてきたり、寝息が首筋にかかったり、
寝相でワイシャツがはだけたり、その際に胸元が見えてしまったり、その胸を押し付けてきたり、
毛布と掛け布団で見えないが中ではミコっちゃんの秘密の部分が丸出しになっていたり、
可愛らしい唇から「当麻ぁ…中はダメ…♡ ………むにゃ」なんて意味深な寝言が出てくるから。
もう一度言うが、この状況でこちらは手を出せないのだ。これを不幸と言わずに何とする。


930 : 部屋とYシャツと私…とアンタ :2015/11/17(火) 22:06:56 XXztsf8Y
(だあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

上条は心の中で絶叫した。己の中の何かを発散させる為にである。
本当は直接叫びたいところだが、美琴が起きちゃうしご近所の迷惑にもなるので我慢する。
だがそんな上条の苦労も虚しく、美琴はここぞとばかりにトドメを刺しにくる。

「んっ…ちゅむ♡」
「うわわわわっ!!?」

どんな幸せな夢を見ているのかは知らないが、突然美琴が上条の顔を抱き寄せ、
耳たぶを甘噛みしてきたのだ。これには上条、堪らず声を漏らしてしまう。と同時に飛び起き、
その衝撃でヘッドボートに置いてあったコップが、ガタンと音を立てて倒れてしまった。
当然、中の水は零れ、その下で寝ている美琴に直撃する。

「んやっ!? 冷たっ!」
「す、すまん美琴っ!」

文字通り寝耳に水を食らった美琴は、レム睡眠から一気に目覚めた。
あまり心地の良い目覚め方とは言えない。

「やだ〜…なにこれ、びしょびしょ〜……」
「わ、悪い! すぐに拭く物持ってくるか…ら…?」

とタオルを持ってこようとした上条だったが、ふと動きが止まった。
その一点に、目を釘付けにしながら。部屋の電気を消しているのでハッキリは見えないが、
水に濡れた事によりワイシャツはピッタリと肌に張り付き、下着も着けていない為、
その胸の二つの突起物【ぽっち】も、薄っすらとだが見える。上条、前屈みである。
ちなみに残念だが、肝心の下半身の方は毛布と掛け布団に阻まれて見えない。不幸である。
だが上条の不幸はそれで終わりではなかった。

「ん〜…濡れてて気持ち悪い……」

そう言いながら、美琴がおもむろにワイシャツを脱ぎ始めたのだ。どうやらまだ寝惚けているらしい。
上条は一瞬「いいや! 限界だ押すね!(押し倒す的な意味で)」と言いそうになったが、
ギリギリで踏みとどまり、自分の着ている服を脱いで美琴に渡す。

「そ、そそそ、それ着て寝なさい! それと上条さんはトイレで寝るから! おやすみ!」

上条はドキドキしまくっている心臓を押さえながら、ベッドから離れる。ヘタレである。
結局上条は、朝まで便座に座って夜を過ごす事にしたのだが、
こんな興奮状態では一睡も出来る訳がなかった。だが不幸中の幸いとでも言うべきか、
ここはトイレなので、元気になりすぎた息子を大人しくさせる事は出来たのである。
意味が分からない人はオリアナ姉さん以下略。


 ◇


朝である。5時頃、丁度美琴が起床したタイミングで、
心配になった白井が空間移動を駆使して迎えに来たのだが、
部屋の惨状を見られて、それと同時に上条は殺されかけた。
しかし自分が清廉潔白である事を(白井の攻撃から逃げながら)説明したので、
何とか生き延びられたのである。

「あ〜…今日は干す物が多いなぁ……」

そして現在は7時半。上条は洗濯物をベランダに干している。
だが二組の布団…上条が普段寝ている、ゲリラ豪雨にやられてしまったせんべい布団と、
昨夜に水を零してしまったベッドの布団を、ベランダの手すりにかけたその時に、
ふいに隣部屋の土御門とサングラス越しに目が合った。
土御門は部屋の窓から顔を出し、ニヤニヤしながらこちらを見ている。

「な…何だよ?」

嫌な予感がしつつも、聞かなくてはならないだろう。土御門が妙に悪い笑顔をしている理由を。

「いや〜…この寮ってボロいから、隣の部屋との壁が薄いだろ?
 だから夜中に騒いだりすると、丸聞こえしちゃうんだよにゃー。
 つまりカミやんが昨日どんな事をしてたのか、大体は理解してるつもりだぜい」
「っ!!? ちょ、ちょっと待てよ! 言っとくけどそれは誤解―――」

この流れはマズイと思った上条は、間違いなく間違っているであろう土御門の認識を正そうとする。
しかしその前に、土御門はこんな時に言うお馴染みの言葉を口に出すのだった。

「カミやん…『 ゆうへ゛は  おたのしみて゛したね 』」


931 : くまのこ :2015/11/17(火) 22:08:34 XXztsf8Y
以上です。
言い忘れていましたが、
恋人設定になっているので、
上条さんの呼び方が「アンタ」じゃなくて「当麻」になってます。
ではまた。


932 : ・・・ :2015/11/22(日) 11:08:41 EsuvgPYQ
ども、・・・です。

もうすぐ12月ですね。
みなさん、クリスマスの予定はいかがですか??
私は会社の仕事納めとここにSS投稿です。
……なにか?


くまのこさん
〉〉3つめの9月30日事件
いつにもまして白井の登場頻度が多い理由はこれだったか。
正直デートが超電磁砲で描写されないのは残念でしたな。
美山くん、なんで黙っていてくれなかってん。
しかし、次の年には周囲にとって「どうでもいい悩み」を彼女は拡散し続けるのだった。


〉〉あなたの風邪はどこから?
私は、心がドキドキと(それ風邪と違う)
風邪はうつすと治るらしいが、恋はどうなんでせう?
悪化の一途をたどりそうだね。
少なくともシーツもパジャマもしばらく洗ってなさそうですな


〉〉ご両者昨夜はお楽しみだったようでなにより
幸せが多すぎると不幸になるっていうよね
もう外堀はなくなったじゃん。じゃあやることやれや
わからないならオリアナ先生にレクチャーしてもらいなさい
式にはちゃんと呼ぶように



さてさて、今日は何の日??
上琴の日
それでは


933 : ・・・ :2015/11/22(日) 11:09:27 EsuvgPYQ
今回お話を伺うのは、上条当麻さん、上条美琴さん夫妻です!!

当「ども」

美「よろしくお願いします」

学園都市、いや、世界でも有名なお二人に、夫婦円満の秘訣をお聞きしたく思います。

当「へ? そんな企画なの?」

美「……人選ミスな気が……」

それでは当麻さん、お二人の出合いをお聞かせください。

当「……もう記憶にありません」

え? えーっと……。

美「あ、わ、わたしを不良から助けてくれたんです」

当「あぁ、そんなこと言ってたなぁ」

美「ちょろーっと黙っててー」

……あの、超能力者の第3位をわざわざ助けたんですか?

美「いらないってのにねー。ま、このお題パス」

へ? あ、はい。
では、どちらが先に惚れちゃったんですか?

当「美琴だよな」

美「ぐっ」//////

ほー!!
あの超電磁砲が!!
きっかけはなんだったんです!!?

当「……」

美「……」

あ、あれー?

当「わるい、話せないんだ」

なるほどー、お2人だけの秘密なんですね!!
現在、当麻さんは海外でご活躍中ですが、やはり当時からデートもグローバルだったんですか??

当「……当時の……海外……」

美「お互いろくな思い出ないわね」

え、えーっと…。
こ、国内なんですね!!
学園都市の高層ビルで、夜景を肴に乾杯とかですかー!!

美「あの実験も、黒子の件も、夜の出来事だったわね……」

当「自転車逃亡中も最終的には夜になりましたね……」

あ、あれーー??
あれれーー??
あ、な、馴れ初めはそのくらいにして、プロポーズはどちらからだったんでしょう?

当「ん? オレからだ。『これから先もずっとお前の世界を守らせてほしい』ってな!!」

美「なにいってんのよ? 『当麻と同じ道を隣で歩ませてください』ってわたしからいったんじゃない。当麻はその後よ」

当「いやいや、オレが先だって」

美「いやいやいや」

当「いやいやいやいや」

美「あ?」

当「おう?」

は、はい!!
では美琴さん!!
素敵な旦那さんの条件とはなんでしょう!!?

美「ん? そりゃーもう、頭がよくって、気が利いて、他の女に目移りせず、ツンツン頭じゃなければなおよし!!」

当「おい」

美「なによ」

当「誰かをご指名かい?? 取り敢えずオレは他の女に目移りなんてしてねーけどね!!」

美「ふーん。どっちも気のせいでしょ?」

当「アン?」

あっ!!
あー!! 当麻さん!!
素敵な奥様の条件はなんでしょう!!?

当「金銭感覚が普通で、少女趣味じゃなく、ビリビリしない人で即決」

美「おいコラ」

当「誰か心当たりがおありで? その旦那さんかーわいそー」

美「ビリビリって一人だけじゃねーか」

当「へー、知らないけどその旦那さんって不幸だなーー」

美「おくじょう」

当「じょうとう」

ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!
あ、くそっ!! 企画倒れだ!!
バカップルって話だったのに!!
なんであんたら結婚したんだよ!!!!

「「素敵な旦那(奥様)の条件じゃなくて、オレ(わたし)の相手の条件は美琴(当麻)なの!!!」」

……。


934 : ・・・ :2015/11/22(日) 11:10:09 EsuvgPYQ
〜♪
この番組はロードサービスアイテムと、ご覧のスポンサーの提供でお送りしました




「ほらー、やっぱり人選ミスじゃない。ぐだぐだじゃん。はい、あーん!!」

「あーん。モグモグ。まったくだ、オレ達のどこがバカップルだよ?」

「ホントよ。他にいっぱいいい例はあるのに」

「浜面夫妻とかな。しかし美琴が作った料理はうまいな」ナデクリ

「えへへー、もっとなでて〜♪」ナデラレ
























「「麻琴は食べないの?」」

「アンタらのその幻想をぶち殺す!!」


935 : ・・・ :2015/11/22(日) 21:12:22 EsuvgPYQ
おお、以上でした
忘れてた


936 : くまのこ :2015/11/23(月) 23:31:58 WVIhOKG2
>>・・・さんGJです!
この二人が両親だと、この手の気苦労が絶えませんなぁ…w
頑張れマコッちゃん。君のパパとママは永遠にイチャイチャするからw



お題ったーで診断した6つのテーマを短編に入れて書いてみました。
恋人設定です。
約3分後に2レス使います。


937 : だって冬って人肌恋しくなる季節だから :2015/11/23(月) 23:35:03 WVIhOKG2
冬。木々の葉は枯れ落ち、冷たい風が人の心も体も凍えさせてしまうこの季節。
しかしここにいる上条と美琴は、周りの空気とは対照的に心がポカポカしていた。
そう、まさに二人の周りだけ、ほんの少し早い春が来ているかのようにである。

「…ねぇ、明日のデートどこ行く?」
「ん〜、そうだな。俺的には美琴と一緒ならどこでもいいんだが」
「もう! 先週もそんな事言ってたじゃない!」
「うっ…! い、いやでも本当の事だしなぁ…」

別々の学校に通っている(しかも片方は高校、もう片方は中学)のに放課後は待ち合わせをして、
わざわざ一緒に下校していて、しかもこんな甘々な会話をしているこの姿を見れば、
理解して頂けると思うが、この二人はお付き合いをしている。所謂、恋人関係というヤツである。
(もっとも、付き合う以前から放課後デートはしていたようだが)
まだ付き合って3ヵ月の新米カップルではあるのだが、
それまでの友達以上恋人未満期間が長かった為、トータルではそれなりにベテランだったりする。
なので本来は鈍感…いや、今でも鈍感なのは変わらない上条だが、
こと美琴に関する事は多少改善されつつある。例えば。

「…お? そのヘアピン新しいヤツだな、可愛いじゃん。買ったのか?」

このように、美琴のちょっとしたオシャレに気付ける程度には、進歩していた。
そして美琴は、気付いてくれた事と「可愛い」と褒めてくれた事に、
「えへへぇ〜」と無邪気な笑顔を作りながら答える。

「うん、昨日買ったの。…だってアンタに見せたかったんだもん♪」

可愛い彼女が可愛い顔して可愛い事を言ってくる。
そんな嬉しい事を言われてしまったら、上条だって負けてはいられない。気付けば上条は、

「っ!? えっ、あ、ちょっ!? ……あっ…ふあ…」

いたずらに美琴の頭を撫でていた。
突然の事で最初はビックリした美琴だったが、気持ち良かったのかすぐに顔をとろんとさせてしまう。
そんな美琴の様子に、上条はすぐさまハッとして手を離す。

「う、うわゴメン!」

いつも美琴から「子供扱いすんな!」とビリビリを飛ばされている上条は、
今回も不機嫌な思いをさせてしまったのではないかと焦った…のだが、
当の美琴本人は何故か手を離されてしまった事で少し寂しそうな顔をしていた。

「……あれ? ミコっちゃん、もしかしてもっとナデナデしてほしかったとか?」
「……えっ!!? そ、そそそ、そんな訳ないでしょ!?
 た…ただちょっとその………そ、そう! アンタの手が大きかったな〜って思っただけよ!」

付き合ってからは徐々に素直な性格になってきた美琴だが、元々はツンデレ畑の出身者だ。
このように、たまにその時のクセが出てきて誤魔化してしまう。
本当は上条に言われた通り、もっとナデナデしてほしかったのに。
だが上条はそのままの意味で受け取ったらしく、
美琴の頭から離した自分の手をまじまじと見ながら首を傾げる。

「…? そんなに言う程デカくはないと思うけどな……ほら」
「んひゃっ!?」

言いながら上条は、今度は自分の手のひらと美琴の手のひらを合わせて大きさ比べをしてきた。
寒さで冷たくなっている手と手を合わせた事で、美琴は思わず「んひゃっ」と変な声を出してしまう。

「な? こうして比べてもそんなに変わんねぇだろ?
 …まぁ、女の子である美琴の手よりは若干大きいかも知れないけど」
「…あっ、う、うん。そう、ね。うん」

返事はしているが、あまり上条の言葉は耳に届いていないようだ。
何故なら手と手を重ねてから、寒くて白かった美琴の顔に、どんどん赤みが差してきているから。
それはもう、見ていて面白いくらいに劇的な変化である。
すると、上条のイタズラ心に火が付いたと言うかイジメっ子魂が湧き上がったと言うか、
とにかく、ふとこんな事を頭によぎらせてしまったのだ。

(今ぎゅってしたら、どんな顔するんだろう)

お気付きの者はお気付きかと思われるが、赤面したミコっちゃんはめちゃくちゃ可愛いのである。
手が触れ合っているだけでこの反応をするのなら、このままギュッと握り、
恋人繋ぎのように指と指を絡ませたら、今度は一体どんなリアクションが返ってくるのだろうか。
その時、上条はそんな事を思ったのである。GJである。
上条は合わせたままの手に力を入れ、美琴の手をギュッと握る。すると。


938 : だって冬って人肌恋しくなる季節だから :2015/11/23(月) 23:35:42 WVIhOKG2
「ぴゃっ!!? あ……ああぁ、ぁ……ぷしゅー…」

どんな顔をするのか、という問題の正解は、「ぷしゅー」だった。
「ボン!」と音を立てながら煙を出して、更に顔を赤くした美琴は、
顔を俯かせながらもしかし、握られた手を握り返してきた。
上条は改めて思う。俺の彼女、可愛すぎると。

(まぁ、こんな君に恋したわたくしが悪いんですがね)

心の中でそんな感想を述べつつ、名残惜しいが手を離す上条。
いつまでもこの甘酸っぱいストロベリー空間に浸っていたい気持ちはあるが、
忘れてはならない。この二人、まだ下校途中なのだ。
道端で延々とイチャイチャしている訳にもいかないのである。

「じゃあ、そろそろ本当に帰ろうぜ? 風も強くなってきたし」
「〜〜〜っ!」

人の気も知らないで、爽やか且つ暢気にそんな事を言い放つ上条。
だが美琴もやられっ放しで黙っている性格ではない。非常に恥ずかしいが、反撃の準備を整える。
具体的には、深呼吸して落ち着いてみたりとか。

と、その時だ。ビュウッ!と突風が二人を直撃する。
堪らず上条は「うおっ!? 寒いな!」と背筋を振るわせた。
ここだ。反撃のチャンスはここしかない。美琴は突然―――

んっ…チュッ♡

何故かキスをしたのだ。いきなり、何の前触れもなく。
一瞬何が起こったのか分からなかった上条だが、寒さで凍った頭が熱で解凍されると、
先程の美琴と全く同じように、見る見るうちに顔を茹で上がらせていく。

「えっ!!? な、ななな、何をしていらっしゃりますか美琴さんっ!?
 て、てか、手を握っただけであんなにテンパってたのにそんな急に大胆な……」
「わ、わ、わわわ、わた、私だって本気になればこれくらい出来るんだからっ!
 そ、それにアンタが寒いとか言ったから温めてあげたのよ! た、体温、上がったでしょ!?」

と言っている美琴も他人事ではなく、自分の体温が急激に上昇しているのだが。
とは言え確かに寒さも忘れてしまうくらいに熱くなってしまったのは事実だ。
しかし年上の上条としては、年下の美琴にイニシアチブを取られたままなのは何か悔しい。
なのでここは煽る事にした。

「へ…へぇ〜? 『この程度』がミコっちゃんの本気な訳ですか。
 上条さんなら、もっと効率よく温める事が可能なんですけどね〜!」
「んなっ!? そ、そこまで言うならやってみなさいよ!」

美琴は自分の決死の努力を「この程度」扱いされて、上条の思惑通りにまんまとカチンときてしまう。
この娘、基本的に気が短いので煽り耐性も少ないのだ。
だがだからこそ、上条からの更なる反撃も逃げずに立ち向かうのである。
上条は美琴のそんな性格を熟知している。計画通りに事が運んだ為、彼はニヤリと笑った。

「ほぉ〜、言ったな? 覚悟しとけよ」
「ええ、来なさんっぶっ!!!? んっ…! んぢゅ…ん! ………ん…ぁ…♡」

美琴が「来なさいよ」と言い終わるその前に、上条もキスをけしかけた。
ただし、美琴と同じソフトなキスでは芸がない。
上条はもう一段階上のキス…相手の口内に舌を挿入する、所謂ディープ・キスをしたのである。

「…っぶあっ! どどどどうだ! 言われた通りやってやったぞこんちくしょー!」

上条は心臓をバックンバックンさせながら唇を離した。
その場の勢いに任されたとは言え、流石にやりすぎたかな、と思ったのだ。
現に上条に無理矢理大人のキスをさせられてしまった美琴は、
目に薄っすらと涙を溜めて、上条の顔をキッ!と睨んでいる。

「うっ…!」

たじろぐ上条。これは父・直伝のジャパニーズDO☆GE☆ZAをするべきか…と思った矢先だった。
美琴の口から、思いも寄らない言葉が飛び出す。

「もぉ、止まらなくなっちゃうんだけど」
「……………へ?」

キョトンとする上条に、美琴は畳み掛ける。

「だから! あんなチューなんかされちゃったら、もう止まれなくなるって言ってんの!
 どうしてくれんのよ馬鹿っ! ちゃんと責任取んなさいよねっ!」
「え、あの、せ、責任って…?」
「だ〜か〜らぁ! こうしろってのよ! ……んちゅ…♡」

美琴は半分怒りながら上条に抱き付き、夢中で唇を重ねてきた。
二人は寒さなど忘れる程の、熱いキスを繰り返すのだった。

…道端で。


939 : くまのこ :2015/11/23(月) 23:36:51 WVIhOKG2
以上です。
いい夫婦の日ネタが浮かばなかったでござる…
ではまた。


940 : ■■■■ :2015/11/24(火) 23:31:01 dOh/YQIE
>お気付きの者はお気付きかと思われるが、赤面したミコっちゃんはめちゃくちゃ可愛いのである。

うん、知ってた


941 : くまのこ :2015/11/25(水) 23:50:21 6KXmjfMI
また自分でごめんなさい。
支部でリクを受けたので、上琴がハグしまくる短編を書いてみました。
前回同様恋人設定です。
約3分後に4レス使います。


942 : とある抱擁の懐石料理【フルコース】 :2015/11/25(水) 23:53:15 6KXmjfMI
[前菜・あすなろ抱きのテリーヌ]


美琴は時計をチラチラと見ながら、ひたすら約束の相手が来るのを待っていた。
待ち人である美琴の恋人は、その不幸体質が災いして(本人の意思とは関係なく)遅刻の常習犯だ。
なので美琴もデートで待たされる事は慣れているのだがしかし、
それでもやはり、ソワソワはしてしまうのである。

「……はぁ…遅いわね…」

そんな溜息を吐いたその時だった。

「だ〜れだ?」
「わきゃっ!!?」

突然、美琴の視界が真っ暗になる。そして、目の辺りがじわりと温かくなる。
誰だも何も声で丸分かりだし、そもそもレベル5にこんな事をやってのけるの命知らずは、
学園都市広しと言えども限られてくる。
例えば美琴のビリビリを無効化できる能力者とか、美琴が気を許している相手…つまりは恋人とか。
まぁ、そのどちらもではあるのだが。

「……随分とベタな事をしてくれるじゃない…」
「いや〜、やっぱり一度はやっておこうと思ってな」

悪びれもなくそう言ってきたのは上条だ。
しかし美琴は、遅刻したのに「ごめん」の一言もない上条に対して頬を膨らませる。

「あ、あれ? ミコっちゃん、もしかして怒っていらっしゃる…?」
「べっつにー!? アンタが時間に遅れるのは、いつもの事だしー!?」

やはり軽く不機嫌だ。女性が機嫌を損ねると大抵よろしくない事が起きるのは、
経験上よく分かっているので、上条はここで美琴のご機嫌を取りに行こうとする。

「ひにゃっ!!?」

ムギュ。
上条が背後から、美琴のお腹に手を回すように抱き付いてきた。

「えっと……ごめんな? ちょっと色々あってさ…」

甘く低い声と吐息が、美琴の耳をくすぐる。
そんな風に後ろから抱き締められながら優しく囁かれてしまったら、美琴は、

「わわわ分かったから! 許してあげりゅかりゃ離れてぇぇぇぇぇ!!!」

と顔を真っ赤にしながら絶叫するしかないのである。




[生野菜・肩の抱き寄せ新鮮サラダ]


美琴から無事に許しを貰った(?)ので、二人は目的地へと歩き出す。
本日のデートは映画鑑賞。美琴お気に入りの映画監督、ビバリー=シースルーの新作映画である。
そして勿論ジャンルは恋愛映画。恋人達は映画を観ながら、主演俳優に自分を重ねて、
イチャイチャとストロベリったりするのだ。はよ爆発しろ。

「そう言や、映画の時間って大丈夫か?」
「うん大丈夫大丈夫。新作だし、一日に5回上映するから」

上条が遅刻する事を想定して、余裕を持った計画。流石は上条の彼女である。
上条も「ふ〜ん、そっか」と相槌を打ちながら、並んで歩いていたのだがその時。

「っ!!! 危ねっ!」
「ぴみゃっ!!?」

ムギュ。
上条が横から、美琴の肩を掴んで抱き寄せたのだ。

「あっぶね〜…おい、ボーっとすんなよ。さっき、前から自転車来てたぞ?」
「…えっ!!? あ、ああ、うん…ご、ごめん今度から気をつける…」

予期せぬハプニングで、いつぞやのツーショット写真の時のような格好となってしまい、
美琴はドキドキするのだった。


943 : とある抱擁の懐石料理【フルコース】 :2015/11/25(水) 23:53:55 6KXmjfMI
[スープ・コトコト煮込んだあててんのよポタージュ]


「うわっ! 結構、混んでるな…」
「休日だし、日本での公開が解禁したばかりだからね。私も楽しみにしてたし」

映画館に着いた二人は、その人混みに圧倒されつつも、割といい席に座る。
せっかくのデートで変なケチを付けなくなかったのだろう。美琴が前もって予約していたのだ。
だが。

「ふぁっ…ああぁ……」
「ちょっ、アンタ!? 途中で寝たりしないでよ!?」
「うっ…! が、頑張る…」

座ってさっそくあくびをする上条に、美琴が釘を刺す。
確かに、上条のようなタイプに恋愛映画は、ちょっとした子守唄代わりだ。
ならば何故わざわざ恋愛映画をチョイスしたのか。
美琴だってアクションやホラーは好きな筈である。だがそれでは色気的なモノが足りないのだ。
恋人同士で観るのなら、やっぱり恋愛映画でウットリしたいじゃないか。
しかし先程も説明したように、せっかくのデートで変なケチを付けたくはない。
美琴は上条の眠気を一発で覚まさせようと、こんな行動に出る。

「っ!!? ちょ、み、美琴さんっ!!? 何だか腕に、やわらか〜い感触があるのですが!?」
「し、知ってるわよ、わざとよわざと! さっきまでの仕返し!」

ムギュ。
美琴が隣の席から、上条の腕を抱き締めてきたのだ。

「し、仕返しって何のだよ!」
「私をドキドキさせた仕返し! 次は私がアンタをドキドキさせる番なんだから!」
「そんな番は知りませんがっ!?」

だが美琴が腕を離す事はなく、2時間にわたる上映中、上条は眠気とは無関係な状態になっていた。
ただしだからと言って映画の内容が頭に入ってくる訳でもなく、
その間に何をしていたかと言えば、美琴が胸を押し付けてくる自分の腕に、
全神経を集中させていたのだった。




[パン・おんぶを練り込んだバゲット]


「ん〜! 結構面白かったわね! 最後ちょっと泣いちゃった!」
「お、おう…そうだな」

映画館を出ながらそんな会話をする二人だが、
上条は終始映画どころの騒ぎじゃなかったので、面白かったかどうかも泣けたかどうかも分からない。
それでも感想を述べるなら、『柔らかかった』とか『気持ち良かった』である。
しかしそんな事を言うとまたこじれるので、美琴に意見を合わせる小心者の上条。
と、そんな時だった。

「それでさー、途中でヒロインの女優さんがケーキを食べる所でいっつっ!!!?」
「っ!!? お、おい美琴!?」

ふいに、美琴は足を挫いてしまう。原因は足元不注意だ。
上条との会話に集中してしまい、下に小さな窪みがある事に気が付かなかったのである。

「っつー……」
「あー、もう何やってんだよ。ちょっと足、見せてみろ」

上条はその場で、美琴の靴と靴下を脱がす。ちょっとした路上ストリップである。

「腫れ…てはいないようだけど、歩かない方がいいな」
「だ、大丈夫よこれくらい。第一、歩かずにどうやってアンタんちに痛たた…」

この後は上条の寮でまったり自室デートする予定なのだが、ここからまだ距離がある。
しかしご覧の通り美琴を無理に歩かせる訳にはいかないので。

「しゃーねぇな。しっかりつかまってろよ?」
「…え? えっ!? ちょ、なな、何をっ!」

ムギュ。
上条がリュックサックでも背負うかのように、美琴を負ぶっていた。

「お、降ろしてよ恥ずかしいじゃない! まさかこのままアンタんちまで行くつもりなの!?」
「そりゃそうだろ。
 今は大した事ないかも知れないけど、無理させたら悪化するかも分からないし」
「だ、だ、だから大丈夫だってばっ!」
「ダ〜メ! 大人しくしてなさい」
「〜〜〜っ!!!」

美琴は結局その恥ずかしい格好のまま、街を移動させられる事となった。
周りの視線とクスクスした笑い声が、彼女の自分だけの現実を崩壊させたのは言うまでもない。


944 : とある抱擁の懐石料理【フルコース】 :2015/11/25(水) 23:54:30 6KXmjfMI
[魚料理・シェフの気まぐれだいしゅきホールドムニエル]


「ただいまー、っと」
「……ぁぅ…」

上条が普段住んでいる寮部屋へと帰ってきた二人。
美琴はここまでの道中でSAN値がガリガリと削られたが、
上条は気にした様子もなく、そのまま美琴をそっと床に降ろす。
ちなみに、上条と同居しているインデックスとオティヌス(+スフィンクス)は、今ここにはいない。
上条が今日、美琴とデートする事は知っていたので、半分は気を遣い、
もう半分は見せ付けられるのが嫌なので避難した。
今頃は小萌先生のアパートで、ブツブツ文句を言いながら鍋でも突いている事だろう。

「安静にしてれば大丈夫だとは思うけど、悪化するようならちゃんと病院行けよ?
 とりあえず湿布持ってくるから」
「……………」

言いながら救急箱を探す上条の後ろ姿を、美琴は軽く睨みつける。
何だこの敗北感は。こっちが散々恥ずかしい思いをしたと言うのに、この男はケロっとしていやがる。
悔しい。悔しいし、何か腹立つ。なので美琴は、映画館の時と同じように、仕返しを敢行する。
美琴は上条の背後からそ〜っと近付き、「ねぇ!」と声を掛けた。
そして上条がこちらを振り向いた瞬間。

「…ん? どうしt…おうっわ!!?」

ムギュ。
美琴が、上条の胸に飛び付き手を上条の首の後ろに回してガッシリとロックした。

「ちょ、みみこ美琴さん! 無理しちゃダメって言ったばかりなんですけど!?」
「ちちち地に足を付けなきゃ平気よっ! それよりどう!? 恥ずかしいでしょ!」

確かに恥ずかしいが、それは美琴も同様だ。
と言うか、どちらかと言えば美琴の方がダメージがデカそうである。
美琴は耳まで真っ赤にしながら、ギュ〜ッとその手に力を込める。何をやっているのだ、この二人は。




[ソルベ・お姫様抱っこのサッパリシャーベット]


何だか分からないが、美琴が急に大胆な行動に出てきて困惑する上条。
「恥ずかしいでしょ」とか言われたが、そもそも恥ずかしかったら何なのだ。
それに上条的には、「恥ずかしい」よりも「嬉しい」の方が割合が高い。
とは言え、美琴は足を挫いているので、これ以上、力を入れさせる訳にはいかないだろう。
名残惜しいが、上条は美琴をそっと降ろす事にした。

「はいはい。じゃあ、今度もゆっくり降ろしますからね」
「何その大人の対応!? また何か負けた気ぶn………みょわっ!!?」

ムギュ。
上条が、美琴の背中と膝裏を抱えて持ち上げる。

「わわわっ!? ちょっと!」

しかし美琴は上条の首に手を回しているままなので、完全にお姫様抱っこ状態になってしまった。
ある意味、さっきのおんぶよりも恥ずかしい。美琴、またも敗北(?)である。

「お……降ろしなさいよ馬鹿ぁ…!」
「…いやだから、降ろすって言ってんじゃん」




[肉料理・国産ハグ100%の和風ソテー]


美琴をゆっくりと降ろした上条は、改めて彼女と正面から向き合い、問いただす。

「美琴どうしたんだ? 何か映画館を出た辺りから様子がおかしいぞ」
「っ! だっ、誰のせいだと思ってんのよ!?」

美琴の様子がおかしくなったのは、足を挫いて上条におんぶされて見世物にもされるという、
恥辱を味わったからなのだが、そんな事に気付きもしない上条である。

「アンタが…あんな事するから……ドキドキしちゃって……
 でも仕返ししても、全然効果ないし…ドキドキしてくれないし…」

しかし美琴のこの告発で、理不尽この上ない理屈ではあるが、動機は何となく分かった。
要するに映画を観ていた時のように仕返ししたかったらしいのだが、失敗したという事だ。
上条は「あー…」と声を漏らしながら自分の頭をポリポリかき、そして。

「……べあっ!?」

ムギュ。
上条が正面から、美琴の腰に腕を回してギュッと抱き締めた。

「か、上条さんだってドキドキしてますよ、そりゃ」
「えっ、ホ、ホント…?」
「当たり前だろ。好きな女の子にギュってされて、ドキドキしない男がおりますか!
 その証拠にほら、心臓の音、聞こえるだろ?」

胸と胸が合わさったこの状況では、お互いの心音がダイレクトに伝わってしまう。
確かに、いつもよりも速く脈を打っている事が分かる。

「な?」
「………うん…」

安心したのか何なのか、とりあえず美琴は落ち着きを取り戻した。
そして上条の匂いと体温に包まれながら、こちらも負けじと抱き締め返すのだった。


945 : とある抱擁の懐石料理【フルコース】 :2015/11/25(水) 23:55:16 6KXmjfMI
[フルーツ・季節のナデナデのヨシヨシソース掛け]


「んにゅんにゅ…えへへへへへへぇ〜」

謎の言語を発しながら、幸せそうに笑う美琴。上条にハグされて自分もハグして、夢心地な気分らしい。
こんなフニャフニャな顔を見せられたら、上条も更に可愛がってあげたくなってしまう。なので。

「…んっ……にゃんか…ふわふわしゅりゅ…」

ムギュ。
上条が、美琴を抱き締めたまま頭を撫でた。

「もっとしてぇ…?」
「へいへい」

少しずつ、美琴が甘えん坊モードになってきている。
度重なるドキドキでリミッターでも外れたのだろうか。心なしか、目もとろんとしてきている。
上条は子供でもあやすかのように、そのまま美琴をヨシヨシした。
美琴は気持ち良さそうに、ゴロゴロと唸るのだった。まんまニャンコである。




[デザート・たっぷり膝抱っこを使った濃厚タルト]


上条は今、美琴に胡坐をかかされている。
膝の上には当然のように美琴が座り、上条の胸を座椅子代わりにもたれかかっている。
これも先程、美琴の中のリミッターが外れた影響だろう。もう甘々な状態が止まらないのだ。

「ミコっちゃ〜ん? そろそろ上条さんの足が痺れてきたのですが〜?」
「ダメー! 私が足を挫いたからって心配してきたのは当麻の方でしょ?
 だからこうやって、何かに寄りかかってなきゃいけないの!
 それに私、今は電気流してないわよ?」
「…いや、痺れたってそういう意味じゃないよ」

駄目だ。今の美琴に何を言っても、聞く耳を持っちゃくれない。
ここは相手のフィールドに立つ必要がある。相手のフィールド…つまりは抱き締め返しを。

「ふにゃっ!!?」

ムギュ。
上条が座ったまま背後から、美琴のお腹に手を回すように抱き付いてきた。

「んふふ〜…当麻も甘々?」

しかし効果は薄い。
いや正確に言えば効果はあるようだが、逆に美琴を益々とろとろにさせてしまう。
いつものようにテンパらせる事は出来なくなってしまったようだ。しかし上条はこうも思った。

(これはアレですかね。上条さんも本能に任せた方がいい流れなんですかね。
 って言うか我慢なんて出来るか俺だって甘えたいわギュ〜〜〜ッ!!!)

背後から、力いっぱい抱き締めた。何かもうムチャクチャしたかったのだ。




[ドリンク・食後の絞りたて抱き枕ジュース]


ひとしきり座椅子条さんを堪能すると、美琴は突然その場でゴロンと横になる。
しかし先程までの甘々な雰囲気とは少々異なり、妙に艶っぽいというか色気が溢れている。
今度は何をさせる気なのかと上条が不思議そうな顔をすると。

「当麻も寝て…?」

と、ワガママ姫様からのご命令。言われた通り、上条も仕方なく横になる。そして。

「えいっ!」
「でしょうね〜。何となく分かってましたよ、上条さんは」

ムギュ。
美琴が横になったまま、上条を抱き締めてきたのだ。

「…こうしてると何だか落ち着く……不思議…ドキドキはずっと止まらないままなのに…」
「俺もだよ」
「ふふっ。なにそれ」
「美琴が先に言ったんだろ?」

二人は笑い合い、そのまま優しく口付けをした。
この幸せな時間が永遠に続けばいいと、誓い合うかのように―――




[裏メインディッシュ・肉汁たっぷり正常iゲフンゲフン]


深夜。
上条と美琴は二人でベッドに入り、ディープ・キスをしながら抱き合っていた。
が、何が起こっているのか詳しく説明する事は出来ないので、そこら辺はファンタジーとしておこう。


946 : くまのこ :2015/11/25(水) 23:56:22 6KXmjfMI
以上です。
若干…と言うかかなりキャラ崩壊してる気がしますが、
許してください…
ではまた。


947 : ■■■■ :2015/11/25(水) 23:57:23 sZOFD7pU
くまのこさん乙です


948 : ・・・ :2015/12/01(火) 07:45:05 Jw2ZCU.Y
ども、・・・です。
最近寒いです。
上琴を摂取して温まりましょう。

くまのこさん
〉〉確か常盤台御用達の美容室にそんな名前の人物が……
お題ったー、くまのこさんGJすぎる
温かくなる話でした。ポッカポカです
にやにやが止まらん
壁殴りもとまらんshall we killゥゥゥウウウウウウウウ!!

〉〉「こ、これがあの上琴だというのか!!」「こんなに甘いものなの!!?」
「上琴はツンデレや鈍感など味が特徴的なため、素人も手が出しやすい食材だ。だが、突き詰めると奥が深い」
「収穫時期や一緒に使う素材、そして調理法で味が大きく変わってしまう。この料理人は上琴のことを知り尽くしている!!」
「山岡くん、このフルコースは……」
「あぁ、究極のメニューにふさわしい逸品だ!!!!」


さて、投稿します。
最近リアルでイライラすることが多く、
ムシャクシャしたので上条に盛大に惚気てもらい、
美琴に存分にあうあうしてもらいました。

それでは


949 : 捕まえた :2015/12/01(火) 07:45:59 Jw2ZCU.Y


「美琴かわいい」

言ったとたん、
目の前の彼女は
どんどんどんどん顔を赤くした。


950 : 捕まえた :2015/12/01(火) 07:46:36 Jw2ZCU.Y
ここは上条宅。
例によって例のごとく、休日のたびに早朝から上がり込んでいる彼女、御坂美琴。
週に2度のご馳走に満足したインデックスは風斬と遊びに出かけた。
オティヌスもスフィンクスに拐われている。
つまり、2人っきりのやりたい放題なのだった!!!

だというのに!!

「…………」

右側の彼女と自分の間には隙間があった。
2人ともベッドを背にして並んで座っている。
まぁ、2人分も間を空けといて並んでって表現が適切かはわからないけども。

「…美琴さん」

「な、なによ」

「先ほど隣に来たいって言ったのは美琴さんですよ?」

「わ、わかってるわよ!!」

テーブルの向かいで座っていた彼女が、
百面相しながら「隣にいっていい?」と聞いてきたとき、あまりの可愛さにベランダで愛を叫んでしまいそうになったが自重。
年長者の余裕を演じて許可を出したらこのざまだ。
距離を詰めようとしたら、その分遠ざかる。
恋の駆け引き(物理)なのだった。

「み…美琴?」

「ちょ、ちょっとくらい待ちなさいよ!!」

わかりましたよ。
かれこれ20分たったけども。
しかし、自分から行ってはいけない。
無理やり近づこうものなら、レベル5の電撃を見ることができる。
ついでに黒焦げになった蒲団も見れるし、自己嫌悪する彼女も見れる。
1週間前のように。

故に毎度の策にでる。

「…美琴、かわいい」

「ふにゃっ!!?」

ビクンッ!!
と震える彼女の姿に、今すぐ抱きしめたくなる衝動に駆られるが我慢。

「美琴かわいい」

「い、いきなりなに言ってんのよ!!」

ビリビリと帯電して目をつり上げる彼女に苦笑を禁じ得ない。
まるでネコだ。
すぐそんな表情するから、昔の自分は顔の赤みを怒りのシグナルと捉えてしまっていたのに。
1ヶ月は、性格を修正する時間にしては短い。
だから、受け入れてしまおう。

「怒った顔もかわいい」

「ふぇっ!! い、いい加減にしなさいよ!!」

じわり、とにじりよる。

「照れ隠しする顔もかわいい」

「べあっ!! そ、そんなこといわれても……」

おろおろしながらも、美琴は後退する。

「あたふたする美琴もかわいい」

「びゃえっ!!」

「ちょっと涙目なのもかわいい」

「くみゃっ!!」

「短い髪も似合っててかわいい」

「にょこっ!!」

「同じ表情を続けられない顔も好みすぎてかわいい」

「ちょえっ!! 」

「胸が小さいと気にするところもかわいい」

「しゅびゃ!!」

「その小さい胸もかわいい」

「ぴぃう!!」

「短パンで安心して無防備な太もももかわいい」

「みゃぅぅ…」

コツン、と美琴の後頭部が壁にぶつかる。
美琴の顔はもう白いところがないほど赤い。

「オレのことが好きすぎるのもかわいい」

「あわわ」

「素直になれないところもかわいい」

「あうあう」

「そんなことで悩んでるのもかわいい」

「あう」

「大好きな美琴の全部がかわいい」

「ぁぅ」

もう空いていた距離はない。
皆も記憶にないだろうか?
相手を捕まえるときは、
弱らせてゲージを赤くする必要がある。

「ぁぅ…ふにゃ…ぁぅぁぅ」

顔を真っ赤にして、眉はハの字。
涙目で口をへにゃへにゃにしながら震える彼女。

あと、ビリビリ帯電している。

そろそろ限界だ。
右手で顎を上げる。

そしてすぐ唇を落とした。

美琴がビクン!!と震えたのが伝わる。

約5秒。
ゆっくり離すとこちらに倒れ込んできた。
限界らしい。

「ふにゃ〜〜〜〜〜〜〜〜」

これでこの先大丈夫かとも思うが、
現状自分も幸せなのでよしとする。
彼女と2人きりになって1時間強。
ようやく触れることができた。
ゆっくりと力を込めて抱きしめる。
すると、弱々しくだが、抱きしめかえしてくれた。
これだけで喜ぶのだから、安上がりな彼氏だとも自分で思う。

ここまで読んでくれた諸君ならお気付きと思うが、
虜となっているのは自分の方だ。


951 : ・・・ :2015/12/01(火) 07:48:15 Jw2ZCU.Y
以上です

投稿したらすっきりしました。
……リア充爆ぜろ  ボソッ


952 : ■■■■ :2015/12/01(火) 19:33:42 UI94jjos
乙!!


953 : くまのこ :2015/12/01(火) 20:53:20 NECzmBWA
>>・・・さんGJです!
ミコっちゃんは何してても可愛いのは周知の事実ですから、
彼氏から見たら尚更なんでしょうね爆ぜろ!



・・・さんと被ってしまいましたが、みこにゃんネタを書きました。
約3分後に4レス使います。


954 : 食蜂さんの大誤算 Ⅲ :2015/12/01(火) 20:56:14 NECzmBWA
放課後。本日も食蜂操祈【じょおうサマ】は不機嫌だった。
常盤台が誇る二人のレベル5の内の一人であり、
精神系最強の能力・心理掌握を持つ彼女を以ってしても、
己の精神を律する事が出来ない程、彼女はイライラしているのだ。
その原因となっているのは、もう一人の常盤台のレベル5・御坂美琴である。
食蜂は常盤台の校舎内ですれ違った美琴に一瞥しながら、心の中で毒づく。

(……何なのよぉ、あの幸福力に満ちた笑顔はぁ!?)

そう。たった今食蜂とすれ違った美琴は、それはもう見事な笑顔だったのだ。
実はこの後、「偶然通りかかった」という体で上条の高校を横切り、
そのまま上条をつかまえて下校デートにでも誘おうとしているのである。いつもの手である。
美琴が無意識に流している電磁バリアによって能力が防がれてしまう為、
その記憶を覗き見る事は出来ないが、そんな事をしなくても大体の事情が察してしまえるくらい、
美琴の浮かれきった気持ちは顔に出ていた。
認めたくはないが、その顔はかつて上条と接していた時の食蜂【じぶん】とソックリだったのだ。
しかしだからこそ、食蜂のイライラは募るばかりなのである。

(御坂さんったら、最近調子力が乗りすぎてるんじゃないのぉ!?
 いくら上条さんからの好感力が高いからって、彼女面するのはどうかと思うしぃ!
 もしかして彼の優しさを、誤解力で『自分が特別』とでも思ってんじゃないかしらぁ!?
 彼は女の子には誰にだって優しくしちゃうのにぃ!)

美琴は彼女面なんかしていないし、自分が上条の特別だとも思っていないが、
嫉妬に嫉妬を重ねてジェラシーのミルフィーユ状態になった食蜂には、そう見えるらしい。
ならば美琴よりも先に上条に手を出せば良いのではないか、と思う方も多いだろうが、
それが出来れば苦労はしないのだ。ある事情があって、食蜂は上条から認識されない状態にある。
なのでどれだけイライラしようとも、美琴が上条にベタベタするのを見ているしかないのだ。

(けど何もしないってのは、それはそれで不快力が上がっちゃうのよねぇ……
 でも御坂さんには私の能力は効かないしぃ、かと言って上条さんを洗脳する訳には―――)

そう考えた所で食蜂は名案を閃き、そして立ち上がった。

(そうだわぁ! 何も洗脳しなくてもいいんじゃなぁい!
 要は上条さんの意識から、御坂さんへの認識力を取り除いちゃえばいいんだからぁ!)

どうやら何かしらの悪巧みを思いついた食蜂は、すぐにタクシーを呼び、
美琴よりも先に上条への接触を試みる。
ちなみにタクシーを呼んだ理由は、走ったところで美琴を追い抜けない事を、
食蜂が誰よりも一番分かっているからである。
しかしそれだけ努力したところで、きっと食蜂の思惑通りにはならないだろう。
前にも言ったかも知れないが、だってここは上琴スレだから。


955 : 食蜂さんの大誤算 Ⅲ :2015/12/01(火) 20:56:51 NECzmBWA
 ◇


さて。タクシーのおかげで美琴の先回りに成功した食蜂だが、
校門近くで上条が下校してくるのを待ちながら、彼女は悩んでいる。
そのテーマは、「上条さんに、どんな誤認識を植え付けようかしらぁ?」である。
食蜂の狙いは上条が美琴を目視しても、それを美琴を認識させないようにする事だ。
ならば一番手っ取り早いのは、美琴を全く認識出来なくなり、存在その物も忘れてしまう事である。
皮肉にも、今の食蜂と全く同じように。しかしそうなると、美琴はどう反応するだろうか。
美琴の方は当然ながら上条を認識出来る。
これは先程も述べたように、美琴には心理掌握が通用しない為に仕方なくだ。
だがそうなると、美琴は一方的に上条に無視される形となる。
すると美琴はイライラして、「何、堂々とスルーしてくれてんのよアンタはあああああ!!?」と、
電撃…下手をすれば超電磁砲の一発でもお見舞いするだろう。
美琴側からすれば、そこでいつものように上条が右手で受け止めて、
「じょ、冗談だよ冗談!」と顔を引きつけながら反応すると思っているからだ。
しかし上条側からすれば冗談ではない。美琴を認識出来なかったばっかりに、
電撃か超電磁砲は直撃してしまう。それは命の危険を意味している。
ちょっとしたイタズラ心で上条が死に瀕してしまっては、それはイタズラでは済まなくなる。
ギャグ系ラブコメから急に誰得なシリアス展開になってしまっては、元も子もないのだ。
なのであくまでも、美琴は認識しなくてはならない。
つまり要するに、美琴の存在その物を全く認識出来なくなるのは危険だが、
御坂美琴という人物を別の何かだと認識させてしまえばいいのである。となれば。

(……そうねぇ…なら、御坂さんをネコだと誤認しちゃうってのはどうかしらぁ?)

食蜂が選んだのは、ネコであった。
学園都市には意外とネコが多い。これなら上条が美琴を見ても、
「おっ、ネコだ」くらいの反応しかしないだろう。
そしてスルーされたと思って美琴が超電磁砲を撃ってきても、上条ならばとっさに右手で防ぐ筈だ。
なにしろここは喋るゴールデンレトリバーやら喋るシャチやらが存在する学園都市だ。
超電磁砲を撃ってくるネコがいても、まぁかなりビックリはするだろうが不自然ではない。
と、そんな事を考えていたら。

「ふぃ〜…今日も補習で帰るのが遅くなって不幸だー、っと」

分かりやすく状況を説明してくれながら、校舎から出てくる上条を発見する。
幸い、まだ美琴も到着していない。周りに邪魔をしそうな者もいない。これはチャンスだ。
食蜂は上条に向けてリモコンを構え、テレビのチャンネルでも変えるかのようにボタンを押す。

(ふっふっふ〜♪ これで上条さんはぁ、御坂さんを見てもネコにしか見えなくなったんだゾ☆)

満面の笑みでほくそ笑む食蜂。しかしこれが原因で、
最悪な事態を引き起こす事になるとは、今の食蜂には知る由もなかったのだった。


956 : 食蜂さんの大誤算 Ⅲ :2015/12/01(火) 20:57:25 NECzmBWA
 ◇


「たったった…!」軽快な足音がこちらに近付いてくる。
どうやら美琴が走ってきているようだ。これで偶然通りかかったと言い張るのだから、
ツンデレさんは面倒くさい。それに気付かない上条も上条ではあるが。

「あ、あれー? いつの間にか、アイツの学校の近くまで来ちゃったわー!
 ちょろっと散歩してただけなのに偶然だわー!
 でも来ちゃったものは仕方ないし、アア、アイツに挨拶くらいしてこうかしらー!?
 べべべ、別に変な意味とかは全然そんなのは無いんだけど、
 知り合いの学校に来て何も言わないで帰るのは、逆に失礼だしー!?」

盛大に独り言をぶちまけながら何か言っているよ、このお嬢様。
食蜂は曲がり角の影からその様子を見て、歯軋りしながら美琴を睨む。
色々とツッコミを入れたいところではあるが、
ここで出て行ったら計画も台無しなので、我慢する食蜂である。
そして思いっきり予防線を張った【まえフリをした】美琴は、当然のように上条に話しかける。
すると上条は、美琴の方を振り向き一言。

「おっ、ネコだ」
「………………は?」

上条からの訳の分からない返事に、美琴は顔をキョトンとさせる。
曲がり角の影からこの様子を見ている食蜂は思った。『 計 画 通 り 』と。
そう、ここまでは食蜂の思惑通りだったのだ。ここまでは。
しかしこの後の美琴の反応と上条の行動で、それが大きく間違っていた事に気付かされる。
美琴は見る見る内に顔を真っ赤にさせ、予想の斜め上を行く言葉を口に出したのだ。

「だ、だだ、誰が仔ネコちゃんだってのよっ!!?
 い、いき、いききなり歯の浮くような事を言ってんじゃないわよ馬鹿っ!!!」

「お馬鹿さんはどっちかしらぁ!?」と食蜂は思った。
上条への想いが美琴の自分だけの現実に影響を与えている事は、食蜂も知ってはいたが、
それにしても何という自分に都合の良い思い違いなのだろうか。
だがこの直後、その思い違いを助長するかのような行動を上条が取る訳で。

「ん〜、可愛いなお前」
「ふにゃっ!!?」

突然、上条が美琴【ネコ】の頭を撫で始めたのだ。しかもそれだけではない。

「うりうりうりうり〜」
「にゃ、にゃにゃ…」

今度は、人差し指で顎をクリクリした。けれども更にそれだけではない。

「おりゃ〜! こしょこしょこしょこしょ〜!」
「はぁっ! んっ、くぅ! らめ、そこは……ふぅん! ら、めぇ!」

脇腹をコチョコチョしたりもしやがった。
何だこれ。学校の校門前で、突然巻き起こるアブノーマルなプレイ。
風紀委員や警備員に通報されたら、上条は一発でお縄となるだろう。
だが当の本人である上条は、あくまでもネコと戯れているつもりなので暢気である。

「にしてもホントに可愛いな…ウチに連れて行きたいけど、スフィンクスがいるからなぁ」
「ちゅ、ちゅれへかえりゅっへ……わ、わらひににゃにしゅるつもりらろっ!」

美琴はふにゃふにゃしてて何を言っているのか分からなかったので通訳すると、
「つ、つれてかえるって……わ、わたしになにするつもりなのっ!」と言ったようだ。
まぁ、どっちみち上条には「にゃーにゃー」としか聞こえていないが。
そしてあまりにもこの美琴【ネコ】がにゃーにゃーと騒ぐ【なく】ので、上条は顔を綻ばせる。

「おー、何だ何だ? 元気がいいな、お前。腹でも減ってんのかな?」

そう言うと、学生鞄からコッペパン(インデックスのおやつ用に購買部で買ったらしい)を取り出し、
それを小さく千切って食べさせようとする。
しかしそれが限界だった。美琴ではなく、食蜂のである。
これ以上エスカレートさせてしまったら、何の為に美琴をネコと誤認するようにしたのか分からない。
イチャイチャさせないように能力を使ったのに、
能力のせいでイチャイチャさせてしまったら、本末転倒も甚だしい。
なので食蜂は、再び上条にリモコンを向けて能力を解く。

「ほら、あ〜ん……………ん?」

だがほんの数秒遅かった。食蜂が能力を解いたのは、
上条が千切ったコッペパンの欠片を摘んだ指ごと美琴の口の中に入れた直後だった。
そしてそのタイミングで目の前のネコが美琴に変わった上条は、

「うわわわわっ!!! み、みみ、みこ、美琴っ!!? いつからそこにいたんだよっ!!?」

と頭を混乱させる。対して美琴は、

「ふみゃ……にゃあああああああああぁぁぁぁ」

とトリップしすぎて完全にネコ化してしまうのであった。


957 : 食蜂さんの大誤算 Ⅲ :2015/12/01(火) 20:58:01 NECzmBWA
 ◇


後日。食蜂は上条に、あの時と同じ効果の能力をかけた。
つまり、特定の人物をネコと認識するという能力である。
しかしあの時の反省を活かし、今回はその相手を美琴ではなく食蜂【じぶん】にしたのだ。
上条が自分を認識出来なくても、ネコとしてなら認識出来る。
そしてその結果どうなるかは、この前の美琴の一件で実験済みである。

…ところが。

「おっ、ネコだ」

と食蜂【ネコ】に向かって一言残すと、上条はそのままスタスタと通り過ぎて行った。

「何でなのよぉ!!!」


958 : くまのこ :2015/12/01(火) 21:00:08 NECzmBWA
以上です。
Ⅲとなってますが、
以前に書いた食蜂さんの大誤算(無印もⅡも)とは無関係ですので、
シリーズって訳ではないです。
ではまた。


959 : くまのこ :2015/12/05(土) 17:03:23 HhaW5nZA
また短編書きました。
今回は二人がファーストキスもどきをする話です。
約3分後に3レス使います。


960 : 追い詰められて花が咲く あとは勇気とタイミング :2015/12/05(土) 17:06:12 HhaW5nZA
『ダ、ダメよ! こんな…ひ…人通りが激しい所で…』
『勝負に負けた方は何でも言う事を聞くって約束だろ?』
『それは…そうだkんぶっ!!?』

美琴の言葉を押し切って、上条は強引にその唇を奪った。
多くの人に見られながらキスをするのは始めての経験だが、その倫理に反する背徳感と羞恥心は、
二人を更に燃え上がらせていた。

『んっ…ずぢゅ♡ くちゅくちゅ、にゅぶ♡ れぁ、は、あぁ♡ んじゅる♡』

舌と舌が絡み合う濃厚な口付けに、美琴は何も考えられなくなっていった。


 ◇


…という夢を見たのだった。美琴は本日の朝も、「ふにゃー」寸前で起床する。
危なかった。夢の中とは言え、もう少しで『どうにかなって』しまう所だった。
そして夢の中で『どうにかなって』しまったら、現実空間【へやのなか】で「ふにゃー」して、
周りを黒焦げにしていた事だろう。ルームメイトの白井を道連れにしながら。

(ああ、もう! 何で毎朝毎朝あの馬鹿とキッ! ……………キシュ……
 する夢見て起きなきゃなんないのよっ! これじゃあまるで、わ、私が欲求不満みたいじゃない!)

起きて早々ベッドの中に潜り、真っ赤な顔を両手で覆いながらゴロゴロと転げまわる美琴である。
そう。『本日の朝も』と説明した通り、美琴はここ数日、
毎日こんな夢を見て、朝っぱらから悶々とする日々を繰り返していた。
彼女が上条の事を異性として意識しまくりなのは周知の事実だが、
日が経つ程にその想いは大きくなるのとは裏腹に、
美琴の性格と上条の鈍感が原因でその関係は全く進展せず、
結果的にこのように自分だけの現実を侵すようになり、夢にまで見てしまっているのだ。
恋の病の末期症状である。カエル顔の医者でも匙を投げるだろう。
この状況を打破する為には、上条と恋人関係にでもなるのが手っ取り早いのだが、
そんな事が出来るなら初めからやっているし、そもそも前提としてこんな夢も見ない。
考えが堂々巡りしてしまい、美琴は「はあああぁぁぁぁ……」と大きく溜息を吐く。

(せめて…一回くらい本当のキッ! ……………キシュ……すれば、変な夢を見なくても済…
 …………………………
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

と考えた所で、美琴は顔を爆発させてフリーズした。
それは何というか、恋人になるよりハードルが上がっているではないか。
色んな意味で本末転倒なのである。

そして朝から美琴の百面相を見せられた白井は、美琴から夢の中の話を聞いてはいないものの、
お姉様のその恋する乙女全開の顔色に何となく事情を察してしまい、
血の涙を流しながらシーツを噛み、千切れるのではないかという程に力を込めて引っ張るのだった。


961 : 追い詰められて花が咲く あとは勇気とタイミング :2015/12/05(土) 17:06:45 HhaW5nZA
 ◇


その日の放課後。いつものように『偶然』美琴と出くわした上条は、
美琴から「大事な話があるから、二人っきりになれる所に行きたい」と言われ、
あるインターネットカフェの仮眠室
(インディアンポーカーが流行っていた時に、美琴が絹旗と共に使った場所)
へと連れて来られたのだが、部屋に入って暫くしても、
その当の本人の美琴が真っ赤な顔をしたまま俯いているので、ただただ首を傾げていた。

「おい、美琴。ずっと黙ったままだと、上条さんが何の為に呼ばれたのか分からないのですが?」
「……………」

へんし゛か゛ない。
たた゛の  しかは゛ねのようた゛。

何かとてつもなく言いにくい事なのだろうか。
仕方ないので仮眠室のベッドに座り、美琴が口を開くのを待つ事にした。
その後も美琴は何か言いかけては真っ赤になって口をつぐみ、
かと思えば小声で何かゴニョゴニョ言ってみたり、顔をブンブンと振ってみたりしたのだが、
やがて気合を入れるかのように深呼吸すると、赤面したまま上条を睨みつけた。

「な、何だよ?」
「……ア…アンタ、キッ! キキキキキ、き、キシュッ!!! した事ある!?」
「……………は?」

美琴の第一声は上条の予想の斜め上を行く内容だったので、
思わず変な声を出して聞き返してしまう。
それと今更だが、ここまで一度もまともに「キス」を発言出来ていない美琴である。

「え、な、何? その質問に、一体どのような意味がおありなので?」
「いいいい、いいから答えなさいよ馬鹿っ!!!」

何だか分からないが、美琴のこの必死な態度を見るに、とても大切な事らしい。
だが上条は軽く溜息を吐きながら、若干ウンザリしながら答える。

「はぁ…あのなぁ。
 何の意味があってそんな事を聞くのかは知らないけど、お前、俺がモテないの知ってんだろ?
 女の子と付き合った事もないのに、そんな経験ある訳……何でせうか? その顔は」
「………別に」

気付くと、美琴はジト目になっていた。鈍感ここに極まれりである。
しかしそれを聞いて腹が立ちつつもホッとした美琴。
ここで万が一「キス? まぁ、した事くらいあるけど」なんて言葉が返ってきたら、
色々と立ち直れなくなっていた所だ。美琴は気を取り直し、コホンと一度咳払いする。

「コホン! あ、あー、それでね? わ、わわわ、私もキッ! キッ、キキ…………キ…
 ……『ソレ』をした事がないんだけど、さ…」

とうとう『キス』という言葉を口にするのを放棄した美琴。こちらはこちらでヘタレである。

「で、で、でで、でも!
 私もアンタもいずれはこっ、こい、こ、恋人! とか! 出来る訳じゃない!!?
 ……あっ! い、いい、いや、べべべ別に、私とアンタがって意味じゃなくてね!!?
 そこんとこ勘違いしてほしくないんだけど!!!」
「お、おう」

自分の言った事に自分でテンパる美琴。一人で勝手に大騒ぎである。

「それで結局、ミコっちゃんは何が言いたいんだよ?」
「…だ……だから…それは、その…あの……」

すると美琴は再びモジモジしてしまう。話が全く前に進まない。
これには流石の上条でも痺れを切らせてしまったようだ。

「あの…話がないなら上条さん帰ってもいいですかね? スーパーのタイムセールがあるんで」
「ままま待って! 言うから! ちゃんと言うから、ちょっと待って!」

観念した美琴は自分の鞄を開けて、何かを探しながら語り出す。

「だから、えっと……『ソレ』の、れ、練習…しとくべきだと思うのよ。
 いつか私達に恋び…とが出来て、初めて『ソレ』する時に、変な風にならないように……」
「練習って……キスのかよ!? えっ、で、でも…誰と…?」
「いっ! いいい今この場に! わ、わた、私とアンタしか! いないでしょうがっ!!!」
「ええええええええええっ!!!!?」

美琴の話を要約するとこういう事だ。
いつか互いに恋人が出来たら、いずれキスする時も来るだろう。
その際に失敗しないように練習したいと言うのだがしかし、キスの練習は一人では出来ない。
そこで上条と二人で練習しようではないかと提案してきたのだ。けれども、それはつまり。


962 : 追い詰められて花が咲く あとは勇気とタイミング :2015/12/05(土) 17:07:20 HhaW5nZA
「いい、いや、れ、練習っつっても、そ、そんなのはダメだろ!!?
 だ、だだ、大体、実際にしちまったら練習じゃなくなっちまうし、
 結果的に好きでもない男とファーストキスしちまう事になるんだぞ!!?」

まず、美琴の目の前でテンパっているツンツン頭の男は、
美琴にとって『好きでもない男』ではないのだが、そこに気付ける訳もないツンツン頭である。
美琴は鞄の中からサランラップと取り出し、上条の目と鼻の先に突きつけながら叫んだ。

「ラ、ララララップ越しなら直接した事にならないからっ!!! ノーカンだから!!!」
「そこまで必死になるくらいなら別に無理にしなくてもいいんでないの!!?」
「ここまで来たら引き下がれないのよ察しろ馬鹿っ!!!」

(美琴にしては)ここまで大胆な行動に出るには勿論、理由がある。
ラップ越しとは言え一度でも上条とのキスを経験すれば、毎朝、
上条とキスする夢を見て「ふにゃー」寸前で起きる事はなくなる…と思っているのだ。
そんな事をしたら余計に上条の事を忘れられなくなり、『もっと過激』な夢を見るかも知れないのに、
そこまで考えが及ばない程に、恋は盲目になって【おいつめられて】いたのだ。

「……わ、分かったよ…ラップ越しだって言うんなら、まぁ…うん」

最初は抵抗していた上条も、美琴の必死の訴えに渋々ながら承諾する。
キスの練習とか本当にする意味あるのだろうかとも思ったのだが、
美琴がここまで言うのだ。きっと他にも深い意味があるのだろう。そんな物ないのに。

「じゃ、じゃ、じゃじゃじゃあ!!! いいい行くわよっ!!!」
「お、おおお、おう!!!」

短く切ったラップを上条の唇に当て、美琴はゆっくりと近付く。
お互いに心臓がバックバクになりながらも一瞬、
「アレ? 私(俺)、何でこんな事してるんだっけ?」と頭を過ぎらなかった訳ではないが、
この状況で冷静になったら負けだと判断し、そのまま続ける。そして―――


ぴと。


薄いラップフィルムを挟んで、二人の唇が重なり合った。
この時の二人の気持ちを、どう表現したものだろう。
柔らかい? 温かい? 恥ずかしい? 嬉しい? 気持ちいい?
いや、そのいずれとも違う。二人は、ただただ何も考えられなくなってしまった。
キス初心者の二人にとっては、頭が真っ白になる程の衝撃。
これでもし間にラップが無かったら、一体どうなってしまうのだろう。

「……あ、こ、こ、これ、で、いいか、な…?」

先に我に返り、唇を離したのは上条だった。
正直まだドキドキは治まってくれてはいないが、年上として、
そして男としてのプライドで、冷静を装いながら余裕【つよがり】を見せる。
対して美琴は、未だにキスの衝撃から帰って来れず、キスした時の状況のままで固まっている。

上条は本能的に、「このままだとヤバイ!」と確信した。
このままでは、自分の中の紳士な部分が瓦解して、
目の前の女の子【みこと】に『イケナイ事』をしてしまう気がした。
下手したら「今度はラップ無しでしてみようか」「ベロチューの練習もしておこう」
「全身キスしたらどうだろう」「ここまでやったら最後まで―――」なんて流れになり兼ねない。
そうなってしまってもおかしくないくらい、上条は今自分が興奮している事を理解している。
しかし相手はまだ中学生。しかも初めてのキスで失敗したくないからと、
練習するのを手伝ってほしいと頼んでくるような純粋な子(?)である。
なので上条は自制する【にげる】かのように、

「あっ! お、俺スーパー寄らなきゃなんないからもう帰るな!!!」

とその場を後にした。当然ながら、こちらもヘタレである。
取り残された美琴は、約10分後、ようやく頭が解凍されたのだが、

「……………ふにゃー」

店の中で思いっきり漏電した為、前回(インディアンポーカーの一件)の分と合わせ技一本で、
この店から完全に出禁通告【にどとくんな!!】を言い渡されてしまった。



ちなみに次の日の朝。
我々が危惧した通り、美琴はこれまで以上に『過激な内容』の夢を見るようになり、
今回の一件で美琴を意識しまくるようになった上条も、同じような夢にうなされる事となるのであった。


963 : くまのこ :2015/12/05(土) 17:08:38 HhaW5nZA
以上です。
もうすぐ>>970なので、そろそろ次スレを立てた方がいいんですかね?
でも自分がやると失敗しそうなので、誰か代わりに立ててくれないかな〜(チラッ
ではまた。


964 : くまのこ :2015/12/06(日) 16:13:07 0jvK5PkY
二日連続で失礼します。
支部で・・・さんからリクがあったので、
上琴が肩車する話を書きました。
約3分後に4レス使います。


965 : 人の心猫知らず :2015/12/06(日) 16:16:10 0jvK5PkY
猫というのは気まぐれな生き物だ。
飼い主が大切な仕事をしている時に限って甘えて【じゃまして】くるかと思ったら、
こちらが遊んであげようとした時にはそっぽを向く。
突然家の外へと出て行って、飼い主が心配になったらふらりと帰ってくるなんて事もザラだ。
そしてここにいるスフィンクス(三毛猫・雄)も、その例に漏れず、
飼い主【インデックス】と餌をくれる人【かみじょう】とオモチャ【オティヌス】の心配をよそに、
自由気ままに散歩をしていた…筈だった。
しかしそのフリーダムさがあだとなったのか、枝にとまったスズメを追いかけて木の上に登ったら、
そのまま降りられなくなってしまったのだ。勿論、スズメは何食わぬ顔で飛び去って行った。

「みゃ〜ぉ……」

何か助けでも呼ぶかのように鳴くスフィンクス。
その思いが通じたのか、その木の前を一人の少女が通りかかる。

「…あっ、子猫だ可愛い〜!」

スフィンクスはそろそろ成猫になるかならないかという年齢なのだが、美琴にとっては子猫である。
ちなみに美琴も何度か上条の寮部屋に足を運んだ事があり、その際にスフィンクスとも面識があるが、
数回見ただけの猫…それも三毛猫なんてありふれた日本猫の個体識別【みわけ】など出来る訳もない為、
目の前の猫とは初対面感覚だ。もっとも三毛猫の雄は珍しいので、
股間にぶら下がったイチモツを見れば、「もしかしてアイツん家の子かしら?」とは思ったのだろうが。
高さに怯えてなのか美琴の電磁波に怯えてなのか、
あるいは両方なのか、奥へと引っ込んでビクビクと震えている。
その様子に、初めて会った妹達の一人【ミサカ9982ごう】の時を思い出す。
確かあの時見た黒猫も、同じようなリアクションだった。

「…降りられないのかしら? どうしよう……」

あの時の黒猫と同じ状況なのだとしたら、この三毛猫も同様に降りられない可能性が高い。
とは言っても美琴が手を伸ばしても届く距離ではないし、周りに踏み台になるような物もない。
せめて他に誰か人がいれば何とかなりそうだが、そんな都合よく誰かが通りかかる気配もない。
そして仮にもう一人いたとしても、全く面識のない赤の他人に、
「この子猫降ろすんで、ちょっと土台になってくれませんか?」と頼むのは度胸がいる。
最低でも美琴の知り合い、それも出来たら気兼ねなく頼みごとを言えるような間柄の人物が、
偶然ここを通りかかってくれないかと期待したが、いくら何でもそんな都合良くは―――

「おーい、スフィンクスー!? どこ行ったんだー!?」

―――そんな都合良くは意外と行くものである。
何やら大声でエジプト発祥の神聖な怪物の名前を叫びながら、こちらに向かってくる人物が一人。
それは美琴が気兼ねなく頼みごとを言えるような間柄のツンツン頭の少年だった。

「あれっ、アンタ!? どうしてこんな所に…って、そんなのはどうでもいいわね。
 丁度良かった。ちょっと頼みたい事があるんだけど、
 あそこで降りられなくなってる子猫を降ろすの、手伝ってくれない……ええっ!?」
「あれっ、美琴!? 何でこんな所に…って、んな事はどうでもいいか。
 丁度良かった。ちょっと聞きたい事があるんだけど、
 俺ん家で飼ってる三毛猫がいなくなったんだが、どこに行ったか知らない……んんっ!?」

二人は同時再生【ステレオ】で喋り始めた。息ピッタリである。

「えっ、それって大変じゃない! ……いや、ちょっと待って?
 三毛猫…って、まさかこの子だったりして!?」
「降りられなくなってる猫? …ああ! 確かに木の上で怯えてるな。助けてやらないと……
 って! スフィンクスじゃねーか何やってんだお前!!?」


966 : 人の心猫知らず :2015/12/06(日) 16:16:54 0jvK5PkY
ここで上条と美琴、お互いの物語が線で繋がった。
美琴も上条の反応で、ようやくその三毛猫がスフィンクスなのだと気付いたのだった。
美琴の「子猫を助けたい」という願いと、上条の「スフィンクスを探す」という目的は、
ここにこうして一致したのである。ならばやる事はただ一つ。スフィンクスの救出だ。
しかしスフィンクスが今、縮こまっているのは木のてっぺん近くの場所の為、
上条が土台になって美琴が上に乗っても、正直届きそうもない高さだ。
なので上条は提案する。いともアッサリと大胆な事を。

「……よし。肩車しよう。ちょっと俺しゃがむから、肩に乗っかってくれ」
「……………へ?」

美琴は一瞬ポカーンとした後。

「えっ……ええええええええっ!!?
 いや、あの、でも、その…いきなりそんな……こ、心の準備とか色々出来てな…」
「早くしないとスフィンクス落ちちまうかも知れないだろ? いいから乗れって」
「それは、そうだけど……ぁぅ…」

上条さんの手と触れ合うだけでもドキドキしてしまうミコっちゃんには、
肩車なんてハードなスキンシップは荷が重過ぎる。
だが上条の言うように時間は待ってはくれない。現にスフィンクスは今も木の上にいるのだから。

「〜〜〜っ! わ、分かったわよ! やればいいんでしょ、やれば!」

美琴は半ばヤケクソ気味に、上条の肩に乗る。
美琴のふとももで顔を挟まれ、お股が後頭部に当たっている訳だが、
今はスフィンクスの救出が最優先だ。紳士・上条は、よこしまな感情など抱かない。何故なら、

(落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…2…3…5…7…11…13…17……19)

このように、頑張って冷静になろうとしているから。
つまり上条も思いっきり美琴の事を意識してしまっているが、
今はそれどころではないのも理解しているので、必死に煩悩と戦っているのである。

「よ、よーし立ち上がるぞー!」
「ゆゆ、ゆっくりね! ゆっくり!」

お互いにドキドキしつつも肩車作戦を決行する。
上条が立ち上がると、スフィンクスを余裕で抱きかかえられる高さまで、
美琴を持って行く事に成功した…のだが。

「……あっ、ダメだわ。怖がって、余計に奥まで引っ込んでっちゃった。
 やっぱり私から出てる電磁波が嫌みたい…」
「あー、やっぱダメか…」

地味にショックを受ける美琴。
可愛い生き物は大好きなのに、触れようとすると相手は嫌がってしまう。
かと言ってこのまま放っておく事は出来ないが、
嫌がるスフィンクスに無理矢理手を伸ばすのも可哀想だ。
上条が右手で美琴の頭を押さえれば、電磁波も幻想殺しで打ち消す事が出来るのだが。

「肩車した状態【このたいせい】じゃあ、うまく美琴の頭を触れないしなぁ…」

肩車した状態で頭を触るのは、中々難しい。
前から触ろうとすれば美琴の視界の邪魔になってしまうし、
背後からだと今度は手が届きづらく、上条からも見えない場所を触る事になるので危ない。
なので美琴が、ここである提案をする。

「…てか、私が下になれば解決するんじゃないの?」

確かに美琴が肩車の下部分を担当すれば、そもそもそんな苦労をしなくても済む。
当然ながら上条からは電磁波など出ていないし、
スフィンクスも家主が手を伸ばせば怯えずに寄ってくるだろう。
しかし絵面的にどうだろうか。
中学二年生の女子の肩にまたがって肩車してもらう男子高校生というのは。


967 : 人の心猫知らず :2015/12/06(日) 16:17:29 0jvK5PkY
「いや、ダメだ。紳士な上条さんには、女の子にそんな事させられません」
「私こう見えても結構、力とかある方よ?」
「そういう問題じゃねーよ!
 力があるとかないとかは関係なくて、美琴にそんな力仕事なんかさせたくねーの!」
「…っ!」

それは上条にとっては当たり前の事だったのだが、美琴にとってはドキドキものの言葉だった。
ちゃんと女の子として見てくれてる…たったそれだけの事で、胸が高鳴ってしまう。

「そ、そそ、そう! それならべ、別にこのままでもいいけどっ!!?
 で、で、でも実際問題、私の電磁波を何とかしないとどうにもなんないわよ!?」

胸のドキドキを誤魔化すかのように、わざと高圧的な言い方をする美琴。ツンデレの真骨頂である。
上条は「う〜ん…」と考えた後、最もシンプルな答えを導き出す。

「美琴。もうちょっとだけ頭を低くする事って可能か?
 そうすりゃ背後からでも、何とか手が届くと思うんだが…」
「え? まぁ、大丈夫だとは思うけど…」

上条に言われるがまま、少し頭を低くする美琴。
なるほど、これならば何とかなりそうだがしかし。

(………何だか上条さんの頭の上に、わずかだけど柔らかい感触が当たってる…?)

美琴が姿勢を低くすれば、当然ながら美琴の胸と上条の頭は密着する。
すると上条の頭はどうなるだろうか。
両サイドからはふとももで挟まれ、後頭部はお股が当たり、更に頭頂部には胸が当たるのである。
しかし何度も言うように、今はスフィンクスを何とかするのが最優先事項だ。
なので上条は再び素数を数え始め、同時に背中から右手を回し、美琴の頭をギリギリで触れる。
美琴の両足を左腕一本で支える事になったが、美琴は元々運動神経が良く、
バランス感覚も悪くないので、そちらは意外と危なげはなさそうだ。

「ぐっ…! もう、ちょ…前…ぐおおおお!!!」

だが新たな問題が浮上した。
姿勢を低くした分、今度は美琴の腕がスフィンクスに届かなくなってしまったのだ。
もうちょっとで触れられるのに、そのもうちょっとが遠い。ちなみに美琴が頑張っているその下では、

(てか胸がっ! 美琴センセーのお胸が押し付けられているのですが!?)

上条も別の何かと戦っていた。

「〜〜〜っ! だぁ! 届かない!」
「仕方ねぇ…一旦(美琴を)降ろすぞ。流石に疲れた」

美琴が姿勢を高くすれば上条の右手が美琴の頭へ届かずに電磁波をシャットアウト出来ず、
美琴が姿勢を低くすれば美琴の手がスフィンクスまで届かない。
この帯に短し襷に長し状態で何度チャレンジしても結果は変わらないので、
一度美琴を地に降ろしてからの作戦会議である。
とは言っても他に打開策があるとも思えず、やはり自分が下になるしか方法はないのではないかと、
美琴が思ったその瞬間だった。上条が、思いも寄らない方法を口に出す。

「こうなったら最終手段…逆肩車だ!」

その言葉に、美琴はフリーズした。
逆肩車とは要するに、肩の上に乗る方が、本来とは逆の向きになる事である。
ここからは説明がめんどい上に分かりにくいので、読み飛ばしてくれても構わないのだが、
図で説明すると下のようになる。
[ 8⇉  →  8⇄ ]
下の丸が上条、上の丸が美琴だとして、
左の図では矢印が同じ向き…つまり上条も美琴も右に向いている。こちらは普通の肩車だ。
しかし右の図では、上条が左を向き、美琴が右を向いているのだ。これが逆肩車である。
この状態だとどうなるのかと言われると、まず下にいる上条が美琴の頭を触りやすくなる。
先程、前から触ろうとすれば美琴の視界の邪魔になり、
背後からだと手が届きづらいと説明したが、逆肩車ならばそれらが一気に解消する。
何故なら上条が前から手を伸ばしても、美琴の背後から簡単に頭を触れられるからである。
それともう一つ利点(?)がある。ここから先は読み飛ばした方にも読んで頂きたいのだが、

逆肩車するとミコっちゃんのお股が上条さんの顔面に当たる事となるのだ。


968 : 人の心猫知らず :2015/12/06(日) 16:18:12 0jvK5PkY
今まで後頭部に当たっていた部分なのだから、上条さんが向きを変えたらそれはそうなるだろう。
それが分かっているからこそ美琴はフリーズし、そしてその後に叫ぶのだ。

「いや、だからねっ!? そんな事するんなら私が下になるってば!」

しかし上条は食い下がる。

「だから女の子にそんな事させる訳にはいかないって」
「肩車の下になる以上の『そんな事』な事態になっちゃうじゃないのよっ!!!」
「あ〜もう、いいからほら! とっとと肩に乗れって!」
「わっ! わっ、ちょ…きゃあああ!!!」

美琴の意見を聞く耳など持たず、強引に逆肩車をする上条。
彼の名誉の為にも断っておくが、上条は別に下心があってこんな事をしたのではない。
地上で長々と議論していては、いつスフィンクスが木から落ちるか分からないから、
今、考えられる最も効率的な方法を実行しただけなのだ。
美琴が恥ずかしがっていようがいまいが関係ない…
と言うよりも、恥ずかしがっていられる余裕もないのである。
だがここで、この作戦の致命的な欠陥が二つも浮かび上がる。
まず一つ。下で支える役の上条が何も見えない。
先程まで視界が良好だったのは、普通に肩車していたからだ。
しかしこの逆肩車では、文字通り目と鼻の先に美琴が立ち塞がる為、
美琴の(スカートと短パン越しとは言え)お股の部分しか見えない。
そしてもう一つの欠陥。こちらが更に厄介且つ深刻なのだが…

「もががもがもがもが! もごもごもがもがもごごもご、もがもがもごもががも、
 もがもがもがもごごもがもぐもががもが!
 も、もごごがも! もがもがもごもごっ! もがもごもがもぐ〜!!!
 『通訳:何かいい匂いが! 真っ暗で何も見えないけど、視覚が奪われた分、
     嗅覚が研ぎ澄まされてハッキリと匂いが!
     い、いかん素数を! 素数を数えるんだ俺っ! 何も考えるな俺〜!!!』」
「や、あぁあっ! そ、そんら、ところへぁっ!!? んっ…くぅ、んっ!
 もご、もご、喋ら、らいれぉ……んっは!? 変に、なっ、ひゃうか、りゃ……
 あぁあんっ! ら、めぇ…それ、いじょ、は、ほんろに…んあっ!
 んっ、は、ぁ……ぁん! ふぁ、あ、ぁ…………っく…んああああああああぁぁぁ!!!!!」

街中で何をマニアックなプレイをしているのか、この二人は。
さて、そろそろオチの時間だ。
この隙にスフィンクスは上から飛び降り、そのまま何事もなく着地した。
冒頭でも説明したが、この猫は成猫になるかならないかの年齢であり、
そのくらいの猫ならば三半規管も発達しており、二階くらいの高さならば難なく着地できる。
ならばなぜ今まで自分から降りなかったのか、とお思いの方も多いだろうが、それも説明した筈だ。
猫というのは気まぐれな生き物だからだ。
上条と美琴【にんげんたち】が四苦八苦しているのを見ている間に、
「あれ? これ、もしかしたら自力で降りられるんじゃね?」とでも思ったのだろう。
そしてスフィンクスがピョンと飛び降りて、そのまま帰っていくのにも気付かない哀れな人間共は、
まだ下から【かみじょう】はお股をモゴモゴしたり、上【みこと】は変な気分になってビクンビクンするのだった。


969 : くまのこ :2015/12/06(日) 16:18:50 0jvK5PkY
以上です。
ではまた。


970 : ■■■■ :2015/12/06(日) 22:46:07 1gGglpRY
>逆肩車

キンニクバスターのことかと思った


971 : ■■■■ :2015/12/07(月) 14:25:11 9tM7Ua3g
>970

俺はキン肉ドライバーの前段階(ミコっちゃんのお尻が上条さんの後頭部に当たるけど)を想像したんだけどね。
つーか、どう考えても、年頃の女の子相手にスカートの中に顔を突っ込むような肩車っておかしくね?(笑)


972 : ■■■■ :2015/12/07(月) 21:06:10 4U1D6Srg
>>970を越したので、新スレ立てました

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part29
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1449489675/


973 : ■■■■ :2015/12/07(月) 21:16:10 JtegsU3U
>>972
新スレ立てお疲れ様&ありがとうございます!


974 : くまのこ :2015/12/11(金) 18:03:42 AEt7AOzg
>>972さん。
スレ立て感謝です! 本当にありがとうございます!



このスレもそろそろ終わりですが、そんな中また短編書きました。
上条さんがミコっちゃんのアイコラ写真でてんやわんやする話です。
約3分後に5レス使います。


975 : とある秘密の合成写真【アイドルコラージュ】 :2015/12/11(金) 18:06:36 AEt7AOzg
コラ画像。それは写真やアニメの画像などを加工する事である。
その中でもアイドルの顔写真を使用した物は、アイドルコラージュ…アイコラと呼ばれている。
雑な切り貼りをしてネタとして楽しむ画像も多いが、
グラビアアイドルの体に自分の好きなアイドルの顔を付け足して、
『別の意味』で楽しむ方法も存在する。
さて、何故そんな説明を冒頭でいきなりしたのかと疑問を持った方も多いだろう。
実はここにいる青髪ピアス。何を隠そうアイコラの天才なのである。
学園都市の最先端の科学技術と、彼のエロスへの底知れぬ探究心は、
良い意味でも悪い意味でも相性が良い。
「変態に技術を与えた結果がこれだよ!」の典型的な例である。
結果的に彼は、その(どの?)界隈で名が知られるようになり、天賦夢路の時と同様、
一部の熱狂的なファンからは尊敬の念を込めて、今でも『BUAU』と呼ばれているのだ。
どうやら自分が作ったアイコラを、「欲しい!」と言う人に無料配布しているらしい。

「と、いう訳や」
「何が『と、いう訳』なんだよ…」

そんなBUAUこと青髪から、放課後にパソコン室で呼び出された上条は、
自慢なのか犯罪歴なのかよく分からない武勇伝を聞かされていた。

「で? お前のアイコラ技術が凄いって事を延々聞かされた上条さんは、
 一体どのようなリアクションを取ればよろしいので?」

心の底からどうでもいい話に溜息交じりで相槌を打つ上条だが、
青髪は見透かしたようにニヤリと笑う。

「ふっふっふ…そんなん言うてもええんかな? これカミやんの為に特別に作ったのに」

言いながら青髪は、教室の中のパソコンを一台立ち上げる。
そして自分のアカウントのパスワードを入力して、フォルダーを開く。するとそこには…

「っんな!? こ、これ…は…!」
「せや! 御坂美琴ちゃんと富愚射華ちゃんのアイコラや!」

ディスプレイに写し出されたのは、ぽっちゃり系グラドルの体に、
上条のよく知る人物【みこと】の顔が貼り付けられたコラージュ写真だった。
元がグラビア写真なだけに、着ているビキニはワンサイズ小さく、
普段美琴が絶対に着ないであろうエロ水着姿はかなり新鮮だ。
そして加工技術もまた青髪が自画自賛するだけの事はあり、言われなければ…
いや、言われてもコラだと分からないくらいに自然だったのだ。
正に「継ぎ目すらない美しいフォルムだろ?」である。

「い、いつの間にこんなもん作ったんだよ!?」
「授業中にちょこちょこっと」
「お前…先生が知ったら泣くぞ…」
「せやから、バレてもうたからカミやんを呼んだんやないかい」
「…? どういう事だよ」


976 : とある秘密の合成写真【アイドルコラージュ】 :2015/12/11(金) 18:07:07 AEt7AOzg
青髪は上条を呼び出した理由を説明しだした。
つまり、授業中にコラ画像制作している【あそんでいる】事が学校側にバレてしまい、
作った画像を全て消去して、反省文も書かないといけなくなったらしいのだ。
しかしデータは消してもすでにプリントアウトしてしまった物はどうしようもない。
かと言って自分で持っている訳にもいかないので、上条に処分【おすそわけ】を頼もうとしているのである。
それを聞いた上条は、青髪に向かって一言こう言った。

「お前バカだろ」
「バ、バカとは何やバカとは!
 他にも欲しがる人おったけど、カミやんの為に取っておいたんやぞ!?」

プリプリ怒る青髪に対し、上条は腕を組みながら苦言を呈する。

「あのなぁ…確かにムチムチしててエロいけど、よく考えて見ろよ。
 美琴はここまで肉付きが良くねーんだよ! リアリティが足りねーよリアリティがっ!」

…上条の言葉に、恐らく大半の方がこう思った事だろう。「ツッコむ場所そこじゃねーよ」と。
しかし青髪はそんな上条をキョトンと見つめ、その後すぐにカラカラを笑い始めた。

「ああ、そないな事かいな。心配せんでもええよ。
 そういうリアル志向な人の為に、こんなんも作っといたから」

すると青髪は、自分の鞄の中から一枚の写真を取り出す。
これが先程の話に出ていた、すでにプリントアウトしてしまったコラ画像写真のようだ。
それを見た瞬間上条は、顔を赤くしながら「ぶふっ!!?」と吹き出してしまった。
その反応を見た青髪は、満足そうにニヤニヤ笑う。

「や〜、しかしカミやんもマニアックやねぇ。貧乳の方がええやなんて。
 ま、ボクかて嫌いやないけど、大多数の人はリアルやなくてもええからて、
 おっぱいの大きい方を選んでくで?」
「い、いいいや! 違っ! そ、そういうんじゃなくてだなっ!」

上条は慌てて否定するが、そんな事をしても何の意味もない事は目に見えている。
そうなのだ。青髪が鞄から出したその写真は、
先程と同じコラ画像を扱った物だったのだが、何箇所かだけ違う部分がある。
しかしその違いは、先程の画像とは全く別物にする程の大きな違いなのだ。
端的に言えば、ウエストと手足は細く、そしてバストは小さく修整されている。
広報CMの美琴の体型を参考にしたらしく、それは誰がどこからどう見ても、
御坂美琴がエロ水着を着ている写真にしか見えなかった。

「まぁ、ええわ。ほんならボクは、これから秘密のフォルダーにデータ移さなアカンから、
 カミやんはもう帰りぃ。渡した写真は先生に見つからんようにしてなー」

どうやら素直にデータを消去する気がないらしい青髪は、
上条に無理矢理(?)写真を押し付けると再びパソコンのディスプレイと向き直した。
しかし何故か上条は、受け取った写真を青髪に返還する事もその場へ捨てる事もせず、
自分の制服の内ポケットに、そっと仕舞い込むのだった。


977 : とある秘密の合成写真【アイドルコラージュ】 :2015/12/11(金) 18:07:45 AEt7AOzg
 ◇


上条は変な緊張感を持ちながら、周りの様子をキョロキョロと警戒しつつ校門を出た。
喉は渇き、心臓は速く脈打つ。しかし気分は高ぶっている。
その様子はさながら、初めてエロ本を拾って帰る中学生男子の如くである。
理由は勿論、内ポケットに挟んである例のコラ写真だ。
こんな物を持っている事が誰かに知られたら、色んな意味でアウトとなる。
特に上条は他の人よりも不幸な事態に陥りやすく、本人もそれを自覚している。
だから警戒を怠る訳にはいかないのだ。
だったら何故そんな危険物を持って帰るのか…それを言うのは野暮という物である。

(う〜…思わず持って来ちまったけど、これどうしよう…?
 部屋ん中に、インデックスにもオティヌスにも見つからないような隠し場所ってあったっけ?)

やはり、お持ち帰りする事は確定しているようだ。だが上条が不幸なのもまた事実。
上条はこの直後、もっとも会ってはならない人物と遭遇する事となる。

「ご、ごほん! ちょろっと〜? な、何か今日も偶然会っちゃったわねー!
 まぁ多分何かの縁だろうし、い、一緒に帰らない?」

背後から話しかけてきたのは、正真正銘本物の御坂美琴だった。
まるで上条が学校から出てくるのを『待っていた』かのような偶然で、
本日も彼女と出くわす。もうツッコむのもめんどいので、ここは偶然という事にしてほしい。
さて、そんな美琴に声を掛けられた上条が、どんな反応を見せたのかと言えば。

「だあああああああぁぁぁあぁしっ!!!!!」

思いっきり大声を上げて背筋をビクゥッ!とさせたのだった。二人の役割がいつもの逆である。
上条の言動で美琴が奇声を発するのはよくあるが、このパターンは珍しい。

「ど、どうしたのよ急に!?」
「ななななな何でもありませんですことよ!!?
 上条さんは何もやましい物など持っておりませんですはい!!!」

あからさまな挙動不審。何かを隠しているのは明白だ。
美琴はジト目で上条を睨みながら、「怪しい…」と呟いた。
対して上条は、滝のように冷や汗を流しながら目を泳がせている。
美琴はずいっと一歩前に出て上条に詰め寄り、同時に問い詰め始めた。

「アンタ何か隠してる事があるでしょ! 正直に白状しなさいよ!」
「だだだだから何も隠してないってば!!!
 こ、ここ、これがウソついてる男の目に見えますか!!?」
「そんな50mプールを全力で往復したみたいに泳いだ目を見せられても、
 信じられる訳ないでしょ!? また変な事件に巻き込まれてんじゃないでしょうね!」

確かにある種、事件に巻き込まれていると言えなくもないが、
決して美琴が心配するような事ではない。
しかしだからと言って詳しく説明する事は絶対に出来ないので、
(美琴からすれば)意味深に口ごもってしまう上条。ますます怪しい。

「アンタがどこかで戦う時は、私も一緒に連れてけって前にも言ったでしょ!?
 そりゃ…あんな化物達と戦うのに私なんか足手纏いになるのかも知れないけど……
 でも! だからって私に黙って行こうとするなんて…そんなの、そんなのって!」

瞳の中を薄っすらと潤ませ、何やら必死に訴えかける美琴だが、
そのシリアスな雰囲気は残念ながら無駄骨である。
だってそもそも上条は、これからどこかへ戦いに行く訳ではないから。
美琴のコラ写真を持っている事を、美琴本人にバレないようにここを切り抜けるには、
どうすればいいのかを考えているだけなのだから。
しかし何度も言うようだが、それを本人に説明する訳にはいかない。
それは秘密をバラしてしまうのと同義である。
だが先程も説明した通り、彼は自他共に認める不幸体質だ。
美琴に詰め寄られてアワアワをしている上条に、あろう事か、
ここで絶対に起きてはならない不幸が発動する。


978 : とある秘密の合成写真【アイドルコラージュ】 :2015/12/11(金) 18:08:29 AEt7AOzg
パサッ…

突然、上条の胸ポケットから一枚の写真が落ちてきた。
原因はポケットの底に開いている大きな穴である。
上条は今ほど自分の不幸とマヌケさ加減を呪った事はないだろう。
何故このタイミングなのか。そして何故ポケットに穴が開いている事に気付けなかったのか、と。

「…? なに、これ?」
「ああああああああああ!!! ちょ、それらめええええええええええ!!!!!」

何だろうと思い、美琴はその写真を拾い上げる。
上条も止めようとしたのだが、コンマ数秒遅かったようだ。哀れ写真は美琴の手の中である。
そして写真を一目見た美琴は、見る見る内に顔を真っ赤にさせていく。
美琴は先程とは全く違った涙を目に溜めながら、全く違った理由で上条を問い詰める。

「なっ! なななな何なのよこの写真っ!!? 私こんなの撮った記憶が無いんですけど!!?
 てかそれ以前に、ど、どどどどうしてアンタがこんなの持ち歩いてんのよ!!?
 私に黙ってどうするつもりだったのよこの写真っ!!!!!」
「おおお、落ち着こうぜミコっちゃん!!! こ、これには深ぁ〜いワケがありましてですね!!!」
「こんなの見せられて落ち着けって方が無理でしょうがっ!!!!!」

ごもっとも。
上条は必死に頭を回転させて、何と言えば美琴を説得出来るのかを思案する。
正直に話す…いや、駄目だ。火に油を注ぐような物だ。
「実は御坂妹に水着を着て撮らせて貰った」と言って誤魔化す…
いや、駄目だ。何故か殺されてしまうイメージが沸いてくる。
「実は美琴に催眠術をかけて、その間に水着を着せて」…いや、駄目だ。それ犯罪だ。
困った。何を言っても怒りを買ってしまうような気がする。
しかし黙っている訳にもいかないだろう。ここは何か言わなければ、完全に変態扱いされてしまう。
なので上条はとっさに。

「い、いやこれ、その、今度、つ、『使おう』と思ってだな…」

考えうる最低の言葉を残した。
上条としては、別に何に使うかとか考えていた訳ではなかった。
ただ無意味に持っているよりも、何かに使うと言った方が罰も軽減されると思ったのだ。
理由がある【つかう】のなら仕方ない…美琴もそう思ってくれるのではないかと思ったのだ。
しかしどうだろうか。エロ水着姿の美琴の写真を、『使う』というのは。
使う用途など限られてくるのではないだろうか。
冒頭でアイコラは『別の意味』で楽しむ方法も存在すると説明したが、正にそれなのではないか。
そこに気付いた上条は、言った直後にハッとして、真っ青になった。

「あっ!!? いや、ちょ待て美琴っ!!! 今のは間違い!!!
 そ、そういう意味で使うって言ったんじゃなくてだな!!!」

しかし美琴は聞く耳を持たない。
真っ青になった上条とは対照的に、ふにゃー寸前まで真っ赤になった美琴は。

「そっ!!! そそそそそんなに使いたきゃ好きにすればいいじゃない!!!!!
 アアアアンタが私の写真でナニしようが私には全然関係なんて
 ないんだからああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

そう捨て台詞を吐きながら、美琴は脱兎の如く走り去ってしまった。
自分が撮った記憶の無いその写真の正体を、上条に問いただすのも忘れるくらいに。
一人ポツンと置いていかれた上条は、小さくなって行く美琴の背中を眺めながら、

「……助かった…のか?」

と一言漏らしたのだった。


979 : とある秘密の合成写真【アイドルコラージュ】 :2015/12/11(金) 18:09:04 AEt7AOzg
 ◇


部屋に戻った美琴は、ルームメイトの白井に一つ質問をした。

「……ねぇ、黒子。アンタ前に、やたらと際どいビキニ着てたじゃない…?」
「ああ、皆で水着のモデルをした時ですの?
 わたくしとしては、アレはまだ大人しめなつもりだったのですが…」

白井が着たのは大事な所がギリギリ見えない黒のマイクロビキニだったのだが、
アレが大人しいなら普段は一体どんな水着を着ているのだろうか。

「それで、それがどうかいたしましたの?」
「うん…その、私も……ああいう水着とか…買ってみようかな〜、なんて…」

その言葉を聞いた白井は、一気に目をキラキラさせる。

「まぁ! まぁまぁまぁ! お姉様もいよいよ目覚めましたのね!?
 いいですわよ〜! わたしくがお姉様に合うアダルティな水着を選んで差し上げますの!
 んっふっふ…あの少女趣味全開だったお姉様がついに……ぐへへへへ!」

相談する相手を間違えたかな、と少し後悔する美琴。

「ですが一体どのようなご心境の変化ですの?
 それにまだ水着を慌てて選ぶような季節でもありませんが…」

白井の疑問に美琴は赤面し、ベッドの布団をギュッと掴みながらこう答えた。

「わ…私が、エ……エッチな水着を、着て、しゃ…写真に撮ったら………
 アアア、アイ、アイツがその…つ…『使う』って…言うから…」

瞬間、白井は空間移動で上条の下まで駆けつけた。
結局の所、上条は何一つ助かってなどいなかったのである。


980 : くまのこ :2015/12/11(金) 18:10:21 AEt7AOzg
以上です。
このスレで投稿出来るのも、あと1〜2回くらいですかね?
ではまた。


981 : ■■■■ :2015/12/11(金) 18:19:56 axIhTfrk
GJ!今年中に使い切りそうですかね( ^ω^ )


982 : ■■■■ :2015/12/11(金) 23:58:26 gobES3dU
みこちゃんこと美琴さんはかわいすぎる


983 : くまのこ :2015/12/15(火) 20:56:37 dnWCJD2c
また失礼します、すみません。
今回は小ネタを3本書きましたので投下します。
約3分後に、3ネタ合わせて4レスです。


984 : ミコっちゃんって猫に似てるから :2015/12/15(火) 20:59:28 dnWCJD2c
いきなりだが、ここにいる上条当麻は何かと捨て猫に縁がある。
そもそも同居人のインデックスが拾ってきた三毛猫を、寮部屋で飼っているし、
(上条の住んでいる学生寮はペット禁止。ついでに言えば、男子寮なので女性と同居する事も禁止)
御坂妹が黒猫を拾って飼うきっかけを作ったのも上条だった。

そして今日もまた、ダンボールの中でうずくまる白猫を見つけてしまった。
どうしよう…と上条は考える。
上条家のエンゲル係数は、これ以上は誰も養えないと悲鳴を上げている。
オティヌスはペットボトルの蓋に盛ったご飯2〜3杯でお腹一杯になってくれるので家計に優しいが、
先に紹介したインデックスと三毛猫・スフィンクスは、とにかく食費がかかるのである。
なのでこの白猫には悪いが、飼ってあげる事は出来ない。
犬と違って、猫ならば野良でもたくましく生きていけるだろう…
と、上条は自分で自分を納得させようとする。しかし。

「ううぅ…やっぱり放っておけねーよなぁ……」

困っている人がいたら助けずにはいられない性格の上条には、
捨て猫を見つけて素通りする事も出来なかった。とりあえず猫用のミルクだけでも買って来て、
ダンボールの中に置いておこうかと考えながら、その白猫に手を伸ばす。

「にゃーにゃー」

周りで誰も見ていないので、猫の鳴きマネなんかしてみちゃう上条。
こんな姿を知人に見られたら、いい笑いものにされそうだ。
しかしこの直後、上条はとんでもない事実に気付いてしまう。

『ガサッ…』

手を伸ばして触ろうとしたその白猫は、白猫ではなかった。というか、猫ではなかった。
ビニール袋である。それはもう、猫と見間違えていただけのビニール袋だったのである。
一瞬「猫になる呪いがかかっていたビニールを、幻想殺しで元に戻したのかな?」とか、
現実逃避な考えをした上条だったが、そんな訳がないのは上条が一番よく分かっている。
上条はその場でスッと立ち上がり、早々にここを離れる事を決意した。
誰にも見られていなかったが、恥ずかしい事この上ないのだ。
だが、ご存知の通り上条は不幸体質。このまますんなりと行く訳がないのである。
突然背後から、

「…っぷ! くすくすくす!」

と明らかに上条に向けて含み笑いをする声が聞こえてきた。
上条が真っ赤になって振り向くと、そこには美琴の姿が。

「なっ!? お、お前、い…いつからそこにっ!!?」
「ぷっくくく…! い、いつからって、ア、アンタがレジ袋に向かって、
 『にゃーにゃー』って言った時か、ら……あはははは! もうダメ限界! あはははははは!」

ついに決壊して、お腹を抱えて笑い出す。
美琴はいつものように上条を放課後デートに誘おうとしたのだが、
上条を見つけた時には既にダンボールの中のビニール袋とにらめっこしながら、
何かに悩んでいたので、何か面白そうな事が起きそうだと判断した美琴は、
そのまま声を掛けずに様子を見て【およがせて】いたのだ。
結果的には思った通り…いや、思っていた以上に面白い瞬間を目撃してしまった。
一週間は困らないような話のネタ【おちょくるざいりょう】である。
上条は真っ赤な顔のまま「ぐぬぬ」と唸ると、ちょっと涙目になりながら文句を言う。

「だ、誰にだってこんな間違いあるだろ!? つーか笑いすぎだろ!」
「だ、だって…! あんなに堂々と、にゃ、にゃーって、あっはははははは!」
「〜〜〜っ!」


985 : ミコっちゃんって猫に似てるから :2015/12/15(火) 21:00:02 dnWCJD2c
美琴は中学二年生にしてはかなり大人びてはいるが、
それでも箸が転んでもおかしい年頃である事には間違いない。
大笑いは止む事がなく、上条はそっぽ向いて不貞腐れてしまう。

「ああ、そうかよ! 悪かったなビニールに『にゃー』とか言っちまって!」
「あははは……はー、はー…ごめん、ごめんってば! もう笑わないから!」

ようやく落ち着きを取り戻した美琴は、上条の肩をポンと叩く。
笑いすぎて溢れた涙を人差し指で拭いながら。
しかしそれで上条の気が晴れる訳ではない。笑われたままでは何か悔しい。
なので上条は、美琴に仕返しをして、今度はこっちが笑ってやろうと決意する。

「ふっ…ふっふっふ! あれー? こんな所に大きな猫がいるなー!」

突然、棒読みな芝居口調でそんな事を言い始める上条。
だが周りには猫などいない。またレジ袋でも見つけたのかと、再び吹き出しそうになる美琴だったが、
その刹那、上条がとんでもない事を言い出してきた。

「おやおやー? この猫は何だかビリビリするなー。電気猫なのかなー?」
「……………へ?」

上条は真っ直ぐ美琴の顔を見ながら、意味不明な供述をする。
というかそもそも、電気猫って何だ。電気ねずみなら有名だけども。

「でも猫は猫だからなー。首をこうやって撫でれば、ゴロゴロ鳴くんじゃないかなー」
「にゃっ、にゃにゃにゃ…ふにゃっ!!?」

しかも今度は、美琴の首を指でコチョコチョしてきやがった。
どうやらこれが上条式の仕返し方法らしい。
おちょくられた分は、きっちりおちょくり返してやろうと思っているのだろう。
しかし実際にやっている事は、端から見ればただのイチャイチャに過ぎない。
知らない人が見たら、恋人同士がふざけ合っているようにしか見えないのである。

そのまま爆発しなさい。


986 : 占いなんて :2015/12/15(火) 21:00:45 dnWCJD2c
上条は占いを信じていない。神のご加護すら打ち消してしまう幻想殺しを持つ彼は、
どれだけ占いで良い結果が出たとしても、結局の所は不幸だから。
なので朝のワイドショーの占いコーナーで、キャスターのお姉さんが
『今日の最も良い運勢は水瓶座のあなた!
 恋愛運が急上昇! もしかしたら運命の出会いが待ってるかも!
 ラッキーアイテムは鞄に付けたカエルのキャラクターグッズ!』
とか言ってきても、上条は絶対に信じないのだ。
上条は「ふっ…」と薄く笑い、テレビを消してそのまま学校へと向かう。

「いってらっしゃいとうま! …って、あれ?
 そのカエルっていつもとうまがけーたいでんわーに付けてる物だよね?
 どうして今日は、鞄に付けてるのかな?」
「いいいいや別に深い意味は全然これっぽっちもありませんですことよ!!?
 ただちょっと気分転換したいだけだから! そ、それじゃあ、いってきまーす!!!」

占いは全く信じないが、気分転換くらいはするのである。


 ◇


美琴は占いを信じていない。自他共に認めるガッチガチの科学脳である彼女は、
そんなオカルトめいたモノに対して冷ややかなのだ。なので雑誌の占いコーナーに書かれている、
『今週の運勢第一位は牡牛座
 10年に一度のラブ運! 気になるあの人と急接近する大チャンスかも!?
 ラッキーカラー:赤   ラッキーパーソン:ツンツン頭の高校生』
という記事を読んでも、絶対に信じないのだ。
美琴は「はっ…」と鼻で笑い、雑誌を閉じてそのまま学校へと向かう。

「ではお姉様、そろそろ登校したしませんと…ってあら?
 今日はいつもの水玉のハンカチではなく、真っ赤なハンカチをお持ちですのね。
 というか、他の小物も全て赤で統一されているような…?」
「いいいいや別に深い意味は全然これっぽっちもないのよ!!?
 ただちょろっと心機一転したいだけだから! ほ、ほらもう部屋出ないと遅刻するわよ!!!」

占いは全く信じないが、心機一転くらいはするのである。


 ◇


佐天は占いを信じている。学園都市に来る前に母親から貰ったお守りを今でも大事にしているし、
そもそも彼女は都市伝説収集を趣味としている。
基本的に、面白そうな事は何でも食いつく性格なのだ。
なので占い系のアプリを起動させながら、一緒に登校している初春に話しかける。

「ねぇ、初春。御坂さんって牡牛座だよね」
「あ、はい。誕生日が5月2日の人は牡牛座だったと思いますけど…
 っていうか歩きながら携帯電話を弄るの止めてくださいよ」
「まぁまぁ、今いい所だから。それで…上条さんって何座だか知ってる?」
「えっとぉ……以前、書庫で調べた時に水瓶座って書いてあったような…?」
「ほっほ〜う? なるほどなるほど」
「…? 何だか佐天さん、もの凄く悪い顔をしてますよ」
「いやいや。ちょっとこのアプリで、今日の牡牛座と水瓶座の運勢を調べてみたんだよね。
 そしたらこんな結果が♪」
「またこんな物を信じて…アプリの占いなんて信憑性が無ぬっふぇっ!!!?」

あまりの具体的すぎる結果に、初春は顔を真っ赤にしてしまった。

『本日の 牡牛座 と 水瓶座 の相性は100%
 二人の共通アイテムであるカエルのグッズについて思い出話に花が咲き、
 良い雰囲気になった所でクレープ屋で一休憩。
 しかもそのクレープ屋では、「本日赤いアイテムを持っているカップルにはトッピング無料」
 というキャンペーンをやっており、二人はカップルを装う事に。
 しかしカップルである事を証明する為に店の前で「あ〜ん」して食べさせ合う。
 その後なんやかんやあって抱き合ったりキスしたりして、二人は付き合う事になる』



この日、占いを信じていない上条と美琴が一体どうなったのか…敢えて言う必要もないだろう。


987 : 御坂美琴最後の日 :2015/12/15(火) 21:01:44 dnWCJD2c
本日、御坂美琴という一人の女性がこの世から消える。
レベル5の第三位として数々の戦いを生き抜いてきた彼女を以ってしても、
それはどうする事も出来なかったのだ―――



その瞬間を、白井はただ呆然と見つめていた。
涙なのとっくに枯れ果て、もはや生きる気力さえ失ってしまった。

「貴方の…せいですわよ! 貴方が…貴方のせいでお姉様はっ!」
「………」

憎しみという感情を上条にぶつける白井。
彼女だって分かっている。本当は上条が悪い訳ではないという事に。
そしてそんな事をしても、御坂美琴は帰って来ないという事にも。
だが何かに当たらなければ、自分が壊れてしまうような気がしたのだ。
上条もそれが分かっているからこそ、拳をギュッと握りながら白井に向かって。

「…すまない」

と呟いた。

「すまない…ですって…? 今更…今更謝った所でお姉様はっ!!!」
「も゛う止めま゛じょうよ白゛井ざん!」

そう言って白井を羽交い絞めにして止めたのは、初春だった。
初春は嗚咽を漏らしながら、それでも白井をなだめる。

「もう、どうじようも゛……えっぐ、な゛い、じゃないでずが!
 上条ざんを責めだ所゛で…御坂さんが喜ぶとでも゛思っでる゛んでずが!!?」
「っ! ですが…ですがわたくしは!」
「そうだよ白井さん」

すると今度は佐天が割って入ってくる。
佐天は一瞬だけ上条に一瞥すると、すぐに白井と初春に向き直った。

「いい加減…諦めてくださいよ白井さん。御坂さんだって、最後は笑ってたじゃないですか。
 だから…あたし達も笑って送りましょうよ。だって今日から……



































 『御坂さん』じゃなくて『上条さん』になるんですから」

ここは市役所。そして上条の目の前には一枚の婚姻届。
上条は印鑑を握ったままの拳をギュッとしながら一言。

「いや、ホントにすまない。でも美琴も合意だから」
「うぉあああああ!!! 聞きたくありませんのー! そんな事聞きたくありませんのー!!!」
「えぐっえぐ…本当゛におめでどうござい゛ま゛ず〜〜〜!!!」
「初春、そろそろ泣き止みなよ…」
「当麻〜! もう婚姻届に捺印押した〜?
 ……あっ! 当麻じゃなくて、『アナタ』になるんだっけ〜♡」

本日、御坂美琴という一人の女性がこの世から消え、上条美琴として生まれ変わるのであった。


988 : くまのこ :2015/12/15(火) 21:02:29 dnWCJD2c
以上です。
ではまた。


989 : くまのこ :2015/12/20(日) 00:25:50 by4QqW4Q
はい、また短編書きました。
ミコっちゃんが家族の事で色々と妄想する話です。
約3分後に2レス使います。


990 : とある妄想の家族計画 :2015/12/20(日) 00:28:37 by4QqW4Q
美琴は上条が通っている高校の校門前で、彼が来るのを待っていた。
と言っても今日はいつものように非公式【ぐうぜんとおりかかった】ではなく、公式【かみじょうからのよびだし】だ。
もっとも理由は『お一人様一パックの卵を二つゲットする』という、
言ってみれば上条さんのお約束のオチだったのだが、美琴はそれでも嬉しいのである。
上条の役に立てる+ちょっとしたデート気分。美琴にとって、これ以上の幸せはないのだ。
流石にもう少しくらい高望みしてもいいと思うが、本人が満足そうなので良しとしよう。

上条を待っている間、美琴は暇つぶしに携帯電話を弄りながらネットニュースを読んでいる。
そんな中、『人気急上昇中のアイドルが10代で結婚した』という記事に釘付けになった。

(結婚かぁ……)

読みながら、美琴はポワポワポワンとある妄想をする。
脳内の自分がウエディングドレスを着て、海の見えるチャペルでたたずんでいると、
真っ白なタキシードを着た新郎が優しく抱き締めてくるのだ。
お相手は勿論、いま美琴が現実空間【こうもんのまえ】で待っているツンツン頭である。
彼は美琴の顔にかかっていたベールを摘み上げ、そのままそっと口付けすると、
『これからも、ずっと美琴の事を愛し続けていいかな…?』、と囁く。
そんな小っ恥ずかしい妄想をしながら、「えへへ〜…」とだらしない笑顔を晒していると突然。

「悪い! こっちから呼び出したのに遅れちまって!」

遅れてきた上条が、校門を通りながら美琴に話しかけてきた。
どうやら補習授業が思っていたよりも長引いたらしい。
対して、急に声を掛けられた美琴は思いっきり妄想を引きずってしまい、

「ここここちらこそ不束者ですがっ!!!?」

と訳の分からない返事をしてしまった。
だが美琴の挙動不審【テンパリ】は毎度の事なので、上条はあまり気にせずスルーする。
だが次の瞬間、今度は上条が訳の分からない事を言ってきた。

「じゃあ、行こうか。母さん」
「……………へ?」

突然の『母さん』呼びである。
実は上条、補習が終わって帰り支度をしている間、母・詩菜から電話があったのだ。
内容は大した物ではなく、最近学校ではどうだとか、ちゃんとご飯は食べているかとか、
美琴さんとは仲良くやっているのかとか、美琴さんの事はどう思っているのかとか。
若干話題に偏りはあったものの、一般的な親子の会話をしたのである。
さて、ここからが問題なのだが、皆さんにも一度は経験があるだろう。
先生の事を「お母さん」と呼んでしまう、小学校あるあるな失敗談が。
つまり上条がやってしまったのはそれなのだ。詩菜と会話したばっかりだった為に、
美琴の事を「母さん」と呼んでしまったのである。しかもその事に、上条本人は気付いていない。
しかし「母さん」と呼ばれた美琴はどう思うだろうか。美琴は学園都市第三位の演算能力を使い、
彼が何故自分の事を「母さん」と呼んだのか、その答えを導き出す。

(えっ、えっ!!? な、きゅ、急に何言ってんの!!?
 ま、まままままさかプロポーズ的なそういうヤツっ!!!?
 し、しし、しか、しかも『母さん』って、も、もう子供がいる設定じゃないのよっ!!!
 いいい、いくら何でも、気が早すぎるわよ馬鹿あああああ!!!!!)

やはり先程の妄想を引きずっているらしい。美琴は顔を真っ赤にして叫んだ。

「い、いいい、言っとくけどっ!!! 男の子と女の子、どっちも欲しいんだからねっ!!!!!」
「えっ!? 何が!!?」

お互いに、微妙にかみ合わない二人である。美琴が急に子供の話をしたので何事かと理由を聞くと、
美琴は上条が「母さん」呼びした事を指摘した。

「あ、あー。そういう事か。全っ然気付かなかった…実はさっき母さんと電話してて、
 それで多分美琴の事を『母さん』って言っちまったんだと思う」
「あ、な、なるほどね! 私はてっきり……ごにょごにょ…」

後半は小声でごにょごにょだったので、美琴が何を言ったのか聞き取れなかった上条。
が、やはり上条は気にせず(気にしろよ)、スーパーに向かって歩き出す。
しかし歩きながらも世間話は続行する訳で。

「にしても子供かー…美琴って美鈴さんにソックリだし、
 将来子供が出来たら、やっぱり美琴【ははおや】に似るのかね?」


991 : とある妄想の家族計画 :2015/12/20(日) 00:29:15 by4QqW4Q
すると美琴は、上条と、その父・刀夜の顔を思い浮かべる。

「いや〜、アンタもパ…お、お父さんの血を色濃く継いでるみたいだし、
 アンタ似って可能性もあるんじゃない?」

一瞬だけ「パパ」と呼びそうになったが、何とか誤魔化した美琴である。
心の中で「女性に対するフラグ能力も受け継いだら困りモンだけど」と付け足すが、
それどころではない事に美琴自身も理解してはいなかった。
彼女の失言に対し、上条は当然ながらツッコミを入れる。

「……え? 何で俺の子供の話になってんだ?
 美琴の子供がどうなるかって話をしてんじゃなかったっけ?」

あまりにも当たり前の疑問。美琴は再び顔を赤面させて、必死に弁解する。

「びゃあああああああああ!!!!! ちちちち違う違う違う違う!!!
 べ、べべ、別にアンタ以外の男と結婚するつもりはないとか、
 そんな事は全然言ってないんだから勘違いするんじゃないわよっっっ!!!!!」

誰もそんな事まで聞いていないのだが、勝手に墓穴を掘る【じぶんからパニクる】美琴。
何をやっているのか、このお嬢様は。流石の上条でも、ここまで様子がおかしければ疑念を抱く。

「…? どうかしたのか? 体調が悪いなら無理して俺に付き合う事も―――」
「何でもないわよっ! アンタと付き合うくらいいくらでも……
 あっ! つつ、付き合うって言っても買い物の事よ!? 買い物の!」

他にどの『付き合う』があるというのか。ともあれ、誤魔化せた事は誤魔化せたようだ。
上条の方も、腑に落ちないが一応は納得したらしく、「そ、そうか。ならいいけど…」と一言。
しかし先程のように厳しいツッコミを入れられると面倒なので、美琴は強引に話を変える。

「そ、そう言えば今日買う卵っていつもよりも安いの?」
「ん? ああ…ちょっと待てよ?」

すると上条は、学生鞄から一枚のチラシを取り出した。
これから行くスーパーの物なのだが、学校にまで持って行くなよと思わなくもない。

「そうだな。普段の特売よりも20円前後も安いよ。だから二人で買って………あ」
「…『あ』って何よ」

嫌な予感がしたので尋ねてみると、上条から予想だにしない言葉が返ってきた。

「いやー…お一人一パックだと思ってたんだけど、
 今よく見たら一家族一パックだった…道理で20円も安い訳だわ……」

一家族いくつまで…たまにスーパーにあるトラップである。
個人ではなくグループで精算される為、何人で買い物に行ってもお得にならないのだ。
何度もレジを通るのなら話は別だが、それが出来ればそもそも助っ人【みこと】を呼び出していない。

「ごめん美琴! せっかく来てくれたのに無駄になっちまった!」

両手を合わせながら頭を下げ、必死に謝罪する上条。
だがそんな上条を怒るでもなく、美琴は何故かチラシを見ながらニマニマしていた。

「一家族…家族、ね。ふ〜ん、私とアンタがね。へぇ、か・ぞ・く…ねぇ〜♪」
「……あの、美琴さん?」
「なぁに? ア・ナ・タ♡ なんちゃってなんちゃ…って…? ………ハッ!!!」

ここで、妄想と現実がごっちゃになっていた【トリップしていた】事に気付く美琴である。

「にゃあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!
 いや、あの、その、これは、えっと、と、とにかく違うわよっ!!!?
 わ、わ、私とアンタが……ふ…夫婦っ! としてスーパーに行くとか、
 そ、そそ、そんな訳ないじゃない!!! せいぜい兄妹とかでしょそんなもん!!!」
「上条さんは何も言ってないのですが…」

まぁ確かに、中学生の制服を着て夫婦もないだろう。上条も冷静にツッコミを入れる。

「うううううっさいわねっ!!! ほ、ほら、もうお店に着いたわよ『お兄ちゃん』!」

結局、終始様子がおかしかった美琴だった。しかも卵は一家族一パックなので、
美琴が付いてくる必要はないのだが、何故か一緒に買い物をしたのだ。
ご丁寧にもスーパーを出るまでの間、妹キャラを維持しながらである。
別に徹底して妹を演じる必要など皆無なのだがしかし、それはそれとして、
店内で美琴から「お兄ちゃん」呼びをされ続けた上条は思ったのだった。

(ツンデレ妹…か。上条さん、そういうの嫌いじゃない)

寮の管理人のお姉さんを好きな女性のタイプだと豪語する上条に、新たな性癖が加わったのである。


992 : くまのこ :2015/12/20(日) 00:30:22 by4QqW4Q
以上です。
そろそろ埋めですかね?
ではまた。


993 : ■■■■ :2015/12/20(日) 01:33:31 oNOzndY6
乙です 年末までに新スレ行きそうですね


994 : くまのこ :2015/12/24(木) 00:02:54 jc9oYjyU
クリスマスネタ書きました。
まだギリギリ余裕があるのでので、こちらに投下します。
約3分後に4レスです。


995 : そんなプレゼントで大丈夫か :2015/12/24(木) 00:06:03 jc9oYjyU
十字教を信仰する敬虔なシスターはこう言った。

「とうま? 今日は神が降誕した聖なる日…その前夜祭なんだよ?
 盛大にお祝いしなくては失礼にあたると思うんだよ。
 それなのに、ディナーが白いご飯と野菜炒めだけ【いつものメニュー】ってどういう事なのかな!?」

対して、この部屋の家主も反論した。

「うっせぇ! 大体お前、クリスマスってのは本来、
 家族と一緒に粛々と過ごすモンだって言ってたじゃねーか!」
「そ、それは! とうまが他の女の人から…パーティーに誘われたとか言ったから……ごにょごにょ…」
「うわっ!? ちょ、おい人間! それより私を助けろ!」
「つーか、そもそも俺は別に十字教徒でもねーし! てかそれ以前にお金!
 マネーが無いの、この家には! ただでさえ年末年始は物入りだってのに…!」
「だからって流石に、これは無いんじゃないのかな!? こ・れ・はっ!
 もう寂しいとかそんなレベルの話じゃないんだよ!」
「安心してください、ケーキもありますよ。まぁ、ちょっと早いクリスマスプレゼントだと思えよ」
「……えっ? 本当?」
「うぉわああ!!! は、離れろバカ猫っ! …え? いや待て! そ、そんな所まで!?」
「ああ。ただしコンビニで買ってきた120円のカットケーキ一個だけだけどな!
 しかもその一個を俺とインデックスとオティヌスで三分割だ!
 一杯のかけそばならぬ、一個のショートケーキだうははははは!」
「世知辛すぎるんじゃないのかな!? プレゼントっていうよりはお土産なんだよ!
 サンタクロースってもっと太っ腹な筈なんだよ! こんなケチくさいのはイヤかも!」
「現実のサンタなんて、みんなそんなもんなんだよ!
 街を見てみろ! 本物のサンタさん達がティッシュ配ったりケーキ売ったりしてるだろ!?
 子供にプレゼント配るサンタなんて幻想だ幻想!
 金持ち達の道楽か、そうじゃなきゃオモチャ会社の陰謀なのさ!」
「むっ! サンタクロースは実在するんだよ! そもそもモデルとなったニコラウスは―――」
「はいはい、上条さんはニコラなんちゃらではありませんですことよ!」
「うひいいいい!!! 変な所を舐めるなあああぁぁぁ!!! 舌が…舌がザラザラして痛い! 
 に、人間! 貴様、私の理解者だろう! 私を助けろ……いや、助けてください!」
「そこはかとなく馬鹿にしてるね!?」
「その幻サンタをぶちクロース」

こんな口論(一部、救難要請)を、寮部屋の外から聞いていた少女がいた。
この寮、見た目通りにボロく、大声で騒げばこのように外まで聞こえてしまうのだ。
少女は両手いっぱいにレジ袋を抱えながら嘆息する。

「……何やってんのよ、アイツら」

彼女の名は御坂美琴。
先程インデックスからチラリと話に出た、上条をパーティーに誘った人物その人である。
結果はご存知の通り、上条が自宅に帰っている以上は断られた【ふられた】形となっている。
もっとも、美琴は美琴で誘い方が悪かったと言えなくもない。何故なら、
『あ、こ、この後ちょっとしたクリスマスパーティーがあるんだけど、
 よよよ良かったらアンタも来ない!? 私としては別にどうでもいいし、
 ものすご〜く忙しいんだけど、ア、アンタがどうしても行きたいって言うんなら、
 私も無理して時間作ってあげなくもないかな〜なんて思ったり思わなかったり!!?』
である。上条からすれば、どうしても行きたい訳ではないし、
そもそも美琴に無理して時間作ってもらうのは気が引ける。
美琴が忙しいのなら、そりゃあ普通に断るだろう。本当は忙しくなどないのに。
そして断られた美琴はガックリと肩を落とす事になったが、しかしそれで諦める理由にはならない。
上条と二人っきりという幻想は、彼の鈍感さと自らのツンデレによって打ち消されてしまったが、
例えオマケ共【インデックスとオティヌス】が付いていようとも、
クリスマスに上条と過ごすという現実までは打ち消されていないのである。
こうして、手土産【しょくざい】も大量に持ってきた訳だし。

「よ、よし! 行きますか!」

改めて気合を入れて、美琴は玄関のチャイムを押したのだった。


996 : そんなプレゼントで大丈夫か :2015/12/24(木) 00:06:38 jc9oYjyU
 ◇
 

ピンポーン、と安っぽい音が鳴る。上条はインデックスとの口論を一旦止めて、
オティヌスとスフィンクスの微笑ましい(?)じゃれ合いを見て見ぬフリをしつつ、ドアを開ける。

「はいはい、どちら様……あれ? 美琴?」
「…メ、メリー・クリスマスイヴ」
「なんだよ、忙しいんじゃなかったのか?」
「い、いや! い、忙しかったんだけど、丁度さっき用事が終わってヒマになったのよ!」

小学生みたいな言い訳である。

「それで何となく…そう、特に意味は無いけど、
 何とな〜くアンタはどうしてるかな〜って様子を見に来たのよ!」
「どうしてるも何も、ウチはいつも通りですよ」

すると美琴は得意げに、持っていたレジ袋を上条に差し出した。

「あっそう。予想通り、あまりクリスマスらしい事はしてないみたいね。
 買いすぎたと思ったけど、無駄にならなくて良かったわ」
「……え? これ、く、くれるのか!? こんなご馳走を!!?」
「た、たまたまよ! ここに来る途中、たまたま目に入った物を買っただけ!」

レジ袋の中には、某フライドチキンチェーン店のパーティバーレルやら、
某宅配ピザチェーン店のLサイズのハーフ&ハーフやらクォーターやら、
某洋菓子チェーン店のホールケーキやらが入っている。
いや、それだけではない。なにやら未調理の食材も入っているようだ。

「つ…ついでだから、私が何か作ってあげるわよ。ついでだし」

常盤台のお嬢様の手作りクリスマス料理。そんなの期待せずにはいられない。
感激した上条は思わず、

「うおおおおおおおお!!! ありがとうミコっちゃん大好きっ!!!」

と叫びつつ思いっきり抱き締めていた。

「みゃああああああああああぁぁぁぁ!!!?」

突然の告白&抱擁に、美琴は奇声を発しつつ体を硬直させてしまう。当然、顔も真っ赤にさせながら。

「とうま!? さっきから玄関で何を……………」

来客中なのでそれまで黙っていたインデックスだったが、
妙に騒がしいのでリビングから顔を出してきた。
すると何故かそこには、短髪を抱き締めているとうまの姿が。
まだこちらの話(先程の口論の件)は決着がついていないというのに、この男は…
インデックスは額に怒りマークを浮かび上がらせ、歯【キバ】を剥き出して飛び掛ろうとする。
しかしその刹那、上条が手のひらをインデックスに向けて、制止させた。
そしてレジ袋の中からホールケーキの箱を取り出し、印籠さながらにインデックスに突きつける。

「え〜い、静まれ静まれ! このケーキが目に入らぬか!
 こちらにおわす方をどなたと心得る! 恐れ多くも先のお嬢様、御坂美琴公に有らせられるぞ!
 ご馳走の御前である! 頭が高い! 控えおろう!!!」

こんなミニコントに付き合う必要などインデックスにはないのだが、
目の前のホールケーキ様には逆らう事は出来ない。インデックスは深々と頭を下げ、
綺麗なジャパニーズDOGEZAを披露しながら、「ははーっ!」と一言。
そして上条からの告白と抱擁【サプライズ・クリスマスプレゼント】を貰ってしまった美琴は、
未だに硬直が解けず、ふにゃふにゃとトリップしており、
オティヌスはスフィンクスのよだれでベットベトになっているのだった。


997 : そんなプレゼントで大丈夫か :2015/12/24(木) 00:07:17 jc9oYjyU
 ◇


美琴が訪問してきてから二時間弱。上条、インデックス、オティヌスの三名は、
お腹を膨らませたまま幸せそうに大の字で横になっている。
テーブルの上にはご馳走の残骸達。しかし皿の上やお椀の中には、ご飯粒一粒すら残っていない。
チキンにピザにケーキ。そして美琴が腕によりをかけて作った、パーティメニューの数々。
日常生活を送っている時の幸福感が100だとすると、
美味しい料理を食べた時、人は120の幸福感を得られると言う。
そしてラットによる実験で、いつも美味しいエサを与えられるグループ、
いつもは美味しくてたまに不味いエサを与えられるグループ、
いつもは不味くてたまに美味しいエサを与えられるグループ、
いつも不味いエサを与えられるグループに分けた時、
一番長生きしたのは、いつもは不味くてたまに美味しいエサを与えられるグループだったらしい。
今の上条達の状態がまさにソレなのである。

「ふひ〜〜〜、美味かったなー……なんか、もう思い残す事ねーわ…」
「もしかして、天の国ってこんな感じなのかな…?」
「口惜しいな…私の体が人間と同じサイズならば、もっと多く食べられたというのに…」

だとしても少々大袈裟ではあるが。
そんな三人を冷ややかな目で見つめるのは、そのご馳走を用意した美琴本人だ。

「いや…そんな大した物でもないでしょ。
 ほとんどが買ってきた物だし、私が作ったのも二時間くらいで出来るお手軽料理よ?」
「いやいや。そもそも今日のウチの献立は、白飯と野菜炒めだけって予定だったんだから、
 それに比べりゃ充分すぎるくらい充分だよ。ホントありがとな、美琴!」
「っ! べ…別に気にしなくても……いい…けど…」

上条からニカッと屈託の無い笑顔を向けられ、素直に感謝されてしまっては、
流石の美琴もそれ以上は何も言えなくなってしまう。
ただ赤面した顔を俯かせて、指と指をチョンチョンしながらモジモジしてしまうだけだ。
お腹いっぱいな上条に対して、美琴は胸いっぱいである。
だがここで、上条から思いも寄らない提案。上条は仰向けになったまま、天井を見つめて一言。

「…けど、このまま美琴に世話になりっ放しってのもアレだよな〜」
「……えっ? とうま…?」
「……おい人間…何を考えている…?」

インデックスもオティヌスも、今回は美琴に本当に感謝しているが、
それはそれ、これはこれである。女の勘とやらは鋭く、そして正確だ。
上条がこの後どんな事を言うのか、何となく察せる。つまり、とてつもなく嫌な予感がするのだ。
そして直後、その予感は的中する事となる。何故なら女の勘は鋭く、そして正確なのだから。

「あっ! じゃあ俺からも何かプレゼントするよ。
 つっても、ご存知の通りでウチには金が無いから、あまり高い物とかは無理だけど、
 俺に出来る事だったら何でも言ってくれよ。金が出せない分、体を張った事とかでもやるからさ」


998 : そんなプレゼントで大丈夫か :2015/12/24(木) 00:08:03 jc9oYjyU
ん? 今、何でもするって言ったよね?
そうなのだ。インデックス達が危惧した通り、上条は何でもすると言ってしまったのだ。
しかもご丁寧な事に、体を張った事でもと、本人の口からの宣言である。その瞬間美琴は、

「にゃにゃにゃにゃにゃんでもぁああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!?」

と絶叫し、他の二人【インデックスとオティヌス】は、

「やっぱりそれかああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

と絶叫する。そして当の本人である上条は、自分で言った事の重大さに全く気付かず、キョトンとする。

「何だよ。それくらい、やってあげてもいいだろ?
 お前達だって、美味い美味い言いながら食ってたじゃねーか」

それはそうだが、しかし同時にそうではない。何故なら、それはそれ、これはこれなのだから。
美琴にそんな度胸が無いのは分かってはいるが、しかしそれでももしも万が一、美琴が、
『じゃあ……キスして…?』とか言ったらどうするのか。キスするのか。
『私と……付き合ってくれる…?』とか言ったらどうするのか。付き合うのか。
『その……わ、私と…エ…エ………エッチ! な事とか! してほしい!』
とか言ったらどうするのか。エ…エ………エッチ! な事! をするのか。
何でもすると言った以上、それらを断る事は出来ない。
勿論強制ではないけれども、男の二言は据え膳食わぬ恥と同義である。
もっとも上条自身は、そんな願いが美琴の口から飛び出してくるなどとは微塵も思っておらず、
またいつぞやの罰ゲームみたいな事をやらされるのだろうと予想しているのだが。

「で、でも!」
「だ、だが!」

インデックスとオティヌスは食い下がる。美琴が大胆になってしまう前に止める為に。
しかしそんな二人の頑張りも無にし、上条の予想の遥か斜め上を行く提案を美琴は口に出すのだ。

「そ…それ、じゃあ……その…」
「「っ!!?」」
「?」

ハッと息を呑むインデックスとオティヌス。上条だけがただ一人、のへ〜んとしている。
美琴の望む、上条からのクリスマスプレゼントとは―――

「か、帰り…りょ…寮まで私を送りなさいよっ!!!
 た、たたたただし! く、暗くて危ないから、てっ、ててて、手ぇっ! 握りなさいよねっ!!!」

それは美琴にしては精一杯の要求…なのだが、何と言うかあまりにもな願いである。
あまりに予想外すぎて、美琴以外の三人は目を点にして、頭には疑問符を浮かび上がらせる。

「えっ…え? いや…美琴がそれでいいなら、いいんだけど……
 でも本当にそんな事でいいのか? 何か逆に申し訳ないのですが……」
「そそそそそそれ以上は『まだ』無理でしょ馬鹿っ!!!」
「えっ…? あ、うん………え?」

困惑する上条。そしてインデックスとオティヌスは、
恋敵【きょうてき】がヘタレ中のヘタレだった事を理解し、ご馳走を食べさせてもらった礼も兼ねて、

((まぁ…それくらいならいいか…))

と生温かい目で見つめるのだった。
数ヵ月後、ひょんな事から二人が付き合い始め、急速にバカップルへと進化していく事など、
この時は知る由も無く―――


999 : くまのこ :2015/12/24(木) 00:09:49 jc9oYjyU
以上です。
これで本当にラストですね。
それでは、次はpart29でお会いしましょう。
ではまた。


1000 : ■■■■ :2015/12/24(木) 00:10:45 C7c.Bsx.
くまのこさん クリスマスプレゼントサンクス


■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■