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937始末記:2018/01/31(水) 23:28:21 ID:7.L4Yce.O
タージャスの森

リグザの街を出発した日本特使一行と同行するエルフ大公領公子アールモシュの元には、次々と伝令が舞い込んでいた。
おかげで一行の歩みは遅々として進まない。

「申し訳ない。
また、火事のようだ。」

アールモシュが申し訳なさそうに杉村達に陳謝してくる。

「こうも複数の箇所での火災が起きるなど、明らかに人為的なものです。
兵を派遣したりはしないのですか?」
「森を焼いて、我らを誘い出す。
この数千年の間に何度も使われた手ですからね。
姿を消させての偵察は出してますよ。」

どうやら想定内の出来事らしい。
「敵の戦力や位置が把握出来次第、包囲して殲滅するつもりです。
それに森の権益は我々の物だけでは無いですからね。」

タージャスの森周辺の貴族達にはエルフの愛人を代々送り込んである。
いざというとき時に様々な便宜を計らせる為だ。
今回、新香港武装警察部隊を牽制しているのも、そういった貴族達だ。
日本人やその同盟国・同盟都市に送る必要があるなと、アールモシュは考えていた。



タージャスの森外縁

新香港武装警察部隊
派遣部隊本部

「ポイントBに貴族の私兵軍が押し寄せ、書簡と口頭による厳重な抗議を受けているそうです。」
「ポイントDからもです。」

派遣部隊の指揮官劉少佐は、手回しのいい貴族達の行動に頭を悩ませていた。
大森林から漏れでる恵みを受けとる権益を持った彼等と領民からみれば、大森林が焼けて無くなることは死活問題なのだ。
私兵軍だけで無く、武装した民衆が殺到している場所もある。
彼等の抗議は正当なものだけに、その声を無視することも出来ない。
劉少佐に出来ることは、相手をたらい回しにして時間を稼ぐことだけだ。

「抗議は新香港の外務局が取り扱うので、そちらに回してくれと伝えろ。」

それでも対応に人が割かれるのは痛い。
早くエルフに出てきて貰わないと、受け取った書簡だけで司令部に使っている車の車内が埋まりそうだった。

「劉少佐、ポイントCの森から動きが。」
「ようやく出てきたか・・・
2個小隊を増援に・・・」

敵の出現を懇願している自分が笑えてくる。
だが無線から声が悲鳴に変わり、劉少佐の希望を打ち砕く。

『少佐、こいつはエルフじゃありません。
モンスターです!!』




タージャスの森
放火ポイントC

ポイントCで森に火を付けていた新香港武装警察の分隊は、森の奥から出てきた巨大な青黒いビーバーの群れに襲われていた。

「アーヴァンクだ!!
近寄られたらひとたまりも無いぞ!!」
「手榴弾を使え!!」

エルフ達を引きずり出す前にとんでも無いモノを引き当ててしまい、弾薬を消費する羽目になっていた。
それでも分隊だけでは支えきれなくなる寸前、本部から派遣された小隊が戦闘に加わってくれる。
現在の新香港武装警察が使用しているのは、日本が北サハリン向けに製造していたAK-74だ。
小規模だが中国人第二の植民都市陽城市で生産工場の建設も完了している。
車両を盾にして射撃を続けて撃退したが、アーヴァンクの体当たりに些かの損壊が生じていた。
部隊を直接率いてきた劉少佐は疲れた顔でため息を吐く。

「走行には支障は無いと思いますが・・・」
「武警の虎の子だぞ?
始末書は確実だよ、参ったなあ・・・、誰か変わってくれよこの任務・・・」

最悪戦争して来いと言われてるのに、車両の傷やへこみで責められる未来図に劉少佐もへこみそうになる。
大森林の火災は尚も拡大しつつあった。


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