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161ラッキー:2007/10/14(日) 23:38:40
 いくつもの思考が頭の中を駆け巡る中、既に三回目となるあの疑問が、釦の意識を横切った。これが死ぬってことなのか? それは釦が思っていたものとは全然違う形のものだった。肌で感じるようなものではなく、もっと精神に直接語りかけてくるような、そんな感覚だった。一瞬では終わらず、時間をかけて迫ってくる“死”だった。
 やっぱり皆に守られてきた俺が生き延びるなんて無理だったのかな……。
 叶香織を助けてやれなかった。それどころか真紀の仇も討てずに、由葵と良介に助けられてしまった。そして由葵に身体を張って守られてしまった。
 良介を疑ったときに感じた惨めな思いが、釦の身体を冷やしていった。死を意識していなかったのは他でもない自分だったのだ。財前さおりに殺されそうになった時、真紀を守れなかった無念さで全く感じなかった死の感覚。それはこんなにあっさりとしていて、同時に恐ろしかった。それが今、自分にやって来た。
 釦の意識はそれ以上の思考を許さなかった。少しずつ暗闇が近づいてきた。もうしばらくすれば何も感じなくなるだろう。この後どうなるのか、それだけが気がかりだった。良介は犬悟を倒せるだろうか。それとも自分のように逆に倒されてしまうだろうか。ああ、それから彼女は……。
 結局、会うことはなかった。この二十四時間探し続けたが、小国一平から少しだけ動向を聞かされただけで、他には何も分からなかった。今も生きているのだろうが、一体どんな心境でいるのか……。これも気がかりだな、と釦は残り少ない思考スペースで考えた。わずかな間の修学旅行で共に過ごした記憶が蘇った。彼女の身振り手振り、表情などが一瞬で通り過ぎていった。そして彼女と会話した記憶はおろか、その声までもが聞こえてきた。
 いよいよ俺もおかしくなったかな。幻聴か?
 釦は犬悟の締めつける手の力が抜けたことに気づかなかった。朦朧とする意識の中、釦は彼女の声をもう一度聞いた。自分の名を呼んでいるように聞こえたが、釦にはそれが幻聴ではなく現実のものだと判別することは出来なかった。
 釦にのしかかる様な体勢のまま、犬悟は声のする方へと顔を向けた。煙に隠れて見えないが、確かにその人物はこちらへとやって来る。誰なのかは考えるまでもない。ただでさえ四人しかいない中、女の声がすれば――。それだけではない。良介が背後で煙に戸惑いながらも叫ぶのが聞こえた。事態は犬悟の予想しない方向へと進んでいた。
 煙の向こうで再び綾瀬美春の叫ぶ声が聞こえた。 

【残り 4人】


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