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ぼくの小説を書くコーナー

1深大寺正一郎:2008/09/30(火) 20:44:20
このコーナーでは、吉祥寺在住の私、
深大寺正一郎がパンク小説を書きます。
パンクといっても、自転車のパンクじゃないぞ。
そこのキミ!ぼくはとってもアナーキーな気分さ!!

2深大寺正一郎:2008/09/30(火) 21:06:52
時刻は21時を回った。
アントニオ・カルロス・ジョビンの軽やかなジャズが、
一日の不快な思い出たちを洗い流してくれる。
そんなひととき。

間抜けた男の声で歌われるフランス語たちは、
僕の神経を弛緩させる。
飲む前から味の分かりきったBlendyのインスタントコーヒー。
常に苦い。ちょっと薄めが好み。ホットで毎日飲めば、便秘解消。
ばっちりだ。くだらない。そんな一日。

本日の仕事。あぁ、昔イヤなことが沢山あって、
今も沢山あるけど・・・そういうことを思い出しながら、
頭の中で整理をつけつつ、
部門業績考課のレポーティングを作っていたというわけさ。

部門業績考課ってのは、
あんたの部門は経費かけてる割には儲かってませんなーとか、
あんたの部門は人を沢山雇ってるわりには儲かってませんなーとか、
あんたの部門はこの部分を業務改善すると良くなるよとか、
そういうことを書くの。部門単位の決算書データ見つつ。

でもさぁ、そんなことって仕方ない。
結局、僕がやりたいことってのは、
今日も一日仕事しましたよ、サボってませんでしたよー。
ということが言えればいいわけで、
僕がどんな資料作ったって、会社にとっては屁のようなものだよ。

でも、仕事ってのはそういうことだと思うよ。
要するに、サボってませんでした。ってことが大事なの。
どんなに出来ない営業マンだって、必要なのはサボってませんでした!
と、大きな声で言えるようにすることだろう。
まぁ、稼ぎがゼロだったら、結果的にはサボってたのと同じだけれど。

そんな仕事を毎日8時間続けているとね、だんだんだんだん
自分が何者か分からなくなってくるんだ。
24時間のうち残り16時間で、
自分のアイデンティティを別の色で塗り固めなきゃ。
でも8時間は寝たい。できれば10時間くらい寝たい。
いいだろう、では残り6時間。どうする??

結論。アンディ・ウォーホルの如く、
シルクスクリーンに版画を写すのはどうだろう。
あぁ、壁に貼り付けられたマリリン・モンローが笑ってるよ。
笑ってるというか、嗤ってる。
あざ笑っているのだ。
彼女は何をあざ笑っているのか。
俺かな?ケネディかな?ニクソンかな?分からない。
とりあえず、嗤っているんだ。
卑怯な女ってのは大概そんな表情を浮かべる。
そんなもんに興味はない。
卑怯な女はパンクを聴かない。

秋。夜風が冷たい。ツンとする風のいい匂い。
マリリン・モンローとの会話。
どんなに話しても勝ち目は向こうにある。
常に笑っているから。

いいだろう、
壁に貼っつけてある安物のウォーホルの版画、
マリリン・モンローのために
A一郎くんの話を始めるとしよう。

3名無しさん:2008/09/30(火) 22:16:27
A一郎君が自分を見失ったのは、
どうでもいいことを、どうでもいいことと
割り切ることができなかったからだ。
A一郎君がB子のことをどう思っていたのかしらないけれど、
B子はA一郎君が思っているほど、賢くない。
彼女は何も考えることのできない、バカだったと僕は思っている。
A一郎君の勘違い。
僕はコーヒーを飲む。
燻したような香りのする、濃くて苦い、胃がしびれるような。
思い出す。A一郎君には、軽やかさってのが無かった。

軽快さ。
コーヒーは旨いなぁ。
コーヒーが旨いことをいつまでも考えるヤツはいない。
全ての事象が等価だとすれば、
A一郎君がB子のことに頭を囚われていたのは、
実に馬鹿馬鹿しいことだと思う。
コーヒーは旨い。そう思った次の瞬間には、どうでもいいことになる。
どうでもいいことにしないと、記憶が変なふうに発酵してしまう。
A一郎君は、それに気づかない。
ずっと気づかなければいい。
コーヒーは旨い。クッキーも旨い。
伊勢丹の地下で買ったクッキーはもっと旨い。
その程度の話だ。

4深大寺正一郎:2008/09/30(火) 22:28:02
記憶は脳の化学物質なんだってさ。
細胞とか化学物質とか、そういうもの。
要するに、記憶とは別の形をした、
丸かったり四角かったりする小さい物体が、記憶。

A一郎君とB子については、団長が買いたレポートってのがあって、
団長はみんなにそれを配布した。
たぶんB子も読んだんじゃないかな。
でもそれがB子と連絡が取れなくなった理由ではないと思うけれど。
レポート配布が30年前、B子と連絡が取れなくなったのは19年前。
A一郎君は30年前、22歳か。どうでもいいけれど。

団長のレポートなんて、今は誰も持っていないと思う。
みんな捨てたか、メモ用紙にでもしたに違いない。
書棚に大切に保管しているのは、僕くらいだろう。

でも、僕はA一郎君とB子の関係を客観的に考察したこの
レポートを時折読み返すたび、いろいろなことを思い出し、
いろいろなことに気づく。
僕自身、当時はこのレポートほどでないにせよ、
君たちの間柄を客観的に眺めていたけれど、
ここまで詳細な考察はしていなかった。

靴下のことから、柿ピーのことまで。
百科事典のようなレポート。A一郎君に関する。
後に団長は亡くなった。死因は分からないけれど、
家族以外に誰も葬式に出なかったと聞いた。
密葬でもないのに、誰も来ないなんて・・・。
とにかく、団長はそういうヤツだった。
なぜ彼があのレポートを皆に配布したのかも分からないし、
とにかく変な人だったな。
団長のことなんて、皆、とっくに忘れているのだろう。
目の前の食事、その後の食器洗い、風呂
・・・そういうことにかまけているうち、団長が必死で書いた
このレポートのことなんて、みんな忘れてしまっているに決まっている。

5深大寺正一郎:2008/10/05(日) 21:40:41
B子の両親はB子が精神病院の患者であることを知ったとき、
激怒したという。
処方箋を服薬していると知ったときは、なお怒ったという。
ふざけんなバカ野郎、これ以上親に面倒かける気か、
と母親に足蹴にされたそうだ。
父親は心配するふりを見せはするものの、ときどきB子の部屋に入り、
どう、病気治った?シニタイビョウ、治った?
と、皮肉な笑みで聴いてきたという。

そうした環境で何十年も暮らしてきたB子が、
今はどこで何をしているのかなんて、誰も知らない。

団長のレポートに書かれていたB子の経歴表や
カルテ、病歴、入院暦、処方箋の詳細リストが本当だとしたら、
B子は僕が思っている以上に様々な経験をしてきたに違いない。

煙の入ったビンを吸い込む真似をする。
これはO君の好きな仕草だ。
小ビンに火のついた煙草を落とし、軽く手でフタをする。
ビンの表面が真っ白になったら、
ビンの煙を一気に吸い込む。
少しクラッとする、彼は言った。

O君とB子がどんな関係だったか知らないし、
O君が今どこで何をしているか知らない。
O君は価値の無い人間だろうか?
顔が良いだけで、それ以外何も無い。僕はそう思う。
けれども、僕がどう思おうと、
彼はそこそこ幸せな気分で生活しているはずだ。
いつでもそういう人間はいて、
そういう人間が得をする。
コーヒーをつくる。

6深大寺正一郎:2008/10/08(水) 20:33:24
人付き合いが上手な人、の話はよく聞くが、
人と付き合わないのが上手な人、というのがいてもいいと思う。

温めた牛乳でバターロールを食べながら、
A一郎君は思った。

人付き合い・・・イヤな響きだ。
できれば人と付き合わずに、好き勝手に生きていきたい。

そうすれば、満員電車に乗ることも、風邪をうつされることも、
趣味じゃない音楽を聴くことも、テレビを見ることも、
生命保険に入ることも、分不相応な車を買うことも、
駅から遠い家を買うことも、興味の無い勉強をすることも、
話したくもない人と話すことも、苦痛な仕事を強いられることも、
およそ何から何までイヤなことをしないで済むのだ。

最低限の付き合いはするから、そこから先は好きにやらせてくれ。
A一郎君はそう思っていた。


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