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【臨時レス置き場】異能者達の奇妙な冒険【荒らし対策】

1名無しさん:2010/08/24(火) 23:32:25
荒らし対策のレス置き場です
レスの確認、読み直しに使ってください

342佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/03/27(日) 03:55:04
吉野きららが握る携帯電話から、有葵の狂気じみた笑い声が漏れ聞こえる。
考えられる事象は―――生天目有葵の鬼化だ。
新たに持ち上がった問題に、ひとみは眉を寄せて溜め息をついた。

とはいえ、状況は一つの方向を差し示している。
『ザ・ファンタジアの消滅』と『ライブラリへの侵入』この2つの関連性を調査しに行った有葵が、
ライブラリに到着直後にネズミは消え、さらに有葵は鬼化された―――
ホールから消えたネズミがライブラリ付近に現れたのだ。
吉野きららが説く通り、本体の隠れ場所がライブラリである蓋然性は高い。

>「……急ぎましょう。もうあまり、時間はありません」
>「あと、そこの三人。いざと言う時はもう一度、あのネズミと戦ってもらいますから。
>佐藤ひとみがライブラリに辿り着けるようにね」

背中を向けて歩き始めた吉野きららに続き、ひとみもホールの階段を下りる。

「聞いたでしょ?美女二人のエスコート兼ボディガードがあんた達の仕事!
 下らないネタトークに花咲かせてた口閉じて、さっさとライブラリに向かうわよ。」

すれ違い様に皮肉を投げかけ、三人を促してホールを出た。
この三人は有葵がライブラリに出向いた目的を知らない。
ライブラリに向かう途中、ひとみは掻い摘んで事情を説明した。


・医務室でひとみを捕えておきながら、突如姿を消したザ・ファンタジア。
 消失は、丁度よねと御前等がライブラリで戦闘を始めた時刻と重なる。
・有葵はその関連を再現する実験の為にライブラリに向かった。
・有葵のライブラリ到着直後、ホールを飛び回っていた蚊―――ネズミの化身である蚊の羽音が途切れた。
・ネズミはライブラリに人が近づくのを怖れている?ライブラリに何か秘密を抱えているから?……その秘密とは―――


意外にもライブラリへの経路で、ネズミの妨害は無かった。
一行はエレベーター横の階段を上がり4階へ向かう。
3階と4階を結ぶ階段の踊り場で、ひとみは足を止め一行の歩みを制した。
ひとみの視線はスタンドシートの赤い点―――
シートに表示された建物見取り図の4階、階段とライブラリを繋ぐ短い廊下を動き回るマーカーに向けられていた。


「このマーカー…有葵よ。獲物を探すゾンビみたいに廊下を行ったり来たりしてる。
 あの子のスタンドは"音"のスタンド…恐らく音波振動で私達の接近を感知して待ち構えているわ。
 パワーは無いけど、応用性の高いスタンドよ…どんな攻撃方法で仕掛けてくるかわからないし、
 スピードで翻弄されたらやっかいよ。
 あんた達があの子と応戦している隙に、私はライブラリに辿り着いて室内を探索する。
 誰か一人、私のボディーガードとしてライブラリに付いてきて。」

潜めた声で語り終えたあと、ひとみは視線の弧を描いて一行の顔を見回した。


【調整と状況確認のレスのため、あまり動きがありません。すいません】
【御前等さん、よねさん、天野さんに、ネズミとライブラリの関係を話しながら、ライブラリに向かう】
【有葵ちゃんの居場所は4階ライブラリ付近の廊下としてますが、よかったかな?
 鬼化すると体力をセーブする大脳のリミッターが外れて疲れを感じなくなる…ことにしてw
 疲労は気にせず存分に攻撃をしかけてもらえるとうれしいです】
【佐藤について来てくれる人の人選はお任せします。避難所で名乗り出てくださっても可ですw】

343生天目有葵 ◆gX9qkq7FNo:2011/03/27(日) 16:20:11
スタンドシートに映し出されている生天目有葵のマーカーはゆっくりと佐藤たちに近づいていく。
こつこつとミュールの鳴らす足音が佐藤たちの耳には、すでに届いているはず。
階段の踊り場からは四階を見上げる形となるため、最初に見えたのは生天目の栗色の頭。次に目。肩。
両腕は胸の前で閉じていた。生天目は何かを両手で引きずって来ているようだった。

ゴゴゴゴゴゴ

と音が鳴る。ステレオポニーが効果音を発しているのだろう。

「えっと…敵ってこういうとき何て言うのかしら?何にも言葉が出て来ないものね。
ただ思っていることを口にするのなら、ひとみん必死すぎ。鬼みたいな顔してる。
私とひとみん、どっちが鬼かわからなくない?
ねー?昔の優しいひとみんはどこ行っちゃったの?私にはわかるんだよ。
私みたいな多感な時期の人には、人の心の奥がさ、透けて見えるんだよ。
ひとみんは今も病みたいなものを抱えてる。その原因は九頭龍一。そうでしょ?」

生天目は引き摺っていたものから手を放し身体を起こす。足下には赤いポリタンク。

「ふぅー。重かった。倉庫にあったんだよ〜これ。ガソリンだよねぇ?」
赤いポリタンクのフタをひねるとフタを投げ捨て、ポリタンクを傾ける生天目。
中からはガソリンが流れ階段を濡らしていく。終いにはポリタンクを足で蹴る。
ポリタンクはガタガタと階段を落ちて佐藤たちのいる踊り場で止まった。

「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。
こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」

生天目はマッチの炎を投げ捨てた。ガソリンで濡れた階段に…。

344天野晴季 ◆TpIugDHRLQ:2011/04/07(木) 16:26:54
>「聞いたでしょ?美女二人のエスコート兼ボディガードがあんた達の仕事!
 下らないネタトークに花咲かせてた口閉じて、さっさとライブラリに向かうわよ。」
「了解です。あと下らないは酷いですよー」

>「このマーカー…有葵よ。獲物を探すゾンビみたいに廊下を行ったり来たりしてる。
 あの子のスタンドは"音"のスタンド…恐らく音波振動で私達の接近を感知して待ち構えているわ。
 パワーは無いけど、応用性の高いスタンドよ…どんな攻撃方法で仕掛けてくるかわからないし、
 スピードで翻弄されたらやっかいよ。
 あんた達があの子と応戦している隙に、私はライブラリに辿り着いて室内を探索する。
 誰か一人、私のボディーガードとしてライブラリに付いてきて。」
佐藤がスタンドシートを手に説明する
「音のスタンドですか…つまり反響定位(エコーロケーション)とかが得意なわけですね
…余談ですけど、シャチって指向性の高い反響定位の音波を獲物に当てて麻痺させることがあるって噂ですよ。…生天目さんも出来るんですか?
音速で移動するのは厄介ですね…」

「…?」
生天目の接近に気づき、上を向く天野
(何か引きずってる…。身体の向きと歩くスピードからして恐らく重い物…)
次に天野は耳を澄ます。
こつ、こつ、こつ、こつ
生天目の足音が聞こえる
更に耳を澄ます。すると…
ちゃぷん
液体が揺れるような音が聞こえる
(僕じゃあ有るまいし、水を態々運ぶ意味なんか無い。液体で、攻撃に使うのに有利な物…可燃物…
…もしかして灯油かガソリン!?)
「フリーシーズン!」
咄嗟にフリーシーズンを使い、気温を下げ湿度を上げ始める天野

>「ふぅー。重かった。倉庫にあったんだよ〜これ。ガソリンだよねぇ?」
天野の推測どおり、生天目が引きずっていたのはガソリンだった。生天目はガソリンを廊下にばら撒く
(間に合え、間に合えッ! ガソリンの引火点はマイナス40℃以下…生半可な気温低下じゃ皆仲良く消し炭だ!)
ただいまの気温、-20度
(駄目だこれじゃあ…間に合わない…! どうする? 確実に生天目さんは火を起こす手段を持ってる。何か手は…)
ただいまの気温、-30度

>「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。
こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」

遂に生天目がマッチを取り出す。
(まずい、まずいまずいまずい…! どうする、ガソリンに引火した時点で死亡確定だぞ…
ん? 引火した時点で?)
湿気でマッチに火がつかないことを願った天野だったが、結局マッチは火を点した
(だったら…マッチがガソリンに触れるまでに火を消せば良いんだ…!)
「フリーシーズン、気流操作!」
咄嗟にひらめき、フリーシーズンの3つ目の能力を発動する天野。気流操作により、空中にあるマッチを一旦上に飛ばして時間稼ぎをし、
更に気流操作でマッチの周囲の気圧を下げる。…そして、マッチの周りは真空になった
真空になったことで燃焼の条件、可燃物、温度、酸素のうち酸素を失ったマッチの火は、ガソリンに触れる前に消えた
「は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。…生天目さん。火遊びは駄目って…小学校で習わなかったんですか?」
かなり集中力を使った様子の天野。既に息が切れ掛かっている
【天野晴季:取り合えず焼死は防ぐことが出来たが、スタミナが限界に近い】

345御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2011/04/12(火) 00:09:07
>「あと、そこの三人。いざと言う時はもう一度、あのネズミと戦ってもらいますから。
 佐藤ひとみがライブラリに辿り着けるようにね」
>「聞いたでしょ?美女二人のエスコート兼ボディガードがあんた達の仕事!
 下らないネタトークに花咲かせてた口閉じて、さっさとライブラリに向かうわよ。」

「ふふふようやく本音が出始めたな佐藤さん……わかっているとも、この俺の圧倒的紳士力にほだされ
 エスコートされたくてしゃあないんだろう!って、どっかでこのセリフを使った覚えがあるな。デジャビュか?」

さてさて、ホールを後にした佐藤with三羽烏はずんずこずんずこ上を目指す。
向かう先にはライブラリ。御前等本人は知らぬことだが、鬼化した際に一度訪れた場所でもある。
どうやらこの場所に、このイベントの核心を迫るキーが隠れているそうな。佐藤の言である。
三階とライブラリのある四階とをつなぐ階段の踊り場にて、佐藤隊長から行軍中断のハンドサインが出た。

>「このマーカー…有葵よ。獲物を探すゾンビみたいに廊下を行ったり来たりしてる。
 あの子のスタンドは"音"のスタンド…恐らく音波振動で私達の接近を感知して待ち構えているわ」
>「音のスタンドですか…つまり反響定位(エコーロケーション)とかが得意なわけですね
 …余談ですけど、シャチって指向性の高い反響定位の音波を獲物に当てて麻痺させることがあるって噂ですよ」

「なんだ、その程度なら俺にもできるぞ。こう、水面近くの岩にでかい岩を投げつけてだな……」

ガチンコ漁法であった。現在では禁止されているが、昔は手榴弾とかでやっていたらしい。

>「あんた達があの子と応戦している隙に、私はライブラリに辿り着いて室内を探索する。
  誰か一人、私のボディーガードとしてライブラリに付いてきて。」

佐藤が同行者を募る。ライブラリを家探しし、いざというときには彼女の盾となる肉の壁要員だ。

「俺が行こう。俺は詮索されるのは大嫌いだが、誰かの秘密を探るのはチョコレートパフェより好きなんだ」

その為に自分の命を危険に晒してもいいと思えるぐらいには。
ちなみに御前等に詮索されるような秘密は一つもない。特筆すべき事項もなければ、本当にただのキモオタであった。

>「フリーシーズン!」

「ん、どうした天野くん」

突如スタンドを出した天野くんの挙動に御前等は疑問で返す。
圧倒的にニブチンなこの男は、>ゴゴゴゴゴゴ ←これにも気付かず未だのほほんとしていた。

>「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
  かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」

いつの間にか接近していた生天目がガソリン入りのポリタンクを転がし、点火済みマッチを放るところだった!

「ぬわーーっ!何さらそうとしてんだこの女ッ!?」

>「フリーシーズン、気流操作!」

マッチが飛ぶ!天野くんが叫ぶ!マッチガソリンの上へ!……直前で、火は消えた。
天野くんがスタンドで消したと思しき状況に、御前等はただひたすら冷や汗を拭うばかりだ。

「いいぞ天野くん!君は本当に欲しいところに欲しい仕事をするな!」

>「は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。…生天目さん。火遊びは駄目って…小学校で習わなかったんですか?」

「その女の相手は任せたっ!行くぞ佐藤さん!!――――と見せかけてキィーック!!」

天野へ向けて親指を立て、佐藤の背を押して生天目をかわすようにしてライブラリにまろび込む。
そのついでと言わんばかりに、生天目の尻へ回し蹴りを入れておいた。階段の上だったから、運が良ければ落ちるだろう。


【佐藤の同行を申し入れ、をライブラリへ押し込む。生天目ちゃんのケツへ蹴りを入れ天野くんの方へ押し出す】

346佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/04/14(木) 21:58:39
鬼化した有葵は4階にいる。
階段の踊り場で有葵の能力について説明するひとみに天野が質問を入れた。

>「音のスタンドですか…つまり反響定位(エコーロケーション)とかが得意なわけですね
>…余談ですけど、シャチって指向性の高い反響定位の音波を獲物に当てて麻痺させることがあるって噂ですよ。…生天目さんも出来るんですか?
>音速で移動するのは厄介ですね…」

御前等も口を挟み質問をまぜっ返す。

>「なんだ、その程度なら俺にもできるぞ。こう、水面近くの岩にでかい岩を投げつけてだな……」

ひとみは二人の話を受けて、考えを口にした。

「『音波』って言い方あるでしょう。『音』の正体は空気や液体を振動させる『波』よ。
 超音波、低周波といった人の耳には聞こえない音も存在するわ。
 どんな使い方をしようと『音』が『波』であり『振動』であることは変わらない。
 反響定位は音波の反射を感知して標的の位置捕捉に使い、シャチは音波を衝撃波として相手にぶつけているだけ。
 ステレオポニーが音に特化したスタンドである以上、あらゆる使用法が可能だと考えていた方がいいわね。
 ただ、あの子がその使い方に気づいているかだけど…」

いい終わらぬうちに言葉は途切れた。


>ゴゴゴゴゴゴ
地響きのような効果音と共に、有葵が階上に姿を現したからだ。

階段の上に立つ生天目有葵は、意地の悪そうな含み笑いを浮かべていた。普段の有葵には見られない表情である。
それでも口調は何処かあっけらかんとしていて、いつも通りの開けっぴろげな雰囲気を残していた。
やはり鬼化の向精神作用は個人差が大きいのだろうか。
鬼化したひとみやザ・ファンタジアに見られるようなドス黒い空気感がないのだ。
歯止めの利かぬ子供の好奇心のような悪。だからこそ余計にそら恐しい。

>ねー?昔の優しいひとみんはどこ行っちゃったの?私にはわかるんだよ。
>私みたいな多感な時期の人には、人の心の奥がさ、透けて見えるんだよ。
>ひとみんは今も病みたいなものを抱えてる。その原因は九頭龍一。そうでしょ?


有葵は引き摺って来たポリタンクの蓋を開けて容器を倒す。
容器の口から溢れた液体が階段を伝って流れ落ちた。液体の放つ独特の臭気が周囲に立ち込める。

>「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。
>こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
>かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」


有葵の指先からオレンジ色の閃光が弾かれて飛んだ。それはマッチ棒に灯された炎。
足を濡らす液体の不快感も、階段を転がり落ちるポリタンクの騒音も、ひとみの意識の外にあった。

347佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/04/14(木) 21:59:37
ひとみは弓なりの軌跡を描いて落下する小さな炎を、棒立ちになってただ眺めていた。
『九頭龍一』―――――
頭の中で何度も繰り返した名であるに関わらず、
いざ音として外部から耳に入ると無意識のうちに一瞬、体が硬直してしまうのだった。
視線で追う炎の動きはまるでスローモーションだ。ひとみは炎の中に九頭との闘いの記憶を見た。

―――― 抱えている?…私が……?九頭の何を抱えているっていうの――――?

記憶はあまりにも鮮烈であったが、九頭と関わった時間は正味数日に過ぎない。
想いを自覚してからはたったの数時間……数時間であの男は消えてしまった。
あの戦いの後だって、何も変わってはいない。
時折スタンド使いと接触する以外は、いつもの日常が延々と続いているだけだ。
だから、自分は何も失っていない。九頭は通り過ぎただけの男。
そもそも何も得てはいないのだから、失ったものなど何もない
そう思い込むことだってできる筈だ―――それなのに――…?!


突然、滞空中の炎が音も無く消えた。天野が能力を使って鎮火させたのだ。
網膜に映る光の刺激が途切れて、ひとみはハッと我に返った。

一度唇を噛んで感情を振り払い、ひとみはライブラリへ同行の意思を示した御前等と共に、階段を駆け上った。
有葵の脇をすり抜ける拍子に、御前等は行きがけの駄賃とばかりに彼女の尻に蹴りを入れる。

>「その女の相手は任せたっ!行くぞ佐藤さん!!――――と見せかけてキィーック!!」

御前等に背中を押し出されるようにして、バランスを崩した有葵の横を通り抜け、ライブラリに通じる廊下に至った。


御前等は廊下を走り、突き当たりにあるライブラリの扉を勢いよく開けて室内に入った。
数十秒時間を空けて、ひとみは開いたドアから室内を覗き込む。
陽動の御前等に異変がないことを確認し、室内に足を踏み入れた。

ライブラリの中はシンと静まり返っている。
ひとみはフルムーンをライブラリのほぼ中央あたりに浮遊させた。
宙に浮くフルムーンから触手が伸び、ひとみと御前等を避けて細かく枝分かれしながら更に伸びていく。
開いたままの奥の扉から、書庫の中にも触手は侵入し成長を続ける。
やがて3分経過する頃には、ライブラリ中に触手の網が張り巡らされた。
しかし、手ごたえがない。書棚や建具以外に触手に触れるものがないのだ。

「いない―――…誰もいないわ……!」
ひとみは思わず声を上げた。

予めスタンドシートで確認していたライブラリの配置図は、奥の書庫も含めスチール製の書棚が立ち並ぶばかりで
人が隠れられる大きさの棚やロッカーは無かった。
何かが室内に潜んでいるならば―――それこそ人間一人が隠れているのならば
ネットのように張り巡らされた触手を避けて潜み続けられるとは思えない。

何かがおかしい―――この部屋に本体がいるのならば、何故ザ・ファンタジアは妨害してこない?
何故姿すら現さない?ライブラリを探る自分たちの行動は間違っているのではないか?
寧ろザ・ファンタジアの罠に嵌りかけているのではないか―――?
ひとみの頭に様々な疑念が過ぎった。


【ライブラリの中に触手を張り巡らせて探索するも、何も見つけられず】

348よね ◆0jgpnDC/HQ:2011/04/17(日) 21:09:53

(天野さんはもう戦えない…生天目さんと戦えるのは…自分だけ…ッ)

疲労しきった天野には任せられない、よねはそう判断した。

だが、かくいうよねも決して万全な状態ではなかった。
ずっと意識に違和感を感じるのだ。
なにか、時たま思考にノイズが入るような、そんな感覚が続いていた。

「天野さん!下がっていてください!」

(あの液体はガソリン、あるいは灯油…これを利用しない手はないッ!)

液体は少ない量で広い面積をカバーできる。
同じ物質であれば、Sum41の能力で一気に操作できるのだ。

よねは床いっぱいに広がっているガソリンに手を浸し、

「Sum41ッ!このガソリンは潤滑油になるッ!」

生天目は階段の上で、御前等に蹴りを入れられよろめいている。
そのまま転がり落ちるのは無いにしろ、反動で階段を一段くらいは降りらざるを得ないだろう。
階段には生天目自身が撒いたガソリンが満たされている。
そして今、そのガソリンは、まるでローションの様に滑りやすい液体に変化しているのだ。

生天目が階段を下りれば、潤滑油に転び階段から転げ落ちるに違いない。

「すいません、今の自分に出来ることは、こんな事しか…」

よねの能力は現在Sum41のみに限定されている。
最高で孤高の思考空間である、Sum For Oneもどういうわけか使えない。
故にリアルタイムで作戦を練る必要があるのだ。

その上、思考のノイズによって頭も回らない。
結果、思いついた『生天目が階段を一段下りて、潤滑油に足を踏み入れるだろう』という、
あまりにも不確実な方法を取らざるを得なかったのだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

海面が近い。
本来のよねが人格の主導権を握る時が近づいていた。

対して潜在意識の顕在であるよねも主人格の座を譲ろうともしていない。

(必ず奪い取って見せる。米コウタは自分だ…)

"表のよね"が人格の海の海面に到達する時は、近かった。

349生天目有葵 ◆gX9qkq7FNo:2011/04/18(月) 02:08:35
生天目が投げたマッチの火は、階段に垂れ流された謎の引火性液体を燃やすことはなく
天野のスタンドフリーシーズンの能力によって消された。

>「は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。…生天目さん。火遊びは駄目って…小学校で習わなかったんですか?」

「大人がダメって言うことは大抵の子どもが面白いって思うことなのよね。私は子どもじゃないけど」

そう言っておきながら生天目は満面の笑みで、再びマッチ箱からマッチを取り出そうとしていたが…

>「その女の相手は任せたっ!行くぞ佐藤さん!!――――と見せかけてキィーック!!」

跳んで来た御前等のまわし蹴りでつんのめり、バランスを崩した本体を階段側へ落としかける。

「あわわわ!待ちなさい!」
手をぶんぶんさせて叫ぶ生天目をよそに佐藤と御前等はライブラリに姿を消していた。

「行かないで…ひとみん…。九頭の所には私が行かせてあげたのに…」

少女の瞳からは悲しみが溢れた。

>「Sum41ッ!このガソリンは潤滑油になるッ!」

Sum41を発動させるよね。

彼には蹴られてよろめいているかのように見えた生天目だったが
実は、お尻から生えている尻尾をステレオポニーがしっかりと握り締め
つんのめっている本体を廊下側へと引っ張り、懸命に階段への落下を阻止しようとしている。
それでもミュールの踵が階段の縁に辛うじて引っかかって、命綱は尻尾一本という危ない体勢なのだが。

「この弓なりの体勢ってやばくない!?」

予想通り、プチンと尻尾は切れて階段に一歩足を踏み入れた生天目は
滑って転んで階段を滑り落ち、頭をアホほど打って気を失った。

「…ここはどこ?」
無意識の海のなか。生天目はよねの姿をみたような気がしたが目を開ければ
やっぱり市民会館の階段。体は生まれたての小鹿ようにヌルヌル。

「そうそう。私ライブラリに行こうって思ってたんだー。みんなも行くの?」
一時的に記憶を失くした少女はザ・ファンタジアの居場所も覚えていない。
生天目はぬるぬるおばけのように階段をのぼりライブラリの入り口へとむかった。

350御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2011/04/18(月) 02:43:43
御前等のヤクザキックを受けた生天目が階段側へとつんのめる隙に、御前等と佐藤はライブラリへと踏み込んだ。
水を打ったように(実際そうだったが)静まり返り、物音ひとつ立たぬライブラリ。
林立する本棚の一つ一つに敵の潜伏を留意しながら、御前等はひとまず回遊魚のようにふらふらと歩く。

「さあ!続け佐藤さん!カムヒア!ゴーアヘッド!!――あれ?おーい、佐藤さーん……?」

佐藤は御前等の呼びかけには応じず、まるで囮に齎される危難の予兆を見分するようにして数十秒沈黙。
御前等の身に何も起こらないと判断したのかようやくライブラリへ足を踏み入れた。

(こ、この女〜〜〜ッ!この俺を弾除けにしやがったな!?レディーファーストの本来の意味を教えてやろうかッ!)

>「いない―――…誰もいないわ……!」

ドラクエの雑魚敵のような外見をしたスタンドから触手を伸ばしていた佐藤は、それで精査が完了したのか小さく零した。

「何ィ!?佐藤さん、あれだけ勿体ぶってここまで来てっ!何もありませんでしたじゃあ下のモンに示しがつかんぞ!
 あ、でもナマテンメちゃんには会えたから収穫はあったと言えなくもないな!よかったな佐藤さん!!」

ライブラリに備え付けられた、閲覧用のキャスター付き椅子に腰掛けてグルグル回る。
鬼化の反動か、ここへ来てこの男、完全に呆けていた。


【ライブラリ到達】

351佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/04/20(水) 20:39:44
>>349
ライブラリ内。ひとみは部屋中にフルムーンの触手を張り巡らせた。
しかし、触手は室内に潜む者の存在を捉えることができない。

御前等はラチもないことを喋くりながら、車輪つきの椅子を回してハシャいでいる。
緊張を和らげる為というより、事の重大さを全く認識していないとしか思えない能天気さだ。
ひとみは大いに苛立った。
御前等の座っている椅子を引き倒してやりたかったが、全ての触手を室内の探査に回している状況ではそれも叶わない。
爆発寸前の怒りを飲み込んで、ひとみは思いつくかぎりの皮肉を吐き出した。


「随分と余裕綽々ねぇ〜大物だわ!あんたって!
 時間切れまでにあのネズミを倒せなかったら自分の身がどうなるか、考えたことないの?
 それ位の想像力すら持ち合わせてないのかしらぁ?それとも、あんたの想像力は現実逃避の妄想専用で
 アニメの女の子との恋愛は妄想できても、現実の危機には非対応ってワケ?
 じゃなかったら自殺願望でもあるの?クソつまんない日常に戻るよりここで消滅した方がマシなのかしらッ?!」

押さえかねる苛立ちで、こめかみの血管が浮き出し数回脈打ったのが自分でも分かった。
数日前知り合ったばかりの御前等のプライベートなど全く知らない。
服装と見た目の先入観だけでオタクと決め付けて罵った。
彼を罵倒した所で状況が好転するわけもないのに。完全な八つ当たりである。しかも罵っても全くスッキリしない。
どうにも冷静さを保っていられなかった。
焦りと苛立ちは、本人も預かり知らぬうちにジワジワと入り込み、精神を侵食しているのかもしれない。



御前等からプイと視線を逸らし、再びライブラリの探索に意識を向け直す。
本体の居場所について、何か手がかりは無いか―――?

ひとみはホールで聞いた有葵と吉野きららの通話を思い出していた。
有葵の『ソノルミネッセンス!』という叫び声。
ひとみは九頭の追っ手と戦った際に、一度その技を目にしたことがある。


ソノルミネッセンスは超音波照射による液体の発泡現象である。ただの発泡とはいえ侮れない。
出力が高ければ人間の血液を沸騰させかねない大技だ。
ライブラリを本体の隠れ場所と疑った有葵は、ソノルミネッセンスを敵のいぶり出しに使ったに違いない。
本体がこの部屋に潜んでいたのなら、いかにしてソノルミネッセンスを凌いだのだろうか?
血液が液体である限り避けようのないあの技を―――?

352佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/04/20(水) 20:44:11
ソノルミネッセンスは液体中に発泡現象を引き起こす。
逆に考えると、液体でなければ反応は起こらない。液体でなければ―――

ザ・ファンタジアは、霧のように体を粒子化し姿を消すことができる。
その効果は粒子化開始時に手を触れた相手にも適用される。
現に、よねの能力によって床に埋め込まれたひとみは、ザ・ファンタジアに一時的に粒子化された。

ザ・ファンタジアが本体の隠匿にその能力を利用していたとしたら―――?
空中に拡散した粒子の状態ならば、液体にしか効かないソノルミネッセンスを無効化できるのではないか。


仮にその推理が的中しているとすれば、最早ひとみ達には手の打ちようがない。
ネズミがひとみ達を殺すことだけを目的にするのならば、
ゲームの『場』である会館が消滅するタイムリミットまで、本体と共に粒子化したまま、ただ待てば良いのだから。
ザ・ファンタジアが能力を解除しない限り、目に見えず、触れることもできない本体を捕える術はない。
そうなれば、この『鬼ごっこ』は所謂『詰みゲー』だ。理不尽すぎる。


ひとみは、もう一度、有葵と吉野の通話を順を追って思い返してみた。
あの時、有葵が『ソノルミネッセンス』と発声した数分後に、携帯からネズミの声が漏れ聞こえた。

―――『やってくれるね♪小ババァ♪
――― あと30秒足りなければ、かーなりヤバいことになっていたよー♪』

ネズミは確かにそう言っていた。
『あと30秒足りなければ』―――とは何を意味するのだろう。30秒時間が足りなければ何が起こっていたのか?
ネズミが本体の体を粒子化してソノルミネッセンスをやり過ごしていたと仮定し、ネズミの台詞に言葉を継ぎ足してみる。

『あと30秒、粒子化していられる時間が足りなければ、ソノルミネッセンスを食らっていた』―――
こう解釈するならどうだろう。

つまり……粒子化していられる時間には限界がある―――?
この仮説は単純なやり方で確認できる。このまま根気よく触手の網を張り続けていればいい。

353佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/04/20(水) 20:52:13
程なくして、その瞬間は訪れた。
張り巡らせた触手の網を押しのけるようにして、突如出現した人型の存在を、フルムーンは感じ取った。
ライブラリの更に奥の小部屋―――書庫の中にいる!
ひとみは、書庫の中に張り巡らせていた触手を、人型に向けて収束し、拘束した。
触手で捕縛した人型は、成人男性にしては小柄だが小太りだった。


「やっぱりね!見つからないはずだわ!本体と一緒に粒子化して隠れていたなんて!
 本体は捕獲したわ!あんたもすぐ書庫に行って!!」


御前等に向かって、声を張り上げた刹那だった。
フルムーン発動中の、空になった右目に激しい衝撃が走った。ひとみは自分の体が宙に浮き、後ろに弾け飛ぶのを感じた。
滞空中の一秒にも満たぬ時間の中で、書庫に視線を向けたひとみは見た。
書庫の扉の裏側から、剥がれるように現れ出た、紙のように平たく、白い物体を。
『あのネズミ』だった。
扉に貼り付けていた体を半分剥がして、戸口にその姿を見せている。
平たい体の中で、唯一厚みを取り戻している右腕は、狙撃銃のような形状に変化し、その銃口は細く煙を上げていた。
銃口の先は、宙に浮くフルムーンに向けられていた。
眼球を丸いケースの内側に収めた機械の如きスタンドは、表面に幾つもの亀裂が走りヒビ割れている。


床に仰向けに倒れたひとみは唇を噛んだ。生暖い液体が右目から流れ落ちている。

―――粒子化に時間制限があるのなら、本体と共にネズミも実体に戻っている筈だった。
本体を拘束する前に、ネズミの不在について、もっと深く不審を抱くべきであった。
粒子化の時間切れを迎えたネズミは、書庫の扉の真後ろを実体化の場所に選んだ。
そして本体と分離し、実体に戻った瞬間に体を平らにして扉の裏に張り付き、触手の探査を逃れた。
追い詰められたネズミは本体を囮にして、ひとみの意識を逸らしたのだ。

ひとみの意識と共に、フルムーンは触手ごと色を薄め、消えはじめていた。


書庫の扉の開口部に立つネズミは、狂気じみた笑顔を浮かべていた。
その表情に以前の余裕はなく、明確な焦りが見て取れる。
ネズミは御前等に照準を合わせ、立て続けに5発、銃と化した腕から白い弾丸を発射した。



【何回か前のレスから匂わせてきた通り、ネズミは本体と一緒に粒子化してライブラリに入る人をやり過ごしてました】
【佐藤、実体化した本体を捕えるも、ネズミにフルムーンを狙撃されて負傷】
【フルムーンが消えてしまったことで捕縛に使った触手は無くなっちゃいましたが、本体は書庫の中にいます】
【書庫の扉の前に立ちふさがるネズミ。御前等さんに向かってライフル5発連射】

354御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2011/04/27(水) 03:22:46
>「やっぱりね!見つからないはずだわ!本体と一緒に粒子化して隠れていたなんて!
 本体は捕獲したわ!あんたもすぐ書庫に行って!!」

佐藤は回答を得たようだった。出された指示に了解し、踏み出そうとした御前等。
しかしてその目の前で、佐藤が不可視の自動車にでも跳ねられたように吹っ飛んだ。

「佐藤さん!」

右目から滂沱と血が流れている。確か彼女のスタンドは『そこ』にあった。
ダメージフィードバック。スタンドを攻撃されたのだ。

(一体どこから……!?)

首筋を駆ける悪寒。続けて風切音。飛来する白い弾丸。
信じられないことに――発砲音どころか、銃の動作音すらなく、書庫から射撃されたのだ。
弾丸は5発。防ぎきれない数ではない。スタンドに4発弾かせ、最後の一発を掴みどらせた。

「やはりな……こいつはアメリカねずみの『煙』!弾丸に変えて飛ばしてきたかッ!!」

視線が目指すは書庫の扉。ここであったが百年目、むくつけきアメリカねずみが出現していた。
佐藤は負傷したが御前等にそれを治療する術はない。ならば彼にできるのは、一撃でも多くの拳を叩き込むこと。
跳躍一つでアメリカねずみまで接近し、アンバーワールドの歯車付きラッシュを繰り出した。
着弾する拳の群れはねずみの胴体から頭部を中心に打撃の杭で穿ちまくる。砕けるように爆ぜるねずみの身体。
が、駄目……っ!

「のれんに腕押しとはよく言ったものだな……!便利な身体してやがるぜッ!」

ねずみの身体は素粒子となって分解され、離れた場所に再び実体化した。
確かに穿ったはずの孔も、抉り抜いた傷痕も、痕跡なく消失し、新調したかのようにまっさらだ。
再び指先に銃口を出現。撃ってくる。アンバーワールドで弾きながら御前等はサイドステップ。書架の影へ飛び込む。

(厄介な能力だ……どれだけ殴っても!一度素粒子化されてしまえば元の木阿弥!全回復呪文使うボスの如き理不尽さだ!)

しかし相手の能力の厄介さが明確に把握できているということは、それ自体が光明ともなる。
逆説的に言えば、『厄介さを封じる』方向にだけ努力の熱量を絞れば良いということなのだから。
暗中に闇雲と矢を放つよりかは、一点光の照らす場所を的とするように。

(攻撃するとき、奴は必ず実体化している……すなわち!『素粒子のまま無力化する』か『そもそも素粒子化させない』
 ……このどちらかを達成すれば良いッ!)

いずれにせよねずみに対する情報が出揃ってない。要検証。
御前等は意を決して書架から飛び出した。ねずみのライフルが照準を合わせるより早く、スタンドを発現。
下から突き上げるようにアッパーカットの連打を浴びせる。近距離パワー型がここまで接近したのだ。ねずみは粉々。

「ここだッ!」

再び修復のため素粒子するタイミングを狙って、御前等はポケットからジャスコのビニール袋を取り出した。
市民会館編の冒頭で買ったジュースやアイスを入れてきたものである。空気を孕ませるように、ねずみへ向けて振り抜く。
素粒子状態のねずみは、全部とまではいかなくとも大半をビニール袋にもっていかれた。

「獲ったどーーーっ!」

袋の口をきつく縛って、ライブラリの床に転がした。


【検証その1。素粒子化したねずみをビニール袋に閉じ込めて出方を伺う】

355ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/04/30(土) 18:11:45
―――人間の目で捉えられる物体の大きさは限界がある。
視力の良い者が目を凝らせば1mmの1/10ほどの大きさのダニが蠢いている姿を見ることはできるだろう。
しかし、それ以下のサイズのもの、例えば0.3〜10μm(μマイクロ:1mmの1/1000)の
カビの胞子や細菌を肉眼で捉えることはできない。
細菌よりさらに微細なウイルスは、電子顕微鏡が登場するまで、ついに人類がその形状を知ることは無かった。
ハウスダスト、花粉、カビ、細菌、ウイルス……
目に見えぬが確かにそこに存在するモノに囲まれて、人は生活している。

霧か煙のように姿を消し、壁や床を通り抜ける、捉え所のないスタンド――ザ・ファンタジア。
だが、その消失のトリックは単純だ。ザ・ファンタジアは体を粒子化する能力を持っている。
体をウイルスレベルのナノサイズ(1mmの100万分の1)にまで細かく分解し、
目視不可なサイズになることで、その場に居ながらにして"見えない"状態になっていたのだ。
ウイルスが、その微細さゆえ、素焼きの陶器のような肌理の荒い物体を通過することは、20世紀初頭に実証されている。
意思を持つウイルスサイズ微粒子の集合体と化したザ・ファンタジアにとって、
経年劣化したコンクリートのヒビ割れや気孔を縫って壁を通り抜けることなど容易いことであった。


吉野きららと生天目有葵の読み通り、本体はライブラリの中にいた。
よねと御前等が戦闘を繰り広げている間も、生天目有葵が超音波を照射し続けている間も
ザ・ファンタジアと本体は、ずっとライブラリの中に潜んでいたのである。
ゲームのルールに縛られ、移動を制限されている本体を侵入者の目から隠すために
本体と共に粒子となって室内を漂いながら、その動向を窺い、危機が去るのを待っていたのだ。

*            *           *

356ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/04/30(土) 18:12:14
(年増ババァ〜♪……しつけぇ〜んだよォ…男の浮気でも探るみたいにネチッこく疑ってんじゃねぇェ〜…♪
 ここには誰もいねえんだよォ〜…♪さっさと他をあたりやがれッ!!)

ライブラリの奥、書庫の中で―――ザ・ファンタジアは焦り始めていた。
何百年も扉を閉じたままの屋根裏部屋の蜘蛛の巣のように、グロテスクに枝分かれした触手が部屋中に張り巡らされていたが、
空中に拡散した粒子の状態のでいさえすれば、自らの存在を触手に悟られる心配はなかった。
問題は触手の網がいつまでも解除されないことだ。

ザ・ファンタジアの焦り、それは粒子化していられる時間の制限にあった。
粒子化状態で、個体としての意識を維持するには一定以上の密度が必要なのだ。
空気中の粒子は、密度の高いところから低いところに移動し、次第に拡散し薄まっていく
限界密度を越える前に実体に戻らなければ、粒子は拡散し続け、ザ・ファンタジアという意識体は消滅してしまう。


限られた時間内で何かを探さねばならぬ時、通常、人は一度探し終えた場所を次の捜索候補から外す。
"ない"と分かっている場所を何度も探るより、他の場所を当たった方が効率的だからだ。
不運な偶然が重なり、ゲーム参加者にこの部屋に対する疑念を抱かれてしまったようだが、いや疑念を抱かれているからこそ
今回の捜索をやり過ごしてしまえば、これ以上の安全な隠れ場所ない。
しかし、既に潜伏者の不在を確認するには充分な時間が経過しているのに、
何故、触手の主である女は、徒労としか思えぬ探索を諦めようとしないのだ―――?


(なんだかピンチ臭ぇじゃね〜か…♪
 このクズ野郎め…お前が物音なんぞ立てるからバレそうになってんだろうがぁ〜…♪
 何の役にも立たないウスノロの分際で足引っ張りやがって〜ッ…♪)

粒子状態のネズミは自らに中に混じり込んだ異物に向かって心の中で毒づく。
いや、異物…という表現は正しくない。それは光を受けると必ず現れ出る影のように自らと不可分の存在なのだから。
実体がなければ影は存在しえず、しかも、どちらが"影"かといえば、やはり自分の方と言わざるを得ない。
ザ・ファンタジアはそれが堪らなく腹立たしかった。


御前等と佐藤がライブラリに足を踏み入れた直後に粒子化を開始したのだから、既に10分が経過しようとしている。
もはや粒子の拡散は限界点に達しようとしていた。
ザ・ファンタジアは覚悟を決めた。
散らばった粒子を収束させ、霧状態を経て実体を取り戻し、銃口を模した指をいまいましい触手の主に向ける。
猫が捕えたネズミを弄ぶような、おちょくり半分の攻撃はもう止めだ。
白い弾丸が音もなく空を切る。

――――殲滅戦の開始だ。

*            *           *

357ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/04/30(土) 18:12:41
殴打され体を粉砕されては、粒子化して再生―――そんな応酬を二回ほど繰り返した。

ザ・ファンタジアが御前等祐介のスタンド、アンバーワールドと対峙するのは三度目だ。
御前等のスタンドは近距離パワー型。短い射程の反面、直接攻撃のパワーは圧倒的である。
一般的に攻撃力のあるスタンドほど、スタンドパワーの源である精神力の消耗も大きい。
大振りな攻撃の繰り返しは、疲労を生み、疲労は隙を生む。
スピードの劣るアンバーワールドの攻撃を回避せず、敢えて拳を受け続けたのは、
御前等の集中力の途切れる隙を狙っているからでもあった。


書棚の影から飛び出したアンバーワールドの拳が、ザ・ファンタジアの顎めがけて迫る。
強烈なアッパーカットの連打を浴びたネズミは、弾かれたように吹っ飛び、背後の壁にぶち当たった。
白い石膏像の如きその体に無数のヒビが入り、音を立てて粉々に砕け散る。
破片の一つ一つが煙を上げて、白い霧に変化していく。

>「ここだッ!」
絶好の機を得たとばかりに、御前等は粒子の霧の中に飛び込み、ジャ○コのビニール袋を振り回す。
今まさに空中に拡散しはじめた粒子の群れは、約半分ほどがビニール袋の中にすくい取られてしまった。

>「獲ったどーーーっ!」
雄たけびを上げる御前等。
空気と微粒子で膨らんだビニール袋が、床に放り投げられて転がった。


御前等の前方…1mほど離れた位置に、ぼんやりと白い霧が現れた。
霧は逡巡するかのように渦を巻き、数秒の時間を置いて、ようやく『あのネズミ』の形をとり始める。
姿こそかって知ったる『あのネズミ』であるものの、
大きさは某ランドで土産物として売られる大き目の縫いぐるみ程度に縮小されている。

『やってくれたね♪ウザキング君……♪』

実体化したネズミは、自らの体や手足を眺めて呟いた。
体が小さくなったせいか、元々の高い声が、さらに甲高くいびつな音に変質している。

『君にしてはイイ読みだったねぇ〜〜…ウザキング君♪
 材料を取り上げられたら僕だって完全な形で再生できないんだねぇ〜♪この体じゃパワーもガタ減りだ♪
 だけどねぇえぇ〜♪』

御前等の背後で、床に投げ出されたビニール袋がカサリと音を立てた。
固く結ばれたビニール袋の結び目から白い粒子が漏れ出している。

358ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/04/30(土) 18:13:15
ネズミは袋から漏れ出す粒子を一気に吸い込み、一度飲み込んでから、尖らせた唇から鋭く息を吐いた。
吐き出された粒子の群れは、空中に白い残像を残し、
繰り出されるアンバーワールドの拳も及ばぬスピードで、御前等の体に到達した。右腕から鮮血がほとばしる。
御前等の腕に食らいついたモノ…それは大きく口の裂けた犬の頭部だった。
ワニのように巨大な口吻が、前腕全体に牙を食い込ませている。
鋭い牙が皮膚を食い破り、肉を貫き、御前等の体内で骨の軋む音を奏でた。


『発想はワルくなかったけどツメが甘過ぎたネ〜♪
 君、犬を飼ったことあるかい?こーいうビニール袋を犬のウ○コ袋として使う奴いるけどサ♪
 あれいくら固く結んでも、やっぱウ○コ臭さが漏れるんだよね〜
 匂いって粒子なんだよ?
 つまりウ○コの粒子が漏れてるってことさ♪
 匂い分子と同程度に分解しちまえば脱出なんて朝飯前♪ぎゃっはー♪』

得意満面の笑顔で滔々と言葉を紡ぎだすネズミ。黙して止めの動作に移ることを肥大した自我が許さなかった。
高分子樹脂であるビニールは、ウイルスサイズの物質も透過させない。
しかしどれ程固く結んでも、所詮は人力の結び目。
ナノサイズの粒子からすれば、結び目は曲がりくねった巨大なトンネルに過ぎず、簡単に漏れ出してしまう。


『僕の犬に噛まれるの二度目だっけ?ゴメンネ♪甘噛みじゃなくて♪
 さぁて♪利き腕をやられて防げるかなァ〜?』

ネズミは再び大きく息を吸い込む。
御前等の腕に食らい付く犬は、忽ち霧と化しネズミの口に吸収された。
元の大きさを取り戻したザ・ファンタジアは、腕を機関銃に変化させ、白い銃弾の雨を浴びせかけんと構える。
照準を合わせる必要はない。圧倒的な連射速度と体から作り出される無尽蔵の弾丸が、必ずや敵を殲滅するのだから。


―――その時、廊下に面したライブラリの扉が細く開いた。
扉の向こうに3つの人影…
勝ちに乗じて興奮するザ・ファンタジアは開かれた扉に気づいていない。



【体を構成する粒子が全て揃わない状態で実体化した場合、ネズミは変身能力や再生能力を失います。
 ぬいぐるみサイズのネズミは、変身や再生が使えなかったんですね。
 今はビニールの中の粒子を取り戻したので、体の一部を犬にしたり、銃に変化させたりが使えるようになりました】

【ライブラリの扉を開けたのは、有葵ちゃん、天野君、よね君の三人組…ということでいいかな?
 できたらライブラリに突入してほしい〜】

359生天目有葵 ◆gX9qkq7FNo:2011/04/30(土) 22:51:39
―――その時、廊下に面したライブラリの扉が細く開いた。
扉の向こうに3つの人影…

意表をついてアンドレだったら笑えるかもしれないけどご心配無用。
否、ご心配あれ!アホの生天目が助けに来た!
隙間からのぞきながら生天目は小声で後ろの二人に話しかける。

「天野さんよねさん。よねさん天野さん。あれを見て!
みんながピンチよ。私たちのスタンドパワーはスッカラカンだけど
何とか助けよー!恩返ししよー!
万人が忌み嫌うカオスのチカラを今こそ発揮する時がきたのよ!」

とカオスの権化である生天目は言ってみたけれど、まーウソっぱち。
ぬるりと細い扉の隙間からライブラリに進入した生天目は、
仰向けに倒れている佐藤ひとみの側に座りステレオポニーを出現させる。

「死んじゃだめ…。ひとみん…」といきなり項垂れ泣いた。
ステレオポニーはわずかに残ったスタンドエネルギーで
佐藤ひとみにヒーリングソニックを放射し傷の治療を始めた。

360よね ◆Cj3ysYNKG2:2011/05/01(日) 11:36:34

/みんながピンチよ。私たちのスタンドパワーはスッカラカンだけど

生天目が不意に発した言葉によねはハッとした。
"スタンドパワーはスッカラカン"。

本来ならばよねのスタンドパワーもとっくに底をついているハズである。
だが、よねのスタンドパワーはまるで巨大なスタンドパワーの倉庫から取り出してきているかのように、無尽蔵に湧き出てきていた。

(どういうことだか知りませんがこれは好機!)

「Sum41ッ!この床は自分と反発しあうッ!!」

よねは足元の床に手をつけて、Sum41を発動させた。
ビシュッと音を立ててよねの体が宙を舞う。
ライブラリの扉から御前等の位置までの距離を一気に詰める。

「Sum41!この床は盛り上がり、ゲル状になる!」

滑り込むように床に着地すると、再びSum41を発動させた。
ライブラリの床はザ・ファンタジアの放った弾丸から御前等とよねを守るように盛り上がる。
さらにその床が老朽化したコンクリではなくゲルへと変化する。
ゲル化することで密度が均一になり、さらに衝撃吸収能力もアップするのだ。

「人体に傷を与えることが目的の弾丸なら、粒子の様に物質を透過して移動することは不可能なハズッ!
 このゲルの壁に阻まれろッ!!」

だが、ゲルの盾はあくまでその場しのぎに過ぎない。
ザ・ファンタジアが放つ弾丸は、銃弾ではないものの、実際のマシンガンとほぼ同等の威力を持っているはずなのだ。
ゲルの盾で白い銃弾を阻めるのはたった2秒ほど。
その間に御前等が何かアクションを起こすことに賭けて、よねはライブラリに飛び込んだのだ。

【御前等を白い銃弾から守るようにゲルの盾を展開、ただし長くは持ちません】

361天野晴季 ◆TpIugDHRLQ:2011/05/03(火) 14:55:09
「うわっ…何これ。ライブラリに入ってみればいきなり御前等さんがピンチって…」
ライブラリについてため息を吐きながら呟く天野
>「天野さんよねさん。よねさん天野さん。あれを見て!
みんながピンチよ。私たちのスタンドパワーはスッカラカンだけど
何とか助けよー!恩返ししよー!
万人が忌み嫌うカオスのチカラを今こそ発揮する時がきたのよ!」
「…そうですねぇ、さっき誰かさんがとんでもないことしてくれたお陰で多少パワーを消費しましたけど。
…まぁでもまだ0じゃありませんし、頑張るとしますか。フリーシーズン!」
雲型のスタンド、フリーシーズンを出現させる天野
「湿度上昇、気温低下、位置御前等裕介の周辺。…氷の壁で守れる量なんて高が知れてるけど、1秒でも時間が稼げるなら…
さらにそれに並行して、フリーシーズン気温低下。対象、僕の仲間の周囲以外。…全身全霊で温度を下げるよ」
(そもそも温度の上下は原子の振動、つまり熱振動で決まる。…僕のスタンドの場合、大きくする方の上限は摂氏100℃までだけど。
低くする方なら最低の。絶対零度まで下げられる。時間はかかるけど。あらゆる原子の振動が最低で最小になるこの温度なら…あいつの動きを遅くできるかも知れない
…これははっきり言って(言ってないけど)賭けだけど…買わない宝くじは当たらない!)
【御前等を守るため氷の壁を生成。さらにライブラリの温度をどんどん下げてます】

362佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/05/03(火) 21:28:31
薄汚れた天井の下、浮遊するひび割れたフルムーン。表面の破片が崩れるように剥がれ落ちている。
その光景を最後に視界が暗転し、周囲は暗闇に包まれた。


一条の光も射さぬ海底、タールのような闇。ひとみは闇の底に立っていた。
ある男の中で見た闇の海に似ている…と、思ったのも束の間、ひとみの体は錘を切られたように浮力を得て上昇を始める。
加速度を増して闇の海を浮上する。海底から海面へと。
海面付近で、青い帽子を被った青年が懸命に水面に顔を出そうと足掻いている姿を見た。

―――誰もが恐れる程の能力を持ちながら、何処か未熟な精神の持ち主……
不釣合いな力に呑み込まれることなく、無事に水面に上がれればいいのだけれど……彼は誰だったか―――?

ひとみは何となく青年の身を案じたが、ついに誰なのか思い出すことも出来ぬまま、
体は海面を抜けて、更に高く高く上昇していく。
そうしているうちに、次第に自分が何者かも分からなくなっていくようで
心細くもあったが、妙に静かな悪くない気分だった。


不意に、肩に重みを感じて、上昇が止まった。
間近に人の気配がして目を開ける。白い衣を纏った人間が、力強い掌でひとみの肩を押さえつけていた。
並外れて逞しい体躯の男だ。ひとみは反射的に、その者の顔を見上げる。
頭部を覆う白い被衣が顔に深い影を落として、口元しか見えない。
その固く引き結ばれた口元と意思的な顎の稜線を、本当はどこかで見知っている気がした。

男は片腕をひとみの肩から外して、ゆっくりと下を指差す。
男の指し示す方向に視線を移すと、そこには、仰向けの体勢で床に倒れている女と、側に跪く少女の姿があった。
全身の毛穴が総毛立った。闇に包まれる前に、何があったのかを思い出した。
あの女は自分だ―――
気づいて身震いした瞬間、男に強く肩を突き飛ばされて、ひとみは落下した。


右目にほんのりと暖かい力を感じて、視界にうっすらと光が満ちる。
視界の半分が赤く染まっていたが、自分を覗き込む少女の顔は判別できた。
涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らした生天目有葵が、ひとみを見下ろしていた。

363佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/05/03(火) 21:44:03
視点が定まると、途端に激痛が走った。痛む右目を庇って掌を当てる。顔半分が液体で濡れていた。
ひとみは小さく呻き声を上げて半身を起こす。
部屋の反対側の壁際では、ザ・ファンタジアと御前等、よねを交えた三人が、攻防を繰り広げている。

「あのクズネズミ〜〜〜……よくもやってくれたわね……
 …冗談じゃないわ!!こんな所で、お喋りクソネズミの思惑通りに、死んでたまるかってのよ……!!」

咽から搾り出すような声で、ひとみは呟く。
立ち上がろうとしても足に力が入らず、身を捩ってネズミの死角になる一番近くの書棚の影に体を移動させる。

「有葵…私を起こして…手を貸して…
 ……書庫に行くわよ!まず間違いなく、奴の本体はそこにいる!
 私を粒子化した時と同じ能力で本体を守っているとしたら、ネズミは本体に手を触れない限り粒子化できない!
 ネズミに気づかれないように接近できれば、私達で本体を叩けるわ!」

意識をスタンドの発動に集中する。
ひび割れたフルムーンが二人の目前に発現した。時折砂嵐が混じるようにスタンドのヴィジョンが乱れる。
スタンド経由で得る視界は、右目の眼窩に溜まった血のせいか、赤く濁って何も見えなかった。
これではスタンドの遠隔操作は出来そうにない。

「フルムーンはもう迷彩程度にしか使えない…本体への攻撃はあんたがやるのよ…!」

爪が食い込むほどに強く有葵の手を握って、ひとみは訴える。
フルムーンの触手が皮膜状に薄く延びて二人の体を包み込む。
二人の姿は透明の皮膜の内側に溶け込んだ。


【有葵ちゃんに書庫行きを提案。
 生天目さん、佐藤さんはまともに動けませんので、よかったら書庫まで連れて行ってあげてね。
 ネズミとの決着にかかる時間次第では、書庫内でひと悶着入れるかもです】

364ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/03(火) 22:01:53
>>360 >>361
『ヒヒッ…おわりだぁ!!ウザキング君!!♪僕よりウザい人材は貴重だから残念だよ!♪』
機関銃を模した腕から、雨あられと吐き出される白い銃弾。

>「人体に傷を与えることが目的の弾丸なら、粒子の様に物質を透過して移動することは不可能なハズッ!
>このゲルの壁に阻まれろッ!!」

御前等に向かって放たれた銃弾は、室内に飛び込んだよねによって展開されたゲルの盾に着弾して止まった。
衝撃と共に銃弾を取り込んだゲルはドロドロと床に崩れ落ち始める。
再び連射した銃弾は、天野が張った氷の壁に食い込み、割れる氷と共に砕け散る。

『クソッ…うすらメガネまで登場しやがった♪裏人格に精神を乗っ取られた設定はどうなったんだよ!!♪』

ネズミは舌打ちして、銃口を上方に向ける。
標的は、天井擦れ擦れの高さまで設置された金属製の書棚。軌道を計算して3発を別々の書棚に発射する。
書棚に当てた弾丸の跳弾で、上部から御前等とよねへの着弾を狙ったのだ。

なぜ変幻自在なザ・ファンタジアが、跳弾という非効率的な攻撃を選んだのか?
ザ・ファンタジアの腕から発射された弾丸は体と同素材。言わば体から削り出して造った弾丸だ。
その弾丸が何十個も床に溜まったゲルの内側に閉じ込められている。
肉体の変化と再構成は、体の構成素材が全て揃わねば不可能。
ゲルが溶けて霧化させた弾丸を回収するまで、ネズミは変身能力を封じられていたのだ。


【よね君のゲルと天野君の氷の壁に弾丸を防がれたネズミ、跳弾で御前等君とよね君を狙う。
 書棚に反射させた弾丸が3発、上から御前等さんとよねさんに降ってきてます。
 弾丸の威力は半減してるから、当たっても死ぬことはないでしょうw】

365御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2011/05/05(木) 23:34:03

束の間、拘束されたファンタジアを見下ろし勝ち誇る御前等。
身体を構成する粒子の殆どを奪われたアメリカねずみは所体なさげに漂うばかり。と、思いきや。
ねずみが口を窄め、何かを吹いた。瞬間、右腕に灼熱感。

>『発想はワルくなかったけどツメが甘過ぎたネ〜♪

「な……馬鹿な!こいつはッ!『煙のワニ』だとォォォ〜〜〜ッ!?」

確かに捕らえたはずの袋は平らになり、そしてその中に入っていた容積分だけのアギトが腕に食らいついていた。
激痛と共に迸る鮮血。血圧の急降下にブラックアウトしかける視界。暗くなりゆく眼前に、ねずみの醜悪な笑顔。

(ビニールすら透過するのかっ……?いや!『結び目』ッ!どんなにキツク締めても生まれてしまう絶対の猶予!)

>『僕の犬に噛まれるの二度目だっけ?ゴメンネ♪甘噛みじゃなくて♪さぁて♪利き腕をやられて防げるかなァ〜?』

舐めきっているのかまともに照準もつけていない煙の火線が、しかし連射速度ゆえに薙ぐようにして御前等へ迫る。
すわ被弾か――御前等は思わず目をつぶり、迎える痛みに身構えた。果たせるかな、弾は来ない。届かない。

>「Sum41!この床は盛り上がり、ゲル状になる!」

さながら壁のごとく隆起した床がネズミの煙を全て飲み込んだのだ。
駆けつけたるはよね。御前等の命を救ったのは奇しくもかつて対峙したスタンド『Sum41』。
そして。

>「フリーシーズン気温低下。対象、僕の仲間の周囲以外。…全身全霊で温度を下げるよ」

天野くんの『フリーシーズン』が、部屋の気温を提げ始める。
ネズミを含めた戦闘領域の『御前等達以外』が一気に氷点下を突破し、更に温度を下げんと力を放っていた。

「ク、ククク……はははははは!!墓穴を掘ったなアメリカねずみ!貴様が立てたのは『逆転フラグ』だッ!!」

御前等はあえてフリーシーズンの例外範囲から負傷した腕を出して氷点下に晒し、無理やり止血。
出血、裂傷に加えて凍傷まで上乗せされたが逆に痛みも麻痺してしまった。右腕はしばらく使い物にならないが、邪魔にもならない。

「殺るならさっさとやっとけばよかったものをッ!『勝ち誇るのは勝ってから』……常識だぞ、忘れたか!
 俺はこうして生き残り!そして『頼れる仲間が駆けつけた』……アンバーワールド、歯車を起動せよッ!!」

御前等は今より以前にライブラリを訪れたときがあった。鬼化している最中に、ここでよねと一戦交えた。
そのときに散乱させた『歯車』――機械を操るスタンドパワーの塊は、まだこの部屋に残っていた!
御前等は自分の知る由もなく散っていた歯車の存在を必然と決めた。ご都合主義の謗りを受けようとも、これが怒涛の伏線回収だ!
『歯車』が発動したのはライブラリの天井に設置されたエアコン。その機構を操り、送風機能を暴走させる。
結果、生まれるのはライブラリ内を吹き荒れる暴風。――氷点下の空気を攪拌する風。

「アメリカねずみよ、貴様は粒子が云々の説明にウンコの喩えを出したが……もう一つ常識を教えてやる。
 ――――『凍ったウンコは臭わない』ッ!!」

粒子状態が無敵ならば、別の方法で『粒子以外に変えれば良い』。
そう、粒子とて凍る。水を含まない素粒子はそのものが凍結することはなくても、空気中の水分ごと凍らせることはできる。

天野くんのフリーシーズンで氷点下となったこの部屋の空気は冬の風と違って湿気を多分に含んでいる。
ただでさえホールの湿度は天辺回っていたのだ。構造的に空気を共有するこのライブラリも然り。
保管するものがものだけに除湿機こそあれど、――その除湿機能を備えたエアコンは、御前等の支配下にあるッ!!

「今だよね君ッ!氷と『一つ』になった今なら、君の能力が通じるはずだっ!
 知的財産権の侵害という、エンターテイナーとして最も忌むべき所業をしくさったあいつに――外れぬ枷を嵌めてやれ!」


【エアコンを操って天野くんの能力で氷点下になった室内に暴風を吹かせる。湿度も相まって凍るはず……?】

366生天目有葵 ◆gX9qkq7FNo:2011/05/06(金) 16:37:00
意識を取り戻した佐藤に、生天目は胸を撫で下ろし破顔一笑。
>「あのクズネズミ〜〜〜……よくもやってくれたわね……
 …冗談じゃないわ!!こんな所で、お喋りクソネズミの思惑通りに、死んでたまるかってのよ……!!」
「そう、しんじゃダメ。みんなで生きよぅ」
二人はこっそりと書棚の影に移動する。
>「有葵…私を起こして…手を貸して…
 ……書庫に行くわよ!まず間違いなく、奴の本体はそこにいる!
 私を粒子化した時と同じ能力で本体を守っているとしたら、ネズミは本体に手を触れない限り粒子化できない!
 ネズミに気づかれないように接近できれば、私達で本体を叩けるわ!」
「よーし。じゃあ叩くよ。このフライパンで。…にしても粒子のスタンドだったなんてね。
粒子になっちゃったら、それ以上は砕けないんだもの。破壊するって感覚じゃ一生倒せなかったのね。
…柚木に聞いた秋名ってヤツと少し似てる…」
生天目が護身用のフライパンを持って小鼻を膨らませると、フルムーンの透明シートが体を包む。
幸い、ザ・ファンタジアは御前等たちとの戦いに夢中で佐藤たちの動きには気がついていないようだ。
あとは書庫に隠れているエイドリアンを懲らしめるだけ。
>「フルムーンはもう迷彩程度にしか使えない…本体への攻撃はあんたがやるのよ…!」
「任せて、ひとみん。うんこねずみにチューチュー天誅よ」
そう答え、佐藤の剣幕に微苦笑する。
いつも頼りっぱなしの佐藤に、逆に期待されたことが面映い。

―――生天目は寄り掛かる佐藤と一緒に忍び足で書庫に入った。
ライブラリとは打って変わって静まり返っている書庫。緊張で激しさを増す鼓動。
(どこ…?どこにいるの?)と佐藤に目で訴える。(階段から落ちたから記憶が抜けています)
「…!」
キャミワンピから染み出す潤滑油に気がついたのは書庫の中央付近だった。
服に染み込んでいた潤滑油が腕を伝わり握ったフライパンの柄に染み込む。
(やば!すべる!)
コーンッ!甲高い音が耳朶を打つ。
床に静かに置くもなにも、フライパンを持ち直そうとしておもいっきり投げてしまったのだ。

367よね ◆Cj3ysYNKG2:2011/05/07(土) 22:42:58

ザ・ファンタジアが放った銃弾はゲルの壁と、天野によって作り出された氷の壁に阻まれた。
また、銃弾を止めただけでなく、ザ・ファンタジアの構成素材をゲルの中に閉じ込め、
ザ・ファンタジアの厄介な変身・再構築能力を―よねが能力を解除するまでではあるが―封じるという副次的な効果も生まれた。

/『クソッ…うすらメガネまで登場しやがった♪裏人格に精神を乗っ取られた設定はどうなったんだよ!!♪』

「その設定はまだまだ健在ですよッ!このネズミ野郎ッ!」

よねは弾丸を防いだ勢いでザ・ファンタジアに接近しようとした。
だが、再びザ・ファンタジアが白い、粒子の弾丸を天井に向け発射したので、懐に飛び込むのを躊躇ってしまった。

(上に向けて撃った?一体どういうんだ?……まさか、跳弾を狙ったかッ!?)

本来ならば左右前後どこかに避けることも出来ただろう。
だが、一瞬の迷いがよねの反応を鈍らせた。まるで、テニスでスマッシュを打たれた時のようにその場を動くことが出来なかった。

「具現化しろ、Sum41!別々の所へ撃っても、着弾点は全弾同じッ!この身を呈して弾丸を受け止めるッ!」

よねは、『ザ・ファンタジアはこれ以上、身体を構成している粒子を無駄に削って弾を撃つことは出来ないから、出来る限り弾丸の威力を節約して発射してくるだろう』と踏んで、
Sum41を能力の発動の為ではなく、御前等とよね自身を守らせるために―よねにはダメージのフィードバックがあるのだが―出現させた。
つまり、よねはSum41を盾にしたということである。ザ・ファンタジアの精密な軌道計算を逆手に取ったのだ。

ドスドスドスッとSum41に3発の弾丸が撃ちこまれる。と同時によねの身体に激痛が走った。
それはあまりに強烈すぎる痛み。打たれ強いとはお世辞にも言えないよねにとっては尚更である。

だが、よねが身を呈すことによって弾丸が御前等へと着弾することは免れ、
その間に御前等はアンバーワールドの能力を発動し、チャンスを掴み取ったのだ。

/「今だよね君ッ!氷と『一つ』になった今なら、君の能力が通じるはずだっ!

(〜〜〜〜ッ!!しまったァーッ!)

御前等はあえて負傷した右腕を氷点下に晒すことで止血した。その代償として、右腕が使い物にならなくなってしまったが。
それと同様に今のよねが氷点下に飛び出せば、止血することは可能だとしても、その後満足に身体が動く保証は無い。

なぜこのような事をを考えなければならないか。

Sum41の能力を発動するには、能力の対象によねかSum41のどちらかが触れていなければならない。
そして、Sum41の射程は数あるスタンドの中でも最低ランクなのだ。
氷漬けのザ・ファンタジアに、よねが触れるにせよ、Sum41が触れるにせよ氷点下へ身を晒すのは必至だからである。

(だが…ッ!このチャンスを無駄にするワケにはいかない…ッ!)

意を決したよねが氷点下の中、ザ・ファンタジアに向けて走り出す。

例外範囲を出た瞬間に、銃弾に貫かれる痛みよりも凄まじい激痛がよねを襲った。
だが、その激痛は次第に和らいでいき、ついにはただの違和感へと変わった。

よねはよく動かない腕で、氷漬けのザ・ファンタジアを抱えるようにした。

「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」

ただでさえ、傷を負い、度重なる能力の発動で疲労しているよねである。
Sum41の能力で直接燃やしたり、爆発させたりということは不可能に近かった。
可燃性にするだけならば、Sum41での書き換えが『不燃性→可燃性』という一度の書き換えで済む。

よねは賭けたのだ。
以前、ライブラリで御前等と戦った時に使われた、火炎放射スプリンクラーの存在に御前等が気付くことに。

氷塊まるごとが、まるで可燃性ガスになったようである。
当然、氷塊に包まれ、氷塊と同化していると言っても過言ではないザ・ファンタジアの身体を構成する粒子一つ一つも同様である。
ほんの少し火をつけてやれば、ザ・ファンタジアは燃焼してしまうだろう。

【跳弾を阻止。ザ・ファンタジアを可燃性にしました。
 因みによねはやや重傷です】

368ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/09(月) 23:16:22
>>365
弾丸を全て防ぎきった御前等が、一歩、また一歩とザ・ファンタジアに歩み寄る。
男の背後で拳を構える陽炎の如きオーラを纏う鋼の守護神に恐れをなしてか、
ネズミは、詰められた距離の分だけじりじりと後ずさる。
四歩下がったところで壁に背中が当たり、退路を塞がれてネズミはついに立ち止まった。
顔じゅうに白い冷や汗を垂らしてネズミは立ち尽くす。

>「ク、ククク……はははははは!!墓穴を掘ったなアメリカねずみ!貴様が立てたのは『逆転フラグ』だッ!!」

御前等が声を張り上げた瞬間、焦燥の表情から一転、ネズミの瞳が鈍い光を放った。

床に溜まっていたゲル―――その粘性の高さゆえ、ゆっくりと溶け落ちるゼリー状物質の中に
閉じ込められていた銃弾が、ようやく外気に触れるまでに顕わになったのだ。
空気に触れ、蒸発するかの如く、一瞬で粒子に変化する弾丸。
ザ・ファンタジアは、銃弾から立ち上る白い霧を一息に吸い込み、唇の端を曲げて不敵な笑みを浮かべた。
同時に、体表が湖面に立ち込める霧のように揺らめき始める。

『"逆転フラグ"かァ…♪
 君の脳内では現実より色鮮やかなオタクコンテンツ界の因果律のことかい?
 僕がスクリーンで活躍した古き良き時代には、心地良いマンネリと予定調和に
 そんな陳腐で記号的な名前を嵌め込んだりはしなかったなァ…♪
 最近のジャパニメーションは何もかも記号的でウンザリするよ♪その記号をありがたがる君みたいな人間もね!!…♪』

体をモヤつかせながら、ネズミは次第に語気を強めた。
膝を折り深く体を沈めたかと思うと、バネ仕掛けの人形のように、一気に天井付近まで跳躍する。

『君が思っているほど現実は甘くはないよぉ〜♪
 "逆転フラグ"なんざ、そうそう都合よく立ってたまるかッ!!……フリークめ♪思い知れッ♪現実をッッ!!』


空中でローブの袖を翻し、両腕を広げるザ・ファンタジアは、さながら頭ばかり大きい不恰好な鳥のようだ。
体の端々から、砂が零れるように粒子が散り始める。
ザ・ファンタジアは体を粒子化し、完全なる肉体の再構成を試みていた。
銃弾を全て回収し、体構成粒子を全て取り戻した今、機銃の乱射という非効率的な攻撃手段をとり続ける必要は無い。
すなわち、機動力と一撃必殺の攻撃を可能にする形態に……
背中に猛禽の翼を持ち、両腕に巨大な刃を宿した破壊天使の姿に変化し、
上空から三人の敵(御前等、よね、天野)の首を一閃―――刎ね落とさんと狙っていたのだ。


パワーで互角の御前等は利き腕を負傷、
さらにザ・ファンタジアにスピードで上回るスタンドの持ち主は、この場にいない。
―――"場"において無敵の支配者である自分が、捕えた獲物に負けるわけがない。
ネズミは数秒後には床に転がるであろう三人の生首を思い浮かべ、鼻に皺を寄せて嗤った。

369ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/09(月) 23:21:25
ザ・ファンタジアは体表の粒子化を加速し始めた。
その時だった――――

>「殺るならさっさとやっとけばよかったものをッ!『勝ち誇るのは勝ってから』……常識だぞ、忘れたか!
>俺はこうして生き残り!そして『頼れる仲間が駆けつけた』……アンバーワールド、歯車を起動せよッ!!」

御前等が上げたのは、恐怖の絶叫でも命乞いでもなく、起死回生の策を謳い上げる声。

――――室内に吹き荒れる暴風!急速に氷点下まで低下する室温!
まるで永久凍土に吹き荒れるブリザードだ。
風は唸りを上げ渦を巻いて、粒子化したザ・ファンタジアを攪拌する。
新しい形態に変化するまでの、ほんの束の間、ザ・ファンタジアのコントロールを離れた粒子の群れは、
拡散することもできずブリザードに呑み込まれ、冷気の渦の中、成すすべも無く回転するのみであった。

『こ…この風はエアコンッ…?ウザバカの能力ッ!にぎゃぁあああああああ〜〜〜♪
 こんなご都合主義にムザムザ引っ掛かるなんてぇ♪しっしかも体が凍るッッ!!!』


エアコンの空調口を通して御前等が引き寄せたホールの湿気、それをネズミの周囲に集約する天野の気流操作。
二人の共同作業によって、瞬く間にネズミの白い体表は、ほの青い氷片に覆われる。
体表が不安定な状態で氷に閉じ込められ、粒子化を封じられたザ・ファンタジアは身動きがとれない。

>>367
その瞬間、
被弾したよねが、負傷した体を押してザ・ファンタジアに向かって飛び掛り、抱きついた。

>「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」

『なっナニぃ〜〜…♪ヤッやめろッウスラボケメガネッッ!!
 裏人格に乗っ取られたキミは、闘いの欲求が押さえきれずに仲間を全滅させたがってる設定だったろ?
 今更何でコイツらの味方してんだよ!!オイ止めろッッ!!
 手を触れて口に出しさえすれば、何でも叶う能力なんて反則だろぉ〜〜!!オイ♪!!』

ネズミは、懸命に身を捩って脱出を試みるが、
氷の結晶を透過するほどの微粒子に体を分解することも、実体化して内側から氷を砕くことも不可能で
ただ虚しく氷の中で喚き声を上げるのみであった。

『ちくしょぉおおおお〜!!!こうなったら最後の手段だ!!!♪』

ライブラリの床や壁の一部が液状化し、まるで泥水を煮詰めたようにボコンボコンと気泡が盛り上がる。
泥土の泡は、忽ち歪な人型を成して、御前等たちに襲い掛かった。
床と壁から生まれた二足歩行のアヒルとリス…各々つがいで2組、合計4匹!
それらの醜悪な傀儡は、表面が溶けかけたドロドロの腕で、3人(御前等、天野、よね)の手足を引っ張り
隙あらば首を絞めようと体に絡み付いていた。

ザ・ファンタジアはゲームフィールドである"場"を、自在に変質させる能力を持っていた。
しかしそれは、"場"の自己修復力と言った方が近い性質のもので、
ネズミ自身が意図的に発動する必要に駆られたことは、これまでに一度もなかった。
御前等とよねの戦闘中、火炎放射で焼かれたはずのライブラリが、僅かの間に修復されていたのもその能力によるものである。

動けぬネズミは今、まさに死力を尽くして、フィールド操作能力を発動させていた。
これはザ・ファンタジアにとってもリスクの大きい苦肉の策、
僅かでも集中力が途切れ"場"が暴走、崩壊してしまえば自身の消滅もありうるのだ。


【ドナル○&○イジー+チッ○&○ィールもどきの泥人形が、御前等さん、天野さん、よねさんにしがみ付いていますが
 決定ロールで蹴散らして、ラストアタックやっちゃってください】

370佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/05/09(月) 23:27:51
>>366
一方、フルムーンの迷彩に身を隠し、ひそかにライブラリ奥の別室―――書庫に侵入した生天目有葵と佐藤ひとみ。
ライブラリは極寒の冷気が吹き荒れていたが、
扉一枚を隔てた密室の書庫には、未だそれほど冷気は入り込んでいなかった。

>(どこ…?どこにいるの?)

フライパンを構え、視線で本体の居場所を尋ねる有葵に、ひとみは精神感応で応える。

「迷彩時は、シートの位置捕捉が使えないのよ。でも本体がこの部屋にいるのは間違いないわ。
 ステレオポニーのエコーロケーション(音波探知)で探せないの?」

仮に迷彩を解いたとしても、探知能力は使いものにならないだろう。
右目の負傷で眼窩に血が溜り、スタンドの視界も濁っている。
フルムーンは視覚のスタンド。視神経を痛めると能力の大半を失ってしまう。
ひとみは続けて有葵の精神に語りかける。

「それとね…一つ言っておくけど、
 『お仕置き』や『懲らしめ』程度の浮ついた気持ちでいたら、私達生きてここから出られないわよ。
 本体の危機に気付けば、ネズミは必ずここに来るわ。
 あのバカやよね君達が足止めしてくれてるけど、それだっていつ突破されるか……。
 確実に生きてここを出たかったら、ネズミが来る前に…できれば一撃で本体を仕留めなきゃならない。
 殺す覚悟で掛からなきゃ隙ができるわ。
 あんたの命とこれからの人生、あのクズネズミにくれてやっても惜しくないのなら別だけど、
 そうじゃないなら………"戦う覚悟"を決めなさい。」

無言のうちに心に言葉を伝えながら、二人は部屋の中央辺りまで歩を進めた。
ひとみは立ち止まって有葵の顔を見下ろし、その瞳をじっと見つめた。射るような視線が回答を求めている。

>コーンッ!

狭い書庫内に響き渡る金属の落下音―――!
階段で浴びた潤滑油に手を滑らせた有葵が、得物のフライパンを取り落としたのだ。

「うわああぁあああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁああ!!!!!」

絶叫と共に、部屋の奥の備え付けの書架の影から、転がるように人影が飛び出す。
キャラクターがプリントされた黄色のトレーナーとピンクのスウェットパンツという、すさまじいファッションセンスの男だ。
右手に刃渡り20cmほどのバタフライナイフを握っている。
男は、二列に並ぶ書架を挟んだ細い通路に立ち、首を激しく振り回して周囲を見回していた。
状況を全く把握していない…といった風情で、目は泳ぎ、傍目に見ても分かるほどに激しく体を震わせている。


間の悪いことに、それまでノイズ交じりのヴィジョンでひとみ達の上に浮かんでいたフルムーンが
力尽きるように点滅して消えた。迷彩を失った二人の姿が顕わになる。

男は、部屋の中央に突然現れた二人の女に目を留め、
まさに死に物狂いといった表情で、ナイフを振りかざし襲い掛かった。
有葵に体重を預けていたひとみは、ナイフを避けた弾みでバランスを崩し、床に尻もちをついた。

「ひいいあぁああああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」

男は攻撃を止めない。立っている有葵に標的を絞り、奇声を上げてナイフを振り回し続けた。

【佐藤さんの集中力切れでフルムーンが消えたので、透明じゃなくなっちゃいました】
【エイドリアーンは決定ロールで倒してもらっても大丈夫です】

371生天目有葵 ◆gX9qkq7FNo:2011/05/13(金) 17:20:15
ライブラリの書庫。冷んやりとした空気と張り詰めたような静寂が密室の床に停滞している正午。
佐藤ひとみと生天目有葵はフルムーンの迷彩に身を隠し、書庫に侵入していた。
(誰もいない……)
衣擦れの音。息づかい。周囲を見まわしながら一つ息を吸って吐く。
エイドリアンの姿はなかった。生天目が視線で佐藤に問えば、頭に直に流れこんでくる佐藤の声。

>「迷彩時は、シートの位置捕捉が使えないのよ。でも本体がこの部屋にいるのは間違いないわ。
 ステレオポニーのエコーロケーション(音波探知)で探せないの?」

「あ…忘れてたっ!」少女は、佐藤にうなずいてみせ、スタンドを放つ。
背後から亡霊のように現われたスタンド、ステレオポニーが床にぺったりとひっつき音波探知を始める。

佐藤は続けて、生天目の精神に語りかけてくる。

>「それとね…一つ言っておくけど、
 『お仕置き』や『懲らしめ』程度の浮ついた気持ちでいたら、私達生きてここから出られないわよ。
 本体の危機に気付けば、ネズミは必ずここに来るわ。
 あのバカやよね君達が足止めしてくれてるけど、それだっていつ突破されるか……。
 確実に生きてここを出たかったら、ネズミが来る前に…できれば一撃で本体を仕留めなきゃならない。
 殺す覚悟で掛からなきゃ隙ができるわ。
 あんたの命とこれからの人生、あのクズネズミにくれてやっても惜しくないのなら別だけど、
 そうじゃないなら………"戦う覚悟"を決めなさい。」

静かな世界で二人の視線がぶつかった。少女は眉根を寄せ困惑の表情をみせる。

しかし……

うなずく。

「わかったわ。ひとみん…」
奇妙な気持ちだった。世界には死が満ちている。
胸いっぱいに広がる、息を出来なくさせる甘酸っぱさは、いらだちは、足元の頼りなさはなんだろう。
自分はテレビゲームの世界の、神様に守られているようなヒロインなんかじゃない。
明日には死んでしまうかも知れない脆弱な存在。死は身近な友達。

372生天目有葵 ◆gX9qkq7FNo:2011/05/13(金) 17:20:51
だけど…。だから、力いっぱい生きるのだ。その一瞬を一瞬を。

生天目は強くフライパンの柄を握りしめる。潤滑油で滑るフライパン。
耳朶を打つ金属の落下音。

>「うわああぁあああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁああ!!!!!」

静寂を埋める闇の声に空気がたわむ。
絶叫と共に書庫の影から現われたのは一人の男。恐らく彼がエイドリアンだろう。
右手にバタフライナイフを持ち激しく体を震わせている。

(とうとう会えたわね、ネズミの本体!!)
生天目は心の中で叫びエイドリアンをねめつけた。…と男とぱちりと目があう。
「はぇ?」
気付けば、フルムーンの迷彩が色を失っている。佐藤ひとみが力尽きたのだ。
死に物狂いで近づいてくるエイドリアン。その形相の凄まじさはまるで悪夢。

「くっ!!」
>「ひいいあぁああああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」

「ばかね!スタンドもなしにかなうと思ってんの!?
今のあなたなんておしゃべりクソネズミじゃなくって、羽根をなくした蛾よッッ!!」

「オトトイキヤガレーーーーッ!!!!」
声だけが残る。スタンドは声を置き去りにしエイドリアンに回し蹴り。
彼の右手がヒズメにに弾かれ、バタフライナイフが喉元を薙ぐ。
噴出す鮮血に佐藤ひとみの視界が赤に染まる。次いで生天目も佐藤の横にぺったりと尻餅をつく。

「おわった?こんな狂ったノリスケみたいのに殺されたらたまらない。
スタンド使い同士って引き合うっていうけど、こんなキモヲタと一時間でも人生を交じあわせるなんて
金輪際真っ平ごめんよ…」

小さく肩を落とすと、生天目有葵は深くため息をついた。

373御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2011/05/15(日) 01:00:27
>「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」

御前等を庇って負傷し、それでもなお回ってきたパスに応えんとするよねの決死の突進。
物体の性質を書き換えるスタンドが発動し、アメリカねずみを内包した氷塊は可燃性を持つ。

「さすがの手際だなよね君ッ!俺は信じていたッ!きみならば、このクサレねずみに最も最も最も最も最も最も最もッ!!
 恐怖と苦痛を与えるやり方で俺のフィニッシュに繋いでくれると!!きみの中に宿る残虐性を信じていた!」

御前等は氷のフィールドから歩み出る。もはやものを言うだけの、身じろぎ一つ効かぬ氷塊を見下げる。
あれだけイラっとする挙動と笑顔に満ちていたアメリカねずみは、いまや凍りついたような絶望を文字通り凍りつかせている。

>『ちくしょぉおおおお〜!!!こうなったら最後の手段だ!!!♪』

突如床から盛り上がってきたのはアメリカねずみと同郷のアメリカアヒルとアメリカリス。
もはや形を留めきらぬ彼らは――驚いたことに、それは粒子ではなく実物の床材だったが、御前等の足を掴み、首を締めにかかった。
御前等は表情を変えず、喉の筋肉を強ばらせて気道を確保、窒息を防御。無事な左手でねずみを指さす。。

「フン、最後の手段、か……。清々しいほどに敗北フラグを立てるじゃあないかアメリカねずみ!
 貴様もわかっているのだろう?『創作幻想《ザ・ファンタジア》』。最古の創作物たる貴様は、創作世界の住人であるが故に――
 アニメーション黎明の時代から連綿と受け継がれてきた黄金の予定調和(フラグ)、『お約束』には逆らえないッ!!」

リスが脚を万力の如く締めようとも、アヒルに締められた首がうっ血して唇から色が失われても。
御前等とザ・ファンタジアの距離はすでに2メートル。――アンバーワールドの射程距離だった。

「――それで、アメリカねずみよ。この俺に現実を知れとか抜かしたな」

左腕にスタンドの拳を宿して。
息を吸い、精神の力を発現する。

「だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
 だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
 だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
 だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが」

左拳だけのラッシュがアメリカねずみを蜂の巣に変える!
秒間80発はあろうかという拳の連打がたっぷり10秒ほど続き、フィニッシュブローで壁へと氷塊ごと突き刺さった!

「――――――だが断るッ!!(お断りだ)」

ただのラッシュではない。御前等のスタンドエネルギーの塊――歯車を付与した拳の嵐である。
無数の歯車達は着弾の瞬間に拳を離れ、氷塊へと付着し、ラッシュによって釘のように深く深く埋め込まれた。
御前等が指パッチンすると、氷塊内の歯車が一斉に回転し、歯車同士でこすれ合って火花を生じた。

『それは可燃性となった氷に着火する。』

ドバババババァァンッツッ!!
爆発、炎上。その勢いや凄まじかった。
通常ロウソクのロウやガソリンは、揮発した気体に引火して燃える。
気体になって密度が薄まった状態であれだけ燃えるのだ。凝固した個体のままスタンドによって引火性を付与されたものならば。
ダイナマイトにも匹敵するような轟音と爆炎を吐き出しながら、室内に生まれた極小の太陽は内包する全てを焼き尽くした。

「説教臭い作風は嫌われるぜアメリカねずみ。忘れるための現実に言及した時点で、お前は駄作なのさ」


【アメリカねずみにラッシュ後、氷を着火】

374天野晴季 ◆TpIugDHRLQ:2011/05/16(月) 18:52:50
>「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」
「ナイスですよねさん!」
>『なっナニぃ〜〜…♪ヤッやめろッウスラボケメガネッッ!!
 裏人格に乗っ取られたキミは、闘いの欲求が押さえきれずに仲間を全滅させたがってる設定だったろ?
 今更何でコイツらの味方してんだよ!!オイ止めろッッ!!
 手を触れて口に出しさえすれば、何でも叶う能力なんて反則だろぉ〜〜!!オイ♪!!』
「…貴方に一つ教えてあげます。『分かるかいザ・ファンタジア。この市民会館では設定なって何の意味も持たないんだ。』
…それと君の能力も十分チートだよ。気温と湿度と気流を操るだけの僕なんか足元にも及ばないさ」
叫ぶファンタジアにそう言葉を投げかける天野

>『ちくしょぉおおおお〜!!!こうなったら最後の手段だ!!!♪』
「最後の手段? 違うね。最期の手段だよ。ところでトイレは済ませたかい? 神様にお祈りは? 部屋の隅でがたがた震えながら命乞いするも凍えて氷像なる心の準備はOK?
フリーシーズン。気流操作。タイプ:氷属性鎌鼬ッッ!!!!」
気流操作で超低温の鎌鼬を創り出し、泥人形を切り刻む天野
「…さ、これで終わりだよ。御前等さんが君を燃やすのを補助するために…
フリーシーズン! 気流操作! タイプ:旋風!!!」
ザ・ファンタジアの周りの空気をかき混ぜ、より効率よく燃えるようにした天野。これで御前等の炎は更によく燃えることだろう
「燃えてなくなれ。凍って砕けろ。切り刻んでズタズタになれ。吹き飛んで壊れろ。濡れて溺れろ。…そしてもう二度と。僕達の前に姿を現すな」
【泥人形達を切り刻み、御前等をアシスト】

375ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/22(日) 20:43:49
>>373 >>374
泥土の如き粘着性の腕で、御前等の大腿にしがみつくアヒル。
背中に負ぶさるように首にぶら下がる出っ歯剥き出しのリス。
身体に絡みつく二体の傀儡を引き摺りながらも、渾身の力で一歩―――御前等は足を踏み込む。
間合いを削る一足。
今やザ・ファンタジアと御前等の間隔は、近距離型スタンドの射程二メートルを切っていた。

『くぅうっ〜〜…♪!!!チッ○!ド○ルド!そのウザバカの動きを止めろぉおお!!!♪』

ザ・ファンタジアに命じられた傀儡どもは、万力のような力で御前等を締付け、動きを封じようとするが…

>フリーシーズン。気流操作。タイプ:氷属性鎌鼬ッッ!!!!」

天野の一声で、超低温の鎌鼬が泥土の如き傀儡の体を容易く切り裂く。
バラバラに解体された手足頭が床に転がった。ドロドロと溶け落ち、元の床材に戻る傀儡の残骸。


体の自由を取り戻した御前等が、また一歩、足を踏み出し、ネズミの眼前に立ち塞がる。

>「――それで、アメリカねずみよ。この俺に現実を知れとか抜かしたな」

御前等と対峙するネズミの脳裏に、警鐘のような"声"が鳴り響く。

――――ザ・ファンタジアァぁぁああ!何をしているッ!早く来いッ!
俺が死んじまったらお前だって消えちまうんだぞぉおッッ!!――――

"声"は危機が"双方に"迫っていることを示していた。
しかし、氷塊の中に囚われたネズミに許される唯一の行為は、身に降りかかる惨禍をただ眺めることのみ。

(うるせぇ♪この役立たずッッ!!♪自力でなんとかしろッ!!こっちのが断然ヤベェんだよッッッ!!♪)

頭の中の"声"に答え終えた時には、既にスタンドと二重になった御前等の拳が眼前に迫っていた。
限界まで見開かれたザ・ファンタジアの目が恐怖を反射して煌く。

『―――――ぶげッッ♪』

ネズミの顔面にめり込むアンバーワールドの拳。
刹那の間を置き、繰り出される左ストレートの連弾!

>「だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
>だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
>だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
>だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが」

氷と一体化したザ・ファンタジアの身体に、容赦なく鋼の拳が叩き込まれる。
半ば粒子化した状態のまま凍りついたザ・ファンタジアの身体は、氷の破片を撒き散らしながら
受けた拳の形に陥没し、見る影も無く変形していく。
拳の穿つ無数の穴に埋め込まれるスタンドの歯車―――異能の小片!

>「――――――だが断るッ!!(お断りだ)」

376ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/22(日) 20:44:30
『ぷげらっっっ!!!♪』
吹っ飛ばされ、壁に激突するザ・ファンタジア。
氷塊と一体化したネズミの身体は、衝撃で砕けた壁の亀裂に突き刺さった。

>『それは可燃性となった氷に着火する。』

御前等がパチンと指を鳴らす。
ネズミの体内で擦れ合い着火する歯車。
ガソリンのような燃焼促進剤は、必然的に引火点以下の温度となる固体状態の時に火を近づけても、直ちに燃え移ることはない。
しかし、よねの能力によって設定を書き換えられた氷塊は、
常温の固体でありながら爆発的燃焼を引き起こす『火薬』に近い可燃性固体の性質を有していた。

>「燃えてなくなれ。凍って砕けろ。切り刻んでズタズタになれ。吹き飛んで壊れろ。濡れて溺れろ。
>…そしてもう二度と。僕達の前に姿を現すな」

加えて、天野の操作する気流が燃焼を促進させる。

>ドバババババァァンッツッ!!

建物を揺るがす轟音!立ち昇る爆炎!
ザ・ファンタジアの白い身体を紅蓮の炎が包み込む。

炎の衣を纏い、立ち上がったザ・ファンタジアは、どこかキョトンとした目をしていた。
あまりの出来事に状況を把握できずにいる者の目だ。
両手を広げて燃え上がる炎を見つめ、初めて身に起きた異変を察知したかのように、その瞳に戦慄が浮かぶ。
と、やにわに狂ったように頭を抱え絶叫しはじめた。


『ぎゃあぁああぁぁああああああぁあああああッッ――――ッ!!!!!!!!
 熱い!熱い!!熱いッッッーーーーーーーー!!
 嫌だッ!嫌だ!!嫌だぁあああああああッッッ――――――――!!!
 死にたくないぃいぃぃッッ!!消えるのは嫌だぁあぁああああああぁぁぁぁぁあああああ!!!』

叫び声を上げる口の中も炎が燃えている。
粒子同士を凍結させていた水分が可燃物化し、内部からネズミを焼き焦がしていた。
地獄の業火は悪行の報いに罪人を焼くという。
人ならぬ身の悪を裁く炎があるのなら、まさにこれを業火と呼ぶべきなのかもしれない。


『嫌だあぁぁぁぁーー!!!消えたくないぃいいいいいいいいぃ――――ッッ!!!!………』

断末魔が途切れ、最後の残渣を焼き尽くすかのように炎が一際輝く。
宙に散った炎が消えた時、ネズミの姿はそこになく、床に白っぽい灰が薄く散らばっているだけだった。

377ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/22(日) 20:46:19
    *       *        *

エイドリアン・リムは冴えない男だった。職業は時間給のアニメーター。
小太りで低身長の上、引っ込み思案、当然女にはモテない。大抵の女は虫ケラでも見るような視線を彼に浴びせかける。
だがそんな彼も、子供…ことに幼い少女と遊ぶことは好きだった。
ボランティアで身寄りのない子供たちの施設に慰問に行くこともあった。
子供たちは、キャラクターの絵を描いてやると、とても喜んだ。
ずっと自分は子供好きなんだと思っていた。

その影に潜む抑圧された欲望に決定的に気づかされたのは、
人気のない森の中で出合った少女を衝動的に手をかけ、殺してしまった後だった。
死体を見下ろし途方にくれる彼の前に、それは現れた。
―――ザ・ファンタジア…彼にとってのヒーローの姿をしたアイツが。


以来、"エイドリアン・リムの欲望から発露した"と語る白いネズミが、彼の欲望を解き放った。
どんな残酷な欲望も、奴がいれば叶えられた。何をしたって警察にバレる筈がなかった。
最高に刺激的な友達が出来た気分だった………が、それも最初のうちだけだった。
奴は次第にコントロールできる"場"を広げ、勝手に行動し始めた。
"場"が発動している時、本体である彼は、何が起こっているのか知ることすらできず、脇役以下の役割しか与えられない。
今やどちらが主体だか分からない。
それに、ネズミが時折彼に向ける、"ウンザリ"という文字が浮かんできそうな視線……
自身から生まれたものにすら蔑ろにされるのかと、酷く屈辱的で虚しかった。


彼は、ザ・ファンタジアを制御したいと願い、その為の力を欲した。
―――"アイン・ソフ"…"悪魔の手のひら"…あらゆる異能を思うままに発現し操ることが可能だという、その力を……
勿論、あの女の言葉を全て信じていた訳ではない。それでも、疑いつつも、欲せずにはいられなかった…

しかし、それももうどうでもいい事だ。
ザ・ファンタジアが作り上げた"場"が崩壊する気配を感じる。

――――所詮、アイツは俺から自由にはなれない。一緒に逝くしかないんだ。アイツ悔しがるだろうな…

薄れゆく意識の中でエイドリアン・リムは、ささやかな復讐心を満足させた。


    *       *        *

378佐藤ひとみ ◆tGLUbl280s:2011/05/22(日) 20:52:47
>>372
一文字に切り裂かれた咽元の切り疵を見せて、仰向けに床に転がる小男。
男は一度ゴボリと音を立てて血を吐き、そのまま動かなくなっていた。
今や何も映さぬ虚ろな目が天井に向かって見開かれている。

佐藤ひとみは、隣にぺたんと腰を下ろす生天目有葵に視線を向ける。
振り回された刃物を避け損なったのだろう。ワンピースは所々が切り裂かれ、頬に出来た傷に一筋の血が滲んでいた。
視線を交わして、少女は呟く。

>「おわった?こんな狂ったノリスケみたいのに殺されたらたまらない。
>スタンド使い同士って引き合うっていうけど、こんなキモヲタと一時間でも人生を交じあわせるなんて
>金輪際真っ平ごめんよ…」

ひとみは少女の問いに答える。

「おわったわ…多分ね……」

床の男は、どう見ても事切れている。が、ひとみは少女の前で"死"を口にすることを無意識に避けた。
返り血を点々とつけた少女の顔を、まじまじと見つめる。

人の生き死にとは無縁の、ごく普通の少女が、身を守るためとはいえ生身の人間を手にかけたのだ。
ひとみは有葵に"戦う覚悟を持て"と諭した。
覚悟なき殺人は、それがいかに正当な理由であろうとも、心に動揺と深い傷痕を残す。
覚悟は、不意に襲いくる動揺を、後悔を、良心の呵責を、跳ね返す強力な壁になる。
しかし、有葵のような恵まれた少女が、生来まっとうな生活を送りながら培ってきた素朴な良心は、
そう簡単に割り切れるものではないことも想像できた。

ひとみ自身も、あの時…あの男の命を奪うと決めた時…充分に"覚悟"を決めていた…筈だった。
それでも、時折押し寄せる後悔とも自責ともつかぬ感情に手を焼いていた。
もはや気の迷いと糊塗できぬまでに募り、処理のつかない感情は何なのだろう――――?

この出来事が……他者の命を――生きる価値のないクズといえど――自らの手で奪ったという事実が、
いつか少女の心に、染みのような黒い影を落としはしないか、抜くことのできぬ小さな棘となりはしないか、
ひとみは、有葵の小さな顔を見つめながら、同情に近い気持ちで、少しだけ彼女の行く末を案じた。



………ふと気づくと、並んで腰を下ろす二人の周囲の空間が、ぐにゃりと歪んでいた。
異変は部屋全体に及んでいる。床は波打ち、壁や書棚の輪郭がブレ始める。
触れると表面が小さく崩れ、粒子が宙に舞った。
その上、ライブラリから書庫に通じる扉の隙間から、焦げ臭い煙が入り込んでいる。

「あっちはあっちでカタがついたみたいね。
 ここから出ましょう。早いとここの建物から脱出しないとマズイことになりそうだわ。」

ひとみは有葵を促して立ち上がった。

379ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/22(日) 21:00:28

書庫と同様に、ライブラリも異変に見舞われていた。
壁も、床も、建具も、建物全ての輪郭が揺らぎ粒子が端々から零れている。
ネズミから飛び散った火の粉が書架の本に燃え移ったのだろう。書架から書架へ次々と火の手が広がり始めていた。
有葵の肩を借りて書庫から出たひとみは、ライブラリの面々の顔を見て叫んだ。

「あいつが死んで"場"が不安定になってる!今ならここから脱出できるかもしれない!
 …てゆうかここにいたら、どっちにしても焼け死ぬわ!!四階廊下の突き当たりに非常口がある!そこに向かうわよ!」

ひとみはライブラリの唯一の出入り口、廊下に通じる扉を指差す。
…と、その時……

『く……ひ…ひひひぃ♪』

本を焼く炎の弾ぜる音に紛れて、不気味な笑い声が耳に入った。
声のする扉の方に目を向ける。
風に吹き寄せられるように床の灰が集まり、扉の前で『あのネズミ』が実体化していた。

実体化したネズミは以前とは様相が違っていた。
色は灰色を帯び、粗い粒子が寄せ集まっただけの体は、所々背後が透けて見える。
空中に灰をばら撒いて固めたような粗放な姿。

『ヒヒヒッ…残念だったねぇ〜…♪この通り僕は不死身さぁ〜…♪
 ヒヒッ…あの役立たずめ…くたばりやがった…♪ヒヒヒッ…
 それでも僕は消えずに存在してる…!!♪こりゃどういうこったぁ〜ッッ?進化だよ♪進化ッッッ!!♪
 僕は今、自分の為だけに存在してる!スタンドを越えた存在ナンだぁ〜!!』

狂気に近いほどの饒舌で語るネズミの体表から、ボロボロと崩れるように灰の塊が剥がれ落ちる。

『オメーらは逃げられねえよォぉ〜!!♪タイムリミットは目前だァ〜♪
 場の支配権は、まだ僕の手にある…!!ヒヒッッ!!』

勢いに乗せて、バン――――!と、ネズミが背後の扉を叩いた途端……
消し炭になったまま辛うじて形を保っていた柱の支える廃墟が、僅かな衝撃で跡形も無く崩落するように
ネズミの体が膝からガクンと折れ、粉々に砕け散った。
砕けた灰塵は再び寄せ集まることもなく、次第に空気中に拡散していく。


『……ちくしょう…体を保てねえ…〜…♪ダメージを受けすぎたのか…それともアイツが死んだせいか…?
 ……僕は所詮アイツの"創作幻想"でしかいられなかったのかァ…?…』

ネズミは自嘲気味に呟き、御前等に視線を移しニタリと笑った。

『…ウザキング君……君にはヤラレたよ……ヒヒッ…
 僕と君は似た者同士だ…♪お互い創作物から借りたものでなきゃ自分を表現できないんだから…
 ……僕は姿を、君は創作物から派生した言葉をね…
 僕には君の心がよ〜く分かる…♪
 君は他人から嫌われるより、無視されることの方が余程怖いんだろ…?
 だから、ウザがられ、嫌われても声高に自己主張をし続ける…クヒヒッ…違うかい?』

380ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/22(日) 21:04:30
背後が透けて見えるほどに拡散した灰となりながら、ネズミは語り続ける。

『君はメガネ君のことを"頼れる仲間"なんて言ったけど、そうじゃないだろぉ〜♪
 タマタマ目的が同じだから協力しただけだろ?言わば僕が作ってやった臨時のお友達さ♪
 君には本物の仲間なんかいやしないんだ。ヒヒヒ…図星だろ…?
 
 ヒヒッ……"忘れるべき現実"だって?……忘れたって現実は無視しきれるもんじゃない…
 いつか必ず、忘れた筈の現実に足を掬われる時がくるぜ……ヒヒヒ…
 君みたいなカラッポな人間が、望み通り、注目を浴びて、人の中心にいたいなら…
 "力"を手にするしかないだろうね…

 無視しようったって出来ない程の強大な"力"を……
 じゃなきゃ、いつまでも耳元で羽音を立てる煩い虫ケラ扱いされて終わりさ…』


御前等を挑発する言葉に、ザ・ファンタジアは自らを重ねて語っていた。
忘れていたかった現実を突きつけられて愕然としているのも、
かつて、偽の現実を本物にするために、"力"を欲していたのも、紛れもなく自分自身のことだった。

ザ・ファンタジアは自我を肥大化させすぎたが故、
自身がエイドリアン・リムに従属する"能力"でしかない、という事実を受け入れ難くなっていた。
スタンドを越えた『個』としての存在を望んだ。
…ニューディバイドというあの骸骨男…あの生物ともスタンドともつかぬ存在は、
本体に束縛されることなく自由意志で行動している。スタンド自身が本体といえる存在なのだ。
…"アイン・ソフ"…"悪魔の手のひら"…全ての異能の根源ともいえる強大な力…
ニューディバイドが狙うその力を手にし、『個』としてあの骸骨以上に力を持つ存在になりたかった。


ネズミは天野に視線を移す。

『そこの少年…チートってのは"負けない"存在のことを言うんだ…♪負けちまったら結局は弱者の仲間入りさ…
 気をつけな…君も借り物の言葉ばかり使ってると、ウザキング君みたいになっちまうぜぇ……♪』

もはやネズミの形すらなく、空を漂うだけの灰であった。

『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』

最後の言葉を吐いて、ネズミは空気中に散り、見えなくなった。

381ザ・ファンタジア ◆tGLUbl280s:2011/05/22(日) 21:11:56

ザ・ファンタジアが扉を塞いでいた間にも、"場"の崩壊は着々と進行していた。
粒子化し始めた床が、ぬかるみのように足を取り、今や歩行すら困難な状態だ。
スプリンクラーの放水が気休めにしかならない程、書棚の火災も広がっている。

佐藤ひとみは、ゲームの残り時間をセットしていた携帯電話に目を落とし、金切り声を上げた。
残り30秒のカウントダウンが始まっている。


「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!
 各自スタンドで何とかできるでしょ?下は芝生!上手く落ちれば骨折程度!死にゃしないわ!!」

南側に面した窓を大きく開け、ひとみは身を乗り出す。
体が外気に触れても、もう肌の表面が粒子に変化することはない。
根性で出現させたフルムーンの触手に両手を絡め、窓の外に飛び出した。


崩壊していく"場"にザ・ファンタジアの混濁した意識が流れ込む。
"場"から逃れようと足掻く面々は、ザ・ファンタジアの記憶の断片を見るだろう。

………黒衣の女が掲げる水晶の指輪から光が放たれ、ヴィジョンが浮かび上がる。
――――北条市の上空に10個の大きな実をつけた"逆さまの樹"が現れ、実を繋ぐ22本の直線が輝きを放つ。
――――地は巨大な爪に掻き回され街は廃墟と化し…――――そして生まれる強大なパワー!
――――禍々しく名状しがたき力なれど、異能の持ち主であれば気づくだろう。
――――その圧倒的な力が、自らの中にあるものと同種のものだということに……

意識が消滅する直前、ザ・ファンタジアは『あのウザい青年は僕のことを忘れられないだろうな』と思った。
……忘れてほしくない…と願った。
あれだけムカッ腹の立つことを言ってやったのだ。忘れようとしても、忘れられるものではないだろう……
最後の挑発の理由であった。誰かの記憶の中にあるうちは、完全な"消滅"は訪れないのだから。


      *        *         *

辛くも市民会館から、全員が脱出を果たした直後、四階の窓が一斉に割れ、爆炎が噴き出した。
ライブラリから出火した火の手が、物置に保管されていた灯油に引火したのだ。
かつて市民会館と呼ばれた建物は、空を焦がす猛火と黒煙に包まれて燃え盛っていた。


【ザ・ファンタジア、灰になって消滅】
【各自、飛び降りるなりスタンドを使うなりして、四階の窓から脱出してください】
【黒衣の女(影貫)が見せたヴィジョンは『このパワーはイメージです』みたいな感じので
 現実に起こったこと(起こること)とは限りません】

382よね ◆Cj3ysYNKG2:2011/05/23(月) 00:57:34
よねは満身創痍で、ライブラリの壁に座りながらもたれかかっていた。
意識は朦朧としている。辛うじて、声にもならないほどの小さな声を出せるくらいであった。

/『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』

「やりましたね…勝ちましたよ…我々は……理不尽な状況から、激しい逆境から……ヤツのゲームに…勝ったんです…」

身体中の感覚が無い。よねは、床の、壁の感覚をも感じることすら出来なかった。
それでも、よねは何とか最後の力を振り絞り、立ち上がろうとする。
だが、ライブラリの床は既にぬかるんでおり、
よねは立ち上がれずに、再びその場に、ドタッと崩れる。

「勝ったのに…悔しいなぁ…………」

床に倒れたよねは、誰にも聞こえない様な声で小さく呟いた。

間接的に自分が放火したであろう、書棚の火。
その火の粉がよねの衣服や、愛用の帽子に降りかかる。

"地獄の業火は悪行の報いに罪人を焼くという。"
だが、果たして、よねに地獄の業火に焼かれるほどの大罪はあったのだろうか?


眠気に似た感覚に襲われていたよねの耳に、佐藤の声が聞こえてくる。

/「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!

(そうか……脱出する、というのが勝利の条件だったのか…ってことは、このゲーム、自分の負け…ですか…)

勝敗条件を勘違いしていた自分を、心の中で笑う。
よねの意識が遠のいてゆく。
人は死ぬ間際に走馬灯を見る、とよく聞く。だが、よねにはその様な類のものは見えなかった。
フッと、蝋燭が消えるように、よねの意識も消えた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

よねの意識が無くなってから、何時間、いや何日、いや何ヶ月経っただろうか?
意識を失っていたよねが再び目を開く。
厳密には目を開いたわけではない、視界が回復したのだ。

視界には、だいぶ前に見た気がする、市民会館のライブラリ。
忌まわしき、狂った"ゲーム"があったライブラリ。

床はまるで泥沼のようで、書棚や床にはところどころ火がついている。
だが、それら全てが、まるで凍ったかのように、静止していた。
無音であった。物が燃焼する音も、生理的な耳鳴りの音も、無かった。

(ここは……Sum For Oneの空間…?まさか、ずっとこの世界で意識を失っていたのか…?)

383よね ◆Cj3ysYNKG2:2011/05/23(月) 00:57:52
Sum For Oneは、よねの潜在意識の顕在である、通称"裏のよね"が表の人格を奪ってから使えなくなっていたSum41の能力である。
そこは、あらゆる物理運動は停止し、時間でさえも静止する世界。唯一、動くことが許されるのはよねの思考、即ち意識のみ。

(…勝手にSum For Oneが発動したのだろうか?)

そんな事は有り得るはずも無い。何故ならば、スタンドとは人間の精神の具現化であり、本体の精神無しには存在しえないからである。
だが、エイドリアン・リムのスタンド、ザ・ファンタジアが最期にやって見せたように、
スタンドだけがほんの少しの間だけ、自我を持ち、存在することが可能なのだとすれば…?

よねがそんな事を考えていると、

「自分でも思うだろう?裏の人格、潜在意識の顕在だなんてつくづくフザけた設定だって」

よね自身の声がする。否、これはよねの声ではない。"裏のよね"の声だ。

「でもね、私は確かに存在するよ。君の潜在意識の顕在として。そして君の"表の人格"を奪ったんだ。
 けれど、君は"表の人格"を私から取り戻そうとした。おかげでこの有様だよ」

何物も動くことを許されないハズの世界で、よねの視界によねが現れる。
だが、そのよねは体の大半が黒く変色していた。

「一つの身体に、二つの人格が"表の人格"として存在し続けれるワケないだろう?だから、私と君の人格もとい精神は"融合"し始めているんだ。
 だから、使えなくなっていたSum For Oneの能力も復活した。そしてそれを朦朧とした意識の中で私が発動させたのさ。この私の体の変色も"融合"のせいだよ」

べらべらと、目の前のよねは一人で喋っていた。だが、その話はどこか性急に感じられた。

「精神が融合するってことはさ、私の精神と君の精神がそれぞれ一つずつ持っていたスタンドも一つになっちゃうってことだよね。
 半分になったスタンドとスタンドが融合…私はきっと元に戻るだけなんだろうなって思っていたのさ。
 けど、違った。私が君から人格を奪っている時に、私の精神が持っていたスタンド、つまり私のSum41が成長してしまったんだよ。
 本当なら、半分と半分で一つのスタンドに戻るハズだった。けれど、片方が大きくなったから本来のスタンドよりも大きくなってしまうんだ。

 本来の許容量を超えたスタンドはどうなるか…これは十人十色かもしれないけれど私たちの場合は――」

その話の突然、何かが弾けた様な音と共に、Sum For Oneが解除された。

動き出した世界。物が燃焼する音も、生理的な耳鳴りの音も、確かに存在していた。

(本来の許容量を超えたスタンドは……消滅する…ッ!?)

最後まで言葉を聞かなくとも、"裏のよね"が言わんとすることは理解できた。
これも精神と精神が融合しはじめている証拠である。

(大丈夫…まだSum41は使えるみたいだ…出来る限り早く脱出する…ッ!)

今のよねはゲームに負け、死を確信していたよねではない。
よねの精神は十分に休息を取り、復活していた。

「足は使えないッ…!けれどスタンドならッ!これが最期の"書き換え"だァァァッ!
 Sum41ッ!この床は自分と反発しあう!それもとびきりヤバいくらいにッ!!」

最後にSum41がよねに見せた姿。
よねの精神以上のスタンドとなったSum41は、以前の少年のようなスタンドから、大人びた風貌に成長していた。

ドビッシュゥゥッ!!

凄まじい勢いでよねが南側の窓から飛び出す。
その時、頭の中にとてつもなく禍々しいヴィジョンが流れ込んできた。
だが、よねはそれどころではなく、上手く着地するために姿勢を作るのに必死だった。

着地!すると同時に勢いを殺さずにゴロゴロと芝生の上を転がる。
身体中が痛む。視界も霞んでいる。しかし、よねが感じた外の世界は、普段と特に何も変わらず、爽やかだった。

――米コウタ、スタンド消滅、再起不能

【よねも脱出しました】

384生天目有葵 ◆gX9qkq7FNo:2011/05/26(木) 20:29:31
無惨なものが生天目有葵の目に映りこむ。
それは書庫の天井を見上げ転がっているエイドリアン・リムの死体。

>「おわったわ…多分ね……」と佐藤ひとみ。

「…そう……やっぱり死んじゃったのか」
少女の胸に小さな痛みが走った。
見つめ返す佐藤の瞳には影がちらついていた。体の芯が震え胸がざわめいた。
彼女の心に繋がろうと、ひたすらに言葉を探す自分が、生天目には不思議だった。
でもそうしないと、胸がなんだか痛い。痛いまま。

>「あっちはあっちでカタがついたみたいね。
 ここから出ましょう。早いとここの建物から脱出しないとマズイことになりそうだわ。」

「え…。うん。そうしよ…」

 ※ ※ ※

炎上する市民会館。崩壊する『場』。
最後の悪あがきで扉の前に立ちはだかるザ・ファンタジアをステレオポニーがなじる。

>『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』

「ザカシイネズミダヨ〜!最後マデ人ヲ馬鹿二シテ!自分(エイドリアン)サエ「ゴミ」扱イカイ?
トットトサリヤガレ悪党!自分自身二、アノ世デ詫ビナッ!」

ザ・ファンタジアは霧散し道が開ける。ぐねぐねの床が怖いくらい気持ち悪い。
非力な生天目に、天野、御前等、よねを助ける余裕なんてなかった。

>「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!
 各自スタンドで何とかできるでしょ?下は芝生!上手く落ちれば骨折程度!死にゃしないわ!!」

「うそーっ!!ヒモなしバンジーなんて冗談じゃないぃいいっ!!」

意を決し飛び下りる。頭上で響く轟音。
流れる風景に混濁するヴィジョン。錯覚と言うにはあまりにもリアルなヴィジョンだ。
スタンドをクッションにして着地する。振り仰げば四階は炎に包まれている。

――眩しいくらいの夏の雲がゆるゆると蒼天を流れる。
光る風が渡る。さわさわと茂みが鳴りどこかで咲く花の香りが
生き残った者たちのあいだを流れさる。

風は佐藤ひとみの長い黒髪を大地から掬いあげ天へなびかせていた。

風の行方を目で追い雲間からこぼれた陽射しのまぶしさに生天目は目びさしをした。
見あげた北条市の空は悲しくなるほど青かった。

385天野晴季 ◆TpIugDHRLQ:2011/05/27(金) 19:02:28
>『そこの少年…チートってのは"負けない"存在のことを言うんだ…♪負けちまったら結局は弱者の仲間入りさ…
 気をつけな…君も借り物の言葉ばかり使ってると、ウザキング君みたいになっちまうぜぇ……♪』
「…そうでもしないとキャラが立たないんだよ…。君や御前等さんは良いよね、キャラが強くてさ。…取り合えず『非科学的だ』を口癖にしてみるか?
…でもスタンド使いって時点でそんなこと言える立場じゃないよね。伊達眼鏡でもかけてみるか? …眼鏡キャラはよねさんと被るな…
でも良く考えたら他作品ネタ多様も御前等さんと被るんだよな…
…『チートは“負けない”存在のことを言う』か…ま、確かにそうかもね。でもさ…
『負けることしかできない』ってのも、それはそれでチートなんじゃないかな…? …なんてね! ただの独り言だよ!
だから気にせずそのまま消えちゃって!」
ちょっとメタっぽいことを言う天野
>『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』
「消える間際に全国の弱者を敵に回したね、君。全国の弱者様申し訳ございません。お気を悪くしたのであれば、
えーと…すみません。何も思いつきませんでした」
全国の弱者様ってなんだよ。
「…さて、これでザ・ファンタジアは消えて僕達の勝ち。ハッピーエンドですねっ!
じゃ、早くここから脱出しないと火達磨になっちゃうな…」
そう言って窓を開ける天野
「…うん。いい風だ。この風なら…フリーシーズン。気流操作! タイプ:エアクッション!」
無風状態で気流操作をするには、風を生み出してそれを操る必要があるのだが、既に風が吹いているのなら、
その向きを変えるだけで良い。足りない分の風力は生み出して補えば良い。
「よし、脱出!」
窓から飛び降り、風で自分の身体を支えてゆっくり地面に降りる天野
「ふわり。さて、皆は大丈夫かな…」
脱出に成功して、特に怪我もないので周りの様子を窺う天野
【脱出成功】

386御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2011/06/08(水) 05:06:04
崩れゆくライブラリ、ひいては市民会館の中で、ザ・ファンタジアは末期の叫びを上げた。
終わっていく。ザ・ファンタジアというコンテンツが、終了していく。それは大団円などでは決して無い――強制終了。

>『……ちくしょう…体を保てねえ…〜…♪ダメージを受けすぎたのか…それともアイツが死んだせいか…?
  ……僕は所詮アイツの"創作幻想"でしかいられなかったのかァ…?…』

ザ・ファンタジアの、白濁して機能を失った眼球が、ぐるりと御前等を見た。
死神に首を触れられた死者が、生者を引きずり込もうと必死になる、そんな眼をしていた。

>『…ウザキング君……君にはヤラレたよ……ヒヒッ…
  僕と君は似た者同士だ…♪お互い創作物から借りたものでなきゃ自分を表現できないんだから…
  ……僕は姿を、君は創作物から派生した言葉をね…僕には君の心がよ〜く分かる…♪
  君は他人から嫌われるより、無視されることの方が余程怖いんだろ…?
  だから、ウザがられ、嫌われても声高に自己主張をし続ける…クヒヒッ…違うかい?』

「フハハ、知ったような口を聞くじゃないかアメリカねずみよ!オワコンの貴様と一緒にされちゃ――」

>『君はメガネ君のことを"頼れる仲間"なんて言ったけど、そうじゃないだろぉ〜♪
 タマタマ目的が同じだから協力しただけだろ?言わば僕が作ってやった臨時のお友達さ♪

御前等の、いつもの白々しい発言が。初めて他者の言葉で潰された。
類まれなる自己主張の強さを誇る御前等にとって、それは初めてに近い経験だった。
図星だったのである。

> ヒヒッ……"忘れるべき現実"だって?……忘れたって現実は無視しきれるもんじゃない…
 いつか必ず、忘れた筈の現実に足を掬われる時がくるぜ……ヒヒヒ…
 君みたいなカラッポな人間が、望み通り、注目を浴びて、人の中心にいたいなら…
 "力"を手にするしかないだろうね…

「フン……いいだろう。ここから先は俺も腹を割ろう」

御前等は、いつも顔面を装飾していた、狂気じみた笑みを消した。
今の彼はまったくの無表情で――それこそが、御前等祐介の本音の顔。偽らざる真実の意志。

「本当は、ずっと前から分かっていた……『俺には何も無い』。縋れる過去も!誇れる栄光も!忌むべき歴史すらない!
 ここに至る18年余の人生で!自分以外の誰からもモブキャラ以上の認識をされなかった!だから、だから俺は――」

ウザキャラを被ることにした。
場違いなテンションで騒ぎ立てていれば、誰からも忘れられずに済むから。御前等は、絶やすことなく誰かに構って欲しかった。

「空気を読んで!おとなしくしていて!得られたものなんてなかった!敵意だって関心なんだ!だから俺は戦えた!
 お前もそうなんだろザ・ファンタジア!どうしようもなくしょうもない、最後の自己表現として、俺たちは正しく間違えたんだ!」

きっと、彼はザ・ファンタジアのことを憎めずにいたのだ。同じ志を持つ、共感できる相手として。
敵味方の枠組みを超えて、自分に関心を向けてくれる最良の相手として。いつの間にか、友情めいたものを感じていた。

「根っこの部分以上に、同じなんだよ俺達は!似たもの同士が戦って、より自己主張の強い方が勝ち、負けたほうが死んだ。
 だからこの物語は、これでおしまいなんだ、ザ・ファンタジア。俺とお前の戦いは、『終わってしまった』……!」

>「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!
 各自スタンドで何とかできるでしょ?下は芝生!上手く落ちれば骨折程度!死にゃしないわ!!」

建物の維持が限界に達していた。
床が傾き、壁が崩れ、御前等は外に放り出される。消えていくザ・ファンタジアを、最後まで視界に捉えながら。

「俺はお前を忘れない。お前が俺を忘れないようにな。お前という存在にケリをつけたのは俺だ。
 最後の最後――お前という『世界』の『中心』は、間違いなく俺だったッ!俺が渇望したものは、お前の中にあったんだッ――!」

重力加速度が御前等から血圧を奪い、脳から血の気が引いて意識が遠のいていく。
体中がズタボロで、全身が疲労していて、なにより今日はスタンドを使い過ぎた。精神が瞼を落とすのに、逆らえるはずもなかった。
意識を手放す直前、御前等は唇を震わせて、確かに呟いた。

「――これが、たった一つの俺の勝ち方だ」


【脱出&気絶】

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