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創発シェアワスレクロス企画(仮)

1名無しさん@避難中:2011/11/03(木) 18:38:39 ID:wt6dJcvM0
誤爆で軽く話をしてたシェアワのクロス企画、ちょっと真剣にやってみたいな
と思ったんで思い切ってスレ立ててみました。

と言っても今のところなにかはっきりとしたビジョンがあるわけじゃありません!
ぜひ各スレ作者様方にも参加してもらって、一から練り上げていきたいと考えてるところです!
あ、もちろん「どのシェアでも作品は書いてないけどお祭りっぽい企画は好き」
っていう書き手さんもウェルカムですので!

とこんなノリでシェアワのお祭りがしたいなーと思ったんです。
ぜひみなさん、一緒にこの祭りを創ってくれませんか!?

355名無しさん@避難中:2012/09/27(木) 01:53:37 ID:sbZ0EODkO
仁科の方?

356名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 16:46:17 ID:5XICy2k.0
ここまでwikiにまとめてきた
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/1235.html

357名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 17:05:41 ID:oDMRZ7ek0
乙である。

358名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 19:57:45 ID:YgjC1UFs0
GJ!

359名無しさん@避難中:2012/10/09(火) 00:53:55 ID:2ewo4LfgO
ついにWikiがっ!
参戦作品一覧がありがたい。余裕があったらキャラのレベルで弄ろうかな。
おつかれさまでございます。

一方、やっぱぶつぎり投下はダメだったなぁと思ったり。

360盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:09:20 ID:8H1Wet6U0
投下します。
ダメだったなぁといいながら結局ぶつぎり。まるで成長していない・・・!

361盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:10:48 ID:8H1Wet6U0




 ※


 先崎俊輔が九死に一生を得ていたころ――
 その“後輩”であるところの少女、後鬼閑花(ごき しずか)は商店街の書店でファッション雑誌を立ち読み
していた。

(浴衣と和ゴス……先輩はどっちが好みなのでしょうか)

 柚鈴天神社の夏祭りは、愛しの先輩と回ることに決まっていた(彼女の中では)。
 今の二年生の卒業までは、あとざっと二〇ヶ月。ただでさえ大学受験も控えているのに、そろそろたらしこま
なければラブラブイチャイチャする時間が減ってしまう。だだ減りである。
 学園で顔を合わせる機会がなくなってしまう夏休みだが、後鬼閑花にとってはむしろチャンスといえた。実家
に押し掛けてご家族の覚えをめでたくすればいいじゃない?

(上品で清楚なのも捨て難いですが、やっぱりひらひらのフリルやレースは男の子の憧れです。ピュアさの中に
香るほのかなエロさ。さすがの先輩といえど、辛抱堪らずむしゃぶりついてメチャクチャにピ――(自主規制)
さずにはいられないはず)

 いまいち反応が鈍いようなら途中で中座してお色直しすればいい。今時、変身ヒーローだって敵の特性に合わ
せていくつもの姿を使い分けるのだ。その分野で女の子が遅れを取るはずがない。

(……待てよ? 意表を突いて巫女さん風というのもありでは? ちょうど神社の縁日なのだし)

 罰当たり気味な選択肢を追加しておく。巷の噂によれば、コスプレ業界には膝丈の袴や腋チラの着物もあると
かないとか。
 思い浮かべるのは、柚鈴天神社の娘である神柚鈴絵の、白衣に緋袴を纏った姿。先崎とそれなりに親しげに話
していたというだけのことで、後鬼閑花は彼女に対して勝手に敵意に近い対抗心を抱いている。

(先輩がどんな特殊な性癖をお持ちでも、この閑花ちゃんはばっちり対応しますよ。神聖な巫女さんをぐちょげ
ちょに汚したいなら巫女さん後輩に、正義のヒロインと秘密のお付き合いがしたいならキュア後輩に、街を恐怖
のずんどこに陥れたいのなら重機動メカ後輩に、けなげにフォルムチェンジ)

 いつか言ったようなことだったが、今回は心の中に留めおく。

(……どうです? ここまでしてくれるカノジョなかなかいないですよ)

 後鬼閑花が得意気に鼻から熱っぽい息を抜いたその時だった。

(――あれ?)

 世界が、ぐらりと。
 視覚の画素と、聴覚の音素が粒子状になって撹拌されていた。
 革靴越しの足裏の感触が不安定になり、また時間の刻みも分からなくなり、確固たるものと思われた自分の立
ち位置を見失う。

(これは噂に聞く……つ、つわり……? 先輩ー!! だから●●してってあれほどお願いしたのにー!!)

 バカな発想は、わりと心の余裕があったというよりは、ある種の現実逃避なのかもしれなかった。
 ……先崎俊輔の名誉のために一応念を押しておくが、これは彼女なりのジョーク(下品)であり、話題のふた
りがそういう行為に及んだ事実はまったくない。どういう行為かというと、知らないきみは知らないままのきみ
でいて欲しい、そういう行為である。

362盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:12:06 ID:8H1Wet6U0
 目と耳の中で点と点が結びついていき、後鬼閑花が世界との関わり合うための術を取り戻すと、周囲の風景が
がらりと変わっていた。

「――え?」

 そこは先ほどまでいたはずの商店街ではなく、見知らぬ荒漠たる“河原”であった。
 風雨と流水に削られ磨かれてきたと思しき大小の岩石とまるで粒の揃わぬ砂利のために、歩くにもそう容易く
は平衡を保てまい。
 浅瀬の石を流水が濯ぐ音。目の前に横たわる川は、たっぷりと水を湛えていた。霧のために対岸は見晴るかせ
ないが、幅の太いことは直感的に分かった。後から後から押しよせるその流れは、悠久の歳月を感じさせる。薄
っすらとした潮の匂い。きっと海もそう遠くはないのだろう。
 思わず仰いだ空はどこか不思議な色で、少女をひどく落ち着かない気分にさせた。
 これは“よくない状況”だと本能は訴えている。

(しかし、こういうときこそ冷静になるべきです閑花ちゃん。先輩だってきっとそう言うハズ!)

 気味の悪い動悸を抑えるように深呼吸を一回、二回。肺腑の中を換気すると、閉塞感が多少は和らいだ。

(さらに素数とか数えちゃいます。頭いいです。〇、一、一、二、三、五、八、一三、二一、三四、五五、八九、
一四四、二三三……)

 しばし待ってみるが、先輩からの打てば響くようなツッコミはなかった。

「……フッ。素数がどういうものだったか忘れてしまうとは、この閑花ちゃんともあろうものが、どうやらそう
とう混乱しているっぽいですね」

 ちなみに、彼女が素数の代わりに唱えたものを、フィボナッチ数列という。
 現実から目を逸らすのも大概にして、後鬼閑花は改めて周囲を見渡してみることにした。
 差し当たって探すのは人工物である。人間不信気味の後鬼閑花といえど、さすがに川と石ばかりの空間という
のはいかにも心細い。
 それらしいものは何もない。

363盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:13:41 ID:8H1Wet6U0
 だが、視野を補うためにその場でくるりと一回転してみたところ、革靴の先が何かを蹴飛ばした。

「あら?」

 石ではない、木だ。爪先の感触は、その物体が空洞であるらしいことを伝えていた。わずかな金属音もしたよ
うな気がする。
 拾い上げてみれば、それは木製の小さな箱だった。“ハンドル”のついた用途不明の木箱。手回しの鉛筆削り
かとも思われたが、それらしい穴なども見られない。そもそも何でこんなものがここに?
 何となく気になって、ついハンドルを回してしまう。

「――――エレキ、キテルノ……!」

 無意識にそんな言葉を口走っていた。

「……ハッ!? わ、私はいったい何を……!? も、もしやこれは、快感の電気をびりびりして、女の子をア
●顔レ●プ目の愛玩人形へと変えてしまう魔法の箱!?」

 ひとしきり騒いだ後、後鬼閑花はまじまじと得体の知れない拾得物を鑑定した。

「これ、もしかしたら、“エレキテル”、というやつでしょうか?」

 後鬼閑花たちの世界においても江戸時代の日本にオランダから伝来し、平賀源内という男が再現した摩擦起電
機がある。
 もっとも、今彼女が手にしているものは、坂上匠たちの世界で、ある天才がささやかな悪ふざけのためにこさ
えた品だった。
 製作者の意図はともかくとして、このエレキテルにもやはり超常的でいかがわしい機能など全くない。ないの
だが、後鬼閑花の反応を見るに、あるいは変態たちの間で何やら官能的な感応があったのかもしれない。

「……もし私が先輩の目の前でこれをクルクルして、エレキキてしまったら?」

 新しい夜の玩具を手に入れた後鬼閑花の妄想は、留まるところを知らなかった。
 にへら。嫁入り前の娘の口元が、だらしなく緩んでいく。にへら。

「電気の力ですっかり無防備になってしまった閑花ちゃんを見たら、先輩といえど果たして理性を保てるもので
しょうか……?」

 これこそ最も単純で美しい電気回路!

(そうと決まれば一刻も早く先輩に会って誘惑してみなければ……!! 先輩待っててくださいよー。あなたの
閑花ちゃんが参ります!)

 先ほどまでの不安は何だったのか。ロクでもない算段を立てながら、後鬼閑花はエレキテルを宝物のように抱
き締めてうきうきと歩き出した。特に意図もなく、目指すは上流。どうせ地球は丸いんだ。恋する乙女がゆくの
なら、どれも愛する人へと通じるに決まっていた。
 浮かれきっていた少女には知る由もない。
 この河原こそ、混ざり合ってしまったいくつもの世界のうちのひとつ、〈地獄世界〉は“三途の川”であると
いうことなど。

364盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:14:27 ID:8H1Wet6U0




 ※


 ひと呼吸ばかりのわずかな沈黙に、肩に立て掛けた金属棒の重さを強く感じる。

「世界が混じり合った……?」

 制服の少年は、俺の話を聴いて困惑げに眉をひそめた。
 無理もない。すぐに理解するには突飛だし、やたらに話が大きい。そうそう実感など伴わないだろう。
 俺にしても“前例”があるから当然のようにこんな荒唐無稽な推測を打ち出せているわけで、なかなか初見で
「ハイそうですか」といくものではない。

「それは、どういうことですか?」

 一笑に付されるかとも思ったが、少年の反応は取りつく島もないというほどに否定的なものでもなかった。も
ちろん内心までは分からないが、こちらへの猜疑心や不信感をあからさまに表に出すようなことはしないだけ、
人間ができている。
 先崎俊輔と名乗ったか。ここは、人名まで俺たちの日本と変わらないらしい。学校の生徒らしいし、年齢は十
代半ばから上で確定だろう。いかにも真面目で誠実そうな印象だが、歳のわりに落ち着きすぎても見える。
 けれど、まあ、どこをどう切り取ったところでただの一般人であることには変わりない。事態についてざっと
注意喚起を促して、早めに解放してやるべきかもしれない。

「ああ。今、俺の世界と、きみたちの世界は、モザイク状になっているみたいだ」
「……申し訳ない。いきなり口を挟むようですが」

 概観から説明しようとしたところ、先崎が割って入った。

「まず、あなたは本当に、自分にとって異世界人なのですか?」

 そこからか、と思う一方で、そりゃそうだよなぁ、とも思う。
 恐らく、先崎にとっては、“未知との遭遇”といえるような事件は今回が初めてなのではないか。
 世界が混ざり合ったという現象に納得する以前に、世界はひとつではないことを理解しておかなくては話に付
いていけないのも無理はない。
 これは異世界間交流なのだ。互いに常識が常識ではないかもしれない。
 なまじパッと見は同じ日本人である分に、これは意識しておかなければ容易に混乱を招きそうだった。

「うん。異世界人ということになるみたいだな」

 俺は殊更きっぱりとした口調で言い切った。
 その点に関してはよほど確信があったが、「みたいだ」といったのは先崎の常識に対してワンクッションを置
いてやるためだった。

「……そうだな。それじゃあ、俺の世界のことを語ろう」

 ――それは、神秘の元素に満ちた日本の話だ。
 ――それは、異形の怪物が蔓延る天地の噺だ。
 ――それは、鋼の武器と魔法の全盛期の譚だ。
 キーワードは、《魔素》と、異形と、魔法。
 俺たちの世界と、先崎たちの世界。果たしてどこまで共通点と相違点があるか、これで炙り出す。




 ※

365盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:18:45 ID:8H1Wet6U0
申し訳ないんだけど今回はここまで。
タイトルは「Beyond the school gate/盤面の揺らぎ」で書いていたけど、字数制限に引っかかった。
まあ「先輩とチェンジリング・デイ」と扱いは一緒で、/以前はいらない感じで

366名無しさん@避難中:2012/11/02(金) 00:30:01 ID:yuNmvnZAO
乙です
後輩ちゃんのいる場所がナチュラルに危険な気が
彼岸からでも戻ってきそうな気もしますがw

主人公組(?)は休憩なようで
かれんちゃんという男二人の空間に添える華もとい、爆弾があるところがいろいろと気にかかります

367名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 17:58:50 ID:I6wTeo/20
一応まとめてみたけれど
今回、サブタイトルはどうしたもんかね?
要望があれば言ってくれるとありがたい

368名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 18:38:01 ID:MACcUi3wO
>>367
ありがとう!
今の感じでいいです。

369名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 19:09:26 ID:I6wTeo/20
サブタイトルについては気にしなくてもいい感じですか?

370名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 20:04:33 ID:MACcUi3wO
はい。
ビヨン(ド)ザスクールゲートシリーズで一括したほうがいいかなと。
今後も区切りに合わせて「先輩と〜」とか「盤面の〜」みたいにサブタイを付けていくつもりですが、気にしない方向で。
お世話になります。

371名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 23:24:23 ID:I6wTeo/20
あいさー

372名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:52:35 ID:bmjyCe8Q0
ちょいと投下いたします

373名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:53:30 ID:bmjyCe8Q0

 神社の近くにある自宅へとキッコと名乗る化け狐らしき女性を案内した鈴絵は、
乞われるままに学園に持って行った鞄の中から社会系の教科書を取り出して、先に風呂に入ってもらったキッコに見せた。
 キッコが興味深そうに教科書に目を通している間に風呂に入った鈴絵は、日本史の教科書を開いているキッコの顔を見つつ、
彼女と一緒に確認した自宅の様子を思い出す。
 簡潔に言えば、神柚家は精巧に作られた映画用のセットのようになっていた。
 どこを探しても家の中に家族の姿はなく、資源回収の日までは取っておかれているはずの古新聞の類もなかった。
台所も調理器具は必要最低限のものだけが配置されており、結婚式の引き出物として両親がもらってきていた食器や、
台所の隅にあったはずの火除けのお札もスペースだけ空けてなくなっていた。
 今キッコが読んでいる教科書類についても、今日学園に持っていった鞄の中のものだけ残っており、
他の教科書はいつも置いてある自分の部屋の中には存在していなかった。
 その話を鈴絵から聞いたキッコは一つ頷いて、今いるこの世界は鈴絵が元いた世界とは違うところであるらしいとのたまった。
鈴絵としては、いきなりそんなこと言われても、というところではあるが、確かにこの不気味な状況はどこか変な世界にでも迷いこんでしまったのではないかと思わざるを得ない。
 キッコは身一つで飛ばされてきたが、鈴絵は土地の複製と一緒に飛ばされてきたのだろうとのことで、
この家は神柚家であって神柚ではないらしい。
 リビングにあったテレビや、別の部屋にあったラジオ動かしてみたが、これらは動きはするが、
どこのチャンネルも映像や音声を受信する気配はなく、ダメ元で使ってみようと思った携帯に関しては間が悪いことに、
学園に忘れてきたのか、どこを探しても見つからなかった。
 現在、リビングの電気は頼もしくついてくれてはいるが、それもいつまで保つものかわからない。配電設備があっても、
それらを動かせる人間がこの世界に喚ばれているのかはわからないのだ。キッコの方も、何やら通信に使うことができるという符、
という魔法の力をもったお札がないということで、仮に知り合いがこの世界に飛ばされていたとしても連絡を取ることは今のところできないようだった。

374名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:54:26 ID:bmjyCe8Q0
 ……魔法……。
 そう、魔法だ。
 キッコの元いた世界では、≪魔素≫という、鈴絵たちの世界では存在しない
――と思われる元素を用いて魔法と呼ばれる不思議な事象を操る技術があるらしい。
 この世界は空気中にある≪魔素≫の密度が薄いようだと告げたキッコの言葉は、
にわかには信じられないものであったが、
大狐が人の姿になったりまた狐の姿になったりを説明の間に何度も楽しそうに見せられては、いい加減否定する気力も尽きてくる。
 ……そんなものが本当にあるんだ。
 大狐が人になったりするよりももっと大規模な不思議に巻き込まれてはいるが、
そちらにはいまだに実感が湧かない鈴絵は、
ひとまず驚きの焦点を目の前の女性に合わせて不思議な現象それ自体を実際に存在するものとして受け入れている。
 鈴絵の視線に気付いたのかキッコはページをめくる間にわずかに顔を上げ、おお、と言って笑む。
「風呂に入り終わったか。ちと待っておれ。あと少しで全部読み終わるのでな」
 そういって次のページへと目を走らせるキッコの衣服は神社の中に何着かあった、年末などの忙しい時に雇うアルバイト用の巫女服だ。
 金髪金瞳に白と紅の巫女服は、妙に似合っている。ただ、窮屈そうな胸元が気になるといえば気になるが――
 鈴絵はこほん、と咳払いして、邪魔かな、と思いつつ声をかけた。
「すみません。いろんなサイズを揃えられる服はそれしかなかったので」
「かまわんよ。獣としての我は畢竟、衣服はなくとも別によいと思っておるしの」
「それはやめてください」
 そう苦笑する鈴絵の服も先ほどまでとは違う巫女服だ。
客にだけコスプレのような恰好をさせるのは悪いと思ってのチョイスだったが、キッコ相手ではいらない気遣いだったかもしれない。
 キッコはまたページをめくる動きの途中で鈴絵に目をやり、
「やはり、似合っておるな」
「ありがとうございます。でも、キッコさんも似合ってますよ」
「そうかの」
 キッコは口元に笑みを浮かべ、
「このようなッ服は我の妹の方が似合うと思うのだがの」
「妹さんがいらっしゃるんですか?」
「うむ、我の血と肉を分けた妹よ」
「そうなんです……あれ?」
「どうかしたかの?」
「いえ……」
 血を分けたという言い回しなら娘ではないだろうか、とか、肉……? とか思う鈴絵の前で、キッコは文字を目で追いながら呟く。
「あれは人型が本性で獣にはなれないのだがの。ちょうど鈴絵、お前よりもう少し下くらいの年齢ではないかの」
 は、はあ、と零す鈴絵を置いてキッコはブツブツと続ける。
「もう少し鈴絵のように出るところは出て引っ込むところは引っ込めばあの朴念仁にも――まあいい」
 あまりよくなさそうに言って、本に集中しだしたトヨを眺め、
妹さんも巫女服は様になるんだろうなとかバイトに来てくれないかなとか思っていると、キッコが音を立てて本を閉じた。
 どうやら全部読み終わったようだった。

375名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:55:26 ID:bmjyCe8Q0


****

 鈴絵が学園で使っているという歴史の教科書を横に積み、キッコは鈴絵に向き直った。
 居住まいを正す鈴絵を前に、キッコはとりあえず教科書を読んだ感想を述べる。
「どうも我らの世界はそこまで大きな違いを持っているわけではない気がするの。
歴史の大まかな筋は似ておる」
「大まかな筋ですか?」
「うむ、我も人の歴史にはあまり詳しいわけではないがな。
 ≪魔素や≫魔法の有無、それに、いわゆる伝承上の存在がいくらか実在している、
というのがこの教科書で見た歴史と我の居た世界の歴史の違いかの。
あと、我らの世界はもう少し年代が先に進んでいるようだの」
「キッコさんは未来の人、ということですか?」
「単純に我らがお前たちの世界の未来から来たというかというと、またそれは違うような気もするの」
 キッコは言葉を探して視線をさ迷わせ、
「あれだの、ぱられるわーるど? そのようなものなのかもしれん」
「並行世界ですか?」
「うむ、機械系の技術にしても、自分でものを考える機会人形を作れるほどのものはないのだろう?」
「どの程度かのレベルによると思いますけど、まあ、キッコさんがおっしゃるようなものはまだまだではないかと。
――一部仁科学園の中にはそれができそうな人もいますけど、一般的ではないですし」
「うむ、だからお前たちの世界の未来は殺伐としているとは考えんでもよいだろうの」
「異形、というものが現れて日本は大変なことになっているんでしたっけ?」
「今はある程度安定は取り戻してはおるがの。人同士で主義主張をぶつけ合って騒ぐくらいには余裕があるようだて」
 キッコはそう言って、さて、と問いかける。
「我もその異形というやつでの。故あって人を殺したこともある。
偽物とはいえ、我のような者を家に置いておいていいのかの?」
 問いかけに、鈴絵はうーん、と考えるそぶりを見せ、
「話に聞く異形は本当に怪物みたいで怖いですけど、
キッコさんはそんなに怖くはないですから、いいんじゃないでしょうか?」
「ほうかほうか」
 頷きながら、キッコは当面はこの娘といても大丈夫か、と考える。
 ……が、実際に戦えばどうなるのかはわからんの。
 キッコたちの世界のことを知らないのならば尚のこと、
鈴絵が今下してくれた好意的な判断はこの後も変わらないという保証はない。
 ……何かの拍子に拒絶されるような事態に陥る前に、得られるだけの情報は仕入れておきたいの。
 もしかしたら、鈴絵が知らないだけでこの世界から脱出するヒントを彼女が知っているかもしれないし、
彼女の居た世界の町の複製であるらしいこの町に、彼女の知らない何かがあるなら、
そういうところを調べていけば何かこの世界のことが分かるかもしれない。
 ……例えば、この異変の原因や、あるいは首謀者のことも、な。

376名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:56:28 ID:bmjyCe8Q0
 別の世界が交わる。これほどの異変が発生しておきながら、
神社の上から見下ろした限りでは、どうもあの異変によって発生した余波はほとんどないように思われた。
 自然に発生した天災と考えるには洗練されているというか、そつがなさ過ぎる。
何らかの調整が働いているような、管理の跡が見られるような気がしてならない。
もしこの異変が何者かの管理の元で人為的に行われたものであるとしたら、この状態から元の世界に戻ろうとする場合、
力ずくでその何者かと争わなければならない時がくるかもしれない。
 ……そうでなくても、戦うことになる可能性はそれなりにあるの。
 元々キッコは自分がいた世界でも異形として人に狙われることがある立場だ。
 一応、あの世界の偉い人間との繋がりを証明するものも持ってはいるから、いきなり問答無用で戦うことはないだろうが、
自分以外にもこの世界にキッコが居た元の世界の者が来ていれば争うことになるかもしれないし、
鈴絵の世界の者とも争わないとは限らない。更に考えれば――
「この異変に巻き込まれた世界が二つだけとは限らないのがまた悩ましいの」
「え、まだ他にも世界が混ざっているかもしれないんですか?」
「まあ、可能性は大いにあるの」
 キッコは念を押すように鈴絵の目を見る。
「気をつけよ」

377名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:57:39 ID:bmjyCe8Q0


****

 鈴絵はキッコの言葉に深く頷いた。
 ……やっぱり、こういうことに慣れているのかな。
 難しい顔で何やら考えこんでいる様子のキッコを見て思い、鈴絵は今、
周囲にこの世界の事情を知る人がいない以上、最も頼れるのは何もわからない自分よりもこの狐さんだろうと思う。
「あの、キッコさんはこの世界から脱出する方法を探しているんですよね?」
「うん? ああ、そうだの」
「それなら、私もついて行っていいですか?」
 キッコは天井を見上げて何か考え、
「ああ、かまわぬ」
「ありがとうございます」
 これで、なんとか元の世界に戻るために前進できたはずだ。
「ではまずはどうしますか?」
「そうだの……」
 キッコは目を細め、
「まずは、このあたりの地図を作ってくれんかの? 土地勘がないまま動き回るのもあまり賢くはなかろう」
「あ、はい」
 地図はないため、簡単な図をノートに書いてこの町の土地の様子を神社を中心にして説明する。
 それらを見たキッコはやはり、と前置きして、
「調べるなら、一番大きな建物である、この仁科学園だの」
 鈴絵にとっては慣れた場所だ。学園の中でおかしなところを見つければ、
何か手がかりもつかめるかもしれない。それに、
「ラジオもテレビも通じないので怪しいですけど、学園の中の私の携帯が見つかれば、
それを使って誰かと連絡がとれるかもしれません」
 そもそも学内に携帯が飛ばされてきているのかはわからないが、見つからなかったとしても学園行きは無駄にはならないはずだ。
「もし携帯が見つからなくても、学園のスピーカーが動けばけっこう広い範囲に声をかけることができるはずですから、
それで町中に呼びかけもできます」
 鈴絵の言葉にキッコは渋い顔をした。
「私、変なこと言いましたか?」
「いや、不特定多数の者に呼びかけるというのは現状では、な。
 しばらく様子を見ておきたいのだ……」
 慎重に言うキッコに鈴絵は反論する。
「でも、キッコさんと出会えた私はいいですけお、何も知らずにこの異変に巻き込まれた人もいるはずです。
一人でこんなことに巻き込まれるのは怖いと思うんです。自分の身を守る術を持たない女の子は、ええ、特に」
 詰め寄って身を乗り出すようにして言い切ると、キッコはむ、と言って目を逸らした。
やがて、息を吐いて乱暴に髪をかき回し、
「わかった。やるだけはやろう――それと、これを持っていくといい」
 そういって髪の中から引き抜いた一枚の紙切れを鈴絵に渡した。

378名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:58:49 ID:bmjyCe8Q0
「なんですか? これ」
 よく見てみると、その紙切れにはお札か何かのように、いまいち読めない文字が書いてある。
その紙を指さしてキッコは「お守りだ」と言った。
「お守りですか?」
「我の世界で人間が作ったものでな、≪魔素≫がなくとも身を守るくらいの効果はあろう。
それに、我のいた世界で平賀か安部の名を知っている者がその符を見れば、まあ悪いようにはせんはずだの」
 一呼吸おいて、
「この先、危険があるやもしれんからの、まあ持っておけ」
「はい……」
 どう見てもただの紙のお札にしか見えないそれを懐に収める。キッコはよし、と言って立ち上がり、
「では行くかの」
 そのままの格好で外に出て行こうとするキッコに鈴絵は制止の声を投げた。
「ちょっと待ってください。着替えないんですか?」
 外に行くというのなら、今着ている巫女服より最初に着ていたラフな服装の方がいいだろう。
 キッコは自分の姿を見下ろし、
「我は服は変化の応用で後々どうにでもなるしのう。
それにこの格好ならば何か問題が起きて、我の正体を隠したい時に耳と尾を出すことになってもこすぷれ、と言って流せそうだしの」
 しかし、とキッコは鈴絵の前で身を屈めた。
「……なんですか?」
 突然かち合った視線に戸惑った声を上げる。キッコは神妙な顔で頷き。
「我の知り合いはこの手の服は履物の下着をつけないのだと言っておったのだが」
 おもむろに緋袴をめくり上げ、
「やはり履いておくものなのだな」
「な、な、な……?」
 茫然としていると、キッコは袴をもとに戻し、
「よい趣味だの。では、鈴絵もこの服のままで、早く行くとするか」
「お断りします」
 妙に晴れやかな笑顔と声で鈴絵は言う。それに対してキッコは両手を上げ、
「まあ待て、これにも意味があるのだ」
「へえ……意味ってなんですか?」
「うむ、この先、もしかしたら異世界の者とまた会うこともあるかもしれん。
その時、我のことを自分の式だと言っておけば、少なくとも我の居た世界の者相手ならばおいそれと手を出そうとは思わぬだろう。
そのような時に言葉に背得力を持たせるのが、その衣装だの。そう、その恰好は身を守るための保険なのだ」
「式ってなんですか?」
「ん? 式神――傭兵として雇った用心棒がいる証みたいなものとでも認識してくれればいい」
「そうですか……」
 先程の言葉の途中から口先が吊り上っているキッコをみて、鈴絵は実に複雑な顔をする。
 言っていることに理があるような気がしないでもないが、全体的に怪しいことこの上ない。
 ……でも、一緒に行くって決めたんだから。
 半ば自分に言い聞かせるようにして腹をくくり、鈴絵は袴の裾を整えて立ち上がった。
「ところでキッコさん」
「なんだの?」
「説得力も何も、キッコさんがその場で狐になった上で宣言すれば、
私の方に説得力なんか足さなくても皆納得してくれると思うんですけど」
 キッコはなるほど、と呟き、
「そんな眉に唾を付けた言動などせんと、下着の柄に水玉を選択するような
――そんな素直な心で我の言葉を聞いてくれればよいのだ」
「あ、ちょっと! もし誰かに会ってもそんなこと言わないでくださいよ?!」
「さてさて」
 狐は楽しそうに喉を鳴らしながら家を出て、神社から見下ろす巨大な施設を見極めようとするかのように目を細めた。

379名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:59:18 ID:bmjyCe8Q0

彼女たちの戦いはまだ始まったばかりだ――!
名無しさんの次回作にご期待ください

結縁の続きです
キャラはキッコ@みんつく異形世界
神柚鈴絵@仁科
を引き続き使用です

380名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 03:15:30 ID:dYtKcOH.O
続ききた!

キッコ様マジ野生のちじょ。
鈴絵とのコンビはかなり行動力ありそうだな。一番話が進んでるw
歴史の教科書は説明に便利そう。
地理的な意味で仁科学園が熱くなるな……

世界的にはほぼ箱庭的なレプリカってことで共通認識にしていいのかな?
それから家族とかそういうキャラやメディアは絞ると。
もっと進んだらバトロワ系スレみたいに情報を整理する必要があるかもね。

それにしても、謎の書き手・名無しさん……いったい何者なんだ……!?

381名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 21:28:26 ID:JgHbcKKw0
>>379
次回作ってことは、もうこの話はこれで終わりって事?だとしたら生殺し感半端ない

382名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 22:06:23 ID:hqP5nhvI0
>>381
他の人の動きをうかがいつつ、それにのっかる形で続きをかけたらなぁとか思っています

383名無しさん@避難中:2012/11/13(火) 00:54:00 ID:fDcfzhl.0
>>382
そうですね、マイペースで無理のないような形で続きを書いていただければと思います。
楽しみですので

384名無しさん@避難中:2012/11/13(火) 23:56:29 ID:84SifxhYO
鈴絵さん、まだ水玉か!
いいな!!
見たいな〜(チラッ

385名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 02:01:27 ID:Vf281YlwO
お客様ー!
お客様の中に絵師さんはいらっしゃいませんかー!

386名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:12:04 ID:FShj7NNY0
>>385
http://mac.x0.com/test/

絵師ではないけど、キャラメイクファクトリーつって、自分のイメージの通りにキャラクターが創れる
サイト。ただし作ったキャラクターの保存はスクリーンショットじゃないとできないから注意が必要。

387名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:15:13 ID:Vf281YlwO
それ、み、水玉パンツもできる……?

388名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:17:20 ID:FShj7NNY0
>>387
それはさすがにできなかったと思う。立ち絵でしか作れないサイトだし。
創作発表板自体、ちょいと過疎気味だし、絵師さんが来ればいいのだけれどね。

389名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 18:29:05 ID:Vf281YlwO
チィィ!

390名無しさん@避難中:2012/11/14(水) 22:26:20 ID:twSDsvrY0
水玉パンツ……(´・ω・`)

391名無しさん@避難中:2012/11/21(水) 17:40:41 ID:cXBlc1.I0
水玉パンツですっかり忘れてたけど
>>380のいうような
世界的にはほぼ箱庭的なレプリカな世界でいいのかね?

392名無しさん@避難中:2012/11/21(水) 18:49:43 ID:QG3biT0UO
和泉の人たちやアイスファングさんが合流しやすくなるし
ちょうどいいのではないかと。

393名無しさん@避難中:2012/11/23(金) 15:55:31 ID:spfBgIy60
となると舞台自体は広いのか狭いのかいまいちわからないな

394名無しさん@避難中:2012/11/23(金) 16:20:49 ID:CAFALNBsO
そこは書き手側がフレキシブルにしちゃえばいいのではw
バトロワ系なら孤島とかそういう大枠があるとはいえ、全て描写する必要も別に。

本物バラバラ設定で書いてたのはナイショだ。俺はどっちでもいいけど。

395名無しさん@避難中:2012/12/27(木) 19:13:34 ID:EX/xl2VgO
むやみにageてみたり。
小ネタ的なものでもいいから何かないだろうか。

396名無しさん@避難中:2012/12/27(木) 19:13:52 ID:EX/xl2VgO
sageてたw

397名無しさん@避難中:2012/12/28(金) 00:03:32 ID:yA/Q3WRE0
水玉もいいけど縞々も純白も黒も無しもいいと思う

398名無しさん@避難中:2012/12/28(金) 00:30:40 ID:YdojEhZUO
なしは……困りますぬぇ……

399名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 00:23:57 ID:Fv63djvc0
パンツの話題が最後の書き込みとは
これまた業が深いスレだ

400名無しさん@避難中:2013/12/25(水) 16:40:18 ID:UOrXha2Q0
te

401名無しさん@避難中:2014/01/13(月) 09:27:51 ID:CgLKE8Kc0
ni

402名無しさん@避難中:2014/04/10(木) 01:37:51 ID:.aIyq2vY0
ksks

403名無しさん@避難中:2016/06/29(水) 18:18:45 ID:gFKi8M0E0
ksks

404名無しさん@避難中:2017/12/14(木) 15:06:18 ID:DOUcEOwwO



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