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"傷だらけの手記"
7
:
ライア
:2023/01/25(水) 11:16:48 ID:C35GMnMI0
[Birth of Riar](6)
辺りを見回すと、一軒の民家を見つけた。煙突からは煙も立っている。
藁にも縋る思いで少年を背負い、揺さぶらぬよう注意しながら民家の中へ運び込んだ。
住民や先客に詫びている暇はない。幸い無人で暖炉が焚かれていた民家へ運び込むと、すぐさま雪の染み込んだ衣服を脱がせていく。
「もう少し我慢しててくれよ...頼む.....。」
彼の素肌を見るに、目立った外傷は無い。小さく安堵しつつも、感覚を失った手先で家中からタオルや毛布を掻き集め、手当てを進めていく。
適度に温められた部屋は、熱とはほぼ無縁の旅を続けた自分に針山を押し付けられる様な痛みを感じさせていた。
そんな中では痛みを堪え"どうか助かる様"にと彼の生命力に祈り、治療を施す他自分に出来ることはなかった。
2時間と数十分後。
「....これで...あとは大丈夫かな....。」
少年を毛布に包み、暖炉で過度に熱されないような位置へと寝かせた所。
冷え切っていた身体も温まってきており、鼓動もはっきりと感じられるようになった。
異常に感じる熱で、既に頭がぼーっとしてきている。
自分に出来ることはした。そう言い聞かせながら、少しずつ呼吸の戻ってきた彼を見守り続けた。
ぁ と ぅ
微かに聞こえた声と共に、そっと彼の指先が手の甲に触れる。
思わず、逃げる様に手を引いてしまった。
じわりと何か温かいものが広がる感覚を受け、眩暈に近い何かを感じたからだ。
「....今のは....」
突然。軋む程の音を立てて、玄関が叩く様に開かれる。
「フェン!?」
雪を被り、息を荒げながら大人びた女性が此方に駆け寄ってくる。
呼吸も受け答えも曖昧だったフェンという少年は、女性が近付くと小さく瞼を開けた。
「...よかった....心配したのよ、もうっ....」
涙を流し縋る女性の姿を見て、この民家が彼女らのものだという事を察した。
自分が残る意味は既に無いと理解したのか、布袋を背負い後ろ歩きで二人から身を引く。
「....勝手に踏み入ってごめん。まだ体温が戻り切ってないから...もう少し安静にさせてから、温かい物を飲ませてあげて。」
最低限の言葉を告げ、足早に扉へ手をかける。
「待って...!あなた、名前...は...」
声を掛けられ振り返ると...
女性は、着込んでいた防寒具の一点を見詰めていた。
次に、目線は俺の方に向いた。
その瞳に映っていたのは、哀れみか、或いは畏怖か。
「.....名前は、無いよ。」
震えた声で小さく呟き、俺は飛び出す様に民家を後にした。
それは過剰に感じてしまう熱を嫌った故か。
スラム住まい風情が、二人の領域を荒らしてしまったという恐怖からか。
おそらく両方とは思うが、寒さで感覚が鈍っていたあの時には、はっきりと分からなかった。
それから寒暖差で徐々に壊れつつあった身体を無理くり動かし、スラムへ帰り着いたのは2日後の事だった。
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