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冒険譚記入場
32
:
ナイトメア
:2023/12/29(金) 11:28:07 ID:7zHVcmeA0
「や、やあ、神父様。少し話したいことが。」
「……。」
夢魔の呼びかけに神父は応えない。
十字架を構え、夢魔の白い額に押し当てる。
夢魔は、酷く怯えた表情を湛え、目尻に涙を溜めた。
「待ってくれ……。か、か、勘違いしてる。
君は勘違いしてるッ!!」
「……。」
「た、たしッ……確かにッ、僕は人の魂を貰う時もあるっ。
でもッ、……でも、本人がくれるというから、貰ってるだけで、無理矢理なんて。」
「お前を追放 ―――
「 ――― 司祭とも僕は抱き合ったぞ!!」
神父の言葉が止まる。
「今、後ろにいる3人の司祭と、僕は夜を共にしてる。
それも何度もね。
……わ、分かるかい?
あいつらは、僕を散々弄んだ上で、都合が悪くなる前に処理しようとしてるんだ。」
「……今、俺に判断しろと言うのか。
それも無駄だ。今更判断なんて不可能だ。
つまり、俺は今やるべき事をやるしかない。
後で司祭を調べればいい話だ。
どの道、お前の様な魑魅魍魎はこの世界に必要無い。」
「でも無駄じゃない。
君はまだ僕を追放していない。」
「……。」
「君の事は知ってるよ。ロナルド。司祭から聞いた。
そして見ていた。君の事を陰から。
誠実な男。信仰に素直で、僕の様な人外の存在が嫌い。
しかし、君は、少年の頃に兄を亡くした。
淫魔が現れた。君のせいだった。」
「喋るな。」
「君は村を助ける為に、淫魔の要求通り、兄を引き渡した。」
「黙れ。」
「でも実は、君は自分が死にたくないから、そうした。」
「淫魔の言葉には乗らないッ!!」
「だから君は魔物や悪魔を嫌っているフリをしているが、
君は淫魔に犯されている姉を見て、
―― またぐらを勃起させていた。」
「お前を追放する!!!」 「僕が君を犯してあげたいな。」
目も開けない程の強い光が、十字架から迸る。
息を吐く間も無く光は消え失せたが、男は強い光のショックで床に膝をつく。
目を瞑っているから何も見えない。光の残留が網膜の上で踊り、瞼の裏の暗闇と混じり合う。
酷く暗い。それはおぞましい闇だ。人間が抱え込む闇が、瞼の裏に張り付いている。
だから、目を開いた時も、闇だった。
闇の主だけが立っていた。 膝で立つ男の前に、手品師衣装の淫魔が立っている。
「惜しかったね。いやあ、惜しい、惜しい。」
男の心臓がバクバクと音を立て始める。周りを見渡しても、誰もいない。
途方も無い暗闇だけが周囲を満たしている。
ロザリオが、無い。
何も無い。
「あは、あは、あはははっ。 すごいスリルだったっ。
本当に消えるかと思ったから、本当に生きてるみたいだった。
あぁっ、甘美な時間だった。あのまま消えてもいいと思える程だった。」
両手を顔で覆いながら大笑いする夢魔は、興奮冷めないままの眼を男へ向ける。
「君にはお礼をしないとね。大丈夫、魂を奪ったりはしないよ。
君が望むなら、君のしたいようにするからね。」
『囁くもの』(続け)
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