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【SS】丙型特殊船あきつ丸の受難
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あきつ丸主人公のややシリアスものです
一応キャラの死亡描写等注意
週2くらいで投稿できればいいな…
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お、連載ものか?
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00
暗く冷たい闇の中、微かに震える声があった。
「寒いよ……怖いよ……ぁ……ぁあ……」
今にも消え入りそうな少女の声は、誰にも届くことは無く、凍える漆黒の空間に虚しく響くだけであった。
少女の目にもはや光は無く、ただ絶望と恐怖だけに塗りつぶされていた。
「しらぬ……い……しま……かぜ……ごめ……な……さ……」
やがて少女の声は絶え、闇は再び永い静寂に包まれた。
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01
容赦なく照りつける太陽、ドロリと肌にまとわりつく湿気、やかましく鳴き続けるアブラゼミ。呉の夏は暑い。
ここ、呉鎮守府は南側に海、北側に山を臨む場所に位置する。
半径三キロの林に囲まれた区画は一般の立ち入りが禁止されており、バスも通行できない。そのため、もしも鎮守府に用がある場合は徒歩で移動する他ない。
そしてその鎮守府内を往く、荷物を抱えた重い足取りの少女が一人。
「ったく……なんだってこんな暑さの中、三十分も歩かされんのよ……」
彼女の名は叢雲。特型駆逐艦の五番艦『叢雲』の艦霊を宿した艦娘である。
今の彼女の表情は青白く、額には大粒の汗を浮かべ、今にも倒れてしまいそうであった。
「昼に着くって連絡してんだから、はぁ……迎えの一つくらい寄越しなさいよね……」
肩で息をしながら、小さく華奢な体に似合わぬ怨み言をつぶやく。
両手と背中に大荷物を抱えた彼女にとって、三キロという道のりはいくら人外の存在たる艦娘とはいえかなりの重労働のようだった。
白いワンピースが汗に濡れ、細い肢体にピタリと張り付いている。
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「はぁ……つ……着いたあ……」
三十分、実に長く過酷な旅であった。
赤レンガ造りの豪奢な建物。焦熱地獄のような徒歩移動の末、ようやく鎮守府庁舎に辿り着くことが出来た。
叢雲は安堵しながら重たい荷物を地面に置いた。と、その時である。
「ぁああぁああ……」
「ひゃぁっ!?」
突然、絞りだすような呻き声とともに何かが叢雲の足首を掴んだ。
全身に不気味なヒヤリとした感触が広がり、彼女は思わず飛び上がった。
「ななな、なに!? なに!?」
体の震えを抑えつつ声の主を見やる。それは地面に転がる黒い塊であった。
黒い塊はズルズルと這いずりながら再び叢雲へ手を伸ばす。
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「あぁあ……み……みず……」
「いやぁっ! こっ、来ないで!」
叢雲は咄嗟に背負っていたアンテナで、その塊を思い切り殴りつけた。
「ぐわっ! や……やめるで……がはっ!」
すっかりパニック状態に陥った叢雲は、繰り返し塊を殴打し続ける。
取り乱しつつもそこは軍人。士官学校仕込みの達者なアンテナ捌きだ
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「このっ! このっ! このっ!」
「ストップ! ストップであります! うぐぁっ!」
塊は激しいアンテナ殴打を手で防ぎつつ、ようやく立ち上がった。
「へ……? あ、あれ、人?」
ようやく叢雲の手が止まる。立ち上がったそれは、確かに人の形をしていた。
「ひ、酷いであります……自分はただ、水が欲しくて……」
立ち上がった人影の正体は、どうやら黒い服を着た女性のようだった。
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「ご、ごめんなさい……突然だったから幽霊か何かかと思って」
流石にやり過ぎたと思ったのか、叢雲は素直に謝った。
「まぁ、幽霊と間違われるのは慣れっこでありますから、大丈夫であります」
そう言った彼女の肌は、病的なまでに白いものだった。身に纏った黒い詰め襟の学生服が、それをいっそう際立たせている。
体の線も細く、芯の通った声の割には儚げな印象を抱かせる。
確かに柳の下か夜の河原が似合いそうな風貌だな、と叢雲は思った。
幽霊女は埃を払いながら続ける。
「それはそうと、水を頂けないでありますか? この暑さだというのに水筒を忘れてしまって……」
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「あ、ああ、そうなの。はいこれ。さっきのお詫びも兼ねて」
叢雲がそう言いながら水筒を取り出すと、詰め襟の女性は火花のごとく水筒に飛びつき、喉を鳴らし中身を一気に飲み干した。
「んっ……んっ……ぷはぁ! 生き返ったであります! 本当にかたじけない!」
「そ、そう……ただの水が大吟醸に見える飲みっぷりね」
「いやぁ、かれこれ二日間は飲まず食わずでありましたからなぁ。ははは」
「二日ぁ!? あんたよく生きてられたわね」
別種の生物を見るように、しげしげと相手を見つめる叢雲。
鎮守府内にいるということは、恐らく艦娘だ。しかし──
「ところであんた、その格好は? 見たところ海軍じゃないようだけど……」
「ああ、申し遅れたであります。自分──」
彼女は、鉄芯を挿れたように背筋を伸ばし、右肘をピシリと曲げ敬礼した。
「陸軍所属、丙型特殊船、あきつ丸であります」
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とりえず今日はここまでです
ストックが十分貯まり次第投稿していきます
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乙
仮に落ちてもまた立てなおせばいいしね
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いいゾ〜これ
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夜だしあげたろ
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10時位から続き投下します。よろしくお願いします
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あ、再利用するんですね
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02
「将校殿……あっいや、提督殿。あきつ丸であります。艦隊のお世話になるであります」
「あんたが司令官? ま、いいけど。叢雲よ。よろしく」
ここは鎮守府執務室。質素ながらも厳粛な雰囲気を漂わせる調度が鈍く光る。
その部屋の奥、黒壇の机に座る壮年の男性と、その傍らの女性がふたりの挨拶を受けた。
「ふたりとも、よろしく。私はこの鎮守府の提督、藤原だ。こちらは秘書艦の大淀くん」
「どうも、大淀です。困ったことがあれば何でもご相談ください」
彼らの顔は笑顔だったが、叢雲は何となくその表情から嫌な印象を受けた。
理由は分からないが、とにかく気に入らない。そう感じた。
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「あきつ丸くんは東京で、叢雲くんは佐世保だったか。長旅ご苦労だったね」
「ホントにご苦労だったわ。呉なら栄転かと思ったけど、どうやら左遷だったようね」
およそ上官に向けて良い言葉ではない。どうやら炎天下を歩かされたことを根に持っているようだ。
叢雲という艦娘の気難しさががよく分かる。
「はは……言ってくれるね。うちは最近人員不足でね。申し訳なく思うよ。まぁ、あくまで一時転属だから安心してくれ」
提督は彼女を咎めるでもなく、笑いながら答えた。
叢雲はやはり提督の表情に違和感を覚え、早くこの場から離れたいと感じた。
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「挨拶も済んだし、もういいでしょ? 宿舎まで案内して欲しいんだけど」
「叢雲殿、いい加減そのような言い草は……」
「はい、分かりました。ではこちらへ」
大淀は叢雲の不躾な態度にも顔色一つ変えず、笑顔のまま対応する。
「よく訓練されているな……」
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「どうされました? あきつ丸さん」
「ああ、いや、実に立派な秘書艦ぶりであるなと……」
あきつ丸の言葉に提督が応える。
「大淀の働きにはいつも助けられているよ。自分も、まだここへ来て二ヶ月だからね」
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二ヶ月、ということは最近入れ替わったのだろうか。叢雲が尋ねる
「そうなの? 前の提督はどうしたのよ」
「彼は……」
大淀は叢雲から目線を逸らした。それまで笑顔を貼り付けたようだった彼女の顔が一瞬、曇ったように見えた。
「彼は諸事情でね、今はもう退役しているはずだよ」
提督は笑顔なのか無表情なのか、不思議と判然としない顔で答える。
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「諸事情……でありますか」
「ああ、そうだ」
あきつ丸は提督の言葉に若干の引っ掛かりを感じつつも、それ以上なにかを尋ねるということはしなかった。
「それでは我々は、この辺りで失礼するであります」
「ああ。これから頼むよ。あきつ丸くん、叢雲くん」
「それでは、宿舎まで案内いたします」
あきつ丸と叢雲は、大淀に案内され庁舎を出た。
外はまだ暑いが、ピークは過ぎたようで先程よりは幾分やわらいでいる。
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「しっかし、見渡すかぎりの赤レンガね」
改めて周囲を見回すと、この鎮守府の広さがよく分かる。
ひょっとすると自分が士官学校へ入学する以前に住んでいた町よりも大きいのではないか、と叢雲は思った。
「ここからまっすぐ先に見えるのが、艦娘たちの宿舎です。部屋まで案内しますね」
「いいわよ、そこまでしなくて。何号棟の何号室かだけ教えてくれれば十分だから」
叢雲は相変わらずのつっけんどんな様子である。
だがそれでも、やはり大淀は笑顔を崩さず応える。
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「おふたりの部屋は、三号棟の三ニ四号室です。三号棟は向かって左側の建物ですので、お間違えなく」
「そう、ありが……え、ちょっと待って。今、ふたりって言った?」
「ええ。それが何か?」
「何かって、それはつまり相部屋ってこと?こいつと?」
叢雲の指があきつ丸のとぼけた顔を指す。
大淀は眉根ひとつ動かさずに説明する。
「はい、相部屋です。なにぶんこの情勢ですから、居住空間も省スペース化を図っていまして」
「省スペースって……まるで水族館ね」
「自分は別に構わないでありますよ。陸軍ではほとんどタコ部屋のような環境でありましたから」
「あんたが良くても私がダメなのよ!」
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あきつ丸は至ってマイペースだ。
叢雲が何故怒っているのかも理解していない様子で続ける。
「ダメでありますか? 自分はむしろ楽しみでありますよ。婦女子同士の恋バナとやらにも、興味があるであります」
「誰があんたなんかと恋バナするのよ! ……はぁ」
叢雲は何を言っても無駄と思ったのか、とうとう折れた。
「……ったく、仕方ないわ。三ニ四号室ね」
「はい。それと、食堂と大浴場は一号棟に併設されています。今なら、少し遅いかもしれませんが昼食の時間ですので、どうぞご利用ください」
「それは有難い! もう空腹で倒れそうであります……」
「だったらキビキビ歩きなさい。ほら、行くわよ」
ふたりは大淀と別れ、三号棟へ向かった。
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五十メートルほど歩き、三号棟へ入る。建物の中でひとりの艦娘が叢雲たちを出迎えた。
「あなた達が新入りね。大淀から聞いてるわ。私は夕張、三号棟の棟長よ。よろしくね」
夕張と名乗った艦娘はペコリとひとつ、頭を下げる。
大淀の角張ったものとはまた違う礼儀正しさのある性格が見て取れた。
「自分、あきつ丸であります。こちらこそよろしくお願いするであります」
と、あきつ丸が言うが早いか、夕張は目を輝かせあきつ丸に飛びついた。
「うわぁ〜これが陸軍式の艤装かぁ! ねえこれって走馬灯? そっかぁこれで艦載機を飛ばすわけだ! なるほどねぇ〜」
「わわっ、急に何でありますか!?」
夕張はあきつ丸の体を舐め回さんが勢いで観察する。
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叢雲は若干引きつつも彼女に声をかけた。
「あの、棟長さん。鍵、渡して欲しいんだけど」
「え? あ、ああ! ごめんなさい。私、珍しい艤装を見るとつい……」
叢雲が掌を出しながら催促をすると、先程とは打って変わって大人しそうな様子で頭を垂れて謝った。
好きなものを目の前にすると異様にテンションが変わる。どうやら彼女は所謂オタクというやつのようだった。
「艤装ならあとで船体の方も工廠に届くはずでありますから、好きなだけ見てくれて構わないでありますよ」
「ホントに!? ありがとう! あ、これ部屋の鍵。どうぞ。あっ、あとで艤装、絶対見せてね! 絶対よ?」
「もちろんであります」
あきつ丸は相変わらずの調子で応じる。
というかそもそも艤装は陸軍の軍機じゃないのか、こいつ頭のリベットがどこかトんでるんじゃないか、と叢雲は思った。
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「あっ、三ニ四は割と奥のほうだから、入浴とか消灯の時間には気をつけてね」
「お気遣いどうも」
棟長から鍵を受け取り、三ニ四号室へ向かう。
確かに部屋は少々奥まった場所にあり、二つ隣の三ニ六号室は角部屋になっていた。
「お隣さんは……げ、青葉……」
「どうしたでありますか?」
「ああ、なんでもないわ。入るわよ」
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鍵を開け、外開きの扉を開く。立て付けが悪いのかギギギ、と軋むような音がする。
中は四畳半ほどのワンルームで、二段ベッドが備え付けられていた。
「わ〜ベッドが付いてるでありますか!」
あきつ丸は目を輝かせ勢い良くベッドに飛び込んだ。
叢雲が呆れ気味に訊ねる。
「そんなにベッドが嬉しい?」
「ふかふかであります! 向こうのせんべい布団とは大違いであります!」
無邪気なものだ。ベッドごときでここまで感動できるほど、陸軍は過酷なのだろうか?
──だがまあ実際、海軍に入隊する以前の暮らしから考えれば、たしかにここは天国かもしれない──
少し昔のことを思い出しながら、叢雲はそう思った。
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「これが“まっとれす”でありますかぁ。まるで雲に乗ったようであります」
「あんたねぇ…………そうだ」
未だにはしゃいでいるあきつ丸を見て、叢雲はひとつ彼女をからかってやろうという気になった。
「ねぇ、そういえば提督はみんな、せんべい布団で寝るって噂よ」
「なんと。それは本当でありますか? なぜ提督ともあろうお方がそのような……」
「そりゃあ当然……コトを致すためよ」
「コト……でありますか?」
──あきつ丸のことだ。“コト”の意味など知りもしないだろう。ここまで振り回されたお礼だ。存分に悩むがいい──
叢雲の魂胆はこうだった。しかし
「それはつまり男女のまぐわいでありますか?」
あきつ丸の口から出たのはまさかの大正解だった。
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「そうそう男女のまぐわ……ってなに言わせてんのよバカ!」
叢雲は顔を紅潮させ、あきつ丸の頬を思い切り張った。
「あっあんたがそんなハレンチな奴だなんて思ってなかったわ!」
「男所帯ではこの程度、日常茶飯事でありましたし……」
「だからってまぐわいは無いでしょ!?」
叢雲はすっかり茹で上がった蟹のように真っ赤になり、湯気を立てんが有り様だった。
あきつ丸はそんな彼女を見てなんだか可笑しくなり、思わず吹き出してしまった。
「……ぷっ、あははは! 叢雲殿、真っ赤っ赤であります」
「だったら何よ!」
「いや、叢雲殿にも可愛らしいところがあるのだなと……ぷっ」
「〜〜〜!」
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叢雲は顔を伏せふるふると肩を震わせている。
あきつ丸の方からその表情を窺い知ることは出来ない。
「……叢雲殿? ちょっと言い過ぎたでありますか?」
流石のあきつ丸もやり過ぎたと思ったのか、叢雲の顔をのぞき込んだ。
「これはその、自分も調子に乗ってしまったでありま……」
「ああもういいわよ! 腹減ってんでしょ!? 食堂行くわよ!」
「ええ!? あっ、ちょっと叢雲殿!」
叢雲部屋のドアを乱暴に開け、あきつ丸の声も聞かずに走って行ってしまった。
あきつ丸が慌てて後を追う。
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もう始まってる!
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「叢雲殿、待ってほしいであります! 謝るでありますから〜!」
「うっさい! メシ食いに行くって言ってんのよ!」
静かな廊下にふたりの声と足音が響く。何事かと夕張が部屋から顔を出した。
「ふたりともどうしたのよ? 廊下で騒ぐのは軍規違反よ」
「棟長、今から私たち食堂行くから! よろしく!」
「そういうわけであります。あっ、置いてかないでほしいであります〜!」
「あっちょっと待っ……」
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叢雲たちは呼び止めも聞かず、外へと飛び出していった。
せめてもと遠ざかって行くふたりの背中に夕張が声をかける。
「七時以降はお風呂混むから気をつけてねー!……って聞いてないか」
はぁ、と一つため息をつきながら呆れたように頭を掻く。
「……ま、元気が一番だしね」
元気過ぎるのも困りモノだけど、と心の中で付け加える。
今度の新人は、良くも悪くもこの鎮守府の雰囲気と違うようだ。
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「…………」
叢雲たちが走ってきた廊下の一番奥──三ニ六号室の方を見つめる。
彼女たちならあるいは────
「ところで叢雲殿、カレーを金曜日以外に食べるのは海軍的にアリでありますか?」
「んなこと知らないわよ!」
遠くから聞こえたふたりの声を背中で受ける。
「考え過ぎか……」
夕張はもう一つ嘆息し、部屋へ戻り作業途中の図面の続きを書き始めた。
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今日はここまでです
既に書き溜め分が少なくなってきたので明日続きを投下したら間が開くと思います(池沼)
読んでくださった方がいればありがとうございました
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乙
どういう受難なのかだんだん楽しみになってきた
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叢雲あきつ丸コンビいいゾ〜
あきつ丸くんの反応がいちいちかわいい
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遅い時間ですが12時頃続き投下します
よろしくお願いします
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やったぜ。
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03
食堂は昼時から少し過ぎていることもあってか、席にはいくらか余裕があった。
それでも遅めの昼食を取る艦娘はいるようで、それなりの賑わいを見せていた。
あきつ丸と叢雲はそれぞれ注文した物を受け取り、少し奥まった席に着いた。
「は〜、やっと飯にありつけるであります」
「しっかしあんたずいぶん食べるのね」
あきつ丸の盆には山盛りの白米に白身魚のフライ、レバニラ炒め、里芋の煮っころがし、それとかけ蕎麦が一杯置かれていた。
対する叢雲の盆にはカレーとミニサラダだけだ。
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「叢雲殿が小食なのでは? 自分は二日間何も食べていないのもありますが」
「これでも結構盛ってる方よ。大体、白米に蕎麦ってどういう食い合わせなのよ」
「炭水化物と炭水化物……陸にいた頃からのロマンであります」
あきつ丸の目がこれまでになく輝く。
ご馳走にはしゃぐ子ども……というよりは、餌を前にした小鳥のように見える。
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「いただきますであります!」
あきつ丸は両手を合わせ気持ちの良い声を上げると、猛烈な勢いで眼前の満漢全席を平らげていった。
「むあふもふぉももふぁえあいふぇあふぃまふふぁ?」
「食べながら喋らないの。ったく。いただきます」
叢雲もカレーを小さく掬い取り、口へ運ぶ。
薄桃色の口唇が僅かに茶色く染まる。
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「ん……ぅむ……甘いわね。呉のカレーは辛口だって聞いてたから期待してたのに」
「叢雲殿は辛いのが好きでありますか」
「好きっていうか、佐世保が甘口だったのよ。だからたまには辛いのも食べたかったんだけど……」
もう一口、二口と味わってみる。
野菜の甘味が際立つ反面、スパイスの香りはそれほど感じられない。
「辛口どころか佐世保より甘いわね……レシピが変わったのかしら」
「えぇ、どうやらそのようですねぇ」
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「うわっ!?」
何者かが突然、音も無く叢雲の顔のすぐ真横に着けていた。
叢雲は驚きの余りスプーンを取り落としてしまった。
そして声の主の顔を見て、それが誰なのかすぐに分かった。
「青葉……」
「どもー久方ぶりです! 青葉ですー!」
青葉と名乗ったその艦娘は軽薄な調子で敬礼すると、また馴れ馴れしく叢雲に顔を寄せ話し始めた。
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「なんでも二ヶ月前からレシピが変わったそうでして。以前は硬派なスパイシーカレーだったそうなんですがねぇ」
「そう……どうでもいいけどいちいち顔を近づけないでくれる?」
「痛い痛い!こめかみが!こめかみに指が!」
叢雲の右手が容赦なく青葉の頭を握り潰そうとする。
そんな二人のやり取りを見ていたあきつ丸が尋ねる。
「こちらの方は、叢雲殿のお知り合いか誰かで?」
「佐世保で一緒だったってだけよ。私より前にこっちに転属になって」
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「イヤですねぇ〜新兵時代の教官と生徒の間柄じゃないですか……って痛い痛い痛い!割れます!リンゴみたいに!」
叢雲が更に力を込め青葉の頭を圧搾する。
しかしこれでも一応、青葉の方が上官なのだ。
「あ、はは……仲の良いことでありますなぁ……」
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「で? なにか用なの?」
ようやく叢雲が手を緩める。
「ててて……ああ、そうそう。お二人に聞きたいことがありまして……」
青葉は手でこめかみから出血してないかを確認してから、叢雲とあきつ丸に向き直った。
そして、先程までとは正反対の粛然とした目をして言った。
「神隠しってご存じですか?」
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短いですが今日はここまでです
また書き溜まったら投下しますのでちょっと間が開くとは思いますが、応援よろしくお願い致します
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おつかれナス!
楽しみにしてナス!
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えっ!?いいところなのに…
広い意味での謎解きになるのかな?楽しみやでホンマ…
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ちょっとくらい…定期ageしても…バレへんか…
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11〜12時くらいに短いですが続き投下します
よろしくお願いします
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お前のことが好きだったんだよ!
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04
「神隠し……ってよくある怪談の類?」
「まあ大体そんなところですが……。怪談、と言うには少し違うかもしれませんね」
「どういうことよ」
青葉がまた叢雲に顔を近付ける。しかし叢雲は今度は払いのけようとしない。
今の青葉の目は真剣な話の時のものだと、長年の付き合いから分かっていたからだ。
そして、そんな時に彼女が持ってくるのは大抵、超弩級の面倒事だということも経験から察していた。
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もう始まってる!
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「……少なくとも、タダゴトでは無いのね」
「ええ、もう佐世鎮が天気晴朗の凪に思えるほど」
「それはまた随分なことね」
叢雲は芝居めかして肩をすくめて見せてから、ギンバイの相談でもする時のように青葉の方へ顔を寄せた。
青葉は目線だけで周囲に注意を配り、それから小さく一息吸い、言った。
「どうやらこの鎮守府、艦娘が『消える』ようなんですよ」
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「消える……?」
『消える』──その言葉に叢雲は怪訝な表情を見せた。
自身のように、一時転属や配置転換、もっと言えば轟沈というのは艦娘の常だ。
場合によっては泊地や基地をたらい回しにされる艦娘もいると聞く。
同じ鎮守府に誰が居る、居ないかを完璧に把握しているものはそうそういないだろう。
だがそれでも、艦娘が『消える』などという現象は聞いたことも無い。
「消えるっていうのはどう……」
叢雲は青葉の言葉の真意を問おうとする。
だがその時。
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「そこの特型駆逐艦! なんの話してんの?」
何者かが大声で会話に割って入った。
突然の呼び掛けに、二人は反射的に声の方向へ振り返った。
見るとそれは、山吹色の忍者装束めいた制服を着た艦娘だった。
二つ縛りの黒髪と首に巻いた白いスカーフにはすっかり潮の香りが染み付いている。かなり古参の艦娘なのだろう。
忍者装束の艦娘は叢雲達のテーブルにゆっくり歩み寄る。
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「ど、どもー川内さん……」
「ん。ねぇ、そこの新入り。なーんかこそこそ喋ってるみたいだけど、大事な話?」
川内、と呼ばれた艦娘が叢雲とあきつ丸に話しかける。
顔には気の良さそうな笑みを浮かべているが、その声と足取りには些かの威圧感があるように思えた。
「神隠し、とか……消える?ってなんの話かな」
「ああこれはですねぇ……」
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「こっ、怖いでありますー!!」
それまでずっと黙っていたあきつ丸が、唐突に声を張り上げた。
「青葉殿の怪談、とっても怖いであります!」
目を潤ませフルフルと体を震わせるあきつ丸。
川内がきょとんとしながら尋ねる。
「怪談?」
「……そ、そう! そうなんですよ! ちょ〜っと新人を怖がらせてやろうと思いまして、昔この辺りで漁師が大量失踪してその霊が宿舎に出るという話を……」
青葉はまたいつもの調子に戻り、やや大袈裟な身振りでお茶を濁す。
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半ば道化じみた青葉の勢いに押し切られたのか、川内はそれ以上追求しようとはしなかった
「怪談ね……ふーん……。ま、あんまり食堂でコソコソしてるとギンバイだと思われるから、程々にね」
「はい! 以後、気をつけます!」
川内は苦笑いで青葉の慇懃無礼な敬礼を受け、食堂の出口へ向かう。
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彼女の見た目にはそれほど変わった様子は無い。だが放たれる威圧感は僅かに鋭さを増したように思えた。
そしてその去り際、川内は叢雲を一瞥した。
それはほんの一瞬ではあったが、叢雲は全身が竦むような、あるいは痺れるような感覚を覚えたのだった。
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本日の投下は以上です
今までより推敲に時間をかけていない分、つたない文章になってしまったかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです
次はまた来週になりそうです(遠い目)
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裏表のない川内が絡んでそうとは…
続きお待ちしてます
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オツシャス!
いやー面白いわ
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あきつ丸は世渡りうまそう(小並感)
次回もお待ちしてナス!
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あきつ丸くんかわいい
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定期上げ
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投下じゃないのか…
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糞スレageんな
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楽しみにしてるゾ
書ける時に書いてくれや
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続き待ってるで〜
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保守しようと思えば確実に保守できるし、のんびり書いてくれればええよ
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あげるで
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やっぱみんなすきなんっすね〜
お待ちしてナス!
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あげ
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あげたろ
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ええやん!
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ほしゅ
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オネシャス!新スレでもいいですから!
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今から投下します
忙しいのとプロット考えなおしたのとでだいぶ遅くなりましたがご容赦ください
例によってあんまり進みません
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お!なんか始まる!
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お前の新作を待ってたんだよ!
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05
ふたりは食堂で青葉と別れ、同じ棟にある大浴場へ向かっていた。
入浴には少し早いが、人混みの苦手な叢雲は敢えてこの時間を選んだのだ。
「同じ建物に寮と食堂と大浴場を詰め込むなんてさすが呉。佐世保の掘っ立て小屋と大違い」
「健康ランドみたいでワクワクするでありますなぁ」
「その例えはどうかと思うけど……」
呉は横須賀に次ぐ対深海棲艦の要衝だ。工廠などの軍事施設はもちろん、福利厚生も他に比べ充実している。
特にこの一号棟は主力艦の宿舎とあって、ある種の複合施設とも言えるほどである。
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「……なんていうか、ここまで来ると嫌味なくらいに立派な建物ね」
叢雲は以前暮らした質素な木造平屋の宿舎を回顧し、独りごちながら辺りを眺めた。
食堂から大浴場までは赤絨毯の廊下が続き、壁には海や艦をモチーフにした絵画が掛けられている。
さらに『案内板』と書かれた板には、一号棟全体の地図や各艦娘がどの宿舎に所属しているかを示すネームカードが掲示されていた。
叢雲とあきつ丸は今日配属されたばかりだからかネームカードはまだ無かったが、代わりに三号棟の欄の一番下にペンで名前が書かれていた。
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「へぇ、便利なもんね。どこに誰がいるかすぐ分かって」
「『金剛』『翔鶴』『瑞鶴』……さすが一号棟は錚々たるメンツであります」
「三号棟は、『弥生』『望月』……なんともパッとしないメンツね」
各棟の艦娘をなにと無く確認しつつ、横の地図を見やる。
一号棟は地上三階、地下一階の構造になっている。二人が今いる一階には食堂、大浴場、個室の他に売店とランドリーもあるようだ。
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「現在地がここだから……そこの角を曲がれば大浴場ね」
「隣の『到 地下』というのはなんでありましょう?」
「さあ。ボイラー室かなんかでしょ」
「地下室というとなんだかロマンを感じるでありますなぁ……はっ! もしや秘密の実験施設だったりするでありますか!?」
「はいはい」
叢雲は子供のようにはしゃぐあきつ丸を他所にさっさと大浴場へ歩き出す。
会って半日の仲ではあるが、既に彼女の扱い方を心得たようだ。
あきつ丸は慌てて叢雲の後を追う。まるでアヒルの子供だ。
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「叢雲殿、戦場での単独行動は死を意味するでありますよ」
口を尖らせながらあきつ丸が抗議する。
叢雲は頭に浮かんだ『あひる丸』という言葉を掻き消しながら冷静に対応した。
「ここは戦場じゃないしあんたと団体行動してるつもりもないんだけど。それにほら」
軽口を叩いている内に二人は大浴場の前まで来ていたようだ。
『湯』とだけ書かれた赤い暖簾とほんのり湿った空気がふたりを出迎える。
「さっさと入ってサッパリするわよ。あんたのせいで色々とかかなくてもいい汗かかされたんだから」
「いやぁ、ハハハ……む? この扉は」
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あきつ丸の視線の先には『立入厳禁』と書かれた白い鉄製の扉があった。
ドアノブは丸いハンドル状で、ところどころ塗装が剥げて赤い錆が浮いている。
あきつ丸は扉を軽く叩いてみたり、耳を当てて中の音を聞こうとしたりする。
しかし特に彼女の興味を引くような何かは無かったようで、早々に扉を離れた。
「ふぅむ……やっぱりただのボイラー室でありますか」
「当たり前でしょ。ていうか上に書いてあるし」
「あ、ホントであります」
少し見上げると、確かに扉の上には『ボイラー室』の札が貼られていた。
「気が済んだなら、ほらこれ」
叢雲が備え付けのハンドタオルを投げ渡すとそのまま暖簾をくぐっていった。
「おっと、かたじけないであります」
あきつ丸は頭上でタオルを受け取って、叢雲の後へ続く。
そして暖簾をくぐりかけたところで足を止め、また扉を見た。
「……気にし過ぎか」
-
今回は以上です
スレを残してくれた管理人さんに感謝
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オッツオッツ!
-
乙
落ちたら立て直してもええんやで
-
毎回引きがうまいなぁ
次が気になる
-
落ちないぞ
-
保守
-
ほしゅ
-
保守
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あきつ丸殿、イベントで出番でありますよ!
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保守
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ほしゅ
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保守
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作者さんまだいる?
急かすわけじゃないけど現状報告だけでもほしい
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なんかいなくなってそうだけど一応保守
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最後の更新は9月か…
もうあかんかもね楽しみにしてたんだけど
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まさに受難
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がんばれ��
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