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歴史春香スレッドぶりっちょ

1 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:47:32
なぜか連続スレ制限なので、とりあえずスレ立て


2 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:48:00
乙マンコ


3 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:48:01
総合スレで助言を頂いたとおり、一つのスレで一話完結のネタスレを暫時書いてく方式で行くことにしました

書いてるワシは研究者でもないただのアイマスと歴史好きなだけのぶりっちょなので、ちょくちょく勘違いや間違いもあるかもしれないけれど、
そこはご容赦下さいっていうか、むしろ指摘があったほうが勉強になるのでありがたいです

あと、ぶりっちょなので初投稿です


4 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:48:19
【第一話】春香「千早ちゃん何聞いてるの?モーツァルト?(無知)」

千早「・・・えっ、何それは・・・(困惑)
もう、色々と違うじゃない、モーツァルトと
春香だってさすがに音楽の授業で聞いたことあるでしょ、スメタナの『我が祖国』※よ」

春香「・・・モチロンシッテマシタヨ?
で、でもあれだよね、『我が祖国』って、6つの連続する交響詩で構成された曲なのに、
第2曲目の『ヴルダヴァ(モルダウの流れ)』ばっかり有名で他の曲の知名度ほとんどないよね
だから、いきなり他の曲を聞かされても分からなかった春香さんは悪くないと思った(小学生並みの言い訳)」

千早「・・・まぁ、どうでも、いいですけど
実際、私も自分でCD買って聞くようになって始めて知るまでヴルダヴァだけだと思っていたし
それから、元々は歌詞なんかついてなかったのも初めて知ったわ」

(※オーストリア帝国の支配下にあったボヘミア=チェコ出身の作曲家べドルジハ・スメタナが作曲した交響詩
ドイツ人に支配される祖国ボヘミアへのロマン主義的な想いを込めた交響詩で、
ボヘミアの建国神話からナショナリズムの萌芽ともいえるフス戦争までの民族の歴史を、6つの曲で表現した
そのため、もともと歌詞は存在しなかったが、第2番ヴルダヴァは世界的に人気が高く、
特に日本では何人もの作詞家が歌詞を作り、合唱曲や歌に改作して定着している
なお『モルダウ』とは、ヴルダヴァ川の、当時のチェコの支配言語のドイツ語読みである
・スメタナ『我が祖国』https://www.youtube.com/watch?v=7KsQz64rkAI


5 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:49:00
千早「でも第2曲は、いろんな作詞家さんたちのお陰で曲に込められたスメタナの詩的表現の意味が良くわかるけれど
他の曲に込められた想いって、解説書読まないと正確に受け止められないっていうのがちょっと歯がゆいわね・・・」

春香「うーん、そうだよね、『ヴルダヴァ』のイメージは、日本語の合唱曲の歌詞からわかるとおり・・・」

小鳥「♪ボへ〜ミア〜のか〜わよ〜 モ〜ルダ〜ウよ〜♪過ぎし日のごと いま〜もなお〜♪
・・・って、私は過ぎ去った日々のことなんか振り返らない女の子なの!
今を生きる!そう、小鳥は今を生き続ける永遠の17歳だから!30歳とか意味わからないから!
・・・そう言えば、若人たちを優しく包み込むモルダウの流れと、若人たちを守るたくましい古城って、
カップリング的にどっちが受けなのかしら?王道のモルダウ総受け?いやいや、俺様キャラの古城の誘い受けも・・・」

春香「・・・うわぁ(ドン引き)」
千早「・・・コ、コホン!と、とにかく、日本語の歌詞のお陰でヴァルダヴァの曲の内容が、
悠久の祖国の大地と自然が、今もそこに住む人々を育み守り続けている・・・ってイメージなのは分かるんだけれど」

春香「そ、そう!そうだよね、そういう万国共通で伝わりやすいイメージだったから、
世界中で歌詞まで作られて愛され歌われ続けているんだろうね、うん!」

千早「でも、他の曲はそうじゃない、ってことよね?
例えばこの第3曲の『シャールカ』とか・・・」

春香「そう、シャールカ!この曲のモチーフになっている女騎士シャールカの伝説が色々と面白くてですねぇ・・・」
小鳥「・・・いいだろモルダウ、見せつけてやろうぜ、若人たちに俺たちのこの熱い生命の交わりを・・・(ブツブツ)」


6 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:49:30
<7〜8世紀頃?のボヘミア=チェコ地方>

ナレーションのあずさお姉さん「むかしむかし、豊かなヴァルダヴァの川の流れる緑豊かな土地ボヘミアには、
国というものも王というものも知らない、幸せな人々が幸せに暮らしていまし・・・」

春香「いやいやいや!
ドナウ川のすぐ向こう側までローマ帝国がとっくに進出してたから!イリリクム属州だから!
ドナウ川の北側にはゲルマン系諸部族が住んでたり、その大移動後はスラブ系諸部族が住んでたりしてたから!
メチャクチャ凶暴強力な連中で、氏族社会で、傭兵になったり略奪したり貿易したり、ローマとも盛んに交流してたから!」

あずさ「(無視)そんな平和なボヘミアの人々でしたが、ある時、他所には王という人がいて、
人々に公平な裁きを下してくれるらしい、という噂が旅人によってもたらされました
人々は驚き喜び、それならばと、ヴァルダヴァのほとりのヴィシェフラドという村に住む、
たいそう賢く人格者と評判のクロクという老人を王に担ぎ上げたのでした」

春香「ここ、諸説あるみたいだけど、ボヘミア王国のゆかりの地ヴィシェフラドは、『我が祖国』の第1曲にもなってるね
まあ一応現在のプラハにヴィシェフラド城あるけれども、この辺も諸説あるよね・・・」
(※こんな感じhttp://www.puraha.cz/images/places/velky/VysehradV4.jpg

あずさ「賢明なクロク王でしたが、やはり歳には勝てません
そこで亡くなる前に、自分の3人の娘たちの中でも最も聡明で、美しく、
予言の能力のある末娘のリブシェを自分の後継者にと選んだのでした
ここにプラハ建設の母、伝説のリブシェ女王が誕生したのです!」
(※リブシェの伝説もまた、スメタナによってチェコ語でオペラが作られている)


7 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:49:59
(ヴィシェフラドの女王の裁きの庭)
大貴族「・・・こんな裁き、納得いくか!
所詮、髪の長い女は気が短い!短慮な女が男たちの上に立って裁きを下すなど間違いだ!」

リブシェ(cv.花澤香菜)「・・・ひょっとしてみんな、鉄の力による支配を望んでる・・・?
それなら、ちょっと予言してみる?」
女騎士団長ヴラスタ「そ、そうよ絵理、あなたの実力、予言の力をこいつらに見せてやるのよ!」

リブシェ「・・・わかった、それなら私は王様やめる。
その代わりに私の白い馬が、真の王にふさわしい男、プシェミスルのもとに導いてくれる?
だから、そのプシェミスルを連れてきてくれれば、私の夫に迎えて、共にもっといい政治ができるようになる、かも?」
ヴラスタ「ちょ、え、認めないわよそんなこと、あなたのプロデューサー・・・親衛隊長として!」
リブシェ「大丈夫、尾崎さん、私を信用して・・・?」

春香「・・・で、結局メンドくさい使者の役目は春香さんの仕事ですか、トホホ・・・
おーい、プシェミスルさんいますか〜!スタジツェ家の貧しい農民のプシェミスルさんや〜い!」
プシェミスル「・・・そう、僕だ(キリッ)」

春香「うおっ!?た、武田さん・・・じゃなかった、あなたがプシェミスルさん!?
え、ええと、リブシェ女王陛下からのご要請で参りました!
ただちに都にいらして女王陛下とご結婚の上、王としてこの国を統治してくださいとのことです!
プシェミスルさん、逆玉ですよ、逆玉!」


8 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:50:20
プシェミスル「君たちは来るのが少々早すぎたよ
もし僕がこの畑を耕し終えるまで待っていてくれたなら、この国は未来永劫、飢えに苦しむことがなかっただろうに・・・
まあいい、たまには僕にも料理の腕があるところを見せてやろう、そこに腰掛けたまえ」

春香「え、ご馳走!?いやあ、実はお腹ペコペコで・・・って、板ッ、じゃなくて痛ッ!
これ、鉄の鋤の上じゃないですか!こんなとこに座ったら765プロ最高(当社比)の美尻クイーン春香さん自慢のヒップが・・・」

プシェミスル「ほう、鉄の鋤の上に座るのが不満かい?
しかしその鉄こそが、僕とその子孫代々に至るまでこの国の、敵に対しては強力な武器となり、
平和時には畑を耕し繁栄をもたらす力となるだろう・・・」
春香「うわ、この人もう子々孫々まで国を牛耳る気満々になってるよ・・・(ドン引き)」

あずさ「・・・こうして偉大なるプシェミスル王を迎え入れたリブシェ女王とボヘミアは、栄光と繁栄の時代を築くのでした
しかし美しく賢明なリブシェ女王は、人々に惜しまれながらも若くして他界。
人々は、その死を悲しみながらも、プシェミスル王の善政に満足していました
・・・一部の人々、そう、リブシェ女王直属の女騎士親衛隊以外は・・・」


9 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:50:44
(女騎士団の本拠地・ヂェヴィーン城)

ヴラスタ「・・・絶対に(私に見向きもしない)男たちの統治なんて認められないわ!
絵理の遺志(曲解)を継いでこの国を支配するのは私たち女!
女が戦い、男が働く国、これが新しいボヘミアよ!喪女(おとめ)は大志を抱くのよ!」
シャールカ「お、おー!(婚き遅れ・・・逃げ遅れて巻き込まれちゃったピヨ・・・)」

ヴラスタ「さて、プシェミスル王たち男どもとの戦争となると、最大の敵は、
やっぱり王の側近の騎士ツチラトね・・・
そうだ、音無・・・シャールカさん!あなた確か、ツチラトとは知り合いだったわよね!?」

シャールカ「え!?えっと、はぁ、まあ、はい・・・(あの人、仕事もできて紳士で素敵な人だったなぁ・・・)」

ヴラスタ「ならば好都合ね!あなた、ツチラトが通りかかる場所で、わざと縛られた状態で待ち伏せしなさい!
そして、私たちを裏切った罪でこうして危険な場所に捨てられたので助けてくれと言って、相手の油断を誘うのよ!」

シャールカ「き、緊縛プレイからの放置プレイとは、なんという上級者・・・
じゃなかった、罠にかけるんですか、ツチラトさん・・・ツチラトを!?」

ヴラスタ「悔しいけれどツチラトは武術の達人だし腕の立つ部下も多いのよ
手段は選んでいられないわ、私たち喪女・・・猛女軍の勝利のために!」
シャールカ「ぴ、ピヨ〜・・・」


10 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:51:24
あずさ「こうして騎士ツチラトを罠にかけるため、女騎士団の美しき乙女戦士シャールカは、
通り道となる寂しい森の中、縄に縛られた状態でツチラトらを待ち構えていたのでした・・・」

シャールカ「タスケテ、ヒトガシンダーじゃなくて、悪い女騎士団に森の中に置き去りにされちゃいました!
誰か助けて〜!このままじゃ怖いオオカミに食べられちゃいます〜(意味深)!」

ツチラト「・・・!あ、あなたはシャールカさんじゃないですか!
なんて酷い目に・・・今すぐ助けます!(白馬からヒラリッ)」
(※推奨BGM「目があう瞬間/如月千早」)

シャールカ「あ、ありがとうございます、私の白馬のナイト様・・・!
(や、やっぱり近くで見ても素敵な人・・・やっぱり私、この人のことが好きだったんだ・・・!)」

ツチラト「女騎士団の一員としてヴラスタの反乱に巻き込まれたと聞いて心配していたんです!
こうしてヴラスタたちに捨て殺しにされかかっていたということは、音無さんはホントは敵側についた訳ではなかったんですね、よかった・・・!」

取り巻きの部下春香さん「おりょ?何故かこの人の近くにたくさんの蜂蜜酒の樽がありますよ?
・・・ははーん、これはアレですね、ズバリ蜂蜜酒トーチャリング!
美味しそうな蜂蜜酒を目の前に、飲めない状態にすることで罪人を苦しめようとする陰湿な拷問方法!
ならばこの蜂蜜酒は春香さんが頂いても全然問題ないと!いっただきまーす!」
部下A「一理ある。さすがに罠としてはあからさま過ぎるんやな、じゃワイも・・・」
部下B「確かに。罠じゃないならワイも飲むやで〜」


11 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:51:52
シャールカ「(どうしよう、このままじゃプロデューサーさんたち、殺されちゃう!)
あ、あのプロデューサーさん!実はお話したいことが・・・!」
ツチラト「いえ音無さん、実は俺も言いたいことが。実は前から音無さんのことが・・・」

春香「お腹いっぱいのハチミツ酒よりも、 もっと暖かくて幸せになるぞ・・・」
部下A「お前と甘い言葉の事を聞いた・・・(泥酔)」
部下B「当ててやろうか? 誰かに、スイート・ロールを盗まれたかな?(泥酔)」

ヴラスタ「でかしたわよシャールカ!敵は完全に酔っ払って油断しているわ、突撃!」

ツチラト「・・・ッ!しまった、敵襲か!?(流れ矢ヒュッ)・・・う、ウグッ、無念・・・(ガクッ)」
シャールカ「・・・プロデューサーさん!?プロデューサーさぁ〜ん!!」
春香「うわぁ、ヤラレターッ!(死んだふり死んだふり・・・)」

あずさ「出会った瞬間に恋に落ちてしまったシャールカとツチラト
しかし運命は、その次の瞬間には、残酷な恋の終焉を用意していたのでした・・・」

(ヴィシェフラド城)
春香「・・・という訳で、春香さんは迫る敵の大軍をちぎっては投げちぎっては投げ、
とにかくすんごく大奮戦してたんですが、武運つたなくプロデューサーさんは・・・
もう弔い合戦しかないですよ、王様!早速、全軍に動員を・・・」

プシェミスル王「ほう、復讐か・・・
それならば手紙を一つ、彼らに送るとしよう・・・」
春香「へ?手紙、ですか・・・?」


12 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:52:17
(数時間後)

ヴラスタ「今日ここで婚活パーティーがあると聞いて来てやったわよ!
ど、どうせロクな男はいないだろうけれど、年収1000万以上の高身長高学歴のイケメンなら考えてあげないこともないわ!」

春香「う、うわぁ、この人たち、やっすい誘いにあっさり引っかかっちゃったよ・・・
まあ、なんでもいいか、女騎士団は罠にかかって城内に誘い込まれたぞ!殲滅ですよ、殲滅!」

ヴラスタ「な、なによ!やっぱり嘘だったのね!ちょっとは幸せな結婚も夢見てもいいじゃない・・・ガクッ」

春香「なんとか喪女・・・女騎士団は殲滅しましたけど、さすがにズッこくないですか、王様ぁ?」
プシェミスル「・・・いい復讐劇だった、掛け値なしに・・・」
春香「え、何それは・・・」

あずさ「こうしてリブシェ女王の死後に起きた乙女たちによる反乱、
『乙女戦争(ディーヴチー・ヴァールカ)』は悲劇的に幕を下ろしました
そして女騎士たちの亡骸が焼かれる中、最愛の人の命を奪ってしまった悔いに身を焦がすシャールカも、
その燃え盛る炎に自らの身を投じ、ここにふたりの恋人にも悲劇的な幕が下りたのでした・・・」

(※実際には、八年間にわたり乙女軍による統治が続いたとも、瞬殺されたとも、
あっさり誘い出されて全滅したとも、激闘の末に壮絶な玉砕を遂げたとも諸説ある
まあ、結局リブスタやプシェミスルからして伝説上の存在なので、しゃーない)


13 : 名無しさん :2015/07/03(金) 20:52:41
春香「・・・ま、こんな感じで女騎士たちの、『絶対に男なんかに屈したりしない!』からの、
『やっぱり鉄の力(意味深)には勝てなかったよ・・・』というエロ同人みたいな展開がチェコの建国伝説にあるんだけどね」

千早「・・・と、とりあえず、シャールカの激情と恋、そして悲劇的な死という流れがこの曲の内容なのね・・・」

春香「いやでも、いくら伝説とは言えご都合主義全開だよね、乙女と白馬の王子様のつかの間の恋とかさぁ・・・」

小鳥「・・・古城、もう俺、お前なしじゃいられない身体になっちまったよ・・・(ブツブツ)」
律子「・・・お・と・な・し・さん?・・・仕事はできましたか・・・?(小声)」
小鳥「ピヨッ!?え、えっとあの、その、まあできたような気もしなくもない感じが・・・あ、プロデューサーさん!
わ、私、仕事してましたよね!?(小鳥必死の助けてくださいアピール)」
赤羽根P「ハハハ・・・いや、真面目に仕事してくださいね、音無さん」
小鳥「は、白馬の王子様・・・」

千早「・・・まぁ、確かに、ね・・・」

小鳥「ち、ちなみにリブシェ伝説や乙女戦争伝説をモチーフに、15世紀のチェコでのフス戦争を描いた漫画、
その名も『乙女戦争』は、月刊アクションで絶賛連載中ピヨ!」
(※ニコニコ静画の試し読み版
http://seiga.nicovideo.jp/comic/6131?track=official_list


14 : 名無しさん :2015/07/03(金) 21:07:52

いつも即落ちだからちゃんと読んだの初めてかも
色々練られててすごいと思った(小並感)


15 : 名無しさん :2015/07/03(金) 21:11:06
丁寧に作られてて読んでて面白かった


16 : 名無しさん :2015/07/03(金) 21:18:08
歴史あまり知らないけど楽しめました
次作も待ってます。


17 : 名無しさん :2015/07/05(日) 22:18:52
良スレage


18 : 名無しさん :2015/07/05(日) 22:24:01
すんません、第二話作成中です
たぶん明日には・・・
すんません


19 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:25:24
【第二話】春香「千早ちゃん?これは余裕とYOU揉んだ!」

春香「・・・あ、考えたら揉むほど無かったね、許せカツオ、胃もたれ的にカレーライスパウダー
ゆうべのロース 売〜れんかいな!」

千早「揉むくらいはあるから!Cあるもん(大嘘)!
・・・って、そもそもいきなり来て何を言ってるのよ、春香!?
言ってることの意味が全然わからないのだけど(半ギレ)」

春香「いや、ほら、いま千早ちゃんが読んでるその漫画、『るろうに剣心』でしょ?
るろ剣と言えばキワミ空耳動画!ニコニコ動画黎明期をアイマスとともにリードしたコンテンツだもん!懐かしいよね!」

千早「(懐かしい、って・・・ニコニコ黎明期って何年前の話よ・・・)
コホン!と、とにかく、今度アニメ『るろうに剣心』の歌をカバーすることになってね、
そしたら音無さんが、『だったら原作全部読まなきゃ原作に失礼でしょ!』って強引に・・・
TVアニメやOVA、映画版のDVDの膨大な山の方は、丁重にお断りしたけど」

春香「へぇ・・・あ、でも、『そばかす』?『1/2』?
千早ちゃんの声質的にあってない気もするし、やっぱり春香さんの方が適任な気が・・・」

千早「『1/3の純情な感情』の方よ、だいたい春香だって音程・・・」
春香「あ!これ、煉獄に殴り込むシーンじゃん!見どころ満載だよね、ツッコミどころも満載だけど!」

千早「確かに、全部黒い鉄で覆われた巨大軍艦が・・・ってのは、ビックリ
すごいダイナミックで面白い展開よね
でも、こんな鋼鉄の要塞みたいな船、本当に存在したの?」

春香「そりゃあもう!モデルになったのは、明治政府が戊辰戦争時に手に入れた『甲鉄艦=東艦※』だね

これがまた、ものすごい紆余曲折を経て明治政府の所属になった軍艦でさぁ
元々、南北戦争時の南部連合がフランスに発注→北部合衆国が妨害→プロイセンとの戦争が始まったデンマークが購入
→でもすぐ敗戦で白紙→再び南部連合が買う→北部合衆国が拿捕→南北戦争終了で処分に困ってたところで幕府が買収工作
→明治維新政府が介入して購入・・・っていう」

(※帆船、汽帆船、外輪船の時代を経て、19世紀半ばに登場してきた全面鋼鉄装甲の軍艦が装甲艦であり、
中でもストーンウォールこと甲鉄艦は、当時でも世界トップクラスの一隻である
戦力的に圧倒的なプレッシャーを旧幕府海軍主力の函館共和国側に与え、この奪取を目的とする宮古湾沖海戦の引き金となった
こんな感じ→http://www.japanusencounters.net/images/css_stonewall.jpg


20 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:25:55
千早「へぇ・・・でも木製の帆船や普通の蒸気船ばかりのところにこんな軍艦が出てきたら、確かにすごい衝撃ね
・・・その割に漫画の中じゃ、爆弾投げられてあっさり沈んじゃったイメージだけど」

春香「ああ、素人の作った炸裂弾一発で轟沈する煉獄、という原作屈指の超有名な迷シーンだよね
あまりにツッコミどころ多すぎだし、実写版映画ではさすがにその展開はなかったけどさ」

千早「やっぱり、爆弾一つでこんな鋼鉄の塊が沈むっていうのはありえないことなのね、なぜか安心した」

春香「うーん、まあ、そうなんだけどさ・・・
でも、こんな砲撃をものともしない装甲艦が登場する一方で、こんな化物も一撃必殺で仕留める兵器が登場したのも、
やっぱりこの南北戦争って時代の面白いところでさ、実は・・・」


21 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:26:23
<1863年 南北戦争期の南部連合国・海軍司令部>

海軍長官「ティンときた!
61年の開戦以来、劣勢なわが南部連合海軍だが、世界の海軍国から強力な装甲艦を買い付けて一転攻勢だ!」

春香「えええ〜、難しいと思うんですけどねぇ・・・
ウチの南部連合、奴隷制全面容認って時点で完全に西ヨーロッパの世論敵に回してますし、
同じこと北部も考えてたら資金力的に勝てそうにないですし、何よりウチのデイヴィス大統領が陸軍偏重で、
海軍に全然興味も予算も回してくれないじゃないですかぁ!」

高木長官「むむむ・・・」

春香「何がむむむ、だ!
・・・でも、確かに、アメリカ有数の鉄と石炭の生産地リッチモンドの工場こそ大健闘してますけど、
それでも北部と比べると工業力に差がありすぎるし、なによりも北部はなりふり構わず、
ありとあらゆる工業力・資本を総動員して圧倒的な海軍力を作り上げつつありますしねぇ・・・」

長官「そうなのだよ、天海くん!
おかげで綿花・砂糖・タバコなどの産物の輸出が最大の歳入の我が南部連合は、
主要な貿易港を北部海軍に完全封鎖されて経済的にも大ピンチ!
最大の交通インフラであるミシシッピー河の輸送路まで脅かされつつあるのだ!
何とかしてこの封鎖を突破する海軍力を手に入れなければわが南部連合は・・・!」

春香「しょうがないですねぇ、確かに他に手は無さそうだし、比較的われわれに友好的なフランスに、
最新鋭の装甲艦建造を依頼してみましょうか、予算下りるか不安だけど・・・
ああ、安上がりで簡単に北軍の装甲艦をボッコボコにできる新兵器とかあればいいのになぁ・・・」


22 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:26:50
池袋晶葉「ふっふっふっ、やはり天才の私の出番のようだな!
この日のために準備した秘密兵器を今こそ公開しようではないか!」

春香「あ、もしもし、あの、自分の海軍司令部に、変態ロボオタクが入り込んでるんですけど、不法侵入ですよ、不法侵入!」

長官「待ちたまえ、天海くん!・・・よく見れば可愛い女の子じゃないか
ほう、なんといい面構えだ、ティンときた(主に股間が)!話を聞いてあげようじゃないか!」

晶葉「(ゾクッ)な、何故かいま寒気がしたが・・・まあいい
この天才少女の才能にひと目で気づくとは、なかなか優秀な長官ではないか、私の助手にしてやってもいいぞ!」

春香「まぁ、長官がそう言うなら・・・(ていうかロリメガネ属性に弱いのか、社長・・・)
で、秘密兵器っていうのは何?はっきり言って予算ないから高価な兵器なら却下ですよ」

晶葉「安心するがいい!この天才少女の私の才能に不可能はない!
ところで君、どんなに装甲を固めようが、船には必ず致命的な弱点があるのはわかるかね?」

春香「え、えっと・・・あ!船底かな?構造的にどうしても喫水線下も重装甲ってわけにはいかないもんね
しかも穴が空いちゃったらあっという間に浸水して沈没しちゃうし」

晶葉「その通り!そしてその無防備な船底に直接接触して大爆発、一撃で大型艦も轟沈できるのがこの機雷※なのだよ!」

(※海上に浮遊して、あるいは重石で水中に沈められていて、船の構造的弱点部である喫水線下で爆発する海の地雷。
その発想自体は古くからあったが、近代的機雷の発明は、18世紀末のアメリカ人フルトンによるものであった
その後もアメリカ人による機雷の開発は進み、特に南北戦争時に、物量に劣る南軍の手によって機雷は大幅に進化した
現に南北戦争での北軍の損害の大半が、仕掛けられた機雷によるものであり、
その後も安価だが強力な防御兵器として、機雷は現代まで小国を中心に使用され続けている
機雷のイメージ→http://www004.upp.so-net.ne.jp/weapon/images/mine2.jpg


23 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:27:27
春香「ふーむ、確かに機雷なら、要するに爆弾を作るのと同じ手間だから安上がりだよね、港の防御にはいいかも
・・・って、それ、フルトンさんとかコルトさんとかの発明で、ちっともあなたの発明じゃないじゃないですか!」

長官「高飛車ツインテメガネっ娘幼女に『この変態が!』って罵られたい!
(まぁ、待ちたまえ天海くん、この子はまだ言いたいことがあるようだぞ?)」

春香「もう本音がダダ漏れの社長は黙っててください
・・・で、機雷だけが提案内容じゃないの?」

晶葉「(き、気持ち悪いぞ、このオジさん)・・・う、うむ、君の言うとおり機雷は防御兵器としては優秀!
だが、近寄ってこない敵艦を積極的に攻撃撃沈できなければ、依然として海上封鎖は突破できない、だろう?」

春香「そうだね、港の内部への侵入を防ぐために機雷原を作ったり、敵の通りかかりそうな場所に仕掛けたり・・・
結局は受動的な兵器だから、積極的に敵艦攻撃に行くってのは無理だよね
こっそり敵艦の近くまで接近して機雷を仕掛けたりぶつけたりならともかく。
でも、当然敵もそういうことは警戒してるから、下手に小舟に爆弾積んで接近するのも自殺行為だしなぁ・・・」

晶葉「へっへーん!まあ、凡人の考えることは、所詮そんなものだろうな!
だが、安心したまえ!この天才である私の考えた秘密兵器は、そんな次元の代物じゃないぞ!
まずはこれを見てくれ」
(※→http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq39d09b.jpg

春香「・・・あ、これ、アメリカ独立戦争の時にブッシュネルさんが発明したタートル潜水艇じゃん!
アヒルボートに毛が生えた程度の潜水艇で、実際にはあんま役に立たなかったみたいだけど」

晶葉「何を言う!ブッシュネルは機雷発明の偉大なパイオニアの一人だぞ!
まあ、当然この私ほどではないからな、私はこのさらに上を行く発明をしたのだ!
それがこの、潜水艦だ!」
(※外見→http://livedoor.blogimg.jp/nappi11/imgs/4/6/466c33b2.jpg
内部図→http://de.academic.ru/pictures/dewiki/72/Hunley-1.jpg


24 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:28:04
晶葉「船体も蒸気船のボイラーの再利用で安価、そして円筒形の密閉されたこの潜水艦で、
水中を、しかも夜闇に紛れて敵艦に接近、触角に取り付けた機雷を敵艦の船底に仕掛けて爆破!
動力は100%人力だからな、音も立たずに隠密効果も抜群!どうだ、まいったか!」

春香「な、なるほど、これなら安く作れるし、強力な装甲艦に密かに近づいて一撃必殺できるかも!
・・・でも、待って、これ動力って人力でタービン回すんだよね?スピードは出るの?」

晶葉「ウグッ・・・それはその、あくまでも試算だが水上なら最高4ノット(※約7.4キロ)ほどだが・・・」

春香「遅っ!しかも水上で4ノットってことは、肝心の水中航行なら半分以下の可能性あるじゃん!」

長官「貴重なロリツインテメガネ幼女をそれ以上虐めることはこの私が許さないぞ、天海くん!
多少の遅さがなんだ!漕ぐ人間の根性で何とかなるだろうが!
まさに我が南部連合海軍が起死回生を狙える大発明!早速、総力で池袋くんを支援して開発に取り掛かりたまえ!!」


25 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:28:23
<その1年後、1864年>

春香「・・・あの〜、長官、フランスに発注してた最新鋭装甲艦『ストーンウォール』なんですが、
引き渡し直前で北部の妨害工作で契約ご破算になっちゃいました・・・」

長官「う、ううむ、戦局を逆転できる力を持った軍艦を手に入れられなかったか・・・
ところで一転攻勢できる新兵器といえば天海くん、潜水艦開発の方はどうなっているのかね!?
開発主任の池袋くんを不慮の事故で失ってしまったとはいえ、まだ開発は続いているのだろう?
・・・クソッ、貴重なツインテロリ高飛車天才幼女が・・・人類の損害だ・・・」

春香「・・・あー、えっと、事故の原因となった耐水性の方はどうにか改善して、
いちおういつでも出撃可能な状況なんですけど・・・やっぱ危険だし、開発やめません?」

長官「何を言っているんだね、天海くん!ツインテロリメガネっ娘の遺志を無駄にするなんて許さんぞ!
乗員の志願者たちはいっぱいいるから、天海くん、君が指揮をとりたまえ!
目標は、最重要拠点であるチャールストン港を封鎖する北軍艦隊だ!」


26 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:28:49
<1864年2月17日夜 チャールストン湾・潜水艦ハンレー>

春香「・・・やっぱり死ぬほど遅いなあ、この船・・・7人の男たちが人力タービンで動かすって、無理ありすぎでしょ・・・」

野獣乗員「ぬああああああん疲れたもおおおおおおおん!」
MUR乗員「チコリータ・・・(小声)」
KMR乗員「何で漕ぐ必要なんかあるんですか(正論)」

春香「あーもう、みんな黙って漕ぐ!敵艦も近いんだから、気づかれたら元も子もないでしょ!?
・・・って、視界悪っ!換気用兼見張り用のガラス張りの丸い出窓からじゃよく見えないよ
せめて潜望鏡みたいに望遠鏡がついてればいいのに・・・
ん?でも、警戒用の敵艦の灯のお陰でなんとなくわかる・・・かな?」

遠野乗員「(敵艦に)見られないすかね?」
野獣「大丈夫でしょ・・・まあ、多少はね?
ファッ!?前方すぐに光が!敵艦だってはっきりわかんだね、ほら見とけよ水戸家よ〜」

春香「うん、間違いない、敵の砲艦だ!気づかれてもいない!
レバーを倒して潜行開始!・・・いいですよ、このまま静かに接近して・・・
よしっ、敵艦脇にたどり着いた!触角先の機雷を船底に取り付けてっと・・・大急ぎで離脱ですよ離脱!」

(大轟音)

春香「やった!うまく行った!やったね、みんな!・・・あれ?」

遠野「う、羽毛・・・(パタッ)」
野獣「おい、大丈夫か、だいじょ・・・う・・・ぶ・・・クゥーン(バタッ)」
MUR「ポッチャマ・・・(ドサッ)」

春香「い、息が苦しい・・・そうか、こんな狭い密閉された空間で、すし詰めの男たちが重労働してたら、
あっという間に・・・酸欠に・・・なるよね・・・こんなの・・・設計時点で・・・気づいて・・・よ・・・う〜ん(パタっ)」

(※南軍の志願兵H.L.ハンレーの開発した潜水艦ハンレーは、チャールストン湾内で、
北軍の砲艦ヒューザトニック号を撃沈、軍艦を撃沈した史上初の潜水艦となった
だが、同時にハンレー号も消息不明となり、無傷な船体と乗員たちの白骨死体が引き上げられたのは2000年のことである
結局、この新兵器は南軍に勝利をもたらすことは出来なかったが、強力強大な軍艦を一撃必殺で仕留める海の殺し屋として、
潜水艦はその後の世界で猛威を奮い続けることになったのである

ハンレー復元計画の公式サイト→http://www.hunley.org/


27 : 名無しさん :2015/07/07(火) 19:29:11
春香「・・・とまあ、そんな感じで、強力な重装甲艦が台頭していく一方で、
これを爆弾で一撃必殺する兵器も同時に開発されていたってわけ
・・・さすがに炸裂弾じゃ無理だろうけどね」

千早「へぇ・・・じゃあ、漫画らしい誇張はあったのかもしれないけれど、
この煉獄の轟沈にもそういう深い時代背景があったってことなのね
圧倒的な火力と資金力を持つ相手であっても、弱者にも一撃必殺のチャンスがあるっていう作者の意図が込められていると」

春香「いや、あの人はきっと何にも考えてなかったと思うよ?(辛辣)」

小鳥「ま、この十時艦隊には今月の給料の五分の三をつぎ込んだんだ
もっと驚いてくれなきゃハリがねぇがな・・・
う、うふふふふ・・・給料日までどうやって生活しよう・・・」

春香「うん、あの人もきっと何にも考えてなかったんだね!(ニッコリ)」

(※参考までに、甲鉄艦の、明治政府の購入金額は60万ドル=約60万円とされている
剣心の世界は、その十年後の設定だが、当時の日本政府の予算は約5000〜6000万円であった
国家予算の50分の1の財力を持ってた計算のCCO様、もっと有効なお金の使い方は無かったんですかね・・・
ていうか、どこからそんな巨額の資金を・・・ふにゃ〜んもうCCO、お金返して〜や!)


28 : 名無しさん :2015/07/07(火) 20:35:07
いいゾ〜これ


29 : 名無しさん :2015/07/09(木) 00:47:59
いま自分で見返したら、律子の小鳥さんの呼び方は「音無さん」じゃなくて、
小鳥さんでした

つつしんで訂正いたします・・・


30 : 名無しさん :2015/07/10(金) 23:00:39
ネタスレあげますん


31 : 名無しさん :2015/07/10(金) 23:02:14
毎度毎度ネタの仕込みにどれだけ時間かけてるんだろう…
すごい(小並感)


32 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:55:00
【第三話】「7月15日は児童ポルノ単純所持が罰せられる日です、千早ちゃん!」

千早「・・・え、いきなり何言ってるの?」
春香「いや、なんか需要ある話題かなぁと思って・・・」
千早「需要って、どこの需要よ・・・」

社長「そうか、うーん、改正児ポ法※の施行日近いのか、うーん・・・」
赤羽根P「いや、心配することは何もないですよ、ウチは
もともと児童ポルノと児童買春を禁止する法律はもともとありましたけど、
今回の改正の主要部分は、『単純所持者の処罰』と『被害児童の保護の明確化』ですから」

社長「う、うーむ、た、確かに我が765プロは、
『衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、ことさらに児童の性的な部位
(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、
かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの』
なんて撮影させるような仕事はさせたりしてないから問題ない・・・と思う・・・」

赤羽根P「そうでしょ?・・・いや、そうです、よね・・・?(あれ、なんで不安な気持ちになるんだろう?)」

社長「ま、まあその辺は、1999年の法律成立以来、わりとグレーゾーンで不処罰な範囲が広いから・・・
それより、私のハードディスクの中身は今から消去すれば間に合うだろうか・・・
やっぱり児童ポルノに詳しい弁護士に相談すべきだろうか?」
赤羽根P「・・・いや、それはいろんな意味でやめて下さい・・・」

(※正式には『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律』
児童の保護を目的とし、児童買春および児童ポルノの取り締まりと、被害児童の保護を内容としている
今回の改正では、いわゆる単純所持の加罰化が争点となっているが、児童ポルノの定義を定めた
上述の2条3項3号の内容が曖昧であり、どう考えてもアウトだろというチャイドルDVDが普通に出回っているあたり、
司法当局の裁量判断次第の今回の改正内容も、今後どう運用されるかは不透明である
法全文→http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html


33 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:55:21
もう始まってる!


34 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:55:23
千早「まあ、なんでも、いいですけど
どうなのかしら、私にはすごくまともな法律で、何の問題もない気がするのだけれど」

春香「うーん、難しいところだよね
被害児童の保護をしましょう!って法律の趣旨は正しいしもっともなんだけど、
同時に表現の自由に対する萎縮効果、やべぇこんな表現したら規制されるからやめよう・・・って流れが加速する危険とか、
当局の裁量判断な部分が多いから不当な利権構造もありえるかもって危険とかもあるしね」

千早「そうね・・・そう考えたら、確かに表現の幅が狭まって文化自体が縮小してっちゃうかもって恐れもある訳ね」

春香「と言いつつ、日本なんかよりもずっと反発の強い中で、名画として知られている『タクシードライバー』の、
子役のジョディ・フォスターの少女売春シーンだとか、『レオン』の描写なんかを撮った映画人たちの覚悟ってすごいよ、ホント」

千早「でも、日本でいまこんなに問題視されるようになったってことは、意外ね
こういう運動って、世界でも新しい出来事なのかしら、昔からある問題のような気がするのだけれど・・・」

春香「へへ、そうなんだよね〜
実は、19世紀に、本格的に少女売春を社会問題として正面から取り上げるようになったキッカケってのがまた、面白い事件でね・・・」


35 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:55:48
<1885年・大英帝国 ロンドン 上院議会公聴会>

川島瑞樹議長「・・・片桐早苗警視、あなたの管轄内には多くの子供の売春婦がいるそうですね?」
早苗「はい、少なくとも12歳未満の売春を常習的に行っている子供たちがロンドンの貧民街に、信じられないほど数多く存在しています」

瑞樹「わからないわ・・・その子達にだって両親はいるのでしょう?」
早苗「はい、多くは両親と同居しているようです
が、その親たちに売春をやめさせるように指導しましても、『自分たちも働いている間に子供が何をしても勝手だ』
『そんなに文句をいうのなら金をよこせ』などと無茶なことばかり言うだけでして・・・」

瑞樹「酷い・・・ということは、その、両親たちが彼女たちに売春を強いているのかしら?」

早苗「そういうケースも多いです
でも、イーストエンド貧民街にも子供たちにも出来る低賃金の労働がいろいろあるのですが・・・
なにせ売春宿や悪党のたまり場が混在しているスラム街ですので、見た目は美しいシルクの服を来て、
金回りの良さそうな売春婦たちも多い環境でして、その影響でラクに大金を稼げると子供自ら志願していく流れも多いのが実情です」

瑞樹「でも、そんなに儲かるものなのかしら?」
早苗「私の知る範囲では、少女1人あたり4シリング、2人なら6シリングが相場でしょうか?
(※物価換算で1シリングは、概算で現在の2400円程度。
ちなみにメイドさんの年収が15ポンド、つまり年収約72万円という時代である
なお男性熟練工の平均年収は100ポンド前後、貴族階級の平均年収は1万ポンドと、貧富の差は隔絶していた)」


36 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:56:25
瑞樹「確かに、2回のその・・・アレするだけで、まともにメイド奉公する場合の月収分貰えるのだものね、わかるわ・・・」

早苗「13歳でギャングの情婦も兼ねていて、高価な装身具をいくつも身につけている少女の例もありました
・・・でも、そんな生活は結局は見た目だけの華やかさだけで、実際にはほとんどが無駄な浪費の果てに、
質の劣悪な麻薬や密造酒に溺れ、様々な病にかかり、あるいは日常的な殺人で、惨めな死を遂げているんです・・・」

(※19世紀イギリスは、産業革命の成功と帝国主義の台頭により、まさに世界の富の集中する空前の栄華を誇った
だが、一部の富裕階級が散財と享楽にふける一方、大多数の成功に乗り遅れた下層階級の人々、
それに夢とチャンスを求めてロンドンに殺到した膨大なアイルランド・東ヨーロッパなどからの移民たちは、
スラム街の劣悪すぎる地獄のような環境の中であがき、そして死んでいった)

ウィリアム・ステッド「何たることだ!まさに悪魔の所業ではないか!断じて許せんぞ!」
春香「ステッドさん!シーッ!許可を得た新聞記者とはいえ、議場の傍聴席で大声上げないでください!
・・・あ、みなさんすみません、すぐこの人連れて出ていきますんで、へへーっ・・・」

ステッド「若い少女たちが!神の神聖なる祝福を受けるまで純潔を保つべき処女たちが!
神の名のもとに、断じてこの悪魔の作り上げた地獄に戦いを挑まねばならない!」

春香「(うへぇ、このオッサン、狂信者の上に処女廚なのか・・・)」


37 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:56:48
ステッド「悪魔がとてつもなく強大で、立ち向かうものがいないならば、俺が駆けつけて悪魔に平手打ちをくれてやる!
もしも神が、その悪魔を叩きのめす使命を果たすべきジャーナリストをお求めならば、
この私、<ガゼット紙>記者、ウィリアム・トーマス・ステッド以上に相応しい人間は存在しないのだ!」

春香「あ〜、えっと、編集主任?部下として一応お聞きしますけど・・・
ジャーナリストとして、そのぅ、少女売春とかいう悪魔?と、どうやって戦うんですかね?」

ステッド「む・・・確かに、我が信念は神の意に叶うものだが、この悪魔と戦うには、どうすれば拳を叩きつけてやれるのか・・・」

春香「でも、どうなんですかね?
みんな薄々、ものすごく酷いことが日々、あのイーストエンドのスラム街で起きてることは知ってると思うんですけど
私たち記者や警察以外、実際にあの地獄を見ていない人間にはなかなか理解してもらえないだろうなぁと・・・」

ステッド「・・・待てよ、それだ!リアリズムだ!
潜入取材による現実の、具体的で詳細なルポライト!それで少女売春のリアリズムを大衆に叩きつけてやれば!」

春香「えええ・・・って言っても、当事者は犯罪犯してるんですから、絶対証言もしないし取材にも応じっこないですよ!」

ステッド「確かにそうだ、だがリアリズムを再現するならば必ずしも・・・再現?
・・・そう、時には計略も必要だ、全ては神の正義のためだ・・・やむを得ない・・・」

春香「うわぁ、絶対この人、良くないこと企んでるよ、しかも100%善意で・・・」


38 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:57:10
<イーストエンドの売春宿>

ステッド「・・・という訳で、ちひろさん、君は凄腕の少女売春斡旋人だった、そうだね?」
千川ちひろ「まぁ・・・そういうことになりますかね?・・・もう足は洗いましたけど」

ステッド「そこでだ!私は、処女の人身売買という許しがたい悪魔の所業がこの街で行われていることを知っている!
だが、その実態を知り、人々に伝えるためにはリアリズム!ディティールが必要なのだよ!」

春香「あー、要するにですね、救世軍(※熱心なクリスチャンの救貧慈善団体)に生活保護を求めてきた少女がいまして・・・
その子を、あなたがかつてのように街からスカウトしてきた『商品』として、
流通していく過程を追跡取材することで、少女買春の過程を再現し、限りなく真実に近いルポライトを書きたいと・・・」

ちひろ「ふぅん・・・そういうことですか
まあ、それならかつてのツテを頼って協力できますけど・・・こっちも危ない橋を渡るんですから・・・お分かりですね?」

ステッド「ああ、当然高額の報酬を支払おう!
だが忘れないでくれたまえ、この神の使命に参加することができる以上の報酬は無いのだということをな!」

春香「・・・あのぅ、やっぱやめませんか?
女の子の両親にも謝礼は払いましたけど、処女売春ドキュメントの実験台になってくれなんて話、ステッドさんしてないでしょ?
これ、どう見ても誘拐ですよ、誘拐!犯罪告発する側が犯罪犯すとか・・・」

ステッド「神よ、感謝致します、あなたの忠実な下僕として、あなたの聖戦を始める機会をお与えくださったことに・・・」
春香「あ、ダメだこりゃ、この人話聞いてくれそうにないや・・・」


39 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:57:32
『ペルメル・ガゼット紙1885年7月6日付・特集記事<現代のバビロンにおける少女の生贄>』

「・・・かくしてこの少女売春斡旋業者は、わずか5ポンド(※約26万円)でこの13歳の処女の所有権を買い取った。
まずなすべきことは彼女の処女を確認することであり、少女は産婆のもとに連れて行かれた。

『この子が処女であることは保証しますが、あまりに未成熟なため、とてつもない苦痛を味わうことになるでしょう。
その為に、このクロロフォルムを買うことをお勧めいたします・・・』

処女の確認とクロロフォルム代に2ポンドが支払われたが、これが産婆への口止め料を含むことは疑いようがなかった。
・・・やがて斡旋業者にクロロフォルムを与えられた少女はすぐに深い眠りに落ち、
悪名高いリージェントストリートの一室へと運び込まれた。

・・・やがて、処女の購入者が部屋を訪れ、しばらくの沈黙の後、絶望的な、羊の断末魔を思わせる悲痛な叫びが上がった。

「ここはどこなの!?おうちに帰りたい!おうちに帰して!」

そして再び、沈黙が訪れた。この事件は本当に起こったことだと私は断言できる。
だが、このような事件はロンドンのあちこちで毎晩何件も起きているのだ。
男たちはこの事実に目をつむっているが、暗闇に投げ込まれた子供たちの悲しみは、深い深い呪いとなるだろう・・・」


40 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:57:59
春香「ステッドさん!あの記事、大反響ですよ!
でも、あの後、何も知らなかったみりあちゃんには謝ったし、一切危害を加えていないことは医者に説明させましたけど、
みりあちゃんのご両親カンカンですよ!訴訟も辞さないって・・・」

ステッド「下らん・・・そんなことよりも、この地獄の所業が、広く大英帝国全土の人々に知れ渡り、
彼らに神の啓蒙と、悪魔への聖戦に参加するキッカケを与えたことの意味を考えたまえ!
そら、大通りの大衆の声を聞いてみたまえ!」

大衆「こんな酷いことが同じロンドンで毎晩起きてるだなんて!許せない!」
大衆「みりあちゃんの一番搾りうんこ食べたい!」
大衆「警察は少女買春を徹底して取り締まれ!あと、マッチ売りの少女ってそういう意味だったんだね・・・」
大衆「ロリコンどもに死を!あと、赤ずきんちゃんを丸呑みしたい」

春香「・・・む、むぅ・・・
た、確かに、政治家も巻き込んで一大社会現象になりつつありますし、
児童買春と人身売買の撲滅と、合法的な性交年齢を13歳から16歳に引き上げる法改正運動が全土で盛り上がってますけど・・・」

ステッド「さもあらん!見たまえ、すでに白人児童買春・人身売買撲滅をもとめる署名はすでに34万人を超えるのだ!
神の教えに従い、かつ敬虔なクリスチャン大衆の絶大な支持を集めたのだ、何を恐ることがあろうか!」

警官「スコットランドヤードだ!(レストレード板倉)
ステッド、児童誘拐・監禁の容疑で逮捕する!ミニカーやるからついてこい!」
ステッド「ハーレルーヤ!官憲め、殉教は望むところだ!好きにするがいい!」

(※ウィリアム・トーマス・ステッドさん→http://www.jikanryoko.com/images/135.jpg
ちなみに、当時の少女・幼女売春婦たちの写真も残っているが、普通に美少女も多くてビックリする)


41 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:58:58
春香「・・・という訳で誘拐・監禁の罪で、たった数ヶ月の禁固刑にステッドさんは服することになったんだけど、
熱狂的な世論の支持もあって監獄でも特権認められ放題で、『我が生涯で、最も幸福な休暇期間だった』なんて言うくらい快適だったらしいね
そんで、釈放後もわざと囚人服のままロンドン市内をパレードしたんだとか」

千早「・・・完全なでっちあげ記事だったけれど、世論は彼を英雄だと認めた、ってことなの?」

春香「そういう事なんだろうね、でっち上げ記事でも世論を動かし、政府をも動かしちゃったっていう一つの例だね
この時代にはそういう例も珍しくもないんだけどさぁ、目的は正しかったとは言え、これは流石にドン引きだよね」

千早「たとえ目的が完全に正しかったとしても、その手段が・・・って悩みは、
今に始まったことじゃないのね・・・」

春香「そだね。たぶん、大衆民主主義の永遠のテーマなんだろうね・・・
たとえそれが正義で正しい目的のように思えても、一度立ち止まって、
本当にそれが正しい行いなのかを自分に問いかけてみることって大事なんだと思う」

小鳥「・・・やった!二次は規制に関係ないピヨ!
よ〜し、早速、桃太郎×一寸法師の濃厚な絡み絵をピクシブに投稿しよっと!」

千早「・・・うん、一度立ち止まって考えても、アレはアウトね」


42 : 名無しさん :2015/07/12(日) 22:59:21
ぶりっちょの削除方針が決まるまで、しばらくこの方法で続けます
読みにくくてサーセン・・・

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32


43 : 名無しさん :2015/07/12(日) 23:23:49
やっぱりみりあちゃんじゃないか!(歓喜)
大衆にろくな奴いなくて草生える


44 : 名無しさん :2015/07/12(日) 23:29:25
おーおーおーこんなとこに居たのかよお前よー
ちんぽびんびんで応援しています


45 : 名無しさん :2015/07/13(月) 14:06:56
19世紀のロンドンとかいうロリコン天国
移住したい…
なお階級


46 : 名無しさん :2015/07/18(土) 15:02:13
ネタスレ保守で


47 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:26:32
【第四話】春香「スピッツのロビンソンの題名の元ネタって知ってる、千早ちゃん?」

千早「え?ええと、『ロビンソン』って、『ル〜ララ 宇宙の風に乗る〜♪』っていうサビの高音の伸びが素晴らしい歌よね?
でも、題名の元ネタ・・・やっぱり、ロビンソンクルーソーなのかしら?
『誰も触れない二人だけの国』って歌詞もあるし・・・」

春香「ブー!実は作曲直前に行ったタイのロビンソン百貨店の名前を適当に付けただけで、歌詞とか全然関係ありません!
・・・そういえば、『ロビンソン』の歌詞って、千早ちゃんの『蒼い鳥』とか『ALCADIA』に似てるよね〜
まあ、千早ちゃんの場合は、ひとりで勝手に飛んでっちゃうんだけどさ」

(※スピッツ『ロビンソン』https://www.youtube.com/watch?v=51CH3dPaWXc

亜美「♪あた〜らしい新作(アイマス2)は なぜか切ない展開で〜♪
プロデュースの道を毎回メールで〜♪逃げる僕を追いつ〜めた〜♪」

真美「♪思い出ボムと〜大げさなエピソードを疲れた肩にぶら下げて〜しかめつら愛が重いです〜♪」

千早「(イラッ)・・・で、春香がいつも通りなのはともかく、今日は亜美真美も一緒なのね?学校は?」

亜美「んっふっふ〜!実は中学生はもう夏休みなのだよ、千早おねえちゃん!」
真美「つまり、今の真美たちは最強なんだよね〜!
・・・ってチョーシに乗って事務所の外で遊びまくってたら律っちゃんに捕まって『とっとと宿題終わらせなさ〜い!』って・・・」

千早「それは律子の言うことが正しい・・・けど、何で春香と一緒に私をからかいに来てるわけ?」

亜美「いや〜、とりあえず律っちゃんに読書感想文のための読む本を決めろって言われちゃってさ〜
亜美たち良くわかんないから『じゃあ律っちゃんのオススメって何さ〜』って聞いたら・・・」

真美「あの律っちゃんが、ミョーに目を輝かしてシューエー社のコバルトシリーズ?
とかいうベッタベタに甘そうな小説、いっぱい持ち出してきてさぁ・・・
なんかライトノベルとかとも違う感じの、とにかくメロメロでキューンな感じの恋愛モノみたいなのばっか!」
(※地味だが、秋月律子には少女小説の隠れ大ファンという公式設定がある)


48 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:26:59
亜美「亜美たちは、どうせ読むならもっとこう、肉湧き血踊るって感じのコーフン間違いなしの大冒険が読みたいんだよね→
んで、ダッシュで逃げてたら何故かはるるんに捕まってたって訳」

千早「(肉湧き血踊る・・・?)まあ律子の趣味はともかく、春香の趣味も相当だと思うのだけれど?」

春香「失礼な!そこは春香さんもちゃんとわかってますよ!
いきなり『モンテ・クリスト伯』や『イーリアス・オデュッセイア』全巻読め!とか言わないって
そこでこのエンブリー・・・じゃなかった、『ロビンソン漂流記※』!」

(※言わずと知れたロビンソン・クルーソーの物語で原題は「The Life and Strange Surprising Adventures of Robinson Crusoe」
1719年にイギリスのダニエル・デフォーにより書かれた小説であり、実は続編も2作あったりする)

千早「・・・春香にしては意外に無難な作品を選んできたわね、いいと思うけれど・・・」

亜美「ロビンソン・クルーソーは知ってる!あれでしょ?無人島にヒョーリューして、よゐこ浜口みたいな生活する話!」
真美「ちがうよ亜美、野生動物のウンコを絞って水を飲んだり、虫をキチョーなタンパク質とか言って食べる話っしょ→」
亜美「いやいや、家を作ってて、『かなりまな板だよ、これ!』って・・・」

千早「・・・(イラッ)あなたたち、ひょっとして知っててとぼけてるんじゃない?」

春香「でも、グリルスさんはともかく、水も植物もない地獄の鳥島※でサバイバルしたジョン万次郎さんたちに比べたらさ、
クルーソーは初期装備で銃も道具も一通り持ってて、資源も水も動植物もなんでもある上に天候も良い天国みたいな生活環境でスタートとか、
ヌルゲーで人生ベリーイージーモードにも程があるよね?」

真美「マジかよロビやんサイテーだな!やっぱりジョン万次郎さんがナンバーワン!」

(※現在の東京都鳥島は、江戸時代に多くの船乗りが漂着し、その多くが死んでいった不毛の無人島
火山岩に覆われた孤島のために水なし植物なし、大量のアホウドリの群生地であることだけが唯一の救いであった
漂着物のみで作った小舟での自力の生還に成功した船乗りたちの奇跡の物語は、吉村昭『漂流』に詳しい
こんな感じ→http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/325_Izu-Torishima/325_picture1.jpg


49 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:27:37
千早「たしかロビンソン・クルーソーって、モデルになった人物がいたんじゃなかったかしら?」

春香「うん、18世紀初めに、チリの沖合のファン・フェルナンデス諸島に、私刑として置き去りにされた海賊、
アレクサンダー・セルカークさんの体験談がモデルになってるって言われている
住んでた島も、今じゃ正式に『ロビンソンクルーソー島』って名前になってるよ」
(※こんな感じ→https://www.youtube.com/watch?v=kCgITT5QTJs
鳥島とは大違いの、まさに南海の楽園みたいな環境である)

亜美「えっ、ロビやん海賊だったの!?ちょーかっけー!!」
春香「まあ、小説の方では主人公のロビンソン・クルーソーは、元貿易商でブラジルの砂糖農園主ってことになってるけどね
遭難までの経緯なんかは、作者のデフォーの波乱万丈の前半生がモチーフになってるっぽいんだけど、
そもそもそのデフォー自身が元海賊だったんじゃね?って疑惑もあったりするんだ」

千早「海賊があの小説を書いたの!?ホントに!?」

春香「まぁ、一説に過ぎないんだけどね
漂流前のクルーソーがアフリカのイスラム教徒の首長の奴隷にされて脱出する部分があるんだけどさ
これ、18世紀の海賊たちの行業を記録した『海賊列伝』っていう当時の本の、
タンザニア辺りの黒人国の奴隷になって脱出した人物のマガドクサ漂流記にそっくりなんだよ
んで、この海賊列伝の本当の著者はデフォーだろって説が有力なんだけど、
同時に内容が海賊の実情に詳しすぎるから著者は元海賊説が有力、つまりデフォー=海賊列伝の著者=元海賊って公式が成り立つ、と」

真美「元海賊が書いたリアルな無人島サバイバル小説・・・オラ、なんだかワクワクしてきたぞ!」
亜美「んっふっふ〜、さすがはるるん、ノセるのが上手いですなぁ〜!ホントに読みたくなってきた!」


50 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:28:19
春香「でしょ、でしょ?
でも、デフォーさんの人生の面白さはそんなもんじゃないんだな、実は!
極貧の境遇から裸一貫でのし上がり、事業家として大成功したかと思えば反乱に参加して破産したり!
王政派ジャーナリストのフリをしながら、偽名で過激派のイデオローグとして痛烈に王制批判して何度も投獄されたり!
さらには革命派の諜報機関のリーダーとして、スコットランドを革命派に取り込んじゃう大手柄もたてちゃう!
そして、最後には名誉革命に成功後のイギリス政府の大蔵省高官にまで上り詰めるとか、
ぶっちゃけロビンソン・クルーソーよりもずっと波乱万丈の人生だよね」

千早「元海賊疑惑も霞むような派手な人生ね・・・
というよりも、それだけ行動力と度胸のある人なら、海賊やっててもおかしくないかも」

春香「んで、権力闘争に敗れて政界から引退したあとに、『ロビンソン漂流記』『モル・フランダース』などの作品を書いて作家として大成功したと」

千早「企業経営でもジャーナリストでも革命政治家でも成功した人だものね、
ネタになるような情報や経験の質や量も、人の感情を動かす文章力もそうだけど、
何がウケるか見極めるプロデュース力もずば抜けていたからこその成功だったんでしょうね」

亜美「・・・よし、決めた!
亜美たちは、チョーかっけーデフォー兄貴の伝記を読んで読書感想文書くよ、はるるん!」
真美「デフォー最高や!楽園でヌクヌク暮らしながら愚痴ばっか言ってたロビンソンなんていらんかったんや!」


51 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:28:44
春香「いやいやいや、それはちょい厳しいって!
ひとりの人物の波乱万丈の一代記をたくさん書いたデフォーさんだけど、自伝は書いてないんだよね」

千早「でも、それだけドラマティックな人生を送った人なんだから、伝記もいっぱいありそうだけれど」

春香「うーん、あることはあるんだけどねぇ・・・
『エーミール』で最高の教科書と絶賛したルソーはもちろん、マルクスをはじめてする多くの経済学者たちが、
ロビンソン漂流記を自由主義経済学と資本主義経済研究の題材としてやたらと分析しまくっててさ、
そういう経済学的な視点からのデフォー論は多いんだけどね・・・」

千早「確かに、すごく原始的な段階から生産構造を作り、社会を作りって話だものね
経済とか社会とか政治とかと個人のつながりを説明するのに最適なモデルケースなのかも」

春香「それにさぁ、『海賊列伝』でのリバタリア共和国のエピソードなんかもそうだけど、
随所にプロテスタンティズムや思想的な主張を押し込んできたりとか説教臭いのが悪いのか、
何というか日本の文学者さんの受けを悪いんだよ、漱石なんかも酷評してるし」

亜美「ええ〜、何でよ、はるるん!そこまで煽っといてデフォー兄貴の伝記はないの〜!?
一方的に近代兵器で野蛮人虐殺する畜生ロビカスの話よりも、全ツッパでアウトローなデフォー兄貴の本が読みたいよ→」

真美「真美たち、ロビカスのヌクヌク楽園生活とか、信仰に目覚めて真面目くんな生き様とか、そーいうのもう興味ないんだよね
やっぱデフォーニキみたいに、ハードボイルドに生きてえよなぁ・・・」


52 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:29:11
千早「・・・いや、ていうか絶対、二人ともロビンソン漂流記読んだことあるでしょ」
春香「・・・あ、確かに、妙にツッコミが的確というか、内容を把握してるというか・・・」

亜美「な、なんのことかな?
別に律っちゃんから逃げるついでにはるるんと千早おねえちゃんからかって暇潰そうとか思ってないよ?」

真美「そうそう!真美たち、ゴネまくって逃げ切まくって時間切れまで持ち込んで、
最終的にいおりんに写させて貰えばいーやとか計画してないって!」

春香「・・・そっか、じゃあエドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』全10巻でも大丈夫そうだね!(ニッコリ)」

律子「・・・み、見つけたわよ二人とも!
本当はコバルトシリーズ珠玉の50冊を読んでもらおうと思ったけど、妥協するわ!
小野不由美先生の『十二国記』、今まで出ている11巻分を観念して読みなさーい!
絶対面白いから!あと、アニメ版も全巻揃えてきたから!絶対にハマるから!
小野不由美先生は少女小説とかライトノベルとか言う次元を超えた大作家さんだから!
・・・あ、何だったら『屍鬼』も上中下巻あるし、アニメ版漫画版も・・・」

亜美「う、うわぁ、前門の歴史オタに後門のビリーバー・・・ゼッタイゼツメーだよ!」
真美「うへぇ〜、助けて千早おねえちゃ〜ん!
はるるんと律っちゃんが、両サイドから本の山でブックプレスしてくるよ〜、
このままじゃ真美たちペッタンコの、かなりまな板にされちゃうよ〜!」

千早「・・・うん、ロビンソン漂流記で学んだサバイバル術で、サバイブしたらいいんじゃないかしら?(ニッコリ)」


53 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:30:13
ロビンソンクルーソー時代のブラジルのカオスっぷりを書くつもりがどうしてこうなった・・・

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47


54 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:50:14
はぇそんな凄い人がいたんすねぇ…たまげたなあ…
それと律っちゃんの少女小説好き設定なんて初めて知ったゾ(池沼)


55 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:52:53
毎度毎度すごい力の入れよう…
次もお待ちしてます!


56 : 名無しさん :2015/07/19(日) 21:59:54
初めて見たけど、これ凄いな・・・
歴史に関する膨大な知識がないととても書けないし、それも多種多様な分野に渡ってる

本にして出したら絶対売れる(確信)


57 : 名無しさん :2015/07/20(月) 00:31:39
これが某所の過去ログ倉庫には百作以上埋まってるという事実

千早とか春香で検索してみ?
ビビるで


58 : 名無しさん :2015/07/20(月) 00:35:26
もちろん一人でやってるんだよね・・・?
継続性といい文才といい知識といい、世に出ていい人材なのでは


59 : 名無しさん :2015/07/24(金) 02:02:42
この人はじめ、ぶりっちょは博識兄貴多すぎぃ!(歓喜)


60 : 名無しさん :2015/07/24(金) 02:04:15
>>59
今日というか昨日の夜辺りから
博識兄貴が現れまくってて草


61 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:09:10
【第五話】春香「エンジニアなんだからFAXも直せるでしょ、千早ちゃん!?」

千早「いや、私、別にエンジニアじゃないし・・・いきなり何なのよ、もう」

春香「ほら、スマホとかPCの広告でウザイくらいよく見かけるじゃん、一度言ってみたかったんだよね〜!
あと、あの広告のモデルさん、日笠に似てるな〜って思ってたけど、正面から見たら全然似てなかったよ!」
千早「そ、そう・・・(日笠、って誰よ・・・)」

(※これ→https://www.pakutaso.com/20141234343fax.html
ちなみにモデルさんの名前はLalaさん)

春香「・・・んで、新曲についての要望書をFAXで送るつもりだったんだけど、そのFAXが壊れて動かない、と
うーん、千早ちゃん機械音痴だしなぁ、ホントに壊れてるのぉ〜?下手にいじって壊したんじゃないの〜?」

千早「なっ!ち、違うから!ちゃんと説明書読んだ通り操作しても、ちゃんと動いてくれないだけだから!
だいたい音痴って春香も・・・」

春香「でも困ったね、こういうのに強い律っちゃんやプロデューサーさんいないし
あとは事務所にいる頼りになりそうな人は・・・」

真「・・・アジャコング!」
雪歩「チョコボール向井!」
真「あっ、と・・・えーと、星誕期!」
雪歩「ミツボシカレー!」
真「そ、そういうのもアリなの!?・・・え、じゃ、じゃあ、脚立!」
雪歩「アイアンマン五十三次でのタクシーの運転手!」

千早「・・・あの二人はさっきから一体何を言い合ってるのかしら・・・(ドン引き)」
春香「ああ、DDTのアイアンマンヘビーメタル級選手権※の歴代王者山手線ゲームだね
LiLiCoさんも最近まで王者だったし、頑張れば千早ちゃんも、南キャン山ちゃんの次くらいにベルト取れる可能性あるよ?
いずれにせよ二人ともFAXとか機械関係に疎そうだし他には・・・」

(※文化系プロレス団体DDTのタイトルの一つ。
24時間365日いついかなる時も防衛しなければならない過酷なベルトである
というか、非常にいい加減なルールのため、その場にあった無機物とかも簡単に王者になれる
ちなみに現在の第1020代王者はアジャコング
カオスすぎる変遷の歴史→http://extremeparty.heteml.jp/title.html


62 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:09:33
小鳥「・・・いえ、ですから当方といたしましても最善の努力をしておりましてですね、その点を是非ご理解いただきたいと!」

千早「音無さん電話中かしら?・・・珍しく真面目に仕事してるのね・・・(ボソッ)」
春香「ん〜、とりあえず小鳥さんなら、事務員だからFAXも直せるでしょ!(適当)
とりあえず小鳥さんの電話が終わるの待ってよっか」

千早「それにしても、FAXとかコピー機とか、便利さに慣れすぎてるからかしら
いざ使えなくなってみないと、すごい便利な技術なんだなって、なかなか気づかないものね」
春香「そうだね〜やっぱ、印刷技術とか通信技術を発明してくれた人たちに感謝しないとね」

千早「印刷って言うと、やっぱりグーテンベルク、で良かったわよね?」
春香「ん?んんん・・・どうかな、そのへん実は色々とビミョーと言いますか、問題が複雑なんだよね〜」

<1040年代・中国 宋帝国首都 開封>

春香「あ、はじめまして、えーと本日、えー素敵な印刷所の仕事をさせていただきます、バイトの天海です」
畢昇「あ〜、よろしくお願いさしすせそ」

春香「えっと、今まで科挙受験の学費稼ぎにバイトに木版印刷※の仕事してたんですけど
畢昇さんが、活版印刷?とかいう新しい印刷術を編み出したって聞いて来たんですが」
(※木版画の要領で、木の板に文章を彫刻して墨を塗り、上から紙を擦り付けて印刷する技術
中国では唐代以前から存在していたとされ、この発展系がエジソンのガリ版擦り=謄写版技術である
こんな感じ→https://rnavi.ndl.go.jp/asia/img/bulletin8_3_2_image005.jpg


63 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:11:29
畢昇「ああ、天海くん木版やってたん?あ〜、疲れたでしょ、体力勝負やしな」
春香「そうなんですよ〜!本一冊どころか一ページ分でも彫刻するのにすごい疲れるのに、ちょっとミスればまた一からだし!」

畢昇「ほぉ〜そうか、じゃあ活版印刷は初めてなん?ま、ええわ、じゃあ、一緒に活版印刷チラシ、作ろうねぇ〜(ネットリ)
この時期は仕事も多いしな、是非、いい仕事期待してます!」

春香「・・・え〜っと、作業なんですけど、
・銅銭くらいの大きさの粘土のパースに字を彫って焼き固めて活字を作る
→・ページの大きさのワクで囲まれた鉄板に接着剤(松脂や蝋など)を塗る
→・この上に指定の文章通りに活字をギッチリ隙間なく並べて活版にする
→・最後に表面が平になるようにヤスリかけてから、墨を塗り、紙を重ねて印刷!
って感じでいいんですか?」

畢昇「おお〜、(飲み込みが)エエやん、気に入ったわ!
じゃ、さっそく印刷するチラシの活版の活字組むんで、校正お願いします」
春香「チラシ作りですかぁ〜、この時期に仕事多いって言ってたけど、どんな内容なのかな?
ええっと、
『葡萄の美酒夜光の杯 涼州渡りの葡萄酒の新酒、房女礼を貴方と飲みたい〜柊志乃酒店〜』
『未成年の飲酒は律違反です、たぶん!むしろ子供よりも、あたしに飲ませなさい〜開封巡検隊長・片桐早苗〜』
・・・なんだかお酒関係のチラシばっかりですね、畢昇さん」

畢昇「明日はね・・・あのー、俺の・・・すごい大切な、中秋節の日なんで(※旧暦8月15日、新暦では9〜10月)
どの酒店でも一斉に今年の新酒を売り出す日やしな、(仕事終わって)よかったらちょっと、お酒でも飲んでください」
春香「え!?新酒ですか!未成年だけど、この時代の中国だといいのかも
じゃあ、ちょっとお仕事頑張っちゃおうかな?」


64 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:12:07
神崎蘭子「闇に飲まれよ!(お疲れ様です!)
我が下僕よ、闇の福音はすでに完遂されしか?(あの、お願いしてた本の印刷、終わりましたでしょうか?)」

畢昇「あれ、お客さん?って、チッ、お前か!
ああ、お前ホンマ使えんわ。あーつっかえ!詩人だかなんだか知らんけど、ほとんど使わないような漢字ばっか使いやがって
常用する活字は何十本も用意してあるから仕事も楽なんやけど、こんな特殊な漢字ばっかりて!
珍しい漢字は、わざわざ粘土を彫って一から作らなアカンねんで?わかる?この罪の重さ」

蘭子「え、えっと・・・我が魔術が・・・グリモワールが、その・・・ゴメンナサイ」
春香「ちょっとちょっと、言いすぎですよ!?
だって、木版と違って粘土彫って焼き固めるだけの作業じゃないですか!」

畢昇「なんやサルゥ!お前まで口答えするんか、黙れやサルゥ!辞ぁめたらこの仕事ォ!?」
春香「うるさいんじゃい!こんなブラック企業、こっちからお断りですよ、とうっ!(金的キック)」
畢昇「うぐほっ!?(バタッ)」

春香「ほら、行こ、蘭子ちゃん?
ちょっと時間かかるかもだけど、木版でよかったら私が彫って印刷してあげるからさ」
蘭子「わが友、天海春香よ!・・・さぁ狂乱の宴の始まりよ!!(ありがとうございます、とっても嬉しいですっ!)」

通りすがりの開封市民「印刷所が騒がしいな、そうかもう中秋の季節だもんな
あ、やっと・・・夏が終わったんやな・・・」
通りすがりの開封市民「そういえば今年の中秋節の踊りでは菜々さん、王昭君のコスプレするらしいよ?」
通りすがりの高垣楓「ふふ・・・紹興酒をしょこっと飲みたいわ・・・ふふっ」

(※北宋の多才有能な政治家であり将軍であり、学者でもあった沈括の書いた記録文学『夢渓筆談』によると、
いわゆる活版印刷は、文化学問の興隆したこの時代、一介の庶民であった畢昇によって1041〜1048年の間に発明された
しかし粘土の活字は収縮性が大きい上に墨を吸いやすすぎるという欠点ゆえに広まることはなく、結局畢昇一代で終わった
その後、木版や木活字などを経て、15世紀頃には中華文明圏でも金属活字技術が発明され、日本にも伝播した)


65 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:12:53
<1460年・西ドイツ、ラインラント地方の都市 マインツ>

春香「あ、はじめまして、えーと本日、えー素敵な印刷所の仕事をさせていただきます、バイトのアマーミンです!
グーテンベルクさんって、活版印刷技術を発明したすごい人なんですよね!
私、神学部の学費稼ぐバイトで写本やってたんですけど、42行聖書を大量印刷したすごい人がいるって聞いてビックリしちゃって!」

グーテンベルク「そんな大層なモンじゃないがな、今は聖職者向けのラテン語文法書・辞書提供してる」
春香「でもすごいですよ!金属の活字組み合わせて本を大量印刷できる方法思いつくなんて!
私なんて聖書一冊、まるまる筆写するのに1年以上かかりましたもん!
まあ、あんまりに辛いバイトだったんで、最後のページにちょこっと落書きしちゃいましたけど」

(※木版や木活字技術も、中世には中国からヨーロッパに伝播していた
が、ほとんどの本は、主に修道士や大学生による筆写によって生産されており、
グーテンベルクの登場以前は、生産コストのかかる極めて高価な商品であった
しかし、中世商業と都市の発達に伴い、市民層の識字率も上昇し需要も増加、
13〜14世紀のパリの記録では、30軒近い本屋兼居酒屋!と、数十人の製本業者や筆写人がいたようだ
なお、大学生のバイトも多かったため『これでおしまい、先生が太ったガチョウをくれますように』
といった内容のアホな落書きも多数残されている)

グーテンベルク「違う」
春香「へ、違う、んですか?」
グーテンベルク「まあワイの印刷技術自体、歴史法則を無視してる側面もあるから素人さんは混乱してもしゃーないか」


66 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:13:16
グーテンベルク「確かにフランスにいた1426年に、銀細工師としての技術を活かして、
まず鋼の金型を彫り(父型)、銅板に打ち込んで鋳型を作り(母型)、そこに溶けた鉛やスズを流し込んで金属活字を作るのは、
考案したのワイやけどな、元々はアジア人の方が加速し続けているから早い
アジア人の方が活版活字を発明したの早いって、野球板であれど案外知られてないもんだなあ」
春香「加速・・・野球板・・・?」
(※こんな感じ→
http://aeqai.com/main/wp-content/uploads/2014/03/2_GutenbergCasting.png

グーテンベルク「それから活字よりも大事なのがインクだよ
アジア人たちは金属の活字には相性の悪い墨を使ってるらしいけど、従来の水性インクも相性が悪い
そこでこの、独自の手法でテレビン油や油煙などを調合した油性インク!」

春香「あー、確かに、水性インクだと金属にはノリが悪いし、押し刷りしたら滲んじゃいますもんねぇ」

グーテンベルク「そしてこれも独自開発のこの印刷プレス機!
葡萄を絞る機械を改良した、ネジの原理による回転の力でHOP-UPしてるこのプレス機があるから、
ムラなく簡単に紙を活版に押し付ける印刷が可能になるんだな」
(※葡萄絞り器→
http://www.minpaku.ac.jp/sites/default/files/museum/enews/img/otakara112.jpg

春香「ああ、なるほど、要するにグーテンベルクさんは、既存の技術を巧みに組み合わせて新しい印刷技術を生み出したんですね!」


67 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:13:46
グーテンベルグ「ワイの印刷技術についてまとめてみるよ、
・金属加工技術を応用した金属活字の鋳造
・回転の力によるHOP-UPするプレス機
・金属活字に適した新しい油性インクの発明
これらが有機的に絡みあって中村のボールは加速しているんだな」
春香「詳しくはマグヌス効果でググれ、ですね・・・ってそんな訳はるか!」

(※こんな感じ→http://1000ya.isis.ne.jp/file_path/1552_img16.jpg

春香「でも、やっぱり『印刷機』って意味では間違いなくグーテンベルクさんが発明者じゃないですか、すごいなあ!
・・・・・・ん?聖書や辞書の大量印刷とかでだいぶ儲かったはずですよね、にしてはこの印刷所、なんかショボイ気がするんですけど?」

ペーター・シェッファー「お、グーテンちゃん、ま〜だ印刷業やっとったんか!
くっさいくっさい借金カスの葬式会場はこちら(笑)」
ヨハン・フスト「裁判に負けたグーテンベルクのお兄ちゃんは僕たちのマインツから出てってよ!」

春香「え、何?この人たち、ちょっと不法侵入ですよ、不法侵入!」
シェッファー「なんでや、警察関係ないやろ!
そもそも長いこと市から追放されてた没落貴族のグーテンちゃんを迎え入れてやって、
1600グルテンもの大金融資して印刷所作らしたったのワイやで」
フスト「そうだよ、なのにその借金返さないから裁判で僕たちに負けて、印刷所も印刷機も僕たちのものになったのに、
まだ同じマインツ市で印刷業はじめるとか、僕たちへの営業妨害だよ!」

グーテンベルク「違う。そもそも1600グルテンの開業資金のほとんどは自己資金だったのに、
市の有力者買収して証拠でっち上げたのはそっちじゃないか、なんか嫌な人ばっかりだ」

シェッファー「ほーん、で?
ま、ワイらは次のマインツ市の支配者=マインツ大司教様になるアドルフ・フォン・ナッサウ公のお気に入りやからな
大司教を自称してるディータ・フォン・イゼンブルクのおっさん支持しとるグーテンちゃんも、
今のうちに街を出て行ったほうがエエで?ほな、また……。」


68 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:14:11
春香「くそ〜、アイツら言いたい放題言って帰っちゃいましたよ!
グーテンベルクさん、あいつらにハメられたんですね!こうなったらガンガン仕事してアイツら見返してやりましょうよ!」
グーテンベルク「宗教裁判にかけられたガリレオの気持ちがわかった気がする」

春香「ガリレオ、まだ生まれてすらいないですけどね
ええと、注文内容はこの紙束かな?なになに?
『マインツ市の正統な大司教ディータ様が聖ヨハネの祭りに無料でビールを下さるぞ!貧民には無料風呂も開放!』
『ナッサウは死ね!』『聖ヨハネの祭りではディータ様に市民として感謝を捧げよう!』
うわぁ、見事なまでに政治プロパガンダばっかりだなぁ、今も昔も選挙シーズンって、印刷業のかきいれ時なんだね・・・(ドン引き)」

通りすがりのマインツ市民「印刷所が騒がしいな、そうかもう聖ヨハネ祭か
(※古代ゲルマンの夏至の祭りをキリスト教に取り込んだもので、市民は飲み歌い踊り騒ぎ、
深夜の高台まで行進して灯火を掲げる儀式を締めくくりとし、日々の憂さを晴らしていた)
あ、やっと・・・夏が終わるんやな・・・」
通りすがりのマインツ市民「そういえば今年の聖ヨハネ祭の行進では菜々さん、マグダラのマリアのコスプレするらしいよ?」
通りすがりの高垣楓「ふふ・・・本場のラインワインをもう一杯おかワイン・・・ふふっ」

(※活版印刷術のパイオニアであるグーテンベルクの人生については、実はあまり記録が残っていない
共同出資者であるシェッファーに訴えられた1455年の借金返還請求の裁判記録がその最初で、
また1500年刊行の本ではシェッファーの養子でありグーテンベルクの弟子であったフスト自身が、
後に撤回するもののグーテンベルクを活版印刷の偉大な発明者と断言している
ともあれ、1400年頃生まれとされている彼は、アドルフ公が1462年にマインツを軍事占領し大司教の座につく際の略奪で、
すべてを再び失うものの、間もなくアドルフ公に印刷業の功労者として赦免され、
年金と爵位を与えられてまずは平穏な晩年を過ごした、ようだ

この1500年までのヨーロッパ印刷術の揺籃期の出版本はインキュナブラと呼ばれており、
グーテンベルクやその技術、時代については国立国会図書館の以下のサイトが超詳しい、てかかなりの部分をパク・・・参考にしました
http://www.ndl.go.jp/incunabula/index.html


69 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:14:43
千早「へぇ、グーテンベルクにまで至る道も、その後も色々あったのね」
春香「そうなんだよ、新発明っていうのは、得てして既存の技術革新の延長線上の存在なんだよね
つまり、このFAXにまで至る道にも畢昇・グーテンベルクさん以外の無数の無名の技術者さんたちの、
知られざる苦難と努力の積み重ねが営々と積み重なっていると
・・・にしても小鳥さんの電話も長いなぁ、何話してんだろ」

小鳥「いや、もうホントお願いしますって!
ウチのサークルとぶりっちょ印刷さんの仲じゃないですか!ね?もうちょっとだけ入稿待ってもらえませんかね?
いやいやいや、本当にほんのちょっとですから、すぐ新刊本『菊門の変〜久坂玄瑞、性の地獄編』の入稿できますから!」

真「そうか、もう『夏のお祭り』の日も近いもんね
あ、やっと・・・夏コミの季節が始まったんやな・・・」
雪歩「そういえば今年の夏コミでは菜々さん、コマちゃん先輩のコスプレするらしいよ、真ちゃん」
通りすがりの高垣楓「ふふ・・・赤髪の白雪姫も見てくれないと私コマっちゃん・・・ふふっ」

千早「なるほどね、技術が進歩し続けても、別に人間そのものは進歩するわけでもないのね・・・
って、いまの誰!?誰かいたわよね!?」


70 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:15:49
なるべく週一ペース以上の速さで書けるように頑張りたいです、スンマセン
あと、粘土活版活字の画像リンク忘れてたので後で貼り付けます

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61


71 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:21:02
これが粘土の活字活版イメージ→http://img.yiyuanyi.org/article_pic/2009-10-27/1256632143.jpg


72 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:25:19
毎回毎回すごスギィ!


73 : 名無しさん :2015/07/27(月) 20:33:33
菜々さん長生きしすぎィ!
今回もネタ満載で面白かったです


74 : 名無しさん :2015/07/27(月) 22:07:58
やっぱ博識兄貴って凄い・・・


75 : 名無しさん :2015/07/27(月) 22:13:04
新作とはたまげたなあ


76 : 名無しさん :2015/07/28(火) 19:15:01
楓さんは何者なんですかねぇ
菜々さんは残当


77 : 名無しさん :2015/07/30(木) 22:49:20
ここで活動してたんすね〜、こっちでも全力で応援するゾ


78 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:25:20
第六話】春香「汝は人狼なりや、千早ちゃん!?」

春香「開幕からの春香さん占い師カミングアウト!千早ちゃんは平凡なAカップのふりをしたAAカップ!
きっと夜な夜な無実の巨乳アイドルたちを襲っては無乳派の勢力を相対的に増やそうと・・・」

千早「はいはい、さすがの私でも『人狼ゲーム』くらいは知ってるわよ
村人陣営と人狼陣営に分かれて議論と推理で争うテーブルトークゲーム、一種のコンゲーム(騙し合いゲーム)でしょ?
有名人や将棋の棋士さんなんかのイベントもあるし、かなり流行しているみたいね
ウチの事務所でも今、リプレイ動画の仕事とかで、会議室で律子がGMで人狼ゲームやってるわね、春香は呼ばれなかったの?」

春香「うんうん、卓m@s※世界に定番の律っちゃんGMで収録してるみたいだね
いや、実は前回のプレイのお仕事では呼ばれたんだけどさぁ、狂人プレイでハッスルしすぎたせいか今回はNG出されちゃって・・・」

千早「・・・そういえば律子がこぼしてたわね
春香はルーニー(※テーブルトークRPGのプレイスタイルの一つで、笑いやネタのためには手段を選ばない困った人)だから扱いに困るって」
春香「いや、だって色々引っ掻き回すのが『狂人』の役目でしょ?
ネタに走りまくってみんなを大混乱させるルーニー上等だと思ったんだけどなぁ(※多分違います)」

千早「でも、村人の投票で処刑を決めちゃうって、考えたら怖い話ね
多数決とか同調圧力とかで冤罪が生まれちゃう怖さを教えてくれるゲームってことかしら?
ま、投票で『民主的に』裁判するってのが、いかにもヨーロッパっぽいわよね」

春香「んん?いやいや、そうでもないですよ?
実は日本の農村でも、つい近年まで人狼裁判が行われてましてですね・・・」

(※卓ゲM@Ster、通称・卓m@s
ニコニコ動画に投稿されるTRPGやボードゲームなどの卓上ゲームとアイマスとのコラボ作品のジャンルのことである
ソードワールドRPGや『クトゥルフの呼び声』などのゲームをアイドルたちがリプレイする内容のものが多い
ちな個人的なオススメ作品
・「アイドルたちのソード・ワールド2.0!」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8729515
・「アイドルたちの『地球最後の夜』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm12407262



79 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:25:44
<天保5年(1834年) 幕末・北陸のとある農村>

春香「あ〜今日も畑仕事辛かったな、早く帰って内職しなきゃ・・・」
響「あ、春香!た、大変なんだぞ!!
家に帰ったら納屋が荒らされてて、冬越しための保存食がごっそり無くなっちゃってるんだぞ〜!」

春香「へ?保存食?
・・・ああ、コケ麻呂とか牛吉とかブタ太のこと?肉鍋楽しみにしてたから残念だね、そっか逃げられちゃったんだ」
響「な!なんてこと言うんだ春香!コケ麻呂や牛吉やブタ太は大事な家族なんだ!
肉鍋とかひどいこと言うな!そうじゃなくて、コメも麦も野菜も豆や味噌まで食べ物たくさんだぞ!」

春香「・・・ってことは、ひょっとして盗難事件?
これは名探偵・天海春香さんの出番ですよ、プロデューサーさん!じっちゃんの名に賭けて!」
響「いや、春香の爺ちゃん、普通の百姓だったろ・・・
まあいいや、自分早速庄屋さんのトコに走って事件を報告してくるゾ!
春香も村のみんなに庄屋さんの家に集まるようにって伝言してね!」

(村の庄屋・水瀬家)

伊織「・・・で、何?
アンタのところの食料が盗まれたとかいうどーでもいい理由で、この伊織ちゃんの屋敷に大勢押しかけてるってわけ?
それも村の本百姓(自作農)だけじゃなくて名子(小作人)まで村総出で・・・」

響「どーでもよくないぞ!
冬越しの食料が無くなったら自分も他の家族たちもみんな飢え死にするしかないんだぞ!」

伊織「いや、その家族って何よ?
ああ、アンタのところで飼育してる鶏や牛のことね」
やよい「うし、うしをつかう・・・」


80 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:26:29
貴音「確かに、殺生戒はございますが牛の肉が美味であるのもまた世人の広く知るところ!
我が四条流包丁術でも、臓物を全て取り除いた上で肉をそぎ切り離して、冷水と酒でよく洗い、
臭気が抜けるまで水晒しにした後に薬味、ごぼうなどと合わせて本汁として調理いたします
また、彦根の井伊様御家中では味噌漬けが珍味として知られており、公方様にも毎年ご献上なされているとの由・・・」

(※天武天皇の殺生禁止令以来、肉食は形式的には日本では禁制であったが、
農村でも都市でも、広く鳥類だけでなく牛や犬、さらには一部では豚も食されてきた
彦根藩の牛の味噌漬けについては、藩士の研究により滋養強壮の薬=「反本丸」として開発、特産品化されていた
なお、「いや薬って言い訳はおかしいやろ!」と言い出して将軍家や他家への献上を辞めてしまったのがあの井伊直弼である
近江牛味噌漬け→http://www.omi-gyu.com/fs/omigyu/c/gift_miso


81 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:27:14
伊織「へぇ、意外に美味しそうじゃない、ちょっと食べてみたく・・・って、アンタ誰よ!?」

貴音「私は開祖・藤原山陰より伝わりし四条園流包丁術の研鑽の旅の途中の南無古藩料理番、四条貴音と申します
いまだ修行中の身なれど、お見知りおき願いたく・・・」

春香「あ、このお侍さんはですね、名探偵春香さんが村を捜査中に発見した不審人物なんですよ!
山の中をウロウロしてたり、村はずれの川原のお堂の前で火を起こしてたり、挙動不審だったの
それで一応ご同行願ったわけですが、春香さんの推理では、こういう一見疑わしそうなよそ者は、実は無関係だった!というセオリーが・・・」

伊織「ちょ、え?南無古御家中のお武家様!?
・・・あ、あらあらあら、オホホホホ!これはとんだご粗相を、もう、伊織ちゃんたらウッカリさんなんだから、ニヒヒッ!(猫かぶり)」

響「そんな牛吉を食べるとか物騒な話題はもう止めてよ!それより盗人を・・・」

春香「そうそう、盗人ですよ盗人!
我那覇家食料盗難事件の捜査のために、春香さんがどんなに大活躍したか、
ここに集まっていただいた村人の皆さんに聞いてもらえばわかると思うよ!」

やよい「うっう〜、やよいのところは大家族だから一番怪しいとか言われて、
勝手にきょーせーそーさくされました・・・
あと、ついでにトチ餅持ってかれちゃいました・・・」

真「犯人は力仕事ができる人物だからって因縁つけられたよ!
あと、危険物は預かっておくねって、これから猟のシーズンなのに火縄銃を持ってかれた!」

雪歩「証拠品だって言いがかりで詩集を押収されちゃいましたですぅ・・・」

春香「あーもー、みんなわかってないなぁ!探偵には証拠品を押収する権利があるの!お約束なの!
それにほら、検断(※司法捜査や処分のこと)の際には、検断者は悪人の財産没収していいって法律があるから!
ちゃんと御成敗式目第46条に定められている検断者の当然の権利です!
みんなブーブー文句言いすぎだよ!」


82 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:27:39
伊織「いや、御成敗式目って武士の法律でアンタはただの百姓でしょ
そもそもいつの法律よそれ、今は徳川のご時世よ?
だいたい誰もアンタに検断の権利なんて認めてないんだからブーブー文句言われても・・・
そういえばブーブーって言えば、アンタのとこ豚も飼ってるの?珍しいわね」

響「え、えへへ、すごいでしょ!ウチのブタ太は山でキノコ探すの得意なんだ!」

貴音「成程、豚ですか・・・よく猪肉と間違えられますが、また別の珍味ですね
皮を軽く毛焼きしてから肉とともに肴にしても良し、肉を湯引きにしてからし酢で食しても良し
旬の野菜や根菜と汁物にしても鍋物にしても美味でございますし、粒胡椒などございますれば炒り焼豚もまた美味・・・!」

伊織「あ、それも美味しそう・・・コホン!実に美味しそうですね!
さすがは四条様、なんでしたら早速ご調理して頂いて、是非賞味してみたいかな〜なんて!ニヒヒッ!」

響「だから何でまた、自分の家族を食べる話になっちゃってるんだ〜!!やめろ〜!!」

(※豚は古くは弥生時代には食用として日本に伝来していたようだ
西日本の一部で飼育されいただけで、けしてメジャーな家畜ではなく、多くは猪と混同されていた
しかし黒船来航よりも100年近く前の1746年刊行の料理書『黒白精味集』には詳細な豚料理の記載がある他、
長崎由来の中国料理の材料として、豚肉は中世・江戸期の美食家達に珍重されていたようだ)


83 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:28:13
春香「そうですよ、食べ物の話なんかいいから早く名探偵春香さんの推理劇・解決編をやらせて下さいよ!
え〜、こうして皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません、犯人が・・・」

伊織「あ〜そうね、盗人が誰か、とっとと入れ札(※投票のこと)で決めちゃいましょ、その為に村民全員集まったんだもの
ほらみんな、紙と筆を取って盗人が誰か書いてこの箱に投票してね」

やよい「えう〜、伊織ちゃん私、字が書けないかも〜」
貴音「ならば私が代筆いたしましょう・・・!」
やよい「あ!ありがとーございますっ!」

春香「ちぇーっ、なんだ結局は数の暴力ですか、賢者の名推理は無視ですか、そうですか
悔しいなぁ・・・よし、『人狼・・・盗人は伊織ちゃん、動機は偉そうだから 天海春香』っと!」

伊織「はーい、いちおう神への誓文みたいなもんだから綺麗に書くのよ、
あとちゃんと自分の名前も記名した上でキチンと畳んで糊付けしてね〜!」

(1時間後)
伊織「入れ札終わったみたいね、じゃ早速開票するわよ
『春香さん、お餅返してください やよい』『銃泥棒は春香! 真』
『春香が犯人だと思うの! 美希』・・・
えっと、春香?」

春香「は、ハイ?」

伊織「圧倒的多数で春香が盗人という裁決が出たから
じゃ、盗人は村掟に基づいて、家財没収の上で追放ね?(ニッコリ)」

春香「え、冤罪だ!バカヤロー!松田ァ!誰を撃ってる!ふざけるなぁぁ!」
真「じゃ、行こっか、村はずれまで護送するよ・・・(松田って誰だろ?)」

伊織「はい、事件解決メデタシ、メデタシ
ああ、響は食料盗まれたんだっけ?いま没収した春香の家財と食料を持ってっていいわよ?」
響「やったぞ〜!これで家族みんなで冬を越せるぞ、ありがと〜!!」


84 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:28:36
貴音「ふふ、一件落着ですね、祝着で何よりでございます
ああ、そういえば私、この村のお留守の方のお宅にお邪魔して食材をお借りしてお堂で渾身の四条流ふるこーす料理を制作している途中でした!
無論、留守のお宅には相応の金子を置いては参ったのですが・・・
折角でございますし、お祝いということで皆様に是非ご賞味いただきたいと存じます・・・!」

伊織「え、ホント!もう喜んでご賞味させていただきますわ!」
やよい「わーい、弟たちも呼んできていいですか?」
響「あ、そういえば自分の家に見慣れない大金があったと思ったらそれだったのか〜!
・・・あれ?なんか忘れてるような気がするけど、お祝いだしいっか!」

美希「・・・これにて一件落着、なの!」

(※荘園領主・武士の検断権とは時に対立しつつも、中世以降の日本の村落共同体では、
村役人の選任、村内部の治安維持や刑事裁判=検断については、領主や村の有力者の独断ではなく、
得てして落首・入り札などと呼ばれる投票制度で決められたようだ
→勢多郡森下村の名主選挙入れ札
http://www.archives.pref.gunma.jp/deta/deta-tenji/moyooshi-21-1/moyooshi-tenji-21-1-003-2.JPG


85 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:29:00
千早「中世とか江戸時代って言うと、代官様がやりたい放題で独裁ってイメージがあったけど、意外に民主的?だったのね」

春香「んん、まあ中央集権が進むにつれて、その代官なり官僚機構なりの介入や統制っていうのも増えていったのは事実だけどね
でも、なんだかんだ言って村内のことは村内だけで決める、特に治安みたいな重要事項は小作人も一票平等に持って投票でって、
そういう風習が地域によっては昭和初期くらいまで続いてたみたいだね
日本の法律とは別に村掟があって、地獄札と呼ばれる秘密の村民裁判で制裁が加えられちゃうっていう」

千早「ああ、村八分とかそういうのね
自治って言うと明るい面ばかり考えちゃうけれど、そういう閉鎖的で陰残な部分もあったと」

春香「そうだね、それに形の上では小作人も豪農も平等なんだけれど、実際には有力者による票集めなんかもあったんじゃないかって疑惑もあるよ
ね、その辺の陰残なあたりとか陰謀めいた裏での駆け引きとか、いかにも人狼ゲームっぽいでしょ?
実は日本人はずっとリアル人狼ゲームやってきてたから今の流行も納得って感じ?」

千早「陰謀・・・駆け引き・・・真実は何かではなく、犯罪者や裏切り者を仕立て上げ、処刑・・・ふふっ、確かに楽しそうですね!」

春香「あ!そういやさぁ、何で千早ちゃんには卓m@sのGMの声がかからないんだろうね?
律っちゃんや小鳥さんだけじゃなくて、冷静でクールな千早ちゃんがGMっていうのも・・・」

千早「・・・ふふっ、知りたいですか市民?それとGMではなくウルトラヴァイオレットですよ?幸福ですか、市民?」

春香「な、なんでもありませんUV様!私は完全で完璧に幸福です!
(やべぇ、千早ちゃんにTRPGは禁句だった。UV様化してるでぇ・・・)」

(※卓m@s初期の傑作にしてディストピアTRPGの傑作「パラノイア」を題材にしたのが、ZAPの「パラノイア×アイマス」である
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7815827
千早のUV様、マジUV様!そしてパラノイアをモチーフにしたボカロ曲「こちら、幸福安心委員会です。」
の完全で完璧な千早UV様が可愛すぎるMMD版がこちら
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18668774


86 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:29:21
日本中世農村の人狼裁判っぷりと、ヨーロッパ中世農村の農奴だけで行われた高度な法廷劇の比較を書くつもりがどうしてこうなった・・・

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78


87 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:32:32
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


88 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:33:20
>>86
凄いな・・・これって参考にしてる文献ってどんなんです?


89 : 名無しさん :2015/08/02(日) 22:42:56
今回も賑やかで良い出来やこれは…
こういう部落の掟はなかなか面白そうやね


90 : 名無しさん :2015/08/02(日) 23:11:55
アリシャス!

>>88
今回は、例によって藤木久志「戦国の村を行く」と「江戸料理読本」中心に、
地域史料館のサイト漁ったり中世社会史関係の文献みたりっすかね
斜め読みな部分多いんで、間違いない勘違いあったらセンセンシャル!

ちなみにまとめて頂いた第三話なんですけど、参考にしたスティーブ・ジョーンズの本や前に見た本なんかには、
すげえ美少女のロリ娼婦写真があったんですが、ネット上ではなかなか見つからなくて
英語で検索するのも色んな意味で怖かったのでやめました
根性なくてサーセン・・・


91 : 名無しさん :2015/08/02(日) 23:13:36
>>90
ありがとナス!
しっかり裏付けも取ってあるんすねえ
この辺専門分野なんです?


92 : 名無しさん :2015/08/02(日) 23:19:08
>>91
いや、本当に研究者とかじゃない一般貧弱ぶりっちょなので、専門とかじゃなく
基本的に薄く浅く広くなんです・・・
いちおう複数の史料文献に当たってできる限りダブルチェックはしてるつもりますが、
まあ素人ですので多少の間違いやネタスレゆえの誇張はご容赦を・・・


93 : 名無しさん :2015/08/03(月) 01:15:27
この手の村内ルールによる制裁は今でもたまにニュースで見かけるね。インドとか


94 : 名無しさん :2015/08/08(土) 09:28:10
歴史春香スレあったんか!


95 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:27:15
【第七話】春香「アイドルの聖地ってどこだろうね、千早ちゃん?」

千早「え?それはやっぱり武道館、じゃないかしら・・・
アイドルに限ったことではないけれど、アーティストなら一度は武道館ライブを夢見ると思うけど」

春香「そうだよね、中野サンプラザも有名だけど、そりゃ頂点は武道館!だよね
でも、お約束的にはやっぱ、プロデューサさんドームですよ、ドーム!!
まあ武道館も東京ドームも歩いて行けるくらい近い距離にあるけどね」

千早「・・・そういえば、〇〇の聖地とか〇〇のメッカとかよく言うけれど、元々は宗教的な遺跡とか施設のことでしょ?
何かの中心地とか発信地みたいな使われ方もよく見かけるけれど、元の意味と違う気がするのだけれど」

春香「ああ、『オタクの聖地秋葉原』とか『餃子のメッカ宇都宮』みたいなヤツね
うーん、いわゆる啓典の民(※旧約聖書を教典とするユダヤ教・キリスト教・イスラム教のこと。アブラハムの民とも)の聖地って、
確かに経典や宗教の歴史の中に出てくる奇跡や聖人ゆかりの場所が多いんだけどさ、
イスラム教の聖地メッカのカーバ宮殿※は、開祖の預言者ムハンマドの生地で教団の中心地でもあったけど、
クルアーンの中でも預言者アブラハムと子供たちに神が建てさせて、
『カーバを万人の還り着たる場所』として万人への巡礼を呼びかけよと神が言ったと記されてて、信仰上の中心地でもあるんだよね」

(※こんな感じ
http://polpix.sueddeutsche.com/bild/1.987354.1402996871/860x860/kaaba-alharammoschee-mekka-muslime-islam.jpg


96 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:27:39
千早「へぇ、じゃああながち間違いでもないのね
聖地巡礼っていえば、イスラム教以外でもあるのかしら?」

春香「当然!ユダヤ教徒やヒンズー教、キリスト教徒だって聖地巡礼は一般的だよ
日本仏教でも八十八箇所巡礼とかお伊勢参りとかあるじゃん」

千早「あ、そういえばそうね・・・というか、最近じゃあ別の『聖地巡礼』がいっぱいあって、それで町おこしとかも流行ってるみたいじゃない」

春香「実在の場所を舞台や背景にしたアニメやゲームが増えてるからねぇ・・・
まあどことは言わんがアニメ制作してる会社の近くをモデルにしてる場合もあるけどね
田舎の町なんかは、ファンもゆっくり雰囲気に浸れていいし、街も経済的に潤って結果的にWin-Winでいいんじゃない?
むしろ『聖地』の側から積極的に観光ビジネスを企画してるケースも多いよ?」

千早「聖地って言う割に、ずいぶん俗っぽいっていうか、ビジネスライクな話ね・・・」
春香「ま、そもそもの聖地巡礼自体が娯楽の少ない時代の息抜きとしての観光な側面も強かったからね、
けっこう元々の聖地巡礼も、昔から観光業としてビジネスライクだったんだよ、例えばね・・・」


97 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:28:03
<1480年頃 イタリア半島ヴェネツィア共和国・首都ヴェネツィア>

菜々「はーい、『超熟練コンダクターと行く!魅惑のパレスチナ聖地巡礼ツアー』にご参加のお客様〜!
私がツアーコンダクターのナナ・ウサミアーノです、よろしくねっ!
あと、わかってると思うけど、菜々は聖地には超自信あるけど!
でもでもっ!コンダクター歴は1年生の17歳なんだぞ?キャハッ☆」

春香「(17歳で何で聖地巡礼に熟練してるとか聞くのは止めよう、怖いし・・・)
あ、あの〜菜々さん、今日ヴェネツィアに着いたばかりなんですけど、船の出航は今日じゃないんですよね?
とりあえずのホテルとか案内してもらえると嬉しいんですけど・・・」

菜々「もっちろん、船の出航は今日じゃないですよ〜☆
安全で確実な航海にするため、巡礼者専用船は他の定期航路船団(※ムーダ)と一緒に航海しますから、船団が揃っての出航は1ヶ月後かな?
というわけで皆さん、また一ヶ月後までお別れですっ☆」

春香「ちょ、ま!じゃあ一ヶ月後に集合ってことでよかったじゃないですか!?」

菜々「いやいや、その間にヴェネツィア政府が代行して現地のイスラム教徒から入国許可やら教皇庁から巡礼許可やら申請してくれたり、
イスラム教徒たちっていうかオスマントルコ帝国の情勢を判断したりするのに時間の余裕が必要だったりするんですよ!
つい最近までオスマントルコとヴェネツィアは戦争してましたしですねぇ、情勢判断に万全を期さないと!」

並木芽衣子「そんなお困りの巡礼者の皆さんたちのための!」
伊集院惠「ヴェネツィアでの観光と娯楽を紹介する私たち!」
間中美里「まさかの時のスペイン異端裁判・・・じゃなかった、観光案内専門の国家公務員トロマーリオ※!」

(※当時西欧世界最大の経済大国にして最大最強の海軍国であったヴェネツィア共和国であったが、
その大国たる力の源は香辛料・絹などの東地中海を舞台にした東西貿易による莫大な収益にあった
だが、同時に抜け目無い商人たちであったヴェネツィア人たちは、1000年以上も続く聖地巡礼の観光事業化にも目をつけた
塩野七生のいう国を挙げての『聖地巡礼パック旅行』事業だが、同時にヴェネツィアそのものの観光地化にも力を入れていた
トロマーリオとは、主に若い貴族の子息たちが就いた公務で、各国からの巡礼者の貧富にかかわらず奉仕する無償の観光ガイドであった)


98 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:31:28
西園寺琴歌「初めまして、私、南ドイツから参りました右も左も分からぬ不束者ではございますが、
市内観光の案内の程よろしくお願い申し上げます」

東郷あい「こちらは、さる伯爵家のご令嬢、私はそのメイド長だ、それと・・・」

荒木比奈「あ、アタシっスかぁ〜?
巡礼旅行の各地でお嬢様の記念写真・・・じゃなかった記念画を描くために雇われた日陰者の画家っス」
(※当時の身分の高い裕福な旅行者の中には、記念のための風景画を描かせる画家を同行させる例もあった
なおWIKIより当時の木版画家バルバリの描いたヴェネツィア鳥瞰図→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e2/Jacopo_de'_Barbari_-_View_of_Venice_-_Google_Art_Project.jpg


99 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:33:49
芽衣子「んっと、ひょっとしなくても高貴な方とそのお付きの方々ですよね?
よしっ、じゃあ王侯貴族もご宿泊される最高級ホテル『白き獅子館』にご案内・・・」
(※現在の『白き獅子館』ホテル。今だに現存してるのがさすがヴェネツィア、けど、外観がね・・・
立地は最高だがアメニティー最低限のため意外に価格設定がリーズナブル
・<公式サイト>http://www.leonbianco.it/

あい「いや、私たちは既に共和国きっての名家ダンドロ家の宮殿に招かれていてね
君には市内の聖堂や名所案内の頼みごとしていいかな。
ちょっとお嬢様がヴェネツィア市内の聖遺物※や教会や宮殿を見たいとおおせでね」

(※キリスト教の聖者達の遺体の一部または関連品、とされるもの
ただ非常に胡散臭いものが多く、聖バルトロマイのチンポやら聖女グディラのアソコなんて代物まで実在する
また、やたら重複して存在するものも多く、特に聖母マリアの母乳が大量に残されていたり、
19世紀の学者ラランヌ『伝説奇談』によれば、頭や手足が何十と存在している聖者も珍しくない)


100 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:35:52
芽衣子「わっかりましたー!!ちょうどキリスト昇天祭(※5月11日頃)の季節ですからね、
今は教皇さま公認の特権で市内の聖遺物を参拝すると完全免罪されるお得なキャンペーン中!
・・・まあ、聖地には完全免罪や7年3ヶ月の免罪の教会や遺跡だらけですけどね(小声)
さぁっ、お仕事お仕事、聖アンドレアの腕からイエス様の十字架の欠片まで何でも案内しちゃいますよ、
旅は道連れ、みんな道連れでレッツゴー!」

春香「聖アンドレアの腕って聖遺物、ヨーロッパ中に少なくとも17本あるじゃん・・・
頭は6つで胴も5つ存在するってどんな化物なんだよって、さすが貴族様は違うなぁ
ダンドロ宮殿って言えばヴェネツィアきっての壮麗な宮殿で、今の最高級ホテル・ダニエリ※じゃん!
・・・あれ、そういやダニエリって言えば『ARIA』に出てくる姫屋のモデルじゃん、ある意味『聖地巡礼』だよね」

比奈「はぇ〜、さすが水の都ヴェネツィアっスねぇ、もともと何にも無かった沼地とは思えないくらい見渡す限り絶景ばっかり
ヴェネツィア人って勤勉で美的意識も高いって、すごいっス・・・」

琴歌「・・・街を作ろうとした人たちのたくさんの思いが集まって生まれた素敵な奇跡。
私たちがこの街で出会ったのも奇跡の一つかも・・・」
春香「そこ!恥ずかしいセリフ、禁止!(春香、渾身の斎藤千和の真似)」
あい「・・・何かな?」
春香「な、何でもないっす・・・」

(※ヴェネツィアの五つ星ホテル。当然、値段もなかなかお高めでARIAファン泣かせである
・公式日本語サイト→http://www.danielihotelvenice.com/jp


101 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:36:13
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
ヴェネツィアとは・・・今回はどんな本参考にしてます?


102 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:36:36
伊集院惠「ええと、次の巡礼者さんはミュラー・・・」
あずさ「あらあらウフフ、私、アリシア・ミュラーと申します〜
なんだか私、ゴンドラって初めてだけれど、どこまでも漕いで行けそうな気がするんです、何故かしら〜?」

春香「いやいや、それ同じあらあらウフフキャラでも違うキャラ混ざってますよ、あずささん!」

あずさ「そんなことないわよ春香ちゃん、ほら惠さんもゴンドラにお乗りなさいな?ホテルまでの案内お願いします〜」
惠「え、あ、ちょっと!(スルッ)」

春香「あ、トロマーリオさんがさりげなくゴンドラに拉致されて、すごい勢いでゴンドラが遠ざかっていく・・・」
あずさ「あらあらウフフ・・・(遠くの声)」
春香「あ。あれはコロンブスに先駆けて新大陸到達しちゃうパターンだな(確信)」

美里「で、あなたが最後の巡礼者さんですかぁ?よろしくお願いしますぅ」
春香「ど、どうも・・・(この人、なんか魂的な意味で逆らえないオーラが・・・)」
美里「ん?どーしたんですかぁ、ひょっとして旅費が心もとないとか?」

春香「そ、そうそう!
長旅になるかなと思って、思い切って60ドゥカート金貨(※1ドュカート=約6万円ほど?)も用意してきたんですが・・・足りない?」
美里「ん〜どうかな〜、身分の高い方々なんかは最低150ドュカートは必要って言われてるねぇ〜
60ドゥカートだと、行き帰りの船賃やイスラム教徒への税金なんかもろもろ含めてギリギリかなぁ」

春香「嘘っ!?か、かなり余裕を持ってお金持ってきたのに、トホホ・・・」
美里「大丈夫、大丈夫!巡礼だって証明書があればこの街の大きな教会はもちろん、旅先の教会でタダで泊めてもらえますよ?」

春香「ホント!?ほっほーい、タダって言葉、大好き!」
美里「ついでにトロマーリオのガイド料も当然タダですよ?
じゃあ、安心してもらえたところで早速、今日はどこに行くのかなぁ?」
春香「わーひ!えっとですね、まず聖マルコ広場と鐘楼見て、広場の達人さんのいるカフェフロリアン(※当時は無い)に行って、
ARIAカンパニーのモデルになった埠頭に行って、リアルト橋からため息橋見て・・・」


103 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:37:14
<一ヶ月後 ヴェネツィア沖・巡礼船船上>

菜々「はーい皆さん、一ヶ月ぶりですねっ☆
ヴェネツィアはしっかり観光できましたか?
聖遺物参拝で完全免罪でみなさんの天国行きが決定されて、菜々も嬉しいで〜す!」

春香「あの〜センセ〜!あずささんがいませ〜ん!」

菜々「(無視)皆さんはこれからアドリア海を南下、東地中海を一路パレスチナの港町ヤッファ(※現在のテルアビブの外港)を目指すわけですが!
ちょっと長旅になりますけど、途中でこまめにヴェネツィア共和国のパーキングエリアに寄るので、
(疫病で)体調が悪くなったり、(船酔いや壊血病で)気持ちが悪くなった人は菜々にちゃんと言って下さいね?」

春香「コンダクターさん!あずささんがガイドさん乗せたままゴンドラで世界周遊の旅に出ちゃったっぽいんですが!」

菜々「(無視)まあパーキングエリアっていうか、アドリア海の東岸と東地中海の要所要所に作られた、
ヴェネツィア共和国の要塞や拠点、同盟都市なんですけどね!
そこに寄港しながら食料と新鮮な水だけでなく、哨戒中の警備艦隊から危険なトルコ人たちの最新情報も仕入れますから安心ですよ!」


104 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:37:37
琴歌「アドリア海の蒼に、ヴェネツィア艦隊の帆の広さが一層引き立つ美しさですね!
遠方に見えるアドリア海沿岸の起伏に富んだ景色の素晴らしさ・・・
これは是非、国元の皆様方にも喜んでいただけるために絵として残しておかなければ!」

あい「フッ、お任せ下さいお嬢様、そのための同行絵師がおりますので
荒木くん、君の出番だ、今日もよろしく頼むよ」

比奈「ふぇ、絵、描くんスかぁ・・・?さ、さっきから船酔いで気持ち悪くて・・・うっぷ・・・
こ、コンダクターさん、次のパーキングエリアはまだっスか・・・!?」

菜々「次の寄港地のパレンツォですかぁ?
ん〜、菜々の長年の船乗りとしての経験からして、この風が続くとして順調に航海できそうだから2日かからないですよ!」

春香「あ、あの〜最初の寄港地までで2日ってことは・・・最終寄港地のヤッファまでどれくらいかかるんですかね?」

菜々「大丈夫!安心してください!
この巡礼船は、偏性風や強い海流のほぼ無い地中海に不向きな帆船じゃなくて、ヴェネツィアの最新鋭のガレアス船ですから!
風力も生かしつつ、凪になれば人力で漕ぎ手の皆さんたちが頑張ってくれる高速船なんです!
だから、たったの1ヶ月〜2ヶ月で到着しますよ!皆さんラッキーです!」

春香「ち、地中海半分を片道横断するだけなのに2ヶ月・・・うへぇ・・・」
比奈「も、もうダメッス、死ぬかも・・・うっぷ」

(※長年イスラム勢力やビザンツ帝国、ライバルの海洋都市国家と渡り合いながらヴェネツィア共和国は、
東西貿易の主導権を死守するために、アドリア海から東地中海に至る各地に頑強な拠点を数珠つなぎに設置した→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/39/Venezianische_Kolonien.png/500px-Venezianische_Kolonien.png
そして当時最高水準の技術を有していたヴェネツィアの造船技術の粋が、いわゆるヴェネツィアン・ガレアス船である
人件費と積載量が少ない代わりに、かさばらないが高価な香辛料などを迅速に輸送でき、かつ人員の多さ・機動性でで海戦にも有利なため、
軍用としても商用としてもヴェネツィアの主力として長く活躍し続けた
こんな感じ→
http://www.shippingwondersoftheworld.com/wpimages/wp76491cb5_05_06.jpg


105 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:38:08
<二ヶ月後 パレスチナの都市ヤッファ>

菜々「はーい、皆さん、と〜っても楽しい船旅でしたね!ここが聖地パレスチナの玄関口ヤッファです」

比奈「2ヶ月間、イスラム海賊と嵐に怯え、船酔いと戦い続ける地獄の日々だったっス・・・(小声)」

春香「いやいや比奈さん、途中に立ち寄ったコルフ島やクレタ島の景観や遺跡に大感激してたじゃないですか
ほら、特にクレタ島では『クレタの牝牛が・・・』とか『産め!神の子を!』とか口走りながらしきりにスケッチしてたし」

菜々「申し訳ないが同性愛漫画の傑作の話題はNG、ですよ?
ていうか、ここヤッファの街から陸路エルサレムの都を目指しますけど、十字軍勢力が完全に追放されたこの地の支配者、
イスラム教徒たちは戒律上同性愛NGなんですけど、ヒゲの生えていない男=少年はノーカンらしく、
男性の巡礼者さんたちでもヒゲを生やしてなくて襲われた、なぁんて例もあるんです!
まぁ、皆さんは女性だから大丈夫、ですよね・・・?(チラッ)」

琴歌「ええ、おっしゃる通り女性だけでございますから良かったですわ!」
比奈「そ、そっスよねぇ、ハハハ・・・(チラッ)」

あい「フフッ、どうしたみんな、私の顔になにか変なものでもついているのか?」

春香「い、いやぁ、今日もあいさんはお美しいなぁ、なんて思ってただけですよ?
(この人、何でここまで自分のイケメンオーラに無自覚なんだろ・・・?
ずっと見てると何かに目覚めちゃいそうだよ、ヤバいヤバい・・・)」

(※古くは東西貿易の拠点として栄えたヤッファ港だが、現在ではシオニズム運動による世界中のユダヤ人たちの流入で、
急速に発展した大都市テルアビブの一部として完全に飲み込まれてしまっている
ちなみに現在のテルアビブは、数年前から市当局の熱心なアピールと誘致によって世界屈指の『同性愛の聖地』となりつつある
同性愛者専用の娯楽施設の数も非常に多く、世界中から『聖地巡礼』に訪れる同性愛者の観光客は年々増大、莫大な観光収入になっている
しかし同時に、エイズ・ドラックの蔓延の温床として、敬虔で同性愛に否定的なユダヤ教正統派の反発も強く、そのヘイトクライムも問題となっている

10万人が参加したと言われる今年のLGBTプライドパレードの様子→
http://genxy-net.com/post_theme04/l15615/


106 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:38:39
<聖都エルサレム>

菜々「皆さん、お待たせしましたぁ〜!やっと旅の目的地エルサレムに到着です☆」

琴歌「まぁ、なんて美しくも荘厳な景色なんでしょう・・・主よ感謝致します
ラウダ・エルサレム・ドミヌム・ラウダ・テウム・トゥーム・・・
(※聖歌Lauda Jerusalem
https://www.youtube.com/watch?v=gijjfwtKoGE)」

菜々「それでは早速、聖地巡礼の恒例、ヴィア・ドロローサ(※苦難の道)ツアーを始めますよ〜!」

春香「ドロローサへの道?カブト虫・・・イチジクのタルト・・・特異点・・・カブト虫・・・」
菜々「別に天国へ行く道じゃないですよ?
ヴィア・ドロローサっていうのは、イエスがピラートゥス総督邸で死刑判決を受けてから十字架を背負って歩いた、
昇天の地ゴルゴダの丘までの苦難と栄光の道をたどりながら追体験しようっていう巡礼コースなんです
じゃ、早速スタート地点、市街北東の官邸跡に行ってみましょ?」

(※ヴィア・ドロローサの簡略図→
http://stworld.jp/special/IL/info/images/map_jerusalem.jpg
http://198.62.75.1/www1/jsc/JSC-map-l.jpg



107 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:39:10
琴歌「・・・なるほど、ここがピラートゥスの官邸。
ここで主は裁かれ、鞭打たれ、イバラの冠をかぶらされたのですね・・・」

春香「でも普通にパッとしないところだなぁ
まあユダヤ教徒はもちろん、イエスを預言者として認めているイスラム教徒でさえイエスの死と再生に否定的だもんなぁ・・・」

菜々「ならハイこれっ!聖地巡礼にグッズ持参はお約束ですから!」
春香「え?板たたたっ!いきなりイバラの冠かぶせるのやめて下さいよ!」
比奈「聖地巡礼でキャラに自分を重ね合わせながら回るのはオタの定番っスよ?」

菜々「はいっ、そしてここがイエスが十字架を担いだ場所です!
ということで春香さん、はいこれ」
春香「ハイこれって、重ッ!重すぎですよ菜々さん、これ重いって!これ担いで歩いていくんですか!?」

菜々「ダメダメ!この時のイエスは、『へっ、こんなモン、屁でもねぇぜ!』みたいなハードボイルドな表情してました!」
比奈「キャラになりきるんスよ、春香さん!頑張って!」
春香「何そのイエス様、無駄に男前過ぎるでしょ・・・」

春香「ふぅふぅ・・・お、重すぎるよぅ・・・確か新約聖書だとエッケホモ教会の前を通り過ぎたあたりで一旦倒れるんですよね?
そろそろ休憩していい?」

菜々「ダメですっ☆
菜々の見ていた時のイエスは、十字架を背負いながらウサギ飛びしててちょこっとつまづいて苦笑いしただけでしたよ?」
春香「いやいやいや、なんで自分からハードル上げてるんですか、そのイエス様!?」

琴歌「あの・・・私もヴィア・ドロローサの再現劇に参加できるのでしょうか・・・?」
あい「フッ、問題ございませんよ、お嬢様
この後のイエス様を見守る聖母マリア様役、イエス様の顔をハンカチで拭った疫病患者の聖ベロニカは無しとしても、
イエス様に声をかけられる嘆き悲しむ観衆の若い娘たち役がございますから」

春香「さ、差別だ・・・いや、イエス様役っていうのは最高の役のはずなのに何か釈然としないなぁ」
あい「おっと、そしてイエス様に代わって十字架を背負ったキレネの聖シモン役はきみの役目だ、頼んだよ荒木くん?」
比奈「ま、マジっスか・・・!?」


108 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:39:50
菜々「はーい、ここが終点のかつてのゴルゴダの丘、現在の聖墳墓教会※ですっ!
皆さんお疲れ様でした!最高のヴィア・ドロローサでしたね、キャハッ☆」

春香「ゼェゼェ・・・は、ハードすぎるでしょ、これ・・・」
比奈「ゴッホゴッホ・・・で、でもうれしいなあ〜、こんな体験めったにできるもんじゃあないっス!
これを作品に生かせれば・・・グフフフ・・・と、得したなあ、杜王町・・・じゃなかったエルサレムに来てよかったなあ〜」

菜々「そんなに喜んでもらえるなんて、菜々としてもコンダクター冥利に尽きますね、エヘッ!
でしたら追加オプションで実際に十字架に磔にされる追体験も・・・」

春香・比奈「いえ、結構です!」

(※現在の聖墳墓教会→
http://www.rostad.com/docs/CountryPics/il/Jerusalem-ChurchoftheHolySepulcher-Crusaderentrance.jpg


109 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:40:16
<数週間後 ヤッファ港>

春香「いやあ、大変なこともたくさんあったけど、やっぱ楽しかったなぁ聖地巡礼!
旧約・新約聖書に出てくる場所に直接行けるなんて最高の経験だよ!」
菜々「菜々もそう言ってもらえるとすごく嬉しいですっ!
でもでもぉ、おウチの玄関に着くまでが聖地巡礼の旅ですよ!」

春香「そ、そうだった、帰りもあの船旅が2ヶ月あるんだった、トホホ・・・って、船が見当たらないですよ、菜々さん」
菜々「あれ〜?ホントですねぇ、船長が合間を見て近くの港に交易に行ってるのかもしれませんね
まぁ、数日も待っていれば必ず来ますよ、ヴェネツィア商人は契約厳守ですから・・・ん?」

あずさ「あら〜?皆さんお久しぶりです〜!ここがヴェネツィアのホテルなのかしら〜?」
惠「旅をして・・・色んなモノを見て成長したいと思っていたけど・・・まさかゴンドラで世界一周するなんて、無理・・・(ガクッ)」

あずさ「あらあらウフフ、伊集院さんちょっとお疲れなのかしら〜?
春香ちゃんたちも船を待ってるの?それだったら、お乗りなさいな?」
春香「絶 対 に お断りします!!」

(※ユダヤの都とソロモン王の宮殿があったユダヤ教の聖地であり、
ムハンマドが神秘体験をしたイスラム教の聖地でもあるエルサレムは、古来より各宗教の巡礼者を受け入れてきた
キリスト教を国教化したローマ皇帝コンスタンティヌスの母で4世紀にエルサレムを巡礼ついでに聖遺物を漁りまくった聖ヘレナ、
史上最大規模の巡礼団といってもいい十字軍運動を経て、イスラム教徒の支配下に入ったあとも続き、
ユダヤ人とアラブ人が争う現在もなお巡礼者は絶えることがない)


110 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:40:39
春香「ま、という訳でさ、聖地巡礼をした人々の動機には免罪と救いを求めるっていう宗教的なものもあったかもしれないけど
その他にも実は、観光したい旅したいって気持ちも強かったし、
最も慣れ親しんだ物語=聖書の舞台に行って登場人物たちの追体験をしてみたいってオタクっぽい気持ちもあったんじゃないかな」

千早「なるほどね、だから『聖地巡礼』って言っても、あながち間違いじゃないのね」
春香「そうそう!
聖地巡礼するオタクの思いも、昔の巡礼者たちの思いも、同じ人間として実はそんなに違いは無いんだと春香さんは思うよ?」

社長「というわけでどうだろう、我が765プロとしても観光客誘致に熱心そうな自治体を見つけてだね、
そこに事務所を移転して新たな『聖地巡礼』ビジネスを起こすという案は!
私は市長もイケメン(既婚)で映画業界にもヒキのある夕張市なんかが有望だと思うのだが、どうかね!?」

赤羽根P「いえ、ものすごく芸能活動に不便ですし、第一そういう話は色々と生々しいのでやめて下さい・・・」

千早「・・・なるほど、聖地巡礼に常に商機を見出そうとする人間の性も、今も昔も変わりはないってことね・・・」
春香「箱m@sの765プロのモデルは渋谷区道玄坂、アニマスは杉並区南阿佐ヶ谷です、とりとり」


111 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:41:21
言うまでもなく元ネタは塩野七生「海の都の物語」の巡礼パック旅行
ヴェネツィア、塩野七生、ARIAと大好きなネタが揃ってしまうと際限なくネタが出てきて長くなってしまうという恐怖
次こそは1週間以内に書きたいです、申し訳ない・・・

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95


112 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:43:44
>>96
聖地巡礼の商業化は『世界の歴史がわかる本』、あと大正義『海の都の物語』でもあったやね


113 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:45:37
>>111
歴史ハルカッス兄貴、ヴェネツィア好きやったんか!
やっぱあの国には歴史好きを惹きつける何かがあるんすね〜


114 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:46:14
<おまけ>

(白き獅子館)
・現在の外観→
http://images.channels.nl/images/hotel/max500/264/26413130.jpg


115 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:47:20
(ダニエリ)
・内観→http://q-ec.bstatic.com/images/hotel/840x460/159/15977827.jpg


116 : 名無しさん :2015/08/11(火) 20:51:35
生前のイエスを知る菜々さんって一体…


117 : 名無しさん :2015/08/11(火) 21:11:20
ええやん


118 : 名無しさん :2015/08/11(火) 21:39:12
新作やったぜ。


119 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:45:37
歴史ハルカッス兄貴とか馴れ合い臭いから名前つけんのやめて欲しい


120 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:48:37
>>119
今更過ぎィ!
なんか嫌なことあったん?良かったら聞いてあげるで


121 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:49:28
まああんまり良くないかもな
今後控えるわ


122 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:50:19
それもそうやな、ワイも悪かった、今後金輪際天地神明に誓って言わんようにするわ


123 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:50:45
>>119
ぐう正論、儂も気をつけるようにします


124 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:51:11
馴れ合いは良くないっすよね・・・配慮が足りず申し訳なかった


125 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:57:27
今後は>>1さんって呼ぶ方向で?


126 : 名無しさん :2015/08/11(火) 23:05:50
こう、賛成の意見ばかりだと変なの疑う(腹黒)


127 : 名無しさん :2015/08/18(火) 22:58:43
【第八話】春香「塾サーの姫ってどうよ、千早ちゃん?」

春香「今さら『花燃ゆ』の録画なんか見て、千早ちゃんも塾サー系アイドル目指すつもりなの?」

千早「何故か事務所に、大量の音無さんの録画したDVDがあったから見てただけだけれど、そもそも塾サーって・・・(困惑)
オタサーの姫・・・っていうのは聞いたことあるけれど塾サーっていうのは何なのよ?」

春香「それはもう、松下村塾学生サークルの姫からの獄サーの姫を経て、現在は奥サーの姫の付き人として絶賛大活躍中の久坂文さんに決まってるじゃん!」

千早「あ、ああ、要するに大河ドラマさんの話ね・・・
若い学生の集まる塾に、先生のあんな可愛らしい妹さんがいたら姫っていうか、やっぱり人気にはなるんじゃないかしら
実際の文さんも、やっぱり可愛らしい人だったの?」

春香「顔がね・・・
もう一人の塾サーの姫こと北辰一刀流千葉道場の千葉さなさんには美人説があるんだけどね・・・
ま、まあ旦那さんの久坂さん的にも敬意を抱く松陰先生の妹さんだし気立てが良ければって思ったんじゃない?浮気?なんのことかな?」

(※久坂文、後の楫取美和子さんのご尊顔
http://mens-full-life.com/wp-content/uploads/2014/12/IMG_20150104_132448.jpg
なお全然関係ないが同時代人で美人と名高い楠本高子さん
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bc/Takako_Kusumoto.jpg
http://bakumatsu.org/blog/wp-content/uploads/2012/03/00369_l.jpg

千早「そういえば松下村塾って塾に当時の長州の武士たちが通っていたって話なのよね?
そういえば江戸時代の学校教育ってどうなってたの?あまり公共教育ってイメージがないけれど」

春香「うん、江戸時代も後期の18世紀後半くらいまでは一般武士の文武教育は基本的に家庭教育オンリーでした!
特に隠居したお爺ちゃんが孫の教育をってケースも多かったみたいでそういうお爺ちゃんたちの日記も残ってるよ」
(※幕末の例だが『桑名日記』など参照。
お爺ちゃん武士が「今の子はマセててワガママで困る!」みたいな愚痴を書いていて微笑ましい)


128 : 名無しさん :2015/08/18(火) 22:59:13
千早「そうね、お父さんが仕事に出ていたらそうなるでしょうね、でもお爺ちゃんが孫を教育するのって・・・」

春香「甘やかす&言うこと聞かないで大体はロクなことにならないよね
まあ武士の死因の過半数が飲みすぎ遊びすぎ(※いわゆるヤリすぎによる腎虚)が原因だったんじゃないか、
なんて言われるくらい平和な時代ならそれでも良かったんだけど
相次ぐ飢饉と打ち壊し、商業と貨幣経済の発展に対してコメ収入に依存する藩財政の悪化、ロシアの脅威・・・っていう18世紀後半頃から、
危機意識に目覚めた各藩は文武両道の『藩校』を作ったり藩士の教育を推進し始めるんだよね」

千早「ああそういえば『花燃ゆ』でも長州藩の藩校の明倫館っていう学校が出てきたわね、松陰さんももともとそこの先生だったんでしょ?
それでも松下村塾みたいな塾にも学生が集まるくらいだから藩校だけじゃ足りなかったのかしら」

春香「明倫館の開校は1719年と各藩よりもズバ抜けて早かったんだけど、そもそも全ての藩士が通えるわけじゃないしね
それに18世紀後半から広く庶民も含めて空前の学問・武芸ブームが起こるんだよ、いわゆる化政文化ってヤツだね
1780年頃までは全国でも寺子屋の数も2百ちょっと、私塾も江戸や京阪に数十あるかないか位だったんだけど・・・
何と1781年から明治維新の1868年までの期間に寺子屋は1万軒、私塾も1千軒以上と爆発的に急増するんだよ!
ぶっちゃけ日本の識字率と教育水準の高さはこの時代に作られたといってもいいくらい」

千早「政府の方針とかじゃなくて自然にそんなラッシュが全国で起きたって凄いわね・・・
松下村塾もそんな私塾ブームの中の一例だったってわけね」

春香「ま、田舎の一私塾に過ぎないけどね
幕府直轄の昌平坂学問所(※東大の前身の一つ)・講武所はじめ、武芸道場も学問の私塾も、江戸に超一流の人材が密集してたからね
優秀な地方の藩士たちには官費で江戸の一流私塾に『留学』する人達も少なくなかったんだ」

千早「その辺は今と事情がそんなに変わらないのね、地方から東京に優秀な大学生が集まりやすいっていうのは」

春香「そうだね、まぁ基本的には、ね
でも官費留学して卒業後に奉行職に大抜擢という最高の就職したのに、
30代で結婚もしてるのに仕事辞めてわざわざ田舎の私塾に私費留学する変わり者も世の中には存在してね・・・」


129 : 名無しさん :2015/08/18(火) 22:59:39
<安政6年(1859年) 江戸・漢学塾「久敬舎」>

塾頭(学生筆頭)輿水幸子「はい、塾生代表して可愛いボクが送別の辞を読み上げるので皆さん静聴してくださいね!
あー、余の久敬舎にあるや、かつて聞く、河井某なる者あり・・・」

律子「ほんっと河井さんも馬鹿ねぇ、殿様に気に入られてて地方を治める郡奉行に大抜擢して貰ったんでしょ?
なんで順調に出世街道に乗ったのに、その仕事辞めて今さらいい歳して田舎に私費留学するんですか?」

河井「いや郡奉行って言っても百姓たちの言い分をちゃんと聞いてあげて村同士の揉め事を公平に仲裁するだけの簡単な仕事でゴザルよ?
アイツら、ぶっちゃけ大体のことは内輪で入れ札で解決してるでゴザるし・・・
小生のような越後一の智将がわざわざ何年も務めるほどの仕事ではゴザらぬよ、律子殿」

幸子「・・・余(私)をかえりみていわく、子(彼)、余を以って如何の人と為す。
余、答えていわく、子はすなわち先鋒の将なり、短刀深入、大勝せざれば、すなわち大敗せん・・・」

春香「そうなんですよ!
長年の村同士の紛争を解決した褒美に何がいいって流れで、仲いい家老の山本様やお殿様に、
立身出世とかお金じゃなくてまーた留学願い出すとか、世渡りがヘタとかいうレベルじゃないっていうか!」

河井「下男の春之助はこう言っているでござるが、律子殿!
いやぁ〜乱世乱世!19世紀半ばの中国大陸の話でござるよ!
西欧列強が牙を向き中原を制覇せんとするこの乱世に、小生の越後一の頭脳を田舎に留めておくのはまさに宝の持ち腐れでゴザル!」

律子「っていっても備中松山(※現在の岡山県高梁市)の山田方谷先生の塾って、田舎から田舎に行くようなもんじゃない
・・・それはともかく河井さん、藩から補助金出ないんでしょ、私費っていうけどお金あるんですか?」

幸子「今、国家昇平、これを久しくし威徳ならび行われるも、夷狄来襲の憂、なお南宋に似るものあり・・・」

河井「それは無論ぬかりは無いでゴザルよ律子殿
小生、早速に国元の父上に手紙を送り、すでに五十両(※当時の平均的な自作農の年収に匹敵する大金)もの軍資金を獲得したでゴザル!」

春香「『遊郭にも相撲や芝居見物にも行かず倹約していたのに、おもわぬ病気の治療で出費がかさみ・・・』とかテキトーなこと書いてましたよね、河井の旦那」

律子「呆れた。河井さん、吉原に通い詰めだったじゃないですか
ご丁寧に『吉原細見』と称して娼妓の品定めメモまで書いちゃって」
河井「いやいやアッハッハ・・・こ、これも軍師たる小生の兵法にゴザルよ、ハ、ハハハ・・・」

律子「まぁいいや、長旅ですし河井さんもくれぐれも!無駄遣いや寄り道はしないように!・・・それではお気をつけて」
河井「律子殿もお元気で!旅路でよい関帝人形など見かければ土産に持参いたすでゴザル!それでは御免!」

幸子「・・・去って天下の豪傑にまみえ、しかして当世の急務を談ず・・・って、皆さん聴いてました!?
この可愛いボクが徹夜で考えて綺麗に清書したんですよ、この送別の挨拶文!
み、皆さ〜ん!ねぇ!ねえって!!」


130 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:00:12
きたあああああああああ待ってた!


131 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:00:14
<第一日目 神奈川・横浜に一泊>

春香「おー!!
今年開港したばっかだって聞いてたけど、店もいっぱい建ってるし、道も新しく普請されてるじゃないですか!
黒船もパッと見で5隻くらいかな?異人もいっぱい行商人もいっぱいで繁盛してるじゃん!」

河井「ああそう・・・でも関帝廟は、関帝廟は無いでゴザルな・・・」
(※横浜に中国人商人が関羽雲長フィギュア・・・関帝像と祠を建立したのは、この3年後とされている
関帝廟公式サイト→http://www.yokohama-kanteibyo.com/kanteibyou.html

異人「バルさん自分ヒロインは苦手だから任せるっす、ゴメンっす!ゴメンっす!」
黒人「ハイ、ゴメス=サン!・・・アイラブ・ヨコハマ〜!」

春香「ほらほら河井の旦那!異人ですよ、異人!片方はあんまり異人っぽくないけど
それにほら、行商人たちもいっぱい出店だしてて賑わってますよ、関雲長フィギュアも売ってるかもですし、元気出してください!」

河井「いや、パッと品揃えを見渡して見るに、ガラクタばかりでゴザルよ
これはさしずめ山師、詐欺師の類ばかりが集まってきて、異人たち相手にボッタくろうとの算段でゴザろうて・・・ん?」

真鍋いつき「輪島塗!産地直送の輪島塗のお椀にお膳はいかがですか〜!!
身体をいっぱい動かしてイイ汗かいたあとのご飯を、これに盛って食べる喜びは最高ですよ!!」

河井「いやぁ〜奇遇でゴザルなぁ〜!!小生も同じ北陸は越後の産まれ!いや、実に奇遇、奇遇!
(これは健康美の溢れるような二重丸クラスの美女!?
あ、汗で透けた若き娘子の薄い布越しの柔肌がタマランでゴザル・・・ハァハァ・・・)」

春香「あ、輪島塗ですね〜!いいなぁ、いろどりが鮮やかな漆器ばかり、ちょっと欲しいかも
これひょっとして全部担いで運んできたんですか、輪島からはるばる?」

いつき「そうですよ!いつもトレーニングしてますから、ちょうど良い運動ですよ!
それに大きい声では言えないですけど、異人さんたちはあんまり質の良し悪しがわかんないみたいだから、
傷モノや安手の輪島塗でも見た目が華やかなら高値で買ってくれるから、ほんと良い商売なんです!」

河井「・・・ほう。異人は細かなこだわりよりも見た目を重視して安物の漆器でも大枚を出すでゴザルか・・・
して行商人殿、輪島塗の横浜での輸出の収益はどれほどでゴザルかな?」

いつき「えーと、それ幕府の方からもウチのお偉いさんに問い合わせがあったらしいんですよねー!
まあ詳しくは分からないみたいだったんですけれど、だいたい年に10万両くらいになりそうみたいな答えしたみたいです!」

河井「ふぅーむ。輪島塗の品質の低い物込みで異国貿易に回すとしても年10万両・・・(※23万石の会津藩の歳入が約22万両)
小生の故郷では漆器の生産こそしていないものの、武具や仏壇の制作手直しなどを生業とする漆塗師は多い
いっそ他所で雑器や安い漆器を買い集め、その者らに異国向けの装飾塗り直しをさせて転売すれば・・・むむむ・・・」

春香「いや河井の旦那、あきんどでもない武家の旦那がなんでそんなことで悩んでるんですか?変な人だなぁ・・・」

(※1854年のペリー艦隊の再来航にあたり幕府は当時小さな漁村に過ぎなかった横浜村にて日米和親条約を締結
その後1858年の日米修好通商条約により現在の神奈川本町にあたる神奈川港、そして対岸の横浜港の開港が決定された
横浜に幕府が厳重警備する外国人居留地が建設される一方で、ヨーロッパ側日本側ともに胡散臭い商人たちが殺到
不公正な騙し合い化かし合いをする混沌とした状況であり、あるイギリス人外交官はこの様を『ヨーロッパの掃き溜め』と評した
この大活況ながらもカオスな状態が、後のオシャレな港街・横浜の原初の風景である

ペリー上陸時の横浜→https://www.yushodo.co.jp/pinus/76/heine/h_img/01.jpg
開港直後の横浜→http://www.u-presscenter.jp/uploads/photos/634.jpg


132 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:00:51
<第五日目 伊豆・箱根の関を越え沼津で一泊>

河井「は、箱根の険はまこと天下の険・・・ハァハァ・・・
李白の詩にもある『蜀道の難きは青天に上るよりも難し』、かの蜀漢の名将・姜維の死守した剣閣も、
かくの如き越えがたき要害天険ぶりであったでゴザろうか・・・ゴッホゴホ・・・」
春香「ぜぇぜぇ・・・と、とりあえず山も関所も越えましたから、この三嶋大社で一休みしていきましょうよぉ、旦那ぁ・・・」

河井「う、うむ・・・しかし天下に名高き三嶋大社なれども惜しいかな、
数年前の大震災(※1855年の安政の大地震)で本社は崩れたままとは
いたし方ござらん、参拝はせずに境内にて一休みするでゴザルか・・・ん?」

渋谷凛「ほら、お水飲んで・・・お社の湧水だけど
アンタたち、箱根の関を越えて来たばかりの旅人でしょ?」
河井「こ、これはかたじけのうゴザル!!・・・ハァハァ
(ウヒョー!これはまた、吉原ならばトップをも狙える極上の珠玉の如き美少女!)」

春香「あ、ありがとー!ングング・・・ひゃあ、まさに生き返ったよ!
あれ?あなた巫女さん・・・じゃないよね、大きな籠を背負ってるし」
凛「うん、この伊豆の最大の産物・木炭を神奈川まで運んで行商してる
向こうに天城山が見えるでしょ?あの山だけで将軍様に年10万俵の木炭を収めてるんだよ」

河井「ふぅむ、しかしいかに伊豆の山々が樹木豊かであろうとも、
それほど大量の木を切り出してはあっという間に禿山だらけになるのではゴザらんかな?」
凛「うん、この伊豆だけで江戸の木炭の7割を生産してるって言われてるけどね、でも大丈夫
伊豆の国は幕府直轄の土地としてもう百年以上も前から、植林・輪伐・間伐と計画的に御林の管理が、計画的にしっかりされてるから」

春香「え?そんな昔から森林保護とか山林環境保護とかされてたの!?」

河井「確かに・・・小生の藩でも名君・忠晴公が、かれこれ200年も昔より、
水野尾林の保護令をお出しになって乱伐による山崩れ・水源枯渇・土壌流出を防ぐ政をなされておられたでゴザルな
かの大儒・山鹿素行先生も熊沢蕃山先生も早くから積極的な林政論を唱え、実践せられていた由・・・
やはり一国の政事をつかさどる者は、かくも遠く数百年先を考えた方策を考えてこそ、でゴザルか、ううむ・・・」

春香「へぇ、よくわからないけれど、確かに鎖国したこの狭い国で何にも考えないで乱伐・乱開発しまくってたら、
あっという間に自然環境崩壊して自滅しちゃうもんなぁ、やっぱ昔の人は偉いや・・・あれ?参拝するの?」

凛「うん、本社は崩れたまんまだけど一応は、ね?
それじゃ二人とも無事な旅路を祈ってるから・・・(スタスタスタ)
・・・三嶋大明神様、マエケンへの勝利ありがとうございました!これからもご加護をお願いいたします!(二礼二拍手一礼)」

(※豊臣政権から江戸初期にかけての空前の都市・城などの建築ラッシュと開墾開発で、
日本の山林は乱伐・乱開発によりそのほとんどが禿山となるという危機的状況に陥った
山林の喪失による水源崩壊・土壌流失・水害の頻発で飢饉も増加、事態を重く見た幕府は、
山林の回復と保護管理を目的とする諸国山林掟を1666年に制定し、諸藩もこれにならった
その後、山林保護政策と林政研究は全国で進み、江戸中後期には奇跡的な森林資源の回復に成功した
この江戸幕府の先進的な環境保護政策は現在、世界的にも高く評価されている
詳しくはコンラッド・タットマン『日本人はどのように森をつくってきたのか』をどうぞ

なお、この江戸期に大々的に植林されたまま放置状態にあるスギが、現代では大量の花粉により、
人々をまた別の形で悩ませることになっているのは皮肉な話である)


133 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:01:22
<第八日目 大井川河畔の島田に一泊>

春香「うわぁ・・・このところの増水で大井川の渡しは中止、川留まりだって!
ほらぁ、旦那がどうしても富士山を晴天で見たいとか言って数日もグズグズしてたからですよ!」
河井「えっ、小生のせいでゴザルか!?春之助も見たかったでゴザろう、霊峰富士!?」

土屋亜子「ど〜も、まいどまいど!
ひょっとして二人とも川あき待ちのお客さんですか?」
春香「はぁ、まあそうですけど、今、川留めで川を渡れないんでしょ?」

亜子「川留まり?いやー大丈夫大丈夫!明日にでも川あきになりますって!
で、どうでしょ、アタシに任せて貰えるんでしたら、今から川越人足※手配して川あきと同時に真っ先に渡れるように手配できますよ?
それも出血覚悟の格安のお値段で!ほらほら、二人分予約しちゃうなら今しかないと思うわけよ!」

(※江戸時代を通じて大井川は、神君家康公の遺命により架橋禁止、渡し舟禁止の措置が取られていた
そのため、大井川を渡る際には大名行列から一般人まで皆、川越人足に担がれて渡河するしかなかった
その様子→http://www.photo-make.jp/image_mago/kawa_toka.jpg

亜子「・・・それで渡しなんですけどどうです?
四人人足が担ぐ輦台で渡るまったく水に濡れないプランなんかどうでしょ?おひとり様たったの200文(※4000文で一両)!」

春香「高っ!!旅籠に一泊するのと変わらない値段じゃないですか!?」
河井「う、うむ、普通に人足一人に肩車のプランでお願いするでゴザル・・・(京大坂の遊郭代を確保したいでゴザルし)」

春香「でもアレですよね、何日も川留まりで旅行者が溢れかえってるはず、にしては人の数が少ないような?」
亜子「ああ、それはここ数年の不景気のせいっていうか
大名行列も一般の旅行者も2/3は、大井川迂回して中山道を通行するようになって、最近の東海道はちょっと不景気なんや・・・」

春香「いや、思いっきり自業自得じゃないですか、渡し賃とか高すぎだし!
あ、でも、『箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川』って言うくらいだし
大井川と箱根の山は家康公の考えた江戸防衛の要だし、橋も船もないのはしょうがないのかな、ねえ旦那?」

河井「そうでゴザろうか・・・?
かの曹孟徳が大敗した赤壁の戦いの時代の長江ならともかく、黒船でなくとも和船も頻繁に沖合を行き来しているこの時代・・・
果たして軍勢を足止めするような効果が大井川や箱根の山に期待できるでゴザろうか・・・?」

春香「あ、そっか、そうですよね。じゃ、なんで今だに橋も船もダメなんだろ?」
亜子「・・・さ、さあ〜?何ででっしゃろなぁ?」

(※松村博『大井川に橋がなかった理由』の詳細な研究によると、実は最大の原因は、
数千人の川渡人足や管轄部署の幕臣をはじめとする巨大な渡河産業と利権構造にあったようだ
頻繁な参勤交代時の大名行列の通行だけでも莫大な利権であったことを考えれば、
幕府官僚機構の家康の遺法を言い訳にした利権構造の温存は説得力のある説明である
なお、後の戊辰戦争の際、官軍はあっさり大井川に一日で架橋し通過、肝心の防衛線は全く機能しなかった
島田市博物館の大井の渡しについての説明ページ→
https://www.city.shimada.shizuoka.jp/hakubutsukan/floorguide/ooigawa-kawagoshi.html


134 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:01:38
充実し過ぎィ!


135 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:01:53
<第十五日目 伊勢・津 旧師の藤堂藩士、斎藤拙堂を訪ねる>

河井「先生!お久しゅうゴザル!」
拙堂「おお、河井くん!相変わらず、君は自信満々で元気そうじゃのう」

春香「(おー、この人が旦那の元々の師匠の斎藤拙堂先生かぁ、隠居したといっても元気そうなお爺さんだなぁ)」

河井「・・・そういえば先生、ここに来る途中に郷士たちの洋式戦術の訓練を見たでゴザル
やはり藤堂家といえば神君家康公より外様ながらも御先鋒の大役を賜りし雄藩!
いざ鎌倉という際には徳川のおん為に真っ先に活躍せんとする忠義の心と戦の備えは、
いささかも衰えてはいないようにゴザルな、アッハッハ!」

拙堂「うーん、まあ、そうね、ハハハ・・・(※後の鳥羽伏見の戦いでは、藤堂藩軍の寝返りが幕府軍大敗のキッカケの一つとなる)
ところで河井くん、洋式軍隊制度は大変じゃね、戦国のようにそれぞれ騎馬武者が徒士・足軽を率いて戦うようにはいかんのじゃもの
みんな鉄砲を持って隊列を組んで戦うんじゃもんなぁ、個々の武者が武勇を競って争うようにはいかんよ」

河井「むむ、つまり、騎馬武者の高級武士も徒歩の徒士も足軽も、みな一隊となって進退せねばならぬと!
確かに難しい問題でゴザルなぁ、みな武士は己が家の名誉と武勇を誇りにしておるでゴザルゆえ・・・」

拙堂「まぁワシはもう隠居じゃし、よくわからんのじゃがの
大垣藩の政治を任されておる小原鉄心(※大垣藩重臣)が洋式兵器を取り込んだ新たな藩兵軍制に優れておるゆえ、参考にせい」

河井「なるほど、新式銃と大砲を活かす戦いとなるとどうしても藩士みな一兵卒のようになって一隊として行動せねばならぬ・・・
お!ひょっとして、上士は上士のみ、下士足軽は下士足軽のみで隊を組めば身分制を崩さずに指揮できるのでは!?
さすがは小生、越後一の智将でゴザルなぁ、まさに諸葛亮のごとき機略!」

拙堂「・・・なぁ河井くん、その孔明だが、君も孔明のように謹慎(※文字通り慎み深く慎重なこと)を心がけなきゃならんよ?
君の才覚、神算鬼謀はワシも良く知っておるが、謹慎の心無くば道を誤るぞよ?」

河井「己の高慢を自戒した孔明の、出師の表での言葉でゴザルな!?
無論、小生も謹慎の心を片時も忘れたことなぞゴザらぬよ、アッハッハ!
(こういう小言をおっしゃるとは、先生も老いられたでゴザルなぁ・・・)」
春香「あ〜、この旦那、よく分かってなさそうだなぁ・・・」


136 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:02:21
<第22日目 京都・三条の「ます屋」に投宿>

春香「・・・井伊大老の安政の大獄での大弾圧が、まさに去年あったばかりの京都かぁ
朝廷内の尊王攘夷派の公卿たちやその側近、諸藩藩士たちに学者・浪人まで、大量の人間が捕縛されたり処刑されたりしたばっかりだもんなぁ
あと、何か良くわからない長州の吉田なんとかって学者さんも処刑されたんでしたっけ?」
河井「そ、そうでゴザルな・・・(キョロキョロ)」

春香「幕府の役所である京都所司代周辺はもちろん、奉行所や番小屋、ていうか街全体がすごくピリピリしてますね
今の大老の井伊直弼さんの側近の長野主膳、でしたっけ?
宮中でも大量のスパイを動かし、さらには京都奉行所や、その手下の目明し※たちまで手足のように動かしているとか・・・
(※治安業務に従事する元犯罪者やヤクザなど奉行所同心の手下。その奉公の見返りに賭博の黙認などが横行していた)」
河井「う、うむ、確かに怖い話ではゴザルが、小生のような徳川譜代の士には関係ゴザらんな、ハッハッハ!(ソワソワ)」

春香「にしてはさっきから落ち着き無いですね、旦那
ハッ、ひょ、ひょっとして旦那も尊皇攘夷派だったとかですか!?」
河井「まさか!小生のような徳川に忠誠一途の侍がそのようなことあるわけゴザるまい!
・・・ただちょっと、な?わかるでゴザろう?ちょっと、その、出かけてきたい所が・・・」

春香「・・・ああ、島原の花街ですね・・・(察し)」
河井「そうそう!たまには魂の洗濯も必要なのでゴザルよ!あ、あと家内と父上母上には内密にするでゴザルよ・・・?」

(※ずば抜けた観察眼で道中の政情経済などを事細かに記録していた彼の旅日記であるが、
この緊迫した時期の京都・大阪に滞在したにもかかわらず、その約1週間の記述が全くない
井伊の秘密警察の目を恐れて・・・というよりもこの人の場合、色里で遊び倒していた事実を、
後に妻や父に日記を見られる場合のことを考慮して一切隠しちゃったんじゃないかという気がする)


137 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:02:52
<第三十九日目 備中松山の修行人宿「花屋」に投宿>

春香「や、やっとついたぁ・・・」
河井「やっとたどり着いたでゴザルよ・・・
春之助、さっそく宿の主人に越後より河井なる士が到着したと伝えてくるでゴザル!
早く山田方谷先生にお取次ぎしていただかねば!」

春香「へ?いや、いいですけど、そういうのって宿屋の主人よりも役所にでも行った方がいいんじゃないですかね?
・・・あ、ご主人?・・・ええ、越後の牧野様御家中の河井様が今到着とのお言付けを・・・え?話は聞いているから山田様にお伝えしてくる?
はぁ、それはどうも・・・うーん、何か話が早すぎてよくわかんないや、なんだろこの宿屋」

真「やあ!ひょっとして君のご主人もボクみたいな修行人なのかい?」
春香「へ?修行人?」
真「ああ、ボクは藩の公認で槍術の武者修行の旅に出ている修行人なんだけどね
ひょっとしてその様子だと修行人宿に泊まるのは初めてなの?」

春香「ここ普通の宿屋と違うんですか?修行人宿って初めて聞いた・・・」
真「ハハ、そうなの?修行人宿っていうのはね、それぞれの藩の藩校と連携している藩公認の宿でね
ボクみたいな各藩の藩校の道場をまわって歩いている修行人も、学術留学にやってくる修行人も、
その藩の全額負担で泊めてもらえる宿屋なんだ、だから役所や藩校との連絡折衝なんかも全部やって貰える訳」

春香「へー、便利なんですね!
道理で街道でも竹刀防具担いだお武家さんたちがいっぱいいた訳だ!それにタダ飯なんですか、すごい!」
真「それは各藩お互い様だからね、武芸や学問の交流を促進したいのは、さ
まあ、その親切につけ込んで、道場に他流試合を申し込まないくせにタダ飯だけ食べてまわって、
修行人だってカッコつけて自分の藩に帰る『米食修行人』なんて奴らもいるんだけどね、ハハハ」

春香「ああどこの藩にもいますよね、そういうズルして見栄だけ張りたがる人って・・・
え?山田様から使いが来た?・・・これから藩の北のお屋敷に案内してくださる?
旦那ぁ!山田先生からお迎えがきましたよぉ〜!これから藩北のお屋敷に・・・
待てよ、備中松山ってことは今の岡山県なわけで、その県北って、まさか・・・」


138 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:03:16
〜BGM・「英雄の証」〜
(※http://www.nicovideo.jp/watch/sm3342194

やったぜ。 投稿者:変態糞執政 (8月16日(水)07時14分22秒)

昨日の8月15日に先日手紙くれた三國志好きの越後長岡のにいちゃん (33歳)とその下男(17歳)とわし(53歳)の3人で県北にある川の土手の下で(政治談義で)盛りあったぜ。
今日は明日が藩政の執務が休みなんで、しこたま酒を飲んでから(議論を)やりはじめたんや。
3人で諸国の情勢分析しあいながら足袋だけになり持って来た学問書を3本ずつ(頭に)入れあった。
しばらくしたら、目の周りががひくひくして来るし、知恵が出口を求めて頭の中でぐるぐるしている。
下男に酒をお酌させながら、兄ちゃんの財政改革案聞いてたら、先に兄ちゃんがわしの耳に、大坂の米相場の取引と海外貿易による財政改革案をドバーっと出して来た。
それと同時にわしも大坂の蔵米での利ざやの稼ぎ方、赤字解消のノウハウを出したんや。もう頭中、金策まみれや。
3人で出した知恵をすくいながらお互いで検証しあったり、中国古典まみれの文献を論じあって三國志で例えたりした。ああ^〜たまらねえぜ。
しばらくやりまくってから又議論をしあうともう気が狂う程気持ちええんじゃ。
長岡の兄ちゃんの耳の穴にわしの孔明の天下三分の計批評を突うずるっ込んでやると、(兄ちゃんが)感動で涙と鼻水がずるずるして気持ちが良い。にいちゃんも自分の藩を生き残らせるために頭をつかって居る。
自負心まみれのにいちゃんの頭を掻きながら、思い切り説教したんや。
それからは、もうめちゃくちゃに幕府と朝廷の糞政策を批判しあい、藩を評価しあい、二回も改革案を出した。もう一度やりたいぜ。
やはり大勢で議論まみれになると最高やで。こんな、変態政治家と政論あそびしないか。
ああ〜〜早く議論まみれになろうぜ。岡山の県北であえる奴なら最高や。わしは163*90*53,おっさんは165*75*60、や
糞まみれでやりたいやつ、至急、メールくれや。土方姿のまま浣腸して、糞だらけでやろうや。

春香「結局、最後は糞まみれじゃないか!(全ギレ)」


139 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:03:51
(※山田方谷は農民の生まれであったが幼い頃から神童として知られ、藩士に取り立てられた後、
備中松山藩主・板倉勝静の側近にしてブレーンとして活躍した。
のちに財政および郡奉行の責任者となると、倹約策と汚職の撲滅を進める一方で商業活性など革新的な経済政策を推進して赤字財政を立て直した。
学者としてよりもその経世の才を天下に広く知られた人物であり、また、自ら編成した農民志願兵部隊を指揮して、
倉敷に乱入した長州の第二奇兵隊の撃退殲滅にも成功したが、鳥羽伏見の戦い後は速やかに官軍に降り、藩の生き残りにも成功している。
ちなみに岡山の県北にいたこの当時、本当に53歳だった)

方谷「・・・なぁ兄ちゃん、わしは諸葛孔明の天下三分の計、あれは後々を考えると失敗だったと思うんじゃ
あれで逆に天下はめちゃくちゃに難しくなった。時流に逆らわずに政治をする柔軟性もまた、時には民草の平和のためには必要なんじゃないか?」

河井継之助「そうでござろうか?
いや、小生はそれでも、あくまでも義を通し、天下を三分するとも民草を戦乱に巻き込まずに行ける活路を見出す!その覚悟にござる!」

(※河井継之助は越後長岡藩士で、黒船来航の際に当時江戸留学中の身であったが、提出した建白書が藩主・牧野忠恭の目に留まり側役に抜擢
郡奉行を経てこの留学と諸国見聞の後に帰国後、再び忠恭の側近に戻った
藩主の信頼厚く、藩執政に就任後はチート級の辣腕で瞬く間に財政改革に成功する一方、
その財力で世界でも数少なかった機関銃=ガドリング砲2門を含む膨大な新型の銃砲を買い集め小藩長岡藩を恐るべき近代軍隊に激変させた
その一方で朝廷とも幕府とも距離を置きつつ、幕府・朝廷の共存和平を画策する独自の武装中立路線を固持しようとした
しかし戊辰戦争の勃発後、東進する官軍はその和平の主張を認めず彼の天下三分の計は破綻
ついに官軍と前面衝突する北越戦争に突入、圧倒的な官軍におびただしい犠牲を払わせるも、
最終的に彼は戦場の露と消え、長岡藩は降伏した。享年42歳

河井継之助→
http://www.aizu-concierge.com/upload/spot/U1006/image/kawai%20tugu.jpg


140 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:04:00
>>138
いいオチだぁ・・・(恍惚)


141 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:04:22
まだ終わってなかったゾ・・・(池沼)


142 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:06:53
春香「あくまで将軍家と朝廷の共存平和の大義の道を目指したけれど、結局は受け入れられずに、
大戦乱に自藩を引き込んで結果として多くの人命を失わせた河井継之助が間違っていたのか
強固な大義も一貫したポリシーも掲げずに、常に柔軟に長いものに巻かれる姿勢で自藩の平穏無事を得た松山藩が正しかったのか
小国のあり方として、一概に割り切れない、難しいもんだよね・・・」

千早「幕末って、有名な藩だけではなくて、小さな藩にも、そこに生きた人々にもそれぞれのドラマがあったってことなのね」

春香「まぁ河井継之助さんは司馬遼太郎『峠』の主人公だったり、長岡出身の山本五十六が尊敬していたり、小藩にしては有名な人だけどね
ちなみに北越戦争では、継之助の巧みな戦術指揮によって松下村塾の塾サーの時山直八さんが戦死したり、
山県有朋さんが戦死寸前に追い詰められて辛うじて逃げたりしてます」

千早「で、結局多くの人が亡くなった長岡はその後どうなったの?」
春香「継之助に反対し続けた硬骨漢の小林虎三郎が大参事に就任して再建に紛争したんだけれど
支藩の三根山藩から援助のために届いた米百俵を、『教育こそ人材を育て国の繁栄の基となる』という精神で、
困窮した人々の糧に消費するのではなく、将来を作るための学校、国漢学校の運営に全て回したエピソードが有名だね」

千早「ああ、小泉元首相が演説で引用したっていう『米百俵の精神』ね
・・・結局、経済的な繁栄や軍事力の強化って問題も大事だけれど、やっぱり一番大事なのは将来を作る教育なんだってことなのかしら・・・?」

小鳥「大河の同人誌の『菊門の変』が思わぬ大好評でビックリするくらい儲かっちゃったピヨ!
この大金どうしようかな?・・・んー、将来とか小鳥17歳(当社比)良くわかんないし、パーッと気になってたDVDボックスを大人買いしちゃおっと!」

千早「・・・ああうん、もう十分(肉体の一部が)成長しちゃった人には将来に投資する必要ないかもね、でも」
律子「あれはあれで『教育』が必要な大人ね!!」


143 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:07:19
ごめんない、もう色々とごめんなさい、長すぎるのも収拾ついてないのもごめんなさい・・・
とりあえず幕末の人物たちの中では河井継之助がダントツで一番好きなんですけど、
彼の旅日記『塵壺』(東洋文庫)読んでたら、二人の先生に孔明に絡めて議論したって記述があって、気づいたら練馬一の智将化してました・・・
ちなみに他には『剣術修業の旅日記』(朝日新聞出版)なんかも参考にしました

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127


144 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:08:12
無学すぎて内容が全然分からないのが歯がゆい・・・もっと勉強しとけばよかったなあと、今回の内容が内容だけに痛感する


145 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:09:35
>>143
歴史ハルカッス兄貴いつも乙シャス!
長いということはそれだけ内容が深いってことだし大歓迎だゾ

こういうのって、本読んでから文章構成を練って、実際に書き上げるまでどれくらい日数使ってるんですかね?


146 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:41:55
はぇ〜すっごい質量…
唐突に放り込まれた変態糞執政に草を禁じ得ない


147 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:42:47
>>144
マジすいません
もうちょっと短くてわかりやすく書ければ良いんですが文才ないんです
いまの大河ドラマの時間軸を別の塾サーの立場から書いてみたらどうかなと思ったんですが、長すぎ説明不足過ぎでした
次回から気を付けます・・・

>>145
本当は某所で書いてた時みたいにもっとテンポよく行きたかったんですが
スレが落ちない安心感で長文化&週一ペースに・・・
題材にする題材のストック自体はかなりあるんですが、ネタ化してオチまでの流れは考えてなくてモタモタしてます
ちょっと頑張って改善したいです、すんません


148 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:45:32
>>147
いやいやいや責めてるわけやないで!
毎回凄く吟味された文を書いてるし、それに加えてキャラの掛け合いまで練られてるとなると、相当な作業量やと思ったんや
それで一週間に一回は書いてるというのが驚異的なペースって感じて、これだけ要領よくこなす秘訣でもあるんかな思って


149 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:49:39
ペースはあんまり気にしなくてもええんやで
無理せずやりましょうや


150 : 名無しさん :2015/08/18(火) 23:55:41
>>148
ありがとうございます
いうてもワイの場合は歴史という元ネタがあるんで一から構想練って創作するSS書きの方たちよりはだいぶ楽かなと
あとはネタキャラ化してはいますが、春香さんへの尽きぬ愛!
もう歴史と春香さんとアイマスキャラで妄想してるだけで幸せな人間なので・・・


151 : 名無しさん :2015/08/19(水) 02:18:01
>>150
愛あるならもうちょっとキャラの口調や性格やらも勉強せーや


152 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:07:02
【第九話】春香「カツオ節も醤油も和歌山が発祥なんだよ、千早ちゃん!」

春香「江戸時代に遠洋でのカツオ一本釣り漁法を発明したのも、太平洋岸各地に、
とくに鹿児島の枕崎や土佐、房総半島に、獲れたカツオの加工地や漁業基地を作って様々な漁法を伝えたのも紀州の漁師たちで、
その中でも印南浦(※現・印南町)のレジェンド漁師である二代目甚太郎が17世紀に土佐で『土佐節』を、
18世紀に房総半島に移住した印南の余市が『安房節』を発明して、現在のカツオ節の原型になったんだよ!!」

千早「へ、へぇ・・・」

春香「醤油だってそうなんだよ、千早ちゃん!
13世紀に中国の南宋帝国に留学して紀州興国寺を開いた偉いお坊さんの法燈国師・覚心さん(※禅宗の高僧。1207〜1298。虚無僧と尺八も伝えた。)が、
留学先の中国浙江省の径山寺で味噌(※現在に伝わる金山寺味噌)の作り方を学んだ際に何と醤油の醸造法を発見したんだ!」

千早「そ、そうなの・・・(何でお坊さんがわざわざ留学してお味噌の作り方修行したんだろう・・・)」

春香「そしてその覚心さんに醤油の醸造法を教えてもらった湯浅村(※現・湯浅町)の人たちが、
いわゆる『湯浅醤油』を作り始めて大繁盛!近隣の有田や広村(※現・広川町)でも盛んに生産して売り出してたみたいだね
それでそれで!17世紀、江戸時代に入ってその広村の醤油職人だった浜口儀兵衛さん、浜口吉右衛門さんが、
大都市江戸に近くて紀州漁師たちもよくやってきて馴染みのあった銚子で醤油醸造を始めたんだよ!
これが現在まで続く『ヤマサ醤油』『ヒゲタ醤油』なんだよね!やっぱ紀州人ってすごいよ!」

千早「いや、うん・・・和歌山県の人たちがすごいのは良くわかったけど
何でまた急に・・・?」

春香「いやだって、ねぇ?なんとなく和歌山再評価の需要あるかなあとか・・・」
千早「需要って、いったいどこの需要よ・・・?」

高木順二郎社長「いや、需要はあるぞ!
実は今度、わが765プロと346プロ共同で、関西ローカル局で和歌山県の偉人たちを取り上げた大型ドラマを企画中でね!
それで本人の熱意・・・(と経費節約効果)・・・を評価して、天海くんに脚本をお願いしたのだよ!」

千早「・・・あの社長、安物買いの銭失いってことわざ、ご存知ですか・・・?」

社長「そこで早速お越しいただいたのが、こちら和歌山出身346プロの(自称)和歌山県観光大使の高垣楓くんだ!」

楓「こんにちは、高垣楓です・・・あの、よろしくお願いしますね、如月千早さん」
千早「え・・・えっと、はじめまし、て・・・?(どこかであった気がするのだけれど・・・デジャビュ?)」


153 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:07:24
社長「それで天海くん、企画の原案が出来たと聞いてきたのだが
やはりアレかね、和歌山出身で日本史を作った偉人といえば、熊野の武蔵坊弁慶かな?
雑賀孫市かな?陸奥宗光かな?あ、八代将軍徳川吉宗かな?それとも江戸の豪商・紀伊国屋文左衛門?」

春香「いやいや、その辺の人たちはとっくに手垢が付くくらい創作されまくってますし」
社長「じゃあ文化人や学者だろう?本居宣長もありそうだが、医者も多かったはず
華岡青洲(※江戸時代後期の外科医で、1804年に世界史上初の全身麻酔による外科手術に成功した。生涯153件の乳がん手術を行い成功している)かな?
小山蓬洲(※やはり江戸後期の医者で、国内初の天然痘ワクチン=種痘の開発と治療に成功した)かな?
ああ、医者ではないがノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹も紀州藩士の家系の人か」

春香「そのへんも先駆者いっぱいいるじゃないですか」
社長「じゃあ・・・じゃあ、キノコ大好き南方熊楠(※日本を代表する世界的博物学者でホモにも詳しかった偉人)?
あ、わかったぞ、スポンサー目当てでズバリ、世界のマツシタこと松下幸之助(※1894年和歌山市出身。言わずと知れた松下グループ創業者)さんだな!!」
春香「全然違います♪」

千早「和歌山県出身の偉人って、いっぱいいるんですね、ちょっとビックリしました」
楓「ふふっ、どうかしら、ちょっとは見直してもらえた?
今でこそ地味なイメージの和歌山県だけど、昔から海へ積極的に乗り出して行く度胸と才覚に富んだ人たちの多い気風の土地なのよ
・・・でも今さら和歌山のすごさに気づくなんてホント、ニワカやま〜(迫真)」
千早「ブフッ!か、関西弁でニワカやな〜が、に、にわかやま〜って・・・ボフッ・・・わ、和歌山だけに!ン!クッフッフ!(千早悶絶)」

社長「(相変わらず如月くんの笑いの沸点低いなぁ)では一体誰なんだね!?
さすがにほとんどの有名な和歌山出身者の名前は挙げたと思うが」

春香「社長、紀州人の特徴といえば、やっぱり大海原へと挑戦し続けて克服してきたその冒険心だと思いません?
今でこそ漁獲量も少ない和歌山県ですけど、勝浦・串本なんかの漁師たちは戦前、広い太平洋中に雄飛してたんですよ?
マグロの遠洋漁業やオーストラリア北岸での命懸けの真珠採り、そして積極的な海外移民や商業活動・・・
体一つで広大で危険な太平洋の大海原に挑む無鉄砲なくらい勇敢な男たち・・・
そんな戦前の海の男たちの度胸と冒険心を象徴するのが、トンガ丸と十人の勇士たちの物語なんです!」


154 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:07:58
<昭和3年(1928年) 和歌山県西牟婁郡田並村=現・串本町田並の港>

高木順一朗「あー村役場でこっちを見ている君、そう君だよ秋月君!ちょっとこっちへ来なさい!」

律子「あーハイハイ、何ですか順一朗さん、私は村長としての仕事が山積みで色々と忙しいんですけれど!?
・・・まさかまた、ティン!と来たからマグロ漁船作る資金貸してくれとか言い出すんじゃないでしょうね?
16年前に南太平洋でマグロ漁船沈めて大損した時の尻拭いも結局、従兄の順二郎さん現地に置き去りにして何とかしてもらったんでしたっけ?(皮肉)」

順一朗「ン!も、もうその話はそろそろ時効ってことでいいんじゃないかな、ハハハ・・・
じゃなくて!その順二郎から手紙が来たのだよ、秋月くん!」
律子「へぇ、珍しいですね・・・
順二郎さんと言えば一漁民から身を起こして、トンガ王国※でしたっけ?
その島国を中心にして、今では南太平洋原産のヤシ油を輸入して日本産の繊維やセメントや日常雑貨を輸出する大商社の社長さんだそうじゃないですか」

(※南太平洋の彼方に存在する170の小さな島からなる島国。
総面積は淡路島程度で、当時はイギリスが保護領として女王サローテ・トゥポウ3世を通じて傀儡支配する状態にあった

トンガの位置→
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/mail/img/230_00_01.jpg
サローテ・トゥポウ3世→
http://4.bp.blogspot.com/_dHMUkWjxiWM/SxmNA0cdS-I/AAAAAAAACHo/ihpr2d5BvSM/s640/e4a7481c083149f3_landing.jpg


155 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:08:19
順一朗「うむ!そのトンガ王国なのだが、実は女王様にはウチの順二郎が贔屓にしていただいていてね
それでその女王様から側近の酋長を介して、王室用の御用船を作って回航して欲しいという依頼を受けたそうなのだよ!」

律子「王室御用船ですか!?それってこの田並村にとっても、ものすごい名誉なことじゃないですか!
・・・でも、それでまた、どうして私のところに来たんですか?」
順一朗「いや、それがだね秋月くん、そのう、代金後払いらしくてね、ちょっと当座資金の融通をお願いできないかな、とね、ハハハ・・・」

律子「はぁ・・・まぁそんなことだろうと思いましたよ
名誉なことですし、順二郎さんの方『は』信用できますから、何とかしましょ
それで順一朗さん、その王室のご依頼の予算額の方はいかほどなんですか?」
順一朗「ハハハ・・・えっと、このくらい・・・です・・・(手紙ヒラッ)」
律子「・・・・・・え?(絶句)」


156 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:08:52
春香「・・・いや〜律子さん、私に用ってなんですか?
わた春香さんはみんなの人気者でメインヒロインだから、あんまり暇じゃないけれど律子さんの頼みだってんで来てあげましたよ?」
律子「(嘘つきなさい、今は遠洋漁船の船長を引退した暇人じゃない・・・)
あら〜天海さん、ごめんなさいねぇとぉってもお忙しいのにお呼びしちゃって(ニコニコ)」

春香「え?いや律子さん、天海さんとか止めてくださいよ〜!
なんでそんなに気持ち悪いくらいにバカ丁寧なんですか?ちょっと怖いんですけど」
律子「いや実はね、遠洋航海経験の豊富な春香船長の経験を見込んで『ちょっとしたお仕事』があるのよ」

春香「え?お仕事ですか?ドームで単独ライブですか?それとも大河ドラマの主演のオファー!?塾サーの姫!?」

律子「いやいやいや、ホントにちょっとしたお仕事なんだけど、春香船長にしかできないお仕事なのよ
ホントに大したことないんだけど、ちょっと

・最大排水量(※≒総重量)75トンくらいの木造の機帆船(※蒸気エンジン付きの帆船)を
・一から設計制作して必要な乗員も集めて
・たった5千マイル(※1マイル≒約1.8キロなので約9000km)先のトンガ王国まで回航する

たったそれだけのお使いみたいな仕事だから!(ニコニコ)」

春香「なぁんだ、そんな簡単なお仕事なんですか楽勝ですよプロデューサーさん・・・なんて言うわけはるか〜!!
75トンの木造機帆船って、瀬戸内海とか佐渡島とかの小型連絡船や近海漁船サイズじゃないですか!
命懸けで太平洋渡る遠洋漁船だって、その倍以上の大きさなんですよ!?
そんな小船で南半球の端っこまで、太平洋縦断してこいとか!電波少年だってやらないですよ、そんな無茶!」

律子「え、そうなの?残念ねぇ・・・じゃあ、しょうがないからこの仕事、やっぱり美希にお願いしようかしらぁ?」
春香「ぐぐぐ・・・そ、その仕事、お受けいたします・・・ううっ」
律子「まぁベテラン漁師の順一朗さんと、元町工場社長の出川さんをサポートにつけてあげるから頑張ってね♪(ニコッ)」

(※トンガ王国から伴野安太郎の伴野商会に注文されたトンガ丸の写真は見つからなかったが、
下の佐渡汽船の戦前の連絡船「みゆき丸」「えびす丸」がスペック的に近いようだ
http://www.sadokisen.co.jp/ship/history.html
模型工作サイト『模型工作隊』さんhttp://modelcorps.blog71.fc2.com/制作の
この海軍に徴用された70トン級漁船模型も参考にどうぞ→
http://blog-imgs-45.fc2.com/m/o/d/modelcorps/kihan.jpg


157 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:09:25
春香「はぁ・・・流れで引き受けちゃったけど、これとんでもない難事業だよなぁ・・・」
順一朗「なぁに心配いらないぞ、天海くん!私も南太平洋でのマグロ漁歴40年のベテランだから何でも頼ってくれたまえ!」
春香「順一朗さんは黙っててください、マグロ漁船沈めた尻拭いに現地に順二郎さん置いてきちゃった人は」

出川さん「ほら、春香ちゃん、大丈夫だって春香ちゃん、俺がついてるからさぁ!
俺ほら、最近まで鉄工所の社長やってた、リアルですげぇぎゅちゅ・・・ぎじゅ・・・アレ、ほら、技師だから!」
春香「(あ、噛んだ・・・)は、はぁ、まあそれじゃあ期待してますんで・・・
設計まで引き受けさせられちゃったけど、こんな人たち助手で大丈夫なのかな・・・?」

<1年後 昭和4年5月16日 大阪市大川造船所>

春香「ついにトンガ丸完成だよ、いやぁ、素人設計でもどうにかなるもんだなぁ・・・(感動)
二本マストの帆と、出川さんが調達してきてくれた3気筒105馬力エンジンを動力に巡航速度11ノット!」
順一朗「やはりマグロ漁船船長としての私の経験が活きたな!」
出川さん「いやいやいやいやいや、どう考えても俺の鉄工のプロフ・・・プロフェッソナルとしての・・・」

春香「あー、お二人は黙っててください
さて、完成したのはいいけど、これを航行させていくための私たち3人以外の肝心の乗員がね・・・
律ちゃんが串本中からかき集めてきた暇人・・・勇敢な志願者が7人、なんだけど・・・」


158 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:10:40
亜美「んっふっふ、亜美たちいつも兄弟船じゃなくて姉妹船でエンガンギョギョーやってるよ→」
真美「でも、真美たちも冒険したいお年頃なんだよね〜!はるるんシクヨロ〜!」

春香「ま、まあこの二人は沿岸漁業とは言え船にも航海にも慣れてるからまだ信用できるかな、性格的に不安だけど・・・」

真「南太平洋のトンガとかいう島国に行くんだって!?
ボクらは船乗りじゃないけど、オーストラリアの北岸の木曜島※で真珠採りのダイバーやってたから、航海にも南太平洋にも慣れてるんだ!」
響「そうそう、自分たち南太平洋のベテランに任せてれば、なんくるないさー!
自分なんか36カラットの巨大真珠見つけた凄腕ダイバーなんだぞ!
・・・まあその儲けの1万3千円(※現在換算で3000〜4000万円ほどか?)は、マグロ事業に失敗してみんなスっちゃったけどな・・・」

(※オーストラリアとニューギニア島の間のアラフラ海にある小島で、当時は天然真珠の繁殖地であった
明治初期から串本中心に和歌山県民の出稼ぎダイバーたちが、一攫千金を夢見て大挙進出した
太平洋戦争の影響と天然貝の壊滅で、今は静かな小島となったが、島には日本人ダイバーたちの墓地がひっそりと残っている

現在の木曜島→
http://www.tsra.gov.au/__data/assets/image/0011/3116/Thursday-Island-Aerial-View-Aerotropics-007.jpg
当時の日本人ダイバーの写真→
http://www.multiculturalaustralia.edu.au/img/slideshow_q02_06pearl_diver.jpg

春香「うんうん、この二人も過酷な航海と太平洋に慣れてるから、基本的な操船技術さえ教えれば即戦力として期待できるよね!
・・・で、残りの3人なんですけど・・・」


159 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:11:06
並木芽衣子「トンガってどんなところなんだろ!?世界を飛び回ったりできたらすっごく楽しそうだよねっ!」
高垣楓「トンガって山がちな島なんじゃないかしら?トンガだけに、トンガってる、なんてね、ふふっ・・・」

春香「ええっと、お二人とも、ずっと農家やってて、海外経験はもちろん、漁船にすら乗ったことないんですよね?
はぁ・・・あと、それから鷹富士茄子さん、あなた大金持ちのお嬢さんなのになんでこんな船に乗ってるんですか!?」
茄子「だって遠い南の島なんてロマンじゃないですか♪
それに私、運の良さにはすっごく自信があるんです、私がいれば遭難することなく無事にトンガにたどり着けますよ?」

春香「・・・えーと、順一朗さんは別にしても遠洋航海の経験のあるのは私だけ
漁師2人と真珠採り2人をギリギリ人数に入れるとしても、半分近くは完全な素人の陸者じゃないですか
これ、そもそも大阪から出港して、スタート地点の串本港にまでもたどり着けるのかなぁ・・・?」

(※トンガ丸の十勇士の顔ぶれは以下の通りである。
まず、依頼主の伴野安太郎の老父・伴野亀吉、串本の沿岸漁師の浜口清十郎と浜口伊一郎、そして木曜島での真珠ダイバー出身の加治良介と篠崎熊吉
それに、ただの農夫だったが冒険に飛びついた城谷金蔵と萩中健作と、鉄工所を倒産させた元経営者の山崎平太郎
木曜島のダイバー時代に大当たりした宝くじの賞金を元手に和歌山有数の山林王となった平松五郎兵衛の御曹司・平松敏一
敏一の実兄でトンガ丸の船長を引き受けた高岡健吉を除けば、みんな遠洋航海の実務経験の皆無な、なんとも頼りない勇士たちであった)


160 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:11:46
<昭和4年5月末 田並村・串本港>

春香「あ、どうもどうも、律子さん村長自らお出迎えありがとうございます・・・
あ、あの、こうして早速、トンガ丸を無事お披露目のために串本港に回航してまいりました・・・ハハハ、はぁ」
律子「・・・へぇ、『無事に』ねぇ・・・
その割には何で港のど真ん前でそのトンガ丸が派手に座礁しているのかしらぁ?(半ギレ)」

春香「ど、どうしてだろう?不思議だねぇ?
・・・いや、でも律子さん聞いて下さいよう、私もあんな小船を操船するの初めてだし、乗員も素人ばっか・・・
そう!あんな素人の乗員しか集められなかった律子さんにも責任があるとわた春香さんは思いました!」

律子「・・・へぇ、そうなの、それはゴメンなさいね?(2/3ギレ)
それで、いつになったらトンガに向けて出航できるのかしら?」
春香「一週間もあれば補修できるかなぁ、なんて、ハハハ・・・で、でも、そこからは大丈夫ですから!
父島を経て一気に日本の保護領のポナペ島まで南下、さらにサモア島を経由してトンガに到着する全40日の万全の航海計画です!
もう律子さんは大船に乗ったつもりで私に任せてくれていれば問題ナシです!小船だけど」

(※結局、串本港での一週間近い補修と補給作業を行い、トンガ丸が出航したのは6月初めのことであった
太平洋の概略図。このあとの展開の参考にどうぞ→
http://www2.odn.ne.jp/~cdh88520/images/cfs_map/map2-big-1.jpg
http://www2s.biglobe.ne.jp/~yoss/moon/image/oceania.gif


161 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:12:11
<6月上旬 串本港>

律子「・・・おやおや、随分と早いお帰りで、どうしたのかしら、春・香・さ・ん?」
春香「いやぁ、アハハ、実は一日東南に航海してたんですけど、小笠原諸島のあたりでエンジントラブルがありまして・・・」

亜美「ちょっとどころじゃなかったじゃんか!
真っ赤になるくらい熱くなるし、モクモク煙まで上がっちゃうし!」
真美「そーそー!もう爆発ちちゃうんじゃないかってヤバい状況だったじゃん!」

響「いままで南方に行く船に何回も乗ったことあるけど、あんなにエンジンが過熱するの初めて見たぞ!
自分たちみんなで必死で石鹸水やら何やらかけて冷やすの大変だったんだ!」
真「本当に大変だったんだよ、エンジンのピストンは焼け付いて外れかけちゃうし!」

春香「い、いやまあ、エンジンも動かなくなっちゃったけど、二本のマストに帆がある機帆船で本当に運が良かったよね、アハハ・・・」
茄子「そうそう、運が良かったです♪私がいなかったら、きっとエンジン爆発してましたよ?」

律子「頭痛い・・・ええと!エンジンの調達は出川さんがなさったんでしたっけ?
技術者としてこの件をどうお考えなんですか?」
出川さん「ちょっとちょっとちょっと待ってって!マジで!律子ちゃんさぁ、リアルに俺は悪くないって!
エンジンの燃焼効率良くないのは、こんなもんなんだって!あと、ここで仕入れた燃料と潤滑油の質が悪かったのもあるし!」

律子「・・・はぁ、起きてしまったことはしょうがない、か
それで、エンジントラブルを解決していつには再出航できそうなのかしら?」
春香「あ、えっと・・・1ヶ月後、かな・・・?(小声)」

(※駆けつけた大阪の大川造船の職工たちとエンジン修理を行ったトンガ丸が再び串本港を出航したのは、約1ヶ月後の7月9日のことであった)


162 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:12:36
<出航5日目 小笠原諸島・父島>

芽衣子「うわぁ!みてみて!海岸線も砂浜もすっごく綺麗だよ!ほんと旅してよかったぁ〜!!」
楓「小笠原諸島の地酒って実はラム酒なのね・・・
とっても甘い匂いだけど、アルコール度が高くて一口飲んでも立ちくラム・・・ふふ・・・
(※欧米の航海者・居留民の影響を受けて、砂糖栽培の盛んだった父島ではラム酒が地酒として醸造されていた
㈱小笠原ラム・リキュール→http://www.oga-rum.com/)」

春香「ここまでは航海も順調だよね、次の寄港地のポナペ島まで約10日の行程だけど、大丈夫、かな?」
順一朗「ここからポナペ島までの航路には、いざとなれば避難できる日本保護領のマリアナ諸島やトラック群島の拠点港がたくさんある
大船に乗ったつもりでどっしりと構えていたまえ天海くん、ハッハッハ!」
春香「いやこれ、ビックリするくらい小船なんですけどね・・・」

(※父島は、きょ・・・東京都小笠原諸島最大の島。
自然あふれる風光明媚な島だが、当時は西太平洋を保護領として統治する大日本帝国の重要拠点の一つでもあった。
こんな感じ→https://www.env.go.jp/park/ogasawara/photo/files/a01_p009.jpg

<出航17日目 日本委任統治領・ポナペ島(※現・ポンペイ島)>

芽衣子「うっわぁ〜!!岩でできたこ〜んなに大きな遺跡が、こんな南の島にあるなんて思わなかったなぁ!」
茄子「まるで竜宮城みたいですね♪ナンマトール遺跡って言って、昔のミクロネシアの王様の宮殿だったみたいです!」

亜美「真美〜!ポナペ島っていったら、やっぱアレだよね〜、偉大なるクトゥルフの眠る巨大な海底都市ルルイエのご近所さんだよ!」
真美「んっふっふ〜、このナンマトール遺跡も超古代の旧支配者の遺産に違いないよね→
いあ!いあ!ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん!」

春香「や、やっと、エンジンをだましだましここまでやってこれた・・・
でも、これエンジンやっぱりヤバイですよね?」
出川さん「やばいやばいよ〜、これ洒落になってないって!エンジンが半分焼けかけてるじゃん!
10日くらいかけてエンジンも発電機も注油機も修理しないとリアルでヤバイからこれ、ほんとマジで!」

春香「・・・で、ですよね〜
ここ日本の委任統治領で助かったよ、日本語通じるし。早速、修理できそうな造船所探してきます!」

(※元ドイツ領だったが第一次世界大戦終結後に日本の委任統治領になったミクロネシア最大の島
砂糖や果実の生産や漁業の拠点として栄え、最大1万3千人以上の日本人が居住していた
有名な日本海軍の一大拠点トラック諸島の東方約700キロに位置する
これがミステリアスで巨大なポナペのナンマトール遺跡→
http://beforeitsnews.com/contributor/upload/30080/images/nanmadol4.jpg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/37/Map_FM-Nan_Madol.PNG


163 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:13:20
<出航35日目 ポナペより東南の赤道線付近の海上>

順一朗「天海くん!大変だ!東南からの強烈な貿易風が吹き始めてる!」
春香「え?貿易風・・・そ、そうか、こんな小船だから強風と高波で、簡単に転覆しちゃう危険が大きいんだった!」

真「高野山みたいな高さの高波が来るぞ〜!春香、はやく舵を切って!」
響「うわぁ〜!今度は一気に波に押し上げられて、下の海面が谷底みたいだ!
じ、自分潜りには自信あるけど、こんなところで転覆しても生き延びられる自信ないぞ!助けて〜!」

茄子「うふふ、なんだか上がったり下がったり、ジェットコースターみたいで楽しいですね♪」
春香「楽しくない、絶対に楽しくないから!
あ、ヤバい、波にさらわれるたびにスクリューが空回りしてエンジンがオーバーヒートしかけてる!」

順一朗「ど、どうするのかね!?エンジンを止めるつもりかね!?」
春香「ここでエンジンが完全に焼き切れちゃったら本当に漂流状態寸前になっちゃいます!
今は舵さばきで波をしのぎながら、二枚の帆を縮帆して帆走しつつ何とか航路を維持しましょう!
亜美真美、マストに行って縮帆して!私は何とか間切るように舵をきるから、帆の操作をお願い!」
亜美真美「「アイアイ、キャプテン!」」

<出航36日目 英領フィジー島北方ロトマ島沖合>

春香「な、何とか乗り切った・・・けど、死ぬかと思った・・・」
順一朗「天海くん、丸一日でずいぶんと強風と波に引きずり回されてしまったようだが、ここは一体どこなんだね!?」

春香「あ〜っと・・・ちょっと観測してみた感じだと、サモア島目指してた予定コースよりだいぶ西に流されちゃったみたいですね
でも、エンジンもボロボロだし燃料も尽きかけてるしどっかに寄港できないとマズイですね・・・」
芽衣子「春香さ〜ん!!島です!島が見えますよぉ〜♪」

春香「えっ!?・・・た、確かに、海図で見るとロトマ島って島の付近みたいですね!」
順一朗「で、どうなのかね?そのロトマ島とかいう島には補給施設や近代的な港はあるのかね?」
春香「さ、さあ〜?たぶんイギリス領かな、くらいの情報しか載ってないんでわからないですね・・・
でも、ここで補給できないことには大規模な修理施設もあるすぐ南のフィジー島に行くのも燃料的に不安ですし、イチかバチか寄ってみるしかないですね・・・」


164 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:13:41
まさかの和歌山の流れキタ━(゚∀゚)━!
雑賀衆、根来衆に続いてやね


165 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:13:43
真「島がだんだん近づいてくるなぁ・・・あ、海岸に原住民が集まってる!」
響「そ、そういえば木曜島にいた時に聞いたことがあるぞ!
ニューギニアや南洋の島には人食い人種がいて、やって来た外国人を食べちゃうんだって!」
真「それボクも聞いたことあるよ!有田村の兄弟が食べられちゃったとか、田並村の銀右衛門さんが槍で襲われたとか!」

春香「うーん、困ったなぁ、コンタクトとらないことにはどうにもならないんだけど英語喋れないしなぁ
誰か交渉してきてくれないかなぁ、ねぇ、出川さん?」
出川さん「え?ちょっと、ありえないありえない!バカじゃないの!?相手人食い人種かもしれないんでしょ!?無理だって!」

出川さん「・・・って言ったのにアイツら全然聞いてくれねぇし!ほんともう、あいつらにはつくづくだよ!
・・・あ〜、ええと、ハロー!マイ・ジャパン!(※出川さん的には「自分は日本人です」)」
原住民「・・・?ハロー、アーユー・フォリナー?」
出川さん「あ、ハロー通じた!いけるいける、オーケーオーケー!マイ・ジャパン!フォリナー・オッケー!」

春香「・・・あー、何だかよくわからないですけど、出川さんちゃんとコミュニケーションとれてるね、良かった人食い人種じゃないみたい」
真「あー良かった、ちょっと離れた船の上から見てるからわからないけれど英語も話せる人たちっぽいね
じゃ、いちおうボクは木曜島時代の経験で片言なら英語しゃべれるから、ちょっと行って補給や寄港できそうなところがないか聞いてくるよ!」
順一朗「で、出川くん・・・(ブワッ)」

(※ロトマ島は、フィジー諸島の北550キロに位置する孤島である
しかしフィジーから離れているために自主独立の気風が強く1987年には、
日本で武術修行をしてきたという自称空手マスターことヘンリー・ギブソンを王とする『ロトマ共和国』独立宣言を行った
無論、即座にフィジー政府に鎮圧されたが、今もなお孤独主義は強く、観光客の立ち入り人数も厳しく制限されているようだ
こんな感じ→http://www.rotuma.net/Images/Rotuma_from_space2.jpg


166 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:14:14
<出航43日目 英領フィジー本島スバ港>

春香「いやぁロトマの人たちいい人ばっかりで良いところだったよねぇ
酋長さんはじめ毎日、宴会や踊りで大歓迎してくれるんだもん、ついつい一週間も長居しちゃったよ」
真「逆にイギリス人の税関役人さんには露骨に『なんで君ら修理も補給も済んだのに居座ってんの?』って言われてたけど」

順一朗「おーい、早速トンガの順二郎と連絡が取れたぞ!
歓迎の準備にかかるからフィジーでトンガ丸も完全に修理して綺麗な状態にして入港して欲しいそうだ!」
春香「おー!いよいよですか!ここまで来れば2.3日でトンガに到着できますもんね!・・・あれ、出川さんは?」

亜美「ん?てっちゃんは今、地元の鉄工所でトンガ丸の修理の手伝いしてるよ→」
真美「てっちゃんって、やっぱり腕の良い職人さんなんだね、フィジーの人たち驚いてるよ、逆にてっちゃんに色々教えてもらってる」

春香「へー、さすが元町工場の社長さんだけあるんだなぁ、これはトンガ丸の修理整備にも期待できそう!
さー、いよいよトンガに到着かぁ、このままトンガ王室の御用船の船長として、
そしてゆくゆくはトンガ海軍司令長官、トンガの貴族様、なぁんて展開もあったりして!ムフフ!」


167 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:14:39
<出航66日目 昭和4年9月13日 トンガ王国トンガ・タブ島>

順二郎「おお、おお!みんな、よくぞやってくれた!
女王陛下も王国の酋長の皆さんも、この壮挙にいたく感動感謝されているぞ!ありがとう!」
順一朗「そうかそうか!ハッハッハ、そう言ってもらえるとは嬉しい限りだ、なあ諸君!」
順二郎「いや、君はすまないがちょっと黙っててくれ・・・天海船長!よくぞ無事にトンガ丸を廻航してくれた!」

中尾重平「本当にありがとうございました!トンガ王族の一人として、ありがとうと言わせてください!」
春香「うわぁ、もうこちらこそ、こんなに皆さんに盛大に歓迎してもらえて感激です・・・
って、トンガ王族って、思いっきり日本語喋ってるし、見るからに日本人丸出しじゃないですか!」

順二郎「ああ中尾さんはね、私たち串本の北隣の和歌山県古座川町の出身でね
私のように、トンガに移民してきてトンガ初の理髪店を開いたりトンガ初のタクシー会社を興したりして成功した事業家なんだ
で、そんな若い青年実業家の彼が恋に落ちたお相手が、何と女王サローテ・トゥポウ3世陛下の姪に当たるメレアネ姫でね」

中尾「まあ、色々とすったもんだはあったんですが、女王陛下は
『メレアネを妻として正式に日本の戸籍に入れるなら結婚を許可します』って言ってくださって
それで和歌山の農家の小倅の私も、気づいたらトンガ王室の一員になっちゃってたって訳です、ハハハ・・・
それよりも!陛下や酋長の皆さん方が歓迎の宴会をご用意下さってますので、皆さんもお早くどうぞ!」

(※トンガのロイヤルファミリーとなった中尾重平とマアフ・メレアネ夫妻の戸籍は今も古座川町役場に残されている
太平洋戦争時には中尾も、イギリス政府により民間人捕虜として収容所送りにするようトンガ政府に圧力がかかった
が、女王はあくまで王族の一員だとしてこの要求を拒絶し中尾を終戦まで守り抜いた
ちなみに中尾の子孫は今もトンガでご健在である)


168 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:15:06
芽衣子「うわー!すごいよ見て!女の子たちのダンス可愛い〜♪」
茄子「鯛やヒラメの舞い踊りならぬ、ポリネシアの美少女の舞い踊りですね、ふふっ♪」
(※こんな感じ→
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/originals/67/35/02/6735022734a6031a070e7dc6ce47de0e.jpg
なお、その40年後の姿がこちら→
https://www.seacology.org/wp-content/uploads/2013/01/Tonga-118-916x549.jpg

亜美「トンガの兄ちゃん達、みんなお相撲さんみたいにでっかくて筋肉ムキムキでちょーカッコイ→」
真美「亜美のヤロー、トンガ人力士廃業騒動とかいう角界のタブーに触れやがったッッッ・・・!!!」
(※トンガ海兵隊の精鋭たちによる戦いの雄叫びとダンス=シピタウの様子→
https://www.youtube.com/watch?v=0g0kBktrC5Q

真「しかし料理はちょっと豪快すぎるというか、ボクみたいな女の子には厳しいなぁ
こんなに山のように豚の蒸し焼きを並べられると、壮観だけど食欲的には・・・」
響「動物に愛情を持つことと、いのちを食べることの関係はわかってるけど、丸焼きは自分、さすがに辛いゾ・・・
でもせっかくのいのちを粗末にできないし、頑張って食べるぞ・・・美味しい、美味しいけど、複雑だぞ・・・」

(※トンガ王室伝統の豚の蒸し焼き料理の様子
http://static.guim.co.uk/sys-images/Guardian/Pix/pictures/2008/07/30/tonga460x276.jpg

春香「楽しいねぇ、楓さん!踊りも見てて楽しい!料理も美味しい!お酒も美味しいですか?」
楓「ココナッツの汁を発酵させた椰子酒のカバ酒、癖があるけど美味しいです・・・!
カバ酒だけに、もうカバカバいけちゃう!・・・ふふっ」


169 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:15:39
順二郎「・・・スマン天海くん、お楽しみの最中に申し訳ないが、ちょっといいだろうか?」
春香「ふぇ?何ですか?
・・・あ!ひょっとして今回のご褒美に金銀財宝を女王陛下からプレゼントとか!?いや、貴族の爵位や勲章かな!?」

順二郎「・・・いや、実は今回のトンガ丸の件、契約を完全に白紙にするとの通告が政府から急遽あった・・・
事実上の王国の支配者である、イギリス政府派遣の内閣官房長官が、『我々の一切許可していない契約には国家予算を支出できない!』
と強硬に女王陛下に迫って、強引に契約撤回せざるを得ない状況に追い込んだらしい・・・!」
春香「へ・・・?と、ということは、私たちが必死の思いで太平洋を縦断して回航してきたトンガ丸はどうなるの・・・?」

順二郎「済まない、トンガ丸自体は私の商会で責任をもって、本来の額で何とか買い取らせてもらうから、田並村には一切損失はかけない」
春香「じゃ、じゃあ、私たちへのトンガ王国からの報奨金や就職は・・・」
順二郎「それも済まない・・・
イギリス政府は、君たち、日本人が海を越えてやって来た英雄としてトンガ人に歓迎されていること自体がどうしても許せないようだ
中尾さんや酋長たちも動いてくれたのだが、あくまで君たちを不法入国者として強制退去させよと、とにかく強硬でね
・・・私の方で何とかフィジーまでの船は用意するから、そこから無事に帰国して欲しい、本当に申し訳なかった・・・!」

(※もともと伴野商会など日本人の急速なトンガ進出に警戒感と敵愾心を抱いていたイギリス当局は、
トンガ王国政府に強引に難癖をつけてトンガ丸購入契約を白紙撤回、乗員たちを即刻国外追放するよう迫った
海の英雄としてトンガ人たちに歓迎され友好ムードにあったトンガ丸の十勇士もまた、何も得ることなく国外追放の憂き目にあったのである)


170 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:16:04
<フィジー本島>

春香「は〜あ結局、骨折り損のくたびれ儲け、かぁ・・・私や茄子さん、順一朗さんはこのまま帰国するけど、みんなはどうするの?」

真「ここまで来て手ぶらで帰るのもつまんないからね、ボクと響は、また木曜島に行って真珠採りの一攫千金を狙うよ」
響「そーそー!今後は前よりでっかい真珠を取って大金持ちになってやるんさぁ!」

亜美「亜美たちも今回の航海のおかげで太平洋に慣れたからさ、フィジーに大勢いる和歌山県出身のマグロ漁船に混ぜてもらおっかなって!」
真美「んっふっふ〜、真美たちの冒険の旅は、まだ始まったばかりだ!だね!」

芽衣子「そうそう!せっかくだから航海にも慣れたし、マグロ漁船で働きながらもうちょっと南太平洋を堪能したいなぁ〜って♪」
楓「そうですね、せっかくだから活きのいいマッグロなクロマグロを食べてから帰国してもいいかな、なんて・・・ふふっ!」

出川さん「チェンさぁ、違った、春香ちゃんさぁ、俺もフィジーの鉄工所の親方に腕を気に入られちゃったみたいなんだよね
だから俺も、ここでもう一回職人として花を開花させたいっていうか・・・え?一花咲かせたい?
・・・あ〜、それそれそれ、なるほどなるほどなるほどねぇ、上手いなぁチェン、それだよそれ!」

春香「みんなノー天気っていうか、切り替えが早いっていうか、タフだなぁ・・・全然不運なんて嘆かないんだね」
茄子「・・・でも春香さんも本当に不運だったって思ってます?なんだかんだ言ってこの冒険旅行、楽しかったでしょ?」
春香「・・・へへ、うん!!」

(※おまけ・トンガ王国の観光地図→
http://www.vidiani.com/maps/maps_of_australia_and_oceania/maps_of_tonga/large_detailed_tourist_map_of_tongatapu_island_tonga.jpg


171 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:16:46
春香「まぁ、こうして無名の和歌山県民たちの無謀で能天気な冒険は得ることなく終わりを告げたんだけどね
でも、彼らトンガ丸の十勇士がトンガ人に与えた影響っていうのが実は大きくてね
戦後、田並村の村長から和歌山県知事に大出世してた小野真次さんに、サローテ・トゥポウ3世から改めてマグロ漁船制作と回航の依頼が届いたりして
結局、その和歌山県民たちとの絆をキッカケに、トンガ王国は今でも世界有数の親日国だったりするんだよね!」

順二郎社長「面白い!しかもこれは斬新な上に実にいい和歌山人らしさのアピールになる企画だな!さっそく・・・お、電話だな、失礼・・・」

千早「歴史上は無名な人たちの知られざる交流が、今も続く二つの国の友情の絆の元になってるって、なんだかロマンティックね」
春香「でしょでしょ!
実はトルコが熱心な親日国になったキッカケの一つであるエルトゥールル号遭難事件で、
真っ先に救助に駆けつけて多くのトルコ人たちの命を救ったのも、串本の漁民たちなんだよね!
(※1890年、オスマン・トルコ帝国の軍艦エルトゥールル号が串本港沖で沈没した海難事故)」

千早「ひとつの田舎の漁港が、二つの国と日本の親善友好の架け橋になっているっていうのも面白い話ね」
楓「テンカトール・・・テンカトール・・・」

春香「そうなんだよね!いやぁ、これはドラマ化してもヒット間違いなし!
主演と脚本を務めた春香さんが芸能界の天下を取るキッカケになること間違いなし、ですよ!」

順二郎社長「あー、天海くん、盛り上がっているところ済まないんだが・・・
実は今回の件で関西に営業に行ってる順一朗会長から電話があって、向こうの温泉めぐりしてティンときた!そうでね、
『やっぱり和歌山は歴史よりも温泉とグルメ!美女二人の行く温泉とグルメの旅が最新のトレンドだ!』だそうだ」

春香「え?ということは、わた春香さんの大型ドラマは?第二のジェームズ三木への道は?」
社長「私自身は気に入っているんだが、残念だが次の機会に、ということだな
・・・という訳で高垣くん、今回はウチの三浦あずさくんと二人での旅番組、
『美女二人が行く!紀州路の温泉とグルメと銘酒の旅・ポロリもあるかもよ!?』の制作が決定したので、よろしく頼みます!」

春香「う、うそだぁ〜!何も契約白紙なところまで史実再現しなくてもいいじゃん!うう・・・」
千早「ほら春香、トンガ丸の十勇士たちの不屈の精神を思い出して、切り替えていきましょう、ね?」

楓「キ〜シュ〜ウ〜・・・おあとがよろしいようで・・・」
千早「???」

(※古典落語の噺『紀州』。八代目徳川将軍の座を紀州公吉宗と争っていた尾張の殿様が江戸城へと急ぐ途上、
鍛冶屋が鉄を打つ「トンテンカン」という音が「テンカトール」と聞こえ、これは自分が将軍になれる瑞兆とほくそ笑む。
殿中でも幕府重職たちに将軍就任を勧められるが、押して要請されることを見越して、見栄を張って一度断ってみせる。
しかし次に重職が居並ぶ吉宗に将軍就任を要請すると吉宗は快諾、かくて八代将軍は決まった。
落胆して下城する尾張公の耳に聞こえてくる鍛冶屋の音に「天下取れなかったじゃねぇか!」と毒づくと、鍛冶屋が鉄を水に入れて音が、キ〜シュ〜ウ。
徹頭徹尾、駄洒落な噺がこの紀州なのだが、実はこれが和歌山出身のアイドル高垣楓さんが駄洒落大好きお姉さんである真の理由である・・・かは知らないです

名人志ん生の『紀州』https://www.youtube.com/watch?v=HKZn8TBs91g


172 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:17:14
主として神坂次郎「紀州史散策・トンガ丸の冒険」を参考にしてます
とにかく和歌山づくしで、歴史に詳しくない人でも楽しんでいただけそうなネタを選んでみました
しかし前回より長くなってしまうとか、どういうことなの・・・(レ)

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152


173 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:18:49
和歌山って地味地味アンド地味な田舎県だとばかり思ってたゾ・・・(池沼)


174 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:19:12
>>172
オツシャス!
和歌山に思い入れあるんです?


175 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:21:46
毎回毎回ボリュームが凄いなぁ(恍惚)


176 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:53:00
謎出演の技師出川で草


177 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:53:44
オッツオッツ!


178 : 名無しさん :2015/08/24(月) 22:50:58
そうか和歌山出身の芽衣子が旅好きキャラなのにも理由があったんだね
あと出川さんは神


179 : 名無しさん :2015/08/24(月) 22:55:39
雑賀衆も各地に出稼ぎに行ってたっていうもんな、真実かどうかは置いといて
明まで行ってたとか


180 : 名無しさん :2015/08/24(月) 23:05:11
>>174
いや、九州大名スレという名の戦国時代スレで紀州再評価の流れが続いてたので嬉しくなって便乗しました
どの時代でもカオスでエネルギッシュな紀州はやっぱり好きなので


181 : 名無しさん :2015/08/24(月) 23:05:44
今もエネルギッシュですか・・・?


182 : 名無しさん :2015/08/24(月) 23:06:36
>>180
なるほどサンガツ
あのスレも見てたんですね〜、紀州好きがこの板にかなりいることに驚いたゾ


183 : 名無しさん :2015/08/25(火) 00:34:55
>>153
よく読んだら和歌山の偉人のなかに濱口梧陵がいないな
大地震で津波の脅威が盛んに報じられる今現在の日本にとって需要のある人物だと思う


184 : 名無しさん :2015/08/25(火) 11:23:25
最初は読んでても何書いているかちんぷんかんぷんだったから、いったんトンガ丸の旅のあらすじを読んでから、改めてこっちを読んだらすっげえ分かったゾ
相変わらず歴史ハルカッス兄貴の説明力は凄い・・・(脱帽)


185 : 名無しさん :2015/08/26(水) 18:24:24
紀州といえば秀長を思い出しました
太閤検地の先がけの地でもあるんですよね

ところでいつか名前つながりで
南光坊天海とか取り上げたりするんですかね?


186 : 名無しさん :2015/08/26(水) 18:35:00
秀長は大和のイメージが強いけど、そっか紀州も治めてたね
藤堂高虎が粉河あたりに派遣されたんだっけ、あと和歌山城築城とか


187 : 名無しさん :2015/08/26(水) 21:13:05
秀長さんとその重臣筆頭の高虎さんが苦心したのも紀州だったんやねぇ
太田城の殲滅戦あったり大和大納言家取り潰し後に家臣団が謹慎してたのも高野山
何かと高虎さんは紀州に縁があったんやね

>>185
天海大僧正は謎の多い前半生とか光秀説とか、彼が尊敬した元三大師の話とか東叡山上野寛永寺の話とか、
あれだけの人物だけに面白いし、天台宗では今東光僧正以上に大好きな人物なんですけどねぇ
大好きすぎるのとエピソード多すぎるのとで、ちょっと書ける自信ないです
申し訳ない・・・


188 : 名無しさん :2015/08/26(水) 21:32:21
書けない理由がよく知らないからというのじゃなくて、逆によく知りすぎてるからというのが凄い(こなみ)


189 : 名無しさん :2015/08/26(水) 22:07:12
>>187
コメントありがとうございます

相変わらずすごい知識量ですね…
鐘の銘文のエピソードくらいしか
思いつかなかったです…


190 : 名無しさん :2015/08/26(水) 22:11:51
そういえばいつぞやに取り上げられた
今東光僧正の人生相談の本読んでますが
たまにとんでもない相談が載ってますね…

家畜とヤッてしまったとか
親違いの弟があまりに可愛くて同性なのについ…だとか
昔ってすごい(小並)


191 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:30:55
【第十話】春香「まんじゅう怖い、まんじゅう怖いよね、千早ちゃん!」

春香「ああ饅頭(まんじゅう)怖いなぁ、F91のどたぷ〜ん饅頭も怖いし90越えのお姫ちん饅頭も怖い!
この数年じゃあ驚異の105cmミルク饅頭とか神奈川銘菓ヤンキー饅頭も怖いよね!
やだな〜こわいな〜巨乳こわいな〜・・・って思ってて振り返ったら、ヴワァァァァイ!!!
・・・何と一緒にいた親友のバストが72cmになっていたんです・・・貧乳、怖いよね・・・(稲川小梅ちゃんリスペクト)」

千早「・・・私は元からですけど?(半ギレ)
だいたい春香の体重の45キロくらいと46キロの違いは何なのよ、お尻だって・・・」
春香「いやいやいや、まあその辺はいいじゃないですか、乙女の身体は不思議いっぱいの玉手箱なんですよ♪
・・・あ、それよりも落語の『饅頭怖い』って、元ネタがあるって知ってた?」

千早「私もまだ成長期だから・・・まだまだ可能性はあるんだから・・・(小声)」
春香「・・・(やば、ちょっとやりすぎちゃったかな?)あ〜コホン!
あのですね、落語の『饅頭怖い』にも元ネタあったの!
えーとね、中国は明王朝末期の馮夢竜って人の書いた、中国笑い話の集大成と言われる『笑府』※って本の中に書いてあるエピソードでね・・・」

(※馮夢竜は明末、明帝国最大の経済都市・蘇州に1574年に生まれた文人・官僚政治家。
『笑府』に代表されるように洒脱でユーモアある通俗小説の作家として知られる人物であったが、
革新的な儒学者・王陽明を強く敬愛する硬骨漢でもあり、明が北方の蛮族・女真族の清帝国に滅ぼされた際に殉死したとされる
こんな感じの人→
http://malay.cri.cn/mmsource/images/2009/03/27/fengmenglong2.jpg
http://www.chinesemovies.com.fr/files/films_King_Hu_Su_San_Feng_Menglong.jpg


192 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:31:33
<饅頭(巻十一・誤謬部より)>

やよい「えうぅ〜、もうお腹が空きすぎて一歩も歩けないかも、このままじゃ死んじゃう・・・あ、そうだ!
・・・うわぁ〜、怖いです〜怖すぎてもう私ダメですぅ〜(キュ~パタン!)」
伊織「ちょ、ちょっと!勝手に人の店の前で大声出して倒れたりしたら営業妨害じゃない!一体どうしたのよ!?」

やよい「え、えっと、実は私、お饅頭がどうしても怖くてしょうがないんです!
それでお店の前を通ったら美味しそうな・・・じゃなかった、怖そうなお饅頭がいっぱいあって怖くなって倒れちゃいました!」

伊織「・・・そう、そんなに饅頭が怖いの?
それならウチの店の営業妨害をした罰として、饅頭いっぱいの倉庫の中に監禁しちゃうから覚悟しなさい!ニヒヒッ♪」

やよい「美味しい!こんなに美味しい・・・じゃなかった、怖いお饅頭食べたの初めてかも!
あ、でもお姉ちゃんの私だけこんなに食べちゃった・・・
長介たちにもいっぱいお土産に持って帰って怖がらせてあげたいなぁ・・・」
伊織「あー、なによアナタ饅頭怖いんじゃなかったの、こんなに沢山食べちゃって(棒)」

やよい「あ、あの伊織ちゃん、あのね、今度は二、三杯のお茶とお土産が怖いかも・・・」
伊織「なら仕方ないわね、アンタたち兄弟全部ウチの倉庫に監禁してもっと怖がらせてあげるから呼んできなさいよね!」

(※実際の記述は当然、一計を案じた貧乏人に饅頭をたらふく食われて、饅頭屋が一杯食わされる話である
ちなみに落語の『饅頭』は中にアンコの入った甘い和菓子だが、元ネタの『饅頭=マントウ』は、
一種の蒸しパンというか具のない肉まんみたいな感じの食べ物で、別に菓子ではない、が、具入りの物も饅頭と呼ぶらしい
なお饅頭については、人身御供の代わりに牛豚の肉の具を入れた食べ物を諸葛孔明がお供えにしたのが起源という説もある

こんな感じ→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/08/ClassicwhiteMantou.jpg


193 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:32:04
千早「高槻さんが困っていたのなら仕方ないわね!(キリッ)」
春香「あ、立ち直った・・・」

千早「それにしても、本当に元ネタそっくりなのね、オチまでそのままというか」
春香「落語ではオチじゃなくてサゲって言うんだけど、元ネタまんまってのはそうだね
でも、そういう古典落語の元ネタというかパクリ元になった『笑府』の笑い話はこれだけじゃなくてね・・・」

<解僧卒(巻六・殊稟部より)>

犯罪者護送兵MUR「いくら犯罪者でも坊さん護送するの、チカレタ・・・」
坊主先輩「喉渇いた…喉渇かない?酒でも飲んでさっぱりしましょうよ〜」
MUR「おっそうだな。今日はいっぱい飲むぞぉー」

坊主先輩「・・・やっぱMUR騙すの簡単っすねぇ〜!あっという間に泥酔して寝込んじゃいましたよ
でもこのまま逃げ出したらすぐバレるしなぁ・・・あっ、そうだ!」

MUR「ポッチャマ・・・すっかり酔っ払っちゃって寝ちゃったゾ・・・
あっ、おい待てぇい、肝心な坊主忘れてたゾ、なんか見えないけど・・・
あっそうだ、とりあえず首縄を引っ張れば出てくるはずだゾ!(グイッ)」

MUR「な、なんか首絞められてるみたいで苦しいけど捕まえたぞ、顔は見えないけど頭も・・・お、ちゃんと坊主頭だゾ!
おお、いいゾ〜これ!ちゃんと坊主はいるゾ!坊主はいる、坊主はいるけど、坊主を捕まえてる俺はどこに行ったんだろうなぁ…?(池沼)」

(※サゲの部分が、粗忽者=バカが他の粗忽者に自分の行き倒れ死体を見つけたと聞いて駆けつける『粗忽長屋』にそっくり)


194 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:32:10
きたあああああああああああああああああ
ヴェネチア記事掲載もおめでとうです!


195 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:32:31
<学様(巻八・刺俗部より)>

伊集院北斗「・・・こんな荒野に骨が野ざらしになったまま放置されてるなんて、可哀想なエンジェルちゃんだね
せめて俺が丁重に葬ってあげるから、安心してお逝き・・・チャオ☆」

(その晩の北斗の家)
???「・・・もうし、こんな夜分に申し訳ございませぬ、妃(ひ)でございます・・・」
北斗「ひ?はてさて、どちらの妃さんですか?」
楊貴妃の幽霊「私、かつては天下に美貌をもって知られた楊貴妃の幽霊でございます
野ざらしになっていた私の骸を葬っていただいた親切なお方・・・
お陰様で成仏できます、幽霊の身なれどお礼にせめて一晩、お側にお仕えいたしたく・・・」

北斗「やれやれ困ったプリンセスちゃんですね、でも、幽霊だって言っても今の貴女も最高にお美しいですよ?
俺に本気になれって?いいですよ、貴女の言うことなら聞いてあげる・・・」
隣の天ヶ瀬冬馬「あ、あいつ、幽霊とは言えあんな絶世の美女と・・・!よ、よーし、俺も!」

(次の晩の冬馬の家)
???「もうし、こんな夜分に相済まぬ!拙者、飛(ひ)だ!さっさと扉を開けろ!」
冬馬「え!?あ、あの、どちらの飛(ひ)さんでしょうか・・・!?」

張飛の幽霊「荒野に野ざらしになっていた拙者の骸を葬ってくれたのはそちであろう!
ささ、礼と言ってはなんだが、拙者の尻を存分に使ってくだされ!!」
冬馬「あ、あの〜俺、そういう趣味は・・・」
張飛の幽霊「おお!そちはネコであったか!安心めされい拙者リバでござるゆえ早速、拙者の蛇矛で・・・!」
冬馬「ちょ、ちょっと待って〜!アッー!!」

(※これも古典落語『野ざらし』にそっくりであるが、そちらの登場人物は二人の『ひ』さんではない
どうも笑府の他のエピソードや、同じ明時代の小説の内容から、張飛は三兄弟のオチ担当兼、受け担当という扱いだったらしい)


196 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:33:03
小鳥「張飛総受けと聞いて来ました!!リバでも可!!」
千早「そのままお帰りください・・・
それにしても、その、そういう系の話って儒教の教えの強い中国ではタブーだってイメージだったのだけれど」

春香「でしょ?そういうイメージだし、現に今でも表向きは同性愛に厳しい社会なのは確かなんだけどね
でも、この『笑府』には仏教のお坊さんと稚児さんの関係や、陰間と言われる娼夫の話をはじめ、
ビックリするくらい多くの男色ネタが載っているんだよね、意外に広く行われていたみたいだね」
小鳥「淫夢の400年以上も前から、中国ではホモをネタにして楽しんでいたのか、たまげたなぁ・・・(立教大監督並感)」

<『笑府』巻三・世諱部より、ホモエピソードあれこれ>

・ホモガキが初めてヤられた時、痛みのあまりに近所の人に尻を見せてたずねた
「まだ痛いんですが、中にチンポが入ったままなんじゃないでしょうか?」

・明朝のドラゴン田中の話。スイカが食べたいので、自分の尻にスイカを投げ入れてくれと頼む娼夫。
客が戯れに投げ入れるとケツ穴に入るやいなやポンッ!と射出。なんともう既にケツ穴にはスイカがひとつ入った状態だった

・ある男が、自分の馴染みの娼夫がいい歳になったので嫁を世話して、親戚づきあいをはじめた。
ある時、その妻の母親が娘にたずねた。「あちらはどういうご親戚なんだい?」
娘が答えていわく、「夫の夫なんです」

・娼夫が初めて結婚した初夜、ケツの穴に入れようとして妻に拒絶されて、
「俺が小さい時から覚えているのはこうなんだよ、違うのか?」
新妻が答えていわく「私が小さい時から覚えているのは違う穴の方です!」

・さる変態親父が夜更けに宿に泊まり、たまたま貧乏な老人と相部屋になった。
相手が老人とは知らず少年と思い夜這いした変態親父だが、老人もソッチの人なので大喜び。
大満足の変態親父は「ああ^〜たまらねぇぜ、ご褒美になんでも買ってやろう!」
貧乏な老人が答えていわく「では立派な棺桶を買ってくだされ!」

(※当時、棺桶は寿板といって生前から良いものを用意しておくのが当たり前だったらしい)


197 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:33:13
きた!歴史ハルカッス兄貴きた!これで勝つる!


198 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:33:33
小鳥「やったぜ。」
春香「他にも仏教や道教の師弟や稚児の同性愛ネタを皮肉った話もいっぱいありますよ!」

千早「・・・なんというかまあ、建前はどうであれ、同じ人間の社会だからってことなのかしらね
そういえば、さっきの江戸時代に落語の元ネタになったって話もそうだったけれど、日本のお寺でもそういう話って多いわよね?
ひょっとして、そういうのも中国から伝わったってことなのかしら?」

春香「ん〜どうだろうね、詳しい話は稲垣足穂先生か今東光僧正の少年愛・稚児研究に譲るとして、
さっきの劉備三兄弟の義兄弟=ホモってネタからして、中国でも日本でも仏教がらみじゃなくてもあったんじゃないかな?
・・・あ!そういえば、日本って言えばこの本、まさに秀吉の朝鮮出兵の時代に書かれたから、風聞だけど秀吉さんが出てくるんだよ!」

千早「そういえば明帝国の時代って、南北朝の動乱で疲弊した西日本の武士や庶民が、
船に乗って朝鮮半島や中国南部を襲撃した(前期)倭寇の時代だって習ったわね
三代将軍の足利義満が明の皇帝の形式上の配下になって、朝貢貿易(※目下の国が皇帝に貢ぎ物をする代わりに、
何倍もの価値の下賜品をもらえるという目下の国には美味しすぎる形式の貿易)
を認める代わりに倭寇を取り締まれって命令したって言うし、さぞ日本人の印象悪かったんじゃないの?」

春香「まあ、そりゃあねぇ・・・
『笑府』だと、関白・秀吉は体長数丈で腰の太さが100周り、体重も1トン近い怪物だって噂が出てくるよ
どうも実際の秀吉が小男の老人だったのに、中国本土では強大凶悪な怪物として日本軍の先頭に立って暴れているってイメージだったみたい」

小鳥「ということは、戦国BASARA版の秀吉ね!レッツパーリィー!!」


199 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:34:10
赤羽根P「・・・あ、小鳥さん、またこんなところで油売ってたんですか
次の『生っすか!?サンデー』の新コーナーの企画書、どうなったんですか?」
社長「そうだぞ音無くん!君がコメディー路線で企画を欲しいと言うから期待していたのだが!」

小鳥「ピヨッ!?あ、あの、その、実はですね、今まさにその企画会議中でして、ね?
ちょうど春香ちゃんにコントに使えそうな中国の昔の笑い話のネタを聞いてたところだったんです!ね、春香ちゃん!?(小鳥必死のアイコンタクト)」

春香「(うわぁ、無茶ぶりだなぁ小鳥さん・・・)あ、えっと、そうです、ね?
まあコントのネタに出来そうな笑い話もいっぱい載ってるんですよ、この『笑府』って本!例えばですねぇ・・・」

<看鑑(巻十一・謬誤部より)>

美希「真くん!行商に行くなら街でお土産買ってきて欲しいの!
ほら、美希あのお月様みたいな形の象牙の櫛が欲しいなって!」
真「え〜?ああ三日月だね、わかったお月様の形のお土産だね!」

真「・・・ふぅ、やっと行商終わったよ、疲れたなぁ
あ!そういえば美希にお土産買って帰るんだっけ!ええと、確かお月様の形の・・・なんだったかな?
お月様、真ん丸だなぁ・・・ああ、ということは丸鏡だったのかな?すいませーん、丸鏡一つくださーい!」

真「ただいまー!美希、頼まれてたお土産も買ってきたよ、ほら見て!」
美希「!?金髪もしゃもしゃでセクシーダイナマイツなすごい美人さんが美希のこと見てるの!!
美希が頼んだのは櫛なのに、こんなS級アイドルみたいなお妾さん連れて帰ってくるなんて!真くんは浮気者なの!」
真「え、ええええ!?」

律子「はいはーい、美希のお母さんのリッチャンですよ〜?とりあえず夫婦喧嘩は止めなさい、って・・・(チラッ)
はぁ、真もわざわざお金出してこんな隠れグラマーで知的で可愛いアイドル・・・じゃなかった!年寄り婆さんなんか買ってきたのよ」

雪歩「警察ですぅ!(インパルス萩原)
泥棒猫がいると聞いて逮捕しに来ました!(チラッ)
・・・って、一番乗りで逮捕に来たのにもう他の役人さんが来てるんですか!?
ま、負けられない、私が全員逮捕します!あと、そこのフライングの役人さんもついでに逮捕ですぅ!」

貴音「・・・そうですか、良くはわかりませんが夫婦喧嘩の仲裁を裁判官で地方の高官の私にしろということなのですね?(鏡チラッ)
・・・はぁ、何もたかが夫婦の揉め事にこんな立派な身分の高そうな人まで連れてこなくてもよろしいじゃありませんか!」

(※この話、実はさらに元ネタはインドの『百喩経』だそうだ。意外にインド伝来の笑い話も多かったらしい
ちなみに当時の明朝時代の女性のファッション→
http://livedoor.blogimg.jp/drazuli/imgs/e/3/e3cd4d98.jpg


200 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:35:09
はえ〜、すっごい詳しい・・・


201 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:36:58
千早「ふふっ、いいじゃない、普通に面白いお話だと思うわよ?」
春香「んー、他にも色々面白いネタもあるんだけどね、小噺が多くて、コント向きの話は意外に少ないんだよね」
小鳥「ど、どうですか、このネタ!これでドタバタコントを5分くらいで!(ナイス、ナイスよ春香ちゃん!)」

赤羽根P「なるほど、短いコントを幕間にコーナーで一つ挟むのは悪くないかもなぁ、でも生放送だしなぁ・・・」
春香「生放送でかつタイトな時間枠だと、リハなし一発録りだったダウンタウンの『ごっつエエ感じ!』並みの緊張感ありそうだね」

千早「(『はねるのトびら』を生放送でやるみたいな感じかしら?)
でも、そういう生放送でコントをやって成功した番組っていうのもあったんじゃないですか?良く知らないですけれど」

春香「(う〜ん、サタデーナイトライブかなぁ・・・あ、今度アンディ・カフマンのネタやっていいか社長に相談してみよっと!)」
赤羽根P「(新春番組ならそういうコントもよくあるけどなぁ、成功してるって言うと吉本新喜劇みたいな感じかな?)」

社長・小鳥「「あるじゃない(か)!!『八時だョ!全員集合』が!!」」

千早・赤羽根P「「・・・えっ?八時だョ!全員集合って何?」」
春香「えっ、何それは?(暗黒微笑)」

小鳥「・・・・・・えっ?」

(※『笑府』の出版された明朝末期は、中国南部の大都市・蘇州を中心に商工業が大発展し、
都市民や豊かな商人階級が台頭した時代であり、彼らを対象にした通俗小説・大衆文学が花開いた時代であった
『水滸伝』『三国志演義』『金甁梅』『西遊記』などの大作が書かれ、あるいは編纂されたのもこの16世紀後半頃のことである

当時の蘇州の様子→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/43/Along_the_River_During_the_Qingming_Festival_(detail_of_original).jpg


202 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:37:23
『笑府』は平凡社版を参考にしましたが、岩波文庫からも出ています
当時の歴史を全然知らなくてもクスリと笑える小話が700以上も載っていて、かなりオススメの本です
同時に、当時にもトイレットペーパーがあったとかあの時代の習俗や豆知識も知れるので歴史好きにもオススメ

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191


203 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:38:17
乙ですー、今日も大ボリュームで復習が捗りそう


204 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:44:12
いいゾ〜これ
小鳥さんウッキウキで草


205 : 名無しさん :2015/08/30(日) 22:14:09
アリシャス!
ちなみに元ネタのこの『笑府』、面白いネタ多いんですがいかんせん下ネタが多すぎ!
セックスの話だけじゃなくて、とにかくチンポやウンコの話が多くて、面白いのにネタにできないというジレンマ
でも、自分のチンポに語りかけたり、ウンコに語りかけたりするエピソードもあったりして絶対ぶりっちょ民好きなはずです

例えば一例

・裁判中に容疑者が屁をブッとこいてしまった。
ブチギレた裁判官が「今の奴を捕まえてこい!」
そこで刑吏が黙って糞を紙に乗せて差し出した
「主犯は逃がしましたが、共犯を捕まえてまいりました!」


206 : 名無しさん :2015/08/30(日) 22:18:32
ここ向きな本だね(ニッコリ
早速図書館で予約したわ


207 : 名無しさん :2015/08/30(日) 22:20:31
ちょうど本屋にいるんで買ってみる


208 : 名無しさん :2015/09/03(木) 00:15:36
笑府、岩波文庫は古本しかないのかな?
尼でポチるのがいちばん手っ取り早いか


209 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:15:52
【第十一話】春香「この世で一番強い格闘技ってなんだろうね、千早ちゃん?」

千早「ああ、ごめんなさい、私そういうの全然詳しくないのだけれど・・・
ボクシング、とかなんじゃない?ほら世界ヘビー級チャンピオンがニュースになるくらいだし・・・」

春香「この世で一番強い格闘技でございますか、グレイシー・・・K-1・・・いろいろございますなァ・・・
いろいろありますなァ・・・・・・・・・・・・ただ――――たった一つだけだというのならやはり・・・」

雪歩「プ  ロ  レ  ス  で ご ざ い ま す !」
真「いやいや雪歩がプロレス好きなのはわかるけど、『格闘技』となると、ちょっとねぇ・・・
やっぱりフルコンタクトの実戦空手でしょ、となるとやっぱり極真空手の無差別級全世界王者が・・・」
雪歩「なに!?真ちゃんはプロレスが格闘技じゃないって言いたいの!?
そもそも現代のプロレスの格闘技としての源流には、中世イングランド以来のキャッチ・アズ・キャッチ・キャンスタイルのレスリングが・・・」

千早「・・・ねぇ、ところでなんで萩原さんはあんなにプロレスに詳しいの?」
春香「お父さんや若い衆が、東スポや週プロや格闘技通信なんかの雑誌をいっぱい家の中に放置してる家庭環境だからねぇ・・・
一種の英才教育というか、いわゆる門前の小僧のなんとやらってヤツかな?
お父さんの職業柄、プロレスラーの知り合いも多いみたいだよ?例えば・・・」
千早「あ!いいです!その辺の詳しい事情は聞きたくないから!」

(※当然、独自設定ですっていうか、『建設関係』の血の気の多い若い衆抱えてる『組』なら当然プロレスファンが多いはず、
で、雪歩も幼少期から影響を受けて重度のプオタだったら良いのになあというワイの願望ですすいません何にもしませんけど許して下さい!)


210 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:16:16
雪歩「・・・ブラジルから来た少年・・・猪木・・・メンゲレ・・・アリ戦・・・格闘技世界一・・・」
真「・・・前田光世・・・ブラジル・・・ホリオ・グレイシー・・・バーリトゥード・・・」
雪歩「・・・ブラジリアン柔術・・・グレイシーハンター桜庭・・・ボボ・・・ブラジル・・・」
真「・・・極真ブラジル支部・・・フィリィオ・・・フェイトーザ・・・王者・・・」

千早「・・・ねぇ、あの二人の議論を遠くから聞いてるとやたらにブラジルって言葉が出てくるのだけど
ブラジルって格闘技が盛んな国なの?」

春香「そりゃあもう!
講道館柔道の達人で世界中に異種格闘の武者修行に出て常勝不敗の前田光世が20世紀はじめ、最終的に骨を埋めたのがブラジルだったんだ
んでコンデ・コマと名乗った彼が伝えた柔道が、カーロス・グレイシーとその一族によって進化したのがブラジリアン柔術、いわゆるグレイシー柔術だね」

千早「ええっと、グレイシー・・・って名前は聞いた気がするような・・・?」
春香「一族のホイス・グレイシーが1990年代、アメリカの異種格闘技の大会UFCで圧倒的な実力を見せつけて以来、
ホイスの兄ヒクソン・グレイシーが日本の総合格闘技全盛期に不敗の強さを見せつけたり、日本でも世界でも有名になったからね。
いまやブラジルの柔道競技人口だけでも公称200万人(※実際は50万人くらい?)と言われるくらい盛んなんだよ」

千早「200万人ってちょっと信じがたい数字ね・・・本家日本はどうなのかしら?」
春香「・・・全日本柔道連盟によると約20万人だそうッス、ちなみにフランスは80万人・・・(小声)
あ!それと沖縄移民たちが琉球空手・伝統派空手も戦前から伝えてたらしいけど、
戦後に直接打撃アリのフルコンタクト空手、大山倍達の極真空手もブラジルに乗り込んでね
このところはロシア勢に押されているけれど最近までは極真空手ブラジル支部が世界王者を2人出したり、これもなかなか盛んみたいだね」

千早「意外ね、ブラジルってサッカー一辺倒の国だとばかり思ってたわ・・・」
春香「そうなんだよ、意外でしょ?でも、ブラジルといえば、柔道でも空手でもなく、やはり・・・」
千早「やはり?」
春香「カポエラ・・・・
格闘技&歴史マニアのボクがおくるカポエイラ前史!!きみたちも“激読”してくれ!!」


211 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:16:48
<1670年 ポルトガル王国植民地ブラジル北東部 マセイオ市近郊>

春香「暑っつぅ・・・南緯10度って赤道直下と変わんないじゃん、何この暑さ!?
アフリカ大陸南部のアンゴラから奴隷商人に連れてこられたけど、ここの方が暑い気がする!」
ナターリア「ワタシ、このブラジルで生まれたからアンゴラしらないケド、きっと、
このサトウキビの絞り汁、延々と煮詰める作業のせいだヨ!がんばロ!」

ヒゲクマ奴隷監督「暑い? 生きてる証拠だよ(至言)
それよりも大釜焚くのに使う薪が足りねぇなぁ、おまえとっとと持って来い!」

春香「ふぁい、監督!
・・・それにしてもこの砂糖農園、大きいなあ、見渡す限りのサトウキビ畑で果てが見えないや・・・
そしてその膨大なサトウキビは、水車を利用した機械エンジェーニョ※で搾汁、これも収穫期は24時間フル稼働中なんだなぁ・・・」

(※この機械を理由した奴隷制大規模砂糖農園もエンジェーニョと呼ばれ、おびただしい奴隷の犠牲の下、大農園主に巨富をもたらしていた
サトウキビの大規模栽培・収穫、搾汁、煮詰めて製糖するまでの全工程が自立して行われた
作業工程の様子→
http://2.bp.blogspot.com/-vkKjQS6-5YI/U3-PTgeoFII/AAAAAAAACAE/1SbF VXuVy4k/s1600/info-usina1.jpg
http://img00.deviantart.net/1c6a/i/2008/051/b/8/engenho_cana_brazil_sec_xviii_by_jubran.jpg

黒人奴隷「ほ、ほーっ、ホアアーッ!!お兄さん許して、お兄さん許して!
ハァーハァー、身体が壊れる!(サトウキビが)太い太い太い!24時間休みなしで働くの嫌!ホァーッ!」
奴隷監督TIT「奴隷は白人様の言う事には絶対服従なんだよ、オイ!死ぬ寸前まで働かせてやるからな!分かったか?」
黒人奴隷「ホアァーッ!おま○こ幼稚園・・・ピースのピー・・・(絶命)」
監督TIT「意外と早く落ちたなぁ・・・まぁ、奴隷の代わりはいくらでもいるからな、奴隷の命なんて糞だよ糞ハハハ、ハハハハ!」

春香「ひ、ひどいよこんなの・・・完全に黒人奴隷を消耗品だって思ってるんだポルトガル人たち!
私も使い潰される前に何とかして脱走しなきゃ・・・(使命感)」

(※16世紀、大航海時代をリードしていたポルトガルは、希少な香辛料の産地である東南アジアをオランダに押さえられたこと、
そして1580年に隣国のスペインに併合されてしまったことにより非常に苦しい立場になった
そこに登場したのが、それまで大西洋上の小島で細々と生産していた砂糖である
ブラジル北東部で大量生産されるようになった膨大な量の砂糖は、たちまちヨーロッパを席巻し、食生活を一変させて巨大な需要を生んだ
ポルトガルは、ヨーロッパ市場に砂糖を売り込む一方で、アフリカには砂糖精製の過程で出る糖蜜の蒸留酒ピンガ=ラム酒や煙草と交換で、
17世紀の1世紀で約60万人と言われる黒人奴隷を輸入する三角貿易経済で、たちまちに巨万の富を得たのである)


212 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:17:15
春香「お、お待たせしましたぁ!たった今、追加の薪を運んできました!
・・・ねぇナターリア、こんなとこにいたら近い将来、私たちまで過労死待ったなしですよ!脱走しよう!(小声)」
ナターリア「・・・脱走って、春香さんアテあるんですカ?農園の周りは猛獣や害虫のいっぱいなジャングルですヨ?監督たちも追ってくるし」

春香「えっ、そ、それは・・・でも、噂に聞いたことがあるんだ!
ジャングルの奥地には逃亡奴隷達の作ったキロンボ(※アンゴラの部族語で武装キャンプの意味)があるって!そこまで逃げ切れれば!」
ナターリア「・・・・・・うん、ナターリアもいつかはこういう日が来ると思ってたヨ・・・
わかったヨ、でもナターリアにも考えがあるから、今の仕事がひと段落ついた日の夜のダンスパーティーまで待っててネ?」

(一週間後・・・)

監督TIT「今期の製糖作業は終わりだよ。明日さ、貿易商が見に来たいって言うからさ、
それまでダンスでも何でも好きにしてろ、分かたか?じゃあな!あばよ!」
監督KN「はぁ〜、奴隷労働とくだらない異教徒の踊りで勝手に疲労するのと、何が違うのか私には理解に苦しむね(冷静)」

春香「や、やった・・・な、何とか灼熱地獄の中での、日に18時間労働の極限状態から生き延びれたよ・・・何人も仲間が死んじゃったなぁ、グスン・・・」
ナターリア「おつかれさまでシタ♪
今晩の喜びの野外ダンスパーティーは完全に奴隷だけの自由な時間だからネ、
監督たちも連日の監視にくたびれてるだろうし、油断と大騒ぎに乗じてこっそり脱走しちゃうネ!
じゃ、ナターリア、ダンスでみんなをハッピーにしてくるから待っててネ!」

春香「あ、あれだけの過酷な重労働の終わりに激しいダンスでトランスして盛り上がるって、どんだけタフなんだろ、この人たち・・・」

(※黒人奴隷達は苦役の間にアフリカ伝来の音楽と踊りで日々の憂さを晴らした
これがヨーロッパ音楽と融合して、サンバなどの現在のブラジル文化の原型となっていく、そして・・・
こんな感じ→
http://www.camaracampos.rj.gov.br/wp-content/uploads/2013/09/negro5.jpg


213 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:18:01
神父「・・・では、やはり行くのですね、いや、仲間のもとに帰るのですね」
ナターリア「ゴメンナサイ・・・キロンボが襲われた時に赤ちゃんだったナターリアを救ってくれて、
それから今までイロンナコトを教えてくれてアリガト・・・でも」
神父「やはり故郷のキロンボに、伯父のガンガ・ズンバ王の支配するパルマーレス王国に帰りたいんだね?
わかった、それもまた主の御心なのでしょうね、主のご加護を祈っていますよナターリア!」

春香「・・・あ、おかえり。神父さんとお話終わった?」
ナターリア「ウン、神父さんはナターリアをてとりあしとり育ててくれたおとーさんみたいな人だから、お別れ言わないと、ネ!
じゃ、ダンスパーティーもどんどん盛り上がって騒がしくなってきてるし、そろそろ行こッカ!」
春香「わ、わかった!・・・ていうか、誰よりも激しく飛ぶようにダンスしてたのにまだ脱走する体力が残ってるなんて・・・」


214 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:18:24
春香「はぁ、はぁ・・・ちょ、ちょっとストップ・・・真っ暗なジャングルって死ぬほど怖いしキツい・・・一休みするの許して」
ナターリア「ダメだヨ!もうとっくに追っ手が出発してるし、もっと遠くに行かないト・・・」

ヒゲクマ監督「許してもらえるわけがな〜い!ンーフフフフフフフ(微笑)」
ナターリア「しまッタ、もう・・・!」
監督TIT「脱走するとか、もう許せるぞオイ!もう許さねぇからな(豹変)」
ヒゲクマ監督「これわかる?そう鞭。これで死ぬまでぶちのめすから、これから。
お願いしますは?渾身の一撃をお願いしますは?是非お願いしますと言えないのかよォ!?(ビュンッ!)」

春香「は、外れた・・・いや、鞭をかわして一瞬で相手の懐に飛び込んだんだ!はやイ・・・これがニンジャ・・・」
ヒゲクマ監督「おいおいおいおい何やってんだ!あったまき・・・何ッ!?」
ナターリア「イヤーッ!」
地の文=サン「ゴ、ゴウランガ!相手の内懐に飛び込みざまにセニョールスレイヤーの繰り出したのは、
凄まじい連続回転蹴りを浴びせる恐るべき南米古代カラテの秘技、メイア・ルーア・ジ・コンパッソ※!!」
ヒゲクマ監督「グワーッ!サヨナラ!」

(※黒人奴隷達がダンスに紛れて完成させた護身格闘技カポエイラの華麗な回転回し蹴り技
当然、古代ニンジャカラテは関係ない、と思う
実戦編→https://www.youtube.com/watch?v=CEiaP_tJZKM

監督TIT「な、なんだその反抗的な態度は〜!?お前を芸術し、ひぃんにしてやっんだよ!(錯乱)イヤーッ!」
ナターリア「イヤーッ!」
地の文=サン「ワザマエ!すでにタクヤ=サンの振り下ろすサーベルの軌道を読んでいたセニョールスレイヤーは、
振り下ろし動作で一瞬の隙を見せたタクヤ=サンの無防備即頭部に、強烈なアルマーダ・コン・マルテーロゥ※!」

(※カポエイラの後ろ回し蹴りアルマーダから連続して前蹴りマルテーロゥへとつなげる連続技
こんな感じ→https://www.youtube.com/watch?v=JmxaYYsE520

監督TIT「アバーッ!サ、サヨナラ!」
地の文=サン「強烈な二連蹴りを浴びたタクヤ=サンの頭部はゴアめいてしめやかに爆発四散!」
ナターリア「ふぅ、オシオキタ〜イム、終わりましたネ!さぁ、急ぎましょう、増援が来る前に・・・!」
春香「あ、うん!・・・ていうか、あのナレーション言うだけ言っていなくなった人は一体・・・」


215 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:19:00
<ブラジル・アラゴアス州奥地の山中、パルマーレス王国首都・マカコ>

ズンバ王「・・・うむ、十数年前に凶悪な白人どもに村が襲われたと聞いてすっかり死んだものと諦めていたが
よくぞ帰ってきた、我が甥よ!しかも見事なカポエイラの腕前と、白人どもの書物を読み書きする優れた知見!」
ナターリア「はじめましテッ、ズンバ王おじさん!ワタシ、ナターリア。よろしくおねがいしまス!」

ズンバ「うむ、赤子の時にさらわれて以来だから確かに、はじめまして、だなハハハ・・・
それはそうと、こうして同胞の下に帰ってきた以上は白人どもの付けた名前(※洗礼名フランシスコ)ではいかんな
これからは『パルマーレスのズンビ』と名乗り、我が片腕として大いに働いてくれぃ!」
ナターリア「ズンビ・・・うん、ズンビ、がんばりまス!」

春香「あ〜、王さまとの接見、終わった?
まあ王宮って言っても茅葺き屋根で土壁の小屋みたいなもんだけどね
ほんとにアンゴラのキロンボ=武装キャンプそのまんまだなぁ・・・
(※再現されたパルマーレスの建物→
http://www.palmares.gov.br/wp-content/uploads/2015/03/Fretnte-serra-Cópia.jpg)」


216 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:19:25
ナターリア「ウン!これからはポルトガル人のこと良く知ってるナターリア・・・ズンビに軍隊の指揮を任せるッテ!」
春香「すごい!あ、でもあのカポエイラのワザマエなら当然かなぁ
それでどうするの?ここ首都とか言ってるけど茅葺き小屋が1〜2千軒くらい建ってるだけだし、鉄砲持ってる人もほとんどいないじゃん」

ナターリア「・・・そうだネ。王さまはオランダ人が少数の兵力で攻めてきたのを何度も撃退してるから、それで甘く見てるみたイ・・・
でも、ブラジル北東部を奪還した今のポルトガル人、すごく怖いヨ
神父さんカラ教えてもらったケド、イギリスっていう別の強い白人国と組んで実力でスペイン帝国から独立を勝ち取ったっテ」

春香「そっか、この時代のスペインは、オランダ独立をめぐる80年戦争とドイツの新旧キリスト教の覇権争う30年戦争が終わってヘロヘロ、
1640年から始まったポルトガル王国独立戦争(※喝采戦争)でも小国ポルトガル相手に大苦戦して独立認めさせられたんだっけ」

ナターリア「そのポルトガル軍の強さは、イギリスやフランスって大国の援助も大きかったケド、
結局のところはこのブラジルの産み出す砂糖貿易のおカネの力がイチバンだったっテ!」
春香「そしてその巨大な富と力を手に入れたポルトガルが、スペインから正式に独立して2年・・・
いよいよ逃亡奴隷回収と見せしめのために、キロンボ壊滅に本格的に乗り出してくるかも・・・ってこと!?」

ナターリア「みんな甘く見てるケド、ホンキのポルトガル人たちはコワいヨ・・・
槍と弓矢だけの数でも武器でも劣るパルマーレスが生き延びる戦い方、考えないト・・・」

(※ブラジル史上最も繁栄したとされる完全自給自足のキロンボ・パルマーレスは、
1630〜1654年まで続いたオランダのブラジル北東部征服の混乱で大量脱走した黒人奴隷達が起源とされる
堅牢なバリーガ山脈を中心に逃亡奴隷たちの広大な聖域として最盛期には数千〜数万の人口を擁したとされている
ブラジルの地図・マセイオがアラゴアス州の州都、レシフェが当時の北東部の中心地→
http://www.pelican-travel.net/brazil/images/area_map.gif
パルマーレスの勢力図・マセイオからそれほど離れていなかったのがわかる→
http://www.blackpast.org/files/blackpast_images/Palmares.jpg


217 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:19:49
<6年後・・・1676年、パルマーレス王国マカコ>

春香「パルマーレスの英雄、ズンビ将軍がポルトガル軍を撃退して帰還しましたよ、開門!
・・・ていうほどの門でもないけど、あれ?門が破られてる!?(※こんな感じ→
http://imguol.com/c/noticias/2014/11/19/18nov2014---parque-memorial-zumbi-dos-palmares-em-alagoas-aguarda-visitantes-de-todo-o-pais-para-celebracao-de-dia-da-consciencia-negra-1416422852177_956x500.jpg)」

ズンバ「遅かったじゃないか!!一体何をしていたんだ、お前たちは!」
ナターリア「ゴメンナサイ、おじサン・・・でも、何あったノ!?マカコの集落、焼き尽くされてル!」
ズンバ「お前たちと戦っていたはずのセニョール・フェルナン・カリリョ将軍の軍隊が襲ってきたんだ!
ワシらは辛うじて逃げたものの、逃げ遅れた者たちはみな・・・
もう何十年もこんなに大量の白人の軍隊が攻めて来ることなんかなかったんだ、どうしてこんな・・・」

ナターリア「もう山奥に逃げて回っていれば何とかなる時代は終わったヨ、王サマ・・・
また奴隷に戻りたくなかっタラ、必死に戦うしかないんだヨ!ガンバロ!」
ズンバ「しかし戦うといっても向こうは鉄砲も鎧もある大部隊、こっちは槍と弓矢ばかり・・・」
春香「でもでも!ズンビ将軍は今回のカリリョ将軍の部隊にゲリラ戦で大損害を与えましたよ!
視界の効かない上に豪雨地帯のジャングルでは鉄砲もうまく使えないし鎧も重いだけ!
小部隊での奇襲待ち伏せからの接近戦と一撃離脱ならば、槍と弓矢でも十分に戦えますよ、王様!」
ズンバ「・・・いや、ワシはもう疲れた、戦うのも逃げ回り続けるのも、もう沢山だ・・・」

(※カリリョ軍撤退後の1678年7月18日、ズンビ将軍の奮戦もあったものの継戦意欲を失ったズンバ王は和睦を申し入れる
パルマーレスの多くの集落を焼き払い多くの損害を与えたものの自軍の損失もまた大きかったポルトガル当局はこれを受諾
ズンバの一派数百人は身分保障されてポルトガル当局に投降した
一方、逃亡奴隷の身分保障を認めない和平に不満を持つズンビはあくまで投降を拒否、パルマーレスを抗戦派の下に再興した
投降したズンバも、2年後にはおそらくズンビ支持者の反乱で暗殺され、鎮圧後に生き残りの投降者たちは皆奴隷にされたという)


218 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:20:13
<1692年 ブラジル・ペルナンプーゴ州都レシフェ>

ベルナルド・デ・メロ総督おじさん「全くパルマーレスの奴隷どもにも困ったもんじゃ・・・チッ・・・」
傭兵隊長平野「総督、お久しぶりです、バンデイランテ※隊長の平野源五郎です・・・
北東部で逃亡奴隷を調教するのは何年振りでしょうか・・・」

(※ポルトガル人植民者に率いられた混血やキリスト教化した先住民を主力とする数千人規模の武装探検隊
であると同時にアマゾン奥地の未開部族やキロンボ、さらにはイエズス会の教化村を襲撃しての奴隷狩りも職業としていた
サンパウロ出身者が多くパウリスタとも称され、その広範な活動により広大なアマゾンが征服されるに至った)

総督おじさん「あれ隊長、久しぶりじゃないっすか、というかわざわざ南部のサンパウロから隊長の大部隊を呼び寄せた理由はわかりますよね?」
平野隊長「うむ・・・私の部隊は先住民の多い、ジャングル戦、そして奴隷狩りのスペシャリスト集団です
つまり、長いあいだ小競り合いはあったものの大損害を恐れて小康状態にあったパルマーレスを殲滅する決断を下された、と」

総督おじさん「奴隷がどんどん逃亡してんだよなぁ、パルマーレスのせいでよぉ!高かったんだよなぁ、Yo!」
平野隊長「確かに、このブラジル北東部を一時支配していたオランダはじめイギリス・スペイン・フランスなどの他国も、
カリブ海の島々で大量に黒人奴隷を輸入しての砂糖栽培を大々的に始めて、いま砂糖価格の下落に反比例して奴隷の値段は上がる一方・・・
しかしご存知でしょうか、バンディランテの一隊が中部のミナス・ジェライス州で大規模な金鉱を発見したニュースを・・・」

総督おじさん「・・・!?つまり、あれっすか、砂糖栽培以上の奴隷需要が産まれそうだと!?」
平野隊長「そう、活きのいい奴隷少年は、これからどんなに高価でも買い手がいくらでもつくようになる、ということです
ですから、今回のパルマーレス討伐で捕らえた奴隷の利益は折半ということでいかがでしょうか・・・?」
総督おじさん「・・・あ、いいっすよ。一つの奴隷王国を一から征服するなんて久々だから、楽しみっすよ!」

(※バンディランテ隊長ヴェロ将軍→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5c/Domingos_Jorge_Velho.jpg


219 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:20:41
<1994年1月12日 パルマーレス王国首都マカコ>

春香「・・・この2年間、対ゲリラ戦の得意なパウリスタの先住民部隊との死闘が続いてきた・・・
ズンビの巧みな指揮と戦術で何度となく敵の大軍を撃退してきたけれど、仲間たちもみんな死んでいっちゃったよ・・・」
ナターリア「それももう終わり、ダネ・・・
アットー的な大軍に退路も断たれて、あとはこのマカコで最後の決戦に挑むしか無くなっちゃったヨ」

春香「でも、いくらズンビ自身が超人的なカポエイラの達人でも、残りの戦士たちが精鋭ぞろいでも、もう勝ち目は・・・」
ナターリア「そうだネ。でもナターリア、このパルマーレスで奴隷じゃなくて自由なニンゲンとして生きてきていつも幸せな気持ちだったんダ
ニンゲンにとってとってもタイセツな、ダイジなの、それは自由のハートなんだヨ!」
春香「そっか、そうだよね、奴隷として生き延びるよりも、自由な人間として死ぬ!
その精神は、個人の自由と尊厳の精神は、黒人奴隷たちだって同じくらい強く持ってるんだ!」

ナターリア「そう、だからナターリアから大事なトモダチの春香におねがい、ありマス
何とかマカコから脱出して生き延びテ!そしてこのハートと、それを守るための力、カポエイラを、
これからもこの国に連れてこられる同胞たちに教え伝えて、クダサイ」
春香「・・・っ!!ダメだよ、死ぬなら一緒に!」
ナターリア「黒人の自由の精神、それとカポエイラ、それが多くの同胞たちに伝えられていくことが、
ナターリアたちが生きてきた最高の証になるから、オネガイ、ネ?」
春香「・・・・・・わかりました、生きて、生きて必ずナターリアやみんなの想いを語り継ぐよ・・・!さよなら!」
ナターリア「・・・・・・さよなら!」

(※1992年に始まった1万人を越えるポルトガル軍の大規模攻勢に、数でも武器でも劣るズンビ軍はゲリラ戦で互角以上の善戦を見せた
しかし圧倒的な質量の前に次第に追い詰められ、ポルトガル軍との二日に渡るマカコ決戦の末、ついに軍は壊滅しパルマーレスは滅亡した
その図→
https://gatasnegrasbrasileiras.files.wordpress.com/2014/08/depiction-of-the-palmares-quilombo.jpg

ズンビは決戦で戦死したとの説もあるが、生き延びて復讐を謀っていた際に仲間の裏切りにあい、
翌1995年11月20日、追っ手のポルトガル軍と戦い殺されたと一般的には伝えられている
ズンビは今なおブラジル黒人の英雄であり、この11月20日は現在『黒人意識の日』として祝日になっている
ズンビの肖像→
http://4.bp.blogspot.com/-CQmfI3Y3Ou8/Tskz-OnW7UI/AAAAAAAAAUY/UHMOnOblru8/s1600/Zumbi.jpg


220 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:21:21
春香「・・・で、その後もブラジルは膨大な数の黒人奴隷をアフリカから輸入し続け、その数はトータルで約350〜400万人と言われている
アフリカからアメリカ大陸に売られた奴隷の総数は約1千万人というからダントツでトップだね、ちなみに北アメリカは約40万人です
(※なお「一人の黒人奴隷を輸送する途中で五人の黒人奴隷が死んだ」という言葉も残されている)」

千早「・・・それで、その後に連れられてきた多くの黒人奴隷たちには先人の想いは伝わったのかしら・・・?」
春香「うん!ズンビとパルマーレスの存在は伝説化して多くの黒人奴隷達の心の拠り所となり続けたみたいだよ!
1888年についに奴隷制が廃止されたときにも、ブラジル全土にはなお3000ものキロンボがあったんだ
そして、都市や鉱山や農園に生きる黒人たちも、自らの身を守るためにダンスのフリをしてカポエイラを磨き続けていったの!
どうですか!?自由のための格闘技!ブラジル人の真の国技カポエイラ!最強はこれでしょ!?
(ホントはズンビやパルマーレスの黒人たちがカポエイラの達人だったって説は今じゃただのおとぎ話だと思われてるってのは黙っとこ!)」

真「う、うーん、自由への戦いかぁ・・・あ!空手もそうだよ!
武装を禁じられた琉球人が、薩摩藩の支配に対抗するために編み出した格闘技が空手だもん!」

雪歩「そうですぅ!メキシカンプロレスも、『ルチャ・リーブレ』まさに『自由な戦い』って意味なの!
先住民たちの征服者であるスペイン人への自由を求める戦いの歴史の象徴が、ルチャなんですぅ!」

千早「・・・ねぇ、プロレスで思い出したのだけれど
ナターリアさんって、生い立ちとか喋り方とか、このプロレスゲームの選手そっくりじゃない?
http://www.success-corp.co.jp/software/ps2/wa/wa_i/char506.html

雪歩「ディアナ・ライアル・・・レッスルエンジェルスシリーズの登場選手の一人
必殺技はダブルムーンサルトプレス、リンドリの主人公ですぅ!」
春香「中の人は舞さんとか、色々あるけどまぁ・・・その辺はみんな、お互い様だから・・・(小声)」

千早「・・・あれ?このオチ、前にもあった気がするのだけれど・・・?」
春香「ナンノハナシカナ〜?」


221 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:21:46
ぶりっちょでは初めてなのでセーフ
カポエイラは18〜19世紀にナターリアの故郷リオで本格的に発展したみたいです

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191
・「第十一話」>>209


222 : 名無しさん :2015/09/06(日) 20:37:52
乙やで
カポエイラにはこんな壮絶な歴史があったんやなぁ


223 : 名無しさん :2015/09/06(日) 21:06:33
乙ー、今日は歴史スレが豊作だぁ・・・(甲骨)


224 : 名無しさん :2015/09/06(日) 22:06:06
ブラジル史、奥が深すぎる…すげぇ


225 : 名無しさん :2015/09/06(日) 22:08:28
落語から格闘技まで相変わらず
ジャンルを選ばない博識さですね…

自由の為の戦いとは
社会人になった今だと
いろいろと考えさせられるものがあります


226 : 名無しさん :2015/09/07(月) 01:21:54
アリシャス!
読み返してたら誤字ひどいっすね、すんません
とくに219の年号が1692年〜1695年じゃなくて二十世紀になってるし

ちなみに分かりやすいブラジル史の本としては、河出のふくろうシリーズの図説ブラジルの歴史がオススメです


227 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:12:19
【第十二話】春香「そこに劉禅・氏真・ジョン王がおるじゃろ、千早ちゃん」

春香「3人の能力を合わせても曹操ひとりにも及ばないんじゃ」
千早「・・・え?劉禅って、劉備の跡を継いだ息子のこと・・・?」
あずさ「あらあら、春香ちゃんいきなりどうしたのかしら?」

春香「いやだって、何で二人で事務所でゲームやってんですか、しかもよりによってコーエーの『三國志12』だし!」

千早「今度、私のやってるゲームの話題メインのWebラジオのゲストにあずささんを呼ぶことになったの
それで今年の12月に発売予定の『三國志13』の話題がテーマになるそうだから、復習のために二人で『三國志12』をやってみているの」
あずさ「今まで春香ちゃんや美希ちゃん、貴音ちゃん、響ちゃんも呼ばれていたけど、私はまだだったのよ、ちょっとワクワクしてるわ!」

春香「あー、私代理パーソナリティーもやったなぁ、あの番組
そういえば阿斗ちゃん(※蜀漢二代皇帝・劉禅公嗣の幼名)の能力値は今回も統率3武力5知力9政治4のサンゴクシなのかなぁ?
無双キャラ化もしたし、101匹で天下統一※したら劉禅再評価されるとは何だったのか!?」
(※ネコミミ于禁氏による三國志9を101匹の劉禅だけで統一クリアを目指すというネタ・・・歴史戦略動画
足掛け約4年という長い時間をかけて無事ゴールしたシリーズで、平野耕太はじめファンも多かった
伝説の始まり→http://www.nicovideo.jp/watch/sm2907611

千早「それで劉禅はいいけど、氏真とジョン王っていうのは・・・」
春香「今川義元の後継者で文武両道の才人だけど運命に抗しきれずに一度は滅亡の憂き目を見たけど、
抜群のコミュニケーション能力で(徳川家旗本・高家として)お家再興を果たした戦国のバロンドール・今川氏真くん!
兄リチャード獅子心王の跡を継いで、真のイングランド人のためのイングランド王として奮闘した、
失地王ジョン1世(John the Lackland)陛下に決まってるじゃん!!
『信長の野望・嵐世期(と烈風伝)』のシナリオ・諸王の戦いで、トリオで今川家再興を目指したネタ君主・・・ゆかいな仲間たちだよ!」
(※烈風伝での今川家オープニング、他の諸王たちも色々と強烈である→
https://www.youtube.com/watch?v=3djyyDQsjrs


228 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:12:49
千早「へ、へぇ・・・(今川義元の跡取りって、確かダメ息子って話だったけど違ったのかしら?)
でもジョン王の方は、たしか英国史上最低の愚王だとか聞いた気がするのだけど・・・」
あずさ「そうなの?でも失地王っていうくらいだからやっぱりダメな王様だったのかしら?」

春香「いや、まあ確かにヘンリー2世当時にはアンジュー帝国とまで呼ばれた広大な領土が、
兄のリチャード王を経てジョン王の時代に激減したのは事実ですけどね

具体的には、父ヘンリー2世の時代にこうだったのが→
http://www.globalsecurity.org/military/world/europe/images/uk-map-1154.jpg
最終的にこうなったと→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/61/Conquetes_Philippe_Auguste.png
赤い部分がイングランド王プランタジネット(アンジュー)家の領土で、青がフランス王直轄領、緑がフランス王側の諸侯ね」

千早「・・・なにこれ、普通にダメな王様じゃない」
あずさ「というか、フランスの王様って領土ほとんどなかったのねぇ〜」

春香「いやいや!そもそもヘンリー2世が、相続と婚姻で急激に成立させたアンジュー帝国がむしろ不自然に巨大過ぎたんだって!
現実には、あくまでも不誠実で実力もある封建領主たちの忠誠と支持が前提の、砂上の楼閣で不安定な統治だったの
しかもヘンリー2世が両親から受け継いだのはイングランドとフランスのごく一部、
残りのほとんどが11歳年上の妻、智謀と度胸に恵まれた女傑アキテーヌ女公エレオノールの領土!
だから野心家の似たもの同士の夫婦の対立に息子たちの領土欲が絡んで、唯一信頼できるはずの家族の不和での内乱が絶えなかったんだよね
んでそこに美男で稀代の策士フランス王フィリップ2世が家族や諸侯の切り崩しに絡んでくるの!
(※フィリップ尊厳王。エレオノールの元旦那のフランス王ルイ7世の息子)」

小鳥「あ!それ知ってるピヨ!
実はフィリップとリチャードが恋仲だったんだけど、フィリップに『私はお前のことを利用しただけで一瞬も愛したことなどなかった』
って言って、父親に愛されず愛に飢えていたリチャードの精神と自尊心をメチャクチャに傷つけるのよね!
あの傷つき絶望し打ちのめされたリチャードの表情と、その心中を妄想するだけでご飯3杯はいける!!」

春香「映画『冬のライオン』※の1シーンですね!史実でも、若い頃にホモカップルだったのは可能性高いみたいですよ?
バイのフィリップ王は打算で抱かれていたけど、リチャードはガチでその辺の感情のすれ違いが、
後の執拗な対立の本当の理由かもしれませんね、ホモは嫉妬深い(偏見)」

(※1966年のブロードウェイ劇作を原作とした1968年制作の映画
ヘンリー2世にピーター・オトゥール、エレオノールにキャサリン・ヘップバーン、リチャードにアンソニー・ホプキンス、
美男のフィリップに007のティモシー・ダルトンと、豪華キャストで構成された、ヘンリー2世と一族の愛憎の人間ドラマ
予告編→http://www.dailymotion.com/video/x2woasq


229 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:13:14
千早「・・・・・・まぁ、なんでもいいですけど
小鳥さんの趣味も歴史背景も良くわからないけれど、要するに信頼できない貴族たちに囲まれていて、
本当に信用できるのは家族だけのはずなのに、その家族同士で争いあっていたから結局自滅したってこと?」

春香「まぁ、ものすごく大雑把に言うとそういうことだね(あ、しまった、家族の不和ネタはマズったなぁ・・・)
つ、つまりジョンくん一人が悪かったんじゃないと!もともとアンジュー帝国に無理があったと!
『冬のライオン』見ると思うけど、本当はアンジュー家の人達も家族仲良くしたかったんじゃないかな?ね、小鳥さん!?」
小鳥「ふぇ?・・・あっ、そうそう!喧嘩しながらもどこかで深い絆を感じているヘンリー王夫妻の大人な関係に憧れるピヨ!いつかああいう男性とわた」

春香「で!むしろ、フランスから手を引いて(嘘気味)、イングランドで平和な家庭を築いて(嘘気味)王国再建のキッカケを作ったジョン王こそが、
実はイングランド王国の真の中興の祖だと言えるんじゃないでしょうか!?」

(※あんまり賢くなさそうなジョン王のご尊顔→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/17/King_John_from_NPG.jpg
ホモ受け良さそうな尊厳王フィリップ2世のご尊顔→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4b/Philip_II,_King_of_France,_in_a_19th-century_portrait_by_Louis-F%C3%A9lix_Amiel.jpg

あずさ「あ、あらあら〜、でも権力が絡まなければ幸せな家庭だったかもしれないのね、ちょっと悲しいお話なのねぇ・・・」
千早「(春香のムチャな屁理屈をあずささんが必死にフォローしてる・・・)
いや、じゃあ春香の考えるイギリス史上最低の国王って誰なの?」

春香「それはもちろん、『英国王室史話』の著者・森護先生をして、
『在位20年間は、王の愚行を原因とする国内の混乱に終始した。いかに愚王であったとしても、
一つくらいは救いもあって然るべきと思うが、虫眼鏡で探してもそれは無駄』とまで言わしめた、
ジョン王のひ孫のエドワード2世(1284年〜1327年)に決まってるじゃないですか!!」

小鳥「・・・ピヨッ!?私のホモォ…センサーが反応している!?」
春香「そう、お察しの通り、男色一筋に生き、男色のために破滅した王様の物語ですよ、小鳥さん」
小鳥「やったぜ。」
千早「えええ・・・(困惑)」


230 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:13:48
<ジョン王の愚息(直球) ヘンリー3世の時代 1216〜1272年>

春香「えーと、ジョン王が1216年にイングランドに侵略してきたフランス王軍との戦陣で食べた桃に当たって亡くなってから70年、
エドワード2世が生まれた1284年には、数々の災厄と試練をこれを乗り越えてイングランドは再び強力な王国へと復興していました」

千早「・・・桃って、たしか日本でも大陸でも悪魔や鬼を退治する神聖な果物よね・・・?」

春香「執拗にイングランド王位と領土を狙って侵略を繰り返すフランス王、
荘園領主として自立して力をつけていた貴族たちによる大反乱と一時的な統治権奪取、
形式的には臣従していても完全独立を狙うスコットランドと、反乱に乗じて史上初の統一国家として独立したウェールズ・・・
しかし、この難題の山を解決して強力なイングランド王国を再建したのが、1274年に即位した名君エドワード1世でした!」

あずさ「・・・あれ?ということは、ジョン王が亡くなってからの70年のうちの、残りの60年は・・・?」
春香「・・・あー、ジョン王の跡を継いだその息子のヘンリー3世も頑張ったんですよ!10歳で即位して以来の在位が56年!
この記録はすごいですよ、つい最近ヴィクトリア女王の64年という最長記録を、現在のエリザベス2世が破るまで、
ジョージ3世の60年に次ぐ第三位の記録だったからね!まあ今は4位だけど」

千早「で、その半世紀以上の長い在位期間でどんな仕事をした王様なの?」
春香「あーえっと、即位当初の10年間は貴族との和解やフランス王の撃退に成功したね、全部摂政たちの手柄だけど・・・
あとシモン・ド・モンフォール伯爵を中心とする有力な貴族議会も壊滅させて王権を取り戻したよ!
まぁ実際にやったのはヘンリー晩年に摂政務めてた息子のエドワード王子だけど
・・・あ!最大の功績は、史上屈指の名君、エドワード1世を無事に誕生させたことだね、うん!」

小鳥「要するに、長寿なだけで何もしなかったと・・・息子までダメダメじゃないの、ジョン失地王!」
春香「あ、ちなみにジョン王のもう一人の息子で王弟リチャードは、神聖ローマ帝国の混乱に乗じてなんと皇帝に立候補!
金に物を言わせて貴族たちを買収して形式的には一時的に皇帝に即位・・・したけどドイツ諸国の大多数には無視されて、
結局わずか数年で逃げるように帰国、ちょうどお兄ちゃんのヘンリー王が貴族議会にギャフンと言わされてた時期だね」

千早「なんというか、血は争えないのね・・・」
春香「ちなみに在位3位のジョージ3世は、重度の精神障害を伴うポルフィリン症候群の発症者だったけど、
ジョン王と貴族連合の始めた議会君主制度が18〜19世紀には完成していたので特に支障はなく、
アメリカ独立からフランス革命とナポレオン戦争というイギリス史上屈指の難局も、議会と優秀な首相のお陰で乗り切れたよ!やっぱジョン王は神だね!」

(※フランスに喧嘩売っては叩きのめてたり、優秀な家臣を追放したり、貴族たちに喧嘩売って逆に逮捕されたり・・・
やっぱりあまり賢くなさそうなヘンリー3世のご尊顔→
http://www.driverguideslondon.com/wp-content/uploads/2015/02/Henry-III.jpg


231 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:14:18
<名君エドワード1世の栄光 1274〜1307年>

春香「で、でも、ここで登場したジョン王の孫、エドワード1世がすごかった!
モンフォール伯ら議会派貴族連合に父と共に捕らえられるも脱走、逆襲に出て議会派を戦場で破り壊滅させる!
そうして貴族・教会を実力で押さえ込む一方、今のイギリス下院の基となる『模範議会』を設立して議会制の基礎を作り上げたり!
一方で優れた軍事的才能を発揮してウェールズ・スコットランドの再征服にも成功!
一部のフランス内の領土を失うものの、代わりにフランス王家との外交関係の安定化に成功!
強力な王権を中心に法制度を確立させる一方で、王家のフランス風の伝統を一掃して、宮廷の公用語も英語に統一します!」

あずさ「ということは、それまではイギリスの王様や貴族の人たちは英語を喋っていなかったのかしら・・・?」
春香「もともと11世紀にフランス北部ノルマンディー地方の大貴族だったヴァイキングの末裔ウィリアム1世が、
イングランドを征服したのが統一イングランド王国の始まりですからねぇ・・・
普通に王様も、ノルマン人大貴族たちも、地元の英語じゃなくてオイル語(※北部フランスの古語)で会話してたみたい
で、初めて英語で話す習慣を上流階級に根付かせたのがこのエドワード1世みたいですね」

あずさ「言葉通じないってすごく支配する側も支配される側も不便なんじゃないの?」
小鳥「自分たちはイングランドの田舎者じゃない、お洒落なフランス貴族様なんだ!ってことじゃないかしら?」
春香「まぁ実際に荘園管理するのは小貴族や役人で、王様や大貴族は庶民に接する必要性も少なかったですしね
でも、商業の発展による都市市民の台頭や貴族との融和、そしてなによりもイングランドに根付く王家って意味から、
貴族・聖職者・特権市民の参加する議会ではもちろん、基本的にエドワード1世は英語を喋っていたみたいです」

千早「・・・で、エドワード1世の夫婦仲とか家庭とかはどうだったのかしら・・・?」
春香「最初のエリナー王妃は政略結婚だったんだけど、実は相思相愛っぷりを見せつけるエピソードのオンパレードでね、
36年の結婚生活で16人以上もの子宝にも恵まれ(※ただし多くは幼少期に死亡)た家族円満っぷりだったみたいだよ」

小鳥「何その完璧超人っぷり!?ホントにジョンやヘンリー3世の子孫なの!?・・・リア充死ねばいいのに!」
春香「もうとっくに死んでますって
リチャードの軍事的才能、ヘンリー2世の外交能力、ヘンリー3世の長寿、そしてジョン王の不屈の精神の超ハイブリット!
でもそんな完璧超人エドワード1世の唯一の失敗こそが、まさに後継者エドワード2世の育成失敗だった訳で・・・」

(※あんまりジョンにもヘンリーにも似てない名君エドワード1世のご尊顔→
http://skepticism-images.s3-website-us-east-1.amazonaws.com/images/jreviews/edward_longshanks.jpg


232 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:15:26
<王の帰還・蘇るジョン王の血統 エドワード2世の登場 1284〜1307>

春香「はい、という訳でいよいよ真打の登場です!
偉大な父と聡明な母の間には16人の子供が生まれましたが、うち男児は5人、
しかし末っ子のエドワード以外の兄たちは10歳になるかならずでみな他界。
結果として王太子となったエドワード(愚)は、征服間もないウェールズ支配の本拠地、カーナヴォン城で生まれ育ちました
・・・で、そのカーナヴォン城がコレ!」
(※→http://tom.drahl.com/images/caernarfon-castle-banner.jpg
http://www.campsites.co.uk/getupload/post/10410/7f181da0-d49b-4818-aa6b-c0872a1fe009/1200/627/either/castles-in-wales.jpg

あずさ「あら?このお城、どこかで・・・」
千早「見覚え・・・あるんですか?そういえば私も・・・」
小鳥「・・・私はムスカ大佐だ、ロボットにより通信回路が破壊された、緊急事態につき私が臨時に指揮をとる!
ロボットは北の塔の少女を狙っている、姿を現した瞬間を仕留めろ、砲弾から信管を抜け、少女を傷付けるな!!」

春香「その通り!『40秒で支度しな!!』でおなじみ、『天空の城ラピュタ』でシータが捕らえられていた軍の要塞のモデルになったお城です
実は他のラピュタ関係の聖地もウェールズには多いみたいですね、さすがウェールズ!」

千早「なるほどね、映画でもすごく威圧感を感じたけれど、確かにすごく立派なお城ね」
春香「何しろ千年近くアングロサクソン人と戦い続けてきたブリテン人の最後の砦・グウィネズ王国と、
ジョン王のゴタゴタに乗じてそのグウィネズ王が打ち立てた統一ウェールズ公国の本拠地だった土地だからねぇ・・・
手ごわいウェールズ人を支配する要としてエドワード1世自らの指揮で築城している最中にエドワード2世が生まれて、
そのままウェールズ支配を磐石にするために肉親である王子をプリンス・オブ・ウェールズ、
つまり『ウェールズ国の公(プリンス)』として据え置くことにしたんだよね」

小鳥「あれ?プリンス・オブ・ウェールズって言ったら今のイギリス皇太子のことじゃなかったっけ?」
春香「そうですよ〜、英国皇太子=プリンス・オブ・ウェールズの公式が出来上がった初代がこのエドワード2世さんです♪」


233 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:15:57
あずさ「でも、大事なお役目とはいえ、幼い子一人が両親から離れてこのお城に残されていたってことになるのかしら?」
春香「そういうことになりますね、何せ最重要拠点だからこそ肉親を置いておく必要があったわけですから・・・
あ!でもそこは名君にして家族想いのエドワード1世!そんな幼い息子の為に、同い歳の遊び相手を付けてあげたんです
エドワード王子10歳の年、ピアズ・ガヴェストンとの破滅的な運命の出会いでした・・・」

(1294年 カーナヴォン城)
エドワード1世「(孤独の涙で)「濡らしちゃってぇ・・・いつもこうだよ
今ここにお前の遊び相手を連れてきてやったから、幼友達は大切に扱わないとなぁ」
エドワード王子「ッ!?(こ、この子・・・)ま、まずウチさぁ、ロボットいるんだけど・・・(城を)焼いてかなぁ?」
ガヴェストン「はえ〜、ああいいっすねえ〜」

小鳥「ちょ、ちょちょっと!その配役はどうなの!?汚すぎる、訴訟!
せめてほら、王子様といえばピエールきゅんとか!クールな神楽麗きゅんとか!年齢的にもふもふえんの三人とか!」
春香「え〜、だってこの後の展開が801なのは小鳥さん的にはむしろご馳走かもですけど、最終的に血みどろな結末ですよぉ〜?」
千早「(その二人なら血みどろの展開でも良いという判断基準もどうかと思うけれど・・・)」

(※後世に描かれた運命の二人→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c6/Edward_II_%26_Gaveston_by_Marcus_Stone.jpg

春香「こうしてエドワード王子の寝所付き侍従(意味深)として側に侍るようになったガヴェストンだけど、
年代記によると『自分の務めにおける気持ちのいい働きによって』瞬く間に寵愛を独占、
『特別な友人』であり『兄弟そのもの』であり『揺るぎない愛』を与えられる存在となっていったみたいだね」
小鳥「兄弟も同然に育った幼馴染だったはずの二人の間に、いつの間にか芽生える禁断の感情・・・むしろ自然な流れね!(断言)」

千早「えぇ・・・(困惑)」
あずさ「え、ええと、でもとっても仲の良い親友が出来て、王子も健やかに成長して王様も一安心、なんじゃないかしら?」
春香「うーん、どうなんですかねぇ、むしろ悪影響を与える存在として王様は二人を会わせたのを後悔してたみたいですよ?」


234 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:16:25
(1307年 スコットランドで大反乱・討伐軍の陣中)
エドワード王子「ぬああああああん疲れたもおおおおおおおん!やめたくなりますよ〜戦争ぅー!」
エドワード1世「やっぱり壊れてるじゃないか(憤怒)使い物にならないじゃないか(憤怒)」
エドワード王子「父上、ほら戦のためにシルクの綺麗な衣装、いっぱい持参してきたんすよ!
ガヴェストンお勧めのこのレシート柄の陣羽織とか、ほら見とけよ見とけよ〜」

エドワード1世「この馬鹿息子め、聞けば毎日ガヴェストンとくだらぬ乱痴気騒ぎばかりで武芸にも学問にも目を向けない
いざ戦と従軍を命じれば女物のドレスのような華美な衣装ばかり大量に持参してくる・・・
ワシはもう長くない、おそらくこの陣中で死に、反乱は放置して軍も撤退、お前がすぐに即位することになるだろう・・・
だからこれは遺言だ、ガヴェストンは永久に追放し今後一生、お前との接触を禁じる!」
エドワード王子「ファッ!?」

春香「とまあ、名君エドワード1世は死に際にガヴェストンとの別離と心を入れ替えることを厳命し、陣没します」
千早「すでに結果は見えてるような気がするけど・・・」


235 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:17:01
<伝説の王の即位とガヴェストンの死 1307〜1312年>

エドワード2世「フゥー↑↑王様になるの気持ちいい!遠野、気持ちいいか?気持ちいいだろ?」
ガヴェストン「でも、早速お父上の遺命を無視しちゃって大丈夫っすかね・・・?」
エドワード2世「まあ多少はね・・・それよりもお前をこの国最高の大貴族コーンウォール伯に任命するから!
これからも俺に変わらぬ忠誠を捧げてくれよな〜頼むよ〜」
ガヴェストン「いいんですかね、僕、領土も家柄も無い貧乏貴族の息子ですよ?」
エドワード2世「・・・違う。お前は俺の兄弟、この国の第二の王なんだ!だから一緒に面白おかしくこの国で暮らそうぜ!」
ガヴェストン「・・・はいっ!!」

春香「とまあ、これでエドワード2世が名君でガヴェストンが有能な人物だったら良かったんだけどねぇ・・・
実際には王と二人で名門貴族たちを公然と笑いものにしてふざけ散らす、自分たちにオベッカを使う者ばかり重用する、
挙句には折角エドワード1世が計画していたフランス王の王女イザベラとの結婚式でもイザベラやフランス王の重臣たちをからかい馬鹿にする・・・」

千早「え、何がしたかったの、その二人・・・」
小鳥「・・・いや、これはアレね!中二病と同性愛をこじらせちゃった結果ね!戦前の女学生の百合心中みたいな感じの!
もう世界は自分たちだけなんだ、誰も分かってくれないんだって!わかる、わかるピヨ!」
あずさ「すいません、その例えも分かりにくいんですけれど・・・」

春香「いや、ホントにこの二人の厭世観みたいなのは何だったんですかね
ま、原因はともかく、スコットランドの反乱は拡大する一方なのに野放し、だけど王とガヴェストンは貴族たちをからかって遊んでばかり・・・
当然ですがエドワード1世に懐柔され抑圧されていた大貴族たちが全面蜂起します」
千早「むしろそうじゃなかったらおかしいレベルね・・・」

春香「んで、一旦はガヴェストンを左遷するってことで話がついたんですけど、
すぐに王は、父王がせっかく制限するのに成功していた貴族たちの特権回復を条件にガヴェストンの復帰を実現
また性懲りもなくガヴェストンを姪と結婚させて王族に成り上がらせる挙に出たことで再び、ランカスター伯を中心とする貴族が決起、
王とガヴェストンは逃避行の末にイングランド北部のスカーボロー城に追い詰められます」


236 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:17:27
(1312年 スカーボロー城)
ランカスター伯「私は手荒なことはしたくないが、あの青年の命は君が握っているんだよ、
君が降伏してくれるのならあの青年を自由の身にしてやれるんだ」
エドワード2世「本当だな?本当にガヴェストンの命は助けてくれるんだな!?」
ランカスター伯「君の気持ちはわかるがどうか手を引いてほしい」
ガヴェストン「ごめんなさい、いろいろ迷惑かけてありがとう。エドワードのこと忘れない、さようなら!」
エドワード2世「ガヴェストン!待って、ガヴェストン!」
ランカスター伯「君も男なら聞きわけたまえ」

春香「という訳で王は降伏、ガヴェストンは逮捕され連行される途中でランカスター伯にあっさり暗殺されちゃいます」
小鳥「ないわぁ・・・ミウキムよりもヤジュトオ派の私でもこのラピュタ再現は無いわぁ・・・」
(※ガヴェストン斬首の図→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0f/Inspection_of_Gaveston's_head_by_the_earls_of_Lancaster,_Hereford,_and_Arundel.jpg

あずさ「でも、こんな約束違反でガヴェストンさんが殺されちゃったら王様怒るんじゃないかしら?」
春香「うん、エドワード2世も激怒して再び内乱になりかけるんだけれど、すぐにそれどころじゃなくなっちゃうんですよ
ガヴェストン絡みのゴタゴタで5年間も放置してたスコットランドの反乱軍が、
ついにイギリス軍の本拠地スターリング城を完全包囲する事態に陥っちゃうの」


237 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:18:04
<バノックバーンの大敗と貴族の内乱 1314〜1322年>

春香「エドワード1世がスコットランド王家の継承権争いに介入して征服に成功した1297年にも、
貧しい騎士ウィリアム・ウォリスを指導者とする庶民の反乱軍にイングランドは悩まされたことがあるんだ
有名な映画『ブレイブハート』の元ネタとしても有名で、この映画の影響でスコットランド独立運動が急激に発展したとも言われてる」

小鳥「あ、この映画も知ってる!メル・ギブソンの演説がかっこいいのよねぇ!
あと、貧弱な装備のスコットランド反乱軍が重武装の騎士団を壊滅させたり!
あとあと、ウォリスがフランスのお姫様と恋仲になって、その子が後にイギリス王になったり!」

春香「あ、その辺、かな〜〜り脚色入ってますからね、小鳥さん!
イングランド駐留軍を破った史実のスターリング・ブリッジの戦いでは、完全に反乱軍を舐めてた駐留軍が、
狭い橋を渡って対岸の反乱軍を攻めようとしたはいいが案の定、前衛部隊が袋叩きにあったってだけですし
翌年にはエドワード1世自ら率いる大軍にフォルカークの戦いで敗れて壊滅してますし
そもそも映画でロマンスに落ちた相手のお姫様っていうのがエドワード2世の妻のイザベラ王妃で、ウォレス亡命時には9歳ですし」

(※映画「ブレイブハート」のスターリングの戦いのシーン→
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16466642
史実のスターリングブリッジの戦いの戦況図→
http://2.bp.blogspot.com/-QgCSHOMIIHw/T3t-So9o93I/AAAAAAAAFhs/xCAJkTuxmew/s1600/Stirling.png

小鳥「9歳、9歳かぁう〜ん・・・でもロリレイプニキなら・・・(小声)」
春香「という訳でスコットランド全土を失いかねない危機にさすがのエドワード2世も自ら大軍を率いて出陣します
対するは元々ノルマン人貴族の出身でウォレスの反乱には参加せずに鎮圧軍支持に回ったものの、
エドワード1世の老いとその後のゴタゴタに勢いを得た乱世の梟雄ロバート・ドゥ・ブルース、後のロバート1世でした」

(1314年6月24日 スコットランド南部・スターリング南方のバノックバーン
戦況図・青がロバート軍、赤がエドワード軍、北にスターリング城→
http://www.military-history.org/wp-content/uploads/2011/01/Battle-of-Bannockburn-1314.jpg

エドワード2世「敵は川の向こうの森林と沼地に囲まれたギリーズの丘に布陣してるのか
なんか父ちゃんが『騎兵だけで河越えるな!ウェールズ人長弓兵をうまく使え!』とか言ってたけど、これもう分かんねぇな・・・」
イングラハム将軍「側面や背後に回り込もうにも森林や沼に囲まれてますし、
唯一開けた正面も柵やら落とし穴やらでがっちり固めてます、ここは敵をおびき出して戦うより他に方法が・・・」
エドワード2世「・・・手ぬるい!あんな小部隊、締め上げればすぐ崩壊するわい!
全騎士隊、全軍正面から突撃!」


238 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:18:36
春香「お父さんのエドワード1世はフォルカークの戦いではこんな風に→
http://a.files.bbci.co.uk/bam/live/content/zc8kq6f/large
左右からの騎兵攻撃で揺さぶりつつ、ウォレスが編み出した槍兵が円陣で槍衾を作って騎士に対抗するシルトロン隊形を恐れ、
ウェールズ長弓兵を前進させて徹底的に猛射を浴びせてウォレス軍の隊列を崩してから騎士隊突撃で壊滅させましたけど」

あずさ「まったくその教訓を活かさないでスターリング・ブリッジの戦いと同じ間違いを繰り返したのねぇ〜」
春香「規模も損害も何倍ってレベルですけどね、当然、騎士隊は数々の罠に正面から飛び込み槍兵に袋叩きにされ壊滅
勢いを得たロバート軍の逆襲に長弓部隊も善戦するもののやっぱり敗走し、エドワードも命からがら逃げ延びました」

(※ちなみに先のエドワード1世の戦術とこの敗戦を教訓に編み出され、後の百年戦争で猛威を振るった英軍の必勝法が、
クレシーの戦いやポワティエの戦いを勝利に導く歩兵隊・長弓隊・騎士隊の連携戦術である
バノックバーンの戦いの図→
http://www.thesocietyofwilliamwallace.com/Gallery/Andy%20Hillhouse/33-work-in-progress---Battle-of-Bannockburn.jpg

(1315年 イングランド王宮)
エドワード2世「スコットランドの野蛮人に完敗して独立認めさせられるとか、ふぁ〜頭にきますよ!!」
エイマー・ド・ヴァランス伯「そういえば王、ランカスター伯の奴はガヴェストン殿の件で不貞腐れて出陣拒否してましたけど、
スコットランド軍と領土が接しているにも関わらず今だに攻撃一つ受けていない様子、これはもしかして・・・」
エドワード2世「・・・ロバートの奴とグルになってるって、はっきりわかんだね!
ガヴェストンを殺しやがったのもアイツだったしね、じゃけん逆臣は滅ぼしましょうねぇ、全軍召集!」

春香「という感じでスコットランドを失ったエドワード2世は、今度はガヴェストンの件で不仲だったランカスター伯ら反国王派との内戦に突入
結局、1322年にランカスター伯らが処刑されて終わるこの7年でさらに王国は荒廃
その一方で不毛な勝利を収めたエドワード王の横には、新たな愛人ヒュー・ディスペンサーJrと、その父親のヒュー1世の姿が・・・」
小鳥「やったぜ。(本日二度目)」


239 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:19:08
<イザベラ王妃の逆襲と愚王の最期、そして・・・ 1325〜1327年>

春香「と、ここで王妃イザベラが思わぬ逆襲に出ます
ウォレスの隠し子じゃね?疑惑の皇太子エドワードを筆頭に多くの子供に恵まれながらも、
夫とその二人の男の愛人に散々にいびられ続けてきた悲劇のヒロインは、
実家であるフランス王家を夫の代理で訪れたのを好機に、フランス王の前で公然と夫を糾弾します!」

千早「え?この王様、その、アレな人なのにお子さんいたの?」
春香「ガチホモのリチャード王と違って二男二女に恵まれてるね」
小鳥「・・・偽装婚カップルの闇は深いのよ、千早ちゃん・・・(したり顔)」
千早「は、はぁ・・・(なんか小鳥さんに言われるとちょっと納得いかない・・・)」

(イザベラの実兄フランス王シャルル4世の宮廷)
イザベラ「私が思うに結婚とは『男と女』がするものです!
しかし今、その男女の結婚の絆を『侵入者』が破壊しているのです!・・・でしょ、モーティマー卿?」
マーチ伯モーティマー「陛下のおっしゃる通りです、エドワード2世は今、
キリスト教の教えに背く同性愛(ソドミー)の罪を犯し、さらにはその愛人親子に不当に財産領土を分け与えているのです!」
イザベラ「お兄様、私めの屈辱を晴らし、キリストの敵を滅ぼし、我が子エドワードを即位させる助力を!」
シャルル4世「ううむ、相手がソドミーの背教者ならしょうがないなー、これ全力で応援するしかないわー(・・・ラッキー!!)」

あずさ「これはエドワードさんの気持ちもわからないでもないけれど、女としての王妃様の苦しみに同情しちゃうわね・・・」
春香「そうですねぇ、世間一般の評価もそうだったみたいで、翌1326年にフランス王の支援を受けたイザベラ軍がイングランドに上陸すると、
瞬く間に反国王・反ディスペンサー派の貴族が結集、ロンドン市民すら決起して国王とディスペンサー親子はあわてて逃走
ほとんど抵抗できずにすぐに逮捕され、親子は即座に残忍に処刑されます
で、肝心の国王エドワード2世なんですが・・・」

(1327年9月21日 バークレー城)

エドワード2世「また愛する人を殺されて悔しくて涙がで、出ますよ〜」
ランカスター伯ヘンリー「・・・君のアホづらには、心底うんざりさせられる」
エドワード2世「ファッ!?お、お前はランカスター伯・・・の息子!?」
ランカスター伯「陛下・・・いや、今のお前は廃位されたただの罪人だな
今やエドワード3世陛下が即位され、あのフランスの女狐イザベルとその愛人のマーチ伯が宮廷を牛耳っているが、まぁそれはいい」
エドワード2世「俺が廃位!?息子が王に!?・・・あれ、アイツ本当に俺の息子だっけ?」
ランカスター伯「という訳で邪魔者のお前の密殺を女狐に任されたのだよ、ただし外傷を残さない方法でね
あっはっは、素晴らしい!!最高のショーだとは思わんかね!?」
エドワード2世「ダメみたいですね(冷静)・・・ガヴェストン、やっとまた一緒になれるな・・・」

(※エドワード2世の死については諸説あるものの、同性愛者を侮蔑する意味と自然死を装うために、
肛門から焼けた太い火箸を刺し貫かれて殺害されたと言われている
愛に生きた愚王エドワード2世のご尊顔→
http://ciaolunigiana.com/wp-content/uploads/2014/02/EdwardII.jpg


240 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:19:37
千早「・・・なるほどね、寵臣をめぐる内乱と外征の失敗しか繰り返していない20年だから、『史上最低の国王』なのね」
春香「ね?かなり恵まれた状況からどうしようもないことばかり繰り返して自滅したこの人の方が、
どうしようもない状況から案の定追い詰められたジョン王よりも酷い王様でしょ?
これを期にコーエーさんサイドも、ネタ君主枠を『劉禅・大友義統・エドワード2世』トリオに変更すべきだと春香さんは思います!」

あずさ「(あ、劉禅は変わらないのね・・・)」
春香「と・こ・ろ・で!プレイしてる三國志12の話に戻るけど!当然、千早ちゃんがプレイしてるのは、えんjy」
千早「ああこれ、戦国武将が登場する隠しシナリオ『信長転生』だからね、伊達政宗で。片倉小十郎が家臣にいるしね」
春香「何で政宗なのじゃぁ〜!で、でも、百合棒であんなことしたりこんなことしたりしたあずささんは、もちろんえんじy」
あずさ「あ、あらあら、ごめんなさいね、武将エディタで近藤勇を作っちゃって・・・」
春香「オカシイのじゃぁ〜!同性愛・ダメ君主・この3人という流れからなぜ袁術を選択しないのじゃ!」

小鳥「戦国コレクションのアイマス声優率は異常よね・・・
あ!戯曲『エドワード2世』を原作にした1991年のデレク・ジャーマン監督『エドワード2世』は、
ゲイであるエドワードとガヴェストンに同情的な映画なので一見の価値があるピヨ!」
(※予告編→http://www.dailymotion.com/video/x2wbfkz


241 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:20:02
何かもう、今回も色々とすいませんでした・・・
諸般の事情により急遽、予定していた2週分のネタ、エジプト古王国の農民の食卓と、
大谷休伯の渡良瀬川治水工事の二本を没にした結果、大慌てで別のネタに差し替えて準備し直していたらこんなことに・・・
次は何とか一週間以内に仕上げたいです、本当に申し訳ないです・・・

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191
・「第十一話」>>209
・「第十二話」>>227


242 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:21:47
おつー、歴史スレ最近下火だから嬉しい


243 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:36:33

今回も大作やね
なんだこの無能は…たまげたなあ…


244 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:39:47
>>241
ジョン王に評価すべき点はあると思います?
それともあくまでジョンは無能な王とした上で、エドワード2世を選んだのか


245 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:51:06
また長いなww
用語集片手にじっくり読むことにしますわ


246 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:53:37
ジョンって失地王じゃなくて欠地王じゃなかった?
失地王でもいいとは聞いたけど


247 : 名無しさん :2015/09/17(木) 23:58:18
ジョンは2世以降無いのに、エドワードが3世以降もあったのはエドワード1世にあやかってですかね?


248 : 名無しさん :2015/09/18(金) 00:02:07
wikiだとエドワード2世の評価についてはあまり書かれてないんすね
ジョンはいろいろ言われてるけど・・・

そういう意味ではジョンの評価を見直して、新たにエドワード2世の評価について提議した今回の話は学術的に考えても重要っすね、やっぱ凄い(確信)


249 : 名無しさん :2015/09/18(金) 00:24:45
>>244
まあお世辞にも名君ではないとは思ってます、ジョン王
自業自得な部分も多いし
ただ、本人じゃどうしようもない部分も多かったり、アンジュー家が溜めてきたヘイトを一身に受ける役回りだったり、
必要以上に評価低くされて、けっこう同情の余地はあるんじゃないかと

フィリップ軍を撃退したり、マグナカルタでも王側に有利な条項盛り込ませたり、
イノケンティウス3世を利用したりとちょっと頑張ってる部分もあるので
まあ、元の期待値が低いからなのかもしれないですけど、少なくともヘンリー3世やエドワード2世より下の扱いは可哀想かなと


250 : 名無しさん :2015/09/18(金) 00:27:54
むしろジョン>リチャード獅子心王なんじゃないか


251 : 名無しさん :2015/09/18(金) 00:58:45
すいません、蛇足の蛇足ですが
エドワード2世をクーデターで打倒したイザベラと愛人マーチ伯の専横は、
後に成長したエドワード3世によって覆されイザベラは終生軟禁、マーチ伯は惨殺されます

そして満を持してフランスとの百年戦争へ
もしも3世の真の父親がエドワード2世でなく、若い頃からの王の側近でもあったマーチ伯だったら?
まあ可能性はかなり低いみたいっすけど、始皇帝みたいでドラマティックかなあと


252 : 名無しさん :2015/09/18(金) 21:26:01
無能君主の話ってだいぶメジャーな部類と思いきや
まだまだこんなコアな逸材がいたとは…

某wikiで知ったんですが
カラカラ帝も無能君主枠に入りますか?


253 : 名無しさん :2015/09/18(金) 21:54:39
無能君主でもエドワード2世は前王からの引き継ぎが万全だっただけにほんと聳え立つ糞

カラカラは万民法をどう評価するかじゃない


254 : 名無しさん :2015/09/18(金) 23:11:06
カラカラ帝は在位も短かったし、やったことは基本的に軍事独裁政権ならやりそうなことがメインだし…
暴君には違いないけど瞬間風速的だからなぁ

やっぱエドワード2世の方が在位長い上に戦下手で良いとこないし、無能君主としての格が上だと思う
まあどっちも糞なんだが


255 : 名無しさん :2015/09/18(金) 23:13:18
エドワード2世以上の無能はいませんね・・・間違いない


256 : 名無しさん :2015/09/19(土) 07:38:48
個人的にはアレクシオス3世を超える無能君主はいないと思う


257 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:18:39
【第十三話】春香「来年の大河ドラマは『真田丸』なんだよ、千早ちゃん!」

春香「いやぁ楽しみだなぁ!脚本が三谷幸喜だってさ!『新選組!』以来だよね!」
小鳥「賛否両論多いドラマだったけど、私はコメディー色多めの演出好きだったなぁ・・・」
千早「え、ええ・・・」

春香「しかも!真田お兄ちゃん(※嫡男の信之。初代松代藩主)がご存知!大泉洋で〜ございま〜す!」
小鳥「堺雅人がにょういずみの弟の真田信繁(幸村)って配役が面白いわよね!
ハイスペック鬼嫁こと小松姫の吉田羊や、その実父の本多忠勝の藤岡弘、との掛け合いも楽しみピヨ!
完全に真田お兄ちゃんがコメディー枠確定よね、いっそ秀忠役は藤村Dにお願いしたいくらいね!」
千早「そ、そうですね・・・」

春香「しっかし表裏比興の古狸の真田昌幸パパに草刈正雄ってのもいいですよね、小鳥さん!」
小鳥「ダンディーでチョイ(どころでなく)悪な素敵なおじさまの草刈昌幸!
もうド直球でストライク!私も恋の謀略に翻弄されてみたい・・・(届かぬ想い)」
千早「いや、二人とも、まだ今期終わっていないのに来年の大河で盛り上がるのもどうなんですか・・・?」
春香「・・・知らない、知らないなぁ・・・今年って大河ドラマやらない年だったんじゃないの・・・?(レイプ目)」
小鳥「婚期終わってない!?・・そう、諦めたらそこで婚期終了だから!」

(※NHKの公式→http://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/2550/222604.html

千早「・・・はぁ。まあ、なんでもいいですけど。
この公式発表見る感じだと、関ヶ原から大阪夏の陣までだけじゃなくて、武田家時代も描かれるのかしらね?」
春香「そうみたいだね、勝頼や北条氏政もキャスティングされてるし。これはお兄ちゃんの見せ場多そうだなぁ!」
小鳥「でも、『真田丸』って題名なくらいだから、メインは大阪冬の陣なんじゃないかしら、真田丸って大阪城の一角の砦のことなのよね?」

春香「そうですね、大阪城総構えの南側の出城で、今の清水谷高校のあたりにあったって言われてます、諸説ありますけど
・・・ええと、これ国土地理院の大阪城公園周辺の高低差示した地図なんですけど→http://www.gsi.go.jp/common/000037820.jpg
北は堂島川が、西は松屋町筋が、東は大阪環状線が、そして南は長堀通りが外堀で、
この『総構え』に隣接した出城だったとか、馬出(※城の出撃拠点となる曲輪=防御拠点のこと)だったとか」
千早「・・・えっ?この地図だと清水谷って大阪城公園よりも結構南にあるんだけど・・・?」


258 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:19:13
春香「えっへへ、実は今の大阪城公園なんて、最盛期の大阪城のほんの一部なんですよ?
まず、これが今の大阪城公園ね→
http://www.osakacastle.net/park/images/map.gif
この『内濠』に囲まれた部分が本丸、つまり城主である秀頼や淀殿が暮らす宮殿であり城の中核ね
そして『外濠』に囲まれている部分が二の丸、本丸の外郭にあたる防衛ラインだね
この本丸天守閣の、盛土された地表からの高さは何と39メートル!だいたいウルトラマンと同じくらいの当時では空前の巨大建造物だね!」
千早「び、微妙にわかりづらい例えね・・・」
春香「そして二の丸の堀の幅も80メートル、石垣の高さも30メートルと空前のスケールだったんだ、これが再現図ね→
http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/cmsfiles/contents/0000230/230745/toyotomi-osakajo.jpg

小鳥「今の再現された大阪城と全然違う・・・この大阪城ならゴジラにもゴモラにも勝てそう!」
千早「これだけでも十分すぎるくらい立派なお城に見えるけど、これよりもずっと広かったの?」
春香「うん、さっき見たとおりの全長約8キロにも及ぶ長大なラインに外堀・外郭の三の丸を築き、
この府庁・府警本部・NHK・大阪医療センター全部がすっぽり収まる広さのエリアに、
人口約30万と推定されてる城下町を丸々囲い込む、いわゆる『総構え』が存在したんだ」

千早「人口30万人って・・・それはもう、城というよりも城塞都市、って感じね」
春香「そうだね、田畑まで囲い込むヨーロッパや中国なんかの都市に近いかな?
とにかく膨大な人口と生産構造、それに膨大な物資の集積する商業機能まで有してる訳だからね、長期戦に圧倒的に有利なんだよ〜
で、そこに豊臣家直属の武士団に加えて毛利勝永・真田信繁・後藤又兵衛ら牢人衆や一攫千金狙う近隣諸国の出稼ぎ農民傭兵たち、合わせて約10万人
これに淀君中心に300人と称される側室たちと、それを支える数多くの女官・女中たち・・・
いったいどれだけの数の人間が大阪城にいて、どれだけのドラマがあったんだろうね」

小鳥「大阪城の大奥の世界ね!
貴公子(ただし力士体型)秀頼をめぐる美魔女の淀君と清純可憐な正室の千姫の対立・・・
千畳敷と言われた壮大華麗な奥御殿を舞台に繰り広げられる女たちの、美しくも激しい愛欲の闘争劇!
そして初々しい百合乙女たちの、戦の中で儚くも激しく燃え尽きる悲恋の物語・・・(ウットリ)
主を守ろうと凛々しく闘い、そして共に来世で結ばれることを誓って散りゆく姫と侍女のゆきまこ王道、
いやまつり姫と朋花ちゃんのまつとも百合姫カップリングに閣下化春香ちゃんを巻き込んだ恋と支配の三角関係も捨てがたい!」

千早「え、何それは、特に後半・・・(ドン引き)」
春香「滅び行く女の園って言うとなんか美しく聞こえるんだけどさ、実際はなかなか悲惨でシビアなんだよね・・・」
(※本丸御殿の平面図→
http://www.occpa.or.jp/OCCPA/event_news/2014_event_news/2014_event_news_img/2014_0307_09%20OS13-38_draw01.jpg


259 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:20:17
<1615年(慶長二十年)5月7日 大阪城奥御殿・千畳敷大広間>

春香「菜々さ〜ん!言われた通り御台所(※奥御殿入ってすぐの場所にあったと言われている)に行ってきました!
ええっと、二人前のそば焼き(※そば粉で作ったクレープのような大奥系女子人気のスイーツ)と、
それから大量の味噌玉(※味噌を焼いて玉にした非常食)とお餅、で良かったですよね?
よいしょ・・・っと!お餅はいつも通りお局様達にお運びするとして、味噌玉なんてどうするんですか?」
菜々「フフフ、まぁいいじゃないですか。それよりも御台所の様子はどうでしたか?」

春香「あ!御台所頭の大角与左衛門さまが珍しく完全武装でおいでになってて、何か妙に忙しそうになさってました!」
菜々「ふ〜む、やっぱり豊臣軍最後の決戦は敗北に終わりましたか、菜々、ちょっと期待してたんですけどね・・・
しょうがない、落城と決まった以上はキビキビと行動しなきゃ、ですね!」
春香「えっ・・・ええええっ!?な、なななんでもう落城するんですか!?ていうか、なんでそんなことわかるんですか!?」

菜々「まぁ、何度も落城を経験してきた菜々の勘でもあるんですけどね
いつの間にか身長168cm&197cmの淀殿・秀頼公の巨人親子の姿も見えなくなってるし、ついでに浪人大将の長宗我部盛親くんも
で、たぶん大角くんはお味方敗北の知らせを聞いて、火の手の上がりやすい御台所から、城内に放火して徳川幕府に寝返るつもりなんじゃないかなぁ」
春香「で、でもでも!たとえ野外決戦でお味方が壊滅したとしても!
この太閤殿下の巨大な本丸と『無傷で』撤退してきた数千の旗本部隊の働きがあれば数週間は戦えるんじゃ・・・!?」


260 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:20:44
菜々「ん〜じゃあ、これからのキツい逃避行に備えてそば焼き食べながら、ちょっとそのへん説明しちゃいますか〜☆
まず昨年冬の徳川幕府と豊臣家の手切れからの攻防戦は覚えてますよね?」
春香「ええっと、初戦で東側の佐竹・上杉軍と後藤様の浪人衆と木村重成様の譜代衆が戦い(※11月26日の今福・鴫野の戦い)、
その直後の博労淵・野田福島の戦い(11月29日)に敗れて、北と西の拠点を全て失って、結局こんな感じに総構えに追い込まれたんでしたっけ→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/62/Osaka_no_eki_winter.png

菜々「そう、その後12月に入って家康が茶臼山に着陣して、本格的な攻城戦が始まって・・・」
春香「結局、大軍の展開しやすい開けた地形の南側が主戦場になったんですよね、特に真田丸!
巧みに誘導された前田利常隊をはじめ秀忠配下の諸隊が雪崩を打って殺到したけど、城側からの集中射撃で一方的な大殺戮になっちゃいましたね」
(※12月4日の真田丸を中心とした戦いで、防弾用の竹束も持たずに殺到した諸隊は約1万とも言われる膨大な戦死者を出した)

菜々「家康くん、前線を見回って『最近の若い奴らは竹束の使い方も鉄砲の射程距離も知らん!』って説教したみたいだね
それでその後の戦闘は、竹束や土嚢で仕寄り(※攻城用の塹壕のこと)作りながら城壁に接近しつつ、
100門を越える大筒や石火矢に西洋砲で猛砲撃を浴びせ続ける、まあ大陸では一般的な攻城戦に移行したんですよね」
(※いわゆる『大筒』→http://fr.academic.ru/pictures/frwiki/79/Oozutu.jpg
大砲ではなく個人が携行発射する、あくまでも大型の火縄銃
他にも堺の芝辻家に製造させた『芝辻砲』や数門のヨーロッパ製の艦載砲も使用された→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/77/Bronze_Demi_Cannon_Culverins_Pmoth.png

春香「あれ、怖すぎですよぉ〜!!
雷のような音と砲弾が天守閣に命中するたびの大振動!あれが連日連夜なんですもん!
ついには天守の一部が崩れて何人もの奥女中の先輩たちが、ううっ・・・
あれは御袋様(淀君のこと)が開城講和を決断なさっても仕方なかったと思った(※12月19日)」

菜々「甘いっ!三村かな子ちゃんのカロリーコントロールくらいの激甘ですっ!
大筒はもちろん西洋砲だって、威力は所詮、金属の玉を撃ち込んでくる貫通力と衝撃力だけ!
天守閣なんていう絶好の的にしかならないトコわざわざ宮殿にしてる方が戦舐めてるってだけなんですよ!
総構えの方ならばそう簡単に崩せませんし、崩れたとしても庶民動員して補強し直せばOK!むしろこっちも大筒での反撃もできますし!
ウィーンだって、マルタ島だって、それでオスマントルコの大軍の猛攻を跳ね返したんですから
天守閣なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ!」


261 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:21:28
春香「じゃ、じゃあ天守閣は無視して地上に宮殿を移して、あくまで籠城を続けていたら・・・」
菜々「そうっ!まさにあの段階から、長期戦に有利という総構えの真の威力が発揮されていたはずなのに!
淀君が最初に豪語したように10年とは行かなくても3年!いや、せめて1年粘ることさえ出来れば逆転の目だって!
財政難・内政不安の中を勝っても恩賞があるわけでもない大戦に駆り出されてきた不満だらけの大名たち!
冬の寒さと野戦陣地ゆえの衛生環境の急激な悪化と疫病の蔓延!
20万の軍勢を食べさせ続けるには限界のある前近代の補給システムと、周辺地域を食い潰しての深刻な食糧不足!
そこからの主力となっている略奪と金銭目当ての雑兵たちの急速な士気低下、脱走、暴動!
そして、そして何よりも、命をすり減らす戦地に立ち続けざるを得ない御年72歳の家康公の寿命!!(※大阪夏の陣の翌1616年に死去)」

春香「た、確かに、長期包囲に従軍させられ消耗し戦果もなく不満の溜まっている中で、
大御所家康公が戦没したら・・・そして残されたのは、関ヶ原に続き真田丸でも大チョンボした2代将軍秀忠・・・!」
菜々「それこそ本当に、豊臣側に寝返る大名が出てきてもおかしくなかったでしょうね
・・・まぁ、それがわかっていたからこそ、家康公は軍事的意義絶無な天守閣に砲撃を集中して淀君を動揺させる一方、
城内に残る織田有楽斎(※信長末弟で淀君側近)はじめとした内通している重臣を使って短期間で和議に持っていった
つまり鉄壁の大阪城は、軍事力ではなく謀略に敗れ、最後のチャンスを失ったんですよ・・・」

春香「じゃあ、その偽りの和議と謀略で、総構えも2の丸も埋め潰された今の大阪城には、最初から勝ち目が無かったってことですか・・・
(※大阪冬の陣5月7日の布陣図→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/95/Osaka_no_eki_summer.png)」

菜々「道明寺(藤井寺)と八尾で、それぞれ京都と奈良から分かれて進撃してくる幕府軍を合流前に撃破しようとして散った後藤さんも木村さんも、
城の南方の阿倍野で一心に家康の首を狙って突進した毛利さん真田さんも、
みんな万に一つの勝ちしか期待できないってわかってて寡兵で出撃して行ったんでしょうね・・・」
春香「それが武家の本懐、かぁ・・・でも、そこまで判ってたのに何で菜々さん、
このギリギリまで逃げないで城に残ってたんですか、冬の陣の後に出て行けばよかったじゃないですか?」

菜々「・・・寡兵をもって平然と死地に赴き、大軍相手に活路を開こうとするあの人たちの面影が、
それを見事成し遂げちゃった男の人、むかし菜々が好きだった人に、ちょっと似ていたんですよ、その人にはフラれちゃいましたけどね☆」
春香「昔に絶望的な大軍を平然と突破って、関ヶ原の『島津の退き口』の島津維新入道義弘さんですか?意外に老け専なんですね・・・」
菜々「牛若丸の頃は菜々の言うことを素直に聞いてくれる良い子だったんだけどなぁ
結局、傷心の菜々は大陸に渡ってモンゴル族を統一して世界征服に・・・」
春香「(『昔』のケタが一桁違ってた!あ、生き延びたら『成吉思汗ハ安倍菜々也』って本書こっと!)」


262 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:21:57
菜々「さてっ!ちょっと腹ごしらえついでのおしゃべりのつもりが長くなっちゃいましたね!
城落ちにはそろそろ良いタイミングだし、早速出発しますか!あ、春香ちゃん、餅と味噌玉を風呂敷で背負ってって下さいね☆」
春香「ちょっとは菜々さんも背負って下さいよ・・・って、菜々さんやたらと着込んで着膨れてますね
それも奥女中らしい艶やかな慶長小袖じゃなくて地味な帷子・小袖(※浴衣のような袖の短い単衣)ばっかり」
菜々「目立つ着物は略奪者の格好の標的ですからね!それに落人は野外生活も覚悟しないとだし、着込んでおいて損はないんだゾ?」
春香「落人慣れしてるアイドルっていうのもどうなのかなぁ・・・」

菜々「さてっ!とりあえずのルートですが、御台所を抜けて御殿の脇を抜けて北の山里丸、そして極楽橋を渡って城外の北側に出ます!」
春香「た、確かに南の大手門の方は何重にも関門や番所もありますしね
それで警備の手薄そうな山里丸(※茶室などもしつらえた秀吉自慢の庭園エリア)を抜けて、極楽橋渡って逃げるなら人目も・・・
で、でも、大丈夫なんですかね?仮にも裏手口ですし、警備の侍や敵の迂回部隊もいるかも!」

菜々「経験的に言って、こんな事態なんだもん、孤立した裏口警備の豊臣家の腑抜け侍や傭兵は真っ先に逃げてますって!
それに敵軍も元々手薄だろうし・・・まぁ、今日いっぱいはもっと美味しい獲物が南に転がってますし、大丈夫、かな?」
春香「獲物・・・あっ!総構えが無くなって無防備な大阪の町!」
菜々「恩賞が約束できない分、家康も諸大名も、『戦場である』大阪での乱取り(略奪)人取り(奴隷狩り)は黙認するでしょうねぇ・・・
近隣諸国から集まった雑兵たちのお目当ても元々それだろうし、何よりそれがこの国の合戦の習いだから・・・」

(※幕府軍の急激な進撃と豊臣軍の壊滅で避難する暇を持たなかった大阪町人たちはこの日、この世の地獄に遭遇することになった
死闘直後の興奮冷めやらぬ十数万の幕府方の侍・雑兵が日本最大の豊かな都に殺到、
略奪・強姦・戦果を多く見せかけるための虐殺・奴隷狩りに狂奔した
正確な死者の数、奴隷とされた者の数は不明。おそらく数万人に及ぶと推定されいる

大阪夏の陣に参加した大名・黒田長政が、後に描かせ現在大阪城天守閣に所蔵されている『大坂夏の陣図屏風』は、
その右隻には天王寺・阿倍野の死闘が描かれている一方で、対になる左隻には、
落城後のこの地獄絵図が克明に描かれており、『日本のゲルニカ』とも称されている
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f8/The_Siege_of_Osaka_Castle2.jpg
http://hypertree.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_067/hypertree/E5A4A7E59D82E5A48FE381AEE999A3E59BB3E5B18FE9A2A8E383BBE5B7A6E99ABBE383BBE983A8E58886E59BB3EFBC92-5dddc.jpg?c=a1


263 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:22:35
(御台所外・山里丸への通用路)

豊臣家旗本・武田栄翁「・・・待て、そこな女中二人!どこへ何をしに参られるや!?」
春香「や、ヤバッ!?」
菜々「・・・これは武田左衛門督さま。私どもは御袋様の側使いの奥女中でございまする
御袋様・上様が山里丸に御渡りになられたとてお側に参る途中でございまする」
武田「そうか御袋様の、な・・・まぁ、それが真か偽りかはもはやどうでも良いか・・・
それよりもこれよ、この太閤殿下の金瓢箪の御馬印(※武将の側に掲げられる名誉と威光を示す飾り)が打ち捨てられておるのが業腹でな
この様を徳川方に見られるのは豊臣家の御恥辱極まりないので打ち壊そうと思うてな、ご助力願いたい」
菜々「あい仕りました、ご助力いたしまする・・・」

武田「・・・かたじけない、これで豊家の御恥を後世に残さずに済んだわい・・・それでは二方とも健固で・・・!」
春香「あ、あの、武田さん、もし良かったら・・・」
菜々「いえ、それでは失礼つかまつりまする・・・行こ、春香ちゃん!」
春香「あ・・・、はい・・・」
(※竹田永翁とも。豊臣家家臣で、この日、百畳敷広間で一族自害したとされる)

(山里丸・庭園内)

春香「あのぅ菜々さん、さっき武田様に御袋様と上様が山里丸にいるって言ってましたけど・・・」
菜々「ああ、奥御殿にも天守閣にも見えないから多分そうじゃないかなぁとハッタリかましたんですけど当たっちゃってたみたいですね!」
春香「えええ、落城・滅亡っていうこの段でさらに逃げ隠れてるんですか、武家の棟梁なのに・・・」
(※山里丸隅の食料庫に逃げ込んだ淀君・秀頼は、翌日進駐した徳川軍に降伏を拒絶され、わずか28名の家臣と共に自害した)

篠宮可憐「あ、あの、お方さまぁ〜!?千姫さま〜!?ど、どうしよう、どちらに行かれてしまわれたんだろう・・・グスン」
春香「ん?どうしたの?こんなところで・・・あれ?
ひょっとして千姫(※家康の孫娘で秀頼正室)お付きの侍女さんじゃなかったっけ?」
可憐「あ、あうあうあう、春香さぁ〜ん!良かったです春香さんに会えて!
わ、私、気づいたらみんなに置いてきぼりにされてて、それですごく不安で!」

菜々「えーっと、可憐ちゃんでしたっけ?
・・・たしか山城宮内少輔忠久さまのご息女で千姫様のお付き侍女の?」
可憐「は、は、はい!山城宮内の娘です・・・あ!あの、その、これは自慢とかそういうのじゃなくて、ご、ごめんなさい!」
春香「大丈夫だよ、全部わかってるから、可憐ちゃん。
私たち、実はこれからお城を抜け出すつもりなんだ!良かったら可憐ちゃんも一緒に来ない?」
菜々「そうそう!いくら千姫様お付で幕府軍の軍監の息女だといっても、ここにいたら落城の混乱でどんな目にあうかわからないですよ?
良かったら菜々たちと一緒に行動しよ?(千姫側近で幕府大旗本の娘さんは切り札になりますね、ラッキー☆)」

可憐「ほ、本当にいいんですか!お、お願いしますっ!・・・あ、あのっ、手を握っていて貰っていいですか・・・?」
春香「うんっ!!一緒にがんばろ?」
可憐「はいっ!!(私、春香さんと一緒なら、頑張れる!)」


264 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:23:16
(大阪城本丸北端・極楽橋御門口
「歴史人」の本丸・二の丸再現動画、1分頃に見える黄金色の華美な橋が極楽橋→https://www.youtube.com/watch?v=TGOVpTdq_iU

菜々「あー、やっぱ警備兵の姿かたちも見えませんねぇ、とっとと逃げちゃったか」
春香「竹束や簡単な備えそのままで、敵も味方も全然見当たりませんねっ・・・うおっ!?」
DB「身ぐるみ置いていかなきゃ刺すぞゴラァ!(錆び刀ギラッ)」
可憐「は、春香さんっ!?」
TDN「自分、刺していいですか、槍?」

菜々「あー、そのボロい身なりからして、どさくさの乱取りに来た雑兵かな?
えーっとですねぇ、こちらの可憐ちゃん!
実は千姫様の侍女で、千姫様を護衛している豊臣家旗本の堀内氏久様から徳川方の大名の坂崎直盛様への使者なんですよ!
幕府軍監の山城宮内様のご息女で、千姫様を無事に大御所様の下に送り届けるための手はずを伝えるための!
・・・だから私たちに手を出しちゃうと坂崎さま激おこですよ、きっと!」
TDN「坂崎・・・直盛・・・あっ(察し)」

〜戦国最狂・坂崎直盛伝説〜

ある大名「あ〜、坂崎くんトコの鯉の料理美味しかったよ!この鯉の頭の汁も飲みたいんだけど?」
坂崎くん「ええで(ニッコリ)?じゃ俺、台所行って料理人に作らせて来たるわ〜」
ある大名「遅いな〜坂崎くん、どうしたんだ・・・ヒエッ、な、生首!」
坂崎くん「ごめんごめん、なんかウチの料理人が勝手に鯉の頭食べちまったらしくってさ
代わりにソイツの頭切り落としてきたから、それの汁を肴にでもしてよ!(マジキチスマイル)」

ある大名「坂崎くんさぁ、俺、すげぇムカつく家臣がいて手討ちにして殺したいんだけど、そいつメチャ強いんだよね・・・」
坂崎くん「簡単じゃん!そいつ俺んちに使者で送りなよ、俺がぶち殺してやるから
ていうか最近人殺してないからスッゲー殺したいんだよね!・・・あ?それも困る?じゃテメェ殺すぞ?」
ある大名「す、すいませんでした、早速そちらに向かわせますんでぶち殺してやってください・・・」

(※あの宇喜多直家の甥で、戦国屈指のアレすぎる人。宇喜多騒動はじめ、DQNな逸話も数知れず。
この後千姫を家康に送り届けるも、あっせんを頼まれた再婚先を千姫に断られた挙句、別の大名と結婚されたことに当然ブチギレ
たぶん腹いせのためだけに千姫強奪しようと、江戸市内で武装蜂起を計画するも辛うじて未遂に終わり自害する)


265 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:24:08
DB「ヤベエよ・・・ヤベェよ・・・」
TDN「センセンシャル!無礼をお許し下さい、オナシャス!」
菜々「じゃあ早速、近くの徳川方の部隊の家名と場所を教えてくれるかな?」
TDN「えっと、京極高知様の部隊が一番近くまで来てますね・・・
それで守口村で、大阪城から落ち延びられた京極様の義姉の常高院さまを保護なさってます
(※浅井三姉妹の一人・初。淀君の妹でシエの姉。豊臣・家康の和平の使者として大阪城にいた)」
菜々「じゃ、その常高院様のところまで護衛お願いしますね、礼金もはずみますよ♪」

(守口村)

春香「ど、どうにか安全圏までたどり着けましたね、死ぬかと思ったぁ!
道中、すでに避難民が溢れかえってましたね、それを襲撃する雑兵・賊徒も・・・
あちこちに、身ぐるみ剥がされた死体や、連行される奴隷にされた人たちの列・・・
正直、菜々さんが舌先三寸で丸め込んだ雑兵トリオの護衛がなかったらと思うとって、
菜々さん、あいつらに礼金として竹流し(金の延べ棒)渡してましたよね、あんな財宝どうして持ってたんですか!?」
菜々「そりゃ当然、天下に名高い豊臣家の金蔵から退職金がわりに頂戴したに決まってるじゃないですか、エヘッ☆
これだけ重ね着した帷子に何本も縫い込んで隠し持ってますからね、重くて大変なんだゾ?」
春香「ナチュラルに横領じゃないですか!文字通り火事場泥棒やる人、初めて見た・・・」
可憐「あ、あれ?トリオって三人組ですよね?3人・・・あれっ?二人までは顔が思い出せるのに、あ、あれれ?」


266 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:24:38
春香「でも、この守口村はどうやら常高院さま中心に大阪方の女官・侍女たちの避難所みたいになってますね
周囲をそれとなく京極軍が警備してくれているみたいですし、炊き出しの食料まで差し入れしてくれるし
ここなら、しばらく情勢が落ち着くまで安全に過ごせそうでよかったですね、菜々さん!」
菜々「丹後宮津の京極家が大阪の北に布陣するのは進路的には自然なんですけど、
秀忠くんの義姉でもある常高院さまや、娘の千姫様周りの人々を収容保護するために、
豊臣家と縁戚・血縁の近い京極家をわざわざ配置したって気もしますねぇ、なにせ古狸の家康くんですし」

春香「収容・・・そっか、私たちみたいな淀殿に使えてた侍女・女中は普通に『敵方の捕虜』ですもんね・・・
でも可憐ちゃんならお父さんが軍監として大阪まで従軍してきてるみたいだし、そっちの方が安全かも・・・?」
可憐「えっ、わ、私、春香さんと離れたくないですっ!で、で、でもっ、お父さんにも会いたい・・・お父さん、グスッ」

菜々「・・・いや、今の大阪の陣に行くのは菜々的にはオススメできないかなぁ
乱取り・人取り騒ぎがそれほど収まっていない大阪に、女衆だけで行くなんて鴨がネギと鍋背負ってくようなもんですよっ!
うーん、それよりも京都に行ってみませんか?菜々も最初からそのつもりでしたし、誰か頼れそうな人がいませんかぁ?」
可憐「頼れそうな親戚・・・・・・あっ!い、いますっ!先の冬の陣のあとに大阪城から出奔された織田有楽斎さま!
あの方、私の大伯父さまですっ!あ、あとあと、そのご嫡男の織田左門さまも伯父さんですっ!」
春香「おー!信長公の弟君にして世渡りの天才・有楽斎とはまた大物じゃん!それなら・・・」
菜々「ははーん、有楽ですか。いいですね、実は菜々も有楽くんを訪ねるつもりだったんですよ、うふっ♪」


267 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:25:05
(京都 織田有楽斎長益の屋敷)

門番「ええい、しつこい!大殿は大阪方の落人に親類などおらぬと仰せじゃ!早々に立ち去れ!」
春香「そんなことないですよっ!可憐ちゃんはれっきとした織田家の姪御さんじゃないですか、お父さんだって!」
菜々「(有楽くん、相変わらず小心というか。用心深いですねぇ・・・まぁ、だから生き延びてこれたんだろうけど)
あの、門番のお侍様?ちょっとだけ大殿におことづけできますか?
えっと、『二条城で着物をお貸し、大阪では織部くんの手紙を仲介してた菜々が、親戚の娘さんをお届けにまいりました♪』って!」

織田家老臣「・・・先程は当家門番が大変失礼仕りました!
大殿は、その者は当家の縁者に間違いなし、丁重に扱い責任もって親元に送り届ける、と
そ、それと、そのぅ、これは些少では御座いますが礼金としてお持ち帰りくだされませ。その代わり古田殿との件は・・・」
菜々「古田さま?誰ですか、それ?菜々、ちーっとも知らないですよ、そんな人、キャハッ☆」
春香「(な、何だかわからないけれど大人ってコワい・・・)」

可憐「本当にお二人ともありがとうございました!!なんてお礼を言ったらいいのか・・・
あの、その、もしお二人とも宜しければ、ウチの実家の山城家にいらっしゃいませんか!?」
春香「うーん、自分で言うのもアレなんだけどさ、私たちみたいな淀殿のつながりある人間とは距離とったほうがいいよ、可憐ちゃん」
可憐「そ、そんな、春香さん・・・!」
春香「えっへへ、私も寂しいけどさ、大丈夫!
私は元々浅井家の縁があるっていうコネで就職してた立場だしさ、
今度はこの京都にお住まいの松の丸殿(※浅井家の縁戚・京極高知の妹で、元秀吉の側室)のトコに同じコネで再就職してみるよ!
そういえば大金横領犯の上に大名恐喝犯の菜々さんはどうします?そのお金で商売でもやります?」
菜々「菜々ですかぁ?いや、もうこの国も、近々海外への渡航禁止になりそうですし、今のうちにまた大陸にでも渡りますよ!」

(※秀吉家臣→家康旗本時代と作事・普請=土木工事のプロとして技術畑一筋に生きてきた山城忠久だが、
日光東照宮建立を担当していた際に同僚で徳川家譜代の本多正盛と口論の末に刀で殴られる屈辱を受け、
友人の福島正則の余計なアドバイスの結果、本多を名指しして切腹、いわゆる『さし腹』という喧嘩両成敗の論理で、本多も切腹に追い込まれた)


268 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:25:28
<約百年後・・・江戸時代・備前岡山藩>

藩医・田中意徳「そんでウチの死んだ婆ちゃん、名前がはる・・・いやおきくだったかな?
もともと浅井家の侍の家系でさぁ、淀君に仕えてたわけよ、それで落城の日にさぁ・・・」
歴オタの岡山藩士「・・・へぇ、金の馬印を女子の手で!(嘘乙、津川左近がちゃんと隠してから自害したって記録あるから)」
田中意徳「で、勇敢に大阪城から脱出したあとに松の丸さまに使えていた時にウチの爺ちゃんと結婚したわけよ
あと菜々さんはあのあと大陸に渡り、ヌルハチと名乗って女真族を率いて中華帝国の征服に乗り出したらしいね」
歴オタの岡山藩士「はぇ〜すっごい・・・(嘘くせぇ部分も多いけど、貴重な証言でもあるし一応記録しておくか・・・)」

(※首をかしげる記述も多いが、大阪落城を一人の城勤めOLが目撃した臨場感のある体験談として、
江戸時代前期に書かれたのがこの『おきく物語』である。
体験者の孫からの又聞きであるためかツッコミどころだらけで、記録者自身にすら結論部分で散々ダメだしされているのもご愛嬌
国立公文書館の紹介ページ→
http://www.archives.go.jp/exhibition/digital/rekishitomonogatari/contents/37.html


269 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:25:58
春香「という訳で、当時の華やかそうな大阪城奥御殿に勤めてたOLさんたちも、実は結構大変だったんだよね
城内で殺されたり火事にまかれて死んだりした人も多かったみたいだし、もちろん人取りの被害にあった人たちだって・・・」
千早「運が良かったっていうのもあるけれど、おきくさんみたいに決断力あって機転の効く人だったから逃げて生き延びられたんでしょうね」
春香「そう、やっぱり自分の頭で考えて行動できるっていうのが人間、一番の強みだよね
逃げ足の速さも立派な才能だよ!死者に歴史は作れない、生きてこそ歴史を作れるんだもん!」

律子「音無さん!?小鳥さん!まーた仕事サボってどこいったんですか!?
『天下分け目の決戦!徳川旗本まつりVS天空騎士団VS精鋭愚民軍』イベントの企画書、まだ全然仕上がってないじゃないですか、小鳥さ〜ん!!」
春香「・・・あれ?さっきまでここにいた小鳥さん、どこいったの?」
千早「逃げ足の速さ『だけ』、現代のOLは忠実に受け継いでるみたいね・・・」


270 : 名無しさん :2015/09/25(金) 21:26:21
三大城郭兄貴にインスパイア受けて、今回は「おきく物語」をベースに大阪落城と、生き延びた女たちの物語を
「おきく物語」は、関ヶ原合戦時の大津城落城を体験した女性の体験談「おあむ物語」とともに岩波文庫「雑兵物語」に載っています(ただし絶版)
ネット上で原文も読めるようで、文語体でもそれほど難しくないし興味ある人は是非、ご一読下さい

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191
・「第十一話」>>209
・「第十二話」>>227
・「第十三話」>>257


271 : 名無しさん :2015/09/25(金) 22:03:00
戦国〜江戸初期にはすでに天守閣は無用だったのか
むしろ天守全盛時代と思ってた


272 : 名無しさん :2015/09/25(金) 22:11:35
三大城郭兄貴のは単なる紹介で情報量はそれほどでもなかったもんな
こういう色んな方面から詳しく解説してくれるのはほんと嬉しい
乙ですー


273 : 名無しさん :2015/09/25(金) 22:12:29

小鳥さんが出る回ほんとすき


274 : 名無しさん :2015/09/26(土) 00:42:53
菜々さんとかいう歴史の水先案内人
いつの時代もいくさに負けた側は悲惨なのね…


275 : 名無しさん :2015/09/26(土) 17:08:00
>>271
その時期が全盛期なのは間違いないみたいっすね
もともと城主の威光を示す象徴としての意味と、高所の利を活かした軍事的意味(監視塔・司令塔・攻撃塔)の2つがあって、
大阪の陣で鉄製の大砲が登場した結果として後者の利点が激減

むしろ泰平の世となったことで、華美に壮大に美しい天守閣を競って作り、
大名(特に徳川御親藩)が勢威を示す前者の意味が大きくなったと
一方で実戦重視で天守閣をあえて作らない久保田城なんかもあったりして

ちなみに備前島から大阪城天守閣を砲撃してた数門の大砲も、
本文でも書いた通り威力はそこまで大したことなかった上に、
そもそもどれくらい命中してたかも不明
天守閣を宮殿にしてたのが悪いんであって、あのまま砲撃続いていても倒壊まではほど遠かったんじゃね?という説も

なにせカルバリン砲や大筒ばっかりなので


276 : 名無しさん :2015/09/26(土) 17:17:13
>>275
天守閣全盛ってほんと短期間やったんやね


277 : 名無しさん :2015/09/26(土) 18:02:32
城郭設計って鉄砲の伝来に合わせて対応していったように見えたけど、大砲までは追いつけなかったんすね
そこは日本の築城技術の限界か・・・


278 : 名無しさん :2015/09/26(土) 18:14:08
>>277
それこそ1453年のコンスタンティノープルの陥落以降、
大砲が本格的に運用されてたヨーロッパでは、それまでの高い城壁から、
より低く厚い城壁と死角の無い稜堡を多く作る五稜郭みたいな要塞へと変化していったもんなあ

ヨーロッパ人たちは極力日本に大砲が渡らないように努力してたし、
朝鮮の役で大砲駆使する明軍と戦ってた最中の秀吉がそこまで配慮出来なかったとしてもしゃーないけどね
大阪城は、本当に指導部さえマトモだったらなあ…


279 : 名無しさん :2015/09/26(土) 18:17:27
五稜郭が幕末って考えると技術の断絶は大きいな
それも鎖国の弊害か


280 : 名無しさん :2015/09/26(土) 19:12:52
鉄砲は鍛造技術だから日本は得意だったけど大砲は鋳造技術で高性能な炉のない日本には不利な技術だったみたいやね


281 : 名無しさん :2015/10/03(土) 20:57:44
【第十四話】春香「あずささんってゆとり世代なんだね、千早ちゃん」

千早「えっ!?いわゆる『ゆとり教育』※を受けた世代だし、そうなの、かな?
私はどっちなんだろう・・・」
春香「ええっと、広い意味では1987年4月2日〜2004年4月1日生まれの人たちのことらしいね、そう言う意味では私たちも『ゆとり世代』かな?
ただ、一部脱ゆとり教育を受けた世代を除く、1987年4月から1996年3月生まれの人たちのこと、
つまり現在19歳〜28歳あたりの人たちを指す場合も多いみたい、つまりあずささんはバッチリゆとり世代!
最近では『さとり世代』なんて言われたりしてるみたいだけど」

(※教育指導要綱の2002年度改訂、いわゆる「ゆとり改訂」から2011〜13年度の全面改訂までの期間の公共義務教育の俗称で、
その意味では1987〜2004年生まれが該当することになるが一部要綱改訂による脱ゆとり教育を受けた世代を除くと前述後者の年代になる
元文部省初等中等教育局審議官・奥田真丈が名付け親だとされている)

春香「かつて、ゆとりと言えば美希、美希と言えばゆとりだったのに、今では美希じゃなくてあずささんがゆとり世代の代名詞だという事実・・・
時間の流れって恐ろしいよね、千早ちゃん!」
千早「ごめん・・・言っている意味が良くわからない・・・(建前)」

春香「という訳でっ!晴れてゆとり世代じゃなくなった『ゆとりの代名詞』こと星井美希率いる『チーム脱ゆとり中学生3人組』と!
社会に出てなんか悟っちゃったゆとリーマン赤羽根の!ゆとり世代VS脱ゆとり世代の仁義なき学力バトル、題して『765教育委員会』!
春香さんが有名中学入試問題から厳選した国語・算術・理科・地理歴史の4教科からの出題を争います!」

千早「いや、春香が勝手に平成教育委員会ごっこするのは良いけど、参加者が・・・」
美希「勝ったチームは魚沼産コシヒカリ一ヶ月分ぞーてーなの!おにぎりのため頑張るの!!」
やよい「うっうー!高槻家のえんげるけーすーのために、この戦い負けられませんっ!」
伊織「賢くかわいい伊織ちゃんにかかればこんな勝負、やる前から結果が見えてるけど・・・まぁ、やよいがどうしてもって言うなら仕方ないわね!」

赤羽根P「元々、三人が出演した番組スポンサーさんからのプレゼントのお米だったんだけど、どうしてこうなった・・・
まぁ、三人とも勉強する機会が出来たことは良い事か。難しいって言っても所詮、中学入試だし適当に場を盛り上げて三人に花を持たせてやるかな?」
千早「・・・なるほど、要するに例によって春香が事態をややこしくしたってだけなのね、納得(頑張れ、高槻さんっ!!)」


282 : 名無しさん :2015/10/03(土) 20:58:14
春香「それでは第一問目は国語!まずは軽〜い肩慣らし、小学校で習った漢字の問題です!」

<国語・第一問 次の漢字によみがなをふって意味を答えなさい>
一.
(イ)偵察 (ロ)音物 (ハ)常盤木 (ニ)不規律 (ホ)勤倹貯蓄
二.
・婦人は庖厨を治むるを習ふべし。

赤羽根P「・・・・・・えっ?・・・えっ!?これが脱ゆとり世代の水準なのか!?」
千早「・・・いや、こんな漢字、今の小学校でも習ってないはずですし、そもそも中学入試じゃないでしょ春香!?」

春香「やだなぁ、ちゃんとした中学入試問題デスヨ?
・・・ただし明治37年・38年(1904・1905年)の問題ですけど。あと、厳密には旧制中学の女性版の高等女学校の問題ですけどね
でも!義務教育の尋常小学校4年、高等小学校2年の課程修了した、今と同じ当時の12歳が普通に解いてた問題です♪」

(※岡山県立津山・神奈川県立女学校の試験問題。明治32年の「高等女学校令」によって女子の中高等教育が始まった
その初期の明治36年、約1万人と言われる当時の女学生の自転車通学の図
https://rnavi.ndl.go.jp/kaleido/img/J148_01_02.jpg

伊織「(イ)は『ていさつ』(ニ)が『ふきりつ』なのは、まず間違いないとして・・・」
やよい「(ホ)は読めないけど、意味がビビビって来てわかるかも!
きっと『ぜいたくしないで真面目にコツコツはたらいてローゴにそなえましょー!』って意味だと思う!」

伊織「ま、まぁ、そういう意味よね、さすがやよいね!・・・ていうか、12歳に『きんけんちょちく』薦める中学入試ってどうなのよ
で、(ロ)は『おんぶつ』、(ハ)は『ときわぎ』かしら、意味は見当もつかないけど
・・・って美希、アンタ寝てるの?まぁ、起きてても役に立ちそうにないけど」
美希「・・・ふにゃ?美希、寝てないよ?ただ頭の中が真っ白でふわふわしていい気持ちだっただけだよ?
あと二番は『ふじんはほーちゅーをおさむるをならうべし』って読むって夢の中で知らないお爺ちゃんが言ってたの
女の人はほーちゅー、つまり社長を押さえとけばオッケーって意味だと美希思うな」

春香「これ芳忠じゃないから、大塚芳忠さんの操縦法なんて、さすがの明治人も教えてないから
庖丁(包丁)と厨房、つまり料理を女の子はしっかり学びなさいって意味だね、うーんさすが明治だ・・・
ちなみに音物は贈り物って意味の古語、常盤木は常緑樹って意味の古語だね」

赤羽根P「ハ、ハハハ、さすがみんなすごいなぁ、よく勉強してるじゃないか、ハハハ・・・」
春香「それでは赤羽根くんの答え!
・・・プロデューサーさん、『じょうばんもく』って何ですか、あと二番の庖オタクって答えも・・・」
伊織「・・・ゆとりね、厨って言葉がすぐにオタクに結びついちゃうあたり」
美希「ゆとりなの!」
赤羽根P「いやぁ参ったなぁハハハ・・・(美希にゆとりって言われると、物凄く釈然としないのは何故なんだろうなぁ・・・)」


283 : 名無しさん :2015/10/03(土) 20:58:50
○明治の美少女女学生その1 陸軍長老・長岡外史の娘、長岡磯子○
華族女学校卒業直後に実業家・朝吹常吉と結婚、日本女子プロテニスプレイヤーのパイオニアでもある
http://i.imgur.com/WeuS3NT.jpg
http://i.imgur.com/X9jk90v.jpg

千早「でもこの出題漢字って、普通に日常でもよく使ってた漢字なの?」
春香「いちおう尋常小学校と高等小学校の国語読本っていう公定教科書に載っている漢字が出題されてるんだけどね
明治33年に出た坪内逍遥編纂の教科書は特に評判が良かったみたいだけど、
普段使う漢字を覚えさせるというよりも、日本神話や歴史・地理や当時の大陸での戦争なんかを教えることメインだったみたい」

(※近代デジタルライブラリーで閲覧できる明治34年の高等小学校国語読本の漢字字引き集
神話や歴史用語・時事用語・人名だらけな上に、日清・日露戦争・義和団事件など軍の活躍の文が多く軍事用語もちらほら
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/813633

千早「なんというか、あまり普段使わなそうな漢字ばかりね
これ、時代が進んで改善されたりしたの?」
春香「うん、それなりに教育改革も進んでいったからね、例えばこれは昭和5年(1930)の問題なんだけど・・・」

○次ノ漢字ニ読仮名ヲツケナサイ(東京府立第二高等女学校)
・盆栽 ・警戒 ・開拓 ・排斥 ・没頭 ・体裁 ・娯楽 ・障子 ・指揮 ・画策 ・絶壁

千早「難易度が高い気もするけれど、随分マシというか良く使いそうな漢字が増えたわね」
春香「そうだね、絶壁とか!」
千早「ぜっぺ・・・そ、そうね、よく使うわね・・・くっ」


284 : 名無しさん :2015/10/03(土) 20:59:19
<国語・第二問 次の文中の誤れる文字を直せ>
(※明治45年・1912年、熊本旧制中学の問題)

(イ)成巧の基は奮励と弩力とに在り
(ロ)賓容の接侍特に丁寧なり
(ハ)政府貯畜を醤励す
(ニ)身体強建にして志操亦賢固なり

赤羽根P「いやこれ、そもそも旧字体なのか誤字なのかの区別すらつかないな・・・
え、ええと、でも(イ)はたぶん『成功』『努力』かな、在りが有りなのか不安だけど
(ロ)は『寛容』『接待』かな?・・・でも、それだと意味がわからないしなぁ、うーん」

伊織「馬鹿ね、そこは『賓客』よ、伊織ちゃんみたいな高貴なお客様は大事にもてなしなさいって意味」
やよい「政府も『貯蓄』を『奨励』してますっ!やっぱり貯金と倹約は大事なんですね!」
伊織「この子、そういう言葉だけ異常によく知ってるのね・・・さすがやよいね!
でも(ニ)は難問ね。一つは『強健』なのは間違いなさそうだけど、志操って言葉も賢固って言葉もありそうだし・・・」

赤羽根P「志操って言葉は俺も知らないけど、こういう時はより疑わしい方を選ぶのが可能性高そうだな・・・賢固は『堅固』で!」
春香「正解です!さすが知識偏重から応用力を伸ばす教育に特化したゆとり世代!」
美希「ゆとりの癖にオーヨーリョクとかナマイキなの!」
赤羽根P「せ、正解しても言われるんだ、ハハ・・・」

千早「この問題もやっぱり難易度高いというか、本当にこれで当時の12歳は理解できていたのかしら?」
春香「えっとね、まず明治の教育制度なんだけど、明治19年(1886年)の諸学校令で小中学校や大学なんかの制度が始まってね
尋常小学校(4年課程で卒業、ただし8年まで留年可)
→高等小学校(2年課程で中等教育への受験資格あり、ただし4年まで留年可)
この6年の小学校修了して初めて旧制中学・高等女学校・実業学校などなど多種多様な中等教育機関の受験資格得たから、最短で12歳だね」

千早「え、最短・・・ってことは、まさか中学校浪人なんていたの!?」
春香「うん。高等小学校に最長2年在籍しながら再受験狙うって人も多かったみたいだよ?
元祖乗り鉄おじさんこと文豪・内田百閒(百間)先生も高等3年で再受験成功組だってさ
それと逆に成績悪くて進級できないで尋常小学校に8年間通って14歳で卒業、なんて人も意外にいたんだってさ」
千早「・・・10歳と同じクラスで14歳が学んでるって、かなりシュールな状況ね・・・」


285 : 名無しさん :2015/10/03(土) 20:59:44
<国語・第三問 次の候文を女らしい言葉遣いの手紙に直してごらんなさい。>
(※出題文は原文ママ。昭和5年・1930年、東京府立第八高等女学校)

・何分田舎にて万事不便には候えども若し御光来相成候はば及ぶ限りの御便宜相計り申すべく候。

赤羽根P「・・・これ、日本語?」
美希「中国語なんじゃない?ほら、漢文とかいうヤツなの、美希授業中はいつも寝てるからよく知らないけど」

春香「いわゆる候文(そうろうぶん)って奴ですよ〜
中世から上流階級が手紙なんかで使ってた格式です。ていうか昭和の小学生にも教えてたんだねぇ・・・」
千早「しかも、女らしい言葉遣いに直してごらんなさいって。ごらんなさい、なんていかにもお嬢様学校っぽくて良いわね」

やよい「なんぷんいなかにてまんじふべんには・・・何とかえどもわかし・・・???」
伊織「これ、ほとんど古文じゃない!ホントにこんなの小学生が勉強してたの!?」
春香「と言っても、この時代の一種のビジネス用・儀礼用の文体として広く使われていたからね、文語体・・・」

赤羽根P「ビジネス・・・ビジネスか!社会に出てから随分と定型文の社交辞令には悩まされたからなぁ、あれと同じように考えれば・・・
えーと、わかる言葉だけ拾って考えれば・・・『田舎で不便だけれど来てくれればできる限りの便宜は払います』、かな?」
春香「おおお!?すごいですよ、プロデューサーさん!」
赤羽根P「ハハ、ありがとう。でも12歳の解答してた問題だし素直に喜べないなぁ」

美希「あ!?意味はわかっても女性らしい言葉遣いに直してないの!
『ちょー田舎でにょわーってなるかも!だけど、Pちゃん来てくれたらいっぱいハピハピするにぃ☆』・・・これで完璧なの!」
千早「え、っと、それ諸星きらりさんの・・・確かに女性らしい言葉遣い、ではあるけど・・・」
春香「(平然と他人の口調をパクりおるとは美希、恐ろしい娘・・・)」


286 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:00:14
○明治の美少女女学生その2 日本初の美人コンテスト・石川代表 林玉子○
明治41年3月5日に時事新報社が行った写真による日本初の美人コンテストの出場者のひとり
一部では「可愛すぎる明治時代の美少女」として有名。優勝を逃したが、平成人的には優勝だろの声も
http://i.imgur.com/e0UoQF7.jpg

<算術・第一問 明治時代の文章問題>
一.白米小売相場一円につき六升三合なる時は、一斗の値は幾らか?
(※明治38年・1905年、東京府立第三高等女学校)

伊織「升?合?えーと一斗って単位も聞いたことないん・・・」
美希「お米さんの単位なの!一升は18リットルで、一斗はその十倍、一石は十斗、一合は一升の十分の一なの!
こんなの常識なのに知らないなんてデコちゃんもたいしたことないんだね、ヘヘン♪」

伊織「ムッカつくわぁ〜美希の癖に!そんな常識ないでしょ、ねぇやよい?」
やよい「うっうー・・・ゴメンなさいだけど、伊織ちゃんこれは生活者のジョーシキかなって
聞いた瞬間に頭の中に、あっ、十升のお米が1.587円で買える!これで三食白いご飯が食べ放題ですって、すぐに答えがでちゃった・・・」
(※庶民の月収が平均10〜15円の時代である。住み込み下男・下女は2円以下であった)

赤羽根P「えっ・・・?そ、それは学校で習わなかったなぁ、やっぱりゆとり教育か・・・」
千早「たぶん違うと思います。美希の米に対する執念と、高槻さんの生活力が突き抜けてるだけです高槻さんと幸せな家庭築きたい」
赤羽根P「そ、そうだよな、良かった・・・(後半の発言は聞かなかったことにしよう、うん)」

二.ある小学校の授業料は一ヶ月につき尋常科20銭、高等科75銭なり。
尋常科生徒561人、高等科生徒395人なるときは、一年の授業料総計いくらなるか。

やよい「きゅ、給食費以外に授業料も払うんですか!?えぅ〜、今なら高槻家の家計も大ピンチでした・・・」
春香「明治33年の小学校法の大改正で、義務教育である尋常・高等小学校の授業料は原則無償になったんだけどね
それでも知事の認可で授業料徴収オッケーだったんで、かなりの学校では引き続き授業料取ってたみたい
国費による補助政策もあったけどそれでも資金に苦労してたみたいだね」

赤羽根P「ええと、20銭×561と75銭×395を足して12掛ければいい訳だから・・・」
伊織「490140銭。ええと一円=百銭だから・・・答えは4901円40銭ね、数学はさすがに時代違っても変化ないわね」


287 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:00:45
<算術・第二問 大正・昭和時代の文章問題>
一.大正5年(1916年)9月我が国にて募集したる露国大蔵省証券は一ヵ年の後に償還せらるるものにして、
割引歩合年6分(つまり償還される額面100円なら購入価格94円)として割引の方法によりて発行せられたり、この利回りは何程なるか。
(※大正6年、石川県女子師範学校本科第一部予備試験)

二.日露戦争は明治37年2月より始まり16ヶ月続いてその費用は19億8千2百2十万円なり。
しからばこの戦争中一時間平均いくらづつ費やしたことになるか、一ヶ月は30日とし千円未満は切り捨てで計算せよ。
(※昭和2年・1927年、長野県立松本中学校)

赤羽根P「これはまた、えらく具体的な事例からの出題だなぁ・・・」
春香「戦前の数学問題って、今みたいに花子さんがA駅からB小学校まで〜みたいな抽象的な出題じゃなくって、
実際にあった身近な近年の具体的な事例からの出題が多いんですよね、そこが面白いっていうか」

伊織「たしか1916年のロシアって、第一次世界大戦の泥沼にはまり込んでて・・・ああ、この次の年にロシア革命(※2月革命)が起きるのね
計算自体は簡単ね、0.06÷(1-0.06)で0.0638・・・リスク考えると全然お得感ない国債ね」
春香「本当は1年満期じゃなくて10年満期だったらしいんだけどね、ま、結果は一緒だけど♪」
赤羽根P「(割引債とか良くわからなかったことは恥ずかしいから黙っておこう・・・)」

千早「約20億円っていう額は当時としてはどれくらいの価値だったの?」
春香「日本政府の明治38年度の歳入が約3億円、足りない分の16億円以上は全部年利5分の公債発行で補ったみたいだね
ちなみに新兵さんの月給は1.2円、10キロのお米と同額だったんだって」
美希「つまり人間ジンセー50年とすると人間一人の価値が7トンくらいのお米に・・・!?」
(※国立公文書館アジア歴史資料センター「テーマで見る日露戦争」の資料参照
http://www.jacar.go.jp/nichiro/keyword00.htm

赤羽根P「・・・よしっ、できた!一時間あたり17万2千円だ!」
春香「正解です!今の感覚だと新卒社員の手取りかなって数字ですけど、当時としてはお米約1433トン分の大金ですからね」

千早「でもこれ、良い問題かもね。実際にどんなに戦争にお金がかかるものなのか、
実際の庶民の金銭感覚と比較させながら受験生に考えさせるキッカケになるんだから」
伊織「まぁ、今なら日本国債の一時間あたりの増加率求めさせたりとか、経済感覚養わせるキッカケになるかもね
・・・もっとも、12歳から現実の過酷さを思い知らされるっていうのもどうかとも思うけど」


288 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:01:53
○明治の美少女女学生その3 日本初の美人コンテスト優勝者 末広ヒロ子○
ただし義兄が勝手にエントリーしたため本人は知らず、優勝によって初めて知らされたようだ
だが当時16歳の彼女の通っていた学習院院長の乃木希典は激怒し彼女を退学処分とした
その後、ヒロ子は名将・野津道貫将軍の長男で軍人の鎮之助と結婚、侯爵夫人となる
http://i.imgur.com/uBJnZ3J.jpg

<理科 大正・昭和時代の理科の問題>
一. か(蚊)について答えなさい
(イ)人の血を吸うのは雄ですか雌ですか
(ロ)繁殖をふせぐためにはどうしたらいいでしょうか
(※大正14年、佐賀県立佐賀中学校)

二. 風は人間にどんな利益を与えますか、考えついたことをみなお書きなさい
(※昭和5年、東京女子高等師範学校付属高等女学校)

三. 着物についたアブラあかを取り除くにはどうしたらよいか
(※昭和7年、東京市立忍岡高等女学校)

千早「理科の問題・・・にしては何というか実践的な問題が多いのね、生活に役立つ家庭の知恵みたい」
春香「そうだね、『次の動物は何か人の役に立つか』とか『何を作るのに必要な材料は何か』みたいな具体的な利害で考える問題が多い気がするね
ちなみに、理科と地理・歴史が中学入試科目になったのは大正の半ば過ぎ頃からみたいだよ」


289 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:02:18
赤羽根P「血を吸うのは雌の蚊なんだよな、確か。でも、え?繁殖を防ぐって、それ理科の問題なのか!?」
伊織「そういえばどっかのチョビ髭独裁者が、司令部の近くの沼のボウフラ絶滅させるのに重油を流し込んだって聞いたことあるわね
そういう融通の利かないゴリ押しっぷりがいかにもだけど、ま、効果あるんじゃないの?」
やよい「夏場の蚊は高槻家の天敵です!水たまりを作らないこと、そして中性洗剤と塩素でテッテー的にやっつけます!」

春香「あー、流石にこの時代には中性洗剤はなかったみたいだけど、水たまりをつくらない、
水回り庭まわりをキレイにする、水面に石油を流し込む、が正解になってるね
石油はさすがに危ない気がするけど、ヒトラーおじさんの件でもあんまり効果無かったみたいだし」

赤羽根P「風が利益になる、か・・・とりあえず風力発電、かな?いや、時代的に風車とかの方がいいのか?」
やよい「タコがすっごく高くまで飛びます!長介のタコがすごかったです!」
美希「子供は風の子、元気な子なの!つまり、風は子供を元気にさせるんだって思うな!」

春香「えっと、いちおう正解は『物を乾かす、涼しい、植物の受粉の助けになる』ってなってますけど
自由な発想でいいんじゃないかな、うん。ただし美希、テメーはダメだ(ジョジョ立ち)」
千早「こういう理科の問題っていいわね・・・あれ、意外に戦前の理科教育って面白かったのかしら?」

赤羽根P「着物の油染み・・・ええと、なんだろう、お湯で優しく手もみ洗い・・・とか?(適当)」
伊織「ああ、アンタが高級着物に縁がないってのはよっくわかったわ
いい?着物の油染みは基本的にガーゼにベンジンを軽く染み込ませて叩いて汚れ落とすの
もみ洗いとかこするとか論外だから。私たちの衣装にも着物はあるんだから、芸能関係者としてそれくらい知っておきなさいよね!」

春香「正解は『揮発油で拭き取ればよろしいです』だってさ
ベンジンは揮発油の一種だし、伊織が正解ってことでいいのかな?」
千早「つくづく理科の問題っていうより生活の知恵ね、これ・・・」


290 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:03:06
○大正の美少女女学生 日本初のセーラー服を来た京都・平安高等女学校の女学生○

かつて某所でブルマとセーラー服の普及の歴史は書いたが、大正期に入って通学服としてのセーラー服が定着し始めた
当初は明治に華族女学校校長・下田歌子の考案した女袴と拮抗していたが、やがてセーラー服全盛の時代が到来する
http://i.imgur.com/OwRfDh8.jpg

<地理歴史 大正・昭和の社会科の問題>
一. 
(イ)世界第一の長流を問う
(ロ)世界第一の大都会を問う
(ハ)我が国の人口を問う
(※大正14年、東洋英和女学校 大正野球娘。のモデルとなった学校、かつ舞台となった年の問題である)

赤羽根P「(イ)がナイル川なのはこの時代でも変わらないとして、後の二つがなぁ・・・
うーん、ニューヨークかな?日本の人口って1億3千万人くらいだったから、この時代は半分の6千500万人くらいかな?」
春香「と、思うでしょ?
でもこの正解、(イ)もミシシッピー川になってるんですよね・・・おっかしいなぁ
(ロ)もロンドンになってるんですけど、まさにこの年に100年近い最大人工都市の座を僅差でニューヨークに譲り渡してるんですよね・・・
ちょっとこの年の東洋英和女学校の一年生の地理の知識が不安になりますね
ちなみに(ハ)は、日本の一部として併合された植民地の人口も含めて約7千万人だそうです」


291 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:03:37
二. 昔から今までの有名な婦人のうちで模範となると思う2人の名前を挙げ、その模範となる点を書きなさい
(※昭和5年、東京府立第四高等女学校)

伊織「いや、これ社会の問題なの?そもそも模範って何よ?」
美希「美希は日高舞と律子・・・さん!二人とも堂々としててカッコイイと美希、思うな!」
千早「そもそも正解なんてあるの、この問題?」
春香「頭痛いよね、この時代の社会科って皇国史観や道徳教育がかなりのウェイトを占めてるんだよ・・・
模範解答は『光明皇后・松下禅尼』らしいけど、ま、これは個人の自由だと思うもん、私も」

三. 赤穂浪士のやったことについて良い点と悪い点とを書きなさい
(※昭和7年、東京府立第三中学校)

伊織「良い点って、アイツら悪いことしかしてないんじゃないの?」
春香「まぁ、私もそんな気がするんだけど、一応忠義がどうのと書いて欲しいらしいよ?」

四. 我が国は何故、国際連盟を脱退しましたか
(※昭和9年、愛媛県立松山高等女学校)

春香「むしろこっちが聞きたいですよ!最近の研究だと松岡洋右全権代表もギリギリまで残留の意思が強かったみたいだし!」
千早「何で出題者の春香がキレるのよ・・・」

五. もし我が国が世界から経済封鎖を蒙るとしたら、私共は一番何に苦しむのでしょう。
そしてその苦しみをどうして切り抜ければ良いでしょう。
(※昭和8年、成女高等女学校)

やよい「・・・私の食べられる野草知識だけで何とかなるでしょうか?」
美希「普通に世界中の国と仲良くできれば一番だと思うの!」
春香「・・・そうだね、それがたぶん正解だし、それが出来れば本当は良かったのにね、本当に・・・」

(※明治28年、中等学校進学率は男子5%女子1.3%に過ぎなかった
その後の様々な教育改革を経て、5年後にはその約2倍に、そしてやや増減を繰り返し、
大正9年・1920年の改革後は男女共に20%代から微増を続けていったが、やはり義務教育でない中等学校への進学は狭き門であった
小学校卒業後の奉公・就職は多く、国民の過半数が進学するようになったのは実に戦後のことである)


292 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:04:07
千早「それで、学力勝負って言ってたけど、結果はどうだったの、ほとんど採点も何もしてなかったみたいだけど」
春香「あ、そういえばその場のノリで勝負って言ったけど、途中からどうでも良くなってた、アハハ!」

赤羽根P「・・・うん。今日は色々と勉強になったよ。
それに三人ともさすがによく勉強してるのがわかったし、今日は俺の負けだな」
美希「わーい!ハニー大好き!でも、特Aササニシキさんはもっと大好きなの!」
やよい「うっうー!きょうは銀シャリ祭りですっ!!」

伊織「・・・ねぇアンタ、頑張りなさいよね」
赤羽根P「えっ?」
伊織「だから、私たちもすぐに成長して大人になるけれど
これから子供たちが、経済難やら国際的孤立やらに耐えることを強いられるような教育を受けないで済むようにするのが、
アンタたち大人の大事な大事な役目なんだからね、わかった?」
赤羽根P「・・・そうだな、俺たち大人の大事な義務だな、頑張るよ、ありがとう」


293 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:04:36
戦前のエリートたちのハイレベルすぎる中学試験問題と教育制度のお話
あと、ワイは前ゆとり世代のおっさんだけれど、大人になったゆとり世代が意外に頼もしくて、ちょっと応援したくなるんですよね
ゆとり、頑張ってるなぁと感じる今日この頃
主にちくま文庫『旧制中学入試問題集』を参考文献にしました。
後半は有名人の受けた入試問題も揃っていてなかなか面白いですよ?

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191
・「第十一話」>>209
・「第十二話」>>227
・「第十三話」>>257
・「第十四話」>>281


294 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:07:39
サンキューいおりん


295 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:14:19
おつー
旧制中学は甲子園も面白いよ


296 : 名無しさん :2015/10/03(土) 21:19:24
オイラー乙ゥ^〜


297 : 名無しさん :2015/10/03(土) 22:14:18
林玉子さんは現代でもアイドルデビューできそう


298 : 名無しさん :2015/10/03(土) 22:52:32
戦前って小学校が今の小中レベルで
中学が今の高校レベルくらい?とか
クッソ雑なイメージを持ってましたが
こんなに今と違う制度、出題なんですね

おかげで興味が湧いてきました


299 : 名無しさん :2015/10/14(水) 20:58:44
【第十五話】春香「神聖アイドル帝国を建国するのじゃよ、千早ちゃん!」

春香「聞けぃ、ヤヨイスキー!
アイドルの究極とは、すなわち全人類の象徴にして神聖不可侵な頂点であるからにして、
S級アイドルたらんと欲すれば、可及的速やかに神聖アイドル帝国を建国して皇帝として君臨すべし!
『神聖』にして『アイドル』で『帝国』とくれば、ナオンの支持率もウナギ味のナマズのごとく滝を遡上すること間違いなし!
あと男と犬は死ね!こちとら慈善事業じゃねぇんだ!
・・・って、通りすがりのトンガリ耳の宇宙人が警察に連行される前に言ってた」

千早「・・・え?神聖アイドル・・・帝国?神聖ローマー帝国じゃなくて?」
春香「数年の消息不明と、突如の復活劇からの『第三世界の長井』(※ゲッサンにて連載中)は衝撃的だったなぁ・・・
ながいけん閣下って、どういう頭の構造してるんだろう?」
千早「???」

(※奇才・ながいけんの伝説のシュールギャグ漫画『神聖モテモテ王国』、通称キムタク。
現在絶賛中断中で、『P@ranoia M@ster』の作者ZAPのアイマスとの傑作コラボ『神聖アイドル王国』も絶賛中断中である
どちらも数年単位で気長に続き待ってます!
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10738020

千早「え、えーと、そういえば神聖ローマ帝国って、昔のドイツのことだったかしら?」
春香「ドイツ、ドイツかぁ・・・う〜ん、まあハズレではないけどアタリでもないっていうか・・・」
千早「でも、ローマって名前つくけど流石にイタリアの国ではなかったと思うのだけれど・・・」
春香「んんん〜イタリア王・ローマ王でもあるといえなくもないんだよね・・・」

千早「・・・何だかますます訳がわからなくなってきたのだけれど、神聖ローマ帝国」
春香「そう!フランス革命前夜の18世紀、思想家ヴォルテールに『神聖でもローマ的でもなく、そもそも帝国ですらない』
なんて帝国末期には言われるほど、完全に名前だけの存在ながらも長生きし続けた、
でも神聖だったりローマ的だったり帝国だったりした時代もちゃんとある、そんな良くわからない存在なんだよ!」


300 : 名無しさん :2015/10/14(水) 20:59:29
春香「まず、ローマ帝国はわかるかな?
地中海世界を征服した大帝国も、末期は軍人皇帝たちが分裂と統合を繰り返し、内乱の頻発する混沌とした状況になってた
そしてその混乱をおさえ、312年に即位したコンスタンティヌス帝がキリスト教を公認し、国教化が進んでいくんだよね
そして帝国の中心地は豊かな東方へ、首都もローマからコンスタンティノープルへ
その後すったもんだの末に東ローマ帝国の属国に近い形で西ローマ帝国が分裂(395年)」
千早「それからゲルマン人の大移動で西ローマが滅ぶ・・・のよね?」

春香「分裂前から、中国北方から大移動してきたフン族(おそらく匈奴族)に追われてゲルマン諸部族が西ローマ領に避難してきたんだ」

〜ゲルマン人『まあここは暫くの間避難させてもらうって形なので、ローマ人の方々に感謝しながら住ませてもらうしかないな
ローマ人には申し訳ないけど、少しの間(多分最長フン族いなくなるまで)いさせてください』〜

春香「で、西ローマ帝国の弱体化に気づいたゲルマン諸部族が、得意の熱い手のひら返しで大暴れ、ついでにフン族の王アッティラも襲来、
476年ついに蛮族の親衛隊長オドアケルの反乱で西ローマは滅亡、その版図はゲルマン諸部族に分け取りされます」
千早「何だか、どこかで見たような光景ね・・・」

春香「一方で、しぶとかったのがローマのヴァチカン・キリスト教会とローマ教皇たち!
まさに中国の格言『夷をもって夷を制す』を地で行くように、めまぐるしく諸蛮族や東ローマ帝国を次々と懐柔・利用しながら生き延びるんだよね」
千早「柔軟にゲルマン人の風習を取り入れながら布教を広めていった結果が、ハロウィンやクリスマスだって聞いたことあるわね」

春香「そんな感じで柔軟に着実にゲルマン諸族に信仰を広げていったローマ教皇庁なんだけど、
現在のベネルクス・フランスを中心に急成長するフランク族を見て一つの大きな賭けに出ます!
あ、フランク王国の勢力拡大図はこんな感じね
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/23/Franks_expansion.gif

春香「もともとフランク王のメロヴィング家はキリスト教に改宗してたんだけど、
751年に事実上王国を乗っ取っていたカロリング家のピピンを正式に王として公認するんだ」
千早「広大な王国の簒奪を正当化したいピピン側と強力な軍事力による保護者を求める教会側の利害が一致したってことね」

春香「そうだね。さらにはその偉大なる後継者カールは800年のクリスマス、ついに教皇レオ3世から皇帝として戴冠されます!
ローマ教会の保護者、ドーソンのいう『霊的な権威と世俗的な権威のふた振りの剣を持つ神聖君主』の誕生だね」
千早「ああ!それで神聖ローマ帝国が生まれたと・・・!」


301 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:00:02
もう始まってる!


302 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:00:04
春香「残念!カール大帝はあくまでも『西ローマ帝国皇帝』として即位したんだよね
そしてカール大帝の帝国=教会だったって説があるくらいキリスト教と密着しながら、
ライン川より東のザクセンを中心としたいわゆる『ドイツ』の異教徒のゲルマン人・スラブ人を征服、改宗に大活躍!
・・・だけどカール大帝の死後に大帝国は西・中部・東の3つのフランク王国に分裂、『帝国』はあっさり消滅しちゃうのでした」
千早「なんとなく東フランク王国っていうのが今のドイツに重なる・・・のかな?」

春香「まぁ、東ドイツは異教徒ヴェンデ人が支配してたり、逆にベネルクス・スイス・ボヘミアなんかも含んでるけどね
で、大帝の死の二世紀後の10世紀初めに東フランク王国を乗っ取ったザクセン公ハインリヒ1世が初めて『ドイツ王』を名乗ります
そして、その息子で名君のオットー1世こそが、2世紀ぶりに教皇から皇帝に戴冠され、一般的には神聖ローマ帝国初代皇帝となるんだけど・・・」
千早「なるんだけど・・・って違うの?」

春香「中部フランクから分裂した『イタリア王国』を征服して教皇を再び庇護に置いたオットー大帝なんだけど
東ドイツのヴェンデ人を一時期は支配下に置いたり、ドイツ王兼イタリア王だったり大勢力にはなったけど、
実は『神聖』とも『ローマ』とも名乗らないんだよね、あくまでただの帝国であり皇帝」
千早「・・・頭痛くなってきた
じゃあ、オットー大帝の帝国が神聖ローマ帝国じゃないなら、誰が神聖ローマ初代皇帝なの?」

春香「そう!それが実は良くわからない!
この『帝国皇帝』≒ドイツ王はドイツ諸侯の盟主で、いくつかの実力ある諸侯が皇帝になるんだけど
11世紀に、教皇と聖職者の任命権(叙任権)=広大な教会領の支配権を争い、一度は破門に屈服したカノッサの屈辱のハインリッヒ4世も!
12世紀、商業都市勢力が台頭し始め、それに脅威を感じた世襲貴族の皇帝派(ギベリン)と、
皇帝勢力をイタリアから駆逐したい教皇の後押しを受けた教皇派(グエルフ)の、自治都市VS封建領主の対立の時代
皇帝派を支援してイタリア王国の支配回復するため南下し、教皇・都市同盟と戦い敗れた偉大なるフリードリヒ1世(バルバロッサ)も!
13世紀、その孫で、シチリア島・イタリア南部に強力な中央集権国家を作り上げたイスラム教の造詣も深い英明な君主で、
アラブ系傭兵軍を率いて各地で教皇派を連破し続けたものの、ついにローマ教皇とイタリア諸都市を征服できずに挫折したフリードリヒ2世も!
実は教会権力とは別の神聖な権威を持つ『神聖帝国』を自称はしても、『神聖ローマ帝国』とは称していないんだよね・・・」

千早「結局、どんな偉大な皇帝でもローマ教皇とイタリアを屈服させることができなかったから『ローマ』を名乗れなかったのね」
春香「そして偉大なるフリードリヒ2世の死の直後、ドイツ諸侯が強い皇帝じゃなく都合のいい皇帝を選ぶようになって、
史上初めて公式記録上に『神聖ローマ帝国』の名称が登場してくるようになるんだよね・・・」
千早「え、何それは・・・(困惑)」

春香「しかし、イタリア王の権力はゼロに等しく、ドイツ王としても諸侯が好き勝手やってて全然統制できない
そんな皇帝の権力も権威も地に落ちた時代に、なお神聖なローマ帝国による平和な世界統治の夢を諦めきれなかった、
そんな不器用な男たちがいたんだよね・・・」


303 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:01:56
<1308年11月ドイツ・フランクフルト 選帝侯会議>

春香「やりましたよ、ルクセンブルク伯!ハインリッヒさま!
フランスのアヴィニョンにいる新教皇クレメンス5世猊下より、『極秘にだがあなたを次期皇帝として支持する』との密書が届きました!
強引にローマからアヴィニョンに教皇庁を移転させられたとはいえ、教皇は真面目な人ですからね、
フランスとはいえイギリス王エドワード1世の支配するボルドーの出身者ですし
ただでさえ強力なフランス王フィリップ4世の弟シャルルが皇帝になるのを教会の代表者として阻止したいんでしょうね!」

(※1308〜1367年まで続いた、いわゆる「教皇庁のバビロン捕囚」。
ジョン王の『失地』した領土を得て拡大し強力になったフランス王国は、傲慢な教皇ボニファティウス8世と衝突、
彼の死後に実力を持って強引にローマ教皇庁をフランス王国のど真ん中のアヴィニョンに移転させた

当時のヨーロッパ諸国の勢力図→http://i.imgur.com/7Km1jTo.jpg

橘ありす「そ、そうですか!教皇猊下が!!えへへ、嬉しい・・・
・・・コホン、一応は私もフランス王の形式上の臣下ですから、王様に逆らうみたいで嫌なんですが、教皇猊下がおっしゃられるなら頑張ります
あと、ハインリッヒって名前は教皇猊下に逆らった皇帝と同じで嫌なので、苗字でルクセンブルグさまと呼んでください!」
春香「え〜、弟様で選帝侯※のトリエル大司教ボードゥワン様や次期ボヘミア王のヨハン様はじめ、周りルクセンブルクさまばかりじゃないですか・・・
(※皇帝選出の選挙権を持つ7人のドイツ諸侯のこと。
マインツ・トリエル・ケルンの三人の大司教とライン宮中伯≒バイエルン公・ザクセン公・ブランデンブルグ辺境伯・ボヘミア王)」

ありす「しかし意外でした。
縁戚関係で広大なボヘミア王国が手に入るとはいえ、小国ルクセンブルク伯の私が皇帝に推薦されるなんて・・・」
春香「んー、今のドイツってこんな感じに訳わかんないくらいのカオスな状態ですけど
・ドイツ北部→http://i.imgur.com/r1C7lG0.jpg
・ドイツ南部→http://i.imgur.com/42eVDKh.jpg


304 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:02:17
ありす「・・・じっと見ていたら目が痛くなりました。ビタミン豊富なイチゴを食べないと・・・」
春香「ブルーベリーの方が目に良いんですよ〜(スト魔並感)
えっと、確かに諸侯諸都市乱立で訳わかんない感じですけど、我がルクセンブルグ家と他の二大諸侯の勢力なんですが
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/fd/HRR_HeinrichVII.jpg

ありす「ボヘミア王国を手に入れることで我がルクセンブルグ家が、先帝の偉大なハプスブルグ家(※オレンジ色)、
やはり強力なバイエルン公のヴィッテルスバッハ家(※緑色)と肩を並べる勢力に・・・(感動)」
春香「って言っても、代々のボヘミア王プシェミスル王家(※第一話参照)が断絶した隙に継承権得たばっかで、まだ実効力ないですし
ぶっちゃけ、強すぎるフランス王が介入してくるのも嫌、ハプスブルグ家が強くなって世襲王朝になるのも嫌
その点、ルクセンブルグ家は実質小国だから皇帝になっても実力ないし、好き勝手できるだろって軽く見られてる結果なんですけどね・・・」

(※ハプスブルグ家の強力な皇帝アルプレヒト1世の暗殺を受けて開かれた1308年の選帝侯会議で、
ローマ教皇を屈服させただけでなくドイツ皇帝の座をも狙うフランス王と、ハプスブルグ家の世襲化を恐れたドイツ諸侯は、
フランス王や新教皇と親しいが真面目な性格、反ハプスブルグでかつ小国の、ルクセンブルグ伯ハインリッヒを皇帝に選出した
選帝侯会議の様子→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/51/Balduineum_Wahl_Heinrich_VII.jpg


305 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:02:54
<1309年1月6日 帝国都市アーヘンでドイツ王ハインリッヒ7世即位>

春香「即位おめでとうございます、ハイン・・・ドイツ王陛下!それにマルグレーテ王妃様も!」
ありす「ついに本当にドイツ王になれたんですね。えへ・・・なんだか笑ってしまいますね
だって、由緒はあっても小国だったルクセンブルグ家の私が、こんな王冠をかぶってドイツ王ですよ。えへへ・・・」
西園寺琴歌「ありがとうございます、春香さん。これからも変わらぬ忠誠をお願いいたしますね?」

(※14世紀のドイツの人々→
http://i.imgur.com/b92f2Gq.jpg
http://i.imgur.com/rkKy1rh.jpg

姫川友紀「おっめでとー、ありすちゃん!相変わらずかわいい、妹にほしい〜!」
ありす「あっ、バイエルン公ヴィッテルスバッハ家のルードヴィッヒさん・・・
『ありすちゃん』は止めてください、ドイツ王に対して無礼だし、何より不愉快です!」
友紀「え、そう?
でも、すごかったねー、せいぜい弱小球団にドラフト9位指名くらいだろうって選手が、
ドイツ王≒神聖ローマ皇帝って大正義球団に首位指名されたみたいなメイクミラクルだもんね!!」

春香「それ、全然褒めてませんよね?
ところで陛下、イタリア・フィレンツェ出身のダンテ・アエギエーリとかいう人からも祝福の手紙?が届いてるんですけど」
ありす「ダンテ・・・さん?知らない人ですね、琴歌さんは知っていますか?」
琴歌「ええと、確かフィレンツェ共和国を追放された政治家で、『地獄篇』という詩を書いてらっしゃる詩人さんでしたかしら?」

〜ダンテの書簡〜
『闇に飲まれよ!(即位おめでとうございます!)
フィレンツェより不当に追放されしダンテ・アエギエーリ、全イタリア人民を代表して汝の足下に接吻を捧げる
汝こそ我らイタリア人民にしてローマ人の久しく渇望せる太陽の巨人!
速やかにアルプスの山背を越えて尊きタルペイアの軍旗を持ち来りて、人類永遠の都ローマにて、
神の代理人クレメンスの使徒的祝福の光をもちて光灼し、最も神聖にして幸福なる凱旋者、
神の摂理による全ローマ人の王にして永遠のアウグストゥスとなりて、心霊的および現世的の一切の統治者として全地球を一層力強く輝かしめよ!』

(※両フリードリッヒ帝のイタリア遠征時代、フィレンツェ共和国は一貫して教皇派の牙城として皇帝と対立していた
しかし最終的に教皇派が勝利すると、今度は門閥貴族の黒派と新興商人の白派の階級闘争が始まる
当初はダンテら白派が政権を奪取するが、これに傲慢な教皇ボニファティウス8世が介入
フリードリヒの残党を一掃するためにイタリア南部『両シチリア王国』に招き入れたフランス王弟シャルルの大軍を派遣
白派はあっけなくフランス軍に敗北しダンテも国を追放された
今でこそ元祖中二病詩人・・・イタリア近代文学・イタリア語の父、『神曲』の作者として知られるダンテだが、
当時は詩人としてよりも、反フランス・親皇帝の理想主義すぎる政治家として知られていた)


306 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:03:09
フリードリヒ3世か


307 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:03:19
春香「うーんこの中二病・・・」
友紀「良くわからないけど、ありすちゃんが巨人だってさ!巨人っていい響きだよね、まさに大正義っていうか!」
琴歌「ええと・・・これはひょっとして、ローマに来て神聖ローマ皇帝として、教皇猊下の戴冠を受けなさい、って事なんでしょうか?」

春香「ハハハ、冗談キツいですよぅ!
かれこれ100年以上もローマで教皇から戴冠された皇帝なんていなかったじゃないですか!
それにそんなことしたら、フランス王のイタリアでの覇権に正面から喧嘩売るようなもんですし!
フランス王の大軍とフランス王家の分家であるナポリのロベルト王の大軍の挟み撃ちになりますし!
そもそも、アヴィニョンにいる教皇だってフランス王の許可なくローマに戻るなんて無理でしょ
それ以前に今、小国の我がルクセンブルグ家がやらなきゃいけないのは内政!
まずはハプスブルクと対立してるボヘミアの実効支配のために・・・」

ありす「・・・行きます」
春香「ほへ・・・?」
ありす「イタリアといえば浮かぶのは・・・栄光のローマ帝国です
私はドイツ王であり、神聖ローマ帝国の皇帝ですから、イタリアに遠征して人々に安寧と平和をもたらす義務があります!
イタリア遠征して、ローマで教皇猊下に戴冠してもらって、そして、神聖なローマ帝国を復興します!!」
春香「え、ええええええええ!!!!!!」
友紀「(うひょー!これはまさかのゲーム展開!面白そうだから一緒に行って観戦しよっと!)」


308 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:03:57
<1310年10月 スイス南部・イタリアとの境界のザンクト・ゴットハルト峠>
(※現在のゴッタルド峠→
http://www.jsce.or.jp/library/itou_photo/k_jpg_sl/2-31-2-01-02.jpg
そして有名な「悪魔の橋」→
http://www.jsce.or.jp/library/itou_photo/k_jpg_sl/2-31-2-01-03.jpg

春香「ふぅ・・・ふぅ・・・ドイツから北イタリアに抜ける最短ルートがアルプスのザンクト・ゴットハルト越えだとはいえ・・・
メチャメチャ難路じゃないですか!標高高いし寒いし山道キツイし!」
友紀「ホントだよ!甲子園球場のアルプススタンド以上の急勾配じゃん!」
ありす「お二人とも体力がなさすぎです!日々の『登山活動』で鍛えられている私を少しは見習ってください!」

春香「(それ、違うマウンテンじゃん・・・)
それにしても教皇クレメンテ猊下からローマのサン・ピエトロ大聖堂で会おうってお返事が来るとは思いませんでした」
ありす「当然です!
アビニョンで教皇に即位なさった時にお会いした時からわかってました、あの方は信仰心篤い立派な方です!
私がローマで教皇猊下と手を携え皇帝に戴冠すれば、みんな目が覚めて必ず神聖なローマ帝国の幸福で平和な時代が再び訪れるんです!」
琴歌「そうですね。まさに古代の栄光の『再生』(ルネッサンス)ですね、素敵です!」

友紀「ええ〜?今どき、皇帝にも教皇にもそんな威光があるのかなぁ?
まぁ、それはともかく、ウチとしてはハプスブルグのお膝元のスイスの、中央部の三渓谷共同体同盟(※原初三邦)に、
旧来の自治特権の再確認と完全な独立権をありすちゃんが認めたのが嬉しかったな
アイツら前々からスイス全土の支配を狙ってたからね、この一打は大きいよ!」

春香「そうそう!これでボヘミアの領土も狙っているハプスブルグ家への強烈な牽制になりますよ!
もう、とにかくローマで戴冠する!教皇と皇帝と協力し合って神聖なローマ帝国再建する!
そればっか言ってたようで、実はドイツ国内の支配強化の布石も打ってたんですね、さすが!」

ありす「チューリヒと三邦は、ドイツとイタリアを結ぶ最短ルート上なので帝国直属にすれば便利ですから
それにあの人たちは、ずっと自治と自由を求めて自力で努力してきてたので、報いてあげるのが皇帝の義務ですし」
春香「えっ?理由それだけ?」
ありす「もともとフリードリヒ2世の時から自治特権認められてましたしね
むしろ他に理由が必要なんですか?人民に平和と安寧をもたらすのが皇帝の仕事だというのに、これだから大人は・・・」
琴歌「ほらほら皆さん!もう峠を越えて、北イタリアのロンバルディア平野が見えてきますよ!
『イタリア王国』の中心地、大都市ミラノももうすぐですから!」

(※中央スイスのウーリ・シュヴァーツ・ニートヴァルデンの三つの農民共同体≒カントンは、
アールガウを本拠地としてスイス全土を支配しようとするハプスブルグ家の脅威に常に脅かされてきた
そこで1291年8月1日に『永久同盟』、いわゆる「原初三邦」を結成した
ハインリッヒの三邦自治権容認の意義は大きく、スイス各邦のハプスブルグ家支配からの独立気運は高まった
三邦を中心に各地でスイス農民兵はハプスブルグ軍を撃破、誓約者同盟を拡大していった
一方で、このスイス人歩兵の圧倒的な強さも広く知れ渡ることになり、スイス人傭兵はヨーロッパ全土で猛威を振るうことになる
スイスの26州の図→http://i.imgur.com/tQebWT8.gif


309 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:04:49
<1311年1月 ミラノ サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂>

ありす「・・・まさかミラノでこんなに大歓迎を受けるとは思ってもみませんでした・・・
そして晴れてイタリア王として大聖堂での戴冠式も無事に済んで、えへ、ちょっと嬉しいです!」
春香「そりゃ、ミラノといえばロンバルディア自治都市同盟の代表として反帝戦争の中心勢力でしたもんねぇ・・・
それが、もともと皇帝派の北イタリア諸侯はもちろん全市全地域あげてのイタリア王戴冠祭り!な大歓迎ですもん」

ありす「しかし式典に駆けつけてくださった皆さん、サヴォイア侯やモンフェルラート侯、それにエステ侯は家名も由緒もわかるんですけど
あの、いっぱい高額なお祝い金を頂いて失礼なんですが、デッラ・スカーラさんとか、ゴンサーガさんとかマラテスタさんとか・・・
北イタリアの名門貴族は本で勉強していたんですけど、見たことも聞いたこともない名前ばかりで困ってます」

春香「ああ、えっと、あの人たちは何というか、『市民の代表者』という名の、ぶっちゃけ僭主、成り上がり独裁者の皆さんです」
ありす「僭主・・・?」
春香「もともと教皇派とアルテ(※各種職業組合)の旗の下に市民一丸となって皇帝軍と戦ってた自治都市なんですけど、
皇帝軍の脅威がなくなった途端に、今度は内部で複雑な階級闘争が始まっちゃいまして
富裕な商人・金融業者たちVS職人組合の戦いに、没落貴族たちが何と庶民を煽って参戦するとかいうカオスな状況に
それで、毎度毎度の血の抗争に疲れた市民は、市政の要職を中立な外国人に任せてみたりしてたんですけど・・・
気づいたら、そういう内ゲバ劇を利用して巧みに力を蓄えた独裁者=僭主が台頭していたと」

ありす「・・・これだから大人は!でも、何でそんな人たちが私を大歓迎するんですか!?」
春香「そりゃもちろん、不法に権力の座に就いた人たちですから、権威によるお墨付きが欲しいんですよ
イタリア王・神聖ローマ皇帝の皇帝代理や代官なんて肩書きがもらえれば地位も信頼も安定するって計算ですねぇ」

ありす「・・・もう、誰も信じられません!私はイタリアと世界に平和と安寧をもたらしにやって来たのに!
信じられるのは教皇猊下と、アルプスを越えて早々にお迎えに来て下さり、
乏しかった軍資金を工面してくださったり、紛失したイタリア王冠の代わりを手配してくださったり、
色々と親切にミラノまでの道のりを段取りしてくださったマッテオ・ヴィスコンティさんだけです!
あの方の叔父様はミラノ大司教様ですし、代々の皇帝派だったとおっしゃってましたし!」


310 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:04:58
ちなみにオットー3世あたりの時期はローマ帝国を名乗ってたよん


311 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:05:20
春香「いや、そのヴィスコンティ家自体がそもそも僭主候補の・・・」
ありす「あっ、ヴィスコンティさん!!」
千川ちひろ「これはイタリア王、いや神聖ローマ皇帝陛下。実は大変なことが発覚しました
伝統と歴史あるテオドリンダの宝石を飾ったイタリア王冠紛失の犯人は、実は教皇派の名のもとにミラノを支配してきたデッラ・トルレ家だったのです!」
春香「な、何だって〜(棒)」

ちひろ「事もあろうにグイード・デッラ・トルレがモンツァ大聖堂から盗み出して借金のカタに売り払ったそうなんです!」
ありす「イタリア王冠は聖十字架の釘で作られた神聖で由緒正しき聖遺物でもあるのに!許せません!」
ちひろ「しかも友人でヴェローナの『市民の代表者』カングランデ・デッラ・スカーラさんの話によると、
今まさに教皇猊下の命令だと騙して市民たちを扇動して反皇帝の反乱を計画しているとのこと!
陛下、一刻の猶予もありません!私は陛下と教皇猊下の忠臣として、ミラノの君主の座を狙う逆賊を討ち果たして参ります!」

ありす「ま、待ってください!
ヴィスコンティさんの手勢だけでは勝てるわけないじゃないですか!
少ないですが私の連れてきた5千のドイツ諸侯軍も参戦します・・・!
そしてあなたを正式にミラノの皇帝代理に任命します!これは・・・ローマ帝国統一のための聖戦です!(戦争・・・こわくない・・・こわく・・・)」
ちひろ「何とありがたきお言葉!理想のローマ帝国再生のために、永遠に忠誠を誓います!(5千ぽっちですか、所詮は小国領主ですからね・・・)」

友紀「・・・さすがちひろさん、うまく乗せたね〜あの堅物をさ」
ちひろ「・・・ひょっとしてヴィッテルスバッハ軍は加勢していただけませんか?」
友紀「ん〜、ウチのチームはハプスブルグとの伝統の一戦を控えてるからね、こんなところで選手を消耗させたくないんだよね
ところでさ、もしあたしが次の皇帝になったりしたらさ、ミラノでの支配容認の契約金にどれくらいくれる?那須野くらい?」
ちひろ「・・・ええ、私が予定通りミラノの僭主になれたらの話ですけど」

(※ヴィスコンティVSデッラ・トルレの内紛は、瞬く間に北部・中部イタリア諸都市に飛び火し、大規模な内戦に突入した
イタリア王を自認するハインリッヒは必死に調停に乗り出すも失敗、不毛な抗争で約2年間も北伊に足留めされる
結局ハインリッヒは得るものなく混乱の収拾を断念、失意のまま海路ローマを目指すべくジェノヴァへと向かった
一方で皇帝代理の肩書きをフル活用したマッテオ・ヴィスコンティは、ミラノ中心に内戦で疲弊した周辺諸都市の支配に成功、
北イタリアにヴィスコンティ家による世襲支配国家を打ち立てることになった

その後、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂跡地にヴィスコンティ家によって建設されたドゥオーモ=ミラノ大聖堂→
http://i.imgur.com/0FcgIkb.jpg


312 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:06:03
<1312年6月29日 ローマ・ラテラーノ教皇宮殿>

ありす「・・・やはり戴冠式にクレメンス猊下はいらして下さいませんでしたか・・・」
春香「だって陛下、フィレンツェやナポリのフランス派に『神聖ローマ皇帝への忠誠を誓え』だなんて、宣戦布告してるようなもんですもん
フランス王も大激怒で教皇を絶対に国外に出さないよう厳重警戒してますし」
ありす「それでも教皇猊下は、信頼する側近の枢機卿3人を派遣下さいました・・・
おかげで、こうして枢機卿を通じて間接的にですが無事に神聖ローマ皇帝として戴冠することができました・・・!」

春香「じゃあ、もう戴冠も済んだことですし、そろそろドイツに帰りましょうよ
北からはフィレンツェ軍1万5千が、南からはロベルト王の数万の大軍が迫ってますし、
そもそもこのローマだって地元の豪族オルシーニ家の軍勢にいつ攻撃されてもおかしくない状況ですし!
それに・・・それに、ジェノヴァで疫病でお亡くなりになった皇妃さまのご葬儀もドイツでしてあげなきゃ可哀想ですよぅ・・・」

ありす「琴歌さん・・・グスン
・・・いえ、やはり帰りません、まだイタリアでの仕事が残ってますから!」
春香「え、仕事・・・?」
ありす「『再生』するんです、神聖なローマ帝国を!
フランス派勢力をイタリアから一掃し、フランス王を倒して、それから教皇猊下をローマにご帰還させて!
教皇と皇帝が協力し合って全世界を統治する平和で幸福な真の神聖ローマ帝国を再生するんです!
それが・・・それが神聖ローマ帝国皇帝である私の仕事なんです!」

(※その後、僅かな手勢でフィレンツェ・ナポリ連合軍と絶望的な戦いを続けたハインリッヒであったが、
1313年8月24日、シエナ近郊で病により急死する。信頼していた修道士による毒殺説もあるが定かではない。
ハインリッヒ7世の彫像→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/42/Tino_di_camaino%2C_statue_dal_monumento_funebre_di_arrigo_VII_di_lussemburgo%2C_1313%2C_02.JPG

あくまで純粋に、教皇と皇帝の共存共栄による帝国の実現を目指したハインリッヒは、ダンテにとって理想の皇帝そのものであった
「来たり坐すであろう、地上にては皇帝の位ある、かの崇高なるアルリーゴの魂が」とは『神曲』でのハインリッヒ7世への賛辞である
キリスト教とローマ皇帝による偉大な古代の『再生(ルネサンス)』の理想をダンテも追い求め、
ハインリッヒの理想を正当化する大著『帝政論』を書き上げている
しかし、イタリアルネサンスとは、古代ローマ帝国の再生ではなく、実は文明の新生であったのである

ダンテの『帝政論』および書簡集→http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1018544


313 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:06:31
春香「ハインリッヒの後に皇帝になったヴィッテルスバッハ家のルードヴィヒ4世や、
ハインリッヒの孫のカール4世もローマで戴冠してるんだけどね、イタリア統一とかローマ帝国復活とか全然興味なくて、
要するにイタリアの僭主たちに官位・爵位を売り歩いて大金せしめてドイツに帰るだけになっちゃった」
千早「それはもう、『神聖』でも『ローマ』でもないわね・・・」

春香「そうだね。
神聖ローマ帝国はキリスト教世界の帝国じゃなくて、公式名『ドイツ国民の神聖ローマ帝国』になっちゃうし
その後、ハプスブルグ家による世襲支配が19世紀まで続くけど、皇帝戴冠に教皇必要ないってなっていくし
カール5世がスペインとの同君国家を実現して巨大な世界帝国を一時的に築き上げるけど、
あれはあれでローマ帝国の再生ではなくて完全に新しい世界帝国の誕生だって言った方が良いだろうし
最終的にはドイツ皇帝としての実態すらない名称だけの存在で、1806年にハプスブルグ家の神聖ローマ帝国解散宣言であっさり消滅」

千早「千年近く続いたことになっている帝国の終わりとしては寂しすぎるわね・・・
そういえば、ハインリッヒの子孫のルクセンブルグ家はどうなったの?」
春香「ハインリッヒの息子のヨハンがボヘミア王としてしっかり支配を確立したお陰で、孫のカール4世も皇帝になってるね
そして一代置いて、そのカール4世の長男も次男も皇帝に・・・」

???「・・・ヒヒーン!!」
千早「あら?どこかで馬のいななきが聞こえたような・・・?」
春香「ま、まだガーデニングの時間帯だからセーフ・・・だよね!?」

(※嫁が二人とも幼女だったためにロリレイパー設定が付与されてしまったあの男ヴェンツェル、実はハインリッヒ7世のひ孫である
ヴィスコンティ家に公爵位を売ったのを批判されて皇帝辞めさせられたり、ボヘミア統治を頑張っていたら、
皇帝になった弟ジギスムントに国民的宗教改革指導者フスが処刑されてショック死したり、割と散々な人生

あの男の肖像→http://i.imgur.com/PicxYoU.jpg
あ、違った、こっちです→http://i.imgur.com/QzJkVpJ.jpg


314 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:06:56
真に神聖ローマ帝国皇帝たらんとした最初で最後の皇帝、かもしれない男のお話
イタリアンなのでこの三人組になりました、ちょっと琴歌さん出番少ないけど
元祖中二病ダンテさんの、ハインリッヒや皇妃にあてた書簡や、祖国フィレンツェへの脅迫状は一読の価値あります
次はもっと早く書けるように頑張ります、すんません・・・

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191
・「第十一話」>>209
・「第十二話」>>227
・「第十三話」>>257
・「第十四話」>>281
・「第十五話」>>299


315 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:08:27
まーた地味なとこ突いてきたなw
乙ですー


316 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:09:54
確かにそれまでの強力な皇帝って、「帝国」「ローマ帝国」「神聖帝国」をそれぞれ追求したもんな
「神聖ローマ帝国」を追求したのはこの皇帝か

ハインリヒ6世は惜しかったんだがな


317 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:14:24
>>306
確かにフリードリヒ3世はちょっと悩みました
あと、当初はダンテ蘭子もからませる予定だったんすけど、
国立公文書館のダンテの書簡見てもらうとわかるとおり、あの人、
中二病全開でフィレンツェ罵ったりハインリッヒに皆殺しにしろって言ったり過激すぎるので没に


318 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:18:51
ランケ曰く「普遍史的に言って彼の登場は、皇帝の諸権限を認識させ、同時にそれらを妥当させることの不可能も白日の下にさらけ出した、という限りで重要である」

悲しいね、ハインリヒ7世・・・


319 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:20:12
オットー3世といい、ハインリヒ3世といい、フリードリヒ1世といい、ハインリヒ6世といい、そしてこのハインリヒ7世といい・・・どうしてこう、何かを成し遂げようと燃える皇帝は突然の死を迎えるのか


320 : 名無しさん :2015/10/14(水) 21:57:04
〜神聖ローマ皇帝ハインリヒを名乗った人々〜

ハインリヒ2世:子ができないまま死去、王朝断絶
ハインリヒ3世:38歳で急死、帝国教会政策挫折
ハインリヒ4世:カノッサの屈辱、叙任権闘争、息子の反逆
ハインリヒ5世:叙任権闘争で妥協、王朝断絶
ハインリヒ6世:教会が絶頂期を迎えようとする最中32歳で急死
ハインリヒ7世:イタリアに赴きさあこれからというところで急死

呪われた一族かな?


321 : 名無しさん :2015/10/16(金) 12:22:25
年号見てたらあのエドワード2世がイギリス王やってた時期なのね
そらフランス王無双になるわけだわ
法王クレメンスさんも父エドワード1世の時にはボルドーの領主としてフランス王相手にバックに立ってくれてたみたいだけど
エドワード2世だもんなあ、この時期…
つくづく運無いのね


322 : 名無しさん :2015/10/16(金) 12:27:54
なるほど、そこまでリンクさせてるとは、考え込まれてるなあ


323 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:29:29
【第十六話】春香「真実はいつもひとつなんだよ、千早ちゃん!」

春香「たったひとつの真実見抜く、見た目は野蛮人、頭脳も野蛮人、その名はコナン・ザ・バーバリアン!
どんな魔術も罠もトリックも、全部野生の勘と筋力だけで解決する新感覚蛮族ミステリーってどうよ、千早ちゃん?
名探偵コナンVSルパン三世のコラボがアリなら、名探偵コナンと蛮人コナンシリーズ※のコラボもアリだと思うんだけど」

(※H・P・ラブクラフトの友人でもあった作家R・E・ハワードの「キンメリア人コナン」を主人公としたヒロイックファンタジーの元祖
1932年からハワードが30歳で自殺する1936年までの僅かな期間に書かれた作品集だが、
剣と魔法の超古代世界での超人的な蛮族コナンの痛快な冒険活劇は、ハワード死後も絶大な影響を世界中に与え続けている
日本への紹介と日本語版の翻訳を初めて手掛けたのは恐らく団精二、後の荒俣宏
また、映画版はシュワルツェネッガーの出世作としても良く知られている
映画版のシュワちゃん→http://i.imgur.com/Y4xcSIl.jpg

千早「いやゴメン、名探偵コナンっていうのも蛮族コナンっていうのもよく知らないし・・・
あと、ルパン三世?三世ってことはそんなに続いてる長寿作品なの、アレ?」
春香「ちょ、コナンもルパンも知らないとか!?
名探偵コナンもルパン三世も知らねーやつがよォー、この日本にいたのかよォー、グレート!
ビスコ食ったことあんのか?B・Bクイーンズ知ってっか?」

千早「本当に知らない・・・ゴメンナサイ・・・」
春香「もー、千早ちゃんは好きな歌や音楽以外にはホンッッットに興味ないし知らないってこと多すぎだよ!
千早ちゃんのことはかなりよく知ってると思ってたけど、まさかコナン知らないとまでは・・・
あ、そうだ!最近急に涼しくなってきたし、秋の夜長に読書しようよ、千早ちゃん!知的ジャンル広げよ?」

千早「それもいいかもね・・・何かおすすめとかある?」
春香「んー、とりあえず名探偵コナンつながりで、元ネタのアーサー・コナン=ドイルの作品とかどう?
さすがにシャーロック・ホームズは知ってるでしょ?ホームズシリーズ読んで、シャーロキアンに、なろう!(提案)」
千早「・・・コナン=ドイルならホームズじゃなくて、チャレンジャー教授シリーズとかはダメ?」

春香「あれっ?意外に知ってるじゃん!『失われた世界(1912年)』良いよね!
実はホームズだけじゃなくてSFや歴史小説も数多く書いてるんだよね、コナン=ドイル!」
千早「『失われた世界』以外の作品の評価は、どうなの?」
春香「『毒ガス帯(1913年)』とか、1910年のハレー彗星接近による窒息・猛毒での人類滅亡騒ぎが発想元なんだろうけど、
人類滅亡後の世界っていうSF作品の草分けになったって意味でもすごい作品だと思うよ?ただ、その後が、ねぇ・・・」
千早「何かあったの?」

春香「心霊主義(スピリチュアリズム)にすっかりハマリ込んじゃったコナン=ドイルさん、
続編の『霧の国』で偉大なる科学者にして合理主義者のチャレンジャー教授を神秘主義に改宗させちゃったのが、さぁ・・・」
千早「心霊主義・・・」
春香「そう!大作家コナン=ドイルの後半生、実はオカルトと幻想の世界に魅せられてね・・・」


324 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:30:09
〜心霊作家コナン=ドイルの事件簿「妖精の写真五つ」〜

<1916年9月 コナン=ドイル邸>

春香「こんにちは〜!コナン=ドイルくんいますか〜!?ストランド・マガジン編集部のアマミです〜!」
コナン=ドイル「俺はシャーロック・ホームズなんかに興味はねぇんだよ!
そもそも、最近は第一次世界大戦の取材やら心霊学の研究やら、とにかく忙しいの!」

春香「へ?心霊学?
そんなこと言わずにホームズの新作連載お願いしますよ〜!
そうだ、戦意高揚のために、ホームズがドイツのスパイと戦うって話はどうです?」
コナン=ドイル「わかったわかった、じゃ暇が出来たら適当なのを一本書くから
とりあえず、さっき届いたばかりの事件解決依頼の手紙とやらを読ませてくれたまえ」

春香「先生のトコ、ファンなのかガチなのか、よくホームズや先生本人への事件解決依頼が届きますよね」
コナン=ドイル「…ああ、三十年前に売れるために大衆に迎合した探偵小説を書き散らしたのが運の尽きさ
私は歴史小説家・SF作家・医者であって、ひきこもニート中二病探偵じゃないというのに!
ま、例によってワトソン名義で『あいにくホームズは多忙なのでお近くの警察にご依頼ください』と適当に返事を…ん?……ん!?」

春香「先生、ぶっちゃけホームズ好きじゃないって言ってる割に、そういうところは律儀ですよね…あれ、どうかしました、その手紙?」
コナン=ドイル「どうやら、今回の依頼は相当に興味深いものとなりそうだよ、ワトソン君!
事件の場所はウェストヨークシャー州のコティングリー村か、さっそく表でハンサム馬車をつかまえて駅へと急ごうじゃないか!」
春香「…いや、普通に自動車で行きましょうよ、先生(ノリノリだなぁ…)」

<イングランド北部・ブラッドフォード近郊 コティングリー村>
(※イングランド北部の緑多い田舎の村であった当時のコティングリー村
http://www.cottingleyconnect.org.uk/photos/cottage.jpg
コティングリー村公式HP→http://www.cottingleyconnect.org.uk/index.shtml

コナン=ドイル「…なるほど、姉妹でいつも近くの森で妖精たちと遊んでいたが、
大人たちが信じてくれないので父親のカメラを持ち出して撮影したと、そういうことなんだね、フランシスちゃん?」
城ヶ崎美嘉「そ、そうそう!誰もアタシたちの言うこと信じてくれないからさー、バッチシ写真に撮っちゃったんだよね★」

(※1916年に撮影された最初の写真→http://i.imgur.com/VysNWG0.jpg
その他、いわゆる「最初の4枚」→http://i.imgur.com/5cpZpA0.jpg


325 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:30:35
城ヶ崎莉嘉「ねぇ見て見て、リカもキュートな感じでしょ☆超カワイくないっ?!」
春香「うーん、どうだろ、確かに二重写しや写真に加工した痕跡はないけど
…でも、妖精の輪郭が妙にハッキリしすぎてるというか、周囲から浮いているというか
ぶっちゃけ立体感が無いんだよね、これ、ひょっとして妖精は絵なんじゃない?」
莉嘉「えっ!?あう、えっと、ど、どうかなー☆そんなことないよねー、お姉ちゃん?!」
美嘉「そ、そ、そうだって!妖精さんたちは人間の世界のジョーシキとは違うに決まってんじゃん★」

コナン=ドイル「…うむ、どうやら問題は実にシンプルだったようだね」
春香「さ、さすが先生!この写真のトリックを、もう見破ったんですね!?」
コナン=ドイル「なに、初歩的なことだよ、ワトソン君
…こんな可愛く純真な少女たちが嘘をついたり、大人を騙すような巧妙な工作が出来る訳ないじゃないか!」
春香「…はい?」
コナン=ドイル「いやぁ、妖精ってホントに存在したんだなぁ!!すごいなぁ、感動だなぁ!!私にも会えるかなぁ!?」

『…この(妖精)関連については無線通信を左右するエーテル振動※の知識が非常に役に立つ。
(※エーテルによる振動理論は20世紀には、科学の世界では否定された)
…様々な感受能力(心霊的振動を受信する能力)を備えている能力者は、(通常人には見えない)特殊な生物と接触することができるし、同じような人々との交信も可能である…』
                       〜コナン=ドイル〜

(※この世にいう『コティングリーの妖精事件』は、16歳のフランシス、11歳のエルシーの従姉妹の撮った写真が、
当時、心霊主義信奉を表明して話題となっていたコナン=ドイルが本物だと言明したことで一大センセーションに発展した
当初から信奉者と懐疑論者との論争が激しかったが、事件より半世紀たった1965年に、
フランシスとエルシーの二人が『本の挿絵を切り取ってピン止めしたものを撮影した』と告白したことで決着を見ることになる
だがコナン=ドイルは1930年に死ぬまで本物であることを信じており、二人の沈黙は彼の名誉を守るためだったとされる

…だが、彼女たちは最初の4枚のフェイクは認めたが、実際に妖精に会ったことと最後の一枚だけは真実だとも主張した
・「最後の一枚」→http://i.imgur.com/6DY63V2.jpg
・事件当時のエルシー→http://i.imgur.com/At14X35.jpg


326 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:31:13
〜心霊作家コナン=ドイルの事件簿「コナン=ドイル家の儀式」〜

<1916年10月 コナン=ドイル邸>

春香「先生!今月の雑誌『光』に掲載された先生の心霊主義者宣言、読みましたよ!
ていうか、よりによって合理主義の権化のようなシャーロック・ホームズの作者の心霊主義者宣言で、
ホームズ連載してる我がストランドマガジン社にも、戦時中だというのに抗議やら悲鳴やら殺到しまくって大変なことになってるんですよ!?」

・コナン=ドイルへのファンの悲鳴で打線組んだ・

1. (二) シャーロキアンに死ねと言っているのかよ
2. (遊) 幽霊はなぜ僕を追い詰めるのか
3. (一) エクソプラズム(心霊体)吐いた口から出る音を俺に聞かせたのか
4. (左) 耳に魔女の呪いがかかる
5. (三) こんな思いをするのなら中世に生まれたかった
6. (右) 近くのぺドラム精神病院に行ったら問答無用で収容された
7. (中) 今後誰かが同じ過ちをしない為にも、ここは徹底的に懐疑するのが正解
8. (捕) 完全にビリーバーの声になってる
9. (投) 処女膜から声が出ていない

コナン=ドイル「いや、別におかしなこと言ったつもりはないんだけどなぁ、あと最後のは何なんだ?
各国王室や貴族の方々、科学者や哲学者にも心霊主義者はいっぱいいるじゃないか?」

春香「まぁ、確かにそうなんですけどね
科学文明が急速に発達する一方で、旧来の宗教への信仰心も揺らいでますし、心霊主義は時代のニーズに合ってるんですよね
実際、交霊会や霊媒による心霊ショーも世界各地で盛んに行われていますし」
コナン=ドイル「そうだろう?
私はいたって科学的かつ合理的な検証の結果、この世界にはいまだ科学によって解明されていない広大な心霊の領域を確信しただけなんだが」

春香「ほほう、科学的かつ合理的、ですか!」
コナン=ドイル「うむ、今回の第一次世界大戦では妻ジーンの弟マルコム・レッキーが戦死したのは知っているだろう?
(※コナン=ドイルは、大戦でマルコムや長男、実弟、甥など多くの近親者を喪っている)」
春香「痛ましい出来事でしたね、先生も奥様もショックを受けられていましたもんね…」
コナン=ドイル「私も妻も、当初はショックだったさ。
だが、実はその霊界にいるマルコムと再会できたんだ!そして心霊の存在を確信したってわけさ!」

春香「いや、いやいやいや!おかしいですって!
戦死されたんですよね、義弟さん!ひょっとして枕元に立ったんですか、幽霊が!?」
コナン=ドイル「違うさ、言っただろ、科学的かつ合理的に検証したと
…知り合いの霊媒に頼んで呼び出してもらったのさ、マルコムを!」
春香「やっぱり全然、科学的じゃなかった!」


327 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:31:40
コナン=ドイル「まぁ待ちたまえ、無論、私だって合理的で健全な理性の持ち主だよ?
当然、霊媒のリリー・ローダ=シモンズに、マルコムや私たち家族しか知りえない様々な質問をぶつけてみたのさ
そして彼女の降霊したマルコムの霊魂は、見事にすべてに答えて見せた、という訳さ!」
春香「ふむぅ、なるほどなるほど…
(インチキ占い師の定石としてはコールドリーディング、つまり様々なキーワードを投げかけて反応から情報を得て、
対象者しか知りえない、はずの真実を『釣る』テクニックを使ったのかな?
抽象的で曖昧な表現で、勝手に自分のことだと思い込ませるバーナム効果、マルティプル・アウトもあり得るね
あるいは事前調査を利用したホットリーディングや、わずかな筋肉の動きを観察する読心術マッスルリーディングかも?)」

春香「いやぁ、すごい霊媒師ですね、ぜひ私も会ってみたいなぁ、なんて♪
(ま、会ってみればどんな手を使ったのかわかるでしょ)」
コナン=ドイル「なんだ、リリーに会いたいのかい?
簡単なことだよ、何せ彼女は前から家族同然に家に同居しているからね、今は留守だけど」
春香「やっぱり合理的じゃなかった!テクニックより前に、そもそも情報ダダ漏れ状態だった!」

(※コナン=ドイル自身は、心霊主義に傾倒することになったキッカケは近親者を次々と失った傷心と、
それに乗じたこの霊媒リリーによる義弟マルコムの降霊であったと述べている
だが、実はコナン=ドイルはホームズの執筆を始めた1887年頃から心霊主義への興味をすでに持っており、
1893年に、後にそのスジでは最古かつ最も権威ある団体となる心霊研究協会=SPRに参加した最古参会員でもある
ちなみに妻ジーンは、後に霊媒としての『能力』を開花している
ジーン・コナン=ドイル→http://i.imgur.com/IobY0hB.jpg


328 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:32:37
〜心霊作家コナン=ドイルの事件簿「(移民労働者にとって)恐怖の谷」〜

春香「はぁ…まあ前から先生は、よく言えば不義や非道理を許さない高潔な人物だと思ってましたけど
バーナード・ショー(※ノーベル文学賞を受賞した文学者にして社会運動家)が、
タイタニック号の船員たちの英雄的行動を『フィクションだ』って批判した時には、船員の名誉のために大議論やってましたもんね」
コナン=ドイル「うむ、英国紳士たる船長船員たちが婦女子のために命を投げ出した崇高な行為を嘘だというなんて許せない!」

春香「と同時に、悪く言えば他人の悪意を疑わないお人好しというか、他人に利用されやすいというか…」
コナン=ドイル「そ、そんなことはないだろう!?
私は医者としての科学的素養と、長年の作家としての綿密な取材活動から、中立公正で鋭い観察眼をだね…」
春香「モリー=マグワイアーズとピンカートン探偵社…(小声)」

<1914年 大西洋上の豪華客船にて>

春香「先生ぇ〜、はやくホームズの新作書いてくださいよぅ〜!
1912年に書いた『失われた世界』がヒットしたからホームズ物から足洗いたい、とか思ってないですよね?」
コナン=ドイル「そう言われても、もうネタもないしなぁ…やめちゃダメ?」
春香「頼みますよ先生!ウチの出版社、ホームズ無くなったら即倒産ですよ!」

??「失礼ですが、名探偵シャーロック・ホームズシリーズの作者、サー・アーサー・コナン=ドイル先生ではございませんか?
奇遇ですね、私も実は探偵社を経営している者でして。あ、これが名刺です」
コナン=ドイル「…ふむ、ウィリアム・ピンカートン、ピンカートン探偵社代表取締役…」
春香「ピンカートン探偵社って!アメリカ最大の、というより世界最大の探偵社じゃないですか!?」


329 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:33:21
黒井社長「いかにも!我が961プロ…ピンカートン探偵社は、世界最大の探偵社として、
アメリカ大統領はじめ鉄道会社やカーネギー鉄鋼などの大企業等に、幅広くご愛顧頂いております!」
春香「そういえば、リンカーン大統領の身辺警護で暗殺事件を未然に防いで有名になったんでしたっけ?」
黒井社長「その通りだよ!私の父アランは、スコットランドからの移民だったが、
実に腕の立つ人物でね、大統領選時代からリンカーンの警護を担当していたのだよ!
もっとも、私の父がアメリカ陸軍に大統領警護の仕事を受け継いだ途端に暗殺されてしまったがね、ハッハッハ!」
春香「笑い事じゃないと思うんだけどなぁ…」

(※1855年、アラン・ピンカートンは、鉄道強盗団の相次ぐ襲撃に悩む鉄道会社数社と契約を結び、
世界初の警備会社=探偵社、ピンカートン探偵社を設立した
民主党分裂と南北戦争へと向かう緊張の中で大統領候補リンカーンに雇われたアランは暗殺を未然に防ぎ、
その配下の男たちの組織的な捜査力と強力な私兵団の実力が、アメリカ中で一躍評価されるようになった
南北戦争時にリンカーンを警護するアラン→http://i.imgur.com/GfIcQK8.jpg


330 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:33:44
コナン=ドイル「ほう、お父様はスコットランド人なのかね!?
奇遇だなぁ、私もスコットランド育ちなんだよ!両親はアイルランド人だが」
黒井社長「どうやら先生、次回作のネタにお困りとのこと
宜しければ我が社の誇る名探偵の活躍エピソードを提供致しましょうか?
あ、もちろんお代は頂きませんよ、掲載の際に我が社の名前をアッピールして頂ければそれで結構ですので、フッフッフ…」

コナン=ドイル「・・・なるほどなるほど、ペンシルヴァニア州の巨大炭鉱を銃とテロリズムで支配していた、
ならず者のアイルランド移民鉱夫の秘密結社モリー=マグワイアーズがあって善良な鉱山会社を脅していたと」
黒井社長「左様!そしてそこに送り込まれたのが、後に我が社の最高幹部として辣腕を振るった名探偵ジェームズ・マクパーランド!
1870年代当時、まだ三十歳の若き彼は、貧しいアイルランド人鉱夫に扮して、テロリスト集団の支配する『恐怖の谷』へ、
ひとり潜入捜査を行い組織中枢に潜り込んで膨大な証拠を掴み、公正な裁判で組織を壊滅させたのです!」

春香「え?公正な裁判・・・?たしか特別検察官が地方の鉄道・炭鉱を支配しピンカートン社を雇ったゴウエン社長自身だった気が・・・」
コナン=ドイル「素晴らしい勇気、そして冒険だ!ありがたくそのエピソードを使わせていただきますぞ!
題名は・・・そう、『恐怖の谷』!あとは、ホームズ殺すために適当に作った中二キャラのモリアーティーを再利用して・・・」
黒井社長「結構、結構!あ、もちろん我がピンカートン社の名を随所にアピールするのもお忘れなく!フッフッフ!」

(※1914年に発表された『恐怖の谷』の背景となる元ネタは、ピンカートン社社長から教えられた半世紀前の事件である
しかしこの事件、成り上がりの豪腕のアイルランド人炭鉱王ゴウエンが、劣悪な労働環境に抵抗する鉱夫労働組合に対し、
もともとマフィア的であったモリー・マグワイアーズを利用してその犯罪を探偵の証言のもとに裁判で断罪
労働組合=犯罪者集団というイメージを故意に作り出した上で、やはりピンカートン社の傭兵的な自警団・炭鉱警察を使い、
労組弾圧や幹部暗殺を遂行することの正当化に利用したとの評価もある
組織に潜入するマクパーランド→http://www.loc.gov/rr/news/topics/images/mollie.gif

いずれにせよ、有名なワイルドバンチ強盗団をはじめとする多くの西部の無法者たちを葬り去った偉業と同時に、
1892年のカーネギー鉄鋼のホームステッド製鉄所における工員ストライキへのピンカートン警備隊の一斉射撃事件に代表されるように、
ピンカートン社には『資本家たちの傭兵隊』『労組潰しのスパイ組織』という負のイメージも強かった
世界的に有名なホームズ作品で『活躍劇』を喧伝されることは最高のイメージ戦略であったのは間違いない)


331 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:34:33
〜心霊作家コナン=ドイルの事件簿「高名な亡霊人」〜

<1924年5月28日 ロンドン・ピカデリーサーカス広場>

春香「あ、先生!最近、ホームズの新作も多く書いてくれるようになった反面、
ファンにすら『最近の作品、露骨に手抜きじゃね?』って言われ始めてるコナン=ドイル先生!」
コナン=ドイル「いやだって、世界中に心霊主義の素晴らしさを講演して回る講演旅行が忙しいし・・・
で、でも、『ソア橋』はそこそこ良い出来だったんじゃないかと思うんだが・・・」
春香「そうですね、あのトリックは個人的には今までの作品の中でも屈指の出来だったと思いますよ!
でも、『マザリンの宝石』とか『這う男』とか、あれはいくらなんでも酷すぎるというか・・・」

コナン=ドイル「ホームズが心霊主義に目覚めるエピソードとかならやる気出るんだけどなぁ、書いていい?」
春香「お願いですからそれだけは止めてください、ウチが焼き討ちにあうどころかロンドン中で大暴動が起きます!マジで!
それくらいなら今のクオリィティーで十分ですので!
・・・で、今日、先生にわざわざこんなところにお呼ばれされた理由は何なんですか?」

コナン=ドイル「今ひとつ君は心霊主義の素晴らしさが判っていないのがどうにも歯がゆくてね
それで実はこれから、この近所で最近亡霊の目撃証言が多く報告されている建物に調査に向かうんだが、君にも同行してもらおうと思って」
春香「ええ〜、ありがた迷惑すぎる・・・まぁ、でも話のタネくらいにはなるかなぁ」

<ピカデリー・サーカス近くの建物の一室>

コナン=ドイル「・・・という訳で、今回はプロの霊媒の方2人にも同席してもらって、基本的なテーブルターニングを行う」
堀裕子「アー、アー、私は超能力者デース・・・じゃなかった、霊能力者のオカルティックユッコです!え?スプーンは曲げなくていいの?」
白坂小梅「あ、あの・・・れ、霊媒とかそんなんじゃないんですけど・・・が、頑張ります・・・」

春香「だ、大丈夫かなぁ、この二人で
え、ええと!そういや今日はテーブルターニング※をやるって言ってましたね」
コナン=ドイル「うむ、交霊会の定番だしね
やり方はシンプルだ、テーブルを囲んで出来れば男女交互に座って両手をテーブルに乗せ、部屋を真っ暗にして霊の登場を待つ」

(※1848年にニューヨーク州ハイズヴィルで6歳と8歳のフォックス姉妹が始めた降霊術の発展系である
フォックス姉妹のものは、質問に対して霊が壁や床を叩いて答えるというシンプルなものであった
この「ハイズヴィル事件」がその後1世紀近く続く心霊主義運動のキッカケとされている
他にも、ヴィジャ盤と呼ばれる文字盤に指を重ねて降霊を行うという手法も一般的で、
これらが日本に入って『こっくりさん』のルーツとなったとされている
ヴィジャ盤→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8e/English_ouija_board.jpg
ちなみに元祖霊媒のフォックス姉妹は後に、質問に合わせて足の指の関節を鳴らすインチキであったと告白している
フォックス姉妹→http://i.imgur.com/7m6JIjn.jpg


332 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:35:02
春香「さ、さすがに懐疑主義者のわた春香さんでも、幽霊屋敷で深夜に真っ暗っていうのはドキドキですね・・・」
小梅「シッ!だ、誰か・・・来た!か、階段を、男の人が降りてきます・・・
ひ、ヒゲを生やした細い目で、ずる賢そうな顔つきの人・・・あっ、ご、ゴメンナサイ・・・」
春香「えっ!?見えない、見えないよ?何にも見えないですよ!?」
コナン=ドイル「安心したまえ・・・私にも見えないから!というか見えたことがないんだよね」
春香「(ビックリするほど頼りにならない!この爺ちゃん!)」

裕子「ほら!テーブルが動き始めましたよ!ゆっくりテーブルが回り始めてます!
オカルティックパワーですね、これは安定した霊みたいですね♪」
春香「(た、確かに、ガタガタ動き始めたけど・・・誰かが手か足で動かしてるんじゃないの?真っ暗で見えないけど・・・)」
コナン=ドイル「よしよし、これなら理性的な応答が期待できそうだぞ!まず最初の質問は・・・」

春香「ええっと、今までの質問の内容をまとめると、男性の幽霊さんで、何か悔やむことがあってさまよっている、と」
コナン=ドイル「ちょっと名前をお伺いしてもいいかな、アルファベットを読み上げるので、該当する場合にはテーブルを叩いてください」

春香「・・・ええと、L・E・N・A・N・・・レナンさんかな?」
小梅「あ、あの・・・ちょっと違うって、AじゃなくてIだって言ってる・・・」
コナン=ドイル「LENINね、なるほど・・・レーニン!?なんてこった、亡くなったばかりのロシアの革命指導者じゃないか!?」
春香「いや、確かに今年の1月に亡くなったばかりだし、亡命時代に何度もロンドンに来てるし、ヒゲだし、細目だし、ずる賢いし、ハゲだし・・・」
裕子「あ!何かどうしても伝えたいメッセージがあるみたいですっ!あとハゲ言うなって」

『芸術家たちは、利己的な国民を奮起させねばならない』

小梅「あ、あと、英露は友好関係を結ばなければ大戦争になって、ロシアは非常に強大な国家になるだろう、って
・・・えっ?天海スターリン・・・それは運命の中心(CORE)へと向かう三人の青年と一人の少女の物語・・・?」
春香「なんか最後の方、時空を超えてノムリッシュホモが混線してるような・・・」
コナン=ドイル「芸術家か・・・そう、われわれ芸術家の国境を越えた連帯こそが世界平和をもたらすと、彼は言いたかったのだな・・・」

(※テーブルターニングの真偽はともかくとして、保守的で貴族で敬虔なカトリック信者でもあったコナン=ドイルが、
レーニンの亡霊との交流に成功したと確信し、彼にきわめて好意的な印象を持っていたという事実は興味深い)


333 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:35:30
〜心霊作家コナン=ドイルの事件簿「瀕死の奇術師」〜

<1926年10月22日 アメリカ・デトロイトの劇場の楽屋>

春香「しっかし先生、稀代の奇術師にして最強最大の霊媒の敵、ハリー・フーディーニ※さんと親交があるとは思わなかったなぁ
『心霊主義の伝道師・聖パウロ』ことコナン=ドイル先生と、片っ端から霊媒のインチキを暴いてまわってるフーディーニさんって、
いわば最大の敵同士じゃないですか、なのになんで普通に楽屋に遊びに来てるんですか?」
コナン=ドイル「いや、だって、知り合いの霊媒たちがみんな『フーディーニはまもなく死ぬ!』って予言してるんだもの
私をあちこちで馬鹿にしてるのは知っているけど、彼は基本的に非常に善良な男だし、人として放って置けないだろ?」

(※ハンガリー生まれのユダヤ人・アシュケナージーの移民で、『脱出王』の異名を持つ史上屈指のマジシャン
ワシントンやロンドンの最厳重警戒刑務所の監房、シベリア流刑囚用の監獄列車などからも裸の状態から、容易く脱出してみせた
また、何重にも厳重に縛られ手錠をかけられた状態で氷河、海中、地中深くなどに投げ込まれながらも、やはり脱出してのけている
が、同時に熱心な霊媒ハンターとしても知られており、あらゆる能力を駆使して多くの霊媒師のインチキを暴き、
警官同伴で詐欺を立証してみせて逮捕させ、さらには高額の賞金を賭けた公開対決ショーまで企画してみせた
フーディーニの超人的な肉体→http://i.imgur.com/p6Kk1fA.jpg


334 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:36:14
真「ボクも、『もうあなたとは絶交だ!』って公言して、あちこちでこの人の盲信してるインチキを散々批判してるんだけどなぁ
何というか、憎めない人なんだよね、この人、いい人すぎるし、頭はすごく良いのに騙されやすすぎるというか
根は善良な人だし、何だかんだ付き合いが続いてるんだよね」
コナン=ドイル「それはお互い様だろう、フーディーニ
君の人間愛の深さや、気前の良さ、家族への愛情や極めて高い知性と超人的な身体能力には私も敬意を感じているんだよ
あとは君のその虚栄心と、心霊主義の真理への盲目的な憎悪さえなければなぁ・・・」

真「だから、その原因の一つを作ったのはあなたでしょ!
1922年に、ボクが亡き母に会いたいからって、あなたに霊媒の紹介を頼んだら・・・」
コナン=ドイル「私の妻ジーンが、君の母親の霊を憑依させて自動筆記※したのだったね
あの時の君は、私の目には随分感動していたように見えたのだが」

(※心理学的にはオートマティスムと呼ばれる現象で、トランス状態・自己催眠状態の人間が『無意識に』行う記述行為のこと
この手法は日本にも多く例が見られ、神が憑いた状態での『お筆先』などと呼ばれ、
天理教や大本教などの新興宗教の他、2.26事件の首謀者・北一輝が妻の自動筆記や霊言に傾倒していたことが知られている)

真「確かにどうしても母とは再会したいって想いが強かったから、あの時は感動しましたけど・・・
よく考えたら、ハンガリーで生まれ育った母が英語でメッセージを送ってくるわけないじゃないですか!
それに、母と決めていた『合言葉』が無かったし!ま、その後も様々な自称・霊媒師に会いましたけどみんな同じでしたけどね」
春香「た、確かに、『アイ・アム・イエス=キリスト』並に信用できないですよね、それ」

コナン=ドイル「いや、それは、君が心霊主義と死後の世界を正確に理解していないがゆえの誤解であってだね・・・」
真「何でもインチキ霊媒師のみなさんによれば、ボクはまもなく死ぬそうですから
もしボクが死んだら、妻とあらかじめ決めてある秘密の暗号使って、あの世からメッセージと母との合言葉を通信しますんで、
ぜひ解いてみてくださいよ、正解者のために高額の懸賞金も用意してますしね!
ま、当分、ボクも死にそうにないですけどね、ハハハ!」


335 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:36:40
大学生TDN「・・・あの、公演前に自分、お邪魔していいっすか?」
真「ん?まぁ、別にいいけど・・・何?サインでも欲しいの?」
TDN「フーディーニさんって超人的な肉体の持ち主で、力いっぱい腹パンしても全然平気だって聞いたんで、試していいすか?」
真「うーん、まぁいいけ、どぉッ!(ドスッ)ッ・・・!」
DB「え?こんぐらいパンチ入れれば上等っすか?(ドスッドスッ)」
HTN「ウィヒ!(バキッボコッ)」

コナン=ドイル「止めたまえ、君たち!彼は準備もなにも出来ていないんだ!死んでしまうぞ!」
DB「おい、やべえよ、やべえよ・・・」
春香「フーディーニさん、大丈夫!?いま、救急車、呼びますから!!」
コナン=ドイル「これはまずい・・・内臓、おそらく盲腸に深刻なダメージを受けている!」
真「せ、先生、これはちょっとドジを踏んじゃったなぁ・・・さっきの暗号の件、先生の挑戦を期待してますよ・・・ゴホッ!」

『フーディーニは誤りなくたしかに素晴らしい才能の持ち主であった。
彼の死によって、世界はそれだけ貧しくなったといえるほどフーディーニは偉大な存在であったと言えよう。』
                      〜コナン=ドイル〜

(※超人フーディーニは、このコナン=ドイルの目の前で受けた暴行による盲腸の破裂が原因でまもなく死亡した
フーディーニの『霊界からの暗号通信』と合言葉は、1928年に霊媒アーサー・フォードによって『受信』され、
一度はフーディーニの妻ベアトリスも、これが自分とフーディーニとその母しか知らないものだと確認している
・・・が、実は彼の暗号も合言葉も、彼自身の伝記やベアトリス自身のミスから外部に漏れていたことが後に判明し、ベアトリスは確認を撤回した)


336 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:37:06
〜心霊作家コナン=ドイルの事件簿「コナン=ドイル最後の挨拶」〜

<1930年7月13日 ロンドン・アルバートホール>

春香「先生、そろそろホームズの新作を・・・って、もう無理になっちゃいましたね
先生、最期まで『私には次の偉大な冒険が待っているんだ』って病床でも楽しそうにしてらっしゃったな・・・」
裕子「そうです!先生は単にこの世界から心霊の世界に移住されただけですから!ちっとも寂しくないんです!」
小梅「だ、だから、今日は先生とみんなが再会する日・・・『再会式』だから・・・もうじき会える、きっと・・・」
春香「死は終わりではなく、次の世界への旅立ちに過ぎない、かぁ・・・
こういう死生観も悪くない、のかな?」

(※1930年7月7日、コナン=ドイルは死去した。
しかし死の直前まで彼も、彼の妻も、穏やかに過ごし、葬儀も行わなかった
そして7月13日には、大勢の支持者たちによってアルバート・ホールで『再開式』が行われ、霊媒を通じてメッセージを伝えた、という

コナン=ドイルのドヤ顔心霊写真→http://i.imgur.com/CO937YC.jpg


337 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:37:32
春香「と、と、という感じで、コナン=ドイルさんの最期は悲壮感のない穏やかなものだったみたいだね!
この人は、ホームズやチャレンジャー教授以外にも、中世騎士道物語のナポレオン戦争版ともいうべきジェラール准将シリーズとか、
それこそ心霊主義についての著作もたくさん残しているから、すっかり涼しくなった秋の夜長に・・・って、ほ、ホントに寒いな・・・
こ、こ、小鳥さん、間違えてクーラーつけてっちゃったのかな?(ブルブル)」
千早?「・・・ねぇ春香、科学の発展は、たしかに月面の風景ように世界を荒々しく赤裸々なものにしたわ
でも本当は、私たちは、限られた知識の外側を、絶えず巨大で幻想的な存在が横切り続けているのを意識しているのではないかしら・・・?」
春香「・・・へ?それって・・・へ、へ、へ・・・へっくし!!」

赤羽根P「・・・ただいま〜!って、うわっ、事務所やたらに寒いな!
あれ?春香が誰かと喋ってる声が聞こえてたんだけど、事務所には他に誰もいないな、独り言かい?」
春香「はい?いや、何言ってるんですか!ねぇ、千早ちゃ・・・あれ?千早ちゃんは?」
千早「・・・ただ今帰りました・・・って、なにこれ!?何で事務所がこんなに寒いの!?」
赤羽根P「千早は今日ずっと俺と営業回りだって言って行かなかったっけ?」

春香「え・・・?え・・・・・・!?じゃ、じゃあ、私がさっきまで喋っていたのは・・・誰・・・!?」


338 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:37:56
今回の話を書いている間、ちょくちょくPCの電源が落ちて一度、書き溜めてた文が消えました
直前にSteamで落としたゲームの推奨スペックが異常に高かったり、CPUの温度が高いって警告もあったけど、確実に霊の仕業です
個人的にはユルい懐疑派でライトなシャーロキアンだけど、晩年のコナン=ドイル、嫌いじゃないです
コナン=ドイル自身の書いた心霊学の本『コナン・ドイルの心霊ミステリー(旧題・神秘の人)』を参考にしました
ホームズ以外の作品の面白いので、機会があれば是非、ジェラール准将シリーズはじめ歴史小説もどうぞ!
ちなみにホームズシリーズは現在、全作品ネット上で読めます
コンプリート・シャーロック・ホームズ→http://www.221b.jp/

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191
・「第十一話」>>209
・「第十二話」>>227
・「第十三話」>>257
・「第十四話」>>281
・「第十五話」>>299
・「第十六話」>>323


339 : 名無しさん :2015/10/23(金) 20:41:07
霊こわいなぁ〜


340 : 名無しさん :2015/10/23(金) 21:40:00

すっごい二面性の持ち主やなぁ


341 : 名無しさん :2015/10/23(金) 22:28:02
理論派の行きつく先って
案外こういったオカルト的なものかもしれませんね…

ところでフーディーニさん
これ謀殺じゃあ…


342 : 名無しさん :2015/10/23(金) 23:28:02
シャーロキアンとかいう世界最古のオタク集団
これって、今のオタクに例えると何だろ?
ほのぼの日常系漫画で大成功した漫画家がいきなりリアルにグロな漫画描きはじめたくらいの衝撃かな?

……コナン・ドイル、蒼樹うめ説


343 : 名無しさん :2015/10/23(金) 23:40:19
この頃のバイエルンはもうヴィッテルスバハ家か


344 : 名無しさん :2015/11/01(日) 20:21:49
すいません、明日には何とか間に合うと思います・・・
遅筆でスンマセン、センセンシャル!


345 : 名無しさん :2015/11/01(日) 20:34:36
焦らなくてもええんやで


346 : 名無しさん :2015/11/01(日) 21:32:08
急いでクオリティ落ちるのと、じっくり作って高クオリティ維持するのなら、ワイは迷うことなく後者を支持するで


347 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:24:38
【第十七話】春香「クレオパトラの鼻がもう少し低かったらどうなったろう、千早ちゃん」

千早「それって、ちょっとしたことで歴史が変わったかもしれないってこと?」
春香「ってフランスの哲学者パスカルが、ウィットのある例え話として言ってるんだけどね」
千早「その例え話聞くといつも思うのだけれど、鼻の高さでそんなに顔って変わらないんじゃないかしら?」
春香「ま、確かに実際に残っているクレオパトラ7世じゃないかと言われてる胸像もあるんだけどさぁ・・・
http://i.imgur.com/7cZtKiA.jpg

千早「確かに美人だけど、思ってたのと違って優しそうな印象の顔立ちね、別に特徴的な鼻って訳でもなさそう」
春香「クレオパトラさんは美貌より、雰囲気や知性や演出力で男の人を虜にしてたみたいだし、歴史は変わりそうにないよね
ずばり、もっと的確な例えがあると、わた春香さんは思うんだよね!
・・・『如月千早のバストサイズがもう少し大きかったら、アイマスの歴史ももっと変わっていただろう!!』」
千早「・・・くっ」

小鳥「確かに。一理あるピヨ!」
律子「『あるピヨ』じゃないですよ、小鳥さん(半ギレ)
・・・まず、その小林幸子みたいなド派手なコスプレは何なんですか!?」
小鳥「サッチンじゃないですぅ〜!映画『クレオパトラ(1963年)』のエリザベス・テイラーのクレオパトラのコスプレですぅ〜!
(※こんな感じ→http://i.imgur.com/42z1vEu.jpg)」

律子「(イラッ)ああそうですか、クレオパトラですか、で、何でそんなカッコで出社してきてるんですか?」
小鳥「いや、だって、きのう池袋でハロウィンコスプレパーティーがあって、
それで今年は『監獄学園』の花ちゃんで行くか、『WORKING!!!』のことりちゃん(女装)で行くか、
ギリギリまで悩んだけど結局、王道を往く世界三大美人で勝負しようと・・・
あ!菜々さんは今年は『WORKING!!!』のぽぷら先輩のコスで来てたよ!」

律子「いや、小鳥さんのコスプレの趣味を聞いてるんじゃなくてですね・・・
それは置くとしても、そんなカッコで遅刻出勤って、うわっ、お酒くさい!」
小鳥「・・・年下のコスプレ仲間がみんな旦那連れて来てた、若い子もいっぱいいたし、カップルも多かったし!
そりゃ、やけ酒ですよ!はしご酒ですよ!徹夜で飲むしかないじゃないですか!
むしろ二日酔いなのにタクシーで出社してきた社畜精神を褒めて欲しい!!」
律子「・・・二日酔いじゃないですよね?まだ、全然お酒抜けてないですよね?(半ギレ)」

小鳥「何よぅ、クレオパトラの頃のピラミッド作ってた奴隷たちでも、『二日酔いなんで休みます』って気楽な生活だったんでしょ!?
絶望した!現代日本のろーどーかんきょーに絶望した!そう思うでしょ、千早ちゃん、春香ちゃん!?」
千早「いや、小鳥さんの場合は完全に弁護の余地がないと・・・」
春香「・・・間違ってる!!小鳥さんは完全に間違ってますよ!反省してください!!」


348 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:25:02
千早「春香・・・」
春香「その俗説の元ネタはNHKの番組らしいけど、二日酔い云々の出勤簿が発掘されたのは、
新王国時代(紀元前1570〜1069年)の首都でナイル中流沿いのテーベ近郊の王家の谷※の職人集落ディール・アル=マディーナですから!
ピラミッドが建設されていたのは古王国時代(紀元前2686〜2181年)で、ナイル下流の首都メンフィス周辺ですし!
ついでに言うとクレオパトラ7世は、アレクサンドロス大王の武将が建国した末期王朝のプトレマイオス朝の最後で紀元前30年頃の人です!
時代が千年規模で間違ってる!地域が間違ってる!小鳥さんの人生も間違ってる!反省してください!」
律子「・・・うん、そっちにツッこむのね、知ってた」

(※新王国時代の第18〜20王朝の歴代ファラオ=王の集団墓地地区で、有名なツタンカーメンの墓もここ
こんな感じ→http://i.imgur.com/UFUJ8qx.jpg
王墓の密集図→http://i.imgur.com/99o2iea.jpg
有名なハトシェプスト女王の葬祭殿→http://i.imgur.com/GvAhrkg.jpg

春香「ラムセス2世の王墓作ってた職人さんの出勤簿のオストラコン=陶器片の内容とピラミッド建設を混同したみたい
そのオストラコンの内容でも『上司の飲み会に付き合わされたので休みます』とか
『親戚の葬式で・・・』とか『子供の出産で・・・』とか『医者に行くので・・・』とか
現代でも良くありそうな理由が多いみたいですね」
千早「そんなに昔なのに、労務管理が随分としっかりしてたのね」

小鳥「今も昔も、結局は社会の歯車として馬車馬のように働くしかないのね、悲しすぎる・・・
古代の職人さんたちもギチギチに管理されてたくらいだから、ピラミッド作らされてた奴隷たちも・・・
人間、いつの時代も何かの奴隷なのね!奴隷人生を〜考えさせるん♪」
律子「そういうセリフは、せめて馬車馬のように働いてから言ってください」

春香「いや、それがそうでもないんですよね
古王国時代にピラミッド作ってた奴隷たちって、普段は農村で働いてる農奴たちなんですけど
実はへロトドス先生が言ってた地獄の奴隷労働じゃなくて、もっといい加減でテキトーでそれなりに楽しい人生だったみたいでね・・・」

(※古代エジプト人たちの服装→http://i.imgur.com/DFgcuxo.jpg


349 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:25:30
<紀元前2560年頃 エジプト・ナイル川下流の都市ブバスティス近郊の農村>

(※古代エジプト勢力圏の地図→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/17/Ancient_Egypt_map-en.svg

春香「・・・おお〜っ!
大増水して低地帯に氾濫してたナイル川の水が引いてますよ!?」
真「え、ホント?アケト(※増水期)が終わったのかな!?
へへっ、やーりぃ!今日からペレト(※種まき期)の始まりだね!よーし、頑張って農作業始めるぞぉ〜!」
春香「ナイル川の大増水は毎年のこととはいえ、高台の村の堤防を越えるところまで増水しなくて良かった・・・」
真「これもブバスティス・ノモス(※農業共同体から発展した都市圏・州のこと)の守護神バステト女神様のご加護のおかげだね!」

春香「で、ぶっちゃけ私、砂漠の牧畜地帯から連れてこられたばっかで農業知らないんだけど、やっぱ大変?」
真「うーん、重労働、なのかな?ま、とりあえずは農地を耕そう!ほら、春香もクワ持って!」
春香「う、うん・・・ていうかこの農具、ただの木の棒の先にテキトーな板打ち付けてあるだけなんだけど・・・」
真「それでテキトーに目の届く範囲の地面を耕しといて、引っ掻く程度でいいから
その間にボクはウチから大麦・小麦の種もみ持って、羊を連れてくるから!」

春香「テキトーに引っ掻くって・・・うわっ!?まだ地面のあちこち水浸しでグチャグチャだよ、
土壌が柔らかくなってるし水分たっぷりだし、確かにこれは耕す必要あんまなさそうだね・・・」
真「・・・あ、耕すの終わった?まあ、終わってなくてもいいけど、たいして意味ないし
よし!次は種まき!テキトーに種もみをばら撒いて行って!・・・あ、撒くだけでいいから」

春香「・・・えーと、とりあえず袋にあった種もみは全部、あたり一面にばら撒いたよ?でも、これでいいの?埋めたりしなくて」
真「あ、それはボクらの仕事じゃないから、そのための羊だから
そーらお前たち、畑中を駆け回ってこい!いっけー!(鞭ビシッ)」
春香「おわっ、羊がグチャ泥の畑中を駆けずり回ってるよ!畑グチャグチャじゃん!」
真「いいんだよ、あれで種がちょうどいい具合に土中に埋まってくれるんだ
・・・よし、今年の種まきオシマイ!いやー、今日はいい仕事したよ!」
春香「え、オシマイ?土起こしは?畝作りは?肥料は?・・・何にもないの!?」

(※古代エジプトでは、ナイル川の水量にあわせて一年を三季にわけ暦を作っていた
すなわち、アフリカ中央部のヴィクトリア湖とエチオピア高地から水が流れ込んで大増水する増水期=アケト、
流域の低地の水が引き始めてところどころ冠水している状態の種まき期=ペレト、
そしてナイル上流から流れ込む化学肥料並みの沃土シルトのお陰で豊かに実った作物の収穫期=シェウムである
神官たちはシリウスが太陽が昇る前に現れる7月が、ちょうどナイルの氾濫期の始まりと一致することを発見し、この日を新年とした
このため、ナイル川まかせのエジプト農業は、冬に種を蒔き春に収穫することになっていた
農民の一年を描いた新王国時代・ナクトの墓壁画→http://i.imgur.com/vArLcD0.jpg


350 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:26:02
春香「種まきする範囲が広かったのは大変だったけど、後は何も苦労しないで農作業の大半が終わっちゃった・・・
これで収穫量は現代農業並みで、作物の主力は生育しやすいエンマー小麦や大麦、
しかも長年の農業で土壌汚染・衰退の原因となる塩害は、毎年の増水で洗い流してくれるとか
ナイル川チートすぎるでしょ、これ・・・6千年近くも世界最大の穀倉地帯だった訳だよ」
真「でも、結構これでも苦労してるんだよ?
増水量が少なくても、種まきのタイミングを間違えて洪水に全部持ってかれても飢饉確定だし
ま、だからこそ、ナイルの流れを司るクヌム神様へのお祈りや、ホルス神の生まれ代わりのファラオの神力が大事なんだけどね!」

春香「で、麦の種まき終わったけど、あとの季節は収穫までどうするの?」
真「もちろん、仕事はいっぱいあるよ!
レタスや大根、玉ねぎ、ニラ、ニンニク、きゅうり、各種の豆・・・野菜もいっぱい栽培しないといけないし
もちろん家畜の世話もしなきゃいけないし・・・あ、そうだ、せっかくだし漁に行こうか!」
春香「なるほど、これだけの大河だもんね、魚もいっぱいいるだろうしね!」

真「じゃ、この葦(あし)を編んで作ったボートに乗って」
春香「こ、これ、浸水しないかなぁ・・・大丈夫なの?丸木舟とか筏とかないの?」
真「外国ならともかく、ナイルの氾濫原にそんな船の材料になる高木が生えてる訳無いじゃん!」
春香「そうだよね、降雨量が少なくてナイル川流域から離れると砂漠だし、低木が多少生えてる程度だもんね・・・」

真「はい、じゃこれ、糸と釣り針ね!テキトーに手に糸巻いて釣り針垂らしとけば簡単に釣れるから」
春香「えっ、まさかの手釣り!?竿もないの!?・・・ていうか、餌は?」
真「ん?いらないよ?ハハッ、まあやってみなって!ビックリするくらい入れ食いだからさ!」
春香「さすがに疑似餌くらいなきゃ・・・って、魚っ!?いきなりヒキが来た!
ん〜〜〜っ・・・よしっ!釣り上げた!」
真「釣り上げたらその場で即、撲殺!(ボコー)」

春香「古代エジプト人は、釣りもアグレッシブでテキトーだなぁ・・・で、何が釣れたのかな?」
真「ティラピア※だね!こいつらウヨウヨいるから本当にいくらでも簡単に釣れちゃうんだ」
春香「これがティラピアか!『姿も味も鯛そっくりな淡水魚』としてヒッソリと代用魚として活躍してるらしいけど
さすがに川魚を刺身で食べる勇気はないかなぁ、寄生虫こわいです・・・」
真「もちろん生では食べないよ!ホントは揚げ物にしたいけど油は高いから、天日干しか焼くか塩漬けにするか
でも、脂も乗ってて美味しい魚だよ、しかもいくらでもとれるしね!」

(※古代から現代までエジプトで最も食べられている魚のひとつ
ナイル川は他にもスズキ・ナマズ・ボラ・淡水種のフグなど魚の種類も量も非常に豊富で、
モーゼに従って出エジプトしたユダヤ人をして、旧約聖書で『エジプトでは魚もタダで食べられたのに!』と嘆かせた
和名イズミダイ。一時期は温泉地の町おこしとして大量に日本に持ち込まれた
が、あっという間にブームは廃れ、沖縄では生態系を破壊する勢いで異常繁殖したティラピアが後に残された
でもティラピア、美味しいらしいです→http://portal.nifty.com/kiji/131122162455_1.htm


351 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:26:34
春香「・・・いやぁ、ほんとにこんな釣り方でもアホみたいに釣れるもんだね
これもまた『ナイルの賜物』かな・・・って、また釣れた!
・・・ん?これはティラピアじゃないな?口がグッと突き出したヘンテコな顔してるけど、美味しいのかな?」
真「あっ!?ヤバいって、春香!そのオクシリンコスって魚はマズイんだ!」
春香「なんだ、この魚不味いんだ。身が多いし美味しかったら良かったんだけどな」
真「いや、そのマズイじゃなくって!存在がマズイんだって!最悪、戦争になるから!」
(※こんな感じの魚→http://i.imgur.com/imR6vKC.jpg

春香「・・・はい?戦争?」
真「説明するから早く川に戻して、誰かに見られる前に早く!
・・・ふぅ、いいかい春香、あのオクシリンコスはね、神の魚、正確には『オシリス神の一部を食べた魚』なんだ
春香も知ってるでしょ、オシリス神は」
春香「ええと、最初に混沌の海『ヌン』が存在して、そこから太陽神『ラー』が誕生
そのラーの体液から生まれたのが『テフヌウト』と『シュウ』の兄妹の神で、
その近親婚で生まれたのが『ヌート』と『ゲブ』の兄妹の神で、その近親婚で生まれたのが『イシス』と『オシリス』の兄妹の神で、
その近親婚で生まれたのが・・・って、エジプト神話って兄妹でくっつき過ぎでしょ!
最盛期のオーバーフロー作品の人間関係図並みに近親でアレしすぎだって!さすがのソフ倫さんもこれはNG出すって!」

真「ま、まあ、それは創世神話だし、多少は、ね・・・(小声)
こ、コホン!それでそのオシリス神は地上の人間に農業や牧畜を教えた偉大な神だったんだけど、
やっぱり妹のネフティス神と結婚した弟の荒ぶる軍神セト神に憎まれて、殺されて死体をバラバラにされてナイル川に捨てられたんだよ」
春香「シスコンで兄弟殺しでサイコキラーとか・・・エジプト神話は昼メロもはだしで逃げ出すドロドロっぷりなんだね・・・」

真「ええと!とにかくオシリス神の妻で妹のイシス神は、聖なる犬やその他の神たちの力を借りて、
バラバラになったオシリス神の死体を集めて冥界の王として復活させることに成功したんだけど・・・どうしても体の一部が見つからなかったんだ」
春香「あ!それで、その体の一部を食べたのがさっきのオクシリンコスなんだ」

真「他にもレピトタスやシー・ブリム、パイクなんていう魚も、オシリス神の、そのぅ・・・ゴニョゴニョを・・・食べちゃったみたいなんだけど
オクシリンコスは、ジャッカルの頭を持つセト神に似てるってことで、セト神を信仰する人たちに神格化されてるんだ」
春香「そっか、だからオクシリンコスを釣って食べちゃったりしたらその人たちと戦争になってもおかしくないんだね」

(※オシリスのチンポを食べちゃったオクシリンコスを守護神とするオクシリンコス・ノモスは、
犬を信仰する近隣のシノポリスの住民がオクシリンコスを食べてしまったことに大激怒、
街中の犬を殺してシノポリスとの宗教戦争に突入したという記録が残っている
この他にも牛・羊・トキ・ヒヒ・ワニ・鷹・ライオンに、さらにはフンコロガシまで多種多様な動物が神格化されていた
バステト女神を象徴する猫はラーの化身のひとつで、古代エジプト人に大変愛されており、本拠地ブバスティスは猫の楽園であった
バステト女神→https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Bastet.svg/2000px-Bastet.svg.png


352 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:27:00
<シェウム=収穫期>

春香「いやぁ実ったなぁ!特に何にもしてないのに大豊作じゃないですか!」
真「そうなんだけど、収穫って色々と大変なんだよ・・・ほら、神官様と徴税調査団が来た!」

前川みく「うにゃ〜あ♪バステト神官のみくが収穫量の調査に来てあげたんだにゃん!
農奴のみんなはお仕事は真面目にするにゃ!でないと死刑、だにゃん☆」
真「ま、真面目に働きます!よ、よーし、収穫量を誤魔化したりなんて絶対しないで頑張るぞー!」

みく「ほらほら、農奴チャンたち頑張るにゃ!・・・あ、小腹すいたからザクロとイチジク持ってきて!」
春香「神官様、すっかりおくつろぎモードで刈り入れ作業見てるんだけど
・・・ひょっとして収穫作業、ずっとあんな感じで監視され続けるの?」

真「うん。毎年のナイルの氾濫域の広さが違うから、まず農地の測量から始まって、
刈り入れから脱穀まで、ずーっと監視されてるんだよ。神官様たちはすごい計算計測能力持ってるからね
正確に収穫量を調査してゴッソリ税として持っていくんだ。で、少しでも誤魔化しがあったらサクッと死刑・・・」
春香「幻滅しました・・・みくにゃんのファンやめます!」

(※古王国時代の識字率は人口の1%にも満たず、計算計測と記録のための能力を必要とする収税調査官は王族・貴族・神官に独占されていた
彼らは数週間に及ぶ農奴の収穫作業を随時監視計測し、ほとんどの作物を収奪していった
しかしそれでも残される物は多く、パンや野菜・魚・ビールを常食できるという、中世ヨーロッパ農民以上に豊かな食生活だったようだ
当時の庶民のメニュー→
http://www.kirin.co.jp/entertainment/daigaku/HST/hst/no72/


353 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:27:37
<ブバスティスのバステト女神神殿の大祭>

みく「・・・今年もバステト神様のご加護で過分な糧を無事、得ることができました
感謝の証として犠牲の聖牛の生贄を捧げます!」
春香「うへぇ・・・生贄の儀式はいつ見てもえぐいなぁ、リアルに聖牛解体ショー見せられるのも、ねぇ?」
真「うん・・・でも、神聖な儀式だしね、それに・・・」

みく「(仕事だっていっても、何頭も何頭も、血なまぐさい牛さんの解体見守るのは嫌だなぁ・・・)
あー、これにて今年もつつがなく生贄の儀式は無事に終了した!
バステト神に捧げられた牛たちは、儀式に参列した信者全員に聖なる糧として振る舞われる!」
春香「普段は家畜の肉なんてなかなか食べられないのに・・・えっ、今日は全員牛肉食っていいのか!?」
真「ああ・・・しっかり食え、おかわりもいいぞ!」

みく「・・・これよりファラオよりの神殿への捧げ物の発表を始める!
供物用のパン1000個、上質な白パンを1万個、ピラミッド型のパンを2万個、大麦パンを10万個・・・
ガチョウ・アヒル・羊・ハト・魚・・・多種多様の野菜、それに大量のビール・・・」
春香「毒ガ・・・え?あのファラオの供物っていうのも、ひょっとして・・・?」
真「ハハッ!そりゃ、毎日ご馳走食べ放題の神官様たちだってとても食べきれない量だからね!当然、みんなに大盤振る舞いだよ!」
春香「うんたん♪うんたん♪(カスタネット乱打)
感動しました!やっぱりみくにゃんのファンになりますっ!」

(※古代エジプトの神々の神殿では祭りのたびに多くの家畜が生贄として屠られ、その肉が庶民に振舞われた
また、オシリス神の子であるホルス神の生まれ代わりの現人神を自認するファラオも、神々に膨大な量の食料を捧げた
ブバスティス大祭は、約2千年後にエジプトを訪れたギリシャ人へロトドスによれば当時エジプト最大の祭りで、
エジプト全土より70万もの人々が集まり、パンや肉を食べワインをがぶ飲みし、踊り歌いカスタネットを鳴らして騒ぐ盛大なものであったらしい

キリンビールが再現したイースト菌なしの古王国時代のパン・エイシ→
http://www.kirin.co.jp/entertainment/daigaku/HST/hst/no73/


354 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:28:01
<農閑期・シェムウ=収穫期の後半とアケト=増水期>

春香「収穫も終わったし、お祭りも終わっちゃったし
ナイル川の流れもビックリするくらい減ってるし、もうする事なんにもないのかな?」
真「普段ならそうだね、牧畜したり狩猟したり釣りに行ったりテキトーに過ごすんだけど・・・
今年はファラオ・クフ王が首都メンフィス近くのギザの地でピラミッドを建設してるからね
村の若い働き手はみんな、船に乗って労働者として駆り出されるんだよ!」

春香「うへぇ、賦役(ふえき)って奴かぁ・・・奴隷労働、タダ働き、重労働、やだなぁ・・・」
真「何言ってるんだ、春香!神の生まれ代わりであるファラオのために働けるなんて最高じゃん!
それに、何よりもピラミッド建設の賦役って、すごい楽しいんだぞ、ビールも飲み放題だし!ヒャッホー!」
春香「へ?ビール飲み放題・・・?」

(※ピラミッド建設は、全土の農奴を大動員して行われていたが、その実は、
農閑期の農奴たちを働かせる代わりに十分な食料とビールを供給し、残された女子供にも食料が配給されるものであったらしい)


355 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:28:31
<ギザ・クフ王の大ピラミッド建設現場>

春香「はぇ〜・・・びっくり!まだ土台しか出来ていないけれど、メチャメチャ大きいじゃないですか、あれ!」
真「今までのどんなピラミッドよりも比較にならないくらい大きいピラミッドになるらしいよ?
作り始めてもう何年目かだけど、完成まで20年はかかる計算だとか・・・」

(※四隅が正確に東西南北を向く完全な正四角錐であるクフ王の大ピラミッドは、
2.5㌧のブロック約320万個を積み上げる史上空前の巨大建造物であった
建設中のイメージCG→http://i.imgur.com/2QZvnCv.jpg

春香「ピラミッドもすごいけどさ、膨大な労働者のために沢山の労働者村(ワークマンズヴィレッジ)まで作っちゃうとか!
肉屋やパン屋、居酒屋まであるよ!それに広大なエジプト各地から来たいろんな人たちがいっぱいいる!」
真「ボクたち農奴は、普段は自分たちのノモスからは離れて旅なんかできないからね
農閑期に仕事があって、食べ物もビールもいっぱいあって、色んなものが見聞きできて、色んな人達と知り合いになれる
ここで他のノモスの人達と技術や情報交換しあったり、婚活したりってのも珍しくないんだよ?」

春香「確かに、重労働や危険もあるかもだけど、これは楽しいよね!
しかし、楽しみといえば、いまだに謎だらけのクフの大ピラミッドでも最大の謎、ピラミッド建設の謎がわかるのも楽しみ!
ヘロトドスの『起重機で石を積み上げていった説』かな?通説の『らせん状に外周傾斜路を作って石を運んだ説』かな?
それとも今注目のウーダン説、『途中まで直線傾斜路で積み上げて、後はピラミッド内部のトンネルで石を運んだ説』※かな!?」

(※近年、フランスの建築家ジャン・ピエール・ウーダン氏の主張している斬新な建築説
具体的には、1/3の高さまでは直線傾斜路で石を運んで積み上げ、そこから先は、
こんな感じに内部にらせん状の傾斜トンネルを作って→http://i.imgur.com/wnjJCdD.jpg
こんな感じにエレベーター原理も利用しながら石を運んで積み上げたとする→http://i.imgur.com/ZrqPFPW.jpg

確かに、ピラミッド内部にはいくつも謎の空洞の存在が確認されていたり、
農閑期の6〜10月の猛烈な日差しを避けることが出来てしかも効率的であり、説得力のある説ではある
しかし、他のピラミッドとの比較や従来の記録と反する点も多く、現在のエジプト情勢では、
実際にトンネルの存在を確認することもできず、批判的な学説が大勢を占めている
ウーダン氏による動画解説→https://www.youtube.com/watch?v=Mg9mbTbNmlk


356 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:29:09
バッドマン監督「・・・じゃあまず、出身と年齢を教えてくれるかな?」
野獣先輩「テーベ出身の24歳、学生です!」
MUR「ポッチャマ・・・」
KMR「名前は23歳・・・出身はナオキです・・・」
バッドマン監督「えっ、何それは(ドン引き)
じゃ、君たちはピラミッド建設班ね、今日は頑張って石を運んでね」

春香「わた春香さんも、ぜひピラミッド班で!」
バッドマン監督「あ、君たちはクフ王の御座船を埋蔵する穴掘り班ね」
春香「ちょっと待って!ピラミッドの秘密が!ウーダン説が!世界の七不思議が!」
真「へへっ、なんか知らないけど楽そうな仕事で、やーりぃ!」

春香「・・・で、結局ここまできて炎天下の中、穴掘りですか、はぁ・・・」
真「た、確かに思ってたよりもキツい仕事だね、これ。でも仕事終わりのビールもその分、美味しいだろうな!」
春香「考えたらこの穴掘って埋めてやる副葬品の『クフ王の御座船』も、現存する世界最古の船なんだよね
それともこれ、最近、吉村作治おじさんが発見して復元作業してる第二の船の方なのかな?
・・・でも、何でそのまま埋めないんですか?何でバラバラにしてから埋めるの?」

現場監督「ああ〜ダメダメダメ(西田敏行)、そのままじゃ太い、太い、太すぎ!クイズ入らないみたい(名番組)」
春香「はぁ、良くわからないけどコンパクトに収めるためにバラして小さな穴に埋めるんですね
・・・おかげで現代の考古学者が何年もかけて説明書なしの実物大プラモ組み立てする羽目になってるんですけどね」
現場監督「こっちの穴なんかさ、すごいんだぜ?(自慢) 穴が広がってないか?(指摘)」
春香「うん、クフ王の御座船はすごいけど、このおじさんは絶対に流行らない(断言)」

(※1954年にクフ王の大ピラミッドの南側の地中の石室から発見された解体された木造船が、現存する世界最古の船とされている
全長22.32メートル、全幅2.86メートルの、高価な輸入品のレバノン杉の板を利用したこの大型船を復元するのに実に28年がかかった
板材に恵まれなかったエジプト人の生み出した、板をパピルスで接着したり縄で縛って組み合わせる造船技術が使用されている
これ→https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e7/Gizeh_Sonnenbarke_BW_2.jpg
ちなみにこの造船技術は千年以上も使用され続けた
後のエジプトの航洋船の想像図→http://i.imgur.com/8GhXZqO.jpg

なお1987年には日本の誇るトゥーム・レイダー吉村作治教授の早大調査隊が第二のクフ王の御座船を発見し、
2011年から発掘と復元が始まっているが現在のエジプト情勢に苦しめられている状況である
早大の公式→http://www.egyptpro.sci.waseda.ac.jp/khufu.html


357 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:29:51
野獣「ぬああああああん疲れたもおおおおおおおん。キツかったすねー今日は」
MUR「なあ今日はもうすげえキツかったゾ」
真「暑っつぅ〜!ビール!ビール!」
KMR「うふふっ(笑)」
春香「ま、真が完全に三人組に馴染んでる・・・
でも暑かったし仕事もキツかったし現場監督は汚かったし、冷たいビールは美味しいだろうなぁ!」

MUR「あーはやくビール飲もーぜー。おい、冷えてるかー!」
野獣「んぁ、大丈夫っすよ、ばっちぇー冷えてないですよ・・・フゥー!」
春香「冷えてないんじゃん・・・あ、でも、タダで配給されるんでしょ?」
真「そうだよ(便乗)とりあえず居酒屋に行こうよ、ビールを飲ませてくれるよ!」

タクヤさん「あらいらっしゃい!ご無沙汰じゃないですか」
春香「・・・たぶん、初対面だと思うんですけど。とりあえずビールください!!」
タクヤさん「かしこまり!(ガチャンドン!)」
春香「・・・泡立ってないし茶色の液体だけど、ホントにこれ、ビールなの?
(ゴクン)・・・あれ?ちょっと苦味もあるけど白ワインみたいなフルーティーで甘い味で美味しいじゃん!」
真「エジプト人にとってビールは、パンと並んで大事な栄養源だからね!
上はファラオから下はボクたち庶民の農奴まで、みんなビール飲んでるよ!」

(※古王国時代のビールは、パンを焼いてから砕いて水に浸して発酵させてこしただけのものであった
ファラオや貴族・神官たちの飲んだビールは、これに香料やナツメヤシなどを加えたもので、
白ワインのような味わいだがアルコール度も10度と高い酒だったようだ
キリンビールの再現した古王国時代のビール→http://www.kirin.co.jp/entertainment/daigaku/HST/hst/no50/


358 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:30:26
クフ王「はいさーい!労働者のみんな、仕事お疲れ様!
自分、ホルス神の生まれ代わりだけど、庶民のみんなはそんなにかしこまらなくていいぞ!」
太陽神ラー神官長やよい「うっうー!ファラオさまのご巡幸です!みんなズがたかいですっ!」
真「は、ははぁ〜っ!(ほ、本物のファラオだ!故郷でみんなに自慢できるぞ!)」

響「へっへーん!今日は特別に自分の普段飲んでる高級ビールを配給してあげたんだ!
それを飲んで、明日も自分のお墓作りを頑張ってね!・・・あれ、自分のお墓なんだっけ?」
やよい「玄室(墓所)に石の柩っぽいのを置いておく設計だから、たぶんお墓です!たぶん!
(※実はクフ王の埋葬場所はまだ見つかっていない。王墓じゃないんじゃないのという説もある)」

響「ま、まあ、何だか良くわからないけど、なんくるないさぁ!
どっちにしても、誰も作ったことのない巨大な建物だから自分の偉さが、後の世の人たちにも伝わるから問題ないぞ!」
春香「・・・んあ?あれ、クフ王さんれすかぁ?ファラオって、あれですよね、ホルス神の生まれ代わりで偉いんれすよねぇ〜?」
真「は、春香、おそれ多いって!やばっ、アルコール度高すぎて完全に酔っ払ってる!」

響「そうだぞ!自分はホルス神と同等だから神様そのものなんだからな!
ワニ子(※ワニ頭のセベク神)もへび香(※コブラ頭のメレトセゲル神)もねこ吉(※バステト神)も、みんな家族なんだぞ!」
やよい「うっうー!ファラオは、もっともえらい太陽の神様ラーの子孫なんです!だからとってもえらいかなーって!」
春香「ラー神の子孫・・・そっかそっかぁ、じゃあ、ラー神の直接の代理人のラー神官たちと、
ラー神の玄孫ホルス神の代々の生まれ代わりのファラオと・・・どっちが偉いんれすかぁ〜?」

響「・・・えっ!?その・・・ど、どうかな、えっと・・・あれっ?」
やよい「わっかりましたー!!答えは最高の神、パーフェクトサンのラーの神様の言葉を直接つたえる私たちですっ!!」
真「パーフェクトサン・・・なんでだろう、すごく懐かしい気持ちになる・・・」
春香「やっぱり太陽と言えばわた春香さん!春香さんは古代エジプトでもメインヒロインだったんですね!
あとアイドルマスターSPはダウンロード版が現在も絶賛発売中だけど、パーフェクトサンだけ買ってね!!」

(※神権=王権の絶対的な権威と権力を兼ね備えた古王国のファラオたちであったが、
最大のピラミッドを建設して勢威を誇ったクフ王や第二・第三ピラミッドを築いたカフラー王、メンカウラー王の時代以降、急速に衰退していく
へロトドスは、ピラミッド建設を衰退の原因だと書いたが、現在ではファラオに変わって祭事や実務を担当し、
代々のファラオから莫大な土地や財産の寄贈を受けてきたラー神官団の台頭によるものと考えられている
このため王家の財政も逼迫し、百近いピラミッドが築かれたが、遂にクフ王のピラミッドを越えるものは登場しなかった

クフ王→http://i.imgur.com/HImJ1Da.png
有名なクフ王の大ピラミッド→http://i.imgur.com/gLi8l6W.jpg


359 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:30:58
春香「という訳で、ファラオさんはその後は神官団や諸侯の台頭や、周辺諸国の侵略に何千年も苦しむ事になるけど、
偉大なナイル川のおかげでエジプトの農民さんたちは意外に豊かな生活だったみたいだよ?」
千早「古代エジプト人って、高度な文明を作った緻密で謎めいた知的な人々ってイメージだったけど
意外にいい加減というか、我那覇さんっぽく言えば『てーげー主義』で楽天的な人たちだったのね」

小鳥「古代エジプト、いいなぁ・・・私もその時代に生まれたかったなぁ〜!」
春香「そうですねぇ、女性にも家督相続権があったり財産相続権も男女平等だったり、女性の地位も悪くなかったみたいですしね」
小鳥「ますます良いじゃない、古代エジプト!ドラえも〜ん、タイムマシーンはどこ〜!?」
春香「あ、ちなみに古代エジプトの女性の結婚適齢期は12〜15歳だったみたいですよ?」
小鳥「えっ・・・何それは・・・(絶句)」
千早「12歳って・・・それもそれで極端ね・・・」
律子「結婚適齢期がアラサーの現代日本に生まれてよかったですね、小鳥さん(ニッコリ)」


360 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:31:23
テキトーでノリで生きてるのに、何故か三千年以上も高度な文明続いちゃった古代エジプト人とチートすぎるナイル川のお話
あと、会社の総力を挙げて最古のビール、エジプト・中世・日本初のビールや食生活の再現をしてくれてるキリンビールは神
『キリンビール大学』の史学科は中世史好きにはありがたすぎて涙が出ます、必見!
http://www.kirin.co.jp/entertainment/daigaku/about.html
ちなワイ、エビスビール派です・・・すいません、キリンビールも飲みます(小声)

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
・「第七話」>>95
・「第八話」>>127
・「第九話」>>152
・「第十話」>>191
・「第十一話」>>209
・「第十二話」>>227
・「第十三話」>>257
・「第十四話」>>281
・「第十五話」>>299
・「第十六話」>>323
・「第十七話」>>347


361 : 名無しさん :2015/11/02(月) 21:04:12

ファラオさんぐう聖やんけ!


362 : 名無しさん :2015/11/03(火) 15:23:26
新作来てたのか!
僕はやっぱり王道を往くオリオンビールですかね


363 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:05:43
【第十八話】春香「アイマス天海、ガルパン劇場版をマネジメントだよ、千早ちゃん!」

春香「いよいよ今月21日劇場公開に迫った今冬イチオシの話題作『ガールズ&パンツァー劇場版』
4号戦車を操る低血圧気味の天才操縦手に、なぜか強い対抗意識を燃やしているのはご存知、
765プロのメッサーシュミットMe163、秘密のままにしておきたかった音響兵器アイドル天海春香である。
軍神様を雪歩に、操縦手を愛用の超薄型パソくん(人型歌唱機能付き)にすり替え、
自身も船坂軍曹級のチート新キャラとして登場して、メインヒロイン(笑)として作品を乗っ取ることを決意した天海。
早速東京メトロさんの都営新宿線に乗って『コメット(彗星)』の如く新宿三丁目のアニメ映画の聖地『バルト9』に向かう。
そこで間もなく舞台挨拶の打ち合わせに来ていた何故かサンライズ立ちの偽春香を発見したわた春香さんは、
バルト9内のアニオタ御用達のカフェ『OASE』で調達したブレインサンダーで・・・
あれ、売ってない・・・」

(※『ガールズ&パンツァー劇場版』は今月21日より新宿バルト9はじめ全国で公開予定!
公式サイト→http://girls-und-panzer.jp/
ちなみにバルト9の『CAFÉ OASE』は、公開しているアニメ映画とのコラボ企画で有名なお店で、
期間限定で危険ドラッグブレインサンダーも飲めてしまうサービスも行っていた
http://i.imgur.com/65gAzLr.jpg

千早「・・・黙ってさっきから見てたけど、広いシネマコンプレックスの中で一人変なテンションでまくし立てるのは、一緒にいて恥ずかしいから・・・」
春香「ごめんごめん、はるかさんつながりで『Go!プリンセスプリキュア』見に来ただけなのにね
わが春香会的には春野はるかさんは名誉会員だし、やっぱり応援してあげたいというか
だけど、なんか良くわからない眼鏡アイドルの謎電波を急に受信しちゃって・・・」

千早「まあ、なんでも、いいですけど
バルト9さんやOASEさんには私たちもお世話になったんだから迷惑をかけるのはやめてね?
というか、コラボ企画でのドリンクって言えば私たちも大々的にやって頂いたわよね、春香も・・・」
春香「知らない、知らないなぁ!イメージカラーに合わせた微妙すぎる味のドリンクなんて知らないなあ!!」

(※昨年公開された『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』は、バルト9だけで41000人という空前の動員数を達成した
当然リピーター人数もかなりの割合になるだろうが、新たなアイマス伝説の聖地の一つとなったことは確かである
・・・三回くらいならリピーターの内には入らんのでセーフ
http://i.imgur.com/R8lttv5.jpg
http://i.imgur.com/d1IGPxh.jpg


364 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:06:14
千早「まさかこの歳になってプリキュア映画を見に来ることになるとは思わなかったけど、なんというか、大人の観客も多いのね・・・」
春香「この業界、大きなお友達を笑うものは、大きなお友達に泣く事になるからね、ものすごく大事ですよ!
プリキュアのファン層は幅広いからねぇ・・・もともと特撮ファンだったけど同時間帯で何気なく見ていたらとか、
子供と一緒に見ていたらハマったなんておじ・・・お兄さんも随分多いんじゃないかなぁ?」

千早「それで、映画も見終わったけれど、この後どうする?さっきの『CAFÉ OASE』さんでも・・・」
春香「いやいやいや!せっかく新宿三丁目まで出てきて、お茶する喫茶店をそんなに簡単に決められないでしょ!
この界隈だけでどれだけの名店があると思ってるの、千早ちゃん!?」
千早「さ、さぁ・・・(なぜか怒られた・・・)」
春香「うん、とりあえずは新宿通り渡ってから決めよっか」

(※新宿三丁目周辺のグーグルマップ。バルト9は、新宿マルイアネックスと同じ新宿三丁目イーストビル内
https://www.google.co.jp/maps/@35.6910675,139.7068761,18.22z?hl=ja


365 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:06:45
千早「・・・通り渡ると、雑居ビルの密集した小さな路地ばかりのエリアなのね」
春香「そうだね、基本的にちょっとだけ大人向けの飲食店が多いエリアなんだよね」
千早「さっき喫茶店の名店ぞろいだって言ってた気がするけど・・・」
春香「あ!もちろん喫茶店もありますよ、伝統と多くのエピソードに彩られた名店が!
たとえば、ここ!『どん底』!」
(※こんな感じ→http://i.imgur.com/iIxP1u8.jpg
意外に若い世代が入っても居心地は良いお店。ピザがオススメ)

千早「へぇ・・・ビル街のど真ん中とは思えないような瀟洒な佇まいのお店ね・・・」
春香「えへへ、でしょ?この隠れ家的な雰囲気もイイんだけれどさ、1951年創業のこのお店!
何よりも多くの文化人、俳優、ミュージシャンが贔屓にしてきた超名店なんだよね!」
千早「業界人御用達・・・って感じのお店なのかしら・・・?」

春香「『どん底』創業50年を記念して、過去から現在までの著名人たちのコメントを集めて公開してるんだけどさ、顔ぶれがすごいんだ!
・・・あ、これお店の公式HPで、ここから見れるんだけど・・・
http://www.donzoko.co.jp/index.html

千早「どん底今昔・・・ええと、三島由紀夫・黒柳徹子・美輪明宏・山下洋輔・越路吹雪・青島幸男・美川憲一・尾藤イサオ・・・
なにこれ、超一流の人たちばかりじゃない!」
春香「岸田今日子・富士真奈美・吉行和子のいつもの三人組はもちろん、
他にも大山のぶ代さんや熊倉一雄さんなんて人たちもコメント書いてるね
特に三島由紀夫が贔屓にしてたのは有名な話なんだけど・・・」

『・・・酒場「どん底」では、どん底歌集というものを売っていて、ある歌を一人が歌い出すと、期せずして若人の大合唱となる。
喚声と音楽が一しょになって、なまなましいエネルギーが、一種のハーモニィを作り上げる。
何んとも言えぬハリ切った健康な享楽場である。
(アメリカ人編集者)夫婦はしきりにこれをアメリカの酒場との比較して、日本人の享楽がかくも友好的で、
なごやかで、けんかっぽくないのにおどろいていたが、私も、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジの酒場の暗い絶望的なふんいきを思いうかべた。
・・・銀座の高級バアーでコソコソ個人的享楽にふけっている連中にくらべると、
焼鳥キャバレーやどん底酒場のほうが、よほで世界的水準に近づいているように、私には思われるのであった。』


366 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:07:15
千早「ベタ褒めね・・・当時の若いアーティストや文化人たちが夜毎に集まっては飲み、歌い、議論し・・・とっても楽しそうな風景が思い浮かぶわね」
春香「まさに日本の戦後文化史が作られた歴史の舞台そのものって言っても良いんじゃないかな、このお店
あ、ちなみに個人的には三島由紀夫がNYのグリニッジヴィレッジと比較して、さりげなくDisってるのが面白いかな?」

千早「グリニッジ・ヴィレッジって・・・?」
春香「ニューヨークの若きアーティストたちの溜まり場となっている地区だね
・・・同時に、アメリカきっての同性愛者たちのコミュニティーの場でもあったりする
特に1969年6月27日のゲイ差別に対する大暴動『ストーンウォールの反乱』の舞台になったお店、
『ストーンウォール・イン』は有名なゲイバーだったんだけどさ、事件前に訪れた三島は人種差別されて門前払いされてるんだよね・・・
あれ、この話、前にどっかでした気がするんだけど、気のせいかな?」

千早「気のせいでしょ(断言)
でも、その体験があったからこそ、三島さんは『どん底』の開放的で水平的な雰囲気に感動したのかもね・・・
あっ、そういえばここ、それこそ日本最大のゲイコミュニティー新宿二丁目の目と鼻の先じゃない!?」
春香「実はそうなんだよ〜!
美輪さんも『どん底で当時の彼氏たちと良くデートした』って書いてるけど、新宿2丁目初(厳密には現3丁目)のゲイバー『イプセン』も、
1950年代にこの新宿三丁目の要通りあたりでオープンしたみたい」

(※三島由紀夫とも浮名を流していた当時の、『神武以来の美少年』と呼ばれた美輪明宏30代の姿→http://i.imgur.com/u446PBs.jpg
さすが神武天皇以来=2600年に一人の美少年、つまり橋本環奈2.6人分の艶姿である)


367 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:07:40
千早「あ、そういう意味も込めて、三島さんがグリニッジ・ヴィレッジとここを比較したのね・・・」
春香「うん、そうだね。60年代ごろから急激に同性愛者関係のお店が増え始めたらしいし
そういえば、新宿二丁目が日本最大のゲイタウンになったキッカケが、1964年の東京オリンピックだって知ってた?」
千早「・・・なんでオリンピック開催するとゲイタウンが生まれるのよ(困惑)」

春香「もともと2丁目周辺ってさ、江戸時代に内藤新宿って呼ばれてた頃からの大きな遊郭街だったんだよ
でも、東京オリンピック開催にあたって、政府は大急ぎで正式に売春禁止法を成立・施行
全国で売春の取締・廃業化が進んで、公認の売春地帯(赤線地帯)だった新宿遊郭のお店も軒並み廃業!
それで、空家だらけの廃墟街になっていた2丁目に次々と入り込んできたのが・・・」
千早「同性愛者関係のお店だったってわけね。
なるほどね、そうやって若い文化人や芸術家たちが自由を謳歌する開放的な気風が元々この界隈にあったから、
ゲイマイノリティーが受け入れられる大きな街へと発展していったのね・・・」

(※旧新宿遊郭跡地から日本最大のゲイタウンへと生まれ変わりつつある時代の新宿2丁目
http://i.imgur.com/OTiWAuQ.jpg

春香「どん底は文化人、特に演劇・歌謡関係の芸能人御用達のお店で、
すぐ先の2丁目にはゲイ能人御用達のお店が林立するようになったけど
実は新宿3丁目周辺って、そういうお店が他にも多いんだよね!
靖国通り渡った新宿ゴールデン街はジャーナリストや文豪行きつけのお店が多いし!
三丁目でも西端の老舗喫茶店、『純喫茶・珈琲西武』なんかは、ルミネよしもとが出来てから、
今じゃ吉本芸人御用達のお店として有名だしね!」
(※公式→http://metro-net.co.jp/business/food/coffee_seibu/


368 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:08:20
千早「ええと、とにかくこの辺には自由で変わった人たちを惹きつける魅力があって、業界人行きつけのお店が多いっていうのはわかった
でも、お店の前でさんざん長話してるけど、この『どん底』ってお店、喫茶店じゃないわよね?
・・・とりあえずこの街の魅力はわかったから、『珈琲西武』さんにでも行きましょ?」
春香「ちょっと待ったぁ!
新宿三丁目で業界人御用達の喫茶店といえば、もう、とっておきのお店がすぐそこにあるから!
とにかくすごいから!何せ客の業界人率の高さが半端ないから!こっちこっち!」

千早「『新宿末廣亭』・・・ここって、アレでしょ?落語をやっている寄席っていう場所でしょ?少なくとも喫茶店じゃない気が・・・」
(※こんな感じ→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/ec/Shinjuku_suehirotei.jpg

春香「いやいや、連れてってあげたいのはこの裏手の喫茶店!
まぁ厳密には末廣亭の一部なんだけど・・・ほら、ここですよ、ここ!『喫茶楽屋』!」
(※お店紹介→http://yama.ne.jp/yotsuya/shop/gakuya/index.html

千早「あー、えっと、何というかアンティークなイメージのお店ね・・・」
春香「何せ戦後に初代席亭(※寄席の経営者)北村銀次郎が新宿末廣亭を再建した初期からあるお店だから!
もうね、戦後の落語界の歴史と共にあったといってもいい、多くの事件・エピソードの舞台にもなった由緒あるお店なんだよ!
あの、後輩だった3代目古今亭志ん朝に真打昇進の先を越された立川談志が激怒して怒鳴り込んだって有名な事件の舞台もここだし!
・・・え、知らない?この二人の若きスターの確執が、後の落語協会分裂騒動の遠因に・・・ホントに知らない?」

千早「そんな知ってて当然でしょ、みたいに言われても困るのだけれど?
・・・それで、業界人御用達って言ってたけど、ということはこのお店の常連さんって」
春香「そう、末廣亭と同じ建物にある噺家たちの楽屋そのものってお店なんだよ!
ていうか、本当に裏の通路で末廣亭の本物の楽屋と繋がってるしね
常連さんも真打から二つ目、駆け出しの前座まで、ズラリと揃っておりますので、よろしいのをひとつ、お見立て願います!(ドヤ顔)」
千早「そもそも噺家さん自体、ほとんど誰も知らないのだけれど・・・(困惑)」


369 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:09:26
春香「・・・あ〜、出囃子(でばやし)が遠くから聞こえるねぇ・・・
コーヒーをゆったり飲みながら寄席の空気も楽しめるんだから、やっぱりここが三丁目じゃ一番だね・・・」
千早「同じ建物の2階だから、壁伝いに寄席の様子も聴こえてくるのね
芸能人行きつけのお店っていっても、こういう雰囲気のお店もあるのね・・・ちょっと気楽でいいかも」

春香「・・・あ〜、隣の家に壁ができたんだって?・・・へぇ〜」
千早「んんッ!さ、さすがにそんな古典的なギャグじゃあ今時笑う人いないわ・・・よ?」
春香「(相変わらず千早ちゃんの笑いの沸点低いなぁ・・・ま、このギャグでも名人志ん生が言うと本気で面白いんだけどね)
それじゃあ、これはどうかな?」

春香「え〜、江戸時代や戦前のお祭りの縁日って、色んな見世物小屋があったんだって!
『これは〜源頼朝公のしゃれこうべ〜近う寄ってご覧になられませ〜!』
『え〜、頼朝の頭蓋骨?・・・あの〜、頼朝って人は頭の大きな人だって聞いてたんだけど、これ、ちょっと小さすぎる気がするんですけどぉ〜?』
『あ〜、それは頼朝公のご幼少の時のしゃれこうべなので〜』」

千早「ブフッ!!よ、幼少って・・・ンフッ・・・ず、頭蓋骨なのに幼少の頃の頭蓋骨って!・・・ブフッ!」
春香「(やっぱり千早ちゃんは、いつも一緒にいても全然飽きないや
ずっとずっと千早ちゃんと仲良しでいられたら、いいな・・・)」

千早「んっ!ゴホッ!・・・はぁはぁ・・・ちょ、ちょっと今のはツボに入っちゃったわね・・・
あれ?ところで春香、そのコーヒー飲まないの?」
春香「コーヒー?・・・やめとこう、また夢になるといけねぇ・・・」
千早「???」
(※古典落語「芝浜」のサゲ=落ち)


370 : 名無しさん :2015/11/09(月) 21:09:47
趣向を変えて久しぶりに短く、はるちはアド街風IN新宿三丁目
最近、文が無駄に長くなりすぎで読みにくくなっちゃってて良くないなぁと反省してます
もっと工夫しないとダメみたいですね、すいません・・・

・「第一話」>>4 
・「第二話」>>19
・「第三話」>>32
・「第四話」>>47
・「第五話」>>61
・「第六話」>>78
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・「第十二話」>>227
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・「第十五話」>>299
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・「第十七話」>>347
・「第十八話」>>363


371 : 名無しさん :2015/11/09(月) 23:13:16
おっ、新作来てるやんけ!


372 : 名無しさん :2015/11/13(金) 21:25:48
新宿かぁ
久しく降りてないなぁ


373 : 名無しさん :2015/11/24(火) 00:10:29
保守


374 : 名無しさん :2015/11/24(火) 00:36:21
ゆっくり作ってくだせえ


375 : 名無しさん :2015/11/25(水) 00:02:05
保守していただいちゃってすいません…
ちょっと心が折れてました、PCも

ありがたいことですが、もし需要があるようなら、12月くらいからまたボチボチ頑張っていきたいです
それまでにこのスレが落ちてても、ぶりの状況も安定してきてるみたいですし単発スレ方式に切り替えるのもアリっすかね?


376 : 名無しさん :2015/11/25(水) 00:04:16
乙ですー
また気が向いた時にでもやってくだされ
単発でもいいかな、鰤速さんもまとめやすいだろし


377 : 名無しさん :2015/11/25(水) 00:10:45
無理しないでくださいね
単発に切り替えるのは個人的にありだと思う


378 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:29:30
大丈夫か?
無理しないでくれよなー


379 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:32:40
フツーに取材に時間かかると思う
また気が向いたら投稿して下さい


380 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:33:18
取材してやってたのか、そりゃ時間かかるわけだ


381 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:36:17
タイムスクープハンターかな?


382 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:39:07
取材ってインタビューとかだけじゃないんやで?
図書館行って調べものするのも立派な取材


383 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:39:33
時空警察


384 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:40:06
>>382
はえ〜すっごいためになる・・・・・


385 : 名無しさん :2015/11/26(木) 20:40:44
時を超えて過去の偉人に取材に行ってたなら、このリアリティある文章も納得ですわ


386 : 名無しさん :2015/12/04(金) 09:48:21
ほしゅざい


387 : 名無しさん :2015/12/04(金) 11:08:30
芝浜落語の演目の中で一番すき
スパロボのオチに使われててビックリした


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