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( ^ω^) 願いが叶うようです

1 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:29:48 ID:mAAfnS1U0
初めて小説を書きます。
拙い語彙かもしれませんが、何卒よろしくお願いします。

2 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:30:51 ID:mAAfnS1U0
いつの間にか濃くなった木々のコントラスト。
白い雲が空に高く背を伸ばしたあの日。
僕の願いは呪いに変わった。
綺麗に咲くよう育てた花は。
毒を孕んで僕に牙を向けた。
瞼の裏に鮮明に描かれた鮮血の傑作。
僕はそれから逃げることはできないだろう。



そう、あの扉の話を聞くまでは。



第一章 365/7days

3 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:31:38 ID:mAAfnS1U0
〜 1days 〜


茹だる日の窓際。
僕は細い目で校庭のグラウンドを見ていた。
いつも通りな毎日だった。

体育の後の国語はいつだって眠いし。
ほのかに香るカルキ臭と制汗剤が混ざった匂いは、どことなく心が安らいだ。
生暖かい風が教室に舞い込んだ。
誰かのノートが捲れる音。
ペンが紙と擦れる音。
何の変哲もない日常。

それがいつか無くなってしまう、なんてことをぼんやりと考えていた。
その時、不意に自分の名前が聞こえる。

「ブーン、ここの答えは?」

驚くのもおかしな話だが、僕はずっとグラウンドを景色を見ていたのだ、当然答えはわからない。
というか、今何をしてるのかすらわからなかった。

4 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:32:30 ID:mAAfnS1U0
「わ、分からないですお…」

少しの時間を置いて、申し訳なさそうに答える。
「皆眠いのは分かるけどねー…」

と、先生も教室に漂う睡魔に気付いているように全員に言う。
きっと先生も知っているのだ。
この景色も、この状況になるのも。

「あと一周間もしたら夏休みに入るから、最後の一週間は眠らないようにね!特にブーンは。」

連鎖的に笑いが起こる。
いつもこの時間はぼうっとしてることに気づかれていたのだ。
まぁ、分からない方がおかしいだろう。
ずっと外を眺めているのだから。
なんとなく、先生というものは自分のことを全て知っているかのような気がするのは、僕だけだろうか。
そう思うのも、こうやったやり取りがあるのも、いつも通りの日常。
こんなやり取りでさえ、まるで永遠のような時間だった。
それは苦痛と感じることはなく、ぬるま湯に浸って浮かんでるような感覚。

我儘な自分だからこそ、大人になれない…いや、なりたくないと思った。
それと同時に、大人になって好きなことをしたいと思っていた。

5 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:32:55 ID:mAAfnS1U0
このまま大人にならないで済めばいいと思った。
だけど、早く大人になりたいと思った。

自分があの教壇に立つような立派な人間になれると思えなかった。
大人にならずにこの日々を謳歌したいと思った。

今すぐに大人になって、気にせず酒を飲んでみたいと思った。
ある程度の金を手に入れて、好きなことにつぎ込みたいとも思った。

祭りで気にせず色んな物を買いたいと思った。
だけど、この汗ばむ季節を好きにはなれなかった。
自分に体力も、外に出るような気力も湧かないから。
ただ、この時期の行事事は好きだった。
出店が揃う公園も、夜になれば提灯が灯り、空に大華が咲き誇るあの景色も。
僕は自信もって好きだと答えられた。

こんな中途半端な考えだけど、それが今の自分に丁度フィットした。
所謂、思春期ってやつだ。

気づけば校内にチャイムの音が響いた。
「はーい今日はこれでおしまい!お昼だよー」
と、先生が言うのと同時に、長く静かな妄想に終わりを告げた。

6 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:33:17 ID:mAAfnS1U0
('∀`)「弁当!!食うよ!!」

(;^ω^)「いくら何でも早すぎだお!まだチャイム鳴り終わってないお!」

('∀`)「いいだろー水泳で泳いだから余計に腹が減ったんだよー」

( ^ω^)「最初に溺れて休んでたただけだお?周りの人に救助されてるところ見てたお」

(;'A`)「そうだけど、あんまり思い出させないでくれないか?恥ずかしいんだよ」

彼は毒男(ドクオ)、親友であり、幼馴染で、同じクラス。
学年トップクラスの頭の良さ。
勉強で彼に勝てたことは一度もない。
運動は不得意で、先程も授業中に溺れていた。
一応足付くくらいの深さしかないんだけど…

7 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:33:44 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「とりあえず無事ならいいんだおーちょっとは心配してたお?」

(;'A`)「ちゃんと心配しててくれよ…運動は苦手なんだよ」

川 ゚ -゚)「普通に立ったら足付くじゃないか、なんで溺れるんだ?」

('∀`)「クー!体育の時間は全て忘れてくれ、今すぐ」

彼女は空(くう)。クーと呼んでいる。
少しの乱れも見えないストレートの黒髪。
僕とドクオから見るとその美しさは学年でも上位だろう。
表情筋は死んでいるが、運動神経はピカイチ。
だが、学力は…下から数えたほうが早い。
唯一の女友達であり、幼馴染、そして同じクラス。
たまにほかのクラスメイトから嫉妬されるが、恋仲では全くない。

8 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:34:12 ID:mAAfnS1U0
川 ゚ -゚)「ドクオ、お前は少し勉強しすぎだ、ブーンを見習え」

( ^ω^)「それはさっき怒られたことに対する皮肉で言ってるお?」

川 ゚ -゚)「ブーン、お前は勉強しなさすぎだ」

( ^ω^)「それをクーに言われるの心外だお」

先程からブーンと呼ばれている僕は内藤ホライゾン。
僕らが幼少期の頃、僕の癖でぶーん!と言いながら走っていたのがきっかけでそう呼ばれるようになった。
幼馴染同士のあだ名は良くわからない。
それが広まりすぎて、家族内でもブーンと呼ばれている。
学力も運動神経も二人の中間くらいの位置にいる。
可もなく不可もなし。
お昼は弁当を一緒に三人で食べる、これは日常だった。

9 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:34:32 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「後一週間したら夏休みに入るおね」

('A`)「夏休み入ったらいつもの場所で祭いくべ」

川 ゚ -゚)「スイカ割りなら任せておけ、一撃で粉砕してやる」

(;'A`)「クー、去年それやって俺の頭カチ割ったの覚えてないのか」

川 ゚ -゚)「おぉ、そうだった。次は生きていられると思うなよ」

( ^ω^)「ドクオが変に耳元で囁いたりするからだお、クーの馬鹿力なめないほうがいいお」

('∀`)「馬鹿力、まるでクーの為にあるような言葉だな。そろそろゴリラから人間になったか?」

川# ゚ -゚)「どうやら貴様に慈悲はいらないらしいな」

('皿`;)「クーさん!!!今のは冗談ってやつで!!!アイアンクローは!!やめt」

10 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:35:02 ID:mAAfnS1U0
川# ゚ -゚)「あぁ、もう要らないだろうこの脳みそは」

(;^ω^)「クー!片手でドクオのこと持ち上げるなお!!どんな馬鹿力してんだお!!」

川# ゚ -゚)「ブーンもその頭、要らないと見たが?違うか?
      どっちが馬鹿になるか見ものだな」

(;^ω^)「煽る目的で言った訳じゃないお!?片手でドクオを持ち上げたままこっち走ってくんなお!!」

(; 手)「あああああああ脳みそがああああああ」



こんな他愛もない毎日。
僕もクーもドクオも、この時間もシチュエーションも。
一年が過ぎればまた同じような会話をするのだろう。
きっと全員が思っていた。
少なくとも、この三人は。
このまま、何事もなく過ぎていくと思った。

いつの間にか下校する時間になっていた。
太陽が沈みかけて、辺りは真っ赤に染まった。
クーもドクオも帰る方面はある程度一緒だ。

11 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:35:30 ID:mAAfnS1U0
じゃあだおー
そう言って二人に手を振った。
互いに家は近い。

徒歩5分以内に着くようなところで住んでいた。
全ての景色が不気味なほど真っ赤になった頃、僕は家に着いた。

( ^ω^)「クーのやつ、そろそろ力加減考えてほしいお」

昼に食らったアイアンクローが少しヒリヒリする。
一応女性ということも忘れるくらいには、力が強かった。
何喰ったらあそこまで強くなるのだろう。
そんなことを考えて、家の鍵を使いドアを開いた。

途端に外と家の温度差で、涼しい風が僕を包み込む。
心地いいと感じると共に、家の中は赤色のせいでやけに空気が重く感じた。
ホラー映画にも似た、重苦しいような…
ほんの少し、気を張ってリビングの扉を開ける。

12 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:35:55 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「…ただいまだおー」

 J('ー`)し「おかえりなさい」

リビングの机に座るカーチャンを見た。
何故か神妙な面持ちに見えた。

カーチャンは車椅子で生活をしている。
下半身…特に足が完全に動かない状態だった。
でもカーチャンは異常な程元気だ。
自分で移動できるし、介護の必要はない。
ストレスが罹らなければどうってことはない!
かつてカーチャンから聞いた話だった。
少しだけ手伝う時もあるが、その時は稀だった。
自分で歩けないことなんてお構い無しに僕を育ててくれた。
僕の大事な家族。

13 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:36:17 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「…カーチャン?大丈夫かお。顔色ちょっと悪い気がするお」

 J('ー`)し「なーに言ってんの。少しだけ暑さにやられただけよ。心配する必要はないわ」

( ^ω^)「それは心配するお。まだ暑さも増すし、ゆっくりするといいお」

 J('ー`)し「…そうね、ありがとう。ちょっと今日は早めに休もうかしら。
      ご飯はできてるから好きなタイミングで食べてね」

( ^ω^)「トーチャンは?」

 J('ー`)し「帰りが遅くなるみたい。今日は帰って来ないかもね…」

( ^ω^)「わかったおーゆっくりするんだおカーチャン」

 J( ー )し「…ありがとう」

( ^ω^)「…?」

トーチャンは出張が多い人だった。
2.3日、長くて1か月いなくなることもざらにあった。
それでも、帰って来た時は沢山いろんな話を聞かせてくれる。
カーチャンのことも、僕のことも、支えてくれている。
僕の大事な家族。

そんなトーチャンを心配してかどうかは分からない。
でも、いつものカーチャンの雰囲気とは違う気がした。
それは僕の考えすぎだろうか。

14 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:36:57 ID:mAAfnS1U0
茹だるような気温のせいだろうか。
それとも、不気味に部屋を染めるこの赤色のせいだろうか。
気にしすぎだと割り切って、僕は自室に向かった。
自室を染めた赤色は時間とともに色彩を失っていった。

それからは、カーチャンが作ってくれた夕飯を済ませた。
その後は、汗で肌にくっついた服を洗濯機の中に入れ、そのまま風呂に入った。
どの季節でも気持ちよくなれる風呂。
お手軽にできる現代の贅沢だと思った。
体を洗い終わり、すぐに全身を乾かす。

髪が少し濡れているが、気にせず自室のベッドにダイブした。
自分の家の布団はどうしてこんなにも落ち着くのか…
これも贅沢の一つだ。
ゴロゴロしながら幼馴染三人の共有メールを見る。
日課になっているが、依存にならないといいね。

15 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:37:21 ID:mAAfnS1U0
『今日はすまなかったな、大丈夫か?』

『俺は全然痛いよwww』

『僕はヒリヒリするくらいだおー力加減考えてほしいおw』

『む…すまん。明日アイスを奢ろう』

『明日も暑くなりそうだおね、それは助かるお!』

『そういえばさ、お前らって幽霊信じる?』

『幽霊か?一度戦ってみたいものだな』

『触れない相手にどうやって勝つんだ?クー』

『触れられないのか!?』

『クー、僕は君が心配になってきたお。 ところで、なんでいきなり幽霊なんだお?』

『学校の裏の廃ビルがあるだろ?そこで幽霊を見た!ってやつが何人もいるんだよ』

16 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:37:43 ID:mAAfnS1U0
『そうなのかお…それって見間違いとかじゃないのかお?
 そもそも、あそこは願いが叶うって噂の方がよく聞くお
 だからカップルと幽霊を間違えたんじゃないのかお?』

『だとしても、だ。全員口をそろえて言うんだよ"黒いコートを着た幽霊がいる"ってな
 今は夏だぜ?』

『ほー、それは確かに面白そうだ。 私は興味が湧いてきたぞ』

『ちょっと怖いお…もしかして行く気かお?』

『クーも乗る気だ。ブーンは一緒に行くか?』

『…二人が言うなら僕も行くお』

『よし、明日放課後そのまま行こう!』

『ラジャー、叩きのめしてやる』

『クー、触れないんだってば』

『!!』

( ^ω^)「…クーは本当に馬鹿になっちゃったお?」

『ブーン明日覚えておけよ』

(;^ω^)「エスパーかお!?」


こうして他愛もない日がまた過ぎていく。
いつも通りの、日常だ。
少しずつ瞼が落ちて、夢の中に入っていく。

あぁ…いつ も通 り という の が

い ち番 の ぜい た く だ…

___________________

17名無しさん:2025/02/11(火) 09:04:00 ID:fzkFcxTM0
ワクワクする感じだ
支援

18名無しさん:2025/02/11(火) 11:56:14 ID:TG3XDDJ.0
初々しいな……続きが気になります!

19名無しさん:2025/02/11(火) 13:25:59 ID:bBhaLquE0
素晴らしいね!

20名無しさん:2025/02/11(火) 16:20:53 ID:FiEev8ms0
wktkが止まらんお

21 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 22:56:35 ID:mAAfnS1U0
2days


( ´ω`)zzz…ン…?

( ´ω`)zzz…イヤボクトツキアウナンテヤメタホウガイイオ

( ´ω`)zzzボクニモハルガオトズレタッテコトオ?

( ´ω`)zzzアッソコハサワラナイホウガオフロニハイッテカラガイイオ

( ´ω`)zzzソンナトコロキタナイオアーーーー

( ´ω`)zzz…ナンデベーコンガスイドウカラデルンダオ?

( ´ω^)「ん…?」

( ^ω^)「…は…(8:15)」

Σ( º ωº)「ぬおおおおおお!!!!激遅刻だおおおおおおああああ!!!!!」

22 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 22:57:10 ID:mAAfnS1U0
後もう少しで夏休みというのに、時間は無情なり。
とんでもない動きで朝の支度を終える。
テレビからニュースの音声だけが聞こえているけど、そんなの見てる暇なんてない。

 J(;'ー`)し「何度も起こしたのにこの馬鹿!もうカバンに弁当入れてあるから!」

≪先々月1*日---強----1*歳男の子、及び*歳の--------護さ-----≫

 J(;'ー`)し「あんた事故起こさないでよ!気を付けて!」

≪---まり、--------理由として----≫

(;^ω^)「カーチャンごめんお!すぐにいくお!!」

≪-----『幸せ----------』など-------ており----≫

ダッシュで学校に向かう。
寝起きで朝からの走りはいつもの5000倍体が重く感じる。
修行じゃないんだぞ。

23 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 22:59:43 ID:mAAfnS1U0
ひたむきに走る、走る。

最後の角を曲がれば、校門に滑り込める。

(;^ω^)「間に合うかお…!?」

(;^ω^)「考えてる暇ねーお!うおおおおおおおお」

間に合えー!!

間に合えー!

間に合えー

間に合え

間に合

間に



24 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:00:11 ID:mAAfnS1U0
「はい、ブーン遅刻ね」

( ´ω`)「はいお…」

急いで教室に入ると、ホームルームの途中だった。

先生から軽く注意を受け、自分の席に着く。
あの時間に起きても間に合わないことが、日に日に実感を増していく。
朝のあと5分、5分でいいのに、何故人は起きれないのか。
そればっかりが不思議だった。
まぁ、起きれなかった僕が悪いんだけども。

すると、先生は少しだけ声を張った。

「さて、あともう少しで夏休みだが、転校生の紹介だ。 みんな仲良くやってくれ」

「夏休み前に仲良くなるのも、また新しい楽しみだろう!」

がーはっはと大きな声で笑っている。
僕みたいな人見知りには勘弁してほしいものだ。
それにしても…

( ^ω^)「この時期に転校生かお?珍しいこともあるんだお…」

「それじゃ、入ってきてくれ」

ガラガラ…と扉をゆっくり開けて入ってきた。
彼が転校生だろう。
そして、不思議な空間が教室内に広がっていった。

25 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:00:38 ID:mAAfnS1U0
「はい!彼が転校生だ!自己紹介してくれ!」

(´・ω・`)「…雨宮 彰吾です。前はショボンと呼ばれてました。よろしく。」

それだけの自己紹介だった。
なのに、彼の魅力はそこに詰まっていた。

茶髪の緩いパーマ。
青とも、緑ともとれる瞳の色。
色白だが、決してひ弱とは見えない躯体。
どこをとっても、彼に対する印象は"クールなイケメン"
その一言に尽きた。

クラスの女子は彼に夢中のような目線を送っている。
かくいう僕も、彼の雰囲気の虜になっていた。
決して同性愛というものではないことをここに記しておこう。

26 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:01:06 ID:mAAfnS1U0
女子の黄色い声が聞こえ続け、瞬く間に昼休みになった。
と、同時に二人はすぐさま僕の元へ来た。

('A`)「…イケメンっていうのはよ、居ちゃいけない存在だと思うんだ。そうだろ?ブーン」

川 ゚ -゚)「そう簡単に嫉妬するなドクオ。彼も短所というところがあるかもしれないだろう。
     例えばそうだな、チン〇ンが非常に小さいとかだな…」

(;^ω^)「いきなりエグイことを二人して言わないでほしいお」

そうしてる間にも、彼の周りには女子が群がっていた。

「どこからきたのー?」「ショボン君!一緒に遊ぼうよ!」
「今日放課後遊ぼうよー」「いきなりだとびっくりしちゃうからみんな辞めなよー」

27 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:01:36 ID:mAAfnS1U0
(#'A`)「…俺、許せねえよ。こんなに違うのか?人生っていうのはよ
    顔なのか?顔だけがすべてか?」

川 ゚ -゚)「ふむ…だが、彼を見る限りだと喜んでる風には見れないがな」

(#'A`)「それが腹立つのさ。俺に来い、女子は!俺に!!」

川 ゚ -゚)「大丈夫だ、ドクオに来る女は私が選別させてもらうからな」

('A`)「なんで?」

川 ゚ -゚)「私と同等の女以外は近寄らせんぞ?」

(;^ω^)「クーと同等なんて人間この世にいねーお」

川 ゚ -゚)「む、そんなことはないぞ。私もどちらかといえば守られたい派だ」

(;'A`)「じゃあアイアンクローで人のこと持ち上げたりするのはやめてほしいんだが…」

28 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:02:31 ID:mAAfnS1U0
キャーキャーと聞こえる黄色い声に他所に、僕らは放課後の話を進めた。
そう、今日は学校の裏にある廃墟を探索するのだ。
その廃墟に行ったという人たちに事情聴取をした
…本当に幽霊が出るかどうか。
どうやら、昨日も数人が廃墟に入って実際に"見た"らしい。
それも、この一か月で急速に広まった噂だった。

その廃墟は数年前から立ち入り禁止にされていたらしい。
やはり少しずつ建物自体崩れやすいようで、入ったら普通に危ないみたいだった。
元は普通のビジネスホテルだったみたいだ。

生徒達がこぞって忍び込んだりしてたのもあったが、
そのホテルには入ってはいけない暗黙の了解があった。
先生たちの間では、そう生徒の進入を阻止するために警備を強くする…意見があるみたいだ。

…その建物に関する情報は非常に少なかった。

29 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:02:56 ID:mAAfnS1U0
そして、曖昧なことが多いのが特徴だった。
何時からあったのか、どのタイミングで廃墟になってしまったのか。
そんなことすら情報は手に入らなかった。

曖昧なことが多い中、複数人が同じ証言をしているのは確かだった。
"黒いコートの幽霊を見た"と。

好奇心旺盛な年頃だ。
こんなワクワクすることに食いつかないわけがない。
今日は廃墟に関することで頭が溢れていた。
正直怖さもある…がしかし、この興奮は鳴りやみそうになかった。

30 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:03:33 ID:mAAfnS1U0
そして放課後。
部活動の声が聞こえるグラウンドを無視して、僕ら三人は校舎裏に集まった。
夕暮れが眩しく僕らを照らす一方で、廃墟に伸びる道は薄暗かった。

( ^ω^)「行き方はわかるのかお?」

('A`)「ほぼ一本道だ。もう色んな奴が通ったから獣道みたいになってるがな」

川 ゚ -゚)「動きやすい服装で来て良かった」

('A`)「こういう冒険じみたことも暫くなかったな…わくわくするぜ」

( ^ω^)「完全に真っ暗になる前に廃墟に向かうお、迷子になりそうだお」

('A`)「迷子の心配はないさ、そんな長い道じゃなさそうだしな
   …よし…行こう」

31 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:03:56 ID:mAAfnS1U0
その道はやけに暗く、湿っていた。
虫の鳴き声がいつもより近くに感じつつ、草や木をかき分けて進む。
校舎裏から少し出た道路からその道は繋がっており、あまり人目も気にせずドンドンと奥に進んだ。
ちゃんと真っすぐに行けば15分以内で廃墟に到着するくらいには、学校から近かった。
コンビニに立ち寄る程度の寄り道。
ただ、目的地は廃墟にあった。

初めて通る場所はやけに長く感じる。
土道だからか、多少足元がおぼつかない。
上手く前に進まないからか、時間の進み具合が遅く感じてしまう。
不安になりつつ、先頭のドクオに付いていく。

こういう時のドクオは人一倍生き生きしている。
運動は苦手だが、真面目で大人びていると感じる彼も、こういった好奇心にはやはり彼も同い年というところか。
自分の守備範囲外でも、気になるものはとことん追求する。
それが彼をガリ勉たらしめる理由だった。

その後ろのクーに関しては、全く息を切らさずドクオに着いていく。
彼女は勉強に関してはからっきしだが、実はかなり頭のキレや勘が鋭い。
地頭がいい、とはこういうことを言うのだろう、それか女の勘ってやつだ。
素直な感性の持ち主が故に、人から遠ざけられることも多い彼女だ。
だが、こうして行動を共にしているからこそ、その裏表ない性格が心地が良かった。

最後尾からこの二人を後ろから見ている僕は、一人でニヤニヤと嬉しい感情を露わにしていた。
僕は、恵まれているんだ。

32 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:04:29 ID:mAAfnS1U0

('A`)「…よし、着いた!」

川 ゚ -゚)「近くで見ると…随分と大きいじゃないか」

( ^ω^)「ここが噂の…」

そうこう考えてるうちに、いつの間にか着いていた。
来た道と同様に、はやり少し暗さを感じる。
壁という概念はなく、建物を支えるコンクリートの支柱と天井と床。
なるほど…これは普通に危険だ。
屋上を含めると計5階層になる。
通称…幽霊廃墟。

一階はエントランスだろうか?
あたりに漂う埃っぽさに顔をしかめながらも、近づく三人。

( ^ω^)「どこが一番幽霊が出るんだお?」

('A`)「どうやら4階が一番多いっぽいな、不吉な数字ってこともあるのかわからないが…
    1階から4階までは一つの階段で行けるんだが、屋上に続く階段だけ独立してるんだ。
    その独立した階段に上ろうとしたら…見えるらしい」

( ^ω^)「おっおっお、屋上に秘密でもあるのかお?」

('A`)「さぁな…まぁ行ってみりゃわかるだろ。こっちだ」

33 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:05:48 ID:mAAfnS1U0
地図が頭の中に入ってるかのようにスムーズに案内するドクオ。
静かな場所にいるときは、少しの環境音にも敏感になってしまう。
鳥の声、蝉の声、反響する足音、二人の息遣い、遠くから聞こえる部活動の声。
そのどれもが恐怖の対象だった。

…だが、階段を上っている最中に、そのどれもと違う音が聞こえた。
バスッ…バスッと、何かを叩いているかのような音と、もう一つ。
それは…人の声…それに近かった。

(;^ω^)「ドクオ…?今の聞こえたお?」

それに二人も気づいているみたいだった。

(;'A`)「同じ物音なら…そうなるな…」

川 ;゚ -゚)「…私は声が聞こえるのだが…男の…」

(;^ω^)「話し声じゃないのかお…?」

僕…というより全員。
味わったことのない恐怖に身を包まれた。
クーが聞いたのと、ドクオが聞いたのが、僕が聞いたのと同じじゃない可能性があるからだ。
数秒、いや、数分?
僕らは時が止まったように動きを止めた。

34 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:06:14 ID:mAAfnS1U0
…その沈黙を破ったのはドクオだった。

(;'A`)「でも、一人の声じゃない…何人かの声が聞こえる…上からだ…」

今は2階から、3階に上がる途中の踊り場。
幽霊は4階が一番出没頻度が多い…
体感するごとに、噂の信憑性が増した。

(;^ω^)「と、とりあえず…4階に…行くお?」

こういう時、普通は逃げるのが大前提なはずだが、歩を進めてみたいという欲には勝てなかった。
もしこれがホラー映画なら真っ先に僕らはお陀仏だろう。
黒いコートの幽霊…一体何を目的としているのか。

そしてビビりながらも3階に到着。
そうすると、さっきよりも鮮明に声が聞こえる。

そのまま4階に向かう階段を三人はゆっくり上がる。
僕の震えは全員に伝わっているだろう。
何故なら、全員が各々服を掴み合ってるからだ。

3階と4階の踊り場に着いて、恐怖が最高潮に到達したときだった。
一番最初に聞こえたのは…苛立った声と、生々しい音だった。

35 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:06:45 ID:mAAfnS1U0
「おい…あんまり調子にの る な よ!」ドカ
「転校生だか何だか知らねーが、ここは俺たちの場所なんだわw」
「女にモテモテで癪に障るんだよな…お前!」ゴチャ

4階をこっそり見た先には、不良として有名な上級生三人組…
それと…その一人に羽交い締めにされている転校生…ショボンだった。
口には何やらガムテープが張られている。

「なんか喋ったらどうなんだ!?おらぁ!」

拳がショボンの顔にヒットする。
その度に鮮血がガムテープから溢れ出していた。
恐らく口を切っているんだろう。
ガムテープの色が惨く変わっている。

「口にテープ貼ってあるから何も喋れないよーw」
「教えといてやるわ、ここはなお前が来るところじゃねーんだわ」
「俺達のシマって言ったらわかるか?w」

「そ こ で…だ。
 そんな俺達より先に来て、お前はここで何し て ん だ よ!」

不良の足がショボンの腹を蹴る。
それを確認するや否や、すぐさま僕らは隠れた。
鈍い音がフロア全体に広がった。

36 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:07:15 ID:mAAfnS1U0
(;'A`)
(;^ω^)
川 ;゚ -゚)

その惨状を隠れてみることしかできない僕ら。
幽霊どころの騒ぎではない。
あれは…最早リンチだ。

僕の頭はパニックになっていた。
それとは裏腹に、彼を助ける方法も模索していた。
逃げる考えは自然となかった。
そしてそれは三人とも同じだった。

だが、どうしたらいいろう?
先ず、学校に戻って先生を呼ぶのは時間がかかりすぎる。
だからと言って、全員で立ち向かうのは余りにも無謀。
それに、上級生となれば、三人がかりでも手に負えないだろう。
クーが女子離れな力を擁してようが、ただの女の子だ。
傷つけられるのは…僕が嫌だった。

こうしてる間にも、ショボンは殴られ、蹴られ、血を流している。
すると、ドクオから提案があった。

37 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:07:51 ID:mAAfnS1U0
(;'A`)「…クー、全力で学校に戻って先生にこの場所を伝えろ。
    そして、この状況をすぐに言うんだ。それしかない。」

川 ;゚ -゚)「私だけか…?二人はどうするつもりだ?」

(;^ω^)「僕とドクオで…何とかしてみせるお」

(;'A`)「そうだな…それしか」

川 ;゚ -゚)「お前ら二人を見殺しにするっていうのか?
      それじゃ根本的な解決にならないじゃないか!」

会話を遮るようにクーは静かで強さを込めた声を出した。
僕もドクオも喧嘩なんてしたことはほぼないに等しい。
だが、それしかなかったのだ。

( ^ω^)「クー、とりあえずわかってくれお、現状一番速く走れるのはクーだお
       それに僕らは男だお、何とかして見せるお
       あと、死なねーお」

川 ;゚ -゚)「しかし…」

('A`)「クー、頼ってくれているなら分かってくれ」

('∀`)「それに女の子をあんな目に合わせるのは幼馴染としてごめんだ
    俺たちに任せろ、お前は最速で走ってくれればいい。」

( ^ω^)「無事に帰ったらなんか奢ってやるお」

川 ;゚ -゚)「…どうか無理しないでくれ…ドクオ、ブーン」

クーは素早く静かに来た道を戻っていった。

救援は送り出した、あとは僕らが先生が来るまでの時間稼ぎだ。
何も殴り勝とうってわけじゃない。
来るまで、ショボンを助けてあげられたら、それが僕らの勝ちだ。

38 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:08:20 ID:mAAfnS1U0
決意胸に、今まで出したことないくらいの声を出して不良達に見つかる様に前に出た。

( ^ω^)「ちょっと待てお!!その転校生離してもらうお!!」

('A`)「同じクラスなんだよ、離してもらっていいか?」

「あぁ…?誰だお前ら…」

冷や汗が止まらない。
だが、もうやるしかないのだ

(#^ω^)「おおおおっ!」

一人の不良に体当たりをした。
喧嘩慣れしてない僕の一番は、これしかなかった。
僕の後に続き、ドクオも食らいついていた。

「この…!いきなり表れてなんだってんだ!」
「せっかくの楽しみがパーじゃねえか!」

(#^ω^)「それはお前らの頭の中がパーの間違いだろうお!」

「このガキィ!!」

(#'A`)「あんたらと一つ二つしか違わねーだろおおっ!」

39 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:08:53 ID:mAAfnS1U0
殴り合いというには余りにも弱々しい僕らの猛攻。
とっつき合いというのが一番わかりやすいだろうか。
殴りもせず、だからと言って殴られもしない。
そんな戦略だった。
時間さえ稼げればそれでいいのだから、これでいい。

ただ、相手は上級生三人。
一筋縄では当然いかない。

隙を見て、ショボンだけでも逃がしたかった。

アイコンタクトだけでも取ろうと、少し離れたところで倒れているショボンを見た。
…彼は僕が見るよりも先に、僕を強い眼差しで僕を捉えていた。
まだ、ショボンは動ける、そう確信した。

すると彼は、僕に目を合わせたまま何か口を動かしていた。
それは、(ガムテープを取ってくれ)と言わんばかりに。

「おらぁ!」

(;'A`)「うわぁっ!」

それと同時に吹き飛ぶドクオ。
顔面を思い切り殴られたのだ、鮮血が辺りに飛び散っていた。
口元から血が流れているのを見た。
元々体力がない彼なのだ、むしろ今までよく耐えたというべきだろう。

40 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:09:46 ID:mAAfnS1U0
不良達が吹っ飛んだドクオに目を奪われた瞬間に、僕はショボンに走り寄った。
そのまま口に貼ってあるガムテープを勢いよく剥がした。

口の中の血を全て吐き出すショボン。
量を見るに、相当口内はグロいことになっているだろう…
ちょっとした血溜まりが出来上がっていた。

大丈夫かと声をかける前に、普通にショボンは話し始めた。

(´-ω-`)「…ありがとう、ブーン君」

(;^ω^)「お?おん、いいんだお!」

(;^ω^)「それより早く逃げるんだお!友達が先生を」

(´・ω・`)「いや、いいんだ。ちょっと離れててくれ」

(;^ω^)「なんだお!?」

41 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:10:15 ID:mAAfnS1U0
僕の言葉を遮って彼は動き始めた。
ショボンが立ち上がると、辺りに不穏な風が流れた。
まるでゲリラ豪雨の時のような、そんな湿った風が徐々に強く、僕らを煽る。

先ほどまで雨の前兆もなかった。
空は綺麗な夕暮れだったのにも関わらず、風は増々強さを上げた。
建物を支える支柱と床しかないような場所に吹くには強すぎる。
どう考えても異常だった。

(;^ω^)「ドクオ!とりあえず階段に避難するお!」

(;'A`)「なんだよ!いきなり!?台風か!?」

台風。
その言葉を嘲笑うように吹き荒れる。
目の前の光景をそのまま口にするなら、竜巻の中心にいるかのようだった。
大量の砂埃せいで、この風の外がどうなってるか目視できなかった。

この風の中心には…ショボンがいる。
ショボンが片手を上げると、体が怪しく緑色に光り始めた。
それは彼のネックレスから発されたものだった。
それと同時に彼の影が色濃く伸び、ショボンに纏わりついた。

風が更に強さを増した。
立つことすら許さない。
そう叫んでいるかのような暴風だった。

42 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:10:41 ID:mAAfnS1U0
「なんなんだよ!」
「おい!てめえらなにした!」

不良たちはどこか泣きそうな声を上げてフロアの中心で蹲っている。
身を寄せ合って、どうにか吹き飛ばされないようにしていた。

「ごめんね、君たちを傷つけるわけじゃないんだけど…」

「少しの間、眠ってもらうね。この夏が終わる頃には起きるはずだよ」

「それじゃ、またね」

暴力的。
そんな言葉が似合う風に不良達三人が…食べられた。
その時の声は聞こえなかったし、砂埃のせいでそのフロアがどうなってるかはわからなかった。

僕とドクオはできる限り風の範囲から離れた。
来た道の踊り場で身を寄せ合っていた。
夢だと思った。
そう思えば思う程、不良に殴られた傷がズキズキと痛む。
夢なんかではない…と痛みが事実だと僕に突きつける。

ふと、ショボンの方を見た。
そこには当初僕らが捜していた姿を見た。
この廃墟に出没するという、黒いコートの姿をした幽霊が…
___________________

43 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:11:16 ID:mAAfnS1U0
どのくらいドクオと風を耐え忍んだろうか。
耐えることも辛くなってきた。
ただ、今ここを抜け出すことで頭がいっぱいだった。

そうしている間に、風が少しずつ止んだと気づいた。
瞬間、僕らは無我夢中で1階に向かった。
殴られた痛みはあるけど、少しでも早くこの場を去りたかったんだ。

川 ;゚ -゚)「ドクオ!ブーン!無事か!!」

1階に降りたら、クーが僕らに向かって走ってきた。
先生は懐中電灯を持って片膝をついていた。
どうやら、風のせいで身動きが取れなかったみたいだった。
呆然としていた先生に僕は今の現状を伝えた。

(;^ω^)「来てくださってありがとうございます!でも今はそれどころじゃないんだお!
       転校生のショボン君が不良達にリンチされてたんだお!
       早く助けてあげてほしいお!」

僕の舌は今までにないくらい饒舌に回った。
そう、この廃墟の4階に彼がいるのだ。
それに、不良達も。

44 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:11:46 ID:mAAfnS1U0
ありのままを伝えると、先生は階段を一気に駆け上がる。
急いで先生を僕ら三人も追いかける。
クーに会えて気が抜けたのか、殴られた痛みが一気に膨れ上がった。
痛くて仕方ない体を何とか動かしながら、階段を踏みあがる。

先生が4階にいるはずだ。
その後を追って僕らも着いた。

…しかし、そこは蛻の殻だった。
誰一人居らず、あるのは血の跡と、微かに残った風。

( ^ω^)「そんな…確かにここには…」

その光景に目を疑った。
ショボンは?不良達は?
こんな開けているところで見失うはずがない。
言葉を失った僕に、先生は問いかける。

「…その表情、嘘ついてるってわけじゃないな?
 お互いが喧嘩したというわけでもない…そうだな?」

( ^ω^)「もちろんですお!確実にここで」

「もういい、分かった。
 先生はもう少しこの辺りを見て回る。
 危ないものがないか、な。
 とりあえず君ら、もう夜も遅いから家に帰りなさい。
 三人とも幼馴染なんだろ?
 ご両親には電話しておくから、気を付けてな」

ここは4階、飛び降りたら骨折では済まないだろう。
確かに数分前まで居たのだ、ショボンも、不良達も。
その痕跡が血だけ…?

45 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:12:15 ID:mAAfnS1U0
ショボンが、幽霊…?
背筋がゾワっとした。

元はといえば、この廃墟に何しに来た?
…幽霊を見に来たのだろう?
でも、僕はあの吹き荒れる暴風の中で見てしまったのだ。
何事もないかのように立っていた…黒いコートを着たナニかを。

何が正解なのか…僕にはわからなかった。

呆気に囚われたまま僕らは帰路に着いた
今日のことについては無しながら…

46 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:12:37 ID:mAAfnS1U0
(;'A`)「めっちゃ痛てぇ…汗が染みる…」

(;^ω^)「僕もだお…何もかも釈然としないし…何だったんだお?」

川 ゚ -゚)「とにかく私は君らが無事でよかったよ。心からね」

('A`)「クーは大丈夫だったか?風もいきなり吹いてて…凄かっただろう?」

川 ゚ -゚)「それがわからないんだ…学校に行って廃墟に着くまでは何ともなかったんだ…
     あれさえなければもっと早く現場に着いたのだがな…すまない」

('A`)「いいのさ、とりあえず皆無事で。俺たちは傷だらけだけど」

( ^ω^)「…ドクオは最後ショボンの姿見たお?」

('A`)「いや、見てないな。最後は逃げるのに気を張ってたから…」

( ^ω^)「どうしてもあの場にショボンも不良達もいなかったのが疑問なんだお…
       だって4階だお?飛び降りでもしたら最悪死んじゃうお…
       それなのに誰もいなかった…ことにも…
       それより、あの風は一体何だったんだお…」

川 ゚ -゚)「…まぁ、今はいいさ。二人共疲れているんだ。今はゆっくり歩いて帰ろう
     どうせ私達の両親が電話でやり取りしてるさ、心配はいらんはずだ」

('A`)「三人で怒られような」

(;^ω^)「今そのことは禁句だお…」

47 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:13:00 ID:mAAfnS1U0
各々の家族の仲はピカイチといえる。
なんせ、僕らを置いて親達だけで旅行に行くくらいの仲だ。

今まで、何かある度に三家族で集まり、話をしていた。
他愛もない話から、僕らのこと、大人のこと…
この三家庭があったからこそ、この三人は出会ったといっても過言ではなかった。

帰宅途中、三人は無意識に携帯電話を触らなかった。
怒られることが確定してるからだ。
そもそも廃墟は立ち入り禁止。
…考えなくてもわかるおね?
その期限を少しだけ先延ばしにしつつ、僕らは月明りに照らされた。

蒸し暑い夜道の中。
僕らは手を振り合って各自の家に帰った。

傷と泥と汗にまみれた体が不快だった。
今日はすぐにお風呂に入って眠りたい。
そんなことしか考えてなかった。

( ^ω^)「ただいまおー」

 J('ー`)し「あんた、とりあえず正座」

(;^ω^)「お…」

予想通りだった。
だが、話の内容は予想と違うものだった。

48 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:13:25 ID:mAAfnS1U0
 J('ー`)し「転校生君のこと、話したこともないのに助けたんだって?
      良いことするじゃない」

(;^ω^)「お?おん」

 J('ー`)し「嬉しいよ優しい子に育って、クーのカーチャンも、ドクオのカーチャンも喜んでたよ
      転校生は気の毒だけどね。
      これで悪いことしてたらシバいてたところだわ」

(;^ω^)「これ以上シバかれなくて良かったお…」

話が嚙み合わなかった。

カーチャンの話によると、どうやら僕ら三人は今日転校してきたショボン君のことを、不良達から守った…
というところだけ切り取られているらしい。
廃墟云々は無かったことにされていた。
だから、上機嫌だったのだ。

 J('ー`)し「でも、遅くなるなら先に言ってね、カーチャン心配なんだから」

( ^ω^)「ごめんお、カーチャン」

 J('ー`)し「とりあえず、傷も膿んじゃうからお風呂入って今日は寝なさい!」

そうするおー
と言ってすぐさま風呂に入った。
今日のことが本当に夢の中かのように思えた。
そこから先のことはあんまり覚えてない。
ぐったりと、眠りについたのだろう。
ただ、不思議な感覚だけが全身に纏わりついていた。

___________________

49 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:26:22 ID:2pP8licA0
3days


今日は寝起きがかなり良かった。
昨日の疲れがまるで嘘のようだった。
殴られた跡も…ほとんど残っていなかった。
不思議だと思いながら、寝ぼけ眼を擦りリビングに出る。

朝ごはんは目玉焼きにベーコンに白米、それと味噌汁。
いたってシンプルで、日本人に生まれてよかったと思えるような贅沢である。

帰ってから、ご飯は食べれずにそのまま泥のように眠ってしまったから、腹が減っていた。
バクバクと食べ、食器を洗い、自室に戻り準備を整える。
昨日は遅刻になるまで眠ってしまったから、今日は時間に余裕があると言える。
一通り準備ができたので、自室を出た丁度その時、玄関から音がした。

( ´W`)「ただいま、遅くなったな」

( ^ω^)「トーチャン!今までどこ行ってたんだお?」

トーチャンが帰ってきたのだ。
ここ二日間ほど、家に居なかったから少し寂しかったところだった。

50 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:26:44 ID:2pP8licA0
( ´W`)「…今まで仕事が立て込んでてな。帰れなかったのさ」

( ^ω^)「そうなのかお、トーチャンはいつも大変だお…」

 J('ー`)し「…ブーン、そろそろ学校行きなさい」

( ´W`)「学校は順調か?」

( ^ω^)「もう少しで夏休みだお!だから、その時はまた家族で遊ぶお!
       クーの家族とも、ドクオの家族とも遊びたいお!」

( ´W`)「…また遊んでくれるか?」

( ^ω^)「?
       もちろんだお!何なら今日帰ってきてからでも」

 J('ー`)し「ブーン!」

(;^ω^)「あ、学校また遅れちゃうお!トーチャン!またお!!まっててお!」

( ´W`)「…」

早々にカーチャンに急かされ、家を飛び出た。
また昨日みたいに遅刻したらまた怒られちゃうからね、しょうがないね。

51 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:27:06 ID:2pP8licA0
本当はトーチャンとももっと話したかった。
大好きな家族で、男だからだ。
この夏は遊び尽くしてもらわないと気が済まない。
僕は家族が大好きだ。
それと同じくらい、幼馴染が大好きだ。
そして、同じくらいにその家族が好きだ。
そうやって僕らは今まで生きてきた。

いつもより早めに家を出れたことで、幾分気持ちが軽い。
昨日手を振って別れた場所で、また同じ三人で手を振り合う。
三人で一緒に登校するこの光景もまた日常だった。
そのルーティーンは物心着いた頃から出来上がっていた。

52 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:27:42 ID:2pP8licA0
川 ゚ -゚)「ん、今日は早かったな」

('A`)「昨日は寝るまでの間連絡しなかったからな。いくら帰りが遅かったとはいえ、すぐに眠ったんだろ
    俺もそうだけど」

( ^ω^)「全員今日は早いお。いつもの10分前に全員集合したお」

('A`)「昨日遅刻したんだし、コンビニ寄るから奢れよー」

(;^ω^)「う…わかってるお…」

川 ゚ -゚)「ちなみに、私にも二人共何か買ってくれよ?昨日そう言ってたもんな?」

('A`)「…忘れてくれれば良かったのに」

( ^ω^)「そういうところだけは抜け目ないおね…」

たまに誰かがいないこともある。
昨日の僕のように遅刻してたりする時もあるからだ。
その時は、遅刻した奴が残りの二人にお菓子を奢る。
いつの間にかできたルールだった。
ただ、昼休みに全員で分けることがほとんどだから、奢るというより菓子パーティーになるだけだった。
幼馴染のルールっていうのは全員が不幸にならないいいバランスにできてると思った。

53 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:28:42 ID:2pP8licA0
昨日あんなに疲れていたのに、それも忘れるくらいには気が楽だった。
どんな時もこのグループにいると心が落ち着く。
好きなものは好きなんだ。
恥ずかしいから今更言葉にすることはないけども。

余裕をもって学校に着く。
昨日あんなに夢のようなことが起こったのに、何故か心は落ち着いていた。
きっと本当に夢なのだと感じていたからだと思う。
彼の姿を見るまでは。

(´・ω・`)

ショボンは教室で座っていた。
ただ、昨日怪我したところは痛そうな跡が残っていた。
きっと口の中も腹も傷だらけだろうに、真顔を貫いていた。
こんなことを思うのは、僕たち三人くらいだろう。
そこに居合わせたのは、僕たちしかいないんだから。

だからこそ、心配だった。
あの風のことも、緑色に光り輝くネックレスのことも、あの姿のこともこの際どうでもいい。
彼が目に入ってから、彼に押し寄ってしまったのは反射的にだった。
取り囲む人達を強引に引っぺがして彼に話しかける。

54 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:29:02 ID:2pP8licA0
(;^ω^)「昨日は大丈夫だったかお!?」

教室の音が一瞬で無音になるのを感じた。
僕の声が予想以上に大きかったからだ。
それに続いた二人もいた。

('A`)「お前のその傷、結構痛そうだけど強がってないか?
    無理にクール気取ってもいいことないぞ」

川 ゚ -゚)「あの現場に乗り込んだ二人に感謝だな
     まぁ、あの後先生を呼んだのは私だがな」

ショボンは驚いた表情から身動きが取れなくなっていた。
そりゃ、囲んでた人を無理やりどかせて、素性も知らん三人がいきなり話しかけてきたのだ。
それでも彼は真顔を貫いて、僕らに話しかけてくれた。

55 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:29:37 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「…昨日はありがとう。お陰で何とか助かったよ
      でもどうしてあそこに?」

('A`)「そりゃあ、あの廃墟の幽霊を見るためさ
    ま、結果的に幽霊よりもすげーもの見ちゃったし、経験したんだけどな」

(´・ω・`)「幽霊…そうなんだね。怪我は無事だったかい?」

( ^ω^)「そういえば…あんまり痛さはもうないお。ショボンは?」

(´・ω・`)「僕のことは気にしないで大丈夫…あの時先生を呼んでくれなかったら、僕はここにはいないだろうね
       最悪、皆であそこでフクロにされてたかもしれない。」

川 ゚ -゚)「そう言うな。私達はあの不良共が許せなかったのさ。弱小者に寄って集って…気に食わないよ
     結果的にみんな怪我さえしたけど無事だったから、全て良しだよ
     それに、転校生だってその美顔が守られたみたいだし、何よりじゃないか」

('A`)「正直羨ましいし、妬ましいよ」

(;´・ω・)「ドクオ君は勉学というのがあるじゃないか。僕には到底叶わないよ
      人間外見より、中身が大事だと僕は思うよ」

('∀`)「…無意識でも刺さるものって多いことを教えてやらないといけないかもな」

( ^ω^)「ドクオは刺さり易すぎるんだお」

56 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:05 ID:2pP8licA0
そんな他愛もない話をしているうちにチャイムが鳴った。
席に戻る時に、なんとなくショボンも含めた4人に好奇の目を向けられた…
そんな気がした。
人気転校生と、幼馴染の三人がいつものテンションでいきなり話し始めたのだ。
クーは嫉妬の目線を女子達から送られるが、そんなものは意に介していない模様。
女子って大変だなぁと、この時は流石に思った。
話したこともない三人と、いきなり怪我だらけになった人気転校生…
そう…
…ん?

( ^ω^)(なんでドクオの名前と勉強ができること知ってたんだお…?)

57 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:27 ID:2pP8licA0
記憶が蘇る。
僕は見てしまったんだ。
ショボンが黒いコートに包まれていたのを。
そして、ガムテープを剥がし、助けた時に迷わず僕の名前を呼んだことも。
風が止んだ後、ショボンも不良達も居なくなっていたのを。
今日、ドクオが勉強ができるということを知っていたのも。

まるで、全部最初から知ってて予知してたかのように…
僕の中で謎が謎を呼び込んだ。

一体どうすれば全てが結びつくのか
何をしたら納得出来るのか。
全く想像が付かなかった。

ただ、魔法のようだ。
としか思えなかった。

58 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:49 ID:2pP8licA0
それからは現状分かってることをノートに書いた。
紙が汗ばんだ手にくっつくことも気にならないほど、集中した。
この集中力が勉強に活かせたらいいのに。
そんなことを思い始めた。

今は、謎だけが心を巣食っている。
不安を殴り書きしているのだ。
チクチクする感覚を拭うようにノートに文字を連ねた。
一度気になったのだからしょうがない。

今まで感じたこともないこと。
知らなかったこと。
思いも付かなかったこと。
…突然現れた人物のこと。

ドクオが幽霊の話を聞いてから全て始まっていた。
その噂はどこからともなく湧き出て、僕らの耳にも届いた。
あの廃墟の幽霊の話。
そして、昨日見てしまった全て。
どう考えてもおかしいことは分かっているつもりでも、僕の第六感が叫んでいる。
あの幽霊の正体は…

59 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:31:09 ID:2pP8licA0
('A`)「幽霊の正体はショボン?」

川 ゚ -゚)「なんだブーン、寝惚けてるのか?」

( ^ω^)「…僕もそう思うお。それでも、考えれば考えるほどそうだとしか…」

弁当を食べながら、二人に結論を話し出す。

('A`)「ブーンの言いたいこともわかる。なんつったって、あの時あの空間に居たのはショボンだからな」

( ^ω^)「そうだお。それにあの不良達の話も全然聞かなくないかお?
       学校に来てないから話が出ないのも頷けるんだけど…」

川 ゚ -゚)「ふむ、私にはそういった考察は苦手だ。ドクオはどう思う?」

('A`)「…確かに引っかかるところはある。あの風とかな。
    だけど、幽霊の話はショボンが来る前からあったんだぜ?
    それはどう思うんだ?」

( ^ω^)「そこは何とも言えないおー…だけど、二人は気づかなかったかお?
       ドクオは勉強ができることを、何故かスムーズに突っ込みで入れてたんだお
       それに、不良達の話を思い返せば
       ショボンが最初に廃墟にいて、その後に不良達が来てたようなことを言ってたんだお
       僕には…それがどうも不気味だったんだお…」

60 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:31:32 ID:2pP8licA0
どこまで行っても僕のは憶測に過ぎなかった。
だが、二人はあまりにも自然な会話の流れだったために気が付かなかったらしい。

そう、幼馴染だからこそ引っかかるほんの少しの棘。
それが、辺り一面に広がっていた。
だからと言ってショボンを咎めることは一つもない。
ただ、何故?ということが多かったのだ。
ただの転校生というには、不可解なことが多かった気がした。

('A`)「まぁ今は考えすぎだぜ。まだ確定してるわけじゃない。
    ただ、面白い考察ではあるな」

川 ゚ -゚)「転校生がどんな人間か…私は興味がある。少し仲良くしてみようじゃないか
     なに、休みまでまだ今日を含めて4日もあるのだから」

( ^ω^)「…そうだおね。少し考えてみるお」

別にショボンがどういう人間だろうといいのだ。
ただ、知りたかった。
彼の魅力に取りつかれたとでもいうのだろうか。
僕の考えはグルグルと巡った。
そして、一つのシンプルな考えに到達した。

( ^ω^)「…もう一度、あの廃墟に行ってみるお」

___________________

61 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:32:07 ID:2pP8licA0
その日の放課後、僕はカーチャンに連絡をした。

『ごめんお!今日も少し帰るのが遅くなりそうだお…
 ご飯は家で食べるお!』

軽く、帰るのが遅くなることを伝えた。
昨日の反省だった。
心配をかけるわけにはいかなかったから。

そして、前と同じルートを辿る。
今回は二人には秘密で来てしまった。
また、二人が何かに巻き込むのは…
二人が傷つくことは、僕が嫌だった。

廃墟に向かうや否や、どうも様子がおかしい。
昨日と同じ道のはずなのに、やけに息苦しかったから。
一人で行動するのはあまり慣れてないから。

それに、前回よりも少し遅い時間を狙って行動している。
辺りはほぼ真っ暗。
月明りがなければ、右も左も分からなかっただろう。

15分の散歩道。
暑さもさることながら、この湿気が異常に感じ取れた。
風はほぼ無風に近かった。
太陽が昇ってないだけまだましなのかもしれないが、それにしたって暑い。

噎せ返るような土の匂い。
蝉の合唱に、虫の声。
どれもが暑さを助長していた。

62 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:32:34 ID:2pP8licA0
もう引き返そうか…
そう思った途端に、廃墟は現れる。
あの時と全く一緒の構造をしている。
それなのに、今回は少し肌寒さを感じた。
一人なことの畏れなのか?
原因は分からなかった。

到着したはいいが…どうしたものか。
このまま4階に直行するのでも問題はないだろう。
ただ、不良達が今もそこにいるんじゃないかと思うと、中々足が進まなかった。
とりあえずゆっくりと上に上がろう。

そう思って階段を一段上がった時だった。
ひんやりとした空気が上から流れてきたのが分かった。

ここは廃墟だ。
そして電気なんてものは通ってない。
なら何故?
クーラーのような冷気に引き寄せられた僕は、ほぼ無意識で4階に駆け上がっていた。

前回の場所まであっという間に着いてしまった僕は、ハっとした。
この冷たい空気は4階からじゃない。
屋上に繋がる階段からだった。

ドクオは言っていた、屋上に行くには、独立した階段を上がる必要があると。
思い出したこの廃墟の構図。
その階段は、その冷えた空気を放っているからか、異様な雰囲気を匂わせていた。

63 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:09 ID:2pP8licA0
その階段に近づけば近づくほどに、その冷気は増していた。
冬の風が屋上から吹いてきているようだった。
この廃墟に近づいた時に感じた肌寒さの正体は屋上なのだ。
屋上に上ろうと手すりに手をかけた瞬間。

激しい頭痛と耳鳴りに襲われた。

雷に打たれたような痺れが、頭蓋骨に響く。
僕はその痛みに耐えられずに、膝をついた。
声にならない声を捻りだす。
痛い、その一言すら出なかった。

ホワイトノイズのような爆音。
土砂降りの雨が降ってるようだった。
僕は死ぬのか?
訳が分からない。
分からないことだらけだった。

膝をつくことすら忘れ、床に這いつくばっていた。
頭痛は鼓動に合わせてズキズキと僕を蝕み続ける。

耳鳴りが段々と大きくなる。
その中で、女の声が聞こえた。

64 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:29 ID:2pP8licA0
【-----君■■を■■し■した■■■】

ノイズが酷くて聞き取れない。

(;-ω-)「いっっ…一体なんなんだお?」

【君の■■を■■■■を見■■■】

何かを言っている。
そして、僕に何か伝えようとしている。
だけど、聞こえない。

(;゜ω゜)「なんだお!誰なんだお!!」

電流を流されたような痛みに抗いながらも叫んだ。
理不尽に対する怒り。
その感情だけが僕を支配していた。
僕は吠えた。
何度も。
何度も。


65 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:56 ID:2pP8licA0
5分程のたうち、叫び回っただろうか。
頭痛は鳴りやまず、脳に響く声は絶えず何かを発している。
進展はなかった。

【■■に■■■全■■■■を■■して】

(;-ω-)「クソ…痛すぎて何も考えられねーお…!
      何かないかお!?」

本格的に死を感じ始めたころ。
耳に生じるノイズに交じって、金属の悲鳴が聞こえた。
錆び同士を強い力で擦りつけるような…
明らかに異質な音だった。

その音に導かれるがままに、屋上に繋がる扉を見た。

(;゜ω゜)「…何だってんだお!あれは!」

66 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:34:18 ID:2pP8licA0
屋上に繋がる扉から強烈な冷気が舞い込む。
僕を招くように開いた先の光景は…現実を無視したかのような光景だった。

空高く聳え立つ白い階段。
それは積乱雲のような高さをしていた。
ここからでは詳しく見れないが、言葉通り空まで届くかのようだった。
その終着点にある、固く塞がれた両開きであろう奥の扉。
いや、あれは門と言っても過言ではない。
そのくらい壮大で、姿だけで全てを雄弁に語っていた。
これは普通じゃないということを。

【君■■を■■■■示■■■■■■■】

その間にも語られる謎の声。
所々ノイズが走り、全てを聞き取るには難しかった。
強まる冷気。
この寒さは、確実に自分の体温を奪っていった。

(;-ω-)「な…何が言いたいんだお?お前は…お前は誰なんだお…」

まるで雪山。
それは、夏の服装のまま世界最高峰に挑むような感覚。
必然的に行きつく、死という文字。
これは洒落にならない。

今まで意識すらしたことない死が、確実に迫っていた。
このままでは、僕は…

67 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:34:52 ID:2pP8licA0
(;゜ω゜)「まだ死にたくねーおおおお!!!」

やけになった僕は、頭痛に苛まれながら屋上に向かった。
いきなり立って階段を上がるものだから、その姿は覚束無い。

何故だろう、このまま家に帰るっていう選択肢はなかったみたいだ。
感情任せの行動は、大抵碌なことがない。
きっと頭がおかしくなってるんだ。
頭痛もする、耳鳴りも止まない。
その上、語り掛けてくる声もまともに聞けない。
イライラしてたんだと思う。
多分。

おおおっ!
こうやって叫ぶことによって、意識と保った。
ここで少しでも気を抜いたら、それこそ真夏の凍死体になってしまうだろう。
それだけは避けなければならない。
自分を鼓舞するのと同時に、冷気が舞い込む扉に突進した。

そして、遂に辿り着いた。
ここが…

(;^ω^)「…屋上?」

68 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:35:17 ID:2pP8licA0
…のはずだった。
だが、目に映る景色は別世界だった。

辺りは黒く覆われて、見えるはずの学校も、星や月も何も見えない。
ただ暗黒な空間に、天まで上ってしまいそうな階段と、厳かに存在する扉。
ただそれだけだった。
それだけなだけに、この空間の広さは想像もできなかった。

どこまでも広がる漆黒の闇。
それとは反対に存在する純白の階段と扉。
大袈裟な装飾が施されていて、その美しさは何者も汚すことを許さない。

しんしんと降り積もっている雪。
歩を進める度に、足元からザクザクと音を立てた。
僕の浮き立った足をちゃんと踏めるように。
それは、この不可解な場所に僕が存在しているということでもあった。

…もう一つ。
屋上に繋がる扉からは見えなかった影を視認した。
純白の階段前に立つ…黒いコートの姿。
その顔はもう何度も頭の中を掻き乱した、見知った顔だった。

69 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:35:38 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)

ショボンだった。
彼は僕にびっくりしたのか、足早に僕に駆け寄ってきた。

(´・ω・`)「ブーン君…何故ここにいるんだい?」

何故?
それはこっちのセリフだお。
僕は聞きたいことが沢山あるんだお!
ここはなんなんだお?
さっきの声は誰なんだお?
この寒さは?
雪は?
階段は?
なんで廃墟の幽霊と同じ服装してるんだお?

…お前は何者なんだお?

僕は駄々を捏ねる子供のように、ショボンに言葉を浴びせた。
もう脳が処理しきれない量の情報量だった。
何かを吐き出さないと、見えない何かに押し潰されそうになっていた。

70 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:36:04 ID:2pP8licA0
(´-ω-`)「…それ等に答えるには時間がかかる…かな
      それに、ブーン君がここにいることの方が僕にはよっぽど驚きだよ」

それはどういうことだお…

(´・ω・`)「まぁいいさ、ブーン君。"元の世界"に戻って話をしようか
       ここだと寒いし…何より頭痛とか耳鳴り、止まらないだろ?」


謎の症状に悩まされていることがショボンは知っていた。
どうして?
その言葉を吐き出す前に、彼はコートを僕に被せて視界を覆った。
すると、不思議と寒さや頭痛はなくなった。
「ちょっと眩暈がするかも。ごめんね」
彼がそういうと、少し立ち眩みをしたような感覚に陥った。

71 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:36:24 ID:2pP8licA0
倒れまいと足に力を入れた瞬間に、覆っていたコートを取ってくれた。
寒さや耳鳴り、頭痛は何事もなかったかのように今はもうない。

嗅ぎ慣れた匂い。
懐かしいとすら思うここは、自分の教室だった。
違和感と言えば、プールから反射した月明りが、不安定に部屋照らしているからだだった。
窓から見えるオリオン座が、空に堂々と浮かんでいる。

僕はただただ、現状を飲み込むしかなかった。
さっきまでいた異空間から、ショボンが瞬間移動?を使って戻ってきた。
その事実を飲み込むことしかできなかった。

…どう考えたってこれは…魔法じゃないか。

( ^ω^)「ショボン…」

人はパニックを通り過ぎると賢者モードになるみたいだ。
少なくとも僕は。
言いたいことがあるはずなのに、言葉が出てこなかった。

この空気を変えたのは、彼からだった。

72 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:38:22 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「…一つ言おう、ここまできた方法は魔法さ。
       そして、ここはパラレルワールドでも何でもない
       いつもの教室。ここなら落ち着くだろうと思ってね
       あの場所で会ってしまったんだ…答えられることなら、正直に答えるよ」

その会話をを皮切りに、僕も言葉を発した。

( ^ω^)「君は…幽霊なのかお?」

(´・ω・`)「それは違う、と言い切ろう
       ブーン君の目の前で思いっきり血を吐いただろう?
       あれが何よりの証拠さ」

( ^ω^)「なんで僕が頭痛や、耳鳴りしていることを知ってたんだお?」

(´・ω・`)「僕もかつて…最初にあそこに到達したときに、同じ症状に陥ったからだよ
       それに、顔色もすこぶる悪かったし、そうかなってね」

( ^ω^)「さっきまでの空間…廃墟の屋上にあったものは何だお?」

(´・ω・`)「ブーン君、君は聞いたことがあるかい?あの廃墟の噂を…
       もちろん幽霊の話じゃないよ」

( ^ω^)「…願いが叶う場所、だったかお?」

73 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:38:44 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「そうだ。僕の素性は知らなくていいけど、僕がなんであの場所に居たか
       それは極単純で、願いを叶えてもらう為さ…それも、強い願いの元、ね
       あの場所は、強い願いに引き寄せられるように現れる…らしい
       僕も詳しくは分かってない」

( ^ω^)「…ショボン、君がどうしても不思議だったんだお
       何なら、今も不気味にすら思ってるお。ドクオの事もすんなり知っていたし
       あの廃墟で初めて会った時のあの風も…あれも魔法かお?
       それ等を確かめる為、だお。あの場所に行けば何か分かるかもしれないと思ったんだお
       僕ら…クーとドクオは大切な幼馴染だから、守りたかったんだお」

話せるようになった僕は、文脈すら無視して全てをぶつけた。
不安、不信。
それらを前面に出して。

(´-ω-`)「…おおよそ合っているよ。君の考えていることは、全部、ね
      君たちのことを利用したわけじゃない、ってことは伝えたいかな
      一人で居るのは慣れているけど、悪目立ちはしたくなかったんだ
      気分を悪くしたなら、ごめん。僕も友達を作りたいんだ
      だからこそ、君たち三人と少しだけつるむような関係になりたかったのさ
      あの不良達はイレギュラーだったよ。僕も想定してない
      それに、もう学校は最後になるかもしれないからね。思い出作りさ」

74 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:06 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「そういえば…あの不良達はどうなってるんだお…?」

(´・ω・`)「彼らの場所だとは思わなかったから、あんなに殴られるのも驚いたよ…
       でも、安心していいよ。彼らは少し"眠って"もらってる
       安眠は出来てないかもしれないけど、少しは懲てもらわないとね
       君たちに助けてもらって良かったと思ってるさ」

( ^ω^)「そうだったのかお…」

不安を塗り潰すように、気持ちよくショボンの言葉がハマっていく。
矛盾することは何もなかった。
今までの彼からは感じ取れない程、人間性が溢れていた。
話している間に、徐々に鮮明になる彼の目的、意図。
きっと、これが彼の本心なのだろう。

彼に対する疑念が取れたところで、僕は一番気になっていたことを彼に問いかける。

75 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:28 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「…本当に願いが叶うのかお?あの場所で」

(´-ω-`)「…そればっかりは分からない、かな。僕は今、その願いを叶える為に奮闘してるんだ
      あの場所に行くには、人の強い願いが必要なんだと思う
      僕も色々検証中だからね。合ってるかどうかの確証はないよ」

(;^ω^)「そうなのかお?でも僕に今叶えたい願いは…特にないお?」

(´・ω・`)「"どんな手を使ってでも"叶えたい願いさ…心当たりないかい?」

(;^ω^)「ん-…そう思った願いがもしあるなら、すぐ出てくると思うお
       だから多分…そんな大きい願いはないんだと思うお」

(´-ω-`)「…そうなんだね。よく分かったよ。ありがとう」

(´・ω・`)「そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないか?時間ももう遅いけど」

(;^ω^)「…つやっべえお!!カーチャンに連絡…あれ?」

急いで携帯を見る。
多分怒ったカーチャンからの連絡があるはず…
と思ったが、何もなかった。

僕からの連絡は、遅くなっても必ず返してくれていたカーチャンだ。
こういうことはなかったのに…何かおかしい。

(´・ω・`)「僕が近くまで送ってあげる。それと、今日のことは内密に。いいかい?」

(;^ω^)「わ、わかったお!ありがとうだお!」

そういうと、ショボンはまた僕に黒いコートを被せ覆った。
また、脳が揺さぶられような感覚になった。
---気を付けてね---
彼の声でそう聞こえた気がした。


___________________

76 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:55 ID:2pP8licA0
ショボンの魔法?でいつの間にか道路に立っていた。
夜中でも、蒸し暑さは昼とそう変わらなかった。
何故か彼の姿は見えなかったが…いつも通りの帰路に突っ立っていた。

急いで家に帰らねば、カーチャンが心配している。
それにしても…ここに来る前の彼の言葉…
それが引っかかっていた。
何に気を付ければいいのだろうか…

その意図は、家の玄関に着いた時に察してしまった。

トーチャンがどこかに向かおうとしていたのだ。
こんな夜中に。大きな荷物を持って。一人で。
不安な心を落ち着かせて、いつも通り声をかけた。

( ^ω^)「トーチャン!帰るの遅くなってごめんお!
       どこに行くんだお?」

( ´W`)「ブーン…いや、ホライゾン…」

トーチャンが一言発しただけで、空気が淀んだのが分かった。
その声はどこまでも黒く、底なしに暗かったからだ。
名前を呼ばれることが久しぶりのことだった。
幼馴染の三家族全員から言われているあだ名。
それは自分の家族にも影響してたようで、トーチャンもカーチャンもあだ名で呼んだ。
名前で呼ばれるとき、それは決まって怒られる時か…真面目な話の時だけだった。
自分を呼ぶそのトーンと、その荷物の大きさで、悪い未来を想像してしまった。
それも最悪な。

77 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:40:23 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「トーチャン…?」

( ´W`)「…ホライゾン。お前は立派に育ったな。俺の誇りさ。噓偽りなくな」

( ^ω^)「…何の話をしてるんだお?」

( ´W`)「…トーチャンな、この家から出ていくことになったんだ
     もう、この家に戻ることは…ない」

( ^ω^)「…トーチャンもそんな冗談言うんだおね!
       びっくりしちゃったお!今日は一緒に夜ごはん食べれるんだおね?
       帰ってきたの遅くなったからってそんな…」

( ´W`)「ホライゾンも、もう大人だ。この言葉の意味…分かるな?
     トーチャンな、他の女の人と住むことになったんだ…
     だから…これでサヨナラだ」

(;^ω^)「と、トーチャ…ン?」

嫌な汗が僕の背中をなぞった。
それはこの暑さのせいではなかった。
トーチャンはその後、目も合わさず家を離れた。
僕を通り過ぎる時の表情は見えなかったが、絶望的な雰囲気を醸し出していた。

78 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:41:01 ID:2pP8licA0
それを横目に、ドタドタと音を立てて家に入る。
何か…大切な物を失ってしまいそうで。

(;^ω^)「カーチャン!トーチャンが!!」

いつものリビングとは思えないほど、広い間取りだった。
それは、元々あった物がなくなっているのと同義だった。
そして、それが意味していることは、容易に想像できてしまったのだ。
焦っているのだ。
あの冗談がただの冗談だと、言ってほしかっただけなんだ。

そんな楽観的な予想はカーチャンの顔を見た瞬間に分かってしまった。

 J( ー )し

ただ、俯いていた。
それだけで、考えうる最悪が現実になってしまったことを悟った。

(;^ω^)「カーチャン!どうなっているんだお!?
       トーチャンがどっか行っちゃうお!何で話してくれなかったんだお!」

僕は怒鳴るようにカーチャンに言葉をぶつけてしまった。
こうしてる間にも、聞こえてた車のエンジン音。
それは、自分達の車の音だった。
幾度もあの車で旅行に行ったのだ、聞き間違えるはずがない。

一言、たった一言"嘘だ"と言ってくれ。
それだけでいいのに、どうして大人はこうも…ズルいのだろう。
そんな哀れな希望は、机に置かれた紙が物語っていた。
だからこそ…全てを理解した。
もう、二人は…

79 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:41:30 ID:2pP8licA0
 J( ー )し「ホライゾン…どうしちゃったの?」

(;^ω^)「トーチャンが今出てっちゃったお!他の人と住むって…
       はっきり言ってたお!追いかけて引き止めないと!!」

 J( ー )し「…トーチャンも冗談が上手になったねぇ。出張くらい今まで何度もあったじゃない」

(;^ω^)「トーチャンがそういう事で冗談言わない人だってカーチャンが一番知ってるはずだお!!」

僕は居ても立っても居られなかった。
とにかくトーチャンを追わなきゃ。

80 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:00 ID:2pP8licA0
靴も履かずに家を飛び出た。
もう出発してしまったとは言え、まだ車の音が聞こえるんだ。
信号かどっかで追いつけるはずさ。
僕抜きで、知らないところで勝手に決められるのはいくら何でもないだろう?
何が悪かったんだよ。
何がそうさせたんだよ。
今までも、これからも愛していたいんだよ。
僕の家族も、クーとドクオの家族も。全部。
あんまりじゃないか。
今までずっと一緒だったじゃないか。
知らない間に何があったんだよ。
僕に言ってくれても良かったじゃないか。
少なくとも、こうなると分かっていたなら…

いや、自分から目を背けただけなんだ。
あの日、家が真っ赤になった時のカーチャンは様子が変だった。
それに気づいていたのに、見て見ぬふりをしたんだ。
僕があの時、少しでも声をかけていれば。
トーチャンと会えたあの朝、もっと話を聞いていれば。
今日、廃墟になんか行かずにちゃんと帰っていたら。
僕のせいでもあるのに、二人のせいにしてしまった。
違う、僕が引き止めなきゃいけないだろ?
僕は、僕は…
二人の子供なんだから。

81 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:20 ID:2pP8licA0
自己嫌悪に塗れた心が耐え切れなくなって、溢れた感情は涙となって零れ落ちた。
きっと誰も悪くない。
でも原因は分からない。
だから話したかった。

もう、あの車のエンジン音すら聞こえないのに、見知った道を走り続けた。
走馬灯のように次々に思い出が頭を駆け巡る、その度に涙がとめどなく出続けた。
もう一度だけ、家族で話し合おう?
それだけで良かったんだ。
それだけを言いたかった。
そうすればきっと…いつも通りに戻るはずだよね?
だからお願いだ神様。
僕の家族を…幸せな時に戻してくれ。

視界が上手く機能しなくなり、僕は転んでしまった。
もうとっくに限界だった。

82 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:43 ID:2pP8licA0
( ;ω;)「…ごめんなさい」

ポツリと、呟いた。

コケたままの僕は、空に仰向けになって暫く動くのをやめた。
今日という一日に色々なことが起こり過ぎていたためだ。
廃墟のこと、ショボンのこと、魔法のこと、家族のこと、これからのこと。
何も考えられない。
考えたくなかった。

この降り注ぐ月光に照らされ続けた。
どうしようもない、行き場のないこの感情をぶつける相手は居なかった。
僕は…怒りの矛先を月に向けるように、上を向いた。
そうしてたら、さっきまでの激情は収まる気がしたから。
怒ることも、泣くことも慣れて無いのだ。
ただ、誰かに、何かに、八つ当たりをしているだけだった。
こんなことをしても、何も解決なんてしないのに。

ひとしきり涙を流したら、帰ろう。
もう日付もとっくに変わっているだろう。
…初めての深夜散歩は最悪だった。

心の整理はできていない。
むしろ、思い出ばかりが出てくる。

83 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:10 ID:2pP8licA0
〜〜〜数年前:罅割れた追憶〜〜〜



あの時は皆浴衣を着ていた。
歩き慣れない服装なのに、トーチャンは車椅子を押しながら歩いていた。
色々教えてくれた出店通り。
初めて見る巨大な熊手が怖かった。
それをどういう物か説明してくれてたけど、人が溢れかえっているというのもあって聞き取れなかった。

焼きそばとお好み焼きの混ざった匂い。
提灯に照らされた林檎飴。
酔った大人の笑い声。
蝉の抜け殻。
歩きにくい足元。

僕は人混みが怖くてカーチャンの手に自分の手を重ねてたんだ。
心配しないでいいよって、僕の手を握り返してくれたんだっけ。
トーチャンはそんな僕らを幸せそうに見てた気がする。

84 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:36 ID:2pP8licA0
そうしてたら、突然爆弾が落ちるような音を聞いて、僕はびっくりして声を上げて泣いてたんだ。
カーチャンがほら!って僕の肩を叩いて上に指を指してた。
泣きじゃくる僕は、カーチャンの指の先を見た。
それが初めて見た打ち上げ花火だった。

花よりも大きくて、脆くて、すぐ消えてしまう。
それなのに、その大華は僕の感覚全てを奪った。
どこまでも広がる満天の黒に咲くあの爆弾は、僕の泣きっ面を壊してくれた。
強く握ったカーチャンの手は、熱帯夜よりも優しく、暖かかった。
多分、車椅子を押してたトーチャンの手も同じことを感じてたと思う。
なんとなくその時、三人が心で繋がってるって幼いながらに感じてた。

それから遊園地もそうだ。
その時はクーとドクオの三家族も一緒に来てたんだよな。
お化け屋敷でドクオが酷く泣くもんだから、クーと僕で慰めてたっけ。
僕のトーチャンはそのシーンをカメラで撮ってたんだよな。
今もまだ、家にあるアルバムに残ってた気がする。

海も、ハロウィンも、クリスマスも、初詣も全部。
僕の家族三人で手と手を取り合って生きてきた。
ずっと、このままだと思ってたんだ。

85 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:59 ID:2pP8licA0
〜〜〜現在:静寂と同化して〜〜〜


そんな記憶から現実に戻るまで、体感1時間は仰向けになっていた。
記憶の引き出しは、辛いときほどアレコレ開けては放っぽる。
その片づけをするのには骨が折れる時間だった。

ようやく落ち着いた、と自分の中で区切りをつけた。
そうでもしなかったら、いつまでも立てなかっただろうから。
ゆっくりと上体を起こして、痛む両足を地につけた。

見守ってくれているのか、はたまた僕を見て笑っているのか。
あの月は、僕が帰宅するまで追ってきた。
涙は自然と引っ込んでた。
何時から止まっていたのかはわからない。
変な気持ちで冷静になる。
だからこそ、帰ろう、と思えたのかもしれない。

家に帰ればカーチャンがいる。
まずは、話すところから始めてみよう。
そう思ってから、歩くスピードも速くなり始めた。

86 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:44:25 ID:2pP8licA0
何故か家に戻ることに緊張を覚えたころ、ようやく玄関前まで着いた。
カーチャンに酷いことを言ってしまったからだ。
傷つけてしまったかもしれないと思うと、心が痛んだ。
僕よりもしんどい思いをしているのはカーチャンなのだ。
色々なことが混ざってしまって、考えは纏まらなかったが、冷静な状態は続いてた。

恐る恐る、ドアノブに手をかける。
開けた先は、僕が勢いよく出て行ったせいで、ぐちゃぐちゃになった玄関があった。
それに、靴を履かずに外を走ってしまいにはコケている。
すっごいダサい。

そんな玄関を直すこともせず、足に着いた泥や砂利も拭かずに、僕はカーチャンの傍に近寄った。
カーチャンは僕が出て行った時と同じ位置、同じ格好をしていた。

…僕は怖かった。
何か声をかけることが。
それでも、何か話さないといけない。
…僕の唯一残った家族なんだから。

87 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:44:47 ID:2pP8licA0
( -ω-)「…カーチャン、ごめんお。おっきい声出して」

カーチャンは頷くだけだった。
まるで、大丈夫と言ってくれているかのように。

( -ω-)「…正直、僕は怒ってるし、寂しいと思ってるお。僕に話を一つもしてくれなかったから
      これからどうなるかも分からないから、さっきはカーチャンに当たっちゃったんだお
      それでも…聞かせてほしいお
      きっと…もう元には戻らないんだおね…?」

少しの希望に縋る様にカーチャンに問う

 J( ー )し「…本当はホライゾンが成人したらって話だったの
       ホライゾンは悪くない。何も悪くないんだよ
       もう終わった後になるけど…私達は…」

( -ω-)「それ以上はいいんだお…僕もそれなりに大人だってことだお…
      カーチャンは傍に居てくれるおね?」

勿論だよ。
そう言ってカーチャンは震える体で僕を抱きしめてくれた。

88 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:45:12 ID:2pP8licA0
結局原因は教えてはくれなかった。
きっと、今の僕には言えないことなのだろう。
割り切れないのに、割り切らなきゃいけない。
僕はやっぱり…大人にはなれない。
そう思った。

やけに広い自分の家。
ぽっかりと空いた1部屋。
微かに残る匂いだけで、目を瞑ればいつも通りの光景が広がった。
今にも触れられそうなほど色濃く残った僕の日常という歯車が、少しずつ狂い始めた。

___________________

89名無しさん:2025/02/13(木) 19:35:45 ID:HtwhbWmE0
おつおつ

90 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:55:44 ID:uiQUQz.g0
4days


('A`)「昨日ブーンのやつ、帰り居なかったなー。どこ行ったんだろう」

川 ゚ -゚)「私も考えたんだが…
     夜の連絡もなかったってことは…だ。一つしかないだろう?」

('A`)「ん?何か心当たりあるのか?」

川 ゚ -゚)「か の じょ、だ。ブーンにできたんだろ?そうすれば辻褄が合う」

(;'A`)「おい…彼女…?そんなはずは…そんな素振りなんてなかったぞ…?」

川 ゚ -゚)「恐らく、私達には言いづらかったんだろう。
     ドクオも考えてもみろ、自分に恋人ができたとして、それをいつもの調子で言えるか?」

(;'A`)「そりゃそうだけど!だったら夜には連絡の一つくらいあってもいいはずだろ!?」

川 ゚ -゚)「男女が夜、誰とも連絡つかなくなる…つまり、だ」

(;'A`)「…つまり…」

91 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:56:07 ID:uiQUQz.g0
川*゚ -゚)「営んだ…ということだろう…言わせるな、恥ずかしい」

(#'A`)「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!
     許せねえ!!!ブーン出てこい!!!」

(#;A;)「俺らはそんなことしないだろおおおお!!!!
      せめて俺には言えやああああ!!!!羨ましいなクソがあああ!!!」

川 ゚ -゚)「なんだ、ドクオにもそんな感情があったのか。そういうことなら、私に言ってくれればいいのに」

( ;A;)「…え?」

川 ゚ -゚)「ん?」

( ;A;)

川*- -)

92 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:56:29 ID:uiQUQz.g0
(;^ω^)「なんだお…この空気…」

(#'A`)「ブーンてめええええ!!!!彼女ができたなら言えやクソがあああああ!!!」

(;^ω^)「なんの話だお!!!!ドクオ落ち着くお!!!!」

ああああああああ…


あれから、時間が過ぎるのは早かった。
いつの間にか朝日が昇り、僕は眠れなかった。
トーチャンだけの荷物も痕跡も何もない。
もう二度と元に戻らない、という事だけを広々としたリビングは語っていた。

まだカーチャンも心の整理がついてないのだろう。
目が赤く腫れた後が見受けられた。
きっと僕が眠れなかった時間、カーチャンは声も出さず泣いていたのだ。
大人は変にそういうところを隠したがる。
本人がまだ割り切れてないなら…まだ僕も引き摺っててもいいおね?カーチャン。

93 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:57:13 ID:uiQUQz.g0
クーとドクオと合流してからは、何の変哲もない景色だった。
二人の両親にはまだ何も言ってないみたいだった。
現に、僕に対して変に気を使ったことも感じ取れなかった
ただ、昨日僕が帰り道に居なかったこと、夜に何も連絡がなかったこと。
それらが重なって、二人の間に変な誤解が生まれてたらしい。
彼女を作るなんてことは、全く考えたことがなかった。
なによりもこの二人と居れるのが僕の幸せだったからだ。
まぁ…いずれは僕ら三人共恋人ができるのだろう。
クーもドクオも、どんな相手を見つけるのだろうか。
そう思うと…少し寂しい。

夏の精霊よ、どうか僕に救いか彼女をください。

そんなこんなで学校に到着。
教室に着いてから、珍しい人物から声をかけられた。

94 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:58:34 ID:uiQUQz.g0
クーとドクオと合流してからは、何の変哲もない景色だった。
二人の両親にはまだ何も言ってないみたいだった。
現に、僕に対して変に気を使ったことも感じ取れなかった
ただ、昨日僕が帰り道に居なかったこと、夜に何も連絡がなかったこと。
それらが重なって、二人の間に変な誤解が生まれてたらしい。
彼女を作るなんてことは、全く考えたことがなかった。
なによりもこの二人と居れるのが僕の幸せだったからだ。
まぁ…いずれは僕ら三人共恋人ができるのだろう。
クーもドクオも、どんな相手を見つけるのだろうか。
そう思うと…少し寂しい。

夏の精霊よ、どうか僕に救いか彼女をください。

そんなこんなで学校に到着。
教室に着いてから、珍しい人物から声をかけられた。

95 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:59:42 ID:uiQUQz.g0
(´・ω・`)「やぁ、三人共、元気かい?」

ショボンだった。
バーボンハウスみたいだな、お前。

( ^ω^)「…釣りじゃないおね?」

(´・ω・`)「釣り…?好きなのかい?」

( ^ω^)「いや、忘れてくれお。マジでなんでもないお」

川 ゚ -゚)「そんなことより、どうしたんだ?人気者転校生に我々ができることは少ないぞ?」

(´・ω・`)「…僕は少し遠いところから引っ越してきたんだ…だから、この街のことはあんまり知らない
       だけど、近々妹と夏っぽい場所に行きたいんだ、どこかいいところは知らないかい?」

('A`)「妹さんが居たのか…あんまり大きくなくていいなら、今週の土日に商店街で祭りがあったっけか」

川 ゚ -゚)「夕方くらいからやってると思う、屋台は普通にあるし、時間さえ合えば神輿も見れるかもな」

( ^ω^)「確か最後は打ち上げ花火もあった気がするけど、去年は雨で中止になっちゃったんだおね…
       今年は見れると思うお?」

(´・ω・`)「そうなんだね、ありがとう
       妹と行ってみることにするよ」

96 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:00:07 ID:uiQUQz.g0
川 ゚ -゚)「…どうせなら一緒にどうだ?転校生。横の二人が良ければ案内しようじゃないか
     妹さんにも挨拶したいしな」

(´・ω・`)「…いいのかい?幼馴染の仲に入るのは少し気が引けるけど」

('A`)「んまー俺はいいよ。せっかく夏休み前に転校してきたんだ。仲良くしようぜ
    ショボンと、その妹ちゃん的に気まずくなければ」

( ^ω^)「僕も全然いいお!どうだお?」

(´・ω・`)「…君たちの優しさに救われているよ。ありがとう
       家に帰ったら妹に話てみるよ。アイツ、少し顔見知りだからね」

川 ゚ -゚)「そこは私の母性で何とかして見せようじゃないか
     女という物を叩き込んでやるぞ?」

('A`)「やめとけやめとけ…クーが教えられるのはゴリラのなり方だろう?」

川#゚ -゚)「ふむ、余程その口は要らないと思えるなぁ?ドクオ?」

(;'A`)「あ、いや、違くてですね。これは何というか霊長類最強級のメスといいますか」

97 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:00:34 ID:uiQUQz.g0
(; 手)「あああああああ違う違う違う!!!母性が強すぎてえええええあああ」

川#゚ ー゚)「私の母性堪能させてやるから気にするな。身をもって知れ
      女はな、全員愛情たっぷりな猛獣なんだよ」

(; 手)「qwせdrftgyふじこlp」

(;´・ω・`)「…あれは大丈夫なのかい?顔が段々真っ赤になってくけど」

(;^ω^)「痛いとは思うけど、ドクオが悪いお。自業自得だお」

( ^ω^)「…そういえば、一つ聞きたいんだお」

(´・ω・`)「僕がわかる範囲でよければ、どうしたんだい?」

( ^ω^)「願いは…どんなものでも叶うのかお?」

(´・ω・`)「…わからない。でも、何かに縋れるなら、僕はその可能性を信じるよ
       この命を投げ捨ててでも、僕は叶えたいんだ」

( ^ω^)「…ショボン、君の願いっていったい…」

98 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:01:03 ID:uiQUQz.g0
そう言いかけた途端、ドクオ…のようなものが僕の足元に転がった。
…なんだあれ、モザイクかけておくか…

(░░░░)「♓︎⧫︎♋︎♓︎♓︎⧫︎♋︎♓︎♌︎◆︎📫︎■︎⧫︎♋︎⬧︎◆︎🙵♏︎⧫︎♏︎♋︎♋︎♋︎♋︎♋︎」

(;´・ω・`)「…」

(;^ω^)「…」

川#゚ ー゚)「どうやら私の母性が気に入ったみたいだなドクオ
      そのまま貴様が没するまで私が飼ってやろうか?」

(░░░░)「❍︎□︎◆︎♓︎⬥︎■︎♋︎♓︎🙵♋︎❒︎♋︎⍓︎◆︎⬧︎◆︎⬧︎♓︎⧫︎♏︎📭︎📭︎📭︎」

そんなこんなで、今日も始まった。

いつも通りの中に、ショボンも混ざっていた。
僕は彼のことを、二人よりは知っているつもりだ。
昨夜のこと…夢のような一日だった。
それでもハッキリと覚えているのは、夢じゃない証だろう。
凍える程の冷気を放出する廃墟の屋上。
その先にあった積乱雲のような階段、厳かな扉。
そして…魔法を使えるショボンのこと。

99 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:01:42 ID:uiQUQz.g0
最初からそこに居たかのように自然と溶け込む彼に、違和感はなかった。
僕ら三人の幼馴染。
その姿は何も変わらなかった。
新しく出来た友達も加わって、新しい風が舞い降りたようだった。
何も滞りなく、順調。
そう、思っていた。


('A`)「…ブーン聞いてる?」

(;^ω^)「おっ、おん?うん」

川 ゚ 〜゚)「なんだか今日は上の空だな、思い詰めることでもあったか?」

クーは弁当を食べながら僕に話しかける。
皆でお昼を食べていた時だった。

クーは、違和感を察する力がずば抜けて高かった。
まるで心の中を覗かれているかのような感覚になるときがある。
こういうのを地頭がいいっていうのか。
それでも、隠しきれないものはあるようで…
僕の心の穴はぽっかりと開いてしまっているようだった。

100 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:02:04 ID:uiQUQz.g0
瞼の裏に張り付いている景色が消えなかった。
トーチャンの背中姿。
初めて見る、カーチャンの顔。
その全てが、僕から思考力を奪っていた。

(´・ω・`)「考えすぎは良くないよ。ブーン君には話せる相手が目の前にいるだろう?」

( ^ω^)「…気にしなくていいお!ショボンがこうして居てくれることに関して嬉しいんだお」

('A`)「強烈な初対面だったからな。感慨深いよ」

(´・ω・`)「そうだね…改めて、あの時はありがとう。三人共」

川 ゚ -゚)「もうあの時の傷は大丈夫なのか?」

(´・ω・`)「うん、今は何ともないよ」

('A`)「…そういえば、ショボンってどこから来たんだ?遠いところって言ってたけど」

(´-ω-`)「…そうだね、都会の方さ。みんなが思う住宅地と何ら変わらないよ
      僕の地元には面白い場所は特にはなかったし、向こうはコンクリートジャングルだからね
      ここのほうが自然が溢れてて、僕は好きだな。落ち着くんだ」

川 ゚ -゚)「都会か…私は自然が好きだから、大人になっても都会に住めなそうだ」

101 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:02:26 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「高いビルとかに上ってみたいお」

(´・ω・`)「僕の地元よりもっと中心地に行けば沢山あるさ。景色は良いかどうかはわからないけどね」

('∀`)「俺は将来大出世する予定だから、みんな来てくれよな
    ブーンが言う高いビルで仕事するんだ俺は」

( ^ω^)「将来かおー…僕はみんなと一緒にこうして遊ぶ以外は考えたことなかったお」

川 ゚ -゚)「私達もそろそろ将来を考えねばいけないだろうな。私は何も思いつかん」

('A`)「クーは心配だから勉強してくれ。馬鹿のままじゃ何もできなくなっちまうぞ」

川 ゚ -゚)「それなら私は玉の輿を狙うさ」

( ^ω^)「如何にもクーが考えそうなことだお…
       ショボンは何か考えてるお?将来は」

(´-ω-`)「…僕には叶えたい願いがあるんだ。それを乗り越えないと考えられそうにもないかな」

( ^ω^)「ドクオみたいな夢があるのかお?」

(´-ω-`)「いや…願い、だよ。それも、でたらめで荒唐無稽な…ね」

川 ゚ -゚)「…」

102 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:02:51 ID:uiQUQz.g0
ショボンは表情をほとんど変えずに話していた。
だけど僕には分かる。
多分、クーも気づいている。
ショボンの少しの変化に。

彼の過去のことは何も知らない。
だけど、"あの場所"に居たのだ。
願いが一つ叶う…その場所に。
彼はそのでたらめで荒唐無稽な願いを叶える為に、あそこに居たんだろう。

その願いが分かるようになるには、まだ彼との心の距離が遠すぎる。
こうして違和感なく一緒に居られるとはいえ、出会ってまだ数日なのだ。
誰も彼の心情は分からない。
でも、少しずつ気持ちが沈んでしまっているのだろう。
いつもより、覇気がないように見えた。

103 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:03:20 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「…ショボン、今ちょっといいかお?」

僕はショボンを呼び出した。
いいよ。と二言返事で彼は着いてきてくれた。
クーとドクオをその場に残して。

昼休みはグラウンドで遊ぶ人、教室で駄弁る人様々だ。
僕は人気のない場所で、彼と話したかった。
内容を聞かれたら、変だと思われるかと思ったからだ。

そこは学校の屋上だった。
陰になるものはない…が、人はほとんど来なかった。
本当は来ちゃいけない場所だからだ。
今は夏時の昼。
太陽が真上に佇む時間帯。
暑さはこの時期のピークに達するだろう。
それでも、彼と二人っきりで話したかった

( ^ω^)「…率直に言うと、僕、叶えたい願いが見つかったんだお
       だから、その叶え方教えてくれお」

単純な問いかけだった。
僕の願いは昨日の件があってから、頭が捻じれる程考えた。
少なく若い脳みそをこねくり回して出た答えは、"あの場所"で叶えてもらう。
それが僕の僕の最善の答えだった。

104 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:03:50 ID:uiQUQz.g0
(´・ω・`)「…どうやら本気のようだね」

( ^ω^)「出来たんだお。急にできた願いだけど、それでも確かにこの心から願っているお」

(´・ω・`)「…分かった、正直に話そう。願いの叶え方…それはブーン君のその目で、その体で感じるしかない」

( ^ω^)「どういうことだお?」

(´・ω・`)「…いいかい?先ず"向こうの世界"に行ったら、こっちに戻れる保証はないということ
       僕はたまたま、こっちに戻れる…そんな力を授かったんだ」

( ^ω^)「"向こうの世界"っていうのは…」

(´・ω・`)「ブーン君も見たはずだ、空まで長く続く階段を登り切った…あの扉だよ。
       その扉を開けた先の世界さ」

( ^ω^)「扉の先…」

(´・ω・`)「実のところ…僕はあと一度、向こうの世界に渡ったらこっちに帰れる保証はないんだ
       だからあの夜、廃墟から教室に移動させた時に言ったんだ
       これが最後の学校になるかもしれない…ってね」

(´-ω-`)「これは思い出作りなのさ。
      また向こうに行ったら、この場所にも、君たちにも…妹にも会えないかもしれない
最後になるかもしれないんだ。だから、妹には思い出を作りたかった
      だからこそ、一番信頼できる君たちに声をかけたんだ」

105 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:04:11 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「いつ扉の先に行くんだお?」

(´・ω・`)「祭りは土日にあるんだろう?楽しんだら、家で妹を寝かせてから行くつもりだよ
       あと3日後、だね。本当に最後になるかもしれないから…」

( ^ω^)「それだけ分かれば大丈夫だお
       勿論、祭りは一緒に楽しむつもりだお。妹ちゃんに挨拶したいからお」

(´・ω・`)「早とちりは良くない…まぁ、最後まで聞いてよ
       …ブーン君が叶えたい願い…それは、命を懸けられる程の願いかい?」

(;^ω^)「い…命…かお?それは、生死に関わってくるんだお…?」

(´-ω-`)「勿論そうさ。だからこそ、願いが叶うんだよ。ブーン君
      …例えその願いが雲をつかむような願いだとしても、だ」

(´・ω・`)「君が思っているより向こうの世界は酷く厳しい、それに痛みも、苦痛も、もちろん感じる
       ゲームじゃないからね」

(´-ω-`)「だからこそ、もう一度問おう…君のその願いに、命を懸けられるかい?」

僕は甘く見ていた。
お賽銭を投げ入れて、祈れば、叶う。
そんなことを考えていた。
真夏の熱風が僕らを断つように通り抜けた。

106 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:04:33 ID:uiQUQz.g0
(;^ω^)「ぼ、僕は…」

答えは、もちろんイエスだ。

だが…

(;^ω^)「…っ」

声にはならなかった。

(´-ω-`)「…少なくとも、あの場所に行れたということは…君の願いの強さはホンモノなんだと思う
      だけど、その程度の覚悟で来ちゃだめだ」

(´・ω・`)「君には素敵な二人がいるじゃないか。たかだか数日だけど君たちを見てた…
       それだけでも、ドクオ君とクーちゃんと居れることは…ブーン君にとって幸せなんじゃないかな?
       それを放っておいてまで、叶えたいと思える願いなのかい?」

(´・ω・`)「僕は端から見てただけだけど…羨ましいよ。ものすごくね
       だからこそ、だ。僕は君に死んでほしくないんだよ」

それはまるで子供をあやすような諭し方だった。
そして、それを語る彼の目は真っ直ぐ僕を刺した。

107 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:04:54 ID:uiQUQz.g0
(;-ω-)「僕も人のこと言えたものじゃない…けど、ショボンが居てくれたから思ったんだお
      僕はショボンともこれからを過ごして居たいんだお
      ショボンの過去に何があったかは分からないけど…死んでほしくないのは僕も一緒だお」

(´-ω-`)「そう思ってくれるだけでもいいんだ。それは最大の褒め言葉だよ
      でもブーン君、僕には命を懸けてまで叶えたい願いがあるんだ…
      それが叶わないなら、僕は生きている意味がない」

(;-ω-)「ショボンは死ぬことが怖くないのかお!?」

(´・ω・`)「…怖いさ。それでも…行かないといけないんだ」

(´・ω・`)「ブーン君の願いがどういうモノかはわからない。だけど、決めるのは君だ
       僕は君に、三人に生きてほしいと思ってる
       …だけど、今の幸せを捨ててまで、自分の命に代えてまで叶えたい願いがあるなら…」

あの扉の先に行くと良い。

108 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:05:16 ID:uiQUQz.g0
そういってショボンは去っていった。
一人残された屋上から見える、あの廃墟。
この景色は何も変わらない。
僕がこのまま行動せずとも、全てを失ったわけじゃない。
僕にはカーチャンがいる。
ドクオがいる。クーがいる。

それでも…この胸に空いた穴は、到底埋まるとは思えなかった。

今日を含めて残り3日。
それを過ぎたら、ショボンは居なくなるかもしれない。
永遠の別れになるかもしれない、という意味を含めて。

昼休みが終わるチャイムが響き渡り、湿った風が僕を掠めた。
ショボンの姿は、もう見えない。

___________________

109 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:05:40 ID:uiQUQz.g0
それからの授業は何も頭に入らなかった。
夏休みも手前。
先生たちも雑談が多くなる。
そんな中、僕は一人自問自答を繰り返した。

死ぬかもしれない。
だが、願いが一つだけ叶う。
そんなアニメのような話はない。
だが実際、"あの扉"の先に行ったという彼は…魔法を使っていたんだ。
風を呼び起こし、瞬間移動のようなこともしてみせた。
体験して、見て、触って感じたんだ。
あれは夢なんかじゃなかった。
それに、本人が言うのだから間違いないだろう。

僕はあの台風のような風は起こせない。
瞬間移動だってもちろんできない。
だからこそ、だ。
願いが叶うという話に拍車がかかる。
その願いが叶うという条件は?
何故生死が関わるんだ?
扉の先はどんな世界なんだ?
溢れる疑問。
きっと考えても分からないから、彼は言ったのだ。
自分の目で見ろ、体で感じろ、と。

110 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:06:05 ID:uiQUQz.g0
彼は自分の死すら厭わない。
はっきりと言ってみせた。
その時の目を思い返すだけで…体が強張った。
家を出ていくと言ったトーチャンと同じ、底なしの黒さを孕んでいたから。
彼の願いは…何なのだろうか。
命に代えても叶えたい願いなのだという。
いつでも即答できる程、硬く強い意志があるのだろう。
だけど、僕は…

( -ω-)「…」

その答えは時間を費やす毎に疑問を産んで、消えていく。
僕には彼のような意思がないのだろうか。
自分でもわからない。
曖昧、どっちつかず、優柔不断。
そんな言葉が、今の僕にはお似合いだった。

111 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:06:27 ID:uiQUQz.g0
('A`)「…ブーン、なんか悩んでんなぁ、昼休みの時もそうだったけど、あの後ショボンと何話してたんだ?
    今日は一段と元気ないように思うけど」

川 ゚ -゚)「…私も知らない。でも…」

('A`)「いつもの嫌な予感か?女の勘ってやつか?」

川 ゚ -゚)「私は二人とずっと…二人と一緒に居た、だからなんとなくわかるんだ」

('A`)「良く気づくな…
    クーは俺らのこと良く気づいてくれてたもんな。俺らがもやもやしてた時とかは特に」

川 ゚ -゚)「まぁ…その他からは気味悪がられたことの方が多かったさ
     二人だけだよ、こうして傍に居てくれるのは」

('A`)「俺らは助かってたよ。裏表がないのがクーの良いところさ」

川 ゚ -゚)「…そうだといいんだが…な
     ブーンのあの目は…少し怖い。なにか胸騒ぎがする」

112 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:06:56 ID:uiQUQz.g0
('A`)「…俺には分からない。ブーンも話してくれればいいのに」

川 ゚ -゚)「ドクオはもう少しその鈍感なところを直してくれ。そんなのでは女子は振り向かんぞ?」

(;'A`)「うっ…心にダメージが…」

川 ゚ -゚)「そんなメンタルでは、私以外の女子は付き合ってくれないだろうな」

(;'A`)「クーさん!?俺の心もうボロボロなんですが!?」

川 - -)「…ドクオ、そういうところだ」

(;'A`)「ええ!なんで!!」

113 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:07:21 ID:uiQUQz.g0
〜〜〜授業の合間:私〜〜〜


…私は、どうしたら良かったかわからなかった。
あんな顔のブーンを見たのは初めてだったから。
ドクオがいつも通りというのは、幾分心が休まった。
私には、二人しかいないのだから。
なんとかしたいと思った。

幼馴染唯一の女である私は、元々厄介な女だ。
それはそれは面倒な女だった。

クラスに馴染めないで、孤立するのが日常。
時には虐められたこともあった。
理由は、誰彼構わず思ったことを口に出すような性格からなんだと、今更ながらに思う。
多分、鬱陶しかったのだろう。私という存在が。
理由はいくらでも後付けできるだろうから、意味を探すことはない。
そんなこともあって、私は自ら他人と親しくなろうとすることを諦めていた。

私はそれで良いと思った。
自分が気に食わないことは、例え上級生でも、先生だろうが言う。
自分が間違っていると思ったら、気が済むまで話し合う。
嫌なら嫌と言えばいい。
思っていることがあるなら、素直に言えばいい。
おかしいことを、おかしいと言えないのは…おかしいだろう?

114 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:07:48 ID:uiQUQz.g0
…その考えが間違いだと気づけるようになるまでは、時間が必要だった。
どうやら人は、本音を言えば良いわけではないらしい。
例えそれが完全なる正論だったとしても、人は傷つき、落ち込み、離れていく。
それに気づけなかった時は、周りに合わせられない異端児になっていた。
何度も精神的な病気を疑われた。

腹の底に本音を隠す。
簡単なはずなのに…私にはそれが苦痛だった。
そして、それは大人になるのに必須だと知った時には絶望した。
…私は建前が苦手だった。
相手に嘘は吐きたくなかったから。
思ってもないことを言うのは、相手に対して失礼だと思ったから。

そんな厄介女の傍に居てくれたのは、ブーンとドクオだった。
多分幼馴染というのもあるのだろう。
それでも、虐めの標的となっている人間に親しくするのは誰もしないだろう。
私に救いの手を伸ばせば、次のターゲットにされることもあるからだ。
私は…二人が虐められるのは嫌だった。
だからその救いの手を払いのけたんだ。
何度もね。

115 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:08:16 ID:uiQUQz.g0
でも二人は、校内でお構いなしに話してくるし、着いてくる。
一度、トイレの中まで着いてこようとした時は流石に声を大にして怒った。
そこのボーダーラインは越えちゃダメだよ、絶対に。
いくら幼馴染とは言え、私の事なんて学校くらいはほったらかしで良いのに。
…たまに外で遊んでくれたら、私はそれだけで良かったのに。

厄介な私のことを二人で賑やかすものだから、クラスの人間は引いてた。
あれは完全なるドン引きだった。
担任の先生があんなに目を見開いたのは、あれが最後だろう。

季節が一つズレた頃、気づいたら虐めっ子は姿が見えなくなっていた。
その代わりに、私達三人のいかがわしい噂があちこちで立っていた。
私は…笑顔が増えた。
二人が、私の世界を変えてくれた。

そんな二人の迷惑にならないように、私は察することを身に付けた。
その察する力は、意外にも私にフィットしたようで、今となってはいろんなことに使える。
例えば…
今、ブーンが思い悩んでいることが、余りにも重そうだということ。
そして…このままだと取り返しがつかなくなりそうなことだということ。

いつも通り接してくれる二人が私は大好きだ。
だから、いつも通りのブーンに戻ってほしかった。
いつだって私達は一緒なのだから、そんな抱え込むことがあるなら言ってくれたらいいのに…
…私は間違っているだろうか?

116 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:08:46 ID:uiQUQz.g0
川 ゚ -゚)「…まぁ、時間があるときにでも話してみるさ
     人間気持ちが上下するのはしょうがないことだ
     思春期なんてそんなものだろう」

('A`)「クーも思春期真っ只中だろうに」

川 ゚ -゚)「全員が同じ時期に思春期が来るならそうだろうな」

('A`)「…なんか俺だけ子供みたいじゃんか」

川 ゚ -゚)「何を言うか、ドクオは将来をちゃんと考えているじゃないか。都会に行くのだろう?
     私から見たら大人なのはドクオだよ。ちなみに私は将来なんて考えてないぞ」

(;'A`)「なんかしらは考えててくれよ。本当に何もないのか?」

川 ゚ -゚)「ふむ、そうだな…強いて言うのなら…」

117 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:09:11 ID:uiQUQz.g0
川 - -)「私は…二人とずっと…仲良くしていたい…かな」

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「まぁ、私のことはいいさ。ブーンのことだ、きっと何か考えがあるのだろう
     今はそうだと思うことにしよう。"お互いに"」

('A`)「…俺の心の中、読んだ?」

川 ゚ -゚)「さぁな、全部は分かりかねるさ。誰の心の中も、な」

私達に蟠りがあるわけではない。
ただ、私はこういうのに敏感すぎるだけなんだ。
何もないなら、何もないでいい。
むしろそれがいい。
きっと、私の思いは独り善がりなのだろう。
それでも、気になってしまったものはしょうがない。
私はどうしたら最善かを模索した。
この悪い予感が的中しないように願いながら。

118 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:09:34 ID:uiQUQz.g0
〜〜〜放課後:深淵を覗く〜〜〜


ショボンと話してから同じ問答を何度も反芻した。
それでも、考えていることに正解はなかった。
誰も答えは教えてくれない。
だからこそ、僕は動けなかった。
こうしてる間にも、遠く輝く太陽は身を潜め始めていた。

上の空だった。
教室から誰も居ないことに気づかず、僕は窓からグラウンドを見ていた。
隙間風がカーテンを揺らして、暑くぬるい風が張ってあるポスターを揺らして音を出す。
どこからともなく聞こえる蝉の歌。
遠くで靡いた風鈴。
この季節だけのオーケストラ。
勝手に入ってくるそれらを、抵抗せず受け入れている時だった。

川 ゚ -゚)「ブーン、話がある。立て」

突然後ろからクーの声が聞こえた。
僕の反応は薄かった。
呆然とする僕の服を強く掴んで、クーは歩き出した。
多少強引過ぎるくらいの力で僕をどこかに連れて行く。
それに、話がある、と言ったんだ。
帰ろう、が正しいんじゃないか?

119 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:09:58 ID:uiQUQz.g0
僕を離さず前を歩く彼女は、こっちに振り返る素振りはない。
どうやら、本当に帰るつもりはないらしい。

そうして連れてこられた放課後の図書室。
外からの部活動の声と、濃いオレンジと黒のコントラストが心地よいノスタルジーを歌っていた。
普通に話すには少し大袈裟な場所だった。
いつもの他愛もない話ではない。
そう感じるを得なかった。

僕を服を離すと同時に、彼女は振り返る。
その表情は、いつも通りの顔だった。

川 ゚ -゚)「ブーン、単刀直入に聞こう。何か悪いこと…嫌なことあっただろう?」

クーの切り出しは、余りにも僕の核心を突いていた。
彼女の勘の鋭さには驚いてしまう。
女の勘って奴だろうか。

120 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:10:20 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「…何の話だお?僕はいつも通りだお」

川 ゚ -゚)「分かってるよ、お前がこういう時に強がるやつだって事はな
     それを知った上で聞いてるんだ…何かあっただろう?
     それも、特別に悪いこと…」

全ては知らずとも、彼女は知っているのだ。
僕の事も、僕がこうやってはぐらかすのも。

( ^ω^)「…クー、今僕が正直に全てを話せば、きっと僕は後悔することになるお
       誰が悪いとかいう話じゃないんだお。しょうがないことなんだお
       知らないことの方が良いこともあるんだお」

川 ゚ -゚)「なら、その荷物を私が一緒に背負ってやることはできないのか?」

( ^ω^)「…どうしようもないんだお。覆水盆に返らず、だお
       何度も昨日考えてたお、でもこれしか方法はないんだお
       …僕一人で抱えるしか」

川 ゚ -゚)「…そうか。それなら、もう一ついいか?
     転校生とどういう関係だ?」

( ^ω^)「転校生の友達って以外ないお。それ以上でも、以下でもないお」

僕は隠すのが下手なんだろうか。
彼女の問いに淡々と答えた。
拳を強く握っているのが見えた。
多分、誤魔化している僕に苛立っているのだ。

121 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:12:06 ID:uiQUQz.g0
それでも、僕は真実を言わない。
今の悩みを打ち明けたところで何も解決しないからだ。
それに…クーやドクオだって悲しんでしまうから。

川 - -)「…なぁ、ブーン。お前は変わってしまったのか?それとも、変わらない私が悪いのか?」

川 - -)「ブーン、お前は何かを私に隠してる。
     大人になるってそういうことなのか?それとも、私が馬鹿なだけなのか?」

川 ゚ -゚)「ブーン、分かるだろ?私には…お前らしかいないんだ
     かつて、虐められてた私に手を差し伸べてくれただろう?
     恩返しというつもりは毛頭ないさ。ただ、私は同じことをしたいんだよ
     だから私はお前が抱えてるモノがどれほど重かろうが、持つつもりだ
     それはドクオにも同じ気持ちだ。私達は三人一緒だろ?」

川 ゚ -゚)「私は…二人のことは嫌でも分かってしまうんだよ。ブーンの目が…今日は黒く淀んで見えるんだ
     何か…取り返しがつかないことでも考えてるんじゃないかって…不安なんだ
     そんなに、私が…私達が信用できないか?」

表情は変わらない。
その分、声に震えがあった。
きっと堪えているのだ。

( ^ω^)「…信用してないわけじゃないお
       でも…ごめんお」

122 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:12:43 ID:uiQUQz.g0
そういうと、クーは俯いた。
濁った空気が僕らの間で色濃く生まれるのがわかる。
蟠り。
今まで三人の中で一度も感じなかった感情だった。
気分が悪い。
こんなことは思いたくなかった。
それ以上何も発さないクーを一瞥して一人で図書館から出た。
閉めるドアの音がいつも以上に大きく音を立てた。

その廊下にドクオが突っ立っていた。
僕達の会話を聞いていたんだろうか。
ドクオの目が、僕をじっと見つめていた。
多分、僕は今苛ついている。
だから、なにも言わずに一人で帰ろうとした。
今は…誰とも話したくない。

そんな彼の横を通り抜けた時、背中越しに声がかかった。

('A`)「…随分と怒ってるじゃんか。告白失敗したか?」

僕は振り向きもせず答える。

123 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:13:05 ID:uiQUQz.g0
( ^ω^)「そんな話はしてねーお」

('A`)「あーそうだったな。なんの話だ?」

( ^ω^)「…ドクオは知ってるだろうお。そんなはぐらかさないで言いたいなら直接言えお」

('A`)「クーが聞いたことには真面目に答えないくせに、お前はそのスタンスで行くのか?」

('A`)「俺はクーが何を話したかなんてのは知らない。でも、想像は付くさ
    あいつの事だ。きっとドストレートに聞いたんだろ?それが嫌だったってことはなんとなく分かる」

('A`)「でも…クーがあんなにムキになってたんだ。教えてやってもいいんじゃね?」

…うるさい

('A`)「割と鈍感な方の俺でもわかる。お前が最近変なことくらいは」

うるさい

('A`)「なぁ、少しでいいから話してくれな」

124 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:13:30 ID:uiQUQz.g0
ドォン!!!!

彼の言葉を断ち切るように、壁を殴った。
そこから流れる僕の血。

「…」

お互いの荒い呼吸が廊下に反響した。
遠くから蝉の声が聞こえる。
こんな醜悪な感情を剝き出しにしたのは初めてだった。

(  ω )「お前らには関係ないお」

言葉を吐き捨て、僕は歩き出した。
僕も、彼も、どんな顔をしていたかはわからない。

僕らを繋ぐナニかが爛れていた。
今までできたことがない程に深く、凄惨な傷が新たに出来上がった。

拳の痛みに耐えながら、足早に校内から出た。

125 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:13:56 ID:uiQUQz.g0
学校からの帰路。
それからというものの、僕はズタズタな心の中で二人に謝っていた。
ただ、今は誰とも話す気分にはなれない。
余りにも青く、心が弱かった。

夕暮れが真っ赤に街を染める。
その光を全身で浴びながら、歩を進める。
ちょっと前もこんな赤色をしてた。
ほんの少ししか経ってないはずなのに、なんて遠く感じるだろう。
もう今日はさっさと眠ってしまいたい。
今日はごめん。
明日になったら謝ろう。
とびっきりのお菓子を用意して。

心が複雑に絡まって現実感がまるでなかった。
家までかなりの距離があるのに、歩いた時間をゴッソリ切り取ったように家に着いた。
あんまり記憶がない。
思い出したくもない。
自分が悪いのは分かってるはずなのに、素直に頷けない自分に無気力さを感じた。

そんな気力で家の鍵を開ける。
ただいまーと、小さく呟いた。
そのくらいの元気しか今はないから。

126 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:14:16 ID:uiQUQz.g0
玄関で靴を脱ぐ時に違和感を感じた。
リビングでピーッピーッと音が鳴っていたから。
目覚まし時計?それとも、洗濯機?
そのどれもとは違う音と…カレーの匂いと、異臭。

…強盗?

そう思った僕は、玄関にある傘を持って音を立てずにゆっくりリビングに向かう。
クーラーの冷風を感じながら僕は慎重にドアを開けた。

リビングには…誰もいなかった。
不自然なほど赤い斜陽が部屋を照らし、照明の色をかき消すように見えた。
安心したが、それでもこの機械音と異臭は収まってない。
それと、カーチャンの姿が見えなかった。
いつもの机にもいない。
不穏に感じていた。

机に向かおうと足を出したと同時に、トンっと、足に何かが当たる。
驚いて、キッチンを見た。
そこには作りかけのカレーと、車椅子から倒れているカーチャンの姿があった。

127 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:14:48 ID:uiQUQz.g0
〜〜〜同日昼休み:俺〜〜〜


「私は…二人とずっと…仲良くしていたい…かな」

('A`)「…」

その願いは幼く、小さなモノだった。
それ故に純粋で、綺麗だと思った。
クー、君は誰よりもピュアで、馬鹿だ。
だからこそ、その言葉は何よりも嬉しかった。
俺だって同じだからだ。

俺が大人?
冗談じゃない。
ブーンやクーのように秀でる才能がないだけさ。
平たく言えば、夢も言えないような弱い男なんだ。

俺は、弱者だ。
自分のことが嫌いだ。
自分のことが嫌いで嫌いで仕方がない。
常に隣の芝生が青く見えて、気が狂いそうになる。

128 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:15:17 ID:uiQUQz.g0
顔が良いわけじゃない、何か自慢できるものもない。
そんな醜い嫉妬と、自己嫌悪から逃げる為に勉強してるんだ。
その時だけは目の前の問題だけに集中できるから。
捻くれてるんだと思う。
変に背伸びした高いプライドと、承認欲求が混ざったキモイ人間が俺だ。
俗に言う中二病だった。

こんな人間にも、大切なモノが出来た。
それが二人だ。

ブーンみたいに、視野が広くて気配りが出来るような男じゃないし
クーみたいにイジメを耐えられる心の強さはないし、人の心に敏感じゃない。
俺は羨ましく思ってる。
現に今も。
でも…二人の傍に居ると…俺は自分のことが好きになれる気がしたんだ
少なくとも、二人と居る自分は嫌いじゃない。

別に二人に何か特別なことをしたことはあっても、されたことなんてないさ。
ただ、傍に居てくれる。
それだけだ。
それだけで、捻じれ縺れた俺の世界を変えてくれたんだ。

129 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:15:40 ID:uiQUQz.g0
勝手に二人に感謝してるだけ。
勝手に一緒に居たいだけ。

二人は俺の気持ちなんて知らなくていい。
二人は俺を傍に置いててくれればいい。

だから、何かあった時には遠慮なく頼ってほしいんだ。
何故かって?
そんなの簡単な話。

か っ こ つ け た い か ら 。

悪いな中二病で。
俺なんかと一緒に居てくれるからだよ。
それ以外の理由?ないね。

身勝手で中二病臭い俺の願いさ。

なぁ、ブーン。お前は今何を考えてるんだ?
俺はクーに言われるくらいには、人の気持ちに鈍感さ。
そんな俺でも、最近のブーンに何かあったことくらい分かる。
今までそんな顔、俺らに見せたことなかったじゃないか。

130 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:16:05 ID:uiQUQz.g0
ドォン!!!!

…なんだよ、それ。
手から血出てんじゃんか。
そんなにこうやって話すのが嫌だったか?
そんなに…俺らが嫌いになったのか?

「お前らには関係ないお」

('A`)「…」

俺は何も言えなかった。
多分初めてブーンからあんなにはっきりと拒絶された。
だから、言う言葉が見つからなかった。

そのままどっか歩き出すもんだからさ、追いかけられないじゃんか。
なんか、血も滴ってるし…
絆創膏でも貸しときゃよかった。

ちょっとボーっとしちゃってたけど、まだ図書室にクーがいるんだ。
迎えに行かなきゃ…

131 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:16:26 ID:uiQUQz.g0
古臭いドアを開けた先には、静かに一人で座るクーが居た。
少し埃っぽい室内だけど、なんて絵になるんだこいつは。
綺麗な横顔に、隙間風で靡く黒髪。
沈みかけている太陽が作り出すオレンジと、影の黒の中に佇むこいつを見て俺は思った。

('A`)「絵画かよ」

川 - -)「…何がだ?おちょくるならタイミングを考えてくれ」

('A`)「そういった意味で言ったわけじゃない、そう思ったから口に出ちゃっただけだ」

川 - -)「褒め言葉と受け取っておこう。だけど、今じゃない」

おいおい、クーに表情筋ができたみたいだ。
なんて悲しい顔してんだ。
これが演技だとしたらハリウッド映画で引っ張りだこになるだろうな。

なぁ、ブーン。
さっきの言葉、お前の本音か?
クーにこんな寂しそうな顔させるなよ…
俺だって寂しくなるだろ。

132 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:16:48 ID:uiQUQz.g0
川 - -)「…ドクオ、一つ聞かせてくれ」

('A`)「TPOに沿うように答えるさ」

川 - -)「…私は、間違っているか?」

('A`)「偶然だな、俺も同じこと考えてたよ。なんか間違ってたかなって」

('A`)「でも、俺が思うに…多分誰も間違ってないよ。ブーンも、クーも、俺も」

川 - -)「…」

('A`)「はぁ…思春期真っ只中だな、俺らは
    本当ならもっと明るい青春を夢見てたんだが…
    でも、こう考え込むことも一つ二つ必要なんだと思うよ…もう駄々こねるような歳じゃないだろ?」

川 - -)「…ドクオ」

('A`)「ん?もう帰るか?それもいいけどカバン忘れてr

133 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:17:10 ID:uiQUQz.g0
(;'A`)「ってクー!?こんなシリアスな空気で抱き着くなんて画面の前のTPO警察がry」

川 - )「時と場合と場面…だろ?そのくらいわかる…」

(;'A`)「なら」

川 ;-;)「なら…今はこうしててくれ…」

(;'A`)「…」

ブーン、お前重罪だぜ?
極刑だ、極刑。
こんな可愛い俺たちの幼馴染を泣かせたバツだ。
明日、ちゃんと謝らせるからな。

…暑っついなぁもう



___________________

134名無しさん:2025/02/16(日) 01:27:56 ID:HElRi7NM0
あっついぜ

135名無しさん:2025/02/17(月) 13:13:41 ID:IGhSaLQ60
最新話に追いつけてないけど文章好きだ
ゆっくり読ませてもらいます。乙

136 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:28:36 ID:R8dbB6ec0
day5


時間は9時過ぎ。
あの後、僕は病院のベンチで座り込んでいたが、いつの間にか落ちてしまってたようだ。
看護師さんが僕を起こしに来た。
どうやら、カーチャンの意識が戻ったようだった。

305。それがカーチャンのいる病室だった。
もう枯渇した体力だったが、一段飛ばしで階段を上がる。
そして、病室を思いっきり開けた。

(;^ω^)「カーチャン!!!」

 J('ー`)し「…あんまり大きい音出さないの…
      ごめんね。カーチャン疲れちゃってたみたい」

とりあえずカーチャンの命は無事だってこと。
料理を作ってる際にガスが出続けていて、それが原因で倒れたとのこと。
家に帰った時の異臭はガスだったらしい。
大事ではないものの、数日病院で検査をするという診断だった。
元々下半身の自由が利かないカーチャンにとって、これ以上良いことはないだろう。
僕はほっと胸をなでおろした。

( ^ω^)「…今は大丈夫なのかお?」

 J('ー`)し「先生が言うには、大丈夫だって。少し、色々と抱えちゃってたからね…
      ブーンには申し訳ないことしたね。ごめんね」

( ^ω^)「…カーチャンが無事なら…いいんだお」

 J('ー`)し「学校は?」

( ^ω^)「電話したお。落ち着いたら向かうって」

こんな他愛もない会話の中でも、カーチャンは無理してる。
何が少し、なのか。
カーチャンは抱えてたじゃないか。

137 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:29:37 ID:R8dbB6ec0
僕にも、クーやドクオの家族にも言わないで。
とてつもなく重く、非情な決断をしたじゃないか。
謝らないでくれ。
それ以上、優しい顔をして僕に笑いかけないでくれ。

いつもの元気なカーチャンの顔は隈が酷くなっているように見えた。
今まで抱えたものが、全て爆発してしまったのだろう。
きっと、僕より傷ついているのはカーチャンの方だ。
…多分トーチャンも。

何が悪かったんだろう?
何をしてたらこうならなかったんだろう?
自己嫌悪にも似た感情が、僕の心を黒く染め上げた。

( ^ω^)「何日くらい…入院なんだお?」

 J('ー`)し「2.3日…長くて一週間かな?
      それまでには元気になるからね!
      カーチャンが何とかするわ!」

138 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:30:04 ID:R8dbB6ec0
明らかに空元気だった。
目が笑ってないとはこういうことを言うんだろう。
碌に寝れてないんだろう。
そんなに強がらなくてもいいだろ?
辛いなら吐き出してしまえばいい。
息子だろうと頼ってしまえばいい。
なのにカーチャンは、僕に心配をかけないように振舞っている。
大人っていうのは隠すのが本分なんだと思った。
それでも、この悲しい顔を見るのは…もう耐えられなかった。

それと同時に、僕の願いは少しずつ確証を帯びてきた。
"幸せだった頃の家族に戻してもらう。"
それが、僕の願い。
そうすればきっと、トーチャンが出ていくこともなかった。
そうすればきっと、カーチャンがこうなることもなかった。
そうすればきっと、僕があんな思いすることはなかった。

笑ってしまうほどの独り善がり
僕はどこまでも子供なんだということを実感した。
自分の宝物はずっと大切に、自分の手の中に入れておきたい。
僕は、僕が好きな人たちが悲しい顔するのが嫌だった。
だからこそ、だ。
カーチャンとトーチャンの子供の僕が間を取り持つのはいいことだと思った。

139 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:30:29 ID:R8dbB6ec0
願い、よりも"呪い"
そのくらい強く、確実に芯を太くした。

「君のその願いに、命を懸けられるかい?」

あの時は答えを躊躇った僕だったけど、今なら彼に即答できる。
闘志が沸々と湧き上がる。
そうと決まれば、情報収集から始めないと。

ショボンに頼るのは最後でいい。
今は出来ることを探す。
彼が出発するのにあと2日。
それまでに、何かできることをしなければ。

140 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:30:51 ID:R8dbB6ec0
 J('ー`)し「…ブーン?」

(;^ω^)「おっ、おん?」

 J('ー`)し「なんか考え事してた?すごい顔してたけど…」

( ^ω^)「…カーチャンが無事でよかったって思ってただけだお」

 J('ー`)し「ちょっとの間迷惑かけちゃうけど…ごめんね
      わからないことがあったら、いつでも連絡してね」

( ^ω^)「おっおっおっ。ちょっとの間の1人暮らし程度、何とかしてみるお」

 J('ー`)し「早めに治して、すぐ家に戻れるようにするからね」

その会話を最後に、僕は学校に戻る。
今日は休み前最終日だから、午前中に授業が終わる。
けどプリントとかは取りにいかなきゃいけない。
既に12時は過ぎてたから、学校行く準備をしないと。
昨日あのままの格好で病院まで着いて行ったのだ。
体中気持ち悪かった。

141 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:31:24 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日朝:いつもの待ち合わせ場所にて〜〜〜



('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

気まずい

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

なんでブーン来ないんだ?
昨日の事まだ引き摺ってるのか?

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

普段の俺(私)ならとっくに軽口叩いてるはずなのに。

(;'A`)「…」

川;゚ -゚)「…」

こうしてブーンを待ってる間ずっとこうだ。
何故か心臓が爆速で鳴ってる…
原因は分かってる。
昨日の…あの…あの…

142 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:31:47 ID:R8dbB6ec0
(;*'A`)

川*- -)

あのせいだ!!!!!!!

(;*'A`)(思春期とは言ったけど、まさかあのまま結構な時間そのままだとは思わないじゃん!!
    無意識にちゃんと頭撫でちゃったじゃん!!誰も来なくてよかったわマジで!!
    慣れてるわけないだろ!!!DTの拗らせを数千回重ねたような俺だぞ!?
    なんかああいうのってジャ●プ漫画あるあるだよねーみたいな感じだったじゃん!
    制服に着いた匂いとか!!サラサラな髪質とか!!残って眠れなかったろうが!!!
    あの柔らか…あの感触がまだ腹部に残ってるんですけどおおお!?夢!?あれ全部夢!?)

川*- -)(ドクオの手…おっきかった…)

(;*'A`)(ああああカミサマ!!!!)

川*- -)(すごい落ち着いた…!)

あ り が と う ご ざ い ま す !

………
……


143 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:32:07 ID:R8dbB6ec0
俺はギクシャクしながら学校へ向かった。
あんなことがあった後だからこんなこと言うのもなんだけど、ブーンいなくてよかった。
本当に。
クーはと言うと…なんか素っ気ない。
あーあ、全部夏のせいだよ。
責任取ってくれよ、カミサマ。

今日も晴天。
雨の気配はなし。
だけど、遠くに積乱雲が見える。
夏の様相が顕著になってく。
これから本格的になってくこの暑さは、どこまで俺達を惑わせてくれるんだろう。

途中寄ったコンビニで、クーは紙パックのレモンティーを買った。
俺はスポーツ飲料と、少しのお菓子を買った。
ストローを刺したレモンティーを飲むクーが…なんか、その…キラキラしてるように見えた。
こんなこと思う俺は幼馴染失格だ。
あーあ全部夏のせいだよ。
ありがとう、カミサマ。

144 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:33:57 ID:R8dbB6ec0

暑さを凌ぎつつ教室に到着。
外も中も大差はないけど、日差しがないだけまだ涼しいと感じた。
そんな中、やけに涼しい顔をしたやつがいた。
そいつは俺達を見たと思ったら、ゆっくり近づいてきた。

(´・ω・`)「おはよう、二人とも」

ショボンだった。
こんな夏になんてクールな顔してやがんだ。
その冷やかさ俺に分けてくれよ。
でも話しかけてきてくれてGG。
タイミング最高だよ。

('A`)「…あーおはよー」

川 ゚ -゚)「…ん、おはよう」

(´・ω・`)「…なんかあったかい?ぎこちない気がするけど…」

(;*'A`)「そそ、そんなことはないっ!ないよ!なにも!」

川*゚ -゚)「ナニモナイデスヨ、ゼンゼン」

(´・ω・`)(…何かあったのかな?)

145 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:34:19 ID:R8dbB6ec0
(´・ω・`)「そういえば、ブーン君まだ来てないようだけど…今日も寝坊かな?」

('A`)「あー…そうかもね。夏バテしちゃったんじゃないか?」

(´・ω・`)「そうなのかな。一応明日、祭りがあるんだろう?
       時間とかどうしようかなって思ってね」

川 ゚ -゚)「もう明日になるのか。今日が休み前最後の学校だというのに
     ついてないやつだ」

('A`)「一応調べてはあるよ。祭り自体のスタートは16時、終わりは22時だ
    天候が今日くらい良けりゃ終わる前に花火だな」

(´・ω・`)「二人とも何時くらいに集合するんだい?合わせられると思うよ」

('A`)「俺達はいつも18時くらいに集合してる。ショボンはどのあたり住んでるんだ?」

(´・ω・`)「三人とは逆方向かな。そっちの方面はからっきしわからないんだ」

川 ゚ -゚)「なら、学校集合が安パイか?18時半くらいならいけると思うぞ?」

(´・ω・`)「何から何までありがとう。祭りに一緒に行けるって妹に言ったら喜んでたよ
       人見知りだから少し迷惑かけちゃうけど、よろしくね」

川 ゚ -゚)「妹ちゃん、名前なんて言うんだ?」

146 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:34:51 ID:R8dbB6ec0
(´・ω・`)「未だのミに、食べ物の芹で、ミセリだ。引っ越してから元気なかったんだ
       けど、新しく友達ができる!って喜んでたよ」

川 ゚ -゚)「ふふん、可愛いな。ミセリちゃん、ね
     お姉さんが色々と教えてやろうじゃないか」

('∀`)「変なこと教えるなよ?可愛い子が力自慢にでもなったら大変だ」

川#゚ -゚)「ほう…?その力とやら見てみるか?」

(;´・ω・`)(あ)

(;'A`)「あ、それは違くてですね
    クーのような凶悪的な可愛さをそんな歳から覚えてしまったらあれだと思いまして」

(;´-ω-`)(南無三っ!)メツムリー

(;´-ω-`)(…)

(;´・ω-`)(…?)

川*- -)「…カワイイとか…いうな…バカ…」

(;*'A`)「…ハイ…」

(´・ω・`)(何かあったな…)

147 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:35:15 ID:R8dbB6ec0
丁度よく鳴るチャイムの音。
ドラマみたいなタイミングだった。
あーあ、もう見る目変わっちゃったじゃん。
俺はね、チョロイんです。
ごめんなさい。クー。

今日は夏休み前最終日ということもあって、午前中で授業が終わる。
そういう時程、時間の進みが遅く感じる。
次ここに来るのは一か月後。
長いんだか、短いんだが。
今のうちに、教室から聞こえる夏の知らせを堪能した。

結局、時計の針が真上を指してもブーンは来なかった。
心配もあるけど、きっと大丈夫でしょ。
…多分。

148 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:35:50 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:お見舞い後の僕〜〜〜



自分の影が真下に落ちる14時過ぎ。
実質もう夏休みだというのに、僕は閑散とした学校に一人向かっていた。
同じ制服を着た人をちょこちょこ見つける。
プリントを取りに行かなければならなかったから。
まだ気温は本気を出してないらしい。
遠くの方で積乱雲が見える。
この季節の代名詞を一通り見まわしながらこの猛暑の中、学校に向かう。
汗が引くことはなく、民家から鳴る風鈴がそれらをより一層引き立てた。

(;^ω^)「やーーっと着いたお…」

校内も外と似たような気温になっている。
これから向かう職員室は格別に涼しいから、少しだけ息抜きできる。
そう思ってドアをノックした。

(;^ω^)「すいませんお、ホライゾンですお」

「はいよー」

担任の先生が出てくれた。

「ちょっと涼んでいきな。お母さん、大丈夫だったか?」

(;^ω^)「ありがとうございますお、とりあえずは無事でしたお」

にらんだ通り、職員室は涼しかった。
外から来たばっかりなのもあって、少し寒いくらいだ。

149 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:36:23 ID:R8dbB6ec0
「災難だったな…とりあえず、宿題とプリントだ」

いつの夏も思う。
この紙束は人が解くような枚数じゃない。

「…お前の家庭の話、ちょっとお母さんから聞いたよ…その…なんだ」

「俺はたかが教員だから、少し積極臭くなっちまうが…強く生きろよ
 俺達職員はそういうところもちゃんと見るっていうのが仕事で、役割だ」

「だから、もし何かあったときは…遠慮なく言え 
 俺も家庭を持つ身だ。少しくらいは力になれると思う」

この時、今まで気にしてなかった先生の薬指が、やけに光って見えた。
先生も僕の歳頃の心情をわかっているのだ。
誰にも頼れない、信用できないような子供の心を。

( ^ω^)「…それなら先生、質問があるお」

「おっ、なんだ?」

( ^ω^)「…先生は、"命に代えても叶えたい願い"って何だと思いますかお?」

「なんだそりゃ」

がーっはっはとデカい笑い声が職員室に響く。
まぁ、大方予想通りだ。
だけど、少しずつ真剣な表情に変わっていくのがわかった。

150 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:36:43 ID:R8dbB6ec0
「…先生な、お前くらいの時は音楽をやりたかったんだよ
 ヘヴィーメタルってジャンルさ、そこで一発名を馳せてやろうとおもったんだ」

「その時は思ったよ、この夢を諦めるくらいなら死んだ方がマシだ!ってな
 でも、そんな簡単にはいかなかった。夢のない話だけどな」

「才能もいる、金もいる、継続する努力もいる。その中で選ばれた小指のササクレくらいの人間だけが夢を叶えていく
 俺の同級生で同じ夢を持ってた奴は、今はそのジャンルで名を馳せて、世界でツアーなんてやってる
 …すげーよな。敵わないと思ったさ。今でも尊敬してる」

「だけど、その時の夢が今"命に代えても叶えたい願い"かというと、そうじゃない」

「今俺は、家庭を持てた。倅ももう6つになる。順風満帆、とはいってないが…俺は今幸せなんだ」

「多分、いやきっと。音楽をやってた俺がそのお前の質問されたら…迷わず<音楽で成功したい!>だったろうな」

「でも、願いは形を持ってる。その形は固定されてるわけじゃない…と思うんだ」

「歳を食えば考えは変わる。季節が過ぎただけでも願いは変わる。
 暑いの嫌だから、早く冬が来てほしいと思うのと同じようにな」

「だから…そうだな…今自分が選択したことに後悔はない!と胸を張っていられることが
 "命に代えても叶えたい願い"…なんじゃないか…な??」

「…すまん、こういうのは苦手なんだ」

151 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:37:07 ID:R8dbB6ec0
段々と声が小さくなる先生に、僕は苦笑した。
それでも、なんとなくわかる気がする。
先生は"後悔しない選択をしろ"と言っているのだ。
時間が経てば考えが変わる、というのもわかる。
これは、感覚でしか伝わらないと思った。

( ^ω^)「なら、今の"命に代えても叶えたい願い"ってなんだお?」

「そうだな…今は、家庭が今以上に幸せになれば俺はそれでいい
 …が、命に代えるというなら、倅が将来道を踏み外さないこと…
 それが俺の願いで、叶えたいこと」

「それと、お前みたいな生徒の質問に完璧に答えられるって願いかな」

( ^ω^)「先生、途中で言葉詰まってたお」

そうだな!
そう言って、また一つ大きな笑い声が響いた。

「まぁ、あれだ。もしお前が何かに迷っているのなら、後悔しない方に行けよ
 少なくとも、俺ならそうする。」

「でもな、命があってこその願いだっていうのは忘れるなよ
 願いを叶えた先、お前が居なかったら意味がないからな」

( ^ω^)「そうだおね…ありがとうございますお」

「よし!夏休み存分に楽しめ!あと、宿題はやれ!」

いつの間にか引いていた汗だったが、宿題のことを言われてまた少し汗をかいた。
これは暑さのせいじゃなかった。

ありがとうございますおー
と言って、職員室を後にする。
休み前最後の学校は、何とも不思議な感覚だった。
もやもやが一つ、晴れた。
そんな気がした。

152 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:37:30 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:帰路の二人〜〜〜



('A`)「あ〜〜つ〜〜い〜〜お〜〜も〜〜い〜〜」

川 ゚ -゚)「やめろ、熱気が移る」

('A`)「クーは暑くないのー?」

川 ゚ -゚)「暑いさ、もう飲み物もなくなってしまった」

('A`)「宿題重い」

川 ゚ -゚)「毎年嫌になるな、これだけは」

なんだかんだで、私達は帰る途中。
行きに寄ったコンビニで、アイスを買って齧っていた。
今日は一段と暑さが増していた。
コンビニの影で休んでいる最中、そこに一人の少女が寄ってきた。

ミセ*゚ー゚)リ「あいす!」

可愛らしい声だった。
というより、全部可愛かった。

153 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:37:56 ID:R8dbB6ec0
川*゚ -゚)「あららーどうしたのー迷子ー?」

('A`)「なんで声が高くなるんだ」

川*゚ -゚)「可愛い子には弱いんだよーねーぇ?どこから来たのー?」

('A`)「今まで聞いたことのないような声だ…」

ドクオには分からないのだ、この子猫のようなクリクリとした目。
汗ばんだ四肢、赤い髪飾り。
全部可愛い。
お姉さん連れ去っちゃうぞ?

ミセ*゚ー゚)リ「おにーちゃんがっこういったからひま!
      だからおさんぽちゅ!」

川*゚ -゚)「そーなんだねぇ!偉いねぇ!何の味のアイスが好きなのー?」

ミセ*゚ー゚)リ「あいすすき!」

川*゚ -゚)「そーなんだねぇ。お姉さん買ってあげるから一緒に食べよっか!」

ミセ*゚ー゚)リ「いっしょたべる!!おねーさんやさしい!」

川*゚ -゚)「お姉さんは優しいよー怖くないよー」

('A`)「俺から見たら怖い。見たことなさ過ぎて」

そうして少女にアイスを買ってあげた。
フルーツ味の小さいやつだ。
袋から取ってあげて、少女に渡すと満面の笑みを向けてくれた。
あぁ、これが天使か。
今、私の目の前に肉眼で見える天使が居る。
奥で神妙な顔して座っているドクオ。
そんな目で見るな。

154 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:38:29 ID:R8dbB6ec0
ミセ*゚ー゚)リ「おねーさんありがとう!おいしい!」

川*゚ -゚)「その顔だけで私は十分だよー可愛いねー
     お名前なんて言うの?」

ミセ*゚ー゚)リ「わたしミセリ!!」

('A`)「え、ミセリ?それって…」

川 ゚ -゚)「ショボンの…妹!?」

ミセ*゚ー゚)リ「あれ?おにーちゃんのおともだち?」

ミセ*゚ー゚)リ「おにーちゃんとふたりでおひっこししたの!
      おともだちとはなれちゃったからさみしかったしすることもないからおさんぽ!」

川 ゚ -゚)「そうなんだねぇ…ミセリちゃんはいつからここにきて、どこから来たの?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん-とね…2かげつ?まえくらい!××てところ!
      まえのところはいっぱいたてものあったけどこっちはないんだねー」

ミセ*^ー^)リ「きれいでこっちもすき!」

('A`)「随分と遠い場所から来たんだなぁ…本当に都会じゃん…
    そんな都会人から地元褒められるのってなんか嬉しいな…」

('A`)「そういえば、多分もうお兄ちゃんも家帰ってると思うぞ?
    俺達と同じ学校だから」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなの?おにーちゃんかえってくるのおそいの
      だからおさんぽよくしてるんだー」

川#゚ -゚)「こんな可愛い子を置いて…帰ってこないだと…?
     ショボン…許せん…!」

('A`)「おねーさん顔怖いデスヨー」

川;゚ -゚)「おっと、こんな天使を前になんて顔を…」

('A`)(表情自体は変わってないけど…)

ミセ*^ー^)リ「おねーさんたちおもしろーい!」

155 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:38:51 ID:R8dbB6ec0
天使が微笑んでいる。
それにしても、ショボンの妹…か。
興味がある。

川 ゚ -゚)「ミセリちゃん、どうせ暇なら私の家来ないか?
     両親は二人とも仕事で今日はいないんだ、外だと暑いしな」

('A`)「それって誘拐なんじゃ…」

ミセ*^ー^)リ「いいの!?いく!」

('A`)「いいのか…?」

川 ゚ -゚)「…ドクオも来るんだ」

('A`)「…え?」

川 - -)「家にこの子を呼ぶんだ…お前が居た方が…都合がいいだろ…」

(;'A`)「…いいの…?」

川*- -)「…女子に同じことを言わせるな」

(;*'A`)「アッ…はい…」

ミセ*^ー^)リ「おねーさんたちおもしろーい!」

天使が笑ってる。
だから魔が差したんだ。
…そういうことにしておこう。
本当に…今日は私らしくない。
夏の魔法には敵わないな。

はぁ…今日も暑いな。

156 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:39:20 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:渇望の僕〜〜〜



学校からの帰路。
僕はカーチャンの心配をしつつ、ゆっくり家に帰ってきた。
毎年思うこの物の多さは何なんだろう。
無造作に置いた荷物が床に散らばっている。

本当なら、多分トーチャンが家に居て。
カーチャンの料理を三人で食べてた。
何気ない、いつも通りの幸せだった。
当たり前にあったものが、忽然となくなるこの虚無さは言葉では言い表せない。
酷く静かなこの家には、僕一人しかいないのだ。

今日帰ってからリビングには行ってない。
虚しくなるのがわかってたから。
毎日帰ってる家のはずなのに、どこか異質な雰囲気が漂っていた。
感じたこともないこの気持ちは、どこに吐き出せばいいんだろう。

…あの二人は元気にやってるかな。
図書館の後から、会うことはなかった。
今までにないくらいの気まずさと、寂しさ。
素直に連絡して会えばいいだけなのに、それがどうしてもできなかった。
全く持って可愛げがない。
今までの喧嘩とは違ったのもある。

157 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:39:43 ID:R8dbB6ec0
僕は隠している。
今の家庭の現状を。
それを言ったら、ドクオとクーの家族全員から心配されるに決まってる。
だからカーチャンは学校には言えど、他には言ってないんだ。
だから、僕もその覚悟を持とう。
誰に言われたわけでもないけど、それが今僕にできる親孝行だった。

夕方前に帰って来たというのに、僕はベッドから動けないでいた。
先生との会話を何度も咀嚼していた。
後悔しない方に行け。
命があってこその願いだ。
間違ったことは言ってない。
大人として綺麗な意見だった。
眩しくて、直視できないくらいには。
見れないのは、僕が子供だからなんだろう。
先生は遠まわしに"大人になれ"と言っているのだ。
僕には…僕には、成功者の言葉を素直に受け入れるだけの懐は今なかった。

…先生、今もう一つ質問があります。
どっちの選択肢を選んでも後悔しそうなときは…どうしたらいいですか?

158 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:40:06 ID:R8dbB6ec0
眠るわけでもなく、何かしてるわけでもない。
ただ天井の模様を薄目を開けてみてた。
…もう外も日が暮れる。
それを確認したときに、カーチャンから電話がかかってきた。

『…もしもし?』

「カーチャン、具合は?」

『心配しなくても元気よ!少し、長引いちゃうかもしれないけれど…』

「いいんだお。カーチャンが元気になってくれるなら、僕はいつでも待つお」

『…何度も言うけど、ごめんね』

「何がだお?」

『私達…私は、ブーンに普通を上げられなかった
 だから、カーチャンね、申し訳なくて…』

「…」

声が震えていた。
きっと抑えているのだ、感情を。

『だけどね、ブーンが何か思い詰めていないか…心配で…』

「カーチャン、僕は待ってるお
 だから心配しないでいいんだお」

『ありがとう…じゃあ、またね』

159 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:40:29 ID:R8dbB6ec0
プツッっと通話が切れた。
僕はいつの間にか涙が溢れていた。
早く…僕の願いを叶えなければいけない。
カーチャンにあんなこと言わせるこの世界は間違ってる。
トーチャンが居ないこの家は間違ってる。
そうじゃなかったら、二人とだってあんな空気にならなかったはずだ。
だから…早く…あの場所に行かないと…

誰に対する怒りでもなく、僕はベッドを殴った。
昨日壁を殴ったことを忘れていて、その痛みで涙は引っ込んだ。
その分、僕の決意は硬かった。

160 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:40:54 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:室内の三人〜〜〜



川 ゚ -゚)「ただいま。靴そこに置いてていいからねー」

ミセ*゚ー゚)リ「おじゃましまーす!」

(;*'A`)「お、おじゃま…します…」

初めて入る女子の家。
なんで玄関がこんなにいい匂いがするんだ?
建物から芳香剤がでてんのか?
幼馴染だからって興奮しないわけがない。
あーやっぱり昨日から俺変だ。

川 ゚ -゚)「…ドクオ、玄関で突っ立ってないで中入ってこい。飲み物とか冷やさないと」

('A`)「あ…うん」

情けない返事だなー俺。
クーは…やっぱり何とも思ってないないんだよな。
今更男女で意識するっていうのもおかしな話か。

さっきのコンビニで買った色々を、クーと閉まってリビングに行った。
涼しいのもあるけど、なんか落ち着く。
…俺の欲情だけ暴れてるが、これも落ち着くでしょきっと。

161 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:41:24 ID:R8dbB6ec0
川 ゚ -゚)「ちょっと着替えに部屋に行く。待っててくれ
     ミセリちゃんもこっちおーいーでー」

ミセ*゚ー゚)リ「はーい!」

…ん?
着替えっすか!?
男ここにいるんですけど!?
え、忘れてる!?
俺が男なの忘れてる!?
…って思ったけど、流石に長い年月一緒に居るもんだから忘れてるよなー
幼馴染となんかハプニングあるのは薄い本だけなんだな。
あ…二人の話し声と…布の擦れる音が聞こえる…
いやいやいやいやいやだめだめだめ
一旦落ち着こう?ドクオさん?

…それにしても、クーの家ってもの少ないんだなぁ…
あ、あの写真、三家族で遊園地行った時の写真だ…
俺がお化け屋敷でギャンギャン泣いた時かぁ…懐かしい…
なんかその反動でオカルトハマったんだよなー…
こういうの見ると、仲いいんだよなって改めて思うなぁ。

162 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:42:36 ID:R8dbB6ec0
クーの家に来るのは初めてじゃないにしろ、この歳になってからはなかったなぁ。
いつも俺の家に皆来るのが定番だったし…
ブーンの母ちゃんは下半身大変だし。
クーは一応…ちゃんと女の子だもんな、幼馴染とはいえ、ほいほい家に上げるのなんて慣れさせちゃだめだ。
俺に娘が今いるならそうする、絶対に。

そういえば、最近ブーンの母ちゃん最近何してんだろう。
父ちゃんは結構忙しそうだったし、元気にしてるんだろうか。
明日から夏休みだし、タイミングが合えば会いたいなぁ。
っていうか、今年の夏は三家族でどっか行くのかな。
行くだろうなー俺は行きたいし。
今年は海がいいな。

その前に…とりあえず俺達三人の仲を取り戻そうの会を開かないと。
たまには喧嘩くらいするだろう。
俺は別に怒ってない。
ただちょっと…悲しかっただけだ。
クーはどう思ってるか分からない…けど、話せばわかるだろ。きっと。
グーパン一発くらいは覚悟しておけよ…ブーン…

163 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:43:02 ID:R8dbB6ec0
川 ゚ -゚)「…ドクオは一人の時でも表情豊かなんだな。羨ましいよ」

(;'A`)「え!見られてた!?」

川 ゚ -゚)「あぁ、見てたよ。待たせてしまったかな?」

ミセ*゚ー゚)リ「おにーさん!わたしねこ!!」

(*'A`)「え、可愛い」

え、可愛いんだが。
あれ?クー部屋着くらい見慣れたはずなんだけど…
うん、薄手のパーカーにキャミソールに短パン…
え!なんかイヤラシイ!
なんで!あれ!

川 ゚ -゚)「私の昔のやつだ、ミセリちゃんに着せてやった
     懐かしいだろ」

(*'A`)「あ、うん…可愛いよ…すごく…」

川 ゚ -゚)「…なんで私の目を見て言うんだ?」

(;'A`)「あ、ミセリちゃんね!可愛いよ!懐かしい!」

川*- -)「バカ」

ミセ*゚ー゚)リ「おねーさんたちおもしろい!」

164 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:43:24 ID:R8dbB6ec0
慣れた動きでテレビを付けるクー
そうして和気あいあい?と始まった謎のメンツで遊び。
まぁ、イカガワシイことは何一つとしてないんだが、こうして遊ぶのも久々だ。
また昔に戻ったみたいで。

あぁ、前はこんな感じだったよ。
他愛もない話をずっとしてるんだ。
三人とも違うベクトルのもの好きだったから、話題は尽きなかった。
帰るってなった時は泣きべそかいたりしてさ。
もうそんな歳でもないけど、あの時の事は今でも鮮明に覚えてるもんだ。

ミセ*゚ー゚)リ「あっ!わたしのいえ!」

突然テレビを指さして反応したミセリちゃん。
家?地元じゃなくて?
普通のニュースみたいだけど…

≪先々月1*日------≫

('A`)「…これミセリちゃんの地元?」

ミセ*゚ー゚)リ「ううん!わたしのいえなの!これ!」

よくよくニュースを見てみる。
その内容は惨い内容だった。

165 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:43:56 ID:R8dbB6ec0
≪一家に押し入った強盗殺人事件にて 1*歳男の子、及び*歳の女の子は無事保護された模様≫

川;゚ -゚)「強盗…殺人…?」

それに気づいた時、本当に時が止まった。
さっきまで心地よかったクーラーが、突然氷点下に温度を下げたようだった。

ミセ*゚ー゚)リ「なんかね、わたしのおうちのまえにいっぱいひとがいたの
      いろんなひとがおっきいこえだしてて、かめらのピカピカいっぱいだったの
      だからこのときおうちにはいれなかったんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「あかいえのぐでよごれたおにーちゃんがないてたんだけど…かなしいことあったのかな?」

≪犯人は既に捕まり、犯行理由として≫

ミセ*゚ー゚)リ「ぱぱもままもおしごとあるからしばらくおうちにかえってこないんだってー…
      おねーちゃんのぱぱとままもおしごといそがし?」

≪『幸せを破壊したかった』などと供述しており≫

俺はミセリちゃんの話を無視してテレビの電源を落とした。

ミセ*゚ー゚)リ「あれ?てれびけしちゃったの?つまんなーい」

ミセリちゃんは内容についてちゃんと理解してなかったのだけが救いだった。
まさか。
まさかだ。
ミセリちゃんが言う"あかいえのぐ"それは十中八九…血だ。
さっきの話が全て真実だとしたら…ミセリちゃんの…ショボンの、両親は…もう

166 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:44:19 ID:R8dbB6ec0
(;'A`)「あ、ミセリちゃん。」

ミセ*゚ー゚)リ「なーにー?」

(;'A`)「お兄ちゃんと二人…だけで住んでるのかな?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!おうちかえってくるのおそくなるのはねー
      わたしのおねがいごとかなえてくれるからなんだって!」

ミセ*^ー^)リ「ぱぱとままにはやくあいたい!っておねがいごと!」

そういえばショボンは何か言ってた気がする。
俺達が将来の話をしてた時だ。
あの時の表情は、自分の願いに思い耽っていわけじゃなかったらしい。
あの目の奥にあったのは…憎悪だ。

川;゚ -゚)「でたらめで…荒唐無稽な…願い…」

暗雲が立ち込める部屋で、俺達はミセリという少女をただ見つめることしかできなかった。
祈り、祈祷、願い、希望。
それらがどんなに脆いか、俺は感覚で味わった。

遠雷と蝉時雨だけが俺達を支配した。
明日はこの街に祭囃子が木霊するらしい。

167 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:44:47 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:バウンダリー〜〜〜


そういえば、明日は四人で祭り行くんだった…
忘れてた訳じゃないけど、ここ最近色んなことが起き過ぎた。
疲労が溜まってて、何も気づかなかった。
なんなら、今日学校に行けてない…
あー
と、一人の家で声を出した。
何をしてるんだろう、僕は…

でも明日は約束したんだ。
だから、行かなきゃ。
そう思って、携帯を手に取って、三人のグループに連絡を一つ入れた。

『二人共この前はごめんお』

『明日祭りだお?全部僕の奢りでいいから一緒に行ってほしいお』

入れた連絡の返答を待つ間、風呂場に向かった。
ぬるま湯の風呂を貯めてる間、ふと、リビングの方を見た。
そうしたら、そこにカーチャンが居る気がしたから。
現実は、誰もいなかった。
当たり前だ。
そこに居てくれている。
そんな当たり前すらも今はないんだ。

僕は浴槽に沈んだ。
ぬるくて、心地よくて。
このまま体と水の境界線なんて無くなってしまえばいい。
僕を取り巻く幸せも不幸も絶望も希望も全部。
消え去ってしまえばいい。

168 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:45:12 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同刻:懐疑思案の俺〜〜〜



あの後、俺達はミセリちゃんを途中まで送っていった。
ミセリちゃんは楽しんでくれたようで、最後の方は眠たそうだった。
別れ際、手を振る姿も元気いっぱいだったが、夜は危ないから早めに帰した。
それに…あんなことを聞いてしまった後だ、あの子を少し不気味がったのもある。
俺は、だけど。
今はその帰り道。
段々とオレンジになる空を見上げて二人で歩いている。

それにしても…だ

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

変な空気が俺達を纏っていた。
慣れないことをしたから、だと思っていた。
けど、違った。
考えてるんだ、多分クーも同じことを。
ミセリちゃん…そしてその兄のショボン。
あの二人は、あんなことがあったから夏休み前に転校してきたんだ。
迅速な対応が求められたのだろう。
だから、こんな都会とはかけ離れた場所まで来た。
あのタイミングで。

169 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:45:38 ID:R8dbB6ec0
でも幾つか疑問が生まれていた。
ショボンは願いを叶える、と言っていた。
それも、でたらめで荒唐無稽な。
九分九厘それはミセリちゃんの願いだった。
両親を生き返らせる。
おおよそこれだろう。

だが、どうやって?
人は生き返らない。
それは人の、いやこの世の理だろう?
ミセリちゃんは言ってた、叶えるために何かしている。
それは何だろう?
ミセリちゃんを安心させる為の嘘とも思える…

('A`)「うーん…」

川 ゚ -゚)「なんだ、そんな思い悩んだ顔をして」

('A`)「いやぁ…なーんか腑に落ちないなーって思って」

川 ゚ -゚)「ふむ、ドクオが考えてることは多分わかるが…私達には理解が及べないだろう」

('A`)「そーなんだけどなぁ…」

川 ゚ -゚)「考えても難しいさ…ミセリちゃんがあの内容がどういったものか分かってなかったのが救いさ」

('A`)「それは確かに…俺があの立場だったらと思うと恐ろしいよ」

川 ゚ -゚)「中々に考えたくないな…私も」

('A`)「ショボンの見方変わっちまったなぁ…あんなクール気取ってんのに…かっこいいじゃねーか」

川 ゚ -゚)「兄としてというところもあるんだろう…多分な」

('A`)「主人公かよ…明日も会うし、とりあえず今日は解散しようか」

170 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:46:00 ID:R8dbB6ec0
そう、明日はショボン兄妹と俺達で祭りに行く。
ブーンには帰ってから連絡しないと。
来るかどうかはわからんが…
と、考えてる時、クーに服を引っ張られた。

('A`)「ん?なんか話すことでもあったか?」

川 - -)「…」

無言。
え、ナニコレ怖い

('A`)「クーーさーん」

川 - -)「…帰っちゃうのか?」

('A`)「まだ全然時間あるからいいけど、どうした?」

川 - -)「…今日…親は帰って…こない…」

川 - -)「それに…今日ドロボウが家に入ってきたら…私危ない」

ん?
話しが見えないんだが?
さっきの話聞いて怖くなっちゃったってこと?
話し相手くらいはなれるけど。

171 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:46:22 ID:R8dbB6ec0
川 - -)「だから…その…泊って…」

(;'A`)「エッ」

川 - -)「いや…か?」

(;'A`)「…い、いいョ」

川*゚ -゚)「…!」

川*゚ -゚)「本当か…?」

(;'A`)「…うん」

川*゚ -゚)「うれしい。明日の荷物だけ取ってきてくれたら助かる」

(;'A`)「わ、わかりました…」

川*゚ -゚)「じゃあ…私は家で待ってる」

(;'A`)「…」

172 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:46:53 ID:R8dbB6ec0
クーが背を向けてる…
あれ。
なんかとんとん拍子で話が進んでしまった。
あれ?
これってつまり…親のいない間に…ッテコト!?
あ、家に帰る足が速い。
早歩きになってる。
あっれぇ?
なんか体がオート操縦になってるなぁこれ。
ん-どうしよう取り合えず着替え…寝巻…
明日の服…と?
と…
え、なに。
マジ?
えー?本当に?
あ、家に着いた。
鍵落した!
あーあーあーそんな急がなくても
ん-緊張してる?俺。
あ、本当にオートで体動いてる。
すげー怪しい動きを実家でしてる。
あ、母ちゃんだ。

「ドクオおかえりなさい。何そんなに急いでるの?」

今ごめん、それ一番聞かれたくないんだよね。
自分でもなんで動いてるかわかってない。
あ、動悸すごい。

「あ、あの、今からと、泊りに」

噛み過ぎてて草。

173 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:47:21 ID:R8dbB6ec0
「あー明日ブーン君とクーちゃんでお祭り行くのよね?」

「あ、そそうです」

「何でそんなに挙動不審なのよ…まぁ、いいわ。気を付けてね」

親父が母ちゃん越しになんか…変な動きしてる…
あれ、何してんだろう…

え、親父。そんな怖い顔でこっち来てなに、あっあっ
肩そんな強く掴まなあっあっ

「…ドクオ…いくら隠してもな…父ちゃんには分かるぞ…」

「な…何がデスカ?」

「それはな…俺も男だからだ…
 お前に…これを託す…」

え、なんで?
泊まりに行くだけだよ?違くない?
…今要るの?コレ。
必要?コレ。
っていうかなんで持ってんの?コレ。

174 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:47:45 ID:R8dbB6ec0
「…妊娠はさせるなよ」

あああああああああああくぁwせdrftgyふじこlp
言うないうな!!あああああああああああ
うわあああああああああああ

「ちょっと父さん!余計なこと言ったでしょ!?ドクオの体捻じれちゃってるじゃない!!」

「母さん違うんだ、これは一男として真面目な…」

「…ん?母さん?何故戦闘態勢に入っているんだい…!?」

「母さん!?一応息子が目の前に居るんですけど!?それは流石に死っ」

「ああああドクオおおおおおおおお!!!!」

「あああああああうるせえ!!!!!ドエロ親父ぃ!!!」

うわあああああああああああ
ああああああああ


175 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:48:11 ID:R8dbB6ec0
('A`)「ツカレタ」

バーカバーカ
エロ親父ー
まっさかねぇ?www
え、今から泊りに行くだけですけど?w
未だかつて二人っきりの女の子の家だけどぜーんぜん
そんなことないですけど?www
あるわけないじゃーんそんなことねぇ?www
ないじゃんねぇ?www

さてと、クーの家に着いた。
もう疲れてるけどいいや、ちょっと喋って寝よう。
うん、それがいいよ。

ピンポーン

ないない。
ありえない。
幼馴染と?そんなことないから本当に。
あーあ俺も拗らせすぎてるなーほんとに
お、足音聞こえるし、気づいたかな。
うーんなんか緊張してきたな。
さ、俺が泊りに だ け 来ましたよー

カチャ…

川*- -)「…待ってた」

…ないよな?

176 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:50:39 ID:R8dbB6ec0
〜〜〜同日:鈍感だった俺〜〜〜


とりあえずキモイくらい冷静になった俺。
さっきまでミセリちゃんと三人で居たけど、今は二人っきり。
…うん!
何もないな!

('A`)「あ…風呂入るの忘れた…」

川 ゚ -゚)「そんなに急いで来たのか?通りで早いと思った」

('A`)「なんか…急いじゃった…」

川 ^ -^)「ふふ、なんだそれ」

クーのやつ…こんな顔もするんだな。
少し意外だ。
この歳になっても初めて気づくこともあるんだなぁと。

川 ゚ -゚)「ならお風呂入ったらどうだ?今日一日疲れただろう
     ミセリちゃんもいたことだしな」

('A`)「いいのー?なんか申し訳ないな」

川 ゚ -゚)「いいさ、当分親は帰ってこない。それに、呼んだのは私だし…お湯、浸かるか?」

('A`)「なら、お言葉に甘えて。シャワーだけでいいよ」

川 ゚ -゚)「バスタオルは右の棚の二列目だ、好きに使ってくれ」

('A`)「はぁーい、ありがと」

177 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:50:59 ID:R8dbB6ec0
洗面所…あぁダメだ。
できる限り最速で、余計なものを見ない様に!だ!
いいかドクオ、今俺は俺に言っている。
無暗に手を出して嫌われたりでもしてみろ!
そんなことがあった日には、自作絞首台を2秒で作成してそれでお前は終わりだ!
分かったなドクオ!マジで!ごめんなさい!!



(-A-)(あー生き返る)

(-A-)(風呂というのはこの世で最高なもんだと思う、温めのシャワーに当たってるだけで幸せだ)

(-A-)(今日は…というか最近はゴタゴタが多すぎるよ)

(-A-)(平和が一番だ…何事においても…)

(-A-)(一番心配な俺の情欲は音沙汰なし、クーにもその様子はなし)

(-A-)(…ちょっとだけガッカリしてみる…)

(-A-)(…ブーンにも連絡しなきゃ)

「ドクオ?」

(;'A`)「わ!びっくりした!」

「制服、洗濯するか?」

('A`)「あー…」

「明日帰ってくる頃には乾いてると思う。どっちでもいいよ」

(-A-)「あいがとーーー」

「ゆっくり浴びればいいさ、洗濯しておくよ
 ドライヤーも置いておく」

(-A-)「あーーー」

(-A-)(…なんか良いな。こういうの)

178 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:51:30 ID:R8dbB6ec0
そうして何事もなく、風呂に入った俺。
まるで自分の家かのように使ってしまった。
朝入ったとはいえ、夏だ。
俺は家に帰ったらすぐに入りたい派。
でも、今日はなんだかんだ長引いちゃったから、余計気持ちよさ倍増だ。
髪乾かしてさっと出よう。


('A`)「おまたせ」

川 ゚ -゚)「うん、おかえり」

クーはリビングのソファーの上で体育座りしていた。
うん、やっぱダメかも、俺。

川 ゚ -゚)「私もお風呂行ってくる、まぁ暇つぶしててくれ。」

('A`)「ブーンに明日の事言っておくよー」

ありがとう。
洗面台からクーは答えた。
はぁ…何でここに居るんだろ、俺。
眠さもちょっとある。
全身脱力しながらも、携帯をいじる。
すると、ブーンから連絡が来ていた。

179 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:51:56 ID:R8dbB6ec0
『二人共この前はごめんお』

『明日祭りだお?全部僕の奢りでいいから一緒に行ってほしいお』

どんだけ責任感じてるんだって感じの文章だ。
思わずニヤけちゃったじゃん。
まー全部奢りにはさせないさ。
ただお互いに、全員ごめんって言えばいいだけの話。

『元気してたかー?明日いつものところで18時。その後ショボン兄妹を学校に迎えに行くぞ』

『奢らなくていいから明日はちゃんと来てくれーーーーー』

っと、こんなもんかな。
問題ないんだよ、一度や二度の喧嘩なんて。
大事なのは、その後だと思う。
ごめんって言えばいいだけさ。
各々思うことはあるかもしれないけど…それでもいいんだ。
なんてったって俺らは思春期だから!
あーあ、早く三人で遊びてーなー…
……


180 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:52:20 ID:R8dbB6ec0
「ドクオ?」

(-A-)「ん…」

川 ゚ -゚)「そんなところで寝てたら風邪引いてしまうぞ?」

('A`)「あ、あぁ…寝落ちてたのか…」

川 ゚ -゚)「眠るなら私の部屋に行こう」

('A`)「え…うん」

川 ゚ -゚)「明日は皆で祭りだからな、ちゃんと眠っとかないとまた疲れてしまうぞ?」

('A`)「…」

今なんて言った?
クーの部屋?
キャミソールと短パンだけの格好に目が行ってて全然言葉が…
寝惚けた頭がグルグル回ってる。
え、部屋?
…いいんすか?

(*'A`)(ここが…女子の部屋…)

質素だけど、匂いとかが全然違う。
なんかこの家の匂い慣れたかなって思ったけど、それよりもっと濃かった。
クーはいつも通りといった感じでベッドに腰かけている。
あぁ、俺、今まで生きてきて良かった。
相手、幼馴染だけど。

川 ゚ -゚)「ブーンに連絡ありがとう。来てくれるといいのだけど…」

('A`)「あぁ、いいよ。普通に来るだろ多分」

川 ゚ -゚)「そうだといいのだがな…ま、いいさ」

川 ゚ -゚)「寝落ちてたくらいだ、眠いんだろう?ほら、もう布団入ってしまえ」

181 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:52:47 ID:R8dbB6ec0

うん、これ夢だ。
間違いない。
だってほら、ベッド一つしかないヨ。
そこに入れって手ポンポンしてるし。
夢です。これは。
とっても質のいい夢です。
あぁでもありがとうございます。
なんかとっても幸せな気持ちなんですよ今俺は。

川 ゚ -゚)「ほら…こっち」

(;'A`)「わっ!」

手を引っ張られ、クーと一緒に布団に倒れ込んでしまった。
あぁ、これは不味い。
夢だと思おうと思ったのに、手強く握られちゃってる。
握手のような形なのに、かつてない程早く脈が暴れてる。
手アツい。風呂上がりだからかな。俺の手汗大丈夫かな。
さっきまで何も感じなかった情欲さんがまたフツフツと音を立ててるよ。
あー早く収まれ心、落ち着いて…

…クーさん、何?その顔。

川 ^ -^)「…ふふ」

俺の顔、今どうなってるかな。
さっき歯磨いたし、こんな近くに顔あっても大丈夫…だよね?

川 ^ -^)「やっと捕まえた」

182 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:53:11 ID:R8dbB6ec0
クーさん?どういう…
いきなり立ち上がってどうし…
あっ今部屋暗くするの?
寝る?
寝るなr
あっあっクーちょっとそんな…

…ヤバい。心臓痛い…

「…わかる?」

「な…何が?」

吐息が耳に当たって擽ったい。

「私の…心臓の音」

「…」

「…ふふ、そっちの方が早いね」

「こんな私にも…ドキドキしてくれてる?」

「…うん…」

胸から胸へ伝わってくる鼓動。

「…嫌じゃない?」

183 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:53:31 ID:R8dbB6ec0
「うん…」

「重くない?」

気づいた時にはなってた恋人繋ぎ。

「…私はね…ずーっと前からこうしたかった」

「…なんで?」

「この気持ちは…ブーンに相談してた時もあったよ」

「…気づかなかった」

「…だろうね、ずっとアピールしてたんだけどな」

「…ごめん」

「いいの」

甘い言葉の応酬で脳が震える。

「この後…どうしたい?」

「多分…このまま目を閉じたらよく眠れると思うよ?」

「…」

「でも…望んでくれるなら…いいよ…」

184 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/18(火) 00:54:11 ID:R8dbB6ec0
相手が自分のどこに、ナニを押し付けてるか分かる。

「前に撫でてくれたこの手…おっきいの好き…」

「ッ…」

これ以上は動かないつもりだった。

相手が動かない限り。

でも、体は少しずつお互いを求めていたらしい。

「ふふ、男の子だね…?」

淡い陰影の裏で感じる濃い感触。

二人の晩夏は、果てしなかった。



___________________

185 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:37:41 ID:j2dxepV.0
6days


今日は夏休み初日。
僕は惰眠を貪った。
起きることも今は億劫だったから。
大きく欠伸をした。
僕はどのくらい眠ったんだろう。
閉め切ったカーテンから漏れる橙色。
それでも眩しいくらいの光。
それは、僕が寝すぎたからだろうか。
寝惚けた目を擦ってとりあえず上体を起こす。
眠りすぎたせいで、全身に血液が流れる感覚がした。

…今日は祭りに行く日。
しばらく会えてない二人が恋しかった。
とは言っても、2.3日だけだけど。
学校でも一緒に居るからか、そういう感覚は抜けない。
時間が経つにつれ、二人の偉大さを感じた。

ドクオとクー、そして、ショボンとその妹。
久々に会えることに嬉しさを感じているのと同時に…
気まずさもあった。
最後に会話したのが…というか、僕が全面的に悪いのだが…

あーなんて謝ろう。
どうしたら許してくれるかな。
多分っていうか絶対怒ってるよなぁ…
だから引き合いに出した全奢り。
でもなぁ、ちゃんと傷つけちゃったよなぁ…
あー…本当に申し訳ないことをした。

…携帯の連絡帰ってきてるかな?
恐る恐るグループを見てみた。

186 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:38:23 ID:j2dxepV.0
『元気してたかー?明日いつものところで18時。その後ショボン兄妹を学校に迎えに行くぞ』

『奢らなくていいから明日はちゃんと来てくれーーーーー』

『 絶 対 に 来 い 』

そうだ、昨日風呂に入ってから連絡待たないで眠ってしまったんだ。
やらかしたーと思いつつ、優しい二人に感謝した。
今日はちゃんと謝らないと。
とりあえず、行く旨を返答した。

現在時刻は16時半。
もう少し眠ってたら完全に遅刻してるところだった。
危ない危ない。

とりあえず、床に投げ捨ててある紙、もとい宿題を机に並べた。
昨日からずっと眠ってたんだ、体が気持ち悪い。
風呂を溜めてる間、キッチンにある菓子パンを頬張る。
テレビを付けてボヤっと眺めていた。
今日は今年一暑いらしい。
それを見ながら、コップに水道水を注いだ。

もう外から子供の声が聞こえる。
祭りは始まっているらしい。
仄かに香る焼きそばの匂いが、菓子パンを食べる手を早める。
こんな感じで気持ちが上がると、次第に眠気も無くなってくるのも必然だった。

一袋の菓子パンを胃にいれたところで、風呂が溜まったようだ。
さ、早めに入らないとまた遅れちゃう。
楽しいことを予感しつつ、僕は準備を早めた。

187 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:38:56 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同日:残煙の俺〜〜〜


俺は目を開けたくなかった。
二度寝したいから、と言われたらそうなんだろう。
だが、その答えはバツだ。
何故なら、片腕が痺れていて、その上に…髪の感触があるから。
うん、触ったことある感触してる。
それに…なんか服の感覚が全然ない。
その代わりにその…全体的に凄く…柔い…

…いやいやいや、ねぇ?
そんなことないよーさすがに。
全身から伝わる情報はね?
そうだと思うよ?

だが聞いてくれ、俺が目を開けない限りはそれがどうかもわからないだろ?
シュレディンガーの猫ってやつだよ。
開けてみないと分からないってあれ。
それに、今俺の隣で可愛い寝息を立ててる相手も誰だか分からない。
俺が目を開けない限りはどっちかなんてわからないんだよ。
だからな、俺はこのまま自分の息の根を止めようと思うんだ。

188 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:39:16 ID:j2dxepV.0
そうすれば永遠にこのまま真っ暗な視界で、正解なんて分からない!!
よし!死のう!今すぐに!
いやぁ、ここまで生きてきて良かったなぁ。
ブーンとは仲直りできなかったけど、まぁあとはどうにかなるでしょ!
そうと決まれば

「…んう…」

ッッッ!!

…起きちゃった…?

「…すぅ…」

…セーフ!セーフです!
わたくしドクオはセーフを勝ち取っています!
何とかして目を開かないという偉業を成し遂げたのです!!
よし!まだ俺には猶予があるってことだ!
さて!舌を嚙み千切る準備は-------

「…どーっくん?」

…汗

「おーきーて?」

…なんて甘ったるくてウィスパーな…声してんのこの人

「…確かめるね?」

あっなに、ちょっとあんまり動かないであっ
息近いちょっまあっあっ

189 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:39:39 ID:j2dxepV.0
(;;'A`)「あああああ!!ごめんなさい起きてます起きてますううう!!」

ベッドから転げ落ちた。
それと同時に目を開けてしまった。

川*- -)「…おーはーよ」

布団で身を隠す寝起きでポヤポヤしてるクーの姿。
シュレディンガー作戦失敗と共に、全て思い出してしまった。
俺は、今日という日を一生涯忘れることはないだろう。
そんでもって、ごめんなさい。

……


お互いの服を着なおして、態勢を整える。
俺達は夜が明けてちょっとしても起きてた。
…うん、あれです、絵本とか読んでたんだよ。
クーの気恥ずかしさがマックスで感じる。
俺もそうだし。
全身が痛かった。
まともに目を合わせたのは、起きた時だけ。
うーんどうしたらいいかな…
とりあえず準備でもしようかな…ゆっくり…

なんだかんだ時間は16時半。
携帯をパッと見る

190 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:40:15 ID:j2dxepV.0
『今日はちゃんと行くお』

ブーンからの連絡を確認して安堵した。

そのまま風呂を借りた。
全部脱衣し終えて鏡を見たら…
oh…見事な桜吹雪が描かれていた。
だから痛かったんだ…エグイ色してんな。

脳みそが勝手に妄想をするのを阻止してシャワーを浴びる。
あーなんか罪悪感が…
早く洗っちゃおう。
シャンプー…
良い匂いするなぁ…女の子って感じだ。
…ちょっと嗅ぎなれたな…

(-A-)(…もしかしてすごいことをしちゃったのでは…?)

(-A-)(なんか本当に夢みたいな…)

(-A-)(…?なんか音がする)

ガチャン

(-A-)(…ん?)

「痒いところはないですかー?」

「わああ!なんで入っ」

「ウルサイ…時短だ、時短…それに」

「この状態はもうお互いに見ただろう?
 …気にするな」

「状態ってなんかそんな!」

「はいはい、綺麗に洗ってやるからなー」

「…!!!!!」

「……」

「…」

「」

191 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:40:48 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同日:いつもの待ち合わせ場所にて〜〜〜



(;^ω^)「…」

僕はそわそわしている…
それも、猛烈に。
酷いことを言ってしまった。
それから謝れもせず数日経った。
あぁこれほど気まずいことはないだろう。
さっきからウロチョロしないと気が済まない。
暑さからくる汗は多分今はない。
ただただ、冷や汗ばかりだった。
心臓が痛むくらいドクドク音を立ててる。

そんなことをし続け数分。
二人の姿が見えた。
今日一番の鼓動が全身に脈を打った。
寒気すらする。
まずはごめんなさいを----

…あれ?
なんかあの二人…雰囲気違うような…

('A`)「ちゃんと来てるじゃん」

川 - -)「…ソウダネ」

('A`)「…」

川 - -)「…」

え、なにこの空気。
前もあった気がするけど…

192 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:41:11 ID:j2dxepV.0
ってそうじゃない!!

(;^ω^)「この前は二人共ごめんお!!あんな酷いこと言っちゃって!」

ほぼ90°直角に曲げた腰。
一発くらい殴られる覚悟はしてきた。
そのくらいの事をしたと思ってるから。
だから目を閉じてその態勢をキープした。

(;^ω^)「…?」

…でも反応はなかった。
恐る恐る二人の顔を見る。

うん、なんかやっぱりおかしいよこの二人。
なんか空気感全然違うもん。
おかしい。

(;^ω^)「な、なんか二人共空気おかしくないかお…?」

(;'A`)「え!いつも通りだよ!通常運転!これ!通常だから!!
    ちょっと会わなかっただけで忘れたか?普通だよ!な!クー!」

川*- -)「ふ…ふふ、そうだね」

(;^ω^)「やっぱりおかしいお!特にクーが!僕のせいで喧嘩しちゃったお!?それなら全力土下座を!!」

(;'A`)「そうじゃない!それは絶対に違うんだけど、あのーなんかこのー」

川*- -)「ふふ…慌てたところも…可愛いね?」

(;'A`)「今それやめて!?こしょばいってば!心が!」

(;^ω^)「絶対何か違うお!距離感近すぎっ…」

193 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:41:40 ID:j2dxepV.0


…あ

( ^ω^)「ドクオ、ちょっと来いお」

('A`)「…はい」

( ^ω^)「正直に答えるお…いいかお?」

('A`)「はい…」

( ^ω^)「…した?」

(;'A`)「…黙秘権を行使します」

(;^ω^)「ちょっ!!おまっ!!お前!!」

(;'A`)「あああああ違うんです違うんです!!これには深い訳がありましてそうでしてあああああ」

川*- -)「ふふふ…前も言ったじゃないか…女は猛獣なんだよ…?」

(;^ω^)「前々から聞いてたけど!!そのアカラサマなの辞めてくれお!!どう接していいか分からんお!!」

(;'A`)「俺だってわからねーーよぉーー頭揺らさないでぇーー」

川*- -)「さ、さっきので…いいじゃないか…もうバレてるんだし…ふふ」

おまええええええええええ

ちがうんだってぇぇぇぇーーー

……


194 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:42:02 ID:j2dxepV.0
こうして、いつも通り?ではないけど。
でも、この雰囲気になっていたことは凄い嬉しかった。
少し申し訳なかった。
ショボン兄妹を迎えに行く道中、ずっとこんな感じだった。
仲良くなれてよかったのかな…いろんな意味で、ね。

クーの恋心は前から聞いていた。
それこそ、虐められていた時から最近まで。
鈍感なドクオも多分、嫌いではないと思ってた。
だけど、こんなに雰囲気違うなんて…
なんかチクチクする。
でもいいんです、クーの願いが叶って嬉しいと思ったから。
ドクオもまんざらでもない顔してるし。

( ^ω^)「ドクオ、クーのことは任せたお」

(;'A`)「何度も言ったけど、それすげープレッシャーだからやめてって!」

川*- -)「…嫌だったか?」

(;'A`)「これも何度も言ったけど、そうじゃないって!」

川*- -)「私のこと…守ってね…?ふふ…」

( ^ω^)「お似合いだおー」

195 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:42:22 ID:j2dxepV.0
(´・ω・`)「…何がだい?」

ミセ*゚ー゚)リ「あっ!おにーさんとおねーさん!」

そこでショボン兄妹と合流。
妹ちゃんの方は何やらドクオとクーを知ってるようだった。

( ^ω^)「初めまして妹ちゃん。僕はブーン。名前は何て言うんだお?」

ミセ*゚ー゚)リ「ミセリ!きのうおにーさんとおねーさんとあそんでもらったの!」

(´・ω・`)「そうだったんだね、お兄さんとお姉さんの正体は二人だったか」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!おもしろいの!ねー!おねーさん!」

川*゚ -゚)「おぉ、ミセリちゃん。我が天使よ」

('A`)「ショボンお疲れ、ありがとな」

(´・ω・`)「ううん、こちらこそだよ。祭りって結構近くだったんだね」

( ^ω^)「そうだおー大きくはないけど、小さくもない感じだお」

(´・ω・`)「ブーン君、夏バテは大丈夫かい?最終日学校に来てなかったから心配だったんだ」

( ^ω^)「…大丈夫だお!今は元気になってるおー」

196 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:42:44 ID:j2dxepV.0
(´・ω・`)「…僕は明日行くよ」

( ^ω^)「分かってるお」

ミセ*゚ー゚)リ「おにーちゃんなにはなしてるの?」

(´・ω・`)「今日楽しもうって話さ、二人は?」

ミセ*゚ー゚)リ「おもしろいよ!みてみて!」

川*- -)「…む、娘ができたら…きっと…あんな感じなんだろうね?」

(;'A`)「俺らまだ学生だし…まだ気が早いんじゃ…?」

川*- -)「"まだ"…ね?楽しみだねーどっくん?」

(;^ω^)「おっ…」

(;^ω^)(隠す気も何もねーお…)

(´・ω・`)(何か進展あったな)

ミセ*^ー^)リ「おねーさんたちおもしろーい!」

こんな話をしつつ、僕は祭りの中に足を踏み入れていた。
赤提灯と屋台の匂い。
子供たちの声、汗ばむ肌。
五感で夏という概念を感じている。
この雰囲気は僕から現実感を消失させる。

197 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:43:12 ID:j2dxepV.0
ミセリちゃんは甘いのものが好きみたいで、綿飴と林檎飴を両手に持ってる。
口回りがべたべたになったのか、ショボンに拭いてもらっている。
彼が本当は魔法使いだと知ったら、ミセリちゃんはどんな反応をするんだろう。

クーとドクオは、あんなにあたふたしていたのにしっかり恋人つなぎをして見慣れた景色を堪能してる。
きっと関係性が変わると、いつもの景色も違って見えるんだろう。
二人の照れ笑いを後ろから見てて、ちょっとだけ僕も照れくさい。

一方僕は…
そんな四人を見てるだけ。
しばらく後ろからみんなを見てた…だけだった。

得も言われぬ感情に胸がひどく痛んだ。
人の幸せを見ているだけで、何か悪意のようなものを感じた。
多分、心という臓器があるなら、全体に擦り傷に覆われてただろう痛み。
僕は、こんなに人の幸せを祝えない人間だっけ。
分からなくなった。
だから僕は、気づかれずに四人と離れた。

198 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:43:36 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同日別所:未熟なジレンマ〜〜〜



大きくはないが、小さくもない。
そんな規模だ。
気ままに今は、歩きたい。
この痛みが治まるまでは。

先生は言ってた。
願いの形は違うと。
それと同じように、幸せの形も違い、その姿も変わっていくのだろう。

僕にとっての幸せは、幼馴染と、家族と一緒に居ることだった。
けど…もうあの二人の幸せの中にいて、僕が入る余裕はなさそうだった。
あぁ、なんか。
言葉にできないなぁ。
心も、息も…苦しいなぁ…
嬉しいはずなのになぁ…
人の願いが叶うことって、こんなに辛いものなのかなぁ…

この目に映る景色が次第にボヤけていった。
僕は泣いているのだ。
この人混み、黄色い声が聞こえる場所で。
祭りってこんなに悲しいものだっけ。
なんだっけ、幸せって。

199 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:44:01 ID:j2dxepV.0
そんなことを一人で考え、歩いていた。
祭りを感じない場所へ逃げたかったんだ。
今、僕がここにいたらダメだと思った。
このドス黒い感情に支配されてしまいそうだったから。
あの時と一緒だった。
図書室でクーとドクオに向けたあの感情だ。

ダメなんだ、こんなこと思ってしまったら。
だって、二人は幸せなんだから。
そう思えば思うほどに、この心は孤独を望んだ。
誰か近くにいたら、僕はきっと耐え切れなくなってしまうだろうから。

幸せは他者から見たらなんと惨いことか。
僕は自分を不幸せだと思ってるんだ。
実際に、トーチャンは家を出ていった。
カーチャンは倒れて搬送されてしまった。

僕とは真反対な二人を見て、絶望した。
嬉しいことのはずなのに。
僕も望んでいたことなのに。
あの幸せな姿が、に自分の首を絞めることになるとはだれが思っただろう。
もう、今は何も考えたくない。
離れよう。
あの祭囃子からは。

200 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:44:22 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同時刻:俺〜〜〜



川*- -)「どーっくん、あーん」

('A`)「自分で食べられるよ」

川*- -)「…いや?」

('A`)「いやじゃないけど…しょうがないなぁ」

クーの手から俺の口にお好み焼きが渡された。
ソースが濃くって、紅ショウガが良いアクセントを際立たせる。
あーうめーなぁ。
なんか、甘さもあるなぁ。
俺、マジでこの夏を忘れられないな。
隣でニコニコ笑うクー。
こんな笑顔を見るのは初めてだった。
なんか…全部がキラキラして見える。
この空間全て俺のためにあるんじゃないかと思うくらいに。
世界に俺とクーだけの世界が、確かにここにある。

お好み焼きを食べ終わって、ごみを捨てに行く。
ちょっと離れたところで、ショボン兄妹を見かけた。
二人は金魚すくいをしてるみたいだった。
傍から見たら、なんて微笑ましい光景だろうと、誰もがそう見るだろう。

でも、その実二人には深いと一言で片づけるには軽すぎる程の傷がある。
きっとミセリちゃんは全てを理解してない。
だが、ショボンは全部を背負っているんだ。
両親の死。
ミセリちゃんの言葉からの推測だけど、たぶん目の前で見てる筈なんだ。
そんなことを感じ取らせない空気。
あの空間もまた、二人だけの幸せなんだろう。

201 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:44:45 ID:j2dxepV.0
…そういえば…ブーンは?

('A`)「ブーンどっか行っちゃった?」

川*- -)「わかんない…ずっとどっくん見てたから」

(;'A`)「もう少し景色とか周りとか見なよ」


川*- -)「うん…でも、私が今見てるものが、今の私の全部だからいいの…」

(*'A`)「クー…」

あぁなんて可愛いんだ。
何でもっと早く気付かなかったんだ。
鈍感な俺のバカ。
この手の繋ぎ方も、もう板についてきた。

でも…ブーンがいないのはちょっと物足りない気もする。

『ブーンはぐれちゃったか?今どの辺にいる?』

一つ連絡を送る。
それを見たクーが俺の携帯を覗き込む。

川 ゚ -゚)「…浮気は嫌だぞ」

(;'A`)「ブーンに連絡しただけだよ」

久々に見たなこの顔。

202 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:45:16 ID:j2dxepV.0
遠くでミセリちゃんが俺らを呼んでた。
どうやら上手く金魚をとれたみたいだ。
一匹だけだったけど、ミセリちゃんは嬉しそうにその中を見てる。

ミセ*゚ー゚)リ「わぁ…」

キラキラ光るその目を見たらわかる。
この幼女は全てが純粋で、全てが新鮮なんだ。
俺らもこんな時もあったよなぁ。
一緒にこうして祭り行った時も。
初めて見る海で大はしゃぎした時も。
公園まで行って雪ダルマを三人で作った時も。
きっと同じ目をしてた。

色んな思い出が溢れてきて、俺は嬉しかった。
今年も一緒に三人で居られるんだから。
まぁ、一人は今現在近くにいないが。

('A`)「…あれ、お兄ちゃんは?」

ミセ*゚ー゚)リ「ぶーんをさがしてくるって!」

('A`)「ブーンって呼んでるのか…まぁ、とりあえず俺たちについておいで」

川*゚ -゚)「天使確保したぞ」

ミセ*゚ー゚)リ「ふたりとてーつなぐ!」

真ん中にミセリちゃん。
その両隣に俺らで挟んで手を繋いだ。
まるでその姿は、若い家族のような。
幸せのプールに浸っているような。
そんな感覚だった。

203 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:45:36 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同時刻:願う二人〜〜〜


(  ω )「…」

どうしようもなくなった心。
それを落ち着かせる為に向かった廃墟。
あの日、願いが叶う場所に繋がった4階で一人黄昏ていた。
祭りが学校から近いのもあって、比較的行きやすい場所だった。
不思議と頭痛もなく、耳鳴りもなく、変な声も聞こえなかった。
僕を一人にしてほしいという気持ちを汲んでくれたのかもしれない。

そよ風が僕を撫でる。
その時、声が後ろから聞こえた。

(´・ω・`)「…皆心配してたよ」

ショボンだった。
何でこの場所に来たのか。
何で知っていたのか。
この際どうでもよかった。
彼は魔法使いなんだから。
ある程度落ち着いた心で、言葉を吐き出す。

204 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:46:06 ID:j2dxepV.0
( ^ω^)「…いいんだお、これで」

(´・ω・`)「…やっぱり、あの二人かい?」

( ^ω^)「そうだけど、そうじゃないんだお。僕はもうクーとドクオを邪魔しちゃいけないんだお」

(´・ω・`)「きっと一緒に居たいと思ってるさ。何があったかは、僕は知らないけど」

( ^ω^)「…いいんだお」

(´・ω・`)「僕は、三人が仲良くしてるところ見てたいんだけどね」

( ^ω^)「幼馴染だからこそ、わかるものもあるってもんだお」

(´・ω・`)「まぁそういうなって、ほら」

ショボンが渡してきたのはコーラだった。
さっき買ってきたのだろうか。
それとも、僕の体が火照っているからだろうか。
この世で一番冷たく感じたコーラだった。
プシュっと音を立てて一口飲む。
夏夜の上に煌々と輝く月。
明日は満月らしい。

( ^ω^)「そういえばミセリちゃんはどうしたんだお?」

(´・ω・`)「二人に預けてきたよ。ミセリが懐いてくれてたおかげさ」

( ^ω^)「おっおっお、純粋だおね」

(´・ω・`)「あぁ…直視できないくらいにはね」

( ^ω^)「ショボンは家族と祭りは行かないのお?」

(´・ω・`)「…出張でね、今は居ないんだ」

( ^ω^)「そうなのかお…残念だおね」

親の出張でこっちに引っ越してきたと考えたら、この時期に転校してきたのは頷ける。
大変なことだと思いつつ、コーラを一口飲む。

205 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:46:26 ID:j2dxepV.0
(´・ω・`)「これ飲んだら、戻ろうか」

( ^ω^)「…僕はいいお」

(´・ω・`)「意地張ってないでさ。子供の喧嘩じゃないだろ?」

( ^ω^)「…幸せな奴にはわからないお、僕のことなんて」

(´・ω・`)「…一体君に何があったっていうのさ」

( ^ω^)「…トーチャンが出て行って、カーチャンが倒れたんだお。だから…」

そこから先は声が出なかった。
事実を口にすること。
目を逸らしていたことが、増々現実味を帯びてしまうから。

(´-ω-`)「…いいじゃないか…別に。探せば会えるんだろう?」

(#^ω^)「…おっ」

その言葉に反応して、立ち上がりショボンのいる方向を見た。
…だが、彼の姿はなかった。
その代わり、優しく温い風が僕を掠めた。

怒りの矛先を失った僕は、これ以上ないほど拳を握りしめた。

206 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:46:51 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同時刻:フィナーレの所作〜〜〜



('A`)「もう21時か…そろそろ祭りも終わりかな」

ミセ*゚ー゚)リ「もっとふたりといるー!」

川*゚ -゚)「ミセリちゃんが良ければ永久に一緒に居てやろうじゃないか」

('A`)「クー、一応人の妹だ」

ミセ*゚ー゚)リ「ふたりともぱぱとままみたい!」

川*- -)「そ、それって…ふうふ…ふふふ」

('A`)「…」

クーは今頭がお花畑で顔が真っ赤になってる。
だけど、俺は別のことを考えてた。
ミセリちゃんの両親はもういないんだ。
だから、この子が将来大人になったら何と思うんだろう。
そんなことを考えていた。
正直気まずいことをこの子は言っている。

川*- -)「ど、どっくん…ふ、ふうふだよ…ふふ」

今のクーにとっては全然そんなことないみたいだった。
なんだよ、心配損かよ。

207 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:47:28 ID:j2dxepV.0
(´・ω・`)「ごめん、二人とも」

('A`)「おー…ブーンは居なかったか」

(´-ω-`)「…うん、はぐれちゃったみたいだね」

('A`)「迷子センターにでもいんじゃないかな」

(´・ω・`)「そうだったら面白いね」

ミセ*゚ー゚)リ「あ!おにーちゃん!みて!あたらしいぱぱとまま!」

そう指を俺たちに刺す。
子供のいうことは100%悪気がないだけにタチが悪い。
変な汗をかく。

川*- -)「す…すまない…ショボン…ふうふ…だよ…」

あぁ、クーはもう全部を忘れてるわ。
全然気にもしてない。
自分の世界入っちゃった。

(´・ω・`)「…ミセリはクーちゃんとドクオ君は好きかい?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!だいすき!ぶーんも!」

(´・ω・`)「そうならいいんだ、嬉しいよ。ありがとう二人とも」

ミセ*゚ー゚)リ「おねーさん!」

川*゚ -゚)「我が天使よ、おいで」

208 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:47:50 ID:j2dxepV.0
('A`)「…いいよ全然、ミセリちゃんいい子だし。それにクーにも懐いてるみたいだし」

(´・ω・`)「ドクオ君にも懐いてるみたいだよ。昨日ミセリが帰ってきてから沢山話してくれたからね」

('A`)「まぁ特に何もしてないよ、アイス買ってあげたくらいかな」

(´・ω・`)「…そんな君たちに一つだけお願いがあるんだ」

('A`)「できることなら」

(´・ω・`)「…僕、明日から少し家を空けるんだ。だから、その間ミセリを見ててほしいんだけど…どうかな
       無茶を言ってるのは承知で言っているよ」

('A`)「…なら条件が一つある…いいか?」

(´・ω・`)「僕に答えられることならなんでも」

('A`)「前に言ってた…叶えたい願い?だっけか。それって何なんだ?多分そのためにどこか行くんだろ?」

(´-ω-`)「…そうだね」

(´-ω-`)「…ミセリの願いを叶えに行くんだ。兄として。家族として」

('A`)「濁すの上手いよなぁ、まぁいいんだけどさ」

('A`)「…それは、叶うもんなのか?」

(´・ω・`)「叶えてみせるさ。じゃないと、僕が生きている意味がないからね」

209 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:48:12 ID:j2dxepV.0
それは力強い目だった。
俺も言葉を濁しているから人のこと言えないんだけどな。
誰がどう考えても無理なことを、ショボンは面と向かって叶えるというのだ。
マッドサイエンティストでもない限り無理だ。
そんなことを容易く言ってのける。

だから俺はその言葉を信じて、ミセリちゃんを預かることを承諾した。
宛はない。
でもまぁ、うちの家族なら何とかなるだろうと高を括ってる。

一方のクーは、ミセリちゃんとイチャついている。
あれって百合っていうんだろうか。

('A`)「…ブーン、お前どこいるんだ?」

幸せと狂気と不安が俺の周りで渦巻いた瞬間だった。

突然強烈な光と、爆発が俺を襲った。

俺は心臓が飛び出そうな反応をした。
焦った顔で俺は三人の方を見る。
すると、空を見上げていた。
周りの人も同じく同じ方角を見ていた。

そこには、空に満開の火花が花弁を大きく広げていた。

パチパチと音を立てて、優雅に散るその爆弾は、俺の五感の全て盗んでいた。
いつの間にか隣にいたクーが手を握ってきた。
それを返すように俺も同じ力で握る。
クーと火薬の匂いが混じって俺を包む。
この胸の暑さは、気温のせいではなかった。

210 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:48:34 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同時刻廃墟にて:爆弾〜〜〜


飲み干したコーラの缶をただジッと見ていた。
喪失感、悲壮感、無力感。
ズタボロになった心の代わりに、空に咲いた大華。

あの時と同じ顔をして、散っては咲き続ける爆弾に見惚れていた。
もし、トーチャンが出ていかなければ。
もし、カーチャンが倒れてなければ。
もし、クーとドクオがあんな風にならなければ。
僕はもっと素直にこの景色を見れてたのだろうか。

大きな音がこの街を包む度に、僕の心が形を崩していくのが分かる。
昔、僕の泣きっ面を壊してくれたあの華は。
今は僕の心を壊してくれている。

あぁ、なんて助かるんだろう。
未練がなければ、楽に命を張れる。
今、僕を繋ぎとめているモノは何一つない。
この願いに迷いがなくなった瞬間だった。
これで、いいんだ。
もう、戻れない。

僕はあの華が一つ残らず散るのを見守った後、足早に家路についた。

211 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:51:44 ID:j2dxepV.0
〜〜〜同時刻祭りにて:得るモノ、失うモノ〜〜〜



最後の火花が打ちあがり、周りの人たちは拍手を空に送る。
それと同時に真っ暗になる視界。
それは、この祭りの終わりを告げていた。

人込みに少し流されて、ショボンとは少し離れてしまった。
クーの手は暖かい。
それに、遠くでミセリちゃんは大はしゃぎでショボンに抱き着いている。
ショボン、お前はきっとその笑顔を守るために願うんだろ?
叶えるんだろ?
俺には到底考えられないことだよ。

俺は、変に理性的に考えてしまう。
だから、幽霊とか、そういうオカルトチックのに興味があるんだ。
無理なものは無理、と割り切ってしまうのがクセ。

そんな俺から見たショボンの背中は、今まで見たどの人間より背中が大きく見えた。
きっと俺は嫉妬してるんだ。
そんなかっこいい顔してるくせに。
あんな重たい過去を背負っているのに。
何でそんな夢物語を言えるんだ?
不思議で仕方なかった。
何か宛があるのか?
教えてほしかった。

212 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:52:06 ID:j2dxepV.0
川*- -)「…どうした?考え事か?」

('A`)「あぁ、うん」

('A`)「明日からショボンが長い期間家を空けるらしいんだ…理由は知らない
    だからミセリちゃんを預かることになったんだけど…どうしようかなって思ってな」

川*- -)「…それなら、ウチに置くさ。女の子だし…それに…」

('A`)「それに?」

川*- -)「…どっくんは今日泊ってくれる…だろ?」

('A`)「え…母さんと父さんは…?」

川*- -)「…いないよ。伝えておくさ」

(;'A`)「…」

なんてことだ。
一夜で終わるはずの泊りが、まさかの二日目に移行しようとしていた。
そんなことがあるのか?
あるんだよな?
今そうだもんな?

213 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:52:36 ID:j2dxepV.0
川*- -)「…ダメだった?」

(;'A`)「い、いいなら…」

川*- -)「…来てほしい」

そう言ってクーは俺に顔を寄せてきた。
少し背伸びした彼女を支えるように、自然に腰に手をまわした。
俺は、初めてクーの睫毛の長さを知った。

川*- -)「…さ、帰ろう?」

(*'A`)「う、うん」

そして、二人を探して近づく。
俺たちは帰る旨を伝えて挨拶をした。
どうやらショボン達は明日もここに来るらしい。
だから、明日も同じ時間に集合しよう、という流れになった。

(´・ω・`)「ブーン君によろしく伝えておいてほしい。明日ははぐれないといいね」

('A`)「本当だよー心配だし、結局見つからなかったし」

ミセ*゚ー゚)リ「おねーさん!あしたからいっしょだって!」

川*゚ -゚)「うむ、ずっと一緒だ。私の家だけどいいか?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!ねこのようふくきる!おにーさんもいっしょなんだよね?」

('A`)「あー…そうだよ。ショボンの代わりにならないだろうけど」

214 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:53:41 ID:j2dxepV.0

(´・ω・`)「いいんだ、迷惑かけてごめん」

川 ゚ -゚)「迷惑だと思ってないさ。むしろそっちは大丈夫なのか?」

(´・ω・`)「うん、早めに帰ってくるようにするよ」

川*゚ -゚)「だからおねーさんといっしょだぞぉー」

そういってクーはミセリちゃんの頭を撫でる。
ニコニコしながら一心にその手のひらを頭でを味わうミセリちゃん。
ここのカップリングでいいんじゃないかな、もう。

(´・ω・`)「それじゃあ僕らは帰るよ。遅くまでありがとう。また明日」

('A`)「またなー」

川*゚ -゚)「また明日だよミセリちゃん」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!ばいばーい!」

元気よく手を振ってくれるミセリちゃんに応えて俺らも手を振る。
姿が段々と小さくなっても、あの兄弟の姿は幸せそのものだった。

二人と距離が離れていくにつれて、僕らの距離は近づいていた。
もう手を繋ぐのはお決まりになっていた。
そして、もう慣れて来ている俺がいる。

川*- -)「今日…すごい楽しかった」

('A`)「あぁ、ブーン途中からいなかったのだけ悔しいな」

川 - -)「…うん、あとで連絡入れとくね」

('A`)「俺からも連絡しておくよ。明日、回れなかったところ行こうか」

215 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:54:04 ID:j2dxepV.0
『ぶーーーーーん祭り終わちゃったよーーー』

『明日同じ時間に同じ場所で待ち合わせなー!次ははぐれるなよーー』

『 絶 対 来 い 』

俺らの帰り道はそんな話題で持ち切りだった。
なんか、クーこうなってから時間が経つのが早く感じる。
少しだけ話したと思っていたら、もうクーの家に着いていた。
そのくらい、俺は夢中になってたんだと思う。

('A`)「ただいまーおかえりー」

川*- -)「おかえり…ただいま」

二日目だからか、どことなく慣れてしまった自分がいる。
いいことなのか悪いことなのか。
鼻が慣れたのか、少し家の匂いを感じなくなったところだった。

川*- -)「お風呂入ろ?」

(;'A`)「い、一緒に?」

川*- -)「朝入ったし…いいでしょ?」

(;'A`)「…恥ずかしいんですけどそれは…」

「洗ってあげるから…ほら、手上げて?」

「ちょ、ちょっと!?いきなり過ぎない!?」

「いーから…ふふ、まだ痕ついてるね」

「そ、そりゃぁ…」

「…見て?私も」

「あれぇ!?俺もしたっけ!?」

「…男の子だなぁ、って思ったよ」

「〜〜〜〜!?」

「……」

「」

216 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:54:32 ID:j2dxepV.0
('A`)「…」

川*-〜-)「ん〜」

これはもう半同棲なのでは?
とクーの髪を乾かしながら思う。
サラサラでツヤツヤ。
俺より髪乾くの早いんじゃないんかな。
乾かすの下手だと思うけどいいんかな。
あー色々考えてしまう。
なんとなく、どっと疲れが来た。

川*- -)「ありがと」

('A`)「乾いてなかったらすまん」

('A`)「あー…なんか祭り後って疲れるよな」

川*- -)「…もう寝る?」

('A`)「明日も一応あるからなーそうするかー」

川*- -)「うん…お布団、行こ」

…あ
一緒の布団で寝るんだった。

217 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:54:55 ID:j2dxepV.0
(;'A`)「…ちょっと心の準備ほしい」

川*- -)「昨日一緒に寝たのに?」

(;'A`)「そーだけど…なんか緊張しちゃって…」

川*- -)「いいよ…遠慮しないで」

川*- -)「…おいで?」

布団に腰かけて手を広げるクー。
俺は、カチコチの体を無理やり動かして近づく。

川*- -)「よくできました」

そのまま俺に抱き着くクー。
腰の辺りに、熱と感触が俺に伝わってくる。
全部柔い…懐かしさすら感じる。

川*- -)「…電気消して?」

そのまま暗闇の中、布団に寝転がる。
横になるだけで、今日の疲れが一気に噴き出してきた。
心地いい匂いと、ベッドの柔らかさに飲み込まれそうになっていた。

218 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/19(水) 22:55:29 ID:j2dxepV.0
「…今日楽しかったね」

「うん…めっちゃ疲れた気がする…」

「…そう?」

「私は…もっと一緒に居たいな」

「うん…」

体温が上がってきたのが分かる。

「ねぇ…」

「ッ…」

考えたことが全てどうでも良くなる熱。

悩みなんて、この空間には必要ない。

理性も、意味も、ここでは無力だった。

ただ、ひたすらに目に見えるものを受け入れるだけだった。

二人は熱く、蕩けた夜を貪った。



___________________

219名無しさん:2025/02/21(金) 22:27:57 ID:DJb2A7IA0
おつおつ

220 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:22:30 ID:vdbcco3Q0
7days


時間は夕方。
僕はカーチャンの見舞いに来ていた。
もう永遠に戻ってこれないかもしれないから。
"向こうの世界"に行く前の、最後の挨拶だ。
死ななければいいだけの話なのだが。
それでも、カーチャンと二度と会えなくなるのは怖かった。
死ぬことも、あの扉の先に行くことも、全て。

だけど、僕がこんな気持ちになっているのは、間違いなくあの時からだ。
トーチャンが出て行って、カーチャンが倒れた。
あの日から、僕の歯車は狂い、正常に機能していなかった。
だから、あの事象全て無くしてしまえば、きっとこんな気持ちもなかった。
昨日の祭りも、一人ではなれることはなかった。
それがなくなってしまえば、僕は元通りになるだろう?
だから、僕は行く。
願いを叶えに。

221 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:22:59 ID:vdbcco3Q0
 J('ー`)し「…ブーン?」

( ^ω^)「おっ、どうしたお?」

 J('ー`)し「最近何か思い詰めてない?」

( ^ω^)「おっおっおっ、僕に限ってそんなことないお」

 J('ー`)し「…なら、なんで目が腫れてるのよ」

( ^ω^)「…夜更かしのし過ぎだお」

 J('ー`)し「なら…いいのだけど、宿題もちゃんとやらないとダメよ?」

 J('ー`)し「でも、ブーンが強がっているのは分かるわ。何かあったんでしょう?」

カーチャンは全て見通しているかのように言う。
バレているのだ、僕がもう壊れていることに。

( ^ω^)「…カーチャン、心配し過ぎだお」

 J('ー`)し「本当に何もないのね?」

( ^ω^)「…何もないお」

222 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:23:31 ID:vdbcco3Q0
僕は嘘を吐いた。
きっと言っても意味がないから。
これから死ぬかもしれないけど、願いを叶えに行く!
って、誰が信じるというのだろう。
だから、ショボンは誰にも言わないのだ。
きっと彼も僕と同じくらい、無理な願いを持ってるだろうから。

( ^ω^)「カーチャン、僕はそろそろ行くお」

 J('ー`)し「…分かったわ、無理はしないでね。絶対に」

( ^ω^)「分かったお」

 J('ー`)し「…」

そういって、僕は病室を出た。
家に帰って準備をしなければいけないからだ。
ドクオとクーからの連絡は見たが、返事は返してない。
それすらも邪魔になると思ったから。
それに、もうあの二人には僕は必要ないのだ。
だから、これでいい。
そう思った。

もう帰って来れないかもしれない。
もう見ることはできないかもしれないこの見慣れた景色を堪能した。
黄昏るには、寂しすぎる景色だった。

223 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:24:17 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同日別所:私〜〜〜


私はずっと不安だった。
見えない何かに刺されるような感覚。
こんな気持ちになったのは、ブーンから拒絶されたように避けられてからだ。
あの時から、私はずっと変だ。
私が私じゃないように思えた。

私には大事な柱が二つある。
ドクオと、ブーンだ。
それ以外はない。
その片方が容易く崩れ去ったのだ。
あの時、私はただ頼ってほしかっただけなのに。
それすら何も言ってはくれなかった。
恐怖だった、離れられたことが。
こんなにも人との関係は千切れてしまうのだと。

だから、ドクオには避けられたくなかった。
傾いた天秤の方に、全てを捧げてしまっている。
こんな私をメンヘラというのだろうか。
分からない。
でも幸せなことは確かだった。

目を覚ませば、そこには愛しの人がいる。
スースーと寝息を立てて、私にしがみついている。
その光景だけでも、私は嬉しかった。
それだけでいいと思った。
それ以外は全て怖かったから。

224 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:24:37 ID:vdbcco3Q0
私はこのままでいいのだろうか。
ドクオに負担と思われてないだろうか。
心の奥底で何を考えられているかなんてわからない。
あの時ブーンは、何で私を見てくれなかったのだろう。
私のことが嫌いになったんだろうか。
それとも、もう愛想が尽かれたのだろうか。
もう何も失いくなかった。
今の私には、ドクオしかいないんだから。

(-A-)「ん-…」

あぁ愛おしい人よ。
貴方だけは離れないでほしい。
もう私は、これ以上耐えられそうにないんだ。
どんな関係になろうとも…私のことを見ててほしい。

('A`)「…」

川*- -)「…起きた?」

('A`)「…おはよ」

川*- -)「おーはーよ」

溢れる感情が体を動かした。
そのまま軽い口づけをする。
ドクオは固まってしまってるけど、それでいい。
そのまま純粋でいてほしい。
そう思った。

225 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:25:00 ID:vdbcco3Q0
今日は半分無理に家に呼んだから、ドクオは着る服を家に取りに行くみたいだった。
明日からミセリちゃんが家に来る。
両親は旅行中なので、帰ってくるのは当分先だ。
汚さないように、気づかれないように家を使えば大丈夫。
…ドクオも一緒に居られる。
ほとんど同居だった。
私は、この日々を忘れられないだろう。
色々と行き過ぎた妄想に駆られる時もあるけど…

('A`)「んじゃーまたあとでな」

川*- -)「うん…またね」

ドクオは家を出た。
久しぶりの一人の時間。
私は無性に寂しくなった。
こんなに心が人を求めることは今までなかったから。
やっぱり私はメンヘラなんだろうか。

私の顔、赤くなってる。
どんなことがあろうと、やっぱり私はドクオが好きだ。
それは昔から。
ブーンに相談してたくらいだから。
だから、今の現状は凄く幸せなんだ。

ブーンという穴を埋めるように、私は彼に全てを求めてしまった。
二日も連続して。
淫乱だと思われてないかだけが心配だ…

もう準備する時間も少し過ぎてる。
今日も祭りに行く。
早めに準備しちゃわないと…

226 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:25:23 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同刻:俺〜〜〜


俺はクーの家を出た。
寝起きのキスにびっくりしてボーっとしてたら時間が過ぎてた。
DTすぎワロエナイ。
いや、もう違うのか…
あーーあーあーーあー
一旦忘れよう。
ここ二日間くらい夢見てる気がする。
ありえなかったことが起こりすぎてるんだよな。
こんな幸せでいいのか俺。

あ、なんかクーの匂いが…
…風呂も一緒に入ったんだしそらするか…
今日の祭り、大丈夫かな…抑えるのも必要なんだぞ?俺よ。

…なんか家に帰ってくるの久しぶりだな。

227 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:25:48 ID:vdbcco3Q0
('A`)「ただいまー」

「あら、おかえりなさい」

('A`)「あれ、どっか行くの?母ちゃん」

「うん、ちょっとね」

('A`)「俺もすぐ行くよ、今日も祭りでな」

「そう…あら?」

('A`)「どうしたの?」

「…ドクオも大人になったのね」

(;'A`)「な、なんで?」

「ふふ、お父さんみたい。やっぱり親子ね」

あたふたするのもおかしいか。
分かるよな、そりゃ。
あーなんか恥ずかしい。
死ぬほど。

「気を付けてね」

('A`)「あーい」

228 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:26:08 ID:vdbcco3Q0
そのまま俺と入れ替わりで出ていく母ちゃん。
俺はせっせと準備をする。
…あぁ、そうだ。
明日からミセリちゃんがクーの家に預かることになる。
だからその準備も兼ねてしないと。

ちょっとした荷物になっちゃったけど、少ないよりはいいだろう。
足早に家を出る。
ブーンのことも心配だった。
来てくれてたらいいんだが…
昨日連絡してから、ブーンの返答はなかった。
…何かあるなら言ってくれればいいのに。
そんなに気にすることでもないだろうに。

('A`)「…まぁ、何とかなるか」

集合時間。
いつもの場所。
そこにブーンの姿はなかった。

229 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:26:40 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜別所:花も折らず実も取らず〜〜〜


学校まで着いた俺たちは、ショボンと合流した。
ブーンが居ないことに少し悲しい顔をしたミセリちゃんを、クーが頭を撫でて慰めている。
ブーンめ、次会ったらちゃんとミセリちゃんに何かしてあげなきゃだめだぞ?

昨日と同じ祭りだ。
大して変わり映えはしないが、それでも楽しいことは間違いない。
俺たち四人は昨日できなかったことをやるつもりだ。

ミセリちゃんはクーに付きっきりだ。
きっと本当の姉と思ってるんだろう。
クーはお面を買ってあげている。
それを付けて喜んでいるミセリちゃん。
俺が百合好きじゃなくて心底良かったと思った。
あの二人は危険だ。

一方俺たち男組は、他愛もない話をしている。
片手にデカいウィンナーを持つ俺と、焼きそばを頬張るショボン。
こう見ると、普通の同い年だと思う。
重い過去があるということを忘れてしまいそうなくらいだ。

230 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:27:00 ID:vdbcco3Q0
ショボンは前の学校でも成績は良かったようで、得意科目は理数系なのだそう。
俺はどちらかと言えば文系なので、話の相性は悪くない。
お互いのあるあるを話し、苦手なところは教え合う。
みたいな話をしている。
祭りまで来て勉強の話か…とは思うが、案外知らないことを話してもらうのは面白い。
それに、都会の話も少ししてもらった。
俺も将来はそっちに住む予定だからだ。
この夏が終われば、そういうことにも目を向けていかないといけくなるからね。
早めに知ってて損はない。

アレコレ聞いてる間に、女子の二人組が帰ってきた。
ミセリちゃんは林檎飴を買ってもらっている。
本当に甘い物が好きなんだなぁと思った。
クーは狐のお面を頭に被り、かき氷を食べてる。
この蒸し暑い夜も、まだ本気じゃないっていうのに驚きだ。
噎せ返るような焼き鳥の煙にそそられてお腹が減る。
手に持つウィンナーも、あと少しというとこか。
こういう時の食欲は、自分でもびっくりする。

立ち上がり、焼き鳥を買いに行く旨を三人に伝える。
ショボンもお腹が減ってるようで、一緒に付いてくる。

231 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:27:26 ID:vdbcco3Q0
('A`)「ショボンって結構食べるよなぁ」

(´・ω・`)「まぁ折角のお祭りだからね、お腹減る匂いで食べちゃうんだ」

('A`)「そうだなぁ…俺も割と食べてる気がするわ」

(´・ω・`)「ドクオ君、ここは僕が出すよ。さっき焼きそば奢ってもらっちゃったしね」

('A`)「そんくらいいいのにーまぁ、お言葉に甘えましょうかね」

仲良くなるのが早い。
いや、ショボンが溶け込むのが早いのか。
もう違和感なく一緒に居られている。

どことなく安心するような雰囲気なのは、兄という立場があるからだと思う。
俺たちは幼馴染だから、上下関係も何もないからな。
こういうところは少し羨ましくなる。
全員一人っ子の三人が集まっても友達にしかならないわな。
あーあ、早くブーン来ないかなぁ。

そんなこんなを繰り返しているうちに、時間が過ぎ去って行った。

232 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:27:49 ID:vdbcco3Q0
俺とショボンで射的をして、何も取れなかったり。
ミセリちゃんが水風船を頑張って抄ってるところだったり。
クーが輪投げに本気になりすぎてたり。
俺が引いたくじ引きで、人形が当たったからミセリちゃんにあげたり。
その人形をクーに見せて小さい頭を撫でてたり。
屋台のおっちゃんにお酒を勧められてたショボンだったり。
色んな事をしてた。

そして、時間も良い感じになってきた。
ミセリちゃんはこのまま、俺らの方に来るらしい。
もう眠たそうにしてるミセリちゃん。
まぁ、二日も祭りに居たら疲れちゃうよな。
俺も結構疲れている。
…クーがあんまり寝かせてもらえなかったからね。

233 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:28:13 ID:vdbcco3Q0
('A`)「みんなのゴミ捨ててきちゃうわ、貰っちゃうよ」

(´・ω・`)「ありがとう。ほら、ミセリも」

ミセ*゚ー゚)リ「おねがいしまーす!」

川*゚ -゚)「元気だねミセリちゃん、偉い偉い」

ミセ*゚ー゚)リ「へへへ」

('A`)「…なんか…女の子同士って良いのかもしれない」

(´・ω・`)「ドクオ君ってそういう趣味だったの?」

(;'A`)「そういうわけじゃないです!!捨ててきます!!」

失言を誤魔化すように足早にゴミ箱を探す。
辺りを見渡してみると、中々見つからなかった。
だけど、その代わりに違うモノを見つけた。

234 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:28:33 ID:vdbcco3Q0
('A`)「…あれ、ブーンじゃね?」

のような後ろ姿だった。
それが本人かはわからない。
だけど、本人にそっくりだった。
遠くからでも、同じ時間を何百も一緒に居たから、多分ブーンだ。

気になった。
そのあたりにあるゴミ箱に投げ捨てて追いかけた。
祭りに居たのに、連絡も寄こさず一人でいるのはおかしいけど…
それでも、本人なら。

ソイツは祭りのない方角に歩いて行った。
でもなぜ?
分からないけど、確かめずにはいられなかった。

次の角を左。
人混みを押しのけて素早く行った。
そこにはさっき見た後ろ姿があった。
そしてソイツは、どんどん人気のない道に歩いていく。
確信した。
アイツはブーンだ。

235 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:29:02 ID:vdbcco3Q0
追いかけてくうちに、祭りの騒音からは遠い場所に来た。
そこは開けていて、暗い場所だった。

('A`)「…ブーン?」

( ^ω^)「…ドクオかお」

('A`)「なぁーんで連絡も無視してたんだよ。心配だったんだからな」

( ^ω^)「…そうかお」

ブーンはこっちを向いてはくれない。
まるで図書室の時のようだった。
たが、それよりも黒く、淀み、渦巻いている気がした。

('A`)「…なんでここに来たのに連絡もなかったんだ?」

( ^ω^)「…気づかなかったんだお。ごめんお」

('A`)「そんなわけないだろ。いつもはすぐに返事来るくせに。ミセリちゃん、ちょっと悲しそうだったぞ?」

( ^ω^)「…ごめんお」

何故かその態度にムカついた自分が居た。
いつもならこんなことでは何も感じないのに。

236 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:29:33 ID:vdbcco3Q0
('A`)「なぁ、言いたいことあるなら言えって。そろそろその感じ辞めてもらっていいか?」

( ^ω^)「いつも通りだお」

('A`)「昨日もいきなりいなくなって、今日居たと思ったらそれかよ。何がそんなに不満なんだ」

( ^ω^)「別に何もないお。はぐれちゃっただけだお」

(#'A`)「何かあるからそんな態度なんだろ!」

俺は声を張り上げた。
比較的静かな場所だったから俺の声が反響する。

(#'A`)「いい加減にしてくれ!いったい何なんだ前から!俺たちが何かしたかよ!」

(#'A`)「今までそんなことなかったろうが!俺達を避けるのも意味わかんねーっつーの!」

(#'A`)「言いたい事ありゃ言えば良いだろ!何をそんなに」

( ^ω^)「うるせーお。勝手に追いかけてきて何怒ってんだお。嫌ならクーの元に戻ればいいだろうお」

(#'A`)「お前っっ…」

殴りかかろうと拳を振りかざした。
だけど、後ろから止められた。

237 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:29:59 ID:vdbcco3Q0
川;゚ -゚)「な、何なんだ!いったい!」

俺の拳を止めたのはクーだった。
そのまま羽交い締めにされる俺。
それでも、ブーンに対しての苛立ちは収まらなかった。

川;゚ -゚)「中々帰ってこないと思ったら…!声を上げて殴り合いか?」

川;゚ -゚)「ブーン!なんでそこにいるんだ!」

( ^ω^)「クーかお、そこの連れて帰れお。迷惑なんだお」

(#'A`)「迷惑被ってるのは俺の方だろうがっ!」

( ^ω^)「だから、お前は勝手に着いてきて好き勝手言ってるだけだお
       僕は何も望んじゃいないお」

(#'A`)「てめええええええ!!」

川;゚ -゚)「ドクオ、落ち着け!!ブーンも煽るな!!」

流石にクーの力には叶わなかった。
だが、一発カマしてやらないと気が済まない。
何なんだ、アイツは。

( ^ω^)「…幸せな奴はおめでたいことだお」

( ^ω^)「もう…僕に関わるなお」

238 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:30:29 ID:vdbcco3Q0
川;゚ -゚)「おい!ブーン!どうしたっていうんだ!
     私達が何かお前にしたというのか!?」

( ^ω^)「してないお。僕は…」

スルっとクーの腕から抜ける俺の腕。
そして、握りしてめていた拳をそのままブーンの顔に叩きつけた。
時間の流れが遅くなる。

そのまま倒れこむブーン。
クーはびっくりしてるのか、声は聞こえない。
少しの間、全宇宙の動きは止めていた。

( A )「…なぁ、俺達の関係はそんなものか?そんなに頼り甲斐がないか?
    俺は…俺は、どうしたらいいんだよ?」

初めての事だった。
勿論喧嘩は三人で何度もした。
それでも、こんなに険悪な空気になったことはなかった。
俺らは本当の意味で、初めての喧嘩をしているのだ。

( A )「確かによぉ…俺とクーに進展はあったさ。でもそれを望ん出たのはお前でもあるだろ」

( A )「それが気に食わないなら言えば良い。他の不満だって同じだろ」

( A )「なにがお前を」

(  ω )「じゃあどうしろっていうんだお!!!」

239 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:30:58 ID:vdbcco3Q0
俺の言葉を遮ったのは、今まで聞いたことのないブーンの怒号。
今日初めて見せた感情は、余りにも冷たく、溢れるほどの怒りだった。

(  ω )「家からトーチャンが出て行って、カーチャンは倒れて入院した!!
       僕が知らない間に二人は幸せになってた!!!」

(  ω )「あぁ望んだお!二人の幸せを!!だからもう二人の中には入れないと思ったんだお!!
       僕にはもうどこにも居る場所なんてねーんだお!!
       家族とこの三人しか僕にはなかったから!!」

(  ω )「こんなこと言っても幸せに浸ってる奴が僕のことなんてわかるはずがねーだろお!!!
       家に帰れば家族がいる!!手を繋げる恋人がいる!!お前らなんかに!!!
       だから僕は二人の幸せを見れない!!見たくない!!憎いとすら思うお!!」

( ;ω;)「僕は…僕はもう無理なんだお!!二人の傍に居るのも!!家に帰ることすらも!!
       だってもう誰も居ない!!前までの日常は僕にはどこにもないんだお!!」

( ;ω;)「もう…元には戻らないんだお…何もかも…全部…」

( ;ω;)「どうしようもないんだお…だから…」

( ;ω;)「だから…放っておいてくれお…」

足早にどこかに行くブーン。
打ち上る火花が、その足音すら俺の耳に入らせないようにしていた。
大華がうるさく音を立てる度に、俺の拳の痛みを再認識させてきた。

真っ黒な空に鳴り響く爆弾は、俺たちの関係を破壊して綺麗に咲いていた。

240 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:31:34 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同刻:後の祭り〜〜〜


確かに、ある。
変だったところ。
なんかいつもと違ったこと。
ここ一週間くらいずっとそうだった。
焦りながら、俺は昨日送った三人の連絡を見た。

ブーンからの返事は、なかった。

何かが繋がった。
それは嫌なことだらけだった。
俺は一心不乱に走った。
夏蝉が俺を焦らせるように鳴いている。

嘘だと思うことだらけだ。
ブーンがおかしく見えた時からずっとだ。
俺はそれに気づいていながら、アイツの事なんて何も知らなかったんだ。
それを無視して、俺は一人で幸せに浸ってたんだ。
舞い上がってた分、落とされた時の衝撃は異常だった。
もっとアイツを見てやってられてたら。
もっと話を聞いてやれてたら。
そんなことばかり考えている。
最低な野郎だ俺は。
アイツの幼馴染だろ、俺は。
ずっと一緒に居るって思ってた仲だろ。俺は。
何してるんだよ。
一秒でも早くブーンを探さないといけない。

241 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:32:07 ID:vdbcco3Q0
全ての辻褄が合う。
図書室でクーの問答を有耶無耶にしたのも、俺の前で明確に拒絶したのも。
多分あの時より前からだ、ブーンの両親に何かあったのは。
昨日祭りからいなくなったのも頷ける。
あれははぐれたんじゃない。
自分でいなくなったんだ。
だから、俺らに言わなかったんだ。
いや、言えなかったんだろう。
だから抱えてたんだ。
全部を一人で。

(;'A`)「少しくらい、頼れよ!俺らのことくらい!馬鹿野郎!」

手当たり次第、心当たりがあるところを走る。
何度も三人で遊んだ公園。
近くのコンビニ。
いつもの待ち合わせ場所。

とっくに息は上がってる。
それでも、一目会って謝りたかった。
アイツの心境なんて何も知らなかったんだ。
何かあれば言ってくれるだろうって軽んじてた。
そんな浅はかな考えで、俺に何も言ってくれないことに対して不信になってた。
馬鹿は俺だ。
何も知らないクセに、全部知った気でいた。

祭りが終わり、昨日以上に人で溢れていた。
到底見つかりそうもないけど、どこかにいる。
携帯を見る。
依然として、ブーンからの連絡はなかった。

242 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:32:46 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同刻:盲目〜〜〜


私はしばらく動けずにいた。
ブーンの口からきいたものが信じられなかったからだ。
そんなことをいきなり言われたところで、飲み込むには大きすぎる。
目の前の幸せにうつつを抜かして、それ以外はどうでもいいと見栄を張った。
ブーンが祭りから姿を消したことすら、私は目を背けていた。
その罰なのだろう。
この感情は。

どうして言ってくれなかった?
どうして察してやれなかった?
どうして見限った?
ごちゃ混ぜになった感情が、私の全てを支配した。
どうしようもない自分への憤り。
もう戻らない過去。

私は愚か者だ。
たった一度の拒絶を、永遠だと思ってしまった。
この絆を軽く見ていたのは私だ。

取り戻せるとは思っていない。
だが、今ならまだ間に合ってくれる。
何度も炎症を繰り返した私達の関係は、まだ治せる。
今しかない。

243 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:33:06 ID:vdbcco3Q0
そう思った時には私はドクオの後を追いかけるように走った。
体力なら自信はある。
一直線に学校に向かおう。
とにかく、今は走れ。
直会が満ちるこの街を。
飽きる程見たこの景色を。
走れ。

川;゚ -゚)「ブーンすまない…どこにいるんだ…!お前は!」

川;゚ -゚)「一度でいい、許さなくていい…だから…」

学校に着くなり、そこに人影を見た。
相手はショボンだった。
もうミセリちゃんと待っていたみたいだった

(´・ω・`)「あれ…遅かったね、ドクオ君は?」

川;゚ -゚)「今はそれどこじゃない!ブーン見なかったか?」

(´・ω・`)「…見てないね。どうしたんだい?」

ミセ*゚ー゚)リ「おねーさんあせだく!」

川;゚ -゚)「…ブーンに嫌な予感がするんだ。何か知ってないか?」

244 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:33:31 ID:vdbcco3Q0
(´・ω・`)「…言いずらい質問だね」

川;゚ -゚)「…知っているんだな。話してくれ」

(´・ω・`)「…それはできない」

川;゚ -゚)「なぜだ、そんなに大事なことか」

(´・ω・`)「あくまでも、僕の口からはって意味だ」

(´・ω・`)「でもこれだけは言える。生きているさ」

川;゚ -゚)「…なぜそう断言できる」

(´・ω・`)「…彼には願い…命に代えても叶えたい願いがあるから…かな」

(´・ω・`)「そんなに焦ってるってことは…何かあったんだろう?教えてくれないかな」

川;゚ -゚)「…ただの喧嘩さ…だが、初めての…な」

(´-ω-`)「そっか…」

245 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:34:00 ID:vdbcco3Q0
(´・ω・`)「多分、居るところは分かるよ」

川;゚ -゚)「なら!教えてくれ!頼む!!」

(´・ω・`)「…だけど、クーちゃんには知らなきゃいけないことが沢山ある
       きっと残酷なことだと思うけど…聞けるかい?」

川;゚ -゚)「なんだっていい!!今は時間がない!」

ミセ;゚ー゚)リ「お、おねーさん?」

(´-ω-`)「…ミセリごめん。少し眠っててくれ」

そういうと、ショボンはミセリちゃんの目を撫でる。
するとミセリちゃんはぐったりと眠っていた。

川;゚ -゚)「な、なんだ…今のは…」

(´・ω・`)「きっとドクオ君も同じだろう?彼も迎えに行こう…その前に…
       ミセリをクーちゃんの家に送るけど、いいかな?」

そして、周りの影が蠢くようにショボンの足元に集まる。
まるでCGを現実で見ているかのようだった。
その影は私にも纏わりついて、全身に広がった

246 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:34:22 ID:vdbcco3Q0
川;゚ -゚)「どうなって---」

(´・ω・`)「少しだけ、眩暈がするよ。ごめんね」

影に顔まで包まれた私。
ショボンの声が聞こえると、脳が揺れた。

倒れかけた瞬間、視界が広がる。
そこは私の家だった。

呆然とした。
これではまるで魔法じゃないか。
そう感じるを得なかった。
そんな私を気にも留めずに、ミセリちゃんを私の家のソファーに寝かせた。

(´・ω・`)「…これで大丈夫」

川;゚ -゚)「いったい…何がどうなってるんだ…?」

247 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:34:44 ID:vdbcco3Q0
(´・ω・`)「…言ったろう?クーちゃん、ドクオ君には知らなきゃいけないことがあるんだよ」

(´・ω・`)「何も知らない状態でブーン君を見つけたところで、きっと意味はないだろうね」

川#゚ -゚)「…私達の何が分かる。ショボン」

私はその一言にムカついた。
それはほとんど八つ当たりに近かった。

(´・ω・`)「わかるさ。そのくらい残酷で、夢物語で、雲を掴むような話なのさ」

(´・ω・`)「じゃあ、ドクオ君のところまで行こうか。また眩暈がするよ」

そして、さっきのように影が私を包む。
ぐわんっと揺れる。
私は、ショボンの言葉を信じきれないでいた。

248 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:35:10 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同刻:心なんて誰にも〜〜〜


(;'A`)「くっそ、どこ行ったんだ…ブーン!」

俺は手当たり次第に走り回ったが、ブーンの姿は一向に見つからなかった。
電柱にもたれかかって、座り込んでしまった。
いくら田舎とはいえ、広大な土地がある。
一人の人間を探すことは不可能を極めた。
俺はただ、謝りたかっただけなのに。
そんな簡単なことが俺にはできないでいた。
情けない。
余りにも不甲斐ない。

諦めかけた時、周囲の影が気味悪く蠢く。
疲れすぎて頭イカれちゃったのか?
俺はもう自分がおかしくなったんだ。
そう思い、その影を見ていた。
段々と形を成すその黒色は、見覚えのある姿になった。

249 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:35:31 ID:vdbcco3Q0
川;゚ -゚)「!!!ドクオ!!」

それはクーだった。
そして。

(´・ω・`)「よし、これで揃ったね」

ショボンだった。

(;'A`)「な、なんだよ。幻覚でも見てんのか?」

川;゚ -゚)「バカ!私だ!」

そう言って俺に抱き着くクー
もう何度も確かめたその感触は本人そのものだった。

(;'A`)「で、でもどうなってるんだ」

(´・ω・`)「まぁそれは後で話すよ。さ、話の舞台は整ったけど…準備は大丈夫かい?クーちゃん」

(;'A`)「話の流れが見えないんだが」

(´・ω・`)「平たく言えば、ブーン君の話さ。多分今のまま会っても意味がないと思ったからね」

250 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:35:59 ID:vdbcco3Q0
川 ゚ -゚)「さっさと話せ、もう私は時間をかけたくないんだ」

(´・ω・`)「そうだね…じゃあ、話そう」

(´・ω・`)「簡単に言おう、ブーン君は今、自分の願いを叶える為に命を張るつもりだ」

('A`)「…おい、冗談言ってる場合じゃねーんだが?」

(´・ω・`)「まぁ、信じるも信じないも好きにしてもらって構わない。到底信じるには難しい話だからね」

(´・ω・`)「二人は"願いが必ず一つ叶う場所"の話は知ってるかな?」

('A`)「…あの学校裏の廃墟のことじゃないのか?」

川 ゚ -゚)「確か…恋人と一緒に願うと叶うっていう…なんの信憑性もない話だ」

(´・ω・`)「そうだ。そして、僕はその願いを叶える為にその場所に行ってたんだ
       それが、学校に広がった黒い幽霊の正体だね」

('A`)「つまり…俺達が見たかった幽霊っていうのは」

(´・ω・`)「僕だ。まぁ、そんなつもりは全くなかったんだけどね
       ちなみに、あの不良達もイレギュラーだった」

251 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:36:27 ID:vdbcco3Q0
(´・ω・`)「もう一ついうと、あの時の風も僕が原因さ。今二人には見てもらったけど…
       早い話、魔法ってやつだよ」

(´・ω・`)「僕が願いを叶えに行ったあと、どうしてもミセリが心配だったから一度途中でこっちに戻ってきた
       そして、君たち三人に会ったんだ
       ミセリを二人に預けるのは、僕もそっちに今夜行くからだね。もう戻って来れるか分からないから…」

(´・ω・`)「そして、願いを叶える代償として、命を落とす場合もある
       それはブーン君に限らず、僕も含めて。だから戻って来れる保証は…ないんだ」

(;'A`)「その…"向こう"っていうのは…」

(´・ω・`)「分かりやすくいえば異世界さ。動物も環境も種族も違う
       正直なところ、どうやったら願いが叶うかは僕も分かってない
       だけど、魔法を使えるようになった。向こうで傷つけられた傷もある
       だから夢でも何でもないんだ。僕目線はね」

川;゚ -゚)「…ブーンは帰って…来るのか?その異世界から…」

252 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:36:49 ID:vdbcco3Q0
(´-ω-`)「それは…わからない」

(´・ω・`)「向こうの世界で死んだら、多分そのまま帰ってこないだろうね
       死んだままだと思うよ」

(;'A`)「そんな…ゲームみたいな…」

(´-ω-`)「信じるかどうかは、二人次第だ…」

(´-ω-`)「僕からは以上だ。あとは二人の好きにしたらいい
      僕はミセリに最後の挨拶行くから。ごめんね」

川;゚ -゚)「おい!ブーンの場所は!ショボンはどうなるんだ!」

(´・ω・`)「願いが叶う場所だと思う。後は、言わなくても分かるね?」

(´-ω-`)「じゃあ、また会えることを祈っているよ」

そう言って影に吞まれたショボン。
残された俺たちは、話されたことを信じる他なかった。
実際に移動して来た影の正体も、何も分かっちゃいない。
全部が夢のように感じる。
さっきブーンと喧嘩したことも、俺たちの歯車が狂い始めたのも、何もかも全部。
それでも、信じるしかなかった。
どちらともなく、同じ方向に向かって走り出した。
学校裏に佇むあの廃墟に。

253 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:37:12 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同刻:向日葵に雪〜〜〜


僕はドクオに殴られた痕をさすりながら、廃墟に向かっていた。
不思議と苛立ちはない。
代わりに中身をくり抜かれて、薄皮しかない心が無駄に暴れていた。
もう臓物もないだろうに、この目から落ちる涙は止まることを知らなかった。

分かっている。
僕が強がったばっかりに、二人に不信感を与えてしまったこと。
見栄を張ったばっかりに、二人が感情的になったこと。
全部僕のせいだ。
だけどこれでよかった。

僕を繋ぎ止めるものはこれで無くなった。
変な情や関係性があるから、願いを叶えるということにブレが生じた。
後は、僕が頑張って願いを叶えるだけ。
例え、道半ばで僕が死のうと。
こっちの世界に戻って来なくなろうと二人は大丈夫だろう。
僕は悪役でいい。
僕は邪魔者でいい。
それを考えるだけで気が楽になった。

254 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:43:36 ID:vdbcco3Q0
その分、失ったものが大きくて、耐え切れなくて、僕は泣いた。
見慣れた景色が、美しく見えて泣いた
思い出の場所が懐かしくて泣いた。
祭りの残り香を嗅いで泣いた。

支えていたものが全て失ったんだ。
当然だ。
むしろ、首を括ってないだけ偉い。
だからどんな事があろうと、僕は僕の願いの為に、一歩一歩足を進める。

そして、ようやっと着いた廃墟。
それはショボンと初めて出会った時と何も変わらない様相で佇んでいた。
ただ、あの頃とは違うことがある。
それは、このひんやりとした空気だった。

風呂上がりにクーラーが効いた部屋に入るかのような感覚。
僕には身に覚えがあった。
それは、初めて"あの場所"に行った時だ。
暗黒な空間に、天まで上ってしまいそうな階段と、厳かに存在する扉。
まるで異世界。
今まさに、その異世界に僕は行こうとしている。

255 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:44:04 ID:vdbcco3Q0
その冷気に導かれるままに、僕は階段に足をかけた。
少しずつ強まる冷気が、僕の肌に刃物を向ける。
だが、それにも無関心に階段を上がる。
それは、僕の心が空っぽだから。
ただ、願いを叶えるという目的のだけに動く機械。
己が目的の為ならば、どんな犠牲だって厭わない。
ドス黒く、ブラックホールのような欲望が僕にはあった。

なんの躊躇いもなく着いた四階。
前回は激しい頭痛や、爆音のノイズがあったが、今回は何もなかった。
すんなりと屋上に向かう階段に向かうことができた。

そして、その屋上への扉は僕を待っていたとばかりに開く。
金属の叫ぶ音。
それがフロア全体に広がっては反響する。
初めて行った時より、冷気は感じなかった。
じゃっかん早くなった鼓動を抑えて、僕は屋上に向かう。

天に上るときは、こんな感覚なんだろうか。
僕自身が幽霊になって、自ら天国に向かう。
そんな感覚を覚えていた。

そんな時、後ろから声が聞こえる。
もう二度と聞くことはないと思っていた声だ。

256 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:44:27 ID:vdbcco3Q0
(;'A`)「ブーン!」

川;゚ -゚)「待て!早まるな!」

(;'A`)「なぁ…少し話さないか…?俺達やり直す必要あると思うんだよ…」

川;゚ -゚)「ブーンの事…何もわかってなかったんだ…だから…こっち来てくれないか?」

二人は信じられないと言った顔だった。
恐らく、この冷気にだろう。
僕は二人を一瞥して屋上に目線を向ける。
そして、その二人の悲鳴が聞こえたのは、僕の想像通りだった。

(;'A`)「あああああ!!!あ、頭がっっ…」

川;゚ -゚)「な、なんだこれはッッ!!!」

僕も最初に味わったあの地獄だ。
周りの事なんて考えられない。
這いつくばって時間をやり過ごすことしかできない。
そんな地獄だ。
僕は最後の階段を踏みしめる。

257 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:44:50 ID:vdbcco3Q0
(;'A`)「ぶ、ブーン!待ってくれ!!お、おれはお前に死なれたくない!」

何を今更。
クーと仲良くやってたじゃないか。
僕なんて必要ないだろ。

川;゚ -゚)「いっかい三人で話しあおう!そうすれば…何か変わるだろう!?」

何も変わらない。
この関係も、家族も。
そして、これからも。

(;'A`)「俺、知らなかったんだよ!!おまえの、か、家族のこと!!だから…いっってええ」

川;゚ -゚)「ッッ!!!私達は!幼馴染だろう!?この世に三人しかいない!!大切な幼馴染だ!!だから」

屋上に着いた僕は、二人を上から見下ろした。
無様にあの痛みの中、よく言葉を発せると思った。
そして、扉が自動で閉まり始める。
嫌な音をたてながら断絶する扉は、三人の関係全てを否定し、拒絶するかのようだった。

最後、もう二人もほぼほぼ見えなくなる程に閉まった扉。
僕はいつも通りの表情で二人に向かって呟いた。

258 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:45:13 ID:vdbcco3Q0
( ;ω;)「サヨナラ、だお」

ガコンと閉まる扉。
僕はもう後戻りはできない。

本当の意味で、僕は孤独になった。
自分が求めていたもの。

その望みが叶ったというのに、僕は声を上げて泣いていた。

声は一切の反響もせず、星一つない暗闇に全て吸い込まれていた。

259 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:45:40 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同刻:伽藍堂〜〜〜


爪で黒板を引っ搔くような音がする。
それは、あの扉が閉まる音だ。
早く行かなきゃ。
アイツのところに行かなきゃ。
じゃないと、もう二度と会えなくなるかもしれない。
そんなの嫌だ。

だけど、この頭痛も、凍える寒さも、耳鳴りも。
何もかも意味が解らなかった。
今夏だぞ?
なんでこんなに寒い。
なんで体が動かない。
あと少しでアイツに触れられるのに。
その距離が余りにも遠い。
遠い星を素手で掴むような。

少しでも話せたら、ケロっと考えを改めてくれる。
なんて浅い。
なんて青い。
なんて楽観的。
もっと考えを改めなきゃいけないのは俺の方だ。

260 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:46:08 ID:vdbcco3Q0
アイツは一人で抱えてた。
ずっと。
何も誰にも言わずに。
俺達なら大丈夫、ってどこかで思ってたんだ。
そんなことなんて一つもないのに。

なぁ、何で扉閉まってるんだ?
止めてくれ。
そこが閉じたらアイツはどこに行くんだ?
明らかに異常なところだろう。
屋上だろ?
なんだよ後ろの白いの。

なんでそこに居るんだ?
ダメだよ、戻ってこい。
そんでもう一回、一緒に祭り行こうぜ?
おい、まだ閉まるな。
今俺がそこに行くから。
待て。
待ってくれって。
まだ、アイツにごめんって言えてないんだよ。
一言も謝れないのに、会えなくなるのか?
嫌だよそんなの
いつ帰ってくるんだよ
分からないんだろ?
なら、ほら、こっちだよ。

261 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:46:32 ID:vdbcco3Q0
「サヨナラ、だお」

…おい、こんな時に冗談じゃない。
ふざけんな、俺はまだお前と居たいだけなんだよ。
三人でまだ一緒に居たいんだよ。
バカ。閉まるなって。
なんで立てないんだ。
なんでだ
なんでだ
なんでだ
なんでだ
なんでだ
なんでだ
なんでだ
なんでだ

262 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:46:54 ID:vdbcco3Q0
…あ、足動く
起き上がれる

(;'A`)「ブーン!!!!」

動くとわかった瞬間、俺は階段を駆け上がった。
閉まる寸前の屋上の扉に思いっきりタックルした。
扉は空いたんだ。

なのに。

さっきまでの寒さはおろか、ブーンの姿も、さっきの景色も。
何もなかった。

あるのは、見慣れた景色。
廃墟からの見た屋上。
蒸し暑い空気。
それだけだった。

263 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:47:20 ID:vdbcco3Q0
(;'A`)「…なぁ、悪い冗談だって言ってくれ」

(;'A`)「これ、何かのモニタリングだろ…?」

(;A;)「ブーン…?どこにいるんだよ?さっきまでここに居たじゃないか…」

(;A;)「…そ、そうだ。下に飛び降りたんだ。それしかないよ」

(;A;)「下に居るさ、ブーンはイタズラ好きだから…」

川 ; -;)「ドクオ…」

ゆっくりクーが屋上に上がってきた。
その顔は救いようがないほど、絶望に染まっていた。
俺たちは共犯だ。
ブーンの気持ちも知らないで、俺たちはアイツを一人っきりにしてしまった。
こういう時、一番に傍に居なきゃいけないはずなのに。

264 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:47:47 ID:vdbcco3Q0
知らなかったでは済まされない。
もう、ブーンはこの世に居ないんだ。
帰ってくるかどうかも分からない。
本当に、永久にアイツの顔を拝めない。
そんなこともありうるんだという。
そんなところに向かわせてしまった俺たちは…
なにで償えばいい?

もし、何年も帰って来なかったら?
このまま、ブーンが居ない世界で生き続けるなら?
この記憶も年を重ねる度薄れてしまったら?
どうなる?
俺は一生アイツに謝れもせず、ずっと生き永らえるのか?

(;A;)「そんなの…あんまりじゃないか…」

川 ; -;)「…」

俺はその場で蹲って泣いた。
ひたすらに、声を上げて。
そんな俺を抱きしめて、涙を流すクー。
お互いに同じ思いの下泣いている。

265 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:48:11 ID:vdbcco3Q0
それは。
懺悔。
後悔。
未練。
そのどれもがグチャグチャになった物だった。
もう遅い。

当り前に居た存在が、塵も残さずこの世から消えた夜。

満月が俺達を嘲るように照らし続けていた。

266 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:48:46 ID:vdbcco3Q0
〜〜〜同刻:願いが叶う場所〜〜〜


ひとしきり泣いた後、僕はこの氷原のような世界を見た。
前に見た時と同じだった。
無限に広がる空の暗闇。
どこからともなく降ってくる花弁雪。
豪勢な装飾が入っている純白の階段。
そして、誰も寄せ付けないであろう、白銀の扉。

僕は無心で階段に足をかける。

( ^ω^)「…すげーお…これ…」

足が触れたところから水紋が浮かび上がる。
だが、沈むことはなく、質感は大理石のような高級感があった。
上るだけでも心が休まる。
そんな気がした。

僕はそんな光景を楽しみながら、階段を上る。
一番上は見えない程に高い。
まだまだ先は長い…

267 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 21:49:29 ID:vdbcco3Q0
(;^ω^)「いくら何でも長すぎだろうお…」

なん十分もかけて上った階段。
もう足も限界のようで震えていた。

そして、目の前に現れるこの…

(;^ω^)「スケールがデカ過ぎるお…」

表現ができない程に高く、厳かで、何者も通さないような扉。
…どうやって入るんだ?
辺りを見渡しても、何もない。
あるのは扉だけ。
…何か入るのに特殊な条件が?

と、おどおどしている中、ほぼ無音でその扉は空いた。
僕が入れるだけのちょっとの隙間。
強い光が僕を縦に切り裂いている。
火に入る夏の虫のように、その光の先に足を進めた。

( ^ω^)「…」

僕は扉の中に入った。
そして白い光に包まれて実感した。

ここから全て始まるのだと。




( ^ω^) 願いが叶うようです




第一章 365/7days 完

268 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/22(土) 22:01:00 ID:vdbcco3Q0
作者です。

第一章ということで、一通り書き切りました。
コメント付けてくれた方、すごい嬉しいです。ありがとうございます。
趣味で妄想を書いていたら、誰かに見せたい欲求が増えてきてしまって衝動的に投稿しました。
自分はブーン系に少し疎いので、読みづらいかもしれないですが、改善点等々あれば教えていただけると幸いです。
どうせ書いているなら自分も読んでて楽しいものにしたいので、良ければ是非お願いします。

第二章、只今書いています。
小出しにちょこちょこ投稿するか、一気に投稿するか迷っています。
拙い語彙かもしれませんが、完走する気でいます。
それでは。

269名無しさん:2025/02/23(日) 00:23:07 ID:8Bz1l0sk0
いいぞー

270名無しさん:2025/02/23(日) 22:14:50 ID:uMroyrPI0
まだ読めてないけど投下ペースすごい!
追いつくぞー

271名無しさん:2025/02/24(月) 20:58:57 ID:MhqGGWoU0
追いついたぜ
内心や関係性の描写が丁寧でみんな好きになれた。続きが待ちどおしい
ところであの名作が基礎?になっているという了解でいいのかな

272 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/27(木) 09:17:35 ID:5g8rHrZI0
>>269
ありがとうございます。
続きも期待していただけると嬉しいです。


>>270
思いつくがままに書いてるので投下ペースは結構曖昧です。
早い遅いとかありますか?
もしあれば教えてくれるとすごく助かります…


>>271
一章読んでいただいてありがとうございます。
物語のベースの作品はあります…
凄く好きなのですが、全被りしないようにはしたいなとは思ってます。
先の事が分かってると面白くないと思うので。
自分も読んでて楽しめるようにしたいなと思います。
期待していただけると励みになります。

273名無しさん:2025/02/28(金) 23:15:53 ID:Mp4Vd6pE0
>>272
投下ペースは作者の都合第一でいいと思うけど、投下分が読み終わってから更新が来ると付いていきやすいな
1章は自分としては早いと感じた

274名無しさん:2025/03/06(木) 23:57:28 ID:Lsr3vNzs0
楽しみにしてるお

275名無しさん:2025/03/10(月) 05:47:28 ID:N9u5t9.A0
してる


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