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川 ゚ -゚)フェアウェルキスのようです
1
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 14:42:41 ID:BSJtsC2.0
ラノブンピック参加作品です。
使用イラストはNo.91。
よろしくお願いします。
119
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:12:22 ID:BSJtsC2.0
('A`)「結局、夥しい量のエラーをブーンに検知されて、それは阻止されました。」
ドクオはばつが悪そうに微笑む。
ブーンは研究室で踠き苦しむドクオを発見し、
すぐにデータを復旧しエラーを解消した。
そしてその事件の後、ドクオの自殺防止機能を必死に解析し
その機能の更新に成功した。
記憶を削除する行為がその処理の範囲に含まれるように改変したのだ。
('A`)「あいつはやっぱり天才なんですよ。さすがハイン博士の一番弟子だ。」
120
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:13:01 ID:BSJtsC2.0
いつもニコニコと笑って朗らかなブーンだったが、
その時ばかりは泣きながらドクオに訴えた。
( ;ω;)「どうしてこんなことするんだお。
辛いのはわかるけど、もう少し僕を頼ってくれないかお。」
そうして初めて、ドクオはハイン博士を失ってからの苦悩をブーンに語った。
('A`)「ブーンお願いだ。僕と一緒に、僕の停止方法を探してくれないか。」
壊れることと停止すること、それは結果として同じように見えても
全く性質の異なることだ。
ブーンはそれに対しほんの少しの説得を試みたが、
ドクオの気持ちに理解を示し協力すること約束した。
しかし結局ドクオの停止方法は今もわかっていない。
自殺防止機能よりもさらに強固な制限や暗号化が施されており、
その解析は困難を極めた。
121
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:14:00 ID:BSJtsC2.0
('A`)「それで、僕は別の解決方法を模索することにしました。」
ドクオは手にしていた小さな記憶媒体を
クーの視界に入るように軽く掲げて見せた。
('A`)「これには、感情を初期化するプログラムが入っています。」
感情は記憶とは全く異なる処理を使っており、
その操作は記憶よりも数倍困難だ。
ドクオが長年研究を重ねてようやく作り上げたのが、
この感情を初期化するプログラムなのだと言う。
('A`)「これは自分を壊すような危険なプログラムではありません。
慎重に、自身を用いたテストを行ってきたからそれは間違いありません。」
ドクオを見守り続けるブーンの目を掻い潜り、やっと完成したのだと言う。
('A`)「ハイン博士に対する愛情が僕を苦しめているのなら、
それをなくしてしまえればよかったんです。」
クーはドクオの言葉に息を飲む。
本当にそれは、正しいことなのだろうか。
122
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:19:19 ID:BSJtsC2.0
自分を停止する方法が見つからず手詰まりを感じたドクオは、
別の手段を模索し始めた。
最初は感情を劣化させるプログラムを考え付いた。
ドクオの感情や記憶は褪せていくということがなかった。
それはロボット故に、人間のように時間が薬になることがないということだ。
('A`)「人間は記憶や感情が時間で薄まっていく。
良いものに変わっていくこともあるし、思い出にすることができます。」
ドクオがハイン博士のことを語るときに見せた、
どこを見ているのかよくわからない視線を思い出す。
('A`)「でも僕の心は今も、博士に愛情を抱いた日のままだし、
博士が死んだ日の悲しみを抱えたままなんです。」
きっとあの視線の先にはいつも
在りし日の彼女がそのまま映し出されていたのだと、クーは理解した。
123
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:19:54 ID:BSJtsC2.0
それはきっと想像を絶する痛み。
劣化しない感情を持つと言うことは、
いつまでも傷が治癒しないことと同じだ。
黙ってドクオの言葉を聞き様々な思いを巡らせていたクーだったが、
ついに口を開いた。
124
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:20:24 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「その感情は、ドクオとハイン博士の赤い糸だ。」
クーはドクオの目をまっすぐに見つめ、そう口にする。
ドクオが微かに面食らったような表情を見せた。
125
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:22:06 ID:BSJtsC2.0
感情と記憶とは、果たしてどちらがその人の心を形作るものなのか。
経験があってこそ人は成長し、自らを成していく。
では記憶がなくなるということは、
その人の全てをリセットしてしまうものだろうか。
そもそも、記憶と感情のどちらかかなんて
線を引いて考えられるものなのだろうか。
感情だって同じように、歩んできた人生の中で得ていくものだ。
でも思うに、感情の入れ物というのは
それぞれが持って生まれたものなのではないだろうか。
126
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:23:03 ID:BSJtsC2.0
それは各々の形を持っていて、
何かを感じた時にその人なりの色をつけて器に収めていく。
人の心っていうのは、そんな風にできているんじゃないだろうか。
もしも記憶がなくなったとしても、
積み上げてきた感情が育てた心までは消えない。
記憶喪失になったとしてもその人がその人じゃなくなるとは思わない。
じゃあ感情は?
感情の器ごと破壊して、心を作り上げていた色を全て失ったとしたら?
その時、記憶はただの「過去の出来事」になってしまうのではないだろうか。
記憶に付随して感情が動くからこそ、
記憶には意味があると言えるのではないか。
127
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:23:46 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「ドクオのその感情が、ハイン博士に結びつくはずのなかった
赤い糸を結びつけたんだ。」
非常に感覚的な発言をしているという自覚が、クーにはあった。
でもクーにはこれしか伝え方が思い当たらなかった。
川 ゚ -゚)「ドクオは今までに何度も彼女のことで苦しみ、
その糸を断とうとしてきたんだと思う。」
自身の停止や記憶の消去、彼女を想う心に苛まれその術を探し続けた。
大切なものを自ら手に掛けようとする辛さなんて、
とてもじゃないがクーには理解の範疇を超えていた。
128
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:24:25 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「そのプログラムを使えば、今度こそ完全に失ってしまう。」
冷静さを保とうとし続けたドクオだったが、
とうとう堪えきれず表情を歪ませた。
('A`)「クーの言いたいことはわかります…
でも、もうこれ以上どうしようもないんです。」
ドクオも本当はずっとハイン博士への想いを抱えたままでいたいと願っていたが、
それには痛みがあまりにも大きすぎた。
ロボットの彼には100か0かしかなく、
しかしそれは人間と同じように感情を持った彼にとってあまりに残酷だった。
129
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:25:04 ID:BSJtsC2.0
('A`)「これを実行すれば、痛みに苛まれることなくクーと共に生きていける。」
ドクオは立ち上がり、クーの目の前へと進み出る。
('A`)「これを実行することだって本当に恐ろしかった。
でもクーがいるから、クーに出会えたから新しい道へ進み出せるってそう思ったんです。」
クーに向けられた言葉は一点の曇りもなく、
彼女の心の全てへと広がっていった。
嬉しかった。
ドクオに向けられた気持ちは、
クーにとってとても幸福なことだと感じられた。
130
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:26:17 ID:BSJtsC2.0
それでもクーの愛するドクオは、
ハイン博士を愛しているドクオだった。
彼に絡まった赤い糸も含めて、クーにとってはドクオだった。
それを失えばもう今までのドクオではない。
クーはそれがどれほど自分勝手なことであるかわかっていた。
彼の願いを撥ね付け、自らのエゴを押し付ける罪の重さを。
だとしても、彼への愛を自覚したクーがそれを受け入れるわけにはいかなかった。
これほどにも今の彼を失いたくないという強い想い。
それはつまり、ドクオがハイン博士を失いたいわけがないと
理解してしまうことだった。
131
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:26:43 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「ドクオ。」
彼を失わせるプログラムの入った記憶媒体、
それを持つ手をクーは両手で優しく包み込む。
川 ゚ -゚)「私は君が好きだよ。」
その言葉に、ドクオは柔らかく微笑む。
泣きそうな顔で、嬉しそうに、困ったように。
川 ゚ -゚)「これからも君と一緒にいたい。」
クーは罪を犯す。
ドクオに痛みを抱き続けろと、愛を手放すなと。
132
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:27:18 ID:BSJtsC2.0
雁字搦めになった赤い糸にそっと触れて、整える。
いくつもの結び目を固く結びなおし、手にしたハサミを奪う。
彼は愛おしげに左手の小指を見つめ、口付けた。
133
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:29:29 ID:BSJtsC2.0
ドクオは、クーの体を引き寄せて強く抱きしめた。
クーもドクオの背中に手を回し、優しく、しっかりと抱きしめる。
('A`)「クー。」
涙に溺れる声で、彼は何度も彼女の名を呼んだ。
溢れてくる感情を一つもこぼすまいと、
クーは彼の全てを受け止めようとする。
('A`)「ごめんなさい。」
謝らなければならないのは自分の方だと、クーは思った。
でも此の期に及んで許しを請おうなんて、
あまりにも烏滸がましく感じられた。
川 ゚ -゚)「ドクオ。」
彼は今ここにいて、ここにい続けることを選択してくれた。
川 ゚ -゚)「ありがとう。」
クーは償いの気持ちを込めて、感謝を述べた。
134
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:30:56 ID:BSJtsC2.0
クーとドクオが共に暮らし始めて数年の時が過ぎた。
2人の日常は何事もなく進んでいく。
少し変わったことといえば、クーは時折研究室へ降りていって
本や資料を読むようになった。
もちろん相変わらず彼女が理解するには難しすぎるものばかりだったが、
その中でもわかりそうなものを探して目を通した。
少しでもハイン博士が考えたこと、感じていたことに触れられたらという思いで。
135
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:31:56 ID:BSJtsC2.0
また、何か別の方法でドクオを救うことができないのか探し続けていた。
それが自分にできるせめてもの償いではないかと考えていた。
ドクオとブーンという偉大な研究者が
長年探し続けても見つけることができなかったものを、
凡人の自分がそう簡単に見つけることができないのはわかっていた。
それでもクーは諦めようとは思わなかった。
136
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:32:47 ID:BSJtsC2.0
ある昼下がり、ドクオは食材や日用品の買い出しへと出かけていた。
クーは研究室でハイン博士が過去に作ったレポートや資料を眺めていた。
川 ゚ -゚)「当たり前だけど、何が何やらさっぱりだな。」
そうひとりごちて苦笑を漏らし、椅子に座ったまま背伸びをする。
徐に立ち上がり、光の落ちてくる天窓を見上げる。
眩しさに目を細めつつ外を覗くと、
窓枠に切り取られた青空がとても綺麗だった。
川 ゚ -゚)「私も一緒に買い物へ出たらよかったな。」
外出前にドクオが声をかけにきたが、
その時はなんとなく研究室にいたい気分で断ってしまった。
137
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:34:11 ID:BSJtsC2.0
こんな天気のいい日に地下でこもってなんかいないで
庭にでも出ようかなと、出した資料をしまい始める。
片付けの最中、クーが触っていた棚から書類が雪崩を起こしてしまった。
川 ゚ -゚)「あー…もう。」
苛立ちながら床に散乱した書類を拾い上げて元に戻していく。
その中に、他のものとは形状の異なる薄いケースのようなものを見つけた。
クーはそれを手にとって眺めると、生体認証の鍵がついていた。
何気なくそれに触れると、小さな電子音が鳴ってロックが解除された
138
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:34:45 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「え、なんだこれ。」
自分の情報でロックが解除されたことに不気味さを覚えたが、
恐る恐るケースを開いてみる。
それは何かの設計書のようだった。
小難しい数式の羅列や機械の部品、
組み上げた形の図等が記載されている。
それが一体なんなのかわからないまま、
クーはパラパラと眺め続けていた。
不意に、そこからひらりと紙片が落ちる。
クーがそれを拾い上げて見てみると、手書きのメモだった。
そこには、『DO-k型00番について』と書かれていた。
139
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:35:23 ID:BSJtsC2.0
夕方近くなり、買い物からドクオが戻った。
('A`)「ただいま戻りました。」
ドクオがリビングに入ると、キッチンの方からクーの声が聞こえる。
買ってきた食材の袋を持ってリビングに入ると、
クーがコーヒーを入れているところだった。
川 ゚ -゚)「おかえり、ドクオ。」
キッチンの机に荷物を置くドクオを振り返り、クーはもう一度そう言う。
('A`)「あれ、コーヒー入れてたんですか。」
川 ゚ -゚)「ああ、飲みたくなってな。ドクオもそろそろ帰ってくる頃だろうなと思ったし。」
クーは微笑み、コーヒーを淹れる手元に視線を戻す。
140
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:38:27 ID:BSJtsC2.0
ドクオは買ってきたものを定位置へしまいに行き、
それが済むとリビングに戻った。
庭が見える窓の前に立ち、外を眺める。
数年前に植え始めて今年ようやく花をつけたバラが、
赤く美しく咲き誇っていた。
ドクオが花を眺めていると、
両手にマグカップを持ったクーがリビングへとやってきた。
クーがドクオにの側へ行きマグカップを差し出すと、
ドクオは感謝の言葉を述べてそれを受け取る。
2人は窓の外を眺めながらコーヒーを飲み始めた。
141
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:38:53 ID:BSJtsC2.0
('A`)「クーもコーヒーをおいしく淹れられるようになりましたよね。」
ドクオがクーにそう話を振ると、クーはドクオの方を向いて誇らしげに胸を張る。
川 ゚ -゚)「まぁな。素晴らしい師匠による指導の賜物でもあるな。」
おどけたように応えたクーの言葉に、ドクオは笑みを漏らした。
川 ゚ -゚)「ドクオにはまだまだ敵わないけどな。」
ドクオの笑顔にクーも微笑みながら、そう言葉を付け加える。
('A`)「そんなことないですよ。」
そんななんでもない会話をしながら、2人はコーヒーを飲んだ。
142
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:39:29 ID:BSJtsC2.0
2人のマグカップが空になり、
クーはドクオの手からそれを受け取るとリビングのテーブルに置く。
いつもとなんら変わりのない光景だった。
川 ゚ -゚)「ドクオ。」
クーが彼の名前を呼ぶと、空気の色が変わったように思えた。
('A`)「なんですか?」
それは突然のことだったが、ドクオもそれに気づいてクーと目を合わせる。
川 ゚ -゚)「君を停止する方法が見つかったんだ。」
クーの思いがけない言葉に、ドクオは言葉を失った。
143
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:41:31 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「研究室で君の設計図と思われるものを見つけた。」
クーは淡々と、今日の出来事を語り始める。
川 ゚ -゚)「その資料にはロックがかかっていてね、
ハイン博士の生体情報で開くようにプログラムされていたみたいだ。」
それをなぜクーが解除できたのかは定かではないが、
彼女がハイン博士の血縁者であり、持っている情報が似通っていたからかもしれない。
川 ゚ -゚)「そして君を停止するには、
資料のロックに使われているのと同じ情報が必要だったんだ。」
('A`)「ちょっと待ってください。」
ドクオは話を続けようとするクーを制止した。
('A`)「クー、あなたは僕に何を言おうとしているんですか。」
144
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:41:56 ID:BSJtsC2.0
沈んで行こうとする太陽に照らされるドクオの表情からは、
悲しみや怒り、不安が感じとれた。
クーは一瞬間をあけて、軽く息を吸って吐き出す。
川 ゚ -゚)「私は君を、君の命を止めようと思う。」
強い意志を秘めた声で、彼女は彼にそう告げた。
145
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:42:26 ID:BSJtsC2.0
('A`)「クー、どうして。」
ドクオの頬に一筋の涙が流れる。
('A`)「僕はようやく痛みを持ったままでいることを受け入れて、
あなたと共にあることで自分の存在に希望を持ったのに。」
ドクオのその言葉は、クーにこれ以上ないほどの痛みを与えた。
それは身を引き裂かれるような、心を削り取られるような壮絶な苦痛。
でもこれもまた、あの日自分がドクオに対して犯してしまった罪への罰なのだと思った。
146
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:43:15 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「ドクオ、ありがとう。」
クーは謝罪の言葉を口にしない。
謝られてしまえば、優しいドクオは許そうとしてまた苦しんでしまうから。
川 ゚ -゚)「君が側にいてくれて私はとても幸せだった。」
('A`)「そんなこと言わないでください!」
ドクオの声が大きくなり、こぼす涙の粒も大きくなっていく。
('A`)「これからだってずっと僕はあなたの側にいます。それが僕の望みなんです。」
それはきっとドクオの本心だ。
彼が自分の感情を消そうとしたあの日と同じように。
クーにもそれはわかっていた。
それでも一度貫くと決めたエゴを、ここで取り下げるというわけにはいかなかった。
147
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:44:03 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「私もいずれ、君より早く死んでしまう。」
彼はその機械の体が止まってしまう日が来るまで、
自分の大切な人を見送り続けなければならない。
それがあとどれくらいの時間なのかはわからないが、
まだずっと先のことだろうとクーは思った。
('A`)「そんな先のこと…」
ドクオは反論を口にするが、声は尻窄まっていった。
川 ゚ -゚)「先のことかもしれないが、必ず訪れる。」
あの日からの数年間、クーもたくさんのことを考えてきた。
ドクオの感情を守ったまま眠らせてあげることを一番に考えてきたが、
このまま共に過ごしていく幸せについても当然考えた。
クー自身の幸せではなく、ドクオの幸せを。
でもやはり、最後は大きくなった感情の分だけ彼に痛みを背負わせてしまうのだと悟った。
148
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:44:28 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「大丈夫だ、ドクオ。」
クーの右手がドクオの頬に触れ、目尻の涙を拭う。
川 ゚ -゚)「私はもう大丈夫。」
ドクオの眼に映るクーの姿に、あの日のハイン博士の顔が重なった。
川 ゚ -゚)「君に抱いた愛を持って、生きていける。」
('A`)「クー。」
太陽が沈み、濃い藍の色に染まっていく部屋の中で、
2人の日常は終わりの時を迎える。
川 ゚ -゚)「君と同じようにね。」
149
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:45:10 ID:BSJtsC2.0
すっかり暗くなった窓の外を眺めながら、2人は手を繋いでいた。
150
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:45:37 ID:BSJtsC2.0
「見送ることも愛なんじゃないかって、私はそう思うんだ。」
「ドクオは最大限の愛情を持って、ハイン博士を見送った。」
「それは誇っていいと思う。」
「ハイン博士も最後に愛を知って、ドクオの愛を理解して、」
「それを受けて旅立つことができてきっと幸せだったんじゃないかな。」
「だから、今度は私の番だ。」
「ドクオ、どうか私の愛を受けて、旅立ってくれ。」
151
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:46:10 ID:BSJtsC2.0
「クー、ありがとう。」
「でも、ごめんなさい。」
「正直な気持ちを言っちゃいますけど、」
「僕はロボットだから、」
「ハイン博士のいるところに行けるわけじゃないのかなと思います。」
「僕はただ止まるだけ。」
「人間と違って、命が終わるわけじゃない。」
152
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:46:35 ID:BSJtsC2.0
「全く、ドクオはネガティブだな。」
「大丈夫だよ。」
「私の愛が奇跡を起こすかもしれないだろ。」
「君をハイン博士のいるところに連れて行ってくれるかもしれない。」
「そう願っているよ。」
「いつか、まだ先の未来で、きっとまた会おう。」
「私とドクオと、ハイン博士と。」
153
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:47:08 ID:BSJtsC2.0
ドクオの設計書に挟まっていた、ハイン博士のメモ。
「停止させることはあんま想定してない。」
「オレだけが停止できるような仕組みを考える。」
「停止条件には自分の生体情報を盛り込む。」
「生体情報保持者と機体との同身体部位を10秒以上接触させること。」
「機能停止キー受付処理の起動。」
「キーは機体の名称と、」
154
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:47:57 ID:BSJtsC2.0
クーは軽く背伸びをすると、顔を俯けたドクオにキスをした。
彼に対して抱く愛情の全てを込めて。
十数秒のキスの後、機能停止キーの音声認識準備が完了する。
ドクオの生きる音が弱くなる。
155
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:48:25 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「ドクオ」
これまで何度も呼んできた彼の名前。
彼の耳に届くのは、これが最後。
156
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:48:52 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「さようなら。」
157
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:49:42 ID:BSJtsC2.0
全ての機能が停止すると、耳が痛くなるような静寂がそこに残された。
止まってみて初めて、ドクオから聞こえていたたくさんの生きている音に気がついた。
例えそれが機械の音であったとしても、ドクオは確かに生きていた。
158
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:51:19 ID:BSJtsC2.0
「きっと、繋がったままの赤い糸を手繰って」
「彼女が与えてくれた、君自身をそのままに」
「機械に宿った生命が、空へと届きますように」
159
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 17:54:51 ID:BSJtsC2.0
https://res.cloudinary.com/boonnovel2020/image/upload/v1588208786/91_mzmswv.png
川 ゚ -゚)フェアウェルキスのようです 完
160
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/06(水) 18:04:57 ID:BSJtsC2.0
あとがきというか言い訳:
ブーン系処女作、改行とかめちゃくちゃになったし地の文大量でございます。
でも無事に参加できてよかったです。
主催者様、参加者の皆様、お疲れ様でございます。
楽しませていただいております。ありがとうございます。
161
:
名無しさん
:2020/05/06(水) 18:31:22 ID:PkGYlwvg0
乙乙乙乙
162
:
◆S/V.fhvKrE
:2020/05/07(木) 00:24:28 ID:ubHwcEf.0
【投下期間終了のお知らせ】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
163
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/08(金) 16:59:26 ID:EMRFAS660
【業務連絡】
主催者様へ。ここに書くのが正しいのか分からないのですが
一箇所文章が抜けている部分を発見してしまいました…。
まとめの方だけでも今から対応していただくことは可能でしょうか?
164
:
主催
◆S/V.fhvKrE
:2020/05/08(金) 17:51:47 ID:DXgRgg5k0
対応可能です。加筆修正で遅刻にはなりません。
スレッドで読んで投票する方もいらっしゃるかと思いますので、
変更したいレスにアンカーを飛ばして加筆してください。
こちらのスレで修正されたことを確認でき次第、
まとめの方も対応させていただきます。
よろしくお願いいたします。
165
:
◆vsB9FT5GvI
:2020/05/08(金) 17:58:40 ID:EMRFAS660
【追加文章】
>>004
と
>>005
の間に以下の文章を追加でお願いいたします。
-----
川 ゚ -゚)「ふむ、聞いた通りなかなか小綺麗じゃないか。」
クーはすぐには家に入らず、まず外観を確認し始めた。
外壁、玄関の階段やドアなどに目立つ汚れや傷もなく綺麗にされている。
玄関から左を向くと小さめの庭がついており、
芝生はしっかり手入れされているようで綺麗に整えられている。
長らく住む人がいないはずの家で、一体誰がそのような手入れをしたのかというと
166
:
主催
◆S/V.fhvKrE
:2020/05/08(金) 20:35:27 ID:DXgRgg5k0
修正完了しました。
167
:
名無しさん
:2020/05/13(水) 12:07:22 ID:D7T0Ko7Y0
乙。切なくて綺麗ですごく好きだ
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名無しさん
:2020/05/19(火) 12:17:12 ID:.PmlLefE0
これ、本当に処女作なんですか?とてもお話が綺麗にまとまっていて読みやすかったです。
人間以上の感受性を持ちながらもロボット故に苦しみが和らぐこともなく自害することも出来ないドクオという設定に惹かれました。
次回作を待っています!
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