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( ^ω^)暁天に臨むようです
-
この愛らしい少女に、世話になった少年に、ほんの少しの施しを。
どうか、どうか。
ああ、祈りが届きますように。
この身が、この心が、尽く光に消えたとしても。
ささやかなこの想いだけは、どうか。
遥かな道行を眩く照らす、彼らの暁とならんことを。
.
-
( ^ω^)暁天に臨むようです
.
-
┌────────────────────┐
祢さん
貴方にこうして文を認めるのは、初めて
ですね。
本当に、なんと書いたらよいものか。
そうですね。
では、すこし、昔ばなしでもしましょう
か。
まだ、あどけなさの残る歳でした。
ふふ。私のことです。
あのときにはもう、貴方は高校生だった
のではないかしら。
夏祭りの折、迷子になり泣きじゃくって
いたときに、神社の裏で貴方に出逢った
ときのことです。
浮世離れした雰囲気に「かみさま……?」
と、涙も引っ込んで声をかけたこと。
そのときに、貴方はふわりと微笑んで優
しく髪を梳いてくれたこと。
今でもよく覚えています。
それからは何度も、何度も貴方を探して
天穂神社に通ったものです。
実を言えば。
あの頃、貴方に逢えたのは、意を決して
出掛けた十回のうち、一回かそこらで。
膝を抱えて日暮れを迎えた日の方が、ず
うっと、多かったのです。
けれども、毎回。
そのたった一度に、それはもう心が満た
されたものでした。
└────────────────────┘
-
┌────────────────────┐
にわか雨のように突然で、
天つ風のように掴みどころなく。
それでいて陽だまりのように優しい貴方に
惹かれてゆく日々は、
どんなにか胸の苦しかったことでしょう。
それでも。
どこか甘い記憶として心に残っているので
すから、全くもって始末が悪い。
本当に悪いお人です、貴方は。
貴方と〝逢う〟ことが、
いつしか〝会う〟という言葉に変化するほ
どに習慣化したころ。
私は高校の卒業式を目前にして、
年下の子どもとしか思われていないだろう
と思いつつ。
それでも、それでもと。
言葉も拙く、喉につっかえて、
貴方の袖ばかり掴んで瞳潤ませたあの日。
└────────────────────┘
-
┌────────────────────┐
今にもくずおれそうな私を抱き寄せて、
いつかのように、優しく髪を梳いてくれ
た貴方に。
愛しているの、と。
堰を切ったように幾度も、幾度も、伝えた
こと。
一瞬間、押し黙った貴方に、溢れ落ちそう
になる涙を必死に堪えたこと。
頬に優しく触れられて、見上げると、
同じ気持ちだと、気恥しそうに目を伏せて
唇にキスをもらったときのこと。
震えあがるほどの歓びというものを、
きっと初めて知りました。
あのときを思い出すたび、
私の心はいつだって少女に戻ったものです。
この手紙を書いている今であっても、頬が
熱いくらいなのだから。
それでね。
遠回り、しすぎてしまったけれど。
貴方に伝えられなかったことがあります。
└────────────────────┘
-
第一幕 残照
.
-
母の余命が宣告された。
来月の入学式は恐らく迎えられないだろう、とのことだった。
.
-
揺れるバスの窓を流れていく景色は、見渡す限り田園そればかり。
高さを感じるものといえば遠くの山。
青い空を遮るものは一切ない。
( ^ω^)「思ってたより、ド田舎……」
ビルもコンクリートも無縁なその光景に、内藤望(のぞみ)は思わず呟く。
新幹線で半日、そこからバスに乗り換えて今に至り、思い返すは目的地について。
軽く調べて出てきたものでいえば穴場の温泉街である、といった話だったか。
平地だ。
まさに観光地、といった雰囲気ではなさそうだった。
森の中にあるわけでもなければ、海が見えるというわけでもない。
期待していたわけでもないけれど。
あんまりにも何もないので拍子抜け、という心地ではあった。
( ^ω^)「……」
母が都会へ出たがったのもわかる気がした。
意識が戻らなくなって久しくなる母。
医者に余命を宣告されてしまった母。
望が顔も知らぬ、父宛の手紙を隠していた母。
元々、体の弱い人だった。
それでも片親でここまで育ててくれたのだ。
大学の入学式まで、あと20日ほど。
医者の言葉通りなら母はその日を迎えられない。
-
( ^ω^)(……つまり)
この天穂(てんすい)の地に滞在出来るのは長く見積もっても2週間。
望は膝の上で強く、強く拳を握り締める。
( ^ω^)(時間がない)
目的を達さなければならない。
母の命のあるうちに、なんとしても。
そうでなければ意味がないのだから。
「──より、迂回させて頂きます」
アナウンスが入り、はたと顔を上げる。
よく聞いていなかった。
きょとんとする望を知ってか知らずか、
バスの運転手はもう一度繰り返します、と前置きし再びアナウンスを入れた。
-
「本来であれば山を抜けて終点、暁鐘館まで向かいますところ、
先日の土砂崩れの影響により、迂回させて頂きます。
お客様には大変ご迷惑をおかけしますが──」
そこまで聞いて、望は意識を手元に戻した。
痛むと思えば。
握りしめた際に爪がくい込んだのか、血が出ていたのだ。
( ^ω^)(思ったより冷静じゃなさそうだな、俺)
足元のリュックサックを漁り、取り出したティッシュで軽く押さえる。
つと、目に入ったのは情報収集にはなるかな、と座席のネットに
差してあるのを回収したローカル新聞だった。
見出しに来ているのは土砂崩れ。
この辺りではそれなりに大きな事故だったのだろうか。
-
( ^ω^)(クールダウンも兼ねて。話のタネでも捏ねるとするか)
この手の不謹慎な話題の方が人間、誰しも注目しているものだと望は思う。
話題は大事だ。
それは、自分を定義するのと同じくらい大事なのだ。
〝高校卒業後、大学という新しい環境を迎えるにあたって
自分を知るために一人小旅行をする若者〟
それが今回の滞在における定義した自分であった。
望は〝自分を定義する〟とは、対面する人間が〝内藤望とはこのような人間なのだな〟と
理解する人物像のことを指すのだと考えていた。
そしてそれは、正しく自分自身でなくても良いのだ。
相手を理解したと思うと人間の口は軽くなる。
逆に言えば、なんだかよく分からない、目的の知れない者には警戒する。
わかりやすい人間は侮られると同時に、油断を誘う。
それが望の持論であった。
-
( ^ω^)(目的が人探しである以上、地元住民との会話は必須)
( ^ω^)(大事なのは相手が油断するような自分の定義)
( ^ω^)(すなわちキャラ付け、は……大丈夫だから、)
新聞の文字を追い、ページをめくる。
( ^ω^)「あとは話題。ウン、話題」
軽傷者が2名に重傷者が1名。
件の土砂崩れ、痛ましくも巻き込まれた者がいるらしい。
道を封鎖せざるを得ないほどの規模である以上、命あること自体が
不幸中の幸いとも考えられるだろうが。
……記事を読むに。
そもそもここまで大規模な土砂崩れが起きたのは初めてらしい。
それに巻き込まれたのだと思うと、
さすがに、幸いという言葉は当て難いものがあるだろう。
-
( ^ω^)「……ああ。十万回に一回しか起きないことは」
( ^ω^)「必ず一回目に起こるとか、言うものな」
当事者からすればつくづく碌でもない話だと望は思う。
万に一つなぞ起きないに越したことはない。
どうしようもない絶望にブチ当たるぐらいなら、
下手な希望こそ元より要らなかったのだ──
( ω )(……っ)
西日に思考が眩むような心地がして、望は頭をゆさゆさと横に振る。
冷静に、冷静に。
声には出さずに繰り返す。
そうして。
目的地である終点、暁鐘館(ぎょうしょうかん)に到着したのは、
ちょうど望が新聞を読み終えるころであった。
-
淑やかな旅館だった。
豪奢な造りでこそないけれど、隅々まで手入れの行き届いているのが一目で伝わる、
愛された建物の気配があった。
いくら温泉街と言えど、長期滞在を可とする旅館は此処しかなかったのだが、
思いのほかよい場所なのかもしれない。
暖簾をくぐり、受付に向かう。
、、 、、、、、
( ^ω^)「西川です、西川のぞみ。今日から2週間で予約している……」
西川のぞみ。偽名である。
念には念を、と。
珍しい姓でもないが、望はある事情から〝内藤〟の名が不都合に働くことを警戒していた。
「西川さまですね」という声に顔を上げる。
思わず、息を呑んだ。
-
川 ゚ -゚)「お待ちしておりました。ご案内致します」
随分と綺麗な女性だった。
母と同じか少し上ほどの年齢なのだろうが、しゃんと通った背筋と
美しくまとめられた黒髪が着物によく映えている。
引き締まった表情も、不快なそれではない。
後ろを着いていきながら、女将さんなのだろうか、と
考えていると声をかけられた。
川 ゚ -゚)「学生さんでしょうか……?」
川 ゚ -゚)「お若い方でこんな田舎におひとりとは、珍しいもので」
こて、と首を傾げる仕草。
顔に似合わず愛らしい人だな、と望は思う。
( *^ω^)「ええと、先日高校を卒業したばかりで。来月から大学生になりますお!」
-
にっこりと目じりを下げて、口角をあげる。
はきはきとした声。
間抜けた語尾も忘れない。
スイッチの入れどころだ。
そうして望は用意していた〝人懐こい若者〟を演じる。
〝西川のぞみは、綺麗な女性に話しかけられて嬉しいのだ〟
川 ゚ -゚)「あら、あら。それでは今回は一人旅なのですね」
( ^ω^)「おん、なんだか理解があるような口振りに聞こえますお?」
川 ゚ -゚)「気に触ったのなら、ごめんなさいね」
川 ゚ -゚)「……ふふ。少し、娘と重ねてしまいました」
( *^ω^)「全然ですお!」
( ^ω^)「 というか、女将さんには娘さんがいらっしゃるんですお……?」
川 ゚ -゚)「あら、女将だなんて」
(;^ω^)「あっ。そうなのかなって考えてたから、つい声にでちゃいましたお」
川 ゚ -゚)「そう思ってもらえるのは嬉しいけれど、この暁鐘館は大旦那のお家ですから」
川 ゚ -゚)「女将はいないんです。私(わたくし)はただの中居でございますよ」
( ^ω^)「おん、そうなんですおね」
-
女将というのはほとんど確信だったのだが、中居とは驚きだ。
しゃんとした背はいかにも責任や自覚といった意識を背負っているかのように見えたのだが。
望はほんの少しの違和感を感じつつも、にこやかに返す。
( *^ω^)「大旦那に、女将に、中居さんだなんて」
( *^ω^)「なんだか映画の中みたいでワクワクしますお!」
川 ゚ -゚)「あら、まあ。新鮮な反応をありがとうございます」
川 ゚ー゚)「……ちょうどね、あなたと同い歳の子なんですよ」
つと、中居の声が和らぐ。
望は彼女の口元がほんの少しだけ緩むのを見逃さなかった。
この人はきっと、よい母なのだろう。
胸が暖かくなるのを感じる。
端の方に感じたちくりとした痛みは、見ないふりをした。
-
( ^ω^)「それは、僕と重ねたっていう娘さんですかお?」
川 ゚ -゚)「ええ。少し、自由な子なもので、ちょっとした一人旅どころか」
川 ゚ -゚)「そのまま放浪の自分探しにでも行ってしまいそうなぐらいですけれど」
(;^ω^)「おおん…僕にはそこまでの思い切りの良さは、ちょっと、ないですおー……」
川 ゚ -゚)「あら、まあ。思い切りの良さ、なんて」
川 ゚ -゚)「欠点も転じて言えば美点に聞こえるものですね」
中居の声はすっかり気の和らいだ、優しいものになっていた。
口調もややとはいえ、くだけただろうか。
立ち止まったのはそんな折だった。
川 ゚ -゚)「では、こちら桐の間でございます」
一面が大きな窓になっており、小さな中庭が一枚の画のように見える部屋だった。
広い部屋でこそないが、工夫の凝らされているのが窺える。
-
川 ゚ -゚)「夕餉は18時にお部屋までご用意させて頂きますから」
川 ゚ -゚)「もし要らないという日がありましたら、お伝え下さいませ」
川 ゚ -゚)「それでは、ごゆっくりどうぞ」
( ^ω^)「ありがとうございますお!」
中居の美しいお辞儀に、ぺこりといかにも子どもらしいお辞儀を返す。
子どもという年齢(とし)でもないが、望は自身の小柄な体躯とフワついた明るい地毛が他人には
「愛らしい子ども」を連想させるということをよく知っていた。
開き直って活用することはもはや習慣になっていた。
襖が閉じられるのを見届けて時計を確認する。
17時前。
夕餉まではまだ少し、時間がある。
( ^ω^)「荷物を広げるのは……まあ、飯の後でもいいか」
荷物だけ部屋の隅に置くとすぐに靴を履いた。
向かったのは暁鐘館のちょうど裏。
-
土砂崩れが起きたという山を背に、赤い鳥居がよく目立った。
石碑に彫り込まれた天穂(てんすい)の文字を確認する。
〝天穂神社〟
例の手紙の中では、一番の手掛かりだった。
母の地元。奴との出会い。
なにより、現在の居場所の特定に繋がる情報。
境内に立ち入る。人気はない。
それどころか、暫く手入れがなされていないような印象を受けた。
( ^ω^)「……暁鐘館の手入れが行き届いている分、何というか」
lw´‐ _‐ノv「退廃感が目立つ?」
( ^ω^)「うん、そうだな。退廃的……そんな感じ」
lw´‐ _‐ノv「およ、返事したよ」
( ^ω^)「……へ?」
-
夕闇と呼ぶにはまだ、些か明るい時間帯。
境内の奥、山を背にして一人の少女が立っていた。
違和感があった。
神秘的でいて、どこか歪んでいるような。
そもそも声はほとんど隣から、聞こえていた、ような。
https://f.easyuploader.app/eu-prd/upload/20200318142806_32304555334f56365a64.png
ぞく、と背筋に寒気が走る。
にんまりと笑ったその顔は、道行く人と交わし合う愛想笑いのソレではなかった。
狙いを定めたような、射抜くような。
それはまるで、獣が餌を見つけたかのような──
lw´‐ _‐ノv「お前、ワタシが見えているな」
数メートルも先にいたはずの少女の声は、
真後ろから、じっとりと耳裏を舐めるように響いた。
肩に乗せられた白魚のように華奢な手には、
逃がさない、という意図が含まれていた。
ついでに稲穂も握っていた。
-
(;^ω^)「なぜ稲穂……」
lw´‐ _‐ノv「米は大事だぞ、少年」
(;^ω^)「会話してくれ…………………」
望の肩に手をかけつつ軽やかに返したその足元が、
ふわりと浮いてぎょっとする。
体重は感じない。
それどころか触れられている感覚もない。
(;^ω^)「マジでなんなんだ、お前」
lw´‐ _‐ノv「少年。それがわからんのよ」
(;^ω^)「……は」
lw´‐ _‐ノv「たださぁ、ワタシ」
黒のセーラー服をひらめかせて、鳥居の方へ跳ぶ。
しゃがみこみ、指さしたのは神社の入り口。
lw´‐ _‐ノv「ここのね、境内と道との境目を出らんないみたいなの」
lw´‐ _‐ノv「だから取り憑かせてちょ」
(;^ω^)「……」
-
lw´‐ _‐ノv「そんでま、ワタシの自分探しにちょっち付き合ってくれ」
(;^ω^)「…………断る」
lw´‐ _‐ノv「あ、ほんと? サンキューサンキュー」
lw´‐ _‐ノv「えっ」
(;^ω^)「断るって言ったんだ。俺には時間がない」
lw´‐ _‐ノv「奇遇だね。ワタシもないのよ、時間」
(;^ω^)「……意味がわからない」
lw´‐ _‐ノv「わからんでしょ。ワタシもわからんの」
lw´‐ _‐ノv「でも、覚えてることがそれしかない」
lw´‐ _‐ノv「……ワタシには、自分には時間がない、ということしか情報がないの。オーケイ?」
( ^ω^)「はあ……」
望は、人間あまりにも意味がわからないと冷静になってくるんだな、
ということを実践的に学んでいた。
-
( ^ω^)(境内から出られない……地縛霊の可能性? つーか、ユーレイ?)
( ^ω^)(幽霊…幽霊………んな、非現実的な)
( ^ω^)(日常に根付かない単語、自分で使うと死ぬほど胡散臭くてイヤになるな…………)
lw´‐ _‐ノv「落ち着いた?」
( ^ω^)「まあ、なんも見なかったことにする。俺は知らん」
lw´‐ _‐ノv「あは。もう遅いよ、少年」
背を向ける。境内を出る。
有益な手がかりはなかったと天穂神社を後にして、
目の前に少女が仁王立ちしていてつんのめる。
どう見たって境内の外だった。
-
( ^ω^)「お前、出られなかったんじゃないのかよ」
lw´‐ _‐ノv「取り憑かせてもらったんでね、少年?」
( ^ω^)「は」
lw´‐ _‐ノv「少年に取り憑いたから」
lw´‐ _‐ノv「今はもう乾いてこびり付いた白米のごとく、少年から離れられない。ヨロシク」
( ^ω^)「んだよ、その喩え……」
頭を抱えたくなるのを抑えて、一旦、落ち着く。
観察する。
少女の装いには見覚えがあった。
全身真っ黒のセーラー服。
駄目押しとでも言わんばかりの黒タイツ。
妙に引っかかる。
どこかで、見たような。
( ^ω^)「……お前、名前は?」
lw´‐ _‐ノv「名前? そういえば、思い出そうとしたこともなかったな」
( ^ω^)「……」
名前、名前と唸る少女を横目に、望は記憶を手繰ってみる。
おそらく、母に関するものだとは予測がついていた。
-
◆
望の母、内藤悠(はるか)は所謂シングルマザーであった。
持病があり長くは生きられないこと。
そして、それにより望に苦労をかけてしまうであろうことは、
物心ついた頃から何度も何度も言い含められていた。
それでも望が小学生のころは外で倒れたりとか、顔が真っ青であるとか、
そういうことはなく、順調に過ごしていた。
……母の病院通いが目立つようになったのは中学に上がった頃からだ。
高校に入るときには入院の運びとなった。
そこからはもう、坂を転がるように。
容態は一気に悪化した。
大学受験を控えたここ一年間は意識朦朧として。
会話のできる日も限られるようになり。
そうして、現在。
余命を宣告されるに至ってしまった。
父は望が幼いころに交通事故で亡くなったのだと聞かされていた。
祖父母には会ったことがなかった。
望は最初から母と二人きりだった。
一度だけ、聞いてみたことがある。
-
小学生のころだ。
むかし遊びを調べてみよう、とかそういう授業で、
祖父母に聞いてまとめてくるという宿題があったのだ。
『お母さん、おじいちゃんおばあちゃんって、会える?』
そう聞いた望に対して母は申し訳なさそうに首を振るばかりで何も言葉にはしなかった。
そうして望は深く聞くのをやめた。
母は望の手を引いて図書館に行くと、一緒に調べてくれた。
宿題はきちんと提出し、それ以降祖父母について母に問うことは
望の中で禁忌となったのである。
-
ζ(゚ー゚*ζ『望ちゃん、ごめんね』
望は首を振る。
なにか言葉を言う代わりに、大好きな母にぎゅうと抱きついた。
ζ(-ー-*ζ『ありがとう、ありがとうね』
ζ(^ー^*ζ『望。あなたは本当に、私の大事なたからものよ』
優しく頭を撫でられた、遠い過去。
望は母を困らせたくはなかった。
いない人よりも今目の前にいる人を大事にすることを選んだのだ。
◆
-
とにかく母は祖父母のことも、地元のことも、頑なに話そうとはしなかった。
今、思えば。
これだけ遠くの田舎から都会まで出てきていたのだ。
それだというのに連絡を取る姿などついぞ見かけることはなかったのは、
絶縁しているということだったのだろう。
暁鐘館にて「内藤望」の名を伏せたのはそれが理由だった。
田舎の情報網がどの程度のものか、さらに言えば母の立ち位置が
どのようなものなのか分からない以上。
少しでも自分の存在を霞めておくのは危険回避としては外せなかった。
lw´‐ _‐ノv「ね、少年」
lw´‐ _‐ノv「少年、聞いてる?」
( ^ω^)(そして)
-
望は思い出した。
目の前の少女の姿。
それは紛れもなく、卒業アルバムで確認していた母の母校の制服だった。
嘆息する。
じろ、と座った目で少女を見遣る。
( ^ω^)「協力してやる」
だから、これは、情ではない。
あくまでも打算的な考えだ。
( ^ω^)「但し、俺にも協力してもらう」
( ^ω^)「それでいいよな?」
少女の姿が母の通っていた高校のセーラー服であるのなら、
その失っている記憶とやらを思い出させれば使える情報源になるのではないか、という。
それでなくとも土地勘のある助手がいるならば、
それに越したことはないとも考えた。
……それがユーレイというのは、さすがにどうなのかと自身に問いただしたくもなるが。
贅沢は言っていられない。
-
lw´‐ _‐ノv「願ってもない。よろしくね、少年」
( ^ω^)「少年じゃない、内藤だ。内藤望。そもそもお前よか歳上だっつの」
lw´‐ _‐ノv「そう? 少年は少年だよ」
少女はくるりと身を翻す。
望の肩に手を添えて、宙にふわりと寛いで。
lw´‐ _‐ノv「そうさな、ワタシのことはアカツキと呼んでくれ」
名乗ったその名は。
その響きは。
( ^ω^)「アカツキ……」
( ^ω^)(いや、まさか)
アカツキ── 明槻?
脳裏にこびり付く名前。
明槻祢(でい)。
それは何の偶然か。
少女の名乗った呼び名は望の尋ね人。
、、、、、、
母を見捨てたはずの父の姓と同じだった。
.
-
* * * * *
lw´‐ _‐ノv「もっと味わって食べろよー、少年」
( ^ω^)「……」
望は無言で箸を口に運ぶ。
部屋に戻ってすぐに用意された夕食は温かく、
本来であればきっと頬も落ちそうな程に美味しいのだろう。
けれども、その味もわからないほどに望は考え込んでいた。
アカツキとは何者なのか。
母と同じ制服。
父と同じ名前。
望と出逢うという偶然。
果たしてそれは、偶然なのだろうか。
-
llw´‐ _‐ノv「少年、さては可愛げがないな」
( ^ω^)「……馬鹿言え。こちとら愛嬌で食ってきてんだ」
lw´‐ _‐ノv「ますます可愛くない。無洗米のようだ」
( ^ω^)「無洗米に謝れ」
lw´‐ _‐ノv「ふむ。そうさな」
lw´‐ _‐ノv「哀れよの無洗米、このようなつまらぬ少年と一緒にしてしまウワップ」
ぼす、と座布団が壁に衝突して畳に落ちた。
、、
アカツキは自身を通過して飛んで行ったそれに目をぱちくりさせると、
何を思ったのか仁王立ちで高笑いを始めた。
望はその時点でああ、判断を誤ったな、と思った。
lw´‐ _‐ノv「馬鹿め! こんなものが当たるワタシではないわっ」
( ^ω^)「……それは躱す奴の台詞だろ」
lw´‐ _‐ノv「すり抜けたとも捉えられる」
( ^ω^)「捉えられるじゃねぇよ思いっきりブチ当たってんだよ」
lw´‐ _‐ノv「当たってませーん突き抜けてまーす」
( ^ω^)「透けてるだけじゃねえかふざけんな」
lw´‐ _‐ノv「そもそもいたいけな少女に物ぶん投げるとか正直ちょっとどうかと思うぞ、少年」
( ^ω^)「急に正論ヅラすんな絞めるぞ」
lw´‐ _‐ノv「ええ、どうやって?」
-
アカツキはふわりと宙に舞い上がる。
そのまま望の後ろに回り込むと、真っ白い腕を首に回してしなだれかかった。
うふふ、と笑う。
lw´‐ _‐ノv「ほうら、こんなに近くにいるのに触れもしない」
( ^ω^)「鬱陶しい。離れろ」
lw´‐ _‐ノv「いやでーす」
望はきゃっきゃっとはしゃぐアカツキを見て、
こいつの場合構った時点で負けなのか、と呆れる。
ため息をついて最後に残った椀をすすると、優しい出汁の味が広がった。
美味しいな、と思う。
つと、望は急にきまりの悪い気持ちになった。
( ^ω^)(……明日は、きちんと食べよう)
食後に手を合わせる望を見ると、アカツキはにこにこと嬉しそうに笑った。
緩んだ表情だった。
それはもう望に気付かれていたなら、もう一度座布団が飛んできそうなほどに。
-
しばらく経って中居が食器を下げにくると、
望たちは入れ替わりに旅館付きの温泉に向かった。
( ^ω^)「……え、お前着いてくんの」
lw´‐ _‐ノv「馬鹿言え少年。ワタシは女湯にも入るぞ」
( ^ω^)「にもってなんだ狂ってんのか」
lw´‐ _‐ノv「至って正気だ、少年。米が釜を選ばないようにワタシも風呂を選ばない」
( ^ω^)「男湯に入ってきたら協力の話はナシだ。口もきかない」
lw´‐ _‐ノv「いけずぅ」
渋々、といった様子で女湯に消えていくアカツキを見送る。
望に取り憑いたというアカツキは果たしてどの程度まで
自分から離れられるのか、ふと疑問に思った。
……少なくとも目につかない範囲までは離れられるらしい。
( ^ω^)(だったら部屋に入ってくるのも禁止にしようか)
そんな思いが過ぎるも、なぜだか先程の優しい出汁の味が思い出されて頭を振った。
可哀想だとは思わない。
けど別に、そこまですることはないかな、と望は思い直したのだった。
-
湯加減は少し熱いぐらいだった。
あんまり浸かっていたらのぼせるな、とぼんやり思う。
疲れと一緒に自身の中で煮詰まっていた考えごとが
どろどろと湯に溶けだす心地がした。
母は何故、黙っていたのだろうか。
父のことだった。
なぜ、亡くなったなどと嘘をついていたのか。
あの手紙は。あれは。あれでは、まるで。
( ω )(……)
望は思う。
自分は、幸せな人生を送っていた。
父はいなかった。けれども母がいた。
考えすぎる性が自身に刃を突き立てることもあったけれど、
それを逆手に周囲を味方につける方法も身につけた。
-
母と望は幸せな母子(おやこ)だった。
母は望のためになんでもしてくれた。
望も母のためならなんだって出来た。
先に起きた方がつくる朝ごはんが好きだった。
母の用意する弁当はいつも少しだけ量が多かった。
一緒に食べる夕食が毎日楽しみで仕方なかった。
母が入院してからも、会いに通うのは苦ではなかった。
自分は立派にやっていけると、
母のおかげでこうして立っていられるのだと。
……だから、泣くのは、寂しがるのは。
母がいつか、それが遠い日ではなかったとしても、 眠ってしまった後にしようと、心に決めて。
それなのに。
-
母の意識が戻らない日が続くようになって、望は部屋を片付けることにした。
自室ではない。母の部屋だ。
言われていたのだ。
忙しくなってからだと、大変だから、と。
困ったように笑う母の顔を思い出して、少しだけ、泣きそうになりながら。
あまり多くない化粧品と、鏡と、少しの雑貨を片付けて机の上を平らにする。
窓辺に並べられたぬいぐるみを袋に仕舞う。
棚から本を抜き、ダンボールに詰めていく。
そのときだった。
手が滑ったのだ。偶然だった。
家にはもう戻れないことを前提に告げる母の言葉が、辛くて、上の空だったのだと思う。
一冊の本が床に落ちた。
折れてしまったかもしれない。
慌てて拾い上げようとして、気付く。
床に、丁寧に折りたたまれた便箋が落ちていた。
本に挟まっていたのだろう。
開かなければ気付くことはなかったであろう、それは。
死んだはずの父に宛てた手紙だった。
.
-
手紙によれば父は生きていた。
事故で亡くなったというのは母の嘘だった。
けれど、けれどそれは。
( ω )
ざば、と湯を上がる。
頭が沸騰してしまいそうだった。
望は思う。
母と自分は、父を亡くしても前向きに生きてきた。
そうではなかったのか。
これでは、これでは。
まるで、父に裏切られた母子の憐れな末路のようではないか。
ああ、それでも。
それでも、自分は、幸せだった。そのはずだ。
だが。
母は。
.
-
強く頭を殴られるような衝撃を受けた。
手紙を読み終えたときに感じたものと、同じ。
……怒り。これは、怒りだ。
何も知らずにのうのうと生きる父を思うと、
そう、父が、もし生きているなら。
今も、なんの不自由もなく暮らしているのなら。
ああ、必ず、母の前に引きずり出さなければと思った。
大切な母のことを何も知らず、穏やかに暮らす父を想像すると
煮えくり返るような怒りが起こった。
もう母の意識は戻らないかもしれない。
けれど、けれど、けれど、最期にその顔だけは見せてやりたい。
たとえ意識が戻らずとも、父に一言、謝らせたい。
そう、母が── 生きているうちに。
望は改めて思う。誓う。
ああ、そうだ。
自分は。
.
-
そのためだけに、天穂の土地にやってきたのだから。
.
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第一幕 残照 終
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引き込まれる…
めっちゃ期待してます
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すっげ……めっちゃドキドキする。
この先も楽しみ。支援
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乙。。
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良いなぁ。凄く上質な作品に出逢えてうれしい。
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┌────────────────────┐
酷く、風の冷たい夕暮れでした。
貴方の横顔をさやかに染める残照が、
いやに眩しかったことを覚えています。
見合いをさせられる、と。
普段よりも低く、お声が響いたように思
われました。
喉の奥から苦くなり、からからに乾いて
しまうようで。
思わず。
駆け落ちを、とこぼした私に。
少しも躊躇わずに頷いてくれましたね。
私は、貴方のお家に、
明槻の御内儀に相応しくありませんでし
たから。
だから、確かに、共にいる為にはそうす
るしか無かったのだけれど。
あの頃にはね、もう、既に。
└────────────────────┘
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┌────────────────────┐
私の胎には貴方の子が宿っていたのです。
└────────────────────┘
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第二幕 白昼夢 前編
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時間が無い。
そうだ、ワタシには時間が無い。
、、、、、、、、、
なぜ時間が無いんだ。
それを知らなくてはならない。
それだけは覚えていたワタシを信じよう。
時間が無いことは覚えている。
なれば、そう。
この胸騒ぎを、焦燥感の理由(わけ)を。
何としても、そう、何としても突き止めなければ。
── 間に合わなくなる前に。
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( ^ω^)「……」
lw´‐ _‐ノv「おー。朝早いな、少年」
( ^ω^)「目が、醒めて」
望は横になったままじろ、と目を向ける。
布団の上から望に跨ってこちらを覗き込むアカツキが満足気に笑った。
ため息。
( ^ω^)「一番に見るもんが女の顔でも、案外感動しないってことを学んだ」
lw´‐ _‐ノv「そりゃ僥倖。米は炊きたてが一番さね」
意味不明なアカツキを無視し、顔を洗う。
しばらくすると中居が朝餉を運んでくれたので、もそもそと口に運んだ。
lw´‐ _‐ノv「美味いか? 米は美味いよなぁ」
( ^ω^)「自問自答かよ」
lw´‐ _‐ノv「我ながら愚問だったよ、少年」
lw´‐ _‐ノv「米が当然美しいように、米は当然美味いものだからな」
( ^ω^)「付き合いきれねー」
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今朝はおみおつけにほうれん草のおひたし、厚焼き玉子。
それから、かぼちゃと里芋の煮物、焼き魚だった。
おひつからよそった米はつやつやで、
腹の減っていた望はあっという間に食べ終えてしまう。
支度を済ませるとバスに乗った。
人はまばらだった。
望はまっすぐに一番後ろの座席へ向かい、腰を下ろす。
( ^ω^)「……で、だ」
声を潜める。
アカツキの姿が他人に見えていないことは中居の様子から明らかだった。
普通に話したのでは、独り言のやけに大きな危ないヤツになってしまう。
lw´‐ _‐ノv「これはどこに向かっているのかね、少年」
( ^ω^)「お前の高校。……かつ、母さんの出身校」
lw´‐ _‐ノv「なるほど」
-
母の出身校。
即ちそれは父の出身校である可能性も高い。
望は昨夜のうちに目的について告げていた。
即ち、父を探しているということ。
母の命のあるうちに、引きずり出さなければならないこと。
手がかりは母の残した父宛ての便箋の束。
ほとんど、それのみだということ。
lw´‐ _‐ノv「少年の母はどのような人なんだ」
( ^ω^)「母さん?」
アカツキは前の座席に腕ごと上半身をもたれさせながら、こくりと頷く。
望は窓の方を見た。
遮るもののない青空が、目に眩しい。
( ^ω^)「……優しい人だよ」
そっか、と返ってくる。
暫くバスに揺られて、降りたのは西湊(にしみなと)高校前だった。
-
春休みと言えど、高校は活気に満ちていた。
部活動が盛んに行われていたのである。
望はなるほど、と思う。
田舎なだけあって敷地がやたら広い。
奥に見える校舎も望が通っていた高校より一回りは大きいだろうか。
( ^ω^)「マンモス校だな」
lw´‐ _‐ノv「ウン?」
( ^ω^)「生徒が沢山いるっつーことだよ」
正門からぐるりと一周してみる。
校庭は地域住民にも解放されているのか、隅の方で小学生が遊んでいた。
望は考える。
母のことを聞くなら職員だろうか。
いや。
……恐らく、聞くなら、父のことの方がよい。
.
-
( ^ω^)(手紙を読むに、父の家はそれなりの名家なんじゃないか)
、、、
明槻の御内儀。
一般的な夫婦に対してそのような言葉、まず使わないだろう。
もしかしたら、母らとは直接関わりのない生徒達でも
何か話を知っているかもしれない──
lw´‐ _‐ノv「こっちだ、少年」
( ^ω^)「は、あ? ……えっ」
アカツキはいつの間にやら校内にいた。
こっちだ、と指を向ける方に行くと茂みに隠れてはいるが
確かにフェンスに穴が開いている。
小柄な望ならギリギリ通れるだろう。
( ^ω^)「……潜れと?」
lw´‐ _‐ノv「ああ。ワタシはどうやら、いつもここを使って出入りしていたらしい」
-
望はせっかく解放されているのだから、
正面から堂々と入るべきではないか、と考える。
だが、それ以上に思考を進める間も与えずアカツキはずんずんと進んでいった。
(;^ω^)「こら、おい。待て!」
アカツキは宙を自由に飛べるというのに、きっちり地面に足を付けて駆けていた。
それはつまり、後ろをまっすぐ着いてこいということだろう。
(;^ω^)「くそっ」
ふわりと舞うスカートが腹立たしい。
アカツキの進む道は建物の影に、茂みの裏に隠されて、上手いこと周囲には見えづらい。
それでも生徒が全く通らないかと言えばそうでもなく、
lw´‐ _‐ノv「止まって」
(;^ω^)「……っ」
時折、急停止しては振り向いて望に指示する。
話し声がすぐ近くまで来ていることに気付き、肌が粟立った。
-
「面倒だねぇ」
「そんなこと言わないったら。好きでやってるんしょ」
「部活って好きでやるもん?」
「違うとおもーう」
女生徒の話し声。
二人、いや三人組だろうか。姿は見えない。
姿が見えないということは、向こうからも見えていないということだ。
息を押し殺して通り過ぎるのを待つ。
lw´‐ _‐ノv「……ヨシ、行った」
(;^ω^)「だあ、もう。どこに向かってんだ?」
lw´‐ _‐ノv「もうすぐ着くよ。ほら、こっち」
建物の影に隠れるようにして腰を落とし、低い姿勢で風を切る。
足音を立てないように、静かに。
けれども駆け足で移動する。
そして。
lw´‐ _‐ノv「ここ、開けられる? 少年」
( ^ω^)「……開けられるかって、いや」
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錆びた、フェンスの扉。
引っ掛かった南京錠はまさしく引っ掛かっているだけで、
錠の機能は果たしていない。
軽く押すだけでキィと開いた。
lw´‐ _‐ノv「そう、ここ、ずっとこのままなんだ」
lw´‐ _‐ノv「だから、ワタシでも入れた」
( ^ω^)「……水泳プールに何の用があったんだ」
裏門付近から入って、校舎寄りの日陰になっている場所にプールはあった。
高校の敷地外からは見えない位置だ。
周囲を茂みに囲まれているからか、校庭の喧騒が遠い。
アカツキはプールサイドまでひたり、ひたりと歩いていく。
望は入口付近の、コンクリートが打ちっぱなしになっている
仕切りの影に隠れるように、もたれ掛かった。
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プールの水は透き通って、所々剥げかけた底の模様をキラキラと揺らしていた。
ふちに立つ。
アカツキは、水面に映る自分の姿を見ているようだった。
望はちら、と覗き見る。
アカツキの姿は水面に映ってはいなかった。
……自分の目には、こんなにもはっきりと映っているのに。
lw´‐ _‐ノv「水泳部は午前からの日と、午後からの日があるんだ」
lw´‐ _‐ノv「今日は午後からの日」
水面から目を逸らさずにアカツキは言う。
( ^ω^)「水泳部だったのか?」
lw´‐ _‐ノv「ううん、違う」
lw´‐ _‐ノv「ただ、この場所が好きだったみたい」
( ^ω^)「……へえ」
望はつと、アカツキの言葉に引っ掛かるものを感じた。
けれど、その正体が掴めずに黙り込む。
アカツキは暫く、風に揺れる水面を見ていた。
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-
結局、西湊(西湊高校のことはそう略すことにしたのだ)では
さしたる収穫はなく、二人は近くの商店街に向かっていた。
( ^ω^)「さすがにこっちは人が多いな」
lw´‐ _‐ノv「ところでワタシは煎餅が食べたいぞ、少年」
( ^ω^)「はあ? 食べられないだろ、お前」
lw´‐ _‐ノv「米とはスピリチュアルであり」
lw´‐ _‐ノv「米から作られたものも等しくスピリチュアルなんだが?」
( ^ω^)「なんだが? じゃねえよ締めるぞ」
肩周りでじゃれつくアカツキに構わず歩いていく。
ここに足を伸ばしているのは、アカツキの失われていると思しき記憶を
手繰り寄せる為でもあるのだが、果たしてわかっているのだろうか。
lw´‐ _‐ノv「花屋だ! 稲穂を探せっ」
( ^ω^)「ねぇよアホ」
わかってない。
ああ、絶対にわかってない。
-
望は頭を横に振る。
もう今日は自分の目的の為だけに動こう。
そう思った矢先だった。
アカツキの腕が横からす、と伸びて向こうを差した。
と、同時。
耳元で短く言い切る。
lw´‐ _‐ノv「少年、走れ」
(;^ω^)「あ? は、ウワっ」
駆け出す。
滑り込み、受け止める。
ずしゃり、と袋が地面に落ちる音がして、
可愛らしくまとめられた花束が打ち付けられて飛び出した。
(;^ω^)「と、と……大丈夫すか」
川; ゚ -゚)「はい、ええ、すいません……あら?」
( ^ω^)「……………ん?」
ぱちくりと瞬きをして、互いに顔見知りだということに気が付く。
立ちくらみを起こしたのだろう、
突然くずおれた女性は暁鐘館の中居だった。
-
川 ゚ -゚)「……そうですか、観光に」
( *^ω^)「おっおっ!やっぱり地元とは全然雰囲気が違って楽しいですお」
土埃を軽く落としつつ。
花束を拾い上げ、歪んでしまったラッピングを簡単に整える。
どうぞ、と手渡すそれまでの間に望はすっかりスイッチを切り替えた。
( ^ω^)「中居さんはおつかれなんですお?」
川 ゚ -゚)「そういうわけでは、と言うには」
川 ゚ -゚)「……情けないところを助けられてしまいましたね」
( ´ω`)「おおん、あんまり無理しちゃよくないですお」
眉尻をしょんなりと下げてみせる。
本来、望はあまり表情豊かな方ではない。
とはいえ表情を作ること自体は得意なのだ。
なにより。
-
〝西川のぞみは感情がすぐ顔に出てしまう単純な少年なのである〟
( *^ω^)「おっおっ! それにしても旅館の外で中居さんって呼ぶのは」
( *^ω^)「なんだか不思議な感じがしますお」
川 ゚ -゚)「ふふ、そうですね。……あら」
川 ゚ -゚)「いけない。時間が押してしまいました」
(;^ω^)「あちゃ、引き止めちゃって申し訳ないですお」
川 ゚ -゚)「いえ、いえ。助けて頂いた身でございます」
川 ゚ -゚)「旦那様をお待たせしておりますから、失礼させて頂きますが」
川 - ー-)「……本当に、ありがとうございました」
しゃんと整ったお辞儀。
そうして足早に去っていく背中を見送る。
一部始終を遠目で見つめていたアカツキは、
中居が立ち去るのを見計らって、望の肩にしなだれかかった。
-
( ^ω^)「……顔色、悪かったな」
lw´‐ _‐ノv「ウン。少年が明るすぎて気味悪いぐらいだった」
( ^ω^)「そっちじゃねぇよタコ」
lw´‐ _‐ノv「タコじゃない、コメだ」
( ^ω^)「地縛霊」
lw´‐ _‐ノv「地縛れてない」
( ^ω^)「ハイハイ。悪霊退散、悪霊退散」
lw´‐ _‐ノv
( ^ω^)
lw´‐ _‐ノv「悪でも霊でもないわァー!」
(#^ω^)「ユーレイなのは確かだろがフワつきやがってコラ!!」
ぐるぐると望の周りを鬱陶しくわちゃつくアカツキを、ばさばさと虫でも
追い払うように手を振って小声で怒鳴る。
もはや周囲の視線も何もあったものではないが、
大声を上げないだけ望にはまだ理性があった。
-
lw´‐ _‐ノv「およ」
( ^ω^)「あん?」
つと、アカツキが離れる。
そのままふらりと立ち寄ったのは和菓子屋だった。
lw´‐ _‐ノv「……ああ、そうか」
lw´‐ _‐ノv「この煎餅はいつもここで買っていたのね」
ガラス越しに並ぶ餅や大福を横目に、
アカツキは店の隅に並べられた揚げ煎餅を見下ろしていた。
その様子を見て、望は腑に落ちるものを感じた。
( ^ω^)(……さっきの違和感の正体)
どこか懐かしむように。
優しく、柔らかく微笑むアカツキの表情を見て確信する。
、、、
『ただ、この場所が好きだったみたい』
、、、、
『この煎餅はいつもここで買っていたのね』
── アカツキの言葉はどこか、他人事なのだ。
.
-
* * * * *
2日経ち、3日経った。
進展はない。
今日もまた何の収穫もないまま夜になり、
そうして夕餉を取る望はいよいよヒリついていた。
lw´‐ _‐ノv「まあまあ少年、焦っても何か解決するでもなし」
( ^ω^)「……」
lw´‐ _‐ノv「お顔が怖いぞ」
lw´‐ _‐ノv「そら、まるで水を入れ忘れたまま火にかけた生米のよう、」
がしゃん。
望が、机に拳を叩きつけた音だった。
( ^ω^)「……そうやって茶化して、何が面白いんだ?」
lw´‐ _‐ノv「少年」
( ^ω^)「それともお前にとっちゃ、どこまでも他人事か」
( ^ω^)「何を見ても、どこに行っても曖昧な反応ばかり繰り返して」
( ^ω^)「俺が気付いてないとでも思ってんのか」
lw´‐ _‐ノv「それは」
-
不安が、焦燥が、怒りが。
それら全てが煮詰まったような黒い澱が、胸の裡から流れ出して止まらなかった。
( ^ω^)「お前、本当はとうに思い出してんじゃないか?」
lw´‐ _‐ノv「……違う、違うんだ」
項垂れるアカツキの姿は視界にこそ入っていたけれど、
望の心にまではとうに届かなくなっていた。
もし、間に合わなかったら。
もし。
ああ、もし、このまま。
何もできないまま── 母さんが死んでしまったら!
.
-
……もう、感情が溢れ出してどうにかなりそうだった。
( ω )「お遊びに付き合ってる余裕はない」
吐き捨てる。
( ω )「時間が……っないんだ、俺は、俺には時間が」
頭の片隅ではわかっていた。
アカツキの言葉はシッカリと覚えていた。
『ワタシには、自分には時間がない、ということしか情報がないの』
ああ。それは、どんなにか。
心細いことだろう。
lw´‐ _‐ノv「……ごめんよ」
悲しげに微笑むアカツキを見て、息が詰まる。
どう考えたって八つ当たりだった。
そうして。
翌朝。
アカツキは、姿を消した。
.
-
◆
気持ちのいい日だった。
折角整えた髪を風が乱暴に崩しても、
それすら心地よく感じられた。
「眠たいなぁ」
欠伸をする。
屋上だった。
貯水タンクに寄りかかって寛いでいた。
校庭を走り回っているのはどこの部活だろう。
いいな、楽しそうだな。
でも、まあ、僕には無縁だな。
好きなように、好きなところで、好きなふうに。
たとえば、野を吹く風のように。
あるいは、陽を浴びる緑のように。
そうやって過ごすことに憧れた。
自由で在ることを、ただ、愛していた。
.
-
.
-
母は、少しだけ心配性だった。
父は、何を考えているのかわからない人だった。
「──────! ッ──!!」
「──っ」
ああ、それでも、大好きだったなぁ。
ごめん。
もう、声も出せないの。
親不孝な僕で、本当に、ごめんなさい。
.
-
.
-
校舎の影を、茂みの裏を駆けてゆく。
いつもの抜け道。
時折通る生徒らに、気付かれないよう息を潜めて。
姿勢を低くして狭い道を駆け抜けるとき。
少しだけ、自分が風になったような気がして、高揚する。
錆びたフェンスの扉を押し開けた。
こっそり入り込む。
「今だけは、ひとりじめ。なんて」
くすくすと笑いながら靴を脱ぐ。
今日はなんだか、心地が良くて。
思い切ってタイツも脱いだ。
素足だ。
プールサイドに駆け寄った。
折角だからと腰を下ろす。
ぱしゃぱしゃと水を蹴って、満足して、そっと沈める。
揺れる水面。
それをじっと眺めるのが、好きなんだ。
.
-
lw´‐ _‐ノv
……あれ
どうして ワタシが 映 っ て
◆
-
何にも触れられないはずの身体がぐったりと重かった。
額を抑えようとしてぎょっとする。
手が透けていた。
lw´‐ _‐ノv「……ああ、思い出した」
昨夜のことだった。
望を宥めようとして、から回ったあの後だ。
意識が、急に。
何かに引っ張られるように遠くなったのだ。
そんなことは初めてだった。
ぷつり、と視界が真っ白になる寸前、
最後に見たのは透けかけた自分の両手だったはずだ。
lw´‐ _‐ノv「……」
見れば、両足も透けてきている。
少しでも気を抜くと、そのまま世界に溶けてしまいそうな心地だった。
-
いや、心地、ではなく。
恐らくは本当に。
lw´‐ _‐ノv「時間がないって、そういう」
力が入らない。
アカツキは四肢を投げ出して、
みっともなく宙に漂うようにただ、浮かんだ。
思い返す。
何度か真っ白に眩んでは継ぎ接ぎに繋がる映像は、
まるで白昼夢のようだった。
……分かっている。アレは記憶だ。
けれど、それは、アカツキのものではない。
lw´‐ _‐ノv「……きみは、いや」
lw´‐ _‐ノv「── ワタシは一体、誰なんだ」
アカツキは透けた手足を抱きしめるように、
小さくまるまった。
……少年はどうしているかな。
そんなことが少しだけ頭をよぎったけれど、
アカツキの意識は再び抗いがたい微睡みの中へ、沈み込んでゆく──
.
-
* * * * *
( ^ω^)「何が取り憑いた、だ。姿も見せずに……」
( ^ω^)「俺の知らないところで成仏でもしたのか?」
( ^ω^)「ほんと、たちの悪い冗談にも程が」
( ^ω^)「……」
望は深く、深く息を吐き出した。
落ち着け、落ち着け。
こういうときこそ冷静になるべきだ。
これまでの収穫のなさだって、焦っていたからだ。
視野が、狭すぎたんだ。
望は朝からずっとアカツキを探していた。
暁鐘館を周り、天穂神社を訪れ、
昼も取らないままバスに乗り込み、今は西湊高校前で下車したところだった。
……父を探すという目的において。
アカツキの存在は、きっと、重要とは言えないのかもしれなかった。
けれど、望はまだ、謝っていない。
だからこそ、ここで放置することだけは違うのだ。
それぐらいはわかった。
.
-
「ねえねえ、知ってる? この間の土砂崩れさ、 ──── らしいよ」
「えーっ! ほんと?」
「ん、絶対そう。見たもの、病院に ──」
.
-
( ^ω^)「……今の」
つと、風に乗って聞こえてきた会話があった。
今の話が本当ならば。
いや。
( ^ω^)(確かに、辻褄が合う)
時間がないと言っていた。
この話はきっと、かなり、重要なはずだ。
だから、早く。
一刻も早く見つけてやらなくては。
アカツキは初めから助けを求めていた。
一人ではどうにもならないから、望に声を掛けたのだ。
そして、望は、確かにその手を取った。
だから。
そう、だからこそ。
( ^ω^)(もう、一人にはしておけない)
……望の思いとは裏腹に。
すっかり日が暮れてしまってもアカツキは見つからなかった。
-
それでも探すことを諦めきれず、
夕餉を断る連絡を入れて、望はシャッターの下りた商店街を歩いていた。
そんな折だった。
( ^ω^)「……何してんだ、そんなとこで」
lw´‐ _‐ノv「その声は、少年」
アカツキはボロ雑巾が如く、外灯に引っ掛かっていた。
望に気が付き体を起こす。
そのまま、バランスを崩して落下する。
地面に思い切り顔をぶつけていた。
lw´‐ _‐ノv「なんでだよ。受け止めるところだろう、今のは」
( ^ω^)「ああ、あまりにもアホらしくて動けなか、」
( ^ω^)「……お前、その姿」
アカツキは困ったように笑う。
両足の膝から下は透けきって、ほとんど形を保っていなかった。
腕もそうだ。肘から先が消えかかっている。
……これでは立てないだろう。
望が抱きかかえてやると、胴体ですら薄らと透けかけているのが窺えた。
-
lw´‐ _‐ノv「風に流されてたんだ」
( ^ω^)「……洗濯物かよ」
lw´‐ _‐ノv「上手く旅館にたどり着ければよかったんだけど、結果はこの通り」
lw´‐ _‐ノv「箸からこぼれ落ちた米粒がごとくだよ、少年」
やれやれ、とふざけてみせるけれど。
アカツキの声はとても弱々しく、限界が近いのはどう見たって明らかだった。
( ^ω^)「アカツキ」
lw´‐ _‐ノv「ウン?」
( ^ω^)「お前、境内を出られなかったんだろ」
lw´‐ _‐ノv「そうさな、少年」
( ^ω^)「灯台もと暗しだったんだ」
( ^ω^)「天穂神社から出られないならその中に、いや」
( ^ω^)「その後ろの山にこそ理由があったんじゃないか?」
lw´‐ _‐ノv「!」
-
アカツキの表情が変わる。
ああ、そうだ。
どうしてそんなことに気付かなかったんだろう。
( ^ω^)「あの山で起きた土砂崩れ。アレに巻き込まれた、唯一の重傷者」
( ^ω^)「── 西湊の学生らしいんだ」
.
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第二幕 白昼夢 前編 終
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乙乙
-
乙!やっぱすきだな
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┌────────────────────┐
会えない日が続いたでしょう。
貴方とはいつも口約束で、
雨でも会える日があれば、晴れても会え
ない日が続いたり。
形だけの見合いだと、
心は既にお前にあるのだから、と。
貴方の言葉に安心して、
私は、慢心していたのでしょう。
共に駆け落ちを決めた日から、
貴方に会わないまま2ヶ月が過ぎようと
していました。
ひとつ言い訳をするならば、
当時の私の体調は、いつにも増して不安
定なものだったことを綴らせて下さい。
やはり、妊娠の影響が大きかったのだと
思います。
私の脆弱な身体は、情けなくも
命の重みに軋みをあげていたのです。
└────────────────────┘
-
┌────────────────────┐
いつもの場所で、
貴方を待っていたあの日。
久しぶりに調子がよく、
陽を浴びる緑が目に優しく、
頬撫でる風が心地よかったあの木陰で。
聞こえてしまったのです。
望まないのに見てしまったのです。
妊娠した、と。
お前の子を孕んだぞ、と。
あの艶やかな唇が紡ぐ言葉を。
かたい言葉とは裏腹に、緩んだ目元が心
からの倖せを語るその姿を。
いつかの見合い相手だと直ぐにわかりま
した。
愕然とする貴方の姿が、
遠目にでも、ハッキリと見えていました
から。
└────────────────────┘
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┌────────────────────┐
貴方は、知らなかったでしょう。
あのとき。
呆然とする私に、先に気が付いたのは、
彼女の方でした。
あの表情は何だったのでしょうか。
美しい顔は罪悪感の泥をかぶったように
陰り、なればこそ足早にその場を去った
のだと思います。
去った彼女から目を背けるように振り返
った貴方は、そこで漸く私に気が付い
たようでした。
ぱっと明るく輝いた瞳に、
つい、困惑したことを覚えています。
この人がわからない。
けれど、冷たく沈みそうになる心はどうし
ようもなく、目の前の無邪気な笑みに絆さ
れて、熱く、熱く、愛に燻りました。
だからこそ決心できたのだと思います。
離れよう、と。
└────────────────────┘
-
┌────────────────────┐
確かに、私の命には限りがありました。
先が見えるほどに脆弱なそれだとは、最
後まで伝えられなかったけれど。
……驚きましたか。
駆け落ちを、などと言ったのは。
きっとすぐにでも私は息絶えてしまうか
ら。
僅かな余生を貴方と過ごしたかったので
す。
私さえ息絶えてしまえば。
貴方はきっと、私たちの子を連れて、
お家にお戻りになったでしょう。
手前勝手な話だと承知していてもなお。
それできっと、収まるところに収まると、
私は考えていたのです。
けれど、けれど。
浅はかでした。
貴方には子が、お世継ぎが。
お世継ぎの母が、現れてしまったのです。
私に子がいることを告げずとも。
結婚しようと提案してくれたあの日のこと
も、また、よく覚えています。
└────────────────────┘
-
┌────────────────────┐
子どもがいるのでしょう、と。
貴方はもう父親なのよ、と。
あのときの平手打ちは痛かったですか。
赤く腫れた頬に、呆然として。
そうして私と目が合って初めて目の覚めた
ような、そんなお顔も愛おしかった。
けれど、ええ。けれども。
都会への憧れを止められなかった。
貴方の愛を振りほどいて出ていったのは、
やっぱり、私の方だったのでしょうね。
いえ、いえ。
今更強がるのも違いましょうね、きっと。
怖かったのです。
きっと妾となる貴方の見合い相手が、では
ありません。
私の子と腹違いのきょうだいとなる、その
方のお子が。
愛してあげられるか不安だったのです。
私は、きっと。
母としての責務から、逃げ出したのです。
└────────────────────┘
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第三幕 白昼夢 後編
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「はい、今日もお煎餅持ってきたよ」
お前が食べるのだろ、ヒトの子。
「まあ僕が食べちゃうんだけどね。うふふ」
全く。初めから気持ちだけで、十分だのに。
「ほんとさ、お父さんったらヤになっちゃうよね」
またその話か。
「あすこは、いい。……どう? 父さんの真似、似てるでしょ」
そうな。確かに、そんな話し方をしそうだ。
「なんで神社、毛嫌いしてるんだろ。
嫌ってるというか、避けてるって感じなんだけど」
色恋沙汰よ、それは。娘に話せないのは道理さね。
「ほんともう。僕一人で手入れするのも限界があるよなぁ」
そうさな。本当に、わざわざ山奥の小さな祠まで、
手を合わせに来ることもないだろうに
「ここの祠もボロでさ。下手に磨いたら崩れちゃいそうだもん」
おいおい、襤褸(ぼろ)はないだろう、なあ。ヒトの子、おい。
.
-
「……」
おや、珍しい日だ。泣いているなんて。
「お母さんのこと、好きだ。でも僕は」
ああ。
「僕、は……女将になんて、なりたくない。家を嗣(つ)ぐなんて、僕にはとても」
……つらいな。
「お父さんはね、婿をとってもいいって言うんだ」
それはまた。
「……時々思うんだ。あの人、人の心がないんじゃないかって」
くく。言いたいことはわからんでもない。
「わかってるよ、わかるさ。僕だってお父さんの娘だもの。
女将をやりたくないなら、若旦那に任せてもいいって言いたいんだろうさ」
優しさの分かり辛いやつだな、本当に。
「お母さんの期待を、お父さんの思いやりを、僕はきっと、裏切りたくないんだ」
……ああ。
「それでも、自由を愛しているんだ。焦がれてるんだ。
あの、何にも遮られない青空に」
.
-
「今日は少し遅くなっちゃった」
またお前か、ヒトの子。
「僕、知ってるんだ。……お母さんが、時々酷くつらそうにしていること」
それはまた。
「多分、泣いてるんだと思う。涙もでないほどに、泣いてるんだ」
……お前は本当に。よく、見えているな。
「時々ね、思うことがあるの」
ふむ。
「僕はきっと二番手で。でも、お母さんがずるしてくれて。
それで僕は一番手を押し退けて、この場所にいるんじゃないかって」
……。
.
-
「そうだったらよかったのに、なんて。
だって、そしたらさ、いつか一番手が戻ってきてさ」
それは。
「……僕のことなんて押し退けてさ、家を嗣いでくれてさ、僕は、追い出されて」
ヒトの子。
「自由になるんだ。自由に。そうして、初めて」
なあ。
「……僕は、自分がどれだけ恵まれていたのか、痛感するんだ」
あまり、自分を傷付けるもんじゃない。そら、泣いてる。
「……」
優しい子。まったく本当に。
.
-
「最近は雨が続くね」
……ヒトの子か。
「今度ね、家族でドライブに行くんだ」
それは、いいな。
「僕が参っているの、気付かれちゃったみたい」
……。
「二人とも忙しいのに、ふふ、うふふ。悪いよね。
でも、僕、なんだかすごく嬉しいんだ」
…………ああ。そうさな。
「んふふ。僕しか知らないこと、きみはぜんぶ知っているの、不思議だね」
…………悪いな、ヒトの子。ここ最近は、特に、意識が薄れて。
「僕の友人。
なんて、さすがに生意気? ……いや、不敬かな」
……ふ、ふふ。構わんよ。
.
-
「── 今日もありがとう、アカツキ」
.
-
、、、、、、、、
姿もなければ、こちらの声が届いたこともないだろうに。
あの少女は、きっと、心から。
ワタシのことを友人だと、確かにそう呼んだのだ。
.
-
lw´‐ _‐ノv「……っ」
( ^ω^)「おい。大丈夫か」
lw´‐ _‐ノv「ふ。舐めないでもらいたい」
lw´‐ _‐ノv「ワタシは茶碗にこびりつきし哀れな米粒ではないのでね」
( ^ω^)「随分と元気そうだな」
lw´‐ _‐ノv「マア、そうさな。……実際、山に入ってからは調子がいいよ」
つい先程まで白昼夢に意識が眩んでいたことは置いておいて。
胸中でそう呟きつつも、
アカツキは自身の消えかけた身体を見る。
ああ。
、、、、、、、
思い出してきた。
そして、いよいよわかってきた。
これは時間が無いから、早く思い出さなければいけないのではない。
、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、
思い出し切る前に、終わらせなければならないのだ。
.
-
境内を抜けて山に入ったあたりから、
望が抱えずともアカツキはふわりと宙を行くようになった。
( ^ω^)(調子がいいというのはあながち強がりでもないんだな)
土を踏みしめながら、望は思う。
ここは山といえど人の手の入ったそれだった。
獣道というほども荒れておらず、
立ち入り禁止の札を超えてもなお歩きやすい道が続いていた。
見上げれば車道が通っている。
通常であればバス等の通り道なのだろう。
崩れたままの土砂が道を塞ぎ、ネットがかかっている状態だった。
望は視線を前に戻す。
先を行くアカツキに迷いは見えない。
緑が深くなっていく。
ぱら、と土塊が転がってきた。
.
-
( ^ω^)「……おい」
lw´‐ _‐ノv「ん」
望は肩を汚した土を払いつつ、額の汗を拭う。
冷や汗だった。
( ^ω^)「もしかしなくても。ここ、件の土砂崩れの真下なんじゃないか」
lw´‐ _‐ノv「そうさな」
( ^ω^)「……危ないだろ」
lw´‐ _‐ノv「ごめん。もうちっとだから」
辺りもだいぶ暗くなってきていた。
足元が見えなくなるのも時間の問題だろう
望はため息の代わりに、足を動かした。
アカツキの隣まで駆け寄る。
こうなればさっさと目的を達してしまった方が早い。
( ^ω^)「あーあ、全く。俺だけ生き埋めになったらどうしてくれる」
lw´‐ _‐ノv「弔いぐらいはしてあげよう」
( ^ω^)「勘弁してくれ」
lw´‐ _‐ノv「んふ。優しいな、少年」
-
アカツキがぴたりと止まったのは、そこから少し歩いた先だった。
崩れた土砂によってガタガタの斜面が形成されていたが、
恐らくは、元々少し広くなっていた場所なのだろう。
( ^ω^)(……神社の末社のような)
ここを目指していたのだろうか。
望はアカツキに声をかけようとして、たじろぐ。
声が出なかった。
口だけが、はくはくとみっともなく動いた。
……気圧されたのだ。
lw´ _ ノv
アカツキはただ、見下ろしていた。
視線の先で崩れた石祠(せきひ)が土砂に埋もれていた。
lw´ _ ノv「……はは、は」
lw´ _ ノv「なるほど、ああ、そういうことか」
、、、、、、
lw´ _ ノv「時間がないとは、そういうことだったんだな」
しゃがみこむ。
アカツキの表情は見えない。
さら、と石祠に触れたように見えた。
.
-
( ^ω^)(……あっ)
ふっと身体が軽くなる。
身を焼くような威圧感が消えていた。
なんだったんだ。今のは。
望はじっとアカツキに目を凝らす。
一瞬。ほんの一瞬だけ。
石祠を見下ろすアカツキが、真っ白い閃光に貫かれたように見えたのだが。
見間違いだったのだろうか。
その姿にも、望の視界にも、大きな変化はない。
( ^ω^)「っおい!」
けれど。
lw´‐ _‐ノv「待たせたね、少年」
宙で身を翻し、こちらを見下ろして微笑むアカツキが。
何故だか、急に。
酷く遠い存在のように思えた。
月の気配が近付いていた。
.
-
◆
とても、とても永い間。
深くも浅い微睡みの中にあったように思う。
目を覚ましたのはヒトの子の声がしたからだ。
毎日、毎日。
飽きるのも知らずに、供え物とささやかな話題を持って訪れる少女だった。
少女の声に耳を傾けるうち、少しずつ自らの状態が視えてきた。
それはたとえば。
山を守り、土地を豊かにするための力がすっかり衰えていること。
当然だった。
もはやこの土地に、自らの名を呼ぶ者はいないに等しかった。
思えば、微睡んでいたのも単に休んでいたのではなく、
そうせざるを得ないほどに自らの存在が霞んでいたのだと。
……気付くのに、そう時間はかからなかった。
穏やかだった。
久遠にも思える時の中で、
これほどに心が凪いでいるのを感じられる日が来るとは思わなかった。
いや。
遠い昔にはきっと、あったのだろう。
そうして過ごす日々も在ったのだろう。
思い耽るにはあまりにも遠くなりすぎてしまっただけで。
-
少女を待つ時間と、話している時間との区別が曖昧になってきたころ。
しばらく雨が続いていた。
限界だった。
山は、自分自身に等しかった。
それを支えるほどの力すら、もう、残ってはいなかったのだ。
少女が両親との遠出を喜ぶのを夢うつつに聞きながら。
ああ、きっと。
これが最後の逢瀬になるのだろうと感じていた。
けれども。
あの日。
何よりも最悪な形で、再会を果たしたのだ。
.
-
滑り落ちていく山肌を、
どこか他人事のように感じていた。
山もまた、悲鳴をあげるほどの元気もなく、ただ、静かに崩れていった。
そのときだった。
流れていく土砂の先に、小さな車が見えた。
瞬間。
僅かな力を振り絞り、土砂の流れ道から弾き出す。
考える間もなかった。迅速な判断だった。
車は土砂の流れをズレて、崖に落ちかけるもキワで留まった。
土砂は横を流れていく。
多少の落石があろうとも。
このまま車の中にさえ居れば、中の者もとりあえずは安全だろう。
、、、、、、、、
ドアが開いていた。
.
-
後ろの座席だった。
急な衝撃に開いてしまったのだ。
最悪のタイミングで大きな岩が車に当たる。車体が弾む。
崖下に飛び出すように落ちていく、人影が見える。
ああ、ああ。
それは、見覚えのある、少女の姿。
、、
土砂に飲み込まれる前に少女のなかへ飛び込んだ。
それは加護だった。
荒くれだった山肌に打ち付けられ、為す術もなく落下するままにさせておけば、
その四肢はバラバラに引きちぎれていたことだろう。
ヒトの肉体は、あまりにも脆い。
砕け散りそうな身体を無理やりに繋ぎ止める。
今にも真白に眩みかける頭のどこかで、ガラガラと何かの崩れる音が響いた。
それが合図だった。
意識が遠のく。
それでも、この娘だけは、せめて。
◆
-
lw´‐ _‐ノv「……いま思えば」
lw´‐ _‐ノv「あのときの崩れた感覚は、ワタシの石祠だったのやろな」
山を降りて、境内。
望は鳥居に背を預けて、
その足元で膝を抱えるアカツキの話を聞いていた。
( ^ω^)「ついていけねー」
lw´‐ _‐ノv「目を逸らしてるのバレバレだぞ、少年」
アカツキはくすくすと笑う。
望とて、話している内容はわかる。
わかるけれど、理解が追いついていかないのだ。
アカツキの話の通りなら、まるで、彼女は。
lw´‐ _‐ノv「少年も見たろう、崩れた祠を」
( ^ω^)「……」
望の沈黙は肯定だった。
目線を下げると、何故だかアカツキは寂しそうに微笑んでいた。
lw´‐ _‐ノv「あすこに祀られていたのは」
lw´‐ _‐ノv「天穂日御神(てんすいひのみかみ)という、忘れ去られた山の神」
lw´‐ _‐ノv「……ワタシのことだよ、少年」
.
-
どこか自嘲するような響きがあった。
アカツキはぼうと遠くを見つめながら続ける。
lw´‐ _‐ノv「霞(かすみ)と消えかけた神さまは、」
lw´‐ _‐ノv「たった一人の少女を救うため。全てを投げ打ってみせたのでした」
なんて、と弱々しく零すアカツキは。
それこそ、むしろ、ただの落ち込む少女のようで。
はー、と分かりやすく息を吐く。
望だった。
髪をぐしゃぐしゃと手で乱して、柄にもないと呟いて。
( ^ω^)「……ほら」
しゃがみこんで、両手を広げた。
アカツキはぱちくりとまばたきを返す。
( ^ω^)「何を沈んでいるのか知らないが」
( ^ω^)「慰めるにも俺からは触れない。だから、お前が来い」
ほら、と。
望はそう、重ねて言う。
lw´‐ _‐ノv「……ばかだなぁ」
アカツキはほんの一瞬だけふにゃりと表情を崩すと、そのまま望に腕を回した。
首元が僅かに涙に濡れたような気がした、けれど。
それはきっと、
望の気の所為だった。
-
lw´‐ _‐ノv「少年」
( ^ω^)「ん」
抱きついたままアカツキは言う。
互いに顔は見えないけれど、そのおかげか居心地がよかった。
lw´‐ _‐ノv「ワタシのこの姿はな。そのときの、少女のものなんだ」
lw´‐ _‐ノv「もっと言うなら、少女の魂そのものなのさ」
( ^ω^)「魂?」
アカツキはウン、と頷く。
lw´‐ _‐ノv「ヒトの子の身体は無事だよ」
lw´‐ _‐ノv「というか、その為だけに力の全てを使い切ったから、
ワタシの記憶が飛んじゃったんだ」
( ^ω^)「……向こう見ずの阿呆」
lw´‐ _‐ノv「あは。これは手厳しい」
-
軽口を交わし合う元気はないようで、
アカツキは望にぐったりと身体を預けて小声で返す。
見れば、足が再び透けてきていた。
アカツキも気付いているようだった。
lw´‐ _‐ノv「そんなわけでさ」
lw´‐ _‐ノv「黄泉に引きずられかけている魂を、こうしてワタシが繋ぎ留めてる」
( ^ω^)「そりゃ要は、魂自体に入り込んで」
( ^ω^)「ナントカ現世に留めてるってところか」
lw´‐ _‐ノv「ご名答。やっぱ聡いね、少年」
ぱちぱち、とアカツキは口で言う。
肩向こうの両手が透けずに拍手しているかどうかは怪しいところだった。
lw´‐ _‐ノv「とは言え。ワタシにはもう」
( ^ω^)「時間が無い、だろ」
lw´‐ _‐ノv「ウン、その通り」
lw´‐ _‐ノv「ワタシにはもう時間が、いや」
lw´‐ _‐ノv「魂を繋ぎ止めていられるほどの、力がない」
-
lw´‐ _‐ノv「だから、手遅れになる前に」
( ^ω^)「……アカツキ。お前、死ぬのか」
望がアカツキの言葉を遮るようにして、そう言った。
幽霊だか、魂だか、神さまだか。
死ぬという言葉が果たして相応しいのかどうかわからなかったけれど、
咄嗟に出てしまったのだから仕方ない。
lw´‐ _‐ノv「そうさな、このままではね」
アカツキは声色を変えずにそう返す。
( ^ω^)「……」
lw´‐ _‐ノv「とにもかくにも。あのコに、魂を返してやらなくちゃ」
( ^ω^)「そいつの居場所はわかるのか? 大方、病院だとは思うが」
lw´‐ _‐ノv「ウン。何となくだけど」
( ^ω^)「胡散臭ぇー」
lw´‐ _‐ノv「ばっちりよ、ほんとほんと」
( ^ω^)
lw´‐ _‐ノv「じっとり見るな、こら。少年、こら」
-
lw´‐ _‐ノv「……でも、マア、場所がわかるのは本当」
lw´‐ _‐ノv「身体はもう元気だから、あとは魂を返してやるだけさね」
( ^ω^)「だったらさっさと行ってやればいい」
( ^ω^)「それで、お前の目的は達せられるんだろ」
望は立ち上がる。
屈んだままのアカツキに手を伸ばして、問いかける。
( ^ω^)「なあ、アカツキ。どうなんだよ」
アカツキはふっと微笑むと、
望の手を取って、足の透けたまましゃんと立ち上がって見せた。
lw´‐ _‐ノv「ああ、そうだ。そうやらな」
、、
lw´‐ _‐ノv「でもその前に、ワタシも少年に協力しないとね」
( ^ω^)「それは」
初めて出逢ったときのことを思い出す。
協力してもらうと、確かに望はそう言った。
それは、二人の間に交わされた約束。
ふわりと宙に舞い上がる。
望の頬に手を添えて、両の瞳に互いの顔を映した。
lw´‐ _‐ノv「なあ、少年」
アカツキは問う。
-
lw´‐ _‐ノv「君は、父に腹を立てているのだろ」
lw´‐ _‐ノv「母の願いを叶えてやりたいのだろ」
( ^ω^)「……ああ、そうだよ。何をいきなり、」
lw´ _ ノv「本当に?」
(;^ω^)「っ」
息を呑む。
水でも浴びせられるかのような声だった。
月明かりを背に立つアカツキから、目が逸らせない。
そして。
そうして、告げられる。
、、
アカツキの言う、協力──
lw´‐ _‐ノv「ワタシのこの姿は」
lw´‐ _‐ノv「── 君の腹違いの妹のものだよ、少年」
.
-
もう一度、よく考えてみるといい。
君が為そうとしていることは、一体どのような意味を持つのか。
.
-
( ^ω^)「んな、こと……言われても」
望は立ち尽くす。
アカツキは既に夜闇に溶け消えた。
たった一言。
lw´‐ _‐ノv『……もう逃げるなよ、少年』
それだけを言い残して。
-
第三幕 白昼夢 後編 終
.
-
やはりこうなるかー
乙乙
-
otu
-
乙
望はどういう選択をするかな
-
今から読むけど途中みたいだから先にレスしとく
完結したら感想書くぜ
-
┌────────────────────┐
ああ、きっと貴方を怒らせてしまうかも。
いいえ。
貴方が声を荒らげたところなんて、ついぞ
見たことがなかったけれど。
逃げ出した身でこんなことを言うのも、
おかしな話かもしれません。
それでもね。
私は幸せでした。
とても、とても、幸せだったのです。
私の腕の中には、命よりもずっとずっと、
大事なたからものがありましたから。
望と名を付けました。
彼が望むように、
どこまでも羽ばたいてゆけるように。
不思議ですね。
あの子のことを思えば、今にも倒れてしま
いそうな身体にも、いくらでも活力が湧い
たものです。
└────────────────────┘
-
┌────────────────────┐
おかげで私は生きることが出来ました。
それはもう、長く、長く生きたのです。
それでも、もし。
もしもね、最後にたった一つだけ、どんな
願いも叶うのならば。
私はきっと、もう一度。
貴方の柔らかな笑顔が見たいのです。
ああ。
本当に恵まれた人生でした。
最後に、と考えて。
そんな細やかなことを願えるのですから。
随分とまとまらなくなってしまいました。
きっと、どんなに書き連ねたとしても足り
ないのでしょうね。
ですから、このあたりで。
私は筆を置こうと思います。
ありがとう、望。
そして。ありがとう、貴方。
この短い生の中で二人と巡り会えたこと。
私は、本当に、幸せです。
内藤 悠
└────────────────────┘
-
第四幕 夜を越えて
.
-
答えが決まったら会いにおいで。
あんまり長くは待てないけれど、
ワタシはそれまで少しだけ、散歩でもして過ごすから。
少年。
君は、君が思うよりずっと、優しい子。
きっと愛されて育ったのだろ。
そうして、誰よりも愛して過ごしたのだろ。
そんなにも怯えているということは。
裏を返せば、本当は、気付いているということなのだから。
大丈夫。
怖くない、怖くない。
君ならきっと辿り着けるさ。
だから、だからこそ。
今が決断のときだ、少年。
.
-
( ^ω^)「もう逃げるなよ、か」
望はずるずると座り込む。
背中が汚れようとお構いなしだった。
もう誰もいない宙を見上げて、なんなんだ、と呟く。
アカツキの言葉が頭から離れない。
( ^ω^)「俺が、父親を見つけることは」
( ^ω^)「そうして責め立てることは、即ち」
言い淀む。
それだけでも十分情けなかった。
土をぐしゃりと握りこんで、絞り出す。
( ^ω^)「……妹の、幸せを。壊すとでも言いたいのか」
あの目は、あの声は、あの言葉は。
アカツキが言うのは、やはり。
何も知らない妹と大事な母とを天秤にかけろ、と。
果たして。
そういう意味(こと)なのだろうか。
-
……いや。
単に妹とするのは短絡的だ。
天秤に乗っているのは、ああ、妹とその家族なのだ。
妹にも当然、母がいるだろう。
もしかしたら兄弟だっているかもしれない。
そもそも妹の父の家は名家なのだろう。
母はそのことも踏まえて身を引いたのだ。
それだのに。
自分が滅茶苦茶にしてしまったら、それは、それは。
わからない、わからない。
望は頭を抱える。
( ω )「俺は、本当に……何も知らない」
嫌になった。
突きつけられたのは、
どうしようもなく浅はかな己だったのだ。
-
けれど。
望の中で、真っ黒な獣がゆらりと立ち上がる。
そうして項垂れた自分を睨め付けると低く、低く、唸り声をあげた。
知らないから、わからないから、
この怒りを呑み込めと、そう言うのか?
お前は許せるのか。
母の短い命の期限を。
望という血を引いた子の存在を。
そうして母子が過ごしてきた、短くも尊い歳月を。
何も知らず、のうのうと暮らす父を──
( ^ω^)「父、を」
望はあれっと思った。
何だ。何だろう。
今、何かが引っ掛かった。
父が。怒りが。天秤に。
天秤、に。
-
( ^ω^)「……繋がらない」
胸に巣食う怒りの緒が。
妹に、母に、二人のかけられた天秤に、繋がっていかない。
この怒りが結びつくのはいつだって父だった。
それは何も知らない父。
望が、顔も知らない父。
そう、怒りはいつだって父に繋がって、
、、、
( ^ω^)「── 本当に?」
何かが腑に落ちない。
それが何かがわからない。
胸がざわざわと煩い。
焦燥。不安。強烈な違和感、それと。
これは。
これは、何だ。
(;^ω^)
── 自分は何か、根本的な思い違いをしているのではないか?
.
-
考えて、考えて。
堂々巡りになっているのに気が付いて。
望は完全に行き詰まっていた。
( ^ω^)(少し歩こう)
服をはたいて立ち上がる。
ちら、と後ろを振り返るけれど、夜の山に入る気は起きなかった。
境内を出る。
ふらりと足が向かったのは暁鐘館だった。
とはいえ部屋に戻る気はない。
きっと、少しだけ明かりが恋しくなったのだ
( ^ω^)「あっ」
ぼうと遠目に眺めて通り過ぎるつもりだった。
ばちりと目が合った人影。
あれは。
暗くともわかる、しゃんと伸びた背。
川 ゚ -゚)「……西川さま」
驚いたようにまばたきを返すのは、
暖簾を仕舞う中居だった。
-
望は、ああ、と思う。
スイッチ、スイッチを。
西川さまと、そう呼ばれた。
ええと、西川のぞみはこんなとき──
( ^ω^)「おー…」
駄目そうだった。
頭が上手くまわらない。
望はもはや半ば投げやりだった。
西川のぞみ。
ああ、そいつ、どんな奴だったっけ。
言葉を見つけられないまま棒立ちになる望に、
中居は「あなたは」と静かに、けれども窘めるように声をかけた。
川 ゚ -゚)「心配していたのですよ」
川 ゚ -゚)「夕餉も取らず、なかなかお帰りにならないものですから」
( ^ω^)「……母さんみたいすね」
つい、ぶっきらぼうに。
望はただ普段通りに返してしまう。
中居はおや、と望を見たけれど、それだけだった。
-
川 ゚ -゚)「私(わたくし)も母でございますから」
川 ゚ -゚)「……少し、お話でもしましょうか」
表情は変わらない。
少しだけ雰囲気が和らいで、やっぱりそれだけだった。
中居は暖簾を片付けると簡素な長椅子を出してくれた。
小さな灯りの下、並んで腰掛ける。
( ^ω^)「俺の母の話を聞いてもらえませんか」
中居はええ、と頷きを返した。
川 ゚ -゚)「私でよければ」
( ^ω^)「……助かります」
先程から、望にはその簡素な受け答えがありがたく、
ごちゃごちゃと絡まった頭の中が少しずつ落ち着くようだった。
互いに、前を向いたまま。
望はほんの少し俯き気味に、ぽつぽつと語りだす。
-
( ^ω^)「もう、うんと前のことですけど、」
( ^ω^)「小さいとき。俺が落ち込んだり、泣いたり」
( ^ω^)「あるいは癇癪を起こしたりしたとき。母は腕を広げてくれたんです」
( ^ω^)「おいで、なんて言って。
……幼いころはそれが本当に好きだった」
川 ゚ -゚)「……」
一言、一言確かめるように。
あるいは懐かしむようにして望は続ける。
中居は望の言葉を待つようにして聞いていた。
思えば。
こうして母の話をするのはいつぶりだろうか。
……あるいは初めてかもしれなかった。
.
-
( ^ω^)「もう、最後にそうしてもらったのがいつだったか、
思い出せないぐらい古い記憶なんですけど」
( ^ω^)「……それでも」
( ^ω^)「自分が友人を慰めようとしたとき、自然とそうしていたんです」
アカツキの顔が浮かんだ。
驚いていたように思う。
少しだけ照れていたかもしれない、なんて言ったら
きっと騒ぐだろうな。
でも、と。
一瞬だけ見せたあの表情(かお)は。
ああ、そう悪いものではなかったはずだ。
望は思う。
自分もきっと、母にはああいう顔を見せていたのだろう。
上辺だけ繕った心のメッキが剥がれ落ちて、
呆けてしまった情けない自分を晒して、抱きしめられて。
きっと、それが心地よかったのだ。
自分にはすべてを受け止めてくれる存在がいるのだと。
温度で、匂いで、感触で。
身体のすべてで心の底から安心できたから。
.
-
川 ゚ -゚)「それは」
しんと耳を傾けていた中居が微笑む。
望は、ああ、また、と思った。
初日にも見た顔だった。
ほどけるように和らいで、心が凪いで安らぐような、それは。
川 ゚ー゚)「素敵なものを、お母さまからいただきましたね」
、、、
── 母の顔だった。
胸に優しさが染み込むように、じんわりと暖かくなる。
( ω )「……」
望は気付く。
中居の慈しむ瞳は、柔らかな言葉は、
ここにはいない母を思い起こさせるのだ、と。
川 ゚ -゚)「差し出がましことを申しますと」
川 ゚ -゚)「旅行から帰られましたら、そのお話、きっとお伝えさしあげて」
川 - -)「どのような土産物より、喜ばれると思いますから」
ぽつり、ぽつりと。
中居にしては珍しく、ゆっくりと言葉を編むと、
返答を待つでも、急かすでもなく静かに目を伏せた。
-
望はというと。
初日は端の方にちくりと感じるだけだった胸の痛みが、
いよいよ無視できないほどになっていた。
もう見ないふりは通用しない。
その正体なぞ、思えばとうに割れていたのだ。
、、、
罪悪感だった。
望は母のことを思い出すと、罪悪感に胸が痛むのだ。
それは、気付かなかったのではなくて。
気付いていてなお、目を逸らしていたことで。
胸につかえていたものがストンと落ちるようだった。
( ;ω;)
ぼろぼろと止まらない。
涙、涙が。
頬が熱く濡れて、隠そうと俯けば俯くほど
顔にかかる髪が濡れそぼってゆく。
-
川 ゚ -゚)「母というものは」
川 ゚ -゚)「子が思う以上に、子を想う生きものなのですよ」
望の目元にそっとハンカチをあてながら。
中居はどこか独り言のように目を伏せたまま、そう呟いた。
-
◆
あの日。
動けなかった。
息をするのも忘れていた。
強く頭を殴られたような衝撃だけが望のすべてを貫いていた。
( ω )「なんだよ、これ」
やっとのことで絞り出した声は、どこか恨みごとのように響いて。
そんな自分が酷く、酷くみっともなくて、嫌になった。
母が隠していた手紙には。
どう見たって、父への愛が綴られていたのだ。
どうして。
どうして。
知らないことばかりだった。
知ろうともしないことばかりだった。
母は、なんにも教えてはくれなかった。
全てを隠し通した。
この手紙だって、望にでは無い。
── 顔も知らない父宛てだ。
.
-
望は腹を立てた。
それは、母を裏切った父に。
その僅かな余命も知らず、アッサリと手放した父に。
深い深い愛情も知らず、無責任に生きているであろう父に。
……では、ない。
深い深い父への愛情も知らず、
無責任に二人の仲を引き裂いていたその出生に。
知らない土地で、誰の助けもなく子を育てるその苦労も考えず。
ただ母と二人で力を合わせて生きてきたのだと、
無責任に結論を出していたその浅慮に。
何よりも、それだけ業腹な己でありながら。
いくら、いくら思い返しても。
母との生活が心の底から幸せでならなかった自分自身にこそ、心底怒りが沸いたのだ。
ああ。
とても、聞けやしなかった。
いくらあのように書いていようと、直接は。
母さん。
あなたは本当に幸せだったのですか。
.
-
もし、もしも、そうではなかったのだとしたら。
いったい何が俺の贖罪となるのですか。
◆
.
-
中居に礼を言って暁鐘館を離れた。
心配するでも、引き留めるわけでもなく、
「お気を付けて」と、ただお辞儀を返してくれたことが有難かった。
夜闇はいよいよ濃くなっていた。
( ^ω^)「……」
バス通りを辿るように歩いた。
街灯の少ない道だった。
このまま暗がりに溶けてしまえたら、どんなに楽だったろうか。
けれど、けれど、歩みを止めることはしなかった。
望は思う。
自分は、恐ろしかったのだ。
幸せな母の日々を引き裂いたのは、自分だったのではないか。
手紙を読み終えて最初に感じたことは、それだった。
自分は、自分が。
そんなはずはないと簡単に一蹴出来ないことが、
どうしようもなく怖かった。
だって、そうじゃないか。
母の隣で何も知らずに、のうのうと生きてきたのは。
他の誰でもない。
── 望自身だったのだから。
.
-
この胸に巣食う怒り。
その正体は不安だった。恐れだった。
とにかく全てが怖かった。
自分自身の存在に対する疑問を、見ないふりしていたのだ。
逃げていた。
逃げ続けていた。
浅ましくも。
母に対する自分自身の贖罪を、顔も知らぬ父の虚像に押し付けてまで。
( ^ω^)「もう逃げるなよ、か」
( ^ω^)「言い得て妙だったよ。アカツキ」
返事はない。
まだ、ここにはいない。
望は歩いて、歩いて、歩き続けた。
空が遠かった。
深い、深い、深い夜の底は酷く心細くて。
-
アカツキは今、どうしているだろう。
当て所なく漂っているのだろうか。
次第に透けてゆく身体で、
ひとり、自身の消失と向き合っているのだろうか。
ああ、それは。
( ^ω^)(急がないとな)
望は内心でそう呟いて、前を見据えた。
夜は確かに深いけれど。
それだけ朝も近付いているのだ。
-
どれだけ歩いただろうか。
ようやく見慣れたバス停が見えてきた。
西湊高校前だった。
( ^ω^)(おそらく、だけど)
望は裏門の方まで回る。
暗くてよく見えない中、
手探りでフェンスの穴を見つけるとそのまま潜った。
静かだった。
昼間とはまさに打って変わって、といった様子だった。
あれだけ濃密だった人の気配はすっかり鳴りを潜めて、
望は、なんとなく世界に自分一人だけのような気すらしていた。
けれど、そんなことはないのだ。
自分には待たせている人がいるから。
錆びついたフェンスを押し開ける。
何の根拠もなかった。
けれど、きっとここにいるような気がした。
-
「少年」
聞きなれた声。
けれど、姿が見えない。
( ^ω^)「なんだよ、ついに全身透けたのか?」
うふふ、と。
笑い声はプールの中から返ってきた。
近寄って、水面を覗き込もうとして息を呑む。
アカツキはぷかりと浮いていた。
ああ。
望は歪みそうになる顔を、震えそうになる声を堪える。
( ^ω^)「悪い。遅くなった」
ちゃぷ、と。
水の中へと手を差し伸ばす。
アカツキが掴んだのを確認して、そのまま身体を引きあげた。
-
lw´ _‐ノv「こんな夜更けに。無茶するなあ、少年」
アカツキは、もう顔まで透けてしまっていた。
その姿はいやに儚げで、幽美を体現したかのように清澄で。
なんだか、悲しいぐらい神々しかった。
lw´ _‐ノv「……なんとか言ったらどうなんだ、ほらほら」
純粋で、穢れのない存在。
それは今にも世界に呑み込まれてしまいそうなほどに。
( ^ω^)(なんて)
はー、と望はため息をつく。
安堵からだった。
正直なところ、この場所で見つからなかったら
途方に暮れていたことだろう。
そんな望を知ってか知らずか、アカツキはどこか嬉しそうだった。
lw´ _‐ノv「どうせ、ここまで歩いてきたのだろ」
( ^ω^)「こんな遠くにいるとは思わなかったんでね」
lw´ _‐ノv「米は自由で気ままさね。鳥に運ばれ、どこまでもよ」
( ^ω^)「食われてんじゃねえか」
-
ふと。
アカツキの細められた瞳の中に、望は自身の顔を見た。
笑っていた。
それはどこか、憑き物が落ちたような顔だった。
自身を見つめて黙り込む望に、アカツキはふふ、と優しく微笑む。
lw´ _‐ノv「さあ。行こうか」
lw´ _‐ノv「もう答えは出てるんだろ、少年」
頷く代わりに、望は差し出されたアカツキの手を取った。
月明かりの下。
宙を行く少女とその手を握る少年の姿はどこか幻想的で、
それでいて、どこにでもいる仲睦まじい兄妹のようだった。
-
第四幕 夜を越えて 終
.
-
おつ
-
終幕は本来一話分ですが、時間の都合上今日、明日の二回に分けて投下します
最後までお付き合い頂ければ幸いです
-
娘が目の前で落ちていった。
.
-
あの日のことは忘れられない。
きっと、笑おうとしたのだろう。
私たちの顔を見て、きっと、きっと。
だからこそ。
どうしようもなく悲しげに歪んだ娘の顔が、
、、、、、、、、、、、、、
一瞬のうちに土砂に呑まれる映像が、脳裏に焼き付いて離れない。
ばちがあたったのか。
私の罪に対する報いが、これなのか。
掠めとった愛など。
強奪して享受する幸せなど。
そんなものが認められるはずもなかったのか、と。
そんな思いが全身を貫いた。瞬間。
絶叫していた。
己のものとは到底信じられないような声だった。
.
-
終幕 暁天に臨む
.
-
◆
川 ゚ -゚)(どこから間違えていたのだろう)
明槻純(じゅん)は月の下、一人ぼんやりと長椅子に腰掛けていた。
望が去ったすぐ後のことだった。
後頭部にまとめた、少し前までは真っ直ぐに下ろしていたはずの髪に触れる。
土砂崩れに巻き込まれたあの日以来、ストレスからか随分と傷んでしまっていた。
川 ゚ -゚)(今、この時期に)
川 ゚ -゚)(のぞみと名の付く子に出逢うとは、何の因果か)
純は思い返す。
自らの冒した罪のことを。
見合いの席を設けたのは実家だった。
広大な畑を所有する富裕農家である純の家は、当時、度重なる不作に喘いでいた。
次女であり、また顔立ちのよい純は時代錯誤甚だしくも、
結納金目当てに様々な縁談を組まされたものだった。
……とはいえ。
突き離すような言葉遣いに、石のごとく表情の変わらない純は
どこに出しても突き返されるお荷物でしか無かったのだが。
ある日のことだ。
ピッタリの変人が見つかったと、嬉々として父が縁談を持って帰って来た。
この時ばかりは純も、とうとう物好きな老爺にでも
売られるのだろうか、と腹を括ったものだった。
-
それが明槻の家だと聞いたときは呆然とした。
次いで、ありえないと純は噛み付いた。
そのような見合いなど顔を出すまでもない、と。
川 ゚ -゚)『明槻だと? 地主じゃないか』
川 ゚ -゚)『それも、立派な旅館を切り盛りするお家だ。女将にでもなれと言うのか?』
場合によっては、と浮かれ調子で答える父に絶句する。
だが、続く言葉にはそれなりの説得力があった。
要は、若旦那がオカシイのだと。
それ故に、明槻の家が縁談を持ちかける前に
先制するかの如く断られることが続いているのだと言う。
そのような状況でこちらから申し入れれば、
それは互いに渡りに船というものだろう、と。
確かに、明槻の家の不可思議な若旦那の話はそれなりに有名だった。
何を考えているのだかわからない。
白痴なのではないか。
ふらりと現れたかと思えばふらりといなくなる。
一回りも歳下の少女を手篭めにしている。
.
.
.
……当時の噂を数えればキリが無かった。
改めて考えてみれば縁談を持ちかける前に断られるというのも、
案外本当にその通りなのかもしれなかった。
なにより、純の父は縁談を持ってきた、と言ったのだ。
……明槻の家は、既に受けることを了承していたのである。
.
-
*
純の家で行われた夕食という名の顔合わせの間も、両親ばかりが話していた。
純は投げやりだった。
見合い相手とは目も合わせなかったはずだ。
いくら体のいい言葉を並べようと、
結納金目当てに組まれた縁談だということは隠しようがないとすら思われた。
だから、その晩。
通された部屋に〝大きな布団〟が敷かれていても、驚くことはなかった。
見合い相手は湯浴みからまだ戻ってきていなかった。
あまりの浅慮に笑けてくる。
既成事実を作らせようとは、両親も大きく出たものだといっそ感嘆した。
川 ゚ -゚)『……』
純はあえて布団の上に座り込んだ。
どうせ眠るときはここに入るしかないのだ。
どこか、諦めるような心地だった。
二時間もだらだらと食卓を囲んでいたというのに、
純は相手の名前どころか、まともに顔も覚えていなかった。
だから、今さらになって。
このような縁談を形だけでも受けるなど、
いったい全体どんな変わり者が来るのだろうかと、ほんの少しだけ気になった。
-
ところが。
少し経って現れたのは、吹けば飛びそうな青年だった。
白く、細く。
とにかく華奢な印象を覚えた。
それとはアンバランスに、転んだのか、擦ったのか、
ところどころ生傷が目立っていた。
それを差し引いてもなお変わり者という印象は、
あまりにも幽美な雰囲気がうつくしいの一言で上塗りしてしまった。
(#゚;;-゚)『なるほどね』
青年はゆっくりと、彼の周りにだけ
特別に穏やかな時間が流れているかのように呟く。
す、と純に視線が向けられた。
それだけで心臓が跳ね上がるように思いだった。
(#゚;;-゚)『……大丈夫』
表情がたおやかに緩められる。
あまりにも優しい声は、こちらへ届く前に溶け消えてしまいそうな気さえした。
(#゚;;-゚)『きみの恐れているようなことは、なにもないから』
(#゚;;-゚)『せめて、今夜だけは。ゆっくりとおやすみ』
青年はそう言うと布団に入ろうともせず、
部屋の端へただ腰を下ろして壁に背を預けた。
そのまま眠るつもりだと気付いたのはそっとまぶたが下ろされたから。
-
長い睫毛だと思った。
純は、正面に近付いた。
そして。
次に見たのは驚きに見開かれた瞳。
ああ、こんな表情も出来るのかと、
青年の虹彩に頬を上気させた自分自身の顔を見た。
再度、口付ける。
そのまま腰へと腕を伸ばした。
青年の平たい胸に頭を押し付けて、囁く。
川 ゚ -゚)『心臓とは、こんなにもうるさく為るものだったのですね』
川 - -)
目を閉じた。
見合い相手に敬意を向けるなど、初めてだった。
どうやって話すのだったか、と純は一瞬間だけ考えたのだ。
川 ゚ -゚)『……こんなにも、あなたの近くにございますのに。
私(わたくし)の音しか聞こえないのです』
馬鹿みたいに聞こえるだろう。
けれども、このとき。
私は本心から恋をしていた。
運命だと思った。
純に対して自然と思いやる言葉を向けた人間は、青年が初めてだったのだ。
はだけた浴衣に汗が染み込む。
上がり続ける体温は、彼のしなやかな腕の中で身体を溶かすに充分だった。
-
ああ。
-
、、
純は全てを聞かされていた。
当日になって目も合わせなかったのは、
両親の道具として自らがこの場にあるということよりは、むしろ、見合いの直前に。
青年── 明槻祢(でい)が、
既に誰かのものであるのを知ってしまっていたからだった。
はじめから純を本心から求めるとも思えない者に、
興味など沸かなかったのだ。
一回りとはいかないまでも、歳下の恋人がいるという話だった。
ふらりと行き先も告げずに外に出るのは、
恐らくお家には内密の仲だったであろうことが伺えた。
恋人というのは部落の出身で、この辺りでは、
決して地主が婚姻を結べるような明るい籍ではなかったのだ。
……あるいは。
明槻の家はそれを承知した上で
今回の縁談を受けたのかもしれなかった。
お飾りの妻と、内縁の妾。
次代のお世継ぎさえも、生まれてしまえばどちらの子でも良かったのではないか。
本当に両親もよく調べたものだ。
しかもそれをだからやめようではなく、
だから奪えと言ってきたのだから、呆れてものも言えなかった。
.
-
けれど、それでも。
妊娠を彼女の前で伝えてしまったのは事故だった。
あのときは、ただ、嬉しくて。
あんなにも残酷なことをするつもりはなかったのだ。
……いや。すべては言い訳だった。
純は自らの意思で、相手がいる男に迫ったのだから。
心から愛していた。もう譲れなかった。
帰ったふりをして、彼女とあの人が話し終わるのを待っていた。
.
-
遠くで、頬を張る音が響いた。
それは自らが受けるべき痛みだと思うと、
純は飛び出しくなる気持ちを無理やり押さえつけた。
その怒りは。
そのやるせなさは。
自分こそが受けるべきものだろうに、と
けれど。
ζ(゚ー゚*ζ
遠目にもわかった。
彼女の瞳は、怒りに塗れてもいなければ、
悲しみに濡れてすらいなかった。
なんて、なんて強いひとなのだろうと思った。
純はその場を去る彼女を追った。
そうして全てを話したのだ。
見合いのことも。
両親のことも。
あなたのことを知っていたのだということも。
そのうえで、私から迫ったのだということも。
殴られてもよかった。
むしろ、そうされることで赦されたかったのかもしれない。
けれど、けれど。
彼女はただ、ふにゃりと笑った。
-
そうして純はまた全てを伝えられた。
彼女のお腹の存在も。
付けられた名前も。
僅かな余命も。
何故そんなことを、と問おうとして飲み込んだ。
聞かなくたって頭では分かっていた。
それは、きっと。
川 - )(きっと私が、わだかまりを抱えぬように)
身を引くのはあくまで自らの都合であり、純には何の負い目もないのだと。
だから、胸を張って過ごせるのだと。
それこそが祢の幸せに繋がると、彼女は心から信じていた。
ζ(゚ー゚*ζ『……だからね』
ζ(゚ー゚*ζ『あなたは、なにも。なにも、心配することなんてないんだわ』
ζ(-ー-*ζ『私はもう、死んでしまうのだから』
それを別れ言葉に、
二度と会うことはないだろう後ろ姿を見て、純は唐突に彼女の強さを理解した。
彼女は既に〝母〟だったのだ。
川 - )『私、は』
あまりにも脆く、弱く、醜く。
それでも彼女のようになれるだろうかと、
自らの肚に触れてただ、呆然とした。
-
そうして純は、何もかもを己の中に留めた。
娘にも、祢にも、伝えはしないと。
それがどんなに辛くとも、すべてを呑み込むことを自らに誓った。
自身の行いに向き合う為に、
それをせめてもの償いとしようと、そのつもりだったのだ。
時々、酷く胸を苛むような辛さに身を裂かれるような夜があった。
けれどもやはり、誰にも話しはしなかった。
……いや。
娘は聡い子だから、何か気付くところがあったのかもしれない。
それでも。
それでも、純は。
この業は己こそが背負うべきものと決め通してきたのだ。
川 - )「ですから、どうか」
娘のことは見逃してください。
どうか、どうか、連れていかないで。
純は誰に祈るでもなく、ただ、小さく零した。
◆
.
-
lw´‐ _‐ノv「さあついた」
先導していたアカツキがとん、と軽く飛び乗ったのは閉まった門扉だった。
満足げに見下ろすアカツキの姿越しに、望は真っ白な外壁を見る。
夜闇の中でも目につく赤十字。
病院だった。
( ^ω^)「思ったより大きいのな」
見上げて数えると四階建てだった。
併設されている駐車場も広く、
院の周囲には幹の太い木々が青々と枝葉を伸ばしていた。
lw´‐ _‐ノv「入ろうか」
( ^ω^)「待て待て待て」
望は閉まった門扉を掴み、がしゃんと鳴らしてみせる。
アカツキは軽く飛び乗ったが、望の肩ぐらいの高さはあった。
よじ登れそうな取っ掛りもなく、
そもそもそんな所を病院の窓からでも見られれば通報は免れない。
-
( ^ω^)「……正門から入るのは厳しそうだな」
lw´‐ _‐ノv「ふうん」
( ^ω^)「他人事のような顔しやがって」
lw´‐ _‐ノv「重たい身体に縛られるとは不憫よの、少年」
( ^ω^)「ハァ〜〜〜〜〜〜?」
アカツキは門扉の向こうに降りると、
馬鹿にしたようにひらひらと手を振ってみせる。
その時だった。
きら、と。
懐中電灯の明かりが見えた。
(;^ω^)「っ」
望はすぐに門扉から離れると近くの茂みに身を隠した。
懐中電灯の持ち主は望に気が付いた様子もなく、そのまま通り過ぎてゆく。
lw´‐ _‐ノv「心臓縮んだか、少年」
(;^ω^)「それなりに」
いつの間にやら背後にいたアカツキが囁く。
はー、と息を吐き出すと、望は今の人影を考えることにした。
-
( ^ω^)「今の、警備員だよな。恐らく巡回してる……」
lw´‐ _‐ノv「ふむ」
( ^ω^)「おーい、意味わかってんのか」
( ^ω^)「余計に下手なことはできなくなったっつーことだぞ」
lw´‐ _‐ノv「ええ。なんだよ、開けてもらえばいいじゃないか」
( ^ω^)「はあ?」
lw´‐ _‐ノv「お願いする、開けてもらう、入る」
lw´‐ _‐ノv「完璧な計画じゃないか……」
( ^ω^)「アホ言って自分で感嘆するなあほ」
( ^ω^)「お願いして開けてもらうなんて……」
望の中にひとつ引っかかるものがあった。
お願いして、開けてもらう。
そういう状況は果たして本当に存在し得ないのか?
lw´‐ _‐ノv「なんだよう。不貞腐れたからって置いてかないでって」
( ^ω^)「……」
望はぐるりと歩いて病院の裏へ回る。
明かりのついている部屋がすぐそこに見えた。
-
( ^ω^)「あれ。多分、事務室だ」
lw´‐ _‐ノv「事務室?」
( ^ω^)「さっきの警備員が待機するとこだよ。ほら、戻ってきた」
lw´‐ _‐ノv「あらまあ。お願いする気になったの?」
( ^ω^)「そう。で、そこの裏口から入れてもらう」
lw´‐ _‐ノv「……ふうん」
アカツキの目が楽しげな色に変わる。
その視線を追わずとも、
望は自分の足がほんの少し震えていることに気が付いていた。
( ^ω^)(何を怯えているんだ)
ぱし、と両頬を叩く。
震えは武者震いと捉え直す。
簡単だ。いつも通りにやればいい。
今回は〝夜間に病院に入るための自分〟を定義する、それだけだ。
( ^ω^)「役作り(こういうの)は得意なんだ、見てろ」
望は癖のようににっこりと緩んだ口端を引き締める。
そうして衣服と髪とを少しだけ乱した。
それはまるで〝慌てて家を出てきた〟かのように。
-
( ^ω^)(夜間だ。事故……は、ダメだ。救急車がないんじゃ違和感が目立つ)
( ^ω^)(なら)
裏口へ立つ。
チャイムを押すと、すぐに先程の警備員が出てきた。
(,,゚Д゚)「どうされました?」
(;^ω^)「あ、のっ母、母が……!」
望は息を切らす。ぜはぜはと肩で呼吸する。
〝慌てて走ってきた〟のだ。
〝急ぎたい気持ちがはやり過ぎて、身体がついてこない〟のは突然だった。
(; ω )「危篤だと連絡が、あって」
瞳を涙で潤ませる。
ぐ、と服の裾を掴む。整わない息を無理やり飲み込む。
〝焦燥感〟と〝不安感〟
そして、突然のことへの〝戸惑い〟が胸を占める。
警備員の表情に焦りの色が現れるのを望は見逃さなかった。
こちらに感化されているのだ。
望はあえてそれ以上言葉を重ねない。
じっと警備員の返答を待った。
-
警備員は言いづらそうに口を開く。
同情心に揺れているのが手に取るようにわかった。
(,,゚Д゚)「それは大変だが……。坊や、保護者の方は他にいないのかい?」
( ω )「……父は」
望はふるふると顔を横に振った。
それは慣れた動作だった。
、、、
〝父はいないのだ〟
警備員の顔色がさっと気の毒そうなものに変わる。
それもまた見慣れた変化だった。
( ω )「母はたった一人の家族なんです」
絞り出す。
ぽたり、と堪えていた涙が地面に落ちた。
〝望に父はいなかった〟
〝母は随分と前から入院している〟
〝毎日会いに通っている〟
〝今朝だっていつも通り、穏やかな顔をしていた〟
〝なのに、こんなにも急に〟
( ω )(……ああ)
望は頭のどこかではたと気付く。
これは、未来の自分の姿だ。
そう遠くない未来に、もしかしたら有り得る自分自身。
.
-
〝早く入りたい苛立ちを隠して激情を呑み込む〟
決して相手にはぶつけない。
情に訴えるというのは、決して力を使ってはいけないのだ。
( ω )
瞳で、その視線で、息遣いで訴える。
感情を抑え込む。その姿を向こうの目に焼き付ける。
「それは」と。警備員が口を開いた。
(;,,-Д-)「……」
かける言葉が見つからない、そんな意味の感じられる空白。
重たい沈黙が降りる。
望はまだ言葉を呑み込んでいた。
じっと、警備員の言葉を待っていた。
(;,,-Д-)「急いで行ってあげなさい」
望は一拍置いて、こくりと頷く。
ぱたぱたと目元に溜まっていた涙が頬に零れ落ちた。
( ω )「あり、がとう…っございます」
涙の温度で喉が焼ける、ような錯覚。
気まずそうに目を逸らした警備員が
開けてくれた扉から、目元を乱暴にこすって院内に駆け込んだ。
-
lw´‐ _‐ノv「やるじゃないか、少年。迫真だったよ」
走る望の肩に手をかけて、
宙に続くアカツキがそっと声をかける。
( ^ω^)「当然だろ。〝内藤望〟を何年やってると思ってんだ」
共犯者じみた視線が交錯すると、
どちらからともなく、くすくすと笑いあった。
.
-
◆
( ^ω^)『なあ、アカツキ。お前、どうして〝アカツキ〟と名乗るんだ』
繋いだ手を眺めながら、望はつと尋ねた。
病院までの道行だった。
( ^ω^)『本当は天穂ナントカってご大層な名前があるんだろ』
lw´‐ _‐ノv『あは。天穂日御神(てんすいひのみかみ)だよ』
( ^ω^)『覚えられるか』
lw´‐ _‐ノv『ちょーっと前はみんな覚えててくれたんだけどなぁ』
( ^ω^)『神様スケールのちょっと前やめろ』
lw´‐ _‐ノv『んふふ』
一つはね、とアカツキは言う。
少しだけ遠くを見つめるように、胸の中の暖かなものを抱きしめるように。
lw´‐ _‐ノv『大事な友人から貰ったあだ名が愛おしくて』
( ^ω^)『……その友人、自分の苗字と同じ名前付けてないか?』
lw´‐ _‐ノv『んふ。おかしいでしょ』
lw´‐ _‐ノv『センス悪いからあげるって。そう言ったの』
( ^ω^)『とんでもねえ』
lw´‐ _‐ノv『有難い言葉らしいからきっといいよ、いいねいいね、アカツキ!って笑ってた』
lw´‐ _‐ノv『可愛いでしょう、うちの子は』
( ^ω^)『親バカなのか友人なのかハッキリしろ』
-
lw´‐ _‐ノv『……あと、もう一つは』
アカツキはひとしきり笑ったあと、
宙でくるりと回って望の方に向き直った。
lw´‐ _‐ノv『たった二人の友人がね、そう呼んでくれるからかな』
そうして、心底嬉しそうに。
まるでたいそうな秘密を打ち明けるかのように潜めた声でそう言った。
それがなんだか妙に可笑しくて、望は笑った。
なにやい、と口を尖らせるアカツキに「いやね」と本題を切り出す。
( ^ω^)『名前が聞きたかったんだ、まどろっこしいから』
( ^ω^)『── 俺の妹のさ』
アカツキは目を見開いたあと、優しい声で告げた。
それはまるで、大事なたからものを自慢するかのように。
lw´‐ _‐ノv『秋(あき)だよ、明槻秋。実りの秋、豊穣の秋。いい名前でしょ』
( ^ω^)『……そうだな』
lw´‐ _‐ノv『そして。まどろっこしいのはきみの話の切り出し方だ、少年』
( ^ω^)『おいこら顔に指を突きつけるな』
lw´‐ _‐ノv『どうせ透けてるんだからいいでしょ』
(;^ω^)『突き刺すな!!』
lw´‐ _‐ノv『あは!あははっ』
.
-
望はじゃれつくアカツキをいなしながら、
すこし、ほんの少しだけ、この時間がずっと続けばいいのにな、と思った。
なんだか楽しい夢を見ているような心地だった。
一面に降りた夜の帳が、
つらいことを覆い隠してくれているような安心感があった。
けれど、それが、夢ならば。
自分には帰るべき現実があるのだと、
望自身が理解しているということでもあるのだ。
( ^ω^)『なあ、アカツキ』
lw´‐ _‐ノv『うん?』
( ^ω^)『俺さ、アカツキに言われてずっと考えてたんだ』
( ^ω^)『自分は何から逃げてるんだろうって』
lw´‐ _‐ノv『……』
アカツキは宙を降りて、地面に足をつけた。
望の手を掴むとその隣を歩く。
-
( ^ω^)『── 弱さだった』
( ^ω^)『俺は結局、自分の弱さから逃げてたんだ』
言い切った。
それこそが、望の出した答えだった。
望は前を見据えたまま、確かめるように言葉を紡いでいく。
( ^ω^)『要は、向き合うのを避けてたんだ』
( ^ω^)『俺は母さんに嫌われているんじゃないかって、
そんなことを考えるのがすごく、すごく怖かった』
( ^ω^)『だから全部、見たことも無い父のせいにして』
( ^ω^)『罪悪感も何もかも押し付けたりして』
( ^ω^)『……情けないだろ』
lw´‐ _‐ノv『うん、うん』
lw´‐ _‐ノv『よしよし。頑張ったねぇ』
( ^ω^)『何をお前、ふやけたような顔して』
lw´‐ _‐ノv『うんうん、えらい、えらい』
はー、と望はいつもの長いため息を吐き出して、頬を掻いた。
アカツキが手を繋いだまま、
抱きつくように身を寄せてくるのはひどくうっとおしかったけれど。
それでも、振り払う気はしなかった。
-
( ^ω^)『だからさ』
望はそのまま続ける。
( ^ω^)『父を……いや、父さんを。探すのはやめにする』
、、、、、
( ^ω^)『あとは大事な友人(アカツキ)の所用を済ませて。
そうしたら俺は帰るよ、母さんのところに』
lw´‐ _‐ノv『……あは』
( ^ω^)『俺がすべきなのは謝らせることでもなければ、謝ることでもない』
きっと。
きっと、そう。
( ^ω^)『母さんに残された時間を、できる限り一緒に過ごすこと。
そして、少しでも多く感謝を伝えることだったんだ』
( ^ω^)『ああ、本当。それだけでよかったのに』
( ^ω^)『……随分と遠回りしたな、全く』
そう言ってはにかむ望を横目に、
アカツキはやっぱりふにゃりとした顔でよしよし、と繰り返していたのだった。
◆
.
-
ではまた夜に
-
乙乙
-
乙
-
lw´‐ _‐ノv「んー、ん」
lw´‐ _‐ノv「大丈夫。おいで、少年」
( ^ω^)゛
望は指示に従いながら院内を進んでいた。
アカツキが斥候のように先を確認しては、その後ろに続くというスタイルだった。
lw´‐ _‐ノv「なんというか。拍子抜けだね、歌いたくなる」
( ^ω^)「……そこまでお気楽にはなれないが、まあ」
院内は静まり返っていた。
事務室か、休憩室か。
それらしき場所には明かりがついて人の気配があったけれど、
外の警備員のように見回りをする者はいないようだった。
アカツキによると、秋は四階の部屋らしい。
上にあがる階段は何ヶ所かあったが、
今は地図を見て、明かりのついている部屋から最も遠い箇所を目指していた。
( ^ω^)「恐らくだけど、見回りは持ち回り制なんじゃないか」
( ^ω^)「2時間ごとか、短くとも1時間ごとだと思う」
lw´‐ _‐ノv「とすると?」
( ^ω^)「……短くてあと20分ほどで、院内は自由に歩けなくなる」
lw´‐ _‐ノv「なら、すこし急ごうか」
望は頷く。
目当ての階段はすぐそこだった。
-
lw´‐ _‐ノv「なあ、少年」
( ^ω^)「ん」
望の横をふわりと漂いながらアカツキが声をかけた。
一階と二階の間。
ちょうど登り始めて最初の踊り場だった。
lw´‐ _‐ノv「少しだけお話をしようか」
望が返事の代わりに立ち止まろうとすると、
アカツキがそのままでいいよ、と続ける。
だから、望はそのまま階段を上り続けた。
二階だ。
室内の明かりに照らされて窓の外に木々の枝葉が見えた。
まずね、とアカツキは切り出した。
-
lw´‐ _‐ノv「少年はツヤツヤの新米なわけよ」
( ^ω^)「のっけからわかんねぇよ」
lw´‐ _‐ノv「あは。いいよ、わかるから」
( ^ω^)「はあ?」
lw´‐ _‐ノv「だから。そのまんまでいいの、そのまんまがいいの」
( ^ω^)「……」
lw´‐ _‐ノv「おいしいお米はみんなに愛される。真理でしょ」
( ^ω^)「……いい話したみたいな顔してるけどサッパリわからんからな」
lw´‐ _‐ノv「がーん」
( ^ω^)「せめて表情を変えて言え」
lw´‐ _‐ノv「おやこれは。演技指導かな、少年」
( ^ω^)「はー?」
lw´‐ _‐ノv「ふ、ふふ……少年先生じゃないか。あは、あははっ」
( ^ω^)「楽しそうで結構だな…」
ちら、と階層の表示が目に入る。
三階だ。
.
-
lw´‐ _‐ノv「じゃあこういうのはどうかね」
( ^ω^)「どういうのかによる」
lw´‐ _‐ノv「少女の話をしよう」
lw´‐ _‐ノv「少年の妹でもある、ワタシの友人の話」
( ^ω^)「……」
何と返したものか、と望の視線が空を彷徨う。
別段、秋という少女に悪い印象はないのだ。
ないのだけれど。
なんとなく、ばつの悪さを感じてしまうのも事実だった。
そんな望を知ってか知らずか、
気にも留めずにアカツキは話し始めた。
lw´‐ _‐ノv「あの子はね。広い、広い青空がよく似合う子なんだ」
lw´‐ _‐ノv「きっと鳥に憧れているんだろうさ。
もっと言うなら空を翔ける、その自由な在り方に」
憧れているんだよ、と言う。
アカツキはどこか遠い目をしていた。
( ^ω^)(何かを、思い出そうとするかのような……)
望がその表情を見ているのにも気付かずに、
アカツキはぼうっとした様子だった。
-
lw´‐ _‐ノv
改めて見ると。
アカツキこ身体はどこがと言わず、
全体がうっすらと透けてしまっていた。
外が暗くて気付かなかったのだ。
望はハッとする。
そうだ。
、、、、、、 、、、、、、、、、、、
このままでは、アカツキは死んでしまう。
確かにそう言っていたではないか。
もしかしたら、既に。
アカツキに残されている時間は、院内を自由に歩けると仮定した時間より、
ずっとずっと残されていないのではないか。
(;^ω^)「おいアカツキ、お前の時間は」
慌てて声をかける。けれど。
アカツキは上の空のままに望の言葉を遮った。
lw´‐ _‐ノv「ああ、そうか。そうだったのか」
lw´‐ _‐ノv「なあ少年。わかったんだ」
(;^ω^)「……何が」
lw´‐ _‐ノv「プールに行ったろう。あの場所が好きだった理由さね」
-
アカツキは望に話しかけているけれど、
その焦点はまだ、どこか遠くに合わされたままに見えた。
それはまるで望遠鏡を覗きながら話されているような。
つと、行き止まる。
上がる階段はもうなかった。
四階に着いたのだ。
迷いなく歩を進めるアカツキに並ぼうと、
望はその手を取ろうと腕を伸ばして。
けれど。
その手は空を切った。
愕然として顔を見るけれど、アカツキはやはりこちらを見ない。
lw´‐ _‐ノv「少女はさ、やっぱり空が好きなんだよ」
lw´‐ _‐ノv「あれは水面を見ていたんじゃない」
lw´‐ _‐ノv「正しくは、水面に映る青空を。
それを背に立つ自分の姿を見て、心を踊らせていたんだ」
-
慈しむように目を細める。
そのとき。ほんの一瞬。
望は再び、アカツキの姿に白い閃光を見た。
lw´‐ _‐ノv「── ああ。なんて、いじらしい」
lw´‐ _‐ノv「やはり愛おしいものよな、ヒトの子とは」
あのとき。
山で石祠に触れたアカツキを見たときは、閃光が貫いているように見えたものだが。
違った。
アカツキこそが、
白き閃光の姿に見えていたのだ。
望はそれによく似た何かを知っている気がした。
探す。思い出そうとする。
あ、と思い当たるものが見つかる。
( ^ω^)(……朝日だ)
世界を白く、等しく照らす光。
もしかしたらと望は思う。
今は〝秋〟の姿を借りているが、
〝アカツキ〟本来の姿とは、そのようなものなのかもしれなかった。
-
( ^ω^)「なあ、アカツキ。聞こえているんだろ」
lw´‐ _‐ノv「……」
( ^ω^)「さっきから何を見てるんだ」
ある病室の前で、ぴたりとアカツキの足が止まった。
部屋番号の下、1枚だけのネームプレートを指さした。
[ 明槻 秋 様 ]
それは間違いなく秋のもので。
この扉の向こうには、きっと彼女が眠っていて。
lw´‐ _‐ノv「……少女の夢を見ていたんだ」
正しくは、その魂の記憶なんだけど、と
望の瞳をその目に映して、柄にもなく弱々しく笑ってみせた。
( ^ω^)「魂の、記憶」
lw´‐ _‐ノv「そ。ワタシの姿は少女のものだという話、覚えてるかな」
望が頷くのを確認して、アカツキは続ける。
それならこちらも覚えてるよね、と。
、、、、、、、 、、、、、、、、
lw´‐ _‐ノv「もっと言うなら、少女の魂そのものなんだって言ったでしょう」
.
-
望はあれっと思う。
確かに、そう言っていた。
けれど、けれど。
(;^ω^)
なんだろう。
胸がやたらにざわめく、ような。
アカツキは望の様子など気にせずに、どこか歌うように続ける。
lw´‐ _‐ノv「ワタシはまず、少女のバラバラに砕けそうな身体をつなぎ止めた」
lw´‐ _‐ノv「続いて。黄泉に旅立とうとする魂には、無理やりワタシが一体化した」
lw´‐ _‐ノv「そうすることで、少女の〝命〟を保った」
アカツキは病室の扉を通り抜けて中に入る。
望は慌ててその後を追った。
嫌な予感がした。 、、、、、、
だって、今の話は、聞いていない。
(;^ω^)「ちょっと待った」
、、、
(;^ω^)「魂と一体化して、の意味が」
アカツキはちら、と望をみやって、
ベッドを覆っているだろう閉じられたカーテンの中に入っていく。
-
どうして。
どうして、そんな。
(;^ω^)「寂しそうな顔をするんだよ……っ」
さらに後を追って、カーテンの中へ入る。
アカツキはただ静かにベッドの脇に佇んでいた。
しー、と指を口元に当てて見せる。
はっとした。
ベッドに横たわっているのは、まさしくアカツキと瓜二つ。
いや。
lw´ _ ノv
その姿そのものである、明槻秋が。
様々の管に繋がれて、けれども確実に、ゆっくりと胸を上下させていた。
息をしていた。
血色もよい。本当にただ、眠っているだけのようで。
望が息を呑むの見計らったように、アカツキは口を開く。
lw´‐ _‐ノv「祠が崩れたぐらいでいきなり神は崩れない」
lw´‐ _‐ノv「山が崩れてしまうほどに弱っていたのは確かだけど、
精々がその遅々とした消滅の過程を加速させる程度なのさ」
-
lw´‐ _‐ノv「だけど」
lw´‐ _‐ノv「ヒトの命に関わるとなれば、話は変わってくる」
lw´‐ _‐ノv「この間は、ガラガラと崩れる感覚は
石祠の崩れる感覚だったと、そう言ったけれど」
あれはね、と。
アカツキはまるでいたずらのばれた子どものような顔で、
きまり悪そうに微笑んだ。
望はじっと黙って耳を傾けていた。
lw´‐ _‐ノv「そのまま霞と消えていく自らの命を、その力を、
すべてすべて死に体の少女に授けたことで」
lw´‐ _‐ノv「自我と記憶とがその衝撃に耐えきれなくて、崩れてしまった── こちらの感覚だったのさ」
換気扇の回る音だけが響いていた。
アカツキは透けた手で、秋の横たわるベッドに触れる。
lw´‐ _‐ノv「繰り返し見ていた少女の記憶……あれは、言うなれば魂の白昼夢」
lw´‐ _‐ノv「今だって。気を抜いたら、呑まれてしまいそう」
lw´‐ _‐ノv「……ワタシと、秋の魂との融合が深まっているのさ」
ロマンチックだろう、とアカツキは言う。
望はなんにも返せなかった。
-
lw´‐ _‐ノv「自分でもね、秋の身体に引き寄せられているのがわかるのさ」
アカツキは笑う。
嬉しそうに。やり切ったのだと言わんばかりに。
lw´‐ _‐ノv「この魂(からだ)が黄泉よりもずっと近しくなった、元の居場所に帰ろうとする」
声が遠くなる。存在が遠くなる。
すべて、すべて、透けていく。
lw´‐ _‐ノv「だからね、ワタシの仕事はもうおしまい」
手を伸ばしても、またきっと空を切る。
本当に、
それでいいのか。
lw´‐ _‐ノv「ワタシが繋ぎ止めずとも、砕けかけていた身体は回復しているから。
あとは、魂を、返してやるだけで」
(;^ω^)「ちょっと待った!」
望は、やっと心に噛み付いた。
アカツキはちょっと驚いたような顔をして、望は少しだけ安堵する。
いつも通りのアカツキが、やっと見えた。
-
lw´‐ _‐ノv「自分でもね、秋の身体に引き寄せられているのがわかるのさ」
アカツキは笑う。
嬉しそうに。やり切ったのだと言わんばかりに。
lw´‐ _‐ノv「この魂(からだ)が黄泉よりもずっと近しくなった、元の居場所に帰ろうとする」
声が遠くなる。存在が遠くなる。
すべて、すべて、透けていく。
lw´‐ _‐ノv「だからね、ワタシの仕事はもうおしまい」
手を伸ばしても、またきっと空を切る。
本当に、
それでいいのか。
lw´‐ _‐ノv「ワタシが繋ぎ止めずとも、砕けかけていた身体は回復しているから。
あとは、魂を、返してやるだけで」
(;^ω^)「ちょっと待った!」
望は、やっと心に噛み付いた。
アカツキはちょっと驚いたような顔をして、望は少しだけ安堵する。
いつも通りのアカツキが、やっと見えた。
-
(;^ω^)「ああ、もう。一気に話しすぎなんだ、バカ」
lw´‐ _‐ノv「バカと言いよったわ」
( ^ω^)「……だって、それは」
( ^ω^)「一体化してるはずの魂を、秋に返すというのは」
( ω )「アカツキは、お前は、つまり」
けれども、ダメだった。
言葉を紡げば紡ぐほど、望の声はみっともなく震えていく。
わかっていた。
望だって、分かっていて、それでも。
-
lw´‐ _‐ノv「あんまり寂しがるなよ、嬉しくなるやろ」
lw´‐ _‐ノv「ほうら」
アカツキは望の顔を覗き込む。
俯いた顔は面白いぐらい涙に濡れていて、アカツキまで泣きたくなってしまって。
けれど、けれど。
これは一柱のだれかの矜恃。
アカツキは決して、涙を見せなかった。
その代わりに。
二人の友人の行く末が眩いものであることを、大事に、大事に祈った。
lw´‐ _‐ノv「── サヨナラだ、少年」
そうしてふっと柔らかく、温かく。
何よりも満足気に微笑むと、横たわる秋の頬に手を添えた。
瞬間。
触れた部分からきらきらと、しゅわしゅわと、光の泡に崩れてゆく。
lw´ ノv「少年」
.
-
「友人(ワタシ)の友人をよろしくね」
.
-
.
-
少々行儀は悪いけれど。
望は二階の窓から外の木を伝って、駐車場の方へと抜け出した。
誰にも見られていないといいけれど、と。
あたりを見回した、そのとき。
一台の車が目に入った。
降りてくる人影が見える。
病院だってまだ開いていないだろう、こんな早朝から。
人影は和服だった。
すらりと細長い線。
けれど、あの背丈は男だろう。
きら、と助手席に光が差して、車の中に一瞬だけ中居の姿が見えた。
二人とも望には気が付いていない。
つと、また違う方向からバタバタと足音がする。
院内から二人に駆け寄ったのは看護師たちだ。
「目を覚まされました」
「つい、今しがた意識が戻られたんです」
口々にそんなことを言う。
中居はどこか呆然としているように見えた。
時でも止まったかのような間を置いて、
ぽろぽろ、ぽろぽろと涙を零す。
.
-
その姿を見て、頭のどこかでかちりと音が鳴った。
.
-
望の中で、ばらばらだったすべてが繋がる音だった。
頭が冴えていく。
冷えていく。
今さらになって。
窓から降りるなんて興奮していたんだなぁと思った。
そうしてやっと隠れる場所がないことに気が付いた。
だから、そのまま歩いて過れ違った。
看護師たちがぎょっとした顔で望を見る。
しまった、さすがにぼんやりが過ぎた、と後悔する。
「ちょっと」と声が掛けられて、それを和服の男が制した。
(#゚;;-゚)「……娘が、目を覚ましたのだろう」
それは暗に、些事に構うなと告げる声色。
看護師らはサッと顔色を変えて口々に詫び言を口にする。
望はただ、助けられたな、と思った。
中居がようやくそれで望に気付いたのか、
涙の収まらないまま、あら、という顔をする。
望はなんにも言わず、頭だけをぺこりと下げた。
そして。
すれ違いざま、和服の帯に紙の束を差し込んだ。
丁寧に折られた便箋だった。
決して望宛てではないけれども、とても大切な手紙だった。
.
-
もう後ろは振り返らなかった。
郵便です、とだけ呟いてみた。
自分でおかしくなって、くすりと笑う。
ふと、母の顔が見たいなあと思った。
話したいことが沢山あった。
きっと喜んでくれるだろう。
赤面した顔を一生懸命、手で覆い隠そうとするかもしれない。
……秋のもとに。
友人の友人より、とたった一言だけを書き添えて
連絡先を残してきたことには、さすがに目を丸くするかもしれない。
けれども最後にはきっと、ふにゃりと笑ってみせるのだ。
( ^ω^)「ああ、そうだ」
( ^ω^)「母はそういう人だった」
何でもない呟きだった。
けれどもそれは驚くほどあっけらかんと、朗らかに響いて。
笑いだしそうになる望を抱きしめるように、
あるいは、青空がよく似合う少女の目覚めを祝うかのように。
暁の静かな薄明が、あたりをゆっくりと照らし出していた。
.
-
( ^ω^)暁天に臨むようです 終
.
-
【投下期間終了のお知らせ】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
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乙
爽やかに終わってよかった!面白かった
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作者様へ
>>192
>>193
こちらは連投ミスでしょうか?
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>>205
連投ミスです。お手数おかけします
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>>206
まとめにて修正いたしました。
ご返答ありがとうございました。
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乙です
クー好きだわ
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>>208
わかる
人間らしいところがいい
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ゲリラの身ながらMVP3位を頂いてしまったので、
感謝の気持ちに代えてあとがきを残そうと思います
このお話は「天涯孤独になってしまう青年が繋がりを得るまでの物語」として書きました
全編を通して、孤独の夜を暁の光に導かれて越えてゆく様子を描いており、望が「暁天に臨む」のはまさに最期の場面からとなります
残された人々はあともう少し手を伸ばすことを繰り返して、未来を掴み続けなくちゃいけない。そんなことをテーマに据えて書きました
過去。一人の女であった純が自らの罪に向き合うことで母となり、今回、望を諭す立場にあったのは「手を伸ばして未来を掴んだ先達」という立ち位置からでした
次はきっと「手紙」に向き合う祢と、「連絡先」を手にした秋の番なのでしょう
「暁天に臨む」という題は、読み替えると「アカツキ、天に望む」となり、1レス目の内容に繋がるタイトルになっています
そんなアカツキの正体である天穂日御神(てんすいひのみかみ)ですが、これは天穂日命(アメノホヒのみこと)を文字って付けた名前です
アメノホヒは太陽と農耕に関する神さまなので、稲穂を持つアカツキ(→暁)の正体としてはピッタリだったのではないかと思います
また、「暁」という言葉を多用したのはNo.76のイラストの雰囲気をできる限り物語に反映したいという思いからで、この素晴らしいイラストが無ければ暁天はまず生まれることはなかった作品です
アカツキ、明槻、暁鐘館、暁天など。少しでもあの色合いを落とし込めていれば幸いです
それでは改めまして
MVP票と感想、ありがとうございました
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MVP入れたよ!乙!!!!!
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エ゛ッッッ
盛大な自演をしてしまいました…違うんだスレッドを重ねて開いていたから……
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草
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ワロタ
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MVP3位がMVP入れたよはワロタ
誤爆乙
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あとがき読んですげえ練られてるなぁって関心してたらワロタ
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