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川 ゚ 々゚)素直クルウは狂わないようです

1名無しさん:2018/12/10(月) 13:59:15 ID:eCFLkdYQ0


Respect
[ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない]


.

2名無しさん:2018/12/10(月) 13:59:57 ID:eCFLkdYQ0


夕焼け空。
セーラー服の少女。
陽光が照らすシルエット。
風に揺れる彼女の髪。




放課後の屋上。
僕は呼び出しを受けてノコノコと此処まで足を運んだ。

言っておくが学内でも有名な美少女に呼び出されたからといって、胸を高鳴らせて屋上まで来たとか。
僕はそーいう間抜けな思考をしている訳じゃない。
そもそも、こんな呼び出しなんて無視して帰宅したいのが本音なんだ。

だが僕に声をかけて来た相手が悪い。

3名無しさん:2018/12/10(月) 14:00:46 ID:eCFLkdYQ0


ζ(゚ー゚*ζ


照咲 デレ。

僕と同じ1年B組に在籍している所謂クラスのマドンナってやつだ。
この女はそのアイドル級のルックスと八方美人の反吐が出るような性格のお陰でクラスカーストで最上位に位置する人間だ。

そんな女の呼び出しをだ。このモブ・オブ・ザ・モブである僕が無視してみろ。
明日から僕の居場所はクラスどころか学校の何処にも無くなるだろうさ。


ζ(゚ー゚*;ζ「あの、いきなり呼び出しちゃってゴメンね。用事とかあったかな?」


謝罪するくらいだったら最初から呼び出すなこの下衆が。
どうせ腹の中では、クラス1の美人である私に声をかけられて幸せでしょう。とでも思っているんだろうがこの糞女。
だが僕は思った事をそのまま口に出す程、愚かな人間では無い。

4名無しさん:2018/12/10(月) 14:01:28 ID:eCFLkdYQ0

川 ゚ 々゚)「用事とかは無いから大丈夫だよ。でも、照咲さんみたいな人が僕みたいな陰キャ男と話したい事って何かな?」


この女の呼び出した理由なんざミジンコ程にも興味は無いが、とっとと話を済ませないと帰れないだろう。
それに用事が無いというのは嘘では無いしな。
まあ最も、この僕の貴重な時間を目の前の糞女の為に一分一秒とて無駄使いなんざしたく無いのが本音だがね。


ζ(゚ー゚*;ζ「うん。あの、私。素直君に、話があって。ね? えーと……」


話があるのは当たり前だろウジムシ女が。
大体にして用事も無いのに呼び出しなんかしていたんだったら、その目玉をくり抜いてやる所だ。

その後もこの馬鹿女はあーだのうーだのモジモジしながら無駄に時間を浪費している。

5名無しさん:2018/12/10(月) 14:02:05 ID:eCFLkdYQ0
なんなんだこの女は。
僕の忍耐力を試しているとでもいうのか?
確かに諸事情で僕の我慢強さと演技力は並の人間とは比較にならないとは自負しているが、それだって限界っつうモンがあるぞ?

いい加減に理由をつけて帰っちまうかと考えていたその時、照咲は今まで逸らしていた目を僕の方にしっかりと向けて唾を飲み込んだ。
なんつーか覚悟を決めたって感じのポーズだったな。
安っぽい演技だ。女優にはなれないな。


ζ(゚ー゚#*ζ「あの! 素直君! 素直君は彼女とかいますか⁉︎」

川; ゚ 々゚)「彼女? え、いや。いないけど……」

ζ(゚ー゚*;ζ「な、なら。あの。私!」


照咲が一歩僕に近づいたと思ったら両の手を取って握って来やがった。
おいこら勝手に人の身体に触るんじゃないタコが。
人間の手に何億の雑菌が潜んでいるかまさか知らないんじゃないだろうな?

6名無しさん:2018/12/10(月) 14:02:42 ID:eCFLkdYQ0







ζ(>ー<*ζ「私‼︎ 素直君の事が好きなんです‼︎ 私と付き合って下さい‼︎」







夕暮れの屋上。
響き渡る少女の声。
陽光に照らされるシルエット。
影法師は2つ。
まるで重なり合うように。

7名無しさん:2018/12/10(月) 14:03:54 ID:eCFLkdYQ0







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8名無しさん:2018/12/10(月) 14:04:25 ID:eCFLkdYQ0
僕の名前は素直 クルウ。
年齢16歳。
身長175センチ、体重45キロの痩せ型。
異性との交際、性行為の経験共に無い。
舞雲高等学校の1年B組に在籍している。
部活動はしていない。

何処にだっている、平凡な男って訳さ。



(´・_ゝ・`)「素直君。ボーっとしてどうしたんだい?」


いつの間にか思考に沈んでいた僕を起こしてくれたのは友人である盛岡 デミタスの声だった。

盛岡は僕と同じスクールカーストの底辺より、やや上に属するモブ男だ。
身長体重共に平均的。顔立ちは何処にでもいる平々凡々。
趣味は缶コーヒーの飲み比べという何とも面白味にかける『素晴らしい人間』だ。

嫌味で言ってる訳じゃないぜ?
平穏と平凡を愛する僕からしたら彼みたいな、つまんねー人間は愛すべき隣人なのだからね。

9名無しさん:2018/12/10(月) 14:05:21 ID:eCFLkdYQ0

川 ゚ 々゚)「いや、昨日は寝つきが悪くてね。疲れが取れていないみたいだ」

(´・_ゝ・`)「そうかい。僕はてっきり彼女の事を眺めているのかと思ったよ」


盛岡の目線に従うように首を横に向けると、そこには複数の男女に囲まれて楽しそうに笑っている照咲の姿があった。


ζ(^ー^*ζ


あいも変わらぬ美少女っぷりだことで。
全く、あっちこっちに愛想振りまいて作り笑顔で常にニコニコして何が楽しいんだか。
僕には全く理解が出来ないね。
最も、理解したいとも思わないが。


(*´・_ゝ・`)「照咲さんは相変わらず可愛いよね。あんな綺麗な人、芸能人でもなかなかいないんじゃないかな?」


盛岡が缶コーヒーを飲みながらしたり顔で頷いている。
まあ、確かに芸能人でも『なかなかいない』という点については同意してやろう。
あんなのがゴロゴロいたら日本は終わったも同然だろうからな。

10名無しさん:2018/12/10(月) 14:05:58 ID:eCFLkdYQ0

川 ゚ 々゚)「あのさ、盛岡君。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

(´・_ゝ・`)「ん? どうしたの?」


盛岡はモブだ。
突飛な事を言わない、必要以上に目立つ事を嫌う常識人。
ごく一般的な価値観を持った、何処にでもいるようなノーマルな人間。


川 ゚ 々゚)「変な意味じゃあ無いんだ。ただ、ちょっと気になっててさあ。照咲さんの」


だからこそ彼の意見が重要なんだ。
一般的な、ポピュラーな人間の、大衆の気持ちが分かる人間の意見こそが重要なんだ。
僕は内心、神に祈るような気持ちで彼に尋ねた。

11名無しさん:2018/12/10(月) 14:06:37 ID:eCFLkdYQ0

川; ゚ 々゚)「照咲さんの『髪の色』ってさあ。どう、思う?」




喧騒が遠く聞こえる。
額から汗が流れる。
ゴクリと僕は唾を飲む。
小さな静寂が生まれる。
盛岡が首をかしげる。

そして、こう答えた。




(´・_ゝ・`)「どうって別に、まあ『綺麗な桃色』だとは思うけど。『それだけ』じゃない? あ、ショートカットにしても似合いそうだよね」





喧騒が戻る。
汗がピタリと止まる。
唇が乾いて仕方ない。
頬がヒクヒクと引き攣る。
現実はいつだって僕の期待を裏切る。

12名無しさん:2018/12/10(月) 14:07:41 ID:eCFLkdYQ0

川;^ 々^)「そ、そうかい。そうだよね、ハハハ」

(´・_ゝ・`)「にしても素直君って髪フェチだったの? あんまりそういう話をしないから意外だなー」


僕は曖昧な顔をして笑う。
盛岡はそのまま照咲にどんな髪型が似合うかなんて事を語り続ける。

だが作り笑いの裏での僕の心境はそれどこではない。



川# 々 )(このクソカスがああああああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎‼︎)

おいおいおいおいおいおいおいおい‼︎ マジか? マジで言ってるのかソレは⁉︎
おかしいとは思わないのか⁉︎
おかしいだろうが明らかに‼︎
桃色の髪の毛だぞ⁉︎

地毛で‼︎ 純日本人なのに‼︎


桃色の髪の毛なんだぞおおおおぉぉぉぉ⁉︎


.

13名無しさん:2018/12/10(月) 14:08:24 ID:eCFLkdYQ0
茶髪なら分かる。金髪やブルネットだって外国の血が混じっているならまだ理解が出来る。

だが‼︎ 桃色‼︎ ピンク‼︎
しかもやけに発色がいいショッキングピンクだ‼︎

ウィッグでも染色している訳でも無いんだぞ⁉︎
なのにあんな愉快な髪色の人間が居てたまるか⁉︎
何故お前達はそこに疑問を持たないのだああああああぁぁぁ⁉︎


川; 々 )(お、思えば入学直後からそうだった)


この学校は何かがおかしい。
何というか、僕の中の常識とのズレを感じる。

照咲デレだけじゃない。僕達のようなモブキャラとはまるで『次元が違う』ような見た目の人間がゴロゴロと転がっている。

14名無しさん:2018/12/10(月) 14:09:14 ID:eCFLkdYQ0
しかもそういう奴の殆どが女だ。
なんつーか、ファンタジー世界の美少女って感じの、妄想上にしか存在する筈の無い『完璧過ぎる容姿』を持った女達だ。

髪や目がやけにカラフルだったり、明らかにバランスおかしい程に巨乳だったり。
しかも見た目だけじゃない。キャラクターつーか、その個性だって明らかにおかしいんだ。
そこらの武道家が真っ青になるくらいに剣術や武術に精通していたり、明らかにこの学校に在学するのは間違っているだろうという天才っぷりを発揮する奴らが居たり。


川; 々 )(人間では無い。やつらは人間では無い。)


異星人(エイリアン)だ。
奴らはこの地球を侵略しようとする異星人に違いない。

……いや、まあ。ぶっちゃけた話、地球を侵略しようがしまいが勝手にやっていて構わないんだ。
僕の目のつかない場所でならどうぞ好き勝手に侵略行為に勤しんでくれて結構だ。
そこは別にどうだっていいんだ。

15名無しさん:2018/12/10(月) 14:09:57 ID:eCFLkdYQ0
だが! 問題なのは‼︎


(;´・_ゝ・`)「ね、ねえ。素直君? 照咲さんがこっちに手を振ったと思ったら近付いて来たんだけど⁉︎ 君、彼女と何かあったの⁉︎」

川; ゚ 々゚)「気の所為じゃないかなー盛岡君。窓の外を見てご覧よ、心が洗われるような青空じゃないかー」

(;´・_ゝ・`)「いや青空の『あ』の字も無いような曇天だよ⁉︎ っていうかそんな事言ってる間に照咲さんが……!」



ζ(゚ー゚*;ζ「お、おはよう。素直君」



この僕を巻き込むんじゃね異星人があああああぁぁぁ〜〜〜〜‼︎‼︎‼︎

16名無しさん:2018/12/10(月) 14:11:05 ID:eCFLkdYQ0

ζ(゚ー゚*;ζ「え、えと。昨日は時間取らせちゃってゴメンね? 迷惑かけちゃったよね?」

(;´・_ゝ・`)「え、えーと。おはよう、照咲さん。あの、素直君と、何かあったの?」

ζ(゚ー゚*;ζ「あ、おはよう盛岡君。うん、ちょっと素直君に相談に乗って貰ったっていうか……」


何故だ⁉︎ 何故よりによってこの僕の平々凡々な人生に横槍を入れるような真似をするのだこのピンクエイリアンは⁉︎

この素直クルウの人生において刺激など必要は無い。
人生の長い道程において、曲がり道も別れ道も坂道も必要無いんだ。
小石ほどの障害物や、心を癒す野に咲く小さな花みたいな余計な物も一切要らないんだ‼︎

何処にでも居る寂しい人間でいいんだ。
例え死んだところで誰も僕の存在なんか覚えていない。
そんな取るに足らない、惨めで、矮小な、モブの人生こそが僕の目指す『幸福』ってやつなんだ。

17名無しさん:2018/12/10(月) 14:11:54 ID:eCFLkdYQ0
ただ、それだけ。
ただ、それだけを望んでいるというのに……!


ζ(゚ー゚*;ζ「詳しくは、言えないんだけど。ちょっと、迷惑かけちゃって。本当にごめんね、素直君」


何故だ! 何故僕の人生を侵略しようとするのだこの異星人があああああぁぁぁ‼︎


川 ゚ 々゚)「ハハハ。マッタクキニシテナイヨ テルサキサン」


ゴメンとか言っといて迷惑かけてんじゃねえぞ脳内ピンク女があああああぁぁぁ‼︎
大体少しでも罪の意識っつーもんがあるんなら僕みたいなモブに金輪際関わらないでくれよ頼むから‼︎

何故こうなるんだ⁉︎
僕はこの学校に入学してからというもの、照咲を始めとした異星人共との関わりを徹底的に避け続けて来た筈だ‼︎

だと言うのに何故そちらから近寄ってくるのだ⁉︎
這いよる混沌か貴様らは⁉︎ 邪神よりタチが悪いわビチグソが‼︎

18名無しさん:2018/12/10(月) 14:12:50 ID:eCFLkdYQ0

ζ(^ー^*ζ「あ、先生が来た。ゴメンね素直君、またお話してくれると嬉しいな。盛岡君も話に割り込んじゃってゴメンね?」


担任の登場を期に場を乱すだけ乱して照咲は去っていった。
盛岡の視線が痛い。後で詳しく聞かせろ、声に出さなくてもそう訴えているのが痛い程に伝わる。





ハハ ロ -ロ)ハ「Hi それでは委員長、朝の挨拶を」

川 ゚ -゚)「はい、ハロー先生。全員、起立」


教職員だと言うのにやけに露出過多でオマケにミニスカートにガーターベルトまで装着したエロティックな担任の言葉に、剣道の全国大会で常に優勝を勝ち取ってきたサムライ委員長が号令をかける。

二人ともタイプは違えども文句無しの美形だ。
そして言うまでも無くこいつらも異星人だ‼︎

19名無しさん:2018/12/10(月) 14:13:44 ID:eCFLkdYQ0

川 ゚ -゚)「気をつけ」


確信した。今、確信したぞ。
やはりこの学校は。いや、この世界は狂っているのだ。
こんな異星人共が堂々と居座っているというのに誰も排他しようしない。
それどころか良き隣人として受け入れているこの世界の人間は皆狂っているに違いない‼︎

巫山戯るな! 異星人共に僕の平穏で平凡なモブライフを邪魔させる訳にはいかないのだ‼︎‼︎


川 ゚ -゚)「礼」



周りの動きに合わせて頭を下げる。
誰にも顔を見られないこの瞬間に僕は誓った。

20名無しさん:2018/12/10(月) 14:14:54 ID:eCFLkdYQ0



川 々゚)(平凡な人生を、平穏に過ごしてみせる‼︎ この狂った世界でも僕は、幸福に生きてみせる‼︎)



僕の名前は素直 クルウ。
この狂った世界において、狂わない。
たった一人の人間である。



.

21名無しさん:2018/12/10(月) 14:15:15 ID:eCFLkdYQ0
続くかわからん。

22名無しさん:2018/12/10(月) 16:39:08 ID:/p1lp3vk0
問題ない続けろ

23名無しさん:2018/12/10(月) 22:39:50 ID:RmLN/8UM0
期待の乙!

クルウのスタンド気になるわー。

24名無しさん:2018/12/12(水) 09:22:49 ID:T1twkzdg0


回る世界。
繰り返す日常。
広がる世界。
増える人影。
忍び寄る暗雲。






僕の名前は素直 クルウ。
年齢16歳。
身長175センチ、体重45キロの痩せ型。
異性との交際、性行為の経験共に無い。
舞雲高等学校の1年B組に在籍している。
委員会には所属していない。

何処にだっている、平凡な男だ。



平凡。う〜ん。実にいい響きじゃないか。
没個性的な僕にピッタリな言葉だ。

何処にでもいるちっぽけなモブ。
誰かの人生の引き立て役にすらならない、存在価値の無い人間。
死のうが生きようが誰も困りもしない。

それが僕っていう人間さ。

25名無しさん:2018/12/12(水) 09:24:16 ID:1JMpj5hA0
ん? そんな詰まらない人生の何が楽しいのかって?
おいおいおいおい。分かってない奴だな〜。

『ソレ』がいいんじゃないか。
居るか居ないか分からないような背景の一人。
居ても居なくてもどうだっていい群衆の一人。
ソレこそが僕の求める幸福なモブライフの象徴って訳なのさ。


この素直クルウの人生。
その長い道程において曲がり道も別れ道も坂道も必要無い。
小石ほどの障害物や、心を癒す野に咲く小さな花みたいな余計な物も一切いらない。
どこまでも『平坦』で『平穏』な道であるべきなんだ。

激しい『喜び』はいらない。
そのかわり深い『絶望』も無い。

そんな『平凡な人生』を『平穏に生きる』事こそがこの素直クルウの『幸福』に必要なモノだと確信しているのだからね。

26名無しさん:2018/12/12(水) 09:25:39 ID:SSsSKPZI0
そう、『幸福』だ。
この世に生を受けた全ての人間は幸福になる『権利』と『義務』があると僕は信じている。
故に僕は自らが幸福になる為の『努力』を惜しむ事は無い。

幸福の定義って奴は人によって様々だ。
金や女を欲する奴や権力を握ってチヤホヤされたいだとか、まあそういうのを求める奴らは腐る程いるだろう。
別に否定はしないさ。心底下らないとは思うがね。

この素直クルウの幸福。
それは『平凡』で『平穏』な人生を送る事、それに尽きる。
だからこそ僕はその為の努力だって惜しまない。

クラスカーストでも下から数えた方が早いが悪目立ちするって訳でも無い立ち位置をキープ。
学生の本分である勉強の場に置いても発言は徹底的に控え、教師の目につかない影の薄さを身につけた。
もちろん定期テストで目立つなんてヘマはしない。
中学時代からそうだが、どんな科目も60点前後の高くもなければ特別低くもない点数を常にキープしているのだ。

27名無しさん:2018/12/12(水) 09:27:04 ID:SSsSKPZI0
これらの努力の甲斐あってか僕が舞雲高校に入学してから約3ヶ月。

まさに順風満帆。
僕は理想的な『平凡』で『平穏』な生活を送っていた。






送っていた。の、だが……








ζ(゚ー゚*ζ「あ、素直君。ここの計算がちょっと間違ってるよ」

.

28名無しさん:2018/12/12(水) 09:28:01 ID:SSsSKPZI0



夕陽が差し込む午後。
放課後の教室。
机を寄せ合う学生達。
青春の1ページ。


川 ゚ 々゚)「えーと、どこかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、ここ。代入する数字がちょっと間違ってるんだ。この途中式で符合がズレてるじゃない」

川 ゚ 々゚)「あ、成る程ね。照咲さんは頭がいいなー」

ζ(^ー^*ζ「そんな事ないよ。それに素直君はすっごく飲み込みが良いから教え甲斐があるよ」

川^ 々^)「ハハハ。そう言われると照れるな」

(´・_ゝ・`)「いやー照咲さんと素直君は本当に仲がいいねえ」

ζ(゚ー゚*;ζ「も、もう! 盛岡君ったら、からかわないでよ‼︎」

川^ 々^)「いや、全くだよ盛岡君。ハハハハハ……」




まるで天使のような微笑みを浮かべる照咲デレに僕は曖昧に笑ってみせる。
彼女の教え方はとても丁寧で分かりやすい。
これなら僕の苦手な数学の成績も直ぐに良くなる事だろう。

29名無しさん:2018/12/12(水) 09:29:49 ID:tSJl7IpI0


だが笑顔の裏で僕は叫び出したい衝動を必死に抑え込んでいた。


川# 々 )(どうしてこうなったんだこのクソッタレ異星人がああああああぁぁぁぁ〜〜〜〜‼︎‼︎)


理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能‼︎‼︎

件の告白の一件からこのピンクエイリアンこと照咲デレは僕にますます付きまとうようになった。
教室でもやけに話しかけてくるし放課後の時間がたまたま一緒になった時など地獄だ。
何でこんな異星人と二人っきりで帰るハメにならなければいけないのだ⁉︎

僕だって距離を置こうと努力はした。
だが! 無駄‼︎ 無駄無駄無駄とラッシュを決めるかのように照咲はグイグイと僕との距離を縮めようとしている。

30名無しさん:2018/12/12(水) 09:32:19 ID:NcVc4T/E0
ハッキリとお前の事が嫌いだと言ってやればいいと思った奴もいるだろう?
だがそれは一番やってはいけない行動だ。
何故ならこの照咲デレは我が1年B組のマドンナだからだ。

クラスどころか学年中で 、いや学内中にその美少女っぷりが伝わるくらいのクイーン・オブ・ザ・ヒロイン。
そんな彼女に何の影響力も無いちっぽけなモブ野郎の僕が嫌われでもしたら悪目立ちする事間違いない。
目立ち方にも色々あるが悪目立ちっていうのは一番避けなければならないからな。


川# 々 )(イジメの標的にでもされてみろ。
僕が望む『平穏』な生活とはかけ離れたスクールライフを強制されるハメになるじゃないか‼︎)


理想的なのは照咲の方から僕がいかにつまらねー人間かを察して貰いとっとと別の男とくっついて貰う事なのだが、悲しいかな照咲は僕にゾッコンらしい。


そりゃ照咲デレは美少女だ。
背は小さいが女性的な身体つきで、声も香りも甘ったるい。
何処と無く人を癒すオーラみたいなのも放っているし、一般的な男だったら後先考えずに飛び付いちまうような超優良物件なのだろう。

31名無しさん:2018/12/12(水) 09:35:42 ID:4m9uGTtw0

川# ゚ 々゚)(だが‼︎ この素直クルウは違う‼︎)


事故物件だ‼︎
過去に一家惨殺事件が起きて毎晩毎晩その怨霊たちが盆ダンスを繰り広げているような超事故物件だ‼︎

ピンクなんだぞ⁉︎ こいつの髪の毛はショッキングピンクなんだぞ⁉︎
オマケにその無駄にデカイ瞳の黒目である筈の部分は水色なんだぞ⁉︎
どこのアニメキャラクターなんだ貴様は‼︎

誰がこんなバケモノと恋仲になりたいと思うものか!
そこまでして僕と交際したいならDNA鑑定でもして来い‼︎
どうせ異星人と人間との遺伝子が一致する訳も無いだろうからな‼︎


川; ゚ 々゚)(いや、やっぱ無しだ。この狂った世界で万が一でもDNA鑑定なんてやっちまったら、何かしらの因果が働いてコイツら異星人が人間だと証明されかねない)


今回のこの勉強会(笑)もほぼ強制参加のようなものだった。
期末考査が近づき、盛岡と苦手な教科について話をしていた時。
ピンクレディの奴が首を突っ込んで来やがったんだ。

32名無しさん:2018/12/12(水) 09:37:22 ID:4m9uGTtw0

ζ(^ー^*ζ「素直君って数学が苦手なの? 良かったら放課後に教えようか? 勉強会って形でさ」


教室のど真ん中でニッコリ笑顔で提案して来やがった。
こっちが絶対に断れない状況で誘いをかけてくるとは何と腹黒い奴だ。
腹がブラックで頭がピンクとかどこのアポロチョコだこの売女め‼︎

そもそもこの僕に苦手な科目なんかある訳がないだろう‼︎
目立ちたくないからワザとテストで手を抜いてるんだ‼︎
異星人の分際で上から目線で口出ししやがって。
無能のフリをするのだって楽じゃあ無いんだぞ‼︎

しかも、だ。
僕の方は何とか盛岡を巻き込んで二人っきりを避けようとしたものの、それが仇になったのだろう。
僕に対抗してか照咲まで余計な者を連れて来やがった。


ξ゚⊿゚)ξ「素直と盛岡だっけ? あんたらって意外と頭回るのね。私は数字見るだけで頭が痛くなるわ」

ζ(゚ー゚*;ζ「もう! お姉ちゃんはそうやってやる前から諦めちゃうからいつまでも出来ないのよ‼︎ この前の中間だって赤点ギリギリだったじゃない‼︎」

ξ゚⊿゚)ξ「ギリギリだろうが何だろうが赤点に引っ掛からなきゃ良いの。大体私は身体動かしてる方が性にあってんのよ」

.

33名無しさん:2018/12/12(水) 09:39:11 ID:4m9uGTtw0

ξ゚⊿゚)ξ


照咲 ツン。
お察しの通り、照咲デレの双子の姉だ。
1年B組、女子空手部所属。

輝くような金髪を両サイドでクルクル巻いた髪の毛が特徴の美少女だ。
例にも漏れずこいつも異星人だがな。瞳も蒼いし。

異星人共は頭のおかしい奴らの集まりな訳だが、特にこの照咲ツンは異常だ。
まず150センチという小柄ながらあらゆる武術を収め、空手や柔道、合気道を始めとした数多の武道において師範代を勤めているらしい。
噂ではプロの格闘家の男も軽々と投げ飛ばす程の剛腕と技術を持った生きる武神とまで言われている女だ。

止めてくれ。もうお腹いっぱいだ。
何なんだそのキャラクター設定は。格闘マンガの主人公でも目指しているのかこのゴールデン異星人は。
サイヤの星にとっとと帰っておくれよ全く。

というか照咲妹とは一卵性の双子の癖して何で髪の色が違うんだ。
性格と髪以外は鏡合わせみたいにソックリだっていうのに、何だって髪の色がバラバラなんだ。キャラ付けか何かか?

34名無しさん:2018/12/12(水) 09:40:33 ID:4m9uGTtw0

川 ゚ 々゚)(いや、髪だけじゃないか。胸の大きさも可哀想になるくらいに違うな)


どっちが大きいとか、そういう俗っぽい事に触れるつもりは無いがね。
あまりにも哀れだ。

しかもこいつら姉妹揃って僕と同じB組とは何の嫌がらせだ?
普通は兄弟姉妹が固まらないように学校側が配慮するだろうが。
仕事しろ仕事! この世界の教職員の頭はどうなっているのだ⁉︎



ζ(゚ー゚*ζ「あ、ちょっと私、席外すね」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、トイレね。行ってらっしゃい」

ζ(゚ー゚*;ζ「お姉ちゃん‼︎」

ξー⊿ー)ξ「あーはいはいごめんごめん。行ってらっしゃい」


そんな事を考えている内に照咲妹ことピンクエイリアンは教室を出て行った。
全く、そのままゲリ腹になって一生帰って来なければいいのに。

35名無しさん:2018/12/12(水) 09:41:49 ID:4m9uGTtw0

川 ゚ 々゚)「……」

(;´・_ゝ・`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「……」


しかし特に話したことも無い女子と僕らモブ男二人を置いてけぼりにしていくとは……
無駄に気不味いじゃないか。
見ろ、盛岡なんて急にソワソワしだしたぞ?
あの女、実は僕にフラれた事を根にもってネチネチと仕返ししてやろうとかいう腹づもりじゃあるまいな?
だったら今すぐに止めて欲しい。効果は抜群だからな。

大体にして照咲の馬鹿が話しかけてくる度にクラスメートの視線が集中して非常に迷惑なんだ。
人前で目立った行動をすること。
それはこの素直クルウが最も嫌うことだ。
あの異星人は自分がいかに他人の目を引くかって事を自覚してもらいたいね。


ξ゚⊿゚)ξ「ねえ。あんた、ちょっと聞いていいかしら?」


そんな事を考えていたら沈黙に耐え兼ねたのか照咲姉が僕に話しかけてきた。
やれやれ、一生黙っていてくれて構わなかったというのにな。

36名無しさん:2018/12/12(水) 09:42:50 ID:4m9uGTtw0

川 ゚ 々゚)「何かな? 照咲さん」

ξ゚⊿゚)ξ「あー苗字だとややこしいからツンでいいわよ。私もアンタの事クルウって呼ぶから」

川 ゚ 々゚)「あ、うん。それで、何かな? ツンさん」


チッ。名前で呼べだとよ。
異星人の癖に生意気な。
僕は馴れ馴れしい人間が大っ嫌いなんだ。
しかもそれが異星人。最悪だな。
今すぐにでも縁を切ってやりたいくらいだ。


ξ゚⊿゚)ξ「別に大した事じゃないのよ? ただ、ほら。やっぱり目立つから、聞いておきたくて」

川; ゚ 々゚)「め、目立つ?」

(;´・_ゝ・`)「あ、あー。まあ確かに素直君は人目を引くからねー」

川; ゚ 々゚)「人目を、引く? こ、この、僕が、かい?」


馬鹿な! このモブの中のモブ‼︎
平凡にして無価値なこの素直クルウが目立っているだと⁉︎ 人目を引いているだと⁉︎
ふ、普段から意識して存在感を薄くしているというのに‼︎
そんな僕の何処が目立っていると言うんだ⁉︎

37名無しさん:2018/12/12(水) 09:44:01 ID:4m9uGTtw0

ξ゚⊿゚)ξ「クラスでもあんま喋んないし、ちょっと暗いキャラっぽいけどさ。でもやっぱり男子で『ソレ』は目立つわよ」

(´・_ゝ・`)「うーん。僕も最初に会った時はビックリしたからなあ」

ξ゚⊿゚)ξ「まあ、せっかくの機会だから聞いておきたくてね。」


異星人の照咲姉だけならまだしも常識人の盛岡まで驚嘆しただと⁉︎
この無個性が服着て歩いているような素直クルウの一体何処にそんな要素があると言うのだ⁉︎


ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、クルウ。あんたってどうして……」


激しい鼓動。
高い耳鳴り。
流れる汗。
震える身体。
絞まる喉奥。


.

38名無しさん:2018/12/12(水) 09:44:38 ID:4m9uGTtw0



ξ゚⊿゚)ξ「どうして『髪の毛をそんなに伸ばしている』の? 男で腰元まで伸ばしてる奴なんか初めて見たわ」








川 ゚ 々゚)










.

39名無しさん:2018/12/12(水) 09:45:36 ID:4m9uGTtw0










髪。

















伸びてる。
理由。









.

40名無しさん:2018/12/12(水) 09:46:38 ID:4m9uGTtw0

川 ゚ 々゚)「……首に」

ξ゚⊿゚)ξ「うん?」

川 ゚ 々゚)「首に、ちょうど襟足の処。ソコにさあ、傷があるんだよ。古い傷」

川 ゚ 々゚)「別段、大した傷でも無いんだけど。ただ、自分の中で、突っかかるっていうか。コンプレックス、みたいっていうかさあ」

川 ゚ 々゚)「人様にお見せするようなものでも無いし、ソレを隠してるんだよ」

川 ゚ 々゚)「ただ、それだけさ」




川 ゚ 々゚)「ああ、それだけ」




張り詰めた空気。
静止した空間。
冷たい程の静寂。
それはたった一瞬。
それでも確かに存在した。


.

41名無しさん:2018/12/12(水) 09:47:33 ID:4m9uGTtw0

ξー⊿ー)ξ「そう。何か悪い事聞いちゃったわね。ごめんなさい」

(;´・_ゝ・`)「そんな理由があったなんて知らなかったよ。僕もごめんね、素直君」

川 ゚ 々゚)「……いやあ、気にしないでよ二人とも。本当に昔の話で、実のところ傷も殆ど見えないくらい薄いものだからね」

ξー⊿゚)ξ「あんたが気にして無いんならいいんだけどね。でもそこまで長いと手入れが大変そうね」

川 ^ 々^)「ハハハ、確かにね。ドライヤーにやけに時間がかかるよ」

(´・_ゝ・`)「短髪の僕には分からない悩みだなあ。あ、照咲さん、えーと、デレさんが帰って来たみたいだよ」


その後も四人での勉強会は続き、夕方の五時頃になってようやく解散した。




帰り道が僕と同じ盛岡は道中やけにテンションが高く、照咲姉妹とお近付きになれた事を馬鹿みたいに喜んでいた。
僕ははしゃぐ盛岡に適当に相槌を打ちながらボンヤリした頭で考えていた。

42名無しさん:2018/12/12(水) 09:48:13 ID:4m9uGTtw0










川 ゚ 々゚)(髪。伸びて来た、な)








また『彼女』に切って貰わなければ、と。

.

43名無しさん:2018/12/12(水) 09:48:56 ID:4m9uGTtw0
続けばいいなと思ってる。

44名無しさん:2018/12/12(水) 15:21:08 ID:PzVUJr/g0
願いは形になる。きっと続く

45名無しさん:2018/12/12(水) 23:21:28 ID:1uWNdK6Q0
狂った世界で狂わない(狂ってないつもりの)自分て設定で外れたみんなの頭のネジ思い出したわ

46名無しさん:2018/12/13(木) 15:41:15 ID:1rlE7j8M0



若者達の喧騒。
無邪気な笑い声。
輩との思い出。
何気無い一日。
青春の記憶。






僕の名前は素直 クルウ。
年齢16歳。
身長175センチ、体重45キロの痩せ型。
異性との交際、性行為の経験共に無い。
舞雲高等学校の1年B組に在籍している。
同好会や愛好会にも所属していない。

何処にだっている、平凡な男だ。



唐突な話だが、僕は他人との距離感を大事にする人間だ。
一応『友人』という枠組みの中にいる盛岡との関係でも気を使っているんだ。
そう、決して近づき過ぎないようにね。

47名無しさん:2018/12/13(木) 15:43:00 ID:yWXwAXbY0
盛岡とは学校の中では昼食を共にしたり帰路を共にしたりするが、それ以上の付き合いは絶対にしないように心掛けている。
例えば放課後に遊びに出掛けたりだとか、暇だから夜になんとなく電話をかけて時間を潰しあったりだとか、そういった無駄に馴れ馴れしい行動は一切しない。

何故ならこの素直クルウはあくまでモブだからだ。
目立たない事を第一に行動している僕からすれば友人というのはあくまで学校内でボッチを回避する為の盾でしかない。
どうせ今、どんなに仲の良い人間を作ったところでクラスが変わったり卒業したりすれば碌に話もしなくなるだろう。

寧ろ親しくなり過ぎて僕の事を記憶に刻み込まれでもしたら本末転倒だ。
居ても居なくても変わらない。
顔も声もハッキリ思い出せない。
そんな平凡にして平穏なモブライフこそがこの僕の『幸福』の形なのだからね。


つまり。長々と何でこんな事を説明しているかというと、だ。
僕にとって『友人』とはあくまで『平穏な生活』を送るためだけの見せかけの存在だという事を説明しているのだ。

罷り間違っても青春を共に謳歌し、忘れられない輝かしい思い出を作り上げる為の『かけがえの無い存在』だなんて阿保臭くて吐気がするようは存在では無い。

僕は友人と馴れ合うつもりもなければ、青春ごっこに興じるつもりも一切無い。
そう。そんな事に一切興味は無いのだ。

48名無しさん:2018/12/13(木) 15:44:43 ID:W5MCerjA0


(*'A`)「カモンベイビー‼︎ アメリカアアアアアン‼︎‼︎」

(* ^ω^)「アメリカアアアアアン‼︎」



ξ゚⊿゚)ξ「相変わらずドクオって無駄に歌上手いわよね。顔に似合わず」

川 ゚ -゚)「あの顔も見慣れると可愛いものさ。次は誰だったかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「順番的にお姉ちゃんじゃないかな。あ、クルウ君。飲み物はアイスティーで良かったかな?」

川 ゚ 々゚)「あ、ありがとう。照咲さん。わざわざ気を使わせちゃって」

ζ(゚ー゚*ζ「好きでやってるから気にしないで。それと、私の事は」

川; ゚ 々゚)「あ、ああゴメン。未だに慣れなくて、ね。デレ、さん」

ζ(^ー^*ζ「うん。それで良し」

49名無しさん:2018/12/13(木) 15:46:18 ID:zA7od5lo0

狭苦しい部屋の中。
歌声と慣れ親しんだ音楽が響き渡る。
合間に弾む楽しげな会話。
放課後のお楽しみ。
ティーンエイジャーの思い出作り。



(*'A`)「あー歌った歌った。次マイク誰よ?」

ξ゚⊿゚)ξ「私ね。この曲は久々に歌うから緊張するわ」

( ^ω^)「何を歌うんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「ルビーの指輪」


デンモクと呼ばれる見慣れないタッチパネルの機械から手を離した照咲姉は、慣れた手つきでマイクをくるくる回して口元に構えた。

そう、マイクだ。
この狭苦しい室内でさっきからこの連中の歌声を延々と聞かされているのだ。
まあ、場所が場所だからな。
別に好き勝手に歌えば良いさ。そういう場所なんだからな。


(;'A`)「あ、相変わらず選曲が渋過ぎて何の曲か分からねえ」

(;^ω^)「なんでこのメンツの女性人はズレた選曲ばかりなんだお。ツンは昭和曲だしクーは演歌ばかりだし」

川 ゚ -゚)「むう。演歌はいいぞ。日本人の心だ」

(;'A`)「まあ、確かにクーの天城越えは鬼気迫る物があるけども。普通なのはデレくらいか?」

( ^ω^)「いきものがかりとか大塚愛とか女の子らしいチョイスだお。ツンにも見習って欲しいお」

ξ゚⊿゚)ξ「はあ? 喧嘩売ってんの? 私だって立派な乙女じゃない」

50名無しさん:2018/12/13(木) 15:51:17 ID:UdIOJa8g0
ああ、好きにすればいいさ。
どうぞご勝手に、反吐がでるようなクソ下らない青春ごっこを謳歌するがいいさ。
僕は一切、邪魔はしない。

だから。邪魔はしないから。
何度も何度も言わせないでくれ……。


(;'A`)「16歳にして蠍座の女を熱唱した人に乙女とか言われても……」

川 ゚ -゚)「確かに古い曲の割合が多いな、ツンの場合は」

ζ(゚ー゚*ζ「歌はとっても上手いんだけどね、お姉ちゃんは。ところで……」






ζ(^ー^*ζ「クルウ君は歌わないの?」





この僕を巻き込むなと言ってるだろうがクソカス共があああああぁぁぁ〜〜〜〜〜‼︎‼︎

51名無しさん:2018/12/13(木) 15:52:36 ID:4d/qd3fY0

川# 々 )(油断していた! ツキが無くなる日は『まだ先』だったから油断していた‼︎)


思えば兆候はあったのだ。
まず今日は盛岡が風邪で欠席だった。
奴が居ないことで休み時間にボッチ扱いされて悪目立ちする可能性が上がるのは癪だが、まだ許容範囲だった。

どうせ一日二日の話だ。最悪校庭の裏庭や空き教室に勝手に忍び込んで昼食を取ればいい。
流石に衛生的な問題で便所で飯を食おうとは思わないがな。
しかし、改めて考えると世のボッチ共はよくあんな臭くて汚いところで食事をする気になるな。
まあ、頭がイかれているんだろうな。

こうして頭の中で一日の計画を立てていた僕だった。
だがそんな僕の完璧な計画をぶち壊す為か、わざわざ眼前に立ち塞がるイカレポンチがいた。
言うまでも無いだろう? そう、ピンクエイリアンこと照咲妹だ。


退屈で特に得るものの無い午前の授業をやり過ごして、いざ昼食の時間。
さあ席を立とうと思った僕の前に、あの発情スイーツ異星人は無駄に可愛らしいお弁当箱を引っさげて教室のど真ん中で僕にこう言いやがったんだ。


ζ(゚ー゚*ζ「素直君。よ、良かったら一緒にお昼どうかな?」

.

52名無しさん:2018/12/13(木) 15:56:14 ID:ju0OE.aY0


凍りつく教室。
集まる視線。
嫉妬に狂う男の目。
沸き立つ女の声。
流れる冷や汗。
拒否は、許されない。



何度も何度も言うが照咲デレはマドンナだ。
奴とお近付きになる為に他校の生徒がわざわざ待ち伏せてナンパに挑戦する程に周囲に知れ渡った美貌を持つヒロインなのだ。
そんな彼女が、ここ最近モブ男に積極的に話しかけていたのだから、元々注目は浴びていたのだ。

しかし! 昼食を! 共にする‼︎
高校生という色恋に敏感な時期に、恋人でもない男女が食事を共にするという意味は決して小さく無い‼︎
しかも誘ったのはあの照咲デレからなのだ‼︎
嫌でも人目を引くだろう。嫌でも目立つに決まっている‼︎


川# 々 )(ブチ殺すぞこのクソアマがあああああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎)

.

53名無しさん:2018/12/13(木) 15:57:43 ID:EKBhdZ5U0
そんな溢れ出る殺意を必死な思いで隠し通して、錆び付くブリキ人形みたいなぎこちない動きで何とか僕は頷いた。
ここで断りでもしてみろ‼︎ クラスどころか学校中の人間から敵視されるに決まってるだろう‼︎


ハッキリ言ってそこからの記憶は曖昧だ。
あまりの怒りと不快感に胃が痛むし『頭皮がジクジクと疼いて』昼食を味わう暇や照咲妹との会話を記憶している余裕は無かったからな。

覚えている事は少ない。
照咲妹の事を今後、下の名前であるデレと呼ぶように強制された事。
照咲妹の方まで僕の事を馴れ馴れしくクルウと呼ぶようになった事。

そして何故か今日の放課後。つまり今。
照咲妹の幼馴染達であるスクールカースト上位の面々とカラオケに連行される流れになってしまった事。


川# 々 )(まだ一日! カレンダーではまだ一日余裕があったじゃないか‼︎ 『ツキが無くなるあの日』まで‼︎
今日という日は忌々しくも『運命に見放された日』ではない筈なのにいいいいいいぃぃぃぃ〜〜〜〜‼︎)


昔からそうだった。
昔からこの素直クルウは『運命』って奴にとことん嫌われていた。

54名無しさん:2018/12/13(木) 16:05:33 ID:ZgZnuFSU0
そして月に何回か。
ランダムではあるがそれでも何度かは『運命に完璧に見放されて、ツキが完全に無くなる日』が訪れるのだ。
その日の僕の不幸っぷりは半端ではない。
無神論者の僕だがその日だけは天に召しますクソ神様に中指立ててクソ爆弾喰らわせたくなるくらいだ。

『カレンダー』や『天気予報』である程度の予測が立てられるのがまだ救いではあるが、それでも僕が運命から嫌われているという事実は変わる事が無い。

そうでも無ければこんな関わりたくも無い異星人共のサバトに強制連行される筈も無いからな‼︎


川; ゚ 々゚)「こういう所、来るの初めてだからさ。何を歌えばいいか分からないんだ」

ζ(゚ー゚*;ζ「あ、そうなんだ。何だか強引に誘っちゃったみたいでゴメンね?」

川; ^々^)「ハハハ。気にしないでよデレさん。元々、興味はあったからね。誘ってくれて嬉しいよ」


嬉しい訳あるかこのピンクエイリアンがあああああぁぁぁ‼︎
この素直クルウの時間を奪われた時点で剛腹ものだが何よりもこのメンツが最悪なんだよ‼︎

55名無しさん:2018/12/13(木) 16:08:37 ID:ZgZnuFSU0
全員がクラスメートで異星人及びその関係者ばかりじゃないか⁉︎
何故だ‼︎ 平凡で平穏な生活を望んでいるだけの無害な僕に何故こんな試練ばかり訪れるのだああああああぁぁぁぉ⁉︎


川 ゚ -゚)「まあ最初は私も戸惑ったがな。案外慣れれば楽しいものだよ、素直クルウ君」

川 ゚ 々゚)「そうなんだ。えーと、委員長さん」

川 ゚ -゚)「ここは学校ではない。私の事は空承 クールで構わないよ」

川 ゚ 々゚)「あ、ゴメン。宜しくね、空条さん」

('A`)「そーいや俺もちゃんと自己紹介してなかったよな。宇都田 ドクオだ。 ミリタリー同好会に入ってんだ、宜しくな」

( ^ω^)「お? 自己紹介の流れかお? 僕は内藤 ホライゾン。あだ名はブーン。陸上部で短距離やってるお」

川^ 々^)「丁寧にありがとう。素直クルウだよ、宜しくね」


この地獄のカラオケボックスにいるメンツは照咲姉妹、それにサムライ委員長の空条 クール。
ガリガリの宇都田 ドクオに、ブタバナの内藤 ホライゾン。
言うまでも無いがこいつらは異星人とその関係者だ。

56名無しさん:2018/12/13(木) 16:12:17 ID:ZgZnuFSU0
クラスでの会話を耳に挟んだ程度だが宇都田は空条と。
内藤は照咲姉と恋人の関係だそうだ。

全くもってどうでもいい話だが、誰が誰と付き合っているという話は意外と重要だったりする。
ちょっと喋っただけで人の女に色目使ったとか難癖つけてくるバカもいるからな。
トラブルを避けるために学内の情報はなるべく多く握っているに越した事は無いのだ。


しかし、照咲姉妹は今更だがこの面々で特に注意すべきはもう一人の異星人だな。
多少、脚が速いだけの内藤と可哀想な顔面の宇都田はともかく。空条 クール。
こいつは危険だ。



川 ゚ -゚)

空条 クール。
1年B組の学級委員長にして女子剣道部の超有望株。
腰まで伸ばした黒髪は烏の濡れ羽色。
作り物みてーな美貌に無駄にデカくてキラキラした瞳。
やや堅苦しい喋り方に一寸の隙も見せない程にしっかりと着こなしたセーラー服、シャンと胸を張ったその姿勢はまさにサムライガールの名前がピッタリだ。

アレだ。なんつーかハーレム物のラノベに絶対一人はいる大和撫子枠だな。
古き良き日本女子を具現化したようなその美貌と性格はまさに男の理想って奴なんだろう。
最も、僕からしたら関わりたく無い異星人の一人でしか無いがね。

57名無しさん:2018/12/13(木) 16:13:48 ID:ZgZnuFSU0
しかし此処までの美貌を持っているのに何故、宇都田のようなグロテスクな顔面の男と付き合っているのだ?
やはり異星人だから美醜の感覚が人間と違うのだろうか?
まあ、彼氏持ちなら照咲妹みたいにこっちにくっ付いてきたりはしないだろう。
そう考えると多少は安心できるな。


('A`)「そーいや素直は歌わねーの? ワリカンなんだから金が勿体ねーぜ?」

川 ゚ -゚)「カラオケに来るの初めてだそうだ」

('A`)b「ああ、なーる。ダイジョブダイジョブ、下手でも笑うような人間は此処にはいねーから、楽しもうぜ!」

川^ 々^)「ハハハ。ありがとう宇都田君」


その顔で近づくなブサイクが。
別に僕も人様の事をどうこう言えるルックスでは無いが、人に不快感を与える程では無いぞ。
それに何だかドクダミ草みたいな体臭がして非常に不愉快なんだ。

ああ、もう早く帰りたい。僕がこんな受難を味わってるのも全てピンクエイリアンのせいだ‼︎

58名無しさん:2018/12/13(木) 16:15:20 ID:ZgZnuFSU0

ξ゚⊿゚)ξ「ふう、歌い終わった。そういやクルウ、あんた歌わないの?」

('A`)「今ちょーどその話をしてたんだわ。初カラオケらしいぜ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん。クルウ、あんたって普段はどんな曲聴いてるのよ?」


ぐっ……此処で歌わずに帰るという選択肢は取れないか。
忌々しくもこいつらはクラス内のスクールカーストで最上位のグループだ。
白けた空気を作って目の敵にでもされたら僕のスクールライフも終わりだ。

しかし弱ったな。僕は今時の音楽に全くと言っていいほど興味が無いんだが。


川 ゚ 々゚)「うーん、父さんがよく古い洋楽を聴いてたから。そこら辺ならちょっと分かるくらいかな」

('A`)「おーいいじゃん洋楽。俺も好きだぜ、江南スタイルとか」

(;^ω^)「あれを洋楽のジャンルに入れていいのかお?」

.

59名無しさん:2018/12/13(木) 16:16:45 ID:KAWaa8Kg0

ζ(゚ー゚*ζ「わあっ‼︎ 私、クルウ君の歌聴いてみたいな」

川; ゚ 々゚)「いや、精々口ずさむくらいだから下手だし。発音とかも適当だから」

ξ゚⊿゚)ξ「気にし過ぎよ、とりあえず歌う事。はい、決定。ほらデンモク」


全員が注目している中で歌わねばならないとは。どんな拷問なんだ畜生‼︎
こんな事なら流行りの曲を何曲か暗記しておくべきだった‼︎


川; ゚ 々゚)(し、仕方ない。歌うか。とは言え、しっかりと覚えてる曲は二曲だけなんだが)


僕にとって想い出深い曲は二つある。
もともと父さんが洋楽を好んでいたのは本当の話だ。
だが正直な話、僕は全く興味が無かった。
ろくすっぽ英語も喋れ無い癖して洋楽聴いてる奴なんて、唯のカッコつけ野郎にしか見えなかったからな。


川 ゚ 々゚)(だけど、あの日)


そう。運命の日だった。
僕が『彼女』と出逢ったあの日。

60名無しさん:2018/12/13(木) 16:18:27 ID:GzxqS3RE0
父さんがつけっぱなしにしていたCDラジカセから続けざまに流れていた二つの曲。
それだけはしっかりと覚えているんだ。

両方とも『彼女』の名前に、相応しい曲名だったから、ね。

今でも、思い出す。あの時を。



暗闇の中。
窓から照らす月明り。
僕は真っ赤に染まり。
彼女は聖母のように僕を見下ろす。
流れる音楽。
それは、この出逢いを。
祝福するようで。




慣れない機械に戸惑いながらも、悩みに悩んだ僕は、結局『彼女』の名前に『捧げなかった方』の曲を入力した。

こっちの曲だって、とても好きな曲ではあるし、『彼女』の『力』に相応しい曲名でもあるとは思う。

だが結局、僕はもう一つの。
あの、陰湿で、憂鬱で。
それでも妖しく、美しくて、艶かしい。
あの曲の名を彼女に捧げたのだった。


川 ゚ 々゚)(思えば、あの時から)


僕の人生が、ほんの少しだけ狂ってしまったようにも思える。
それでも、僕は。
彼女との出逢いだけは、決して。決して。

61名無しさん:2018/12/13(木) 16:19:49 ID:snend6hs0






川 々 )(後悔だけはしていない)





.

62名無しさん:2018/12/13(木) 16:24:13 ID:NT5ObSp60


〜〜〜♪


ξ゚⊿゚)ξ「あ、この曲知ってるわ」

(;'A`)「何だこのタイトル。英語あんま分かんねーけど、また物騒な曲名だなー」

川 ゚ -゚)「恐らくだがドクオが想像しているような意味のタイトルでは無いぞ。パッと見て勘違いするのは分かるがな」

( ^ω^)「おー! 名曲だおー‼︎」



周りの連中が何だかガヤガヤと騒いでいるようだったが、この時の僕は不思議なくらいに奴等の騒音がどうでもいいものに感じていた。
きっと、僕の心はその時、彼女との想い出に満たされていたからだろうな。



川 ゚ 々゚)「」



.

63名無しさん:2018/12/13(木) 16:25:11 ID:S1u.hAjU0


彼女は可愛いキャビネットに

モエ・エ・シャンドンを常に忍ばせている

みんなでケーキを食べません?

だなんてマリーアントワネットみたいなセリフを口ずさむ。

生まれつきのカリスマで

フルシチョフもケネディーだってなだめちまう

彼女からのお誘いは何時だって

断れる訳がないのさ

最高級のキャビアにシガーがお似合いで

礼儀作法も完璧で

彼女はまさに最上で最高の女性なのさ


.

64名無しさん:2018/12/13(木) 16:30:38 ID:D.jVVAiI0


川 ゚ 々゚)「She´s a Killer Queen」




彼女は『キラー・クイーン』

火薬かニトログリセリンか

レーザー付きのダイナマイトか

君の心なんか軽く爆破されちまうのさ

何時だってね?

その価値は充分にあるんだ

飽くことの無い欲望ってやつを

御賞味あれ?



.

65名無しさん:2018/12/13(木) 16:36:00 ID:D.jVVAiI0







すっかりと日が沈んだ帰り道。
僕の心は不思議なくらいに軽かった。
あの異星人共に付き合わされたのは癪だが、歌うという行為は想像以上に心地良いものだった。

休日に一人でカラオケに行ってみるのもいいかも知れない。


川 ゚ 々゚)(いや、『彼女』と二人きりで。だな)


僕は後ろを振り返る。
常日頃から人気の少ないこの裏道だ。勿論そこには誰もいなかった。
だが僕には分かるのだ。彼女が僕の事をしっかりと見守ってくれている事が。


川 ゚ 々゚)「〜♪」


気がついた時には僕は『あの歌』を口ずさんでいた。
ついさっき人前で歌わされた方じゃあ、無い。

彼女の『名前に捧げた』曲の方だ。

66名無しさん:2018/12/13(木) 16:39:13 ID:.zw/rAs20

川 ゚ 々゚)「……ッド……オー……ッド……♪」


『運命』から嫌われ、とことん不幸な目にあった今日という一日。
帰宅の時間はいつもよりずっと遅れ、両親にだって文句を言われた。

だが、不思議と穏やかな心で一日を終えられた気がする。



川 々 )(例えどんな狂った世界でも、『彼女』さえ居れば)



僕はいつもの習慣通り。
温かいミルクを飲んで、ストレッチを済ませる。
そして『彼女』に見守られながら、赤ん坊のように朝までぐっすり熟睡した。

67名無しさん:2018/12/13(木) 16:40:50 ID:fUp9rO7o0
続くと信じている。

68名無しさん:2018/12/13(木) 19:31:42 ID:NMEZKSPw0
たのむ

69名無しさん:2018/12/14(金) 23:12:47 ID:GK0lpjCc0
乙!
徐々にくるうの狂気?の片鱗が出てきたな

70名無しさん:2019/02/02(土) 21:00:25 ID:MlytWSNg0
続きが気になるな…

71名無しさん:2019/03/12(火) 16:04:22 ID:1OlyvDQE0
青春ギャグかと思ってたけどちょっと違うか
続き期待


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