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(´・_ゝ・`)ペアリングのようです(゚、゚トソン
1
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:02:26 ID:Q.JOBvVs0
彼は、私の主人。
彼は、私の事を名前で呼ぶ。
彼は、大の甘党。
.
2
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:03:05 ID:Q.JOBvVs0
コンコン、
ノックの音。物置の扉がカタカタ揺れた。
ここは彼の家だというのに、随分律儀だと思う。
はあい、と返事をすると扉が開いた。
(´・_ゝ・`)「トソンくん、トソンくんやい」
(゚、゚トソン「何です、人の名前をトムヤムクンみたいに」
(´・_ゝ・`)「何してるの」
(゚、゚トソン「お掃除ですよ、私の仕事です。主人」
(´・_ゝ・`)「自分から言うのもなんだけど、その呼び方、どうなの?」
(゚、゚トソン「どうなの、とは」
3
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:03:38 ID:Q.JOBvVs0
(´・_ゝ・`)「仮にも使用人が雇い主に向かって『主人』って。『ご』と『様』は?敬いの気持ちは?」
(゚、゚トソン「敬いの気持ちと言われましても、私ここで働き始めてまだ1ヶ月ですし、主人のことまだ敬えるような身分ではありませんので」
(´・_ゝ・`)「え?え?雇われた時点で敬うものじゃ…え?」
(゚、゚トソン「私が敬うのは酒の神様と酒をつくる人たちぐらいですし」
(´・_ゝ・`)「じゃあ何ヶ月働いても君は僕を敬わないよ…」
(゚、゚トソン「ああ、面倒ですね。何です?用事があったんじゃないんですか?」
(´・_ゝ・`)「ああそうそう、あのね、かき氷が食べたいんだ」
4
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:04:20 ID:Q.JOBvVs0
1.たかが氷、されど氷
.
5
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:04:59 ID:Q.JOBvVs0
人の良さそうな、悪く言えば気弱そうに見える眉毛の男性は、私の雇用主デミタスという金持ちだ。
私は彼の身の回りを世話する、使用人である。
この雇主は、いい歳をこいて大の甘党だった。
別に何を嗜好にしようが本人の勝手だが、彼の場合は私にも関係する事なので、少しくらい悪く言っても良いだろう。
ーーー彼は、手作りの甘いものが大好物なのである。
彼が欲するものを作るのは、この屋敷ただ1人の使用人、私だけなのだ。
6
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:05:38 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「かき氷、ですか。秋の始めに、まぁ」
甘いもの、と言ってかき氷を求めるのはどうなのだろうとは思いながらも、最近若者の間で変わったかき氷が流行っているらしいから、そんな物なのだろうと流す。
主人は若くはないけれど。
(´・_ゝ・`)「今年は食べてなかったなって思って」
毎年食べていたのだろうか。
金持ちの思考も嗜好も、私にはよくわからない。
(゚、゚トソン「機械あります?」
(´・_ゝ・`)「無いね」
(゚、゚トソン「だから貴方は主人止まりなんですよ」
(´・_ゝ・`)「なんかごめんね」
7
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:06:35 ID:Q.JOBvVs0
舌打ちをしたら傷付いたと言わんばかりの顔をされたけれど、気にしない。
ただでさえ甘いものばかりを摂取してるこの主人を甘やかしてやる必要はない。
(゚、゚トソン「フードプロセッサーあったから代用するか」
かき氷は作れないわけではない。むしろ焼いたりなんだりするケーキよりは幾分も楽だ。
(´・_ゝ・`)「味は任せたよ」
(゚、゚トソン「だから貴方は主人止まりなんですよ」
(´・_ゝ・`)「だからごめんね」
8
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:07:08 ID:Q.JOBvVs0
主人を放ってキッチンに立つ。
この屋敷は私以外誰も働いていないくせにただただ広く、設備も整っている。
キッチンも、コックが数名働いていてもおかしくはない広さだ。
(゚、゚トソン「さて作りますか」
(゚、゚トソン「かき氷を機械無しで作る時の注意点。氷に気を使うこと」
(゚、゚トソン「氷を制す者がかき氷を極める者となります」
◇⊂(゚、゚トソン「ここに私が用意した最高の氷があります」
◇⊂(゚、゚トソン「これをフードプロセッサーに」
◇⊂(゚、゚トソン
◇⊂(゚、゚トソン「入れたくねぇ……」
9
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:07:55 ID:Q.JOBvVs0
◇⊂(゚、゚トソン「給料のため、金のためですトソン。我慢するのです」
◇⊂(゚、゚トソン『そうは言ってもよ、トソン。
この氷は仕事終わりのお楽しみ☆ウィスキーロックのために用意したもの。
それをあんな三十路過ぎて甘いものばかりを欲しがる面倒な主人に使うなんて…(裏声)』
◇⊂(゚、゚トソン「仕方ないんですよトソン。これが私の仕事ですから…」
◇⊂(゚、゚トソン『現実は非常ね……(涙声)』
一人二役の大役を勤めあげ、氷をフードプロセッサーに放り込んだ。
氷が悲鳴をあげながら小さく細かくなっていく。
(゚、゚トソン「あ、半分貰えば良いのか」
ズガガガガガガガ
(゚、゚トソン「……全部かきごおってしまいましたね、ふぁっ◯」
10
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:09:28 ID:Q.JOBvVs0
氷はまぁまぁふわふわな状態だ。良い氷はやはり違う。
ああ、ああ、(主人の金で揃えた)最高の氷の、悲しい姿。
早く氷を着飾らせてあげないと。ただの水になってしまう。
(゚、゚トソン「シロップはなんでも良い、って何ですかね」
(゚、゚トソン「なんでも良いなら氷舐めてればいいのに」
何かを作って貰う際の『なんでもいい』は、胸ぐら掴まれても仕方ないと思って欲しい。
11
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:10:32 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「私が沸ってもしかたありません、お湯を沸かしますよ」
(゚、゚トソン「あっという間にすぐに沸く」
(゚、゚トソン「フフーンフン♪」
カチッ
(゚、゚トソン「沸きました」
(゚、゚トソン「淹れて冷まして…あ、ラフランス有りましたね。よしよし」
12
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:11:12 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「主人、かき氷が出来ましたよ」
(´・_ゝ・`)「ああ、なんかいい匂いだ」
かき氷を持ってリビングへ行くと、チェアでまったりしていた主人がゆったりと振り向いた。
(゚、゚トソン「ダージリンとラフランスのかき氷です。お好みでミルクかけてください」
(´・_ゝ・`)「ああ、美味しそうだ。いただきます」
(゚、゚トソン「あったかいほうじ茶、淹れますね」
(´・_ゝ・`)「うん?うん…あー、美味し冷たい」
かき氷に熱々のほうじ茶?と訝しげな顔を主人が向けた。
わかってない、わかっていないな。
私は小さくバレないようにほくそ笑んだ。
13
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:11:49 ID:Q.JOBvVs0
ダージリンの良い香りがほのかに漂う。主人はミルクを少し入れ、細かく混ぜていた。
シャクリシャクリと涼しげな音。
9月に入ったものの、気だるい暑さが続く今日、大人のかき氷というのも、悪くないのかもしれない。
(´・_ゝ・`)「トソンくんは食べないのかい?」
(゚、゚トソン「私は仕事終わりに楽しみますので」
(´・_ゝ・`)「ふーん……ごちそうさまでした。美味しかった」
(゚、゚トソン「お粗末さまでした、ほうじ茶どうぞ」
(´・_ゝ・`)「ん、ありがとう」
14
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:12:23 ID:Q.JOBvVs0
(´・_ゝ・`)「…おお、冷えていた体にありがたい温度だ」
(゚、゚トソン「ふふん、そうでしょう。『かき氷にほうじ茶!?愚かだな!』という顔をしやがったことを悔やんでください」
(´・_ゝ・`)「そこまでは思ってないよ…」
(゚、゚トソン「かき氷は女老人には厳しいです、身体の熱を奪いますから。温かい飲み物が良いペアリングになりますよ」
(´・_ゝ・`)「ふーん………ちょっと待って、今僕のこと老人扱いした?え?ねぇちょっと」
15
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:13:16 ID:Q.JOBvVs0
ブツブツとまだ若いだの言いながらも、
甘いものを摂取し満足した主人は、自室へ戻って行った。
これでしばらくは部屋から出てこないだろう。
主人は食事とトイレなど以外はずっと部屋にいる。
『仕事』をしているのだ。
広すぎて寂しさを感じさせる屋敷と、
甘いものを与えておけばいい主人の世話だけで破格の給料が貰えるこの仕事、面倒ではあるけれど嫌いではない。
なぜなら私は酒が好き。大好き。
そして、酒の次に金が好きだから。
金がなければ酒は飲めず、働かなければ金は得られず。皮肉なものね。
16
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:13:55 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「ああ、仕事が終わりました。今日も1日お疲れ様トソン、稼ぎましたねトソン」
待ってましたと言わんばかりに冷凍庫をばかっと開ける。
(゚、゚トソン「さて、私も大人のかき氷を楽しみましょうか」
(゚、゚トソン「ああ案の定かきごおった氷が大きな氷の塊になってますね」
今更だけれど、私は料理中に独り言をいう癖がある。
周りに誰もいないから、困ることではない。
17
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:14:44 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「もう一度フードプロセッサーにかけましょうね」
(゚、゚トソン「夜中に騒音?関係ありません。酒があればいつだってナイトフィーバーです」
(゚、゚トソン「氷は二度死ぬ」
ああ、待たせてごめんよ。
いそいそと主役様を取り出す。
思わず笑みがこぼれる。
(゚、゚トソン「このかき氷に」
(゚、゚トソン「最高のウイスキーいっちゃいます、かけちゃいますうひゃーー」
失礼。酒を目の前にすると理性が消える。仕方のないことだけど。
(゚、゚トソン「ラフランスも添えて」
(゚、゚トソン「……はー。最高。最高の産物。」
18
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:15:27 ID:Q.JOBvVs0
ペアリング、という言葉をご存知だろうか?
いえ、アベックが交際数ヶ月で買い求める方ではなく。
フードペアリング。
お酒と相性が良い食べ物や、料理の事。
私はお酒が大好きだけれど、お酒と一緒に何かを楽しむのも大好きなのだ。
.
19
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:16:33 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「あー、高い酒と高い食材楽しむのサイコ〜」
最高の氷に、最高のウイスキー。
面倒な主人をツマミに最高の酒。
最高のペアリングかもしれません。
1.終
20
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:25:00 ID:Q.JOBvVs0
彼は、甘いものが切れると弱る。
強い時なんて、あまりないけれど。
.
21
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:25:37 ID:Q.JOBvVs0
(´・_ゝ・`)デミタス。屋敷の主人。甘党。金持ち。
(゚、゚トソン トソン。使用人。酒党。金好き。
.
22
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:26:34 ID:Q.JOBvVs0
庭の掃除は、割と好きだ。
この屋敷はだだっ広くて何も無いわりに、庭は木々や花々で賑やかだから。
今の時期は秋桜が綺麗に咲いている。
他の花壇を見る限り、春夏秋冬楽しめるようになっているのだろう。
小さいが、薔薇のアーチもある。
……私が雇われる前は誰が世話をしていたのだろうか。
柔らかい芝が踏まれる音がして、時計を確認したら14時半。
もうそんな時間か。
23
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:27:43 ID:Q.JOBvVs0
(´・_ゝ・`)「トソンくん、甘いものが食べたい」
だいたい自室にこもってるだけなのに、体内時計は正確な主人。
これが小さい子供なら微笑ましかったかもしれないが、相手は30を超えたオジサン。
微笑ましさも、可愛さも、全くない。
(゚、゚トソン「主人、甘いものが食べたいのなら良いものがあります」
(´・_ゝ・`)「お、作り置きでもあるのかい」
(゚、゚トソン「ジャジャン、砂糖です」
(´・_ゝ・`)「虫か」
(゚、゚トソン「砂糖は素晴らしいですよ。
つまみがない時、砂糖を舐め酒を飲み、塩を舐め酒を飲み…酒を永遠に飲んでいられます」
(´・_ゝ・`)「恐ろしいやつだなきみは…一度健康診断を受けた方が良い」
(゚、゚トソン「それは多分、主人もです」
24
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:28:38 ID:Q.JOBvVs0
庭掃除を一時中断して、屋敷内に入る。
掃除も私の仕事。主人の甘いものを作るのも私の仕事。
(゚、゚トソン「漠然と甘いものって言われましても…連日台風で買い物にも行けていませんからね。材料何かあったかな」
(´・_ゝ・`)「あっ、ゼリー食べたいなゼリー」
(゚、゚トソン「ゼリー。まだ夏抜けてませんね」
(´・_ゝ・`)「まだちょっと暑いし、糖分摂取でもしないと集中出来なくて」
集中。『仕事』をするにあたっての事だろう。
主人が自室にこもっているのは、『仕事』をするためだ。
25
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:29:25 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「今週は何でしたっけ」
(´・_ゝ・`)「今は翻訳家だよ」
(゚、゚トソン「主人、何ヶ国語わかるんです?」
(´・_ゝ・`)「えーと、5…?」
(゚、゚トソン「5だと何リンガルですか?タンバリンリンガル?」
(´・_ゝ・`)「何だそれ。ペンタリンガルだよ、確かね」
(゚、゚トソン「へー」
(´・_ゝ・`)「聞いておいてあんまり興味ないだろ、きみ」
26
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:29:57 ID:Q.JOBvVs0
2.プルプルしてればいいと思うな
.
27
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:30:48 ID:Q.JOBvVs0
この屋敷は、初めて入った人間は大体迷子になる位、広い。
私も初めて来た時は迷子になった。
正直このキッチンだって、私1人住めそうな程広いのだ。
こんなに広いのに使用人は私1人。
お菓子を作るのも私1人。
私がやらねば主人はずっと甘味を求め続ける。
金の為に、作らねば。
(゚、゚トソン「ゼリーは簡単です。お中元でいただいたカルピス。これを使います」
砂糖にでも漬けていた方がいいような主人だが、人望や繋がりは意外とあるらしく、私がこの屋敷に勤め始めた時にお中元の品々の片付けをさせられた。
酒類など好きに持って帰っていいとの言葉に我を忘れかけたけれど、食べ物も結構な量があり、消費期限との闘いの日々だった。
頂き物ということもあるけれど、極力食べ物を無駄にはしたくない。
28
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:31:42 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「私はアガー使用のゼリーが好きなのですが、屋敷にアガーがありませんので今回は板ゼラチンを使います」
(゚、゚トソン「主人の事ですから甘めの方が良いでしょう。カルピスは濃いめです」
(゚、゚トソン「原液でも喜ぶかもしれませんね」
(゚、゚トソン「混ぜます」グルグル
(゚、゚トソン「生クリームと卵を別のボールで」
(゚、゚トソン「混ぜます」 グルグル
(゚、゚トソン「……」グルグル
(゚、゚トソン「ネッテオイシイネルネルネル…」グルグル
(゚、゚トソン「おっといけない、年代がバレる」
29
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:32:24 ID:Q.JOBvVs0
ゼリーを冷蔵庫に大事にしまい、あるものを持ってリビングへ向かう。
糖分の切れかかった主人は少し元気がなくなってしまう。今もソファに深く沈んでいた。
(゚、゚トソン「主人、ゼリー固まるまで時間がかかります」
(´・_ゝ・`)「どれくらい?」
(゚、゚トソン「固まるまでです」
(´・_ゝ・`)「oh……」
(゚、゚トソン「それまでこれ食べててください」
(´・_ゝ・`)「わぁ、何これ」
(゚、゚トソン「揚げパスタです。私のおつまみ用に作ったので、全部食べちゃだめですよ」
(´・_ゝ・`)「あ、美味しい」ぽりぽり
(゚、゚トソン「でしょう」
30
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:33:17 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「翻訳家って、何を翻訳するんですか?」
私はあまり頭が良くない。というか、学がない。
そして変なプライドも無いので、疑問に思ったことはすぐポロっと聞いてしまう癖があった。
主人はそんな私を決して馬鹿にはせず、大抵、そうだねと一拍置いて答えてくれる。
(´・_ゝ・`)「小説、雑誌、歌詞、色々だね」
(゚、゚トソン「主人は何を?」
(´・_ゝ・`)「僕は今、小説を翻訳してるよ」
小説。
普段読書をしない私だが、何故だか少し興味を持った。
(゚、゚トソン「面白い話ですか?」
(´・_ゝ・`)「どうだろう、戦争を題材にした話だからなぁ」
(゚、゚トソン「せんそー系ですか」
(´・_ゝ・`)「うん」
31
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:33:55 ID:Q.JOBvVs0
ポリポリ。軽い音が跳ねる。
良かった、どうやら主人も気に入ったようだ。
先ほどよりは元気が出たようで、少し明るくなった顔で私を見ていた。
(´・_ゝ・`)「興味あるの?小説」
(゚、゚トソン「いえ…小説というか、主人が手掛けたものに興味があったので」
(´・_ゝ・`)「僕?」
君もどうぞと揚げパスタを差し出されたけど、仕事中ですので、と断る。つまみは酒と一緒でナンボです。
(゚、゚トソン「はい。主人は大の甘党である甘ちゃん野郎ですが、博識でいらっしゃいますし。
面白そうなものを手掛けそうだなと」
32
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:34:56 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「知り合いが作ったものって、愛着というか特別な感情があるじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「…へぇ、そんなものか………今さりげなく僕のこと馬鹿にしなかった?」
(゚、゚トソン「おや、そろそろゼリー固まりましたかね。見てきまーす」
(;´・_ゝ・`)「こんな使用人、初めてだよ…」
(゚、゚トソン「……」
当たり前だけれど、やはり私が来る前にも使用人がいたのか。
主人の何気ない言葉を背に、私はまたキッチンへと向かった。
33
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:35:52 ID:Q.JOBvVs0
ぷるんぷるん。
運ぶ際、その身を揺らす、冷えたゼリー。
林檎のコンポートも添えて、彩りも良い。
(*´・_ゝ・`)「わぁ、凄いな。二層になってる」
(゚、゚トソン「案外、簡単なんですよ」
(´・_ゝ・`)「いただきます」
(゚、゚トソン「はーい」
スプーンでゼリーを優しく掬う。
ゼリーはプルプルと小さな反抗をしてみせるも、一口分ぽっかりと穴を開け主人の口へと運ばれて行った。
34
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:36:44 ID:Q.JOBvVs0
(*´・_ゝ・`)「うん、美味しいね。この林檎がまた、合ってる」
(゚、゚トソン「それは良かった」
(´・_ゝ・`)「ねぇ、トソンくんはどんな本読むんだい?」
(゚、゚トソン「私ですか?酒に関する書籍は大体目を通します。あとはそうですね…ファンタジーが好きです」
主人がわざとらしく噎せた。
(´・_ゝ・`)「意外だ」
(゚、゚トソン「物語くらい、夢のある話が良いので」
(´・_ゝ・`)「ふぅん」
35
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:37:44 ID:Q.JOBvVs0
ごちそうさま、と綺麗に完食した主人はまた部屋に戻って行った。
翻訳とやらはだいぶ大変なのだろう。特に戦争小説ともなると、多大な知識がなければ訳すのは難しそうだし。
人が死ぬような話は苦手だが、主人が訳したものとあれば。
(゚、゚トソン(読んでみても、いいかもしれませんね)
少しだけそう、思った。
36
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:38:21 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「さぁさぁ皆さんお待ちかね☆トソンのワクワク晩酌会のお時間です」
(゚、゚トソン「今日もよく働いた!頑張った私!」
(゚、゚トソン「今日はフッフッフ」
(゚、゚トソン「カルピスを使いましょうねぇ」
仕事終わりの私はいささかテンションが高い。
仕方ない。酒を飲めない状況というのは、おあずけを喰らった犬と同じだ。
職務を果たした私は『待て』を解かれた状態。涎が垂れても仕方がない。
37
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:38:56 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「まず先に、揚げパスタを作り直しましょうね」
(゚、゚トソン「全部食べるなっつったのに主人め、いつの間にか完食しおって…」
(゚、゚トソン「あっぶらあっぶらにパスタをズドン」
(゚、゚トソン「パチパチしてます。この音がまた美味しそうですよね」
(゚、゚トソン「油を切って塩胡椒のやーつとコンソメのやーつ」
揚げパスタは偉大だ。油とパスタがあれば出来るおつまみ。
なければ調味料だけで済むけど。
38
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:39:27 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「さて、主役を作りましょう」
(゚、゚トソン「今日の主役、カルピスさんとヒロインのビールさんの登場です。ヒュー」
(゚、゚トソン「出会って2秒の2人を混ぜます」
(゚、゚トソン『キャーイヤーナニー!?(高い裏声)』
(゚、゚トソン『ゲヘヘイイダロゲヘヘ(低い裏声)』
(゚、゚トソン「そして2人の愛の結晶、ダブルカルチャードが完成です」
(゚、゚トソン「何をしてるんだ私は」
(゚、゚トソン「やはり素面だと駄目ですね。酒だ酒だ、酒を飲むぞ」
39
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:40:17 ID:Q.JOBvVs0
(゚、゚トソン「林檎のコンポートとモッツァレラチーズも作ってあります」
(゚、゚トソン「実はこの林檎、赤ワインに漬けていたので彩りも豊かなのである」
(゚、゚トソン「モッツァレラも普通のスーパーではなく、お取り寄せしました。主人の金で」
(゚、゚トソン「あーあ、豪勢。豪華。最高の晩酌」
(゚、゚トソン「仕方ないんですよ、ビールもカルピスもお中元で腐る程頂いていて、腐らせてしまっては勿体無いですから。仕方ないんですよ」
(゚、゚トソン「では、いただきます」
40
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:42:40 ID:Q.JOBvVs0
ダブルカルチャードは簡単に作れるビアカクテルだ。
カルピスによってビールの苦味を抑えられてるので、苦手な方も結構飲みやすいはず。
甘苦い味わいなので、甘いおつまみもしょっぱいおつまみも合う。最高。
(゚、゚トソン「あー、カルピスは夏の風物詩。爽やか。夏はもう終わってるけど」
苦味だらけの小説も、主人の優しさが混じれば読めそうな気がする。
少しだけそう思ったけれど、明日には忘れてそうだ。
今日のペアリングも最高でした。
2.終
41
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 16:45:01 ID:Q.JOBvVs0
本日の投下は以上になります。
お正月ですが、お酒の飲み過ぎ、おやつの食べすぎにはご注意下さい。
ありがとうございました。
42
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 17:36:46 ID:c4PQ0n52O
ゆるい飯テロいいな
43
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 18:27:57 ID:MpmoZSlU0
揚げパスタうまそう乙
44
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 18:56:46 ID:kNa30W0w0
乙 今年は酒控えようと思ってたのになんてスレだ…… 来年から控えるか……
45
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 21:24:34 ID:3x.xzfJU0
こりゃいいな…
乙
46
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 21:31:49 ID:Wdfv3M2w0
体質的にアルコールダメだけど、甘いもの好きです。おいしあわせな食べ合わせ、期待してます!
47
:
名無しさん
:2018/01/02(火) 23:16:16 ID:yshFT/vY0
禁酒なうの俺が読むんじゃなかった
トソンのこだわり良いなぁ
48
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 08:50:43 ID:p1//NYd20
酒弱いけど久々に飲みたくなった
ベイリーズ+ホットミルクだけど
49
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:36:55 ID:Z1FMOz0U0
彼は、何でも出来る。
魔法の手を持っている。
彼は、料理が出来ない。
魔王の手を持っている。
.
50
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:37:39 ID:Z1FMOz0U0
3.芋栗南瓜が好きな奴は大体良い奴
.
51
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:38:17 ID:Z1FMOz0U0
(´・_ゝ・`)デミタス。偉い。甘いものが好き。
(゚、゚トソン トソン。偉そう。酒が大好き。
.
52
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:39:05 ID:Z1FMOz0U0
リビングの掃除をしていたら、玄関のチャイムが鳴った。
この家はチャイムの音まで何やら上品な気がする。
玄関まで遠いが、反射的にはぁいと大きな声で返事をして、小走り気味に向かった。
宅配便が届いた。
お中元しかり、この屋敷の主人はどうやら顔が広いらしく、色んな荷物が色んな所から届く。
それにしたって、今回の荷物は謎だ。
53
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:39:44 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「主人」
(´・_ゝ・`)「わぁ、びっくりした。あれ?もうおやつの時間?」
(゚、゚トソン「いえ、残念ながら。すみませんね、ノック何回かしたんですけど反応が無かったので『菓子無し死』してないか心配になりまして」
(´・_ゝ・`)「ああ、集中してたから気付かなかったよ。ごめんね……菓子無し死って何?」
(゚、゚トソン「そんなことより主人、手を貸してくださいませんか」
(´・_ゝ・`)「手?」
(゚、゚トソン「そう、それです」
自分の両手を、まるでオペを始めるように掲げる主人。
そのまま玄関まで連行。
54
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:41:48 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「こんな荷物が届きまして」
(´・_ゝ・`)「やぁやぁ、大きな荷物だ」
(゚、゚トソン「でしょう。流石にか弱くてか細いスレンダー美人の私1人では持てなくて」
(´・_ゝ・`)「流石に僕1人じゃツッコミきれないよ?」
(゚、゚トソン「私、箸より重いモノ持てませんからー」
(´・_ゝ・`)「お酒は?」
(゚、゚トソン「お酒は持ち物じゃなくて飲み物ですからー」
大きな箱の向こう側を持つよう、指示する。
僕に荷物持たせる使用人なんて…とかなんとかごちゃごちゃ言っていたけど気にしない。
主人は少しフラフラしながら、どうにか2人でリビングまで運んだ。
55
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:42:35 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「あら、これはまた立派な」
(´・_ゝ・`)「ああ、良いね。もうそんな時期なんだ」
ダンボールを開け、中に御坐すは大きな大きな南瓜とサツマイモ。そして、いっぱいの栗。
秋が箱に詰められてやってきた。
(゚、゚トソン「凄いですねこれ」
(´・_ゝ・`)「差出人は……ああ、なるほど」
(゚、゚トソン「?」
差出人を見た主人は何やら少し悲しげな顔して、小さく笑った。
56
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:43:17 ID:Z1FMOz0U0
『蛯沢でぃ』
ちらりと差出人を見る。
名前だけでは女性か男性かも判断がつかない。
主人と深い付き合いがあるのだろうな、と言うことだけぼんやりわかる。
南瓜の傍にあった手紙を読んで、また主人が悲しげに笑った。
(´・_ゝ・`)「……昔お世話になってた人でね、今は田舎に帰ってるんだけど、そこで採れる野菜をたまに送ってくれるんだ」
(´・_ゝ・`)「手紙に『お菓子ばかりではなくお野菜もちゃんと食べてくださいね』って書いてあるよ」
(゚、゚トソン「良い方ですね」
(´・_ゝ・`)「…うん。」
(´・_ゝ・`)「凄く、良い人なんだよ」
57
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:43:52 ID:Z1FMOz0U0
深くは聞き出さなかった。
興味が全くないといえば嘘になるが、人の過去をとやかく聞くものではない。
何かがあったにせよ、今こうしているその人が全てだと思うから。
しゅんと元気をなくした主人。
私が出来ることといえば。
(゚、゚トソン「じゃ、これでおやつ作りましょうかね」
(*´・_ゝ・`)「スイートポテトが食べたいな!」
ほら元気になった。
いやこれは流石に現金すぎるけど。
(゚、゚トソン「スイートポテトですね。昨日丁度良いものを買ったのでそれも使いましょう」
(´・_ゝ・`)「楽しみだなぁ」
(゚、゚トソン「おやつの時間までお待ちください」
58
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:44:34 ID:Z1FMOz0U0
大きな南瓜とサツマイモ、そして栗。
すっかり秋満載になったキッチン。
今回の主人公、サツマイモ様を両手に掲げ、いざ。
(゚、゚トソン「作りますか」
(゚、゚トソン「お芋は良いですね、素朴な感じが好きですよ」
皮を剥いて小さくし、水たっぷりの鍋に入れる。
結構な量があるから、サツマイモの天ぷらも良いな。明日の夕飯にしよう。
(゚、゚トソン「サツマイモの天ぷら蕎麦でポン酒を一杯……」
(゚、゚トソン「ぐへへ…」
(゚、゚トソン「あっいけない、涎垂れるとこでした」
59
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:45:13 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「ヘイ、マッシュしマッシュよ」
(゚、゚トソン「貴方たちに恨みがあるわけではありません…しかしこうしろと主人が…」
(゚、゚トソン『良いんだトソン、仕方ないよ……ぐぇぶ(裏声)』
(゚、゚トソン「ごめん…ごめんなさい芋たち…」
(゚、゚トソン「裏ごしをします」
家庭菜園で収穫したものとは思えないほど立派なサツマイモ。
とても綺麗な黄金色をしたそれを、一心不乱に潰す。
こういう力作業なら嫌いではない。
美味しい物のための苦痛は、終わった後の幸せを考えながら出来るので良い。
60
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:45:56 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「ホクホク系も好きですが今日はクリーミーでいきましょう。お芋本来の甘さを活かすために砂糖は無しで」
(゚、゚トソン「しっとりさせるためにバターと生クリームをヘイヘイヘイ」
(゚、゚トソン「色と香りを良くさせる卵黄とバニラオイルをヘイヘイヘイ」
(゚、゚トソン「丸めて丸めてオーブンでブン!ヘイ!」
芋栗南瓜は好きだ。テンションが上がってしまう。
昔はよくふかし芋をおやつに食べてたな。華美な装飾のないおやつだってご馳走だ。少なくとも、昔の私は。
今は調味料だってご馳走。酒のつまみになるのだから。
(゚、゚トソン「南瓜と栗はまた次に使いましょうね」
61
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:46:32 ID:Z1FMOz0U0
時間は15時。
焼きたてのスイートポテトを持ってリビングへ行くと、待ってましたと言わんばかりの主人がいた。
(*´・_ゝ・`)「やぁやぁ、良い匂いだ」
(゚、゚トソン「ずっとリビングで待ってたんですか?」
(´・_ゝ・`)「部屋に戻ろうかと思ったんだけど、そのまま篭っちゃいそうだったから」
(゚、゚トソン「主人はおやつの時間は絶対出てきますよ絶対」
(´・_ゝ・`)「……うんまぁ、僕もそう思う」
(゚、゚トソン「さ、どうぞ召し上がってください」
(*´・_ゝ・`)「いただきます…あっ、紫のもある!」
(゚、゚トソン「先日駅前で沖縄物産展をやってまして、丁度紅芋を買っていたんですよ」
(*´・_ゝ・`)「紫と黄色、うん、秋色だね」
62
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:47:27 ID:Z1FMOz0U0
焼きたてのものというのは大抵良い匂いがする。
中でも芋は格別だと思う。
焼き芋の匂いにつられ、車を何度追いかけたことか。
小さなフォークでスイートポテトの身を割る。
トン、カチャン。ふわり。
バニラオイルの優しい香りがした。
(*´・_ゝ・`)「美味しい」
(゚、゚トソン「それは良かった」
すっかり元気になった主人に、子供みたいだなと思う。
三十路を超えたいい大人だけれど。
高そうなコップに牛乳を注ぎ、主人に差し出す。
牛乳と芋の相性の良さを知らない人がいたら速攻で教えてあげたい。
芋と牛乳のまろやかオブまろやか、口の中の平穏状態。
ベストカップル、芋とミルク。彼らの仲人なら、喜んで引き受ける。
主人がコップを口にし顔を綻ばせたので、間違いはない。
63
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:48:13 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「主人、今は何をしてるのですか」
(´・_ゝ・`)「今はね、小説を書いてる」
(゚、゚トソン「小説を」
今回の彼の仕事は小説家だという。
先週は小説の翻訳をしていたが、今回は自ら小説を書いているのか。
もともとあるものを訳すのも難しいだろうが、一から話を作り出すのも大変だろう。
(´・_ゝ・`)「ファンタジーものを書いてるよ」
(゚、゚トソン「…主人は本当になんでも出来ますね」
(´・_ゝ・`)「よくわからないんだけどね、幼い頃から変に器用なんだ、僕」
(´・_ゝ・`)「やろうと思えば大体のことが出来てしまう」
64
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:48:54 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「それでしたらお菓子作りもしてみればいいのでは」
我ながらナイスアイデアだと思った。
この甘いもの大好きおじさんが自分でお菓子作りをするようになれば、私の仕事がだいぶ減る。
(´・_ゝ・`)「うん、僕なんでも出来るんだけどね」
パッと主人が明るい顔をした。
(´・_ゝ・`)「何故か、食べ物は作れないんだ。昔オムライスを作ろうとして、よくわからない物質が生まれてから、料理は禁止されてる」
だから無理!と元気に拒否をしてくる。
僕は食べるの専門だ、とでも言いたそうにスイートポテトの最後の一切れを口に入れた。
(゚、゚トソン「はぁ、使えな…いえ、難儀ですねえ」
(´・_ゝ・`)「使えないって言った?今使えないって」
(゚、゚トソン「まぁ、好きと得意は違いますからねえ」
好きだからといって出来るわけでも、得意だから好きというわけでもない。そんなことはよくある話。
(´・_ゝ・`)「うーん、そうだね」
65
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:49:26 ID:Z1FMOz0U0
それでも、料理以外は出来るという主人の小説。
前回の翻訳した小説は無理だったが、今回の小説は私の好きなファンタジーだというし。
(゚、゚トソン「今度」
(´・_ゝ・`)「うん?」
(゚、゚トソン「小説完成したら、読ませてください」
(´・_ゝ・`)「いいよ、少し恥ずかしいけどね」
(゚、゚トソン「そういうものですか」
(´・_ゝ・`)「うん。でもね、トソンくんがファンタジー好きって言ってたからさ。なんとなく書いてみよーって思って」
(゚、゚トソン「……そうですか」
(゚、゚トソン「秋の夜長、晩酌しながら読む本は楽しそうです」
(´・_ゝ・`)「…小説、汚さないでね」
66
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:49:59 ID:Z1FMOz0U0
届いた荷物を見た時は少し元気のなかった主人だけど、もうだいぶ回復したようだった。
『蛯沢でぃ』とは誰で、どういう関係なのか。私が聞けば主人は答えてくれるだろうか。
…けど、また先ほどのように悲しげに笑う彼に戻ってしまうのなら。
(゚、゚トソン(別に聞かなくてもいいか)
私もだいぶ、スイートポテトのように彼に甘くなっている気がする。
67
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:50:43 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「終わった!仕事!終わった!業務!」
(゚、゚トソン「アイムフリー!!」
両の手を広げ、天を仰ぐ。
そう、私は自由。業務時間が終了すれば全て自由。フリータイムの始まりである。
(゚、゚トソン「さて、ここにあるのはサツマイモ(黄)紅芋(紫)!!」
主人も言っていた秋色が、私の両手にあった。
この重さが尊く、愛おしい。
(゚、゚トソン「ちょっと落ち着きましょう私、大丈夫。お酒は逃げない。大丈夫」
夜、屋敷のキッチンは私の城になる。
者共であえであえ。今宵は芋を攻めるぞ。
68
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:51:25 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「例によって彼らはマッシュしマッシュ」
(゚、゚トソン「黄色い方はバターや生クリームは使いません、シナモンと卵黄、そしてまたマッシュマッシュ!」
(゚、゚トソン「揚げます。ええ、揚げスイートポテトです」
油を熱する。
夜中の揚げ物という背徳感抜群の言葉は、私をさらに興奮させた。
揚げ物に合う飲み物を知っているだろうか。
そう、酒である。
(゚、゚トソン「紫は牛乳を混ぜつつマッシュマッシュ!」
(゚、゚トソン「こちらは普通に焼いて胡麻をまぶします」
揚げ物でなくても、スイーツにも合う飲み物を知っているだろうか。
そう、酒である。
誰がなんと言おうと、酒である。
69
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:52:01 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「揚げスイートポテトにはこれです」
【芋】(゚、゚トソン「芋焼酎!」
(゚、゚トソン『芋芋しいわ、トソン!しかしそれがまたいい!(裏声)』
(゚、゚トソン「胡麻スイートポテトにはこれです!」
【泡】(゚、゚トソン「泡盛!」
(゚、゚トソン『一緒に物産展で買っておいたトソンくんに拍手!(裏声)』
(゚、゚トソン「私は今日、芋クイーンになる…」
(゚、゚トソン『ひゅー!!!(裏声)』
70
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:52:42 ID:Z1FMOz0U0
今日は2つもお酒を楽しむために夜ご飯は抜いておいた。
何かを得るには、何かを失わなくてはいけない。
こうかとうかん…とうかこうかん?なんでもいい。
(゚、゚トソン「芋焼酎、今日はロックにしましょうか」
(゚、゚トソン「ああ、芋に囲まれてる私。幸せ」
(゚、゚トソン「良い芋ですね、揚げるとまた美味しそうな匂いがします」
(゚、゚トソン「紅芋も綺麗な紫で」
(゚、゚トソン「では、いただきまーす」
(゚、゚トソン
71
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:53:25 ID:Z1FMOz0U0
(゚、゚トソン「あーーーー…なんくるないさぁ…」
食欲の秋、
読書の秋。
でも秋の夜長には、やっぱりお酒が1番だと思うんですよ。
どの芋も主張をし過ぎず、しかし遠慮もせず。
本日も良いペアリングでした。
.
72
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 16:56:02 ID:Z1FMOz0U0
本日分は以上になります。
禁酒中の方も、お酒が得意でない方も、
読みながらお酒を楽しんでる気になれたら、と思います。
ありがとうございました。
73
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 17:06:59 ID:PFY8gdsQ0
乙
スイートポテト食べたくなった
74
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 17:24:42 ID:A4cRqocQ0
乙
スイートポテトとか長いこと食べてないな
75
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 20:36:43 ID:RpbZdeeU0
乙
トソンの独り言ずっと楽しそうだな
76
:
名無しさん
:2018/01/03(水) 21:01:39 ID:zzTKCb.c0
甘味と酒っていう相反するものを交互に描写するのいいな
77
:
名無しさん
:2018/01/04(木) 17:32:57 ID:gv6aY6w20
タイトルそっちの意味か
乙
78
:
名無しさん
:2018/01/05(金) 00:55:47 ID:yS5wqgEM0
甘いものと酒って合うよなー
大福と日本酒とか食う人いるよね
79
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:14:12 ID:gveljbA60
彼はよく、サプライズのような事をする。
彼のその一つ一つが、私には宝物のようだった。
.
80
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:14:54 ID:gveljbA60
グラグラ、グツグツ、ふつふつ。
大きなお鍋の中で、沸騰したお湯が騒ぎ立てている。
急かされるようにグラグラと動く『それら』を見て、思わず笑みが零れた。
(゚、゚トソン「ふっふっふ…」
(゚、゚トソン「栗ご飯…渋皮煮…栗とサツマイモのコロッケ…」
(゚、゚トソン「ふっふっふ…」
(゚、゚トソン「ふーっふっふっふ!」
笑いが止まらない。
無理もない。
秋の味覚、栗が大きなお鍋いっぱいにあるのだ。
団栗ではなく、栗。
小さい頃、栗が食べたいとせがんだら、団栗があるでしょと言われてずっと団栗を食べていた事がある。
黒歴史だ。
栗。本物の栗。何にして食べようか。どの酒と飲もうか。
ああ、ああ、涎が。
81
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:15:34 ID:gveljbA60
(´・_ゝ・`)「何してるの?」
突然後ろからかけられた声に驚く。もうそんな時間か。
栗を煮ることに集中していたら、時間がだいぶ経っていた。
キッチンに主人が来るのは珍しい。
私を探してここまで来たのだろうか。
いや、私というより『私の作るおやつ』か。
(゚、゚トソン「主人。突然現れないでください、驚きましたよ」
(´・_ゝ・`)「嘘でしょ?眉ひとつ動かさなかったじゃない」
(゚、゚トソン「顔にはあまり出ませんが私は繊細ですので、小さな音にも心を痛めてしまうのですよ。騒がしいのとかマジ勘弁です」
(´・_ゝ・`)「僕、君が夜中にキッチンでお酒飲んで騒いでるの知ってるよ」
(゚、゚トソン「嫌ですね主人。それ、夢ですよ」
82
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:16:31 ID:gveljbA60
4.栗と団栗は似て非なる(味)
.
83
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:17:35 ID:gveljbA60
(´・_ゝ・`)デミタス。主人。塩と砂糖を遠目からでも見分けられる。
(゚、゚トソン トソン。使用人。酒と水を遠目からでも見分けられる。
.
84
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:18:44 ID:gveljbA60
ストン。
包丁で栗を切る。
茶色い渋皮の中は綺麗な黄色だ。
(´・_ゝ・`)「わぁ、すごいね!美味しそうだ」
(゚、゚トソン「ええ、こんなに綺麗なんて、びっくり〜ですね」
(´・_ゝ・`)「え?」
(゚、゚トソン「え?」
(´・_ゝ・`)「これ、何作るの?」
(゚、゚トソン「そうですね、まだ決まってないんですよ。びっくり〜ですが」
(´・_ゝ・`)「え?」
(゚、゚トソン「え?」
85
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:20:01 ID:gveljbA60
ちょっと今はこの栗の素晴らしさに夢中で主人に構っていられない。
ほくほくとお芋のように美味しそうな栗達。
どう活かしてあげようか。
私は可愛らしい所もある人間なので、『期間限定』に弱い。
栗だなんて『秋』にしか楽しめない物を、嫌いにはなれない。
けれど自分ではなかなか買ったりはしない。栗を買うならワンカップを買う。そんな私も嫌いではない。
そんな、甘く切ない関係である栗がこんなにたくさん、美味しそうな状態で目の前にあるのだ。
興奮などせずにいられるだろうか。いや、いられない。
主人の目など気にせず栗達に微笑みかける。
(゚、゚トソン「貴方達を何にしてあげましょうかねえ」
86
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:20:47 ID:gveljbA60
(´・_ゝ・`)「あっ、僕モンブランが食べたいな」
(゚、゚トソン「………えっ」
(´・_ゝ・`)「モンブラン」
(゚、゚トソン「………えっ?」
(´・_ゝ・`)「モンブラン」
(゚、゚トソン「山ですか」
(´・_ゝ・`)「ケーキの方」
速攻で決まった。
ええ、ええ。この栗は主人への贈り物ですから。主人に決定権がありますよ、ええ。
さらば栗ご飯。あなたに使う分は、大量のマロンペーストに生まれ変わるのだ。
87
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:22:06 ID:gveljbA60
(トソン)「……モンブランですね、わかりました……」
(;´・_ゝ・`)「そ、そんな顔しなくても…ていうか何がどうなってるのその顔…」
(トソン)「顔なんてただの飾りです…金持ちにはわからんのですよ…」
(´・_ゝ・`)「余った栗は好きに使っていいからさ」
(゚、゚トソン「今初めて主人が輝いて見えます、ああっ、眩しい…後光が…」
(´・_ゝ・`)「きみ、結構図太いよね」
(゚、゚トソン「よく言われます。なんでしたっけ、モンブラン。よしきた、たくさん余らせよ」
(´・_ゝ・`)「きみ、大物になるよ」
(゚、゚トソン「何を仰います。もうなってますよ」
88
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:23:29 ID:gveljbA60
リビングで待機していてくれと主人を送り出す。
キッチンは私の城であり、今から戦場と化するのだ。
危ないから、というか邪魔なので。
(゚、゚トソン「まず栗クリーム作りますよ、栗クリーム」
(゚、゚トソン「栗たちを潰して漉します」
(゚、゚トソン『た、助けてくり〜やめてくり〜(裏声)』
(゚、゚トソン「ふっ、大丈夫ですよ。あとの方々は潰したりしません」
(゚、゚トソン『な、なんだって〜命の恩人だ〜(裏声)』
(゚、゚トソン「あとの方々は栗ご飯にしますからね!」
(゚、゚トソン『ええ〜びっくり〜!(裏声)』
(゚、゚トソン「漉した栗と牛乳、砂糖を鍋で煮込んで〜」
グツグツという音すら、美味しそうに聞こえる。
今日の私は素面でもハイテンションだ。
89
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:24:23 ID:gveljbA60
ロ ⊂(゚、゚トソン「じゃん!ラム!羊じゃない方です」
ロ ⊂(゚、゚トソン「有るのと無いのじゃ大違いです、これ大事」
ロ ⊂(゚、゚トソン「これも入れます。飲みません、我慢します」
"ロ(゚、゚トソン
ロ(゚、゚トソン
ロ⊂(゚、゚トソン「我慢します」
トポポ。
ラムダークが良い匂いを振りまいて鍋の中へ入っていく。
アルコールを飛ばさなきゃいけないなんて。
ああ、悲しい。けど美味しい。美味しくなる為には仕方がない。
90
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:26:08 ID:gveljbA60
(゚、゚トソン「栗クリームは冷蔵庫で冷やして固めます」
作業工程が多いものほど、慌ただしくせず落ち着いて行動する。
私はテンションが上がりすぎるとあまり良くいった試しがないから。
(゚、゚トソン「その間にメレンゲを作ります」
(゚、゚トソン「それではチームメレンゲの皆さんに登場してもらいましょう!卵白さん、グラニューさん、アーモンプーさんです」
(゚、゚トソン「数回に分けて混ぜます。とにかく混ぜます。ひたすら混ぜます」
カシャカシャカシャカシャ
(゚、゚トソン「全ての料理に言えることですが、特にメレンゲを初めて作った人は何を思いながらひたすらに卵白を混ぜていたのでしょうね」
カシャカシャカシャカシャ
(゚、゚トソン「『メレンゲが出来る』という事実を知らなければ、卵白をひたすら混ぜ続けるこんな行為、やってられませんよ」
カシャカシャカシャカシャ
(゚、゚トソン「ふぅさっくり。これを丸ーい感じに絞って焼きます」
シボリシボリ
91
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:27:29 ID:gveljbA60
(゚、゚トソン「良かった、有りました」
このキッチンには、魔法の引き出しがある。
といっても食器棚を含め収納スペースはたくさんあって、まだ全部を確認出来てはいないけれど。
お菓子を作るのに必要な器具やら何やらは、大きな引き出しの中にきちんと保管されていた。
まぁ、主人は手作りの菓子が無いと萎れて消えてしまうだろうから、私が来るまで勤めていた人が買い揃えたのだろう。
今回もモンブランを作るのに必要不可欠なモンブラン口金を、魔法の引き出しから発掘した。
(゚、゚トソン「……私が来る前は誰が作っていたんでしょうかね」
(゚、゚トソン「……まぁいいか。モンブラン搾りましょう」
92
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:28:26 ID:gveljbA60
綺麗な薄黄色。
真ん中に一つ大きな栗を乗せたそれを持ってリビングのドアを開ける。
目があった主人の顔はパァっと光が射したように明るくなった。
糖分を見ると喜ぶ、パブロフの主人。
まぁ私はアルコールを見ると喜ぶのであまり人のことは言えない。
(゚、゚トソン「主人、モンブラン出来ましたよ」
(*´・_ゝ・`)「わぁすごいね、お店で売ってるやつみたいだ」
(゚、゚トソン「ありがとうございます」
(´・_ゝ・`)「前から思ってたんだけどさ」
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「トソンくん、料理の腕すごいけどシェフとかだったの?」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「いえ。料理を作る機会が、わりと多かっただけですよ」
(´・_ゝ・`)「そうなんだねぇ、他の家事も上手だから、前職も使用人みたいな感じなのかと思ったよ」
93
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:29:35 ID:gveljbA60
栗に負けないくらいホクホクとした顔の主人は、話しながらもあまり私に集中してない様子だった。
目はモンブランしか見えていない。
(゚、゚トソン「…使用人という呼び方ではなかったですね…」
(´・_ゝ・`)「え?」
主人がモンブランから私へと視線を移した。
こほん。
(゚、゚トソン『おかえりなさいませぇ、ご主人様ァ(裏声)』
(´・_ゝ・`)
(゚、゚トソン「ここに来る前の前…?だったか、メイドさんしてましたよ…主人、どうしました鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
(´・_ゝ・`)「………今の声どこから出して…びっくりした…」
(゚、゚トソン「そこですか驚くの」
(´・_ゝ・`)「………えっ、待って…前のとこでは普通に『ご主人様』って呼んでたの」
(゚、゚トソン「そこですか突っ込むの」
94
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:30:48 ID:gveljbA60
『メイドをやっていた』というところは気にしないのか。
そもそも主人は『そういうメイド』を知っているのだろうか。
(゚、゚トソン「…まぁ、とりあえずどうぞ召し上がってください」
(´・_ゝ・`)「はい、いただきます」
待ってましたと言わんばかりにフォークを握り、モンブランを小さく切る。
柔らかいクリームの中のメレンゲが、ホロリと崩れた。
(*´・_ゝ・`)「やぁ、美味しいなぁ。クリームがちょうどいい甘さだ」
(゚、゚トソン「……」
主人はそれ以上、私のことについて聞いてこなかった。
モンブランを楽しみたいが為に他の情報を排除したのかもしれないが、
むやみやたらと過去にベタベタ触れてこないところが有り難かった。
95
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:32:12 ID:gveljbA60
主人は黙々とモンブランを食べている。
まるで山登りをしてるかのように真剣な顔で。(少し緩んでいるが)
(*´・_ゝ・`)
何故甘味を求めるか。そこに甘味があるからだ。
アッサムをストレートで淹れる。甘い香り。
淹れてすぐに主人が飲もうとするも、紅茶の攻撃を食らったようで
あちと小さい悲鳴を上げて、ふぅふぅと息を送っていた。
(´・_ゝ・`)「ふぅ…ごちそうさまでした」
(゚、゚トソン「お粗末様でした」
(´・_ゝ・`)「あ、そうだトソンくん」
(゚、゚トソン「はい?」
(´・_ゝ・`)「これ、どうぞ」
表紙が存外しっかりとした、一冊の本を手渡される。
少しばかり厚い。表紙の絵は暖かみがあって、好きだ。
96
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:32:54 ID:gveljbA60
(゚、゚トソン「これは?」
(´・_ゝ・`)「この前言ってた僕の小説。出来上がったからさ」
(゚、゚トソン「え」
(´・_ゝ・`)「あれ、あげるって約束だったでしょ」
先日までの主人の仕事であった『小説』だ。
私が好きなファンタジー物を書いたと言っていた。
出来たら読ませて欲しいと私は言った。
ーーー丸々貰えるとは思っていなかったけれど。
(゚、゚トソン「あ。そう、でしたね」
97
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:33:35 ID:gveljbA60
(´・_ゝ・`)「どうしたの?」
(゚、゚トソン「…いえ、人から何かを頂くのは、…久しぶりでしたので少し驚きました」
(´・_ゝ・`)「ああ、サプライズだったかな」
主人は、静かに小さく笑った。
思いのほか優しい笑顔で、私もつられてしまう。
(´・_ゝ・`)「びっくりーした?」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「はい。びっくりーしました」
特に凄い事をしたわけでも言ったわけでもないのに、本を抱えた胸が何故だか暖かくなった。
98
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:34:07 ID:gveljbA60
(゚、゚トソン「ふっふっふ…」
(゚、゚トソン「ふっふっふふっふっふ」
(゚、゚トソン「仕事終わりーましーた!」
(゚、゚トソン「明日は栗ご飯ですし、今日はプレゼントも貰いました!」
(゚、゚トソン「盆と正月が一緒に来たかのような!!素晴らしさ!!」
(゚、゚トソン「これで酒飲まなきゃおかしいって事で飲みますよ」
業務が終わればナイトフィーバー。
特に今日はいつもよりハイテンションでお送りしております。
99
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:34:54 ID:gveljbA60
(゚、゚トソン「今日の主役はこの方、そうですマロン様です」
(゚、゚トソン「メロンにメロメロ、マロンにはマロマロ」
(゚、゚トソン「主人のおやつの残り、モンブランがおつまみです」
冷蔵庫を開ける。
主人に作ったものよりは少し雑なモンブラン。
それでも高貴なオーラを放っている。モンブランは偉大なのだ。
(゚、゚トソン「よいしょっと」
このキッチンには魔法の引き出しがあり、そして秘密の扉もある。
床下収納だ。
扉を開けるたびに心が弾む。床の下は私の秘密基地。
そう、私がキッチンを任されてから、床下はお酒の保管庫その1になっている。
(゚、゚トソン「ブランデー様、今日は貴方に決めた!」
(゚、゚トソン「モンブランブランデー」
(゚、゚トソン「ブランブランですね」
100
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:35:35 ID:gveljbA60
トクトクトク。
お酒を注ぐ音が好きだ。
もちろん注ぐだけじゃ済まないけれど。
(゚、゚トソン「なんて美しい、透き通った琥珀色…」
うっとりしてしまう。
自分のお金じゃ買えないような、手の届かないお酒様。
もちろん主人のお金で買ったのだけれど。
(゚、゚トソン「しかぁし!」
(゚、゚トソン「今日はそれだけでは終わりません」
そのままブランデーを楽しもうとしていた自分を叱咤し、再度栗と対面する。
101
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:36:27 ID:gveljbA60
(゚、゚トソン「この栗達を大量の砂糖と水で煮ます」
(゚、゚トソン「そのまま漬けます」
(゚、゚トソン「明日も漬けます」
(゚、゚トソン「明後日も漬けます」
(゚、゚トソン「ブランデー様を入れ」
(゚、゚トソン「マロングラッセの完成です」
(゚、゚トソン「こちらに3日漬けておいたマロングラッセが」
(゚、゚トソン「ありません。現実は3分クッキングのように準備よくないのです」
(゚、゚トソン「しかし3日後が楽しみになるという特典があります、やったね」
102
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:37:41 ID:gveljbA60
砂糖に漬けられた栗達を見つめる。
よしよし、美味しくなるのですよ。
(゚、゚トソン「……主人に差し上げたら喜びますかね」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「少しだけ分けてあげましょう」
素敵なサプライズの、お返しに。
どんな顔をするだろう。甘いものだから喜ぶだろうとは思う。
(゚、゚トソン「楽しみ一つ増えました」
やったね。
103
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:38:32 ID:gveljbA60
ではではお待ちかねの時間です。
(゚、゚トソン「あらっ、ファンタジー小説読みながらモンブランを口にする私…女子力高すぎ…?」
(゚、゚トソン「しかもブランデーをペアリングに…大人力高すぎ…?」
(゚、゚トソン「トソン…恐ろしい子…」
(゚、゚トソン「いただきます」
さくり。
ぱくり。
こくり。
104
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:39:18 ID:gveljbA60
ーーー何故人は酒を飲むのか。
(゚、゚トソン「そこに酒があるからです」
果たして、この最高のモンブランと最強のブランデーを楽しみながら
主人の小説を読めるのだろうか。
兎にも角にも、本日も良いペアリングでした。
.
105
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 15:40:43 ID:gveljbA60
本日の投下は以上になります。
ありがとうございました。
106
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 16:50:04 ID:LeZEjueI0
トソン酒飲んでなくても飲んでてもテンション変わらなそう
乙
107
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 16:54:39 ID:nzotz.VE0
乙です
お腹空いてきたなぁ
108
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 17:46:54 ID:kgqZwM4o0
尾も白い
109
:
名無しさん
:2018/01/12(金) 23:18:29 ID:pUJGgBd20
>塩と砂糖を遠目からでも見分けられる
ヴラマンクかよ
110
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 08:28:41 ID:3MpLMIHI0
おつ
描写がすごく丁寧でいいんだけど中の人も料理するの好き?
111
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:17:18 ID:nifymwV20
彼は案外、イベント事が好き。
.
112
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:18:14 ID:nifymwV20
(´・_ゝ・`) デミタス。30歳は超してる。和菓子も洋菓子も好き。
(゚、゚トソン トソン。20歳は超してるはず。和酒も洋酒も大好き。
.
113
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:18:57 ID:Cv0KIyqg0
(´・_ゝ・`)「トソンくん、トソンくん。トリックオアトリート」
いい歳をした大人が、真顔で何か言ってきた。
彼には分からなかったのかもしれないが、私は今風呂掃除中だ。
この屋敷は風呂まで大きくて広い。
そして2つある。主人用と使用人用。
何を隠そう私はこの屋敷に住み込みで働いている。
初めのうちは銭湯ばりに広い風呂にはしゃぎこそしたが、そのうち掃除の大変さの方が優ってきた。
風呂掃除はもしかしたら1番嫌いな業務かもしれない。
そんな嫌いな業務を片付けようと必死になっている私に、彼はまたあの呪文を口にした。
(´・_ゝ・`)「トソンくん、トリックオアトリート」
(゚、゚トソン「主人、シャラップ、ハウス」
114
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:19:33 ID:Cv0KIyqg0
5.ハロウィンはパリピのコスプレ大会
.
115
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:20:15 ID:Cv0KIyqg0
(´・_ゝ・`)「酷いなきみは。雇い主を犬扱いして」
(゚、゚トソン「主人こそ酷いですよ、トリトリ言うから焼き鳥とビールいきたくなったじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「きみ、ハロウィンを知らないのかい」
私の発言に、『そんな馬鹿な』とでも言いたそうに主人が大袈裟なリアクションをした。
そんな人間いるのか、と小声で言ったのを聞き逃さなかった。そんなにハロウィンが好きなのだろうか。
(゚、゚トソン「知ってますよ。あのパリピ族がコスプレしながら騒ぎ立てるクソみたいな風習でしょう」
都会がこぞって変な格好をすることを許し、ゴミに溢れかえる。
ハロウィン前後の都内は、禁酒という言葉の次に嫌いなものだった。
(´・_ゝ・`)「きみ、ハロウィンに何か恨みでもあるの?」
(゚、゚トソン「無いですけど、イベント事ではしゃぐ奴らが憎いだけです」
(´・_ゝ・`)「怖いよ」
116
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:21:08 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「イベントって必ずノルマが付いて回るんですよね…本当めんどくさくて仕方なかった…」
(´・_ゝ・`)「ノルマ?」
(゚、゚トソン「いえ、こちらの話です」
(´・_ゝ・`)「ハロウィン良いじゃないか。お菓子を合法的に貰えるんだから」
(゚、゚トソン「主人はいついかなるときもお菓子を貰ってるじゃないですか」
合法だろうと何だろうと3時になればおやつをせびる人間が何を言うのだろうか。
そもそもハロウィンは子供がお菓子を貰うのではなかったか。
そんな事を言えば、主人は少し不貞腐れたような顔をした。なるほど、精神は子供に近いかもしれない。
(´・_ゝ・`)「まぁ仮装は僕もよくわからないけど」
(゚、゚トソン「主人、仮装いらないじゃないですか。そのままで充分、スイーツゾンビ役出来ますよ」
(´・_ゝ・`)「アルコールゾンビに言われたくないなぁ」
117
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:22:00 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「で、主人。あの呪文を言うためだけに私の掃除を邪魔したのですか?」
そもそも脱衣所で何故こんな会話をしなければならないのだと、非難の目を向ければ主人は全く気にしていない面持ちで。
(´・_ゝ・`)「いやいや、今日はハロウィンぽいものが食べたいなって言おうと思ってね」
間の抜けた事を言うのだ。
この人はおやつにかける情熱だけで動いている気がする。
この屋敷で働いて早3ヶ月程だが、主人がおやつ以外の用事で自ら自室を出ることは基本無い。トイレくらい。それも部屋出て数歩の距離。
ご飯やらお風呂やらはこちらの用意が終わって、伝えに行って、そこでやっと出てくる。
『仕事』をしていなければ、ひきこもりと何ら変わりはない。
(゚、゚トソン「ハロウィンぽいもの…そういえば先日頂いた南瓜がまだ残ってますね。それを使いましょう」
(*´・_ゝ・`)「南瓜!南瓜のお菓子美味しいよね。やぁ、楽しみだ」
(゚、゚トソン(甘ければかぼちゃの煮物でも喜ぶんじゃなかろうか)
118
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:22:49 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「さて、何を作りましょうかね」
出来たら呼ぶので、と主人を部屋に返し風呂掃除を再開した。
ゴシゴシ。ゴシゴシ。ブラシで泡を立てながら汚れを落とす。
風呂掃除はどこに行っても好きじゃない。
頭の中で、南瓜をどうしてやろうか考える。
(゚、゚トソン「煮物…煮物…だめだ、煮物が頭から離れない」
無理もない。南瓜の煮物は私の好物の一つ。甘く煮た南瓜も、酒に合う。
(゚、゚トソン「そういえば最近日本酒さんとお会いしてないな…」
(゚、゚トソン「会いたい…会いたくて震える…」
(゚、゚トソン「いえ、アル中とかじゃないんで」
(゚、゚トソン「あっ、和菓子作ってないし、和菓子にしよう」
ーーーハロウィンは西洋文化だよーーー
そんなツッコミが聞こえた気がしたが、シャワーで泡とともに流して聞こえないフリをした。
119
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:23:27 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「南瓜良し。はくりっきーとかたくっりー良し。餡子も良し」
(゚、゚トソン「そして今日はゲストをお呼びしました、クリームチーズさんです」
(゚、゚トソン「チーズ入ってても和菓子は和菓子。私が和菓子と言えば和菓子」
掃除を無事に終え、時間も丁度良いのでキッチンに来た。
こんなに広いにもかかわらず、使うのが私だけなのでもはやホームのような居心地の良さ。
まぁホームとかいうもの、あまりよくわからないけれど。
今までどんな人間が使っていたかはわからないが、丁寧かつ几帳面な人だったのではないだろうか。
器具や機器、食器。新しいものではないにしても、汚れも錆れも殆ど無く使い勝手の良いように管理されている。
誰が。
その誰かは、どこへ。
(゚、゚トソン「……まぁ考えても仕方ありませんね」
(゚、゚トソン「きんつば作りますよ」
120
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:24:07 ID:Cv0KIyqg0
とん。たん。南瓜を切る。
ある程度料理に使ってはいたものの、結構な量が残っていたので主人の『ハロウィンぽいもの』というリクエストはちょうど良かった。
食材はなるべく無駄にしたくない。
(゚、゚トソン「これで頂いていた食材は使い切りましたね。美味しかったし有難かったです」
(゚、゚トソン「南瓜を蒸します。」
(゚、゚トソン「そしてマッシュしマッシュ」
(゚、゚トソン「芋栗南瓜は蒸しマッシュしてなんぼです」
スイートポテトを作る時と同様に蒸して潰す。
橙色が綺麗だ。
121
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:25:04 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「砂糖入れて混ぜ捏ね。餡子用とクリチ用に分けます」
(゚、゚トソン『僕クリチ!君の名は?(裏声)』
(゚、゚トソン『私餡子!(裏声)』
(゚、゚トソン『僕たち今からどうなるんだろう…あっ、餡子さん!(裏声)』
(゚、゚トソン「お前たちはマッシュされた南瓜の中に埋められるんだよぉ〜ひっひっひ」
(゚、゚トソン「……ハロウィンぽく魔女みたいな感じでやってみましたが何か違いますね」
四角く形成し、ひとまず置いておく。
122
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:25:48 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「薄力粉と片栗粉を水で混ぜましょうね」
和菓子は奥が深いけれど、作ってみると案外簡単なものもあって助かる。
お菓子づくりは苦ではないけど、私は他にもやらなくてはいけないことがあるので、パパッと作れるものは大変有難いのだ。
(゚、゚トソン「皮の完成です」
(゚、゚トソン「包んで焼きます」
一面一面、焦げないように注意をして焼く。
おこげは美味しいけど、ただの焦げは味も匂いも台無しにしてしまう。
(゚、゚トソン「……餃子食べたいな。羽がついたパリッパリの…明日の夜ご飯にしよう」
(゚、゚トソン「できました、きんつばです」
白い皮からうっすら覗く橙色が、食欲を引き立てる。
食欲の秋。
123
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:26:40 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「……そういえば、この南瓜くれた人…」
宅配便の差出人を思い出す。大きなダンボールいっぱいの秋の味覚を送ってくれた人。
(゚、゚トソン「蛯沢さん…でしたっけ。お礼とかしなくていいのかな」
主人とどんな関係かわからなかった為口出しをしていなかったが、ここ最近の主人のおやつは、『蛯沢氏』からの頂き物で賄われていた。
おやつだけでは無く、普段の食事にも。
これだけ貢献してくれた人に、お礼をしないわけにはと、ふと思ったのだ。
(゚、゚トソン「……あとで主人に聞きますか」
124
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:27:23 ID:Cv0KIyqg0
コンコン。
主人の部屋のドアをノックする。『仕事』に集中しているだろうから、ノックの音だけじゃきっと気が付かない。
返事がないもののドアを開け、声をかけた。
(゚、゚トソン「主人、主人。失礼。おやつ出来ましたよ」
(´・_ゝ・`)「ああ、はぁい」
机に向かっていた主人が伸びながらこちらを見る。
(゚、゚トソン「ちょこっとだけ早いですけどね」
部屋の掛け時計に目をやる。
14時45分。
3時のおやつ、にはまだ早い。
けれど出来たての方が美味しいので、早めに呼びに来てしまった。
(´・_ゝ・`)「ちょうど今ひと段落ついたところなんだ。よし、リビングへ行こう」
125
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:28:26 ID:Cv0KIyqg0
階段を降り、リビングへ向かう。
ちらりと主人を見ると頰がカラフルになっていた。
ハロウィンの仮装でもしようとしたのだろうか…いや流石に違うだろう。
(゚、゚トソン「今回は絵本でしたっけ」
(´・_ゝ・`)「そう。これがまぁ、奥深いんだ」
彼の今の『仕事』は絵本作家だ。
彼は料理以外のことは大体出来ると言っていたが本当にそのようで、色んな『仕事』をしている。
(゚、゚トソン「主人、絵も描けるんですね」
(´・_ゝ・`)「この間トソンくんにあげた小説、あれの表紙僕が描いたんだ」
(゚、゚トソン「えっ、あの表紙の絵、私好きでした」
彼が書いた小説を貰って読んでみたが、案外面白くて、私のお気に入りの一冊となった。
物語を作るのが上手なのだろう。頭も良いから、私のような馬鹿な人間でもわかりやすくスラスラ読める文章だった。
絵本も面白そうだと思う。
126
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:30:08 ID:Cv0KIyqg0
(゚、゚トソン「主人、絵の具使いました?」
(´・_ゝ・`)「よくわかったね!」
(゚、゚トソン「失礼」
ウェットティッシュをポケットから取り出して、主人の彩り豊かな頰を拭った。
ありがとう、気が付かなかったよと主人は少し照れ臭そうにしていた。
(゚、゚トソン「何か描けるだけ凄いと思いますよ。私は昔から何か描いてると誰かが悲鳴を上げる怪奇現象が起こるので、描ききったことはないです」
私自身、真面目に描いているのだが。
(´・_ゝ・`)「えっ何それ怖い…今度何か描いてみてよ」
(゚、゚トソン「ええ…仕方ないですね…覚えてたら、ですね」
(´・_ゝ・`)「僕が忘れないから大丈夫」
(゚、゚トソン「…そうですか」
127
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:31:08 ID:Cv0KIyqg0
(*´・_ゝ・`)「わぁ、なにこれ美味しそう」
(゚、゚トソン「きんつばです。こちらが餡子、こちらがクリームチーズ入りです」
主人の目が輝く。おやつを前にすると、本当に嬉しそうにする。
餡子とクリームチーズを別々に差し出すと、どちらから食べようか悩み出した。
どちらにしようかなを何度かやって、やっと決まったのかクリームチーズの方にフォークを刺す。
(*´・_ゝ・`)「ハロウィンぽいもので和菓子を出すところがトソンくんらしいな」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「私らしい、ですか」
お茶を淹れようとしていた手が、
楽しそうに言われた主人の言葉に、一瞬止まってしまった。
(´・_ゝ・`)「一筋縄じゃいかない感じが、ね。いただきまーす」
128
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:32:50 ID:Cv0KIyqg0
てっきり『洋菓子じゃないのか』とツッコミが入るかと思えば、特に気にせず食らいつく主人。
本当に甘いものなら何でも良いのではなかろうか。
(*´・_ゝ・`)「ああ、美味しいね。クリームチーズと南瓜、よく合ってる」
(゚、゚トソン「……そうでしょう、コロッケにしても美味しいですよ。今、お茶淹れますね」
濃い緑茶を淹れた。
お茶の苦味が南瓜のまろやかさで和らぐだろう。
(゚、゚トソン「そういえば主人、この南瓜をくださった方にお礼をしなくて宜しいのですか」
(´・_ゝ・`)「…ああ、彼女には僕からお礼の手紙を書いておいたから大丈夫だよ」
129
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:35:56 ID:7jcG7j9A0
彼女。
『蛯沢氏』は女性だったのか。
まぁ『野菜もしっかり食べて』と送ってくる辺り、女性ぽいとは思っていたけれど。
女性、女性。
(゚、゚トソン「……元カノとかですか」
(´・_ゝ・`)
誰だ、今の間抜けかつアホっぽく恐ろしいほど愚かな質問をしたのは。
私だ。私か。馬鹿か。馬鹿だ。
先程まで嬉しそうに楽しそうにきんつばを食べていた主人が止まった。
ぱちくりと見たことのない珍しい顔で私を見ている。
(゚、゚トソン「いえ、すみません、違うんです、すみませ」
(*´・_ゝ・`)「っはははははははは!」
(゚、゚トソン「えっ」
えっ。やだ怖い。
動きが止まった主人が、弾けたように笑い出した。
ここまで笑っている主人を初めて見る。…今日は主人の見たことのない表情をよく見る日だ。
130
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:36:33 ID:7jcG7j9A0
(*´・_ゝ・`)「は、はは…いや、すまないね。ああ、あはは。ちょっと面白かった、ごめん、ふう」
主人は一通り笑ったあと、息を整えお茶を流し込んだ。
まだ少し笑いを引きずっているようだった。
(´・_ゝ・`)「ふ、ふ。…彼女はね、結婚していて、お子さんも君と同じくらいじゃなかったかな。」
(´・_ゝ・`)「僕よりいくつも歳上で、僕が小さい頃からお世話になっていた人なんだよ」
(´・_ゝ・`)「元カノ、元カノか、ふふ…元カノに間違えられだと知ったら、でぃさんも笑うだろうなぁ」
結婚。お子さん。歳上。小さい頃。
色々なキーワードが出てきて少し混乱する。
けれど、私が一番気になったのは。
131
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:37:12 ID:7jcG7j9A0
(゚、゚トソン「…お世話?」
(´・_ゝ・`)「そうだよ」
(´・_ゝ・`)「…でぃさんはね、うちの使用人だったんだ」
主人の静かな声が、頭に響いた。
132
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:38:25 ID:7jcG7j9A0
****
(゚、゚トソン「きょーうーもー、おつかれーさまでーしたトソーン」
バサっとエプロンを脱ぎ捨てる。
業務服を脱ぐということ。業務が終わったということ。
業務が終わったということ、私のフリーダムタイムが始まったということ。
酒。酒が飲める。疲れた体に、酒を。
(゚、゚トソン「…なんだか、モヤモヤしますなぁ…」
フリーダムになった私が酒で騒がない理由はただ一つだった。
『蛯沢でぃ氏』
(゚、゚トソン「使用人だったんですね、ここの…」
133
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:39:34 ID:7jcG7j9A0
そう、だった のだ。
主人は「でぃさんはうちの使用人だったんだよ」と言った後、何も気にすることなくきんつばを平らげ、部屋へ戻っていった。
夕食の時も、風呂が出来たことを伝えに行った時も、業務終了を挨拶しに行った時も。
『蛯沢でぃ氏』についての事は、全く何も触れなかった。
意図的かどうかはわからない。私からもそれ以上は聞けない。
ただ、主人の小さい頃からお世話するくらい長く勤めていた人が、この屋敷にいた。
(゚、゚トソン「なのに今は何故1人も居ないんでしょうね」
134
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:40:35 ID:7jcG7j9A0
思えばおかしな話だ。
こんなに大きくて広い屋敷に、主人ただ1人が暮らしている。
他の家族は?使用人は?何故、どうして。
(゚、゚トソン「………」
(゚、゚トソン「ああもうめんどくさ!!!」
(゚、゚トソン「考えたってわからないことを考え続ける意味はありません!
忘れましょう!いつか分かるかもしれないし、わからなければそれはそれ!」
(゚、゚トソン「酒だ酒酒酒!!!酒の時間よトソン!!」
私の脳味噌は、蟹味噌くらいしかないのだと、自分で自覚している。
135
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:41:39 ID:7jcG7j9A0
(゚、゚トソン「きんつばさん。これをちょっとオーブンでブンします」
主人に作ったきんつばの余りを冷蔵庫から取り出す。
オーブンに閉じ込め、ブン。
(゚、゚トソン「温かさが蘇りました、おかえり!」
(゚、゚トソン「そしてそして今日は東北の日本酒いっちゃいましょう!」
(゚、゚トソン「青森!へいへい!」
トクトクトク、いい音を立てて日本酒をお猪口に注ぐ。
お酒を注ぐ音はどんなヒーリングミュージックより、癒される。
(゚、゚トソン「お酒様、お酒の神様。黄金色のお菓子でございます」
(゚、゚トソン『ふぇっふぇっふぇ、お主も悪よのうトソン…(少し悪い裏声)』
136
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:43:32 ID:7jcG7j9A0
(゚、゚トソン「いただきまーす!」
(゚、゚トソン「ぁあー…日本酒が染み渡る…」
少し辛口の日本酒と、南瓜の甘みが丁度良い。
クリームチーズのまろやかさとも相性が良い。
餡子と日本酒は出身が同じだけあって、良い。
(゚、゚トソン「お菓子をあげたのに、面倒な悪戯をされたような気分だ全く」
(゚、゚トソン「飲んで忘れまーす!」
お酒は良いときにも悪いときにも飲める。
喜びを受け止め、悪い事を受け流してくれる。
だから好き。
137
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:44:30 ID:7jcG7j9A0
モヤモヤとした気持ちごと日本酒を飲み込む。
(゚、゚トソン「南瓜が美味しく食べられるなら、ハロウィンも悪くないですね」
それはハロウィンというよりは冬至か、と思いながら
今日のペアリングも良くてどうでも良くなった。
.
138
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 18:46:48 ID:7jcG7j9A0
本日の投下は以上になります。
ありがとうございました。
>>110
料理もお菓子も作ります、ただトソンの説明は物凄くザックリにしてます。
139
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 19:32:06 ID:azuMR0x.0
今回の独り言、オーブンでブンがツボだった 乙
140
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 19:46:52 ID:QJy6roek0
微妙に不穏な雰囲気がある気もするけど飯テロの前には無意味
乙
141
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 20:22:57 ID:AkG6WNbA0
謎よりお酒なトソンさん可愛い
乙
142
:
名無しさん
:2018/01/18(木) 23:29:46 ID:uzWSitu20
陸奥男山!陸奥八仙!
143
:
名無しさん
:2018/01/21(日) 22:46:49 ID:4LQlbvCE0
菓子テロ酒テロ良いなぁ
144
:
名無しさん
:2018/01/27(土) 01:18:15 ID:uEhtVq/s0
フルーティーな日本酒はまんまだけどフルーツと合う、甘味ならゼリーにぴったり。
ただふつうの餡子とか生菓子とかと合うとなると…生酛造りのまったりしたやつかな?常温で飲むようなやつ。
145
:
名無しさん
:2018/02/01(木) 23:25:30 ID:MDgoqnPk0
酒が飲みたいなぁ
菓子も食べたい
146
:
名無しさん
:2018/02/15(木) 21:36:41 ID:BxDjxyQ.0
チョコレートの話とか出てこないかなぁウイスキーと合わせて
147
:
名無しさん
:2018/02/17(土) 23:33:18 ID:0OQG9UHY0
乙です!
続きがすごく気になる…
楽しみにしてます
148
:
名無しさん
:2018/03/08(木) 22:47:34 ID:JHda6p2E0
今更ながら読んだが乙
腹減るし酒飲みたくなって仕方ないなこれ
149
:
名無しさん
:2018/03/23(金) 16:31:06 ID:1kq32u.Q0
来ないかなあ
150
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 22:55:20 ID:6QXsCUSg0
彼は得意なものが多い。
彼の苦手なものも、実は多い。
.
151
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 22:56:14 ID:6QXsCUSg0
風が冷たく、日も沈むのが早い。
季節が秋から冬へゆるゆると変わろうとしていた。
庭掃除は終わった。風呂掃除も終わった。買い出しも済んでいる。
今は休憩中だ。
(゚、゚トソン「庭の木々が紅葉してきてますね」
リビングから見える窓の外の景色も、だいぶ変わってきた。
あっという間に1年が終わろうとしている。あと一月で終わりだなんて、驚きしかない。
去年の今頃は、こんな豪邸で「夜ご飯は何にしよう」だなんて悩むことになるとは思いもしなかった。
そもそも、こんなに平和な毎日を過ごせるだなんてこれっぽっちも思っていなかったのだ。
(-、-トソン「…随分、日和ましたね私も」
(´・_ゝ・`)「トソンくん、トソンくん」
152
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 22:57:17 ID:6QXsCUSg0
頬杖をついてお茶を飲むという少々お行儀の悪い私に、間の抜けた声がかけられた。
そちらを見やれば、主人がこれまた間の抜けた顔して突っ立っている。
(゚、゚トソン「なんです、主人。私は今感傷に浸っているのですが」
(´・_ゝ・`)「そう、悪かったね…?」
(゚、゚トソン「仕方ないですね、許しましょう」
(´・_ゝ・`)「ええ……」
(゚、゚トソン「何か用があったのでは?」
少し不満そうな主人。
「使用人とは…」とテツガクのようなことを呟いていたが、私の問いにパッと表情を変えた。
(´・_ゝ・`)「あっ、そうそう。今日のおやつ、何?」
(゚、゚トソン「まだ考えてなかったです。何か召し上がりたいものはありますか」
(´・_ゝ・`)「まだ決まってないなら良かった。あのさ、チーズケーキが食べたいんだ」
153
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 22:58:09 ID:6QXsCUSg0
6.外国アニメのチーズはやたら美味しそうに見える
.
154
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 22:58:51 ID:6QXsCUSg0
(´・_ゝ・`)デミタス。主人。手先は割と器用。
(゚、゚トソン トソン。使用人。酒に関する事だと殊更器用。
.
155
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 22:59:47 ID:6QXsCUSg0
(゚、゚トソン「ああ、チーズは良いですよね。チーかまチータラクリチの味噌漬け」
私の呟きに、主人のアイデンティティである下がり眉がピクリと歪む。
(´・_ゝ・`)「チーズケーキだってばー」
私も負けじと眉を真ん中に寄せてみせた。
(゚、゚トソン「はぁ、主人。チーズケーキと言いましても、スフレ、レア、ベイクド、たくさん種類があるんですよ。
一言チーズケーキが食べたいとだけ言われましてもね」
わかってませんね、と大袈裟にジェスチャーしてみれば主人は少しだけ悩んで。
(´・_ゝ・`)「どれも捨てがたいけど、今は硬いやつが食べたいなぁ」
(゚、゚トソン「ベイクドチーズケーキですか。良いですね、主人のお好きなコーヒーにも合いますが、元がチーズだけあってお酒に合うんですよ」
(´・_ゝ・`)「君と会話してると大体お酒の話に行きつくよね」
(゚、゚トソン「それは主人、お酒からアルコールを抜いたらただのジュースになるように、私からお酒を取ったらただの抜け殻になりますから」
(´・_ゝ・`)「……君、休憩中にさ、お酒飲んでないよね?」
(゚、゚トソン「嫌ですね主人。私は仕事中は水しか飲みませんよ」
(´・_ゝ・`)「本当に?」
(゚、゚トソン「嫌ですね主人。度数20以下は水です、私の中では」
156
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:00:41 ID:6QXsCUSg0
(´・_ゝ・`)「……」
私が手にしている湯呑みをチラリと窺う主人。
そんなに真面目にとらえないでほしい。これはただの煎茶です。
(゚、゚トソン「冗談ですってば」
(´・_ゝ・`)「トソンくんならあり得そうだから恐ろしいよ…」
小さく長い溜息を私にチクチク刺してくる。主人は姑のようなネチネチさがある。
そんなに心配しなくとも、私はお酒に関しては誠実だというのに。
(゚、゚トソン「お酒を楽しむのは仕事が終わってから、というのが私のポリシーですから」
(´・_ゝ・`)「ポリシー」
(゚、゚トソン「そうですよ。仕事で飲む酒は、色々違いますので」
(´・_ゝ・`)「…お酒を飲む仕事…」
自分で言った後に『しまった』と思った。少し話しすぎた。
主人は私の言葉を反芻し、少し考えるような顔をした。
何か、言われてしまうだろうか。
157
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:01:26 ID:6QXsCUSg0
(゚、゚トソン「……」
(´・_ゝ・`)「…トソンくんには天職だね!」
(゚、゚トソン「…」
(-、-トソン「……そうでもなかったですよ」
不味いものを口にしたような、嫌な気持ちになる。
ふう、と溜め息をひとつ。
──思っていたようなことを言われなくて良かった。
(゚、゚トソン「アレです、お高いお寿司屋さんで大好きな寿司ネタを食べられて嬉しい、でも席がお手洗いのすぐ隣で切ない、っていう微妙な気持ちになるのです」
(´・_ゝ・`)「なるほど…なるほど…?」
心底わかっていない目で主人が見てくる。その顔が少し間抜けで、ちょこっとだけ気持ちが浮上した。
(゚、゚トソン「じゃあ、チーズケーキ作りますからリビングでお待ちください」
(´・_ゝ・`)「うん、よろしくね」
158
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:02:51 ID:6QXsCUSg0
キッチンにて仁王立ち。今から闘い、本気モードだ。
(゚、゚トソン「デデデーン、トソンサンクッキングのお時間です」
(゚、゚トソン「主人はベイクドチーズケーキをご所望でしたね」
(゚、゚トソン「そんな時には」
⊿⊂(゚、゚トソン「クリ〜ムチ〜ズ〜」
(゚、゚トソン「基本的にクリームチーズがあれば大体のチーズケーキが作れます」
(゚、゚トソン「クリームチーズ様は本当に偉大です。私はクリームチーズ教です」
(゚、゚トソン「いぶりがっこに乗せて日本酒と飲むも良し、クラッカーに乗せてジャムと一緒に白ワインと飲むも良し、白味噌と混ぜてまた日本酒にいくも良し…」
ジュルリ
(゚、゚トソン「…」
〃(゚、゚トソン「はっ!」
(゚、゚トソン「びっくりした夢の酒王国に行っていた…現実に帰ってきてしまったただいま…」
(゚、゚トソン「明日またクリームチーズ買ってきて絶対おつまみ牧場と化そ…」
159
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:03:35 ID:6QXsCUSg0
ロ⊂(゚、゚トソン「さて、ビスケットを用意します」
ロ⊂(゚、゚トソン「ポケットを叩くとビスケットが増える歌があるじゃないですか」
ロ⊂(゚、゚トソン「私は幼い頃ずっと『ビスケットを叩くと』と歌っていました」
ロ⊂(゚、゚トソン「ビスケット叩けばビスケット増えるのは当たり前ですよね」
ロ⊂ (゚、゚トソン
ゴシャッ
☆|||(゚、゚トソン「えーい」
ゴシャッゴシャッゴシャッ
(゚、゚トソン「ビスケットを袋に入れて粉々に叩き潰します」
(゚、゚トソン「ミキサーした方が早いですがストレス発散になるので私は叩き潰します」
160
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:04:28 ID:6QXsCUSg0
(゚、゚トソン「いつの間にか溶かしておいたバターさんとビスケッ粉を組んず解れつにします」
(゚、゚トソン『あっ…バターさん…すごく熱い…!(裏声)』
(゚、゚トソン『ボロボロ粉々になったビスケットさんを受け止めてあげるよ…さぁおいで…(少し違う裏声)』
(゚、゚トソン『バターさんなら…私を優しく包み込んでくれる…!(裏声)』
(゚、゚トソン『ビスケットさん…!!(気色悪めな裏声)』
(゚、゚トソン「型に敷き詰めます」ギュッギュッ
(゚、゚トソン「下の部分無い方が良いと言う人もいますが私は有り派です」
161
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:05:31 ID:6QXsCUSg0
(゚、゚トソン「主役のクリームチーズ様を!」
(゚、゚トソン「砂糖と!」
(゚、゚トソン「ひたすらに混ぜます!」
(゚、゚トソン「…」マゼマゼマゼマゼ
(゚、゚トソン「小麦粉を入れ!」
(゚、゚トソン「ひたすらに混ぜます!」
(゚、゚トソン「…」マゼマゼマゼマゼマゼ
(゚、゚トソン「卵を入れ!」
(゚、゚トソン「そう!ひたすらに混ぜます!」
(゚、゚トソン「…」マゼマゼマゼマゼ
(゚、゚トソン「…筋肉痛って労災出るんですかね」
(゚、゚トソン「秘密のアレを入れて」
(゚、゚トソン「クリームチーズをクリーム状にするという発狂しそうな状態にしたら」
(゚、゚トソン「型に流し入れて…」
(゚、゚トソン「湯煎状態で焼きます」
(゚、゚トソン「冷ましたら完成となります」
(゚、゚トソン「…焼けるまで待ちますかね」
162
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:06:48 ID:6QXsCUSg0
オーブンの前でぼうっとする。焼けるまでの待ち時間は、嫌いではなかった。
生地が膨らむ。途中から良い匂いがしてくる。早く焼けないかなと、待ち遠しくなる。
小さい頃もそうだったな。一度待ちきれなくてオーブンを開けてしまった時は怒られた。
ふと、先程までの主人との会話を思い出す。
主人はわかった上であの感じなのだろうか。
ここで勤めることになった際、主人は私が以前まで何をしていたかを一切聞かなかった。
履歴書さえも出していない。
こんな立派なお屋敷で働かせるのに、何の情報も問わないのはどうなのかと思うが、私的にはとても助かった。
(゚、゚トソン「…もし」
もし、私のことがバレたら。
(゚、゚トソン「ここでは、働けなくなるんですかね」
チーーン
(゚、゚トソン「…おや、焼けましたか」
先のことはわからない。
今はただ、美味しく出来上がったチーズケーキを主人に出すだけだ。
163
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:08:02 ID:6QXsCUSg0
(゚、゚トソン「主人、おまたせしました」
(*´・_ゝ・`)「ああー、良い匂いだね」
チーズケーキを持って颯爽とリビングに入る。
嬉しそうな顔の主人が迎える。様式美。
主人の目が早く早くと訴えている。
待てをしたら噛みつかれそうな勢いだ。少し引く。
(゚、゚トソン「紅茶か悩みましたが、コーヒー淹れますね」
(*´・_ゝ・`)「ありがとう!いただきます!」
お皿をテーブルに置いた瞬間に主人は素早い動きを見せた。
普段部屋に引きこもっているとは思えない速さだ。
まだ柔らかいチーズ生地にフォークが刺さる。
ストンと一口分に切り分けられたそれは、主人の口へ。
164
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:09:12 ID:6QXsCUSg0
(*´・_ゝ・`)「美味しい…ほんのりラム酒の味がするね」
(゚、゚トソン「少しだけ入れました。ラム酒に漬けたレーズン入れても美味しいですよ」
(*´・_ゝ・`)「いいね。それにしても出来立てのチーズケーキ、美味しいな。ふんわりしてる」
(゚、゚トソン「本当は一日冷やして置いた方がもっとキュッとして美味しいんですけどね」
早急に召し上がりたいとのことだったので、出来立てを出した。
出来立てというのは大体美味しい。
(´・_ゝ・`)「いやー、チーズの模型見てたらさ、チーズケーキ食べたくなっちゃって」
チーズの模型。そんな物を目にする機会があるものなのか。
あるのである。主人の『仕事』は奥が深い(らしい)
(゚、゚トソン「今回のお仕事に必要なものなんですか?」
(´・_ゝ・`)「いや、前回絵本を作った時に色々資料として取り寄せてたものなんだ。絵本作家の仕事は無事終わったから片付けててね」
(゚、゚トソン「はぁ」
そういえばつい先日、主人は絵本作家の仕事を終えたばかりだった。
私がここに勤めてから、様々な仕事をする主人を見ている。
165
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:10:18 ID:6QXsCUSg0
(゚、゚トソン「主人は本当に、得意なものばかりですね」
(´・_ゝ・`)「え?」
何気ない私の言葉に、主人は一瞬驚いたような顔をした。
(゚、゚トソン「色んなことできるでしょう。食べものも好き嫌いありませんし」
(´・_ゝ・`)「あー…そうだねぇ…」
お菓子作り(というか料理全般出来ないらしいが)を除けばチートだと思う。
料理も、残された食材は今のところ何もなかった。
綺麗に平らげる主人の食べ方は、作り手としては気持ちのいいものだった。
(´・_ゝ・`)「…僕、昔は苦手なものばかりだったんだよ」
(゚、゚トソン「え?」
主人の言葉に、今度は私が驚く。
(´・_ゝ・`)「人参は本当に嫌いで出る度残していたし…今は食べられるようになったけどね。…それに、信じられないかもしれないけど、僕昔は甘いもの苦手だったからね」
166
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:11:09 ID:6QXsCUSg0
アマイモノニガテ?
甘いもの苦手?
誰が?主人が。主人が?
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「……宇宙人に攫われて嗜好が変わったとかですか…?」
(´・_ゝ・`)「ははは、違う違う」
今はスイーツモンスターとなってしまっているのに。
何があったというのだろう。
(´・_ゝ・`)「──色々あって、食べれるようになって。好きになったんだ」
──人参を?
──甘いものを?
文脈から察するにそのどちらかだろうに、主人があまりにも寂しそうな、何かを懐かしむような目で言うから、何の話か一瞬わからなくなってしまった。
そして、その色々が何なのか、聞くことは出来なかった。
****
167
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:11:12 ID:KVrzDwjU0
支援
こんな時間に飯テロつら
168
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:12:35 ID:6QXsCUSg0
(゚、゚トソン「今日はなんだか色んな話をした気がしますね」
就業時間は終わり。私は今から自由の身である。
キッチンに椅子を持ってきて一人、だらりと座る。
モヤッとすることはある。主人にではない、気になっている事を聞けない自分にだ。
主人が言わない事を聞く事で、自分も何か聞かれてしまう事が怖くて、何も聞けないままだ。
(゚、゚トソン「それを見越した上であんな気になる言い方してるんだとしたら、あの下がり眉引きちぎりたいですね…」
(゚、゚トソン「おっといけないいけない、自由時間とはいえ口が滑りましたね」
(゚、゚トソン「気を!!」
(゚、゚トソン「取り直して!!!」
(゚、゚トソン「お酒タイムだぞ〜!!!」
チーズケーキを作った時点でもう飲むものを決めていた。
用意周到、おまけに美人な自分を褒め倒したい。
169
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:13:38 ID:6QXsCUSg0
片手にはお皿に乗ったチーズケーキ。
もう片方の手には白ワイン。
(゚、゚トソン「あら、優雅なマダムみたいですね?」
(゚、゚トソン「しかもこの気怠げな感じ…銀座のママ感ありますね?」
(゚、゚トソン『いらっしゃい…あら、また来たのね人生の迷子ちゃん(優雅な裏声)』
(゚、゚トソン「ママ…もう、主人がよくわからないよう」
(゚、゚トソン『あらあら、困ったちゃんなのね…(優美な裏声)』
(゚、゚トソン「えーんママ〜〜」
(゚、゚トソン「……ト○ガリだこれ。もしくはス○夫」
(゚、゚トソン「そんな馬鹿なことしてる場合じゃない!今は酒!酒タイムだ!」
(゚、゚トソン「いただきます!!」
170
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:13:39 ID:KVrzDwjU0
読んでるだけでチーズケーキ焼いてる匂い漂ってくるわぁ
171
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:15:28 ID:6QXsCUSg0
カチャン
ぱくり
コクン
主人に出した時よりも、冷蔵庫で冷やした分ひんやりとしていてまろやかさが増しているチーズケーキ。
口の中に広がったチーズの風味に、白ワインが柔らかく混ざる。
(゚、゚トソン「…」
(゚、゚トソン「私、今日このために生きてきたのかもしれません…おーいしーい!」
ラム酒は香りづけに少し入れただけなので、そこまで白ワインと喧嘩していない。
(゚、゚トソン「お口の中がまろやか工場や」
白も赤もロゼも全部好きだが、1番好きなのは白ワインかもしれない。
嘘。その時によって変わる。
(゚、゚トソン「…それにしても、主人にも苦手なものがあったのは驚きです」
(゚、゚トソン「…………私も」
(゚、゚トソン「私も昔は、お酒嫌いでしたね。……すっかり忘れてました」
(゚、゚トソン「…昔のことは飲んで忘れましょう!さー飲むぞ飲むぞ!」
ふと、
人参だらけのご飯を出したらどうなるのだろう。
少しだけ嫌な顔するだろうか。得意になった理由を話すだろうか。
そう考えながら飲むワインと、チーズケーキのペアリングはとても良かった。
.
172
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:18:38 ID:6QXsCUSg0
本日の投下は以上になります。
前回から1ヶ月以上空いててびっくりしました。
関係ないですが作者はラム酒教です。ありがとうございました。
あと『読んでるだけで匂い漂ってくる』は最高の褒め言葉です、ありがとうございます。
他の方の言葉も有難いです。
173
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:19:56 ID:KVrzDwjU0
乙乙
チーズケーキ食べたい乙
デミタスの謎は深まっていく一方だな
174
:
名無しさん
:2018/03/26(月) 23:38:20 ID:q7FFNTJM0
トソンは食レポ向いてそう
乙
175
:
名無しさん
:2018/03/27(火) 00:55:35 ID:MQ1PX8qI0
乙乙
チーズケーキ食べたくなってきた
176
:
名無しさん
:2018/03/27(火) 02:14:36 ID:kIchTjI60
待ってた!乙ー
177
:
名無しさん
:2018/03/27(火) 14:32:01 ID:8m9XVWIs0
乙ー
待ってた!
出来立てチーズケーキ食べたくなってきた
178
:
名無しさん
:2018/03/27(火) 23:50:05 ID:LraxLGCA0
乙!
待ってましたー!
ほろ苦い過去がありそうでドキドキ
179
:
名無しさん
:2018/03/28(水) 19:52:47 ID:X3s0QPUI0
乙!チーズケーキ食べたいな
飯テロ好きだからこのスレの更新があると嬉しくなる
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2515.jpg
180
:
名無しさん
:2018/03/28(水) 20:08:43 ID:mReS7voo0
>>179
読んでたイメージそのまんまのデミタスとトソンだ!
181
:
名無しさん
:2018/03/28(水) 20:49:32 ID:3BU4Yhrs0
ビューティフル
182
:
名無しさん
:2018/03/29(木) 01:41:23 ID:h0C.at/I0
スイーツもらう代わりに酒をせびられてるようにしか見えない
183
:
名無しさん
:2018/03/29(木) 14:27:09 ID:XH8P7EbY0
かわいい…素晴らしい
184
:
名無しさん
:2018/03/30(金) 08:51:51 ID:SS5DkhU.0
乙! それぞれここまで来た経緯があるもんな
相手の背景が気になりだしたの良き
チーズケーキ食べたくなった……
185
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:33:52 ID:o7vWRyjw0
彼は謎が多い。
彼は、それを楽しんでいる節がある。
.
186
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:34:26 ID:o7vWRyjw0
晴天。秋晴れ。気持ちの良い天気。
風が少しだけ冷たいが、日差しは暖かい。
(゚、゚トソン「オヤジさん、これとこれとこれくださいな」
「毎度あり!」
(゚、゚トソン「こちらこそありがとうございます」
ガチャンガチャン。
瓶と瓶が擦れ合う音。
これは幸せの音。
(゚、゚トソン「今日も主人の金で良い酒を手に入れました。今夜は月見でこれを…ぐっしっし」
187
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:35:07 ID:o7vWRyjw0
今日は買い出しの日なので外に出ている。
買い物は好きなものを好きなように買って良いと言われているのだ。
なんと有り難い、金持ち。
こうも素晴らしい天気だと気持ちも弾む。
洗濯物はたくさん外に干してきた。乾燥機もあるが、私は外に干したフカフカふわふわのタオルを使うのが好きだ。
(゚、゚トソン「日光浴…」
たまには主人も外に出して干してしまいたいのだが、いかんせん『仕事』に夢中で家はおろか部屋からも出ない。
おやつの時間以外は。
人間、お天道様の光を浴びないと不健康だと思う。
どうすれば外に出せるだろう。
188
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:36:42 ID:o7vWRyjw0
( ^ν^)「おい」
(゚、゚トソン「お菓子で釣るとか…?いや流石に無理かな…」
( ^ν^)「おい、シカトこいてんじゃねぇぞ」
(゚、゚トソン「……はい?」
何か雑魚臭の強い声がすると思えば、20代半ば程の男性が目の前に立ちこちらに向かって話しかけていた。
仲間にしますか?いいえ。
相手にしますか?いいえ。
即座にあしらいモードに設定した私は、男性の横を通り抜けようとした。
しかし足でガードされる。逃げられない。
( ^ν^)「お前、あの屋敷のやつだろ」
(゚、゚トソン「あの屋敷と言われましてもね。はて、どの屋敷ですか」
(#^ν^)「盛岡サンとこの屋敷だよブス!」
雑魚は苛立ちを隠そうともせず、呪文を唱えてきた。
189
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:37:40 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「おいコラテメェ今なんつったコラ、あ?つーか盛岡って誰だよそもそもテメェが誰だよ誰がブスだ?あ?」
この絶世の薄幸美女と呼ばれる私、トソン様に向かって呪文を唱えるとは愚かな。
レベル2くらいの雑魚が、ラスボスクラスの私の威嚇に怯んでいる。
(;^ν^)「な、なんだよ……し、知らないフリしても無駄だからな!と、とにかくな!あの人に失礼な事すんなよ!いいな!」
ダダダ…
雑魚は逃げ出した!
(゚、゚トソン「去っていった…なんだあの小物感…」
【(゚、゚トソン ピポパ
【(゚、゚トソン「あ、警察ですか?今、人相も性格も頭も悪そうな男に脅迫されました。はい、場所は韮束酒店の目の前で…」
190
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:38:16 ID:o7vWRyjw0
7.本当だもん、月にうさぎいるもん、うさぎ見たもん
.
191
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:38:52 ID:o7vWRyjw0
(´・_ゝ・`)デミタス。主人。花より団子。でも花も好き。
(゚、゚トソン トソン。使用人。花も団子もつまみにして酒。
.
192
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:39:38 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「ただ今帰りました、よっと」
荷物を台の上に置く。
珍しく主人がおやつ前にリビングに来ていた。
(´・_ゝ・`)「おかえり、少し遅かったね」
(゚、゚トソン「ああすみません、ちょっと警察に事情を説明していて時間を食いました」
私の言葉に主人が瞬時に反応する。
手を小さく震えさせながら、私を指差した。失礼だ。
(´・_ゝ・`)「…トソンくん、ついに酒飲みすぎて何かしでかし…」
(゚、゚トソン「てません。主人、私のことなんだと思ってるんですか」
(´・_ゝ・`)「酒が無いと生きていけない人間」
(゚、゚トソン「その通りですよ!!!畜生!」
193
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:40:25 ID:o7vWRyjw0
荷物を片付けながら、主人に簡単な事の成り行きを話す。
主人は「うんうん、ふんふん」と興味があるのかないのかわからない相槌をうっていた。
(゚、゚トソン「あの小物感、どこかで見たことある気がするんですよね…」
(´・_ゝ・`)「そうなの?」
子供向けのアニメとかに出てくる悪者キャラとかだろうか。
何か、どこか、初めてではないような気がした。
(゚、゚トソン「しかし盛岡がどうとか、何なんですかね最近の不審者は…人違いなら他所でやって欲しいんですけど」
(´・_ゝ・`)「盛岡は僕だけど」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「えっ」
(´・_ゝ・`)「盛岡デミタス、僕」
(゚、゚トソン「主人、いつの間に改名なさったんです」
(´・_ゝ・`)「産まれてからずっと僕盛岡だよ…」
(゚!゚トソン
(´・_ゝ・`)「そんな衝撃!みたいな顔されても、数ヶ月働いてた使用人が名前も覚えてなかった方が衝撃だからね」
(゚、゚トソン「そういえば宅配便受け取るときによく聞く名前でした…」
194
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:41:06 ID:o7vWRyjw0
そうなると、あの小物感丸出しの不審者は人違いでもなんでもなく、『この屋敷の人間』として私に接触を図ったということになる。
(゚、゚トソン「……もしかして、主人の知り合いでした?」
(´・_ゝ・`)「んん?」
(´・_ゝ・`)「んー、ふふ」
(´・_ゝ・`)「……さぁ、どうだろうね」
いかにも『僕はわかってます』という顔で、主人は小さく笑った。
私に呪文を吐いた人間が誰だかわかっているようだが、それを教える気は無さげ。何故。
何かどこか楽しそうなのも、何故。
(゚、゚トソン「…そうですか」
何に対してかはわからないが、
イラっとした私は判決を下した。
(゚、゚トソン「……主人、今日、おやつ無しです」
(;´・_ゝ・`)「僕に餓死しろと!!?」
195
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:41:41 ID:o7vWRyjw0
何故!暴挙だ!良くないよ!と喚き立てる主人。
その叫びを無視しながら買ってきたお酒を仕舞おうとして。
(゚、゚トソン「あ」
(´・_ゝ・`)「?」
とても良いことを閃いたのだ。
(゚、゚トソン「…わかりました主人。
私も鬼畜生ではありませんのでおやつ抜きは勘弁してあげます。
心優しく寛大であり女神のような美しさと温かさにこうべを垂れて感謝してください」
(´・_ゝ・`)「突っ込みどころしかないけど、お菓子抜きにされたら辛いから感謝します」
(゚、゚トソン「ただ一つだけ、条件があります」
(´・_ゝ・`)「……?」
先程とは打って変わって、今度は私がニヤリと笑う。
主人は不思議そうに眉をひそめて私を見ていた。
****
196
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:42:19 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「さてそれでは恒例のおやつ作りターイム」
ロ(゚、゚トソン「今日はなんと、お豆腐先輩をお呼びしています!」
(゚、゚トソン『きゃー!お豆腐先輩よ!おやつ界では一目置かれているあの先輩よ!(裏声)』
ロ(゚、゚トソン『やぁやぁ、みんなヘルシーに生きてるかい?(低い裏声)』
(゚、゚トソン『きゃー!!先輩の角に頭ぶつけたーい!!(一際高い裏声)』
グシャッ
☆(゚、゚トソン「これをぐっしゃぐしゃに握り潰します」
(゚、゚トソン「白玉粉を混ぜてこねます」こねこね
(゚、゚トソン「耳たぶくらいの柔らかさまで…とよく言いますが」
(><トソン「自分の耳たぶが世間一般の柔らかさなのかがわからないんですよね」
(゚、゚トソン「あとこねてる時に自分の耳たぶを触って比べることもできません」
(゚、゚トソン「なのでここは『硬すぎず柔らかすぎず、ちょっとしばらくずっと触っていたいくらいのぷに感』としましょう」
(゚、゚トソン「……よし、これくらいですね」ぷにぷにぷにぷに
197
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:43:03 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「触り心地の良いこれを」ぷにぷに
(゚、゚トソン「等分にちぎります」ブチィッ!
(゚、゚トソン「お菓子作りは時に猟奇的でなくてはいけません…」
(゚、゚トソン「鍋でお湯を沸かして、沸いたらぷにぷに達をぶちこみます」
(゚、゚トソン「その間に別のお鍋にお醤油!みりん!お砂糖!お水!」
(゚、゚トソン「そして片栗粉さんをぶちこみます」
(゚、゚トソン「…良い匂い」
簡単に出来てしまうため、ついゆったりとした空気が流れる。
とろんと、暖かい色の蜜がキッチン中に優しい匂いを充満させた。
198
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:43:57 ID:o7vWRyjw0
ふぅと時計を見ると丁度10時。早くしなくてはと、
出来上がったものと大事なものを手に、頑張ってリビングのドアを開ける。
ソファにはぐったりとした主人が座っていた。
(゚、゚トソン「主人、生きてますか」
(´・_ゝ・`)「…しにそう……」
(゚、゚トソン「それは大変です。さ、上着を羽織ってお庭へ」
(´・_ゝ・`)「庭……?」
おやつゾンビになりかけている主人は、うわ言のように「おやつ…おやつ…」と呟いている。怖い。
けれど私からお酒を取ったら同じかそれ以上になると自覚している。怖い。
主人を庭に用意していたチェアに座らせる。
夜ごはんは食べたくせに、おやつが無いというだけでこんなに萎れてしまうものなのか。
199
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:44:35 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「ほら主人、今夜は十五夜ですよ」
(´・_ゝ・`)「え?あ、本当だ、綺麗だね」
指を指した先に、まん丸のお月さま。
そして私の手には。
(゚、゚トソン「なのでジャジャン、みたらし団子です」
まん丸串刺しみたらし団子。
(*´・_ゝ・`)「わー!食べていい!?」
(゚、゚トソン「…どうぞ」
みたらし団子を出した途端元気になる主人。満月を見てしまったオオカミ男のようで、若干引いてしまった。
(*´・_ゝ・`)「いただきまーす!あ、まだ温かいね。美味しいなぁ」
(゚、゚トソン「それは良かった」
美味しそうに頬張る主人を見て満足する。
暖かい緑茶を淹れ、主人の前に出した。
200
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:45:17 ID:o7vWRyjw0
外に(といっても庭だが)主人を出す事が出来たのだ。
我ながら良いアイディアだった。
『おやつ抜きにはしない代わり、おやつの時間を夜にずらします』
と言った瞬間の主人の驚いた顔はしばらく忘れないだろう。
(´・_ゝ・`)「トソンくん」
ふいに数本目のみたらし団子を手にした主人が私を呼んだ。
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「ありがとね。トソンくんがこうして教えてくれなかったら、僕はお月見もせずに秋を終えるところだったよ」
(゚、゚トソン「……いえ。次は絶対太陽の光に当てますから」
(´・_ゝ・`)「光合成出来ないよ僕」
小さく笑う主人。どこかあたたかいその笑顔は、少しだけ月に似ていると思う。
201
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:46:11 ID:o7vWRyjw0
ぱくぱくとお団子を楽しむ主人。
『おやつを主人にお出しする』という業務が終わった。
(゚、゚トソン「さて」
(´・_ゝ・`)「さて?」
パチン、と両手を鳴らすと音に驚いたのか主人の肩がびくりと跳ねた。
食べかけのお団子から、みたらしのたれがこぼれそうだ。
(゚、゚トソン「実は私の勤務時間はとっくに終了しております」
(´・_ゝ・`)「そうだね、9時までだもんね一応」
(゚、゚トソン「勤務時間外分は残業代を頂くとして」
(´・_ゝ・`)「別にいいけどね」
(゚、゚トソン「ここからは!私の完全フリータイムです!!!」
゙(´・_ゝ・`) ゙ビクッ
202
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:46:58 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「主人がいようと関係ありません!今日この月を見ながら飲むために良いお酒を買ったので、月見酒を楽しむしかない!FOOO!」
(´・_ゝ・`)「え、まだお酒飲んでないの?飲んでない素面でそのテンション?本当に?すごいね?」
(゚、゚トソン「デレレレレン!に〜ほ〜んしゅ〜(だみ声)」
(´・_ゝ・`)「あ、初期派なんだ」
(゚、゚トソン「最近のはちょっと可愛すぎて…」
私はハイテンションで今日購入した良いお酒を取り出す。
お猪口に注ぐ音にうっとりしていると、主人からの視線を感じた。
(゚、゚トソン「どうかしました?」
(´・_ゝ・`)「それ、お団子をおつまみにして飲むの?」
(゚、゚トソン「はい。みたらし団子も日本酒も、和のものなので合いますよ。良いペアリングになります」
(´・_ゝ・`)「……僕も少し頂いて良いかな」
203
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:47:40 ID:o7vWRyjw0
珍しい事もあるもんだ、と思ったけれど
もうすでに『主人が家の外に出ている』という珍しさ全開の出来事が起きているのだから、今日はそういう日なんだと思うことにした。
(゚、゚トソン「主人、お酒飲めるんですか」
(´・_ゝ・`)「飲めないことはないよ。日本酒はあまり得意ではないんだけど、トソンくんが飲むならせっかくだし」
(゚、゚トソン「あら、あまり得意でない。それなら」
(゚、゚トソン「よいしょっと。しばしお待ちくださいね」
お酒飲む前で良かった。手も頭も足もまだまだ正常に動く。
小走りでキッチンへと向かい、あるものを取りに行った。
(´・_ゝ・`)「……?」
戻ってきた私が色々な物を持っていたので、主人が不思議そうな顔をしていた。
⊂ (゚、゚トソン「ポン酒と」
⊂ (゚、゚トソン「緑茶を」
☆(゚、゚トソン「合体!!」
((´・_ゝ・`))ビクッ
204
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:48:35 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「ガムシロとレモンをちょっと入れて」
(゚、゚トソン「はいどうぞ、日本酒の緑茶割りです。一応カクテルみたいなやつです」
(´・_ゝ・`)「日本酒と緑茶…へー、いただきます」
薄緑色が月明かりで綺麗に透けていた。
キラキラしたそれを、キラキラした目で主人が見、ぐびぐびと飲む。
おお、いけるクチです?
(*´・_ゝ・`)「あ、結構飲みやすい」
(゚、゚トソン「お酒は美味しく楽しむものですから。苦手ならば少し工夫するだけで楽しむことができますよ」
(´・_ゝ・`)「トソンくんはお酒博士だなぁ」
(゚、゚トソン「ふっふっふ」
主人の声がいつもより明るかった。私も少し嬉しくなる。
みたらしだんごにかじりつき、酒を仰いだ。
(゚、゚トソン「うん」
(゚、゚トソン「美味しいですねぇ」
月が綺麗で、だんごは柔らかくて、主人が外に出て、酒は美味しくて。
(゚、゚トソン「良いペアリングです」
だんごと緑茶割り日本酒に夢中になっている主人には、聞こえていなそうだった。
205
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:49:15 ID:o7vWRyjw0
(´・_ゝ・`)「あー美味しかった。ごちそうさまでした」
(゚、゚トソン「おそまつさまでした」
(´・_ゝ・`)「あのさトソンくん」
(゚、゚トソン「はい?」
(´・_ゝ・`)「今日、君が会った不審者くんさ……悪い子ではないから、また会ってもあんまり意地悪しないであげてね」
(゚、゚トソン「奴の態度次第ですねー」
(´・_ゝ・`)「ははは」
主人はとても楽しそうに笑っている。酒のせいもあるかもしれないが、やはり外に出ることによって体が喜んでいるのではなかろうか。
206
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:49:47 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「あの不審者とお知り合いなんですね」
(´・_ゝ・`)「うん。多分だけれど、心当たりあるよ」
(゚、゚トソン「正体を教えてはいただけないと」
(´・_ゝ・`)「もったいぶるような物じゃないんだけど、僕、彼の性格が少し心配でね。友達がいるのかとか」
(゚、゚トソン「はあ」
確かにあの雑魚さ加減だと、友達は少なそうだ。その点はまぁ、人のこと言えないのだけど。
(´・_ゝ・`)「せっかくだから、君と仲良くなって欲しいなぁって。なので彼に関することは、また彼に会ったら直接聞いてみて」
(゚、゚トソン「仲良くはならないでしょうけどね」
(´・_ゝ・`)「あはは」
207
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:50:52 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「そろそろ眠くなってきました」
一升瓶はすっかり空になっていた。
美味しいお酒はスイスイ進んでしまっていけない。
(´・_ゝ・`)「12時近いからね。そろそろお開きにしようか」
(゚、゚トソン「12時でサヨナラって、シンデレラみたいですね……ん?」
シンデレラ。
言葉が、魚の骨のように引っかかった。
なんだっけ。誰だっけ。
………。
あ。
(´・_ゝ・`)「どうかした?」
ぽんと手を鳴らす。一連の不審な動きに主人は不思議がっている。
(゚、゚トソン「いえ、シンデレラ。ああ、そうか、なるほどシンデレラ」
(´・_ゝ・`)「?」
━━謎は、少し解けた。
208
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:51:44 ID:o7vWRyjw0
お月見をして一週間経っていたその日、主人が言っていた『不審者とまた会う』機会がやってきた。
酒の買い出しをしていて、また呼び止められたのだ。
(#^ν^)「おい、お前この間通報しやがっただろ。しばらく職務質問の日々だったんだぞ」
(゚、゚トソン「ああ、どうも先日は」
(#^ν^)「呑気に挨拶してんじゃねぇよ」
(゚、゚トソン「私が通報した事と、貴方が職質されたことは何の関係もないんじゃないですか」
(#^ν^)「うるせえバーカバーカ」
あいも変わらず雑魚丸出しの威嚇をしてくる。確かにこれじゃ友達は……
考えるのをやめた。可哀想になったが、私は持っているカードを切ることにした。
209
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:52:26 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「ところで、シンデレラちゃんはお元気ですか?」
( ^ν^)
( ^ν^)「えっ」
不審者の顔色がどんどん青くなっていく。
汗もダラダラと流して、まぁ大変。しかし私の口は止まらなかった。
(゚、゚トソン「『クラブAA』のシンデレラちゃん」
(;^ν^)「えっ、は…何…」
(゚、゚トソン「貴方がずーーーーっと一途に想い続けて店に通いまくり指名しているキャバ嬢、シンデレラちゃん、お元気ですか?」
(゚、゚トソン「まだ毎日のように足繁く通ってるんですか?」
(゚、゚トソン「まだ緊張しちゃってシンデレラちゃんの前ではきちんと話せなくて最初の30分は無言なんですか?」
(゚、゚トソン「まだドンペリを入れる勇気はなくてワイン止まりですか?」
(;^ν^)「な、な、な、な……ん、でおま…」
210
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:53:16 ID:o7vWRyjw0
(゚、゚トソン「童貞卒業できました…あっ間違えた、同伴誘えました?」
(#^ν^)「〜〜〜〜っ!!?!」
青から土色、そして真っ赤に顔色を変える不審者。カメレオンみたいだなと感心していれば、火山のように噴火した。
(#^ν^)「お ぼ え て ろ よ !!!!!!」
ダダダ…
雑魚は逃げ出した!
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「最高に雑魚い…」
(゚、゚トソン「あっ結局主人とどんな関係があるのか聞けなかった」
(゚、゚トソン「…まぁ、もしまた会えばその時で良いですかね」
なんとなくまた会いそうだなと思う。
けど主人が言うように、仲良くなったりは…しないだろう。
そんなことより今日のおやつと、私のペアリングは何しようか。
考えながら、ゆっくり帰った。
211
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 20:56:23 ID:o7vWRyjw0
本日の投下は以上になります
ありがとうございました
>>179
素敵な絵をありがとうございます!
モンブランとブランデーが美味しそうで美味しそうで…
そしてトソンが酒をせびる代わりにおやつを…という構図がとても好きです
本当にありがとうございました!
212
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 21:33:10 ID:9oQdjknk0
乙乙乙
豆腐団子おいしそうだ!!
213
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 21:59:36 ID:y0eJ6Eec0
ニュー(´;ω;`)
214
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 22:17:39 ID:C97wZ04.0
乙
雑魚ニュッくん可愛い
215
:
名無しさん
:2018/04/05(木) 23:23:17 ID:JVJQZwnc0
乙
216
:
名無しさん
:2018/04/06(金) 01:12:10 ID:FCh4e2GA0
不穏なニュッくんかと思えば雑魚だった…
217
:
名無しさん
:2018/04/06(金) 08:31:15 ID:BIsftqmk0
おつー!
218
:
名無しさん
:2018/04/07(土) 17:37:19 ID:AEPzIHGI0
乙でした!
デミタスとトソンのお月見はなんか二人が楽しそうでとてもよかった!
219
:
名無しさん
:2018/06/14(木) 21:36:34 ID:dmiRNOGY0
続き待ってるよー
220
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:51:51 ID:apajkV460
彼は寒いのが苦手。
でもどこか暖かい。
.
221
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:52:37 ID:apajkV460
冬だ。冬が来た。来てしまった。
冬は昔から好きではなかった。寒いのが苦手なのだ。
しかし冬の買い物は好きだった。暖かくなるためのものを買うから。
12月に入った途端、我を忘れたように世間は忙しく寒くなった。
エコバッグの中で、今日の夕飯であるグラタンの具材が誇らしげに輝いている。
グラタンは素晴らしい。
熱々トロリなチーズ、ぷりぷりとした鶏肉、ジュワッとマカロニの穴から溢れるベシャメルソース…おっと、涎が。
(゚、゚トソン「今日は暖かいお酒にしましょう…熱燗、ホットウイスキー、ホットワイン…」
(#゚;;-゚)「あの…」
屋敷の門に手をかけたその時、後ろから声をかけられた。
振り向くと、落ち着いた雰囲気の女性がダンボール箱を抱えて立っている。
222
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:54:03 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「はい?」
(#゚;;-゚)「こちらのお屋敷にお勤めなんですか?」
(゚、゚トソン「ええ」
(#゚;;-゚)「…そう、なんですね……そうか…良かった…」
お上品な人のニオイがする。
厳しそうだけれど、どこか優しい感じと、懐かしさ。何だったか。教師、ではない。
そう、シスターだ。
教会のシスターのような雰囲気の人。
私を見て一瞬、彼女は安堵したような顔をした。気がした。
223
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:55:10 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「えっと、何かご用が…?」
(#゚;;-゚)「ああ、すみません。突然不躾で」
(#゚;;-゚)「以前こちらで勤めておりまして、だん…ぼ…、…デミタス様にお世話になっていたもので。あのこれ、おすそ分けです。渡していただけますか?」
(゚、゚トソン(ダンボ?)
(゚、゚トソン「構いませんが…あの、しゅ、盛岡様…は家にいらっしゃいますのでお会いになっては」
わざわざ来ていただいたのだ。こんな寒い中門の前で立ち話もと持ちかける。
主人もその方が喜ぶだろう。
(#゚;;-゚)「いえ、主人が車で待っておりますので」
主人。一瞬おやつおばけの雇用主の事かと思った。
しかしこの『主人』は私が言う『主人』とは違う意味のものだろう。
たしかに女性の後ろに車が見えた。視線に気付いたのか、運転席の人物が軽く会釈をする。こちらも会釈を返しておく。
224
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:56:07 ID:apajkV460
女性からダンボールを受け取る。
ズッシリとした重みが、エコバッグの重さと合わさって腕にきた。
(゚、゚トソン(いい匂いがする)
(#゚;;-゚)「お名前、伺っても?」
(゚、゚トソン「都村トソンです。あ、私も伺ってよろしいですか」
(#゚;;-゚)「すみません、こちらから名乗るべきでしたね」
女性は小さなメモを取り出し、何かを書き始めた。
そしてそれを、両手がふさがって受け取れない私のエコバッグにスルリと入れたのだった。
(#゚;;-゚)「えびさわです」
(゚、゚トソン「えびさわさま」
その名前は聞き覚えがあった。
(#゚;;-゚)「蛯沢でぃ、です。それではデミタス様によろしくお伝えください」
225
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:56:49 ID:apajkV460
8.グラタンは冬の恋人
.
226
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:57:23 ID:apajkV460
(´・_ゝ・`)デミタス。主人。暖かい所で冷たいものを食べるのが好き。
(゚、゚トソン トソン。使用人。寒い日に温かいものを呑むのが好き。
.
227
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:58:12 ID:apajkV460
(´・_ゝ・`)「おかえり、随分大荷物だね」
(゚、゚トソン「門の前で蛯沢様から頂きました」
(´・_ゝ・`)「え、でぃさん来てたの?もう行っちゃった?」
(゚、゚トソン「ええ、ご挨拶だけでもと言ったのですが…ご主人を待たせているからと、こちらを渡してすぐ行ってしまいました」
(´・_ゝ・`)「そう…」
挨拶がしたかったのか主人はソワソワとしていた。
やはりもう少し引き止めればよかっただろうか。
(´・_ゝ・`)「とりあえず、重いでしょうそれ。中身なんだろ…置いて開けてみよう」
(゚、゚トソン「はい」
228
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 16:58:53 ID:apajkV460
ダンボールを開けて主人と二人で覗きこむ。
なんということでしょう。
(゚、゚トソン「パ、パラダイスや…」
開ける前から少し匂いがしていたが、開けた途端香りが広がる。
ダンボールの中には苺、林檎、オレンジ…沢山の果物が入っていたのだ。
素晴らしすぎてめまいがする。
(*´・_ゝ・`)「わぁ、すごいねぇ」
(゚、゚トソン「こんなに立派なフルーツの山々、入院でもしないと貰えないものだと思っていましたよ」
(´・_ゝ・`)「でぃさんこれ全部自分たちで作ったのかな…流石に凄すぎじゃないかな…」
主人でさえ少し圧倒されていた。
私に至っては脳内でパーリーピーポーな自分が踊りまくっている。
髪の毛一本ほどの理性で、なんとか涎を食い止めている状態だ。
229
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:00:14 ID:apajkV460
(;´・_ゝ・`)「トソンくん…うわっどうしたの顔怖いよ」
(゚、゚トソン「ハッ…危ない危ない、もう少しで皮ごと齧り付くとこでした…」
(;´・_ゝ・`)「そんなにフルーツ好きなんだ…ごめんちょっと引いて」
(゚、゚トソン「お高くて自分では買えないもの、が好きなんですよ」
お酒以外のことで君に引く日が来るとはと、主人が小さく言うのが聞こえた。失礼な。
(´・_ゝ・`)「まぁこれだけたくさんあるから消費も大変だろうし…好きなら良かったよ」
(゚、゚トソン「色々作れますねぇ…ジャム、フルーツタルト、フルーツ酒…」
(*´・_ゝ・`)「ああ美味しそう…少し小腹が空いてきたなぁ」
(゚、゚トソン「ではさっそくこの素晴らしいフルーツ達でおやつを作りましょうかね」
(*´・_ゝ・`)「わーい!」
流石におやつではしゃぐ大人は私でも若干引く。
言うと面倒なので黙っておくけれど。
(´・_ゝ・`)「あ、そうだ。ちょっとだけフルーツ分けて貰える?」
(゚、゚トソン「……独り占めですか?」
(;´・_ゝ・`)「違うし顔怖いよ……仕事に使うんだ」
(゚、゚トソン「ああ、今回は『写真家』のお仕事でしたっけ」
(´・_ゝ・`)「そう」
230
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:00:58 ID:apajkV460
家から出ない、引きこもりのような存在の主人が『写真家』なんて出来るのだろうかと疑問だったが、それは愚問だった。
屋敷内の物を影と光を上手く扱って撮ったり、庭の景色を綺麗に撮ったりと、主人の写真は素人の私でも良いと思うような作品だったのだ。
(゚、゚トソン「主人は何でも完璧に出来てすごいですね」
(´・_ゝ・`)「…僕はおやつ作れる方がすごいと思うよ」
(゚、゚トソン「まぁ私ですからね」
(´・_ゝ・`)「一切謙遜しないね…」
(゚、゚トソン「まぁ私ですからね」
(´・_ゝ・`)「うん…」
主人は何とも言えない乾いた笑いを浮かべていた。
『なんでも出来ること』をあまりよくは思っていないようだった。
(´・_ゝ・`)「じゃあ僕、部屋にいるから」
(゚、゚トソン「はい、出来上がったらお呼びします」
231
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:01:31 ID:apajkV460
バタン。
使わないフルーツを冷蔵庫やバスケットなどに入れる。
色とりどりの果物達は、まるで早く食べてと言わんばかりに輝いて見えた。
(゚、゚トソン「ふぅ…1日限定の果物屋さんが開けそうですね」
(゚、゚トソン「ああーいい匂い。お酒に漬けたい。あらゆるお酒に漬けて楽しみたい…」
(゚、゚トソン『私をあのブランデーのプールに入れて!(裏声)』
(゚、゚トソン「ああ苺さん…なんてステキなお誘いを…」
(゚、゚トソン『僕はウォッカに浸かりたい!(バリトンボイス)』
(゚、゚トソン「林檎くんまでそんな…」
(゚、゚トソン「くっ……すまないみんな…今日は…今日だけは…主人優先でおやつを作らないといけないんです…!」
(゚、゚トソン『そんな…!トソンちゃんの大好きなお酒にはなれないの!?(裏声)』
(゚、゚トソン『絶望だ…!(バリトンボイス)』
(゚、゚トソン「明日からは私優先でお酒漬けまくりますから…絶対…!」
(゚、゚トソン『約束だよ…!(バリトンっぽい裏声)』
(゚、゚トソン「フルーツを適度な大きさにぶつ切ります」ダンダンダァン
232
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:02:19 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「バナナにはレモン汁をちょこっとだけかけておきましょう」
ブシュッ!
(゚、゚トソン「あっ」
(゚、゚トソン「…夢ならばどれほど良かったでしょう…」
(゚、゚トソン「まぁどっちもフルーツなんでセーフセーフ」
(゚、゚トソン「寒い日といえば〜」
(゚、゚トソン「コタツでみかんみかんみかん!!みかんみかんみかん!!みかんー!!」
(゚、゚トソン「私はコタツで寝酒派ですけどね」
(゚、゚トソン「さて、卵をよくときます」
(゚、゚トソン「卵をとくときのカカカカカッて軽快な音、わりと好きです」
(゚、゚トソン「小麦粉と砂糖をブチ混ぜます」
(゚、゚トソン「いえいいえい」
(゚、゚トソン「さらに牛の乳も入れますよ」
233
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:02:55 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「レンチンします」
(゚、゚トソン「今の若い子はレンジでチンするって言わないと聞いたんですがデマですよね?」
(゚、゚トソン「だって私若いですし…ピチピチピッチトソンちゃんですし」
チーン
(゚、゚トソン「チンできました」
(゚、゚トソン「また混ぜてチンしますの繰り返し」
(゚、゚トソン「人生とは…同じことの繰り返しです」
チーン
(゚、゚トソン「チンできました」
(゚、゚トソン「これに!なんと!秘密兵器を!」
(゚、゚トソン「ま!ぜ!ま!す!」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「…たくさんのフルーツを前に冷静になろうと勤めてますが気を抜くと熱くなってしまいますね、仕方ない」
234
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:03:39 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「バター先輩入ります!」
(゚、゚トソン「続いて秘密兵器バニラエッセンスさん入ります!」
(゚、゚トソン「勢いよく混ぜ!!ます!!!」
(゚、゚トソン「あっすっごっいい匂い!すっごっいい匂い!」
(゚、゚トソン「はー…凶悪なまでにいい匂い…この匂いをツマミにブランデーを飲める…」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「ちょこっとだけブランデーを混ぜましょう、最強になる」
(゚、゚トソン「よし、これをぶつ切りフルーツにかけます」
(゚、゚トソン「レンジはチン、オーブンはブン、じゃあオーブントースターは?」
(゚、゚トソン「ブンチン」
(゚、゚トソン「嘘です。特に何も言いません」
(゚、゚トソン「あっとは出来るのを待つだけ〜」
235
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:04:26 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「そういえばグラタン皿探してませんでした」
(゚、゚トソン「この広いキッチンの、食器棚の何処かにはあると思うんですけど…」
(゚、゚トソン「棚の上の方はまだ見れてないので、今度見て見ましょう」
(゚、゚トソン「…今夜のグラタンはなんかそれっぽい高そうな器に入れて誤魔化そ」
チン
(゚、゚トソン「お、出来ましたね」
甘い甘い匂いが鼻をくすぐる。
この湯気を袋に入れてずっと持っていたい。
(゚、゚トソン「主人を呼びますかね」
温かいうちに召し上がってもらわなくては。
少しだけ小走りで、主人の部屋へと向かった。
236
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:05:00 ID:apajkV460
コンコン
(゚、゚トソン「主人、失礼」
(´・_ゝ・`)「あ、もう出来たの?やぁ、何かここまでいい匂いが来てるね」
(゚、゚トソン「冷めないうちにと思って声をかけたんですが…お仕事大丈夫ですか」
(´・_ゝ・`)「うん、でぃさんから貰ったフルーツたくさん撮ったよ。ちょうど一区切りついたところ」
ゴトリと重そうなカメラを机に置いて、主人は腕をぐぐぐと伸ばした。
(゚、゚トソン「すごいカメラですね」
主人が『仕事』に使ったカメラをまじまじと見てしまう。
恥ずかしながら普通のカメラしか知らない私は、これで撮影が出来るのかと怪しんだ。
何せレンズが2つあるのだ。どうするのかまったくわからない。
237
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:05:39 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「アンティーク?メトロ?レトロ…クラシック!クラシックですね?」
(´・_ゝ・`)「お祖父様のだからねぇ」
僕よりうんと歳上なんだよ、とカメラを撫でる主人。
お高そうなので私は絶対触らないと心の中でこっそり誓った。
(´・_ゝ・`)「この家にあるもの…というかこの家自体祖父のだから」
(´・_ゝ・`)「食器とかは母のもあるけどね」
(゚、゚トソン「そうなんですね」
(´・_ゝ・`)「僕は何も持ってない。家もカメラも…全部人のだ」
(゚、゚トソン「……」
238
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:06:12 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「カメラが主人のでなくても、撮った写真は主人の作品じゃないですか」
(´・_ゝ・`)「え?」
(゚、゚トソン「写真も、絵も、本も、全部主人のものですよ」
主人が『仕事』で作った物の一部はこの家にもある。
私も持っている。家やカメラがどうだろうと、主人の作品は主人の財産だ。
(´・_ゝ・`)「…あははは」
(゚、゚トソン「?」
私の言葉に一瞬呆けた主人が、いきなり笑い出した。
おやつ切れだろうか。私の心配をよそに、主人の表情は明るかった。
(´・_ゝ・`)「いや、うん。そうだったなって思って」
(´・_ゝ・`)「前にも同じこと言われたんだった。だから僕はこうして仕事をしている」
(゚、゚トソン「はぁ」
(´・_ゝ・`)「そうだったそうだった。はー、笑ったらお腹すいたな。早くおやつ食べよう」
239
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:06:54 ID:apajkV460
いそいそとリビングへ向かう主人についていく。
ふと、気づいたことがある。そういえば。
(゚、゚トソン「そういえばこのお屋敷、写真が一枚もないですね」
(´・_ゝ・`)「え?」
(゚、゚トソン「アルバムも見たことないですし」
(´・_ゝ・`)「ああ、前にね。僕が焼いたんだ」
(゚、゚トソン「は」
(´・_ゝ・`)「庭で写真の類を全部火をつけてお芋を焼いたんだけどね」
(´・_ゝ・`)「ちゃんとした炭とかじゃなかったからか、僕がやったからか、あんまり美味しくなかったんだよね。トソンくんは石焼き芋食べたことある?」
(゚、゚トソン「あります…けど……よく火事になりませんでしたね」
(´・_ゝ・`)「あはは、そうだね」
さらっと黒歴史ならぬ芋歴史を語られた。
未だに主人は謎なことが多すぎる。
(´・_ゝ・`)「今日のおやつなんだろうなぁ」
(゚、゚トソン(謎も何も、おやつのことしか考えてないおじさんにしか見えない時もあるけど)
240
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:07:42 ID:apajkV460
リビングについた瞬間、主人は破顔した。
暖房をつけていたから暖かい空気でふやけたのかもしれない。
(*´・_ゝ・`)「なにこれ?すごいね」
(゚、゚トソン「フルーツグラタンです。果物にカスタードクリームをかけて熱々トロトロにするだけなので簡単です」
(*´・_ゝ・`)「そんな素晴らしいものが……冷めないうちにいただきます」
(゚、゚トソン「召し上がれ」
ふんわりと柔らかなカスタードクリームをスプーンで掬い上げると、ゆったりとした湯気が上がった。
まだ冷めてないようで良かった。
中の苺がほろりと崩れ、甘酸っぱい匂いが漂う。
温かいものは何だかホッとする。(洒落ではない)
241
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:08:10 ID:apajkV460
(*´・_ゝ・`)「カスタードが優しい味だね。甘すぎないからフルーツの甘酸っぱさと合ってる」
(゚、゚トソン「チャイも淹れちゃいましたのでどうぞ」
(´・_ゝ・`)「うん、うん?ありがとう」
(´・_ゝ・`)「あ、チャイも美味しいねぇ。僕寒いの苦手だから、こういう温かいものがありがたいよ」
(゚、゚トソン「主人、靴下2枚履きしてますもんね…チャイは生姜とシナモン、ハチミツマシマシですので身体も暖まると思いますよ」
(*´・_ゝ・`)「温かいものはホッとするね」
(゚、゚トソン「セリフ被ってます」
(´・_ゝ・`)「?」
(゚、゚トソン「いえ」
242
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:08:55 ID:apajkV460
(´・_ゝ・`)「はー、美味しかった。ごちそうさまでした」
(゚、゚トソン「お粗末様でした。あ、そうだ主人」
器を片付けながら思い付く。満腹で満足そうな主人がゆったり、視線をこちらにやった。
(´・_ゝ・`)「ん?」
(゚、゚トソン「写真、出来たら頂けませんか?」
(´・_ゝ・`)「いいけど……写真のフルーツ見ながらお酒飲んだりしない?」
(゚、゚トソン「流石の私もそこまでは……あ、昔イカの塩辛の写真見ながらご飯食べたことはあります」
(;´・_ゝ・`)「ええ…」
お金がなかった頃はそれで凌いでいたものだ。懐かしい。
(゚、゚トソン「もうしませんよ。写真立て買ってきて、飾ろうかと思いまして」
(´・_ゝ・`)「それは…まぁ…いいけど…」
(゚、゚トソン「もう燃やさないでくださいね」
(´・_ゝ・`)「…もうしないと思うよ」
小さく口元だけで笑った主人は、じゃあ現像待っててねとまた部屋に戻っていった。
243
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:09:28 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「トソンちゃんの!!」
(゚、゚トソン「フリィィィタァイイム」
(゚、゚トソン「こほん。巻き舌がうまく出来ないんですよね私」
(゚、゚トソン「フルィィ…フリルィ…チョゲプリィ…」
(゚、゚トソン「まぁいいか!酒だ酒酒!酒の時間だぞ!」
(゚、゚トソン「また騒ぎすぎると翌朝主人に白い目で見られますからね…大人しく行きましょう」
(゚、゚トソン「今夜は!何と!!」
(゚、゚トソン「黒ビール様をお呼びしました!!!」
(゚、゚トソン「ヒューヒュー!!わーわー!!」
(゚、゚トソン『キャー!あの黒さ…惚れ惚れしちゃう!(黄色い声)』
(゚、゚トソン『フッ…心は熱いがいつでもクールでいるぜ…(イケボ)』
(゚、゚トソン『キャー!!(甲高い声)ゴホッゴホッ』
(゚、゚トソン「こいつを温めます」
244
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:10:01 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「寒い日は何でもホッとにすればいいと思ってる?正解だ!!」
(゚、゚トソン「冷え性はとにかく身体の中から暖かくすることが大事です」
(゚、゚トソン「酒はいいですよ…末端にまで血を巡らせてくれます…」
(゚、゚トソン「ホットにした黒ビールに!」
(゚、゚トソン「シナモンスティックと!」
(゚、゚トソン「オレンジを少々ぶっ込みあそばせます!」
(゚、゚トソン「ハチミツとしょうがも少々!」
(゚、゚トソン「ナツメグも入れちゃいましょう」
(゚、゚トソン「そしてフルーツグラタンと!一緒に!」
(゚、゚トソン「いただきまーす!!」
245
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:10:48 ID:apajkV460
(゚、゚トソン ゴクッ
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「っ あー……」
(゚、゚トソン「寒い日に温かいもの飲んで、喉通るのが分かる感じが、とても好き」
(゚、゚トソン「フルーツ美味しいなぁ…こんなに大きい苺初めて食べたかもしれませんね…」
(゚、゚トソン「フルーツとカスタードもいい具合にバランス取れてますね。ビールのほろ苦さとも合います」
(゚、゚トソン「…蛯沢様にお礼言いたいな…以前の秋の幸もお礼出来なかったし…」
(゚、゚トソン「あ」
ゴソゴソとジョッキグラスを片手に探る。
私は片付けがあまり上手ではないので、使ったものをそのまま置いていたりする。
246
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:11:52 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「ありました」
エコバッグ。
グビッとビールを飲み込んでグラスを置く。
中に手を突っ込んで、目当てのものを掴んだ。
小さな紙切れ。
走り書きながらに綺麗な字で住所と電話番号が書かれていた。
蛯沢様が去り際、私に託したもの。
(゚、゚トソン「…『何かありましたら こちらへ』…」
(゚、゚トソン「何か…。沢山のフルーツを頂いてお礼をすることは…何かに入りますかね……」
(゚、゚トソン「……明日、主人に写真焼き増ししてもらいましょう」
食べ物は送りにくいが、写真ならば良いのではないだろうか。
顔を見れなかった代わりに、主人の作品を見れば元気であることが伝われば良い。
主人の作品は、人柄を写しているのか、どこか暖かい。
247
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:12:42 ID:apajkV460
(゚、゚トソン「……よし」
(゚、゚トソン「そうと決まれば頂いたフルーツを楽しみますよー!ヒュー!カスタードと林檎美味しいー!!ビールおかわりー!!」
明日また主人に白い目で見られるのは確実だなと思いながらも、
フルーツと本日のペアリングが最高だったので仕方がないのだ。
.
248
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 17:14:59 ID:apajkV460
本日の投下は以上になります
「続き待ってる」などのコメント、とても嬉しかったです
前回から2ヶ月経ってることに驚きでした
ありがとうございました
249
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 18:09:27 ID:kYGo9ygw0
乙! 待ってたうれしい
250
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 20:42:52 ID:0ItUgcvI0
フルーツグラタンがうまそうすぎる
乙
251
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 21:01:21 ID:Qgoq4B9.0
乙!トロトロ美味そう
252
:
名無しさん
:2018/06/29(金) 21:47:56 ID:ucboNuI.0
乙ー
253
:
名無しさん
:2018/06/30(土) 10:56:48 ID:zZlyZD5Q0
更新うれしい!乙でした
工程でてっきりプティングかと思ってた
フルーツグラタン今度作ってみる
254
:
名無しさん
:2018/06/30(土) 21:15:19 ID:dqq4R3K20
乙乙ー!投下待ってた!
今回もおいしそうなおやつが出てきてうれしい
フルーツグラタン食べてみたい
255
:
名無しさん
:2018/06/30(土) 22:09:05 ID:ugEGyL5M0
調理してるところとかや食べてるところとか全部すき
256
:
名無しさん
:2018/07/01(日) 17:20:51 ID:TIUYBc2I0
だんぼって何だろな…
写真焼いて焼き芋作るデミタスがちょっと怖いな…
257
:
名無しさん
:2018/07/01(日) 17:39:41 ID:TkEYzFic0
旦那様、坊ちゃんかな
258
:
名無しさん
:2018/07/01(日) 18:39:48 ID:TIUYBc2I0
>>257
あだ名かと思った
なるほどな
259
:
名無しさん
:2018/07/01(日) 19:01:41 ID:aHUr.bAU0
ダンディボーイの可能性
260
:
名無しさん
:2018/07/01(日) 19:16:43 ID:0CS8NHwY0
デミタスは福耳だからそれを馬鹿にされているんだよ
261
:
名無しさん
:2018/07/01(日) 19:35:33 ID:Kc5aREps0
これだな!
https://i.imgur.com/soPsubf.jpg
262
:
名無しさん
:2018/07/03(火) 15:53:09 ID:q89ynvig0
わー!待ってました〜!
今回も話、料理全て素晴らしい…
263
:
名無しさん
:2018/08/16(木) 23:45:23 ID:tTqSO4rk0
がんばれがんばれ
264
:
名無しさん
:2018/08/29(水) 01:23:26 ID:TRZ2g2Ys0
まってるよー
265
:
名無しさん
:2018/09/07(金) 22:59:57 ID:mqKdV1jk0
まだかな
266
:
名無しさん
:2018/10/06(土) 15:06:31 ID:WV8ady9k0
まってる
267
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:38:01 ID:GoNfOUa20
彼は私の主人
彼は大の甘党
だから、私は
.
268
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:38:46 ID:GoNfOUa20
買い物帰りのことだった。
いつものように、お世話になりすぎている酒屋
韮束商店を、涎を垂らしながら見回りしていた。
最初は視線を感じた。
気品や美しさが自然に溢れ出てしまうタチなので、仕方ない事だとスルーした。
次に声をかけられた。
よくあるナンパだと思い無視。
しかしこのナンパ、しつこいのである。
269
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:39:24 ID:GoNfOUa20
( ^ν^)「おい、そこの召使い」
(゚、゚トソン
( ^ν^)「おい、女」
(゚、゚トソン
(;^ν^)「なぁおい、おいってば!」
(゚、゚トソン
(;^ν^)「な、なんて呼べば反応してくれるんだよ!なぁおい、頼むから話聞いて!聞いてください!」
(゚、゚トソン「最初から敬語使えジャバ僧」
(;^ν^)(怖え…)
ナンパの正体はいつぞやの雑魚日本代表だった。
270
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:40:18 ID:GoNfOUa20
9.クリスマスなど、美味いものを食う口実の為にある
.
271
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:41:01 ID:GoNfOUa20
(´・_ゝ・`)デミタス。主人。プレゼントはリクエストせず何を貰えるかワクワクしたい派。
(゚、゚トソン トソン。使用人。欲しいものは自分で買ってしまう派。
( ^ν^)雑魚。ザコ。貰うより貢ぐ事のが多い派。
.
272
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:41:37 ID:GoNfOUa20
(´・_ゝ・`)「おかえりトソンくん。何か、遅かったね?」
(゚、゚トソン「ただいま戻りました。いえちょっと色々ありまして」
玄関の戸を開けてすぐ、主人がやってきた。
主人が使用人のお出迎えをしてどうするのだろうか。
諸々を気にすることなく、主人は何か焦ったような顔をして私の前に立っていた。
(´・_ゝ・`)「そう…ところでトソンくん、今12月だよね?」
(゚、゚トソン「ええ」
(´・_ゝ・`)「僕は大事なことを忘れていた…」
(゚、゚トソン「私へのボーナスですか?」
(´・_ゝ・`)「シュトーレンが食べたい」
私へのツッコミはガンスルーだった。いや割と本気で言ったのだけれど。
273
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:42:47 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「酒盗ですか。良いですね、私も好きです」
(´・_ゝ・`)「君は耳にサキイカでも詰まってるの?」
(゚、゚トソン「いえ、サキイカでしたら昨夜焼酎と一緒に食べ尽くしましたので耳に詰めたりなどは」
(´・_ゝ・`)「わかってるよ…嫌味だよ…」
274
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:43:22 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「それで、酒盗レーンとは?」
荷物を置きながら話を続ける。
主人も手伝うと仰ってくれたのだが、やはり使用人の仕事なので丁重に断った。
(´・_ゝ・`)「シュトーレン。知らない?クリスマスを待つ間に少しずつ食べていくんだ。
クリスマスまでもう何日も無いのに、すっかり忘れてたよ」
(゚、゚トソン「ああ、あのチマチマ食べるやつですね」
(´・_ゝ・`)「君本当そういうさぁ…情緒とかさぁ…」
(゚、゚トソン「確かラムに漬けたレーズンとか入れるんですよね」
(´・_ゝ・`)「そうそう。その時点でもう美味しい」
(゚、゚トソン「ラム酒をそのまま飲めば良いんじゃないですか?」
(´・_ゝ・`)
275
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:43:56 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「ラム酒飲みながら、レーズンとマジパンをつまみにして、クリスマスを待てば良いんじゃないですか?
その方が楽しくないですか?私はその方が良いですけど…どうしました主人」
(´・_ゝ・`)「価値観の相違だ」
(゚、゚トソン「方向性が違いましたか…」
(´・_ゝ・`)「バンドだったら解散してたよ」
(゚、゚トソン「あら…」
主人は心底残念そうな顔をしていた。私の考えはそこまで駄目だったのか。
(´・_ゝ・`)「……シュトーレン作ってくれたら君の好きなワインを、一本どれでもあげるよ」
(゚、゚トソン「作りましょう、シュトーレン。ええ、ええ。
クリスマスが待ち遠しい気持ちと、近付くにつれシュトレンが無くなってしまう寂しさのジレンマに陥ってしまうくらいの美味しいシュトレン、作りましょう」
276
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:44:31 ID:GoNfOUa20
主人の言葉を聞いて俄然やる気が湧いてきた。
ワイン。ああワイン。どのワインを頂こうか。
主人はあまり酒を嗜む方ではないが、この屋敷には立派なワインセラーがあるのを、私は知っている。
頂き物や主人のお父様の好みが仕舞われているらしいが、目玉が飛び出るほどの金額のモノがあることも、私は知っていたのだ。
(゚、゚トソン「ふふ…ワイン…ふふ」
(´・_ゝ・`)「…トソンくん、アル中にならないでね」
(゚、゚トソン「大丈夫ですよ、急性中毒にならないようこまめに摂取してますから」
(´・_ゝ・`)「もう手遅れだった…」
277
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:45:20 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「さて、作りますか。工程は大き〜〜く分けると3つです」
(゚、゚トソン「1.混ぜこねる 2.発酵させる 3.焼く」
(゚、゚トソン「たったこれだけ☆お手軽だから誰でも作れる♪」
(゚、゚トソン「……嘘です。細かく分けると13〜14工程くらいあります…めちゃくちゃ面倒だな…」
(゚、゚トソン「………これもワインのため…よし、やりましょう」
⁂⊂(゚、゚トソン「ラム酒に漬けたイチジクと、クルミ、アーモンド、彼らが主役です」
⊂ (゚、゚トソン「……イチジク美味しそうですね……これとクリームチーズと一緒に生ハムでくるんでワインと一緒に…」
⊂(゚、゚トソン「…………」
(゚、゚トソン「はっ!いけないいけない…酒の国と書いて楽園に行ってました…」
278
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:46:01 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「アーモンドやクルミなどのナッツ類はローストして粗く砕きます」
(゚、゚トソン「…よく映画などでクルミの殻をバキッと悪シーンありますよね…」
(゚、゚トソン「……」
ぐっ (゚、゚トソン「痛っっ!!」
(゚、゚トソン「………生半可な気持ちでは割れない、ということですか…やりますね…」
(゚、゚トソン「手が痛い…労災でないかなこれ…」
279
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:46:36 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「中種を作ります」
(゚、゚トソン「強力粉、ドライイースト、牛乳をひたすら混ぜ捏ねます」こねこね
(゚、゚トソン「強力粉さんの頼もしさ、頼りになる感は計り知れないですね…
対してドライなイーストさんと、柔和な牛乳さん…
彼らが一つに混ざると、一体どうなってしまうのか…!?」こねこねこねこね
〇⊂(゚、゚トソン「つるんとした生地になりました」
(゚、゚トソン「これを発酵させます」
(゚、゚トソン「…発酵させてる間暇ですね…ホームベーカリーがあったら楽なんですけど…」
(゚、゚トソン「ありそうだなこの屋敷…探してみますか」
280
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:47:18 ID:GoNfOUa20
何度でも言うがこの屋敷のキッチンは広い。
戸棚やら何やらも大きい。機材もたくさんある。まだ私も知らないものがごろごろある。
(゚、゚トソン「んー…上の方の戸棚はまだ見たことなかったんですよね…脚立頑張れ頑張れ脚立」
脚立を持ってきて登る。小さい頃よくそうやって手伝いをしていた。
(゚、゚トソン「ん、これは」
∬⊂ (゚、゚トソン
(゚、゚トソン『おめでとう、トソンは麺棒を見つけた!タラララ〜♪(裏声)』
丁度良いものを見つけた。あとで使うので出しておこう。
281
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:47:47 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「はっ、本生地を作らなくては…」
(゚、゚トソン「バターをクリーム状に混ぜて、お砂糖、塩、卵黄、牛乳、あるだけ全部少しずつぶち込みます」
(゚、゚トソン「強力粉さん再び登場、アーモンドプードルさんと一緒にぶち込みます」
(゚、゚トソン「発酵させた中種を」
(゚、゚トソン「千切っては混ぜ千切っては混ぜ」ブチィこねこねブチィこねこね
(゚、゚トソン「イチジクとナッツたちを入れてまた発酵です」
(゚、゚トソン「やることが多い!!」
(゚、゚トソン「全然ふざけられないですよ…ふぅ…」
282
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:48:20 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「先程見つけて洗っておいた麺棒で生地の形を整えます」
(゚、゚トソン「そして!!」
(゚、゚トソン「また発酵!!!私は発狂!!」
(゚、゚トソン「あら、私韻踏むの上手くないです?ラッパーになれます??」
(゚、゚トソン「チェケラ焼きます」
(゚、゚トソン「これだけ手間かけて作ったらそりゃチマチマ食べたくなりますよね。1日で食べるのを惜しむ気持ちがわかりました…」
(゚、゚トソン「これが…情緒…」
(゚、゚トソン「さて、麺棒の他に何か使えるもの出てきませんかね…例えば隠し酒とか、お酒とか、アルコールとか…」
283
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:49:05 ID:GoNfOUa20
先程麺棒が出てきたあたりはまだまだ何かがありそうだった。暗い戸棚の奥に手を伸ばし、何かを掴む。
(゚、゚トソン「……ノート…?」
こんな戸棚の奥に、何故?
もしかして主人が書いたものだろうか。
(゚、゚トソン「…」
ノートをめくる。
なんだろう。日記だったらどうしよう。
(゚、゚トソン「…『彼は、私の主人。彼は、私の事を名前で呼ぶ。彼は、大の甘党。』…」
誰かの手書きの文字が連なっている。主人の字ではなかった。
この『彼』というのは主人、デミタス様のことだろう。
しかし私以外にも『主人』と呼ぶ人間がいたのか。
(゚、゚トソン「…人のものを勝手に見るのは良くないです、よね」
主人の物であっても誰のものであっても、勝手に見るのは良くないことだ。反省。
元あった場所に戻して、脚立をしまった。
284
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:49:38 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「焼けました。だいぶいい匂いがしますね…なんていうんでしょう…カントリー?」
(゚、゚トソン「さて仕上げにこれでもかという位のバターをたっぷり塗り込みます」
(゚、゚トソン「粉砂糖をパラパラダバー」
(゚、゚トソン「はい」
(゚、゚トソン「カロリーの鬼の完成です……」
リビングに持っていく。発酵でだいぶ時間がかかってしまった。
こんなにカロリー高なものを今食して、夜ご飯は果たして入るのだろうか。
285
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:50:46 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「主人、シュトレンとやら、出来ましたよ」
(*´・_ゝ・`)「おお、おお!」
目が合った瞬間、主人の顔が輝いた。
発光している…?
(゚、゚トソン「コーヒーに合うようフルーツよりナッツ多めの、シナモンナツメグ増し増しにしました」
主人が匂いを嗅ごうと鼻をスンスンしていた。
犬じゃないのでやめなさいと止めて目の前に皿を置く。
主人の輝きがさらに増した。本当に犬のような反応で引いた。
(*´・_ゝ・`)「良い匂いだね…はー…いただきます」
286
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:51:30 ID:GoNfOUa20
待ちきれないとばかりにナイフとフォークを持ち、シュトーレンを切る。
ほろりと欠けらが皿に落ちたが、主人は御構い無しに一口頬張った。
(*´・_ゝ・`)「…うん、しっとりほろほろしてる…美味しいね
シナモンとナツメグかな?いいアクセントだね、冬ーって感じがするよ」
冬という感じがするというのはわかる。これは寒い寒い冬に食べるものだと思う。
(゚、゚トソン「2〜3日寝かせるともっと美味しくなると思いますよ。はい、コーヒーも淹れてあります」
(*´・_ゝ・`)「明日も明後日もまた違う味になってそうだね、楽しみだなぁ」
287
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:52:03 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「クリスマスまでしばらくこのシュトレンがおやつという事で宜しいですか?」
(´・_ゝ・`)「宜しくない、それは違う」
(゚、゚トソン「でもこれチマチマ召し上がるのに…」
(´・_ゝ・`)「シュトレンはシュトレン。おやつはおやつ。違うんだよ」
(゚、゚トソン「ああ、おつまみとご飯のおかずは違うってやつですね…わかります」
(´・_ゝ・`)「僕はむしろわかんないよ…」
主人は食べ終わってしまったことにか、はたまた私との意見の相違にか残念そうな顔をした。
288
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:52:29 ID:GoNfOUa20
(´・_ゝ・`)「あ、トソンくん」
(゚、゚トソン「はい?」
(´・_ゝ・`)「クリスマスプレゼント、何がいいか考えておいて」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン
(;´・_ゝ・`)「トソンくん?」
(゚、゚トソン「え、あ、は、はい。あの、えっ、頂ける、のですかクリスマスプレゼント」
289
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:52:57 ID:GoNfOUa20
いきなりの主人の言葉を理解するのに、だいぶ時間がかかってしまった。
(´・_ゝ・`)「うんまぁ、ボーナスみたいなものと思ってよ」
(゚、゚トソン「…」
(´・_ゝ・`)「今ちなみにぬいぐるみ作ってるからそれもオマケにつけるよ」
(゚、゚トソン「今ぬいぐるみ作家でしたっけ…」
(´・_ゝ・`)「うん」
(;´・_ゝ・`)「あ、もしかして現金の方が良かった?」
(゚、゚トソン「いえ!!」
(゚、゚トソン「いえ、嬉しいです…頂けると思わなかったので…」
(゚、゚トソン「ちょっとじっくり考えさせて頂きます」
290
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:53:32 ID:GoNfOUa20
プレゼントをいただけるという喜びで、
キッチンで見つけたノートのことを主人に言いそびれてしまった。
けれど何故だか、主人に伝えるのが、
(゚、゚トソン(……怖い…?)
自分自身よくわからないながら、その事自体流してしまった。
.
291
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:54:21 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「はー!終わった!今日はいつも以上に働いた気がします」
(゚、゚トソン「しかし〜今日は〜臨時収入〜」
(゚、゚トソン「お高いワイン!!」
(゚、゚トソン「ヤッタネ!」
(゚、゚トソン「しかも赤と白2本!!」
(゚、゚トソン「ヤッタネ!!!」
(゚、゚トソン「今日はどちらにしようかな…」
(゚、゚トソン『チマチマしたこと言わずに2本飲めばいいんじゃない!?(裏声)』
(゚、゚トソン「た、たしかにそうですね!そうしましょう!」
(゚、゚トソン「ちょっと勿体無い気もしますが…白ワインを鍋に入れてシナモンとクローブ、それからリンゴを沸騰するまで火にかけます」
(゚、゚トソン「赤ワインも、ラム酒とシナモンとクローブを別の鍋で火をかけます」
(゚、゚トソン「ダブルホットワインの完成です、ひぇ、贅沢…」
292
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:54:59 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「シュトーレン、シュートレン?シュートーレーンー??何が正解でしたっけ…」
(゚、゚トソン「それと一緒に、いただきます」
シュトーレンはパンだったはずだ。パンのようなものをお上品にもナイフとフォークで小さくし、ぱくり。
砂糖の甘さがじんわり舌に広がり、ナッツの香ばしさ、イチジクの酸っぱさが続いてやってきた。
押し流すように、まずは白のホットワインをぐびり。
(゚、゚トソン「あっ……たかぁい…」
喉の奥に温かな幸せが流れていく。
(゚、゚トソン「リンゴがいい仕事してます…」
続いてシュトーレンをもう一口。
そして赤のホットワインをぐびり。
(゚、゚トソン「美味しいなぁ…美味しいですね…お値段関係なく美味しいです…」
今日もまた、良いペアリングが出来たなと嬉しく思い、カロリー爆弾をパクパク食べた。
(゚、゚トソン「……」
酒を飲みながら、今日の事を思い出す。
昼間の、雑魚との会話を。
293
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:55:31 ID:GoNfOUa20
+++++
声をかけてきたのが雑魚だとわかった瞬間、顔をしかめた。
(゚、゚トソン「…それで何です?貴方みたいな親のすねかじり虫の極楽ニートと違って私は暇じゃないんですよ」
(;^ν^)「ニートじゃねぇ、働いてるわ!」
よく見ると雑魚はエプロンをしており、そこには『韮束商店』と書いてあった。
なんという悲劇。喜劇?
いつもお世話になっている酒屋で、この雑魚は働いていたのである。
(゚、゚トソン「ここの…従業員…だったんですか…ちっ…なまじお世話になり過ぎてて悪態つき辛いな…」
( ^ν^)「親父が店主だから手伝ってんだよ…給料は雀の涙ほどしかねーけど」
(゚、゚トソン「それでその雀の涙ほどのお給金でキャバクラ通いですか、いい趣味ですね」
(;^ν^)「あっ、そうだそれだ!何でアンタ俺があの店通ってることとかシンデレラのこと知ってんだよ!」
(゚、゚トソン「知りたかったら金か酒か酒かアルコール出しな」
(;^ν^)「酒カツアゲされたの初めてだ…」
294
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:56:06 ID:GoNfOUa20
韮束商店の良いところは、品揃えが豊富なのはもちろんのこと、角打ちがあることだ。
何度ここで寄り道をしたことか………いえ仕事中は飲んでないです本当に。本当に。本当。
(゚、゚トソン「これは水…水ですね…」
(;^ν^)「本当に水みたいにスイスイ飲んでて怖え…」
(゚、゚トソン「仕方ないので簡易的に作ったおつまみ分けてあげます」
酒貰ったし。あっいや水。水を頂いただけ。
( ^ν^)「あっうめぇ」
(゚、゚トソン「イカのお刺身と納豆混ぜただけですけどね」
今夜の私のおつまみが今ここで犠牲になった。
(;*^ν^)(そういえばかーちゃん以外の女の手料理(?)初めて食った…)
295
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:56:41 ID:GoNfOUa20
美味しい。美味しいおさ……お水は心を潤す。
ついつい気分が良くなる。
(゚、゚トソン「それで、何でしたっけ?」
話を振ると気を抜いていた雑魚がつまみを喉に詰まらせた。
咳払いをし、落ち着いてから話す。一々格好がつかない。
( ^ν^)「ズバリ、シンデレラとの関係だ!何で俺が店に行ってシンデレラ指名してんの知ってんだよ!」
(゚、゚トソン「貴方あの店でちょっと有名でしたよ、明らかに童貞拗らせてて一周回って応援したくなるような客って」
(;^ν^)「!??」
(゚、゚トソン「あと私とシンデレラちゃんの関係はただの知り合いです」
( ^ν^)「!!?」
(゚、゚トソン「好物も嫌いな食べ物も癖も寝るとき何を着てるのかも知ってる程度の、ただの知り合いです」
(;^ν^)「結構な仲じゃねーか!えっ寝るとき何着てんの!?」
(゚、゚トソン「そちらの質問は別料金です…というか店で聞けよそういうのは」
(;^ν^)「直接聞いたらセクハラだろ!!嫌われるだろ!?」
296
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:57:19 ID:GoNfOUa20
ひとしきり騒ぐ雑魚。他に客がいなくて良かった。
けれど何か思い至ったように、小さな溜息をついた。
( ^ν^)「……ああ、でもあれだ」
(゚、゚トソン「?」
( ^ν^)「アンタ、案外悪いやつじゃなさそうだし…シンデレラの大切な関係なんだな」
(゚、゚トソン
( ^ν^)「悪かったな、最初んとき…」
最初。そういえば何か雑魚い登場をして、雑魚く去っていってたな。
( ^ν^)「前に盛岡さんの屋敷の前歩いてたら、変な裏声聞こえてきてよ。変なやつがいるんじゃないかって心配になったんだ」
(゚、゚トソン「エーナニソレウラゴエトカヨクワカンナイ、トソンコワーイ」
( ^ν^)「本当になんだったんだろうな、あれ…」
恐ろしい。通りに聞こえるほど大きな声を出していたつもりはなかった。
確かにキッチンの扉は閉めているのに、主人から「騒いでる」と言われるとは思っていたけれど。
297
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:58:00 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「と言いますか、貴方こそあのお屋敷になんの関係があるんです?」
( ^ν^)「俺、前あそこのキッチンで働いてたんだよ」
(゚、゚トソン「えっ」
( ^ν^)「盛岡さん、俺みたいなやつを雇ってくれた良い人だから辞めた後でも気になってたんだ」
(゚、゚トソン「こいつが先輩かよマジか色々嫌だわー」
( ^ν^)「俺今結構良さげなこと言ってるんだけど…」
(゚、゚トソン「何か不祥事でも起こしてクビになったんですか?」
(;^ν^)「違うわ!……いや、違うと思う…」
( ^ν^)「俺も入りたてだったから詳しくはわからないんだよ」
(゚、゚トソン「…そうですか…」
++++
298
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:58:25 ID:GoNfOUa20
ある程度お互いの情報を交換して、店を後にした。
雑魚がこの屋敷で働いていたのは驚いたが、奴の人柄が何となくわかった気がするので、話せて良かったのかもしれない。
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「…悪い奴ではない、それはまぁ…わかってはいたんですよ…」
残りのシュトーレンを見ながら、ある人の事を思い出した。
明日の朝一番に、やることが決まった。
(゚、゚トソン「…そうと決まれば、いっぱい飲んで早く寝ますかね」
299
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:58:52 ID:GoNfOUa20
韮速酒店を覗く。
いた。レジ台でぼけっとしている。
(゚、゚トソン「やいこらそこな不審者よ」
(#^ν^)「不審者じゃねーよ」
手招きをして店の外へ呼び出した。不思議そうな顔をしていたが、推して量れ。察しろ。酒を愛し酒に愛された人間は酒屋に2日続けて長居できないのだ。
(゚、゚トソン「これを」
シックな袋に包んで入れたシュトーレンを渡す。
不審者は不審者らしく私と袋を4度見くらいした。
300
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:59:19 ID:GoNfOUa20
(;^ν^)「なな、なんだ!?プレゼントか!??お、お前俺のこと好きなのかよ!」
(゚、゚トソン「ちげーわ馬鹿、馬鹿。ばーか。シンデレラちゃんにあげなさいそれ、貴方からのクリスマスプレゼントってことにして」
( ^ν^)「は?シンデレラに?なにこれ?」
(゚、゚トソン「シュトーレンです。あの子、ドライフルーツとかシナモン使ったお菓子好きだったから」
( ^ν^)
(((( ^ν^)))「つまりこれを渡せば」
(゚、゚トソン「好感度が(ほんのちょこっと)上がる(かもしれない)(どうだろう)」
( ^ν^)「姐御と呼ばせてください」
(゚、゚トソン「断る」
( ^ν^)「じゃあリーダー」
(゚、゚トソン「何のだ」
301
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 17:59:45 ID:GoNfOUa20
喜色満面だった雑魚の顔が、瞬時に暗くなってこちらを覗き込んできた。
( ^ν^)「…アンタよ、まさかシンデレラのかーちゃんってことは」
(゚、゚トソン「あ?このピッチピチトソンちゃんから?シンデレラちゃんの歳の子が?産まれるか???あぁ?せめてねーちゃんだろ?違うけど」
( ^ν^)「良かった違ったか良かった」
とてつもなく安堵した表情に変わる。どういう意味だ。
302
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 18:00:27 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「血の繋がりはありませんよ…ただ、本当の妹みたいに可愛がってはいました」
(゚、゚トソン「あの子は本当に優しくて良い子でしたから」
本当に、心の底から。
彼女を思い出すと、胸が温かくなる。
( ^ν^)「……なぁ」
雑魚が深妙な声を出す。何だ、まだ何か素っ頓狂な事を言うのだろうか。
( ^ν^)「アンタに聞きたかったんだが」
(゚、゚トソン「シンデレラちゃんのスリーサイズですか?」
(;*^ν^)「教えてくれるんなら聞きたい!いや違う!」
思わずじっとりとした視線を向けてしまう。
(゚、゚トソン「…教えませんよ…」
(;*^ν^)「だから違うっての!馬鹿!」
303
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 18:00:57 ID:GoNfOUa20
( ^ν^)「あの人…デミタス様は元気か」
何だ、主人の事か。主人は元気だ。元気におやつを食べ、元気に『仕事』をしている。
(゚、゚トソン「元気ですよ、おやつ食べて毎日元気です」
( ^ν^)「……それなら良かった」
( ^ν^)「あの人が亡くなってからのデミタス様を見てなかったから」
(゚、゚トソン「…あの人?」
( ^ν^)「デミタス様の奥様だよ」
(゚、゚トソン
キッチンで見つけたノートの事を思い出す。
あのノートは『主人』について書かれていた。
あのノートの『主人』というのは、私が呼ぶ『主人』と意味が違った。
304
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 18:01:36 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「…あのノートは、奥様が書かれた…」
( ^ν^)「おい、大丈夫か?なんか顔色が…」
(゚、゚トソン「いいから貴様はシンデレラちゃんに早く告白してギッタギタにされて下さい」
(;^ν^)「応援してくれてんじゃないのかよ!」
(゚、゚トソン「白馬にでも乗って薔薇の花束持って、さっさと迎えに行ってあげて下さい」
(゚、゚トソン「貴様にならシンデレラちゃんを任せられなくもなくもなくもなくもなくもなくもない」
(;^ν^)「どっち!?」
(゚、゚トソン「じゃ、急ぐんで!」
(;^ν^)「あっ」
( ^ν^)「あ、ああ、あり、ありがとうな!!」
雑魚の大声が耳に入る。別にシンデレラちゃんの相手として認めた訳じゃない。
ただ出来損ないの弟分に、少しのクリスマスプレゼントをくれてやっただけ。それだけ。
そして今の私は、そんな事より確かめたいことがあったのだ。
305
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 18:02:21 ID:GoNfOUa20
バタバタと音を立ててキッチンへ向かう。
戸棚の奥に戻しておいたあのノートを探す。
(゚、゚トソン「あった」
再びノートを手にする。
(゚、゚トソン「ごめんなさい、ちょっとだけ読ませて下さい」
306
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 18:03:16 ID:GoNfOUa20
(゚、゚トソン「…やっぱりこれは」
(゚、゚トソン「デミタス様の奥様の」
ぐらり
足元がズルっと滑る。
周りが変なスローモーションで流れていく。
やはり人のものは勝手に見るもんじゃない。
こうしてバチが当たるからだ。
──そういえば小さい頃「脚立に乗るときは気をつけなさい」と親から言われたことがあったな
遅すぎる注意を思い出しながら
私は床に叩きつけられた。
307
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 18:05:18 ID:GoNfOUa20
本日の投下は以上になります。
待ってると書き込んでくださった方、ありがとうございます。
3ヶ月も経っていてびっくりしました。
次回の重要なネタバレ「雑魚の出番なし」
ありがとうございました。
308
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 18:45:03 ID:8/R700YE0
次回!トソン死す!アルコールスタンバイ!
おつ!
309
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 20:08:04 ID:gJuYlIfY0
まってたよー!!!
乙!!!!
310
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 20:19:00 ID:FHKn3lLE0
乙!ホットワイン美味しそう
311
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 20:19:04 ID:dGscMwxY0
乙!
続きめっちゃ気になる
312
:
名無しさん
:2018/10/11(木) 22:51:04 ID:SzdCARkk0
乙
シュトーレンの切り方を知ったときその合理性に驚いたの思い出した
313
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 07:50:50 ID:9/8XYwv.0
続き来てた!
今まで少しずつ散りばめられてた展開が一気に進んだ感じするな
乙
314
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 09:59:48 ID:mh0brJwQ0
うおおおお待ってた!
乙です!
315
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:11:58 ID:PL4f.Y2U0
更新キター!
乙!
316
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 20:11:18 ID:VIMZHm.o0
乙!
前からちょくちょく不穏な感じだったけど核心に近づいてきたかな?
317
:
名無しさん
:2018/10/14(日) 20:33:45 ID:.3.61/Ls0
おつ!
続き気になる
318
:
名無しさん
:2018/10/14(日) 21:01:40 ID:dMC0Z1q.0
乙です!ニュッ君と少し打ち解けられてよかった!
次回もすごく気になる!
319
:
名無しさん
:2018/10/26(金) 06:12:18 ID:g0su1mhU0
乙!やっと追いついた
いい飯テロ作品で呑みたくなる
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2540.jpg
320
:
名無しさん
:2018/10/26(金) 22:34:05 ID:5wCzyPnE0
支援絵おつ
二人ともかわいいw
321
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 21:27:34 ID:.rlTyEkw0
つづきが読みたいでふ・・
322
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:38:08 ID:OSDLjeuQ0
( 私の家はいつも、良い匂いがした。 )
.
323
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:38:39 ID:OSDLjeuQ0
10.
324
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:39:10 ID:OSDLjeuQ0
母親は料理上手な人で、毎日手作りのお菓子を作ってくれた。
私は母親が作るものが大好きだった。
きっと年の離れた妹と弟もそうだったはずだ。
(゚ー゚*トソン「お母さん、今日のおやつ何?」
|゚ノ ^∀^)「今日はみたらし団子作るわよ〜」
(・∀ ・)「ハロウィンなのに?西洋文化だよ、和菓子作るの?」
|゚ノ ^∀^)「細かいこと気にしなーい」
(゚ー゚*トソン「私も作りたい!お母さん、お腹に赤ちゃんいるんだから無理しちゃダメだよ!」
|゚ノ ^∀^)「作り方教えてあげるわね、棚の上から白玉粉取ってくれる?」
(゚ー゚*トソン「はーい!」
(・∀ ・)「トソンはお母さんが大好きだなぁ」
(゚ー゚*トソン「うん!」
|゚ノ ^∀^)「あ、トソン!脚立乗るときは気をつけなさい!」
325
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:39:54 ID:OSDLjeuQ0
ごく普通の、普通だけど幸せな家族。
それが我が家だった。
けれどそれは突然壊れてしまった。
326
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:40:39 ID:OSDLjeuQ0
(゚ー゚トソン「…」
私が14の時だった。
高校受験のテスト中呼び出された。
母親は死んだ。妹と弟も。事故だった。
滅多に乗らない車を、何故母親は運転していたのか。
いつも使っている自転車がなかったからだ。
私が受験に遅れそうだったため、了承も得ず勝手に借りた。
家から少し離れた保育園に妹と弟を送りに行くには、車を出すしかなかったのだろう。
飛び出して来た猫を避けようとして、電信柱に突っ込んでしまった。
327
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:41:10 ID:OSDLjeuQ0
(゚、゚トソン
私の受験は当たり前のように落ちた。
例え受かっていても通えなかったと思う。
妻と子を失った父親が、やけになって作った借金が多大だったから。
(・∀ ・)「お前は母親が好きだったもんな」
(゚、゚トソン「……」
(・∀ ・)「だから、良いよな」
父親はある日ことんと消えた。
借金だけを置いて。
それから私は働いた。
色々な所を転々と、色々な仕事を転々と。
328
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:43:14 ID:OSDLjeuQ0
(゚、゚トソン「大丈夫ですか?」
ζ(-、- ;ζ「ん、だ、大丈夫…です、ごめんなさい…」
(゚、゚トソン「同室のよしみですよ。それに、最初のうちはキツイの、私も知ってますから」
ζ(゚ー゚*ζ「…えへへ。トゥインクルちゃん、優しいね」
働き出して数年が経ち、いくつ目かの働き先。
キャバクラだった。
彼女は同じ店で働いてる、可愛らしい女の子だ。私とそんなに年が変わらない筈。
そして私と同じく、店の寮に住んでいる。ルームメイトというものだ。
彼女もそれなりの理由があってここにいるのだろう。
329
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:43:45 ID:OSDLjeuQ0
(゚、゚トソン「これ、食べます?」
ζ(゚ー゚*ζ「わぁ、美味しそう!トゥインクルちゃんが作ったの?」
(゚、゚トソン「はい…シンプルなクッキーですけど…」
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう!いただきます!」
(゚、゚トソン「…」
ζ(^ヮ^*ζ「美味しい!」
(゚、゚トソン「…」
330
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:44:15 ID:OSDLjeuQ0
ζ(゚ー゚*ζ「私、お酒は好きなんだぁ」
ζ(゚ー゚*ζ「お酒は良いときにも悪いときにも飲めるでしょ。喜びを受け止めてくれて、悪い事を受け流してくれる。だから好きなの」
ζ(゚ー゚*ζ「でも得意じゃないからあんまり飲めなくて…」
(゚、゚トソン「そういうことも、ありますよね」
ζ(゚ー゚*ζ「トソンちゃんはお酒好き?」
(゚、゚トソン「私は酒、嫌いですよ。
…ただ前に、家族に会いたくなってたくさんたくさん飲んだことがあって、いくらでも飲めるようになりました」
ζ(゚ー゚*ζ「?そうなんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、トゥインクルちゃんがお酒大好きになったら最強だね!」
(゚、゚トソン「…最強…」
ζ(゚ー゚*ζ「私と一緒に特訓しようよ!」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあまずは泡盛ね!」
(゚、゚トソン「初心者向けからいきましょうよ…」
331
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:44:47 ID:OSDLjeuQ0
彼女は明るくて優しい子だった。
彼女の源氏名はシンデレラといった。
どういう意味でつけたのか聞いたら
ζ(゚ー゚*ζ「私もいつかシンデレラみたいに、素敵な王子様に見つけてもらいたいから!あと本名が名前の中に入ってるからね!」
とのことだった。ちなみに私の源氏名は店に適当につけられた。
332
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:45:28 ID:OSDLjeuQ0
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、私もマドレーヌ作ったの!一緒に食べよ!」
(゚、゚トソン「シンデレラちゃん、それ何入れました?」
ζ(゚ー゚*ζ「こないだお客さんから貰ったイカの塩辛!」
(゚、゚トソン「……シンデレラちゃん、今度一緒にお料理しましょう」
ζ(゚ー゚*ζ「本当?楽しそう!」
ζ(゚ー゚*ζ「私、トゥインクルちゃん大好き!おねーちゃんみたい」
(゚、゚トソン「…」
私も彼女の素直さやあたたかさが好きだった。烏滸がましいと分かりながらも、妹のように思っていた。
けれど彼女のように『好き』と口にするのは怖かった。
私のせいで家族がなくなった事を知ったら
嫌われるんじゃないか、離れてしまうのではないか。
怖くて、今一歩踏み出せなかった。
333
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:46:30 ID:OSDLjeuQ0
それにしても
私は多分、運があまりなかったらしい。
(・∀ ・)「は、はは」
(゚、゚トソン
(・∀ ・)「はははははは!本当に働いてやがる、はは!看板の写真見てまさかとは思ったけどな!」
久しぶりに会った父親の顔は、酒と興奮で赤くなっていた。どこか面影はあるものの、人相がだいぶ変わったように思える。
こんな顔だっただろうか。
驚きからか、声は出ず足も動かない。
それどころか手が小さく震えている。
目の前にいるのは実の父親なのに、私を指差して高笑いをする男が怖くて仕方なかった。
334
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:47:11 ID:OSDLjeuQ0
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん?このお客様、知り合い…?」
立ち竦んでいた私を不審に思ったシンデレラが、私と男の間に割って入ってきた。
彼女の優しい声に一緒安堵し、そしてすぐ不安に包まれた。
彼女に、『あの事』をバラされる──
帰って、と言おうとした。口の中がカラカラで声が出ない。
そんな私を見てか、男は高笑いする。
(・∀ ・)「知り合いも何も、父親だよ!父親!なぁオイ、借金全部返したか?今俺金に困ってんだよ、貸してくれよ」
(゚、゚;トソン「……帰ってください」
裏返っていたがやっと声が出た。
手も足も震えていた。目の前の男はニヤニヤしている。
(・∀ ・)「は?何だよ。良いんだぜ、この店と客にお前がした事バラしたって」
全身が冷たくなる感覚
目の前が真っ白になりそうだった。
待って、言わないで、やめて、この子にそんなこと
頭の中で叫ぶ。
335
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:47:46 ID:OSDLjeuQ0
シンデレラを見る余裕もなかった。男を、父親を張り倒す力もなかった。
ただ掠れた声で縋った。
(゚、゚;トソン「やめ」
(・∀ ・)「なぁアンタ!アンタ知ってるか?こいつのせいで母親とキョーダイはしんだんだ!こいつがころしたんだよ!」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
(゚、゚;トソン「あ、あ」
終わった。
知られた。
もうだめだ、もう無理だ。
指先から力が抜けていくのがわかった。
336
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:48:22 ID:OSDLjeuQ0
シンデレラの方を見ることができない。
いつも優しく笑いかけてくれた彼女に、軽蔑されるのが怖かった。
罵られる。嫌われる。
ζ(゚、゚*ζ「…あの」
(゚、゚;トソン「っ…」
ζ(゚、゚*ζ「この人は私のおねーちゃんですけど」
(・∀ ・)「は?」
(゚、゚;トソン「…」
彼女の口から出たのは、私への罵倒ではなかった。
思いもよらない内容に、手の震えが、止まった。
ζ(゚ー゚*ζ「この人は、私の姉です」
ζ(゚ー゚*ζ「どなたかとお間違えじゃないですか?」
(・∀ ・)「んなわけないだろ!」
彼女は凛とした声で言い上げた。さも当たり前のことのように。
(゚、゚;トソン「……」
ζ(゚ー゚*ζ「黒服さ〜ん!お客様お帰りになるみたいでーす!」
(#・∀ ・)「ちょ、おい待てコラ!」
337
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:49:05 ID:OSDLjeuQ0
店内は騒然としていた。
店長に裏に下がってるように言われ、控え室に篭る。
部屋の隅に丸まってじっとしていた。
(゚、゚トソン「…」
ぼんやり、今起きたことを思い返す。
( 、; トソン
(;、;トソン
鬱陶しいくらい涙が出て止まらなかった。
怖かったのか、悲しいのか、悔しいのか、はたまた全てか。
自分でもわからなかった。
338
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:49:33 ID:OSDLjeuQ0
バタン!
ビクッ (;、;トソン
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん!」
激しい音と共に開いたドアからシンデレラが駆け寄ってきた。
(;、;トソン「…」
ζ(゚ー゚;ζ「なんで泣いてるの!?あのおじさん怖かった?大丈夫だよ、大丈夫。あ!それとも勝手にお姉ちゃんって呼んだの嫌だった!?」
(;、;トソン「なん…何であんなこと…」
ζ(゚ー゚;ζ「トゥインクルちゃん、いつもデレのこと守ってくれたから…だからね、いつか絶対トゥインクルちゃんを守るって決めてたの…」
(゚、゚トソン「わた…わたしは、ほんとに…」
339
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:50:03 ID:OSDLjeuQ0
優しく私の涙を拭う彼女と目が合う。
その目はいつもと同じく、優しくて温かかった。
話し出そうとして、けれど言葉にならない私の背中をそっと撫でてくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「…トソンちゃんて言うんだね、可愛い名前!」
ζ(゚ー゚*ζ「でもデレはトゥインクルって名前も好きだよ!」
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルって、輝くお星様なんだって!」
(゚、゚トソン「……」
父親が名前を呼んでいたことを思い出す。
本名を呼ばれるのは、本当に久しぶりだった。
夢から現実に引き戻されたような嫌な気持ちになったのだが、彼女が自分の名前を呼ぶのはあまり嫌悪はなかった。
340
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:50:36 ID:OSDLjeuQ0
ζ(゚ー゚*ζ「あ、デレはね!…私はね、デレっていうんだ!」
(゚、゚トソン「…」
ζ(゚ー゚*ζ「本名で呼ぶの、なんか照れちゃうね」
(゚、゚トソン「…そう、ですね」
やっと普通の言葉を返した私を見て、彼女は小さく笑って自分のロッカーに何かを取りに行った。
ζ(゚ー゚*ζ「これ、私の好きなファンタジー小説」
夜空のイラストが表紙の、少し小さな本だ。
ζ(゚ー゚*ζ「嫌なことがあったらね、お星様に願い事をするの」
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃんは、お星様に何をお願いする?」
(゚、゚トソン「お願い…」
(゚、゚トソン「わた、私は…」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
(゚、゚トソン「ゆ」
ζ(゚ー゚*ζ「ゆ?」
341
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:51:11 ID:OSDLjeuQ0
(;、;トソン「………ゆ、許されたい……」
(;、;トソン「許されないのはわかってる、だからずっとずっと、たくさんのものを諦めて、色んなものを捨てて、お金を作るために働いて、返してきた…」
(;、;トソン「で、でも…私は…。私は…」
(;、;トソン「ゆ、許して…ごめんなさい…ごめんなさい、勝手に自転車を借りて、ごめんなさい…おかあ、さん…妹も、弟も……」
ζ(゚ー゚*ζ「…」
ζ(゚ー゚*ζ「許すよ」
(;、;トソン「っ」
ζ(゚ー゚*ζ「……トゥインクルちゃんのお母さんだもん。
優しくて温かい人だと思うから、トゥインクルちゃんがたくさん頑張ってきたことも、いっぱい後悔してることも、きっとわかってるよ」
(;、;トソン「う…」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をティッシュで拭われる。
そして先程取り出した本を私に差し出した。
ζ(゚ー゚*ζ「これ、トゥインクルちゃんに貸すね。いつか返しにきて」
ζ(゚ー゚*ζ「私はね。私は、お星様に、トゥインクルちゃんが楽しく幸せになれますようにって、お願いするよ」
342
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:51:52 ID:OSDLjeuQ0
ζ(^ー^*ζ「楽しく、幸せに生きて!約束!」
343
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:52:31 ID:OSDLjeuQ0
私は店を辞めた。彼女も早い段階で察していたのだろう。
借金はすでに完済していた。私はもう、どこにでも行くことが出来た。
(゚、゚トソン「…楽しく幸せに生きる約束しちゃったからなぁ…」
(゚、゚トソン「楽しそうな働き口を見つけなきゃ」
楽しそうな働き口。自分で言った言葉に首をかしげる。
私にとって楽しい事って、果たして何だろう。
(゚、゚トソン「ん?なんだこのでっかい門…金持ち屋敷だ…貼り紙が…」
(゚、゚トソン「『住み込みの使用人募集。おやつを作れる人大歓迎』…」
(゚、゚トソン「…おやつ作り…」
ζ(^ヮ^*ζ『美味しい!』
(゚、゚トソン「……働いてみますか」
この屋敷で働き出したのはたまたま通った道でたまたま見つけたからだ。
楽しく働ければそれで構わない。
ただただ、そんなことを思ってあの日チャイムを押した。
344
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:53:04 ID:OSDLjeuQ0
八の字に下がった眉毛の主人に、毎日おやつを作る。
私は働いて得た美味しいお酒を楽しむ。
そう、楽しかった。平穏な日々が。
私は今 楽しい
でもわからない
奥様はどこに?
写真もないのはなぜ?
使用人がいないのは?
何故いくつもの『仕事』をしているのか
知らない事が、分からないことがたくさんありすぎる
私は今、幸せなのだろうか
あの頃は『好き』だと言うのが怖かった。
今は。
今は違う。
好きなものを好きだと言える。
知りたい。
知って、スッキリしたい。
こんなモヤモヤを抱えたままでは、楽しく働けない。
私は、約束をした。
楽しく幸せに生きる、と。
345
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:53:40 ID:OSDLjeuQ0
(-、-トソン
(゚、-トソン
(゚、゚トソン「……」
目を開くと、ものすごく眉が下がった主人の顔があった。
何だ何だ近い近い怖い怖い。
(´・_ゝ・`)「良かった…もう少しでお酒かけるところだった」
(゚、゚トソン「…それはそれで良かったかもしれません……あれ、私どうしたんでしたっけ」
(´・_ゝ・`)「脚立から落ちて、頭を打ったみたい。もうびっくりしたよ…すぐにお医者さんを呼んだらとりあえず大事無いって言われたけど…丸一日寝てたし」
(゚、゚トソン「ああ…じゃあ今の走馬灯なのか…」
(;´・_ゝ・`)「縁起でもないこと言わないでよ」
君を運ぶの大変だったんだよ、と言いながら主人が何かを取りに行った。
346
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:54:13 ID:OSDLjeuQ0
(´・_ゝ・`)「荷物がさ、届いてね。チャイムが鳴ってるのに何も反応がなかったからどうしたのかと探したら、ひっくり返った君がいて驚いたんだ」
(´・_ゝ・`)「でぃさんから食べ物とか届いたよ。手作りの甘酒入ってたから今温めるね。あ、アルコールは入ってないからね」
(゚、゚トソン「主人」
(´・_ゝ・`)「んー?」
(゚、゚トソン「クリスマスプレゼント、まだ間に合いますか」
(´・_ゝ・`)「え?ああ、うん…お酒はしばらく控えた方が良いと思うけど…」
(゚、゚トソン「確かに酒も魅力的ですけども、今回は違います」
347
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:54:56 ID:OSDLjeuQ0
(゚、゚トソン「私、この屋敷のことも主人のことも何も知りません」
(゚、゚トソン「ただ働くだけだから、知らなくて良いと思ってました。でも」
(゚、゚トソン「知りたいです、幸せに、楽しく働くために」
(゚、゚トソン「教えて下さい。何故この屋敷には私以外働いてる人間がいないのか。主人の奥様はどこにいるのか」
348
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:55:27 ID:OSDLjeuQ0
後ろを向いていたので、主人の表情は見えなかった。
どんな顔をしているのだろう。
沈黙。
私も主人も黙ったまま数分くらいが経った。
(´・_ゝ・`)「………」
主人は黙っていた。
黙って黙って、黙ったままで。
(´・_ゝ・`)「………」
パタン
部屋を、出て行った。
(゚、゚トソン「………」
(゚、゚トソン「……はぁ?」
そうして、主人は完全に自室から出てこなくなった。
(゚、゚トソン「…はぁぁぁ???」
349
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 16:57:03 ID:OSDLjeuQ0
本日の投下は以上になります
ペアリングしてないです
>>319
可愛らしい2人をありがとうございますー!!!
350
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 17:59:06 ID:FzbOUgeI0
乙!続き待ってたよー!
トソンに幸あれ
351
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 15:04:06 ID:necKVxbo0
乙
久しぶりの投下で急展開ぶっこんできたな
352
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 16:10:36 ID:ENNYUun60
乙!
353
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 19:08:31 ID:9Nd8Flc60
やっぱりこの作品好きだわ
354
:
名無しさん
:2018/12/18(火) 15:07:42 ID:7HMMgovY0
otudesu
355
:
名無しさん
:2018/12/20(木) 21:11:19 ID:VdyFhTzY0
おつ!思わず涙ぐんでしまったよ…
デレ天使…
デミタスもトソンも幸せになって
356
:
名無しさん
:2018/12/22(土) 20:14:43 ID:6XX4amWY0
来てたのか、乙!
デレ良い子だなあ、トソンには幸せになってほしい
357
:
名無しさん
:2018/12/24(月) 11:25:24 ID:MciMOk1I0
乙!話が進んできたなー
358
:
名無しさん
:2018/12/24(月) 14:20:37 ID:rOnlgUJk0
やはり天使(デレ)が出てきたか
乙!
359
:
名無しさん
:2019/01/01(火) 22:46:41 ID:SSN3SK2c0
おつです
読んでてすごく楽しいです
360
:
名無しさん
:2019/01/12(土) 16:51:52 ID:RpNdODkQ0
まってる
361
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:45:35 ID:zgb/ah/k0
番外編投下します
362
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:46:08 ID:zgb/ah/k0
あの頃の小さな幸せを、ふとした瞬間に思い出す。
.
363
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:46:38 ID:zgb/ah/k0
番外編: チョコレートの数だけ強くなれる
.
364
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:47:23 ID:zgb/ah/k0
(゚、゚トソン トソン。トゥインクル。ツマミになるチョコがけ柿の種とかが好き。
ζ(゚ー゚*ζ シンデレラ。カカオ99%のチョコを食べて絶望したことがある。
.
365
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:48:10 ID:zgb/ah/k0
ガヤガヤと賑やかなスーパーの一角。
季節より少しだけ早めに品物が並んでいるのを見て、ため息をつきそうになる。
(゚、゚トソン「お正月が終わったと思えば豆とチョコのターン」
(゚、゚トソン「小売業界も大変ですね」
(゚、゚トソン「イベント事はなぁ…稼ぎ時な判明、色々面倒だったんですよねぇ…」
前職のことを思い出す。
日本人はイベント事が好きである。
そのイベントに便乗して色々な企画を立てて、金を稼ぎ出す。
企画に合わせたコスチュームを纏い、ゲームをして高い高い酒を頼ませる。
誕生日を始めハロウィン、クリスマス、もちろん2月の大イベントであるバレンタインも例外ではなかった。
「チョコあげるから会いに来てね」と女の子たちは店に誘い出す。
その『釣り餌』であるチョコレートは自分達で用意をしていた。
甘いもののイベントなのに、苦いものを食べたような気持ちになる。
あまり良い思い出ではない。
(゚、゚トソン「ああでも一度だけ……楽しかった時がありましたっけ…」
366
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:49:06 ID:zgb/ah/k0
〜〜〜〜〜〜
ζ(゚ー゚*ζ「トゥーイーンー」
ζ(゚ー゚*ζ「クルちゃん!!」
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん!!チョコ作ろう!」
彼女はいつでも元気だ。
たとえ連勤が続いた朝でも。
私はあまり元気ではなかったが、彼女の笑顔に少しだけ力を貰っていた。
(゚、゚トソン「…お猪口ですか?じゃあ陶芸教室探しましょうか」
ζ(゚ー゚*ζ「違うよー!バレンタイン!のチョコレートのお菓子!」
(゚、゚トソン「バレン……タイン…」
(゚、゚トソン「忌まわしきカタカナイベント第3位ですね…ああもうそんな時期ですか…お客に用意するの大変だから嫌いなんですよねぇ…」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなの?私はねぇ、イベント事ってワクワクするから大好き!」
(゚、゚トソン「シンデレラちゃんは良い子ですね…」
ζ(^ー^*ζ「本当?えへへ!」
この笑顔を客どもに見せたら指名ナンバーワンに登りつめるだろうな、と思う。
可愛らしい。何なら私が貢ぎそうになる。危ない。
367
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:49:51 ID:zgb/ah/k0
ζ(゚ー゚*ζ「あのね、たくさんは難しいけど、常連さんとかいっぱい指名してくれる人には手作りのをあげたいなぁって思って」
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、いつも手作りのお菓子くれるでしょう?あれすっごく嬉しくて、胸がポカポカになるんだぁ」
ζ(゚ー゚*ζ「だから私も、お客様にポカポカになってもらいたくて…」
(゚、゚トソン「うっ…」
ζ(゚、゚*ζ「ど、どうしたのトゥインクルちゃん!大丈夫?」
(゚、゚トソン「眩しすぎて目が…大丈夫です大丈夫です…」
(゚、゚トソン「シンデレラちゃんに頼まれて断れる人間はいません、是非一緒に作りましょう」
ζ(゚ー゚*ζ「本当?ありがとう!」
368
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:50:30 ID:zgb/ah/k0
(゚、゚トソン「じゃあ簡単なやつ作りましょうね。シンデレラちゃんが怪我とかしないようなやつを…」
ζ(゚ー゚*ζ「頑張るよー!」
(゚、゚トソン「まずはこれ、板チョコを用意します」
ζ(゚ー゚*ζ「しました!」
(゚、゚トソン「湯煎します」
ζ(゚、゚*ζ「ゆせん…」
(゚、゚トソン「チョコをお湯の熱で溶かすことです」
ζ(゚ー゚*ζ「お風呂に入れてあげるんだね!」
(゚、゚トソン「あ、お湯に直接入れちゃダメですダメですそれダメです、五右衛門風呂的な感じで…」
369
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:51:11 ID:zgb/ah/k0
ζ(゚ー゚*ζ「良い匂い〜」
(゚、゚トソン「この溶けたチョコレートの中にクリームチーズを入れます」
ζ(゚ー゚*ζ「チーズだぁ!」
(゚、゚トソン「一緒に溶かして混ぜます」
ζ(゚ー゚*ζ「混ぜるの楽しいね!」
(゚、゚トソン「それは良かった。その中に砕いたナッツ類と洋酒に漬け込んだドライフルーツを入れます」
ζ(゚ー゚*ζ「わぁ!ドライフルーツ大好き!」
(゚、゚トソン「…」
☆゚・*:.。.:ζ(゚ー゚*ζ☆゚・*:.。
@ヾ(゚、゚トソン「……」
ζ(^〜^*ζ"もぐもぐ
ζ(^ヮ^*ζ「美味しい!」
(゚、゚トソン「それは良かった」
370
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:51:48 ID:zgb/ah/k0
(゚、゚トソン「ラップで巻いて筒状にして、冷蔵庫でしばらく固めます」
ζ(゚ー゚*ζ「形が恵方巻きみたいだね!」
(゚、゚トソン「ついでに節分気分にもなれますね」
@ヾζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、あーん!」
(゚〜゚トソン「んむ」
(゚、゚トソン「…美味しいです」
ζ(゚ー゚*ζ「ね!年の数だけ食べると良いんだよね!」
(゚、゚トソン「豆をですね」
ζ(゚ー゚*ζ「何でお豆さん撒いたりするんだろね?」
(゚、゚トソン「何でですかね?」
371
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:52:33 ID:zgb/ah/k0
(゚、゚トソン「固まりました。これにココアパウダーをまぶして切って、チョコレートサラミの完成です」
ζ(゚ー゚*ζ「わぁい!作れたよトゥインクルちゃん!」
(゚、゚トソン「お菓子名を伝えたら、サラミにチョコレート掛けようとしたのには驚きましたが無事出来て良かったです」
"ヽζ(゚ー゚*ζノ"「よいせ、ほいせ」
(゚、゚トソン「?」
◾️⊂ζ(゚ー゚⊂ζ「はい!簡単なラッピングでごめんね」
(゚、゚トソン「え、っと、あの…これ…は、お客にあげるものでは?」
ζ(゚ー゚*ζ「残りはね!でも、一番にトゥインクルちゃんに渡したかったの」
ζ(^ー^*ζ「友チョコというやつです!」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「ありがとう…ございます…」
ζ(゚ー゚*ζ「こちらこそ、いつも仲良くしてくれてありがとうだよ!」
372
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:53:41 ID:zgb/ah/k0
(゚、゚トソン「お返しを…何が欲しいですか?現金?ブランド物?何でも言ってください」
ζ(゚ー゚*ζ「良いの?じゃあねじゃあね、ホットチョコレートが飲みたいな!」
(゚、゚トソン「そんなもので良いんですか…?」
ζ(゚ー゚*ζ「私、トゥインクルちゃんが作ってくれるあれ大好き!」
(゚、゚トソン「すぐに作りますね」
ζ(゚ー゚*ζ「わーい!チョコレートパーティだね!用意するよ!」
(゚、゚トソン「ありがとうございます」
(゚、゚トソン「小鍋に牛乳を入れて、紅茶のティーパックを煮ます」
(゚、゚トソン「チョコをみじん切りしたものを入れて溶かして」
(゚、゚トソン「コップに移して、ほんの少しブランデーを入れて」
(゚、゚トソン「出来ました」
ζ(゚ー゚*ζ「良い匂いだね〜!」
373
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:54:34 ID:zgb/ah/k0
ζ(゚ー゚*ζ「いただきます!」
(゚、゚トソン「いただきます…」
ζ(゚ー゚*ζ「?食べないの?」
(゚、゚トソン「すぐに無くなってしまうのがなんか…勿体ない気がして」
ζ(゚ー゚*ζ「そしたらね、また一緒に作ろ!それでまたおやつパーティしよ!」
ζ(^ー^*ζ「ね!」
(゚、゚トソン「…」
(゚ー゚トソン「…はい」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら食べて食べて」
(゚、゚トソン「むぐぐ…ん…」
(゚、゚トソン「美味しいです」
ζ(゚ー゚*ζ「ホットチョコレートも美味しいよ〜」
(゚、゚トソン「チョコチョコしてますね」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、本当だねチョコチョコしてる」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、幸せ!」
(゚、゚トソン「あっシンデレラちゃん、全部食べるとお客の分なくなりますよ」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ、そっかぁ」
374
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:56:37 ID:zgb/ah/k0
〜〜〜〜〜〜〜〜
ココアパウダーのほろ苦さと、クリームチーズと混ざったチョコレートの爽やかな甘さを思い出す。
あの時のあの味は、きっとずっと忘れないだろう。
(゚、゚トソン「……懐かしい…」
(゚、゚トソン「今日の主人のおやつ、チョコレートだらけにしましょうかね」
板チョコを手にして、現職の雇用主のことを考える。
下がり眉の主人は、甘いものなら何でも喜ぶ。
チョコレートだらけのおやつタイムもきっと喜びそうだな、と思う。
(゚、゚トソン「そして私はお高めのシャンパンと一緒にペアリングを楽しみましょうかね」
主人の金で買った秘蔵のものがあるのだ。俄然楽しみになってきた。
少しだけ余ったら、あの雑魚の弟分のような奴にくれてやっても良い。
イベント事は嫌いだが、ほんの少し楽しくなってきたのは久しぶりだった。
ついでに節分ではなぜ豆を撒くのか聞いてみようかと考えながら、おやつの材料を買い物カゴに入れた。
特別編:終
375
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 10:59:00 ID:zgb/ah/k0
以上、特別編でした
ちなみに雑魚はインフルにかかって来店していないのでシンデレラの手作りチョコはもらってません
皆様もハッピーバレンタイン
ありがとうございました
376
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 12:26:27 ID:LxFfe0e20
乙です
雑魚……。
377
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 12:50:11 ID:qe3v8GRM0
シンデレラ可愛い
378
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 17:02:47 ID:6OcaCpGc0
乙ー
379
:
名無しさん
:2019/02/14(木) 22:44:37 ID:6bt6M.zc0
乙です!
今日バレンタインだから来てたら嬉しいなと思ったら本当に来てて感動です!
シンデレラが眩しい…
雑魚…本当に雑魚…
380
:
名無しさん
:2019/02/15(金) 08:26:46 ID:HYtOvJ.U0
雑魚に幸あれ
381
:
名無しさん
:2019/02/17(日) 21:41:01 ID:VBZECl2Y0
投下来てたのか!乙!
雑魚はやはり雑魚…
382
:
名無しさん
:2019/03/12(火) 19:31:25 ID:hMsmf6U60
次は四月かな?
乙
383
:
名無しさん
:2019/03/21(木) 03:21:48 ID:nGslScPk0
乙ュッ
384
:
名無しさん
:2019/07/04(木) 00:45:15 ID:UKch99wE0
まだかな
385
:
名無しさん
:2019/07/04(木) 02:45:29 ID:TrXRz87w0
作者様、お疲れ様です。
続きを楽しみに待っています!
386
:
名無しさん
:2019/08/07(水) 19:27:41 ID:2Kp9M8WI0
待ってる
387
:
名無しさん
:2019/09/27(金) 12:56:56 ID:oPPekz4Q0
続き待ってます!
388
:
名無しさん
:2019/11/29(金) 00:42:13 ID:vZU/m9Z.0
待ってるよ〜
389
:
名無しさん
:2020/08/06(木) 06:54:03 ID:uXY0qjnQ0
デミタスの長い自粛……
続き待ってます!
390
:
名無しさん
:2020/09/26(土) 02:36:08 ID:0X68ED960
甘いものお供えしたらデミも出てくるかな
続き待ってます!
391
:
名無しさん
:2020/09/26(土) 04:41:16 ID:VfqeLqo20
飯描写が本当にウマそう
392
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:09:37 ID:T0GOC9/A0
11 甘酒を点滴に繋ぎたい
.
393
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:10:19 ID:T0GOC9/A0
(´・_ゝ・`) デミタス。屋敷の主人。誰かの主人。絶賛引きこもり中。
(゚、゚トソン トソン。屋敷の使用人。絶賛頭抱え中。
394
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:11:05 ID:T0GOC9/A0
主人が部屋に篭ってから丸一日が経った。
その1日の間、私は何も出来ていない。
そもそも脚立から落ちて目が覚めて、疑問に思っていたことを聞いてみたら主人が引きこもってしまった、という怒涛すぎる展開に、頭も体も心もついていけなかった。
(゚、゚トソン「はー、本当意味わからん…」
キッチンで温めなおした甘酒を飲みながら溜息をつく。
私の貴重な幸せが一つ逃げてしまった。
幸せ
そう、幸せだ。
私は幸せになるために、この館のこと、主人のことを聞いた。
どうやらそれが地雷だったらしい。
.
395
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:11:38 ID:T0GOC9/A0
おやつ抜きと言ったら泣き喚くような、おやつの時間をずらしたら死にそうになっていたあの主人が、1日(私が倒れていたのも合わせると2日だ)甘いものを口にしていない。
まさかまさか中でしん…と思いドアを蹴り飛ばしたら『やめてください』と書かれた紙が隙間から出てきたので、大変なことにはなっていないようだった。
主人の部屋はアホみたいに広く、中にトイレもついているので引き籠るにはうってつけではあるが、食べ物は常備していない。
おやつだけではなく食事も口にしていないのだ。
このまま引き篭もり?立てこもり?を続けられるのは困る。
(゚、゚トソン「どうしたものですかね…雑魚でも連れてくる?いやいやあの雑魚に何かできるとは思えん…というかシンデレラちゃんに告れたかな…」
(゚、゚トソン「んん〜どうしたものか…というかこの甘酒本当に美味しいな…」
この甘酒は蛯沢様から頂いたものらしい。
私が倒れている間に宅配物が届いたそうだ。
今度ぜひ作り方を聞きたい。
396
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:12:12 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「……蛯沢様」
蛯沢様。
蛯沢でぃ様は昔、この屋敷で働いていた。そればかりか主人が小さい頃からお世話になっていたと言っていた。
一度だけ会ったことがある。
色んなものを作っているらしく、そういえばあの時いただいた果物は大変素晴らしかった…
思い出しただけでも涎が…
(゚、゚トソン「ん」
───果物と一緒に頂いたものがあった。
.
397
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:12:39 ID:T0GOC9/A0
ドタドタドタドタ
走って自室に向かった。
私以外の使用人がいなくて良かった。
ガサツな動作にお叱りが入っていただろう。
あまり物を持っていない私の、スカスカの箪笥の2段目を開く。
(゚、゚トソン「これだ…!」
でぃ様から頂いた、『何かありましたら』という一言と住所などが書かれた紙。
一度お礼に主人が撮った写真を送ったことがある。
恐らく、出鱈目な住所ではなくちゃんと住んでいる。
(゚、゚トソン「主人のことをよく知っている人物…」
今の私には大事な大事なアイテムとして、輝いて見えた。
.
398
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:13:15 ID:YGjApy2c0
(゚、゚トソン「お料理するの、久々な感じがしますね」
(゚、゚トソン「そんなことは全くもってないはずなのに2年くらい経った気がします」
(゚、゚トソン「これが少年漫画なら重要なパワーアップイベントでしたね」
(゚、゚トソン「さて、珈琲を淹れます」
(゚、゚トソン「私はそんなに得意なわけではないですが、匂いが好きです。ずっと嗅いでいられる」
(゚、゚トソン「この屋敷には喫茶店とかで見るようなサイフォン式の物もありますが、ぶっちゃけ壊しそうで怖いから触りたくありません」
(゚、゚トソン「普通にハンドドリップで淹れます」
(゚、゚トソン「この珈琲を、でぃ様から頂いた甘酒に入れて混ぜます」
(゚、゚トソン「『き、きみは初めて出逢うね…なんて名前だい?(裏声)』」
(゚、゚トソン「『ワタクシ、甘酒と言います…宜しくお願いしますわ…(高音)』」
(゚、゚トソン「さらにマシュマロをどーん!」
(゚、゚トソン「『あわわ!なんて柔らかくて可愛らしいんだ…(裏声)』
『ちょっと!珈琲さんは私のものよ!(高音)』『ふぇぇん、怖いよぉ〜(ダミ声)』」
(゚、゚トソン「…うーん、何か久々感が拭えないのでトソン料理劇場もうまく出来ませんね」
(゚、゚トソン「しかし品は完成です」
(゚、゚トソン「あともう一品…」
399
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:13:49 ID:T0GOC9/A0
フライパンからジュワジュワという音と、焼けるいい匂いがする。
ぼんやり周りを見る。白を基調とした清潔感のある、広くて大きなキッチン。物も揃っている。
小さなノート。
見つけてしまった、主人に関する大事なもの。
(゚、゚トソン「…貴女に話を聞けたら、1番良いんですけどね」
顔も名前も知らない、ノートの持ち主に想いを馳せた。
.
400
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:14:20 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「しゅーじーんーくーん!!あっそびーまーしょー!!!」
主人の部屋のドアを渾身の力でノックする。
こんな言葉で出てくるとは思っていないし、これで出てこられても嫌だ。
中で物音がしたのを確認して、また大声を出す。
(゚、゚トソン「わたくしトソン、ちょっとお暇をいただきますので!有給使いますので!お給料はください!」
(゚、゚トソン「あっ、ここに一応軽食置いておきますから。罠ではないです。お腹空いたら召し上がってくださいね、罠ではないですので」
(゚、゚トソン「では、いってきまーす!」
「………」
.
401
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:14:49 ID:T0GOC9/A0
返事はなかった。
けれどドアの前に気配を感じたので、良しとする。
何か口にしてくれれば良いなと思い、甘くないパンケーキとベーコン、そして先程淹れたコーヒー甘酒を小さなメモと一緒に置いてきた。
我ながら怪しさ満点だなと思いつつ、屋敷から飛び出す。
(゚、゚トソン「あれ食べる時は部屋から出てくるけど…それ捕まえても根本的な解決には、ならないですよね…」
紙に書かれていたでぃ様の住所は、恐らく遠い。
今から行って話をして、日帰りで戻れるか不安な所だ。
しかし今は行かなければ。
主人と話が出来るヒントを、もらう為に。
(゚、゚トソン「よし、出陣じゃ!」
402
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:15:20 ID:T0GOC9/A0
ガチャリ
(´・_ゝ・`)「……」
(;´・_ゝ・`)「…本当に出かけたのか…」
(´・_ゝ・`)「トソンくんのことだから罠かと思ったけど…」
(´・_ゝ・`)「…いい匂い、コーヒー…?カフェオレかな」
(´・_ゝ・`)「……メモだ」
(´・_ゝ・`)「……」
(´・_ゝ・`)「こっわ…」
『毒は入ってないです by f(@u<トソン 引きこもり菓子無し主人→(´%+_j+`)』
(´・_ゝ・`)「…ブッ、ククク………怖…これはすごいな…絵は苦手みたいなこと言ってたもんな…」
(´・_ゝ・`)「……」
(´・_ゝ・`)「はぁ…」
(´・_ゝ・`)「……トソンくん、帰ってくるかな…」
403
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:16:01 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「帰れるかなこれ…」
蛯沢様の家までの経路を調べた。
私はスマホはおろか携帯も携帯していない(必要がない)のでコンビニで簡単なロードマップを買ったのだ。
聞き慣れない土地だとは思ったが、やはり遠かった。
バスに乗って電車に乗って、乗り換え乗り換え、2.3時間。
小旅行並の距離。
こういうことは切り替えが大事だと、かのシンデレラちゃんも言っていた気がする。
(゚、゚トソン「油物にはビールしか勝たん」
電車に揺られながら缶ビールを呷る。
乗ってる人は他にいなかったので、失礼を承知でぐびりと飲んだ。
コンビニで缶ビールとホットスナック、ワンカップと月餅を買って大正解だった。
404
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:16:26 ID:T0GOC9/A0
ガタンガタン
小さく揺れる車体、窓から見える長閑な景色。
お酒の力もあってかぼんやりしてしまう。
あの屋敷は大きい。
多分、沢山の人間が働いていたはず。
何故誰もいないのか。
何故主人は言いたくないのか。
本当に聞いても良いことなのだろうか。
私にだって聞かれたくないことはある。
拒絶されるのが怖かったからだ。
あまり良い過去を持っていなかった。
──もしかしたら、主人も同じなのではないだろうか。
自惚れかもしれない。
けれど、もしかしたら、主人も人に拒絶されたくないのではないか。
私と主人は数ヶ月しか過ごしていない。
それでも、主人がどんな人間かは少しだけだがわかっているつもりだ。
甘党で、何でもできて、サプライズが好きで、イベント事も好きで、謎があって、いい歳こいてわりと頑固で、何かを抱えているくせに重たいことをサラッと言ってきて、
どこか温かくて、優しい。
そんな人だ。
だから私は、もういいと思った。
主人が聞きたかったら私のことを答えようと思った。
私はずるいのだ。
ずるくて良い、知りたかった。
主人のことを、知りたかった。
主人と、話がしたいのだ。
405
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:16:57 ID:T0GOC9/A0
それすらも拒絶されるなら──、
(゚、゚トソン(その時は……)
その時だ。
.
406
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:17:39 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「はあ、なんと立派な門構え」
メモに書かれた住所はここのはずだ。
なるほど、送られてきた野菜や果物はここで作られたのだとわかる。
お家の隣に広い畑があり、庭にも沢山の植物が…
( ・∀・)「おや?」
( ・∀・)「珍しい、覗きの方ですか?」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「あ、ちが…」
違わない事はないけれど違う。
と言おうとして口籠る。
確かに覗いてはいたけれど…
407
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:18:03 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「決してやましい人間ではありません!」
( ・∀・)「皆そういうんだよね…」
( ・∀・)「僕の奥さん美人で素敵だから覗きたくなる気持ちわからなくはないけどね?まぁ冗談は置いておいて、お嬢さん何か御用?」
(゚、゚トソン「あ、あの蛯沢さまいらっしゃいますか」
( ・∀・)「ん?僕、蛯沢さんだよ」
(゚、゚トソン「いえ、蛯沢でぃ様…」
(#゚;;-゚)「アナタ、お家の前で何を騒いでいるんです…」
(゚、゚トソン「あ」
(#゚;;-゚)「あら」
( ・∀・)「ああ、この人、君に用がある覗きの方だよ」
少し想像していた再会とは違った。
408
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:18:40 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「今思えばアポ取っておけばよかったですね…人を訪ねるのは初めてで、すみません」
(#゚;;-゚)「良いの、良いの。こちらこそ人が訪ねてくるのが久しぶりで、うちの人が浮かれちゃってごめんなさいね」
(゚、゚トソン「いえ…」
主人の屋敷も広いが、こちらのお家も広い方だと思う。
私自身、狭いところにしか身を置いてこなかったので少し落ち着かない。
(#゚;;-゚)「それで、どうしたのかしら」
初めて会った時も思った事だが、この人の背筋がピンとなるような空気と、温かい感じが何か懐かしい。
何でも話してしまいそうになる。
(#゚;;-゚)「あら、あらあら」
(;、;トソン「…あれ、何で泣いてるんだろう私」
(#゚;;-゚)「……長旅で疲れたのもあるんでしょう。大丈夫、ゆっくりでいいですよ」
(;、;トソン「ずみばぜん、ありがどうございばす…」
409
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:19:07 ID:T0GOC9/A0
気付かないうちにずっと気が張っていたようで、第三者を前にして緩んでしまったようだ。
ポロポロと溢れる嗚咽とともに、拙いながらもこれまでの経緯を話した。
でぃ様は静かに聞いてくれた。
ああそうか、『お母さん』みたいな安心感があるんだこの人──
.
410
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:19:37 ID:T0GOC9/A0
(#゚;;-゚)「結論から言うと、坊ちゃんが話さないことを、私から言うことは出来ないです」
でぃ様の言葉に、少しだけ呆けてしまった。
変な顔をしてしまったのか、でぃ様は申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。
(#゚;;-゚)「そうよね、ここまで来てくれたのに。話をしないなんて酷よね」
(#゚;;-゚)「ごめんなさい」
(゚、゚トソン「あっ、いえ!ちが」
(゚、゚トソン「……違くて、ちょっとほっとしたんです」
(#゚;;-゚)「…?」
.
411
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:20:10 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「飛び出してきたは良いけれど、きちんと考えてなかったんです。」
(゚、゚トソン「しゅじ…デミタス様がお部屋から出てくるような、何かヒントを得られれば良いなと思ってましたが、確かにでぃ様の口から聞くのは、違う気がします」
(゚、゚トソン「私は、主人の口を割らせる最終兵器のようなものをご存知かどうか、それが聞きたかっただけですので、でぃ様がそういったことで申し訳なく思う必要はないんです!」
(#゚;;-゚)「ふっ」
(#゚;;-゚)「ふふふ…」
(゚、゚トソン「?あの…」
(#゚;;-゚)「良かったわ。坊っちゃんはいい人がそばに居てくださったのね」
(゚、゚トソン(果たしてどうだろう)
でぃ様はころころとそれは楽しそうに笑っていた。
ひとしきり笑い終わって、ちょっとごめんなさいと席を立った。
帰って来たでぃ様の手に、小さなノートとメモがあった。
(#゚;;-゚)「私が教えられるのは、二つだけ」
.
412
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:20:50 ID:T0GOC9/A0
++++++++
(#゚;;-゚)「本当に泊まらなくて良いんですか?」
(゚、゚トソン「すみません、本当めちゃくちゃ超絶泊まりたいです。ご相伴にもおあずかりしたいし、なんなら今すぐにでも寝たいのですが」
(゚、゚トソン「主人があの屋敷に、ひとりぼっちなもので」
(#゚;;-゚)「…また是非来て、その時はお泊まりしていってね」
(゚、゚トソン「はい、絶対」
これほど後ろ髪引かれるのは、お高いお酒買うのをやめた時以来だ。
でぃ様の温かい人柄に、つい甘えてしまいそうになる。
人の作ってくれたご飯も久々すぎるので味わいたかった。
でもダメなのだ。
私はその誘惑を振り切ってでも、帰らないといけない場所がある。
話さないといけない人がいる。
.
413
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:21:23 ID:T0GOC9/A0
( ・∀・)「駅まで送るよ」
(゚、゚トソン「ありがとうございます」
( ・∀・)「僕の奥さん、素敵でしょう」
(゚、゚トソン「はい、とっても」
( ・∀・)「盛岡くんはもう一人のうちの子だと思ってるんだ」
( ・∀・)「今度来るときは、引っ張ってでも一緒に来たら良いよ」
(゚、゚トソン「……はい」
そのためにはまずは部屋から、引っ張りだせねば。
.
414
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:21:57 ID:T0GOC9/A0
++++++++
屋敷だ。
大きい。
立派だ。
帰ってきた。
この門に貼り紙がされていた。
それを見て働こうと思った。
ただそれだけの、単純な繋がりだ。
蛯沢夫妻のように、深い愛情があるわけでも
雑魚のように、強く慕っているわけでもない
ただこの先も、あの人にお菓子を作って美味しいと言われて
楽しく働きたいと思うくらいには、情はある。
充分だろう。
(゚、゚トソン「よっし!やるか!」
屋敷に入ってすぐキッチンへ向かった。
もう夜だ。
何時間もの電車の旅を1日でやるものではない。
なんならもう明日でも良いのでは?と脳内の悪い自分が言ったけど、無視した。
++++++++
415
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:22:42 ID:T0GOC9/A0
(゚、゚トソン「しゅーじーんくーーん!」
(゚、゚トソン「あっそびーまーしょーーーー!!!」
主人の部屋のドアの、右下を蹴り上げる。
フッカフカのスリッパを入ってなかったらヤバかったであろう音と共に、ドアが勢い良く開いた。
(;´・_ゝ・`)「!??」
(゚、゚トソン「とりあえず面倒なんで、色んなあれこれ置いておいて」
(゚、゚トソン「リビング来てください。ケリをつけましょう」
ドアに蹴りを入れただけに、と上手いことを思ったけれど、足の痛みとドキドキとうるさい鼓動のせいで言えなかった。
つづく
416
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:25:29 ID:hd9.FFSw0
本日の投下は以上です
お休み中もコメントくださった方ありがとうございます
デミタスは長い自粛をし、トソンは甘酒のレシピを聞き忘れました
長い間投下できなかったお詫びにトソンのメモを貼っておきます
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2640.png
ありがとうございました
417
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:37:24 ID:mCK7rCOM0
おお、ゆっくり頑張って下さい
418
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 17:46:39 ID:ZFpzPRp.0
おおお乙
419
:
名無しさん
:2020/12/02(水) 21:56:47 ID:xc2dbHsw0
更新嬉しい、乙
420
:
名無しさん
:2020/12/03(木) 03:50:52 ID:56ysnCtQ0
復活ありがとうー!
421
:
名無しさん
:2020/12/03(木) 12:53:27 ID:YxAhIiCc0
生きてたのか!
422
:
名無しさん
:2020/12/03(木) 13:41:29 ID:8toF8V6g0
一気に読んでしまった……トソンのメモ微笑ましいな
423
:
名無しさん
:2020/12/03(木) 17:44:11 ID:RVQ/aa7s0
ふと思い出して10か月ぶりぐらいで覗きに来たら…まさかの昨日更新とは!
ずっと待ってました、無理せずゆっくり続きをお願いします!
424
:
名無しさん
:2020/12/04(金) 02:38:56 ID:oN6MBkgg0
こういうことがあるからブーン系はやめらんねぇんだ!
425
:
名無しさん
:2020/12/08(火) 11:17:21 ID:h1EImkwg0
まってたよー!
更新嬉しい!
トソンちゃんがんばれ〜
デミもがんばれ〜
426
:
名無しさん
:2020/12/12(土) 11:28:25 ID:z9St..oc0
続き楽しみ
待ってて良かった
427
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:43:09 ID:4683Z4Wc0
番外編: ザコにもクリスマスはやってくる
.
428
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:43:53 ID:4683Z4Wc0
【クラブAA】
ζ(゚ー゚*ζ「こんばんはー♪久しぶりに会えて嬉しいよ〜!」
(*^ν^)(天使……)
(;*^ν^)つ@「あ、お、俺も……。あの…これ、プ、プレゼント…!」
@ζ(゚ー゚*ζ「え?クリスマスプレゼント?わー!ありがとう!」
@ζ(゚ー゚*ζ「お菓子?かな?嬉しいー!!」
(*^ν^)(女神……)
(;^ν^)「シュトーレン?って言ってた…て、手作り、らしい…」
〆ζ(゚ー゚*ζ シュルシュル「そうなの?美味しそう!さっそくいただくね!」
(;^ν^)「え」
爪'ー`)y- 「失礼しますシンデレラさん、お電話が入ってます」
ζ(゚ー゚*ζ「え?誰だろ…ごめんなさいっ、ちょっと待っててね!」
( ^ν^)「うん」
429
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:44:43 ID:4683Z4Wc0
ζ(゚ー゚*ζ「あれ?フォッさんお電話は?」
爪;'ー`)y- 「お馬鹿、電話なんて嘘!シンデレラちゃんダメよ!持ち込みも金品以外は禁止だし、何より客の手作りなんて絶対口にしちゃダメよ!」
ζ(゚ー゚*ζ「韮塚さんは変なことするようなお客様じゃないよ」
爪;'ー`)y- 「何かあってからじゃ遅いんだから!」
ζ(゚ー゚*ζ「むー…」
ζ(゚ー゚*ζ「…フォッさんっ!お願い!韮塚さんがああいう風にプレゼントくれるの初めてなのっ」
ζ(゚ー゚*ζ「嬉しい気持ちをせいいーっぱい伝えたいから、お願い!」
爪;'ー`)y- 「んんんんもぉ〜!その顔に弱いの知っててずるいっ!」
爪;'ー`)y- 「何か変な臭いがしたり味がしたらすぐぺっするのよ!」
ζ(゚ー゚*ζ「うんっ!ありがとうフォッさん!大好き!」
爪*'ー`)y- 「そういうのはお客に言いなさい」
430
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:45:08 ID:4683Z4Wc0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせしてごめんね!」
(;^ν^)「い、いや、忙しい時期だろうし…し、仕方ないっていうか…今指名できただけで嬉しい…し…です…」
ζ(゚ー゚*ζ「…」
(;^ν^)「……?」
(;*^ν^)つ⊂ζ(゚ー゚*ζぎゅー
(;*^ν^)「!???ありがとうございます!?」
ζ(゚ー゚*ζ「えへへ、なんかぎゅーってしたくなっちゃった♪あ、お菓子いただくね!」
ζ(゚ー゚*ζもぐ
爪'ー`)y- (大丈夫かしら……)
431
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:45:45 ID:4683Z4Wc0
ζ(゚ー゚*ζ「あ…」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(;、;*ζ
(;^ν^)「えっえっえっごごごごめ、ごめんなさい!?どど、どうし…!」
爪#'ー`)y- 「だから言っ…!!」
ζ(;、;*ζ「ち、ちがうの、ごめん…ごめんねびっくりしたよね」
ζ(;、;*ζ「お、美味しいの…それで、何でかすっごく懐かしくて…」
ζ(∩、⊂*ζごしごし
ζ(゚、゚*ζ「…」
ζ(゚ー゚*ζ「…韮塚さん、美味しいお菓子をありがとう」
ζ(゚ー゚*ζ「作ってくれた人にも、お礼言っておいてもらえるかな」
(;^ν^)「……う、うん…」
432
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:46:14 ID:4683Z4Wc0
××××××
爪'ー`)y- 「もー今日は焦ったわよ…本当に何でもなかったのよね?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、ごめんねフォッさん」
爪'ー`)y- 「次からは絶対ダメだからね!あとさっきの一口ちょうだい、今更だけど毒味するわ」
ζ(゚ー゚*ζ「だーめ!これは私のだから!」
爪'ー`)y- 「…わかったわよ…」
爪'ー`)y- 「そういえばシンデレラちゃん、明日お休みよね?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、プレゼント買いに行こうかなぁって」
爪'ー`)y- 「なぁにぃ?お客?それとも王子様見つけた?」
ζ(^ー^*ζ「ひみつ♪」
ζ(゚ー゚*ζ「……懐かしい味だったなぁ」
ζ(゚ー゚*ζ「元気かなぁ…トゥインクルちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「さて!早く寝て明日は韮塚さんへのお返し買いに行くぞー!」
433
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:47:54 ID:4683Z4Wc0
以上です。短いけどありがとうございました。
ザコはクリスマスデート誘いそびれてるし連日通うお金と度胸はないのでクリぼっちです。
皆様は良いクリスマスを!
434
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:49:42 ID:Dw9GiWIY0
乙乙乙!!!
心温まるクリスマスプレゼントをありがとう
435
:
名無しさん
:2020/12/24(木) 22:54:05 ID:.eQGqZ8c0
おつくり
436
:
名無しさん
:2020/12/25(金) 03:33:45 ID:z3uX09d20
シンデレラちゃん〜
437
:
名無しさん
:2020/12/25(金) 03:34:09 ID:z3uX09d20
シンデレラちゃん〜
438
:
名無しさん
:2020/12/25(金) 17:04:31 ID:Tc5hoQOc0
デレトソ尊い
439
:
名無しさん
:2020/12/25(金) 18:17:40 ID:wx/qAWdM0
更新来てた!おつ!!
440
:
名無しさん
:2020/12/26(土) 01:16:15 ID:fSqkE3Ik0
うおおお聖夜にいいものを見た……
441
:
名無しさん
:2021/02/02(火) 14:00:50 ID:r/5NL4oE0
更新乙!
442
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:22:46 ID:c74JLiP.0
12.朴念仁な隣人は話が長い
.
443
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:23:09 ID:c74JLiP.0
(´・_ゝ・`)デミタス。雇用主のはずだがドアを使用人に蹴られた。
(゚、゚トソン トソン。ドアを蹴りとばした足先が痛い使用人。
.
444
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:23:42 ID:c74JLiP.0
(゚、゚トソン「小麦粉とベーキングパウダー、あと重曹をふるい合わせます」
(゚、゚トソン「こんな粉粉したものが素晴らしいお菓子になるんだから、凄いですよね」
(゚、゚トソン「シナモンも混ぜて置いておきます」
(゚、゚トソン「卵ときび砂糖を混ぜて、オリーブオイルを加えてさらに混ぜます」
(゚、゚トソン「きび砂糖を見ると何故かうっすら桃太郎を思い出しますね、わかるかなこれ」
∬⊂(゚、゚トソン「でぃさまから頂いたコレをひたすら擦り下ろして入れます」
(゚、゚トソン「先程の粉と混ぜ混ぜします」
(゚、゚トソン「180度のオーブンでブンします」
(゚、゚トソン「これが、でぃ様から教わった最終兵器です」
小さなメモを見る。
でぃ様が書いてくれたレシピ。
445
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:24:32 ID:c74JLiP.0
(#゚;;-゚)『私が教えられることはこのレシピと、あとは』
(#゚;;-゚)『坊っちゃんの部屋のドアは、右下を蹴り上げると開く、という事だけですね』
(#゚;;-゚)『何も出来なくて申し訳ないけれど、坊っちゃんをよろしくお願いします』
(゚、゚トソン(ありがとうございます、でぃ様。)
オーブンからいい匂いがしてきて、何故だか無性に泣きそうになった。
.
446
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:25:10 ID:c74JLiP.0
コトン。
焼いたばかりのキャロットケーキをテーブルの上に置く。
熱々の紅茶も。
部屋から引っ張り出した主人を無理矢理リビングへ連れてきて、椅子に座らせた。
あまりの強引さに圧倒されたのか諦めたのか、大人しくしていた主人が、キャロットケーキに気付いて少しだけ口元を緩ませている。
(´・_ゝ・`)「美味しそう…懐かしい匂いだ」
(゚、゚トソン「でぃ様がレシピを教えてくださったんです。にんじんも頂きました」
(´・_ゝ・`)「……そう、でぃさんのとこに行ってたんだ……」
(;´・_ゝ・`)「…えっ、でぃさんのとこに日帰りで行けたの??わりと遠いよねフットワーク軽いね?」
(゚、゚トソン「自分でもそう思います、せっかくでぃ様が泊まっていい、食事も出すからと言ってくださったのを泣く泣く、本気で泣きながら断ったんですよ、主人のために」
(´・_ゝ・`)「それは…申し訳ないことをしたね」
(´・_ゝ・`)「本当に……部屋に閉じこもったりして申し訳ない」
(゚、゚トソン「本当です。…と言いたいとこですが主人にもいろいろあるのでしょうから、まぁ、今日のところは許しますよ」
(´・_ゝ・`)「…はは、本当に君は…」
主人の笑顔を久々に見た気がした。
447
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:25:49 ID:c74JLiP.0
(´・_ゝ・`)「……この屋敷に何があったか知りたい、だっけ」
(´・_ゝ・`)「トソン君が気にするとは思わなかった。お酒しか興味ないんだと」
(゚、゚トソン「あながち間違いではないですね」
(´・_ゝ・`)「はは。…うん、いいよ。そんなに楽しい話ではないけど、聞いてくれるかな」
(゚、゚トソン「……はい」
(´・_ゝ・`)「…あのさ、話、長くなりそうだから、トソン君も座って一緒に食べない?」
主人は観念したようだった。
最終兵器は最強だった。
448
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:26:16 ID:c74JLiP.0
(゚、゚トソン「…でしたら、ペアリングも用意しましょう。丁度主人用に紅茶を淹れましたのでそちらを使います」
カチャリ、カップの上にスプーンを置いて角砂糖を乗っける。
ブランデーを上から少しだけ注いだ。
(´・_ゝ・`)「ねぇ今ポケットからお酒出てこなかった?」
(゚、゚トソン「ここからが素敵なので黙って見ててください」
(´・_ゝ・`)「はい」
ライターで火をつける。アルコールが燃えて、静かに青い火が灯った。
(´・_ゝ・`)「わぁ、綺麗だね」
(゚、゚ドヤン「でしょう。ティー・ロワイヤルと言います」
火が消えるのを見届けて、溶けた砂糖をカップに入れて混ぜる。
スプーンのカチカチいう音だけが、リビングに響いた。
(゚、゚トソン「どうぞ、キャロットケーキも温かいうちに」
(´・_ゝ・`)「やぁ、いい匂いだ。いただきます」
449
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:26:55 ID:c74JLiP.0
でぃ様にもらったメモに書かれていたのは、素朴なキャロットケーキのレシピだった。
グローブやカルダモンなどのスパイスは入っておらず、チーズフロスティングも乗っていない。
それでも人参とシナモンの良い香りが鼻を擽る。
フォークで一口分切り分けると、ゴロリと胡桃が顔を覗かせる。
口に入れるとまだほのかに温かく、ふんわりとした中にある胡桃の食感が楽しい。
人参の優しい甘さに笑みが溢れる。
何日か寝かせてしっとりとさせても美味しそうだ。
ティー・ロワイヤルも続けて一口。
ブランデーの香りが大人な気持ちにさせてくれる。温かい紅茶が喉を通り、ひと息つく。
なんて贅沢な時間だろう。
450
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:27:36 ID:c74JLiP.0
(゚、゚トソン「美味しいですね、流石でぃ様のレシピです」
(´・_ゝ・`)「…でぃさんは、何も話さなかったんだね」
(゚、゚トソン「ええ、主人が話さないことを、自分が話すわけにはいかないと」
(´・_ゝ・`)「でぃさんらしい。……このレシピはね、でぃさんが作ったわけじゃないんだ」
(´・_ゝ・`)「僕、にんじんが嫌いだったんだよね」
主人はぽつりぽつりと、静かに話し出した。
(´・_ゝ・`)「…僕は生意気な子どもだったんだけど」
(゚、゚トソン(なんとなくわかります)
私は、主人の話を邪魔せず聞く事にした。
.
451
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:29:00 ID:c74JLiP.0
++++
母は身体が弱い人で、僕を産んだ時に亡くなった。
母を溺愛していた祖父は身体を壊してずっと寝たきり
僕の小学校入学の前日についに亡くなり、
入婿だった父は祖父の会社を引き継いで多忙の日々。
家に帰ることは少なかった。
昔から働いていた使用人達はよく言っていたよ、僕に近寄ると良くないことが起きるって。
だから僕の面倒を見たがる使用人はいなかったんだ。
でぃさん以外はね。
452
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:29:21 ID:c74JLiP.0
(´・_ゝ・`)「ねぇ、何でおかずににんじん入ってるの?入れないでって言った!」
(#゚;;-゚)「にんじんは美味しいですよ坊っちゃん、召し上がってみてください」
(´・_ゝ・`)「嫌だ!だいたい僕、でぃ以外が作ったもの食べたくないって言ってるじゃん!」
でぃさんは厳しいところもあるけど、温かくて優しい人だった。
家族より遥かに長い時間を過ごしたし、僕に沢山のことを教えてくれた。
だから変な甘えが出始めた小学校低学年の辺りは、本当に大変だったと思う。でぃさんにとって僕はただの他人だったし。
何よりでぃさんにも家庭があった。
ずっと僕の面倒を見ているわけにもいかなかったんだ。
453
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:29:53 ID:c74JLiP.0
(#゚;;-゚)「そうは言っても、私はもうすぐ産休に入りますから、他の方に引き継ぎしないといけません」
(´・_ゝ・`)「何で勝手にお休みするの?でぃ以外の人なんて嫌いだ、絶対嫌だ!」
(#゚;;-゚)「あまりわがままを…」
そんな時だった。
('、`*川「こんにちは!」
(;´・_ゝ・`)「……は?」
彼女に初めて会ったのは。
454
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:30:16 ID:c74JLiP.0
(#゚;;-゚)「あら伊藤さん」
('ー`*川「お疲れ様です、でぃさん」
(;´・_ゝ・`)「なに、だれ」
('、`*川「初めまして。今日からデミタス様に仕えます、伊藤ペニサス17才です!」
(;´・_ゝ・`)「聞いてない、やだ!でぃが良い!何でこんな人…」
('、`*川「でぃさんが良いですよね、わかりますよ。優しいし、温かいし、とっても良い人、素敵な人。私もでぃさん大好きです」
(´・_ゝ・`)「なに…」
('ー`*川「でぃさんのように完璧に出来るかはわからないけど、頑張ります」
(;´・_ゝ・`)「う…」
(#゚;;-゚)(あの坊っちゃんが圧倒されている…)
455
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:30:46 ID:c74JLiP.0
('、`*川「それで、何を騒いでいたんです?」
(#゚;;-゚)「坊っちゃんは好き嫌いが多くてちょっと……手がかかりますがよろしくお願いします」
('ー`*川「はい!」
(´・_ゝ・`)「勝手に話進めないで!」
('、`*川「にんじんがお嫌いなら、ケーキにしましょうか」
(´・_ゝ・`)「にんじんのケーキ…?何それ変なの…だいたい甘いものも僕は嫌い」
('、`*川「そうなんですね、じゃあちょっと模索してみます。ちなみに、お好きなものはなんですか?」
(´・_ゝ・`)「…ないよ」
('、`*川「…じゃあ、私がお探ししますね」
(´・_ゝ・`)「は?」
('ー`*川「一緒に、デミタス様のお好きなもの、お探ししますよ」
(;*’・_ゝ・`)「何それ。変な人」
456
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:31:26 ID:c74JLiP.0
伊藤ペニサスという人は不思議な人だった。
生まれつき身体が弱く、働き口がなかなか見つからないところ、でぃさんに会ってうちの仕事を紹介されたらしい。
うちはそれまで若い使用人がいなかったから、とても目立っていた。
(#゚;;-゚)「伊藤さんに無茶言ってはいけませんよ、坊っちゃん。身体が弱いそうなので、無理をさせないようにしてくださいね」
(´・_ゝ・`)「無茶なんて言わないし…」
(´・_ゝ・`)(身体弱いの、お母様と一緒だな…)
('ー`*川「デミタス様、一緒にお屋敷探検しませんか!」
(;´・_ゝ・`)「!?」
身体が弱い、
全然そんな風には見えたことはなかった。
いつも楽しそうに働いていて、せっせと仕事をこなしていた。
彼女は何かを作るのが好きで、僕の食事だけではなく他の使用人達の食事も作ったりしていた。
昔は料理人も何人かいたんだけど、僕がでぃさんが作ったものしか食べなかったから辞めちゃってて、キッチンは彼女の城みたいになってたよ。
457
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:32:11 ID:c74JLiP.0
('、`*川「デミタス様、かき氷召し上がりますか?」
(´・_ゝ・`)「何それ」
('、`*川「……お祭りとかでよく売ってる、氷を砕いてシロップをかけたものです」
(´・_ゝ・`)「…お祭り行ったことないからわかんない」
('ー`*川「あ、じゃあ行きますか?来週近くでありますよ」
(´・_ゝ・`)「…行かない」
本当は行ってみたかった。
クラスの子たちも行くと言っていた。
騒がしくて、楽しそうなお祭りの音を毎年耳にしては羨ましかった。
でも僕は行く資格も何も無いと思っていたんだよ。
('、`*川「……」
('ー`*川「じゃあかき氷作りますね!それで毎年一緒に食べるんです、良いでしょう?」
(´・_ゝ・`)「毎年…」
(´・_ゝ・`)(この人、来年もいるつもりなんだ)
(*´・_ゝ・`)「……やぶさかではない」
('ー`*川「どこで覚えたんですかそれ」
458
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:32:44 ID:c74JLiP.0
ある時、彼女が声を荒げて部屋に入って来たことがあった。
('、`;川「デミタス様!何でこれ…っ、捨てられてましたけどどうしたんですか!」
手には僕が捨てたトロフィーや賞状の束。誰かに捨てられたと思ったのか、大事そうに抱えていた。
(´・_ゝ・`)「どうしたって…いっぱいあると邪魔になるから…どうせまたすぐいっぱいになるし…」
珍しく目をパチクリさせる彼女。
('、`;川「すぐ?でもこれ絵画だけのとかじゃなくて、色んな表彰で…」
(´・_ゝ・`)「僕はお祖父様に似てるから、何でも人並み以上に出来ちゃうんだって
だから何かで1位を取ったり、そういうのを貰ってくるのは珍しくないよ」
('、`;川「…えええ…すごいじゃないですかそんなの…」
(´・_ゝ・`)「うん、お祖父様はすごかったみたいだね」
祖父と直接話したことはなかった。
僕の顔は母に似ていたらしくて、僕を見ると祖父は悲しんで具合を悪くするからと会わせてもらえなかった。
才能は祖父、顔は母、屋敷も、金も、物も全部人のもの。僕のものは何もない。
459
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:33:16 ID:c74JLiP.0
('、`川「いえ、デミタス様がですよ?」
(´・_ゝ・`)「え?」
('、`川「似てるからってなんだって言うんです。私は母に似てるとよく言われますが、母は母、私は私です。母が成し遂げたことは母の功績。私の身体が弱いのは誰のせいでもない」
('、`川「デミタス様が絵が上手だったり、工作が得意だったり、文章を書けるのはデミタス様の力です。
─デミタス様の特技も、デミタス様のものですよ」
(´・_ゝ・`)「……」
('、`*川「うーん……2日ください」
(´・_ゝ・`)「え?」
何か考え込みながら彼女は部屋を出て行った。
460
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:34:13 ID:c74JLiP.0
('、`*川「デミタス様、お庭に来てください」
(´・_ゝ・`)「なに?」
宣言通り2日が経って、彼女は僕を庭に連れ出した。
そんなに狭く無い庭は、庭師によって綺麗に整備されている。
はずなのだけど、一角だけ不自然に土が盛り返した場所があった。
そしていくつかの苗。
('ー`*川「これはですね、デミタス様の身のお世話をして初めて頂いたお給料で買った、薔薇の苗です」
('ー`*川「そしてこのスペースは自由にしていいと庭師の方に許可をもらいました!」
(´・_ゝ・`)「…育てるの?」
('ー`*川「はい、ゆくゆくは素晴らしい薔薇のアーチにする予定です!」
('、`*川「宜しいですか、デミタス様のお世話をして得た報酬で買ったもの……つまり私とデミタス様の共同で手に入れたものと言えます」
(;´・_ゝ・`)(言えるかな…)
('ー`*川「これで一つ、この屋敷にデミタス様のものが増えました」
(´・_ゝ・`)「!」
('ー`*川「無いことはないですが、デミタス様が無いと思うのなら作ってしまえばいいんです。あの賞状やトロフィーも飾りましょう。それで、デミタス様のをたくさん増やすんです」
(´・_ゝ・`)「…僕のものをつくる…」
(*´・_ゝ・`)「そっか」
('ー`*川「はい」
僕は彼女に惹かれていった。
憧れに近いものもあったのかもしれない。
461
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:35:08 ID:c74JLiP.0
彼女が働き始めてしばらくして、でぃさんが無事に出産したと連絡があった。
('ー`*川「デミタス様!聞きましたか?今度のお休みの日にでぃさんのお見舞いに行こうと思うのですが、ご一緒にどうですか?」
(´・_ゝ・`)「僕はいいよ」
('、`;川「えー!」
(´・_ゝ・`)「だって僕が近寄ると良くないこと起きるし…」
('、`;川「デミタス様…」
('、`;川「厨二…?」
(;´・_ゝ・`)「違うよ!」
462
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:35:30 ID:c74JLiP.0
彼女は使用人達の噂話を聞いたことが無かったようだった。
自分の口から言うのも変だと思ったけど、説明すると眉をこれでもかと顰めた。
('、`#川「誰です、そんなこと言うのは!」
(;´・_ゝ・`)「誰っていうか…でぃ以外の人はだいたい言ってる」
('、`#川「本当に、本当にくだらない!デミタス様、絶対にそんなことはありませんからね、気にしなくていいです!」
あんなに僕のことで怒る人をでぃさん以外に見たことなくて、少し気圧された。
(´・_ゝ・`)「……ありがと…でも、でもいいや。僕とでぃは所詮家族じゃないし、でぃも自分の子ども見るので手一杯で、僕のことなんて構ってられないよ」
('、`*川「……そう、ですか」
463
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:36:04 ID:c74JLiP.0
('、`*川「…どうですかデミタス様、そちらのキャロットケーキは」
(´・_ゝ・`)「……美味しい」
('ー`*川「…そうでしょう」
(*´・_ゝ・`)「にんじん美味しいね」
(*´・_ゝ・`)「僕これ好き」
('ー`*川「ようやく一つ見つけたました、デミタス様の好きなもの」
試作50品目で、ようやく僕がにんじんを美味しいと思えるキャロットケーキができた。
食べているのは僕なのに、彼女は本当に嬉しそうな顔で僕を見ていた。僕は何か気恥ずかしくて下を向きながら食べた。
(´・_ゝ・`)「…美味しかった…ごちそうさまでした」
('ー`*川「良かったです」
464
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:36:34 ID:c74JLiP.0
('、`*川「ところで来週また、でぃさんのお見舞いに行こうと思うのですが」
(´・_ゝ・`)「…いってらっしゃい」
('、`*川「デミタス様は先日勘違いされてました。でぃさんはもうデミタス様に構ってられないと」
(´・_ゝ・`)「勘違いじゃないよ」
('ー`*川「いいえ、勘違い。だってでぃさんは今もデミタス様のこと気にされています」
('ー`*川「今召し上がったキャロットケーキのにんじんは、でぃさんが作ったものなんですよ」
(´・_ゝ・`)「え?」
('ー`*川「でぃさんのおうちに行ってびっくりしました、お庭が畑なんですよ。聞いたら『坊っちゃんの野菜嫌いを無くすために、美味しい野菜を作りたくて』って、産休に入られる前から計画していたんですって」
(´・_ゝ・`)「でぃ…」
('ー`*川「来週、一緒に行きましょう。にんじん食べられるようになったご報告も兼ねて」
(´・_ゝ・`)「……うん」
姉のように、母のように、時には友達のようで先輩のように彼女は優しく温かく見守ってくれた。
465
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:37:04 ID:c74JLiP.0
彼女が働き始めて10年近く経った。
毎年かき氷を作って一緒に食べてくれた。
色んな行事を教えてくれ、共に楽しんでくれた。
その頃父の会社も軌道に乗っていて、忙しさもピークを越していたと思う。それでもほとんど家に帰って来なかったけど。
('、`*川「失礼します、デミタス様。お紅茶お持ちしました」
(´・_ゝ・`)「ありがと」
僕は高校生だった。
彼女、ペニサスは10年経ったのにあまり変わらなかった。
いつもハキハキ働いていて、僕はもうその頃は彼女のことを意識してた。
…この辺りのこと、詳しく言わなくてもいいかな?
駄目?そう…恥ずかしいんだけどな…。
466
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:37:33 ID:c74JLiP.0
相変わらず他の使用人は僕に近寄りはしなかった。
ペニサスだけが僕の世話をしてくれていた。
だから仕方ないんだけど、意識してる人間と部屋に2人になるってだいぶ心臓が痛かったよ。
なんだか胸が熱くて、誤魔化すように気になったことを口にしてみた。
(´・_ゝ・`)「…ペニサスは何かやりたいこととかある?」
キョトンとした顔の彼女。
唐突すぎたかな、と思った。
('、`*川「やりたいことですか」
(´・_ゝ・`)「学校で進路希望の紙もらったんだ。でも書くことがなくて」
467
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:38:07 ID:c74JLiP.0
('、`*川「…私は…いっぱいありましたよ、翻訳家、作家、絵本作家、画家、陶芸家…」
(´・_ゝ・`)「本当にいっぱいだね」
('、`*川「お家の中で、自分が作ったものが誰かを幸せにできるんです。素晴らしいですよね」
(´・_ゝ・`)「…やればいいのに」
('、`*川「…保険適用外の薬って、1ヶ月分が数万だったりして。お金が必要なんです。」
('、`*川「私には時間も余裕も、才能もないので」
(´・_ゝ・`)「……」
そんなことない、と否定するのも違う気がして口籠ってしまった。
('ー`*川「……なーんて、今はデミタス様のお世話をするのが楽しいのでそれで満足なんですよ!」
(´・_ゝ・`)「……あのさ」
(´・_ゝ・`)「また作って。キャロットケーキ…」
('、`*川「……」
('ー`*川「はい」
『満足』というのは痩せ我慢だったと思う。
彼女の家は母子家庭で余裕がなかったと、他の使用人たちが噂しているのを聞いたことがあった。
うん、あまり良い人達ばかりじゃなかったんだよ昔は。
噂話ばかりしてて、子どもの僕の耳にまで届いてたぐらいだからね。
468
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:38:44 ID:c74JLiP.0
大学4回生の年、彼女の誕生日にプロポーズをしたんだ。
それはもう、驚かれたけど。
('、`*川「今なんておっしゃいました?」
(´・_ゝ・`)「君を幸せにします。僕と結婚してください」
('、`*川「聞き間違いじゃなかった…」
(´・_ゝ・`)「嫌?」
('、`*川「嫌とかの前に…急では?」
(´・_ゝ・`)「サプライズ…」
('、`*川「……」
('、`*川「わたしにとってデミタス様は弟のような、子どものような、友達や良い後輩のようなそんな存在なんですよ、それに10歳も年が離れているし…」
(´・_ゝ・`)「でも、僕のこと嫌いでは無いでしょ」
('、`*川「……」
('ー`*川「…やぶさかではない」
(*´・_ゝ・`)「ふふ」
469
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:39:41 ID:c74JLiP.0
返事はいつまでも待つよと、そう話して。
その次の日に、父が過労死した。
またか、と思った。
きっと僕だけじゃなかったはずだ。
使用人達はヒソヒソと口を忙しそうに動かしていた。
久しぶりに見た父の顔が別人のようで、涙もすぐには出なかったよ。
葬儀もバタバタと終わり、僕は大学を辞めて父の穴埋めとして会社の手伝いをすることになった。
ひと月経つのがあっという間で、今自分がどこに居るのかわからなくなるくらい忙しい、いや急がされてたのかも。
470
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:40:13 ID:c74JLiP.0
( _ゝ )「疲れた」
('、`*川「デミタス様」
( _ゝ )「父が過労死したのがわかるよ、はは
祖父の会社だからさ、なんていうかアウェイなんだ。祖父は父をあまりよく思ってないって使用人さん達言ってた。もちろん僕のことも」
( _ゝ )「押し付けられるんだ、馬鹿みたいな量の仕事。そりゃ1人でやってたら家なんて帰れないよ。僕はうまく逃げてるけどさ」
('、`*川「デミタス様、今言う話では無いかもしれませんが」
('、`*川「先日のプロポーズ、お受けします」
471
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:40:45 ID:c74JLiP.0
彼女の同情だったのかもしれない。
誰も周りにいない僕を可哀想に思ったのかも。
彼女の気持ちはわからないままだけど、僕とペニサスは籍を入れた。
ペニサスはそのまま働きたい気持ちがあったようだけど、他の使用人達も混乱するからと仕事を辞めた。
.
472
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:41:18 ID:c74JLiP.0
(´・_ゝ・`)「ただいま」
('、`*川「おかえりなさい、デミタス様」
(´・_ゝ・`)「ふふ、もう使用人じゃないんだから」
('、`*川「ああ、癖になってしまってるんですよね…ケホッ」
(´・_ゝ・`)「大丈夫?風邪?」
('、`*川「…そうですね、今日は少し冷えましたから」
(´・_ゝ・`)「暖かくして、薬は飲んだ?」
('、`*川「うん…ねぇデミタスさん。私一日中何もすることがないの、申し訳ないわ。やっぱり自分のことは自分でやりますよ」
(´・_ゝ・`)「うーん、すること…あ、君がやりたいって言ってたことをしてみるのはどう?物を書いてみたりさ」
('、`*川「…そうね、何か書いてみようかな」
473
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:42:01 ID:c74JLiP.0
ずっと働いてきたペニサスは、いきなり何もしなくても良いと言う状況にどうして良いかわからないような様子だった。
よく風邪をひいたり身体を壊すようになったから、あまり体を動かして欲しくなくて、身の回りのことは僕から使用人達にお願いした。
たまにでぃさんから連絡は来ていたんだけど、でぃさんも2人目が産まれててんやわんやみたいで、あまり会えてはいなかった。
.
474
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:42:39 ID:c74JLiP.0
('、`*川「デミタスさんは子ども欲しくないの?」
(´・_ゝ・`)「ええ?うーん、いたら楽しいかもしれないけれど。ペニサスがいれば満足だよ僕は。ペニサスは欲しい?」
でぃさんと電話で話した後、ペニサスはよくこの質問をした。
僕は正直言うと怖かった。母のことがあったから、身体の弱いペニサスとつい重なってしまう。
('、`*川「こんなお屋敷に住ませてもらって、こんな私をもらってくれたのに子を残さないのは…」
(;´・_ゝ・`)「ちょっと待って、それ本当にペニサスが思ってるの?誰かに言われた?」
('、`*川「……皆さん仰ってますよ、「使用人がうまくやったな」って」
(#´・_ゝ・`)「誰…いや、何となくわかった。君は気にしなくて良い、そんなことはない、本当にないから」
('ー`*川「ふ、ふふ。昔と反対ですねぇ」
(;´・_ゝ・`)「え…」
('ー`*川「大きくなりましたね…」
反対に、ペニサスは小さく見えた。小さい肩。まだまだ若いのに、か細くて折れてしまいそうだ。
力をあまり入れないように気をつけて、彼女の肩を抱きしめた。
475
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:43:12 ID:c74JLiP.0
昔からいる使用人達を全員首にした。
ペニサスはそんなことしなくて良かったと悲しんだが僕が嫌だった。
数人ほどの使用人を新しく雇った。
前に比べてだいぶ人数を減らしたから、無駄話をするような環境でもなくなって少し安心した。
けれど、ペニサスは良くならなかった。
.
476
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:44:48 ID:c74JLiP.0
(;´・_ゝ・`)「ペニサス、大丈夫?」
('ー`*川「大丈夫です、ただの風邪ですから」
(;´・_ゝ・`)「僕会社休むよ」
('、`*川「駄目ですよ、やっと仕事に慣れて来たって言ってたじゃ無いですか」
(;´・_ゝ・`)「うう…」
('ー`*川「いってらっしゃい」
(´・_ゝ・`)「行ってきます…何かあったら連絡してね」
('ー`*川「はい、あ、デミタス様」
(´・_ゝ・`)「ん?」
('ー`*川「帰ったらまたキャロットケーキ、焼きますね」
(*´・_ゝ・`)「ありがとう、楽しみだ」
477
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:45:31 ID:c74JLiP.0
.
478
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:46:46 ID:c74JLiP.0
その日、ペニサスは亡くなった。
風邪だと言っていたけど、もうかなり前から病状が悪くなっていたそうだ。
何も知らなかった。
何も聞けなかった。
何も見てなかった。
前の使用人達ならもっと早く気づけたのだろうか。
人を減らさなければ
人がもっといれば気付いてくれたのか?
何で誰も気付いてくれなかった?
いや、まず何で自分は気付かなかった?
彼女を愛していたくせに
何で?
何で
何で
結局やっぱり僕のそばに居ると良くないことが起きるんだ
僕は誰も幸せに出来ない
僕は幸せにはなれない
479
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:47:32 ID:c74JLiP.0
全て庭で燃やした。
彼女の写真、彼女が僕のために飾ってくれてたもの。
唯一、薔薇のアーチは壊せなかったけど。
葬儀に来てくれたでぃさんに止められて、いくつかのものは預かるって持っていってくれたけど、色々捨てた。
会社は他の人に任せて辞め、家に篭った。
会社も何もどうでもよかった。
そもそも祖父や父の遺産でお金には困らなかった。
何もすることが無いと彼女の後を追いそうになるから何かしようと思った。
僕は彼女を追いかける資格もない。
480
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:48:11 ID:c74JLiP.0
ふと彼女の言葉を思い出す。
('、`*川『お家の中で、自分が作ったものが誰かを幸せにできるんです。素晴らしいですよね』
(´・_ゝ・`)「…僕でも誰かを幸せに出来るかな」
(´・_ゝ・`)「なんて、無理だよなぁ」
僕は彼女がやりたいと挙げていた職業で作品を残すことにした。
まだ、誰かの幸せに縋り付きたかったんだ。自分や自分の大事な人たちは駄目だったから。
481
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:48:47 ID:c74JLiP.0
何年か死んだように生きてた。
でぃさんはよく来てくれたけど、誰にも会いたくなくてインターホン越しに会話をするだけだ。
作品を作ってはお金に変え、しばらくしたらまた違う作品を作る。
これが誰かを幸せにしてるとはとても思えなかった。
でもそうすることしかできなかった。
ペニサスの誕生日の日につい我慢出来なくなって、会いに行こうと思った。
482
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:50:19 ID:c74JLiP.0
('、`*川『デミタス様、まだ来ちゃ駄目ですよ。びっくりしました』
(´・_ゝ・`)『ペニサス、ペニサスだ。何してるの、一緒に帰ろうよ」』
('、`*川『デミタス様、ちゃんとした使用人の方を雇ってください。適当なものしか食べてなくて心配になります』
(´・_ゝ・`)『嫌だ、また人が僕から離れていくのを見たくない。僕はペニサスだけで良い』
('ー`*川『大丈夫、きっと貴方が見た事も無いような、そんな人が来てくれますから』
('ー`*川『幸せになってください、デミタス様』
(´・_ゝ・`)『ペニサス、ペニサス。ごめん、僕は君を幸せに出来なくて』
('ー`*川『 私は 』
.
483
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:51:08 ID:c74JLiP.0
(´・_ゝ・`)「ペニサス?ペニサス!」
夢を見た。
久しぶりに彼女の顔を見た。
まだ駄目だと怒っていて、最後はなんて言ったのかわからなかった。
(´・_ゝ・`)「…まだ駄目、か」
プッツリ切れてしまった紐を見つめながら、ただただ泣いた。
ペニサスが亡くなって初めて泣いた。
『まだ』駄目なら、彼女がもういいと言ってくれるまで生きるしかない。
.
484
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:51:58 ID:c74JLiP.0
++++
(´・_ゝ・`)「どうせ来るはず無いと思って張り紙をした、その次の日に君が尋ねて来て驚いたよ」
(゚、゚トソン「……」
(´・_ゝ・`)「なんていうか……トソン君は殺しても死ななそうな、返り討ちにしそうな感じに見えたから、もしかしたら大丈夫かなって雇ったんだ。…ごめん」
(´・_ゝ・`)「君が見つけたのは、ペニサスが最後に書いてたものかな。僕も探したけど見つけられなかった」
(゚、゚トソン「キッチンの棚にありましたよ」
(´・_ゝ・`)「はは、彼女らしいところにしまってたんだね」
小さく息を吐く。真っ直ぐ目を見た。
(´・_ゝ・`)「…結局僕は誰も幸せに出来なかったし、幸せになっちゃいけない人間なんだ」
(´・_ゝ・`)「君が羨ましかった。幸せになりたいと素直に言える君が」
(゚、゚トソン
485
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:52:30 ID:c74JLiP.0
(´・_ゝ・`)「さっきも言ったけど、トソン君は自分とお酒以外に興味がないように思ってた。
でも君、実は人やものに興味もあるし、変だし、欲深そうに見えるのに物をあげたら素直に喜ぶし、行動力もあるし、態度も大きくて使用人としてはどうなんだって思うこともあるけど」
(゚、゚トソン「喧嘩をお売りで?」
(´・_ゝ・`)「このまま働いて欲しいって思うようになってたんだ、いつのまにか」
(´・_ゝ・`)「だから、話をしたら辞めていっちゃうんじゃないかって思って怖くなった」
(゚、゚トソン「……」
(´・_ゝ・`)「辞めちゃうなら、一度部屋にこもって1ヶ月くらい心の準備しようかと…」
(゚、゚トソン「そんなに引きこもるつもりだったんです?良かった早めにケリ入れて」
(´・_ゝ・`)「…話はこれでおしまい。1ヶ月の心の準備は出来なかったけど、またこのキャロットケーキも食べられたし僕はもう満足だよ。トソン君が嫌なら辞めても良い。好きにして良いよ」
(゚、゚トソン「……」
486
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:53:26 ID:c74JLiP.0
(゚、゚トソン(長かった ほんとに話 長かった)
季語無しの一句を読んでしまうくらいに、主人の話は長かった。
当たり前だ、この人の半生なのだから。
長い話でもつまらないとか、途中で嫌になったりしなかったのは、この人の話だからだ。
その話を聞いて嫌だと思わなかったのは、つまりそれが答えなんじゃなかろうか。
カラカラになった口を開く。
自分がどう生きてきたか話して、人が離れてしまうかもと不安に思う気持ちはこれでもかというくらいわかる。
今の長い話を、小さく震えながら話してくれた主人に私が言える事。
言いたいこと。
487
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:54:01 ID:c74JLiP.0
(゚、゚トソン「私も自慢じゃないですが周りの人を不幸にする人間でした。だから、人が離れていく怖さもなんとなくわかります」
(゚、゚トソン「でも、1人。たった1人の人が私を許してくれて、私を好きだと言ってくれた。私に幸せになってと言ってくれた」
(゚、゚トソン「…私は」
(゚、゚トソン「私は、人に何かを頂いた時、嬉しくて幸せだと思います」
(゚、゚トソン「美味しいお酒と、美味しい食べ物でペアリングしてる時はすごく幸せです」
(゚、゚トソン「私が作ったものを、誰かが美味しいと言って食べてくれたら幸せで……だから、主人が美味しいと言うたびに嬉しかった」
488
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:54:40 ID:c74JLiP.0
主人が誰も幸せに出来ない?
じゃあ私はなんなのだ。
(゚、゚トソン「誰も幸せに出来ないなんてそんなはずがないんです、」
(゚、゚トソン「わたしは」
(゚、゚トソン「私はここで働いて、幸せです。幸せをたくさんもらってるんです、主人から。幸せになってたんです」
主人が幸せになっちゃいけない?
そんなはずがない。だってあんなにも色んな人が心配しているんだから。
私は幸せになれた。だから、次は
(゚、゚トソン「いいですか、主人が一人で幸せになれないーなんて弱気なら、」
(゚、゚トソン「私が!主人を幸せにしてみせます!!」
489
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:55:12 ID:c74JLiP.0
(´・_ゝ・`)
(゚、゚トソン「だからワイン開けていいですか!」
(´・_ゝ・`)「えっあっ、はい」
(゚、゚トソン「キャロットケーキもう一切れいりますか?」
(´・_ゝ・`)「はい」
(゚、゚トソン「美味しいですか?」
(´・_ゝ・`)「うん」
(゚、゚トソン「はい、私幸せです。主人は?」
(´・_ゝ・`)「…ふふ、ははは。」
(´・_ゝ・`)「幸せだね」
(゚、゚トソン「はい!!」
490
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:55:46 ID:c74JLiP.0
無理矢理だと思う。
無理矢理だけれど、この甘ちゃんのくせにどこか意固地頑固で変に偏屈な主人には
私のような雑で大胆で無理矢理な人間を合わせてもいいと思った。
色んなお菓子とお酒でペアリングを楽しむように。
.
491
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:56:17 ID:c74JLiP.0
(゚、゚トソン「私、明日からもここで働きますんで」
ワインを注ぐ心地の良い音に負けないように宣言した。
震えそうになる手をぎゅっと握る。
目があった主人がいつにも増して眉を優しく垂れ下げていた。
(´・_ゝ・`)「……うん、お願いしたいな」
(゚、゚トソン「よろしくお願いします」
(´・_ゝ・`)「うん、よろしく」
492
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:56:56 ID:c74JLiP.0
冷めたキャロットケーキも、赤白混ぜ込んだような綺麗なロゼワインも美味しかった。
隣で主人が笑う。
さっきの、プロポーズみたいだったね、と。
では素敵なペアリングを用意しないとですね、と言って2人で笑った。
.
493
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 22:58:46 ID:c74JLiP.0
本日の投下は以上になります。
デミタスの話が長すぎてエラーが出て驚きました、こんなことは初めてです。
ありがとうございました。
次回最終話になります。
よろしくお願いします。
.
494
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 23:07:16 ID:pBjrTKuI0
乙乙乙
495
:
名無しさん
:2021/03/02(火) 23:21:49 ID:Ic9IoLi60
最高!
496
:
名無しさん
:2021/03/03(水) 13:29:35 ID:YX0na0Qw0
おつ!
最終話か〜早いな
ニュッくんのいた頃の話は出てくるのかな
497
:
名無しさん
:2021/03/03(水) 18:12:08 ID:kdt3e/7c0
ああああああああ!!!!!!
としか言えない
悶える
498
:
名無しさん
:2021/03/08(月) 21:45:32 ID:lNGBrG6Q0
おつおつ
終わってしまうのか…!!
499
:
名無しさん
:2021/03/11(木) 02:52:31 ID:265pEJ8U0
うあああああ乙!!とうとうペアリング(輪っか)が回収されてグッときた
終わるのは辛いがそれ以上に楽しみ!!
500
:
名無しさん
:2021/03/21(日) 04:02:18 ID:eHpqgSm60
ふと見たら初投下3年前なのか…
完結まで持ってきてくれて本当にありがとう
501
:
名無しさん
:2021/05/26(水) 23:58:32 ID:QGYuqPd.0
ほとんど一気読みした、今まで読んでなかったのが不思議なぐらい引き込まれた
寂しいのにあたたかくて大好き、最終回待ってる
502
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:15:30 ID:cSRVm2D60
主人と和解(?)して何日か経った。
「良いことがあった次の日は大体怖い」等と意味不明なことを言うため、クリスマスは私も主人も外に出ないようにした。
元々イベント事が得意ではない私は良かったが、イベント大好きおじさんは「はしゃぎ足りないね」と若ぶったことを言うのだった。
(゚、゚トソン(ふむ)
そこで私はある提案をした。
(゚、゚トソン「……というのはいかがでしょうか?」
(´・_ゝ・`)「良いと思う…というのも向こうが良ければだけど」
かくして今日、クリスマスのリベンジが行われようとしているのだ。
.
503
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:16:36 ID:cSRVm2D60
最終話:アーモンドクリームに幸あれ
.
504
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:17:12 ID:cSRVm2D60
(´・_ゝ・`)デミタス。おかしな菓子好き。主人。
(゚、゚トソン トソン。ふざけた酒好き。使用人。
.
505
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:18:04 ID:cSRVm2D60
(;´・_ゝ・`)「ああ〜なんかソワソワしてきちゃった、僕大丈夫?変じゃない?何してれば良いかな」
主人は朝からずっとソワソワしていた。
私も少し浮ついた気持ちがあったけど、いい歳した人間の落ち着かない様子を見て冷静になっていた。
(゚、゚トソン「大丈夫です、主人はいつも変ですよ。好きなことしていてください」
(;´・_ゝ・`)「じゃあ掃除でもしてようかな…」
(゚、゚トソン「いつものツッコミがないくらい調子悪い人に掃除してもらいたくないですよ…大人しく座っててくださいね」
(;´・_ゝ・`)「ええ…」
仕事も手につかないんだよ、とごちゃごちゃうるさい主人を無理矢理自室に押し込む。
私は私でやらなきゃいけないことがあるのでキッチンに向かった。
(゚、゚トソン「先日はあんなに部屋から出そうとしてたというのに…可笑しなものですね」
.
506
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:18:36 ID:cSRVm2D60
さてと。
気合いを入れるために腕まくりをして、わりかし寒いなと戻す。
代わりに両方の頬をパチンと叩いた。
(゚、゚トソン「今日作るものは過去一やることが多いです。なので真面目に作ってみましょうかね」
ゞ(゚、゚トソン カチャカチャ
”∩(゚、゚トソン グワシグワシ
(-、-;トソン「…イヤ……っ!!沈黙に耐えられない…っ!」
(゚、゚トソン「誰が聞いているわけでもないので張り切ってふざけながら真面目に作りましょう」
.
507
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:19:15 ID:cSRVm2D60
〆(゚、゚トソン「まずは毎度お馴染み、まぜまぜ☆トソンちゃん〜混ぜ☆トソします」
"⊂(゚、゚トソン「バターをざっと混ぜて、卵を様子見ながら少しずーつシャッシャッ、グラニュー糖さんも少しずーつ入れます」
廿(゚、゚トソン「あらかじめ淹れておいたアールグレイの紅茶です」
廿≠(゚、゚トソン「これとグランマニエを混ぜて入れます。これラム酒にしても良いです。あー良い匂いだなぁ〜」
…(゚、゚トソン「そして!アーモンドプードル氏の登場!です!」
…(゚、゚トソン「アーモンドプードルって名前が可愛いですよね、わかるかな。アーモンドサイズのプードル絶対可愛いですよ、ポケットで飼いたい」
(゚、゚トソン「要のクリームダマンドが出来ました」
(゚、゚トソン「クレームダマンド?クリーム?クレーム?おダマンなさい!」
508
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:19:57 ID:cSRVm2D60
(゚、゚トソン「ここでパイ生地が必要になります。料理番組なら出来上がった生地が出てくるところですが…これは現実なのでそんなに甘く…甘くな…」
[]⊂(゚、゚ドン「甘いんです、今日は特別に」
(゚、゚トソン「昨夜作っておいたパイ生地です。料理番組のようなことしてみたかったんですよね」
(゚、゚トソン「このパイ生地にクレーーームダマンドを搾ります、ギュッギュッギュ…」
(゚、゚トソン「そして秘密兵器をぐりぐりして…」
(゚、゚トソン「ぐりぐりとぐらぐりぐりぐり」
(゚、゚トソン「もう一枚のパイ生地を重ねて、卵を塗って一度冷やします」
冷蔵庫に物を閉まって一息つく。
(゚、゚;トソン「……私としたことが、やる事の多さにあまりふざけられませんでしたね…」
509
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:20:36 ID:cSRVm2D60
広い広いキッチンを見渡す。
このキッチンで料理をするようになってから、この屋敷で働くようになってから、半年以上が経っていた。
ここに来たばかりの頃はこんな気持ちで働くことになるとは思いもしなかった。
あんな主人におやつを作って、働いたお金でお酒を楽しんで、ただ幸せだと思うような──そんな生活を送れるようになるとは。
棚の奥から小さなノートを取り出す。
あれ以来中を読むことはなかった。主人も読みたいとは言わなかった。
主人のためにお菓子を作っていた、彼女のことを想像する。
(-、-トソン「………」
(゚、゚トソン「私をここで働かせてくれてありがとうございます」
誰でもない、彼女が私をここに連れてきてくれたのだと、先日の主人の話を聞いて思った。
私に幸せをくれた1人だ。
小さなノートを撫でる。
ありがとうございます。もう一度呟いて、作業を再開した。
510
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:21:24 ID:cSRVm2D60
冷やしたパイ生地を冷蔵庫から取り出して、専用のナイフで模様をつけていく。
これを失敗すると悲しいので頑張るけれど、美術センスというものがない自分には酷な仕事ではなかろうか。
(゚、゚トソン「…主人にやって貰えばよかったかな…いやでもそうすると驚きがなくなるし…」
パイ生地は常温で溶けてきてしまうので、フルスピードで模様をつける。
←⊂(゚、゚トソン「ぅ唸れ私の右手ぇぇ!!」
←⊂(゚、゚トソン『くぅん!』
(゚、゚トソン「ヨシ!なんとなくそれっぽくできた!」
(゚、゚トソン「オーブンでブンしますよ!!」
511
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:22:06 ID:cSRVm2D60
鉄板の上にそうっと乗せてオーブンに入れる。
パイ生地がオーブンの中で膨らんでいく様が好きだった。
オーブンからの熱が感じられる近さで、魔法のように膨らむ様子を見てすごいね膨らんできたねとはしゃいで、今美味しくなっているのよと母が笑う。
その時間が好きだった。
(゚、゚トソン「懐かしい匂い…」
母が毎年焼いてくれていたこれを、自分一人で作る日が来るとは思わなかった。
何を思いながら作ってくれていたのか、今なら何となくわかる気がする。
(゚、゚トソン(一人で作れたよ、お母さん)
(゚、゚トソン「……おっといけない、センチメンタルじゃーねー。味がしょっぱくなってしまいますね」
.
512
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:22:47 ID:cSRVm2D60
リンゴーーーン
チャイムの音が聞こえ、胸が高鳴る。
この屋敷はチャイムの音すら厳かなので、普段その用途がほぼ宅配便なのが申し訳なかった。
けれど今日は違う。
れっきとした『お客様』が来るのだ。
(゚、゚トソン「はぁーい!!今行きまーす!!」
過去一大きな声で返事をしたが、この広さと壁の厚さのせいで聞こえてなかったら困る。
風の如く走るためにスカートを持ち上げ、そしてふと気付く。
(゚、゚トソン「あ。あなたにも来ていただきたいのです」
小さなノートを、忘れないように大事にポケットに入れてダッシュした。
.
513
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:23:32 ID:cSRVm2D60
(゚、゚トソン「いらっしゃ──……なんだ…」
ドアを開けてそこにいたのは、期待していたどの顔とも違ったので思わず声が低くなった。
(;^ν^)「何だってなんだよ!?よ、呼んだよな?呼ばれたよな、俺」
種も仕掛けもありはしない、雑魚師弟がそこにいた。
(゚、゚トソン「えーえー呼びました呼びました、主人がどうしてもって言うので仕方なーく」
(;^ν^)「し、しかたなくなのか?えっ帰ったほうがいい?えっ?」
(;´・_ゝ・`)「いじめないでよトソンくん」
チャイムの音が聞こえたからと主人も玄関まで来たようだった。
急いできたのか、少し息が切れている。
( ^ν^)
( ;ν;)ブワ
(゚、゚トソン「あー泣ーかせた泣ーかせた!主人くんが雑魚くん泣ーかせたー!」
(;´・_ゝ・`)「え?僕なの?トソンくんじゃなくて?」
514
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:24:17 ID:cSRVm2D60
( ;ν;)「デッデミダズざま…!おっ、おびざじぶりでず…!!おげんぎでじだが…」
(´・_ゝ・`)「あ。ああ…うん」
(´・_ゝ・`)「そう、そうだね。そうだったね。久しぶり、韮塚くんも元気かな。…ごめんね、色々」
( ;ν;)「デミダズざまがげんぎならいいんでず…」
(゚、゚トソン「…」
突然泣き出した雑魚の背中を、主人がトントンと優しく叩いている。
子どもをあやす様な大人の仕草だけれど、主人も泣きそうな子どものような顔をしていた。
(´・_ゝ・`)「あの時、何も話さず解雇通知とお金だけ送ってごめんね」
( ;ν;)「…良い、です…今こうして話せることが嬉しいから…」
(´・_ゝ・`)「…ありがとう」
515
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:24:55 ID:cSRVm2D60
( ;ν;)ズビー
ζ(゚、゚*ζ「大丈夫?ハンカチどうぞ」
( ;ν;)「あ、ありがとう……」
( ;ν;)
(;ν; )
(^ν^ )
( ^ν^)
( ^ν^)「!???」
(゚、゚*トソン「おっわっう、い、いらっしゃいませシンデレラちゃん!!!」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、おじゃましますトゥインクルちゃん!」
.
516
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:26:35 ID:cSRVm2D60
++++++
数日前のこと。
主人にある提案をした日の夜のこと。
こっそり屋敷を抜け出した。行きたい場所が、会いたい人がいた。
(゚、゚トソン「寒すぎる」
吐き出す息が白い。鼻も指も冷たくなっている。
クリスマスも終わって、街の景色が正月モードに変わっている最中だった。
目的地までの道を足が覚えていた。店は終わりの時間。大体の人間はそのまま家に帰ったりなんだりしているが、彼女は店の裏を掃除している。そういう子だった。
"∬ζ(゚ー゚*ζ"
(゚、゚トソン(やっぱりいた)
(゚、゚トソン「…シンデレラちゃん」
ζ(゚、゚*ζ「!」
ζ(゚、゚*ζ「トゥインクルちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃんだ!!」
顔を見た瞬間、冷たくなった鼻が熱くなった気がした。
目が合った彼女が一瞬呆けた顔をして、満面の笑みに変わったのを見て鼻だけじゃなく目も熱くなった。
話したいことはたくさんある。言わなきゃいけないことも。
けれど言葉が口から出てこない。シンデレラちゃんはそれを責めたりせず静かに私が話すのを待ってくれた。
517
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:27:21 ID:cSRVm2D60
(゚、゚トソン「本を」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
"(⊃、⊂トソン「……本を返しに、きました」
(゚、;⊂トソン「幸せになったら返しにきてと、言ってもらった本です」
ζ(゚ー゚*ζ「うん…うん」
(゚、゚トソン「ずっと借りたままで、待たせてしまってすみません」
ζ(゚ー゚*ζ「好きな人との約束は、待つ事も楽しいの。だから全然大丈夫」
シンデレラちゃんが私の手を握った。
彼女の手も冷たかった。
ζ(゚ー゚*ζ「トゥインクルちゃん、今、幸せ?」
(゚、゚トソン「…」
(;-;トソン「はい、すごく」
ζ(^ー^*ζ「良かった!」
そのあと少しだけお互いのことを話した。
そして今日のことを伝えた。
私が今働いている所に来て欲しいと。
彼女はもちろん!とそれはそれはいい笑顔で返事をしてくれたのだった。
+++++
518
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:28:03 ID:cSRVm2D60
(;^ν^)「いいいい言っておいてよそういうさぁぁぁぁあでもありがとうございますありがとう!!」
(゚、゚トソン「言ったら言ったで緊張するかなと…」
(;^ν^)「それはそう!!!」
ζ(゚ー゚*ζ「韮塚さんこんにちは!韮塚さんもトゥインクルちゃんと仲良しだったんだね」
(゚、゚トソン「……」
(;^ν^)「……」
(´・_ゝ・`)「…」
仲良しか仲良しじゃないか聞かれたら仲良しなんかではないと即答するものだが、相手はシンデレラちゃんなので迂闊なことを言えず2人して黙ってしまった。
主人はそんな私たちを見て何か言いたげな目をしていた。
.
519
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:28:48 ID:cSRVm2D60
°+.ζ(゚ー゚*ζ.°+.。「それにしてもトゥインクルちゃんすごいね!お城で働いてるんだね!」
シンデレラちゃんがキラキラした瞳をさらに煌めかせてこちらを見てくる。
私の鼻はニョキニョキと伸びに伸びた。私が豚だったらスカイツリーも登る勢いだっただろう。
(゚、゚トソン「いえいえそんなそんなお城だなんて…」
ζ(゚ー゚*ζ「玄関から凄いね」
(゚、゚トソン「あ、シンデレラちゃんそこ段差になってるから気をつけて…」
ζ(゚、゚;ζ「えっ、きゃ…」
(´・_ゝ・`)「おっと」
ζ(゚、゚;ζ「わ」
(゚、゚トソン「!」
520
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:29:39 ID:cSRVm2D60
段差で足を滑らせたシンデレラちゃんを主人の腕がキャッチした。
待ってください、それ私がやりたかった!
(´・_ゝ・`)「大丈夫?ここ危ないよね」
ζ(゚、゚;ζ「あ、ありがとうございます…」
(´・_ゝ・`)「そろそろ中に入ろうかみんな」
主人がどうぞどうぞとドアを開ける。
呆気にとられた顔をしているシンデレラちゃんのもとに駆け寄った。
(゚、゚トソン「大丈夫ですか?シンデレラちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「あ…」
(゚、゚トソン「あ?」
ζ(゚、゚;ζ「あの人はもしかして…お城に住んでる王子様……?」
(゚、゚;トソン「いえあれは面白スンドゥブおじ様ですよ!?」
(;^ν^)「スンドゥブ関係なくね!?」
(;´・_ゝ・`)「なんかよくわからない悪口言われてる!?」
521
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:30:09 ID:cSRVm2D60
( ・∀・)「やあ随分賑やかだね」
(゚、゚トソン「あ」
(#゚;;-゚)ペコ
声がする方を見ると蛯沢夫妻がいた。
でぃ様が会釈をしたのを見て、赤べこのように何度もお辞儀をした。
(´・_ゝ・`)「でぃさん」
(#゚;;-゚)「坊ちゃん……」
主人から連絡しますかと最初提案してみたけど、電話をかけるまでに1日唸りながら電話を持っては置いてを繰り返していた。
かけるかけると言いながら、びびりの主人じゃ埒があかないと私が連絡をした。
(#゚;;-゚)「少し、太りました?甘いものだけじゃなくてお野菜もちゃんと食べてますか?」
(´・_ゝ・`)「…食べてるよ、ちゃんとね」
(#゚;;-゚)「ふふ、良かった」
522
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:30:46 ID:cSRVm2D60
(゚、゚トソン「でぃ様いらっしゃいませ、先日は本当にありがとうございました…」
(#゚;;-゚)「こちらこそ、今日も…」
( ・∀・)「やー、積もる話もあるだろうみんな!さ、中に入ろう。外は寒いからね!」
(#゚;;-゚)「貴方のお家じゃないでしょう…」
(゚、゚トソン「あ、案内しますのでどうぞこちらへ!」
本日のお客様が全員揃った。
不恰好ながら屋敷の主人と使用人が客人を部屋へと案内する。
席についてもらっている間にキッチンへ行き、オーブンを見る。
ちょうど焼き上がっていた。
(゚、゚トソン「良い匂いです」
そのまま部屋へ慎重に運ぶ。落としたりなんだりしたらもう反省会どころではないので、それはもう慎重に。
523
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:31:20 ID:cSRVm2D60
(゚、゚トソン「おお…テーブルがテーブルしている…」
いつもは主人しか使っていない馬鹿長いテーブルだが、人数がいればちょうど良い長さだった。
こんなに人数がいるこの屋敷を初めて見る。
私を含めて6人、とあと1人。
主人の隣にあのノートを置く。
(´・_ゝ・`)「これ…」
(゚、゚トソン「一緒にいてほしいと思いまして」
(´・_ゝ・`)「……うん」
ノートの上に主人が静かに手を置いた。手を繋いでいるように、見えた。
これで全員。
.
524
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:31:54 ID:cSRVm2D60
(;^ν^)「えっと、ちなみに、今日のこの集まりってなんの会、ですか…お正月の集まり?」
雑魚が端っこの席で小さくなっている。
シンデレラちゃんの隣に座ればいいのに、なぜか一つ席を空けていた。
(´・_ゝ・`)「えっと、今日は……なんて言えばいいのトソンくんこれ」
(゚、゚トソン「そ、そうですね…何かちゃんとした集まりという訳ではなく…私の好きな人と主人の好きな人を呼んで美味しい物を食べませんか?っていう…計画でして…」
( ・∀・)「それは呼ばれて光栄だね!ありがとう」
(゚、゚トソン「こちらこそ、遠いのに来てくださってありがとうございます。本当は主人引きずってでもそちらに連れて行かなきゃでしたのに…」
(#゚;;-゚)「それはまた今度いらっしゃいね」
(´・_ゝ・`)「僕引きずられるの?」
.
525
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:33:19 ID:cSRVm2D60
(゚、゚トソン「というわけで、本日のおやつはガレット・デ・ロワです」
パイ生地を下手に割らないように切り分ける。
頑張って付けた『太陽』の模様も、切り分けたらあまり分からないんだなと少しだけ悲しみながらナイフを入れた。
(゚、゚トソン「詳しい説明はググググって頂くとして、簡単に説明しますと中に小さなフェーブという陶器が入ってます。フェーブ入りのパイを食べた方は1年幸せに過ごせると言われているんだそうです」
ζ(゚ー゚*ζ「美味しそう〜!」
(゚、゚トソン「フェーブは先日まで陶芸家のお仕事をされていた主人に作ってもらいました」
(´・_ゝ・`)「え?あれってそういうのだったの?でも…」
(゚、゚トソン「はい!切り分けたのでどうぞ皆様温かいうちにお召し上がりください!」
( ^ν^)「?」
( ・∀・)「ワクワクするね」
(#゚;;-゚)「美味しそう、いただきます」
(゚、゚トソン「ほら、主人も」
(´・_ゝ・`)「…いただきます」
526
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:33:53 ID:cSRVm2D60
みんながフォークで切り分けている所をじっと見てしまう。
主人1人に食べてもらうのとはまた違って、大勢の人に食べてもらうというのは初めての事だったのでドキドキしていた。
カチャリカチャリと食器の音がたくさんする。
( ・∀・)「美味しいね」
(#゚;;-゚)「ええ、本当」
ζ(゚ー゚*ζ「美味しい!」
(*^ν^)"モグモグモグモグ
(*´・_ゝ・`)「美味しい…」
(゚、゚トソン「…良かった」
心の底から安堵する。そこでやっと私も椅子に座った。
527
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:34:36 ID:cSRVm2D60
( ・∀・)「あ、これがフェーブかな?」
( ^ν^)「え?俺のにも入ってる…」
ζ(゚ー゚*ζ「可愛いー!」
(#゚;;-゚)「あら、もしかして…?」
何回目か、フォークをパイに刺したところでフェーブが顔を出す。
幸せの象徴。
私の小さな悪戯。
皆さんが嬉しそうな顔をしているのを見て大満足だった。
私も昔、母に同じことをしてもらった。
(゚、゚トソン「幸せになるのが1人だけ、じゃなくてもいいでしょう」
(´・_ゝ・`)「なんかたくさん作るの頼まれたと思ったんだ…君も結構サプライズが好きだね」
本来フェーブはひとつだが、今回は人数分主人に作ってもらっていた。
その時点で主人にバレてしまわないかとドキドキした。
(゚ー゚トソン「びっくり〜、しました?」
(´・_ゝ・`)「びっくり〜したよ」
.
528
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:35:14 ID:cSRVm2D60
私も一緒にガレット・デ・ロワを楽しむ。
本当なら今日は正月休みなので、休日出勤扱いなのだ。
おやつを作って、客人を招いたので本日の業務は終了。
(゚、゚トソン「いただきます」
フォークをパイに刺すと、サクリ、軽い音がした。
アーモンドクリームの柔らかい生地を切り分けて口へ運ぶ。
香ばしい匂いの中にふわっと紅茶の香りが混じっている。
パイのサクサク感と中のしっとりした食感が楽しい。
(゚、゚トソン「うん、美味しい」
(*´・_ゝ・`)「紅茶風味だよね、本当に美味しいよ」
(゚、゚トソン「それは良かった」
私の独り言に主人が反応する。
(´・_ゝ・`)「紅茶味といえばトソンくんが夏に作ってくれたかき氷も紅茶だったね、あれも美味しかったなぁ」
(゚、゚トソン「そう言えばそうでしたね。今年も夏になったら作りましょうか。次はかき氷器買って」
もはや懐かしい。あの頃はかき氷なんて面倒なものを作らせるなと思っていたが、今はもっと面倒なものばかり作らされている。
困ったことに、それが楽しいのだ。
529
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:35:51 ID:cSRVm2D60
(´・_ゝ・`)「ありがとう」
ふいに主人が礼を言った。
(´・_ゝ・`)「…君が来なかったら…こんな…みんなで食事するなんて出来なかったよ。なんてお礼をしたらいいか…」
真面目な顔でそう言うものだから面を食らってしまう。
(゚、゚トソン「そんな主人、お礼だなんて……」
礼を言うのはこちらの方だった。
♩⊂(゚、゚トソン「主人のお金でたっかいシャンパン買ったから良いんですよ」
(´・_ゝ・`)「君本当大物だね」
( ^ν^)「あっお買い上げありがとうございます!」
.
530
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:36:43 ID:cSRVm2D60
私としたことが、最高のおやつを出したくせに最高のお酒を出し忘れてしまっていた。
思い出させてくれてありがとう主人。
コルクを飛ばさないように気をつけてシャンパンの栓を開ける。
(゚、゚トソン「さー!皆さんシャンパン注ぎますね!これが良いペアリングになるんですよ」
(#゚;;-゚)「ペアリング?」
(゚、゚トソン「ペアリングっていうのはですね…」
.
531
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:37:51 ID:cSRVm2D60
たくさん話して、たくさん笑って。
美味しいものを好きな人たちと食べて飲んだ。
それだけで幸せだ。
換気のために開けた窓から風が入ってきて、ノートがパラパラと捲れた。
ありがとうと聞こえた気がした。もしかしたら私が言ったのかもしれない。
お酒が美味しくて、おやつが美味しくて。
誰が誰に言ったかわからないけど、別に良いかと思うくらい、今日もまた、良いペアリングでした。
fin
532
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 04:44:18 ID:cSRVm2D60
以上でペアリング終了になります。
沢山の感想を頂けたこと、
長い期間投下できなかった際温かいお言葉を頂けたこと、
イラストや再現動画を作って頂けたこと、
全てが活力となりました。皆様のおかげです、本当にありがとうございました。
本編は終了ですが、そのうちフラッと番外編を投下するかもしれません。気長に待って頂けたら幸いです。
それでは、ありがとうございました。
.
533
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 06:47:18 ID:u5pWH5Wg0
乙!
ほんわか暖かくて良いハッピーエンドだった
どのお菓子も美味しそうで読んでて楽しかったよ
534
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 13:32:26 ID:UW2o1DnY0
乙乙!
この作品本当に好きで最終話まで読めて嬉しい。
毎回出てくるおやつがおいしそうで、あとトソンのひとり言が面白かった!
535
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 14:53:14 ID:jvGYfR/E0
乙!オーブンでブンって言うの癖になっちゃった
ほんわか甘くてあたたかい話で良かった
536
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 15:16:29 ID:/UPuiLno0
乙です!
537
:
名無しさん
:2022/01/02(日) 21:41:18 ID:a2njU6NI0
otsu
538
:
名無しさん
:2022/01/03(月) 00:29:25 ID:MTb2733U0
完結ありがとうありがとう
雑魚のそれからとか期待します
539
:
名無しさん
:2022/01/03(月) 14:15:37 ID:lj5KFwe20
乙 めっちゃ素晴らしい
540
:
名無しさん
:2022/01/05(水) 12:58:32 ID:ZczN8P160
本で手元に残したい位好きな物語だった!乙!
541
:
名無しさん
:2022/01/06(木) 11:05:13 ID:Q.h0QwJs0
おつおつ!
お菓子も美味しそうだしストーリーも笑えてほっこりできて最高だったよ!完結ありがとう!
542
:
名無しさん
:2022/01/06(木) 19:39:35 ID:TbU/K8hU0
乙
543
:
名無しさん
:2022/01/08(土) 23:07:07 ID:cM2szJtA0
この作品に出会えてよかった
乙
544
:
名無しさん
:2022/01/10(月) 13:17:39 ID:SqnGGyZI0
更新の度に楽しく読ませてもらいました
完結乙です
545
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:07:12 ID:ih9wDYqM0
例えるならそう、オムライスのような人だった。
.
546
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:09:47 ID:ih9wDYqM0
番外編
(´・_ゝ・`)デミタス。主人。デミグラスソースみたいな名前だけどケチャップ派
(゚、゚トソン トソン。使用人。二度と食べられない母親の作ったデミグラスソース派
.
547
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:10:19 ID:ih9wDYqM0
カレンダーに目をやる。
ため息をつく。
カレンダーを見る。
深いため息をつく。
(´・_ゝ・`)「……」
(´-_ゝ-`)「………」
もう何度目かわからなくなってしまった無駄なため息に、ため息をつきたくなる。
(´・_ゝ・`)(こうしてたって何もならないのにな)
548
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:11:03 ID:ih9wDYqM0
<ドンドドドン
(´・_ゝ・`)「…はあい」
雑なノック音が聞こえ返事をする。
ゆっくり開いたドアから女性の顔がニョッと入ってきて少し面を食らった。
(゚、゚||「主人、本日のランチはオムライスで良いです?」
(´・_ゝ・`)「オムライス、良いね。食べたいな」
彼女はこの家の使用人であるトソンくん。
普通のちゃんとした使用人なら、顔だけじゃなくきちんと部屋に入ってくるだろうけど、彼女は『普通』や『ちゃんとする』、ましてや『きちんと』なんて言葉は全くもって似合わない。
トソンくんがこの屋敷に勤め始めてもうすぐ一年になる。最近は僕も慣れてきたので、何か言うことはなかった。
.
549
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:11:36 ID:ih9wDYqM0
(゚、゚トソン「じゃ、すぐに作りますね」
ドアが閉められる寸前で椅子から腰を上げる。
なんぞや、とトソンくんが小さく呟いた。
(´・_ゝ・`)「作ってるとこ見てても良い?」
(゚、゚トソン「普通に嫌ですけど、雇用主には逆らえません。どうぞ」
気にせず歩き出したトソンくんについて部屋を出た。
こういったことを包み隠さず言ってのけるのは果たして美点なのだろうか。
雇用主とは、使用人とは。そういったことを深々考えそうになり頭を振った。
(;´・_ゝ・`)「嫌なんだ」
(゚、゚トソン「気が散るというか嫌じゃないです?鶴の恩返しの鶴だって見られるの嫌がってたじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「あれは正体がバレるのが嫌だったんじゃなかった?……ハッもしやトソンくんも料理中はアルコール星人に戻るから見られるのを嫌がって…?」
て(゚、゚トソン「バレたなら仕方ない、アルコール星人、指からアルコール消毒液出す 主人、消す」
(´・_ゝ・`)「怖すぎる」
550
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:12:17 ID:ih9wDYqM0
軽口を叩きながらキッチンへと向かう。
僕は産まれた時からこの家に住んでいるけど、キッチンの中に入ったのはほんの数回しかない。
子どもの頃は近寄らないよう言われていたし、大人になってからも進んで入ろうとは思わなかった。一度進んで入った時、特大の実態を犯したのも理由の一つかもしれない。
ここは僕が好きだった人が好きだった場所だけれど、彼女がいなくなった後は物を捨てた時と、トソンくんが倒れていた時に入ったきりだ。
.
551
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:13:06 ID:ih9wDYqM0
(´・_ゝ・`)「……」
(゚、゚トソン「入らないんですか?」
入口の前で立ち止まった僕を、変なものでも見るような目でトソンくんが見ていた。
(´・_ゝ・`)「入って良いのかな」
(゚、゚トソン「入口に立ってる人に見られながら料理するの、怖いんですけど」
(´・_ゝ・`)「トソンくんにも怖いものがあるんだ。……僕も入るのがちょっと怖い」
(゚、゚トソン「結界が張ってあって怖いとか?」
(´・_ゝ・`)「そうかも」
.
552
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:14:03 ID:ih9wDYqM0
戯けてそう言ってみた。
トソンくんは少し考えるような素振りをした後、変な動きをしだした。
(゚、゚トソン「仕方ない…」
て(゚、゚トソン「ヤー!」
(゚、゚トソン「アルコール消毒ビームで結界を破りました、もう大丈夫ですよ」
トソンくんは変な人だ。
でもその変具合に助かってきたことはたくさんある。
今だって、こんな子供騙しみたいなことで助かってしまった。
ひょいと軽くなった気がする足を上げてキッチンに入る。
(´・_ゝ・`)「頼もしい」
.
553
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:14:54 ID:ih9wDYqM0
(゚、゚トソン「その椅子に座って待っててください、すぐ出来ますから」
彼女が指を差した先にはキッチンに似つかわしくない椅子があった。
というかバーみたいなスペースがあるんだけど、キッチンだよねここ。
前に入った時、こんなのなかった気がするんだけど、どういう事なの。
(´・_ゝ・`)「僕この椅子とカウンター知らない」
(゚、゚トソン「エーワタシガクルマエカラコウナッテマシタヨ〜」
アルコール星人の侵略が進んでいるようだった。別に好きにしてくれて構わないけど、それにしたってクオリティーが高くて驚いてしまう。
わざとらしい口笛を吹きながら、トソンくんは料理の準備をしだした。
.
554
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:15:38 ID:ih9wDYqM0
(゚、゚トソン「見てて楽しいです?」
(´・_ゝ・`)「出来ない人間からすると、料理してるところって魔法みたいで楽しいよ」
(゚、゚トソン「…それはなんとなくわかります…私も小さい頃母の料理姿を見るのが好きでした」
可愛かった頃もあるんだねと言おうとしてやめた。
野菜を切る音が心地良かったから。
トントントントントトトトト
(´・_ゝ・`)(包丁さばきすごいなあ)
僕はわりかし何でも作ることが出来たけど、料理の腕は無かった。
(´・_ゝ・`)(……そういえばあの時作ったのもオムライスだったな)
.
555
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:16:14 ID:ih9wDYqM0
+++
好きな人と結婚してしばらく経った頃、使用人を全員解雇したことがあった。
新しい人を雇う前に、妻のペニサスと2人で生活した期間がある。
(´・_ゝ・`)「今日のランチ、僕が作ってみても良い?」
('、`*川「せっかく取れたお休みの日なのに、ゆっくりしなくて良いんですか?」
(´・_ゝ・`)+「作ってみたいんだ」
('ー`*川「…じゃあお願いします」
今まで家のことを何一つやったことがなかった僕は、掃除洗濯などの家事が一通り出来て調子に乗っていた。
料理も簡単に出来るだろうと高を括っていたのだ。
結果を話すと、散々だった。
.
556
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:16:45 ID:ih9wDYqM0
('ー`*川「すごい!イカ墨のお料理ですか?」
(´・_ゝ・`)「…ううん、オムライス」
卵できれいに包んであるオムライスを作ろうとして惨敗した。
ご飯はべちょべちょで、野菜は半生の状態。
チキンライスと呼ぶのは烏滸がましい物体に。
卵は破れてしまい奮闘しているうちに炭になった。
('ー`*川「……坊ちゃんは食べる専門でお願いしますね」
(´∩_ゝ⊂`)「料理って難しいんだね…味付けの仕方もわからないし卵も破けて難しかったよ…」
何かを失敗するのは初めてだった。
へこんでいる僕の横でペニサスは手際良く料理を始めた。
('、`*川「味付けはだんだん慣れてきますよ…誰かのために作ると、余計に」
(´・_ゝ・`)「……」
557
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:17:22 ID:ih9wDYqM0
トントン、ジャッジャッ、コン、カカカカ、
目まぐるしい速さでペニサスの手が動く。
あっという間にチキンライスが出来ていた。
(´・_ゝ・`)(魔法みたいだ)
('、`*川「卵もね、破けちゃったらいっそシャシャシャーってすれば」
身を乗り出してフライパンの中を見てみる。
菜箸でかき混ぜられた卵がいい具合に固まって、皿の上のチキンライスに優しく乗った。
('ー`*川「はい、ふわとろオムライスの出来上がりです」
(*´・_ゝ・`)「すっごい、天才、僕の奥さんすごい」
('ー`*川「今褒めてもオムライスしか出せません。さ、いただきましょう」
オムライスのような人だった。
いつだって優しく包み込んでくれるような、そんな人だった。
+++
558
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:17:54 ID:ih9wDYqM0
(゚、゚トソン「主人」
完全にぼうっとしていた僕の目の前にトソンくんの顔があって思わず仰反る。
(´・_ゝ・`)「わあ」
(゚、゚トソン「びっくりするくらい見てませんでしたね」
作り終わりましたよ、と置かれたお皿には黄色が綺麗なオムライスが乗っていた。
(*´・_ゝ・`)「わー本当だ、美味しそうなオムライスができてる」
スプーンを取り出したトソンくんがウロウロしている。
リビングに運ぶかここで食べるか悩んでいるようだった。
559
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:18:54 ID:ih9wDYqM0
(゚、゚トソン「主人の好みを聞かずにふわふわ卵にしてしまいましたが大丈夫でした?」
(´・_ゝ・`)「僕ふわふわ卵のが好きだよ」
(゚、゚トソン「私もです、失敗しても誤魔化せますから」
(´・_ゝ・`)「、ははっ」
頭の中を覗かれたのかというくらいピンポイントなことを言われて思わず笑ってしまう。
(´・_ゝ・`)(……失敗したとしても)
(´・_ゝ・`)(誤魔化してくれる人がまたいるんだよなあ)
せっかくだからここで食べようと提案してみた。
温かいうちに早く食べたかったのもあるけど、このバーカウンターが気になっていたのもある。
(´・_ゝ・`)「…君も失敗したらしゃーってしてくれる人だったね」
(゚、゚トソン「何です?威嚇?」
560
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:19:48 ID:ih9wDYqM0
(´・_ゝ・`)「トソンくんにお願いがあるんだけど」
ケチャップを取ってきてくれたトソンくんに、持ちかけてみた。
(゚、゚トソン「何です?お金は貸しませんよ」
(´・_ゝ・`)「いらないよ……妻の、ペニサスのお墓参りに行くの、付き合ってくれないかな」
(´・_ゝ・`)「もうすぐ命日なんだ…一回も行けてなくて」
ずっと悩んでいたことだった。
葬儀の後、でぃさんが手配をしてくれたのに僕は一度も足を運ばなかったのだ。
561
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:21:36 ID:ih9wDYqM0
(゚、゚トソン「お墓も怖いですか?」
(´・_ゝ・`)「そうかも」
今度は戯けたわけではなく、本心だった。
行くのも見るのも、怖い。
ペニサスには逢いたいのに、それと向き合うのは怖かったのだ。
トソンくんはスッと人差し指を出して言った。
て(゚、゚トソン「結界などはアルコール消毒ビームで壊してやりましょう」
(´・_ゝ・`)「……それは頼もしい」
お墓にビームを撃つのは些か心配だったが、力強い返事だった。
1人じゃないからきっと大丈夫。
そう、思えるくらいにはなったらしい。
(´・_ゝ・`)「…安心したら急にお腹が空いてきた」
(゚、゚トソン「どうぞ、召し上がれ」
(*´・_ゝ・`)「いただきます」
ケチャップで描いてもらった絵は怖すぎて、笑いながら食べたオムライスはとても美味しかった。
fin.
562
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:23:54 ID:ih9wDYqM0
以上です。
ペアリングしてない番外編でした。
次は雑魚が主役の番外編を書けたら良いなと思っています。思うのはただです。
ありがとうございました。
.
563
:
名無しさん
:2022/05/14(土) 22:35:38 ID:PmDIslOQ0
乙
雑魚編もたのしみ!
564
:
名無しさん
:2022/05/15(日) 06:33:49 ID:6jzH2UKI0
乙!
トソンのこういうとこ良いよね
565
:
名無しさん
:2022/05/15(日) 08:13:24 ID:IkFvCV7.0
オツ
566
:
名無しさん
:2022/05/16(月) 21:33:52 ID:Exwr1sk60
乙!
どうしてこんなにも美味しそうなんだろう!オムライス食べたくなってきた
567
:
名無しさん
:2022/05/16(月) 22:14:04 ID:XAICc3oY0
乙!番外編助かる
568
:
名無しさん
:2022/05/17(火) 22:37:03 ID:P4zxVJv20
アルコール消毒液は飲んじゃダメだからなトソン
569
:
名無しさん
:2022/07/10(日) 19:53:50 ID:3ZBj0nsI0
たのしみー
570
:
名無しさん
:2023/06/23(金) 12:54:06 ID:C1D/6W2s0
あーあーあー!完結してるぅぅ!
気が付かず申し訳ないです、、!
先程拝読しました!
とってもとっても面白かったです!
みんな幸せで嬉しいです!
作者様に届きますように!
571
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:49:45 ID:mZA/AUjk0
幸せを高く高く積み上げたら、もっと幸せになれそうな気が、しませんか
.
572
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:51:35 ID:mZA/AUjk0
(´・_ゝ・`)デミタス。金持ち。甘いものが好き。
(゚、゚トソン トソン。使用人。お酒が大好き。
.
573
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:52:23 ID:MwdLQxj60
しえん
574
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:52:29 ID:mZA/AUjk0
「おかあさん、これ膨らまなかったあ」
「あら、じゃあもう一度やってみる?」
(-、-トソン
(゚、-トソン
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「…夢」
夢というのは往々にしてその人間の深層心理を映すものだと言うが、私の夢は何を映しているのだろう。
(゚、゚トソン「…ふう」
数年前までは考えられなかった、ふかふかなベッドから身を起こして溜息をつく。
また今日も嫌な夢を見た。
最近続く、夢見の悪さは度数の高いお酒では消すことができなかった。
眠れてはいるので仕事にも支障はないが、あまりに続くようなら眠れなくなってもおかしくはない。
(゚、゚トソン「そうなったらモーニングコール専門の副業でもしましょうか...」
(゚、゚トソン「…いや電話持ってないから無理か」
575
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:53:05 ID:mZA/AUjk0
く、とこぶしに力を入れ、突き上げる。 えいえいおーの体勢から伸びをした。
起きて準備をしなくては。
私の、仕事の。
顔を洗って着替えを済ませ、キッチンへと足を運ぶ。
私が働くでかいでかい屋敷の中の、一番気に入っている場所だ。
(゚、゚トソン「おはようございます」
誰もいないがつい挨拶をしてしまう。
この屋敷には訳あって使用人の私と、もう一人の人間しかいない。
住み込みで私がやるべきなのは掃除と家事、それから──
ボタンを押すだけでコーヒーが出来る機械は偉大である。私でも美味しいコーヒーを淹れることが出来るのだから。
最初の一杯を自分の朝ごはんにする。
576
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:53:30 ID:f7im.dXQ0
久しぶり!
支援
577
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:53:39 ID:OKcoQH/s0
初リアタイ嬉しい!支援!
578
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:53:43 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「……今日の朝ご飯、 昨日から仕込んでいたフレンチトーストの予定ですがこれ今日のおやつにしてもよかったのでは?」
今更気づいても遅い。
それにあの菓子狂いがそんな誤魔化しで満足するわけがないのだ。
(゚、゚トソン「作りますか」
フライパンにバターを落とし、じゅうじゅういい音がし始めたところでミルクと卵液にたっぷり漬け込んだトーストを入れる。
(゚、゚トソン「いい匂いです」
ほんのり焦げ目がついたそれをお皿に移して、 冷蔵庫から切っておいたフルーツを取り出した。飲み物やカトラリーとまとめて台に乗せて運ぶ。
ダイニングへ向かいながら、幾分か慣れて来たはずの廊下に対して、ぼんやり長いなと思った。
579
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:54:20 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「広い家の何が不便って、キッチンとダイニングがかけ離れているところですかねえ。運ぶ間に料理が冷めそうです」
(´・_ゝ・`)「近かったらトソンくん、大々的にキッチンで酒盛りできないでしょ」
背後からひょっこり現れた人間の言葉はほんの少しだけ、聞き捨てならなかった。
私はどこであっても酒盛り出来るぞと、言いかけてやめた。
(゚、゚トソン「本日はお早いですね主人」
(´・_ゝ・`)「うん、いい匂いがしてきたから自然と足が動いたよ、おはよう」
(゚、゚トソン「おはようございます、流石は菓子狂い」
(´・_ゝ・`)「菓子狂い……酒狂いには言われたくないなあ」
このたれ眉のしょんもり顔が、この屋敷のもう一人の住人であり私の雇用主であり、 お金持ちの主人、 盛岡デミタスだ。
私の仕事は、掃除と家事とそれから、この主人に菓子を作ること。
580
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:55:04 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「一応答えはわかっていますが聞きますね、主人今日のおやつこのフレンチトーストでもいいです(´・_ゝ・`)「だめ」だと思いました!即答畜生!」
ニッコリ笑って否定される。おやつはおやつの時間に食べるからこそおやつなのであって朝食はおやつとはまた別問題なのだと、おやつのゲシュタルト崩壊を起こす文句を言われた。
(゚、゚トソン「とはいえ主人も30代半ばでしょう、もう少し健康に気を遣って甘味減らしたら如何です?」
(´・_ゝ・`)「トソンくんも20代半ばでしょう、もう少し健康に気を遣ってお酒減らしたらどう?」
(゚、゚トソン「ドロー!!ほら早く温かいうちに召し上がってくださいよ」
(´・_ゝ・`)「はーい、いただきます」
581
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:55:41 ID:mZA/AUjk0
私と主人は似ているところなどほとんど無いが、欲に忠実なところは似ていた。
健康のために我慢が出来ないタイプの人間なので、お互い年齢を引き出されると痛いのだ。
引き分けという事にしてその話題を無理矢理終わらせる。
席についた主人の前に、出来立てのフレンチトーストとメープルシロップが入ったディスペンサーを置く。コーヒーにミルクを入れる間に、主人がたぷたぷとメープルシロップをかけていた。
カチャリ、ナイフで切り込みを入れている。粉砂糖をかけ忘れたが、あれだけメープルシロップをかけるのなら丁度良かったかもしれないと、たっぷり染み込んだ生地を口に入れるのを見て思った。
(*´・_ゝ・`)「うん、美味しい。カリカリしてるとことふわふわなとこがあるね、僕これ好きだなあ」
(゚、゚トソン「良かったです」
垂れ眉を更に下げて満足そうな顔をする主人を見て、ふふんと鼻を鳴らした。
582
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:56:20 ID:mZA/AUjk0
(´・_ゝ・`)「ところでさトソンくん、何か悩みでもあるの?」
この後は洗濯をして庭の手入れでもしようかと、考えていた時だった。
何口目かのフレンチトーストを咀嚼し終えた主人が、こともなげにそんな事を言うので思わずじっとり目を合わせてしまう。
(゚、゚トソン「デミタスのデはデリカシー無男のデですか?」
(´・_ゝ・`)「ひどい悪口を言う・・じゃあトソンくんのトは何?」
(゚、゚トソン「とにかく美しいトソンのト」
(´・_ゝ・`)「ずるい」
(゚、゚トソン「言ったもん勝ちですよ」
(´・_ゝ・`)「……何もないなら良いんだけど、目の下の隈が凄いことになってるから」
(゚、゚トソン「申し訳ないです、私、隈まで美しいから目立ってしまうのですね…」
(´・_ゝ・`)「それ何に謝ってるの?美意識?」
583
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:57:00 ID:mZA/AUjk0
主人は優しい人だった。
そうでなくても奥様を病気で亡くされているから、人の体調には敏感なのかもしれない。
確かに最近は隈が出来ていた。昼寝もしてる筈だけれど、睡眠が浅いようだ。
心配そうにこちらを見る主人に、これ以上悪態をつくのも仕方ないので観念する。
(゚、゚トソン「いや、本当に大丈夫です。ちょっと最近夢見が悪いだけで」
(´・_ゝ・`)「それ結構な原因だと思うよ」
(゚、゚トソン「うーん…………まあお気遣いだけありがたく貰っておきます」
何かあったら教えてねと、主人が言う。
口の端をキュッと上げるだけに留めて、お茶を濁した。
(゚、゚トソン(……本当に、主人にできることはないんですよね)
何故なら悩みの原因は判明していて、それが主人本人なのだから。
584
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:57:39 ID:mZA/AUjk0
──事の発端は、以前屋敷に勤めていて今は実家が営む酒屋のバイトをしており生意気にもキャバ通いをしている雑魚、通称雑魚が発した言葉だった。
……
…
585
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:58:18 ID:mZA/AUjk0
( ^ν^)「そういやもうすぐデミタス様の誕生日だよな。誕生日会とかやるならハブんないでください」
買い物帰りにこの酒屋に寄るのがルーチン化していた。品揃えが良い。ただ一つ文句があるとしたら、たまにバイトが絡んでくるぐらいだ。
本日の酒は何にしようかとルンルン気分で選んでいた私に、雑魚は雷を落とした。
(゚、゚トソン「は?」
(;^ν^)「すみませんナマ言いました、俺も参加したいです祝いたいです!」
思わず低い声を出してしまった私に何を勘違いしたのか、慌てた様子で言い直している。違う、そういう意味で聞き返したわけじゃない。
(゚、゚トソン「いや、いやいやいやいや、待て待って……主人って誕生日あるんですか?」
(;^ν^)「アンタ雇用主をなんだと思ってんだ」
(゚、゚トソン「いや私勤めて3年目に突入しましたが一度もそういう話題出なかったので…てっきり金持ちって誕生日無いんだとばかり」
586
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:58:57 ID:mZA/AUjk0
真剣な話、本当に話題に出なかったのだ。
歳だって正確なものは知らない。恐らく30代位だろうという、それだけの薄らとした情報しか知らない。別に知らなくても困らなかったから。
そう告げれば雑魚はしばし考えた様子になり、そして口を開いた。
(;^ν^)「あー……もしかしたら乗り越えられてないのかもしれない」
(゚、゚トソン「乗り越える?」
( ^ν^)「デミタス様の誕生日って…」
…
……
587
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 21:59:36 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン(聞くんじゃ無かったよなあ…)
食べ終えた主人の食器を台に乗せてまたキッチンへと戻りながら数日前のやり取りを思い返して、ため息をついた。
私の自然遺産ばりの息が惜しげもなく吐き出されるこの数日、悩んで悩んで悩み疲れている。
どうにかしてほしいとは思うが、その理由の原因の元凶に話してしまったら何もかもが台無しになるとわかっているので、主人に話せるわけがないのだった。
雑魚の話を聞いて一番に思ったのが、先程も言った通り『聞かなきゃ良かった』だ。
まず誕生日というものは厄介だ。
聞いてしまったら、耳にしてしまったら、何かしら祝わないとソワソワしてしまうのだ。
知ってるのに何もしなかったら、その日一日中「あー誕生日だと知っていたのに何もしなかった…」と謎の罪悪感に苛まれるのだ。
588
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:00:12 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン(私の傲慢さを舐めないでほしい)
相手が何も気にしないかもしれなくても、私が嫌だという理由でおめでとうを言いたいだけ。ありがとうのかつあげ、いやこれは強盗レベルの野蛮さだ。
但しこれは諸刃の剣でもある。
大体のおめでとうは返される。私はそれが嫌だった。
誕生日を祝わないのは心苦しいくせに、祝われるのは嫌いだった。傲慢極まりない。
(-〜-トソン(そもそも、主人が誕生日の話を持ち出さないのがおかしいんですよ)
誕生日なんて甘いものを合法的に摂取できる日だというのに、あのイベント大好き甘いもの中毒おじさんが自己申告を3年もしてこなかったというのは、やはり、つまり、雑魚が言っていた説が正しいのかもしれない。
589
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:00:51 ID:mZA/AUjk0
( ^ν^)『──結婚記念日なんだって。同じ日にしたら喜びが2倍で良いだろうって奥様が言って、そうしたんだって、聞いたんだ』
.
590
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:02:03 ID:mZA/AUjk0
主人はなんでも出来る器用な人間だけれど、奥様のこととなると屋敷のものを燃やしたり引き篭ったりする不器用な人間でもあった。
お墓参りにすらようやく最近行けるようになって来たのだから、結婚記念日と同じ日の誕生日が辛い思い出である可能性は無くはない。
私がそうであるように、主人もそうなのではないだろうかと思うと、迂闊にお祝いなんて出来るわけがなかった。
(゚、゚トソン「……」
∩(゚、゚#トソン「んむぁむむむなががが」
考えれば考えるほど、頭から火が出そうになる。
祝うのかい、祝わないのかい、どーっちだい!
(゚、゚トソン「パワー!!」
(゚、゚トソン「むしゃくしゃしたときはお酒を飲むに限ります、今日はお高いお酒開けちゃおうかな!?とっておきのお酒……」
591
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:02:48 ID:mZA/AUjk0
(──じゃあさ、じゃあさ!)
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「……そう言えば、そうでした」
はしゃぐ可愛らしい声を、思い出した。そうだ、あの時も一緒にお酒を…。
私はいつも、何かしらの優しさに助けられていた。
592
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:04:02 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「……うん、やりますか。ありがとうの強盗」
私は傲慢で、強欲だった。これは主人のためではなく、私がやりたい事をしたいだけ。
(゚、゚トソン「パンが無ければケーキを食べれば、隈がひどいなら原因をごっそり消して仕舞えば良いのです。それがトソン流、美の秘訣です」
いざ、良質な睡眠を得る為に。
"\(゚、゚トソン「ヤー!」
593
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:04:44 ID:mZA/AUjk0
業務終了時間間際、手を挙げて主人を呼び止めた。
\(゚、゚トソン「有休ください。明日」
(´・_ゝ・`)「珍しいね、どこか行くの?」
(゚、゚トソン「キッチンに篭ります」
(;´・_ゝ・`)「えー……いや、まぁ良いけど、あんまり…どんちゃんしないでね」
(゚、゚トソン「決して覗かないでくださいね」
(´・_ゝ・`)「僕、最近鶴助けたっけ…」
これで準備は万全である。
594
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:06:16 ID:mZA/AUjk0
∩(゚、゚∩トソン「作ります、よーっ」
朝イチのこと。
久しぶりに掃除も洗濯も何もしなくて良い。ご飯だけは軽食を用意して主人に渡してあるので何も気にする必要はない。
桃より繊細な両頬をパァンと叩いて気合を入れてみる。これから作るものはそれだけ神経を使うのだ。
(゚、゚トソン「オーブンを200℃に予熱しておきます。これ、とても大事です」
(゚、゚トソン「小鍋に水とバターを…投入っ!とうっ!カリッとしてる方が都合が良いから牛乳と砂糖も入れますよ」
ヾ(゚、゚トソン「悩むけど薄力粉かなぁ…多分薄力粉で良いはず…木べらで混ぜます!マゼマゼトソン!」
ヾ(゚、゚トソン「生地がまとまってきました…こう、筋トレしてるような気持ちになってきますよね」
c- (゚、゚トソン「ふう」
カッカッカ≠(゚、゚トソン「溶き卵を少しずつ加えて……なんかこの瞬間が好きなんですけど、わかるかな…ある程度の硬さになるまで混ぜ合わせマッスル」
595
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:07:29 ID:mZA/AUjk0
▽(゚、゚トソン「絞り袋に入れて、にゅってします。こういう形を作る瞬間は苦手なんですけど、わかるかな…丸く絞って出して形を整えて…」
(゚、゚トソン「霧吹き!それが〜一番大事〜」
(゚、゚トソン「オーブンに!ブン!します!!はぁ…体力勝負やでぇ…」
(゚、゚トソン「オーブンの扉は絶対開けてはなりません、なりません…物語でそういうふうに言われると開けたくなりますよね、わかります。でも駄目です。温度を180℃に下げてまた焼きます」
素早く動く。いつもの三倍速。
やることが多すぎてふざけられない。
∀⊂(゚、゚トソン「クリームを作りますよ!小鍋に牛乳とバニラエッセンスを入れます」
バニラエッセンス→∀⊂(゚、゚トソン「…」
∀\(、゚トソン ペロッ
"(゚言゚トソン"「エンッ」
:(公トソン:「ゥオ…ゥベベ…」
(゚、;トソン「スンッ……バニラエッセンス、わかっていても絶対一度は舐めますよね、舐めますよね?」
(゚、゚トソン「はあ、恐ろしい罠…」
596
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:08:11 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「ボウルに卵黄を入れて〜砂糖を入れて〜
本当はお酒もちょっと入れたいけど…今日はシンプルに行きますか……お酒はあとで私が全部いただきます」
(゚、゚トソン「めっちゃ混ぜます。黄金の右腕を見せてやる!」
(゚、゚トソン「うおおおお」
(゚、゚トソン「粉を入れてさらに混ぜます。あー腕が、腕が辛い…樽酒より重い物は持てない細腕ですからね…お酒以外のものを持つと駄目なんですよね」
"(゚、゚トソン「お鍋に入れてからまた混ぜ混ぜタイム!」
(゚、゚トソン「お料理全般そうですけど、初めてお菓子を作り出した人は何を考えてずっと混ぜてたんでしょうかね…私は今何が出来るかわかってるからめげませんけど、確実に出来るもの知らずにずっと混ぜるのすごいと思います」
(゚、゚トソン「お、ぽこぽこしてきましたね……火を止めて、冷蔵庫に冷やしておきます」
(゚、゚トソン「そうこうしてる間にオーブンがまたブンしましたね、取り出して熱を冷ましておきましょう」
597
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:09:18 ID:mZA/AUjk0
ジャジャン$(゚、゚トソン「ここで真打登場!実は買いました、主人の金で!泡立て器くんですジャジーン!」
デュガガガガ$(゚、゚トソン「角を!立てるように立てるように!泡立て器くんって暴れ馬にみたいになって楽しいですね」
(゚、゚トソン「生クリームを混ぜて先程冷やしていたクリームと一緒にしてからまた混ぜます。明日私の腕マッスルマッスルしてたらどうしましょう、ノースリーブ着なきゃかな」
(゚、゚トソン「よし、あらかた出来ました」
(゚、゚トソン「……昔お母さんと作った時は全然出来なくて、何回も作り直したな…」
,(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「…いや、しんみりしてる場合ではナッスルです、まだまだやることはたくさんです!皮の中にクリームを詰めていきます」
⚪︎(゚、゚トソン「丸いものって可愛いですね、このままペットにしたいな」
(゚、゚トソン「よし、出来ました」
598
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:10:01 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「また小鍋に水とグラニュー糖、そして水あめを入れます」
(゚、゚トソン「小鍋が沢山ある屋敷で良かった。…いや洗い物のことを考えたらそうでもないのか?」
(゚、゚トソン「水あめって食べにくいけどワクワクするのはダイレクトに甘いからでしょうかね?辛口の酒のつまみに…はしにくいですね、やはり塩と砂糖がシンプルで一番素晴らしいおつまみです」
(゚、゚トソン「焦げないように…焦げないように…」
(゚、゚トソン「炊き込みご飯のおこげはあんなにありがたいのにどうして料理の焦げって厄介なんでしょうか…一度焦げたチョコを食べたことありますがあれはもうカカオ99%より絶望の味でしたね…」
(゚、゚トソン「キャラメル色になりました、OKです」
599
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:11:02 ID:mZA/AUjk0
一つ一つを大事に、丁寧に積み重ねていく。
(゚、゚トソン「……ほんとに、良いのかな」
(゚、゚トソン「……いやこれ見たら主人絶対喜ぶと思いますし…大丈夫と思わなくない…」
(゚、゚;トソン「…」
(゚、゚トソン(嫌だと言われたら素直に謝ろう)
.
600
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:11:29 ID:mZA/AUjk0
コンコン、主人の部屋のドアを軽くノックして開ける。
奇しくも15時。おやつの時間だった。
(´・_ゝ・`)「あれ、織物おれた?」
(゚、゚ツルン「誰が美しい鶴ですか。キッチンに来てもらっても?」
仕事がひと段落ついたところだと言う主人が、ひょこひょこ後を着いてくるのを見て、すこし胸とお腹が痛かった。
601
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:12:26 ID:mZA/AUjk0
(;*´・_ゝ・`)「うわーーあー!!!なあにこれすごシュークリーム??あっカメラ…!はっ!食事の写真撮りたがる若者の気持ちが今初めてわかったよ!」
(;*´・_ゝ・`)「これ倒れない?っていうか食べれるやつ?どちらにせよすごいね!?」
キッチンに入るや否や、年甲斐もなくはしゃぐ主人にバレないようガッツポーズをした。
予想以上の喜び具合に、頑張った甲斐があったなと早くも筋肉痛がきている腕を摩る。
主人の前には、沢山のシュークリームがタワーのように積み重ねられている。
重ねすぎてキッチンから出られなくなってしまったのはご愛嬌だ。
+(゚、゚トソン「ふっふっふ、なんとこれ全て食べられます」
(;*´・_ゝ・`)「す、凄すぎる…!!何かのお祝いみたいだね」
(゚、゚トソン「お祝いです」
(´・_ゝ・`)「えっ何の日?建国記念日だっけ?」
(゚、゚トソン「今日…主人のお誕生日と、それから奥様との結婚記念日のお祝い、です」
(´・_ゝ・`)「え」
私の言葉に、主人が固まる。
やはり、地雷だったのだろうか。目を見れなくて床を見ながら早口で話を続けた。
602
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:12:59 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「偶々ですが日にちを知ってしまったので、祝わないという選択肢がなかったんです。すみません、ありがとうの強盗です。いつも一応世話になっていますから、誕生日くらいはお祝いを…したかったんです」
(゚、゚トソン「でも主人がお誕生日を祝われるのが嫌ならその、もう一つの結婚記念日をお祝いすれば良いんじゃ無いかと思って、クロカンブッシュを、これクロカンブッシュという結婚式とかでもよく出るお菓子です」
(´・_ゝ・`)「そっか……なるほどね、それでずっと悩んでたんだねトソンくん」
主人がいつもの優しい声で喋り出した。
私はちらっと主人の顔を見て、相変わらずの下がり眉に今は少しだけホッとしたのだ。
603
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:13:37 ID:mZA/AUjk0
(゚、゚トソン「…」
(゚、゚トソン「私、私も誕生日、祝われるの好きではないんです。私も、大好きなおか…母と誕生日が同じで、昔は一緒にお祝いするのが大好きでした でも今はもう自分だけ歳をとって、お祝いなんてって」
昔働いていた所ではバースデーイベントがあった。
それは本当の誕生日ではない、店側に付けられた適当な日にちだったがそれでもやはり自分だけが祝われる事が哀しくて嫌だった。
稼ぐチャンスだと、自分に言い聞かせてもそれでもしんどい気持ちがあった時、一緒に働いていた天使シンデレラちゃんが朗らかな声で言ってくれたのだ。
ζ(゚ー゚*ζ『──じゃあさ、じゃあさ!トゥインクルちゃんのお母さんのお誕生日をお祝いしよ!』
ζ(^ヮ^*ζ『誕生日が同じ日なんてすっごく素敵だよ!そんな日にトゥインクルちゃんが悲しむより、楽しい気持ちの方が良いよ!』
目から鱗がぼろぼろ落ちた気分だった。
お母さんが亡くなった年から一度もお母さんを祝う事なんかしなかったから。
(゚、゚トソン「私それがすごく嬉しくて、祝ってくれる人がいることも悪いことではないんだって思えたから」
(゚、゚トソン「お祝いはしたかったのです」
604
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:14:17 ID:mZA/AUjk0
スカートの端を掴みながらぐだぐだと話すのを、主人は静かに聞いてくれた。
目が合い、ニコッと小さく笑われる。
(´・_ゝ・`)「ありがとう……沢山考えてくれて。……そしてごめんね、言いにくいんだけど…」
(゚、゚トソン「やはりお祝い嫌でしたか」
(´・_ゝ・`)「違う違う、あのね、僕の誕生日と結婚記念日は今日じゃないんだよ」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「え?」
605
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:14:55 ID:mZA/AUjk0
(´・_ゝ・`)「10日後の17日なんだ」
(゚、゚トソン「あ の く そ ざ こ」
今鏡を見たら流石の私も般若のようになっているだろう。
なんたる赤っ恥。ここまで悩んで、日にちが違うだなんて。
(´・_ゝ・`)「韮塚くんに聞いたんだ」
(゚、゚トソン「彼奴はもう雑魚と呼ぶことすら勿体ない…ザって呼びます、ザ」
(´・_ゝ・`)「6月ってことまでは覚えててくれたんだね。いやあ2人には気を遣ってもらって申し訳ない」
ニコニコ笑いながら主人がクロカンブッシュを彼方此方から眺めている。先程までの緊張が嘘のようにどうでも良くなってしまった。酒を、酒を飲んでしまいたい。
606
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:15:25 ID:mZA/AUjk0
(´・_ゝ・`)「祝われるのがいやと言うわけではなかったんだけど、やはりどうしても…30越した人間がわざわざ自分の誕生日祝ってくれ!って言えないじゃないか。ハッピーバースデーハラスメント…つまりハピハラになりそうだし」
(゚、゚トソン「カピバラみたく言わないでください。ていうかハロウィンとクリスマスはあんなにイベントさせてるくせに?!」
(´・_ゝ・`)「ああでもそうだね、うん。嬉しい。誕生日と結婚記念日祝うのも祝われるのも久しぶりだ。ありがとう」
(゚、゚トソン「……」
最近で一番でかい溜息を吐いた。
甘ったれ下がり眉毛の主人は本当に嬉しそうな顔をしていて、毒気を抜かれる。
607
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:16:16 ID:mZA/AUjk0
(´・_ゝ・`)「トソンくんの誕生日はいつ?」
(゚、゚トソン「私の誕生日は6月15日です」
(´・_ゝ・`)「近いね。……あのさ、僕もお祝いして良いかな。君と、君のお母様のお誕生日を」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「高いですよ」
(´・_ゝ・`)「祝い代が?」
(゚、゚トソン「酒代が」
(´・_ゝ・`)「どんと来いだね!」
ドヤ顔で返してくる主人に、絶対無茶苦茶お高い酒を買って貰おうと誓った。
608
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:18:40 ID:mZA/AUjk0
そんな事を考えて、隣にある高く積み上げられた幸せの象徴を思い出す。
日にちが早かったとしてもお祝いとして作った気持ちは変わらない。これだけ高くて、艶やかなシュークリームが惨めになる必要はこれっぽっちもないのだ。
主人に食器を手渡す。乱雑になってしまったのは照れ隠しなんかではない。
(゚、゚トソン「とりあえず、召し上がってください。私はまだ有休中なのでお酒飲みますからね」
(*´・_ゝ・`)「わーい!……どうやって食べるの?これ」
609
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:19:38 ID:mZA/AUjk0
キャラメルで固められたクロカンブッシュに四苦八苦する主人は、とても良いつまみになりそうだなと思いながら笑ってミード酒を注ぐ。
一番上のシュークリームをもぎ取って齧る。カスタードが優しい甘さで、ミード酒のふんわりとした蜂蜜の香りが丁度良いペアリングになった。
(*´・_ゝ・`)「美味しい」
(゚、゚トソン「それは良かった」
(´・_ゝ・`)「ふふ、これだけ高く積み上げられてると、すっごい良い日って気持ちになるね。ありがとう、トソンくん」
(゚、゚トソン「…どういたしまして」
(゚、゚トソン(主人と奥様と、お母さんと、それから…私もおめでとうございます)
(゚、゚トソン「……」
(゚ー゚トソン
久しぶりに、今夜は良く眠れそうだ。
fin
610
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:23:28 ID:mZA/AUjk0
番外編の投下は以上になります。
お久しぶりの方もはじめましての方もお読みいただきありがとうございます。
>>570
さん、届きました。ありがとうございます、嬉しかったです。
6月中に仕上げて投下する予定でしたが大幅にズレました。でも投下できて良かったです。
前回雑魚の番外編を書くと言ったな、あれは嘘じゃ
また次回書けたらいいなと思います、気長に気長にお待ちください。
ありがとうございました。
.
611
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:24:44 ID:mZA/AUjk0
しえんついてるの今気付きました!
ありがとうございました!
612
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:41:43 ID:CD6vNwzs0
おつおつお
613
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 22:41:51 ID:cbV2EK4A0
サクサク読めたわ、乙!
ブーン系、シュークリームブーム…?
614
:
名無しさん
:2023/07/19(水) 23:46:04 ID:r0rgkgr.0
たまたま久しぶりに見に来たら投下きてたー奇跡!
ほっこりしたおつ!!
615
:
名無しさん
:2023/07/20(木) 00:09:14 ID:rCqE.rk20
おつ!
番外編うれしい
616
:
名無しさん
:2023/07/20(木) 15:14:32 ID:vgOhG/LE0
乙
617
:
名無しさん
:2025/01/04(土) 12:17:55 ID:B52hw1NY0
シュトレンやガレットデロワを見かけるたび
この作品を思い出します
618
:
名無しさん
:2025/03/06(木) 23:47:48 ID:dlNntido0
久々に読み返した
酒と甘いもんが欲しい
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