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ここはパンドラの箱のようです
1
:
名無しさん
:2017/12/26(火) 21:30:42 ID:biYveSU.0
西暦2025年1月1日。
その日、全世界の人類の脳内に声が響く。
『掴み取れ。さすれば与えん』
或る者はボールペン、或る者は爪楊枝。
或る者は砂、或る者は生肉。
或る物はカーテン、或る物はただの布きれ。
また或る者はハンドガン、或る物は戦闘機の操縦桿。
全世界の人間が同時に選び、無作為にそれらを掴み取ったその時、再び声が響く。
『全てを守り抜け』
のちに「神託」と言われるその言葉をきっかけに、人は新たなる力を手に入れた。
パンドラの箱のようです
.
172
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:36:57 ID:Y/uADWMg0
(;@Д@)「こはッ!?」
男の肺の奥から空気が搾り出される。
意識の外からの一撃は一切の防御を許さず、男は全ての衝撃を漏れなく食らう。
激しく脈を打ち、生まれて初めての痛みを理解できていない。
(;@Д@)「げっほ……んな、何が……」
鉄の味の混じる咳に、男は暫く茫然としていた。
遅れて自身が何者かに投げ飛ばされた事を理解し、慌てて起き上がるとずれた眼鏡をかけ直す。
ぼやけていた視界が徐々に輪郭を取り戻し、自分を投げ飛ばした人物の姿を映し出していく。
ξ ⊿ )ξ
男を投げ飛ばした時の姿勢のまましゃがみ込んでいたツンが、ゆっくりと立ち上かった。
その背中に、男は更に驚愕する。
173
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:37:25 ID:Y/uADWMg0
(;@∀@)「お、女……?」
あまりに華奢な姿。
およそ平均的な女性のそれよりもすらりと伸びたその腕は、男性用のジャケットで隠れてこそいるが、それでも脆弱な印象が先立つ。
だがツンの放つ気配は、野生の豹の爪のように鋭利。
男の持つダガーナイフなど、まるでカッターナイフ同然であると思える程に。
それ程までに、圧倒的な『殺気』。
ツンの足元の、血の海の中で内藤が横たわっている。
彼女は僅かな間、その姿を無言で見つめていた。
男が気圧されつつもナイフを構え、その背中を狙う。
だが隙などどこにも無かった。
ツンは動こうとした男へ背中越しに声をかけ、釘を刺す。
ξ ⊿ )ξ「ねぇ」
(;@∀@)「あ……?」
174
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:37:49 ID:Y/uADWMg0
ξ ⊿ )ξ「今からあんたの事殺す気で行くけど、よろしくね」
口調と、その内容に反して平穏なその声は、言うならば事務的な無難さが込められている。
溢れんばかりの殺気と、反して平坦な声色。
それら二つの要素が矛盾した結果、男は意味をまるで理解できず、思わず問い返してしまった。
(;@∀@)「は?」
そして、それが逆鱗に触れたのだ。
ξ#゚`⊿ )ξ「ぶっ殺す気で行くから死なないように耐えろってんのよ!!」
――荒巻ツンの瞳は、赤く、赤く。
狂気に踊り、憤怒に狂う炎の如く燃えていた。
175
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:38:13 ID:Y/uADWMg0
ノパ⊿゚)
突然の闖入者に、ヒートは驚きと共に困惑を覚えていた。
自身を助けようと現れた警官と、自身よりも年下の男性を死の淵へと追い込み、それに対する諦めと後悔と絶望に呑まれかけていたまさにその時。
突如、見知らぬ女性がそれを消し飛ばすかのように現れたのだから、ある意味当然とも言える。
ツンの構えは素人のヒートが傍から見て取れる程明白に、凛と張り詰めている。
瞬き一つもしない瞳は赤く輝き、横顔にすら凡そ隙と言える物は存在しない。
例えるならば、鞘を構えた居合抜きの達人の如く。
燃える瞳に、侍のような威圧感を放つ女性。
さながら幻想のようなその姿に、ヒートは思わず自身の正気を疑いそうになる。
呆然とその姿を見つめていたヒートに、ツンは目もくれない。
だがその存在ははっきりと認識していた様子で、横目に一瞥をくれたその赤い瞳と視線がぶつかったのを、ヒートは見逃さなかった
ξ゚⊿ )ξ「すぐに、救急車を。可能な限りでも、止血を」
ノパ⊿゚)「え、あ……は」
平坦な声。そして唐突な指示。
それを即座に理解出来ず、ヒートはほんの少しだけ困惑してしまう。
だがそんな彼女に対しツンは即座に激を飛ばす。
ξ#゚⊿ )ξ「早くッ!」
ノハ;゚⊿゚)「はい!」
176
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:38:47 ID:Y/uADWMg0
その一喝でヒートの脳内の靄は晴れた。
彼女の目の前では、内藤が未だ昏倒している。
赤い水溜まりの中、青白い肌で、眠っていくように、衰弱していく。
ヒートはそんな非情な現実を見落としそうになってしまった自分に対して心底嫌気がさし、思わず涙を流しそうになる。
慌ててスマートフォンを取り出し、勢い余って取り落としそうになりつつも、どうにか119番へと電話をかけた。
一方、ツンは再び眼鏡男と向き合っていた。
彼女には少なからず格闘術の心得がある。
それこそ素人が相手であれば、相手が男性でも軽く勝る程度には。
だがしかし、それはあくまで互いが素手である場合の話だ。
相手が何かしらの武器を持っているとなれば当然話は変わってくる。
そして今という状況は、まさしくそれだった。
丸腰の女性と、刃物を持った男性。
一体どちらが有利であるかは言うまでもない。
刃物を持った人物相手に素手で挑むという状況の危うさは、そもそも性差に関係しない。
この状況はどれだけ武術に長けた達人であれ一瞬で命を落とす可能性がある。
たったの一撃で相手を絶命させ得る武器というのは、それだけ相手を制する力があるのだ。
177
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:39:10 ID:Y/uADWMg0
(;@∀@)「――っ」
ξ゚⊿ )ξ
だが。
それでも、今という現実において有利な立場を踏んでいるのは間違いなくツンの方であった。
赤く煌々と燃える瞳は、男を捉えて離さない。
何故か洗練されたデザインのスポーツカーを彷彿とさせるその姿にはあらゆる隙が見受けられず、男は動く事すら躊躇ってしまう。
ナイフ一本で有利に立つ事が出来るというのは、あくまで人間同士における話だ。
だが、大型の肉食獣を相手にした場合であれば当然話は変わってくる。
人の膂力で大型獣へと迫ろうというその考えは、間違いなく誤りなのだ。
無論、ツンは肉食獣でもなければ大型の獣でもない。
ただ格闘術の心得があるだけの、小柄な女性だ。
だが男はそう思えない。
その瞳が放つ赤い光は純粋な殺意の具現化であり、その構えは今にも獲物へ飛び掛かり首を食い千切らんとする捕食者の物。
理性ではない、本能。
捕食者の本能と、被捕食者の本能。
互いの本能が、互いの本能を刺激している。
178
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:39:38 ID:Y/uADWMg0
そして男の本能は言っている。
「今すぐ逃げろ」と、そう言っている。
間違いなく勝てない。
人が獣に対して優勢を確保する為に必要なのは、刃物ではない。
銃なのだ。
(;@Д@)「う、あ、あ……」
震える脚を必死に御しながら、男は後ずさる。
その場を離れようと必死に動く。
だが無論見逃す筈もない。
三ξ゚⊿ )ξ
ツンは一瞬で深く息を吸うのと同時に、後退する男を目掛けて一息に駆け寄る。
(-@Д@)「ひっ」
(;@Д@)「ヒィィーッ!ヒィーッ!
179
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:40:03 ID:Y/uADWMg0
男が背を向ける時間すらない。
守りを捨て、無防備に飛び掛かってくるツンを迎え撃つため、男は右手のナイフを我武者羅に振り回した。
ヒートは未だ繋がらない電話に苦戦しながら内藤の傷口を抑えていた。
だが男がナイフを振り回したのを見て、全力で叫ぶ。
ノハ;゚⊿゚)「駄目ッ!逃げてッ!」
無数の斬撃が、ツンを目掛けて無造作に飛び掛かる。
斬撃は人の目で捉える事は出来ない。
当然ヒートも同様だ。
だが、そのまま進めば、ツンが吹蓮と同じ運命を辿る羽目になる事を知っている。
だからこそ全力で叫んだ。
三ξ゚⊿ )ξ
だがツンは止まらない。
ヒートの言葉が聞こえていないのか、或いは――。
180
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:40:32 ID:Y/uADWMg0
(;@∀@)「ヒッ……ヒヒッ」
ナイフを振り回しながら男の口角が僅かに上がる。
何も知らないツンが、このまま八つ裂きになるであろう事は誰の目にも明らかだった。
それでも、ツンは止まらない。
ノハ;⊿;)「駄目ーッ!」
三ξ゚⊿ )ξ
ヒートの叫びも虚しく、ツンは男へと直進する。
それを好奇と言わんばかりに男は少しずつ冷静さを取り戻し、ナイフを振るう速度を速める。
風を切る音が徐々に増し、まるで鎌鼬のような甲高い音が響いた。
だが。
(-@∀@)「え」
181
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:40:56 ID:Y/uADWMg0
ゴッ
(-@∀(⊂
(@Д(#)三
砂利の上を転がっていたのは、眼鏡男の方だった。
182
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:41:30 ID:Y/uADWMg0
(-@Д(#)「カッ……コッ!?」
ノハ;⊿;)「……え?」
ξ゚⊿ )ξ
一体何が起こったのか理解できず、男とヒートは目を白黒させている。
唯一平然としているツンは、男を殴り飛ばした右手の調子を確かめるように、指を軽く開閉している。
(-@Д(#)「ごっ……のぉ!」
男は慌てて立ち上がる。
最早冷静さなど欠片も無く、無作為にツンへと迫りながら、見えない刃を最大まで伸ばし、振り回す。
ξ゚⊿ )ξ))
だが、通用しない。
ツンはその一切を、最低限の動きで回避していく。
無数の斬撃は雨粒のようにツンに縋りつくが、それでも掠りもしない。
機敏に一切の無駄なく、その滅茶苦茶な攻撃を回避し続ける。
見えない相手とステップを踏むように、阿吽の呼吸で手を取り合うように。
まるで、隣り合った死と踊るかのように。
まるで――内藤ホライゾンのように。
183
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:42:22 ID:Y/uADWMg0
ノハ;⊿;)「――嘘」
端から見ていたヒートには一切何が起こっているのか理解できず、ただ茫然とする他なかった。
内藤と同じ動き。
何より、内藤と同じように『見えて』いる事。
そして、誰よりもそれを信じられないのは、相対する眼鏡男自身だった。
(;@Д(#)「なんっ、なんっで!なんで!なんで!」
悲痛な叫び。
まるで哀れな犠牲者のように救いを求めるその声は、下手な皮肉に他ならない。
その声を無視しながら、ツンは確実に男へと迫っていった。
184
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:42:45 ID:Y/uADWMg0
ノハ;⊿;)「う」
ノハ;⊿;)「う、う……」
ノハ;⊿;)「ううううう……!」
ヒートは涙が止まらなかった。
自身よりも華奢な女性が、奇妙な武器を持った男と互角以上に渡り合っている。
その光景はまるで奇跡のようで、絶望を救う一筋の光に他ならない。
だが、それだけに。
同時に、言いようのない罪悪感がその心を圧し潰しそうになっていた。
目の前で血の海に沈む青年を助ける為の電話は、未だ繋がっていない。
何度かけ直そうとも電話は通じない。
流れ出る血液を必死に止める為に自身の服を破き、内藤の手足の根本を縛った。
それでも血は止まらない。
傷の確認の為に胸元をはだけさせる。
右胸に刺し傷が一つと、浅い切り傷が多数。
同様に全身の傷を確認していくが、特に大腿部の傷は深い。
傷口を必死に両手で抑えながら止血を試みるが、まるで意味があるとも思えない。
そもそも彼女は只の学生だ。
185
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:43:40 ID:Y/uADWMg0
医学部に通う医者の卵でもなければ、応急手当の心得がある訳でもない。
平穏な日常を謳歌していただけの、女性といえど未だ成人すらしていない、子供に過ぎない。
何もできない。
目の前で今まさに死にゆく人物に対し、何もする事が出来ない。
最初は警官が立ち向かい、犠牲になった。
優しそうな顔立ちの人物だった。
彼女を救う為に立ち向かい、そしてあっさりと殺された。
次は、彼女よりも年下の男性が立ち向かっていった。
彼は彼女を守り、そして深い傷を負い、目の前に横たわっている。
そして更に、今度はそんな彼女達を助ける為にもう一人。
それも女性が、今も尚、目の前で、たった一人で戦っている。
そんな状況で何も出来ず、何も救えず、ただただ無力を嘆いている。
自分のせいで生まれた状況に対し、自分という存在があまりに無力だと、絶望すらしていた。
186
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:44:09 ID:Y/uADWMg0
ノハ;⊿;)「……神様」
祈るような声。
ノハ;⊿;)「神様。この二人だけは――助けたい。生きてほしい」
祈るような声。
ノハ;⊿;)「私は――私は、どうなろうと、構わない。私は――このまま死んだっていい」
祈る声。
心の底からの祈り。
そこには建前も虚飾も、何もない。
ただ祈り、ただ望むだけの、ただひたすらに純粋な『思い』。
それだけだった。
ノハ;⊿;)「だから――」
ノハう- )
あふれ出る涙をぬぐい去る。
その瞳にはもはや怯えや惑いは存在しない。
深く息を吸い込み、心の奥から搾り出すように。
187
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:45:07 ID:Y/uADWMg0
ノパ⊿゚)「――私に。私に、この二人の為の――」
それは彼女の懐中、破けた巫女服の中にあった。
最初からずっとそこにあったのだ。
実際の所、それはただの”切っ掛け”に過ぎなかった。
最初からそれはそこにあり、最初から『そう』あった。
ノハ;゚⊿゚)「……あ、あれ?何か……」
ヒートは、自身の胸元にある違和感を抱く。
それは熱だ。
巫女服の懐で、何かが『熱』を放っていた。
慌てて手を入れて取り出すと、それはお守りだった。
彼女が『神託』の際に掴んだ『お守り』が、炭のように熱く、そして燃えるように輝いていたのだ。
.
188
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:45:56 ID:Y/uADWMg0
ノハ;゚⊿゚)「わっ、ちょわぁっ!?」
ヒートは驚きのあまり、思わずお守りを取り落としてしまう。
赤熱するそれは目の前の内藤の胸の上に落ち、慌てて拾い上げようと手を伸ばした。
ノハ; ⊿ )「ううぅっ!?」
だが、指先がお守りに触れた瞬間、激しい痛みが胸元に走る。
慌てて手を引き戻すと激痛は嘘のように消え去り、慌てて自身の胸元に触れて確認するが傷は一切無い。
混乱しながら内藤の体に視線を戻した時、彼女は信じられない物を見てしまった。
ノハ;゚⊿ )
ノハ;゚⊿ )「嘘」
ノハ;゚⊿゚)「傷が、治ってる」
右胸の刺し傷と、多数の切り傷。
痛々しく、深く、そして生々しく刻み込まれていたはずの、それらの傷は跡形も無く消え去っていた。
189
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:46:17 ID:Y/uADWMg0
そして。
それらの傷があった位置は、ヒートが痛みを感じたのと、全く同じ位置だった
ノハ;゚⊿゚)
すぐにヒートは察する。
彼女の『無病息災のお守り』が、内藤の胸の傷を異常な力で『治した』事を。
そして、代償として『その痛みを肩代わりする必要がある』事を。
それは凄まじい痛みだった。
胸を刺され、切り裂かれる痛みなのだから、当然ではある。
しかしそれらが全て同時に、それも痛みの詳細すら判別可能な程、明確に襲い掛かったのだから、それは想像を絶するものであったとしか言いようがない。
内藤の命を救う為の、一筋の光明。
だがそれはヒートにとってあまりに大きな苦痛を、代償を伴う。
救いがあるとすれば、同じ傷を負うわけでは無いという事。
190
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:46:44 ID:Y/uADWMg0
だがその痛みは本物だ。
内藤の負った致命傷を、全て自身が請け負う事にも等しい。
::ノハli ⊿ )::
その事実に、ヒートは震えが止まらない。
痛みと恐怖、救いたいと思う心。
それらを無意識に秤にかけてしまう。
内藤を救う為には、自分自身を贄とする他にない。
かといって自分を犠牲に捧げた所で、既におびただしい量の血を流している内藤が助かるという保証もない。
――だが。
だが、それでも。
ノハli ⊿ )
ノハli゚⊿゚)
::つ::
彼女は、震える手を伸ばし、『お守り』を握りしめた。
191
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:47:38 ID:Y/uADWMg0
ノハli゚⊿゚)「あっ!?うっ……ううぅぅぅぅウウゥゥ!!」
今度は両腕。
男の見えない刃でズタズタに切り裂かれた内藤の両腕が、まるで逆再生のように治癒していく。
血まみれの腕からは一切の生傷が消え去り、トレーナーの切れ目から健全な肌が除いていた。
流れ出た血液だけがその肌を不釣り合いに赤く染めている。
だがそれは、それだけの傷に伴う痛みをヒートが請け負っているという事。
絶叫を押し殺そうと、巫女服の袖元を噛み締めながら必死に耐える。
それでも漏れ出る呻き声が、その苦しみを物語っていた。
だが、それでもその手は離さない。
地獄のような責め苦。
報われるかも不明な行為。
それでも、彼女は絶対に手を離さなかった。
ノハ# ⊿ )「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
それがヒートの戦いなのだから。
.
192
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:48:29 ID:Y/uADWMg0
ξ゚⊿ )ξ「!」
(;@∀(#)
ツンは男を徐々に追い詰めつつあった。
背後で突如としてヒートが絶叫し、ツンは一瞬気をとられる。
それは眼鏡男も同様であったが、ここに来て初めてツンが隙らしい隙を見せたのを見逃さない。
慌てて右手のナイフを構えながら即座に突進する。
それはまるで終電に駆け込もうと必死な姿のようだった。
無防備にチャンスへと食いついた男を待ち受けていたのは、無慈悲な迎撃。
ξ゚⊿ )ξ,,
(;@Д(#)「お゛っ!?」
あろう事か、ツンはナイフを見ずに回避する。
勢い良く空振りした男は無防備な背中をツンに晒し、慌てて振り向こうとするが、間に合わない。
そのまま背中を押されるように、一発、二発、次々と拳を叩きこまれていく。
完全に足運びを狂わされる。
更に足元には吹蓮の遺体が転がっていた事で、それを無理に避けようとした結果、男は幼児のように容易に転んでしまった。
193
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:48:57 ID:Y/uADWMg0
(;@Д(#)「ペッ!ペェッ!クソッ……クソッ……!」
口に入った吹蓮の血を吐き出しながら悪態をつく。
男の背後からは、ゆっくりと近寄ってくる足音が一つ。
ξ゚⊿ )ξ「足音。呼吸音。ナイフの風切音――」
ξ゚⊿ )ξ「そして殺気。はっきり言うわ。アンタが相手なら、私は目を瞑ってても死なない」
(;@Д(#)
それは絶対的な壁だった。
男は、一体自分が何を相手にしているのか。
最早それすら分からなくなっていた。
ξ゚⊿ )ξ「降参しなさい。アンタが殺した、その人の為にも」
(-@Д(#),,
ツンは、吹蓮の遺体を指し示しながら説得する。
だが実際のところ、それは説得などという生易しいものとはかけ離れている。
降伏か、死か。
そんな二択に他ならない。
194
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:49:36 ID:Y/uADWMg0
男は、どうあがいてもツンに勝てないという事実を理解しつつ、その遺体を眺めていた。
(-@Д(#)
(-@Д(#)「分かった……お前には勝てない」
そう言うと、男は無造作にナイフを放り投げた。
見えない刃が吹蓮の遺体を掠めてから飛び、その刃を軸にしてツンの目の前の地面に突き立つ。
ナイフははたから見れば空に浮くような状態であったが、やがて力なく落下した。
ツンはそれを男が絶対に拾う事が出来ぬよう、更に遠くへと放り投げる。
(-@Д(#)「降参させてくれ……罪は、償うよ……」
ξ゚⊿ )ξ
そう言うと、男は吹蓮の遺体の横へ、力なく跪いた。
俯きながらその場へ首を垂れ、力なく両手をついている。
ツンは訝しげにその様子を見つめていたが、事実、男から戦意は感じない。
だがそれと同時に、その表情からはおよそ心境らしきものは読み取れない。
195
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:49:57 ID:Y/uADWMg0
(-@Д(#)「手錠、ある筈だから……そっち持ってく……」
ξ゚⊿ )ξ
そう言うと男は吹蓮の遺体をまさぐり始める。
男の目の前に転がっているのは、丁度吹蓮の腰にあたる部位だった。
男の手元は見えない。
ツンは何かを見落としているような気がして、慌てて男を下がらせる。
ξ;゚⊿ )ξ「動かないで。私がやるから、下がりなさい」
(-@Д(#)「分かった……」
男は素直に従う。
両手を上げ、ゆっくりと後ずさった。
それを見て、ツンは素早く遺体へと駆け寄る。
ただでさえ周囲は血の匂いで満ちているというのに、その周囲は更に濃い悪臭が漂っていた。
僅かに眉根が寄るが、吹蓮の事を思うと、ツンは何とも言えない気分になる。
最早意味は無くとも、ツンはなるべくそれを表に出さぬように心がけつつ、吹蓮の腰元を探った。
196
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:50:20 ID:Y/uADWMg0
一般にはあまり知られていない事ではあるが警察官の装備は位置が定められている。
まず帯革と呼ばれる、ベルトのような装備品。
これは警官が拳銃と警棒、そして手錠を腰に吊り下げる為の物であり、これを帯革止めというストラップでズボンのベルトと繋げている。
そしてそれに装着する拳銃と警棒は、それぞれ拳銃が右腰、警棒が左腰となっており、これは本人が右利きであれ、左利きであれ変わらない。
そして手錠は腰の真後ろ、拳銃同様、専用のホルスターに収納されている。
ツンはすぐにそれを見つけた。
ξ;゚⊿ )ξ
だがそうではない。
ツンにとって、最早手錠などどうでも良かった。
何故なら、吹蓮の右腰――即ち拳銃が収められている筈のホルスターには何も入っておらず。
(-@∀(#)
つy=
目の前の男が、それを構えていたのだから。
197
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:51:13 ID:Y/uADWMg0
警官の拳銃には拳銃釣り紐という金属の芯が入ったカールコードが繋がっており、それを帯革に連結する事で容易に強奪されないようになっている。
だがそれは男にとって問題にはならなかった。
、 、 、 、 、
何故なら、見えない刃であれば、どのような強度の物体であれ容易に切断する事が可能なのだから。
(-@∀(#) カチャリ
((つy=
男が、ゆっくりと撃鉄を起こす。
冷たい音が、静かに拳銃から響く。
それは殺しの準備が整った事を示す合図。
獣と狩人。
.、 、 、
ナイフでは不足するのであれば、銃を使う。
たったそれだけの、簡単な理屈。
そして恐ろしい事に、男は最初からそれを狙っていた。
ツンに殴られている間も。
ナイフを振り回している間も。
ずっと、ただ、それだけを考えていた。
、 、 、 、 、 、
ツンの殺し方。
ただ一つだけ望みのある、それを実行に移す為だけに動いていたのだ。
198
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:51:40 ID:Y/uADWMg0
ノハ; ⊿ )「ぅ……」
( ω )
ヒートはその状況に気が付いていない。
半ば意識を失いつつ、内藤にもたれかかり呻き声をあげていた。
内藤の傷は既に完治している。
ヒートの髪を濡らす、異常な量の汗がその壮絶さと、意味を物語っていた。
(-@∀(#)
つy=
男が、ゆっくりと狙いを絞る。
その構えは妙に様になっており、まるで銃の扱いに慣れているようも見えた。
ξ;゚⊿ )ξ,,
ツンがたじろぐ。
その赤い瞳の光が、揺れるように明滅している。
199
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:52:18 ID:Y/uADWMg0
(-@∀(#)「――お前なら、俺が引き金弾き終える前に避けるかもしれない」
つy=
ξ;゚⊿ )ξ「……なら、どうするの」
(-@∀(#)「避けられなくしてやんのさ」
((つy=
そう言うと、男は狙いを変える。
ξ;゚⊿ )ξ「な――」
その狙いとは。
ツンの後方で蹲る、二人の人物。
内藤と、ヒートへ。
三ξ;゚⊿ )ξ「やめっ」
ツンは自ら銃口の先へと飛び出す。
それは男の狙い通りの展開であり、思い通りの結果だった。
男は心底嬉しそうに口角を上げ、満面の笑みを浮かべた。
(-@∀(#)「死ね、クソアマ!死んだらバラバラにして遊んでやるよ!」
つy=
200
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:52:42 ID:Y/uADWMg0
(-@∀(#) パンッ
つy=,,`. ――――
乾いた銃声が鳴り響く。
内藤とヒートの間に割り込んだツンを目掛けて、男の放った凶弾が迫った。
ξ;゚⊿ )ξ
____
ツンの『目』は、それを正確に捉えている。
真っすぐに直進してくる銃弾は、正確に彼女の体に迫ってくる。
まるでスローモーションのようにゆっくりと突き進む弾丸から目を逸らす事も出来ない。
そして、銃弾は彼女の肌に迫り――
ξ;゚⊿ )ξ キュンッ
――z__
ξ;゚⊿ )ξ「えっ……!?
――その身に『掠りもしない』。
201
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:53:16 ID:Y/uADWMg0
(;@Д(#)「はぁっ!?」
つy=
それだけに留まらない。
キュンッ
――――z___/ ̄ ̄ ̄
キュンッ
『あり得ない軌道』で彼女の身を『避けた』その銃弾は、空中で歪に跳ね回る。
そして――
(;@Д(#) ビスッ
――つ,,`; y=
――そして、男の右手へと、まるで吸い込まれるように命中した。
202
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:53:44 ID:Y/uADWMg0
(;@Д(#)「ぎィッ……あぎゃああああ!!」
眼鏡男がのたうち回り、絶叫が木霊する。
右手を撃ち抜いた、あるいは撃ち抜かれた男は、未だかつてない痛みに白目すら剥いている。
その様を茫然と見つめていた
ξ;゚⊿ )ξ
ツンはただひたすらに混乱していた。
完全に物理法則を無視した軌道。
魔弾の如くうねるそれは、明らかに『異常』。
だが徐々に冷静さを取り戻していくにつれ、その『異常』の原因を察する。
それは『ナイフ』であり。
それは『ツン』であり。
そして、『拳銃』であったのだ。
ツンは、吹蓮の言葉を思い出していた。
203
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:54:10 ID:Y/uADWMg0
『(‘_L’)「死んでも君たちを守る。だから頼む」』
それは真剣な眼差しだった。
それは覚悟が出来ている眼だった。
それは無辜の人々の為に自分を懸ける、正義そのものだった。
『拳銃』は、そんな彼が残した物だ。
ξ ⊿ )ξ
吹蓮は、約束を守ったのだ。
204
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:54:47 ID:Y/uADWMg0
ξ;゚⊿ )ξそ
ξ;゚⊿゚)ξ「そうだ……ブーンと、あの子!」
だがツンにとって今現在優先すべきはそこではない。
慌てて背後へと駆け寄る彼女の瞳は、先程までの異常性は何処へやら、燃えるような奇妙な光を失っていた。
もだえ苦しむ男の事など気にも留めない。
ξ;゚⊿゚)ξ「ねぇっ!大丈夫!?救急車は!?ブーンの手当は!?貴方はどうしたの!?」
ノハ; ⊿ )「うぅ……」
ツンはヒートの側へと駆け寄りつつ、不安と疑問を一気に捲し立てる。
それまでの余裕は何処へやら、更に内藤の姿を見て驚愕する。
ξ;゚⊿゚)ξ「嘘っ!?……傷が、傷が全部治ってる」
状況から見てもヒートがやった事はまず間違い無い。
だが、何よりも憔悴しきったヒートの姿に、ツンは何かを察した。
ξ;゚⊿゚)ξ「まさか貴方、何か大変な――」
ノハ; ー )「……救急車を、早く……血は、そのままだから……」
それだけを言い残し、ヒートは気を失ってしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「あ――」
ξ;⊿;)ξ「――ありがとう」
ノハ ー )
205
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:56:14 ID:Y/uADWMg0
ツンの瞳から、まるで抑えていた感情が溢れ出るように涙を流がこぼれる。
気を失っているにも関わらず、ヒートの表情はどこまでも満足気だった。
「ツンちゃんッ!ツンちゃんッ!」
そしてそこへ駆け寄る、一人の人物。
灰色のレザーパンツ、黒のライダースジャケット、同じく黒のライダースブーツ。
モノクロで統一された服装を更に際立たせているのは、雪のように白いその顔と、月光の如き銀色の髪。
|゚ノ ;^∀^)「無事なの!?ツンちゃんッ!」
間違いなく、それはレモナだった。
ξ;⊿;)ξ「れ、レモナさん……?どうしてここへ……」
|゚ノ ;^∀^)「やっぱり、置いていけなかったの。一度避難したんだけど、どうしても心配になって、戻って来ちゃって……」
レモナはそう言いながら、直ぐに救急車を手配する。
スマートフォンでは繋がらないと分かると即座に仕事用だというPHSを取り出して通報する。
すると今度はあまりにあっさりと、難なく繋がった。
続けて再度警官の手配。
そのどちらも難なく済んだ。
どうやら大規模な通信障害が発生しているらしく、利用者の少ないPHS用の電話回線以外は繋がりにくい状況になっていたようだった。
206
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:57:02 ID:Y/uADWMg0
その後もレモナは、憔悴しているツン達に代わって迅速に事後処理を行う。
まずは眼鏡男を手錠で拘束し、身動き出来ぬよう両足を縛りつける。
男は痛みに喘ぎながら罵詈雑言をまき散らしていたが、レモナが催涙スプレーを噴射した途端、一切の抵抗を止めた。
|゚ノ ^∀^)「あまり痛いのは好きじゃないんだけど……手っ取り早いから」
そう言いながらスプレーを連射する彼女の表情は極めて平坦だった。
ξ;゚⊿゚)ξ
絶対に敵には回したくない。
ツンはそんな事を思いながら、レモナの無慈悲な攻撃を無言で見つめていたのだった。
続けて内藤の容体を確認する。
傷はヒートの手により、既に癒えている。
しかしながら出血があまりに多く、顔面は蒼白し、呼吸も浅い。
間違いなく危険な状態だった。
ツンは内藤から借りていた上着を脱ぎ、その胴体へかける。
上着のポケットから手袋、そしてマフラーを取り出し、内藤の手と首筋に着せる。
その手は氷のように冷たい。
思わずツンの心臓までも凍り付く。
207
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:57:53 ID:Y/uADWMg0
|゚ノ ;^∀^)「……大丈夫。絶対に大丈夫。間違いなく、彼は助かる……」
ξ;゚⊿゚)ξ,,コク
だが、レモナの言葉は力強かった。
ツンはその根拠も理由もわからなかったが、それでも頷いた。
ほど無くして救急隊員が駆け付け、手際よく内藤を救急車へ運び込む。
続けて救急隊員はヒートには外傷も無く、疲労と精神的なショックで気を失っているだけだと言った。
隊員達は迅速に輸血の用意を整え、ツンとレモナに対し同乗者を求める。
ξ;゚⊿゚)ξ「え、えと……その……」
間も無く警察が眼鏡男の身柄を確保しに来る。
ヒートはそちらへ身を預ける事になるだろう。
ならば、当事者であるツンは現場に残らなければならない。
無論同乗したい気持ちは山々であったが、こればかりはやむを得ない。
それを見ていたレモナはおもむろに懐からメモ帳を取り出し、何かを走り書きする。
それは携帯番号だった。
ツンはそれを大事そうに受け取り、財布へとしまい込む。
208
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:58:22 ID:Y/uADWMg0
|゚ノ ^∀^)「……大丈夫、ツンちゃん。ブーン君は絶対に助かるから」
公衆電話なら繋がる筈。信じて待っていて
そう言い残し、レモナは救急車へ乗り込んでいく。
ξ゚⊿゚)ξ「――うん。信じてる」
|゚ノ ^∀^),,
後部ドアが閉まる直前、レモナの優しい微笑と、力強い頷きが見えた。
やがて救急車は去り、一人残されたツンは血だらけの境内へと戻る。
ξ゚⊿゚)ξ
やがて警察が来るだろう。
そして、吹蓮の死を知り、その理由を聞かれるだろう。
絶対に嘘偽り無く伝えなければならない。
ツンはそれだけを胸に、遙か遠くの喧騒を聞きながら冷たい夜空を眺め続けた。
始まりのようです:終
. Boon&Beastのようです:終
209
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:58:44 ID:Y/uADWMg0
『EXTRA:4 ギコ』
【2018/1/3】
それはおでん鷲掴み事件から二日後の出来事だった。
今現在、ネットで絶賛大炎上している事など露程も知らず、ギコは極めて平穏な日常を謳歌していた。
(゜д゜@「どう?お口に合うかしら」
(,,゚Д゚)「うんまいです、滅茶苦茶うんまい」
(゜д゜@「あらやだ。良かったわぁ」
根古市 根古耳町 18-5 ブルーキャットの大家である荒矢田の自宅にて、彼は現在おせちを食べていた。
荒矢田と共に炬燵に入り、テレビから流れる映像を見つつ他愛の無い会話を繰り広げている。
テレビでは正月など何処へやら、と言わんばかりに、連日ニュース報道を繰り返している。
その陰で、娯楽を求める人々により、自身の行いがSNSで大炎上している事など、当然ながら彼は知る由も無かった。
ニュースキャスターは神妙な面持ちでニュース速報を読み上げ続けている。
210
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 12:59:50 ID:Y/uADWMg0
(゜д゜@「……あらやだ。また殺人事件だって……」
(,,゚Д゚)「東京は物騒ですね」
(゜д゜@「ほんとねぇ……」
そんな事を言いながら、二人はおせちを食べる手を止める事はない。
首都圏から遠く離れた地方都市である根古市では大した混乱も、事件も起きていない。
だが連日のニュース速報により、東京が悲惨な状況である事は、日本全国に知れ渡っていた。
(゜д゜@「この間の変な声、ギコ君は聞いた?」
(,,゚Д゚)「声……?」
(゜д゜@「ほらぁ。摘み取れだか、つかみ取れだかってやつ」
(,,゚Д゚)
言われ、ギコは少しだけ考える。
思えばコンビニ店員がそのような事を言っていたと、ギコは思い至った。
(,,゚Д゚)「言われました」
(゜д゜@「やっぱりねぇ。なんかねぇ、それで掴んだ物が変な事になっちゃったらしくてねぇ……」
211
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 13:00:20 ID:Y/uADWMg0
荒矢田によると、その『声』に従って掴んだ物は『異常な特性』を持った物体に変化してしまったのだという。
しかも東京ではそれを悪用した犯罪が急激に増加しており、死傷者も多数出ているのだとか。
だがギコ達にとってそれは遠くの出来事でしかない。
ただでさえ人口が少ない根古市の中でも、根古耳町は特に寂れている。
それだけに治安は良い。
犯罪に走る人物が居ない上に、そもそも走る犯罪が無いのだ。
(,,゚Д゚)「大家さんは何を掴んだんですか?」
ギコがふと問いかける。
大して理由や興味があった訳でもなく、他愛のない会話の一つ。
問われた荒矢田も特に勿体つけるような真似はせず、あっさりと答えた。
(゜д゜@「それ」
それ、とは今現在ギコがたべているかまぼこだった。
(;,゚Д゚)そ「えっ」
流石に驚きの声を上げる。
荒矢田はそれを見て少しだけ得意げな顔をした。
212
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 13:00:53 ID:Y/uADWMg0
(゜д゜@「おいしいでしょそれ。味見してみたら凄かったから、ギコ君にも食べさせてあげようと思ってねぇ」
(,,゚Д゚)「へぇ……なるほど、美味い……」
感心し、素直な感謝を告げる。
荒矢田は満足げに微笑むと、そのかまぼこを一切れ口に運んだ。
ギコは、はんぺんの事を思い出す。
只のかまぼこがこれだけ美味しくなるのであれば、あのはんぺんはどれほどの物だったのだろうかと、そんな事を思っていた。
恐らく今頃は廃棄されているだろう。
それを思うと、ギコは火傷した右手と一緒に心が痛むような気がした。
その後も一時間程度、他愛のない会話と平穏な食事は続いた。
やがておせちを食べ終えたギコは荒矢田の家を後にする。
相変わらず記憶が戻る様子は無いが、荒矢田のお陰もあり不自由なく生きて居られる。
その事実に、ギコは喜びと共にうっすらと不安を感じるのだった。
大家の家からブルーキャットまでは徒歩五分程度の距離だ。
道中には人通りの少ない裏路地があり、ギコはどうにもそこが不気味で嫌いだった。
213
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 13:01:21 ID:Y/uADWMg0
そしてまさに今、彼はそこを通らんとしている。
通るだけなら何の問題も無い。
(;;;;;;;;;)
だが今日に限ってはやや訳が違った。
何故なら路地の真ん中で黒ずくめでオーバーサイズのコートに、フードを被った怪しい人物が仁王立ちしていたのだから。
(,,゚Д゚)
ギコはほんの一瞬、通る事を躊躇する。
だがその人物は小柄で、その服装以外の点においてはあまり威圧感を感じる事は無い。
だが目を合わせないよう心掛けながら、その横を素通りする。
顔は見えない。
その最中も声をかけられる事は無かった。
密かに胸をなでおろしつつ帰路を急ぐのだった。
ブルーキャット101号室、即ち自宅に着いたギコは、部屋の鍵を開ける。
その時ギコは完全に油断していた。
214
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 13:03:17 ID:Y/uADWMg0
三(;;;;;;;;;)
横合いから駆け寄ってくる謎の人物。
それは例の路地ですれ違った怪しい人物に他ならない。
(,,゚Д゚)) ドン
(;;;;;;;;;)三
突然の足音に驚きつつ、ギコがそちらを見るのと、その人物がギコの胸の中に飛び込んでくるのは、ほとんど同時だった。
(;,゚Д゚)「えっ、何、何」
予想だにしていない事態。
ギコは困惑しか感じず、ただただ狼狽する事しか出来ない。
だがそんなギコを無視するかのように、その人物は話しかける。
(;;;;;;;;;)「ねぇ……ギコくんだよね?」
(;,゚Д゚)「え、あ、はい……っていうか」
(;;;;;;;;;)「良かった……やっぱりあれ、ギコくんだったんだ……」
それは女性の声だった。
思わず触れていた肩は柔らかく、細い。
その事からも、間違いは無い。
215
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 13:03:39 ID:Y/uADWMg0
ギコは困惑しつつ、女性を引き離す。
すると戸惑うギコを無視して、女性はフードを外した。
柔らかな微笑み。
誰が見ても美しいと思えるその顔は、安堵とも取れる表情を浮かべている。
そして、コートの内側から小型のチェーンソーを取り出し、混乱するギコの脳にとどめを刺すように、こんな事を言い放った。
(;,゚Д゚)「え、いや……何を」
(*゚ー゚)「ギコくん」
(*゚ー゚)「突然で悪いんだけど、もう一度死んでね」
人知れず、ギコの戦いが始まる。
続く
216
:
◆5ty0DrhIPs
:2018/11/06(火) 13:05:49 ID:Y/uADWMg0
今回は以上です
投下する詐欺を二連発してしまった事については深く、深く反省しております
ごめんね……たかし、駄目なカーチャンでごめんね……
把握中のお題
・スカイウォール
・変態紳士
217
:
名無しさん
:2018/11/06(火) 16:14:57 ID:RhWeBL3M0
おいおい、面白いがや
218
:
名無しさん
:2018/11/06(火) 17:34:56 ID:RuR4C3..0
乙
219
:
名無しさん
:2018/11/06(火) 17:36:11 ID:NJ5UUBqs0
乙!
吹蓮さん…
220
:
名無しさん
:2018/11/06(火) 20:10:50 ID:hr.Hlq/Y0
待ってた乙
ブーン生きてて良かった……
221
:
名無しさん
:2019/05/01(水) 01:53:14 ID:unH/0oGQ0
まだ?
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