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道のようです②

1 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/12(日) 22:07:31 jd6Evm7E0
   _人人人人人人人人人人人人人人_
   >  次回の投下は次週ですが    <
   >  早めに立てさせて頂きました  <
   >  完結次第、前スレも過去ログ  <
   >  送りにして貰いたいと思います <
    ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

                       / ̄ ̄ ヽ,
     / ̄"ヽ             /        ',
     b ,-、 d      ./" ̄"ヽ  {0} /¨`ヽ {0}
 r-=、 |. `=' |_     .bi ,-、 id  |  ヽ._.ノ   |
 `゙ゝヽ、|   ノ  `ヽ、  / `=' ノ゙`ー |  `ー' / ̄ ̄ ヽ,
  にー `ヾヽ'"    .ィ"^゙i   _,,ノ ,  |    /        ',
 ,.、 `~iヽ、. `~`''"´ ゙t (,, ̄, frノ   ゝ-‐ {0}  /¨`ヽ {0},
 ゝヽ、__l ヽ`iー- '''"´゙i, ヽ ヽ,/   /   l   ヽ._.ノ   ',
 W..,,」  .,->ヽi''"´::::ノ-ゝ ヽ、_ノー‐テ-/ i  |   `ー'′   ',
   ̄r==ミ__ィ'{-‐ニ二...,-ゝ、'″ /,/`ヽl : : ヽ        )'^`''ー- :、
    lミ、  / f´  r''/'´ミ)ゝ^),ノ>''"  ,:イ`i / \      /     `゙
    ! ヾ .il  l  l;;;ト、つノ,ノ /   /:ト-"ノ  \   /
.    l   ハ. l  l;;;;i _,,.:イ /   /  ,レ''"    ヽ_,,ノ
   人 ヾニ゙i ヽ.l  yt,;ヽ  ゙v'′ ,:ィ"  /    r-'"´`i
  r'"::::ゝ、_ノ  ゙i_,/  l ヽ  ゙':く´ _,,.〃_    f´'     ll
  ` ̄´     /  l  ヽ   ヾ"/  `゙''ーハ.     l
        /    l  ゙t    `'     /^t;\  ,,.ゝ


2 : 名無しさん :2017/02/12(日) 22:24:39 h0j05I3U0
次回最終話か!
寂しいけど楽しみだなー


3 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/12(日) 22:38:17 jd6Evm7E0
とてもくわしいじんぶつしょうかい


ξ゚⊿゚)ξ ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2331.png
 ツン・グランピー 18歳 戦士 150cm
 生まれつきなんか怪力
 ホームランバーみたいな体型

爪'ー`)y‐ ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2332.png
 フォックス・ユースレス 26歳 吟遊詩人 185cm
 後天的死ねないゾンビ体質
 わりとクズだけど日和見

ζ(゚- ゚*ζ ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2333.png
 デレ・スタルトゥ 9歳 元奴隷 120cmくらい
 角と尻尾があってがうがう言う
 あざとい代表

川*` ゥ´) ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2334.png
 ヒール・アンソルスラン 17歳 魔女 160cm
 自称悪い魔女で口は悪い
 公私混同はせず常識がある


4 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/12(日) 22:41:47 jd6Evm7E0
(#゚;;-゚) でぃさん
 性別も年齢も本名もわからんけど強い

( ,,^Д^) タカラ君
 ショタ

ミ,,゚Д゚彡 竜
 工事現場とかに居そうなビジュアル

( ・∀・) 白銀のモララエル()
 中間管理職

(*゚ー゚)  しぃちゃん
 いっぱい居るけど全員別人

( ФωФ) 師匠
 何度も回想に出てるのに出てないって言われた


 あと何かいろいろ居た



次回から三週続けての最終話投下になると思われます
うまく行けば三週続けて投下出来ますが出来なかったらごめんなさい

もう少しお付き合いよろしくお願いします。


5 : 名無しさん :2017/02/12(日) 22:54:20 Ma21pVRY0
新スレおつです!
本当の絶望って不穏…続き楽しみだけど皆あんまり酷い目に遭わないといいな(個人的願望)


6 : 名無しさん :2017/02/12(日) 23:56:56 N7IIVHbo0
モララーwww
やっぱりあのモララーなのかwww
そしてなんと奇遇なやおい穴教科書に載せんなwww


7 : 名無しさん :2017/02/13(月) 00:09:04 xTZelgas0
ややブス全然可愛い!



8 : 名無しさん :2017/02/13(月) 01:31:23 uB5UgbaI0
モララー出てきたとこでマジで鼻水吹き出した


9 : 名無しさん :2017/02/13(月) 04:15:47 .Xb0GhNo0
ひょぇー


10 : 名無しさん :2017/02/13(月) 09:21:36 a8gTPzYU0
次回最終話なの!?
もっとこいつらの旅路見たかった……


11 : 名無しさん :2017/02/13(月) 14:41:16 W5RaTqG60
ドクオが規格外にトンでもないだけでモララーもトンでもないな


12 : 名無しさん :2017/02/13(月) 16:50:27 LweV6aMM0
ドックンも教科書もんなんだろなぁ


13 : 名無しさん :2017/02/13(月) 21:36:21 8hOLIWXQ0
>>6
ほら事実と違うこと書くとドックンブチギレちゃうから


14 : 名無しさん :2017/02/15(水) 11:25:23 ZZSz0peo0
ヒールかわいいじゃねえか


15 : 名無しさん :2017/02/15(水) 12:58:21 7FxsaPTE0
俺がやおい穴という単語を見たのは塔が初めてだったなぁググらなければよかったなぁほんと


16 : 名無しさん :2017/02/18(土) 08:50:23 EUq8iCT20
なんでそんな不穏なんだよ……


17 : 名無しさん :2017/02/18(土) 13:08:10 5eY0ADUAO
百鬼夜行で予感的中したことがあって
おかげで今回は展開を想像するのが怖いぜ…


18 : 名無しさん :2017/02/19(日) 11:39:21 ObsFGWEc0
投下が楽しみなのに怖い……
みんな幸せになってほしいんだけどなあ


19 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/19(日) 21:01:23 ybrSpsO.0


 例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。

 騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。

 周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
 聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。

 刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。


 一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
 もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
 そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。



 【道のようです】
 【最終話 いっしょに居たいって事。 前編】



 彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。


20 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:03:16 ybrSpsO.0

 ヒールと別れて街を後にして、次に目指すは小さな村。
 そこを越えればやっとたどり着く王都、城下町。

 なかなか長い道のりだったけど、それなりに楽しく充実していた。
 それにまあ、契約満了してないから僕とツンちゃんの旅はまだ続くんですけど。

 しかしそろそろデレとも一時お別れかぁ、折角の呑み仲間、癒し要員のあざとい生物。

 寂しくなるけど、ツンちゃんの「僕らにデレは育てられない」には同意見だ。
 僕らはそこまで出来た人間じゃない、それに9歳の子供を育てるには少々若すぎる。

 適切な場所と適切な人に育ててもらおう、まぁ毎月手紙とお金は送るけど。
 あれおかしいな、僕こんなんだっけ、もっとアウトローだった気が。


 まぁいっか。

 それより、寂しくなったと言えば財布だ。

 あのコロシアムを出る時に、目も鼻も真っ赤にしたツンちゃんが支配人に詰め寄っていた。
 そして何事かと思ったら、所持金を大きく切り崩して誰かに渡せと。

 後から聞いた話によると、戦った相手に病気の母親のために参加した子供が居たとか。
 その子のためにツンちゃんは、自分の稼ぎのほとんどを差し出してしまった。


21 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:04:07 ybrSpsO.0

 どこまでも甘ちゃんで、本当に悪い事が出来ないと言うか。
 人の道を外れたとは思えない、心のよわーい人間だ。

 そこもまぁ可愛げなんだけど、財布が少々寂しい感じになってしまった。 これは可愛くない。

 とは言え、今まで使った分と合わせても土地と家を買える様な所持金が半分になった程度。
 ほとんどを貴金属に変えてるから、また現金に戻さないとなー。

 と言うか本来なら相当な期間を遊び暮らせた筈なのに、何で一年足らずでこんなに使うかな。
 散財するタイプじゃないくせに、大真面目に大金使うんだからあの子は。
 やっぱ財布は僕が管理しないとなぁ。


 あー、雪は無くなったけど空気が冷たい。
 喉に悪いなぁ。


爪'ー`)y‐「ツンちゃーん」

ξ゚⊿゚)ξ「んー」

爪'ー`)y‐「さむーい」

ξ゚⊿゚)ξ「デレ抱えて歩きなさい」


22 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:05:04 ybrSpsO.0

ζ(゚- ゚*ζ「ぎゅーする?」

爪'ー`)y‐「する」

ζ(゚- ゚*ζ ノス
  ⊂ ヽ,,

爪'ー`)「あったかいよー」
 つ(゚- ゚*ζ
   ⊂ ヽ

ξ゚⊿゚)ξ「だろうな」

爪'ー`)y‐「羨ましい?」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、呼べばあんたを捨ててこっちに来るし」

爪'ー`)y‐「そうだった……悲しい……」

ζ(゚- ゚*ζ「いじわるない」

ξ゚⊿゚)ξ「しないわよ別に」

爪'ー`)y‐「ツンちゃんは意地悪だ」

ξ゚⊿゚)ξ「しねぇつってんだろ」


23 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:05:57 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「ツンちゃんはさぁ、綺麗にしとけば貴族のお嬢さんみたいなのに何でそうかなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「育ちが卑しいからでは?」

爪'ー`)y‐「ほんと見てくれだけは貴族めいてるのに……金髪に巻き髪……」

ξ゚⊿゚)ξ「元村民だからなぁ」

爪'ー`)y‐「肌も白いし目も綺麗な緑だし……まぁ服の下は傷だらけだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「母親は貴族の元にでも嫁にやりたかったみたいだけど」

爪'ー`)y‐「あー、だろうねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「手掴みで飯を食うのに貴族とか言われてもな」

爪'ー`)y‐「君はもうちょっとマナーとかさぁ、礼法とかさぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってはいるわよ姉様に叩き込まれたから」

爪'ー`)y‐「それなのに今は」

ξ゚⊿゚)ξ「骨付き肉は掴んで握って貪るもんだ」

爪'ー`)y‐「品がないなぁ!」


24 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:07:32 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「良いかいデレはもっと立派なレディになるんだよ」

ζ(゚- ゚*ζ「ない」

爪'ー`)y‐「熱い拒否」

ξ゚⊿゚)ξ「デレはもっと自然と触れ合える方が良いわよね」

ζ(゚- ゚*ζ「もりすき」

ξ゚⊿゚)ξ「見なさい森ガールよ」

爪'ー`)y‐「いや何か違う、間違いなく何か違う」

ξ゚⊿゚)ξ「一緒に熊とか狩りましょうねデレ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい!」

ξ゚⊿゚)ξ「狩りは得意よ、石をこう投げて鳥を落とすの、前に狐でやったみたいに」

ζ(゚- ゚*ζ「おねさんむごい」

爪'ー`)y‐「僕まだあの件は許してないからね」


25 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:08:18 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「はーぁー勿体無いよなー」

ξ゚⊿゚)ξ「女だからって着飾る必要は無いと思うけど」

爪'ー`)y‐「目の前に美味しそうに育った野菜があるとするじゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

爪'ー`)y‐「みんなそのまま丸かじりすんの、スープにしたり色んな料理に使えるのに」

ξ゚⊿゚)ξ「勿体無いわね」

爪'ー`)y‐「ほらね?」

ξ゚⊿゚)ξ「ハッ」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「手を加えず素材の味をそのまま楽しむのは賢い人のする事よ」

爪'ー`)y‐「手を加えて更に美味しくなる素材は、手を加えなくても美味しくて当然なんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ハッ」

爪'ー`)y‐「そのままで美味しいのは当然だけど、他にも色んな味で美味しく出来るなら試すべきじゃね?」

ξ゚⊿゚)ξ「くっ……何の否定も出来ない……」

ζ(゚- ゚*ζ(おねさんやさいない……にんげん……)


26 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:09:53 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「だからツンちゃんはもっと色んな味付けをしてみるべきだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇー……」

爪'ー`)y‐「可愛い格好から軍服まで試してみるべきだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「美味しくならなかった場合は」

爪'ー`)y‐「試さないと分からない事のために挑戦を先伸ばしにするの?」

ξ゚⊿゚)ξ「くっ……否定も拒否もしがたい……!」

ζ(゚- ゚*ζ(なぜ)

ξ゚⊿゚)ξ「……狐はよく見た目変わるわよね」

爪'ー`)y‐「髪をいじるのは好きだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「みつあみになったりウェーブになったり」

爪'ー`)y‐「まあ顔だけだと一切分からないのが難点だね」

ξ゚⊿゚)ξ「日替わりなのに……」


27 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:10:55 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「お、次の村はあれかな」

ξ゚⊿゚)ξ「おー……ずいぶん寂れた感じね」

ζ(゚- ゚*ζ「がう」

爪'ー`)y‐「戦争で負傷した人なんかが運び込まれてそのまま居着いた場所らしいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「はー……そう言うのどうにかなったって聞いたのに」

爪'ー`)y‐「戦後にも負傷する人って居るもんさ」

ξ゚⊿゚)ξ「あー……」

爪'ー`)y‐「治安も良くないし困窮する人が多いし、戦災孤児なんかを捨てに来るって」

ξ゚⊿゚)ξ「まーあれね……平然とした顔してる社会の裏側って感じね……」

爪'ー`)y‐「ま、どっかで誰かが皺寄せ食うのが世の常さ、入ろうか」

ζ(゚- |
  つ ペト

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よデレ、……風当たりは強いだろうけど、側に居なさい」

爪'ー`)y‐「場所が場所だからなぁ、離れないようにね」

ζ(゚- ゚*ζ「あい……」


28 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:11:49 ybrSpsO.0

 風に乗って届くのは、物を乞う人の声、すえた臭い、余所者へ向けられる敵意に似た視線。

 小さく寂れ草臥れた村に一歩踏み入れば、そこはもう僕らにとって心地が良いとは言えない空間。

 魔族のデレは居心地がさぞ悪いだろう、フードを外さないように気を付けさせなきゃ。
 今度何かがあれば入店拒否じゃ済まないぞ、きっと石を投げられる。

 早いとこ出発するようにしよう、最低限の買い物と休憩だけをして。


川*` ゥ´)「あ」

ξ゚⊿゚)ξ「あら」


 そして見知った顔と遭遇。

 今週はもう会わないと思ったのに、意外だな。


川*` ゥ´)「なっんだおめーらあたしを追ってきたのかよ」

ξ゚⊿゚)ξ「いや別に、通り道なだけで」

川*` ゥ´)「あん? じゃあ自宅までつけてきたんじゃねーのか」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ここ住んでるの?」


29 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:14:13 ybrSpsO.0

川*` ゥ´)「おう、あたしの自宅があるぞ」

爪'ー`)y‐「アンソルスランの魔女ならもっと良いとこ住めない?」

川*` ゥ´)「つっても本家の屋敷にあたしは住めねーしな、住みたくもねーしな」

ξ゚⊿゚)ξ「ほんとプライド高いわよね」

川*` ゥ´)「それだけじゃねーよ、あたしも戦災孤児だかんな」

ξ゚⊿゚)ξ「あっそうなの?」

川*` ゥ´)「お前もだろ」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ珍しくは無いわね、私はその前に捨て子だけど」

爪'ー`)y‐「あ、僕は最初から親の顔知らないでーす」

川*` ゥ´)「あたしんとこは街ごと消し飛んだからなー」

ξ゚⊿゚)ξ「うちはいつの間にか村が消し飛んでたわ」

爪'ー`)y‐「あるあるー」

ζ(゚- ゚*ζ(かるい)


30 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:16:25 ybrSpsO.0

川*` ゥ´)「ま、ここはあたしらみたいなのが住んでるわけだ、余所者には乞うか石投げるから気を付けろよ」

ξ゚⊿゚)ξ「助言はくれるのね……」

川*` ゥ´)「いや、自宅あるのにさすがに問題は起こしたくねーわ……」

爪'ー`)y‐「君ってば本当に常識人……」

川*` ゥ´)「公私の使い分けと人としての常識と尊厳は遵守すべきだろ、アホか」

爪'ー`)y‐「まぶしい」

ξ゚⊿゚)ξ「まぶしい」

川*` ゥ´)「良いかてめーらの存在が常識はずれなだけだぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「でもそれに喧嘩売ってきた」

川*` ゥ´)「町中で私闘決闘可の場所でならそら喧嘩売るわ」

爪'ー`)y‐「意外とあるよね私闘決闘可の街」

ξ゚⊿゚)ξ「まだ決闘文化が濃くあるもの」

ζ(゚- ゚*ζ(にんげんぶっそう)


31 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:17:53 ybrSpsO.0

川*` ゥ´)「じゃ、村に迷惑かけんなよカス共」

ξ゚⊿゚)ξ「家どっち?」

川*` ゥ´)「西の方の墓地向こう」

ξ゚⊿゚)ξ「今度遊びに行くわ」

川*` ゥ´)「来んなボケカス、……あーそうだ」

ζ(゚- ゚*ζ「う?」

川*` ゥ´)づ「最近は若い騎士様が来てやがってな、治安回復だの炊き出しだのとうるせーの」

ζ(- -*ζ「ぅー」

川*` ゥ´)「まだ若いくせにうっせーから目ぇ付けられんなよ、魔女ってだけで手伝わされそうになんだから」

ξ゚⊿゚)ξ「魔女も大変ね」

爪'ー`)y‐「騎士様って女の子?」

川*` ゥ´)「女だよ女、若い女」

爪'ー`)y‐「可愛い?」

川*` ゥ´)「知るか」


32 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:19:12 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「ツンちゃん若い女の子だって! 見たい! 行けそうなら口説きたい!」

ξ゚⊿゚)ξ「お前な」

川*` ゥ´)「こいつほんとクソな」

爪'ー`)y‐「どこに居るの?」

川*` ゥ´)「役所か広場だろ、じゃあもー行くぞ、あたし録り溜めた洋ドラ見たいから」

爪'ー`)y‐「コーラとピザ持ってんなと思ったら……」

ξ゚⊿゚)ξ「お一人様上級者ねあんた……」

,,川*` ゥ´)「うっせバカうっせバカ、あばよクソ共とモフチビ」

ξ゚⊿゚)ξ「またねー」

爪'ー`)y‐「ばいばーい」

ζ(゚- ゚*ζ「ばいばー」

爪'ー`)y‐「るぷるどぅ?」

ξ゚⊿゚)ξ「全部違う」


33 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:20:08 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「騎士様かー、楽しみだなークールビューティーかなーくっ殺かなー!」

ξ゚⊿゚)ξ「お前……」

爪'ー`)y‐「気の強いお堅いお嬢ちゃんほど落としやすいんだよね……本当楽しい……捨てるけど」

ξ゚⊿゚)ξ「その下衆い趣味やめたら……?」

爪'ー`)y‐「ツンちゃん断食できるの……?」

ξ゚⊿゚)ξ「無理ね……」

爪'ー`)y‐「無理だよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「いやでもそれで呪われたろお前……」

爪'ー`)y‐「それはそれ、これは」

ξ゚⊿゚)ξ「一緒だよばか」

爪'ー`)y‐「一緒だけど懲りない」

ξ゚⊿゚)ξ「懲りろ」

爪'ー`)y‐「やだね!!」


34 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:21:48 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「こいつほんっと……刺されるぞ……いや刺されてたな……」

爪'ー`)y‐「二、三回くらい」

ξ゚⊿゚)ξ「増えてない?」

爪'ー`)y‐「ゾンビ化してからは傷跡も残らないから便利だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「べん……便利……便利なのかそれは……?」

爪'ー`)y‐「一度死ねば手当ての必要が無くなるのはメリットだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「やめろそんな後ろ向きなメリット……あと旅してるのに刺されるような事すんな……」

爪'ー`)y‐「君の知らないところで大修羅場が三回くらいあった」

ξ゚⊿゚)ξ「おま……お前な……ほんとお前な……」

爪'ー`)y‐「いやーまさかかち合うとは」

ξ゚⊿゚)ξ「フラグ管理と爆弾処理はちゃんとやれよ……」

爪'ー`)y‐「爆弾処理なら慣れたもんだよ、電話一本で消してみせるよ」

ξ゚⊿゚)ξ「電話だけじゃ間に合わなくなれよ……」

ζ(゚- ゚*ζ(もっともっとときめき……)


35 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:22:50 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「んー」

ξ゚⊿゚)ξ「ん? そんなに女騎士が気になるの?」

爪'ー`)y‐「じゃなくて、喉がなー」

ξ゚⊿゚)ξ「痛む?」

爪'ー`)y‐「まだ大丈夫、冷えて調子がいまいち」

ξ゚⊿゚)ξ「大事にしなさいよ、あんたそれが武器なんだから」

爪'ー`)y‐「わーかってるって、喉は僕のメインウェポンだし生命線だもん」

ξ゚⊿゚)ξ「喉風邪フラグ?」

爪'ー`)y‐「やめて」

ζ(゚- ゚*ζ「デレおにさんおうたすき」

爪'ー`)づ「あーほんとー? 嬉しいなーデレってばもー」

ζ(- -*ζ「うー、おにさんおうたきれい」


36 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:23:40 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「これでも本業は吟遊詩人だからね!」

ξ゚⊿゚)ξ「詩人感ゼロだけど」

爪'ー`)y‐「自覚はあるよ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「あるのかよ改めろよ」

爪'ー`)y‐「本業ジゴロとかになりたくもある!!」

ξ゚⊿゚)ξ「本当にお前と言う奴は」

爪'ー`)y‐「まーでも詩人楽しいよ、バッファー楽しいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「描写された事のないバッファーが」

爪'ー`)y‐「悲しいよね、今後もされない」

ξ゚⊿゚)ξ「当たる当たる〜ってやっとけ」

爪'ー`)y‐「やめなよ山寺宏一」

ξ゚⊿゚)ξ「あっちも26歳だったわね……」

爪'ー`)y‐「やめなよ山寺宏一」

ζ(゚- ゚*ζ(だれ)


37 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:24:52 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「あんた何で吟遊詩人になったの? ギャンブラーは二次職だけど」

爪'ー`)y‐「んー? ガキの頃に僕を飼ってた酒場に吟遊詩人が来てさぁ」
  _,
ξ-⊿-)ξ「ちょっと待って」

爪'ー`)y‐「目頭を押さえて制止するポーズ実際には初めて見た」

ξ゚⊿゚)ξ「飲み込んだ」

爪'ー`)y‐「吟遊詩人が来てすごい綺麗に歌うからさぁ、クソみたいな環境だったけどそれ聞くのが好きでね」

ξ゚⊿゚)ξ(美談かな)

爪'ー`)y‐「でも吟遊詩人は旅してるから居なくなるじゃん?
     だから自分でも出来るようになるためにこっそり聴いて覚えてさぁ」

ξ゚⊿゚)ξ(美談だな)

爪'ー`)y‐「でも楽器とか高いじゃん、持ってるわけ無いじゃん
     しょうがないから糸を張った空き缶とか弾いてたわけ」

ξ゚⊿゚)ξ(美談だ……)

爪'ー`)y‐「んで吟遊詩人が発つって聞いてさぁ、僕は我慢できなくなったんだよね」

ξ゚⊿゚)ξ(弟子入りかな)

爪'ー`)y‐「楽器盗んで逃げた」
  _,
ξ-⊿-)ξ「待って」


38 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:26:36 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「これでも労働者の中では結構人気が出る程度には歌が上手くなっててね」

ξ゚⊿゚)ξ「いや待て、待てよ」

爪'ー`)y‐「だから吟遊詩人になれんじゃね? って思ってさー、部屋に忍び込んで楽器盗んで逃げた」

ξ゚⊿゚)ξ「何でだよ……!!」

爪'ー`)y‐「捕まらずに今まで逃げ延びてます」

ξ゚⊿゚)ξ「まだ逃げてるのかよ!!」

爪'ー`)y‐「まぁとっくに盗んだ楽器は壊れましたけどね、15年くらい前だし」

ξ゚⊿゚)ξ「おま……えぇ……」

爪'ー`)y‐「歌でさー、人の人生は変えられるんだなーと思ってさ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

爪'ー`)y‐「だから、吟遊詩人やってんの」

ξ゚⊿゚)ξ「盗んだ楽器で」

爪'ー`)y‐「これは自分で買った」


39 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:27:56 J0T0OcX20
騎士様で何かあんのかな


40 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:28:07 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「僕のクソみたいな人生を変えたのはね、間違いなく歌なんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう」

爪'ー`)y‐「だからね、僕も誰かの人生を変えてみたいなって思うんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふむ」

爪'ー`)y‐「この道を選んだのは後悔してないよ、金になりにくいけど」

ξ゚⊿゚)ξ「だろうな」

爪'ー`)y‐「ツンちゃんつーめーたーいーぃ、自分から聞いといてー」

ξ゚⊿゚)ξ「冷たいのはきっと喉を冷やす風のせいよ」

爪'ー`)y‐「何そのちょっと詩的な言い回し……ムカつく……」

ξ゚⊿゚)ξ「ムカつくて……」

爪'ー`)y‐「……誰かの人生変えられるような、救いになったりすんのかなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「さぁね」

ξ゚⊿゚)ξ

ξσ゚⊿゚)ξ゙ ポリポリ(もう変えてんだけどな……)


41 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:28:43 ybrSpsO.0

ζ(゚- ゚*ζ

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんじっか?」

爪'ー`)y‐「ん? あー実家? みたいなとこ?」

ζ(゚- ゚*ζ「あう、たばこにおい」

爪'ー`)y‐「あーはいはい、おばあちゃんねー」

ξ゚⊿゚)ξ「逃亡生活じゃないの?」

爪'ー`)y‐「んー……僕は貧民街生まれ育ちでさぁ、親も居ないし使い捨ての労働力だったのね」

ξ゚⊿゚)ξ「重いんだよお前の過去は」

爪'ー`)y‐「そっから見てくれがマシだからって酒場で飼われて働いてたの」
  _,
ξ-⊿-)ξ゙

爪'ー`)y‐「んで楽器盗んで逃げ出して、街からもうまいこと逃げおおせて、楽器だけ抱えて夜の街道を走った」

ζ(゚- ゚*ζ(すごいぼうけん)

爪'ー`)y‐「ラックに振った記憶は無いから初期値が良かったんだろうね、魔物にも会わずに小さな村に辿り着いたの」

ξ゚⊿゚)ξ「普通に運が良かったって言え」


42 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:29:21 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「でもガキが寝ずに走り続けてさ、お金も無いし飯も無いわけ、どうすると思う?」

ξ゚⊿゚)ξ「草とか」

爪'ー`)y‐「一軒の家に盗みに入りました」

ξ゚⊿゚)ξ「草……とか……!」

爪'ー`)y‐「わりとすぐ家主に見つかりました」

ξ゚⊿゚)ξ「見つかってんのかよ……」



 静かな家と人の少なさを察知して、もう何度目かもわからない盗みを働こうとした。

 けど空腹と疲労には勝てなくて、うっかり立てた物音。

 そしてキッチンから顔を出したのは、小柄な人影。

 『あらあら』とだけ笑って僕を咎めもしなかったのは、一人の老婦人。
 質素だけど身なりは良く、裕福では無いが困窮もしていない生活がうかがえた。


43 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:30:29 ybrSpsO.0

 汚い泥棒のクソガキに温かいお茶とクッキーを差し出す老婦人は、にこにこしながら口を開く。


 誰かが訪ねてきたのは久し振りだわ。

 夫と息子を亡くしてもう長いの。

 話し相手は窓辺の小鳥か庭に来る猫くらいで。

 村の外れだから誰もこの辺りには来ないの。

 そうだお湯を作るからお風呂に入ってらっしゃい。

 息子の服が良い大きさのはず。

 嫌いな食べ物はあるかしら。

 夕飯のシチューを作りすぎたから。

 そうだわ小さな泥棒さん、お名前を教えてくれるかしら。

 もし良かったら、それを弾いて聴かせてちょうだい。


44 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:31:02 ybrSpsO.0

 孤独に飽いていた老婦人は、汚い泥棒のクソガキを、小綺麗なクソガキに変えてしまった。
 僕はそれに抵抗できるほど、体力も気力も残っていなくて、されるがままで黙ってた。


 貴族までは行かない、それでも質の良い服を着せられた。
 今まで着た事も無いような肌触りだった。

 自分の髪が金髪だと、その時に初めて知った。
 自分から漂う花の石鹸の匂いを嗅いで、これが良い匂いなんだと理解した。

 鏡の前で伸びきった髪をすかれながら、自分の青い目を見ていた。
 見てくれがマシだと言う意味が、その時やっと分かった。


 そう言えば、僕は人間だった。

 てっきり、人間の二つ三つ下の生き物だと思ってた。

 今までそんな扱いだった。
 今までそう生きてきた。

 汚い事して、汚い事されて、汚い事やらされて。
 だから僕は、人間ではなくもっと下の汚い生き物だと思ってて。


 温かなお茶を飲んで。
 お菓子の甘さを知って。
 熱々のシチューを貪って。

 僕は、声をあげて泣いたんだった。


45 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:32:14 J0T0OcX20
美談だ


46 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:32:43 ybrSpsO.0

 老婦人は僕を突き出す事もせず、孫のように可愛がってくれた。
 若い頃に家庭教師もした事があると言う彼女は、僕に読み書き作法を教えてくれた。
 彼女が聴きたいと言うから、僕は辿々しく楽器を弾いては稚拙な歌を歌った。
 そんな綻びだらけの僕の歌と演奏を、彼女は一番の楽しみだと笑って言った。

 そのまま居ついて数年、僕は盗みに入った時からは想像も出来ない見てくれになっていた。
 まだ少し大きい彼女の夫の服を着て、村の方にまで顔を出せるようになっていた。

 遠縁の子供として引き取られたていで村に加わり、我ながら器用にも溶け込んだ。
 本来は生まれ持った物だったらしい、良く回る口で村の人を簡単に丸め込めた。
 吟遊詩人としての資格も取ったし、たまに仕事をするようにもなっていた。

 でも生まれの悪さのせいなのか、次第に良くない仕事が僕にふりかかる。
 そして良く回る口のお陰で、詐欺や何やの片棒を担がされる事もあって。
 もちろん僕が捕まるようなヘマはしていないし、言い訳出来る程度にして。


 それでもいつしか僕は、小綺麗なクソガキから、汚い犯罪者になっていて。


 彼女にたずねられる。
 『吟遊詩人のお仕事はどう?』

 僕は作った笑顔でこたえる。
 『順調だよ、ほらこんなにおひねり貰った』


 いつから僕は、彼女に仕事で使う笑顔を向けるようになったんだっけ。


47 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:33:46 ybrSpsO.0

 彼女との日々は穏やかと言う一言に尽きる。

 毎日のどうでも良い日常を幸せだと噛み締めて、僕を正しく救った彼女に恩を返したくて。
 僕を人間にしてくれた彼女のために、暖かさを教えてくれた彼女のために、仕事をして。

 一度はきれいになった手が、また汚く汚れて。
 結局僕はこう言う生き方しか出来ないんだなって、己の生まれと育ちの悪さを恨んで。


 そんな恩返しと悪行と嘘の穏やかな日常は、彼女の死によって幕が降りた。


 もう高齢だった事もあり、風邪を引いた事を切っ掛けに、起きられなくなってしまって。

 僕はそんな彼女の世話をして過ごしたけれど、最後に僕の歌を聴きたいって彼女は言って。


 楽器を取りに部屋を出た、その間に、彼女はもういってしまった。


 そこから、遺産相続だの、葬式だの、何だのと、僕はぼんやりとしたまま流されて。

 彼女のお墓を王都に作るかわりに、遺産を全て王都の教会に寄付をした。
 村の人に頭を下げて、彼女の家を潰しておくように頼んだ。
 僕は最初から持っていないあらゆる権利を放棄した。


48 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:35:32 ybrSpsO.0

 身支度を済ませた僕は、旅の吟遊詩人としてその村を後にした。
 もう戻る事は無いし、帰る場所も無いし、誰も迎えてはくれないから。

 そして冒険者、吟遊詩人としてふらふらさまよい十年近く、で、今に至る。
 人恋しさを適当に紛らわせながら、日々を楽しむように生きてきた。

 楽しい事もあったし、良い事もあったけど。
 ほんとはもう、何を見ても灰色に見えるような気持ちを引きずり続けていて。

 そんな時に呪いを受けて。
 やっと死ねると思ったのに死ねなくて。

 生きてて何が楽しいんだろうと思っていたのに死ねなくて。
 死ねないなら好き勝手しちゃえば良いやと無茶ばっかして。

 ぐずぐずな心で、ぐずぐずな人生で、もう腐りきって土にでも還りたかった。


 でも、そこで聞いたのがある噂。
 人の頭を叩き潰せるような化け物じみた戦士の噂。

 しかも女だと聞いたものだから、見てみようと先回りして。


 そうして出会ったのは、不機嫌そうに顔を歪めた、淡い金髪に緑の目、白い肌の小柄な少女。


49 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:36:41 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「つまり君だったと言うわけ」

ξ゚⊿゚)ξ「ろくでもない人生送ってるわねあんた」

爪'ー`)y‐「長々と語ったのに八文字で片付けられた」

爪'ー`)y‐
 ζ(゚- ゚*ζ
   ⊂ ヽペト

爪'ー`)y‐「あざといんだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「喜べよ」

爪'ー`)y‐「かわいい」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってる」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんさみしいない?」

爪'ー`)y‐「無いよーデレがこうしてくれるとないよー」

ζ('(゚- ゚*∩ζ「もっとする」フンスー

爪'ー`)y‐(あざとい)

ξ゚⊿゚)ξ(あざとい)


50 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:38:09 ybrSpsO.0

 僕が出会った少女戦士は、実年齢より子供に見える。


 甘ったれの癖に戦士としてはストイック。
 甘ちゃんの癖に全部割りきった顔。

 小柄な癖に馬鹿力。
 小柄な癖に大食漢。

 不機嫌そうな顔で泣いて。
 不機嫌そうな顔で笑って。

 容赦なく僕を殴り殺して。
 容赦なく僕を正面から罵る。

 こう言っちゃ何だけど、僕が口説いて落ちなかった女は居ないのに。
 この子は僕がそれっぽく誘導しても、脳筋で返すから全然それっぽくならない。

 美人なのに無愛想で、可愛いのに仏頂面で、小さくて細いのに身体中傷だらけで。

 すぐ怒るし、すぐ殴るし、罵倒するし、躊躇いも容赦も無いし。


 そんな彼女の隣は、愉快なくらいに居心地が良い。


51 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:39:01 ybrSpsO.0

 彼女と旅をしていて退屈を感じた事はほとんど無い。
 次から次へと、この猪突猛進さんは問題を起こしたり問題を拾ったり。

 その一番の問題が、小さな魔族。

 僕にしがみついたまま離れようとしない心配性のデレは、自分の境遇を恨みはしない。
 決して腐らず、恨まず、憎まず、ただただ純粋な目で僕らを追う。

 僕にはこんな子供時代すら無かったけれど、どことなく懐かしさを感じる。
 大事にしなきゃいけない気がする、壊したり汚しちゃいけない気がする。

 ふわふわの髪も、高めの体温も、小さな手も、辿々しい言葉も。
 僕らが連れて歩くには、あまりにもこの子は可愛らしすぎる。


 時には人も殺すし、汚い仕事もするし、危ない橋も渡るだろう。
 そんな時に、デレは居るべきでは無いんだ。

 まだそんな物は見なくて良い。
 奴隷としての日々で知った様な汚さを、子供の内に改めて見る必要は無い。

 そんなもの、不用意にデレを傷付けて、心を歪めてしまうだけだから。


52 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:39:51 ybrSpsO.0

 いつかの別れは新たな旅立ち。
 いつかの再会を夢見て歩こう。

 今は別れの時まで、共に過ごせば良いだけの事。


,,ξ゚⊿゚)ξ「宿に荷物置いてきた」

,,爪'ー`)y‐「役所に報告終わった、女騎士さん居なかったわ」

ξ゚⊿゚)ξ「デレ、宿で待っとく?」

ζ(゚- ゚*ζ「いく」

ξ゚⊿゚)ξ「うむ」

爪'ー`)y‐「んじゃ騎士さんにご挨拶しとこっか、広場なら居るかも」

ξ゚⊿゚)ξ「ま、顔見せておかないとね、余所者は礼儀を持たないと」

ζ(゚- ゚*ζ「にんげん……おとなたいへん」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ、大人は大変なの」

爪'ー`)y‐「やー大変大変」


53 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:40:24 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「広場は、っと」

 「そこー! 瓦礫はそっちじゃなくてこっちー!」

爪'ー`)y‐「お?」

 「端材も使うから無駄にしないでー! 石材は使えるからねー!」

ξ゚⊿゚)ξ「女の声」

爪'ー`)y‐「騎士さん、っつか工事現場かな?」

ξ゚⊿゚)ξ「しかしこの声……まさか」

ミセ*゚ー゚)リ「ほらそこー! もー勝手に炊き出し食べようとしない!」

ξ゚⊿゚)ξ「あ」

ミセ*゚ー゚)リ「ん? あー冒険者さん? ごめんねーバタバタしちゃってて!」

ξ゚⊿゚)ξ

ミセ*゚ー゚)リ

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リそ


54 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:41:01 ybrSpsO.0

ミセ*゚ヮ゚)リ「ツーンーちゃーんーだー!!?」

ξ゚⊿゚)ξ「お、ぉぉミセリか、マジのミセリか」

ミセ*゚ー゚)リ「ミセリだよー元気してたー!?」

ξ゚⊿゚)ξ「幾度か死んだけど元気元気」

ミセ*゚ー゚)リ「何それ冒険者すげーな……」

爪'ー`)y‐「お知り合い?」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、孤児院で一緒だった幼馴染み」

ミセ*゚ー゚)リ「彼氏?」

ξ゚⊿゚)ξ「雇用主」

爪'ー`)y‐「このサイズ感では欲情できないですね」

ミセ*゚ー゚)リ「すごい事言われてないツンちゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「慣れたけど一回殺す」

ミセ*゚ー゚)リ「やめて私闘は禁止」


55 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:41:02 risfA6hk0
おー騎士になったんだ


56 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:42:10 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「えっつか何? 騎士? あんた騎士? 拳士じゃなかったの?」

ミセ*゚ー゚)リ「魔法拳士だよー、でもお城から騎士号貰って今はここで単身赴任で働いてんの」

ξ゚⊿゚)ξ「はー……すっかり勤め人に……師匠は元僧侶よね?」

ミセ*゚ー゚)リ「そっそー、治癒魔法は一番得意だからここに派遣されたの」

ξ゚⊿゚)ξ「聖職者には?」

ミセ*゚ー゚)リ「なってない、制約多いし結構色々あんだもん……後ろ暗いアレが……」

ξ゚⊿゚)ξ「あっあー……やっぱ本当にあんのね……」

ミセ*゚ー゚)リゞ「そんなわけで、ミセリ・アンジェニュ18歳! 城から騎士として派遣されて働いております!」ビシッ

ξ゚⊿゚)ξ「おぉ……偉くなったわねミセリも……急に先生連れて居なくなった癖に……」

ミセ*゚ー゚)リ「せんせなら王都で孤児院やってんよ」

ξ゚⊿゚)ξ「まーた孤児院やってんのか」

ミセ*゚ー゚)リ「夫婦水入らずで」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ嫁貰ったの」

ミセ*゚ー゚)リ「いやダメンズ貰った」

ξ゚⊿゚)ξ「待て待て待て待て」


57 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:42:57 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「待て先生待て」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫だよ夫婦は通称だから」

ξ゚⊿゚)ξ「あっチーム夫婦円満……」

ミセ*゚ー゚)リ「せんせのパーティ名だね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうか、びっくりした……次に行くのが王都だから顔見せなきゃ」

ミセ*゚ー゚)リ「あーん良いなー、わたしも会いたいなー」

ξ゚⊿゚)ξ「有給は?」

ミセ*゚ー゚)リ「ないっすね」

ξ゚⊿゚)ξ「ブラックかよ」

ミセ*゚ー゚)リ「ところで彼氏さんは詩人さん?」

爪'ー`)y‐「雇用主です吟遊詩人です」


58 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:43:34 ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「マントの中のちっちゃい子は?」

爪'ー`)y‐「デレ、出といでー」

ζ(゚-|

爪'ー`)y‐「出ないわ」

ξ゚⊿゚)ξ「人見知りするものね」

ミセ*゚ー゚)リ「お姉ちゃんは怖くないよー、わたしはミセリ、ツンちゃんのお友達だよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「空を裂き地を穿ちその拳に砕けぬ物は無い凄腕の拳士よ」

ミセ*゚ー゚)リ「ねぇどうして怖がらせる感じにしたの? わたし今怖くないよーって言ったよ?」

"ζ(゚- ゚|

ミセ*゚ー゚)リ「何で今ので顔出したの? 基準がわかんないよ?」

爪'ー`)y‐「まぁツンちゃんと同類だと感じたのでは」

ミセ*゚ー゚)リ「意味が気になるんですが」

ξ゚⊿゚)ξ「脳筋貧乳って言いたいのよ」

ミセ*゚ー゚)リ


59 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:44:24 m9WV2Jhs0
ミセリキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


60 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:44:36 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「ほらデレ、ご挨拶」

ζ(゚- ゚|「……デレ、よろしく、おねがいします……」

ミセ*゚ー゚)リ「ホァー 可愛いねこの子」

ξ゚⊿゚)ξ「だいたいみんなそう言うわ」

爪'ー`)y‐「うちのあざとい代表だからね」

ミセ*゚ー゚)リ「んーデレちゃんは何歳かなー? 飴ちゃん食べるかなー?」

ζ(゚- ゚*ζ「がう、たべる……きゅうさい……」

ミセ*゚ー゚)リ「九歳かーうーん可愛い盛りだなーいいなー可愛いカッコさせたいなー格闘技仕込みたいなー」

爪'ー`)y‐「最後おかしい最後」

ミセ*゚ー゚)リ「褐色さんかぁ、ここらじゃ珍しいね」

ξ゚⊿゚)ξ「フードの中覗いてみ」

ミセ*゚ー゚)リ「どれどれ」

:ζ(゚- ゚*ζ:

ミセ*゚ー゚)リ


61 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:45:55 ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「こりゃ風当たりキツいぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「頼むわよ騎士様」

ミセ*゚ー゚)リ「風避けになれってか、んもー……こっちも騎士号貰っただけで正規の騎士じゃないのに……」

ξ゚⊿゚)ξ「でもミセリはここで悪い立場じゃないんでしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「好かれてるかと言うとそれなり、仕事は頑張ってるから徐々に環境は改善してる」

ξ゚⊿゚)ξ「昔から真面目だったわよね、ちゃんと勉強もするし」

ミセ*゚ー゚)リ「楽しいよ? まぁ身体動かすのも好きだけど……デレちゃん、ここではフード外さないでね」

ζ(゚- ゚*ζ「がう……」

ミセ*゚ー゚)リ「無理矢理剥ぎ取られたりはしないから、取り敢えず人前では外さないように、ね?」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

ミセ*゚ー゚)リ「わたしも風避けにはなるけどそこまで立場強くないからね
     派遣されてきただけだし正規の騎士でもない、それでも頼られてるからやるけどさ」

ξ゚⊿゚)ξ「……私よりずっと立派ね、あんたは」

ミセ*゚ー゚)リ「わたしにはせんせ達が居たかんね、……まぁこの仕事は師匠の紹介だけど」


62 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:46:42 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「立派な騎士様、哀れな冒険者に恵んで」

ミセ*゚ー゚)リ「やだよ薄給だよこっちは、24時間体制で働いてんのに」

ξ゚⊿゚)ξ「よその村の環境より職場の環境を改善した方が良いのでは……」

ミセ*゚ー゚)リ「王様は頑張ってるようん……悪いのはその下の方だよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「権利者って……」

ミセ*゚ー゚)リ「ところで彼氏ずっと黙ってるけど大丈夫?」

ξ゚⊿゚)ξ「ああごめん、つい懐かしくて長話を」

爪'ー`)y‐

ξ゚⊿゚)ξ「狐?」

ミセ*゚ー゚)リ(狐)

爪'ー`)y‐「ミセリちゃんは彼氏は居るの?」

ミセ*゚ー゚)リ「いないっすね」

ξ゚⊿゚)ξ「おい」


63 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:48:12 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「もし良かったら仕事上がりに一杯呑まない? 奢るよ僕」

ミセ*゚ー゚)リ「いやーわたしお酒はちょっと」

爪'ー`)y‐「じゃあ食事はどうかな、君の綺麗な緑の髪と瞳で胸がいっぱいになりそうだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃんこの人ガチで口説きに来てる」

ξ゚⊿゚)ξ「やめなさい狐、その子は私に負けず劣らずの大飯食らいよ」

ミセ*゚ー゚)リ「やめてツンちゃん確かに食べるけど昔はそうでも無かったもんやめて」

ξ゚⊿゚)ξ「あと幼馴染みに手ぇ出すのやめろや」

爪'ー`)y‐「やっぱダメ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ダメだよバカか今後顔合わせづらいだろうが」

爪'ー`)y‐「ちぇー、熟考の結果イケるなって判断したのになぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「イケんで良いわたわけが」

ミセ*゚ー゚)リ(何だこの会話)

ζ(゚- ゚*ζ(なかよし)


64 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:49:05 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「最近身近に居るのがこの小さいホームランバーと惜しい魔女くらいでさぁ」

ミセ*゚ー゚)リ(ヒールちゃんの事かな……)

爪'ー`)y‐「でもミセリちゃんは背も高めだし可愛いし元気な良い子だしさぁ、やや控えめだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「ぶっころ」

ξ゚⊿゚)ξ「地雷踏むの上手いわよねあんた」

爪'ー`)y‐「無と控えめの差は大きいよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ぶっころ」

ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃん落ち着いて」

爪'ー`)y‐「だからヤれるなと思ったけど怒られたから諦めます」

ミセ*゚ー゚)リ「なんか完全に食い物にされそうだったんですけど」

ξ゚⊿゚)ξ「これがニュートラルなのごめんミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「最低かよ雇用主……」

ζ(゚- ゚*ζ(かれしなくなた……)


65 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:49:57 ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「まぁ新米騎士で小娘だからセクハラは慣れたもんだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたも大変ね……」

ミセ*゚ー゚)リ「まーにー」

ξ゚⊿゚)ξ「ところでミセリ、日常的に自分にバフかけてるって本当?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、ドクオさんに魔法も教わってるから鍛練も兼ねて」

ξ゚⊿゚)ξ「英雄二人が師とはね……」

ミセ*゚ー゚)リ「ツンちゃんも教わる?」

ξ゚⊿゚)ξ「無魔力だから……」

ミセ*゚ー゚)リ「あー……」

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリは魔法の素質もあるものね、羨ましい……」

ミセ*゚ー゚)リ「才能に見合う実力を得るには相応の努力をしないと駄目なのです……」

ξ゚⊿゚)ξ「才能ってのもよしあしね……」

ミセ*゚ー゚)リ「多少やっとかないと魔力の暴発とかあるかんねー、それを防ぐためにも勉強中」

ξ゚⊿゚)ξ「大変そうだけど、頑張ってねミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん! ツンちゃんもね!」


66 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:52:57 ybrSpsO.0

ミセ*゚ー゚)リ「あーそうだ、二人とも冒険者なら依頼があるの」

ξ゚⊿゚)ξ「ん? 正規の依頼?」

ミセ*゚ー゚)リ「そうそう、ここから北に少し行ったところに森があるんだけどね、そこに魔物?が出るの」

爪'ー`)y‐「何かフワッとしてるね」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん、本来ならわたしが見に行って報告書作るんだけど、手が離せなくて……
     数名が怪我や妙な症状を訴えてるんだ、目が見えなくなるとか足が動かなくなるとか」

ξ゚⊿゚)ξ「魔法か毒?」

ミセ*゚ー゚)リ「かなぁとは思うんだけど、なにぶん情報が少なくて大変な仕事になると思う」

ξ゚⊿゚)ξ「ふむ……今ならお守りもあるし、魔法なら大丈夫かな」

爪'ー`)y‐「あんま過信しないでよー?」

ξ゚⊿゚)ξ「分かってるわよ、死にたくないもの」

ミセ*゚ー゚)リ「こんなフンワリした依頼でごめんね……代金は弾むみたいだから」


67 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:53:42 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「魔物の特徴は?」

ミセ*゚ー゚)リ「黒い影だって、人の形を模してはいるけどゆらゆら変形するみたい」

爪'ー`)y‐「不定形の影の魔物かぁ……魔法しか通じないとキツいかなー」

ξ゚⊿゚)ξ「ま、様子だけ見に行きましょ、無理そうならヒール引きずり出して」

爪'ー`)y‐「まぁそれでいっか、あの子なら安心感ある」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……やっぱ上に言われたとは言え、こんな不安要素の多い依頼はなぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「しょうがないわよ、正体不明の討伐依頼はたまにあるし気にしないで」

爪'ー`)y‐「そうそう、もっとフワフワした依頼もあったしね」

ミセ*゚ー゚)リ「ぐぬぬ……国からの依頼なんだからもうちょっとなぁ……はぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ行きましょ狐、デレは宿に戻る?」

ζ(゚- ゚*ζ「いく」

ξ゚⊿゚)ξ「危なくなったら逃げなさいよ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」


68 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:54:04 ybrSpsO.0




 緑の髪の女騎士に見送られ、僕らは得物を持って村を出る。
 その際に、足や腕を無くした元兵士達の視線が刺さるように向けられた。

 戦後のいさかいで出た傷痍軍人みたいなものか。
 道端に座り込み、余所者へ期待と敵意の眼差しを向けている。

 僕は彼らに銅貨の一枚も渡す事は無く、相棒を早く歩かせ、デレを自分のマントに隠して歩いた。


 ああ言った手合いは下手に恵むと厄介だ。
 あの騎士さんなら信頼できそうだし、金貨一枚でも渡しておいた方がきっとマシだ。

 兵士としてのプライドや憎しみ、嫉妬と虚無感、絶望。
 それは僕も散々身近に感じてきたものだからこそ、下手に手を出してはいけない。

 彼らは乞うが、施す相手に敵意を向ける。
 花売りの少女とは違う、だからツンちゃんには決して触れさせないようにしないと。


爪'o`)y‐「けほ」

ξ゚⊿゚)ξ「ん?」


69 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:54:31 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「んー……喉がなんかなー……」

ξ゚⊿゚)ξ「空気が冷えてるし、ここらは埃っぽいものね」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんだいじ?」

爪'ー`)y‐「んー大丈夫、ちゃんと喉の保護もしてるし……後でのど飴でも舐めとくか」

ξ゚⊿゚)ξ「この時期はしょうがないわね……」

爪'ー`)y‐「そうなんだよねー……空気の綺麗な暖かい場所に行きたい……」

ξ゚⊿゚)ξ「今度地図見てみましょ」

爪'ー`)y‐「わーい」

ξ゚⊿゚)ξ「でもあんた旅の目的忘れてないでしょうね」

爪'ー`)y‐「えっ、デレを送り届けるんじゃ」

ξ゚⊿゚)ξ「解呪だろおい」

爪'ー`)y‐「ハッ」


70 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:54:57 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「そういや解呪のために旅してるんだった……」

ξ゚⊿゚)ξ「そのために武者修行を兼ねてあんたの護衛してんのよ私は」

爪'ー`)y‐「護衛……?」

ξ゚⊿゚)ξ「ご、護衛だし……してるし……」

爪'ー`)y‐

ξ゚⊿゚)ξ「してるし……!!」

ζ(゚- ゚*ζ(おねさんがいちばんころしてる)

ζ(゚- ゚*ζ「おにさん、あい」

爪'ー`)y‐「ん? 飴?」

ζ(゚- ゚*ζ「きしさんくれた、あげる」

爪'ー`)y‐「自分で食べなよー、僕は煙草で喉は守れるから」

⊂ζ(゚- ゚*ζ「がうがう」

爪>ー<)y‐「ンモーアリガトー」

ξ゚⊿゚)ξ(なんだこいつら……)


71 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:55:21 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「ま、喉は大事にしなさいよね」

爪'ー`)y‐「してるってばー」

ξ゚⊿゚)ξ「子守唄が無いと寝にくいんだから……」

爪'ー`)y‐「今ツンちゃんが小さい子みたいな事言った気がする」

ξ゚⊿゚)ξ「うっさい」

ζ(゚- ゚*ζ「ちいさいこ?」

ξ゚⊿゚)ξづ「うっさい」グシャグシャ

ζ(- -*ζ「がぅー」

爪'ー`)y‐(ほほえましいなー)

爪'o`)"「ケホ」

爪'ー`)y‐「んー……? 何か変な感じがするな……」

爪'ー`)y‐(まぁ労れば良くなるか……無駄に喉は使わないでおこう)


72 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:56:01 ybrSpsO.0

爪'ー`)y‐「森に入ったけど、魔物の気配は……」

ζ(゚- ゚*ζ「ぐる」

ξ゚⊿゚)ξ「あ」
    ,_
ζ(゚皿゚*ζ「ぐるるる……」

ξ゚⊿゚)ξ「おお……威嚇してる……」

爪'ー`)y‐「ここまで警戒してるって事は……ヤバいし近いね」

ξ゚⊿゚)ξ「音は無い……気配は……」


 身を低くして喉の奥から唸り声を出すデレに、僕とツンちゃんは警戒を強める。

 周囲は暗い森、何のへんてつも無い場所だが、徐々に嫌な気配が近付くのを感じた。


 ちゃき、と斧を握り直すツンちゃん。
 その横顔を見て、僕は加護の歌を歌っておこうと楽器を爪弾く。

 加護の歌は文字通り、女神からの加護を受けて所謂防御力を上げる。
 見せる事は無いと思っていたバフの場面、大きく静かに息を吸って、少しくらい格好良く


爪; Д )"「げっ、ほ……けほっげほっ、……あれ……?」


 決まりやしない。

 込み上げる咳に息を吸う事もままならず、歌うどころじゃない。


73 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:57:08 ybrSpsO.0

ξ゚⊿゚)ξ「? 狐ちょっと、大丈夫?」

爪'ー`)y‐「う、ん……何か……急に喉が……けほっ、ぇほっ……」

ξ゚⊿゚)ξ「……嫌な気配が近い、そのせいかも知れないわ、一旦戻って」
    ,_
ζ(゚Д゚*ζ「がうっ! がうがうっ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「ッ、来たか」

爪'ー`)y‐「ぁー……ごめ、けほっ……歌えな……こほっ、げほ」

ξ゚⊿゚)ξ「良いからデレお願い、私が魔物を探るから」

爪'ー`)y‐「う、ん……」


 何だろう、確かに濃い魔力は感じる、肌をぴりぴりと撫でている。

 けどそれ以外にも、何だか凄く嫌なものを感じる。
 これは何だろう、身近な様な、なにか、遠いような。


 ツンちゃんに背中を預けた状態で周囲を見回しといると、ぞわ、と肌が粟立つ。

 慌てて振り返れば、そこには地面から染み出すようにうねる、黒い影。


74 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:57:37 ybrSpsO.0

 じゅるじゅると形を変え、蠢き、濁り腐ったような黒い何か。
 その何かはふらふらと、じりじりと、こちらに近付いてくる。

 近くに身を隠すところは。
 ごろごろと大きな岩が転がる場所があるが、森の中、木々ばかりで身を隠せそうにない。
 デレを連れて隠れようにもこれじゃ難しい、やっぱり早めに逃げた方が。

 ツンちゃんを見る。
 目を大きく開き、嫌な汗を流しながら先頭体勢のままだ。

 デレを見る。
 身を低くしたまま唸り、時おり吼えながら魔物を睨む。


 おいおい腰が引けてるのは僕だけって事かい。
 デレを引き寄せて、僕の横まで下がらせる、さすがに前に出るには危ないよ。

 しかしこれは、何だか嫌な予感がする。
 今は退いて、魔法を使える人間を連れてきた方が。


ξ゚⊿゚)ξ「ッ! 狐避けろ!!」

爪;'ー`)y‐「っ!?」


75 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:58:30 ybrSpsO.0

 ツンちゃんの声に前へ向き直り、言われた通りに避けようとはした。

 しかし僕の動作はそれに敵わず、僕は正面から‘何か’をモロに受けてしまって。

 胸へと叩き付けられる力と、その力に簡単に吹き飛ばされる身体。
 背中から岩へ叩き付けられた僕は、肺から息を絞り出して倒れ込む。


 岩場に叩き付けられた背中と、同時にぶつけた頭が痛む。
 頭からは血が出たらしく、顔がじわじわと濡れていった。

 ああくそ、何だか本当に良いとこ無しだな。
 こんなのカッコ悪いったらないじゃないか。


 ねぇツンちゃん、今すっごい痛い、


爪;'ー`)y‐「─────。」


 あれ


76 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:59:04 ybrSpsO.0

爪;' -`)y‐「───? ────。」


 あれ、あ、


爪;'Д`)y‐「───ッ! ────ッ!!」


 声、が。


 出ない。



ξ;゚⊿゚)ξ「狐ッ! 怪我は!?」

爪; Д )y‐「ッ! ────!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……え?」


 どうしよう、どうしよう。

 声が、出ない、声が。


77 : 名無しさん :2017/02/19(日) 21:59:36 ybrSpsO.0

 え、やだな、うそ、どうしよう。
 僕は詩人なのに、吟遊詩人なのに。

 おかしいこんな、急に声が出なくなるなんて。
 さっきまで咳はあったけど、こんな。


 狼狽する僕を見たツンちゃんが、こちらを気にしながら戸惑いを見せる。

 その背中に、影は揺らめき、近付いて。


爪;'Д`)y‐「ッ!? ──────ッ!!」


 ツンちゃん後ろ、早く避けて

 危ないからツンちゃん


ξ;゚⊿゚)ξ「狐、まさか声……ぎゃっ!?」


 僕の声は届かないし、ツンちゃんは横っ面を殴り倒されるし。

 ああ、もう、僕は何をしてるんだろう。


78 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:00:58 ybrSpsO.0

 ツンちゃんに逃げろと伝えたくても声は出ない。
 僕は死んでもどうにかなるが、この子達はそうじゃない。

 だから僕を無視してでも逃げてほしいのに、幼子は僕に駆け寄り、相棒は武器を握って再び立つ。
 大丈夫かと何度も問い掛けるデレに返すべき言葉を吐き出せない。
 僕らを庇う様に立つ小さな背中に、何も言ってあげられない。


 ああ、背中が痛む。
 肋骨でも折れたか、いっそ死んだ方が楽なのに。

 でもまだ大丈夫、立ち上がれる。
 デレの手を借りながら立ち上がると、前方から強い魔力を感じた。


 黒い影はうねりながら、気味の悪い声をあげて魔力を放出する。
 影から伸びる尾の様な触手の様な物がびちびちと地面を叩き、土埃を巻き上げてはツンちゃんを狙った。

 斧でその攻撃を受け流し、弾き、返す様に一閃入れる。
 しかし手応えが無いらしく、斧が影を裂いても重みを感じていない。
 ツンちゃんが何度斧を振り抜いて影を引き裂いても、影は霧散する事なくじゅるじゅると元の形へ戻る。

 やっぱり物理は効かないタイプだ。
 今は退かないと。


79 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:01:30 ybrSpsO.0

 妙に重い身体を引き摺って、デレの手を借りて、ツンちゃんに手を伸ばす。

 立ち上がった筈なのに視界は揺らぎ、低くなる。

 土の味と血の味、緑の臭いと血の臭い。
 地面に倒れた衝撃すら感じない、けれど未だ死を迎える様子も無い。

 何なんだ、さっきから。
 僕の身体に、何が起きてるって言うんだ。


 デレが心配そうに僕を呼ぶ。
 視線で応える事しか出来ないが、ツンちゃんを助けろと言いたくて。

 こうなると僕はお荷物でしかない。
 捨てて行けば良い、暫くすれば蘇る。
 早くツンちゃんを連れて村に戻り、ヒールでも誰でも連れてきて。

 ぱくぱくと口を開閉しても、この喉から声は出てこない。
 困ったようにツンちゃんと僕を見比べるデレ。

 地面に倒れたまま、身体は動かない。
 視線だけを動かしてツンちゃんを見上げると、小さな相棒は必死に魔物へ攻撃を仕掛けていた。


80 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:04:06 ybrSpsO.0

 だがその無駄な行動は、不意に終わりを告げる。


 黒い魔物はずるずると蠢き、尾の様な部分をしならせて、振り抜いた。

 ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2340.png

 相棒な小さくて細い身体を引き裂く黒い一閃。

 地面に飛び散る赤い液体と、背中から倒れた相棒の身体。


(ツンちゃん)


 声は出なかった。
 身体も動かない。
 必死に震える手を伸ばしても届きやしない。


 ああもう少し、もう少しでも、僕が身を守る術を持っていれば。
 そうすれば目の前で倒れる小さな身体を、救えたのだろうか。


81 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:04:45 ybrSpsO.0

 背中から倒れ込んだ相棒は、真っ赤な飛沫を散らして息を吐く。
 流れる血の量は夥しい、通常の人間がしてはいけない類いの怪我だ。

 僕の側に踞っていたデレが悲鳴を上げてツンちゃんに飛び付く。
 ぽろぽろと泣きながら血を止めようと傷を押さえている。

 早く、誰かを呼んできて。
 狼狽して、困惑して、取り乱す子供には何も伝えられない。

 腕に力を込めて、地面を這いずろうとした。
 込めるべき力も身体には残っていないらしく、不発に終わった。


 どうしよう、どうしよう。

 僕は動けない、ツンちゃんは傷を負った、デレは取り乱している。
 村を出てまださして時間も経っていない、騎士様がおかしいと思って探しに来るのはまだ先だろう。

 ヒールは、駄目だ、ここに居る事すら知らない。
 デレ、僕の上着に術式があるから、それをツンちゃんに。

 ああもう声が出ない。
 どうして、急いでるのに、体も動かない、ああもう。

 どんな奇跡が起これば、どうにかなるんだよこの状況は。


82 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:04:56 m9WV2Jhs0
どう打開すんだろ


83 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:05:46 ybrSpsO.0

 すぐそこなのに、手が届かない相棒。

 そんな仰向けに倒れていた相棒の身体が動き、ゆっくりと身を起こす。
 狼狽えるデレはツンちゃんを寝かせようとするが、その手を払って制止する。

 傷ついた顔から、裂けた鎧の向こうから、ぼたぼたと血を流しながら立ち上がる背中。

 握りしめた斧槍を構え直して、よく通る声を響かせた。


ξ#゙⊿ )ξ「デレ!! フォックスを連れて村へ戻れ!!!」

ζ(;- ;*ζ「ッ!」


 幼い魔族に向けられた怒号。

 そして、初めて呼ばれた僕の名前。


 主人からの命令を受けた忠犬は、弾かれた様に動き、僕の腕を掴む。

 しかし僕を運ぶよりも早く、肉の裂ける音が響いた。


84 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:06:35 ybrSpsO.0

 どさり、再び倒れる小さな身体。
 どんどん広がる血溜まりは、相棒を戦士から少女の姿に変えた。


 ああ、ダメだ。
 僕には何も出来ない。

 デレお願い、僕は死んでもどうにかなるから。

 君のご主人を。
 僕の相棒を、連れて行って。



ζ( Д #ζ「ぐっ……がぁぁあああああああああ─────ッ!!!!!」


 途切れそうになる意識の中。
 鼓膜を引き裂くような咆哮が響いた。


 幼いその姿からは想像も出来ないような、地の底から響くような咆哮は、黒い魔物を怯ませて。

 その隙に、デレは僕とツンちゃんを抱えて走り出した。


85 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:07:01 ybrSpsO.0

 揺さぶられる視界。

 すぐ近くには血を流す、虚ろな目を開いたまま意識を失ったツンちゃん。

 はあ、はあ、と涙を振り払いながら走るデレ。


 ああ僕って、なんて、役立たずなんだろう。
 声も出ない、身体も動かない、とんだお荷物じゃないか。

 じわじわと、意識が、黒く塗りつぶされていく。
 魔力でもない、死でもない、気味の悪い何かが僕の内側を蝕んでいた。

 僕は、これを知っている。

 たしか、そう、これは。


 あのときの。

 僕が、不死者になった時の。



 魔女の、呪いだ。


86 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:07:34 ybrSpsO.0




 今日は良い日だ。

 数年ぶりに幼馴染みに会えた。
 困ってた依頼もお願い出来たし、受け持った仕事も順調。

 久々にイケメンに口説かれたり、まぁ迷惑だけど。

 今日は良い日だ。
 夜になったら、ツンちゃんとお話したいな。

 お酒は苦手だから、一緒にご飯を食べて。
 懐かしい話を花を咲かせたいな。


ミセ*゚ー゚)リ「ふふーふー、ツンちゃん達大丈夫かなー」

ミセ*゚ー゚)リ「戻ってきたらご飯奢ってー、積もる話しもいっぱい……」

ミセ*゚−゚)リ゙ ピク


 壊れたままの家屋の瓦礫を片付けながら、幼馴染みと過ごす時間を想像しては笑っていた。


87 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:08:13 ybrSpsO.0

 そんなわたしの鼻に届いたのは、血の臭い。
 それもどんどん濃くなり、近付いてくる。

 魔物でも来たのか、と瓦礫を投げ捨てて拳を握る。

 元僧侶である師匠より受け継いだ拳士の力と治癒の力。
 そして魔導師である先生達から受け継いだ魔法こそがわたしの武器。

 治癒魔法を得意とする魔法拳士ミセリちゃんの手にかかれば、ただの魔物なんていちころ。

 なん、だけど。


ζ(;Д;*ζ「がっ、がうぅっ!!」

ミセ;゚−゚)リ「デレちゃん!?」


 森の方角から走ってきたのは、数時間前に見送った二人を抱える小さな子供。
 抱えた大きな荷物は、真っ赤に染まっていて。


 その時わたしは察してしまった。

 あの依頼は、二人にするべきじゃなかったのだと。


88 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:09:23 ybrSpsO.0

ζ(;Д;*ζ「た、すけて、おねさ、たすけてっ!!」

ミセ;゚−゚)リ「ッ……すぐ治癒魔法かけるから! 置いて!!」

ζ(;Д;*ζ「ひっ、ぐ……ぅうううっ……」


 相方さんはともかく、幼馴染みの傷は深い。

 泣きじゃくりながら地面に二人を下ろすデレちゃんを下がらせて、
 わたしはポケットから清められた白手袋を取り出し、装備する。

 教会で清められた手袋には治癒魔法の力を増幅させる効果がある。
 通常なら閉じきれない傷でも、こうすれば。


 右目から腹までを引き裂かれた幼馴染み。
 その傷は、命に関わるような深刻なもの。

 やだやだやめてよ、わたし友達まで亡くしたくない。
 ざけんなちくしょう、こんな傷スーパー拳士のミセリちゃんにかかれば。

 かかれば。



 おかしい。


89 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:10:15 ybrSpsO.0

 手を翳して魔力を注ぐと、ぽわ、と緑がかった光が二人を包む。
 本来ならこれである程度の傷ならすぐ治る。

 その証拠に、小さな擦り傷なんかは消えていく。

 相棒さんの頭の傷も治ってる。
 ぱきぱきと骨の繋がる音もする。


 それなのに、幼馴染みの凄惨な傷は癒える様子が無い。

 おかしい、傷自体は塞がる筈だ。
 私の魔法じゃ生命力は戻せないが、傷くらいなら塞がる筈。

 か細いが息はしている。
 生きているなら治せる。
 心臓が動いているなら。
 血が流れているのなら。

 治せる、筈なのに。

 完全に失ったものは戻せない。
 吹き飛んだ手足なんかは生やせない。

 でも切り口の綺麗なものなら繋げられる。
 幼馴染みの傷は鋭利な刃物に似た傷口。

 だったら、塞がる筈なのに。


90 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:10:47 ybrSpsO.0

ミセ; − )リ「────駄目だ」

ζ(;- ;*ζ「っ!?」


 これはきっと“特殊な傷”だ。

 治癒魔法が作用しないのは、そう言った傷。

 そしてわたしは、それをどうにかする手段を持ち合わせていない。


 これはわたしの力が及ばない事ではあるが、わたしの怠慢ではない。

 聖職者としての訓練も、魔導師としての訓練も受けた。
 だから知っている、わたしは知識として知っている。

 “こう言う傷”は、呪いによる物だ。


 そして呪いは、聖職者にすら解ける事は多くない。


91 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:11:43 ybrSpsO.0

 呪いをもたらす魔物なんてそう居ない。
 ただの魔物がもたらす呪いなら聖職者にもどうにか出来る。

 でもこれは、違う。
 絶対に違う。

 だってこれは、だって、



ミセ;゚−゚)リ「……ッデレちゃん二人のところに立って!」

ζ(;- ;*ζ「あ、いっ」

ミセ;゚−゚)リ「わたしには助けられない、分かる? わたしでは、この二人を助けられないの」

ζ(;- ;*ζ「っ……ぅ、」

ミセ;゚−゚)リ「だから、助けてくれる人のところに君たちを転移させます、良い? 分かるかな?」

ζ(;- ;*ζ「あっ、い……あいっ!」

ミセ;゚−゚)リ「わたしが一番尊敬する魔導師の元に魔法で転移させる、ミセリに送られたって言えば分かるからね」

ζ(;- ;*ζ「あいっ!」

ミセ;゚−゚)リ「……ごめん、役立たずで本当にごめんっ!! 飛ばします!!」


92 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:11:50 m9WV2Jhs0
モララーのちんこ生やせるくらいならドクオの調合した薬でデミタスの手も治りそうなもんだけど


93 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:12:57 ybrSpsO.0





 ざわ、と森が揺れた。



 深く、暗く、鬱蒼とした森の奥の奥。


  ぞろりと天を睨む様に聳える、蔦を這わせた灰色の塔。


 緑と土の匂いが溢れるそこ。


  ゆっくり、ゆっくりと塔の階段を降りてくる男の姿。



 その深く暗く、光のない、黒に近い青の双眸が、
  血まみれで泣きじゃくる、小さな魔族の姿をとらえた。




('A`)「────珍しいお客さんだな」



 つづく。


94 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/19(日) 22:13:33 ybrSpsO.0
ありがとうございました、本日はここまで。

次回は来週にでも投下出来れば良いなと思ってます。
それでは、これにて失礼!


まとめて下さってます、ありがとうございます。
ttp://naitohoureisen.blog.fc2.com/blog-entry-271.html


95 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:13:57 m9WV2Jhs0
乙乙


96 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:17:35 puF2ToPE0
乙乙
凄い急展開だな


97 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:22:09 J0T0OcX20
めっちゃわくわくする



98 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:29:52 aCNIzULw0
ツンちゃん…


99 : 名無しさん :2017/02/19(日) 23:03:36 qKeAhE1c0
やっべえ、ゾクゾクするわ


100 : 名無しさん :2017/02/19(日) 23:05:48 z.O0Ak.w0
万能キャラきた!かつる!乙乙!

しかし成長したミセリは感慨深いものがあるな


101 : 名無しさん :2017/02/19(日) 23:40:13 /Hky1F9s0

なんでそこで画像付きなんですかァー!
覚悟はしてたけどォー!!


102 : 名無しさん :2017/02/20(月) 01:32:00 V2NSGskE0
ああああああああもおおおおおおおおだからみたくなかったんだよおおおおおおおおおお

どくおつんをたすけれなかったらうらむかんなああああああああ


103 : 名無しさん :2017/02/20(月) 02:29:44 f0UeBWH20

旅の6年後だから、ドクオも四十路か……
時系列確認のためにさっと読み返してきたけど、ミセリはロマネスクの弟子にはならず別の師匠についたんだな


104 : 名無しさん :2017/02/20(月) 02:44:37 DgBVLgn.0
来た!メイン('A`)来た!これでかつる!
かつるよね!?
マジで('A`)さんお願いしますよ…
ダメだったら泣くよ?マジで泣くよ?
お願いしますよ…


105 : 名無しさん :2017/02/20(月) 07:34:39 H0.b/lH.0
毛布さんなら狐の呪いも指先一つで…


106 : 名無しさん :2017/02/20(月) 09:42:17 Ve1rSIpc0
シリーズ総決算って感じだな


107 : 名無しさん :2017/02/20(月) 12:42:34 KhfD0ECEO
えぇい続きはまだかッッッ!!!!


108 : 名無しさん :2017/02/20(月) 15:11:38 woAJY59w0
我らがどっくんなら……どっくんなら何とかしてくれる……!


109 : 名無しさん :2017/02/20(月) 18:11:38 eBY7vg0Y0
予想より酷くなくて助かった
他のシリーズも読むか


110 : 名無しさん :2017/02/21(火) 14:01:59 h9LuwLlI0
ドクオーーーーーー鳥肌立ったわ、どうなるやら


111 : 名無しさん :2017/02/21(火) 15:45:46 nbgC.iBA0
絶望みがひどい乙


112 : 名無しさん :2017/02/22(水) 20:55:13 nxQgAOn.0
今回の絵は捗るな…何がとは言わんが


113 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/26(日) 21:00:05 u8k8Zb0w0


 例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。

 騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。

 周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
 聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。

 刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。


 一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
 もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
 そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。



 【道のようです】
 【最終話 いっしょにたいってこと。 中編】



 彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。


114 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:00:30 u8k8Zb0w0

 突如湧き出た魔力と血の臭いに、魔導師は濁った眼差しで階下を目指す。
 足音もなく階段を降り、扉もない出入り口から外を眺めた。

 そこに居たのは、人間が二人と魔族が一人。
 倒れたまま動かない人間は男女で、涙を溢しながら魔導師を見上げる魔族は小さな子供。

 珍しいその様子に、魔導師は僅かに片眉を上げた。


('A`)「────珍しいお客さんだな」

ζ(;- ;*ζ「がっ、う……みせり、に、おくられ、た」

('A`)「お嬢ちゃんが? ……取り敢えず中に、ひどい傷だ」

ζ(;- ;*ζ「あっい……あい……」

('A`)「クー、クーは居るかい」

川 ゚ -゚)「こちらに、ご主人様」

('A`)「そちらの青年を中へ、ソファにでも寝かせておいて」


115 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:00:53 u8k8Zb0w0

川 ゚ -゚)「この僕に力仕事を……と、怪我人ですか」

('A`)「ああ、俺はこっちのお嬢ちゃんの手当てをするから」

川 ゚ -゚)「はいはい……お客様もどうぞ、中へ」

ζ(;- ;*ζ「あい……」

川 ゚ -゚)「ご主人様、そちらのお嬢さんの傷は深いんですか」

('A`)「ああ、危ないやつだな」

川 ゚ -゚)「…………大丈夫ですよ、ご主人様バケモノですからきっと治せます」

('A`)「今は甘んじようその暴言」

ζ(;- ;*ζ「ぅ……おねさ……」


 魔導師は己のローブを少女に被せて運び、従者は青年の足を掴んで引き摺り、ソファまで移動させる。
 幼い魔族は、未だにひくひくとしゃくりあげながら青年の服の裾を握っていた。

 従者は人間離れした美しい顔を歪める事もせず、何か考え込んでから台所に足を運ぶ。
 そして何かを持って、ソファの足元に縮こまっている魔族の元に戻ってきた。


116 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:01:23 u8k8Zb0w0

川 ゚ -゚)「お客様、お茶をどうぞ」

ζ(;- ;*ζ「ぁ……ありあと、ござ、ます……」

川 ゚ -゚)「お名前は?」

ζ(;- ;*ζ「……デレ」

川 ゚ -゚)「デレ様、こちらの方はデレ様の大切な方ですか」

ζ(;- ;*ζ「あい……」

川 ゚ -゚)「……あちらの方もですね」

ζ(;- ;*ζ「…………あぃ」

川 ゚ -゚)「大丈夫です、ご主人様は無駄に凄い魔導師ですから、怪我なんてあっと言う間に」

('A`)「クー、綺麗なシーツを持ってきてくれ」

川 ゚ -゚)「毛布着てるのにシーツまで要るんですか」

('A`)「包帯代わりだよ、ほら走る」

(゚- ゚ 川三=-「はいはい今はちゃんとしますよ全くもう」


117 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:01:54 u8k8Zb0w0

ζ(;- ;*ζ「…………」

ζ(;- ;*ζ゙ ズズ

ζ( - ;*ζ" ゲッホ

ζ(;- ;*ζ「……まず……」

('A`)「クーお前またお茶入れたね」

-=三川 ゚ -゚)「ファインプレーですよ褒めてくださいよはいシーツと救急箱」

('A`)「はいどうもお仕置きは後でな」

川 ゚ -゚)「そちらの方はどんな怪我なんですか」

('A`)「あっこら見るんじゃない」

川 ゚ -゚)

川 ゚ -゚)" ウプ

('A`)「……お前は血とか怪我になれてないんだから、あっち行ってなさい」

川 ゚ -゚)「そうします……、……大丈夫ですよねその方」

('A`)「善処はするけど……俺が救急箱使う時点でちょっとな」


118 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:02:21 u8k8Zb0w0

('A`)「……そっちの彼もこのお嬢ちゃんも、珍しい物を貰ってるな」

川 ゚ -゚)「珍しい物……?」

('A`)「んー…………クー、倉庫から俺の杖を」

川 ゚ -゚)「え」

('A`)「魔方陣が必要、フリーハンドじゃ無理だ」

川 ゚ -゚)「ご主人様が杖持つの、見た事ないですよ僕……」

('A`)「若い頃は持ってたよ、ほら走った走った」

(゚- ゚ 川三=-「はいはいもう」

-=三川 ゚ -゚)つ†「これですかね」

('A`)「早いのは置いといて、これは……まぁこれで良いか、魔方陣が描ければ良いんだ」

川 ゚ -゚)「僕はデレ様のお側に戻りますから、何か必要なら呼んでください」

('A`)「ああ、頼むよ」


119 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:02:44 u8k8Zb0w0

,,川 ゚ -゚)「デレ様、お茶のおかわりはいかがですか」

ζ(゚- ゚*ζ「ない……」

川 ゚ -゚)「必要ですかお待ちください」

ζ(゚- ゚;*ζ"「ない、いらない」

川 ゚ -゚)「それは残念、……僕はクー、クール・フロワと申します」

ζ(゚- ゚*ζ「……きれいなおにさん」

川 ゚ -゚)「ありがとうございます、美貌のメイドです」

ζ(゚- ゚*ζ

ζ(゚- ゚*ζ?

川 ゚ -゚)「メイドです」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさん……?」

川 ゚ -゚)「メイドです」

ζ(゚- ゚*ζ??

川 ゚ -゚)(滑ったみたいになってる)


120 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:03:11 u8k8Zb0w0

川 ゚ -゚)「僕の美しさはさておき、あちらで手当てをしているのが僕のご主人様、ドクオ・ソリテール」

ζ(゚- ゚*ζ「まどうしさん……」

川 ゚ -゚)「そうです、気持ち悪い人です、顔とか」

('A`)「クー今は切羽詰まってるからやめてくれ」

川 ゚ -゚)「ご主人様には言ってませんから黙って処置してください」

ζ(゚- ゚*ζ「……デレ、すたるとぅ、……まぞく」

川 ゚ -゚)「ありがとうございます、デレ様はどうしてこちらに?」

ζ(゚- ゚*ζ「……おにさんとおねさん、けがした」

川 ゚ -゚)「はい」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさ、こえでない、おね、さ……ちが、いっぱい」

川 ゚ -゚)「はい」

ζ(;- ゚*ζ「デレ、ふたりもって、はしる……みせり、けがなおせない……」


121 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:03:37 u8k8Zb0w0

ζ(;- ;*ζ「みせ、ここ、おくっ、て、くれ……けが、なおす……ぅ、ぅぅー……」

川 ゚ -゚)「大丈夫ですよ、ご主人様なら大丈夫です、だから心配しないで下さい」

ζ(;- ;*ζ「あぃ……ひぐ、ぅ、ぅぅぅぅっ……」

川 ゚ -゚)(どうしよう泣く子の相手なんてした事ない)

ζ(;- ;*ζ「デレ、っなにも、できなっ……ひっ、ぅ……おろおろした、だけぇ……」

川 ゚ -゚)「デレ様はお小さいんですから、そんなに背負わないで下さい、大丈夫ですから」

ζ(;- ;*ζ「だって、デレ……うごく、はやい……たすけられたぁ……っ」

川 ゚ -゚)「後からならどうとでも言えます、もう過ぎた事を悔いても無駄ですよ」

ζ(;- ;*ζ「っ」

川 ゚ -゚)「ですので、お二人のために何が出来るかを考えましょう」

ζ(;- ;*ζ「ぅ、う……あい……」

川 ゚ -゚)(これが正解なのか分からねえ……)


122 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:04:51 u8k8Zb0w0

('A`)(あーまずいな)

('A`)(傷が全く閉じん)


 どんな高度な治癒魔法を用いても、目の前の台に横たわる少女の傷が塞がる様子は無い。
 それも当然ではある、傷から滲み出る黒く嫌なもやの存在が、傷の治療を妨げているのだから。

 珍しい物を貰ってきたものだ。
 これは呪いだろう、それも魔女の呪いと言う厄介な物。

 本来なら見知らぬ人間の手当てなんてある程度で済ませるが、あのお嬢ちゃんが送ってきたのだ。
 緑の髪の少女は今ごろ、後悔やら無力感に苛まれているのだろう。

 なら師の一人として、弟子の尻は拭いてやらねば。


 少女の横たわる台を中心に、床に魔方陣を描く。

 傷を閉じられない分、長持ちさせるために生命力を注ぎ続かねばならない。
 詠唱や簡易化した魔法では長続きはさせにくい、魔方陣を描いて設置型の魔法にした方が確実だ。


123 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:07:08 u8k8Zb0w0

 強制的に生命力を注ぎ続けて、体液となる材料を近くに設置しておけば嫌でも生き続けはする。
 血が止めどなく流れても、出た端から入れていくからどうにかなる。
 究極のデトックスとでも言うべきか、いや馬鹿を言う状況ではないか。

 とにかく、永遠にこのままってわけにもいかない。
 たとえどんなに手を尽くしても、この状態ではいつかは終わりが来てしまう。

 傷を無理矢理に物理的に閉じる。
 縫合しようにもこの呪いはそれも拒否するようになるだろう、包帯で外から強制的に閉じるしかない。

 とにかく少しでも血が止まれば良いが、それにしても傷がひどい。

 金属の胸当ては外して置いてあるが、見事に縦に引き裂かれている。
 顔から下腹まで真っ直ぐに裂かれていて、腹からは中身が溢れかけていた。

 今はどうにか押し込んであるが、この右目は。


('A`)(……右目はもう無理だろうな)

('A`)(手足が落ちても戻すことは不可能じゃないが、呪いに蝕まれたこの右目はもう治せない)

('A`)(あーあー、綺麗な顔なのにな)


 英雄と呼ばれようと、万能では無いんだよなあ。


124 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:07:46 u8k8Zb0w0

ζ(゚-⊂*ζ「ぅ……」

川 ゚ -゚)「ん」

爪' -`)"

川 ゚ -゚)「おはようございます、お加減はいかがですか」

爪' -`)「────」

川 ゚ -゚)「? あー、声が出ないってこう言う」

ζ(゚- ゚*ζ「……おにさ、けがだいじ……?」

爪' -`)゙ コク

ζ(゚- ゚*ζ「ぅ……おねさ……」

('A`)「クー、タオルはあるかい」

川 ゚ -゚)「ご主人様が首に巻いてます」

('A`)「そうだったこれタオルだった……じゃあ毛布とタオルを洗濯しておいて」

川 ゚ -゚)「ぅゎ……わかりました、洗ってきます」

('A`)「水でね」

川 ゚ -゚)「はいはい、デレ様、手伝っていただけますか?」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」


125 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:08:18 u8k8Zb0w0

('A`)「あー……ええと、緑のお嬢ちゃんに送られてきたんだよな」

爪' -`)゙ コク

('A`)「俺はドクオ・ソリテール、塔に引きこもるしがない魔導師だ」

爪' -`)

爪;'Д`)「────! ─────!?」

('A`)「英雄? うんまぁそう言われてるけど、それはどうでも良いから」

爪;' -`)「───」

('A`)「因みに初代主人公で現在41歳だ、まぁそんな感じで今でも魔導師やってるけどよろしく」

爪;'Д`)「─────!!!」

('A`)「それはさておき、あの金髪のお嬢ちゃんの事だ」

爪' -`)゙ ピク

('A`)「あのお嬢ちゃん、呪いに犯されてるよ」

爪' -`)

('A`)「でもそれはあんたもだろうお兄さん、面倒な物を貰ってる……しかも重ね掛けかな」

爪' -`)「────」


126 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:09:36 u8k8Zb0w0

('A`)「……魔女の呪いだろう、それは」

爪' -`)゙ コク

('A`)「何があってそうなったかは知らないけど、魔女の呪いは極めて特殊だ
     俺だって魔女の呪いは使えないし直接解く事は出来ない、魔女ってのはそれだけ特殊なんだよ」

爪' -`)「…………」

('A`)「魔女って言うのは、近親婚を繰り返し続けて血をどんどん濃くした魔導師系の元人間だ
     今となってはもはや人間とは呼べない、魔女と言う種族にまでなってしまった存在だ」

爪' -`)゙

('A`)「そんな彼らは自らの血として受け継いだ魔女独自の魔法を使う、それは専用の物
     もちろん魔導師の使う魔法も使えるが、魔導師は魔女の魔法は使えない」

爪' -`)゙

('A`)「そして彼らが最も得意とするのは呪術、誰かに呪いをかける事を生業の一つにもしていた
     まあ過去と現在では色々あって状況も変わったんだけど、今はそれは置いておいて……」

爪' -`)?

('A`)づ「魔女には血筋ごとに特色があってね、ちょっと失礼」サワサワ

爪' -`),,

('A`)「アンソルスランかな」

爪;' -`)!


127 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:10:23 u8k8Zb0w0

爪;' -`)「────!?」

('A`)「ああ、君の古い呪いも、君の声を奪いお嬢ちゃんを苦しめる新しい呪いも、アンソルスランだ」

爪;' -`)「…………」

('A`)「偶然だと思うけどね、まぁ他の呪いなら君には何の影響も無かったと思う、先の呪いがバリアになって」

爪' -`)゙

('A`)「うーんアンソルスランかー……あーやだなぁ、何だかなぁ」

爪' -`)「────?」

('A`)「あーもちろん強い家系だからってのもあるけど、ちょっと個人的にも因縁が……」

爪' -`)「────」

('A`)「……はっきり言うけど、俺には直接魔女の呪いを解く事は出来ない、魔導師だから」

爪' -`)「…………────?」

('A`)「間接的になら、多少は頑張れると思う。 ……だけどそうなると、大変だよ」

爪' -`)゙ コクコク


128 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:11:35 u8k8Zb0w0

('A`)「まず、呪いの元凶である物をどうにかしなければいけない」

爪;' -`)

('A`)「あーそれと君の喉、それくらいなら俺でもどうにかなるよ」

爪' -`)そ

('A`)「呪いの重ね掛けって言ったけど、実際はそれ声を奪うような物じゃないんだ
     ただ先にあったから反応して、少し弱ってた部分に発現しただけ」

爪' -`)「───?」

('A`)「うん、だから解呪するんじゃなくて喉を治せば良い、と言うか解呪してもなかなか治らないよ」

爪' -`)「───? ────」

('A`)「君の喉は弱ったところに呪いの影響を受けてるから、治すには特殊な薬を作る必要がある
     この森の北東に教会が浄化に使う泉があるんだ、そこに咲く花で薬を作れる」

爪' -`)゙

('A`)「ただまぁ満月の夜にしか咲かないしクソみたいに固い水晶の中に咲くから来月まで待って」

爪;' -`)そ

('A`)「だって今日だし満月……むり……君のそれ命に関わらないから待って……」

爪;' -`)゙ コク…


129 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:12:04 u8k8Zb0w0

('A`)「あーそうだ、お嬢ちゃんと会っておく? 最低限の手当てはしたんだけど……」

爪' -`)゙

('A`)「魔方陣踏まないようにね、今のこの子の生命線だから」

爪' -`)「…………」

('A`)「……君の荷物もお嬢ちゃんの荷物もそこにまとめて置いてあるから」

爪' -`)゙

('A` ),,

爪' -`)

爪; -`)

爪ぅ -;)

爪⊃-∩)"


 助けてやんなきゃなあ。
 信じて託されたんだし。

 年長者として、やれる事はしよう。


130 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:13:16 u8k8Zb0w0

 青年の声は届かないが、気持ちくらいなら流石に察する。
 何も出来ない、役に立たない、途方もない無力感に苛まれながら、彼は声も出せずに泣いている。

 パートナーがあんな姿になっただけでも辛いだろうに、彼は吟遊詩人。
 声が商売道具である彼にとって、声を無くしたのはどれほどの喪失感か。

 出来るなら早く治してやりたいが、すぐには無理だ。
 とにかく、今は呪いの元凶である何かをどうにかしてやらないと。

 しかしアンソルスランの魔女か。
 因縁はあるが、知り合いがいる訳でもない。

 魔女の呪いは同じ血統で無ければ解呪出来ない。
 悲しいかな俺は魔女ではないし、身近に居る魔女は血筋が違うか出生を知らない。
 だから今回、彼らの力を借りる事は出来ない。

 しかし、少しは使えるか。
 それよりも問題は元凶だな、どんな物なのかも分からないし悠長にはしてられない。

 力業で押さえる事は出来るかもしれないが、俺がこの場を離れる事は駄目だ。
 あの小さいお嬢ちゃんの生命力は、俺から直接魔力を吸って注がれている。
 離れたりなんかしたら、たちまちそのまま死んじゃうよ。

 あー困ったな。
 呪いの元凶をどうにか、どうにかったってなあ。

 うーんうーん。
 大体傷に残る魔力からしてだいぶ強いやつだ、上回る質量の魔力で対抗しないと。
 となるとやっぱり俺か、いやでもなあ、それはなあ。

 と言うか初見だと何で見知らぬおっさんがずっと喋ってんだってなるよなあこれ。


131 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:13:45 u8k8Zb0w0

,,川 ゚ -゚)「洗ってきましたよ」

ζ(゚- ゚*ζ「あらた」

('A`)「あ」

川 ゚ -゚)「はい?」

('A`)「クーちょっと」

川 ゚ -゚)「はいはい」

('A`)「ふん」サク

川 ゚ -゚)そ「ィッタイ!!!」

('A`)「血を小瓶に詰めて、と」キュッキュッ

川 ゚ -゚)「な……何なんですか……急にこの美しい僕の手を切るなんて……何なんですか……」

('A`)「ごめんごめん、クーの血が必要で」

:川 ゚ -゚):「許しませんけど……何なんですか……クソなんですけど……」

('A`)「ごめんて……ほら痛いの痛いのーとんでけー」ポワワ

:川 ゚ -゚):「治したからって許しませんけど……ふざけんなよ……」

('A`)「ほんまごめんて……」


132 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:14:28 u8k8Zb0w0

('A`)「さて、魔族の子」

ζ(゚- ゚*ζ「デレ」

('A`)「デレ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

('A`)「呪いの元凶をどうにかするには、出来る事なら魔女の力が必要だ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

('A`)「でも俺の知り合いにアンソルスランの魔女は居ない、君達は知り合いにいるかい」

ζ(゚- ゚*ζ。o( 川*` ゥ´) )ポワワ

ζ(゚- ゚*ζ「いる」

('A`)「マジで? 直系?」

ζ(゚- ゚*ζ「ぶんけ」

('A`)「あー……まぁ良いやたぶんいける、んじゃその魔女の力と君の力が必要だ」

ζ(゚- ゚*ζ「デレのちから?」


133 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:15:14 u8k8Zb0w0

('A`)「そう、君は魔族だ、だから人間よりも遥かに多くの魔力を溜め込んでいる」

ζ(゚- ゚*ζ゙

('A`)「本来なら暴発する様な量だけど……さすが魔族だな、大して魔法は使えないだろうに……」

ζ(゚- ゚*ζ

('A`)「やっぱ魔族の能力は研究対象として本腰を……ちょうどモララーさんも居るし……」

川 ゚ -゚)「魔法キチ乙(ご主人様、脱線してます)」

('A`)ハッ

('A`)「そう、だから君の魔力を魔女に注ぎ、力を増幅させて呪いの元凶を叩き潰すんだ」

ζ(゚- ゚*ζ゙

('A`)「君の仲間二人をああした相手だ、怖いだろうけど出来る?」

ζ(゚- ゚*ζ「やる」

('A`)「本当に?」

ζ(゚- ゚*ζ「やる」

('A`)「……なら、止めはしないけど……呪い避けのまじないはかけておこうね」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

川 ゚ -゚)「呪い避けの呪いって意味わかんないですね」

('A`)「シッ」


134 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:16:03 u8k8Zb0w0

('A`)「それにしても、不幸中の幸いと言うべきか」

ζ(゚- ゚*ζ「う?」

('A`)「魔女の知り合いが居るって言うし、あのお嬢ちゃんは魔防道具を装備してるだろ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

('A`)「それがなかったら、今ごろお嬢ちゃんは死んでるよ」

:ζ(゚- ゚;*ζ:

('A`)「腕の良い人に当たったね、作りも精度も良い、しかも曰く付きの高純度な人工魔石がついてる」

ζ(゚- ゚;*ζ「いわく?」

('A`)「人間が元になった魔石だよ、滅茶苦茶に質は良いけど倫理的にアウトでもう作られてない
     恐らく大昔の物を使ったんだろうなあ、高純度って事は間違いなく人間が生け贄になってる」

ζ(゚- ゚;*ζ「ぅぁ」

('A`)「それのおかげでお嬢ちゃんはギリギリ今生きてる、気持ちの良い物じゃないけど大事にね」

ζ(゚- ゚;*ζ゙ コクコク


135 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:16:31 u8k8Zb0w0

爪#' -`)づ ドスドス

('A`)「あっ痛いちょっと後ろから肝臓狙うのやめて」

爪#' -`)「────!! ───ッ!!!」

('A`)「あーごめんちょっと何言ってるかわかんないから今忙しいから」

爪#' -`)「─────ッ!!!」

川 ゚ -゚)「どう見てもめっちゃ怒ってるんですけど」

('A`)「だろうね、小さい子を危険な場所に送り込もうとしてるんだし」

爪#' -`)「───! ────!!!」

('A`)「あっちょっと声出ないからって文字で表現したらアウトな罵倒やめて」

川 ゚ -゚)「分かってんじゃねーか」


136 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:17:00 u8k8Zb0w0

ζ(゚- ゚*ζ「おにさん、デレいく」

爪#' -`)「────!?」

ζ(゚- ゚*ζ「デレやる、デレだけできる、やる」

爪#' -`)「────! ───!!」

ζ(゚- ゚*ζ"「デレやる」フルフル

爪#' -`)

ζ(゚- ゚*ζ

爪#' -`)「─────」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさん、おねさんのそばいて」

爪#' -`)「───ッ!!」

ζ(゚- ゚*ζ「ひとりない、まじょさんいっしょ、いく」

爪#' -`)

爪' -`)

爪' -`)「─────?」

ζ(゚- ゚*ζ「ちゃんとかえる、おねさんたすける、デレがんばる」

爪' -`)゛「…………」


137 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:17:29 u8k8Zb0w0

爪' -`)”
 つ(゚- ゚*ζ モフ
  と  ヽ,,

('A`)「……さて、じゃあ君を魔女の元まで届けないとな」

ζ(゚- ゚*ζ「あいっ」

('A`)「場所は?」

ζ(゚- ゚*ζ「きたとこ」

('A`)「なら痕跡があるから分かるな、はいこれ」

ζ(゚- ゚*ζ「う? おにさんのち?」

('A`)「お守りだよ、いざとなったら魔女に渡して」

ζ(゚- ゚*ζ「……あいっ」

('A`)「俺はここで、少しでもお嬢ちゃんが良くなるように色々するから」

ζ(゚- ゚*ζ「よろしく、おねあぃ、しますっ!」

('A`)「クーもこんな時期があったなあ……」

川 ゚ -゚)「ありましたっけ」

('A`)「いやー無かったかもなあ……」

川 ゚ -゚)


138 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:18:06 u8k8Zb0w0

('A`)「じゃあ送るよ、魔女によろしく伝えて」

ζ(゚- ゚*ζ「あい!」


 少しこわいおじさんに見送られ、魔方陣の中に入る。

 ぐるぐる、ぐにゃぐにゃ、回る視界。

 光の中に閉じ込められて、変な感覚がお腹の中にまで響く。


 そして景色が戻る頃には、そこはもう森の中ではなく。
 血まみれの地面を掃除する、騎士さんの目の前だった。


ミセ;゚−゚)リ「ファッ デレちゃんっ!? あの二人は!?」

ζ(゚- ゚*ζ゙ フルフル

ミセ;゚−゚)リ「え……」

ζ(゚- ゚*ζ「まじょさん、たすけもらう」

ミセ;゚−゚)リ「……それで、治せるの?」


139 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:18:46 u8k8Zb0w0

ζ(゚- ゚*ζ「たぶん、おじさんなおせない、まじょさんたたかう、のろいなおる」

ミセ;゚−゚)リ「ドクオさんにも治せないものあったの……ええいっじゃあわたしも手伝うっ!」

ζ(゚- ゚*ζ「きしさん、おしごとだいじ?」

ミセ;゚−゚)リ「んっ? ああ大丈夫かって? 知らん!!」

ζ(゚- ゚;*ζ

ミセ;゚ー゚)リ「……でも困ってる人のために働くのが騎士でありミセリだから、わたしにも手伝わせて」

ζ(゚- ゚*ζ「…………あい!」


 西の墓地の向こう、魔女さんのお家を目指して、ふたりで走り出した。
 村のなかを駆け抜けながら、ふと、おじさんのところでお洗濯をした時の事を思い出す。


 綺麗なお兄さんは、冷たい顔のままデレとお話してくれた。

 お兄さんとお姉さんに何も出来なくて、情けないデレとお話してくれた。


140 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:19:44 u8k8Zb0w0


 「デレ様はまだお小さいですから、何も出来ないのも無理はありませんよ」

 「僕なんて成人しましたけど未だに料理は前衛芸術なんですから、出来る事の方が少ないです」

 「そんな僕だろうと、問題ないとご主人様は言ってくれます、家事出来るようになれって言うけど」

 「だからデレ様、デレ様はただ無力なんじゃないです、子供なだけです」

 「僕と違って、あなたには沢山道の先があります、だから今くよくよしても無駄です」

 「あなたは今は無力としても、これから色んな事が出来るようになるんです」

 「だから今は、無力を前提に出来る事を考えましょう、小さなあなたに何が出来るのかを」

 「あなたにしか出来ない事が、絶対にあるんですよ、あなたはあなたしか存在しないんですから」


 慣れない手付きで頭をぽんぽん撫でてくれた綺麗なお兄さんは、小さく「僕クソだな」と呟いた。
 でも表情を崩す事は無くて、ただデレの頭を撫でていてくれて。

 デレは子供だし、弱いし、何にも出来ないかもしれない。
 でも、デレだけに出来る事だってあるかもしれない。


 そう思っていたデレに、おじさんは役目を与えてくれた。

 だからデレは、この出来る事を、絶対にやりとげるのだ。


141 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:20:06 u8k8Zb0w0

 デレはたくさん怒ってる。
 たくさん怖くてたまらない。

 お姉さんをあんな目にあわせたの許せない。
 お姉さんが手も足も出なかったのがこわい。

 お兄さんの声をうばったの許せない。
 お兄さんのおうたが聞けないなんていや。

 デレは絶対にゆるさない。
 絶対に負けたくないし、こわいけど、すっごくこわいけどたたかうんだ。

 だからそのためにも、魔女さんのと


ミセ;゚−゚)リ「デレちゃん! フード!! 外れてる!!」

ζ(゚- ゚;*ζ「っ!!」


 ざわざわ。

 騎士さんの言葉に足が止まった。

 色んな人の目が、視線が、いっぱい刺さる。


142 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:20:27 u8k8Zb0w0

 頭から外れたフードを慌ててかぶり直しても、もうデレの角は見られたあと。

 腕や足の無いひとが、怪我をした痩せた人たちが、デレを見ている。


 こわい。
 この目は、こわい目。

 デレをばけものだってきらう、にくむ、うらむ、ひとの目。


 でも、でもデレは急ぐの。
 急いで魔女さんのところに行かなきゃ。

 立ち止まってる場合じゃなくて。
 こわい目で見られるくらい、全然平気で。


 ひゅ、ごつ。


Σζ( - ;*ζ「ッ!」


143 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:20:48 u8k8Zb0w0

ミセ;゚−゚)リ「デレちゃんっ!」

ζ( - ;*ζ「い、た……」


 急に頭がいたくなって、騎士さんが心配そうに駆け寄ってきて。
 足元に落ちてる小さな石に、どうして痛くなったのかがすぐに分かった。

 一人が石を投げて。

 それに応えるように、石を投げる人が増えて。


 ごつ、ごつ。
 投げつけられる石はそんなに痛くない。

 でもなんだかすごく苦しくて、こわくて、投げる人たちを見られない。


 足元にたくさん、たくさん石が増えていく。
 その石の数だけ、デレをきらう人がいる。

 ごつん、ごつん。
 投げられる石にどんどん力がこもる。


144 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:21:20 u8k8Zb0w0

 出ていけばけもの。
 はやくころせ。
 ひとごろしの末裔。
 そいつらのせいで。

 いたい言葉が石と一緒に投げ付けられて。
 農具や工具を持った人たちが、じりじりと近付いてきて。

 行かなきゃ。
 逃げなきゃ。
 急がなきゃ。

 わかってる、わかってるのに。
 怖がってる暇なんてない、もっとこわいのは二人がいなくなること。

 でもデレに向けられた敵意は、殺意は、こわくていたいものは。

 デレから、体の自由を奪ってしまって。

  _,
ミセ#゚Д゚)リ「────止めなさいッ!! 小さな子供相手に恥を知れッ!!!」


 怨嗟にざわめく広場を引き裂くのは、騎士さんの声。


145 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:21:43 u8k8Zb0w0

ζ( - ;*ζ「きし、さ」
  _,
ミセ#゚Д゚)リ「こんな子供に石を投げるかッ!! それが国に仕えた者の行いかッ!!?」


 ああ騎士さんは、ほんとにお姉さんのお友達なんだな。

 でもこの状態で、真っ直ぐな剣を振りかざしたとしても

 それはきっと、なんの役にもたたない。

 デレはしってる。
 この状況ではどうにもならない。
 ぜんぶぜんぶ叩き潰せるような力がなければ、どうにもならない。


ζ( - ;*ζ「いい、デレいい、へいき」
  _,
ミセ#゚−゚)リ
  _,
ミセ#゚−゚)リ「デレちゃん、そこの横道から抜ければ墓地への近道になる、行って」

ζ( - ;*ζ「ぅ……きしさんは……?」


146 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:22:19 u8k8Zb0w0

 細い路地を指差す騎士さんは、白い手袋の上に銀の籠手を装備していた。

 綺麗な銀色、白っぽい銀色、けっぺきで、さわるのがこわいくらい綺麗。

 十字架の描かれたそれを装備した騎士さんは、デレの視線に気づいて、にんまりと笑った。

  _,
ミセ#゚ー゚)リ「たとえ懲戒処分になったって、ミセリは己の魂に背く事は出来ません
     だからミセリは幼馴染みのため、小さな子供のため、そして己の正義のために拳を振るうよ」


 だから子供を逃がして、わたしはせっかく賜った騎士号を捨てましょう。

 いらだちに頬を染める騎士さんは、長い緑の髪を結い直して、デレの前に立ちはだかる様に拳を構えた。


 騎士さんはお姉さんのお友達だから、きっとやめてって言っても応えてくれない。

 デレのせいで大事なものを捨てるって言ってるけど、デレにはそれを止められない。


 だったら、甘えるしかないんだ。


 弱いから、何も出来ないから、デレは人に迷惑ばかりかけるんだ。

 だから走る、震える足で走る。

 騎士さんにぜんぶ任せてしまって、デレは走るしかないんだ。


147 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:22:52 u8k8Zb0w0



 村民がわらわらと、幼い魔族を殺すために集まる。
 その手には農具やら工具やら、ただの石やら瓦礫やら。

 ここは溜まり場、掃き溜め、恨みを持つ者が多い場所。
 気持ちは分かるよ、だってわたしも村ごと潰されたのだから。


 だからって、あんな小さな子供相手に殺意を向けたりなんてしない。
 わたしにここの人たちの痛みを全部理解できるとは思ってない、だけど見過ごせない事はある。


 なので不肖ミセリ・アンジェニュは、やっと定まりかけたキャリアの道を自ら投げ捨てます。

 だってしょうがないじゃない、ミセリはそう言うタイプのおバカさんだから。

  _,,
ミセ#゚Д゚)リ「掛かってきなさい誇りを喪い道を誤る憐れなる有象無象!!
     この愚かな小娘に、騎士たるミセリ・アンジェニュに傷の一つでもつけてみせろ!!!」


 魔力を纏わせた銀の拳を地面に叩き付けて、
  地を深く抉り穿ち、空を裂く様に吼えよう。


 結局、ミセリに勤め人なんて無茶だったって事かな。
 あーあ、せんせ達にまた心配かけちゃうよ。

 ま、笑ってくれそうだけど。


148 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:23:14 u8k8Zb0w0


 走って、走って、転びそうになりながら走って、石を投げられながら走って。

 よろめきながら路地を抜けたら、眼前に広がる墓地がデレを出迎えた。


 古いお墓も多いけど、それを越えるのはまだ新しいお墓。
 出来てまだ数年くらいの、木の杭を合わせて作っただけのお墓が、広がっていて。

 中には朽ちたものもある、中には作られたばかりのものもある。
 このほとんどが、魔族に殺されたのだろうか。


 なんだかすごく胸がいたくて、鼻の奥がつんとする。

 デレは悪くない、なんにもしてない。
 でもごめんなさい、ごめんなさい。
 デレは悪くないけど、ごめんなさい。


 墓地の中を走る。
 真っ直ぐ突っ切った方が早いから走る。

 魔女さん、たすけて魔女さん。
 なんにもできないデレを叱って。


149 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:23:37 u8k8Zb0w0

 変なにおい、いやなにおい。
 きっと死んだ人のにおい、死そのもののにおい、魂だけになった人のにおい。

 やだ、いやだ、デレはこんなの知りたくない。
 鼻がへんになってしまう。


 息を切らしながら墓地を抜けたその先には、森を背にした、足の高い小さなお家がぽつんとあった。

 紺色の三角屋根と、色んなものが干してある窓辺。
 玄関に立て掛けられた箒は、前にも見たことのあるもの。

 屋根からはえる煙突からは、不思議な色の煙がもくもく。


 ああ、よかった。

 魔女さんいた。

 たすけて魔女さん、魔女さん。


 階段をかけ上がって、ドアを叩く。
 どんどん、どんどん、名前の下がったドアを叩く。


150 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:24:12 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「あーはいはいうっせーなゴリラかよ」ガチャ

ζ(゚- ゚;*ζ「まじょさんっ!!」

川*` ゥ´)「あ? チビじゃんなんだよ、保護者どうした」

ζ(゚- ゚;*ζ「きて! のろい! たおして!!」

川*` ゥ´)「は、何? 呪い倒す?」

ζ(゚- ゚;*ζ「おねさん! しんじゃう!!」

川*` ゥ´)「あー? 呪いでもかけられたのかよ、つか解呪とか言われてもなぁ……」

ζ(゚- ゚;*ζ「あんそるすらん!! まじょののろい!!」

川;` −´)!!

ζ(゚- ゚;*ζ「まじょさん! おねがい!!」

川*` ゥ´)「……無理だ」

ζ(゚- ゚;*ζ「っ!? む、むりないっ!!」


151 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:24:37 u8k8Zb0w0

 魔女さんのとまどった顔が、いっしゅんで渋いものになる。

 何かに気付いたような、察してしまったような顔で、ばつが悪そうに目をそらす。

 でもデレは、魔女さんにたすけてもらわないといけない。
 お願いをするしかない。

 居心地悪そうに袖を握る魔女さんは、ため息を洩らすみたいに口を開く。


川*` ゥ´)「…………だってアンソルスランの魔女の呪いだろ、分家のあたしの力じゃ無理だ」

ζ(゚- ゚;*ζ「おねがい、っおねがいします!!」

川*` ゥ´)「……だから、無理だって」

ζ(゚- ゚;*ζ「まじょさんっ!!」

川#` ゥ´)「だっ……から! 無理なんだよ! お前が思ってるより強大な力なんだよそれは!!
     あたしみたいに血の薄い、クソみたいな分家の! 一介の魔女には太刀打ち出来ないんだよ!!」


 イライラしたように怒鳴り付けてから、はっとなって顔をそらす魔女さん。

 こんぷれっくすって言ってたから、魔女さんは、きっとこれは嫌な話なんだと思う。


152 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:25:14 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「…………他の魔女教えるから、そっち頼れよ……あたしなんかに頼るな」

ζ(゚- ゚;*ζ「じかんっ、ないのっ!!」

川*` ゥ´)「…………知るかよ」

ζ(゚- ゚;*ζ「おねがいします! これ! あげるからっ!!」

川*` ゥ´)「何っ……だよ、金貨なんか渡されても……」

ζ(゚- ゚;*ζ「デレのねだん! デレあげるから!! だから!!」

川;` −´)!

ζ(;- ; *ζ「あげる、ぜんぶあげるから……」


 こらえていた涙が、ぽろぽろこぼれる。

 首から下げてたおかねのお守りをはずして、魔女さんに差し出す。

 デレの値段、デレのおかね。
 ぜんぶぜんぶあげるから。


ζ(⊃-∩*ζ「まじょさん……たすけて……」


153 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:26:14 u8k8Zb0w0



 小さいガキが泣いてる。
 金を差し出しながら泣いてる。

 金貨と銀貨の詰まった小さな袋をあたしに差し出しながら、それはガキの値段だと言う。


川*` ゥ´)(あー)

川*` ゥ´)(あたしは、そんなにひどい事してんのか)


 ガキが大事に持ってた金を差し出すくらい。
 元奴隷が自分の金額を差し出すくらい。

 あたしは、ひどい事をしてんのか。


 確かに魔女の呪いも、同血統なら解呪出来る。
 だがそれは、呪いを施した魔女と同程度か、上位の魔女ならの話だ。

 同血統としても、下位の魔女が手を出せばどうなるか。
 よしんば呪いを食らう事が無かったとしても、無傷では済まない。


154 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:27:01 u8k8Zb0w0

 今時呪いをかけるような魔女は、それなりの力を持つ古風な奴、つまり本家の輩だ。

 つまり、下手すりゃ全員死ぬ。
 あたしの腕では、死ぬ可能性の方が高いんだ。


 あたしは魔女としては上級だが、うちの血筋では、中の下程度。
 分家にしては、頑張ってる方だけど、所詮は分家、本家の血には敵わない。

 生まれ持った物こそが一番の世界。
 持たざる者として生まれたあたしには、あまりにも苦しい世界。


 あたしはどうして、魔女としてこんなにも力を求めているんだったか。

 どうして人を陥れてまで、名声を欲しているんだったか。

 ああそうだ、確かあいつのせいだ。

 あれは確か、あたしがまだクソガキだった頃だっけ。


 そう、あたしが今でも、羨んで憧れて妬ましくてしょうがない、魔女との出会いは。


155 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:27:51 u8k8Zb0w0

 あたしは憧れている。
 あたしは妬んでいる。
 あたしは目指している。


 ガキのあたしを救った純血の魔女。
 幼くも完成された稀代の魔女。

 長き血の歴史、途絶えつつある血統、最高傑作であるシュール・アンソルスラン、その人を。




 名家の分家の末っ子のみそっかす。

 それがあたしのポジションで、何の期待もされないのに名前だけは重くのし掛かる。


 生まれついての魔女の家系、進む道は生まれる前から決まっていた。
 他の道に進む事も可能だったが、最初から魔女になると思っていたし思われていた。

 幸い魔力はあった、容量も少なくはない体質、それなりに使いこなせる。


 幼い頃に魔女にはなれた、魔法の勉強も楽しいし嫌いじゃない。
 成績が悪いわけでもない、でもアンソルスランと言う名がそれを全て覆す。


156 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:28:12 u8k8Zb0w0

 この国だけじゃない、他の国にも名を轟かせるような魔女の血族。

 穏やかで、美しく、国をも動かす事が出来る力を持つ。
 それ故に命を狙われたり幽閉される事もあったらしい。


 アンソルスランと言う名前は、強く賢く美しく、穏やかで麗しい偉大な魔女と言う意味になってしまった。
 だからその全てに当てはまらないあたしは、この名前が嫌いで嫌いでしょうがなかった。


 あの日までは。



 戦争の最中、あたしはもう魔女だったが、まだまだ小さなガキで。
 うっかり敵兵の前に出てしまったあたしと、あたしを殺そうと向けられた刃。

 怖くて怖くてしょうがなかったあたしの前に、たおやかな動作で割り入る小さな影。
 それが一度だけ見たあの人の姿、あたしとあの人の出会い。

 敵兵を容赦も、躊躇も無く片手間に魔法で消し飛ばした幼女は、にっこり微笑んだ。


157 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:28:42 u8k8Zb0w0


lw´‘ -‘ノv『お怪我はなあい、小さな魔女さん』


 紫の髪、黒い瞳、穏やかで、綺麗で、幼いのに妖艶さすらまとわせる娘。


 一目でわかった。
 この人は、本家の魔女だ。


 私よりも小さなこの人が、本家の、偉大な魔女。
 まだ五歳かそこらの幼い魔女は、あたしの手を掴んで立ち上がらせる。

 甘くてまとわりつくような、夢の奥底みたいな良い匂い。
 ちいちゃくて細くてやわらかな白い手。

 にこにこ笑う魔女に、あたしは何も言えなくて。


lw´‘ -‘ノv『お怪我、ありますの?』


 困ったような声音で、それでも微笑んだまま尋ねられて、やっと大丈夫だと返事が出来た。


158 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:29:11 u8k8Zb0w0

 あたしの無事を確認した魔女は、スカートの汚れを払ってくれて、安全な道を教えてくれて。

 逃げないのかと聞いてみたら、魔女は弾けるような笑顔で言った。



 『旦那様がこの街を護って下さるの』


 『だからわたくしはどこにも行きませんわ』


 『お家で旦那様をお待ちしますの』



 くるくる、黒いワンピースを翻して笑った。



 『けれどね魔女の子、わたくしには全てが見えますの』


 『だからお逃げなさい、その道をまっすぐ行けば逃げられる』


 『わたくしはシュー、シュール・アンソルスラン、どうか覚えていて』


 『そしてもし良ければ旦那様に伝えてくださいな』


159 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:29:42 xzqusfzo0
おお…………。


160 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:29:45 u8k8Zb0w0

 いとしいいとしい旦那様。
 旦那様は何も悪くないの。
 だからどうかしあわせに。


 あたしにそう告げた魔女は、返事も聞かずに丘の上の屋敷へと走っていった。

 その街が魔族の襲撃により焼け野原となったのは、あたしが逃げ出したすぐ後。
 一人の英雄の手からこぼれ落ちた、最も凄惨な被害を受けた場所がこの街だ。

 最初こそ英雄を恨んだが、成長してから知った。

 街と共に死んだシュール・アンソルスランとは、その英雄の許嫁。
 多くを護り、多くを助けた英雄ロマネスク・ミュスクルは、最も守りたかった物を守れなかったのだ。

 そんなもん、哀れすぎて恨めやしない。


 今思うと、あの人は自分の死すら見透かしていたみたいで。
 何もかも、知った上でああしたみたいで。

 あたしはその手のひらの上に居るみたいで居心地が悪いが。
 それでもあの約束を守るためにも、魔女の子として名を馳せるためにも、あたしは努力してきた。


161 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:30:24 u8k8Zb0w0

 あたしは嫉妬している、尊敬している、羨望している。


 あの偉大なる魔女に近付きたい。
 あたしにだって、誰かを守れるようになりたい。

 愚図のブスのみそっかすだと馬鹿にしてきた連中を、みんなみんな見返してやるんだって。


 そうだよ、これこそがあたしを駆り立てるもの。

 偉大な魔女への憧れこそが、あたしの生きる理由の一つ。


 一目であたしを魅了した幼い魔女。
 誰もが目を奪われるような幼い毒婦。


 あの人になりたいわけじゃない。
 あたしはあの人を、踏み越えて乗り越えてやるんだ。


 持たざる者として生まれたあたしが、
 すべてを持って生まれたあの人を越えるために。

 あたしは、ここまで生きてきた。


162 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:30:47 u8k8Zb0w0

 魔導師になる事も出来た。
 平均の魔女として適当に生きる事も出来た。

 けどあたしは、本物を見てしまったから。
 その血を僅かでも持つあたしは、ただの魔女として生きる事は出来なかった。

 プライドはずたずただし、誰からも褒められた事も無い、不美人で卑屈で出し殻みたいな存在でも。


 あの魔女に助けられたんだ。

 本物の魔女と言葉を交わしたんだ。

 あんな風に誰かを救ってみたいんだ。

 あれだけの力をあたしはこの身に宿したいんだ。

 あの人のように高名で偉大な魔女になってやりたいんだ。


 だから。


 だからさ朝飯ども。


 お前らを助ける事を、その第一歩として利用させて貰うぞ。


163 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:31:22 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「……は、金持ちじゃんお前、あたしの財布こんなに入ってねーぞ」

ζ(ぅ-∩*ζ

川*` ゥ´)「……おい、連れていけよ」

ζ(ぅ- ;*ζ!

川*` ゥ´)σそ「この偉大な魔女になるヒール様を! お前の連れてきたい場所まで連れていけ!!」

ζ(ぅ- ;*ζ「っ……あいっ!!」

川*` ゥ´)「あとそんな胸くそ悪い金はいらねぇからな! てめーで持っとけバーカ!!」

ζ(ぅ- ;*ζ「あいっ!!」


 ガキが泣いてんなら、助けるしかねーし。

 あたしがこんなところで死ぬわけねーし。

 呪いとか老害の使うような手段、ぶっ潰してやる。


164 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:31:42 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「つかお前傷だらけじゃん、バカなん?」

ζ(゚- ゚*ζ「ぅ……いしなげられた……」

川*` ゥ´)「ホァーン、だから言っただろボケ、フード外すなや」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ……みせり、たすけてくれた……」

川*` ゥ´)「あーあの騎士のクソg」


< ボガーン ギャー メゴグシャー


川*` ゥ´)

ζ(゚- ゚;*ζ

川*` ゥ´)「ほんとあの騎士」

ζ(゚- ゚;*ζ「すごいおと」

川*` ゥ´)「あいつバカだからな」

ζ(゚- ゚*ζ「おともだち?」

川*` ゥ´)「歳の近い女がろくに居ないからなつかれてんだよ迷惑なんだよ」


165 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:32:06 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「さ、て……おい箒乗れ」

ζ(゚- ゚*ζ「う? ふたりのり?」

川*` ゥ´)「ケツ痛いから覚悟しろよ」

ζ(゚- ゚;*ζ

川*` ゥ´)「で、どこ?」

ζ(゚- ゚*ζ「う、もり、あっち、のろいげんきょうある」

川*` ゥ´)「そこの森かよ……久々に戻ったらヤな感じすると思ったら……」

ζ(゚- ゚*ζ「……ほうき……のる……?」モソモソ

川*` ゥ´)「乗るんだよ、ほら行くぞ低く飛ぶからな」フワァ

ζ(゚- ゚;*ζ「がうっ!?」フワァ

川*` ゥ´)「しゅっぱーつ」ヒュゴッ

ζ(゚□゚;*ζ「ぴゃああああああっ!!」ヒュゴッ


166 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:33:05 u8k8Zb0w0

 細い路地を低空飛行で抜けて、建物にぶつかるかぶつからないかの距離で曲がる。
 吹き飛びそうなガキがしがみつく感触が、妙に暖かくて心地よかった。

 頬を切るように感じる風はいつもより冷たく胸に刺さる。
 しかしその冷たさの中、あたしは命を捨てる覚悟に全身を冷や汗で濡らしていた。

 ばさばさとなびく髪。
 袋小路の道、迫る壁。

 勢いよく進行方向を空に変えたあたし達を乗せた箒は、真っ直ぐにごみごみした路地を飛び出した。

 空に上がって勢いに任せて一回転。
 すぐ後ろから響く悲鳴と、眼下に見える広場で上がる声。

 穿たれた地面と倒れる人々、無傷で佇む騎士があたし達を見上げて手を振った。

 やっぱバケモンだなあいつ。


 視線を広場から森へ移す。
 暗くよどんだ空気をまとわせる森は、いつもよりその姿を不気味な物にしている。

 距離があるからか、魔力も魔女の気配も感じない。
 魔物ならちらほら居るだろうが、野性動物と変わらないやつらなんぞどうでも良い。

 細い目を更に細めても、あたしと同じ血は感じない。
 魔女の呪いの元凶ってんなら、少しは感じてもおかしくないが。


167 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:33:31 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「おいガキ、魔族だろ、何か見えねーのか」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ……みえ…………ある! あっち!」

川*` ゥ´)「ほーん、やっぱ魔族は目が違うな」

ζ(゚- ゚*ζ「……まじょさん、だいじ?」

川*` ゥ´)「大丈夫なわけねぇだろアホか、死ぬ可能性のが高いんだぞ」

ζ(゚- ゚*ζ「ぅ……」

川*` ゥ´)「たぶん魔力で押さえ付けるしか無いからな、お前の魔力寄越せよ」

ζ(゚- ゚*ζ「あいっ」

川*` ゥ´)「ギリ生命力まで吸わない程度にするから」

ζ(゚- ゚;*ζ「あ、あいっ」

川*` ゥ´)「あードレイン使えてよかった、じゃあ行くぞ、あっちな」

ζ(゚- ゚*ζ「あい!」


168 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:33:56 u8k8Zb0w0

 村の上から急降下。
 体勢を低くして、足元から滑るように村を抜けた。


 真っ直ぐに飛んで道を抜け、森に入り、木々や草を避けながら勢い良く突き進む。

 魔物の気配はする。
 だが違う、別のやつ。

 魔力を感じる。
 近付いてきたか?


 後ろからあたしにすがる手に、力がこもる。
 嫌なものから逃げるように、震えながら顔を背中に押し付けている。

 鼻も目も良いこいつには、もう感じている何かがある。
 それはきっと、次第にあたしにも届くだろう。


 近付く。
 まだだ。

 近付く。
 もう少し。

 足跡が見える。
 三人分。


169 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:34:16 u8k8Zb0w0

 赤い跡が。


 う、っわ。

 血の臭いすっげ。


 吐き気をもよおす濃い血の臭いが風に乗って届き、同時に地面の血の後が深く濃く多くなる。

 箒の速度を緩めて、確認するように低速飛行。
 嫌な気配と嫌な臭いが混じりあって濃くなり、ガキの震えの理由がわかった。


 そして箒を止め、降りる。

 地面に染み、広がる、未だ乾いていない、血だまり。


 ああこりゃ、ヤバイやつだな。
 そりゃガキも必死に頼み込むわ。

 この血の量からして怪我はだいぶキツい、モツくらい出てるだろうな。
 それに呪われたって事は、たぶん傷は塞がらない。

 まだ生きてんのかなあのゴリラ。
 まぁゴリラだしたぶん生きてるだろ。

 生きてなきゃ困るんだよ。


170 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:34:41 u8k8Zb0w0

 血の臭いとまじりあう気味の悪い気配。

 これは恐らく元凶の方。
 っつーか呪いを与えてくるって何だ? しかも魔女の呪い、だが魔女の気配は無い。
 どんな奴が相手なんだよ、わっかんねーよマジ。


ζ( - ;*ζ「ぅ、ぷ」

川*` ゥ´)「吐くなよお前……おい、消臭剤だせ消臭剤」

ζ(゚- ゚;*ζ「おまもり……?」

川*` ゥ´)「そうそっちのお守り、あーあポプリ真っ黒、呪いの影響かね」

ζ(゚- ゚;*ζ「……きたとき、ちがう、いまきもちわるい」

川*` ゥ´)「血の臭いもあるだろうな、よっと」サクッ

ζ(゚- ゚*ζ「まじょさ……?」

川*` ゥ´)「ポプリにあたしの血染まして……ほらよ」ポワァ

ζ(゚- ゚*ζ「! ……においなくなた……!?」

川*` ゥ´)「くっせー元凶に近い血だからな、あと今度清めた魔石でも入れとけ、綺麗になるから」


171 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:35:15 u8k8Zb0w0

ζ(゚- ゚*ζ「ありあとまじょさん」

川*` ゥ´)「へーへー……それよりどこだぁ? くっさ過ぎてわかんねーぞ」

ζ(゚- ゚*ζ「ぅぅぅ……ぅ?」

川*` ゥ´)「居たか?」

ζ(゚- ゚*ζ「うしろっ」

,,川*` ゥ´)「おっと」


 振り返ると、そこに揺らめいていたのは黒い何か。

 人型で真っ黒でゆらゆらぐちゃぐちゃのどろどろ。
 ぐねぐねにちゃにちゃ蠢きながら、こっちに近寄ってくる。


 うわー。
 素直にきっも。

 黒いのは魔女の呪いそのものか。
 つまり元は人型、要するに人間だな。

 これだけの呪いと魔力と何かキモいくっせーやつ撒き散らして。
 恐らく意思もなくうねうねじゅるじゅる、命のある者を求めてさ迷う感じかな。


172 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:36:13 u8k8Zb0w0

 って事は、これ呪いを受けた元人間か。

 まーまーとんでもねぇ呪い受けてんな。
 あのクソイケの不死の呪いも相当だけど、こっちは怒りと悪意を持ってそうだ。


 じゅるじゅる蠢いてんのは再生。
 びちびちもがいてんのは破壊。

 人を狙うのは生命力欲しさか。
 意思もなく本能だけで命を狙ってる。


 だがこれは正しい呪いじゃない。
 本来なら魂だけを閉じ込める物だろうに、これは肉体ごと魂を閉じ込めてしまったもの。

 つまり、失敗した結果。
 うっかり死人にかけるつもりが生きてたりしたんかね。
 どっちにしろ禁忌で処刑とかされそうな呪いだけど。


 つーかうっわー、クソイケもこうなった可能性あんのかな、引くわ。


173 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:36:52 u8k8Zb0w0

 と、観察してる場合じゃねーな。
 めっちゃ近いし呪いをかけた魔女に似たものを感じてるんだろう、敵意がすげーわ。

 ガキは、唸っとる唸っとる。

 しかし呪い受けた元人間が魔物っぽくなったやつか。
 めんどくせー、どう倒すのこれ、知らねーぞあたし。


 まー取り敢えず。


川*` ゥ´)「ぶちかましてみっかー!!」

ζ(゚- ゚*ζ「がうっ!!」

川*` ゥ´)「属性は無しでとにかく超魔力で叩き付ける、そしたらあいつの周りのモヤも減るだろ」

ζ(゚- ゚*ζ「デレなにするっ!?」

川*` ゥ´)「魔法使えねんだろ、怪我しないようにしてろ」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ……」

川*` ゥ´)「お前は電池なんだから死なれたら困んの」

ζ(゚- ゚*ζ「あいっ!」


174 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:37:42 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「あーお前にドレインかけとくから、魔力どんどん吸うぞ、ヤバそうなら言え」

ζ(゚- ゚*ζ「あ、あい!」

川*` ゥ´)「あと、足止めしろ」

ζ('(゚- ゚∩ζ「がうぅっ!!」


 外套を脱ぎ捨てて、真っ直ぐに魔物(仮)に飛び込むガキ。
 いやいや足止めしろとは言ったけど突撃しろとは言ってねぇ。

 まあこのガキも保護者ボロ雑巾にされてキレてんだろうけど。
 帰った時に怪我してたらあたしがボコされんだろこれ。


 まあいいか。

 杖の先に意識を向けて、魔力を少しずつ吸い上げながら溜め込む。
 脈動するように大きくなる魔力球は、下手に使うと暴発する。
 慎重に溜めて、慎重に放たなければ。


 お守りをつけた杖の先端。
 どんどん重く熱くなる。

 でもまだいける、まだ溜められる。
 あたしの魔力だけじゃ無理でも、魔族の魔力量なら出来る。


175 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:38:32 u8k8Zb0w0

 今まで溜めた事も無いような熱量のかたまりは、白くも濁り禍々しくあり清らかで。

 その魔力の塊に対して、あたしは呪文を向けた。



  あまねくはまをすべしちからのことわり

   わがちにおいてわがみまもりしたてなれ
    わがなにおいてわがみまもりしほこなれ

  さけべやいかりのやりとなりひきさかん
   ほえろやなげきのあめなりてふりそそげ

    わがみながれしちのしゅくふくをうけよ
      わがみながれしちのじゅばくをあたえん

  われらがちによりしのろいをうちけさん
   われらがちになりしのろいをむさぼらん

    われらくろきまじょのちこそほこなりや
     われらくろきまじょのちこそたてなりや


    すべてをうがちほろぼしくらうちからにて

         のろいあれ


176 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:39:05 u8k8Zb0w0

 魔物みたいな何かは、魔女の気配に当てられたのか動きが中途半端だ。
 飛び込んできたガキの相手はしているが、意識があたしに向いているらしくろくな反撃をしていない。

 牙も爪も剥き出しにして、ガキが魔物へ襲い掛かる。
 その背中は小さい癖に、人の命を背負っている。

 必死なんだろうな。
 必死に攻撃避けて、必死に攻撃繰り出して。

 でもあのゴリラが負けたんだろ。
 お前だけじゃ勝てねーぞ。


 だーかーらー、


川*` ゥ´)「行くぞガキ!! そこどけ!!」

ζ(゚- ゚*ζ「あいっ!!」


 溜め込んだ膨大な魔力。
 古くさいまじない言葉を与えた魔力。

 その全てを、魔物に成り果てた何かに叩き付ける。


 つか呪文間違えなかったかなアレ。
 呪いとかやった事ねーからうろ覚えだぞ、大丈夫かな。


177 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:39:27 u8k8Zb0w0

 色々手法はあるが、うちでは呪いを打ち消すには呪いを用いる。
 同量かそれ以上の力を叩き付ける事によって、元ある分を吹き飛ばす。

 新たにかけられた呪いだが、これはちゃんとしたものじゃない。
 誰が何にいつまでどうするか、それらをまじない言葉に入れなければ最終的には成立しない。
 つまりノーカン。


 大気を揺らして、木々をへし折り、地面を焦がす魔力の塊。

 その中心に居た何かは、白い魔力球に飲み込まれる。
 だが気配は消えていない、まだ居る。

 呪いは薄まった気がするが、これは。


ζ(゚- ゚*ζ「まじょさんっ、たおせた!?」

川*` ゥ´)「まだ」

ζ(゚- ゚;*ζ「がうっ!?」

川*` ゥ´)「うーんやっぱ呪文間違えたか……?」

ζ(゚- ゚;*ζ「まじょさん!?」

川*` ゥ´)「それか元の呪いが強いかだな、まだ魔力あるか」

ζ(゚- ゚*ζ「あ、あるっ!」


178 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:40:11 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)(だいぶ使ったな、あと一回か二回……さっきより強くすりゃ一回か)

ζ(゚- ゚*ζ「……あるけど、へんなかんじする……」

川*` ゥ´)「だろうな、倒れんなよ」

ζ(゚- ゚*ζ「あいっ……!」


 叩き付けた白い呪いの霧が晴れ、飲み込まれていた何かが再び姿を現す。

 それと同時に振り抜かれる尾のような物が、勢い良くあたしの足元を抉った。

 深く抉られた地面と蠢きのたうつ何か。
 黒い影のようだったその姿と、そいつが出した攻撃の強さに血の気が引く。


 獲物が相手だと、こんな攻撃すんのかよ。
 さっきまではお遊びだったってか。

 あいつの標的はあたし、獲物はあたし。
 真っ直ぐに向けられた殺意と相手のビジュアルに、背筋が凍る。


179 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:40:44 u8k8Zb0w0

 未だ人としての姿を保つそれが、崩壊しては再生を繰り返して震えている。
 振り抜いた何かは尾ではなく、崩れては直る奇形の腕。

 爛れたぐずぐずの皮膚と崩れて元の形を無くした顔。
 ぼろぼろと壊れてじゅるじゅると戻る身体は恐らく成人男性くらいか。

 再生してすぐは人の姿に等しい。
 その姿を見たガキが、びくりと肩を揺らしてあたしの後ろに隠れた。


川*` ゥ´)「おーおーそうやって隠れてろ」

ζ(゚- | 「……あのかおしってる」

川*` ゥ´)「あ? 顔?」

ζ(゚- | 「…………」

川*` ゥ´)「……知り合いかこいつ」

ζ(゚- | 「…………ぱぱとままころした」

川*` ゥ´)「あ゙?」

ζ(゚- | 「デレもっていった……」

川*` ゥ´)「奴隷商……でなく、狩人の方か。 …………はーん、呪われた理由も察するな」

ζ(゚- | 「…………まじょさん、デレまりょくぜんぶあげる、……たおして」

川*` ゥ´)「……言われんでもやったらぁ!!」


180 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:41:11 u8k8Zb0w0

 珍しく嫌悪感をあらわにした顔で、再び飛び掛かるガキ。
 だが魔力の消耗もあってか、さっきよりも動きはやや鈍い。

 しかし闇は払えて良かったな、すっかり日が落ちて辺りは真っ暗だ。
 深い森の奥、余計に暗く重い。


 再び杖の先に魔力を集める。
 ばさばさと服や髪が、巻き上がる風に靡く。

 輝く魔力球の光を浴びながら、更に力を溜めて、吸い上げて、溜めて。


 吸い上げる。
 ガキの顔に疲れがにじむ。

 まだ吸い上げる。
 攻撃を避け損ねて転ぶ。

 まだまだ、もっともっと。
 あたしに向けられるべき敵意を受けながら、ガキは吼える。

 あたしの魔力もほとんど使って、まじない言葉を練り込んで。
 それでもまだ足りない、もっともっと力が必要だ。

 魔力で捩じ伏せるには、まだ足りない。


181 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:42:04 u8k8Zb0w0

 魔力を吸われ過ぎたガキの動きが止まる。
 浅い息をしながら元狩人睨み付けている。


 ああくそ、魔女の血がもっと濃ければ、もっと素質があれば、もっともっと。

 本家の魔女なら、こんなやつ。

 魔女の血が足りない。
 足りない足りない。

 あたしの血は薄いんだ、持たざる者なんだ、素質が無い才能も無い何も無い。

 何もなくても何かしたいんだ。
 何かを成し遂げたいんだよ。

 ああ足りない。
 何かが足りない。
 大切なものが、足りない。


 神でも何でも良いから。
 あたしにひとつ与えやがれよ。


182 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:42:38 u8k8Zb0w0

ζ( - ;*ζ「……っまじょさ……」

川*` ゥ´)「黙ってろ」

ζ( - ;*ζ「デレへん……さっき、ふつう……いま、たてな……」

川*` ゥ´)「黙ってろッ!」

ζ( - ;*ζ「デレ……まだ、まりょく、ある……つかう……」

川#` ゥ´)「ほとんど使いきってんだよ!! なのにまだ足りないんだよ!!」

ζ( - ;*ζ「まりょく、たりる、ない……? もっと……」

川#` ゥ´)「違う魔力じゃねぇよ!! 血が!! 魔女の血が足りねぇの!!
     小手先じゃ駄目なんだよ!! もっと、もっと強い血が無いと……ッやっぱあたしじゃ!!」

ζ( - ;*ζ「ち……まじょ、の……ち……?」

川#` ゥ´)「そうだよ魔女の血だよ!! あたしは分家のみそっかすなんだよ!!」

ζ( - ;*ζ「ち……まじょ…………っ!! まじょさんっ!!」

川#` ゥ´)「なんっ……!? 何だよ、これ……瓶に、血……?」

ζ( - ;*ζ「つかって……っ!!」

川#` ゥ´)「…………ああもう!! 使ったらぁ!!」


183 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:44:21 u8k8Zb0w0

 弱々しい力で投げられた小瓶を受け取り、栓を噛んで抜く。
 ぽん、と小気味良い音を立てて開いた瓶から溢れ出す血の臭い。

 しかしこの血の臭いは、そこらに飛び散るものとは違った。

 濃く、甘く、深く、芳しく。

 これは、


川*` ゥ´)(魔女の、血?)


 濃く、近く、深く、強い。



川*` ゥ´)「はっ、はは、マジかよ」

川*` ゥ´)「すっげーなガキぃ!! これ本家の魔女の血かよぉ!!」

ζ(゚- ゚;*ζ「えっ」 。o(イケメーーー v川 ゚ -゚)v ーーーン!!!)


184 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:45:18 u8k8Zb0w0

 ぶわりと瓶からうねりいずる血を魔力球に練り込ませると、白かったそれは真っ赤に染まる。

 そして先程よりも激しく強く脈動し、見てわかる程に力を増して行く。


 目の前に蓄えられた力の塊は、魔族の力と魔女の血の融合体。

 見た事も無い輝きを放つそれは、過去に出会った幼い魔女を彷彿とさせる程に蠱惑的だった。


 あたしがこれを作り上げた。

 あたしが二つの力を混ぜ合わせて作り上げたんだ。


 ああ、あたし。
 ひとつだけ、持っていた。



川#` ゥ´)「行くぞクソったれがぁああああ!!!」

ζ( - ;*ζ「まじょさんっ……やってぇえ!!」



 あたし、運だけは持って生まれたんだ────。


185 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:45:56 u8k8Zb0w0

 視界が真っ赤な光に染まる。

 呪われた狩人が消し飛ぶのが見える。

 先にあった呪いが中和されて消える。

 森を包んでいた気味の悪い気配が消える。


 本家のどの魔女か知らないが。
 そいつの血は一級品だった。

 だがあれは、
 あたしが作り上げたもの。
 あたしが居たから出来たこと。
 あたしが居なければなし得なかったこと。

 あたしだけが、あたしだから、あたしこそが。


 勝ったんだ。



川*` ゥ´)「は……はは、あははははっ!! あーはははははっ!!!」

ζ(゚- ゚*ζ「ぅ……くらくら、すう……」

川*` ゥ´)「ざーまーあーみーやーがーれーーーーーー!!!!」

ζ(゚ー゚*ζ「…………!!」


186 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:47:09 u8k8Zb0w0

 本家の血を使ったとしても勝ったのはあたし、使えたのはあたし、あたしが勝った!!
 卑怯な手だろうが人の力だろうが利用して活用して勝ったのはあたしだ!!

 素質が足りない、血が足りない、力も何もかも足りなくたって、努力で補えなくたって!!
 持たざる者だとしても、格上に勝つ事は出来るんだ!!


川*` ゥ´)「あ゙ー!!! 気持ち良いーーーーーー!!!!」

ζ(゚ー゚*ζ「まじょさ、かった?」

川*` ゥ´)「勝った!!!!」

ζ(>ー<*ζ「…………!!!!」


 呪われた狩人が呪いごと完全に消滅したのを確認してから、あたしは大の字に寝転がる。
 とっぷり夜の帳が降りた空を見上げて、勝利の余韻に吼えていた。

 よたよたと近付いてきたガキがあたしの腹をぺちぺちと叩きながら、嬉しそうに笑う。

 こいつもまた、己の無力さが辛かったんだろう。
 力を持つ者として生まれても、使い方を知らなければ無力なんだ。


187 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:47:51 u8k8Zb0w0

 何も出来ないと思ってた。
 ずっと何もなしえず朽ちると思ってた。
 努力でどうにかなるものじゃないと思ってた。
 この無力な手に何が出来るのかと歯噛みしていた。


 でもあたし達は勝てた。
 勝てたよ畜生。

 何も出来ないチビガキは大事な物を持っていた。
 生まれて数年でもろくに使っていなかった魔力は相当量溜まっていた。

 こいつが居なければ何も出来なかった。
 あたしが居なければ何も出来なかった。

 勝利って最高だな。


 ああ、あの血はどうしたのか聞かないと。
 いやどうでも良いか、血だけって事はここに来られない存在だ。
 そんなやつ本家の魔女だとしても格下だ、もしかしたら魔女でも無いのかも知れねぇ。

 そんな奴、どうだって良いや。


188 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:48:48 u8k8Zb0w0

 勝利の余韻に浸りつつ、身を起こしてガキとガキの外套を箒に乗せる。
 そして来た時とはうってかわって、のんびり飛行で森を戻る。

 ガキはかすり傷だが傷だらけだ。
 魔力を吸い尽くされてぐったりしている。

 あたしは魔力の波動のせいで髪も服もぼろぼろ。
 手や頬も軽く裂けてるし、擦り傷だらけ。


 お互いちょっとしたぼろ雑巾だが、それでも気持ちは軽やかだ。

 もう呪いの元凶は潰したし、ゴリラの方もどうにかなったと祈ろう。
 そう考えるとまだ解決はしてねーか、いやでも今は浸りたい。


 のんびり村まで戻ってみると、広場には鎧をがっちり着込んだ騎士どもがうじゃうじゃ。

 あれは正規の騎士か、めんどくさそうだし迂回すっかな。

 どうやら暴動の鎮圧をしたらしい、ご苦労なこって。
 まあ原因が後ろで慌ててフード被ってんだけど。


189 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:49:10 u8k8Zb0w0

 そういやあのメス騎士は。


ミセ*゚ー゚)リ「!! ヒールちゃん! デレちゃん!!」


 騎士隊長の前で正座してるわ。


ミセ*゚ー゚)リ「どうだった!? 大丈夫だった!?」

川*` ゥ´)「お前は何で正座してんの」

ミセ*゚ー゚)リ「あっうん……うん……懲戒物の行いで……説教を……」

川*` ゥ´)「ふーんあっそ」

ミセ*゚ー゚)リ「軽いな! 良いけど!! それより怪我してない? こっちおいで」

川*` ゥ´)づ「ドレイン」ポワァ

ミセ*゚ー゚)リ「待って待って待って待って吸わないで」


190 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:49:54 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「森、綺麗になったろ」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん、白い光のあと、すごく大きい赤い光がここまで届いた」

川*` ゥ´)「ぶっ潰してやった、なぁガキ」

ζ(゚ー゚*ζ「あいっ!」

ミセ*゚ー゚)リ「…………よかったぁ」

川*` ゥ´)「ふっふーん」

ミセ*゚ー゚)リ「……わたしも、何か出来たら良かったんだけどな」

川*` ゥ´)「お前が色々やんなきゃみんな死んでたんじゃね?」

ミセ*゚ー゚)リ「それもそうか」

川*` ゥ´)「さて、ゴリラとクソイケんとこまで送れや、あたしの強さ語り尽くすから」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、無理。 今しがた残り少ない魔力を吸われました」

川*` ゥ´)

ミセ*゚ー゚)リ

川*` ゥ´)「やくたたず……」
  _,,
ミセ;゚Д゚)リ「ひどくね!?」


191 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:50:29 u8k8Zb0w0

川*` ゥ´)「ま、いっか……今吸った分で多少飛べるし」

ミセ*゚ー゚)リ「行き先わかる? 地図いる?」

川*` ゥ´)「おー描け描け、とっとと描け」

ミセ*゚ー゚)リ「なんで隊長ちょっと席を外しあぁーボールペンとコピー用紙あぁーありがとうございますー」

川*` ゥ´)「便利だよなボールペン」

ミセ;゚〜゚)リφカリカリ「羊皮紙とインクとかのが雰囲気出るけどね……」

川*` ゥ´)「未だに術式は羊皮紙とかだなぁ……」

ミセ*゚ー゚)リつ「はいどーぞ、デレちゃんが入った事あるなら一緒に行けば大丈夫だと思う」

川*` ゥ´)「何だよ迷いの魔法でもかけてんのか」

ミセ*゚ー゚)リ「身内と佐川とクロネコ以外は入れないらしいよ」

川*` ゥ´)「通販すんなや」

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあミセリまだ処分あるから、行ってらっしゃい!」

川*` ゥ´)「へーへー行ってきますよ」

ζ(゚ー゚*ζ「いてきます!」


192 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:51:11 u8k8Zb0w0

 ざっくりした地図を見ながら箒の高度をぐっと上げ、夜の空を進んで一番の目印である王城を目指す。

 夜空には何の隔たりもなく、すべてを溶かすように広がっている。
 後ろに乗るガキが落ちないか心配だったが、興奮覚めやらぬと言った感じで頻繁に話しかける。

 あたしはそれに適当に返しつつ、魔力の量を調節しながら飛んでいた。



 ああ、疲れた。

 でも楽しかった。

 こんなに満ち足りた事は無い。


 あとは、ゴリラとクソイケの様子を見たら終わりだ。
 きっと今ごろ傷も閉じて、ぴんぴんしてるに違いない。

 星の瞬く夜の闇。
 滑るように飛んでいた。

 勝利の喜びと興奮を、充実感を胸に抱き。


 あの二人に今、何が起きているかも知らずに。



 つづく。


193 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/26(日) 21:52:21 u8k8Zb0w0

ありがとうございました、本日はここまで。

次回は来週にでも投下出来れば良いなと思ってます。
頑張りはしますが何か間に合わない可能性もあるので
 その時はちょっと何かこう質疑応答か何かでお茶を濁させてください ゆるしてください


それでは、これにて失礼!


まとめて下さってます、ありがとうございます。
ttp://naitohoureisen.blog.fc2.com/blog-entry-271.html


194 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:57:08 zD75S1ic0

狐もツンちゃんも助かってほしいなあ


195 : 名無しさん :2017/02/26(日) 22:02:10 BlF/2H9w0
おつ
あいかわらず不穏だなぁ


196 : 名無しさん :2017/02/26(日) 23:06:16 CRjfEBt60
ドックンゆうパックは使わないんだね


197 : 名無しさん :2017/02/27(月) 00:23:59 4d0ndwK20
なんだとぉ


198 : 名無しさん :2017/02/27(月) 00:47:34 wyQY4a6s0

こういろいろ散りばめられたのがすーっと糸が通っていく感じがきもちよいです


199 : 名無しさん :2017/02/27(月) 00:55:09 ylEj5AmE0

ヒール良いキャラだなぁ


200 : 名無しさん :2017/02/27(月) 01:42:32 Dj.1s0c20
乙!すげー気持ちのいい展開からすげー不穏な……

となるとくるうもやっぱりそうなのかな


201 : 名無しさん :2017/02/27(月) 03:35:56 p6x2RXuk0
今日で終わりかと思ってた来週も楽しみにしてしてる。


202 : ◆tYDPzDQgtA :2017/02/27(月) 06:23:13 xGqwLm5I0
>>113のタイトルが
【最終話 いっしょに居たいって事。 中編】ではなく
【最終話 いっしょにたいってこと。 中編】になっていた事をここでお詫びさせて頂きます

まちがえましたごめんなさい


203 : 名無しさん :2017/02/27(月) 07:27:55 393CLEfo0
乙乙。クーって戦災孤児だったしシューの息子ってことでいいのかな、英雄と最高位魔女の子って世が世なら勇者だな


204 : 名無しさん :2017/02/27(月) 08:02:17 IIv/PwBEO
乙゚⊿゚)乙


205 : 名無しさん :2017/02/27(月) 08:46:07 6.mAkwo.0
可能性がゼロとは言わないけど5歳かそこらの小さな魔女の子に子供が居るとは考えにくいと思うよ〜
あまり予想したり詮索するとおれの楽しみが減るので黙っとく


206 : 名無しさん :2017/02/27(月) 10:24:54 c3c8hmM20
APP微妙な魔女さんいいやつすぎて好き……


207 : 名無しさん :2017/02/27(月) 10:57:25 Mk5Hop2Y0
この上げて落として最後にちょっとだけ上げる感じが好き


208 : 名無しさん :2017/02/27(月) 11:18:27 bmdo2hso0
ミセリが強くなっておじさん嬉しいよ


209 : 名無しさん :2017/02/27(月) 13:05:04 FfR7XQcs0
ギャグだ
きっとギャグ時空が起きてるんだろ?
そうなんだろ? そうって言えよ……!


210 : 名無しさん :2017/02/27(月) 14:12:23 KGQ4QEfw0
シューが見た目通りのガチ5歳児だとロマのぺど力がヤバいな


211 : 名無しさん :2017/03/05(日) 12:41:58 rHX8VdIY0
夜の更新まで待てない


212 : 名無しさん :2017/03/05(日) 16:38:39 uKegDIOI0
待って
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2344.png


213 : 名無しさん :2017/03/05(日) 17:01:39 qBfzRIYY0
かわいい


214 : 名無しさん :2017/03/05(日) 17:40:29 dIE7Y/us0
あざとい


215 : 名無しさん :2017/03/05(日) 18:16:18 FvuzhhX60
はよ!あざとい子はよ!


216 : 名無しさん :2017/03/05(日) 18:21:00 uKegDIOI0
今書いてる
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2345.png


217 : 名無しさん :2017/03/05(日) 18:21:36 ynsQlySA0
あざといがんばりやさん


218 : 名無しさん :2017/03/05(日) 18:29:27 FvuzhhX60
あざといマッチョください!


219 : 名無しさん :2017/03/05(日) 18:38:11 uKegDIOI0
どうぞ

        _
       / jjjj      _
     / タ       {!!! _ ヽ、
    ,/  ノ        ~ `、  \
    `、  `ヽ.      , ‐’`  ノ
     \  `ζ(゚ー゚*ζ” .ノ/
       `、ヽ.  ``Y”   r ‘
        i. 、   ¥   ノ
        `、.` -‐´;`ー イ


220 : 名無しさん :2017/03/05(日) 18:55:44 fhEebOss0
>>219
乳首ないじゃないですか!


221 : 名無しさん :2017/03/05(日) 20:08:30 UXjLFTG20
        _
       / jjjj      _
     / タ       {!!! _ ヽ、
    ,/  ノ        ~ `、  \
    `、  `ヽ.      , ‐’`  ノ
     \  `ζ(゚ー゚*ζ” .ノ/
       `、ヽ.  ``Y”   r ‘
        i. 、 ☆ ¥ ☆ノ
        `、.` -‐´;`ー イ


222 : ◆tYDPzDQgtA :2017/03/05(日) 21:00:08 uKegDIOI0


 例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。

 騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。

 周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
 聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。

 刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進むのは三人。


 一人は不機嫌そうに顔を歪める、若い女戦士。
 もう一人は、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。
 そんな二人の後ろをついて歩く、小さな魔族の子供。



 【道のようです】
 【最終話 いっしょに居たいって事。 後編】



 彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。


223 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:01:08 uKegDIOI0

 デレを見送ってすぐ、僕はぼんやりとソファに座っていた。
 身体についていた傷は無くなっているが、声は出ないまま。

 呪いではなくその影響を受けて声が出なくなったが、ちゃんと治す方法はあると言う。
 それが分かっただけでもありがたい、時間はかかっても治るのなら。


 ちら、とツンちゃんが眠る部屋に視線を向ける。

 先程見た、真っ白な顔で血を流し続ける姿が焼き付いて離れない。
 眠るように目蓋を閉ざし、死人のような顔で胸の動きすらよく見ないと分からなくて。


 あれは金バッチを持つ戦士の姿じゃない。
 ただ傷付き倒れた、少女でしかない。

 僕の目の前で、僕を守って、あの子はあんな姿になった。
 ああ僕は、なんて情けないのだろう。

 大の大人が狼狽えて、何も出来ずにただ座っている。
 あんな小さな子供は、戦うために向かったのに。


爪' -`)(僕にも何か出来たらな)

爪' -`)(魔力も大して無いし、力も強くない、声が出なきゃ歌も歌えない)

爪' -`)(あー、やくたたず)


224 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:02:12 uKegDIOI0

('A`)「お兄さん良いかな」

爪' -`)(あ、英雄さん)

('A`)「うん英雄だけどさ一応、ドクオで良いから」

爪' -`)(僕に何か用ですかね)

('A`)「お嬢ちゃんの傷にある呪いを少しでも軽くするために、魔力を設置しておきたくて」

爪' -`)(魔力を設置とは……)

('A`)「外から呪いに干渉したい、だから他方向からいけるようにね」

爪' -`)(何言ってるのかよくわからない)

('A`)「くっそー魔法畑の人間じゃないと会話が成り立たないぞクー」

川 ゚ -゚)「いや僕に言われましても僕はただのメイドですし」

爪' -`)(何言ってるのかよくわからないリターン)

川 ゚ -゚)「僕は常識を覆すような美貌の持ち主なのでメイドを自称しても許されるんですよフツメン様」

爪#'Д`)(イーケーメーンーでーすー!!!)

川 ゚ -゚)「はは、フツメン様が何言ってんのか全然わかんね」

('A`)「会話してただろ今」


225 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:03:07 uKegDIOI0

 改めて見ると、不思議な組み合わせだ。


 顔色の悪い長身痩身の男。
 さっきまではローブをまとっていたが、今は黒の上下で身体の細さがよくわかる。
 背は異様に高いが、痩せぎすのために細長いと言う印象。

 もう一人は美貌だのを自称するだけある、美しい顔立ちの青年。
 美しくも貌良く整い、誰もを魅了できるであろう姿形。
 ただどうにも性格に難がありそうだ、なぜかずっとメイドを自称している。
 服装は執事なのに。

 二人とも長い黒髪に青の瞳。
 親子かと思ったが、顔面の差が著しい。

 APP8と21くらいの差がある。
 そろそろ人間が認識できる限界値だ。


 しかもこの細長い方は、かの有名な英雄ドクオ・ソリテールだと言う。
 戦争を終わらせてこの世界を焦土に変えられると言う伝説の魔導師。

 まさかそんな魔導師が森の奥の塔に引き込もって従者にメイドを命じているとは。


226 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:04:09 uKegDIOI0

─ヘ√('A`) ̄レv─ ピキィン

('A`)「それは誤解だ」

爪' -`)(何も言ってないと言うか何で返事出来るの怖い、脳に直接なの)

('A`)(それは誤解だ)

爪' -`)(うわ気持ち悪ッ)

川 ゚ -゚)(トライさんかよ)

('A`)「まあそれは置いといて、何か魔力の媒体になるもの持ってたりしないかな」

爪' -`)(媒体?)

('A`)「ああ、ほら魔石に魔力を込めて設置してたりするだろ、ああ言うのをしたいんだ」

爪' -`)(あー、とは言っても魔石はツンちゃんのお守りくらいしか)

('A`)「うーん……薄青い透明な石なんだけど……うちに在庫あったかな」

爪' -`)(生け贄が必要な物を……)

('A`)「天然の方です天然、人工より使いにくいけど……」


227 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:05:07 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「ご主人様、薄青い透明な石ですよね」

('A`)「ん? ああ、そうだけど」

川 ゚ -゚)「フツメン様の腰に下げてるこれ、皮袋の口が開いてるんですよ」

爪' -`)(あらやだ)

川 ゚ -゚)っ゚「薄青い透明な石」

('A`)

爪' -`)

川 ゚ -゚)「ダメですかね」

('A`)「お兄さんそれちょっと見せて」

爪' -`)づ(どうぞ)

('A`)

爪' -`)

('A`)「質の良い人工魔石だね……?」

爪;' -`)(えっ)


228 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:06:08 uKegDIOI0

爪' -`)(待って待って僕そんな生け贄を要する石手に入れた覚えはないよ)

('A`)「いやでもこれ間違いないよ、人工魔石だよ、生け贄必要なやつだよ」

爪;' -`)(えぇぇぇ…………あっ)

('A`)?

爪' -`)(…………魔石ってどうやって造るの?)

('A`)「人間を含む生物に対して特殊な魔法をぶつけるやり方が多かった」

爪' -`)(アッ 僕が生け贄)

('A`)

('A`)「アッ 不死者だな?」

爪' -`)づ(魔法を食らって死んだあと、脳が飛び散ったあたりにこれが)ジャラ

('A`)「あっうーん……全部質の良い……えーと…………元脳ですね……」

爪' -`)(ああ……肉体変質させるタイプなんだ……)

('A`)「圧縮もするね……」


229 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:06:25 KhRJkF1Q0
待ってたぞい


230 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:07:07 uKegDIOI0

('A`)「しかし、これだけだと少し心許ないかな」

爪' -`)(英雄さんも魔石造れるの?)

('A`)「造れるけど」

爪' -`)(んじゃ僕から造って)

('A`)「死にますよ」

爪' -`)(だったら死にますよ)

('A`)「たぶんクソ痛いですよ」

爪' -`)(即死なら痛みもないですよ)

('A`)「……正直、不死者だからってあんまり死んでたら後々どうなるか分からないから」

爪' -`)(どうなろうと今は死にますよ)

('A`)「でもね、死は魂にも刻まれるんだ、解呪された時にどんな影響が」

爪' -`)(死にます)

('A`)「……まあ、今まで散々死んできたみたいだし君が良いなら良いけどさ」

爪' -`)(僕が死ぬ事で役に立つなら、喜んで死にますよ)

('A`)「…………命は粗末にしないでね」

爪'ー`)(元から粗末な命なもので)


231 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:08:04 uKegDIOI0

('A`)「煙草さ」

爪'ー`)(はい?)

('A`)「吸って良いよ、喉の保護用だろ」

爪'ー`)y‐~ シュボ

('A`)「……じゃあ、君はあのお嬢ちゃんのために何度も死ぬ羽目になるけど良い?」

爪'ー`)y‐(良いよぉ)

('A`)「…………クー、貯蔵してある食料を持ってきておいて」

川 ゚ -゚)「いやしんぼですね」

('A`)「違うよ再生に使うタンパク源だよ、水とかもあっちの部屋の近くにお願い」

,,川 ゚ -゚)「美形使いの荒い」

('A`)「頑張れメイド」

爪'ー`)y‐(心踊らないメイドだ……)


232 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:09:09 uKegDIOI0

('A`)「えーと……再生を加速する魔法を一応かけるから、ハイスピードで死と蘇生を繰り返すよ」

爪'ー`)y‐(はいはい)

('A`)「……あんまり殺したくないんだけど、今はしょうがないか、じゃあいくよ、そっちの部屋ね」

爪'ー`)y‐(はーい)


 物置状態の部屋に通された僕は、英雄さんと向き合う。

 英雄さんは複雑そうな顔で杖を、杖?
 いやこれゲートボールのスティックだ、待って何それ僕それで殺さ アッ



 蒼白い魔力の塊が叩き付けられて、全身が弾け飛んだ。
 痛みを感じる暇も無かったが、以前と違い、不思議と意識が残っている。

 文字通り全身、肉体のほとんどが弾け飛び僕には動かせない状態の身体になった。
 それなのに意識だけは残り続け、この意識は頭ではなく物の部位からなる物だと察する。

 これが所謂、魂だけの状態なのかな。
 幽体みたいになるかと思ったけど、視界は真っ暗で体も無いから動かない。

 夜とも闇とも違う暗さ。
 体が無いから温度は感じない。

 これが死の状態なのか。
 それともこれは、


 突然、世界に光と色が戻る。


233 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:09:35 95S0SFZw0
狐すっかりツンちゃんが大切に
カッコいいじゃない


234 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:10:09 uKegDIOI0

爪;'ー`)y‐(うっわ、再生はっや)

('A`)「大丈夫か? 良い感じに吹き飛んだけど」

爪'ー`)y‐(死んでました?)

('A`)「肉の塊になったのを魔石にしたよ、ほら」

爪'ー`)y‐(うーん、一回でこれだけかぁ……)

('A`)「意外と少ないもんだね、純度を高めるためにはかなりの量が必要になる」

爪'ー`)y‐(わかった、殺して)

('A`)「死に慣れって本当は良くないんだけどなぁ……行くよ」

爪'ー`)y‐(合図しなくて良いから流れ作業でどんどん殺して)

('A`)「殺す身にもなってほしい」

爪'ー`)y‐(ご迷惑おかけします)

('A`)「良いけどね……じゃあわんこそばみたいに行くから」

爪'ー`)y‐(わんこ死)


235 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:11:08 uKegDIOI0

 弾け飛ぶ感覚と暗転する視界。

 目に光が戻ると塔の床が見える。

 そして再び身体は崩壊して暗転。

 光が戻り視界は回る。

 衝撃と闇。

 明るく。

 闇。

 矢継ぎ早に繰り返される死と蘇生に、意識がぐるぐるとかき回されてるみたいになる。
 激しい明滅の様に死の闇と生の光が入れ違いに巻き起こる。

 身体は死んでる筈なのに、痛みもない筈なのに。

 なぜだろう、妙に、気持ち悪い。

 目を固く閉じたまま死んだとしても、蘇生の瞬間に世界は光に包まれる。
 手が無いから顔を覆う事も出来ない。


236 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:12:11 uKegDIOI0

 でも頑張って死なないと。
 ツンちゃんがこれで助かるなら。

 助かるなら。
 助かるんだっけ。

 助ける?
 ツンちゃんを助けなきゃ。

 あんな怪我をしたから。
 僕が何も出来なくて。

 デレに大変な思いをさせて。
 あんなに小さいのに。

 何があったんだっけ。
 僕は何をしたんだっけ。

 明滅が気持ち悪い。
 頭のなかがかき混ぜられる。

 助けなきゃ。
 僕に出来ること。
 僕だから出来ること。


237 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:13:07 uKegDIOI0

 僕って何だっけ。
 身体が無い。

 僕はどこに居るんだっけ。
 あの子達はどこだろう。

 ここはどこだろう。
 気持ち悪い。

 僕は確か。
 ああ頭が。

 無い筈の頭が。
 かき混ぜられて、捏ね回されて。
 どうして僕は。

 明滅が止まない。

 金髪の子。
 緑の目。

 僕は何色だったっけ。
 色なんてあったっけ。

 黒髪の、褐色の子は。
 角があって、緑の、

 誰だっけ。


238 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:13:20 95S0SFZw0
大丈夫か狐
意識混濁してきてないか


239 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:14:08 uKegDIOI0

 気持ち悪い。
 頭の中が。

 かき混ぜられて。
 溶けていく。

 気持ち悪い。
 無くなっていく。

 僕は何だっけ。
 あの子達は誰だっけ。

 僕は良いけど。

 あの子達は、たしか。
 僕が、僕の、僕は、


 僕の、歌が、好きだって。

 あの人、みたいに。

 歌が、


240 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:15:07 uKegDIOI0

爪; Д )「─────ッ!!!」

('A`)「お、っと」


 再生されたばかりの身体が大きく跳ねて、空っぽの筈の胃の中身を吐き出した。

 咳き込みながら嘔吐を繰り返し、ぜえぜえとかすれた息を吸っては吐き、吸っては吐き。

 涙やら唾液やら胃液やらで顔をぐしゃぐしゃにした青年は、身体を折り畳むように座り込んでいる。


 濡らしたタオルで顔を拭いてやろうと覗き込むと、どうやらやり過ぎたらしい。

 目はどこも見ていないように濁り、混濁と言うに相応しい様子だ。
 必死に酸素を求める喉も上手く開いていないのか、声にも呼吸にもならない音がする。


 死と生の間を行き来し過ぎた。
 もう少し加減すべきだったか、しかしこれくらいしなければ足りない。

 規模の大きい、極めて純度の高い人工魔石。
 彼の後ろに存在する、薄青く透明なそれの輝きは、普段目にする事も無い美しさだ。


241 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:15:53 ChsXv3BM0
狐…


242 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:16:06 uKegDIOI0

 俺の腰あたりまでの高さ、形は整っていないが、だからこそ良く光る。

 この大きさと純度なら、通常の人間で言うと、大体2か3000人くらいの生け贄かな。
 魔族はこんなものを造って兵器にしていたのか、恐ろしいものだ。

 いくつも造っては人口が枯渇しそうだが、確かこれは生け贄の持つ魔力量に左右される。
 それに自分で言うのもなんだが、ここまで純度を高めるのは相当な技術が必要だ。


 これだけ殺したんだ。
 そりゃあ、彼もおかしくなる。

 だが必要なんだよこれが。
 魔力を注ぐ側が俺一人では足りないから、これくらいの物が必要なんだ。


 顔を拭いてやるも、彼はまだ咳き込みながらひゅうひゅうとかすれた息を繰り返す。

 酸素を求めて大きく上下する背中をさすってやりながら、落ち着いて呼吸を促してやる。

 ああ、もう少し加減をしてやるべきだった、勢い良くやり過ぎた。
 俺もこんなの初めてやったんだ、こんな胸糞悪い事、本来はしたくなかったが。 まあ良い、許してくれ。


243 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:17:05 uKegDIOI0

 貯蔵庫から持ち出した食糧も尽きてしまった、相当量を備蓄していたがさすがに空っぽだ。

 部屋の外で背中を向ける息子も大変だったろう、まあ途中で運ぶのやめてたけど。


 それにしても、彼はまだ駄目そうだな。
 呼吸は落ち着いてきたが、濁り腐った様な目はまだ何も見ていない。

 俺は死に慣れてないが、予想は出来る。
 生と死の繰り返しによる意識の混濁、身体に固着している魂そのものが混乱してしまっている。

 だから死に過ぎるなと言ったんだけど、殺した俺が言うのもな。

 今の彼にはこれが生で現実なのかも分かっていない。

 繰り返し何かを呟く口許は、何を言っているのか。


 いや、まさか歌っているのか。

 こんな状態で何を歌うんだ。
 自分が誰かも分からなくなってるだろうに。


244 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:18:05 uKegDIOI0

 金の月、銀の星
 さざめく、風は、夜明けの空

 金の、冠、銀の声
 ざわざ、わ、なみうつ、草の色

 花の冠、夜の、腕
 幼い、娘、王たる男


('A`)「…………」


 声にもならない歌を歌って。
 なぜ歌うのかも分からない状態で。

 吟遊詩人ってのはそう言う生き物なのか。
 それとも彼が特殊なのか。


('A`)「……クー」

川 ゚ -゚)「はい」

('A`)「お茶を入れてくれ、全力のやつ」

川 ゚ -゚)゙「任せろ」


245 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:19:08 uKegDIOI0

 嘔吐は止んだが涙が止まる様子も無く、やや浅い呼吸の中、声もなく歌い続ける。
 彼にとっての歌は、それほど大切な物なんだろうな。

 魂を捏ね回されてかき混ぜられてもなお口から出るくらい、それは魂に刻まれているのだろう。

 だがいつまでもこの状態では困る。
 いやになるほど死んだ君には、そろそろ正気に戻って貰わなければ。


川 ゚ -゚)「お持ちしました」

('A`)「ありがとう」


 受け取ったお茶、お茶かこれ、何だこの汚い銀紫マーブルカラー、台所にある材料で出来るのかこれ。
 ともかくお茶として渡されたそれを、彼に飲ませる。

 本能で拒絶する身体を押さえつけてなみなみ一杯分のお茶を飲み込ませ、口を押さえる。
 びくびくと跳ねる身体と、手を引き剥がそうと爪を立てられるも、堪えてくれ。 それお茶だから。

 そして静かになった身体を解放すると、再び大きく嘔吐した。

 うん、正しい反応。 お茶だけど。


246 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:20:08 uKegDIOI0

 そして再度ぐしゃぐしゃになった顔を拭いてやると、目のよどみが取り払われていた。
 ほんとあのお茶何だよ、魔女の血の呪いとか染み出てるんじゃないのか。

 彼は戸惑うような眼差しでそこらを見回し、数回咳き込んで深呼吸。
 もぞ、と腕の中から身を起こして、疲れた顔を俺に向けた。


爪;'ー`)(…………生きてる?)

('A`)「生きてる」

爪;'ー`)(魔石は……?)

('A`)「出来てる」

爪;'ー`)(……これは?)

('A`)「お茶」

爪;'ー`)(お茶……?)

川 ゚ -゚)「おかわりいります?」

('A`)「やめてあげて」

川 ゚ -゚)「人のお茶を気付け薬に使うのをやめろ」


247 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:21:07 uKegDIOI0

 青年が正気に戻ったのを確認すると、部屋の隅から替えの毛布を引きずり出して肩にかけてやる。
 身体に傷は残ってなさそうだし、恐らく蘇生もちゃんと出来ている。

 飛び散っていた身体のパーツや血も綺麗になったし、ここはクーに任せよう。
 魔石をお嬢ちゃんの眠る部屋に移動させて、魔力を込めておかないと。

 お嬢ちゃんの眠る部屋は変わらず濃い血の臭い。
 横たわる小さな身体に巻き付けられた裂いたシーツは赤く染まり、代わりに肌は血の気もなく真っ白だ。

 だが出血はややは落ち着いたようだ、呪いの気配も薄くなってる。
 あの子と見知らぬ魔女の子がきっと頑張っているのだろう。

 俺が向こうに行ってやれれば良かったんだが、どうにかなりそうだな。
 そろそろ日も落ちてきた、早く帰って来られたら良いんだけど。


 よし、魔石の設置はこれで良い。
 魔力を込め、あー怖い怖い一気に注ぐと割れそうで怖い。
 さすがに何度もあんな事したくないしさせたくないし。

 うん、出力を調整して。
 こんな感じだなうん。
 よしよしちゃんと充填された。

 傷を治すのに解呪は最低条件だけど、呪いを解いたからたちまち治るわけじゃない。
 解けたら解けたで、また大変なんだから。

 よし、取り敢えず彼の煙草ケースはこれか。
 前のは残り少なかったし、新しく持っていってやろう。

 少し休憩しないと。


248 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:22:13 uKegDIOI0

,,( 'A`)「魔石の設置してきた、はい煙草、少しは落ち着くだろ」

爪'ー`)(あ、どうも)

('A`)「あーそうだ、クー、俺の服を貸してあげて」

川 ゚ -゚)「はいはい今日は美形使いが本当に荒い」

爪'ー`)y‐(と言うかなぜ素っ裸なんです僕)

('A`)「再生する時に邪魔だし汚れてたから洗濯してある」

爪'ー`)y‐(えぇ……全裸で蘇生されてたの僕……)

('A`)「全裸の男と対峙していた俺の気持ちも察してほしい……」

川 ゚ -゚)「それを眺めていた僕の気持ちも察してほしい、はいどうぞ」

爪'ー`)y‐(あ、どうもお借りします)

('A`)「パンツのサイズ合いますかね」

爪'ー`)y‐(わざわざ新品をありがとうございます)

川 ゚ -゚)「ひっでぇ絵面だな」



( ^ω^)

( ^ω^)(お野菜置いて帰ろう……)


 お隣さんは見た────!


249 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:23:07 uKegDIOI0

爪'ー`)y‐(あ、着れる着れる、ちょっと細いな)

('A`)「すまんね痩せぎすで」

川 ゚ -゚)「でも萌え袖ですよ、やりましたね」

爪'ー`)y‐(嬉しい要素が)

川 ゚ -゚)「ほら僕はこの争いの種になるような美貌ですけど男ばっか三人でむさ苦しいですし」

爪'ー`)y‐(何なんだろうこの人は)

('A`)「悲しいかなメイドなんだ」

川 ゚ -゚)「萌えキャラです」

爪'ー`)y‐(ときめきの一欠片も感じない……)

川 ゚ -゚)「フツメン様も今は萌え要素あるんだし媚びてどうぞ」

爪'ー`)y‐(やだよなんかすごくやだよ)


250 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:24:16 uKegDIOI0

('A`)「クー」

川 ゚ -゚)「はい?」

('A`)「萌えは、もう古い」

川 ゚ -゚)

('A`)

川 ゚ -゚)「バブみでしたっけ……」

('A`)「それはこの面子では適用されないよ……」

川 ゚ -゚)「えっ……じゃあ尊み……?」

('A`)「尊くないよこの面子……」

川 ゚ -゚)「あと何でしたっけ……沼……?」

('A`)「水溜まり以下だよ……!」

川 ゚ -゚)「はぁまじもうむりとうといつらい」

('A`)「女の子が言ってるのよく見かけるけど!!」


251 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:25:10 uKegDIOI0

爪'ー`)y‐(面白いなーこの人たち……)

('A`)「ほらお兄さんドン引きだから」

爪'ー`)y‐(いやそこまででは)

川 ゚ -゚)「フツメン様さすが平凡でいらっしゃる」

爪#'Д`)y‐(イーケーメーンーでーすー!!)

川 ゚ -゚)「はは何いってんのか全然わかんね」

('A`)「……さて、休憩はそろそろ終わろうか」

爪'ー`)y‐(僕にもやる事ある?)

('A`)「んー、後で何かやってもらう事が出来るかも」

爪'ー`)y‐(じゃあ何しとこう)

川 ゚ -゚)「洗濯手伝います?」

爪'ー`)y‐(んじゃ手伝います)


252 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:26:06 95S0SFZw0
勘違いするわなお隣さん


253 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:26:27 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「まあ干すの手伝って貰うだけですけど、全自動ですし」

爪'ー`)y‐(乾燥機は無いのか……)

('A`)(顔が良いのが並ぶと華やかだなあ)

川 ゚ -゚)「ああすみませんフツメン様、僕の隣だと引き立て役になってしまってお辛いでしょうに」

爪#'皿`)ギー

('A`)(全く和気藹々としないな本当に)

川 ゚ -゚)「フツメン様おいくつですか?」

爪'ー`)y‐(イケメン26歳です)

川 ゚ -゚)「五つも上ですか」

爪'ー`)y‐(そうなの)

川 ゚ -゚)「五つも上なのにこの世界をも揺るがす美貌に嫉妬するのは大人げないフツメンなのでは?」

爪#'皿`)ギィー

('A`)「何でそう煽りたがるんだお前は」

川 ゚ -゚)「すみませんこれニュートラルで」


254 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:27:07 uKegDIOI0

('A`)「さ、て……魔石の動作確認もしたいし、お嬢ちゃんの様子は……」

('A`)

('A` )

( 'A`)

('A`)「クー」

川 ゚ -゚)「はーい?」

('A`)「お嬢ちゃんそっちに居るかい」

川 ゚ -゚)「居るわけないでしょ寝てんのに」

('A`)「そうだよなあ」

爪'ー`)y‐(あはは変な事を)

川 ゚ -゚)

爪'ー`)y‐

川 ゚ -゚)「ご主人様ちょっと」

爪;'Д`)y‐(ツンちゃんどうなってんの!!?)

('A`)「いやーそれがな」

('A`)

('A`)「居ない」

爪;'Д`)y‐(はぁぁあああああっ!!??)


255 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:28:07 uKegDIOI0

 つい10分ほど前に立ち入った時は横たわっていた筈のお嬢ちゃんの姿が、今はどこにも無い。
 血まみれの台と魔石だけが、ただ虚しく存在している。

 慌てて飛び込んできた青年が狼狽えながら部屋の中を見回す。
 だがこの部屋はほとんど物は無いし隠れるような場所も無い。

 クーは部屋に入らず薄目の状態で様子を見ている。
 血怖いもんなお前は。


 俺はと言うと、割りとテンパっていた。


 さっきまでそこに間違いなく寝ていた、死にかけの人間が居なくなったんだ。
 責任問題だしあの怪我で動けるとも思えん、割りと真面目に有り得ない事が起きている。

 おおお落ち着けまず痕跡を探すんだ。


爪;'Д`)y‐(ツンちゃん! ツンちゃーん!?)

川 ゚ -゚)「声出てませんから落ち着いて下さい」

爪;'Д`)y‐(そんな事言ったってさぁ!?)


256 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:29:07 uKegDIOI0

('A`)「どどどこに消えるんだあの怪我でこの森に誘拐犯なんか入れないぞ」

川 ゚ -゚)「落ち着けよオッサン」

('A`)「だってお前アレだぞ10分くらい前に来た時は寝てたんだぞ」

川 ゚ -゚)「窓、血付いてません?」

爪;'Д`)y‐(!! 手の跡!?)

('A`)「えっ待ってマジであの子が自ら出ていったの」

川 ゚ -゚)「うちの塔は窓にガラス入ってませんから、出るの簡単だったんでしょうね」

('A`)「何で冷静なんだお前は」

川 ゚ -゚)「大テンパり野郎が二人も目の前に居たら冷静にもなりますよ」

爪;'Д`)y‐(……僕の荷物これだけ?)

('A`)「え? あった分はそれだけだったけど……」

爪;'Д`)y‐(僕のナイフが無いんだけど……)

('A`)「あのクッソ趣味の悪い金色で宝石付いてるやつ? 帽子の側に置いたはず」

爪;'Д`)y‐(…………帽子に血が付いてる)

('A`)「…………机に手の跡もあるね」


257 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:29:58 95S0SFZw0
えっ!?


258 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:30:06 uKegDIOI0

爪;'Д`)y‐

('A`)

川 ゚ -゚)「汚い顔が並んでますけど、一つ良いですか」

('A`)「今はスルーだ、何だクー」

川 ゚ -゚)「あのお嬢さんは、本当に意識を無くしていたんですか?」

爪;'Д`)y‐(だって気を失ってたよ?)

('A`)「ああ、あの傷では意識不明になる筈だ」

川 ゚ -゚)「でも未知みたいな呪い受けたんですよね、何があるかわかんないと思いますけど」

爪;'Д`)y‐(…………)

('A`)「…………」

川 ゚ -゚)「まあ僕は呪いにやられた事も大怪我を負った事も無いのでその辺は分かりませんが」

('A`)「……えっ、じゃあアレか?」

爪;'Д`)y‐(意識がずっとあった可能性があるって事……?)

('A`)「…………い、いやいやでも意識があったからって、まず身体動かせないだろうし」

爪;'Д`)y‐(そ、そうだよ! 何が起きてるか分からないのに話題を増やさないでよ!?)


259 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:31:07 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「それより探しに行きません?」

('A`)「ハッ そうだ探そう! 森の中なら俺の独壇場なんだからすぐに探せ」

川 ゚ -゚)「た所で森の中には転移魔法使えませんし」

('A`)「そうだった俺は役立たずだった」

爪;'Д`)y‐(だから僕の喉は来月に持ち越しだったの!?)

('A`)「それもまた理由の一つだ……」

川 ゚ -゚)「そしてこれはランタンです」

('A`)「はい」

川 ゚ -゚)「でもご主人様は何かあった時にここに居ないと無能極まるので動かないで下さい」

('A`)「ぐう」

川 ゚ -゚)「フツメン様は声も出ないのに探しに行くとか愚の骨頂なので動かないで下さい」

爪;'Д`)y‐(ぐう)

川 ゚ -゚)「じゃ、行ってきます」

('A`)「クーすまない……本当にすまない……」

爪;'Д`)y‐(心がいたい……申し訳ない……)

,,川 ゚ -゚)(血見るのやだなぁ)


260 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:32:06 uKegDIOI0

('A`)「…………」

爪'ー`)y‐(…………)

('A`)「ごめんね……役に立たない英雄で……」

爪'ー`)y‐(いや僕こそ……何もしてませんし……)

('A`)「しかしあんな傷で呪い受けて動けるとかそんな……ロマじゃあるまいし……」

爪'ー`)y‐(ろま?)

('A`)「ロマネスク・ミュスクル、俺の古い友人でね、割りと有名な奴なんだけど」

爪'ー`)y‐(ツンちゃんの師匠がミュスクルさんらしいんだけど)

('A`)「そういや弟子取ったって言ってたな」

爪'ー`)y‐

('A`)

爪'ー`)y‐(えっマジで英雄が師匠だったの?)

('A`)「弟子取る様なミュスクルさん他に居ないよ」


261 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:32:08 Hbjg50a20
尊すぎむり


262 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:33:06 uKegDIOI0

爪'ー`)y‐(許嫁が亡くなったとか)

('A`)「そうそう、家同士が決めたやつ、しかも生まれる前に」

爪'ー`)y‐(貴族によくあるやつかぁ)

('A`)「なかなか生まれなかったから確か26歳くらいの年の差だったんじゃないかな」

爪;'ー`)y‐(ヤバくない?)

('A`)「あいつは馬鹿だけど真面目だから、彼女が成人するまでは清い関係貫くつってたんだけどね
     彼女の方が五歳で亡くなっちゃって、かなり落ち込んでたし……俺がもっと外を見てればなぁ……」

爪'ー`)y‐(あー……)

('A`)「まあ今では落ち着いたけど」

爪'ー`)y‐(気になる事が一つ)

('A`)「はい?」

爪'ー`)y‐(相思相愛だったと聞いたんだけど)

('A`)「君はさ、運命って信じるタイプ?」

爪'ー`)y‐(時と場合による)


263 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:34:07 uKegDIOI0

('A`)「運命って、定められてる事が多いんだけど、人の気持ち次第で変えられるものなんだ」

爪'ー`)y‐(はあ)

('A`)「けど中には、決して変えられない運命もある」

爪'ー`)y‐(何で言い切れるんです?)

('A`)「変えられない運命はきっと変えてはいけない事なんだと彼女が言うから」

爪'ー`)y‐(……?)

('A`)「彼女曰く、彼女の死は決して避けられない物で、避けられる世界は存在しないと
     そしてロマと彼女が結ばれないのも、愛し合うのもまた定められているらしいよ」

爪'ー`)y‐(??? 何かカルトめいてきたんだけど)

('A`)「はは、まぁ魔女ってカルトめいてるしな」

爪'ー`)y‐(彼女って、もう亡くなってるのに……)

('A`)「死者がどこに居るかは、生者にはなかなか分からんものさ」


264 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:35:10 uKegDIOI0

('A`)「……皆が戻ってきた時のために、食事の準備でもしよう」

爪'ー`)y‐(手伝うよ、少しは出来るから)

('A`)「はあ意外な、ロマの弟子ならあの子がしそうなもんなのに」

爪'ー`)y‐(手掴みで肉を食う野生児だから……)

('A`)「ああそっちに特化したの……」

('A`)

('A`)(最たる魔女でも運命には抗えんのだなあ)

('A`)(いや、抗ったからこそ五年は共に過ごせたのか)

('A`)(さすがの俺も、運命には手を出せんなあ……ひぐらしじゃあるまいし……)

爪'ー`)y‐(英雄さん何作る?)

('A`)「食材尽きたのを今思い出した」

爪'ー`)y‐(駄目じゃん……)


265 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:36:27 uKegDIOI0
 ───────────





 暗い世界。

 痛みと冷たさ。

 背中には固い感触。

 身体から血の流れる感覚。

 少し離れた場所から声がする。


 満月の夜、北東の泉、花、今夜
 喉を治す、声、呪い、治せない


 手を握られる。
  髪が触れる。

 あたたかい雫。
  手のひらに触れているのは、唇か。

 ごめん。 ごめん。 ぼくのせいだ。
 あたたかさと共に、懺悔が手のひらから伝わる。

 声のない懺悔と、涙が、私の手を濡らして行く。


266 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:37:08 uKegDIOI0

 煙草の匂い。
 甘くて不思議な匂い。

 ああ、狐か。
 私の手を握り、私の頬を拭い、私に謝り続けているのは。

 馬鹿な事を。
 あんたが謝ったって、私は自分を守れるほど強くはならないのに。


 手が離れる。
 デレの声。


 魔力、魔女、元凶、魔族。
 倒す、呪い、傷、治す為。


 ああ、あの子まで危険に追いやってしまう。
 私は何をしているのだろう。


 でも、良かった。

 二人とも、元気なんだな。


267 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:38:07 uKegDIOI0

 ここは、どこだろう。
 どこかに転移された気がするが。

 ミセリは居ないみたいだ。
 知らない人の声もする。

 いまいち、思考がまとまらない。
 私は確か、変な影に殴り倒されたんだったか。


 いや違うな、引き裂かれたんだ。
 右目から腹まで、真っ直ぐに引き裂かれて。

 ああくそ、痛いのはそのせいか。
 じくじく、ずきずき、傷の奥から、黒くてぬめる気持ちの悪い何かも感じる。

 しかし本来なら、もっと痛むはずだ。
 恐らく出血が多いんだろうな、頭がふわつく。
 頭が少し駄目になっているから、痛みを感じにくいんだろう。


 でも、不思議とそのまま意識が遠退く感じはしない。
 血が注ぎ足されて居るような感じだ。

 知らない誰かが、何かをしているのかもしれない。

 ミセリが居ない、転移された気がする、そして知らない声。
 たぶんこの知らない誰かは、ミセリが頼った相手だ。 なら、安心だ、あの子は頭が良いから。


268 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:39:06 uKegDIOI0

 そう、あの子は昔から頭が良かった。
 喧嘩は強いくせに、勉強が好きで。

 私が先生に連れてこられた時は、まだ少し暗い目をする事もあって。
 でも少しずつ、先生のお陰で仲良くなって、孤児院で一番の友達になった。

 先生も良い人だったな。
 今も元気みたいで良かった。

 私が母親に捨てられて、森の中をさまよって。
 お腹が空いて、心細くて、なんだかすごく腹立たしくて。

 牛くらいなら殺せるからって、熊に襲いかかって、ああ、笑える、何て馬鹿なんだろ。

 結局、ほぼ即死くらいの反撃を貰って。
 あの時は痛かったかな、確か、背骨を砕かれたから痛みは麻痺したんだったか。

 でもすぐに先生が治療してくれて、大変だっただろうな、大怪我だったし。
 だから孤児院に運ばれて、しばらくは寝たきりで、でも後遺症も無くて良かった。

 そういや、ミセリは私の腕力を怖がらなかった。
 だからあの子と友達になったんだっけ、ふふ。

 あの子、賢いのに変だよなぁ、私みたいなのと仲良くなるなんて。
 気持ち悪いかって聞いたら、かっこいいとか、笑ってやがった。


269 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:40:06 uKegDIOI0

 私の金髪と癖毛をよく羨ましがっていたか。
 お姫様の必須条件だとか言って、最終的に恋愛投げ捨てて仕事と鍛練に励んでる癖に。


 ああそう言えば、この髪もあの人譲りだな。

 この髪も、目も、肌も顔立ちも、みんなあの人に似ているんだ。
 私を気味の悪い存在と罵るあの人に。


 化け物だ、気味が悪い、産むんじゃなかった。
 時には手を振り上げての折檻と共に、私はその言葉で育てられた。

 実際に化け物として始末されなかっただけマシなのだろう。
 でも私は、あの人から可愛がられた記憶は無い。


 見た目以外は褒められたものじゃない。
 だから少しでも小綺麗にしろ。

 そう髪を結われ、綺麗な服を着せられ、言葉も仕草も言われるがままに整えた。
 所詮は田舎の村娘、小綺麗にしたところで何にもならない。

 それでも見てくれだけは可愛いものだと、あの頃は言われたな。


270 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:41:06 uKegDIOI0

 それでも結局、私は村じゃ化け物扱いで。
 あの人を怒らせたくないから普段はおとなしくしてて。

 だけどあの人を化け物の母親だと言うから、私はカッとなって。
 でも、人を傷付けるなって言われてたから、そいつんちの牛を殺したんだ。

 角を掴んで、首をへし折って、半分くらいちぎって。
 服に血がついたから、怒られると思って途中でやめて。

 あの時から、みんなが汚いものを見る目から、恐ろしいものを見る目に変わった。


 帰って謝ったら、怒られて。
 今までに無いくらい怒られて。

 しばらくは凄くピリピリしてて、私もおとなしくせざるをえなかった。


 あの人は、きれいだったな。
 いつも白粉の匂いがして、髪をきれいに巻いていた。

 父さんの記憶はない。
 たぶん、早くに死んだんだろう。

 あの人はきれいだから、私が居なければ簡単に再婚できるのにといつも言ってた。
 実際に私は邪魔だったのだろう、どんなにきれいでも、気立てが良くても、ばけものが娘では。


271 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:42:06 uKegDIOI0

 ああでも、あの人のご飯は、美味しかった気がする。
 料理は得意じゃないみたいだけど、毎日作っていた。

 私を罵りながら、叩きながら、着飾らせながら、暗い目で生きていた。
 時おり、夜に泣いていた。 何かを見ながら、声を殺して。


 私は。
 私は母さんに、ただ愛されたかった。

 良い子で居ようと努めた。
 言うことはちゃんと聞いた。

 わがままも言わなかったし、言いつけは守ってた。
 いや、守りきれてないか、人前で物を潰したりするなって言われてたな。

 でも私は、母さんにただ好かれたくて。
 でも、でも愛されないままで、どんなにきれいにしても、お行儀よくしても、だめで。


 私はどんなにきれいにしても、所詮は化け物でしかなかったんだ。


272 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:43:06 uKegDIOI0

 見てくれを良くしても扱いは変わらない。

 どんなに頑張っても化け物扱いのまま。

 ばかみたいな握力も制御できない。

 じゃあもう、私はそう言う生き物として生きるしかないんだ。

 私はばけものなんだと、認めて、受け入れて、生きるしかないんだ。


 そう思ったら、楽になれた。

 冒険者として旅をして、ばけもの扱いされても平気になった。

 楽なように、心を痛めないように、好きなように生きるようにした。

 綺麗な服はいらない。
 動きにくいし、誰も私を認めてはくれない。

 お行儀良くしたって意味はない。
 一人だし、楽だし、そんなの誰も見ていない。

 誰も褒めてくれない。
 もう褒められなくて良い。

 誰も認めてくれない。
 もう認められなくて良い。

 誰も人間として扱ってくれない。
 じゃあもう、私はばけもので良い。


273 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:44:05 uKegDIOI0

 拗ねてるわけじゃない。
 悲観してるわけでもない。

 ただ、諦めてしまったんだ。
 受け入れてしまったんだ。

 その方が楽だったから。
 別にお人形のように扱われたかったわけじゃないから。

 ただ普通の、人間の娘として生まれたかっただけ。


 ああでもばけもので良かった事もある。
 師匠に出会えた、姉様とも出会えた、狐やデレと出会ったのもばけものだからだ。

 大事な人達と出会えたのは、とても素敵な事だ。
 私にとっての宝だ、決して手放してはいけないものだ。

 空っぽだった私が、満たされたから。
 本気で守りたいものが出来たから。


 ああ、誰かの声がする。

 見知らぬ人の声だ。


274 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:45:05 uKegDIOI0

 魔石、呪い、死、不死者。
 変質、圧縮、魔法、殺す。


 なにかが、なにかを潰す音。
 びしゃ、と水っぽい何かが飛び散る音。

 ぱきぱき。
 氷が凍るような音。

 じゅるじゅる。
 ぐしゃり。
 ぱきぱき。

 じゅるじゅる。
 ぐしゃり。
 ぱきぱき。


 繰り返し繰り返し、同じような音。

 じゅるじゅる。 じゅるじゅる。
 これは、狐が蘇生してる音?


275 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:46:06 uKegDIOI0

 魔石、変質、薄青の、透明な石。
 そうか、狐は魔石の材料になるのか。

 じゃあ今、どこかで、狐が死んでは蘇り、死んでは蘇り、材料になっているのか。

 どうして? なんのために?
 そんなことをしたら、狐だってさすがにつらいだろうに。

 ぱきぱき。 ぱきぱき。
 これは、魔石が生成される音?

 ぱきぱき。 じゅるじゅる。
 嫌な音。


 ぱきぱき。
 ぱきぱき。

 ぐしゃり。 じゅるじゅる。
 ぐしゃり。 じゅるじゅる。


「よくやりますね」


 綺麗な声。


276 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:46:51 hnpK4EBoO
投下中か
VIPじゃないけど支援


277 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:47:05 uKegDIOI0

「お嬢さんのためだからって」


 溜め息混じりの声。


「どれだけ殺すおつもりですか」


 嫌悪感。


「仕方ないだろう、俺だってこんな外法はお断りだ」


 悲痛。


「服、洗ってきますよ」

「ああ」


 足音。
 遠退く。

 ぐしゃり。
 じゅるじゅる。
 ぱきぱき。


278 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:48:06 uKegDIOI0

 何回聞いただろう。
 同じ音、どれだけ聞いただろう。

 数えきれないくらい聞いた。
 それだけ、狐は死んでいる。

 不死者だからって、こんなに死んで大丈夫なのか。
 何かよくないことになったりしないか。

 ああ、狐、デレ、大丈夫なのかな。
 狐の歌、また、聴きたいんだけど。



 咳き込む音。
 何かを吐き出している。

 ひゅうひゅう、音が。
 呼吸音かな。
 ここまで聞こえるんだな。


 狐の歌を聴きたい。
 デレを抱いて眠りたい。


279 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:48:09 95S0SFZw0
心が痛い


280 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:49:17 uKegDIOI0

 声が聞こえない。
 狐の声。
 どうしてだろう。

 ふしぎだな。

 声がしない。
 狐の。



 ああ。

 あいつの声は、奪われたんだった。

 あの歌声を、私は守れなかったんだ。

 でも喉は、治せるんだっけ。


 たしか、今夜。
 北東、花、満月。
 泉に花が。


281 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:50:11 uKegDIOI0

 ごとごと。
 部屋に誰かが入ってくる。

 私の顔や傷を覗き込んで、何かを確認するみたいに。
 不思議な気配を感じる、魔力なのかな、近くに熱量があるような。


 あ、ああ、その熱量が、私に向けられた。
 なんだろう、これ、あたたかい、ああ。

 身体に、熱が戻っていく。
 暗い視界に、光を感じ始める。

 はあ、と息を吐く。
 ゆっくりと息を吸い、目蓋を持ち上げてみた。

 見知らぬ灰色の空。
 石造りの天井。

 ひんやりとした空気の中、私に注がれている暖かな何か。


 視線を向けると、そこには大きな魔石。
 優しい光を放ちながら、私に温もりを与えている。


282 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:50:46 95S0SFZw0
ツンちゃん尊すぎかよ


283 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:51:06 uKegDIOI0

 気持ち良い。
 冷えた身体をぬるま湯で暖められてるみたい。

 痛みが薄まる。
 身体を起こしてみる。
 視界は狭いが、身体は動いた。

 ややぼやけるが、見える。
 右目は、包帯が巻かれてるのかな。

 傷は、ああ、出血がおさまってる。
 すごい、うっすら閉じてる。 さっきまで、血が流れ続けてたのに。


 寝かされていた台から、降りてみた。
 ふらつきはしたが、立てた。

 人の気配は無いが、どうしよう。
 私は、何をすれば。 どうすれば。



 そうだ、森に、行かないと。

 あの声が無いと、私は、よく眠れないから。


 森に、行かなければ。


284 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:52:05 uKegDIOI0

 魔物が居るかもしれない。
 私の武器は、ここには無い。

 じゃあ、ええと。
 ああ、あれを借りよう。

 趣味の悪い、金色の、石のついたナイフ。
 これを、借りて。 外に。


 はは、身体が動く。
 傷の内側から感じていた気持ちの悪い何かも、無くなってる。

 頭はまだふわふわするけど。
 思考はまだまとまらないけど。


 身体が動くなら、私は動かなければいけない。

 何をすれば良いのか。
 私はどんな状況なのか。
 なにもわからない、ふわふわする。


 でも、そう、森へ。


285 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:53:08 uKegDIOI0

 趣味の悪いナイフを掴んで、ガラスのない窓から外に飛び出した。

 月が出ている。
 方向からして、北東はこっち。
 高さは、まだ大丈夫だから、走れば、良い。


 月の浮かぶ夜。
 闇に沈んだ森の中。

 私はひとり、ナイフを握って、走り出した。


 怪我をしている割りには、身体が軽い。
 ちゃんと走れる、ちゃんと動ける。
 前は、見にくいが、見えている。


 魔物や獣が時おり姿を見せるが、ナイフを抜いて斬り伏せる。
 このナイフがまた、切れ味の悪いこと悪いこと。

 でも振り抜く度に、キラキラと光が散るのはきれいだな。

 ああ、本当に身体が軽いや、いつもより身軽に走れている気がする。
 鎧を付けていないからかな、振り返ると、もう光は見えない。

 森の闇にとっぷり沈んだ世界に、ぽつぽつと光る道しるべがあるだけ。


286 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:54:06 uKegDIOI0

 夜の森は、本来なら恐ろしい場所だ。
 何が潜んでいるかも分からない、迷って当然の危険な場所。

 私が背骨を砕かれたのも、暗い森でだったな。
 最もあの時の熊は、旅に出てすぐにリベンジして食材になったのだけど。


 草を蹴り、木々の隙間を縫い、花を飛び越えて走る。

 夜の鳥の声と何かの遠吠え。
 風の音が耳元で鳴り、葉擦れはざわざわがさがさ。


 頬を撫でる冷たい風に、少しずつ頭が冷静さを取り戻す。

 私は今、致命傷とも言える怪我をしていて。
 うっすら傷は閉じたみたいだが、下手に動けば簡単に開くような状態。

 しかも私のためにデレは危ない事をしに行って。
 狐は私のために、嫌になるくらい死に続けた筈で。


287 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:55:08 uKegDIOI0

 私がもしここで野垂れ死んだら、二人の苦労が完全に無駄になるわけで。


ξ%⊿゚)ξ「…………」


 振り返る。
 だいぶ走ってきたなこれ。

 前を見る。
 身体の調子はまだいける。


 行くしかねえなこれ。


 方向はまだずれてない。
 真っ直ぐ進めば良い。

 足元も見えないくらいの闇。
 それでも不思議と、行くべき道が見えた。

 仄かに光るように、私には道が見える。
 目指す場所がどこか分かる。

 もう少し走れば辿り着ける筈だ。
 だから二人ともごめん、無駄な心配かけてごめん。


288 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:56:08 uKegDIOI0

 でもここまで来てしまったんだ。
 さっきまで頭がフワッフワだったんだ。
 許せ。

 そしてここまで来て、手ぶらで何て戻れるものか。
 心配かけてまでここに来たんだから、やりきるしかない。


 きらめきが見える。
 清らかさを感じる。

 流れる小川は淡く輝きを持っている。
 青白くも清らかに、優しく流れて。


 ああほら見えてきた。
 ひときわ明るい場所が見えてきた。

 流れに逆らうように走った。
 木々を抜けて駆け上がった。

 緩やかで小さな丘を上ったら、水源に辿り着く。
 夜闇にも眩しいような光がふわふわと浮かんでは消え、浮かんでは消え。

 小さな泉の中央に、光をたたえる水晶塊が座していて。
 その中には話の通り、うっすら紫がかった白い花が咲いていた。


289 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:57:07 uKegDIOI0

 この泉、入っても良いのかな。
 清めるために使うんだった気がするし、大丈夫かな。


 恐る恐る、裸足の爪先を泉に浸ける。
 不思議と柔らかな冷たさが、肌を覆う。

 両足を浸して、深さを確かめる。
 私の腰くらいまでの深さ、これなら溺れる心配は無いか。

 爪先で探りながら、ゆっくりと水晶に閉じ込められた花に近付く。
 光っているのは水晶なのか、それとも花の方なのか。


 指先が水晶に触れた。

 ひんやりしていて、滑らかな表面。
 でも氷の様に冷たくはなく、内側から魔力のような温もりを感じる。


 やわらかな光が溢れる水晶をしばらく愛でた後、ゆっくり呼吸を整える。

 そして、拳を握って、振り上げた。


290 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:58:07 uKegDIOI0

 がっ、と拳の骨が水晶にぶつかる音。
 びりびりとした痛みが手から腕までかけあがり、思わず手を振りながら顔を歪める。

 確かに固い、岩なんかよりずっと固い。
 それでも、魔法で障壁を張ってる様には感じない。 つまり素の状態で固いんだ。


 再び拳を握って、振り下ろす。
 拳が痛むのもいとわず、振り上げて、振り下ろして。

 がつ、がつ、がつ、がつ。
 水の中だから動きにくい。


 水晶の表面が赤くなっていく。
 徐々に拳は裂けて血が滲むが、休む間もなく拳を叩き付けた。

 少しずつ、水晶にヒビが入る。
 少しずつ、少しずつ、赤く染まれば染まるほどに、ヒビは広がる。


 ずきん、と腹に痛みが走った。
 眉を寄せて見下ろすと、水に血が混じっている。

 どうやら動きすぎて、さすがに傷が開いたらしい。


291 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:59:09 uKegDIOI0

 拳を振り上げる。
 胸に鋭い痛みが走る。

 拳を振り下ろす。
 腹に鋭い痛みが走る。

 ごつ、ごつ。
 めきめき。
 びしゃ、ぽたぽた。

 拳が負けてきた。
 案外役に立たないものだ。

 傷がどんどん開いている。
 血の量が増えてきた。


ξ%⊿゚)ξ「あと、少し……」


 水晶全体に広がったヒビと、その向こうで未だ穏やかに存在する花。

 拳が砕けても。
 はらわたがはみ出しても。
 私はもう、ここまでやらかしてしまったんだ。

 これを持って、生きて帰らないと。
 私はあの二人に合わせる顔が無いだろうが。


292 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:00:17 uKegDIOI0

 ああくそ。
 どこもかしこも痛いな。

 二人に謝らないと。
 助けてくれた人にも。

 頭がフワッフワしてたから飛び出したんです。
 冷静になった頃にはもう手遅れだったんです。

 分かってます分かってます、ごめんなさいごめんなさい。


 でも私、これが私の役目な気がして。

 これはただのワガママだけど。
 これは私にしか出来ないと思って。

 だって、だって、私は。

 私が。


ξ#%⊿゚)ξ「私がッ! 狐の声を奪い返すんだッ!!」


 私が、この手で取り戻すんだ。


293 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:01:29 95S0SFZw0
水晶砕くとかあり得ないことそんな体でやっちゃ駄目だろう


294 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:01:29 uKegDIOI0

 雇用主を守れない護衛に意味なんて無い。
 雇用主の大切なものを奪われる護衛なんて要らない。


 分かるかよ、吟遊詩人が声を無くしたんだぞ。

 みすみす奪われたんだぞ、護衛の目の前で、詩人の声を奪われたんだぞ。
 分かるかよこの気持ちが、私を包んだ絶望感が、虚無感が、無力感が。

 私の存在って何だよ、何のために居るんだよ、何が護衛だ吟遊詩人の最も大切な物を奪われて。


 だから奪い返すんだ。
 私がこの手で奪い返すんだ。

 私がしなきゃいけないんだ。
 これが私の役目なんだ。

 私がけじめを付けなきゃいけない。
 私が責任を取らなきゃいけない。


 分かってるよ、防げた事じゃない。
 私の責任じゃない、どうしようもなかった事だ。

 だとしても、私は目の前でそれを奪われたんだ。
 守るべきものを目の前で奪われたんだ。


 だったら、奪い返すしか無い。
 この手で取り戻すしか無い。

 私は、馬鹿だから。


295 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:02:23 uKegDIOI0

 手の骨が折れた。
 それでもやらなきゃいけない。

 もうそこらじゅう血まみれだ。
 それでもやらなきゃいけない。

 私が化け物だと言うのなら。
 私のバカみたいな力が役に立つなら。
 私は誰かのために何かを出来ると思うなら。

 やるしかない。
 そうしないと。
 そうじゃないと。
 そうでなければ。


 私が、化け物として生まれた意味が無いじゃないか。


ξ#%⊿゚)ξ「だぁ゙あ゙あ゙あ゙ああああああッ!!!!」


 ばきん。


 ひときわ大きなヒビが、縦に走った。


296 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:03:18 uKegDIOI0

 ぱき、ぱきぱき。

 ぱぁん。


 花火の様に、はぜる様に、水晶が勢いよく砕け散る。

 きらきらと粒子になって降り注ぐ様は、まるで月の光が雨となって注いでいるみたいだった。


 ぐしゃぐしゃになった右手をぶら下げて、まだ形を残す左手であらわになった花を掴む。

 どこにも繋がっていなかったように、花は抵抗もなく私の手に収まった。


 ばしゃばしゃ。
 血の跡を残しながら、泉から上がる。

 腹を見下ろすと、すっかり下半身まで血まみれになっていた。
 ここから、再び来た道を戻らなければいけない。

 輝きの失せたナイフをぐしゃぐしゃになった右手に縛り付けて、
 か細い花を壊さないように握りしめて、地を蹴った。


297 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:04:07 uKegDIOI0

 化け物として生きてきた。
 お母さんに愛されたかった。

 綺麗にしても無駄だった。
 だから化け物である事を受け入れた。

 諦めると楽になった。
 鍛練は楽しいし充実していた。

 化け物も悪くないと思うようになった。
 なに食わぬ顔で、気にしていない顔で生きていた。


 でも本当は、私は化け物である私が、何よりも大嫌いだったんだ。


 化け物じゃ誰も愛してくれない。
 化け物じゃ誰も求めてくれない。

 先生も師匠も姉様も友達も笑ってくれたのに。
 私はそれを、本当は信用してなかったのかも知れない。

 一人が怖かった。
 一人が楽だった。
 一人が嫌だった。
 一人が良かった。


298 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:05:06 uKegDIOI0

 私は知ってしまった。
 私は覚えてしまった。

 きれいな音楽と、やわらかな毛並み。
 やさしい子守唄と、おだやかな温もり。

 孤独を忘れる賑やかな日々。
 他者を受け入れる恐怖と、受け入れられた喜び。

 誰かと食べる食事の楽しさ。
 誰かと眠るあたたかさ。
 誰かと交わす言葉も。
 誰かに触れる手も。


 もう私は、一人きりでなんて生きられない。


 何かを守るために私はここに居る。
 守りきれない己の弱さはもう受け入れた。
 私はこれからも強くなるし、もう挫けたくもない。

 あの子のためにも、あいつのためにも。
 私のためにも、私はもっと。


 ずしゃ。


299 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:06:06 uKegDIOI0

 血で滑った身体が、地面に投げ出される。
 びちゃ、と音を立てて転んだ身体の動きは鈍い。


 花は、無事だ。
 早く帰らないと。

 きらきらとした道しるべがある。
 あれはなんだっけ。


 とにかく、あれを辿って帰ろう。
 どこから来たのかもよく分からないが、道しるべがあるのだから、辿れば良い。


 ずるずる。
 ぜえぜえ。

 身体が冷えたか、動きにくい。
 水に浸かっていたからしょうがないか。


 はあはあ。
 ぼたぼた。

 服はまだ濡れている。
 案外乾かないものだ。


300 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:07:07 uKegDIOI0

 人家の光はまだ見えない。
 月明かりに照らされた道しるべだけが、きらきらと輝いている。

 きらきら、きらきら。
 色んな色の輝きが、道の様に落ちている。

 ちかちか、ちかちか。
 遠くから黄色い灯りが近付く。

 ふらふら、どさり。
 なぜだか身体が動かなくて、私は重力に身体を任せた。

 がさがさ、ざりざり。
 草を掻き分け、土を踏む音。



川 ゚ -゚)「うわきっつ」


 男の声が頭上から響く。
 冷たく通るきれいな声だ。


301 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:08:03 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「はーもー予想はしてましたけどー、よいしょ……」


 ああ、この声は、少し前に聞いたな。
 迎えに来てくれたのか、大きな布で包まれる感触。

 よっこらせ、と抱え上げられた。
 だらりと垂れ下がる手や足の先から、ぽたぽたと雫が落ちる。


 それでも花だけは落とさないように、強く握ったまま。


川 ゚ -゚)「命知らずは他人も殺しますよ本当に」


 すまん。


川 ゚ -゚)「やれやれ、辿って帰りますか」


 お願いします。


302 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:09:06 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「全く、誰のためにみんな頑張ったと思ってるんですか」

  ごめんなさい。


川 ゚ -゚)「この僕ですら働いたんですよ、デレ様もお小さいのに頑張ってるのに」

  ほんとごめんなさい。


川 ゚ -゚)「お嬢さんの相方のフツメン様、すごい事になってたんですよ」

  どうなってたんだろう。


川 ゚ -゚)「死にすぎて、魂が壊れかけてましたよ」

  ああ、無理をさせてしまった。


川 ゚ -゚)「そういやお嬢さんのお名前はまだ聞いてませんね」

  ツン・グランピーです。


川 ゚ -゚)「喋る体力無いか、大人しくしてて下さい」

  あ、はい。


303 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:10:15 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「お嬢さんが何を思ってこんな無謀な事をしたのか、何となく察しますけど」

  はい。


川 ゚ -゚)「皆様の努力を無駄にするような事は、控えてくださいよね」

  はい。


川 ゚ -゚)「まあ帰ったらめちゃくちゃに怒るフツメン様が居ると思いますけど」

  さっきから思ってたけどそれ狐の事?


川 ゚ -゚)「ああ、僕はクール・フロワ、美貌の従者です」

  ご丁寧にどうも。


川 ゚ -゚)「僕のご主人様はドクオ・ソリテール、キモくてでかい人です」

  師匠のお友達の。


川 ゚ -゚)「見えてますか? 僕のこの神が与えたもうた世界を狂わせる美貌は」

  よく見えないけど一応は。


304 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:11:09 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「目が動くなら生きてますね、なら良し」

  綺麗な青い目。


川 ゚ -゚)「声かけは基本だって分かってるんですけど、激しい独り言過ぎて虚しくなりますよね」

  狐とは違う色だ。


川 ゚ -゚)「国産ドラマだと『もう良い喋るな!』って言うけど
     海外ドラマはめっちゃ『シー!寝るな寝るな!俺を見ろ!』って言いますよね」

  きれいな、黒髪。


川 ゚ -゚)「あれってどう言う感覚の違いでおいおいおい寝るな寝るなそのまま死ぬでしょそれ」

  ねむ、い。


川 ゚ -゚)「あーちょっとちょっと僕そんなに体力無いから走れないんですよ治療も出来ませんよ」

  ああ、もう、


川 ゚ -゚)「起きなさいツン様ちょっと! 子守唄が必要なんでしょあなたは!」

  あ、


305 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:11:38 95S0SFZw0
それ装飾の宝石じゃあ……
役に立ってよかったね


306 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:12:17 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「あー起きました? 起きましたね、よしよし、目は開けて動かしといて下さい」

  そうだ、歌が無きゃ、よく眠れない。


川 ゚ -゚)「ほら見えてきましたよ、あのみすぼらしい塔が我が家です」

  塔? くらくて、よくみえない。


川 ゚ -゚)「はー疲れた、今日は働きすぎたから明日からは20時間くらい休憩にしよ」

  それ働いてるって言うのか。


 遠くから声がする。
 ばたばた、走ってくる。

 突然がっしと頬を両手で掴まれて、顔を覗き込まれた。


爪#'Д`)「────ッ!! ─────ッ!!!!」


 うわめっちゃおこってる。


307 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:13:10 uKegDIOI0

 私の顔を覗き込んで、両頬を手で挟んで、声もないのに怒鳴り付ける相棒。

 なに言ってるのかはさっぱりだけど、めっちゃ怒ってる事は分かる。
 涙目になって、めっちゃ怒って。

 はは、ほんとこいつ、


ξ;%ー^)ξ「お前ほんっと……ブッサイクだなその顔……」

爪#'Д`)「…………────ッ!!」

ξ;%ー゚)ξ「ほら、これ……」

爪#' -`)「……? ────?」

ξ;%ー゚)ξ「声……取り返したから……」

爪' -`)「ッ!!」

ξ;%⊿-)ξ「ちゃんと……取り返した、から……」


 久々に狐のブッサイクな顔見て、ちゃんと花も渡せて。

 安心したら意識が、かくん、と落ちた。


308 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:14:07 uKegDIOI0



 よんよんよんよん。
 魔石と本人のダブルで魔力を送っている。

 送り先は気を失ったツンちゃん。
 再び台に寝かされて、全力で傷の治癒が始まった。


 僕は渡された薄紫の花に視線を落として、渋い顔。


川 ゚ -゚)「あーさっぱりした」

爪'ー`)y‐(真っ先に風呂入ったね君)

川 ゚ -゚)「血とか苦手なんですってば、怖いじゃないですか」

爪'ー`)y‐(よく死ぬので何とも)

川 ゚ -゚)「いじってたら萎れません? 聖水ありますよ」

爪'ー`)y‐(んー……)

川 ゚ -゚)「まー……よくあんな身体で走り回れましたね」

爪'ー`)y‐(本当にね)


309 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:15:08 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「あ、これフツメン様のでしょ」

爪'ー`)y‐(僕のナイフ……おぉ……宝石も金も剥がれて見るも無惨……)

川 ゚ -゚)「めっちゃ点々と宝石落ちてましたわ」

爪'ー`)y‐(拾ったりは)

川 ゚ -゚)「いやお嬢さん抱えてましたし」

爪'ー`)y‐(…………ありがとうございました)

川 ゚ -゚)「何です急に」

爪'ー`)y‐(僕の相棒を、見付けてくれて)

川 ゚ -゚)「向こうから歩いてきたのを拾っただけですから」

爪'ー`)y‐(それでも、武器も持たずに君は行ったし)

川 ゚ -゚)「この森では僕とご主人様は加護があるから魔物とか寄せ付けませんよ」

爪'ー`)y‐(あっそうなの……)

川 ゚ -゚)「すみませんね何か」


310 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:16:04 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「呪い、解けたみたいですね」

爪'ー`)y‐(わかるの?)

川 ゚ -゚)「何となく、ご主人様が後始末を頑張ってますし」

爪'ー`)y‐(解呪後も大変って言ってたけど、どう大変なんだろう)

川 ゚ -゚)「よく分かりませんけど、呪いそのものは消えても呪いの影響は残るらしいですよ」

爪'ー`)y‐(僕の喉みたいに)

川 ゚ -゚)「その影響を取り除くのも一苦労らしいんで、ご主人様が見た事も無いくらい本気出してます」

爪'ー`)y‐(あの魔石ちゃんと役に立ってるんだ)

川 ゚ -゚)「なかったらすげー時間かかるんじゃないですかね」

爪'ー`)y‐(影響ってどんなのなんだろうね)

川 ゚ -゚)「難しい話を僕に振り続けないで下さいよ……たぶん、穢れだと思いますよ」

爪'ー`)y‐(穢れ?)

川 ゚ -゚)「噛み付いたら痕と涎が残るでしょ、それですよ」

爪'ー`)y‐(うっわ……分かりやす……そして汚い……)

川 ゚ -゚)「納得の穢れ」


311 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:17:04 uKegDIOI0

爪'ー`)y‐(……ところでさぁメイドさん)

川 ゚ -゚)「はい麗しきメイドです」

爪'ー`)y‐(何で会話出来てんの?)

川 ゚ -゚)「一流のメイドですから心も唇も読めますよ」

爪'ー`)y‐(マジかぁ……)

川 ゚ -゚)「そうだ、薬作ります?」

爪'ー`)y‐(え? 作れるの?)

川 ゚ -゚)「調合して魔法かけるだけですし、これくらいなら僕らにも」

('A`)「やめんか」

川 ゚ -゚)「あ、キモメン様」

('A`)「俺の顔面に何の咎があると言うのだろうか」

川 ゚ -゚)「すみません間違えましたご主人様、お嬢さんは?」


312 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:18:06 uKegDIOI0

('A`)「傷は閉じたから、あとはゆっくり休んでもらえば大丈夫だよ」

爪'ー`)y‐(良かったぁ……ありがとうございます……)

('A`)「んー、まあ年長者としてね、ぽっと出の謎の中年だけど初代主人公だし」

爪;'ー`)y‐(やめよう?)

('A`)「お嬢ちゃんの顔見てきたら? 顔色も良くなったよ」

爪'ー`)y‐(はい)

('A`)「俺は薬作るから、君もゆっくりしな」


 促されるままに席を立ち、足早にツンちゃんの眠る部屋に入る。

 部屋に充満していた血の臭いも、そこらじゅうに飛び散っていた血も、きれいさっぱり消えていた。

 そして台に横たわる少女は、穏やかな顔で眠っている。

 右目を覆う包帯だけはそのままに。


313 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:19:18 uKegDIOI0

 滲んでいた血も止まってる。
 胸や腹の傷は、ああ、新しい包帯が巻いてある。

 傷は残るのかな。
 でも、良かった。

 本当に良かった。
 くうくうと穏やかな寝息が聞こえる。
 頬にも色が戻ってる。 触れてみると温かい。

 小さな手を握る。
 僕の声のために、無茶なんてして。

 来月になれば治ったのに。
 こんな危ない事、しなくて良かったのに。

 この子は本当に馬鹿なんだから。
 僕とデレが、どれだけ心配するか分からなかったか。

 はあ、もう。


 平和そうに寝てるなよ、もう。


314 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:20:05 uKegDIOI0

 相棒はもう大丈夫だろう。
 目を覚ませば、きっといつもの顔をする。

 デレはまだかな。
 早くこの姿を見せたいのに。


「たのもー!! チビガキのデリバリーだー!!」


 あ、帰ってきた。


川*` ゥ´)「おいここだろ、ゴリラとクソイケが居んの」

ζ(゚- ゚*ζ゙「がぅ」

爪'ー`)y‐(デレ!)

('(゚- ゚*∩ζ「おにさん! がうー!」

爪'ー`)y‐(ああ良かった、大きな怪我はない? 大丈夫?)

ζ(゚- ゚*ζ「う? デレへいき、けがない!」

川*` ゥ´)「喋れないってマジか」

爪'ー`)y‐(ありがとう平均顔面魔女! 君のお陰だよね!)

川#` ゥ´)「聞こえねぇけどムカつく事言ったな? 言ったな??」


315 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:21:08 uKegDIOI0

爪'ー`)y‐(遅いから心配したんだよ、大変だったの?)

ζ(゚- ゚*ζ「うー……? もりとんだ、きらきらひろた」

爪'ー`)y‐?

川*` ゥ´)つ「これのこれか?」ギラッ

爪'ー`)y‐(見覚えのある宝石が)

川*` ゥ´)「その辺の森に落ちてたから回収してた」

爪'ー`)y‐(待ってそれたぶん僕の私物)

川*` ゥ´)「なんつってんのこいつ」

ζ(゚- ゚*ζ「う? ……ない」

川*` ゥ´)「分からんのか」

ζ(゚- ゚*ζ゙「がう」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐(まあ良いか、報酬として渡したって事で)


316 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:22:27 uKegDIOI0

('A`)「何だ騒がしいな、っと……戻ったのか」

ζ(゚- ゚*ζ「おじさん!」

('A`)「はいおじさんです」

('(゚- ゚*∩ζ「デレたおした!!」

('A`)「おー凄いぞー偉いぞーお陰で傷は閉じるようになったぞー」

ζ(゚- ゚*ζ「キャーン!!」

('A`)(喜びなのか今のは……)

爪'ー`)づ(ほらデレ、ツンちゃんの所に行こう)

ζ(゚- ゚*ζ三「がうー! おねさん!」ピュー

爪'ー`)y‐(早い早い)

川*` ゥ´)

('A`)

川*` ゥ´)゙「ども」ペコ

('A`)゙「こちらこそ」ペコ


317 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:23:05 uKegDIOI0

('A`)「君が分家の魔女かな?」

川*` ゥ´)「おう、ヒール・アンソルスランだ」

('A`)「まだ若いのに良く頑張ってくれたね、ありがとう」

川*` ゥ´)「べっつに、オッサンに礼言われる事じゃねぇし」

('A`)「…………いや、それでもありがとう」

川*` ゥ´)「感謝の受け取りはしてやるよ」

('A`)(やだ……この子かっこいい……)

川*` ゥ´)「つか本家の血は何だったんだよあれ、オッサンが渡したのか?」

('A`)「ああ、本人はアレだから血だけは渡しておこうと思って、役に立ったかな」

川*` ゥ´)「役立ててやったよ、このあたしがな」

('A`)(やだ……かっこいい……)

,,川 ゚ -゚)「ご主人様ー薬できたみたいですよ」


318 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:24:05 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「おや、お嬢さんが増えてる」

川*` ゥ´)゙「ども」ペコ

川 ゚ -゚)゙「どうも、メイドです」ペコ

川*` ゥ´)「変態なん?」

('A`)「誤解なんだ……」

川*` ゥ´)「引くわ」

('A`)「誤解なんだ……!」

川 ゚ -゚)「それより精製終わりましたって」

('A`)「ああはいはい、どれどれ」

川*` ゥ´)

川 ゚ -゚)

川*` ゥ´)(気持ち悪いくらい顔良いなこいつ)

川 ゚ -゚)「APP8くらいですかね」

川#` ゥ´)「もうちょいあるわァ!!」


319 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:25:19 uKegDIOI0

川 ゚ -゚)「すみません女性に対して失礼でしたね、9くらいですよね」

川#` ゥ´)「ほとんど変わんねぇからなそれ!!?」

川 ゚ -゚)「僕自身がこの美貌なもので……申し訳ないです……
     いや謝ったところで僕の美しさは不変なんですけど……」

川*` ゥ´)(あっこいつ頭おかしいな)

川 ゚ -゚)「APP9のお嬢さん、お茶はいかがですか?」

川*` ゥ´)「いらね、ゴリラ起きてないみたいだし今日は帰るわ」

川 ゚ -゚)(ゴリラ)

,,( 'A`)「クー、上から三人分の布団を頼む」

川 ゚ -゚)「まーだーはーたーらーくーんーでーすーかーぁ???」

('A`)「頑張ってくれよもう少し」

川 ゚ -゚)「チッ……明日から20時間くらい休憩貰いますからね……」

('A`)「普段からそんな感じだろお前……」

川*` ゥ´)「働けよメイド」


320 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:26:23 uKegDIOI0

('A`)「…………あいつを見て、何か感じる?」

川*` ゥ´)「駄イケメンのオーラは感じる」

('A`)「じゃあ、クリア・アンソルスランって知ってる?」

川*` ゥ´)「あー? 聞いた事はあるけど……よくわかんね、本家の事ならどうでも良いし」

('A`)「そっかそっか、じゃあこれお礼のクッキー」

川*` ゥ´)「めっちゃ可愛いなこれ……」

('A`)「あと魔力空っぽだろ、足してあげるよ」

川*` ゥ´)「オッサンから魔力分けられるってめっちゃキモいな」

('A`)「心がもうぐしゃぐしゃになる」

川*` ゥ´)「貰える物は貰ってやるから寄越せ」

( 'A`)つ「とんでもなく強かだな君……」ポワァ

川*` ゥ´)「うわめっちゃみなぎる……キモ……」

('A`)「そのキモいは必要な付け足しだったのだろうか……」


321 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:27:14 uKegDIOI0

川*` ゥ´)「じゃあ帰るわ、あのクソ共によろしくな」

('A`)「ああ、ありがとう魔女の子」

三川*` ゥ´)「魔力とクッキーさんきゅーなー」ピュー

('A`)(ちゃんとお礼も言うのか……)

('A`)

,,( 'A`)「薬飲ませよ」



ζ(゚- ゚*ζ「おねさんねてる?」

爪'ー`)y‐(うん、やっと傷が閉じたからね)

⊂ζ(゚- ゚*ζ「おねさんげんきなーれ」ペタペタ

爪'ー`)y‐(あざとい)

ζ(゚- ゚*ζ「おっきいいしある」

爪'ー`)y‐(魔石だね)


322 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:28:10 uKegDIOI0

爪'ー`)y‐(僕が材料の魔石だよ)

ζ(゚- ゚*ζ?

爪'ー`)y‐(人間から作られるからね、これは僕の血肉の結晶)

ζ(゚- ゚*ζ??

爪'ー`)y‐(さすがに伝わらない)

('A`)「それはお兄さんが素材の魔石だよ、お嬢ちゃんを治すのに必要だったから造った」

ζ(゚- ゚*ζ「おじさん」

('A`)「うんうんおじさんです」

ζ(゚- ゚*ζ「ませき? にんげんざいりょう?」

('A`)「そうそう」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんざいりょう?」

('A`)「そうそう」

ζ(゚- ゚;*ζサァ

('A`)(察した)

爪'ー`)y‐(察した)


323 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:29:11 uKegDIOI0

ζ(゚- ゚;*ζ「お、おにさんへいき? だいじ? いたいない?」

爪'ー`)y‐(ないない)フルフル

('A`)「ともあれ、これのお陰でお嬢ちゃんは生き延びたわけだよ」

ζ(゚- ゚*ζ「……おにさん、おつかれさま」

ζ(゚- ゚*ζ
  と ヽ,, モフ

爪'ー`)(デレもお疲れ様)
 づ(゚- ゚*ζ ポンポン
   と ヽ

('A`)(微笑ましい)

('A`)「っと、はいこれ」

爪'ー`)y‐(ん?)

('A`)「飲んで」

爪'ー`)y‐(あっはい)


324 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:30:13 uKegDIOI0

爪'3`)キュー

爪'ー`)

爪'ー`)y‐「何ですこれ?」

('A`)「そのままの効果です」

爪'ー`)y‐

爪*'ヮ`)y‐「声!!!!」

ζ(゚ヮ゚*ζ「キャーン!!!!」

('A`)「怪我人が寝てるんだけどね」

爪'ー`)y‐「失礼しました」

ζ(゚- ゚*ζ「ごめんない」

('A`)「こっちこそ水差してすまんね」


325 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:31:27 uKegDIOI0

爪'ー`)y‐「あー、あーあー……あぁー……声出るぅー……」

('A`)「これで括弧を間違えそうになる事故が防げるな」

爪'ー`)y‐「何の話?」

ζ(゚- ゚*ζ「おにさんおうた、おうた」

爪'ー`)y‐「あーお歌ね、うんうん歌おうか…………と思ったけど楽器無いね……」

('A`)「そういや持ってなかったね」

爪'ー`)y‐「襲われた時に落としてきたよね……」

ζ(゚▽゚*ζ ドヤァァァ

爪'ー`)y‐「熱いドヤ顔の波動が」

('A`)「玄関に落ちてるこれって君たちの得物? 何か一緒に野菜もあるけど」

ζ(゚▽゚*ζ ドヤァァ

爪'ー`)y‐「お、おぉ……持ってきてくれたの……!?」

ζ(゚- ゚*ζ「いっかいわすれた」

爪'ー`)y‐「あ、忘れたの……」


326 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:32:37 uKegDIOI0

ζ(゚- ゚*ζ「とりにもどる、おそくなた」

爪'ー`)y‐「あぁー……しかも宝石拾いしたの……」

ζ(゚- ゚*ζ「いし、きらきらぴかぴか」

爪'ー`)っ=ニニブ「そうだね、僕のナイフの宝石だね……」ニビィ…

ζ(゚- ゚;*ζ

ζ(゚- ゚;*ζ「まじょさんいしもってった……」

爪'ー`)y‐「良いよ……助けてくれたお礼って事で……」

ζ(゚- ゚*ζ゙ ソワソワ

爪'ー`)y‐「お歌聞きたい?」

ζ(゚- ゚*ζ「キャン」

爪'ー`)y‐「じゃあ、ツンちゃんにも聞かせなきゃね」

ζ(゚- ゚*ζ「がうがう!」


327 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:33:22 uKegDIOI0

 ツンちゃんが眠る台の隣に椅子を置き、そこに腰掛けて楽器を抱く。
 少し傷はあるが、問題なく使えそうだ。

 何度か調節をして、喉の調子も確認して。
 僕の膝に凭れながら、デレが期待に目を輝かせる。

 小さな傷だらけで、誇らしそうな顔で。
 君も、この眠り姫みたいにやり遂げたと言う満足感に満ちているんだね。

 全くお転婆な連中だ。


 ツンちゃんはまだ眠ってる。
 気持ち良さそうにすやすやと。

 いつの間にか英雄さんの姿は無い。
 少し離れた場所で、包丁の音が聞こえた。 主夫か。


 さて、お姫様を起こすにはどんな歌が良いかな。
 小さな騎士が満足する歌は何だろう。

 僕の中の引き出しよ、頑張っておくれ。


328 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:34:09 uKegDIOI0


 ぽろろん。



 白い太陽が輝く朝。
  銀の月が浮かぶ夜。

 風を切って歩く道。
  歌いながら歩く道。

 平凡な街道、穏やかな村、悲しみの墓
  退屈な洞窟、広大な海原、竜の棲む山。

 白銀の雪原、賑やかな街、胸痛む人々。
  深く暗い森、天を睨む塔、行く道を選ぼう。

 金の波はたゆたい、緑の風が踊る、黒い空に還そう。
  空を引き裂く刃を、人を惑わす歌声、癒し与える魔法を。
   飽いた孤独を捨てよう、踊る木の葉の様に、共に時を過ごして。

 眼前の道は途絶えず。
  遥かな空に続いて。

 求める道は果てなく。
  胸に抱く夢の様に。


329 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:35:20 uKegDIOI0

 よし、歌えた歌えた。
 喉は大丈夫か不安だったけど、ちゃんと歌えた。

 これなら、


ζ(゚- ゚*ζ「おにさん」

爪'ー`)y‐「ん?」

爪'ー`)
 つ(゚ー゚*ζ ペトン
   と ヽ,,

爪'ー`)y‐「なーにー甘ったれちゃーん」

ζ(>ー<*ζ「がぅー」

ξ%⊿゚)ξ「あんたが言うかね」

爪'ー`)y‐「君よかマシですーぅ」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「おはよ」

ξ%⊿゚)ξσ⌒◎「おはよ」コイン

爪'ー`)づ「どーも」パシッ


330 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:36:08 uKegDIOI0

 目を覚ましたツンちゃんは、いつもと変わらない不機嫌顔。
 でもどこか申し訳なさそうな、ばつの悪そうな顔にも見えた。

  お願いデレには黙ってて。
  大きくなったら暴露します。

 ツンちゃんに飛び付くデレと、その頭を撫でる手。
 二人とも心底幸せそうな顔をするから、僕も笑うしかなかった。


 その後、適当に口裏を合わせた英雄さんと従者さんが、改めて僕らを客として歓迎してくれた。

 いつの間にか玄関にあった野菜を使って夕飯もご馳走してくれたし、
 布団を運んできて、三人で同じ部屋に眠れるようにもしてくれた。

 英雄さんがデレの手当てとツンちゃんの傷を確認してる間、僕は従者さんの手伝い。
 僕はあんまり役に立てなかったなと呟くと、従者さんが変態を見るような目で見てきた。

  実はそこそこ危なかったんですよあなた。
  死んでただけだから全然自覚が無いなぁ。


 英雄さん達とあれやこれやと言葉を交わして、何度目かも分からない感謝を口にして。
 疲労困憊の僕らは、仲間と眠れる安心感で、泥のように眠りについた。


331 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:37:00 uKegDIOI0



 翌朝、手土産を渡された僕らはそのまま王都には向かわず、一度あの村に帰る事にした。

 騎士さんに報告もしたいし、このまま行ったんじゃデレとのお別れが早まってしまう。


 ツンちゃんの傷はすっかり閉じたが、傷跡は消せないらしい。
 それに、潰れた右目も元には戻らないそうだ。

 裂けた鎧を直してもらったツンちゃん本人は、右目が潰れた事などまるで気にしていないようだった。
 それどころか、師匠みたいだと珍しく笑顔まで見せて。


ξメ⊿゚)ξ「それじゃあ、何から何までお世話になりました」

爪'ー`)y‐「本当にありがとうございました」

ζ(゚- ゚*ζ「ありあとござました」

('A`)「いやいや、ロマとお嬢ちゃんによろしくね」

川 ゚ -゚)「皆さんがご無事で何より」


332 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:38:06 uKegDIOI0

ξメ⊿゚)ξ「それじゃあ、失礼します」

爪'ー`)y‐「またね英雄さん、メイドさん」

ζ(゚- ゚*ζ「おじさん、おにさん、ばいばい」

('A`)「はいはい、バイバイ」

川 ゚ -゚)「フツメン様もお元気で」

爪#'皿`)y‐ギー


 英雄さんがゲートボールのスティックを振ると、世界が歪み、うにうにとうごめく。

 そして奇妙な感覚を味わって、世界が正しい姿に戻る頃には、景色はすっかり変わっていた。


 寂れた村の広場。
 壊れた像と穿たれた大穴。
 元から壊れていた家屋は更に砕かれている。

 何か世紀末っぽくなってない?


333 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:39:08 uKegDIOI0

ミセ*゚ー゚)リ「あー!! ツンちゃーん!! とデレちゃんと雇用主さーん!!」

ξメ⊿゚)ξ「ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「お、おぉ……何か箔が付いたねツンちゃん……怪我は大丈夫?」

ξメ⊿゚)ξ「すっかり治してもらったわ、ミセリも大変だったんでしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「んーん、ミセリはミセリの信念を歪めなかっただーけ」

ξメ⊿゚)ξ「…………ありがと、ミセリ」

ミセ*^ー^)リ「にひひ、友達だもんね!」

ξメー゚)ξ「……そうね、友達だものね」

ζ(゚- ゚*ζ「きしさん、だいじ?」

ミセ*゚ー゚)リ「だいじょーぶ、しばらく減給だけど騎士号剥奪されませんでした!」

爪'ー`)y‐「あ、減給はされたの……」

ミセ*゚ー゚)リ「無給じゃないだけマシだわ……」


334 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:40:10 uKegDIOI0

ミセ*゚ー゚)リ「三人はこのまま出発?」

ξメ⊿゚)ξ「ええ、ミセリと話したくて来ただけだから、ヒールはどうせいつでも会えるし」

ミセ*゚ー゚)リづ「ういやつ」

ξメ⊿゚)ξ∩「やめんか」

ミセ*゚ー゚)リ「ま、ここは居心地悪いだろうしね、王都に行くならあっちに道なりだよ」

ξメ⊿゚)ξ「ねぇミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「んー?」

ξメ⊿゚)ξ「何かあったら、次は私に助けさせて」

ミセ*^ー^)リ「へへ、ガンガン頼ってやんよ!」

ξメー゚)ξ「……それじゃ、またね、ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、またね、ツンちゃん!」

爪'ー`)y‐「またねぇミセリちゃん」

ζ(゚- ゚*ζ「きしさん、ばいばい」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、デレちゃん」

ζ(゚- ゚*ζ「あい?」


335 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:41:06 uKegDIOI0

ミセ*゚ー゚)リ「あの後ね、ヒールちゃんが帰って来て言ったの」

ζ(゚- ゚*ζ「う?」

ミセ*゚ー゚)リ「森の魔物を倒したのはデレちゃんで、魔物を放置してたらこの村が滅んでたって」

ζ(゚- ゚;*ζ「あうっ!?」

ミセ*゚ー゚)リ「出世欲強いのに、簡単に手柄を投げ捨てたの、何でかわかる?」

ζ(゚- ゚;*ζ「……うー」

ミセ*゚ー゚)リ「それだけ、あなたの事が好きだし、魔族への扱いに嫌気がさしてたから」

ζ(゚- ゚*ζ「……」

ミセ*゚ー゚)リ「少しずつだけど、みんなの心に余裕が持てるよう、わたしも頑張るから」

ζ(゚- ゚*ζ゙

ミセ*゚ー゚)リ「……みんなの事、あんまり嫌わないであげて?」

ζ(゚- ゚*ζ「あいっ!」

ミセ*^ー^)リ「ありがと、デレちゃん」


336 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:42:12 uKegDIOI0

 緑の女騎士に手を振って、再会を約束しながら村を出る。
 道端に座る手足を無くした人達の目は、ほんの少し、困惑に揺れているようだった。



 穏やかな山道。
 王都まではあと少し。
 山を越え、川を渡ればすぐそこだ。



 行く先には道がある。
 道が無ければ作れば良い。

 極めたい道がある。
 決してぶれずに歩き続ける。

 例えばそれは踏み固められたつなぐ道、時には森の獣道。
 騒がしい酒場の熱気、賑やかな町の営み。

 周囲にはいつも退屈とは無縁のものばかり。
 聞こえるのは風を斬る音、たゆたうような詩人の歌声、獣じみた幼い咆哮。

 刃を振るい、歌声を響かせ、魔力を用い、路銀を稼いで進んで行く。
 近く別れは訪れる、けれど再会は誓い合った。
 魂を共に生きる存在は、あまねく苦難も叩き潰せる。


337 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:44:07 uKegDIOI0

 孤独に震える事も無く。
 餓えて涙する事も無く。
 寒さにあえぐ事も無く。

 健やかに、穏やかに、幸せに育つと誓ったから。
 彼らは目の前の道を、威風堂々と進んで行ける。



 先頭を歩くのは、一人は不機嫌そうに顔を歪める若い女戦士。

 その傍らには、軽薄そうにへらへら笑う優男の吟遊詩人。

 そんな二人の間に挟まれて歩く、小さな魔族の子供。


 彼らの進む先にはいつも、血肉の臭いと歌声が存在する。


 そしていつだって彼らは、途切れぬ道を歩いている。
 今までも、これからも、彼らの道が途絶える事はない。



 おしまい。


338 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:45:36 uKegDIOI0





ξメ⊿゚)ξ「久々に会ったらデレに彼氏が出来てたりするのかしら……」

ζ(゚- ゚*ζ「ない」

爪'ー`)y‐「出来たとしても彼女じゃないかなー」

ξメ⊿゚)ξ「えっ、そう言うアレだったのデレ」

爪'ー`)y‐「だってデレ男の子だもんね」

ζ(゚- ゚*ζ゙「あい」

ξメ⊿゚)ξ「え?」

ξメ⊿゚)ξ

ξメ⊿゚)ξ「えっ?」


 おしまい。


339 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:46:47 ynsQlySA0
おつ
え?


340 : ◆tYDPzDQgtA :2017/03/05(日) 22:46:59 uKegDIOI0

ありがとうございました、本日で道のようですは完結と相成りました。

今後も数回、不定期にクソ短い番外編を投下出来れば良いなと思ってます。
大した内容ではありませんが、書ききれなかった部分を番外編にぶっこみたいです。
ですので、もう少しだけだらだらとお付き合いいただければ幸いです。

それでは、これにて失礼!


ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2346.png
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2347.png


まとめて下さってます、ありがとうございます。
ttp://naitohoureisen.blog.fc2.com/blog-entry-271.html

シリーズ作である塔・旅はこちらから読めます
読みにくいなどありましたら言って下さい
ttp://oppao.web.fc2.com/text_smp.html


341 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:47:03 ChsXv3BM0
え?


342 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:50:11 ofZgsWG60
え?


343 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:50:43 95S0SFZw0
乙!
凄い面白かった
三人が三人とも助かって良かった
ややブスだけどヒールめっちゃ良い子過ぎない?
いつか三人がまた出会って旅をする話も読んでみたいわ


344 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:51:58 95S0SFZw0
やっぱりか……
パパみたいになりたいしピンクふりふり嫌がるわけだよ


345 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:54:16 ck8NV7yQ0
おつ
完走おめ
ややブス
http://m.imgur.com/Rde8uVC


346 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:56:32 6biIAa5o0
乙…って、えっ…?

毎週の楽しみだったから、何だか寂しいなあ
地味にブーンの登場が嬉しい


347 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:56:49 T5Q3dcPI0

やっぱりそうだったのか


348 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:57:33 uKegDIOI0
>>345
えっやだ……めっちゃかっこいい……嬉しいありがとうございます……


349 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:58:00 pK0og/bU0


最高だった


350 : 名無しさん :2017/03/05(日) 23:04:49 3e9futKQ0
最大級の乙


351 : 名無しさん :2017/03/05(日) 23:13:41 Hbjg50a20
乙……えっ?
なるほどふりふりいやがそんな伏線に…なるほどな……
とかく面白かった!ありがとう!!


352 : 名無しさん :2017/03/05(日) 23:26:54 CuemrdHQ0
乙!


353 : 名無しさん :2017/03/05(日) 23:34:40 rGW2S92g0
またかよ!また実は男の子かよ!

ハッ!まさか前作のフィレンクトも実は女…


ないわー


354 : 名無しさん :2017/03/05(日) 23:38:38 o5AeDfx.0
乙です
とても楽しい時間が過ごせました
ありがとうございます
また読み返したい


355 : 名無しさん :2017/03/06(月) 00:10:48 1INVlEEw0
乙 そしてえっ


356 : 名無しさん :2017/03/06(月) 00:11:12 1INVlEEw0
品質チェックについて詳しく


357 : 名無しさん :2017/03/06(月) 00:16:57 F0Sp6G4A0
えっ


358 : 名無しさん :2017/03/06(月) 03:43:32 Wjgb/KDs0
狐の呪いはそのままなの?


359 : 名無しさん :2017/03/06(月) 07:55:58 l36QmJFc0
えっ


360 : 名無しさん :2017/03/06(月) 08:01:59 XontPagg0
>>356
ほんまや


361 : 名無しさん :2017/03/06(月) 08:39:52 god0PPH20

ファンタジーはいいね……そういうゲームしたくなった
わくわくしたしどきどきしたしほのぼのした


362 : 名無しさん :2017/03/06(月) 16:15:31 3dKLKp420
デレ男の子でもかわいいよ!



363 : 名無しさん :2017/03/06(月) 18:46:32 eRhWmdpkO
デレのその後の物語も読みたい

乙乙


364 : 名無しさん :2017/03/06(月) 20:10:52 uHEG89fQ0
乙、めっちゃ面白かった。待ってる間に過去作全部一気に読んじまったよ


365 : 名無しさん :2017/03/07(火) 04:20:22 7.ra.OFk0
えっ

えっ




366 : 名無しさん :2017/03/07(火) 07:35:16 HzJHdbcgO
完結乙乙
番外編も楽しみに待ってる

ロマのペド疑惑がすっかり晴れてなによりw


367 : 名無しさん :2017/03/07(火) 11:04:58 SJ1jXjKAO
そう言えばツンと風呂入るのも拒否してたなぁ


368 : 名無しさん :2017/03/07(火) 19:17:09 MzZPYfZc0
あれ⁉︎都まで行かないのか…番外編楽しみにしてる乙


369 : 名無しさん :2017/03/07(火) 20:36:56 LI6nJstY0
ヒールちゃんのファンになりましたッ!


370 : 名無しさん :2017/03/07(火) 22:23:44 PnCabo.A0
ロマ出そうで出ない


371 : 名無しさん :2017/03/07(火) 23:21:15 caidN4hg0
ロマはうちのかみさんとか故郷のねーちゃんみたいなもんだ


372 : 名無しさん :2017/03/08(水) 00:03:51 a96pKzQY0
シュールが故人だったらツンちゃんの言ってた「魔族の姉様」は一体誰なんだろうか
そこら辺も期待しつつ待つ


373 : 名無しさん :2017/03/08(水) 08:02:07 rjA5f7pw0
いろいろ気になるところもあるよね
近親婚で力を保っている魔女の本家筋との許嫁ってことはロマもアルソンスランの血統なのか他に理由があるのか……
まぁあくまで今回は朝飯の物語だからね


374 : 名無しさん :2017/03/11(土) 00:03:32 noOPJnro0
うわあん終わっちゃったあ乙乙
デレが金貨差し出す所で思わず泣いたわ

ていうかえっ


375 : ◆tYDPzDQgtA :2017/03/12(日) 21:01:37 r9MVqSJQ0

 朝。
 窓から差し込む朝日に起こされて、あたしは眠い目を擦りながら身を起こす。

 目覚ましが鳴る10分前、今日は出掛けるからか早くに起きた。

 大きくあくびをしながら寝癖のついた髪をがしがし掻いて、取り敢えずと台所へ。
 干しておいた薬草も乾いてるな、後で瓶に詰めよう、本も片付けねーとな。


 何食うかな、朝だから軽め、いや腹減ってるな。
 食パンとチーズ、腸詰めもある、切って火を通した状態で冷蔵した野菜もある。

 二枚の食パンを出してまな板に置き、冷蔵庫からケチャップを出す。
 食パン二枚に塗り付けて、上から砂糖を少し。

 使いさしの野菜やチーズ、腸詰めをケチャップと入れ違いに出して、まな板にぽい。
 腸詰め二本を薄切りにしてケチャップを塗ったパンにぽい。
 その上からピーマンと玉ねぎをぽい。
 さらにその上からシュレッドシーズをぽいぽい。

 そしてオーブントースターにぽい。
 ケトルに水入れてコンロにぽい。

 野菜に火入れて置いとくのはやっぱ便利だな。
 今度ミートソースも作り置きしとくか。


376 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:02:21 r9MVqSJQ0

 と、今のうちに顔洗って歯磨いて、出来れば髪もどうにかしたい。


 まあ髪は間に合わなかったから適当に縛って後回し。

 ちん、と言う軽快な音と漂う香ばしい匂い。
 皿にトーストを出して再びまな板、食べやすく六等分して皿にぽい。 ちょっと焦げたか。

 マグカップに砂糖一山とティーバッグ、沸いたお湯を適当に注いでトーストと共に机へ移動。


 本やら何やらを端に押しやって、椅子に座って手を合わせる。


川*` ゥ´)「いたーきやーす」


 ざくざく。
 うん、もぐもぐ。

 やっぱ甘いめが良いなピザトーストもどきは。

 野菜甘い。
 うまい。

 もぐもぐ。
 お茶は、くそ熱いな。

 ずずず。
 ざくざく。

 あー。


377 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:02:55 r9MVqSJQ0

 今日は遠出だからな、スカートとか久々に穿くわ。
 つかドレスやだなーめんどくせぇ、似合わねーしなぁ。

 花買ってくかなぁ。
 礼儀も知らんと思われんのはシャクだしなぁ。

 八時半に出れば寄れるだろう。
 あーパンうめぇ。
 甘い。

 街の方行くんだし買い出しも兼ねるか。
 ここあんまり物が来ないからなぁ、取り寄せるにも時間かかるし。

 晩飯どうすっかなー。
 キャベツ半玉とベーコンと卵があんな。
 うーん、まぁ適当にオムレツとかで良いか。

 あ、ここ焦げてて苦い。
 お茶冷めてきたな、のみごろだ。

 あー解呪の研究レポートまとめないとな。
 本にして置いとかないとわけわかんなくなるわ。

 ざくざくもぐもぐ。
 ごくごく。


川*` ゥ´)「ごっそさん」


378 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:05:04 r9MVqSJQ0

 食器を洗って水切りに置いたら、今度はあたしの見た目作らないとな。
 用意しておいた魔女のドレスと帽子、あーやだやだ真っ黒。 でもやっぱ魔女はこうだよなぁ。

 あたしも悪い魔女目指すならこう言う方が良いんかね。
 やーだな動きにくい、たまになら良いけど普段は実用性重視だよなぁ。

 寝巻きを脱ぎ捨てて肌着を正装用に交換したらドレスを纏う。
 髪を整えていつもとは違う帽子をかぶり、手荷物の確認。

 必要な物は前日に用意しておいたから、うん、大丈夫だな。
 じゃあ小さい方の杖を腰ベルトから下げて、よし。

 8時の、20分。
 ちょっと早いけどまぁ良いや、もう出よ。

 玄関のドアを開けて、立て掛けてある箒を掴む。
 施錠をしたのを確認したら、箒に腰掛けて空を飛んだ。


 【道のようです】
 【番外編 あたしはお前らとは違う。】


 一応座る部分作っちゃいるけどやっぱケツ痛いよなこれ。
 改良すっかー。


379 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:05:34 r9MVqSJQ0

ミセ*゚ー゚)リ「おーい、ヒールちゃーん」

川*` ゥ´)「んっだよ朝っぱらから」スィー

ミセ*゚ー゚)リ「文句言いつつ降りてきてくれるのね……これ、こないだのお礼」

川*` ゥ´)「こないだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「穿った穴埋めるの手伝ってくれたでしょ? そのお礼」

川*` ゥ´)「あたしが落ちそうでムカついただけだけどな、何だこれ」

ミセ*゚ー゚)リ「ニシンのパイ」

川*` ゥ´)「お前な」

ミセ*゚ー゚)リ「いや……魔女だし……つい……今日は魔女っぽい格好だし……」

川*` ゥ´)「礼装だっつの……まあ向こうで食うわ……」

ミセ*゚ー゚)リ「お出掛け?」

川*` ゥ´)「法事」

ミセ*゚ー゚)リ「あー、気を付けて行ってきてね」

川*` ゥ´)「へーへー、じゃあな」

ミセ*゚ー゚)リ「行ってらっしゃーい」


380 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:05:57 r9MVqSJQ0

 受け取ったパイを箒からぶら下げて再び空へ。
 花を買うなら向こうの町だな、思ったより手土産が増えやがった。

 この重さだと向こうで昼飯に食っても余るな。
 持って帰って晩飯にしよう、はからずも飯が出来た。

 あとはスープと何かを作って。
 本片さず来たな、帰ったら雪崩うってそう。

 折角本家の屋敷に行くんだし、呪いの研究レポとかあったら読みたいな。
 たんまり蔵書あるだろうし、勉強させて貰いますかね。


 あー空気が緩んできたな。
 冷たい風が暖かい風になった。

 もう春か、山間だからなぁこの辺。
 森の方で色々薬の材料が採れるようになるし、しばらくは家から離れず。

 いやとっととあの馬鹿共倒さないと。
 ヒール様の名声はぐんぐん伸ばすべき。


381 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:06:25 r9MVqSJQ0

 ん、町が見えてきたな。
 高度を下げて、と。

 魔女の屋敷がある町だし、偏見とか差別が薄いのは良いとこだよな。
 まあ故郷なんだけど。


川*` ゥ´)「墓に供える花を適当に」

(*゚ー゚)「はいはい、今日はよく売れるわー」

川*` ゥ´)「大儲けだな、あーその紫の入れて」

(*゚ー゚)「一本で良いの?」

川*` ゥ´)「良いよ、いくら?」

(*゚ー゚)「銀貨一枚と銅貨二枚、ねぇヒールちゃん」

川*` ゥ´)「んー?」

(*゚ー゚)「ここにはもう帰って来ないの? お家も直ってるよ」

川*` ゥ´)「貸し家にしてあるし、あたしの家族もう居ねぇしここ」

(*゚ー゚)「そうだけど……」


382 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:06:49 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「花屋の姉ちゃんは疎開してたんだっけ」

(*゚ー゚)「うん」

川*` ゥ´)「元気で良かった」

(*゚ー゚)「ヒールちゃんも」

川*` ゥ´)「あたし今さ、独り暮らししてんの、めっちゃ悠々自適で」

(*゚ー゚)「うん」

川*` ゥ´)「楽しいし、うるさいのも村に来たから寂しくねーの」

(*゚ー゚)「うん」

川*` ゥ´)「今はやる事も多いし、忙しいからここに引っ越す気はないよ」

(*゚ー゚)「……ヒールちゃん、何か生き生きしてる」

川*` ゥ´)「充実してっからな」

(*゚ー゚)「彼氏は?」

川#` ゥ´)「居ねぇよ」


383 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:07:15 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「姉ちゃん結婚したんだろ、おめでと」

(*゚ー゚)「当日に花届けてくれたじゃない」

川*` ゥ´)「まーな、じゃあそろそろ行くわ」

(*゚ー゚)「うん、また顔見せてね」

川*` ゥ´)「へーへー」


 花束の入った袋をパイと同じように箒から下げて、丘の上の屋敷を目指す。

 良く知る筈の故郷は、しばらく来ない間に様変わりしている。
 一度焼き潰されたこの町は、とある英雄によって元の姿を取り戻した。

 でも戻ったのは町だけで、人は戻らない。
 戻る人がこの世にいなけりゃどうしようもない。

 だからここには、他所から避難してきた人間や追いやられた魔族、果ては亜人までも居る。
 最初こそひどい有り様だったらしいが、本家の魔女共が戻ってからはここをまとめてる。

 やっぱ発言力の強さが違うよなぁ。


384 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:07:58 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「よっと」

(*゚ー゚)「ヒール様ですね?」

川*` ゥ´)「おう、入れろ」

(*゚ー゚)「お待ちしておりました、どうぞ」

川*` ゥ´)(この侍従、花屋の姉ちゃんに似てるよな……)


 本家の屋敷に降り立ち、広間へと通される。
 侍従に花を渡すと、後は時間に余裕はあるから自由行動だな。


 図書館図書館。
 確かあっちの方にあった筈。


川*` ゥ´)(呪いについての本と、魔力増幅方法と……あとは血についての……)

川*` ゥ´)(本家の図書館ならたぶんあるだろ……いくつか勝手に持って帰って……)


 どん。


385 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:08:38 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「わぷ」

( ΦωΦ)「おお、すまん、前を良く見ていなかった」

川*` ゥ´)「あーいやこっちこそ、悪いな」


 うっかり誰かにぶつかった。
 顔を見て謝ろうとしたら顔の位置がだいぶ上にある。 でっか。

 くすんだ長い金髪を後ろに流して、黒いリボンでひとつにまとめてある。
 厳めしい顔立ちで両目には傷、立派な体躯で身の丈はゆうに2mを越えてるな。

 着てるのは、騎士用の礼装か軍服だな。
 金の飾りこそ外してるが、作りの良さがよく分かる。

 つっかこのオッサン。


川*` ゥ´)「英雄じゃん」

( ΦωΦ)「ん? ああ、そう呼ばれてはいるが」

川*` ゥ´)「ここ守れなかったオッサンだろ」

( ΦωΦ)「急に古傷を抉るなあこの魔女」


386 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:09:16 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「オッサン何してんの、観光?」

( ΦωΦ)「いやいや、法事法事」

川*` ゥ´)「あーオッサンの嫁だもんな」

( ΦωΦ)「許嫁な」

川*` ゥ´)「年の差ヤバいやつだろ」

( ΦωΦ)「26歳な」

川*` ゥ´)「ペッド」

( ΦωΦ)「家同士が勝手に決めた事だから我輩にはどうする事もなあ」

川*` ゥ´)「生まれたばかりの許嫁抱っこしたんだっけ」

( ΦωΦ)「そうそう、こんな小さくてな」

川*` ゥ´)「オッサンが持ったら何でも小さくね?」

( ΦωΦ)「うんまあ」


387 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:09:52 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「それより、あちらに何か用があったのでは」

川*` ゥ´)「ああそうそう、図書館に」

( ΦωΦ)ギュルー

川*` ゥ´)

( ΦωΦ)

川*` ゥ´)「ニシンのパイ食う?」

( ΦωΦ)「あたしこれ嫌いなのよね?」

川*` ゥ´)「食うのか食わんのか」

( ΦωΦ)「食います」

川*` ゥ´)「英雄って基本ノリかっるいな」

( ΦωΦ)「我輩だけでは」

川*` ゥ´)「細長いオッサンも相当だったわ」

( ΦωΦ)「あードクオにも会ったのか、健在であったか?」

川*` ゥ´)「細長かった」

( ΦωΦ)「変わらんなあ」


388 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:10:14 r9MVqSJQ0

 テラスの椅子に座り、小さなテーブルにパイの籠を置く。
 オッサンが座るとえらく椅子とテーブルが小さく見えるな。

 籠の蓋を開けて中を覗くと、そこには小綺麗なパイ。
 ちゃんと食べやすいサイズに切り分けられていた。

 中に入っていたナプキンに一切れ乗せて、オッサンに差し出す。
 受け取る手もやっぱりでかいから、何もかもが小さく見えるわ。

 お茶でもあれば良いけどさすがに持ってねぇな。
 どこ行きゃあるんだか。


( ΦωΦ)「しかし、頂いても良いのか? 魔女の子よ」

川*` ゥ´)「良いよ別に、あとヒール様な」

( ΦωΦ)「ヒールか、良い名だ」

川*` ゥ´)「はーん?」

( )ΦωΦ))「美味いな」モシャモシャ

川*` ゥ´)「さよか」

( ΦωΦ)「しかし、ニシンのパイと聞いたが」

川*` ゥ´)「人の指でも入ってたか?」

( ΦωΦ)「いや果物、止めないか赤いのがそれっぽく見えるから」

川*` ゥ´)「甘い系かよあの馬鹿騎士……」


389 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:10:53 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「うん、美味い」

川*` ゥ´)「へーへー」

( ΦωΦ)「すまんな恵んで貰って、緊張して朝食を食いっぱぐれてな」

川*` ゥ´)「オッサンでも緊張すんのか」

( ΦωΦ)「するさ、英雄と呼ばれようが、我輩はこの町を守れなんだのだから」

川*` ゥ´)「まぁそうだな」

( ΦωΦ)「容赦の無い一言」

川*` ゥ´)「でも今まで見なかったぞオッサン、サボってたのかよ」

( ΦωΦ)「やー……来づらくて断っていたのだが、強く言われてしまってな……」

川*` ゥ´)「許嫁の法事断ってたのかよ」

( ΦωΦ)「家で喪に服してはいたのだがな」


390 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:11:17 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「……つーかさ、オッサンの許嫁って直系だろ」

( ΦωΦ)「うむ」

川*` ゥ´)「稀代の魔女だぞ、すっげー奴なんだぞ」

( ΦωΦ)「うむ」

川*` ゥ´)「何で外の人間と結婚すんの?」

( ΦωΦ)「利権とか権力とか色々絡むぞその話題は」

川*` ゥ´)「あー」

( ΦωΦ)「まず我輩の婚約が決まった時、まだ我輩も子供の頃だった
     その時くらいに丁度そちらの当主の代替わりの時期に入っていてな」

川*` ゥ´)「あーはいはいはい、めんどくせーやつな」

( ΦωΦ)「ま、色々あるものよ、ミュスクル家は貴族としてはそれなりの地位であるからな」

川*` ゥ´)「お互いにメリットがあったんだろうな」

( ΦωΦ)「うむ、……しかし我輩が知る中では、もう一人本家の魔女が居るのだがな」

川*` ゥ´)「んあ?」


391 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:11:47 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「シュー程では無いのかも知れんが、なかなか高名な魔女だったらしい」

川*` ゥ´)「誰それ」

( ΦωΦ)「名前は何と言ったか、ふむ…………まあ良い、それよりだ
     その魔女は、利権だの権力だのを捨てて、田舎貴族の嫁になった」

川*` ゥ´)「……場所によっちゃまだ魔女は気味悪がられるもんだぞ?」

( ΦωΦ)「うむ、大反対であった」

川*` ゥ´)「だろうよ、どうなったんそれ」

( ΦωΦ)「まず田舎貴族の長男が魔女に一目惚れ」

川*` ゥ´)「駄目なパターンだな?」

( ΦωΦ)「彼女を振り向かせる手伝いをしてくれと我々に依頼」

川*` ゥ´)「冒険者だったのオッサン」

( ΦωΦ)「そして試行錯誤の末に両思い、後にゴールイン」

川*` ゥ´)「後が大変だぞそれ」

( ΦωΦ)「大変だっただろうなあと思う」

川*` ゥ´)「無責任か」


392 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:12:23 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「そうは言っても我輩達がまだ子供の頃ゆえな」

川*` ゥ´)「そうだ、冒険者だったのオッサン」

( ΦωΦ)「うむ、結構色々やらかしたものだ」

川*` ゥ´)「やらかすなや」

( ΦωΦ)「当時はまだ財布を持った事が無くてな」

川*` ゥ´)「ボンボンか」

( ΦωΦ)「買い物失敗しまくってドクオに毎日の様に怒られた」

川*` ゥ´)「英雄と英雄が組んでたのかよ……」

( ΦωΦ)「あと二人居たぞ、僧侶と盗賊」

川*` ゥ´)「僧侶」

( ΦωΦ)「クックル・ナハティガル」

川*` ゥ´)「馬鹿騎士の師匠だ……」

( ΦωΦ)「緑の髪のか?」

川*` ゥ´)「おう」


393 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:13:13 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「最初は我輩の元に弟子入り予定だったのだが、クックルが弟子入りを了承してな」

川*` ゥ´)「んであの筋肉馬鹿に……」

( ΦωΦ)「変わらんなあ」

川*` ゥ´)「オッサンは弟子は?」

( ΦωΦ)「ツンの事か?」

川*` ゥ´)

( ΦωΦ)

川*` ゥ´)「あー……」

( ΦωΦ)「何だ全てを把握した様な顔で」

川*` ゥ´)「なんかそんな話を聞いた気がせんでもなかったけど納得したわ、そういや英雄の弟子だったわ」

( ΦωΦ)「忘れられとったか」

川*` ゥ´)「忘れるわそんなもん」

( ΦωΦ)「パイもう一切れほしい」

川*` ゥ´)「食って良いからお茶持ってこい」

(ΦωΦ ),,「パシられてしもうた」


394 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:14:02 r9MVqSJQ0

 あーそうかそうか、あのゴリラ英雄の弟子つってたわ。
 んで緑の馬鹿も英雄の弟子だ、こないだ茶あしばいた時に聞いたわ。


 この国には英雄が四人居て、その内の一人がこないだ塔で会った細長いオッサン。
 ドクオ・ソリテール、魔を統べる者と呼ばれる戦争を終わらせた偉大な大魔導師。
 まあ見た目は細長いだけのオッサンだな。

 もう一人が今しがたパイ貪ってたオッサン。
 百戦錬磨の覇王と呼ばれた戦士、ロマネスク・ミュスクル。
 でかくて顔の怖いオッサンだ。

 もう一人は慈悲深き拳帝と呼ばれた元僧侶のクックル・ナハティガル、緑の師匠。
 見た事は無いけど今は隠居して店やってんだよな、たぶんごっついオッサンだろう。

 実はもう一人は知らん。
 月夜を駆ける闇と呼ばれる大盗賊ってのは知ってんだけど、その詳細は公にされていない。
 たぶんオッサンなんだろうな。。


 この四大英雄は、唯一アダマンタイトのバッジを与えられた存在だ。
 教科書にも載るし記念碑もある、普通にすげーんだけど実際はただのオッサンなんだよなぁ。


 まあ知ってるってだけであんま興味ないんだけど。
 あたしが気になるのは魔導師じゃなくて魔女だし、戦士とかになると倍どうでも良い。

 つかあのオッサンどこまでお茶取りに行ったんだよ。


395 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:15:23 r9MVqSJQ0

,,( ΦωΦ)「貰ってきたぞ」

川*` ゥ´)「ご苦労」

( ΦωΦ)「態度がでかいなあこの魔女」

川*` ゥ´)「ほらよ、パイ」

( )ΦωΦ))「おいしい」サクサク

川*` ゥ´)「そういや利権だので婚約決まったつってたじゃん」

( ΦωΦ)「うむ」

川*` ゥ´)「結婚するまでに結局30年くらいかかる羽目になってるけどそこは良かったのかよ」

( ΦωΦ)「なかなか生まれなかったんだよなあ」

川*` ゥ´)「ダメじゃね?」

( )ΦωΦ)「と言っても婚約破棄するのも双方印象が悪くなるのでな」サクサク

川*` ゥ´)「ガキの一生を道具に使っといて結局なあなあになってんのかよ、クソだな」

( ΦωΦ)「世の中そんなもんであるぞ」

川*` ゥ´)「分家だからわっかんね」


396 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:15:48 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「分家とは言うが、貴様はあのヒールであろうに」

川*` ゥ´)「んあ?」

( ΦωΦ)「そこらで話題になっとるぞ、分家の魔女が本家の呪いを潰したと」

川*` ゥ´)「はん、本家のクソ共の鼻をあかすにはまだ足りねぇよ」

( ΦωΦ)「ほう、名声はまだ足りんと」

川*` ゥ´)「まだ認められちゃいねーの、どうせまぐれ当たりだとか言ってんだろ」

( ΦωΦ)「ま、好意的な意見は少ないな、血の長い一族には仕方があるまい」

川*` ゥ´)「だからあたしは実力で魔女として本家を越えてやんだよ」

( ΦωΦ)「ふむ……立派ではあるが、可能か?」

川*` ゥ´)「可能か不可能かなんて関係ねぇんだよ、あたしはもう血の薄さを言い訳に使いたくねぇの」

( ΦωΦ)「…………若いとは良いものであるなあ」

川*` ゥ´)「はん、若造が生意気抜かすなってか?」


397 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:16:28 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「いやなに、良い良い、若さは今の貴様にとって一番の力となるさ」

川*` ゥ´)「本家の老害共を叩き潰すのは若い力だよ」

( ΦωΦ)「そう、だからこそ貴様はもっと伸びるだろうさ、分家も本家も踏み越えてみせろ」

川*` ゥ´)「言われんでもそうするわ、アホか」

( ΦωΦ)「はは、良いな、実に良い、貴様は今幾つになる?」

川*` ゥ´)「じゅーなな」

( ΦωΦ)「我輩達が旅立った時と同じではないか、はは」

川*` ゥ´)「何十年前?」

( ΦωΦ)「えーと……3……いや2……24年前……? 我輩も年食うわけであるなぁ……」

川*` ゥ´)「オッサン41なん」

( ΦωΦ)「うむ」

川*` ゥ´)「…………オッサンさ」

( ΦωΦ)「ん?」

川*` ゥ´)「許嫁が五才で死んでんだろ」

( ΦωΦ)「うむ」


398 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:16:52 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「結婚は?」

( ΦωΦ)「やー、未婚のままであるなぁ」

川*` ゥ´)「女作ったり」

( ΦωΦ)「せんなぁ」

川*` ゥ´)

( ΦωΦ)

川*` ゥ´)「童t」

( ΦωΦ)「止せ」

川*` ゥ´)「えっ……オッサン……」

( ΦωΦ)「言うてしょうがなかろうよ……ほら……あるだろ……」

川*` ゥ´)「分かるけどオッサン……オッサン……」

( ΦωΦ)「しょうがなかろう……操を立てる感じでな……ほら……」

川*` ゥ´)「いや立派だとは思うけどな」


399 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:17:26 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「ま、戦士としては英雄と呼ばれようが、男としては半人前と言う事だな」

川*` ゥ´)「一生な」

( ΦωΦ)「まあな」

川*` ゥ´)「ま、いんじゃねどうでも」

( ΦωΦ)「さばさばしとるなあこの魔女」

川*` ゥ´)「でもオッサンの弟子もうちょいどうにかしろ」

( ΦωΦ)「ツンか?」

川*` ゥ´)「ゴリラだぞあいつ」

( ΦωΦ)「あーうん、まあ」

川*` ゥ´)「小さいゴリラだからな、もうちょい教育しとけ、頭とんでもなく悪いぞ」

( ΦωΦ)「うん、何かすまん」


400 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:17:55 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「だが、ライバルなのだろう?」

川*` ゥ´)「ライバルじゃなくて獲物だから」

( ΦωΦ)「はは、食うには少々手強いぞ」

川*` ゥ´)「オッサンの弟子、いつか叩き潰してやるよ」

( ΦωΦ)「気の強い娘ばかりが集まるものだ、実に愉快であるなぁ」

川*` ゥ´)「弟子がああなったのオッサンのせいだろ」

( ΦωΦ)

川*` ゥ´)「真面目に座学もさせろ、今は相方が居るから良いけど一人だと死ぬぞ」

( ΦωΦ)

川*` ゥ´)「あと人としてクソ弱なんだからオッサン師匠としてフォローしろや、放任やめろ」

( ΦωΦ)「ヒールよ」

川*` ゥ´)「あ?」

( ΦωΦ)「貴様ツンの事大好きだな」

川*` ゥ´)「調子乗んな」


401 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:18:37 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「分かってんのかオッサンお前は今師匠としてのあり方に文句言われてんだぞ」

( ΦωΦ)「はい」

川*` ゥ´)「17の小娘に言われて恥ずかしくねぇのかオッサン良いかオッサンがちゃんとしつけねぇから」

( ΦωΦ)(めっちゃ心配しとるな)

( ΦωΦ)(ツンも良い友人を持ったものだ)

( ΦωΦ)(あいつは生真面目ではあるが人として未熟すぎた)

( ΦωΦ)(それを補うためにと旅に出したが、少し早かったな)

( ΦωΦ)(だがその結果、良いものと巡り会えたのは幸いか)

( ΦωΦ)(しかしこの魔女、微塵も照れんとは……ハート強いな……)

川*` ゥ´)「分かったかオッサン」

( ΦωΦ)「パイがおいしい」サクサク

川#` ゥ´)「ギィィーッ!!」


402 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:19:00 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「しかし魔女よ」

川#` ゥ´)「あ゙ぁ?」

( ΦωΦ)「式典もう始まっとるぞ」

川*` ゥ´)「オッサンこそ良いのかよ」

( ΦωΦ)「我輩も式典とか苦手でな、来いとは言われたが出ろとは言われてない」

川*` ゥ´)

( ΦωΦ)

川*` ゥ´)「茶あ飲んだら図書館行くか」

( ΦωΦ)「付き合うか」

川*` ゥ´)「要らねぇよ目立つよ身の丈(物理)考えろよ」

( ΦωΦ)「2.5m」

川*` ゥ´)「でっっっかバケモンか」

( ΦωΦ)「すくすく育った」

川*` ゥ´)「育ち過ぎだろ」


403 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:20:00 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「つか暇かよオッサン、許嫁の法事だぞ」

( ΦωΦ)「墓にも何処にもシューはもう居らん、手を合わせた所で生者の自己満足よ」

川*` ゥ´)「じゃあどこに居んだろな」

( ΦωΦ)「生者には死者の事など解らん物よ、屍術師にでもならねばな」

川*` ゥ´)「ネクロマンサーめっちゃキモがられるよな」

( ΦωΦ)「らしいなあ、ドクオがついでに覚えようとしとったわ」

川*` ゥ´)「キッモキッモ」

( ΦωΦ)「あんまりであるなあ魔女よ」

川*` ゥ´)「死んだ奴なんかどうしようもないのにな」

( ΦωΦ)「……そうだな」

川*` ゥ´)「たまに悪霊になって顕現する事もあるけど、死んだら死にっぱなしが普通だ」

( ΦωΦ)「うむ」

川*` ゥ´)「……じゃあ、魂って結局何なんだろな」

( ΦωΦ)「死にまつわる便宜上の通称であるな」

川*` ゥ´)「…………」


404 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:20:59 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「まあ若者よ、存分に悩め」

川*` ゥ´)「うっざ」

( ΦωΦ)「人は死をそう容易く乗り越えられはしない、死の恐怖と誘惑に日々嘆くものだ」

川*` ゥ´)「……オッサンは、許嫁の死は乗り越えたのか?」

( ΦωΦ)「はは、そう見えたか」

川*` ゥ´)「…………」

( ΦωΦ)「たったの5年、片手に収まる時しか生きられなかった幼い娘の死は、余りにも重い」

川*` ゥ´)「……」

( ΦωΦ)「不思議な物だ、親子ほどの歳の差があれど、確かな恋慕は未だ胸に焦げ付き消えはせん」

川*` ゥ´)「それがさ」

( ΦωΦ)「む」

川*` ゥ´)「運命なんだろうな」

( ΦωΦ)「運命か、ならばこの運命とは、何と残酷な物なのだろうな」

川*` ゥ´)(あー)

川*` ゥ´)(英雄の顔じゃなくなった)


405 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:21:42 r9MVqSJQ0

 ふ、と影のさす横顔に、英雄としての堂々たる風格は無い。

 恋人を亡くした、寂しい男の横顔だ。
 あー嫌な事を聞いた、聞くべきじゃなかったな。

 表情が大してかわんねぇから平気なのかと思ったら、全然だ。

 親子ほどの歳の差。
 幼子に対する恋慕。
 それはきっとオッサンにとっても理解は出来ないんだろうな。
 だから大人になるまで待ち続けようとしたんだろうな。

 でもたったの5年で別れは訪れて。
 オッサンの恋慕はどこにも行き場は無くなった。

 死んで10年経った今も、このオッサンはあの稀代の魔女を愛してしまったまま。
 成長を待てば緩やかな成就を得られただろうに。

 己でも理解の及ばない感情は、きっと一生どこにも進みはしない。
 永遠に、このオッサンは囚われてしまったんだろう。


 英雄か。
 皮肉なもんだな。

 やっぱ一番苦しんでんじゃねぇか、このオッサン。


406 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:22:30 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「……はじめから、我輩は歪んでいたのだろうか」

川*` ゥ´)「んあ?」

( ΦωΦ)「あんな娘に恋情を抱くは、異常であろうよ」

川*` ゥ´)「そりゃ」

( ΦωΦ)「……この街も護れはせなんだ、我輩は何も成せては居ない」

川*` ゥ´)「違うと思うぞ」

( ΦωΦ)「む?」

川*` ゥ´)「オッサンは悪くねぇよ、たぶん、……きっと呪われただけだよ」

( ΦωΦ)「呪い、か……はは、言えてるな」

川*` ゥ´)「悪くねんだよ、きっと、本人が言ってたから」

( ΦωΦ)「む……?」

川*` ゥ´)「いとしいいとしい旦那様、旦那様は何も悪くないの、だからどうかしあわせに」

( ΦωΦ)「ッ」

川*` ゥ´)「あたしはあんたの許嫁に命を助けられた、きっと最後にあの人を見たのはあたしだ」

( ΦωΦ)「…………」


407 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:23:10 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「その時、伝えるよう言われた、遅くなったけど確かに伝えたかんな」

( ΦωΦ)「……有り難うよ、ヒール」

川*` ゥ´)「まあ10年くらい経ったけど」

( ΦωΦ)「また、長く寝かせた物だ」

川*` ゥ´)「……今なら良いかと思ったんだよ、ちっとだけ認められたから、……遅くなって悪かったな」

( ΦωΦ)「構わんさ、……感謝する、ヒールよ」

川*` ゥ´)「どーいたしまして」

( ΦωΦ)「しかし、……噂に聞いていたよりも、大人しいな貴様は」

川*` ゥ´)「あ? 噂?」

( ΦωΦ)「昔はもっと尖っていたとか」

川*` ゥ´)「オッサンの弟子のお陰であたしが落ち着く始末だよ」

( ΦωΦ)「あ、うん、すまん」


408 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:23:54 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「あたしはさ」

( ΦωΦ)「ん」

川*` ゥ´)「誰にも褒められた事なんて無かった」

( ΦωΦ)「…………」

川*` ゥ´)「腐ってもアンソルスラン、魔女になれて当然で、でも誰も期待してない
     どんなに頑張ったって、褒めるどころか同輩共は「必死でみっともない」って言う」

( ΦωΦ)「……無駄な努力、とでも言いたげであるな」

川*` ゥ´)「本来は無駄な努力だからな、
     あたしも、同輩共みたいになあなあで、やる気の無い魔女に落ち着くんだろうと思った」

( ΦωΦ)「ふむ」

川*` ゥ´)「でもあんたの許嫁が、あたしに道を示してくれたよ
     血が薄ければ存在が落ちこぼれ、末っ子のみそっかす、出涸らしみたいなあたしにさ」

( ΦωΦ)「卑下ではなく、それが貴様に与えられた評価だったのだろうな」

川*` ゥ´)「……そんなあたしでも、偉大な魔女としての道を示してくれた、目指す理由をくれた」

( ΦωΦ)「…………」


409 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:24:30 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「あんたの許嫁は、あたしにとって神様みたいなもんだ」

( ΦωΦ)「大きすぎやしないか?」

川*` ゥ´)「だからこそ、あたしはあんたの許嫁を越えてみせる、偶像にしないためにも」

( +ω+)゙「…………応援しよう、魔女の子よ
     ……我輩の妻になる筈だったあの娘を、ただの一人の魔女として語るためにも」

川*` ゥ´)「……ま、あたしは顔は不味いから全部は越えらんねぇけど」

( ΦωΦ)「別段醜女と言うわけでもあるまいに」

川*` ゥ´)「ややブスって呼ばれてんだぞ」

( ΦωΦ)「態度や口が悪いからでは……」

川*` ゥ´)「うっせ」

( ΦωΦ)「APPとは顔の造形だけではなくその者の持つ雰囲気に大きく左右されると言う」

川*` ゥ´)「おい急にAPPとか言うな」

( ΦωΦ)「貴様も口を閉じてにっこり笑っていれば3くらい上がるだろう」

川*` ゥ´)「まじでそんなにか」


410 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:25:12 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)

川*` ゥ´)「オッサンの弟子はよ」

( ΦωΦ)「あいつ素の顔面の出来が良いだろうに」

川*` ゥ´)「結局顔なんだよなぁ」

( ΦωΦ)「顔が良くても野生児だとAPPは下がると言う見本であるな」

川*` ゥ´)「顔はイマイチでも態度が良ければ上がるってのと一緒か……」

( ΦωΦ)「上げるのか」

川*` ゥ´)「めんっどくっせぇからやんね」

( ΦωΦ)「言っちゃ何だがその方が合ってるな」

川*` ゥ´)「あのクソイケも15くらいあんだよな……」

( ΦωΦ)「あれなあ、外面と女受けは良いからなあ」

川*` ゥ´)「会ったん」

( ΦωΦ)「彼氏連れてきたかと思って絞め殺しかけたわ」

川*` ゥ´)「過保護か」


411 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:25:38 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「また女癖の悪そうなのを連れてきたと思ってなあ……」

川*` ゥ´)「実際悪いしな」

( ΦωΦ)「雇用主でホッとしたわ」

川*` ゥ´)「あいつら裸見せ合ってんぞ」

( ΦωΦ)「ほう」

( ΦωΦ)

( ΦωΦ)「んっ?」

川*` ゥ´)「裸」

( ΦωΦ)

川*` ゥ´)

( ΦωΦ)「まだ屋敷近くに居るはずだから締め上げるか」

川*` ゥ´)「落ち着けよ過保護」


412 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:26:23 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「いや仕方がなかろうよ、何し、何してんの本当に、我輩ちょっと意味が分からん」

川*` ゥ´)「おもしれー」

( ΦωΦ)「えっそう、えっ、そう言う関係?」

川*` ゥ´)「違うだろうな」

( ΦωΦ)「えっ……えっ?」

川*` ゥ´)「急に結婚しますって言ったらどうすんの」

( ΦωΦ)「さすがに反対するわ」

川*` ゥ´)「順当」

( ΦωΦ)「えー……待っ、えぇー……えー……?」

川*` ゥ´)「オッサン狼狽しすぎだろ」

( ΦωΦ)「狼狽もするわ……」

川*` ゥ´)「過保護ならもっと過保護らしくしろよな」


413 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:26:47 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「と言うかそれどこ情報だ」

川*` ゥ´)「チビ」

( ΦωΦ)「デレかー……」

川*` ゥ´)「……もっと構ってやれよ、弟子もガキも」

( ΦωΦ)「ん? ……構っているつもりだったのだがなぁ」

川*` ゥ´)「遠慮させんなよ、ガキは萎縮する一方だぞ」

( ΦωΦ)「肝に命じておこう」

川*` ゥ´)「……さて、そろそろ図書館行こ」

( ΦωΦ)「付き合」

川*` ゥ´)「わんでええ」

( ΦωΦ)「ならばこれでも渡しておこう」

川*` ゥ´)「んあ?」


414 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:27:26 r9MVqSJQ0

( ΦωΦ)「名刺のようなものだ、困った事があれば使うが良い」

川*` ゥ´)「うわ直筆だ……家紋入ってる……こわ……」

( ΦωΦ)「ミュスクルの名はまだ使える、貴様の盾にも矛にもなろうよ、それとも要らぬお節介か?」

川*` ゥ´)「いや使える物は使うわ、使うのはあたしだからあたしの力だし」

( ΦωΦ)゙「その根性良いと思う」

川*` ゥ´)「切り札は使わないと紙屑だからな」

( ΦωΦ)「強かだなあ」

川*` ゥ´)「んじゃなオッサン、達者でな」

( ΦωΦ)「ああ、あとパイ全部食ったすまん」

川*` ゥ´)「忘れおいマジか全部食ったかおい」

( ΦωΦ)「美味しかった」

川*` ゥ´)「はー食いやがったこいつ……はー……オッサンマジか……」

( ΦωΦ)「すまん」


415 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:27:55 r9MVqSJQ0

川*` ゥ´)「あーもーいいや……あばよ……」

( ΦωΦ)「今度作って返すから……」

川*` ゥ´)「暇だったら行くわ……」

( ΦωΦ)(いつ作れば良いのか……)


 空っぽの籠を下げてテラスを後にする。
 少し離れた所から、生者のための式典の声がする。

 祈るだの歌うだの、馬鹿馬鹿しいが必要な事だわな。
 買った花は侍従に渡したし、あたしはもう良いや。


 図書館には、歴代の秀でた魔女の肖像画が壁に並んでいる。

 最も大きく描かれた魔女は、幼く何を考えているのか解らない眼差し。
 今日の主役である稀代の魔女は、絵の中でも微笑んでいた。


416 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:28:32 r9MVqSJQ0

 生きた魔女の肖像画はここには並べられない。
 死んだ魔女だけが並んでいる。

 適当な本を手に取りながら、肖像画を端から見ていく。
 名前も知らない、顔も知らない古い魔女。
 最近死んだ見知った顔の若い魔女。

 その中に、一つの見覚えを感じた。


   【川 ゚ -゚)】
【クリア・アンソルスラン】
   【享年21歳】


 艶やかな黒髪。
 鮮やかな碧眼。
 くすみの無い白い肌。
 恐ろしいほど整った顔立ち。


川*` ゥ´)

川*` ゥ´)?

川*` ゥ´)

川*` ゥ´)そ


417 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:29:05 r9MVqSJQ0

川;` ゥ´)「頭のおかしいイケメンじゃねーか!!!!」


 いや違う、こっちのが線は細い。

 もっと雰囲気も女性的だし、少なくともあのイケメンが黙っててもにじみ出るバカさみたいなのが無い。

 それにこれは、20年くらい前か。
 つー事は、この肖像画は。



('A`)『じゃあ、クリア・アンソルスランって知ってる?』



 あー。
 なるほどな。

 『本人はアレだから血だけ』な。


川*` ゥ´)「……はん、自分の才能も知らねぇんだろうなあいつ」

川*` ゥ´)

川*` ゥ´)「なら、あたしの敵ですらねぇや」

川*` ゥ´)「…………親も美人なんだなやっぱり」


 そこはちょっとムカつくな。


418 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:31:52 r9MVqSJQ0

 持たざる者は、持つ者には勝てない。
 才能無き者は、血筋の卑しい者は生きざまも卑しくなる。

 そんな常識も評価も、全て叩き潰してやろう。
 努力では越えられないと言われ続けた血の薄さも才能も、全て乗り越えてやろう。


 未だ年若い魔女は、不屈の魂を持って己が神とさえ呼ぶ童女を踏み越えようと努力を重ねる。
 未だ未熟な魔女は、その名を轟かせる為に『友人』達すらも踏み台にして高く笑おうとする。

 解ける筈のない呪いを解き。
 解ける筈もない呪いを解く為に高みを目指す。

 特別優れた才能も、容貌も持たずに生まれたが。
 彼女は、それを絶望とは呼ばなかった。

 己に与えられた、選び取った『偉大な魔女』と言う荒れた道を、ただ真っ直ぐに駆け抜けるだけ。



 ヒール・アンソルスラン

 彼女がこの世の「持たざる者」達の希望となり
 偉大なる紫紺の魔女として評価されるのは、もう少し後の事。



 おしまい。


419 : ◆tYDPzDQgtA :2017/03/12(日) 21:32:21 r9MVqSJQ0
ありがとうございました、今回はここまで。

次は何かいつになるかわかりませんけど投下するならたぶん日曜夜九時です。

それでは、これにて失礼!


まとめて下さってます、ありがとうございます。
ttp://naitohoureisen.blog.fc2.com/blog-entry-271.html


420 : 名無しさん :2017/03/12(日) 21:58:37 DdGX2YB60

おつおつ

ややブスさんかわいい!
つーか英雄ヒョコヒョコ出すぎだろwww


421 : 名無しさん :2017/03/12(日) 22:01:43 9uur/2SY0
……ん?アダマン……
え?盗賊?


422 : 名無しさん :2017/03/12(日) 22:39:26 /HVngwzM0
キャーンきてたー!うれしい!
英雄紹介のオッサン占有率すごい


423 : 名無しさん :2017/03/12(日) 23:29:28 wWlVkQsM0
乙!おだいどころハンパねぇな

しかしドクオは当然としてロマも童貞
クックルもモンクだから童貞の可能性あるし伝説のパーティは全員童貞の可能性が?


424 : 名無しさん :2017/03/13(月) 00:21:52 H.E41pHk0
%$^%$$#$&^&;&^&


425 : 名無しさん :2017/03/13(月) 01:38:47 MKCFAMOs0

クーの顔は親譲りなのか


426 : 名無しさん :2017/03/13(月) 08:07:45 rQlTFsTM0
相変わらずヒール男前


427 : 名無しさん :2017/03/13(月) 08:12:00 Rf.hCxy.0
ヒールやっぱいいなあいいやつ臭すごいしカッコいい


428 : 名無しさん :2017/03/13(月) 17:58:12 QjXrv92M0
ヒールかっこよすぎかよ……



429 : 名無しさん :2017/03/13(月) 18:46:12 b8t1KEbs0
ヒール大好きだったから主役の番外編嬉しい…
乙乙


430 : 名無しさん :2017/03/13(月) 20:06:39 g1dbsbYk0
心の強さってホンと大事だわ


431 : 名無しさん :2017/03/14(火) 12:36:24 tPnrn26cO
乙乙
英雄パーティの過去の一幕なんかを番外編で見てみたいな
盗賊は誰なんだろ


432 : 名無しさん :2017/03/14(火) 19:23:20 N4WdG.PM0
あれだろ、逃げ続けてレベル上げた奴だろ


433 : 名無しさん :2017/03/14(火) 19:28:11 dYvpkdEI0
はぐれ盗賊さんはキャラ被ってますな


434 : 名無しさん :2017/03/14(火) 22:32:39 B/sgFnho0
激しく忍者とか……


435 : 名無しさん :2017/03/14(火) 22:36:26 cqC9uj5Q0
え、もう出てない?
アダマンは英雄だけなんだろ?


436 : 名無しさん :2017/03/14(火) 22:38:29 cqC9uj5Q0
と思ったらでぃさんミスリルだったわ、勘違い


437 : 名無しさん :2017/03/15(水) 02:20:02 AY30zoE20
はぐれフォックス懐い


438 : 名無しさん :2017/03/16(木) 15:18:49 18pe5L4U0
遅ればせながら完結おつおつ
3人の再会が楽しみ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2355.jpg


439 : 名無しさん :2017/03/16(木) 15:30:34 iGARbE6I0
ホームランバーだこれ


440 : 名無しさん :2017/03/16(木) 15:55:37 LaE6.L420
>>439
うむ


441 : 名無しさん :2017/03/16(木) 18:12:40 9DVK09DM0
絵師さんAPP9くらいの魔女の絵をお願いします
誰とは言いませんが一番好きなキャラなんです


442 : 名無しさん :2017/03/16(木) 18:52:30 h/eVjlvw0
APP1盛っても微女なんだよなぁ


443 : ◆tYDPzDQgtA :2017/03/16(木) 20:16:12 6UsXw3tY0
>>438
ありがてえ……ありがてえ……

>>441
ほらよ
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2356.png


444 : 名無しさん :2017/03/16(木) 20:25:47 2zzORPd20
>>443
これで9っておかしいよな


445 : 名無しさん :2017/03/16(木) 21:29:56 h.hJeX7E0
やっと追いついた。
竜の街辺りから塔のドクオ達や旅のミセリがちらほらワードで出てきて、だんだん物語に関わってくるのがとても好きだったわ。
ツンとフォックスのどうとも言えない関係も良い……乙。


446 : 名無しさん :2017/03/17(金) 10:49:29 t0F1TzO.0
>>443
これで性格もいいとか聖女かよ魔女だった


447 : 名無しさん :2017/03/26(日) 13:49:49 ZolLG9JU0
クーの出生がわからぬ…


448 : 名無しさん :2017/03/26(日) 14:09:46 XFFmgQ6.0
くっつけたはいいけど気になってたドクオが色々あって拾ったとかそんな感じかねぇ


449 : 名無しさん :2017/03/26(日) 22:51:22 ifjIG56c0
親は既に死んでいるだとか塔で言ってた気がする。
実はその親が魔女で有名なところだったが、自他共(ドクオを除く)に血縁者だと知らない感じにもみえた。


450 : 名無しさん :2017/03/26(日) 23:01:34 ifjIG56c0
間違えてた、親が死んだとはっきり書かれているのはドクオの方だった。

クーは捨てられたと書いてあるけど、その時点で親が亡くなっていてもおかしくはないかもな。


451 : 名無しさん :2017/03/27(月) 00:49:31 Shlig6os0
クーの血は直系の血で、クーの母親らしき人物は享年書かれてて、クーの両親はドクオ達英雄がくっつけたらしくて、クーはドクオが拾った……
まぁそういうことなんだろうなぁ


452 : ◆tYDPzDQgtA :2017/04/02(日) 22:13:10 BHcT3n5U0

 にっきちょうもらた
 もじおぼえゐ

 にんげんもじむすかし

 がんばゐ

  『る』です。


 る


 おねさんおにさんいない
 さみしい

 さみしいある
 が`んばる



 【道のようです】
 【番外編 いつだってそばにいるよ。】



 さみし


453 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:13:33 BHcT3n5U0

 きょう
 ぬえさま

  『ね』です。


 ねえさま


 ねえさまおしえてもらた
 もじむずかし

 たくさんお(ま゙える

  『ほ』です。


 おぼえる

 おてが゙みかく
 おねさんたちよろこぶ∫


  『?』

 ?


454 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:13:54 BHcT3n5U0

 もじことばおぼえるたいへん

 おぼえるたのく

  『し』


 たのし

 しし£こわい
 でもやさし



  もしかして『よ』でしたか?


 よ

 ししょ


  『ししょう』


 ししょう


455 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:14:14 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ……むずかし……」

/ ゚、。 /「ゆっくり覚えれば良い事です」

ζ(゚- ゚*ζ「がう」

/ ゚、。 /「文字と言葉の勉強は毎日少しずつ進めましょう」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」

/ ゚、。 /「では次はお掃除です」

ζ(゚- ゚*ζ「あいっ」


 お兄さんお姉さんとししょうのおうちに来たのはせんしゅうのことです。
 デレをおくりとどけた二人は、数日の間たいざいして、ふたたびたびにでました。

 たびたび?
 よくわからない。


 二人につれられてここに来た時は、たいへんでした。
 ししょうにお兄さんが絞め落とされかけました。


456 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:14:36 BHcT3n5U0



ξメ⊿゚)ξ『王都は久々ね……』

爪'ー`)y‐『うーん都会の匂い! 金と女の匂いがするね!』

ξメ⊿゚)ξ『鼻おかしいんじゃない?』

ζ(゚- ゚*ζ『がぅ……ひといぱい……』

ξメ⊿゚)ξ『大丈夫よデレ、ほらこっち』

爪'ー`)y‐『お師匠の家は向こうの方?』

ξメ⊿゚)ξ『ええ、郊外だから少し歩くけど』

爪'ー`)y‐『酒場はあの辺かなー』

ξメ⊿゚)ξ『広場の方にあるわよ、そんなに飲みたいの?』

爪'ー`)y‐『いや所持金が空っぽで稼がないと、僕のナイフこんな惨状だから』

ξメ⊿゚)ξ『ほんとすまなんだ』

ζ(゚- ゚*ζ?


457 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:14:57 BHcT3n5U0

ξメ⊿゚)ξ『数日は滞在するから、案内するわデレ』

ζ(゚- ゚*ζ『ぅ……こわいない……?』

ξメ⊿゚)ξ『嫌な目で見られる事が無いとは言わないわ、でも石を投げられたりはしない』

爪'ー`)y‐『意外と秩序保たれてんねー』

ξメ⊿゚)ξ『ええ、それに師匠の家の子ってなったら誰も手出ししないから』

爪'ー`)y‐『そりゃそうだ』

ζ(゚- ゚*ζスンスン

爪'ー`)y‐『ん?』

ζ(゚- ゚*ζ『おいしいある』

ξメ⊿゚)ξ『……良い匂いがする』

爪'ー`)y‐『住宅地だしどこかのお家からか、住民向けのお店でもあるのかな』

ξメ⊿゚)ξ『あっち』

爪'ー`)y‐『ツンちゃん待って』

ζ(゚- ゚*ζ『おいしいある……』

ξメ⊿゚)ξ『ある……』

爪'ー`)y‐『ちょっともー……もー……財布にどれだけあったかな……』


458 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:15:21 BHcT3n5U0

ξメ⊿゚)ξ『パンの匂い……』

ζ(゚- ゚*ζ『おいしにおい……』

爪'ー`)y‐『はいはいもー……ああここかな、パン屋さんだ』

ξメ⊿゚)ξ『頼もう、頼もーう』

爪'ー`)y‐『ねぇ道場破りに来たの?』

<ヽ`∀´>『はーいお待たせしましたニダ』

ξメ⊿゚)ξ『パンください、今良い匂いしてるやつを』

<ヽ`∀´>『ホルホル、鼻が良いお嬢さんニダ』

ζ(゚- ゚*ζ『デレも』

<ヽ`∀´>『魔族のお子さんニダ?』

爪'ー`)y‐『やっぱ珍しいです?』

<ヽ`∀´>『たまに見かけるニダ、みんな気の良い人達で有り難いニダ』

爪'ー`)y‐『お兄さんは移民さん?』

 ∧_∧゙ ピョコ
<ヽ`∀´>『ん、まだ国の言葉が抜けないニダ』

爪'ー`)y‐『おー亜人さんだ、珍しい』


459 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:15:46 BHcT3n5U0

<ヽ`∀´>『ホルホル、ここは色んな人が居て生きやすいニダ』

ξメ⊿゚)ξ『猫耳……』

<ヽ`∀´>『ウリは血が薄いから耳だけニダ、パンどうぞ』

ξメ⊿゚)ξ『ありがとうございます、お代は?』

<ヽ`∀´>『三つで銅貨一枚で良いニダ』

爪'ー`)y‐『そりゃサービスし過ぎじゃ無い?』

<ヽ`∀´>『小さい子にはサービスニダ』

ζ(゚- ゚*ζ『ありあとござますっ』

<ヽ`∀´>『ホルホルホル』

爪'ー`)y‐『すみません何か』

ξ゚〜゚)ξ『おいしいです』

ζ(゚〜゚*ζ『おいしおいし』

爪'ー`)y‐『食べる事への躊躇の無さぁ』

<ヽ`∀´>『また来てくださいニダ』

爪'ー`)y‐『また寄らせてもらいます』


460 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:16:07 BHcT3n5U0

<ヽ`∀´>『〜♪』

从 ゚∀从『ニダーさーん』

<ヽ`∀´>『ニダ?』

( ゚∋゚)『昼食用のパンを下さいな』

<;ヽ`∀´>『ハッもうそんな時間だったニダ!?』

从 ゚∀从『いや良い匂いしたから早めに来た』

( ゚∋゚)『今日の配達はキャンセルで、直で買います』

<ヽ`∀´>ホッ

从 ゚∀从『さっきの冒険者?』

<ヽ`∀´>『そうみたいニダ、お嬢さんの顔に大きな傷があったニダ』

( ゚∋゚)『冒険者……うちの宿に泊まってくれたら有り難いんですけどねぇ……』

从 ゚∀从『住宅地にある宿屋に誰が泊まるんスかね』

( ゚∋゚)『誰も泊まらないんですよねぇ……』


461 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:16:32 BHcT3n5U0

ζ(´-`*ζ『おいひ……』

ξ*+⊿-)ξ『うむ……』

爪'ー`)y‐『二人ともさぁ……』

ξメ⊿゚)ξ『あ、そこよ師匠のお宅』

爪'ー`)y‐『おー立派立派、でも派手じゃないのね』

ξメ⊿゚)ξ『無駄な装飾は嫌うもの、連絡はしてあるから行きましょ』

ζ(゚- ゚*ζドキドキ

爪'ー`)y‐『どんな人だろうねー?』

ξメ⊿゚)ξづ『ツン・グランピーです! ただいま戻りました!』ドンドン

( ΦωΦ)゙ヒョコ

ξメ⊿゚)ξ『師匠! お久し振りです!』

( ΦωΦ)『おおツン、つ、ちょ何、何だえらく貫禄のある成りになったな』


462 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:16:58 BHcT3n5U0

ξメ⊿゚)ξ『色々ありまして、あ、この子が手紙でお伝えしたデレです』

( ΦωΦ)『ほう、随分大きい』

爪'ー`)y‐『どうもー』

ξメ⊿゚)ξ『それ違います』

( ΦωΦ)

爪'ー`)y‐

( ΦωΦ)『男連れとは聞いておらなんだが……?』

ξメ⊿゚)ξ『書きませんでしたっけ』

( ΦωΦ)

爪'ー`)y‐

( ΦωΦ)『貴様、名は』

爪'ー`)y‐『フォックス・ユースレスです』

( ΦωΦ)『して、我が弟子とどのような関係か問おう』

爪'ー`)y‐『首握るのやめていただければ説明出来ますから……』

( ΦωΦ)『信じて送り出した愛弟子がチャラ男を連れ帰った気分を述べよ……』

爪'ー`)y‐『絞め殺したくもなりますよねー……』


463 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:17:22 BHcT3n5U0

( ΦωΦ)『何だ雇用主であったか、いや失礼をした』

爪'ー`)y‐『いえいえ娘に紹介されたくないタイプだと自覚はあるんで』

( ΦωΦ)『そちらがデレか』

ζ(゚- ゚*ζビクッ

( ΦωΦ)『我輩はロマネスク・ミュスクル、元戦士のただの貴族よ、恐れる事は無い』

ζ(゚- ゚*ζ『が、ぅ……デレ、スタルトゥ……よろしくおねがいします……』

( ΦωΦ)『うむ、よろしくなデレよ。 今日から、ここは貴様の家でもある、遠慮はするな』

ζ(゚- ゚*ζ『あぃ……』

( ΦωΦ)『我輩怖がられてないか?』

/ ゚、。 /『お顔が怖いのでは』

( ΦωΦ)『えっ我輩そんなに怖い……?』

/ ゚、。 /『小さなお子様でしたらギャン泣きかと』

( ΦωΦ)『えー……』


464 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:17:48 BHcT3n5U0

ξ*メ⊿゚)ξ『姉様!!』

/ ゚、。 /『久しいですねツン、元気みたいで何よりです』

ξ*メ⊿゚)ξ『はい!』

/ ゚、。 /『フォックス様も、ようこそおいで下さいました』

爪'ー`)y‐『どーも、綺麗なお姉さんだねツンちゃん』

ξメ⊿゚)ξ『ええ、自慢の姉様よ』

/ ゚、。 /『あなたも自慢の妹分です』

ξ*メ⊿゚)ξパァ

/ ゚、。 /『でももう少し身だしなみには気を遣いなさい』

ξメ⊿゚)ξ『はい……』

爪'ー`)y‐(初めて見るくらいチョロい)


465 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:18:19 BHcT3n5U0

/ ゚、。 /『デレさん』

ζ(゚- ゚*ζ『あ、あいっ!』

/ ゚、。 /『私はダイオード、この屋敷で侍従をしています』

( ΦωΦ)『我輩の娘であるな』

/ ゚、。 /『デレさんも一応は侍従としてのスキルを身に付けて頂きます、私がちゃんとお教えしますので』

ζ(゚- ゚*ζ『あいっ』

( ΦωΦ)『別に普通にして良いのだが』

/ ゚、。 /『厳しくするつもりはありませんから、固くならないで下さい』

ζ(゚- ゚*ζ『あい……』

( ΦωΦ)『急に言われたら怖かろうになあ』

/ ゚、。 /『旦那様は黙ってて下さい』

( ΦωΦ)『はい』

爪'ー`)y‐(一言で力関係を察せた……)

ξメ⊿゚)ξ(姉様相変わらずおつよい……)


466 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:19:06 BHcT3n5U0


 それからお兄さんとお姉さんは、たくさんデレと約束をして、たくさん一緒に居て、旅立った。
 デレは泣かずにがまんした、ちゃんとわらってまたねってできた。

 さみしいけど、さみしいない。
 デレは、ちゃんといいこでまてるのだ。


/ ゚、。 /「デレさん、こちらへ」

ζ(゚- ゚*ζ「あい」


 ねえさまは、白くて綺麗な魔族。

 白いけど少しだけ青い髪は長くてさらさら。
 おなじいろのとがった耳と、すべすべの太いしっぽがある。

 おひさまみたいな色の目だけど、すごく落ち着いてて、でもやさしい。

 歳は人間でかぞえたら大人だけど、魔族でかぞえるとまだ子供らしい。

 今日は文字と言葉を教えてもらって、今はお掃除を教えてもらってる。
 魔法は言葉が出来るようになってかららしいので、デレは頑張って言葉を覚える。


467 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:20:18 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「ほうき……ほうき……」ザカザカ

/ ゚、。 /(巻き角に尻尾……この肌と髪の色から考えると、恐らく種族は……)

ζ(゚- ゚*ζ「おそうじ……おそうじ……」ザカザカ

/ ゚、。 /(魔族の中でも、特に大きな種族……最終的に山くらいにはなるような……)

ζ(゚- ゚*ζ「ちりとり……ちりとり……」ザカザカ

/ ゚、。 /(こんなに可愛らしいのに……成長しきったら屋敷に住むには狭いか……)

ζ(゚- ゚*ζ「ごみばこ……ごみばこ……」

/ ゚、。 /(まあ、そこまで成長する頃には外見を人に近い大きさにする術を身に付けるでしょう)

ζ(゚- ゚*ζ「ぞうきん……ぞうきん……」

/ ゚、。 /(大体の魔族が人に寄せた姿になれる……この子は珍しい種だけど、私の魔法を使える筈)

ζ(゚- ゚*ζ「おみず……おみず……」


468 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:20:54 BHcT3n5U0

/ ゚、。 /「デレさんはお掃除は出来ますね」

ζ(゚- ゚*ζ「どれいのときしてた」

/ ゚、。 /「なるほど」

ζ(゚- ゚*ζ「できた?」

/ ゚、。 /「ミルクで床を磨きましょうか」

ζ(゚- ゚*ζ「のまない……?」

/ ゚、。 /「磨きます」

ζ(゚- ゚*ζ

/ ゚、。 /

ζ(゚- ゚*ζ「ひとくち……」

/ ゚、。 /「お腹壊しますよ」

ζ(゚- ゚*ζシュン

/ ゚、。 /「後で飲めるミルクを温めてあげます」

ζ(゚- ゚*ζパァ


469 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:21:21 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「これのめない?」

/ ゚、。 /「少し古くなったミルクを譲っていただいたんです、掃除用はこのボトルですよ」

ζ(゚- ゚*ζ「おぼえる」

/ ゚、。 /「では気合いを入れて磨きましょう」

('(゚- ゚∩ζ「がぅー」

/ ゚、。 /「デレさん」

ζ(゚- ゚*ζ「がう?」

/ ゚、。 /「リボンの結び方も覚えましょうね、タイが曲がってます」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ……」

/ ゚、。 /「ほら尻尾を上げる」

ζ(゚- ゚*ζ「がう」モサッ

/ ゚、。 /「デレさん尻尾の毛刈りをしましょうか、歩くだけで掃除になってます」

ζ(゚- ゚*ζ「ハッ ほこりまみれ……!」

/ ゚、。 /「こうやって尻尾を上げる」グッ

ζ(゚- ゚*ζ「キャイン」グッ


470 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:21:43 BHcT3n5U0



( ΦωΦ)「おお、終わったか」

/ ゚、。 /「旦那様」

( ΦωΦ)「ほら座るが良い、パイも焼けたところであるぞ」

/ ゚、。 /「旦那様がお茶を入れては私の立場がありません」

( ΦωΦ)「別に良かろうに、ほら座れ」

ζ(゚- ゚*ζ「がう……」

( ΦωΦ)「先日魔女のパイを貪ってしまってな、その詫びのために試作をしたのだ」

ζ(゚〜゚*ζモソモソ

( ΦωΦ)ワクワク

ζ(゚ヮ゚*ζパァ

( ΦωΦ)゙ ドヤァ…


471 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:22:05 BHcT3n5U0

/ ゚、。 /「旦那様」

( ΦωΦ)「はい」

/ ゚、。 /「旦那様の趣味には口出ししませんが」

( ΦωΦ)「はい」

/ ゚、。 /「私達の仕事は奪わないで下さい」

( ΦωΦ)「……なぁダイオードよ」

/ ゚、。 /「奪わないで下さい」

( ΦωΦ)「はい……」

ζ(´〜`*ζ(おいし)モシャモシャ

/ ゚、。 /(美味しい)モグモグ

( ΦωΦ)(味の加減がまだ掴めとらんな……次は少しレモン汁足してやるか……)モグモグ


472 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:22:50 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「ししょ」

( ΦωΦ)「む?」

/ ゚、。 /「旦那様」

ζ(゚- ゚*ζ「だんなさま」

( ΦωΦ)「構わんよ師匠で」

/ ゚、。 /「弟子じゃありませんよね」

( ΦωΦ)「んじゃ弟子にする……」

/ ゚、。 /「料理以外の何を教えるんですか」

( ΦωΦ)「戦士的な……」

/ ゚、。 /「魔法を覚える予定が詰まってます」

( ΦωΦ)「えー……じゃあ……えーと……」

/ ゚、。 /

( ΦωΦ)

/ ゚、。 /「何を教えるんですか」

( ΦωΦ)「何も無かったな……」


473 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:23:18 BHcT3n5U0

( ΦωΦ)「あ、礼法はどうだ、我輩得意だし」

/ ゚、。 /「私が教えます」

( ΦωΦ)「まあそうだな、……えーとじゃあ……」

/ ゚、。 /「貴族の方の侍従として恥ずかしくない程度には私が仕込みます」

( ΦωΦ)「うん……頼りになる……」

/ ゚、。 /「……失礼しましたデレさん、ご用件は」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ、ししょ、うー……だんなさま」

( ΦωΦ)「ロマネスクでも良いぞ」

/ ゚、。 /「良いわけありませんよね」

ζ(゚- ゚*ζ「だんなさま、ねえさま、かぞく?」

( ΦωΦ)「うん」

/ ゚、。 /

ζ(゚- ゚*ζ「まぞく、にんげん、かぞく?」

( ΦωΦ)「うん」

/ ゚、。 /


474 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:23:47 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「うー」

( ΦωΦ)「魔族だろうが人間だろうが、家族よ」

ζ(゚- ゚*ζ「がう……」

( ΦωΦ)「……そも、我々に対して人間と言う呼称がおかしいのやもしれんな」

ζ(゚- ゚*ζ「う?」

( ΦωΦ)「魔族も人よ、人の間から産まれれば人間と大差あるまい」

/ ゚、。 /「旦那様」

( ΦωΦ)「人の形を持つのなら、魂を持つのならば人間と言えようさ」

/ ゚、。 /「旦那様ッ」

ζ(゚- ゚*ζ「っ」

( ΦωΦ)「……こう言う事を言うと、娘は怒るがな」

ζ(゚- ゚*ζ「う……ねえさま……?」

/ ゚、。 /「…………お立場を考えて下さい」

( ΦωΦ)「考えたくも無いがなあ」


475 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:23:56 kVbDJbDw0
あざといかわいい


476 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:24:26 BHcT3n5U0

/ ゚、。 /「旦那様は英雄、人間の希望です、あなたがそうでは」

( ΦωΦ)「魔族の子を持つ親に何を言う」

/ ゚、。 /「……ですから、それが」

( ΦωΦ)「国のため人々のためと走り回ったが、なに、所詮は己の故郷や許嫁のためにやった事」

/ ゚、。 /「…………」

( ΦωΦ)「英雄と呼ばれようが、不殺を貫いたあやつらとは違う、我輩も所詮は人殺しよ」

/ ゚、。 /「…………旦那様は、英雄なんです……私はその旦那様に、お仕えしてるんです」

( ΦωΦ)「貴様も頑なよな、我が娘よ」

/ ゚、。 /「…………失礼します」

( ΦωΦ)「ダイオードはもう要らんらしい、デレよ、しっかりと食え」

ζ(゚- ゚*ζ「が、ぅ……」


477 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:25:03 BHcT3n5U0

( ΦωΦ)「すまなんだな、居づらかろう」

ζ(゚- ゚*ζ「う……ねえさま、おこる……?」

( ΦωΦ)「ダイオードは怒りっぽくて敵わん」

ζ(゚- ゚*ζ「おこるふしぎ……」

( ΦωΦ)「……デレは、人と魔族は家族にはなれんと思うか?」

ζ(゚- ゚*ζ「がう? ……わかるない」

( ΦωΦ)「なれるさ」

ζ(゚- ゚*ζ「なれる?」

( ΦωΦ)「ああ、なれる」

ζ(゚- ゚*ζ

ζ(゚- ゚*ζ「おねさんおにさんと、家族なれる?」

( ΦωΦ)゙「なれるともさ」

ζ(゚- ゚*ζパァ


478 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:25:25 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「だんなさま、ねえさま、どうしてかぞく?」

( ΦωΦ)「ダイオードの親を我輩が殺してな」

ζ(゚- ゚;ζ

( ΦωΦ)「復讐に来たダイオードに腹を刺されたがな、お互い全てを亡くしたもので
     どうせ捨てるつもりの命ならば最大限に使おうと、ならば共に生きてみようと言う感じにな」

ζ(゚- ゚;ζ「ひぇ……」

( ΦωΦ)「我輩の罪は消えんが、ダイオードは許してくれたよ
     だが、普通の親子のようには接してはくれんなあ」

ζ(゚- ゚*ζ「…………デレ、ちょっとわかる」

( ΦωΦ)「む?」

ζ(゚- ゚*ζ「ねえさま、だんなさますき」

( ΦωΦ)「照れるな」

ζ(゚- ゚*ζ「だから、やくにたちたい」


479 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:26:11 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「デレつよくなりたい、おねさんおにさんのやくにたちたい」

( ΦωΦ)

ζ(゚- ゚*ζ「やくめほしい、デレにできることしたい、ないと、めいわくかける」

( ΦωΦ)「迷惑などと、思わんだろうに」

ζ(゚- ゚*ζ「でもデレ、やくにたちたい、たちば、やくめ? ひつよ」

( ΦωΦ)「……小さいのに、よう考えとるなあ」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ、ねえさま、きっといっしょ、じじゅう? でないと、いっしょいれない」

( ΦωΦ)「…………」

ζ(゚- ゚*ζ「デレ、それでもいい、おもう」

( ΦωΦ)「……そうだな、そうありたいのなら、口を出す事では無いか……」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅ」

( ΦωΦ)「親の立場も、少々寂しいものであるなぁ……」


480 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:26:47 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「だんなさま」

( ΦωΦ)「む?」

ζ(゚- ゚*ζ「デレ、おおきくなれる?」

( ΦωΦ)「なれるんじゃないか?」

ζ(゚- ゚*ζ「デレおおきくなる」

( ΦωΦ)「おう、育て育て」

ζ(゚- ゚*ζ「だんなさまくらいおおきくなる」

( ΦωΦ)「わはは、それはまた大きくなるな」

ζ(゚- ゚*ζ「なる」

( ΦωΦ)(育つのは良いがデレの種はどれくらいまで育つのだろうか)


※山くらい


481 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:27:34 BHcT3n5U0

|、。 /゙

( ΦωΦ)「我輩より大きくと言うと体長3mくらいになるな」

ζ(゚- ゚*ζ「さんめーとる」

( ΦωΦ)「我輩が言うのも何だがそろそろバケモンであるぞ」

ζ(゚- ゚*ζ「だんなさまばけもん?」

( ΦωΦ)「否定はせんなあ」

ζ(゚- ゚*ζ「デレもばけもんなる」

( ΦωΦ)「せっかく可愛らしいのに」

ζ(゚- ゚*ζ「デレかわいいない」

( ΦωΦ)「かっこいい方が良いか?」

ζ(゚- ゚*ζ「がぅー」

( ΦωΦ)「なら自分を名前で呼ぶのを止めなさい」

ζ(゚- ゚*ζ

( ΦωΦ)


482 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:28:06 BHcT3n5U0

ζ(゚- ゚*ζ「デレ」

( ΦωΦ)「それ」

ζ(゚- ゚*ζ「わがはい!」

( ΦωΦ)「無理がある無理がある」

ζ(゚- ゚*ζ「わたし?」

( ΦωΦ)「ますます女子であるな」

ζ(゚- ゚*ζ「ぼく」

( ΦωΦ)「ふむ」

ζ(゚- ゚*ζ「ぼく!」

( ΦωΦ)「カワイイボクって言ってみ」

ζ(゚- ゚*ζ「かわいいぼく?」

( ΦωΦ)「フフーン」

ζ(゚- ゚*ζ「フフーン」

|、。 /「旦那様、デレさんに変な芸を仕込まないで下さい」

(ΦωΦ )「うわびっくりした」


483 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:29:02 BHcT3n5U0

/ ゚、。 /「大体何ですかその趣味」

( ΦωΦ)「誤解だクックルのせいだ」

/ ゚、。 /「英雄が揃って何を」

( ΦωΦ)「担当するアイドルが多いらしい」

/ ゚、。 /「知りませんが」

( ΦωΦ)「我輩もあいつの趣味は分からん……スマホを使いこなしよる……」

/ ゚、。 /「魔道具です」

( ΦωΦ)「ドクオもタブレット使いこなすし……」

/ ゚、。 /「旦那様はらくらく魔道具すら使いこなせませんよね」

( ΦωΦ)「これ小さくない?」

/ ゚、。 /「旦那様が大きいのでは?」

ζ(゚- ゚*ζ(らくらくまどうぐ……)

/ ゚、。 /「デレさんも迷子防止に今度持ちましょうね」

ζ(゚- ゚*ζ「がう」

/ ゚、。 /「私はiPhone派ですがデレさんはどうしますか」

( ΦωΦ)「品名言ってる言ってる」


484 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:29:24 BHcT3n5U0

( ΦωΦ)「ほれダイオード、座れ」

/ ゚、。 /「遠慮します」

( ΦωΦ)「膝に」

/ ゚、。 /

( ΦωΦ)「デレよ娘の目が極めて冷たい」

ζ(゚- ゚*ζ「ねえさまにじゅうよんさい」

( ΦωΦ)「娘ならいくつでも膝に乗せたいものよ……」

ζ(゚- ゚*ζ" フルフル

( ΦωΦ)「だめかー」

ζ(゚- ゚*ζ「ない」

( ΦωΦ)「寂しいものであるな……」

ζ(゚- ゚*ζ「でもない」

( ΦωΦ)「ほだされてはくれんかデレよ……」


485 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:29:51 BHcT3n5U0

 旦那様も姉様も、家族だけど普通の家族にはなれない。

 デレもお姉さんお兄さんと家族になれると思う。
 でも同じように、普通の家族にはなれない気がする。

 だけど、それでも良いと思う。

 どんなのでも、どんなかたちでも、人が見たらゆがんでいても。
 家族は、家族だから。


 デレは、ぼくは。
 家族のために、たくさん立派になりたい。

 おおきくおおきく、つよくりっぱになって、家族にたくさん恩返しをしたい。

 そのためにも、もうしばらく。
 旦那様と姉様の家族になりたいし、たくさんを教わりたい。

 もう少し待っててね。


 おわり。


486 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:30:11 BHcT3n5U0





 ────数年後。



/ ゚、。 /「旦那様、大変です」

( ΦωΦ)「む?」

/ ゚、。 /「ついにデレさん、旦那様の服が入らなくなりました」

( ΦωΦ)「よう育ったなあ……筋肉と身長が……」


487 : ◆tYDPzDQgtA :2017/04/02(日) 22:30:46 BHcT3n5U0

ありがとうございました、今回はここまで。

次回は何かいつになるかわかりませんけど
 投下するならたぶん日曜夜九時です。
 たぶんだから確定じゃないです。
 忘れてたら伸びます。

それでは、これにて失礼!


まとめて下さってます、ありがとうございます。
ttp://naitohoureisen.blog.fc2.com/blog-entry-271.html


488 : 名無しさん :2017/04/02(日) 22:33:06 kVbDJbDw0
ロマより大きくなったデレを見た二人はどうなるのか



489 : 名無しさん :2017/04/02(日) 23:00:55 liCDBcI60
乙!逞しいデレちゃんの絵をみたい。


490 : ◆tYDPzDQgtA :2017/04/02(日) 23:14:47 BHcT3n5U0
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2360.png


491 : ◆tYDPzDQgtA :2017/04/02(日) 23:15:08 BHcT3n5U0
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2359.png


492 : 名無しさん :2017/04/02(日) 23:21:45 liCDBcI60
変わらずリボンなのが大変微笑ましい。。。


493 : 名無しさん :2017/04/02(日) 23:31:17 kVbDJbDw0
勇ましい
がおーがシャレにならないな


494 : 名無しさん :2017/04/03(月) 00:14:21 y1ELIblo0
もどして


495 : 名無しさん :2017/04/03(月) 00:41:51 EzLLcI/w0
本人の希望通り父親並みになったのにもどしてだなんて
ひどいこと言うやつもいるもんだなあ


496 : 名無しさん :2017/04/03(月) 01:06:42 lWDK/5OA0
やだたくましい……///


497 : 名無しさん :2017/04/03(月) 01:13:34 C7UrOGLM0
www


498 : 名無しさん :2017/04/03(月) 05:08:45 seKY4Wnk0
こんなたくましい子を奴隷として売ってたやつはばけもんだなぁ


499 : 名無しさん :2017/04/03(月) 05:47:21 XMYNF2JI0
品質チェック……


500 : 名無しさん :2017/04/03(月) 19:29:48 cUJV0j/o0
よく育ったなぁ
可愛くて強くてあざといとか最強では



501 : 名無しさん :2017/04/03(月) 20:35:40 28bVvWi2O


最後の英雄はハインなのかな


502 : 名無しさん :2017/04/03(月) 22:21:51 uFDCudcs0
幸子Pのクックルとか和む。おつ


503 : 名無しさん :2017/04/03(月) 22:41:55 e7uTaP0E0
薬師兄弟編とかでぃ編とかまだまだ読みたい話あるなぁ


504 : 名無しさん :2017/04/04(火) 11:07:20 xlq47ggE0
大きくなってもめちゃくちゃかわいいなあデレ
お父さんみたいになれたな、横の二人のわぁ……って顔よ


505 : 名無しさん :2017/04/04(火) 14:04:14 gnDscgkg0
フリフリの服じゃないんだな…


506 : 名無しさん :2017/04/04(火) 14:04:58 gnDscgkg0
そういえば、ツンって右目怪我してなかった?


507 : 名無しさん :2017/04/04(火) 22:32:28 EKODTzT60
鏡なんだよ


508 : 名無しさん :2017/04/05(水) 00:55:23 xM3fMSOw0
ツンよりでかくなったのは成長したなーって素直に感心できるけど、フォックスも抜かしているのがなんかこうくるものがあるな

フォックスさえもおぶれそうな体格と腕力……


509 : 名無しさん :2017/04/05(水) 01:15:00 /ALQhk9k0
むしろ片手で持ち上げて運びそう


510 : 名無しさん :2017/04/05(水) 12:02:04 VVQM5hrU0
自然を愛して動物にすかれてそう


511 : 名無しさん :2017/04/06(木) 10:11:48 EMVjHFGM0
デレの成長かわいすぎる


512 : 名無しさん :2017/04/06(木) 10:30:33 cdjF8jVg0
デレのインパクト強すぎるけどダイオードさんめっちゃ美人さんだな


513 : 名無しさん :2017/04/06(木) 21:20:40 G3ZbeRvU0
大きくなってもちゃんと花の飾りを付けてる愛らしさよ


514 : 名無しさん :2017/04/06(木) 23:00:24 UfEmJ3LI0
二人とも大きくなったデレを見てドン引きし過ぎだろwww


515 : 名無しさん :2017/04/08(土) 16:38:10 1VE42tDw0
えらいムッキムキにww


516 : ◆tYDPzDQgtA :2017/05/14(日) 21:15:16 sjZeAXLU0

 知らない事を教えてちょうだい。
 私は知らない事が多すぎるから。

 知るべき事を教えてちょうだい。
 今は受け入れる事が出来るから。


 たとえそれがどんなに痛い現実でも。
 たとえそれがどんなに非情なものでも。

 私は知らなければいけないの。
 私は覚えていなければいけないの。


 だから先生、過去をください。


 【道のようです】
 【番外編 ただなきじゃくるこども。】



 私が捨てたがっていた過去を、ください。


517 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:16:21 sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「孤児院はこっちだっけ?」

ξメ⊿゚)ξ「ええ、地図にはそう……」

爪'ー`)y‐「大丈夫? 地図さかさまじゃない?」

ξメ⊿゚)ξ「大丈夫よ失敬な」

爪'ー`)y‐「お、あれは?」

ξメ⊿゚)ξ「ああ、あれっぽいわね」

爪'ー`)y‐「……結構良い場所にあるんだな」

ξメ⊿゚)ξ「城下町の端とは言え、土地代高そうな……」

爪'ー`)y‐「高いと思う」

ξメ⊿゚)ξ「ですよね」

爪'ー`)y‐「よーし、じゃあ」

ξメ⊿゚)ξ「たのもーう」

爪'ー`)y‐「だから何で道場破りのノリなの?」

,,(‘_L’)「看板はやらん帰れ」

爪'ー`)y‐「ほら拒否された」


518 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:17:07 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ

(‘_L’)

ξメ⊿゚)ξ「先生居ませんか」

(‘_L’)「教え子が増えた」

爪'ー`)y‐(誰だろうこの人)

ξメ⊿゚)ξ(誰だこの人)

(‘_L’)「おいデミタス、教え子が来たぞ」

,,(´・_ゝ・`)「んー? ミセリ君ならまだしばらくは」

ξメ⊿゚)ξ「あ」

(´・_ゝ・`)「あ」

ξメ⊿゚)ξ「先生」

(´・_ゝ・`)


519 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:17:42 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)ハッ

(´・_ゝ・`)「ツン君?」

ξメ⊿゚)ξ「はい、出会い頭に死にかけてたアレです」

(´・_ゝ・`)「ごめん出会い頭に死にかけてた教え子多くて」

ξメ⊿゚)ξ「そうだミセリもそうだった」

(´・_ゝ・`)「わぁツン君かぁ、久し振りだね、背が伸びたかな?」

ξメ⊿゚)ξ「そんなには、あれから……えー……何年…………7年……? くらい……?」

(´・_ゝ・`)「うんまぁそんな感じだね、元気だったかい? えらく貫禄のある見た目になって」

ξメ⊿゚)ξ「こないだ魔女の呪いで死にかけました」

(´・_ゝ・`)「ぅゎ」

ξメ⊿゚)ξ「これが現在進行形で魔女の呪いにかかってる不死者です」

爪'ー`)y‐「どうもはじめまして吟遊詩人です」

(´・_ゝ・`)「ご丁寧にどうも」


520 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:18:20 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「今風の人を連れてきたねツン君」

(‘_L’)「軽薄そうだな」

(´・_ゝ・`)゙ ゴッ

(‘_L’)「痛い!」

(´・_ゝ・`)「すみません失礼な事を」

爪'ー`)y‐「いやもう慣れてるんで」

ξメ⊿゚)ξ「その人がダメンズですか」

爪'ー`)y‐「こらツンちゃんっ」

(´・_ゝ・`)「否定はしないけども」

(‘_L’)「しろよ」

(´・_ゝ・`)「出来ないよ」

ξメ⊿゚)ξ「先生がダメンズ飼ってるって事実だったんですね」

(´・_ゝ・`)「フィレンクト謝って」

(‘_L’)「いや謝罪が欲しいのは俺の方だ」


521 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:19:27 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「先生が夫婦漫才みたいなパーティ名なのは知ってましたけどまさかそんな」

(´・_ゝ・`)「フィレンクト心から謝罪して」

(‘_L’)「何でだあの名前で通した役所も悪いだろ」

爪'ー`)y‐「僕らのパーティ名は焼きたてパンと溶かしバターですけどね」

(´・_ゝ・`)「えっ何そのセンスは……」

(‘_L’)「腹が減りそうだな」

ξメ⊿゚)ξ「力作です」

(´・_ゝ・`)「ツン君は独特のセンスを持ってるなぁ……」

(‘_L’)「取り敢えず立ち話もなんだし上がれ」

(´・_ゝ・`)「経営者ですらない雑用が偉そうに」

爪'ー`)y‐(共同経営者ですら無いのか……)

(´・_ゝ・`)「取り敢えず上がって、お茶でも入れようか」

ξメ⊿゚)ξ「お邪魔します」


522 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:20:31 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「ところで先生、腕どうしたんですか?」

(´・_ゝ・`)「ああ昔ちょっと食い千切られて」

ξメ⊿゚)ξ「何と……」

(´・_ゝ・`)「腕もげてから会ってなかったっけ?」

ξメ⊿゚)ξ「記憶に無いので会ってない可能性も?」

(´・_ゝ・`)「まぁ良いか、記憶なんて曖昧なものだし、はいお茶」

ξメ⊿゚)ξ「いただきます」

(´・_ゝ・`)「ツン君も片目どうしたの?」

ξメ⊿゚)ξ「魔女の呪いで先日潰れました」

(´・_ゝ・`)「あとこちらの吟遊詩人さんは」

ξメ⊿゚)ξ「雇い主です」

爪'ー`)y‐「護衛してもらってます」

(´・_ゝ・`)「ああなるほど、不思議な組み合わせだと思った」


523 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:21:39 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「まあお互いの裸も見てますけどね」

爪'ー`)y‐「ねぇツンちゃんは何で保護者に対して僕の印象を悪化させたがるの?」

ξメ⊿゚)ξ「最初から印象は底じゃない?」

爪'ー`)y‐「そこまででもないよまだ軽薄そうな吟遊詩人だったよ」

ξメ⊿゚)ξ「今では」

爪'ー`)y‐「教え子に手を出した軽薄な吟遊詩人にクラスアップしたよ」

ξメ⊿゚)ξ「ダウンでは」

(´・_ゝ・`)「ええと吟遊詩人さん、お名前は」

爪'ー`)y‐「フォックスです、フォックス・ユースレスです」

(´・_ゝ・`)「フォックスさん」

爪'ー`)y‐「はい」

(´・_ゝ・`)「自分を客観視出来るのは立派な事です……」

爪'ー`)y‐「まさか褒められるだなんて……」


524 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:22:24 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「あ、僕はデミタス・ポルトロン、孤児院の経営者だよ」

爪'ー`)y‐「これはこれはご丁寧にどうも」

(´・_ゝ・`)「あそこで子供達に遊んでもらってるのがフィレンクト・イネクプレシフ、馬鹿です」

爪'ー`)y‐「これはこれはずんばらばっさり」

(´・_ゝ・`)「ミセリ君にはもう会ったかい?」

ξメ⊿゚)ξ「はい、先日」

(´・_ゝ・`)「元気にしてたかな」

ξメ⊿゚)ξ「社畜でした」

(´・_ゝ・`)「ああうん……」

ξメ⊿゚)ξ「こいつが手を出そうとしました」

爪'ー`)y‐「未遂ですもうしません」

(´・_ゝ・`)「切り返しの早さに本気を感じる」


525 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:23:31 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「何よ本気でアレしようとしてたのに」

爪'ー`)y‐「ねぇ止めてよ保護者の前で僕の株を更に落とす発言」

ξメ⊿゚)ξ「だからもう底だと」

爪'ー`)y‐「ただでさえ底なのにどうして更に貶めるの」

ξメ⊿゚)ξ「全て事実だし」

爪'ー`)y‐「事実だからってまな板って言われたら嫌でしょ」

ξメ⊿゚)ξ「悔い改めよう」

爪'ー`)y‐「素直だ……」

(´・_ゝ・`)「…………ツン君」

ξメ⊿゚)ξ「あ、はい」

(´・_ゝ・`)「随分、明るくなったね」

ξメ⊿゚)ξ「えっ」

(´・_ゝ・`)「うん、うん……元気になれて良かった」

ξメ⊿゚)ξ「…………」


526 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:25:08 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「僕は君たちを置いて出てしまったから」

ξメ⊿゚)ξ「孤児院の移転がきっかけだし、お別れ会しましたよ」

(´・_ゝ・`)「そうだけど、やっぱりみんなが気掛かりだったよ」

ξメ⊿゚)ξ「みんな元気に巣だったみたいです」

(´・_ゝ・`)「ツン君はあれから弟子入りしたんだっけ」

ξメ⊿゚)ξ「はい、ミュスクル家へ」

(´・_ゝ・`)「つらくはなかったかい?」

ξメ⊿゚)ξ「つらい事もありました、でも、私はちゃんと幸せです」

(´・_ゝ・`)づ「…………そっか」ポンポン

ξメー゚)ξ「子供じゃないんですから」

(´・_ゝ・`)「子供だよ、僕らにすればね」

ξメー゚)ξ「……先生に拾われて良かったです」

(´・_ゝ・`)「僕も、君を保護できて良かったよ」

爪'ー`)y‐「熊に負けたんだっけ」

ξメ⊿゚)ξ「リベンジしたわよ」

(´・_ゝ・`)「やめて危ない」


527 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:26:05 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「ツン君は体質もあるし、怪我も深かったし、塞ぎ込んでたからなぁ」

ξメ⊿゚)ξ「ええまあ」

(´・_ゝ・`)「君は特に気掛かりだったんだ、だから元気そうで嬉しいよ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(´・_ゝ・`)?

ξメ⊿゚)ξσ)'ー`)y‐ メリ

(´・_ゝ・`)

ξメ⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐「僕のお陰ならはっきりそう言って?」

ξメ⊿゚)ξ「やだ」

爪'ー`)y‐「ンモー」

(´・_ゝ・`)=3 ホッコリ…


528 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:26:28 sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「ツンちゃんってほんと素直じゃない」

ξメ⊿゚)ξ「あんたにだけは言われたくないわ……」

爪'ー`)y‐「僕は体裁を気にするだけ」

ξメ⊿゚)ξ「ばーか」

爪'ー`)y‐「そんな小学生みたいな罵倒ある? 先生の前だからって子供に戻らないで?」

ξメ⊿゚)ξ「しね」

爪'ー`)y‐「しねない」

ξメ⊿゚)ξ「すまない」

爪'ー`)y‐「ゆるす」

(´・_ゝ・`)(仲良しだなぁ)

爪'ー`)y‐「ほら穏やかな顔されてる」

ξメ⊿゚)ξハッ


529 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:27:24 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「……先生は、私の命の恩人なんですよね」

(´・_ゝ・`)「んー、まぁ」

爪'ー`)y‐「あれ、歯切れが悪い」

(´・_ゝ・`)「僕の力だけでは無かったからね」

ξメ⊿゚)ξ「まさかドクオさんが」

(´・_ゝ・`)「いやその頃は再会してない、と言うか会ったの?」

爪'ー`)y‐「先日助けて頂きまして」

ξメ⊿゚)ξ「お陰で右目だけで済みまして」

(´・_ゝ・`)「あっあー……」

爪'ー`)y‐「……で、実際は?」

(´・_ゝ・`)「んー……まぁ、ツン君ももう大人だしね」

ξメ⊿゚)ξ?

(´・_ゝ・`)「君のお母さんだよ」

ξメ⊿゚)ξ「ッ」

爪'ー`)y‐(おやー?)


530 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:27:53 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「…………あの人が、何で」

(´・_ゝ・`)「君の治療は僕だけでは間に合わなかったから」

ξメ⊿゚)ξ「だからって、何で」

(´・_ゝ・`)「あー……どこから話すべきかな
     君のお母さんは珍しい魔法を使えたんだよ、とても珍しい魔法を」

爪'ー`)y‐「あれ、魔力あったんだ」

(´・_ゝ・`)「あ。 あーあー、はいはい」

爪'ー`)y‐?

(´・_ゝ・`)「うーんややこしいな、最初から全部話そうか
     ツン君が聞きたいならだけど、どうかな?」

ξメ⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐「ツンちゃん」

ξメ⊿゚)ξ「……聞きます」

爪'ー`)y‐=3

ξメ⊿゚)ξ「もう子供じゃないから、聞きます」

(´・_ゝ・`)(大人になったなぁ……)


531 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:30:06 sjZeAXLU0



 背中を抉られた少女を見付けて、保護したのは暗い森の中。
 瀕死の状態の彼女の、命だけは魔法と術式で繋ぎ止める事が出来た。

 しかしそれでは長持ちしない。
 治療をするにも、僕は治癒魔法は専門では無い。

 森の中で狼狽える僕の前に、一人の女性が現れた。


 綺麗な金の巻き髪に、アンバーの瞳。
 白い肌をした、身なりの整った女性だった。

 その姿は、腕の中でぐったりしている少女に良く似ていた。


『すみません、近くに医者か、教会はありませんか』

『熊に襲われたみたいなんです、傷が深くて僕には治せない』


532 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:31:14 sjZeAXLU0

 さっと顔色を無くした女性は少女にふらふらと近付いて、しゃがみこみ、震える指で頬を撫でる。
 形良く整えられた指先は、爪に色さえ乗せていた。

 どうしよう私のせいだと繰り返す彼女は、恐らくこの少女の母親なのだろう。
 狼狽え方も困惑も、明らかに母親のそれだ。

 涙を浮かべながら彼女は僕に向き直り、こう言った。


『医者も教会もこの子を救ってはくれません』

『この子は、ばけものだから』

『誰もこの子を助けてはくれません』


 だから、と彼女は一度唇を噛み締めて、言葉を選ぶ。


『私が、この子を助けます』

『私の娘だから』

『どうか、手を貸してください』


533 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:32:20 sjZeAXLU0

 彼女は唯一、ひとつだけ魔法を使えた。
 それは珍しい、魔力を生命力に置き換えるもの。

 治癒魔法ではない。
 人が本来持つべき魔力そのものを、器を、作り替えてしまうもの。

 一度魔力を生命力に置き換えてしまえば、もう戻す事は出来ない。
 この魔法を使えば娘の命は助かるだろう。
 しかし、一生涯、魔力を持たずに生きる事になる。

 それでも命を救えるのなら、そう彼女は唇を噛む。



 僕が補助をして、彼女が娘に魔法をかける。
 不思議な金色の魔法は、小さな身体が持つ魔力を全て飲み込んで行く。

 小さく口を開く。


『この子はばけものです』

『それは、どう言う意味ですか』

『そのままの意味です、素手で、この小さな手で、簡単に人の首もへし折ってしまう』

『特異体質、と言うやつですか』

『ええ、生まれた時から、この子はとても強い力を持っていました』


534 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:33:05 sjZeAXLU0

『制御は?』

『出来ていません』

『理由は?』

『それは』


 かみさまのこどもだから。

 そう掠れた声で呟いて、彼女は口を閉ざした。


 魔法をかけおわり、僕は幼い娘を連れて孤児院へと向かった。
 母親はと言うと、あわせる顔がない、と連れて行くように頼んできた。

 暫し考えたが、僕は娘を保護する事にした。
 そして後日、再び彼女に話を聞きに行った。


 あの暗い森。
 その奥の小さな広場にある、小さな村へ。


535 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:33:28 sjZeAXLU0

 しかしその村に近付くと、あまりにも物々しい雰囲気。
 ぴりぴりと肌を刺すような空気は、村人に話しかける事を躊躇わせた。

 農具やらを持った村人は、一軒の家を囲むように立っている。
 出てこいだの、ばけものだの、口々に謗りの言葉を乗せて。


 日が傾くまで彼らは動かず、僕もそれを眺める事しか出来ず。
 薄闇に沈み始めた頃、やっと家の周りから人が退いた。

 家の中には明かりもなく、僕は不思議と、そこが目的の場所だと察していて。
 ゆっくりと近付き、そっと扉を叩く。


『先日の魔導師です』

『保護をした、魔導師です』

『お話を、聞かせてください』


 そう小さな声で言うと、扉はゆっくり開かれた。
 手早く中に入った僕の後ろでは、急いで閉められる扉。

 疲れた顔の彼女が、僕を見上げていた。


536 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:33:50 sjZeAXLU0

 闇夜の中でも不思議と輝く金の巻き髪は、今日もきれいに整えられている。
 少し窶れた頬には白粉が、薄い唇には紅が。
 小綺麗な服を纏い、まるで貴族の娘のような出で立ち。

 それは、魔女狩りのような目にあっている人物がする格好とは、思えなかった。


『あの子は、大丈夫ですか?』

『はい、時間はかかりますが、安静にしていれば』

『ああ、よかった』

『……お話を、聞かせて頂けますか?』

『そう、ですね。 でもまず、お茶でも入れましょう、お客様なんて久し振り』


 お茶を入れて、小さなランタンに火を灯して。
 懐かしい日々を思い出すように、雨戸を閉めた窓を見て彼女は微笑む。

 僕は、小さな椅子に腰かけて彼女の言葉を真っ直ぐに受け止める準備をした。


537 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:34:23 sjZeAXLU0


  あの子は、あの人に似て気が強くて。

  でも顔は私に似ちゃって、きっとたくさん苦労をする。

  街の中でも人の中でも上手く生きられるように、綺麗な格好をさせていて。

  でもあの子は、あの人に似て、格好に頓着しなくて。

  けど笑うとあの人に似ていて。

  私を呼ぶ声は、まるで幼い頃の私みたいなのに。

  ふとした瞬間が、あの人にそっくりで。

  とても無作法で、変わった人で。


  あの人は、かみさまだった。


538 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:34:44 sjZeAXLU0

  私が娘の頃、奉公先の村でかみさまとして扱われていた人が居て。
  まだ年若い、背の高い男の人で。

  私はその頃から、今の私のように、母から身なりにだけ気を付けるように言われていて。
  少し場違いなくらいに見た目には気をつかっていて。

  あの人は、そんな私の顔に、かたちに。
  容姿に、惚れ込んでくれたんです。

  それからは、年季が終えるまでずっとあの人から求婚されて。
  あの人はかみさまを辞めて、私と一緒に故郷まで着いてきて。

  でもあの人は少し変わっていたから、故郷には居られなくて、この村にまでやって来たんです。

  かみさまから人間になったあの人は、村の人と一緒に働いて。
  私は家事は得意じゃなかったけれど、あの人のために毎日働いて。

  料理も練習したんです、得意じゃないけど、美味しいものを作れるように。
  でもあの人は、私が火傷をすると心配して怒るんです。

  ちゃんと、魂から愛し合っていました。
  でもあの人は、きっと私の容姿を一番大切にしたいんだろうなって。


  だから、ほら、こんな状況でも、私は化粧までして。


539 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:35:30 sjZeAXLU0

  あの人に求められる事に応えると、幸せでした。
  あの人は私を大切にしてくれました。

  だからあの子を身籠った時も、あの人は嬉しそうに、笑ってくれて。


  でもあの人は、山の崩落に巻き込まれて居なくなりました。
  死体は見付かっていませんが、村の人数名も、一緒に見付からず、そのまま。

  私は一人であの子を産んで。
  産婆が生まれたばかりのあの子に指を握られ、潰された時に、気付いたんです。

  私はかみさまの子を、人ではない存在を産み落としたんだと。


  それからは、人として生きるために、あの子を人間として生かすために、苦心しました。
  ここから早く巣立たせるために、ここに故郷としての愛着を持たせないために、厳しく。

  だって生まれたその日から、あの子はここで、ばけものだと扱われたんですもの。
  ここは私とあの人の生きた場所、だけど、だからこそ、あの子はここに居てはいけない。

  きっと私はあの子に憎まれています。
  嫌われる事を覚悟して、憎まれる事を前提として、あの子につらくあたっていたから。


540 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:35:53 sjZeAXLU0

  あの子を連れて、どこか別の場所に行けば良かったのかも知れません。

  けれど力を制御できないあの子と、容姿しか無い私が、どこで生きてゆけましょう。
  故郷にすら、もう私の居場所は無いんです。

  それにここには家があって、あの人のお墓があって、ほんの少しだけ優しくしてくれる人が居た。
  もう、私はどこへも行けなくて、あの子を私以外から守る事しか出来なくて。

  あの子がばけものと殺されないように、私はできる事をしてきました。
  この姿さえ傷がつかないのなら、何をされても受け入れてきました。

  見てくれだけは綺麗でも、もうあますことなく、私はけがれています。
  これでもきっとあの人は、私が髪の手入れを、肌の手入れを怠らなければ、きっと誉めてくれるから。



  でも、もうそれもおしまい。

  戦争の影響で、この村もたちゆかなくなりました。

  だから村の人は、くだらないおまじないにすら頼る。

  ばけものを、生け贄に捧げて、助けを乞うなんて、くだらないおまじない。


541 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:36:25 sjZeAXLU0

  だからね、私はあの子を逃がしたんです。
  巣立ちには少し早いけど、森の奥に連れていって、置き去りにした。

  南へ真っ直ぐに行けば里に出る事を教えて、私は一人村に戻ったんです。
  でもひとつ、渡し忘れたものがあって。

  そう、戻ったら、あなたがあの子を助けていたところでした。


  あの魔法ですか?
  あれは、あの人が唯一私に教えてくれた魔法。

  私には学が無いから他には何も使えないけれど、あれだけは覚えていたんです。
  必要な時に使えと教えてくれた魔法だったから、きっと、今使うしかないんだろうなって。


  そうだ、これ、渡しそびれたもの。
  あの人と私の指輪、お金に困ったら売れるように。

  それとあなたには、これを。
  うちにある、私以外に、お金になるものすべて。
  運べる重さだと思うけれど、ああ、良かった。
  孤児院の方なんですよね、じゃあ、使って下さい。

  私には、もう必要のないものですから。


542 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:36:46 sjZeAXLU0

  あの子には、母親らしい事を出来なかったと思います。

  日々が苦しいものだから、あの子にあたった事もあります。
  叩いたし、怒鳴ったし、罵った、母親失格だと思います。

  でも私は要領が悪いから、他にどうすれば良いかわからなくて。
  あの人が居なくなって、何もわからなくなって。

  ただ、あの子に生きてほしかった。
  私を忘れても憎んでも良いから、生きてほしかった。

  最低な母親だけれど、あの子がいとしくていとしくてしょうがなくて。
  だからお願いします、あの子をお願いします。


  私はもう、どこにも行けないから。

  村から出れば良い。
  そうですね、そう、ですよね。


  全てを押し付けて、ごめんなさい。
  最低の母親で、ごめんなさい。


  もう、ここを出た方が良いわ、人が来るから。


543 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:37:22 sjZeAXLU0



 僕が彼女の家から出る時に、薄明かるくなった広場に、断頭台が見えた。

 何度も彼女を連れて逃げようとした、今ならまだ間に合うと連れ出そうとした。
 いくら何でも、それはあんまりだと。

 けれど彼女は首を振り、僕の手を優しく解いて、髪に櫛を通し始めた。
 化粧を整え、髪を整え、服を、靴を、指先までを綺麗にして。


 雨戸を開け放った窓から射し込む朝日は、儚くも美しい彼女を照らしていた。

 そして僕はもう、彼女を連れ出す事も、何も出来なくて。


 深く深く頭を下げて。
 あの子は孤児院で、大切に育てますと約束して。


 姿を隠し、僕は村を後にした。
 無力感に苛まれて、胸がひどく痛んだ。


544 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:38:25 sjZeAXLU0



(´・_ゝ・`)「だから僕は、君を置いていった事を悔やんだ事もあった」

ξメ⊿゚)ξ「……その頃には、もう私は元気でしたから」

(´・_ゝ・`)「僕は、約束を守れたかな」

ξメ⊿゚)ξ「はい、私はちゃんと、……大切に、され、」

ξぅ⊿゚)ξ「て、」

ξっ⊿∩)ξ「育った、から、」

(´・_ゝ・`)「……ごめん、ツン君、話すのも遅くなったし、君を置いていった」

ξっ⊿∩)ξ「約束、守った、あとですから、せん、せ、は」

ξっ⊿∩)ξ「ぁー……」

(´・_ゝ・`)つ「ごめんね、ツン君、ごめん」

爪'ー`)づξっ⊿∩)ξ

(´・_ゝ・`)


545 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:38:49 sjZeAXLU0

爪'ー`)∩⊂ξメ⊿∩)ξ「さわんなや……」

爪'ー`)" ワサワサ
 づメ⊿∩)ξ

ξメ⊿∩)ξ「やめろや……」

爪'ー`)y‐「はいはい」

ξっ⊿∩)ξ「くっそ……」

爪'ー`)y‐「はいはいはい」

ξっ⊿∩)ξ「やめろ……」

爪'ー`)y‐「はい黙って黙って」

ξっ⊿∩)ξ「気色悪いことすんな……」

爪'ー`)y‐「はーいはいはい」


546 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:39:55 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)(ああ)

(´・_ゝ・`)(ちゃんと、支えてもらってるんだな)

(´・_ゝ・`)(良かった)

(´・_ゝ・`)「フォックスさん」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「あ、はい、そういやフォックスさんです」

(´・_ゝ・`)「ツン君を、よろしくお願いします」

爪'ー`)y‐「はいはい」

(´・_ゝ・`)「……ちゃんと信頼しあってるみたいで良かった」

爪'ー`)y‐「可愛げ無いですけどねぇ」

(´・_ゝ・`)「そう言うところが可愛げだよ」

爪'ー`)y‐「まぁねぇ」


547 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:41:21 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「ツン君」

ξぅ⊿゚)ξ「……はい」

(´・_ゝ・`)「君は、お母さんにとてもよく似てる」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(´・_ゝ・`)「自分を、大切にしてね」

ξメ⊿゚)ξ「……はい」

(´・_ゝ・`)「僕は君のお母さんを非難する事も、全て肯定する事も出来ない
     きっとそんな権利は他人には無いし、するべきではない事だから」

ξメ⊿゚)ξ「はい」

(´・_ゝ・`)「ただね、凄く歪ではあったかも知れないけど、君のお母さんは間違いなく君を愛してた」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(´・_ゝ・`)「君がお母さんを憎んでも、恋しくても、僕は当然と思う。 でもそれだけは知っていてほしい」

ξメ⊿゚)ξ「…………はい」


548 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:42:11 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「…………」

ξぅ⊿゚)ξ゙

ξメ⊿゚)ξ

,,ξメ⊿゚)ξ「フィレンクトさんでしたか」

(‘_L’)「えっ、うん」

ξメ⊿゚)ξ「手合わせ願おう」

(‘_L’)「アラフォーにひどい事しようとしてる」

(´・_ゝ・`)「死なないようにね」

爪'ー`)y‐「殺さないようにね」

(‘_L’)「アラフォー死の危機」

(´・_ゝ・`)

爪'ー`)y‐

(´・_ゝ・`)「変わらないなぁ」

爪'ー`)y‐「変わらなそうだなぁ」


549 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:43:25 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「……本当は」

爪'ー`)y‐「はいはい」

(´・_ゝ・`)「必死に生きた誰かを可哀想だと言うのは失礼なんだろうね」

爪'ー`)y‐「ま、他人のエゴと言いますか」

(´・_ゝ・`)「うん」

爪'ー`)y‐「人間って自分の枠で考えるから、可哀想だとか哀れだとか、そう思っちゃうもんだよね」

(´・_ゝ・`)「それでも必死に生きてきた、その人生をどうして人様が勝手に決め付けてしまえるんだろう」

爪'ー`)y‐「悲劇ってそんなもんだよ、喜劇もね」

(´・_ゝ・`)「…………僕は、可哀想だと思いたくはないな」

爪'ー`)y‐「誰を?」

(´・_ゝ・`)「……皆を」

爪'ー`)y‐「そう思うだけでも十分なんじゃない
     大衆向けの悲劇よりも、そう思う人が居るならそれで」


550 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:44:22 sjZeAXLU0

(´・_ゝ・`)「あの子を」

爪'ー`)y‐「ん」

(´・_ゝ・`)「あの子達を、『可哀想な子達』と言われたくはない」

爪'ー`)y‐「…………」

(´・_ゝ・`)「あの子達は生きる為に生きて、血を吐いて、汚泥の底でもがいてきたんだ」

爪'ー`)y‐「……」

(´・_ゝ・`)「やっと今、地面に立って生きているのに、可哀想だなんて、言わせたくない」

爪'ー`)y‐「…………先生は、いい人なんだなぁ」

(´・_ゝ・`)「……あの子達の、親でもあり、教師でもあるから」

爪'ー`)y‐「教え子達にも、ちゃんと伝わってるみたいだね」

(´・_ゝ・`)「なら、嬉しいな」

爪'ー`)y‐「…………僕らみたいな生まれは、今の世の中珍しくはない
     でも可哀想だと同情する人は、多いと思うよ?」

(´・_ゝ・`)「……同情なんて失礼な真似、僕の前では絶対にさせたくない
     今を、ちゃんと生きているんだから」


551 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:45:13 sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「…………あー」

(´・_ゝ・`)?

爪'ー`)y‐「あはは、ツンちゃん同じこと言いそう」

(´・_ゝ・`)「そう?」

爪'ー`)y‐「緑の騎士さんも、きっと言う」

(´・_ゝ・`)「……ミセリ君は言うかもなぁ」

爪'ー`)y‐「先生はさぁ、自分の元から巣立った子供達はみんな今に胸を張れてると思う?」

(´・_ゝ・`)「そうだと嬉しいけど、難しい事もあると思うよ」

爪'ー`)y‐「もしそうだとして、先生は同情するなって言うの?」

(´・_ゝ・`)「同情される事を望んでいなければ、僕は言うと思う」

爪'ー`)y‐「……見かけのわりに気が強いなぁ先生」

(´・_ゝ・`)「これでもアラフォーの元上級魔導師だからね、元金だよ」

爪'ー`)y‐「あーん僕より格上ー僕銀なのにー」


552 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:45:46 sjZeAXLU0



 頭の中がぐるぐるする。
 胸の奥がざわざわする。


 受け止めきれない過去は、私の頭と胸をかきみだした。

 それでも受け止めなければいけないから、私は現在を見る。


 先生の語る母と、記憶の中の母はあまりにも違う。
 別人のように穏やかな母の姿は、想像すら出来やしない。

 先生は言った。
 憎むのは当然だと。

 母は言った。
 嫌われてもしょうがないと。

 でも、だからって、そのまま憎み続けるのは浅はかではないだろうか。
 けれどすべてを許し受け入れるほど、私の心は広くも穏やかでもない。


 出生なんて興味もなかった。
 父なんてどうでも良かった。

 私の目は、父譲りなのかな。
 母の目は、緑じゃなかったのか。
 そんな事すら私はもう思い出せないなんて。


553 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:46:18 sjZeAXLU0

 母の言葉を鵜呑みにする事は容易だろう。
 だけど、全て狂人の戯言と切り捨てる事も出来る。

 全てを語ったわけでもないだろうし、美化もしているかもしれない。

 私には母が分からない。
 私がずっと憎んできた、嫌ってきた、愛されたかった母が分からない。


 記憶の中のあの人は、いつも綺麗にしていて。
 怒っているか、泣いているか、どちらかで。

 話をしたくても、もうどこにも居ない。
 あの村は戦争の折りに滅んだ。

 それより先に、きっと母は死んだ。
 私の代わりに、処刑されたのだろう。


 どうすれば良いんだ。
 どう受け止めれば良い。

 突然で、意外で、胸が痛くて。
 腹が立つやら、悲しいやら。


554 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:47:28 sjZeAXLU0

(‘_L’)「おい」

ξメ⊿゚)ξ!

(‘_L’)「悩むだろうが、それは相方にも出した方が良いぞ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「信頼が無いと成り立たんからな、弱音も吐け」

ξメ⊿゚)ξ「……はい」

(‘_L’)「大人ぶってもアラフォーから見ればガキだガキ、ははは」

ξメー゚)ξ「……そう、ですね」


 乱暴に頭をぐしゃぐしゃされて、不思議と笑みが洩れた。

 それを見たフィレンクトさんは、少し意外そうな顔をしていて。


 受け入れられなくても、受け止めよう。
 受け止めきれないのなら、手を貸してもらおう。

 今の私は一人じゃないから、昔よりも重い荷物を背負えるんだ。


555 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:47:39 k5nhfX2U0
まだ番外編あるのか


556 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:48:18 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「……私、あの人が嫌いだった」

(‘_L’)「母親か?」

ξメ⊿゚)ξ「叩かれたり、怒鳴られたり、ばけものって呼ばれたり……は元からか」

(‘_L’)「お前の家庭環境は複雑だな本当に」

ξメ⊿゚)ξ「そんなあの人が嫌いだったんだけど、先生の話を聞いたら、どうすれば良いのか」

(‘_L’)「母親が嫌いだったんだよな」

ξメ⊿゚)ξ「はい」

(‘_L’)「だがデミタスの話を聞いてそれが揺らいでるんだな」

ξメ⊿゚)ξ「……はい」

(‘_L’)「なら最初から、嫌い切れてはなかったんだな」

ξメ⊿゚)ξ「…………そう、ですね……ずっと、普通の子供としてあの人に愛されたかった」

(‘_L’)「良かったな」

ξメ⊿゚)ξ「へ」

(‘_L’)「お前の母親が愛したのは、普通の子供としてのお前だったんだろうよ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「いや言い方が悪いか……あー……伝われ何か良い感じに、伝われ」


557 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:49:13 sjZeAXLU0

ξメ⊿゚)ξ「……良かった」

(‘_L’)「うん」

ξメ⊿゚)ξ「喜んで、良いのかな……」

(‘_L’)「好きにすれば良いだろそれは、デミタスも言ってたし」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「良かったなとは言ったが、お前は怒っても良いし喜んでも良いんだ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

(‘_L’)「本当は愛されてたと喜んでも、ふざけんな今さらとキレても良いんだよ」

ξメ⊿゚)ξ「は、ひ」

(‘_L’)「産みの親が全てだとは思わんがな、やっぱり大事なもんではある」

ξぅ⊿゚)ξ「はひ」

(‘_L’)「だから無理に切り捨てる事も受け入れる事もしなくて良いと思うし、時間を」

ξつ⊿∩)ξ「はひ」

(‘_L’)「あっちょ待っあデミタスー! ちょっとデミタスー!! 教え子泣いたー!!」

  ヒュバッ
-=三(´・_ゝ・`)づ)_L’)メゴォォ


558 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:50:24 sjZeAXLU0

< イイカゲンニシテ
< イマウデハエテナカッタ?
< ズェア
< イタイイタイイタイ


,,爪'ー`)y‐「ツーンちゃあん」

ξメ⊿゚)ξ「くんなや」スッ

爪'ー`)y‐「涙止めたわ」

ξ。メ⊿゚)ξ「…………」ポロ

爪'ー`)y‐「あ」

ξぅ⊿゚)ξ「あー……」

爪'ー`)y‐「ツンちゃん」

ξつ⊿∩)ξ「あーくそ……」

爪'ー`)y‐「ねぇツンちゃん」

ξつ⊿∩)ξ「うるさい……」

爪'ー`)y‐「今の右目が落ちたみたいに見える」

ξつ⊿∩)ξ「くそが」


559 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:51:24 sjZeAXLU0

爪'ー`)y‐「はいはい良い子良い子」

ξメ⊿゚)ξ「くそったれ」

爪'ー`)y‐「恥ずかしがらなくて良いのに」

ξメ⊿゚)ξ「うるさい」

爪'ー`)y‐「僕には散々弱味を見せたでしょ、今さら壁作んなくて良いよ」

ξメ⊿゚)ξ「…………」

爪'ー`)y‐「僕も壁取っ払ったんだから、僕にだけ恥ずかしいもの見せさせないでほしいなぁ」

ξメ⊿゚)ξ「…………あいたい」

爪'ー`)y‐「んー」

ξメ⊿゚)ξ「お母さんに、会いたい」

爪'ー`)y‐「うんうん」

ξメ⊿;)ξ「お母さん、お母さんに、会いた、い」

爪'ー`)y‐「よーしよし」

ξメ?;)ξ「ぅ、ぐ、うぅぅ」


560 : 名無しさん :2017/05/14(日) 21:52:30 sjZeAXLU0

 憎むでも、喜ぶでも、怒るでも、悲しむでもなく。

 ただ私は。
 ただただ、私は。

 母恋しさに、声を上げて泣いた。


 受け止めきれないから、飲み込まれてしまって。
 狐の服を握って声を上げて泣いて。

 その沼から引き出すために、私の頭をずっと撫でる手が優しくて。
 母恋しさに、家恋しさに、孤児院の真ん中で、恥も捨てて子供のように泣きじゃくって。


 まだ、しばらくは受け入れられない。
 もうしばらくは、悩む時間が必要だ。

 だけど今の私は、心ごと一人ではないから、時間をかければ大丈夫な筈。

 はいはい、うんうん、よしよし、と頭を撫でながらいつもの調子で相槌を打つ相棒が居るから。
 今はそばに居なくても、私たちを待つあの子が居るから。


 強くなるし、強くなりたいし、どんどん前には進むけど。


 今だけは、子供の顔で泣いていたい。
 魂を委ねられる人たちのそばで。



 おわり。


561 : ◆tYDPzDQgtA :2017/05/14(日) 21:53:26 sjZeAXLU0
ありがとうございました、今回はここまで。

次回は何かいつになるかわかりませんけど
 投下するならたぶん日曜夜九時です。あと一回はあります。
 あと最後の最後に文字化けすんのやめて。

それでは、これにて失礼!


まとめて下さってます、ありがとうございます。
ttp://naitohoureisen.blog.fc2.com/blog-entry-271.html


562 : 名無しさん :2017/05/14(日) 22:00:41 k5nhfX2U0
乙乙よ
次は狐の番かな


563 : 名無しさん :2017/05/14(日) 22:53:34 p/4vnxnU0

フィレンクトがいつになく真面目なのがねえ、うん


564 : 名無しさん :2017/05/14(日) 23:14:32 Sb8UhFeE0

ツンとフォックスほんといいコンビ


565 : 名無しさん :2017/05/15(月) 02:50:05 VMDkQEsk0
母の日スペシャルだったか
とても良かった


566 : 名無しさん :2017/05/16(火) 02:24:06 c.vki7zs0
また謎の人物が……ツンの親父か


567 : 名無しさん :2017/05/16(火) 03:55:13 YYDi1K/U0
遅ればせながら乙


568 : 名無しさん :2017/05/16(火) 04:22:46 8Fkp9SW60
乙。会話のテンポの良さ好きだ


569 : ◆tYDPzDQgtA :2017/06/04(日) 21:01:44 J1xcvgz20

 昔話をしませんか。
 血と死と泥にまみれた昔話を。

 寝物語のように滔々と。
 読み聞かせるように朗々と。

 膝を貸してごらん。
 灯りに揺らめく金の髪に指を絡めよう。

 朱に染まる緑の目を見上げて語ってあげよう。
 その仏頂面を眺めて教えてあげよう。


 君の相棒の半生はもう語った。
 だから次に語るのは、僕の死のお話。

 僕に与えられた最初の死を。
 孤独と苦痛を絶望を。


 すべて、君に晒してみよう。



 【道のようです】
 【番外編 いえいえそんな御大層な。】


570 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:03:35 J1xcvgz20

 町を出て、国を出て、船に乗り。


 僕らは今、二人きりの部屋。
 その部屋は海の上に浮かぶ船。

 ゆらゆらと揺れる感覚にも慣れた船旅数日目。
 時おり甲板に上がる魔物を退治したり、食堂で弾き語りしたり。
 小銭を稼ぎつつ、のんびりした日々。

 次の国は海の向こう。
 やっぱり旅は広く大きく行かなきゃね。


 海の向こうの国に行く事にしたのは、ほんのちょっとした理由。
 大した理由もなく、ただ相棒が「海の向こうに暖かい国があるらしい」と言うので。

 どうやら、僕の言った事を覚えていたらしい。
 空気のきれいな、暖かい場所。

 律儀なんだから。


571 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:06:03 J1xcvgz20

 暗く静かな夜の海。
 波の音だけがよく聞こえる。

 大きな灯りを落とした部屋で、日課の手入れをする相棒。
 赤黒い斧槍の刃を丹念に磨き、その切れ味を保つ。

 小さな背中は、下ろされた髪に隠されている。
 赤い灯りに照らされて、動くたびにきらきらと揺れる。

 僕は僕で楽器の手入れを終わらせて、荷物の整頓をしていた。
 あと数日はかかるが、こまめに整理しておかないとね。


 隣の国も言葉は通じるみたいだし、文字は少し違うけど、最低限の知識は入れておかないと。
 相棒はその辺どうなのかな、頭は良くないから覚えるのは難しいかな。

 まあ言葉が通じるならどうとでもなるか。


 しかし、海の向こうが本当にあるんだなあ。
 見た事が無いから、まるでおとぎ話みたいな感じだ。


572 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:07:41 J1xcvgz20

爪'ー`)y‐「ツーンちゃん」

ξメ⊿゚)ξ「んー」

爪'ー`)y‐「これ捨てる?」

ξメ⊿゚)ξ「何それ」

爪'ー`)y‐「水着」

ξメ⊿゚)ξ「置いといて」

爪'ー`)y‐「はーぁい」

爪'ー`)y‐

爪'ー`)y‐「左目だけって不便?」

ξメ⊿゚)ξ「距離感は掴みにくいわね」

爪'ー`)y‐

ξメ⊿゚)ξ「何か眼鏡みたいなのは貰ったけど、苦手なのよねこれ」

爪'ー`)y‐「つけといたら?」

ξメ⊿゚)ξ「失った視力を補う魔道具とか怖くない?」

爪'ー`)y‐「うんまぁ謎原理だけど」


573 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:09:54 J1xcvgz20

ξメ⊿゚)ξ「何かつけた感じ気持ち悪いし……」

爪'ー`)y‐「視力の良い人間がつけたらどうなるんだろ、貸して」

ξメ⊿゚)ξつ「ん」

爪∩ー`)「よいしょ」カチャ

ξメ⊿゚)ξ「どうよ」

爪%ー`)y‐「…………」

ξメ⊿゚)ξ

爪%ー`)y‐「視界が360度全方位カバーした……」

ξメ⊿゚)ξ「ぅゎ」

爪∩ー`)「酔うこれ」

ξメ⊿゚)ξ「ね、気持ち悪いでしょ」

爪'ー`)y‐「気持ち悪いわ……」


574 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:11:27 J1xcvgz20

爪'ー`)y‐「でも、距離感掴みにくいのに大丈夫?」

ξメ⊿゚)ξ「どうとでもなるわよ」

爪'ー`)y‐「……なら良いんだけどさ」


 平気そうな顔してるけど、片目に負荷をかけるのはつらいって分かってるよ。

 君は最近よく頭が痛そうにするし、一人の時に手を伸ばして物を掴む練習もしてる。
 手をかざして自分の視野を調べたり、見えなくなった右側に対して警戒して。

 戦士として、それは大きな足かせになるだろうに。
 そして失った右目は、もう戻せないのに。


 どうして君は、平気そうにしていられるのかな。


 何かを喪う感覚が、どんなにつらいか。
 君も僕も、それを知りすぎてしまっている。

 いろんな物をうしなって、いろんな物を手にして。
 僕らは今、ここまで歩いてきたんだから。


575 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:13:15 J1xcvgz20

爪'ー`)y‐「ねぇツンちゃん」

ξメ⊿゚)ξ「何よ今度は」

爪'ー`)y‐「船旅だと女の子買えない」

ξメ⊿゚)ξ「だから船乗りは海の生き物を人魚と錯覚したり男同士に走るらしいわよ」

爪'ー`)y‐「やめてよ知ってるけど知りたくないよ」

ξメ⊿゚)ξ「あんた見映え良いからその辺の男引っ掛けてきなさいよ」

爪'ー`)y‐「やーだーよーぉ!! 僕は可愛い女の子と良いことしたいの!! 男を抱く腕は無いの!!」

ξメ⊿゚)ξ「あ、そっち側なのあんた」

爪'ー`)y‐「ツンちゃん膝枕」

ξメ⊿゚)ξ「おぞけが走るな」

爪'ー`)y‐「他の客に手を出すには船は狭いからヤバいの!」

ξメ⊿゚)ξ「ここまで知ったこっちゃない話があるだろうか……」

爪'ー`)y‐「お膝」

ξメ⊿゚)ξ「あーもーうるさいうるさい、分かった分かった」


576 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:14:35 J1xcvgz20

 得物の手入れが終わり、道具を仕舞って手を拭く。

 そして相棒は、座る僕の膝に頭を置いた。


爪'ー`)y‐

ξメ⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐「ちがうくない?」

ξメ⊿゚)ξ「膝枕ではあるが」

爪'ー`)y‐「ちがうくない……?」

ξメ⊿゚)ξ「あんたは文句しか言わない」

爪'ー`)y‐「あれれぇ……?」


 見上げるはずが見下ろす羽目になった綺麗な金髪。
 くるくると柔らかな手触りのそれに指を絡める。

 鬱陶しそうに眉は寄せているが、腕を組んだまま黙っている。

 何だろう、立場がおかしい。


577 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:16:29 J1xcvgz20

ξメ⊿゚)ξ「ところで狐よ」

爪'ー`)y‐「はい」

ξメ⊿゚)ξ「あんたこの状態になって何をしたかったの?」

爪'ー`)y‐「いやー……この状態を求めていたわけじゃないからなぁ……」

ξメ⊿゚)ξ「私に膝枕されて楽しい?」

爪'ー`)y‐「楽しくはない」

ξメ⊿゚)ξ「私に膝枕して楽しい?」

爪'ー`)y‐「楽しくない」

ξメ⊿゚)ξ「あんたの膝は固い」

爪'ー`)y‐「男の膝はだいたいこうじゃないだろうか」

ξメ⊿゚)ξ「先生はもうちょい柔らかかったわ」

爪'ー`)y‐「君まさかアラフォーに膝枕させたのかい」

ξメ⊿゚)ξ「日常的にしてるらしいわよ」

爪'ー`)y‐「あー……子供いっぱい居るからなぁ……」


578 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:18:05 J1xcvgz20

ξメ⊿゚)ξ

爪'ー`)y‐

ξメ⊿゚)ξ「歌え」

爪'ー`)y‐「今は子守唄のストックが無いです」

ξメ⊿゚)ξ「プロだろ捻り出せ」

爪'ー`)y‐「プロだけど出ない時は出ません」

ξメ⊿゚)ξ「えー……」

爪'ー`)y‐「と言うか寝るつもりか……膝で……」

ξメ⊿゚)ξ「暇なんだけど……」

爪'ー`)y‐「何で膝枕してるんだろう……」

ξメ⊿゚)ξ「知らんわ……」

爪'ー`)y‐「やっぱ食堂にでも行こうか……」

ξメ⊿゚)ξ「出禁」

爪'ー`)y‐「君さぁ」

ξメ⊿゚)ξ「ビュッフェが悪い」


579 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:21:09 J1xcvgz20

爪'ー`)y‐「ツンちゃんさぁ」

ξメ⊿゚)ξ「ん」

爪'ー`)y‐「僕の事好き?」

ξメ⊿゚)ξ「えっ気持ち悪っ」

爪'ー`)y‐「僕はツンちゃんの事だぁい好きだよぉ?」

ξメ⊿゚)ξ「うわ気持ち悪っ」

爪'ー`)y‐「ツンちゃんそれ照れ隠しでは無く素で言うから色気も可愛げも無いんだよ?」

ξメ⊿゚)ξ「事実をありのまま伝えてるから」

爪'ー`)y‐「もーぉーかーわーいーくーなーいーぃ」

ξメ⊿゚)ξ「あーうっさいうっさい、もう下りるわ」

爪'ー`)y‐「いやもうちょい」

ξメ⊿゚)ξ「楽しんでんじゃねえの膝枕」

爪'ー`)y‐「退屈は凌げる」


580 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:22:45 J1xcvgz20

爪'ー`)y‐「ツンちゃん口悪くなったなぁ」

ξメ⊿゚)ξ「ヒールのお陰かしら」

爪'ー`)y‐「んもーあのややブス」

ξメ⊿゚)ξ「ややブスに罪は無いわよ」

爪'ー`)y‐「気の強いとこはほんとソックリなんだから」

ξメ⊿゚)ξ「そうかしら」

爪'ー`)y‐「似てる似てる、まったくもー」

ξメ⊿゚)ξ「……似てると言えば」

爪'ー`)y‐「ん?」

ξメ⊿゚)ξ「デレは両親によく似た角だったわ」

爪'ー`)y‐「うんうん」

ξメ⊿゚)ξ「私はあの、ひ…………お母さんに、髪は似てると思うし」

爪'ー`)y‐「きっと顔立ちはそっくりなんだろうねぇ」


581 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:24:33 J1xcvgz20

ξメ⊿゚)ξ「あんたは、分からないの?」

爪'ー`)y‐「僕は親の顔なんて知らないしなぁ、自分が金髪だって事もなかなか気付かなかったし」

ξメ⊿゚)ξ「……でも、誰かの血を受け継いだからその色なんでしょうね」

爪'ー`)y‐「娼婦とごろつきの間に生まれたのかも知んないけど、まぁそうだろうね」

ξメ⊿゚)ξ「でも私、あんたの髪好きよ」

爪'ー`)y‐「ほんとー?」

ξメ⊿゚)ξ「ええ、バナ……いや、えー……色、良い色ようん……あの……あー……バナナ……うん」

爪'ー`)y‐「完全にバナナ扱いしたね? バナナなんだね?」

ξメ⊿゚)ξ「表現が……表現がちょっと……バナナ……」

爪'ー`)y‐「バナナ……」

ξメ⊿゚)ξ「目も綺麗な青だし」

爪'ー`)y‐「話題をバナナからそらしたね?」

ξメ⊿゚)ξ「空より海の方が近いかしら」

爪'ー`)y‐「バナナを無かった事にしようとしてるね?」


582 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:25:36 J1xcvgz20

ξメ⊿゚)ξ「あんたが女受け良い理由は私にだって分かるもの」

爪'ー`)y‐「あ、ちゃんと理解はしてたんだね」

ξメ⊿゚)ξ「時々ブッサイクだけど」
  _,
爪#'Д`)y‐「イーケーメーンーでーすーぅ!!」

ξメ⊿゚)ξ「いやーぶっさいぶっさい」

爪'ー`)y‐「褒めたり貶したり……もー」

ξメ⊿゚)ξ「あんた人の事言えんの?」

爪'ー`)y‐「えー僕は賛辞に特化してますよぉ?」

ξメ⊿゚)ξ「ほぉ」

爪'ー`)y‐「君の髪はまるで月の光を紡いだように美しいねとか」

ξメ⊿゚)ξ「詩的だ……」

爪'ー`)y‐「君の瞳は輝石すら曇らせる程に深く澄みきらめく翠緑だとか」

ξメ⊿゚)ξ「詩的だ……」

爪'ー`)y‐「君の肌は天鵞絨よりもなめらかで絹よりもすべらかで」

ξメ⊿゚)ξ「もう良い怖い」


583 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:26:53 J1xcvgz20

爪'ー`)y‐「ここからが本番ですよ?」

ξメ⊿゚)ξ「もう良いもう」

爪'ー`)y‐「女の子を表現するのによく言うのは、立てば芍薬 座れば牡丹」

ξメ⊿゚)ξ「歩く姿はカリフラワー」

爪'ー`)y‐「それ好き」

ξメ⊿゚)ξ「好き」

爪'ー`)y‐「君の場合、立てばホームランバー 座れば雪見だいふく 歩く姿はメロンボールかな」

ξメ⊿゚)ξ「語呂わっるいなおい」

爪'ー`)y‐「王将アイス?」

ξメ⊿゚)ξ「意外と売ってない」

爪'ー`)y‐「デレは 立てばパナップ 座ればうまか棒 歩く姿はビエネッタ……」

ξメ⊿゚)ξ「語呂良いなビエネッタ……」

爪'ー`)y‐「僕は?」

ξメ⊿゚)ξ「立てばきつねうどん、座ればいなり寿司」

爪'ー`)y‐「歩く姿は」

ξメ⊿゚)ξ「やんやんつけぼー」

爪'ー`)y‐「何でだ!!!」


584 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:27:39 J1xcvgz20

爪'ー`)y‐「あーもう! 僕はこんな色気も汁気もない会話をしたいんじゃないの!」

ξメ⊿゚)ξ「楽しんでただろ……」

爪'ー`)y‐「面白い感じにするのやめて!」

ξメ⊿゚)ξ「誰よ最初にしたの……」

爪'ー`)y‐「君だよ!」


 膝の上で悪態をつく相棒の頭を軽くぺしぺしと叩く。

 そうだよこんな愉快な感じにしたいんじゃない、もっとしっとりした感じが良いんだ。


 はあ。
 でもまあ、こうやって馬鹿みたいな会話出来るのも楽しくはあるか。

 少し前なら、こんなに気を抜けなかった。
 きっとお互いそうだろう。

 油断しきって、気を抜ききって。
 相手をなにもかも委ねられるなんて。


 そんなの、考えたことも無かったな。


585 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:28:57 J1xcvgz20

 溜め息混じりに金の巻き毛をくしゃくしゃとかき混ぜると、相棒は不機嫌そうだがなすがまま。
 口を開くと気味が悪いだの気色が悪いだの、本当に色気も何もあったものじゃない。

 だけれどまあ、こんな相棒だからこそ僕は今でも旅をしているのだろう。
 色事に無縁で、真面目な癖に自制は効かず、何でも背負いたがる頑固者の偽善者。

 この可愛いげの無い可愛い相棒も、先日の母親の件ではずいぶんと参っていた。
 今では落ち着いたように見えるが、決着がつくまで時間を要するだろうな。


 何だかんだと、この子の赤裸々な部分を聞く羽目になった。


 なら、僕も少し話そうかな。


 外から流れ込むは波の音、掬いきれない水の音。
 部屋を包む、ゆらゆらぐわぐわ静かな揺れ。

 海の真ん中に浮いているのだと思うと、妙にわくわくするような、心細く感じるような。
 胸の奥が落ち着かず、揺れる船のように波に翻弄されるので。


爪'ー`)y‐「ツンちゃん」

ξメ⊿゚)ξ「ん」

爪'ー`)y‐「暇だから、昔話しよっか」


 暫しの間を置いた相棒は、黙ってポケットから銅貨を取り出した。


586 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:29:55 J1xcvgz20

 あれは少し前だけれど、何年前かは覚えてないな。
  (適当なのね。)

 僕が不死者になって、人生初の死を迎えた話さ。
  (何で覚えてないのよ。)

 その時の僕がどんな感じだったか、君には僕の死を知っていてほしいから。
  (重い。)

 さ、茶々入れはここまで、ここからは口を閉ざして僕の死と痛みと苦しみを聞いておくれよ。
  (わーたのしみー。)



 まず、あの人が亡くなってから僕はもう自暴自棄そのものだった。
 生きる理由が生きる事、やさぐれながらも娯楽を求めて生きていた。

 だって僕の希望でもあったあの人はもう居ない。
 僕は生まれが卑しい粗末な命、染み付いた臭いも汚れも完全には拭えない。

 あの人の期待も温もりも愛情も踏みにじるみたいに、クソ溜めみたいな生き方をしてた。
 ただあの人を裏切った自分が、そんな生き方を変えられない自分が嫌いだったんだよね。

 だから、別に長生きなんて出来なくて良いと思った。
 あの人に掬われた命だけど、少しの間は人間として生きられたから。

 もう良いやって、どうせ最初から汚いんだって、卑屈になってね。
 今でも卑屈? マシになった方ですぅ、良いから口閉じなさい。


587 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:31:04 J1xcvgz20

 だから危ない事もいっぱいしたし、法も山ほど犯したし。

 それでも捕まらなかったのは、きっと何だかんだで生きたかったからかな、本能で逃げ切ってたのかも。

 僕は計算だと思ってたし、そんな駆け引きも楽しいからだと思ってた。
 でも君を見てると、本能でギリギリのリスク回避してただけな気がする。
 痛いつねらないでちぎれる。


 まあ僕は見映えが良いから。
 僕は見映えが良いから、利用する事も出来た。 大事な事だよ。

 便利に使えるこの見てくれにだけは、顔も知らない親に感謝したもんさ。
 まあ見られない顔の方が早く死ねるだろうから結果的に良かったのかもしれないけど。

 顔が良ければ女は寄る。
 女で遊ぶのは一番手っ取り早くて簡単な娯楽だ。

 娼婦やら情婦やら、どんな女にも手を出したし、嫌がる女も居なかった。
 尻は軽いが頭の良い女ばかり選んだからね、まあ面倒も起きたけど。

 ん、何その目。 女をなんだと思ってんだって顔?
 あのね、これはお互い様なの、向こうもリスク背負って理解して遊んでたの。
 君には分かんないだろうけど、僕を連れ歩く事が彼女たちのメリットでもあったんだからね。


588 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:31:56 J1xcvgz20

 ごほん。
 で、まあ派手な女遊びをしてれば命はわりと狙われるよね。
 気に食わないだの人の女に手を出しただの、間男の宿命だよね。

 そんな状況も楽しいと思ってた。
 楽しいとは今でも思うけどさ、まあ命賭ける程では無いかなぁ、死なないけど。


 生きてて楽しいと思い込むしかなかったのかもね。
 楽しく生きてんだから楽しいに決まってるって。

 睨まれたり殴られたり蹴られたり。
 詐欺みたいな事して人の女抱いて。
 殺されかけたり逃げ延びたり。

 リスクも楽しい、駆け引きも楽しい、誰かの優位に立てて、蹴落として、欺いて。
 楽しくて楽しくてしょうがない筈なのに、一人になって楽器を見ると、なぜだか生きるのが嫌になった。

 僕はどうして生きてるんだろう。
 こんな事の何が楽しいんだろう。
 あの人に申し訳ないと思わないのか、裏切って踏みにじってこれで良いのか。


 だから僕は、一人が嫌いだった。
 一人の夜なんて耐えられないから、余計に人肌を求めた。


589 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:33:29 J1xcvgz20

 そんな時だね、ある魔女に手を出したのは。

 今となっては出会い方も顔も覚えてないし、興味は無いけど。


 いつものように手を出して、いつものように逃げ出した。
 一晩だけ楽しむつもりだったけど、相手を間違えたよなあ、怒られちゃってね。

 それで、僕は呪いを受けました。
 輝かしいくらい自業自得だよねぇ、笑える。

 最初はどんな呪いかわかんなくてね、大した事無いし平気だと思ってた。
 確かまじない言葉は「このものにとわのこどくあたえひきさきたまえ」だっけな。



 んで呪い受けてしばらく経った頃にね、うっかり街道で盗賊に襲われたんだ。

 うっかり一人で夜になってさ、夜営の準備してたら囲まれてね、脇の森の方に追い立てられて。

 荷物も服も剥ぎ取られるし、殴られるわ蹴られるわ、痛かったなぁアレ。

 代わる代わる僕を殴ったりして、首絞めたり、ああアレもあったかな、ほら目を。

 ん? 聞きたくない? まあまあ聞こうよ。


590 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:36:25 J1xcvgz20

 何もない街道だったから、娯楽にも餓えていたんだろうねあの人たち。
 その数日は女の子も通らなかったみたいで、余計に鬱憤が溜まってたみたい。

 ツンちゃんはさ、娯楽ってどんなのがあるかわかる?


 ご飯? うんそうだね。

 遊び、まぁ一番がそれだね。

 女、そうだね、さっき言ったよね。


 他にもあるんだ、色々ね。
 例えばね、そう、ふふ、わかった?


 暴力だよ、ツンちゃんがよくやるやつ。


 処刑、あるじゃん?
 あれってさ、見る側からすれば娯楽なんだよね。


 ふふー、僕がどうなったか、察したかなー?

 じゃあ正解を教えるね、耳を塞がないの。


591 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:37:21 J1xcvgz20

 正解は、拷問からの死でしたー。


 まず動けないようにさ、脚を折るんだ。
 両足を潰したら腕も片方潰す、抵抗がもう出来ない状態だね。

 そこからはさ、死ぬまでおもちゃになるだけだよ。
 もう金品も何もかも奪われてるから、生きてる間は暇を潰す道具になるんだ。

 叫んだところで誰にも聞こえないから、喉は潰されなかった。
 でもこっちの目を潰されたよ、外からね、押し潰してた。

 残ってる片腕で逃げようとするけど、それはわざと残してあった腕なんだよね。

 僕が必死に這って逃げようとするのを笑うため。
 そしてその腕を潰して絶望させるため。

 そうしたら、もう手足も役に立たないからさ、逃げられないわけじゃない。
 舌を噛む前に猿轡を噛ませると思うでしょ、違うんだよー、歯を全部砕くんだ。 殴って。

 ガキの頃に拷問慣れは確かにしてたけど、あの頃はさすがにキツかったなぁ。


 なーにツンちゃん、聞きたくなさそうな顔。

 ダメだよ、ちゃんと聞いて。
 僕がどんな無様な死に方をしたのか、ちゃんと聞いてて。

 僕は君に、全部教えておきたいんだよ、ツンちゃん。


592 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:39:22 J1xcvgz20

 うん、ふふふ、そんな怖い顔で聞かないでよもー。
 昔の事なんだから、ほら続き話すよ?


 えーとそうだな、ぼろ雑巾みたいになったんだったね。
 二日くらいかな、そのままぐちゃぐちゃにされてたのは。

 僕はもう死んでるような状態だった。
 浅く呼吸してたまに呻くだけの肉のかたまり。

 そうなるともう遊べないからさ、始末するわけ。
 あの人達が回復魔法使えなくて良かったなー、使えてたら本当に地獄だったかも。


 僕はもう要らないおもちゃだからさ、適当に潰して適当に捨てるんだ。
 腹にね、ここ、ナイフ突き立てて、谷底に蹴り落とされた。


 腹を裂かれた時にさ、ああやっと死ねるんだって思った。
 二日の拷問が苦しかったってのもあるけど、それ以外のすべてから解放される。

 もうあの人を、おばあちゃんを裏切らなくて済む。

 もうこんなクソみたいな人生から抜け出せるんだ。

 もう訳のわからない孤独も焦燥感も苦しみも味わわずに済むんだって。


593 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:39:56 J1xcvgz20

 死にたくなかった。
 でもやっと解放される。

 死んだ後の行く先は違うだろうけど、おばあちゃんに謝りたい。
 わざわざ助けてもらったのに、僕はこんなクソみたいな生き方しか出来なかった、ごめんなさいって。


 寒くて眠くてもう痛みも感じなかった。
 そうしたら谷底に叩き付けられて、意識は途切れた。


 なのに僕は、目を覚ましたんだ。
 谷底で、裸で、何も持たない状態で。

 傷は無くて、周りには僕が飛び散った痕跡と、何かに食い荒らされた痕跡。
 ぐちゃぐちゃだった体は元通りで、傷一つありやしない。

 何かの間違いだと思ったよ。
 死後の世界か、夢を見てるんだと。

 でもね、それは現実だった。
 まだ近くに居た犬みたいな魔物に襲われてね、食い荒らされて死んで分かったんだよ。


 死にたくないって本能で感じてたんだろうけど、僕はずっと早く死にたがってたんだろうね。

 死ねないって知った時は、結構絶望したよ。


594 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:40:59 J1xcvgz20

 何度も自殺して、蘇って、理解しちゃったんだ。
 終わらないんだって、僕はこのクソみたいな人生から、逃げ出せないんだって。

 化け物として、ずっと人間より下の生き物として生き続けなければいけない。

 怖くて怖くて、おそろしくて、もうどうすれば良いかなんて分からなかったよ。
 そしてそれが呪いだと気付いたのは、もう自暴自棄になって落ち着いた頃だった。


 僕は魔女の呪いで、死ねない化け物になってしまった。

 死ねないのなら、好きに生きれば良い。

 どうせ死ねないんだから、みんな捨てて生きよう。

 もう生きていると言って良いのかも分からないような状態で。

 周りに寄るのはろくでもない連中ばかり。
 類は友を呼ぶね、人を人だとも思わないような奴らばかりだった。


 それからしばらくしてからだよ、ツンちゃん。

 僕は、君と出会えた。


595 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:43:17 J1xcvgz20

 そこからは全部話したから、もう良いよね。

 これでも君には感謝してるんだ。
 もちろんデレにも、僕を人間らしい生き物にしてくれた。


 ほんとはね、もう疲れてたんだよ。

 楽しい事を少しでも見つけて、それを生きる糧にしてきた。
 でもさ、もう疲れてたんだ。

 今後も、僕のせいで君に迷惑をかけると思う。
 それでも君は、許してくれるかな。


「ねぇ狐」


 はい?


「盗賊は、どうなったの」


 さあ? 知らないけど、


596 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:44:05 J1xcvgz20

「あんたは、どうしてこんな話を私にしたの」


 言ったでしょ、僕の死に様知ってて貰いたかったから。


「延々とグロ話聞かされた身にもなりなさいよ」


 あはは、慣れてるでしょそれくらい。


「あんたが平気ならまぁ良いけど」


 ん?


「初めて死んだ時の事は、私だって思い出したくない」


 ツンちゃんもなかなか凄惨だったみたいだねぇ。


「あんなの、もう御免だわ」


 普通は死んだらそれまでだからね。


597 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:44:38 J1xcvgz20

 僕はさ、死に慣れたゾンビ野郎でさ。

 気味の悪い、呪われた化け物なわけじゃない。

 それでも君たちはね、何だかんだで僕を生かしてくれたんだ。

 化け物みたいなものだとしても、人間として扱われるのは嬉しい。

 だから、もうこれからは卑屈にならなくて済むんだなって。


「……そうね」


 過去の事なんてもう良いやって、言えるようになってきたから。

 ツンちゃん、ありがと。


「気持ち悪いわね」


 ひっどーい。


598 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:45:33 J1xcvgz20

 あー、でもアレだなぁ。


「何よ」


 おばあちゃんから貰った指輪があったんだよね

 それも、初死で取られたんだよなぁ。


「…………」


 まあ、今となってはもうどうしようもない事さ。


「大切な物、奪われてたのね」


 んー、まぁ昔の事だからね。


 「そう」


599 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:46:15 J1xcvgz20

 ぎし、と勢い良く相棒が僕の膝から起き上がり、床へ降り立つ。

 そしてベッドに腰かけたままの僕を見下ろして、それはそれは、それはもう怖いくらいの真顔で。


ξメ⊿゚)ξ「戻らなきゃいけないわね」

爪'ー`)y‐「へ?」

ξメ⊿゚)ξ「やる事が出来たから、南の島はお預けよ」

爪'ー`)y‐「えっ、待ってツンちゃん」

ξメ⊿゚)ξ「船員に話してくるわ、途中だけど戻るって」

爪'ー`)y‐「ツンちゃん? ツンちゃん??」

ξメ⊿゚)ξ「何よ」

爪'ー`)y‐「あの、まさか君……お礼参りするつもりじゃないよね……?」

ξメ⊿゚)ξ

ξメー゚)ξ「私はね、」




 「怒ってるわ、とても」


600 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:48:06 J1xcvgz20

 背筋が凍るような笑顔で、僕の相棒は誰かの死刑宣告をした。

 ああ言い出すと絶対にきかない頑固な相棒さんは、船員に話をしに行き、僕は苦笑しながら荷物を片付ける。

 はぁ、やっと新天地に行けると思ったのに。
 次の船が出るのはいつだろうなぁ。


 とは言え、僕の相棒はやっぱり僕が大好きなようだ。

 可愛いところもあるじゃない。
 色っぽさは皆無だけど、こんなのも悪くないよなぁ。



 ──── なんて思ったのはこの時だけで。



 その後、人が増えて大きな団になっていた事で指名手配され、
  生死問わずの討伐依頼まで出るようになった盗賊達の七割が五体不満足ないし死亡。

 五体満足で生きている者は心に深い傷を負い、金髪や緑の目を持つ少女に怯える羽目になった。


 そして、その全てが一人の少女の手によるものだと言う情報は瞬く間に広がり。

 盗賊達の間で、「緑の瞳をした盗賊殺し」の噂は恐怖の対象として語り継がれてしまったのだが。



 ま、それはまた別のお話ってやつで。

 僕の小指には今、懐かしい指輪がはまっている。



 おしまい。


601 : ◆tYDPzDQgtA :2017/06/04(日) 21:49:09 J1xcvgz20
ありがとうございました。
今回で予定していた投下が全て終わりました。

完結後もお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。
物語としては取り敢えず終わりですが、
 でもまあまた何か三年くらいしてから次のシリーズ書く可能性もあります。
その際は適当に付き合ってやって下さい。

それでは、これにて失礼!



まとめて下さってます、ありがとうございます。
ttp://naitohoureisen.blog.fc2.com/blog-entry-271.html

シリーズ作である塔・旅はこちらから読めます
読みにくいなどありましたら言って下さい
ttp://oppao.web.fc2.com/text_smp.html


602 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:57:05 PJoMuSzk0
楽しかったよおつおつ


603 : 名無しさん :2017/06/04(日) 22:26:39 QHlWwEN.0
ξメ⊿゚)ξちゃんってばかっこいいなぁ!おい!


604 : 名無しさん :2017/06/04(日) 23:38:20 r5/zJ.GI0

この作品ほんと大好き


605 : 名無しさん :2017/06/05(月) 06:07:36 rfV7rSqo0

ツンちゃん格好良くなったよな


606 : 名無しさん :2017/06/05(月) 09:19:14 6K.3qhVE0
狐えっぐち
ツンちゃんカッコよすぎだろ好き
おつ


607 : 名無しさん :2017/06/05(月) 11:35:04 wYxBTHtQ0
乙、おっとこまえだなあ


608 : 名無しさん :2017/06/05(月) 12:03:22 ea1rPCsE0
正直フォックスの指輪の話が出た時にもしやとは思ったけど案の定www
いやー、ξメ⊿゚)ξさん男前ですなぁwww
フォックス=ヒロイン
ツン=ヒーロー
デレ(小)=マスコットだな


609 : 名無しさん :2017/06/06(火) 15:50:01 sGclEsFI0
一連のシリーズでタイトルに法則性があるのがキレイだよね
番外は縦読みで「あいたい」になるし


610 : 名無しさん :2017/06/06(火) 16:25:18 4lnXWP2g0
>>609
まじかよ


611 : 名無しさん :2017/06/06(火) 16:34:11 OaT5nEeE0
あ!遺体!か…
今回の盗賊たちのことだな!


612 : 名無しさん :2017/06/06(火) 20:35:28 p.zmVkfA0
うわああああああ遅れたけどおつううううううううううう
今回で終わりとかマジかよお次も楽しみにしてるよお


613 : 名無しさん :2017/06/11(日) 08:41:11 WQ5orDuc0
番外も本編も面白かったなあ
もうなんか、この狐とツンちゃんの旅路すごい好き


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