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('A`)は撃鉄のようです
あたしカウガ…ちょっこの……
__
ヽ|__|ノ ンモォォォォォ
/||;‘‐‘) __)_, ―‐ 、
)\_ヽ____ /・ ヽ  ̄ヽ
\/> ` ^ヽ ノ __( ノヽ (´⌒(´。
/ ` // ̄ ̄ // (´⌒;;;´´。゜
`
(^ω^)前スレもくじ(^ω^)
第一話〜第十五話
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1364742199/976
第十六〜第二十四話
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1416213171/439
第二十五〜三十一話
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1416213171/971
('A`)まとめ('A`)
http://bundanao.web.fc2.com/mokuzi/gen/gekitetu/gekitetu.html
http://boonzone.web.fc2.com/gekitetu.htm
≪1≫
ドクオと顔付きの男が戦い始める、その数時間前。
メシウマ各所で激しい戦闘が繰り広げられる最中にまで、時は遡る。
(´・_ゝ・`)「……」
ステーションタワー、最上階。
盛岡デミタスが敵と交戦していたその空間は、とっくに静けさを取り戻していた。
(; ν )「……ご、ふッ……!」
(´・_ゝ・`)
床に転がっている男はデミタスの恩師・ニュー。
彼の高校時代の担任であり、命の恩人であり、ある一件の後いきなり消息を絶ったクソ野郎。
彼がメシウマという辺境の地まで来るはめになった原因の男は、ついさっき、デミタスの手で打倒されていた。
(´・_ゝ・`)「お前、弱いなあ」
(; ν )「……た、対策済みだった癖に、なにを……」
.
ニューが持つ能力の名称は【マニュアルデストロイヤー】。
これは思考を経た行動すべてに対する無敵能力だが、対するデミタスの能力は毒。
ニューの能力は確かに強力ではあるが、デミタスの能力なら、何も考えず適当に毒物を撒き散らしてるだけで勝ててしまう。
最初から、相性的に勝敗は決していたのだ。
(; ν )「こ、この、毒……死ぬ……」
(´・_ゝ・`)「……ああ、まぁ筋弛緩剤みたいなもんだよ。
能力で多少手を加えたから簡単には死なないが、三十分で死ぬ」
(; ν )「嘘だろ、即死級だろコレ……!」
(´・_ゝ・`)「お前が気絶したタイミングで解毒してやるから安心しろ。
長い話もあることだ。ゆっくり腰を据えて、鉄格子を挟んで語り合おうや」 ドスッ
デミタスはニューの背中に腰を下ろし、カンパニー制服の上着から携帯電話を取り出した。
掛ける相手は各地で戦闘中の仲間達。その一人目は、三回のコールで通話に出た。
(´・_ゝ・`)「ようジョルジュか。そっちどうだ」
『あ、俺か? 勝った勝った。俺んとこの敵は拘束したぜ』
電話の相手・ジョルジュ長岡の第一声は呑気なものだった。
とっ捕まえた敵が暴れているのか、声の後ろに乱暴な物音が聞こえる。
(´・_ゝ・`)「あー、よくやった。他の連中はどうしてる?」
『……それ俺に聞くか? 聞くなら指令室だろ』
(´・_ゝ・`)「現場の意見のが貴重だ。俺達は実働部隊なんだぞ」
.
電話越しの沈黙が数秒。
ジョルジュは声色を変え、冷徹に言った。
『……ってえ事なら、ツンの所が一番やべえな。
俺も戦闘中に通信を聞き流してたんだが、モナーさんがやけに手こずってるらしい』
(´・_ゝ・`)「……」
『俺は増援に行くつもりだ』
(´・_ゝ・`)「……分かった。俺も一緒にモナーさんとこに行く。お前は下で待ってろ。
そのついで、指令室にタワーの全隔壁を降ろすよう言っといてくれ」
『隔壁……? まぁよく分かんねえけど分かった!
手応えなくて暇してたとこだしな、待ってるぜ!』
自分から通話を切り、デミタスは静かに腰を上げた。
(´・_ゝ・`)「……さて」
( `ー´)
振り返り、敵の顔をはっきりと目に焼き付ける。
( `ー´)「急がせてしまったかな」
(´・_ゝ・`)「……まあ、少しは」
.
男が現れたのはジョルジュに電話をかけた直後だった。
とつじょ閃光が展望フロアに出現し、彼はその中から歩み出てきた。
ニューをここに連れてきた瞬間移動の能力者とは別の、薄茶のロングコートの男だった。
( `ー´)「……ここは見晴らしが良い。
戦況把握には、もってこいだ」
(´・_ゝ・`)「……」
男は壁一面のガラス窓に近付き、観光にでも来たような油断しきった笑みを浮かべた。
(´・_ゝ・`)「……おい、あいつ何者だ」
デミタスは床のニューを見下ろして質問した。
しかし体をまともに動かせないのか、ニューはデミタスの問いに答えられなかった。
デミタスはやれやれと呟いて片膝をつき、ニューの前髪を掴みあげて頬を引っ叩いた。
善意からくるその行動のおかげでニューは意識を取り戻し、男の姿をしかと捉える事ができた。
(´・_ゝ・`)「あれ誰だ」
(; ν^)「……ありゃあ、うちのボスだな……」
(´・_ゝ・`)「……どおりで。嫌な予感がした」
ニューの前髪を手放し、デミタスは一歩前に出た。
男の双眸は、今も街をじっと見つめていた。
( `ー´)
(´・_ゝ・`)
俯瞰できる街の風景には、一連の戦闘による確かな破壊の痕跡が見て取れた。
音はさほど届いてこないが、タワー自体の微震が戦いの鮮烈さを直に伝えてくる。
.
(´・_ゝ・`)「ここに来たのは、司令塔を叩くためか?」
デミタスが声を張って男に呼びかける。
男は街を見下ろすその笑みを保ったまま、穏やかにデミタスと向き合った。
( `ー´)「……特別キミを狙いに来た訳ではない。
とりあえず、高所から街を見ておこうと思っただけだ」
( `ー´)「私達の仲間には感知能力者が居なくてね。
いちおう私自身がそれに近い能力を持ってはいるが、どうも苦手で上手くない」
( `ー´)「だからこうして街を目視し、脳内に地図を構成するのが手っ取り早い。
作った地図には、目に見えた人々の動きを書き込んでいる」
(´・_ゝ・`)「……なんだそりゃあ。規模はデカいが、やってる事がアナログだな」
( `ー´)「誤差は補完しうる程度だ。問題無い」
デミタスは言葉の最中に考えていた。
荒巻不在の今、敵の筆頭たるこの男を自分一人で相手にすべきか。
それが出来るほどの実力が自分にはあるのか、足止めですら満足には出来ないのではないか。
(´・_ゝ・`)(……やべえな……)
しかし表情にはこの狼狽を一切見せない。
あくまで互角、そういう雰囲気を保つため、鉄面皮を維持し続ける。
.
( `ー´)「荒巻からは、私達の事をどのくらい聞いている?」
(´・_ゝ・`)「……結果的正しさの為に、悪の過程を踏む連中だと」
(; `ー´)「なっ」
(´・_ゝ・`)
(; `ー´)「……参ったな、思いのほか的を得ていた」
男は呆気なくデミタスの言い分を受け入れ、気恥ずかしそうに目を逸らした。
( `ー´)「……では目的の部分はどう聞いている。
大雑把に言えば、私という個体は世界平和を目的としているが……」
(´・_ゝ・`)「タナシン関係の事か? それはあんまり。
そこら辺、そもそも理解するつもりがなくてな」
(´・_ゝ・`)「世界中にごまんと能力者が居る時代だ。今更この世の危機なんか高が知れてんだろう。
そういうのは当事者同士、解決出来る奴でやってくれ」
( `ー´)「……であれば、私と君が争う理由は無い、と思うのだが」
(´・_ゝ・`)「……そうだな。俺とアンタが戦ったとこで状況は変わらない」
( `ー´)「……和平は私の本望だ。
君となら、その話し合いも問題なく出来そうだ」
.
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「……話し合い?」
( `ー´)「ああ。話し合いだ」
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「……まあ、それはそうだな」
(´・_ゝ・`)「それは、そうだが」
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「さておき」
敵との和平が掛かった大事な話を、デミタスはその一言で片付けた。
(´・_ゝ・`)「ところで俺はこのクソ野郎を探しにここまで来た」
デミタスはニューを一瞥、死に体のニューをつま先で軽く小突く。
(´・_ゝ・`)「……いや、ほんと荒巻はいいエサになってくれた。
のらりくらりと気に入らないジジイだったが、この巡り合わせには感謝だ」
( `ー´)
(´・_ゝ・`)「まさにキューピッド」
彼は、真顔でそう言った。
.
(´・_ゝ・`)「“あの一件”は俺にとって人生最大の汚点だ。
言い逃れできないほど呆気なく負けて、死んで、しかも敵に助けられた」
デミタスの手中でペンライトが光り輝く。
久し振りの描写でお忘れかもしれないが、今作の超能力には人工の光が必要不可欠なのであった。
(´・_ゝ・`)「忘れたとは言わせねえぞ。
あの時、俺の命を救いやがったのはてめえだな?」
( `ー´)「……よく覚えていたな」
(´・_ゝ・`)「命の恩人様がやってくださった事で、ございますから」
光はデミタスの超能力に変換され、実体をもって現実に具現する。
足元に湧き上がる紫色の液体。
ごぽごぽと音を鳴らしながら広がるそれは、毒性を孕んだ致死の粘液。
(´・_ゝ・`)「余計なお世話を焼かれるっていうのは、心底死ぬほど不愉快だ」
一滴で百人を殺しうる猛毒の水溜り――やがてそれは、女性を模した能力体となってデミタスの隣に立ち上がった。
毒液滴る紫の肉体。彼の能力・【毒の姫君(ポイズン・メイデン)】は、敵を見据えて静かに指示を待つ。
.
( `ー´)「……」
( `ー´)「やはり今回は、事後承諾にならざるを得ないか……」
開戦は直後。
しかしこの時、レムナントからステーション・タワーに向かってくる一人の男が居た。
男は次々と建物を飛び移りながら、高速でタワーに接近していた。
【+ 】ゞ゚)(……マニーの言った通りだ。街の連中が何かと戦っている)
右目に眼帯。
黒尽くめの服装と、個人的趣味全開の黒マント。
不可能を可能にする超能力を持つ男、棺桶死オサム。
彼は眼下に街の人間が避難していく様子と、それを庇うように展開されるカンパニー隊員の姿を見かけていた。
(‘_L’)
('、`*川
カンパニーが対峙している敵は二人。
既に一度交戦したのか、二人の周囲には幾人もの隊員が気絶し横たわっている。
オサムの目にも彼らは十分に強敵だった。
よほどの能力者が応援に来ない限り、ここの戦闘は確実に敗北で終わるだろう。
しかしオサムの目的地はここではない。
今、この街でもっとも異様な気配を放っているのはスターション・タワーなのだ。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――同日、レムナント。クソワロタのホテルにて。
¥・∀・¥「間もなく大きな戦いが起こる」
ドクオ離脱後、マニーとオワタは彼と入れ替わるようにダディクール一行に加わっていた。
ドクオが抜けてしまった以上、ダディ達はもう関係者とも無関係とも言えない曖昧な立ち位置にあった。
現に彼らの情報は 『レムナントがカンパニーに攻め込まれる』 という段階で止まっている。
言ってしまえば彼らはもはや物語の蚊帳の外。
しかし、だからこそ。マニーにとって、彼らには十分な利用価値があった。
|(●), 、(●)、|「……大きな戦いというのは、制圧作戦ではないんだよな」
¥・∀・¥「それについては言っただろう。ただの嘘っぱちだと」
マニーは一人用のソファに腰を沈め、趣味の手巻きタバコを作りながら続けた。
¥・∀・¥「さっき荒巻が素直クールを連れてこっち側に来た。
これを好機と見て敵が動き出すだろう。壁の向こうはたちまち戦場だ」
.
(,,゚Д゚)「そりゃあ、やべえなぁ……」
ノパ⊿゚)「……なぁ」
ギコとヒートは制圧作戦の真相を知って以来、露骨にやる気を失っていた。
彼らは床に座って二人でババ抜きをしていた。もう全部どうでもよかった。
¥・∀・¥「ま、お前らが出てきてもクソの役にも立たん。
この場のメンツで真っ向からあれと戦えるのは私と、」
【+ 】ゞ-)
¥・∀・¥「……棺桶死オサムだけだな。他はまったく相手にされんだろう」
(,,゚Д゚)「あっそ」
|(●), 、(●)、|「なあ、次から私も混ぜてくれよ」
ノパ⊿゚)「次からなー」
目的意識を喪失した一行はマニーの煽り文句に大した反応を示さなかった。
そうなるのも必然。そもそも彼らは同一の目的があったからこそ手を取り合えたチームなのだ。
その目的がなくなれば自然消滅は時間の問題、いずれ一人ずつ好きな方向に進み始めるだろう。
.
¥;・∀・¥「……分かった分かった、正直に言うよ」
出来上がったタバコをケースに収め、マニーはソファにふんぞり返った。
¥・∀・¥「貴様ら、金で雇われる気はないか?」
(,,゚Д゚)「ヤだよめんどくせえ」
ノパ⊿゚)「どうせ小銭だろ。余所あたんな」
¥・∀・¥「8桁は出す」
ノパ⊿゚)
ノパ⊿゚)「ダディ、8桁ってどれぐらいだ?」
|(●), 、(●)、|「100万円がいっぱい」
ノパ⊿゚)
瞬間ヒートは勢いよく立ち上がり、トランプを床に叩きつけて叫んだ。
ノハ#゚⊿゚)「テメェら仕事だ!! 腹ァ括れ!!」
(,,-Д-)「……現金なヤツ……」
.
(,,゚Д゚)「……ま、割のいい仕事なら俺らもやらねえ事はない。
とりあえず内容を教えてくれよ」
¥・∀・¥「うむ。仕事は簡単だ、共に戦ってほしい。
敵は一人。それの足止めをしたいのだが、私一人では力不足でな」
(,,゚Д゚)「……お前が自信家なのは見てて分かる。
そんな奴が “俺じゃあ力不足だ” と認める理由はなんだ?」
¥・∀・¥「人生オワタがそれを見た。
私が敗北し、全てが敵の思惑通りに運ぶ未来だ」
マニーはそっぽを向き、不服そうに鼻を鳴らした。
¥・∀・¥「至極不愉快だが人生オワタの能力は本物だ。
予言された以上、私はそれの対策を講じねばならん」
|(●), 、(●)、|「人生オワタは確か……未来予知に近い能力者だったな。
だったらば、この戦いの結末もすでに知っているのでは?」
¥・∀・¥「もちろん知っている。だが、今回の人生オワタはそこまで必死ではないのだ。
奴がとっくに身を隠しているのがその証拠。今居る役者でどうにかできる、という事だよ」
.
¥・∀・¥「とりあえず安心しろ。
奴の予言では、この戦いで貴様達が死ぬ事はないらしい」
¥・∀・¥「安心安全、一人につき8桁万円。
これほど良い仕事は他になかろう?」
足を組んで不気味に微笑む。
マニーはダディクール達を一望した。
ノハ#゚⊿゚)「アタシはやるぞ!」
(,,゚Д゚)「……ま、俺も暇だしな」
快諾は二人。
返答を渋ったダディは、沈黙を保ったままのオサムに視線を投げかけた。
【+ 】ゞ-)「……死ぬ事はないとは言ったが、そうなる為の条件があるだろう」
¥・∀・¥「確かにある。お前達が一人でも欠ければ死者が出る」
Σ(;,,゚Д゚)「おい、それを先に言えよ!!」
|(●), 、(●)、|「……一蓮托生という訳か。分かった、巻き込まれよう」
【+ 】ゞ゚)「俺は報酬で監獄を建て直す。あそこは住み心地が良いからな」
(,,゚Д゚)「あ、それなら俺も出費させろ。俺も住みたい」
¥・∀・¥「――諸君の善意に感謝する」
¥・∀・¥「全身全霊、世界の為に戦おうではないか」
マニーは心にもないその一言で、彼らとの交渉を終えた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――いざ二人が戦おうという直前に駆けつけた棺桶死オサム。
彼はより力を込めて地面を蹴り上げ、タワー頂上に達するほどの超跳躍をしてみせた。
( `ー´)
(´・_ゝ・`)
【+ 】ゞ゚)(カンパニーの制服、あっちに加勢すればいいんだったな)
ガラス越しに二人の顔を確かめたオサム。
オサムはどこぞから引っ張ってきた光から超能力・【インジャスティス】を発動した。
不可能を可能にするこの能力に加え、彼の眼帯は異物と呼ばれる超能力を有した代物だ。
異物による肉体強化&ちょっとした瞬間移動と、超能力による不可能返し。
これらをもって攻略不可能な敵はまず居ない。マニーの高い評価に見合う、強力な布陣である。
【+ 】ゞ゚)(……マニーに言われるだけはある。敵の男、不可能の塊だ)
超能力を発動した今、オサムの脳内には『不可能』と『可能』を明確に区別するシステムが存在していた。
ひとつの可能性を想像すると、そのシステムが反射的にそれが可能であるかを判断。
不可能であれば超能力が発動し、オサムの思った通りに不可能は可能に上書きされる。
.
態勢を整え、再度顔付きの男を目視する。
異物による肉体強化は既に臨界点。空気を蹴ればそれだけで二人の間に飛び込める。
オサムは構えて眼前を睨む――その時、ほんの一瞬ではあったが、オサムは顔付きの男と目が合った。
( `ー´)
【+ 】ゞ゚)
見られ、認識された。
ほんのちょっと一瞥されたその直後、棺桶死オサムが下した判断は
【+ 】ゞ゚';)(――――ッ!) バッ!!
逃走であった。
.
身を捩り、あの場に向かうはずだった体を真逆の方向に急転させる。
空中を蹴ってあとは自由落下。
オサムはすぐさま適当な建物に着地し、ステーション・タワーの頂上を見上げた。
【+ 】ゞ゚;)「はあ、はあ……ッ!」
ドクン、というはっきりした鼓動が高鳴る。
それをかき消すように音を立てて固唾を飲み、オサムは目を見開いて思考する。
理解も考察も追い付かない。それでもオサムは今された事に対し、しどろもどろにでも言葉を充てる他なかった。
【+ 】ゞ゚;)(嘘だ、あの一瞬で出来る訳がない!)
【+ 】ゞ゚;)(しかし現に……。いや、あまりに異常過ぎる……!)
【+ 】ゞ゚;)(……あの男、俺を一瞬見ただけで分かったのか……!?)
――オサムの能力・インジャスティスには明確な弱点があった。
それはそもそも 『可能』 である行動に対して、この能力が一切の意味を持たない事である。
もちろんこれだけではまだ弱点として機能しない。
最初から敵が攻略可能なら、単にその可能性を起点に敵を攻略していけばいいだけの話。
つまり 『攻略可能ならそのまま倒す』、『攻略不可能なら超能力で倒す』 という二択こそが棺桶死オサム最大の武器。
しかし、その攻略法は単純明快――“肉を切らせて骨を断つ”。
敵に相打ち覚悟のカウンター主体で立ち回られた場合――攻略可能な状態を保持された場合、両者の状況は殆ど五分と言っていい。
その先は体力勝負。互いに対策を打ち合い、体力を削りあうジリ貧勝負が始まるのだ。
.
――顔付きの男は、相打ちという言葉を死に直結させていた。
【+ 】ゞ゚)
( `ー´)
オサムと彼が目を合わせた一瞬の出来事。
男は完全無欠の防御状態をすべて解除し、あらゆる方法をもって殺害可能な無防備状態になっていた。
瞬間、オサムの脳内には何十通りもの可能性が浮かび上がった。
そして同時に、 『可能だが、殺される』 という答えまでが見え透いてしまったのだ。
棺桶死オサムは超能力をもって自身の死を覆す事ができる。
だが蘇生には時間が掛かり、そのあいだ、今度はこちらが無防備な状態を晒す事になる。
顔付きの男がそのタイミングで何もしない訳がない。
オサムの超能力は確実に彼を蘇生させるが、それは決して五体満足を約束するものではないのだ。
両手足や臓物が無かろうと、ただ生きることだけなら出来てしまうのだ。
それこそ彼は、生きる屍という言葉が当てはまる体にされてしまうに違いない。
【+ 】ゞ゚;)
――こんな風に能力を読み解かれ対策されるにせよ、あまりに呆気なさ過ぎる。
不可能を可能にする能力がここまで簡単に看破されるなど、今まで絶対にあり得なかった。
過小評価を改める。マニーが仲間を求めた理由が、今になってようやく実感できた。
.
【+ 】ゞ゚;)(……追って来ない。カンパニーの男が足止めしてるのか?)
それか、最早敵視する程の脅威ではないと判定されたか。
汗を拭い、固唾を飲んで苦笑う。
なまじマニーからも戦力として期待されていた分、オサムはこの状況を自嘲せずにいられなかった。
【+ 】ゞ゚;)(今は逃げ帰るしかないか……)
【+ 】ゞ゚;)(……だが、起点は作ったぞ)
腑抜けた体に力を入れ、オサムはおめおめとマニー達のもとへ逃げ帰っていった。
.
――場所は戻り、ステーション・タワー最上階。
オサムの介入がなくなった事で、オサムVS顔付きの男はそのまま戦闘が始まっていた。
(´・_ゝ・`)「……なんだよ、話に聞いてたより手応えねえぞ」
( `ー´)「……ああ、完全に失敗した。
私はさっき、彼を追うべきだったらしい」
どちらにとっても意外な事に、この場の戦況はほぼ五分だった。
原因はまさに先程の棺桶死オサム――彼の目的は、顔付きの男を倒す事ではなかったのだ。
( `ー´)(あの眼帯男への対策は、彼以外との戦闘では単なる欠点にしかならない)
( `ー´)(彼が能力を解かない限り、私はあらゆる手段で殺害可能な存在である事を強いられる訳か……)
( `ー´)(……やってくれたなマニー。
強さだけなら荒巻だが、敵にして厄介なのはお前の方だ……)
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「おい何様、俺は眼中に無いか?」
声をかけられ、顔付きは目の前の戦闘に意識を戻した。
顔付きは油断していた。
たとえ無防備な状態を強いられた所で、別に自己回復・蘇生能力が禁じられた訳ではない。
毒が回った所でそれを治せばいいだけだし、死んでも別に意味は無い。
棺桶死オサムによって微塵の可能性が生まれただけで、この戦いはそもそも勝負になっていないのだ。
.
( `ー´)「……すまない。少し、反省していた」
(´・_ゝ・`)
( `ー´)「キミ達は私が思っていた以上に“敵”だった。
これでも敬意を評しているんだよ。だからもう、遊び半分はやめる事にした」
( `ー´)「……ニュー先生、約束を反故にする事になって申し訳ない」
顔付きは片隅に転がるニューに向かって謝り、次にデミタスに片手を差し出した。
青年期、あの事件で一度は完全に死亡した盛岡デミタスを蘇生させたのは顔付きの能力――
顔付きからすれば、それはかつて貸したものを返してもらうという当然の行為だった。
顔付きは、差し出した片手をギュウと握りしめた。
(;´・_ゝ・`)「――ッ!?」 ガクッ
途端、デミタスの心臓に激痛が走った。
彼は思わず膝をつき、ポイズンメイデンも意図せず消滅してしまった。
胸に穴が空いたような致命的な喪失感。
( `ー´)「私が君に与えた命は、今ここで返してもらう」
(;´ _ゝ `)「ごふっ、フッ……!」
あの日、顔付きの男に生殺与奪の権を握られた時点でデミタスの戦いは終わっていたのだ。
デミタスの意識はどんどん薄く、遠くなっていく――
.
(; ^ν^)(――【マニュアルデストロイヤー】!!) ダッ!!
風前に晒された灯火。
それを助けに入ったのは、猛毒を解毒されてすっかり元気になったニューだった。
(; `ー´)「――何のつもりだ!?」
(; ^ν^)「約束をナシにしたのはお前だろ! あとは自由にさせてもらう!」
(; `ー´)「馬鹿な――我々の理念には賛成していたはずだ!」
彼の能力・マニュアルデストロイヤーは思考を経た行動に対する完全無敵能力。
顔付きがデミタスの命を奪い切る寸前、その能力が顔付きの干渉を完全に断ち切っていた。
(; ^ν^)「さっさと逃げ道作れ! 二度目はねえぞ!」
(;´ _ゝ・`)「……メイデン、ガラスを溶かせ……ッ!」
ニューに抱えられたデミタスはポイズンメイデンの溶解液をガラスに発射する。
途端、展望室の強化ガラス全体に致命的な亀裂が走り、壁一面のガラスは真っ白に変質した。
(; ^ν^)「着地知らねえからな!」 ダッ!!
(;´ _ゝ・`)「下に部下が居る、大声で叫べ……ッ!」
ニューはそのままガラスをぶち破り、身体二つで地上1000メートルの空中に飛び出していった。
.
( `ー´)「……やれやれだ」
( `ー´)「本当、私は人望が無い……」
ニュー達が飛び出していった空を見つめ、顔付きはしばし佇んで息を整えた。
それから数分、彼は携帯電話を取り出して画面を操作し始めた。
利用するのは某SNS。各々戦闘中で忙しいから電話には出られないだろう、という彼なりの配慮だった。
γ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽ
| このメッセージに気付いた人から帰って良し | 既読:2
乂 __________________ノ
γ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
| 後は私が全てやる。夕飯をよろしく頼む | 既読:2
乂 ________________ノ
( `ー´)「……よし、っと……」 ゴソゴソ
男は瞑目し、街の気配と脳内地図を照らし合わせてカンパニーの面々を特定する。
彼の目的はミルナ素直クールの奪取であるが、メシウマという街の住民を“回収”する事も今回の目的に含まれていた。
( `ー´)「人望……人望が無いのは辛いな……」 ボソッ
独言の最中、男もまた、展望室から姿を消した。
.
≪2≫
――ところ変わってメシウマ市街、スクランブル交差点の中心地。
四方八方に展開済みのカンパニー隊員達は、その中心地に銃口を向けて身構えていた。
だがそれは攻撃の為ではなく、戦闘の余波を市民に及ばせない為であり――
( ><) 「……今の通知は何でした?」
( <●><●>)「全員帰っていいんだと。予定を省いたのかな」
( ><)「え、じゃあもう回収し始めるんです? ……嫌だなぁ」
(; ´∀`)
――大仰にも“特記超能力保持者”と呼ばれるモナーが、全力で戦闘に臨む為だった。
( ><)「こんな中途半端にやっちゃった所、カッコ悪いんです……」
.
*(;‘‘)*「ツンさん、モナーさんの回復を!」 ザッ!!
ヘリカル沢近はツンとモナーの前に立ち、二人を守るように力強く拳を構えた。
ξ;゚⊿゚)ξ「すぐ治しますッ!」
(; ´∀`)「……あいつら強いモナ。二人が居なければ早々に負けてたモナ」
モナー、ヘリカル、ツンの三人はそれぞれ役割を分担してこの戦闘に臨んでいた。
回復役のツンを守りながらモナーが敵二人を相手にし、その間ヘリカルは徹底的に不意打ちを繰り返す。
真っ向勝負を最初から捨てたこんな戦法を取ってようやく互角。しかし、それも長くは続きそうになかった。
ξ;-⊿゚)ξ「……くっ」 フラッ
ツンの回復能力の対価は『能力者自身の睡眠』。
だが戦闘中の睡眠という自殺行為など出来るわけもなく、彼女の眠気は間もなく限界だった。
(; ´∀`)「……二人とも、ここはもう僕一人で受け持つモナ」
*(;‘‘)*「そんなの駄目です! 応援が来るまで持ち堪えるくらい、私にも出来ます!」
(; ´∀`)「逆だモナ、君達が余所の応援に行くんだモナ。
ツンちゃんの回復能力をここで使い切る訳にはいかないよ……」
*(;‘‘)*「……駄目、駄目ですってば…………」
.
モナーの超能力は 【挑戦者(チャレンジャー)】。
十人の小人戦士を具現化し、戦闘経験を積ませる事で無限に強くなっていく能力。
この能力が持久戦において最強を誇るのは周知であり、それは荒巻すらも認めている事実。
敵がどれだけ強かろうと、モナーの能力はいずれ確実にその強さを超えていくのだ。
しかし今度は敵が悪過ぎた。デミタスに対するニューのように、相性が最悪だった。
全力戦闘の用意は整っているのに、モナーの能力は未だその強さを発揮出来ずにいる。
( ><)「……どうする、帰ります?」
( <●><●>)「どうしよっか。倒してもいいのは分かってるけど……」
敵である二人の少年の能力は、ハッキリ言って次元が違った。
ビロードとワカッテマス。
まだ十歳にも満たない少年二人は、敵集団 『顔付き』 の中でも一際特異な存在だった。
( <●><●>)「どうするんだよ。時間掛けられないぞ」
(; ><)「……と、とりあえず倒すんです! 半端なのはカッコ悪いんです!」
ビロードが取り繕うように黒い手甲に覆われた右手を振り上げる。
その手甲には鋭く長い鉤爪がついており、超常の物であると誇示するような強い威圧感があった。
( <●><●>)「……お前だけじゃ長引くだけだ。もう俺もやるからな」
今度はワカッテマスが左手を構える。
色違いだが、彼もビロードと同種の白い手甲を装着していた。
.
(; ´∀`)「――もう庇いきれないんだモナ! いいから下がれ、命令モナ!」 ダッ!
怒号と同時、モナーの周囲に十人の小人戦士が出現する。
剣士四人、格闘家一人、狙撃兵五人の部隊構成。
モナーは彼小人戦士と共に駆け出し、ビロード達に先制攻撃を仕掛けた。
ξ;゚⊿゚)ξ「ヘリカルちゃん、下がるわよ!!」
*(;‘‘)*「うう……」
ξ;゚⊿゚)ξ「急いで!」
*(;‘‘)*「……くっ!」
ヘリカルはツンを抱きかかえて踵を返す。
最早モナーを見返る事もなく、ヘリカルは全力で地を蹴り疾走した。
(; ><)「き、来たんです!」
( <●><●>)「まずお前からだろ」
(; ><)「分かってるんです! ちゃんとやるんですよ!」
( <●><●>)「それこそ分かってる。さっさと行け」
(; ><)「もうちょい言い方ってもんがあると思うんですけど!」 タッ
.
(; ´∀`)(黒い方が来た!)
モナーは寸で踏み止まり、前方に狙撃兵五人を並べライフルを構えさせた。
その防衛線を飛び越えて残り五人の小人戦士が攻撃に向かう。
剣士四人は左右に分かれ、格闘家は真正面からビロードに挑む。
( ><)「――――」
しかしビロードの視線はモナーを捉えたまま離さない。
自身を取り囲んだ小人戦士すら眼中に無いのか、その足は真っ直ぐモナーに向かっていた。
(; ´∀`)(今なら隙だらけだが……ッ!)
最初にビロードを攻撃したのは格闘家の小人戦士。
格闘家は拳を構えると同時、細やかなステップでビロードの懐に潜り込んだ。
ベストポジションを取った格闘家は即座に跳躍し、完璧なアッパーカットでビロードの顎先を打ち抜いた。
――しかしビロードに触れた瞬間、格闘家はその実体を霧のようにかすめ、消し飛ばされてしまった。
ここまでの戦闘でも既に数十体、小人戦士は同様の現象をもって敵に消滅させられていた。
これがビロードという少年の能力なのは間違い。だが、モナーは未だその正体を掴めていない。
(; ´∀`)(小人戦士は触れたら消滅! ヘリカルちゃんの攻撃も彼の体をすり抜けた!)
(; ´∀`)(起こった現象はそれだけだけど、攻略の糸口がまるで見えない――!)
.
(# ><)「隙だらけですよ!」
ビロードはあっという間に四人の剣士を蹴散らしてモナーに差し迫る。
狙撃兵達が一斉射撃で迎え撃つも、これもはやり効果が無い。
(; ´∀`)(こっちの攻撃が通じないなら出来る事は時間稼ぎ!)
(; ´∀`)(僕のスタミナが切れるまで、小人戦士でこの子達を足止めするモナ!)
モナーは狙撃兵を戻して小人戦士を再構成する。
今度は盾兵三人に槍兵が七人。防御とスピードに特化した組み合わせだ。
(; ><)「またそれですか! 懲りなさすぎなんです!」
( <●><●>)「お前がバカなんだよ。俺が本体やりに行く」
(; ><)「あっ! ちょっとー!!」
ワカッテマスがビロードを飛び越してモナーの眼前に着地する。
その瞬間、間髪入れずに槍兵達が彼を急襲した。
四方と空中からの同時刺突、その攻撃に逃げ場は無かった。
.
オーバーノウズ
( <●><●>) 「――【β・over knows】」
ワカッテマスの体に白い雷鳴が迸る。
直後、彼は左手の鉤爪で空中を一閃。
当て所なく振るわれたその一撃で、攻撃を仕掛けた槍兵達は一人残らず吹き飛ばされてしまった。
(; ´∀`)(こいつも――強いのか――ッ!)
吹き飛ばされた槍兵は残らず消滅。
しかし今度のはビロードがやった強制的な消滅と違い、『槍兵の体力が尽きた』というシステム的な消滅だった。
つまり、今の攻撃分だけでも戦闘経験は蓄積できていたのである。
ワカッテマスの強さもまた脅威的であったが、その分チャレンジャーのレベルも一気に跳ね上がってくれた。
(; ´∀`)(レベル上げが出来るなら……ッ!)
( ><)「なんか笑ってるんです」
( <●><●>)「マズったかな」
瞬間、ビロードとワカッテマスが地を蹴った。
狙いは迷わずモナーの心臓。
.
(; ´∀`)「盾兵撤収! 剣士と狙撃兵をランクアップして召喚!」 ダッ
モナーは小人戦士を再召喚して駆け出した。
剣士と狙撃兵は一段回成長し、それぞれ双剣士とガン=カタ使いに姿を変えていた。
彼の勝ち筋は最短の手筋でチャレンジャーのレベルを上げ、二人よりも強くさせる事。
この戦いで効率よくレベル上げをするならば、モナーは自分を囮にして近距離戦に耐え続けるしかなかった。
( <●><●>)「あれは『未知』だぞ」
( ><)「分かってます」
(; ´∀`)(とにかく二人を引き離して別々に相手取る!
状況を作ってからじゃないと確実に負けるモナ!)
しかし、そんなモナーの思惑を知ってか知らずか、二人は付かず離れずの距離を保ったまま近付いてくる。
ワカッテマスを狙おうとすればビロードと位置を入れ替え、こちらに的を絞らせない。
現状の有利不利は明確。それを自ら崩すほど、ワカッテマスとビロードは愚かではなかった。
(; ´∀`)「〜〜〜〜ッッ!!」
間隔はあと僅か。相手には消滅という必殺の一手。
対してこちらは未だ準備段階、おまけに敵の能力も詳細不明のまま。
勝機の芽を徹底的に摘むような二人の戦い方は、やはり、モナーに後手と劣勢を強制し続けていた。
.
(; ´∀`)(――この糞ガキ共が……ッ!) ズザッ
モナーはまたも踏み止まって後ろに跳躍。
二人を引き離せないなら戦術は無意味だ。無理にやってもこちらが致命の一撃を食らいかねない。
勇んで出た手前業腹だったが、モナーは小人戦士を盾にして彼らとの攻防を回避した。
(‘_L’)「――いや、その行動は『ダウト』だ」
(; ´∀`)「――――」
Σ(´∀` ;)「――なッ!?」 バッ!
振り返った瞬間、モナーの頭部を何者かの手が鷲掴みにする。
視界に映るは二つの人影。
(‘_L’) (;;;Q_A;;;)
新手の敵と、その男が具現化した人型の能力体。
今この瞬間まで、モナーは敵側の増援が来る可能性を完全に見落としていた。
(´∀` ;)(――てことは、もう誰かが負けて――)
一瞬の浮遊感、次いで天地が逆転する。
咄嗟に小人剣士を引き戻すも、既に手遅れだった。
.
(‘_L’)「相手が悪かったな」
(‘_L’)「ま、そうなるよう仕組んだのだがね」
その言葉の次の瞬間、能力体はモナーを頭から地面に叩き付けた。
衝撃はアスファルトを容易に砕き、周囲数メートルに亀裂を走らせる。
(; ∀ )「――――」
人体が受けきれる限界を超えた一撃に、モナーは言葉無く意識を喪失していた。
彼を守ろうと全速力で戻ってきていた小人戦士達も、モナーに手を伸ばしながら完全に消滅した。
(‘_L’)「……随分手間取ったね、二人共」
(; ><)「……フィレンクトさん」
ビロードがたどたどしく呼び掛けに答える。
フィレンクトと呼ばれた男は初老の男で、ディーラーのような格好をしていた。
(‘_L’)「まぁいいさ、尻拭いの一つや二つ気にしないよ。
ところで連絡は確認済みかな?」
( <●><●>)「見ました。あと、戦闘が長引いたのはビロードが調子こいたからです」
(; ><)「ち、違うんです! 余力を、……そう! 余力を残そうとしたんです!」
(‘_L’)「……残りは彼が蹴散らして終わるだろう。
もう帰るよ、この街に用はないんだから」
フィレンクトがビロードとワカッテマスの背中を押して歩き出す。
すると程なくして彼らの前に光の扉が出現し、彼らはその中に入って姿を消した。
――そして、消えていたのは彼らだけではなかった。
スクランブル交差点を囲んでいたカンパニー隊員や、さっき倒れたモナーまでも。
この場に居た人間は全て、一人残らずどこかに行ってしまった。
残されたのは静寂と無機物。あらゆる生命を喪失した街に、風は吹かなかった。
.
≪3≫
*(;‘‘)*(急げ、急げ……!)
ξ-⊿-)ξ …zZZ
モナーと別れて別の戦闘に応援へ向かうヘリカルとツン。
ツンは既に睡眠に入り、次の能力使用に向けて体力回復に努めていた。
*(;‘‘)*(一番近いのは1さん、1さんなら大丈夫だと思いたいけど……!)
GPSで1さんの位置を確かめ、そこへ最短で向かう為にヘリカルは裏道に駆け込んだ。
裏道を進んでいくと、道中カンパニー隊員が昏倒して地面に倒れている姿が多く目についた。
残酷なようだが彼らを助けている余裕は無い。敵の急襲に適応出来る人間は限られているのだ。
「……こ、この先で、別の部隊が戦闘を……」
意識を保っていた隊員がそう言ってヘリカルを呼び止める。
ヘリカルは一瞬立ち止まって振り返り、根拠もなく 「後は任せて」 と答えた。
*(;‘‘)*「――ッ!」
途端、激しい銃声が空気を劈いた。
ヘリカルが再び駆け出していく姿を、その隊員は力のない笑みで見送っていた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
*(;‘‘)*「――状況教えて下さい!」
銃声が高鳴る方へと走っていくと、ヘリカルは街のゲームセンター前にカンパニー隊員達が集まっているのを発見した。
彼女はすぐさま彼らに駆け寄り、ここで起こった事を尋ねた。
怪我人の手当てをしていた者が一人、ヘリカルの問いに答える。
「とんでもなく強い格闘家が現れて、これを全て……」
*(;‘‘)*「今は誰が戦ってるんですか?」
「1さんと能力者の隊員達が十名程、ですが劣勢です……!」
*(;‘‘)*「……1さんが、負けてる……?」
こっちの最大戦力が立て続けに苦戦している。
その事実に思わず力が抜け、ヘリカルはツンを落としそうになる。
ξ;゚⊿゚)ξ「うおっ」ビクッ!
*(;‘‘)*「あ、ごめんなさい」
ξ;゚⊿゚)ξ「……あ、そう。着いたのね……」 キョロキョロ
目を覚ましたツンは立って背伸びをし、ゲームセンターを見上げた。
ツンに状況を伝えると、彼女も同じように驚いて言葉を失っていた。
.
*(;‘‘)*「――とにかく突っ込みます!
格闘家が相手なら私にも心得があります!」
ξ;゚⊿゚)ξ「……今度は私も前に出る。手数が足りなさ過ぎるもの」
ツンには回復能力に加えてもう一つ能力があった。
かつてドクオに致命傷を与えた事もある剣士を具現化する能力、双決闘(ツイン・デュエリスト)。
これを使えば彼女も戦闘に参加出来るものの、ヘリカルは首を振って彼女の参戦を拒んだ。
*(;‘‘)*「ツンさんの役割は回復です。そっちに専念して下さい」
ξ;゚⊿゚)ξ「……それでもついていくわよ。
ここで負けたらモナーさんの負けにも繋がっちゃうもの」
((( )))
(メ´Д`)「――あれ、お二人とも」 ヒョッコリ
と、覚悟を決めて中に入ろうとした所で1さんが表に出てきた。
彼の後ろには負傷した隊員達。1さん自身も多く傷を負っていたが、動けなくなる程の消耗はないようだった。
*(;‘‘)*「あ、……終わった、んですか?」
((( )))
(メ´Д`)「いえ逃げられちゃいました。用は済んだとか何とか言ってましたね……」
出てきた負傷者達が他の隊員達に連れられ武装車両に担ぎ込まれていく。
その様子を見つつ、1さんは呟いた。
((( )))
(メ´Д`)「……酷なようですけど、敵が強すぎて並の能力者じゃ相手になりませんでした。
しかもこっちの相手は超能力者戦に特化した格闘家。見事に苦手分野を当てられた」
*(;‘‘)*「私達も同じです。モナーさんの能力が全然機能しなくて、それで……」
ξ;゚⊿゚)ξ「1さん、とりあえず治しますから……」
1さんが「ああ、ごめんね」と応えると、彼はツンの能力で傷を回復していった。
.
*(;‘‘)*「ともかく1さんが無事で良かったです
一緒にモナーさんの所に戻りましょう!」
((( )))
( ´Д`)
((( )))
( ´Д`)「……いや、無事じゃあ済まなかった」
そう言い、1さんは腰の鞘から刀を抜き取ってヘリカルに見せた。
ただしその刀身は半ばで途切れており、つまり、刀として完全に死んでいた。
*(;‘‘)*「…………」
((( )))
( ´Д`)「敵に直刀後光を折られました。
戦えないとは言いませんが、もう役に立てるかどうか……」
折られた刀を鞘に戻し、1さんは苦笑う。
*(;‘‘)*「……でも、」
そこまで言いかけてヘリカルは言葉に詰まった。
1さんを加えて戻ったとして、それで戦況は変わるだろうか。
答えは否。ヘリカルは俯き、口を閉ざす。
((( )))
( ´Д`)「……僕は一旦この街を離れます。八頭身と合流しなければ……」
ξ゚⊿゚)ξ「その人も、確か剣士よね……」
((( )))
( ´Д`)「ええ。今は郊外ですが先程呼び戻しました。迎えに行ってきます」
.
武神と1さんお墨付きの剣士・八頭身。
彼らが来れば少しは持ち直せるだろうが、しかし1さんは顔色を良くしなかった。
1さんはふうと息を吐いてから、宥めるように言い切った。
((( )))
( ´Д`)「……モナーさんは後に回します。
他の隊との合流を優先し、火力を集中して敵を各個撃破していきましょう」
((( )))
( ´Д`)「個人的にはデミタスさんが心配だ。
気配からして、一番強いのがデミタスさんの所に――」
――言葉の最中、遠くの空に爆炎が立ち上った。
ξ;゚⊿゚)ξ「――!」
*(;‘‘)*「――!」
((( )))
( ´Д`)「……チッ」
この場の全員が絶大な爆発音に振り返り、赤色に照らされた街の様子を一望していた。
次いで爆風が彼らの全身を煽りたてる。1さんはぐっと踏ん張り、上空の爆発に目を凝らした。
_
(# ゚∀゚)「――ガアァァァァァァァァァァァッッッッ!!」
爆炎の中に小さな人影。僅かに聞こえる絶叫はジョルジュ長岡の声。
( `ー´)「――――」
ジョルジュの敵は一人。
彼らの戦いは爆炎を背に空中で繰り広げられ、風が止むと同時に決着していた。
( `ー´)「――――」
_
(; ゚∀゚)「――――ッ!?」
ネーノに背後を取られた瞬間、ジョルジュの姿が痕跡を残さずパッと消滅する。
それが死を意味するのかは分からないが、こちらの戦力がまた一つ削られてしまったのは確かだった。
.
『――――街に残ってる奴らに命令する!!』
ξ;-⊿゚)ξ「今度は何よ……!」
爆発が止まぬ中、街の至る所から総技研アサピーの声が聞こえてきた。
街の無線を全てジャックして放送しているその声は、インテリ気取りの彼らしからぬ焦燥に満ちていた。
『意識がある奴は全員撤退しろ! 街の外まで逃げろ!』
『デミタス達が奴を食い止めてる内に――!』
瞬間、さっきとは比較にならない巨大な爆発がアサピーの声をかき消した。
嵐の中に立たされたような強烈な風。だが、そんな中でヘリカルは一人走り出していた。
.
*(;‘‘)*「――私、モナーさんの所に……ッ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ、ヘリカルちゃん!」
((( )))
(; ´Д`)「追うな! 私達だけでも逃げ――」
1さんはツンを引き止め、周囲の隊員達に目を向けた。
彼らを連れて街の外へ――しかし、彼の視界にカンパニー隊員達の姿は一人として映らなかった。
((( )))
(; ´Д`)(居ない――いや、消えた!?)
激戦の火蓋は、既に落とされてた。もはや問答している場合ではない。
モナーはツンを担ぎ上げ、戦いに背を向け街の外へと疾駆する。
ξ;゚⊿゚)ξ「他のみんながまだ戦って――」
((( )))
(; ´Д`)「こっちにはまだ荒巻さんが控えています。
大丈夫、絶対に……!」
1さんは自分とツンにそう言い聞かせ、命令通り、全速力でその場から退避した。
.
( `ー´)「…………」
ネーノは一人、空より地上を俯瞰する。
そこに集うは百人にも達するカンパニーの最終戦力。
逃げずに残り、戦う事を決めた最後の砦であった。
(;´・_ゝ・`)「……こっちの戦力が勢揃いだ、滅多にない事だぞ」
(; ^ν^)「俺が知るかよ。さっきまで敵だったんだぞ」
(; ^ν^)「……敵だったからこそ言うけどよ、勝つのは無理だぜ」
(;´・_ゝ・`)「うるせえな……これが仕事なんだよ」
(; ^ν^)「……お前ゼッテー就活失敗してるからな……」
( `ー´)「――『既知の超越』、――『未知の否定』 」
ネーノが両腕を持ち上げ、二つの能力を同時に発動する。
それに対応出来た者は一人も居なかった。
何かが起こった――その認識すらままならない内に、メシウマの街を巨大な閃光が呑み込んだ。
.
.
≪4≫
――時系列はドクオと顔付きの戦闘が終わり、マニーと顔付きが対峙する時まで進む。
¥・∀・¥「――なのでまあ、これは足止めというよりは露払いだな」
¥・∀・¥「これから貴様を倒して荒巻に勝負を挑めば、私はこの街の有り金を全部使える」
¥・∀・¥「さすればいよいよ長きに渡る因縁にも決着がつくというものだ。
改めて宣言するが、貴様はその為の踏み台でしかない」
「……人間の性は、なぜこうも争いを求める……」
彼の言葉を聞き、顔付きの男は顔をそむけてそう言った。
人間味を喪失した青白い体と表情に、僅かな葛藤の色が浮かび上がる。
しかしマニーは一言で返した。
¥・∀・¥「分からんか? 貴様が私の敵だからだ」
結論はただそれだけ。
しかし顔付きの男自身も、戦いというものが結局その程度のものでしかないと納得していた。
「……それでも、私は私の役目を果たそう」
¥・∀・¥
最早、語る言葉すら無い。
巨大隕石を頭上に二人は身を構え、瞬間、その戦いは幕を開けた――――
.
(;,,゚Д゚)
(;,,゚Д゚)「ま、マジで俺らだけでやんのかよ……」
ノハ;゚⊿゚)「今更弱音吐くな! もうやっちまったんだぞ!」
|;(●), 、(●)、|「おいマニー、本当にいけるんだろうな!?
さっきのも結構火力出したんだぞ!?」
地上で固まっていた三人はギコ、ヒート、ダディの三人。
マニーは地面に着地して彼らに歩み寄ると、自作の手巻き煙草に火をつけた。
(;,,゚Д゚)「街は半壊、人っ子一人も残ってねえって何なんだ!?
そこに俺らが出てきて何なんだ!? ダメだ、意味が分かんねえ!!」
ノハ#゚⊿゚)「いい加減にしろ男だろ!! 腹ァ括れ!!」
¥・∀・¥「案ずるな案ずるな。この私が勝てない戦に出向くかよ。
私はこの後、荒巻も倒さにゃならんのだぞ」
ギコ達の喧騒を余所に煙草をふかして軽く笑う。
マニーは腕時計で時刻を確かめ、さらに不敵な笑みを重ねた。
¥・∀・¥「……ふむ、まぁそろそろか」
|;(●), 、(●)、|「……何かあるのか?」
¥・∀・¥「おうとも。ほおら、増援だ」
.
.∧_∧
( ´Д`)「……なんだこいつら。1さん知ってる?」
((( )))
( ´Д`)「……とりあえず、味方なら何者でもいいでしょう」
彼らの背後に現れたのは二人の剣士、1さんと八頭身だった。
ダディは二人とマニーの顔を交互に見返してから、マニーに「さっさと説明しろ」と言いたげな視線を送った。
¥・∀・¥「どうも、お二人さん。私は荒巻の古い友人でね、あれを倒しに来た」
¥・∀・¥「ついては諸君に足止めをお願いしたい。
私は身を隠し、不意打ちの一撃に集中するのでね」
(;,,゚Д゚)「――は?」
¥・∀・¥「そろそろ白騎士も倒される、あと隕石も降ってくるし頑張ってくれ」
¥・∀・¥「ではさらば」
(,,゚Д゚)「えっ」
直後、マニーの体は紙幣になって空に散った。
風に乗ったその紙幣は、凄まじい勢いでどこかに飛んでいく
マニーを除けば戦力はたった五人。しかも全員普通の能力者。
このメンツだけであれと戦えと言われても、ギコには一切の勝機が見出だせなかった。
(,,゚Д゚)(野郎、一人で逃げやがった……)
ギコは絶句し、喚く気力も湧かなかった。
.
バキィン、と空で何かが砕けた。
見上げると白騎士の顔付きの戦闘が決着し、白騎士の胸元が男の手に貫かれていた。
だが彼らにはそれ以上に、『隕石』というアホみたいな置き土産の方が問題であった。
.∧_∧
(; ´Д`)「……隕石か、来なけりゃ良かった」
マニーの置き土産は巨大隕石。
顔付きがどうこう以前に、このままだとマニーのせいで全滅しかねない。
( `ー´)「……」
顔付きの男が自分の顔を一撫でする。
すると彼の顔はふたたびネーノのものに戻り、そして彼は、ダディクールに視線を投げかけた。
( `ー´)
|;(●), 、(●)、|
この隕石は壊さないぞ、と。
知らないからな、と。
ネーノは、その双眸でダディに語っていた。
.
|;(●), 、(●)、|「――誰か名案をくれ! このままじゃ隕石で死ぬぞ!」 バッ!
ダディは急いで振り返って皆に助けを求める。
(;,,゚Д゚)「ヒート! てめえの能力で凍らせてくれよ!」
ノハ;゚⊿゚)「バッカ野郎! あんなん一瞬で凍結できる訳ねーだろ!」
この時点で役立たずが二人。
.∧_∧
(# ´Д`)「――ッ!!」
その時、八頭身の抜刀術が空に斬撃を撃ち放っていた。
異物 『大長刀・アハト』 が繰り出した斬撃は隕石に直撃し、僅かにその勢いを押し殺す。
拮抗は刹那。
次の瞬間、斬撃と隕石は互いの衝撃を打ち消し合うように空で弾け、あっさりと消滅した。
(゚Д゚,,;)「……マジか。アンタすげえな……」
.∧_∧
(; ´Д`)「いや、ダメ元でやったんだが、できちゃったな……」
八頭身はどこか違和感があるようだったが事実隕石は何とかなった。
砕けた隕石は紙幣に戻り、ひらひらと空を舞って地面に降ってくる。
.
( `ー´)「……お互い、面倒なのに目をつけられたな……」
ネーノがそう話しながら、ゆっくりと地面に下りててくる。
最早そこに敵意は無い。
彼らとの力の差を鑑みれば、ネーノが同情を思うのも無理からぬ事だった。
ノハ;゚⊿゚)「……剣士さんよ、マジで頼むぜ。
こっちは氷と炎と鉄屑の能力者だけなんだ……」
(#,,゚Д゚)「誰が鉄屑だ! ぶっ殺すぞ!」
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)「……けど、マジでそれだけだな……」
|;(●), 、(●)、|「頼むから弱気にならないでくれ、ただでさえ寄せ集めなんだから……」
((( )))
(; ´Д`)「いや、正直笑っちゃうほど絶望的ですけどね……」 チャキッ
立ち並ぶ五人はそれぞれ武器を手にした。
ダディクールは火炎を、素直ヒートは氷雪を。ギコは両腕に刃を纏い、1さんと八頭身も刀を構える。
.
.∧_∧
( ´Д`)「まぁ御託並べてたって始まらねぇよ。各々好きにやるとしようぜ」
|;(●), 、(●)、|「……名案だ。それでいこう」
ノハ;゚⊿゚)「結局ヤケクソって事じゃねーか!!」
( `ー´)「……悪いが、急いでるんだ」
ふと、ネーノが右手をギコに向けた。
(;,,゚Д゚)「ッ!! とにかく囲んでブッ叩くぞ!! 動け動け!」
その瞬間に五人はそれぞれ別方向に散開。
ネーノを包囲した直後、一斉に攻撃を仕掛けた。
だがその間も狙いはギコのまま。ネーノは最初の標的をギコに決めていたのだ。
(;,,゚Д゚)「俺からかよッ!」
( `ー´)「安心しろ、殺しはしな――」
途端、『ガキッ』という鉄の音がネーノの言葉を断ち切った。
((( )))
(; ´Д`)「かッたい……!」 ググッ
.∧_∧
(; ´Д`)「ンだこれ、斬れやしねえ……!」
ネーノの右手が力を発動する寸前、二人の剣士がネーノの首と胴を断ち切らんと渾身の一太刀をネーノに浴びせていた。
しかし刃はミリ単位ですらネーノの肌を傷つける事はできず、二人の攻撃は一瞬動きを止めただけに終わった。
.
(#,,゚Д゚)「十分だ! 俺が目ン玉ぶち抜いてやるぜッ!!」 ダッ!!
ノハ;゚⊿゚)「おい待て刀で斬れなかったんだぞ!? テメーのじゃ無理に決まって――」
ヒートの言う通り、ギコの刃がネーノを傷つける事は不可能であった。
それでも、ギコの行動は無意味にはならなかった。
(#,,゚Д゚)「死なば諸共だゴルァァァァァッッ!!!」 バッ!!
怒声と共に跳躍するギコ。
彼は腕の刃を振りかざし、全力でそれを振り下ろした。
( `ー´)
ぶっちゃけ避ける価値も無い攻撃。
ネーノはただギコを眺め、その刃が肌身に到達するのを待った。
((( )))
(# ´Д`)(――――いや、よくやった!)
ネーノはまず最初にギコを倒す、と完全に決め込んでいた。
そのおかげで生まれたものは死角と油断。
現に今、1さんと八頭身はネーノの体に刃を当てたままだった。
((( )))
(# ´Д`)(この刀を、このタイミングで手に出来て良かった――!)
.
さきほど敵に折られた直刀後光。
その代えとして1さんが手にした刀は、あらゆる光を断ち切る刀。
こと超能力に対して絶対的な破壊力を持つその刀の名は“絶光刀”。
光を燃料とする全超能力者にとって、この刀はまさに天敵であった。
((( )))
(# ´Д`)「おおおおおおッッッッ!!」
ギコが陽動している合間に絶光刀で更にもう一撃、薙ぎ払うように一閃。
超能力で強化されていたネーノの脇腹は、その絶光刀の刃によって大きく斬り裂かれた。
(; `ー´)「――なにッ!?」
(#,,゚Д゚)「余所見してんじゃねェェェェ!!」
驚愕の余りギコから目を離したネーノ。
その瞬間、ギコの刃が肩から腰を大きく斬り裂く。
1さんの攻撃で集中を乱したのか、ギコの微妙な一撃でもネーノの肉体にダメージを与えていた。
(; `ー´)「……やってくれたな……!」
ネーノは両手で空気を煽った。
直後ブオンと低く音が鳴ると同時、ネーノを中心にして全方位に衝撃波が発生する。
ギコ、1さん、八頭身がそれによって大きく弾き飛ばされるが、その間、ダディとヒートは次の攻撃に打って出ていた。
.
|(●), 、(●)、|「傷を狙うぞ! 治癒されたら終わりだと思え!」
ノハ#゚⊿゚)「あいよ!」 ダンッ!
ヒートが力強く地面を踏みつけると、瞬時に一帯の地面が薄氷に覆われた。
その絶対零度がネーノの足を登って全身へと広がっていく。
ネーノは先に回復してから動こうとしていたが、このまま全身を凍らされては格好が悪すぎる。
( `ー´)「……ならば、まずは君達かッ」
と、言いかけた途端にネーノの側頭部を何かが叩いた。
一点に威力を集中した攻撃――それが弾丸である事はすぐ分かった。
だが、問題は威力ではなくその効果。
弾丸には、シャキンの『無効化能力』が備わっていたのだ。
(; `ー´)(これは、無効化能力の弾丸――――!)
ネーノの両足が付け根まで氷塊に呑まれる。
その隙にダディが飛び込み、ネーノの右腕を掴んで火炎能力を発揮――
|#(●), 、(●)、|「――最大火力だ」
一瞬、ダディとネーノの周囲に火の粉が散った。
ふわりと上昇する空気――この場の空気が、一瞬で灼熱の域を超越する。
(; `ー´)「まッ――!」
止める間も無く火花がバチンと音を鳴らした。
その瞬間、二人を丸ごと飲み込む爆炎と轟音が、天に向かって噴き上がった。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
狙撃の直後に巻き上がった爆炎を、二人は望遠スコープ越しに目視していた。
そこは辛うじて戦闘の被害を受けず、建築物が形状を保っている一帯。
高層ビルの中、シャキンは静かに技研特製のスナイパーライフルを構えていた。
「……オーケーだ大将。数秒だが、確かに敵の能力を消せていた」
そう言ったのはとある部隊の隊長格。
殊更デミタスに見込まれてしまった、やたら有能な使いっ走りであった。
(`・ω・´)「……そのようだ。まあ、これで終わるとも思えないがな……」
シャキンは床に寝そべり、ライフルに身を寄せたままそう答えた。
(`・ω・´)「お前が生き残ってて安心したぞ。俺一人では心許なくてな」
「なあに、俺は一足先にトンズラこいただけですよ。
これが終わったらツンちゃん達に謝らねえとな……」
部隊長は「へへへ」とイタズラに笑い、短くなった煙草を床に吐いて踏み躙った。
「……これでこっちの隠し玉は終わりだ。次の狙撃は当たらないかも知れません。
俺の“超能力を物に移す能力”が役に立てるのはここまでです」
.
(`・ω・´)「……逃げるつもりか? 俺の能力を移した弾丸、まだ残ってるだろ。
次はお前が狙い撃て。狙撃、俺より上手だろ」
「……マジで? そんな大役を俺に……」
部隊長は露骨に嫌そうに眉をすぼめて肩を落とした。
地味な割に重要な仕事など性に合わない、部隊長は大きく溜め息を吐いた。
(`・ω・´)「任せたぞ、これが終わったら大出世させてやる」
「階級よりも給料上げてください。この職場、ほんと仕事と報酬が釣り合ってねえよ……」
程なく、遠方の爆炎が収束を始めた。
役割を交代した部隊長は、次の煙草を口に加えてライフルのスコープを覗いた。
「へえへえ、行ってくだせぇよ。凡人代表はここでコソコソ狙い撃つとしますから」
(`・ω・´)「ああ。……位置的に、最後に生き残るのはお前だろうさ」
そう言い残して去っていくシャキン。
部隊長は火の無い煙草を口にくわえ、静かに銃口を敵に合わせた。
.
≪5≫
(;,, Д゚)「――ど、どうなった!?」
.∧_∧
(; Д`)「……」
全員が、固唾を飲んで爆炎の収束を見つめている。
想定外の連続で掴んだ最初の勝機。全員が、それの顛末に希望を持っていた。
「…………クソッ!」
爆炎が収まり、最初に聞こえてきたのはダディクールの怒声。
焼け焦げた地面に立つダディ。彼の周囲にあった物は大半が燃え尽き、真っ黒になっている。
しかし、そこにネーノの姿は見当たらなかった。
ノハ;゚⊿゚)「……逃げられたのか?」
ヒートが問い掛けるもダディは視線を返さない。
ダディは遠くを見据えたまま、地面に黒焦げの何かを放り投げた。
|;(●), 、(●)、|「……あれだけやって、右腕だけか……!」
((( )))
(; ´Д`)「ッ!」
ダディが捨てた物は人間の腕。
ネーノはあの爆炎の中、肘から先を切り捨てて脱出していたのだ。
.
(; `ー´)「……ハア、ハア…………」
咄嗟に腕を捨てて逃げ出し、安全圏で息を整える。
人間的な焦燥――そんなものを感じたのは、生まれて初めての事だった。
(; `ー´)(……回復は容易だ。だが、私は……)
こんな格下連中の一矢で、この有様だ。
肉体的な傷など二の次。
ネーノはこの状況そのものに対して、凄まじい脅威を覚えていた。
|#(●), 、(●)、|「次を仕掛けるぞ! 続け!」 ダッ
(#,,゚Д゚)「おうッ!!」 ダッ
(; `ー´)(棺桶死オサムの能力、ここまで意味を成すのか……!)
ネーノはオサムの能力を想起する。
不可能を可能にする能力――それが解かれていない今、私には確実に弱点が存在している。
私はそこを付け入られたのだ、とネーノは自分を納得させた。
(; `ー´)「認めよう、彼らの布石を見逃した私のミスだ……!」 フワッ
ネーノは右腕を庇いながら空に逃げた。
“逃亡”を目的とした行動、そんなものをとったのも人生初だった。
(;,,゚Д゚)「ちょっ……飛ぶな! 届かねえだろ!」
ノハ;゚⊿゚)「カッコわりいこと叫ぶな! どうせ下りてくんだから待て!」
.
(; `ー´)「……」
ネーノは今一度空を見渡し、自分の小ささを再確認する。
自分の役割を、目的を、存在意義を彷彿させる。
(; `ー´)「……これは『戒め』だ」
(; `ー´)「自分自身を律する足枷として、甘んじて受け入れるべき戒律だ……」
彼は眼下のダディ達を見下ろし、そして敵として再認識する。
(; `ー´)「右腕はくれてやる……ただしこれは油断ではなく戒めだ。
私はこの戦いをもって、私自身の甘さを正さねばならない……!」
途端、ネーノは左手で空を払った。
するとその手中から僅かに硝煙が立ち上る。
彼は手を開き、掴み取った物――弾丸に視線を落とした。
(; `ー´)「……無効化弾。これも、油断しなければ気付いていた……!」
弾丸の方角から狙撃手の位置は分かる。
だが、ネーノはあえてそれを放置する事にした。
.
(; `ー´)(万能、全知全能、無敵、最強……)
(; `ー´)(そういう言葉で陶酔する者の末路は明白だ。
理屈を省いた結論は、必ず道理に破られるのだから……)
ネーノは自分を強く戒め、やがて、地上のギコ達に向けて宣言した。
(; `ー´)「……正直、私は『勝ったつもり』でいたよ。
何も考えず適当にやっても勝てる相手だと、理屈の部分で手を抜いていた」
(; `ー´)「……だからここからは理詰めでいく。
全知全能なんてスッカラカンな言葉はもう使わない――」
言葉の次、ネーノの姿が空から消える。
(; `ー´)「――確実に始末する」 ガシッ
声はダディ達の背後に。
彼らが声を辿って反射的に振り返ると――
.∧_∧
(; Д`)「……ごぷッ……!」
――腹を血に染めた八頭身が、ネーノの左手に掴み上げられていた。
.
(; `ー´)「隠すまでもない――私の左腕の能力は『既知の超越』。
言葉の通り、知りうる全てを超えるだけの力だ」
(; `ー´)「例えばそう、今なら先程の爆炎を超える発火能力を持っている」
ネーノの左腕が赤熱し、火炎を纏う。
八頭身の血肉を焼く音が弾け、溢れ出た炎が地表を泳ぐ。
と、爆発寸前だったネーノの手から熱が消えた。
周囲の景色は、炎の赤から氷の青へと一変する。
ノハ ⊿ )
炎に反する絶対零度が今、ネーノの背中に手を添えていた。
(; `ー´)「……そうだ、それでいい。これはお前が止めるしかない」
ノハ# ⊿゚)「――【シルバー・ゼロ】――ッ!」 バキッ
ヒートが超能力を全開にした瞬間、ネーノの体内に零度を下回る冷気が流れ込んでいった。
体表は一瞬で凍結。強固な氷塊が彼の体を蝕み始めた。
( `ー´)「だが、たった今それも『既知』になった」
ノハ;゚⊿゚)「!!」
しかし次の瞬間、ネーノに向けられていた冷気はその矛先を変え、ヒートの手に逆流してきた。
バキバキと音を立てながら膨らんでいく氷塊が、瞬く間にヒートの手を飲み込んでいく。
.
( `ー´)「まずは二人、あわよくば全員――」
自分は諸共、一帯全てを焦土と灰燼に一変させる大爆発。
(;,,゚Д゚)「逃げッ――!」 バッ!!
景色がふたたび真赤に燃え盛り、熱を帯びた閃光が迸る。
ぼこ、という大きな泡が弾けるような音と同時、ダディクール達は為す術無く爆炎と閃光の中に飲み込まれた。
(#`・ω・´)「――おおおおおおおおッッッ!!!」
――しかし、シャキンが動き出したのもまたその最中であった。
彼は炎の嵐を超能力で強行突破し、ネーノにコンバットナイフを振りかざしていた。
爆発が超能力である以上、無効化能力【ディープ・ドロー】を持つシャキンには全くの無力。
シャキンが手を振るだけで爆炎は消滅。それにより発生した温度差が風を起こし、更に爆炎を吹き飛ばす。
この爆発の中に道を作り、攻撃を仕掛ける事ができたのはシャキンだけだった。
( `ー´)(……新手か)
ネーノはシャキンを見て即座に無効化能力を想定し、まず時間を停止させた。
爆炎が静止し、音も止む。
(#`・ω・´)「――――ッ!!」
しかしシャキンは構わず接敵。
喉元を狙った一突き、ネーノは後退してそれを回避する。
ネーノは彼を無効化の能力者だと判断、時間停止を解除し距離を取る。
.
( `ー´)「分かっている、無効化能力の限界はこれだ」 パンッ
後退したネーノが地面に両手をつけて呟く。
直後、彼の手から放出された冷気が爆炎を消し去り、周囲を白銀の世界に塗り替えた。
(;`・ω・´)「!」
顔付きの行動に対し、シャキンは咄嗟に足を止めて体幹を維持した。
彼の能力は確かにあらゆる超能力を相殺するが、それと同時に“作用を到達させない能力”でもあるのだ。
ゆえに彼は自分から別物質に触れる場合、その部位に限って超能力を弱くする必要があった。
そうしなければ物を扱う為の“力”がそもそも生まれないし、物を持つ事も走る事もままならない。
(;`・ω・´)「……」
足元の氷を無効化で消滅させ、シャキンは立ち止まった。
この時、彼はどうしても動けなかった。
何故なら周囲の地面が氷で覆われてしまった今、彼にとって『走る』という行為は超高難易度の行為に変わっていたからだ。
( `ー´)「……走ってここまで来るといい。それが出来ると言うならば」
シャキンが走る為には『脚部』の無効化能力を弱くしておく必要がある。
となれば彼の弱点は明確。足の裏、真下からの攻撃だ。
もしシャキンが一歩でも氷に足を踏み入れたなら、ネーノは地面の氷を突起させる事で確実に彼を仕留められる。
(;`・ω・´)
なら氷に触れる瞬間だけ無効化能力を発動させれば――という考えも浅はかだ。
万が一には可能ではあるが、それをこの土壇場で100%成功させて移動するのは不可能。
一歩だけならまだしもこれは戦闘。反射的に、咄嗟に、無意識に、無数に歩数は増えていく。
(;`・ω・´)(……運良く氷を溶かして前進したとして、氷の下は普通の地面。
もし地面に触れた時に丁度能力を解除できなきゃ、俺はその作用すら打ち消して地面に立つ事も出来ない……)
(;`・ω・´)(ゆっくり一歩ずつなら、……だが駄目だ、遅すぎて話にならない……!)
.
( `ー´)「君の能力、一部に触れただけで全部を消せる訳ではないようだな。
先程の炎でよく分かった。だから手で氷に触れて全て消す、という事もできない」
(;`・ω・´)
( `ー´)「そして私には『既知の超越』がある……奇襲は失敗だな」
ネーノは再び時を止め、ゆっくりとシャキンの前に歩いていった。
左で手刀を作り、これもゆっくりと彼の腹部に突き立てる。
(;` ω・´)「ぐ、う……!」
手刀がズブズブと血肉を裂いて突き刺さる。
これでも無効化能力は全力だったが、既知の超越がそれをも無意味に変えていた。
( `ー´)「君の無効化は、既に知り得た」
ネーノは十分に突き刺さった手刀を引き抜き、勢いをつけた後ろ回し蹴りでシャキンの胴を薙ぎ払った。
それと同時に時間停止を解除。
凄絶な衝撃が骨格を砕き、シャキンを遥か向こうへとブッ飛ばす。
(;` ω・´)(――なんつう野郎だ――ッ!)
|;(●), 、(●)、|「――氷の壁で受け止めるぞ! 薄いのを何十枚もだ!」
ノハ#゚⊿゚)「あいよッ!」 ダッ
道に躍り出たヒートがすぐさま幾重もの薄氷を展開する。
それを何十枚とブチ抜きようやく受け止められたシャキンは、氷の破片に埋もれながら、しかしハッキリと息をしていた。
.
(;,,゚Д゚)「おい……大丈夫かよ……」
最初にシャキンに声を掛けたのはギコだった。
焦げた服、複数の裂傷火傷、飛散した物がぶつかって出来たであろう打撲痕。
しかし、先の爆発の規模を考えればこの程度で済んでいる方が奇跡的だった。
(;`・ω・´)「……人生初だぞ、こんなに吹き飛ばされたのは……」
覆い被さった氷を除けてゆっくりと体を起こす。
シャキンは唖然とした表情で、遠くになったネーノをじっと見る。
(,,゚Д゚)「……知らねえけど生きてて良かったな、お互い」
(;`・ω・´)「……お前こそよく生き残ったな。さっきの大爆発で全滅したと思ったが」
(;,,゚Д゚)「へっ。ギリだよ、ギリ」
ギコは自嘲気味に鼻で笑い、自身の能力で掌に鉄板を作って見せた。
(,,゚Д゚)「こいつで咄嗟にシェルター作った。そっちの仲間も一人助けたぞ」
こうして寸で致命傷を避けたはいいが、手負いが増えただけで状況は一段と悪くなった。
思考を巡らせてもすぐに行き止まる。ギコはもう一度、鼻で笑ってしまった。
(;`・ω・´)「……二人居ただろ。もう一人はどうなった」
(,,゚Д゚)「……ヒート達も俺と同じ要領で何とかしたっぽいが、見た感じ居ねえな……」
ギコはこちらに駆け寄ってくるダディとヒートを見て呟いた。
.
|;(●), 、(●)、|「……芳しくないな、どうにも」
ノハ;゚⊿゚)「いや、問題外がよくやってると思うぜ」
(;`・ω・´)「……お前ら確か脱獄犯だよな。アイツを倒す当てはあるのか?」
シャキンの問いに、彼以外の全員が言葉を詰まらせた。
ノハ;゚⊿゚)「……あったらこんな有様じゃねーよ。
マニーと棺桶死オサムなら……ってトコだが、二人とも逃げた」
(;`・ω・´)「逃げ……ッ!?」
(;,,゚Д゚)「……正直、二人にはさっさと出てきて欲しいんだがな……」
|;(●), 、(●)、|「……おい、剣士二人はどうなった」
(,,゚Д゚)「……チビの方は俺が助けた。おかげで少しやられちまったがな……」
(;`・ω・´)「……ということは八頭身がやられたか。
あの様子じゃ戦う間もなく、という感じだったが……」
ざっ、と足音が地を擦る。
暗く沈みかけた面々はその音を聞くと同時に顔を上げ、一歩ずつ、こちらに迫り来るネーノを目で捉えた。
.
( `ー´)「……私にとってこの戦いは敗北だ。
棺桶死オサムの手柄と言ってもいい」
( `ー´)「今の私は『ぎゃふん』とか『してやられた』って言葉が似合う気持ちで一杯なんだ。
右腕も焼き落とされてしまった……。私にとって、これは敗北だよ……」
作り物の笑みがダディ達を一望する。
その後、彼は自身の頭を指先でコツコツと叩いた。
( `ー´)「彼なら私が『内包』した。
八頭身か、彼は君らの中で最も現実的な男だったよ」
そう言いながらネーノは失くした右腕を空に掲げた。
その部位、その傷口から唐突に血肉が噴出する。
噴出した血肉はすぐさま右腕を形成し、人体の一部としての機能を獲得。
彼は新たな右腕を見せびらかすように軽く動かし、最後にぐっと拳を作った。
( `ー´)「……君達にもう勝ち目はない」
( `ー´)「たとえ、不可能が可能になっているとしてもだ」
( `ー´)「左腕は『既知の超越』。そしてこの右腕には『未知の否定』という能力がある」
( `ー´)「これを同時に所持する意味が理解出来るか?」
(#,,゚Д゚)「――できねえからこうなってんだろ!!」 ダッ!
ノハ#゚⊿゚)「――同感だ!!」ダッ!
問い掛けの最中に飛び出したのはギコとヒート。
接敵は直後。氷と鉄の刃が、ネーノの体に振り下ろされる――。
.
( `ー´)「こういう不意打ちも、能力が既知なら構える必要もない」 ピン
ダディが捉えたのはネーノが軽く指を弾いた動作だけだった。
|;(●), 、(●)、|「―――なっ」
その直後、左右遠くのビルが凄絶な音を放って崩れ落ちた。
目で追えなくともダディは理解していた。指を弾いたあの動作が、二人を同時に弾き飛ばしたのだと。
((( )))
(# ´Д`)「――――」 ザッ
だが、二人の攻撃はもう一度ネーノに一瞬の隙を作ってくれた。
そこに飛び込んだのは絶光刀を構えた1さん。
一太刀に全霊を込め、彼はネーノの背中に刃を振り下ろした。
( `ー´)「……そして私が認知、認識していない未知の攻撃も、全て無力となる」
……刃は、ネーノの体をすり抜けていった。
そこでようやく1さんの攻撃に気付いたネーノは振り返りながら裏拳で1さんを殴りつけ――
((( )))
(; Д )「ガ、はッ―――――」
( `ー´)「君の異物は厄介だ。先に『内包』しておくとしよう」
その攻撃と同時に、1さんの肉体を光の粒にして弾けさせた。
光の粒はネーノの手に集まり、そして彼の体に吸収されていく。
.
(;`・ω・´)「――俺が時間を稼ぐ! お前は仲間を連れて逃げろ!
奴の三つ目の能力は『内包』だ! 取り込まれたら終わりだぞ!」
|;(●), 、(●)、|「――すぐに戻る!!」
残されたシャキンとダディは方々に駆け出した。
(;`・ω・´)「……俺が相手だ、務まるかは知らんがな……!」 ザッ
( `ー´)「……安心するといい。“無効化は私にも通用する”」
( `ー´)「超能力という舞台の上でなら、な」
――彼らの開戦を背に、ダディは二人が吹き飛ばされていったビルの瓦礫に足を踏み入れた。
辺りをキョロキョロと見回しながら、ダディは声を張り上げた。
|;(●), 、(●)、|「ヒート、ギコ! どっちでもいい、返事をしろ!」
|;(●), 、(●)、|「ここまでだ! もう相手にしてられん、逃げるぞ!」
……声は帰ってこない。
敵が本気になった今、悠長に探している時間もない。
ならば、火炎の能力を使って瓦礫を一気に退かすしかない――!
.
|#(●), 、(●)、|「ここら一帯を吹っ飛ばす! 聞こえてたら何かに掴まっててくれ!」
ダディは光源となるペンライトを点け、即座に超能力を発動。
地面に五指を突き立て、超能力をもって瓦礫を一掃しに取り掛かる。
|#(●), 、(●)、|「――――」
爆炎で瓦礫を一掃してギコとヒートを見つける。
その考えは現状の最適解だ。
超能力さえ発動出来れば、ダディはすぐにでも仲間を見つけられただろう。
|#(●), 、(●)、|「…………」
|#(●), 、(●)、|「……なぜだ……」
|;(●), 、(●)、|「……なぜ何も起こらない……?」
しかし、ダディクールの超能力は発動しなかった。
原因があるとすれば、それは一人。
.
|;(○), 、(○)、|
|;(○), 、(○)、|「……ふざ、けるな……ッ!」
ダディは怒りのままに背後を振り返る。
自分が超能力を使えなかったのなら、あれと戦いにいったシャキンは――
( `ー´)
(;`-ω-´)
――決着は、明白だった。
そこに、ダディが割り込むような猶予は無かった。
ネーノに手を向けられた次の瞬間、シャキンは光の粒になって空に飛散していた。
|;(○), 、(○)、|
( `ー´)
ネーノの視線がダディに向けられる。
すでに彼の目は敵を見る目ではなく、無感情で機械的なものに変わっていた。
.
( `ー´)「……この世界に、なぜ超能力があると思う」
( `ー´)「この世界には最初から異物があった。超能力という概念は既にあったのだ。
なのになぜ、新たに超能力の体系が出現したと思う……」
|;(○), 、(○)、|「……何が、言いたい……?」
( `ー´)「……逆に問おう。今まで不思議には思わなかったか?」
( `ー´)「なぜ超自然的な、理屈を抜いた理解不能な超常現象が」
( `ー´)「どうして 『人工の光』 という、人間世界を象徴する概念に依存しているのか」
|;(●), 、(●)、|「――――」
( `ー´)「君からしたら超能力は神様からの贈り物だろう。
ならばなぜ、どうして神が作り上げた概念が、人間の作った矮小な文明に基づく必要がある?」
( `ー´)「……答えは同じさ」
( `ー´)「ネッシーだとか、UFOだとか、宇宙人だとか、そういうものと同じだ」
誰かが作った。
( `ー´)
|;(●), 、(●)、|「だとして、それが今、何の……」
.
( `ー´)「……もう分かっているだろう。
私を作ったとある男が、この世に超能力を拡散したのだ」
( `ー´)「その男はもう死んでしまったが、私が彼の跡を継ぎ、『権限』を得た」
( `ー´)「……本当は荒巻相手にやるつもりだったが披露するよ。
君達の戦いぶりは本当に賞賛に値する。だからここまでやる事にした」
ネーノは夕焼け空を仰ぎ見る。
ダディも、同じように空を見上げた。
|;(●), 、(●)、|「……なんだ、これは……」
いつしか空は暗んでいた――それも、尋常ならざる速さでだ。
夜になっていくのではなく、星と太陽以外の光がどんどん消えていっている。
その光景はまるで、発明から今の今まで人類が依存していた一つの概念が、
世界中から剥奪されている最中のような――
|;(●), 、(●)、|「……馬鹿な、これじゃあまるでッ!」
( `ー´)「――ああそうだ。これは能力というより権限だが、便宜上名前をつけるならこうだろう」
( `ー´)「 『電気を消す能力』 」
|;(○), 、(○)、|
聞くに呆気なく、しかし絶望的な一言。
即死や時間停止でもない、誰もが日常的に行う 『電気を消す』 という作業を地球規模で行使するだけの能力。
たったそれだけの力が――そんなマヌケみたいな力が。
お前から超能力を奪い取ったのだと、顔付きは言いきってみせた。
.
|;(●), 、(●)、|「……黙れ。そんな能力、冗談にもならん……!」
( `ー´)「笑ってくれて構わない。正直私も笑ったし、身内でも爆笑だったよ」
( `ー´)「電気を消すってなんだよ今更。
既知だの未知だの言った後にコレかよ、と散々な言われようだったな……」
( `ー´)「……しかし事実、今この星に人工的な光は存在しない」
( `ー´)「それだけでこの世界は終わるのだ。
他者に依存した力など、どうせ最後には役に立たないという事だな」
まさに、元も子もない状況だった。
元となるものが剥奪された時点でダディクールに勝機など微塵も残っていない。
強さの次元が違うのではなく、ネーノはこの世の『強さ』を定義する側に立っている。
故にそもそも根本的に、この世の超能力者では、どうあがいてもネーノには勝てなかったのだ。
|;(○), 、(○)、|「……」
( `ー´)「……別に挑んできても構わんよ。ただ、これ以上は君を殺さねばならなくなる。
全知全能も、両腕の力も、この世から光を消す能力も、本来は戦闘を避ける為の力だ」
ネーノは再び、自分の頭を指でついた。
( `ー´)「大丈夫だ。私は誰一人、殺してはいない」
( `ー´)「ギコも素直ヒートも、八頭身も1さんも、この街の人間全員も、私の脳に『内包』した」
.
( `ー´)「tanasinnに対するノアの方舟とでも言うのかな。
みんな『諦めて同意してくれた』よ」
( `ー´)「君はまだtanasinnについて理解が深くない。
だから、君にも同じものを見せておこう――」
|;(○), 、(○)、|「やめ――ッ!」
ダディの前まで行き、ネーノは彼の額に手を当てた。
それと同時に彼の脳に流れ込んできた光景は、世界の末路だった。
とある世界が存在し、そこにどういう人々が生き、どういう人生を送ったのか。
ダディはそれを、人類の総人口分だけ追体験させられた。
その上で最後はtanasinnに世界が呑まれて意味消失、全部台無し。
次の世界がパッと始まり、ダディはもう一度、違う人類の歴史を追体験する。
|;(○), 、(○)、|「――――」
追体験は無数に繰り返された。
一瞬に凝縮された世界の終わりは嵐のようにダディクールの脳みそを掻き回す。
風が吹き、水飛沫が渦を巻き、一滴の水に終わりと始まりを見る。
嵐はさらに強く激しく、海を巻き込んで膨らみ続ける――
それが絶望的な終わり無き単純作業であると悟るのに、そう時間は掛からない。
( `ー´)「……諦めてくれてありがとう。
君達の明日は、私の脳内で無限に広がり続けると約束しよう」
|;(○), 、(○)、|「黙れ! 私はまだ、諦めてなどッ――……」
――嵐は止み、ふたたび、空に光が飛散した。
.
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
超上空からメシウマの街を俯瞰する影が三つ。
ふわふわ浮きながら戦闘の一部始終を見ていたマニーは、ダディの消滅を機にようやく口を開いた。
¥・∀・¥「……で、確認出来た能力はなんだ。
全能力という意味での全能、既知の超越、未知の否定。
内包、人工的な光を消す――というか、超能力を丸ごと消し去る能力か」
¥・∀・¥「まったくデタラメにも程があるな。
大人気ないというか必死というか、見るに堪えんというか……」
¥・∀・¥「おかげで私のプランも台無しだ。貴様らの健闘を無駄にさせてしまった」
【+ 】ゞ゚;)「……だが、」
棺桶死オサムは言葉を絞り出し、マニーの諦観に言い返した。
【+ 】ゞ゚;)「……だが、俺の不可能を可能にする能力はまだ続いている。
いつまで持つか分からないが、発動中の能力までは消せないらしい……」
¥・∀・¥「……ふむ、あと光明があるとすれば異物使いだが……そこは気付くのが遅れた。
あの絶光刀の持ち主とノッポは、確実に守るべきだった……」
('(゚∀゚;∩「……」
――なおるよは街の惨状を見て息を呑む。
マニーのプラン、その中核はなおるよの無効化能力であった。
しかし今はなおるよの無効化能力はおろか、超能力自体が発動できない状況。
1さんやダディの攻撃が通用した事から十分期待できる策ではあったが、敵がここまで大人気なくやってくるとはマニーも予想していなかったのだ。
.
¥・∀・¥「……あ〜くだらん。ガキの無敵バリア並にくだらん。
真面目に同じ土俵で戦おうと意気込んだ自分が腹立たしいわ……」
【+ 】ゞ゚;)「……この後、どうするんだ……」
¥・∀・¥「……業腹だが壁の向こうまで撤退する。
向こう側の連中でどうにかする。貴様らはもう好きにしろ」
マニーはポケットから黒いキャッシュカードを取り出し、それをオサムに投げ渡した。
¥・∀・¥「約束の報酬だ。後で分配しろ。
それと五分以内にどこかに着地しておけよ。私の能力が切れて落ちるからな」
そう言い残し、マニーはさっさとレムナントに向かって飛び去っていった。
図らずも生き残ってしまったオサムとなおるよは、しばし沈黙したまま、彼の背を目で追っていた。
.
【+ 】ゞ゚;)「……」
('(゚∀゚;∩「……異物は、まだ使えるんだよね」
【+ 】ゞ゚;)「……笑えない話だ。この眼帯だけでアレと戦えって言うのか……?」
('(゚∀゚;∩「でも、まだ、オサムの能力も残ってるんだよ……」
一縷の希望を語るなおるよがオサムに目を向ける。
しかし、彼には目を逸らす事しかできなかった。
【+ 】ゞ ;)「……なおるよ。俺はな、人に出来る事が出来ない人間なんだ」
【+ 】ゞ ;)「たとえ不可能が可能になっても、世の中にはそれに挑める人間と、挑めない人間が居る。
……この能力は俺にとって、まったくの無価値なんだ……」
('(゚∀゚;∩「……そんなの、やってみなくちゃ……」
【+ 】ゞ ;)「……」
('(゚∀゚;∩「……」
精神を伴わない、ただ己の弱さを隠す為だけの強さ。
その点において、棺桶死オサムは決定的な欠落を抱えていた。
戦士としての覚悟が、彼にはまったくと言っていいほど備わっていなかった。
.
「――……そこの二人。今、どうなってるのか教えて欲しい」
不意に、声を掛けられた。
この高度に突然現れる人間などまともでない。
が、今更敵だなんだと身構える気にもなれず、二人は呆然としたまま声の主を敵視しなかった。
('(゚∀゚;∩「……マニーさんが壁の向こうに行ったよ。
多分あいつも向こう側に、……って」
そう言いながら振り返ったなおるよは、現れた男を見るなり目を丸くした。
(メA )
黒いローブの男――フードを脱いだ彼の素顔は、なおるよがよく知る男に酷似していた。
(メA )「……そうか。ありがとう、それじゃ」
('(゚∀゚;∩「ドクッ、……オ? ……じゃない?」
(メA )
(メA )「……あいつの知り合いか。ああ、俺は別人だ。
余裕があればあいつの話でも聞きたいが、今はそうも言ってられん……」
黒ローブはすぐさま立ち去ろうと身を翻す。
だが、
【+ 】ゞ゚;)「――ま、待ってくれ!」
棺桶死オサムが、その寸前で彼を呼び止めた。
.
(メA )「……俺は別人だ。話は無いだろう」
【+ 】ゞ゚;)「……俺はあいつに聞きたかった事がある。
もし、お前が代わりに答えられるなら、聞きたいんだ……」
(メA )
【+ 】ゞ゚;)「……これが最後かも知れないと、思ったんだ……」
(メA )「……言ってみろ。俺の結論が役に立つとは思わないが」
オサムは固唾を飲んでから、彼の目を見て言った。
【+ 】ゞ゚;)「……強さとは何だ。弱さとは、……お前の目に、俺はどう見える?」
(メA )「……難しいな」
男は俯き、間を置いてから顔を上げて答えた。
(メA )「……人の弱さを笑う者、人の弱さにつけ入る者、人の弱さを甚振る者」
(メA )「そういう“誰かが弱くなければ強くなれない者”を、俺は強いとは思わん」
(メA )「強さは個人の内部に根付くもの、弱さは他者に植え付けられるものだろう。
そして自分の内に強さを持てない人間は、おのずと他者に弱さを植え付けようとし始める」
(メA )「……惑わされるな。人の弱さを利用して己の強さを誇示する者など三流以下だ。
植え付けられた弱さではなく、自分自身の本当の弱さを見つけ出せ。本当の強さはそこからしか芽吹かない」
(メA )「他人に与えられた弱さと、自分で1から積み上げた強さ。
どっちをより信用するかは……まあ、人それぞれなんだが……」
.
(メA )「……あとな、どう見えるかなんて気にするな。
自分の強さを他人に決めさせるな。
好きにしろ。勝手にしろ。俺は正直、お前なんてどうでもいい」
Σ【+ 】ゞ゚;)「どッ……!?」
結論、どうでもいい。
彼の答えは、結局のところそれだった。
(メA )「……いや、押し付けがましい話だったな」
(メA )「忘れてくれ……。それじゃ」 バッ
彼は再び踵を返す。
向かう先は壁の向こう、人知を超えた戦いの場所。
マニーの時と同じように、オサムもなおるよも、ただ彼の背をじっと見送った。
【+ 】ゞ゚;)「……どうでもいいって……」
('(゚∀゚;∩「……最後の戦い、僕は見に行く。
何も出来ないけど見に行くよ。オサムはどうする……?」
【+ 】ゞ-;)「……聞かれるまでも無い、俺達の行き先は同じだ」
【+ 】ゞ゚;)「それにまだ一手ある。あれを使わず終わらせてなるものか……」
その時、静寂した街に一発の銃声が大きく鳴り響いた。
オサムは銃声の出処に向けて、希望を込めた視線を送った――
.
――そこは、先程までシャキンが身を潜めていたビルの中。
ネーノの超能力抹消は、発動済みの能力にまでは効果を発揮しない。
つまり、まだ近くに超能力は残っているのだ。
名も無き部隊長が用意した、無効化能力を移した弾丸がまだ――
「……やっちまった、こいつはまんまババ抜きだ。
マジで最悪だ……一番よえー奴んトコにジョーカーが来やがった……」
彼はヤケクソ気味に薄ら笑い、スナイパーライフルを担ぎ上げた。
内心はひとえに「どうにでもなりやがれ」だ。彼にとって、これは人生最大のハズレ役であった。
.
眠いので中段(^ω^)
続きは寝て起きて魔法使いプリキュアの最終回を見てから投下します('A`)
部隊長!!
プリキュアはまだ終わらないのか
キュアップラパパ!続きが気になる!
撃鉄を起こせ
≪6≫
/ ,' 3 「……ダルい……」
荒巻は壁の内側で待ちくたびれていた。
街の方でドンパチやってるのは分かっていたが、それでも長引き過ぎだと思った。
雑魚相手に何を戯れているのか……。
一方的に待たされ続けた挙句、荒巻はそろそろこっちから乗り込んでやろうかと考えていた。
「――うわああぁぁぁあぁぁあああ〜〜」
/ ,' 3
荒巻はその声に夜空を見上げた。
¥・∀・¥「あぁあああ〜〜〜」
/ ,' 3
マニーが空から落ちてきている。
このままでは地面に激突してしまうが、荒巻は何もせず視線を戻した。
.
¥・∀・¥「あああああ――っと、ああ怖かった」 スタッ
金の力で地面すれすれで急停止。マニーは平然と地面に立ち上がった。
彼は白タキシードをビシッと整えてから、自作の煙草が入ったシガーケースを取り出した。
¥・∀・¥「おいおいなぜ受け止めなかった。感動の出会いだったろうに」
/ ,' 3 「……ほざくな。ジジイを受け止める趣味は無い」
¥・∀・¥「なら女の姿にしようか? もう一回やってやってもいいぞ」
/ ,' 3 「中身がワシと同じジジイの時点で願い下げだ。
いまさら無駄に若作りしおって、お前は……」
¥・∀・¥
¥-∀-¥「……クク……」
マニーは手巻き煙草に火を点けて笑った。
.
¥・∀・¥「饒舌だなぁ荒巻よ。死闘を前に話し相手ができて嬉しいか?」
/ ,' 3 「……お前、煙草の趣味まだやっておったのか」
煽り言葉をスルーし、荒巻はマニーの煙草を見てぼやく。
¥・∀・¥「気になるか? ……どれ、一本くれてやろう」
マニーはシガーケースごと荒巻に放り投げた。
受け取った荒巻はしばし考えた後、一本抜き取って吹かし始めた。
¥・∀・¥「この日の為のスペシャルブレンドだ。悪くないだろう?」
/; ,' 3 「……エ゙ホッ(腹の底から吐き出すようなセキ)」
/; ,' 3 「……昔からなんだが、本当に理解できん趣味だよな。
あのな、これその辺の雑草をしゃぶった方がまだマシだぞ」
¥・∀・¥
¥;・∀・¥「フッ……まったくの同意見だ。
こんな出来なら、消しカスを詰めた方が余程マシな煙草になっていたな……ククク……」
/ ,' 3 「分かったらこれを吸うのは止めておけ。戦う前に死ぬぞ」 ザッザッ
¥;・∀・¥「……そうだな」 グリグリ
このやり取りの結果、レムナントの荒野にはゴミが二つも擦り付けられてしまった。
荒巻は呆れたように一息つき、「さっさと来い」と急かすようにもう一度夜空を見上げた。
実際、まったく急かしてはいなかったのだが。
.
¥・∀・¥「……お前の方は、手巻きは止めたのか」
/ ,' 3 「……ああ?」
¥・∀・¥「どうなんだ」
/ ,' 3 「……」
¥・∀・¥「……」
/ ,' 3 「……ああ分かったよ、一本だけな」 スッ
マニーと同じように、荒巻もまた、ポケットからシガーケースを取り出してきた。
それを投げ渡されたマニーはケースから一本頂き、金の力で火を点ける。
夜空に呑まれた夕焼け空に、細い白煙が立ち上っていく。
/ ,' 3 「……良いのを使っておる。お前のとは比べ物にならんわ」
自信たっぷり言い切る荒巻。
だが、マニーの顔色はみるみる内に青ざめていく。
¥;・∀・¥「……うげえ……」
/ ,' 3 「…………」
¥;・∀・¥「……おいお前、まだこんな甘ったるいのを……」
/ ,' 3 「……」
¥;・∀・¥「ジジイの癖に気色悪い……」
/; ,' 3 「……やかましい。お前に言えた事じゃないだろうが」
.
¥・∀・¥「……だがまぁ、この年にもなると感じ方も変わるものだな」 ポイッ
マニーは何食わぬ顔で、さり気なく煙草を捨てて一息ついた。
彼の瞳は物言わず望郷する。
¥・∀・¥「……お互い、年を取った」
/ ,' 3 「今更過ぎるがな。わしらがタナシンでどんだけ長生きしたと」
¥・∀・¥「それはお前達の話だろう? 私は違う、金で時間を買ってきた。
タナシンなど無くとも金の力でどうにかしてきた私は違う」
マニーは気障に断言する。
すると荒巻は溜息をつき、やれやれと頭を振って見せた。
/ ,' 3 「馬鹿な男だ。わしですら自分から巻き込まれた訳ではないというのに……」
¥・∀・¥「……金は良い。知恵さえあれば誰でも得られる、世界共通の力だ」
¥・∀・¥「対して唯一無二のもの、これはいけない。それが例え何であってもだ」
/ ,' 3 「独占すると他者からの価値を得られず、見せびらかす事でしか価値を得られない惨めなもの」
¥・∀・¥「……その通り。よく覚えていたな」
/ ,' 3 「わしが言った事だからな」
¥・∀・¥「……かも知れないが、今は私の言葉だ」
/; ,' 3 「好きにしろ……」
.
¥・∀・¥「……私はな、この世全ての唯一無二を哀れんでいるよ。
というのも別に 『人類皆平等であれ』 と言っている訳じゃあないんだ」
¥・∀・¥「幸福は複数、不幸は単数の人間によって保管される。
そう、唯一無二とはつまり、不幸の象徴でしかないのだ」
/ ,' 3 「世界に一つしかない花を愛でる人間は、きっと愛情よりも憐憫をもって花を見ている」
¥・∀・¥「……これもお前の言葉だったか?」
/ ,' 3 「高校生くらいの時だ。お前いつまでわしの黒歴史を」
¥-∀-¥「まあいい! 今は私の言葉だ」
こまけえことはいいんだよ!
マニーは手を払い、図々しく言葉を続けた。
¥・∀・¥「とかく唯一無二とは哀れなものだ!
何故なら、誰もそれの価値を正しく定められなかったという事なのだからな!」
.
開いたらやってるなんて思っても見なかった支援
¥・∀・¥「正しき金銭的価値の設定!
それさえ可能なら唯一無二の一品すら市場に出回り、金になるなら複製品が流通する!
金にならなきゃそこで終わり、唯一無二は世の中に溶け消えていく!」
¥・∀・¥「ただ単に存在しているだけの唯一無二で買えるのは『同情』と『羨望』だけだ!
そんな事なら動物虐殺ショーでもやった方がコスパが良い! 本質は同じだ!」
/ ,' 3
¥・∀・¥
¥・∀・¥「そして不愉快だ。そういう金の稼ぎ方は、至極、不愉快極まりない」
¥・∀・¥「こんな手法が当然のように罷り通るこの世界が、私は大嫌いでしょうがないよ」
/ ,' 3 「……それでわしの一生に値を付けるべく、今まで嫌がらせを続けてきたと」
¥・∀・¥「ただ曖昧なだけの物を唯一無二と呼ぶ世の中はクソッタレだ。
私のスタンスは今も昔も同じだよ。私は、お前を唯一無二とは認めさせん」
/ ,' 3
/; ,' 3 「……現役だなあ、お前……」
.
――その時、夜空から人影が落ちてきた。
人影は着地するなり、荒巻とマニーの顔を訝しんで開口する。
(;メA )「……二人とも、何やってるんだ?」
現れたのは黒ローブの男。
彼もネーノを追って来たのだが、荒巻達がぼんやりしているので気にして下りてきたのだ。
¥・∀・¥「……聞かれてるぞ」
/ ,' 3 「……別にわしは唯一無二じゃあない。
タナシンに関わって以降、わしはひたすら自身の凡庸さを見せつけられてきた……」
ふと、荒巻は部下との問答を思い出して鼻で笑う。
特別とかに価値を感じず、自分以外の誰かがどうこう。
そういう事を思う普通の自分を、荒巻はもうとっくに自覚していた。
¥・∀・¥「……だとさ」
マニーは黒ローブに視線を送る。
いまいち流れを汲み取れなかった黒ローブは、「あ、うぅん……?」と反応を濁す。
(メA )「……まあ、それはいいとして」
(メA )「こっち側に来た順番的に、マニーより先に顔付きがここを通った筈なんだが……」
/ ,' 3
¥・∀・¥
(メA )「……あの、ここは通らなかったのか……?」
両者は沈黙。
しかし、すぐに息を吹き返した。
.
/ ,' 3 「…………」
/; ,' 3 「無理だ」
(;メA )「……なんだと?」
/; ,' 3 「わしじゃあ勝てん、だから見逃した……顔付き……」
荒巻はそう言い、両手を上げて地面に座り込んだ。
煮るなり焼くなりとでも言わんばかりに、荒巻は顔をしかめて口を噤む。
¥*・∀・¥「……プッ! ハー――ッハッハッハ!」 バンバン!
途端マニーは体を折り、思いきり膝を叩いて大笑いし始める。
そりゃ笑う。あれだけ大口叩いた男が、当然のように逃亡してくれたのだから。
(;メA )「……本気か荒巻。お前が戦わなかったら……」
/; ,' 3 「いいや! 当然の帰結だ! 確かに素直クールの力は奪っておるがそれも半端!
ミルナも成り行きで武神に預けてしまったし、まったく準備ができとらん!」
(;メA )「し、しかし……」
/; ,' 3 「無理なものは無理だ! ったく、お前やミルナの方が断然勝ち目があるっての……」
.
(;メA )「……待ってくれよ。これ、とんでもない戦力ダウンなんだが……」
¥*・∀・¥「――な? な? な? ふふっ……w」 ポンポン
マニーは、それはもう面白おかしそうに黒ローブの肩を叩いていた。
/; ,' 3 「もう行け。顔付きの気配は追っておるし、最後にゃどうせあっちが出向いてくる。
やる気がない訳ではない。勝ち目を作れば、それを拾うくらいはしてやる……」
荒巻は不貞腐れ、それ以上喋らなかった。
(;メA )
(;メA )「……マニー、お前はどうする」
¥*・∀・¥「こ、こ、こんな面白い見世物を放っておけと?w」
/; ,' 3 「やかましい!」
(;メA )「……ならまあ、俺は行くが……」
(;メA )「くれぐれも気をつけてくれ。何が起こるか分からないんだからな……」
黒ローブはおずおずと歩き出し、意を決して飛び出すと同時、凄まじい勢いで遠くの空に消えていった。
/; ,' 3 「……あぁ、かっこわるい……」
¥*・∀・¥「な、なあ荒巻よ。私は一応、顔付きに戦いを挑んで生還しているんだよ」
/; ,' 3 「……だからなんだ」
¥*・∀・¥「なので? まあ? 実質私の勝ちということで……い、いいかなぁ?w」
/; ,' 3 「……勝手にしろ……」 ガックリ
荒巻は独りごちて、マニーの煽り言葉を遠ざけるように深く俯いた。
.
.
≪7≫
――空は、完全に夜に染まっていた。
顔付きにあらゆる光を奪われた今、彼らを照らすものは星と月だけ。
荒野に風を遮るものは何もない。
( "ゞ)
( "ゞ)「……てめえか、例の顔付きってのは」
( `ー´)
( "ゞ)「……だんまり。俺には興味ナシ、いい度胸だ……」
とはいえ、デルタ関ヶ原は顔付きから何も感じなかった。
肩透かしというにもおこがましい期待外れ。
気合いを入れていた分、彼は大きな落胆を覚えていた。
ミセ;゚Д゚)リ「いけー! やっちまえー!」 ジタバタ
( `ハ´)「……あんまり前に出ると連れていかれるぞ。
あやつの意識、いくらかお前にも向けられている」
応援するミセリと子守のシナー。
彼らはデルタの背後数十メートル先に陣取り、戦いの余波に身構えていた。
.
( `ー´)「……私と戦うのは、君達三人か」
( "ゞ)
<_;プー゚)フ
( ゚д゚ )
並び立った三人を一望し、ネーノはミルナのところで目を止める。
( `ー´)「久し振りだな、撃鉄のミルナ」
( ゚д゚ )「…………」
( `ー´)「どうだろう。君なら、私の考えに賛同――」
ガジャ、という重々しい金属音がネーノの言葉を遮る。
( ゚д゚ )「……るっせえな」
音の出処はミルナの右腕。言葉を介さず、彼は既に戦闘の意思を露にしていた。
肩から拳までを覆う荒々しく波立った鈍色の装甲。
背の左右には畳まれたままの四つの撃鉄。
ミルナは右腕をだらんと垂らし、鋭くネーノを見返した。
.
( ゚д゚ )「それは死んだ奴の顔だ」
( ゚д゚ )「……それを引っさげて、お前は“何”だ?」
( `ー´)「……ネーノの最期を詳しく話す機会が無かった。
君は私が生まれる以前には、もう外界との接触を断っていたから……」
( д )「……それは“死んだ人間の顔”だ」
ミルナは同じ言葉を繰り返す。
(# д )「よりにもよって、それは“死んだ親友の顔”だ」
( `ー´)「……」
(# д゚ )「喋るのは後だ、まずはそのツラをひっぺが――」
( ゚д゚ )
と、見栄を切って拳を構えた瞬間。
ミルナは、ネーノの背後に潜む影を見つけてしまった。
誰もが知らぬ内にそこに居た、きっとまだネーノですら気付いていないその影は――
.
( `ー´)「……どうかしたか、ミル――」
瞬間、ネーノの言葉を絶ったのは足音。
“そろそろ気付けよ”という意味でわざと大きく立てられた足音だった。
(; `ー´)「――なッ?!」
ネーノは反射的に振り返って背後を見回す。
しかし、そこにはもう誰も居なかった。
「俺は、眼中にねえか」
(; `ー´)「……」
その声に応じ、再び前に向き直る。
( "ゞ)
前に居たのはデルタ関ヶ原。
彼はミルナの隣に立ち、じっとネーノを見つめていた。
.
(; `ー´)「……武神。異物に並ぶ、私の天敵……」
彼は呟き、両腕を静かに持ち上げた。
左腕には白い光の『既知の超越』。右腕には黒い光の『未知の否定』。
たゆたう黒白の異能を纏い、ネーノも最後の戦いを覚悟する。
( `ー´)「……だが安心してほしい。私は誰も殺さない。
我々の目的はtanasinnと人類の決別ただ一つ」
( `ー´)「だから今は大人しく、我が脳内に内包されていてほしい。
それには君の同意が必要なのだが……多少、手荒くなるだろう」
( "ゞ)「……ああ? あ、そう……」
( ゚д゚ )「…………」
(; `ー´)「……?」
なんか滑った感。
ネーノは少し考え、彼らの様子がどこか変だと思い至った。
であれば、その原因は何か――それを考え始める前に、デルタが答えを口にした。
( "ゞ)「つうか、今の足音、俺じゃねえぞ」
(; `ー´)「……まさか、そんな筈はない」
なら、一体誰が――――
.
「……本当に、泣きたいくらい眼中にねえんだな」
――声と共に、風が奔る。
砂塵を巻き上げて現れたその男は、自棄の笑みを浮かべて己を鼓舞していた。
彼は己の弱さを知っていた。
ただガムシャラに生き急ぎ、しかし曖昧な生き方からも抜け出せなかった。
自分はそういう男だと、十分に分からされていた。
「……それもそうか。本当なら、俺はここに居ていい奴じゃねえもんな……」
結末を知っていながら何も成し得なかった。もがいた所で何も変えられなかった。
自分一人で結論を背負った筈が、あいつ一人にそれを背負わせていた。
( `ー´)「……そうか。君、その両足は」
ネーノは男の両足に目を見張る。
鋭く、しかし滑らかなフォルム。それは青と白に彩られた流線型の機械装甲――。
( `ー´)「tanasinnの片鱗を使ったのか……」
.
男は立ち止まった。生き急ぐ事を止め、敵の眼前に踏み止まった。
逃げずに今を踏み締めた。止まる事を恐れず、今を生き抜く覚悟を胸に。
追うべき背中は遥かに遠い。今もなお、その背は確実に遠ざかっているだろう。
故に、一歩を踏み締める。誰よりも速くあれと願いながら、この敵を前に立ち止まる。
己の決意に一点の曇りなし。この道を進んでいった者達に、一刻も速く追いつくと。
( `ー´)「……愚かな事をしたな。エクスト・プラズマン」
<_#プー゚)フ 「……」
( `ー´)「……残酷な話だが、速さは私にとって意味を成さないよ。
まあ君から戦うというなら、一応、相手はするが……」
<_#フー )フ「……黙って失せろ。てめえは邪魔だ」
装甲内部で駆動音が低く唸り、周囲の空気を疾風に変える。
( `ー´)「……正直、君のような人間は苦手だよ」
――直後、電光石火が大地に弾けた。
.
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第三十ニ話 「Remnants(クズ、余り物、残されし者達)」
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.
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Is it real ?
https://www.youtube.com/watch?v=1Md7a3qGfvI
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.
自分で描いた結末を間近に、彼女は独白する。
暗い闇の底に居る事だけが実感できる。
どこにも光がなく、闇に満たされている世界に安心を覚える。
内外を隔てるものは何もない。
皮膚も、血肉も、骨身や臓物、脳の電気信号ですら、全てが意味を喪失している。
私は無意味だ。その事実に、安心を覚える。
私は多くを求めすぎた。弱さを隠す為だけに、他者の正しさに縋ってしまった。
あと少しで私という存在の意味はすべて無くなる。
そして、私の意味は彼の中にのみ残留する……なんて、おとぎ話を気取る気はない。
不愉快な善意と独善的な同情と馴れ馴れしい敵意。
私を囲うものはそんなものばっかり。これがいつの話かは忘れた。多分顔付きと内藤が原因。
どれだけ時間が経ったとしても、いつか敵が居たという事だけは人間忘れないようだ。
.
「――おい、……ール」
けっきょくの所、私自身には戦う理由なんか無い。
タナシンに関わる前から、私はただ目の前に転がってきた石を弾くだけ。
大した理由もなく、ただ邪魔で目障りで不要なものだから私の世界から排除した。
それによって誰がどう思い、傷つき怨恨を抱いても私は気にしなかった。
私は私の中の現実を都合の良いように塗り替えながら、あらゆる時を一人で生きている。
そういう自惚れ方をしている。自己陶酔。自己愛。腐熟した自己肯定感の末路。
.
「……おっかしいな。これで手順合ってんだよな?」
「合ってる合ってる。まぁー起きるから待ってやれよ」
他人を知るごとに自意識は飽和する。
tanasinnの無限の命は、私という記号を無限に薄め続けていく。
そして何度も、小さい頃、まだ人間だった頃に死んでおけばよかったと思っている。
だから私は無影の正義を形取り、あまつさえ、幸せについて語り始めたのだ。
そんなものに興味など無いくせに、幸や不幸を語ることで、人間らしくあろうとしたのだ。
善意も悪意も個性を取り繕う為の記号でしかない。
根本的な問題から話を遠ざける為の誘導でしかない。
彼の正しさはそれを否定するものだった。だから私には彼が必要だった。
逃避する私から逃げ場を奪い、終止符を打つ。
それがドクオという記号に与えられた役割、存在意義だったのに、なぜ……――
.
――月夜の森。
その奥地に、彼らは居た。
('A`)「…………」
川 - )「…………」
地面に横たわったまま微動だにしない素直クールと、岩に腰掛けて彼女を眺めるドクオ。
そして彼らの様子を観察するように、少し離れたところにはテンプターが立っていた。
(;'A`)「……なあテンプター、大丈夫なのか?
デルタさんの時みたいに役立たずじゃ困るぞ」
.λ__λ
(;∮∀∮)「……あれは特例だ。俺が個人的に出した特例だ」
テンプターは目を逸らしつつ答える。
.λ__λ
(∮∀∮)「……ま、多分俺が邪魔者なんだろうな。素直クール的にはよ」
('A`)「……そうなの? じゃあどっか行けよ」
.λ__λ
(;∮∀∮)「……お前さあ……」
.
('A`)「……もう俺らの取引は終わったろ、お前も勝手にしろよ」
ドクオは右腕を差し出し、テンプターとの取引内容を再確認する。
('A`)「この腕に、全身の回復、クーの蘇生と回復」
('A`)「対価はお前の肉体。これが済んだ今、お互い用は無いはずだ」
彼の右腕は既に人間のものではない。
そこにあるのは風に漂い、しかし腕として実在するtanasinnの黒煙であった。
他の部位にしても、彼は少しずつ人間としての構造を失いつつある。
.λ__λ
(∮∀∮)「……言っておくがな、お前は“無”そのものだったタナシンに自我と体を与えちまったんだぜ。
荒巻やネーノ、ミルナも誰もやらなかった事を、お前はやっちまったんだ」
( 'A`)「……お前が悪さしたら他の奴らが何とかするよ。
俺は世界滅亡とか毎日のように願ってるしな。お前の始末は後の連中に任せる」
.λ__λ
(∮∀∮)「……ああ、現状それが無難だな。俺の始末は誰にでも出来るが、」
テンプターは素直クールを一瞥。
.λ__λ
(∮∀∮)「……他の連中にこれの始末は無理だ。
手に余るし、そもそも解決しようとすべき物じゃない。これは生きた水掛け論だ」
.
('A`)「…………」
.λ__λ
(∮∀∮)「助言として言っとくが無意味だぜ。これをどうにかしようってのはよ」
('A`)「……何とかするさ。無駄にはしない」
.λ__λ
(∮∀∮)「……無駄? 何に、誰にとってだ」
('A`)
('A`)「……さあ、分かんねえ」
ドクオはそう言いながら俯き、答えを探すように目を閉じる。
('A`)「多分こんなの、傍目からすりゃ無意味にも程があるんだろうな……」
('A`)「……ああ、多分これはどう転んでも何にもなんねえよ。
俺がこいつをどうにかできたとしても、それは多分、明確な意味を残さない」
('A`)「だってよ、メシウマの方じゃ凄いのが出てきて戦ってる最中なんだろ?
顔付きだっけか……。多分、アイツを止めた方がみんなに感謝されるんだと思う」
.
.λ__λ
(∮∀∮)「……まあ、そりゃそうだな」
('∀`)「……へっ」
('∀`)「それに比べてなんだこの、殺風景で平和な景色はよ……」
ドクオは顔を上げて周囲を見渡す。
あるのは薄暗い森、差し込む月光、素直クールとテンプターの姿だけ。
ひとつの都市が壊滅し、多くの人間の命に関わる事件が起こっているというのに、
ドクオの目にはたったこれだけのものしか映っていない。
顔付きとの戦闘が佳境となった今こそ、まだ戦える人間がより強い敵に立ち向かうべきだ。
単純な足し引きだけを見ても、ドクオは明らかに間違った選択をしていた。
('∀`)「……あーあ……」
('∀`)「……ほんと、何やってんだろうな……」
乾いた笑い声。ドクオは夜空を見上げ、かつての夜を思い出していた。
.λ__λ
(∮∀∮)「……っと、俺はそろそろ消えるぜ。ま、とりあえず頑張んな」
('A`)「……ああ。あんま悪いことすんなよ」
「――いいや、そいつは気分次第だ。じゃあ、あばよ……」
ドクオが視線を戻した時、もう、テンプターは姿を消していた。
.
('A`)「…………」
川 - )「……ん、…………」
その時、寝息のような、小さな声が聞こえてきた。
テンプターが消えてすぐの事だ、彼が邪魔だったのは本当らしい。
('A`)「……おい……」
ドクオは静かにゆっくり立ち上がり、彼女の傍で片膝をついた。
川 - )「………………」
(;'A`)「……おい起きろよ。ここから更に一眠りされたら朝になっちまう」
川 - )「……すう、すう……」
(;'A`)「いや、寝るなってば……」
.
川 - )
(;'A`)「……」
tanasinnの片鱗は人の願いを一切の対価無しに完璧に叶えるもの。
ゆえに今、素直クールが目覚めないのもドクオの願いに他ならなかった。
それを自覚してしまった時、ドクオは自身の胸中に渦巻く多くの感情を上手く整理できなかった。
('A`)「……起きろ」
川 - )
('A`)「……いつまで待たせんだよ……」
まだ、少しだけ時間は残っている。
ドクオはそう自分に言い聞かせ、そして何もしなかった。
停滞だけが彼らの共存を許している。それを自ら壊す事など、ドクオにはできなかった。
――しばし、佇む。
.
.
「……いつか『昔あんなこともあったね』『色々ごめんね』なんて語り合う」
「俺達は幸せになって終わり、ゼンブ忘れて元通り……」
かつて、エクストに向けた言葉を思い出す。
.
「……なあ、ドクオ」
「お前には、何をしてでも帰りたい場所があるか?」
かつて、ミルナに問われた事を思い出す。
.
「どうしても自分から逃げ切れないんだよ。俺も、お前も」
「生き地獄を生き抜くしかないんだ……俺みたいなのも、お前みたいなのも」
「俺はこうだ。死ぬ理由がないから生きてる。お前はどうだ。なんで生きてる」
かつて、自分と同じような人間が言っていた事を思い出す。
.
(生きてるかもしれない。それだけで十分なんだ)
(……あんなの見て勘違いしちまったけど、今なら思える)
(コインはまだ『落ちていない』。俺が賭けた『表』にはまだ可能性がある)
だから俺は目を開けたまま、しぶとくその時を待ち続ける……)
かつて、己を鼓舞した言葉を思い出す。
.
――人には、“相応しいステージ”というものがある。
( 'A`)(……ああ。ここが“それ”だ……)
ドクオは、かつての言葉にそう答える。
.
――最後に、始まりの夜を思い出す。
自分一人だけが救われてしまったあの夜の事を、ドクオは今も信じている。
妄執、信仰、依存――心を形容する言葉など、最早どうでもいい。
そんなもので縛りきれる思いなら、俺はここには来ず顔付き相手に戦っていた。
彼女を想い出の一つにして、全てを乗り越えて正しい道を歩んでいた。
('A`)「……俺も、少し……」
ドクオは弱々しく呟き、地面に腰を下ろす。
随分、無茶をしてきた。
彼は自身に刻まれた多くの傷跡を眺め、そう思う。
('A`)「少しだけ、疲れた……」
tanasinnに侵食されつつある肉体は、顔付きとの戦闘で致命的な亀裂を作っていた。
血と肉が皮下で混ざる感覚。人間としての輪郭はあれど、中身の方は既に崩壊を始めている。
テンプターには三日と言ったが、そう長く持つ道理も無い。
.
と、と、と
ところがどっこい!
その必然の死すら、tanasinnに頼れば覆す事は可能なのでした!
.
とどのつまり、結局ここまできても、tanasinnは台無し無意味徒労の象徴ということだった。
あれは人の末路に逃げ道を用意し、その結末を濁すばかりの代物。
ドクオ自身が生存を望まなくとも、他の誰かが勝手に彼を存命・復活させる事も十分にありうる。
――ならば、ここで意地を張る理由、命を懸ける意味はあるのか。
どうせ誰かに覆される決意。どう転んでも幸せ一辺倒が約束された未来。
(´・ω・`)「うわ素直クールが連れてかれた」 ※ドクオの脳内に住まうカオス
(´^ω^`)「助けてタナシ〜ン!wwwwwwwwww」 ※ドクオの脳内に住まうカオス
最短ルートならこれで解決していたという事実。
合理性のみで語れば、ドクオという存在が辿ってきた人生には無駄と無意味が多過ぎるのだ。
……しかし、だからこそ命を懸ける意味があった。
不合理の意地にこそ自分自身を預けられる。
ドクオが助けたかったのは、効率的な過程の為に切り捨てられた無駄と無意味、それ自体だ。
そもそも最初から、彼の敵は素直クールの半生を無駄と決めつけるもの全てだった。
大多数を救う絶対的な正答がある限り、無意味な少数派を切り捨てる為の間違いは必ず“作為的に発生させられる”。
tanasinnとは、その片鱗によって作為的に少数派を用意し、絶対的な間違いをこの世に定義する法則。
強靭かつ非動的な悪を用意することで、逆説的に、効率よく安全に、大多数の人間を善と定義付けするものだ。
.
/ ,' 3
たとえば荒巻スカルチノフ。
tanasinnという少数派の烙印を押された者達は破格の強さを与えられる。そこに戦意の有無などは関係無い。
彼らが与えられた異能も不老不死も何もかも、第三者が彼らを見た時に敵として脅威を感じやすい設定を付与されたに過ぎないのだ。
よくよく思えば、この世界で荒巻が何か悪事をしたかと言えば、していない。
むしろ街の管理運営に時間を割き、大多数の人生を救ってきただろう。
雇用を作り、街を発展させ、超能力という不良製造機があっても街の治安をより良く保ってきた。
なのにデミタスやドクオは彼を敵と呼び、打倒する事を厭わなかった。
確かに不穏な動き・言動はあったが、それでも彼を悪であると言い切れるだけの材料は不足している。
なのに、いったい誰が彼を理解しようとしたのか――
唯一その役をマニーが出来ていたとしても、やっぱりそれは少数派でしかなく、
やっぱり荒巻は特に意味も無く、ただ大きな力を持っているという理由だけで多くの人から敵として認識されていた。
……そしてその理不尽には誰も気付かない。
まるで、この有様こそが“世界の当然の仕組みだ”とでも言うように。
.
( ゚д゚ )
これはミルナにしても同じ事だ。
彼はこの世界に到達する以前からtanasinnに挑み続け、その度に無数の仲間を無駄死にさせてきた。
積み上げ、挑戦し、台無しにされ、また最初からやり直し。
例えるなら、それは全話一言一句を逃さず読まないとページをめくれず最終回も読めない小説がバッドエンドで完結し、
次回作も次次回作も、数百話の末にまた同じ結末を読まされるようなもの。しかも無理矢理。
こんなものを前に正気の人間が“くっだらねー”と思わずにいられるのか。
よしんばそう思わなくとも飽きる。興味が失せる、やる気を損なう、期待しなくなる。
だからミルナは監獄の奥に身を潜め、少数派の烙印を諦念と共に受け入れたのだ。
死ぬこともできず、生きる価値もない人間。それに許された最後の抵抗は、無言の停滞のみである。
川 ゚ -゚)
素直クールも、彼らのように否応無しに間違いを押し付けられてきた側の人間だ。
彼女は誰よりも長くtanasinnに抗い続けてきたが、内藤の作った人工片鱗という不純物は彼女の根本を変容させた。
人工片鱗により精神的抑圧を弛められた結果、彼女はそれまで以上に強い自己矛盾に苛まれるようになる。
しかし人工片鱗は現状に対する直接的な原因ではない。むしろ後者、彼女を壊したのは強烈な自己矛盾の方だった。
自身の弱さを正せるだけの強さと意思を持つが故に、彼女は自分と戦うという下らない道を選んでしまったのだ。
つまりそれは一時の休みもなく、自分自身の複数の感情を殺し合わせるこどくな作業。
だが人間の精神はそんな作業には耐えられない。回復とダメージの数値がまったく釣り合っていない。
このままではいずれ私は破綻する。
思考の最中にそう予感した彼女はドクオに正義の役割を押し付け、素直クールという間違いを正させようとした。
そうすれば自分自身の正しさは証明され、下らない間違いは彼女の死をもって根絶される。
――あの時、素直クールが前のドクオと戦った時、本当はそうなる筈だったのだ。
しかし思惑は外れ、彼女は自分で用意した正しさの象徴に勝利してしまった。
その結果、彼女は自身の正当性を証明する最後の理を喪失した。
今まで自分を支えていた正義という記号の脆弱さを目の当たりにしてしまった。
間違ったものが正しいものに勝てる筈がない。
ならば、正しさに勝利した私はそもそも間違っていなかったのだ。
でなければ、私は今まで何に縋って生きていたんだ……
もし、素直クールの人生に終止符を打つとすれば、この独白の末尾こそが相応しいだろう。
.
(メA )
――今や、何者でもない黒ローブの男は、素直クールを救えなかった。
正しさ、正義とは、推敲された悪意をより広義的意味合いの言動を用いて圧殺することに他ならない。
前のドクオにはそれが出来なかった。たとえ彼女とどれだけ分かり合っていたとしても、彼にはこの理屈を証明する事が出来なかった。
二人の構図は単純に正義と悪だった。前のドクオに一つ失敗があったとすれば、彼女に対して共感と同情を覚えていた事。
この世の善は等しく独善である。故に、悪に対しての同情だけは絶対にあってはならない。
正義に見放された者の末路が悪ならば、正義とはあらゆる悪を見捨てて生きてきた者の末路。
悪という概念自体を無駄で無意味と眼中にすら入れてこなかった人間だけが、独善的な正義の味方を気取れるのだ。
嫌だから見ないという理屈によって作り上げられた正義。この世の正義の中身とは、結局その程度のものでしかない。
自身の正当性を保持しながら、自分とは無関係のところで悪を発生させるもの。
もし人類史最悪の発明を決めるなら、善意によって悪を量産する、正義というテクスチャをおいて他に無いだろう。
だが、同時にこの仕組みが大多数の人間を幸せにしてきた事も事実だ。
その事実があるからこそ、この世の正義は正義として成立していられる。
内実がどれだけ腐っていようとも、結果として多くを救うものを善と定義するのが人知の結論。
悪は切り捨てろ。悪に目をつけられた人間も見捨てろ。悪には関わるな。目を合わせるな。
そんな大多数が主張する絶対正義――前のドクオもそれに従い、素直クールを悪として見捨てるべきだったのだ。
当然、彼女への同情を捨て去る決意はあった。しかし、彼は肝心な所で正義の味方にはなりきれなかった。
戦いの最中、彼は自覚してしまったのだ。
こんな空っぽの正義では誰も救えない。これでは自分の正しさを誇示するばかりで、目の前の誰かを救う事は出来ない。
“何もしないこと”を正しいとする連中に属したまま、人を変えることなど出来はしないと。
それで保持出来るのは世の中という曖昧な枠組みであって、その行い自体に個人を救うような力は最初から無かったのだ。
正しさの奴隷に出来る事など何もなかった。俺が彼女に向けるべきは、正しさではなかった――
.
.
色んな事を思い出しながら、彼女が目覚めるのをじっと待つ。
ドクオの体は夜風の冷たさも感じられなくなっていた。耳も目も、その機能は残っていても実感を伴わない。
五感は既に意味を成さず、この状況に似合う感覚を脳が勝手に想起・再生するだけ。
それはあたかも夢のようで、現実よりも居心地の良いものだった。
「……面倒臭い奴だな、お前は……」
やがて、どちらかが困り顔の笑みを浮かべて、そう呟いた。
.
もくじ >>2
第三十二話 Remnants(クズ、余り物、残されし者達) >>3-133
今回は以上です('A`) おつかれさまでした('A`)
33話はもう出来ているので、また来月の今頃に投下しようと思います('A`)
おつ!!!
乙
思えば遠くへ来たものだ
乙ぅ!次も楽しみにしてるぞぉ!
乙!!!
おつんぽ
進捗です
33話に加えて34話も完成し、今書いている35話は大体20レスくらい書けています
次の投下は24日の夜を予定しています 次回で大体終わりです('A`)
やったぜ
じこはおこるさ
期待が高まるねこりゃ
今日は投下出来そうにないので日〜月曜に延期します('A`)
ごめんNE('A`)
えー
まってるよ〜
≪1≫
川;゚ -゚)「……ぬう、流石に寝すぎた。頭が痛い」
('A`)「水なんかねえぞ」
川;゚ -゚)「……あっちに川があるな。行ってみよう……綺麗だといいが」
立ち上がり、森の奥に入っていく素直クール。
ドクオは黙ってその後に続き、彼らは二人で森を進み始める。
( 'A`)「……」
彼女は川があると言ったがドクオにはそんな音は聞こえない。
耳を澄ましても、せいぜい木々が擦れる音と虫の鳴き声が聞こえる程度だった。
無意味な嘘。しかし、それを正すのもまた無意味だ。
('A`)「……いきなり起きて大丈夫なのか?」
川;゚ -゚)「ん? ああ、tanasinnはそのへん万能だからな。この頭痛は普通のあれだ」
(;'A`)「……」
つくづく徒労感を与えてくれるもんだなと、ドクオはtanasinnの便利さに溜息を吐く。
.
川 ゚ -゚)「ドクオも大変だったんじゃないか? 私達の事情に巻き込まれて。
……今更だが、もう少し手を回しておくべきだったな」
('A`)「別に大した事は起こってねえよ。まぁ大変だったのは本当だけど」
川 ゚ -゚)「にしては平然としてるな。私の事もそんなに聞いてないのか?」
('A`)「いや……大体聞いたんじゃねえかな。他人が知ってる分の話は、大体」
川;゚ -゚)「……冗談だろ。頭痛が悪化するぞ……」
彼女は瞑目して頭を振った。
川;゚ -゚)「どういう話を聞いたんだ? なるべくオブラートに包んで教えてくれ」
('A`)「……正しい人だった。それを歪められて色々、って感じ」
川;゚ -゚)「……それ、だいぶ包み隠さず語られてそうなんだが」
('A`)「これの100倍は酷い言い方だった」
川; - )「勘弁してくれよ……」
.
('A`)「……ひとつ聞いてもいいか」
川 ゚ー゚)「ふっ、もう何でも聞いてくれ。
どうせ隠し事も全部筒抜けだろうしな」
彼女は開き直ってそう言った。
他人に黒歴史を洗いざらい公開させられた手前、彼女はもう半ば自棄になっていた。
('A`)「じゃあ聞くけど……」
('A`)「俺って童貞じゃないのか?」
川 ゚ -゚)
('A`)
川 ゚ -゚)
川;゚ -゚)「……せ、精神的にか?」
そう聞き返されただけで察しがついた。
彼女は振り返ってドクオを見たが、ドクオは反射的に顔をそらし、彼女を直視しなかった。できなかった。
('A`)「……まぁ……俺の体もそんな人間って訳じゃねえし、まぁ……」
川;゚ -゚)「……聞いたのは君だろ。露骨に誤魔化されると私も困る……」
('A`)「でも思ってたより超複雑だよ。笑える話題だと思って聞かなきゃよかった……」
川;゚ -゚)「……一応言っておくと、あの頃の君に今と同じような自我は無かった。
だから、恥ずかしながら本当に、そのだな……一人と変わらないというか……」
('A`)
川; - )「……すまない。なんでもない、忘れてくれ……」
フォローしにいったつもりが逆効果。
二人はしばらく黙った。とんでもなく気まずい時間だった。
.
('A`)「……なあ」
川 ゚ -゚)「ん?」
('A`)「どっかに逃げようぜ。二人で、どこか遠くによ……」
川 ゚ -゚)
その言葉が、素直クールの歩みを引き止める。
川 ゚ -゚)「……どこにも逃げ場は無いんだよ。
今までずっと逃げてきたが、それが確信だ」
('A`)「俺がお前の逃げ場になる。お前一人なら俺でも……」
川 ゚ -゚)「それでもtanasinnからは逃げ切れない。
いずれ悪意に追い付かれてしまう。抗いきれるものではない」
('A`)「……なら、お前はどこに行きたいんだ。これからどうしたいんだ」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「……これから、か?」
彼女は機械的に繰り返す。
tanasinnにとって――永遠の命を持つ者にとって、『これから』は意味を成さない概念だからだ。
未来を重要視するのは普通の人間だけであり、彼女らはその枠から外れた存在。
ドクオの問い掛けに対しても、彼女にしてみれば『今更そんな事を聞かれても』というのが本音であった。
.
川 ゚ -゚)「そうだな……」
川 ゚ -゚)「……今のまま、が一番嬉しいかな……」
彼女は夜空を見上げ、そう答えた。
('A`)「……お前がそれを望むなら、俺はそれを叶えるよ。
ずっとここに留まっていていい。敵が来たら俺がどうにかする」
( 'A`)「ならまぁ……とりあえず拠点が必要だな。
tanasinnに適当な一軒家出してもらおうぜ。メシもtanasinnでどうにかすりゃいいしな」
川 ゚ -゚)
何かに追われ、どこか遠くへ逃げる事と、何もせずこの森に留まる事――意味としてはどちらも同じ逃避でしかない。
一つ違いがあるとすれば『疲れるかどうか』だけ。逃げるのは疲れるが、停滞するのは疲れない。
ドクオはその違いを知りながら、しかし彼女の選択を受け入れると宣言した。
今すぐ曝け出したい弱気も鬱積もすべて虚勢の内に隠し、己を欺き、彼女を支えると言ってみせた。
そんな意図を汲んでか、素直クールもドクオの姿勢を否定こそしなかった。
川 ゚ -゚)「……参ったな」
――しかし、素直クール自身は否定をこそ求めている。
こんな薄ら寒い受容がなんの役にも立たない事を、彼女は身を持って知っていた。
川 ゚ -゚)「見ない間に、ここまで性悪になっているとは……」
人工片鱗によって破綻した彼女が 『間違った答えを出す装置』 ならば、ドクオはその導き出された間違いを正す装置だ。
それが正常に作動していない事に、素直クールは僅かばかりの苛立ちを覚えていた。
.
川 ゚ -゚)「今度は私に聞かせてくれ。
君は私を目覚めさせたが、その意味は何だ」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「君はどうやら私が望んでいたような人間には育たなかったらしいが、
だったらどうして、今更私を目覚めさせたんだ?」
('A`)「……それが、お前の願いだったからだ」
川 ゚ -゚)「……だったら最後まで叶えてくれ。
私の願いはそこで終わってはいない。私の願いは――」
('A`)「いや、お前は何も悪くないだろ」
彼女の言葉を無視し、ドクオはハッキリと言い返した。
('A`)「……俺には分からない。
どうしてそこまで自分を責めるのか、罰を受けたがるのか……」
('A`)「ここで俺がお前と戦って、殺せばそれで解決なのか?」
川 ゚ -゚)「……見栄えは良い。誰もが納得する結末だろう」
……その通りだ、とドクオは思ってしまった。
そして、その結末は誰よりも彼女自身が求めているものだ。
自制心を失った自分――自我と呼べるものすら曖昧な今、彼女は己の未来を最も恐れていた。
自分と呼べるものをこれ以上他人で薄められるのが怖い――彼女は、そういう自己中心的な恐怖を抱えていた。
.
('A`)「……それでも俺はお前の敵にはなれないよ」
('A`)「だから、俺にはお前の間違いを正す事も出来ない」
川 - )「……それじゃあ、お前は何の為に……」
('A`)「……何を言われても変わらない。これが俺の結論だ」
('A`)「俺はただ、お前の間違いを見逃すことにしたんだ」
いつか自分を失い、自分ですらないものが周囲を攻撃してしまう――そういった彼女の不安は分かっていた。
だが、ドクオは素直クールを正す存在ではなく、彼女を許す存在としての自分を選んでいた。
こんなものは認知症を相手にするのと大差はない。
大掛かりな紆余曲折など、最初から必要無かったのだ。
(;'A`)「……もういいだろ。正しいだの間違ってるだの、色々誤魔化すのは……」
(;'A`)「俺はお前が悪者だとは思ってないよ。荒巻やデルタさんも、多少なりそう思ってるはずだ。
そりゃあ今は味方は少ないけどよ、なにも全員敵って訳じゃねえんだからさ……」
先ほど強く言い切ったのを中和するようにわたわたと取り繕うドクオ。
さも最終決戦という感じでここまで来たものの、ドクオには最初から敵対の意思など無かったのだ。
(;'A`)「知らねえけどよ、迷惑かけた人だってそんな多くないだろ?
tanasinnの絡みの連中はどいつもこいつも話が極端過ぎんだよ……」
川;゚ -゚)「……まぁ、そう言われればそうなんだが、……いや参ったな」
(;'A`)「…………」
川;゚ -゚)「…………」
.
川;゚ -゚)「……うーん……」 ポリポリ
彼女は顔を背けて頭をかいた。
呆れを感じさせる間延びした唸り声。
どこから説明したものか、もう何を言っても矯正できないのではないか。
そういう事を考えながら彼女は言葉を選んでいた。
川;゚ -゚)「まあ、こんなものか……」
それから少し間を置いて、彼女は思った事をそのまま発する事にした。
誰に向けた訳でもない、単なる実験結果の報告を。
川;゚ -゚)「心身の成長はしたが……今のこれは無価値だ」
川;゚ -゚)「これは私にとって何ら役に立たない、何十億の他人の一人でしかないぞ……」
川;゚ -゚)「やはりtanasinnの力も信用ならん。……本当に私の願いを叶えたのか?」
川;゚ -゚)「……本当に参った……ここまで的を外れるとは、予想していなかったな……」
('A`)「……」
――しばし、言葉が途絶えてから
('∀`)「……けっ、あたりまえだろ」
('∀`)「俺はクズのドクオだぞ、誰がてめえの理想になってやるかよ……」
ドクオは醜悪に微笑み、素直クールにそう言い返した。
.
――くだらねえ。
ああ、今更こいつが何を言おうが知ったこっちゃねえんだ。
こいつの意思なんざどうでもいい。俺の欲望がこいつを求めた、俺の全てはそれだけだ。
ここで都合良く過去を忘れて理想のドクオになりきるのは簡単だ。
そうすれば、きっと誰も気付かないくらい自然に、俺達は平和に暮らしていける筈だ。
こいつと一緒に居るだけなら、適当に理想のドクオをやってりゃいい――
(……だが、それなら“俺”はどこに居ればいい)
理想の素直クールと理想のドクオ、だがそこに俺の居場所は無い。
俺は誰の理想にも掠らない不出来な俺として生きてきた。
彼女の理想など意にも介さず、ただあるがままの俺として生きてきた。
薄汚く育ち、女のケツを追い回して一喜一憂し、結局は悪人と呼ばれる事すら厭わなくなった。
だが、彼女が理想とするドクオにそんな過去は必要無い。
彼女の理想は今の俺を否定している。そして俺は、今の馬鹿げた自分を捨てる気にはなれなかった。
彼女はどうしても理想のドクオを追い求めるし、俺は理想のドクオにはなれないまま彼女を追い続ける。
互いを求め欲しているように見えても、俺と素直クールは、どうあっても相容れる道理がない。
.
('∀`)「……それに、ドクオなら生きてるぜ。
俺じゃなくて本物の方がな……」
川;゚ -゚)「なん、だと……?」
――ならば結論はひとつ。
初めから、俺の敵は “理想(それ)” だけだった。
素直クールがここまで意固地になって拘るドクオという名の理想像。
これは彼女の精神を独り占めにするその偶像を徹底的に破壊し、否定する戦いだ。
彼女は今も正しいままだ。他者の正しさを演出する為の機械だ。
そんな役割を人に与えるtanasinnを俺は許さないし、自分の在り方に固執し彼女を救わなかった正義の味方も許せない。
“お前は間違っている”とばかり叫び、他者を悪と決めつけるだけの正しさが誰を救える。
自身の潔白を保持するだけの正義に何の力がある。
何もかも潰してやる、こいつを悪と決めつけるものは全部――それが俺と同じ名前を持った、正義の理想だったとしてもだ。
……それに、嫉妬もある。情けないけど本当だ。
どんだけ理屈を並べた所で、結局俺は俺自身として彼女に愛されたがっている。
だがその為にはまず前の男を超えなきゃ話にならない。浮かれた話はその後だ。
こいつをここまで不幸にしやがった男の影なんざ消し飛ばしてやる。
( A )(何もかも、跡形すら残してやるもんかよ……)
.
( 'A`)「……あっちの方角がレムナントだ。覚えてるだろ」
川;゚ -゚)「――ッ」
レムナントに行けばドクオに会える。
既に名前も姿も変わった相手だが、それでも彼は彼のままだ。
私は正されなければならない。
こんな間違った私は、今度こそ彼の手で裁かれなくてはならない。
理想と夢を果たすには、彼が居なければ――素直クールの心には、一瞬で焦燥と希望が満ち溢れていた。
川;゚ -゚)「……ありがとう。それじゃあ私はドクオに会ってくる」
('A`)
川;゚ -゚)「君は、……まぁどこかで元気にやっててくれ」 ダッ
ドクオの居場所を聞いた素直クールは迷わず駆け出した。
目の前の失敗作には目も暮れず、強迫観念にも等しい使命感を負って彼の元へ――
――その途端。
駆け出した彼女の片足に、意思を持った黒煙が結びついた。
川;゚ -゚)「……なんのつもりだ、急いでいるんだが」
黒煙の正体はtanasinnの片鱗――それが生み出す力の一端。
夜の森に、ゆっくりと黒い気配が滲み広がり始めていた。
('A`)「……その通りだ。俺は何やってんだか……」 ボソッ
.
('A`)「なんのつもり? 俺の相手がまだ終わってねえじゃん」
川;゚ -゚)「……何を言っている?
君は私の味方なんだろう? だったら――」
('A`)「ああ、だからお前をここで倒す」
川 ゚ -゚)「――三度目は無いぞ。お前は、何を言っている?」
('A`)「お前はここで終わりだ」
川#゚ -゚)「……意味が分からない、会話になってない!
私の為を思うなら邪魔するな!」
('A`)「するさ。ずっと邪魔をする。お前とあいつじゃ釣り合わねえよ」
川#゚ -゚)「私と彼は対等だ! お前に私達の何が分かる!」
('A`)「じゃあお前には俺が分かるのかよ」
川#゚ -゚)「……ッ!」
('A`)
('A`)「……お前達は多分、プラスマイナスでゼロにはなれても、そこで終わる。
打ち消し合うことは出来ても、それ以外のものにはなれないんだよ……」
川;゚ -゚)「……ああっ、もう早く放してくれ!
今度デートくらいしてやるから今は放っといてくれよ、なあ!」
('∀`)「けっ、それじゃあ足りねえなあ……ぜんぜん……」
――もう言葉は意味を成さない。あとは火を点けるだけだ。
それだけで、彼女の破綻は敵意となって俺の前に姿を見せるだろう。
俺の敵は『理想の正しさ』。その事実があるだけで、俺は彼女の敵になれる。
俺は彼女の敵にはなれないが、彼女が俺を敵視する事はできる。
だから俺は、たった一言告げればいい――致命的な決別を生む、二秒で出来た適当な嘘を。
.
('A`)「……放していいのか?」
川;゚ -゚)「そう言ってるだろ! さっさとしろ!」
('A`)「ふーん……」
( 'A`)
( 'A`)「……この距離なら、俺の方が速く向こうに着けるな……」
川;゚ -゚)「……なんだ、まさか一緒に来るつもりか……?」
('∀`)「……はは。いや、まさか」
('∀`)「――戦う前に、殺しとこうと思ってさ」
川 ゚ -゚)「――――」
川;゚ -゚)「……は?」
('A`)「いや、このままお前も足止めしてても顔付きがアイツを殺すんだろうけど、」
('A`)「放していいなら、俺が自分で殺しに行ってもいいなーって思ったんだよ」
川 ゚ -゚)
('∀`)「そんだけ」
.
川 ゚ -゚)「……お前、さっきから何を言っているんだ?」
素直クールから感情と生気が消える。
彼女の双眸は瞳孔を開き、冷徹な視線をドクオに向けていた。
('∀`)「……おお、人を見下す目だ。
初めて見たぜ、お前のそんな目……」
ドクオは、乾いた笑いで彼女の殺気を受け流す。
素直クールは先の一言だけでドクオを敵と認識してしまった。
彼らが過ごした素晴らしき日々は、こんな下らない嘘一つで無為になったのである。
ドクオが大事に大事に抱きしめていた愛くるしい思い出など、素直クールにとっては一瞬で無にできる程度のものだったらしい。
('A`)
その辺のことを思うとドクオは正直泣きそうだった。
泣きそうだったが、我慢して続ける。
('∀`)「俺はどっちでもいいんだぜ。俺がやっても、顔付きがやっても」
('∀`)「へへ……あいつが死んだらお前は俺を頼るしかねえよなぁ。
そうせず次のドクオを作ったとしても、そいつも俺がブッ殺してやるし……」
川 ゚ -゚)「……正気ではないぞ、お前」
('∀`)「おいおい、それを言うならお前もだぜ。
マジで馬鹿だよなあ、ゴミがゴミ以外を産める訳ねえだろ……」
.
川# - )「……鬱陶しい。それ以上、無駄に喋るな……」
('∀`)「……」
張り付けた笑顔。
いつの間にかこんな器用な事が出来るようになっていたんだな、と彼は己を見直した。
だけど苦手だ。ドクオは笑顔を取っ払い、大きく一呼吸してから彼女を見つめる。
川# -゚)「……お前というものを完全に理解した。
ゆえに、ここでtanasinnを完全開放する。
お前は本当に期待外れだった……さっさと死んで消え失せろ」
('A`)「……おう。やってみろよ」
――――ぽた、と雨が降り始める。
頬についた雨を拭うと、その手には黒い何かが付着していた。
黒い雨。それはtanasinnの具現か、或いは彼女の負の側面か。
('A`)「…………」
('A`)(……敵は、あれか……)
ドクオは夜空を見上げ――そしてふと、ミルナが彼女を 『鍵』 と呼んでいたのを思い出した。
.
――人知において夜と呼ばれるもの。
太陽無き今、空を覆い尽くす莫大な暗黒。
仮にtanasinnをこの世全ての闇とするなら、それに匹敵するものは夜という概念以外にはありえない。
夜、その向こうには無限にも等しい宇宙――完全なる制止空間が広がっている。
そこまで連想して、次に浮かんだのは素直クールの制止能力。
川# -゚)「早めに死んでくれ。この世が食い尽くされる前にな……」
鍵とは扉を閉ざし、いつか誰かの手によって開ける為の物。
荒巻達が彼女を危険人物と見做していたのは、彼女がいつか自分の意志で扉を開けてしまう不安があったからだ。
彼女が鍵としての役割を放棄すればtanasinnは外に――この世界に降り注ぐ。
夜や闇、黒と形容されていたそれらは全て、tanasinnと定義されるものに戻っていく。
.
('A`)(……夜の向こうも、宇宙もなにも全部敵ってか……)
天の闇夜はすべて敵。夜空という皮膚の内側で、無数の何かが蠢いていた。
星も月もとうに飲み込まれた。
先刻、顔付きによって世界中が人工の光を失った今、この世を照らすものは皆無だった。
それなのに、夜の向こうに何かが居ることだけはハッキリと理解できた。
無数の目、無数の口、無数の手足、無数の半身。
何かは人間らしき形をもって、今にも夜を破ってこちら側に来ようとしている。
悲鳴が聞こえる。向こう側の何かでさえも、この世に残された全ての生命も、ありとあらゆるものが無音の悲鳴を上げている。
黒い雨が降り続く。光を失った世界を塗りつぶすように、終わった世界を作り変える為に。
眼前の事象は至極単純。しかし理解を超越し、人知の規格を超えている。
それでも無理にまとめるならば、たった一言――――
.
――――夜が、砕け始めていた。
.
≪2≫
――最速で放たれたエクストの蹴りと、顔付きの左腕が衝突する。
<_#プД゚)フ「おおおおおおおォォッッッ!!」
( `ー´)「……『既知の超越』」
闇夜の荒野に閃光の飛沫が散る。
大地には亀裂が走り、空気が肌を打つ感覚が更に激しさを増していく。
( "ゞ)「……」
( ゚д゚ )「……俺が言うのもなんだが、意外に大人しいな」
ミルナは戦いを目で追いながら、沈黙を守るデルタに話しかけた。
( "ゞ)「……俺か? まあ順番は守るもんだろ」
( ゚д゚ )「……なら二番手はどっちがやる」
( "ゞ)「……俺がやっても倒せるが、倒したいならお前でいい。
俺個人には別に戦う理由は無いからな」
( ゚д゚ )「だったら俺だな。……つっても、あのガキに倒されたら出番もないがな」
( "ゞ)「……あのガキ、筋は良いが育ちが悪い。動けちゃいるが無稽の動きだ。
誰かが鍛えてりゃイイ線いってたと思うが、今の状態じゃ三日三晩あっても倒せねえな……」
もったいねえ事しやがる、と溜め息混じりにデルタは呟いた。
.
しえん
<_#プД゚)フ「だアッ!!」
振り抜いた脚が顔付きの左腕を押し退ける。
エクストは勢いのまま全身で一回転、すかさず後ろ回し蹴りで中空を薙ぎ払った。
( `ー´)(これはッ――)
始動した時点で直撃が確約された必中最速の一撃。
最早、エクストの攻撃は時間という括りを完全に追い抜いていた。
tanasinnの片鱗さえあれば、こんな巨大数と人間を等式にぶち込んで成立させるような頭の悪いマネも可能だった。
しかし、エクストの蹴りが的を射抜く事はなく――
<_;プД゚)フ「なッ!」
( `ー´)「……危なかった。本当だとも」
――顔付きはエクストの攻撃を容易く受け止め、じっと彼の目を見返していた。
( `ー´)(……さて、どこまで付き合ったものか……)
顔付きの能力 『既知の超越』 は自然数に対する絶対優位能力である。
例え相手がどんな能力者だとしても、人知による定義・理解・分解が可能なら彼はあらゆる事象の上位互換を用意出来る。
エクストは確かに凄まじい速度での攻撃を実現しているが、ここが真空中でない時点で1光秒を下回り、
また音速突破時に発生する現象すら無い事から彼の速度は音速以下、銃弾の初速にすら届いていない事が確定している。
それでも顔付きはエクストの攻撃を目視出来ておらず、今も近未来予測能力を使う事でしか対応出来ていない。
ならば能力の本質は加速という過程には無く、常に相手より速く動いているという結果にこそある。
故に顔付きは少し困っていた。
『既知の超越』が対象への絶対性を具現するものなら、推測されるエクストの加速能力は『比』によるもの。
すなわち彼らの能力がぶつかり合う場合、 『x:y=1:2の時、x>yである』 という頭の痛くなる現象が発生するのである。
しかも一度発生したら両者の能力が連鎖して絶対に止まらないのも極悪だ。
机上で済む計算ならともかく、周囲に発散していくエネルギーが組み合わせ爆発的に上積みを繰り返したらもう宇宙がヤバい。
.
<_;プД゚)フ「どうしてッ……なんで届かねえ……!!」
更にヤバいのは、当の本人が状況のヤバさを全く自覚していないこと。
今は顔付きが 『既知の超越』 を最弱状態にしているおかげでエクストの加速も最小限に留まっているが、
これがいつ音や熱の壁を突破して光速の値に突入し、巨大数同士の大爆発が起こるかも分からない。
( `ー´)(……まさか、こういう意味で戦いにならないとは……)
ここに至って顔付きは思う。
この世に既知と未知を同時に満たすものがあるとすれば、その一つは矛盾と呼ばれるものだろう。
現状を要約すると、エクストが降伏する以外に平和的決着が叶わず、こちらが勝とうとすれば宇宙がブッ飛ぶ意味不明な状況。
――この世で最もストレスの溜まることは、ふざけた奴を真面目に相手すること。
つまらないことを面白がり、的外れな見地から論外をぶちまけるような奴に誠心誠意対応すること。
顔付きの私見において、今回のエクストとの戦いはまさにそれだった。
( `ー´)(彼がもし、自分の本質を自覚していれば厄介だったかも知れない。
既に十分強いのに、それを自分自身で認める事が出来ないとはな……)
<_#フД )フ「おおおォォォ――!!」
だが、なんやかんやの色々あれど、人の目に映る彼らの攻防は極めてシンプル。
エクストが最速で攻撃し、顔付きがそれを受け、またエクストが攻撃するだけ。
確かにいずれは無限と無限で宇宙がマッハ的な話にも発展するが、顔付きが数値の変動を調整している時点で攻防の支配権は彼の手にある。
高速ではあるが数字の変動は微々たるものだし、端数を切り捨てればゼロでしかない。
無限小数をどこまで数えるかはエクストの勝手だが、顔付きに対してエクストの最速が意味を成さないのは不変の事実であった。
それに、エクストの攻略は大して難しい問題でも無かった。
.
<_#フД )フ「はあ――――ッ!」
エクストは再び最速を凌駕する。
踏み締めた大地は重く沈み込み、あらゆるものを吹き飛ばす烈風が背に続く。
疾走の軌跡を描いて屈折した空間には僅かな残像。
実体を見失った顔付きは、その残像を目で追うしかない。
( `ー´)(この速度、私の予測ではもう追いつけんか……)
肉体の反応速度を考慮しても、顔付きの近未来予測の有効範囲は30秒から0.001秒まで。
今のエクストを相手取るには、ここから更に細かく未来を予測する必要があった。
勿論それ自体は頑張ればできるが、肉体性能が0.001秒以下の世界についていけなかった。
目先の事象を正確に把握して予測を立てて対応する一連の処理を、0.001秒以内に繰り返すなどコスパからして論外。
顔付きはこの時点で未来予測を終了し、充てていた思考回路を休息させ始める。
( `ー´)「悪いが、もう終わりだ」
――そして、一番手っ取り早く簡単な答えをエクストに提示することにした。
<_;フД )フ「黙れ! 俺を見下してんじゃねェーーーッ!!」
瞬間、エクストの軌跡に一際大きな火花が散った。
それと同時に人知の壁が二枚砕け、彼の速度は未踏の域に到達――こうなればもう直撃か否かは関係無い。
音の壁を突破するという事は、周囲の物質をマッハ1の領域まで巻き込むという事。
同様に熱の壁はマッハ3付近で、現時点でのエクストはそれを更に凌駕していた。
風に舞う木端のように、レムナント内壁部は次の一瞬をもって焼け切れ抉れ、跡形を残さない。
.
( `ー´)「……やれやれだ」
そんな攻撃が発生する直前の、刹那の刹那の刹那の刹那。
顔付きは、特に何の焦りもなく『時間を止めて』いた。
<_;プД゚)フ
( `ー´)
( `ー´)「……速さは瞬間移動の下位互換。
そして時間の支配下であり、決して時の流れからは逸脱できない」
<_;プД゚)フ
顔付きはゆっくり歩いてエクストに近づき、彼の傍らで立ち止まった。
( `ー´)「本当なら、tanasinnに触れた君に時間停止は通用しないんだ」
( `ー´)「それでも君が時に縛られている理由は二つ。
この能力をまったく想定せず、tanasinnでの対応を怠った事」
( `ー´)「そして何より、君自身が速さの奴隷である事を望んでいた事だ。
君は自分の意思で、時間というレールの上を走っていた」
<_;プД゚)フ
( `ー´)「……自分を認める努力が出来ず、無駄な努力を積み上げる」
( `ー´)「キミはその典型だな。同情しよう」 ポン
エクストの肩に手を乗せ、顔付きはとある超能力を発動する。
それは、シャキンの無効化能力【ディープ・ドロー】だった。
この能力には超能力無効化の他、“作用を到達させない”という性質がある。
時間停止ほどではないが、速さそのものを無意味にするという意味では時間停止と同じ効果が期待できる。
.
( `ー´)「これで終わりだ」
手を離し、顔付きは時間停止を解除。
<_;プД゚)フ「――――」 ツルッ
それと同時にエクストは足を滑らせ、転倒の作用すら相殺されて地面に転がった。
<_;プД゚)フ
<_;プД゚)フ「えっ」
倒れたところで衝撃すら無効になるので、特に痛みも何もない。
重力だけが彼を地に留め、あらゆるエネルギーが物質の上を滑っていく。
<_;プД゚)フ「……なに、が……?」
全力を込めた一撃の間際、何かが起こって台無しにされた。
<_;プД゚)フ「…………」
すべてを無力にされた。
あれだけ迸った力を根底から絶滅させられた。
数秒を経て自覚したその事実に、エクストはただ絶句するしかなかった。
.
( `ー´)「あとでゆっくり話そう。君も片鱗を得た、仲間にしたい」 ザッ
<_;プД゚)フ「……まッ、待て!! 待ちやがれ!!」
( `ー´)「あとでな」
顔付きは踵を返した。これ以上愛想を見せる意味も無い。
彼は無言で立ち去り、エクストを置いて本命達に歩み寄る。
そして、本命とされる二人は――
( "ゞ)「アッハッハ。見ろよアイツ、すげー滑ってる」
(;゚д゚ )「……お前、性格悪いな……」
( "ゞ)「……いやあ、力の差というより生きてる世界の差だったな。
大人はいつでも子供の世界を蹂躙できる。見下された側は見世物にされるしかない。
いやまさに世界の縮図だぜ。アッハッハ……」
形だけの中身のない軽口。
薄皮一枚でコーティングされた憤怒は、ミルナにも十分伝わっていた。
(;゚д゚ )「……分かりにくい奴だな。
とにかく次は俺だ。邪魔するなよ」
( "ゞ)「……言ったはずだ。順番は守るってな」
.
( `ー´)「……義務からも責任からも目を逸らし、拘りとやらで聞こえを良くし」
( ゚д゚ )
荒野に声を遮るものはない。
顔付きの言葉にミルナは心当たりがあった。……しかも無数に。
( ゚д゚ )「……何度も言うが邪魔するなよ」
( "ゞ)「あのな、俺に生意気言いたいならクマーに勝ってからにしろよ」
(;-д- )「……あれは事故だ。今は、もう少しマシだ」
痛いところを突かれ、逃げ出すように前に出る。
思えば、監獄を出てから良い事など一つもなかった。
大体悪い方向に転がってきたし、負け負け負けで自分の生ぬるさを突きつけられるばかりだった。
( ゚д゚ )(……ま、都合が良いっちゃ良いんだけどな……)
( ゚д゚ )(誰も、俺の全力を知らねえんだから)
顔付きとミルナは互いを射程に捉える。
しかし開戦は未だ先。顔付きは、言葉の続きを語り始める――
.
( `ー´)「……挙句、鳥籠に逃げ込み達観を気取った。
一切の責務を放棄し、なお自身の正しさを誇示しながら……」
( `ー´)「これは私個人の感情だから聞き流してくれていい。
私は、ネーノを見捨てて保身に徹した貴様を不快に感じている」
( ゚д゚ )「……へえ」
ミルナは顔付きの生みの親・ネーノをよく知っている。
まだ一緒に行動していた頃は研究を手伝うこともあり、ミルナは彼の研究をいくつか目にしていた。
レムナントを囲う壁、超能力の体系化、人工片鱗の作成、tanasinnへの対抗策などなど。
当時のミルナはそれら研究の意味を理解できなかったが、中でも特に分かりやすく目を惹いたものがあった。
それは、十体の人工生命体を保管していた培養カプセル郡であった。
ミルナが初めてカプセル郡を見つけた時、既にその内の八体は生命としての形状を保っていなかった。
研究対象は残された二体―― 一体目には『内藤』という名を持ち、簡単な意思表示が出来るほど成長していた。
だが二体目にはまだ人体を成すほどの進化が見られず、ネーノからも失敗作を予感されていた。
結局、その二体目の進化過程を見る前にネーノは自分の意思でこの世を去ってしまったが、
『自身の後任を作る』という人工生命研究の目的は、恐らく本人の思惑以上の成果と共に達成されていた。
( `ー´)
現に件の二体目は、ミルナの目の前で生命体として活動していた。
( ゚д゚ )「あのグロい塊がここまで人間っぽくなれたのか。
あいつの研究、俺が思ってた以上にちゃんとしてたんだな」
( `ー´)「……彼は全知全能の体現者だった。
世の理を知り、tanasinnの打倒のみに終始した」
( ゚д゚ )「……だな」
.
( `ー´)「だが、それでも世界は絶望的だった。
いくら救いの手を差し伸べようと、人々は彼の手を払いのけるばかりだった」
( ゚д゚ )「だなぁ……」
( `ー´)「……その点は君も同じだろう? 今更余裕ぶる事もないと思うが」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「……ああ、まったくもってその通り。俺とあいつは同類だよ」
( `ー´)
( ゚д゚ )「同じものを見て、同じ過程を経て、あいつの方が先に結論を受け入れた。
違いがあるとすればそこだけだな。余命幾許の差、そこに意味があるとまでは俺も言い張らん」
( `ー´)「……ならばこそだ。いいか、最後の勧誘だぞ。
貴様が本当にネーノの友であるなら私と共に来い」
( `ー´)「この世の歪みを正すならば、今こそ彼の願望を果たすべきだ」
顔付きは強く言い切ってミルナを睨んだ。
かつての友が残した理想、それを受け継ぎ実現しようと手招く人工物。
ミルナは顔付きを見ながら思う。俺達は、どこかで致命的な間違いを犯したのだと。
俺もネーノも素直クールも同じだ。
無自覚の内になにかを違え、それを補う為に在り処の無い正しさに縋った。
形容できない罪悪感、焦燥感。
それらを誤魔化す言葉として、『正しさ』は余りにも都合が良すぎた。
( -д- )「……」
( ゚д゚ )「……あいつへの義理立てとしてお前の側に付くのは、俺にとっても至極合理だ。
きっとお前は世界を救う。それこそ誰一人として取り零しもなく、誰もが幸福を願える世界を実現するんだろう」
( `ー´)「……ふん」
こつ、と顔付きは自身の頭を小突いて微笑んだ。
( `ー´)「だからこそ私の『内包』は手段として成立している。
既に内包した人々も、経緯はどうあれ今は私の賛同者だ。
まだ三億にも満たない数だが、私は彼らに未来を約束した。それを覆す事は決して無い」
.
( ゚д゚ )「……だけどな、お前の主義には欠落がある。
俺達は――tanasinnと関わった全員は、今までそれと戦ってきた」
( `ー´)「欠落? 誰よりもネーノの才覚を信頼する君が何を――」
( ゚д゚ )「人間の弱さ、人の限界だ」
( `ー´)「……?」
ミルナの断言に、顔付きは虚を突かれたように沈黙した。
( ゚д゚ )「お前の存在が最善策なのは俺にも分かる。
あの荒巻だって、tanasinnに関わった当初からそれに気付いてたはずだ。
tanasinnには勝てない、なら徹底的に守って逃げて全てを維持すればいいってな」
( ゚д゚ )「出した結論はネーノも同じだったんだろう。だから死ぬ前にお前を作った」
.
( `ー´)「確かに、最善策の模索は容易だったろう。
貴様達がその策に思い至っていたとしても、別に不思議ではない。
だが貴様達は実行には移さなかった。それだけで天と地の差がある」
( ゚д゚ )「そうだ。だがお前にその理由が分かるか?
最善策を実行に移さなかった俺達の理由が」
( `ー´)「……単なる恐怖」
( `ー´)「いや、義務と責任からの逃避、という方が無難か」
( ゚д゚ )
( -д- )「……そうか。ならまぁ、決まりだな……」
――顔付きの返答に、ミルナは確信を得る。
最初から気に入らない相手だったが、戦うに足る理由は十分に露呈された。
ミルナは正しさを求め、それでもなお間違えてきた男だ。
誰よりも正義を追い求めたが故に、それを打ち砕かれた時の絶望を誰よりも熟知している。
顔付きは正しい。その正しさに同調するか否かの選択もある。
しかし彼の行いは全人類に平等に絶望を見せる事で、自身の絶対性を誇示しているだけなのだ。
無関係で済むはずだった人間にも、もう自分の人生だけで精一杯の人間にも、
希望をもって今日を生きていた人間にも、満足のいく人生を送ってきた人間にも、
やっと不幸を抜け出せた人間にも、ようやく未来を勝ち得た人間にも、一切の分別無くtanasinnの全貌を見せつける。
そんな風に自分では解決できない事象と、その解決策が同時に提示されれば人はどうなるのか。
――人間は、自身の無力さを悲観するより先に、用意されたハッピーエンドに楽観するだろう。
.
顔付きは、ミルナ達が最善策を行使しなかった事を 『義務と責任からの逃避』 と言った。
ならば顔付きの行いは、全人類に義務と責任を等分配しているようなものだった。
彼に同意する者は絶対の安全を保障され、義務と責任をすべて肩代わりしてもらえる。
同意しなかった者はいずれ破滅する世界の中、来たる時まで自身の無力さと無責任さを自責する事になる。
義務と責任を無関係な人間にまで押し付けた挙句、同意者には無責任を許して高待遇をチラつかせる。
確かに事は世界規模。全人類が関係者とも言えなくはないが、他人をそんな極論に付き合わせるのは横暴でしかない。
表面上、顔付きのやり方はどこにも否定の余地がない正しい方法である。
現実を見せ、選択の余地を与え、その選択を尊重するのだから、それが間違う訳がない。
つまりそれは無責任な人類から義務を徴収して回っているとも言える、飴と鞭の極地なのだろう。
……だが、この方法はいずれ確実に破綻する。
荒巻はレムナント監獄で似たような状況を作り検証したが、結果は堕落と自主性の欠落のみ。
ましてやそれを地球規模で展開するとなれば、人類は確実にその研鑽を止めてしまう。
人類が束になっても敵わないものがひとつふたつ無数にある。
そんなんだったら今更科学を発展させる意味も学術を貯蔵する意味も無い。
顔付きの管理下に入れば戦争なんか無意味だし、致命的な病も理不尽な運命も頼めばどうにかしてくれる。
――神は信仰の対象に留まるからこそ人の心に豊かさをもたらすが、
実在し、それが全知全能であると証明された時、人間は神の飼育動物となる事を拒めない。
顔付きは正しい。だが、彼の方法に従えば人類が人類として存在する意味が完全に無くなってしまう。
ミルナ達が最善策を取らなかった理由はそれだ。
彼らは人ならざる者にされながら、人間というものに未だに希望を持っていたのだ。
だからこそミルナは仲間を作ってtanasinnに挑めた。
ネーノも完全なる解答を用意しながら、それを他者に強要する事はなかった。
僅かにでもtanasinnの覚醒を遅らせようと逃げ続けた素直クール。
自分自身に希望を持たずとも、他者の力になり続けた荒巻。
今でさえ、そんな彼らもこの世界を自分達でどうにか出来るとは思っていない。
なのに彼らが行動を起こしたのは、それでもどうにかしようと足掻く誰かが居たからだ。
この世界に生き、この世界にこそ意味を成そうとする弱者達――
彼らはそれを無意味と否定し、見捨てるような人間ではなかったのだ。
.
tanasinnは世界を作り変える。今ある世界は崩壊し、また次の世界が勝手に始まる。
顔付きは永遠に同じ世界を管理・運営し続ける。代わりに人類の進化は途絶え、あらゆる人理は意味を失う。
形は無くなるが意味は残る未来と、形は残るが意味を失う未来。それらに大した差異など無い。
しかし、だからこそミルナは己の意思で決断を下したのだ。
停滞を良しとする顔付きの結論は、正しくはあっても意味は無いと――
( ゚д゚ )「……お前にネーノの代わりは務まらん。
ネーノは頭の良い奴だったが、人を見下さなかった。他人への期待も忘れなかった」
( ゚д゚ )「思想の対立を良しとした。
闘争も略奪も、等しく生命の本質だと言い切った」
( `ー´)「それは過去の話だろう。君はネーノの最期を知らない」
( ゚д゚ )「知った口を聞くなよデク人形。末路だけで人を理解したつもりか?」
(# `ー´)「……貴様……」
( ゚д゚ )「……ああ、お前を倒す事はきっと間違いだよ」
ミルナは自分の拳を見下ろしながら呟いた。
遥か昔にtanasinnと出会い、その運命を相手に足掻き続け、やがて何も成し得ないと諦観に呑まれ、
( ゚д゚ )「だがそれでいい。俺は、そういう開き直りをした」
とんでもないバカ野郎に核心を突かれ、再び立ち上がり、間違える事を覚悟したのは何の為か。
.
( ゚д゚ )「俺がどうなろうが構わん。だが……」
ネーノはいつも正しい答えを出し、それと同時に正しさに苦悩していた。
正しさが人を救うとは限らないと、毎日のように嘆いていた。
だが、あいつは『それでも』と言い続けて絶対に苦悩から逃げなかった。
その苦悩の果てが正義の顕現――顔付きならば、あいつの無念を汲んで向こうに付くべきなのは明白だろう。
( ゚д゚ )「あいつの結論をただの記号として扱うお前を、俺は認めない」
……だが、そうならない為に俺は間違える覚悟をした。
ネーノが苦悩から逃避した結果が顔付きなら、最後の友である俺があいつの諦めを許す訳にはいかなかった。
あいつが最後まで認めなかった結論(こたえ)。それに従い、平和的な結末に至るのは簡単だ。
しかしそれで喜べるのは俺でもネーノでもない有象無象の他人だけ。
ネーノもそういう有象無象を助ける為にこの結論を認めたのだろうが、
それじゃああいつは、一体誰の為に悩み続けたのか意味が分からない。
きっと今、俺だけがあいつの生涯には意味があったと言い張れる。
苦悩し続け何の解決も出来ず、時間を浪費し徒労のみを積み重ねた男は、最後の最後に自分の正しさだけをこの世に残していった。
正しいが、最善ではない結論を残していった。
.
だったら俺に出来るのは、その結論は間違いだと言い張る事だけだろう。
あいつの正しさを間違いをもって否定し、その結論を絶対に認めない。
ミルナが己に科した結論は、最初からあらゆる道理の破綻を前提としたものだった。
( `ー´)「……つまり、敵対するという意味でいいのかな?」
( ゚д゚ )「そう聞こえなかったのか? つうか、最初っから言ってんだろうが」
あいつが間違いであってほしいと願い続けた結論。
たとえそれ以外に一切の解決策が無かろうと、間違いであれと友が願ったなら、俺はその為だけに戦える。
(#゚д゚ )「死んだ奴のツラでそれ以上吠えるな。……いい加減殺すぞ」
( `ー´)
( `ー´)「……出来ない事を口走る。
理想論者はいつもそうだな、撃鉄のミルナ」
顔付きは彼を異名で呼び、そして鼻で笑ってみせた。
.
――両者とも、能力の発現は一瞬だった。
言葉などもう要らない。
そんな空虚なもので動かせるものなど、ここにはもう残ってはいない。
( `ー´)「貴様だけはVIP待遇だ」
( `ー´)「私は、生まれて初めて“怒り”で戦う」
直後、顔付きの周囲に無数の球体が具現化し始めた。
それらは炎や水、氷、稲妻、風、鋼鉄などを内包しながら、純度100%のエネルギー体として空に停滞する。
球体の大きさ自体は手の平に収まる程度。しかしその一つ一つは超能力としての完全体。
世界中に流布し、分割されていた超能力本来の原形であった。
( `ー´)「このプロセスの名称は【Tera to materialize】。
超能力体系のデバッグモードとでも考えてくれればいい」
(# д゚ )「……見苦しい力だ。まあ、俺も人の事は言えんが……」
――右腕に、赤の一線を引かれた鈍色の装甲が具現する。
背中には撃鉄を模した九枚羽――ミルナの能力・マグナムブロウ。
人命を餌に強化を重ね、ドクオに分けた力も取り戻した今、その能力は着実に全盛期へと近づいていた。
.
( `ー´)「……やはり理解できないな」
( `ー´)「ネーノにせよ荒巻にせよ、貴様のそんなしょうもない能力を、何故ああも過大評価するのか……」
顔付きの言い分はまたも正しかった。
たとえミルナの能力が全盛期に戻り、更にtanasinnと暴走状態が加わろうと、結局は物を壊すだけが取り柄の能力。
そんな能力、ぶっちゃけ高が知れている。
彼らを見比べれば、きっと誰もが顔付きの優位を即答するだろう。
(# д゚ )「大口は試した後にしておけ。後悔するぞ」
――夜空には、世界中の全能力を内包した無数の球体群。
そのうえ既知と未知を掌握する無敵の能力すらあり、全知全能を“序の口”として振る舞う規格外。
勝敗以前にまず、大半の者は勝負の舞台に上がることすらしないだろう。
そして、顔付きを作ったネーノの目的もその点にあった。
( `ー´)
顔付きが所持する破格の強さは、この世のあらゆる戦いを一つ残らず徒労・無意味に変える為のもの。
人間同士の争いを意味消失させる事で、消去法的にtanasinnに目を向けさせる、ただそれだけの為にあるものだった。
ゆえに顔付きの強さに対して “くっだらねー” と思った人は、その時点で世界平和の礎になっている。
顔付きにしてみれば 「はいその通りですねw一票あざすw」 としか言いようがない、戦いを放棄してくれたありがたい一人なのだ。
なんにせよ、顔付きが世界最強である事実は後にも先にも揺るがない。
( "ゞ)
……恐らく揺るがない。
勝っても負けても向こうの思惑通り、戦わなくても利は向こうに。
やった側がやるだけ損をする相手、それが顔付きという機械の概要であった。
.
( `ー´)「……さあ、いつでもどうぞ」
( `ー´)「天の光は全て敵だが、それでもと言い張りたいなら――」
(# д゚ )「――お前の不幸は、俺の全力を知らなかった事だ」
( `ー´)
( `ー´)「……安いハッタリはよしてくれ。今更付き合う気にもなれん」
(# д゚ )「……俺がtanasinnと戦ってた理由はシンプルだ」
かつて、まだ何者でもなかった頃を思い出す。
始まりはただの憧れだった。人を見下すムカつく野郎を、テレビの中で殴り飛ばすバカが居た。
俺はそれに憧れた。善も悪も二の次に、邪魔なものを真ん前から打ち砕く姿に心を奪われた。
全力で生きていい。年端もいかない子供にとって、その確信は唯一無二の救いだった。
そして俺はあの頃、確かに決意していた。
全力で生き、死ぬまで自分と戦い続け、死んでも負けは認めないと。
(# д )「――俺が、誰よりも強かったからだ」
敗北と引き換えに得られる夢や希望など紛い物だ。
負けず嫌いとは敗北にこそ挑むもの。戦いとは己の確信を貫く為にある。
自分の中に絶対の確信がある限り、誰が相手だろうと、その戦いが無意味になる事は絶対に無い――
.
(; `ー´)「――ッ!」 ビクッ
不意に、背筋が凍りつく。
(; `ー´)(……なんだ……?)
(; `ー´)(この、湧き上がる焦りは一体……)
顔付きに油断は無かった。
ダディクール達との戦いでは油断・慢心が仇となったが、今の彼はそれを完全に排除していた。
異能の類はすべて実行中。何が起ころうと即時対応できるだけの用意は万全であった。
(; `ー´)(……なぜ私は、この男から目を離せない?)
だが、顔付きの無意識はミルナを明確な害悪と判断していた。
脅威を感じる理由は無いのに、何かが彼を脅威たらしめている。
(# д )「全弾、装填――――」
(; `ー´)「…………くッ!」 バッ!!
咄嗟の、思考を介さない反射的な判断だった。
顔付きは超能力の球体を自身の前方に集中させ、目の前に巨大な隔壁を作り上げた。
(; `ー´)(――駄目だ、あれを撃たせるのだけは駄目だ!)
万全を期すため両腕の既知と未知の能力も即時発動。
そうして突破不可能な絶対防御の体勢を作ったのち、顔付きは球体の一部をミルナに差し向けた。
.
(# д゚ )「――チッ!」
ミルナの一撃を阻害せんと飛来する高密度のエネルギー体。
響き渡る雷鳴が耳朶を打ち、溢れ出た電撃が激しいスパークを引き起こす。
数は目測で三十。
tanasinnの不死性があるとはいえ、球体に触れれば一瞬で意識を剥奪される程の威力。
ミルナは一度工程を中断し、迫り来る球体を撃ち落とそうと構え直す。
と、その直後。
<_#フ Д゚)フ「――――おおおおおおッ!!」
最速の蹴撃が烈風と共に馳せ参じ、雷撃の球体を一瞬にして蹴散らしていた。
(;゚д゚ )「――お前ッ!」
<_#プー゚)フ「露払いなら俺で十分だろ、なあおい……!」
.
(; `ー´)(――ここでエクストプラズマンだとッ!?)
エクストに使っていた相殺能力はまだ解除していない。
この短時間でtanasinnの扱いを覚える事も不可能――と、予想外の事態に思考を乱される前にリセットを掛ける。
顔付きは咄嗟にサイコキネシスを発動。
とはいえ速度で勝るエクストが単なる念動力を避けることは容易い。
彼もそれを見越して時間停止を用意し、エクストを確実に殺す為の算段を――
(; `ー´)「ッ!!」
<_#プД゚)フ「だァァァァァァァッ!!」
――しかしエクストは一切の回避をせず、次々と飛来してくる球体を蹴散らす事のみに集中していた。
(# д゚ )「礼を言う! お前は雑魚だがイイ雑魚だ!」
<_#プД゚)フ「そうかよォ! でもそれ二度と言うな心が折れっ」
(; `ー´)「――邪魔だ失せろッ!!」 ズアッ!!
言葉の途中、念動力が大地を薙ぎ払う。
防御など微塵も考えてなかったエクストには抗う術も無く、
彼は当然のように念動力に巻き込まれ、紙屑のように荒野の果てに吹き飛んでいった。
(; `ー´)(クソッ……あんなのに時間稼ぎをされるとは……!)
邪魔者は消したが、そのせいで一手遅れてしまった。
顔付きはミルナへの攻撃を諦め、ドクオの全力をも防ぎきったシールドを全方位に展開。
さきほど巨大な壁となった球体群も、次の衝撃に備えて高速回転を開始する。
物理的エネルギーは全力で外へ受け流し、それ以外のあらゆる干渉は両腕の力で対処する。
回復能力も準備万端。全てのダメージは回復に置換される。
加えて近未来の一部に介入――だがこれは失敗。何者かの先行観測を確認。意図的に、未来が不安定なものにされている。
ならばエクストプラズマンの性質を模倣――概念付与に成功、防御隔壁の強度は衝撃に比例し上昇していく。
棺桶死オサムの能力は未だ健在。防御隔壁に欠陥を用意、しかしその弱点は0次元上にのみ実在させる。
ミルナに関する情報をネーノの記憶領域から収集。
対象を既知と分類、予測される攻撃の名称は――
.
(# д )「……スゥ……」
息を吸い、夜空に拳を突き上げる――それと同時、背の撃鉄は形骸となって崩れ始めた。
間もなく黒い風が巻き起こり、迸るのは深紅の閃光。
(# д )「ッ、アアァ……ぐ、あァ……!」
閃光は三つの束となって空に羽撃き、なおその鳴動を荒げ臨界点を踏破する。
天地の慟哭が荒野を煽る。吹き荒れる風の中に光が炸裂する。
(; д )「は、あああ……ッ!」
膨張する力は更なる力をもって拳に凝縮され、軋みを上げる肉体に鞭を打つ。
肉体への負担は全てtanasinnに肩代わりさせているものの、その余剰でさえ凄絶な自壊を引き起こしていた。
しかしこれが撃鉄のミルナ全盛期の力。
決して強くなった訳でもなく、特別性能が変わった訳でも、特別な力が備わった訳でもない。
かつての能力が、本来あるべき姿に戻っただけ――――
.
(# д゚ )
――いきなり、ぱったりと、雷光と爆熱の嵐が消滅した。
(; `ー´)
舞い戻った無音の夜。
殺風景な荒野と夜空。果てにはただのでかい壁。
世界を彩るものは無く、九つの弾丸は静かに装填されていた。
(# д )
(; `ー´)
全ての力が、ピタリと動きを止めていた。
あれだけ迸った三つの閃光すら、今は綺麗さっぱり消え去っている。
(; `ー´)「……来い、見せてみろ……!」
――輝きを失ったミルナの背に、三つの撃鉄が再び具現化する。
その撃鉄に華美な装飾などは無く、撃鉄はただ雷管を叩く鉄塊に過ぎない。
.
(# д )「“マグナム、――」
呼応する力、変異する異能。
焔を従え、雷霆を撃ち払い、森羅を揺るがす拳が敵に狙い定める。
(# д )「――トライブロウ”」 ガチッ
言葉の後、落とされた撃鉄が鈍い金属音を打ち鳴らす。
直後、一筋の閃光が闇夜に亀裂を走らせ――――
.
(; `ー´)
――と、顔付きが認識できたのはそこまで。
しかしミルナが撃鉄を落とし、拳を振るう直前、少なくとも――
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
¥・∀・¥「おお、こりゃ壁の内側だけじゃ収まらんぞ」
/; ,' 3 「分かっとるならミルナの後ろに回り込め!
わしと貴様で余波を押さえ込むぞ!」
* * *
ミセ*´ー`)リ「しぬなら海がみえるとこがいーなー」
( `ハ´)「……問題あるまい。後ろに隠れていろ」
* * *
(・(エ)・)
(・(エ)・ ;)(……戦略的撤退が許される場面と見た!) ダッ!!
* * *
ハハ; ロ -ロ)ハ「……佐藤市長、これウチ滅びません?」
「私が居る限り問題ない。クソワロタの街に限っては、だが」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――レムナント各地に残る能力者達は、次の瞬間に訪れる破滅に身構えていた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<_;フД )フ「――――グ、はァ……ッ!」
こんな大変な時に、一方その頃。
顔付きの念動力をモロにくらい、レムナントの壁付近までブッ飛ばされたエクスト。
彼はミルナの一撃が臨界を迎えようとする前に、ぎりぎり意識を取り戻していた。
<_;フー )フ「……あ、ああ……?」
('(゚∀゚;∩「――起きた! 起きたんだよ!」
<_;フー゚)フ「……誰だ、てめえ……」
('(゚∀゚;∩「……ええと、とりあえず味方だよ!」
体幹を立て直すようにゆっくりと体を起こすエクスト。
力を込めて立ち上がってみると、全身の軋みが何倍にもなって全身に響き渡った。
普通に立っているつもりが右に傾く。地面が揺れ、激しい耳鳴りが意識をかき乱す。
【+ 】ゞ゚)「……もう動くな。 あと地面が揺れてるのは現実だ」
.
<_;フー゚)フ「……えっとお……あんたらが俺を助けたのか……?」
エクストの視界に映ったのは四人の男達。
その内、地べたに座ってライフルを抱え込むんだ男が振り返ってエクストに笑いかける。
「見ての通りよ。俺の弾丸はよく効いたらしいな」
彼はカンパニーで部隊長を務める男であり、エクストとも顔馴染みであった。
【+ 】ゞ゚)「先に言っておくがお前を狙わせたのはあっちの男だ。
礼も文句も、向こうに言ってくれ」
オサムはそう言い、顎先で前方を指し示した。
(メA )
確約された衝撃に備え、彼らの盾になろうと立ち塞がるのは黒ローブの男。
エクストは黒ローブの後ろ姿にドクオの面影を見たが、すぐに違うと直感できた。
.
(メA )「……見分けがつくなら自己紹介は必要無いな」
黒ローブは僅かに振り返り、エクストの顔を一瞥した。
<_;プー゚)フ「……ドクオはどこに行った」
(メA )「ああ、彼なら――」
瞬間、レムナントの荒野を何重もの突風が吹き抜けていった。
黒ローブは言葉を切り、いよいよ臨界を迎えたミルナの一撃に全力をもって相対する。
(メA )「悪いが今は時間が無い、教えるのは後だ。
これを受け凌ぐには俺一人では手に余る。手伝ってくれるか」
<_;プー゚)フ「……いいけど、それをその顔に言われるのは複雑だな……」
.
.
≪3≫
――遠くの空に、赤いなにかが打ち上がった、気がした。
それは花火のように空で弾け、小さな太陽みたく数秒間だけ世界を照らす。
(……ここ、は)
絶滅した意識の残滓が自問する。
しかし、自問に答えられるだけの自我がどこにも見当たらない。
(俺は、誰だったんだ……)
過去形の問い――自身は何者かであった、という前提の問い。
だが自問の答えそのものに意味は無い。
重要なのはその問いが何から発生し、何を正答としたがっているかだ。
「……それがお前の、本来あるべき姿だ」
どこかで誰かが何かを言った。
それを機に、闇の中を夢遊するばかりだった意識は肉体という輪郭に収納される。
音がする、光もある、方向の概念もある、自問するだけの知性もある――なら、俺は人間だったのか。
.
「無意味な問いだ」
声は答える。
「お前はtanasinnという泥沼から掬い上げられた、一塊の乱数に過ぎない」
「我々は人間ではない。『我々』は一をもって全を成し、有限もって無限を観測する定点である」
「肉体という枠で有限を定義する人類とは決して交わらぬ、 『ありとあらゆるものの前提』 である」
「我らは原点にのみ介在し、人知の礎となる前提を生産し続ける機構」
「ある時は有限と無限を同在させ、ある時は生と死を別離させる線と成る」
「あらゆる情報は我々の構造に収束する。人間とは際限無き情報収集端末であり、観測に特化した我々のニューロンである」
……理解しようとも思わない。
何を言っているのか、否定なのか肯定なのかさえ分からない。
声はただ、無意味であるとだけ答えて勝手な持論を並べているだけだった。
「人間は人間だ。彼らは自身をそう自称し、体系として確立させた。我らにそれを否定する意思はない」
「しかしお前は人間ではない。お前が我々の一部である限り、その事実は揺るがない」
「お前は我々の一部であり、素直クールによって無作為に切り取られた乱数列の一部である」
.
「――我々は自由意志である。発散し続ける世界を観測する定点である。
お前がなにかを自称するのなら、我々はそれを観測するのみだ」
「……お前、結局何が言いたいんだよ……」
ふと、思ったことが口から溢れる。
俺は今、きっと半笑いでそう言ったに違いない。
そうあってほしいと、そう思った。
「素直クールを神とするお前は、神に立ち向かい、何を結果として受け入れるのか」
「我々は神ではない。我々は礎であり、始点であり、未踏の土である」
「――――お前は、歩き続けてどこまで行こうというのだ」
.
.
――疑問とは、自身と他者を隔てる絶対の線である。
存在を隔てられた瞬間、ドクオの意識は、ようやく現実へと回帰していた。
「………………あ…………」
降り注ぐ、黒い雨。
双眸は正確に現実を認識する。
近くにあった無数の木々は黒い雨に解かされてほとんど無くなっていた。
遠くにはまだ形状を保つものも残っているが、それも黒い雨に打たれて少しずつ解かされている。
ひらけた視界には平面的な黒い景色があるだけ。汚染は、今も拡大を続けていた。
この雨はあらゆる概念を解かす消化液。
すべてはtanasinnに還元され、うごめく泥となって素直クールの支配下に置かれる。
tanasinnが世界を作り変えていく。この森は、その始点となって消滅していくのだ。
川 ゚ -゚)「……なんだ、もう起きたのか」
「…………」
足元には大きく広がる黒い泥沼。最早周囲に生命の息吹は無い。
そして、それはドクオですら例外ではなかった。
戦闘が始まって以降、ドクオもずっと黒い雨を浴び続けてきた。
体の至るところが黒く塗り潰され、感覚を失った部位は泥に混ざって解け出していく。
今や夢と現実の区別もつかず、個を確立するだけの自我も消えかかっている。
根源をtanasinnとするドクオは悪い意味で相性が良く、なおさら黒い雨による消化・侵食が早かった。
テンプターが言っていた通り、ドクオは経過と共にtanasinnと同じものに戻りつつある。
それは飴細工が熱で解けていくようなもので、ドクオと称されていたものはいずれ不可逆の崩壊によって形骸化する。
.
川 ゚ -゚)「……ああ、さてはさっきの花火のせいで目覚めたか。
ミルナのやつ、余計な事をしてくれる……」
「…………」
「……戦ってたのか、俺は……」
足元で泥が波打つ。
たった数センチの小さな波が、ドクオからまた少し意味を削ぎ落とす。
川 ゚ -゚)「そうだ、私達は戦っていた」
「…………」
川 ゚ -゚)「ミルナと同じ能力を使ってきたのには少し驚いたよ。
しかし時間切れだ。お前はもう自我を保てない。
人間ですらないお前には、これ以上耐え続けることもできまい」
川 ゚ -゚)「……ああ、いや、tanasinnに頼れば存在の保持は容易だったな。
私も同じ目に遭ったのに忘れていたよ。私も、今のお前のように壊れていったんだからな」
「…………」
川 ゚ -゚)「……ものを答える気力も無いか。
なら、そのまま元の姿に戻って消えるといい」
素直クールは踵を返した。彼女の目的はこんな出来損ないのドクオではないのだ。
こんな戦いは無意味で無価値。やるだけ無駄で見るに堪えない。
その認識は彼女だけでなくドクオにもあった。しかし――
.
(:::A )「……おい……」
川 ゚ -゚)
(:::A )「……俺はまだ、ここに居るぞ……」
川;゚ -゚)「……あのなぁ……」 クルッ
何度目かの呼び止めに呆れながらも、彼女は振り返って諭すように話し始めた。
川;゚ -゚)「お前はもういらないんだ。はっきり言って邪魔なんだよ。
良い思い出はいっぱいあるだろ?
この期に及んで、お前は結局何がしたいんだ?」
(:::A )「……俺、は」
川;゚ -゚)「ここで私がお前に負けるとしよう。するとお前はドクオを殺しに行くよな?
でも、もしそれが出来たとしても意味は無くて、私がお前を愛する理由はどこにもない」
川;゚ -゚)「私が勝ったとしても結果に大差は無い。私は彼に殺されて終わるからな。
tanasinnも起動させたし荒巻達も急いで私を殺しに来るだろう。
この先どうなろうとも、お前は絶対に私の気を惹けないんだ」
……この戦いの先に幸福など無い。俺という存在は、きっと永遠に素直クールには受け入れてもらえない。
だけど、それでも――たったひとつ、俺はどうしてもこの願いを叶えなきゃならない。
彼の無意識は、そんなことを独白していた。
.
(:::A )「……結局、ここまで借りっぱなしだったな……」
彼は己の左腕を俯瞰して囁く。
左腕にミルナの超能力・マグナムブロウを再構築し、なにかが蠢く夜空を見上げる。
敵は目に映る全ての闇。夜と呼ばれるもの、空を塞いだ全ての闇。
それらを相手取るのに用意できるもの――残されたものはあとひとつ。
川 ゚ -゚)「……ま、お前が言うことを聞かないのは分かっている。
末路くらいには付き合おう。どうやら、私が急ぐ理由も無くなったようだしな」
彼女は遠くの空を一瞥して言った。
その方角にはメシウマとレムナントの荒野がある。向こうでも、何かが起こっているようだった。
(:::A )「……そうだな。これが終わったら、俺にはもう何も残らない」
(:::A )「これで弾切れだ。俺には、何も残らない……」
意味消失は一歩先。
tanasinnの力を使えば永遠に戦い続けられるのに、それを思いつくだけの自我も残っていない。
彼を彼たらしめる記号はあとひとつ。
幼年期に見た、星の記憶だけだった。
.
――カチ、と小さく音が鳴る。
瞬間、異形を内包する果てしない夜空に小さな光が瞬いた。
その正体は星―― 一度は闇に呑まれた星々が、夜空に滲んで姿を現し始めたのだ。
川 ゚ -゚)「……星、だと……?」
素直クールは、その光景を見上げて目を丸くしていた。
この景色は覚えている。
かつて共に見た景色。彼の幼年期を彩ったあの夜の再現。
しかし今更こんなものを持ち出されても、彼女には困惑以外の反応ができなかった。
川;゚ -゚)「……バカな」
川;゚ -゚)「お前まさか、今までこんな……」
素直クールは視線を戻し、目の前の男に問いかける。
川;゚ -゚)「――こんな、偽物の記憶に縋って生きていたのか?」
(:::A )「……」
泥が波打ち、黒い雨はより激しさを増していく。
(:::A )「ああそうだ……俺はずっと、こんなものに縋っていた……」
(:::A )「俺には……これ以外に何もなかったんだ……」
.
川;゚ -゚)「……お前は、私を否定する為の装置だった」
川;゚ -゚)「それが今や、真逆の願いをもってここに居る訳だが……」
川;゚ -゚)「死にたいと毎日願ってた頃のお前は可愛いものだったが……」
川;゚ -゚)「それが……よくも、ここまで……」
続きを言いかけるも、素直クールは溜め息で言葉を誤魔化した。
自分と同じようなものに対して、一瞬でも同情を抱いていた自分を自覚する。
川 - )「……はあ」
呆れたような、頭を冷やすかのような大きな溜め息。
それで、彼女の心から同情は消え去った。
川 ゚ -゚)「……何でもない」
川 ゚ -゚)「依然、私達は変わりなく敵対する」
(:::A )「……じゃあ、これで終わりだな……」
星の光がさらに輝く。
それに呼応するように、男の拳に閃光が宿る――
.
“アルターグロウ”
「―― ≪天の光は、すべて星≫」
夜空に星彩、装填するは星の光。
己の過去(かつて)と未来(これから)を焼き尽くし、そしてあとには何も残さない。
(# A゚)「――――」
ここは人類未踏の夢の彼方。
すべては前へ進む為に、すべては前を向く為に。
決着の先には何もありはしない。しかし、無いからこそ渇望する。
この飢えを満たすものを求め続ける。
己の証となる何かを、きっと、誰もが探し続けている――
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第三十三話 「星の終着点」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
.
≪4≫
(; ー´)「――――ぁ」
顔付きは、吹き荒ぶ閃光の中に立っていた。
ミルナが放った拳撃は、一瞬にして彼の世界を真白に染め上げていた。
(; ー )「――ぐ、あ――――」
この星に存在した全能力を網羅する球体群、【Tera to materialize】。
それらが織りなす無限螺旋の絶対隔壁は滞りなく衝撃を相殺し受け流している。
しかしそれにも限界が訪れていた。球体群の表層は今、蝋のように溶けて崩れ始めている。
.
(; ー´)(――――まだ、終わらないのか――)
隔壁の脆くなった部分を閃光が突き抜けてくる。
閃光は容赦なく彼の身を焼き、鋭い針のように彼の体を貫通していった。
ひとつ、またひとつと、隔壁の亀裂が増えるごとに閃光が彼の体を串刺しにする。
既知の超越・未知の否定をもっても抗えない事象。
使える異能は全て試したが、それでも状況は変えられない。
【マグナム・トライブロウ】の一撃は時間の逆行にすら追随して顔付きを逃さなかった。
どこか適当な宇宙空間に瞬間移動しても絶え間なく追いついてくる。
全ての回復能力が束になったところで、死を先延ばしにする事しか出来なかった。
干渉そのものを断絶しようと0次元空間への退避も試みたが、
この閃光は顔付きが形成・定義した次元空間にすら容赦なく流入し、その定義を崩壊させた。
……顔付きは今、自分が何によって攻撃されているのかまるで理解できていなかった。
(; ー )「お――のれ――――ッ!」
閃光に呑まれた瞬間、顔付きは 『ありとあらゆるものの前提』 に内包され、支配されてしまっていた。
この空間は星の光、流星とも呼ばれる限りある世界の内側。
等号によってゼロと結び付けられた、単なる終わりと始まりだった。
.
(; ー´)「――――な、」
声は、言葉を形容する前にかき消される。
(; ー´)「――――――――」
血肉を削ぐような鋭い風が吹き荒れている。
風はあらゆるものの存在を許さなかった。
(; ー´)「――な、ぜ――」
肺の中に空気を生成し、それを振り絞してようやく言葉を作り出す。
しかし、彼はそれ以上言葉を発することが出来なかった。
その理由は息が出来ないからではなく、
(; ー´)
( ゚д゚ )「……大変そうだな」
なぜかここに居るミルナに対して、
これ以上、なにを問えばいいか分からなかったからだった。
.
( ゚д゚ )「久し振りにやったが……まぁ中々ってとこか」
ミルナはさも当然のように顔付きの背後に立っていた。
残された撃鉄は二つ。今ならそれを確実に当てる事ができる状況。
なのに彼は拳を構える事もせず、呑気にその辺を見回しながら一人頷いていた。
(; ー´)「……なぜ、そこにいる」
顔付きは身構えることを止め、自然体でミルナと向かい合った。
( ゚д゚ )「なぜって、そりゃ隙だらけだからな」
(; ー´)「……ひとつ、聞きたい」
( ゚д゚ )「ああ」
球体群とシールドの防御が機能停止するまで数分。
彼は、残された時間でミルナの真意を問う。
(; `ー´)「……なぜ、今までtanasinnに“勝たなかった”のだ。
これだけの力があれば、たった一つの撃鉄で私を超える力が出せるなら……」
( ゚д゚ )「……それとこれとは別問題だ。お前はネーノが作った完全版。
何度も言ったがよ、俺だってお前ならtanasinnの世界で生き残れるって思ってるんだぜ」
(; `ー´)「……」
( ゚д゚ )「だがな、お前はどこまでいっても人間を守る盾だ。
それを武器として扱おうもんなら、お前は拳銃にも劣るただの鈍器でしかない」
( ゚д゚ )「対して俺は命あるものを殺すのが限界って程度の三流品。
tanasinn相手じゃこれは通じない。撃鉄全部使ってもあれは倒せなかった」
.
( `ー´)「……フ、ハハ……」
( ー )「……なんたる、なんたる明快な答えだ……」
顔付きは自嘲する。
この戦いは、途中から彼の個人的な確執に基づく私闘に変わっていた。
敵にそれを言い当てられた挙句に情けまで掛けられては、彼はもう己を笑う事しかできなかった。
目的は素直クールとミセリの奪取と――。
それだけ明確な目的があってなお、彼はレムナントの地に足を踏み入れてきた。
ネーノを見殺しにした男に報いを与える為に、彼はただその為だけに本来の役割を放棄したのだ。
ミルナはネーノを見殺しにした。
ミルナという男は私には無い、友としての機能を十分に果たさなかった。
その報いを受けるだけの義務が、彼にはある。
そんな人間的な義憤を発散しておかねば、顔付きは自身に与えられたシェルターとしての機能を全うできる気がしなかった。
これから先、機械としての自分を維持できる気がしなかった。
感情というバグを取り除くには、彼はどうしてもミルナと敵対するしかなかったのだ。
全人類の救済など容易い。それを目的として作られたのだから出来て当然。
なんの自慢にもならないし、なんの報酬・賞賛も求めない。
だがしかし、“その為に救われなかった一人”が居ることが、彼にはどうしても我慢できなかった。
この世には悪が実在する。他者の善意に巣食い、優しさを油断と呼び、弱さを笑う者達が確かに存在する。
誰もがそれを分かっているから、誰も本気で世界平和を考えない。
故に顔付きは自問したのだ。今もなお、彼はその答えを探し続けている。
人類数十億人には、彼一人の命と引き換えに救われるだけの価値があるのかと。
あらゆる悪意を無視して強行される善意に、果たしてどれだけの意味があるのかと。
.
( ゚д゚ )「……もし最強の矛と盾が揃った所で、先に売り切れるのは矛の方だ」
( ゚д゚ )「人間だけが武器を取る。単純な需要だ。俺もその一人、最強の矛を取った。
お前も自身の性能を誇示する為、バカみたいな最強能力を取ってつけた」
( ゚д゚ )「人間は盾を構えて攻撃を受け続けるより、
武器を取り、いつでも他人を攻撃できる安心にこそ価値を感じる生き物なんだよ」
( `ー´)「……ああ、そうだろう。
守ろうとする私より、殺そうとするお前の方が正義に見えるのだから……」
( `ー´)「……ああまったく、やはり世界とはそういうものなのか……。
これが、“世界の当然の仕組み”なのだろうか……」
( ゚д゚ )「ま、弱肉強食、適材適所って事だ。
……お前はもう人間を相手にしない方がいい。
お前はtanasinn相手の切り札、人間の相手なんざ他の暇人どもに任せとけ」
――そう言った次の瞬間、ミルナは、呆気なく超能力を放棄していた。
.
(; `ー´)「ッ!?」
閃光の世界は途端にくすみ、張り詰めた空気が一気に緩む。
景色は少しずつ夜と混ざって中和され、程なく夜の荒野に戻りきる。
(; `ー´)「貴様……正気か?」
( ゚д゚ )「ふざけんな。正気が役に立つ世界なんかどこにもねえよ」
星が瞬き、月が地を照らし、風が吹く夜の世界。
ミルナの一撃で壊滅的な有様と化したレムナントの荒野にも、当然のように風は吹いていた。
ゼロに収束した光は途方に消え、一切の余韻を残さない。
(; `ー´)「……逃げろとでも言うつもりか」
( ゚д゚ )「それもいいな、面の皮を引っぺがすだけならこれで十分だし。
いつかお前がお前として答えを出した時、それでも俺が邪魔ならまた相手になってやる」
二人はしばし目を見合った。
互いに言いたい事はある。それを押し殺し、会話を続ける。
.
(; `ー´)「半端な男め。……私は変わらないぞ」
( ゚д゚ )「いいや、お前は変わらざるをえない。
お前は真っ向勝負で俺に負けたんだからな」
( ゚д゚ )「これからお前達は、愚策を弄してこの世界を何とかするしかないんだよ」
(; `ー´)「……」
顔付きは、答えられなかった。
この生命はtanasinnに対する最終防衛ライン。
それを個人的な義憤の為にこれ以上死線に晒すなど、考えるまでもなくありえない。
( ゚д゚ )「……別の方法を考えろ」
( ゚д゚ )「あいつを救わなかった者達への報復は、ここまでにしろ」
( ゚д゚ )「お前はあくまで盾。それに出来る武力行使の限界が、ここだ」
( ゚д゚) チラ
( ゚д゚ )「……あとな、あっちを見てみろ」
( `ー´)「……あれは……」
顔付きは促されるままミルナが一瞥を送った先に目を向けた。
戦闘の余波によって巨大な隆起と崩壊を繰り返した文字通りの荒野。
そこに立つ一人の影が、少しずつこちらに近付いてきていた。
( "ゞ)「〜♪」
デルタ関ヶ原の足取りは軽い。
彼は既にやる気満々であった。
.
( ゚д゚ )「あのな、ここで俺に勝ってもアレと連戦だぞ」
( `ー´)
( ゚д゚ )「あれは世界で一番話が通じない化物だ。
俺みたいに会話できると思うなよ。喋ったら即グーが飛んで来るからな」
( `ー´)
( ゚д゚ )「単純に嫌だろ」
( `ー´)「……お前、武神と戦ったことがあるのか?」
( ゚д゚ )
( `ー´)
( -д- )「……フッ、さあな……」
その弟子に負けましたとは口が裂けても言えなかった。
【 現在の序列: (・(エ)・) > ( ゚д゚ ) >>> ( `ー´) 】
.
「――……おい」
その時、ふとどこからか厳しい呼び声が聞こえてきた。
顔付きは声の方を向き、平静を取り繕った態度で応答する。
( `ー´)「……弟者すまない。今は手が離せないんだ」
影の塊が顔付きの傍らに出現する。
弟者と呼ばれた人物はその中から出てきて、地面にストンと降り立った。
(´<_` ;)「いや電話くらい出ろよ……チッ、また話し合いか?」
(-_-)「夕飯できたよ。ミセリを回収してさっさと帰ろう」
さらに一人、影から顔だけを出して呼びかける少年。
彼らは帰りが遅い顔付きを気にかけ、様子を見に来たのだ。
( ゚д゚ )
(´<_` )「……やっぱまだ殺せてなかったな」
弟者はミルナを一瞥し、呆れきった表情で顔付きに言った。
(´<_` ;)「だから俺は言ったんだよ。言ったよな?
らしくない事はするな、普段通り平和ボケしてろって」
( `ー´)「……返す言葉もない」
.
(´<_` )「で、ミセリは?」
( `ー´)「……後回しにした」
(-_-)「……あーあ、聞いたらチビが泣くよ」
( `ー´)「問題無い。今すぐ連れ戻してくる」
(´<_` )「――駄目だ。状況がそれを許さない」
踵を返して動き出そうとした顔付きを、弟者は冷徹に言って諌めた。
(´<_` )「今のあんたを単独行動させるのは得策じゃない。
自覚してくれ、あんたは一個人として負けた。敗者の言葉は無力だ」
( `ー´)「……」
(´<_` )「……目で訴えかけるな。それに悪い話ばっかりじゃない」
弟者は顔付きに歩み寄り、彼の耳元で呟いた。
(´<_` )「研究データは奪取した。人工片鱗のサンプルもだ」
( `ー´)「……!」
.
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「――話がついたなら急いでくれ」
(; "ゞ)「〜〜〜〜ッッ!!」 ダダダダダダダ!!
(;゚д゚ )「あの野郎、お開きムードを察して走り始めやがった!!」
(;゚д゚ )「しかも大の大人が必死でだ!」
(; `ー´)「――撃鉄のミルナ!」
呼ばれて振り返ると、顔付きはもう影の中に足を踏み入れようとしていた。
(; `ー´)「荒巻に伝えておけ! 今日の戦いに見合うものを返すと!」
(; `ー´)「そして、これはお前に――」
(;゚д゚)「もういいから行け! オレお前らに挟まれたくねえんだよ!」
(; `ー´)「――素直クールはもう既にッ」
(´<_` ;)「はいはい分かったから帰るぞ!」 グイッ
顔付きが弟者に引っ張り込まれて影に呑まれる。
その直後、影の塊は一瞬で輪郭を失って夜に解け、音もなく消えていった。
.
(; "ゞ)「あっ……」 ズザッ
(;゚д゚ )(……あッぶねえ……)
――顔付きが消えたのを見届けるやいなや、デルタは踏み止まって感嘆を漏らした。
やる気を出し、ちゃんと順番を待ち、やっとこさ出番が回ってきたと思ったらこれだ。
(; "ゞ)「おい……ウソだろ……」 ガクッ
強敵を取り逃した喪失感。行き場を失ったやる気元気怒り。
デルタは言葉を失い、しばらく完全に静止してしまった。
(; "ゞ)
(;゚д゚ )「……終わりだ、終わり」
(; "ゞ)
(;゚д゚ )「いやー疲れた疲れた……」
(; "ゞ)
(;゚д゚ )「……なあ、なんか言えって……」
.
(; "ゞ)「……お前…………」
(;゚д゚ )「……ああ?」
(; "ゞ)「まだ二つ残ってるな」
(;゚д゚ )「なにが」
(; "ゞ)「撃鉄だよ! 背中のそれ!」
( ゚д゚ )
(; "ゞ)「……撃鉄、それ強いんだろ?」
(;゚д゚ )「……おい待て。なに考えてやがる!」 ザッ!
(; "ゞ)「余ってるなら使わないともったいなくないか……?」 ジリッ…
(;゚д゚ )「いやまったく! 余っても体に吸収される仕様だから気にするな!」
( "ゞ)
( ゚д゚ )
(# "ゞ)「ええい祝勝会だ!! 祝ってやる、構えろ!!」 バッ!
(;゚д゚ )「ダメだ、話が通じてねえ!」
――それから始まった凄まじく不毛な争いは、その後荒巻が到着するまで荒野を破壊し続けたのだった。
.
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('( ∀ ;∩「し、死ぬかと思った……死ぬかと……」
【+ 】ゞ゚;)「落ち着け、多分生きてるから……」
「……ああ〜、なんか終わったっぽいな」
部隊長は隆起した大地の上に陣取り、ライフルのスコープで荒野を見渡していた。
そこに映ったのはミルナとデルタの戦闘だったが、件の顔付きが居ない事に、彼はひとまずの安堵を覚える。
「なんでか向こうで殴り合ってるが、まぁ例の顔付きは消えたし万々歳っぽいな!」
('(゚∀゚;∩「えっほんと!? やったー!!」
【+ 】ゞ゚;)「いや、それじゃ今明らかに無駄な犠牲者が増えてないか!?」
.
「ハァ〜……今日は、マジでしんどかったぜ……」
一人やれやれと頭を振る部隊長。
ドカッと地面に腰を下ろし、久方振りの煙草に火を点ける。
「ま、今日のは雑魚の群れが鮫を追っ払ったって感じかね……」
/ ,' 3 「……ほお、上手いことを言う」
荒巻スカルチノフはそんな部隊長の背後に立ち、彼の両肩をポンと叩いた。
「……あらッ、荒巻さッ!?」
顔を見るなり部隊長はすぐに立ち上がり、荒巻に敬礼をして見せた。
遅れて煙草を地面に捨て、ぐりぐりと靴で踏み躙る。
/ ,' 3 「あぁいい楽にしろ。お前達は上手く立ち回ってくれた。
報酬と昇進は期待してくれていい」
「あッ、ありがとうございます!!」
/ ,' 3 「とはいえまずは状況の整理からだ。
人手が足らん、手を貸してもらうぞ」
「りょ、了解でありますッ!」
部隊長を連れてミルナの元へと飛び去る荒巻。
¥・∀・¥「……」
('(゚∀゚;∩「マ、マニーさん……」
¥・∀・¥「……ん? ああ、貴様らも居たのか」
マニーは荒巻の後ろ姿を見送ってから、愛すべき弱者達と向かい合った。
.
¥・∀・¥「……さ、今日のところはこれで終わりだ。
お前達、余り物の分際でよくやった」
【+ 】ゞ゚;)「……何かをした実感は何もないがな……」
('(゚∀゚;∩「実際なにも出来なかったしね……」
¥-∀-¥「なあに、そういう時は都合良く考えればいい。結果がそれを肯定するのだ」
¥・∀・¥「お前達が勝てない勝負を挑んだことで、敵の心からは油断が消えた。
油断しなかったが故に、あれは最後の最後まで棺桶死オサムを警戒せざるをえなかった。
万が一を無視できなかった。目の前に、一の一が迫っているというのにな」
¥・∀・¥「それにお前達があの狙撃手を見つけていたからエクストとかいうガキも助かった。
助けたガキがヤケクソで時間を稼いでくれたおかげで、撃鉄は見事に落とされた」
('(゚∀゚∩「そう言われれば確かに! 僕達って凄いんだよ!」
【+ 】ゞ゚;)
【+ 】ゞ゚;)「……いや、これは」
¥・∀・¥「あっはっは」
【+ 】ゞ゚;)「お前、まさか本当にここまでの未来を知って……」
¥・∀・¥「あっはっはっは――――」
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
その頃、無人のメシウマ市街にて――――
\(;^o^)/「お、おお、おおおっ……!」 ザッ
人生オワタはとある会社の前に到着していた。
それはかつてオワタがこちら側に居た頃、社畜として勤めていた会社であった。
\(;^o^)/「そんな、あの会社がこんな……」
ビルは顔付き達との戦闘で倒壊、とっくに瓦礫の山となって見る影もないが、
\(^o^)/
\(^o^)/「ざっまwwwwww」
クソッタレ会社が見るも無残なゴミになって、嬉しくない訳がなかった。
.
\(^o^)/「写真wwねえ写真撮って写真wwwww」
o川*゚ー゚)o「いきますよー。はいチーズ」 パシャ
\(^o^)/「うっわwこれ倒産確定じゃんwwwかわいそwwwンフッwwww」
未来予知によってマニーの行動を支援し、この戦いを勝利に導いたといっても過言ではない人生オワタ。
そして何より、今回の謝礼としてマニーから払われる報酬はまさに人生を買える金であった。
\(^o^)/「クソワロタwwwww人生ちょろすぎるwwwwwwww」
o川*゚ー゚)o「資産運用なら任せてください! 二人で楽して暮らしましょう!」
o川*゚ー゚)人(^o^)/ イェーイ!
これから先、二度と自分達の能力に出番が無いよう祈りつつ、
数ヶ月後、彼らはフロリダ州の田舎に小さな家を建てた(しかも強そうなパグを飼い始めた)。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
¥・∀・¥「いやあ顔付きは強敵であったな!
まぁ最初からどうでもよかったんだが」
【+ 】ゞ゚;)
【+ 】ゞ-;)「……まあいい。とりあえず、終わったならもう……」
('(゚∀゚;∩「ね。僕もう帰って寝たいんだよ……」
¥・∀・¥「――好きに振る舞え。貴様達には満足が許されている」
マニーは得意気に指を鳴らし、右の人差し指を立てて東を示した。
¥・∀・¥「それと、早めにレムナント監獄へ行くがいい。
顔付きに内包された者のが多いが、少しばかり私が助けておいて」
('(゚∀゚;∩「マジで!? じゃあダディ達は――」
¥・∀・¥「だから確かめに行けと言っている。誰の無事も保障せんぞ」
【+ 】ゞ゚;)「助けたって、お前そんなのどうやって……」
¥・∀・¥「……ふむ、まだ分からんか?」
¥・∀・¥「――金の力だ」
マニーは力強く、二言なく完璧に断言してみせた。
('(゚∀゚;∩
【+ 】ゞ゚;)
二人も、それで納得せざるをえなかった。
.
¥・∀・¥「……さて、私も発つとしよう」
¥・∀・¥「荒巻にもギャフンと言わせた事だし、また次の楽しみを探さねばな」
皮肉めいた言葉の後、空に紙幣が舞い踊る。
無数の紙幣はマニーの周囲で渦を巻き、彼の姿を覆い隠した。
「――金に困れば呼ぶがいい。此度の奇縁、中々に楽しめたぞ」
('(゚∀゚;∩「あ、ありがとう、助かったんだよ! 金の亡者だったけど!」
「ほう、私を金の亡者と呼ぶか! 実にいい、最高の響きだとも――……」
紙幣の渦はぎゅうと凝縮した直後、風船が割れるように大きく弾けた。
ふたたび舞い散った紙幣は光を放ち、役目を終えて消滅していく。
('(゚∀゚∩「あっ……」
そこにマニーの姿は既に無く、彼は金の亡者として、またどこかに旅立っていた。
【+ 】ゞ゚)「……俺達は、とりあえず監獄に行くか」
('(゚∀゚∩「……うん! もう暇だしね!」
【+ 】ゞ゚;)「……それ連中の前で言うなよ?
俺なんか絶対役立たずって言われるんだから……」
最後に、なおるよは自分達を守ってくれた黒ローブの男に手を振って見せた。
('(゚∀゚∩「ありがとー! 監獄に来てくれれば出迎えるからねー!」
(メA )「……ああ、達者で」
黒ローブが手を上げて応えると、なおるよ達は仲間が待っているレムナント監獄へと歩き出した。
これで残されたのは二人。この戦いに未練を残した、黒ローブとエクストのみになった。
.
<_;プー゚)フ「――ぷはっ!」
エクストは体を折って全力で深呼吸。
心臓の鼓動を聞き、生きている実感を噛みしめる。
<_;フー )フ「ハァ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
<_;プー゚)フ「なんだ……さっきのアレは……」
<_;プー゚)フ「まったく生きた心地がしなかったぞ……」
(メA )「あれで余波だ。直撃を受けた顔付きは、もっとだろう」
彼らはレムナントの大地を一望する。
一望と言うには余りにも狭すぎる、壁に閉ざされた小さな世界を。
<_;プー゚)フ「……ったく、こんなちいせえ場所で戦うなよ……」
(メA )「だが、それでもここは特別な場所だ」
荒野は夜空に届かんばかりに激しく隆起し、遠くの街は明らかに炎上していて正直ヤバい。
(# "ゞ)「うおら死ねこのッがァァァァァ!!」
(;゚д゚ )「うおおおおおおお俺なんで戦ってんだ!?」
見ようによっては更なる大騒動が今なお繰り広げられているが、ことエクストに限ってはそれ以外の事を気にかけていた。
.
<_プー゚)フ「……そろそろ答えてくれ。ドクオはどこだ」
エクストは黒ローブの眼前に立ち、はっきりと問い掛けた。
(メA )「……それを聞いてどうする」
<_;プー゚)フ「決まってんだろ! 俺も行くんだよ!」
(メA )「行ってどうする」
<_;プー゚)フ「それは……」
<_;プー゚)フ「……追い付いてから考える! そうだよ、ノープランで悪いかよ!」
逆ギレするエクストを、しかし黒ローブは軽んじて見なかった。
(メA )
――ここで正しい事を言うのは容易い。
だが、それはきっとエクストの心に深い傷を負わせてしまう。
(メA )「……彼らは今、とても危険な場所に居る」
よって、黒ローブはエクストを騙すことにした。
.
<_;プー゚)フ「危ないとこって、そりゃあ……」
「当たり前だろ」と言いかけたところで、黒ローブはエクストの台詞を遮った。
(メA )「――そうだ。だから俺が二人を連れ帰ってくる。
お前は待っていればいい。絶対に、約束する」
<_;プー゚)フ
(メA )「……あの、」
(メA )「これが、最善策だと思うんだが……」
懇願するような、とてもヘタクソな嘘だとエクストは思った。
.
(メA )「……それで、いいだろうか」
<_;プー゚)フ「……………」
<_;プー゚)フ「……駄目だ。これだけは騙されてやれない」
エクストは迷いを絶ち、そう言い切る。
(メA )「……」
<_;プー゚)フ「教えてくれねえなら世界中走り回って見つけるだけだ。
タナシンサマがくれたこの足なら一瞬だしな」
(メA )「……それは、どうだろうか……」
彼の表情に強い決意を窺い見た黒ローブは、遠くの空を見上げて深呼吸をする。
もう全てが終わっている。戦いは終わり、彼らの存在は今にも潰えようとしている。
ただそう言えばいいだけなのに、彼にはそれが言えなかった。
(メA )「……見ろ、星が消えている」
<_プー゚)フ「――ああ?」
黒ローブの言葉に一瞬エクストの視線が泳ぐ。
その瞬間何かが鋭く空を裂き、エクストの後頭部を強く弾いた。
<_;フД )フ「――なッ……!」
揺らぐ地平線、脱力する肢体。
倒れゆく最中、エクストが最後に見たものは
(メA )「……必ず戻る」
ヘタクソな嘘を言い残し、背中を向けた黒ローブの姿だった。
.
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ゴト、と積み荷が跳ねる音。
荷馬車が石を踏んだおかげで、俺は心地良い眠りからムリヤリ起こされてしまった。
川 ゚ -゚)「……あと一時間で街だぞ」
頭を打った俺を気にかける素振りもなく、彼女は淡々と本を読み進めていた。
俺が寝る前から読んでいたその本は、もうすぐ最後の一ページを迎えようとしている。
川 ゚ -゚)「……なんだ。人のことをじっと見て」
別に、と俺は素っ気なく答える。
俺はもう一度干し草に体を預け、昼下がりの晴天を見上げた。
川 ゚ -゚)「……今日は見なかったのか」
なにを? と問い返す。
すると彼女は本を畳み、眉間をすぼめて俺に言った。
川 ゚ -゚)「夢、いつもの夢だ。続きを見たなら教えてくれ」
川 ゚ -゚)「君の夢が、私の記憶を取り戻す切欠になるんだぞ?」
.
――ああ、そういえばそうだった。
彼女は記憶を失っていて、俺達はその記憶を巡る長閑な旅の途中だった。
なぜか俺の夢に出てきた女、素直クール。
彼女を街で見かけ、声を掛けた時、俺の旅は始まっていたのだ。
……とは言っても今回は夢を見ていない。
彼女が夢の話をご所望なら、街に着くまでもう少し眠って話題を得なければ。
川 ゚ -゚)「……早く、戻ってくるんだぞ」
俺はそよ風に頭を撫でられる安心感に負け、もう一度深い眠りに入っていく。
星の夜空、森の中で、泥が俺の足を掴んでいる。
夢の景色はすぐさま瞼の裏に浮かび上がり、俺は自分がどこか分からない場所に居る事だけを自覚する。
「――! ――――!」
……どこかで誰かが何かを言っている。
夢の続きは、そんな曖昧な認識から始まっていた。
.
.
≪5≫
そこは真っ黒に汚染された森の中。
tanasinnに侵食された後、tanasinnによって再構成された偽物の森だった。
黒い雨はとっくに止んでいた。
星を失くした夜空に、異形の目はもう無い。
(メA )「……」
<_;プД゚)フ「おい! 起きろよ!」
「…………エク、ス……」
<_;プー゚)フ「ッ! おい■■■! ったく心配させんなよ!」
エクストは呆然と立ち尽くす■■■に向かって叫ぶ。
■■■は黒い泥にまみれ、今にも人の形を失おうとしていた。
<_;プー゚)フ「クールさんはどうした!? 見つけてくるから教えてくれ!」
「……全部、終わった……」
「俺は、……これでいい」
<_#プー゚)フ「んなこた聞いてねェだろ! さっさとこっち来い! 帰るぞ!」
.
支援
(メA )「……■■■。まだ意思があるなら、遺す言葉はあるか」
<_;プー゚)フ「なッ……縁起でもねえこと言うな!!
帰って、またやり直すんだよ俺達は!!」
(メA )「ここにエクストは居ない。俺の声にだけ答えてくれ」
「……あんたに、名前を、返す……」
<_;プД゚)フ「――んな事する必要ねえだろうが!
お前らしくねえぞ! いつもの空元気はどうしたんだよ!?」
エクストは叫び、■■■に駆け寄って彼の胸ぐらを掴んだ。
意識が強く揺らぐ。彼の強い言葉に、励まされてしまいそうになる。
<_;プー゚)フ「終わったんだぞ! やっと自由に生きてけるんだぞ!
もういいじゃねえか、なんで死のうとする!?」
「……わりぃな、エクスト……。
俺の命じゃ、こんなもんが限界なんだよ……」
「でもよ、できる限りの高望みをして、それが叶った……。
これだけあるならもう十分だ……俺は……」
.
■■■は幻影に語りかける。
あらゆる道理を捨てて自己満足をやり遂げた男には、これがお似合いだ。
自分の内に何も残せなかった末路。だがそこに後悔はなかった。
「……なあ、このままだとなんか色々ヤバいらしいんだ……。
とりあえず全部受けとめてるけど、これ結構大変な役なんだな……」
彼女から強奪した責務は、彼自身の死をもってこの世から消滅する。
鍵さえ壊せば扉が開かれる事は二度と無い。
さすればこの世界は永遠に保たれ、次の世界も扉の中で永遠に続いていくだろう。
(メA )「……誰も、お前がなんの為に死ぬのか分からないだろう」
(メA )「誰も、お前がなにを果たしたのか分からないはずだ」
(メA )「あとに残るのは動機も目的も推測し得ない結果だけ。
整合性なき末路はあらゆる過程を無意味にし、人の心には何も残さない」
「……変な嫌味だぜ。ま、だから今更どうしたって感じだけど……」
(メA )「……ここが、俺の終わりでもある」
そう言い、男は前進して■■■の前で立ち止まった。
既に人の形を失っている彼の双眸をじっと見つめ、最後の選択を己に科す。
.
(メA`)「お前は、俺には出せなかった答えを確かに示してくれた。
およそ誰も救えない、全てを取り零すと確約された答えを」
(メA`)「だから俺は、最後に道を踏み外すことにしたんだ」
「いや……そこで人のせいにすんなよ……」
(メA`)
(メ∀`)「――いいや、これはお前のせいだ。
ようやく彼女を救えると思ったのに先を越されたんだぞ?
黙って見送れというのも無理な話だ。俺はお前より俺なんだから」
「……ややこしいし……んな今更……」
(メA`)「……ああ、本当に今更だ」 スッ…
……駄目だ、また意識が揺らいでいる。
もっと夢の続きを見て、彼女に届けなければならないのに。
(メA`)「初めから、俺は誰にも彼女を奪われたくないだけだったらしい。
お前という恋敵さえ居なければ、俺はここで間違いを犯さなかっただろうに――」
.
世界が暗闇にまどろんでいく最中――
「俺だけを、あいつの傍に居させてくれ」
――潰えそうな声で、どちらか一人が、確かにそう言っていた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
夜の向日葵
https://www.youtube.com/watch?v=bZWd_7Ud-Lc
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
≪1≫
――目が覚める。
荷馬車の走る音、荷が揺れる音。干し草の匂いもする。
穏やかな時間が流れているのが、肌で感じ取れるようだった。
「……なんだ、もう起きたのか」
彼女は間延びした声で話しかけてきた。
本を読み終えて暇だったのか、彼女は目をこすって欠伸をしてみせる。
彼女はその目に少しの涙を溜めて、それを片手で拭い去った。
「……ん、私もさっきまで寝ていたんだ。
君のように、ちょっとの時間で夢は見られなかったがな」
そう言って彼女は微笑んだ。
何にも縛られない黒髪が風に揺れ、たおやかに乱れている。
彼女はそれを片手で抑え、「ええい、鬱陶しい」と小さく呟いた。
……俺は夢を、夢を見ていた。
遥か遠くのとある世界。何もかもを失って、俺は夢からその醒めてしまった。
とても激しく、荒々しく、今にも落ちてきそうな星空があったと、今ならまだ思い出せる。
今ならまだ、想い出の遠くの日々を――――
.
「……これは、夢だ」
俺は、その言葉から夢の世界を語り始める事にした。
言い聞かせるように、自分の心に嘘をつくように。
「……ああ。これは、悪い夢だ」
そう応えた彼女は、俺の嘘を分かっていた。
分かった上で、それに騙されてくれている。
だったら俺達はこれからずっと、永遠に一緒に居られるのだろうと思う。
二人で同じ嘘をつき続け、ありもしない過去を探し続ける事で、同じ時を生きていくに違いない。
焦がれた人と永遠に分かり合えないまま続いていく、終わりなき悪夢の世界。
善悪の彼岸に立って、俺達は胡蝶の夢を見続ける。
答えなどない夢遊の果てを目指して、いつまでも停滞し続けられる。
……俺は、彼女の逃げ場にはなれたのだろうか?
俺のものではないそんな自問も、いつかは心の中から消えていくのだろう。
.
「……もうすぐ日が落ちる。星が出るなら、あっちの空だろう」
彼女が指した空は、もうとっくに茜色に燃えていた。
――思い出すのはあの日の星空だ。
俺は今でもあの星空を信じ切っている。
掴めない星を見つめながら、俺達はただ夢の跡を辿り続ける。
俺だけが居ない夢の跡を、ずっと見せつけられるのだろう。
「…………」
「……おい。まさか、さっき見た夢をもう忘れたのか?」
「あ、いや……。この空が、なんか見てた夢に似てるなあって……」
「……まったく……」
彼女は溜め息をついて頭を振る。
しかしその表情はどこか満足気で、俺もつられて笑みを零してしまう。
「ああ、本当に……ここには逃げ場がないな……」
「ッ! だったら俺が――」
.
「ここまでされたら、もうどこにも逃げる気になれないじゃないか……」
そのとき、俺の言葉を遮ってそう言った彼女が何を思って微笑んだかは分からなかったが、
ほんの少し、夢が現実になったのだと、今なら少し、そう思えた。
.
.
≪6≫
('A`)
目を開けると星が見えた。
夜風は冷たく、森の木々に漣を立てている。
('A`)「……よっ、と……」
体を起こし、周囲を見渡す。
.
('A`)「…………」
いつしかドクオは森を出て、最初の草原に戻ってきていた。
風に波打つ芝生は丘を超え、地平線まで続いている。
戦いによって傷つけられた森も草原も土も、辺り一面の自然は完璧に蘇っていた。
('A`)
('A`)「……まぁ、別にいいんだけど……」
開口一番、ドクオは素っ気なく呟いた。
死ぬつもりでやったのに、どっこい生き残ってしまったこの腑に落ちない感じ。
今どういう顔をしていればいいのか、さっぱり思いつかなかった。
('A`)「……これからどーすりゃいんだよ、俺……」
('A`)「もし生きてたらとか考えてなかったんだけど……」
結論から言うと、彼は今までの人生を台無しにした上でこれからを生きていく事になってしまったのである。
死んで有終の美を飾る、なんて高尚な事が出来たら十分満足できたのに、あと少し間に合わず命を繋いでしまったのである。
(´^ω^`)「や〜いw生き恥晒し〜!w」 ※ドクオの脳内に住まうカオス
(;'A`)「くそお、くそお……」
.
('A`)(……まぁでも、やりたい事は十分やれた。
俺の生き死には二の次だし、別問題か……)
('A`)
(;'A`)(……でも、こっから先はほんと生きてくアテがねえな……)
頭をかいて思案するも、すぐに答えが出る訳もなく。
とりあえず時間はあるんだし、と気楽に構えて立ち上がる。
('A` ) チラ
( 'A`) チラ
('A`)
('A`)「……つうか、ここどこだよ……」
('A`)(能力なんも使えねえし、金もねえし、もしかして徒歩で帰るのか……!?)
試してみたが、超能力もtanasinnの力も、今はさっぱり使うことが出来なかった。
ここからレムナントまでどれだけ掛かるだろう……これから先の道のりを考えると鬱にしかならなかった。
('A`) ウワァァァ〜
……何はともあれ、とりあえず人が居る町に出よう。
話はまず、そこからだ。
.
('A`)「……ハァ……」
もうひとつ溜め息を吐いてから、ドクオは振り返って森を見渡した。
俺は、もう二度とここには来れないだろう。
俺が進んでいく道は、二度とこの場所には続かない。
あの男は、きっとそういう場所を選んだのだ。
('A`;)「……クソが……」
(;'A`)「……最後の最後で手のひら返しやがって。
あんたのせいで、また無能からやり直しだ……」
ドクオはそう言って視線を切り、どこかへ向かって歩き出した。
そして、二度と振り返ることはしなかった。
.
――彼らの道を断つように、大きく風がさすらった。
人生を台無しにしてまで成したことは、結局、彼のもとに何も残さなかった。
自分以外の誰かを一人、どこか遠くのとある世界に送っただけで、見返りなど何も無かった。
何者にもなれなかった男にそれでも残されたものは、まっさらな心と体だけ。
……あるいは、彼女の記憶と、ドクオという名前だけだった。
じゃあな。俺はまた、死ぬ理由でも探しに行くよ――
いつしか夜は明け、太陽が昇り始めていた。
太陽の光は滲むように夜空を薄め、あの星々を空の向こうに隠していく。
もう二度と辿れない夢の跡が、思い出が遠くの空に消えていく。
('A`)「……あ、」
「そういえば」と思いつき、ふと足を止める。
何かやる事があったような気がしていたところ、彼は今ようやくそれを思い出せたのだ。
.
この先何を理由に生きればいいかは分からないけど、
とりあえず、色んな人の思い出と一緒に生きてみようと思う。
ちょっとしかない思い出を大切にして、生きる理由を沢山作って、
そのせいでいつかの夜を忘れたら、あの夜を想って夜明けまで泣こう。
――そんな、いつかの言葉を思い出したのだ。
('A`)「あー……」
('A`)
ドクオは両手をポケットに入れ、背中を丸めて再び歩き出した。
悪趣味な気持ち悪い笑みを浮かべ、遠くの朝日にそれを見せつける。
('∀`)「……忘れたら泣いてやるよ、忘れたらな」 ニタァ
一人草原を歩く男は、そうして静かに、何もない荒野へと帰っていくのだった――――
.
誰もが見限り、歩こうとはしてこなかった道。
そんな道の終着点はやはり行き止まりで、結局、彼は元の場所へと帰るしかなかった。
――この戦いは無駄だった。何も得るものが無かった。
だが、悔いは無い。
自分以外の誰か一人の為に生きることができた。今はただ、それだけで充足を感じられた。
それこそが生きた証。自分自身の証明に他ならないのだから。
これからの生き方はまた途中で考えればいい。
思いつく中で一番クソくだらない、自分の為に生きるってのをやってもいい。
やってもいいが、彼の名はドクオもとい貧弱根暗無職童貞腑抜けゴミクズクソ野郎。
そんなクソが自分の為に生きて、ロクな目に遭うとは到底思えなかった。
お先真っ暗である。暗闇の荒野に何を探しに行くというのか。
.
('A`)
('A`)「……ハァ……」
溜め息のあと、 「死にてえ」 とだけ呟き、
.
ドクオはやっぱり、少し泣いた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
茜色が燃えるとき
https://www.youtube.com/watch?v=kaxtgv07a6A
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
( 'A`)「…………」 テクテク
両手をポケットに入れたままとぼとぼ草原を歩き続けるドクオ。
そんな彼の行く先に、じっと佇む人影がひとつ。
.
('A`)「…………」
('A`)「……迎えにきた、って感じじゃねえな」
( д )「……当然だ。自分の言ったことも覚えてねえのか?」
('A`)「……覚えてるさ。忘れる訳がねえだろ」
( д゚ )「――俺は、すべての始末をつけに来た」
男はただ、それだけの為にここに来た。
.
がんばってんなー支援だ
――――もう少しだけ続く。
.
もくじ >>2
第三十二話 Remnants(クズ、余り物、残されし者達) >>3-133
第三十三話 星の終着点 >>147-264
あと3話くらいです('A`)3月は毎週投下できたらいいな…('A`)
また予告しますが、たぶん次回の投下は来週〜再来週の週末です('A`)
作中に関する質問などあればお答えします('A`)
支援ありがとうございました('A`)また次回('A`)
乙
乙!
乙
おつんぽ!
面白すぎる乙
次回も待ってる
続き楽しみだけど終わるのが悲しい
乙
オワタとキュートは末永く爆発?
ブーンとかまだ気になる部分もあるしよかった続いて。
オワキューの二人が楽しそうで嬉しいが、マニーの最終手段(兵器)である事に変わりないのがな
波乱の人生とか言うレベルじゃねーぞ
進捗です('A`)
今のところ34話が60レス(完成)、35話が50レス(大体完成)くらい書けています('A`)
ここから多少長引いても36話には第三部完という感じになると思います('A`)ヤッタネ
次の投下は11日前後を予定しています('A`)よろしくです('A`)
>>272
今後また確実に死にますが、その通りです!
>>275
乙です
楽しみにしてます!
四部期待してもいいのかなチラッチラッ
明日の夜に投下します('A`)
>>277
/ ̄ ̄ ̄ ̄\
/;;:: ::;ヽ
|;;:: ィ●ァ ィ●ァ::;;|
|;;:: ::;;| (一週間返答に悩んだが、何も答えられないという顔)
|;;:: c{ っ ::;;|
|;;:: __ ::;;;|
ヽ;;:: ー ::;;/
\;;:: ::;;/
|;;:: ::;;|
|;;:: ::;;|
/ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄\
|;;:: ::;;|
|;;:: ::;;|
ふっふぅ
ネタバレになっちゃうからね答えられないよね待ってるよ
≪1≫
――すべてが終わり、一ヶ月が経過していた。
.
その住宅地は市内への交通の便がお世辞にも良いとは言えず、空き家と老人の多い物静かな空間だった。
高級家屋が並ぶ街区は金持ちの別邸として確保された家が多い為にさらに人気が減り、
人が住む場所ともゴーストタウンとも違う、どこか浮世離れした独特な空気が流れていた。
そんなメシウマ郊外の一角にこそ、サイボーグ横掘のセーフハウスはひっそりと佇んでいた。
家屋の地下に設けた秘密の隠れ家。
その場所を知る者は、本人と彼女に近しい数名だけであった。
「……目が醒めたなら呼び出せばよかったのに」
横掘はアイソレーション・ルームの暗闇に立ち入り、壁に埋め込まれたコンソールにそっと手を触れた。
「コールボタンは枕元に用意しておいたんだが、……気付かなかったのか?」
まもなく薄青の淡い光が床に広がり、部屋中央に設置された車ほどの大きさのメディカルタンクが照らし出される。
リラクゼーション効果に重きを置いたそれは横掘お気に入りの代物で、正直、勝手に使われるのは不愉快だった。
.
( ´_ゝ`)「……ナース姿のお前を想像したら押せなくてな。
怖いもの見たさも引っ込んじまった」
「……それで、一目散に私の風呂に飛び込んだ理由は?」
( ´_ゝ`)「……お前の素顔を見る前に、落ち着きたかった」
タンク内の溶液に浮かぶ流石兄者は天井を見上げたままそう答えた。
青の光は、夜の海を漂っているような錯覚を彼に与える。
「素顔って、私はいつも素顔だぞ」
( ´_ゝ`)「そりゃあ……元々の顔って意味だよ。
化粧で変えた顔を素顔と呼べるほど、俺は割り切れる男じゃなくてな……」
「……なるほど。私は精神的意味合いで素顔と言ったが、まさかそんなにこっちの顔が好みだったとはな」
横掘はいたずらな笑みを浮かべて壁に寄り掛かった。
培養皮膚によって適宜顔の造形を変える彼女にとって、本当の顔と呼べるものに意味はない。
今の顔付きですら培養皮膚で再現しただけの模造品。
成長に合わせ変化をつけてきた今や、彼女の素顔というものは事実上存在しない架空のものに成り果てていた。
( ´_ゝ`)「…………」
( ´_ゝ`)「……なあ、今すぐ俺がお前に抱きついたら、お前どうするよ」
兄者の漠然とした問い掛けに、横掘は数秒だけ我を失う。
「……聞かなかった事にしてやる。だから三十分そこに居ろ。
その間に荒巻さんを呼ぶ。事情聴取の答弁を考えておけ」
( ´_ゝ`)「……把握した……」
彼女に弱音を零したことを後悔しつつ、兄者は頭を冷やそうと溶液に体を沈める。
顔付き襲撃からおよそ一ヶ月。
戦いの痕跡が癒えぬ中、それでも多くの人々は、普段通りの日常を送ろうと努力を続けていた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メディカルタンクを出てシャワールームに入る。
溶液をざっと洗い流し、体を拭いて髪を乾かす。
( ´_ゝ`)「……」
三面鏡に映る自分を見ながら、流石兄者は自身の戦いを思い出していた。
『 (´<_` ) 』
総合技術研究所での、誰も知らない彼だけの戦い。
同じ顔をもつ弟と銃を向けあった記憶。
暗闇には絶え間なく銃火が散り、兄弟で語らう間など僅かにも無かった命のやり取り。
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「馬鹿な話だ。今更あいつと何を喋るってんだ」
数多の銃弾を浴び、銃創だらけになった自分の立ち姿を嘲笑する。
こんな有様になっても彼が生きている理由は、その戦いに一人の助けが入ってくれたおかげだった。
二人の敵に対して一人で戦い続けていれば、兄者は確実にあの場で命を落としていたに違いない。
――途端、脱ぎ捨てたシャツのポケットで携帯電話が鳴動した。
確認すると画面には「30分経過」という淡白な文言が表示されており、勝手に設定されたアラームが彼の行動を急かしていた。
(; ´_ゝ`)「……横掘の野郎、勝手に設定しやがったな……!」
内心もう少しだらだらして行こうと思っていただけに、兄者はバツが悪そうにさっさと着替えてアイソレーション・ルームを後にした。
地下への出入り口は裏庭の物置小屋。そこから地上に出た兄者は、西洋風を気取ったセーフハウスをぐるっと回り込み、玄関から中に入った。
.
J( 'ー`)し「――あら、元気そうね」
/ ,' 3 「……思ってたよりな。どうだ、調子は」
( ´_ゝ`)「……ええ、おかげさまで」
(//‰ ゚)「座れ。お前が寝ている間に色々あったんだぞ」
リビングには車椅子に腰掛けたカーチャンと荒巻、見慣れた顔に戻った横掘が揃っていた。
前述した流石兄者の戦闘に加勢したのは、ここに居るカーチャンであった。
しかしあの戦いで敵を退ける為に負った傷は深く、彼女は今なお、下半身の麻痺を患っている。
J( 'ー`)し「……どうかした?」
(; ´_ゝ`)「……その聞き方は意地が悪いですよ」
戦いの最中に限界を迎え、意識を喪失した自分を庇いながら戦ったであろうカーチャン。
その代償が目に見える形で表れたことに、兄者は言葉にしきれない罪悪感を覚えていた。
( ´_ゝ`)「……とりあえず話を聞かせてくれ。
単独行動の釈明は、その後で」
/ ,' 3 「うむ。では程々にかい摘んで、適当に語るとしようか――」
横掘と荒巻から順を追って事態の説明を受ける兄者。
メシウマ市街で起こった大規模戦闘、顔付き、内包された人々、ドクオとミルナ、戦いの末路など。
/ ,' 3 「――そして最終的に武神デルタとミルナが戦い、事なきを得た」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)(……得てない気がするが……)
.
/ ,' 3 「次に、貴様の行動に関する是非だが」
( ´_ゝ`)
/ ,' 3 「……まぁ一切を不問とする。お咎めなしだ」
( ´_ゝ`)
(; ´_ゝ`)「……マジすか」
/ ,' 3 「おうとも。私怨の有無はどうあれ、あの状況下では総技研の防衛は不可能だった。
カーチャンさんから先に話は聞いておる。ロマネスクを相手に、よく生き残った」
大なり小なり処罰は受けるだろうと高を括っていたが、それは兄者の杞憂だったらしい。
流石兄者が戦った二人の相手。
内一人は流石弟者、もう一人はロマネスク――“閻魔豪拳ロマネスク”と呼ばれた男だった。
極一部の者だけがその名を知り、災禍をもたらす者として忌み恐れられていた幻の武人。
長らくその消息を絶っていた男が顔付きの軍門に下っていた事は、こちら側の誰も知り得ていなかったのだ。
( ´_ゝ`)「……なら聞かせてくれ。俺が向かった郊外にあるハリボテの総技研。
本来囮でしかなかったあの建物に、あんた何を隠してやがった」
/; ,' 3 「……えぇ……」
J( 'ー`)し「……私達がなにを守っていたのか、それを知る権利は十分にあるかと」
兄者の追求をカーチャンに後押しされてしまい、荒巻は渋々、その質問に答えることにした。
/ ,' 3 「……tanasinnの片鱗については以前話したことがあるな。
あそこにあったのは、かつて片鱗の研究開発をしていた男が蓄積していた全データだ」
/ ,' 3 「人工片鱗はほとんど失敗作。感情の枷を外し、その辺の凡人を暴徒に変える程度の効果しかない。
……おそらく顔付きは、今になって人工片鱗の研究を完成させたがっているのだろう」
.
( ´_ゝ`)「……人工片鱗。それが完成したらどうなる?」
/ ,' 3 「それがなんと、完成させて全人類に平等に配るんだとさ。
歪な平和主義者の考えそうな理想論だ。まったくどうしようもない……」
( ´_ゝ`)
(; ´_ゝ`)「……全人類に同じ力を与えて、それでどうするんだよ。
正直、そんなことしても意味があるとは思えないんだが……」
顔付きが大層な事をしたがっているのは分かった。
だが、兄者には彼ら顔付き側の理屈が破綻したものにしか聞こえなかった。
/ ,' 3 「奴らの目的は闘争の形骸化だ。対等ではなく互角にする事で、ある種の抑止力を生もうとしたのだろう。
争いが争いとして機能しない構造の実現。形骸化した冷戦、核抑止と理屈は同じだ」
(; ´_ゝ`)「……それでも効果があるとは思えない。
誰かが火をつけちまえば、それですべて台無しじゃないか」
/ ,' 3 「そこで内包の能力に意味がつく。全人類が平等に力を持ち、そして平等に何者かの支配下にある。
自分一人が敗者の時、人間の心には反骨心が生まれる。
しかし、敗者が複数ならばその中で傷の舐め合いができる」
/ ,' 3 「えてして敗北感の共有とは、人間にとって何よりも親近感の湧く馴れ合いだからな」
.
/ ,' 3 「――だが今回、顔付きがミルナに敗北した事でこの案は完全に瓦解した」
/ ,' 3「この案の前提は顔付きが誰よりも強く、あらゆる干渉に動じない絶対性を有していることだった。
それがいとも容易く崩されたのだ。人工片鱗の用途は、なにか別のものになるだろう」
( ´_ゝ`)「……別の用途、っていうと純粋な武力行使が有力か?」
/ ,' 3
/ ,' 3 「……それは分からん。ただ、現状でもはっきり言えるのは、」
荒巻は言葉を区切り、淡々とした口調で告げた。
/ ,' 3 「もし先日の戦闘において顔付きどもが 『殺戮』 を良しとしていた場合、
ぶっちゃけ、この街の人間は一人残らず死んでおったよ」
J( 'ー`)し
( ´_ゝ`)
(//‰ ゚)
――彼の断言に静まる空気。
確かに今回、顔付き達は明確な敵意をもちながら、死に至るほどの危害は加えてこなかった。
一度は顔付きに内包された人々も、『tanasinnに関する記憶をすべて抹消された上で』 現実世界に解放されていた。
つまりメシウマという街は、顔付き達からすれば敵対するに値しないものと手加減をされていたのだ。
保護すべき弱者の集まりであると、最初からそういうレッテルを貼られていたのだ。
.
J( 'ー`)し「……なら次は、決闘かしら」
不意に、カーチャンが呟いた。
兄者達が言葉の意図を汲む前に、彼女は自ずと予測を語り始める。
J( 'ー`)し「彼らの平和主義は恐らく筋金入りです。
実感として――生き残った者として、そう感じます」
J( 'ー`)し「そんな彼らが出鼻を挫かれたくらいで武力行使に走るとは思えません。
そもそも武力行使は彼らの主義に反するもの。そう簡単に使える手札ではない……」
(//‰ ゚)「……決闘。大義名分を負って、正々堂々と真正面から圧倒しにくる。
敵の性分を考えればその方が想像しやすいか……」
/ ,' 3 「……なんであれ次の戦いは確約されておる。
そして、今の我々には圧倒的に戦力が足りておらん」
/ ,' 3 「今回はナメて掛かってくるのが分かっておったから適当に備えたが、」
(; ´_ゝ`)「適当!?」
/ ,' 3 「向こうが勝敗の決する決闘を申し込んでくるなら、今度こそ勝つ為の力を用意せねばならん。
こればっかりは時間との勝負。軍備拡張、後進育成に着手するしかあるまい……」
(; ´_ゝ`)「おい横掘聞いたか? 今この人、適当って……」 ヒソヒソ
(//‰ ゚)「読み通りだったんだ。大人しく聞き流せ」
(; ´_ゝ`)「いや、荒巻さんってもうちょいしっかりしてる人だったよな……?」
(//‰ ゚)「荒巻さんも人間なんだ。気が抜ける時くらいある」
.
J( 'ー`)し「……そこにはきっと、ロマネスクも出てくるのでしょうね」
(//‰ ゚)「確実に、しかもあれと同等の敵が何人も出てくる筈だ」
/ ,' 3 「既に向こうには単騎で国を落とせる相手がざっと十人……」
(; ´_ゝ`)「そりゃヤバ――」
/ ,' 3 「まぁまぁだな」
Σ(; ゚_ゝ゚)「まぁまぁ!?」
/ ,' 3
/ ,' 3 「……しっかし、それに比べてうちはなんだ」
/ ,' 3 「やれ毒だの、怪力だの、無効化だの……」
/ ,' 3
/; ,' 3 「ハァ〜〜〜〜〜…………」
荒巻は大きな溜め息をひとつ。
頼りないったらありゃしないとでも言いたげに、彼は兄者の目をじいっと見つめた。
.
(; ´_ゝ`)「……なんすか。俺に正面戦闘を期待しないでくださいよ」
/; ,' 3 「……ともかく後進育成、各々鍛錬に励むようにということだ。
既にその為に何人か街を出ている。お前も、自分なりになにかしろ」
(; ´_ゝ`)「そんな大雑把な……」
/ ,' 3 「わしらの戦いはこれからなのだ。
とにかく動け、でないと給料を減らす」
(; ´_ゝ`)「横暴にも程がある……」
/; ,' 3 「……ったく、未だに問題は山積み、これだけ被害が出て何も解決しておらん。
今度の戦いで勝者と呼べるのは顔付きと、素直クールと……あとマニーの手下か」
/; ,' 3 「……ああ、本当に気に入らん……」 ブツブツ
.
(//‰ ゚)「……む、あの車は確か――」
そのとき、横掘は家の前にボックスカーが停まるのを窓から確認した。
車のエンジン音が止み、一人の男が家に入ってくる。
('A`)「こんちわー」 ガチャッ
J( 'ー`)し「あらあら、もう時間だったかしら……」
/ ,' 3 「おお、たかし君。元気そうだね」
荒巻はカーチャンの車椅子を押して玄関に出る。
カーチャンを迎えに来たのは彼女の実子・たかしであった。
('∀`)「ああっ。こんにちは荒巻さん。母がお世話に……」
/ ,' 3 「気にするな。君の母上は十分な働きをした。それに報いるのが上司の勤めだ」
※ ('A`)←これがドクオ
('A`)←これがたかし
J( 'ー`)し「荒巻さん、あんまり長居できなくてごめんなさい。
病院に戻らなきゃいけないので今日はこれで失礼します」
/ ,' 3 「うむ。またいつでも経過を知らせてくれ。
たかし君、母上をしっかり見ているんだぞ」
('A`)ゞ「うぃっす」 ビシッ
荒巻は車椅子のハンドルをたかしに預け、親子の背中を無言で見送った。
( ´_ゝ`)「……」
(//‰ ゚)「……回復能力の限界だな。外傷は直せても、体の麻痺は神経に纏わる。
完治を目指すなら容易な道程ではないだろう」
/ ,' 3 「なあに、それでも復帰希望だそうだ」
(; ´_ゝ`)「……そりゃよかったんだか、よくないんだか……」
/ ,' 3 「気に病むな流石兄者。心の弱い者なら最初からロマネスクには挑めんわ」 ポンポン
リビングに戻った荒巻が話に混ざり、当て所なく目をそらしていた兄者の肩を叩く。
以前にも増してやたら友好的な荒巻は、けっこう気持ち悪い。
/ ,' 3 「わしもそろそろ街に戻る。
街の復興作業に手を貸さねばならんくてな」
(; ´_ゝ`)「……え、まさか直々に土木作業を?」
/ ,' 3 「当然だ。変な力で元通りにするより、頑張ってるアピールをした方が好感得やすいだろうが」
/ ,' 3
/; ,' 3 「……正直、今回何もしてないからな……」
(; ´_ゝ`)
/; ,' 3 「上に立つ者としての面目が、色々とな……」
そっとしといてという感じの表情で負い目を呟く荒巻。
荒巻はそのまま、兄者と横掘の視線から逃げるように家を出ていった。
.
(; ´_ゝ`)「荒巻さん、……ありゃあよっぽど疲れてるな。
社員旅行で酔い潰れた時よりひでえグダりっぷりだ」
(//‰ ゚)「……」
(; ´_ゝ`)「……横掘?」
(//‰ ゚)「……いや、お前はあの状況を見ていないから、そう軽く言えるんだ」
兄者のチグハグな冗談に、横掘は静かな口調でそう言い返した。
どこか陰りのある雰囲気。兄者も浮ついた気分を沈め、横掘に向き合った。
( ´_ゝ`)「そういやお前、現場には出てたのか?
さっきの話にお前の名前は出てこなかったが……」
(//‰ ゚)「……それは、なんというかな……」
( ´_ゝ`)
パッと浮かんだので言ってみた些細な疑問に、横掘は思いのほか口ごもる。
聞いては不味かったのかと察した兄者は眉をひそめ、小さく喉を鳴らした。
.
( ´_ゝ`)「まあまあ、今回は後方支援に回されたってとこだろ?
そりゃ敵がこんだけ強けりゃ機械の出番はねぇぜ」
(//‰ ゚)「……」
(//‰ ゚)「……違う。私は、顔付きの思想に賛同してしまったんだ」
(//‰ ゚)「誰もが幸福に過ごせる世界の実現。
あらゆる争いが意味を持たない世界。……私には否定できなかった」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「で、それについて荒巻さんはなんて?」
後ろめたそうに独白した横掘に、兄者は努めて普段通りの声色で問い掛けた。
人間同士の単なる戦争を知る者として、顔付きの理想を無下に出来ないのは兄者も同じだった。
(//‰ -)「特になにも。ただ、『信教の自由は尊重する』 とだけ言われたよ。
お前同様、私も今回の職務放棄を不問にされてしまって、居心地が悪い……」
横掘は頬を弛め、乾いた声で笑った。
.
(//‰ ゚)「……さしあたって特課はしばらく休業だ。
私もお前も、今は有給休暇中という事になっている」
( ´_ゝ`)「……有休?」
(//‰ ゚)「そうだ」
( ´_ゝ`)
(; ´_ゝ`)「……じゃあ俺は、一ヶ月分の有休を寝て過ごしてたってのか……」
兄者はガックリと肩を落とし、失ったものの大きさに感嘆を漏らした。
(//‰ ゚)「いや有休などまともに申請して通るものではなかっただろう。
むしろ奇跡的に活用できただけ上等だ。私だって有休中なのに普段通り働いているんだぞ」
(; ´_ゝ`)「……俺も働くの? 有休なのに?」
(//‰ -)「当然だ。ヘリカルは八仙のシナーと共に海を渡った。
モナーも漆黒にこもってレベリング中。次の戦いに備え、みな動き出している」
(//‰ ゚)「……お前こそ、もう次の戦いを考え始めてるんじゃないのか?」
(; ´_ゝ`)
(; ´_ゝ`)「いや、まぁ……一応仕事だし……」 ポリポリ
横掘に言われ、流石兄者は弟の影を思い出す。
彼の人生にたったひとつ決着をつけねばならない事があるとすれば、それは実弟である流石弟者の存在だけだった。
.
(: ´_ゝ`)「はあ……マジで最悪な目覚めなんだが……」
(; ´_ゝ`)「有休を潰された挙句、考え事も仕事も増えるってなんだよ……」
(//‰ ゚)「――まずは復興資金源を確保する為に挨拶回りに行くぞ。
次に役所で各種届出の事務処理補佐をし、その片手間に今回の始末書を作り……」
(; ´_ゝ`)「頭が痛くなるから口頭での羅列はやめてくれ」
(//‰ ゚)「そうか、ならこれを読んでおけ」 ポイッ
現実に堪えかねて弱音を吐いた途端、横掘は兄者の膝に手帳を投げた。
( ´_ゝ`)「……ん?」
その手帳は兄者の私物だがどうにも様子が変だった。
前は綺麗だったはずの手帳は大分くたびれ、付けた覚えのない付箋が数十枚と飛び出ている。
( ´_ゝ`)「……横掘さん、これは」
(//‰ ゚)「溜まった仕事はメモ欄にまとめておいた。
またそれとは別に今後のスケジュールも書いてある。重要な案件は赤の付箋で」
( ´_ゝ`)
(;´,_ゝ`)「あー弟ぶっ殺したい! あー超能力!
特訓しなきゃなー! 兄者特訓編の始まりかなァ〜〜ッ!」
(//‰ ゚)「そう言うと思って、毎日23時から技研のトレーニングルームを使えるよう手配しておいた」
(;´,_ゝ`)「えっ、……じゃあ実家に! 実家に帰って弟者のことを」
(//‰ ゚)「私が伝えておいた。放任すると言っていたぞ」
.
(;´,_ゝ`)「……な、なあ横掘。一緒に旅行にでも行かないか?
そういや前にも話したことあるよな? なあ行こうぜ?」
(//‰ ゚)「旅行なら忙しくなる前に一人で行ってきた」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「えっ」
(//‰ ゚)「ところでこれは土産のスイス産カウベルだ」
つ凸と スッ…
横掘は兄者の首にカウベルをかけてやり、その姿をケータイで記念撮影した。
( ´_ゝ`) コロン…
(//‰ ^)「ふふっ(心からバカにしている)」
(//‰ ゚)「似合ってるぞ、流石兄者」
( ´_ゝ`) カラン…
兄者はすべての退路がズタズタに断たれているのを実感し、現実に屈した。
.
≪2≫
……顔付きとの大規模戦闘からおよそ一ヶ月。
今回もっとも被害を受けたメシウマの一部市街地とレムナントは、未だ復興の目処も立たず荒れ果てた状態で放置されていた。
現在、カンパニーは治安維持と救援活動に駆け回り、市街のステーション・タワーは避難所として絶賛稼働中。
また後日、荒巻は今回の事件を能力者集団・顔付きによるものと正式に発表。
勇気ある者達の活躍によって戦闘は収拾可能な域で終息したと住民達に説明した。
これについて荒巻を良く思わない一部からは説明責任と今後の復興計画について激しい追及がなされたが、
大多数の住民達は不自然なほど寛容に、荒巻達の行動と発言を受け入れていた。
なお、本件をもってメシウマ側は『レムナント』と呼称される土地の完全閉鎖の方針を明らかにした。
現住民達の移住が完了したのち壁を解体、順次整地と都市開発が行われる事となった。
……なったのだが、レムナントに住むゴロツキ達の抵抗は激しく、計画は滞りまくっていつ始まるかも分からないのが現状だった。
結果的に壁を隔てた二つの世界は 『レムナント制圧作戦とそれを拒む能力者達』 の構図に逆戻りし、
戦いは、やはり今も続いているのだった。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(#,, Д )「――――があああァッ!!」
青天に怒声が響き、銀閃が砂塵を巻き上げて空を奔る。
レムナント制圧に駆り出されたカンパニー隊員3名は、徹底抗戦の姿勢をとる男に苦しめられていた。
(#,,゚Д゚)「どうした向こう側! 根性ナシばっか寄越してんじゃねえぞ!」 ダッ!
ギコが鋼鉄の刃に覆われた片腕を構えて走り出す
相対するは巨大盾、双剣、質量操作の力を持った強力な能力者達――
.
.__ _人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
ヽ|・∀・|ノ > 俺が受け止める! その隙にみんなで奴を! <
|__|  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
| |
緊急参戦ようかんマン!
必殺のようかんシールドがいま炸裂する!
(V) ∧_∧ (V)
ヽ(^ヮ^)ノ 「了解! 俺の【シーザーシザースシザーエッジSeason2】でバラバラだぜ!」
ノ ̄ゝ
怒涛の新キャラ・シーザー西脇!
両手を甲殻類っぽいハサミにする肉体強化部門でなら誰にも負けない!
三 }二二{ 「くらえ! 質量倍増5000キログラム! 必殺のドラム缶タックルをーー!!」
三 }二二{
三 }二二{
三 (, _⌒ヽ スィー
三 ,)ノ ` J
歩くドラム缶の恐怖!
そのタックルを止められる物などありはしない!
.
(;,,゚Д゚)「――うお、うおおおッ!」 ズアッ!!
ギコの刃が分厚いようかんシールドを切り裂く!
綺麗な断面が食欲をそそる! 緑茶!
ガビーン!
Σ__
ヽ|;・∀・|ノ 「バカな! 寒天多めのようかんは歯ごたえバツグンだというのに!」
|___|
| |
(;,,゚Д゚)「そういう問題じゃねえ!!」
ピョイン
(V) ∧_∧ (V)
ヽ(^ヮ^)ノ 「あとは任せろ! いくぞドラム缶、合体だ!」
ノ ̄ゝ
彡彡
}二二{ 「ああ! 俺達のコンビネーションを見せてやろうぜ!」
}二二{
彡}二二{
(, _⌒ヽ
彡 ,)ノ ` J シュバッ!!
彡
.
ガッシィィィーーーン!!!
(V) ∧_∧ (V)
ヽ(^ヮ^)ノ
三 }二二{ 「ようかんマンの仇だーーッッ!」
三 }二二{
三 }二二{
三 (, _⌒ヽ
三 ,)ノ ` J
(,,゚Д゚)(……上のやつ、もう手が届かないんじゃ……)
.串
ミ ___ 串
ミヽ|#・∀・|ノ 「いまだッ!! 究極必殺・ようかんブレードをくらえッ!!」
ミ |.___|
ミ / >
(,,゚Д゚) …
Σ(;,,゚Д゚)「あっぶね!」 ブンッ!
ようかんマンの勇気ある一撃!
しかしギコの反射神経は僅かにそれを先回り、そして――
.
__ 串
ヽ|;・∀・|ノ 「あ、ああぁ……!」 ズルリ…
|__|
| |
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)(……危なく、なかったな……)
__ 串
ヽ|;・∀・|ノ 「そ、んな……っ!」
 ̄ ̄__
|__| ネチャズバァ…
| |
――凄惨なる景色。
ようかんの飛沫が、大地に降り注いだ。
(V) ∧_∧ (V)
ヽ(;^ヮ^)ノ
三 }二二{ 「よ、よ、ようかんマンーーッッ!」
三 }二二{
三 }二二{
三 (, _⌒ヽ
三 ,)ノ ` J
シーザー西脇とドラム缶は分離し、分離したようかんマンを持って後退した。
.⊥⊥
|__|
(V) ∧_∧ (V)
ヽ(;^ヮ^)ノ 「今日のところは見逃してやる! 覚えておけ!」
ノ ̄ゝ
}二二{ 「ようかんマンしっかりしろ! すぐ井村屋に返品してやるからな!」
}二二{ .__
}二二{ | ∀ |
(, _⌒ヽ  ̄ ̄
,)ノ ` J
彼らはカンパニーの武装車両に乗り込み、一目散に去っていった。
バタン、ブロロロロロロ……
(,,゚Д゚)「…………」 ポツーン
人手不足な割に人材は豊富なカンパニー。
彼らとの戦いは、いぜん熾烈を極めているのだった――――
.
――ざり、と何者かが地面を擦った。
「……よお、楽しそうにやってんじゃねえか」
(,,゚Д゚)「……あぁ?」
馴れ馴れしい呼び声に苛立ちを露わにして振り返る。
振り返ったその先には、ギコでさえこの一ヶ月で忘れかけていた男が居た。
(,,゚Д゚)「……てめえ……」
('A`)「よっ。どんぐらいぶりだ?」
(#,,゚Д゚)「ッ!!」
今更のこのこ出てきやがって、文句のひとつでも――。
ギコは思うままを奴に言ってやろうかと思ったが、それはそれで向こうの気が晴れてしまいそうなので、ぐっと口を噤んだ。
('A`)「……色々鈍ってんだ。暇なら付き合えよ」
(,,゚Д゚)
('A`)「……やめとくか?」
真正面から向けられている、冗談と本気を足して割ったような半端な敵意。
そんなヌルいもの、普段なら「ナメてんのか?」の一言で一蹴するのがギコの性分だった。
――だったが、ギコはふと、今のドクオがどう戦うのか単純に気になってしまった。
一番大変だった時にどこぞに消え、一番暇な時に帰ってきた男が何をもって俺と戦おうとしているのか。
そして、そういう事は言葉で聞くより手っ取り早い方法で確かめるのが道理だ。
.
(#,,゚Д゚)「……いいぜ来いよ。リベンジマッチは大歓迎だ」 ザッ
(#'A`)「……ありがてえ。気前がよくて何よりだ」 スッ
次の瞬間、レムナントの荒野に撃鉄の音が響き渡る。
その音は戦いの終幕を告げる号砲であると同時に、次なる戦いを予告する警鐘でもあった――
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第三十四話 「“Seven Solitude Times”(前編)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
≪3≫
レムナントとメシウマを隔てる壁、その近くに設けられたテント群。
そこは中隊規模150名ほどが出入りする、制圧作戦の前線基地であった。
とは言っても、ここに居る彼らの仕事は派手な戦闘行為ではなかった。
o川;゚ー゚)o「かくかくしかじか」
\(;^o^)/「無実です……」
レムナントを閉鎖するにあたり、メシウマ側はまず荒野に住む人々に基本的人権を用意する必要があった。
その作業を一言に形容するならば、それはまさに終わりなきクソゲー以外の何物でもなかった。
<_;プД゚)フ「無実!? どう見ても未成年略取だ! おい輪っぱァ!」
ミセ*^ー^)リ「ウェルカム! 現代社会はあなたを歓迎します!」
つ◎
\(;^o^)/「俺は無実だーー!!」 (※後に死亡、この展開を回避した)
行方不明扱いだった人がいきなり出てきたり、死亡届のある人がちゃっかり生きていたり、
そもそもレムナント生まれで戸籍自体を持たない未成年者が山のように居たりなんだり。
反抗勢力の鎮圧もカンパニーの任務であるが、それ以上に訳ありの人間がとにかく多すぎる。
社会に戻っても即犯罪者になりそうな奴ばかりで、基地でレムナント住民を審査する隊員達は常に頭を痛めていた。
.
<_;プー゚)フ
<_;フ′ー丶)フ「ハァ……これレムナント放置のがいいだろ、絶対……」
ミセ*゚ー゚)リ「そうです? 私は楽しいですよ!」
<_;フ′ー丶)フ「そんなこと聞いてないんだけど、そっか」
ミセ*゚ー゚)リ「暴力と強い言葉で他人に迷惑と不快感を与えるバカども!
そんな薄ら寒い連中を問答無用で社会という豚箱に送る作業は爽快であります!」
<_;フ′ー丶)フ
ミセ*゚ー゚)リ
<_;フ′ー丶)フ「……お前は多分、そっちが本性だよな……」
ミセ*^ー^)リ「記憶喪失なので分かりません! お仕事たのしーさいこー!」
<_;フ′ー丶)フ「これが復帰後最初の仕事……先が思いやられるぜ……」
<_;フ′ー丶)フ「はぁ〜〜〜……」
エクストはたっぷり生気を込めた溜め息を吐いた。
その直後、各種雑務に追われる忙しないテントの中に一人の隊員が駆け込んできた。
.
ピャーーー
三(V) ∧_∧ (V)
三 ヽ(;^ヮ^)ノ 「エクストどの〜エクスト隊長どの〜!」
三 ノ ̄ゝ
衝撃の再登場――!
<_;プー゚)フ「……はいはい、どうしたよ」
(V) ∧_∧ (V)
ヽ(;^ヮ^)ノ 「さっき巡回に出たら反抗勢力に遭遇しました!
ノ ̄ゝ 制圧を試みたんですけど、ようかんマンが切り分けられました!」
<_;プー゚)フ「……ようかんマンはさっさと井村屋に送ってやれ。
そんで敵は誰だった? 能力、特徴は」
(V) ∧_∧ (V)
ヽ(;^ヮ^)ノ 「推定二十代、鉄を生み出す能力者でした!
ノ ̄ゝ ブラックリストでも確認しましたが、ギコで間違いないかと!」
<_;プー゚)フ「あー……またアイツか……」
ミセ*゚ー゚)リ「どうする? 私が出てもいいですけど」
<_;プー゚)フ「うぅん……そろそろ放置できねえよなぁ……」
エクストは背もたれに仰け反り、腕を組んで長く唸った。
ギコの能力は金属の具現化。だが、それ以上にギコは戦闘自体に慣れている。
超能力でどれだけ勝ろうと、より大きな括りである『人間』として負けているなら勝負にはならない。
時間を止めるだとか概念を打ち消すとか、そういう戦闘行為自体を台無しにする能力者が居ればともかく、
今のカンパニーにそんな便利に使える人材は残されていなかった。
<_;プー゚)フ「俺がやる、のもなぁ……」
……何より、エクスト個人はもうそういうブッ飛んだ能力には頼りたくないと思っていた。
どっちが上かでコインを投げて、より強い方が弱い方を一方的に踏み潰して終わるような戦いはもう見たくない。
行き過ぎた力はただ物事の過程を省略するだけ。その先にあるのは解決ではなく、より深い溝を作る怨恨だけだ。
『人間のことは人間で済ませる』。
これはエクストがカンパニー復帰に際して荒巻に言った事でもある。
今になって改めて非人間扱いをされた荒巻も、その時かなりショックを受けていた。
.
<_;プー゚)フ
<_;フ´ー`)フ「中隊長ぉ〜」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、逃げた」
エクストは振り返り、この制圧部隊の全指揮を担う中隊長に助けを求めた。
――やたら大きな机、偉そうな椅子。
積み上げられた書類の山は現時点で七割ほどが始末済。
中隊長の作業効率はかなりのもので、この基地が破綻寸前で保たれている理由もまたそこにあった。
<_;プー゚)フ「中隊長ってば〜」
「……あぁもううるせえ! 見りゃ分かんだろ忙しいんだよ! そっちで何とかしてくれ!」
だが、そんな偉そうな空間で働いている男に威厳や傲慢さなどは微塵も無い。
なんでも彼は先日の一件での功績を認められて昇進したらしいが、どう見ても高給と引き換えに厄介払いされた風にしか見えなかった。
「……クソ! なにが独立部隊の指揮官だよ……」
「俺が希望したのは紛争地域への出兵だったろうが、あのボケ老人……!!」
そしてなにより、本人がこの処遇をまったく快く思っていなかった。
今回の特例昇進など最早眼中に無く、むしろ毎日提出している異動願が毎日ガン無視されている事の方にイラついていた。
.
<_;プー゚)フ「……つっても相手が相手ですもん。
数で勝るか技量で勝るかの二択で、現状とれる手段は前者なんですけど……」
「……じゃあお前が出りゃいいだろ。それが一番手っ取り早い」
中隊長は頭を冷やし、エクストの目を見てそう答えた。
彼は見るからに呆れていて、面倒くせえと露骨に顔に書いてある。
「現状カンパニーで一番強いのはお前だろうが。
荒巻さんとか除いたヒラ隊員の中じゃあさ」
<_;プー゚)フ「えぇ〜……」
「お前がその力を使いたくないのも分かるが、それじゃあ宝の持ち腐れだぜ?」
<_プー゚)フ
<_プー゚)フ「……いや、あれは宝なんかじゃないですよ。
あれは結局、人間には無意味な代物ですから……」
顔付き襲来の折、エクストはtanasinnの片鱗によって超常の力を手にした。
それを使役すれば消し飛ばされた両脚も完璧に再生できるのに、彼はあの戦い以降、頑なに片鱗を使おうとはしなかった。
現に、エクストの体は今も車椅子の上に乗っかっている。
本当ならこの車椅子すら使わず這いずり回って生活するつもりだったが、同じく車椅子を必要としたカーチャンにそれは止められた。
「間違えて二つ買っちゃった」などと見え透いた嘘をつかれたら、それ以上意固地になる訳にもいかなかったのだ。
.
衝撃の再登場ワロタ しえんだよ
「……ま、確かにtanasinnどうこうに頼る程じゃねえのは確かか」
「じゃあ適当にその辺の新人ピックアップして使ってやれ。
今ならジョルジュさんが暇してっから隊長はあの人がいい。バカには肉体労働だ」
<_;プー゚)フ「お言葉ですけどあの人に指揮は無理ですって。
絶対に新人が困惑しますよ。殴れ蹴れとしか言わないんですから」
「いーや今はそれでいい。うちの後進育成は急務だからな。
経験積むなら分かりやすいバカ上司の下が一番ってこったよ」
中隊長は軽々しく言ってのけ、自分の仕事に視線を戻した。
<_;プー゚)フ
この人、相当無責任なことを言ってるけど、それなりに説得力があるから困る。
……まあ困るのはジョルジュさんの指示に従う新人達だけど。
とりあえず、鼻先に突きつけられた問題はこれで解決できそうだ。
<_プー゚)フ「……ん?」
エクストは胸を撫で下ろし、そこでようやく自身の胸ポケットでケータイが明滅してる事に気がついた。
彼は元の業務に取り掛かる前に、その着信に応える事にした。
.
<_プー゚)フ「はい、エクストです……はい、お久し振りです。
兄者さん目が醒めたんですね。よかったです……」
ミセ*゚ー゚)リ「ひま〜。はやく屠殺の比喩行為がしたい〜」 プラプラ
<_プー゚)フ「あ、いや……なんか兄者さんからはもう連絡来ないと思ってたんで。
それよりどうしたんすか。特課が応援くれるなら大歓迎ですけど」
<_プー゚)フ
<_;プー゚)フ「――えっ」
「お、帰ってきたか?」
中隊長は何かを予期し、首を伸ばしてエクストに問い掛けた。
ミセ*´ー`)リ「エクストさんってば〜。
このままじゃ痛い中学生みたいなこと言い続けちゃいますよ〜?」 パタパタ
.
<_;プー゚)フ「――連絡、感謝します!!」
エクストは焦った大声で一方的に通話を切り、さも当然のようにtanasinnの力を発動した。
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたんです?」
<_;プД゚)フ「あいつ、やっと帰ってきやがった!」
tanasinnの黒いもやがエクストの両脚を形取り、義足としての機械装甲をそこに具現化する。
肉体の一部として作り出されたそれは生身同様に作動し、当然のようにエクストを地面に立たせてくれた。
<_;プー゚)フ「中隊長! ちょっくら職務放棄します!」
「どうせドクオだろ? 行って来いよ。仕事のツケは自分で払ってもらうけどな」
<_;プー゚)フ「そんでミセリちゃん、前の話だけど……」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「……分かってますよ。利害は一致してますから」
それから数分後、打ち合わせを終えたエクストとミセリは、最速で仮設基地を飛び出していった。
.
≪3≫
(# A゚)「撃動のぉ……ッ!」 ガギッ…!
腰を落とし、深く拳を構え、唸るような声と共に撃鉄を落とす。
強大な推進力を丸ごと拳撃に上乗せし、ドクオは弾丸と化した全身をもって大地を蹴り出した。
(#,,゚Д゚)「オオッ!」 ダッ!!
ギコはその一撃必殺の拳を正面から迎え撃とうとした。
彼が単純な力比べでドクオに勝てる見込みはない。
しかしそこに知恵と小狡さを加えて状況をひっくり返すのが、ギコという男の戦い方だった。
(;'A`)「――ッ!」 ズザッ!
ギコの対応に危機感を覚えたドクオは本能的に踏み止まる。
しかし撃動の勢いは咄嗟には消しきれず、ドクオは空に跳ね上がってギコの頭上を飛び越えていく。
(;'A`)(――いや、まだ来るッ!!)
(,,゚Д゚)
ギコは空中に逃げたドクオを目で追いつつ、握り拳を作ってそれを大きく振りかぶった。
“ぷつ”と糸が切れたような軽い音――ドクオは、咄嗟に大きく仰け反った。
その次の瞬間、ドクオの首筋を一線の刃が切り裂いていった。
(;゚A゚)(あ、あッぶね……!)
.
(,,゚Д゚)「……目を狙ったが、やっぱ一筋じゃ通じねえか……」
最小の刃を取り付けた可視限界ギリギリの超極細ワイヤが一本、ギコの手中にしゅるりと戻っていく。
その武器は致命傷を与える分かりやすい武器ではなく、陰の中でこそ真価を発揮する暗器。
あらゆるタイミングで鉄製の武具を作り出せるギコならではの、真っ向勝負を前提とした暗殺道具だった。
(;'A`)「――おいコラ! いま目を狙ってるって言ったか!?
こっから無しだからな!! 卑怯だからな!!」
距離を取ったドクオはすぐさまギコに意義を唱え、
(,,゚Д゚)「うるせえ。実力の差を考えろ」
ギコは淡白な返答でそれを却下した。
(,,゚Д゚)「ほうら次だぞ」 クイッ
(;'A`)「おまッ!?」 シュバッ
(,,゚Д゚)「あ?」 クイッ
(;'A`)「こんなんだからッ! いざって時に勝てねえんだよッ!」 ダッ!
(,,゚Д゚)「的外れだな。いざって時を避けるのが俺の生き方だ」 キュイッ
.
見えない刃を勘と適当で避けながら再接近。
だが、今度もまたギコの嘘か本当か分からない駆け引きに負け、同じ轍を踏まされてしまう。
互いに攻撃も防御も崩れず、
別段なにか変化がある訳でもないじゃれあいを続けて数十分――
(,,゚Д゚)「――ここまでだな」
(;'A`)「……あぁ?」
ギコは唐突に、その戦意をさっぱりと水に流した。
(;'A`)「んだそれ……急に……」
(,,゚Д゚)「てめえのウォーミングアップ兼リハビリに付き合うほど、俺は気長じゃねえんだ」
(;'A`) ハァ…ハァ…
(;'A`)「……ここまでやってから、それ言うのかよ……」
.
(,,゚Д゚)「大体こんなん続ける意味もねえだろうが。
……それともなにか? 次から本気出してくれんのかよ」
(;'A`)
(;'A`)「……いやっ、それは……」
落ち着いた言葉に含まれたささやかな苛立ち。
それを感じ取ったドクオは、曖昧な反応で返事を濁した。
(,,゚Д゚)
(;'A`)
(,,-Д-)「……わりぃな、意地悪言っちまった。
別に嫌になって投げ出すわけじゃねえよ。これはただの逆ギレだ」
両手を上げ、分かりやすい降参のポーズをとる。
ギコは涼しげな表情のまま、ドクオとの意味のない戦いを放棄した。
(,,゚Д゚)「今は勝算が無いから負け惜しみと言い訳を並べて降参するってだけ。
今のお前に勝つには山ほどズルをしなくちゃならねえ。
それができねえから、これ以上はお断りだ」
(;'A`)「……んだよ、じゃあ加減してたのはてめえの方じゃねえか……」
(,,゚Д゚)「おお分かるのか。ちったあ大人になったらしいな」
(;'A`)「……そんなん、知らねえよ……」
戦いの熱も冷めたので、ドクオは超能力なんかさっさと解除して遠くの空を漠然と見上げた。
('A`;)「……ていうかお前ら、どんだけ暴れたんだよ」
(,,゚Д゚)「俺らじゃねえよ。なおるよいわく、撃鉄の誰かさんの一撃でこの有様だそうだ」
先日の一件を経て、レムナントの荒野はドクオが知るものとは大きく姿を変えている。
もし自分がこっちに残っていたら――という想像が、ほんの一瞬脳裏を過ぎる。
.
('A`)
(;'A`)「……えっ待て、なおるよ?」
(,,゚Д゚)「……ん? そうだが」
(;'A`)「……マジで?」
(,,゚Д゚)「マジでなおるよだ。忘れたのか?」
(;'A`)「……あ、そうじゃなくて……」
(,,゚Д゚)「あいつらバッチリ生きてるぞ。誰も死んでねえし」
('A`)
(;'A`)「……だ、だれも!?」
『あいつら』という予想外の複数形に、思わずドクオは同じ言葉を言い返した。
(,,゚Д゚)「そうだぜ。なおるよが見たっつう、ミルナが殺しちまった連中も全員な」
大男だろ、格闘家だろ、その他諸々だろ……。
ギコは指折り適当に数えながら、最終的に「まぁとにかく全員」とまとめて言い切った。
(;'A`)
(;'A`)「……じゃああいつ、ずっとホラ吹いてたのかよ……」
――結局、ミルナという男の悪役面は、自分を追い込む為の演技でしかなかったらしい。
つまり単なるこけおどし。この台無し感は、tanasinn譲りのアレと見て間違いなかった。
.
(,,゚Д゚)「……で、お前これからどうすんだよ」
('A`)「……お前こそ。どうせやる事ねぇんだろ」
ドクオにそう聞き返されたギコは鼻を鳴らして嘲笑する。
(,,゚Д゚)「おいてめえ、まさか俺が 『戦うだけが生きがいです』 って奴に見えてんのか?」
('A`)「いやそう見えない方が少数派だろ」
(,,゚Д゚)「……なんてな、俺はレムナントに残って戦うつもりだ。
何にもねぇこの荒野が好きなんでな。はいそうですかで去れるかってんだ」
('A`)「おお。すげえバカだ」
(,,゚Д゚)
(;,,-Д-)「いや……俺も死ぬまで意地張る気はねぇよ。やばくなったらトンズラこく。
さすがに荒巻レベルが出てきたら俺もお手上げだしな……」
……その辺、あの戦いを見ちまったら張り合う気にもなれねぇよ。
ギコは溜め息混じりにそう呟き、すぐ元の調子に戻った。
(,,゚Д゚)「それも終わったら……そうだな、前に喋った俺の師匠でも探しに行くかな」
('A`)「師匠?」
(,,゚Д゚)「……あの野郎、どうせ片田舎ですっとろいジャズ聞きながら甘ったるいホットワインでも飲んでんだよ。
引きずり出して戦って、どっちが上かハッキリさせんのも悪くねえと思ってる」
先と同じように鼻で笑うギコ。
しかしその双眸はとても穏やかに、望郷するように空を見上げている。
.
(,,゚Д゚)「……ま、俺の今後はそんなとこだ」
('A`)「ふーん……俺は何も考えてねえから答えらんねえや」
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)「……ああそうかよ。それならいい」
('A`)「……」
(,,゚Д゚)「……まぁ、あれだ。用があればまた声掛けろ」
('A`)「ああ」
(,,゚Д゚)
('A`)
(,,゚Д゚)「そんじゃあ……俺は帰るわ」
('A`)「……ああ。付き合わせて悪かったな」
(,,゚Д゚)「気にすんな。どうせ他人だ」
そう言い残して立ち去ろうとしたギコは、しかしすぐ何かを思い出して振り返った。
(,,゚Д゚)「――と、そういや連中の事だけは教えねえとな」
('A`)「連中、……っていうと、ダディとかか?」
(,,゚Д゚)「ああ。ま、大した話じゃねえんだが――――」
ギコは最後に、一瞬でも仲間だった者達のことをドクオに語り始めた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(,,゚Д゚)「……じゃ、確かに伝えたぜ」
('A`)「ああ」
ギコは停めておいたバギーカーを走らせ、エンジンを猛らせながら少しずつ遠ざかっていった。
たまたま同じ牢屋に入り、都合が良いから少し手を取り合っただけの、正真正銘ただの他人。
そんな奴との別れに「まぁこんなもんか」と拍子抜けつつも、後からちょっと寂しさが湧き上がる。
('A`)「……」
( 'A`)「……俺も、行くかぁ……」
ギコが去って数分後、思いついた次の行き先はレムナント監獄。
大きな街に寄るのも考えたが、今は人気のある場所には近付きたくなかった。
それに、そんな場所に自分の帰る場所があるとも思えなかった。
('A`)
('A`)「……帰って早々、やっぱ見飽きた景色だな、ここは……」
晴れ渡る空、荒れ果てた大地。
ふたたび歩き出した男の独り言は、壁に囲われた限りある世界に霧散していく――はずだった。
.
「――おかえり、ドクオ」
「……えっ、いやここで甘やかすのはマジで駄目だろ!?」
「いいじゃないか。私達三人、久し振りに揃ったんだから――」
( 'A`)「……ハァ、うるっせえな……」
ドクオはぶっきらぼうに、弱々しい声でそう応えた。
気だるげに振り返り、ドクオは自分を呼び止めた二人と向かい合った。
<_プー゚)フ「……よう。パッと見、無事っぽいな」
そこに居たのは得意げに微笑むエクスト、そして――――
.
('A`)「……お前、何やってんだよ」
川 ゚ -゚)「……そう言うな。私も、“ただいま”だ」
――今にも消えてしまいそうな笑顔を浮かべる、もう居ないはずの素直クールだった。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
二週間ほど前、エクストは夜の喫茶店にミセリを連れ出していた。
冬を間近に控えた晩秋。
暖かさを求めて注文したホットコーヒーは、もうとっくに人肌より冷たくなっていた。
ミセ*゚-゚)リ「提案は、その……」
<_プー゚)フ
ミセ*゚-゚)リ「分かりましたけど……」
エクストの話を一通り聞き終え、それを自分の中で繰り返し思案し、ようやく出せた言葉はこれだけだった。
ミセ*゚-゚)リ
ミセ*゚-゚)リ「……誰にとっても最悪だと思いますよ、この話」
ガムシロップの空容器を指で転がし、上の空を装って嫌味をこぼす。
この日エクストが彼女に語った事は、お世辞にも気分の良くなる話ではなかった。
<_プー゚)フ「……分かってる。だけどあいつはもう答えを出しちまった」
ミセ*゚-゚)リ「……ならいいじゃないですか。答え、尊重しましょうよ」
ミセリはエクストの顔を一瞥すらしなかった。
最悪の予感を抱えていながらそれを言わず、エクストは虚勢だけで平静を保っている。
そんな男の情けない顔など、直視する理由が無い。
ミセ*゚-゚)リ「……その、ドクオさんの答えを確かめたいって話、すごいエゴだと思いますよ」
エクストは、彼女の指摘に黙って頷く。
.
ミセ*゚-゚)リ「……私に素直クールのフリをさせて、」
ミセ*゚-゚)リ「ドクオさんに見せて、反応を確かめて、」
ミセ*゚-゚)リ「あの人の答えが絶対に揺らがないって証拠を、無理矢理暴いて……」
<_プー゚)フ
ミセ*゚-゚)リ「……そんな事して、いったい何になるんですか」
――エクストの提案。
それはいつかドクオが戻ってきた時、ミセリが素直クールのフリをして過ごすという意味の無いものだった。
<_プー゚)フ「……あいつ、もう自力じゃ帰ってこれない所に居るらしいんだ」
ミセ*゚-゚)リ「……答えになってないです」
<_プー゚)フ「ミルナが今、その場所からドクオを連れ戻しに向かってる」
ミセ*゚-゚)リ「それは、……初耳です」
<_プー゚)フ「俺もミルナについていこうとしたけど追い払われた。
結局俺はあいつらには追いつけなかった。俺だけ、置いて行かれちまった……」
ミセ*゚-゚)リ「……その分、ワガママがしたいと?」
<_プー゚)フ「……例えるならおままごとだな。ごっこ遊びでもいい」
これは、素直クールという役を使ったごっこ遊びだ。
エクストは自嘲しながら言い、なおミセリの機嫌を損った。
無意味に人の心を逆撫で、悪趣味な行いで真意を暴いて他人を分かった気になろうとする。
その片棒を担がせようとするエクストの事も、これを悪くない話だと思ってる自分の事も、ミセリは心から軽蔑していた。
.
ミセ*゚-゚)リ「そのごっこ遊びで、ドクオさんが騙されるとでも思ってるんですか?」
<_プー゚)フ「……いや、バレたらバレたでいいんだ。
俺もこんな都合の良い嘘をあいつに無理強いするつもりはない」
ミセ*゚-゚)リ「最初から失敗前提……なおさら悪趣味ですね」
ミセ*゚-゚)リ「……何度でも言いますけど、やっぱり最低ですよ。
貴方の言ってる事って、つまりドクオさんに嘘をついてほしいって事なんですから」
ミセリはあの一件以後カンパニーで働き始め、少しずつメシウマ側の生活に馴染んでいた。
その過程で知り合ったデミタスやシャキン達から聞き出してきた、ドクオという男の人生。
ドクオがどれだけ素直クールを欲し支えにしていたかなど、それら人づての言葉で十分に理解出来しまった。
それぐらい、ドクオは素直クールという存在を神格化して生きてきたのだ。
……だからこそ、ミセリにはエクストの言葉が空虚なものに聞こえて仕方なかった。
ミセリが完璧な変身能力で完全に同じ構造になったとしても、ドクオは絶対にそれを見破るだろう。
ミセ*゚-゚)リ(こんな事、私より付き合いの長いエクストさんなら簡単に分かる筈なのに……)
ドクオが彼女の事を忘れられる訳がないと分かっているくせに、エクストはドクオに『忘れたフリ』を期待している。
こんな一方的で悪趣味な、押し付けがましいもので何が分かる。
格好だけ整えて終われる二人なら、もっと前に――――
.
ミセ*゚-゚)リ「――最低です。私にとっても、貴方にとっても、ドクオさんにとっても」
<_プー゚)フ「……それでいいんだ。
本当なら、あいつは二度と戻って来れなかったんだしな」
ミセ*゚-゚)リ「……カッコつけて開き直るなよ」 ボソッ
自分の耳にも聞こえないほど小さな囁きに、ミセリは最大の侮蔑を詰め込んでいた。
<_プー゚)フ「つっても、この話はどの道ミルナとドクオ次第なんだけどな。
本当に帰ってくるかも分かんねえし、今の俺に出来る事は何もねえ」
エクストはそう言って茶化し、姿勢を崩してぬるいコーヒーを一気に飲み干した。
ミセ*゚-゚)リ「……貴方でもそんなに信じられないんですか。
ドクオさんが帰ってくること、彼が素直クールを諦めてること……」
<_プー゚)フ「……どっちも信じてるから確かめたいんだ。
これは、俺の甘えなんだよ……」
<_プー゚)フ「……ああ分かってる。分かった上でこれをやるんだ」
<_プー゚)フ「そんでこれが最後だ。今までの俺はここまでにする。
俺のガキの部分は、もうこれで最後にするからさ……」
ミセ*゚-゚)リ「……あなたも面倒な人ですよね。
まぁ、その言い訳で少しはマシになりましたけど……」
<_プー゚)フ「……俺は昔っからこんなんだ。
こんなんだから、俺はあいつの兄貴になりきれなくてな……」
ミセ*゚-゚)リ「知らないです」
ミセリはキッパリと切り捨て、自分のコーヒーをぐいっと一気飲みした。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)「……」
川 - )「……ドク、オぉ……」
ぎゅう、とドクオを抱きしめる。
記憶喪失のミセリとしてではなく、素直クールの代用品として。
川 - )「いっぱい頑張らせて悪かった。
私が、私だけが悪かった……」
震えた声でドクオに縋りつき、素直クールは小さな声で繰り返し謝りながらドクオの返事を待っていた。
川 - )「ドクオ……私は……今のドクオだけを好きになったんだ……」
自分のせいで今までずっと迷惑を掛けてしまった人。
最後の最後まで振り向かなかったのに、それでも私を見続けてくれた人。
自分の為に生きてくれた彼のことを、私は心から愛している――彼女は、そんな感じのことを思う。
('A`)
('A`)「おい、エクスト」
<_プー゚)フ「今は俺じゃねえだろ、クールさんが見えてねえのか?」
( 'A`)「ふざけんな、悪趣味だぞ。ミセリに何やらせてんだ」 グイッ
川;゚ -゚)「あ、ちょっ……」
胸で泣く彼女を優しく押し退け、ドクオは凄みのある表情でエクストに詰め寄った。
これはバレていい嘘――エクストが見たいのは、この後の展開だった。
.
('A`)
<_プー゚)フ「……へえ、お前それが別人だって分かるんだな?」
('A`)「当たり前だろ。お前また余計な事したな?」
互いを目の前にし、いつでも殴る蹴ることができる距離で睨み合う。
言葉数は少なくとも、ミセリの好意を利用した茶番にドクオは確かな怒りを覚えていた。
川;゚ -゚)「……あーあ、やっぱり怒らせた」
<_プー゚)フ「あーそうかよ。じゃあ本物はどうなった?
俺はてっきり、ミルナも入れて三人で帰ってくるもんだと思ってたぜ」
('A`)「……わりいな、一人で帰ってきて」
<_プー゚)フ「……ミルナはどうした。お前を迎えに行ったあいつは」
( 'A`)「……さあな。教える義理もねえよ」
<_プー゚)フ
<_プー゚)フ「……結局、巻き込むだけ巻き込んで、そのツラか……」
――ドクオの顔を見て、エクストの不安は確信に変わる。
こいつの中では、もう何もかもが終わっちまってる。
今までずっと抱えていたものも全部、色々あった過去として水に流そうとしている。
ドクオという役割を終えたこいつは、ただの普通の人間に戻ろうとしている――――。
.
<_プー゚)フ
('A`)
<_プー゚)フ「……なあ、どうだった」
('A`)「……なにが」
<_プー゚)フ「とぼけんな。クールさんとの別れだ」
('A`)「……せいせいするほど綺麗にフラれた。
その辺の話はしないでくれ、死にたくなる」
<_プー゚)フ「それから……ミルナとも戦ったんだろ」
('A`)
( 'A`)「……ああ。戦った」
――ドクオの脳裏に甦る、草原での最後の戦い。
俺はあの世界でミルナと戦い、ミルナはtanasinnと戦っていた。
そして俺だけがここに戻って、あいつだけが今も――。
( 'A`)「……けどな、終わったんだよ」
<_フー )フ「――ッ!」
('A`)「俺達は、何もかも丸く収まったんだ」
.
<_フー )フ「……なら、せめて……」
('A`)
エクストは言いかけた事を誤魔化し、笑顔を作って改めて続けた。
<_プー゚)フ「……大団円なら、せめて幸せそうにしててくれよ」
<_プー゚)フ「こんな、……」
俺が望んだものが何一つ残ってない結末でも、お前が前を向けてるなら――。
また本心を言いかける。エクストは頭を振り、もう一度言葉を塗り替えた。
<_プー゚)フ「……そんなシケたキモいツラ、やめてくれよ」
('A`)
(;'A`)「……待て、それはただの悪口だ……」
<_プー゚)フ「……ああ? 本当の事だろ……」
――クールさんを見て、また慌てふためいてほしかった。
ミセリを利用した俺を激情のままに殴りにきてほしかった。……その時は蹴り返すけど。
苦しみを露わにして、叫んで、誰も救えなかったなんて終わりを否定してほしかった。
まだ何も終わっていないと言ってほしかった。
ドクオに、彼女の事を諦めてほしくなかった。
胸の中に湧き上がるいくつものワガママを、エクストはひとつひとつ押し殺していく。
.
<_プー゚)フ(……あーあ。これで二対一だ……)
エクストは遠き日を思う。
三人で一緒に居た頃を思い描けるのは、もうエクスト一人だけになってしまった。
ドクオがあの頃の記憶に縋る事は二度と無い。
戻りたいと、願う事すらしないだろう。
('A`)「……なんか今のお前、昔の俺みたいだぞ」
<_プー゚)フ「……ハハ、最悪の褒め言葉だな」
(;'A`)「……いや、褒め言葉じゃねえって……」
なのにドクオは悲しむ素振りも見せず、怒る事もなく、普通にしている。
エクストには、そんな張り合いの無いドクオの姿が少し遠くに感じられた。
川;゚ -゚)「あの〜、もう変身解いてもいいですか……?」
<_プー゚)フ「……ああ、変なことさせて悪かったな」
――俺に、今この瞬間を悲観する権利はない。
少なくともドクオがこうしている間は、エクストは、自分自身の願いを隠し続ける覚悟をした。
そうしなければ、彼はこれから先のドクオについていけなかった。
自分だけがあの頃を引きずっていたら、いつか何かを切欠にドクオを傷付けてしまうかもしれない。
これから先を生きていく以上、エクストは、ここでひとつの区切りをつけるしかなかった。
.
ミセ*゚ー゚)リ「――よし、っと!」
ミセリちゃん108の超能力から変身能力を解除し、元の姿に戻る。
前の女を演じるのは死ぬほど不快だったが、それに見合う収穫は十分に得られたみたいだ。
ミセ;゚ー゚)リ(……落ち着け私、ドクオさんに未練は無いぞ!)
ミセ;゚ー゚)リ(押せばイケる! 今なら寝取れる!) グッ
胸のところで拳を作り、慎ましく自分を鼓舞するミセリ。
ぎらぎらの瞳はドクオを捉え、その当人は視線に気付きながらも露骨に目を逸らしていた。
(;'A`)「……俺、これから監獄に行くつもりだったんだけど」
<_;プー゚)フ「……金は貸すからミセリちゃんと遊んでやってくれ。
まあ俺は仕事に戻らなきゃなんねえけど」
(;'A`)
(;'A`)「……仕事か。俺もその内、なんかやんねぇとな……」
仕事という現実的な語句を前に、ドクオは住所不定無職の自分が急に心細くなった。
.
<_;プー゚)フ「頼むドクオ! 今は何も言わずミセリちゃんに付き合ってやってくれ!
さっきのもお前とのデート取り付けるのが条件だったんだよ!」
Σ(;'A`)「知るか! つーか人を勝手に交渉材料にすんなよ!」
<_;プー゚)フ「……うるせーバカ! クズの癖にモテやがって!」
(;'A`)「な、なんだよ急に!!」
<_;プД゚)フ「うるせーバーカ! 死ね無職!」 ダッ
直後、エクストは地面に財布を叩きつけて身を翻し、形振り構わず全速力で逃げ出した。
強烈な衝撃と砂塵が巻き上がり、彼はそれに紛れて一瞬で姿を消してしまう。
やるだけやって言うだけ言って全力で逃げる様は、むしろもう清々しいほど大人気無かった。
(;'A`)「ちょ、おい!! 逃げんな!!」
('A`)
('A`)「……そんな、無職とか言うなよ……」
事実なので、何も言い返せない。
.
川 ゚ー゚)「……それじゃあ、私達デートに向かうとするか」
('A`;)「ミセリ、その追い打ちだけはマジでやめてくれ……」
ミセ*゚ー゚)リ「はーい」
――かくして次回、ドクオは街に出るのだった。
.
もくじ >>2
第三十二話 Remnants(クズ、余り物、残されし者達) >>3-133
第三十三話 星の終着点 >>147-264
第三十四話 “Seven Solitude Times”(前編) >>280-339
あと2話くらい日常編っぽいのやって第三部完です('A`)
35話は書き終わっているのでまた来週末に投下します('A`)
支援嬉しかったです('A`)また次回よろしくです('A`)
おつ!!!エクストがせつない…
あー苦しい、あー辛い。乙
おつおつ
乙ー
久しぶりに来たら来てて歓喜
日曜日に投下します 60レスくらいです('A`)
期待
オラワクワクすっぞ
ソワソワ
≪1≫
午後一時、週末昼間のメシウマ商店街。
壁を超えてそこまで連れ出されたドクオは、生まれて初めての『普通の買い物』に付き合わされていた。
(;'A`)「ひ、人が多い……」
ミセ*゚ー゚)リ「そんなの当たり前じゃないですか。
市街地がブッ壊れたせいで、まともに物が買えるのはこっちの方だけですもん」
するすると人混みを進んでいくミセリと、彼女が作った道に続いていくドクオ。
社会不適合者なりに善処しているとはいえ、自分より小さな少女に頼っている自分に多少の恥ずかしさを覚える。
――戦いを意識せず過ごすのはいつ以来だろうか。
もしかしたら、今この時が初めてかも知れない。
ドクオはそんな事を思いながら、身軽になった自分の世界にどこか息苦しさを感じていた。
(;'A`)「なあこれどこに向かってるんだ? もう帰りたいんだけど……」
ミセ*゚ー゚)リ「まずは服屋です! ドクオさん、まずは服ですよ!」
(;'A`)「服か……tanasinnで作ればタダだぞ」
ミセ*´ー`)リ「……ドクオさん、センスはお金で磨くしかないんですよ」
('A`)
暗に「お前にはファッションセンスが無い」と言われた気がしたが、それを言い返せるだけのセンスも無いので黙るしかなかった。
今までずっと適当な古着を拾って適当に組み合わせ適当に着ていたドクオ。
以前ミルナに貰ったレザージャケットだけは今も好んで使っているが、衣服への拘りといえばそれしかない。
.
ミセ*゚ー゚)リ「この先で服を買った後は予約無しでいける美容院に突っ込みます!
その次はご飯! なお海鮮を予定しております! ご飯の次はまた買い物!」
(;'A`)(……び、びよういんとはいったい……)
ミセ*゚ー゚)リ「荷物は超能力でマンションに転送しますのでご安心を」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、ドクオさんにはしばらく私の部屋で生活してもらいますね。
上には言ってあるので大丈夫です。まずは必需品と最低限の身形を整えましょう」
(;'A`)「……ああ? まあ、いいけど……」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ(――こいつ、私との同棲をチラつかせても全く動揺しやがらねえ!!)
馴染みの無い言葉が並んだせいか、ドクオはいまいちミセリのテンションに乗ってこない。
だからと言って、ミセリは彼に無理強いもしなかった。
彼を無理矢理デートに引っ張り出したミセリ自身にも、ドクオを振り回している自覚は十分にあるのだった。
( 'A`)「海鮮か〜そういやむかし海で死にかけた事あってさ〜」
ミセ;゚ー゚)リ「くっ……!」
とにかく今は彼の無関心ぶりには目を瞑り、二人の時間を少しでも増やす事が最優先だ。
焦りは禁物。傷心につけ入って寝取って快楽堕ちさせるまで、ミセリに失敗は許されない。
.
('A`)「……あっ」
ミセ*゚ー゚)リ「どうかしました?」
(;'A`) ゴクリ…
(;'A`)「……なあ、欲しいものがあるんだけど」
ミセ*゚ー゚)リ「はい、なんでしょう?」
(;'A`)「……どっかにマンゴーの苗木売ってねえかな……」
ミセ*゚ー゚)リ
(;'A`)「ちょっと育ててみたくて……」
ミセ*゚ー゚)リ
意味が分からないが、ミセリはツッコミを堪えてドクオの質問に答えた。
ミセ;゚ー゚)リ「……あ、アマゾンにならある……かも?」
Σ(;'A`)「アマゾン!? やっぱ本場行かなきゃダメか……」
ミセ;´ー`)リ「……あとで色々説明します。そんな無知さがまた愛らしい……」
いまいち噛み合わない会話に四苦八苦しつつ、こうして二人のデートは穏便に幕を開けていた。
なおアマゾンはマンゴーの本場ではないし、通販サイトの方では本当にマンゴーの苗木が買える。
.
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( д゚ )「――すべての始末を、つけにきた」
('A`)
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「……なんつってな。そんな場合じゃねえか……」
ミルナは嘲笑し、周囲を一望しながら続けた。
('A`)「……なんだよ。やらねえのかよ」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「あー……」
( ゚д゚ )「……ドクオ、お前いま何が見えてる?」
('A`)
( 'A`)「何って……辺り一面の大草原だけど」 チラ
.
( ゚д゚ )「……そうか」
( ゚д゚ )「お前ら、そうなったか……」
一人先んじてこの状況を理解するミルナ。
彼は僅かに視線を泳がせた後、ドクオの方を見て目を細めた。
_,
( ゚д゚ )「……俺ら、ちゃんと向かい合ってるんだよな?」
(;'A`)「何言ってんだよ。また目が見えなくなったのか?」
_,
( ゚д゚ ) ジィー
( ゚д゚ )「……あぁ、なんとなく捉えた。そこか」
('A`)「お前いよいよアホが振り切れたのか?」
( ゚д゚ )「そこに居るならいい。“それ”がお前なら、そう認識するだけだ」
曖昧な物言いを終え、ミルナは再び周囲を見渡して溜め息を吐いた。
そんなもったいぶった態度に痺れを切らし、ドクオは呆れた表情で彼に問い掛ける。
.
('A`)「……なあミルナ、お前には何が見えてんだよ」
( ゚д゚ )「……何が、ね……」
――暗く蠢くものを一瞥し、ミルナは敵意を込めてそう答えた。
彼が今見ている世界に、草原などという平和ボケした記号は存在していなかった。
( ゚д゚ )「そりゃあこっちのセリフだ……」
(;'A`) …?
ドクオには綺麗な自然が、ミルナには暗闇と悪意の顕現が目に見えている。
二人は今、言葉を交わしながらも別々の世界に立っていた。
( ゚д゚ )「お前、ここがどこか分かるか?」
(;'A`)「……知らねえ」
( -д- )「……簡単に言えば、ここはtanasinnの腹の中。
俺が何度もやってきては、その度に返り討ちにされた因縁の地だ」
(;'A`)「…………」
(;'A`)「……それ、って……」
( ゚д゚ )
(; A )「つまり、俺は――――」
優しく、穏やかな風がなにかを誤魔化すように草原を吹き抜けていく。
とても汚濁の腹底に居るとは思えない感触が、ドクオの全身を暖かく包み込んだ。
( ゚д゚ )「――そうだ。今のお前は、完全にtanasinnに呑み込まれちまってる」
.
茜色に燃える夜明け前。
すべてを綺麗事で取り繕った世界がドクオの心に語りかける。
(; A゚)「…………」
お前は何もかもを終えたんだ。今更、やることなんて何もない。
この何もない綺麗な景色こそが、お前の望んだ最高の結末だろうに――。
(; A゚)「…………」
(; A )「……いや、そりゃあそうだよな……」
(; ∀`)「あんだけやったんだ、俺だけ無事って訳にはいかねぇか……」
( ゚д゚ )「当たり前だ。そんな都合の良い話がある訳ねえだろ」
(;'∀`)「……へっ、分かったら分かったで気が楽になった。
あんな身奇麗な終わり方、俺には似合わねえと思ってたとこだ……」
.
( ゚д゚ )「……お前の友達もここに来ようとしたんだが、止めたよ。
tanasinn相手に……というか、お前相手に戦える人柄してなかったからな」
(;'A`)「……俺はどうすりゃいい。どうせこのままそっちに戻ったらヤバいんだろ?」
( ゚д゚ )「死ぬほどヤバいな。今のお前が戻るのはtanasinnが目覚める事と同義だ」
(;'A`)「ッ!」
(;'∀`)「……そっか。手遅れだな」
( ゚д゚ )「お前テンプターって奴と取引しただろ? それが致命的だったな」
(;'A`)「そうなの? ……じゃあ俺、ずっとここに居続けるのか?」
(;゚д゚ )「そうだなぁ……テンプターと役割を交換しちまった以上はそうなると思うぞ。
だけどお前もお前だ、あんな胡散臭い奴の話なんか聞くなよ……」
(;'A`)「仕方ねえだろ、あの時は頼らなきゃ詰んでたんだから……」
(;゚д゚ )「それがバカだって言ってんだよ。もっとtanasinnに頼れ」
(;'A`)「今までかなり湯水のように使ってきたけどな」
(;゚д゚ )「もっとだよ。あんなの粗大ゴミそのものなんだから」
(;'A`)「……それが結局、俺も粗大ゴミの一部になっちまうとは……」
(;'A`)「……」
(;゚д゚ )「……」
二人は別々に世界を見渡し、やがて息を合わせたように一緒に笑い始めた。
思うことは互い一つ。バカで無意味な道の末路がこれか――と。
.
('∀`)「……なあおい、そっちはどうだったんだよ」
( -д- )「……気にかけてもらう程じゃねえ。圧勝だ、圧勝」
('∀`)「へへ、こっちは何もかも惨敗だったぜ。女の隣も取られちまった……」
( ゚д゚ )「それはお前が甲斐性無しだからだ。
素直クールを口説くんなら、もっと頼れる男になっとくんだったな」
('∀`)「笑わせんなよ、てめえが人のこと言えた立場かってんだ……」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「……あの、もう終わったっぽい今だからバラすんだが」
('∀`)「……ああ?」
( ゚д゚ )「俺とあいつには、付き合ってた時期があるんだ」
('∀`)
('A`)「なにそれ」
付き合う、交際、カップル、前の男、キス、粘液、死にたい。
一瞬で脳裏を駆け巡った連想ゲーム。ドクオはしばらく息が出来なかった。
.
('A`)「…………は?」
( ゚д゚ )「それもtanasinnで有耶無耶になっただけで、別れ話も特になく自然消滅というか」
('A`)「待ってもう聞きたくないヤツだそれ」
(;゚д゚ )「……お前、まだ吹っ切れてなかったのか」
('A`)「いや吹っ切れるとかじゃなくてさ……」
(ノ∀`)「ああ……でも分かるよ……。
あいつと一番付き合い長いの、ぜんぜん俺じゃないしな……」
(;゚д゚ )「……悪かった。聞かなかった事にしてくれ、頼む」
華麗なる死体蹴りによって意気消沈するドクオ。
もうなんか、俺とあいつは根本的に問題外だったんだなって、そう思った。
.
(ノ∀`)「……え、じゃあ俺……今までずっと元カレの超能力で……」
(;゚д゚ )「気付くな。あともう終わった話だ、何百年と前に消えた関係だ」
(ノ∀`)「もうやだ帰りてえよ……なにが夜のマグナムブロウジョブだよバカにしやがって……」
(;゚д゚ )「帰れねえって話をしたばっかだろ。あとアイツにそんな面白必殺技はねえ」
(ノ∀`)「ない!? ああ〜そうですか! 確認済みの方に言われちゃ終わりだあ!」
(;゚д゚ )「……あのな、セックスレスって言葉があってだな。
俺が居た世界の国じゃ問題になってて、そのな……」
('∀`)「は? 性教育かよ」
(;゚д゚ )
('∀`)「性教育かよ」
('A`)
('A`)「自分で言うのもアレだけどさあ……俺が一番真っ当にあいつを愛してただろ……」
( A )「なのになんでこんな……失恋にすらなってない……こんな……」
.
(;-д- )「――ったく! いつまでたっても終わらねえだろうが!」
ミルナは大きく頭を振り、この呑気な会話にひとつの区切りをつけた。
自分が今から何を成すべきなのか、一瞬でも忘れてしまった自分が馬鹿らしい。
彼は改めてドクオを見据え、自分の意思をハッキリとドクオに語り始めた。
(;゚д゚ )「……お前は、名実ともにtanasinnの一部になっちまった」
('A`)「もうどうでもいい……」
(;゚д゚ )「話を聞けよ。……正直、俺じゃあお前を元には戻せない。
だから俺は、次の目的を果たすことにした」
('A`)「ええ……知らねえよバカ……」
(;゚д゚ )「……お前ごとtanasinnを始末して、俺は元の世界に帰る」
(;゚д゚ )「それが俺に残された最後の戦い、なんだが……」
('A`)
('A`)「もう殺せよ……さっきので十分オーバーキルされたから……」
(;゚д゚ )「……だから、やる気になってほしいというか……」
この徹底的に噛み合わないやる気。
最後と思って隠し事をバラすんじゃなかったと、ミルナはもう心から後悔していた。
.
(;゚д゚ )「…………」
(;-д- )「……じゃあ例えば、俺があいつの居る世界を滅ぼしに行くとか言えば、お前は戦うのか?」
(;'A`)「――えっ?」
(;゚д゚ )「いや例え話だよ。真面目に聞くなって」
(;'A`)「…………」
敵にすらなってくれない相手に適当な嘘をついて敵意を芽生えさせる。
それは、ドクオが素直クールに対してやった事と同じだった。
(;゚д゚ )「……どうした。急に黙って」
(;'A`)「……いや頭が冷えただけだ……」
まさか、こんな呆気なく自分が彼女と同じ立場になるとは思ってもみなかった。
彼女の願いから生まれた以上、多少性格の部分が似てしまうのは不自然ではない。
だからといって自分に残された素直クールの面影がこうも明確に表れた事実は、そう安々と誤魔化せるものではなかった。
.
(;'A`)「……分かった分かった、お前と戦うよ」
(;゚д゚ )「おおお! やっとか!」 ザッ
(;'A`)「……だけど先に言っとくけどさ」
(#゚д゚ )「おう、なんでも言い残せ……!」
(;'A`)「今の俺、超能力もtanasinnも使えねぇからな」
( ゚д゚ )
('A`)
〜五分後〜
( ゚д゚ )「……それは、ちょっと……」
('A`)
( ゚д゚ )「ていうか……かなり……」
( ゚д゚ )「話が変わるわ……」
(;'∀`)「……やっぱり?」
.
(;゚д゚ )「――つうか俺と戦う約束してたろ!? なんでそうなるんだよ!!」
(;'A`)「仕方ねぇじゃん俺も死に物狂いだったんだから!」
(; д )「余力残しとけよ!!」
(; A )「無理言うなよ!!」
――彼らの決闘、その前途多難はまだ続くらしかった。
.
.
≪2≫
メシウマ側、午後六時。
買い物→美容院→遅めの昼食→買い物、と一通りの予定を終えたドクオから一言。
('A`)「カエリタイ・・・」
ミセ;゚ー゚)リ「えっと……そんなに疲れました?」
立ち寄った公園のベンチで、二人は大きな池を前に一息ついていた。
慣れない場所にいくつも連れ回されたせいか、ドクオの精神的疲労はピークに達していた。
('A`)「なにあの、びよういんとかいう空間は……」
ミセ;゚ー゚)リ「……確かに、初見無知で美容院はハードルが……」
ミセ;゚ー゚)リ「いやでもカッコいいですよ! 似合ってます! ヒューッ!」
('A`)「髪切る人すげえ話し掛けてきたんだけど……。
なんか久し振りに自分がコミュ障ってこと思い出したわ……」
ミセ;゚ー゚)リ「いやいや! ドクオさん顔が良いですから、大丈夫ですって!」
('∀`)「はは、無理のある励ましだな」
ミセ;゚ー゚)リ「……下の、中の……中の上、いや上の下くらいの顔です!!」
( 'A`)「死ねって言われた方が納得できるフォローやめてくれよ……」
ヤケクソになったドクオは深く俯いて溜め息を吐く。
どうしようもない根暗っぷりを発揮され続け、ミセリもそろそろ対応に困り始めていた。
.
ミセ;゚ー゚)リ(分かっていた……デートとは名ばかりの保護者役になることくらい……!)
ミセ;´ー`)リ(……でもまさか、ここまで胸キュン要素が無いとは……)
ちなみに胸キュンは死語である。
('A`)「……次、どこ行きたいんだ」
ミセ;゚ー゚)リ「……いえ、今日は帰りましょう」
('A`)「あ……いいのか? 正直俺は嬉しいけど」
ミセ*゚ー゚)リ「はい! 続きはまた明日です。
ドクオさん、どうせ明日も暇ですよね?」
(;'A`)「……そりゃあもう、急ぎの用なんかないけど……」
お前ニートじゃんと言われてるようで、ドクオは少し胸が痛かった。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ決まりです。あ、帰りにスーパー寄らないと……」
('A`)(……すー、ぱー……?)
お互いに少し気を遣って、今日のところはこれでお開き。
二人は夕暮れ時を一緒に歩き、スーパーに寄ってからミセリの部屋に帰っていった。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
〜マンション・ミセリの部屋〜
(;'A`)「おっもい……」ガサッ
(;'A`)「なんで食い物だけ転送してくんねえんだよ……」
ミセ*゚ー゚)リ「そういう何でもないことが理想だったりするんです。
買い物帰りは買い物袋がなくちゃ絵にならないですから」
(;'A`)「……よく分かんねぇ……」
ぱち、と壁の電源スイッチを押す。
一拍置いてから天井の照明が光を放ち、部屋中を白く照らし出した。
ミセ*゚ー゚)リ「買ってきたもの、とりあえず冷蔵庫の前に置いといてください」
('A` )「分かった」 ガサガサ
ビニール袋いっぱいの食料を言われた通りの場所に置き、買ってきたペットボトルのジュースを二本持ってミセリのもとに戻る。
その時、彼女はベランダに出てせっせと洗濯物を取り込んでいる最中だった。
('A`)「……大変そうだな」
ミセ*゚ー゚)リ「おっと! そこはやる気がなくても『手伝おうか?』って聞くとこです。
そしたら私が照れながら『ちょ、下着もあるので見ないで下さい!』って言うのでよろしくです」
(;'A`)「……ああ、絶対手伝わないから続けてくれ」
ドクオは呆れ顔のままベージュ色のソファに腰を沈め、先にジュースを飲み始めた。
整頓された室内。新品の家具を無難に配置しただけの、まだ生活感が出ていない新居の空間。
それは見る分には綺麗で居心地の良いものだったが、ドクオが受けた印象はまた別のものだった。
.
('A`)「……お前、綺麗好きなんだな」
ミセ*゚ー゚)リ「分かります? 私、なんか家事全般が得意っぽくて」
――彼女はまだ、この街に対して心を許していない。
だからいつでも去れるように、自分が居た痕跡を残さないよう努めているだけだ。
ドクオがこの部屋の様子から察したのは、気楽に振る舞う彼女のささやかな不安と警戒心であった。
記憶を失う前の自分は顔付きの仲間で、この街の敵だったという事実。
その立場を思えば、ミセリが街に居心地の悪さを感じるのも当然だとドクオには思えた。
ミセ*゚ー゚)リ「――なので前の私も家庭的な女だったと思います。どうでしょうか?」
('A`)「……」
(;'A`)「ど、どう……とは?」
ミセ*゚ー゚)リ「家庭的な女はタイプですか? 一目惚れでも構いませんよ」
(;'A`)「……いや、あの……」
.
(;'A`)「……悪い。考えたこと無いから分かんねえ」
ミセ*´ー`)リ「……気にしませんよ。ドクオさんの趣味は年上のお姉さんですもんね」
('A`;)「……否定はしないけど、あんま言うな」 グビグビ
目を逸らし、当てつけのようにジュースを一気に飲み下す。
今更素直クールの事を言われて狼狽えるほど純情ではないが、揺れ動く心が全て消えた訳ではない。
('A`;)「あー……多分すげえ沢山の人が知ってんだろうな、俺のこと……」
ミセ*゚ー゚)リ「知ってますねえ。カンパニーの皆さんなら大体」
('A`)「――へえ。誰が言いふらした?」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ「……エ、エクストさんです……」
急に声色を落としたドクオに怖気づき、ミセリは思わず嘘をついてそう答えた。
ドクオが帰ってきた時、彼の隣にさりげなく居着けるよう二人の別れ話を流布したのはミセリ自身であった。
('A`)
('A`)「ふーーーーん。なるほどね」
ミセ;゚ー゚)リ(これは必要な嘘、必要な嘘……) ドキドキ…
.
洗濯物を取り込み終えると、ミセリはそれを畳むのを後回しにしてドクオの隣に腰を下ろした。
三人掛けのソファに詰めて座り、わざと密着してドクオの反応を窺うミセリ。
('A`)「ほら、お前の分」 スッ
ミセ;゚ー゚)リ「……うわノーリアクション。おっぱい当ててるのに。
少しくらい慌ててくださいよね、まったく……」
(;'A`)「……おっぱいには嫌な思い出があってな……」
ミセリはぶつくさ言いながらジュースを受け取り、大きな一口で喉を鳴らした。
それからドクオの瞳をじっと見つめ、ペットボトルを彼の目線まで持ち上げる。
ミセ*゚ー゚)リ「……おかえりなさい」
('A`)「……ま、俺の家じゃねえけど」
ぼこ、と二つのペットボトルがぶつかり合う。
そんな形だけの歓迎会は、変に気を回されるよりはずっと肌に合った。
.
ミセ*゚ー゚)リ「……あーあ、もうすぐ冬です。ちょっと怖いかも……」
('A`)「怖い? なにが」
ミセ;゚ー゚)リ「いやー……それが自分でも何が怖いのか分かんなくて。
元の私の記憶が原因なんじゃないかって、お医者さんは言ってましたけど……」
( 'A`)「……まぁ気にすんなよ。この辺あんま雪降らねぇし」
ミセ;゚ー゚)リ「え、そんなまさか。シベリアも近いのに?」
('A`)「ああ。少なくともレムナントじゃ見たことないな。雨は降るけど」
ミセ;゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ「……雪、降らせるか……」 ボソッ
今後、ドクオを色恋沙汰でゾッコン(※死語)にさせていく上で雪は必要不可欠なものだった。
というかミセリがホワイトクリスマスを望んでいた。
少女趣味が全開であった。彼女本来の年齢を考えると少しキツい。
(;'A`)「おい、変に能力使って大ごとになっても知らねぇぞ」 グビッ
ミセ*゚ー゚)リ「……その時は私のこと、倒しに来てくれます?」
('A`)
(;'A`)「いや、俺が着く前に荒巻に倒されると思う」
ミセ;´ー`)リ「……ああもう、現実って厳しい」
.
ミセ;゚ー゚)リ「あーあ、超能力なんか無ければいいのに」
ミセ;゚ー゚)リ「そしたらきっと世界も平和で、顔付きみたいなのも居なかったのに……」
(;'A`)「暴論にも程があるな」
ミセ*゚ー゚)リ「ていうか、超能力ってそもそも全部作り物らしいですけどね」
('A`)
Σ(;゚A゚)「――マジで!?」
ミセ*゚ー゚)リ「ネーノ……じゃなくて顔付き? どっちか忘れましたけど。
とにかく世界中の超能力って、出自は全部あの人らしいですよ?」
(;'A`)「じゃああいつ最強じゃん。まともに戦わなくてよかったー……」
ミセ*゚ー゚)リ「……でも、これってほんとに変な話ですよね。
自分で超能力をみんなに分け与えたのに、味方より敵の方が増えちゃったなんて……」
(;'A`)「……確かに、そう言われるとちっとは可哀想な奴なのか……」
ミセ*^ー^)リ「……かくいう私、顔付きの味方だったんですけどね」
自嘲し、彼女は誤魔化しにもなってない苦笑いをドクオに見せた。
ミセ*゚ー゚)リ「……ここでの生活、悪くないんですけど、どうしても馴染めないです」
ミセ*゚ー゚)リ「今の私と元の私は別人ですけど、やっぱり彼女にも思う所があるのかな……」
( 'A`)「……好きに動けよ。お前、この街に拘る必要ねえんだから」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、そこは引き止める方向で」
('A`)
(;'A`)「……お前の性格、なんとなく分かってきたわ」
ミセ*゚ー゚)リ「えっやだ嬉しい」
.
ミセ*゚ー゚)リ「――さて! そろそろご飯にしましょっか!」 グイッ
(;'A`)「おッ!?」
途端、ミセリは急に立ち上がってドクオを台所に引っ張り込んだ。
問答無用でドクオにエプロンを着せ、買ってきた具材を一通り並べてみせる。
『ああ俺もやる感じなんだな』と察したドクオは、もう何も言わず包丁とまな板を用意していた。
ミセ*゚ー゚)リ「楽しい共同作業の時間です!
ドクオさん、心の準備はいいですか!?」
(;'A`)「……うわあ、すげえ久し振りに包丁持った」
ミセ*゚ー゚)リ「あれ、自炊経験がおありで?」
('∀`)「へへへ、まあな。これでもガキの頃は自分で――」
ミセ*゚ー゚)リ「……」
('∀`)
ミセ;゚ー゚)リ「……ドクオさん?」
.
('A`)
( 'A`)「……いや、なんでもない。何からやればいい?」
ミセ;゚ー゚)リ「……じゃあ、お肉を適当に切っちゃってください」
( 'A`)「……おう」
――そういえばこれも嘘の記憶だったな。
それを思い出してしまうと同時に、ドクオは昔の事を楽しそうに語り始めた自分が酷く滑稽に思えてしまった。
ミセ*゚ー゚)リ
何もかも、すべては今際の夢だった。
頭ではそう分かっているのに、彼女が残した温もりは今も俺から離れてくれない――
ミセ* ー )リ「――どうして、俺に優しくしたんだよ……。
心が軋む。無意識の内に、俺はこの手の包丁を痛いほどの力で握りしめていた。」
('A`)
('A`)「おい、まさかそれ俺の話か?」
.
川 ゚ー゚)「ふふ、何をしてるんだ……私よりメシの準備か?」
ミセ;゚Д゚)リ「――くっ殺せ! 俺はもうお前を諦めたんだ!
もう放っといてくれよ! どうせお前だって、俺の事なんか……!」
川 ゚ー゚)「生意気なヤツだ。正直なのは体だけだな……」 サワサワ
ミセ;゚Д゚)リ「触るなっ! 俺の体はそんな安いもんじゃねえ!」 バシッ
('A`)
川 ゚ー゚)「そんな事を言う口も、私が塞いでやらなきゃな……」
ミセ;゚ー゚)リ「ああ〜悔しい! でも感じちゃう!」
('A`)「あのなミセリ」
ミセ; ー )リ「感じちゃ――」
('A`)「おい」
ミセ*゚ー゚)リ「――あ、はい」
.
('A`)
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「……どこか変でした? 一応忠実に再現したつもりでしたけど……」
('A`)「…………」
( 'A`)「……俺はな、たとえ相手が女だろうと、そいつが能力者なら本気で殴れるんだぜ……」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「ごめんなさい……」
変身能力を駆使した徹底的な古傷抉りは、今回をもって二度と行われなくなった。
.
〜〜食後〜〜
('A`)「あー食った食った」
ピンポーン
('A`)「なんか鳴ったぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、さっきカンパニーの皆さんに声掛けといたんです」
ガチャ
<_プー゚)フ「おーやってんなクソ野郎」
((( )))
( ´Д`)「どうもお邪魔します。これお土産です」
(`・ω・´)「おおー本当に生きて帰ってきたんだな」
ヘ('A`)ノ 「チッスチッス」
という極めてスムーズな展開があり、カンパニーの面々を含めた二次会が幕を開けたのだった。
.
≪3≫
――人間とは自分の勝手で物事を等号で結び、
あらゆるものを定型化して模倣・共有・形骸化を促進させる知能をもった生物だ。
欲しいものは目新しさ。欲しいものは面白いもの。
欲しいものは自分に無いもの。欲しいものは再現可能なもの。
欲しいものは完成度。欲しいものは替えがきくもの。
欲しいものは自分だけのもの。欲しいものは、次の世界。
人間の知能は、この世に存在するありとあらゆる結論を知性によって濾過し、無に返す機能を持っている。
それによって発生する形式知を“当然”や“普通”といった言葉に置き換え、常識として広めていく。
即ち、人間は全ての物事に答えを出せる生物だが、同時にその答えを圧縮――軽くできてしまう生物とも捉えられる。
自分の中にあるなんかよく分からない曖昧なアレを、何かしらの形で出力してなんか分かった気になる。
そして問題の根底が何も解決されていない事には気付く素振りすらなく、自分で薄っぺらくした答えを積み重ねて生きていく。
自分でさえ分からないままのものを、正誤を問わず自分が望む答えで勝手に連立させてしまう。
人間には、それが出来てしまうだけの知性と短絡さがあるのだ。
.
……今度の戦いが導き出したものは、要約すると一つの前提条件として形容できた。
『ドクオを含む等式に、素直クールは含まれない』。
全てを失ってまで臨んだ戦いでドクオが得られたものは、結局たったそれだけの文言だった。
ぐちゃぐちゃと何年も研究を引き伸ばしてきた挙句、目指した筈の答えも得られず、
積年の思いは結論をもって無意味となり、『この道は間違っていた』という証明だけが残された。
無駄にされた過程、なんの意味もない幕切れ――
――以上を踏まえ、果たしてドクオが出した結末の先には何が続くのか?
・うすら寒い恋愛演劇に首を突っ込んでおいて何の役柄さえ得られなかった自分。
・何もかも台無しにした癖に誰の願いすら満足に叶わなかったこの始末。
・あれだけもがき苦しんで結局素直クールと結ばれる事ができなかった自分。
……生き続けていく限り、ドクオはこれらに見合うなにかをずっと探し続けるのだろう。
そしていざ意気込んで動いてみたら、今度は簡単に答えが見つかって唖然とするに違いない。
簡単に、いくつも、今までずっと見落としていた単純なものを見つけまくって目を丸くするのだろう。
素直クールを前提とした机上の空論に縛られない世界の広さ・自由さを、ドクオはこれから嫌というほど見せつけられるのだから。
.
――素直クールという記号が含まれない、本当の意味で白紙になった世界。
その世界を生きて死ぬ頃には、きっと等号がいくつも使われたアホみたいな式が出来上がっている筈だ。
とはいえどうせ人間なんて全員バカなんだから、それはそれで人間らしくもある。
<_#プД゚)フ「あ〜あ!! お前が残ってりゃあよォ!
俺らがあんな化物の相手する必要無かったのによォ!」 ダンッ!
(;'A`)「お、おい……そろそろジョッキ離せよ……」
ミセ*^ー^)リ「未成年飲酒〜♪」 トクトクトクトク
('A`;)「お前もガンガン酒を注ぐんじゃねえ!」
<_#プД゚)フ「うるせえお前も飲むんだよ!
タナシン使ったらもう人外だ、法律適応外なんだよ!」 ガシッ
ミセ*゚ー゚)リ「あ、抑えますね」 ガシッ
(;゚A゚)「な、おいやめ――ッ!」
((( )))
( ´Д`)「いやあ顔付きは強敵でしたね……」 グビッ
(`・ω・´)「ま、面白いほど相手にされなかったがな」
.
これから先も続く世界の中、ドクオだけが舞台を下りて傍観者に成り下がった。
素直クールを追い求めた代償として、輝かしいもの全てを放棄した。
――決してスポットライトを向けられる事のない、自分一人だけが居る客席。
今のドクオが居る場所は、そういう寂しくて何もない場所だった。
<_フ´ー丶)フ「おれぁ……まだのめっからお……」 フラフラ…
(;`・ω・´)「ドクオお前……酒が強いんだな」
(;'A`)「らしいわ……自分でもビックリしてる……」 チビチビ
今はただ、普通に生きていればいい。
そこに素直クールという物語性が無いだけで、この世の未来には何の影響すら無いのだから。
<_フ´ー丶)フ「うぅむ……しぬほどねむいお……」
((( )))
(; ´Д`)「……せめてソファに寝かせときましょうか」
ミセ;゚ー゚)リ「……ですね。手伝います」
舞台を下りた今はただ、自分一人のエピローグを味わっていればいい。
一人きりの客席から舞台を見上げ、他人事として彼らの世界を傍観していればいい。
ドクオは、それを許されるだけの道化を演じてきたのだ。
.
――だがいつの日か、彼らはきっと思い知るだろう。
<_フ´ー丶)フ スヤァ…スヤァ…
ミセ*´ー`)リ ムニャ…
自分達がどれほど恵まれた存在で、そしてどれだけ無償の善意を無下にしてきたかを。
ここまでの道中、悪意を持った敵がどこにも居なかった理由を。
絶対悪を名乗る者達が、人類を救おうなどと矛盾した言葉を吐いた意味を。
(`・ω・´)「――あいつは、デミタスはカンパニーを去った」
(;'A`)「ッ!?」
――傷跡は目には見えず、多くの人の心の内にこそ刻まれている。
.
(`・ω・´)「――――、――」
(;'A`)「…………」
(`・ω・´)
(`-ω-´)「――……まあこんな話をお前にしても意味は無いが、一応な」
(;'A`)「……いや、それ以前に信じらんねぇよ」
今のが全部本当だったら、お前らは……」
((( )))
( ´Д`)「……本当ですよ。この人、酒の席に嘘を持ち込む主義じゃないです」
(;'A`)「でも、……お前らは、その……」
(`・ω・´)
(;'A`)「勝った、んだよな……?」
(`・ω・´)「……確かに表面上はそうだ。
誰一人死なずに済んで、、あぁ万々歳だ……」
(`・ω・´)「……だけどな、少なくともウチの奴らは全員分かってる筈だ」
(;'A`)「……」
(`・ω・´)「この戦いが、これで終わる訳が無いってことくらいな……」
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( 'A`)「…………」
ベランダに立って、夜明けも近い空を見渡す。
この街に帰ってきてからの長い一日を思い返し、ドクオはこれから先の未来に思いを馳せていた。
ミセ*うー`)リ「……ドクオさん、眠れないんですか……?」
そうしている内に、寝惚け眼のミセリが眠たそうな顔のまま外に出てきた。
彼女はモコモコに着込んだパジャマを抱き寄せるように腕を組み、寒空に向けて大きな欠伸をして見せた。
('A`)「……別に、寝ようと思えば寝られる」
( 'A`)「tanasinnのせいで寝る必要もないし、今は考え事してるから起きてるだけだ」
ミセ*゚ー゚)リ「……それでも風邪ひいちゃいますから、これ……」
( 'A`)(風邪もひかねぇんだけどな……)
着ていた上着を一枚脱ぎ、ドクオの背中にそっと被せる。
ミセリはドクオの考え事については質問せず、静かに彼の隣に歩み寄った。
.
( 'A`)「……あんだけぶっ壊れてても、街のあかりは消えないんだな」
ミセ*゚ー゚)リ「そりゃあ都会ですもん。復興工事も休み無しです」
ミセ*゚ー゚)リ「……街が気になります?」
( 'A`)「ああ。ちょっと、少し……」
ミセ*゚ー゚)リ「……気にしなくていいんですよ。
だって貴方が成すべきことは、もう何も無いんですから……」
('A`)「……だと、いいんだけどな」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ* ー )リ「……ええ。貴方はこれからずうっと、休んでていいんですよ……」
('A`)
( 'A`)「……そうなってくれりゃ、本当にいいんだがな……」
優しい声が甘く囁く。
今のドクオは、彼女のそんな言葉を疑いなく受け入れられるようになっていた。
.
ミセ*゚ー゚)リ「……寂しいんでしょ。一緒に寝てあげましょうか?」
(;'A`)「……勘弁してくれ、そういう冗談苦手なんだよ……」
ミセ*゚-゚)リ「……冗談じゃないのに」ボソッ
(;'A`)「……あーあ」
(;'A`)「ほんと、どうしてこうなったんだかな……」 ポリポリ
――こうしていていいのか、と心のどこかで自問する。
その本心からの自問に対して、今のドクオは、何も答えようとはしなかった。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第三十五話 「“Seven Solitude Times” (後編)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
≪4≫
――翌朝、というか翌昼。
ドクオが目覚めたのは、すっかり日も昇りきった真昼間であった。
(;'A`)「……で」
ミセ*゚ー゚)リ モソモソ
(;'A`)「お前なにやってんの」
ミセ*゚ー゚)リ「見ての通り、添い寝ですが」
確か昨日は床で寝たはずだ、と記憶の末尾を思い出す。
しかしドクオが目覚めたのはリビングではなくミセリの自室、それもシングルベッドの上だった。
簡潔に述べるとドクオとミセリは密着して寝ていた。
(;'A`)「……他の奴らは?」
ミセ*゚ー゚)リ「みんな帰りました。もう仕事に出てると思いますけど」
(;'A`)「そりゃよかった……」
こんなとこ誰かに見られたら二度と街に出られなくなる所だった。
ふと湧いた不安もすぐに解消され、ドクオは一先ず胸を撫で下ろした。
.
ミセ*゚ー゚)リ「で、今日はどこ行きます?」
(;'A`)「……考えてねえ。……風呂借りるぞ」
ミセ*^ー^)リ「お風呂! ええ是非そうしてください!
昨夜は色々激しかったですから、きちんと洗い流さないと!」
('A`)
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ「……嘘ですよ。何もないです。
悪ふざけですごめんなさい。忘れてください」
(;'A`)「……いや、まあいいよ」
ミセ;゚ー゚)リ「……え?」
(;'A`)「これも荒療治だと思ってスルーするから……」 スタスタ
ミセ;゚Д゚)リ ポカーン…
昨日ドクオに怒られたのを思い出してすぐ謝ったミセリだが、
ドクオは呆気なく彼女の軽口を見逃し、それ以上なにも言わず部屋を出て行ってしまった。
ミセ;゚ー゚)リ(ま、まさかこれは……)
前の女が忘れられず、曖昧で素っ気ない態度を取られるのは予想出来ていた。
だからこそミセリは彼の関心を惹く為だけに、超えちゃいけないラインを何度も反復横跳びしてきたのだ。
ところが、今の態度は明らかにミセリの存在を容認していた。
無関心+αくらいの反応を脱し、いわゆる『やれやれ系』の反応をして見せたのである。
彼の素直クールへの執着を思えばこれは凄まじい大躍進。ミセリは手応えを感じずにはいられなかった。
ミセ;゚Д゚)リ(――これならイケる! 意外とチョロい!) グッ!
ミセリは、確信からのガッツポーズを空に掲げた。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)「……お、出掛けんのか?」
ミセ*゚ー゚)リ「そうです! とはいえ用もないので散歩ですけど」
風呂上がり、昨日買った服に着替えてリビングに戻ると、ミセリは既に外出の用意を終えていた。
それを見るなりドクオはバスタオルを洗濯カゴに放り入れ、さっと踵を返して玄関に向かった。
('A`)「そういう事なら俺も出るわ。世話になった。メシ美味かったぞ」
( 'A`)「じゃあなー」 ドアガチャー
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ「……は? ちょっ待てよ!」 ドタドタドタドタ!!
なお「ちょっ待てよ」は死語の中では比較的ポピュラーな語句だがそれでも死語だった。
ミセリは咄嗟に走り出してドクオに追いつき、彼の片腕を力強く掴み上げた。
('A`;)「な、なんだよ」
ミセ;゚ー゚)リ「あのですね! 言っときますけど別行動じゃないです!
今日も付き合ってもらいます! 今日も昨日と同じように!」
('A`)「……」
('A`)「えっそうなの」
ミセ#゚Д゚)リ「そうなんです! 当然のように別れようとしないでください!
昨日は私の独善でしたが、今日は一宿一飯の恩返しとして私に付き合ってもらいます!」
.
('A`;)「……いやそれ、明日以降も無限ループするだろ。
今日は昨日の恩返しをしろって、毎日引き止めるつもりかよ」
ミセ#゚ー゚)リ「当たり前じゃないですか!」
ミセ;゚ー゚)リ「……というかドクオさん、そんなに出ていきたいんですか?」
(;'A`)「そうじゃないけど……お前に迷惑が掛かるだろ」
ミセ;゚ー゚)リ「だから早々に立ち去ると?」
(;'A`)「ああ。恩知らずって言うならそれでいい」 バッ
ドクオは軽く腕を振り、ミセリの手を振り解こうとした。
ミセ#゚ー゚)リ …イラッ
しかし彼女が手を緩める事はなく、むしろその雰囲気は只ならぬものに変容しつつあった。
簡単に言うとキレかけていた。
ミセ#゚ー゚)リ「……でもこれって、どこかで聞いた話ですよねえ……」
(;'A`)「あぁ?」
ミセ#゚ー゚)リ「……ある朝、目が覚めたら好きな人が居なかった」
(;'A`) ギク
ミセ#´ー`)リ「え〜とたしかぁ? 似たようなことをぉ?
経験している人がぁ? どこかに居たようなぁ?」
(;'A`)「……あの、ミセリ……」
.
ミセ#゚ー゚)リ「いやなるほど自分がされて嫌なことでも他人にはやれちゃうと……」
(;'A`)「いやっ! そんなことは――」
ミセ#´ー`)リ「ハァ〜ア! これが 『立場が変われば人も変わる』 ってヤツですか!
追いかけっこは追われる側だけが自由ですもんね!」
(;'A`)「……今日と明日は世話になるから、それで勘弁してくれ……」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「明後日以降は?」
(;'A`)「……それは、……応相談で」
ミセ#゚ー゚)リ「駄目です」
(;'A`)「……どっか行く時は声かけるから……」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*´ー`)リ「……分かりました。今はその言質で満足してあげます」
ミセリも昨日のデートでドクオの扱い方がなんとなく分かってきていた。
この野郎はこちらが引くと一瞬で全部台無しにするが、押す分にはまったく問題が無いのだ。
ミセ*゚ー゚)リ
――ならば時間をかけている場合ではない。一刻も早く攻め込まねば勝機を失うだけだ。
彼女はゆっくりと関係を進展させていくつもりだったが、このやり取りを経て少し考えを改めていた。
(;'A`)「……ほら、散歩行くんだろ?」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*^ー^)リ「……そうですね、行きましょっか」 ニコォ…
(;'A`)「……程々で頼む……」
かくして、今日の予定は満場一致でお散歩デートになった。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今日の散歩コース及び目的地はメシウマの市街地。
ステーション・タワーにも程近い、先日一番の被害を受けた辺りだった。
( 'A`)「寒いけど良い天気だなあ」
ミセ;゚ー゚)リ「ほら行きますよ!」 ガッ!
('A`)「はい」 ズルズルズルズル
外に出るなりミセリはドクオの手首をがっしり掴んで早足で歩き出した。
カップルっぽい雰囲気など微塵も感じさせない本気の“連行”である。
ミセ;゚ー゚)リ(もう分かった! この人には責任感が無い!
このクズ早めに対策しないと確実に逃げ出すぞ!)
('A`)「靴底がえぐれている」 ズルズルズルズルズル
ミセ;゚Д゚)リ「――あっ! 見てくださいアレ! 倒壊してますよ倒壊!」
('A`)「……お? ああ、そうだなぁ」
ミセ;゚ー゚)リ「……ハハハ……」
ミセ;゚ー゚)リ(……やっぱり当事者意識も無いし)
ミセ;゚ー゚)リ(これは、酷い事をしてでも罪悪感を植え付けねば……)
ミセ;´ー`)リ(……ごめんなさいドクオさん。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ酷い事をしますね……)
.
――その後、市街地へ向かう道中。
ミセ*゚ー゚)リ「あれはドクオさんが壊したものです」
('A`)
ミセ*゚ー゚)リ「あの辺の全壊してるのも全部ドクオさんです」
('A`)
ミセ*゚ー゚)リ「あの日家を失った人がほんとに多くて……」
('A`)
それから、ミセリは街中の被害状況を事細かに解説しながらひたすらドクオの罪悪感を煽り続けた。
今回の被害総額や被災者の数、失ったものの具体的な数字を頑なに提示し続ける。
お前がアホみたいな超能力バトルをやったせいで無駄に被害が出たんだぞ、と遠回しに言い続ける。
('A`)
そんな現実的な責め苦の数々はドクオにとってかつて無いほど絶望的なものだった。
弁償なんてとても出来ないし、言い返せないからなおさら辛い。
「いやだって仕方ないだろ」という言い訳が通用したのも一回限り。二回目には即時論破されてドクオは言葉を失った。
('A`)
責任能力皆無の無職のクズは、黙らざるをえなかった。
.
ミセ*゚ー゚)リ「――ああいうのも誰かが弁償してるんです。
お金が動いているんです。分かります? そりゃあもう凄い金額が」
('A`) …モウヤメテ…
ミセ*゚ー゚)リ「でも資金がまるで足りてないので余所の国から借金ですよ。
なんでか街のお金が大半消えちゃって荒巻さんも大変そうに働いてます」
('A`) ゴメンナサイ…
ミセ*゚ー゚)リ「分かります? これ全部あなたのツケなんですよ。
さてどうやって返済しましょうね。私には想像もつきませんけど」
('A`) ゴメンナサイ…
ミセ*゚ー゚)リ「……」
ミセ;´ー`)リ「あー泣かないで。ずっと養っててあげますから」 ナデナデ
('A`) ユルシテ…
心のささくれを一つ残らず懇切丁寧に押し込んでいくようなミセリの話術。
彼女達が公園に着く頃には、ドクオの精神はどこか遠い場所に昇天していた――……
.
≪5≫
【はらっぱで遊ぶドクオの図】
. . ∞
(ノ'A`)ノ ウオーマテー
( )
, , , , / >
ミセ*゚ー゚)リ(一日中見れられる……)
公園のベンチに座って一人幸せを噛みしめるミセリ。
もうずっとこのままでいいと本気で考え始めた辺りで、彼女に声を掛ける者が現れた。
( ´_ゝ`)「おーい、来てやったぞー」
J( 'ー`)し「こんにちはミセリちゃん」
('A`)ノ「や、こんにちは」 ※たかし
ミセ*゚ー゚)リ「あ、皆さん……急に呼んじゃってすみません」
ミセリは腰を上げて軽く一礼し、すぐにドクオを呼び戻した。
.
('A`) ※たかし
('A`)「初めまして、たかしです」
――そして、遂に運命の出会いが来てしまった。
('A`) ※ドクオ
('A`)「また……同じ顔……?」
ミセ*゚ー゚)リ「……え? いやいや、三人居るっていう空似の一人でしょう。
よく見れば別じ、……あの、別人に見えますし」
('A`)「ならそう思ってない噛み方すんなよ……」
J( 'ー`)し「うふふ、並べてみると本当に似てるわねえ……」
('A`;)「……あんたもあんたでビックリしたよ。
もう会いたく、……会わねえと思ってたから」
ミセ*゚ー゚)リ(会いたくなかったんだ……)
.
J( 'ー`)し「あの脱獄の一件以来ね。少し見ない間に雰囲気が変わったかしら?」
('∀`)「え、そう?」
ミセ;゚ー゚)リ「――そうですそうです! ドクオさん確かに大人って感じが」
('A`)
('A`)「待て、今の反応は俺じゃないぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「……えっ」
('A`) ※たかし
('∀`)「……あ、なんだドクオさんに言ったのか。いや失敬」
ミセ*゚ー゚)リ
(; ´_ゝ`)「……同じ顔の奴が居るとやりにくいよな。分かるぜ」
ミセ*゚ー゚)リ
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
J( 'ー`)し「もうすぐ冬ねえ」
ミセ*´ー`)リ「ですねえ……」
( 'A`)「……」
ミセリはカーチャンの車椅子を押し、ドクオはその隣について歩いていた。
漂い始めた冬の空気は肌寒く、吐いた息も僅かに白く色づいている。
昼時を過ぎて薄く雲が掛かり始めた空。
くすんだ日差しはあらゆる暖色を抑え込み、すべてに灰を被せているようだった。
('A`)「ええ〜ぼくもドクオさんと喋りたいのに」
(; ´_ゝ`)「お前が居るとややこしいんだよ……」 ボソボソ
一方、流石兄者とたかしはドクオ達の遥か後方に追いやられていた。
進行上当然の処置だった。
.
ミセ*゚ー゚)リ「カーチャンさん、体の調子はどうですか?
ほんとは兄者さんだけ呼ぶつもりだったんですけど……」
J( 'ー`)し「いいのよ、私だって通院ばかりじゃ気が滅入るもの。
こうして出てきたのも私の都合なんだから。気にしないで」
( 'A`)「……あんた、すげえやられたんだな」 チラッ
ドクオが車椅子を一瞥すると、カーチャンの素肌を覆う幾重もの包帯が目に入った。
一度戦った相手だからこそ、その傷の重さがよく分かる。
強い弱いはともかくカーチャンは人間としてヤバい。
そんな人がここまでの傷を負う戦いが、ドクオには上手く想像出来なかった。
J( 'ー`)し「そうねえ。見てのとおりボロボロにされちゃった。
私なりに頑張ったけど、さすがにロマネスク相手は骨が折れたわ……」
('A`)「……ロマ、ネスク……」
J( 'ー`)し「……知らない? アングラな格闘家の人よ。
武神の弟子なら知ってるものだと思ってたけど」
(;'A`)「……うーん……」
(;'A`)「なんか、なんかすげえ……どっかで聞いたことあるような、うーん……」
ドクオは腕を組んで逡巡したが、ざっと22話も前の会話はすぐには思い出せなかった。
.
ミセ*゚ー゚)リ「それよりも! カーチャンさん、例の話をお願いします!」
J( 'ー`)し「……そうね。後回しにするほどの事でもないし」
口裏を合わせていたかのように、ミセリとカーチャンはそこで立ち止まってドクオの方を向いた。
J( 'ー`)し「――それじゃあいきなりだけど」
J( 'ー`)し「ドクオ君、今度こそカンパニーで働く気はないかしら」
ドクオがこちら側に帰ってきて一日。
深刻な人手不足に悩まされるカンパニーにとって、今のドクオは極めて都合の良い存在だった。
色々と事情を知っているドクオをニートとして放置できるほど、今のカンパニーに余裕はない。
('A`)
('A`)「あっ、またその話?」
J( 'ー`)し「欲しい人材なんだから勧誘するのは当たり前でしょう?
私達が敵対する理由も無くなったんだし、いい機会だとは思うけど……」
(;'A`)「……だけど仲間になる理由も無いだろ。全部終わった今なら尚更だぜ」
ミセ;゚ー゚)リ「――ウソでしょ!? 断るんですか!?」
('A`)「いやそりゃそうだろ。確かに前はOKしたけど、今は別に入る理由も無いしな」
ミセ;゚ー゚)リ「無職のくせに!?」
('A`)
('A`)「言い返せない事を言うのはやめろ」
.
……結局、ドクオは再三訪れたカンパニーの誘いを呆気なく断ってしまった。
敵味方としての立場は放棄し、部外者の一人として距離を取る選択。
力を得た者としては、それは余りにも無責任な答えだった。
( 'A`)「でもまぁ、またなんかあったら手は貸すよ。
今度がいつかは知らねえけど、まぁ声掛けてくれれば」
J( 'ー`)し「……残念。新技の開発に付き合ってほしかったんだけど」
(;'A`)(新技!?)
断ってよかった。ドクオは反射的にそう確信した。
ミセ;゚ー゚)リ「そんな……私の夢、職場恋愛の実現が……」
('A`;)「……ミセリお前、意外とこの状況楽しんでるよな」
ミセ;゚ー゚)リ「もちろん! そりゃあ第二の人生ですもん!
もう不幸まみれにならないよう頑張る所存ですよ私は!」
('A`)「…………」
( 'A`)「……第二の人生かぁ……」
ミセリが口早に放ったその言葉が自分にも当て嵌まるような気がして、ドクオは少し、気が滅入った。
.
――遠くの方から、鳴り止まない工事の音が響いている。
訳もなく傷つけられた街は、そこに暮らしていた人々の手によって少しずつ元の形を取り戻しつつあった。
ドクオが無意味と言い切った戦いは、多くの傷跡を残しながらも幕を下ろした。
無意味な戦いによってできた傷――ならば、それを癒やす事もまた無意味なのか?
ドクオにその答えは分からなかったし、素直クール以外の全てを切り捨てた男にそれを考察する資格は無い。
J( 'ー`)し「……一度は見限ったこの世界で、あなたはこれから何をするのかしらね」
(;'A`)「考えた事もねえよ、んなこと」
何の意味もない日常。
永遠に続くこれからを想像しながら、曖昧に生きていくだけの日々。
過去に基づき、今を生き、未来を消費する普通の生き方。
――それはきっと、素直クールが本当の意味で目指していた世界でもある。
決められた枠組みを逸脱し、空虚な言葉で自由を謳い、誰もが自分なんかには注目しない世界。
かといって孤独でもなく、関わろうと思えば誰もが対等に言葉を交わしてくれる場所。
tanasinnに関わった彼女達は、誰もが知らぬ間に浪費しているそういう世界にこそ憧れを抱いていた。
一個人の自由を踏み台にして大多数の自由を確保するtanasinnの構造。
誰かが犠牲になっていなければ回らない世界、倦怠と同義になった自由の為に誰かが不自由を強いられる世界。
願わくは、もう誰もこんな下らない産廃システムに巻き込まれないように――
ミセ;´ー`)リ「ドクオさぁ〜ん……一緒に働きましょうよぉ……」
(;'A`)「やだって言ったろ。金なら別の仕事で稼ぐから」
――こういう部分では顔付きと意見が合うだろうし、いっそ向こうにつくのもアリだなとドクオは思いつく。
今後tanasinnと戦うことを考えれば奴らと手を組むのも悪くない。
.
――なんてことはない。
全てを失ったつもりでいても、結局ドクオにはまだいくらでも居場所があるのだ。
だが、彼はもう何も知らないままではいられない。知ってしまえば変わらずにはいられない。
望む望まないに関わらず、人は何かを失えば何かを手にしてしまう。
劣化した過去は鮮明な現在に塗り替えられ、かつて孤独と引き換えに手にした永遠でさえいつか跡形もなく消え去ってしまう。
ドクオがこれから生きていく世界の仕組みは、遠からず本当の意味で彼の中から全てを奪っていくだろう。
いつか誰かが心から救われた 『えいえん』 は遥か遠くのとある世界へ。
そして、残されし者達は 『えいえん』 を失った世界を生きて死んでいくばかりだ。
誰かの 『えいえん』 を笑う奴が、この世の中にはたくさん居る。
耐えるしか無いこの世界は、ならば 『えいえん』 を持つ者にとってどれだけ過酷な世界なのだろうか――
.
J( 'ー`)し「……あら?」 スッ…
カーチャンは灰色の空を見上げ、舞い落ちてくる粉雪を手の平に受け止めた。
手に落ちた粉雪は一瞬で解け、形を失って無意味なものに一変する。
(; ´_ゝ`)
あんたメインヒロインみたいな事するんだなと兄者は後ろから見てて思った。
J( 'ー`)し「こっちでも降るなんて……珍しい……」
ミセ*゚ー゚)リ「……あ、ほんとに雪……」
('A`)「……は? いや昨日降らねえって言ったばっかだろ」
ドクオにはデリカシーが無かった。
ミセ;゚Д゚)リ「ハァ!? いやいや本当ですって!
その女を見る目のない両目でよく見てくださいよ!」
('A`)「お前細かくダメージ与えてくるよな」
.
J( 'ー`)し「今年の冬は、長くなりそうねぇ……」
――その日、季節のない街に初めての冬が訪れた。
時の流れは雪が降り積もるのも待たず、ただ、次の春を目指している。
.
もくじ >>2
第三十二話 Remnants(クズ、余り物、残されし者達) >>3-133
第三十三話 星の終着点 >>147-264
第三十四話 “Seven Solitude Times”(前編) >>280-339
第三十五話 〃 (後編) >>350-408
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ えいえんはあr…ないよ!
ヽ 〈
ヽヽ_)
次回で第三部完の予定です('A`)
でも今頃書き上げていた筈の36話が20レスしか書けていません('A`)
次回投下は二週間後くらいです('A`) よろしくです('A`)
乙
ミセリかわいい
乙!
乙!
次も楽しみ
すこだ
ミセリの記憶が戻った時がこわいな乙
夜のマグナムブロウジョブで滅茶苦茶笑った
進捗がダメなフレンズです
なんとかできたら今週日曜に投下しようと思います('A`)
わーい!
はやーい!
('A`;削除)
製品化はよ
本当は土曜日中に書き上げて投下する予定でしたが、なぜか書き溜めが捗らずどうにもなりませんでした('A`)
恐らく >>419 に書き溜めを吸い取るウイルスめいたものが仕込まれていたんだと思います('A`)
撃鉄の進捗は現状60レスくらいです('A`)
一週間もあれば書き終えられるとこまで書けましたが、大事を取って15日投下を目安に続きを書こうと思います('A`)
ちゃんと書き終えたらまた予告します('A`) そんな感じの四月一日でした('A`) がんばるぞい(^ω^)
>>419 は結局何だったん?
夜を征くのフラッシュ版だったよ
製品化はよ
419は昨日しか見られなかったのか…つらい
つらい……
17日に投下します
わーい
よっしゃー
ひゃっほー
おおおおおおッッッッ!!
まだか
さっさとしねえとかばんちゃんに俺のエクスカリバー見せつけるぞオラァ!!
./^l、.,r''^゙.i′
l゙:r i:i′ .| ど ん な に き た く が お く れ て
:i^¨''iノー-i (_.vv,、
i.、/:::::::::::::::::゙彳_ >
_,ノ i::::::::::::::::::::.('`,.ヽ ご は ん が あ と に な っ て も い い
( 、:|:::::.i;i;i:::::::::::i:.'^゙'<
'' ::.!:::::.ii;i.|::::::::::.i‐ ,フ''
.< :::i::::::.ii;i;|:::::::::.,「=( ひ が か わ ら な い う ち に
`ー::|,.:::::i;i;::::::::::/.\^':、
./゙,r|:::::::::::::::::,i゙.'!'=;^′
.) ,/ソ,:::::::::::,l'_ .).:r と う か し た い と お も う
゙'レ'´i''!゙ー/'(゙゙ | .|
| ._,i'!(冫.;i .|
.. |. | そ う た ん ぽ ぽ の よ う に
.! .i ._,,,‐''^^'''''>
、....,,,,..,,_ ! .;! .,/'゙`,_ .,ノ
\ .⌒\ │ .|!.,,iミ/ ._,,,./′
i '^'''‐、..゙'hノ| .|厂 . ̄′
.ヽ_ ゙メリ| .|
 ̄ ̄ |. | ._,,,‐''^^'''''>
キャァァァ
≪1≫
――ステーション・タワー直下。
('A`)「はー……」
久し振りに来たステーション・タワーを見上げ、ドクオはアホ面で感嘆を漏らした。
ミセ*^ー^)リ「ここが名物ステーション・タワーです!」 テテーン
('A`)「おー知ってるぜ。来たことあるしな」
ミセ*゚ー゚)リ「ちなみにミサイルとして発射できます」
(;'A`)「!?」
カーチャン達と別れた二人は当初の予定通りステーション・タワーの近くにやってきた。
初雪が降り始めた直後にも関わらず、タワーの周辺には避難者による長蛇の列が伸びている。
住民達が十分な衣食住を確保出来ない状態は、戦いから一ヶ月経った今でも解消されきってはいないのだ。
ミセ*゚ー゚)リ「ちなみにあの辺の人達もドクオさんのせいで」
('A`)「それ以上言ったら一人ずつ土下座して回るからな」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ(つ、ついに言い返された! さらに親密度が上がった気がする!)
.
ξ;゚⊿゚)ξ「――はいはい押さないで!! 物資は十分にありますから!!」
ミセ*゚ー゚)リ「おっ、ツンちゃんやってるねえ〜」
('A`)「……あいつ知り合いか?」
ミセ*゚ー゚)リ「はい! カンパニーで仲良くしてるツンちゃんです!」
('A`)
('A`)(あ、なんかそんな名前だったわ……)
顔は見た事あるのに名前が出てこなかったものの、ミセリの返事で彼女の名前をしっかりと思い出す。
タワー入り口で列整理に勤しむ彼女の名前はツン。そのむかし、ドクオが傷を直してもらった相手だ。
ξ;゚⊿゚)ξ「こちらには武力で皆さんを黙らせる用意があります!
誘導に従ってください! 銃口は常に皆さんを向いています!」
(;'A`)(――物言いが物騒すぎる!)
.
('A`) ジー
ξ゚⊿゚)ξ …ピタッ
('A`)「……あっ」
ミセ*゚ー゚)リ「どうしました?」
('A`)「ツンと目があった」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚Д゚)リ「――それ運命の出会いとかじゃないですからね!?」
(;'A`)「運命の出会いが二度あって堪るかよ……」
ミセ;゚ー゚)リ「一度目は私ですか!?」
(;'A`)「ちげえよ! お前分かってて言ってるよな!?」
ミセ;゚ー゚)リ「なら二度目は!?」
(;'A`)「俺の話聞いてねえのか!?」
.
ξ゚⊿゚)ξσ ツンツン
,_
(;'A`)「……つうかあれ、もしかして呼ばれてんのか?」
ミセ*゚ー゚)リ「ああ〜、多分サボる口実見つけたから活用したいんだと思います」
(;'A`)「……しょうもねえ……」
ツンから送られたハンドサインに従い、ドクオ達はタワーを離れて街路樹の下に集った。
服についた雪を払って一息つくと、ツンはミセリの顔をじっと見つめて重い口を開いた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……ミセリ、あなた仕事サボってる癖によく顔出せたわね」
ミセ*゚ー゚)リ
('A`)「……サボり?」
ξ;-⊿゚)ξ「そーよ。無断欠勤。
まぁうちは緩い組織だし、別にいいんだけどね……」
ツンは眉を上げ、わざとらしく腕を組んでドクオの言葉を肯定する。
.
ξ;゚⊿゚)ξ「で、サボった挙句に男連れときたか……」
ミセ;゚ー゚)リ「……ま、まっさかー! これサボりじゃないですから!
人員補強を目的としたスカウトです! 公務!」
ξ;゚⊿゚)ξ「いやいや、もうエクスト達から話は聞いてるし。
昨日は飲んで騒いでたらしいじゃないの。私抜きで」
ミセ;゚Д゚)リ「あ、……それも接待ですよ接待!
これから仕事仲間になる以上、早めに打ち解けないと!」
('A`)(この嘘、咄嗟に考えてるんだろうなぁ)
ミセリはその後もアリバイを取り繕い続け、最終的にツンが根負けする形で彼女の欠勤は水に流された。
ミセ;´ー`)リ(あぶねえ……)
ツンに背を向け、ほっと一安心するミセリ。
そんな彼女に呆れ顔を浮かべるドクオとツンは、ふと互いの顔を見合って小さく失笑するのだった。
ξ゚ー゚)ξ「……久し振りね。覚えてないでしょ」
('A`)「覚えてるっての。ツンだろ、あの時の」
ξ;゚⊿゚)ξ「……うそ、意外。素直クール一択のアホって聞いてたのに」
(;'A`)「……それ言いふらした奴、マジで一発殴った方がいいな」
ミセ;゚ー゚)リ ビクッ!
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
ミセ;゚ー゚)リ ジィーー
ξ;-⊿-)ξ「……そうね。まぁ、私も噂の出処は知らないけど……」
ミセ;´ー`)リ(ありがとう! ありがとうツンちゃん!)
.
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃ行きましょうか」 クルッ
途端ツンはそう言って振り返り、一人タワーに向かって歩き出した。
ξ゚⊿゚)ξ「私、お昼まだなのよねー」
ミセ;゚ー゚)リ「そうでしたか! ぜひ奢らせてください!」 ダッ!
ミセ;゚ー゚)リ「ほらドクオさんも行きますよ!
中層にシャキンさんのお店があるのでそこでお昼にしましょう!」
('A`)「おお分かった」
('A`)
(;'A`)(……いや、シャキンの店ってなんだ……?)
かくして新たにツンを加えた三人は、ミセリ全額負担の昼食を食べるべくタワーに入っていった。
.
≪2≫
――ステーション・タワー内、社員食堂。
(;'A`)「うわ……ほんとに店がある……」
(`・ω・´)「よう、昨日ぶりだな」
カウンター越しに顔を合わせるドクオとシャキン。
その傍ら、ツンは我関せずを徹してテキパキと注文をつけていく。
ξ゚⊿゚)ξ「麻婆豆腐、ざるそば、シーフードピザ。
ついでに唐揚げを山盛りで。おばちゃーん! 大盛りだからねー!」
(;`・ω・´)「……相変わらずだな。承知した」
(;'A`)「おいおい、さりげなく俺らの意向を無視すんなよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……え、なんで? 二人も好きなの頼みなさいよ」
('A`)
('A`)「えっ? 今の三人分のじゃないのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「……えっ?」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、今のでツンちゃん一人前なんです。
私達は別のを頼みましょう。何がいいですか?」
('A`)「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……なによ」
('A`)「余ったら食ってやろうか……?」
ξ;-⊿-)ξ「……余計なお世話よ。一人で全部食べるから気にしないで」
.
その後、ドクオとミセリは勧められたトンカツ定食とエビフライ定食をそれぞれ注文。
注文札を受け取って席に戻ろうとしたところで、シャキンが小声でドクオを呼び止めた。
('A`)「なんだよ。昨日の一発芸の感想か?」
(;`・ω・´)「それはどうでもいい」
('A`)「面白かったのに……」
(`・ω・´)「……あれから色々どうなったんだ。
黒いローブの奴がお前のとこ行って、ミルナもお前のとこに行っただろ」
シャキンは声を潜め、ずいと身を乗り出した。
('A`)「……」
(`・ω・´)「それで帰ってきたのはお前一人。
昨日はあえてその辺聞かなかったが、やっぱり気になっててな」
('A`)「……大した事は起こってねえよ。
俺が死ぬとこだったのを前のドクオ、……黒ローブが助けて」
(`・ω・´)「そんで?」
('A`)「あの場所から帰ってこれなかったのを、ミルナが助けてくれた」
(`・ω・´)
(`・ω・´)「……あれだな、おんぶに抱っこだな」
(;'A`)「……ハッキリ言うなよ」
.
('A`)「そんでクーはどっか行った。黒ローブも多分それについてった。
あいつら二人がどうなったかは俺もよく分かんねえ」
(`・ω・´)「……素直クールが帰ってくる可能性は?」
('A`)「分かんねえ。俺は、俺の願望をあいつに押し付けただけだしな」
(`・ω・´)
(`・ω・´)「……言っちゃあ悪いがあの女が居ない方がこっちも安心だ。
いつか戻ってくるにせよ、とりあえず厄介払いできたのは吉報だな」
(;'A`)「厄介払いって……わざと俺を煽ってるだろ」
(`・ω・´)「なんだ分かるのか。一応、素直クールへの未練も確かめたくてな」
(;-A-)「……ったくエクストといいミセリといい、
そんなに俺が未練がましく見えるのかよ……」
<見えますよ〜!
('A`)
(`・ω・´)「……女の目は怖いな」
('A`)
遠くから投げつけられたミセリの即答に、ドクオはまた何も言い返せなかった。
.
(`・ω・´)「……まぁ、俺が言う事でもないんだが」
('A`)「ああ」
(`・ω・´)「素直クールの本性がどんなものであれ、お前はあの女の為に戦いきったわけだ」
(;'A`)「……まぁ、そうかもな」
(`・ω・´)「謙遜するな。そう出来る事じゃない。
お前のやった事は人としてはバカアホマヌケだが、男としては憧れる話だ」
('A`)「でも罵倒多くねえ?」
(`・ω・´)「俺にも妻が居る」
('A`)
(;'A`)「――つま!?」
(`・ω・´)「自慢の若奥様だ。しかも子供も居るぞ」
Σ(;゚A゚)「こども!?」
(`・ω・´)「……不幸を分け合う恋愛は刺激的だが短命だ。
反対に、幸せを分かち合う恋愛は平凡だが長く続く」
シャキンはミセリとツンの方を一瞥してから、ドクオに小さく耳打ちした。
(`・ω・´)「今度は、そういう恋愛ができるといいな」
('A`)
(;'A`)「……うるせえ。余計なお世話だッ」 クルッ
ドクオは半端に言い返し、逃げるようにその場を立ち去った。
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「……もう、行ったかい?」
(`・ω・´)「……とりあえずな。あんたの伝言も伝えといたぞ」
シャキンは向き直り、厨房の奥でエビフライを揚げている同僚に向けてそう答えた。
(`・ω・´)「あんたも顔を見せてやりゃあよかったのに。
喜ぶかは知らんが、安心したと思うぞ」
(゜д゜@ 「……今のドクオには時間が必要なんだよ。
昔のことを思い出にするには、長い時間が要るもんさ……」
(`・ω・´)
(`・ω・´)「注文が多い。さっさと捌いていこう」
(゜д゜@ 「……はいよ、店長」
.
≪2≫
ξ゚⊿゚)ξ「よし、じゃあ食べましょうか」
(;'A`)「……無理して食うなよ?」
ξ-⊿-)ξ「余計なお世話だってば」
ミセ*゚ー゚)リ …
ミセ;゚ー゚)リ(えっなにその優しい言葉! 私も欲しい!)
ミセ;´ー゚)リ「えーやだもー多すぎて食べらんないかもぉ〜」 チラチラチラチラ
('∀`)「ははは、お前は食えるじゃん」
ミセ*゚ー゚)リ (即死)
.
ξ゚⊿゚)ξ「いただきまーす」 パクパクパクゴクゴクムシャムシャゴックン
ミセ* ー )リ「…………ます……」 モソ…
( 'A`)「んじゃ俺も食うかぁ」 ヒョイ
ザクッ ジュワァ…(すごくおいしそう)
('A`)
('A`)「……な、なんだ、これは……」
ドクオは今食べたエビフライを口から離し、その断面を凝視した。
(;'A`)
(;'∀`)「な、なぁツン……これなんて言うの?」
ξ゚⊿゚)ξ「……ん? エビフライのこと?」
(;'∀`)「……ふ、ふーん……」
ξ゚⊿゚)ξ「ウマイでしょ」
(;'A`)
(;'A`)「めちゃくちゃウマイんだけど……死ぬかと思ったわ……」
ξ-⊿-)ξ「それが都会の味よ。知ったら壁の向こうには戻れないかもね」
――それから三人は揃って目の前の食事に集中し、結局、全員が食べ終わるまで誰も一言も話さなかった。
.
〜〜食後〜〜
(;`・ω・´)「……この野郎、また食べきりやがって……」
ξ-⊿-)ξ「ごちそうさま。いつも通りの味だったわよ」 カチャッ
(;`・ω・´)「素直に美味かったって言え!」
食器を返却口に持ってきた傍ら、ツンは生意気な感想をシャキンに言い残した。
ミセ* ー )リ「ほんと……美味しかったです……」
(;'A`)「……美味かったよ」 カチャ
(;`・ω・´)「おい聞いたかー!? これがお前に無いものだぞー!」
シャキンは遠ざかるツンの背に精一杯の皮肉を叫んだが、ツンは軽く後ろ髪を払うだけで振り向きもしない。
(;`・ω・´)「お高く止まりやがって……あんなんだから友達が出来ねえんだよ……」
('A`)「……ほんと美味かった。近くに来たらまた寄るわ」
(`・ω・´)「ん? おう、割引くらいはしてやる」
('A`)「ああ、頼んだ……」
('A`;)「……ほらミセリ戻るぞ。お前何にショック受けてんだよ……」 グイー
ミセ* ー )リ「……前途多難過ぎて辛い……」 ズルズル
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ξ゚⊿゚)ξ「――で、あんたウチに来るんでしょ?」
(;'A`)「お前急だな」
席につくなり、ツンは先程のカーチャンと同じ話題を持ち出してきた。
しかもテーブルには五人分のカップアイスが置いてあり、その全てがツンの物でもう四つ食べ切ってあった。
ξ゚⊿゚)ξ「人手足りないから助かるわー。もう雑用やりたくないのよね」
(;'A`)「いや、そう言うならまずシャキンを使えよ。
なんで通常業務放棄して料理してんだよアイツ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「いや、それはわっかんないけど……」
(;'A`)「……多分もっと根本的に問題あるぞ、お前ら」
ミセ* ー )リ「ウチ、に……?」 ピク
ミセ;゚Д゚)リ「――ってなんですかそれ!! ちょっと待って!!
そんな軽く自宅に誘って……まさか二人はもう!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちがうわよ!!」
ツンはミセリの頭を小突き、彼女の言葉を強く否定した。
ξ;゚⊿゚)ξ「バカ言わないでよ……。ウチってのはカンパニーのこと。
私の家に誘うわけないでしょ、こんなヤツ」
ミセ*゚ー゚)リ「確かに」
('A`)「ミセリお前、持ち上げて落とすの好きだよな」
.
(;'A`)「……あの、その話ならもう断ったよ。さっきカーチャンに会ってな」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、マジで」
ミセ;´ー`)リ「そうなんですよぉー……この腐れ無職がよぉー……」
('A`)
ξ;゚⊿゚)ξ「うわーそうなんだ。もったいない。
採用試験ナシでここ入れる奴なんてそうそう居ないのに」
('A`)「そうなのか? へえ〜……ここそんな大したとこだったんだな……」
ξ;-⊿゚)ξ「それ今更すぎ。……っていうか、そんな呑気な気構えでウチと敵対してたの?」
そう言ってツンはテーブルに頬杖をつき、恨めしそうにドクオをじっと睨んだ。
( 'A`)「いやあ、別にお前ら全員敵って訳じゃなかったからなぁ……」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……あっそ。まあ贅沢なことには変わりないわね。
あの試験を受けずに入れるチャンスを無駄にするんだから」
('A`)「……そんな難しかったのか? その試験」
ミセ;゚ー゚)リ「――当たり前じゃないですか! 筆記実技面接! 特に筆記!」
ξ;゚⊿゚)ξ「あれは辛かった……シロナガスクジラの分類って仕事に無関係過ぎる……」
ミセ;゚Д゚)リ「そうですよ! ていうかあの 『ヒントを聞いて正解の絵を描け』 って問題なんなんですか!?
右目に傷、うさみみ、黒マント、うさぎの体ってアレただのうさぎですよね!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あーあれか……普通のうさぎ描いてバツにされる定番の……」
('A`)
('A`)(……問題作った奴、性格悪いんだろうなぁ……)
がみがみと試験の理不尽さを言い合う二人を余所に、ドクオはふとデミタスの事を思い出して問題の理不尽さを納得していた。
あの男の性格を思えば、解答用紙の名前欄と回答欄をランダムに入れ替えるくらいの嫌がらせは容易に想像できてしまった。
.
ξ;゚⊿゚)ξ「……でもまぁ、今度の表彰式には出るんでしょ?」
('A`)
( 'A`)「え、なんだって?」
ξ゚⊿゚)ξ「ひょーしょーしき」
('A`)「……は?」
ドクオは表彰式という言葉にまったくピンと来ず、すっとぼけた調子でツンに聞き返した。
ξ゚⊿゚)ξ「……あれ、こっちは聞いてないんだ。
こないだの戦闘、活躍した人には荒巻さんから感謝状とか貰えるのよね」
(;'A`)「知らねえ。なんだそれ……」
ミセ*゚ー゚)リ
('A`;)「……ミセリ知ってたか?」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*^ー^)リ「ええと〜確かそんなイベントがあったような〜なかったような〜」
ミセリは両手を合わせて視線を泳がせ、白々しくドクオの質問を受け流した。
('A`;)「お前、あえて隠してやがったな……」
ミセ*^ー^)リ「まぁ〜ったく、知りませんでしたぁ〜」 ニコニコ
.
ξ゚⊿゚)ξ「やーでも本当に助かったわ。
レムナント連中がみんな辞退したからイマイチ盛り上がりに欠けてたのよね」
(;'A`)「――おい待て、参加前提で話を進めるな」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「……ところで良いヘアスタイルね?
まるで表彰式に向けて用意したみたいにイケてるじゃない」
('A`)「……えっ」
ミセ*^ー^)リ「やっぱり似合ってますよ! カックイー!」
('A`)
(;゚A゚)「……まさかッ!」 ガタッ!
――昨日ミセリがやたら見た目に拘って買い物をしてたのはこの為だったのか。
そう思い至った瞬間、ドクオは彼女達の優しさが偽物だという事に気がついてしまった。なんか悔しい。
(;'A`)(クソッ! こいつら俺達が仲間だって既成事実が欲しいだけか!
大勢の前で表彰して、俺が裏切れねえよう囲い込んで……!)
ドクオの想像はまさにその通り。
つまりこれは 『ドクオが顔付きと戦った』 という事実だけを拡大して祭り上げようという悪質なプロパガンダ。
今回まったく役立たずだった荒巻が自身への責任追及をどうにか誤魔化そうと画策した、話題逸らしの一手なのだった。
(;'A`)「……お、俺は嫌だからな! んなもん出て堪るかよ!」
ドクオは身振り手振りを合わせて大声で主張し、ツンとミセリにそれぞれ強い一瞥を送った。
ξ゚⊿゚)ξ「へぇーそこそこの服も用意したのね」
ミセ*^ー^)リ「そりゃあもう! なんせ『街を救った英雄・撃鉄のドクオ』の晴れ舞台ですから!」
(;'A`)「くっ……!」 ジリッ…
二人は一切聞いていなかった。
.
(;'A`)(もう手遅れだ、今すぐ逃げるしかねえ!!)
('A`;)「じゃあな!」 ダッ!!
ドクオはそう判断して振り返り、タワーを脱出しようと全力で駆け出した。
(`・ω・´)「――逃がすわけないだろ」 ザッ
しかし、ドクオが逃げ出した先には当然のようにシャキンが待ち構えていた。
ツンとミセリもすぐドクオに追いつき、ドクオは彼ら三人によって進退の自由を奪われてしまう。
('A`;)「て、てめえら……こんなバカみたいなマネを……!」 ジリッ…
ξ゚⊿゚)ξ「諦めなさい。そして私の分まで働きなさい」
ミセ;゚ー゚)リ「就職祝いも用意してありますよ! ヤッター!」
(`・ω・´)「これからは同僚だな。よろしく頼む」
(;'A`)「……いやふざけんなよ! 非常識だろコレ!」
(`・ω・´)
(`・ω・´)「俺もそう思う」
(;'∀`) !
(`^ω^´)「だが仕事なら別だ」
(;゚A゚)「お前ェーーーッッ!!」
.
ミセ*゚ー゚)リ「ドクオさん……」
('A`;)「――ミセリ! 頼む、今だけマジで助けてくれ!」
ミセ*゚ー゚)リ スッ…
つ□と
('A`)
ミセ*;ー;)リ「二人で……幸せになりましょうね……」 ポロ…ポロ…
つ□と
('A`)
ミセリは、ドクオと自分の名前が書かれた婚姻届を手に、喜びの涙を流し始めた。
ξ゚⊿゚)ξ「あんたの住民票もばっちり揃えてあるから逃げらんないわよ」
('A`)
Σ(゚A゚;)「てめえミセリを買収しやがったな!?」
.
〜回想〜
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ仲間にしたいのよね」
ミセ;゚ー゚)リ「えーでも嫌がると思いますよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオと結婚したい?」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*^ー^)リ「それじゃあ誰から殺しましょっか!」
ξ゚⊿゚)ξ「愛が過激すぎる」
〜おわり〜
.
(`・ω・´)「観念しろよ。悪いようにはしないんだから」
(;'A`)「……くだらねー綺麗事に付き合わせんなって言ってんだ。
慣れ合いなら勝手にやってろ。どうせお前ら――」
――束になったって俺には勝てねえんだから。
他人の在り方にケチつけるだけの集まりに俺を巻き込むな。死ね。
昔なら、これくらいは簡単に言い切れた。
(; A )「……はぁ……」
しかしドクオは言葉を呑み、大きな溜息で間を誤魔化す。
(;-A-)「……もういい。身構えんな……」
(`・ω・´)「……なんだ、暴れないのか?」
(;'A`)「……アホ言うな。ここで暴れたら真っ当に俺を捕まえる口実が出来ちまうだろ」
ξ;゚⊿゚)ξ(バレてた……)
(;'A`)「そしたらすぐに荒巻が出てくる。さすがに分かるぜ……」
ドクオは端的に語り、“右腕”に超能力・マグナムブロウを具現化した。
それだけならまだ人の域。だが次の瞬間ドクオの周囲に現れた黒煙を見て、シャキン達の表情は固く強張った。
('A`)「……そういう保険がなきゃ、お前らが俺の前に出てこれる訳ねえだろ」
('A`)「“これ”がどういう力なのか分かってるお前らなら、尚更だ……」
マグナムブロウに渦巻く黒い煙。
野生動物が火に怯えるように、彼らもまた本能的な危機感に心を縛られる。
それに、ドクオの変わり様にもどこか違和感があった。
.
('A`)「……俺は、お前らのそういう所が嫌いだ」
('A`)「俺には出来ない事が幾つも出来るくせに何もしやがらねえ。
煽るだけ煽っといて、終いには被害者面で誰かに責任をなすりつけやがる……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょッ、そんなつもりは――」
その時tanasinnの黒煙が細く伸び、近くにあったテーブルを粉微塵に切り刻んだ。
そして黒煙は残された破片を一つ残らず飲み込み、それを材料に新たなテーブルを具現化して見せた。
まったくもって、無意味な脅しだった。
('A`)「……俺は最初、ここの誰よりも弱い存在だった」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
('A`)「……卑怯な連中だ。恵まれてるくせに……」
('A`)「何もしてこなかったのはお前らだろ。ツケぐらい自分で払えよ……」
('A`)「どうせお前ら、それでも無傷なんだから……」
('A`)「どうせずっとこの場所に居続けるんだから、いいだろ別に……」
('A`)「……お前らはどうせずっと、その壁の内側より狭いとこで、
自分以外の誰かが出てきて、都合よく世の中回してくれるのを待ってんだから……」
.
('A`)「……なあ、お前らには今の俺がどう見えてる?」
(`・ω・´)「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
二人は答えられなかった。
答えを取り繕う事さえ封じられた今、彼らは心からの畏怖をそのまま口にするしかない。
だが、化物を化物と呼べばどういう目に遭うかは想像に難くない。
ドクオは荒巻や顔付きと同じ類いで、一度は完全に敵対した相手。
身の安全を考えればここは沈黙以外ありえない。卑怯だが、彼らにとって最善の対応は黙る事だった。
(; A`)「……ッ!」
――しかしその直後、ドクオは急によろめいて近くにテーブルに手をついた。
ξ;゚⊿゚)ξ …?
(; A`)「……いや、今の、は……」
自分の言い分に負い目を感じたのか、ドクオは小さく「すまん」と呟いて瞑目した。
その素振りは誰の目にも歪に映っており、そして誰より、ドクオ自身が自分の変化に戸惑っているようだった。
.
ξ;゚⊿゚)ξ「……なによ急に。驚かせないでよ……」
(;'A`)「悪い、ほんと何でもねぇんだ。今言った事はナシで頼む」
(`・ω・´)「……お前の情緒が不安定なのは昔からだ。
こっちも悪ふざけが過ぎた。悪かったな……」
言いながら、シャキンはおもむろにミセリを一瞥した。
ミセ*゚ー゚)リ「……どうかしました? シャキンさん」
(`・ω・´)「……いや、なんでもない」
ミセ*゚ー゚)リ ?
――この女は今、ドクオと俺達のやり取りを笑いながら観察していた。
最早誰も気にかけていないが、そもそもミセリは『自分の能力』で記憶を失っている。
確かに彼女とミルナの戦闘は凄まじいものだったが、だとしても彼女は自分の意思で記憶を捨てたのだ。
能力の対価として記憶を捨てたのか、或いは別の意図・目的の為にあえて記憶を捨てたのかは分からない。
しかしかつてのミセリを知るからこそ、シャキンは彼女への警戒を未だ解いてはいなかった。
(`・ω・´)「……俺は、 『昔のお前』 を知ってるからな」
ミセ;゚ー゚)リ「……んなこと言われても……」
.
(; A`)「ミセリ、今日は帰ろう……」
ミセ;゚ー゚)リ「えっ、でも」
(; A )「頼む……」
ドクオは俯いて懇願する。
額には汗が滲み、ほんの少しだけ体が震えているようにも見える。
そんな明らかに様子がおかしいドクオを案じて、ミセリはシャキンと目配せしてから彼の隣に寄り添った。
ミセ*゚ー゚)リ「……すみません。今日は帰ります」
ξ;゚⊿゚)ξ「えー! 表彰式どうすんのよ!」
(`・ω・´)「代役で何とかする。本人がこんな調子なんだ、無理させる訳にもいかんだろ」
ξ;゚⊿゚)ξ「うーわ甘やかしてる。私だって休みたいのに」
(`・ω・´)「お前はよく寝て食べて遊んでるだろ、この健康優良児め」
ξ;゚⊿゚)ξ「いいでしょ別に! 悪口みたいに言わないでよ」
(;'A`)「んじゃ、また来れたら来る……」
ミセ;゚ー゚)リ「じゃあ私も失礼して……」
(`・ω・´)「……ドクオ」
今度こそ去ろうとするドクオ達。
しかしシャキンはもう一度、なにも取り繕わずに彼を呼び止めた。
.
支援
(; A`)「んだよ、話ならまた今度――」
(`・ω・´)「俺の理想は、……ありきたりだが、妻子と平和に暮らすことだ」
(; A`)「……」
(`・ω・´)「その為なら誰とでも戦う。だが俺自身が死ぬ訳にもいかん。
俺みたいなのは、その……生きてなきゃ幸せにはなれないからな」
(`・ω・´)「だから俺は生き残る為ならどんな卑怯もやってきた。
いつだって、高貴な死よりも卑小な生を選んできたんだ」
(`・ω・´)「……お前が少し、羨ましい。理想の為に生きて死ぬとこまで行けたからだ。
だがお前のこれからを思うと、他人事なのに最悪の気分になりやがる……」
(`・ω・´)「……なあ、お前はこれからずっと耐え続けるのか?
高貴な死を選んだ命が、卑小な生に囲まれている今の状況に……」
(`・ω・´)「そんな中で、お前はずっと自分を変えずにいられるのか……?」
(; A`)「……分からねぇ。分からねえよ……」
(`・ω・´)「……そうか。今のお前は、そう答えるのか」
(; A`)「……だからもし俺が変わっちまったら、そん時は誰か教えてくれ……」
ミセ;゚ー゚)リ
(; A )「誰か、そう言ってくれ……」
それは決してシャキンへの返答でも、まして自分への戒めでもない言葉。
彼の人生において初めて心から吐き出された、他人をあてにした惨めな思考停止だった。
ξ゚⊿゚)ξ「……めんどくさ」
.
.
≪3≫
ミセ;゚ー゚)リ「あの〜……」 テクテク
('A`)「……んだよ」 テクテク
ミセ;^ー^)リ「さっきの、卑怯な連中ってやつ、私は含まれてます……?」
( 'A`)「……自分でそう思うんなら」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「まったく思わないので大丈夫ですね!」
(;'A`)「……まあ、そうだな……」
タワーを出て、行く先を失った二人は雪降る街を歩き出す。
急な降雪によって作業中断を余儀なくされたのか、壊れた街の喧騒も今は大人しい。
冬らしい静けさ。白と灰に彩られた景色に見所はない。
ミセリは話題のネタを探そうと周囲に気をつけていたが、その行為が明るい話題を引っ張ってきてくれる事はなかった。
.
ミセ*゚-゚)リ「あーあ、なんかつまんないですね」
('A`)「……え、そうか?」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ「……楽しかったですか? いま」
(;'A`)「あー……。俺も特別楽しくはねえけど、別につまんねえ訳でもなかったから……」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*´ー`)リ「そういうの、つまんないって言うんですよ」
('A`)「そうかなぁ……」
ミセ*゚ー゚)リ「そうですよ。誰がこんなの見て面白がれるんですか」
ミセ;゚Д゚)リ「壊れた街! 静かな街! 心を通わせない二人!」
ミセ;゚ー゚)リ「まぁこの雪景色はちょっとイイけど……でもイルミネーション無いから減点です!」
ミセリは両手をちょこんと持ち上げ、歩きながらクルクルと回り踊ってみせた。
('A`)「おお」
ワルツにもなっていない適当な身振り。緑色のロングスカートが雪と一緒に翻る。
それでも安心して見ていられるのは彼女のセンスの賜物なのか、ドクオも彼女から目を離さなかった。
.
('A`)「上手いもんだな」
ミセ;゚ー゚)リ「えーそうですかぁ? これ適当なんですけど……」
('A`)「ああ、じゃあ上手い下手は的外れなのか……」
ミセ*゚ー゚)リ「……じゃあ、好みです? こういうの」
ミセリはドクオの前に躍り出て、彼の顔を覗き込んでそう尋ねた。
('A`)
('A`)「……まぁ、好みなのかも」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*^ー^)リ「……えへ、そうですか」
.
('A`)「……好みか」
( 'A`)「ああ、多分そうなんだと思う……」
ミセ*゚ー゚)リ「……そんな顔をしないでください。
私、これから何度でも貴方を裏切らせますからね」
――裏切り。
誰への裏切りなのかは言うまでもなく、そしてその裏切りをミセリは 『させ続ける』 と宣言した。
自力だけでは過去を裏切れなくなっているドクオの事を、彼女はもうなんとなく察していたのだ。
( 'A`)(これじゃあ、エクストのことは言えねえな……)
自分への罵倒は心の中で小さく弱く。
分かりやすい言葉を使って、誰かを利用しなければ誰かを裏切ることさえできない自分を陶酔しやすいよう飾り立てる。
自分として生きながらも、自分ではない“誰か”を演じ続ける為に。
なにより、その内なる何者かをなるべく好きでいられるように――
.
「おお〜い」
その時、呼びかける声と共に安っぽいクラクションが鳴り響いた。
ミセ*゚ー゚)リ「……あのトラックですね」
ミセリはドクオの背後を指し示す。
振り返ってみると、荷台てんこ盛りの軽トラックが一台、ドクオ達に向かって近付いてきていた。
トラックは十秒そこらで彼らの隣にやってきた。
ゆっくりと停車し、助手席の窓が開く。
(;'A`)「……お前なにやってんの?」
/ ,' 3 「なにを言うか。見てのとおり肉体労働だ」
トラックの運転手は荒巻スカルチノフで、しかもその姿はタンクトップに鉢巻とくわえ煙草。
助手席には薄汚れた作業着が脱ぎ捨ててあり、言うのもアレだが少し汗臭い。
今にも「てやんでい」と言い出しそうな荒巻の風貌に、ドクオはぶっちゃけドン引きしていた。
.
/ ,' 3 「まったく、帰ったなら最初にワシのとこに来るのが礼儀だろう。
貴様、ただでさえ面倒なとこに落ち着いた癖によくも……」
('A`)「別にいいだろ」
/; ,' 3 「いい訳なかろう! 貴様ミルナを使った挙句、ただ問題を先延ばしに――」
ミセ*゚ー゚)リ
/ ,' 3 「……と、デート中ならこの話は棚上げか」
こちらの話に興味津々そうなミセリの視線を察し、荒巻は言いかけた文句をそこで打ち切った。
('A`)「……荒巻、何度も誘われたけど俺は仲間にはなれねえよ」
/ ,' 3 「……難儀だな。若くしてtanasinnと関わる輩は本当に運が悪い」
('A`)「そういうもんか? どうせみんな不老不死なのに」
/ ,' 3 「そんなもんだ。疑うなら不老不死の赤ん坊を想像してみろ、最悪だぞ」
('A`)
/ ,' 3
(;'A`)「……最悪だな」
/ ,' 3 「だろ? ちなみに顔付きがそれだ」
荒巻は窓の縁に肘をつき、露骨にドクオを哀れんで見せた。
これからドクオが歩んでいく道に終わりはない。
心が生きている内は永遠の上り坂を、心が枯れた後は永遠の下り坂を――
となれば問題はその道の歩き方だが、それをベラベラ喋るほどの義理は荒巻には無い。
急がば回れとは言うが、回り回って結局素直クールと同じ道に身を置いたドクオを、荒巻はただ眺める事にしていた。
.
ジジイ無理すんな 支援
('A`)「……またすぐ街を出る。なんかあったら頼ってくれ」
/ ,' 3 「……ん? ああ、そのつもりだ」
('A`)「どうせまた顔付きとやるんだろ? 気が乗ったら加勢するよ」
/ ,' 3 「……心にもない事を言うなよ。
せいぜい、人に迷惑を掛けん死に方を見つけることだな」
('A`)「……ああ、考えてみる」
/ ,' 3 「まぁ無駄だろうけど」
('A`)
(;'A`)「えっ!?」
/ ,' 3 「そんじゃ失礼! まだ仕事が残っているのでな!」 ビシッ!
最後に特大の皮肉を言い残し、荒巻は軽トラックを発進させ街の中をかっ飛んでいった。
.
ミセ*゚ー゚)リ「……あの人も変な人ですよね」
ミセリはトラックを見送りながら、さりげなくドクオの手を取った。
ミセ*゚ー゚)リ「……やっぱり、街は出てくんですか」
('A`)「……悪いな」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*;ー;)リ「そ、そんな……」 グスッ
ミセ*;ー;)リ「今朝、出てかないって約束したばっかりなのに……うそつき……!」
('A`)
('A`)「約束してないけどな」
ミセ*゚ー゚)リ「してないですね」
してなかった。
.
('A`)「……次に行くあて、無くなったな」
ミセ*゚ー゚)リ「行きたいとこあります?」
('A`)「ない」
ミセ;゚ー゚)リ「でしょうね!」
('A`)
ミセ*゚ー゚)リ「なので私についてきてもらいます」 グイッ
(;'A`)「――だと思ったよ!」
ミセリはドクオの手を引いてまたどこかへ向かって歩き出した。
今朝のように全力で引きずられるのも嫌なので、ドクオも足並みを揃えて彼女の隣に並び歩く。
ミセ*゚ー゚)リ「ドクオさんって図書館行ったことあります?」
('A`)「……一度だけ」
ミセ;゚ー゚)リ「えっ、絶対ないと思ってました」
('A`)「レムナントに帰る途中で寄った、……っていうか、そこから帰ってきたんだ」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセリは一瞬 「なに言ってんだこいつ」 という目でドクオを訝しんだ。
しかし彼がどうやって、そしてどこから帰ってきたのかをミセリはまだ知らなかった。
.
ミセ;゚ー゚)リ「……あの、そもそもどうやって帰ってきたんですか?」
ミセ;゚ー゚)リ「さっき話してた感じじゃ、なんかあんまり問題解決してなさそうでしたけど……」
('A`)
ドクオはミセリの質問に即答せず、しばらくしてから口を開いた。
('A`)「……先に聞き返すけどよ、俺達のなにが問題だったんだ?」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;゚ー゚)リ「……もしかして怒ってます? 聞いちゃいけませんでした?」
(;'A`)「怒ってねえ。つーか気を遣うのが今更すぎる……」
怒っていないと知るや、ミセリはすぐに申し訳なさそうな表情を取っ払って首を傾げた。
「彼らのなにが問題だったのか」という前提を問われても、ミセリにはいまいちピンと来ていなかったのだ。
ミセ*゚ー゚)リ「問題ですかー。なんでしょう、tanasinnがすごくすごくて激ヤバってとこ?」
('A`)「…………」
ミセ;゚ー゚)リ「……あれ、違う? じゃあ顔付きの方ですか?
確かにあっちも超能力的に最強ですけど、tanasinnに比べたら些末じゃないです?」
tanasinn、顔付きと当たっていそうな名前を羅列してもドクオの顔色は変わらなかった。
ミセリは続けて荒巻、ミルナ、素直クール達の名前も出してみたが、それでもドクオが反応を示すことはなかった。
.
ミセ;゚ー゚)リ
( 'A`)「……まあ、傍目にはそんなもんか」
ミセ;゚ー゚)リ
ミセ;´ー`)リ「思わせぶりは面倒臭いんですけど!」 ギュッ
('A`)「いてえ」
僅かばかりの仕返しとして、ミセリはドクオの手を強く握りしめた。
日の浅い仲とはいえ、元の自分が敵だったとはいえ、今のミセリにとってドクオは命の恩人だ。
たとえそれが意図的に用意された大義名分だったとしても、今の彼女がドクオを慕う気持ちだけは本物だった。
ならば、それ以外の気持ちは偽物なのか?
欺瞞の上に積み重ねられた真意に価値はないのか――
ミセ*゚ー゚)リ
――と、いうような事をミセリはぜんッぜん考えなかった。
刹那的な感情を慢性的な感情によって否定するのは理性ではない。
自分の内で感情を潰し合ったところで、それは消去法的な合理を選んだ利己主義でしかないのだ。
被害者面して傷付いてれば説得力が出せると教育された人間達のふざけた自傷癖を実践するほど、ミセリは素直な心を持ち合わせてはいなかった。
.
('A`)「行きながら話すよ。でも図書館がゴールだ」
ミセ*゚ー゚)リ「……ゴールっていうと、そこでお別れですか?」
('A`)「ああ」
ミセ*゚-゚)リ「……それはまた、急ですね」
ミセリの足が一瞬止まり、二人の足並みがずれる。
それを揃え直すのには一秒も掛からなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「でも、どこに行くかは教えてくれますよね?」
('A`)「……俺が約束したのはどっか行くって事を伝えるとこまでだ」
ミセ*゚ー゚)リ「……ですね。そのとおりです」
今朝の会話を思い出し、ミセリは彼の言い分が正しいことを認めた。
ミセリの小さな溜息が寒空に漂い散る。
ミセ*゚ー゚)リ「……ずるいなぁ、少しくらい騙されてくれてもいいのに」
私みたいに、と心の中で付け加える。
( 'A`)「最初っからでいいよな、俺の話し」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。どうせオチないでしょ?」
(;'A`)「……そうかよ、気楽に話せて助かるぜ」
ドクオはミセリの頭に積もった雪を手で払い、tanasinnの力を用いて大きめの傘を具現化した。
白雪に蝕まれゆく街。あるいは時、あるいは人。
誰もが眠るように穏やかに死ねればと願う誰かが降らせた雪の中を、二人は同じ傘のもと歩いていく。
.
.
≪4≫
( ゚д゚ )「どっちみち、二つに一つだ」
あれからしばらく経って、ようやくひとしきり不毛な言い合いを終えた二人。
やがて開き直って溜飲を下げたミルナは、ドクオが見るものとは違う景色を一望しながらそう呟いた。
('A`)「……どういう意味だ」
( ゚д゚ )「簡単な話だ。どうにも、『世界』ってのには数に限りがあるらしい。
それがいくつかは知らんが、tanasinnはその限りを超えた世界を食い潰す為に存在している」
( ゚д゚ )「……つまらねえ話だが、人間ってのは限界の中でしか生きられない生き物らしい……」
ミルナは嘲笑する。限界という、そんな漠然とした枠組みの中でもがく自分自身を。
ここは既にtanasinnの腹の中。限界の向こうにある無限そのもの。
ひとたび迷えば自分が何と戦っているのか忘れてしまうようなこの場所で、ミルナは己の敵を再確認する。
( ゚д゚ )「……お前、いま自分がどういう見た目してるか分かるか?」
( ゚д゚ )「化物だよ。言っとくけど人間の形してねえからな」
('A`)
('A`)「でも、元々そんな感じだしなあ」
( ゚д゚ )
(;-д- )「……いや、まあ……なんでもない……」
化物と呼ばれて動じないのも、それはそれでどうかと思うミルナであった。
.
( ゚д゚ )「……ったく、安易に次の世界なんざ作りやがって。
それを始末すんのはお前なんだぞ……」
呆れきった声が漏れる。
( ゚д゚ )「お前、耐えられるのか」
('A`)「……なにに」
( ゚д゚ )「世界を食い潰す作業にだよ」
ミルナは苛立ちを込めて断言した。
( ゚д゚ )「今現在素直クールが居る方か、お前が生きてた方の世界。
tanasinnは確実にどっちかを食いに動き出すぞ。お前の意思とは無関係にな」
( ゚д゚ )「んで、tanasinnに取り込まれたお前はその光景をずっと見せつけられる。
最悪の映画を最高の座席で、エンドロールが終わるまで見続けるんだ」
('A`)「……」
( ゚д゚ )「綺麗事で済むと思うなよ。お前が立ってるそこは、地獄だぞ」
――地獄。
穏やかな風が吹き、静かに夜明けを待つ世界。
幻想的な光景。夢のような綺麗事に彩られた自己陶酔の比喩。
ミルナさえ来なければ俺はずっと心地よく騙されていられたのに。
そんな逆恨みを思わずにはいられないほど、ここはドクオが望む終わりに満たされていた。
.
( A )「駄目、なのか……?」
かすれた声がミルナに問いかける。
しかし、答えが返ってくる前にドクオは大きく一笑して迷いを吹き飛ばした。
答えはとうに分かりきっている。今更こんな下らない問いを口走った自分が、本当にバカに思えた。
( ゚д゚ )「……tanasinnは徹底された間違いの塊だ。
誰かの正しさを誇張する為だけに用意された悪役だ」
( ゚д゚ )「そんなんを哀れに思えちまうお前は、やっぱりバカでお人好しなんだぜ」
( ゚д゚ )「……お前は俺達とは違って、間違いながらも正しいことが出来る奴だと思う」
( ゚д゚ )「もう答えはあるんだろ。お前自身が、それを分かっているはずだ」
('A`)
('A`)「……ああ、分かってる」
言葉だけは穏やかに。それもべつに取り繕って落ち着いているのではない。
ただ、彼にはもう事実を誤魔化すだけの言い訳が残されていなかったのだ。
完璧な綺麗事に満たされた世界を心地よく思う自分。
この夢を終え、ミルナと共にあの荒野に帰りたいと願う自分。
今すぐにでも素直クールを取り返しに行って、またあの頃のように過ごしたいと思ってしまう自分。
あるいは、今すぐ死んで何もかも放り投げ、楽になりたいと願う自分。
それら全てが彼の本心。
都合の良いいくつもの願いが歪に入り組んだ今の自分こそが、本当の自分だ。
.
('A`)「分からないわけないだろ、ここまで来て……」
誰もがそうだ。誰もが己の中で願いを潰し合っている。
善悪など介在しない消去法による選抜。より強い欲望を己の中で孤立させる為の殺し合い。
あらゆる人が日常的に己を否定し、肯定し、生き残った方の自我を良しとする。
――ドクオには、今まで素直クールしか存在していなかった。
だからこそ彼は他の全てを放棄できた。考えるまでもなく彼女だけを選び続けられた。
彼女無しでも生きていけると悟った後でもそれは変わらない。
それは何故かと問われれば――単に、素直クールを言い訳にしているのが楽だったからだ。
考えなくていいというのは本当に楽だ。思考停止した選択は本当にコスパが良い。
だって自分の現実を全部他人のせいに出来るのだから。大義名分を負った責任転嫁なら人にとやかく言われる筋合いもない。
そしてこの行為は、人類史が 『神様』 という偶像を用いて実現した 『幸福』 でもある。
……だが、ドクオは信仰すべき神を失った。
今まで素直クールを言い訳にして逃れてきた選択から、ドクオはもう逃げる事ができない。
自分で考え、選び、矛盾する全ての願いを己の手で殺さなくてはならなかった。
.
('A`)「分かってるんだ。もうとっくに、ここが夢の跡でしかないって事は……」
ずっと前から、素直クールが居なくても大丈夫だと分かってしまった時から、この瞬間への予兆はあった。
言い訳の余地が何もない、超能力もtanasinnも、何もかもが誤魔化しにしかならない選択の時が来ることは。
……だからこそ、心のどこかでいつも思っていた。
その時が来る前に、なんとか誤魔化して逃げ切らなければと。
しかしドクオは逃げ切れなかった。
死という絶対的な大義名分を失い、彼はもう誤魔化しも言い訳も効かない場所に辿り着いてしまった。
二つに一つ、どちらかの世界が潰えて消える。
それは今ここでドクオとミルナが殴り合い、カッコイイ結末を迎えたところで何ら変わらない未来。
とっくにtanasinnに呑み込まれているドクオは、ミルナとの勝敗に関わらず確実に世界の滅びを目の当たりにする。
ならばドクオが取れる手段はただひとつ。ミルナと手を組んでtanasinnを倒すことのみ。
tanasinnを――己を殺し、『どちらかの世界が滅ぶ』という選択自体を打ち砕くしかない。
死を理由に逃げ出すのではなく、今度は二つの世界を守る為に命を使う。
どうせまぐれで繋いできた命。今までも何度だって死にかけてきたが、いよいよ本当に死ぬ時が来たというだけ。
有効活用できるならした方がいい。全てをやり終えたこの命、いまさら惜しむようなものでもない――
('A`)「……けどよ、それが……」
('A`)「それが出来ねえから、俺はここに居るんだよ……」
――しかし、それでも人の心は度し難い。
ドクオに選択を放棄させてきた素直クールの存在が消えた今、彼は『選ぶ』という行為に初めての恐怖を感じていた。
.
提示された二つの選択肢は生と死。
現状、ドクオが死ねば事態はなんとなく丸く収まる。しかし生きようとすれば確実に一つの世界が滅ぶ。
己の死を前提とした九分九厘の平和か、ミルナを含む、無数の屍を前提とした一個人の現状維持か。
今までなら死を選ぶ事に恐怖はなかった。
生き延びたとしても「あーまた死ねなかったな」で生きていられた。
だがここから先はもう違う。誤魔化しは無い。
選べば責任が伴う。『自分で選んだ』という自負が全ての退路を封殺する。
素直クールはもう居ない。彼女は今、どこか別の世界で平和に暮らしているのだろう。
しかしだからこそ、ドクオはもう彼女を言い訳にして死の恐怖を克服する事ができなかった。
だって今の彼女は幸せなのだから。『彼女を幸せにする為の死』は世界のどこにも存在しないのだから。
ならもう死ぬ意味もない――いや逆だ。彼はもう死の意味を定義出来ない。
――生の比喩、死の代替用語を失った時点で明確な定義は不可能だ。
――なら精神的な意味合いでは?
――何をもって精神とするのか教えてくれ。
――お前は一字一句の語源とその定義から入らないと話が出来ないのか?
――必要最小限の話をしているだけだ。正誤は問題じゃない、お前が何をどう捉えているかを知りたいんだ。
――7はこどくの数字なのか?
――神様ドヤ顔名言集の引用なら後にしてくれ。
.
――精神、心、思い、感情、理性、野性、あるいは意識、あるいは揺らぎ。
――個人の内でのみ成立する理屈。それが生む「偏り」の産物が精神?
――いいや違うね。精神は極めて物理的なものだ。はじめに言葉があったように、はじめに何かしらの物質がなければ精神は語れない。
――なら認識としてはトロイの木馬が妥当かな。で、今の彼は中身を失ったただの模型だと。
――それもスッカラカンのね。またなんか詰める? お菓子でも詰めてパーティの余興に使う?
――理解しようにも理解すべき命題を失った状態。形骸形式知記号存在。
――まるで素数に終わりが来たみたいだ。過程を利用してきた学者達はさぞ慌てるだろうね。
――だろうね。ああ、それがきっと精神と呼べるものなんだ。
――は? 分かるように言えよバカ。
――発生した予測に対して、認識しうる限りの現実に基づいた確信を付随させるもの。
――フラクタル? 疑似科学だ。
――まとめすぎ。そうだな、じゃあこうしよう。精神とは現実を切り取るためのハサミだ。
――切り取られた現実の在り様は?
――不可逆のオールマイティ。個別になったそれらは自由に組み立てられるし、そもそも全部間違ってるから自由に加工していい。
――間違ってる? 誰がそう決めたんだよ。
――ハサミを持ったその手だよ。あるいは切り取った個別の現実同士だね。そうだ、精神っていうのは現実をありのままに認識しない為にあるんだ。
――でなければ、あんなに刺激的な現実を生きてる人々の心が、夢の中にここまでの色彩を追い求める訳がないんだ。
.
――あーなるほど。結局ぜんぶ人それぞれってことでいい?
――そうだね。そう言って話を打ち切れる事が、きっと生きていく上では重要なんだ。
――答えを出さない事が最善? それは人類が積み上げてきた理性への冒涜じゃない?
――いや、違う。
――じゃあ答えを出すべき?
――「べき」は理性じゃない。「善」もだ。
――は? じゃあ何が理性なんだよ。三桁の足し算か?
――感情的でも、逆にクールでもいい。とにかく現実に対して適切であること。それこそが「理性」だ。
――適切? 誰がそれを決めるんだよ。
――他人だ。お前以外の全員。
――それはどうやって確かめればいい? 自身は適切な状態にあると、どう確認すればいい?
――誰かに聞けば? 俺ってどう? って。
('A`)「……聞けない奴は、どうすればいい」
――ああ、そっか。もう素直クールは居ないんだったね。
――じゃあ別の人に聞くのはどうかな。それこそミルナとか丁度いいと思うけど。
.
('A`)「……なあ」
( ゚д゚ )「お?」
('A`)「俺ってどう?」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「は?」
('A`)「バカを見る目で見られたんだけど……」
(´・ω・`)「いやそりゃ、お前の聞き方が悪いよ……」 ※ドクオの脳内に住まうカオス
('A`)
正論だった。
.
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( 'A`)「……教えてくれ。俺の命で何ができる?」
もはや形式的な『死』が意味を成さない状態にある二人。
いかに拳を交え、誇りを賭し、荒ぶる感情の限りを吐き出したところで、それは全てtanasinnによって茶番にすり替えられる。
最早、解決するには根本的な原因・tanasinnを打倒するしかない。
( ゚д゚ )(……本当は、カッコつけてお前と殴り合いたかったが……)
目を逸らし、現実の中にわざわざ敵を作ったところで倒すべきものは変わらない。
敵はtanasinn。ミルナの拳はその喉元を穿つ為にある。
そして、その為だけに好敵手すら利用して活路を開くことこそ、ミルナが自分で選び決めた最後の間違いでもあった。
( ゚д゚ )「俺が力技でお前をブッ殺す、だけじゃ大した事にはならん」
( ゚д゚ )「だがこれならお前は楽に死ねる。どうだ、楽に死にたいか?」
ミルナの口振りに含みを感じたドクオは、訝しんで彼の目を見返す。
('A`)「楽に死ねない方があるんだろ。そっちを言えよ」
察しが良いな、と呟いてミルナはほくそ笑む。
( ゚д゚ )「ああ。とびきりクソッタレた作戦だがな……」
( ゚д゚ )「……お前に、tanasinnを限界まで内包してもらう」
(;'A`)「――な、」
内包。顔付きがtanasinnに対する『防御』として用意した策。
ミルナはそれを丸パクリし、ドクオにやらせようと考えていた。
.
( ゚д゚ )「まず、お前がありったけのtanasinnを一気に取り込む。
したら確実に意識失って暴走しだすが、俺がそれをブッ飛ばす」
( ゚д゚ )「ブッ飛ばしたらこれでお前が内包してた分のtanasinnが死ぬ。はいこれで一回」
('A`)
(;゚A゚)「……えっ、一回!? 二回目があんのか!?」
( ゚д゚ )「当たり前だ。お前の意識が復活する限りこれを繰り返すんだよ。
内包→ボコボコ→復活→内包→またボコボコって感じでな」
(;゚A゚)
(;゚A゚)「マジ、かよ……」
こいつ俺よりバカだ。
ドクオは畏怖を含めてそう思った。
(;'A`)「……要は俺にサンドバッグやれってか。お前クズだな」
(;゚д゚ )「うるせえ。これでも今までみたいに空気を殴るよりは効率が良いんだよ。
手ですくって海を干上がらせるようなもんだが、終わりがあるだけマシだ」
(;ノ∀`)「いや、いやいや……お前、何回俺を殺すつもりだよ……」
( ゚д゚ )「当然tanasinnが死ぬまでだな。
お互いそれまで生きてりゃ大成功。晴れて元の世界って作戦よ」
.
(;'A`)「…………」
(;'A`)「暴走って、お前の鎧とか、クーが降らせてた黒い雨みたいなやつだよな……」
ミルナは軽く頷いて応える。
(;'A`)「じゃあさ、その……お前一人で相手にするんだよな。
暴走しちまってる俺を、何度も何度も……」
( ゚д゚ )「……それは杞憂だし、お前が気にする事じゃない」
彼はドクオの心配を冷たく切り捨てた。
これから自分の身に起こる事を理解していない男に心配されても、そんなものは冷やかしと大差ない。
( ゚д゚ )「そういうお前はついてこれるのか?」
( ゚д゚ )「お前が助けた素直クールも、結局最後までtanasinnに耐え切れなかったんだぞ」
(;'A`)「……それ、は……」
――自分というものが分からなくなり、何かで補わなければ個人として成立していられなくなる。
素直クールの場合は人工片鱗という不純物が破綻の切欠になったが、ドクオの場合は単純に物量が違いすぎる。
過食嘔吐を繰り返して世界中の食べ物を吐瀉物に変えていくような作業。こんなもの、正気を保てる方がイカれている。
( ゚д゚ )「……楽に死にたきゃ最初のとおりだ。半殺しでなく、完全にお前を消し飛ばす。
tanasinn全部は多少骨が折れるが、出力装置になったお前だけなら片手で十分だ」
( ゚д゚ )「お前が決めろ。楽に死ぬか、苦しんで死ぬか、生き残れるかもしれない苦しみに耐え続けるか」
ミルナは強く、しかし単調に問い掛けた。
ドクオは既に全てをやり終えている。素直クールを助けた時点で彼は存在意義を喪失している。
そんな今だからこそ選択が必要なのだ。
素直クールの顛末を演出する舞台装置として己を終えるか、あるいは、一人の人間として過去を背負うのか。
('A`)
('A`)「まあ、どう考えてもここに引きこもってた方がマシだな……」
……ドクオは落ち着いて言い、見せかけの世界を見渡す。
.
('A`)「……色んな人に、会ったんだ」
――ドクオは分かっていた。どんな夜にも終わりが来ることを。
自分以外の誰かを見つけたあの夜にも、やがて確かな夜明けが来ていた。
夜明けに始まりここまで続いてきた道。
そこに再び夜が降りてくるなら、そのあとに何が続くべきかを彼は分かっている。
( 'A`)「……この先、何を理由に生きればいいかは分からねえけどさ」
( 'A`)「とりあえず、色んな人に頼ってみるかな……」
――瞬間、ドクオが見ている素晴らしい景色にノイズが走った。
風は止み、夜明け前の肌寒さもなくなり、広大な草原は無機質な静止画に変容していく。
足元に黒い淀みが一瞬で流れ込んでくるのが分かる。
つい最近味わったばかりの不快感が脳みそ目掛けて駆け上がってきた。
(; A`)「……ああクソ、やっぱ最悪だな。気持ちわりぃ……」
だが 『tanasinnを限界まで』 とあらばこの程度で音を上げる訳にはいかない。
かつてとこれからを焼き尽くし、本当なら死んでいて当然の体。
こんなモノでどこまで出来るかは分からないが、とにかく痛く苦しい方へと意識を集中する。
平和とはただの“間”でしかない。別に誰も願ってもいない未来の為に、ドクオは最後の幕間に手を掛ける――
.
( ゚д゚ )「……万が一の話だが……」
ミルナの右腕と背に閃光が集約する。
マグナム・トライブロウ――背に残された撃鉄は二つ。
( ゚д゚ )「……お前一人だけが生き残った時は、腹を括れよ」
(; A`)「……ああ? どういう意味だ」
( -д- )「……万が一だ。気にするな」
かつてミルナは語った。
ただの馬鹿でかい力に意味は無い。力は人の意思にこそ宿る。
そして、自分にはその意思が無いと彼は言い切った。
半ば力尽くで取り戻した己の極地。一度は倦怠の海に沈めたこの拳。
――身に余る力だ。今と昔の俺は違う。何より、心が衰えてしまった。
今の自分が全力を出せばどうなるかなど分かりきっている。
心身に起こる自壊をtanasinnに肩代わりさせる事はもうできない。
この空間でアレに頼るのは己の一部を向こう側に明け渡すようなものだ。それは出来ない。
歪に組み合わせた歯車があとどれだけ回ってくれるかは分からない。
全身に迸る力がいつ内側から自分を突き破るかも分からない。
逃げ場など無い。言い訳の余地など無い。
ミルナは己の意思で力を取り戻し、自己満足でその力を振るい戦う。
tanasinnを殺すという事は、それによって得ていた全ての恩恵を失うという事でもある。
勝てば死ぬ。元の世界になどどうあがいても帰れやしない。
だが、命懸けで勝利を取りにいけない者にtanasinnは倒せない。
負けそうになったらまたtanasinnに頼って生き延びる――そんな甘えを選んで繋いできた命を清算する時が、今だ。
.
――選択が真実を作り出す。選択があらゆる欺瞞を真実に塗り替える。
どんな正義を掲げようと、選択から逃げる者に真実は語れない。
どんな悪逆を働く者であろうと、その姿が自身の選択の結果であるならそれは真実だ。
善悪より先に、人は己の真偽を問わねばならない。
自分がどういう真実に基づいた人間なのか自覚しなければならない。
それが善悪を語る上での必須条件であり、また資格でもある。
何も選ばず生きてきた人間達は決して己を語らない――何故か。
他者が選択を前にして進むべき道を迷っている時、彼らは己の停滞を肯定する為に他者の迷いを嘲笑う――何故か。
――それは自分が本物にならない為。真実を語る側にならない為だ。
力無き偽物達はいざ自分に出番が来たとしても、自分が何も選べず前に進めない事を分かっている。
彼らはそれを恐れ自覚しているからこそ、選択の最中にある者達をより長く迷わせようとする。
そうして自分の出番を遅らせてないと、彼ら腰抜けは一人残らず死んでしまうのである。
(;'A`)「……ったく、なんで追いかけてきたんだよ。
そしたら何も知らずにずっとここに居られたのによ……」
( ゚д゚ )「そう言うなよ。お前の帰りを待ってる奴だって居るだろ。……数人なら」
(;'A`)「数人って、……確かに数人だろうけどさ……」
だが、もう迷いはない。ドクオを迷わせるものはひとつの言葉に集約されていた。
それは人々が『力』と呼ぶもの――あるいは『意思』、あるいは『記憶』、あるいは『未来』、あるいは『愛』。
陳腐で子供らしい原動力で一歩を踏み出す。その在り方が滑稽で無様で、バカな男だと吐き捨てられたって構わない。
その道を選ばせた『なにか』は、たとえ選択の末路が破滅であろうと揺るぎなく真実であり続けるのだから――
――なら、満足だ。何も選ばずこの夢を見続けるより、その方がずっと俺らしい。
『理想の正しさ』が夢のような停滞を提示するなら、嘘をついてでもそれを否定するのが俺の決めた在り方だった。
理想の中に自分の居場所が無いなんて分かりきっていた。
夢や希望は誰にとっても常に完璧なものだ。そして、完璧だからこそ夢の中に自分の居場所を用意できない。
居心地は良いが、やっぱりここに俺の居場所は無い――俺は、孤独の傍観者にはなれなかった。
.
('A`)「……結局、お前との勝負もお預けか」
( ゚д゚ )「気にするな。どうせ俺が勝ってた勝負だからな」
('∀`)「ほざけ。タナシン無しでも俺の勝ちだぞ?」
――夢のような綺麗事が剥がれ落ちる。
二人の世界が統一され、景色は黒一色のドブ底に変容していく。
闇の中から、無数の瞳が彼らをじっと見つめていた。
( ゚д゚ )
( -д- )「……ああ、確かめられんのが本当に惜しい……」
天も地もなく蠢く黒い異形物。敷き詰められた無数の目と闇。
なまぬるい何かが流動して薄肌を舐め上げる。
自他の境界は己の意思によってのみ確立し、気を緩めればすぐにtanasinnが流れ込んでくる。
「――っ…※…ぁー」
( ゚д゚ )「……喋ろうとすんな。どうせもう聞き取れん」
目の前にそびえる人ならざるものの集合体。
ドクオだったものの原材料。ドクオと呼ばれたものの、本来あるべき姿がそれだった。
人の姿を形取ろうと必死にかき混ざるそれを、ミルナはしかと双眸で捉える――
.
「――時間が惜しい。さっさと続きやろうぜ」
ふと、そんな生意気な声が聞こえた気がした。
( ゚д゚ )「……お望み通りに」
ミルナは最後にそう答え、そして、ドクオの記憶にここから先の景色は無かった。
.
≪5≫
( 'A`)「――……で、気がついたら俺はここに居た」
ドクオは目前になった図書館を仰ぎながら話を締め括った。
冷え切った街に足跡がふたつ。ドクオは傘を下ろし、ミセリに手渡した。
雪はとっくに止んでいた。街の中にはまた少しずつ人の活気が戻ってきている。
ミセ*゚ー゚)リ「……あの」
なんでもいいから話し出そうと、ミセリは考えに取り留めもつけず口を開いた。
ミセ*゚ー゚)リ「ミルナさんの方は、どうなったんでしょうか……」
('A`)「……知らねえ。死んでるかもしんねえし、生きてるかも」
ドクオは溜息混じりに淡白に答える。
('A`)「ただ、確実にもうこの世界には居ない。
探しまくったけど見つけらんなかった」
ミセ*゚ー゚)リ「……そう、ですか……」
……言葉が続かない。
とどのつまり、彼は本当に欲しかったものを全て切り捨てる事でここに帰って来れたのだ。
選ばない事で手にしてきた夢や希望や心の拠り所も全て、選択の対価として己の手で放棄してきた。
そんな人に掛けるべき言葉が、彼女にはまったく思いつかなかった。
.
ミセ*゚ー゚)リ「……あの」
('A`)「ああ」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「……あなたは、誰ですか……?」
役目を果たし、存在意義も失い、ようやく訪れた夢のような救いすら手放して。
そんな今、彼は果たして何をもって己を定義するのか。
ドクオの内心を気遣わない単なる好奇心に基づいた質問を、彼女は無意識の内に問い掛けていた。
('A`)「……tanasinnと五分五分だな。
元がおんなじだから分けて考える必要もねえんだけど」
('A`)「まぁ、少なくとも今は俺で居られてる。ここが正気かは分からねえが」
彼は自分の頭を指して嘲笑した。
('A`)「……けど、メシの時みたいに自制が効かなくなる事もあってな。
とりあえず自制が効くようになるまでは帰って来れなかったんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「……なら素直クールと同じですね」
思ったことをそのまま告げる。
するとドクオは一瞬頬を緩ませた後、
( 'A`)「……そうだな」
無表情に、とても幸せそうに答えていた。
.
ミセ*゚ー゚)リ「……ふぅ……」
ミセ;^ー^)リ「……いやー、それ、そうとう危ない存在じゃないです?」
緊張に疲れたミセリは居直り、腰に手を当てて姿勢を崩した。
呆れるような素振りを見せ、ドクオの反応を窺う。
('A`)「けどまぁ荒巻も分かってるみたいだし、いざとなりゃ誰かが俺を殺すだけだ」
ミセ;゚ー゚)リ「……それ、同じことの繰り返しじゃないですよね」
ドクオを殺せば現状tanasinnの中核となっているものが失われ、また先日のような事件が起きても不思議ではない。
今度は本当に顔付きに頼らざるを得なくなるかも知れないし、誰も何もせずこの世が消えて無くなるかも知れない。
だったら最善策は現状維持。
素直クールのように破綻するまで、ドクオ一人に全人類の義務と責任を背負ってもらうだけだ。
けっきょく、ただ順番が一つ回っただけ。
tanasinnがドクオという素直クールより強固で安全な外殻を得たというだけで、状況は以前と何も変わっていないのだ。
――ドクオが、このまま終わるなら。
.
ミセ*゚ー゚)リ「で、どっちの世界を潰すんですか? どうせまだなんでしょう?」
('∀`)「……目ざといな」
――ドクオ達が居る世界と、素直クール達が居る新たな世界。
それら二つは決して同在する事はできず、いずれ『tanasinn』がその本来の機能としてどちらかの世界を食い潰すはずだった。
だが、tanasinnと同化しながら明確な意思を保持する『ドクオ』にはどっちの世界をブチ壊すかの選択権がある。
もちろん何も選ばず、tanasinnの破壊衝動にドクオが耐え続ける事で短期間なら二つの世界を保てるかも知れない。
そうしてとりあえず何も変わらない状況を獲得し、いつかとても都合よく世界が動いて全部解決するのを待ってもいい。
……けれど、ドクオは『世界』や『他人』という単位が何の役にも立たない事を知っていた。
誰も彼女を救おうとしなかった。誰も何もしなかった。
今の彼らとはまったく無関係のところで、奴らは今も文句を言いながら楽しく無責任な日々を送っている。
人にリスクを負わせるくせになんのツケも払わない俺以下のクズ。
必要のないものを無尽蔵に生み出しているくせに、そんなゴミを他人に押し付けて自分だけ楽に生きているクズ。
ドクオにとって自分以外の誰かとはそういう存在だった。
期待するだけ無駄、守る価値もない死んでた方がマシな迷惑な存在。
――ああ、今も昔と同じようにそう思えていれば、どれだけ楽だったか。
自分以外の人間がこんなにも軽く、呆気なく、どうでもよく、そして簡単に手が届く存在だと気付かなければ、俺は――
.
ミセ*゚ー゚)リ「私はどっちでもいいですよ? なんなら手も貸しますし」 テクテク
ミセリはドクオの周囲を歩き回り、迷うフリをしている彼に羨望の眼差しを向けていた。
――自由に道を選べるなんて、なんて甘やかされた人なんでしょう。
元のミセリが、心の中で呟いている。
('A`)「……居心地の良い、夢だったんだ」
('A`)「けどな、ありゃ夢だ。ただの――」
ドクオはそこで言葉を止め、乱雑に頭をかいた。
語るべき言葉などない。夢を躙ると決めた瞬間、全ての言葉は意味を失っている。
('A`)「……もう行く。お前もどっか行け」
ミセ*゚ー゚)リ「……帰ってきますか?」
('A`)「……多分な。よほど心変わりしねえ限り」
ミセ*゚ー゚)リ「……自分で出来ますか? 自分の夢を壊すなんて」
('A`)「そうか? こんなん誰でもやってるだろ」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*´ー`)リ「……ですね。夢を見るより、現実見てる方が楽ですから」
('A`)「……エクスト達によろしく言っといてくれ。歓迎してくれてありがとな」
そう言い残し、ドクオはミセリに一瞥もくれず歩き出した。
ミセ*゚ー゚)リ「いってらっしゃい。ドクオさん、思ってたよりマシな人でしたよ」
(;'A`)「……そうかよ……」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。私が私じゃなければ、きっと本当に貴方を好きになってたと思います」
ミセリもまた、彼の後を追おうとはしなかった。
小さく丸まった背中を見つめて手を振り、どうせ振り返らないと分かっていながら笑顔で彼を見送っている。
.
――図書館の扉が音を立てて開く。
ドクオはやはり振り返らず、そのまま中に入っていった。
ミセ*゚ー゚)リ「……馬鹿な人。言えば普通に貸してたのに……」 クルッ
ミセリは雪道に残されたドクオの足跡を少し辿ってから、軽やかに踵を返して帰路についた。
しかし、彼女が帰ろうとしている家はこの街のものではない。
たかが一人の男のために限りある時間を無駄にして待ち惚けるほど、ミセリは素直な性格をしていなかった。
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第三十六話 「THANATOS -IF I CAN'T BE YOURS-」
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おつおつ
乙
毎度みてるけど487~493あたりの地の分やっぱめっちゃ好き
もくじ >>2
第三十二話 Remnants(クズ、余り物、残されし者達) >>3-133
第三十三話 星の終着点 >>147-264
第三十四話 “Seven Solitude Times”(前編) >>280-339
第三十五話 〃 (後編) >>350-408
第三十六話 THANATOS -IF I CAN'T BE YOURS- >>435-501
実を言うと撃鉄はもうおわりです。
突然こんなこと言ってごめんね。
でも本当です。次回第三部エピローグです('A`)
今週金曜日にものすごく赤い朝焼けがあります。
それが投下の合図です。
程なく50レスくらいの投下が来るのでよろしくお願いします('A`)
支援ありがとうございました('A`)
今週金曜か待ってるわ
やだぁぁぁ!!!
改変コピペか
よさこい
朝焼けが投下の合図って言ってた気がするが気のせいかなぁ?
曇りだから…
こちらは午前4時のラスベガスです 日本時間の22時に始めます
時差の五分や十分など
――図書館の中を、記憶を頼りに進んでいく。
国立というだけあって中はかなり広かったが、ドクオが知っている道はひとつだけ。
それにいざ迷った時の為にも目的地の名前も覚えておいた――彼は今、地下の書籍保管庫に向かっていた。
地下へと続く階段を下りる。こつ、こつ、と靴底が鳴る音に耳を傾ける。
手持ち無沙汰を紛らわそうと階段の手摺に刻まれたイタズラ書きを目で追う。
「61」。「We Have Head」。「fack」。「←oh miss spell」。「Angels」。「fuck」。「on High」。
色んな人が好き放題に書き残したラクガキに文脈など無い。しかしドクオは鼻で笑い、ほんの少し足取りを軽くした。
.
('A`)「……ここか?」
ふと、階段から覗く廊下を一望して足を止める。
廊下に出て左右を見通してみると、奥の方にくたびれたピンク色の扉が見えた。
ドクオはそこへ行き、扉を静かに押し開けた。
('A`)
――ここで間違いない、と室内を見て確信する。
保管庫とは名ばかりのきらびやかな空間。
少し視線を持ち上げると、電球色を放つ巨大なシャンデリアが彼の目を眩ませた。
ドクオは目を細めながら保管庫に立ち入る。
壁沿いに設けられた長い階段を下っていくと、ようやく保管庫らしい背高の本棚が現れた。
('A`)「……」
本棚に挟まれた道を進む。ここからだと天井が高い。見上げると目眩がするようだった。
左右にそびえ立つ黒色の本棚に大した量の書籍は保管されていない。
容量に対してあまりにも少なすぎる物量。
横倒しになった本には薄く埃が被っており、ここが保管庫としての役割を果たせているとは到底思えなかった。
( ・∀・)「――荒巻は、周到だな」
そのとき、棚の陰から一人の男が歩み出てきた。
彼は得意気な笑みを浮かべてドクオを見定めてから、手近にあった木製の脚立に腰を下ろした。
.
( ・∀・)「いや、まさか、本当に俺の出番が来るとは思っていなくてな。
出迎えが遅れて悪かった。自己紹介は必要か?」
('A`)「……神様だろ。デルタさんに負けたっていう」
( ・∀・)「イエス」
('A`)「……」
( ・∀・)「……なんだ、そこはキリストと返せよ。無愛想なヤツだな」
( ・∀・)「しかし答えはノー。俺はあいつの代理で別人。まぁ確かに神はデルタに負けたが。
俺の人間としての名前はモララー。大天使の異名もあるが、さておき」
モララーは居直って足を組み、膝の上に頬杖をついた。
( ・∀・)「まずはおめでとう。tanasinnを統べる者になった感想は?」
('A`)「……別になにも。生きる感慨なら元々なかったし」
( ・∀・)「けっこう。で、どちらの世界を切り捨てるんだ?」
('A`)「そりゃあ向こうの世界だよ」
( ・∀・)「理由を聞こうか」
('A`)「……多数決、あと消去法」
それを聞いたモララーは数度手を叩き、ドクオの選択を慎ましく賞賛した。
( ・∀・)「素晴らしい。悪魔の代弁者は死をもって議論に決着をもたらす。
この世の中、捨て駒ほど綺麗に精巧に作り込まれるものだ」
('A`)「イエス」
( ・∀・)
( ・∀・)「……キリスト。お前、俺に言わせたな?」
('A`)「一回くらい冷やかしとこうと思って」
( ・∀・)「しかし安易に少数派を気取らないのは良しとする。
いい歳こいてカタカナで自己紹介するヤツは痛々しくて見てられんからな」
.
( ・∀・)「さて、向こうの世界に行くならあっちだ」
モララーはあっちを向いてドクオをけしかける。
( ・∀・)「いやー安心したよ。こっちを壊すと言われたら俺が戦うしかなかったからな」
神話が増えるとこだったぞ、と冗談めいて付け加えるモララー。
しかし彼の言っていることもまた事実で、こっちを壊そうものならドクオは多くの強敵達と戦わねばならなかった。
モララー、荒巻、デルタ、顔付き、その他大勢の敵――
――tanasinnはもはや無限ではない。
大部分をミルナに削り取られ、今はドクオの内部に保護されているに過ぎない。
こういう時、tanasinnは生存本能に従い何らかの世界を食べて機能を取り戻してきた。
だが今回はミルナが居た為にそれも出来ず、弱ったところで全体の主導権をドクオに奪われてしまったのだ。
かくしてtanasinnは弱体化したままドクオという外殻に囚われ、受動的に外殻が壊れるのを待つしかない状態に陥っている。
('A`)「……その前にひとつ聞いていいか?」
( ・∀・)「なんなりと言ってみろ。俺は神だ」
(;'A`)(代理のくせに……)
モララーの偉そうな口振りに眉をすぼめるドクオ。
ここに留まって会話をする意思表示として、ドクオも近くの本棚にもたれて腕を組んだ。
('A`)「……俺とあんた、戦ったらどっちが勝つ」
( ・∀・)「……ふむ、そりゃあ十中八九俺だろうだな。
そもそも俺は神だぞ? tanasinnより上だからな」
('A`)「……ならなんでずっと干渉してこなかった。
お前が動けばもっと拗れずに済んでたろ、色々」
( ・∀・)「それはそうだが、あれが人間と同じなんだよ。いや理不尽に聞こえるのは分かる。
だが、やはりあれは、お前達と同じものなんだ」
モララーは重ねて強く言い切る。
.
( ・∀・)「あれは世界を食って世界を作るだけの代物だ。
人間には迷惑な話だろうが、むしろ、あれは、人類の進化の象徴でもある」
モララーは瞳を輝かせ、じっと一点を見つめながら続けた。
( ・∀・)「あれは等価交換によって人類の可能性を効率よく試行しているに過ぎん。
海のものが陸に上がったように、翼があっても飛ばない鳥が生まれたように」
( ・∀・)「まぁ確かにあれは厄介だ。唐突に世界を滅ぼすんだから当然だ。
だが、こちらとしては起こっている現象が“進化”だけなら問題無い。
人類の歴史は淘汰と渇望の歴史。あれが引き起こす現象など所詮はリカバリだ。止める程ではない」
('A`)「その為に、多くの人が死んでいてもか」
( ・∀・)「……人類史は今のところ最長記録を更新中だ。
結果的に、そう。結果的には、人類はより良い方向に進んでいると言える」
('A`)
('A`)「……さすがは神様。現実的だな」
( ・∀・)「そうでもない、俺は人類を代表するロマンチストだよ。
夢と現実を切り分けるのはお前達の悪い癖だ。他人に自分の夢を叶えさせ、楽をしようとする」
( ・∀・)「俺からすれば、自分の夢を叶えようともせず、自他問わず最小限の現実を消費して生き続けている、お前達の方がリアリストに見えるけどな」
「――失礼、私も混ぜてもらっていいかな」
とたん、静かな声が会話に割り込んできた。
ドクオは目だけで声の主を見遣り、そのロングコートの男が帽子を取る様子を眺めた。
.
( `ー´)「……初めまして。まさか、神に会えるとは」
顔付きは帽子を胸に当てて笑みをこぼした。敵意を隠すための笑顔だった。
( ・∀・)「……呼んだのか?」
('A`)「ああ。ミセリのケータイ借りてな」
ドクオはポケットから携帯電話のストラップを零して見せる。
( `ー´)「ああ、ミセリならさっきウチに帰ってきたよ。
記憶を完全に取り戻して、今は凄まじく悶え苦しんでいる」
(;'A`)「……なんだ、副作用か?」
( `ー´)「君に対して抱いた好意が、元の彼女には死ぬほど恥ずかしいものだったらしい」
(;-A-)「……悪い。帰ったら謝っといてくれ」
( `ー´)「了承した」
.
( ・∀・)「――で、雁首揃えてお茶会をする訳でもあるまい?」
モララーは立ち上がって本棚を見上げる。
赤い仕切りのある最上段、420番目の本がモララーの手に降ってきた。
( `ー´)「……用件は」
('A`)「……あっちに別世界があるんだ」
ドクオはあっちを指差して続ける。
('A`)「あれを全部、お前に内包してもらいたいんだ」
( `ー´)「……なんだと?」
淡々としたドクオの発言に、無言で立ち尽くす顔付き。
彼は言葉の意味を慎重に推敲してから、溜息を漏らしてぎゅうと眉間を摘んだ。
(; `ー´)「いや待て、待てよ……いくらなんでも突拍子が無さすぎるだろう……」
('A`)「このまま二つの世界を維持しようとすると俺が大変なんだよ。
tanasinnの本能なのか知らねえけど、破壊衝動みたいなのを抑えなきゃいけなくてさ……」
(; `ー´)「……話は聞く。だから、とりあえず情報交換をさせてくれ――――」
.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( `ー´)「……現状、tanasinnは君と同化・内包されている。
しかしtanasinnは回復の為に世界を食おうとしていて、君は今もその衝動を抑えていると」
('A`)
( `ー´)「……で、君は次に、自分が素直クールのように耐えられなくなった場合のリスクを考えた。
結果、君は先んじて、自分の意思でどちらかの世界を壊そうとしている」
( `ー´)「さらに結論として、向こう側の世界を犠牲にする所までは確定している、と……」
( 'A`)「――そこでお前の内包だ。お前の能力で、向こうの世界を丸ごと助けてくれ」
結論を急くドクオをよそに、ネーノは顎をさすり、ゆっくり思案しながら呟いた。
( `ー´)「なるほど。前回途中で切り上げた取引の続きというわけか……」
('A`)「……そうだ。代わりにtanasinn倒してきたお礼として引き受けてもらえねぇかな。
tanasinnは落ち着いた、無駄に人も死なない、俺もあんたも楽できる最高の折半案だと思うんだけど……」
.
( ・∀・)「――待て待て。それを実行したとしても、tanasinnの食欲は抑えられんだろう?」
本を読んでいたモララーが視線を上げて指摘する。
( ・∀・)「結局、腹を満たせる食料としてこちらの世界が残るんだぞ。
ならtanasinnはこっちの世界を食うだけだ。違うか?」
(;'A`)「それは、そうだけど……」
ドクオの提案は確かに合理的だったが、やはり根本的な部分の解決には至っていない。
特に、向こうの世界を守ろうとする部分の根拠が希薄だった。
( ・∀・)「そうだ、むしろtanasinnがまた暴走した時の“保険”として取っておくのはどうだろうか?
どうせあちらは紛い物の世界。急いで食う必要も、手厚く保護する価値も無いと思うがな」
(;'A`)「……できれば守りたいんだ。俺にとっては夢でも、向こうにとっては現実の世界だろ」
( ・∀・)
(;'A`)「俺は神じゃない。俺の個人的な理由だけで、普通に生きてる何十億の人を殺すことは出来ない……」
( ・∀・)「――だが、どちらの世界を潰すかと問われた時、それでもお前は迷いなく向こうを選ぶ。
お前は己の矛盾を自覚したまま正義を成す。結果的に、より正しい方を選ぶ」
(;'A`)「……ああ、そうだ。だから顔付きを呼んだ。
こいつの能力があれば両取り出来る。話を持ち掛ける価値は十分ある」
( `ー´)
( ・∀・)「……だ、そうだ」
モララーは軽くそう言ってバトンを渡し、再び本の世界に埋没していった。
.
(;'A`)「……」
( `ー´)「……取引には応じよう。
だが、こちらから新たに条件を付け加えたい」
モララーの追及に虚勢を露わにしてしまったドクオ。
そこにつけ入るように、顔付きは語気を強める。
( `ー´)「君に、人工片鱗の被験体になってもらいたい。
先日この街からデータを盗み出してね、研究してる真っ最中なんだ」
(;'A`)「……」
( `ー´)「……tanasinnが君にもたらす飢えは、もしかしたら人工片鱗で満たせるかも知れない。
話を聞いてたった今思いついた事なんだが、成功すれば問題は根本から解決する」
( `ー´)「君が作った世界は、私が内包する。君は、人工片鱗でtanasinnの飢えを満たす。
安定化にはもちろん時間が掛かるだろうが、試す価値はあると思う」
('A`)「クーは人工片鱗のせいでおかしくなったんだぞ。
それをまた、俺にやってもいいのかよ……」
( `ー´)「危険は承知の上だ。当然そうならないよう努力もする。
内藤のような悪意をもった人間はウチには居ない。安心してくれ……と言っても、研究成果の保証は出来ないが」
('A`)「……いや、そこはお互い様だ。
お互い抱えてる爆弾、持ってる武器が普通じゃないからな」
( `ー´)「フ……私は武器としては銃にも劣る代物だ。
負け惜しみついでに人工片鱗に手を出してみたが、怪我の功名くらいは拾えそうだ……」
.
ドクオは顔付きに歩み寄って片手を差し出した。
顔付きはその手を取って立ち上がり、そのまま少し握手を続けた。
('A`)「なあ、人工片鱗ってのはもう完成してるのか?」
( `ー´)「……それなんだが、まだ試作品すら出来ていないんだ。
見栄を切った手前申し訳ないが、しばらく時間をくれないか」
( 'A`)「ああいや、その方が俺も都合が良い」
顔付きの手を離し、ドクオはふとあっちの世界に続く扉に目を向けた。
( `ー´)「……行くのか?」
( 'A`)「一応な。様子だけ見てくるつもりだ」
( `ー´)「……止めるべくもない」
顔付きは踵を返した。
( `ー´)「人工片鱗が完成したらまた来る。それまでに未練は断っておいてくれ」
('A`)「ああ。急に呼んで悪かった、また頼む」
言葉の末尾を言った時、顔付きは既にここから姿を消していた。
.
――これで、選択をする者としての義務は果たせただろうか。
自己完結した身勝手な選択を、他人に押し付けずに済んだだろうか。
('A`)
その自問に答える前に、ドクオは、向こうの世界へと続く扉に足を踏み入れていた。
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('A`)は撃鉄のようです
第三部 荒野(あらの)の果てに
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( A`)「――――――――」
扉の中は、黒いキャンパスに白い爪痕がめちゃくちゃに刻まれたような空間になっていた。
そこらじゅうが白く傷つけられた場所を進んでいくと、遠くの方に小さな黒い影が現れた。
誰かが膝をついている。
ドクオが名も呼ばずに遠くから声を掛けると、その影は僅かに振り向き、倒れながら光になって散っていった。
影は、勝ち誇るように笑っていたような気がする。
やがて、ドクオの前に次なる扉が現れた。
別世界から持ってきたかのように老朽した鉄扉。
古ぼけた大きな閂が一つあるだけの、もはや何の意味も成さないただの置物。
それを力尽くで押し開けて、ドクオは――――
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エピローグ 「君へ向かう光」
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≪1≫
――午前七時頃、エクストプラズマンは開店前の花屋にやってきていた。
貯蔵庫から持ってきた野菜をたんまり積み上げた荷馬車を表に停めて、エクストは花屋の二階に向けて大声を放った。
<_プー゚)フ「おおーい! もう朝だぞー!」
間もなく、建物の中から忙しない足音が聞こえてきた。
聞き慣れた喧騒。エクストは頭を振り、やっと出てきたぼさぼさ頭の少年に冷ややかな視線を送った。
(;'A`)「――わりぃエクスト! 寝てた! すまん!」
<_プー゚)フ「そりゃそうだろ。まぁ俺はいいからさっさと顔洗ってこいよ。
どうせ俺より兄貴のがイラついてるしな。ちゃんと兄貴に謝れよ?」
('A`;)三 「分かってるっての!」 ダダダダッ!!
(゜д゜;@ 「……あいつ、まーた寝坊したのかい」
屋内に駆け込んでいった少年を傍目に、花屋の店主が呆れた様子でそう呟く。
彼女は店先の花に水をやりつつ、特別な今日という日の空を見上げた。
<_プー゚)フ「ワイズマンの店はもう満員だ。
あいつ、昼にはビールが枯れるって焦ってたぜ」
(-д- @「……ったく、どいつもこいつも浮かれてんじゃないよ……」
空には飛行船を模したアドバルーンが飛び交っている。
街の至るところから、飲んだくれ達の大合唱が響いてくる。
普段は地味なレンガ造りの街は、一日限りの装飾で色鮮やかに彩られていた。
――今日は、戦後ニ回目の終戦記念日。
徴兵から帰ってきた少年達を含めて初めて行われる、国のあげての祭日であった。
.
/ ,' 3 「〜♪」
喧騒に満ちた街を離れていく荷馬車。
手綱を握る老人は鼻歌交じりに自然を眺め、変わり映えしない平和にやれやれと頭を振る。
/ ,' 3 「どうかね。あんたも起きて、周りを見てみたら」
老人は荷台を振り返ってそう言った。
干し草とカゴに入った野菜を積んだ荷台には、道すがら拾った若人も眠りこけていた。
「……いや、もう見飽きちまったから、いいんだ」
/ ,' 3 「……そうだな。確かにこれは見飽きる。
そういうワシはもう七十年見続けてきた。早く酒場でも建たんものかね……」
老人は心にもないケチをつけると、唖でつんぼではないと分かった若人に次の話題を振った。
/ ,' 3 「あんたどこから来た? 見ないなりだが、海の向こうか?」
「……そんなとこだな」
/ ,' 3 「ほお、最近は新世界からも移住が増えていると聞くが、その一人だったか」
「新世界?」
/ ,' 3 「ああそうだ。……違うのか?」
若人は老人の言葉に虚をつかれ、堪えきれなかった分の笑い声を大空に放った。
.
/ ,' 3 「……変なヤツだ。祭りに行かず、あんな誰も居ない山に行きたがるとこもな」
「ああ、悪かったって」
笑い終えた若人は体を起こして老人の隣に行った。
そこでじっと老人の顔を見つめ、また少し笑みをこぼす。
/ ,' 3 「……私の顔に、なにかついているかね?」
「ああいや、知り合いに似てたもんでつい……」
/ ,' 3
/ ,' 3 「いい加減気付け、同一人物だ」
――瞬間、老人の雰囲気に殺意が混じった。
若人は咄嗟に身構えたが、とたん、老人は仕返しと言わんばかりに大声で笑って見せた。
/ ,' 3 「よせよせ! 冗談だよ! いやしかし、本当に私に似てるヤツが居るらしいな」
/ ,' 3 「会ってみたいものだ、こんな偏屈ジジイに似ているならなっ!」
「……まあ、機会があれば会えるだろうよ……」
あの性悪ジジイとよく似ている、と若人は顔を引きつらせながら思っていた。
.
――この世界は平和だったし、なんの意味もなかった。
/ ,' 3 「……何度も言うがな、もう誰も住んでおらんぞ」
「……いいんだ。確かめに行くだけだから」
若人はある女性を探していた。
最初は素直クールという名前を頼りにしていたが、何年探しても同姓同名の人物すら見つけられなかった。
彼女はこの世界では別の名前だったらしい。
そう思い至ってから、男は次に自分と似た顔の男を探し始めた。
すると程々に当てが出てきた。しかし行先にはヒキニートの根暗童貞が居るばかりで、当然のように彼女は居なかった。
.
しかしある日、男は捜索の過程でひとつの切欠に出会った。
これまで通り自分と似た男。そいつに長い黒髪の女を尋ねてみると、相手は知らないと答えてからこう言ったのだ。
【+ 】ゞ゚;)「もしかして、もう亡くなってるんじゃ……」
――それが、当たりだった。
その後、若人は世界各地で死亡届を漁り続けて、その中にようやくお目当ての名前を探し当てた。
素直クール。そして彼女と同姓を得た、ドクオという男の名前を。
とはいえ見つけても大した感動はなかった。
本当ならパッと行って帰る旅だったのに、気付けばとっくに数年が経過していた。そりゃ感動も薄れる。
彼女らの名前を見つけたとき最初に出てきたのは長い溜息で、その次に出たのは「やっと見つけた」という疲れきった声。
ただとにかく物理的に疲れた。見つけた日の晩、彼はしこたま酒を飲んで寝た。
結果、彼の長旅はなんとも呆気ない形で着地して幕を下ろしていた。
そして同時に、彼は自分の愚直さを笑わずにはいられなかった。
この世界に来ればまた彼女に会える。
そんなことを無意識に夢見ていたのだと自覚して、くだらねえと自分自身に吐き捨てる。
――ともかく、あとは二人が普通に死んでいる事を確かめて終わりだ。
若人はそう自分に言い聞かせて、馬車を引く馬っころを恨めしそうな目で見つめた。
.
程なく、老人は山へと続く森の前で馬を止めた。
/ ,' 3 「……この森を抜けなさい。すると小さな荒野に出る。
むかしはそこに大きな畑があってな、彼女達はそこに――」
「ありがとよ」
若人は話の途中で馬車を飛び降り、早足で森に入っていった。
/ ,' 3 「あ、おい……」
彼の後ろ姿を口を開けたまま見送った老人は、その姿が見えなくなった頃合いで口を閉じ、長く唸った。
/ ,' 3 「……まったく、帰りを待つ気はなかったのだがな……」
黙って置き去りにはできんだろうが。
老人はくぐもった声でそう呟いて、暇になったので馬に干し草をやり始めた。
≪2≫
――鬱蒼とした森を進む。
空に蓋をする木々。森中が風にざわめいている。
一歩進むごとに乖離する現実。ここは夢だ。若人は自分に言い聞かせる。
「……おお……」
森を抜けると、老人の言ったとおり小さな荒野に出た。
そしてその中心には小さな小屋があった。古ぼけて、今にも崩れそうな廃屋だった。
しかし庭先にはこじんまりした畑があり、何種類かの野菜が今でもそこに実っていた。
廃屋をよく見ると小屋の窓は綺麗に掃除されていて、窓から中を覗くと暖炉の火が見えた。
「……誰か居るのか?」
独り言のような、誰かへ向けたような言葉を漏らしながら廃屋の扉を開ける。
ぎぃ、と音が鳴って、すこし埃が舞い上がった。
「…………」
廃屋の中は、見慣れた景色だった。
遥か遠くのとある世界で、彼はこれと同じ場所で暮らしていた。
たとえそれが誰かに与えられた幸福な記憶だったとしても、彼はこの場所をよく覚えていた。
その時、室内のテーブルにあった紙切れが風に吹かれて床に落ちた。
気になった若人はその紙を拾い上げ、そこに書かれていたメモを流し読んだ。
紙切れの裏側には、見覚えのある筆跡で 「嘘つきのままで居させてくれてありがとう。全部夢でも、私は幸せでした。」 と書かれていた。
「けっ……んだよ、幸せ自慢しやがって……」
――若人が郷愁を帯びた微笑みを浮かべた、その時。
彼の背後には、凄まじい闘気を放つ影が忍び寄っていた――
.
≡(# ゚ω゚)⊃「てやー!」 ダダダダッ!!
つ
――ブーン登場!! 詳しくは後述!!
「なッ、なんだてめえッ!?」
(# `ω´)「ブーンはブーンだお!! 死ねぇぇぇぇぇ!!」 ゲシゲシ
荒れ狂うローキック! 回り込んでパンチ!
ブーンの凄まじいコンビネーション・ラッシュがドクオの腰下を執拗に打撲する!
(# ^ω^)「死ね不審者! この不束者!」
「……あー……」
――しかし、ブーンの身長はドクオの腰にも届いていなかった。
要はクソガキである。
若人はブーンのへなちょこパンチを膝で受け、その足の爪先でブーンの胴体を軽く小突いた。
(; ´ω`)「ウワーーーーーー!!」 ゴロゴロゴロゴロ
「……んだよ、こいつ……」
大袈裟に外まで吹っ飛んでいったブーンを、若人はだるそうに追いかける。
.
(# ^ω^)「出てけお! このチンコ! ここはブーンの家なんだお!」
「……まぁ落ち着けって。手品見してやるから」
( ^ω^)
( ^ω^)「ほんとかお?」
「あ、いや……できねえけど……」
( ^ω^)
(# ゚ω゚)「さっさと出てけお!!」 ドゴッ
適当な扱いにキレたブーンは、最後にスペシャルパンチをお見舞いして一人廃屋に逃げ帰ってしまった。
もう少し様子を見ておきたかった若人は渋々また玄関に立ち、ブーンに話し掛けるのだった。
.
「おいなァ、ここに誰か住んでなかったか」
ちょっと間を置いてから郵便受けが開き、ブーンが少し顔を見せる。
( ^ω^)「ブーンが住んでるお」
それだけ言ってカシャッ、と音を立てて閉まる郵便受け。
若人は面倒だなと思った。
「お前じゃなくてさ……素直クールとドクオってんだけど、もう居ねぇのか」
( ^ω^)「……二人の知り合いかお?」 ギィー…
今度は玄関の方が少し開く。
若人はすかさず足を突っ込んでこじ開けようかと思ったが、多分もっと面倒になるので止めた。
「そうそう。ほら俺、ドクオと顔が似てるだろ? 遠い兄弟でな」
( ^ω^)
(# ^ω^)「嘘だお! いま思いついた子供騙し感がすごいお!」 バタン!!
ガチャガチャと鍵が閉まる。
完全にさっきの嘘を根に持たれている。因果応報だった。
.
「じゃあどうしろってんだよ……俺は、あの二人がどうなったか知りたいだけだ」
「……二人は死んだお。お墓はあっち」
困り果てた調子で若人が言うと、ブーンもまたふてくされた声でそう答えた。
郵便受けからブーンの手が出てきて、小さな手が“あっち”を指差す。
「……ありがとな。済んだら声かけるよ」
そう言い、若人は手持ちの硬貨を何枚か郵便受けに入れていった。
.
≪3≫
ブーンの指した方向――森に戻り、若人は草がはげて出来た道を進んでいった。
やがて、少し開けた場所に出る。
そこには大きな木が一本生えていて、まばゆい程の木漏れ日がそこに差し込んでいた。
( A`)「……」
巨木の根本にぽつんと二つ、木片で組まれたガタガタの十字架が見えた。
若人は十字架の前まで行って足を止めた。二つある十字架の片方には、青い宝石のペンダントが引っ掛けてあった。
( A`)「……どうだったよ、死ぬまで醒めない夢の世界は」
独り言を漏らして、若人は鼻で笑う。
( A`)「……楽しかったか? 分かんねえけどよ、なんか大変だったりしたか?」
( A`)「どうせまた人に迷惑掛けたんだろ……」
( A`)「ヤな事もあっただろうし……ああ、でもお前が居たから、まぁ大丈夫なのか……」
.
若人はペンダントが掛けられている方の十字架を一瞥した。
(; A`)「……はあ。お前ら、死んでも俺を鬱にさせやがるのな。
後を追ってもラブラブなお前らが居るだけだし……なんつう徹底的な失恋だよクソッタレ……」
膝を折ってたっぷりと嘆息を吐き出す。ここに眠っている二人はただのバカップルだ。
それも筋金入りのバカとバカ。絶対に合わないはずのソリを力技で合わせた真性のバカだ。
若人には、それが少し羨ましく思えた。
( A`)「……死ぬほど辛くて、生きることも迷って、でも今度はずっと嘘をつけたんだよな」
( A`)「普通に死ぬまでずっとさ……なら、そりゃあ本物と大差ねえよな……」
若人は何も飾られていない方の十字架を軽くさすって微笑んだ。
( A`)「まあ、お前がここで幸せじゃなかったとしても、俺はお前の嘘を見逃すって決めちまったからな……」
――若人が郷愁を帯びた微笑みを浮かべた、その時。
≡(# ゚ω゚)⊃「ウオオオオオオオ!」 ダダダダッ!!
つ
Σ(; A゚)「またてめえかよ!!」
ブーン登場!! 詳細は次のレスで!!
.
突然やってきたブーンはドクオにローキックをかましてから、彼に不格好な花束を突きつけた。
とても店で繕ったようには見えない雑な仕上がり。
というか根っこまで残ってて泥だらけで種類もまばらで、その辺の雑草かき集めてきました感が凄かった。
(# ^ω^)「花!! 墓に行くなら気を遣えお!!」
( A`)「……あいつは、この花が好きだったのか?」
若人はそれを受け取って二つの十字架の間に置いて瞑目した。
形式的な黙祷。それが済むと、ようやくブーンが質問に答えてくれた。
( ^ω^)「知らんお。山に生えてたやつ適当にぶっこ抜いてきたお」
(; A`)「……適当かよ……」
( ^ω^)「気持ちが大事だお」
ブーンはそう言って花束に駆け寄り、束になっているそれを解いてバラバラにした。
そして事もあろうに、ブーンは一本一本にした大きな花を次々と地面にぶっ刺していった。
(; A`)「お前、なにやってんだ……?」
( ^ω^)「横にしとくと風で飛んでっちゃうお」 ブスッ ブスッ
(; A`)「いやでも雰囲気、……いや、まあ、いっか……」
最終的に、二十本くらいの花が地面にぶっ刺さった。
小学生の図画工作みたいな絵面が完成していた。
.
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( ^ω^)「……そんであんた誰だお。ここにはブーンしか居ないお」
ブーンは十字架の前に座り込んでいた。
動く理由もないので、若人の方もリラックスしてその隣に座っている。
( ^ω^)「お金なら街のパン屋に預けてあるからそっち行ってくれお」
( A`)「……なんだ、お前一人で暮らしてんのか」
( ^ω^)「そうだお。体目当てならタマ潰される覚悟してから掛かってこいお」
(; A`)「……お前、あの二人と一緒に暮らしてたのか? どういう関係だ?」
( ^ω^)「……」
ブーンは体操座りになって顔をうずめ、それからぽつぽつと話し始めた。
( ^ω^)「ブーンは……小さい時に拾われたんだお。
ブーンは悪い大人から生まれたらしいけど、それ以上は知らないお」
( A`)「……へえ……」
( ^ω^)「んで気付いたらクーのおっぱい吸ってたお」
Σ(; A゚)「おっぱ――!?」
( ^ω^)「嘘だお。でも物心ついたときには二人と一緒だったお」
(; A`)
(; A`)「なんだ、嘘か」
( ^ω^)「おっおっおっ」
.
( A`)「……二人は、その……どんなだった」
( ^ω^)「ふつーだお。つまんないくらい普通。
何もない生活だったお。たぶん誰が見てもつまんなさそうな生活をしてたお」
( A`)「幸せそうだったか?」
( ^ω^)「分かんないお……」
( ^ω^)「でもブーンは幸せだったし、二人もよくエッチしてたお」
( A`)
Σ(; A゚)「エッ――!?!?!?」 ガバッッッッ!!!!!!!
( ^ω^)「嘘だお」
(; ∀`) ホッ…
( ^ω^)「半分は」
(; A゚)
.
(; A`)「……まあ、お前みたいなのが居るなら退屈はしなかったろうな」
( ^ω^)「どういう意味だお。つーかあんた誰だお、いい加減答えるお」
( A`)「俺か? 俺は……そうだな……」
若人はなんか面白いこと言えねえかなと考えてから、反応の良さそうなヤツを口にした。
( ∀`)「――俺は、この世界を終わらせにきた悪魔だ」
( ^ω^)
( ^ω^)「いってえ野郎だお」
( A`)
そこまで言わんでも、と若人は心の中で泣いた。
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LOST HEAVEN
https://www.youtube.com/watch?v=OoUiWYWzYI4
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≪4≫
――顔付きとの戦い、あれから五年が経ちました。
彼はいま、山中の小屋に一人で暮らしています。
私は月に一回そこに出張して、彼の健康状態のチェックをして少しだけ会話をします。
そんな生活が始まってもう三年――五年前、彼は帰ってきた途端また姿を消して、それからニ年後、また帰ってきた。
荒巻さんいわく治療を終えてきたらしい彼は、けれど、とても治療を受けたと思えないほど人として壊れていました。
最初はまったく言葉を話せず、こちらからのあらゆる干渉に反射的に攻撃してくるような状態でした。
けれど星が出ている夜の間だけ彼は元に戻ってくれたので、私はその機を逃さず日々の鬱憤を彼にぶつけてきました
人工片鱗の副作用なんて知りません。
こんな面倒事を押し付けられたのだから、むしろこの程度の仕返しは推奨されるべきだと思います。あと給料上げてください。
ξ゚⊿゚)ξ(……これ、報告書になってるわよね……?) カキカキ
.
最近のドクオは、私が言う事じゃないですが、元に戻りつつあります。落ち着いてきた? という感じでしょうか。
部隊長、じゃなくて中隊長……じゃなくて、カンパニー副隊長の彼に言わせれば、ドクオはちょっとくらいキョドってた方が似合ってるらしい。
らしいですけど私は今の方がマシだなと思います。面倒を見ていた側として痛切に。なので仕事に見合う給料をください。
あと、今のがマシという意見はエクストとも同じでしたが、彼はなんだか少し寂しそうに言っていました。
異例の連続昇進でカンパニー全部隊の隊長になったのに頼りない限りです。あれで私より高給なんですか? ふざけないでください。
……そんなこんなで、とりあえず彼は 『ドクオ』 という人格を保持できるだけの状態にまで回復しました。
二種のtanasinnがどこまで彼の心身に影響を及ぼしているかは分かりませんが、多分問題ないと思います。
それにヤバくなったら荒巻さんがブッ殺すらしいので心配ありません。ですよね? 私は早く帰って寝たいです。以上です。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……駄目だな、書く度にどんどん適当になってる」
――私はありのまま書いた報告書を丸めて捨て、一息つこうとインスタントコーヒーを用意した。
カップは二つ、ドクオはまだ起きてこない。昨晩はまたミセリが来ていたようだし、色んな意味で疲れているのはまぁ察しがつく。
ξ;-⊿-)ξ「あー……無感動な労働が辛い……」
私はテーブルの上に体を伸ばした。
窓から見えるクソッタレ大自然の輝きが身を焼くようだ。早く都会に帰りたい。
と、ブウたれてる間にドクオの部屋からアラームが聞こえてきた。
今は午前十一時三十分。スヌーズ機能による、三回目の起床勧告だった。
ξ;-⊿゚)ξ「はいはいはいはい……」
私は二人分のカップを持って立ち上がり、足でドクオの部屋の扉を押し開けた。
.
ξ;゚⊿゚)ξ「……ちょっと、起きなさいよ。
いい加減うるさいんだけど」
カップを部屋の事務机に置いてカーテンを開け放つ。
こっちはリビングよりも更に日当たり抜群だ。降り注ぐ太陽光が部屋中の眠気を吹き飛ばしてくれる。
(; A )「う、ああ……んぅ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「おーきーろ」
(; A`)「んん……ああ、ツン、来てたのか……」
ξ;-⊿゚)ξ「来てたわよ。日付くらい把握しときなさい」
見栄えの悪い顔がベッドから顔を出す。
コーヒーぶっかけてやろうかと思ったが、そこは社会人の嗜みとしてぐっと堪える。
(;'A`)「あー……」
(;'A`)「……いま何時だ」
ξ゚⊿゚)ξ「十一時」
(;'A`)「昼まで寝たい……」
ξ゚⊿゚)ξ「残念、あと三十分でお昼よ。起きないと庭の花にコーヒー撒くからね」
(;'A`)「……お前、恐ろしいな……」
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、掃除するんだからさっさとベッドから出なさい」
(;'A`)「あ、ちょっ……服着るから待っててくれよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「ついでに風呂入ったら?」
(;'A`)「……そうすっか……」 ガバッ
ドクオはそう言って毛布をどかし、パンツ一枚の姿で風呂場に向かった。
滅多に見ない男の裸だが、もうなんか見慣れてしまった。一人の淑女として、私はなにか大事なものを失ってしまったのだ。
.
ξ゚⊿゚)ξ「――ねえドクオ、前持ってきた資料読んでないでしょ?」
ドクオの部屋の洗濯カゴを持ってリビングに戻る。二人分のコーヒーは私がグビッと飲み干した。
浴室から返事は返ってこない。洗濯機は浴室手前の脱衣所にあるので、私は脱衣所に入ってから改めて問い掛けた。
ξ゚⊿゚)ξ「先月机に置いといた封筒、開いてなかったんだけどー?」
わっさわっさと野郎の服を洗濯機に投げ込んでいく私。
こんなんメイドの仕事じゃないのか、別で給料が発生しなきゃやっぱりおかしいと思う。
('A`)「……読んだよ」
数秒後、シャワーの音が止んで浴室からドクオが顔を出す。
水が滴るただのドクオに見所などない。もう見飽きたのである。
ξ゚⊿゚)ξ「……返事は書いた?」
(;'A`)「……簡単に言うなよ。難しい立場なんだよ、俺は」
ξ;゚⊿゚)ξ「そんなん知らないわよ。私だって仕事なんだから急いでよね」
('A`;)「へーへー……」
.
――あの戦いから五年。
顔付き達が主催する 『異能大会』 の開催日は、もう半年後にまで迫っていた。
.
――THIS IS NOT THE END.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)は撃鉄のようです
第四部 Great White Wonder(終わりなき夢)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
YOU WILL SEE THE REAL "Great White Wonder" SOMEDAY! ...maybe
.
もくじ >>2
第三十二話 Remnants(クズ、余り物、残されし者達) >>3-133
第三十三話 星の終着点 >>147-264
第三十四話 “Seven Solitude Times”(前編) >>280-339
第三十五話 〃 (後編) >>350-408
第三十六話 THANATOS -IF I CAN'T BE YOURS- >>435-501
エピローグ 君へ向かう光 >>513-554
ドクオの話はこれにて完結です 来月には過去ログ申請をしようと思います
能力バトルの皮を被った物理ゴリラ達の物語はいかがでしたでしょうか
読まれた方に気に入ってもらえる文を一行でも書けていれば幸いです 以上です
乙
乙
お疲れ!物語のテンポが好きすぎ
乙!
乙
真面目にふざけてる文章が好き好き愛してる
乙!
シリアスな場面でブッ込まれるドクオの脳内に住まうカオスが大好きでした
ある意味で言えば、この主人公にしてこの物語ありと言えるような作品であった
ただ、一個人で言えば、もっと読みたい作品なんだよなあ
なんにせよ乙っした
おつおつ!
やっぱり一つの物語が終わるのは寂しいなあ
またこの世界が見られたらいいなと思います
お疲れ様です!
乙乙
異能大会編を楽しみにしてるチラッチラッ
おつんつん
各キャラに独特の魅力があって最高に楽しめた
一番好きなのはオワタ
乙
読み直してるけど用語とかちゃんと伏線はってあったんだなあ
乙と感想ありがとうございます('A`)過去ログ依頼してきました('A`)
長いあとがきの代わりにレス返しだけ…('A`)
>>555 >>556 >>558
あざす!
>>557
変なテンポだったと思いますが付き合ってくれて感謝です!
>>559
四分の一の好意だけ受け取っておきます!
>>560
シリアス台無しが趣味です!
撃鉄はコブラみたいな奴ばっかりでしたね! あざす!
>>561
スターシステムながらそう言って貰えるのはとても嬉しいです!
いつかシャーマンキングや忍空みたいに続きを書きたいです('A`)
>>562
ありがとうございます!今は一人でギムレットを飲んでください…('A`)
撃鉄はこれで終わりですが、思い出せる程度に覚えてて貰えたらとても嬉しいです('A`)
>>563
ああ、最早なにも言うまい…(迸るは慟哭、流れ出ずるは血涙)
>>564
ありがとうございます! 自分もオワタがお気に入りです! http://i.imgur.com/IFLRGgN.jpg
>>565
分かってくれますか! ありがたい限りです!
深い場所と浅い場所が極端なので色々探してみて下さい('A`)
>>566
死んでもどうせまた回避するんでしょ!?
コラ画像でワロタ
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