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222回目の夏の日

1 名無しさん :2016/08/13(土) 22:21:32 ID:L9WdpvbM0
「夏物語のようです2016」
          参加作品

   _________________
   |三三o三三|
   | August  |
   |       .|
   |   25  .ノ
   |____________〈_|

2 名無しさん :2016/08/13(土) 22:22:51 ID:L9WdpvbM0
ひたすらに歩いていた。
足はがくがく震えている。
もう、一歩だって進めそうにない。

(,;゚Д゚)「すまねえ、ここで」

(*゚ー゚)「いいよ」

背負っていた妹を地面に置いて、俺も横になった。
路線のレールがほどよく冷えている。蒸し暑い夏の夜にはありがたい。

夜空は星でいっぱいだった。

(*゚ー゚)ノシ「綺麗だ!」

妹がはしゃいで叫んでいる。
疲れた耳にやたらと響いた。

3 名無しさん :2016/08/13(土) 22:23:43 ID:L9WdpvbM0
(,,-Д-)「うるさい」

(*゚ー゚)ノシ「だって綺麗なんだもん、ほら!」

(,,゚Д゚)「当たり前だろ、星なんだから」

満天の星。
言葉は知っていたが、実際に目にすると実感が伴う。
天を埋め尽くす星空は、夜を忘れさせるくらい強く明るく輝いて見える。

妹がようやく静かになって、虫の声や、夜の鳥たちの声が微かに聞こえるだけとなった。
人の声や車の音はどこからも聞こえてこない。
随分遠くへ来たものだ。そりゃ、息が荒れもする。

(*゚ー゚)「お母さん、心配しているかな」

妹の声はもうはしゃいでいない。悲しげに落ち着いたトーン。

4 名無しさん :2016/08/13(土) 22:24:42 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「気にすることないさ」

(*゚ー゚)「でも、私たちがいないのを見てびっくりしちゃわないかな」

(,,゚Д゚)「少しはするだろうけど、いいんだ」

(*゚ー゚)「なんで?」

(,,-Д-)「なんでも」

面倒になって、言葉尻が強めになった。
目を閉じて溜息をついたのもつかの間、妹の指が脇腹をついてきた。

(*゚ー゚)「今の言い方、数学のネーヨ先生みたいだよ」

(,,-Д-)「知らねえよ、誰だよそれ」

(*゚ー゚)「例えば、1を3で割ったら三分の一で、3を掛けたら1だよね?」

(,,-Д-)「うん」

(*゚ー゚)「でも1を3で割ったら0.33333333……で、3を掛けたら0.99999999……だよ、って言ったら、『しらねーよ』って」

5 名無しさん :2016/08/13(土) 22:25:41 ID:L9WdpvbM0
思わず笑ってしまったら、妹の指がまた脇腹を襲ってきた。

(*゚ー゚)「ほらまたそうやって嫌な笑い方する! 今度は国語のアヒャ先生みたい」

(,,゚Д゚)「だから知らねえよ、誰だって」

(*゚ー゚)「あのね、あのね。私が音読でつっかえると、アヒャヒャヒャヒャ、って」

妹の話は長く続いた。
学校の記憶が呼び起されて、懐かしくてついつい続いてしまったのだろう。
真っ白くて味気ないパジャマの袖を大きく揺らしていた。

通っていたのは何ヶ月も前のことなのに、それでも学校のことばかり話したがる。
病院は、きっと想像以上に何もない場所なのだろう。

6 名無しさん :2016/08/13(土) 22:26:41 ID:L9WdpvbM0
(*゚ー゚)「ていっ」

今度は妹の膝が俺の脇腹にのしかかってきた。

(,,゚Д゚)「なんだよ今度は」

(*゚ー゚)「お兄ちゃん上の空なんだもの! ちゃんと聞いてよ!」

(,,゚Д゚)「聞いてるよ」

(*゚ー゚)「ほんとに?」

妹の目がじとっと伸びて、顔が俺の腕にすり寄ってくる。

(*゚ー゚)「嘘だったら許さないからね、お兄ちゃんのこと恨むから」

7 名無しさん :2016/08/13(土) 22:27:42 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「信用無いなあ」

(*゚ー゚)「ほんとにほんとなんだから」

しいの足がまた振り下ろされるのを見て、俺は体を捩って避けた。
ぐぬ、と低く呻く声がする。
当たってやっても良かっただろうか。一瞬だけども逡巡した。

でも結局は、鼻で笑った。

穏やかな時間だ。
何もかもがゆっくりと流れている心地がする。

すぐそばに妹がいる。体温を感じる。
少し蒸し暑いけれど、それでもこの夏の日はいつにもまして特別な日だ。

この時間まで、妹の傍にいたのは初めてのことだった。

8 名無しさん :2016/08/13(土) 22:28:41 ID:L9WdpvbM0
(*゚ー゚)「……お兄ちゃん」

(,,゚Д゚)「うん?」

(*゚ー゚)「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよね?」

聞き慣れない問いかけに、俺は思わず妹を見た。
月明かりに照らされているその顔は、青白い。決して光の加減のせいだけではないだろう。

(*゚ー゚)「お兄ちゃんはずっと、私のお兄ちゃんだよね」

どうして気づかなかったんだろう。
妹の声のはじまりと終わりに、吐息が多く混じっている。
声を出すだけの体力も、もう彼女には残っていないらしい。
(,,゚Д゚)「そうだよ」

俺は妹の顔を見つめた。
この夜初めて、ちゃんと見た。

ほかの夜はだいたい、一人で暗闇を見つめていた。

9 名無しさん :2016/08/13(土) 22:29:41 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「俺はお前のお兄ちゃんだ。いつまでも、それは変わらない」

妹の手が俺の腕に絡まった。
離したくない。
そう思っていることが、伝わってくる。

(*゚ー゚)「ずっと?」

(,,゚Д゚)「ああ」

(*-ー-)「ありが……と……」

まるで眠ったかのようだ。
妹の瞼が閉じて、腕の力が弱まって、組まれていた手が解けていった。
穏やかな笑顔が白く固まり、目に見えない何かが確かに消えた。

(,,゚Д゚)「……待ってろよ」

俺は目を閉じた。
夜が終わるのを待った。
虫のさざめきに囲まれながら、穏やかな夜が意識の奥に沈んでいった。

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━━━

10 名無しさん :2016/08/13(土) 22:30:45 ID:L9WdpvbM0
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「目を覚まして」





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━━━━━━━
━━━━━
━━━

11 名無しさん :2016/08/13(土) 22:31:47 ID:L9WdpvbM0
目覚めは蝉の声だ。
気温がうなぎのぼりなものだから、朝の六時前にはもう、にぎやかに鳴り始めている。
下に降りればもう母親が朝ごはんの準備をしてくれていた。
 _、_
( ,_ノ` )「よう、ギコ坊、お出かけかい」

玄関扉を潜り抜けたらお隣の渋澤さんがしゃがれた声で話しかけてきた。

(,,゚Д゚)「はい。晴れてるし、遊びに」
 _、_
( ,_ノ` )「そうかい。最近は物騒だから、一人で出歩かないようにな」

(,,゚Д゚)「はい」

儀礼的に頭を下げる。
同じような言葉を俺は何度も聞いている。
外に出るたびに渋澤さんは必ずその忠告をしてくれるのだ。

自転車に跨って国道沿いの道へ出た。
お盆休みが終わってから、車通りはやや少ない。
それでも太陽は変わらず強くアスファルトを焼いている。

12 名無しさん :2016/08/13(土) 22:32:40 ID:L9WdpvbM0
( ・∀・)「おせーぞこらー」

集合場所にはすでに友達が一人、モララーという、歯医者の息子だ。

(,,゚Д゚)「お前が早いんだ。みんな、まだだろ」

( ・∀・)「ジョルジュは飲み物探してる。あと今日はアサピーも来るって」

(,,゚Д゚)「珍しいな。最近外に出てなかったのに」

( -∀-)「飽きたんじゃないの。さすがに」

どこで覚えたんだか知らないが、モララーは肩を竦めてみせた。なかなか様になっている。

(,,゚Д゚)「他は?」

( ・∀・)「きっと来るって、あ、ほらあれ」

呼び声がして振り向けば、自転車が二台。急ブレーキで駆けつけてくる。

13 名無しさん :2016/08/13(土) 22:33:40 ID:L9WdpvbM0
(*゚∀゚)「ごめーん、待った?」

つー、と俺は口の中だけで言った。

( ・∀・)「いや全然。どしたの、寝坊?」

(*゚∀゚)「起きてたけど、ぼーっとしてたら遅くなっちゃって」

短い髪をなびかせて、俺を振り向きツーが言う。

(*゚∀゚)「よう」

(,,゚Д゚)「……ああ」

おはよう、と続ける前につーがモララーの方を向いた。会話がもう始まっている。
俺は頬のあたりを掻いた。

14 名無しさん :2016/08/13(土) 22:34:40 ID:L9WdpvbM0
(-@∀@)「はい着いたあああ」
  _
(;゚∀゚)「ぬおおおお、俺のがはえええ!」

残り二台の自転車は同時に着いたように見えた。

(-@∀@)「いや勝った。僕の勝ちだね」
  _
(;゚∀゚)「何を言ってやがる。というか俺は先にここに来てたから」

(-@∀@)「ノンノン、それはだめでしょ。離れたんだし。買ってから来ることもできたわけだし」
  _
( ゚∀゚)「ええい、こうなりゃ判定待ちだ。モララー! 俺のが先だよな?」

( ・∀・)「どっちも遅刻だ」

モララーは腕に巻いたGショックの数字を指で突いて二人に見せた。
ジョルジュとアサピーはこれまた同時にがっくりと項垂れた。

15 名無しさん :2016/08/13(土) 22:35:41 ID:L9WdpvbM0
( ・∀・)「さて、それじゃ。まずは点呼。俺モララー」

(,,゚Д゚)「俺はギコ」

(*゚∀゚)「つー」

(-@∀@)「アサピー」
  _
( ゚∀゚)「いつもどおりのジョルジュ様だ」

(-@∀@) ブフッ
  _
( #゚∀゚)「あ、てめえ何ナチュラルに噴き出してやがる」

( ・∀・)「いつもどおり、あと一人だな」

16 名無しさん :2016/08/13(土) 22:36:41 ID:L9WdpvbM0
目的地を見上げてモララーが言う。
ほかのみんなも見上げている。
みな同じ、市立初風中学校二年生の面々だ。

ここは病院の門の前。

( ・∀・)「よしじゃあいくぞ、みんな思い出せよ。恥ずかしがるなよ。うやむやになったら困るからな」

おう、ああ、はいよ、ばらばらの掛け声とともに五人は五角に並び立つ。

( ・∀・)「せーの」



今回はー?



222回目!!

17 名無しさん :2016/08/13(土) 22:37:41 ID:L9WdpvbM0
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2016年8月25日木曜日

俺たちは今日この日を、222回繰り返している。





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18 名無しさん :2016/08/13(土) 22:38:41 ID:L9WdpvbM0
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222回目の夏の日





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19 名無しさん :2016/08/13(土) 22:39:39 ID:L9WdpvbM0
(*゚ー゚)「またみんなで来てくれたの!?」

病室に入って早々に妹のしぃが甲高い声をあげた。

(*゚ー゚)「別に毎日来てくれなくても大丈夫なのに……」

(,,゚Д゚)「気にすることないぞ、しぃ。みんな勝手に来るんだから」

( ・∀・)「そうそう、好きでやってるんだよこっちは」

病室の脇にスツールは二つ。
一つはギコが座っているが、もう一つは空いている。
誰が座るべきか話し合いが何度かあって、結局ギコ以外は座らないことにしていた。
  _
( ゚∀゚)「朝の運動、みたいな、な?」

(*゚∀゚)「恒例行事だしな。ラジオ体操から帰ってきて、よっしゃ行くかーってなるよ」

(*゚ー゚)「すいません、わざわざ」

(*゚∀゚)「謝らんでよろしい」

20 名無しさん :2016/08/13(土) 22:40:41 ID:L9WdpvbM0
つーが前へ出てしぃの頭をそっと撫でた。
しぃは気持ちよさそうに目を閉じる。

しぃが最初に倒れたのは半年前の冬のことだ。
もともと身体が弱かったこともあり、長い入院になると最初から医者には説明されていた。
一学期にはなんとか、という願いも叶わず、夏休みに入ってもしぃはこの部屋の中にいる。

222回の繰り返しの前から、俺たちは毎日集合してここにやってきていた。
俺が毎日お見舞いに行っていたら、あとから友達がついてきたのだ。
別に誘ったわけでもなく、流れるように自然とそうなった。
  _
( ゚∀゚)「ま、たまにはさぼるやつもいたけどな」

ジョルジュが目を細めてアサピーを見つめた。

(-@∀@)「……その話、ここでします?」

アサピーの笑顔がが若干ひきつる。
穏やかだった雰囲気が一瞬張り詰めた。

21 名無しさん :2016/08/13(土) 22:41:47 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「ジョルジュ」

いたたまれなくなって、俺の口が先に動いた。

(,,゚Д゚)「強制しているわけじゃないって、さっきも言っただろ」
  _
( ゚∀゚)「そりゃ、まあな」

(,,゚Д゚)「わかってるなら言うなよ」

ジョルジュの視線が逸れて、その一方でアサピーが小さく頭を下げた。
ごめんな、と目で言っている。

俺が口を開く前に、しぃが「ねえ」と口を出した。

(*゚ー゚)「何のこと? アサピーさんも毎日来ているよね?」

誰も、何も言わなかった。
弛緩しかけた空気が再び緊張する。

22 名無しさん :2016/08/13(土) 22:42:40 ID:L9WdpvbM0
俺はしぃの顔を見られなかった。
壁の時計の音が嫌に痛く耳に届いてきた。

( ・∀・)「そう、だよ。毎日来ていたんだよ。な、アサピー」

(-@∀@)「え、あ、うん」

( ・∀・)まったく、何言ってるんだよジョルジュは」
  _
(;゚∀゚)「えっ」

( ・∀・)「おい」
  _
(;゚∀゚)「あー、うん、そうだな。悪かったよアサピー」

(-@∀@)「いやいや……」

ジョルジュとアサピーがお互いに頭を下げて謝って、それからぎこちなく笑いあった。
モララーが二人の肩を叩いてしぃを振り向く。

23 名無しさん :2016/08/13(土) 22:43:41 ID:L9WdpvbM0
( ・∀・)「しぃちゃん、俺たちそろそろ行くよ。ごめんな」

モララーは顔をしぃに近づけて言う。

(*゚ー゚)「もちろん平気! です。来てくれてありがとうございます!」

しぃが頬を赤らめて、変なところにアクセントを置きながら早口で言った。
モララーがにっと笑って、背筋を伸ばした。

( ・∀・)「よしじゃあ外出るぞ」

おー、と気軽な応答が続き、一人ひとりしぃに手を振って病室を離れていく。
最後に残ったのは俺だ。

(,,゚Д゚) ・・・

(,,゚Д゚)「じゃあ」

24 名無しさん :2016/08/13(土) 22:44:42 ID:L9WdpvbM0
スツールから立ち上がる直前に、しぃが「ねえねえ」と割り込んでくる。

(*゚ー゚)「また明日、モララーさんも来る?」

(,,゚Д゚)「……来るよ」

きっと、というよりも絶対来る。
それが俺たちの間のルール。

(*^ー^)「良かった……」

そのルールをしぃは知らない。
彼女は222回の夏の記憶を一切引き継いでいない。

理由はなんとなくわかっている。

25 名無しさん :2016/08/13(土) 22:50:48 ID:L9WdpvbM0
今日は8月25日。

日付が変わって、8月26日の未明、しぃの容態は急変する。

友達や家族や兄弟の誰に対しても断りなく、死神はしぃの魂を奪い取っていく。



いくら手を尽くそうとしても、その未来は変わらない。



新しい8月25日が来ると、しぃは病室のあのベッドに戻る。

彼女は必ずその死と生を繰り返す。

毎日、毎日。

26 名無しさん :2016/08/13(土) 22:51:45 ID:L9WdpvbM0

  _
( #゚∀゚)「よっしゃアサピー、気張れよこらあ!」

トラック用の大きなタイヤを両手で抱えて、ジョルジュがいきり立ち叫ぶ。
丘の上に立ちながら、丘の下のアサピーに向かって。

(-@∀@)「ちょっと待ってください! まだ準備できてませんよ?」

ドラム缶の二、三本に手を置きながら、アサピーが振り向いて叫んだ。
モララーは首を大きく横に振った。
  _
(#゚∀゚)「転がり落ちきる前に並べろ、そしたら最近のさぼりはチャラにしてやる」

(-@∀@)「んなむちゃな、うわ、ほんとにやりやがった!」

扇形にいくつか足りないドラム缶の間からアサピーは急いで逃げ出した。
タイヤは勢いよく丘を下り、先頭のドラム缶にぶつかって弾け飛んだ。
ドラム缶は後ろにはねて、当たったドラム缶がまた跳ねて、後ろへ後ろへ波及する。
最終的に残ったのは三本。タイヤはもう横に転がっている。

27 名無しさん :2016/08/13(土) 22:52:43 ID:L9WdpvbM0

  _
(#゚∀゚)「もう一回だこらあ!」

(-@∀@)「今度はジョルジュも並べろよ」
  _
( ゚∀゚)「はあ、なんでだよ?」

(-@∀@)「今日遅れた分」

厳正な判定は多数決げ下されていた。
  _
( ゚∀゚)「しゃあねえ、お手本見せてやる」

(-@∀@)「くくく」

いそいそとドラム缶を並べ立てるジョルジュめがけて、丘の上からアサピーがタイヤを三つ構えてにやついている。

28 名無しさん :2016/08/13(土) 22:53:44 ID:L9WdpvbM0
(*゚∀゚)「おうおう、復讐は終わらないねえ」

丘から離れた廃自動車のボンネットに腰かけながらつーはラムネを一本空にしていた。

(*゚∀゚)「あんたも飲む?」

(,,゚Д゚)「要らん」

(*゚∀゚)「せめて見てからいいなよ」

車の扉に寄りかかっていた俺は仕方なく横目で見た。
袋に敷き詰められたラムネの一本をつーが取り出し俺に向けている。

(,,゚Д゚)「要らん」

(*゚∀゚)「あっそ」

ぷしっ、と炭酸の弾ける音とさわやかな香りがその場に漂う。

29 名無しさん :2016/08/13(土) 22:54:45 ID:L9WdpvbM0
( ・∀・)「あ、俺も欲しい」

タイヤの傍に座り込んでいたモララーが片手をつーに伸ばして言った。
「あいよ」とラムネが手渡される。立っている俺の目の前で。

廃工場のすぐ脇の広場。ここにはたくさんのゴミがある。
もう誰にも使われないであろう、鉄くずやゴムや木くずの数々。
海辺ほどではないけれど、木陰が多くて案外涼しい。

離れたところでジョルジュがタイヤに襲われているのを眺めながら、ラムネをちびちび飲んでいく。

(,,゚Д゚)「モララー、なんか面白い話無いか? 沖縄旅行帰りだったろお前」

( -∀-)「だいたい出尽くしているからねえ、この環境じゃ」
  _
( ゚∀゚)「ビーチにいたおねーちゃんの話また聞きたいです!」

( -∀-)「それはたぶん三十回目くらいだなあ」

30 名無しさん :2016/08/13(土) 22:55:44 ID:L9WdpvbM0
ジョルジュがドラム缶遊びを放置してやってくる。
丘の上のアサピーが憮然として座り込んでいた。

(-@∀@)「片づけろよー」
  _
( ゚∀゚)「片づけたら許してやる」

(-@∀@)「お前ほんとそればっか」
  _
( ゚∀゚)「ささ、モララーさん今日はどんな話を」

( ・∀・)「そうだな、本島にいた子たちはだいたい話したし、今度は離島で見かけた――」

(,,゚Д゚)「俺、手伝うよ」

モララーの話声から離れて丘の土を踏みしめて歩いた。
アサピーは頂上にやってきたギコを力なく見上げた。

31 名無しさん :2016/08/13(土) 22:56:46 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「お疲れだな」

(-@∀@)「ジョルジュの相手は疲れるよ。面白いけども」

俺はアサピーの横に座った。
丘の下で、モララーとジョルジュが額を合わせるくらい傍で話あっている。
ボンネットに横たわったつーが時折横やりを入れているようだ。

(-@∀@)「このループ、いつまで続くと思う」

遊んでいた時とはちがう、低い声色でアサピーが訊いた。

(,,゚Д゚)「さあてね、いつまでだろう」

(-@∀@)「こうなった理由とか、わかっているか?」

俺は黙って地面を見つめた。
アサピーの声がまだ聞こえてくる。

32 名無しさん :2016/08/13(土) 22:57:45 ID:L9WdpvbM0
(-@∀@)「正直、悪いとは思っていないよ」

(,,゚Д゚)「なんだよ急に」

(-@∀@)「思っているだろう? 俺のこと、薄情な奴だって」

否定はできなかった。
暑い陽射しがこのときばかりは遠のいて感ぜられる。

(-@∀@)「無駄だと思うんだよ、俺は。今も変わらず」

(,,゚Д゚)「そうか」

言いたいことはわかった。

だから俺はアサピーに手をかざした。

33 名無しさん :2016/08/13(土) 22:58:47 ID:L9WdpvbM0
(-@∀@)「また明日も続ける気かい?」

最後にアサピーはしたり顔をした。

知らん、と答えた。

返事はない。
届いたのかもわからない。

目の前にはもう誰もいない。

( ・∀・)「おいギコ、そんなところで一人で何やっているんだよ」

(,,゚Д゚)「ああ……」

じっとりと汗を掻いている自分に気づいて、慌てて服の裾で拭いた。

(,,゚Д゚)「今降りる」
  _
( ゚∀゚)「面白いところだぜ、こっから」

( ・∀・)「ハードル無駄に上げるなよ」

ケタケタ笑う二人に向かって俺はゆっくり歩き進めていった。

34 名無しさん :2016/08/13(土) 22:59:45 ID:L9WdpvbM0

  _
( ゚∀゚)「そっちいたぞそっち!」

青く生い茂る木立の向こうをジョルジュが慌てて指し示す。

(,,゚Д゚)「どこだよ」
  _
( ゚∀゚)「目の前の樹のどこかだよ。割と下の方飛んでったって」

(,,゚Д゚)「種類は」
  _
( ゚∀゚)「ミヤマ、ヒラタ、オオクワガタ?」

( ・∀・)「お前それ知ってるクワガタ言ってるだけだろ」

(*゚∀゚)「これでカナブンだったら容赦しないよ」

クヌギの梢が風に揺れている。
日は少し傾いて、だんだん影が色濃くなってきた。
夏の夕方は風が吹く。雲の流れも速いが、今日は雨は降らない。
それもまた決まっていることだ。

35 名無しさん :2016/08/13(土) 23:00:45 ID:L9WdpvbM0

  _
( ゚∀゚)「奥だ、奥行くぞギコ」

(,,゚Д゚)「名指しかよ」
  _
( ゚∀゚)「お前は鼻が利くからな」

(,,゚Д゚)「初耳だよ」
  _
( ゚∀゚)「鼻だって」

(,,゚Д゚)「うるせえ」

ジョルジュが目を輝かせて奥地へと入り込んでいく。
いくら繰り返しているといっても、自然の生き物の動向を逐一把握しているわけではない。
虫捕りは、毎日をやるせなく過ごす俺たちにとってほとんど唯一残された楽しみ方の一つだった。

36 名無しさん :2016/08/13(土) 23:01:40 ID:L9WdpvbM0
( ;・∀・)「うわ、毛虫だ」

(*゚∀゚)「何怖がってるんだよ」

( ;・∀・)「いやいや、ほんと無理。ごめん俺深入りしたくないわ」

(*゚∀゚)「じゃあ私はこの辺で探してるから」

行っといで、とつーが手を振るのを尻目に、俺はジョルジュの後をついていった。

森の緑の奥深くに入り込んでいく。

ジョルジュの足取りに迷いはない。
探しているというよりも、どんどん先へと進むことこそ目的であるかのようだ。

(,,゚Д゚)「お前本当にちゃんとクワガタ見たんだろうな」
  _
( ゚∀゚)「堅いこと言うなって。こういうところ歩くのも楽しいだろ?」

(,,゚Д゚)「日が暮れる前に帰るぞ」
  _
( ゚∀゚)「おう」

37 名無しさん :2016/08/13(土) 23:02:44 ID:L9WdpvbM0
ジョルジュとは、小学校の五年生のときから一緒になった。
アサピーと同じころだ。
もともと幼馴染だった俺とモララー、つーの三人のグループに、いつのころからか混ざって遊ぶようになった。
馬が合ったのだ。小学生同士の付き合いに深い理由など要らなかった。
  _
( ゚∀゚)「虫を探すのって、なんかいいだろ。集中している感じで」

(,,゚Д゚)「……なんとなくはわかるけど」
  _
( ゚∀゚)「狩人みたいな感じだな!」

(,,゚Д゚)「せめて虫捕り網でもあれば違うんだろうけどな」

ジョルジュが持っているのは小さなバケツ。これもまたごみの山から見つけたものだ。
小型の虫を捕まえるには不向きで、狙うならいっそ大物狙い。
そんなサイズのクワガタを、見たといってジョルジュは聞かない。

38 名無しさん :2016/08/13(土) 23:03:48 ID:L9WdpvbM0
いつだってジョルジュは、遊ぶことに真剣だった。
勉強なんかよりずっと、生き生きと取り組む。
そんな姿勢は好感が持てた。この環境下でも、その好意は変わらない。

何の代わり映えのない日常を楽しむ術を彼は知っている。
そう、思うようになっていた。
  _
( ゚∀゚)「おっしゃあああ!」

ジョルジュのバケツが地面に振り下ろされる。
黒いちいさな影がそこから抜けて、俺の方に飛んできた。
見れば確かに顎が二本ある。
  _
( ゚∀゚)「ミヤマ? ヒラタ?」

(,,゚Д゚)「さあな!」

勢い込んで腕を振るう。
一応バケツは俺も持っていて、それを使って閉じ込めるつもりでいた。
でも勢いが余ってしまったらしい。

39 名無しさん :2016/08/13(土) 23:04:48 ID:L9WdpvbM0
バケツの端に、微かな鈍い衝撃が走る。

(,,゚Д゚)「あ」
  _
( ゚∀゚)「うわ」

黒い影は地面に横たわった。
クワガタが一匹斃れた。
胴体が綺麗に真っ二つ、種類はよくわからない。
  _
( ゚∀゚)「く……」
  _
( ;∀;)「クワガタぁ」

(,,゚Д゚)「南無三南無三」
  _
( ;∀;)「ちくしょう、こうなりゃ墓を掘るぞ」

(,,゚Д゚)「はあ?」
  _
( ;∀;)「クワガタの墓だこのやろう」

40 名無しさん :2016/08/13(土) 23:05:45 ID:L9WdpvbM0
バケツを使って土を掘る。
虫を捕まえるよりは、いくらか適材適所であって、すぐに数センチの穴が開いた。

足を折りたたんだクワガタの遺体を土の穴の真ん中に乗せる。
小さな体に少しずつ、土をかぶせて隠していった。

(,,゚Д゚)「悪かったよ」
  _
(つ∀゚)「……ああ」

(,,゚Д゚)「泣くなって」
  _
( ゚∀゚)「ああ、ごめん。祈ろうなあ」

南無三、南無三。
意味はよく知らない。
聞いたことはあっても知らないものが世の中にはたくさんあるものだ。
  _
( ゚∀゚)「やれやれ、疲れた」

41 名無しさん :2016/08/13(土) 23:06:43 ID:L9WdpvbM0
土を乗せ終わったジョルジュが、腰を下ろして一息ついた。
クヌギの陰に隠れていて、空気が若干ひんやりしている。
木漏れ日は強いけれど、分散されて、僕らをちくちく射していた。
  _
( ゚∀゚)「なあ、ギコよ。お前虫捕りっていつ以来だよ」

(,,゚Д゚)「しょっちゅうやってるだろ」
  _
( ゚∀゚)「ここに来てからはノーカン、来る前は?」

(,,゚Д゚)「小学校の……低学年かな」

どちらかといえば、田舎の方の街に暮らしている。
さりとて自然が綺麗に残っているわけでもなく、ゴミやら騒音やら伐採やらで、虫の姿は見えなくなった。
カブトムシもクワガタも、森の奥地で引きこもっている。
  _
( ゚∀゚)「楽しいよな、虫捕り。いかにも夏の遊びって感じ」

(,,゚Д゚)「まあな、この時期にしか遊ばないな」
  _
( ゚∀゚)「そうそう、それを堪能できるってのは実に良いことだ」

42 名無しさん :2016/08/13(土) 23:07:44 ID:L9WdpvbM0
ラムネ、とジョルジュが手を伸ばしてくる。
ねえよ、と一言、その手を払った。

(,,゚Д゚)「んじゃあ戻るか」

立ち上がって、土を払い、元来た道を歩みだそうとする。
しかしジョルジュがどういうわけか、まだ動かないでいた。

(,,゚Д゚)「どうしたよ」

ジョルジュはじいっと、木立を見ていた。
黄色味を帯びた木漏れ日が、空から幾筋も降る森の中を。
  _
( ゚∀゚)「堪能……したかよ」

ジョルジュがゆっくり首を俺に向けた。
  _
( ゚∀゚)「一番いい、夏だものな。みんながいて、それなりに元気で、まだ一緒に遊んでいて」

43 名無しさん :2016/08/13(土) 23:08:53 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「……おい」
  _
( ゚∀゚)「お前が何を考えているのか、正確にはわからねえけど、そこのところはよくわかる」

でもさ。
ジョルジュがいったん言葉を切って、それから口元に笑みを浮かべた。
ぎこちない笑い方。
  _
( ゚∀゚)「俺にはやっぱり無理なんだ。しんみりしすぎていてな」

手を振るジョルジュを最後に見た。
手を伸ばした時にはもう遅かった。

木漏れ日の光線はそのまま地面に降り注いでいる。

(,,゚Д゚)「……ジョルジュ」

誰もいない木立の中で、俺はしばらく立ち尽くしていた。

44 名無しさん :2016/08/13(土) 23:09:45 ID:L9WdpvbM0
( ・∀・)「おかえり」

モララーとつーは捨てられた自動車の傍に戻っていた。
つーなんてタイヤに埋もれて寝息を立てている。

( ・∀・)「成果は?」

(,,゚Д゚)「なんも」

( ・∀・)「むなしいねえ」

俺はモララーの隣で座って息をつく。
モララーが持っていた団扇で扇いでくれた。

( ・∀・)「話していなかったこと、思い出したよ」

45 名無しさん :2016/08/13(土) 23:10:45 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「おお、何だ?」

( ・∀・)「宿題」

(,,゚Д゚)「ああ……そういえば」

今の今まで誰もその話をしなかった。

( ・∀・)「どうよギコ、自由研究は?」

(,,゚Д゚)「六年連続アサガオだ」

( ;・∀・)「お前それ注意されないの?」

(,,゚Д゚)「意外と。モララーは?」

( ・∀・)「なんだったっけなー、忘れた。他は何だっけ」

(,,゚Д゚)「読書感想文とか」

46 名無しさん :2016/08/13(土) 23:11:45 ID:L9WdpvbM0
( -∀-)「それは終わった」

(,,゚Д゚)「お前、本好きだもんな。どんな本?」

( -∀-)「時が止まった校舎に閉じ込められて、一人ずつ友達が消えていく話」

(,,゚Д゚)・・・

(,,゚Д゚)「冬の話を夏に読むかね」

( ・∀・)「よくご存じで」

(,,゚Д゚)「前に司書さんに薦められたよ」

( ・∀・)「ああ、俺も」

(,,゚Д゚)「俺まだ読めてないんだけど、どう?」

( ・∀・)「面白かったよ」

(,,゚Д゚)「いや、夏休み終わるのに間に合うかなと」

( ・∀・)「あー、うん……ちょっと頑張らないとキツイかな」

47 名無しさん :2016/08/13(土) 23:12:45 ID:L9WdpvbM0
そっか。
俺の返事が、ヒグラシの鳴き声に紛れていった。

とりとめのない会話が終わって、することもなくぼーっとしていた。
この閉じ込められた222日間、どちらかというと遊ぶよりも、こうして無心でいることの方が多かった。
何をするにしたって、明日が来ないとやる気も起きない。
宿題を忘れていられたのも、きっと時が止まったせい、なのだろうか。

( ・∀・)「ギコ」

(,,-Д-)「……ん?」

微睡かけていた俺にモララーが呼びかけてくる。

( ・∀・)「あんまりしぃちゃんを悲しませるなよ」

モララーは空を見ていた。
赤みを帯び始めた夏の空。東の方に大きな入道雲が聳え立っている。

(,,-Д-)「悲しむ? しぃが?」

( ・∀・)「まあ、わからんけどさ。こういうのあの子好きじゃないだろうとは思う」

48 名無しさん :2016/08/13(土) 23:13:55 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「……こういうの」

( ・∀・)「こういうの」

だから。
そう言いながらモララーは車から離れた。

くるっと振り向くその姿を見て、ギコは初めてモララーが怒っていることに気づいた。
口調に何も変化がなくても、鋭い視線が物語っている。

俺はモララーを怒らせたことがある。
そう遠くない、昔のことだ。

( ・∀・)「しぃちゃんがいなくなって、俺も悲しかったけど、でも後悔ばっかしてても意味ないんだ」

( ・∀・)「普通は明日が来るんだから」

モララーがまた振り返って、俺に背中を見せた。

49 名無しさん :2016/08/13(土) 23:14:51 ID:L9WdpvbM0
( ・∀・)「あとは任せた」

背中を向けたまま手を振った。
あっちの方は、街だったか、山だったか。
考えているうちに、上の空になった。

その隙にモララーはいなくなっていた。

(*-∀-)「ふわあ」

後ろでつーが欠伸をかいた。

(,,゚Д゚)「起きたか」

(*゚∀゚)「うーん、あれ」

つーが当たりを見回す。
ドラム缶、タイヤの山、転がったバケツ、陽射しを跳ね返すボンネット。

(*゚∀゚)「なんだ、ギコ。お前また独りぼっちかよ」

つーはケタケタ小さく笑った。

50 名無しさん :2016/08/13(土) 23:15:48 ID:L9WdpvbM0
その線路はゴミ捨て場の中央を横切っていた。
大昔に使われていた小型の貨物車用の路線だ。

錆びだらけだけれどレールや枕木もしっかり残っている。
踏みしめると、みしりと軋む感触がした。

(*゚∀゚)「よっ、ほっ、は!」

(,,゚Д゚)「あんまり飛び跳ねると怪我するぞ」

(*゚∀゚)「平気平気、器用だから」

(,,゚Д゚)「見えねえ」

つーとは小学校に上がる前からの仲だ。
ずっと昔、どこかの公園で知り合ったと聞かされている。
しぃに対しても、あいつの物心つく前から世話をやいてくれていた。

仲間内では一番長い付き合い。
そして一番つかみどころがない奴。

51 名無しさん :2016/08/13(土) 23:16:44 ID:L9WdpvbM0
(*゚∀゚)「あ、踏み損ね」

つーのつま先が腐った枕木を割る。
いてて、と言いながらくるくる回って、それから俺の隣に並んだ。
線路はまだまだ先に続いている。

(*゚∀゚)「どうしてみんないなくなったんだろうね」

崩すことのない笑顔のまま、つーは言った。

(,,゚Д゚)「……嫌になったんだろうな」

(*゚∀゚)「わかってるんだ」

(,,゚Д゚)「わからないほど馬鹿じゃない」

黄昏時。
次第にお互いの顔もよくわからなくなってくる。

52 名無しさん :2016/08/13(土) 23:17:58 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「お前だってそうだろう」

俺は足を止めた。
半歩進んで、つーが振り向き、小首をかしげた。

(,,゚Д゚)「お前だって、最近はもう来なくなっていた」

(*゚∀゚)「うん」

(,,゚Д゚)「俺のことが嫌になったんだろ?」

口を止めたら黙ってしまいそうだったから、俺は勢い込んで尋ねた。
口の中が渇いていくのを感じる。

(*゚∀゚)「それは、極端すぎるよ」

つーが俺の腕を握り、引く。

53 名無しさん :2016/08/13(土) 23:18:45 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「お、おい」

レールの上につーが乗る。
俺はまた轍の間を歩いている。

(*゚∀゚)「好き嫌いで全部分けるのは良くないよ。みんなだいたいその間だもの」

(,,゚Д゚)「でも、どちらかといえば、ってのがあるだろ」

(*゚∀゚)「そーれーは細かいことだっての。疲れるときくらいあたしにもある」

つーがぐいぐい腕を引き、俺はレールの上に立った。
両足で踏みしめると、細いレールも案外安定した台になる。

(*゚∀゚)「そっちのあたしも、疲れただけだ。ギコを見捨てたわけじゃない」

颶風が俺たちに吹き荒び、二人とも同時にレールから降りた。
太陽がすでに沈み、紫の空が紺色に変わりつつある。

54 名無しさん :2016/08/13(土) 23:19:45 ID:L9WdpvbM0
つーはまっすぐ俺を見ていた。

(*゚∀゚)「あたしはあんたに言っただろ。『目を覚まして』って。他のみんなも同じだよ」

(,,゚Д゚)「そうなのか?」

(*゚∀゚)「そう信じな」

つーの手が離れ、その背中がレールのずっと向こう側へ走っていく。

(*゚∀゚)「早く来いよ。いつかみたいにレールの上でくたばっちゃ浮かばれないぞ」

あまり快くない記憶が呼び起される。
いつだったかの夏のある夜。しぃを連れ出した夜のこと。
みんなが来なかったある夜に、俺はそれを実行し、しぃのひどく苦しむ姿を見た。

あの場にいたのは、俺だけのはず。

55 名無しさん :2016/08/13(土) 23:20:46 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「なんでそれを知ってるんだ」

すると、つーは俺をまっすぐ指さし、微笑んだ。

(*゚∀゚)「そりゃ知ってるさ。あたしはあんたの中のあたしなんだもの」

つーはレールの向こうへ駆けた。
暗がりが彼女を隠す。

続いて俺が森を抜けた。
レールはもう終わっていた。

そこは病院の門の前だ。

(,,゚Д゚)「言うなよな、そういうの」

灰色に聳えるその影を見上げ、溜息を深く夜気に吐いた。

56 名無しさん :2016/08/13(土) 23:31:48 ID:L9WdpvbM0
スライド式の扉を開くと、夜空を見上げていたしぃが俺の方を向いた。

(*゚ー゚)「お兄ちゃん!」

他の病人は誰もいない。
灯りのついていない室内に、月明かりが満ちている。

(,,゚Д゚)「元気か」

(*゚ー゚)「全然。当たり前でしょ」

(,,゚Д゚)「そりゃそうか」

俺がスツールに腰かけると、しぃは身を乗り出してきた。

(*゚ー゚)「今日は随分疲れているね」

(,,゚Д゚)「え?」

(*゚ー゚)「あたしよりお兄ちゃんのが死んじゃいそうだよ」

57 名無しさん :2016/08/13(土) 23:33:37 ID:L9WdpvbM0
しぃは笑ったけれど、俺はどうしても笑えなかった。

(,,゚Д゚)「なあ、しぃ。お前気づいているのか」

(*゚ー゚)「何が? あたしが死ぬこと?」

(,,゚Д゚)「……そう」

(*゚ー゚)「薄々はね。実感はさっぱりだけど」

(*゚ー゚)「というかね、お兄ちゃんが実感してないんだよ」

あたしが死んだことを。
しぃの言葉は俺の耳の深いところで木霊した。

(,,゚Д゚)「唐突過ぎるんだよ」

口を出さずにいられなかった。

58 名無しさん :2016/08/13(土) 23:34:32 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「何でもかんでも、急に病院に行ったと思ったら、あっという間に死んで、帰ってこねえって」

(,,゚Д゚)「口できかされても、頭がついていかなかったんだよ」

それで。

(*゚ー゚)「あたしの夢を見るようになったんだね」

2016年8月25日。
しぃが生きて、俺と会った最後の日。

26日未明にしぃは死んだ。
わけのわからないまま一日が過ぎて、親が葬式の段取りを組んで、俺は部屋に引きこもっていた。
その夜はとても眠れなかった。

翌日、葬式の疲れに引っ張られて俺はようやく夢を見られた。
病室でしぃと会う夢。
次の日も、その次の日も見た。

59 名無しさん :2016/08/13(土) 23:35:52 ID:L9WdpvbM0
8月27日、28日……31日、5日間その夢は続いた。
二学期が始まると学校の連中も夢の中に混じるようになった。
つーやモララー、ジョルジュやアサピー。仲の良かった友達は、みな一様に夢の中で俺と一緒にしぃを見舞った。

9月は30日まであり、夢は途切れなかった。
通算35回だ。
10月には31日、66回。11月は30日、96回。

そのころ、アサピーが俺の傍から離れていった。
相変わらずしぃに固執する俺に嫌気がさしたらしい。
だからあいつは、夢の中にも出てこなくなった。

12月31日までに127回。年が明けて、2017年。それでも俺はしぃの病室から離れられなかった。
三学期になったらジョルジュが別の友達と遊ぶようになった。
俺を嫌うわけではなくとも、悲しげな視線を向けるだけで、俺に近づいてこようとはしなくなった。

60 名無しさん :2016/08/13(土) 23:36:41 ID:L9WdpvbM0
1月は31日まで。158回。

2月の中ごろにモララーと喧嘩した。
引きこもりがちだった俺の家に来て、部屋の前で怒鳴り込んで、とうとう部屋の扉を開けて飛び込んできた。
俺はなすすべもなくあいつの拳を顔で受けた。鉄の味が口の中に溢れた。

そんなんじゃ、しぃちゃんだって浮かばれない。
叫んだあいつの顔面は涙に塗れていた。
あいつがしぃのことを好きだったんだと、俺はそのときようやく気付いた。

そしてモララーが夢に現れなくなり、2月も終わった。
28日までで、186回。

3月1日、187回目。3月2日、188日。
次の日、つーが俺の頬を張った。

目を覚まして。

あいつの笑っていない顔を俺は初めて目にしたと思う。
それからつーの笑顔がうまく思い出せなくなった。

61 名無しさん :2016/08/13(土) 23:37:50 ID:L9WdpvbM0
夢の中には、俺としぃだけになり、俺は街中を探索した。
たとえば線路をずっと二人で歩いて、むざむざ苦しませてしまったり。

そして、今日。

2017年4月5日。

通算、222回目。

(*゚ー゚)「お兄ちゃん、目が覚めたら受験生だね」

(,,゚Д゚)「思い出す気にもなれなかったよ」

(*゚ー゚)「もともと勉強嫌いだもんね」

(,,゚Д゚)「うるせえ」

(*゚ー゚)「えへへ」

62 名無しさん :2016/08/13(土) 23:38:48 ID:L9WdpvbM0
はにかんだしぃの横顔の輪郭が月の光で白く輝く。
あまりにも綺麗で、手を伸ばしても決して届かないと思った。

(*゚ー゚)「でも、みんな今日は来てくれたんだね」

(,,゚Д゚)「ああ」

(*゚ー゚)「どうして来たと思う?」

(,,゚Д゚)「それは……たまたま」

(*゚ー゚)「偶然なんて、無いよ。ここはお兄ちゃんの中だもの」

俺の考えていることが、この夢の中に反映される。
好きも嫌いも安堵も忌避も願望も絶望も。

(*゚ー゚)「お兄ちゃん」

ぞっとするくらい綺麗な顔で、しぃが俺に微笑んだ。

63 名無しさん :2016/08/13(土) 23:40:06 ID:L9WdpvbM0
(*゚ー゚)「何でみんなを夢に見たか、教えてあげようか」

(,,゚Д゚)「……いい」

(*゚ー゚)「お兄ちゃんはみんなを思い出しているんだよ。離れていったことを、そうさせてしまったことを、後悔して」

(,,゚Д゚)「おい、やめろって」

(*゚ー゚)「初めは一緒に遊んでいたけれど、結局はいなくなった。離れていったことをどうしても忘れられなかった」

(,,゚Д゚)「おい」

(*゚ー゚)「そして今ここに来て、あたしと話している。あたしはもう死んだって、受け入れようと」

(#゚Д゚)「やめろ!」

64 名無しさん :2016/08/13(土) 23:40:50 ID:L9WdpvbM0
声が響いた。
そこはもう病室ですらなかった。
真っ白いベッドと、宙に浮いたベッド。あとは何もない。形も色も影も光も。

(,,;Д;)「やめろよ……やめてくれよ……そんなの、悲しいだろうが」

もたれかかるようにして、俺はしぃの身体を抱いた。
あまりにも細い身体に、血の流れている気配はない。
愛おしいはずなのに、触れがたいほど冷たかった。

(* ー )「お兄ちゃん」

顔は見えなかった。
でもたぶん、微笑んでいる気がした。

(* ー )「悪いことじゃないんだよ。悲しみを忘れて、人はようやく前を向けるんだから」

しぃの手が俺の背中を撫でた。
その実感もすぐに薄れた。

65 名無しさん :2016/08/13(土) 23:41:50 ID:L9WdpvbM0
(* ー )「悲しんでいるのは、お兄ちゃん。ここにいるあたしは、お兄ちゃんのイメージするあたし」

(* ー )「あたしはあたしでないけれど、お兄ちゃんにとってのあたしではある」

(* ー )「そんなあたしにできるのは、お兄ちゃんの背中を押すことだけ」

(* ー )「実在に、囚われないで」

しぃの腕が俺から離れた。
ベッドも何も、無くなって、ただ一言。

「目を覚まして」

強い陽射しを瞼の向こう側に感じた。

━━━━━━━━━
━━━━━━━
━━━━━
━━━

66 名無しさん :2016/08/13(土) 23:42:52 ID:L9WdpvbM0

 _、_
( ,_ノ` )「ようギコ坊、お出かけかい」

外に出て早々に、渋澤さんが声を掛けてきた。
庭木の手入れもしていたらしく、ゴム手袋に鋏が握られている。

(,,゚Д゚)「ええ、まあ」

またいつものように忠告が来るのだろう。
そう思って、受け流すつもりで軽く答えた。
 _、_
( ,_ノ` )「最近は」

 _、_
( ,_ノ` )「いい夢見られたかい?」

67 名無しさん :2016/08/13(土) 23:43:55 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「え?」

たたらを踏んで振り返ったら、渋澤さんが顎を撫でていた。
 _、_
( ,_ノ` )「いやね、最近妙な夢を見るんだよ」
 _、_
( ,_ノ` )「病院にいるしぃちゃんに会いに行く君を毎朝見送る夢なんだ」

(,,゚Д゚)「しぃ……ですか」

気を悪くさせたかな?
いえいえ、別に。

足を止めて聞いているうちに、甘い香りが漂ってきた。
少し遅めに咲いた桜が、渋澤さんの軒先にもしずしずと花開いている。
 _、_
( ,_ノ` )「ちょうど学校の始まる時期か。だから俺も、つい思い出してしまうのかもな」

今日、2017年4月6日。
市立初風中学校を含め、この地区の小中高校は概ね同日に新しい年度を始める。

68 名無しさん :2016/08/13(土) 23:44:55 ID:L9WdpvbM0
(,,゚Д゚)「しぃの夢、俺も見ますよ」

おもむろにギコは言った。

(,,゚Д゚)「というか、見てました。昨日も」
 _、_
( ,_ノ` )「それって」

物問いたげな渋澤に、俺は首を横に振った。
頬が若干綻んだ。

(,,゚Д゚)「いい夢だったと思います」

なるべく強く言い切った。

(,,゚Д゚)「それじゃ、俺も始業式なんで」

渋澤さんに手を振って、門から離れる。
数歩進んだところで、渋澤さんがまた、声を掛けてきた。

69 名無しさん :2016/08/13(土) 23:45:57 ID:L9WdpvbM0
 _、_
( ,_ノ` )「今年も遊びに出かけるかい?」

一瞬、頭の中に顔が過る。
この222日の間に離れていった友達の顔。

前はよく遊んでいた。
夢の中ではいつでも遊べる。
これからどうなるかは俺次第だ。

(,,゚Д゚)「頑張ります」

つい口に出たその言葉が渋澤さんに伝わったのか、それはわからない。

渋澤さんは「だったら」と言葉をつづけた。
 _、_
( ,_ノ` )「一人で歩くときは気をつけるんだぞ」

渋澤さんはニッと歯を見せて笑った。
そのままくるりと踵を返し、家の方へと戻っていく。

(,,゚Д゚)「はい」

遠ざかる背中に強めに言って、俺はまた道を歩き始めた。

70 名無しさん :2016/08/13(土) 23:46:57 ID:L9WdpvbM0
222回の夏の日が終わった。
街の桜が葉桜になって、いくつかの雨雲が流れていけば、また次の夏が来る。
遅かれ早かれ、しぃのいない夏の日を歩くことになる。

初風中学校の門をくぐってすぐに、知った顔をいくつか見かけた。

(,,゚Д゚)「よう」

距離はまだ少しあったけど、相手は俺を振り向いた。
怪訝そうで、驚きも少し混ざって、眉をしかめた微妙な表情。

ここからだ。

心の中で覚悟を決めて、俺は一歩前に出た。







222回目の夏の日 完

71 名無しさん :2016/08/13(土) 23:51:03 ID:19sldt5k0
おつ
ギコがんばれ

72 名無しさん :2016/08/20(土) 23:14:54 ID:eE8MBzjM0
今読み終わった、結構胸にくる
乙!

73 名無しさん :2016/08/22(月) 04:26:36 ID:IRuc9P5.0
なるほどなー


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