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(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです
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(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです
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時は夜深。
月さえも疾うに沈み、暗闇を這う虫すらも寝静まった頃に。
俺は息を殺し、木に背中を預けて佇んでいた。
俺は今、森の中に居る。
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所在無く、じっと前方を見ている。
目の前には木々が無造作に所狭しと立ち並んでいる。
それぞれ深く生い茂っており、星の光は地上まで届いていなかった。
俺の背後。そこには幅4メートル程の道が横切っている。
石畳で整備されたようなものではなく、ただ草が刈られた程度の粗雑な道。
俺は道から3、4歩横に入ったところに居る。全身を黒に染め上げたコートを羽織り、同様に黒いフードを被って、夜と同化している。
目を閉じる。俺に入ってくる情報は音が中心となる。
静かだ。
鳥も、虫も、一切鳴いていない。聞こえるのは風で擦れる葉の微かな音くらいだ。
そんな静寂に満ちた森。
その奥から。
土を圧し固め、小石を弾き飛ばす、車輪の音がこちらへ近づいてきた。
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馬車だ。2台いる。
恐らくまだ200メートル程は離れている。
俺は動かない。木の裏に隠れ、目も閉じたまま。
聴覚のみを頼りに馬車との距離を測り続ける。
車輪の音は一定だ。速くもならず、遅くもならず。
すなわちこちらに気付いていない。
馬車との距離、およそ20メートル。
茂みのあちこちで『人の気配』が浮かび上がってくる。
……馬鹿共が。
まだそのタイミングでは無い。人ならまだしも馬に気付かれるとは考えないのか。
しかし、幸いなことに車輪のリズムは変わらなかった。
そして。
馬車は俺の真後ろまで到達した。
その瞬間、道の両端から一本のロープが迫り上がる。
膝上まで張られたロープにつんのめって、馬の足が止まった。
目を開く。
木の陰を離れ、即座に道へ躍り出る。
俺だけではない。周りに潜んでいた十数名も一気に姿を現し、2台の馬車へ向けて我先にと襲いかかる。
前を走っていた馬車から慌てて2人の男が飛び出してきた。手には槍。傭兵だろう。
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俺は腰に備え付けていたナイフを右手で抜き取り、傭兵の元へ駆け寄った───。
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───襲撃開始から1分。
1分もあれば充分だった。
相手の抵抗をすべて潰し終えた今、後はただ奪う。それだけだ。
( ・∀・)「よう、ギコ。そっちはどうだ?」
一人の男が近付いてきて、親しげに俺に話しかける。
男の右腕は返り血で赤く染まっていた。
(,,゚Д゚)「もちろん、1人も逃がしちゃいない」
答えながら、俺は促すように目線を下に向けた。
地面には2人の男が倒れている。うち1人は首から大量の血が溢れている。後の1人の方は、血はもう出尽くして止まりつつある。
( ・∀・)「こっちにもガードがいたが、素人に毛が生えた程度だったな。まるで歯応えがなかった」
(,,゚Д゚)「お前が手を焼く相手なんて、そうそういないだろ。モララー」
俺の言葉に、目の前の男───モララーは本当に嬉しそうに、顔を綻ばせた。
-
( ・∀・)「しかし、今回は楽だった分、実入りは少ないかな……」
モララーは既に馬車の中を確認していたらしい。
傭兵も片付けて、金目のものを探して、それから俺のところにやってきたのか。色々と速い奴だ。
(,,゚Д゚)「馬はどうだ?」
( ・∀・)「そうだな……。見たところ、2頭とも結構年をとっている。あまり高値では売れないだろう」
足止めの際にわざわざ馬を殺さなかったのは、売って稼ぎを上乗せするためだった。
だが、どうやら二束三文で終わるらしい。
(,,゚Д゚)「そうは言ってもしばらくは飲む酒に困らない程度にはあるんだろ? だったら別にいいだろ」
( ・∀・)「使う分には、な。でも俺は金をもっと貯めたいんだよ」
(,,゚Д゚)「そんなに貯めて何に───」
と、俺が言葉を続けようとしたその時、俺たちの間に一人の男がやってきた。
-
「ボス、すんません、ちょっといいっすか?」
( ・∀・)「……なんだ?」
「あ、ハイ。見てもらいたいのがあって」
やって来たのは下っぱの男だ。
その男に軽く睨みを効かせてモララーが答える。
モララーは、俺と話すときと、それ以外の奴と話すときでは態度や口調が違う。
『上に立つ身として舐められないようにするためだ』とモララーは言っているが、
それとは別の、何か感情的な理由があるように俺は思っている。
「このガキなんですが……」
そう言って男が連れてきたのは、まだ10代前半くらいに見える小娘だった。
(*゚ -゚)「……」
その小娘は、俺の胸辺りまでしかない体を更に縮めていた。
顔には生気は無く、じっと何かに耐えるように下を見ている。
目を引いたのは、右の頬。アザのようなものが見えるが、まるで紋様のような不思議な形をしていた。
-
「ほら、この前、掃除係のガキが死んじまったでしょう? だからその代わりにコイツをどうかと思うんですが」
自堕落で荒くれ者しかいない俺たちのアジトには、自発的に掃除をする奴なんか当然いない。
なので『こういう時』に幼い女を捕まえて掃除をさせるようにしている。
幼い女に限定しているのは、それが一番従順に働いてくれるからだ。
「前のガキ、自殺しちまいましたからね。今、アジトも酒の空き瓶で溢れちまって邪魔になってきてるんで……どうすか?」
( ・∀・)「……」
(,,゚Д゚) (ん?)
ふとモララーの顔を見てみると、その小娘の顔を凝視していた。
じっと見て……何かを考えているようにも見える。
「あ、ちょっと年いきすぎてましたか? 前のガキはもっと小さかったですからね。じゃあ……コイツは捨てときますか?」
(*゚ -゚)「……!」
男の言葉を聞いた小娘の顔が強張っていた。
『捨てる』とはすなわち、どういうことをされるのか理解しているのだろう。
-
( ・∀・)「いや、待て。なあギコ、ちょっといいか? お前、このガキの頬の模様って何か見覚えないか?」
モララーが俺に意見を求めてくる。
やはり、何か引っかかるものがあるらしい。
(,,゚Д゚)「いや、知らん。ただのアザじゃねぇのか? まあ確かに、なんか変な形してるが」
( ・∀・)「俺、何処かでこれ、見たような……」
モララーは右の手を顎に添えてしばらく考え込んでいたが、やがて諦めたのか、小娘を連れてきた男に向き直る。
( ・∀・)「オイ、向こうの馬車に女が乗っていただろ。連れてこい。コイツのことを聞く」
「え、連れてくるんすか? もう他の奴がヤってる途中なんじゃないかなぁ……」
モララーが襲撃した方の馬車へ意識を向ける。
馬車の影になっていて見えないが、女の悲鳴と男の下卑た笑い声が聞こえてくる。
-
( ・∀・)「いいから連れてこい。俺がそう言ってんだろうが」
「わ、分かりました。すぐ……」
モララーに睨まれた男は慌てて戻っていった。
どうにも間の抜けてしまった雰囲気に退屈して、俺は大きくあくびをする。
(,,゚Д゚)「おいモララー。俺、先に帰るぞ。眠いんだ」
( ・∀・)「ん? そうか……。まあいい、じゃあまた後でな」
町の方へ帰る間際、横目で小娘の方を見た。
(*゚ -゚)
不安そうな顔だ。しかし、ロクな抵抗もせず、逃げるわけでもなく、ただじっと突っ立っている。
まるで、逃げても無駄だと、既に何もかも諦めたとでも言わんばかりの表情を見て俺は。
(,,゚Д゚) (……まあ、こんな世の中だ。いつ死んでも分からねぇのに、望みは持てないよな)
そう頭の中で思い、その場を後にした。
-
それから俺は森を抜けて、俺達が拠点としている町へ向けて歩いた。
しばらくすると夜が明けて、視界の明度が上昇し始める。
早朝の冷たく澄んだ空気が心地よさをもたらし、仕事を終えた俺を僅かながらも癒してくれた。
更に歩を進め、俺はようやく町へと辿り着いた。
住人は1000人にも満たない小さな町だ。しかし近辺にはこの町しかない為、旅をしている者が中継地点としてよく訪れてくる。
それらを客として、この辺境の町は何とか食いつなぐことができているのだ。
町の中へと歩いていく。
先程の清々しい空気から一変、この町の雰囲気は何処か暗く、重い。
早朝であることを差し置いても、辺りには人が少なく活気が無い。
しかしそれは当然のことだ。
住人は周知しているのだ。
この町を無闇に出歩くことの危険さを。
(,,゚Д゚)「……ん?」
歩いている道の先の方が、何やら騒がしい。
構わず歩き続けていると、4つの人影が確認できた。
恐らく4人とも男で、3人が1人を囲んでいるような状況だった。
-
(;゚Д゚)「げっ……」
そして俺は見つけてしまった。
その囲まれている1人が、どうにも俺の知っている顔だったからだ。
さらに間の悪いことに、俺が見つけたのと同じタイミングで、『奴』は俺に気付いたのだった。
(;´∀`)「あ、ギコさん! おーい、ギコさん!!」
奴はいわゆる祭服に身を包んだ、正真正銘の神父だ。
神父と言えばいつも穏やかな顔をしていそうなイメージがあるが、今の奴は必死な顔で俺に向かって手を振っている。
奴を囲んでいた3人も、当然俺の方を見ていた。
(#゚Д゚)「くそっ、人の名前を大声で呼んでんじゃねーぞ……」
俺は顔を背けてその場を通り過ぎようと思ったが、奴が素早く駆けつけて俺の前に立ち塞がる。
(#゚Д゚)「おい、俺の帰路を邪魔するな。殺すぞ」
(*´∀`)「まあまあまあまあ、私とギコさんの仲じゃないですか。困った友人を助けるモナ。神もそう仰っています」
(#゚Д゚)「いつから俺はお前のダチになったんだよ……!」
-
ニコニコとうざったい笑顔を振りまいて、奴は俺の手を握ってくる。
その力は強く、俺を断固として逃がさない決意を主張するかのようだ。
「オイ、お前、コイツの連れか?」
そんなやり取りを交わしていると、奴を囲んでいた内の1人が俺に近付いてくる。
そいつら3人の見た目は……、まあ、あからさまにチンピラのそれだった。
きっと奴から金でもたかっていたのだろう。
「お、おい、待て! ちょっと待てって!」
すると、俺に近付いてきた男を残りの2人が止めようと駆け寄った。
その2人は先程から青い顔をして、俺の方をチラチラと伺っている。
「さっき、そこの神父が言っていただろ、『ギコ』って! コイツ……あ、いや、この人、『あの』ギコだよ!」
『あの』ギコってなんだよ。
どうも俺の知らない内に、俺の名前は広まってしまっているらしい。それも良くない広まり方を、だ。
-
「バーカ、そんなもんこの神父のハッタリに決まってるだろうが。そんな奴がタイミング良く通りすがる訳ねぇだろ」
ただ、最初に俺に突っ掛かってきた1人は俺を『噂のあのギコ』ではないと考えているようだ。
2人の制止も聞かず、薄ら笑いでその男は更に俺に接近する。
「よお、残念だったな。俺はそんな嘘に引っ掛かるほど馬鹿じゃねえんだよ」
そんなことをのたまいつつ、奴の手は俺の襟首を掴もうと手を伸ばしてきた。
「いや、まずはその噂について詳しく教えてくれ」とでも言いたかったが、そろそろ面倒に思えてきた俺は。
(,,゚Д゚)「……」
その伸ばしてきた手を逆に掴みとり、空いた手でナイフを逆手に持って、目の前を横切るように薙ぎ払った。
-
「あ?」
男の手首は肉と骨が完全に断ち切られ、かろうじて残された皮がブラブラと頼りなく手先と腕を繋いでいた。
男はしばし呆然と、止めどなく溢れている血を見つめていたが、
「あ、ぐ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!!」
まるで急に痛みを思い出したかのように、大声で叫んだ。
青を通り越して白くなった顔をした他の2人は、
「あ、あ、す、すみまっ、スミマセンでしたぁぁっ!!!」
と、いまだ泣き叫んでいる男を掴んで脇目も振らずに逃亡した。
男の流れ出る血が、逃げた後の道に一本の線を作り上げていった。
( ´∀`)「……ギコさん」
3人が逃げて、一息ついたところで奴は俺の前に立ち、神妙な顔つきで告げた。
( ´∀`)「みだりに人を傷つけてはいけませんモナ」
瞬間的にブチ切れた俺は、奴の頭をグーで殴った。
-
(;´∀`)「痛い! 言ったそばから何で殴るモナ!?」
(#゚Д゚)「このクソ神父、俺に助けを求めておきながら説教するか普通?」
( ´∀`)「それについては有難うございます」
深々と頭を下げる。
ここまできっちり礼をされると、罵声をかけにくくなってしまう。
コイツはどうにも行動が読みづらいので、いつもペースを乱されがちだ。
( ´∀`)「でも人殺しは駄目モナ。あと私の名前はクソ神父じゃなくて、モナーです」
(,,゚Д゚)「いや、死んでねぇよ。多分」
先程の男はかなり出血していたが、精々貧血で倒れるくらいで済むだろう。大丈夫大丈夫。運が良ければ問題ない。きっと。
( ´∀`)「うーん、でも今のやり取り、私たちが最初に出会った頃を思い出すモナ……」
(,,゚Д゚) (あ、昔話だ。話長くなりそう。帰ろう)
しかしモナーの手は、未だにガッチリと俺の手を掴んでいる。逃げられねぇ。
( ´∀`)「そう、あれは半年前。やっぱり同じように私は危機に瀕していたモナ……」
-
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「オイ止まれ糞野郎がっ! ブッ殺すぞ!!」
(;´∀`) (と、止まったら殺される! 何がなんでも逃げるモナ! 脱兎のごとく!)
私はこの町を初めて訪れ、そして、ものの5分程度で初対面の男に追われることになりました。
(;´∀`) (何故! 一体何が彼を怒らせる要因になったのでしょうか?
お金を出すように要求してきた彼に対し、ただ私は聖書を差し出し、懐ではなく心を豊かにしましょうと説いただけなのに!)
東へ西へ。
私は慣れぬ町を後のことなど考えず、ただひたすら走り回りました。
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(;´∀`) (私は迷える子羊を救うためにこの町に来たモナ。だけども今は! ああ神よ! 先に私をお救いください!!)
私は目を閉じ手を組んで、神に祈りを捧げました。
ただ、どうにも間が悪いことに、その時私は全力疾走していたのです。
すなわちそれは前方不注意ということになり───。
(;>∀<)「モナァッ!?!」
(,,゚Д゚)「!」
───私はギコさんと盛大に衝突したのでした。
もちろんこの時が初対面であり、ギコさんの名前はまだ知りませんでしたが。
(;´∀`)「ああっ! 済みません、私、前を見ていませんでした! お怪我はありま───」
(#゚Д゚)「痛ってーな……何だお前」
(;´∀`) (ヒィぃっ! また怖そうな人と出会ってしまったモナ!)
よく『犬も歩けば棒に当たる』と言いますが、どうやらこの町では『神父が走ればチンピラに当たる』ようです。
-
とは言え、ぶつかってきたのは私の方なのですから、速やかに謝罪をしなければいけません。
大変失礼をいたしました、と私は切り出そうとしたのですが。
( ´∀`)「モナっ?」
何となく背中に悪寒が走り、私は後ろを振り返りました。
目前に、銀色に光る刃が迫ってきていました。
(;´∀`)「うわわわわ!」
とっさに飛び退くことができたお陰で、幸運にも刃は私の体を傷つけることはありませんでした。
あと1秒でも気付くのが遅れていたら……。想像したくありません。
「チッ」
見ると、私を追いかけてきた男がナイフを握っていました。
私がアクシデントに見舞われている隙に追いつかれていたのです。
男は腰の位置にナイフを構え、私に狙いを定め、再び襲いかかってきました。
-
(;´∀`) (不味い、避け───)
なければ。
そう思った刹那、私の背後には人がいるということを思い出しました。
私がぶつかった相手は、まだそこにいました。
視線はナイフから外せなかったのですが、見なくても気配でわかります。
これだけ緊迫した状況なのに何で佇んでいるの、とも一瞬思いましたが、とにかくまだいるという事実。
私が身を翻せば、誤って後ろの人が刺されるかもしれない。
私は避けることを諦めました。
-
(,,゚Д゚)「動くな」
私の背後にいる人が、そう言いました。
それと同時に私の背後から何かが飛来し、私の頭のすぐそばを通り抜けていきました。
気付けば、私を襲おうとしていた男の喉に、深く深くナイフが突き刺さっていました。
それは男が持っていた物ではありません。私の背後から飛来してきたのはナイフであり、それが男の喉に命中したのです。
男の顔は苦痛に歪んでいました。
手持ちのナイフを落とし、自らの喉に刺さったナイフを両手で持って一気に引き抜きました。
……一番してはいけない行為です。気が動転していたのでしょう。
ナイフを抜いた瞬間に、その穴から大量の血が花火のように四散し、男は前のめりに倒れました。
倒れた後も、まるでポンプ機のように一定の間隔で男は喉から血を吐き出し続けていました。
(;´∀`)「…………」
目の前の光景に私は言葉を失い、ただ見ていることしかできませんでした。
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(,,゚Д゚)「おい、お前」
その声にハッとした私は、恐らくナイフを投げたであろう彼へと向き直りました。
私は心のざわつきを静め、先ほど彼に言えなかった言葉と、そして追加すべき言葉を上乗せして、彼に伝えました。
( ´∀`)「私の不注意でぶつかって済みません。それと、救っていただき感謝します」
(,,゚Д゚)「…………」
彼は呆気にとられたような表情を見せました。
私の発言は予想だにしなかったものであったのでしょう。
彼は暫く何も言えず、言葉を探しているように見えました。
(,,゚Д゚)「何で、避けなかった? お前、わざと避けなかっただろ」
ふと、彼は尋ねてきました。
私が襲い来るナイフをわざと避けなかったことを、彼は見抜いていました。
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( ´∀`)「私が避けていたら、貴方の身に危険が及んでいたかもしれないモナ」
(,,゚Д゚)「俺の身を守るためにか? あのまま刺されていたら、普通にお前死んでたぜ?」
( ´∀`)「あ、それについてはたぶん大丈夫だったモナ」
私は祭服の内側に手を入れ、そこから一冊の分厚い本を取り出し、彼に見せました。
( ´∀`)「これ、聖書です。私の服の内側にはこの聖書がほぼ隙間なく縫いつけられています。
だからナイフで刺されても、まあ致命傷は避けられると思うモナ」
(,,゚Д゚)「それ、そんな風に使っていいのか……? なんつーか、罰当たりじゃ?」
( ´∀`)「私が死んでしまったら、神の素晴らしさを広めるという使命を果たせなくなります。
神は慈愛に満ち溢れておりますから、このくらいは許してくださるモナ」
私の言葉に、彼は納得したようなしてないような、なんとも微妙な表情をしていました。
-
( ´∀`)「そしたら、私からも宜しいモナ? どうして見ず知らずの私を助けたのでしょうか?」
(,,゚Д゚)「助けた? それこそまさか、だ。俺は巻き込まれる前に先手を打っただけだ」
( ´∀`)「先手ですか……。しかし、あの人は貴方に敵対していたわけではないモナ。なのに、殺してしまうのはやりすぎでは?」
(,,゚Д゚)「……」
私の問いかけにより、再びこの場に息苦しい緊張感が漂い始めました。
うかつな発言をしたことに、私は後悔をしていました。
( ´∀`)「……失礼。助けてもらって言うことではなかったモナ」
(,,゚Д゚)「だから、助けてねえ」
彼は前へ歩き出し、私の横までやってきました。
視線は前へ向けたまま、彼は言葉を続けます。
(,,゚Д゚)「お前、この町に来たばっかだろ? この町に暫くいるつもりなら覚えておけ。
ここでは、人の命に価値は無い。力がない奴から順に死ぬだけだ」
彼はそれだけ言うと、そのまま歩き出しました。
彼の言葉を使うなら、この町で生きる彼はきっと力を持つ人なのでしょう。
しかし、そのような自信や傲慢さは、彼の背中からは感じられません。むしろ、哀しさを纏っているような気さえします。
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だからこそ、私は彼に尋ねました。
( ´∀`)「済みません! この近くに教会、あるいは墓地はありますか!?」
(,,゚Д゚)「……は?」
私の声に振り向いた彼は、いよいよもって理解ができないといった顔をしていました。
私は、私に襲いかかり、そして既に絶命してしまった男を、腕を肩に回して引き起こしているところでした。
( ´∀`)「貴方の言いたいことは判りますし、きっとそれがこの町では賢い考え方なのでしょう。
でも私は神に仕える身です。神の前では、人はみな平等であるのです。力を持つ人、持たない人。その両方とも、私は救いたいモナ」
(,,゚Д゚)「……」
彼は私の思いに対し、何も答えることはありませんでした。
それでも、何か思うところはあったようです。彼はただじっと、私の顔を見ていました。
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(,,゚Д゚)「教会は、町の外だ。誰も管理してねえから荒れてるし、遠い。墓場なら町の中にいくつかある」
彼は私の疑問に答え、墓場の位置を教えてくれました。
そしてそれを聞いた私は、とても嬉しくなったのです。
(*´∀`)「有難うございます! あ、そういえば、名前を言ってないモナ! 私はモナーといいます。貴方の名前も教えて下さい!」
(,,゚Д゚)「はあ? ……断る。つーかなんで急に馴れ馴れしいんだ。殺すぞ」
(*´∀`)「じゃあ今度会ったときに教えて下さい!」
(,,゚Д゚)「人の話を───。ああ、いいや。もう会わねえし」
今度こそ彼は振り返ることなく、この場を去っていきました。
-
私はどこかスッキリとした気分になり、遺体の重心のバランスを整えると、力強く歩を進めました。
(*´∀`) (彼は、人の命に価値は無いと言っていたモナ)
(*´∀`) (でも、彼は墓場の場所を淀みなく答えてくれました。本当に価値が無いと考えているのなら、墓場の記憶など曖昧な筈です)
神よ。
私はこの新天地で、貴方の愛を皆に教えていきます。
早速、友人が1人できました。
危険も多そうなこの町ですが、私は頑張っていける気がします。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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( ´∀`)「……それから私たちは会うたびに友情を深め、今となっては唯一無二の親友に───」
(,,゚Д゚)「コイツの腕も切り落とそうかな……。よし、そうしよう」
(;´∀`)「うわっ、なんでナイフ構えてるモナ!? トモダチデスヨ!?」
(,,゚Д゚)「うるせえ。話が長い。ダチでもねえ。殺すぞ」
コイツに捕まるといつも話が長くなってロクなことにならない。
俺はさっさと帰って眠りたいんだ。
( ´∀`)「まあまあ、とにかく助けていただき有難うモナ。流石に3人に囲まれると、自慢の逃げ足も見せ場がなかったモナ」
(,,゚Д゚)「マジでいつか死ぬぞお前」
( ´∀`)「カツアゲはよくされるけど、何だかんだで神の使いを殺そうとする人は少ないモナ。
意外とこんな世の中でも天罰を恐れている人は多いんですね」
(,,゚Д゚)「こんな世の中、ねぇ……」
この町は危険だ。それは間違いない。
じゃあ他の町や都市が安全かと言われれば、決してそうではない。
今、この国は、荒れに荒れているのだ。
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この国は長い間、王による独裁が続いていた。
王は贅沢の限りを尽くしていた。その負担は、当然国民が担っていた。
国民は朝から晩まで働き詰めて、稼いだ金の多くを税金として持っていかれた。
働いても働いても報われることはなく、困窮していく日々。
搾りカスも出なくなった民に対して王が取った行動は、更に税を重くするという悪逆非道の選択であった。
国民の怒りは限界を超えた。
起こるべくして、革命が起きた。
国軍も精鋭の兵士と強力な武器を揃えていたが、革命軍は圧倒的な物量で食らいついた。
一進一退の攻防を続け、双方に甚大な被害を与えた結果、勝利を手にしたのは革命軍であった。
王の一族は女子供も例外なく打ち首にされ、この国は新たな時代を刻むことになった。
しかし、めでたしめでたし、とはいかなかった。
王亡き後、国の政治をどうするのかという問題が残ったのだ。
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民主制───すなわち国会による話し合いで政治を進めるべきだという意見が大多数を占めた。
しかし、この国は今まで王政だった。今日から民主制にします、と言われても不可能だ。
基盤となるシステムが一切構築されていないのだ。
そこで革命軍は、仮の王を立てた。
一気に民主制にするのではなく、王政から少しずつ変えていく事にした。
もうひとつ懸念すべきことがあった。
それは、近隣国に対する防衛についてだ。
この国が革命に成功したことは、既に近隣国に伝わっている。
となると国内が混乱している今、近隣国にとっては侵攻のチャンスだ。
ここで攻め落とされてしまえば折角の革命も水の泡となる。国境に軍隊を配備するのは最優先事項であった。
首都近辺と国境付近に人員が集中された。
その結果、それ以外の地方の町や村の統治は、後回しにされることになった。
放置された町や村には、指導者がいない。
中には住民が自発的に動いた町もあったが、ほとんどは無法地帯と化した。
旧王政から続く貧困と、統治者がいない混乱が合わされば、強奪と傷害がはびこる世の中になるのは必然であった。
-
( ´∀`)「一応、現政府も各地に人材を派遣して、次第に統治されてきているという噂なんですが……。
この町にも早く来てくださると良いですね」
(,,゚Д゚)「……そうなると、俺らみたいなのは追いやられる訳だがな」
モナーはハッとして、ばつの悪そうな顔でこちらを見ている。
別に自分の悪事について悔い改めることは無いが、居心地の悪さを感じた俺は、その場を離れることにした。
帰り際、モナーが俺に声をかけてくる。
( ´∀`)「ギコさん。強奪行為を止めることはできないのですか?」
もう何度目になるかも判らない質問だ。
いつもはわざわざ答えたりしないが、今日は何故だか勝手に口が動いていた。
(,,゚Д゚)「止めて、どうなる? どう生きていく? いつ来るかも判らねぇ政府の人間に希望を持つのか?
そんなもんに俺は期待してない。自分を護れるのは、自分の力だけだ。政府でも神でも無ぇよ」
それ以上はモナーも何も言わなかった。
俺はすっかり眠気が覚めてしまった癖に、今はとにかく眠りたくなって、家路についた。
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俺はモララーが率いている強盗集団のアジトへ帰り、自分の部屋で眠っていた。
3、4時間ほど眠ったのだろうか。俺は扉をノックしてくる音で目を覚ます。
ベッドから起き上がり、扉の方を見ると、部屋に入ってきたのはモララーだった。
( ・∀・)「寝ているところ悪いな」
(,,゚Д゚)「いや、大丈夫だ。それよりどうした? 何だか機嫌が良さそうに見えるが」
(*・∀・)「そう! そうなんだよ聞いてくれギコ! 俺たちは当たりを引いたぞ!」
(,,゚Д゚)「当たり?」
珍しくモララーが興奮している。
どうやら何らかの大物が手に入ったようだが、俺には思い当たる節は無かった。
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( ・∀・)「ほら、居ただろ。顔に紋様があるガキ」
(,,゚Д゚)「あー……。お前が気にしていた奴か。あれがどうかしたのか?」
( ・∀・)「お前が帰ったあと、侍女を締め上げて吐かせたんだがな。あのガキ、とんでもない価値があったんだよ」
(,,゚Д゚)「はあ?」
あの小娘に、価値?
あんな1人では何も出来なさそうなガキに、一体何の価値があるというのか。
( ・∀・)「ギコ、お前、『ストレイキャット族』って聞いたことあるか?」
(,,゚Д゚)「は? ストレイ……? いや、知らねえ」
それから俺は、モララーから『ストレイキャット族』の説明を受けた。
『ストレイキャット族』とは元々どこぞの山奥に住んでいた部族で、外部への接触をほとんど断絶して細々と暮らしていたらしい。
そしてその『ストレイキャット族』には、摩訶不思議な力が備わっているそうだ。
その力とは、『他人に寿命を分け与える』というものだ。
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理屈とかは良く判っていないのだが、その『ストレイキャット族』と共に生活すると、生命力が活性化されることが明らかになっている。
その力は絶大で、瀕死の重病人ですらその恩恵を受けて持ち直すほどだそうだ。
そのような、まさに奇跡の体現者と言ってもよい『ストレイキャット族』が、目をつけられないはずが無かった。
その存在が明らかになると、一族の集落が襲撃され、そのほとんどが捕獲された。
なにせ寿命が延びるというのは、通常どんなに金を積み上げても不可能なことだ。
特に老い先短い富豪の老人どもは、競って『ストレイキャット族』の買収に金を注ぎ込んだ。
それ故にその価値はまさに天井知らず。同じ重さのダイヤモンドよりも高額で取引されるとも噂されているらしい。
(,,゚Д゚)「……なんだ、そのおとぎ話は」
( ・∀・)「ハハッ、まあ言いたいことは判る。俺だって眉唾だと思ってるよ。でも別にその神秘の力が事実かどうかはどうでもいいんだ。
ただ実際の話として、あのガキは膨大な金に変えることが出来るのさ」
(,,゚Д゚)「あれがそのストレイ何とかだっていう証明は?」
( ・∀・)「あの顔の紋様だ。あれは『ストレイキャット族』には皆ついてるもんらしい」
まさかあの小娘が、それほどデタラメな値打ちがあるとは予想もしなかった。
金持ちの思考は理解できないとも、俺は思った。
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(,,゚Д゚)「そんな御大層な割には、あの馬車は金かけられてる訳でもなかったな。傭兵も雑魚だったし」
( ・∀・)「あれ買うのにスッカラカンになったんじゃないかな? まあとにかく超ラッキーだ」
モララーは今にもこの場で踊りだしそうなほど上機嫌だった。
ある日いきなり空から札束が山ほど降ってきたようなものだ。誰だってそうなるだろう。
(,,゚Д゚)「それで、これからどうすんだ?」
( ・∀・)「そうだなぁ。あれだけの大物だから、取引にもそれなりに手間をかけないといけない。しばらくはウチで丁重に扱わないとな」
(,,゚Д゚)「今、小娘は何処に?」
( ・∀・)「地下牢。数人に見張らせている」
(,,゚Д゚)「……大丈夫か? 連れて逃げる奴とか絶対出てくるだろ」
( ・∀・)「もちろんあのガキについては一切説明していない。知ってるのは俺と、今話したお前だけだ。
とりあえず見張っとけとしか言っていないが……。まあ、それでもちょっと不安だな」
モララーは少しの間考える素振りを見せると、俺に頼み事を持ちかけた。
-
( ・∀・)「ギコ。悪いけど、地下牢に行って様子を見てきてくれないか?」
(,,゚Д゚)「別にいいが……、お前は?」
( ・∀・)「俺はこれから信頼できる情報屋のところに行って、取引の斡旋を頼んでくる」
そう言うと、モララーはノブに手を掛けて扉を開き、部屋を後にする。
扉を閉める直前にモララーは一言。
( ・∀・)「下らない事をしてる奴がいたら殺っていいからな」
そう言い残して、去っていった。
(,,゚Д゚)「さて……」
どうにも面倒だが、他にやることがある訳でも無い。
俺は椅子の上に置いてあった読みかけの本と一本の酒瓶を手にして、地下牢へと足を運んだ。
-
階段を降りて地下へと向かう。
(,,゚Д゚) (モララーの話では、数人の見張りがいるってことだが……)
一階から地下へと降りるとき、俺は足音を消してゆっくりと進んだ。
そうすると、地下牢の手前にある控え室、そこにいる複数の男たちの会話が聞き取れた。
俺は一旦その場で止まり、その会話に耳を傾ける。
「それにしても、昨日の女、中々の上玉だったなぁ?」
「おう。二人いたじゃん。どっちが良かった?」
「髪長い方が反応良くて面白かったぜ」
「あー俺もそっちかな。やっぱ夜鷹とはまた違っていいよな。お前はどう?」
「俺か? 俺はな……」
(,,゚Д゚) (───見張りは、3人)
-
ギコは引き続き、会話を聞く。
「俺は、どっちって感じじゃねぇなぁ。両方ともババアだろ」
「おいおい、ありゃまだ20前半ってトコだろ? お前の基準何処にあんだよ?」
「俺はさぁ、ガキの方が燃えるんだよ」
「うわー……。こいつガチだよ、引くわ」
「今、そこの牢に入ってるのなんて、結構タイプなんだよな……」
「お、おい、ちょっと待て。手出しすんのは不味いって」
「ボス直々の命令だぞ? まあ、何でわざわざ牢に入れてるのか判んねぇけどさ」
「大丈夫だろ、ちょっと遊ぶくらいじゃバレねぇって」
(,,゚Д゚) (……行くか)
ギコは再び歩を進め、部屋にいた男達の前に出た。
-
「うおっ!! あ、隊長……」
3人は音もなく急に現れた俺に気付き、一様に驚いた顔を見せた。
「隊長」というのは俺のことだ。ここでのトップはモララーだが、俺はモララーの右腕扱いとして他の輩よりも上の立場にいる。
(,,゚Д゚)「おい、お前」
俺は3人の内の1人の顔を見る。
俺に対する恐れからか、そいつは大量の汗をかいていた。
(,,゚Д゚)「お前に聞きたいことがある。2週間前に自殺した掃除係のガキについてだ」
男の肩が、ビクンと震えた。
ビンゴだな、と俺は思った。
(,,゚Д゚)「俺はその死体を観察した。それは首を吊って死んでいた訳だが、体には幾つかの打撲跡が見られた」
「ち、違う。俺はやってない。つーか、掃除係を殴る奴なんていくらでも───」
(,,゚Д゚)「途中だ。黙って聞け。勿論死因は窒息死だ。殴られて死んだ訳じゃない。ただし、」
(,,゚Д゚)「死ぬ前に何者かに犯された形跡があった」
-
「ち、違う!! 俺じゃな───」
俺は腰のホルダーからナイフを抜き取り、その男の腹に突き入れた。
「うぎっ」
そのまま横に薙ぎつつナイフを抜く。
男の腹からは血と臓物が溢れ、男はその場で膝から崩れ落ちた。。
(,,゚Д゚)「片付けろ」
俺は他の2人に命令する。
2人は一連の出来事を前に固まっていたが、俺が血に濡れたナイフを2人の方に向けると、
まるで電気が流れたように体が跳ね上がり、倒れた男を担ぎ上げてその場を急いで離れた。
片手に持っていた酒と本を一旦テーブルに置き、懐から紙を出して、ナイフの血を拭き取る。
拭き終わったらナイフをホルダーに戻し、再び酒と本を取って牢に続く扉を開けた。
扉の先、牢へと続く廊下はひんやりとしていて、暗い。
備え付けの照明は、電球の寿命が近いのか頻繁に点滅を繰り返す。
俺は更に先に進み、使われていない3つの牢の前を横切り、一番奥の牢の前まで歩を進めた。
-
(*゚ -゚)「っ……」
そこに、あの小娘がいた。
牢内にある古い木製のベッドに腰かけた状態から、俺を見ている。
その目には昨日と同じく、怯えと不安───そして諦めの色が見て取れた。
(,,゚Д゚)「……」
俺は特に声を掛ける訳でもなく、牢の手前にある一人用の机に酒を置いた。
椅子に座り、本を開く。
(,,゚Д゚)「……暗い」
辺りが暗すぎて、本の文字が読みづらい。
机に付けられた簡易照明を点灯させると、少しはマシになった。
俺は酒を手に取り、少し口に含んで、それから本に目を落とした。
薄暗い空間に、ページをめくる音だけが静かに響き続ける。
俺が本を読み始めて5分ほどが経過しただろうか。
(*゚ -゚)「……………………あ、あの…………」
蚊の鳴くような、とはよく言うが、それよりも更に小さい、もはや本当に声を出したのか疑うほど微かに、小娘が声を出した。
-
(,,゚Д゚)「……」
俺は本から目を離し、小娘を見る。
(*゚ -゚)「……………………ぅぅ…………」
俺がじっと見ていても、小娘は何も言わない。
いや、実際には何かを言おうとしているらしいが、踏ん切りがつかないのか、言い出せずにいる。
それどころか次第に泣きそうな顔に変わっている。
そのまま無言の時が流れ、耐えきれなくなったのか、小娘は顔を伏せた。
俺は再度、本を読み始める。
本を読んでいた俺は、俺の方をじっと見つめている視線を感じていた。
と言っても、この空間には俺以外では小娘しかいない訳だから、その視線が何処から来ているのか確認しなくても明らかではあるのだが。
その状態でしばらく待ってみたが、こちらを見ているだけで一向に声を掛けてこない。
何か聞きたいことがあるのは既に判っている。聞いてくれば、最低限の答えは返す気ではいる。
しかし、どんなに待ってもうんともすんとも言いやしない。
-
(,,゚Д゚)「クソ面倒だ」
俺は舌打ちをし、小さく悪態をついた後、読んでいた本を閉じた。
本を机に置き、椅子から立ち上がって牢の前まで大足で近寄った。
小娘は俺の急な行動に驚き、仰け反っている。もちろん逃げることは出来ないが。
(,,゚Д゚)「おい」
(*゚ -゚)「!」
(,,゚Д゚)「何か聞きたいんだろうが。早く言え。殺すぞ」
(*゚ -゚)「!!!」
俺の言葉に恐怖を抱いたのか、小娘は毛布をすっぽりと頭から被ってしまった。少し体が震えている。
いい加減俺の我慢も限界に差し掛かっていたが、このままでは埒が明かないため俺から切り出すことにした。
(,,゚Д゚)「お前が、えーとストレイ、キャット? だかなんだかってのは聞いている」
(*゚ -゚)「!」
やはり『ストレイキャット』の言葉には敏感なのか、毛布から小娘の顔が出てくる。
-
(,,゚Д゚)「安心しろ。お前がそうだって知ってるのは、俺とここのボスだけだ。
まあ既に誰かに知られている以上、後は100人に知られようがお前には大差無いのかもしれんが」
小娘はまた、泣き出しそうな顔になっている。
それでもいよいよ心を決めたのか、声を放ち始める。
(*゚ -゚)「…………ぁ、あ、あの……」
(,,゚Д゚)「話すんならもっとはっきりと声出せ」
(*゚ -゚)「う…………、あ、あの! ……その、わ、私は……、私は、これから、どうなるのでしょう?」
今後小娘をどうするのか。
話してもいいのか少し迷ったが、別に知ったところで逃げることもできないので、話すことにした。
(,,゚Д゚)「もちろん売る。俺はよく知らねぇが、かなりの高値で売れるんだろ?」
(*゚ -゚)「……そう、ですか」
小娘は気が抜けたように、また顔を伏せた。
しかし、ある程度予想はついていたらしい。感情の起伏はあまり無さそうに見えた。
-
(,,゚Д゚)「聞きたいことはそれだけか?」
(*゚ -゚)「……はい」
俺は机の方に戻り、椅子に腰かけると、再び読書に勤しむ。
それにしても、この椅子は安物のようで、ずっと座っていると体のあちこちが痛くなってくる。
俺は先程とは体勢を変えてみることにした。
(*゚ -゚)「あ……」
小娘の方から声が上がる。
何かと思い顔をあげると、こちらを見て少し驚いたような表情をしている。
しかし俺が顔を向けると、慌てて視線を外した。
(,,゚Д゚)「今度は何だ?」
(*゚ -゚)「あ、いえ、その……。その本が……」
(,,゚Д゚)「本?」
その本、とは俺が今暇潰しに読んでいる本のことを指しているのだろう。
(*゚ -゚)「それ……、一昨年ベストセラーになった、ミステリー小説ですよね?」
-
(,,゚Д゚)「ああ、そうだが。これ、読んだことあるのか?」
(*゚ -゚)「あ、はい……」
何となくだが、少し意外だった。
どうも今までの会話といい、『ストレイキャット族』の話といい、この小娘に人間味というものを俺は感じていなかった。
改まってみると当たり前の話なのだが、ちゃんとこいつも本を読んで面白いだのつまらないだの考えるんだな、と思った。
(,,゚Д゚)「そうか……。だが、結末は言うなよ? 俺はまだ途中なんだ」
ちなみに小説の方は、探偵役がとある殺人事件を解決するために様々な視点から調査を進めているところだ。
要するに、話が盛り上がり始めている良いところなのだ。
(*゚ー゚)「……」
(,,゚Д゚)「?」
小娘は俺に返事をしなかったが、何故だか先程よりも表情が和らいでいるように見えた。
その後は特に小娘と話すこともなく、俺は黙々と小説を読み終えて、そのまま地下牢から離れた。
余談だが、ミステリーの謎解きはいまいち納得できなかった。
-
地下牢から出ると、西日が建物全体を赤く照らす時間になっていた。
そろそろモララーも帰ってきているだろうかと思い、俺はモララーの部屋に足を運んだ。
( ・∀・)「お、ギコ。ちょうど良かった。今帰ってきたところなんだ」
俺はモララーに取引の首尾を聞く。
やはりでかい話なので、すんなりとはいけそうにないとのことだった。
もうしばらくはウチに置いておかなければならないだろう。
( ・∀・)「そっちはどうだった? 地下牢に行ったんだろう?」
(,,゚Д゚)「ああ、見張りの奴を1人始末することになった。やっぱ適当な奴に任せると危険だぞ」
( ・∀・)「そうか……。じゃあ、あのガキの世話はお前に一任するよ」
(#゚Д゚)「はあ? おい待て。まさか俺がずっと見張っとけって言うのか?」
( ・∀・)「しょうがねぇだろ? その辺の奴に任せられないって言ったのお前じゃん。俺は交渉とかで色々出なきゃいけないし」
(;゚Д゚)「ぐ……」
( ・∀・)「女に興味ねえお前が適任って訳だ。それともガキだったら興味出るのか?」
(#゚Д゚)「お前マジ殺すぞ」
-
( ・∀・)「冗談だ、怒るなよ。とにかく頼んだぞ」
(,,゚Д゚)「……判った。だが、出来るだけ早く話つけてくれ」
( ・∀・)「善処する。でも一月くらいは覚悟しとけよ」
(,,゚Д゚)「マジか……」
俺はこれから一月もの間、子守りをしないといけないのか。
そう思うと、今晩は深酒になるな、と俺は肩を落とした。
( ・∀・)「いいじゃないか、役得ってやつだよ。なんてったって、あのガキの側にいればいるほど寿命が延びるんだ。
それこそ金持ちが有り金はたいてもお前と代わってほしいだろうよ」
(,,゚Д゚)「……下らねえな。俺は別に長生きしたいとか思ってないんだ」
そう。ただでさえ息苦しいこの世の中で。
何故我慢して生き長らえなければならないんだ。
俺には到底、理解できない。
-
次の日から俺は、小娘の世話をすることになった。
まあ世話と言っても、朝昼晩の食事を持ってくることくらいだ。
もちろん食事は俺が作るわけではなく、町で適当に買ってくる。
始めの内は買い物に行き、帰って食べ物を渡して、その後自分の食事のためにまた外に出る、ということをしていた。
しかし流石に面倒になったので、朝昼は2人分買って地下牢で俺も食事を済ませることにした。
食事以外は、ひたすら牢の前で本を読みふけった。
椅子についてはちょっと値が張るものを新しく買ってきた。お陰で長時間座っていてもそんなに痛くなくなった。
読み終わった本は小娘に渡していた。それくらいの親切心は俺にもある。
2人とも退屈な時間を延々と読書に費やした。会話は全く無かった訳でもない。1日に最低でも1回は話していた。
別に読んだ本の感想を語り合うことはしない。そういうことは俺は嫌いだ。
俺は本を読むとその内容について自己完結し、自分なりの答えを出す。
その答えを他人に否定されたくない。答えが正解か不正解かに興味はない。自分が納得していたらそれでいいと考えている。
だから話の主な内容は、小娘の身の内についてだった。
-
(,,゚Д゚)「───で、お前は各地を転々と連れられていった、って訳か。その都度、主人を代えながら」
(*゚ -゚)「はい……、そうですね。同じ場所に半年いることはありませんでした」
世話をするようになって数日も経つと、小娘の方も慣れてきたようだ。普通に会話は交わせるようになった。
無論まだ遠慮しているところはあるが、なつかれても鬱陶しいだけなので、これくらいでちょうど良かった。
それで、小娘と話していて色々と判ったことがある。
まず一番驚いたのは、小娘の年齢だ。
どう見ても11〜12程度だと思っていたが、実年齢は17とのことだ。
聞くところによると『ストレイキャット族』は、寿命を他人に渡さなければかなりの高齢まで生きることができるらしい。
その分、身体の成長が通常より遅い。俺とあまり変わらない年齢であるということが、まるで信じられない。
(,,゚Д゚)「そしたら、寿命を他人に渡し続けるとどうなる?」
(*゚ -゚)「個人差はありますが、20歳を越えることはほとんど無いと聞いています」
(,,゚Д゚)「……」
つまり、こいつの寿命は3年持てば良い方だということか。
小さい頃から身を売られて、様々な人間に監禁されて、20にも届かずに死ぬ。
そんな人生で、こいつは納得しているのだろうか。そんな悲運から逃げ出したくないのだろうか。
-
(,,゚Д゚)「何で逃げようと思わない?」
(*゚ -゚)「逃げられないです、私の弱い力では。それに、万が一うまく逃げたとしても、また捕まりますから」
要するに、諦めている。
人生を。運命を。未来を。希望を。なにもかも。
でもそれは、仕方のないことだ。
自分の力では抜け出せない。
他人が助けてくれるはずもない。
そういう世の中、だから。
俺だってそう思っている。
この小娘の考え方は、今の世の中では、正しい。
それなのに俺は、この小娘を見ていると、言いようの無い怒りが湧いてくるのだった。
-
小娘の世話を始めて3週間が経つ。
俺は今、アジトから離れ、1人町を歩いていた。
時刻は太陽が西へ向かい出す頃。
普段はこの時間帯だと、牢の前で本を読んでいる。
ただ今日はモララーの提案で牢から離れている。
( ・∀・)「そんなに牢の前にずっといたらストレスたまるだろ? ちょっと散歩にでも出てこいよ」
別に断る理由も無いので町へ繰り出した。
しかし行く宛がない。いつもは酒場で暇を潰したりするが、今は飲む気にならない。
俺はただただ、活気の無い町を歩き続けた。
今朝、モララーは言っていた。
「1週間以内に話がまとまりそうだ」と。
後1週間で小娘は次の主人の元へ行くのだろう。
そしてまた拐われ、連れられて、閉じ込められて、また拐われて。
それだけを繰り返して、そして死ぬ。
-
(,,゚Д゚)「……」
俺が今感じているこの怒りは、何処から来るのだろう?
小娘に情が移ってしまった?
多少はあるかもしれないが、だとしてもここまで憤るのは理由がつかない。
許せない。
そう、許せないのだ。
でも、何が?
自分の感情なのに、判らない。
俺はどうかしてしまったのだろうか?
ただ、目に見えない焦燥感だけが、俺の心に覆い被さっているようだった。
考えれば考えるほど、苛立ちが積み重なる。それは重しとなって、俺の体を底の無い沼に沈めていく。
俺は人に頼らない。
でも自分ではこの苦しみを消すことができない。原因が判らないんだ。
誰でも良いから、俺を掬い上げてくれ───。
-
( ´∀`)「あ、ギコさん。珍しいモナ、こんなところで会うなんて」
(,,゚Д゚)「……」
(;´∀`)「おや? どうして怖い顔して私に近付いて───痛っ! ちょ! 何で急に殴ってくるモナ!? 今日はまだ何もしてないモナ!」
いつもコイツは最悪のタイミングで現れてくるな。
天地が逆さまになろうとも、俺はコイツに救ってもらおうとは思わない。
(,,゚Д゚)「ふう。でも少しスッキリした」
(;´∀`)「人を殴っといてなにスッキリしてるんですか……?
というか少し顔色悪い? 風邪モナ?」
(,,゚Д゚)「いや別に。お前こそ此処で何してたんだ」
改めて周りを見回してみると、いつの間にかアジトからだいぶ離れた場所にいた。
この辺りは店もなく、住宅が密集している地域なので、俺はほとんど足を踏み入れたことがない。
-
( ´∀`)「私はこの辺りに住む子供たちを集めて神の教えを説いていたモナ」
(,,゚Д゚)「洗脳、か」
(;´∀`)「人聞きの悪いこと言わないでください。で、そろそろ帰ろうとしていたモナ」
見ると、何人かの子供がモナーに向かって手を振っていた。
モナーも子供たちに向かって大きく手を振る。
( ´∀`)「また教えに来ますから待ってるモナー」
子供たちは口々に別れの言葉を言うと、それぞれの家へ帰っていった。
( ´∀`)「でも実際のところ、神の言葉はおまけ程度にしか教えてないモナ。この辺りの子たちは学校に通えていないんです。
せめて文字の読み書きくらいは学んでほしいですから、私は定期的にここに来て教えているんです。子供たちの将来の為に」
将来。
その言葉を聞くと、また俺の心は揺さぶられる。
-
(*´∀`)「あ、そうそうギコさん。以前ギコさんに教えていただいた町外の無人の教会なんですが、最近片付け始めたモナ。
そのまま放置するのも忍びないですし。良かったら今度ギコさんも手伝わ───」
(,,゚Д゚)「モナー、聞きたいことがある」
(;´∀`)「───ないですよねぇ……。え、なにモナ?」
(,,゚Д゚)「例えば、病気かなんかで大人になるまで生きられないガキがいたとする。お前はそんな奴にも勉強を教えるのか?」
気がついたら俺はそんなことを口にしていた。
後悔したが、出てしまったものは今さら取り消せない。
(;´∀`)「なんですか唐突に? 病気の子供って何の話モナ?」
(,,゚Д゚)「……いいから答えろ。殺すぞ」
(;´∀`)「いちいち物騒モナ。えーと、そうですね」
-
俺の質問に不思議そうな表情を浮かべるモナーだが、俺が急かしたのでひとしきり考え、答えた。
(;´∀`)「あまり気にしたことありませんが、他の子と接し方は変わらないんじゃないですかね。私は、私がその時したいことをしますよ」
(,,゚Д゚)「……したいことを」
自分がしたいことをする、か。
そうか、それで良かったのだ。
俺も今までそうやって生きてきた。悩むことなんて無かったのかもしれない。
そう考えると、急速に頭の中の霧が晴れてクリアになった、そんな気分になる。
( ´∀`)「あのー、結局なんだったモナ? 心理テスト?」
(,,゚Д゚)「モナー。悪いが俺は帰る」
(;´∀`)「ちょ! ネタばらしは?」
(,,゚Д゚)「あ、最後に一つ。お前さっき教会の片付けがどうとか言ってたよな。次はいつやる?」
(*´∀`)「え!? 明後日の早朝からモナ。まさか、来てくれるんですか?」
(,,゚Д゚)「気が向いたらな」
そして俺はモナーと別れた。
俺の腹積もりは、決まった。
-
(投下中、失礼します……何時くらいに終わりそうですか?)
-
>>59
(済みません。ぶっちゃけ今日中に終わらないんで締め切って大丈夫です。ご迷惑お掛けします)
-
モナーと話した次の日の深夜。
俺は仕事の時に使う黒いコートに身を包み、アジトの地下へと足を踏み入れた。
一直線に奥の牢まで進む。
(*゚ -゚)「……?」
牢には今まで眠りについていたであろう小娘が、寝ぼけ眼で不思議そうにこちらを見ていた。
普段、俺はこの時間には地下牢に来ない。疑問を感じているのだろう。
俺はポケットから鍵を取り出し、牢を解錠する。
(*゚ -゚)「!」
そして片手に持っていた茶色のコートを小娘の前に放り投げた。
(,,゚Д゚)「それを着て、出ろ」
-
>>60
(わかりました、それでは投下中に失礼しますね……)
【連絡事項】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
詳細は、こちら
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1456585367/404-405
-
小娘は目の前のコートをじっと見つめていたが、やがて悲しげな表情をしながら立ち上がった。
(*゚ -゚)「判りました。これから、次のところへ行くのですね」
(,,゚Д゚)「……違う」
(*゚ -゚)「えっ……?」
小娘はこれから取り引きの場に連れていかれると思ったようだ。
しかしそうではない。今夜の俺の行動はモララーにも一切話していない。
(,,゚Д゚)「俺は今からお前を連れて、このアジトから脱走する」
小娘の両眼が大きく見開かれた。
俺の言葉に驚きを隠せていない。
(*゚ -゚)「……それは、つまり、ここの人達を裏切るということですか?」
(,,゚Д゚)「そうなるな」
(*゚ -゚)「私を売って得たお金を独り占めにするためですか?」
(,,゚Д゚)「違う。俺はお前を解放するために来た」
-
(*゚ -゚)「! …………どうして」
どうして、そんなことを。
そう小娘は聞いてきたが、その答えを俺は持ち合わせていなかった。
なにせ、俺自身なんでこんなことをしているのかが判っていないからだ。
ただ、そうすべきだと思った。
俺はそう思ったのだ。だったら、俺は俺の思うように動くだけだ。
(,,゚Д゚)「お前は逃げたくないのか。こんな生き方から」
(*゚ -゚)「……………………無理です。逃げるなんて。みんな、私を狙って追いかけてくるんですから」
(,,゚Д゚)「違う。無理かどうかを聞いてるんじゃない。お前の意思を聞いているんだ」
(*゚ -゚)「……」
(,,゚Д゚)「答えられないなら別にいい。どのみち俺はお前を連れてここを出る」
(*゚ -゚)「どうして、あなたは……」
(,,゚Д゚)「それが俺の意思だ。俺はそうしたいと思っているんだ。自分が思うように出来ない生き方なんて、俺は許さない」
(*゚ -゚)「……でも、逃げたとしても、私はもう、長く生きられない」
(,,゚Д゚)「だからどうした。あと30年生きることが出来れば幸せな人生が送れるとでも思うのか。勘違いするな。
人が生きた価値なんてのは死に際で決まる。お前は何も出来ないまま死んでいいと思っているのか?」
-
この小娘はずっと諦めていた。
幸福な人生は掴めないと思ってきた。
自分では何も出来ない。他人も助けてくれない。
だからいっそ、何も考えず、感じないままで、人生を終えようと。
ふざけるな、と俺は言いたい。
(*゚ -゚)「わた、しは……」
(,,゚Д゚)「お前の意思を見せろ」
小娘はうつ向いて下を見ている。
床には、俺が差し出したコートが落ちている。
小娘はゆっくりとした動作でしゃがみ、コートを掴んで立ち上がった。
(,,゚Д゚)「……着ろ。すぐに出る」
時刻は深夜。
このアジトにいる盗賊どもも、あらかた眠りについただろう。
もちろん数人の見張りがいるが、抜け出すこと自体はそう難しくはない。
-
(*゚ -゚)「着ました」
(,,゚Д゚)「よし、そしたら出るぞ。……そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな」
(*゚ -゚)「あ……はい。わたし、私の名前は、しぃ、です」
(,,゚Д゚)「そうか。俺はギコだ」
(*゚ -゚)「判りました、ギコさん」
(,,゚Д゚)「……」
(*゚ -゚)「え、あの……、な、何か間違えました?」
俺が難しい顔をしたのを、しぃは見逃さなかったようだ。
モララーは俺を呼び捨てにするし、他の奴等は『隊長』と呼ぶ。
俺のことを『ギコさん』と呼ぶのはあのクソ神父くらいなので、どうにも嫌な気分になってしまう。
-
(,,゚Д゚)「……俺のことをさん付けで呼ぶのは止めろ」
(*゚ -゚)「じゃあ、なんて呼べば」
(,,゚Д゚)「呼び捨てでいい」
(*゚ -゚)「それはどうかと……。えっと、そしたら」
しぃは少しの間考えて、
(*゚ー゚)「ギコくん、でいいですか?」
(,,゚Д゚)「もっと駄目だ」
まあ呼び方なんてどうでもいい。
俺たちはいよいよ地下牢から脱出することにした。
-
(,,゚Д゚)「フードは被っとけよ。あと、何があっても声を出すな」
俺の忠告にしぃが頷いた。
階段を上り、1階に着く。
脱走などと大袈裟なことは言ったが、何て事はない。歩いて玄関まで行くだけだ。
(*゚ -゚)「……っ!」
ただ、どうしても見張りには見つかる。
廊下を歩いていた見張りの男は、俺としぃに顔を向けている。
しぃはフードを被っているので、すぐにバレることはない。
とは言え中々エキサイトな状況だ。しぃの緊張がこちらにも伝わってくる。
「お疲れ様っす、隊長。後ろのは誰ですか?」
見張りの男は近付いて俺に話しかける。今のところはしぃの存在にあまり疑問は抱いてはいないらしい。
要するに、隙だらけである。
ナイフを一閃。
男の首から鮮血がほとばしる。
男は声をあげることも出来ないまま、その場に倒れた。
-
(*゚ -゚)「ひっ……!」
(,,゚Д゚)「騒ぐな。静かにしていろ」
俺たちは見張りの死体をそのまま放置し、玄関に向かった。
当然その内、死体は誰かが発見する。だがその頃には俺たちはアジトの外にいるだろう。
俺たちは玄関をくぐり、そこにいた見張り2人をやはり殺す。
俺たちは外に出ることに成功した。
(,,゚Д゚)「ここからは走るぞ。まずは町の外に出る」
(*゚ -゚)「はい……」
しぃの声が沈んでいる。
顔を見ると、青ざめていた。
(,,゚Д゚)「……俺が殺したんだ。お前が何かを思う必要はない」
-
(*゚ -゚)「……でも」
(,,゚Д゚)「自分が逃げる決心をしたせいで奴らは死んだ、とでも考えているか? それは思い違いだ。
ここにいる奴らは全員人殺しだ。以前どこかで誰かを殺して、そして今日は殺された。それだけだ」
(*゚ -゚)「……」
(,,゚Д゚)「気持ちを切り替えろ。他人が死ぬくらいなら自分が、なんていう考えは優しさでもなんでもない。
ただの怠慢だ。生きることを諦めた、下らない人間の言い訳だ。
お前は生きることに決めたんだろう? だったら、揺らぐな」
(*゚ -゚)「……はい」
しぃは、俺の言葉に頷いてみせた。
顔はまだ青いが、その眼には意志が宿っている。
(,,゚Д゚)「走れ。俺の後に着いてこい」
走り出す。
これから先の行動がかなり重要だ。
事が上手く運ぶかどうかは……俺次第だろうな。
-
はい。今現在の書き溜め全部放出しました。
ですので私は妹の結婚式に行きます。
待っていてくれセリヌンティウス。私は必ず一週間以内に帰ってきて、最後まで投下するから。
主催者様、まとめ様には多大なご迷惑をお掛けします。済みません……。
-
期待、しぃ可愛いよしぃ
-
これ良いので期待
-
ただいま。続きを投下します
ただ、済みません。途中(8時半ごろ)でちょっと席を立ちます。再開は11時頃からになります
間に自レスを挟みたくなかったので、始めに説明させていただきました
-
(;*゚ -゚)「……………………」
アジトを出てから小一時間。
俺たちは町の端に辿り着く。
走ったり歩いたりを繰り返しながら、ようやくここまで来れた。
しぃはかなり疲労が溜まっているように見える。
(;*゚ -゚)「……ごめんなさい。私、体力が無くて」
(,,゚Д゚)「問題ない、それくらいは織り込み済みだ。むしろ予想よりも持った方だ」
(;*゚ -゚)「……ありがとう、ギコくん」
(,,゚Д゚)「だからその呼び方は止めろって言ってんだろ。殺すぞ」
(;*゚ -゚)「あう……。ごめんなさい」
俺たちは町を出て、なおも歩き続ける。
町の外に人工的な灯りは無い。だが、昨日の雨から一転、今日は快晴で月が明るく輝いていた。
しぃも歩きにくさを感じることはないだろう。
-
(,,゚Д゚)「!」
(*゚ -゚)「……? どうかしました?」
(,,゚Д゚)「いや、なんでもない。先を行くぞ」
俺たちを見ている奴がいるようだ。
しかし俺は気にせずに足を進める。
(,,゚Д゚) (……まだ、見ているな。発見されたか)
間違いなく、アジトにいた盗賊の内の誰かだ。
俺たちが脱出した後、死体が見つかり、更にしぃと俺がいないことに気づいたのだろう。
モララーは盗賊共を町のいたるところに走らせた筈だ。
そして今、見つけられた。
後は他の盗賊共が集まるまで俺たちを監視している、というところだろう。
だが相変わらず潜み方が下手で、すぐに俺に気付かれる始末だ。成長がない。
-
まあ俺からすると、今回はそのお陰でタイミングが図りやすくなった。
(,,゚Д゚) (もちろん見つからない方が楽だったが……。見つかった時のプランも考えてある)
だからこそ俺は、目の前に広がっている森を逃げ場所として選択した。
俺としぃは森の中に入っていく。
森を歩き出して2分。
後ろの方では監視の目が増えてきている気配がする。
そろそろ集団で襲ってくる頃だろう。
(,,゚Д゚) (仕掛けるか)
俺はしぃに手をかけると、その華奢な体を一気に持ち上げた。
-
(;*゚ -゚)「え!? あ、きゃっ!」
俺の突然の行動に、しぃは小さな悲鳴をあげた。
(,,゚Д゚)「追手だ。捕まっていろ。走る」
俺はしぃの体を横にして両手で抱えあげ、しぃの返事も聞かないまま森の中を駆け抜けた。
後ろの連中も、俺の急な逃亡に驚いたのだろう。身を潜めることも忘れて、慌てて追いかけてくる。
しかし、森の中は月の光が届かない。辺りは暗闇で、連中はなかなか走るスピードをあげることが出来ないでいた。
だが、俺はこの森を熟知している。
故に、しぃを抱えながらも距離を引き離すことに成功した。
そして一瞬でも連中の眼から俺を失わせれば、それで充分だった。
俺は走りを止めないまま、しぃに話しかける。
(,,゚Д゚)「今からお前を下ろす。そしたらお前は一人で先に進め。300メートルほど歩いたら、近くにある木の陰に隠れて待ってろ」
(*゚ -゚)「え……? でも……」
(,,゚Д゚)「怖くてもやれ。心配するな、お前の元には誰一人行かせない」
しぃは不安そうな顔を俺に見せるが、それでも何とか頷いてみせた。
-
(,,゚Д゚)「よし、下ろすぞ」
俺はしぃを地面に立たせた。
しぃはもう一度俺の顔を見たが、すぐに早足で先へ行った。
俺も迅速にその場から動き出す。
もちろん向かうのはしぃとは逆の、追手の方だ。
音を立てず、息を殺した上で歩を進めた。
追手の奴等は俺としぃを狩るつもりでいる。
奴等は今まで散々弱者を狩ってきたが故に勘違いをしている。自分たちが強者であると。
だが、今夜の相手は弱者ではなく俺だ。
この世には、狩人対狩人、などというマッチングは存在しない。
必ず狩る側と狩られる側に分かれることになる。
奴等には、狩られる恐怖をその身で体感してもらおう。
-
コートの内側から一本のナイフを取り出す。
このナイフは小振りだが、刀身もグリップも真っ直ぐなので投擲にもってこいだ。
俺は今回、このタイプのナイフを大量にコート内に仕込んできた。
言うまでもなく多人数との相手を想定したからである。
慎重に辺りを窺う。暗闇で眼はほぼ見えないので、音を拾っていく。
(,,゚Д゚) (……………………いた)
一人見つけた。
こちらに気付いている様子はない。
俺は出来る限り接近を試みてから、投擲用ナイフを持って振りかぶり、投げる。
「っ! あ、ぐあぁっ!!!」
ナイフは『狙い通り』、そいつの太股あたりに突き刺さった。
男は痛みで叫び声をあげる。
その声に寄せられて、辺りの盗賊共が集まってきた。
先ほどの男の足を狙ったのは、『餌』として使うためだ。
こうすることで追手を集め、しぃの元へ行かせないようにする。
-
集まってきた盗賊共の内の何人かは、暗いからと松明を手に持っている。
もちろん俺には絶好の的なので、ナイフを投げていく。
「ぎゃあ!」
「クソッ、狙われてるぞ!」
「明かりだ! バカ早く消せ!」
「そこだ、そっちから飛んで───ぐぇっ!」
もう容赦をする必要はない。
目や首を狙い、次から次へと投擲する。
何人かは沈黙したが、流石に俺の位置もバレてしまい、こちらに襲いかかってくる。
ひとまず今ここにいるのは残り5人ほど。
この程度なら接近戦で問題ない。
俺は右手に大振りのナイフを、左手に投擲用ナイフを持って迎え撃った。
-
まずは先頭を走ってきた男の顔にナイフを一投。命中。
続いてやってきた男は手斧を振りかぶっていた。
隙の多い動作なので難なく躱す。
躱しながら男の横に入り、右手のナイフで首を掻っ切った。
折角なのでこいつの手斧を利用させてもらう。
左手で手斧の柄を握りしめると、その場で体を回転、その勢いを乗せて手斧をぶん投げた。
上手い具合に一人の胸に命中。大量の血が噴き出し絶命した。
突然飛んできた手斧に二の足を踏んだ残りの2人へ、俺は猛然と襲いかかる。
まずは手前の男に向かって駆け寄った。
その男は慌てて手に持っていたナイフを突き出してくるが、腰が入っていない。
俺は手首をひねり、ナイフのグリップ部分を上に向ける。その状態で相手のナイフを持つ手を、下からグリップで叩いた。
相手は思わずナイフを手放した。がら空きのその男の左胸にナイフを突き入れる。
あと1人。
最後の男に目を向けると、そいつは後ずさりをしていた。
俺が投擲用ナイフを取り出すと男は振り返って逃げ出したので、その男の首にナイフを投げた。
これでこの場の盗賊は全滅した。
だが、まだまだ追手は残っている。あと30人くらいは相手にしないといけないだろう。
俺はひとまず、しぃが待つ方へ走った。
-
しぃと合流した俺は、更に森の奥深くへ進んでいく。
追手の気配を感じ始めたら、先程と同様にしぃを先に行かせ、追手と戦い、また先を行く。
その繰り返しで、少しずつ追手の数を減らしていった。
何度目かの追手を全滅させる。
(,,゚Д゚) (……そろそろ、盗賊共も随分減ってきた筈だ)
俺は先へ行かせているしぃの元へと向かった。
(,,゚Д゚) (今のところは上手く事が運んでいる。だが……)
俺は少し嫌な雰囲気を感じ取っていた。
どうにも『上手く行き過ぎている』のだ。
追手は一定のペースで、少しずつ、俺たちに襲いかかってくる。これも妙だ。
俺はもっと多人数との乱戦を予想していた。
-
(*゚ -゚)「あ……、大丈夫ですか?」
木陰に隠れていたしぃと再び合流する。
(,,゚Д゚)「そろそろ森も終わりだ。追手ももう、いなくなったかもしれない」
この辺りになると木々もまばらになり、月光が差し込んで辺りがぼんやりと見えるようになっている。
(*゚ -゚)「少し、疲れているように見えますけど……」
しぃは心配そうな顔で俺を見ていた。
これまでの戦闘で怪我という怪我はしていないものの、確かに少々疲れていた。
休む暇もなく追手が来ていたので、仕方無かった。
(,,゚Д゚)「!」
そこで初めて俺は気付いた。
そうか、狙いは俺の───。
-
( ・∀・)「やあ、ギコ。そろそろ逃げるのも止めにしようか」
(,,゚Д゚)「! モララー……!」
振り返るとそこには、お供の盗賊を2人引き連れたモララーが、微笑みを浮かべて立っていた。
.
-
(;*゚ -゚)「!」
しぃが恐れからか、息をのむ。
俺はいつ戦闘が始まってもいいように数歩前に出て、しぃから距離を取った。
(,,゚Д゚)「流石だな、モララー。その辺の雑魚と違ってお前の気配は読めなかった。
でも、そうか。お前、ずっと俺を見ていたのか?」
( ・∀・)「ずっとでは無いよ。俺も途中から追い付いたからな。まあそれ以降の襲撃は、もうお前も気付いた通り、俺が指示していた。
いくらお前でも随分と体力を消耗したんじゃないか?」
そう。モララーは既に俺たちに追い付いていた。
しかし自ら仕掛けることはなく次々に手下共を向かわせて、俺の体力を奪わせた。
俺は見事、モララーの思惑に嵌まってしまったことになる。
(,,゚Д゚)「……自分の仲間を捨て駒にしてまで、俺を消耗させたかったか」
( ・∀・)「ハハハ。おいおいギコ、おかしな事を言うなぁ」
笑いながらモララーはお供の盗賊らに手を振り、そいつらを呼び寄せた。
その2人は指示に従い、モララーを両側から挟み込む形で近くに立った。
するとモララーは一瞬で両手にナイフを持ち、片手ずつそれぞれの盗賊の頸動脈を切り裂いた。
-
「っ……!!」
しぃがいる方向から、たじろいたような声が聞こえる。
モララーの凶行に畏怖したのだろう。
首を切られた2人は、何も出来ないままその場に同時に倒れ伏せた。
( ・∀・)「これで、俺とお前の2人だけだ。始めから俺には、お前がいればそれで良かったんだよ。
他の能無し共は、俺たちに取り付いて甘い汁を吸おうとしていただけのゴミ屑でしかない」
(,,゚Д゚)「……」
( ・∀・)「何か言いたそうだな。でも、お前だって同じ考えだろ?
お前だってこいつらを仲間だなんて思ってないから、殺すことが出来たんだ」
俺は答えない。弁解する必要もない。モララーの言うとおりだったからだ。
利用できるなら利用して、邪魔なら殺す。それだけの存在だった。
( ・∀・)「でもギコ、お前だけは違う。俺はお前に初めて会ったとき、確信したんだ。お前と俺の2人なら、何でも思い通りにいくって」
モララーが俺を特別視していたのは分かっていた。
俺も、モララーにはそれなりの信頼を置いていた。
-
( ・∀・)「ギコ、俺には夢がある。こんな腐った世の中であっても───いや、こんな世の中だからこその夢だ」
モララーは少年のような、屈託のない笑顔で語り続ける。
( ・∀・)「俺はこんな田舎のお山の大将で終わるつもりはない。俺は、都に行きたいんだよ」
(,,゚Д゚)「……都には、統治者がいる。当然、警備隊だっているはずだ。俺らみたいなゴロツキが生きていけるのか?」
( ・∀・)「生きていけるんだよ。都にだって、俺らみたいな悪党はいる。法の目を掻い潜って、な。
俺、ずっと金貯めてただろ? ある程度まで貯まったら、都に行って金を上納して悪党たちの下っぱになろうと思ってた。
勿論そこから成り上がって、ゆくゆくはトップになってやろうってさ」
モララーは視線を動かす。
その先には、しぃ。
( ・∀・)「でもそこのガキを売れば、そんなまだるっこしい事はしなくていい。俺は金にものを言わせて一気にトップに立つ。
そして俺の横には───ギコ。お前がいるんだ」
モララーは両手に持っていたナイフをしまう。
敵意が無いことを、俺に示している。
-
( ・∀・)「ギコ。お前は俺を裏切ったのかもしれないけど、俺は許すよ。
いや、それどころか邪魔な屑共を片付けてくれて感謝すらしている。
ガキを売って俺と一緒に都に行こう。大丈夫さ、俺たちなら必ず成功できる」
モララーの眼が、それに内包している期待が、俺に注がれてくる。
奴の話には思うところもある。それでも俺の意思は変わることはない。
(,,゚Д゚)「……悪いなモララー。その話には、乗れない」
モララーの顔が、歪んだ。
(,,゚Д゚)「俺はお前のような夢は持ってない。何かやりたいことが有るわけでも無い。それでも、俺は俺の生きたいように生きる」
(;・∀・)「っ、何でだ!? 何で俺を拒絶する!? まさか、そのガキを───」
(,,゚Д゚)「違う。お前を裏切った理由は、俺自身もよく判ってない。でも、そうしようと決めた。俺は、俺の為だけに動く」
俺はナイフを強く握りしめて、もう一歩前に出た。
(,,゚Д゚)「行くぞ、モララー」
-
(;・∀・)「っ、待て、ギコ!」
モララーは手を前に出して戦いを拒否するが、俺は構わず一直線に駆け抜ける。
左手で投擲用ナイフを懐から取り出し、投げた。
(;・∀・)「クソッ!」
モララーは悪態をつきながら、横っ飛びでナイフを躱す。
俺はモララーが動いた先へ軌道修正し、接近する。
体勢を整えつつもモララーは両手にナイフを持ち出して、迎撃の構えをとった。
俺は走った勢いそのままに、右手のナイフを逆袈裟に切り上げる。
モララーは鋭い踏み込みで俺の右側に入り込んで躱すと、がら空きの脇腹目掛けてナイフを突き出した。
俺は振り上げたナイフを即座に逆手に持ち直し、力任せに振り下ろす。
モララーは攻撃の手を瞬時に止め、俺の二撃目も躱してみせた。
少し間合いが広がった隙に、俺は投擲用ナイフを同時に2本投げる。
高速で飛来するそれを、モララーは両手のナイフで事も無げに叩き落とした。
-
( ・∀・)「ギコ!」
モララーが前に飛び出し、攻勢に出る。
両手のナイフを巧みに操り、怒濤の連続攻撃を繰り出してくる。
その矢継ぎ早に襲い来る斬撃に、俺は守りに入らざるを得なかった。
(;゚Д゚)「くっ!」
堪らず俺は後ろに飛び退く。
モララーが追い討ちをかけてくるかと思ったが、奴の足はその場で止まっていた。
(;゚Д゚)「ハッ、ハッ、……ッ!」
息が荒い。
明らかに疲労の色が強い。
だからこそ短期決戦で仕留めたかったのだが、容易くいなされてしまった。
(;゚Д゚) (判っていたことだが……強い)
仮に俺の体力が万全であったとしても、モララーに勝つのは難しいだろう。
それでいて、このコンディションの差。状況はかなり厳しくなっていた。
-
( ・∀・)「───もういいだろ、ギコ。このまま続けても、お前に勝ち目は無いよ」
悲しげな表情でモララーは訴えかける。
追い討ちをしなかったのは、最後の説得に出るためだったか。
(;゚Д゚)「フーッ、フーッ」
それでも俺は、「No」と言えない。
追い込まれたからといって逃げるわけにはいかない。
自分の生き方に自分でケチをつけるわけには、いかない。
(;*゚ -゚)「ギコくん!」
(;゚Д゚)「!」
今まで成り行きを見届けていたしぃが、俺の名を呼んだ。
横目で見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
-
(;*゚ -゚)「もう……もう、いいから。これ以上は……。ギコくん……」
悲痛な声だ。
その言葉は、沈みかけていた俺の中の熱を再び沸かせるには充分だった。
(#゚Д゚)「うるっせえぞ……。何度も言ってんだろうが、その呼び方は止めろって……。ブッ殺すぞ……っ!」
(;*゚ -゚)「っ!」
(#゚Д゚)「二度と、『もういい』なんて、言うな。お前はそこで、待ってろっ!」
俺は呼吸を抑え、ナイフを握り直す。
これで、ラストだ。ここで、決める。
-
(;・∀・)「まだやる気かよ!? 冗談だろ!? もう止めてくれ! 俺と一緒に来るんだ、ギコ!!」
その頼みは聞けない。
俺は何も言わず、ただナイフを構え、狙いを定めた。
(;・∀・)「!」
モララーの眼が、信じられないとばかりに見開かれた。
(; ∀ )「ギコ。俺はな……お前のことなら何でも知っているんだよ」
モララーの声が震えている。
(; ∀ )「例えば、お前はよく口癖のように『殺す』だなんて言うが、その台詞を言う時は、そんな気はない。
お前が、本当に相手を殺そうとする時は───」
俺は足に力を込める。
今の俺の全力を、この一瞬に。
( ;∀;)「何も言わず、ただ狙いをつけるだけだ。今、お前が俺にしているように。
本気なんだな、ギコ。お前は本気で俺を……!」
-
(#゚Д゚)「モララー!!」
駆け出す。
渾身の力で、前に。
( ;∀;)「ギコぉ!!」
モララーは涙を流しながらも構える。両手のナイフが、月光に照らされて光った。
(#゚Д゚)「ラスト2本! 貰っとけ!」
俺は駆け抜けながら、最後の投擲用ナイフを2本同時に投げる。
ナイフは風を切って、モララーの元へ走る。
( ;∀;)「今さら、こんなもので!」
モララーは先程と同様に、手持ちのナイフで弾いた。
しかし───。
( ;∀;)「!?」
1本目を弾き、次いで2本目を叩こうとしたモララーは戸惑いを見せる。
2本目のナイフの軌道が、空中で変化したのだ。
-
投げた2本のナイフは、黒く塗った糸で結び合わせていた。
それ故に、1本目を弾いたことでもう片方も連動したのだ。
いくらモララーでもこの夜に、この黒い糸は見えなかった筈。
(,,゚Д゚) (奥の手と言うにはショボい仕掛けだが……、隙は出来た!)
モララーが不規則に動くナイフに気をとられている間に、俺は更に詰め寄り互いの距離を無くした。
( ;∀;)「!」
モララーの体勢は崩れている。俺の方が有利だ。
俺は持てる全ての力を振り絞って、ナイフを前に突き出した。
.
-
やべぇモララーさんかわいそう
-
千載一遇のチャンス。
それでも、俺のナイフはモララーの右腕を掠めただけで終わってしまった。
代わりに、俺の左胸には、モララーのナイフが深々と突き刺さっていた。
.
-
全身の力が抜け、俺は地面に仰向けに倒れこんだ。
ナイフは俺の心臓に到達していた。すなわち、致命傷だ。
(*; -;)「ああっ!」
しぃの声が、聞こえた。
空を見上げる俺の視界に、しぃの泣き顔が映った。どうやら、俺の元に駆け寄ったようだ。
( ;∀;)「ごめん……ギコ……。俺は、こんなところで死ぬわけには、いかなかった……」
モララーも、泣いている。
俺を殺すことになったのは、奴にとっても不本意極まりないことだったのだろう。
全身の熱が、逃げていく。
不思議と痛みは無い。
ただ、俺の意識もだんだん薄れていくようだった。
-
(*; -;)「ギコくん、ギコくん……っ!」
しぃが、俺の腹に顔を伏せて泣いている。
何をそこまで悲しむ必要があるのか。
俺はお前を捕らえた盗賊の一員で、たった1月程度の付き合いしかなかったのに。
ああ、でも……。
今になって俺は、なんでこいつを連れ出したのか、判った気がする。
-
俺はきっと、この世界に希望を残していたんだ。
今はこんな腐った世の中でも、いつかきっと、穏やかな日々を暮らせる時が来ると。
普段は世の中を悲観した振りをしていても。
心の底では、諦めていなかったんだ。
だから俺は、しぃを見て苛ついた。
何もかもが終わったような、世の中のすべてが絶望で埋まってしまったかのような、そんなあいつの顔を見て。
そうじゃないって、俺は、反論したかったんだ。
.
-
ああ、なんて、青臭い考え方……。
数えきれないほど人を殺してきた俺が、希望を信じているなんて……。
笑い話にも、ならないな……。
……そろそろ、あたまも、回らなくなってきた。
意識が、からだから、ぬけていくような……。
おれは、まだ泣きつづけているしぃを、みて、おもった。
.
-
おれは、こいつの、すべてを───。
.
-
.
-
(*; -;)「うっ、ううっ……!」
しぃは泣き崩れていた。
目の前に横たわっている男───ギコは、もう起き上がってはこない。
呼吸も、心臓の鼓動も、停止している。
しぃは、耐えきれないほどの悲しみを抱いた。
今まで、彼女の前で息絶えた者は何人もいた。
いくら彼女が寿命を延ばす特別な力を持っていたとしても、限界はある。
繰り返し繰り返し、彼女の前で、人は死んでいった。
しかし、その他の誰とも、ギコは違っていた。
初めは恐れていた。少しでも逆らえば殺されると感じていた。
でも、違った。
口は悪いけど、その裏にある暖かみをしぃは感じていた。
この人は私を道具ではなく、人として扱ってくれていると、そう感じていた。
-
ギコが逃げ出そうと言ってくれた時、しぃは迷った。逃げ切れる自信が、しぃには無かったからだ。
これまで出来なかったことを今出来るとは思えなかった。
それでもしぃはギコを信じてみたくなった。
彼の言葉に、しぃは安心を覚えるようになった。
彼の言うとおりにすれば、自分を変えられる気がしていたのだ。
でも、ギコは死んだ。
しぃは自分のせいだと思った。
ギコは違うと否定していたが、自分がいなければこんなことにならなかったはずだと思った。
悲哀と後悔で、尚もしぃは泣き続ける。
そんな時、「ギリッ」という音が、しぃの耳に届いた。
彼女は顔を上げる。
( ;∀ )
(;*゚ -゚)「───っ!」
ギコと戦い、そしてギコを殺した男、モララー。
彼は涙を流しながらも、憎悪の念で染まった視線をしぃに送っていた。
先程しぃが聞いた音は、モララーが歯噛みしていたものであった。
-
(;*゚ -゚) (あ、ああ……)
しぃは今までの人生の中で、これほどまでに膨大な殺意を向けられたことは無かった。
ありありと浮かび上がる自らの『死』のイメージ。
ギコ亡き今、最早モララーを止められる者はいない。
(;*゚ -゚) (殺される……。私も、ここで死ぬんだ……!)
『ストレイキャット』の一族の運命として、しぃは長年死に近い暮らしを続けていた。
それでも自分が死ぬかもしれないと思うと、どうしても身体がすくんでしまう。
慣れようもなく、死が怖いのだ。
1秒後には殺されてしまうかもしれない恐怖心から、しぃはその場から逃げようと、座っている状態から右手を後ろに下げた。
するとその右手に何か固いものが触れた。見ると、ギコが右手に持っていたナイフが落ちていた。
(*゚ -゚) (───っ!)
ギコが使っていた、ナイフ。
何人もの盗賊たちを切り伏せたナイフ。
(*゚ -゚) (私を、生かそうとしてくれた、ギコくんのナイフ───!)
しぃは、半ば無意識にそのナイフを掴んだ。
ナイフを両手で握って、座ったままの姿勢で刃先をモララーの方へ向ける。
-
( ;∀ )「…………何の真似だ、それは」
モララーが鈍く響いてくるような低い声で、しぃに問いかけた。
ギコと話していたときのような明るく親愛に満ちた声とは、似ても似つかない。
(;*゚ -゚)「わ、私は……っ!」
しぃの声が震えている。
いや、声だけではない。その手も、握りしめたナイフの切っ先も。すべて震えていた。
それでもしぃは、逃げずに正面からモララーと対峙している。
(;*゚ -゚)「私は、ここで逃げるわけにはいきません。諦めるわけにはいきません。ここで諦めたら……」
しぃは、ギコの顔を見る。
彼の顔を見るだけで、勇気を振り絞れる気がした。
(;*゚ -゚)「私は、ギコくんに顔向けできません。だから、貴方を、私は───!」
モララーを見上げて、しぃははっきりとした口調て敵対の意を告げた。
-
( ;∀ )「……」
モララーは無言で立ち尽くしていた。
しぃはモララーを見上げ、モララーはしぃを見下ろして、互いに見合ったまま、しばらく静寂な時間が過ぎた。
その静寂を壊したのは、モララーの口元から吹き出された空気の音だった。
断続的に漏れだしたそれは、じきに連なって笑い声へと変わる。
( ;∀^)「ハーハッハッハッハッハッ!!」
モララーはひとしきり腹の底から笑うと、
(#;∀ )「ふざけるな糞ガキがぁ!!!! 俺をテメーが殺すって言うのか!?
出来るわけねぇだろうが! ギコですら俺を殺せなかった!!」
それは瞬く間に怒号に変わった。
未だ涙を流し、感情のままに怒鳴り声をあげるその男に、もう理性は残っていない。
-
(#;∀ )「畜生っ! テメーが、テメーがすべての引き金なんだ!
テメーさえいなければ、ギコが迷うことはなかった! 俺がギコを殺すこともなかった!」
(;*゚ -゚)「……っ」
言葉がしぃの心に刺さる。
それでも、しぃはナイフを持つ手を下げなかった。
(#;∀ )「金なんているか! テメーは俺がこの手で!
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も八つ裂きにしてやる!」
一歩、二歩とモララーがしぃに近付く。
男の眼には高濃度の殺意が詰め込まれている。
しぃの両手の震えが大きくなる。
だがそれでもナイフは落とさない。
モララーはしぃの目前に立つ。
座っているしぃの顔に目掛けて、一切の躊躇なくナイフを突き出した。
-
モララーのナイフが肉を突き破り、その隙間から赤い血が飛び散った。
.
-
(;*゚ -゚)「えっ……?」
しぃは、何が起こったのか判らなかった。
彼女の顔には血がついている。しかし彼女に痛みは無い。彼女の肌に傷はまったく無い。
( ;∀ )
モララーも、唖然として固まっている。
手に持つナイフには血が滴っている。
ナイフは、突如下から現れた『手』によって阻まれ、しぃの顔には届かなかった。
-
(,, Д )「うおおおおおっっ!!!」
『手』の正体は、心臓を刺されて死んだはずのギコだった。
ギコは貫かれた左手を更に自ら押し込み、モララーの右手を掴む。
横になった状態から起き上がり、自身の胸に刺されたままのナイフを右手で抜き取って、
押し当てるようにしてモララーの右腕を切って落とした。
(;・∀・)「ぐあっ!!?」
ギコは更にその場で回転。モララーの腹部に遠心力を乗せた蹴りを入れ、吹き飛ばす。
(,,゚Д゚)「……」
力任せに扱った為、ギコが手にしたナイフは根本から折れていた。
ギコは柄だけ残ったナイフを捨て、しぃの方に顔を向ける。
(;*゚ -゚)「ギコくん……」
しぃは自分の眼が信じられなかった。
確かにギコの心臓は停止していた。
つまり一度死んで、その後息を吹き返したことになる。
いくらしぃが命を延ばす力を持っているとはいえ、死者が蘇るなどということは今まで見たことも聞いたこともなかった。
-
(,,゚Д゚)「ナイフ、返せ」
ギコはしぃに手を差し出す。
(,,゚Д゚)「お前は、持たなくていい。殺すのは、俺だ」
しぃは、何も言えない。
様々な感情が入り乱れて、言葉で表現できない。
(,,゚Д゚)「それと、何度も言ってるだろうが。俺をそう呼ぶなって。殺すぞ」
しかし、ギコのこの言葉で。
何度も聞いた、その台詞で。
(*; -;) (ああ……)
しぃの中にあった、張りつめていた感情が一気に氷解した。
溢れてくる涙。本来は怖いはずの脅し文句も、何故だかしぃには暖かかった。
しぃは涙を拭い、
(*゚ー゚)「うん……!」
ギコにナイフを渡した。
-
ナイフを受け取ったギコは、モララーの方へ歩き出す。
( ・∀・)
モララーは右手を切断された痛みなど気にも止めずに、ただギコを見て呆然としていた。
だが、
( ・∀・)「……………………は、」
(*・∀・)「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!!!」
モララーは、笑った。
ギコはモララーに近付く。
(*;∀;)「死なない! お前は死なないのか、ギコ! やっぱりだ! やっぱりお前は他の人間とは違う! 特別だ!!」
ギコはモララーの目の前に立った。
ナイフを逆手に持つ。
(*;∀;)「最高だ! ギコ、お前は最高だよ! お前の代わりは誰もいない! だからこそ、俺はお前と───!」
ギコは、モララーの右眼にナイフを刺し込んだ。
ナイフの刃先は、モララーの脳まで到達した。
-
モララーがひたすら哀れな……
-
モララーはその場に倒れこんだ。即死だった。
(*;∀ )
その顔は、最後まで笑顔のままであった。
(,,゚Д゚)「……森を抜けるぞ」
決着はついた。
盗賊共はギコを除いて全滅した。もうギコとしぃの進路を阻む者はいない。
(*゚ー゚)「あ……治療を」
(,,゚Д゚)「いい。血は止まっている。それよりも、さっさと行くぞ」
ギコの胸の傷からは、何故か血が出ていなかった。
心臓に直結している傷であるはずなのに、だ。
-
(,,゚Д゚)「……」
この場から去る前に、ギコはモララーの方を見た。
何か声を掛けようと口を開き───何も言わないまま口を閉じた。
代わりに、手に持っていたナイフを投げ、モララーの傍の地面に刺して、そして2人は立ち去った。
地面に刺されたナイフは、まるで十字架のようであった。
-
2人は森を抜けた。そこには草原が広がっている。
空が少しずつ白々としてきた。夜明けもまもなくだろう。
少し登り坂になっている草原を、2人が並んで歩く。
(,,゚Д゚)「……この丘を登ったところに、教会がある。今は無人の教会だ」
(*゚ー゚)「教会……」
(,,゚Д゚)「ひとまずそこに行く。夜が明けたら、いつも馬鹿みたいにニヤニヤしている神父がやって来るはずだ……」
(*゚ー゚)「お友達ですか?」
しぃが尋ねると、ギコは露骨に嫌そうな顔をした。
(,,゚Д゚)「違う。断じて違う。───だが、まあ、……ウザいくらいに善人で、信頼はできる馬鹿だ」
(*゚ー゚)「そうですか。でも、ギコくんがそう言うなら、信じられます」
(,,゚Д゚)「お前、本当いい加減にしろよ……?」
-
2人は丘を登りきると、大きな教会がそびえ立っていた。
かなりの年月が感じられる建物だ。
しかし造りはしっかりしているようで朽ち果てた印象は受けず、かえってその古さが荘厳さに拍車をかけていた。
(*゚ー゚)「すごく、立派な教会ですね……」
(,,゚Д゚)「だが、今の世の中、こんな町外れにある教会には危なくて通えない。無用の長物だ……」
2人は教会の裏手に行って、そこで腰を下ろした。
そこから見える景色は、この辺りを一望できる大パノラマであった。
しぃは座ったままで、ギコは草原に横になった。
遠くに見える山際は、オレンジ色に光っている。
もう間もなく朝日が昇るだろう。
-
(*゚ー゚)「……これから、私はどうしたらいいんでしょう?」
(,,゚Д゚)「もう、お前は自由の身だ……。その顔の紋様を隠しておけば、誰かに捕まることもないだろう……」
(*゚ー゚) (自由、かぁ)
しぃは自由について考える。
今まではずっと、誰かに操られるがままの人生だった。そこには当然、自分の意思は無かった。
そして、与えられた自由。
自分には縁のない言葉だと思っていたモノ。
昨日までは想像もしていなかったそれをいきなり手にしても、彼女にはもて余すばかりだった。
きっと、自分の寿命は残り少ない。だったら、短いながらも悔いを残さない余生を過ごしたかった。
(*゚ー゚) (……でも、たぶん私がしたいことは───)
心残りというか、1つだけ気になることがあった。
ギコはこの後、どうするのだろうか。
彼が身を寄せていた組織は、彼自身の手で壊滅させてしまった。
行くアテが無いのは、おそらくギコも同じなはずだった。
(*゚ー゚) (……………………うぅ)
『ギコくんは、どうするの?』と、しぃは聞きたかった。
しかし、言い出せない。それを言うことで、自分の感情がギコに知られてしまうのが怖かった。
どこまでいってもこの引っ込み思案な性格は変わらないのかも、としぃは心の中でため息をついた。
-
しぃが言うか言わないかモジモジと悩んでいると、眼に射し込んでくるような強力な光が前方から現れた。
(*゚ー゚)「あ……」
朝日が、世界を白に染め上げていた。
目の前に広がる一面の草原が、命を宿したかのように色を手に入れた。
しぃには、眼前の景色が数倍に広がったように思えた。
夜が、明けた。
(*;ー;)
しぃはその光景に眼を奪われ、静かに涙を落とした。
世界とは、これほどまでに美しかったのだと、彼女は初めて知った。
-
(*っー゚)「……綺麗、ですね」
(,,゚Д゚)「……………………そう、だな……」
2人は朝日を見ながら、話し続けた。
(*゚ー゚)「私、初めて知りました。こんなにも綺麗なものがあるってことを」
(,,゚Д゚)「……」
(*゚ー゚)「朝日なんて、毎日昇っている筈なのに……。それに気付く心が、今までの私にはなかった」
(*゚ー゚)「気付かせてくれたのは……貴方のお陰です。本当に、ありがとうございます」
(,,゚Д゚)「…………お礼は、いい。俺が……勝手に……やったことだ……」
(*゚ー゚)「それでも、私にとっては。ありがとう、ギコくん」
-
(,, Д )「……だから、なんども…………。……ああ、もう、いい。訂正するのも、疲れた…………」
(*゚ー゚)「え? じゃあギコくんって呼んで大丈夫なんですか?」
(,, Д )「……………………別にいい」
(,, Д )「お前の、好きなようにすれば、俺はそれでいい」
-
(*゚ー゚)「えへへ、やったぁ。やっぱり、ギコくんって呼び方が、一番好きです」
(,, Д )
(*゚ー゚)「そ、それと、そのー……」
(,, Д )
(*゚ー゚)「き、聞きたいことが、ありまして、ですね?」
(,, Д )
(*゚ー゚)「そ、その、あのですね。ぎ、ギコくんは、この後、どうするんですか?」
(,, Д )
(*゚ー゚)「そ、その、私も、アテが無いので……。ご、ご迷惑でなければ、で、良いんですけど……」
(,, Д )
(*゚ー゚)「あのー……。えーとギコくん聞いてます?」
(,, Д )
(*゚ー゚)「ギコくん?」
(,, Д )
-
「ギコくん?」
.
-
.
-
爽やかな春の風が吹き抜ける、晴れた日の昼下がり。
モナーは町の外にある丘の上の教会の、その隣に作られた墓地の一角にいた。
( ´∀`)「……」
モナーはとある墓に花を添えた。
今日は、『彼女』の葬儀が行われた。
( ´∀`)「あれから、5年ですか………。月日が経つのは、早いモナ」
モナーは初めて『彼女』と出会ったときのことを思い出していた。
ある日、モナーがこの教会へ清掃のために来ると、『彼女』が泣き叫んでいたのだ。
その両手に、『彼』の亡骸を抱えて。
-
「神父様」
( ´∀`)「おや、配達屋さん。お勤めご苦労様です」
1人の男がモナーに話しかけた。
彼は配達を生業としており、生前の『彼女』と関わりがあった数少ない人物であった。
「かわいそうでしたね、彼女。まだ若いのに……」
( ´∀`)「ええ……。でも、彼女の残されていた寿命から考えると、よく頑張った方だと思うモナ。
本来であれば、20歳を越えることはなかったようですから」
「やっぱり、彼女の一族が住むところへ送っていった方が、もっと長生きできて良かったんじゃないでしょうか?
5年前ならいざ知らず、今の世でしたら危険もなく行けた筈です」
そう。5年前───つまりはモナーと『彼女』が出会ったすぐ後の話。
この村に、ついに都から派遣された統治者がやって来たのだ。
これにより、村の治安が一気に改善されることとなった。
更に、国内全土にストレイキャット族の保護条例が出された。
ストレイキャット族の取引は、裏口であってもまず不可能な程の規制となったのだ。
解放されたストレイキャット族は一同に集い、また以前のように静かに暮らせるようになったらしい。
-
( ´∀`)「まあ、彼女がここに残りたいと強く希望してたモナ。私はその意志を尊重したかったんです」
『彼女』は、教会の近くに建てられた小屋に住んでいた。
ストレイキャット族である以上、寿命を少しでも延ばすための配慮であった。
「そうですか……。でも、やはり悲しいですね。彼女、いい子でしたから」
( ´∀`)「……ですね」
配達屋は別れの言葉をモナーに言い、仕事に戻っていった。
モナーは再び『彼女』の墓に向き直る。
( ´∀`) (……条例が出されたとはいえ、未だストレイキャット族を匿っている者がいるという噂があります。
もし、『彼』が『彼女』を連れ出していなければ、最悪の事態になっていたかもしれないモナ)
モナーは、『彼』に感謝した。
『彼』は確かに、『彼女』を救ったのだ。
( ´∀`)「そうだ、『彼』のお墓も、たまには綺麗にしないと」
モナーは『彼』の墓の前に移動した。
見ると、ところどころ汚れが目立つ。
-
( ´∀`)「モナ?」
モナーは、『彼』の墓に何やら紙が挟んであるのを発見した。
手に取ってみると、それは手紙であった。
( ´∀`)「この筆跡は、『彼女』の……」
恐らく亡くなる直前に『彼女』が書いて、ここに挟んだのだろう。
モナーは少し迷ったが、中を読んでみることにした。
-
『私は貴方に会うまで、この世界には嫌なものしかないって、そう思って生きてきました』
『よく覚えていないような小さい頃から、色んな所に、色んな人に連れられて』
『私が認識していた世界は、知らないお屋敷の、たった一部屋という狭いものでしかなかったんです』
『でも、貴方に出会えて、私は知りました。世界はこんなに広かったって。
いいえ、私が知る以上に、もっともっと世界は広がっているんだと』
『そんな、私以外の人にとってはたぶん当たり前のことに、私は気付いたんです』
-
『ギコくん』
『私を囲んでいた、嫌なもの、怖いもの。そのすべてを奪ってくれて、ありがとう』
『ギコくんがいてくれたから、私は今、とても幸せです』
.
-
モナーは手紙を読み終えると、丁寧に折り畳み、元の場所に戻した。
そしてモナーは、空を見上げる。
( ´∀`)「ギコさん───」
瞳に溜まった涙が、零れ落ちないように。
空へ昇っていった親友を、見つめるように。
( ´∀`)「貴方はやはり、私の思っていた通りの人でしたよ───」
二羽の鳥が、教会の上を通り過ぎていった。
太陽はこの国を今日も、暖かく照らしている。
.
-
(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです
end
.
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はい今ぜんぶ終わったよ!
ギリギリだったよ!
関係者各位には本当ご迷惑お掛けしました。
さぁ、書き溜めしすぎて他作品あんまり読めてないから読まないと。
お疲れさまでした。
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すっげーよかったわ
ほんとおつ
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じんわりとした
おつ
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すべてを奪うってそういうことかよーー乙乙!
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乙
いやあ、主人公が在りし日の心を取り戻して再生する話はいいものですね。
それはそうと、
ギコはとんでもないものを奪っていきました、あなたの全てです
とかいうおっさんの声が脳内でリフレインするのだが、責任をとってほしい
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心臓刺されても生きてたのってやっぱ聖書?
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乙、ギコシィは正義
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乙です。すごく面白かった。
タイトルの意味が最後にやっと分かったよ
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