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( ∀)夕日、花――『羽音』。病室、窓辺にて(、 川
-
――瞼の裏に届く、夕日の赤。
_
( -∀-)
暖かな風が吹いてきて、眠りの中にいる彼の頬を撫でる。
_
( -∀-)
カーテンが、風に揺れる音がする。
_
( -∀-)
ばさばさ、という音。
かすかに春の匂い。
そこに、なにか別の、小さな『音』が混じった。
_
( -∀-)
ぶん、という、小さな音。
それは――
_
(;゚∀゚)「っ!!」
――『羽音』。
-
勢いよく、起きあがる。
自分にかかっていた布団が、身体から落ちるのが見えた。
_
(;゚∀゚)「はあ……はあ……!!」
目に飛び込んでくるのは、夕日に照らされた部屋。
聞こえるのは、自らの荒い呼吸。
_
(;゚∀゚)(どこだ、ここ? あのあと、どうなったんだ?)
_
(;゚∀゚)(『あのあと』……?)
それは、一体なんの事だったか、と彼――最近高校2年になったジョルジュ長岡は考える。
_
(;゚∀゚)(なんか、でっかい音がして、赤い、『花』が……)
微かに、思い出せる風景。
振動する廊下、割れる窓、赤い花――『羽音』。
_
(; ∀ )「いつっ!!」
そこまで思い出した彼の頭に、激痛が走った。
-
プロローグ:エンディングパートA
.
-
_
(; ∀∩)(痛ってえ……なんだってんだよ)
頭を押さえながら、周りを見渡す。
夕日。
照らされているのは、どうやら病室。
「長岡くん?」
_
(;゚∀∩)「あ?」
('、`*川「目が覚めたんだ、よかった」
_
(;゚∀∩)「伊藤……?」
振り返れば、部屋の入り口に最近話すようになったクラスメート――ペニサス伊藤の姿があった。
_
(;゚∀∩)「なあ、俺どうしたんだ? 一体なにが……」
_
(; ∀∩)「……っ!! 痛っ!」
('、`*川「……思い出せないの?」
頭を押さえて痛がるジョルジュ。
その姿を横目に、伊藤は窓辺に歩いていく。
-
('、`*川「……」
ばさばさ、と風に揺れるカーテンの隙間から少しだけ外を見て、
それから彼女はジョルジュの方へ振り返った。
('、`*川「無理もないよ、半日くらい気絶してたんだもん、長岡くん」
_
(; ∀∩)「半日……?」
そのとき、ジョルジュは何か違和感を覚えた。
半日、というワードにではない。
その他の、何か。
('、`*川「正直さ、心配しちゃった。全然おきないんだもん」
_
(;゚∀゚)「ん、ああ……悪ぃ」
違和感の正体には、すぐに気づけた。
音が変わっているのだ、カーテンが風に揺れる、ばさばさという、音。
それが、布状のもので風を受け止めるときの、くぐもった音へと変わっている。
('、`*川「どこまで覚えてる? 逆か。どこからなら思い出せる?」
何故かということに関しても、すぐに分かった。
こちらを見ている、伊藤の手。
後ろに組まれた二つの手が、揺れるカーテンの端を掴んでいるのだ。
――まるで、窓の外の景色をジョルジュから遮るように。
-
_
( ゚∀゚)「思い出せる、事……」
ジョルジュは考える、思い出せる記憶の中でも、特に鮮明なもの。
一週間前、一人の少女を浜辺で見つけた、あの日の出来事。
('、`*川「なんでもいいよ、話してみて。そのうち自然と、思い出せると思うから」
_
( ゚∀゚)「……わかった」
とりあえずは、そうするしかない。
そう判断したジョルジュが口を開く。
まず、思い出せるのは――
-
メインパート:A
.
-
波の音。
水面に乱反射する朝日が、肌に当たる潮風と相まってどこかひりひりと痛い。
_
( -Д-)「ふぁあ〜……」
その朝、ジョルジュ長岡は大あくびをしながら、
いつも通り海辺の通学路を歩いていた。
_
( ゚∀-)「あ……?」
いつもは気にならない、浜辺。
そこに彼は、いつもなら存在しない人影を見つけた。
('、`*川
_
( ゚∀゚)(あいつ……たしか、同じクラスの……)
波打ち際に近い場所、そこで同じ学校の制服を着た少女が、かがみ込んで何かをしている。
_
( ゚∀゚)(えーっと、伊藤だったか、佐藤だったか)
どうにも、そういうありふれた名前だった気がする、と思いながら、
ジョルジュはそのまま砂浜に歩いていく。
_
( ゚∀゚)「なあ」
('、`*川 ?
振り向く彼女は少しだけ驚いたような表情をして、
すぐにまた、もとの無表情になる。
('、`*川「何?」
-
_
( ゚∀゚)「なにしてんだ、こんなとこで」
('、`*川「……」
問いかけに対して、少女は無言。
_
( ゚∀゚)(あー、そういや、あんま喋んないんだっけ)
教室でも、いつも本ばかり読んでいて、特定のだれかと話しているのを見たことがない気がする。
と、そんなことを考えている内に、ジョルジュは彼女の足下に落ちている、
白くて丸いものの存在に気がついた。
_
( ゚∀゚)「それ、ピンポン玉か? それを見てたのか」
地面に転がる、穴の空いた白い小さな球体。
ジョルジュにはそれが、浜辺に流れ着いたピンポン玉に見えた。
('、`*川「……ピンポン玉じゃないよ」
_
( ゚∀゚)「お?」
言って、彼女は少し逡巡するような様子をみせたが、
すぐに、はっきりとした口調で断定した。
('、`*川「これは、『卵』。あるいは、『種』」
_
( ゚∀゚)「卵? なんのだ?」
変に言い切るような彼女に、ジョルジュは訪ねるが、
彼女は答えず、そのまま歩いていってしまう。
-
_
(;゚∀゚)「あ、おい……」
しばらく歩いたところで、彼女は立ち止まると、顔だけをこちらに向けて、言った。
('、`*川「時間。……遅刻するよ、不良くん」
_
(;゚∀゚)「は?」
言われてあわててジョルジュは携帯を取り出したが、まだ時間には余裕がある。
と、そこで彼は気付いた。
_
( ゚∀゚)(あ……?)
視界に入ってくるのは、携帯の画面。
そしてその周辺の、砂浜。
そこに、先ほど彼女が見ていた『卵』が、無数に転がっているのだ。
_
(;゚∀゚)(な……なんだ、これ)
皆一様に、中から何かが出てきたことを表す、穴があいている『卵』。
その近くの地面には、これまた10円玉サイズの穴があいている。
なぜか、ジョルジュはその光景に薄気味悪さを覚えた。
「私は放課後、図書室にいるから、ナンパならそのときによろしく」
どこか悪戯っぽい声に、彼が顔を上げると、周りにはすでに彼女の姿はなかった。
_
(;゚∀゚)「なんだってんだよ、あーもう……つか」
_
(;゚∀゚)「俺、不良じゃねえし!! これ地毛だし!!」
金髪の少年の叫びが、虚しく浜辺に響いた。
-
******
TIPS1:ある国語教師の個人研究メモより引用
Ⅰ種:
環状生物多毛類の、いわゆるゴカイに近い外見的性質を持つが、
おそらく全く別の種なのだろう。
口の形状は二枚貝のフナクイムシの貝殻に近い形状をしている。
これは彼らの硬い餌――というべきか、むしろ『餌場』というべきか?
――をかみ砕き食べるのに役に立っていると思われる。
また、彼らは身体が非常に硬い。
Ⅰ種は地面に身を潜め、餌場を常に探しているようだ。
餌場を見つけたⅠ種は餌場に大量に浸食し、寄生する。
その後、身体をドロドロに溶かして後述するⅡ種へと変態する。
(1体捕獲して検証してみたが、基本的にⅠ種はⅡ種へと変態していると見て間違いない。)
Ⅰ種に関しては、Ⅱ種から生まれる事もあるし、Ⅲ種から生まれることもある。
また、Ⅰ種同士でも交配し、Ⅰ種の卵を生むこともあるようだ。
これがこの生物の奇妙な点である。
******
-
――――――
―――
―
夕焼けが差し込む図書室前の廊下。
_
( ゚∀゚)「あ」
扉をあけ、中を覗くと。
('、`*川ノ「や」
――そこには今朝方の、無礼な捨て台詞を残した少女の姿があった。
-
メインパート:B
.
-
今朝方の仏頂面はどこへやら、軽く笑いながらひらひらと手を振る少女。
ジョルジュはつかつかと歩み寄ると、彼女の目の前の席を引いて、どっかと腰を下ろした。
('、`*川「ほんとにきたんだね、不良くん。私ってばそんなに魅力的?」
頬杖をついたまま、どこか皮肉っぽい笑顔でそんなことをいう彼女に、
ジョルジュはきっぱりと言った。
_
( ゚∀゚)「俺は不良じゃねえ、これは地毛だ、地毛。ナンパしにきたわけでもねーし」
図書室には二人しかいない。
司書教諭も、どこかにいってしまっているようだ。
('、`*川「あらら、残念。えーっと、ハインリッヒ高岡くん、だったっけ?」
_
(;゚∀゚)「それ隣のクラスの女子の名前じゃねえか、長岡だよ。ジョルジュ長岡。
クラスメートの名前くらい覚えとけよ」
もっとも、彼自身も先ほど担任に確認するまでは彼女――ペニサス伊藤の名前など覚えてなかったわけだが。
そのあたりは棚に上げて置くことにした。
('、`*川「あーそうそう、長岡くんね。長岡くん。思い出したわ」
_
(;-∀-)「たく、なんなんだよ。あんたはよぉ」
ため息をつくジョルジュ、伊藤はくすくすと笑う。
どうやら彼女は人をからかって楽しむタイプの人間だったようだ。
今朝方の態度や教室での印象と比べ、ジョルジュは今の彼女の様子に少しギャップを感じる。
-
('、`*川「今朝はびっくりしたわー、
だってあそこに長岡くんがいるなんて全然"予定外"だったし」
そこは『予定外』ではなく『予想外』ではないのか、と少しひっかかりながらも、
ジョルジュは咎めるように言った。
_
( ゚∀゚)「びっくりしたのは俺のほうだ。
あのあとの授業ひとつも出てなかったじゃねえか、あんた」
朝、登校してみると先に学校へ向かったはずの彼女がいなかった。
担任に聞いてみても欠席の連絡などもとくに来ていないという。
放課後図書室にいると言っていたのにどういうことか、と、
怪訝に思いながら来てみれば、そこに何食わぬ顔をして本を読んでいる伊藤がいた、
というわけなのだ。
('、`*川「いやー、人生にね。ちょっと迷ってまして」
_
( ゚∀゚)「それで授業全サボりってか? 見た目によらず結構ぶっ飛んでんな、あんた」
('、`*川「何気に失礼だね、長岡くん」
_
( ゚∀゚)「ろくに会話したこともないクラスメートのことを、不良よばわりするやつには負けるな」
はんっ、と鼻で笑う彼に、「そりゃそーか」と彼女はくすくすと笑う。
('、`*川「今朝はさ、まあちょっと気が立っててね、ごめんごめん」
_
( ゚∀゚)「……それで金髪相手に不良呼ばわりとか、やっぱぶっ飛んでるわ、あんた」
もし、本物の不良だったらどうするつもりだったのか、
逆上して攻撃されたり、とか考えてるのだろうかこの女は、と、ジョルジュは心底呆れた。
-
_
( ゚∀゚)「んで、なんかあったのかよ。人生に迷うとか気が立つとか穏やかじゃねーな」
('、`*川「あれ、聞いてくれるんだ。ひょっとして長岡くんって見かけによらずいい人?」
_
(#-∀-)「……いいから、とっとと話せ」
ため息混じりに、ジョルジュは続きを促す。
どこまで失礼なやつなんだ、と思いながら話の続きを促す辺り、
自分は本当にお人好しなのかもしれない。
そんなことを考えながら。
('、`*川「あー、なんつーのかさ、長岡くんはないかな。こう先が見えちゃう感じっていうのか、さ」
_
( ゚∀゚)「先が見える感じ? ああ、自分なんてこの程度みたいなやつか?
自分みたいなのはどーせ普通の人生しか送れねーんだろーな、的な?」
「案外普通っぽいことで悩んでんだな」という彼に、彼女は「あーそういうのとはちょっと違くて」と返す。
('、`*川「ほら、あるじゃん? 最近さ、正社員になれない人が増えてるとか、
なれてもブラック企業しかない、みたいな?」
_
( ゚∀゚)「あー、なんかあるらしいな、そういうの」
('、`*川「例えばだけどさ、この先、生きててもそういう『絶望的な未来』しか用意されてないとして、
このまま生きててなんか意味あるのかなー、って」
上目遣いで、おそるおそる、という風に聞いてくる彼女。
それに対し、あっけらかんと彼は答える。
_
( ゚∀゚)「あるんじゃね?」
-
('、`*川「ずいぶん簡単にいうね、長岡くん」
_
( ゚∀゚)「まーな、難しいことはよくわかんねーから」
('、`*川「あー、見た目通りバカではあるんだ」
_
( ゚∀゚)「いい加減、一発ひっぱたいていいか?」
('、`*川「きゃー、やっぱり不良。この人不良よー」
ふざけた感じの雰囲気を、ジョルジュは咳払いで一旦リセットすると、
真面目な表情を作って、言った。
_
( ゚∀゚)「難しいことはよくわかんねーけどさ、どんな絶望的な未来でも、
それなりに楽しみ方ってのはあるんじゃねーの?」
('、`*川「『楽しみ方』、ねえ……」
_
( ゚∀゚)「ヒセーキコヨー? だとかハケンだとか、ブラック企業の正社員とかでもさ、
金が無くても、趣味の一つでもありゃ生きててそれなりに楽しいでしょーよ」
('、`*川「うーん、まあ、そっか」
どこか納得してない様子の彼女に、彼は続ける。
_
( ゚∀゚)「……ま、とか言ってる俺は25歳で死ぬつもりなんだけどな」
('、`*川「……は?」
-
ぽかんと、あっけに取られた顔の彼女。
ジョルジュは続ける。
_
( ゚∀゚)「人生ってさ、だらだら生きててもつまんねーだろ。
だから俺は25歳で死ぬ。それまで全力で人生楽しむってきめてんの」
「太く短く生きてーんだ俺は」という彼を、伊藤はぽかんとした顔で見ていた。
その表情は、呆れているようで、しかし、どこか関心しているようで
('、`*川「ものほんのバカだね、キミは」
_
( ゚∀゚)「なんとでも言え、ちなみに、さっき伊藤が言ったみてーな未来になるくらいなら、
俺だったら自分で会社を立ち上げるね。そっちのほうがぜってー楽しいからな」
('、`*川「でも25歳になったら死ぬんでしょ? そのあと会社どーすんのさ」
_
( ゚∀゚)「知らね、残ったやつがなんとかするさ」
ぶふっ、と伊藤が吹き出した。
( 、 *川「無責任な社長だなー、私、絶対そんな会社やだわ」
_
( ゚∀゚)「その代わり俺は絶対ブラック企業になんかしねえ。
社員全員が納得して働けるような、そんな会社にするね」
( 、 *川「一応聞くけどさ、それって何を根拠に言ってんの?」
_
( -∀-)「根拠なんて、生まれてこの方持った事はねーな」
最後の一言が決め手になったらしい、伊藤はぶふぉ、再び吹き出し、
そのまま大声で笑い出した。
-
_
( ゚∀゚)「んだよ、そんなにおかしいか」
( 、 *川「いや、だってさー、意味わかんなすぎる……ぷっ」
_
(* ∀ )「む……んだよ、なんか恥ずかしくなってくるじゃねえか」
けらけら笑う彼女に、ジョルジュは、急に恥ずかしくなり、顔をうつむける。
( 、 *川「いや、うんでも、ありがと元気出たわ、なんかよくわかんねーけど」
_
(* ∀ )「そうか? まあ、それなら、うん、よかった、のか」
一通り笑った後、彼女は少し真面目な顔になり、静かに言った。
('、`*川「……どうせ死ぬから『限られた期間を楽しむ』か。なるほどね」
_
( ゚∀゚)「ん?」
('、`*川「いや、笑っちゃったけどさ、長岡くんの生き方聞いてたら、
なんか自分、つまんないことで悩んでたなー、って」
_
( ゚∀゚)「お前みてーな頭よさそうな奴には参考にならねーと思うけど」
('、`*川「いや、うん。たいへん勉強になりました、ありがとう」
図書室に和やかな空気が流れ、そして、それは聞こえてきた――
-
_
(;゚∀゚)「? なんだこの、『音』……」
それは不気味な『音』だった。
例えて言うなら錆び付いたブランコがゆっくり揺れる音を大きくしたような、
金属同士がこすれるような、不気味で、嫌な、『音』。
( ー *川「あちゃー……こっちは"予定通り"か」
_
(;゚∀゚)「伊藤……?」
見れば、伊藤が笑っている。
それは、先ほどまでの自然な、和やかな笑みとは異なる笑顔。
どこか諦め切ったような、自嘲するような、そんな笑顔だった。
( ー *川「長岡くん、『アポカリプティックサウンド』って知ってる?」
_
(;゚∀゚)「は?」
突然聞き覚えのない単語を聞かされて、呆気にとられるジョルジュに、少女は構わず、続ける。
( ー *川「終末の音って言われててね、世界の終末をつげる音なんだって。それが、これ」
_
(;゚∀゚)「伊藤? ……何言って」
( ー *川「信じてくれっかなー、これ言っても」
彼女は笑って――嗤って、続けた。
( ー *川「一週間後にね、赤い『花』が咲いて世界が終わるの――」
-
「――私、未来が見えるんだ」
.
-
.
-
インターミッション:エンディングパートB
.
-
夕日に照らされた、病室。
記憶している出来事を語り終えたジョルジュは、一旦そこで口をつぐんだ。
_
( ゚∀゚)「……あのあと、あんた、しばらく学校にこなかったよな」
('ー`*川「ま、ね。長岡くんの生き方を参考にさせてもらおっかなって」
窓辺の少女は笑っている。
穏やかに、笑っている。
_
( -∀-)「なるほどな、終わりがくるまでの時間、
楽しくやってたわけか……言ってくれりゃ、俺も付き合ったのに」
('ー`*川「ごめんごめん、なんやかんや、その、余裕がなくてさ」
_
( ゚∀゚)「ったく、俺もこんなことになるって分かってりゃ……」
ぶーん、という音。
カーテンで見えない窓の外を、『何か』が横切った。
――少なくとも、鳥ではない。
_
(;゚∀゚)「……『こんなこと』?」
再び、頭に鈍痛。
_
(; ∀∩)「くっ……」
('、`*川「……」
頭を押さえるジョルジュを、少女が見ている。
どこか悲しそうに――哀しそうに。
-
('、`*川「私ね、長岡くんみたいに生きてみようって思ったんだ」
('、`*川「元気いっぱいさ、学校サボってやりたい放題やってみた」
( 、 *川「でもね、結局、それは『フリ』だったよ、私じゃ長岡くんみたいに考えられなかった」
( 、 *川「やっぱりずっと考えちゃうの、なんで私には――私たちには、こんなに"未来がない"んだろうって、さ」
_
(; ∀∩)「い……とう……?」
( 、 *川「だから、会いに行ったの。長岡くんに、教えて欲しくて――」
_
(; ∀∩)「な……に……を」
( 、 *川「ねえ、長岡くん」
_
(; ∀∩)
ふらつく視界、痛みに揺らぐ脳内。
_
(;゚∀∩)
目を開いて、見た彼女の顔は
('ー`*川「どうやったら私、長岡くんみたいになれるかな」
とても、悲しく、寂しそうに、笑っていた。
-
******
TIPS2:ある国語教師の個人研究メモより引用
Ⅱ種:
前述したⅠ種が餌場の中で変態したもの。
餌場内ではドロドロに溶けた赤黒い半液状で、
突出部は植物のユリの花の蕾、あるいは花に似た外見的特徴を持つ。
Ⅱ種は餌である■■■■■ートに浸食し、壁面に花の蕾のような器官を突出させる。
器官を突出させるのは、後述するⅢ種が内部で育ちきった後であり、
その後、花の花びらに当たる部分が開き、中のⅢ種が姿を現す。
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-
.
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メインパート:C
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-
その日の三限目は、国語だった。
_
(;゚∀゚)(やっぱ繋がんねー、なんでだ?)
授業中、携帯をいじろうとしていたジョルジュは、
画面右上に表示される圏外マークに小さく舌打ちをする。
_
(; ∀ )「いてっ」
ふいに頭を叩かれた。
( -д゚ )「授業中に携帯か? いい度胸だな、長岡」
顔をあげると、担任兼国語教師の見慣れた顔があった。
_
(;゚∀゚)「いてーじゃんよミルナくん、頭悪くなったらどーしてくれんだ」
( -д- )「大丈夫だ、お前はこれ以上頭悪くなれないレベルのおバカだからな」
_
(;゚∀゚)「うわ、ひっど」
( ゚д゚ )「とりあえず、それ、没収な」
_
(;゚∀゚)「ちょ、待ってって! セーフだろ、最近ずっと圏外だし、携帯」
( -д- )「そもそも、授業中に携帯を見ようとするその姿勢がアウトだな」
ほれ、と手を差し出す国語教諭。
それに対し、ジョルジュは往生際悪くも食い下がる。
_
(;゚∀゚)「ほ、ほら、最近変な音もするしさ、何かあったときに携帯ないと困るし……」
( -д゚ )「……どっちにしろ圏外なんだろ」
_
(;>∀<)「頼むって高知先生、ミルナ様っ、この通りっ」
( -д- )「却下だ」
-
伊藤が学校に来なくなってから、一週間が経過した。
あれから、様々な『異変』があった。
まず、校内で携帯が繋がらなくなった。
原因は不明。
最初は一部教室のみに起こっていた現象だったが、今は校内全域で携帯が圏外になってしまう。
そして、あの『音』。
伊藤が『アポカリプティックサウンド』と呼んでいた、あの不気味な音も不定期に鳴り響いている。
これについても、原因は未だ不明。
建物が原因の可能性が高いので、保護者や教職員より、
一時的に学校を閉鎖しようという意見があがっているようだが、
それもなにか大人の事情があるようで、今のところ実行に移されていない。
-
きーんこーんかーんこーん
( ゚д゚ )「――と、今日はここまで」
授業終了のチャイムが鳴り、高知教諭が教室から出ていく。
_
( ゚3゚)「ったく、たまに融通きかねーよな、ミルナくん」
ジョルジュは文句を言いながら、次の移動教室のための準備をし、教室を出ていく。
そして、そこで――
_
( ゚∀゚)「お」
('、`*川ノ「……やっほ」
――彼女と再開した。
_
(;゚∀゚)「おう、伊藤、ひさしぶ……いや、なんだそのクマ!? 大丈夫かよ!?」
('、`*川「たはは……ここ三日ほど眠れなくてさ」
一週間ぶりに見る、彼女の姿。
頬はこけ、目の下には大きなクマができている。
明らかに、憔悴しきっていた。
_
(;゚∀゚)「三日!? なにやってんだよあんた。保健室いくぞ、ほら」
以前より細くなったように見える彼女の手を取り、そのまま保健室に連れて行こうとするジョルジュ。
それに対し伊藤は、自分の手を掴む彼の手を両手で握り込んだ。
( 、 *川「待って」
_
(;゚∀゚)「あん?」
-
ジョルジュは、彼女に掴まれている手を見る。
自分の手を掴む、彼女の両手。
それに籠っている力は、その細く弱々しい印象を与える外見とは裏腹に、ひどく強い。
( 、 *川「違うんだって、私のことなんかどうだっていいんだって」
_
(;゚∀゚)「いやいや、何言ってんだ、どーでもいいわけ――」
( 、 *川「聞 い て ! !」
_
(;゚∀゚)「っ!?」
裏返った彼女の声が、廊下に響く。
周りの生徒が、何事かとこっちを見ている。
( 、 *川「私言ったよね、『未来が見える』って。あれ、マジなんだ」
_
(;゚∀゚)「……」
( 、 *川「浜辺に落ちてた『卵』、図書室で聞いた『音』、ここまで全部"予定通り"。
このまま"予定通り"に進めば、今日、ここに赤い『花』が咲いて、全部終っちゃう」
_
(;゚∀゚)「……だから、そこが分かんねえ。なんなんだ、『花が咲いて世界が終る』って」
( 、 *川「わかんない。でも、私が見てた"予定"はいつもそこで終る。
赤い花が咲いて、それ以降は全部真っ暗になってなにも見えない」
_
(;゚∀゚)「……」
( 、 *川「だから、助けに来た。キミは少なくとも私の"予定"には居なかった。
だから、キミなら止められるかもしれないから、だから……」
_
(;゚∀゚)「お、おい、どうした、伊藤?」
急に震え始める、伊藤の体。
目が、見開かれている。今までジョルジュが見たこともないような、絶望に満ちた、目。
その目は、彼の後ろに向けられていた。
_
(;゚∀゚)
_
(゚∀゚;)
恐る恐る、彼は振りかえり――
-
_
(゚∀゚;)「なんだ、あれ……?」
――そして、見てしまった。
.
-
いつのまにか、むわっとする、赤錆のような匂いが辺りに立ち込めていた。
始め、それのことをジョルジュは血しぶきかと思った。
壁に赤黒い液体がついていたのだ。
しかし、それを観察しているうちに、ジョルジュはそれが血しぶきではないと確信する。
_
(;゚∀゚)「おいおい……どういうことだよ」
血しぶきとは、当然だが誰かの血が壁に付着することで成立する。
それは、なにか液体が壁に付いたのではなかった。
_
(;゚∀゚)「壁から"血がでてる"……?」
その赤黒い液体は、どうやら壁に空いた"穴"からとめどなく溢れ出しているようだった。
茫然とするジョルジュ、握っている伊藤の手が震えているのが伝わってくる。
周りもこの状況に混乱しているようで、血のような液体が出ている壁を見ながら皆一様に唖然としていた。
( 、 *川「終った……やっぱり、長岡くんがいても止まらないんだ……」
ぼそりと呟く彼女の声が、どこか他人事のように耳に届いた。
やがて、壁の穴から、ごぽ、と音を建てて何かが出てくる。
_
(; ∀ )
それは、よく見たことのある形をしていた。
先端は細く、そして根元に流線型を描く、赤黒い物体。
そう、例えるなら、それは花の『蕾』によく似た形をしていた。
_
(; ∀ )(これが……『花』……?)
まるで肉で出来たような、赤黒く、グロテスクな『花』。
それは根元から一気に膨らむと、その花弁をゆっくりと開き、そして中から『それ』が姿を現した。
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壁に咲いた花から、ぼとり、と落ちる、
野球のボールを一回り大きくしたようなサイズの『それ』。
なんだか『それ』のことを、ジョルジュはよく知っている気がした。
ただ、『それ』が何に似ているのかに関しては、なぜか思い出すことができなかった。
それは、ざっくばらんに言うなら、虫のような姿をしていた。
左右に伸びる、長い触角。
複数ある足。
尾びれ。
最初、長い身体を丸まらせていた『それ』は、びちびち、と激しく身をよじらせると、
10本ある足で身体を立ち上がらせ、伸びをするように身体を曲がっていた身体をまっすぐ伸ばす。
硬い甲殻で覆われた体節がこすれ、かりかり、という金属を引っ掻くような、嫌な音がした。
やがて、背中の体節の間から、萎れた皮のようなものが出てきた。
それは、またたく間に尾びれ側へと伸び、やがてハチやハエのような『羽』を形成した。
-
ぶーん、という『羽音』。
赤黒い甲殻に包まれた化け物がこちらに飛んでくる。
_
(; ∀ )「うわあああああああ!!!」
生理的嫌悪感により、それを避けるジョルジュ。
虫のような姿の化け物は、春先でまだ閉まっている窓に、何度も、何度も体当たりを繰り返す。
窓を殴るようなごん、ごん、という音が、連続して辺りに響いた。
この頃になると周りも、ようやくこの異常な事態を受け止められたらしく、
辺りは悲鳴と化け物が窓に体当たりする音で騒然としていた。
_
(; ∀ )「ぁ……ぁぁ……」
ジョルジュは、動けないままでいた。
気味の悪い生き物が、自分の顔面めがけて飛んできた、という恐怖が未だ抜けきらないのだ。
やがて、化け物の体当たりでヒビが入っていた窓が、ぱりんと音を建てて割れる。
化け物は、そのまま外へと飛んで行った。
( 、 *川「長岡くん、逃げよう」
_
(; ∀ )「あ、ああ」
( 、 *川「早く!!」
伊藤が、ジョルジュの手を引いて、走り出す。
周囲には、いつの間にか、あの『アポカリプティックサウンド』が響いている。
ぎいい、というような、重い金属を無理矢理擦りあわせるときのような、嫌な音。
周囲の、床や、壁や、そして天井からも赤い『花』が伸びてくるのが見えた。
直後、振動。
身体が、ふわりと浮く感覚があった。
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TIPS3:ある国語教師の個人研究メモより引用
Ⅲ種:
十脚目■■のような、外見的特徴を持つ。
主にⅡ種の体内により生成されるが、Ⅲ種同士の交配で誕生するような例外も見られる。
背中に羽があり、飛行能力を持つ。
鉄筋コンクリート・アスファルト等を好んで摂食するⅠ種・Ⅱ種とは異なり、
Ⅲ種は通電中の電線に対し、非常に好戦的な態度を取る。
鋭い牙を持ち、それで電線を食いちぎっているようだが、摂食しているのかどうかは不明。
なぜなら、電線に喰いついたまま感電死している個体をよく見かけるからだ。
身体から、なにか電磁波のようなものを発生させているのか、
Ⅲ種が生育、または生成されている付近では携帯電話の電波が以上に通じにくくなる。
我が校で発生していた通信障害も、恐らく本種が原因であると思われる。
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エピローグ:エンディングパートC
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夕日のさす、病室。
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( ゚∀゚)「……そうか、あのとき床が崩落して」
('、`*川「そうだよ、それで長岡くんは気絶した。
奇跡的に無傷だった私は、そのまま長岡くん担いで外に出たってわけ」
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( ゚∀∩)「あー、なっさけねえなー、俺……。悪ぃ、伊藤」
('、`*川「いいってことよ」
ふざけたようにくすくす笑う彼女の顔を見て、ジョルジュは少しだけ心が安らぐのを感じた。
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( ゚∀゚)「それで、結局あのあとどうなったんだ、あの化け物は?」
('、`*川「……」
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( ゚∀゚)「……伊藤?」
('、`*川「あのさ、長岡くん、約束して欲しいんだけど」
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( ゚∀゚)「ん?」
('、`*川「あのあと、どうなったかに関しては、この窓の外を見てもらえば一発でわかる。
でもね、何を見ても絶対に絶望しないで」
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( ゚∀゚)「伊藤……?」
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カーテンが、ばさばさと揺れている。
伊藤が、カーテンの端から手を離している。
風で揺れるカーテンの端から、窓の外の赤い風景が少しだけ、見えた。
( 、 *川「お願い。ごめん、自分でもすっごい勝手なこと言ってんなーって思う。
でも、長岡くんには言って欲しいんだ、言ってて欲しいんだよ」
( 、 *川「『俺は絶望しない』って……『どんなクソみたいな状況でも希望はある』ってさ……」
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( ゚∀゚)
ジョルジュは、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
身体に多少の痛みはあったが、気にする程のものでもなかった。
( 、 *川
傍らで、震える少女の隣に立つ。
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( -∀-)
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( ゚∀゚)
カーテンを、開けた。
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( ∀ )「ああ……」
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遠くに、廃墟が見える。
海辺にある、廃墟。
あれは自分の学校だと、彼は悟った。
崩れ落ちた瓦礫の山にその面影はない。
ただ、白線のひかれたグラウンドだけが、唯一、それが元は学校であったことを示している。
瓦礫の山の中心には、大きな花の蕾があった。
肉のように赤黒く、禍々しい色をした花の蕾。
周囲には、あの化け物らしき影が、無数に飛び交っている。
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( ∀ )「あ……あ……」
ゆっくりと、蕾が開いていく。
中で丸まっている、真っ白な固まりが見える。
ジョルジュは、そこで初めてあの化け物が何に似ているのかに気付いた。
丸まった、真っ白な巨体。
長い触角と、何本もの足。
丸まった身体。
海の中で見る分には問題ないが、陸上で見るにはあまりにグロテスクな生命体。
――あれはエビだ。
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巨大なエビは、ゆっくりとその身を伸ばすと、こちらに向かって歩いてくる。
わしゃわしゃ、と何本もの足が動くたび、大きな足音と、
金属を擦り合わせるような嫌な音が辺りに木霊する。
エビは、腹に何かを抱えていた。
歩くのに使わない足で、腹に抱えるもの。
それが卵であろうことは、想像に難くなかった。
( 、 *川「お願い……お願いだよ……長岡くん」
少年の傍らで、少女は震えている。
少年は答えない。
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( ∀ )
夕日に照らされた病室。
少年は、ただ静かに、窓の外の風景を眺めていた。
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TIPS4:ある国語教師の個人研究メモより引用
Ⅳ種:
巨大なエビのような外見的性質を持つ。
本種は卵を遠方に運搬するための個体と見られ
(ここから字が乱雑になり、メモが途絶えている)
また、本種はⅢ種と違い、飛行能力を持たない。
専門外の私の稚拙な研究ではあるが、このメモが、今後人類が彼らと戦うのに貢献することを願う
2016/05/02 高知ミルナ
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( ∀)夕日、花――『羽音』。病室、窓辺にて(、 川
完
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BGM:https://www.youtube.com/watch?v=ckXMvrFlmKY
やあ、兄弟。調子はどうだい。
とりあえずこのお茶はサービスだ、一杯飲んでゆっくりしていくといい。
さて、突然だが、あんたは「なんだって自分には、こんなに未来がないのか」なんて思ったことはあるかい?
いやね、実は、ちょくちょくそんな事を考えちまうのさ。
どうにもこの世の中に対して、自分ってのはちぐはぐで、うまく嵌まらないって感じがする。
世の中の方に合わせなくちゃなー、なんて思ったりもするんだが、
今の世の中の方も薄氷の上に成り立ってる、危ういもんなような感じがしちまってて、
それに合わせるのもその場しのぎっぽくないかなー、なんて思っちまうのさ。
要するにこれは、そんな話だったんだ。
先が見えてるような気がしてどこにもいけない女の子と、
先を見ずに今を生きてる男の子の話。
男の子はラストシーンのあと、一体女の子になんと言ったのか。
その辺りに俺の悩みの答えがあるような気がするんだが、どうだろうね?
つまんない話をしちまったね、この商売も楽じゃねーのさ。
――ああ、みずあめ? いいぜ、よかったら持って行くといい。
どうせ、子どもたちに配りきれなかった、あまりものさ。
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乙
なんつう話を読んじまったんだという絶望感があるわ
素晴らしい
とても好きだ
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乙ー!
締め方が上手いな
短編として綺麗にまとまってる
好きだわ
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なんつーもんを読ませてくれたんや…
ずっとハラハラしてたわ
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面白かった 余韻がいいなあ
この後どうなったんだろう
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主人公が良いなあ
ジョルジュにあってるのが良い
最後エビって読んだ時点に美味そうとか思った自分くたばれ
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乙
これ、いい
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この話大好き
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