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艦娘がいない鎮守府のようです

1 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:31:48 ID:62pQqJ3.0



―――貴方の手で、彼女達に幸せを与えて欲しい―――



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2 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:32:20 ID:62pQqJ3.0





原作『艦隊これくしょん〜艦これ〜』





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3 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:34:34 ID:62pQqJ3.0
「……」


文章の最後を締めくくる『。』を付け、エンターキーを叩いて処理を済ませる
テキストファイルをUSBメモリーに保存し、PCの電源を落として抜き取った


「往かれるのですか?」


既に人が出払ったこの場所で、女の子の声が聞こえた
神出鬼没の、私の友人だ。両手に白猫を携え、帽子の初心者マークとおさげが特徴的な少女


「ああ、手筈通りに頼む」


メモリーを彼女に渡し、デスクの横に立てかけていた『矛』を手にする
これを振るうのも、今夜が最後だ。恐らくは、私は海の底に沈む


「……逃げるという選択肢も、あるはずですが」


その言葉を聞いて、軽く笑った。普段は無機質な性格である彼女が、人を案じたのだ


「アンタ、言ったよな?『奴ら』を一匹残らずぶち殺さないと、この戦争は終わらないと……ゴホッ」


咳を手で抑える。青白い蛍光色の『血』が付着しているのを見て、顔を顰めた
私は徐々に『人間』では無くなっている。徐々に、奴らの『眷属』となっている


「なら、俺もその内の一匹だ。バケモノに成り果てる前に、人として死にてえ」

「……あいつらには、嫌な想いをさせちまうがな」

4 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:35:12 ID:62pQqJ3.0




『大ブン動会!〜2016年紅白〜』



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5 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:36:13 ID:62pQqJ3.0
心残りは、家族にも等しい『人ならざる娘達』
別れ際、涙でグチャグチャになった顔で私に抱きつき、放そうとしなかった『あいつら』が目に浮かぶ


「呆れた人です。貴方は」

「人類を救うために現れた彼女達の為に、自らの身を犠牲にして救うだなんて」

「本末転倒も良いとこですよ」


人類にとって、彼女達は救世主だ。その存在を救うなど、おこがましいとでも言いたいのだろうか
だが、救世主である以上に、人と変わらぬ心を持つ『生物』なのだ


「ヒーローを救うバケモンがいてもいいだろ?」


冗談めかしてこう返した。自分のことを『人間』とは言わなかった
万が一死に損なった場合、私は人類、そして彼女達にとって最も凶悪な敵に成り得るかもしれないからだ


「だから……後はあいつらと、アンタに託す」


先に倒れた私の戦友や、その家族
戦火によって犠牲となった民衆
志半ばで死に逝く私の、『悲願』


「『平和な海』って奴を」


そして、叶うのならば


「あいつらの幸せを」


言葉にするのは簡単だ。だが、為しえるには余りにも厳しく、困難な道を通らねばならない
並の信念では、押し通せない願いである

6 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:36:49 ID:62pQqJ3.0



原案『( ^ω^)ひたすら嘘予告をしていくようです』から

『艦隊これくしょん〜漢これ〜のようです』
『('A`)提督だけど艦娘がいない鎮守府に配属されたようです』
『艦隊これくしょん 〜仮面ライダー青葉〜 のようです』



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7 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:37:43 ID:62pQqJ3.0
「この二つを成し遂げられる『男』に、そのメモリーを渡してくれ」


今一度、念を押して伝える


「難しいご注文を」


ため息混じりに呟いた彼女に、笑いかけながら『そう思うよ』と同意する
いつ現れるのかも、どこにいるのかもわからない。だが


「男は本来、戦う生き物だ。平和な時代がそれを忘れさせたが」

「思い出す奴もいる筈だ。かつての『俺達』がそうだったように」

「『自らが矢面に立つ』事を厭わない、『漢』が」


話を締めくくるかのように、警報が鳴り響く
どうやら、終わりの時間が訪れたようだ


「残念です、とても。貴方は良き話相手であり、良き友人でした」

「貴方こそがこの戦争を終わらせてくれると、楽しみにしていたのですが」


矛を肩に担ぎ、女の子の頭を軽く二度叩く
出会った頃は人の身など微塵も案じない、AIのような彼女だったが、変わったものだ


「ああ、それは次の世代に任せる」

「……世話になったな」


短い別れの挨拶を済ませ、ドアノブに手を掛けた

8 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:38:21 ID:62pQqJ3.0
「さよなら、『提督』」




「じゃあな、『エラーさん』」





これが、私が交わした最後の会話となった

9 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:38:57 ID:62pQqJ3.0




『艦隊これくしょん三周年記念作品』



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10 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:39:27 ID:62pQqJ3.0



























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11 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:40:32 ID:62pQqJ3.0
♪母港
https://www.youtube.com/watch?v=EGgK8GZS8Sg



『深海棲艦』とかいう、なんか機械とバケモノのハイブリットみたいな生き物が
制海権を根こそぎ奪ってから、多分二十年くらい経った。多分

それと同時期に現れた、なんか別世界の軍艦?の生まれ変わり的な?可愛い女の子集団『艦娘』
『艤装』と呼ばれるなんかこう背負う感じのデカイ装備を扱う彼女たちは
なんかよくわからんバケモノに対抗できる、人類に与えられた唯一無二の戦力だった

ただ、あくまで彼女たちは『兵力』であり、指揮は人間が執らねばならない。なんでか知らんけど
指揮官は、海軍のなんかお偉いさん?の総称である『提督』と呼ばれて
こう……難しい試験とか厳しい訓練とかを乗り越えた人間だけに与えられる、名誉ある役職らしい


いや別に名誉とかどうでもいいんだけど、重要なのはここから
提督ってのは、なんと無条件で艦娘に好かれるらしい。個人差はあるけど、大体そうだって近所のまさしが言ってた
こんな小さな女の子から、パツキンボインのお姉さんまで、選り取りみどりだ
バレンタインも、クリスマスも、ひと夏のアバンチュールも、クッソ可愛い艦娘たちと夢のような時間を過ごせる
それを目当てに、提督になる奴も多いんだとか。上手く行けばおセッk何でもない

そう、つまり何が言いたいのかっつーと

ブサm顔面が個性的なのが魅力の俺でも
ラノベのようなハーレムが築けると言うワケだ。ToLOVEるだ。俺はリトになる


その筈だったんだが

12 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:41:02 ID:62pQqJ3.0




『作:◆HS4z8y6JHc』



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13 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:41:47 ID:62pQqJ3.0
('A`)「どうしてこうなったかねぇ……」


提督の俺と


( ^ω^)「うまっ……ポッキーうまっ……」


整備士のデブ


(´・ω・`)「ほんまや……ポッキーうまっ……海を見ながら食うポッキーうますぎ……」


そして料理人のオッサン


('A`)「ポッキーうま……」


以上が、我が鎮守府のメンバー
艦娘どころか、女っ気の欠片もない


そう、ここは―――――

14 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:42:24 ID:62pQqJ3.0



『艦娘がいない鎮守府のようです』


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15 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:43:41 ID:62pQqJ3.0
遡ること三日前


('A`)「ここか……」


暑苦しい軍帽を脱ぎ、目の前の年季の入った建物を見上げる
大本営から車で半日、ド田舎にある廃村を再開発して設置された艦娘出撃施設

通称、『鎮守府』


('A`)「しっかし……古いな……」


海沿いにある廃校を再利用した鎮守府は、赤煉瓦の重厚な……と言うよりは
オバケか何かでも出そうな、古く頼りない雰囲気に満ちていた

しかし、廃村があった場所をまるごと取り囲む、二階建てほどの高さがある鉄筋コンクリートの壁が
ここが海軍の重要施設だという事実と緊張、そして閉塞感をひしひしと放っていた

まぁ、住めば都だ。寝て起きられるなら上等上等
今日からここが俺の家だ。荷物を背負い直し、引き戸から中へ入った


('A`)「従業員と初期艦娘はもう着いてるって聞いたんだが……」


俺をここまで送ってくれた海軍のオッサンは道々でそう説明してくれたが
出迎えどころか、人の気配も無い。足音と床の軋みがやたら大きく響く

16 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:56:20 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「あっれー?合ってる?ここで合ってる?」


そうこう歩き回るうちに、廃校内で迷子になってしまった
クソド田舎にあるくせに、何か知らんが無駄に広い
建材が新しい場所がいくつかある所を見ると、増改築を繰り返しているらしい
トイレはパナソニックのアラウーノだった。変なところに金掛けてんなオイ

しばらく彷徨っていると、やったら凝ったトレーニングマシンと、気合の入ったリングが中央に設置されてるジムも発見した
何ここ?ファイトクラブか何か?艦娘ファイトクラブ?体の自由が利かない状態でテクニシャンと戦わされるの?


('A`)「クリムゾン……」


「そこは前任者のお気に入りでしてね」


(;'A`)そ「クリムゾンが!!!!????」


不意に、背後から女の子の声がして振り返る


(;'A`)「クリム……誰もいねえ!!!!!」


声がしたにも関わらず、俺の後ろにも、出入り口付近にも、そして廊下にも誰もいなかった
しかし微かにだが、リズミカルな鈴の音が聞こえ、ここに誰かがいる事を伝えてくれた


(;'A`)「待ってくれ!!」


一度置いた荷物を持ち上げるのももどかしく、手ぶらのままその鈴の音を追った

17 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:57:11 ID:62pQqJ3.0
廊下に出て、左右を確認。右の曲がり角を、『白い尻尾』が通り過ぎる
あれは猫だろうか?だとしたら、声の正体はその飼い主か


(;'A`)「なんだってこんな……まさか」


そうだ、きっとこれは初期艦娘の『電』ちゃんのサプライズなんだ
俺という提督の着任を、あの良い娘オーラ全開の幼女が、可愛らしい方法で祝ってくれるに違いない


(*'A`)「いやぁ〜、着任早々こんな思いして大丈夫かなぁ〜」


心が弾む。三次元のクソ女共に蔑ろにされてきた25年の人生
初めてのリア充体験。心と同時に脚も弾む
スキップ気味で後を追って行くと、『バタン』とドアの閉まる音が聞こえた


(*'A`)「ここかぁ〜?」


『司令室』の名札が付いている部屋の前
どうやら、迷いに迷っていた俺を見かねて案内してくれたらしい


(*'A`)「よ、よし……」

('A`)+ キリッ


顔を引き締め、深呼吸一回
第一印象は大切だ。威厳のあるところを見せ、頼れる男アピールをせねば

18 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:59:19 ID:62pQqJ3.0
('A`)「失礼する!!本日より貴艦らの指揮に……」


張り切って出した大声は、室内の光景を目の当たりにして尻すぼみに小さくなった
そこに居るはずの、少し自信なさげで可愛らしい初期艦娘の姿は無く、代わりに


( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「……」


応接用ソファーに寝っころがり、漫画を読んでいる二人の男がいるだけであった


('A`)「……」


何このクリスマスプレゼントを開けたら中にぎっしりドリル詰まってた時みてーながっかり感


( ^ω^)「あっ、アンタが提督かお?」

('A`)「えっ?うん」


右側のソファーで寝ていたデブが、キン肉マン(16)をテーブルに置き、立ち上がり敬礼をする


( ^ω^)「艤装整備士の明石ホライゾンだお。気軽にブーンって呼んでくれお」

('A`)「お、おう……」


朗らかな表情をしたデブだ。歳は多分、俺と同じくらいだろう
つーか今の俺の階級が少佐とは言え、一介の整備士であるこいつのフランクさは何?こわい
ちょっとプライドの高い奴なら、キレてる案件だよこれ?


(´・ω・`)「間宮ショボン、コックだ。シクヨロ」


その向かいのソファーでキン肉マン(19)を読んでいる、二回り年上くらいのオッサンに関しては、起き上がりもしねえ
従業員ってこんな……何なの?海軍何考えてこいつ雇ったの?バカじゃねーの?

19 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:00:01 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「……」

(´・ω・`)「それで」

(;'A`)そ「うっ、え?何?」

(´・ω・`)「アンタの名前は?」

(;'A`)「あっ、ああ……今日付で本鎮守府に配属された東郷ドクオ……なんだが」


ここでようやく、俺が一番気になっていたことを質問した


(;'A`)「艦娘は?」


返答は


( ^ω^)「いや……自分、整備士なんで……」

(´・ω・`)「俺コックなんだけど」


('A`)「……」

('A`)「ええー……」


どうにも的を射ていないモノであった

20 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:01:24 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「あのさぁ、今さっきここに女の子が来たはずなんだが……」

( ^ω^)「女の子?ここには僕らしかいねーお」

(;'A`)「は?いやでもさっき確かに……」

(´・ω・`)「幽霊でも見たんじゃねーのか?ここは曰くつきの場所だって聞くしな」

(;'A`)「俺が来る前に、ドア開いただろ?気付かなかったのか?」

( ^ω^)「僕らずっと漫画読んでたから、一時間くらいは廊下に出て無いお」

(´・ω・`)「なんだが知らねーけど、漫画と映画とアニメだけは揃ってんだよなここ」

(;'A`)「えー……」


鎮守府って、どこもこんな感じなん?ユルい、爺ちゃんのパンツのゴムくらいユルい
いくらド田舎とは言え、艦娘が出撃する重要施設だよ?大丈夫なのここ?
いやいや、そうじゃない。最も重要なのは……」


(;'A`)「だから!!電ちゃんはいないのか!?初期艦娘として配属された筈なんだよ!!」


( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「……」


(;'A`)「な、何だよ……?」


二人は、神妙な顔を見合わせた後
ブーンがデスクの方へ歩き、引き出しから手紙を取り出した

21 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:02:15 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「手紙預かってるお。どうぞ」

(;'A`)「あ、どうも」


糊付けもされていない、簡素な封筒の中身を取り出す
たった一枚の手紙には、女の子らしい丸っこい文字で一文



『顔が生理的に無理なのです。ナスと同じくらい無理なのです。電』



と、書かれていた


('A`)「……」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「やっぱ女ってクソだな」

('A`)「練炭って、置いてるかな?」

( ^ω^)「気持ちは分かるが早まるなお」


なるほど、早い話が
俺の個性的な顔面の魅力に耐えられなくなり、逃げたっつーことか。ハハッ、死にてえ


('A`)「縄くらいならあるだろ……」

( ^ω^)「待てって」

22 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:03:19 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「艤装だけは届いてるんだけど、肝心の『電』本人がいないんだお」

(´・ω・`)「俺らも大本営に連絡したんだが、まともに取り扱ってくれなかった。ご愁傷様」

('A`)「何それ……軍ってもっと……こう、逃げたら重い罰とかあるんじゃないの?」

( ^ω^)「お咎め無しらしいお」

('A`)「へぇー……睡眠薬ある?」

( ^ω^)「不憫すぎて掛ける言葉が見つからない」

('A`)「っつーか、艦娘無しでどうやって海域の警護しろっつーんだよ」

(´・ω・`)「あ?お前知らないのか?この辺りの海域は前任者が一掃して深海棲艦はいねえんだよ」

('A`)「聞いてないんだけど……じゃあ、俺がここにいる意味って何?」

(´・ω・`)「左遷?」

(;'A`)「俺、新米提督だよ!?ナンデ!?」

(´・ω・`)「顔面がブサイクだからだろ」

('A`)「軍施設なら拳銃くらいあるよな?」

( ^ω^)「泣きっ面に蜂」

(´・ω・`)「いやいや、真面目な話だよ。提督って艦娘の士気向上の為にある程度の顔面偏差値が必要なんだろ?」

(´・ω・`)「よくその顔で提督になれたな。すごいすごい」

(うA`)「顔、顔、顔ってよぉ……」

( ^ω^)「おうやめたれや」

23 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:04:31 ID:62pQqJ3.0
間宮の言う事は正しい。艦娘は恋愛に対する関心が大きいと聞く
そんな中で活動する提督という人間は、最も近い異性だ
彼女達だって、恋をするならイケメンの方がいいだろう

海軍本部から公言されてはいないが、顔面偏差値は選考の一つと噂されている


(うA`)「俺は体力テストでトップだったから、多分それで……」

( ^ω^)「ブサメンのハンデを乗り越えて提督になったって事かお!!それって凄いお!!」

(うA∩)「うああああああああああああああああ!!!!!!」


トドメを刺された


(;^ω^)「あっ、ごめ。そんなつもりじゃ……」

(´・ω・`)「あーあー、泣ーかした泣ーかした」

( ^ω^)「いや八割方アンタの所為だお」

(うA∩)「うええええええええええ!!!!お家帰るうううううううう!!!!!」

(´・ω・`)「今日からここがお前の家だ!!よろしく!!!!」

(うA∩)「お母ちゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

(;^ω^)「ちょ、泣くなお……良い大人が……」

('A`)「うん」

(;^ω^)そ「うわぁ!!急に泣き止むなお気持ち悪い!!」

('A`)「立ち直りの早さと前向きさだけが取り得だから」

:( A ):「取り得……だから……ウッ……」

(´・ω・`)「まだ引き摺ってんじゃねーか」

24 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:06:02 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「説明を要求します」


作戦指令室にて、俺は本部と通信連絡を取っていた。割と強い口調で
だってそうだろ?聞いてた話と全然違うんだから。俺じゃなかったら殺してたよ?いやほんとマジで


『キミの指揮下に居たく無いという艦娘が多数でね。これでは戦力にならないと思い其方の鎮守府を担当してもらうこととなった』


('A`)「担当して貰うことになったじゃねーよクソが」


『なんだね?』


('A`)「なんでもありません。しかし、兵力が居ない中では近海警備も出来やしませんが」


『必要ない。そこは既に深海棲艦から解放された海域だ。監視だけしてくれればいい』


('A`)「しかし、万一に備えて艦娘の配備を」


『検討する。話は以上かね?諸々の説明は書類にて確認してくれ』


これ絶対検討しねーよ。頼みごとが検討されて為しえた事実なんてこれまでねーよ


('A`)「もう一つ、ここは曰くつきの鎮守府と聞きましたが?」


『それが?』


('A`)「それがって……いえ、何でもありません」


やっぱ俺でも殺しちまうわこれ。車裂きで殺すわ

25 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:07:26 ID:62pQqJ3.0
『それでは、貴官の活躍に期待する』


それだけ言い残して、通信は切れた


('A`)「……」

('A`)「なーにが、『活躍を期待する』だよクソが。テメーの小せえマラで喉詰まらせて死ね」


途中、ポロッと本音が漏れてしまったが、聞かれなくて良かった
上官に暴言を吐いた罪で軍法会議とか洒落にならん。どうせならぶっ殺してから死刑になりたい


('A`)「ハァー……ヘコむわー……」


薄々察してはいたが、まさか顔面が個性的なだけでここまで酷い扱いを受けるとは思わなかった
第一印象は大切だが、それだけで人間性が計れるか?ブサイクでもかっこいい奴なんていっぱいいるぞ?


('A`)「仕事は近海域のレーダー及び肉眼による監視。その為、艦娘の配備は無し、人員も必要最低限か……」


虚しい。何のために俺はあれだけ苦しい訓練を乗り越え、猛勉強をしたのだろうか
作戦指令室の重たい扉を開き、意気消沈しながら廊下に出た

26 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:08:59 ID:62pQqJ3.0
('A`)「しっかし、参ったなこりゃ……」


懐中電灯で足下を照らしながら、やや遠い食堂へと歩く
艦娘、とりわけ『初期艦娘』は提督にとって重要な存在となる

新規着任した提督は、戦闘及び『建造』で艦娘を増やしながら、海域を解放していかなければならない
艦娘の入手方法は大きく分けて二つだ。工廠で造るか、戦闘後に『ドロップ』した艦娘を持ち帰るか

工廠とは、艦娘が産まれる母体の役割を果たす施設だ
『建造ドック』と呼ばれる、二メートルほどの大きなブラックボックスに
艦娘専用である特殊な四つの資材、それと、卵子の働きを持つと言われている『開発資材』とやらを投入する
すると、早くても二十分、遅くても八時間で、新しい艦娘を手にすることが出来るのだ

しかし、この作業は人間だけではこなす事が出来ず、艦娘の手助けが必要不可欠なのだ
ここの工廠をちょろっと弄くってみたが、やはりウンともスンとも言わなかった。結論、この方法で艦娘は手に入らない


そしてもう一つの『ドロップ』。艦娘の手で深海棲艦を撃破した場合
稀に、それが『艦娘』として生まれ変わる。どういうワケかは知らないが
研究家の間では、『深海棲艦と艦娘は表裏一体の存在』だとか、『弾薬に含まれるほにゃららが深海棲艦を艦娘に造り変えた』だとか囁かれているが
詳しいことは知らん。ともかく、『深海棲艦を撃破』する必要があるってワケだ

これも無論、俺たちには不可能だ。奴らを倒してくれる艦娘はいない上に、深海棲艦すら現れないんだからな


('A`)「ハーレム、夢に潰えたり……」


足取りが重くなる。これからしばらく野郎三人のテラスハウスかよ。ハハッ


('A`)「死にてぇ……」

27 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:09:57 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(´・ω・`)「よーう、どうだった?」


ただっ広い食堂、間宮が料理を運びながら聞いてきた


('A`)「やっぱ艦娘の配備はしねーんだとよ。監視だけだから必要ねえって言われて」

(´・ω・`)「なんだそりゃ。随分と見下された采配だな」

('A`)「全くだ。ハァァー……これから先、男三人のだけの共同生活か……」


言葉にするだけでむさ苦しさで胸が詰まる


( ^ω^)「まーまー、監視だけの楽な仕事で給料貰えるんだから。前向きに考えるお」

('A`)「金を使える場所はねーんだけどな」


一番近い街まで、車で三時間掛かる
勿論、外出には許可が必要だし、そもそも車がねえ。送迎は本部が行う。それも申請が必要だ


(´・ω・`)「食料、嗜好品は月一の配給だってな。だけど、今の状況でも充分過ぎる量があるぞ」

( ^ω^)「マ?」

(´・ω・`)「マ。多分三ヶ月くらい腹いっぱい食っても大丈夫」

( ^ω^)「最高かよ」

(´・ω・`)「タバコもたんまり」

( ^ω^)「天国かよ」

('A`)「呑気だなお前ら」

28 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:10:52 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「考え様だよ考え様、上司のお咎め無しで好き放題だ。後、ここの厨房かまどだった。ほれ飯」

( ^ω^)そ「お米が立ってる!!」

('A`)「いや、一応俺がお前らの上司なんだけどね?」

(´・ω・`)「そういうのいいから」

( ^ω^)「マジ萎えるわ」

('A`)「俺は上司として威張り散らすことさえも出来ないのか」

( ^ω^)「威張り散らしたらアレだお?なんか、こう、三人しかいないのに空気悪くなったら」

( ^ω^)「居辛くなると思うお。廊下ですれ違う度に、舌打ちとかするけどいいのかお?」

('A`)「わかった、わかったから恐い想像させるのやめて」

(´・ω・`)「まぁ、これから何するにしても腹ごしらえだ。食え食え」


山盛りのメシに鳥の竜田揚げ、中華風野菜炒めに卵スープがテーブルに置かれる
どれもこれも美味そうだ。訓練校の学食はどうにも味気なかったからな


(* ^ω^)「ひゃっほう!!いただきますお!!」

(´・ω・`)「いただきますっと」

('A`)「……」


二人がガツガツと飯を掻き込むのを見て、俺の腹の虫も鳴き声を上げて急かした
そういや、ここに来てから何も口にしていなかったな


('A`)「……いただきます」


('A`)「うめえ!!!!!!!!!!!」

29 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:12:25 ID:62pQqJ3.0
食後、コーヒーを飲みながら改めて自己紹介をする流れになった
喫煙者の明石と間宮は美味そうにタバコを吹かす。くせえんだよ


('A`)「えー、では俺から」

(´・ω・`)y-~「ええぞええぞ!!」

( ^ω^)y-~「一発芸やれお!!」

('A`)「新歓かよ。東郷ドクオ、階級は少尉だ。一発芸やります」

( ^ω^)y-~「やんのかお」

('A`)「細かすぎて伝わらないモノマネシリーズ。映画『暴走特急』から。トイレに現れた敵を女の色気で油断させて一瞬でぶっ殺した後のケイシー・ライバックの一言」

('A`)「おっぱいには気をつけろよ」CV.大塚明夫

(´・ω・`)y-~「……」

( ^ω^)y-~「……」

('A`)「なんか言えよ」

( ^ω^)y-~「ドックンはどうして提督になったんだお?」

('A`)「ええ……いきなり馴れ馴れしい……いいけど……」

('A`)「理由なんてお前、そんなもん艦娘とイチャコラ出来る以外にあるか?」

(´・ω・`)y-~「……低俗だな。お前」

('A`)「いや実際、訓練校でもそんな奴ばっかだったよ」

( ^ω^)y-~「ゲス野郎かお」

('A`)「ごめんね!!!!」

( ^ω^)y-~「反省しろお」

('A`)「うわなんか風当たりがキツい」

30 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:13:30 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「確認するが、本当に何かやらかしてここに来たんじゃないのか?」

('A`)「教官を何回がぶん殴りそうになったこと以外潔白だよ」

( ^ω^)y-~「問題児じゃねーかお」

('A`)「でもなんでそんなしつこく確認するんだよ」

(´・ω・`)y-~「俺らは問題起こしてここに送られたからなぁ」

( ^ω^)y-~「ハハッ、ワロス」

(;'A`)「それでよく俺のことゲス野郎だの問題児だの呼んでくれたなお前ら?そういや、曰くについて本部は答えてくれなかったんだが」

('A`)「なんかあんの?ここ」

(´・ω・`)y-~「後で話してやるよ。ほれ、次ブーン」

( ^ω^)y-~「明石ホライゾン、渾名はブーンだお。艤装の整備が仕事だお」

('A`)「何の問題起こしてここに?」

( ^ω^)y-~「艤装を魔改造して工廠吹っ飛ばした」

(;'A`)「お前それ軍法会議モンじゃねーか!!!!」

( ^ω^)y-~「うん、その結果がこれ」

(;'A`)「死刑にならなかっただけマシだな……つーか俺はどうしてここに送られたん……?」

( ^ω^)y-~「ドンマイ☆」

('A`)「うるせえ反省しろ」

( ^ω^)y-~「嫌どす」

('A`)「死刑になっちまえ」

31 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:15:36 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「最後は俺だな。間宮ショボン、飯炊き当番だ。ショボンでいいぞ」

('A`)「しょぼくれ眉毛はどんな事件起こしたんだ?」

(´・ω・`)y-~「ぶっ殺すぞブサメン」

('A`)「あ?」

(´・ω・`)y-~「お?」

( ^ω^)y-~「出会って半日も経ってないのに仲のよろしいことで」

(´・ω・`)y-~「俺は、アレだ。前の鎮守府で提督のオキニの艦娘寝取った」

(;'A`)「は?」

(´・ω・`)y-~「愛宕とかいう重巡洋艦娘だったな。下の毛がすげー濃いの」

( ^ω^)y-~「下もパツキンだったのかお?」

(´・ω・`)y-~「うん」

(;'A`)「それマj……いや、それはまた今度じっくり聞くとして」

(;'A`)「アンタもすげーことやらかしてんな……」

(´・ω・`)y-~「いや、問題はそこから」

(;'A`)「そこから?」

(´・ω・`)y-~「マジギレして軍刀で斬りかかってきた提督も掘った」

(;'A`)「ブーン、逃げよう!!」

(;^ω^)「僕らの処女が危ねえお!!」

(´・ω・`)y-~「俺にだって抱く男を選ぶ権利くらいあらぁ」

32 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:16:18 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「片やマッドエンジニア、方や両刀料理人……まともなのは俺だけか」

(´・ω・`)「顔面がまともじゃねえけどな」

('A`)「あ?」

(´・ω・`)「お?」

( ^ω^)「もう付き合っちゃえおお前ら」

('A`)「で……」


不安ばかりが募る自己紹介も追え、いよいよこの鎮守府の曰くについて聞く
ブーンもこの場所については詳しくないらしく、ただの左遷だと思っているそうだ


(´・ω・`)「あー、俺も前の鎮守府で小耳に挟んだだけで、詳しくは無いんだが」シュボッ

(´・ω・`)y-~「ここは傷害事件や命令無視をした艦娘が送られる流刑地だったらしい」

( ^ω^)「流刑地?」シュボッ

(´・ω・`)y-~「後、提督もな。上官ぶん殴ったりした奴とか」

('A`)「早かれ遅かれここに来る運命だったか……」

( ^ω^)y-~「お前性格に難あるお。で、曰くってのはそれだけかお?」

(´・ω・`)y-~「いや、曰くってのはここから」

33 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:17:29 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「着任した提督や艦娘が、悉く不審死を遂げたらしい」

(;'A`)「えっ……?」


ショボンはタバコ一服、一呼吸置いた
何この場所?ホラー映画の舞台にでもなったの?


(´・ω・`)y-~「オカルトか、それとも海軍の闇の部分か……どちらにせよ、役立たずを処理する場所として機能してたそうだ」

( ^ω^)y-~「艦娘の幽霊とか出そうだお。やったじゃんドクオ、イチャコラ出来るお」

(;'A`)「生きてるのでお願いしたい……待てよ、前任はここの海域一層したんだよな?」

(;'A`)「脛に傷のある艦娘を、難ありの提督が指揮してそれほどの大戦果を出せるのか?」

(´・ω・`)y-~「いやそれがお前、すげー強……やっべ、緘口令敷かれてたんだった」

( ^ω^)y-~「緘口令?」

(´・ω・`)y-~「うーん……ドクオが上に報告しないんなら話してやってもいいんだが」

(;'A`)「いやいやお前、ここまで話しといてやっぱ言えないですとか生殺しだろ。黙っといてやるから続き頼むよ」

(´・ω・`)y-~「話が分かるな。前の提督もお前くらい心が広かったらなぁ」

('A`)「いや、流石に女寝取られたら俺だってキレるよ?」

( ^ω^)y-~「掘られるお?」

('A`)「オッサン程度ならボコボコに出来るから問題ねえよ」

( ^ω^)y-~「つえー……」

(´・ω・`)y-~「続き、話すぞ」

34 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:19:01 ID:62pQqJ3.0
灰皿代わりの空き缶に灰を落とし、ショボンは前任の話を続けた


(´・ω・`)y-~「問題児の寄せ集めを、問題児が指揮する……それにも関わらず、すげー強かった」

(´・ω・`)y-~「艦隊戦も然ることながら、格闘、剣術、矛術による白兵戦までこなし、降伏の意思を示す深海棲艦でさえ容赦なくぶち殺す……」

(´・ω・`)y-~「その戦いぶりから、『なんとかかんとかちんちんまんまん鎮守府』と呼ばれてたそうだ」

(;'A`)「肝心な所曖昧じゃねーか!!」

(´・ω・`)y-~「又聞きだからなぁ。だが、その目覚しい活躍の裏で、結構な悪事も働いていたらしい。艤装を外した艦娘を奴隷として売ったり……」

(´・ω・`)y-~「薬漬けにしてアレしたりコレしたりとまぁ、様々な悪事が本部にバレた結果……軍法会議に掛けられて処刑されましたとさ」


最後に、『おしまい』と付けたし、ショボンは短くなったタバコを缶の中に放り込む
『ジュッ』と短く音を立て消えたそれが、さながら前任提督の有様のように思えた


(;'A`)「そんなクソ野郎だったのか……」

(´・ω・`)「さぁな、あくまで噂だ。真相を知ってる奴なんざ、海軍上層部でも一握りだろうよ」

( ^ω^)y-~「そいつに比べたら俺らのしでかした事の罪の軽さたるや」

(´・ω・`)「ホントだよ。こんなブサイクと一つ屋根の下にさせられて……」

('A`)「いやそれ俺のセリフだからな?」

35 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:20:17 ID:62pQqJ3.0
('A`)「しかし、そんなことがあったのか……」


口を噤むと、聞こえてくるのは蛍光灯の音と羽虫の鳴き声
外には街灯すらなく、窓から見える海には、まるで飲み込まれそうな暗闇が広がっている

人里離れた場所での、怪奇で猟奇的な噂に溢れた鎮守府。そう考えると、背筋がゾッと凍った


(;'A`)「とんでもねえ場所に、送られちまったんだな俺ら……」

( ^ω^)y-~「僕らは自業自得だから、割り切れるけどNE!!」

('A`)「あ、自分が悪いって自覚はあるんだ」

( ^ω^)y-~「もっとこっそりやればよかったお」

('A`)「やっぱ反省はしてねえのな……」

(´・ω・`)「俺は納得してねーよ。もっとここに送られるべき野郎は大勢いるぜ?」

( ^ω^)y-~「お?」

('A`)「……?」


ほんの、ほんの僅かだが、ショボンの目つきが険しくなる
無意識にだろうか、机の上に置かれている拳は固く握られていて
何か、嫌な過去を思い出したかのように見えた


(´・ω・`)「……うん?あっ、ああ、なんでもねえよ」


俺ら二人の視線に気付いたオッサンは、パッと表情を戻し、立ち上がる


(´・ω・`)「じゃあ、俺は疲れたから先に休ませて貰うぜ。朝飯は……一応、7時半ってことにしとくか」


それだけ言うと、食堂を後にした

36 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:21:03 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」

( ^ω^)y-~「……」


顔を見合わせ、しばらく黙っていたが
フィルター際までタバコを吸ったブーンが、缶の中に吸殻を捨てたのを皮切りに話を切り出した


( ^ω^)「……オッサンだから、多分、色々見てきたんだと思うお」

('A`)「何を」

( ^ω^)「『人』って奴だお」


『人』。確かに、俺が産まれる前から世界を見たオッサンは、俺より見聞が広いだろう
しかし、ブーンが言った『人』という言葉に、妙な引っかかりを感じだ


( ^ω^)「ドクオは……どんな提督になるつもりだったんだお?」

('A`)「えっ?」


唐突な質問に、俺は言葉を詰まらせる
『どんな提督』?そりゃ、下心がねえと言ったら嘘になるが……


('A`)「……」


『艦隊を勝利に導く為?』『艦娘を無事に帰還させる為?』『犠牲を厭わず敵を殲滅する為?』
考え付く何もかもが、ありきたりだ。安っぽい


( ^ω^)「実はちょっと、安心したんだお。僕は」


返答を待たず、ブーンは話を続けた


('A`)「安心、だと?」

37 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:22:21 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「ここは深海棲艦の居ない海、平和な海」

( ^ω^)「艦娘が配備される必要の無い、海だお」

( ^ω^)「艦娘が……」


(;'A`)「……」


朗らかな表情は変わらない。にも関わらず、突き刺さるようなこの悲痛は何だ?
こいつは、オッサンは、何を見たのだろうか?聞きたい、知りたい……だが


『その領域』は、俺が踏み込んで良いモノなのか?


( ^ω^)「おっお。面倒が少ないってだけの理由だお。そんな深刻な顔すんなお」

(;'A`)「ッ……」


ブーンに言われて、俺は初めて眉間に皺を寄せていることに気がついた


( ^ω^)「お前も疲れてんだお。サッサと寝るに限るお」

(;'A`)「ああ……そうだな」


指で目頭を解すと、ドッと瞼が重くなった
確かに長距離移動をしてからの、この現状だ。肉体、精神共に疲労が溜まっている


( ^ω^)「明日の朝ごはん、楽しみだおね」


そう言って笑うブーンからはもう、先ほどの悲痛は感じられなかった

38 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:23:54 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「……」


('A`)「平和だねぇ……」


穏やかな波の音、森の木々のざわめき、ウミネコの鳴く声
見張り台からの見る景色は、空より濃い海の青
時折、白いうねりを立たせながら広がっている


('A`)「こちらドクオ、レーダーどうだ?どーぞ」

『異常なしだお。どーぞ』

('A`)「知ってた」

『艤装弄りに戻っていいかお?』

('A`)「お好きにどーぞ……オーバー」


俺の一日の仕事は、肉眼及び双眼鏡による近海の監視
時折、鎮守府内にあるレーダーに何か映らないかを確認し、また監視に戻る

そして一日が終われば、本部に通信連絡をする

『本日も異常なし』と

39 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:24:50 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「おーい、生きてるかー?」


余りの穏やかさに、ついうたた寝をしていたら
下から、オッサンの呼ぶ声が聞こえ覗き込む


('A`)「退屈で死にそうだぜー。次はラジオでも持ち込むかなー」

(´・ω・`)「おやつ食わねーかー」

('A`)「食うー」


塗装が所々剥がれた梯子を降り、コンクリートで埋め立てられた港湾に立つ
その一部分は、海上に面した坂道になっており、レールが敷かれている
海に出る艦娘は、カタパルトのようにそこから射出され、出撃するそうだ


( ^ω^)「おやつと聞いて」

(´・ω・`)「お前、食いモンのことになると機敏だな」

( ^ω^)「よせやい」

('A`)「まぁ、数少ない楽しみだしなぁ……」


実際、この場所は娯楽が少ない
全く無い、と言うわけでは無い。どういうことかは知らないが、映画と漫画だけはやたら揃っていた
後、スポーツ用具とかも結構ある。バトミントンとかしてはいい汗掻いて虚しさに襲われる

40 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:25:54 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「ポッキーうっま……うま……」

( ^ω^)「ポッキーうっめ……ありえん……」

('A`)「ポッキー……美味……」


ショボンのオッサンは、こうしておやつを作ったり
その日の献立を考えては、仕込みをしたりと、のんびり料理を作っている

ブーンは、電の艤装を弄繰り回して遊んでいた
頻繁に甲高い金属を打つ音が聞こえてくるのがとても恐い。また工廠を吹っ飛ばすんじゃねえかってヒヤヒヤしてる


('A`)「……」


とまぁ、これが俺が着任してからの三日間だ
要は、欠伸が出るほど平和で、死にそうなほど暇で、白目剥くほどやることが無い
『忙殺』という言葉があるが、退屈でも人は死ぬんじゃねえのかって思うような毎日だった


('A`)「……ダメだよな、こんなんじゃ」

( ^ω^)「は?ポッキー美味いだろ?」

(´・ω・`)「なんや?ナッツ入りが良かったんか?」

( ^ω^)「僕は抹茶の、こうなんか太い奴が良いお」

(´・ω・`)「あれはポッキーと呼んで良いのだろうか……ポキッって言うより最早『ボキッ』……そう、ボッk('A`)「そうじゃねーよバカかよテメーら」

41 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:27:29 ID:62pQqJ3.0
('A`)「考えてもみろ。一日を退廃的に過ごして、飯食って寝る。こんなの、『生きてる』って言えるか?」


変わり映えしない景色に、変わり映えしない日常。心がゆっくりと腐っていくような心地がする
俺はとにかく、この状況を少しでも変えたかった。習慣でも、環境でも、何だって良い
幸いにも、ここでもっとも地位のある人間は俺だった。行動を咎める上官はいない


('A`)「やるぞ」

(´・ω・`)「あ?何を?」

('A`)「春の鎮守府一斉、模様替え大掃除大会だ!!!!!!」

( ^ω^)「大会……?」

(´・ω・`)「大会……?」

('A`)「なんだ文句あんのか?やるか?お?」


先ずはこの鎮守府に蔓延する、暗いイメージを払拭する為に
大改造鎮守府ビフォーアフターと行こうじゃあねえか



♪Bruno Mars - Runaway Baby
https://www.youtube.com/watch?v=6Ww-8jvxT5Q



( ^ω^)「木材、釘、それにペンキ。倉庫に置いてあった物持って来たお」

('A`)「よし、ブーンは建物でガタの来てる箇所の修繕に当たってくれ」

( ^ω^)「まかせろ」

(´・ω・`)「鎌に高枝切りバサミ、それと脚立だ」

('A`)「建物に巻き付いているツタを取り除いて、伸び放題の植木の形を整えてくれ。得意だろ?なんか植物の心読めそうだし」

(´・ω・`)「それは別作品の話で、俺は庭師じゃなくて料理人だ。まぁ、やるだけやってみるがよ」

42 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:28:42 ID:62pQqJ3.0
('A`)「さて、俺はひび割れた壁の修繕だ」


練ったコンクリートをひびに沿って塗り、金ごてで綺麗に整える
多少不恰好だが、そのままにしておくよりマシだろう

もしも、この場所に艦娘が来るようなことがあれば
オバケ屋敷でお出迎えなんて、不恰好だし不気味に思うだろう。実際俺は思ったし
例えこの場所が、問題児達の流刑地だったとしても、暖かく迎え入れられるようにしておきたい


('A`)「Run run runaway, runaway baby♪Before I put my spell on you♪」


内地にいた頃にはダリィと思うだろう作業も、ここでは楽しくて仕方が無い
ウミネコと、波と、木々のざわめきに加えて、金づちに鋏を動かす音
なんでもない作業音が、変化のもたらす音楽に聞こえてくる


( ^ω^)「うーん……老朽化は進んでるけど、所々修理もされてるお」トンテンカントンテンカン


(´・ω・`)oVo「……」チョキチョキ

(´・ω・`)oVo「ふむ……」

(´・ω・`)つ8<「……」

(´・ω・`)つ8<「なんだ……しっくり来るな……」


日が暮れるまで作業して、風呂入って飯食って寝て
起きて飯食って、作業して、たまに遊び、休んで、作業する
その合間に、全く変化の無い海を監視、レーダーで確認、一日の最後に報告
そんな日常が、しばらく続いた

43 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:29:34 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「カーテンやシーツの洗濯は大変だな……」

( ^ω^)「ドクオ!!世界を、塗り替えなイカ?」

('A`)「は?何その水鉄砲……?」

( ^ω^)「薄めたペンキを発射できるように改造したお」

( ^ω^)「死ね」ドピュッ

(;'A`)そ「うおお声色がマジだ!?」サッ


(´・ω・`)「おーい、おやつ……」ビチャッ


( ^ω^)「あ」

('A`)「あ」


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「オーケー、宣戦布告と見なした。殺す」

(;'A`)そ「ちょっと待て俺は何もしてなうおお!?」

( ^ω^)「またこの鎮守府に新たな猟奇殺人が追加されると言うのか……人とは哀しい生き物よな……」

('A`;)「お前の所為だろうが!!ちょっ、オッサン!!鎌はやめろ鎌は!!」


たまに、こういったハプニングが有りながらも、改築は順調に進む

44名無しさん:2016/04/03(日) 16:30:08 ID:uNO.6MOw0
おもしろいぞ

45 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:30:22 ID:62pQqJ3.0
寝床のマットを干し、シーツやカーテンを洗濯し、軋みを上げる家具の修理をして
窓を磨き上げ、床に転がってるショットガンを片付け、真っ赤なクレヨンで『たすけて』と壁一面に書かれている部屋をピカピカにして


('A`)「ふーい……」

( ^ω^)「終わった、かお」

(´・ω・`)「おつかれさん。さぁ、乾杯だ」


およそ一ヶ月の大改築は終了した


(´・ω・`)「音頭取れ、ドクオ」

('A`)「俺が?」

( ^ω^)「ドクオが言い出したことだお。しっかり締めるお」

(;'A`)「えーと、そんじゃあ……」


手渡された缶ビールの栓を開け、掲げる


('A`)「生まれ変わった、俺達の家に!!」

( ^ω^)「家に!!」

(´・ω・`)「家に!!」




「「「乾杯!!!!!」」」




.

46 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:31:12 ID:62pQqJ3.0
(*´^ω^`)「ぎゃはははははははwwwwwwwww」

(* ^ω^)「大麦乳大福もぐもぐwwwwwwwww」

(*´゚ω゚`)「ひーひひひっひひひwwwwwwwww」


そして、一時間でこの有様である


(;'A`)「うわぁ……」

(* ^ω^)(*´^ω^`)「「麦茶だこれ!!!!」」


いいえ、ビールです。それをお前らは麦茶並のペースでガブガブやってるんです
それに加えて、お前らタバコも吸うから酔いが回るのはええんです
いくら備蓄に余裕があるとは言え、流石に呑みすぎだ


('A`)「そろそろお開きにしようぜ」

(*´^ω^`)「堅ぇこと言うなよ提督よぉ〜?俺ァなぁ、俺ァなぁ……」

(*´;ω;`)「ひぐっ、嬉しいんだよォ〜……オオウオウオウ……」

(;'A`)「ええ〜……」


さっきまでゲラゲラ笑ってたオッサンが、急におうおうと泣き出した
笑い上戸な上に泣き上戸かよ……純粋にめんどくせえ……」


(*´;ω;`)「お前、お前……新人なのにさぁ……こんな場所連れてこられてさぁ……散々な目に遭ってんのによぉ……」

(*´;ω;`)「この一ヶ月、ふて腐らねえで鎮守府の改善を成し遂げたじゃあねえかぁ〜……」

(;'A`)「え?お、おう。ありがとう」

47 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:32:27 ID:62pQqJ3.0
(*´;ω;`)「最初は、他の連中と同じような、ゲスいだけのクソ野郎だと思ってたけどよぉ……」


聞き捨てならねえが、その通りだから何も言い返せないのが悔しい


(*´;ω;`)「それでもおま、お前……やって来るかもどうかわかんねえ艦娘の為に、ヒクッ、汗水垂らして働いたじゃあねえかぁ……」

(* ;ω;)「うおおおおおおおおおおお!!!!!」

(;'A`)そ「うおっ!?お前もかブーン!?」


ニコニコ笑っていたブーンも、突然大声を上げて泣き出す
何だこれ俺はどうすればいいのこいつらを


(* ;ω;)「愛だお……愛の為せる技なんだおおおおおおおお!!!!」

(;'A`)「愛ってお前……大げさだろ……」


艦娘の環境改善の為に改築に取り組んだのは嘘じゃないが、退屈しのぎで始めたのも事実だ
これほど感動されるほど、俺は大義を持って行動したわけじゃない

照れ隠しも兼ねて、それを伝えようとした矢先に


(*´-ω-`)「ぐごーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

(* ‐ω‐)「すやーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


叫んでんじゃねえかと思うほどの、大いびきを掻いて二人は眠ってしまった


(;'A`)「おいおい……」


揺さぶっても起きやしない。今日は総仕上げとして大分働いたから、疲れていたんだろう
それは俺も同じだったが、起きている以上、放っておくわけにも行かなかった

48 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:33:44 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(;'A`)「つっかれたー……」


自室のベッドに体を投げ出し、伸びをする
男二人をそれぞれの部屋に運ぶのは、やはり重労働だ
しかも一人はデブだったから、最終的には転がした
なんどか壁に顔をぶつけてしまったが、酔ってた所為にすりゃいいだろ


('A`)「ハァー……」


疲れと酔いが、まどろみの中へと引きずりこんでいく
ぼんやりとした頭で、明日から何をしようかなんて考えながら、俺も眠りに就いた


(-A-)「スゥ……」


(-A-)


(-A-)





(-A-)







.

49 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:34:35 ID:62pQqJ3.0






『りん』






.

50 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:35:33 ID:62pQqJ3.0
聞き覚えのある、鈴の音だった


(-A-)「……」


部屋の中に、人の気配がする
ブーンか、オッサンか。尋ねようとしたが
声は出ない、体も動かない。俗に言う、金縛りに掛かっている

きっと、夢だろう。気にするまでも無い。もうここは、オバケ屋敷ではないのだ


「さて、新しい提督さん」


この場所で始めて聞いた、女の子の声だ
結局この一ヶ月、声の正体は分からずじまいだったな。白昼夢でも見てたのだろうか


「貴方はこれから、『前』より余程厳しい状況で、深海棲艦に挑まなければならない」


待てよ、ここは既に解放された海域じゃあないのか?
一ヶ月間、静かで穏やかなもんだったぞ?


「解放された海域?ハハ、可笑しな事を仰る」

「海が一つに繋がっている限り、『彼女達』はどこにだって赴き、どこにだって現れる」

「勝利条件はただ一つ、『深海棲艦の全滅』。それは、向こうにも言える事」

「降伏など無意味、和解など持っての他。殺すか殺されるかの『戦争』。それを『彼』はちゃんと理解していた」


彼、とは?


「軽巡洋艦、『龍田』」

51 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:36:11 ID:62pQqJ3.0
(;-A-)「……」


龍田だと?艦娘を、『彼』と?
アンタは、一体何を言っているんだ?


「艦娘でありながら、人間であり、そして深海棲艦でもあった、奇妙な男性で……」

「この場所の、前任提督だった」


支離滅裂が過ぎる。艦娘なのに、人間で、それに深海棲艦だと?
もしそんな奴がいたとして、それが何故こんな場所で提督をしていた?


「さて。艦娘に拒絶され、忌まわしき鎮守府へと流れ着いた『丸腰の提督』さん」


『りん』と、また鈴の音が響くと
動かない俺の手に、柔らかな毛の……『猫』のような感触が広がった




「貴方は果たして、『彼』の意思を継ぐ者となれるでしょうか?」



.

52 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:37:54 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」


('A`)「あ、ああ……朝か……」


カーテンの隙間から差し込む光で、目を覚ます
起き上がると、僅かに頭痛がした。二日酔い気味だろう


('A`)「なんか……変な夢見た気がする……」


内容を覚えてはいないが、とにかく不可思議な夢だった筈だ
思い出せないもどかしさで、頭を掻こうと手を上げた時


('A`)「ん?」


俺は、何かを握っていることに気がついた


('A`)「……USB?」


8GBの、USBメモリーだ
こんな私物を持ち込んだ覚えは無い。この一ヶ月の改装及び大掃除で、記憶媒体を見つけた覚えも無い
ブーンかショボンの物だろうか?だとしても、あいつらの物を、俺が握りこんで寝ているのは可笑しくないか?


('A`)「……ま、いいだろ」


司令室にはパソコンがあった。後で確かめてみよう
スウェットのポケットに仕舞いこみ、食堂へと向った

53 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:38:41 ID:62pQqJ3.0
(;´ ω `)「おあよう……」

(; ω )「おうぇっ……顔痛……」


(;'A`)「……」


コーヒーを一杯淹れる間に、昨夜ベロンベロンに酔っ払った二人がのそのそとやって来た
どちらも頭を抱えながら、青白い顔をしている。麦茶みたいにビール飲んでるからだろ


(;'A`)「コーヒーか?それとも水か?」

(; ω )「水くれお……」

(;´ ω `)「悪ぃ……今日は仕事できそうにねえや……」

(;'A`)「お、おう……良いよ今日は休んでろ」


入れてきた水を飲み干した二人は、またふらふらと寝床へ向った
今日は俺一人で仕事か……まぁ、次の方針を考えるいい時間になるだろう


('A`) ズズッ
つ日


('A`)「さてと……始めるかね」


まだ半分ほど中身が残っているマグカップを持ちながら、作戦指令室へと向った

54 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:40:09 ID:62pQqJ3.0
('A`)「アラート、異常なし。レーダー、異常なし。その他計器……オーケー、異常なし」


レーダーは最重要機器だ。艦影を捉えると、鎮守府全域に警報を鳴らす
これが動いていないと、近づいてくる深海棲艦を見つけるのが難しくなる
朝と夕方、二回のチェックは欠かせない。まぁ、いつもブーンがメンテしてくれているから、今の所問題は無いが


('A`)「今日も平和でござんすねっと……」
つ日


軽くぼやいて、コーヒーを啜ろうとした時


('A`)「……?」


俺は自分のぼやきに、違和感を覚えた
平和……なのか?本当に?


(;'A`)「はは、何を……」


ここは大本営が、艦娘を配備する必要が無いと結論を出した海域だ
一ヶ月間、何の異常も無かったじゃないか……


(;'A`)「……クソッ」


嫌な想像ってのは、考えないようにすればするほど広がるもんだ
温くなったコーヒーを一気に飲み干して、不安を苦味でむりやり洗い流し、今度は見張り台へと赴く

55 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:40:48 ID:62pQqJ3.0
('A`)「今日のご機嫌は悪いようだな……」


今日の天気は曇り空、風も吹き波が高い
空も海も灰色に染まり、巨大なバケモノが、大口開けているかに見えた
広げた折りたたみ椅子に深く座り、イヤホンを耳に突っ込み、ウォークマンの再生ボタンを押す


♪Zebrahead - Rescue Me
https://www.youtube.com/watch?v=w0rkj_GHO2g


('A`)「……」


風が波を押し上げ、時折港湾に水しぶきを立たせる
こんな時化た海でも、艦娘は出撃しているのだと言う
その姿を目に掛けたことは無いが、もしもその背中を見送ることがあるのなら

俺は、どう声を掛けたらいいのだろうか?


('A`)「戦争、か……」


提督は、艦娘の司令官という立場だ
言うならば、机上の駒を進めて、戦いを勝利に導く存在だ
だから……『戦場の空気』を、読み取ることが出来ない。砲の音も、魚雷発射音も

圧倒的火力で迫る戦艦級深海棲艦の圧力も、音も無く足下に現れる潜水艦の恐ろしさも

それを知らない立場で、『頑張ってこい』『必ず勝て』など、言っても良いものだろうか?
近頃、そんなことを考えるようになった。多分、もっと早くに
それこそ、提督の道に進む前に考えるべきことだろう

56 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:41:48 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」


幸か不幸か、俺にはその考える時間が与えられた
もしも艦娘が手元にいて、順調に海域を開放し、次々と彼女達を増やしていたら
俺は色に目が眩んで、ブーンが最初に言った『ゲス野郎』になっていたかもしれない


('A`)「……」


ここの前任のように、艦娘を悪戯に……


('A`)「……?」


悪戯に、扱ったのか?


('A`)「……なんだ、この、感じ」


ショボンのオッサンから聞いた噂話に、昨日までの俺は疑いも無く嫌悪を抱いたはずだ
だが今は、それが疑問に変わっている。またもや、『本当に?』と


('A`)「ッ……」


ポケットから、USBを取り出す
寝てる間に握っていたこれに、その『答え』が載っているとしたら……?


('A`)「俺は、一体……?」


変だ、今朝から、夢を見てから
椅子を折りたたみ、もう一度海を注意深く眺めて異常が無い事を確認し
俺はパソコンがある司令室へと急いだ

57 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:42:46 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「テキストファイルか……」


三つのテキストファイルと、ピクチャファイル
タイトルはシンプルに数字で記されていて、中身が何なのか検討もつかない


('A`)「……」


差しあたって、最上部にある『1』のファイルをクリックしてみた
ワードが開かれ、その内容が表示される

その書き出しは、まるで


『貴方がこの手記を読んでいる時、私は既にこの世にはいないだろう』
『自己紹介をしよう。私は「流刑地」と呼ばれた鎮守府に四年間着任していた提督だ』
『噂には聞いているだろう。着任した提督や艦娘が悉く不審死を遂げる、呪われた鎮守府』
『そこで私は、「家族」と共に周辺海域を深海棲艦の支配から解放した』


三流脚本家が書いた、映画やドラマのような物だった


(;'A`)「これ、前任の……」


ごくりと、溜飲を下す。残酷な噂話を思い出し、鳥肌が立った
だが、俺はついさっきその考えに疑いを持った身だ。それを晴らすためには、これを読まなければならない
意を決し、マウスホイールを回していく


『最初に、このメモリーの内容を説明しておく。この1番目のファイルは「艦娘の現状」について』
『2番のファイルは、私が「提督」として勤めた四年間の日記だ。別に読んでも読まなくてもいい。長いから途中で切ってくれても構わない』
『最後に、私の願いについて』


('A`)「ふむ……」


深海棲艦と艦娘に関する書籍はいくつか読んだが、殆どが考察に近いものだった
両者とも謎が多い。艦娘自身も、その出生を語ることが出来ない
どこから来て、何が目的なのかがハッキリとしていないのだ

58 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:44:09 ID:62pQqJ3.0
俺は、この文章を書いた人物の研究結果をまとめているものだと思っていた
しかし、スクロールして読み進めていくうちに、それは全く見当違いだと知ることになる


(;'A`)「……」


そこに書いてあったのは、海軍の『闇の部分』
艦娘が受けた、非道だった


『最初に出会った叢雲は、前の鎮守府で自爆特攻を命じられ、決行直前に戦場から逃げ出した』
『命じた理由が、「口答えをしたから」だ。初期艦としてアドバイスをしたつもりだったのだが、当時の司令官はそれが気に食わなかったのだろう』
『時雨は、提督が圧力支配をする鎮守府でのストレスに耐え切れず、傷害事件を起こした』
『大本営の独房で彼女を最初に見たとき、彼女の目は人間に対する殺意しか映ってなかった』
『性的案件は数え切れない。艦娘は無条件に提督に好意を寄せると言うが、それは間違いだ』
『愛好の感情の裏には、必ず嫌悪の感情がある。どちらか一方だけに偏るなど、ありえないのだ』

『ここに集まる艦娘は、こういった提督の身勝手によって追い出された者ばかりだった』


(;'A`)「……」


つまりは、自分の欲望を満たすために提督となった奴らに刃向かい、逃げ出した艦娘がここに送られたのだ


『提督が全員、色欲に流れる下衆の類とは言わない。私が海軍所属になってから幾つかの鎮守府を見てきたが』
『真剣に戦争の終結を望み、日々戦いに挑んでいる者達も確かに存在する。だが』
『目先の勝利に囚われ、艦娘の命を粗末に扱う人物も現れてしまう』
『しかもその行為は、人が人を扱うよりも安易に行われてしまうのだ』

『人。「人間」という生物が誕生するまで、母親の胎内で十ヶ月ほどの時間が掛かる』
『そこから更に「青年」と呼べるようになるまで十数年の月日を要する。人には、『人生』という重みがある』
『その重みがあるからこそ、兵士の命を預かる「指揮官」は、容易く自爆覚悟の突撃を命じられない』
『しかし、艦娘はその成長過程を僅か20分、長くても八時間で済ませてしまう。それも、母とも呼べない箱の中でだ』
『産みのリスク、育てのリスクが余りにも軽い。加えて、彼女達は「資材」から作られる』
『死亡責任を追及する父や母、『家族』も存在しない。無謀な命令で彼女達を死なせ、責められることが無い』
『「提督」の双肩に掛かる責任を、余りにも軽く考えているのだ』

59 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:46:11 ID:62pQqJ3.0
『それが顕著に表されているのが、「艦娘三原則」だ』


・第一条 艦娘は人間に危害を加えてはならない。
・第二条 艦娘は人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
・第三条 前掲第一条及び第二条に反する恐れの無い限り、自己を守らなければならない。


『アイザック・アシモフが自身のSF作品にて示した「ロボット工学三原則」を元に考案されたこの原則は』
『人間への安全性、命令への服従、自己防衛を目的とする三つから成る』
『人類共通の敵、「深海棲艦」に唯一対抗しいれる彼女達の、決して破ってはいけない掟』
『とどのつまり、「兵器」が人間に刃向かうなと、暗に言っているようなものなのだ』
『この「兵器」という認識が改められない限り、彼女達が置かれている環境が改善されることは無いだろう』


(;'A`)「……」


俺は、無意識の内に自分の胸倉を掴んでいた
マウスを握る手は汗でぐっしょりと濡れていた


(;'A`)「俺もだ……」


この文にある、艦娘を軽く扱った『提督』達と、俺はなんら変わらないではないか
大義を掲げるフリをして、結局の所、俺は自分のことしか考えていなかった

『艦娘に対する世間の認識や、風潮がそうさせた。お前は悪くない』

一瞬そう考えては、頭からかき消した

60 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:46:59 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「バカ野郎……分かるだろうが……」


映像で見た彼女達は、人の形をして話し、笑い、そして戦っていた
そこに傷つく『心』が無いはずがない。それを、蔑ろにして良いはずがない
これを読むまで、そんな単純なことに気がつかなかった


(;'A`)「っ……ふー……」


天を仰いで、ため息を吐いた
幸いなことに、俺の身勝手で無意味に傷つく艦娘が、ここにはいない
だが、例えこの場所に艦娘が来ても、俺は提督を続けるべきなのだろうか
命を預かる『責任』を感じて、逃げ出さずにいられるのだろうか


(;'A`)「……」


しばらく、自分の両拳を見つめながら考えていたら
いつの間にか、窓の外が薄暗くなっていた


(;'A`)「嘘だろもうこんな時間……」


立ち上がって、今日の報告へ向おうとした
そしてふと


('A`)「……」


俺は、他の鎮守府を見てきた二人にもこれを見せようと思い
手早くプリントアウトをし、クリアファイルに仕舞った

61 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:48:14 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「お……?」


本部への報告を終え、適当に夕食を済ませようと食堂に向っている最中
ふわっと、出汁の良い香りが鼻を擽った


('A`)「オッサン、具合はもういいのか?」


厨房では、二日酔いでダウンしていたショボンのオッサンが料理をしている


(´・ω・`)「おう、迷惑かけたな」

('A`)「全くだぜ。次は海に叩き込むからな」

(´・ω・`)「死ぬわ」


顔色も良く、体調は元通りになっているようだ


(´・ω・`)「簡単なもので悪いが、晩飯だ」


根菜と牛肉が入ったうどんを二つ、テーブルへ運ぶ


('A`)「ブーンはまだダウンしてんのか?」


食い意地の張ったあいつが、飯時にいないのは珍しい


(´・ω・`)「まだグースカ寝てたぜ。明日まで起きねえだろうな」

('A`)「相当だな」

62 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:49:20 ID:62pQqJ3.0
透き通るような関西風の出汁を啜る。摩り下ろした生姜の風味が爽やかだ
具は甘辛く煮込んであり、ゴボウの歯ごたえが良いアクセントになっている


('A`)「ああ、うめえ……」


自然と零れる、食事への感想。どっかの美味しnクソグルメ漫画のように、薀蓄垂れ流さなくとも
『美味い』の一言は、料理人に対する最高の賛美だと思う


(´^ω^`)「知ってる」


でももうちょい謙虚になれよムカつくなその顔


('A`)「ごっそさん」


五分足らずで食い終え、パンと手を合わせ食事への感謝をする
オッサンは灰皿を引き寄せ、食後の一服を始めていた


(´・ω・`)y-~「フーッ……そういや、こうやって二人だけでゆっくりするのは始めてだな」

('A`)「せやな……」


この一ヶ月はバタバタとしていたし、何か食うときは絶対ブーンいたしで
こうして向き合って話す機会は、無かったかもしれない

しかし、ちょうど良い。前の鎮守府の話を聞くには、おあつらえ向きだろう
テーブルに置いてあるクリアファイルを、オッサンに差し向けた


(´・ω・`)y-~「これは?」

('A`)「目を通せば分かる」


タバコの灰をトンと落としたオッサンは、コピー紙を取り出し、左右に目を流す
そして、『信じられない』といった表情で、俺の方へと向き直った

63 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:51:49 ID:62pQqJ3.0
(;´・ω・`)y-~「前任の……どこでこれを?」

('A`)「さぁな……今朝起きたらメモリーを握ってた」

(;´・ω・`)y-~「どうして俺に?」

('A`)「鎮守府勤務経験者の観点からの話を聞きてえ。俺は、ここ以外を知らない新米だからな」

('A`)「前任が残した手記が、本当かどうかを確かめたい」


俺の目を見て、オッサンの顔つきが真剣になる
まだ何も話してはいないが、俺の想いを察してくれたのだろう


(´・ω・`)y-~「……」ペラ


黙々と、文章を読み進める
時折、タバコの煙を吐くこと以外、口を開かなかった


(´・ω・`)y-~「フーッ……」


読み終えたオッサンは、机で紙をトントンと整え、クリアファイルに仕舞う
そして、短くなったタバコを揉み消し、すぐさま二本目に火をつけた


(´・ω・`)y-~「結論から言おう。事実だ」

('A`)「……」

(´・ω・`)y-~「だがまぁ、人間社会がそうであるように、ピンキリだがな」

('A`)「……オッサンが、前にいた場所は」

(´・ω・`)y-~「良い所だったよ」

64 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:52:30 ID:62pQqJ3.0
過去を懐かしむように遠い目をして、煙を吐く


(´・ω・`)y-~「イジメもねえ、設備は整ってる、福祉も充実……提督も若く、やり手だった」

(´・ω・`)y-~「問題があるとすれば、『俺』自身だ」

('A`)「オッサン自身……?」

(´・ω・`)y-~「『戦闘ストレス反応』って、分かるか?」


頷き、肯定した。戦場に出る兵士に起きるトラウマだ
戦争後遺症とも呼ばれる


(´・ω・`)y-~「まぁ、正確じゃあねーとは思うが、俺はそれを患った」

('A`)「え、でも……」


『そうは見えない』と言おうとしたが、手で制される
俺は口を噤み、次の言葉を待つことにした


(´・ω・`)y-~「一言で言っても、色々あるだろ。銃弾の音、死んで行く兵士、仲間の命を守る重圧感……」

(´・ω・`)y-~「心の病だ。薬や手術でそう簡単には治らねえ、難解なものだ……フーッ」

('A`)「……」

(´・ω・`)y-~「肝心の、トラウマ内容だがな……」


注意しなければ分からないほど、僅かにタバコが折れ曲がった


(´・ω・`)y-~「艦娘の轟沈だ」

65 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:54:12 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……提督に、多いと思っていたが」

(´・ω・`)y-~「どうだろうな……少なくとも、前の提督はそれを『割り切っていた』

(´・ω・`)y-~「当然だ。戦争なんて殺し殺されの地獄絵図。そこに犠牲が伴わないワケがねえ」

(´・ω・`)y-~「短時間で『造られる』艦娘なら、尚更軽く扱われるだろう……この手記の通りにな」


オッサンはファイルを指で叩いた
そりゃ、そうだ。とどのつまり戦争は『殺したモン勝ち』
『犠牲を出したくない』など、平和的で優しく、能天気な願いが通る筈が無い


(´・ω・`)y-~「奴は優秀だったが、それは『勝つ』事だけに限られた。勝つためなら、犠牲を厭わないタイプのな」

(´・ω・`)y-~「だから……俺の顔見知りも、沈んでいくことが多かった」


タバコが、また折り曲がる
今度は、さっきよりも強い力を込めて


(´・ω・`)y-~「最初は卯月っつー駆逐艦娘だった。悪戯っ子でな、変わった語尾を付けてた」

(´・ω・`)y-~「俺が気まぐれで作ったお菓子をあげたら、飛び上がりそうなほど喜んでな……それから、二人三人と、厨房に顔出す連中が増えていった」

(´・ω・`)y-~「それから、俺のお菓子作りは日課となった。どいつもこいつも、良い表情で食いやがるんだ。美味しい美味しいってよ」

(´・ω・`)y-~「俺には家族が居なかったからな。自分のガキみてーに可愛がった……」


('A`)「……」


オッサンは、今まで見せたこと無いような優しい表情をしていた
きっと、彼女達に向けていたのは『性欲』ではなく、『親愛』だろう
だが、それも少しずつ悲しみの色へと変わっていく

66 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:57:20 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「ある日、卯月がパッタリ来なくなった。気になったが、一介の調理師如きがウロチョロしていい場所じゃあ無かった」

(´・ω・`)y-~「仲の良かった駆逐艦に聞いてみたら、『一週間ほど前に沈んだ』と、泣きそうな顔で答えてくれた」

(´ ω `)y-~「信じられなかったね。最後に会った日も、ふざけて笑っていたあの子が『死んだ』だなんてよ」


('A`)「オッサン、もう……」


余りにも辛そうな表情を見て、話を中断させようとしたが
それでもオッサンは、『最後まで聞いてくれ』と、呻くように呟いた


(;´ ω `)y-~「もっと恐ろしいのはここからだ……悲しみの傷も癒えてきた時、ひょこっと『卯月』が厨房に現れた」

(;´ ω `)y-~「最初は夢でも見てんのかと思った。だが、手の甲を抓ってみると確かに痛かった。現実に、死んだはずの卯月が現れた」

(;´ ω `)y-~「『生き返った』『帰ってきた』。俺はそう期待した。だが、あの子は俺の顔を見てこう言ったんだ」


タバコが、グシャリと完全に握りつぶされた


(;´ ω `)「『初めまして』とな……」


(;'A`)「……」


艦娘を知っている者なら、この謎は難なく解ける
『建造』もしくは『ドロップ』によってやってきた、新しい『艦娘』だ
姿形、人格も瓜二つ。だが、記憶や思い出は、まっさらな『別人』

もし俺の家族や、親しい友人が、全く別の存在として現れたとしたら
オッサンのように、恐怖を覚えただろう

67 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:59:36 ID:62pQqJ3.0
(;´ ω `)「卯月だけじゃねえ……弥生も、皐月も、文月も……みんな沈んでは建造され、何事も無かったかのように現れる……」

(;´ ω `)「そっ、それが、余りにも恐ろしかった……悪い夢を、延々と見せ付けられるような……」

(;´ ω `)「そんな日々が続いて、俺ァ馬鹿になっちまったんだろうな……提督の秘書艦と、提督を犯した……」


最初に出会ったときのような軽口では無く、重々しい、後悔が乗った口調だった
涙こそ流してはいないが、喉の奥から、時折しゃくりあげるような音が聞こえた


(;´ ω `)「精神疾患と診断された俺は、軍の病院で半年ほど入院した。上層部から退院時に突きつけられた二択が……」

(;´ ω `)「犯した罪に見合う年月を、牢屋で過ごすか。その倍以上の時間、『ここ』で勤務をするか……だった」


('A`)「……」


『何故』とは、聞かなかった。何となく、理解出来るからだ
オッサンは料理人だ。『美味しい』の一言が、オッサンにとっての最高の報酬なんだろう


('A`)「鎮守府に、戻ってきたのは」

('A`)「また……艦娘に料理を出す為だった、のか?」


(´ ω `)「……」カチッ シュボッ

(´ ω `)y-~「料理の腕以外に、取り得が無かったからな……せめて、美味い飯振るうくらいの償いをしたかったのさ」

68 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:00:51 ID:62pQqJ3.0
オッサンは自虐的に乾いた笑い声を上げ、目頭を指で揉み解す
顔を上げた時には、いつもの表情へと戻っていた


(´・ω・`)y-~「まさか艦娘が一人もいねえ場所に送られるなんざ、思ってなかったがな」

('A`)「……」

(´・ω・`)y-~「ああ、別に不満ってワケじゃねえ。ここの生活は楽しいし、お前も良くやってると思うよ」

('A`)「良く……やってるの、かな」

(´・ω・`)y-~「あん?」


また一つ、鎮守府の現実を知った
轟沈による心の傷。戦争という抗えない現実
軽い気持ちで踏み込むべき世界ではなかった


('A`)「今でもオッサンの話を聞いて、ここに送られたことを安心している。前線では、艦娘が命を落としているのに」

( A )「嫌でも自覚するよ……俺は能天気で、覚悟のない人間だったってことを……」

(´・ω・`)y-~「……」


自分の、胸中を打ち明けた。幻滅されても、構わないと思った
辛い過去を持ちながら、のうのうと提督面していた俺に、オッサンは心中で我慢してたのかもしれない
だから、その鬱憤を晴らして貰いたかった。だが


(´・ω・`)y-~「なら、今から変わればいいじゃねえか」


叱責でも、怒号でもない、優しい声でオッサンは返事をした

69 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:02:05 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「最初から何もかも知り尽くして生きている人間なんていねーよ。神じゃあねーんだから」

(´・ω・`)y-~「お前は今日、戦争と艦娘の現実を一つ知った。じゃあどうするか」


オッサンは米神を指で叩く


(´・ω・`)y-~「オツムで考え」


その後、今度は胸を拳で叩いた


(´・ω・`)y-~「心に示すのさ。自分の生き方、生き様をな」

('A`)「生き方、生き様……」

(´・ω・`)y-~「ま、心のビョーキしでかした奴が言っても、説得力ねーと思うがな」


そんな事は、無かった
オッサンは多分、凄く優しかったんだ。だから、人一倍傷ついた
そんなオッサンも、事件や病気を経て、生き様を見つけていったのだろう


('A`)「……考えて、みるよ」

(´・ω・`)y-~「おう、頑張れよ」


オッサンが突き出した拳に、自分の拳をぶつけ合わせた
話が聞けて良かった。俺が目指す『提督』としての在り方に、新しい一歩を踏み出せたから

70 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:03:05 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



( ^ω^)「ドクオ、午後に時間取れるかお?」


翌日、ブーンは開口一番こう言った
不意を突かれた俺は、若干うろたえながらも『ある』と返した

ここじゃ時間だけはたっぷりとあるからな


( ^ω^)「ショボンのオッサンから頼まれたんだお。前にいた鎮守府の話を聞かせてやって欲しいって」

( ^ω^)「僕も見せたいものがあるお。ご飯食べたら、工廠まで一緒に行くお」

('A`)「オチンコかな?」

( ^ω^)「馬鹿じゃねーのかお前」


冗談とツッコミを交し合い、午前はそれぞれの仕事をした
俺はいつも通り海の監視と、一ヶ月の大改装で出た大量の不燃ごみを捨て場に運ぶ作業
ブーンは焼却炉で可燃ごみの処理をしていた


(´・ω・`)「なんかオーブンの調子悪いんだけど」

( ^ω^)「叩いたら直るお」

(´・ω・`)「テレビじゃねーんだから。潰れたら今日のおやつのガトーショコラ無しだぜ?」

( ^ω^)「おk、全力でファックしてやる」

('A`)「新ジャンル、『オーブン姦』」

(´・ω・`)「外はこんがり、中に旨みと肉棒汁を閉じ込めたローストチンコが出来上がるな」

('A`)「ヤバイ、ここに来て一番頭悪い話してる今」

( ^ω^)「今更だお」

71 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:04:11 ID:62pQqJ3.0
昼飯を終えた後、ガタが来ていたオーブンの修理をした為、予定より大分遅れて工廠へと向った
ちょくちょく顔を出してはいるが、ブーンがここで何をしているのかは知らされていない

本人に聞いても、『おもちゃ作ってるだけ』と返されるだけだ。多分、大人のおもちゃだろう
なんかこう、メタリックTENGAみたいなのを作ってるのかもしれない。メタリックTENGAって何だよ


('A`)「やっぱ、すげー謎だよなぁ」

( ^ω^)「何がだお?」


ブーンはパチン、パチンと電灯のスイッチを付けていく
体育館を改装した工廠は、元はそこそこの広さがあったのだろう
しかし今は、『建造』を行うブラックボックスが幅を利かせている


('A`)「これから艦娘が出来上がるなんてよ」

( ^ω^)「ほんとだおね」


このブラックボックスも、様々な方法で調査が行われたが、二十年経った今でもほぼ謎のままだ
わかっているのは、この箱を設置するには『キー』が必要で、そのキーを用意できるのが『明石』という艦娘だけだということ

その出所も、ハッキリとしていない


('A`)「で、見せたいものって何だよ?」

( ^ω^)「フフフ、見て驚くなお!!」

(;'A`)そ「な、なんだってぇーーーーー!!!!????」


( ^ω^) ('A` )


( ^ω^)「満足かお?」

('A`)「ツッコんでくれたって良いじゃん」

72 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:05:25 ID:62pQqJ3.0
ブーンは、作業台の隣にある布で隠された物の前に立つ
大きさ的に電の艤装だと思うんだが、それにしちゃ縦に大きい。俺の身長ほどあるんじゃないか?


( ^ω^)「本邦初公開だお」


ブーンが布を取っ払うと、その正体が明らかになる


(;'A`)「な……?」


|::━◎┥


それは、『鉄の鎧』だった
とは言っても、中世の甲冑のようにゴテゴテとした者では無く
『アイアンマン』のパワードスーツのような、スタイリッシュなデザインだ
顔面には『ザク』のようなモノアイ。左手には1.5メートルほどのシンプルかつ太めの短槍
右手の甲から手首に掛けて、電の初期装備『12.7センチ連装砲』が装着されている
両肩から肘辺りまでは、艤装の『盾』に覆われていた

腰のベルト部分は、羅針盤をモチーフにしたエンブレムが付いていて、『錨』の形をした凹みがあった
右腰部分には、南京錠のようなアクセサリーが
そして、背中には水上推進動力部が背負わされていた
足には、艦娘と同じく踵に『舵』が付いている


それを見て、最初の一言は


(;'A`)「何これ……」


だった

73 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:06:17 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「男性用艤装アーマー。通称、『アンカーシステム』だお」

(;'A`)「だ、男性用……?に、人間の、男性だよな?」

( ^ω^)「艦娘に男がいたら、話は別だお」


いるわけが無い。その全てが女性だから、『娘』と明記されているのだ


(;'A`)「こ、これ……どうやって?」

( ^ω^)「この鎮守府に残っていた鋼材とボーキを使ったお。250ずつ位」


250。駆逐〜重巡洋艦が建造できる平均値だ
ここに残されていた資材は、それぞれ300ほど。新米提督に最初に支給される量だ


(;'A`)「魔改造って、これのことだったのか……」

( ^ω^)「ま、『おもちゃ』だお。実用させるにはもっともっと充実した資材と、環境が必要だお」

( ^ω^)「それと、『実験台』が」


『実験台』、その言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立つ
まさかこいつ、俺のエネルギッシュ溢れる身体目当てにここへ……?」


(;'A`)「エ……エロいことするつもりなんでしょ!!クリムゾンみたいに!!」

( ^ω^)「待って今の話のどの辺からエロいことする流れになったの?」

74 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:07:47 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「ドクオって、僕をマッドサイエンティストか何かかと思ってる節あるおね」

('A`)「え?違うの?」

( ^ω^)「ちげーよ誰が鳳凰院凶真だお」

('A`)「どっちかっつーとスーパーハカーだろ。体型とか喋り方とか鑑みるに」

( ^ω^)「ハカーじゃなくてハッカーな」


このままだと会話が大きく脱線してしまうので、話を戻す


('A`)「で、実験ってのは何のだよ?」

( ^ω^)「……艦娘が登場した当初、艤装研究が盛んに行われたお」

( ^ω^)「その目的は、『艤装を人間が使用する』事。当時は、海上の防衛網を抜けて陸に上がってきた深海棲艦を白兵戦で撃退する部隊もあって、生身の人間でも微力ながら戦えることが証明されているお

( ^ω^)「そして何より、『女子供より、男が戦うべきだ』という意見もあって、取り組まれたんだお」

('A`)「……へぇ」


軽視されている艦娘も、気遣われる時代があったのかと感心する
今じゃ世間一般の艦娘への認識は、『女子供』ではなく『兵器』
守るべき対象では無く、場合によっては民衆からヘイトやバッシングを受ける存在なのだ


( ^ω^)「だけど、問題は山積みだったお。その最たるものが『艤装の試練』と呼ばれるものだったお」

('A`)「試練?試すのか?艤装が、人を」

( ^ω^)「言葉の綾ってやつだお。艦娘の調査を続ける内に、艤装は艦娘と神経を繋ぎあわせ動かすことの出来る『身体の一部』であることがわかったお」

( ^ω^)「で、研究機関もそれと似たような装備を開発できた。艤装と人間の脳をリンクさせる追加アタッチメントを」

75 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:10:38 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「だけど、問題が生じたお。いざリンクを行うと、被験者は叫び出し、何かに怯え、そして最後に……」

( ^ω^)「『炎上』して死亡したお」

(;'A`)「炎上……艤装が、燃えたってことか?」

( ^ω^)「違う、『人間そのもの』が発火したんだお」


人体発火現象とやらだろうか。どこかのオカルト誌か、どこかの某鬼の手使いの零脳教師漫画かで読んだ覚えがある


( ^ω^)「この結果に研究者は一つの仮説を出したお。『艤装は、その艦が経験した戦争を被験者に追体験させ』……」

( ^ω^)「『その記憶に耐え切れなかった結果、何らかのバーストを起こし死亡した』と」

(;'A`)「別世界の、戦争ってやつをか?」

( ^ω^)「人と人が艦に乗って殺しあった、別世界では史上最も大規模で、苛烈で、悲惨な戦争……らしいお」

(;'A`)「艦娘本人だけでなく、艤装にもその記憶があるのか……じゃあこの『アンカーシステム』も、危ないんじゃないのか?」

( ^ω^)「多分。だけど、わからないお」


『わからない』。その言葉に、期待が込められているように思えた


( ^ω^)「神経伝達では無く、こめかみから脳波を読み取ってリンクさせる方式にしたんだお」

('A`)「何か違うのか?」

( ^ω^)「簡単に言えば、直接繋ぐか間接的に操作するかの違いだお。でも、この方法が正解なのかはわからないお」

( ^ω^)「そもそもが、無謀なんだお。血液型の違う人体のパーツを繋げる様なもんだから」

76 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:11:56 ID:62pQqJ3.0
('A`)「じゃあ、どうして……」

( ^ω^)「……悔しいんだお」

('A`)「悔しい?」


ブーンは一度頷くと、机の上に置いてあった艤装用弾丸を手に取った
12.7センチ連装砲用の弾丸は、戦艦のそれに比べて小さくはあるが、それでも対物ライフル用の弾丸ほどの大きさがあった


( ^ω^)「僕のとーちゃんは、陸上迎撃部隊に配属されていた軍人だったお」


深海棲艦は、その名前から海の上でしか活動できない存在だと認識されているが
太古の生物が、棲みかを海から陸へと移していったように姿を変え、陸上を侵攻してくる
それを迎撃したのが、先ほどもブーンがチラリと話した『陸上迎撃部隊』
護衛艦の包囲網を抜け、内地へと侵略してきた深海棲艦から、人々を守るために編成された部隊である


( ^ω^)「物心ついた頃には、とーちゃんは既に戦場で戦っていたお。立派な軍人さんだったって、かーちゃんから聞いたお」

( ^ω^)「深海棲艦を少しでも内地に近づかせない為に、身体を張って抵抗した、勇気のある男だったって……」

( ^ω^)「でも……人間が怪獣に立ち向かうようなもので、とーちゃんもそこで命を落としてしまったんだお」

('A`)「……」


陸上迎撃部隊は、そのほとんどが生身の人間で構成された部隊だ
にも関わらず、彼らの献身があったお陰で、内陸への侵攻を留めることができた
しかしその代償は大きく、艦娘登場時には既に約八割の命が失われたと聞く


( ^ω^)「とーちゃんが死んで二日後に、艦娘は現れた。この弾丸と、燃料と、鋼鉄と、ボーキサイトを携えて」

( ^ω^)「彼女達は瞬く間に、戦線を押し戻したお。それこそ、人間が怪獣と戦う必要などなくなるほどに」


現在、陸上打撃部隊は編成されていない。『必要がない』からだ
それは、人類にとっては喜ばしいことだろう。だが、ブーンの表情はそこから険しくなった

77 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:13:01 ID:62pQqJ3.0
(  ω )「艦娘は人の命を救う存在だお。とーちゃんのような犠牲を無くす、奇跡だお」

(  ω )「だけど、僕はこうも思えるんだお……『微力な人間など、この戦争には必要ない。引っ込んでいろ』と」

(;'A`)「……」


指揮は人間が執るとはいえ、実際に戦っているのは人ならざる『艦娘』だ
現場判断で動く場面も多いだろう。そこに、鎮守府で指示を出す提督は介入できない
結局は、『艦娘』と『深海棲艦』の戦争を、人間がいる世界で行っているだけなのかもしれない


(  ω )「もし……もし艦娘の技術が、二十数年前にあれば……それこそ、とーちゃんは痛ましい犠牲者じゃなくて、戦争を終わらせた『英雄』に成り得たかもしれないんだお」

(  ω )「今更言ってもとーちゃんはもう戻って来ない、後の祭りだと分かっているお。でも、僕は……」


(#^ω^)「遺したいんだお!!とーちゃんが、人間が戦ったという証を!!」

(#^ω^)「見てみたいんだお!!どこから来たのか分からない敵と味方の戦争を、人類の力で終わらせる瞬間を!!」


('A`)「……」


この鎧は
ブーンの、『抵抗』を体現した物なのだ
蚊帳の外にある人類でも、理不尽な侵略を跳ね除ける力があると、証明したいのだ

78 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:14:19 ID:62pQqJ3.0
(#^ω^)「エゴと言われようとも、狂ってると言われようとも、僕はとーちゃんのような漢がいたことを知らしめたいんだお!!」

(#^ω^)「艦娘に全てを任せるんじゃなく、人類自らが平和な海を……」


ブーンの昂ぶった感情は、俺の顔を見て冷めていった


(;^ω^)「ご、ごめんお……一人で熱くなっちゃって……」

('A`)「いや……」


艦娘が登場して、『悔しい』と言う人物に出会ったのは初めてだった
だけど、それは間違っていない感情だろう。艦娘に頼りきりの今の現状は
彼女達がいないと人間は何も出来ないと、証明しているようなものなのだから


('A`)「だから、人間でも戦える兵器を作ろうって考えたんだな」

(;^ω^)「ま、そうだお。でも、行き着く先々でバレてクビになったり、工廠吹っ飛ばしたりしたけど……」

( ^ω^)「それも全て、ここに来られたから結果オーライだと思ってるお。で……」


( ^ω^)「これを、僕の行動を、ドクオはどう思うお?」


真剣な表情で尋ねてきた
この事を話すのにも、多くの葛藤があったに違いない
開発を差し止められたり、造り上げてきたこの装備を廃棄されたりする可能性も考えただろう
それでも、ブーンは俺を信頼し、話してくれた。なら、俺はその信頼に応えるべきだ

79 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:15:20 ID:62pQqJ3.0
('A`)「これ……読んでくれ」


ショボンのオッサンにも読ませた、メモリー内容のプリントを差し出す
ブーンはそれを受け取って、手早く読み進めた


( ^ω^)「……」

('A`)「もし……もしよ。お前のお父さんが生きていて、提督になったとしたら、艦娘を使い捨てるような真似は絶対にしねーと思う」

('A`)「戦場を見てるから、敵の恐ろしさを知ってるから、戦う人間の尊さをわかっているから」

('A`)「ブーン。お前が造ったこの鎧は、この戦争と、指揮官のあり方を変えてくれる筈だ」


ブーンの両肩に手を置き、俺は笑った


('∀`)「俺は応援するぜ。上官として、友達として。そんで……」

('∀`)「この鎮守府で一緒に暮らす、家族としてな」


( ^ω^)「ドクオ……」


( ^ω^)「笑顔が気持ち悪い」


やっぱぶっ潰そうかなこの鎧

80 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:16:01 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「冗談だおwwwwwww怒るなおwwwwwwほんとちょっと待って肩痛いお前握力凄い」


ブーンは俺の両手を引き剥がす。だが、そのまま手放さず、包み込むように握りしめた


( ^ω^)「ありがとう。提督」

('A`)「おう」


ため息のように吐き出された感謝には、安堵の色が見えた
理解者のいない、孤独な戦いだったのだろうと察する


('A`)「……」

( ^ω^)「……」

('A`)「いやいつまで握ってんだよ流石に気持ち悪いよ」

( ^ω^)「腐女子大歓喜」

('A`)「いいよそんなサービスしないで」


今度は俺が手を振り払う。どの層が得するんだよマジで


('A`)「聞かせてくれよ。この鎧の事をよ」

( ^ω^)「おっお、存分に語ってやるお!!」


それから、俺たちはオッサンが飯が出来たと呼びに来るまで
工廠で飽きることなく語り合った

81 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:50:37 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



あれから、数日が経った


('A`)「……」


堤防で釣り糸を垂らしながら、俺はメモリーの『2』のファイルをプリントアウトして読んでいた
読む必要の無い日記と書かれていたが、いらない情報なら、ナンバリングまでして入れとく必要は無い
読んで欲しいから、入れたんだろう


('A`)「……」


『彼』の提督生活は、俺のように『訓練生』という段階を踏んでいない特殊なものだった
ブーンの父親と同じく陸上迎撃部隊だった彼は、退役後、兵士向けのボランティアセラピーをしながら各地を転々としていたらしい
しかしある日突然、海軍関係者に拉致され、この鎮守府へと送り込まれた

その経緯の中で、一際目を引いた文章があった


('A`)「『顔面に大火傷を負っていた』……」


鎮守府の医務室にあるベッドで目を覚ました彼は、元の表情がわからなくなるくらいの大火傷をしていたらしい
その重傷を負った記憶も無く、戸惑ったそうだ


('A`)「火傷……」


ブーンの話を思い返す

『艦娘の艤装を人間が装着したら、身体が燃えて死亡した』

無関係とは思えない。彼が数少ない陸上迎撃部隊の生き残りであるなら尚更だ

82 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:51:37 ID:62pQqJ3.0
('A`)「でも、突拍子もねえ話っつーことにも変わりねえよなぁ……」


リールを巻いて糸を戻す
釣針に引っ掛けてあった餌は綺麗に無くなっていた。随分器用にお食事するじゃねえか魚の野郎


('A`)「よっと!!」


餌を付け直し、竿を振って釣針を遠くに投げる
オッサンからは『マグロ釣ってこい。釣ってこなかったら殺す』と脅されているので、なんとしても釣り上げないといけない
って釣れるわけねーだろ頭にウンコ詰まってんのか


('A`)「ハァーァ……」


とまぁ、火傷のこともあり海軍及び艦娘には不信感を抱いていた彼ではあるが
初期艦娘として同時に配属されていた『叢雲』と生活していくうちに、艦娘に対する評価は変わったそうだ
『兵器』と分類されている彼女達も、人間と同じように感情があり、人格があり、『死』に対する恐怖がある
ファイルの『1』に記述されていたような、人間の横暴な振る舞いに、憤りを感じていることも

戦いに参戦した彼は、艦娘……兵士ついてこう語っている


『戦場に立つ兵士は、他者に与えられた大義の為に戦ってはいけない。他人の願いの為に命を懸ける必要は無い』
『全て自己の為に戦うべきである。自己の富、名誉、快楽……どれだけ薄汚れたものでも構わない。他人の御綺麗ごとの為に死ぬよりはよほどマシだ』


と。つまりは、命令されて戦いに赴くのでは無く、自己の目的を達成する為に戦えとの事だ
理に適っていると思った。人間だって、労働の為に労働する奴はいな……少ないだろう
生活や趣味に必要な金を稼ぐ為に、自主的に働いているのだ。『社会の為』だなんて、思っている奴はいな……少ない
だからこそ、早い時間に起床して遅くに帰る、大変な生活を四十年間も続けられるのだ

83 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:52:38 ID:62pQqJ3.0
艦娘はどうだろうか
『人間を守る』という大きな目的を持ってはいるが、それは他者の為の働きだ
そこに自己の願いは含まれていないように思える。人間と同じなら、欲もあって然るべきだ

だが、その『欲』はどう発散する?例えばだが、彼女達が『提督』に振り向いてもらう為に戦うとする
当然、一つの鎮守府に提督は一人しかいない。余程のクズ野郎では無い限り、付き合う艦娘も一人に限られる
では、提督に振り向いてもらえなかった艦娘は?その後、何を目的に戦えばいい?

人間であるならば、失恋してもまた次の異性を探せば良い。出会いの場はそこら中にある
しかし、艦娘が動けるゾーンは人間と比べて少ない。鎮守府にはブーンやオッサンのような異性もいるが、艦娘の数と比例しない
許可さえあれば外出も出来るが、それほど多くの時間を費やせない。ましてや、一般人から『兵器』と認識されている
拒否感を覚える奴もいるだろうし、それを良いことにゲスい行為をする奴もいるだろう
勿論、否定的な感情は人間同士でも発生する。それでもやはり、『人ならざるもの』である艦娘にはそれが顕著に現れるのだ


('A`)「難しい問題だよなぁ」


必要なのは、艦娘に対する『法』だろう
人権を与え、人間と変わらぬ扱いにすることで、人と艦娘の間にある隔たりを無くさないといけない
俺が『難しい』と思ったのは、その法を作ることでもあるが、作った後の事もある

それは『差別』という、根深い問題だ

人間でも、人種や宗教から始まり、考え方や性格、見た目に至る様々な要因でそれは発生している
しかもそれは、遥か昔から今に到るまで、一向に解決しない問題だ
人間同士ですらこの体たらくだ。そこに艦娘が加わってしまっても、おいそれと受け入れられないだろう
戦争経験者なら尚更だ。第二、第三の『ランボー』が現れるに違いない
ランボーつっても一作目な?あれが一番兵士に対する差別が描写されてるから

84 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:54:14 ID:62pQqJ3.0
('A`)「釣れねーなぁ……」


法云々はさて置き、日記の中の『彼』は、艦娘に目的を与えることに重点を置いた
それは物では無く、『生きる楽しさ』だ

遊びの楽しさ、学びの充実感、眠りの気持ちよさ、食事の満足感、勝利の高揚、帰還後の安心感

その全てを味わう為に戦い、生き残る。そういう方針で鎮守府を運用していた
また、自身を恋愛の対象とさせるのはご法度としていたらしい
指揮官が部下の誰か一人と付き合うと、部隊間で擦れが生じてしまうからだ
この辺りは読んでて自分を恥じた。そりゃそうだわ嫉妬とかあるもんそれくらい分かれよ俺

彼は、艦娘を妹や娘のように、分け隔てなく平等に扱っていた
そして、戦争が終わって、海軍とは関係の無い良い男と結婚し、幸せになって貰いたいと
父親のような、願いも持っていた


('A`)「……」


ファイル2の内容には、ショボンのオッサンが言っていたような提督の悪事は何一つ書かれていなかった
そりゃあまぁ、実際はやっててここには書いていないだけかもしれない。けど
艦娘に生きる楽しさを教え、幸せになって欲しいと願う人間が、そんな事しでかすとは俺は思えない
悪事も結局は噂話でしかない。どちら信じるかと問われたら、俺はこの日記を書いた提督を選ぶ

だが、『曰く』についてはどうやら本物だったそうで、彼がここに着任するまで、歴代提督と艦娘は不審死を遂げていたらしい
日記にも、鎮守府で起きた様々な怪奇現象について書かれていた。中には、『乳首相撲』だの『ウンコマン』だの、アホみてーなワードも含まれていたが


('A`)「……」


釣竿の先は、微動だにしない
いつもならもっと食いついてくるのだが、今日の魚は賢いらしい

85 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:54:52 ID:62pQqJ3.0
('A`)「戻ろうかな……」


プリントを捲りながら、釣りを切り上げようか考えた
オッサンにはめっちゃからかわれるだろうけど、今日はこのまま待っても結果は一緒だろう


('A`)「ん?」


立ち上がろうとした時、とある文章が目に留まり
腰を浮かしたまま固まった


それは、『エラーさん』と呼ばれる少女であった


(;'A`)「……」


艦娘でもなく、かといって人間でもない
どこからともなく現れて、ふらりとどこかへ去っていく
両手に白猫を携え、帽子の初心者マークとおさげが特徴的な少女


(;'A`)「白猫……少女……?」


俺が最初にこの鎮守府へ来て、最初に聞いた女の子の声、最初に見た尻尾
俺だけの夢や幻と思っていた存在が、数年前の日記にも書かれていた

上げた腰を、もう一度下ろす
釣りの事など、既に頭の中から消えていた


(;'A`)「『エラーさんはこの世界に艦娘を連れて来た管理人であり、二つの世界を隔て行き来する』……」

(;'A`)「『艦娘だけに認識される存在で、人間はその姿も声も認知することが出来ない事から、通称「妖精」と呼ばれていた』……」

86 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:56:22 ID:62pQqJ3.0
待て、待てよ。つまりは、人間には見えないってことだろ?
じゃあどうして、彼はその『妖精』とやらの姿形を知っていて


(;'A`)「どうして俺に語りかけたんだ……?」


『エラーさん』の話は続く。世界に艦娘を連れて来た彼女の目的は、『戦争の継続』
彼女の言う『あちらの世界』では、艦娘と深海棲艦の戦争を『ゲーム』として楽しんでいるという


(#'A`)「なんだよそれ……!!」


そんな、『ゲーム』なんかのために
俺達の世界の人間が割を食っているのかよ!!


オッサンのように苦しむ人間がいるのに!!
ブーンの父親のように、殺されてしまう人だっているのに!!


(#'A`)「ふざけんなよ……!!」


ふつふつと怒りがこみ上げてくる。思わずプリントを握りつぶしてしまいそうだった
だが、文章はそれで完結してはいない。怒りの衝動を押さえ込み、読み進めた


(#'A`)「……」


当然、彼も怒りを露わにしたらしい。しかし、エラーさんは悪びれる様子を見せなかった
『情』そのものが欠落している、冷徹なロボットのような存在だったそうだ

だが、そんな彼女が何故、『彼』と接触したのだろうか
それは、この戦争、この世界において彼は異質な立場だったからだ

87 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:57:06 ID:62pQqJ3.0
('A`)「『激昂した私を尻目に、「また来ます」と言って彼女は去った。最後に、「龍田殿」と言い残して』」

(;'A`)「『彼女が錯乱していない場合に限り、これは私のことを差した言葉だろう。しかしこの人生において、私は一度もそんな名で呼ばれた覚えは無い』……」

(;'A`)「『軽巡洋艦娘の名前で、呼ばれた事など無いのだ』……」


俺は今、一つの結論に辿り着こうとしていた


(;'A`)「艤装を装着した人間の死に方、顔に負った大火傷、艦娘にしか認識できない妖精、龍田……」


彼の異質。それは


(;'A`)「艦娘の艤装に適応した……?」


ブーンが追い求めていた、人間の戦争への介入
それを為せる人物が、この鎮守府にいた

彼を拉致し、実験を行い、成功
その貴重な試験者を、この場所で艦娘と共に幽閉した。逃がさない為に
合点がいく、いってしまう。だが、混乱は深まっていくばかりだ

成功したなら、どうしてその研究を続けなかったのか
どうして、提督の立場に置いたのか
そして何故、彼はデータを遺して死んだのか
わからない。だが答えはこの日記の中にあるはずだ


(;'A`)「こうしちゃ居られねえ……!!」


俺はすぐさま立ち上がり、二人と相談すべく鎮守府の方へ足を向けた

88 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:57:47 ID:62pQqJ3.0
その時、これまで聞いたことの無い、けたたましい音が鳴り響いた



(;'A゚)「」




風雲急を告げる、『警報』




(;'A゚)「まさか……」



それは、海軍が既に『安全だ』と判断した海で
深海棲艦が現れたことを意味していた―――――

89 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:58:34 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(;'A`)「状況は!?」


駆け込んだ作戦司令室には、既に二人が待機していた
ブーンはレーダーを見つめ、距離を割り出している
通信機に怒鳴り込んでいたオッサンは、俺の姿を見るとマイクを勢いよく差し出した


(#´・ω・`)「おう来たか!!本部のクソ野郎共、提督じゃねえと取り扱わねえっつーんだよ!!」

(;'A`)「よ、よし!!」


マイクを受け取り、『もしもし』と話しかける
スピーカーから、返事はすぐに返って来た


「やっと会話が通じそうな相手が出たか。それで?」


オッサン何言ったんだ?と気になりつつも、状況を伝えることにする


(;'A`)「先ほど、レーダーに反応がありました。深海棲艦が近海海域に侵入したものと思われます」


「そうか、では撃退したまえ」


(;'A`)「はっ……?」


困惑した。ウチに艦娘が配属されていないのは分かっているはずだ
それを分かっていて尚、そんな指示を出すのか?

90 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 17:59:10 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「い、いえ、ですが当鎮守府には艦娘は配属されていません」


「ああ、そうだったな」


まるで今気付いたかのような口ぶりだ。それでいてワザとらしい


「しかし、そちらの海域は既に奴らの支配から解放されているはずではないか。何かの間違いではないのかね?」


その可能性もある。しかし


(;'A`)「本部からの食料品等の補給は先日受けました。当鎮守府に寄る予定の船はありますか?」


「あー……今の所は予定されていない。別鎮守府の艦娘では無いかね?」


(;'A`)「だとしても、一度連絡を入れるのは筋でしょう!!」


「民間船の可能性も」


(;'A`)「バケモノがいる海を呑気に民間船が渡ると本気でお思いですか!?」


「小僧、口が過ぎるぞ」


頭に一気に血が昇る。俺の口調にいちゃもん付けてる場合じゃねえだろうが
思わず罵倒してしまいそうなのを抑え一度謝罪をし、冷静な口調に戻した

91 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:00:06 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「とにかく、確認の為にも艦娘部隊の派遣を要求します」


「却下だ。そもそも、間に合うとは思えない」


(;'A`)「ではどうしろと!?生身の人間である俺達三人で、戦えと仰るのですか!?」


「君も誇りある我が国の海軍軍人だろう?なら、平和の為の礎となりたまえ」


(#'A゚)「ッ……!!」


「当然、敵前逃亡は重罪だ。逃げ出した兵士がどのような処罰を受けるか、知らないわけではあるまい」


戦争において敵前逃亡は、処刑される可能性もある罪だ
現在俺達は、立ち向かっても絶望、逃げ出しても絶望の窮地に立たされている


(#'A゚)「……ってやるよ」


だったら


(#'A゚)「やってやるよクソボケが。俺達だけで、深海棲艦をぶち殺す」


少しでも前に進んでやろうじゃねえか

92 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:00:58 ID:62pQqJ3.0
(#'A゚)「いいか良く聞けクソッタレのタマナシ野郎。事が済んだら、テメーの鼻っ面をぶん殴りに行く」


「貴様、上官に向って……!!」


(#'A゚)「黙れ、艦娘の股座舐めることしか頭に無いブタ野郎が。クンニもロクに出来ねえその口から二度と『平和』だなんて言葉が吐けねえようにしてやる」


オッサンが『ヒュウ』と口笛を吹いた。吹いとる場合か
スピーカーからは、歯軋りをする音が聞こえ、その後に


「健闘を祈る」


と、忌々しそうに吐き捨て、通信は切断された


(#'A゚)「クソがッ!!」


マイクを投げ捨て、怒りをぶつける
テメーで勝手に『平和』だと慢心し、艦娘も配置せず管理を俺達にぶん投げた張本人達が
その尻拭いをも俺達に押し付けたことに腹が立ったのだ


(;^ω^)「ど、どうすんだお……」


ブーンが不安そうな声で訊いてくる。俺が考えもなしに引き受けたと思っているのだろう


確かに、ここには艦娘はいない
しかし、戦える『装備』はあるのだ

93 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:01:45 ID:62pQqJ3.0
(#'A`)「ブーン、使わせてくれ」

(;^ω^)そ「ッ!?」


ブーンが開発した『アンカーシステム』。アレで俺が戦う
だがブーンはハッキリと拒否した


(;^ω^)「ダメだお!!アレはテストもしていない、いや『出来ない』代物だお!!戦えるかどうか、そもそも装備できるかどうかさえ怪しいもんだお!!」

(#'A`)「じゃあどうしろってんだよ!!艦娘どころか、通常兵器すらないこの場所で、どう戦えっつーんだよ!!」


怒りに任せて、机を叩こうと拳を振り上げたその時
『パン』と手を叩く音が、俺を正気に戻した


(´・ω・`)「盛り上がってるとこ悪いがね、ちょっと冷静になれよお前ら」


ショボンのオッサンだった


(´・ω・`)「ブーン、深海棲艦の到着までの時間は?」

(;^ω^)「えっと……向ってくる速度だと多分、砲撃有効範囲まで一時間と少しだお」

(´・ω・`)「なら、考える時間はある。ドクオ、お前は指揮官だ。緊急時こそ冷静になれ」


頭に昇った血が、スッと冷めていく
そうだ。今は取り乱している場合じゃない。戦うと決めたんだ


(;'A`)「あ、ああ……悪い」


とにかく、今ある『全て』で、撃退するしかない
一か八かの賭けは、最後の最後まで残しておくべきだろう

94 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:02:29 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「ふー……」


深呼吸して、気持ちを整える
考えろ。この状況を打破する戦略を
ここにある全てで、撃退する策を


(;'A`)「必要なのは火力……それを当てるための妨害、デコイ……」


火力の問題。これが一番大きい
『砲』が無ければ、弾丸は撃てない。一朝一夕で用意できる代物でもない

その問題がクリアできても、『当たらなければ』意味が無い。目的は威嚇ではなく撃破だ


(;'A`)「どうする……どうする?」


弾丸はあるのに、撃てない。なんとも歯がゆい気持ちになる
せめて、発破出来れば希望が……うん?


(;'A`)「発破……ブーン、お前工廠吹っ飛ばしたっつってたよな!?」

(;^ω^)「お、おう。え?その話今する?」

(;'A`)「それって、何が原因だった?」

(;^ω^)「何って……艦娘用の燃料に引火して爆発……」

(;'A`)「それだーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


弾丸だけに拘る必要は無かった。『爆発』でも奴らを倒せる筈だ

95 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:03:53 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「船に艦娘用燃料を積んで深海棲艦に突っ込み、海に飛び降りてって……」

(;'A`)そ「先ず船がねーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


ダメだ光明が見えた瞬間かき消された。なんなの?イジメ?


(´・ω・`)「船ならあんぞ?」

('A`)「えっ?」

( ^ω^)「えっ?」

(´・ω・`)「えっ?」


と思ったら、オッサンから救いの手が差し伸べられた


(;'A`)「えっ?嘘?聞いて無いよ?」

(´・ω・`)「いや、改築の最終日にガレージに突っ込まれてたのを見つけたんだが、ほら俺その日ベロンベロンになって言うの忘れちゃって」

(´・ω・`)「そのまま今まで忘れてた……ごめんね?」

(;^ω^)「むしろグッジョブだおオッサン!!」

(;'A`)「ちなみに、どんな船だ?」

(´・ω・`)「小型のクルーザー一隻と、水上バイク一隻だ。動くかどうかわかんねーぞ」

(;'A`)「クルーザー……積載量ギリギリまで燃料弾薬を積んで……」

(;'A`)「そうだ!!もう一つ……」


水上バイクまであったのは僥倖だ。使わない手は無い
囮がいるだけで成功率がぐっと上がる

96 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:04:40 ID:62pQqJ3.0
鎮守府周辺海域の海図を引っ張り出し、机の上に広げる


(;'A`)「……よし、ここだ!!」


浅瀬のポイントを指で叩く
ここまで深海棲艦を誘い出し、座礁させ
動きが鈍った所に、燃料を積んだクルーザーで突っ込み爆発させる


(;'A`)「ブーン!!今すぐ船のチェックだ!!オッサン、ありったけの燃料弾薬を運び出すぞ!!」


( ^ω^)「了解!!」

(´・ω・`)「合点だ!!」


二人は毅然とした態度で立ち上がる
どちらも、気合と根性を漲らせていた


(#'A`)「やるぞォ!!」


俺も例外じゃない。生き残る為に戦ってやる
そして絶対、上官の鼻を潰して前歯全部折ってケツに93式酸素魚雷をぶt(ry

97 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:05:29 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



( ^ω^)「エンジンは着く、スクリューは回る。両方ともまだまだ走れるお」

(´・ω・`)「その内の一つは今日吹っ飛ぶんだけどな」

('A`)「寂しいこと言うなよ」


間も無く、深海棲艦の有効射程範囲に入る
なんとか時間内に間に合った。いやほんともう人生で一番俊敏に動いた。こうシュッ!!シュッ!!って感じで


('A`)「もう一度、作戦の確認をするぞ」


囮役である俺が、深海棲艦を浅瀬のポイントまで誘い込む
座礁し動きが鈍った所に、ショボンのオッサンが燃料弾薬を満載したボートで突っ込み、途中で離脱
見張り台にいるブーンが、タイミングを見計らい遠隔操作で起爆させる

ガバガバの作戦だし、運に任せる要素も多々あるが
これが今、俺達と鎮守府にある物資で出来る限界だ


('A`)「……」


一つ、憂いがあるとすれば


('A`)「言い出すタイミングが無かったから今言っちゃうけど、無理して俺の無謀に付き合う必要は……」

(´・ω・`)「いや本当に今言う事かよ。準備全部終わっちまってんぜ?」

(;'A`)「そう……だけどォ!!」


非戦闘員二人を巻き込んでしまうことだ

98名無しさん:2016/04/03(日) 18:05:32 ID:dV76bn4E0
ドクオ頑張れ

99 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:07:19 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「アホなこと言ってないで、サッサと始めるお」

(´・ω・`)「そうだな、ドクオのアホに付き合ってる暇は無い」


さも当然かの如く、行動を再開する
それを見て、俺の憂いは消え去った

別に言葉を交わさなくても、二人は俺と戦ってくれる
海軍の上官ですら見放した戦場で、俺と共に絶望に立ち向かってくれる


('A`)「……」


胸の奥が、熱くなった
俺達なら、世界を敵に回しても戦える。そんな気持ちになった


('A`)「アホは……お前らだ!!このアホ!!」

( ^ω^)「お前が一番アホだお!!」

(´・ω・`)「いやお前ら二人が最高にアホ!!」


アホアホ言いながら、水上バイクに乗り込む
ショボンのオッサンも、クルーザーのエンジンを点火させた


('A`)「サッサと済ませて打ち上げだ!!」

(´・ω・`)「おうよ!!腕によりを掛けて料理こしらえてやるぜ!!」

( ^ω^)「お夕飯までには帰ってくるのよ!!」


それぞれのエンジン音を轟かせ、配置へと向う。艦娘のいない海上戦

『艦娘いないけど俺達の気合と根性、男気で深海のビッチをファックしてやろうぜオーベイベー真夏の日差しサマータイム』

作戦が開始された。因みに、考えたのはショボンのオッサンだ

100 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:09:15 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「おっとと……」


水しぶきを弾きながら、水上バイクは軽快に海の上を走る
俺くらいのスポーツ万能マンになると、別に免許を持って無くても運転できるのだ。実際スゴイ
時折、波に煽られバランスを崩しそうになるのはご愛嬌だ。シコっても、いいのよ……?


(;'A`)「ッ!!」


咄嗟にアクセルを戻し、減速、停止する

見えた、見えてしまった
残っていた、民間船や艦娘の可能性は、たった今消えた

深海棲艦の、どす黒い姿が俺の視界に入ったのだ



     _ ィ: '':  ̄: : 二ニ= . _
   /: : /:; : : >――ニ=─- ミヽ,、
  /: : : /:.:.:./:;:;:; _-ニニニ _: : : ` l: :> ._
 〈:.:.ィ// ,/≦ >ミ: : : : : : : : ― l:;:;:;: : : : : > _
 .ヽ\:.i  /: : : : : i\ッ'): : : : : : : : : /: : : : : : :.:.:.:.:.:.: >. _
   \\三≧ーzzzzzz≦三三三>x、: : : : : : : :.:.:.:.:.:.:.:.: ≧., _
     ヽニニ彡"二二\三三ニ三三三>--‐'''⌒ゝ- _: : : : :;:.:.:.:.`ヽ
        | ヘ | l ヽ\>、 `   ー、   〈   _ ヽ:.\: : : :.:.:`ー- , ,_
        l_ゝィzzト,,、メ-彡/‐ヽー‐ミY´    \   \l:_:_:;ミ、\:\:.: : : : : : : |
          ̄   ̄ r-ミ‐lヽ_l: : : lー 二ァ_,_,_,,,,≧、  `i__ `iハ`i: : : \:、:,:-''
               〈 ` トー': : /  \ー‐ " ̄ヽヘ  l:.:.:.:.:.l ̄ヽ___ \
                 ̄ヽニゝ/\   ヽ‐ 、   ̄∨うーテ      ̄`ーニ=
                       `ヽ _  \    ヽ/
                            ` ー'

101 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:10:30 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「フッ、フー……」


鼓動が高鳴る。呼吸も荒くなる
ここは遮蔽物もない海の上だ。砲弾を打たれたらひとたまりも無い
これが戦場のプレッシャー、これがあいつらの放つ恐ろしさ

身体が、震えた


:(;'A`):「ハァー、ハァー……」


落ち着け、落ち着け
勝算はある、あるんだ。テメーがしっかりしないでどうする


:(;'A`):「し、深海棲艦は、知能のある生き物で……イルカなどの哺乳類のように……獲物を玩ぶ習性が確認された……」


自分自身に言い聞かせるように、訓練生時代の座学で学んだ知識を呟く
明らかな脅威では無い限り、奴らは俺達を『舐めてかかる』。すぐには殺さず、右往左往する姿を楽しむ
人間が、アリの巣で遊ぶようなもんだ。そこには大きな『油断と隙』が生じる

102 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:11:08 ID:62pQqJ3.0
:(;'A`):「大丈夫、倒せる、大丈夫……」


奴の姿はドンドン近づく。にも関わらず、俺は動けずにいた
これが、『蛇に睨まれた蛙』って奴か。なるほど、昔の人は上手い事言う


:(; A ):「クソッ……恐ぇ、恐ぇ!!」


後悔がこみ上げる。こんなことなら、提督にならなきゃ良かったと
こんなことなら、下手なやる気なんて出さず、逃げ出せばよかったと


だけど……


:(;'A`):「だけど……!!」


俺一人の問題じゃない。後ろには、俺を信じて待つ二人の友がいる
腹の内を明かし、信頼してくれた親友で、家族だ。裏切るわけにはいかない

それに、やっぱり悔しいじゃねえか

上官に舐められて、よくわからん別世界の為に戦争させられて、意味も無く死ぬってのは
だから、ここで臆病風に吹かれて逃げ出すわけにはいかない。そんなの、『男』じゃねえ


(#'A`)「おおおおおおおおおお……」


奮い立たせろ、勇気を。搾り出せ、叫びを。そして立ててやれ
クソッタレな『世界』に向けて、中指を

103 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:11:42 ID:62pQqJ3.0




(#'A゚)「かかって、来いやぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」




♪Zebrahead - Broadcast to the world
https://www.youtube.com/watch?v=4HFoeUgULGo

104 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:13:10 ID:62pQqJ3.0
アクセルを吹かし、反転する
背後から、深海棲艦のきったねえ鳴き声が聞こえた。奴も俺に気付いたか


(#'A`)「あああああああああああああああああああ!!!!!!!」


出来る限りジグザグに動きながら、奴を誘う
命中しても失敗、外れた砲弾が立てる水柱でひっくり返っても失敗
ここからは、俺の運転技術と多大なる運に掛かっている


(#'A`)「テメッコラーーーーーーーーー!!!!!!ザッケンナオラーーーーーーーー!!!!!!」


喚きながら後ろを確認。着いてきている
まるで大きな鉄の鯨だ。奴の艦種は『駆逐艦イ級』
最も脆弱な深海棲艦と言われてはいるものの、それは艦娘が相手をする場合に限る
アレ一隻で、護衛艦数隻に匹敵する力があるのだ。人間にとっては厄介な存在に変わりない
その姿を映像や写真で目にしたことはあるが、やはり本物の迫力は違う


(#'A`)「ッ!!」


マズい、口を開けた。喉の奥に潜んだ砲塔からの、砲撃が来る
ハンドルを右に傾け、回避行動を取る


(#'A`)「っつああああああああああああああ!!!!!」


腹にまで響く砲撃音、その後間も無く、大きく左にそれた場所に着弾
爆発が海面を吹き飛ばし、白い水柱が立った


(;'A`)「クッソ……!!」


波に煽られ、バイクがひっくり返りそうになる
野郎、間違いなく遊んでやがる


(#'A`)「ボケオラァ!!」


体勢を気合と根性で立て直す。口が汚いのはご愛嬌だ。存分にシコれ
後ろからゲラゲラと笑うような鳴き声がする。笑ってられるのも今のうちだ

105名無しさん:2016/04/03(日) 18:13:23 ID:n8JINXzI0
かっけえ

106 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:15:09 ID:62pQqJ3.0
この作戦のキモは、出来る限り『近づかなければならない』所にある
引きつけて、俺と言う『おもちゃ』に夢中にさせるのだ
近づけば近づくだけ、砲弾の命中、横転の可能性が高くなる


(#'A`)「頼むぜ神様〜〜〜〜〜……」


深海棲艦及び艦娘は、砲撃後に次弾装填に時間が掛かる
ポイント到達まで、後二・三回は撃ってくるだろう
命中精度は、良くは無いと思う。思いたい
加えて、俺という『的』は小さい上にすばしっこい。昔の人は言っていた


(#'A`)「『当たらなければ、どうと言うことは無い』ってなぁ!!」


二度目の砲撃音、今度は俺の頭上を通り越し、前方へ着水


(#'A`)そ「うおッ!!」


視界を多い尽くす水しぶきと、せり上がる波が俺を襲う
頭から派手に海水を被る。水上バイクが持ち上げれられ、宙に浮いた


(;'A゚)「おっ……」


高さも、浮いている時間も大したことは無かったと思う
それでも、突然の軌道に俺の頭は一瞬真っ白になった


(;'A゚)「おおおおおおおおおおお!?」


そして、着水。グラリと傾く水上バイクから、投げ出されないように踏ん張る

107 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:16:14 ID:62pQqJ3.0
(#'A`)「ッし、よォし!!」


二発目も乗り越えた。思わず雄叫びが上がる
座礁ポイントまで、あと僅かだ。一発、残り一発さえ耐えられれば、こいつにぶちかませる

今度は、イラつくような金きり声が聞こえた
俺が横転しなかったのを怒っているのだろうか?いいぞ、もっと怒れ


(#'A`)「どうしたノーコン野郎!!俺はまだ生きてんぜェ!!」


聞こえているかどうか、俺の言葉を理解出来るのかどうかもわからないが、挑発をする
流れはこちらにある。大丈夫、きっと上手くいく


(#'A`)「ッ!!」


横目で、オッサンが乗り込んでいる船を確認した
出来るだけエンジン音を抑えながら、ゆっくりと助走を始めている


(#'A`)「オラァ!!こっちだ!!こっち来いよ!!」


ここで標的を変えられるわけにはいかない。奴の執着を、俺に向け続けなければならない
より一層喚き散らし、注意を向けることに尽力する


(#'A`)「来る……ッ!!」


奴が口を開けた。三発目が間も無く発射される
俺は思いきって、アクセルを緩め減速した

砲撃音が、より近くから轟く
『ごう』と風が唸り、バイクと俺の身体を煽る

108 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:17:24 ID:62pQqJ3.0
(#'A゚)「ッ……!!」


呼吸が詰まる。心臓まで止まるかと思った
だが、俺の行動は功を奏し、三発目の砲弾はさっきよりも前方へと飛んでいき、着水した


(;'A゚)「ッッッ……ハァッ!!」


息を無理やり吐き出して、再びアクセルを回す
もう少し、もう少しだ。止まるな、進め


(#'A゚)「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


ポイント上を通り過ぎる。ボディが軽い水上バイクなら、浅瀬の通行も問題なかった
だが、巨体である奴らは違う。『ガリリ』と硬い物が擦れ合う音が聞こえた


(#'A゚)「今だあああああああああああああああ!!!!!オッサアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!」


狙い通り、イ級は『座礁』した。作戦の第一段階がクリアされた
次、第二段階。『爆弾』を積んだ船の吶喊

助走をしていた船は、猛烈にエンジンを鳴り響かせスピードを上げる
バイクを旋回させ、その成り行きを見守ることにした。海に飛び込む予定のオッサンも拾わなきゃいけないしな


(;'A`)「なっ……!!」


しかし、予定外の出来事が起こる
座礁したイ級は、突っ込んでくる船の存在に気付き、方向転換を始めたのだ

下顎と、鉄の身体を浅瀬の上で跳ねさせる、なんとも稚拙な方法だったが
着実に、確実に、砲塔の向きはオッサンの方向へと動いていた

109 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:18:36 ID:62pQqJ3.0
(;'A゚)「……さっ……」


ここで船を撃ち落とされたら、作戦は失敗に終わる
それだけじゃない。オッサンの命も失われてしまう
避けなければ、助けなければ――――


(#'A゚)「っっっせるかってんだよォォォオオオオオオ!!!!!!」


アクセルをフルスロットルさせ、猛スピードでイ級に突進を仕掛ける
ダメージを与える必要は無い。ただ、注意を引ければそれでいい

その大きく、黒い身体が近づく。目は人工的な蛍光色の青に染まっている
醜い姿は、いやがおうにも『人類の敵』という認識をさせた

こんな連中に、俺の家族を殺されて-―――――


(#'A゚)「た ま る か ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! ! ! ! !」


淡く光るその瞳が、俺の存在に気付く。しかし、もう遅い


(#'A゚)「オアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


アクセルを吹かせたまま、海へと飛び落ちる
無人の水上バイクは、海上を疾走し、イ級の鼻っ面に衝突した

110 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:19:25 ID:62pQqJ3.0
イ級は、よろめきもしなかった
そりゃそうだ。護衛艦の砲撃にも耐える装甲持ってんだ。水上バイクなんて鼻くそ飛ばされたようなモンだろう
だが、『注意』は向けた。まんまと引っかかりやがった


船はもう間近に迫る。オッサンが海へ飛び込み、深く潜った


この一撃は

俺達と、テメーらに殺された人達からの


(#'A`)「悪魔のギフトだ!!受け取りやがれぇぇぇえええええええええ!!!!!!」


船が突っ込むのを確認した俺も、爆風を避けるために海中に潜る
後は、ブーンの仕事だ。一発ぶちかましてやれ


(;'A`)「ッ!!」


音を遮る水の中でも響く爆発音。熱と光
鉄の破片や、爆風によって吹っ飛んだ弾丸が、水を切りながら俺の傍を横切った

俺はその場所から少しでも離れるべく、水を掻いた
『ゴボゴボ』という空気を巻き込む音や、爆破音の名残に混じって
イ級の断末魔が聞こえた気がした。しかし、実際に目の当たりにするまで安心は出来ない

111 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:21:11 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「ブホハァッ!!」


海面へ浮上し、振り返ってポイントを確認する
黒煙が立ち昇っていた。燃料を満載していた船は炎々と燃えている
近くにあった水上バイクもまた然りだ
そして、肝心の『イ級』だが―――


(;'A`)「……」


どうやら、思っていた以上の破壊力があったらしく
艦首と艦尾が真っ二つに分かれ、沈み始めていた

最後に、息を引き取るかのように弱々しい声で鳴いた深海棲艦
僅かに残っていた青白い目の光が消え、絶命を伝えた


(;'A`)「か……勝っ……!!」


俺は我に返り、辺りを見回す
オッサンの姿が見えない。まさか……


(;'A`)「オッ……オッサン!!ショボンのオッサン!!」

(´・ω・`)「何?」ザババァ

(;'A゚)そ「うおおおおおおおああああああ!!!!びっくりしたあああああああ!!!!」


急に背後から浮かび上がってきやがった。性質悪いよこのオッサン

112 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:22:16 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「やったな、提督」


グイと肩を組まれる。お前らみたいな貧弱ボーイなら立ち泳ぎ中にこんなことされたら溺れ死ぬのがオチだろうが
生憎俺はスポーツ万能マンだった為、特に問題なかった。丈夫な体に産んでくれた親に感謝マジリスペクト


('A`)「ああ……ああ!!」


ようやく、勝利の実感が湧いてきた
勝ったのだ。艦娘がいない状況下で、人間だけの手で、深海棲艦を倒した


(*'A`)「よっっっ……しゃああああああああああああ!!!!!」

(´゚ω゚`)「フォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


俺達は拳を振り上げ、勝ち鬨を上げた
陸まで泳いで帰らなければいけないが、今はそんな事より、勝利の余韻を味わおう
俺達は全員生き残り、敵を倒した。これ以上無いハッピーエンド。めでたしめでたしだ
これがモンスター・パニック映画なら、この後にENDの文字が浮かび、エンドロールが流れるだろう






しかし、現実は




俺達の大団円を、許しはしなかった

113 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:23:13 ID:62pQqJ3.0
鎮守府から、再び大きな音が鳴り響く



(;'A゚)「ばっ……?」

(;´・ω・`)「嘘……だろ……」



二度目の、深海棲艦侵入を知らせる、『アラート』だった

114 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:24:12 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



鎮守府まで泳ぎきった俺達は、疲労を訴える身体など構わず、真っ直ぐ指令室へと戻った
ぶっ倒れそうだが、休んでる場合じゃない。確かめなければいけない


(;'A`)「ハァッ、ブーン!!!!」


びしょ濡れのまま部屋に飛び込む。ブーンは、レーダーの前でジッと座っていた


(;'A`)「ブーン、今度は一体……!!」


レーダーには、横一列に並んだ『三つの点』が光っていた


(; ω )「……」


ブーンの顔は青ざめ、冷や汗を流している
『一難さってまた一難』、なんてもんじゃねえ。その三倍の戦力が、押し寄せているのだ
しかも、駆逐イ級を倒すのに船を二隻、大量の燃料弾薬を費やした。残っているのは……


(;´・ω・`)「クソッ!!さっきのはただの斥候だったってのかよ!!」


忌々しげに机を叩く。その乱暴を咎める者は居なかった
俺だって、神に向って『何故このような仕打ちを!!』と嘆きたい気分だった
だけど、その行為に意味は無い。縋りついたって、神は人間を助けてなどくれない

結局は、自分自身で解決しなければならないのだから

115 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:25:06 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」


ブーンの肩に手を置くと、ビクリと跳ねた
次に吐く俺の言葉を、聞きたくないのだろう。でも、言わなければいけない


('A`)「ブーン」

(; ω )「ダ……ダメだお……さっきも言ったとおり、テストも済んでいない、代物だお」


『ブーン』。俺は宥めるようにもう一度、名前を呼ぶ


(; ω )「ダメなんだお!!!!僕の、僕のエゴで造った『おもちゃ』で、お前を殺すわけにはいかないんだお!!」


艦娘の艤装を、人間が使うことによる『リスク』。艦の記憶に焼かれて死ぬ『艤装の試練』
『アンカーシステム』は、艤装とのリンク方法を変えているとは言え、リスクが減ったワケではない
なんせ、人体テストを行っていない。どう転ぶか分からない


('A`)「死なねえよ」


だが、今はこの方法しか残っていない
船を失い、燃料も弾薬も心許ない、今の状況下で
使えるかどうか定かではない『鎧』だけが、頼りだった


('A`)「お前が……人間の誇りの為に造った鎧だろ?深海棲艦の脅威を、人間の力で退ける為の装備だろ?」

('A`)「だったら……艤装も、俺達に、お前に応えてくれる筈だ。理不尽に抗う力を、与えてくれるはずだ」

116 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:26:05 ID:62pQqJ3.0
ブーンの両肩を掴み、顔を向かい合わせる。ブーンは咄嗟に視線を落とした
今にも泣き出しそうな顔をしていた。だけど、ここで言葉を止めるわけにはいかない


('A`)「お前、こう言ったよな。『艦娘は人の命を救う存在、犠牲を無くす奇跡』だと」

('A`)「だったら……俺達と艦娘の利害は一致している。そこに拒否を突きつける理由は無い。だろう!!」

(;'A`)「頼むよ、ブーン……!!アンカーシステムは、俺達の家に残された、最後の希望だ!!」

(;'A`)「艦娘を率いることも出来ず、戦争の現実も知らなかった俺に……」


(;'A`)「『戦わせてくれ』……っ!!」


(; ω )「……」

(´-ω-`)「……」


(´・ω・`)「男が、覚悟決めたんだ。叶えてやれよ、ブーン」


(; ω )「……」


ブーンが、顔を上げた
目が据わり、瞳の中に覚悟が見えた


( ^ω^)「わかったお。ただし、一つ約束しろお」

('A`)「あっ、ああ!!なんだ!!」

117 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:26:43 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「これが終わったら、豪勢な夕飯を奢れお」

(;'A`)「っ……」


俺は一瞬面くらい、そして


(*'∀`)「アハハハハ!!ハハッ!!ああ、イギーにもな!!」


腹を抱えて笑った


(´・ω・`)「犬ポジかよ俺」


三人の決意は固まった。時間は刻一刻と迫っている
急ぎ、工廠へ向った。目当ては、男性用艤装『アンカーシステム』
俺の人生最大の、大博打を打つ為に―――――

118 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:27:44 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



まぁー、なんだ。緊迫した場面ではあるんだが


(*'A`)「めっちゃカッコ良いなこれ……」


電の艤装を改造して造られた『アンカーシステム』を装着した俺は、異様な高揚感に満たされていた
いやだってお前!!こんなん男の子のロマンの塊だよ!?テンション上がんない方が可笑しいって!!


(;´・ω・`)「さっきまでの必死なお前どこいったんだよ……」

('A`)「え?何の話?ブーンは快諾してくれたじゃない」

( ^ω^)「やっぱやめるお」

(;'A`)「ウソウソゴメン外さないで恥ずかったんですごめんなさい」


アンカーシステムは、ピッチピチのアンダーウェアを着て、その体型に合わせ鎧のサイズが変化する
黒インナーは武器だ。俺のガッチガチの筋肉がセクシーに浮き出てるし、股間もモッコリちゃんだ


( ^ω^)「窮屈じゃないかお?」

('A`)「いいや、万全だ。ちょいと重いがな」


試しに正拳突きをし、そこから流れるように上段蹴りを放ってみる
関節も問題なく動く。良い腕してるぜブーン


(;^ω^)「ええ〜……今の状態でそんなアクティブに動けるような重さじゃないんだけど……」

(;´・ω・`)「何お前……キモ……」

('A`)「えっ嘘?ここで引く普通?」


こんないつものやり取りが、心の重圧を軽くさせた
これが最後になるかもだなんて、思いたくは無い

119 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:30:24 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「艦娘にも言えることだけど、艤装とのリンクが始まったら、装備は『身体の一部』として機能するお」

( ^ω^)「その重さも、自分の体重のように感じられるはずだお」


つまりは、『何かを持ち上げる重さ』ではなく、『自分自身に掛かる重力』となるワケか
自分でも何言ってるのかわかんねーから、その辺は察してくれ頼む


( ^ω^)「じゃあ……最後にこれを」


ブーンの手から、ヘッドギアが装着された


|::━◎┥「暗い」

( ^ω^)「ちょっと待ておせっかちだなお前ホモかよ」

|::━◎┥「そこまで言われる謂れはねえんだけど」


実際真っ暗だから何しているかわかんねーが、ブーンの私物であるノートパソコンのキーボードを叩く音は聞こえた
最後に、エンターキーを押したであろう音が聞こえると、ギア内のスクリーンに目の前の光景が映し出される
左上には緑色のバーと、その横に『耐久値』と記されている。言わば艤装の『HP』か
右下には現在の装備、『12.7センチ連装砲』と、残弾数。そして、燃料ケージ
後、南京錠のマークが付いている。何これ


『アンカーシステム 起動』


そして、中央に電子文字が浮かび、うっすらと消えていった


|::━◎┥「おお〜……」

120 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:31:35 ID:62pQqJ3.0
感心していると、耳元で機械音声のアナウンスが流れる


『使用者情報を登録します』


|::━◎┥「アッハイ、どうぞ」

(´・ω・`)「お前今何聞こえてんの?」


いや関係ないんだから茶々入れんなオッサン


『網膜、皮膚組織、細胞、血液、DNA……』


俺の個人情報が赤裸々に明かされ登録されていく
細胞レベルで俺が解き明かされてる……やだ、恥ずかしい……


『音声認識を行います。発声してください』


|::━◎┥「えっ、何?」


『完了しました』


コントかよ


『艤装とのリンクを開始します。キーを挿入してください』


|::━◎┥「キー……『鍵』か」

( ^ω^)「ドクオ、これ……」


ブーンから、『錨』のエンブレムが手渡される
これをベルト部分にある『凹み』に入れたら、いよいよ


|::━◎┥「『艤装の試練』が、始まるのか」

121 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:32:37 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「アンカーシステムは、他者の使用を制限する為に二つの『ロック』が掛かってるお」

( ^ω^)「一つは『音声ロック』。もう一つは、エンブレムをはめ込む物理的なロックだお」

( ^ω^)「その錨に、『抜錨』と話しかけて装着すれば、リンクが始まるお」


なんだなんだ、かっこいいなオイ。仮面ライダーみてーじゃねーか
いやまぁ、俺はもうアーマー着ちゃってるから、言わば『変身済み』なんだけど


|::━◎┥「よし、そんじゃあ……」

( ^ω^)「待つお」


『抜錨』と言い掛けた俺を、ブーンが呼び止める


( ^ω^)「これは……本当に機能するかどうかわからないお。もしかしたら、ドクオの『棺』にもなりかねないお」

(;´・ω・`)「おいブーン……」


嗜めようとしたオッサンを、俺は手で制した


( ^ω^)「だから……これが引き返す最後のチャンスだお。もし、考えが変わったなら……」

|::━◎┥「変わらねえよ」


ブーンの提案を、キッパリと断った
元より、引き返すつもりなんてねえ。当然、死ぬ気なんて持っての他だ

122 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:33:34 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「ここで引いちまったら、俺は死ぬまで一生後悔する。最初に言っただろ?」

|::━◎┥「俺は、立ち直りの早さと前向きさだけが取り柄だってよ」


後悔のまま生き長らえるくらいなら、精一杯抵抗した末に早死にする方がマシだ


|::━◎┥「俺が死んでしまっても、気にする必要はねえ。馬鹿な男が一人いなくなるだけだ」

|::━◎┥「その失敗を糧にして、もっと性能を上げた『アンカーシステム』を……」


俺の言葉は、胸元に走る衝撃によって遮られた


(# ω )「気にする必要は、無い……?」


ブーンが、俺の胸板をぶん殴ったのだ


(#^ω^)「ふざけんなお!!お前は、僕にとってお前は……初めての理解者だったんだお!!」

(#^ω^)「それを失うことが、どれだけ大きな損失かわかってんのかお!!」


|::━◎┥「……」


そうだ……俺が逆の立場だとしても、きっと怒っただろう
『気にしない』なんて、出来るはずねえだろ

123 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:35:03 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「悪、かった……そんなつもりじゃ、無かった……」


(#^ω^)「……」


ブーンは拳を引くと、今度は俺の目の前に差し出した


(#^ω^)「わかったら、絶対に生きろお。死んだら、あの世までぶん殴りにいってやる」


それは勘弁願いてえな


|::━◎┥「ああ……」


俺は顔をショボンのオッサンへと向ける
言いたいことがあるなら、今の内に話して欲しかったが


(´・ω・`)「どうした?早くやれよ」


オッサンは肩を竦めて、こう言っただけだった
投げやりというよりは、『成功して当然』といった態度に見える。オッサンらしいや


|::━◎┥「よっし!!」


エンブレムを口元に近づける


|::━◎┥「『抜錨』」


錨が中央から薄く割れ、割れ目からは赤い光が漏れる
深海棲艦の冷たい目の色とは違う、熱い色だ

124 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:36:10 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「……」


|::━◎┥「フンッ!!」


気合と共に、錨をベルトへと叩き込む
瞬間、俺の視界は暗転した


|::━◎┥「ぐおっ……!!」


意識はある。だが脳内へと強引に『情報』がねじ込まれていく

モノクロの映像に浮かぶ、一隻の艦
これが、『別世界の電』か


|::━◎┥「ああああああああああああああ!!!!!」


自分が、書き換えられていく感覚
『電』の記憶が、次から次へと俺の中へと送り込まれていく

第六駆逐隊の姉妹艦達、演習で沈めてしまった『深雪』への後悔と自責
スラバヤ沖海戦で救った、多くの命。沈んだ仲間が乗せていた乗員の救助
第三次ソロモン海戦で沈んだ、一番艦『暁』。『比叡』『夕立』
サイパン島に向う道すがら、沈没した『雷』

そして、記憶は『電』の最後へと移っていく


|::━◎┥「おあああああああああああああああああ!!!!!!


身体に響く魚雷の衝撃。上半身と下半身が真っ二つにヘシ曲がるような激痛
そして全身へ広がる、燃えるような『熱さ』

俺は今、『轟沈』を体感している

125 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:36:43 ID:62pQqJ3.0
「ドクオ!!」

「やべえぞブーン!!止めろ!!」


|::━◎┥「止めるんじゃねええええええええええええええ!!!!!!」


待ってくれ、もう少し、もう少しなんだ
俺が電の記憶を引き継ぎ、受け入れなければ、戦いのスタートラインにすら立てない


|::━◎┥「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


艦上で死んで行く乗組員一人一人の『痛み』が、『恐怖』が
俺の中へと刻み込まれていく


|::━◎┥「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


わかっている。俺は、死んでいった『彼ら』の想いも背負わなければいけない
それは別世界の人間だけの問題じゃない。今、俺達の世界で苦しんでいる人々の想いも


|::━◎┥「                        !!!!!!!!」



もう、自分の叫び声さえ聞こえない。喉の奥、腹の底から火を吹いちまいそうなほど『熱い』
電、頼む。お前の痛みは背負ってやる。だから、俺に力を貸せ


誇り高き駆逐艦であった、お前の力を!!

126 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:37:18 ID:62pQqJ3.0
































.

127 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:38:21 ID:62pQqJ3.0










「ようこそ、『艦隊これくしょん〜艦これ〜』の世界へ」









.

128 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:39:07 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「ッハァ!!」


(;^ω^)「ドクオ!!」

(;´・ω・`)「ドクオォ!!」


い、今のは、何だ?
『艦隊これくしょん』?『艦これ』?
それに、さっきの声は……


|::━◎┥「エ……エラーさん?」


あの、正体不明の女の子の声だった


(;^ω^)「ドクオ……ドクオ!!」


|::━◎┥「ハッ!!」


ブーンの声で我に返り、俺は自分の身体を確かめた
アンカーシステムは熱を帯びているものの、火傷の痛みは無い
意識はハッキリとしている。それに、身に乗っかっていた『艤装』の重さがスッと引いていた

と言うより、自分の『手足』のように感じる。この感覚

129 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:40:06 ID:62pQqJ3.0
『Weigh Anchor!!』


機械音声が、抜錨を告げる


『Go!! Destroyer Inaduma!!』


間違いない。これは……


(:^ω゚ )「せ……成功、したお……」

(;´・ω・`)「す、すげえ……」


|::━◎┥「……東郷ドクオ。改め、駆逐艦『電』」

|::━◎┥「同期……完了だ」


俺が意識を向けるだけで、動力エンジンが唸りを上げた
12.7センチ連装砲は、自在に砲塔の仰角を上下出来る
そして何より、人間を遥かに上回る『馬力』が、身体中に漲っていた


|::━◎┥「ブーン、オッサン……俺」


その時、工廠が大きく揺れた


(;^ω゚ )そ「うおお!?」

(;´・ω・`)「くっそ、そうこうしている内に近づかれちまったか!!」


深海棲艦の砲撃を受けているらしい
テーブルの上に置いてあった工具は床へ落ち、天井からは埃と、割れた蛍光灯が降り注ぐ

130 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:41:09 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「二人は鎮守府内に批難しろ!!作戦指令室ならまだ割と頑丈だ!!そこに立てこもれ!!」

(;´・ω・`)「お前は!?」

|::━◎┥「決まってんだろ……!!」


戦力は、ここに成し得た
なら後は、戦うのみだ


|::━◎┥「サクッと……ぶっ殺してくらぁ!!!!!!」


短槍を手に取り、海に向って駆け出す
体が軽い……こんな気持ちで戦うの初めて!!もう何も恐くない!!


( ^ω^)「ドクオ!!」

(´・ω・`)「ドクオ!!」


二人同時に名前を呼ばれ、足が止まった
今は一秒でも惜しいってのに、こいつらは


|::━◎┥「何だよ早く批難しろ!!」


( ^ω^)「ぜってー帰って来いお!!」

(´・ω・`)「三人で打ち上げだ!!」


( ^ω^)(´・ω・`)「「提督!!」」

131 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:41:54 ID:62pQqJ3.0
『提督』。そう呼ばれて、そして今の状況を鑑みて、思わず笑った
提督は指揮官だ、前線で戦う立場じゃない。それが今じゃどうだ?変身ヒーローめいて、深海棲艦との戦いに赴く


|::━◎┥「ブーン!!お前、俺に尋ねたよな!!『どんな提督になるのか』ってよ!!」


( ^ω^)「えっ……あっ、うん!!」


あっこれ忘れてたパターンだわ。まぁいいや続けよ


|::━◎┥「これが俺の提督像だ!!悪かねえだろ!!」


最前線で戦う指揮官が、一人くらいいたって良い
艦娘のいない鎮守府なら尚更だ。上官が自ら身体を張り、海を守る
大衆から見れば、荒唐無稽だと笑われるだろう。でも


( ^ω^)「おっお!!かっこいいお!!」

(´・ω・`)「馬鹿丸出しだが、嫌いじゃあねーぜ!!」


一握りでも、それを認めてくれる人がいるなら、自分の道は間違っていないと思える


|::━◎┥「行ってくる!!」


鋼鉄の足音を響かせながら、戦いの海へと出撃する
背中に、二人分の『鋭、鋭、応!!』という、士気を鼓舞する雄叫びを受けながら

132 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:43:45 ID:62pQqJ3.0
工廠の外へ飛び出し、脇目も振らず海へと走る
そういや出撃用レールとかあったけど、もう知らんこのまま突っ込む

日は落ちかけ、夜の時間が始まろうとしている
真っ暗闇になったら、勝ち目は無くなるだろう。短期決戦で終わらせないと


|::━◎┥「あれか!!」


海上から砲撃をする深海棲艦。スクリーンに三つの赤丸がマークされる
艦影から種類を読み取り、名前が映し出された

左から、先ほど沈めた駆逐艦イ級二隻。それを率いる『旗艦』は


|::━◎┥「『軽巡ホ級』……!!」

133 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:44:19 ID:62pQqJ3.0
          r-、        /''、ヽ
          ヽー"ヽ       ∨77l
             \'" \   _∨/,| _ ;‐-;、
        _    \ニ\´  |≧/、l  il,|  i `ヽ
    ,.. _  (;ノ> _  l l、ニl /ミ、 二 ─l、l ' i : : ヘ
  _  〈/ニ> _`<ニ>l、 ≦三l、ヽ'ノヽニr=、ミl  ,i  : ヘ
/´ィミ> _`<ニ> `_<ニ>l  \ ニ .ヽl ヽl / ` ヽ, l
∨シ二二> _` <ニl-ヘ>゙l    i\,,ソ   l i   ` l
  ` <二二二> ー二ニ-" _ -―ニ_   | i    " l
      ` <二二 >∠二 /  ̄`ー=ミ` / `、  ' l
          ヽ,<二二>N   __  `l   l l    li
           〈/二>―‐ヽ、 ̄___ミl   l l    li
            l/    、   \=≠il    l   li
           / ,´   `ヽ    /_ l      l   li
             / /     ィ  //∠三ミil   '  i  li
        /ヽ       ,へヘ\7ァハil     ,:  il
       /   ) ,ィ⌒ v⌒l  |/l  ヽ/ ヘil    ,, '、  l    ,, -、、
     , イ    ´ヽ_ヽ_|_///l    ∨ 'il     /  〉_、 /l//,ヽヽ
    / ヽヽ>―、 l/ト、    |//,l     ∨li    /// ,, // ヽニ'/ノ
  /    ヽヽ\ ハl lハ  l///|ィ     l l   ///  l//    /
 〈  、  / ヽヽ\,l l/l   l //l ':,    l il   /l l  l   ,,ィ
  ヽ ` `ヽ、 xヽヾl l,l     l'//l, ヘ    l il il  l l  l 、-=  ̄,l _
   \    iヘ ヽヽ ∧ハ  ,メヘ/   ヽ   Y ,ハ  l l  l//>イ'//ヽヽ
  〈j>_\  il l ̄`l´ `ー〈    l   l   ,∨ミ、、,,l l  l/   :.ヽ/// ,'
    <二> lヽヽ.  l    l    l  /l    ハ//ミ/l l  l/≧ー―--'"
,r、- ,._  l ‐-ト、Xl  l     l   ハ/ l     ハ/ /ハl  ヽ>‐  ̄/
ヽ<二二ニ‐-ヽl\ヽソ\ _∧_ィ// ィ l     li / /≧、 _ <,ィ
     ̄‐==lヽ  `ー‐テ'__ ィ/// l     l,, ィ∧、≦>、_/
       ヽーlミ、 ̄`ヽ//////ヽ   /    ////∧l ヽ| `´
         lニ ヽ_ヽ/ `ー7   `'    /三<//ニ ‐/
          \≧三三三 メ   __ /一 ̄=ニ 7
            `ヽニ ̄  ` ´ニ´     _,,:; _/
               ̄`ー=ニニニニ====‐'''"

134名無しさん:2016/04/03(日) 18:44:49 ID:n8JINXzI0
ちょいちょいギャグ挟むのやめろwwwwwwwwwww

135 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:45:14 ID:62pQqJ3.0
鋼鉄のモアイ像のような形をした艤装に、真っ白な上半身を乗せた深海棲艦
耐久、火力共に、駆逐イ級を上回る。なるほど、『本隊』がやってきたってワケか

三倍、いやそれよりも大きな戦力差。しかもこっちは、テストも済んでいない処女艦

いや、『童貞艦』と来た。ハハッ、自分で言ってて泣きそう


|::━◎┥「初体験ってか」


4Pたぁ贅沢だ。クソ漏らしちまいそうなほどにな


|::━◎┥「行くぞオラアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


港湾を蹴って、海へと飛び出す。機関部を唸らせ、踵のスクリューを回した

136 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:46:38 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「オアアアアアアアアアアアこええええええええええええええ!!!!!」


ドボンと水しぶきを弾ませ着水。重みによって腰まで海に沈む
スクリューを更に回転させる。すると


|::━◎┥「進めえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


前進しながら身体が浮き上がり、海面に『立ち上がった』
水上スキーのように推進力によるものもあるが、人体では再現できない『艤装の浮力』も手伝っているように思える
普通の人間なら、この段階で横転してしまいそうなほど不安定ではあるが
俺並の運動スペックの持ち主なら難なく奔らせることが出来る
母さんありがとう丈夫な身体と運動神経をくれて


|::━◎┥「ッ!!」


前方から砲火が立て続けに吹く
奴らの狙いは俺では無く、後ろの鎮守府だった
背後で派手な倒壊音が聞こえ、首だけで振り返り確認する


|::━◎┥「野郎……!!」


毎日のように登っていた見張り台が、斜めに倒れていき
工廠の入り口は、今まさに崩れ落ちていく


|::━◎┥「野郎オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


鎮守府に被害は無かったが、それも時間の問題だ
奴らの標的を、『俺』に差し変えなければならない

137 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:47:42 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「オラァッ!!!!」


右手の『主砲』を向け、発砲する
響き渡る衝撃と、目が眩む閃光。腕が引きちぎれそうだ

砲弾は見当違いの場所に着弾。水柱を立てる
イ級の青白い目が、俺を捉えた。そうだ、それでいい


|::━◎┥「いい気になってんじゃあねえッ!!深海魚共がァッ!!」


左手に握る短槍を、奴らへと向ける


|::━◎┥「日本海軍所属ッ!!東郷ドクオ!!又の名を、駆逐艦『電』ァッ!!」


|::━◎┥「人間を代表してッ!!テメェらをぶっ沈めに馳せ参じたァッ!!!!!」


深海棲艦の威嚇の叫声が、大気を震わせた
腰が引き抜けそうな、ゾッとする鳴き声だ。重なり合って不協和音を奏でている
なんの、負けてたまるか。こちとら気迫だけは人一倍ある。さぁ――――

138 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:48:13 ID:62pQqJ3.0
叫べ



|::━◎┥「海のッ!!」




叫べ!!




|::━◎┥「底にィッ!!」




叫べッ!!




|::━◎┥「消えろォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」

139 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:48:53 ID:62pQqJ3.0





♪Pacific Rim
https://www.youtube.com/watch?v=tMTr2rbqSBM




.

140 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:49:58 ID:62pQqJ3.0
此方は単騎、向こうは横一列の『単横陣』
右舷へと緩やかに航行しながら、砲撃を放ってきた


|::━◎┥「チィッ!!」


回避行動、『之字運動』を行いながら、出来る限り接近する
一発は右前方に、残り二発は後方へと通り過ぎる

連中の命中精度はそれほど高くない。航行しながらだと尚更だ
しかしそれは、たった今海に出たばかりの俺にも言える
立ち止まって撃ったとしても、知れているだろう
だから、『必中』の距離まで近づく必要がある。短期短距離で仕留めたい

そして、この『短槍』。艦娘を構成する資材の一つである『鋼材』で作られたこの武器なら、俺の力でも装甲を貫ける筈だ
艦隊決戦に白兵戦などちゃんちゃら可笑しいと、誰もが言うだろう
だが、意外にもこれは効果的な戦略なのだ。何故なら、奴らは接近戦を『想定していない』
そもそもが艦である奴らの基本攻撃は、『砲雷撃』。主砲と魚雷だ
つまり、その攻撃を『行い易い』姿形をしている。バケモノに近い形状の駆逐、軽巡級は尚更だ
これが重巡級、戦艦級、正規空母級になっていくと、より人の形に近づいていく

これに対し、艦娘はその全てが『人間』ベース
砲雷撃に加え、人類が戦争の歴史で培ってきた、肉体による『殺す技術』が使える
格闘、剣術など、様々な近接戦闘を行えるのだ
事実、軽巡洋艦の天龍型や、戦艦の伊勢型など一部の艦娘は、艤装に刀や槍が搭載されている


|::━◎┥「オオッ!!」


スピードを上げ、更に近づいていく。反対に、敵艦隊は遠ざかろうとする
航路を妨害する為に、進行方向に砲塔を向け、放つ

大型ライフル弾ほどの砲弾が、質量的にありえない威力で
ホ級の間近で水柱を立て、巨体を煽る。偶然近くに着弾したのだが、効果はあった
慌てた旗艦が急激な方向転換を行い、駆逐イ級がそれに着いていけてない。あいつら、練度はそれほど高くないようだ

141 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:51:41 ID:62pQqJ3.0
ヘッドギアのスクリーンに、『装填中』の文字が浮かぶ
12.7センチ連装砲が連続して発射できる砲弾は二発。再び撃つまでにリロードの時間が必要だ


|::━◎┥「じれってぇな!!」


陣形が崩れかけている今こそ畳み掛けるチャンスだが、そう容易くいかない
人間には人間の、艦娘には艦娘の戦い方がある。それを良く理解しなければならない

目標までの距離は、まだ大きく開いている
敵にも、まだ砲撃のチャンスは残っている

最後尾のイ級が、今度は俺の邪魔をするかのように発砲


|::━◎┥「っぶねッ!!」


立ち上がった海水をおっ被るほど、近くに着弾
直撃は免れたが、嫌な汗が吹き出る
航行は出来た、砲撃も出来た。しかし、耐久性までは自分で確かめることは出来ない
下手すると一発で死ぬ可能性もある。両肩の盾があるとはいえ、それがどこまで役に立つのだろうか


|::━◎┥「お返しだオラァッ!!」


『装填完了』を知らされるや否や、二発連続で発射する
狙いは旗艦、軽巡ホ級だ。指揮系統を執っている奴を先に潰すのは、戦闘の常套手段だ
今度は上手くいかなかったようで、二つとも遥か後方へと飛んでいってしまう

それを見たホ級は、喘ぐ様に吼える
すると、駆逐艦二隻が隊列を離れこちらへ向ってくる
自分が標的だと気付き、手下に始末を命令したか。それとも、二隻を囮にして自分だけ逃げるか
どちらにせよ、好都合だ。俺の目的は至近距離戦闘。近づいてくれるに越したことは無い

142 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:52:35 ID:62pQqJ3.0
だが、諸刃の剣でもある
こちらから当てやすいという事は、向こうからも当てやすいという事

それを、身を持って味わうことになる

距離、凡そ五百。急速に縮まっていく
両イ級の口が開かれた。砲撃が来る


|::━◎┥「来いやァ!!」


時間差で、二発の砲弾が放たれる
砲火がはじけた瞬間


|::━◎┥「ぎっ……ッ!!」


右肩に、激痛が走る。被弾してしまった
スクリーンに損壊箇所が映し出される。右肩の盾が吹き飛んでいた
耐久値が六分の一ほど減っている。機関部の損傷では無い為、航行に問題は無い
もし盾が無かったら、吹き飛んでいたのは右腕そのものかもしれない


|::━◎┥「ファック!!」


しかし、痛いものは痛い。艤装で強化されたとはいえ、元は人間だ
艦娘は戦場に出る度に、こんな痛みを背負い込みながら戦っているのか。全く恐れ入る
もう一発の砲弾はどこへ飛んでいったのかわからないが、連続で食らっちまったらやばかったかもしれねえ


|::━◎┥「おおおおおおおおおおおお!!!!!」


だが、これでイ級のターンは終わった
雄叫びを上げて痛みを誤魔化しつつ、槍を構える

次は、俺の番だ

143 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 18:54:01 ID:62pQqJ3.0
砲撃を終えたイ級も、黙って待ってはくれない
大口を開き、俺を噛み砕こうと突っ込んでくる

俺の狙いは、向って右側のイ級


|::━◎┥「ッッッオラァ!!」


鼻先を狙い、槍を突き出した
貫通こそしなかったが、『ぎゃりり』と音と火花を立て装甲を削り取り、胴体にまで続く溝を刻んでやった
飛び散った黒鉄が、アンカーシステムにコツコツと当たる。ざまあみやがれクソッタレ

傷を付けられたイ級は、痛みの悲鳴か怒りの咆哮か、大声を上げた


|::━◎┥「まだまだァッ!!」


スキーのキックターンの如く海面を蹴り、急旋回。これも、『足』がある人間にこそ出来る芸当だ
『鯨』の姿に酷似しているイ級は、大きく孤を描きながら旋回しなければならない


|::━◎┥「ッッラァ!!」


背後に回った俺は、先ほど傷を付けたイ級の背に飛び乗り、槍を突き立てる
今度はしっかり装甲を貫通。槍の先端に、柔らかな肉の感触が伝わった


|::━◎┥「暴ッ!!れんじゃッ!!ねえッ!!」


悲鳴を上げながらもがくイ級に振り落とされないように、両手でしっかりと槍を握り、踏ん張る
幸いにも右腕は、まだ使える。痛いことには変わりねえが


|::━◎┥「おおおおおおおお……!!!!!」


そのまま、渾身の力を込めて槍をねじ込んでいく
突き刺した部位からは、目の色と同じ青白い蛍光色の血が溢れ出てきた

144 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:35:24 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「おわッ!!」


その血に足を滑らせ、側面から海へ投げ出されそうになるが
まだ無事な左手で槍を掴み、なんとか踏みとどまる

しかし、怪我の功名はあるもので、そこそこの重量が槍に掛かったお陰で
テコの原理でイ級体内に傷を付け、装甲を引っぺがした


|::━◎┥「っぶね……ん?」


視線を横にやると、無傷のイ級の砲塔が俺を狙い済ましている


|::━◎┥「やっべ!!」


逃げなければ、こっちのイ級もろとも海の藻屑だ
だが、槍を手放してしまうのも惜しい。そこで


|::━◎┥「ゼロ距離だ」


12.7センチ連装砲を、ぶら下がっているイ級に向ける
この距離じゃ外しようがねえ。喰らいな


|::━◎┥「オラァッ!!」


発射とほぼ同時に爆発。スクリーンが一瞬真っ白に染まり、ノイズが走った
爆風が俺の身体と槍を押し出し、後方へと落ちるように吹き飛ぶ


|::━◎┥「ゴアっ……!!」


海面を、水を切る小石のように跳ねる
立て続けに聞こえる砲撃音に気を向ける余裕は無く、体勢を立て直すのに必死だった

145 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:36:33 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「ぐおおおおおお……!!!!!」


なんとか四つん這いになり、海面を掴んでブレーキをかける
耳元からアラートが聞こえる。耐久値が一定を切ったらしい
緑から黄色へと変わったバーの隣に、『小破』の文字が浮かんだ

更にマズい知らせが入る。近距離で主砲を撃った所為で、二本ある砲塔の内、一つがお釈迦になった
無茶に撃とうとすると、暴発するだろう


|::━◎┥「ご丁寧にどうも……ッ!!」


だがこうも言える。『もう一本の砲等は無事』だと
それに、無茶をしたお陰で槍も手放さずに済んだ。詰んだワケではない

先ほどまで乗っかっていたイ級だが、黒煙を吹き上げて傾いている
損壊が派手な所を見ると、味方の砲弾も浴びてしまったらしい。ざまぁねえな


|::━◎┥「ん!?」


と、ここであることに気づく
遠くに軽巡ホ級の姿が見える。それは良いとして


|::━◎┥「何処行った……?」


もう一体のイ級の姿が見当たらない。逃げ出した?そんな馬鹿な
そう考えた瞬間、手前の海面が『盛り上がった』

146 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:39:19 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「うおおおおおおおおおお!?」


海水の膜を打ち破り、大口上げてイ級が飛び出してくる
野郎、潜行して不意打ちを仕掛けやがったか。駆逐艦が潜ってんじゃねえよクソが

頭上から覆いかぶさるように落ちてくる、巨大な口。大きな歯
俺の上半身を丸ごと食い千切ってしまいそうなそれが、文字通り眼前まで迫る
回避は間に合わない。主砲は装填中。防御?どうやって?


|::━◎┥「ッッツァ!!」


考えるより先に、体が動いた
槍を強く握り、イ級の上顎に突き刺し、柄を下顎に引っ掛けた
所謂、『つっかえ棒』だ。モンスターパニック物ならお馴染みの手法だろう


|::━◎┥「重ッ……!!」


だが、咬みつきは防いでもその重さまでは防げない
圧し掛かってくるイ級の重みに、片足を着いてしまう

思わぬダメージを受けたイ級は、血の混じった唾液を飛ばしながら叫ぶ
騒ぐんじゃねえ耳がうるせーだろうが


|::━◎┥「ボケがアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


艤装の馬力を最高まで上げる
背中が焼けるように熱くなり、アラートは継続して鳴り響く
構ってられるか。それより先に済ませておくことがあるだろうが


|::━◎┥「装填急げえええええええええええええええええッ!!!!!」


イ級の砲塔は『口の中』だ。俺の目と鼻の先にあるそれが、いつ火を噴いても可笑しくない
やられる前に、殺るしかない。この均衡から逃れる方法も、それしかないのだ

147 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:40:02 ID:62pQqJ3.0
イ級の口内から、『ゴトン』と重たい物が送られる音が聞こえた


|::━◎┥「クソッタレがァァァァ!!!!!」


右腕を突っ込み、いつでも撃てるようにする
さながら、西部劇のファスト・ドロウだ。遅い奴は無様に死ぬ、刹那の緊張感

一日千秋の『一瞬』の後、装填が完了する


|::━◎┥「ッラァ!!」


狙いをやや斜めに定め、発射
頬の部分に砲弾を受けたイ級は、左方向へと仰け反る
その瞬間の隙を突き、槍をそのままに鍔迫り合いから離脱する

横転したイ級は、目の光を弱々しくしてゆっくりと沈んでいった


|::━◎┥「どうだオラァ!!競り勝ったぞ!!」


ガワの固い連中でも、やはり粘膜部分は弱いようだ
槍が無くなったのは痛いが、これで『二隻』。残りは


|::━◎┥「これで一対一だ……」


旗艦、『軽巡ホ級』

148 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:41:37 ID:62pQqJ3.0
数で言えば対等。しかし、ダメージは俺の方が上だ
先ほどの無茶な力比べで、燃料が著しく減っていることに加え、アンカーシステム自体にもガタが来ている
現在の状態は『中破』。黄色だったバーもオレンジ色に変わっている

艦娘にも言えることだが、中破判定から艤装の調子が格段に落ちる
攻撃力は万全時と比べ三割減り、回避力や命中率にも影響が出る
この不利な状態で、イ級よりも耐久、攻撃力が上の軽巡洋艦を相手にしなければならない


|::━◎┥「……」


ゆっくりと、周るよう航行しながら出方を窺う
ホ級は攻めて来ない。先ほどの戦いを見て、近距離で戦うのは得策ではないと悟ったのだろう

太陽は完全に水平線に沈み、月の時間が始まる
ここからは『夜戦』だ。艦娘、深海棲艦ともに戦いが苛烈となる


|::━◎┥「……」


艤装を背負っている俺も、例外では無い
気持ちが、更に昂ぶる。電の艤装が俺に、『奴を殺せ』と囁きかけているようだ
落ち着け、勝負を急ぐな。奴も様子見に入っている。策を練る時間はある

しかし、どう攻めれば良い?ここは海上、水平線。身を隠す遮蔽物は無く、味方もいない
燃料、弾薬は残り少なく、耐久値は半分以下。これで、どう奴を殺す?

考えあぐねていると、耳元で通信音が聞こえた


『ドクオ、無事かお!?』


続けて、ブーンの声。ほんの十数分前に会話したばかりだろと言うのに、酷く懐かしく思える

149 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:42:29 ID:62pQqJ3.0
|::━◎┥「なんとかな……残りは軽巡ホ級だけだ」


『ホ級か……せめて、魚雷があれば……』


今度はオッサンの声。恐らく、作戦指令室から通信しているのだろう
主砲の口径が大きくない駆逐艦にとって、魚雷は大型艦を喰える一撃必殺の武器だが
当てるには相当の計算と技術が必要だ。それに、そもそも電の初期装備には搭載されていない


|::━◎┥「無いものねだりをしてもしょうがねえ。あるものでなんとかしねえと……ん?」


『どうしたんだお?』


あるもの……そうだ、それは別に、『この場』だけに限った話じゃねえ
視野を広げりゃ、もっともっと使えるものはある。ここは、『鎮守府近海』だ
俺の後ろには、『家』も『味方』もいるじゃねえか!!


|::━◎┥「ブーン、オッサン。頼みがある」


『なんだお?』

『遺言ならお断りだぜ?』


糸口は、見つかった。後は、俺の気合と根性次第
作戦を手短に伝える。ブーンは不安そうな声で聞き返した


『本当に、有効なのかお?』


|::━◎┥「多分な」


『多分ておま』


|::━◎┥「やる価値はあるさ。とにかく、頼むぜ」

150 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:43:41 ID:62pQqJ3.0
『了解』を言い残し、通信は切れる


|::━◎┥「さって……」


お釈迦になった方の砲塔を、無理やりもぎ取った
ナイフほどの大きさのそれは、先端が鋭利になっており、無いよりマシレベルの近距離武器となる


|::━◎┥「そんじゃ……もうちょっとだけ、付き合ってくれや」


『電』の艤装に、そう話しかける。俺の言葉に応えるかのように、半壊した機関部が唸りを上げた
方向転換を行い、ホ級と対峙する。変化を感じたであろう奴も、砲塔を上下に動かした


|::━◎┥「殺せるもんなら……」


|::━◎┥「殺してみろオラァァァーーーーーーー!!!!!」


急発進。全身が海風を切り、耳元に『ヒュオオ』と音を残す
回避行動は最低限にした。燃料は限られている。余計な動きは出来ない


ホ級の単装高角砲が火を噴く


|::━◎┥「ッ!!??」


咄嗟に、頭を左に傾ける。瞬間、視界が暗転した


(メ A゚)「」


時間にして、一秒も満たなかったが


(メ'A゚)そ「……オオッ!!???」


俺は意識を失っていた

151 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:44:51 ID:62pQqJ3.0
視界が開け、顔面に風が直接吹き込んでいる
右手でヘッドギアに触れ、確認してみると、右側に一本の筋が刻まれていた
頬に生暖かい液体が流れ、米神に激痛が走る。頭部裂傷だ。流れ出る血の量は少なくない
直撃では無いが、砲弾が掠めたのだろう。面のパーツは衝撃で吹き飛んだらしい
人の身なら、掠っただけでも吹き飛んでいたはずだ。改めて、艤装の性能に感心する

だが、ステータスが確認できなくなったのは大きな損失だった
機関部はまだ動く。今の砲撃で艤装自体の損傷は無い


(メ#'A゚)「ぐ……!!」


『脳震盪』、身体のダメージが深刻であった
視界はぐらりと揺れる。腹からこみ上げた吐瀉物を、喉奥でむりやり押し戻した


(メ#'A゚)「ッッッ……!!!!!」


不安が残る距離だが、ここで決めるしかない
重たい右腕を左手で支え、狙いを定める


(メ#'A゚)「オオオオオオアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


咆哮と共に、砲撃を放つ
向かい風に煽られた砲火が、顔面を撫でたが、瞬きすらも許されない

命運を懸けた砲弾の行く末を、見届けなければならないからだ

152 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:45:20 ID:62pQqJ3.0






(メ#'A゚)「ッッッけええええええええええええええええ!!!!」





.

153 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:46:15 ID:62pQqJ3.0
結果から言うと、砲弾は『届かなかった』
ホ級を穿つ筈の弾は、足下に着水し、空気を巻き込み白く染まった海水を大量に巻き上げただけだ

もしもホ級に『表情』があるならば、きっとほくそ笑んでいるだろう
最後のチャンスをモノに出来なかった俺を、嘲笑っていることだろう


だが


(メ#'A゚)「狙い……通りッ!!」


俺の目的は、本体への直撃ではなかった
この一発は、ただの時間稼ぎ、目くらまし、そして

油断を誘う為のものだ


(メ#'A゚)「ラァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


速力最大。艤装が黒煙を吹き上げ、大きな軋み音を立てる
海水が巻き上がっている『今』だけ、俺の無茶に付き合ってくれ

吶喊する俺に対して、ホ級はゆっくりと砲の標準を合わせた
奴からは、成す術無くした俺がヤケクソ起こして突っ込んできたように見えるのだろうか
だとしたら、まんまと策に嵌っている事に気付いていないマヌケだ

そうさ。今の俺はたった一人、戦場に立っている
お前のように命令に忠実な手下はいねえ。背中を預け、肩を支えてくれる戦友もいねえ
だがな、俺の背中には、誰よりも心強い『家族』が着いている

戦場にいなくても、戦う武装が無くとも、戦況を覆す『知恵』が、人間にはあるという事を――――――




(メ#'A゚)「今だァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」




思い知れ、バケモノ

154 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:47:45 ID:62pQqJ3.0
『どぉん!!』と、遠くから響く砲撃音
陸地から聞こえてきたその音に、ホ級は気を取られ、襲来するであろう砲弾に備えた

だが、そんなモノいつまで待っても来るはずがねえ
あの音は、俺が二人に指示したものだ

『鎮守府の屋外スピーカーから、最大音量で砲撃音を流せ』と

海上は、建設物などの障害物が無い場所だ。音は良く通る
それに加え、今は暗闇の時間帯だ。海を遠くまでは見渡せない

その二つの条件で、『援軍艦隊が現れた』と錯覚を起こさせたのだ
ただ『音』を鳴らす。それだけで、有効な援護となる
奴らは野生動物のように、『威嚇』の手段として鳴き声を使った
声を使えば、大抵の相手は恐怖で萎縮すると、理解しているのだ

逆に言い返せば、『深海棲艦』であろうとも、音だけで危機感を刺激することは可能
考え、行動する生物なら、身の危険や天敵から逃げる為に、突然の物音にはとても敏感になる
予期せぬ方角から、その音が聞こえてきたなら尚更だ


(メ#'A゚)「ッッッッッ……!!」


反対に俺は、叫びを押し殺した
ここで大声出して意識をこっちに向けられると、それで作戦はパーになる

ふわふわと舞う海水の粒子を掻い潜り、近距離戦闘の間合いに突入
ここまで近づくと、流石に感づかれてしまう
意識を俺へと戻したホ級は、焦燥に駆られながら砲を撃った

しかし、いつ襲来するか分からない偽りの砲弾と、迫ってくる俺との板ばさみだ
狙いは正確ではない。砲塔の向きからややズレるように航行すれば


(メ#'A゚)「ッッたるかァ!!」


回避は可能だった

155 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:49:48 ID:62pQqJ3.0
攻撃順は俺に移る。もう、奴には絶対に渡さない
右腕を差し伸ばし、ざっくりと狙いを定める。この距離、大きさなら外さねえ。巨体が仇となったな


(メ#'A゚)「オラァッ!!!!!」


今度は正真正銘の、砲撃音。同時に、ホ級の胸部へと着弾、爆発
人間がそうであるように、痛みと苦しみで胸元を抑え、頭を垂れる

ホ級の『顔』は、人の頭蓋と前歯を組み合わせたような、のっぺらとした装甲に覆われているが
下から覗き込めば、生身の『顎』が見えてくる。俺の攻撃はまだ終わっていなかった


(メ#'A゚)「喰らえェェェエエエエエエエエエエエ!!!!!!」


折った砲塔を、下顎から上へ向けて思いっきり突き刺す
柔らかな肉と、骨らしき物がぶちぶちと千切れていく感触
そして、空気が血を吐き出す『ゴポリ』といった重たい水の音


(メ#'A゚)「まだまだァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」


両手いっぱいの大きさの頭を抱え、顎に膝蹴りをぶちかます
握り締めていた砲塔の余剰部分も、完全に頭部へと刺し込む
頭の装甲に、僅かにヒビが広がった。先端が頭蓋を貫いたのだろう


(メ#'A゚)「もッッッッ……」


頭部を手放し、やや間合いを取って砲塔を向ける
ホ級は力無く傾いていくが、これで死んだとは思えない


(メ#'A゚)「いっぱあああああああああああああああああああつ!!!!!!!」


トドメの一撃を放つ。一発目のすぐ隣へ着弾
最後のため息を吐くかのように、弱々しい鳴き声を上げ――――

156 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:51:10 ID:62pQqJ3.0






俺の視界は、爆炎に包まれた





.

157名無しさん:2016/04/03(日) 20:51:52 ID:62pQqJ3.0























.

158 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:53:03 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



死後の世界は、『黒』で包まれているもんだと、勝手に想像していたが
どうも、それは間違いだったらしい。実際は、『青』だ
それも、空や海のような自然の青さではなく、PCがクラッシュした時の『ブルースクリーン』のような
人工的で、どこまで行っても一色の世界が広がっていた

ここは地獄だろうか。いやこんな無機質な世界が天国の筈ねーけど、それにしてもちょっと殺風景過ぎるだろ
せめてもうちょっとさぁ……血の池地獄とか肥溜め地獄とか、色んなアトラクション的何かがあって欲しいだろ普通
あ、禁断の石臼とかない?あれ回せば俺も生き返れる超人パワーを手にすることが


「残念ながら、ここは天国でも地獄でも超人墓場でもありません」


無音の世界に、聞き覚えのある声一つ
その後に、『りん』と鈴の音が響いた


「」


俺も声を出そうとしたが、擦れた息すらも漏れなかった
喉……いや、身体全体の感覚が無く、思考だけがこの場に留まっているような、そんな感じ


「ああ、ご安心ください。貴方の思考はちゃんと読み取れます。その調子で会話してくだされば」


安心出来ねえよぶっちゃけ不安しかねえよなにここ恐いお家帰らせて


「まぁまぁ、貴方もいくつか訊きたいことがございますでしょう」

「どうでしょう、少しお話をしませんか?この『世界の狭間』で」

159 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:54:59 ID:62pQqJ3.0
お話、お話ねえ。訊きたいことなんざ山ほどある
先ずは……ブーンとオッサンの無事を確かめたい


「お二方ともご無事です」


ああ……良かった。生きて帰れなかったのは心苦しいが、戦った甲斐があった


「ふふ、貴方は『彼』に良く似ている。自己犠牲など理解できなかった私を、納得させる行動力がある」


『彼』……そうだ、思い出した。アンタ、確か夢にも俺に現れたよな?
そこで言ってた、『艦娘でありながら、人間であり、そして深海棲艦でもあった、奇妙な男性』って、どういうことだ?


「先ほどまでの貴方と、似たようなモノ。と言っておきましょうか」


俺と?


「『前任提督』は、貴方が現れるまで唯一無二の『艤装適合者』だったのですよ」

「方法は違いましたがね。人間は時に想像を絶する行いをする。アレには驚かされました」


その方法って?


「体内で、資材と開発資材を混合させたのです」


ハッ!?そんなことが可能なのか!?


「さぁ、私は実験にまで関わっていないのでなんとも」

「まぁ、成功したとは言いがたいでしょう。艤装の記憶にその身を焼かれながら、それでも適応『してしまった』彼は」

「施設内で暴走を起こし、その場にいた研究員と関連者を皆殺しにしてしまいました」

160 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:56:52 ID:62pQqJ3.0
適応、『してしまった』……やっぱ、しちゃマズいモンなのか?


「ええ、勿論。『サービス運用』に影響をきたす『バグ』ですからね」


サービス運用?ああっ!!そういやお前!!この世界に深海棲艦持ち込んだのは別世界の人間を楽しませるだけだって!!


「まぁまぁ、その辺りの言い分はまた後で」

「暴走を終えた後、彼は実験に関する記憶を全て失いました。そこで海軍は、彼を辺境の鎮守府に軟禁させ」

「『提督』としての執務に当たるよう、指示したのです。貴重な成功体を逃がさない為に」


逃げ出そうとはしなかったのか?


「あのメモリーの文章をお読みになったのなら、既に理由はお解りでしょう」


メモリー……ああ、そうだ。『彼』は、例え自ら望んで提督になったワケじゃないにしても
艦娘と一緒に過ごしていく中で、親愛の感情が芽生えたのだ


「戦場を経験しているだけあって、彼は目覚しい戦果を上げました」

「作戦が失敗に終わっても、それを決して艦娘の所為にして叱責することなく、お互いに次はどうすれば勝てるかをじっくりと話し合い、活かす戦い」

「勝てば良くやったと褒め、長所を更に伸ばす育成。やる気を出させるのが上手な、教育者でした」


……良い人、だったんだな


「ええ。それだけに、周囲の嫉妬や反感を買い易い人でして、根も葉もない噂を広められていたりもしましたが」

161 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:57:59 ID:62pQqJ3.0
しかし、詳しいな。日記にも書いてあったが、アンタと彼は接点があったのか?


「彼は先ほど話したとおり、特殊な存在でしたから。興味を持った私が話しかけたのです」

「……最初はお互いに、良い印象を持っていなかった。私は私で、何故そこまで『兵器』如きを親身に扱うのかと、疑問に思っていましたし」

「その疑問を解き明かす為に、度々彼の前に現れ、言葉を交わしました。そしていつしか、芽生えたのです」


何がだ?


「彼が、『艦これ』を終わらせる瞬間を目の当たりにしたいという、『欲』が」


その、艦これってのは?


「あちらでは、この戦争をそう呼んでいます。娯楽の一つとしてね」


『娯楽』と言ったか。気に喰わねえな


「彼らの中では、この世界での出来事は全て電子媒体の出来事ですからね」

「貴方だって、テレビゲームで一般人を撃ち殺しても、なんとも思わないでしょう?それと一緒です」


テレビゲームと一緒にするんじゃねえよ!!


「……ま、この話を続けても平行線ですので、戻しましょう」

162 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 20:59:17 ID:62pQqJ3.0
「彼も、私の中に芽生えた『欲』を知り、徐々に態度を和らげました」

「晩年には、私を友人とまで呼んでくれて……『嬉しい』という感情が芽生えたのも、これが最初でしたね」


晩年……何故、彼は死んだんだ?


「艦娘と深海棲艦は表裏一体の存在。貴方の世界でも提唱されている一つの説です」

「それは正しい。彼女達はコインを裏返すかのように、味方にも悪にも成り得ます」

「私はさっき、『実験は成功したとは言いがたい』と言いましたよね?これが、どういう意味を持つか」


深海棲艦に、なったってのか……?


「ええ、彼の中にある『艦娘』は、言わば生ものでして。歳月がゆっくりとそれを腐らせ……」

「私が気付いたときには、既に手遅れの状態にまでなっていました」


深海棲艦になると、どうなる?


「人への憎しみ、悪意に取り付かれ、同族以外を殺戮するだけのバケモノへと成り下がります」

「それは、彼が愛した艦娘でさえも、手にかけてしまうほどの憎悪。勿論、そんな事をしでかしてしまうのは、本意では無い」

「『艦娘の力が宿っている』。自分の現状を知った彼は、その憤りの向き先を、私でも艦娘でも、ましてや、原因を作った海軍本部でもなく」

「『深海棲艦』、ただ一辺に向け、自分自身の処理を行いました」


処理?


「鎮守府近海、全ての深海棲艦との『心中』です」

163 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:00:13 ID:62pQqJ3.0
な……か、彼は、たった一人で、海域を解放したってのか……?


「解放……まぁ、語弊はありますが、概ねそう言うことです」

「彼は軽巡洋艦『龍田』の力を宿していました。知っての通り、矛を持つ艦娘です」


だから、彼のことを『龍田』と呼んでいたのか……


「軽巡洋艦一隻の力とは思えない、暴れ振りでした。恐らくですが、男性と艤装は相性が良いのでしょう」

「適合成功率こそ低確率ではありますが、軍艦とは本来、男性が乗り操る物です。一因があるとは思えませんか?」


さぁな……死んじまったから、なんとも言えねえよ


「それはどうでしょうねえ」


は?どういうこと?


「おっと、そろそろお時間です。あまり話せなかったのは残念ですが、ここでお別れです」


ちょ、待って待って!!最後にもう一つ訊きたい事がある!!


「なんでしょう。手短にお願いします」

164 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:01:03 ID:62pQqJ3.0
アンタ、どうして『俺』を選んだんだ?


「……アハッ、大した理由などございません」

「ただ久しぶりに、あの呪われた鎮守府に提督が着任したのと……」

「艦娘にすら拒絶されるほど、ブサイクな貴方が面白かっただけです」


よし分かったちょっとこっちこいぶん殴ってやる


「アハハっ、またお会いしましょう。駆逐艦『電』殿」


『りん』と、鈴の音がまた鳴り響くと
青一色だった世界に、光が差し込む

身体が重力と、暖かさを取り戻していく

俺は一体、どこへ向かっているんだ


死んだ俺の魂を、どこへ運んでいくと言うんだ―――――

165 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:01:42 ID:62pQqJ3.0




























.

166 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:03:49 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(//A-)


(//A`)


(//A`)「ア……」


「お、起きた?」



   〃∩ ∧_∧
   ⊂⌒(  ・ω・) 「おはよー」
     `ヽ_っ⌒/⌒c



(//A`)「……」


いや、誰だよ
ツッコもうとしたが、喉が擦れて声は出なかった

167 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:04:45 ID:62pQqJ3.0
(  ・ω・)「そのままでいいって。ちょっと待ちな」


ソファーで寝転んでジャンプ読んでいた、三十後半ほどの男は、ストロー付きのコップを口元まで運ぶ
『自分で飲める』と、無言で右腕を伸ばして受け取ろうとするが、動かなかった

いや、動かないんじゃない

右腕が、根元から丸々無くなっていた
それと、左脚の感覚が無い。下半身を覆う布団の隆起が、それを失くしたことを物語っていた


(//A`)「……」

(  ・ω・)「話す、話すよワケは。とりあえずホレ。水」


口の中はカラカラだった。ストローを咥え、ゆっくりと水を啜る
『何か食べるかい?』と、男は傍らの果物篭を指差すが、首を振って断った
左腕は繋がっているが、ギプスがはめ込まれている。どこの誰かも知らない野郎に食べさせて貰うのも何かキモい


(//A`)「あ、あ」


しゃがれてはいるものの、一応声は出るようになった


(//A`)「アンタ、誰だ」

(  ・ω・)「どうも初めまして。トム・クルーズです」

(//A`)「トム・クルーズさん。そんで……」

(  ・ω・)「いや、ちょ、真に受けないでよツッコんでよ恥ずかしくなるじゃない」


じゃあボケんなよ

168名無しさん:2016/04/03(日) 21:05:30 ID:dV76bn4E0
oh……

169 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:05:49 ID:62pQqJ3.0
(  ・ω・)「私はこういう……ああ、名刺とか無いんだわうっかりうっかり。うっかりサンバ」


いちいち鬱陶しい野郎だな帰れよほんともう


(  ・ω・)「大淀カラマロス大佐だ。気軽に大佐と呼んでくれ」

(;//A`)「アンタ、海軍ッ……!!」


起き上がろうとすると、身体に激痛が走った


(  ・ω・)「あーあーあーあー、ダーメだって。傷は塞がってるけど、内部のダメージはまだ治ってないんだから」

(;//A`)「んなもんどうでもいい……何の用だ?」


喉が万全なら、怒鳴りつけていた所だ


(  ・ω・)「先ずは誤解を解こう。私は海軍では無い。いや、元々はそうだったんだけど」

(  ・ω・)「今は海上護衛会社『アカツキ』に勤めるサラリーマンさ」


海上護衛会社、『アカツキ』。聞き覚えが無い
当然、関わった覚えも無い


(;//A`)「聞いたことねえ、そんな会社……それに、俺は……」

(;//A`)「生きてるのか……?」


男は窓辺まで歩き、引き窓を開けた
初夏の爽やかな風が俺の顔を撫でる。潮の匂いが混ざっていた

170 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:07:33 ID:62pQqJ3.0
(  ・ω・)「三つ、幸運があった」


窓縁に寄りかかった大佐は、指を一つ立てる


(  ・ω・)「一つ、電の艤装には『補強増設』が施されていてね。そこに入っていた『ダメコン』が、君の轟沈を防いだのさ」


聞き覚えの無い単語に、俺は眉を顰めた


(  ・ω・)「ほら、あの『南京錠』さ。あの中にこう……ねじ込まれてたんだよ。どういう原理かは私もよくわかんないんだけど」

(;//A`)「いや……うん、確かに全然伝わらない……」


説明下手だなこいつ


(  ・ω・)「二つ目、吹き飛ばされた位置がちょうど鎮守府への方面だった。上手く流れ着いた君を、我々の艦隊が保護したのさ」

(;//A`)そ「は!?え!?艦隊!?」

(  ・ω・)「そして最後に三つ目だが」

(;//A`)「いいよもう!!それより艦隊って何……いつつつつ!!」

(  ・ω・)「ほらそんな興奮するから〜」

(;//A`)「誰の所為だ誰のォ…・・・」

(  ・ω・)「その辺もちゃんと説明するから。三つ目が重要なんだよ。君にとっても我々にとっても」

171 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:08:50 ID:62pQqJ3.0
(  ・ω・)「三つ目、それは、君の致命傷を『バケツ』で治せたことだ」


『バケツ』とは、『高速修復材』の通称だ
艦娘はダメージを修復する為に、『入渠』しなければならない
修理には結構な時間が必要で、長くて丸一日拘束される場合もある

その修理時間を一瞬で済ませてしまうのが、ワンショット・グラス大の容器に入った緑色の液体だ
口から摂取することで、艦娘と艤装のダメージを即時回復させる、なんか若干恐い薬っぽい何かだ
しかし、それで『人間の傷』が治っただなんて、聞いたことが無かった


(  ・ω・)「これが、どういうことか分かるかね?君は艦娘の『艤装』に、初めて適応した人間なんだよ!!」

(  ・ω・)「まぁただ、戦闘時に吹き飛んでしまった右腕や左脚は戻らなかったけどね。お悔やみ申し上げるよ」


大佐が言うには、失くした箇所を再生させることは出来なかったが
爆破による皮膚の裂傷、骨折、内臓の破裂、脳への損傷がすべて元通りになったらしい
ただ、身体に掛かった負担までは治すことは出来ないらしく、しばらくはリハビリに専念する必要があると


(//A`)「ちょっと待てよ……俺が生きている理由は分かった。だが……」

(//A`)「『あの場所』には居なかったアンタが、何故俺が艤装に適応したことを知っている?」


大佐は『ふむ』と顎を擦った。胡散臭い奴だ


(  ・ω・)「ひょっとして君、ここが別の場所だと思ってる?」

(//A`)「え?」

(  ・ω・)「ここは君が配属されていた鎮守府の医務室だよ?え?見覚えない?」

(//A`)「え?」

(  ・ω・)「え?」

172 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:11:24 ID:62pQqJ3.0
(//A`)「いや、あの……海軍、じゃ、ないん……だよな?」

(  ・ω・)「え?うん。元はそうだったけど」

(//A`)「じゃあ、どうしてこの場所に『入れたんだ』?」


いくら僻地にあって、本部から見放されていた鎮守府とは言え
一応、艦娘を扱う重要基地だ。おいそれと民間人が入れる場所ではない


(  ・ω・)「もうここは海軍が保有する土地では無いからね」

(//A`)「は?」

(  ・ω・)「買い取ったのさ。我々が」

(;//A`)「え?ちょ、何それ意味わかんない……」


えっ、お金さえ払えば買い取れるモンなの鎮守府って……?え?何?買う意味って何?


(  ・ω・)「我々の仕事は深海棲艦の手から民間船を護衛することだが、割と新しめの会社でね」

(  ・ω・)「まだ設備が充実していないんだよ。そこで、無人の鎮守府をなんかこうあの手この手で買い取ろうとしたんだがね」

(  ・ω・)「海軍は、『君の着任』を理由に売ろうとしなかった。どうしても手放したく無かったらしいね」


俺がここに送られた理由の一つが判明して、また新しい疑問が浮かぶ


(;//A`)「護衛っつったよな?まさか、艦娘を保有しているのか?民間企業が!?」

(  ・ω・)「そーだよ」


いや軽いなオイ


(;//A`)「そんなおいそれと手に入るもんじゃねえだろ?どうやって?」

(  ・ω・)「だからほら、言ったじゃない。私、元海軍だって」

(  ・ω・)「『アカツキ』は、海軍のやり方に疑問を持った軍人や、艦娘の集まりでね。我々の考えに共感してくれる政治家や海軍上層部がバックにいる」

(  ・ω・)「彼らの力添えもあって、我々は民間で唯一、艦娘を保有する企業になったのさ」

173 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:13:03 ID:62pQqJ3.0
(;//A`)「……」


話が突拍子無さ過ぎて、着いていけねえ
まぁいいや深く考えるのよそう。あー、ジャンプ読みてえ


(  ・ω・)「ま、海軍も一枚岩じゃないってことさ」

(;//A`)「なる、ほどな……で、目的は?」


そこまで大掛かりな企業となると、当然裏に大きな目的もあるのだろう
大佐は表情を引き締めると、短くこう言った


(  ・ω・)「世界平和」


まるでガキの願い事だ。実現不可能で、現実味が無い
だが、大佐は真剣そのものだった


(  ・ω・)「深海棲艦との戦争が、何故ここまで長引いているのか知っているかい?」

(//A`)「いや……」

(  ・ω・)「国が、『儲かる』からだよ。言わば、『軍需』だね」

(//A`)「……日本は、唯一の艦娘保有国家だからか……」


大佐は『その通り』と頷く。深海棲艦は日本の領海だけでなく、海外にも現れる
諸国に艦娘を派遣させて、多額の謝礼金を受け取る。『傭兵派遣』
深海棲艦との戦いが終わらない限り、この国はどんどん潤うのだろう

174 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:16:53 ID:62pQqJ3.0
(  ・ω・)「この状態を続ければ、日本は世界を艦娘で支配する軍事国家と捉われてしまうだろう。その先にあるのは、国家間の戦争だ」

(  ・ω・)「じゃあ、そうなった場合、核を保有しないこの国はどんな『兵器』を使うか?」

(;//A`)「『艦娘』……」


なんてこった。人間を救う存在が、今度は日本以外の人類を殺す『敵』に変わる
それはもう、『深海棲艦』と変わりない。彼女達が国家間の戦争に関わった先にある絶望は、想像もできない


(  ・ω・)「『世界平和』を成すには、一刻も早く深海棲艦を殲滅し、脅威を取り除くこと」

(  ・ω・)「加え、役目を終えた『艦娘』の兵力を徐々に失くして行くこと」

(  ・ω・)「『アカツキ』はこの場所から、本格的に戦争へと参入する。我々の主力艦娘達が育った、この場所から!!」

(;//A`)「なっ……まさか、前任提督の艦娘達か!?」

(  ・ω・)「ご名答。あれ?なんで知ってるん君?」

(;//A`)「あ、ああ、いや……小耳に挟んでな……」


寝耳に水だ。てっきり、解散されていたものだと思っていたからだ
まさか、こんな特殊な環境に身を置いてるだなんて


(  ・ω・)「死にかけの君を拾ったのも、彼女達だよ。あの日、鎮守府へと向ってたんだ」

(  ・ω・)「到着がもう少し早かったら、君もこんな目に遭わずに済んだのかもしれない。本当に、申し訳ないと思っている」


大佐は深々と頭を下げた


(;//A`)「いやいいよ別に謝らなくて!!生きてるだけで大儲けだし結果的には助けられたんだし!!」


頭を上げろと言うが、大佐はその体勢のまま話を続けた


(  ・ω・)「もう一つ、頼みたいことがあるんだ」

175 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:17:57 ID:62pQqJ3.0
(;//A`)「頼み……?」

(  ・ω・)「ああ、『アカツキ』に加わって欲しい」


急な話だ。寝起きの怪我人にはちょいとヘビー過ぎる
考える時間が欲しいが、大佐は頭下げながら有無を言わせない無言のプレッシャー放っている。謝男かよこの人


(;//A`)「……っふー、一応聞いとくが、俺をアカツキにスカウトする理由は?」

(  ・ω・)「先ずは、ブーン君が造った『アンカーシステム』。その研究に携わってもらいたい」

(;//A`)「まぁ、そうだろうな。だが俺は別に大したことしてねえ」


少なくとも、俺自身ではそう思っている
凄いのはアンカーシステムそのものを開発したブーンだ


(  ・ω・)「謙遜をするんじゃあないよ、東郷くん。だって君は……」


大佐は顔を上げる。顔には笑みを浮かべていた


(  ・ω・)「人類史上初めて、『海上』で深海棲艦を単騎で三隻沈めた、『英雄』なのだから」

(  ・ω・)「これが、我々にとってどれだけ大いなる行為か、分からないほど愚かでは無いはずだ」


(//A`)「……」


そうか、俺は生き残ったことで
幾つかの『役割』が出来たのが


(//A`)「『象徴』になれ、と」


その言葉を聞いて、大佐は俺の肩に手を置く

176 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:18:54 ID:62pQqJ3.0
(  ・ω・)「君は希望だよ。人類にとって、艦娘にとって、長きに渡って続く戦争を終わらせる希望だ」

(  ・ω・)「そして、この鎮守府も……君達が命を掛けて守ろうとしたこの『家』も、その象徴となるだろう」


(//A`)「……」


俺は、俺は……守れたんだ。この居心地の良い居場所を
そしてこれから、始まるのか。『俺の戦争』って奴が


(//A`)「……返事をする前に、会わせて欲しい奴らがいる」

(  ・ω・)「そう言うと思ったよ」


大佐は、『また後で』と言うと、医務室を後にする
入れ替わりに入ってきたのは


( *;ω;)「うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

(*´;ω;`)「アアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!」


泣き笑いしながら飛び込んできた、俺の頼れる『家族』だった

177 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:20:00 ID:62pQqJ3.0
(*´;ω;`)「バカ野郎いつまで寝てんだコラァ!!もう料理冷めちまった通り越して腐ってんぞボケオラァ!!」


(//∀`)「オッサン」


( *;ω;)「腕とか脚とか無くなってるけど心配すんなお!!すぐに義手と義足作ってやるお!!テリーマンだって義足で戦ってんだお心配すんな!!」


(//∀`)「ブーン」


二人の顔を見て、こみ上げてきたのは『幸せ』だった
俺が提督になったのは多分、これが欲しかったからなのかもしれない
当初の思惑から大分ズレたものだったが、それでも、計り知れないモノとなった


(//∀`)「なぁ、二人とも」


(*´;ω;`)「なんだよ!!」

( *;ω;)「なんだお!!」


(//∀`)「怪我治ったらさ、一緒に……」


(//∀`)「退軍届け出すついでに、上官の鼻ツラぶん殴りにいこうぜ」


二人はきょとんと顔を見合わせた後、爆笑した。釣られて、俺も笑った
傷が痛んだが、気にするまでも無かった。今はこの三人だけの楽しさを、味わっていたかった―――――

178 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:21:13 ID:62pQqJ3.0


























.

179 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:22:20 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



あれから、二十年くらい時は進んだ。あっという間だった
関西人風に言うとあっちゅー間やったでんがなまんがな


(-A-)「……」


執務室の神棚に、拍手を打つ
あの日、俺の命を救ってくれた『南京錠』もお供えしてある。これは俺の原点だ

そして、もう一つ


('A`)「……アンタの願い、叶えてくるよ」


メモリーに残されていた最後のファイル
そこには、たった一行だけ文章が記されていた


『貴方の手で、彼女達に幸せを与えて欲しい』


これだけ。短絡的だが、『彼』の想いがひしひしと感じられる言葉だった


<ヽ`∀´>「東郷司令官」


規則正しいノックの後に、俺の補佐官が入室してくる
手には包みを持っていた

180 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:23:56 ID:62pQqJ3.0
<ヽ`∀´>「先ほど奥様がいらっしゃいまして、差し入れと伝言を預かって参りました」

('A`)「なんだよ直接渡してくれたらいいのに」


まだ温もりの残る弁当だ。匂いから察するに、俺の大好物の竜田揚げも入っている


('A`)「伝言ってのは?」

<ヽ`∀´>「『ま、精々がんばりなさい』とのことです」

('∀`)「ハハッ、あいつらしいや」


幸せ噛み締めながら弁当掻っ込みたい所だが、残念ながら時間が無い
これから、『最終作戦』が始まるのだ。全てが終わってから食ったなら、また格別に違いない


<ヽ`∀´>「生き残る理由が、また一つ増えましたね」


爽やかな声で朗らかに笑う補佐官だが、顔が恐い
いい奴なんだけど、顔が恐すぎて駆逐艦娘が大体泣く。いい奴なのに


('A`)「全くだ。さて、そろそろ往こうか。『響』」

<ヽ`∀´>「ええ。旗艦、『電』殿」


右の『義手』で錨のエンブレムを掴み、部屋を出る
今日もまた、この場所へ帰ってくることを誓って

181 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:25:17 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「よう、お二人さん。もう出発かい?」


食堂前の廊下では、俺より歳を喰ったショボンが声を掛けてきた
一般のサラリーマンなら、定年退職間近の年齢だが、変わらずこの鎮守府で料理を振舞ってくれている
勿論、三時のおやつも忘れない。小さな駆逐艦娘に一番懐かれているのは、恐らくこの爺さんだろう


('A`)「おう。夜明け前には決着つけてやるぜ」

(´・ω・`)「張り切りすぎてドジ踏まねえようにな」

('A`)「わーってるよ」


爺さん(俺も既にオッサンなので、こう呼んでいる)は左手を差し出す
俺も、『生身』の左手で握り返した


(´・ω・`)「終わらせて来い。戦争を」

('A`)「ああ、任せとけ」


激励の言葉を貰い、手を離す
爺さんは傍らの『響』の肩を叩き『しっかりな』と励ました


(´・ω・`)「さ、ほら行け。ブーンが待ってるぞ」

('A`)「おう」


足早に、出撃場へと向う
左右で違う響きの足音も、俺にとっては最早聞きなれたものだ

182 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:27:00 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「おっ、来たかお」


出撃場。今夜、『アンカーシステム』を装備し海に出る部下達と言葉を交わしていたブーンが、俺に近づく


( ^ω^)「全員、お前が来るのを待ちわびていたお。どいつもこいつも血の気が多くて困るおね」

('A`)「誰に似たんだかな」

( ^ω^)「お前だお前wwwww」


プロトタイプより、大幅に装着が簡略化された『電』の艤装を着込む
『あの時』から今まで、俺と一緒に戦ってきた『相棒』も、これで着納めかと思うと少し寂しい
武装は、改修に改修を重ねた『12.7cm連装砲B型改二』と、『61cm五連装(酸素)魚雷』


( ^ω^)「さぁ、野郎共に声を掛けて来いお」

('A`)「おう」


そして最後に、『短槍』を手渡され、準備は完了した


<ヽ`∀´>「司令、こちらへ」


補佐官に従い、壇上へと上がる
兵士達の目が、一斉に俺へと集まる

『司令官!!』『東郷のオッサン!!』『大統領!!』

そして、口々に声が掛けられる。いや大統領は可笑しいだろ

183 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:28:02 ID:62pQqJ3.0
('A`)「諸君ッ!!」


マイクは使わず、地声を張り上げる
生の声が、一番士気が上がり易い。戦いの半生で学んだことの一つだ
ざわついていた兵士が、シンと口を噤み、次の言葉を待った


('A`)「……」


長かった。長い、戦争だった
それが今夜、終わろうとしている


(;'A`)「……」


ああ、クソ。上手く言葉が出てこない
俺はこんなにあがり症だったか?いや、違う。これは重圧だ
歴史が変わる重圧に、俺が圧されているのだ


『りん』


(;'A`)そ「ッ……」


懐かしい鈴の音が聞こえた。周りを見渡しても、その音に反応した奴はいない


(;'∀`)「は、ははは……」


そうだよな。おめーも待ち望んでいるんだもんな
それも、俺よりも少しだけ長く

悪かった。らしくねえよな、こんな俺なんて

184 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:30:04 ID:62pQqJ3.0
('A`)「スーッ……」


堅苦しい挨拶は止めだ


(#'A`)「野郎共ォォッッ!!!!!」


いつも通りの俺らしく、盛り上げてあろうじゃねえか


(#'A`)「いよいよ今夜ッ!!!!深海棲艦の親玉を討つッ!!!!!」

(#'A`)「最後は艦娘との合同作戦だッ!!!!見納めだと思ってケツばっか眺めてると、一瞬で死んじまうぞ!!!!」


笑い声が上がった。奴らの緊張も、解れてきている証拠だ


(#'A`)「敵は単騎!!!!だが油断すんじゃねえぞ!!!!!!深海棲艦で唯一の『男性型』、最終戦鬼!!!!」

(#'A`)「海軍大本営を壊滅させた、最強最悪の相手だ!!!!!」

(#'A`)「だが『俺達』にはッ!!!!!!奴を越える『力』が備わっている!!!!忘れるな!!!」


短槍の柄で、壇上を叩く


(#'A`)「深海棲艦に受けた屈辱ッ!!!!!愛する者を亡くした痛みッ!!!!!犠牲となった戦友の想いッ!!!!!てめえらが全部背負って戦えッ!!!!!」


(#'A゚)「冷たい海のバケモノにはねえ、熱い『ハート』でぶち殺せッ!!!!!!」


男達の、溢れ出た燃える心が雄叫びとなって鎮守府を揺らした
上々だ。これで準備は整った




(#'A゚)「艦隊ッ!!!!『抜錨』ッ!!!!!」

185 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:31:08 ID:62pQqJ3.0






(#'A゚)「暁の水平線に、勝利を刻めェッ!!!!!!!!!!」





.

186 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:34:31 ID:62pQqJ3.0






♪ED Thema
https://www.youtube.com/watch?v=NZxUD3tBTaU





.

187 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:35:19 ID:62pQqJ3.0
CAST




('A`) 東郷ドクオ




( ^ω^) 明石ホライゾン




(´・ω・`) 間宮ショボン



   〃∩ ∧_∧
   ⊂⌒(  ・ω・) 大淀カラマロス大佐
     `ヽ_っ⌒/⌒c



<ヽ`∀´> 響



.

188 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:36:19 ID:62pQqJ3.0
原案



『艦隊これくしょん〜漢これ〜のようです』
『('A`)提督だけど艦娘がいない鎮守府に配属されたようです』
『艦隊これくしょん 〜仮面ライダー青葉〜 のようです』



.

189 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:38:08 ID:62pQqJ3.0
使用楽曲



♪母港
♪Bruno Mars - Runaway Baby
♪Zebrahead - Rescue Me
♪Zebrahead - Broadcast to the world
♪Pacific Rim


ED Thema

♪PIROPARU - Check-Mate!!



.

190 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:38:38 ID:62pQqJ3.0
原作



                   _f       il_
             .   ーヨE    =卅l
             |-、_ / T .冂  } E、
       ト--、_lロ=ー'´ ̄{__} ヒ,コ E-'~  {ー-,______|!
      └―――――― ,、_―――――――――――´
           _,     _l ! 冫_
       /{    }  `ゝ`ニ二二コ }`ヽ、  ,、
      / }  }ヽ! /ヽ,| [] [ ̄.,'  ノ_   ' ,` 、 .}ヽ,
   l ̄`V   |  |   ,rv, l  ┌┐`ソ , '--`_ ,´ー―` {  l   ___
   |      / __,!  {,ノ || └┘_,{∠,--、 { (      |  V´  /
   ヽ    ノ }      ニ [] レヽ,――' ヽ、 ー―、  |     ノ
    |  / .l_  ! |  |l__r´ ,ニニ',__     `コ f´ _ ヽ、  {
    |  i  .|  |! |  | |`ー´     `ゝ―(`ー' ,ニ´ 冫 .!   |
    l  i   } /!__ハ | i  || || ||  |  /, f´ /./_  |   !
     ,ゝ i   ノノ ヽ   j_|  || || ||  |-、-イ_ノ / レ'/  !  |
   /   く   ´   )__ノヽ――――――'     、_ノ   >  `ヽ
   \_ \___        ({艦隊これくしょん_/ _/
       ,ゝ   \  |\ iニニ .二二 /{____ノ     /
      /       ヽレ <. ヾ | |   ./ |        <
       ̄ ̄ ̄\    ゝ` 、 l ト、_,/ノ`  / ̄ ̄ ̄
            ` ー,-..\ ''、j |ゝ/ 、-ー´
              {_/ `ヽソ ' \__l

191 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:39:26 ID:62pQqJ3.0





『作:◆HS4z8y6JHc』




.

192 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:41:06 ID:62pQqJ3.0




『艦娘がいない鎮守府のようです』 END



.

193 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:41:33 ID:62pQqJ3.0

















.

194 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:41:53 ID:62pQqJ3.0
















.

195 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:42:58 ID:62pQqJ3.0















・運営鎮守府より連絡

全作戦遂行の為、『艦隊これくしょん〜艦これ〜』は本日を以って全てのサービスを終了しました
長きに渡ってプレイしていただき、誠にありがとうございました

また、どこかの『世界』でお会いしましょう




            ,. ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ `ヽ、     
         /   ______    \
         { ,.__艦_{Y}__これ`:ヽ、  \
         ∨: :_/   ∨: :{:_:_: `ヽ、::\  ヽ
         .'/: /{、`  乂´:_、: :.|: : :\:::..、  :
        /:|:/ ┃    ┃从|: :|: ∧\}  }
         {:∧             |: :|:/-:}: :j イ_
         「人      vァ     |: :/_ノ: ィ、:、ー'
        {:{∧>,_、__,、____,/:.イ: 〈_ノ'ハノ-
        |: 、  {=} {⌒ヾ ト、/ ´  ̄  }: :|
        |: : \={゚x゚´}=、`Y_)      /: :,
          \:_: 〉{..::.. |'介}´ |〉   /: イ
            /、::ノ/====〈   /´
          //{l7/ | | |∧
          ゞ ||'\{__{__」__ノ
            `  |-| |-|
                  |_j j_/
              ー' ー'

196 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 21:43:59 ID:62pQqJ3.0
終わりです。お疲れ様でした

197名無しさん:2016/04/03(日) 21:48:54 ID:N/xK8F9U0
乙乙
おもしろかったゾイ

198名無しさん:2016/04/03(日) 21:58:57 ID:n8JINXzI0
クッソ熱かったわ
やっぱ男なんだよなあ

199名無しさん:2016/04/03(日) 22:14:21 ID:iRzXmFpE0

艦これよく知らないけどおもしろかった

200名無しさん:2016/04/03(日) 22:19:00 ID:yYc6O8aI0
乙!!
久々にめっちゃ熱かった!!!

201名無しさん:2016/04/03(日) 22:45:58 ID:HmJGAr/A0
あのネタを使うとは!
ドクオ達がいいキャラしてて好きになった
おつー

202名無しさん:2016/04/03(日) 23:22:54 ID:UjbsNmNM0
おつ

203名無しさん:2016/04/04(月) 00:00:07 ID:WsDfmBpsO
うおお……溢れんばかりの艦これ愛が伝わってきた
すごく面白かった、乙!

204名無しさん:2016/04/04(月) 00:28:38 ID:FUFyIEc60
流石としか呼べないアツイ展開だった
激乙!

205 ◆mQ0JrMCe2Y:2016/04/04(月) 02:09:27 ID:6bAm0mYc0
【連絡事項】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。

このレス以降に続きを書いた場合

◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
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となるのでご注意ください。
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206名無しさん:2016/04/04(月) 08:09:38 ID:N9es8znw0
面白かった!
乙!

207名無しさん:2016/04/05(火) 07:52:08 ID:upl7S8h.0

熱過ぎて泣けてきた

208名無しさん:2016/04/07(木) 13:10:58 ID:tORkmSjs0
乙乙 かっこよかったー

209名無しさん:2016/04/08(金) 09:24:35 ID:vQv/L7QE0
艦これほぼ知らないけど熱くて楽しめたよ、乙乙

210名無しさん:2016/04/08(金) 17:40:32 ID:m7HREmFg0
ちょっと艦これはじめてくるわ

211名無しさん:2016/04/10(日) 15:45:59 ID:oFM349Yg0
三回泣いた

212名無しさん:2016/04/12(火) 05:23:26 ID:WpDyN5ek0
独自解釈が破綻なく纏まってて感動してる
だけじゃなく戦闘の緊張感も仲間との軽妙なやり取りもめっちゃ面白い
最高だった

213 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/23(土) 19:04:21 ID:sorGvetY0
あとがき


ブン動会お疲れ様でした。僕です
お陰さまでMVP6位、総合8位、作者部門で10位を戴けました
投票してくださった皆様には頭が上がりません。このままムカデ人間にされてもいいくらいでsいややっぱそれは無いわごめんな俺嘘ついた
それと絵投票のお陰でハゲに勝てました。ありがとう絵の人。貴方がハゲにトドメを刺した人です


多分皆さん僕が百合百合短編を書くと疑わず、この作品がまさか僕が書いただなんて思いもしなかったでしょうが
まさか艦これ題材にした作品を僕が書くとは思ってなかったでしょうが
女性AAを一切出さず、あえて漢一本勝負の作品を僕が書くとは予想だにしなかったでしょうが
総合なんかで『あいつマジわかりやすい』とか『読者の十割にバレる鎮守府』などと言っていても心の底では疑っていたのでしょうが

すいませんこれ書いたの僕なんですよ。ドッキリ大成功と言った所でしょう


この短編は本日三周年を迎える大人気ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』を元ネタに
嘘予告スレにあった三つの艦これ成分をミックスして書き上げました
結果発表でブーンが『嘘予告の面白さも損ねず』と言っていましたがそりゃそうだよ三つとも俺が書いたんだもん
その中でも導入がしやすく、かつ御三家がメインの『提督だけど艦娘のいない鎮守府に配属されたようです』をベースにし
艦娘の代わりに男達が戦う『漢これ』と、『仮面ライダー青葉』のアンカーシステムを組み合わせて出来たのが今作です

一応、テイストとなった『漢これ』『青葉』も続き物として書けるっちゃ書けます
『鎮守府』で人類による始めての艦隊戦を描き
『漢これ』でアカツキでの男達と艦娘達の物語と
『青葉』で深海棲艦がいなくなって数十年経過した世界での、変身ヒーロー物として完結

とまで考えたのはいいのですが、この二つに関してはどうしても艦娘が登場してしまうんですね
それだともうSSの領域に入ってしまいますし、そもそも艦隊戦難過ぎワロタで逃亡する未来しか見えません
話は変わるんですがゲーミングPC買ったんですよ僕。これでワールドオブウォーシップできます
ブルーレイ搭載の機種にしたんでやっとムカデ人間完全連結が心置きなくゲロ吐くまで楽しめます

艦娘が出てくる理由としては、僕が書いてる艦これSSの設定もミックスさせているからです
まぁ探せば割とすぐ見つかる作品で、別に読まなくても問題ないですし
クソみたいな下ネタばっかなんで逆に読まない方がいいかもしれません
前任提督の話も気になるって人は、是非とも読んでみてください。時間を無駄にします

まぁ艦娘出てこないっつってもね、チラチラっとセリフを入れてたりして
提督の読者さんはニヤリと出来たんじゃないかなって思ってます
ドクオの奥さんが誰かとかも、多分予想出来るんじゃないでしょうか


あとがき長いですね。でも最後に一言だけ言わせてください

214 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/23(土) 19:05:07 ID:sorGvetY0
これガルパン観ながら書きました



以上です。主催者さん、そして皆さん。お疲れ様でした



   \  丶       i.   |     .l ヽ     ../       /
    \  ヽ     i.   .| .r ‐、 l ヽ   ./      /
      \  ヽ    i  | .| ○ |,.r'、__〉 ./     /      ※お疲れ様でしたのポーズ
   \          ,.rー⌒ト - イ、  /                 ※気が向いたら鎮守府での日常短編も書きたいと思ってますのポーズ
              人、__>´ `ー 、, ヽ'               -‐
  ー         l  r', |ヽ l、B l H|
 __          l / │ ヽ―'^7'                 --
     二      /,べ   〉==/⌒、         .= 二
   ̄              // /  ノ                    ̄
    -‐            |  ( ̄~7            ‐-
                  ヽ_l  /ヽ
    /              ソ ./  ヽ
            / ._,.へ_r・' ノ⌒、 )     ヽ      \
    /         'ーー-l /ーー'´    .丶     \
   /   /    /    ..し'.|   i,      丶     \
 /    /    /       |    i,      丶     \

215 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/23(土) 19:08:46 ID:sorGvetY0
忘れてた。アレだ。人肉饅頭

赤組負けた罰ゲームなんですが、現行スレの大晦日クソ映画実況回にて投下します
まだ大分先なので、首を長くして待っていてください

216名無しさん:2016/04/23(土) 19:59:49 ID:hflMBD.g0
絵投票間に合わなかったの……ユルシテ……ユルシテ……
ttp://i.imgur.com/DJe5ckP.jpg

217名無しさん:2016/04/23(土) 20:08:33 ID:nYGoN9lM0
まさに誰かと間違えたかのような漢らしさ

218 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/23(土) 20:18:28 ID:sorGvetY0
>>216 絵もそうだが題字めっちゃかっこいいなオイ。ありがとうございます!!

219名無しさん:2016/04/23(土) 23:37:30 ID:KSOaPuZI0
入賞おめでとう!

日常編とか俺得すぎるわ
気が向いてくださいお願いします

220名無しさん:2016/04/24(日) 01:33:06 ID:mXWH.nXY0
オチをつけんなオチをw

221名無しさん:2016/04/24(日) 01:42:59 ID:489DTjkg0
もうタイトルだけでお前だと思った

222名無しさん:2016/04/24(日) 02:16:11 ID:UrpEFMUo0
台詞でニコラスケイジが思い浮かんだら大体お前

223 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/02(月) 23:55:59 ID:V2gGSP0.0
('A`)「せーのっ」


( ^ω^)(´・ω・`)「「艦これイベント開幕!!」」


('A`)「新米提督に送るイベント心得のコォォォオオオオオオオオオナアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


('A`)「全員死ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




『新しいPCの辞書機能にブーン系AA入れたらなんか可笑しなAAまで自動で登録されて使いづらいったら無いので心得を一個紹介するたびにドクオのケツをシバくようです』



('A`)「タイトル長……えっ?俺のケツ……えっ?」

224 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/03(火) 00:01:06 ID:Q6.CR/Dc0

(;゚A`)そ「アヒィン!!」


(´・ω・`)「……」

( ^ω^)「……」

(;'A`)「えっ、今、えっ?えっ、マジで?マジでケツシバかれんの?」

(´・ω・`)「意味わかんねえよ……なんで辞書登録したら眉毛の可笑しい俺が出てくるんだよ……」

( ^ω^)「マジ意味わかんねえお……こっちは半角の俺が出てくるしよぉ……」

(;'A`)「いや……俺もなんか『('A‘)』←こんな顔の奴が出てくるけど……正直お手上げだし誰か直し方知ってるなら教えてほしいけど……」

(;'A`)「それと俺のケツになんの因果関係があるの?」

(´・ω・`)「純然たる嫌がらせに決まってんだろ」

( ^ω^)「八位取ったからって調子乗ってんじゃねーぞオラ」

(;'A`)「八位って何?こわい、それでなんで俺がケツシバかれらなアカンの?辛い、苦しい、生きるのやめたい」

(´・ω・`)「ケツシバかれるのは気持ちいい……そうでしょ?」

(;'A`)「いや催眠術っぽく暗示かけられても……オッサンの声だし嬉しくない……」

(´・ω・`)「ケツシバかれるのは気持ちいい……そうでしょ?」(裏声)

(;'A`)「うわぁ〜〜〜〜〜……ブーン助けて収拾して」

( ^ω^)「オッサン、双子催眠ならあるいは」

(´・ω・`)「お前天才かよ。じゃあ俺左側な」

('A`)「効かねえよそういう収拾のつけかたじゃねーよ」

225 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/03(火) 00:01:29 ID:Q6.CR/Dc0
( ^ω^)「ごちゃごちゃ言ってねえで早く心得の紹介しろオラ」

(´・ω・`)「ケツシバくぞオラ」

(;'A`)「やだぁ〜〜〜〜〜……気が進まない……」


(´゚ω゚`)「ンンダラァ!!!!!!」スッパンンンンヌ!!!!

(;゚A`)そ「ん゙ん゙ゥ!!!!!!!!」


(´・ω・`)「次口答えしたら二発行くからな」

(;'A`)「嘘ォ〜〜〜……何なんこの拷問脅迫……クリムゾンでもここまで鬼畜じゃないよ……」

( ^ω^)「オッサン、メメ50にランク上げるお」

(;'A`)「おいやめろガチスカじゃねーか。わーったよ始めるよ……」


(´゚ω゚`)「エンヤコラァ!!!!」スッパアアアアア!!!!

(;゚A`)そ「吐龍ぅぅ!!!!!!!!」


(´・ω・`)「始めさせてください……だろ?」

(;A`)「は……始めさせてください……」

(#´゚ω゚`)「もっと嬉しそうに!!!!!!!!」ドン!!!!

(;A;)そ「んああ!!!!!始めさせてくださーーーーーーーーーい!!!!!!!!」

( ^ω^)「笑いこらえるのすっげ大変」

226 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/03(火) 00:01:51 ID:Q6.CR/Dc0
(うA;)「か……艦これは先日三周年を迎えて、勢いは更に伸びている大人気ブラウザゲームです……」

(うA;)「い、今ほらアレ……アーケードとかも稼働して……なんか待機時間すごいことになってるとか……」

( ^ω^)「ゲーセンでは節度とマナー守ってプレイするんだお」

(´・ω・`)「最近のゲーセンって脱衣マージャン無いからつっまんねえんだよなぁ」

('A`)「グス……はい、読者諸兄の中には最近提督として着任して、叢雲のパンストで紅茶淹れたいとか日々妄想していることでしょう」

( ^ω^)「しねーよ失礼だなお前」

(´・ω・`)「ちょっと引くわ」

('A`)「いや俺じゃないし……引かれても……」


(´゚ω゚`)「ダウトォォォ!!!!」ショッパァァァン!!!!

(;゚A`)そ「すいません僕も叢雲のパンストで淹れた紅茶飲みたいです!!!!!!」


(;'A`)「痛い……」ヒリヒリ

(´・ω・`)「嘘吐くからだろうが」

( ^ω^)「インガオホーである」

(;'A`)「はい……そんで、なんだ……ああ、そうそう。今回が初イベだという提督の皆さんの為に、今回は『これだけ抑えていれば大丈夫』な心得をご紹介します」

(´・ω・`)「艦娘沈めたら殺す」

( ^ω^)「オッサンが言うと重みが違くてネタにし辛いお」

227 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/03(火) 00:02:11 ID:Q6.CR/Dc0
('A`)「では早速一つ目!!!!!」


・難易度は『丙』を選べ!!!!


( ^ω^)「馬鹿にしてんのか」

(;'A`)「ええ!?なんで!?」

( ^ω^)「丙ってお前、一番難易度低いやつじゃねーか」

(´・ω・`)「甲・乙・丙の順で難易度が下がっていくんだよな。それに比例して報酬ランクも落ちるって聞いたな」

('A`)「まぁ実際その通りなんだけど、甲と乙に関してはベテラン提督でもハゲるほど難しいんだよ」

( ^ω^)「元から髪がない人は?」

(;'A`)「しらねーよ頭皮荒れるとかそんなんじゃねーの?」

('A`)「だがまぁ聞けって。ベテランでも難易度が低い『丙』を選ぶ人が多いんだよ」

( ^ω^)「なんでだよ殺すぞ」

(;'A`)「報酬ランクが落ちると言っても、新艦娘はクリアすれば確定で貰えるからな……さっきからなんで殺気立ってんの?」

(´・ω・`)「貰える装備や消費アイテムに拘らない提督は、サクッと超せる丙を選ぶってことか」

('A`)「その通り。丙は割とサクっとクリア出来るから、ストレスをあまり感じず新艦娘を手に入れることができる」

('A`)「初心者なら尚更だ。無理に高みを目指して失敗するより、確実に手に入れたほうが後で悔しい想いをすることもない」

('A`)「そしてもう一つ、丙を選ぶ理由がある」

( ^ω^)「勿体ぶんじゃねーよ抉るぞ」

(;'A`)「急かすなよどこ抉られるんだよ俺……」

228 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/03(火) 00:02:35 ID:Q6.CR/Dc0
('A`)「もう一つは、『掘り』の問題だな。クリア報酬ではなく、ドロップでしか手に入らない新艦娘をゲットするために周回することを言うんだが」

('A`)「艦これイベント海域は、クリア後難易度の変更が出来ない。甲なら甲のまま固定されてしまう」

('A`)「難易度が高いってことは、新艦娘がいる最終マスまで到達せず道中撤退する確率が高いってことだ」

( ^ω^)「つまり、低い難易度でボス到達率をあげて、『掘り』をしやすくするってワケかお」

('A`)「ま、低難易度だとその分ドロップ率も落ちるんだが、高難易度で到達できない事を考えるとドッコイドッコイだな」

(´・ω・`)「回数こなすか高確率ドロに掛けるかのどっちかになるわけか」

('A`)「どっちにしろ運だしな。一回で出る奴もいれば百回でも出ない奴だっている」

('A`)「それでも俺はボス到達率の高い丙をお勧めするぜ」

( ^ω^)「話は以上か?」

('A`)「えっ?うん」


(´゚ω゚`)「ヘェェェイ!!!!」ンッパアアアアアアアン!!!!

(;゚A`)そ「デイドグゥ!!!!!!!」


:(; A ):「ッッッ〜〜〜〜〜〜〜……」

( ^ω^)「オラ、次はよ」

:(; A ):「待って……なんで……こんな仕打ち……」

(´・ω・`)「八位で調子乗ってるからだろうが」

( ^ω^)「調子乗んな八位」

:(; A ):「酷くない……?」

229 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/03(火) 00:04:20 ID:Q6.CR/Dc0
明日旅行行くのでちょっとだけど今日はここまでですごめんなさい

続きは帰ってきてから書きますほんと調子乗ってすいません

230名無しさん:2016/05/03(火) 01:12:12 ID:bk/f0JBI0
乙!
ケツシバきながら待ってる

231名無しさん:2016/05/03(火) 01:42:28 ID:VV6kN6nA0
イベント始まっちまうだろうが八位

232名無しさん:2016/05/03(火) 08:35:33 ID:2EqI9vSk0
鹿島ドロップするってホントか八位

233名無しさん:2016/05/03(火) 12:44:41 ID:pETHEtow0
キングダム→ムカデ→八位

名前の安定しないやっちゃな

234名無しさん:2016/05/05(木) 11:33:35 ID:3hZFt/p.0
旅行は終わったか人肉饅頭

235名無しさん:2016/05/05(木) 11:45:43 ID:zr5HjiQQ0
ドクオの嫁艦誰なんよ

236名無しさん:2016/05/05(木) 12:01:39 ID:hCogYrng0
電じゃね

237名無しさん:2016/05/05(木) 13:04:50 ID:zr5HjiQQ0
<ヽ`∀´>「『ま、精々がんばりなさい』とのことです」

↑電こんなしゃべり方か?

238名無しさん:2016/05/05(木) 18:54:23 ID:h.fPn8zQ0
毒男の嫁は叢雲だろ?
前提督の初期艦の

239 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:02:48 ID:DdbW2JR20
(;'A`)「ハァー……では二つ目……」

(´・ω・`)「おい今のため息なんだ?」

( ^ω^)「まだ調子乗ってんのかお前」

(;^A^)「二つ目のご紹介でーーーーーーーーーーす!!!!!僕はゴミ虫でーーーーーーーーーす!!!!!」

(´・ω・`)「その調子で」

( ^ω^)「がんばれがんばれ」

(;^A^)「めっちゃ怖い」


・支援を駆使して戦え!!


('A`)「イベント中は、遠征ページにそれ用の支援遠征が用意されている」

('A`)「道中支援と決戦支援だ」

( ^ω^)「ほうほう」

('A`)「道中支援は、前哨戦の支援……ボスマスに到達するまでの戦いを支援してくれる艦隊で」

('A`)「決戦支援は、ボスマスでの戦いを支援してくれる艦隊だ」

(´・ω・`)「支援ってのは何をしてくれるんだ?」

('A`)「先制攻撃だな。上手く行けばノーダメージで敵艦隊を半分以上削ってくれる」

('A`)「これが結構重要でな。艦これの攻撃回数は最大で昼四回、夜一回と限られている」

('A`)「その限られた攻撃回数を雑魚に回してしまうと、ボス艦が落とせず目当てのレア艦娘がドロップしない」

( ^ω^)「つまり、支援で雑魚を片付けて、本隊の火力をボスに回すってことかお」

('A`)「うん。モロチン支援艦隊を使うにはその分資源も消費するが、円滑な攻略には必須だな」


(´゚ω゚`)「ンンッオーイ!!!!」ッツッパアアアアアアアン!!!

(;゚A`)そ「ゲンッ!!!!」


:(; A ):「ケツが……割れる……」

( ^ω^)「元から割れてるお」

240 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:03:12 ID:DdbW2JR20
(;'A`)「次……さっきの支援もそうだが、本隊にも必須の心得だ……」


・キラ付けをしろ!!


( ^ω^)「命令口調が気に入らねえお」

(´・ω・`)「一発行っとくか?お?」


・キラ付けをしてくださいお願いします僕はクソですごめんなさい


('A`)「キラ付け……戦意高揚状態を指す言葉だな」

('A`)「これが付くか付かないかで戦況が大きく変わる。特に支援艦隊は命中率に影響してくるからな」

('A`)「本隊だと回避率や夜戦カットイン率が変わってくる。戦いを有利に進めることができるぞ」

( ^ω^)「これはどうやって付けるんだお?」

('A`)「戦闘でMVPを取ればいい。といっても、火力が低い駆逐艦なんかは取りづらいだろうから」

('A`)「1-1で旗艦にして雑魚をぶっ殺していけば勝手に付くようになる」

( ^ω^)「戦闘する為に戦闘するのかお……」

(´・ω・`)「ブラック鎮守府かよ」

(;'A`)「いやまぁそりゃ、こっちの世界じゃあんまり推奨されない方法だが……向こうの世界だと常識だからなぁ」

(#´゚ω゚`)「はぁ〜〜〜〜〜〜?殺すぞ?おお?」

(;'A`)「いやいや、戦闘以外の方法もあるよもちろん?」

( ^ω^)「それだけ言ってりゃいいのに余計な事まで口走るから……」

(;'A`)「何なん?このコーナーしないほうが良かったの?」

241 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:03:57 ID:DdbW2JR20
('A`)「消費アイテムである間宮と伊良湖を同時使用することによって、瞬時にキラ付け出来る」

('A`)「1-1を周るのが面倒くさい、時間がない人にはお勧めだな。ただ、基本的には課金アイテムだから、先立つ物は必要になってくるがな」

( ^ω^)「間宮と伊良湖って、アレだお?おやつ作ってくれる人」

('A`)「うんそう。ウチにはオッサンがいるからいないけど」

(´・ω・`)「俺が艦娘の戦意高揚に一躍買ってるってことか……俺の料理人道は間違ってなかったんだよ!!」

( ^ω^)「所々で別アニメのセリフ入れるのやめるお」

('A`)「よっ!!オッサン!!日本一ィィィ!!」


(´^ω^`)「褒めてもケツシバくくらいしか出来ねえぞオラァ!!」ガルッパァァァァン!!!!

(;゚A`)そ「シンザブロォォォ!!!!!」


:(; A ):「それ以外の……選択肢……」

(´・ω・`)「他の候補は何が残ってた?」

( ^ω^)「全力の腹パンか全力の乳首抓りか、完武・兜砕きだお」

(;'A`)「一つだけ命に関わるダメージが出る奴じゃねーかいいよわかったよケツでよろしく頼むわ!!」

(´・ω・`)「最初からそう言ってりゃいいんだよ八位ごときが」

( ^ω^)「選り好みしてんじゃねーぞ八位」

('A`)「っあー、釈然としねぇー」

242 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:04:36 ID:DdbW2JR20
('A`)「次は精神面での心得だ」


・戦闘勝率の流れを読んでくだされば幸いでございます


( ^ω^)「下手にへりくだってるのも腹立つお」

('A`)「もう俺どうすればいいの?」

(´・ω・`)「一発行くか?」

('A`)「いいえ行かないです。これは、あれだな。簡単に言うと『今日は無理だと思ったら休め』ってことだ」

('A`)「連続して負けがかさむと、資材の消費や艦娘の疲労などのデメリットが発生する。それに提督のストレスもだ」

('A`)「嫌な流れの状態で無理に出撃をしても、良い戦果は期待できない。なら、一旦寝ちまって翌日改めて出撃した方が気分もリセット出来てお勧めだ」

( ^ω^)「これって逆に『良い流れの時はガンガン行っとけ』とも言えるんじゃないかお?」

('A`)「モロチンだ。円滑にクリアできることに越したことはないからな。まぁ、どちらもほどほどに切り際を考えてプレイしてほしい」


(´゚ω゚`)「ガンガン行こうぜェェェ!!!!!」ルッパアアアアアアン!!!!

(;゚A`)そ「ジゲンッ!!!!!!」


:(; A ):「間隔が……短い……」

( ^ω^)「そろそろウンコでも漏らさないと、視聴者の皆さんが飽き始めるお」

(;'A`)「俺はどこまで辱めを受けないとダメなんだよ!!!!」

(´・ω・`)「需要あるって」

(;'A`)「どの層に!?」

( ^ω^)「どの層……?」

(´・ω・`)「どの層……?」

(;'A`)「適当なこと言うから答えに詰まるんだろうが!!!!」

243 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:05:54 ID:DdbW2JR20
(;'A`)「はい、そろそろ俺のケツも限界なんであと一つ紹介して終わりにします」

( ^ω^)「別世界のお前なら三日三晩ケツをシバかれても大丈夫なのに……」

(;'A`)「そいつ本当に人間?」


・手に入れた艦娘はロックしましょう


('A`)「編成画面の艦娘一覧を見てほしい。名前の横にハートマークがついた南京錠があるはずだ」

('A`)「これをクリックすると、艦娘が保護される。誤解体や近代化改修のミスを防ぐことができるぞ」

(´・ω゚`)「軟禁錠……だぁ……?」

(;'A`)「『南京錠』!!つーか実際に鍵かけるわけじゃねーから!!」

( ^ω^)「オッサンってホント過保護だおね」

(;'A`)「イベント毎に新艦娘を誤解体する提督が後を絶たない。苦労して手に入れたのに自分の手で捨てるとショックが大きい」

(;'A`)「ロックは忘れずに必ずしておけよ。死にたくなるぞ」

( ^ω^)「終わりかお?」

(;'A`)「アッハイ」


(´゚ω゚`)「八位オラァ!!」ブオンッ!!

(#'A゚)「見切った!!」シュンッ!!

(;´゚ω゚`)そ「避けやがっただとぉ!?」

(#'A゚)「タイキックだオラァ!!!!!!」ドッパァアアアアアアン!!!!!!

(;´゚ω゚`)∴「ブルァアアアアアアアアアア!!!!???????」

244 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:06:53 ID:DdbW2JR20
(#'A`)「ブーン特製の義足の威力はどうだ?ええ?」

:(;´ ω `): ビクンビクン

( ^ω^)「やっべ」ダッ

(#'A゚)「逃がさん!!」シュババァ!!

(;^ω^)そ「うわっ!!俊敏なブサイク!!」

(#'A゚)「よくもテメェら人のケツをパァンパァンパァンパァンしてくれたな?ええ?オイ」

(;^ω^)「ゆ、許してくれお……ほんの、ほんのおふざけだったんだお……?」

(#'A`)「ほぉ〜〜〜〜〜〜?」

(;^ω^)「な、なぁ……ぼ、僕ら、親友だおね?」

('A`)「……」


(^A^)「モロチンだ」ニコッ

(;^ω^)=3 ホッ ワライガオブッサ

(#゚A^)「だがそれとこれとは話は別だろ?」

( ^ω^)「ですよねー」





<オラァァァァァァァ!!!!!!


<ギエピーーーーーーーィィィィ!!!!!!






245 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:07:15 ID:DdbW2JR20
―――――
―――



(  ・ω・)「……何して遊んでたのかは知らないけどさ」

(  ・ω・)「なんで君ら中腰なん?」


('A`)「八位だから」

( ^ω^)「八位だから」

(´・ω・`)「八位だから」


(  ・ω・)「……」


(  ・ω・)「そうなんだ……」



                      完これ

246名無しさん:2016/05/05(木) 23:09:06 ID:ur41G9dU0
そうなんだ……

247 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/05(木) 23:14:37 ID:DdbW2JR20
イベント進捗どうですか?僕はまだ出撃すらしていません(忙しくて)
明日から本格的に深海棲艦をファックしていきます。旅行は楽しかったです

248名無しさん:2016/05/06(金) 01:20:34 ID:gMbWSLVk0
頑張れよキングダムカデ八位

249名無しさん:2016/05/06(金) 02:32:05 ID:rok5KFpE0
たんにキラ付けしたいなら演習って手もあるぞ
自分は1-1にわざわざ出撃させるのが面倒だから(ついでにデイリー依頼のために)演習でキラキラさせてる

250名無しさん:2016/05/06(金) 14:34:12 ID:bjTsomVU0
そういえばムカデは刀の方もやってるんだっけか
そっちの方はどんな感じなん

251名無しさん:2016/05/06(金) 21:34:14 ID:Exz14iHs0
あれ男もやるもんなん?
オフパコ狙いか?

252名無しさん:2016/05/06(金) 21:38:56 ID:rok5KFpE0
艦これしてる→刀剣もやってみるって人なら男性でもけっこういるよ
刀剣だけしている男性はあまり知らんなあ

253名無しさん:2016/05/06(金) 21:40:04 ID:2GgegoCs0
けっこうかわいい子いるからとうらぶもやろうかちょっと気になった

254名無しさん:2016/05/07(土) 13:19:37 ID:IGc95XSIO
刀は公式がパクりやらかしたせいでアレルギー発症した人もいるから注意しろよって腐った姉が
ちな秋からアニメやるらしい

255名無しさん:2016/05/14(土) 12:00:07 ID:DwRqSphE0
刀は男向けの方もあったよ確か
あまり話題には上がってないけど
同時期リリースだった気がする

256 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:31:56 ID:EJ36E4A.0
大戦初期から中期にかけて、日本は一つの社会問題を抱えていた


『艦娘の不法投棄』である


日夜増殖する敵対勢力に追いつくために、海軍は指揮官である『提督』を条件を問わず大規模採用
その結果、戦況は五分にまで持ち込めたものの、『物』として扱われる艦娘に対しての不当行為も後を絶たなかった
資源と設備さえあれば短時間で作れる『美女』であり、指揮官に服従する『兵士』でもある彼女たちは
人間の『欲望』のはけ口としてはこれ以上なく都合の良い存在であった

心無い提督の間では『鬱憤担当艦』などと不名誉な名で呼ばれ、劣悪な環境に置かれる艦娘もいた
弄ばれるだけ弄ばれた彼女たちは、遊び尽くしたゲームソフトのように売りに出される
歪んだ性癖を持つ資産家や、艦娘のみを取り扱う風俗店。最悪の場合、『美食家』の胃の中へと収まる

そして、心身ともに壊れた彼女たちが最後に行き着く場所は


道端の『ゴミ捨て場』だ

257 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:33:19 ID:EJ36E4A.0
―――――
―――



(;´∀`)そ「うわっ!!」


タクシーの運転手は、鳴り響いた雷に思わず声を上げた
車の窓には激しく雨粒が叩き付ける。ワイパーが忙しくそれを拭うが、視界は一向に良くならない
道路の脇の排水溝からは、あふれ出た雨水が飛沫を立てていた


(;´∀`)「近いですねぇ今のは」


運転手はミラー越しに、後部座席の客に話しかける
客はさして興味も無さように『ああ』と短く答えた


(;´∀`)(勘弁願いたいモナ……)


彼がこの夜に拾った客は、『幽霊』を思わせる風貌をしていた
センター分けにした長い黒髪と、血の気が通っていなさそうなほど白い肌の美女
服装が黒スーツではなく白いワンピースだったなら、アクセルを踏んで逃げ出していただろう


川  - )「……」


しかし、不気味とは言え無視を出来る客でもなかった
襟には錨と桜をモチーフにしたバッヂが付いている
海軍所属軍人、それも将校にのみ与えられる証である

258 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:33:58 ID:EJ36E4A.0
(;´∀`)(解せないモナ……)


海軍内でもそこそこの立場にある人物が、軍の送迎ではなく民間のタクシーを使い
艦娘出撃施設、通称『鎮守府』へと向かっているのに疑問を感じた
当然ながら口には出せない。気安く話しかけられる雰囲気ではなかったからだ

しかし、だんまりなのもどうも気まずい。ラジオは流れているが、雨音がかき消してしまう
なんとか話題を探そうとして、ふと気づいた


( ´∀`)「お客さん、海外の方ですか?」


街灯に照らされた目の色が、日本人にはない『青白』だった


川  - )「何故そう思う?」


ハスキーな声で返され、運転手は会話の手ごたえを掴む


( ´∀`)「いやぁ、とても綺麗な瞳をしているので」


川  - )「……いや、こう見えても生粋の日本人だ」


川  - )「ちょいと、ワケありでね」


(;´∀`)「そ、それはとんだ失礼を致しました」


客はクスリと笑うと、『良い、慣れている』と運転手の発言を許した

259 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:35:41 ID:EJ36E4A.0
川  - )「しかし……酷い天気だな」


(;´∀`)「ええ、全く……うおおっ!?」


カーブを曲がった先、道路に何かが落ちていることに気づき、運転手はブレーキを踏んだ
ライトに照らされた落下物の正体を理解した彼は、頭を振ってため息を吐いた


(;´∀`)「ああ、またか……」


川  - )「また?」


(;´∀`)「『捨て艦娘』ですよ。こういう人気のない道には多いんです。ちょっと、待っててください」


ハザードランプを付け、助手席に置いてあるビニール傘を手に取った
艦娘は『物』の分類であることは、世間にも知れ渡っている
万が一『轢いてしまった』としても、運転手に処罰が下ることはない
しかし、やはり人の姿形をしているモノを轢くのは気分と目覚めが悪い


(;´∀`)「提督ってのはこれだから……」


国と海軍は、流出する艦娘の問題に対して打開案を講じていると言うが
一向に解決される気配は見えず、むしろ捨て艦娘の数は増える一方であった
何せ、『提督』の数が余りにも多すぎるのだ。現段階で数万人、応募が殺到しすぎて着任は抽選になっているとも聞く
母数が多ければ多いほど、取り締まりが難しくなるのは理解できるし、この国を深海棲艦から守ってくれているのも知っているが
だからと言って民間に迷惑を掛けていいワケではない。市民にとって提督とは、『奴ら』と並ぶ悩みの種となっていた


(;´∀`)「おい、お前」


つま先で軽く蹴とばすと、うめき声が聞こえた
息はあるが、長くはない。そういう印象を抱いた


(;´∀`)「悪いが、今からそこを通るモナ。動けるならどいてもらいたいモナが……」


うつ伏せの状態のまま、動く気配はない。当然だ、動けるならこんな悪天候の最中、行倒れていないだろう
運転手は人並みの良識を持ち合わせてはいたが、仕事中に艦娘を病院に連れて行けるほどのものではなかった
そうでなくても、捨てられるほど酷使された死にかけの艦娘を引き取る物好きはいないのだ

260 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:36:52 ID:EJ36E4A.0
川  - )「良いか?」


(;´∀`)そ「うおお!?お、お客さん!?」


音も無く隣に立っていた乗客に、運転手は悲鳴を上げてしまう


(;´∀`)「あ、あー!!大丈夫です。こちらで処理して置きますんで……」


川  - )「いや、少し話がしたい」


(;´∀`)「へっ!?」


川  - )「構わないだろうか?」


(;´∀`)「も、もちろんですとも!!」


声色は穏やかではあるが、有無を言わせぬ圧力に運転手はすぐさま後方へと下がる
ノイズのように降りしきる豪雨。彼女の風貌は、ますます人外を思わせた


川  - )「……」


(;´∀`)(話と言っても……)


運転手の経験上、捨てられた艦娘とはまともに会話ができない
大抵はただうめき声を上げるか、人間に対する恨み言を吐くだけだ
一度、駆逐艦と思われるまだ幼い艦娘を助け出そうとしたこともあったが
間もなく息を引き取り、後味の悪い思いをしたこともある
市民が捨て艦娘を救助出来た例は、今のところ存在しない。手も足も出ないため、放置する他無いのだ

261 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:40:00 ID:EJ36E4A.0
川  - )「……」



从 ∀从



川  - )「『天龍』か」


名を呼ばれた艦娘の指先が微かに動いた
乗客は立て続けに話しかける


川  - )「貴様、どこへ行くのだ?」


再び雷が光ると、豪雨でも洗い流せなかった泥の筋が道路を横切っているのが見える
捨て場から這いずり出て、どこかへと向かおうとする『天龍』の意思の表れだった


从 ∀从「き……まってん……だろ……」


微かな返事を聞くために、乗客は片膝を着き耳を近づける


从 ∀从「海に……往くんだよ……」


川  - )「海で、何をする?」


从 ∀从「ハッ……こんな……ナリで……海水浴とでも……?」


从 ∀从「死にに往くんだよ……海でな……」


目的を口にしたからか、天龍は再び、ナメクジのように這いずりだす


川  - )「わざわざ海に往かなくとも、すぐにでもくたばりそうに見えるがな」


从 ∀从「そりゃ……ご挨拶だな……だけどよ……」


从 ∀从「陸で死ぬなんざ……まっぴら御免だ……」

262 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:40:29 ID:EJ36E4A.0
从 ∀从「捨てられて……人間に玩具みてーに扱われながら……俺はずっと機会を窺ってた……」


川  - )「……」


从 ∀从「もう一度、海に出て……戦いの中で死にてえって……」


遅々にではあるが確実に。天龍は前へと進む


从 ∀从「どこの誰かもわかんねえ奴の……小便を飲まされてても……ケツに焼き鏝突っ込まれても……俺はただそれだけを願ってた……」


从 ∀从「やっと……やっと死ねる……クソみてえな陸じゃあなくて、心焦がす戦場の海でな……」


川  - )「……」


乗客は立ち上がると、天龍の進む方向へと回り込んだ


从 ∀从「邪魔……すんじゃねえよ……」


跳ね除ける力も残っていないのだろう。文句を一つ零しただけだ
乗客は何も答えず、胸元からあるモノを取り出し、彼女の目の前へと置いた


川  - )「ここから海までは、車でももう少々掛かる。その状態だと、たどり着く前に『お迎え』が来るだろうな」


川  - )「まぁ、その方が楽だとは思う。死んでしまえばその願いすら、どうでも良くなるだろうしな」


从 ∀从「アァ……?てめぇ……何が言いてぇんだよ……」


川  - )「その『スキットル』の中には、経口摂取タイプの『高速修復剤』が入っている」


从 ∀从「ッ……!?」

263 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:41:07 ID:EJ36E4A.0
川  - )「死にたいと言う願いを、私は否定しない。わざわざ『生きろ』と説得するのも、面倒だからな」


从 ∀从「じゃあこいつはっ……!!」


川  - )「結末の提示さ、天龍。ここでのたれ死ぬも良し、それとも……」


川  - )「私のためにもう一度、艤装を背負って海で散るも良しだ。早く選べ、私は雨が嫌いだからな」


从 ∀从「……」


高速修復剤。入渠ドッグの有無に関わらず、艦娘を治療できる液薬
天龍の答えは既に決まっていた。『海で死ねる』という提案は、千載一遇の幸運だったからだ
スキットルに手を伸ばす。が、その前に確かめねばならないことがあった


从 ∀从「……」


天龍は乗客の姿を見上げる
視界は霞み、右目の中に遠慮なく雨粒が入り込む中でも


川 ゚ -゚)「……」


見覚えのある『青白い瞳』は、はっきりと捉えることが出来た


从; ∀从「てめえ、深海ッ……!!」


川 ゚ -゚)「ああ……厳密には、『なりかけ』だが」

264 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:41:57 ID:EJ36E4A.0
从; ∀从「冗談じゃねえ……誰が『敵』の手下になんか……」


川 ゚ -゚)「……」


伸ばした手を引っ込めたのを見て、乗客は目を細めた
そして再びしゃがみ込み、天龍の耳元へ顔を近づける


川 ゚ -゚)「貴様の敵は、『深海棲艦』か?それとも……」


雷が、光った


川 ∀ )「『人間』か?」


从; ∀从「ッ!?」


一瞬の雷光に浮かび上がった、恐ろしげな彼女の『笑顔』


川 ゚ -゚)


雷鳴が響いた時には、元の無表情に戻っていた


从; ∀从「俺は……」


川 ゚ -゚)「……ま、最後まで艦娘の意地を突き通すのもいいさ」


乗客がスキットルに手を伸ばす

265 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:43:18 ID:EJ36E4A.0
从; ∀从「待て……待て!!」


川 ゚ -゚)「……」


从; ∀从「……ク、クク……艦娘の、意地……笑えるぜ」


天龍は今度こそ、高速修復剤を取る


从; ∀从「提督に売られて……知らねえ男のケツを舐めて……最後はゴミみてえに捨てられて……」


从; ∀从「そんな俺が……この期に及んで……そんなくだらねえモンに縛られちまうとはな……」


おぼつかない手つきで蓋を回し開け、どろりとした緑色の液体を流し込む


从; ∀从「オッ……アアアア……!!!!」


急速に体に熱と力が宿る。血液が頭に巡り、再び生気を取り戻す
艦娘の馬力でスキットルを握りつぶし、道端へと放り投げた


从 ゚∀从「いいぜ、乗ってやろうじゃあねえか。『ル級』よォ」


天龍は、乗客の『呼称』を言いながら立ち上がる
その目には、爛々と戦意の光が籠っていた


从 ゚∀从「てめえが俺たち艦娘を率いて、何を成そうとしているのか。この右目で確かめてやろうじゃあねえか」


川 ゚ -゚)「フン、期待していろ。決して飽きさせやしないさ」


川 ゚ -゚)「さぁ、乗れ。地獄すら生ぬるい戦場が、我々を待っているぞ」


从 ゚∀从「そいつは願ってもねえ。俺の望みは」

266 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:43:51 ID:EJ36E4A.0





「戦いの海で死ぬことだからな」






267 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:44:33 ID:EJ36E4A.0
かつて、海軍が行った大規模な『艤装適合実験』
大勢の死者を出しながらも、たった一人だけ、『龍田』の艤装に適応した者がいた
しかし、『彼』も、そして実験を行った海軍すらも知らない『適応者』が、もう一人いた


(;´∀`)「ちょっと困りますお客様!!」


川 ゚ -゚)「許せ、料金は倍払う」


从#゚∀从「テメー、俺は客だぞ?死にてえのかアアン!?」


(;´∀`)「ひいい!!」


その適応者も、『彼』と同じく提督となり、艦娘を率いた
この国を腐らせている、『海軍』という存在を滅ぼすために


これは、『アカツキ』の裏で暗躍した、とある鎮守府の話


捨てられた艦娘達の、復讐の物語

268 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:45:08 ID:EJ36E4A.0





『捨て艦娘がいる鎮守府のようです』






269名無しさん:2016/05/22(日) 23:48:46 ID:8AX8u9eo0
お?

270 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/22(日) 23:51:49 ID:EJ36E4A.0
続か……ないッ!!!!!!


艦娘がいない方がヒーロー物だとしたら、こっちはダークヒーロー物です
この世界では基本的にブラック鎮守府が多いので、こんな部隊も出来たんじゃないかなと仕事中に思いつき書きました
捨て艦娘が来て、ブラック提督を殺す。テイトクスレイヤーですワッショイ


ところでイベントどうですか皆さん。僕ですか?まだE5もクリアしていません
アイオワどうでも良くなってきたんですが、親潮は絶対に欲しいです。親潮ニーがしたいです。僕は親潮ニーがしたい

僕は親潮ニ―がしたい

271名無しさん:2016/05/22(日) 23:55:38 ID:ln9uTTDk0
つづきかけよー

272名無しさん:2016/05/23(月) 15:14:38 ID:JLrrJXOg0
続き書けよ!!

273名無しさん:2016/05/23(月) 16:38:52 ID:vTsjFyj.0
そこまで書いたんだから続きなんていくらでも書けるよなあ?
書いてください

274 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/23(月) 21:32:25 ID:WA8l8dcQ0
続かないって!!!!!!!!!!!!言ってんだろ!!!!!!!!!クソが!!!!!!!!!!!

と一蹴したい所なんですが、皆さんの後押しのお陰で入賞できたのも事実
ご期待に沿いたいのは山々なのですが、何分仕事が忙しく、現行もそろそろ再開したい

なので、ここで一つ賭けをします


現在開催されている艦これイベントでドロップ艦の「親潮」が手に入ったら、捨て艦娘を書こうと思います
投下はいつになるかわかりませんし、もしかしたらシリアスに嫌気がさして途中放棄するかも知れませんが、それでも良ければなんとか捻り出します。ウンコみたいに

そもそもアレですよ?ドロップしなかったら書きませんからね?
そりゃ僕だって提督の端くれなんで全力尽くしますけどね?こればかりは運ですからね?期待しないでくださいよほんと

あとこの話は艦娘がいるのが前提なんで、鎮守府みたく知らなくても大丈夫とか無いですよ?いいんですか?予備知識いるかも知れないですよ?

それでもいいなら書きます。親潮が手に入れば

賭けの結果は艦これイベント終了時に発表しますので、今しばらくお待ちください

275名無しさん:2016/05/23(月) 21:34:43 ID:bzDIy5b60
分の悪い賭けは嫌いじゃないんだぜ?

276名無しさん:2016/05/23(月) 22:22:54 ID:JLrrJXOg0
おう気張れや

277名無しさん:2016/05/23(月) 22:30:53 ID:VKcIBVVk0
ああああああたあああああああれえええええええええ!!!!!

278名無しさん:2016/05/24(火) 02:26:10 ID:sctS/eWc0
やったぜ。
本編も頑張ってな

279名無しさん:2016/05/24(火) 20:10:52 ID:jUMlw1dgO
書けば出るって噂もあるからな
頑張れよ八位

280名無しさん:2016/05/24(火) 20:12:36 ID:ytTXi8JE0
艦これは知らんが楽しみにしてるぞ金八

281名無しさん:2016/05/24(火) 20:26:36 ID:NrZTtZhg0
こうやってブーン系の女AAで配役してくれるなら読める

282名無しさん:2016/05/24(火) 21:33:23 ID:zwtBQY6s0
俺なんかE2ボスで削り切れなくて躓いている奴だから……
誰がどのAAに配役されるのか楽しみだ

283名無しさん:2016/05/24(火) 22:11:09 ID:T0OaSZ5g0
もうみんな書いてもらう気満々でワロタ
高雄ちゃん出演させてね

284 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/31(火) 09:34:42 ID:rh4HtbSs0
おはようございます。さっきFateのソシャゲで一万飛ばした僕です。礼装いらねえっつってんだろクソが
艦これイベント終了日なので、少し早いですが結果をご報告します


https://pbs.twimg.com/media/CjvmzPkUYAAODcF.jpg
https://pbs.twimg.com/media/CjvmzSDUoAEyRcL.jpg
https://pbs.twimg.com/media/CjvnsseUgAAS31o.jpg


捨 て 艦 娘 が い る 鎮 守 府 制 作 決 定 ※公開未定

いやね、ドロ率は結構あったんですよこの子。丙で5%くらい
多分二十回行ったか行ってないかくらいで出てくれました
出た瞬間飛び上がって何も知らない妹とハイタッチ決めましたからね。磯風以来ですよあの興奮は
アイオワですか?別にシコくないんで途中で諦めました。だってあいつテリーマンじゃないじゃん
もしかしたらテリーマンじゃないかと思ったけど、テリーマンじゃないじゃん。ただのおっぱいおっきいメリケン女じゃん
あと別にシコくないじゃん。最初からおっぱい出してる奴より中破した時に下着が見える方が興奮するじゃん親潮然り萩風然り早霜然り五十鈴然り


と言うわけで、約束通り捨て艦娘をとりあえず書きます
書きますけども、前にも言った通りいつ投下できるかはわかりませんし、途中で挫折するかもしれませんけども
とりあえずはやれるだけやってみようと思います

じゃあ僕は念願の親潮ニーしてきます

285 ◆HS4z8y6JHc:2016/05/31(火) 09:41:43 ID:rh4HtbSs0
イベント最終日明日でしたすいません

286名無しさん:2016/05/31(火) 10:02:32 ID:0NoKgwv.0
おつかれ、親潮GETおめでとう
書き上げ頑張ってな

287名無しさん:2016/05/31(火) 15:11:38 ID:VOV/xRtg0
やったー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
やるからには完結させてくれよ????

288名無しさん:2016/05/31(火) 21:43:17 ID:c6Pprk2.0
よしっ
ドロップ祈願したかいがあったんだぜ

289名無しさん:2016/05/31(火) 21:44:50 ID:uk53r5IcO
おめでとう、ありがとう
作者GOもやってたのね

290名無しさん:2016/06/05(日) 22:51:07 ID:k/YxVBtg0
親潮おめでとう球磨型出せコラ

291 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:26:42 ID:BwmDOLZA0
海は、砂浜に

飲み込んだものを、吐き出す


(´・ω・`)「……」


流木、ゴミ、藻屑
手紙を入れた瓶、もはや抱かれることのないぬいぐるみ
宿主を静かに待つ巻貝の殻、息絶えた海月


(´-ω-`)「……」


死にかけた、『深海棲艦』

292 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:27:23 ID:BwmDOLZA0




『アカツキ』の鎮守府のようです


Side story → Mamiya





293 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:29:49 ID:BwmDOLZA0

駆逐イ級、軽巡ホ級を、仮に『歩兵』とするならば
その砂浜に流れ着いたそれは、『将』の役割を持つ深海棲艦だった


(´・ω・`)「……北方棲姫、だっけか」


強くなれば強くなるほど、より人間らしい姿と成る『奴ら』
その中でも、最も幼い容姿をしている北方海域の主が


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「手酷く、やられたようだなぁ」


下半身及び左腕を損失、顔の左半分が爛れを通り越して黒く燻り
橙色の濁った瞳を、ショボンに向けながら弱々しく呼吸を繰り返しながら横たわっていた


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「悪いなぁ」


砂浜に腰を落とし、胸ポケットから愛煙しているアメリカンスピリットを取り出し、火を着ける

294 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:30:23 ID:BwmDOLZA0
(´・ω・`)y-~「俺の家族達は、お前らをぶっ殺す為に命を懸けて戦ってる」

(´・ω・`)y-~「そんな連中がいる中で、俺の独断で『敵』に情けを掛けるわけにはいかねえんだ」

(´・ω・`)y-~「だから、だからせめて……」


タバコを吸い、空に向けてぷかりと吐き出す
見えているのか定かではないが、橙色の瞳も紫煙を追いかけたように見えた


(´・ω・`)y-~「お前が『楽』になるまで、ここにいてやるよ」

(´-ω-`)y-~「それがお前にとって良いことなのか悪いことなのか、わかんねえがな……」


それ以上何も言わず、ショボンは黙って煙草を吸った


(´-ω-`)y-~「……」


喪に服すかのように、目を閉じ、黙ったまま

295 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:31:06 ID:BwmDOLZA0
「……」


「……カ……ミデ……」


「………イツカ………」



(´-ω-`)y-~「……」


(´-ω-`)y-~「そうか」


(´-ω-`)y-~「お前らにも、『次』があるのなら」


(´・ω・`)y-~「行けるといいな、その『海』とやらに」

296 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:32:42 ID:BwmDOLZA0
ショボンはタバコを靴底で擦り消し、携帯灰皿へと捨てる
立ち上がり、尻についた砂を手で払った


(´・ω・`)「もういいぞ、心配かけたな」


その数メートル後ろでは


('A`)「……」


ドクオが、警戒のために構えていた短槍を砂浜に突き立てていた


(´・ω・`)「今、逝ったよ」

('A`)「そうかい」


生身の左手と、艦娘用資材で作られた義手の右手をポケットに突っ込み、ショボンと並んで亡骸を見下ろす
目は完全に色を失い、開け放しの口からは、唾液とも血液とも取れない黒ずんだ粘液が垂れ流れている


(´・ω・`)「お前らが?」

('A`)「いや、今週の北方海域担当は艦娘部隊だ」

(´・ω・`)「なるほどな、納得だ」

('A`)「……そんで、何か得られたか?幼女の姿をした、人間を殺すだけのバケモノと接して」


遠慮も、配慮もない皮肉だった。『アンカーシステム』を使い、戦闘に出るドクオにとっては見慣れた光景なのだろう
幾度となく殺されかけた相手。例え姿形が違えど、彼にとってはその他大勢の『奴ら』と変わらない


(´・ω・`)「……『いつか、楽しい海で、いつか』」

('A`)「あん?」

(´・ω・`)「最後、そう言ったんだよ」

297 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:33:40 ID:BwmDOLZA0
(´・ω・`)「まさかなぁ、深海のクソビッチが、んなこと漏らすたァ……」

('A`)「楽しい、ね……」

(´・ω・`)「……俺はなぁドクオ、ガキが好きだ」

('A`)「……」

(´・ω・`)「うるせえし、鬱陶しいし、悪さもする……けど、純粋にその瞬間瞬間を楽しんで生きる、ガキが好きなんだ」

('A`)「……ああ」

(´・ω・`)「……こんな事、仮にも大隊長であるお前の前でするのもなんだがよぉ」


ショボンはしゃがみ込み、手のひらでそっと亡骸の瞼を閉じた


(´・ω・`)「こいつもまた、俺の好きなガキと変わらねえ存在だったんじゃねえかって……思ったんだ」

('A`)「……」

(´ ω `)「ク、クク……な、なに言ってんだろうなぁ俺ァ……敵に向かってよぉ……」


俯くショボンの肩に、ドクオは左手を乗せた


('A`)「俺は……俺達『戦う人間』は、そのあたり麻痺しちまってんだが」

('A`)「オッサンのそれは……多分、人間が忘れちゃいけねぇ……『哀れみ』ってやつなんじゃねえの?」

298 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:34:50 ID:BwmDOLZA0
(´ ω `)「……」


('A`)「だから、オッサンの抱いた感情は、ある意味じゃ当然のもんなんだと思う」

('A`)「決してわかりあえない『敵』に対しても、慈悲を見せるってのは……人間が、人間であるために必要なんじゃねえかな……?」


(´ ω `)「……」


ショボンは肩越しに振り返り、少し躊躇い交じりに


(´・ω・`)「墓……っつっても、埋めてやるだけだが」


ドクオに、提案をした


('A`)「……ま、このまま掘っといても直ぐに海水に溶けて消えるんだけどよ、放置も後味悪いし」


ドクオは頭を掻くと、両手で砂を掘り始めた
ショボンもそれに続き、海水で湿った砂浜に、二人で小さな墓穴を掘った


(´・ω・`)「……」

('A`)「……掛ける言葉は?」


小さな山に両手を合わせ、ショボンに言葉を促す


(´・ω・`)「……」


ショボンは、まるで父親が寝かしつけた娘に語り掛けるような優しい口調で


(´・ω・`)「おやすみ、楽しい夢を」


と、告げた


('A`)「……風が吹いてきたな。戻ろう」

(´・ω・`)「……そうだな」

299 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:35:49 ID:BwmDOLZA0
海風は波を起こし、二人が残した足跡と
墓と呼ぶにはお粗末な砂山を飲み込んだ


埋めたはずの亡骸も、無かったかのように飲み込んだ―――――




Side story → Mamiya END

300名無しさん:2016/06/27(月) 23:36:39 ID:TEKz7ZME0
おぴょお

301 ◆HS4z8y6JHc:2016/06/27(月) 23:37:38 ID:BwmDOLZA0
捨て艦娘はもうちょっと待ってください話固まりつつあるんで

302名無しさん:2016/06/27(月) 23:48:11 ID:MiGvuot60
おつ
ぽっぽちゃん(´;ω;`)

無理せんどいてやー

303名無しさん:2016/06/28(火) 00:02:51 ID:6kWKyDrw0
ショボン様……(´;ω;`)

304名無しさん:2016/06/28(火) 00:08:01 ID:pi.ppjlQ0
切ない。おっちゃん情を捨てきれないいいやつだ

305名無しさん:2016/07/01(金) 15:11:00 ID:wAsfUydw0
いいなあおつ

306 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:14:54 ID:Eod.UO4Y0
これは、『禊』だ


〔 §圭 〕「……」


『人間』が、『兵士』として生まれ変わるための


|::━◎┥「どうした?」


それは、『兵士』としての道であり、『人』としての道を外れるということ



人としての『外道』に、足を踏み入れることであった

307 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:16:16 ID:Eod.UO4Y0




『アカツキ』の鎮守府のようです


Side story → Hibiki





308 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:21:53 ID:Eod.UO4Y0
〔 §圭 〕「で……出来ません……」

|::━◎┥「……」


『響』の初陣は、製油所地帯沿岸から燃料を持ち帰る遠征任務であった
鎮守府海域からそれほど遠くない場所であり、敵艦隊と出くわさない限り、問題なく終わる仕事の筈だった


|::━◎┥「あー、悪い。砲撃でまだ耳がバカになっちまってるみてーだ。聞こえなかった」

|::━◎┥「今、何つった?」


帰還途中のことであった。敵水雷戦隊の襲撃に遭い、これを迎撃
旗艦『電』。随伴艦三隻の内、『木曾』及び『島風』が小破
獲得燃料の内、凡そ二割を消失。多少、手痛い損失を被った

敵水雷戦隊は、旗艦『雷巡チ級』及び随伴艦駆逐三隻。規模自体は大したことがなかった
内、駆逐三隻を撃沈。チ級を砲撃、航行不能の大破状態まで追い込んだ
チ級は仰向けに浮かび上がり、間近に迫った電と響から逃げ出すことも出来ない
そんな、沈むのを待つばかりの敵に対し、アカツキの最古参は


|::━◎┥「早く殺せ。てめえが腰にぶら下げてる剣は飾りか?」

〔 §圭 〕「……」


新入りに、『殺し』を経験させようとしていた


〔 §圭 〕「ど……どうしても……やらなければならないのですか?」


響は、腰の近接戦闘用艤装である剣の柄を掴んではいたが
震える腕でただカタカタと鳴らすばかりで、抜き取ろうとはしなかった

309名無しさん:2016/08/20(土) 22:23:16 ID:GwWaxKrE0
きたか!

310 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:24:18 ID:Eod.UO4Y0
|::━◎┥「俺は言ったよな?お前がアカツキの門を潜った時も、艤装に適応した時も、新人訓練課程の時も、そして今朝も」

|::━◎┥「『躊躇わず殺せ』と。お前は、今の今まで忘れてたのか?それとも、話を聞いていなかったのか?」

〔 §圭 〕「い、いえ……ですが」


響の抗議は、フェイスガードに飛んできた拳によって遮られる
彼の顔面を殴りつけた電は、顎を掴み引き寄せた


|::━◎┥「『ですが』、なんだ?女の姿をした敵と戦うとは思ってなかったか?」

|::━◎┥「見ろ、よく見ろ!!」


顎から手を放し、今度は首筋を掴みチ級へと近づける
駆逐艦や軽巡と比べ、この艦種は人に近い姿をしているのだ
その見た目が、響の行動を躊躇わせた


|::━◎┥「俺らが戦っている敵の主力のほとんどが人と変わらぬ姿であり、その全てが女だ!!だが、こいつらが人間を襲い、喰らい、海を支配しようとしている!!」

|::━◎┥「てめえは『女の姿だから』と言って、こいつらを逃がすのか!?あーあ、それはそれはおりこうさんだ!!優しい野郎だ!!ノーベル平和賞だって狙えるだろうさ!!」

|::━◎┥「だがな!!てめえが逃がした一匹が、何百、何千人もの人間を殺し!!艦娘を沈め!!また支配に一歩近づける!!お前の優しさは、敵にとって『都合が良い』行為でしかない!!」

〔 §圭 〕「うっ……うう……」

|::━◎┥「だから今!!ここで!!てめえの中にあるくだらねえ『慈悲』を殺せ!!その剣で、深海棲艦の喉笛をかっ斬ってな!!」

311 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:26:44 ID:Eod.UO4Y0
電はあえて、主砲や魚雷を使わず近接武器で殺すことを求めた
彼を始めとした『アンカーシステム』適合者は、それぞれが槍、剣、グローブ等の近接艤装を持つ
特に、速力、回避能力に優れてはいるが、主砲の火力が心もとない駆逐にとっては主力級の武器であった

ただし、残酷なことに
『槍』や『剣』は、使用者本人に『殺す感覚』というものをダイレクトに伝えてしまう
だからこそ、殺すことの意味と重みを学べることができる


〔 §圭 〕「……」


響は、ちゃんと理解していた。この戦争がどういうものなのかも
厳しい言葉を投げかける、旗艦の真意も
死に掛けの敵に、あえてトドメを刺させる意味も


これは、『禊』だ


〔 §圭 〕「……」


正義の為に、存続の為に、大義の為に、仲間の為に
『人』から『兵士』へと、生まれ変わる儀式なのだと


〔 §圭 〕「……」


震えは止まらなかったが、柄を握る妨げにはならなかった
抜いた剣は重たかったが、持ち上がらないほどではなかった


〔 §圭 〕「う……」


仰向けに浮かび、弱弱しく息を吐き出すチ級
この痛々しい敵の姿に対して、これから自分が成そうとしている行為に、思わず目を瞑ろうとした
しかし、響は自身の『臆病さ』から発せられたその欲求を真っ向から跳ね除け、彼女を凝視する

『殺し』から逃げず、『殺す者』から目を背けぬ事こそ、今の自分が表せる最大の敬意だと思ったからだ

312 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:28:05 ID:Eod.UO4Y0
|::━◎┥「……」


電はやや距離を取り、響の邪魔にならない位置からその姿を見守った
心優しい響にとっては、この試練は余りにも酷とはわかっていたが
艤装を背負い、海に立つ以上、『殺し』からは逃げられない。飲み込み、慣れる他無い

良心の激痛は、率先して敵陣に斬り込み、誰よりも多く『殺す』隊長に科せられた罰として受け入れた
いずれ、人間としての自分を殺す『毒』と知りながら


〔 §圭 〕「……」


響は剣を逆手に持ち、心臓の位置に狙いを定める
チ級は観念したのか、抵抗の素振りすら見せない。それが、響にとっては途方もなく辛かった
せめて、最後まで殺意の念を向け、化け物らしく足掻いてくれた方が事を済まし易かったからだ

かつて、『無抵抗』を説いた偉人がいた。彼の意見は、賛否分かれるものであるだろうが
この期に及んで言えば、『無抵抗』ほど有力な手段は無かった


〔 §圭 〕「ご……ッ……!!」


口から謝罪の言葉が漏れ出す前に、響は口を閉ざした
それを言ってしまえば、自分の行為は間違っていると認めてしまうからだ
認めた先に、自分自身が、後ろで見守る旗艦が、肩を並べる仲間が、望む結末は訪れない


これが『戦争』。お互いの主張を、暴力に変えて認めさせる、最低最悪の武力解決方法なのだ

313 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:29:18 ID:Eod.UO4Y0
〔 §圭 〕「フッ、フッ……」


だから、『間違っていない』
最低最悪な交流の中では、最低最悪の方法を取る必要があるのだと、自分自身に言い聞かせた


〔 §圭 〕「お、お……」


〔 §圭 〕「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


雄たけびと共に、チ級の胸に刃を突き立てる
血しぶきが、フェイスガードのカメラを汚し、すぐさま自動的に拭き取られた
手ごたえは呆気無かったが、その感触は残響のように手から腕へ、全身へと広がり、こびり付く

チ級は、口から血反吐を溢れさせ、二、三度痙攣をすると、全身から力が抜け落ちた
死亡と同時に体細胞の分解はすぐさま始まり、体は徐々に海へと溶けていく

響は、そこからすぐに動き出すことが出来ず、チ級の全身が消え逝くまで、しばし固まったままであった


〔 §圭 〕「……」


全身が消え、チ級が身に纏っていた鋼鉄艤装も海の底へと沈んだ時、彼は海面に膝を折り蹲った


〔 §圭 〕「う……う……ああああああああ……」


そのまま、身を包む『艤装』の中で涙を流し嗚咽を漏らす
瞳から零れ落ちる滴を拭うことも出来ず、ヘッドギア内のスクリーンを目視することもままならない
先ほどまで戦火と轟音を交えていた海面は、波の音と響の泣き声しか聞こえなくなった

314 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:32:45 ID:Eod.UO4Y0
|::━◎┥「……よくやった。さぁ、帰ろう」


打って変わって、優しい声色となった電は
蹲る響を立ち上がらせ、肩を担ぎ、ゆっくりと航行を始めた


〔 §圭 〕「ああ、ああ……うああああああ……」


|::━◎┥「……」


泣き止まない響に、電は叱咤をしなかった
今し方済ませた『禊』の辛さは、電もかつて経験したからだ

泣き止まない響に、電は慰めの言葉も掛けなかった
『禊』を強要した自分に、その資格は無いと思ったからだ


|::━◎┥「……」


しかし電は、司令官として、隊長としての威厳を保っていられるほど、成熟してはいなかった


|::━◎┥「クソ、気分、悪いよなぁ……俺も、初めて『人間型』を殺した時は、眠れなかった」

|::━◎┥「全く、悪質だぜ深海棲艦ってのは……どいつもこいつも化け物らしい見た目をしてくれりゃあ、もうちょいやり易いんだがよ……」


〔 §圭 〕「ヒクッ、グスッ……た、隊長もですニカ?」


しゃくりあげながらも、響は言葉を交わす
まだ足腰に力は入らないらしく、肩を借りたままであった

315 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:35:58 ID:Eod.UO4Y0
|::━◎┥「どんなに覚悟を決めていても、いざその時になると揺らぐもんさ……死にたくねえ、殺したくねえは人のサガだ。躊躇うのは、『当たり前』の事なんだよ」

|::━◎┥「だがなぁ、俺もアカツキに……鎮守府に身を置いて戦い続ける中で、『兵士』の役割を自覚したんだ」


自身の近接艤装である『槍』を眺める
この日の海戦では、敵駆逐艦の右目から頭を貫き、沈めた


|::━◎┥「俺らが矛を振るうから、矛を振るう必要のない人生を歩める人たちがいる……ってのをな」

|::━◎┥「お前に、今日の行いを後悔するなとは言わない。ただ、これだけは忘れるな」

|::━◎┥「お前が今日戦ったことで、戦いに巻き込まれる人間を増やさずに済んだってことを」


〔 §圭 〕「……」


|::━◎┥「敵を殺したことで、人類の平和に一歩近づけたことを誇れ。兵士としての役割に従事したことを誇れ」

|::━◎┥「……俺が今日、お前に教えることはそれだけだ。そろそろ、一人で走れるか?」


電は話し終えると、響からゆっくりと離れる
既に響の足腰はしっかりと力が入っており、自立航行を行えていた


〔 §圭 〕「……」


『誇り』。体の良い言葉であり、間違った行いを正当化する為の方便でしかない
しかし、その方便に縋らなければ、兵士は人を救えないのだろう

316 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:37:44 ID:Eod.UO4Y0
〔 §圭 〕「……司令、折り入ってお願いがありますニダ」


|::━◎┥「なんだ?」


〔 §圭 〕「今夜は、眠れそうにありません」


〔 §圭 〕「強い酒を一杯、奢ってください」


声に湿っぽさは残っていたが、力強さを感じさせた
また一人『兵士』が誕生したことに一喜一憂しながら、電は軽く笑い声を上げる


|::━◎┥「ああ、今夜は浴びるほど酒を飲もう」


|::━◎┥「落ち込んだ日のシメは、騒ぐに限る。少し飛ばそう。先行させた二隻に追いつかないとな」


二人は主機を唸らせ、海面を矢尻のように掻き分けながら帰路を急いだ




暁型二番艦、アンカーシステム第三世代、駆逐艦『響』

大隊長である電から『矛』を学び
アカツキ艦娘隊、守護部隊長古鷹から『盾』を学ぶ事となる新兵は

後に『副隊長』を務め、長きに渡って大隊長とアカツキを支える武勲艦となる


そこには、二人しか知らない兵士の起点があった―――――



Side story → Hibiki END

317名無しさん:2016/08/20(土) 22:42:11 ID:GwWaxKrE0
うおおおお!乙!

318名無しさん:2016/08/20(土) 22:46:02 ID:YSup0QMk0
おいこの糞ケツムカデ野郎、次はまだか?

319 ◆HS4z8y6JHc:2016/08/20(土) 22:50:08 ID:Eod.UO4Y0
ブラピ主演の『フューリー』という戦争映画に、このようなワンシーンがありました
タイプライターしか打ったことのない新兵に、無理やり銃を握らせ敵兵を射殺させるシーンです
艦これは女の子を侍らせてキャッキャウフフするゲームですが、やっぱやってることは戦争なんでこういう場面もあったんじゃないかなぁと思います

それより劇場版楽しみですね。予告観ました?青葉がしっかり映ってましたよ
観てないって人は今すぐ観てくださいはいこれ

https://www.youtube.com/watch?v=FVQxNMJZvZs


捨て艦娘は順調に難航しています

320名無しさん:2016/08/21(日) 00:02:59 ID:y2JqdCig0
響お前かよ
ドシリアスなのに語尾が出てきた瞬間吹いたわ

321名無しさん:2016/08/21(日) 00:40:33 ID:7z125wPw0
クソおもろいぞケツムカデ8位
次も期待してる

322 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:53:25 ID:PWZ18VnA0
深海棲艦の言葉は、人間には理解できない
彼女達がその口から発する音は、全てノイズのような不協和音として聞こえる

これが、艦娘だと『言葉』や『鳴き声』として認識出来るのだ
兵士クラスである駆逐イ級や空母ヲ級などは『鳴き声』として
将クラスである『姫級』や『鬼級』などは『言葉』として、耳に届く

内容は主に恨み言や煽りの類だ。艦娘と人類に対して明確な憎しみを露わにする


それが、どうして今


『人間』である私に、理解できるのだろうか

323 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:54:37 ID:PWZ18VnA0




■■■■■■■■■■■鎮守府のようです




        Epilogue



.

324 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:56:19 ID:PWZ18VnA0
いや、理解っている筈だ。私はもう人間ではない
あの愛おしい我が家に着任したその時から、別のモノに作り替えられてしまった

だから今、私は男性でありながら『龍田』の艤装を背負イ
鎮守府近海を埋メつくす、深海棲艦の群れと

たった一人で戦争ヲしているのダカラ


「■■■ッ!!!!」


龍田専用近接艤装であル『矛』で、ル級の首を刎ねた
勢いヨく吹き出す血飛沫を身に受ケナがら、背後に迫っていたハ級に裏拳ヲ見舞う


「■■■■■ーーーーーーーーーーッ!!!!!」


最後の魚雷を撃ち、弾薬が尽キタ。この分だと燃料モ直に底を着くだロう
殺さねば。私が、俺が殺サレるまで、目の前にいる大軍を殺シつクサねば


【オウ】


うルサい


【おう】


黙レ


【王よ】


「■■■■っ■■■■■ーーーーーーー!!!!」


何故俺ヲ、『王』ト呼ブ

325 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:58:06 ID:PWZ18VnA0
ホ級のクビを切り裂キ、チ級の頭蓋を握りツブス


「■■■■ッ!!」


タ級の背骨を腹から抜き取り、ヲ級の顎ヲ引キ裂いた


殺さねば


【王よ】


殺サネば


【王よ】


殺サネバ


声ガ聞こエなくなるマデ


「■■■……!!」


駆逐棲姫の首をオル、北方棲姫ヲ真っ二ツにスル
海中カラ足首を掴モウとしタソ級の顔面を踏ミ砕イタ
戦艦棲姫ニ向けて投ゲツケた矛は、額から脳を串刺シニした


「■せ■……!!」


レ級の尾ヲ引き抜キ、振リ回シてツ級の頭を吹っ飛バス
マダ息がアッタレ級の腹にソレを突き刺シテ返シテヤリ、そこで


艤装ハ動カナクナッタ

326 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:59:27 ID:PWZ18VnA0
殺した、殺した、何人も、何隻も
かつテ俺が立った陸の戦場で、奴らがソウシたように

それなのに、何故


「殺せよッ!!」


「俺を殺せェッ!!!!」


奴らは、砲弾の一発も撃たなイノダろウか


【王よ】


【王よ】


【愛おしき我らが王】


身体が重たイ。燃料が切れタからだロうか
違う、そんなものじゃない。背中ニ、艤装とは違ウ別のモノが圧し掛かッテいる


【嗚呼、なんて羨ましい】


【王の身になれるなんて、羨ましい】


【果報者だわ。彼女たちは】


背中から、尾ガ伸ビルかのように
俺が殺シタ深海棲艦ノ屍ガ、一塊ニなって繋ガッテイル

327 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:00:46 ID:PWZ18VnA0
「あ」


「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


【嬉しい、嬉しい】


【我が身は王の肉に】


【幸せだわ、幸せだわ】


濁った瞳が、俺ヲ見ル。薄い唇カラ、膿のヨウナ液体と共ニ嗤いゴエを吐キ出ス
矛ヲ投ゲ捨テナケレバ良カッタ。容易ク自害デキタ機会ヲ自分カラ手放シテシマッタ


【王よ、王よ、愛おしき我らが王】


腕、上ガラナイ。顎、閉ジラレナイ
自分デ首ヲシメルコトモ、舌ヲ噛ミ切ル事スラ出来ナイ


【人間が我らを作った】


【人間が艦娘を作った】


【そして、嗚呼、我が王。貴方すらも作り上げた】


「殺せ……殺せよ……」


【嗚呼、王が!!王が!!我々にお声を掛けてくれた!!】


【王!!王!!なんて麗しいお声!!お姿!!】


【人間の醜い声を捨てて下さったのだわ!!我々の為に!!】

328 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:01:58 ID:PWZ18VnA0
俺ハ、俺、俺、おれ、オレ……
人ノ言葉スラモウ、話スコトガ出来ナイノカ


【さぁ、参りましょう。我らが王】


【艦娘を葬りに】


【人間を根絶やしに】


葬リ……根絶ヤシ……


【屍の上に、貴方の玉座を作りましょう】


【醜いガラクタを積み上げましょう】


【我らの怨念を晴らしましょう】


馴染ジンデ、ユク、深海ノ、青イ血ニ、白イ、肌ニ
血液ガ 巡ル度 俺ガ オレデハ ナクナッテイク


【さぁ】


【さぁ】


【さぁ】


深海棲艦ノ 冷タイ手ガ オレノ身体ヲ、海ノ中ヘト引キズリ込ム
思考モ ボンヤリト ナッテイキ キオクスラモ―――――

329 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:04:06 ID:PWZ18VnA0
「クソ……■■■共がァァァ……!!」


手放シテ、ナルもノか
オレが、俺が鎮守府で過ゴした四年間の思イ出ヲ、失ッテたまるモノか
この身、この魂を支配サレても、あいつらの事を忘れて堪るものか


「覚え■け……てめえらと■をブチ■■のは……」


【まぁ、なんて醜いお言葉】


【引きずり込んでしまいましょう】


【海の底で癒して差し上げましょう】


多数の手が、身に圧し掛かる大量の屍が、海へ海へと落としていく
暗い海面から覗き込む、ゾッとするような無数の笑顔が俺に向けられていル


「俺の■娘■と……まだ見ぬ漢達だ……ッ!!」


冷タイ海水ガ、首元マデ迫ッタ
最後ニ、鎮守府ノ方向ニ顔ヲ向けタ


届カ無イダロウ 伝ワラナイダロウ ソレデモ 最後ニ




ワカレ ダケハ



.

330 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:05:13 ID:PWZ18VnA0






「■■■■■■■■■■■鎮守府、万ざ―――――」






.

331 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:06:02 ID:PWZ18VnA0






ごぽり。







332 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:08:21 ID:PWZ18VnA0
【嗚呼、なんたる幸せ、なんたる悦び】


【ご生誕なされた。我が王が】


【深海の王が】



「」



【始めましょう】


【ええ、始めましょう】


【私たちの戦争を】




【『禁じ手』を使う戦争を】






333 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:10:32 ID:PWZ18VnA0
―――――
―――



『りん』


脛にすり寄ってきた白猫を抱き上げる
首輪の鈴の音が、不気味なほどに響き渡った。この場所も、静かになったものだ


「そうだね。飲み込まれてしまった」


私に止める術は無かった。深海棲艦化が始まった段階で、既に彼女達の策中に嵌っていたのだ
『彼』ならば或いは……という期待も、たった今砕かれた


「渡してしまった……『プログラム』にはない、チートにも匹敵する戦力を」


あるいは、『バグ』とでも呼ぶべきだろう。この世界には、この『ゲーム』には、本来ある筈のないユニットなのだ


「本当に、現れるのかな……」


その『バグ』を打倒できる戦力が。彼が言い残したような


「『漢』という、戦士は」


猫は応えない。ただ、我関せずと言いたげに顔を洗っただけだった


「……また暫く、静かになるね」


応えない。既にうとうとと船を漕ぎ始めていた


「そうだね。少し、眠ろうか」

334 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:12:03 ID:PWZ18VnA0





「この呪われた鎮守府に招かれる、可哀想な提督と艦娘が現れるまで」






335 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:13:29 ID:PWZ18VnA0





■■■■■■■■■■■鎮守府のようです




         END






336 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:15:11 ID:PWZ18VnA0
































337 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:16:48 ID:PWZ18VnA0








(;'A`)「あっれー?合ってる?ここで合ってる?」








338 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:20:45 ID:PWZ18VnA0
「……」


爽やかとは言えない目覚めだった。軋む廊下の音と、マヌケな男の声
どれほど眠っていたのかはわからないが、どうやら漸く『替え』が着任したらしい


『りん』


猫が急かすかのように尻尾を振る。思わず、顔が綻んでしまった
それがまるで、私の『期待』をそのままそっくり表現しているかのようだったからだ


「そうだね」


帽子を被り、襟を正す


「会いに行って、見極めよう」


『チュートリアル』の始まりだ―――――







「新入りが、『彼』の意思を継ぐ者かどうかを」







339 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:21:18 ID:PWZ18VnA0






■■■■■■■■■■■鎮守府のようです → 艦娘がいない鎮守府のようです








340 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:27:20 ID:PWZ18VnA0
ラノベ祭りが盛り上がろうとしている中、まーだ紅白作品に引き摺ってんのかこの一発屋はとお思いでしょうが榛名は大丈夫です
ラノベ祭り用の作品は既にほぼ完成しているので大丈夫です。意識高いんで大丈夫です

じゃあ秋刀魚乱獲してきます

341名無しさん:2016/10/29(土) 08:31:46 ID:BWkCZ74w0
乙でした!!

342名無しさん:2016/10/29(土) 10:20:24 ID:R9.coqeg0
乙!

343名無しさん:2016/10/29(土) 14:26:52 ID:b80mLqYE0
おつ
闇堕ちの過程描写すてき

344名無しさん:2016/11/12(土) 04:09:24 ID:2vNTBpOo0
乙、王、そうか、お前だったのか……

345名無しさん:2016/11/12(土) 06:06:22 ID:e/vGa8gs0
いやそこは察しておけよ兵十

346 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/03(火) 14:47:55 ID:K/4oRt6E0



艦娘がいない鎮守府のようです 外伝



『捨て艦娘がいる鎮守府 ‐Mermaid Naval District‐』



序章 今夜投下予定

347名無しさん:2017/01/03(火) 15:05:43 ID:IoiTDeqw0
マジかよ

348名無しさん:2017/01/03(火) 16:10:54 ID:HiVo44XI0
わーい

349名無しさん:2017/01/03(火) 22:58:43 ID:4ivdVNCU0
さむいかぜひく

350 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:49:14 ID:BYyQ37mk0





艦娘がいない鎮守府のようです 外伝






351 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:51:33 ID:BYyQ37mk0



川 ゚ -゚)「生物の、序列について考えたことはあるか?」



女はレザーチェアに腰を掛け、デスクに両肘を着き手を組んだ
本来そこに座るべき男は、床に這いつくばりながら憎々しく彼女を見上げた


川 ゚ -゚)「頭の良さ、腕力、魅力……どれで順序を決めるかは様々だが、私は単純に『強さ』を基準にしている」

川 ゚ -゚)「例えば、霊長類だ。貴様ら『ヒト』は、そのカテゴリの中では下から数えた方が早いらしい」

川 ゚ -゚)「当然と言えばそうだ。ゴリラに殴り勝てる人間などいるはずもない。だから頭と手先を使い、『武器』で強さを補った」


晩酌をするつもりだったのであろう、デスクの上にウィスキーの瓶と、グラスが置かれていた
彼女はそれを手に取ると、瓶の栓を抜き、やや乱暴に注いだ


川 ゚ -゚)「『武器』を持つ上で成り立つ強さを以てして、ヒトはめでたくこの星の支配者となった」


グラスを掲げ、琥珀色の液体をしばし揺らしながら眺めた後
傍らに立つ、左目に眼帯を着けた少女に手渡した


从;゚∀从「呑めねえんなら置いとけよ……」


ボソリと文句を呟いた少女は、それを一口に煽り、グラスをデスクに叩きつけた


从 ゚∀从「っあァ、効く……」

352 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:53:43 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「ヒト唯一の天敵は、同じ武器を持つヒトであり、他種生物からその支配を脅かされることなど、まずありえなかった」

川 ゚ -゚)「しかし、そこに現れたのは『外来種』。つまりは、深海棲艦」


彼女の蒼眼が、仄かな光を放つ
それを見た男の顔から、血の気が引いていく


川 ゚ -゚)「海の底から現れた、現代兵器が通用しない怪物……いや、ここはあえて『生物』と呼ぼうか」

川 ゚ -゚)「我々と、同じような生き物だ。海の底でどのような営みが行われているのか定かでは無いが、飯を食い、睡眠を取り……」


引き出しを開けると、判子や文房具と並んで、仰々しいデスクには大よそ似つかわない性的玩具が入っている
それを手に取り、男の眼前に放り投げ、喉の奥で短く笑い声を漏らした


川 ゚ー゚)「セックス……まで、嗜んでいるかは知らないが、生殖器がある以上、ある程度の想像は出来る」

川 ゚ -゚)「ヒトの営みと酷似し、その上でヒトの能力を上回る『新生物』だ。当然、『欲』もあるのだろう」

川 ゚ -゚)「美味い飯が食いたい、十分な睡眠を取りたい、寂しさを埋める恋人が欲しい……」


川 ゚ -゚)「暗い海の底から、日の光注ぐ陸の上で生活をしたい……そこで邪魔になるのが!!」


突然大声を出し、芝居がかった態度で手を一つ叩く。男は肩をビクリと竦ませた


川 ゚ -゚)「地上に蔓延るヒトの存在だ。ああ、確かに共存という道もあっただろうがしかし!!奴らはそうはしなかった!!何故か!!」

川 ゚ -゚)「所説あるが、私はこう思うのだよ。ヒトより優れた生物であるなら、共存など回りくどく面倒な方法でしかない」

川 ゚ -゚)「有力な攻撃手段も、堅い外殻も持たない、弱小な生物など、取るに足らないからだ」

353 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:56:34 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「さぁさぁ!!絶体絶命の人類!!成す術もなく海上を、地上を蹂躙される!!」

川 ゚ -゚)「そこに颯爽と現れたのが、深海棲艦と唯一対抗しいれる存在、『艦娘』だ!!さぁ、万雷の拍手を贈って差し上げろ!!」


チェアを半回転させ、眼帯の少女に向かって仰々しく拍手をする
シンとした室内では耳障りでしかない破裂音に、少女は眉間に皺を寄せた


川 ゚ -゚)「無条件で味方となり、見返りを求めず戦い、子犬のように懐き、奴隷のように付き従う!!一体、神は何を考えてこんな『都合の良い』生物を作ったのだろうなァ!!」

从 ゚∀从「うるせえよ」

川 ゚ -゚)「おっと、中には反抗的な艦娘もいるようだ。何故だろうなぁ?貴様、答えてみろ」


「……」


川 ゚ -゚)「はい、時間切れ!!どうやら、彼は身に覚えが無いようだな天龍!!」

从 ゚∀从「いつまで茶番やってんだよ……」


『天龍』と呼ばれた少女は、帯刀している近接艤装を抜いた
刃は赤褐色に塗られ、峰は中間部で一段落ちている
まるで、『艦首』を模したかのような刀であった


从 ゚∀从「さっさとぶっ殺そうぜ。売春斡旋のネタは上がってんだ。これ以上無駄に生かしとく必要もねぇだろ」

川 ゚ー゚)「フフーフ、天龍、天龍、天龍ゥ……堪え性が無いのはお前の悪い癖だ」

从 ゚∀从「ああ?」

川 ゚ー゚)「どのような悪人にも、『許されるチャンス』は与えられるべきではないか?我々だって過ちを犯す立場だ。一方的に裁きを下すなど、神も仏も首を傾げるぞ?」

354 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:57:50 ID:BYyQ37mk0
从 ゚∀从「そーかい、いつからご立派な信教者になったんだか」


不満げではあるものの、天龍は素直に刀を納める
代わりに酒瓶を手に取り、行儀悪く直飲みした


从 ゚∀从「ぷはっ……どーぞ、お続けくださりやがりませ。肴にもならねえ茶番をよ」

川 ゚ -゚)「ご協力、痛み入るよ天龍」

从 ゚∀从「ケッ」

川 ゚ -゚)「悪いな、話の腰を折ってしまって。えーと、なんだったかな……ああ、そうそう」

川 ゚ -゚)「子犬のように尻尾を振って懐いてくる小娘が、その後どうして反抗的な態度を取るようになるのか……見たところ、あー……」


男の顔は屈辱と恐怖と懇願が入り乱れ、汗と皺という無自覚の化粧を施していた
二十代前半という実年齢から、幾分か老けたように見える


川 ゚ -゚)「子供はいないようだな?結構、そのまま聞いてくれ」

川 ゚ -゚)「例えば、産まれたばかりの赤ん坊が二人、ここにいるとしよう」

川 ゚ -゚)「一人は、愛情という環境下に。もう一人は、身勝手という環境下に置く」

川 ゚ -゚)「余程のサイコパスでもない限り、前者は真っすぐに育つだろう。ではもう一人は?」

川 ゚ -゚)「決まってる。よほどの聖人でもない限り、歪んで育つのだろうよ」

355 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:59:31 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「彼女達にも、同じことが言えるのでは無いか?」


「ッ、私はただ……」


川  - )「誰 が 鳴 く こ と を 許 し た ?」


男の心臓が、キュウと締まりあがる感覚に襲われる
彼女の放った言の葉一つが、余りにも『冷たかった』からだ
それは、彼女にとっては些細な脅し文句だったのかもしれない、しかし
窮地らしき窮地に陥ったことすらない男にとっては、肝を掴まれるほどの迫力であったのだ


川 ゚ -゚)「フー……ある男は、艦娘をこう例えたよ」

川 ゚ -゚)「『艦娘は白いスポンジだ。人間と比べて、周りの汚濁を余りにもよく吸い込み過ぎてしまう』とな」

川 ゚ -゚)「生まれた時には既に物心ついた少女、淑女だ。だが、中身は社会の、人間の汚れを知らないオボコと来た」

川 ゚ -゚)「しかもだ、資材さえつぎ込めば幾らでも『新品』が作られる。なぁ、お兄さん」

川 ゚ー゚)「さぞ楽しかったのだろうなぁ、『生きたお人形遊び』は」


彼女は立ち上がると、床に転がっているリボルバーを拾いに歩いた
傍には、赤い切断面が鮮やかな指が数本転がっている


川 ゚ -゚)「長々と、わかりきったことを説明して悪かったな。しかし、こんな当たり前のことを、わざわざ説明しないとわからない連中がこの界隈には多すぎる」

川 ゚ -゚)「敵戦力と拮抗するためとは言え、『提督』というクソの役にも立たないカスをここまで増やす必要は無いと思うのだよ私は」


装弾数五発の『S&W M37』。日本警察に配備されている9㎜リボルバー
使われた形跡は無く、新品も同様の綺麗な状態だった
それを拾い、シリンダーをスイングアウトさせ、弾薬四発を掌に落としポケットに仕舞う

356 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:00:09 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「さ、て」


拳銃を振ってシリンダーを仕舞い、銃口を男の頭に突き付け撃鉄を上げる
血の気が引いていく男とは対照的に、彼女の色白い肌にはうっすらと赤が差した


川 ゚ー゚)「さぁ、質問だお兄さん。私は言ったな?『生物の序列について考えたことがあるか』と」

川 ゚ー゚)「人間は今、二つの種に迫られている。一つは言わずもがな。もう一つが、お前たちが弄んだ『お人形』だ」

川 ゚ー゚)「深海棲艦にも匹敵する、優秀な種を。それも、まだ共存する余地のある『艦娘』という種と」


川 ∀ )「積極的に関係を瓦解させていく人類は、これから一体どうなるのか?なぁ、答えてくれよ?お兄さん」


『艦娘』とは、深海棲艦の登場から数年後、突如として現れた『人類側の戦力』
『艤装』と呼ばれる装着型の兵器を背負い、海を駆け、砲と魚雷を放つ容姿端麗な少女達
人間に忠実であり、愛想があり、魅力がある。兵士としての役割だけではなく、一種の『偶像』としての力も持っていた

その体は、地球上には存在しない未知なる四つの『資材』と、所謂卵子の役割を果たす『開発資材』から構成されている

血を、汗を、涙を流すその体と魂は『母の身』を介さず
たかだか二メートル四方の、黒い箱から産まれ出る存在だ

故に、世間は彼女達を英雄視すると共に、懐疑と軽蔑の目も向けた

『得体の知れない奴らに、国防を任せても良いのか?』
『深海棲艦と変わりない化け物が、我が物顔で日本に留まるな』
『学生のような見た目をして戦争をするなど、不謹慎では?』

生物の誕生を根底から覆す彼女達は、例えるなら宇宙人やUMAと同等の『未知』だ
それを目の当たりにした民衆が恐怖と不安を覚えるのは、当然と言えるだろう

357名無しさん:2017/01/04(水) 01:01:53 ID:YTu82EnI0

(; ^ω^)「ってことは……」


 だとすると、ここは一日前だろうか。
 一日前の、どこだろうか。
 周りを見渡し、確認をする。

 そしてすぐ、ここがどこだか分かった。


(; ^ω^)「……同じ、場所?」


 今居るのは、あの施設内。
 どう考えても、一日前の景色ではなかった。

 恐らく数時間前でしかないはずだ。


(; ^ω^)「ど、どういうことなんだお……?」
  う


 今までと同じように”戻る”のであれば、これはおかしい。
 何かが起きてるのは間違いない。

358名無しさん:2017/01/04(水) 01:02:14 ID:YTu82EnI0
最高にミスりました申し訳ないです

359 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:02:27 ID:BYyQ37mk0
しかし世間は守られている立場だ。不平不満を声高々に響かせる市民団体も少なくは無いが
『英雄』としての確固たる評価と敬意を示す者も多かった
人命を脅かす怪物を討ち滅ぼす女神は、虐げられていた人々に希望を与えたのだ

世間は称賛と、不満の声を上げる。それは大した問題ではない
応援は体に力を漲らせ、罵倒は心に傷をつける。問題では無かった
人間社会、人生でも『当たり前に起こりうる出来事』であるからだ

問題は、艦娘を『益』と見た政府と海軍であった


「わ、私はただ上層部の指示に従っただけだ!!」


切断された右手の指を左手で包み込み、声を震わせるその姿は、さながら神の像を前にして懺悔をする罪人の有様だった
だが、男の眼前にいるのは神ではない。ただの女だ


川 ゚∀゚)「ほう!!続けろ!!」


ただ銃を突き付けて、人形のように整った顔を醜悪に歪ませ嗤う、ただの女だ


「か、か、艦娘の派遣は世間が抱える戦争に対するストレスの減少になる!!わ、わかるだろう!?これは私欲からの行動じゃない!!」

「そう、そうだ!!『癒し』だ!!人が、人らしい幸福を得るための義務に応えただけだ!!」


从 ゚∀从「……」


天龍は酒を大きく煽ると、酒瓶を割れんばかりにデスクへと叩きつけた

360 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:03:49 ID:BYyQ37mk0
「ヒィッ!?き、キミ達には悪いことをしているとわかっている!!しかし、同意の上での派遣だ!!」


从 ゚∀从「『断れないことを前提にした』同意か。懐かしいぜ、バカみてーにてめえら『提督』に付き従ってた、あの頃のオレがよ」


川 ゚ -゚)「そう責めるな、天龍」


不意に、女の顔が無表情に戻る。引き金から指を離し、銃口を地面へと向けた
そしてしゃがみ込み、男と目線を合わせる


川 ゚ -゚)「なるほど、お前の主張はわかった。『他人の為に、あえて悪の道へと進んだ』。そう言いたいのだろう?」


「あ、ああ!!そうだ、そうです!!私だって、本心から彼女達を送り出したわけでは――――――」


男の言葉は、『床』と『痛み』によって遮られた
鼻先に広がる熱と激痛。割れるような額の痛みが、喉から言葉ではなく、悲鳴に似た呻きを上げた


川 ゚∀ )「そんな主張は、これまで散々聞いてきたんだよ。違う、違う、違う……」


男の髪を掴み、顔面を地面に叩きつけた当の本人には、醜悪な笑顔が再び浮かび上がる


川 ゚∀゚)「違う違う違うぅぅぅ!!!そうじゃあないだろう!?なぁ!?私は貴様の『本心』を!!」


頭を持ち上げ、叩きつける


川 ゚∀゚)「心からの『欲望』を!!!!」


叩きつける


川 ゚∀゚)「下衆な『本性』を!!!!!!!!」


叩きつける


川 ゚∀゚)「人間の『汚さ』を!!!!!!聞きたいんだよ!!!!!」

361 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:04:55 ID:BYyQ37mk0
「ガ……」


鼻が文字通り曲がり、前歯は折れ、蒼白の顔面は生々しい赤色に染まる
女は自らの眼前まで男の頭を持ち上げ、拳銃を顎下に突き付け、囁いた


川 ゚∀゚)「それを曝け出して、初めて貴様の言葉は私の胸に突き刺さるのさ」

川 ゚∀゚)「さぁ、聞かせろ。汚泥のような醜い本音を。私の『指』を止めて見せろ」


フロントサイトで、顎を愛撫するかのようになぞる
撃鉄は引かれた状態のまま、指はトリガーに掛かっている


「ブフー……ブフー……」


男に、『提督』に求められたのは、綺麗事や建前ではない
生物の欲望を煽る美しさと、犬のような忠実さを併せ持つ艦娘を、どう思い、どう扱ったか
親を持たず、人権も無く、守られる法律も無い彼女達は、男の目にどう映っていたか
女が求めているのはその本心だ


「ア……ああ、ひってやる、ひ、言ってやるとも……!!」


彼の心を覆っていた、『正当化』という皮が剥がれ落ちていく


『戦争だから』『人の為だから』『正義の為だから』


体裁を保つための詭弁では、目の前の悪魔は満足しない
悪魔に『情』など無い。あるのは、愉悦を求める底なしの欲だ

『愉しませる』ことだけが、命を繋ぐ可能性なのだ

362 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:06:18 ID:BYyQ37mk0
「き、ひ、決まってんだろ……」


男は半ば自暴自棄だった。彼は初めて、自らの本音を吐き出す
それまで彼は、欲望と良心を両方とも肯定する『言い訳』を、ずっと自分にも言い聞かせていたのだ


「か、かっ、艦娘は金になるんだ……考えてもみ、みろ!!資材さえあれば、年頃の美女が幾らでも生み出せる!!」

「そりゃ、俺だって最初は使命に燃えていた提督だったさ!!だ、だ、だけど!!」

「上層部からのプレッシャーや、戦果ノルマに追われている内に、お、お、俺は疲弊しきった!!外出もロクに出来ず、給金だってまともに使えない、圧迫された生活に!!」

「その内、狂うんだよ……貢物をしなくても、ご機嫌を取らなくても、懐いてくる美女に囲まれていたら!!」

「俺の、俺の良心のひび割れに、水を注ぐように入って来るんだ……欲望が!!」


川 ゚∀゚)「それで艦娘を好き放題犯し、売春で小銭を稼いでいたと?」


「構わないだろう!!どうせ幾らでも湧いて出る代物だ!!海軍大本営だって黙認している!!」

「俺たちは人間だ!!艦娘よりも、深海の連中よりも、心身共に脆弱な生き物だ!!」

「だったら!!少しくらい我を通してもいいじゃないか!!あいつらは兵器だ!!モノだ!!工場で作られる玩具と変わりないだろう!!」

「少しくらい遊んだって、少しくらい、懐を潤したって、だ、だ、誰も責めやしない!!誰もだ!!」


川 ゚∀゚)「ハハ……ハハハ!!天龍、聞いたか!?どいつもこいつも変わり栄えしない、似たような答えばかりだ!!」

从 ゚∀从「ああ。こいつら、二言目には『疲れた』『狂う』『あいつらはモノだ』だからな」


「ど、どうだ……言ってやったぞ!!ああ!?」


喚いた男の口から飛び出た血の飛沫が、女の顔に小さな斑点を作る
男は自暴自棄だった。勘の悪い者でも、この後どのような結末を辿るかなど容易く理解できる
『どうせ殺されるのだ』という諦めが、今際の際の虚勢を絞り出してた

363 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:07:51 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「ああ、ご苦労だった」


女は表情を戻すと、額に銃口を押し当てる


「ッ……」


男は唇を噛みしめ、瞳をきつく閉じて人生最後の痛みに備えた


川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ー゚)「クッ、クク……」


しかし、何時まで経ってもその瞬間は訪れない
その内、額から冷たい鉄の感触が取り除かれた


川 ゚ -゚)「約束は守るさ。お前は見事、私の指を止めた」

「はっ……?」

川 ゚ -゚)「『心に突き刺さったよ』。貴様の、室外まで響く本音はな」

「じゃ、じゃあ……」


男は目を見開くと、女は既に立ち上がり帰り支度を始めていた


「こ、殺さないのか?」

川 ゚ -゚)「ああ、『殺さない』さ」

「ほ、ほ、本当に?」

川 ゚ -゚)「勿論」


天龍はフックに掛けられていたコートを取って広げ、女が袖を通す
拳銃は手に握られていたままだったが、グリップでは無く銃身を掴んでいた

364 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:09:39 ID:BYyQ37mk0
九死に一生を得た男は、浅く呼吸を繰り返す
鼓動と痛みが、その実感を味あわせてくれた
『生きてもいい』。打って変わってそっけなくなった女の態度は、赦免のように思えた


「ああ……ああ、す、すまなかった……俺が間違ってた……すまない……すまない……」


川 ゚ -゚)「……」


扉に向かう女は謝罪に見向きもせず


从 ゚‐从「……」


対して天龍は、蹲る男をゴミを見るかのように一瞥した


「これからは心を入れ替えるよ……艦娘も大切にする。今日この日を教訓に……」


川 ゚ -゚)「おい」


「はっ、はい!!」


女の呼びかけに、男は咄嗟に扉の方向へと向き直る
次の瞬間、開いた扉の先を見た男は


「」


絶句した

365 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:10:55 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「殺しはしないさ。『我々は』」


そして男は女の本当の意図を理解した

何故、証拠を掴んでいながらすぐに殺さなかったのか
何故、自分から本音を引き出させたのか
何故、グリップではなく銃身を掴んでいたのか

何故、会話の中で『室外まで響く本音』を強調したのか


「あ……は、榛……名……」


扉の先に立っていたのは、男が唯一『指輪』を渡し、唯一寵愛を注いだ秘書艦娘だった


ミ*゚∀゚彡「オラ、入れよ」


榛名の背後に立ち、後頭部を銃口で小突いたのは高雄型重巡洋艦の三番艦である『摩耶』
男の艦隊にも同種の艦娘はいたが、全くの『別人』だと嫌でも思い知らされた
女に付き従う天龍と同じ、『人間に恨みを持つ艦娘』だと


川 ゚ -゚)「ご苦労、摩耶」

ミ*゚∀゚彡「お前らばかり楽しみやがってずりぃぜ全く……天龍、俺にもくれよ」

从 ゚∀从「ほらよ」


天龍から酒瓶を受け取った摩耶は、銃を降ろさず口を付ける

366 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:12:41 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「さて、お嬢さん。お騒がせして悪かったな」


女は口を開かず、ただ男を一心に見つめる榛名の右手を取り


川 ゚ -゚)「我々はお暇する。これは鎮守府の備品だろう?『返すよ』」


拳銃のグリップを握らせる。摩耶は酒を楽しみながらも、榛名に銃口を軽く押し当てプレッシャーを掛けた


「ま、待て……待ってくれ!!」


川 ゚ -゚)「あっあー、もてなしを受けたいのは山々だが生憎我々はこれでも忙しい身でね」

川 ゚ -゚)「お互い、積もる話もあるだろう。お邪魔しては悪い。部外者は消えるとするさ」


「こ……こんなのって……!!」


最後に、女はとびきりの笑顔を作った


川*^ー^)「ごゆっくり」


それも、刹那と持たず


川 ゚∀゚)「は、はは」


あの醜悪な嗤いに変わっていく


川 ゚∀゚)「ハハハハハハ!!!!ハハ、傑作だな!!」


浴びせるように男に嘲笑を贈った彼女は


川 ゚ -゚)「それでは、失礼」


コートを翻し、司令室を後にした
天龍が後に続き、最後に銃口を向けたままの摩耶が、足で扉を閉める
部屋には男と、一発の弾丸が込められた拳銃を握った榛名が残った

367 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:13:44 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「ふぅ」


部屋を出た女は、すぐに歩こうとはせず室内に耳を傾けた
聞こえるのは、男の命乞いの声だけだ。だんだん口調が荒くなっていくところを見るに、上手くいってはいないらしい


川 ゚ -゚)「行こうか」

从 ゚∀从「いいのか?」

川 ゚ -゚)「さぁな……おっと」


女は足元の障害物をひょいと避ける
その障害物は、廊下に点々と落ちていた
どれもが人の形をし、女であり、全てが血を流し、全てが息をしていなかった

どれもが、『提督』の良識を信じ、戦い死んだ艦娘だった


川 ゚ -゚)「お前らはもう少し綺麗に殺せないのか?」

ミ*゚∀゚彡「無茶ゆーなよ。お行儀よく横並びに殺せるかっての」

从 ゚∀从「二人で一施設分丸々相手してやっただけでも上出来だろ」

川 ゚ -゚)「現状に満足しては進歩は無いぞ。こんな話を知ってるか?とある人間が一人で海域の解放を―――」


その時、軽い銃声が女の言葉と足を止めた


川 ゚ -゚)「……ハァー」


女はその音を、しばし聞き入った後


川 ゚ -゚)「『往け』」


と、両端の二人に短く命令した

368 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:15:44 ID:BYyQ37mk0
从 ゚∀从「クソ、またかよ……」


天龍は刀を抜き


ミ*゚∀゚彡「どいつもこいつもお人好しで困るぜ」


摩耶は酒瓶の底を壁に打ち付け叩き割った


川 ゚ -゚)「いつも通りだ。『二人共』殺せ」

ミ*゚∀゚彡「りょーかい」

从 ゚∀从「あいあい……」


気の抜けた返事とは裏腹に、足早に来た道を戻る二人
女はコートのポケットから煙草を取り出し、咥えて火を着けた


川 ゚ -゚)y-~「ふーっ……」


ドアを蹴破る音。すぐさま、一人が倒れ込む音が聞こえた
水っぽい咳が何度か聞こえ、それは直に掻き消えるように聞こえなくなった
代わりに耳に飛び込んで来たのは、男の慟哭。秘書官の名を何度も叫んでいた

それも長くは続かず、次に『話が違う』だの『帰ったのでは』だの、『助けてくれ』だのと命乞いに変わる


川 ゚ -゚)y-~「散々、他人の人生を弄って、食い散らかして……」


その命乞いも、『重い球が転がるような音』の後に、聞こえなくなった


川 ゚ -゚)y-~「生きて許されようなど、虫の良い話ではないか?」

369 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:16:43 ID:BYyQ37mk0





艦娘は『益』である





これは、彼女達を管理する政府、海軍両名の共通認識だ
日本は深海棲艦発生率が最も多い激戦海域であると同時に、唯一の艦娘保有国でもあった

しかしながら、深海棲艦は日本海域に限らず世界中の海に現れ、シーレーンを封鎖
流通と漁業は大幅な制限を強いられ、株価は暴落。世界恐慌へと突入した
世界各国は深海棲艦用の兵器開発を進めたが、どれも有力な成果を挙げなかった

日本は先進国に向け、艦娘を派遣。輸送船護衛や海域解放に、大いに貢献した
『隣の国々』は兵力の独占を大々的にバッシングしたが、陸上にまで侵攻され始めた時には鳴りを潜め、日本の救援を求めた

これに対し日本は世界各国へ向けて『支援』を要請した。艦娘の派遣にも金と資源が必要であり、国家予算では賄えないという理由で
そんな事は無かった。艦娘製造コストであり、艤装のエネルギー元である資材は山ほど手に入ったからだ
無くなっても、一定の量になるまで増え続ける無限の資源が、彼女達を作り、動かしていた

各国諜報部はこの情報を掴んではいたが、指摘までには至らなかった
現状、各国が回っているのは『日本』と『艦娘』あってだからだ。特に先進国は事を慎重に構えた
もしも日本からの艦娘派遣が途絶えれば、他国との競合に大きな遅れを取ってしまう
かと言って常任理事国が手を組んで敵対の意思を示してしまうと、今度は深海棲艦の侵攻に手を焼く

石油や天然ガスの資源供給の停止や、輸出食品量の制限なども、結局は自国の首を絞める制裁でしかなく
各国は日本の要求に、ただ従うしかなかった

日本政府は、人類以外の外敵の出現と、唯一の対抗戦力の独占により

史上、類を見ない『軍需』を手にした

370 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:17:21 ID:BYyQ37mk0




艦娘は『益』である




海軍は艦娘に対して唯一絶対の掟を設けた

『艦娘三原則』


・第一条 艦娘は人間に危害を加えてはならない。
・第二条 艦娘は人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
・第三条 前掲第一条及び第二条に反する恐れの無い限り、自己を守らなければならない。


アイザック・アシモフが提示した『ロボット工学三原則』を元に考案された原則である
人間への安全性、命令への服従、自己防衛を目的とする三つから成るこれらは、艦娘を『人』ではなく『物』として扱う深意が含まれている
『物』をどう扱うかは、それぞれの鎮守府に配属された提督に一任され、それがどうなろうと厳しい刑罰を科せられることは無かった
それは人命、ひいては指揮官の身の安全と戦果を第一に考えられており、実際に戦場に立つ『物』はその役割を果たすために働かなければならない
極端な話ではあるが、提督の命令が『死ね』であるならば、人命を守るため従わなければならない

だが、彼らが率いる『物』は人間と変わらぬ姿であり、人の身を介さず産まれ出たとしても『生きている』
そう易々と特攻命令を下す提督は少なかった。彼らにも良心があり、例え『物』として扱われる存在だとしても、情はあった

情はあったが、人間にはもう一つの顔がある。『欲』である
生きる為に、充実した人生を送るために必要なファクターではあるが、多種生物に比べ人間のそれは計り知れない
勝利を得れば次の勝利を。階級が上がれば次の階級を。普通の人生では得られない、『戦争の酔い』
やがて彼らは効率よく、それでいて連続して勝利を得るために『物』を使い潰し始めた

それだけではない。艦娘はその誰もが魅力的な美女である
鎮守府という外界から隔離された施設で、彼女達に囲まれている内に、提督の中に抗いようのない肉欲が生じる
『物』という立場と原則を悪用し、有無を言わさず性交に及ぶ事態が後を絶たなかった

そしてその欲は、鎮守府の外へと伝染した

施設にも最大収容人数が定められており、これを越さない為に建造や海域からドロップした艦娘は『解体』及び『近代化改修』に回さなければならない
人によって誤解が生じているが、本来これらは『艤装』のみを対象としたもので、艦娘本人は大本営預かりとなり次の派遣先が決まるまで待機となる
だが、提督が報告書に『轟沈』と書き示せば、それはどこにも属さない一人の女として手元に残るのだ

『性』は金になる。そこに目を付けた提督と、外部の人間は、一般人に向けた違法風俗を展開した
途端に、人々は金をつぎ込んだ。人間の女性が働く風俗と比べ、ハズレが無く
賃金を払う必要が無いので、料金は割安だったのだ。艤装を奪われた彼女たちの多くは、性奴隷としての道を辿った

371 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:17:56 ID:BYyQ37mk0
風俗店で使い物にならないと判断されれば、富裕層に向けて販売された
富裕層が飽きれば、他の誰かの手に渡った
他の誰かが飽きれば、また他の手に渡った
心身が壊れたと判断した誰かは、人の目に付きやすい場所に捨てた
学生がその場所で拾い、成年雑誌を回し読みするかのように弄び
いよいよダメだと判断すれば、またどこかに捨てる

『捨てられた艦娘』は、失意と絶望の果てにこうして一生を終えるのだ



だが、例外もいた



傲慢な人間に怒りと殺意を覚え、泥を啜ってでも報復の為に生きようとした艦娘
砲火と水しぶきが入り混じる戦場に恋い焦がれ、海に還るまで死ねないと這いずる艦娘
提督の愛を信じ続け、再会を夢見て立ち上がった艦娘


死の安楽を真っ向から拒否し、生の道を選んだ『艦娘達』
そんな彼女達を集め、まとめ、願いを叶える人物が一人



川 ゚ -゚)y-~「ふぅーっ……」



女の名は、『素直クール』
『捨て艦娘達』の提督であり、海軍が産んだ見えざる怪物であった

372 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:18:52 ID:BYyQ37mk0


川 ゚ -゚)y-~「序章はここまでだ」



彼女は語る、誰もいない虚空に向かって
彼女は語る、舞台と客席を隔てる『壁』に向かって


狂った彼女は語りかける。『このゲームをプレイする、別の世界の誰か』に向かって


川 ゚ -゚)y-~「さぁ愉しめ、観客共。目を閉じず、耳を塞がず」


煙草を足下に落とし、踏みつける
彼女はそのまま歩き出した。静かになった司令室からは、二人分の足音が続く


川 ゚ -゚)「これは一つの原題から産まれた、幾千の物語の中の一つ」


川 ゚ -゚)「タイトルは」





『捨て艦娘がいる鎮守府 ‐Mermaid Naval District‐』







373 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:19:19 ID:BYyQ37mk0












coming soon……

374 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:23:31 ID:BYyQ37mk0
>>.358 気にしなくてええやで


異常が序章です
クソ眠いんで要点だけ伝えると

・最高にワルなクールを書きたかった
・本章まだ書いてない

です。眠いので寝ます

375名無しさん:2017/01/04(水) 01:29:17 ID:zblw43OU0
乙!!
ずっと待ってたからリアタイで拝めて嬉しい。次も楽しみにしてる。

376名無しさん:2017/01/04(水) 01:47:05 ID:pZq577GQ0
乙 良いクールだ
クソ提督ばっかでよく海軍回ってんな……

377名無しさん:2017/01/04(水) 02:21:55 ID:vjg4Y8Ic0
乙!
本章も楽しみにしてる

378名無しさん:2017/01/04(水) 03:13:04 ID:kFpgIqII0
オウ、クール
回ってなかったからアカツキに入りこまれたのだ

379名無しさん:2017/01/05(木) 00:54:40 ID:THLO.zrk0
提督がクソすぎてやむなしとしか

380 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:30:52 ID:lIaAaTQ60
『後を託す』

俺も過去に何度か言われた言葉だ。全く冗談じゃねえ
そりゃ言う側は楽だろうさ。だが言われた側にとっちゃ重てえプレッシャーがのしかかってくる
それも世界の命運が掛かってりゃ尚更だ。俺が世界最強の男だからって、支えるモンにも限界がある。だろ?

だが、今になって漸く気がついた。この言葉は簡単には言えねえってな
後もなく、手立てもない。だから『なんとかしてくれる』っつー期待と信頼を以て言わねばならない
ハハ、無責任なことにな。しょうもねえ







原作『艦隊これくしょん〜艦これ〜』





.

381 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:33:04 ID:lIaAaTQ60
改めて自己紹介をしよう。俺はこの場所で提督をしていた者だ
本名は知ってるよな?どうせ今頃にゃ毎日テレビで報道してんだろ
勘弁して欲しいぜ。自分の名前あんま好きじゃねーんだよ。女の子みたいで
にも関わらずズケズケと報道するんだからメディアってマジクソだよな

恐らく、名前の後にはこう続いてるはずだ
『戦後最悪の戦争犯罪人』『人類の裏切り者』『艦娘を私物化しようとした変態』『国連事務総長殺害容疑者』
言っとくが、最後以外全てデマだ。事務総長については特に大した理由はない。只の私怨だ。なんならインスタにアップしても良かった

こうなった経緯だが、単純に言えば『嵌められた』ってとこか。まぁ、そうする必要があったとも言い切れる
知っての通り俺が率いた艦娘部隊は国内外で最強と呼ばれた存在だ。故に、様々な『ワイルドカード』として国家間の利権争いに巻き込まれてしまった
提督という立場になって、俺は再認識したよ。『世界平和なんて到底叶わねえんだな』ってよ
だから一度、俺たちの真の目的を果たすために、敢えて汚名を被り存在を消す必要があった
これもメディアが報じてるだろうよ。『国連特殊部隊、集団心中』ってな

そうして表舞台で姿を眩ませたのち、俺たちに賛同する強力な支援者の元、水面下で部隊を再編
国家に縛られない、真の遊撃部隊として活動を再開する。これが俺の立てたシナリオだ
すんなり行くとは思わねえが……提督たる俺よか優秀な副司令艦がいるんだ。なんとかなるだろ






…………






作 ◆HS4z8y6JHc
協力◆vVnRDWXUNzh3





382 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:33:57 ID:lIaAaTQ60
俺も、あいつらの側にずっと居てやりたかったが、別の仕事が出来た
『味方』として働けるのは、この後の一仕事で終わりだろう。間も無く俺は、『裏返ってしまう』


……


ああ、クソ。チクショウが。『人類の裏切り者 』っつーのも、あながち嘘じゃねえ
だが俺は、この終わりの見えない深海棲艦との戦争に終止符を打てるヒントに一番近い存在だ。分の悪い賭けでも、乗るしかねえ


『例え、愛した娘達に矛を向けることになっても』だ







原案『( ^ω^)ひたすら嘘予告をしていくようです』

『艦隊これくしょん〜漢これ〜のようです』
『('A`)提督だけど艦娘がいない鎮守府に配属されたようです』
『艦隊これくしょん 〜仮面ライダー青葉〜 のようです』


『大ブン動会!〜2016年紅白〜』

『艦娘がいない鎮守府のようです』



.

383 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:34:41 ID:lIaAaTQ60
この独白が、お前の手に渡ったのは偶然じゃない。俺はあいつの目を信じる

『彼女達と共に生き、戦い、暁の水平線に勝利を刻むに値する人物』

それがお前だ。もう一度言うぞ。『後を託す』
お前が本気で世界を変えたいと望むなら、俺が遺した全てを差し出そう
ただし、『小娘共』はそう簡単に言うことを聞くと思うなよ?俺だって散々手を焼かされたんだからな

先ずは青葉を頼れ。どうしようもねえ戦闘狂だが、話は聞ける古参だ。親身になってくれるだろう
戦う力が欲しいのなら、天龍に稽古をつけてもらえ。但し、相応の覚悟を以ってな。そこらの天龍とはワケが違うぞ
疲れた時には金剛のお茶会に呼ばれると良い。アホな奴だがあいつの入れる紅茶は染み入るように美味い
嫌なことがありゃ軽空母連中の飲み会に混ざれ。ゲロと頭痛でそれどころじゃなくなるからな
夕立とは根気のいる付き合いになるだろうな。お前が知ってる夕立とはだいぶギャップがあると思うが、優しく接してやってくれ
ウォースパイトは日本に帰化した英国艦だ。彼女を祖国から守ってやって欲しい
それ以外の海外艦は国へ帰したが、それでも戻ってきた時には暖かく迎え入れてくれ。ビスマルクは腐女子だ
加賀と瑞鶴の言い争いは別に放置しても構わねえ。あいつらどうせクソくだらねえ事でしか喧嘩しねえから
二週間に一回のペースで鈴谷が夜に騒ぐと思うが、絶対に目を合わせるな。思いっきり床に叩きつけたくなけりゃあな
熊野にお嬢様感を求めるなよ?あいつ狩猟が趣味のハンターだからな
これは必ず頭に叩き込んで欲しいんだが、怪奇現象に襲われた時は自分で対処しようとせず真っ先にあきつ丸を呼べ
エイリアンが徘徊してる場合は別だ。初月を呼べばいい
衣笠にタバコ吸いすぎんなって間違っても言うな。絶対にタバコを取り上げるな
瑞鳳は度々変わった口癖を言う。会話しにくいと思うが、何、すぐ慣れる
自分ではどうしようもねえと到ったなら、古鷹を呼べ。彼女に逆らえる艦娘はほぼいない



叢雲を、支えてやって欲しい。とびきり優秀な参謀……いや、今は司令艦か
気丈に振る舞ってるが、何でもかんでも一人で抱え込んでは押し潰されるタイプの子だ
俺が言える立場じゃないのは重々承知してる。恥を忍んで頼もう
どうか、あいつの良き相棒に、理解者になって、抱える荷を軽くしてやってくれ


時雨に関しては、お前にも……いや、誰にもどうにかすることは出来ない。諦めてくれ
今はもう、一縷の望みにしか縋っていないのだろう。端から見れば『病んでいる』とも見て取れるはずだ
俺に出来たのは、彼女が俺と共に死なないように突き放すことだけだった。どんな苦しみが待っているかもわかっていた
どんなに残酷でも『生きて欲しい』と願うのが親心だ。そうだろ?
どうにかしようと思うな。下手に手を出せばお前の寿命が縮まるだけだ。姉妹艦に任せるのが最善手だろう
それでも、お前がどうしようもないお人好しで、人の忠告を聞かないとんでもねえバカならば
一切の容赦をせず、あいつに向き合え。泣かせても構わん。半殺しにしてもいい。ただし、それ相応の報復を覚悟しろ
血みどろの対話を経て、彼女と『信頼』を結べたのなら、これ以上ない心強い味方になるだろう

384 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:35:35 ID:lIaAaTQ60
どうか、俺の娘達をよろしく頼む。お転婆で、じゃじゃ馬で、お脳から常識っつーもんが欠如してる、俺の可愛い娘達を


彼女達を幸せにして欲しい


その為に俺は手段を選ばなかった。時には犯罪紛いの行為にも手を染めた
不器用なもんでな。俺も叢雲の事を言えねえ。一人でなんとかしようとした
お前は俺のようになるな。遺した物には『人脈』という武器もある。いざとなれば頼れ

……いや、そもそも、これを読んでいるのは『お前達』なのかもな

もしも隣に、背中を預けるに値する仲間がいるなら、絶対にその繋がりを絶つんじゃねえ
オカンも言っていた。『人の情だけは捨てるんじゃない』と。情が、人間を人間たらしめる唯一の要素なのだと
俺も深く肝に銘じて生きてきたつもりだったが、どこかで怠ってしまったのだろう。戦友を手に掛けた時、それを痛感した

お前達に同じ道を辿って欲しくない。決して裏切るような真似をするな。今、隣にいる『誰か』は力であり、救いだ
そいつに命を懸ける覚悟を以て生きろ。他人に『依存だ』とコケにされたらこう言い返せ


『これこそ、俺達の最強の武器だ』とな


……長々と時間を取らせて悪い。最後に一つ、檄を贈らせてくれ

385 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:36:20 ID:lIaAaTQ60
今からお前が歩む道は、茨で舗装されている
敵は深海棲艦だけじゃない。欲望や悪意ある人間や、権力、時には国家すら容赦なく襲い掛かる
だが、臆することは無い。お前の背には、俺が育てた最強の戦力がついている。お前が歩む道は、俺達の屍でこさえてやる
幾千の戦場と死線を越え続けろ。勝利の女神の存在を疑うな。友が膝を着いた時には、肩を貸して前に進め
絶望に身を委ねるな。拳一つ残ってりゃ、それがお前の勝ち目だ。固く握りしめて、お見舞いしてやれ

このクソに溢れた世界で、『最強の男』になって






『俺を越えてみせろ』







健闘を祈る。提督殿








作 ◆L6OaR8HKlk








386 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:36:47 ID:lIaAaTQ60





「……」




「好き勝手、言ってくれるじゃねえか」




「それに、話も違うぜ?アンタの言う『娘達』ってのは、一体どこで何してんだ?」




「……」




「ハァ……故人に文句言っても始まらねえ。『俺を越えてみせろ』?上等だ。燃えるじゃねえか」




「その与太話、乗ってやる。一切合切全て救って……」




「歴史に『最強の男』の名を刻んでやるよ」

387 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:37:15 ID:lIaAaTQ60





「『抜錨』」






『Weigh Anchor!!』






388 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:37:52 ID:lIaAaTQ60




|::━◎┥「東郷ドクオ。改め、駆逐艦『電』」




|::━◎┥「出撃するッ!!!!!」






艦娘がいない鎮守府のようです 改








389 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:38:19 ID:lIaAaTQ60
























追伸

長門に気をつけろ

390名無しさん:2019/02/02(土) 22:39:49 ID:whbJc6As0
まじか、支援
くそ楽しみにしてる

391 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 23:36:40 ID:lIaAaTQ60
艦これSSの方メインでやってるんですけど、他作者さんとのコラボで世界観広がったし今ニートで時間クソ有り余ってるんでリブート版予告編です
もう紅白関係ないし艦これ未プレイ読者とか知らんもんってコンセプトで書くつもりなんで、ブッチギリで置いてけぼりにします。よろしくお願いします


https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546267221/
https://engawa.open2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1536501657/


あと予習必要になると思うんで頑張って読んでください。前提督の話です。ブーン系要素あります

392名無しさん:2019/02/03(日) 04:20:01 ID:a5LqRBmM0
おう毎秒書くんだよあくしろよ

楽しみに待ってます

393名無しさん:2019/02/03(日) 05:36:40 ID:FnVCWH2U0
続き書いてくれるのか ありがたい
楽しみにしてる

394名無しさん:2019/02/03(日) 17:58:51 ID:qCgQeeHw0
    ∧_∧
    (0゚・∀・) ワクワク
  oノ∧つ⊂)
  (0゚(0゚・∀・) テカテカ
  ∪(0゚∪ ∪
    と__)__)

395 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:19:53 ID:vpwffbZI0
『よだか』。俺のあだ名だ。宮沢賢治の小説は読んだことあるか?国語の授業で習っただろ?
『実にみにくい鳥です』。他の鳥はそいつの顔を見ただけで嫌になっちまうっつってな。他人事じゃねえと思ったよ
ただ、あの話は最後に、鷹に迫害されて住処を追い出されたよだかが、空高く舞い上がって星になるっつーオチだった。

気に食わなかったね。他の鳥を見返しもせず、最後はお星様だぁ?
意味がわからなかったし、テストで『作者の心情を答えよ』と問われても、俺にはさっぱりだった
だからせめて俺は、突っ張って生きてやろうと思った。馬鹿にした連中には噛み付いてやったし、誰にも負けないように腕っ節も鍛えた
そうして行き着いた先が、『海軍』っつー腕力が物を言う職場だった

ガキの頃は『せんそうはいけないことです』だなんて教育が当たり前だったよな?
だが今となっちゃ、『いけないこと』をしなきゃ生きていけない環境になっちまってる。言い換えりゃ『戦争で食える』世界だ
兵士は正に天職だった。死と隣り合わせだが、殺せば殺すほど評価される。しかも相手は同じ人間じゃねえ。海からやってきたバケモノ、『深海棲艦』とその眷属
それと宗教の為なら自爆も辞さないクソテロリスト。良心はチクリとも痛まなかったね
男ばかりの組織も、ブサイクな俺には気が楽だった。勘違いしてもらっちゃ困るが、別にそっちの気があるワケじゃねえ
顔面格差による劣等感も、いくらか安らいだってだけだ。戦場を渡り歩いた戦友とも、良い関係と築けていた

396 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:22:20 ID:vpwffbZI0
あれはアフリカでの防衛戦だった。深海棲艦および『寄生体』の侵攻を食い止める任務だ
俺は避難民の受け入れ及び警護を担当していた。楽な仕事じゃねえが、命の危険は前線より遥かに少ない
海辺から微かに聞こえるドンパチをBGMに、夜間の哨戒に就ていた。娯楽も何もねえ場所だったが、星は綺麗でな
夜空を眺めながらぶらついていたら、戦友の一人が『おい、おい』と呼んだ。戦場には似つかわしくない、新しいオモチャもらったガキみてーな顔してたよ

それがなんだか可笑しくて、俺も釣られてニヤついた。「何だよ」と聞くと、「良いから」と言いながら手招きをした
任務の最中だったが、ちょっとくらい良いだろうと思ってついていった。てっきり、ハッパでも……おっと、これはオフレコで頼む
案内された先は廃墟寸前の民家。避難区のテントから少し離れた場所だった
窓からは温暖色のLDEライトの灯りが漏れ、笑いと話し声が聞こえた。戸がぶち壊れた玄関には、申し訳程度の隠し布がされていてな


「ケーキとクラッカーでお出迎えか?誕生日はまだ先だぜ?」


そう聞くと、戦友は『頼むぜオイ』とも言いたげに空を仰いだ


「任務ばっかで気が詰まるだろ?分隊長殿が息抜きを手配してくれた。さぁ、入れよ」


俺は呆れて笑っちまった。任務中にも関わらず、不真面目なこって。とな
とは言え、分隊長殿の厚意を無下にはできない。それに俺も『息抜き』は嫌いじゃない
現地の商売女でも呼び込んだんだろうとでも期待して、隠し布を払い中に入った


そして、室内の様を目の当たりにして、俺の笑顔は引きつった

397 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:25:17 ID:vpwffbZI0
出迎えの歓声あげる分隊のメンバーと、『息抜き』を用意した分隊長殿
そしてその中心には、四肢を拘束された『日系』の少女が、猿轡をされて横たわっていた
その瞳に涙と、猛烈な怒りを燃やして俺を睨めつけている。アフリカの地に削ぐわない『セーラー服』は目も当てられないほど破け、所々に焦げ目がついていた
『人間じゃない』と一目見てわかったのは、その娘の髪色が『銀色』だったから。陽炎型駆逐艦、『浜風』と呼ばれている艦娘だった


「分隊長殿、これは?」

「何、ここ一帯を締める提督殿とはちょっとした顔見知りでな。手を回してもらった」


俺の声は震えていたが、周りの連中は手拍子と囃子をあげる。頭は悪酔いしたかのようにグルグルと回り出し、喉から込み上げてきた吐き気をグッと堪えた
それが、連中には期待で唾を飲んだかのように見えたらしい。両手に構える四キロ近い鉄の塊が厭に重くなって、壁に立てかけた
傍に立つ、俺を呼び寄せた張本人は肩に手を置いて顔を近づけた。吐く息から、酒の臭いがプンと鼻につく


「分隊長殿がな、素人童貞のお前に一番に良い思いさせてやろうってんで俺らはお預け食らってたんだ。果報者だなぁ?ええ?」

「『よだか』のお前にゃ一生に一度あるか無いかの機会だぜ?逃す手はねえって!!」


わかっていた。男社会の海軍にとっては、同じく戦場に立つ目麗しい艦娘は性の対象になるってことも
ただそれは、酒の肴に話す卑下た妄想の粋に、『いつかヤれたらいいな』くらいの妄想に留まっていると思っていた
そりゃ、それくらいなら俺だって幾らでも付き合った。妄想も、無いと言えば嘘になる
それに、分隊長の『厚意』も、他の連中の『お預け』も、欲望はあるだろうが俺を想っての行為だろうと理解もできた。だが


「……ああ、すまねえ」


商売女ならどれだけ気が楽だったことか。『仕事』というサービスを受けることで『対価』を支払う、言わば対等の立場と合意の上に行われる行為だ
しかし艦娘が、俺ら兵士を差し置いて、最前線でバケモノと戦い続ける少女が


ただの『息抜き』として使われるのは、我慢ならないものがあった

398 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:30:35 ID:vpwffbZI0
俺は醜い『よだか』だ。金を支払わなきゃ女など縁のない人生だと知っている
艦娘という美少女に、人間だったらブタ箱に間違いなくぶち込まれる『強いた姦淫』を行えるまたと無いチャンスだとも

だが、それでも


人として、『男』としての尊厳を容易く捨て去れるほど、『醜悪』ではなかった


「すまねえ」


二度目の謝罪で、その場にいる全員の笑顔が凍り付いた。腐っても兵士だ。『殺意』には過敏になる。じゃなきゃとっくにおっ死んでいる
それが背中を預けあった仲間から発せられた物でも例外じゃない。切り替えは素早く、誰もが『腰のイチモツ』に手を伸ばした
ただし、俺には『素面』というアドバンテージがあった。無かろうと、この場にいる誰よりも素早い自負があった

左の裏拳で隣の男の顔面を殴りつけると同時に、右腰のSIG P220を抜き、右端から順に頭を撃ち抜いていった
最初は分隊長殿だった。最年長、四十過ぎのオッサンで、息子さんは今年高校に進学したらしい
次は最年少、俺の後輩だ。新米の頃から面倒を見てきた。ようやく一端の面構えするようになったばかりだった
三人目、副分隊長。若く才能のある男だった。嫁さん自慢が鬱陶しかったな

三人を撃ち殺し、ここでようやく残りの連中の銃口が俺を見定め始めた。俺の所属していた分隊は七人編成。俺を除けば残り三人
左端の先輩が吠えながら拳銃を向ける。さっき殴りつけた同期の胸倉を掴み、盾にした


「東ごっ……!!」


背中から肺を撃ち抜かれ、気道を昇って来た血が俺の名前と共に噴き出した
エロ本の貸し借りをしては『穴兄弟だな』とか、ふざけた話ばっかしてた。最後の言葉が俺みてえな野郎の名前とは、全くロマンチックだな
その盾越しに先輩を撃つ。俺達同期三人を最初に風俗に連れて行ったのはこの人だった。当の本人は平井堅みたいな嬢に当たったと聞いて腹抱えて笑った
肉盾を維持したまま、最後に残った正面の同期に銃口を向ける。ただし、奴のそれは俺を狙っていなかった


「何のつもりだ……!!」


撃つのを躊躇ったのか、それともこっちの方が俺を止める算段があると判断したのか
『浜風』を抱え上げ、無骨な『イチモツ』を頭に押し当てていた

399 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:34:57 ID:vpwffbZI0
「わかってんのか!?おまっ……っ、仲間を殺した!!何故だ!!」


泣いていたよ。仲間を偲んでか、狂った俺を憐れんでかは定かじゃないがな
その慈しみを、銃口を向ける少女に少しでも向けていたら、こんな惨劇は起こらなかっただろうに


「……何故?ハハ……」


自分でも不気味になるほど、その笑いは自然に零れたよ。当の本人でこれなんだから、彼方にとっちゃ滅茶苦茶恐かったんだろうな
顔は青ざめて、今にも股座を濡らさんばかりの怯えぶりだった。拳銃も、カタカタと震えていたよ
『何故?』。タチの悪いジョークだった。何が一番悪いかって、『俺が一番聞きたかった』からだ

何も殺さなくても良かったじゃねえか。怒鳴りつけて一発殴り飛ばせば、彼らも過ちに気づいただろうに
左手の死体を持っていられなくなり手放した。思考を巡らせるために、額を小突きたくなったからだ
掌底で古い家電の調子を直すように叩いたが、答えはすぐには浮かんでこなかったが
詰まった息を吐き、拳銃を構え直すと、案外すんなりとそれは見つかった。この重さが、『軽さ』が、正しく答えだった


「『これ』だよ」

「は……?」


答えは、俺らが置かれている状況にあったんだ。『戦争』だ
『せんそうはいけないことです』。教科書や授業じゃ到底知りえない、教えて貰えない生の実感が圧し掛かる
深海棲艦や、寄生体や、テロリスト。連中に向けて引き金を引いて引いて引いて引いて―――――


「『軽くなっちまった』」


最初は重たかった筈の引き金が、今じゃ何の躊躇いもなく引ける
一時の激情に身を任せて仲間を撃つことが『これほど容易く』なるほどに
せんそうはいけないこと。ああ、身をもって実感した。法や道徳など、お利口さんのおべんちゃらなんかよりもずっとずっと


「イカレたようだ。俺も、お前らも」

「ドク、待っ……!!」

400 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:38:08 ID:vpwffbZI0
これが例えば、平和な世界であるならば
彼らは『息抜き』と称したレイプ・パーティーなど開催しなかっただろうし
俺も、仲間を『六人』も撃ち殺すこともなかった。死んだ連中がもし口を利けたなら、俺と一緒にこう言うだろう


『戦争が、俺らを狂わせた』


ってな


「……」


最後に撃ったのは、俺の親友だった。こいつだけは、俺を『よだか』と呼ばなかった
あいつは溜りに溜まった鬱憤を晴らそうとしただけだった。誰も彼もが、終わりの見えない異国の戦場で、一時の癒しを求めただけだ
運が悪いとすれば、俺という融通の利かないアホが、部隊に一人いただけだった

銃声はキャンプにも届いただろうか。いずれにせよ、俺は言い逃れができねえことをした
狭い部屋に広がった血の溜まりを歩き、頭から出ちゃいけない代物がドロドロと流れ出る分隊長殿に近づき、ポケットを弄った
胸ポケットにお目当ての『鍵』があったよ。家族の写真と一緒にな
俺は急いてしまったかもしれなかった。これを見りゃ、『父』である彼は考えを改めたかもしれなかったからだ
最も、その写真は既に効力を失っていたのかもしれないけどな

浜風の怒りは消え、怯えの視線を向けていた。理由はどうあれ、ものの数十秒のうちに六人を殺したんだ。無理もなかった
四肢を拘束していた手錠は艦娘用の特殊鋼材製だった。用途は連行や懲罰だけでなく、このような事も含まれるのだろう
手足を自由にさせ、猿轡を解いても彼女はすぐには動かなかった。吐き気を抑えるかのように口を手で覆い、へたり込んだままガタガタと震えていた
慰めに掛ける言葉など無く、辛うじて血で汚れてない場所を見つけると、座ってタバコに火を着けた

401 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:41:27 ID:vpwffbZI0
「どうして……」


やっと口を開いたかと思えばこれだ。さっきのやり取りを聞いてなかったらしい
イラついたよ。どうあがいても解けない問題を延々と問われ続けているようでな。腹いせに持ってた拳銃を壁に投げつけても、気は晴れなかった


「いいからとっとと出てけよ……」


ビクリと身体を弾ませた彼女に対して、続けて怒鳴りつけるまでの気力は残ってなかった
六人。六人だ。どうあがいても刑は免れない。遺族に合わす顔も無い。俺の人生は今ここで終わりを告げた


「……逃げましょう」

「ハハ、どこへ?」

「どこでも構いません。このままだと貴方は……」

「頼むから!!」


彼女がどんな面持ちで、どんな想いで俺を連れ出そうとしたかはわからねえ
ただこれ以上、俺は生き恥を晒したくなかった。『駆け落ち』と言やあロマンチックだろうさ。だがそんな逃避行、耐えられるワケがねえ
タバコの先端が、中程までに到達した頃になって彼女はようやく


「ありがとう、ございました……」


青白い顔ぶら下げながらか細く礼を言って、出口へと進み始めた
帰る先など無いのだろう。逃げる当てすらも無いはずだ。彼女は管理者である『提督』に売られたのだから
死体の一人から拳銃とマガジンを抜き、隠し布を払いのけ、最後に


「また、お会いしましょう」


とだけ呟いて、この場を去った。『どこで』かは、聞かなくてもわかる。どうせお互い『長く無い』とでも悟ってたのだろう
とにかく、これで俺のした殺しの最低限の意味は成し得た。無責任とでも取れるだろうが、一介の兵士にはこれが精一杯だった

402 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:44:25 ID:vpwffbZI0
大して吸いもしなかったタバコを足下に捨てると、血溜まりが火を飲み込み、消えた
残った紫煙がむせ返るような鉄の臭いと混じったが、逆にそれが気を紛らわせた
LEDライトの側に置かれていた酒瓶を手に取り、一息に呷る。安酒だが、鼻がキュウと絞まるような度数が『恐怖』を薄ませた
仕上げがまだ残っていた。『イカレ』と称したのなら、それなりの末路を迎えなければ気が済まなかった
投げた拳銃を拾って、撃鉄を上げて銃口をこめかみに押し当てる。何らかのガタを感じたが、『もう一人殺す』くらいならまだ耐えれられるだろうと信じた


「フッ、フゥー……」


最後に頭を過ぎったのは、仲間でも家族でもなく、あだ名の由来になった小説の一文


『よだかの星は燃え続けました。いつまでもいつまでも燃え続けました。』


誰も見返さず、空に高く舞い上がったあの腰抜けは、俺なんかよりよほど気高い最後を迎えたのだとようやく気がついて




俺は引き金を引いた



.

403 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:47:11 ID:vpwffbZI0
―――――
―――




('A`)「で、拳銃が案の定ぶっ壊れてたんで暴発した結果、俺は無様にも生き残って軍法会議。死刑を待つ身だったがなんでかどうして、よくわからん場所に送られる羽目になっちまったってこった」


( ^ω^)「ぐーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

(´^ω^`)「ぐーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


('A`)「お前ら人の古傷ほじくり返しといてそれはねえだろ」


あれから二年が経ったが、俺はまだ生きている
同じく何らかの重罪を犯し、同じ刑に処されたであろう連中と共に
悪路を走る輸送バスに揺らされながら、『流刑地』に向かっているのであった






『艦娘がいない鎮守府のようです 改』









404 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:52:33 ID:vpwffbZI0
今日はここまで。お疲れさまでした

405名無しさん:2019/02/07(木) 22:23:26 ID:t6Dvqgb20
本名バレにより一人の作者を引退に追い込んだ感想を一言頂けますか?

406名無しさん:2019/02/08(金) 08:41:48 ID:NguumjB60
乙!
帰ってきてくれて嬉しいよ

407名無しさん:2019/02/08(金) 08:52:50 ID:N4h/YHf60
乙。
最後で容赦なくシリアスさんぶち殺すスタイル好きよ

408名無しさん:2019/02/08(金) 18:06:33 ID:wdJnh.TY0
>>405
本名バレしたのはムカデじゃなくて酒犬のほうなんだよなあ

409名無しさん:2019/02/22(金) 18:39:56 ID:zy9DjFxw0
おっつおっつ
ちょっと聞きたいんだがコラボ先の人と、各々の作品の展開とかキャラの扱いって
話し合ったりとかしてんの?それとも独断?
コラボ先が人類滅亡エンドしか見えなくてそうなるとこっちとの兼ね合いとか
どうすんのかなーって気になってね
まあパラレルですよって言われたらそれまでなんだが

410 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:36:09 ID:5QojOfSc0
留置所を出たのは明け方。早朝の空気は秋の訪れを感じさせる涼しさだったが、太陽は今だ自重を知らず
二時間も経てば車内は蒸し風呂のように湿気と熱が籠った。ブラインドが施された車窓は光こそ通しはしなかったが、換気も出来ず仕舞いだ
空調などという贅沢は囚人である俺達には許されないらしい。一つ壁の向こう側にいる運転席は、存分にその恩恵に預かれているというのに


('A`)「……」


それでも、熱中症という配慮から水だけは許可された。一人一本、二リットルのミネラルウォーター
この状況下では正に命の水と言っても過言ではない。残り三分の一にまで減ったそれを一口分含み、少しずつ飲み込んだ
当の間抜け面二人は、俺の独白を子守歌に大いびきを掻いている。こんな暑い中、よくも眠れるものだ


('A`)「あー……暑ぃな」

( ^ω^)「うんお!!!!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)そ「うおっ!?」


顔だけ此方を向けてデブが返事をした。熟睡してるもんかと油断してた俺は面を食らう羽目になる
デブというのは実に見苦しい。それがこれだけ蒸し暑ければ不快感も増すというものだ

411 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:36:49 ID:5QojOfSc0
( ^ω^)「心に残るお話をどうもありがとうだお」


その上、語尾まで馬鹿丸出しときた。顔つきこそ朗らかだが、このバスに同乗している以上、俺と同じ重犯罪者である事に間違いはない
にこやかなデブの代名詞と言えば、某映画の微笑みデブを思い出す。これからこんなのと生活すると思うと辟易する


('A`)「そりゃ結構。よく眠れたようで何よりだ」

( ^ω^)「いやほんと……工科学校にいた頃を思い出したお」

('A`)「整備士か?」

( ^ω^)「おっお、艦娘の艤装を弄繰り回す変態だお」

('A`)「変態なのは見ればわかる」

( ^ω^)「お前失礼だな」

('A`)「話の最中に居眠りこく野郎に言われたかねえな……名前は?」

( ^ω^)「平賀 文(ふみ)、ブーンとでも呼べお」

('A`)「可愛げのあるあだ名で」

( ^ω^)「『よだか』よりかは遥かにマシだおね」

('A`)「そうだな、デブーン」

( ^ω^)「新生活がギスりそうで何よりだお」


頭が痛いのは暑さの所為だけでは無さそうだ

412 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:38:04 ID:5QojOfSc0
( ^ω^)「そんで?」

('A`)「東郷 独王」

( ^ω^)「名前かっけえ……」

('A`)「キラキラしてるだろ?本名なんだぜ、これ」


数時間は一緒のバスに揺らされていると言うのに、自己紹介はこれが初だ。身の上話が先だった理由は


(´^ω^`)「ぐーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


そこのオッサンが『暇だからジャンケンして恥ずかしい話暴露しようぜ!!』の提案に乗ったからだ
それにしても自己紹介が先だと思う。ついでに言うと俺の昔話に到達するまでに三つほど恥ずかしい話を暴露している


( ^ω^)「げろしゃぶか……ドクだな」

('A`)「ドクでいい」

( ^ω^)「げろsy ('A`)「ドクでいい」圧が凄い」

(´^ω^`)「俺かい!!!!!!!!!!!??????????」

(;'A`)そ「うおっ!?」

(;^ω^)そ「うおっ!?」


こいつら実はずっと起きてたんじゃねえのか

413 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:38:51 ID:5QojOfSc0
(´^ω^`)「誰だいって顔してんで自己sy( ^ω^)「間宮 静雄だお」オイオイオイご挨拶だなテメエ」

('A`)「それで、Mr.スピード・ワゴン。職は?」

(´・ω・`)「メシ炊きだ。よろしく」

('A`)「調理師がどうしてここに?」

(´^ω^`)「オナホにした野菜でカレーを作ったんだよーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」

( ^ω^)「オッサン今年でいくつ?食べ物で遊んじゃいけないってママに教わらなかったかお?」

(´・ω・`)「嘘だよ……料理人が飯を粗末にすっかよ……今年四十だぞ俺……」

( ^ω^)「マジなら着いたら速攻で埋めてたお」

(´^ω^`)「ロクデナシ同士仲良くしようぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

('A`)「出来たらごめん被りたい」

( ^ω^)「顔がウザい」

(´・ω・`)「クソガキ……」

414 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:39:33 ID:5QojOfSc0
「やかましいぞ!!」

(#´゚ω゚`)「お喋りくらいさせろカス共がーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!だぁって運転してろゴミ野郎ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


監視からの至極ご尤もな注意にもこの返し。やはりロクデナシで間違いはなさそうだ
戦場で最も強力な部隊は糧食班というが、連中が全員このようなイカレでは無いだろう


「チッ……ロリコンの分際で……」

(´・ω・`)「おう今なんつった?」

( ^ω^)「止せおオッサン。手首に何が巻き付いてんのか見えてないのかお?」


手錠と、左手首に大きな腕輪。二つの液体が入ってるそれは、混ざり合うと化学反応を起こし爆発する
逃げ出せば爆発。抵抗すれば爆発。外そうとすれば爆発。通信により下された指示に歯向かうと爆発
手榴弾の原理をご存じだろうか?B級映画なんかじゃ炎を噴き上げる爆弾として使われているが、本来は爆破による『破片』で殺傷する事を目的としている


('A`)「……」


この腕輪も同じ。手首が吹っ飛ぶだけなら安いものだが、下手を扱けば死人は一人に留まらない
ここであの兵士が気まぐれを起こせば車内は血みどろの大惨事になるのは目に見えている
俺としては別にそれでも構わないが、後で掃除をする連中が余りにも不憫だ

415 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:40:11 ID:5QojOfSc0
(´・ω・`)「こんなもんフランク・マーティンだけで十分だっつーんだよ……」

('A`)「もしくは一日外出権ってとこだな」

( ^ω^)「勘弁してくれお。娯楽から離れて暫く経つってのに」

('A`)「お前らもか?」

(´・ω・`)「ああ、新聞すら読ませて貰えなかったぜ」


ショボい飯に臭くて狭い部屋だったのは共通だったらしい。普通に拷問だった
それ故だろうか。他愛のない会話を楽しんでいる自分がいた


( ^ω^)「新天地は、もうちょいまともだと助かるお」

(´・ω・`)「一杯やりてえもんだな」

('A`)「……」


『新天地』。死を許さなかった俺の運命とやらは、その贖罪の地で
一体、どんな償いをさせようってのだろうか―――

416 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:40:39 ID:5QojOfSc0
―――――
―――



「―――以上だ。何か質問は?」

( ^ω^)「はいお」

「無いようだな。それでは、我々は撤収する」

( ^ω^)「はいお」

「くれぐれも、逃げ出そうなどと思わぬように」

( ^ω^)「はいお」

「行くぞ。長居すればタダでは済まんからな」

( ^ω^)「はいお」


必要最低限の説明を終え、移送班は逃げるように去っていった
バスが残した排気ガスと砂ぼこりを感じていないのだろうか。ブーンは五回目の挙手を繰り出していた


(´・ω・`)「さて、噂に違わぬ堂々の佇まい。これが『地獄の鎮守府』かい」


荷物を担ぎ上げ、古ぼけた木造の校舎を見上げる。逆立ちしてもこれが現代の軍関連施設には見えないが
これでも『元』は、太平洋に面する廃村を再利用した一つの『鎮守府』だったらしい
エンジン音が響く背後を振り返れば、山と緑がお出迎え。文明建築らしき代物は、鉄筋コンクリートで作られた『ゲート』くらいだ
まさしく『ザ・ド田舎』って感じの場所だった。少なくとも、フリーWi-Fiは設置されちゃいねえだろう

417 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:41:18 ID:5QojOfSc0
('A`)「にしても、随分と緩い制約を課されたな」

(´・ω・`)「拍子抜けするほどにな。ただ……」


そこに何故『地獄』などという物騒な名称まで付与されているのか。海軍に属する者なら、ある種の都市伝説として耳にした事のある噂話がある

『着任した提督及び艦娘が悉く不審死を遂げる呪われた鎮守府』

その惨劇は、片手じゃ収まらないほど数多く存在する。故に、軍が厄介者を始末する『処刑場』とまで呼ばれた場所だった
この話は勿論ながら民間にも知れ渡っているが、何せ話が話だ。本怖スレを盛り上げる程度のネタに留まってはいた
たまにワイドショーなんかで思い出したかのようにマスコミからの質問を投げかけられたりもするが、広報担当は決まってこう言った

『ただのオカルトです。信憑性はありません』と

俺も二人も、その言葉を信じて本気にしていなかったが、ああも露骨に逃げ帰られると考えを改めざるを得ない

418 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:42:21 ID:5QojOfSc0
('A`)「……まさか実在してたとは」

(´・ω・`)「伽椰子でも住みついてんのかね……艦娘が力で押し負けるとは考え辛いが」

('A`)「やだ怖くなってきた」

(´・ω・`)「ブサイクだから大丈夫だろ」

('A`)「根拠にならねえよクソ眉毛」

(´・ω・`)「コンプレックスをネチネチと突く天才かお前」


誰もが軍に入れば口なんて一瞬で悪くなるものだろう


('A`)「……ここの最後の主が『世界最強の提督』であり、『世界最悪の犯罪者』である変態、『小練 詩音』」


ちょうど二年も前だろうか。国内どころか世界を揺るがした大事件がある
その可愛らしい響きの名前の男は、『国連海軍特殊部隊』という枠内において国内外最強と言わしめる艦娘部隊を率いる立場でありながら
当時の国連総長である一人の日本人を殺害。全部隊員と共に行方を暗ませた。その後、捜査により次々と悪行が明らかになる


('A`)「部隊員である艦娘の洗脳に、隔離された鎮守府でのサバト、政治家との癒着、海外艦娘の不当な買収……」

(´・ω・`)「中でもスナッフ・フィルムを好んだ変態だっつー話だったな……胸糞悪い話だぜ。ったくよ」


稀代の大悪党の壮絶な人生は、以下艦娘を巻き込んだ海上での集団自決で幕を閉じたとされているが
数多く遺されている筈の死体は、一つも見つかっていない。依然として捜査と警戒は続いているものの
この広い太平洋で壮絶に爆死したのなら、魚の餌になっていると考えるのが自然だろう
それに、世間の風化は案外早い物。未知の敵対生物との戦時下なら、情報の移り変わりはより目まぐるしい
死んだ野郎の安否より、深海凄艦の動向と明日の天気の方がよっぽど重要な案件となっていた

419 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:43:21 ID:5QojOfSc0
('A`)「そんで、俺らに課せられたお仕事が『元』悪の巣窟の管理か」

(´・ω・`)「近海の監視と一日二回の無線報告、建造物の維持、修繕。期限は終戦を迎えるまで。その後の恩赦に関しては追って考慮する」

('A`)「補給は月一、ライフライン完備、ネットは使えないが地デジは見れる……給料も、雀の涙ほどには出る」

(´・ω・`)「尚、鎮守府から半径十キロ以上離れた場合、腕輪に内蔵されたGPS信号により爆破装置が作動する」


大まかな説明は以上。実にシンプルでわかりやすく、それでいてぬるい仕事だった
この施設が『訳アリ』なのを除けば、檻の中で一生を過ごすより遥かに良い待遇と言える
まぁ、『実績』があるからこそ俺らみたいなクズを消耗品として管理人に就かせたのだろう


('A`)「何か質問は?」

( ^ω^)「はいお」

('A`)「はいブーンくん」

( ^ω^)「おやつは出ますかお?」

('A`)「あいつら帰って正解だわ」

(´・ω・`)「荷解きして探検と行こうぜ」

( ^ω^)「暗い雰囲気を少しでも和らげようと思ったのに」


余計なお世話だった。とにかく、先ずは一息つきたい
必要最低限の生活必需品が入ったバックを担ぎ直し、新たな『我が家』……別名、『あばら家』に足を踏み入れた

420 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:44:09 ID:5QojOfSc0
鎮守府である旧校舎と隣接する居住棟の一室にそれぞれ荷物を置き、オッサンは調理場、ブーンは工廠の確認へと一目散に飛び出した
特にこれといった専門職に就いていない俺は、校舎内を適当に散策することにした。出来ることなら早急に風呂場を見つけて汗を流したい
曰くつきの施設に置いて個人行動は死亡フラグに該当するが、着いて早々登場人物が殺されるなんて盛り上がりに欠けるよなぁ


('A`)「意外と……」


てっきり廃屋一歩手前な内装を想像していたが、中は案外綺麗だった。学校の面影は色濃く残っており、教室には椅子と机が規則正しく並んでいる
初めて踏み入る場所でも『学校』とは懐古を掻き立てるものだが、それが良い思い出とは限らない。ガキの頃から問題児だった俺にとっちゃ、苦虫を頬張ってるようなものだ


(;'A`)「ああ、やだやだ」


嫌な事だけはずるずると覚えているんだから、人のオツムってのは構造的に欠陥を抱えているらしい


('A`)「ん……?」


などと、人の作りを嘆いていると、廊下の先で『リン』と鈴の音が聞こえた


(;'A`)「うっわ……」


気の所為なら良いのだが、目を向けた先に何か『白く細長い物』が軽い足音を伴って消えていったのだから、誤魔化しようもない
俺はどうもきっちりと死亡フラグを立てていたらしい。早速怪異にお出迎えされるとは、全くツキがない
いや……オカルトなんてそうそうあるだろうか?確かに『場所』として地獄の鎮守府は存在した
だが『噂』までもが実在するとは限らない。仰々しい代物には決まって尾鰭が付くものだ


(;'A`)「猫かなんかだろ……」


またもや死亡フラグを立てた気がしてならんが、正体さえ掴んでしまえば恐れも無くなる
意を決して、その後を追ってみることにした

421 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:44:52 ID:5QojOfSc0
('A`)「……」


『りん』、『りん』
曲がり角、階段、辿り着いた先でチェックポイントのように鈴の音が聞こえ、『猫』が走り去る
まるで俺をどこかへと導いているかのようだ。その先が地獄のような有様で無ければいいが


('A`)「ん?」


二階へと上がった時、音が『きしみ』に依るものへと変化した


('A`)「おっと……」


音を追って廊下を歩くと、程なくして正体が判明した。内開きの『扉』が僅かに開いていた
ドアノブは丸いタイプであり、猫が飛び乗った所で開けられるとは到底思えない
室名札を確認すると、そこには『司令室』の文字が。あの悪名高い提督の、執務室であった


(;'A`)「マジかよ……」


好奇心は猫をも殺すというが、猫に抱いた好奇心で殺されるとは思ってなかった
しかし、背を向けて逃げるのも何か恐いし……ええい、男は度胸、なんでも試してみるものだ


(;'A`)「お邪魔……」


扉を軽く押し、変な手ごたえが無いことを確認して開けていく。ショットガンズドンとか無くて一先ず胸を撫で下ろした
カーテンは全て閉ざされている為、やや薄暗い。壁際のスイッチを押して電灯を点けた。電流走らなくて二先ず胸を撫で下ろした
先ず目についたのは重厚な執務机。その手前には応接用のソファーと足の短いテーブル。ちょっとした流し台とクッキングヒーター、冷蔵庫があるのは茶を入れるためだろう
壁際にはズラリと本棚が並んでいる。資料かと思えば、なんとほとんどが漫画本だった。中には映画のDVDも差し込まれている


(;'A`)「……」


執務室というよりは、ネカフェの有様だ。いや、紙媒体よりデータ化を好んだ人物だったのかもしれない
だが、肝心のデジタル媒体は執務机の正面に立て掛けてある液晶テレビくらいしかない
それもそうか。PCがあるなら重要な証拠となる。もし残っているなら真っ先に徴収されるだろうし
そもそもそんな物をおめおめと残したままにしとくとは思えない。俺ならば絶対に壊す

422 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:45:45 ID:5QojOfSc0
('A`)「……ふむ」


一通り見まわした後、おっかなびっくりカーテンを開けたり執務机の椅子を蹴ってみたりしたが、特に何事も起こらない
隠れられそうな場所も確認したが、『色白なガキ』が此方を覗いてたなんてこともなかった。胸撫で下ろし放題だった


('A`)「疲れてんのかな……」


幻視に幻聴、暑さで頭がやられちまった。そう考えることにした
せっかく執務室に辿り着いたのだ。一つ、提督の気分でも味わってみるか


('A`)「よっこらしょっと……」


クッションがヘタった椅子に腰かけ、机に肘を置いて指を組み合わせる。気分はさながらNERVの司令官だ
いや、バイオ4のレオンに近いのかもしれない。俺はこんなご立派な席に着くには程遠い野郎だ
それに、『提督』という立場にも余り良い思い出がない。少なくとも一人は、艦娘を売り飛ばした人物なのだから


('A`)「……」


その中でも、歴史に残る悪行を為した奴の机に座っている。不意に、身体に震えが奔った
国家どころか世界の転覆を企み、国連総長を殺した男。テレビの向こうのニュースキャスターから教わった大事件の首謀者が


(;'A`)「……」


『この場所に、居た』
そんな生々しさを感じたが故の、悪寒によるものだった


(;'A`)「……」


『戻ろう』。そう思い立って立ち上がろうと机に手を着くと、親指が引き出しに当たり、僅かな物音が立った


(;'A`)「……」


頭は制止の信号を出したが、身体は従わず取っ手に指を掛けた
『恐いもの見たさ』とはよく言ったものだが、この中に何もないことを願っている自分もいる
矛盾で高鳴る鼓動を深呼吸で落ち着かせ、ゆっくりと引き出した

423 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:47:04 ID:5QojOfSc0
(;'A`)「……っ」


中に入っていたのは、呪いのアイテムでも凄惨なスナッフ写真でもない。何の変哲もない『布』だった
だからこそ、俺は深く後悔する羽目になる。『ああ、見なきゃよかった』と


『小練 詩音』に関して一つ、大きな話題を呼んだ特徴がある


証言に依ると、彼は鎮守府での執務並びに戦場での活動の際、必ず顔を覆面で隠していたらしい
それは大本営での出頭、上官との面会に置いても変わりなく、素顔を知る者はごく少数に限定されていた
理由については割愛するが、そのマスクというのが


【 (キT) 】


目元に一本、眉間から顎下まで一本。合計二本の太線で『T』を模したデザインの物だった
引き出しの中に入っていたのは、正しく彼が日常で使っていたのであろうTマスクであった


(;'A`)「っ、とに、ビビらせやがる……」


右頬を黄色の糸で修繕されたそのマスクは、暑さからではない汗を流す俺を静かに見上げている
思いもよらず『涼しく』なったのは僥倖だったが、今夜は悪い夢を見てしまいそうだ
引き出しを閉じ、サッサとこの場から出ていくことにした。今となってはあの姦しい連中と一刻も早く合流したい


(;'A`)「くわばらくわばら……」


出来る限り立ち入らないようにしよう。そう心に決め、電灯を消して扉をしっかりと閉めた

424 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:48:21 ID:5QojOfSc0






この一月後、俺たち三人の『彼』に対する認識がひっくり返るとも知らずに―――







425 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:57:36 ID:5QojOfSc0
今日はここまで
天華百剣のガチャで爆死して、シャニマスで甜花ちゃんを引き当てました
担当はアンティーカです。よろしくお願いします

>>9
打ち合わせは頻繁にしています
艦これSSは自作品もコラボ先も到着点がこのお話になるんで、まぁどっちにしろエグい事になるのは変わりません

426 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:59:11 ID:5QojOfSc0
>>409
打ち合わせは頻繁にしています。安価間違えてドジっ子の一面を見せてしまいました
艦これSSは自作品もコラボ先も到着点がこのお話になるんで、まぁどっちにしろエグい事になるのは変わりません

427名無しさん:2019/05/02(木) 21:36:50 ID:WU/pmgxI0
キテマシタワー(n'∀')η゚
更新乙です

428 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:30:05 ID:9//7Mvdo0
('A`)「どうだった?」

( ^ω^)「いや特に何も……割と良い施設ってだけで」

('A`)「マジ?」

( ^ω^)「こうして嗜好品の恩恵に預かれてる時点で文句の吐けようもないお」


ガラス製の灰皿にトンと灰を落としながら、ブーンは煙を吐き出した
輸出入制限が課せられている今となっては、タバコも決して気軽に楽しめる嗜好品とは言えない
現状世界最大の艦娘戦力を抱える日本ですら、辛うじて供給出来ているという現状だ


( ^ω^)「俺らの給料はこれで消えそうだお」

('A`)「全くだな……こんな場所じゃ金の使い道も無いし」


だからと言ってキッパリとやめられないのがニコチン中毒の悲しい性だ
長い獄中生活で培った禁煙も、あっさりと終わってしまった


('A`)「フゥー……」

「飯が出来たぞー!!取りに来い!!」

( ^ω^)「待ってました!!」


厨房からの呼び声に、いち早くデブが反応する
かく言う俺の腹の虫も、餌を求めて鳴き声を上げた


(´^ω^`)「っかー!!気兼ねなく腕を振るえるってのは良いもんだなぁオイ!!」


カウンター越しに料理を置いていくオッサンの顔を見れば、どのような感想を抱いているかなど言うに及ばない


( ^ω^)「ひょー!!うんまそうだお!!」

(´^ω^`)「せやろがい」


ブーンの言う通り、『ジジジ』と音を上げる龍田揚げと生野菜のサラダは否が応でも溜飲を下げさせた
揚げたての油物などいつぶりだろう。これほど瑞々しい野菜も久しい。湯気を立てる汁物も心を躍らせる

429 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:32:39 ID:9//7Mvdo0
(´^ω^`)「全く信じられねえほど厚遇だ!!食材も酒もたんまり入ってやがった!!三人じゃ食い切れねえほどにな!!」

('A`)「……?」

( ^ω^)「何ボケっとしてんだお!!さっさと食おうぜ!!」

('A`)「ああ……」


『三人じゃ食い切れねえほど?』囚人に必要以上の余剰分を置いていたって事か?
それに、タバコもそうだが酒も置いてある意味が読み取れねえ。余りにも待遇が良すぎる
いや、例えば海軍関係者が今後この場所に滞在するのならそれもあり得ないとは言い切れない


('A`)「うーん……」

(´・ω・`)「なんだ唸ったりして?腹でも痛えのか?」

('A`)「いや……なんでもない」


どうにも腑に落ちなかったが、美味そうな飯の誘惑には勝てなかった
思案の時間などいくらでもある。今は腹を満たすのが先決だ


( ^ω^)「いただき卍!!」

('A`)「古っ……いただきます」

(´^ω^`)「めしあがれ」


早速、熱々の龍田揚げに箸を運ぶ
サクリとした歯ごたえの後に、火傷しそうなほど熱い肉汁がじゅわりと溢れ出た
にんにくが効いた鶏肉を数回咀嚼し、すかさず炊きたての白米を口にすると


('A`)「うっめ……」


脳汁が迸るほどの幸福感に包まれ、無意識に賞賛の一言を口にした

430 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:34:55 ID:9//7Mvdo0
(´^ω^`)「ブサイクでも味はわかるようだな!!」

('A`)「その一言が無かったら手放しで褒めてたのに」

( ^ω^)「ハムッ!!ハフハフ、ハフッ!!」

(´^ω^`)「豚も豚みてえにがっついててなによりだ!!」

( ^ω^)「ねぇ、飯が不味くなるから一々罵倒すんのやめて?」


性格と料理の腕は必ずしも比例しないらしい


('A`)「以前も鎮守府で勤務を?」

(´^ω^`)「あったぼうよ!!大飯食らいの面倒を一辺に見てたんだぜ?」

( ^ω^)「あー、わかる。艦娘って消費カロリーすげえもん」


艦だった頃の名残か、それとも艤装を動かすために必要なのか
艦種にもよるが、艦娘のエンゲル係数は異質なまでに高い
厨房の忙しさは人間相手と比べるまでも無いだろう


(´^ω^`)「たった三人分の飯じゃちょいと物足りねえがな!!ガハハ!!」

( ^ω^)「おかわり!!」

(´・ω・`)「テメーで注いでこい」

( ^ω^)「あ、はい……」


情緒どうなってんだこいつ

431 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:39:29 ID:9//7Mvdo0
('A`)「恐れ入ったよ。てっきりメシマズが過ぎて島送りにされたのかと」

(´・ω・`)「メシマズが調理師に選ばれるワケねえだろ」

('A`)「それならどうして六人もぶっ殺した馬鹿と同じ場所に送られちまったんだ?」


オッサンの表情から色が抜け落ちる。誰しも落ち目を突かれたらこうもなるだろう
しかし、俺にも知る権利はある。これから共に暮らすと言うのに、得体が知れないとオチオチ寝ていられねえ
まぁ、それはオッサンにもブーンにも言える事だろう。何せ、殺人犯との共同生活だ


(´・ω・`)「……誘拐」

('A`)「……」


ボソリと呟かれた二文字。そう言えば、監視の一人が言っていたな、『ロリコンの分際で』と
鎮守府に置いて最も多い犯罪は『性暴力』だ。一時期はその傾向も鳴りを潜めていたと聞くものの
実際の現場では黙認される事も多い。俺がこの場所へ到った原因を見れば一目瞭然だ
言わずもがな、誘拐は犯罪だ。こんな事言いたくねえが、技術力の結晶たる艦娘なら重要度も増す
仮に、お隣の頭の愉快な国へと送り込まれ、分析などされてしまえば、莫大な軍需で潤っている我が国にとっては堪ったものではないからだ


('A`)「俺が言うのもなんだが、よくもまぁ生きていられたな」

(´・ω・`)「お互い、悪運だけは良いようだな……腹に二発。かろうじて腸に傷は付かなかった」


どのような目的であれ、無断で艦娘を連れ出すのは重罪に値する。発見次第射殺すらあり得るのだ
それだけ艦娘という『兵器』の情報漏洩には細心の注意が払われている。人としての扱いより、『物』としての扱いの方が遥かに厳重だ


(´・ω・`)「俺も絞首刑を待つ身だったが、人生とは最後までわからんもんだな。こうして、また人に料理を振舞えるなんて」

('A`)「……」


鎮守府に勤務していたのなら、当然その危険は理解していた筈だ。命を懸けてまで『それ』をする必要があったのだろう。覚悟と勇気を伴って
そして失敗した。目的は達成できず、死にぞこない、罪人として後ろ指をさされ、こんな場所へとたどり着いた


('A`)「……美味ぇよ」

(´^ω^`)「飯炊きの冥利に尽きるぜ」


思わず出てきてしまった慰めの言葉に、力のない笑顔を返してくる
『信じられないほどの厚遇?』冗談じゃない。俺らに課せられたのは、『負け犬』として生きながらえる苦しみだ

432 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:40:27 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「おデブ!!」


ドンと勢いよく長テーブルに置かれたビール瓶に、俺らの身体は飛び跳ねた


( ^ω^)「暗ぇお。二人っきりになったらいきなり会話が少なくなる友達以上恋人未満の関係かお前ら」

('A`)「咄嗟にその例え出てくるのすげえ気持ち悪いな」

( ^ω^)「折角の新生活一日目に落ち込んでどうすんだお。呑むぞ!!」


ブーンがリズムよく瓶の蓋を外すと、安い金属の王冠がテーブルの上で踊った


('A`)「グラスは?」

( ^ω^)「みみっちぃ事言うなお。お行儀を重んじる性格でもないだろ?」

(´^ω^`)「クク……いいじゃねえか。酒で無茶してた若い頃を思い出すぜ」

('A`)「俺らはまだ若いですけど?」

(´・ω・`)「そういうのやめろよ……」


アホなティーンのノリをこんな場所でするとはな。だが、断る理由もない
美味い飯と酒を前に、暗い雰囲気など野暮というものだ

433 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:41:34 ID:9//7Mvdo0
('A`)「乾杯の音頭は?」

( ^ω^)「言い出しっぺの法則というものがあってだな」

('A`)「出たよ……」

(´^ω^`)「ドックンの!!ちょっといいとこ見てみたい!!」

('A`)「それは音頭の後だろ……」


文句を言うのも面倒だ。サッサと済ませてしまおう


('A`)「ハァー……クソッタレ共の檻に」


実に自虐に満ちている。しかし、早く呑めるのなら音頭などどうでもいいらしく


(´^ω^`)「おっぱい!!」

( ^ω^)「おっぱい!!」

(;'A`)「……」


勢いよく瓶をぶつけ合い、のど越しの良い小麦のジュースを一気に流し込んだ
舌を奔る苦みと炭酸の泡。胃に落ちていく清涼感に、俺はまた一つ『納得』を知った


『ああ、なるほど。お先真っ暗な奴が溺れるワケだ』と

434 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:44:09 ID:9//7Mvdo0
―――――
―――



田舎の夏休みというものに縁がない人生だった。両親共々都市部出身の上、アウトドアな趣味も持ち合わせていなかった
キャンプの経験も兵学校の門を叩いてからだ。それから一年の三分の二ほどをテントの下で過ごした
戦時中だ。穏やかな寝起きの筈もない。なんなら宗教狂いのカス共に寝込みを襲われたことすらある
一日一日を生きるのに精いっぱいで、老後には田舎で農業して云々などと、将来の展望を考える暇もなかった
まぁ、どちらかと言えば俺も趣味はインドアな方だ。スマホの電波が頻繁に圏外になるような場所に、わざわざ赴く気も起きなかっただろう


('A`)「フゥー……」


つまり、ここでの生活は田舎初体験とも言える。一週間ほど過ごした感想は


('A`)「飽きるな……」


だった


《ようドク、異常は?》

('A`)「ねえよ。ずっとねえ。カモメが飛んで波が立って、それ以上もそれ以下もねえ」


見張り台から眺める景色は、ただ水平線が広がっているだけだ
最初の三日ほどは双眼鏡を覗いたりしていたが、今となってはパラソルの下でFMを聞きながら図書室に置いてあった漫画本を読んでいる始末だ
これで給料が出るんだからチョロい仕事だ。オバケの類も今のところ俺らを襲いには来ない
湖を抱える廃キャンプ場が近くにあれば、ホッケーマスクの臭い不死身男がお茶でも嗜みに訪れるのだろうか


《適当に切り上げちまえ。おやつ作ったから食いに来いよ》

('A`)「冷たいコーヒーも頼むぜ。濃いめでな」

《はいよ》


フィルター際まで吸ったタバコを、所々錆びついた吸い殻入れに放り込む
『夏休み』も残り三日だが、日中はまだまだ暑い日が続きそうだ。渇いた喉を潤しに行くか

435 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:46:57 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「うっま……ポッキーうま……ナッツも散りばめてあるとか神か……?」

(´^ω^`)「そうだよ」

( ^ω^)「調子乗っ……神様……」

(´^ω^`)「本音を隠す努力をしろ」


程よく効いた空調で、冷えた空気が肺に入って心地良い
食堂では一足先に男同士のティーパーティーが行われていた
ブーンも工房で何かしらの作業をしていたはずだが、デブは食い物の事となると俊敏になるらしい。獣と一緒だな


(´・ω・`)「おう、お疲れ」

('A`)「おう……ポッキーか。何でも作れるな」

(´^ω^`)「お嬢様方の要望に応えるショボンおじさんやぞ?」

('A`)「だってよお嬢様」

( ^ω^)「苦しうなくてよ」

(´^ω^`)「すっっっげーーーーーーーーーーーーやる気失くす」


氷の入ったキンキンのアイスコーヒーを一飲みし、ナッツが降りかかったポッキーを咀嚼する
既製品よりも太めに作られたそれは、小気味良い歯ごたえとナッツの食感がクセになる味わいだった


('A`)「うん……イケる。カロリーに目を瞑れば大好評だったろうな」

(´^ω^`)「それ小娘共にもめっちゃ言われた」

( ^ω^)「デブと女性に対する配慮はねーのか」

(´・ω・`)「テメーは自己管理が足りてねえだけだろうが。ドクを見習え。腹筋バキバキやぞ」

( ^ω^)「俺だって下腹が愛らしいって陰でコソコソ言われてました〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」


陰口を都合よく解釈しただけじゃ無いのか?とツッコミを入れたくなったが、不毛なので言い留まって
リモコンを手に取りテレビの電源を入れた。画面の中では老若男女入り乱れた集団が、プラカードを手に行進をしている姿が映し出されている

436 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:49:42 ID:9//7Mvdo0
(´・ω・`)「……この手の連中は、世界が終わるまで居なくならねえだろうな」

('A`)「……」


第二次大戦終戦後、日本は第九条の下、侵略戦争行為とは無縁の国となった。そして何十年にも渡る平和により、徐々に国民から『危機感が』薄れていった
例えお隣の国がミサイルを飛ばそうが、領海にちょっかいを出そうが、情熱と暇を持て余した『愛国者』さん達は、政府や軍関係者へ向けてこう唱える

『戦争反対』『軍事力の廃棄を』『対話による解決を』『子供達に未来を』と

大いに結構だと思う。ぶっちゃけた話、俺だってお国の為なんかに死にたかねえ。食い扶持を稼いでるとは言え、戦争なんて無い方がよっぽど良いに決まってる
『死にたく無い』『殺したく無い』。人が人である為の抑止力を外さなきゃいけない行為など真っ平御免だと往来で主張するのもわからなくはない
だが今は平和な世の中ではなく、『戦時中』だ。それも、史上類を見ない『全人類対バケモノ』という、SF小説のネタにでもなりそうな戦争なのだ
戦争を起こさなければ命は今以上に散り、軍事力が無ければ領海、領土は今以上に踏み荒らされていた
兵は、艦娘は、子供達の未来を守る為に戦地へ赴いている。対話で解決?タチの悪いジョークだ


( ^ω^)「知らぬが仏、だお。俺は逆に安心するね。この国はまだこれだけ寝ぼけた奴らがのさばれる程度には平和なんだって」


皮肉の利いた物言いだが、事実その通りだ。今や日本は世界一安全な国なのだ
各地に配備された鎮守府という砦と、艦娘という唯一深海棲艦に対抗できる守護者を抱え、今の今まで持ちこたえている
ブーンの言い分も理解できる。テレビに映る連中は、日本がまだ民主主義国家の体を保っている象徴とも言えるのだろう


(´・ω・`)「悪い、変えていいか?」

('A`)「ああ……勿論」


だから何だ?俺ら軍属の人間にとっちゃ不愉快極まりない映像に変わりはない。あんな連中の為に戦っている自覚など生まれてこの方抱いたことはないが
現場も知らねえ連中に好き勝手に言われて、気にするなという方が無理だ。平和、民主主義、お綺麗な言葉が一々癪に触る

こんな話もある。深海凄艦出現の最初期、艦娘技術が日の目を見ていなかった頃、当時の首相『南慈英』が独断で起こした海上自衛隊の出動命令
敵対生命体による侵略行為に対する返答としては満点を贈っても良いほどの英断だったが、メディアと一部政党はこれを痛烈に批判した
『軍事権力の乱用』『帝国主義の復活』『大日本帝国の再建』。エイリアンから領地を守っただけでこの言われようだ
これらの寝言は艦娘が配備されてからも国会で振りかざされ続けた。国を守る艦娘戦力は、近隣諸国を悪戯に刺激する危険要素だとも
一時は実質的な艦娘の規制及び制限法案である『艦娘三原則』まで成立したのだ

437 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:51:19 ID:9//7Mvdo0
('A`)「……」

(´^ω^`)「おっ、クソ映画やってんじゃん!!やっぱりてれ東なんだよなぁ!!」


真っ当な軍人としての道を自ら絶った俺にとっては、もはや関係のない話なのだろう。恐らく今後、戦場に立つことも無い
そう割り切ろうとしても、胸中の苛つきは晴れることなく募るばかりだ。腐っても俺は兵士らしい


('A`)「ごっそーさん」

(´・ω・`)「ん、おお?どこ行くんだ?」

('A`)「ジム。運動してくる」

(´・ω・`)「おいデブ、ドクを見習ってお前も鍛えたらどうだ?背筋バキバキやぞ?」

( ^ω^)「色男、金と力はなかりけり」


抱腹絶倒の自虐ギャグだったが笑う気にもなれず、コーヒーを一気に飲み干し食堂を出た
冷たい物による頭痛が襲ってきたが、甘んじてそれを受け入れた


('A`)「ハァー……」


気が紛れるのなら、痛みも苦しみもそんなに悪いもんじゃ無い

438 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:53:13 ID:9//7Mvdo0
ブーンが初日に言った通り、僻地の鎮守府にしてはかなり設備が整っている
中でもトレーニング用の備品に関してはどこよりも充実していた


(;'A`)「フーッ……フーッ……」


筋トレは好きだ。数を熟せば必ず結果が着いてくる。ベンチプレスも今や百四十を持ち上げられるようになった
兵学校時代も同期と競うように鍛えたものだ。思えば、やや過剰だったかもしれない。どうにも負けず嫌いな連中が多かったようだ
ある時、そんなアホ共の姿を見て誰かが言った。随分とやさぐれた表情で、吐き捨てるように


『どれほど鍛えたところで、艦娘にも深海棲艦にも敵うものか』


人間兵はあくまで艦娘の補助に過ぎない。戦車や火器を使って倒すことも可能だが、掛かる時間も労力も『主兵力』とは比べるまでもない
思えば、彼なりの忠告だったのかもしれない。肉体を強化しようが所詮人は人、怪物には敵わないのだから別の事に注力しろと
だがアホの一人は不快に思うどころか、寧ろイキイキとした表情でこう言い返した


『いいや勝てる!!俺は見た!!デカい矛一つで深海凄艦をぶった斬った男を!!』


反応は、大半が笑いを上げるかあざ笑うかであった。かく言う俺もその一人で、てっきり冗談か何かだと思ったのだ
最弱とも称される駆逐級でも、人からしてみれば装甲を纏い砲を抱えた鯨のようなものなのだ。アニメや漫画の読みすぎでもなけりゃ、信じる筈もない
だが、中には深妙な顔をして黙りこくる奴らもいた。俺以外にもその存在に気づいた奴もいたらしく、笑い声は徐々に小さくなっていく


『大洗でか?』

『ああ、お前も?』

『いや、俺は生き残った知り合いに聞いた』


かつて大洗を火蓋に世界中に被害と衝撃を齎した戦闘があった。通称、『列島事変』である
口に出すのも憚られる『学園艦凄姫』の侵攻の下、戦車道強豪チームである『大洗女子学園』に侵入を許し、戦場となった
政府は艦娘勢力だけでなく当時の陸自、海自を惜しみなく投入。更には国連が保有する対深海凄艦特殊部隊を要請し、対処にあたった
辛くも勝利したものの、犠牲者は大洗だけでも六万人に昇り、更には『学園艦』という巨大艦船にすら取り付く奴らへの恐怖は全世界の人類に驚愕と恐怖を与えたのだ

439 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:58:29 ID:9//7Mvdo0
『俺はSNSだ』

『ニュースにもなってなかったか?』

『ネット掲示板落ちるくらい盛り上がってたぞ』


二人の会話を揮発剤に、口々に『スーパーマン』の目撃情報が上がってくる
人が、火器も使わず深海凄艦を倒す。俺も笑いはしたが、一つ前例があったのを思い出した


『ドイツじゃナイフ一本で倒した奴がいたって聞いたぞ?』

『だがそれを真に受けたフランスが白兵部隊を投入して返り討ちに遭ったって言うじゃねえか!!』


ヨーロッパに大打撃を与えたベルリンでの戦闘記録に、とある少尉が敵旗艦をナイフで刺し殺したというものがある
深海凄艦上位種……所謂、『人型』に関しては、肉薄すれば人の力でも武器が刺さり、急所の位置も変わりはないという確実なデータはあるものの
結局、艦砲レベルの超火力を背負ってるバケモノには変わりなく、話の信憑性の確認もせずフランスで編成された白兵部隊は呆気なく犬死にした
その少尉とやらが神に愛されたラッキーマンなのか、それとも砲撃を食らってもビクともしない超人なのかは確かめる術はないが
少なくとも、深海凄艦に剣や槍などの原始的な武器で挑むなど無謀に変わりはない。ましてや、『この目で見た』などと言われても、幼稚なジョークにしか聞こえないのも無理はない

440 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 01:58:54 ID:9//7Mvdo0
『政府が極秘に開発した人型兵器とか?』

『既に艦娘がいるのに、白兵戦力にリソースを割く意味はあるのか?』

『艦娘の艤装に適応した数少ない人間って話も……』


喧々諤々の議論は白熱していった。信じられなくとも、夢のある話だったからだ
いくつになっても男は『スーパーヒーロー』に憧れる。未知の敵対生物との戦争真っ只中なら余計にだ


『なぁ、そいつはどんな奴だったんだ?アイアンマンみたく、スーツでも着ていたのか?』


最初に『見た』と言った男は、その質問に対して目を煌めかせながら捲し上げた


『パンッパンの筋肉に身の丈の二倍はある矛を振り回して、艦娘を率いて深海のクソ共をぶっ殺して回った!!』

『豪快な光景だった!!命の危険が迫ってるにも関わらず、俺は逃げるのも忘れて見入っちまった!!艦娘が勝利の女神とするのなら、彼はまさしく軍神だ!!』

『何より惹かれたのは、顔を特徴的なマスクで覆い隠してたってとこだ!!痺れるじゃねえか!!まさにスーパーヒーローだった!!』


俺は合いの手も込めてこう聞いた


「どんなマスクだったんだ?」

『へへ……シンプルなもんだったぜ。アルファベット一文字で……』

441 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 02:00:06 ID:9//7Mvdo0





『( T)』






442 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 02:01:11 ID:9//7Mvdo0
(;^ω^)「ドク、ドク!!」

(;'A`)「ッ!!」

(;^ω^)「潰れちまうお!!オイ!!」


ブーンの声が回想から意識を引き上げる。いつの間にか持ち上げる事をやめていたバーベルが、胸を圧迫していた
道理で息苦しい筈だ。恥ずかしながら自力で持ち上げる体力は残っていないらしく


(;'A`)「悪い……手伝ってくれ」

(;^ω^)「お、おお……」


ブーンの手を借りて過負荷から逃れられた


(;^ω^)「ストイックも結構だけど、余力を考えてトレーニングしろよ。自殺願望でもあんのかお?」

('A`)「……すまん」

(;^ω^)「あ、ごめ、今のデリカシーない発言だったお」

('A`)「気にしねえよ……迷惑掛けたのは事実だしな」

(:^ω^)「ん」


差し出されたスポーツドリンクを受け取り、礼を言ってから一息に半分を飲み込んだ
ブーンは向かいのベンチに座り、ジッと俺の顔を見据えてくる
暑苦しいのに暑苦しいものを見せられているが、救われた以上文句も言えない


('A`)「……あのよ」


どうにも気まずくなり、今しがた思い出した話を切り出すことにした

443 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 02:02:11 ID:9//7Mvdo0
('A`)「人が、白兵戦で深海凄艦を殺す事は可能か?」

( ^ω^)「何いきなり怖……」

('A`)「与太話だ。深く考えなくてもいい」


ブーンは腕を組んで天井を仰ぎ、しばし唸って


( ^ω^)「出来る。ただし、状況による」


と答えた


('A`)「その心は?」

( ^ω^)「極端な話、ドチャクソに拘束された人型深海凄艦なら女子供でも心臓一刺しで殺せるお。その必要があるのかどうかは別として」


状況を想像して、思わず吹き出してしまった
実に黒い冗談だ。そんなもん深海凄艦に限った話じゃないしな


( ^ω^)「戦場だと……真正面からは余程の幸運に恵まれてない限りは無理だお。奇襲、強襲による隙を突いた戦術なら、低確率だろうけど成功する。あるいは……」

('A`)「あるいは?」

( ^ω^)「対深海凄艦を想定して編制、訓練された部隊なら、真正面からぶつかっても打ち勝てるお」


眉を顰めた。今、こいつは『打ち勝てる』と言い切った
まるでそんな馬鹿みたいな部隊が『いる』と知っているかのような口振りで
そんな俺の反応を見て、ブーンは肩を竦めた

444 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 02:04:24 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「可笑しな話じゃないお。艦娘が投入される以前なら、どんな手段を用いてでも奴らに対抗する必要はあった。それこそ、足軽よろしく剣と槍を背負って戦った兵士だっているだろうし」

('A`)「……ここの、提督もか?」

( ^ω^)「あれ?結構有名な話だと思ってたんだけど……」


旧友が見たという『スーパーヒーロー』の話に信憑性が増した
メディアが取り上げた『大犯罪者』の実情は負の側面ばかりだった。俺もそれに染まっちまっていたらしい


( ^ω^)「戦歴なら艦娘を凌ぐ数少ない叩き上げの提督だったらしいお。指揮、訓練だけでなく自らが前線に立ち、先陣を切った戦人だったとも。時代錯誤もいいとこだおね」

('A`)「……」


提督に対する個人的なイメージは『指揮官』で固定されている。ましてや、俺が経験した戦場で、前線に立ったなんて話は一度もない
艦娘を題材にしたライトノベルやアニメなんかもあるが、その殆どが艦娘のハーレムを侍らせる誠実な提督像だ
見るに堪えないオタク向けの作品を、よくもまぁ作り上げたものだと感心はしたが
徴兵の活性化、軍のマイナスイメージの払拭には、ある程度の貢献はしたのでは無いだろうか


( ^ω^)「これでも元整備士だお。戦場から帰ってきた艦娘と話す機会も多かった。みんな口々に『あそこの鎮守府は頭と戦闘力ヤバい』と言ってたお」

('A`)「限界化したオタクみたいになってんな」

( ^ω^)「草。もっと具体的に話すと、かなりの戦闘狂集団だったらしいお。提督も艦娘も、嬉々として敵を皆殺しにする連中ばかりだったって」


提督は兎も角、艦娘までその有様とは恐れ入る。世界最強の部隊は性格も一味違うらしい
好戦的な艦娘もいるにはいるが、それらを差し置いて『ヤバい』と言わしめる程には狂っていたのではないだろうか

445 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 02:05:31 ID:9//7Mvdo0
( ^ω^)「彼や鎮守府に纏わる黒い噂は別として、数多くの戦場で戦果を挙げたのもまた事実。日本が今まで持ち堪えたのも、彼らの貢献があってこそだと思うお」

('A`)「……随分と肩を持つんだな」

( ^ω^)「おっと、話が脱線しちゃったお。とにかく、人は深海凄艦も倒せる力を持ってる。この中じゃ、お前が一番近いだろうよ」

('A`)「へっ……ご期待に添えそうには無いがな」

( ^ω^)「謙虚で結構。戦場じゃ無謀な奴から早死にするお……そんじゃ、仕事に戻りますかね」


ブーンは膝をパンと叩いて立ち上がる。去り際に


( ^ω^)「ああ、そうそう。彼はその三倍の重さを毎日持ち上げてたらしいお」


と、言い残し、ジムを後にした


('A`)「三倍……三倍?」


人にもバケモンはいるらしい。そんな感想を抱いた後に、ブーンの発言が引っかかった


('A`)「なんで知ってんだよ。そんな事……」


一週間程度じゃ、腹の内を覗き込められない
いつかその答えを聞ける日が来るのだろうか

446 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/08(土) 02:10:42 ID:9//7Mvdo0
今日はここまで

大洗やらドイツやらなんのこっちゃって人は7Xさんに同世界線のシリーズがまとめられているので頑張って読んでください
http://nanabatu.sakura.ne.jp/boon/dokuo_sinkaiseikanto_tatakau.html

447名無しさん:2019/06/08(土) 06:20:01 ID:H/mhJCEg0
おつ
あっちも読んでるから色々ネタがわかってニヤニヤしてる

448名無しさん:2019/06/09(日) 00:13:18 ID:.G01QSG20
おつさまー
筆が早くて嬉しいが向こうが終わる前にこっちが終わりそうだw

449 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:41:03 ID:4I3ELPCY0
―――――
―――



(´・ω・`)「ブーンが何か隠してる?」

('A`)「おう」


『夏休み』も終わり、いよいよ秋が準備運動を始めた頃
俺は数日間抱き続けたブーンに対する不信感をショボンに打ち明けた


(´・ω・`)「どうしてそう思うんだ?」

('A`)「ここの提督の話を聞かせてもらってな。やけに肩を持つような口振りだった」

(´・ω・`)「ほーん……っと!!」


倉庫で見つけた釣竿を海へ目掛けて勢いよく降る
魚肉ソーセージが付いた針は、十数メートル先で小さな波紋を立てて沈んでいった
今日は食いつきが良く、クーラーボックスの中身は半分ほど魚で埋まっている


(´・ω・`)「考えすぎだと思うがね。それこそ、あいつがいた鎮守府の艦娘に聞いた話かもしれねえし」

('A`)「まぁ……そうだけどよっと!!」


俺の放った針は、ショボンのものよりやや遠くに落ちる


(´・ω・`)「飛ばすねえ〜」

('A`)「どうも。俺も疑いたくは無いが、歯に物が挟まったみてえにずっと気になっててな」

(´^ω^`)「俺ら腐っても犯罪者だからな!!ガハハ!!」


笑い事じゃ無いが、釣られて俺も微笑を漏らす
この十数日間ですっかりこいつらの空気に飲まれちまったらしい

450 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:41:50 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「それこそ、直接聞きゃあいいじゃねえか。かの有名なディレクターはこう言った。『腹を割って話そう!!』ってな」

('A`)「髭のオッサンと同じ方法で聞き出せると思うか?」

(´・ω・`)「俺ならキレる」

('A`)「だろうよ……それに、『これ』もある。迂闊には踏み込めねえよ」


左手首の腕輪には、どれだけ時間が経とうが慣れない
戦場でも死は隣り合わせだったが、管理されてはいなかった。気まぐれ一つ、故障一つでドカンだ。気が気では無い


(´・ω・`)「ブーンが俺らの監視者だと?」

('A`)「そうは言ってねえけどさぁ……」

(´・ω・`)「疑い深いのも結構だが、度が過ぎると友人を失くすぜ?」

('A`)「手痛い忠告だな。痛み入るよ」

(´・ω・`)「っあー……すまん」

('A`)「いいさ。自業自得だ」


我ながら嫌味な性格で辟易する。捻くれた性根は一度死にかけても治らないらしい


(´・ω・`)「ふむ……あいつがここに来た原因は聞いてるか?」

('A`)「いや……工廠で何かしら起こしたって事くらいしか」

(´・ω・`)「ふーん……」

('A`)「そっちは?」

(´・ω・`)「一緒だよ。そんで、毎日工廠でシコシコ作ってる物に関してもはぐらかされてばかりだ」


なんだよ、怪しさ満点じゃねえか

451 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:43:39 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「つっても、ここにいる時点で俺らは極悪人だ。そりゃ闇の一つや二つ抱えてるだろうよ。小せえ事を気にしたってしょうがねえさ」

('A`)「楽観的だな……」

(´・ω・`)「……怖いか?」

('A`)「……」


『怖い』。確かにそうなのかもしれない
それは『友人』という関係そのものかもしれないし、『裏切り』という可能性に対してかもしれない
俺は一度道を踏み外した。二度目だって、そう、恐らく、容易く踏み外してしまうのだろう


(´・ω・`)「難儀だな……」


ショボンは俺の返答を待たず、タバコに火を着ける
魚は満腹になったのか、いつの間にか竿はピクリとも動かなくなった


(´・ω・`)「フゥー……そんじゃ、疑り深いドクオくんの為に、年長者の昔話でもしましょうかね」

('A`)「昔話……?」

(´・ω・`)「フェアじゃねえだろ?お前一人が腹の中を早々に晒して、俺らはだんまりなんてよ」


『そんなつもりじゃない』と言いかけて、好奇心が食いとどめた
いや、俺が交わした会話は裏返せば過去の詳細を話さないショボンも疑っているとも読み取れる
迂闊な発言だったが、多分、いつかは知らなければならない話なのだろう。黙って耳を傾けることにした

452 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:44:31 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「長いこと軍でメシ炊きやってるとよ、毎日大勢の兵士と顔合わすんだ。キツい訓練期間でも、食う時だけは良い顔しててな。その顔を見るのが好きだった」

(´・ω・`)「だが浮かない顔もある。戦場で友が死んだ時に浮かれた表情をする奴はいない。それだけならまだ良いさ。死んだ奴たぁ二度と顔を合わせられない」

('A`)「……」

(´・ω・`)「ある時、俺に鎮守府への転勤指令が出た。配食兵にとっちゃ花形の仕事でな、同僚から羨ましがられたよ」

(´・ω・`)「だけど気が進まなくてな。一度は断りを入れたんだが、腕を見込んだ上での強い希望と言われちゃ悪い気も起こらず、結局受けることとなった」

(´・ω・`)「初日は頭がクラクラしたよ。男所帯の風景から一転して、美女が大半を占める施設に移ったんだからな。ああ、勘違いしてもらっちゃ困るが分別はちゃんとついてたさ」

('A`)「……ああ、わかってる」

(´^ω^`)「ハハ、どうも。だけどよ、言っちゃ悪いがむさ苦しい野郎と顔を付き合わせるよりもほんの少しだけ気分は良かった。こんな話聞かれちゃ、ボロクソに叩かれるだろうがな」


そう言って青空を仰ぎ、口から煙を吐き出した
多分、鎮守府に勤務する前もこうして兵士達と軽口を叩きあっていたのだろう
信頼と友情が成せる言葉のプロレス。これもまた、『二度と顔を合わせられない奴』に向けた言葉なのかもしれない


(´・ω・`)「艦娘ってのは驚くべきもんで、小さなガキですら戦場に出る。ガキらしい無邪気さを抱えたままな」

(´・ω・`)「ある日、休憩時間中に一人の駆逐艦娘が食堂を覗いてた。長い赤髪で、特徴的な語尾の睦月型でな」

(´・ω・`)「気まぐれで適当なおやつを作って振舞ってやったら、大層喜んだ。それを見て、俺も腹が膨らんでいくかのように嬉しかったよ。もし自分に子供がいれば、こんな気分なんだろうなってよ」

(´・ω・`)「それから、あの子は姉妹艦を連れて頻繁に遊びにきた。おっちゃんおっちゃんと人懐っこくな。俺も調子に乗って手を替え品を替えて美味いもん作ってやった。人生に絶頂期があるとするならば、あの時だろうぜ」

('A`)「……良い環境だったんだな」

453 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:45:54 ID:4I3ELPCY0
直属の上官を除く鎮守府配属兵との必要以上の接触を禁じる鎮守府も少なくないと聞く
ショボンがいた鎮守府は、艦娘に自由を与えて好きにさせるだけの余裕はあったらしい
だが、それが必ずしも『良い事』に繋がるかはまた別だ


(´・ω・`)「ああ、上層部からも好評の鎮守府だったよ」


打って変わって吐き捨てるように言った。規律を重んじる上層部が自由な環境を『良し』とするとは思えない
もしもその鎮守府がショボンの理想通りの場所だったなら、今も艦娘に飯を振舞っていた筈だ


(´・ω・`)「しばらく経ってから、顔見知りの一人が『はじめまして』と挨拶をした。俺は冗談か何かかと思って笑ったんだが、キョトンとしていた」

(´・ω・`)「傍の睦月型は、下唇を噛んで俯いていたよ。だけど、俺の視線に気づくと健気にも笑顔を作って応えた」

(´・ω・`)「深く踏み込んじゃいけねえと思って、俺はいつも通りおやつを振舞った。それもまた、初めてのように眺めてきた」

(´・ω・`)「彼女達が帰ると、同僚が事情を話してくれたよ。『彼女は戦闘による損失を補う新造艦』だってな」

('A`)「……」


日本が何故、世界最大の艦娘保有国なのか。それは彼女達を『造る環境』が整っているからだ
練度こそ一からだが、資材さえあれば『艤装』と、それを操る『艦娘』を複製出来る
例え轟沈しても、同じ顔、同じ声、同じ武装の兵士を再び造り出せるのだ

454 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:47:28 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「ショックで声が出なかったのは初めてだった。同僚は努めて平静を装っていたが、目の色は暗く沈んでいた」

(´・ω・`)「『あまり情を掛けると、お前が壊れてしまう。ほどほどにしておけ』。遅い忠告だったが、俺が逆の立場でも早々に言えなかっただろう。そこには確かに幸福があって、ぶち壊すような真似はできない」


俺達は戦争をしている。仲間との死別は日常であり、珍しいものではない。人は死ねば二度と会うことが出来ないなど、小学生でも理解している
だが、艦娘という『イレギュラー』となると話は別だ。些細な差はあるだろうが、艦種ごとに定型化された『モデル』が幾らでも量産できる
友達が死んだその日に全く同じ姿で中身が空っぽの『別人』が現れるようなものだ。不気味だろうが、一人ならまだ耐えられるだろう。しかし


(´・ω・`)「また一人、また一人と、あいつらは同じ姿で入れ替わっていった。中には入れ替わりのスパンが短い子もいたな」


それが二度、三度と続けばどうだ?普通の人間ならまともではいられない。親しい人物なら猶更だ


('A`)「……好評ってのは、そういうことか」

(´・ω・`)「フーッ……別に、とびきりのクズ野郎じゃねえ。そこそこ有能な提督だったよ。有能故に、犠牲を伴う作戦も即座に実行した。強い、強い部隊だった」


情け深い者に指揮官は務まらない。例え確実に一定数の部下が亡くなろうとも、勝つためにはリスクを背負わなければならない
酷な言い方になるが、兵を『数字』として捉え、極めて冷徹に使い捨てられる人材こそ、『武将』に相応しい
ショボンも軍人だ、ちゃんと弁えているだろう。だからこそ、『有能な提督』に対する怒りの感情は聞き取れなかった

455 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:49:37 ID:4I3ELPCY0
(´・ω・`)「誰が責められるかよ。きっとあの提督だって、最初は苦渋の決断だったはずだ。だけどよ、人間ってのは良くも悪くも『慣れる』もんだ」

(´・ω・`)「繰り返し繰り返し……死んでは生き返る彼女たちを見続けて、彼は戦争に馴染んでしまった」

(´・ω・`)「フーッ……誰が責められるかよ……良心、道徳、人として大事なもん忘れちまってまで、深海棲艦っつー理不尽に抗ってる男をよ……」


きっと、以前テレビで見たデモ隊の連中は、その提督を前に『大量殺人者』とでもがなり立てるのだろう
何も知らない連中は、無知ゆえに彼を責め立てるのだろう。安寧の上に成り立つ正義を振りかざしながら


('A`)「……」


そして、誰よりも彼を責めたい筈のショボンは、失う苦しみを知っているが故に
ただ、深く静かに同情する他ない。誰かが背負わねばならない重圧を引き受けた『提督』に対して


('A`)「……さっき俺に難儀と言ったが、アンタも大概だぜ」

(´^ω^`)「……ああ、そうだな」


世界は、優しい人間の為に回っちゃいないらしい
胸の中を覆う世知辛さを打ち消そうと、俺もタバコに火を着けた

456 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/12(水) 23:52:27 ID:4I3ELPCY0
今日はここまで

夕方にティンコの短編投下したんで興味ある方は是非

457名無しさん:2019/06/13(木) 22:17:54 ID:jOwxB/kY0
過去作読んだぞ、面白かったぞ、続き待ってるぞ

458名無しさん:2019/06/13(木) 23:15:26 ID:DEc5RqPo0
◆L6OaR8HKlkに聞きたいんだけどこれって乗っ取り?
それとも◆HS4z8y6JHcと◆L6OaR8HKlkは同一人物ってこと?

459名無しさん:2019/06/15(土) 02:20:19 ID:OhNVHBLI0
おっつおっつ

ティンコ見つからないんだけど違う板?

460名無しさん:2019/06/16(日) 17:02:07 ID:mhDixWwE0
2板にあるだろ

461名無しさん:2019/06/16(日) 17:03:22 ID:mhDixWwE0
>>458
同一人物
ブン動会用の作品だからトリップが違う

462名無しさん:2019/06/17(月) 23:36:00 ID:8EPUmUSc0
>>461
理解した、ありがとう

463 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:49:44 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「彼と比べて、俺は自分勝手で臆病な人間だ。日に日に増していく不安と恐怖を飲み込み、納得させられなかった」

(´・ω・`)「勤務して一年が経とうって頃だろうか、いよいよ俺は耐えきれなくなって、馬鹿な真似をしでかしちまった」

('A`)「……誘拐か」

(´^ω^`)「ああ……遊びに連れてくっつって、無許可でな。築き上げた信頼を盾に、白昼堂々と連れ出したよ」


まるで悪戯のネタをバラしたかのように、楽しそうに自分の罪を語った


(´^ω^`)「初めて出会った睦月型を一人、助手席に乗せて遊園地へと連れて行った。俺の胸中には深い後悔と罪悪感があったが、ウキウキとした笑顔の前ではそれも霞んだよ」

(´^ω^`)「多分、俺はこの時点で既に諦めてたんだろう。ただの駆け落ちとはワケが違う、軍の抱える重要機密の半身を無断で連れ出して、安住など得られるはずがないって」

(´^ω^`)「でもよ、だけどよ……自制が効かなかった。何か起こさなかったら、この子は明日にでも『新しく』なってしまうんじゃないかって思うと、気が気じゃなかった」

('A`)「……」


はさみ持つタバコの灰が、まとめてボロリと崩れ落ちる。『燃える』だけの役目を果たし終え、今やただのゴミとなった
ショボンの話を前に、『吸う』如きの動作も出来ずにただ固まっていた。余りにも切なく、救いがなく、意味が無かった


(´^ω^`)「寂れた遊園地に到着して、ガラガラの園内で『貸切だ』とはしゃいだよ。大してスピードも迫力もないジェットコースターで膝がガクガクになった俺を笑ったり、コーヒーカップ回しすぎて気持ち悪くなったりよ」

(´^ω^`)「昼にはフードコートで飯を食った。『おじちゃんのご飯の方が美味しいぴょん』なんてお世辞に照れたりもしたな。クソ高くてカラフルな綿飴には、目を輝かせてやがった」

(´^ω^`)「動物園も回った。猿に餌やったり、乗馬体験なんかも楽しそうにしてた。ふれあいコーナーでモルモットと遊ぶ姿を見て、カメラを持ってこなかったのを後悔した」

(;'A`)「オッサン、もう……」


音を上げたのは、俺が先だった。結末は既に『ここ』にある。辛すぎて、最後まで聞ける勇気がない
それでもショボンは、取り憑かれたかのように過去を語る。神の前に懺悔でも、しているかのように

464 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:50:40 ID:fMBqo9P.0
(´^ω^`)「閉園時間になって、手を繋いで遊園地を出た。『楽しかったか?』そう聞くと」

(´^ω^`)「『楽しかった!!これで明日からも頑張れるぴょん!!』と答えた。俺は、『そうか』としか返せなかった」

(´^ω^`)「駐車場では、案の定憲兵が待機していたよ。怒り狂ってるっつーよりは、どこか寂し気にな。込み上げるモンがあったよ。人も捨てたもんじゃねえなって」

(´^ω^`)「あの子は不安げに俺の顔を見上げた。知らねえ大人が車の周りにいるんだから当然だよな。だから俺は視線を合わせて、奥歯を噛み締めながらこう諭した」

(´^ω^`)「『おっちゃんはこの後、お仕事があるんだ。帰りはあの人達が送ってくれる。安心しろ、提督さんのお友達だから』」

(;'A`)「ッ……」


鼻先にツンと何かが昇り、短く啜り上げた
今の俺は、その時のショボンと同じような表情をしているのだろうか


(´^ω^`)「憲兵も優しく接してくれたよ。わざわざ電話で忙しいであろう提督を呼び出して、通話させる程にな」

(´^ω^`)「彼から事情を聞いたあの子は、パァと顔を明るくさせた。多分、俺に対して悪いことは話さなかったのだろう。つくづく、出来た提督だった」

(´^ω^`)「『おっちゃん!!お仕事、頑張るぴょん!!今日はありがとう、楽しかった!!』」

(´^ω^`)「あの子は乗せられた車の窓から手を振った。馬鹿野郎にはもったいない程の、最高の笑顔でな。俺も、いつも通り手を振り返した」





(´^ω^`)「それが『卯月』との最期だった」




.

465 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:52:18 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……それから?」

(´・ω・`)「ご想像の通りさ……俺は晴れて誘拐犯として御用、収監されて地位と職と人生を失った」

(;'A`)「減刑……されなかったのか?」

(´・ω・`)「されたさ。だから俺は今も生きている。提督は、わざわざ上層部に頭を下げてくれたらしい。こんなクズの為にな」

(´・ω・`)「面会に訪れた彼はこう言った。『凡将の私には、こんな無様な戦しか出来ない。すまない、申し訳ない』と。額を床に擦り付ける俺に、これだけ告げて去った」

(;'A`)「……なんで、なら、猶更……!!」


勝手が起こした事件なのは変わりない。だが、上官が事情を理解して、減刑まで願い出て、どうして―――


(;'A`)「アンタはここにいるんだよ……ッ!!」

(´・ω・`)「……」


この『優しい男』は、島送りにされなければならないのだろうか


(´・ω・`)「……都合が、悪かったからだ」

(;'A`)「都合……?」

(´・ω・`)「軍にとって、いや、世界にとって、艦娘は主戦力としてなくてはならない存在だ。常に、勝利の女神としてあり続けなければならない」

(´・ω・`)「そんな彼女達を人情で連れ出したなんて前例を一つでも公にしてみろ。きっと俺のようなバカは二人、三人と続く。その規模が膨らめば、組織の崩壊にも繋がり兼ねない」

(´・ω・`)「だから……俺を我欲に駆られたクソ野郎として扱う他なかった。ハハ、まぁ実際、その通りだがよ」

(;'A`)「ッ……」


常々、世の中とは儘ならないものだと感じる。かたや戦場で娼婦の真似事をさせられる艦娘もいれば
艦娘に支えられている今のシステムを崩壊させないために、必要以上の罪を着せられる男もいる
この世を作った神様は、よほど胸糞悪い世界をご所望らしい。演じる役者たちの気持ちなど、露とも知らずに

466 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:53:43 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「恵まれてるよ。優しい人間に救われて、変態扱いされながらその後の人生を豚箱で過ごすだけで済んでんだ」

(´・ω・`)「情にかられた人間ってだけで、大層な優遇だ。恥ずかしいよ。出来ることなら、深海凄艦目掛けて自爆特攻でもさせて欲しかった」

(;'A`)「……」

(´・ω・`)「数ヶ月後、かつての同僚から卯月が『生まれ変わった』と知らされた。いつもの様に戦場へ出て、立派に戦果を挙げた帰りに襲撃されてな。姉妹艦を庇って、沈んだそうだ」

(´・ω・`)「俺と別れてからも毎日のように食堂を訪れては、『いつ帰る?いつ会える?』と訪ねてたそうだ。届かなかった手紙の束も受け取ったよ」

(´・ω・`)「同僚は心を病んで、仕事を辞めた。俺に対する恨み節はなかった。ただ一言、『早まった真似はするな』とだけ告げた」

(´・ω・`)「独房で手紙を抱きかかえながら、何度も何度も後悔したよ。『こんな事になるなら』『寂しい思いをさせるくらいなら』『最後のその日まで、あの子に付き添ってあげられたら』」

(うA`)「……」


遂に耐えきれなくなり、目尻を拭った。なんて事はない、兵士の戦死だ
聞き慣れた、見慣れた、ありふれた日常だ。死を軽く扱えるようになったから、俺も『あんな真似』をしてしまったのに
人を、艦娘を深く想っているショボンの言葉は、正真正銘のクズである俺の心に深く、深く突き刺さった

467 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:55:27 ID:fMBqo9P.0
(´・ω・`)「自分が許せなかった。後を追おうとした。だけど出来なかった。提督の、憲兵の、同僚の心を裏切る真似だった」

(´・ω・`)「何より、あの子の言葉が俺を踏みとどませた。『お仕事、頑張って』と」

(´・ω・`)「そしてこう思うようになった。俺が数々の人の縁でクソッタレな人生を延長させて貰えたのは、『お仕事』をやり遂げさせる為だったのだろうと」

('A`)「仕事……」

(´・ω・`)「俺はブーンのように艤装を弄れるくれーの学や技術はねえ。お前のように戦場へ出向けるほどの腕っ節も度胸もねえ。あるのはメシを作る腕一つ。明日への活力と、喜びを齎す料理の腕だけだ」

(´・ω・`)「だから……呪われた場所だろうと、たった二人にしかメシを振る舞えないとしても、俺は心底嬉しかった。『仕事』は残っていた。腐るだけの人生ではなくなったってな」

('A`)「……」

(´^ω^`)「と、これがとあるバカのしでかした罪だ。笑えねえ話を長々とすまねえな」

('A`)「……ああ、笑えねえよ。全く笑えねえ」


彼が何故、ブーンに対して寛容だったのかがよく分かった
人を信じ、人に救われた彼だからこそ、些細な不信感など取るに足らないのだろうと
俺とは正反対だ。戦友に失望し、一方的に始末を着けた、『裏切られ、裏切った』俺とは


(´^ω^`)「こんな俺だからよ、お前が浜風を助けたって聞いた時は……こう言っちゃなんだが、嬉しかったよ。理不尽に我慢ならなかった馬鹿野郎は、俺以外にもいたんだなって」

('A`)「……助けたつもりなんて微塵もねえよ。ただ、勝手に怒り狂って判断を誤っただけだ」

(´^ω^`)「お前にとっちゃそうかもな……だが、どんな方法であろうとも確実に『一人』の尊厳は守った。それもまた、『優しい人間』に出来る勇気ある行動だと思うぜ」

468 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:56:44 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……過大評価が過ぎるぜ、オッサン」

(´^ω^`)「それもそうかもな……っと、これ以上粘っても釣果はねえか。俺は引き上げるぜ」


ショボンは釣り糸を巻き上げ、クーラーボックスを持ち上げた


(´^ω^`)「時間だけはたっぷりある。じっくり考えて答えを出せ。信じる、信じないもお前次第だ」

('A`)「ああ……そうするよ」

(´^ω^`)「そんじゃ、俺は『仕事』に戻るぜ。釣られた魚も報われるほど、飛び切り美味いメシを作ってやる」

('A`)「……」


少なくとも一つ、分かったことがある。ショボンはその一言に、毎日の料理に、想像を絶する荷を背負いながら向き合っている
努めて笑顔を絶やさないその裏に、心の傷と深い悲しみを隠しながら、『卯月』の言葉を支えに今日も『生き』、『働いている』


('A`)「オッサン!!」

(´・ω・`)「ん?」


俺が抱いた彼への『尊敬』の念は、衝動的に去り行く背中に声を掛けた


('A`)「ありがとう、話をしてくれて」

(´^ω^`)「……なぁに、これでフェアだ。礼は無粋だぜ、『兄弟』」


『兄弟』、俺には畏れ多い関係だ。だが、相反して嬉しくもあった。再び前を向いて歩き出した彼に、俺は深々と頭を下げた
人の縁は生き方を変える。多少時間は掛かったが、『この場所へ来て良かった』と思えていた―――

469 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 21:58:59 ID:fMBqo9P.0
―――――
―――




( ^ω^)「畑の様子見てくる」

(´^ω^`)「死じゃん」


外は轟々と風が吹き荒れ、窓ガラスが割れんばかりに激しく雨粒が叩きつけられる
一つ目の大きな渦巻は、天気予報図上でちょうど鎮守府に差し掛かったところだった


( ^ω^)「お外で遊べないお……」

('A`)「活発に動くようなナリかよ」

( ^ω^)「デブはお外で遊んだらアカンのか?お?」


ブーンとは今だ腹の中を晒しあってはいない。差し当たって、俺は『前提』の確認をしようと思ったからだ
『前任提督』の真相。ショボンが悪名を被らされたように、軍とメディアによってねじ曲げられた可能性がある


(´・ω・`)「こんな天候で見張りもクソもねえだろ。一局打とうぜ」

( ^ω^)「よっしゃ、用意するお」

('A`)「あー、いや、俺は遠慮しとく」


折角の麻雀の誘いだが、天候による時間の空きは有効活用したい
アレから一度も足を踏み入れていなかった執務室を調査する事にした


( ^ω^)「またトレーニングかお?もう潰されても助けねえぞ」

('A`)「へいへい重々承知してますよ。また後でな」

(´・ω・`)「そんじゃ、俺らはどうぶつ将棋でも打つか」

( ^ω^)「普通の将棋でよくない?秒で決着つくじゃん」

470 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:00:37 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……」


娯楽室へ向かう二人と別れ、昼下がりとは思えない薄暗さの廊下をひた進む
古い木造の校舎はある程度の補強が施されてはいるが、それでもどこかの屋根が飛ぶのではないかと不安に思えてしまう


('A`)「……」


不安は台風だけではない。嵐に乗じて、深海凄艦が現れるかもしれない
前任提督の失脚後、この海域には一度も奴らは現れていないらしい。艦娘が一人も配備されていない理由の一つだ
皮肉にも、数々の恐ろしい曰くを抱えながら、この日本で最も平和な海だと言えるのだ


('A`)「……」


それでも、俺はこの施設を少人数で管理し続ける意味がわからなかった
僻地に居を構えようとも太平洋に面する一大拠点。攻め込まれれば内地へ侵攻されるのは目に見えている
例え呪われていようが、鎮守府として機能するのであれば艦娘を常任させるのが普通ではないか?


('A`)「解せねえよな……」


真っ当な人生を失ったからと言って、思考は放棄するもんじゃない
海軍はきっと何かを隠している。ただ厄介払いをする為に俺らを送り込んだわけでもないだろう
『意味はある』。そして、その意味は鎮守府に隠されているはずだ


('A`)「……」


だからこそ、俺は目の前に鎮座する『部屋』に向き合わねばならない
『鈴の音』に導かれ、一度は訪れた、彼の居座っていた執務室に


('A`)「スー、フゥー……」


深呼吸で緊張を和らげ、ドアノブを回す。俺の気持ちなど全く省みず、扉はスムーズに開いた
変わらない。初日と何一つ、微動だにしない部屋が広がっている。締め切られたカーテンによって、廊下よりも薄暗い事を除けば

471 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:01:28 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……邪魔すんぜ」


返事がない事に安心しつつ、再び中へと足を踏み入れる。機能していないとはいえ、鎮守府を束ねる長の部屋だ。自然と気は引き締まった
電灯を点け、一先ず周りを見渡した。決して広いとは言えないが、ここから過去の痕跡を辿るのは一苦労だろう


('A`)「さてさて……」


少し前の俺なら、この段階でアホくさくなって止めたはずだ。『資料など残っているものか』『真っ先に押収されるに決まってる』と
だが今は、妙な確信があった。『鈴の音』の事もあるし、そして何より、引き出しの中に『彼の顔』が残っていた
『小練 詩音』が海軍にとって最大の汚点であるのなら、例え『記念』だとしてもそんな物を残すはずがない。彼に関する何もかもを抹消して然るべきだろう
勝手な推測だが、もしかすると『見つけて貰う為』に在ったのだとしたら―――


('A`)「……簡単じゃねえか」


前言撤回だ。確認すべき場所など一か所しかない
他の何にも目をくれず、執務机へと向かい不躾に椅子へ腰を下ろし


('A`)「……」


引き出しを、開けた





【 (キT) 】






472 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:05:03 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「ッ……」


相変わらず、生々しい存在感を放つマスクだ。今にも語り掛けてきそうではないか
しかしただの『布』にいつまでも怖気づいてはいられない。両手で掬い上げるように、引き出しから持ち出した


(;'A`)「……」


随分と年季の入った布地で、黄色い糸で縫い合わされた箇所は、薄い染みが広がっている
色見と、『頬』に当たる位置から考えると恐らく……切り傷によって広がった血染みではないだろうか
常に身に着けていた事を鑑みると、予備が幾つかあっても可笑しくはないと思うが


('A`)「思い入れでもあったのかね……」


丁寧に縫い直されているのを見るに、余程大事に着用していた物らしい


('A`)「ふむ……」


そして一番の謎と言えば、見た感じ視界を確保する穴が開いてないこのマスクで、どうやって日常生活を過ごしていたのだろうか?
ちょうど目の位置を横切る『T』の横線も、メッシュ生地でもない。かと言って、カメラやマウントディスプレイが搭載されているワケでもない


('A`)「あー……どうすっかな」


どうするもこうするもない。簡単な話だ。現物がそこにあるんだから『確かめればいい』
誰に見られているわけでもないが、一応辺りを見回して人気が無いのを確認した。なんで悪い事してる気分になってんだ


('A`)「よし……」


履き口……いや、この場合『被り口』か。伸縮性抜群のゴム紐を広げて、一息に被ろうとして


(;'A`)「っ……」


『のろいのそうび』という間の悪いワードが頭に浮かび、躊躇ってしまった
取れねえんだっけ……ああ、クソッタレ。今更なんだ。ゲーム脳か俺は

473 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:06:39 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……フーッ」


取れなかったところで、ブサイクなツラが隠されるだけだ。どうってことねえ


(;'A`)「よし、せーのッ!!」


気合と勢いに任せ、俺は今度こそマスクを





(キT)「オラッ!!」




顎下まで一気に被った……





(キT)「……?」




よな……?

474 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:09:34 ID:fMBqo9P.0
(キT)「いや、これ……」


被り心地がいい……なんてもんじゃなく、被った心地が『しない』
それだけじゃない。視界は被る前と一切合切変わりなく、息苦しさも感じなかった
まるで新しい皮膚が顔面に『張り付いた』かのように、自然と馴染んでいるではないか


(キ;T)「うわ気っ持ち悪!!気持ち悪!!!!!!」


しかし外れないかと言われればそうでもなく、普通のマスクと同じように簡単に脱着出来る
気味が悪いのは確かだが、『のろいのそうび』の類では無さそうだ


(キ;T)「ハァ……で?」


わかったのは、とりあえずこれが謎の超技術で作られた特別製のマスクって事だけだ
期待はしてなかったが、マウントディスプレイが広がって耳元でスーパーAIが語り掛けてくれた方がまだ夢がある
アメコミ映画の観過ぎか。一人で盛り上がってたのがバカみたいだ。サッサと脱いでしまおう


(キT)「あ……?」


その時、執務机の一部分が僅かに『光っている』のに気が付いた


(キT)「……?」


蛍光灯の光に負けてよく読み取ることが出来ないが、机上に十五センチ定規ほどの大きさの枠の中に、『文字』が並んでいるように見える
俺は急いで電灯のスイッチを消し、再び確認する。予想通り、不規則なアルファベットが並んでいた
どうやら、マスク越しでしか見えない特殊な光のようだ。俺は一体なんの探索ゲームをさせられてんだ?


(キT)「E、K、F、R、A……」


ローマ字読み……ではない。EKFRAなんて英単語もない。簡単な並び替えパズルってところか


(キT)「えーっと……多分、こう……」


英語は苦手だったが、文字を組み立てるだけなら何となくでも出来る
正しい並びの順番に、アルファベットを押していった

475 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:14:17 ID:fMBqo9P.0
(キT)「F、R、E、A、K……」


『奇形』『変種』『変わり者』を意味する単語、『Freak』
このマスクの持ち主を体現するかのような五文字のパスワードによって


(キT)そ「うおっ!?」


机上からポップアップトースターよろしく、一枚の『板』が飛び出した
間抜けな『チーン♪』というベルの音で心臓飛び出るかと思うくらいビビったのは墓まで持っていこう
つーかなんで今までこんなゆるゆるセキュリティと遊び心満載の仕掛けがバレなかったんだよ


(キ;T)「お……驚かせやがって……」


この期に及んでナッパみたいなセリフしか出てこなかった俺も大概だが


(キ;T)「アホくさ……こりゃ、タブレットか」


八インチのタブレット端末。海軍の押収の手から逃れた『忘れ形見』だ


(キT)「ふむ……」


オカルトなど信じない性質だったが、こうもお膳立てされると考えを改めざるを得ない
何はともあれ、虎穴に入って虎児を得たのだ。今更怪奇現象の一つや二つで足踏み出来るかよ


(キT)「……」


側面の電源ボタンを長押しして立ち上げる。起動時特有のホワイトバックが画面に映し出された直後――――

476 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:14:58 ID:fMBqo9P.0





_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 「テメー誰の許可を得て大事な大事なマスク被ってくれとんのじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄





スピーカーから大音量で響き渡った『男の怒鳴り声』によって、俺は椅子からひっくり返ってしまった

477 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:19:04 ID:fMBqo9P.0
(キ;T)「いっ……てぇ〜……」


「まぁ、そう設定したのは俺なんだが。悪いな。でも正直キショイわ。人のマスク被るか普通?俺とお前で間接キッスラブコールでしょだぞ」


(キ;T)「ふっ……ざけんなよ畜生……」


机を支えに立ち上がる俺に、タブレットは容赦なく地味に突き刺さる罵倒を放つ
俺だって好き好んで被ったワケじゃねえよクソが。キショイのはテメーの発想だボケ


(;'A`)「あー……クッソ。もしもし?」


「因みに、この音声は録音なんで返答は出来ない。もしかして『もしもし?』とか言っちゃったか?抱腹絶倒だな。笑えよベジータ」


台風じゃなかったら窓から放り投げてた。腹いせに脱いだマスクを引き出しに戻し、強めに閉めた


「そう怒るな。一言多いのもデリカシーが無いのも昔からの悪癖でな。死ぬ間際まで一向に直らなかったのさ」


('A`)「さいで……」


親の顔が見てみたいもんだ。どうやら、件の『提督』とやらは相当愉快な頭と性格をしていらっしゃるらしい
音声は続く。改めて椅子に深く腰掛け、若干腹立たしいが耳を傾けることにした

478 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:21:44 ID:fMBqo9P.0
「さて、この後は納入直後のNDR114のようにホログラムと音楽を交えて自己紹介を……と思ったんだが、残念ながら技術が追い付いてこなかった」


何言ってんだこいつ


「『こっち』は余り時間がねえもんでな……単刀直入に言うとこのタブレットの中には俺がこの鎮守府で過ごした数年間の記録を保存している」

「要点だけ抑えときゃいいだろって思ってたんだが、このまま海軍のクソ共に消されるのも癪だし編集すんのも面倒だし全部ぶち込ませてもらった。頑張って読んでくれ」


俺はどんな顔してこの説明を聞かなきゃならねえんだろうか


「それで……もしお前が『覚悟』をしたのなら、最後にもう一度、俺の一方的なお喋りに付き合ってもらう」

「ものっ凄い嫌なんだが、そのマスクを被ってディスプレイに向き合えば認証ロックが解除されてボイスデータが自動再生される

「くれぐれも、記録を最後まで読んでから開いてくれ。ああ、クソ……なんであのマスクしか……でも持ってくわけにもなぁ……」

479 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:22:24 ID:fMBqo9P.0
('A`)「……」


('A`)そ「えっ、終わり?」


いやビックリするわ。何の覚悟かの説明もないし小汚ぇマスクに未練たらたらなのも意味が分からん。持ってけよポケット突っ込めば解決だろこんなもん
どうしよう。その記録とやらが総じてしょうもないもんだったらどうしよう。この感じだったら全然あり得るのが怖い。逆に見たくなくなってきた


(;'A`)「……」


そういうワケにもいかんよなぁ。読んでも読まなくてもなんかモヤる気がしてならないが、少なくとも進展はするだろう
今度は緊張を緩めるためではなく、身体に溜まった倦怠感を吐き出す溜息をついて、最も古い日付のテキストファイルをタップした



『汚いやり口だった』



(;'A`)「っ……」


暗雲立ち込める滑り出しに、気は一息に引き締まった

『知らない部屋で目を覚まし、珍妙なマスクを脱いで焼け爛れた顔面を鏡で見た時は、「エクソシスト」を観た時よりも膝が震えた。まるで自分が少し前に流行ったシチュエーション・スリラーの舞台に送り込まれた気分であった』
『自身の問題であるのならば、まだ溜飲も下がる。理由も聞かされず顔面を丸焦げにされ、記憶を改竄され、廃村に軟禁されようとも、俺個人で始末をつければいいだけの話だ』
『それが出来なかったのは、見ず知らずの男と二人きりの共同生活を強いられた小娘に「首輪」が付けられていたから。俺の勝手一つで、彼女の命運は尽きる』
『爆薬を喉に巻かれた彼女と初めて出会った時の言葉は生涯忘れられそうにない。「逃げたきゃ逃げろ。私を含む誰もがアンタを責めたりはしない」』
『逃げられるはずもなかった。涙も溢さず、濁った瞳で力なく嗤う少女を、誰が見捨てて逃げ出せるというのか。少なくとも俺は、生存や自由よりも自分の「在り方」を優先したい。男に産まれたからには、無様を晒してなるものかと』


(;'A`)「……」


これが、世界を轟かせた悪名名高い犯罪者の日記だと言うのか?
十行にも満たない文章内でも、これだけは理解できる。彼と彼女は『何某』によって望まぬ着任をしたのだと

480 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:25:05 ID:fMBqo9P.0
『彼女の名は「叢雲」と言った。戦場を離れて久しい俺も、艦娘の存在は知っている。彗星の如く現れた、深海凄艦との戦争に終止符を打てる可能性を秘めた「人型兵器」だと』
『メディアで報じられている彼女達の存在は、タチの悪い冗談とした思えなかった。兵器であるならば、十代?二十代そこそこの眉目秀麗な少女のナリにする必要はない。戦場で、硫黄島で散った数多くの戦友や、辛くも生き残った俺達に対する侮辱だとも感じた』
『だがどうだ。目の前の少女はとても「兵器」とは思えない。人に裏切られ、人を信頼するのをやめ、男一人を拘束する枷として使われた一人の少女であり、それ以上でも以下でもない。「人型兵器」、よくもまぁ宣えたものだ』
『根気良い対話への試みを経て、ようやく彼女から事情を聴き出せた時は、開いた口が塞がらなかった。何でも、彼女が考案した作戦が「成功」した事で「提督」の反感を買い、このような事態へと陥ったのだと』
『成人して社会へと出ると気づくことがある。大人は必ずしも「大人」ではなく、幼稚な存在が多いと。それがまさか世界の命運を左右する軍事関連の、将校にまで蔓延しているとは』
『話のシメに彼女は、「何故、あんなモノの為に矢面に立たなきゃならないの?」と言った。返す言葉が無かった。俺も通った道だったからだ。よくわからん外敵に攻められ、どうでもいい連中の為に戦い、死ぬ。誰がそんな虚しい結末を迎えたいと言うのだろう』

『俺達がいる場所がどういう所なのかも聞き出せた。着任した提督や艦娘が不審死を遂げる鎮守府らしい。古くからの曰くが残る廃村を利用して設立されたが、半年以上の運営が成された実績がなく、口封じや厄介払いの為だけに使われる「流島」。通称、「地獄の鎮守府」』
『つまりは、俺も叢雲も連中にとっては不都合な存在で、消えてくれた方が有難いのだろう。俄然、生に対する執着心が湧いてきた。人の嫌がることはするなと親から口すっぱく教えられてきたが、それがクソ野郎共なら話は別だ』
『幸運があるとするならば、ここには余分な時間があり、叢雲はクソ野郎の手中から抜け出せた事だ。俺達をこんな目に遭わせた連中は、どういうわけか誰一人説明に上がらなかった。立ち直る好機は逃してはならない』
『二人きりの生活で、俺はいつも通りのペースで過ごした。余計な励ましなどせず、取り留めのない雑談を交わした。「何が好きか」「友達はいるのか」「趣味はあるのか」「なぁなぁ、好きな子おるん?」』
『最初は疎ましい態度だった叢雲も、徐々に心を開いてくれた。「食べるのが好き。特に甘いもの」「姉妹艦がいた」「ボードゲームと戦車道観戦」「少なくともアンタではない。これからも一生有り得ない」。こうもキッパリ拒絶されると若干ヘコむんで今後は冗談でも恋バナはしない事にした』

481 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:26:04 ID:fMBqo9P.0
『しかし今は戦時中であり、平穏は長く続かない。やがて、小規模だが深海凄艦の艦隊が攻めてきた。艤装と、少ない弾薬を抱えた叢雲は今まで見たことがないほど目を輝かせた。「ようやく、死に時が訪れた」。彼女を兵器と思ったことは一度もなかったが、紛れもなく「兵士」であり、戦死を誉れとする「戦士」だった』
『「隠れていなさい」。嬉しい事に「あんなモノ」のカテゴライズに分類されていたであろう俺は気遣いを受けた。付け加えるなら「余計な」。俺は死ぬ気は全くなかったし、負ける気も毛頭なかった。海へ出向こうとする叢雲を引き止めると、今度は怒りに満ちた目を向けられた』
『「何も出来ない雑魚が出しゃばる気なの?」人への失意は完全に失くすことは今後も出来ないのだろう。だが、一緒にされちゃ困る。俺は艦娘よりも先に深海凄艦と戦った。ポッと出の新入りに雑魚呼ばわりされるのは心外で、腹立たしかった」

『彼女は海上での戦術眼に優れていたが、陸上での戦闘経験は無かった。俺は海の上に立てはしないが、陸に上がった深海魚と一戦交えた経験がある。「勝てる戦だ。楽しもうぜ」。彼女はその言葉を聞いて驚いていたが、俺自身も「楽しもう」の一言で目から鱗が落ちた。「あんなモノ」の為に戦う必要はない。自分自身が楽しむ為に戦ってもいいじゃないかと』
『叢雲は提案に乗った。勝ち目のない戦いで、今更どう繕おうとも意味がないってのもあったのだろうが、何より興味と好奇心が湧いたのだろう。意地の悪い笑顔と共に、「ま、精々頑張りなさい」と有難いお言葉を賜った。思えばこの時、俺と叢雲は唯一無二の「相棒」になれたのだろう。悪い気分では無かった』
『海上で叢雲による誘導を行い、湾岸から陸上に上陸させ、建築物の遮蔽を利用して各個撃破。俺の武器は両の拳と、彼女の艤装の一つであるマストを模した『槍』。叢雲は軽々と振り回していたが、細身の見た目とは反してガツンとくる重量だった』
『叢雲との初陣は、今でも夢に見る。深海凄艦全五隻中、二隻を海上で撃破。叢雲は中破状態で湾岸に到達し、奴らも追って陸へと上がった。軽巡一隻、駆逐艦二隻。戦車を含む研鑽された一中隊で相手をしてようやく刺し違える程の戦力だ。傷ついた艦娘一人と、今や一市民に過ぎない男一人』
『この時、俺達を貶めた連中にすら感謝したいくらいだった。誰もが普遍的な人生を終える中、これほど心踊る場を用意してくれた事に。大金を積んでも決して味わえない快楽が全身を駆け巡った』
『屋根から飛び降り、駆逐級の背中に槍を突き立てた。飛び散った建造物やコンクリートの破片がいくつも刺さったが、断末魔を前に痛みは消えていった。砲弾が数メートル先を横切った瞬間は、絶頂のようなスリルに笑い声が漏れた』
『標的が二人に分かれた事により、叢雲の砲撃は容易く命中した。陸に上げられた魚は泳げはしない。それが愚鈍な「非人型」の深海凄艦なら尚更だ。だが、装甲の耐久度まで落ちやしない。駆逐級の殺害は容易でも、それを上回るスペックの軽巡には手を焼いた』
『艦娘と深海凄艦の共通点として『船体殻』というバリアが存在する。砲弾が命中しても、一定の耐久度内であるならば船体に直接当たる事はない。しかしそれは『砲弾』に限られており、俺が深海凄艦に槍を突き刺したように、「白兵戦闘」においては機能しない』
『勿論、砲塔を背負った鉄の塊に剣や槍で戦おうとするバカはいない。相手もそう「タカを括って」いるからこそ』



『俺の捨て身の特攻は、功を奏したのだ』



.

482 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:29:44 ID:fMBqo9P.0
(;'A`)「……」


『イかれてる』。彼は嬉々として深海凄艦を、『原始的な方法』で殺していた
日付は、かの有名な『ベルリン』での戦いよりも数年も前だ。ナイフでぶっ殺されたとされる『姫級』よりグレードは落ちるが
それでも、人の手であの深海凄艦を倒している。狂気以外の何物でもないイかれた行為だが、高揚で胸はぞくりと疼いた


(;'A`)「マジだったんだ……」


日記の内容はブーンの言葉とも一致する。先陣を切って戦場を駆けた『戦人』だったのだ
そして、狂気と同じく『情』のある人間でもあると感じた。尚のこと、一般に流布されているイメージとはかけ離れる
拉致軟禁にしても焼け爛れた顔にしても、『叢雲』という枷にしても、どうにも腑に落ちない事も多い
疑問は解けるどころか、深まっていくばかりだ。だが、膨大な資料の駆け出しに過ぎない。再び、画面をスクロールさせて読み進めた



『敵艦隊を撃破した数時間後、政府及び自衛隊の関係者がノコノコと部隊を引き連れて海から現れた。ご挨拶よりも先に、小銃や砲塔の切っ先を突き付けて』
『「到着が遅れて申し訳ございません。ですが、たった二人でこの戦果とは驚きました。どうやら、私の取り越し苦労だったようですね」』
『いけしゃあしゃあと寝言をほざきやがるクソジジイには見覚えがあった。顔面に張り付いた穏やかな微笑みは、こんな状況じゃなきゃ警戒を解くほど暖かで』
『「私は人畜無害です」と書かれたプラカードをぶら下げているかのように迫力も無く、「平穏」「静謐」「好々爺」なんて言葉が似合いそうな、現政党の頭脳』



『茂名 尾前官房長官であった』



(;'A゚)「」



その名前を見た瞬間、俺の思考と指が止まった。まるで高所から突然突き落とされたかのような驚愕だった
『茂名 尾前』。後に、日本人でありながら国連事務総長を務めた大物政治家であり、そして――――


(;'A゚)「『小練 詩音』に殺害された……」


史上最悪とも称される要人暗殺事件の犠牲者となる人物だった

483 ◆L6OaR8HKlk:2019/06/23(日) 22:35:52 ID:fMBqo9P.0
今日はここまで

ガルパン最終章第二話を昨日観ました。最高でした

484名無しさん:2019/06/24(月) 08:13:00 ID:jaseHLOw0
おつおつ

俺はまだ見てない

485名無しさん:2019/06/25(火) 01:49:26 ID:TOMgt2HE0
乙!続きが気になります!

486 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:48:30 ID:swN5lEdo0
『そいつは長々と今まで訪ねて来なかった言い訳を天気の話でもするかのように述べていたが、内容は一切頭に入ってこなかった』
『何より、傍らの叢雲が気がかりだったからだ。突っかかるわけでもなく、軽蔑の視線を向けるでもなく、かと言って出会った頃のように諦念に囚われるわけでもなく』
『震えていた。深海棲艦よりも脆く、艦娘よりも貧弱で、小銃ほどの脅威も無さそうな、たった一人の老人に怯えていたのだ』
『茂名も彼女の状況に気付いたのか、自分の孫にでも語り掛けるかのような優しい声色へと変わり、叢雲に手を差し伸べた』

『「お勤め、ご苦労様でした。実は、務めていらした鎮守府の司令官が謝罪をしたいと申し上げていましてね。今の処遇を取り消すので、また力を貸して欲しいと」』
『「悪い話では無いでしょう。彼も深く反省しているようですし、貴女も息の詰まりから解放される。過去の事は水に流して、再び我が国の為に――――」』
『聞いちゃいられなかった。つまりは「首輪を外して貰いたきゃ言う事を聞け」と暗に脅しかけているだけだ。最初から叢雲に拒否権は無いとでも思っているのだろう』
『傲慢だ。我慢ならなかった。叢雲にとっても不本意だろうが、一つだけ異を唱える方法があった。俺はたった今、「鎮守府」に置いて「艦娘」を使役し、敵艦隊を撃破した』


『叢雲は、「現提督」である俺の管理下にあると主張したのだ』


『茂名はわざとらしく「はて?」と首を傾げ、「貴方にその権限はない筈ですが?」と白々しく応えた。一歩踏み出した俺に、小銃を構える兵士たちもまた一歩詰め寄った』
『舐めた口を利く野郎だ。だったら奴らには俺の顔を丸焦げにして、女の子の首に爆弾を巻く権限があるとでも言うのだろうか。マスクを剥がした時、動揺が広がった』
『当の茂名でさえ、緩やかな曲線を描く口の端が僅かに歪んだ。奴はすぐさま気づいた事だろう。付け入る隙を与えてしまったテメーの失態に』
『権限は無い。確かにそうだろう。だが、そんなもの今すぐ作り出せば良い。よほど俺らを甘く見ていたのか知らんが、交渉材料は幾らでも転がっていた。その最たるものが俺の命だ』
『俺の存在が連中にとって不都合なのは確かだろう。だがサッサと始末せず、監視役を付けてまで呪われた鎮守府に置いておいたのは何かしらの「利用価値」が残っていたからだ』
『万が一くたばったとしてもそれだけの価値だったと割り切れる。もしも期待以上の成果を上げたなら、諸手を上げて活用が出来る。だからこそ、タイミングよく「迎えに来た」』
『言わば、ここでの生活は観察実験だったのだろう。後は銃でも突きつけて甘い言葉で回収すれば、めでたく「運用」へと駒を進められただろうが、そうは問屋が卸さない』
『奴らはいくつかのミスを犯していた。一つは、監視役に「叢雲」を付けた事。哀れな出生を持つ彼女を側に置いておけば、そう簡単には逃げ出せないと踏んだのだろうが、それが「偽り」では無かった』
『「敵を騙すならまず味方から」という言葉がある。ひょっとしたら叢雲の提督だった男は、上からの指示で不本意に彼女を島送りにしたのかもしれない。もしそうなら名役者だと賞賛を贈りたいものだ』
『彼女は立派に枷としての役割を果たしたが、同時に実験を滞らせる「障害」にも成った。信頼を裏切ってリアリティを重視した顛末がこれだ』
『二つ目は、成果が「想像以上」だった事。茂名が連れてきた部隊に艦娘も加わっているのは、勿論護衛の意味もあるだろうが、ほどほどの所で介入して助け舟を出す気でいたからだろう』
『だが俺達は敵艦隊を「殲滅」してしまった。そんな存在に対して、なんと奴らは朗らかに会話できるほどの距離まで近づいている』
『今の戦力差は気合と根性だけでは決して覆らない。だが、勝てずとも「誰か」と刺し違えれば計画はご破算だ。老い先短いであろう老人一人と心中するなど此方としても不本意ではあるが』
『そして三つ目は、ありがたい事にわざわざこんな説明をさせて貰える時間を「頂けた」事だ。恭しく一礼をすると、胡散臭い爺さんは小さく、ほんの小さく舌打ちをした。俺は構わず大きく吹き出した』

487 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:50:52 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「……」


茂名国連長官は、その手腕もさる事ながら日本国内が大半を占めていた艦娘技術を世界中に解放し、深海凄艦の脅威を払拭した偉人と称されている
噛み砕いて説明すると、艦娘を運用する上での解釈を追加した。より多くの人間が艦娘を指揮する事ができ
なおかつ攻撃対象を深海凄艦に留まらず、世界平和を脅かす『組織』『国家』に向けさせた
当然、数多くの国々の承認は必要ではあるが、これにより『北の国』がアメリカ合衆国の一部となった実績もある
間違いなく、脅威と憂いが減った。胸を撫で下ろした者も多いだろう。茂名国連長官の死後、ノーベル平和賞を贈ったのも頷ける


(;'A`)「……いや」


正しくは『頷けた』。指揮権の拡大とは則ち、艦娘の拒否権の縮小だ。彼が付け加えた解釈は、『二等兵』以上の兵士に指揮権を与えるというものだ
余りにも広すぎる。これは艦娘に限らず、人や物にも言える事だが、『使い道』を誤れば惨事は免れない
だからこそ、危険と判断された物の運用には『免許』が必要で、部下を率いる立場の人間になるには実績を鑑みた上で与えられる『役職』が必要なのだ


(;'A`)「……」


艦娘には人格があり、意思があり、感情がある。それらを差し置いて、国連長官は使用者の間口を広げた
恐らく彼にとって、艦娘は『物』であったのだろう。冷酷な考え方ではあるが、国を、ひいては人の命を守りたいという想いも在った筈だ
だが『叢雲』を、初めて出会った艦娘を『人』として対等に接した『小練 詩音』との相性は致命的に悪い
もしも解釈の拡大が、小練の逆鱗に触れたとするならば―――――

488 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:52:51 ID:swN5lEdo0
『奴に残された道は二つに一つ。手綱を握ったまま俺の要望に応えるか、「渡る綱」を自ら断ち切るか。別の方法が存在するならば、是非ともご教授頂きたいものだった』
『僅かながら葛藤の時間が欲しかったのだろう。茂名はしばし口を噤んだ後、「いいでしょう」と、首を縦に振った。「いいでしょう」?は?舐めてんのかこいつ」
『深々とため息をついて「お願いします」だろうとやり直しを求めると、余裕ぶった笑みが引き攣り、顔に血が昇っていった。老害になると頼み方の作法もボケて忘れてしまうらしい。ちゃんとボケ防止の運動やっとこうと思った』


煽りの天才かよ


『しかし官房長官ともなると、切り替えも早い。すぐさま頭を深々と下げ、「お願いします。これで宜しいですか?」と真新しい笑みに作り変えて応えた。全く宜しくなかった』
『「政治家の先生は膝と額が汚れるのが余程お嫌いなのでしょうか?」。今度は笑みこそ崩さなかったが、視線が兵士の腰に差された拳銃に向けられたのを見逃さなかった』


むしろよく我慢できたなオイ


『埒が明かないのでおちょくるのはここまでにして、その場での交渉に入った。持ち帰られると後々厄介な事に成り兼ねない。多少はゴネられるかと思ったが、意外にもすんなりと了承した』
『それほど、「俺」が持つ交渉材料としての価値は高いらしい。それかもしくは、これ以上馬鹿にされるのは我慢ならなかったのかもしれない。与党の議員らしからぬ煽り耐性の無さだった』
『此方からの要求は、提督としての指揮権。「叢雲」並びに「地獄の鎮守府」の譲渡。鎮守府機能の全開放に、政府及び自衛隊上層部からの命令の拒否権』
『片手で収まるだけのお願いに対して「随分と子供じみた要求をなさる」と苦言を吐いた。呆れたものだ。これだけの仕打ちをしておいて手心を求めているなど』
『しかしすぐさまどす黒い腹を隠すように極めて明るい声色に戻った茂名は、自身の要求を提示してきた。「叢雲さんの首輪は今後とも着用してもらいましょう」』
『こう来ることは想定内だ。だが、吐き気がするほど腸は煮えくり返った。腕っぷしに自信がある俺でも、時たまこう思う。「怒りの感情だけで人を殺せたら」』

『「此方としても心苦しいのですが、それだけの権限を持つ鎮守府は前例になく、まぁ……乱暴なやり方ではありますが保険は必要でしてね。ああ、勿論お断りしても構いません」』
『「私なら、わだかまりを水に流して、勝手見知った仲間が待つ我が家へ帰る道を選びますが……いえ、やめておきましょう。どのような答えであれ、我々は叢雲さんの意思を尊重します」』
『一瞬だが、「一理ある」と思ってしまった。そんなわけあるか元はと言えば悪いのは彼方だ。何も向こうから与えられた選択肢だけに的を絞る必要は全くない。首輪を外した上で顔面に一発お見舞いしても安いくらいだ』
『罵倒され足りないのならおかわりをくれてやろうと口を開いた瞬間、割って入るように彼女はこう応えた』


『「彼に、元司令官にこうお伝えください。私はアンタの都合のいいママではない、と」』


『これが、彼女の出した答えだった』

489 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:56:54 ID:swN5lEdo0
『茂名の顔から表情が抜け落ちた。はっきりと拒否された事に対する屈辱やショックからではない。思考を、駆け巡らせていた』
『「わかりました」。程なくして了承と取れる言葉を得たが、俺も叢雲も安堵の溜息を吐けなかった。奴らが企てる陰謀は滞りなく進行するという自信の表れでもあったからだ。そしてこうも言い換えられる』
『俺たちは今現在を持って、この男の「駒」に堕ちてしまったのだ。此方の腹を見透かすように、茂名は満面の笑みを作って見せた』
『「ですが最後に、再考のチャンスを与えましょう。この話を取り消し、我々と同行するのならば、貴方の身に起きた変化についてお教えします。その上で、幾らでも謝罪を致しましょう」』
『叢雲の身体がびくりと震えた。奴が提示したのは、俺が今一番知りたい情報であり、出会って間もない小娘一人とは到底吊り合わない価値がある代物で、掌など幾らでもひっくり返るとでも思ったのだろう』


『だから、こう答えてやった。「いるかよ、くたばれ」』


(;'A`)「ちょっ……もぉー……」


さっきからカッコいいが過ぎる。好きになっちゃうだろうが


『茂名は落胆するわけでもなく、声色を変えずただ「そうですか」と言い、細かい条件は後ほど連絡するとだけ告げ、兵を連れて引き上げていった』
『奴らの乗る船が見えなくなり、やがて叢雲は「どうして?」と聞いてきた。簡単な話だ。ただ連中に従うのが癪だっただけだ』
『続けて、「どうする?」とも。なんともしおらしい姿だった。余りの似合わなさに、思わず吹き出してしまった』
『場所を得た、地位を得た、そして隣には頼りになる相棒がいる。やる事は決まっていた。これは戦争だ。深海凄艦との、そして権力と陰謀との、分の悪過ぎる戦いだ。だからこそ、余計に滾る』
『強くなろう。何もかもを脅かし、何もかもを超越し、何者も俺たちをコケにし、爪弾きにし、陥れる真似が出来ないくらい徹底的に』
『叢雲は「無茶苦茶ね」と言って、ようやく笑った。「でもまぁ、他にも行く当てもやる事もないし、付き合ってあげるわ。司令官」』
『この日から、俺の人生で最も長く、最も激しく、最も大切な日々が始まった―――――』

490 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:58:05 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「……フーッ」


中々読ませる文章を書いてきやがる。初っ端から結構面白かったじゃねえか
いや面白かったじゃない。これが事実ならノーベル平和賞を授与した歴史に残る大偉人の評価は百八十度ひっくり返る


(;'A`)「世に出せねえワケだよ……」


茂名氏の残した功績は確かに大きい。だが、その大半が日本国内に限定される
保有戦力もさる事ながら、莫大な軍需で潤っている。当然、諸外国としては面白くはないだろう
この文書が事実であろうと無かろうと、一つの証拠である事には変わりない。リークすれば手厳しい追求は免れないだろう


(;'A`)「……」


なら何故、小練 詩音は彼の陰謀を暴かず、大罪人の汚名を被るような真似に走ったのだろうか?
確固たる証拠が無かった?別の保険が掛けられていた?それとも、他に目的があったのか?


(;'A`)「わっかんねえ……」


わかるはずもない。俺が踏み入れたのは初めの一歩に過ぎない。これを最後まで読み進めれば、真相には辿り着けるのだろうが
辿り着いたところで、俺に何が出来る?海外へのリークか?深海凄艦だけで手一杯な世界を、これ以上混乱させるのか?
そもそも、今は罪人として軍に、ひいては国に管理されている立場だ。不都合を揉消すなど容易いだろう

491 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/14(日) 23:58:25 ID:swN5lEdo0
(;'A`)「何をさせたいんだ……」


最初の音声で、小練は『覚悟』を求めた。恐らくは、一人に背負わせるには重過ぎるモノなのだろう
だがどうしろって言うんだ?彼の無実の証明?そんな行為に意味はあるのか?俺にそんな義務があるのか?


(;'A`)「……」


ああ、頭が痛い。吐き気もしてきた。天井を仰ぐと、いつの間にか台風は過ぎ去っていたのか、外は静かになっていた
時間はある。今日はここまでにしよう。タブレットのモニターを落とし、やや躊躇ったが、自室へ持ち帰る事にした


('A`)「……」


部屋を出る前に、一度振り返ってみる


('A`)「ハァ……」


多大な苦悩を伴って、成果はあった。その中の一つを上げるとするならば


('A`)「じゃあ、またな」


当初ほど、この部屋に不気味さを感じなくなった事だろうか

492 ◆L6OaR8HKlk:2019/07/15(月) 00:10:28 ID:Ff6VgxBw0
今日はここまで

天華百剣のSS書きたい

493名無しさん:2019/07/15(月) 02:56:58 ID:ZnOfqvH.0
おつ 皮肉が効いた言い回し好き

494名無しさん:2019/07/15(月) 10:47:54 ID:sjtk8ax.0
まだ天華やってるんかワレ
この前ちったーで宣伝しておいたぞ

495名無しさん:2019/07/15(月) 19:20:36 ID:7MWaJXgI0
otu

496名無しさん:2019/07/16(火) 23:00:48 ID:2qQN6b2g0
おつおつ

天華百剣はABコラボで爆死して引退した

497名無しさん:2019/08/19(月) 21:59:31 ID:uOVS03WI0
天華百剣ってまさかムカデか!?

おかえり!!


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