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願い事のようです
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この学校の裏手にね、小さな祠があるでしょ。
そこにお願いをすると、叶うんだって。
そう友達が教えてくれた。
ツンは放課後、人がいないのをよく確認して、こっそりと祠に向かった。
ξ#゚⊿゚)ξ「運動会って何よ。走るの遅い私への嫌がらせ? やってられないわ!」
悪態をつきながら祠の前に立つ。
曲がりなりにも小学校の敷地の中にあるわけで、手入れはしっかりされている。
黒い屋根が重厚な存在感を醸し出していて、小さなはずなのに異様な圧迫感を感じさせる。
ξ゚⊿゚)ξ「私は今年こそは運動会なんか出たくないです。どうか私が運動会に出なくてもよくなるようにしてください」
手を合わせ、拝む。
目を閉じた。
近くの風の音と、遠くの喧騒だけが聞こえる。
ξ゚⊿゚)ξ「……お願いします」
最後にもう一回呟いて、ツンは祠を後にした。
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朝の登校時間、ツンは笑顔だ。
それはもう、幼馴染みが引いてしまうくらいに。
(;^ω^)「ツン、足骨折してるのに楽しそうで気持ち悪いお」
ξ*゚⊿゚)ξ「うふふ……私が運動会休みたかったの、あんたも知ってるでしょ」
( ^ω^)「それはそうだけど……」
ブーンは両腕に松葉杖を持つツンを支えながら、首を傾げた。
ツンが走るのが遅くて、それをコンプレックスに感じているのはよく知っている。
しかしそれにしても運動会なんて、片足を骨折して不便な生活になることと比べたら大したことではないように思ってしまう。
すぐ隣を歩く彼女はやはり上機嫌。
毎年クラス対抗リレーのアンカーになるブーンにとって、やはりツンの様子はおかしいように思えた。
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり……朝早く出るのは面倒ね」
( ^ω^)「仕方ないお。いつもより早く歩けないんだから」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。……でも」
ツンの異常な機嫌の良さは、実際本人も理解していた。
その理由は大嫌いな運動会を休めるということがもちろん大きな理由ではあるのだが、もうひとつある。
ツンはちらりとブーンを見上げる。
もともと少し背が低い上に松葉杖のせいで姿勢の悪いツンにとって、少し疲れる行為だ。
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ブーンはいつも通りの人の良さそうな笑顔で、ツンの言葉の続きを待っている。
ξ*゚⊿゚)ξ「何でもない!」
ぷいと顔を背けてツンは言った。
( ^ω^)「なんだお、気になるお」
ξ゚⊿゚)ξ「自分で考えなさいよ。まあ、にぶちんなあんたには一生わからないでしょうけど」
( ´ω`)「ツンの言葉は相変わらず切れ味抜群だお……」
しょんぼりと悲しそうな顔をするブーン。
彼に対しては、もちろん申し訳なさはある。
しかしツンは、やはり自分に素直になることはできなかった。
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本当は、ツンの両親は一人娘をとても心配している。
足が良くなるまで送り迎えをするとも言ってくれた。
それをはねのけたのはツンだ。
隣の幼馴染みが自分のために働きたいと言っているだなんて見え透いた嘘で、低学年の頃以来のブーンとの登校を勝ち取った。
きっとまめな母親は菓子折りでももってブーンの親に頭を下げたことだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、あんたに辛気くさいのは似合わないわ。
いつもの間抜け面に戻って、私を無事に学校まで連れていくのよ」
( ^ω^)「……胸が痛いお」
なんだかんだ言ってブーンはツンに付き合ってくれる。
彼の本心は知らないが。
ツンはそんな心優しい幼馴染みが好きなのだが、その想いを告げる勇気はまったくない。
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lw´‐ _‐ノv「おやおや、あの頃のしおらしさがすっかり抜けたね」
川 ゚ -゚)「シュー、ツンの足が治ってどれくらい経ったと思ってるんだ」
lw´‐ _‐ノv「いやあ、あの頃のツンはかわいかったなあと思って。たまに痛くて涙目になるのがたまらなかった」
ξ;゚⊿゚)ξ「もう、その話は引きずらないでよね」
季節は夏、それも終業式の直後。
誰も彼も浮かれてしまうのは仕方ないものだ。
川 ゚ -゚)「夏休みのプールは来るのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「来たくないけどね。去年全部サボったら先生に起こられたわ」
lw´‐ _‐ノv「あらツンったら不良」
川 ゚ -゚)「シューも毎年サボっているだろう。今年こそは連行するぞ」
クーに言われて、シューはペロリと舌を出した。
lw´‐ _‐ノv「だって泳げなくても生きていく上では何も困らないからね。海も川も行く気はないし」
川 ゚ -゚)「また屁理屈を……」
lw´‐ _‐ノv「運動神経抜群の姉さんにはわからないやい」
そう言うシューの言葉に、ツンは改めて目の前の二人を見比べた。
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彼女らは双子だ。
といっても二卵性だから、普通の姉妹くらいにしか似ていない。
性格も能力も全く違う二人は、カラスの羽のような艶やかな黒髪と長身以外は本当にあまり似ていない。
それでもほんの数秒早く生まれたクーは姉で、遅く生まれたシューは妹だ。
ツンの想像する普通の双子や姉妹とは少し違う、奇妙だが安定した二人だと思っている。
彼女らは小学校入学以来ずっと同じクラスの、ツンの一番の友人たちだ。
川 ゚ -゚)「今年も花火には行くだろう? ツン、今年こそはブーンを誘ったらどうだ」
ξ*゚⊿゚)ξ「な、な、なんであいつを誘わないといけないのよ……」
ツンの顔が火照る。
ブーンの話題には弱いのだ。
lw´‐ _‐ノv「だって来年はツン、受験するんでしょ?
もしかしたらブーンと遊べるのは今年限りになるかもしれないよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「う……。そうね、もう残り二年切ってるのよね……」
ツンは黒板の日付を見た。
七月二十日。
夏休みは四十日。
六年生への進級時にクラス替えはない。
しかし私立の中学校を志望するツンにとって、本格的に遊べる夏は今年が最後だ。
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lw´*‐ _‐ノv「なんなら私たちがセッティングしようか。カモフラージュに他の男子も何人か誘って、二人きりになれるように」
シューがにやにやしながら言う。
そんな彼女の言葉は内心嬉しいのだが、やはり羞恥が勝ってしまう。
ツンは素っ気なく断って、席を立った。
ξ゚⊿゚)ξ「私、返さないといけない本があるの。先帰ってて。うち帰ったらまた連絡するから」
lw´‐ _‐ノv「つれないなあ」
頬をふくらますシュー。
クーが彼女の肩をぽんとたたく。
川 ゚ -゚)「ツンらしいじゃないか。見守るのが大人というものさ」
クーの発言は引っ掛かるが、ツンは手を振って二人に別れを告げた。
図書室は涼しい。
ブーンが図書委員になったのは、そんな理由らしい。
別に図書委員じゃなくても図書室で思う存分クーラーを浴びればいいじゃないかとツンは言ったが、彼はそこでようやく自分の間抜けさに気付いたらしかった。
今日もブーンは図書室にいるだろう。
最近は涼んでから帰るのが日課だと言っていた。
少しどきどきするのを感じながら、ツンは図書室の引き戸を開けた。
ぐるりと室内を見渡す。
放課後の図書室に、人は多くない。
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( ^ω^)「ツン、図書室に来るなんて珍しいおね」
ξ゚⊿゚)ξ「本を返しに来たの。
はいこれ、放課後だけど、まだ手続きしていいでしょ?」
カウンターで歴史漫画を読んでいたブーンに本を突きつける。
受け取ったブーンは、眉間にシワを寄せた。
(;^ω^)「期限切れだお」
ξ゚⊿゚)ξ「足が悪いときに暇潰しに借りたのだからね。なんかペナルティとかあるのかしら?」
( ^ω^)「三回やると一ヶ月の貸出し禁止だお。気を付けるお」
ツンの貸出しカードにペナルティ用のスタンプを押し、ブーンは言った。
ツンも黙って頷く。
ξ゚⊿゚)ξ「……ブーンは、夏休みは予定あるの?」
(*^ω^)「もちろん!
学校のプールに来るし、月末の花火大会もショボンたちと行くお。
八月になったらじーちゃんばーちゃんの家と海にも行くし、暇なんか全くないお!」
花火大会という言葉をツンは聞き逃さなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「花火、あんたも行くんだ……。私もクーとシューと行こうかって話してたの」
( ^ω^)「おっおっ! それは楽しそうだお」
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(*゚ー゚)「そうだねぇ。そうだブーン、私たちも花火行くんだけど、よかったら一緒にどう?」
ξ゚⊿゚)ξ「え……」
ツンがとんでもない勇気を振り絞ってみようかと迷い始めていたところに割り込んできたのは、クラスメイトのしぃだった。
(*゚ー゚)「ツンも一緒に行く?」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、いや、私は……別に……」
(*゚ー゚)「うんうん、ツンは本当に素直じゃないね。
……で、ブーン、私もナベちゃんと行こうかーって話してたんだけど、二人じゃ寂しいでしょ?
よかったら一緒したいなあって」
ツンはしぃには敵わないと思った。
彼女は自分の気持ちを素直に表現する、それでいて嫌みもない不思議な少女だ。
ブーンをどう思っているのかツンには計り知れないが、今のツンにはしぃが恐怖の対象でしかない。
(;^ω^)「他のみんなにも聞いてみないとわからないお」
(*^ω^)「でも僕は大歓迎だお。みんなで見る方がきっと楽しいお」
(*゚ー゚)「そうだね、きっと今年の花火は一番の思い出になるに違いない。
ツンはどうする?」
しぃが小首を傾げて尋ねてくる。
ξ゚⊿゚)ξ「わ、私は……」
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再度の質問だ。
しぃは、ツンになんて答えてほしいのだろうか。
ツンはブーンからもしぃからも視線を外した。
顔が熱い。
だって、ここで一緒に行きたいなんて、そんな恥ずかしいことを言えるはずはないのだ。
口の中にたまった唾を一気に飲み込んだ。
クーラーが効いているはずなのに汗が滲む。
ξ゚⊿゚)ξ「私は……いいわ。クーとシューと、三人で行くから」
( ´ω`)「お……残念だお」
ブーンはしょんぼり顔で呟いた。
しぃもため息をつく。
(*゚ー゚)「……意気地無し」
ぼそりと呟いたが、一生懸命に、しぃからしてみれば馬鹿らしい勇気の使い方をしたツンには聞こえていないことだろう。
よく言えば純粋なツン、彼女にお節介焼きのしぃの気持ちは永遠にわからないだろう。
ツンはほっと胸を撫で下ろしていた。
ブーンと一緒に花火大会だなんて、そんな漫画みたいな恥ずかしい展開を回避できたのだから。
しかし同時に後悔もあった。
こんなおいしいイベントを逃すだなんて。
少しの雑談をして、ツンは帰路についた。
ツンが図書室を出る頃、しぃはまだブーンと楽しそうにお喋りをしていた。
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それから三日が過ぎた。
ツンは真面目にプールに参加していた。
ブーンとしぃのことが気になって仕方なかったのだ。
しぃは渡辺とともに、よくブーンの側にいた。
ブーンとしぃ、それからショボンと渡辺。
彼らは四人で楽しそうに談笑することが増えた。
lw´‐ _‐ノv「ツン、意地張ってるでしょ」
シューの言う通りだ。
ツンは自分の気持ちを素直に認められないばかりに、こうして無駄に胃を痛めるような目にあっている。
ξ゚⊿゚)ξ「別に……いいもん……。あいつはしぃとよろしくやってればいいのよ……」
川 ゚ -゚)「ほらシュー、ツンが納得してるんだから。少しそっとしておいてやろう」
シューは少しの無言の後、頷いた。
納得していないことが、ありありとわかる顔だった。
lw´‐ _‐ノv「……ツン、最後にひとつだけ」
クーは先に更衣室を出てしまった。
彼女はいつだって着替えがやたら早い。
lw´‐ _‐ノv「何か困ったことがあれば私でも姉さんでも他の誰でも、頼ってね。
みんなツンの願い事は叶えたいと思ってるんだから」
にやっといつものように笑って、シューも出ていった。
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ξ゚⊿゚)ξ「頼る……叶えてくれる人に……」
ツンはごくりと唾を飲み込んだ。
更衣室にはいつの間にやらツン一人。
ξ゚⊿゚)ξ「叶えて、くれた……」
真昼でも薄暗い、祠の周囲は外界から切り離されたかのように静まり返っている。
ツンは目を閉じ、一度深呼吸をした。
ξ゚⊿゚)ξ「もう一度、私の願いを叶えてください」
ここに来るのは久しぶりだった。
普通に歩けるようになった頃お礼を言いに来たが、それ以来のことだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンとしぃは一緒に花火を見に行くみたいです。……でも私は、本当は嫌です」
汗が垂れてくる。
暑さのせいか、それとも後ろめたさのせいか。
ξ゚⊿゚)ξ「どうか、花火大会に、しぃが行かないようにしてください」
ツンは手を合わせて祈る。
ツンの望みを聞いているのは神か悪霊か、あるいはそんなものはいないのか。
ツンは信心深くないから、自分が誰に願っているのかも気にしていない。
ひとしきり祈っていた。
顔を上げると、太陽はツンの真上に来ていた。
暑い。
しかし、少しの涼しさも感じたような気がした。
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朝、花火大会決行の合図を、ツンはどきどきしながら聞いていた。
果たしてツンの願いは叶ったのか。
あの日以来特に不思議なことは起きていないから、わからない。
日が傾き始めた頃、夏期講習を終えたツンはクーとシューと合流した。
ξ゚⊿゚)ξ「今年は二人とも浴衣じゃないのね」
川 ゚ -゚)「ツンが浴衣じゃないの、わかっていたからな」
いつも通りの雑談をしながら、三人は祭りの中を進む。
ツンたちの通う小学校に程近い神社へ続く道の両端には、たくさんの出店が軒を連ねている。
毎年恒例の景色だ。
こんな楽しい雰囲気の中にいるとツンもあてられて、勉強の疲れなんかいつの間にか吹き飛んでいた。
お揃いのイチゴ味のかき氷を食べながら、あれこれと露店を物色しながら歩いた。
目指すは神社の隣、高台の公園だ。
毎年大勢の人が集まるそこは、花火大会の絶景スポットだ。
花火ははるか上空で咲くから、映画館のように背が低いからと見辛いこともない。
近所のマンションに住む人々以外は大多数がこの公園か、あるいはそこに続く坂で大輪の花を見上げるのだ。
ツンたちもずっとそうしている。
幼い頃は家族と、去年と今年は友達と、毎年同じ場所で少しずつ変わる花火を鑑賞する。
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lw´‐ _‐ノv「うわあ、相変わらずだね、ここは」
シューはスプーンを噛みながら言う。
川 ゚ -゚)「シャツが貼り付くし熱気はすごいし……みんな考えることは同じとはいえ、気持ちは良くないな」
珍しく姉妹の意見が一致している。
ツンも同意見だと、頷いた。
人混みの中を連なって進む。
奥の方が眺めがいいのは、三人とも知っている。
しかしそれは他の人々も同じで、辺りは当然ごった返している。
そろそろこの辺りに決めようか、そうツンが言おうとした時、シューが声を上げた。
lw´‐ _‐ノv「あ、ブーンたちだ」
ツンがびくりと反応する。
知ってか知らずか、シューは手を振り呼び掛ける。
lw´‐ _‐ノv「おーい、こっちこっちー! 来てたんだねえ」
向こうも気付いたようで、ブーンとジョルジュと渡辺が元気よく手を振り返してくる。
そして、白々しい言葉とともに、シューがツンの手を引いた。
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ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、シュー!」
川 ゚ -゚)「まあまあ、偶然クラスメイトと会ったんだ。少しの立ち話くらいいいじゃないか」
クーもツンの背中を押すように歩き始めた。
人混みの中、ツン一人で流れに逆らうのは難しい。
从'ー'从「みんなも来てたんだね」
渡辺がシューとハイタッチを交わしながら言った。
川 ゚ -゚)「しぃから聞いていなかったか?」
(´・ω・`)「初耳だけど。ブーンは?」
( ^ω^)「来るって言うのはツンが言ってたから知ってたお。
それより三人とも、しぃを見てないかお?」
花火の音が聞こえる。
ブーンの顔が、花火の光に照らされる。
ツンの喉はとても渇いていた。
川 ゚ -゚)「ん? しぃは、来ていないのか?」
( ゚д゚ )「ああ、待ち合わせの時間になっても来ないから、ここでなら会えるかもしれないと思って来たんだが……」
ミルナはキョロキョロと辺りを見渡す。
たくさんの人の波、その中に目当ての人物はやはり見つからない。
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( ゚∀゚)「誘ってきたのあいつなんだろ? 電話も出ないし、何してんだかなあ」
ジョルジュはそう言って折り畳み式の携帯電話を開けたり閉めたりしている。
lw´‐ _‐ノv「もう花火始まっちゃってるしねぇ。何の連絡もなしに約束を破るなんて、しぃらしくないな」
从'ー'从「やっぱり、私探してくるよ。もしかしたら怪我をして動けないのかもしれないし……」
渡辺は不安気に視線をさ迷わせる。
クーが安心させようと、そんな彼女の背を抱いた。
(´・ω・`)「もう一時間、だもんね。僕は賛成だよ。もし寝坊とかなら、笑えばいいだけの話だからね」
ブーンも同調を示すために頷いた。
( ^ω^)「僕も探すお。八人もいるから、手分けするお」
( ゚д゚ )「それはいいと思う。ただ言いにくいが……何か悪いことに巻き込まれてるって可能性もないか……?」
ミルナの言葉に全員の動きが止まった。
从;'ー'从「ミルナくん、そんなこと言わないで……!」
普段は穏やかな渡辺らしくない、感情を露にした言い方だった。
この中で一番しぃと親しい渡辺の感情を、他の誰かが完璧に推し量ることはできるはずもない。
しかし、その不安が全く想像できないはずもないのだ。
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川 ゚ -゚)「渡辺、落ち着くんだ。しぃは大丈夫さ。
でもな、この人の多さだ、最近噂の変質者が紛れていないとも限らない。
また無事にしぃに会いたいなら用心はした方がいいに決まってる」
从'ー'从「……クーちゃん」
渡辺はクーを見上げた。
クーはいつもと変わらない落ち着いた様子だ。
渡辺は、そんな彼女を見ていると自分の方が不謹慎に思えた。
_
( ゚∀゚)「なら二人一組に別れようぜ」
lw´‐ _‐ノv「それがいいね。携帯持ってるのは誰だっけ?」
_
( ゚∀゚)「俺と……ツンも持ってるよな?」
ξ゚⊿゚)ξ「……うん」
(´・ω・`)「あとは僕と、クーもだよね」
川 ゚ -゚)「ああ、出掛ける時はいつも母さんに持たされるからな」
( ^ω^)「ちょうど四人だお。まず連絡先を交換して……」
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ジョルジュ、ツン、ショボン、クーは互いに連絡用の番号を教え合う。
そして、四組のペアを決めた。
少し不安定な渡辺は落ち着いているクーと。
少しいらいらしているジョルジュは彼のストッパーのミルナと。
シューは率先してショボンと行きたいと言った。
シューの態度に、こんな時まで気を使わなくていいのにとツンは思っていた。
ツンは今、念願叶ってブーンと二人きりだ。
しかし後ろめたさのあるツンが素直に浮かれることは出来なかった。
( ^ω^)「……ツン、大丈夫かお?」
神社に向かう道を歩きながらブーンが言う。
心配そうにツンの顔を覗き込んでいる。
ξ゚⊿゚)ξ「しぃ、どうしちゃったのかしら。花火、すごく楽しみそうに見えたのに」
( ^ω^)「きっと、昼寝でもしてるんだお。渡辺さんとクーがそれを確かめてくれるはずだお」
二人はここから一番近くに住む渡辺の家に向かった。
しぃの携帯電話は電源が切られていて繋がらなかったが、家の電話なら誰か出るかもしれない。
しかし人の家の電話番号なんて誰も覚えていなくて、仕方なく連絡網を確認しに帰ったのだ。
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ξ゚⊿゚)ξ「……ブーンは、どう思う? しぃを、そんな軽い人間だと思う?」
( ^ω^)「……ツン、信じるお。そうやって悪い方に考えるのは悪い癖だお」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは……ブーンは、わからないわ。私、私は……信じたい、けど……」
いまだ誰からの連絡もない。
それはつまり、誰もしぃの行方を掴めていないということだ。
ツンにはひとつ、心当たりがある。
それは、とても後ろめたいことだ。
あの日、ツンは何を願ったか。
無言のまま歩いて、二人はついに神社にたどり着いた。
周囲をよく確認しながら進んだが、しぃの姿は見つからなかった。
ツンの気持ちは、かつてないほど重く沈んでいた。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン」
( ^ω^)「お?」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは、学校にある祠の話って、知ってる?」
(;^ω^)「し、知ってる、お……」
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ツンの問いに、ブーンの顔色が瞬く間に変わる。
ツンはブーンが気づいてしまったのかもしれないと思った。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……私、私の……せいなの……」
(;^ω^)「お?」
ツンはブーンの目を見られない。
ブーンは優しい、だから少しの悪さなら優しく許してくれるのが常だ。
だが、今の状況は、もしもツンが原因だと知られてしまったら、もうブーンとまともな会話なんてできるはずもない。
ブーンは友達思いだ。
しぃの失踪がツンのせいだとわかったら、絶対にツンを非難するのだ。
ツンはそんな未来を一瞬のうちに思い浮かべた。
そんなブーンだから、ツンは彼が大好きなのだ。
ξ;⊿;)ξ「ブーンは……ブーンは、私を嫌いになるわ……。
だって、お願いしたから……私のせいでしぃはいなくなったんだもの……!」
しんと静まり返る神社、ツンの声が響いた。
ブーンは細い目を見開いてツンを凝視している。
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ξ;⊿;)ξ「学校の、祠にお願いすると叶うの……知ってて、知ってたのに……私が……」
しゃくりあげながら頭を垂れるツン。
ブーンはしばし無言だった。
やがてブーンは、ツンの頭を優しく撫でた。
ブーンが泣いている人にいつもする動作だ。
少しの間、二人はそうしていた。
ツンはただブーンにされるがままだった。
そして気付く。
ブーンは、震えている。
ぽつり、ツンの予想もしなかった言葉が落ちてくる。
( ^ω^)「ツン、僕も、なんだお」
静かな声だった。
花火の音にかき消されそうなほどだった。
( ;ω;)「僕もね、おんなじなんだお……。しぃが怖くて、しぃが来ないようにって、お願いしたんだお……」
ツンは顔を上げた。
ブーンの涙がぽたりと一滴落ちてくる。
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ξ;⊿;)ξ「こわい……?」
( ;ω;)「しぃは、僕の知らないことを知ってるみたいで……一緒にいると怖かったから、だから……」
ツンはブーンの心情を理解した。
しぃは聡い。
きっとしぃは、ブーン自身も気付いていない、何かを知っていたのだ。
鋭い彼女に、自分でも気付いていない気持ちに気付かされるのが恐ろしかったのだろう。
それはツンにも経験があった。
反りの合わない友人に対する自分でも認めたくない気持ちを彼女に言い当てられたことがある。
その後、仲を取り持ってもらって感謝もしているのだが。
ツンは右手で乱暴に涙を拭った。
ポケットに入っていたハンカチでブーンの顔も拭いてやる。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、こんなことしてる場合じゃないわ。しぃを助けないと!」
( ^ω^)「助けるって、どうやって……?」
ξ;゚⊿゚)ξ「それは……」
そこまでは考えていなかった。
ツンとブーン、二人の願いが叶ってしまった。
それをなかったことにするには、何をすればいいのか。
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ツンは知っている。
例の祠で願い事をすれば叶うことを。
ξ゚⊿゚)ξ「そうだ……お願いするのよ……!」
( ^ω^)「お願い?」
ブーンの手を引き、ツンは駆け出す。
(;^ω^)「ツン!?」
ξ゚⊿゚)ξ「あの祠にお願いするの!
あそこで叶ったのよ、今度はしぃを返してくださいって、ちゃんと心を込めてお願いするのよ!」
学校は神社の裏手だ。
あっという間に着いたが、フェンスが二人を阻んでいる。
校門から回り込もうにも、夏休みのこの時間では確実に閉まっていて意味がない。
ξ;゚⊿゚)ξ「あー、もう! ここを越えればすぐなのに!」
苛立つツン。
その後ろからブーンが声をかける。
( ^ω^)「ツン、僕が先に行くお!」
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そう言ったブーンは全速力でフェンスに突進した。
勢いのまま上の方に捕まり、ツンを呼ぶ。
( ^ω^)「引き上げるから、僕に捕まるお!」
ツンは頷き、ブーンと同じようにフェンスに向かって走った。
伸ばした手をブーンが引き、なんとかフェンスを越える。
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう、ブーン」
( ^ω^)「急ぐお」
フェンスを越えて少し右手に進めば祠だ。
二人は息を整えながら、祠の前に立つ。
顔を見合わせて頷き合う。
やることはもうわかっている。
二人の息は自然と合っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「私たちのお願いをなかったことにしてください」
( ^ω^)「まさかこんな大変なことになるなんて、思ってなかったんですお」
二人揃って頭を下げた。
精一杯の誠意を示したつもりだ。
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( ^ω^)「しぃは大切な友達ですお」
ξ゚⊿゚)ξ「いなくなったらみんなが悲しむ……私だって、しぃがいなくなるなんて嫌……」
ツンの眼に再び涙が滲んだ時、腰のポケットから軽快な音楽が鳴り響いた。
(;^ω^)「な、なんだお?」
ξ;゚⊿゚)ξ「電話だわ!」
緊張で震える手。
携帯電話を落とさないように慎重に取り出し、ボタンを押した。
ξ;゚⊿゚)ξ「もしもし、クー?」
『しぃが見つかったらしい』
ξ゚⊿゚)ξ「しぃが!?」
(;^ω^)「本当かお?」
漏れ聞こえていたクーの言葉に、ブーンがツンに顔を寄せる。
『ミルナたちから見つけたと連絡が来た。今、渡辺と向かいながら電話している。シューたちにも伝えてくれ。場所は……』
クーは早口で伝えきると電話を一方的に切ってしまった。
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ξ゚⊿゚)ξ「私たちも向かいましょう。ショボンには走りながら連絡するわ」
二人は走り出した。
フェンスを越えてクーの言っていた場所に向かう。
学校からあまり遠くない場所だった。
大きな公園の遊具の影に、しぃはいたという。
( ^ω^)「いたお!」
ブーンが見つけたのはよく知っている後ろ姿。
声をかける前に彼は振り向いた。
_
( ゚∀゚)「ブーン!」
(;^ω^)「ジョルジュ、しぃは!?」
( ゚д゚ )「こっちだ」
彼らの足元にはうずくまるしぃ。
そして彼女に寄り添う渡辺とクー。
(;*゚ー゚)「私、私は……待ち合わせの場所に向かってて、それで……それで……」
しぃはひどく動揺しているようだった。
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ξ゚⊿゚)ξ「まさか……不審者にあったんじゃ……」
ツンの呟きはミルナには聞こえたらしい。
( ゚д゚ )「それが……要領をなかなか得ないんだが、どうやらしぃは何も覚えていないらしい」
ξ゚⊿゚)ξ「覚えてない?」
( ゚д゚ )「ああ、俺たちが見つけた時はここに倒れていて……。
後から来た渡辺とクーが話を聞いたんだが、事件に巻き込まれたというわけではないみたいだ」
しぃは何かに怯えているように見えた。
それは一見すると不審者に会ったショックによるものが原因に思われる。
だが、それは違うという。
(;´・ω・`)「しぃは!?」
ショボンと、その後ろにはシュー。
ミルナがツンにしたように二人にも説明をする。
そして、やはりツンと同じように首を傾げるばかりだ。
しぃは何も覚えていない。
気づいたらここにいて、ジョルジュとミルナに呼び掛けられていた。
体はどこも調子は悪くないし怪我もない。
全員がなんだか納得のいかない気持ちのまま、解散となった。
まだ花火は終わらないが、今さら綺麗なものを見ても気は紛れそうになかった。
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ξ゚⊿゚)ξ「しぃは結局、瞬間移動をしたとしか考えられないと言っていた。まるで神隠しみたいと私は思ってるわ」
ξ゚⊿゚)ξ「私の願い事は二度も叶った。」
ξ゚⊿゚)ξ「一度目は運動会に出たくなくて、骨折したわ」
ξ゚⊿゚)ξ「二度目は花火大会。
しぃがブーンを好きなんだと勘違いして、しぃが来ないことを願ったら、しぃは少しの間だけど行方不明になってしまった」
ξ゚⊿゚)ξ「私だけじゃなくて、ブーンも同じことを願っていた」
ξ゚⊿゚)ξ「噂は本当よ、シュー」
lw´‐ _‐ノv「そうだね……」
ξ゚⊿゚)ξ「私に祠のことを教えてくれたのは本当に感謝してる。
でも、しぃがあんなことになったから……やっぱりもうお願いなんてしない方がいいと思うの」
lw´‐ _‐ノv「うん、そうだね」
lw´‐ _‐ノv「ところでツン、今日はプールの時もずっと楽しそうだったけど、いいことでもあった?」
ξ*゚⊿゚)ξ「……明後日、うちとブーンの家族とで一緒にバーベキューをするの!」
lw´*‐ _‐ノv「ほう……おあついことで」
ξ゚⊿゚)ξ「む……そういうんじゃないんだからね!」
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ツンが帰るのを見届けて、シューは踵を返した。
帰る前に寄るところがある。
学校の裏手の祠。
ここはいつも涼しい。
真夏の真昼のはずの今だって、背筋に寒気を感じるほどだ。
lw´‐ _‐ノv「ツンはああ言ってたけどさ、やっぱり私は自分で試したいんだよ」
忌々しいプールバッグを足元に置いて祠に向き合う。
lw´‐ _‐ノv「私は、正直言うと姉さんが好きじゃないんだ。嫌いでもないけどね」
lw´‐ _‐ノv「やっぱりさ……こういうのを妬みとか嫉みとか……嫉妬って言うんだね。
頭が良くて運動神経抜群で、誰にでも何にでも突っ込んでいく姉さんが好きじゃない」
lw´‐ _‐ノv「あんな限りなく完璧に近い人の妹が真っ直ぐな性格になるわけないよ」
シューは細い目をしっかり閉じる。
lw´‐ _‐ノv「少しだけでいいんです」
lw´‐ _‐ノv「姉さんのいない世界を見てみたいです」
風が木々の枝を揺らす。
シューの髪も風に吹かれて顔に貼り付いた。
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シューは目を開く。
不意に気になった祠に目を向けた。
lw´‐ _‐ノv「……?」
祠の、今は固く閉ざされている観音開きの扉の奥に何か光が見えたような気がした。
lw´‐ _‐ノv「気のせいか?」
しかしそれは一瞬で消えてしまった。
まるで幻のようだ。
くるりと祠に背を向けて、シューは歩き出す。
一歩、二歩、進む度に蝉の声が大きくなる。
木々に遮られていた太陽の光を直に浴びるようになると、先程のことは勘違いに思えた。
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以上です。ありがとうございました
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怖い話じゃないか!
乙
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乙
ひやりとした
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乙乙
読みながら不安になってぞくぞくする感じ好き
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乙
これ絶対よくないものいるよ…怖い
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何に願いをかけてしまったんだ…
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