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( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξは虹を越えて征くようです

1名無しさん:2016/03/28(月) 22:26:17 ID:Az6ycBdc0
VIPでも立ててるけど投下を二回に分けるので補完的な意味で(二回目)
ツンちゃんまさかの文字化けで立て直し
もう一つのスレは削除依頼出してます
これで文字化けするなら諦め


この作品はブン動会参加作品です
長いから投下を二回にわけます

次から開始です

2 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:27:53 ID:Az6ycBdc0
 
 『あなたはどこからきたの?』
 
 
『……』
 
 
 『あなたはどうしてここにいるの?』
 
 
『…………』
 
 
 『ことばがはなせないの?』
 
 
『………………』
 
 
 『……あなたのおなまえは?』
 
 
『………………………』

3 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:29:33 ID:Az6ycBdc0
 
 そこは、不思議な世界だった。
 白く霞がかった、とても視界の悪い場所で、私は一点だけを見つめていた。
 見つめながら、問いかけていた。
 
 ぼんやりと目に映るのは、とても弱々しく、小刻みに震えている小さな小さな竜だった。
 けれども竜は、私の問いかけに答えてくれる気配を感じさせてはくれなかった。
 
 まだ幼い竜は言葉が話せないのか、言葉が理解できないのか、耳が聞こえていないのか。
 様々な憶測が浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。
 
 そもそも竜が言葉を話せるか知らなかった私は、諦めずに問いかけた。
 
 『ねぇ? どこかけがしてない?』
 
『…………』
 
 聞こえたのは、無音だった。
 とてもつらそうな竜を見ていて、私も、とてもつらくなった。

4 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:30:05 ID:Az6ycBdc0
 
 
 
 私は竜を抱きしめた。
 
 冷たくて、でも少しだけ、暖かかった。
 
 
 
 強く、抱きしめながら、
 
 
 
 
 『………………………………?』
 
 
 
 
 
 また、問いかけた。

5 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:30:49 ID:Az6ycBdc0
 
 
 
 
『……逃げて……』
 
 
 
 
 
『早く……早くしないと……きみを』
 
 
 
 
 
『……ぼくは…………きみを……────食べて────…………』

6 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:32:45 ID:Az6ycBdc0
 
 
 
 
 
 
  
 

 
 
    ( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξは虹を越えて征くようです

7 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:33:18 ID:Az6ycBdc0
 
『…………ン………ツン…………』
 
ξ;-⊿-)ξ「……ぅ……」
 
 頭に響くのは聞き慣れた声だった。
 発音しているのはまた、聞き慣れた名前だった。
 
 私の名前。
 
 「ツン!起きろお!」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ! なになに!?」

( ^ω^)「おはようございます」

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

 驚いて飛び起きれば、今度は見慣れた顔だった。
 いつもと変わらない声と顔。旅の相棒、ブーンだ。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「…………また?」

( ^ω^)「まただおー。いい加減慣れてくれお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「無理よ! 無理! 慣れとかそういう問題じゃないから!」

8 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:34:09 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「毎回毎回気絶される身にもなってみろお?」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「だってしょうがないじゃない! 高いところはダメなんだから……」

 どうやらまた気絶してしまっていたようだった。
 呆れたようにブーンが言い私が言い訳するのは、これまで何度も通過してきたことだった。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、それで……ここはどこなの?」
 
( ^ω^)「うーん……ニューソクから南に三時間くらいのところ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ってことは……ニューソクの外れの中の外れね……アスキー領辺りかしら?」
 
 ニューソクは世界に多くある国家の中で、最も広大で繁栄している国だ。
 それでも、ブーンの速度で三時間ということは国境近くまではきていることになる。
 
( ^ω^)「そうだおね。この辺りくらいからが丁度いいんじゃないかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう思うわ。近くの町か村を探しましょ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「ってなにここ!? どこに降りたのよ!!」

( ^ω^)「森」

ξ;゚⊿゚)ξ「森って……よくこんなところに降りられたわね」

9 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:35:39 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「降りたというかツンが落ちたんだお」

ξ; ⊿ )ξ「っ……落ちっ……」

( ^ω^)「急いで拾いにいってギリギリで捕まえたんだお」

ξ; ⊿ )ξ「っ……ギリギリ……」

( ^ω^)「ちなみに黙ってたけどこれで八回目だお」

ξ;゚⊿゚)ξ「八回目!?」

 よろめき、また気絶しそうになった。確かに、ブーンの背中はしがみつき辛い。
 でもまさか気絶中にそんなことになっているなんて夢にも思わなかった。
 
( ^ω^)「もう何年一緒にやってると思ってるんだお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「う、うっさいバカ! 怖いんだから仕方ないじゃない! バカバカ!」

( ^ω^)「命の恩人にバカとか……」

ξ;゚⊿゚)ξ「アホ! アホー!」

( ^ω^)「言ってるツンがアホみたいだお」

10 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:36:10 ID:Az6ycBdc0
 
ξ;゚⊿゚)ξ「うぐぐ……」

( ^ω^)「まぁ、ちょっと落ち着けお。幸いこの森はそんなに広くないから、歩いて平地にでるお」

ξ;゚⊿゚)ξ「……わかった」

ξ;゚⊿゚)ξ「でも次に飛ぶ時はもっと────」
 
 言いかけた、その時だった。
 
( ^ω^)「お?」

ξ゚⊿゚)ξ「悲鳴ね」
 
 女性の悲鳴。明らかに、何かに襲われているような声だった。
 最も繁栄しているニューソクと言えども、国境付近までは管理が行き届いていない。
 恐らくは近くの住民がモンスターにでも襲われているのだろう。
 
( ^ω^)「近いお」

ξ゚⊿゚)ξ「いくわよ」
 
 このまま放置は夢見が悪い。私とブーンは悲鳴があがった方向へと駆け出した。

11 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:37:18 ID:Az6ycBdc0
 
 ブーンが前を、その後ろに私が続く。
 最短の道を選び、障害になりそうな木の枝を折って進んでくれている。
 それでも、常人では追いかけることすら難しい速度で走っていた。
 
( ^ω^)「見えたお!」

ξ゚⊿゚)ξ「うん!」
 
 少し開けた場所、というよりは森に作られた道にでた。
 その中央に私たちが現れ、
 
ミセ;゚д゚)リ「きゃああああああああああああああああああああああ!!!」

 女性が二回目の悲鳴を上げる。
 
ξ゚⊿゚)ξ(あ、多分私たちにびっくりした)
 
 それだけだったなら良かったが、あいにく最初の悲鳴の原因がいる限り、そうはいかない。
 
( ^Д^)「あぁん? なんだお前ら」

(=゚ω゚)ノ「邪魔するんじゃないよう! 今いいところなんだよう!」
 
 へたり込んでいる女性の前に立っていたのは、モンスターではなく人間だった。
 質の悪そうな男が二人。恐らくは盗賊かなにかだろう。

12 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:37:57 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「悲鳴が聞こえたからきてみただけだお」

( ^Д^)「へっ、そうかい。死にたくなかったらさっさと消えな」

(=゚ω゚)ノ「そうだよう!」

ξ゚⊿゚)ξ「そういうわけにはいかないのよ。その人とはどういう関係?」

( ^Д^)「聞こえなかったのか? さっさと消えろって言ってんだよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「聞こえなかったかしら? その人との関係を聞いたんだけど?」

(=゚ω゚)ノ「うるさいんだよう! 早くどっかいくんだよう!」

( ^Д^)「まぁまてよ。そんなに知りたいなら教えてやるぜ」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、言葉が理解できたのね」

(#^Д^)「……関係はこれから結ぶんだよ! てめぇをぶっ殺した後でな!!」

ミセ;゚д゚)リ「きゃああああああああああああああああああ!!」
 
 あっさりと男の興味は女性から外れ、こちらに移ってくれた。
 男がショートソードを抜き、それに驚いてまた女性が悲鳴をあげている。

13 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:38:27 ID:Az6ycBdc0
 
(=゚ω゚)ノ「馬鹿な奴らだよう! アニキが手を下すまでもないよう!」
 
 片割れもショートソードを抜き、こちらに駆けて来た。
 標的は私の前に立つブーンのようだ。
 
ξ-⊿-)ξ(ご愁傷様)
 
(=゚ω゚)ノ「死ねよう!!」
 
 大きくショートソードを振り上げ────振り下げることなく、男は仰向けに倒れた。
 
(;^Д^)「なっ……!?」
 
 胸の位置で右手を握るブーン。
 剣を振り上げ、がら空きになった顎へ一撃、というところだろう。
 
( ^ω^)「殺してないから、さっさとおうちへ帰るんだお」

(;^Д^)「く……なめやがって……!」

( ^ω^)「なめてないお。歯牙にもかけてないだけだお」

(#^Д^)「それをなめてるっていうんだよ!!」

( ^ω^)「バレたお。まぁ、やるならやるからさっさと来いお」

14 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:39:04 ID:Az6ycBdc0
 
(;^Д^)「…………」
 
 さすがに、尋常ではない強さを見せつけたブーンに立ち向かえるわけがないだろう。
 狙いを私に絞っても、必ずブーンを相手にしなくてはいけない。女性を狙っても同じことだ。
 
 弱い者しか相手取れない男の選択肢は一つ。
 
(;^Д^)「……覚えてろよ!!」
 
 のびている男を抱え、逃げ去っていった。
 
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫だった?」

ミセ*;д;)リ「ふええええええん!! ありがとうございましたあああああ!!」

ξ゚ー゚)ξ「いいえ、もう大丈夫だから、ね?」

ミセ*;д;)リ「はい! はいいいいいい!!」
 
 安心して泣きじゃくる女性、もとい女の子。
 落ち着いて見た感じ、十五歳くらいだろうか。私より少し若い印象を受けた。
 
( ^ω^)「家は近いのかお? よければ送るというか、近くの村まで案内してほしいんだお」

ミセ*;д;)リ「っく、ひっく……はい……」

15 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:39:35 ID:Az6ycBdc0
 
 女の子は立ち上がり、長いスカートについた土を払って、
 
ミセ*゚ー゚)リ「本当にありがとうございました。私はミセリ=アデレートと申します」

ξ゚⊿゚)ξ「私はツン。ツン=デレンカ」

( ^ω^)「ぼくはブーンだお」

ミセ*゚ー゚)リ「ブーン様とツン様ですね!」

ξ;゚⊿゚)ξ「様はいいから……」

ミセ*゚ー゚)リ「よろしければ私の村にご招待したいのですが、お時間はありますか?」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがたいわ。今日泊まる宿を見つけないといけないし」

ミセ*゚ー゚)リ「でしたら丁度良いですね! お礼もしたいですし是非いらしてください!」

( ^ω^)「お言葉に甘えるおー」

ミセ*゚ー゚)リ「村はこの森を抜けて、すぐ近くにあります。行きましょう!」
 
 言い、森の道を進もうとした時だった。
 最初に歩き出したミセリがすぐに止まり、うずくまって右足を押さえた。

16 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:40:07 ID:Az6ycBdc0
 
ミセ;゚ー゚)リ「いたた……」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫? もしかして怪我をしたの?」

ミセ;゚ー゚)リ「追いかけられていた時に足をひねって……落ち着いたら痛くなってきました……」

ξ゚⊿゚)ξ「ひねった……足首ね? ちょっと見せてみて?」

ミセ;゚ー゚)リ「は、はい」

 ミセリの前にしゃがみ、スカートの裾を少しあげる。
 右足の足首は少しだけ腫れていた。触れてみると少し熱ももっている。
 このまま放置しておくと腫れは更にひどくなっていくだろう。
 
ξ゚⊿゚)ξ「そのままでいてね?」

 ミセリはこくりと頷く。
 私は彼女の足首に手を触れたまま、

ξ゚⊿゚)ξ『“White”────ツン=デレンカの名において命じる。白き光により彼の者へ安寧をもたらせよ』
 
 色を紡いだ。
 私の手から白い光が現れ、ミセリの怪我を優しく包み込む。
 
ミセ;゚ー゚)リ「えっ? えっ?」

17 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:40:37 ID:Az6ycBdc0
 
 十数秒したところで、光が消え去った。
 同時に足首の腫れも消え、熱も引いた。
 
ξ゚⊿゚)ξ「どう? もう痛くないはずだけど……」

ミセ;゚ー゚)リ「ほんとです! 痛くないです!」

ξ゚ー゚)ξ「ん、よかった」

ミセ;゚ー゚)リ「魔法? 魔法ですか? もしかして魔法使いですか!?」

ξ゚⊿゚)ξ「うーん、そんなところかなぁ……」

ミセ*゚ー゚)リ「すごいです! 魔法使いさんなんて都市部にしかいないと思ってました!」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね。その辺では珍しくないわね」

ミセ*゚ー゚)リ「ブーン様もお強いですし、もう最高です!!」

ミセ*゚ー゚)リ「さぁ! 早く村へいきましょう!」

 そうしてミセリは上機嫌で軽くスキップしながら進みだす。
 私とブーンは顔を見合わせ、静かに笑った後、彼女に続いた。

18 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:41:09 ID:Az6ycBdc0
 
──辺境の集落──
 
 
 
 案内された村は、予想よりも規模が大きな集落だった。
 通されたのは、その中で一番大きな家。
 聞けばミセリは、この村の村長の一人娘だという。
 
 彼女は到着するなり興奮して両親に説明し、私とブーンは家の中へと招かれた。

( ´∀`)「さぁさぁ、お座り下さい」
 
 中央に大きなテーブルがある広い部屋で、私とブーンは椅子に腰掛ける。
 向かい側にミセリと、村長である父、モナーが腰掛けた。
 
( ´∀`)「改めまして……ミセリを助けていただき本当にありがとうございました」

 言って、深々と頭を下げる。
 
ξ゚⊿゚)ξ「そんな……私たちは偶然通りかかっただけなので……」

 モナーは、私たちがこの家に着いてからここまでで、もう二十回以上は頭を下げている。
 逆に申し訳なくなってきたのと同時に、彼の人柄の良さも感じさせられた。
 
( ´∀`)「この辺りには最近……ああいう輩が増えているんです……」

19 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:41:40 ID:Az6ycBdc0
 
ξ゚⊿゚)ξ「盗賊……ですか?」

( ´∀`)「仰るとおりです。近くの山に盗賊団が住み着いて……この辺りは小さな村が多いもので……」

( ^ω^)「騎士団に討伐要請はしたのかお?」

( ´∀`)「それが……領主様もお忙しいのか、なにぶんこの田舎にまで手が回らないそうで……」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ……そうでしょうね」

( ´∀`)「私たちはひっそりと耐えながら暮らしていくしかないんです……」

ξ゚⊿゚)ξ「その盗賊団、規模はどのくらいなんですか?」

( ´∀`)「恐らく、百人ほどでしょう。一度この村に全員でやってきたことがあります」

(;´∀`)「奴らは一週間に一度村にやってきては……食料をよこせと……」

(;´∀`)「若い女も……別の村では、立ち向かった若者は皆殺しにされたそうです……」

(;´∀`)「物騒な世の中になりました……毎年毎年、忽然と人がいなくなる村もいくつか……」

ξ゚⊿゚)ξ「人が……いなくなる?」

(;´∀`)「はい。その村に一度行ったことがあるのですが……家は破壊され、地面は抉れ、凄惨な光景でした……。
      とてもあれは人間の仕業ではない気がします……恐らく、あれは」

ξ゚⊿゚)ξ「“竜”、ですか」

(;´∀`)「……はい。この周辺に“竜化病”に冒された人間がいるのではないかと噂されています」

( ^ω^)「決まりだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね」

( ´∀`)「……?」

ξ゚⊿゚)ξ「アジトがある山を教えて下さい。私たちが追い払ってきます」

(;´∀`)「モナッ!?」

20 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:42:26 ID:Az6ycBdc0
 
ミセ*゚ー゚)リ「パパ大丈夫だよ! お二人超強いんだから!」

(;´∀`)「いやいや……そうはいっても二対百では……あれから増えている可能性もありますし……」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫ですよ」

( ^ω^)「安心してください。潰しますお!」

(;´∀`)「よかった〜ってなりませんよ!」

ミセ*゚ー゚)リ「ツン様は魔法使いで、ブーン様もすっごく強いのよ!」

(;´∀`)「なんと! 魔法使いでしたか!」

ξ゚⊿゚)ξ「……まぁ……そんなところです」

(;´∀`)「いやしかし……それでも……」
 
 モナーが渋るのは無理も無い。
 私が彼の立場だったら、馬鹿な真似はやめろと言うはずだ。
 しかし、ただの盗賊など千人いようが負ける気はしない。
 
 それにいざとなれば、奥の手もあるのだから。
 
|゚ノ ^∀^)「お待たせしました〜!」

ミセ*゚ー゚)リ「ママ!」
 
 家に入る前、慌てて御飯作らなきゃ!と駆けていったミセリの母、レモナだ。
 左手に大皿、右手にも大皿を持ち、テーブルの真ん中にそれを置く。
 どこからどうみても美味しそうな料理が盛られていた。
 
( ^ω^)「うっ……うまそうだお……!」

|゚ノ ^∀^)「どうぞどうぞ! ミセリの命の恩人ですもの! いっぱい食べてくださいね〜!」

|゚ノ ^∀^)「ってやだ! スプーンとフォークを忘れたわ!」

 また慌てて駆けていった。
 ここにきて一時間も経っていないのにここまで作れるのは、これが百戦錬磨の主婦というものなのだろうか。
 百人の盗賊を倒すよりも、こっちの方が不可能だと思った。
 
( ´∀`)「……お話は食事の後に……さぁ、食べて」

( ´∀`)「あ、フォークがないのか」

( ^ω^)「素手で食べるのもやぶさかではないですお!」

ξ゚⊿゚)ξ「やめなさい」

21 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:43:05 ID:Az6ycBdc0
 
|゚ノ ^∀^)「おっまたせ〜! はいどーぞ!」

( ^ω^)「ありがとうございますお! いただきますお!」

ξ゚⊿゚)ξ「すみません、いただきます」

( ´∀`)「モナモナ。たくさん食べてください」

ミセ*゚ー゚)リ「ママのお料理、すっごく美味しいんですよ!」

( ^ω^)「うめぇおwwwwwwやばいおwwwwwwwww」

ξ゚⊿゚)ξ「静かに食べなさいよ!」

|゚ノ ^∀^)「あらあらいいのよ〜! お食事は楽しくね〜!」

ξ゚⊿゚)ξ「すみません……いただきます……」
 
 一口、口へと運ぶ。
 
ξ*゚⊿゚)ξ「……美味しい!」
 
 一つの大皿に盛られていたのは、切り分けられたキッシュだった。
 オリーブオイルの香りと、取り分ける時に糸を引くチーズが食欲をそそる。
 じゃがいもがふんだんに使われており、食べごたえも抜群だ。
 
 まさかここまで美味しいとは思わず、朝から何も食べていない私とブーンは、一心不乱に食べ続けた。
 その姿をモナーとレモナはにこにこと微笑みながら見つめ、ミセリも美味しそうに食べていた。
 
ξ゚⊿゚)ξ(……いい家族だな)
 
 三人を見る限り、普段からこのままの、温かい家族なのだろう。
 少し、少しだけ、ミセリが羨ましかった。
 
( ´∀`)「ところで、お二人は旅人……ですか」
 
ξ゚⊿゚)ξ「はい」

( ´∀`)「そうですか……どんな旅かは深く聞きませんが、こんなところで良ければゆっくりしていって下さい」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」

ξ゚⊿゚)ξ「あの……よければ数日の間泊まれる宿を教えてもらえませんか?」

|゚ノ ^∀^)「あら〜! うちに泊まればいいじゃない!」

ミセ*゚ー゚)リ「そうですよ! ぜひぜひ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……いいんですか?」

22 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:43:52 ID:Az6ycBdc0

( ´∀`)「断る理由はありません。どうぞこの家を好きに使って下さい」

ξ゚⊿゚)ξ「……ありがとうございます」

 食事も終わり、食後のお茶がだされる。
 これもまた良い香りで、温かさが体中に巡るようだった。
 気がつけば、外はもう夜になっていた。
 
( ^ω^)「いや〜本当においしかったですお」

|゚ノ ^∀^)「やだ〜! お上手ね!」

( ^ω^)「レモナさんはお料理がお上手ですお!」

ミセ*゚ー゚)リ「そうですよね! 私も教わってるんです!」

|゚ノ ^∀^)「ミセリはね〜三回の内五回は塩と砂糖を間違えるのがね〜」

( ^ω^)「二回多いお」

ミセ;゚д゚)リ「ちょっと! それは言わないでよ!」

( ´∀`)「モナモナ。お父さん塩分の過剰摂取か糖尿で死ぬかもしれない」

ミセ;゚д゚)リ「死なせないよ!」

( ^ω^)「おっおっwwwwwwww」
 
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ」

ξ゚⊿゚)ξ「さて……モナーさん」

( ´∀`)「はい?」

ξ゚⊿゚)ξ「さっき、盗賊団はほとんど全員を連れてここに来たことがあるって言いましたよね?」

( ´∀`)「ええ」

ξ゚⊿゚)ξ「もしかしたら、ミセリさんの顔を知っているかもしれません。そうすると……」

(;´∀`)「……この村にやってくると……?」

ξ゚⊿゚)ξ「多分、っていうか絶対きますね」

( ^ω^)「もうそろそろ来るんじゃないかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「私たちも村にいるだろうと考えて、そうですね。今日中にはきそうな」

23 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:44:25 ID:Az6ycBdc0

(;´∀`)「そんな……」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫! ブーン様とツン様がやっつけてくれるよ!」

(;´∀`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「そういうことなので、ちょっと村の監視をしてきますね」

( ^ω^)「はいおー」

(;´∀`)「あの……お気をつけて!」

ξ゚ー゚)ξ「はい。大丈夫ですよ」

(;´∀`)「私は昔、医者をしていました。もし怪我などをしたら仰って下さい」

ξ゚ー゚)ξ「ありがとうございます」

 そう言い残し、私とブーンはモナーの家を後にした。
 
( ^ω^)「良い家族だったお」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうね」

 空には満点の星たちが煌めいていた。
 私には星たちと同じように、ミセリたちも眩しく見えた。
 
 村にはあんな家族がたくさんあるのだろう。
 盗賊団を決して許すわけにはいかない。
 
( ^ω^)「ツン、寒くないかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ」

( ^ω^)「このマントも、だいぶ傷んできたお」

ξ゚⊿゚)ξ「そろそろ新しいのを作ろうかしら……」

( ^ω^)「盗賊から奪い取ればいいお」

ξ゚⊿゚)ξ「なんかそれは嫌ね……」

24 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:44:58 ID:Az6ycBdc0

( ^ω^)「さて、集落の入り口についたわけだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「多分馬鹿だから、正面からくるでしょうね」

( ^ω^)「俺たちに喧嘩を売るとはいい度胸だな」

ξ゚⊿゚)ξ「俺の子分にしたことの落とし前をつけてもらおうか」

( ^ω^)「賭けるかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいわよ。何を賭ける?」

( ^ω^)「ぼくが勝ったらツンはぼくにちゅー」

ξ;゚⊿゚)ξ「は!? ふざけんじゃないわよ!!」

( ^ω^)「勝てばいいんだおー?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ううううううう……」

( ^ω^)「ツンが勝ったらなんでも言うこと聞いてやるお」

ξ゚⊿゚)ξ「わかった。絶対だからね?」

( ^ω^)「おっおっ」

( ^ω^)「……ツンさん」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

( ^ω^)「あの大量の松明ってもしかして」

ξ゚⊿゚)ξ「多分、全員で来てると思う」

( ^ω^)「これはありがたいお。全員フルボッコにして終わりだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね」

 少し遠くに見えるのは、ゆらゆらと動くいくつもの松明の炎。
 確実に盗賊団であろう集団が、暗闇から段々と近づいてくる。
 まさか全員できてくれるとは、ブーンの言う通りこちらにとってかなり都合が良い。
 
( ^ω^)「いこうお。村から少し遠ざかった方がいいお」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

 集団を目指し、私たちは歩き出した。
 近づくにつれ、下品な笑い声が聞こえてくる。

25 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:45:42 ID:Az6ycBdc0
 
 そして、先頭にいたのはあの男だった。
 
(;^Д^)「なっ……てめぇら!」

( ^ω^)「おひさー」
 
(;^Д^)「やっぱりあの村に行ってやがったか!」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、その節はどうも」

(;^Д^)「相変わらずふざけやがって……カシラァ!!」

|(●),  、(●)、|「おうおう! こいつらかい!!」

ξ;゚⊿゚)ξ(うわっ……)

|(●),  、(●)、|「うちの奴を随分かわいがってくれたようだなぁ!?」

|(●),  、(●)、|「俺たちに喧嘩を売るとはいい度胸だ────」

 一瞬だった。
 夜ということもあるが、昼であったとしてもこの連中には何故こうなったのか気付かないだろう。
 自分たちの頭領が、一瞬にして地面に口づけをしている理由に。
 
( ^ω^)「はいぼくの勝ちー」

ξ;゚⊿゚)ξ「うううううう……私もそのセリフだと思ってたのよ……」
 
 私にとってはこちらの方が重大な問題だ。
 ブーンとの賭けに負けてしまったのである。
 
( ^ω^)「それじゃあご褒美はまた後日」

ξ;゚⊿゚)ξ「……はい」

(;^Д^)「か……かしらぁぁぁああああああ!?」

(=;゚ω゚)ノ「どどどどどどどうなってんだよう!?」

( ^ω^)「どうって、その大男の顔面を地面に叩きつけただけだお」

26 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:46:28 ID:Az6ycBdc0

( ^ω^)「多分死んでないけど、数日は起きないと思うお」

 そうなのだ。
 大男がセリフを言い終わる前に、ブーンが大男の頭を押さえつけ、地面に叩きつけたのである。
 やはり連中にはなにも見えなかったようだ。
 
(;^Д^)「クソが……だがこっちには奥の手があるんだよ!」

( ^ω^)「お?」

(;^Д^)「先生!! お願いしますぜ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「……?」

 ならず者たちの影から現れたのは、
 
('A`)
 
 意外にも、小柄な男だった。
 しかも百人中百人が同意するであろう不細工だった。
 
( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「貴様ら……死にたくなければ今すぐここから立ち去れ」

ξ゚⊿゚)ξ(……)

('A`)「さもなくば、地獄をみることにゴョヒ」

 またも言い終わる前に、ブーンの手によって顔面を地面に叩きつけられた。
 今度は頭を掴み叩きつけたのではなく、頭を叩いてだ。
 
 しかし。
 
( ^ω^)「ッ!?」

('A`)「……痛いじゃないか。まぁ、そんなことをしても無駄なんだよ」
 
( ^ω^)「こいつ……なんだお……超ブサイク……」

('A`)「……」

('A`)「俺の名はドクオ。この盗賊団に雇われている用心棒だ」

 不細工は不敵に名を名乗った。
 妙な力は感じない。魔法使い独特の雰囲気も発していない。
 だからこそ、ブーンの一撃を受けてなお立ち上がることができたことが不思議でならなかった。

27 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:47:16 ID:Az6ycBdc0
 
('A`)「さぁ、悪いことは言わない。今すぐここからブッホォォォォォォォーーーー…………」

(;^Д^)「せ、先生ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

( ^ω^)「わりと強めにぶっ飛ばしたお」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。お疲れ様」

(;^Д^)「くそ……一体なんなんだよてめぇら!?」

ξ゚⊿゚)ξ「悪党に名乗る名なんてないわ」

( ^ω^)「ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「わかってる」
 
 騒ぎが大きくなれば、村のみんなを不安にしてしまう。
 そうなる前に、この茶番を終わらせなければならない。
 
ξ゚⊿゚)ξ『“Brown”────……ツン=デレンカの名において命じる』

(;^Д^)「ッ!? まさかお前……魔法使い!?」

ξ゚⊿゚)ξ『禍々しき茶色の蛇。捕縛せよ。我の敵は汝が敵でもあるのだから』

 色を紡いだ。狼狽える盗賊たちの足元から茶色の蛇が現れ、彼らへ巻き付いていく。
 相変わらず見た目に抵抗があるが、複数人数を捕縛するには最適な魔法だ。

28 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:48:14 ID:Az6ycBdc0
 
(;^Д^)「な、なんだこりゃ!? 離せ! 離せよおおおお!!」

(=;゚ω゚)ノ「キモいよう!! キモいよう!!」

 途端に悲鳴を上げる盗賊たち。
 百人以上の悲鳴は、それなりに響き渡る。
 どちらにしろ騒がせてしまった。
 
ミセ;゚д゚)リ「きゃああああああああああああああああああああああ!!!」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ミセリ!?」
 
 振り返ると、少し離れた場所でミセリが蛇に絡まれていた。
 
ミセ;///)リ「ちょ……そこは……んっ……」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「わあああああ!!」
 
 咄嗟にミセリに手をかざし、
 
ξ;゚⊿゚)ξ「“Delete”!!」
 
 彼女への色を消去する。
 
 この捕縛魔法は一定の周囲に存在する動く人間を捕縛するものだ。
 対象は一つを指定することで絞ることができるが、今回のような大人数でる場合、範囲を指定するしかない。
 今回は範囲内の動く人間を指定したために、ミセリが捕まってしまったのだ。

29 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:48:49 ID:Az6ycBdc0
 
ミセ;゚ー゚)リ「び、びっくりした……」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ごめんね? まさか近くにいるなんて……」

ミセ*゚ー゚)リ「いえ……私が悪いんですから……」

( ^ω^)「おっおっ。ツン、いけないんだーおー」

ξ;゚⊿゚)ξ「うるさいわね! あんたは気づいてたんでしょ!」

( ^ω^)「おっおっ」

 ひとまずは事態の収集がついた。
 一人残らず捕縛された盗賊たちだったが、離せなど上げる声はまだ元気が良い。
 一日経てば静になるだろう。
 
(;^Д^)「馬鹿強い野郎に魔法使いだったとは……クソが!!」

( ^ω^)「相手を選んで喧嘩した方がいいお?」

ξ゚⊿゚)ξ「これから騎士団に通報して、あなた達を連行してもらうわ。一週間はそのまま放置だからあしからず」

(;^Д^)「一週間だと!? 死んじまう! 死んじまうよ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。 水 だ け はあげるようにしてもらうから」

( ^ω^)「さながら盗賊農園だおね」

ξ゚⊿゚)ξ「ね。農園には水をまかないとね」

30 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:49:34 ID:Az6ycBdc0
 
(;^Д^)「お前らそれでも人間か!?」

ξ゚⊿゚)ξ「人間よ。それよりも、あなたたちがしたことの方がひどいと思うけれど」

ξ゚⊿゚)ξ「一体何人村人を殺したの? 私の勝手にしていいなら今すぐ全員殺してもいいんだからね」

(;^Д^)「ぐ……」

ξ゚⊿゚)ξ「一応、派遣される騎士団がくるの、多分数日後だけど、その前に村人たちがどうするかはわからないわ」

ξ゚⊿゚)ξ「彼らがあなたたちをどうするか。それはもう私の知ったことじゃないし、止めもしないから」

(;^Д^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「わかったらここで大人しくしていなさい」

 そこまで言うと、盗賊たちは項垂れ、声を発する者は一人もいなくなった。
 
 ────はず、だった。
 
('A`)「あらら……みんな捕まっちまってる」

( ^ω^)「……」
 
 ブーンが無言で私とミセリの前に立った。
 あの男と私の直線上を遮る形でだ。
 
('A`)「魔法使いか……ついてねぇな……」

31 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:50:25 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「お前、何者だお?」

('A`)「だからさっき言ったじゃないか。俺の名はドクオ」

( ^ω^)「そうじゃないお。さっきの一撃は並の人間なら死んでるはずだお」

('A`)「じゃあ、俺が並じゃないってことじゃないか?」

( ^ω^)「ありえないお。どんだけ鍛えたって耐えられるレベルを超えているお」

( ^ω^)「死なないにしても……無傷はありえないお」

ξ゚⊿゚)ξ(……こいつ……明らかに何かが違う……Brownでも捕縛できてない……)

ミセ;゚ー゚)リ「あわわわわ……」

('A`)「だから、俺が並じゃないってこと────」

 ブーンが動いた。ドクオに向けて一直線に疾駆する。
 駆ける勢いを殺さずに、右の拳を腹に打ち込んで、打ちぬく。
 
ミセ;゚ー゚)リ「────ひっ!」
 
ξ゚⊿゚)ξ(結構本気だな……)

 ドクオの背中からはブーンの手が生えていた。
 つまり、腹を貫通しているのだ。
 並の人間であれば、痛みにのたうちまわり、夥しい量の血液を辺りに撒き散らしているはずだ。

32 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:50:57 ID:Az6ycBdc0
 
 それなのに、一滴の血も流さずドクオはただその場に立っていた。

( ^ω^)「お前、人間じゃねーお?」

('A`)「人間だって言っただろう? さっきから人の話を遮りやがって……」

ミセ;゚ー゚)リ「あわわわわわ……」

( ^ω^)「……」

 ミセリがいなければ、恐らくブーンは即座に首を飛ばしているだろう。
 さすがに彼女の前ではそうもいかない。
 
('A`)「まぁ、お前らにブラフは通用しないだろうしこのまま見逃してくれないか?」

( ^ω^)「そういうわけにはいかないお」

('A`)「俺は雇われていただけだ。手を下したわけじゃない。誰も殺してないぜ?」

( ^ω^)「……」

('A`)「だからまず、この手を抜いてくれよ?」

 ブーンは静かにドクオの腹に刺さった腕を引き抜いた。
 
('A`)「いって……つつつ……」
 
 穴が空いた腹を押さえて、暫くうずくまった。
 少ししてから立ち上がった時、腹の傷は完全に塞がっていた。

33 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:51:30 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「……」

('A`)「見ての通り、俺は不死身なんだよ。わかってくれたか?」

( ^ω^)「ッ!」

ξ゚⊿゚)ξ(不死身!?)

('A`)「じゃ、そういうことで……」

( ^ω^)「待てお!」

('A`)「え? なに?」

( ^ω^)「不死身ってどういうことだお?」

('A`)「どういうことって……不死身は不死身としか……」

( ^ω^)「お前、竜……にしては弱すぎるおね。どこかで何かされてたんじゃないのかお? 例えば……“実験”とか」

(;'A`)「ッ!?」
 
 ブーンの言葉に、ドクオは身を固めた。
 どうやら当たりのようだ。
 
ξ゚⊿゚)ξ「話してもらうわ。ゆっくりとね」

34 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:52:05 ID:Az6ycBdc0
 
(;'A`)「あっ……いて!! いって!!」
 
 ブーンが男の腕を握り、そのまま背中の方へ捻じりあげた。
 
( ^ω^)「やっぱり痛いんだおね?」
 
ξ゚⊿゚)ξ「不死身だけど、死なない程度の痛みは感じるようね」

(;'A`)「な、なんだよお前ら!? 不死身の俺を見て冷静に分析しちゃってるの!?」

( ^ω^)「不死身には驚いたけど、今はそんなブサイクな顔で不死身になってしまったお前にちょっと同情してるお」

(;'A`)「まって! 俺のコンプレックスをショベルカーで抉らないで!?」

ξ゚⊿゚)ξ「たしかに。死ぬより苦痛ね……」

(;'A`)「お前、盗賊捕まえた時からいちいち言うことキツイんだよ!!」

ミセ;゚ー゚)リ「あの……あの……」

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリさん、納屋かどこか空いているところない? 豚小屋でもいいわよ?」

(;'A`)「人間扱いして!?」
 
 なにやらわめくドクオを拘束して、私たちは村へと戻った。
 モナーさんに盗賊の事を含め事情を話せば、豚小屋を快く提供してくれた。
 
(;'A`)「どういうことだよ! 結局豚小屋かよ!!」

35 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:52:45 ID:Az6ycBdc0
 
(;´∀`)「この男は……?」

ξ゚⊿゚)ξ「こいつは盗賊団に雇われていた用心棒です。事情がありまして、私たちが確保します」

(;´∀`)「そうですか……」

ξ゚⊿゚)ξ「モナーさん。モナーさんには話しておかないといけないことがあります」

( ´∀`)「はい、なんでしょうか?」

ξ゚⊿゚)ξ「気を遣って頂いて話しませんでしたが……ここまでお世話になった以上、説明する義務があります」

ξ゚⊿゚)ξ「私たちの旅の目的は……ブーンの病気を治療するためです」

( ´∀`)「病気……病気なら、旅をしていては……」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンの病気は、“竜化病”です」

(;´∀`)「なッ!?」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫です。この病気は感染しませんし、ブーンは私の魔法で竜化を制御することができます」

(;´∀`)「……そうですか……いやしかし、竜化病とはまた……」

ξ゚⊿゚)ξ「私たちは、竜化病を治せる研究者を探す旅をしているんです」

36 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:53:24 ID:Az6ycBdc0
 
 竜化病。
 厳密に言えば病気ではないのだが、一般的にこう呼ばれている。
 
 古い文献によれば、初出は今から約八百年前にまで遡る。
 文字通り、人が竜になってしまう病気とされている。
 年に数回、突然発作が起き、竜になる。その後、破壊の限りを尽くしてまた人に戻る。
 
 それを何十年も繰り返し、やがて発病者は完全な竜になるのだ。
 
 記録に残っている発病者たちは、全員がその道を辿っていった。
 どの発病者も、竜になると自我が消滅し、周囲にあるものをことごとく破壊する。
 その点で、ブーンは特殊だった。
 
 彼は竜化に対して、ある程度のコントロールが可能なのだ。
 そこに私の魔法によるサポートを加え、破壊を尽くす竜化は十年以上、なんとか防いでいる。
 しかし、ブーンの竜化が止まっているわけではなかった。
 
 異常な身体能力もそうだし、皮膚の硬質化もそうだ。
 ブーンは自分の意志一つで、鉄の剣を弾く皮膚を作り出すことができる。
 また、移動手段にしているが竜の翼を生み出すこともできる。
 
 恐らくここまで竜化を操れる者はいないであろう。
 利便性が高く、抑えられるなら無理をしなくても良いと思う人がいるかもしれない。
 それでも私とブーンはこの病気を治すために、旅を続けているのだ。
 
 それが彼と交わした、約束なのだから。

37 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:55:21 ID:Az6ycBdc0
 
ξ゚⊿゚)ξ「そして……この男に不死身化する術を施した人間がいる」

(;'A`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「竜も不死身に近い存在です。きっと何か共通点があるはず……」

(;´∀`)「なるほど……しかし……」

 モナーはドクオの顔を一瞥して、
 
(;´∀`)「この顔で死ねないとは……」

(;'A`)「お前までそういうこと言っちゃうの!?」

( ^ω^)「まぁまぁ、誰もが思うことだから……」

(;'A`)「自分がどんな顔してるのかわからなくなってきた!」

ξ゚⊿゚)ξ「で、あなたはどこからきたの?」

(;'A`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「言わないなら、これから死なない程度の痛みを与え続けるわ」

ξ゚ー゚)ξ「死なないからやりすぎてもいいし、本当の地獄が見られるかもね?」

(((((;'A`)))))「鬼だこいつ! 鬼! 悪魔!!」

38 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:55:54 ID:Az6ycBdc0
 
ξ゚⊿゚)ξ「悪魔で結構。目的の為なら手段を選ぶつもりはないわ」

ξ゚⊿゚)ξ「さぁ、どうなの?」

(;'A`)「……話すしかねぇだろ……」

( ^ω^)「賢い判断だお」

(;'A`)「クソッ……やっと逃げ出してきたってのに……ついてねぇ……」

(;´∀`)「なにやら込み入った話になりそうなので私は失礼しますね」

ξ゚⊿゚)ξ「すみません、ありがとうございます」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、外の盗賊団に巻き付いている蛇は絶対に噛まないので好きにしていいですよ」

( ´∀`)「……わかりました」

 そう答えたモナーの目は、何かを決めた目をしていた。
 恐らく、村が受けた被害に対しての復讐をするのだろうが、そこまで私は関与するべきではない。
 私たちにとって、今は目の前にいるドクオが最優先事項なのだ。
 
('A`)「……はぁ」

( ^ω^)「とりあえず、なんで盗賊の用心棒なんかしてたんだお?」

('A`)「……生きるためさ」

39 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:57:06 ID:Az6ycBdc0
 
('A`)「実験場から逃げ出した俺に家族なんていない。働き口も、家もない。
.   だから不死身の特性を使って、奴らにアピールしたのさ。用心棒にどうかって。
.   単純な奴らだ。好きに殴らせてその程度かとかやってれば賞賛の嵐。喧嘩もできない男が用心棒になれる」
 
( ^ω^)「なるほど」

ξ゚⊿゚)ξ「で、どこから逃げ出してきたの?」

('A`)「……この辺り一帯を統治する領主、モララーの城だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「モララー? 善政で有名な領主じゃない」

('A`)「表向きはな。発展している都市、町はそりゃもう豊かそのものさ」

('A`)「少し辺境に出れば、ここが良い例だろ? 盗賊はいるし、なんの援助もない村が点在してる」

('A`)「自分に利益があることしかしないんだよ、実際の話」

( ^ω^)「そんな奴がリスクを冒して危ない実験なんかすんのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「いずれは国政にもでるんだろうし……たしかにね」

('A`)「俺にはわからねぇ。でもこれだけはわかる。モララーは狂ってる」

ξ゚⊿゚)ξ「狂ってるって?」

('A`)「あいつが何の実験をしているのかは知らねぇが、実験以外に奴個人の部屋があるんだよ」

('A`)「趣味の部屋だ。……どこまでやれば人間が死ぬのかを試す……拷問部屋だよ」

40 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:57:46 ID:Az6ycBdc0
 
ξ゚⊿゚)ξ「あなたよく逃げ出せたわね……」

('A`)「自殺を図ったんだ。どうみても死んでるように見せて、死体処理場まで持ってこられたところで、逃げ出した」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど……不死身とはばれてなかったのね」

('A`)「だと思うが……十人くらいが注射をうたれて、俺だけが生き残ったんだ。その時の注射が何かの薬だったんだと思う」

('A`)「その一週間後に不死身になってることに気づいて、すぐに逃亡計画を実行したのさ」

( ^ω^)「ほんとに気づいてなかったのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「こんなに情報をもってる奴、もし逃げたってわかってたら血眼になって探すわよね」

川 ゚ -゚)「ほんとにな。めっちゃ探したわ」

('A`)「実験台はかなりの人数がいたし、一人一人の顔なんて覚えてないはずだ」

川 ゚ -゚)「うむ。超絶ブサイクという情報しかなかったぞ」

( ^ω^)「そんな情報だけじゃ……一目でわかりそう」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね……残念ながら……」

(;'A`)「なんで納得してんの!?」

川 ゚ -゚)「はっはっは」

( ^ω^)

41 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:59:21 ID:Az6ycBdc0
 
('A`)

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)

( ^ω^)

('A`)

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)

('A`)

( ^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「ん?」

( ^ω^)「誰だお」

('A`)「誰だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「誰?」

42 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 22:59:53 ID:Az6ycBdc0
 
川 ゚ -゚)「これはこれは申し遅れた。私の名はそうだな……クール。クーとでも呼んでくれ」

川 ゚ -゚)「モララー様の命令でそこにいるブサイクを連れ戻しに来たのと……そちらの男にも用がある」

( ^ω^)「ぼくかお?」

川 ゚ -゚)「そうだ。モララー様が是非あなたとお会いしたいそうだ」

(;'A`)「な……」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、モララー直々になんて気前がいいじゃない」

( ^ω^)「豪華な食事が出るなら行くのもやぶさかではないお」

川 ゚ -゚)「生憎、詳細は聞かされていないので申し訳ないがそれはわからないな」

ξ゚⊿゚)ξ「いいわよ。行ってやろうじゃない」

川 ゚ -゚)「いやいや、招待されたのはその男だけだ。キミは呼んでない」

( ^ω^)「ツンも一緒じゃないといかないお。そこは譲歩できないお」

川 ゚ -゚)「ふむ……困ったな……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいじゃない。一人くらい増えたって」

川 ゚ -゚)「ではこうしよう」

川 ゚ -゚)「ツンと言ったか、キミには実験台になってもらおう。モルモットが増えるのは良いことだ」

43 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:00:32 ID:Az6ycBdc0
 
 緩み気味だった空気が、一瞬にして張り詰めた。
 クーと名乗ったこの女、私たちに気付かれずいつのまにか豚小屋に侵入している。
 かなりの実力者であることは間違いないのだ。
 
( ^ω^)「ふざけんなお。だったらいいお。実力でいくから」

川 ゚ -゚)「強行突破なんてしたらニューソクでお尋ね者になるぞ?」

( ^ω^)「モララーが実験場でしていることを暴露すれば、逆に英雄になれるお」

川 ゚ -゚)「それもそうだ。それは困るな」

川 ゚ -゚)「では────」

ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!!」
 
 かろうじて、見えた。けれども、見えただけだった。
 あまりに突然で、あまりの速さに体は全く反応できなかった。
 ブーンがいなかったら私は確実に死んでいただろう。
 
( ^ω^)「……どういうことだお」

川 ゚ -゚)「おっと……まさか止められるとは、さすがだな」

 クーの手刀が私の首にかかる前に、ブーンが彼女の右手を握り、止めていた。
 そのままの態勢で二人は睨み合っている。
 
川 ゚ -゚)「モルモットにもできない。強行突破はさせられない。それならこの場で殺してしまおうと思ったんだが」

44 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:01:03 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「お前もう一人で帰れお。ちゃんと後でいくから」

川 ゚ -゚)「ガキの使いでもないしそういうわけにはいかないな」

( ^ω^)「柔軟に対応できないお前は、ガキと一緒だお」

川 ゚ -゚)「モララー様はお前とブサイクを連れて来いと仰ったんだ。結果がそれなら過程はどうでもいいだろう?」

( ^ω^)「気が変わったお。お前は今ここで殺しておくお」
 
 大きく、クーの右腕を掴んでいた右腕を壁に向かって振りぬいた。
 クーを投げ飛ばしたのだ。壁を突き破り彼女はかなり遠くまで飛んでいく。
 ブーンはすぐさま後を追いかけていった。
 
ξ゚⊿゚)ξ「……モララーが狂ってるっていうのは、従者のあいつを見て納得したわ」

(;'A`)「俺はまた……あそこに連れて行かれるのか……」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。あなたはただの被害者みたいだし、ここで解放してあげる」

ξ゚⊿゚)ξ「ただし、真面目に働くこと。それさえ守れば後は好きにするといいわ」

(;'A`)「……あいつ、ブーンだっけか? あの女もかなり強そうだったけど大丈夫なのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは誰よりも強いから────」

45 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:01:36 ID:Az6ycBdc0
 
 
──村の近郊・荒野──


 壁を壊してしまった。後でモナーさんに謝らないといけない。
 そんなことを考えながら、あの女を追いかけていた。
 
 女は仰向けの状態のまま、地面と平行に吹っ飛んでいる。まだ動く様子はない。
 女を殺すのは気分が良くないが、ツンに危険が迫っているなら話は別だ。
 この女は、生かしておくべきではない。
 
( ^ω^)「ッ!」
 
 女が動いた。地に足をつけて滑走している。
 かなり強めに投げた所為で、なかなか勢いを殺せないようだ。
 
 自分のスピードを上げる。一瞬で距離を詰め、終わらせるために。
 
( ^ω^)「シッ!!」
 
 手刀、一閃。
 女がツンにしたように、首をめがけて手刀を放った。
 だが、女は小さく身を屈めるだけの動作で、あっさりと躱す。
 
 この反応、やはり普通の人間ではない。
 と、確信を得たと同時のことだった。

46 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:02:26 ID:Az6ycBdc0
 
 腹部に衝撃が走る。腹を蹴り上げられていた。
 痛みはないが、あの態勢で反撃する余裕まであるとは思わなかった。
 
川 ゚ -゚)「硬い体だな!」

( ^ω^)「柔らかい体だおね!」
 
 蹴りの威力は軽い。
 自分の重い体を吹き飛ばすには至らない。
 すぐさま女の足を掴み、最初と同じように振り上げて、
 
( ^ω^)「おおおッ!!」
 
 思い切り、ツルハシを振り下ろすようにして地面に叩きつけた。
 並の人間なら手に持っている足以外、木っ端微塵に吹き飛んでいるはずだ。
 しかし、形成された小さなクレーターの中心にいる女は五体満足の状態だった。
 
( ^ω^)「お前、竜かお」

川 ゚ -゚)「半分正解。私は後天的に竜の遺伝子を組み込まれたハーフだよ」

( ^ω^)「それもモララーの実験かお?」

川 ゚ -゚)「それは言えないな。詳しくはモララー様の口から聞いてもらおう」

( ^ω^)「……」

47 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:03:15 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「もう一度言うお。ツンも連れて行って、ツンに危害を加えないならついてってやるお」

川 ゚ -゚)「あの女を連れてこいとは言われていない。よってそれはできない」

( ^ω^)「殺せとも言われてないんじゃないかお?」

川 ゚ -゚)「そうだな。私が殺した方が良いと思っただけだ」

( ^ω^)「だったら考えを改めろお」

川 ゚ -゚)「うーん……」

( ^ω^)「まぁいいお。もうラチがあかないからお前はやっぱり殺すお」

川 ゚ -゚)「そうはいかない……なっ!」

 言い終えると同時に、女が高速で身を回転させた。
 自分の腕が振り払われる。女はそのまま回転しながら立ち上がり、止まる。

川 ゚ -゚)「そうだ。あの女はここに置いていこう? そうすればよくないか?」

( ^ω^)「ダメだお。ぼくはずっとツンと一緒にいるんだお。そう約束したんだお」

川 ゚ -゚)「ええいロマンチストめ……これは困ったな」

( ^ω^)「どっちにしろお前もモララーもこのまま野放しにしておくわけにはいかないお」

川 ゚ -゚)「むぅ……」

48 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:04:04 ID:Az6ycBdc0
  
川 ゚ -゚)「仕方がないな」

川 ゚ -゚)「モララー様はお前と話がしたいと言っていた」

川 ゚ -゚)「口がきければどんな状態でも構わないということだ」

川*゚ -゚)「それになんだか、さっきからワクワクが止まらないんだ」
 
( ^ω^)「……」

 女の空気が変わった。滲みでるのは殺気以外の何者でもない。
 漸く、やる気になったようだ。
 自分としてはそっちの方がやりやすい。
 
 だが。
 
( ^ω^)(このままじゃしんどそうだおね……)

川 ゚ -゚)「むっ!」
 
( ^ω^)「……!」
 
 右腕を横に薙ぐ。
 久しぶりだが、腕だけなら問題無いだろう。
 
 右腕が黒く変色していき、大きな鱗が形成されていく。
 指が伸び、次第に同化して、五本の指が三本の指────鉤爪となった。
 
川 ゚ -゚)「驚いたな……部分的な竜化か!」

49 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:04:36 ID:Az6ycBdc0
 
川 ゚ -゚)「さすがオリジナルの竜だ! どうやったんだ!? 教えてくれ!」

( ^ω^)「黙ってろお」

 疾駆。
 竜化させた腕を女の脳天から叩きつける。
 
川 ゚ -゚)「はははっ!」
 
 しかしそんな大振りの攻撃は、当然避けられてしまった。
 腕を止め、衝撃が走り、大地に三筋の爪痕が刻まれた。
 
川 ゚ -゚)「素晴らしいな! 触れてもいないのにその威力か!」

川 ゚ -゚)「私にもその血が流れているんだよな! これはいい!」

( ^ω^)「……?」
 
 女の様子が変だ。
 殺気を放ちだした辺りから、高揚が増している。
 
川 ゚ -゚)「ふんッ!!」
 
 女が、駆けて来た。
 慣性のまま繰り出されるのは右の回し蹴り。
 それを、人のままの左腕で受け止めた。

50 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:05:19 ID:Az6ycBdc0
 
( ^ω^)「ッ!」
 
 体がブレる。女の力が増しているようだ。
 女はすぐに受け止められた右足を下ろし、右拳を繰り出してきた。
 それを見て左に体を開きつつ、鉤爪を薙ぐ。
 
川 ゚ -゚)「なんの!」
 
 女は更に踏み込み、自分の懐に飛び込む形で鉤爪を回避した。
 
 跳躍。
 自分を飛び越えて後方に回り込まれる。
 女が着地する前、振り向き様に左の後ろ回し蹴りを放つ。
 
 が、その足を踏み台にして、更に後方へと飛んだ。
 
( ^ω^)(すばしっこいお……)
 
 機敏性だけなら上を行かれているかもしれない。
 
川*゚ -゚)「いいぞ! こんなに緊張する戦いは初めてだ! もっと見せてみろ!」

( ^ω^)「ごちゃごちゃうるせーお!!」
 
 全力で右腕を薙いだ。
 女をめがけ、不可視の真空波が駆けて行く。
 
川*゚ -゚)「おおっ!」

51 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:05:57 ID:Az6ycBdc0
 
 女が両の腕を交差させ、真空波を受け止めた。
 両腕に三本の爪痕が生まれ、血が噴出する。
 常人であれば輪切りになっているところだが、竜相手ではそうもいかない。
 
川*゚ -゚)「痛いな!」
 
 傷口に手を当て、血を舐めた。
 
川*゚ -゚)「……うまい! これが竜の血か! 私にもしっかりと流れているぞ!!」

( ^ω^)(……こいつは……)
 
 似ている。
 竜化病に犯され、狂った人間に、似ている。
 
 竜化病にまとわりつくのは、常軌を逸した破壊衝動と、食欲だ。
 周囲を破壊し、人間を食す、糞のような本能に襲われるのだ。
 長い年月をかけて竜化を繰り返し、段々と理性を竜に奪われ、最後は完全な竜になってしまう。
 
 女が舐めた自分の血からは、人間の血の味がしているだけだろう。
 
 それを美味いと感じている。
 竜に侵食されている証拠だ。
 早く、終わらせなければいけない。
 
( ^ω^)(ツン……ちょっとだけ約束を破るお)

52 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:06:30 ID:Az6ycBdc0
 
川*゚ -゚)「むっ!?」

 一分間だけの、奥の手を使う。
 一分あればこいつを仕留めるには充分なはずだ。
 
( ^ω^)「本当の竜を見せてやるお」
 
川*゚ -゚)「……! そうだ! どんどん見せてくれ! 私に流れている力を!」
 
 どす黒い何かが、体の内から這い上がってくる。
 自分の中に住む竜が、解放しろと叫んでいる。
 
( ^ω^)(お前の好きにはさせねーお)
 
 両の眼に女の姿を焼き付ける。
 目標を見誤らない為にだ。
 
 
 そして────
 
 
 ────1分間の、殺戮が始まった。

53 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/28(月) 23:07:55 ID:Az6ycBdc0
続きは木曜日の夜に
それで終わり

VIPのスレはhttp://vipper.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1459163433/
コードでいれてもツンちゃんの口は文字化けのまま・・・専ブラのせいかな

そんなわけでまた

54 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:17:24 ID:F4fbQg2U0
 
──集落・豚小屋──



ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」

(;'A`)「えっ!? なになに!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……」
 
 感じ取れた。ブーンの魔力を。
 正確には、ブーンの中にいる竜の魔力をだ。
 
 あのクーと言う女は、それほどまでに強かったのか。
 
 ほどなくして、竜の魔力が消えた。
 これによりブーンの勝利を確信する。
 
ξ゚⊿゚)ξ(今回の件……かなり厄介かもしれない……)
 
 モララーの使い程度の相手で、ブーンが一時的に竜を解放しなければならないほどの強さ。
 同じような実力者が複数いるかもしれないし、モララー本人も相当な力の持ち主かもしれない。
 
 慎重に行動した方がよさそうだ。

55 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:18:34 ID:F4fbQg2U0
 
( ^ω^)「ただいまー」
 
ξ゚⊿゚)ξ「……おかえり。お疲れ様」

( ^ω^)「ちょっと手こずっちゃったお。あいつ竜だったお」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……ブーンは大丈夫?」

( ^ω^)「心配いらないお」

(;'A`)「ちょ、ちょっと、竜ってもしかして竜化病……?」

( ^ω^)「正確には違うお。まぁ要約するとあいつも実験台だったってことだお」

(;'A`)「竜化病って感染しないはずだろ? 移植……というか他人に移すなんてことできるのか?」

( ^ω^)「うーん……」

ξ゚⊿゚)ξ「そもそも竜化病は、一般的に病気の名前が付けられてるけど本当は違うのよ」

(;'A`)「まじで?」

ξ゚⊿゚)ξ「正しくは、竜が体の中に封印されている人のこと」

(;'A`)「……どういうこと?」

ξ゚⊿゚)ξ「詳しくはわかってないんだけど……」

56 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:19:59 ID:F4fbQg2U0

ξ゚⊿゚)ξ「人間が生きている間に除々に封印が弱まり……最終的に竜が解放される」

(;'A`)「じゃ、じゃあ……こいつにも……?」

( ^ω^)「だお。ぼくは制御できるけどね、ある程度は」

(;'A`)「ほんとに大丈夫なのかよ!? 突然竜化した奴が一つの都市を壊滅させた話も聞くぜ!?」

( ^ω^)「大丈夫だお。ぼくが竜になってもお前はまずそうだから食べないお」

(;'A`)「なんか複雑!」

( ^ω^)「踏んで埋めてやるお」

(;'A`)「有り得そうだからやめて!!」
 
( ^ω^)「とにかく、モララーは危ないやつだお。あの女で確信したお」

( ^ω^)「人為的に竜を封印、もしくは移植できる手段を知ってるお」

ξ゚⊿゚)ξ「……そういう人を増やして、最終的に無敵の竜部隊でも作るのかしらね」

( ^ω^)「かもしれないお。世界征服でも企んでるのかわかんないけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「放っておくわけにはいかないわね」

57 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:21:58 ID:F4fbQg2U0
 
( ^ω^)「ツン、いくお」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、いきましょう」

 行動は早いほうが良い。
 夜も深まっており、奇襲には丁度良い条件だ。
 
(;'A`)「これからいくのか……?」

( ^ω^)「そうだお」

(;'A`)「領主の城はたしかにここからそんな離れちゃいないが……」

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ。さっきも言ったけどあなたとはここでお別れよ。モナーさんには先に発ったと伝えておいて」

('A`)「……死ぬなよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう」

 外へ出て、ブーンの背中にしがみついた。
 下がよく見えない夜なら、昼よりは大丈夫だ。きっと、多分。
 
( ^ω^)「いくお」
 
 ブーンの両腕が変化して、竜の翼のそれになる。
 部分竜化ができるブーンならではの、私たちの移動手段だ。

58 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:23:52 ID:F4fbQg2U0
 
 ゆっくりと上昇し、次第にスピードが上がってゆく。
 モララーの城を目指し、私たちは星の海へ飛び込んでいった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
──領主・モララーの城──


 窓から漏れる灯りは、あまり多くなかった。
 戦争がなくなり平和な世が訪れてから数十年経っている。
 この平和ボケは、侵入する側にとって好都合だった。
 
 城の最上階近くに一際大きな部屋がある。
 その部屋の全ての窓から明かりが漏れており、わざとらしいことこの上ない。
 予想はしていたが、どうやら奇襲は成功しないようだ。
 
 念の為、更に上空まで上がり、バルコニーへ垂直に降りた。
 ツンと顔を見合わせ、互いに一つ頷いて中の様子を窺う。

59 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:25:48 ID:F4fbQg2U0
 
ξ゚⊿゚)ξ「中がよく見えないわね……」

( ^ω^)「……いや、いるお」
 
 嫌な気配は明かりと同じようにわざとらしく、窓を通しても感じられた。
 その気配は自分たちを早く来いと誘っているように。
 
 窓を押す。
 やはり、施錠されていない。
 
ξ゚⊿゚)ξ「……」

( ^ω^)「……」
 
 中に入ると、外観から想像できた通りの大広間になっていた。
 
 だが、それだけ。
 
 豪華な長いテーブルもなければ、装飾といった類もまるで存在していない。
 殺風景な、夜だから灯しているだけと言わんばかりのランプが点在しているだけだ。
 その部屋の中心に、その男は居た。
 
( ・∀・)「ようこそ、私の城へ。人払いは済ませてあるから寛いでくれたまえ」

( ^ω^)「お前がモララーかお?」

( ・∀・)「いかにも。私がモララーだよ」

60 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:27:52 ID:F4fbQg2U0
 
 モララーは笑みを浮かべ、しかし大袈裟にため息を吐き、
 
( ・∀・)「竜の気配を感じて向かわせたまではよかったが、やはりクーはだめだったか」

( ^ω^)「……」

( ・∀・)「どうだったかい? 私の試作品。なかなか良く出来ていただろう?
      しかし、やっぱり常人の精神力ではすぐ竜に支配されてしまうみたいなんだ。
      よく精神が不安定になっていたよ。まぁこれは、次の実験の為の貴重なデータになったけれどね」

( ^ω^)「ふざけんなお。あんな人間を増やしてどうするつもりなんだお?」

( ・∀・)「おっと、いきなりそんな核心に迫っちゃうの? もう少し盛り上げていこうよ。せっかく会えたんだし」

( ^ω^)「聞くことだけ聞いて早く終わらせたいんだお。こんな短い会話でお前が屑野郎だってことはわかったし」
 
 モララーはまた大袈裟に肩をすくめる。
 言葉もそうだが、挙動までもがいちいち癪に障る男だった。
 
( ・∀・)「これはひどい。なかなかないよ? こうやって竜同士が出会うことは」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりあなた……竜なのね」

( ・∀・)「ああ、キミは人間だね。喋らなくていいよ。人間風情が私の鼓膜を震わせないでくれ」

ξ゚⊿゚)ξ「は?」

( ^ω^)「まぁ……竜は崇高ななんちゃらってえばる奴、たまにいるお……」

61 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:30:16 ID:F4fbQg2U0
 
( ・∀・)「そう! 生まれながらにして竜をその身に宿し、計り知れない力を手にしている!
      私たちは選ばれし崇高な存在なのだよ! 人間ごときが同じ高さにいるなんて汚らわしい!」

( ^ω^)「で、お前の目的はなんなんだお? 世界征服かお?」

( ・∀・)「そんな単純なものじゃないよ。高尚で、偉大で、美しい目的だよ」

( ・∀・)「竜の王国を作るんだ」

( ^ω^)「……竜の王国?」

( ・∀・)「そう! 選ばれし存在の竜を宿した者たちを集め、王国を作るのだよ!
      そこに住める人間はクーのように実験に適合した者のみ!
      最終的には各国に宣戦布告して、世界中に竜の素晴らしさを知らしめるのだよ!」

( ^ω^)「くだらねぇ……」

( ・∀・)「キミも竜だろう!? この計画の壮大さがわからないのかい!?」

( ^ω^)「わかりたくもないお。お前のわがままに他人を巻き込むんじゃねーお」

( ・∀・)「巻き込むだって!? 人間は動物以下、つまり家畜なんだよ! 気を遣う必要なんてあるかい!?
      計画の為のモルモットとしての利用価値と、我々の餌でしかない脆弱で愚かな存在なのだから!」
      
( ^ω^)「ドクオもその中の一人だったのかお」

( ・∀・)「あの醜い害虫か……あれは高貴なる竜の血を注入したら、偶然不死身の特性を引き継いでね。
      ただそれだけの存在だよ。竜として覚醒するかもしれないと思い泳がせていたが……ゴミのままだったね」

62 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:32:21 ID:F4fbQg2U0
 
( ^ω^)「ああ、もうわかったお。お前の声でぼくらの鼓膜を震わせないでくれお」

( ・∀・)「……私の理想を理解できないとは……竜であることが恥ずかしくないのか……」

( ^ω^)「ぼくは自分の中の竜を消し去る為に旅をしているお。この忌々しい竜を追い払うために。
      できることなら今すぐにでも消し去りたいお」

( ^ω^)「でも────」
 
 それは、今じゃない。
 
( ^ω^)「────この竜を消す前に、消し去らないといけない屑野郎が目の前にいるみたいだお」

( ・∀・)「残念だ……私とキミは分かり合えない存在のようだね……」

( ・∀・)「よし! キミを殺した後にキミの中の竜を取り出そう! 依代が腐っていたんだ!
      だったら依代を変えてしまえばいい! もっともっと相応しい者にね!」
      
 モララーが両腕を大きく開いた。
 迸るのは、殺気。
 クーとは比べ物にならないほどの殺気が、部屋に充満する。
 
( ^ω^)「ツン!」

ξ゚⊿゚)ξ「うん!」

63 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:35:10 ID:F4fbQg2U0
 
ξ゚⊿゚)ξ『“Glay”────……ツン=デレンカの名において命じる』

ξ゚⊿゚)ξ『汝は何よりも冷酷で硬質な灰の壁。森羅万象の侵入を拒絶せよ』

( ・∀・)「ほう! 色魔法か!」
 
 ツンが色を紡ぎ終える。
 大広間の壁の内側に新たな灰色の壁が生まれ、殺風景だった部屋は無機質な部屋へと変貌する。
 本来は対象を閉じ込める結界魔法だが、今回は外への影響がでないように使用したのだ。
 
 竜と戦う時にだけ、ツンにこうしてもらっている。
 
ξ゚⊿゚)ξ「外界と遮断したわ! ブーン! 思う存分やっちゃいなさい!」

( ・∀・)「人間ごときに気を使われるとはね」

( ^ω^)「感謝して死ぬといいお!」

 両腕を広げると同時に、部分竜化。
 モララーは純粋の竜だ。クーより弱いわけがない。
 
 最初から全力で行く。
 
( ・∀・)「ハハッ! 素晴らしいよ! 部分竜化も完璧なんだね!」

(#^ω^)「おおおおおおおお!」
 
 モララーへと駆けた。
 鉤爪となった右腕を上げ、左腕を下げ。
 
 噛みつく。

64 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:37:15 ID:F4fbQg2U0
 
( ・∀・)「ハッハッハッ!!」
 
(;^ω^)「……!」
 
 振り下ろした右腕と振り上げた左腕は、部分竜化したモララーの両腕によって止められる。
 止められたことよりも、自分以外に部分竜化ができる竜がいたことに驚いた。
 竜化の力をそれなりに扱えているようだ。
 
( ・∀・)「もっとだよ! もっとキミの力を見せてくれ! 私を退屈させないでくれたまえ!!」

( ^ω^)「うるさいお!」
 
 後方に跳躍して距離をとった。
 
 が、
 
( ・∀・)「さぁ! いくよ!」
 
 すぐさまモララーが駆けてきた。
 右腕を振りかぶっている。それなら、打ち合ってやろう。
 
(#^ω^)「おおおおッ!!」
 
 左腕を引き────撃つ。

65 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:39:39 ID:F4fbQg2U0
 
ξ;>⊿<)ξ「うっ……!」
 
 自分の左手とモララーの右手が、ぶつかり合った。
 凄まじい音と衝撃が高速で周囲に拡散していく。
 
 力は互角。
 少なくとも、自分は全力で撃ち込んだ。
 モララーは、どうだろうか。
 
( ・∀・)「いいね! いいよ! 私と互角の力とは素晴らしい!」
 
 なにやら興奮しているが、無視して鉤爪を合わせたまま、逆の手を薙ぐ。
 モララーも空いている左腕を上げ、防ぐ。
 お互いに鉤爪と成った腕を合わせ、均衡状態になった。
 
( ^ω^)「……お前……」

( ・∀・)「なんだい? 何か聞きたいことでも?」

( ^ω^)「どうやってこんな力を、竜の力を制御できるようになったんだお?」

( ・∀・)「ハハッ! 自分以外に信じられない! といった所かい!?」

( ^ω^)「癪に障るけどそんなとこだお」

( ・∀・)「長年の研究の成果、と言ったところだね!」

( ^ω^)「研究……」

66 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:42:02 ID:F4fbQg2U0
 
( ・∀・)「今でも思い出すよ! 初めて竜が覚醒した時のことをね!」

( ^ω^)「……」

ξ;゚⊿゚)ξ「ッ……」

 ツンが息を呑む音が聞こえた。正確には、聞こえた気がした。
 モララーの馬鹿でかい声と、鉤爪が軋る音が響くこの空間では、自分の耳をもってしても聞き取れるはずもない。
 あくまで、そんな気がしただけだった。
 
( ・∀・)「あの時はまだ十歳にも達していなかった気がするね!」
 
(;^ω^)「くおッ!」
 
 モララーが距離をとった。と思った矢先、鉤爪を薙ぎ三筋の斬撃を飛ばしてくる。
 部分竜化のタイプが似ている所為か、扱う攻撃が同じようなものが多い。
 自身に似た相手と戦うことが、ここまでやり辛いものだとは思ってもみなかった。
 
( ・∀・)「突然胸が痛くなったんだ! 体の内から、何かが飛び出しそうな感覚だったよ!!」
 
 モララーの斬撃を避け、或いは弾き、或いは流す。
 こちらも反撃するが、涼しい顔で昔話を続けている。
 
( ・∀・)「実際、飛び出していたんだね! 私の中に眠っていた竜が!」

( ・∀・)「体の自由を取り戻した時、私が住んでいた村は全滅! 大人も! 子どもも! 家も! 全てなくなっていたよ!」

(;^ω^)(チッ……)

67 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:44:01 ID:F4fbQg2U0
 
 いわゆる竜化病者であれば誰もが経験した記憶であり、その殆どが思い出したくもない記憶であろう。
 数年に一度訪れる竜化現象は覚醒発作と呼ばれている。その名の通り、発作的に竜が覚醒し、現れる。
 全身が竜化してしまっている間は体の動きを制御できず、自分の意思ではどうにもならなくなる。
 
 だが、意識ははっきりと、恨めしいほどに残っているのだ。
 
( ・∀・)「全て覚えていた! 両親を、兄弟を食った光景を! 悲鳴を! 味を!!」

( ・∀・)「私は選ばれし強者であると……実感した瞬間だった!」

( ^ω^)「……」

( ・∀・)「キミにもあるだろう!? あの絶頂に達した快感、幸福を感じた瞬間が!!」

( ^ω^)「……あるお」

( ・∀・)「そうだろう!! だったら何故キミは竜の偉大さに────」

( ^ω^)「直近で言えば、レモナさんの料理が最高に美味しかったお」

( ・∀・)「……」

( ^ω^)「幸せに暮らす家族、笑顔の絶えない家族……その団欒の中でする食事に勝るものなんてないお」

( ^ω^)「お前みたいなクズ野郎にはわからないかもしれないおね」
 
 クズ野郎が目を閉じて、また大袈裟に首を横に振りながら溜息を吐いた。
 
( ・∀・)「下らない……下らないよ、本当に」

68 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:46:23 ID:F4fbQg2U0
 
( ・∀・)「そうだ! キミがいた集落! 次の狩場はあそこにしよう!」

( ^ω^)「ッ……」

( ・∀・)「キミの顔を思い出しながら村人たちを食おうとしよう! 生で、こんがり焼いて、軽く炙って……」

( ・∀・)「ああぁ……考えただけでも涎が溢れそうだよ……」
 
ξ゚⊿゚)ξ「モナーさんが言ってた……周辺の村を壊滅させた竜って……もしかして……!」

( ・∀・)「私のことさ! 一部は実験材料にして、後はおいしくいただいたよ!!」

(  ω )「もういいお!!」
 
 もうたくさんだ。こいつは生きていてはいけない存在だ。
 誰がなんと言おうと殺さなければいけない奴だ。
 
ξ#゚⊿゚)ξ「モララー! あんたはここで必ず止めるわ! これ以上関係ない人を殺させるわけにはいかないんだから!!」
 
 ツンが、相棒が同調してくれる。こんなにも心強いことはない。
 
(#^ω^)「モララー! お前はぼくの全身全霊をもって止めてやるお!!」
 
 後ろにはツンがいてくれる。それだけで、ぼくは戦える。

69 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:49:17 ID:F4fbQg2U0
 
 
──灰色の結界──



 肌に突き刺さるような鋭く尖った気配は殺気。
 自分に向けられているものではなくとも、はっきりと感じられる。
 ここまでブーンが怒ることはいつぶりだろうか。思い出すのが難しい。
 
ξ゚⊿゚)ξ(ブーン……)
 
 でも、どうであろうとも、モララーは止めなくてはいけない。
 大丈夫だ。もしブーンに何かが起きても、私が止める。止めてみせる。
 
(#^ω^)「ツン! 悪いけど約束をちょっと破るお!」

ξ゚⊿゚)ξ「安心しなさい! 今なら何をしたって怒らないわよ!!」
 
 とっくに怒りの頂点に達している。これを超えるものは最早現れることがないだろう。
 ブーンが大きく足を開くと同時に、Glayの結界が小刻みに震えだした。
 長時間は耐えられないだろうが、少しの時間なら結界は耐えてくれるはずだ。
 
 モララーを、倒す時間くらいは。
 
 自我を保つことができる限界まで竜を解放する。
 ブーンが今やろうとしていることだ。
 長い旅の中で少しずつ試して、彼は限界を覚えた。
 
 だが、やはり体への負担は大きい。
 無理をしてほしくないから、出来る限りやめてくれと頼んだことがある。
 ブーンはそれを約束として、今日まで大切に守っていてくれたようだ。

70 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:51:48 ID:F4fbQg2U0
 
 モララーは制限を課して勝てる相手ではないことが、外から見ている私でもよくわかる。
 
(  ω )「…………」
 
 ブーンの肌が黒く変色していく。腕だけだった竜化が、全身にまで広がっている。
 鱗が隆起し、体も一回り以上膨張していった。
 
 人の姿を保ったままの全身竜化。
 一分間だけの、ブーンの奥の手だ。
 
( ・∀・)「ハハハハッ!!! 人間大好きな甘ちゃんが、結局は竜の力に頼るんだね!! 滑稽だよ! 実にこっ」
 
 モララーが言葉を言い終えることはなかった。
 今の状態のブーンには、私の言葉すら耳に届かない。
 竜化する前に定めていた標的が動かなくなるまで、打ちのめすのみなのだから。
 
(;;;;・∀ )「ごっ……か……っ……」
 
 抗う術もなく、モララーの顔、いや、体中が変形していく。
 殴られ、突かれ、裂かれ、砕かれ、潰されていく。
 
(;;;;;;∀#)「…………」

 やがて、モララーは動かなくなった。
 当然だ。今の状態のブーンに勝てる者などいないのだから。

71 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:54:02 ID:F4fbQg2U0

 後は、とどめを刺すだけだった。
 
 
 
 竜を殺す唯一の方法、それは────
 
 
 
 ────竜に、食われること。
 
 
 
 
(  ω )「…………」

 目を、背けた。この瞬間だけは、恐らく一生慣れることがないだろう。
 ブーンも間違いなく、望んでしていることではないはずだ。
 でもこうしなければモララーを止めることは、できない。
 
 その為の、この竜化でもあるのだから。
 
 
────……は……はは……────
 
ξ-⊿-)ξ(…………?)
 
 何かが、聴こえた。
 掠れたような声が、薄っすらと弱々しく、聴こえた。

72 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:55:30 ID:F4fbQg2U0
 
 まさか。
 
(;;;;;;∀#)「……すバラシぃね……人の形を……たモったマまで……こコまで竜カできるナンて……ね……」
 
 まだ、意識が残っていた。
 
(  ω )
 
 そんなことは、今のブーンにとって大した問題ではない。
 口以外は動けないのだ。虚勢を張ろうとしても、彼の耳には届いていないのだ。
 
 ブーンが口を、いや、竜の顎を開いた。
 後は、モララーの全てを無くすだけ。それだけで、全てが終わる。
 
(;;;;;;∀#)「ううん…………」

(;;;;;;∀#)「ワタシも………………」







( ・∀・)「キミを早く食べたいよ!!」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!?」

73 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 19:58:25 ID:F4fbQg2U0
 
 威圧、重圧、瘴気、殺意、食欲を混ぜ合わせ、捏ね回した塊を、周囲に撒き散らした。
 禍々しい感情と欲が、Glayで生み出された結界内に一瞬にして充満する。
 
ξ;゚⊿゚)ξ(…………)
 
 汗が滲みでる。肌にねっとりとした空気が纏わりつく。呼吸する度に苦しくなっていく。
 その全ての元凶が、今まさにブーンに食われようとしているモララーだった。
 
 気がつけば、右足が一歩分、後方に下がっていた。
 身に迫る威圧感はこれまでに見てきた竜の中でも最大のものだ。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!! はやく!!」
 
 絞りだす。一呼吸遅れて気がついたが、モララーの傷はいつのまにか再生されている。
 早くこの男を止めなければ大変なことになる。
 私の直感が、脳が、これまでにない速さで警告し、無意識に声を荒げさせていた。
 
 しかし────
 
 ブーンの牙がモララーを穿つことはなかった。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!!」
 
 モララーを掴みあげていたブーンは、モララーによって私の遥か後方へと弾き飛ばされてしまった。
 
(  ω )「…………」

一分間のリミットを過ぎ、竜化が完全に解けてしまっている。

74 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:00:30 ID:F4fbQg2U0
 
( ・∀・)「……では、次はワタシの番だよ!!」
 
( ・∀・)「真の竜を見せてあげよう!!」
 
 大きく両腕を広げた。その両腕が、一瞬にして巨大な翼になる。勿論、竜のそれだった。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「何を考えているの!? ここはあなたの城よ!! こんなところで完全に竜化したら……!」

( ・∀・)「一人の竜化病患者が竜化した。竜化した者は人間に戻り、身柄を拘束された」

ξ;゚⊿゚)ξ「……!」

( ・∀・)「これで済む話だよ!! 竜化病患者に襲われながらも見事に復興を遂げた領主モララー万歳、となるだけのことさ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンに……全てをなすりつけるつもり!?」

( ・∀・)「何を言う! 侵入してきたのはキミタチじゃないか!! ここで言う悪人というのはキミタチのことだよ!!」

 モララーの影が彼の体をよじ登るようにして、這い上がる。高笑いを続けていた顔も、影にすっぽりと覆われてしまった。
 ブーンの竜化と同じように、巨大な翼を広げた真っ黒な“影男”のシルエットが、次第に変化していく。
 肩から突起物が現れ、体中が隆起し、足も倍以上に膨れ上がり、その足先には鋭利な爪のような影が伸びていった。
 
(; ω )「……ツ、ツン……」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ! ブーン!!」
 
 竜化を進めるモララーに注意を払いながら、ブーンに駆け寄った。
 足と腕をだらりと伸ばし、壁に背を預けるようにして座っている。と言うよりも、倒れている、の方が正しいかもしれない。

75 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:03:00 ID:F4fbQg2U0
 
 時折、硝子にヒビが走るような音が聴こえた。Glay結界が悲鳴を上げているのだ。
 元々は対象を封じ込める捕縛魔法であり、その力が強大な程封じ込めることが困難になる。
 捕縛魔法を得意とする私でも、完全な竜を閉じ込めることは不可能ということなのだろう。
 
(; ω )「アイツ……ヤバイお……ひとまず態勢を立て直すんだお……」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「……わかった」
 
 ここまで焦っているブーンを見るのはいつぶりだろうか。
 そして、『態勢を立て直す』という言葉の意味も理解できた。
 気は進まない。でも、このままでは間違いなく二人とも殺されるだろう。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン……大丈夫……?」

(;^ω^)「大丈夫だお。早く、あいつの竜化が終わる前に……!」
 
 焦燥が伝わってくる。もうそれしか手がないのだろう。
 認めたくないが、私自身も心のどこかでそう思っている。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「“Delete”!」
 
 色を消した。途端、音を立てて周囲の景色が粉々に割れていった。
 景色の欠片に傷つけられることはない。すでに魔力を失った触れることのできない欠片だからだ。
 欠片たちは地に落ちる前に消えていく。間もなくこの景色が終わり、元の殺風景な部屋へと戻るだろう。
 
(;^ω^)「行くお!!」
 
 そうなる前に、ブーンが私の体を抱き上げ、窓を破り外へと飛び出した。
 派手な音がしただろう。けれど、これからもっと派手な音がするはずだ。

76 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:06:02 ID:F4fbQg2U0
 
 私を抱きかかえ、ブーンはひたすらにここまでの道程を戻るようにして飛翔する。
 恐らくこの領土に降り立った最初の森へ向かっているのだろう。
 竜の翼は背から伸びていた。精度よりも速度を求めた時の竜化だった。
 
(;^ω^)「…………」
 
ξ;>⊿<)ξ「…………」
 
 風を切る音だけが耳を支配していた。
 それが、唐突に途切れた。
 森に到着したのだ。
 
 その瞬間、遠吠えのようなものが聴こえた。
 獣の類ではない。地を揺らし、空を駆けて行くような遠吠え。
 
 竜の、咆哮。
 
 ブーンは無言で降下して、私をそっと解放する。
 
( ^ω^)「ツン……ぼくが言いたいこと、わかるかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「……」
 
 遠回しに訊く。言いづらいことを話す時の、彼の癖だ。
 
ξ゚⊿゚)ξ「……わかってる」
 
( ^ω^)「このままじゃ、ぼくとツンはアイツに殺されるお」

ξ゚⊿゚)ξ「わかってる」

77 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:08:55 ID:F4fbQg2U0
 
 遠くに、地響きのような音が聴こえる。
 モララーが竜化を終え、自身の城を破壊しているのだろう。
 
( ^ω^)「だから……ツン……」

 完全な竜となったモララーは、自身の欲を満たすまで破壊の限りを尽くすはずだ。
 欲と言うのは破壊欲ではない。
 竜化する直前まで見据えていた存在を、食い尽くすまで、だ。
 
( ^ω^)「封印を────解いてくれお」
 
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
 
 そうするしか、ない。
 もう、あのモララーを倒す術はそれしか残されていないのだ。
 ブーンも竜を解放し、完全な竜となる方法しか。
 
 猛烈な殺意がこちらに向いた。
 目標であるブーンの魔力に気付いたのだろう。
 間もなく、こちらへやってくるはずだ。
 
 それならば、まず先に時間を稼ぐ必要がある。
 
ξ゚⊿゚)ξ『“Platinum”────……ツン=デレンカの名において命じる』
 
ξ゚⊿゚)ξ『豪然にして婉然たる白銀の戦乙女よ。舞い、踊り、一切を蹂躙せよ』

ξ゚⊿゚)ξ『汝が降りるは我が世界。故に、我の姿を許可しよう』

78 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:12:29 ID:F4fbQg2U0
 
 現れた、白銀の甲冑を身に纏う戦乙女。
 甲冑を脱げば、私とうり二つの姿をしている。
 私が使用できる色魔法の中で、対個人においては最も強力な魔法である。
 
 あくまで人間相手なら、だが。
 
ξ゚⊿゚)ξ「お願い。できるだけ時間を稼いで」
 
 私の言葉を受け、全てを把握した戦乙女はモララーを目指し飛び立った。
 術者である私は彼女の思考と視界をある程度共有することができる。
 短い言葉でも自分が何をするべきなのか理解し、動いてくれるはずだ。
 
 彼女は通常時のブーンを少し上回るくらいの実力がある。
 部分竜化したブーンには及ばないが、それはブーンが強すぎるだけで彼女が弱いということではない。
 竜相手にまともに戦えば勝ち目はないが、彼女自身に意識を向けさせることなら可能なはずだ。
 
( ^ω^)「ツン」
 
ξ゚⊿゚)ξ「……うん」
 
 彼の竜が暴れださないよう、封印を施してある。次はそれを解除しなくてはいけない。
 ブーンの竜を封じるために彼の父から学んだ色魔法は、現在までしっかりと効力を発揮してくれている。
 最後にブーンの竜が覚醒してから、数えれば十年が過ぎていたことを、ふと思い出した。
 

ξ゚⊿゚)ξ『“Black”────……ツン=デレンカの名において命じる』

79 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:15:26 ID:F4fbQg2U0
 
 十年前に覚醒が起きた時には、まだブーンの父がいた。
 
( ^ω^)「絶対に勝ってくるお」
 
 彼が負けるなんて微塵も思っていないが、対面に立つブーンがそんなことを言いながら、視線を上に逸らした。
 モララーの気配に集中しているのだろう。竜となった時の目標を見失わないために。
 
ξ゚⊿゚)ξ『染めよ、黒く。潰せ、暗く』
 
 戦乙女がモララーと接触した。ブーンもそれを感じ取ったようだった。
 彼女の視界を借りて、モララーの姿を確認する。
 想像より遥かに巨大な竜となっていた。
 
 全身が黒ずんだ青色をしており、巨大な体から伸びる二枚の翼は更に巨大なものだった。
 巨大なだけでなく、翼の先端に向かうにつれ弧を描くようにして伸びている。
 あまりに悪魔的なシルエットであった。
 
ξ゚⊿゚)ξ『汝が染めるは七色の鎖。奪え、全ての色を』
 
 不安なのはただ一つ。
 私が再度ブーンの竜を封印することができるかどうか、だけだ。
 あの時いたブーンの父はもうこの世界にいないのだから。
 
 定期的に行う、綻びを直すための封印とはわけが違うのだ。
 彼の父が施した封印あっての上書きと、ゼロからの封印では。
 
ξ;゚⊿゚)ξ『さすれば再び、現れる。汝と違わぬ漆黒の主が』
 
 不安が高まり、口が渇く。鼓動が、早くなる。

80 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:18:43 ID:F4fbQg2U0
 
( ^ω^)「ツン。ぼくの名前を呼び続けてくれお」

( ^ω^)「ツンがいてくれれば、ぼくはどこからでも戻ってこられるんだお」

( ^ω^)「大丈夫だお。ツンなら、きっと、きっと────」
 
 
 ────ぼくの竜になんか、負けないお!
 
 優しく、しかし心強い声が、聴こえた気がした。
 
ξ゚⊿゚)ξ『塗り潰せ!! 染め上げろ!! 全てを黒に、鮮やかに!!』
 
 風が生まれた。ブーンを中心に黒い風が巻き起こる。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「う……」
 
 下がる。近くに居たら、とても立っていられない。
 膨れ上がっていく。黒い風と、ブーンの体が。
 
 完全な竜となる為に。
 
 十年間押さえつけていた竜が一体どんな姿に成長しているのか、はなはだ想像がつかない。
 勿論その実力もだ。けれどもブーンなら、きっとなんとかしてくれる。
 私を信じてくれているように、私もブーンを信じているのだ。
 
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン! 思う存分暴れてらっしゃい!! そして絶対に帰ってくるのよ!!」

81 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:22:38 ID:F4fbQg2U0

 私の檄に応えるように、
 
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
 
 大地を揺るがす咆哮を、天に放った。
 
ξ;-⊿-)ξ「……ッ」
 
 生身の人間にしたら、咆哮ですらが暴力のように感じられる。
 覚醒した竜は、周囲の木々よりも高く、森を突き抜けるように立っていた。
 三十メートルはあるだろうか、十年前とは比べ物にならない程に成長している。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン……」
 
 怖い。
 ブーンだとわかっているのに、信じているのに。
 あまりの巨躯と、迸る殺意に、ただただ恐れることしかできない。
 
『────────グ、ル』
 
 一瞬、喉を鳴らした様に低い音を発してから、飛んだ。
 モララーの元へと向かったのだろう。漆黒の竜が夜の闇へと溶けていく。
 震える足を三度叩き、私も駆け出した。
 
 モナーさんの集落とモララーの城、丁度中間の辺りでモララーは戦乙女を相手にしている。
 彼女の甲冑は既にぼろぼろで、あと数分もつかどうか、というところだった。
 牙や尾の攻撃に、直撃はもちろん掠ってもいなかったが、風圧、衝撃だけでダメージが蓄積しているのだ。

82 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:26:24 ID:F4fbQg2U0
 
ξ;゚⊿゚)ξ(下がって!)
 
 もう、すぐにブーンが到着するだろう。彼女は役目を全うしてくれた。
 
 私は森を抜け、平地へと出た。右目を手で覆い、意識を左目の視界だけに集中する。
 左目の視界には戦乙女の視界が映っている。
 
 
 彼女が下がり、モララーが追いかけようとした所に────
 
 ────巨大な黒い塊が、モララーにぶつかった。
 
 凄まじい衝突音が遠くに聴こえる。
 黒い塊、すなわちブーンは、そのまま自分の体でモララーを押し、大地に激突した。
 
 今度は、地鳴りと地震。
 規格外の竜同士の戦いが、幕を開けたのだ。
 どちらかが食われるまで続く戦いが。
 
 勿論私は、ブーンが食われるなんて塵ほども思っていない。
 ブーンの邪魔にならないように、戦乙女に充分な距離を開けさせ、待機させた。
 
 モララー────青い竜に覆い被さっているブーンは、そのまま喉に牙をたてる。
 その途端、紫色の血が噴出した。
 
ξ;゚⊿゚)ξ(よし! そのまま……!)
 
 しかし、青い龍は足でブーンを思い切り蹴り、離れ際に尾を払ってブーンを弾き飛ばした。
 その衝撃で喉の肉が幾らか千切れ、肉片が紫の粒子を撒きながら飛び散る。

83 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:29:58 ID:F4fbQg2U0
 
 一撃で仕留め損ねたが、充分なダメージを与えることに成功した。
 喉の傷に構うこと無く、青い竜はすぐに起き上がり、ブーンを睨みつけ、
 
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!』
 
 咆哮、と同時に口から青い光線を吐き出した。
 
ξ;゚⊿゚)ξ(ッ!!)
 
 ブーンも人型で竜化した時に扱う、竜の強大な魔力を圧縮させて放つ魔力波だ。
 これができるということは、竜としての位が高いということだろうか。
 
 吹き飛ばされながらもなんとか直撃を避けた。
 だが、魔力波はブーンの翼を掠めて抉り取る。
 ブーンの翼に、大きな穴が生まれてしまった。
 
 体に受ければただでは済まないだろう。
 凄まじい力を持つ竜同士の戦いは、一撃一撃が致命を負う威力を有しているということだ。
 
 反撃。
 間を空けずにブーンも赤黒い魔力波を放った。
 青い竜は空へと飛び上がり、避けられてしまう。
 
 ブーンも追いかける為に飛翔した。
 上昇しながら後を追う形のブーンは魔力波を断続的に放ち続けた。
 後方を確認している様子は窺えないが、モララーはそれを確実にかわし続けている。
 
 上昇はまだ続く。
 雲を突き抜け、雲の上に来た所で漸く停止した。

84 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:34:52 ID:F4fbQg2U0
 
 夜なのに雲の上はこちらに比べると少し、明るかった。
 煌々と輝く月のおかげだろう。
 
 二体の竜は同じ高さで停止して、睨み合う。
 魔力波の打ち合いでは決定打に欠けるだろう。
 機動性の高い竜同士では、簡単に直撃するようなものではないからだ。
 
 弱らせて、怯ませて、もしくは至近距離で。
 竜となったブーンが私のように思考しているのかはわからないが、考えるとしたらそうなるのではないかと思う。
 
 先に動いたのはブーンだった。
 ダメージを与えた喉元を狙い、口を開いて突進していく。
 青い竜はそれを受け止めた。上顎と下顎を左右の腕を掴むようにして。
 
 人間状態だった二人が最初に衝突した時のようにだ。
 
ξ;゚⊿゚)ξ(ブーン……!)

(;'A`)「おい! なんでこんなとこにいるんだ!?」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「は!? ちょっと! びっくりさせないでよ!」

(;'A`)「びっくりしてんのはこっちだよ! なんか地響きがすごいし竜の鳴き声は聞こえるし、お前がこんなとこいるし!」
 
 突然声をかけてきたのは、ドクオだった。
 平地に出て、気付かずに歩いている内にモナーさんの村に近づいていたのだろうか。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「こっちのセリフよ! なんでアンタがこんなとこいるのよ!」
 
(;'A`)「近くの森が白っぽく光ったり、白い光が飛んで行ったり、馬鹿でかい竜が飛んでったんだ!
.    気になってきてみたらお前がいたんだよ!」

85 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:37:54 ID:F4fbQg2U0
 
ξ;゚⊿゚)ξ「あぁ……」
 
 落ち着いて考えれば、はたから見れば気になるだろう。
 私だったら絶対に確認するはずだった。
 
(;'A`)「ブーンは……どうしたんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「アンタが見た黒い竜、あれがブーンよ」

(;'A`)「まじか……覚醒したのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。自分の意思でね。竜になったモララーを倒すために」

(;'A`)「モララー!? 奴も竜だったのか!?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。それも残念ながら、超強力な、ね」

(;'A`)「そ、そうか……道理でおかしな奴だったはず……」

(;'A`)「あ……すまん。別にブーンのことを悪く言ってるわけじゃ……」

ξ゚⊿゚)ξ「わかってるわよ。よそはよそ、うちはうちだからね」

ξ゚⊿゚)ξ「……ありがとね」

('A`)「……それで、戦況はどんな感じなんだ? 二人はどこに?」

ξ゚⊿゚)ξ「今は雲の上よ」

(;'A`)「雲の上!?」

86 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:40:47 ID:F4fbQg2U0
 
ξ゚⊿゚)ξ「今は私の魔法で様子を見ているわ」

(;'A`)「すげぇな……それで、ブーンはどうなってんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「……互角、ね」

(;'A`)「……勝てるのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「あの女の時と同じこと訊くのね? ブーンは絶対に負けないわよ」

(;'A`)「…………」
 
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは、誰よりも強いから」
 
 均衡状態を打破したのは、モララーだった。
 ブーンよりも長い尾を有する青い竜は、頭を掴んだ状態で脇腹付近に尾撃を放ったのだ。
 空中で踏ん張りが効かず、そのままブーンの体は右へと流されてしまう。
 
 掴んでいた頭をすぐに解放し、
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!!」
 
 青い、魔力波を放った。

87 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:43:52 ID:F4fbQg2U0

ξ;゚⊿゚)ξ(ブーン!!)
 
 青い魔力波がブーンの頭に直撃した。
 
 ように、見えた。
 
 直撃する既の所で、同じく魔力波を放ったのだ。
 赤と青の魔力波が、ぶつかり合った。
 
 後手に回されたブーンが、やや不利だろうか。
 赤と青のコントラストの比率は、圧倒的に青が優っている。
 
(;'A`)「お、おい、なんかあったのか!?」
 
 私の焦燥が伝わったのか、ドクオが心配そうに問いかけてくる。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「魔力波の……押し合い……」
 
(;'A`)「ど、どういう状況だ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンが吹き飛ばされた所にモララーが魔力波を撃って、ブーンも魔力波を当てて押し合ってる」

(;'A`)「……アンタの顔色を見る限り、ブーンが危ないってのはわかったぜ」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「……大丈夫よ。ブーンが勝つに決まって────」

('A`)「……俺も連れてってくれ!」
 
ξ;゚⊿゚)ξ「……え?」

88 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:46:52 ID:F4fbQg2U0
 
ξ;゚⊿゚)ξ「何言ってるの!? 竜同士の戦いに入り込めるわけないじゃない!!」

(;'A`)「ほんとにそうか!? 小さい人間だからこそ掴める隙だってあるんじゃないか!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「だからって……でも……」

(#'A`)「俺は男だ! 信じて待つなんてできないんだよ!!」

(#'A`)「俺だって俺の人生を滅茶苦茶にしたモララーに復讐したいんだ!! 頼む!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

 腰に帯刀した短剣を掴み、雄弁に語る。
 最初の情けなさはどこにも見当たらない。
 けれども、人間に何ができるのか、私の魔法をもってしても、何もできないはずなのに。
 
(#'A`)「物は試しだ! 大丈夫! 俺は 不 死 身 の ド ク オ だからな!!」
 
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
 
(;'A`)「……だめか?」

ξ*゚⊿゚)ξ「あっはっはっはっはっはっは!!!」
 
(;'A`)そ

ξ*゚⊿゚)ξ「はぁ……“Platinum”!!」

 呼び、眼前にすぐ現れた戦乙女。実際にこの目で見ると、甲冑だけに留まらず、皮膚にも傷が刻まれていた。

89 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:50:35 ID:F4fbQg2U0
 
ξ゚⊿゚)ξ(ごめんね……でも、もうひと頑張りしてくれる?)

ξ ⊿ )ξ

 私の問いに、白銀の乙女は小さく頷いてくれた。
 
ξ゚⊿゚)ξ「この男を上まで連れて行って!」

(;'A`)「こ、これが魔法なのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。私の命令に忠実に従ってくれるわ。彼女に話せばそのまま私に通じるから」
 
 戦乙女はドクオを後ろから抱き上げるようにして持ち上げた。
 
(*'A`)「良い匂いだ……ハァハァ」

ξ#゚⊿゚)ξ「早くいけ!」
 
 その一声で、戦乙女とドクオは凄まじい勢いで飛翔していき、ドクオの悲鳴はすぐに聞こえなくなった。
 
ξ゚⊿゚)ξ(あんな奴にお説教されるなんて……ね)

ξ゚⊿゚)ξ(私にもできることはある! ブーン、待ってて!!)
 
 この戦いに終止符をうつ為に。
 皆でモララーを、倒すのだ。

90 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:53:49 ID:F4fbQg2U0
 
(;゚A゚)「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 
 戦乙女の意識に集中しだすと、ドクオの悲鳴が聴こえた。
 相当な速度がでているのだから、私でもこうなっていただろう。
 
 雲を、抜けた。
 
 魔力波の押し合いは続いていた。
 やはり、ブーンが押されている。
 
(;゚A゚)「ああああああああああああああ……でけぇ!!! あれか!!!」
 
 興奮しているのか、無駄に声が大きく、うるさい。
 
(;゚A゚)「頼む!! モララーに後ろから近づいてくれ!!」
 
 戦乙女がそう動くように、私は意思を送る。
 モララーとブーンは、どちらかが押し切らない限り動けない状態にある。
 
 ドクオと戦乙女は静かに近づいていく。
 後方から近づき、背にそって上昇し、頭の頂上に到着した。
 
ξ;-⊿-)ξ(う……あつっ……)
 
 放出されている魔力波に近づいた所為か、戦乙女を通して熱が伝わってくる。
 彼女に意識を向けている比率が普段よりも大きい所為だろう。

91 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:57:02 ID:F4fbQg2U0
 
(;゚A゚)「うおおおおおおおおおお!! モララー!!!」
 
 ドクオが、短剣を抜いた。
 
(;゚A゚)「俺の人生を滅茶苦茶にしやがって!! 喰らいやがれ!!」
 
ξ;-⊿-)ξ(そんな短剣じゃ竜には何も……!!)

(;゚A゚)「離してくれ!!」
 
 構わず、ドクオが言った。
 戦乙女はそれに従い、ドクオを離した。
 
 当然、ドクオは落下していく。
 
(;゚A゚)「こんな剣じゃてめぇは殺せないだろうがなぁ────!!」
 
 着地する、そこは。
 
(;゚A゚)「“目ん玉”は柔らかそうだよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 
 刃を、突き立てた。
 モララーの、青い竜の、瞳に。
 
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?』

92 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 20:59:48 ID:F4fbQg2U0
 
(;゚A゚)「いてぇか!? ざまぁみろ! てめぇからしたら俺なんて蝿みたいなもんだけどなぁ!!!」


(;゚A゚)「虫が目に入ったら痛いんだよ!! 覚えとけ!!!」
 
 
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
 
 咆哮と共に、ブーンが魔力波の出力を上げた。
 温存しておいた魔力を一気に放出したのだろう。
 魔力波を放出することすら困難になった青い竜は、その直撃を受けた。
 
 体を貫通して、赤い魔力波が空の彼方まで突き進んでいく。
 それでもモララーは、まだ空に居た。
 
 ブーンがモララー目掛け、飛翔する。
 喉に噛みつくが、青い竜も最後の抵抗を試み、爪を立て、尾を払う。
 だが、ブーンを振り払う力は残っていないようだった。
 
 程なくして、青い竜は抵抗もできなくなり動かなくなった。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「“Platinum”!!」
 
 私の一声で、戦乙女はドクオを回収し、地上へと戻ってきた。
 空はもう、心配ない。
 ブーンが事を終わらせて、地上に降りてくるのを待つだけだ。

93 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:02:00 ID:F4fbQg2U0
 
(;゚A゚)「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

ξ゚⊿゚)ξ「お疲れ様……よくやったわね!」

(;゚A゚)「やったのか……? 俺はやったのか!?」

ξ゚ー゚)ξ「ええ、やったわよ。モララーは倒せたわ。あなたのおかげで……」

(;'A`)「そ……そっか……」
 
 安心したドクオは糸が切れたように、ぐったりと項垂れた。
 
ξ゚ー゚)ξ「ドクオ、ありがとう。ゆっくり休んでいてね……」
 
(;'A`)「は、はは……今頃になって足が震えて……立てねぇ……」

 次は、私の番だ。
 遠くに、黒い影が地上に降りてくる様子が見えた。
 
ξ゚⊿゚)ξ「お願い。私をあそこに連れて行って」
 
 ドクオに気をつけろよと言葉を投げかけられた。
 その言葉を背中で受けて、ブーンを目指す。
 
ξ゚⊿゚)ξ(ブーン……待っててね)
 
 彼から聞いたことがある。竜になっている時の記憶は、鮮明に覚えていることを。
 きっと、苦しんでいるに違いない。破壊衝動を必死に抑えているに違いない。
 必ず、私が解放してみせる。

94 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:05:00 ID:F4fbQg2U0
 
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
 
 巨大な竜が横たわっていた。
 夥しい出血が、一つ一つの傷の深さを物語っていた。
 竜につけられた傷は治りが遅いようだ。
 
ξ゚⊿゚)ξ「ここまででいいわ。ありがとう」
 
 戦乙女に礼を言い、彼女の色を消した。
 静かに、近づいていく。
 
 『────────グ、ル』
 
 ブーンが喉を鳴らすような声を上げた。
 気にせず、地に寝かせた頭の前で、止まる。
 
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン」
 
 呼ぶ。返事はない。
 眉間の辺りに触れ、撫でた。
 硬い感触は、竜そのものだ。
 
ξ゚⊿゚)ξ「今、楽にしてあげる」
 
 沸々と湧き上がるのは、殺気。
 竜は私を殺そうとしている。
 ブーンはそれを止めようとしている。
 
ξ゚⊿゚)ξ「一緒に止めましょう。この忌々しい竜を!」

95 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:07:42 ID:F4fbQg2U0
 
ξ゚⊿゚)ξ『“Rainbow”!! ツン=デレンカの名において命じる!!』

 込められる、全ての魔力を呼び起こし、
 
ξ゚⊿゚)ξ『“Purple”! 汝は竜の血色! 体を巡る全ての流れを堰き止めよ!』
 
ξ゚⊿゚)ξ『“Blue”! 汝は竜の翼! 空を駆る自由を奪え!』

ξ゚⊿゚)ξ『“light blu”! 汝は竜の感情! 一切の感情を停止させよ!』
 
 色を紡いでいく。
 一色を紡ぎ終える度に、起こされた色の帯が竜の体を駆け巡り、交差し、巻き付いていく。
 
ξ゚⊿゚)ξ『“Green”! 汝は竜の四肢! 大地を踏みしめることを禁じよ!』

ξ゚⊿゚)ξ『“Yellow”! 汝は竜の魔力! 高貴なる力を放ち消し去れ!』

ξ゚⊿゚)ξ『“Orange”! 汝は竜の活力! 生への望みを否定せよ!』
 
 残り、一色。
 
ξ;゚⊿゚)ξ(ッ……!)
 
 足が震える。呼吸が乱れる。
 今日は様々な色を紡いだ。相当な疲労が蓄積されていた。
 
ξ;゚⊿゚)ξ(でも……! ブーンはもっと……苦しんでるはずだから……!)

96 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:10:14 ID:F4fbQg2U0
 
 最後の、色を。
 
 
ξ;゚⊿゚)ξ『“Red”! 汝は竜の体! 躍動する肉と臓物を灼き尽くせ!!』
 
 
 紡いだ。
 
『グ…………オオオオオオオ…………』
 
 呻く竜の全身に、七色の帯が駆け巡っていく。
 封印魔法が発動し、確実に竜の封印が進んでいる。
 が、私に向けた眼光は衰えていない。
 
 モララーに対して魔力をかなり消費していたことが僥倖だった。
 万全の状態であれば、恐らく詠唱を終えることすら困難だっただろう。
 
 それでも、ここまで抵抗されている。
 
ξ;゚⊿゚)ξ(後は……)
 
 私にできることは、一つだけ。
 
ξ゚⊿゚)ξ「……ブーン。いつまで寝てるの? 早く起きなさい」
 
 ブーンを、呼ぶことだけだ。

97 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:12:16 ID:F4fbQg2U0
 
ξ゚⊿゚)ξ「今回は……大変だったね。結局また空回りだった…・…」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、ミセリやモナーさん、レモナさんと会えたのは……良かったね」

ξ゚ー゚)ξ「それからドクオ。まさかあのブサイクがあそこまで頑張るなんて、びっくりしたわ」

ξ゚ー゚)ξ「ね? ブーン、明日になったらモナーさんたちにちゃんとお礼を言って、また旅にでよう?」

ξ゚ー゚)ξ「次はきっと、この竜を追い出す方法が……きっと見つかるはずよ!」
 
 竜の目が、細く、細くなっていく。
 もう少し、もう少しだ。
 
 けれど、私の意識も、段々と遠のいていくのがわかる。
 虹色に囲まれた空間は、現実と夢を錯覚してしまうような世界だった。
 単純に、封印によって魔力を消費しすぎたことが要因なのだけれど。
 
 それでも、私が不安になっていたら、ブーンが心配してしまう。
 
ξ゚⊿゚)ξ「……そうだ。ブーン」
 
ξ゚⊿゚)ξ「あの時の賭け、覚えてる? 負けちゃったよね、私」

98 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:14:36 ID:F4fbQg2U0
 
 
 
ξ*゚⊿゚)ξ「……今、するから」
 
 
ξ*゚⊿゚)ξ「だから……帰ってきて、ね」


ξ*゚⊿゚)ξ「帰ってきてくれないと────嫌いになっちゃうんだからね」
 
 
 そう、つぶやいて。
 
 瞳を閉じて、竜の額にキスをした。
 
 瞳を閉じたはずなのに、とても眩しい光が放たれたように感じた。
 
 
 
 そこで、私の意識は光の中へと溶けていった。

99 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:17:49 ID:F4fbQg2U0
 
 
──・・・・・・・・──
 

 『あなたはどこからきたの?』
 
 女の子が問いかけてきた。
 竜であるぼくはそれに答えることができなかった。
 
 
 『あなたはどうしてここにいるの?』
 
 女の子が問いかけてきた。
 竜が勝手に動いただけで、ぼくがきたかったわけじゃなかった。
 
 
 『ことばがはなせないの?』
 
 女の子が問いかけてきた。
 今のぼくは言葉が話せなかった。
 
 
 『……あなたのおなまえは?』
 
 女の子が問いかけてきた。
 ブーンだお、と言いたくても、グル、グルと変な声が出るだけだった。

100 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:20:29 ID:F4fbQg2U0
 
 『ねぇ? どこかけがしてない?』
 
 女の子が問いかけてきた。
 けがはしていなかった。けれどもぼくは、動けなかった。
 
 そうして、返事をしないぼくに女の子は困った顔をした後に、寂しそうな顔をした。
 綺麗な金髪を横で結び、見たことがない髪型をゆらゆらと揺らしていた。
 
 その髪が、突然鼻にかかった。
 良い匂いだ、と思ってから、女の子がぼくを抱きしめたことがわかった。
 
 いけない。
 
 竜が、暴れてしまう。
 
 『ねぇ? おともだちに……なってくれる?』
 
 女の子が問いかけてきた。
 心臓が大きく跳ね上がった。
 とてもうれしい言葉だった。
 
 でも、このままだと竜が女の子を食べてしまう。
 ぼくは必死で、必死で言葉をひねり出そうとした。

101 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:23:24 ID:F4fbQg2U0
 
( ´ω`)『……逃げて……』

( ´ω`)『早く……早くしないと……きみを』
 
( ´ω`)『……ぼくは…………きみを……────食べて────…………』
 
( ´ω`)「……あれ?」

ξ*゚⊿゚)ξ「わ! にんげんだったの!?」

( ´ω`)「お……あれ、あれ?」

ξ*゚⊿゚)ξ「すごい! どうやって竜からにんげんに!?」

(;^ω^)「お……わからないお……」

ξ*゚⊿゚)ξ「そう! ねぇ、ねぇねぇ!」

(;^ω^)「お?」



ξ*゚⊿゚)ξ「おともだちになってくれる?」

102 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:27:14 ID:F4fbQg2U0

──モナーの家・寝室──



 「失礼します……どうでしょうか?」

( ^ω^)「ッ……」
 
 突然のモナーの声に、少し驚いた。
 気配を感じない程に、思いふけっていたようだ。
 気がつけば、外は雨が降っていた。
 
 目の前のベットでは、ツンが静かな寝息を立てていた。
 モナーはただの疲労だと言うが、心配だから付き添っている。
 
( ´∀`)「いやぁ、意識を失ったツンさんを抱えてきた時は驚きました」

( ^ω^)「突然押しかけて申し訳なかったですお」

( ´∀`)「いいんですよ。あなた方はミセリの命の恩人なんですから」

( ^ω^)「……」

( ´∀`)「……終わったのですか?」
 
 一呼吸、空けて、
 
( ^ω^)「まだ、ですお」

 何が、とは聞かなかった。

103 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:30:04 ID:F4fbQg2U0
 
( ´∀`)「そうですか」
 
 言うと、自分に向けられていた視線が消えた。
 モナーもツンを見ているようだった。
 
( ´∀`)「ブーンさん。あなたも休んだ方がいいですよ」

( ^ω^)「ぼくは平気ですお。ありがとうございますお」

( ´∀`)「いえ、とてもそうは見えないので」

( ^ω^)「……」

( ´∀`)「ツンさんもあなたもまだ若い。過酷な旅を続けていればそのうちに……疲れてしまいます」

( ´∀`)「体も、心も」

( ^ω^)「……」

( ´∀`)「せめて、ここにいる間くらいは……休んではいかがでしょう?」
 
 優しい人だ。素直にそう思った。
 
( ^ω^)「モナーさんはぼくが怖いないんですかお?」

( ´∀`)「はい、怖くありませんよ」

( ^ω^)「ぼくは……竜化病なんですお……?」

( ´∀`)「知っています。でも、ブーンさんは怖くありませんよ」

104 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:33:16 ID:F4fbQg2U0
 
 幼い頃から父と旅をして、各地を転々としていた。
 どこの町も、村も、自分が竜化病であることがわかると、罵声と石を投げつけられた。
 
( ^ω^)「モナーさんたちを見てると、昔を思い出しますお」
 
( ´∀`)「昔、ですか?」

( ^ω^)「ツンが暮らしていた村……モナーさんのように優しい人たちがたくさんいた村のことですお」

( ´∀`)「なるほど。よろしければ詳しく聞かせてもらっても?」
 
 静かに一つ頷いて、ゆっくりと口を開いた。
 
 父は色魔法に精通している人間だった。
 自分の中に竜がいることを知った父は、竜を封印する魔法の研究を始めた。
 母のことは覚えていないし、父に尋ねたことも父の口から聞かされたこともなかった。
 
 竜が覚醒した瞬間、住む家は無くなった。
 破壊したというわけではなく、竜化病という理由で町をおわれたのだ。
 竜とは言え、覚醒したばかりの幼い竜に家を破壊するまで力はない。
 
 最初の覚醒には個人差がある。モララーは十歳程度で覚醒したと言っていた。
 今思えば早くに覚醒したおかげで、自分は助かったのかもしれない。
 
 そこから、父との旅が始まった。
 様々な町、村を追い出され、最終的に辿り着いたのがツンが暮らす村だった。
 そして、初めてその村に足を踏み入れた時、自分は竜の姿だった。
 
( ´∀`)「覚醒してしまったのですね」
 
( ^ω^)「ですお」

105 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:35:56 ID:F4fbQg2U0
 
( ^ω^)「村に入った時も、最初にツンと会った時も、ぼくは竜の姿でしたお」
 
 その時の覚醒は突然訪れた。
 父が止める間もなく、自分は人の匂いを嗅ぎつけて、ツンの村に着いていたのだ。
 
 ツンはその時、一人で家の外にいた。
 小さな村で、子どもはツンしかいなかったのだ。
 毎日外で、一人で遊んでいたらしい。
 
 子どもの竜とはいえ、人間の小さな子どもくらいなら簡単に殺せる程度の力がある。
 幼いながら自分はそれを自覚していた。
 だから心の中で、話しかけてくるツンに離れろ、離れろと、竜に抵抗しながら必死で訴えていた。
 
( ^ω^)「そうしていたら……なぜか竜化が解けていたんですお」

( ´∀`)「……ツンさんに、何か不思議な力があったのですか?」

( ^ω^)「わからないですお。でも、ぼくの父親から色魔法を学んでいた時、とても筋が良いって褒められていましたお」

 遅れて村に到着した父は、驚いていた。
 竜化が解け呆然としている自分と、ただひたすらはしゃいでいたツンの姿を見て。
 
 その後、ツンに案内されて父は村の長と話した。
 包み隠さずに、全てを話した。
 その日から自分と父は、ツンの村で暮らすようになった。
 
( ^ω^)「どうしてぼくらを受け入れてくれたのか、わからなかったですお」

( ´∀`)「……恐らく、ツンさんが寂しがるからでしょう」

106 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:38:37 ID:F4fbQg2U0
 
( ^ω^)「……そんな理由で、他ではあんなに差別していた竜化病を受け入れるんですかお?」

( ´∀`)「小さな村では竜化病に対する認識が他と違うこともあると思います」
 
( ´∀`)「そういう小さな理由が、たくさんあっての選択だったのではないでしょうか」

( ^ω^)「……」
 
( ´∀`)「ブーンさんのお父上と話した内容の中にも、一つの理由があったと感じます」
 
 定住の地が確保されると、父は竜を封印する魔法の研究を始めた。
 結果を見れば、定期的に封印を強化しなければならないが、竜を封印することに成功している。
 腰を据えて研究に取り組めたからこその結果だった。
 
 驚いたのは、いつのまにかツンが父から色魔法を学び、使いこなしていたことだ。
 
( ^ω^)「……今日のことでも、ぼくは自分が竜なんだ、人間じゃないんだってことを痛感しましたお」

( ´∀`)「何故ですか?」

( ^ω^)「ぼくは人を躊躇なく殺せますお。今日だって……相手は竜だったけど人間だったとしても、同じ結果でしたお」

( ´ω`)「赤の他人に優しくしてくれる人の気持ちが、わからないんですお……」

( ´∀`)「ブーンさんだって、ミセリを助けてくれたじゃありませんか」

( ´ω`)「あれは……偶然悲鳴を聞いたからですお……」

107 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:42:29 ID:F4fbQg2U0
 
( ´∀`)「どちらにせよ、私にとってあなたとツンさんは赤の他人ではありません」

( ´∀`)「愛娘を助けてくれた、恩人ですから」

( ´∀`)「その方々に礼儀を尽くすのは当然のことですよ」

( ´ω`)「お……」
 
( ´∀`)「逆に、ブーンさんがミセリを殺したとしたら、私はあなたを殺すでしょう。どんな手を使ってでも」

(;^ω^)「お……」

( ´∀`)「そんなものですよ、人間なんて。大切な何かのためなら、天使にでも悪魔にでもなるんです」

( ´∀`)「だから、ツンさんのために必死に動き、こうして付き添っているブーンさんはとても人間らしく感じます」

( ´∀`)「人間ですよ。あなたは」

( ^ω^)「…………」

( ´∀`)「一度その村に帰ってみてはいかがでしょう? 休むことは大事ですから」

( ^ω^)「もう……村はなくなりましたお……」

(;´∀`)「そうですか……失礼しました」

( ^ω^)「そんな……いいんですお」

108 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:45:54 ID:F4fbQg2U0
 
( ´∀`)「先ほど、まだ終わっていないと言っていましたね?」

( ^ω^)「はいお」

( ´∀`)「でしたら、いつでもいいのでたまにはこの村に帰ってきてはどうでしょうか?」

(;^ω^)「おっ……」

( ´∀`)「できれば、そうですね。これは私のお願いですが、この村を故郷のように思ってもらえれば、と思います」

(;^ω^)「…………」

( ´∀`)「ミセリもレモナも喜ぶでしょう。たまには、この村に」

(  ω )「ありがとうございますお」

( ´∀`)「……いえ」

( ´∀`)「もう、夜も深い。ゆっくり休んで下さい」

(  ω )「……わかりましたお」
 
 モナーはそう言い残し、部屋を出て行った。
 最初は気づかなかった雨の音が、いやに大きく聴こえてくる。
 同時に、モナーの言葉も、頭の中でぐるぐると回っていた。
 
(  ω )(……この村を……故郷のように……)

109 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:50:05 ID:F4fbQg2U0
 
 
 
 
 嬉しかった。
 
 あの時、ツンに友達になってくれと言われた時と、同じくらいに。
 
 きっとツンも喜ぶだろう。
 
 
( ;ω;)「ふっ……うう……うううううううううううう……!」
 
 
 涙が、止まらなかった。
 こんなにも溢れだしてくるのは、いつぶりだろうか。
 父が死んだ時に、涙は枯れたと思っていたのに。
 
 嬉しくて、嬉しくて、悲しくないのに涙が止まらない。
 自分はやっぱり、人間とどこかが違うのだろうか。
 
 そう思ったのに、心は満ち満ちていた。
 
 
 
 
.

110 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:53:09 ID:F4fbQg2U0
 
 
 ──数日後・集落の入り口──
 
 
 
 数日続いた雨はやみ、この日の朝は見事な晴天が広がっていた。
 青がどこまでも続き、その中を白い雲たちが軽快に泳いでいた。
 
 旅の出発には申し分のない朝だった。
 
ミセ*;д;)リ「絶対! 絶対またきてくださいね!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「うん、うん、絶対またくるから! 泣かないで!」
 
 すっかり回復したツンが、別れを惜しむミセリを必死になだめている。
 態度には表さないが、ここにいる全員が互いの別れを惜しんでいた。
 
( ´∀`)「是非、またいらして下さい」

|゚ノ ^∀^)「ブーンちゃんもツンちゃんもうちの子になっちゃえばいいのに〜!」

( ^ω^)「ありがとうございますお!」
 
 この数日間繰り返されたレモナの“うちの子になればいいのに”攻撃に対し、ブーンはスルーという技術を身につけていた。
 
('A`)「……二人とも」

('A`)「頼む! 俺も連れて行ってくれ!!」

111 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:55:47 ID:F4fbQg2U0

(;^ω^)「だから、だめだってずっと言ってるじゃないかお」
 
('A`)「俺も普通の人間に戻る方法を探したいんだ! お前らと一緒ならきっと見つかる気がする!」

(;^ω^)「何かわかったら戻ってくるから!」

('A`)「頼む! 頼む!!」

(;^ω^)「ああもう! ツン!」

ξ゚⊿゚)ξ「うん!」
 
 ブーンの声に、ツンはすぐさま彼の背中に飛びついた。
 その瞬間、自身の腕を竜化させ、空へと舞い上がる。
 
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオー! 悪いわねー! ブーンは一人乗りなのよー!」
 
(;'A`)「足にしがみつくから!! 足にしがみつくから!!」

( ^ω^)「落ちたら面倒だからだめだおー!」

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ! 私たちが戻ってくるまでこの村を守っててねー!」

(;'A`)「……守る?」

ξ゚ー゚)ξ「あの時のあなた、ちょっとかっこよかったわよ!」

('A`)

112 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 21:58:44 ID:F4fbQg2U0
 
('A`)b「任せとけ!!!」

( ^ω^)「おっおっ! そんなわけでモナーさん、お願いしますおー!」

( ´∀`)「モナモナ。良い奴隷が見つかった!」

(;'A`)「まって!?」

ξ*゚⊿゚)ξ「それじゃあー! また絶対に帰ってきます!」

|゚ノ ^∀^)「いってらっしゃいー! 夕飯までには帰ってきてね〜!」

ミセ*;д;)リ「ブーンさまああああああ!! ツンさまああああああ!! お元気でえええええええ!!」

( ´∀`)「お気をつけて!」

('A`)「俺のこと忘れんなよ!!」
 
 飛翔。
 
 瞬く間にモナーたちの視界から、二人の姿が消え去った。
 
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン」
 
( ^ω^)「お?」

ξ゚⊿゚)ξ「よかったね……モナーさんたちと会えて……」

( ^ω^)「なんだお? もうホームシックかお?」

113 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 22:04:26 ID:F4fbQg2U0
 
ξ;゚⊿゚)ξ「ち、違うわよ!」

( ^ω^)「おっおっ! ぼくもそう思うお!」

ξ*゚⊿゚)ξ「……うん」
 
 二人の心に残るのは、モナーたちの姿だった。
 また、絶対に帰ってくる。その思いは二人の間に寸分の狂いもなく。
 
 そして、もう一つの決心もだ。
 
( ^ω^)「ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「うん?」

( ^ω^)「竜を完全に消し去る前に……ぼくはしないといけないことが見つかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「……私もよ」

( ^ω^)「モララーみたいな奴がきっとまだどこかにいるお。そいつらを止めないといけないお!」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。これはきっと、私たちにしかできないことだから!」

( ^ω^)「おっおっ! さすがぼくの相棒だお!」

ξ*゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと! 何言ってんのよ!!」

( ^ω^)「照れるなお!」

114 ◆Tk5XFE8AeI:2016/03/31(木) 22:08:26 ID:F4fbQg2U0
 
ξ;゚⊿゚)ξ「照れてなんかないわよ! ……あ! ブーン! 見てみて!」

( ^ω^)「虹だお!」
 
 大地には壮大な渓谷が広がっていた。
 その上空にかかるのは、見事な曲線を描く七色だった。
 
( ^ω^)「景気づけにあの虹を通るお!! ブ────ン!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと!! 急にスピード上げないで!!」

 今の今まで、ツンは自分が高所恐怖症だったことを忘れていたようだ。
 思い出すと、途端に恐怖を感じ始めていた。
 
 ブーンの景気づけには、もう一つの意味があった。
 
 虹。つまり、彼の父親が、ツンが施した虹色の封印。
 
 
 
 
 
 
 
 それを必要としない時がくることを信じて────
 

 
 
 ────( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξは虹を越えて征くようです。
 
 
 
 
 

                                        終わり。

115名無しさん:2016/03/31(木) 22:57:10 ID:iYXHeebc0

すごくいい王道ファンタジーだった
ツンとブーン好きだ

116名無しさん:2016/04/01(金) 07:01:00 ID:6LV4YWWQ0
乙!
短編にしておくのは勿体無い設定だけど綺麗にまとまっててよかったよ
こういうの待ってた!

117名無しさん:2016/04/02(土) 18:00:37 ID:YiAUgeuc0
最高に面白い

118 ◆Tk5XFE8AeI:2016/04/03(日) 23:59:06 ID:PGrk13d60
もうすぐ投下日締め切りを迎えます
読んでくださった方々、乙を書き込んでくれた方々、ありがとうございました
引き続き祭りの終了まで楽しみましょうね

119 ◆mQ0JrMCe2Y:2016/04/04(月) 01:39:57 ID:PJPV/D8g0
【連絡事項】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。

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120名無しさん:2016/04/08(金) 13:48:00 ID:MQmxKrmI0
乙!
竜同士の戦いはアツイ、ファンタジー最高

121名無しさん:2016/04/09(土) 21:42:15 ID:TS4/pc/E0
うーん、爽やかだなあ
めっちゃ良い読後感、面白かったです

122名無しさん:2016/04/13(水) 07:14:22 ID:deTCcD660
ドクオかっけえ

123 ◆iAiA/QCRIM:2016/04/30(土) 01:11:55 ID:x/HascBU0
 
遅ればせながらブン動会お疲れ様でした
改めまして乙や感想をくださった皆様、そして投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました
スピンオフを書いているのでGWあけくらいには投下できるかと思います
VIPかこのスレか、どちらかはまだ決まっていませんがお手すきの時にまた読んでやって下さい

ちなみに変更点として地の文が三人称になっていたりします
更にブン動会で投下したこの短編よりも長くなる予定です
そんな感じです。よろしくお願いします



以下予告(本編より抜粋)



ξ゚⊿゚)ξ「……ある者?」
 
( -t-)「はい。この街に恨みを持つあの者の仕業に違いありません」
 
( -t-)「北に放置された氷の城に住む、竜の子を産んだ呪われた女……」



 
( -t-)「我々はその者を、こう呼んでおります」


( -t-)「────氷の女王、と」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξは虹を越えて征くようです────
 
                ────『竜と少女と氷の女王編』

124名無しさん:2016/04/30(土) 01:12:31 ID:6QU5CZXU0
よっしゃ

125名無しさん:2016/04/30(土) 01:17:50 ID:Fm9bxjyk0
たのしみ

126名無しさん:2016/04/30(土) 10:32:48 ID:F.3iKpCo0
ペルソナは?

127 ◆iAiA/QCRIM:2016/04/30(土) 17:50:07 ID:x/HascBU0
>>126

    /\___/ヽ
   /    ::::::::::::::::\
  . |  ,,-‐‐   ‐‐-、 .:::|
  |  、_(o)_,:  _(o)_, :::|
.   |    ::<      .::|
   \  /( [三] )ヽ ::/
   /`ー‐--‐‐―´\

128名無しさん:2016/05/01(日) 14:26:48 ID:foOnquug0
ペルソナは……?

129 ◆iAiA/QCRIM:2016/05/01(日) 19:29:59 ID:dZrwBlGE0
>>128


\              /
 \           /
  \         /
   \       /
     \( ^o^)/   うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!
      │  │
      │  │    〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○
      │  │  〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○
      (  ω⊃〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○
      /  \ 〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○
     /    \   〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○
    /      \
   /        \

130名無しさん:2016/05/04(水) 13:33:18 ID:E2wSxeAw0
ペルソナーwwwwwwww

131名無しさん:2016/05/08(日) 17:00:41 ID:cQejTaec0
待ってるぞー!

132名無しさん:2020/02/01(土) 00:49:22 ID:TGqJUEDQ0



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