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till your death
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ぎらりひらひらびーどすん。
本当の私の人生は、きっとこの擬音語から終わったのだろう。
till your death
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(*゚ー゚)「ままー、あのお部屋はいつも電気がついてるよー」
(*゚ー゚)「そうね、きっと勉強熱心な学生さんが住んでいるんだわ」
(*゚ー゚)「ツンちゃんもいっぱい勉強して、偉い学者様になるのよ」
(*゚ー゚)「はーい、ままー」
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「うふふ……」
(*゚ー゚)「うふふふふ!!」
すっかり昼夜逆転して半引きこもりの私を、向かいの一軒家にはそんな風に思われていたい。
大抵の人の生き方がグロテスクなように、私は自分自身の放つ全ての余波にうんざりしている。
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いつだったか私は、車に轢かれて頭を強く打った。
その時見た一連の光景を、一生忘れない。
街路樹の、風になびかれ今にも散りそうなモクレンの花を私は眺めていた。
気付いた瞬間には、真横から迫る自動車のヘッドライトの強烈な光の中。
景色を掻き消し迫る自動車と私の間に、枝から離れた花びらが舞う。
花弁の複雑な関数のグラフのような外観だけが、真っ白な背景に浮かび上がる。
散り踊るモクレンの花は、まるで光の中を泳ぐ影絵だった。
優雅で美しい一瞬が、ゆっくりと姿を変えてゆく。
鳴り止まないクラクション、次いで叩き付けられる痛みと音が私の頭の中に走った。
その後目立った障害や傷は残らなかったものの、その分私の内面は酷く損傷していた。
それからの生活を醒めぬ悪夢へと変え、錯乱と少しの失望がいつもそばにいる。
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(*゚ー゚)「うふふ……」
空想に浸りながらいじっていた携帯電話の、マナーモードのボタンが外れてしまった。
本体の破損した外観は、流行に乗れなかった私の通話機器にしっくり合っている。
ゴム製の小さなパーツを指で弄んで、ゴミの散乱した床に投げ捨てる。
もうマナーは要らないのだ、と思うと愉快だった。
素敵なリリックが浮かびそうで、つい体がリズムを刻む。
(*゚ー゚)「ああ、メール送らなきゃ」
大声で歌いたい気持ちを抑える。
それでも抑え切れなかった分を、メトロノームめいた首の横降りに変換する。
一文字一文字慎重に打ち込み、携帯の送信ボタンを押す。
数秒の通信画面の後、私からの新着メールが届いた。
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『元気』
『Re:元気』
『生きたい』
『Re:生きろ』
真夜中であろうと付き合ってくれる自分自身に、私は心の底から感謝する。
嬉しさが形を得て体から溢れ、零れ落ちた隙間には幸福感が流れ込む。
(*゚ー゚)「……」
(*;ー;)「ありがとう、ありがとう、君は良い人だなあ」
(*;ー;)「うええええ……、えっ……、えん」
実体の無い幸せは、それでも時々目に見える。
特に涙で滲んだ視界は、それらを映しやすいらしい。
例えると幸福は、金色の体毛を誇る、鳥の巣の形をした生き物だった。
あるいはそれは、他人には全く別の何かに見えるのかもしれない。
私はただ、それらが現れるのをじっと待っていた。
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ひとしきり泣いた私は、疲れのせいか体の気だるさを感じている。
いつ脱いだか分からない、床に落ちていたシャツを頭にして、床に横たわる。
マンションの外では、落雷を伴った激しい豪雨が続いている。
雷の発光が時折、カーテン越しに部屋の光景を消すのを、ぼんやりと眺める。
(*゚ー゚)「……」
時々、私は私しか愛せないのではないかと不安になる。
けれどそんな不安を思う私は、本当は自分自身すら愛していない。
私の周囲に潜む欺瞞がにっこりと笑う。
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10代の恋はほとんどが性欲の錯覚だと、どこかで聞いた。
その言葉は私を恋から容易く離れさせ、今もどこか冷めたままだった。
無意識的に私は、異性と距離を置いて接するようになった。
良くないとは思っていても、他人の好意の裏側を邪推してしまう。
全ての混乱の発端は、事故ではなくその言葉のせいなのかもしれない、という気さえする。
少なくとも一端を担っているに違いない。
どうしようもないと分かりきっていても、未来が不安になるのは何故なのだろう。
すぐさま会議を開かなくてはならない。
(*゚ー゚)「えーっと」
(*゚ー゚)「今日はセッションに参加してくれてありがとう」
数人の見知らぬ人物を想像し、私は落ち着いた調子で話し始める。
区役所の貸し会議室、輪になってパイプ椅子に座る参加者の姿が見える。
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o川*゚ー゚)o「……」
从 ゚∀从「……」
(*゚ー゚)「皆さんのその意思が、自分を変える力になるのです」
(*゚ー゚)「初めての方も何人かいるわね」
(*゚ー゚)「それじゃ、そこのあなたからどうぞ。まずはお名前を」
(゚、゚トソン「トソンと言います。私はしぃのことについて言及します」
(*゚ー゚)「は?」
(゚、゚トソン「彼女は密度の濃さに溺れて前進する気がありません」
(゚、゚トソン「しぃは哀れな精神の被害者なのでしょう」
(*゚ー゚)「……もういいから」
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私の意に反して、トソンは私を責め続ける。
早口で明確に発音する彼女の唇が部屋中に渦巻き、私は気分が悪くなる。
(゚、゚トソン「振り絞る鼓動とあなたは現在に?」
(゚、゚トソン「本当に触れたのですか?」
(*゚ー゚)「……」
さっきから鈍い腹痛が続いている。
今ではもう、痛いのか痛くないのかすらよく分からない。
いつ買ったのか分からない桃を夕食に食べたせいなのかも知れない。
腹を壊しては大変だ、と手元に落ちていた整腸剤を胃に流し込む。
(*゚ー゚)「あっ……」
(*゚ー゚)「これ、違うじゃん」
剥離した携帯のパーツ、マナーモードのボタンが喉を通り過ぎてゆく。
立ち上がって吐きに行くのも面倒で、私は横たわったままでいた。
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(*゚ー゚)「……」
いつの間にか雨音は幾分弱くなっている。
きっとピークを越え、明日にはもう止んでいるのだろう。
私は何となくテレビをつけて、チャンネルを回した。
古臭い書体で、『世界の夜景』と表示されている番組が始まる。
どこかの深夜の都市を上空から写した映像が流れている。
高層ビルや自動車の放つ小さな光が、綺麗に明滅している。
見ているうちに何故か私は泣きそうになった。
体を起こし、画面いっぱいに映る都市の夜景を呆然と眺める。
(*゚ー゚)「どうせなら」
(*゚ー゚)「……」
(* ー )「……どうせなら、誰もが見て分かる傷とか障害とか」
(* ー )「そういうのが残ってくれていたら良かったのに……」
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そんなことを考えている私は、きっと呪われているのだろう。
呪われている私は、いつか本当にそうなるに違いない。
(*゚ー゚)
(#゚;;-゚)
顔にあざが焼きつき、片耳がもげた醜い姿に。
けれどその時初めて、平穏と静けさがそばに寄って私の肩を抱く。
そんな未来を夢想して自分を慰めている姿は、酷く惨めなのかもしれない。
それでも自分自身に対して正直に向かい合えたことを、少しだけ嬉しく思う。
私は思い立ったように気だるい体を動かし、テレビの電源と照明を消す。
掛け布団だけを押し入れから取り出すと、そのまま床に伏せて眠った。
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深い睡眠に入れず、何度も寝返りを打ち私は夢を見た。
夢は次から次と記憶の枝から離れ、内容をもう覚えていない。
精製前の汚い油に浸された胃をぺしゃんこに潰されているかのような、不快な夢だった気がする。
半日以上眠っていたらしく、目覚めた時にはもう外は暗かった。
殆ど何も見えない中で意識が覚醒するのは、とても孤独だ。
(*゚ー゚)(……そんな風に感じたら)
(*゚ー゚)(いつもみたいに、また)
もう一度寝て明るい時間に起きようか、と意識が自分に断りもなく考える。
体は体で寝るのは疲れたと勝手な事を言い、私は独りでに立ち上がって電気をつける。
部屋の中は、眠る前と何も変わっていない。
いつものように錯乱と少しの失望がそばにいる。
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「……別にいいけど」
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水道水をコップ一杯分飲み、期限前の食パンを胃に押し込んだ。
顔を洗おうとすると、流れる水道水は指の隙間から逃げよう逃げようともがき出す。
(*゚ー゚)「どうして逃げる」
(*゚ー゚)「皿に溜めてやる」
水を溜めた皿をテーブルに置いているうちに、水道水はそのまま動かなくなった。
だんだん、なんだか可哀想な事をしたなあと感じ、水道水を皿から逃がしてやる。
(*゚ー゚)「……ごめん」
居間に戻りじっとしていると、今度は照明の光が眩しくなり、遂には目に突き刺さりだす。
蛍光灯の理不尽な振る舞いに、私は強い怒りを感じる。
(# ー )「お前は何ルーメンだ、お前は何ルーメンだ!」
(# ー )「お前は何ルクスだ、お前は何ルクスなんだ!」
私は瞼を閉じながら、そう叫んだ。
どれくらい叫んだだろうか、気がつけば光は見えなくなっていた。
ふっと安堵感が胸の内に降り、何か映画でも見ようかなと横を向く。
何回も繰り返し見たDVDが、棚も周りの家具も含めて、全て無くなっている。
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(* ー )「あっ」
(* ー )「ははは……」
私は、自分が目を閉じていたことに気付いた。
光も何も見えるはずがなかった。
笑いが止まらず、やがて私は涙を流し出す。
それはすぐさま感動へと変わり、全身の痺れに打ち震える。
幸せの絶頂だと思える幸せに、私はまだ遭遇したことがない。
もしかすると、ここがそうなのかもしれない。
(*;ー;)「くふふふふ、……あっはっは!」
(*;ー;)「私は愛してる! ここが、こここそが愛なんだ!」
(*゚ー゚)「……ははは」
(*゚ー゚)「……」
(* ー )「……」
(* ー )「そうじゃなきゃ、こんな……」
幸せが形を伴って姿を見せるのを、私はじっと待っている。
隣に座る欺瞞がにっこりと笑っていた。
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(*゚ー゚)「……なーんにも来ないね」
(*゚ー゚)「……」
昨夜に降っていた雨は、眠っている間に止んでいる。
それでも雷の音はまだ、部屋の外から聞こえていた。
待っているのにも飽きた私は、恐る恐る窓を開けてみる。
窓の外には、幸せの象徴が人の良さそうな笑みを浮かべて立っていた。
从'ー'从「こんにちは」
(*゚ー゚)(しまった!)
(*゚ー゚)(無闇に窓を開けなければよかった)
幸せの象徴は雷のふりをして、私が窓を開けるのを待っていたに違いない。
彼女は見たことの無い服を着て、微笑みを絶やさない。
雨の降る中に一晩中立っていたにも関わらず、彼女の髪はサラサラだった。
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从'ー'从「心の牙を研ぐ、という言葉を知っています?」
(*゚ー゚)「……し、知りません」
幸せの象徴は、あるいは私を助けてくれるのかもしれない。
黄金の鳥の巣の生き物をもたらすのなら、私は救世主のお話をお聴きしたい。
けれどそれよりも今は、嫌にバサつく私の髪の毛が気になる。
まるで髪の毛自らが切られたがっているかのように、しつこく私の頭にまとわりついている。
(*゚ー゚)「お帰り下さい、お帰り下さい」
从'ー'从「あら、お出かけするところだったのですね」
从'ー'从「また来ますね」
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ようやく落ち着けると思い、やかんを火にかけていると再び話し声が聞こえ出す。
まだ誰かが外に立っていたのかと思ったが、声はもっと近くから聞こえる。
耳を澄ますと、バサつく髪の毛がそれぞれ好き勝手に喋っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ私が歌うから、あなたが踊るのよ」
川 ゚ -゚)「いいね」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ私が踊るから、あなたが歌うのよ」
川 ゚ -゚)「いいね」
髪の毛の声帯は、いったいどこにあるのだろう。
彼らはやけに間延びした、ざらついた声をしている。
話している声も距離も何もかも酷く耳障りで、私はハサミで彼らを断髪しようと考える。
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(*゚ー゚)「ザクザク髪を切ってやる」
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「どうだ、ザクザクと髪を切ってやるぞ」
(*゚ー゚)「……」
俯いた頭と床までの距離数10センチを、確かに彼らは散り踊り落ちてゆく。
何の歌も聞こえないが、きっと彼らにとって本望だろう。
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「……」
気がつけば、床の上は髪の毛が散乱して黒く染まっている。
もう誰も、喋ってなどいなかった。
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続く
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これは本物だ。すごい
続き待ってる
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続いてくれるか
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いいね
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その日の夜は、夢の中で見た夢を思い出すほど多くの夢を見た。
中でも印象深く残っているのは、台風の夜の夢だった。
外に干したままの洗濯物が雨風に晒され、ずぶ濡れになっている。
はためくTシャツやカーディガンは、必死に干し竿に掴まっている。
揺れ動く衣類に吊られたように、私の首も傾いたまま、部屋に座って台風を眺めていた。
完全に目が覚めたのは、またも夕暮れ時の暗くなりかけた頃だった。
(*゚ー゚)「……」
夢の甘いドロドロとした感覚が無くなると共に、急に現実が認識されてゆく。
あらゆる鬱屈とした気分は、目が覚めた瞬間から襲ってくる。
(*゚ー゚)(感情が揺れ動くのはいつも起きてからだ……)
(*゚ー゚)(眠っているときは、この世界にいないのかな)
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私は布団から這い出て、キッチン周辺を見渡す。
レトルトのカレーを一番下のラックから取り出し、食パンと一緒に食べる。
部屋に残っている食料は乾いたスパゲティぐらいで、私は思わずため息をついた。
今日は外出しなければならない。
(*゚ー゚)「……」
部屋の隅の棚に置いているミカンを見つめる。
いつか食べようと思ったときには、既にカビが生えていた。
今では皮の表面全体が黒く変色し、誰もがそれをミカンだとは思わないだろう。
ミカンではない、腐った何か。
命の絶え間ない連続と、微かに変わり続ける実感を与えてくれる何かだった。
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出かける服を選び、財布をコートのポケットに入れて玄関を出た。
鍵を掛けたか何度か確認し、駅前のスーパーへ向かって歩き出す。
この先に味方は誰もいない。
そんなつまらない事実が、早速私を嫌な気持ちにさせる。
視界に広がる異物だらけの空は、薄い灰色に染まっている。
もうじき電線や建物の外観は、日が落ちた空に飲み込まれるのだろう。
住宅街を抜けた先の駅前の広場には、誰かを待っている人や何羽かの鳥がいた。
誰とも視線を交わさぬよう、風景を捉える広角レンズのように前へ進む。
どこからか飛んできた米粒くらいの虫が、首もとからTシャツの中へ入り込む。
何かの細い足が皮膚を撫でていく感覚に、我慢が出来ない。
(*゚ー゚)(ここで脱ぐわけにもいかないし……)
(*゚ー゚)(うう……、気持ち悪い)
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みぞおち辺りを這っている虫を、服の上から握り潰した。
冷たい体液らしきものが、私の皮膚に付着する。
電線に留まっていた鳥が、こちらを見ているような気がする。
嫌な視線から逃れるように、私は駆け足でスーパーに入り込んだ。
レジを受け持つ女の人が、台の横から袋を補充している。
買い物カゴを持たずに、私は店内のトイレの個室に立ち入る。
体に付いているであろう虫の死骸を、早く取り除きたい。
コートを脱ぎ、Tシャツを腹から胸まではだけさせる。
白いTシャツは白いままで、何の異変もない。
インナーの隙間に指を入れて覗いても、虫の姿は見つからない。
潰した虫の、体液の付着した跡さえどこにも無かった。
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(*゚ー゚)(私は……)
(*゚ー゚)(何も叩き潰したんだろう)
トイレを出た私は、カゴを手に取りいくつか食料を選ぶ。
スパゲティのソースに食パン、腐っていない何か。
購入するものはほとんど決まっていて、ワックスの剥げたタイルを早々と踏んでゆく。
野菜コーナーに、半分に切られたキャベツが並んでいる。
カットされたキャベツの、波打った葉と葉の合間には歪な隙間がある。
(*゚ー゚)(私の脳もあんな風になってるのかな)
(*゚ー゚)(いやだいやだ……)
どんなに安くても、キャベツを買うことは一生無いだろう。
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買い物を終え、店を出ようとしたときだった。
私のすぐ両脇から、低い電子音が鳴り響いた。
万引き防止ゲートが何かに反応したらしい。
緑色のエプロンを着けた男が、小走りでこちらへ向かってくる。
( ,,^Д^)「すみません、最近誤作動が多くて……」
( ,,^Д^)「電源を切っておくように言ってるんですけどね」
ジロジロと蛇のような視線で、私の頭部を見つめながら何かを言う。
虚ろに返事をし、彼の言葉のままに従う。
( ,,^Д^)「ちょっと財布を見せてもらってもいいですか?」
( ,,^Д^)「……ああ、やっぱり。この財布が原因でしたね」
( ,,^Д^)「不快な思いをさせてしまって大変申し訳ございません」
( ,,^Д^)「どうぞ、お通りください」
(*゚ー゚)(……)
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スーパーから外へ出ると、日は完全に落ちていた。
窓から漏れる明かりや街灯の人工的な光が、暗闇の中に散乱している。
(*゚ー゚)(私の部屋みたい)
(*゚ー゚)(だから、綺麗なんだ……)
買い物を済ませた私は、軽い足取りで家へと引き返す。
住宅街に差しかかり、家までの距離もあと半分といった頃だった。
ドスン、と何かが衝突する音が背後から聞こえた。
いつかの事故を彷彿させる、嫌な音だった。
すぐさま私は振り返る。
数10メートル後ろに、宅配のトラックが停まっている。
ドライバーが荷物を抱え、トラックの後方から現れた。
衝突音は恐らく、後部扉を閉じたか荷物を落とした音だったのだろう。
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(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)(……そういえば)
(*゚ー゚)(あの事故を思い出させる何かに)
(*゚ー゚)(最近いくつも……)
そう思うと、近くに存在する何もかもが予兆に感じる。
買い物袋の重さ、生温い風、私の背後を追う欺瞞。
あるいはそれは疑い深い私の杞憂なのかもしれない。
気を取り直して、心なし帰路を急ぐ。
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(*゚ー゚)「……」
道の向こうから、ランドセルを背負った子どもが歩いてくる。
街灯に照らされた子どもの姿は泥まみれだった。
放課後に公園かどこかで遊んで、ちょうど帰宅するところなのだろう。
変質者に間違えられては不味いと、密やかに鼓動が高鳴る。
買い物袋を持つ手に力が入り、歩行が何となく不自然になる。
(´・ω・`)「こんにちは」
(*゚ー゚)「……」
すれ違う瞬間、私を見た小学生が挨拶をした。
何故挨拶されたのか戸惑いつつ、私は会釈を返す。
(*゚ー゚)(言われてるんだろうな)
(*゚ー゚)(怪しい人には挨拶をしなさいって)
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疑わしく思われたのかと苦笑し、私は自分の身なりを確かめる。
薄手のトレンチコートとTシャツに、コットンのカーゴパンツ。
春先や初夏は、もう何年もこのような服装で出歩いている。
特に見た目はおかしいと思わないが、きっと私の感覚は世間から置き去りにされている。
(*゚ー゚)(別の服でも良かったけど)
(*゚ー゚)(台風のせいで、乾いてなかったからなぁ……)
あの子どもは不審者を見かけたと、親や先生に喋ったりしないだろうか。
出掛ける用がさらさらないのは幸いだが、しばらく外は歩きたくない。
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「……えっ」
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(;゚ー゚)(違う!)
(*゚ー゚)(服が濡れてたのは、夢の中で……)
誰もが半年に一度くらい、入浴中にシャンプーとボディーソープを間違えることがある。
ノズルの上部を押して、あるいは髪に洗剤を塗布した瞬間に、苦笑いを浮かべる。
私はそれが毎日続いているようなものだった。
今更そんなことに落ち込んでいられないと、虚勢を張って過ごしている。
(*゚ー゚)(……別に)
(* ー )(いいけど……)
自然と、体中の血が足下の地面へ吸い込まれる。
空洞になった私は耐え切れず、思わずその場にしゃがみ込む。
買い物袋に入っていたペットボトルが地面にぶつかり、少しだけ跳ね返る。
いくら日常に失望しきったつもりでも、それはまだ足りなかったらしい。
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(゚、゚トソン「私はしぃのことについて言及します」
聞いたことのある声がして、私はゆっくりと顔を上げる。
いつかのセッションの参加者が、冷たい表情で私を見下ろしていた。
トソンと名乗っていた気がするが、それすらも確信が持てない。
(゚、゚トソン「振り絞る鼓動とあなたは現在に?」
(゚、゚トソン「本当に触れたのですか?」
(*゚ー゚)「……鼓動? 現在?」
(* ー )「何、言ってるの……」
(*;ー;)「何を言ってるのか、全然分からない!」
(゚、゚トソン「……本当に、触れたのですか?」
(*;ー;)「……」
私が何に触れたというのだろう。
彼女から視線を逸らし、辺りをぼんやりと見渡す。
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粗野なアスファルトの道路に沿って、誰かの家々が立ち並ぶ。
マンションと一軒家に挟まれたコンビニと、その駐車場。
自動ドアが開くたび、店員の声が微かに漏れる。
帰宅途中の人や自動車が、まばらに私の前を通り過ぎてゆく。
道端にしゃがみ込んだ私を気にしつつも、誰も声を掛けない。
いくつかの建物の奥に、風に揺れる街路樹の先端が見える。
その上に広がる空は雲がかかっていて、星は見えない。
在るものがそこに在るだけの、無味乾燥な平穏と静寂。
随分と長い間感じたことのない、奇妙な感覚だった。
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(*゚ー゚)「……あっ」
(*゚ー゚)(今この瞬間)
(*゚ー゚)(私が見ているものと)
(*゚ー゚)(他の人が見ているものは、同じなんだ……)
私は今、主観と客観の一つの到達点にいる。
それはただの、どこにでもある理性的な日常だった。
気が付けば、錯乱と少しの失望も、微笑む欺瞞さえもそばにはいない。
待ち続けていたものが目に見えなくても、私は幸せだった。
(*゚ー゚)「……」
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この俗な日常の感覚は、すぐにでも終わってしまう気がする。
そう思っていた時、不意に私は気付く。
(*゚ー゚)「そっか……」
(*゚ー゚)「分かったよ」
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「これから触れるんだ」
私の人生を終わらせた、あの事故はまだ起きていない。
いつの間にか私は、適度な空腹時のように冴えていた。
心臓も緩やかに、けれど確かに全身へと血を送っている。
曲がり角の先の街路樹は、今頃満開を迎えているのだろう。
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私は立ち上がり、あの街路樹の前へと走る。
置き去りにされた買い物袋が、戻ってきてと叫んでいる。
(*゚ー゚)「ふふ……」
本当にこれでいいのか、という疑問が全く浮かばないことに私は笑う。
あるいはそれは、錯乱が戻りつつあるせいなのかもしれない。
心臓が胸を飛び出してしまいそうなほど高鳴っている。
走り続けながら私は、街路樹を見上げようとして気付く。
路上のカーブミラーに、こちらへと迫る運命が小さく映っている。
モクレンの花が、もうすぐ舞い散る。
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ぎらりひらひらびーどすん。
本当の私の人生は、きっとこの擬音語から始まる。
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till your death
終
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乙!!
すげえ面白かったわ
夢の中の錯乱とか、時間軸の崩壊とか、そういうモチーフとても良かった
支援絵
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2009.jpg
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【連絡事項】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
詳細は、こちら
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1456585367/404-405
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世界の表現が夢の中のようで読んでて掴み所が無く不安になった
この雰囲気すげえ好き
乙
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詩なんだなこれは…
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面白い
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