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魔法使いえりぽん避難所Part2

1 : 名無し募集中。。。 :2015/07/29(水) 23:59:12
狼で進行中の魔法使いえりぽんの避難所です


2 : 名無し募集中。。。 :2015/07/30(木) 00:07:36
狼現行スレ
魔法使いえりぽん23
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1436871242/

避難所過去スレPart1
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20619/1401159235/

魔法使いえりぽんまとめサイト

http://www61.atwiki.jp/eriponmagi/pages/1.html


3 : 名無し募集中。。。 :2015/07/30(木) 07:54:08
新スレおめ!

嬉歌ちゃん編完結お疲れ様です…涙腺崩壊いつかまた6人が一緒にいれる日がくれば良いのにな・・・


4 : 名無し募集中。。。 :2015/07/30(木) 13:33:38
うたちゃん(;_;)


5 : 名無し募集中。。。 :2015/07/30(木) 13:50:14
嬉唄ちゃん…戻ってきてもええんやで。


6 : 名無し募集中。。。 :2015/07/30(木) 20:13:44
そんなコテコテの大阪弁は吉本の芸人以外誰も使ってないって
浪花っ子として恥ずかしいからやめてくんない?


7 : 名無し募集中。。。 :2015/07/30(木) 21:01:48
まぁまあせっかく前スレ走りきったとこだしね
お気楽でいんじゃない?


8 : 名無し募集中。。。 :2015/07/31(金) 18:05:33
レイアな


9 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/01(土) 08:36:52
おっとこれは初歩ミス…
ご指摘ありがとうございます


10 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/03(月) 20:14:43
「たぁ!」

風をまといながら高速で飛行する里保。
目の前で敵意を剥き出し、攻撃を加えてくる鉄の構造物を手にした刀で
次々と破壊していく。


里保は風を制御し、空中で停止する。
遠方の敵を炎で燃やすと後ろに向かい大きく叫ぶ。

「えりぽん、来てる!」
「わかっとう。」

衣梨奈は懐から幾つかのビー玉を取り出すと、それを思い切り
目の前へ投げつける。
そのビー玉はとても人間が投げたように思えない速度で
敵へと突き刺さり、次々と爆発を引き起こしていく。

その様子を確認すると里歩は再び、宙に舞い急加速すると
刀を振るって行く。


その下では一人の小柄な少女が走りながら、辺りを凍り付かせ
相手の自由を奪っていた。

「どぅー、お願い!」
「任せな!」


11 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/03(月) 20:19:27
小柄な少女を追うように後方から走ってきた少女は
手に着けたグローブから水の鈎爪を出すと、
動きが止まった相手の胴体を切り裂いていく。

一息付く暇もなくそこへ新たな敵が出現する。
背中合わせに立った2人はそれを見て舌打ちをする。

「まるでキリがねぇな。どうするよあゆみん?」

その時、甲高い声と共に頭上を大きな影が跳び去っていく。

「2人とも伏せて!」

その影は新たに出現した敵のもとへと走り込むと、
その巨大な鈎爪で攻撃の隙を与えず八つ裂きにした。

「サンキュー、まーちゃん!」

「まーちゃん、そのまま走って!
 鞘師さんの後、付いてって!」
「ガルル!」

その背中には小さな猫がしがみついていて、巨大な狗、
優樹に指示を出す。


12 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/03(月) 20:24:16
駆け出した優樹の後を追いつつ亜佑美と遥も
その場から左右に散開し後を追う。


霧に覆われた森の中で始まった戦闘は激しさを極めていた。
里保は一度その場から大きく上昇すると森の上から様子を窺う。

すると遠方の建物から巨大な弾丸が里保めがけて
撃ち出されるのが見えた。

里保はくるりと後ろを向くと急降下をし森の中へと逃げ込む。

しかしながら、その弾丸は里保の向かう後をついてくるようであった。

器用に木々の間をすり抜けるように飛ぶ里保。

「ちっ!ここじゃ無理…。」

そう一言呟くと、再び、急上昇。
一気に急加速し再び建物の方へと飛びながら刀に魔力を込める。

「鞘師さん!」

眼下で遥が駆けながら上空に向かって水の柱を打ち込むのと里保が刀を振り切るのは同時であった。

「水柱貫手!」
「紅焔鎌鼬!」

両方の攻撃を浴びた弾丸は空中で大爆発を起こす。

「よっしゃ!」


13 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/03(月) 20:59:27
遥は目の前の敵を一人、切り裂きながらその様子を見て
ガッツポーズをする。

しかし、里保は弾丸に近かったため、直接爆風を浴び、
バランスを崩しながら地上へと落下していく。
巨大な魔力を練り上げていたため、自分にまわす分が足りないのだ。

「里保!」
「鞘師さん!」

まさに地面にぶつかろうかという瞬間、大きく跳躍した狗が
その口で里保を拾い上げ地面にそっと下ろす。

「大丈夫ですか鞘師さん?」
「うん、大丈夫。
 ありがとう、優樹ちゃん。
 それよりえりぽん、東に1キロ!
 アジトが見えた!」

駆け寄ってきた衣梨奈に里保は自分の見た情報を伝える。
それを聞いた衣梨奈は頷くと再び駆け出す。
そして懐から黄緑色のスケボーを取り出すと、魔力を込め、
宙へ放り投げると大きく跳躍した。

ビー玉を幾つか操り敵を蹴散らしながら、
大きく旋回してきたスケボーに飛び乗ると、一気に急加速する。


「あゆみん!行って!
 ハルがサポートする!」

衣梨奈の飛んでいった方向を見た遥は水を操り、
地面に薄い水の膜を張る。

その上をまるでスケートをするかのように高速で滑り出す亜佑美。


「どぅー、乗って!」

遥も敵の前方からの銃撃をかわし
後方に大きく宙返りすると走ってきた狗の背中に飛び乗る。

里保も再び、飛び上がるとその後を追うのであった。


続かない


14 : 名無し募集中。。。 :2015/08/03(月) 21:01:17
何かキテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


15 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/03(月) 21:14:38
こんばんは
はいアベンジャーズ見たら書きたくなったので(笑)
続きません…たぶん


16 : 名無し募集中。。。 :2015/08/03(月) 23:22:43
アベンジャーズ良いっすね!自分も見ました
冒頭のシーンを彷彿させるスピード感ある戦い!燃えますなぁw


17 : 名無し募集中。。。 :2015/08/04(火) 01:26:10
本編も更新キター!


18 : 名無し募集中。。。 :2015/08/04(火) 10:31:44
やっぱり天気組いいね
はるなんあゆみんまーちゃんどぅー


19 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/05(水) 20:08:18
こういうのってある程度勢いが大事だと思う

というわけでいつまで続けられるか
全く不明なんだけど←

続き


20 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/05(水) 20:11:34

夏が本格的に始まり、人々の心がウキウキと弾む。
海にキャンプ、バーベキューなど行事が目白押し。

道重邸に集まった8人の少女達も来るべき夏の予定について
話し合いの真っ最中であった。

「だからさ、えりはキャンプ!絶対キャンプがいいとよ!」

「やだよ、虫が出るじゃん。聖、虫の居ないとこがいい!
 せめて、海!海ならいい!」

「海…。そりゃフクちゃんはいいかもしれんが海はちょっと
 お腹周りが、ゴホゴホ、いや、何でもない。
 日焼けしちゃうから…。」

「全然、決まらないんだろうね。」

と、それぞれがそれぞれの意見を押し合う。

その様子をさゆみをはじめとした他のメンバー達は呆れて眺めていた。


21 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/05(水) 20:18:59
結局、この日に結論はまとまらず陽も傾いて来たので
後日改めて話をする事となった。

「意外とまとまらないもんすね。みんな仲いいじゃないですか、だから
 もっとあっさり決まるかと思ってましたよ。」

聖と香音の帰った後の道重邸。
今日の夕食当番のため衣梨奈と遥は台所にいた。

「まぁ、今回は珍しくみんな頑固やね。」

遥の問いに言葉に苦笑する衣梨奈。

まだこの地区に来てからそう歳月は経っていない。
それでも遥の目から見れば、普段から一緒にいるあの4人の関係は
とても堅い絆で結ばれているように見えたのだ。

より良い関係を維持するためにある程度の妥協は必要であると
遥は考えていた。

まぁ、あくまでも考えているだけなので実際できているわけではないれど。


22 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/05(水) 20:21:57
「まぁ、そのうち決まるっちゃん?なるようになるって。」

そう言って衣梨奈はカラカラと明るく笑った。

「よし、出来上がり!そしたらくどぅー、こっちのお願いね。」

「わかりました。うわぁおいしそう!」

今日の夕食は衣梨奈特製のロールキャベツ。
その豊かな薫りがリビングを包み込む。


「わぁ!今日ロールキャベツ?やったぁ!」
「こらこら、まーちゃん。ちゃんと手洗ってからにしなさい。」
おいしそうな匂いに誘われて春菜や優樹も集まって来た。

「いっただきまーす!」

「うん、おいしい。生田、今日のは渾身の出来だね!」
「ありがとうございます。
 くどぅーも手伝ってくれたけんね、ちょっと頑張ってみました。」


23 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/05(水) 20:25:15
「デザートに杏仁豆腐も用意してあるけんね。」

一同が食事に舌鼓をうつなか、その報せは突然やってきた。


ジリリリリン ジリリリリン

リビングの片隅においてある黒電話が急に鳴り始める。
普段、鳴ることが滅多にないものなのでその音に遥や優樹は
驚き飛び上がる。

「うわぁ!びっくりした。」

「誰だろうね、こんな時間に」

さゆみがそう言い、立ち上がると受話器を取り上げ耳に当てる。

「はい、もしもし?はい、はい。
 えっ?
 はい、そうですか。はい、うん、うん。
 わかりました、あとはこちらに任せて下さい。では。」


続くのか?


24 : 名無し募集中。。。 :2015/08/05(水) 20:42:18
何か来た
続くの?


25 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/05(水) 21:29:24
あれ投稿されてなかった

ということでみなさんこんばんは
アベンジャーズの興奮さめやらぬなか
本編の更新もあり一層テンション高めな作者です
今回書いているアベンジャーズ擬きはこの次の構想を書くためのネタ集だと思って下さいm(_ _)m

作者


26 : 名無し募集中。。。 :2015/08/06(木) 01:20:49
アベンチャーズ編キター!ってネタなの?wそのテンション高めのまま続け!


27 : 名無し募集中。。。 :2015/08/07(金) 22:58:46
さゆが敬語?
中澤さんとか?


28 : 名無し募集中。。。 :2015/08/08(土) 08:20:11
アベ→安倍?


29 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/08(土) 23:00:58
皆さんちょっと考えすぎです
ホントにただの思いつきで書いたものなので…深く突っ込まれるとw

ん?待てよ
アベンジャー…安倍ンジャー
ほうほう…なるほど

これはいいヒントをいただきました!参考にします!


30 : 名無し募集中。。。 :2015/08/09(日) 01:44:03
安倍ンジヤーってw後浦なつみ「シツレンジャー」が浮かんだけど…まさかね?


31 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:11:28
こんばんは
間隔あきました
なんじゃこりゃっていう展開を一気にお送りします

どうかよろしくお願いします

作者


32 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:14:56
そう言って受話器を置くさゆみ。

一同、箸を止め何事かとさゆみを見る。

「フクちゃんとね、香音ちゃん、誘拐されちゃったみたい。」

まるで『きれいな満月が見えるね』とでも言うような軽い口調でそう伝えるさゆみ。

だが、一同に与えた衝撃はとても大きかった。
遥と優樹は手にした箸をポトリと落とし、見つめ合ったまま動かない。

亜佑美は立ち上がりかけたままの格好から動かず、春菜の目はいつも以上に大きく見開かれている。

その中で、里保と衣梨奈の顔は他の4人とはまた違った表情を見せていた。
どうやら、以前さゆみから聞いた『因子』のことを思い出しているようであった。

そんな2人の表情の違いに気づいたさゆみはあとに言葉を続ける。

「さらったのはどうやら一般人みたいね。
身代金の要求もちゃんと来ているみたいだから安心して。」

どこが安心するとこなのかとツッコミが入りそうなものであったがそれを聞いた里保と衣梨奈は胸をなでおろす。

しかしながら、さらわれたというのは事実。
悠長に構えている場合でもなかった。

その時、少し冷静になった衣梨奈がさゆみの言葉を思い出す。

「道重さん…、さっきこちらに任せろって言ってませんでした?」

「うん、言ったよ。だから早く助けに行かないとだね。」


「「「「「!?」」」」

さゆみの発言に今度は本当に一同は驚く。

普通、一般人相手に魔道士が出ることはほとんどないと言っていい。
幼い時から里保は衣梨奈の父からそう教わってきた。

里保も実際今までそう過ごしてきた。
それは魔道士の存在が世に知れ渡ってしまうと余計な混乱を生むと直感で理解していたからだ。


33 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:17:47
「あの…道重さん?」

遠慮がちに春菜が手を挙げる。

「ん?」

「相手は一般人なんですよね。
 それなら私たちのような魔道士ではなく公共の機関に任せた方が…。」

春菜の言葉にさゆみが悪戯っぽく笑う。

「へぇ、そしたらはるなん的にはフクちゃんと香音ちゃんは助けなくていいと?」

「いやいや…、そうとは言っていませんけども。
 私たちが出てしまって大丈夫なんですか?」

春菜の疑問はまさに一同の心情を代弁していた。
確かに助けられるものなら今すぐにも助けに行きたい。

だが、世の中には秩序がある。

その秩序を破ることは…。


ここまで考えて、ふと里保はあることに気づく。
普段のさゆみであればこうしたことは言わないはず。
むしろ自分たちを止める側。


なのに今回はむしろ煽るような口調で出撃を促している。

どうやらさゆみは一般の警察では対処できないと考えているようだ。

「特殊なんですか?相手が。」

その里保の質問にたださゆみは少し笑うだけであった。
そして一言思い出したように付け加える。

「そうそう、今回情報が不足してるね。
 ちゃんとそこは考えとかないと怪我するかもね〜。ねっはるなん?」

急に話を振られ、少し困惑した表情をみせる春菜。
しかしすぐに何かを思い出したのかハッとした顔つきをすると大きく頷く。

「じゃ、みんながんばってね」




昼食を慌ただしくも終えた6人はさゆみの家の地下にきていた。

「道重さんの家って知れば知るほど不思議の塊ですよね。」

外見からは想像のつかない広い空間がそこには広がっていた。
そこには無数のパソコンとディスプレイがおいてあり、世界のあらゆる地点の様子が写し出されている。

亜佑美はふとその中に魔道士協会が同様に写されているのをみて背筋が寒くなる。


34 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:22:19

「はるなん、ここで何するのさ?」
同じく部屋の大きさに目をぱちくりさせている遥が春菜に尋ねる。
しかし春菜はその問いに答えず、ポケットから小さな端末を取り出すと、
それに向かって話しかけた。


「起きてる?エリック!仕事だよ。」


その声と同時に部屋中のパソコンが一斉に暗くなり、ふぬけた声が聞こえてきた。

『うへへ〜、えりちゃんはいつでもお仕事バッチリだよん……Zzz』

その声を聞いて春菜が深くため息をつく。

「は、はるなん、この部屋は?この声は何?」

突然響いてきた声に驚き転げた亜佑美が尋ねる。

「これは、もともと道重さんが使っていらっしゃった『E・R・I・C』通称エリックというまぁ人工知能みたいなもの。
 性能はスゴいんだけどね。如何せん、すぐ寝ちゃうんだ。」

そう言うと春菜は再びエリックに呼びかける。

「エリック!とりあえず、今日の夕方あたりの現場の映像を再現して!」


『ほいほい。』

その瞬間、部屋が瞬いたかとおもうと、部屋のなかにピクセルで描かれた世界が広がる。

「うわっ!なんなんじゃこれ。」
里保も驚きの声を上げる。

「エリック、そしたら部屋のなかの生態反応をスキャン。」

そう言いながら、春菜は注意深く部屋を観察していく。

『部屋にはなんもいないよ』

「わかった。そしたら経時変化を追いたいから5分ごとに進めていって。」

どうやらこのエリック、聖の部屋の様子を再現しているようだ。
そしてその映像を手掛かりに春菜も情報を収集しようとしているらしい。

部屋にはまだ聖が座っている。
始めは、部屋に何か仕掛けられたかと思っていた春菜であるが怪しいものを見つけられなかった。
そのため、エリックにどんどん指示を出していく。

声はふぬけているがエリックの動きは完璧そのもの。
春菜の指示を確実に遂行していく。

そして春菜も出てきたデータをもとに解析を進めていく。

里保はその姿に春菜の『情報屋』としての顔を見た気がした。


35 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:27:35
「ストップ!エリック、ちょっと巻き戻して!何だろうこの丸い球…。
 エリック、解析できる?」

突然、春菜が一点を指差し、エリックに解析を指示する。


「これは…。」




上空を高速で飛行する衣梨奈。

その眼下でおそらく亜佑美も高速で滑走している。

目的地までは後わずか。

『生田さん生田さん、聞こえてますか?』


耳元のイヤホンから亜佑美の声が聞こえる。

「うん、聞こえとうよ。」


『上から行けそうですか?鞘師さんたち新しい敵に遭遇したみたいでしばらくこれなさそうなので…。
 私たちだけで行っちゃいます?』

その言葉に衣梨奈は少し考えると結論を出す。

「そうやね、早いとこ2人助け出さんと。
 えりは上から突入するけん、亜佑美ちゃんはどう?」

『私もこのまま、突破…。あっ…。』


通信が突如途絶える。

「亜佑美ちゃん?どうしたと?亜佑美ちゃん?」

衣梨奈は突然の事態に焦り、必死で呼び掛ける。

「亜佑美ちゃん、亜佑美ちゃん!」

『ザザ…ザー…。生田さん!』
通信が復活する。

「亜佑美ちゃん!どうしたと?大丈夫?」

『ザザ…いく…ん!こ…ら、す…は…。ブツッ…。』

完全に通信が途絶えた。
この通信は春菜の式神を媒体に持ち主の魔力を利用して通信を行う。
それが途絶えたということは亜佑美に何かがあった。

ほとんど聞き取ることはできなかったが亜佑美は何かを伝えようとしていた。
恐らくここから逃げろと。

衣梨奈はここで思案する。
聖と香音は助けたい。
もちろん亜佑美も助けたい。

しかし情報が少なすぎる。
衣梨奈は飛行スピードを落とし、眼下を見やる。

だが最初から考えるまでもなかった。仲間が窮地に陥っている。

ここでの彼女に迷うという選択肢はない

当然、両方救い出す。だからまずは亜佑美からだ。
そう決めると衣梨奈は一気に高度を下げ森の中へと突撃していくのであった。


36 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:30:49
「亜佑美ちゃん!」

地上へと駆けつけた衣梨奈が見たのはうつぶせの状態で倒れている亜佑美の姿であった。

「亜佑美ちゃん!どうしたと?」

衣梨奈は慌てて駆け寄り亜佑美の体を抱き起こす。
だが思っていた以上に状況がひどい。

その背中にはうっすらと血が滲んでいる。
これほどの怪我だとこの場での治癒魔法は焼け石に水だろう。


「い、生田…さ…。」

ようやく絞り出すように声を出す亜佑美。
「喋んなくていいから。すぐにみんなを!」

『生田さん、どうしました?』

耳元のレシーバーから春菜の声が聞こえる。

「亜佑美ちゃんがやられた。すぐに助けを…。」

衣梨奈がそう言い掛けたとき
亜佑美が体を起こし、衣梨奈のレシーバーに向かって叫ぶ。

「だ…め…。みんな来ちゃダメだよ…。今すぐこの森から…逃げ…。」

そう言い掛け、ぐったりと意識を失う亜佑美。

もたれかかる体重を支える衣梨奈。
その時、ふと背後から何か気配を感じる。

耳元のレシーバーにそっと呟く。

「みんな、一時撤退。この森なんか居るとね。
 えりも亜佑美ちゃん連れてすぐ合流するけん、先に戻っといて。」

今までとは明らかに異なるその大きさに衣梨奈は、スッと力を抜くと亜佑美を抱きかかえ
瞬時に飛び上がる。

魔力を込めた跳躍により衣梨奈と亜佑美は森を抜けどんどん空との距離を縮めて行く。

(このまま逃げ切る…)

そう衣梨奈が思った瞬間である。

「えっ…!?」

眼下で森が動いた。
突然の出来事に衣梨奈は思わず自らの目を疑う。


37 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:33:11
そこにあったのは森ではなかった。
巨大な鉄の機械。

さしずめクジラとでも言うべきだろうか。
それが大きく身を動かし空中に浮き上がると衣梨奈たちめがけて一気に突進してくる。

「うそぉ!?まってまってこんなん絶対無理やん…。」

すんでのところで交わした衣梨奈。
その目には恐怖の色が浮かんでいた。

クジラは一度は衣梨奈たちを通り過ぎはしたがその巨大な体に似合わない俊敏な動きで方向を変えると再び衣梨奈たちめがけ突進してきた。

今度もその突進をかわす衣梨奈。
しかしふと息をついた瞬間、衣梨奈の背中に強烈な衝撃が走り、体もろとも中に投げ出される

(しまった…、しっぽ…。)

衣梨奈は必死にスケボーを呼び戻そうとするが痛みのせいでうまく集中できない。

その時眼前にはクジラの口が迫っていた。

「うぁぁぁぁぁぁ………」


つづく


38 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/14(金) 22:37:31
というわけでいつまで続けるのかわかりませんが…
なんかもうおしかりを受ける覚悟はできています

とりあえずエリックファンの皆様ごめんなさい


作者


39 : 名無し募集中。。。 :2015/08/14(金) 23:31:44
イイねイイね
続き待ってます


40 : 名無し募集中。。。 :2015/08/14(金) 23:59:37
何じゃこりゃアァァァ!面白いw魔法使いVS機械兵器かぁ今までにない展開で続きが気になる
クジラはアベンチャーズ1の戦艦をイメージした


41 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 22:08:15
一方その頃、後ろから後を追っていた2人と2匹。
少し前に遭遇した敵に若干手間取ったが間もなく一掃し、
再び敵のアジト目指し進んで行く。

そんなときである。
はじめに違和感に気付いたのは遥であった。

「なんか、ハルの水に混じってる。鉄か?
 いや、血の成分…。」

続けて鼻を一つスンと嗅いだ優樹が急に立ち止まる。

その勢いで飛び出しそうになる体を、遥はグッと堪えると
優樹の頭を叩く。

「何やってんだよ!まーちゃん」
『血の臭い…。どぅー、血の臭いがする。』

その言葉に遥の表情が曇る。
先ほど、自分が感じた感覚。
そして優樹が感じた臭い。

「どうしたの?2人とも。なんかあった?」

狗となった優樹の言葉がわからない里保が尋ねる。

「血が…。ハルの水の魔法から血の気配を感じたんです。
 まーちゃんも血の臭いを…。」


42 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 22:11:03
遥の言葉に里保や春菜に緊張がはしる。
自分達がずっと戦っているのは機械の兵士達。
そこに血の存在はない。

あるとするならば…。


「エリック、あゆみんと生田さん捕捉できる?」

春菜がそうエリックに指示を出した時である。

衣梨奈と通信が繋がる。

「生田さん、どうしましたか?」

『亜佑美ちゃんがやられた。 すぐに助けを…。』

衣梨奈の声は焦りに満ちていた。
その様子から察するに状況はよくないに違いない。

里保や優樹がまさに走り出そうとした瞬間である。

「だ…め…。みんな来ちゃダメだよ…。
 今すぐこの森から…逃げ…。」

亜佑美の声だ。
しかし途中で途切れてしまった。

程なくして、低い声で衣梨奈から通信が入る。

『みんな、一時撤退。
 この森なんか居るとね。
 えりも亜佑美ちゃん連れてすぐ合流するけん、先に戻っといて。 』


43 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 22:13:53
そこで通信は終わった。
一同は顔を見合わせる。
ここで下手に動いて最悪のパターンは衣梨奈と
入れ違いになってしまうこと。

『生田との距離はざっと1キロぐらいだよ〜(´ー`)』

「1キロか…。それなら…。」

亜佑美を連れていたとしても衣梨奈の飛行速度から考えれば、
自分達が移動を開始しても直に中継ポイントで合流できるだろう。

「どうします?鞘師さん。」

「戻ろう。まずは亜佑美ちゃんの治療が先…。」


そこまで里保が言ったときであった。
急に優樹が毛を逆立てうなり始める。
それと同時にエリックが警報を発する。

『何であれが…。ヤバいよみんな逃げなきゃ!』

「どういうことエリック?何があるって言うの?」

春菜の問いかけにエリックは答えなかった。
その代わり目の前の木々がきしみ倒れていく音が聞こえる。

「これ、ヤバいやつじゃね?」


44 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 22:17:25
じりじりと下がる一同。
だんだんと、音が近づいてくる。

「逃げよう!」

駆け出した優樹の背中に遥と春菜が飛び乗り、
里保が地を蹴り飛び上がるのとほぼ同時に鉄のクジラが
その身で木々を破壊しつつ姿を表した。

「うえぇぇ!なんだあれ!とにかく逃げろ!」

一行は木々をかき分け必死でクジラから逃げ始めた。
しかし予想以上にクジラが速い。

次第にその距離を詰められていく。

遥は一度後ろを向き、その事を確認すると
徐に春菜の首を掴み、里保へと放り投げる。

「くどぅー?」

突然ではあったが春菜をしっかり受け止める里保。

「二手に分かれましょう、鞘師さん!
 その方が生存確率が高そうです!」

遥の言わんとしていることは里保にも伝わった。
里保が大きく頷く。

「わかった。くれぐれも気をつけて。
 行くよ、一、二、三!」

合図とともに里保と春菜は左へ、遥と優樹は右へ舵を切る。


45 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 22:21:25
果たして、そのクジラは一瞬躊躇したが、
遥と優樹の方へと向かってきた。

『どぅー、ヤバいよ!』

「いいからまーちゃんは何も考えずにとにかく走って!」

遥はそう優樹を励ます。
そして、この状況から抜け出す方法を思案する。

(やっぱ、アレしかないのかな…。
やりたくないんだけどさ…。)

相手は機械。
このままの調子で逃げ続けると先にへたるのは自分達の方。

それならば…。

遥は優樹に囁く。

「まーちゃん、あと10秒…10秒頑張って逃げれる?」

『10秒?わかった。まー、頑張る。』


そういうと優樹はその脚を速め、遥は魔力を溜め始める。

すると次第に優樹の体の周りに水が集まってきた。
その集まりはやがて巨大な塊となり優樹と遥をすっぽり包み込む。


46 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 22:25:27
「OK!まーちゃん。大きくジャンプ!」
遥がそう言うとともに優樹は地を蹴り、大きく跳躍する。

そこで遥は一気に魔力を解放した。

その瞬間、優樹を包む水の塊が消え、大きな火の塊となって
推進力を生む。

クジラとの距離がどんどん離れていくのを見て、遥はガッツポーズをした。
『どぅー、何これ?』
突然体を火だるまにされた優樹が驚き遥に尋ねる。

「水素エンジンだよ。ロケットとかに使われてる。
 とにかくこのまま逃げき…。」


遥の体勢が崩れる。
『どぅー?』

「やっぱ、ダメか…。ごめん、まーちゃん。
 この魔法…威力は抜群なんだ…けどさ、魔力の燃費悪くて…。
 まーちゃんだけ…でも、逃…げ切って…ね」

そう言ってゆっくりと力無く優樹の背から落下していく遥。
遥の魔力によって体の自由の利かない優樹は叫ぶことしかできなかった。

『どぅー!どぅー!待って!嫌だよどぅー!』


続く


47 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 22:31:34
こんばんは
やりたい放題ですみません

本編更新来ないかな

作者


48 : 名無し募集中。。。 :2015/08/16(日) 22:47:14
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
続きwktk


49 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/16(日) 23:28:45
どなたかわからないけど更新のたびに本スレに書き込んでくださる方
いつもありがとうございますm(_ _)m


50 : 名無し募集中。。。 :2015/08/17(月) 12:59:08
良いものはみんなで共有したいから


51 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/20(木) 22:20:11
「どぅー!」

優樹の背を離れゆっくりと落ちていくその様子を見て思わず聖は叫ぶ。

しかし、画面の向こう側で起きていることに対し、捕らわれのみとなった自分が出来ることは
遥の無事と他の友人達の無事を願うことぐらいしかなかった。

「聖ちゃん…。」

岩越しの部屋から声が聞こえてきた。
香音の声だ。

「香音ちゃん…。何で、聖はこんなにも無力なの…。
いつもみんなに迷惑ばかりかけて。」

自分の無力さに腹が立つ。
そして泣きたくなる。
そんな気持ちが聖を弱気にさせる。

すると
「いいんじゃない?」

壁の向こうから香音ののんびりとした声が聞こえてくる。

「えっ?」

思わず聞き返す聖。

「無力なのはたぶん悪いことじゃないよ。
というより力がある方が考えること多すぎて大変じゃない?
きっと、えりちゃんとか里保ちゃんとか
毎日、私たちが考えなくてもいいこと、考えて過ごしてると思うよ。」

無力さ故の苦悩。それと同じように力を持つ故の苦悩がある。

今までそんなことは考えたこともなかった。
「魔道士」の存在をつい最近自分は知った。
自分が持つことのできない力。
踏み入れることのできない世界の存在に憧れ、また時に嫉妬し、運命を呪ったこともあった。

しかし、考えてみればそれもそうかもしれない。


そう言って香音は言葉を切る。
そして壁の向こうとはいえ少し照れたのだろう。
笑いながら言葉を続ける。


「いいじゃん無力。いつでもお姫様気分になれるしね。
アハハ。そしたら生田が王子様か!聖ちゃんにはうってつけだね!」

「んなぁ!か、香音ちゃん何言っちゃってんのさ。」

衣梨奈が王子様で自分がお姫様抱っこされている姿を想像した聖は、自分の顔が赤くなるのを感じ
慌てて首をブンブンと大きく振る。

「違うもん。聖、そんなんじゃないもん!」

「またまたぁ。まぁでも今は信じよう?
みんなの力を、みんなの強さをさ。」

「うん!」





52 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/20(木) 22:24:34


ほうほうの体でベースポイントに辿り着いた。
しかし、誰一人としてその顔に喜びの色はなかった。

特に優樹は目の前で遥が落ちていく中何もできなかった。
そのため、ポイントに着いてからもずっと泣き通しであった。

その声を聞いているだけで里保も春菜も居たたまれない気持ちになる。


今回の作戦では聖と香音を救出できなかったばかりか仲間を3人失った。

「いやいや、まだ死んでないでしょ。勝手に殺さないの」

突然部屋のなかに声が響く。

「「道重さん!」」
『さゆ!』

そこにはさゆみの幻影が映り、腰に手を当て呆れた顔つきで立っていた。

「だからあれほど言ったじゃない。しっかり情報収集しないとって。
せっかくエリックにも起きてもらったっていうのにね」

『さゆ〜(´ー`)ひさしぶり』

「久しぶり〜(´ー`)じゃないわよ。全く!」

『そうそう!さゆ、何故かあいつがいたよ。
化け物クジラ。あん時ボコボコにしたのにね〜。』

さゆみの呆れた様子に構わず話を続けるエリック。
しかしその言葉に食いついたのは春菜ですあった。

「化け物クジラ?私達を襲った?
あれについて何かご存知なんですか?」


全員の視線がさゆみに集まる。

春菜の問いにさゆみは観念したかのように小さく頷く。

「あれはね…。実は…。」

『あれ、さゆの失敗作なんだよw』
「えっ?」

思わぬ一言に全員の目が点となる。
まさかあの自分達を襲った機械がさゆみによるものだとは誰も思っていなかった。


53 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/20(木) 22:27:08
「ちがーう、さゆみはちょっと手伝っただけ!
機械に命を吹き込んだだけなんだから。
ていうかあれに入ってんのエリックのコピーじゃない!」

「えっ?」
本日2度目の驚きの声が上がる。

さゆみが敵の兵器に関わっている。
それだけでも、十分な脅威だというのに、加えてエリックも関わっているというのか。

「そっか、あれが悪い人の手に渡っちゃったんだ…。」

「道重さん。」
里保は姿勢を正し、さゆみに言う。

「詳しくお話、聞かせてもらえますか?」

続く


54 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/20(木) 22:30:43
みなさん
こんばんは
今回の更新は少し短めになりました

そろそろネタ切れが顕著にww


55 : 名無し募集中。。。 :2015/08/21(金) 01:00:56
みずっき良いね〜香音ちゃんの考えとか本編とはまた違った二人の関係性にほっこりする

てかさゆ…元凶はあんたかい!w


56 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/29(土) 16:13:44
「大昔、ホントに大昔の話なんだけどね。
ある天才魔道士がいたわ。それこそさゆみなんかその足元にも及ばない、それぐらいの天才。」
さゆみは一つ小さくため息をつくと語り始めた。
まるで遠く懐かしむかのように少し天を仰ぎながら。


「その頃はね、国の力が抱えている魔道士のレベルで決まるような、そんな時代でね。
いい魔道士を手にすれば当然国は安泰だし、逆に優れた魔道士を討ち取り、その魔法が奪えれば
自ずと地位と名声が与えられる。だから、戦いが至るところで起きた。
そしてたくさんの血が流れたの。」


里保も少しその話は知っていた。古き魔道士の時代。
今とは異なり、魔道士が一般の人に混じって国を治めていた。
きっととてつもない昔の話に違いない。

「で、その魔道士も優れた実力の持ち主であったから当然いろいろな国や魔道士に狙われていたわ。
でも、どんなに狙われて襲われても必ず勝つの。土壇場でひっくり返す能力に長けていたのかもね。」

そこでさゆみは少し笑うと顔をすっと引き締める。

「でも来る日も来る日も戦いに明け暮れてきっと疲れちゃったんでしょうね。
ある時、『もしも生まれ変われるならば私は風になりたい』と言い残してその魔道士は姿を消したの。」

さゆみはここで一度言葉を切る。
話が進むに連れて3人の顔はどんどん真剣味を帯びていく。

「お茶、煎れようかな。ちょっと待ってて。」

さゆみは堅い表情をしている3人の様子を見て少し面白そうにいうと席を立ち上がる。
そしてしばらくした後、その手にポットとティーカップをもって再び現れた。


57 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/29(土) 16:26:46

「エリック!」
『ほいほい(´ー`)』
さゆみがエリックに一声かけると、具体的な指示は何もしていないのに、
簡素であった部屋の風景が一瞬にして変わる。

そこは、普段と変わらないさゆみの家のリビングであった。
そして不思議なことに自分達の前にもカップが準備されていることに驚く。

「エリック自体も相当昔に創られたもの。もうどれくらいかな。」

お茶と菓子を準備しつつさゆみが言う。

そして一通り準備し終えると再び、語り始めた。

「どこまで話したっけ?あぁそうそう、その天才魔道士はいなくなってしまったから。
当然、圧倒的な力を無くしてしまったその国は他国に攻められあっと言う間に陥落したわ。」

そういいさゆみは一口お茶をすする。

「あの道重さん?」

「ん?何、りほりほ?」

里保は魔道士が姿を消したという言葉から一つ気になったことがあった。

「その魔道士はどうやって消えたんですか?魔法で?」

「そうね、恐らく…魔法の一種…なんだろうね。あれは。何せ、天使だからなぁ。」

さゆみは考え込むように言葉を一つ一つ選び出すように里保に答える。

「はっきりとしたことはわかってないんですか?」
重ねて里保はさゆみに尋ねる。

彼女自身、それを知ってどうこうというわけではない。
ただ、何か言い知れぬ不安が里保の胸の中に溢れたのだった。

もしかしたら、さゆみも居なくなってしまうのではないかと。

そんな気持ちを知ってか知らずかさゆみは里保の目を真っ直ぐに見つめると
少し困ったような笑みを浮かべる。そしてこう答えた。


58 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/29(土) 16:44:33

「さゆみも又聞きだからねぇ。」
「そうですか。すみません、話の腰を折ってしまって。」

そんな里保に対し、さゆみは気にしてないよという風に小さく首を振ると再び話し出した。

「他国の目的の中にはもちろん領土の拡大もあったわ。
でも、それ以上に人々の関心があったのはその魔道士の研究内容。」

「当然ですね。」
春菜も同意を示す。

「でもね、捜索隊がいくら城内をしらみつぶしに捜しても
研究の内容はおろか魔道士がいたという痕跡すら見つけることができなかった。
そこで、複数の国の選りすぐりの魔道士達がチームを組んで魔法による国中の透視が行われてね。
その結果ね、彼らはついに町外れの森の地下に魔力を通さない部分を見つけたの。でも、記録はここまで。この先300年間、全くその国についての記録はなかったわ。」

「えっ?」

「何か起きたのは間違いないね。
その理由が気になったさゆみは作りたてのエリックをもって、
最後の記録の地、YA020125へと向かったの。」




59 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/29(土) 17:07:07
魔道士協会執行局局長の生田はその日、休暇を取りひさびさに妻と過ごす時間を楽しんでいた。

自分の職務上、家を空けることが多く生活も不規則になりがちだった。
更に4年前に娘の衣梨奈が、そして1年前に里保がそれぞれさゆみのもとへ行ってからは家に残るのは妻一人。

生田はそのことを非常に申し訳なく思っていた。

だから、今日は一日休みを取り、家で過ごす。そう決めていた。

緊急時以外、自分には連絡をしないようにと副局長と秘書の石村には伝えてある。
協会の端末を定期的に確認はしているが恐らく鳴ることはないだろう。

その辺のさじ加減は石村がしっかりやってくれる、生田は完全に腰を落ち着けていた。


「あなた、お茶が入れましょうか?」
立ち上がりかけた妻を生田は制する。

「あっいや、俺が入れよう、偶には。」
「えー?あなたお茶煎れられるの?」
「バカにするな、職場ではいつもいれているんだ。」

そういって生田はソファから立ち上がりキッチンへと向かう。
やかんでお湯を沸かし、熱くなりすぎないように温度を気にしながら、お茶を注ぐ。
「おっと、仕上げ仕上げ。『ちちんぷいぷい、おいしくなーれ』よし、これでよし。」

お茶菓子と共にリビングに生田が戻ると、妻はお茶を一口飲む。

「おいしい!」
「だろ?」
「むむむ、これは負けてられないわね。私も頑張らなきゃ。
あっそういえば…。」

お茶菓子を頬張っていた生田は視線だけ妻へと向ける。

「端末、光ってたわよ。何か連絡じゃない?」

「ん?そうか、ありがとう。」


60 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/29(土) 17:13:13

そういって、生田は食べかけのお茶菓子を手に端末を見る。
短時間に執行局と石村の両方から数件の着信があった。

そうこうしているうちにまた、執行局から着信が来る。

「もしもし。私だが。」

『あっ、局長、石村です。すみません、お休みのところ。』

「それは構わないが…、どうした?」

『それが、郊外の街に突然、巨大な空飛ぶクジラが来襲して、混乱が生じています。
現地にいた協会員とも連絡が取れません。
そのクジラは街を破壊しながら真っ直ぐ中央へと向かっています。』

「何!?」

「あなた、これ見て!」
妻の声に生田は端末を耳に当てながら振り返る。
そこにはテレビの画面を指差しながら固まっている妻の姿があった。

「んな!?」
そこに映し出されていたのは、地元住民が撮ったと思われる現地の映像であった。
だいぶ、解像度が悪く見づらいものではあるが確かに何か飛翔物が確認できた。
それは恐ろしい勢いで画面を横切る。

「危ない!」
反射的に生田は画面に向かって叫んでいた。
その数瞬後、衝撃波が辺りを襲う。木々が倒れ、画面に迫り真っ暗になったところで映像は終わっていた。

生田の決断ははやかった。

「行かなければ。」
「あなた!危険ですよ。いくら何でも…。」

今にも泣き出しそうな顔の妻を抱きしめる。

「どうしても私が行かなければならない。」

妻には黙っておこう。少なくとも今は。
生田はさも、自分が責任者という立場から行かなければという風を装った。


絶対に言えなかった。黄緑色のスケボーがその巨大な背中に刺さっていたことなど。
生田は、妻から離れると手早く支度をし、家を飛び出していった。

リビングの湯飲みは温かいまま、まだ湯気が昇っているのであった。

続く


61 : ◆JVrUn/uxnk :2015/08/29(土) 17:19:05
みなさま
こんばんは
すみません更新間隔あきました

作者


62 : 名無し募集中。。。 :2015/08/30(日) 01:21:20
すごい急展開!もしかして生田パパの本気が見れるのか!?
実は生田執行役が外伝の真の主人公だよな


63 : 名無し募集中。。。 :2015/08/30(日) 01:22:48
>>62
間違った生田局長だorz


64 : 名無し募集中。。。 :2015/08/30(日) 05:23:51
待ってたぜ!
面白くなってきた


65 : 名無し募集中。。。 :2015/09/04(金) 19:44:20
ふぁぁぁぁー!
本編更新北!

りほりほー(自重←


66 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/04(金) 19:52:50
我ながら、凄くわかりにくい話になっていると思います。
ということで、ちょっと整理…。

ここまでのあらすじ

聖、香音が誘拐された。

さゆみのもとでその事実を聞いた、衣梨奈をはじめとした6人は
2人を救出するために敵のアジトへと奇襲攻撃を仕掛ける。

だが、その戦いの中で、別に行動をしていた衣梨奈と亜佑美、さらには
優樹を助けるために魔法を打った遥の行方がわからなくなってしまう。

命からがら難を逃れた里保、春菜、優樹は人工知能『エリック』と
ともに彼女らを襲った謎の機械についてさゆみから話を聞くことにした。

その一方で彼女らを襲った謎のクジラ兵器は何故か中央の街へ。

街へと危機が迫る!



ということで、続き行きます。


67 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/04(金) 19:56:33
「ねぇ…香音ちゃん…。なんか揺れてない?」

執行局へクジラ来襲の一報が入る少し前、敵のアジトに
捕らわれの身となっていた聖は建物の異常に気づく。

足元からお腹に響くように細かく部屋が震動している。

しかもその揺れは少しずつであるが大きくなっているように感じる。

香音も外に向け聞き耳をそばだてる。
通路を走り回る音が明瞭に聞こえてきた。
時折、怒号も聞こえてくる。

そのとき、建物全体が大きく揺れる。

「きゃあ!」

思わず悲鳴がこぼれる。

部屋の天井からは砂がパラパラと落ちてきた。

再び、衝撃音と共に部屋全体が揺れる。
立っていることができずに膝をついた聖に
先ほどよりも大きな土塊が降り注ぐ。


68 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/04(金) 19:59:49
(このまま、聖達…、死んじゃうのかな…。)
窮地に陥ったときほど、心を強く持つべし。

これは祖父の教えだ。

心が傾けば必然的に状況も傾く。

経験的にそれを知っていた祖父は幼い聖にいつもそれを
言い聞かせていた。

だが、今この状況下で確実に聖は弱っていた。

精神的に、だ。

「大丈夫、聖ちゃん?」

頭のすぐ上で香音の声が聞こえる。
それと同時にそっと肩の上に温かい感触が広がる。

「ん。ありがとう、香音ちゃん。聖は大丈夫…って…。」

聖はここまで言って違和感を覚えた。
自分とは別の部屋に閉じ込められているはずの香音が
なぜこんなにも近くにいるのだろう。


69 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/04(金) 20:04:19
聖が顔を上げ、後ろを振り返ってみるとやはりそこには心配そうな顔つきで
聖を見つめる香音の姿があった。

心なしか少し香音の足が太くなったように感じる。

「香、香音ちゃん!?ど、どうして、どうやって…。
 きゃあ!」

再び、2人の側に大きな土塊が墜ちてくる。

香音はそれを見て小さく頷くと、立ち上がり、2人を
閉じ込めている壁の前へと歩いていった。

「くそっ、生田のやつ、あとでしばき倒してやる。
 聖ちゃん、離れてて。」

香音は誰にいうとでもなく、そう呟くと、
壁の前で2回ほど軽く跳躍をしてリズムをとった。

「ちょっと、香音ちゃん!何する…。」

「おりゃあぁぁぁあ!」

驚く聖を余所に香音の右足から放たれた蹴りは
轟音とともに石造りの壁を木っ端みじんにする。

立ち込めた土煙が晴れるとそこには大きな穴が存在していた。


70 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/04(金) 20:10:51
「香、香音…ちゃん?」

聖の呼びかけに香音が振り向く。
その顔は満面の笑みだ。

「なんちゃってー!」

「!?」

「聖ちゃん、あたしが壊したと思ってるでしょ?」

「えっ、だって香音ちゃん…足…。」
事態がわからず、目をぱちくりさせている聖。
すると、香音は自分の右足の裾を捲り上げる。
「じゃーん!」
聖はその姿を見て更に驚く。
そこに香音の右足は…あるのだが、何故か筋骨隆々の機械が覆っていた。

「あたしの部屋、廃品回収部屋でさ、適当に
 色んなパーツ組合せたらすごくいい感じで。
 だから、こっちにもほら!」

香音が指差す先をみるとそこには同じような穴が広がっている。

その穴から香音がいた部屋をのぞき込むと無数の機械が
散乱しており、作業の後が見えた。

「すごい!香音ちゃん、すごいよ!」

聖は心の中に湧いた感想をありのままに香音に伝える。
香音はそれを聞いて少し嬉しそうな顔をすると、外を指差した。

「行こ、聖ちゃん!」

続く


71 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/04(金) 20:14:35
今回はここまでです
ちゃんとストーリーを回収しないといけませんね。
完結できるように努力します

作者


72 : 名無し募集中。。。 :2015/09/04(金) 22:31:50
香音ちゃんがアイアンマンみたいになっとるw


73 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/14(月) 14:45:44
全然更新できてなくてごめんなさい
今日の夜あたりやっと更新できそうです


74 : 名無し募集中。。。 :2015/09/14(月) 18:26:38
wktk


75 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/15(火) 07:59:35
香音の足が大変なことになっている一方で、里保達はさゆみの話を聞いていた。

どうやら、この話の佳境に入りつつあるらしい。
あの巨大な空を飛ぶクジラ。

本人は『手伝っただけ、命を吹き込んだだけ』
と言ってはいるが里保は確信していた。

さゆみは自分達を瞬時に危機的状況に追い込んだ、
あの機械の仕組みを、正体を知っていると。

衣梨奈達との連絡が途絶えて、もう随分と経った気がする。

実際はそれほど前のことではないが今の3人にとっては、
さゆみがお茶を飲むために使う0.1,2秒ですら
とても長い時間のように感じて仕方なかった。


『さてと、さゆみ達は、まぁエリックなんだけど、
実際に最後に記録が残っていた場所に実際に行ってみたのね。
でも、そこについてもなあんにもなかったわ。
 ただ小高い丘が広がっているだけ。
 まぁでも随分昔の記録だったからね。仕方ないなぁとか思って。
 でもさゆみね、手ぶらで帰るのもなんだからと思って
 とりあえず、その丘を登って見ることにしたの。』




76 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/15(火) 08:02:41

一面に広がる砂の世界。

かつて巨大な文明都市として栄えた面影はどこにもない。

度重なる属国化と反乱、革命により国土は荒れ果て、人民も次第に土地を離れていった。

後は自然が成すままに、風化しやがて記録にも残らなくなった。

さゆみがその古い記録を見つけたのはほんの偶然。

柄にもなくとある町の古文書を扱う施設にふらりと入った先で
見つけたものであった。

何故、自分がそれを手にしたのかはわからない。
ただ、何か力に導かれるかのようにさゆみはページをめくっていった。

読めば読むほど謎が深まる、それが当初さゆみが抱いた印象だ。

その頃のさゆみは特にやることもなく、自分の時間を持て余していた頃だった。

「よし、いっちょ行ってみるか!」

そうしてたどり着いたのはよかったが…。


77 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/15(火) 08:08:39
「なにこれー、ほんとに砂ばっかじゃない。
 もう、さゆみ疲れたー。」

丘の上から周囲を見渡しては見たがやはり砂ばかりであった。

幾分、腹の立ったさゆみはエリックに命令する。

「エリック、あらゆる手段でこの土地を丸裸にしなさい!」

『ひぇぇぇ!面倒くさいよ〜、いいじゃん、
 さゆー、帰ろうよ!』

「よくないの。
 せっかくさゆみがやる気を出してここまで来たのになにもないなんて許せない。
 石油でも何でもいいから見つけなさい!」

さゆみがそう言い、エリックがスキャンニングを
始めた瞬間であった。

ズズズ……

足元から伝わる不気味な振動。
少しずつ丘が高くなり始めていた。

「ちょっとエリック!なによこれ!」


78 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/15(火) 08:12:05

『さゆー、ヤバいよ!
 これ丘じゃない。これ……。』

ぐぉぉおおおお…

身の危険を感じ、瞬間的にその場を離れるさゆみ。
空中で静止したさゆみが見たものは有り得ない物体だった。

「く、クジラ?」

そのクジラを数回体をくねらせると自らの体に
乗っている砂を払い落とす。


立ち込める砂埃は瞬く間に辺りの視界を奪っていく。

さゆみは自らの視界を阻む砂を払いのけようと魔力を込めた。

次の瞬間である。
まるで魔力に呼応するかのようにクジラが上を向くと
真っ直ぐにさゆみに向かって突進してきた。

『さゆ、危ない!』


79 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/15(火) 08:16:55
エリックからの警告がなければ確実に直撃を喰らっていた。
恐らくただではすまなかっただろう。

「何なのよコイツ!」
『クジラと…ドラゴンのハイブリッドっぽいね!』
エリックが解析結果をさゆみに伝える。

クジラとドラゴン…。
恐らくはこれがこの地のあらゆる記録を奪った元凶なのだろう。
魔力に呼応し、訪れる魔道士の命をことごとく奪っていったに違いない。

さゆみがそう直感で感じることのできるくらい、
そのクジラの攻撃力は高かった。

『どうする、さゆ?』

2撃目をかわしたさゆみはエリックに向かい言う。

「このさゆみにケンカ売ろうなんて100年早いわ。
 しっかり礼儀を教え込んでやらないとね。」

続く


80 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/15(火) 08:19:22
物語が停滞気味ですみません
ちょっと私事がたて込んでまして…

間隔があきすぎないように気をつけます

作者


81 : 名無し募集中。。。 :2015/09/15(火) 08:51:45
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


82 : 名無し募集中。。。 :2015/09/15(火) 18:35:37
ちゃゆううううううううううううううう


83 : 名無し募集中。。。 :2015/09/15(火) 20:46:10
なんかドンドン話が大きくなっていくw


84 : 名無し募集中。。。 :2015/09/15(火) 20:48:06
作者さんのペース書いて貰えばいいですよ〜


85 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/16(水) 20:41:22
どうまとめようか必死に考えてます(笑)


86 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/23(水) 12:44:29


「それで、道重さん、あのクジラと闘ったんですか?」

『そっ!あのクジラとさゆみは闘って…。』
『ぼろ負けだったよねー』

「「えっ!?」」

『ちょっとエリック!余計なこと言わないの!』

さゆみですらかなわなかった相手に自分達が勝てるはずはない。
明らかに失望の色を浮かべる3人。

それを感じ取ったのだろうか、さゆみがやさしく微笑む。

『大丈夫。あいつはさゆみが作ったってさっきエリックが言ってたでしょ?
確かにさゆみは負けた。
 でもそれはあいつが、今まで魔道士から奪ってきた魔力をがんがんに使ってきたから。
 戦い方が分かれば幾らでもやりようはある。
 目の前の大きさに焦って自分もフルパワーで挑んだら先に負けるのは当たり前だから。
 要は瞬発力と持久力のバランスが大事なのよ。』


87 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/23(水) 12:47:12
そう言ってさゆみは3人の顔を見る。




目の前に広がる巨体の残骸。
さゆみは肩で息をしながらがっくりと膝を地につけた。

勝った。

その思いで今はいっぱいだった。
攻撃しては離れ、距離をとり、また攻撃する。

さゆみのとった方法は確実にクジラを傷つけ破壊していった。

「ふう。」

さゆみは一つ大きく息をつくと立ち上がり、ゆっくりと動かなくなったクジラの元へと近寄る。

そっとその体に手をふれるとクジラに残った残留思念が
さゆみの元へと流れ込んできた。

『憎い憎い…。私を作った魔道士が憎い…。』

その強烈なイメージに思わず手を離すさゆみ。

そして深くため息をつくと徐に手のひらを上に向け小さな銀色の球を
取り出した。


88 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/23(水) 12:52:21

クジラから伝わってきたイメージは黒一色で
既に他のものの干渉を許さない状態ではあった。

本当であれば、このクジラは破壊しなければならない。
遺すことはいずれ未来の時代に禍根を生む。

それははっきりとわかってはいたのだがさゆみは
どうしても行動にうつすことができなかった。

ならばと思い、せめて自分にできること。

さゆみはこのクジラに『こころ』を与えることにした。
それもただの『こころ』ではない。
自ら行動できるようにエリックをベースとして。





『だから本来あのクジラは暴走するわけがないの。
 だって、それが起きることは即ち,エリックの暴走を意味する。
 でも、みる限りエリックはまともだから…。』

さゆみの話を聞いているうちに春菜は先ほど聖の部屋で
見たものを思い出していた。
早速、先ほどの画像をその場に出してみる。


89 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/23(水) 12:56:17
「道重さん…これに見覚えは?」

その浮かび上がった小さな銀色の球を見てさゆみは
一瞬驚いた表情を見せたがすぐに納得したようだ。

『なるほど…ね。それでか…。』

「えっ?それは一体…。」

『盛り上がっているところ悪いんだけど。』
エリックが突然口を挟む。

『あのクジラ、アジト破壊して、町の方へ飛んでいったみたい。』

「「「えっ!」」」
エリックが空中に先ほど生田が見た映像と同じものを映し出す。

「大変、どうしましょう鞘師さん?」

里保は腕組みをして考える。
だが結論はもう出ていた。

「ウチはあのクジラを止める。
 街への侵入は阻止しないと。
 ただ優樹ちゃんはふくちゃんと香音ちゃんの元に。
 いい?」


あまりの話の長さにうつらうつらとしていた優樹であったが、
その声にははっきりと頷いた。

「よし、みんな」

里保が一つ呼吸を置く。

「いざ、参る!」

意気高く盛り上がる3人をさゆみはどこか少し悲しげな
表情を浮かべ見ているのであった。


続く


90 : ◆JVrUn/uxnk :2015/09/23(水) 13:00:19
やっ、やっと書き終わった…。
今回の更新は今イチだと思います。
何も見せ場のない部分を書くのは難しいです

作者


91 : 名無し募集中。。。 :2015/09/23(水) 22:01:13
更新乙です

続きものだと毎回盛り上がりを作るのは大変だよね


92 : 名無し募集中。。。 :2015/09/24(木) 08:10:03
緩急つけた方が盛り上がるでしょ

アベンジャーとリンクしてて見たことある人はニヤリとするw


93 : 名無し募集中。。。 :2015/09/24(木) 22:04:43
本スレが落ちてる・・・


94 : 名無し募集中。。。 :2015/09/24(木) 23:27:40
ホントだ…

なんかスレの乱立でもあったの


95 : 名無し募集中。。。 :2015/09/25(金) 08:03:44
なんかどこかのサーバーが落ちてお客さんが大量に押し寄せたらしい


96 : 名無し募集中。。。 :2015/09/25(金) 19:26:10
新スレたったね

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 24 [転載禁止]���2ch.net
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1443176215/


97 : 名無し募集中。。。 :2015/09/25(金) 19:34:12
本スレ立てました

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 24 [転載禁止]©2ch.net
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1443176215/


98 : 名無し募集中。。。 :2015/09/25(金) 23:38:02
ナイスですー!


99 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/01(木) 22:51:10
街の中心部から約10キロ。

舞波は副局長と相談した上でこの地に防衛拠点を構えることにした。

このあたりは一面開けた土地であり、身動きが取りやすいことが理由の一つであった。

また、相手の正体が不明なうえ、あそこまで周囲を破壊していることを考えると障害物が
ある方が却って危険なような気がしたのだ。


「あいつら、大丈夫でしょうか?」
隣で不安そうな面持ちを浮かべ、副局長が舞波へと尋ねてくる。

舞波はその問いかけにすぐには答えなかった。
状況は芳しくない。

ただそれでも舞波はかつて共に戦った自分の仲間を信じていた。

「頼んだよ。みんな。」






「梨沙ちゃん!舞ちゃん連れてここからすぐに退避して!」

「で…でも…。」

「でももへったくれもないの!
なっきーも千聖連れてここから離れて!」

目の前の相手から放たれる衝撃波を緩和しながら桃子が叫ぶ。
既に知沙希と愛香は負傷し退避、舞や千聖も相当魔力を消費し
これ以上前線に居続けるのは逆に危険であった。

「もう!なんなのよコイツは。」
「いいから、桃、今はやるしかないって。」

互いに通信を取りながら『teamQ』の舞美、愛理、舞、そして『Can girl』の桃子は
クジラの周りを飛び回り、その巨大な魔力に攻撃を加え続けていた。


魔道士協会の中でも特に秀でた実力を持つ面々であったがかなりの苦戦を強いられていた。


100 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/01(木) 22:53:52
とにかく強い。

その巨大さにも関わらず、敏速に動くこと、そして攻撃しようと
魔力をため始めた瞬間に逆に攻撃を受けてしまうこと。

これらの点で彼女たちは手こずっているのであった。
現段階では足留めができてはいるが、それがいつまで保つかはわからない。
防衛拠点から街まではずいぶん距離があり、協会員も多数、待機はしている。

だが、桃子たちは直感的に理解していた。

恐らくは自分たちが最終ラインであると。

ここが陥落すれば、この存在に太刀打ちできるものなどいるわけがない。

そういった意味では、少数精鋭でしかも気心が知れたもの同士で戦えるというのは
唯一の救いではあった。

「みんな離れて!」
その声に一同が即座に反応し、散開する。
その瞬間、猛烈なスピードと魔力をまとった舞美が右ストレートを繰り出した。

クジラと少し距離をとり、この一撃にかけた舞美。

その勢いは凄まじくクジラの巨体が大きくのけぞった。

「やった!さすが舞美ちゃん!」

だが、そう思ったのも束の間であった。
舞美の一撃を推力としクジラのしっぽが、喜び、気のゆるみを見せた舞の元へと襲いかかる。

「舞ちゃん危ない!」

瞬時に危険を察知した舞美が舞を庇うため飛び出したが2人とも
もろにそのしっぽを喰らい、地面へと叩きつけられてしまった。


101 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/01(木) 22:57:14

「舞美!舞ちゃん!」

愛理や桃子が2人の元へと近づこうとするがクジラはさらに2人に向けて無数の針を発射していた。

攻撃自体は、認知できた。
だが避けようにも身体が動かない。

もうだめかもしれない。

舞美は必死に舞を庇った。


針の雨が降り止んだとき、そこには全身傷だらけで動かない舞美と舞の姿だけが残されていた。


そして、最後の一本がその身体に突き刺さろうかという次の瞬間。


「紅焔鎌鼬!」
「熄戟!」

突如、何かが飛んできて針を跡形もなく消し去る。

愛理と桃子がその飛んできた方向を見ると

「みや!」
「鞘師ちゃん!」

雅はゆっくりと倒れたまま動かない舞美と舞の元へと近寄ると2人を抱き起こす。


そして、キッとクジラを睨みつけた。
その後ろに桃子と愛理も続く。

「鞘師ちゃん、その2人よろしくね。」

嘗て、執行局には幻と言われた特殊チームが存在していた。
そのチームはどんな依頼も受け、どんな窮地もひっくり返す。


だが、流れゆく時代の中で、だんだんと活動を縮小し、ついにはだれしもがその存在を忘れてしまっていた。

チーム名『ボーノ』

輝き始める3人の体。
「たっぷりとお返し、させてもらうからね。」


続く。


102 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/01(木) 22:59:18
こんばんは

また更新間隔あいてすみません
ここらあたりから話が終息へと向かう予定です


作者


103 : 名無し募集中。。。 :2015/10/02(金) 00:48:38
ここにきて℃-uteそしてBuono!参戦なんて…鳥肌たった!!やっぱ外伝ならではの楽しみだね

ところで鞘師はいつの間に執行局に戻って来たんだろ?


104 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/02(金) 08:45:38
鞘師…
確かに登場しておきながらどうやって登場したのか書いてないですね汗

ここはエリックの追尾システムと℃-ute、ももちの足留めのおかげで
間に合ったということにしておきましょう


105 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/09(金) 23:19:17
「…く……ん、…田さ…。生田さん!」

遠くから誰かの声が聞こえる。
その声が気を失って倒れていた衣梨奈の意識を引き戻した。

「う…うん…。亜祐美…ちゃん?」
「良かった!生田さん、もう目を覚まさないかと思いました!」

目を開いた衣梨奈の前には今にも泣きそうな亜佑美の顔があった。

「ここは…?」

起き上がった衣梨奈があたりを見渡す。
そこは異質な空間であった。

天井はどこまでも広がり、また左右にも見渡す限り
空白の空間があるのみだった。

「私もさっき歩き回っていたんですけど、どこ行っても
同じ様な景色でなんだか気が狂いそうで…。」

亜佑美がそこまでいったときふと、
衣梨奈はあることに気がついた。

「あれ?亜佑美ちゃん?さっき怪我しとらんかった?」


106 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/09(金) 23:22:41
亜佑美の様子をみる限り、どこにも怪我をしている様子はない。
それどころかむしろ元気になったようにも見える。

「そうなんですよね。
私起きたらなんかすごくピンピンしてて。」

そう言って数回その場で飛び跳ねる亜佑美。

そのとき、はらりと一枚の紙が亜祐実の上着から舞い落ちる。

その紙を拾い上げ一目見た瞬間に衣梨奈は
この不思議な現象を引き起こした正体がわかった。

『コラー!
 いつもむやみに飛び上がるなって言ってたでしょうがー。』

この独特な言い回し。
昭和を感じさせる空気感。

衣梨奈が大好きな、そして尊敬してやまない人物。

「新垣さん!!」

衣梨奈がそう叫んだ瞬間、あたりの景色が一変し、
気づくと衣梨奈と亜祐美は元の森の中に立っていた。

「えっえっ!?なにが起きたんですか?」
突然の出来事に慌てる亜祐美。


107 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/09(金) 23:37:33
そんな亜佑美に事情を説明しようとしたときであった。

「生田?亜佑美ちゃん?
 よかったぁ、2人とも無事だったんだ!」

背後から声が聞こえ、バッと振り返る2人。
だが、次の瞬間、2人の顔は驚きに包まれた。

2人の視線の先には、聖をお姫様抱っこした一台の香音型ロボットがいた。


「「でっでっ、でたぁぁぁぁ!」」



「ギャハハハ!」

森の中に大きな笑い声が響く。
その声の主は聖と香音を助けに向かっていた優樹であった。

衣梨奈と亜佑美が意識を取り戻し、聖と香音と合流して間もなく到着したのである。

「それにしても鈴木さん、もうすっかりお似合いというか…。
 まるで、アイアンマン…いや、ウーマンですね。」

春菜の言葉に香音が頭をかきながら照れる。

「いやぁ、自分でもびっくりだわー。
 最初は足だけだったのにね」

無事、2人を救出できた喜びから場の雰囲気が一瞬和む。
しかしながら、彼女たちに悠長にことを構えている暇はなかった。

街にクジラが向かった。その後を里保が追っている。

「えりたちもいくとよ。たっぷり仕返しせんとね。」


108 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/09(金) 23:42:29




「たっぷりとお返し、させてもらうからね!」

そういった雅は魔力を全開放させる高速移動を開始した。
それと同時に桃子と愛理も合わせて開放させるとその姿を消す。

次の瞬間、クジラの両サイドから雅と桃子が現れ、
強烈な攻撃を同時に放つ。

「コユビーム!」
「ミヤビーム!」

一方で愛理は上空でその様子を見て呆れている。

「ねえそれあたしもやんなきゃだめ?」

「「ダメ!」」

声をそろえてそういう2人に苦笑しながらも愛理はフッと再び姿を消すと
クジラの背中の上に現れる。

それを感じたのだろうか、クジラが大きく身をひねり出す。

その衝撃にも動じず愛理は一つ大きく息を吸うと、
高周波の魔法を繰り出した。


109 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/09(金) 23:46:21
近くの岩場が音もなく次々と粉砕しサラサラと風に舞っていく。
クジラの胴体も少しずつではあるがひび割れた。

すかさず、そこに雅が空中から取り出した棍棒を叩きつける。


だが、その攻撃はクジラの魔力に跳ね返されてしまった。

大きく後方に飛んで距離を取った雅は自身の右手に残った
棍棒の残骸に一瞥をくれると桃子の方へ思い切り投げつける。



そのころの桃子はというと雅と同じく愛理の攻撃をきっかけとして
十八番の攻撃を繰り出そうとしている瞬間であった。

そんな桃子の視界の端に雅の棍棒が入ってくる。

「えっ!?うそ!待って待って…。」

桃子は何とかそれを回避しようとした試みるが
動き出した身体は止まらなかった。


「モモアタァァァッッック!
 ……イッタァァァァァィ」


110 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/09(金) 23:51:50
雅の投げた棍棒は直撃こそは免れたが
まさにモモアタックを決めようとしていた桃子のお尻と
クジラの隙間に入り込む。

折れた棍棒の先端は桃子のお尻の勢いそのままにクジラへと
突き刺さり、見方によってはまるで蜂のように
桃子が刺しているようにもみえた。

しかしながら、雅に嬉しそうな様子はない。

「チッ…外した。」

痛むおしりを庇いながらも桃子は、
その舌打ちを聞いて憤慨する。

「ちょっと、今舌打ちしたでしょ!」

雅にくってかかる桃子。

「はぁ?してないし。
 ていうか、自分だけいいとこ取りしようたって
 そうはいかないんだからね。」

「みやー、さっきあたしごと狙ったよね?
 マジあり得ないんだけど。」

「いや、愛理の攻撃だって周りに大ダメージだかんね?」

目の前に敵がいるのにいっさい気にせず言い争いを始める3人。
その隙をついてクジラが攻撃を仕掛けるが、
やめることはせずその場から散開し、言い争いを続ける。


111 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/10(土) 00:08:10
「な、何が起きとるんじゃ…。」

傷ついた舞美と舞を介抱しながら遠くでその様子を見ていた里保は驚く。

「あれは伝説のチーム、ボーノのはずじゃけぇ。
 でも、あんなに仲が悪いんじゃろうか…。」

「あれが、ボーノなんだよね。」

気づくと舞美が身体を起こしている。
先ほどまで虫の息であったのに、むしろ舞よりひどい怪我であったのに
そんな様子を感じさせない舞美に里保は舌を巻く。

「決して妥協しない。常に己がトップ。
 だから、戦いの最中も隙あらば『奪い合い』をする。
 それがボーノなのさ」

「へぇー…。」

確かに、先ほどまでとは異なり、クジラに力負けすることはなかった。

チームボーノ。

最強と言われる由縁はそこにあるのであった。

続く


112 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 00:30:05
まさしく『アイアンカノン』w香音ちゃんがどこへ向かっているのやら…本編の魔法が使えたらって悩みが嘘のように強化されてるww

曲によってセンターが入れ替わるBuono!の特性を見事に表してるね〜


113 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/10(土) 00:32:04
皆様こんばんは
プライベートでヤなこと続きの作者です
せめて物語の中だけでも楽しくできたらいいなと思います

作者


114 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 16:54:48
突然ですが、あなたは『もし』を想像したことがあるでしょうか。

『もし』あのとき、この選択をしなかったらだとか
その逆にこの選択であれば、と。

他にも、人生の中には様々な『もし』があります。
それらの選択の先に今のあなたの『現在』があるのです。

運命もまた同じです。普通の人間はヒーローにはなれません。
でも、ヒーローに憧れ、夢見ることは誰にでもあります。

しかし、世界が平面的でなく、そのあなたが選ばなかった『もし』の世界が
存在するとしたらあなたはどう思うのでしょうか。

違う存在となったあなたがいるとしたらどうしますか。


115 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 16:58:01




第一部 はるなんサイド1

みなさん、こんにちは!

私の名前は飯窪春菜。
アイドルグループモーニング娘。15のサブリーダーを務めています。


今日はファンの皆様との交流として握手会が大阪で開催されるので、
新幹線で移動中です。

一緒にいるのは先輩で同じくサブリーダーの生田さん。

なのですが……今日の生田さん何か変なんですよね。

いつもなら新幹線に乗るとすぐにヘッドホンをして
大音量で音楽を聞きながら、スマホをいじりだして
私のことなんか完全無視。

まぁ、そんなサバサバした様子も生田さんの魅力の一つなんですけど。

でも、今日の生田さん、ずっと新幹線の座席でそわそわして
窓から外をのぞいたり、車内販売を注文したり。


116 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 17:01:18
それに何より、私によく話しかけてくるんです。

これからいく町のこと。
1日の流れ。

握手会をするのはもう何度目かというぐらいですし、
大阪もモーニング娘。15にとっては行き慣れた場所。

なのに、まるで初めて握手会に臨むときのまーちゃんのような。

そういえば、朝会ったときも新幹線にびっくりしてたっけな。

何も使ってないのに、こんなに早く移動できるのかって、
どんな仕掛けがあるのかって。

いやいや仕掛けもなにも…。

何か目の前にいるのは生田さんなのに別の生田さん
なんじゃないかなって思うぐらいです。


117 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 17:04:25
「ねぇねぇ、はるなんはるなん!
 めちゃくちゃ高い山があるとよ!」

生田さんが指差す先には確かに山が見えました。

でもあれはどうみても…。

「生田さん、私をからかってるんですか?
 あれはどう見たって富士山じゃないですか。」

「ふじさん?」

「そうですよ。日本一高い山なんですから。」

「へえ、えりのとこからは見えなかったからなぁ。」


見えなかったって…当たり前でしょ!
生田さんは福岡なんだから。
見えたら逆にスゴいわ。

なんてツッコミを心の中でしつつ、口には出さない。
これで確信しました。

今日の生田さんはおふざけモードなんだと。

大阪につくまであと1時間半ぐらい。
これは大変だ。

私は心の中で大きなため息をつきながらそんな生田さんの
相手を続けるのでした。


118 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 17:08:16
何か笑顔編を読んでいてふと混在したらどうなるのかなと思い勢いで書きました

世界観がまだ違うのでかなり違和感ありまくりですけど…

続きはありますがスレのみなさんの意見を尊重します


119 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 18:19:32
イイねイイね〜
入り口の感じから続きが楽しみ


120 : 名無し募集中。。。 :2015/10/10(土) 20:13:27
これは意外と新しい…架空の世界から現実の世界に来るって話ってあまりないかも?続き気になります


121 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:24:13
ご意見ありがとうございます
精一杯期待に応えられるように頑張ります


122 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:25:56
第一部 はるなんサイド2

無事大阪についた私たち。
握手会の時間までは少し時間があったので
近くの喫茶店で暇をつぶすことにしました。

「私はブレンドにします。生田さんは何にします?」

やっと少し挙動の落ち着いた生田さん。

「んっとー、じゃあえりはこれにする。」

「わかりました。すいませーん!」



「ねぇ、はるなん。」
「何ですか?」

運ばれてきたブレンドコーヒーを飲みながら
私は生田さんの方を向きました。

「なんで、えりとかはるなんはこんなに移動しながら
 握手会?をするとね。」

私は飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになりました。
そして生田さんの顔をまじまじと見てしまいます。


123 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:29:09
何を言っているんだ、この人は。
少なくとも私より1年は早くモーニング娘。として
アイドル活動をしているはずなのに。

「何でって、それは、私たちには待ってくれているファンの方がいるからですよ。
 いつも応援してくれるファンのみなさんあってこそ活動ができるんじゃないですか。」

「それは何となく、わかったとね。
 ここに来るまでもいろんな人に声かけられとうし。」


だったら何故そんなことを聞く。

「ですから、そういったファンの方たちへの感謝の気持ちを込めて握手をしに行くんです。
 少なくとも私はそう思ってます。」

「ふぅん。なるほどねぇ。」

そう言って生田さんは何も言わなくなりました。
ここで本気で私は生田さんのことが心配になりました。

まとめサイトでは卒業時期について囁かれているとかいないとか。

もしかしたら、今の状況に不満があるのかもしれない。


124 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:33:27
そんな心境のまま迎えた握手会。
私の思いとは裏腹にファンの方一人一人にあの笑顔で
手を差し出す生田さん。

その様子を見ていて私の心配は杞憂だったんだなと思いました。

確かに握手会をしていて楽しいことばかりで無いのは事実です。


時には辛く哀しくなるような思いもしたことがありました。

でも、それを含めて、私たちはファンの方と向き合わなければ
いけない気がします。

「わざわざ大阪まで来てくれてありがとうはるなん!」

「いつも応援してます!」

伝えられる時間はほんの少しのものだけど、
その時間を私は大切にしたいと思います。


125 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:38:40
そんなこんなで今日予定されていた大阪での握手会は
無事に終わりました。

さすがに1日がかりのものなので、少々疲れましたが、
それでも私の気持ちはとても穏やかでした。


関係者の方々の協力に感謝を伝え私たちは会場をあとにします。

明日はオフなので、前々から生田さんとこの日は大阪に
一泊してから帰ろうということを話していました。


でもホテルの部屋につくなり生田さんはベッドに横たわり
すやすやと眠り始めてしまいました。

「生田さん、生田さん?」
「……」


返事なし、か。

そんなに疲れてたんですね。
私は生田さんの体にそっと毛布をかけると部屋で1人
スマホをいじり始めました。

そのときでした。
スマホにラインが入ります。


126 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:42:48
『春菜、今日大阪なんだって?
 私もちょうど仕事で大阪いるから飲みに行こうよ。』

同級生からでした。

私は一瞬迷いました。
私は立ち上がるとベッドで寝ている生田さんのそばへ行き
もう一度呼びかけます。

「生田さん?」

しかし、完全に生田さんは夢の中。

私はそれを確認すると生田さんのラインにメッセージを残し、
部屋を後にしたのでした。


今思うとこれは軽率な行動でした。
でもこのときの私はこの後に起こる騒動を知る由もなかったのです。




127 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:44:53
第一部 衣梨奈サイド1

ちゅんちゅん…

ふわぁぁ

んー、よく寝たとね。

大きく伸びをして体を起こす。
今日は確か、里保たちと魔法の組み手をする予定やったね。


やっつー!
えりの名前は生田衣梨奈。
道重さんのもとで
『世界一の魔法使い』を目指して弟子入りしてるんよ。

「あれ?ここどこかいな?」

寝ぼけた頭が冴えてきて、えりは自分の今いる場所が
M13地区でないってことに気づいたとね。

慌ててベッドからおり、カーテンを開けたらびっくりしたと。


128 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:47:35

「何かいな…ここは…。」

窓から広がりよう景色は全然えりの知らんもんやった。

「何かいな…。」

いかんいかん。
無駄に2回もおんなじことを言ってしまったとね。

でも、状況がわからん。
何が起きとるとね?

『生田、生田!』

頭の中に突然声が響いてきた。
この声は…。

「道重さん!」

『あぁ、やっとつながった。
 今まで何してたのよ?』

あれ?
なんかわからんけんどもしかしてちょっと道重さん怒りぎみ?

…ここは正直にいった方が良さそうやね。

「寝てました。」


129 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:51:33

『はぁぁぁぁぁぁぁぁ????』

うるさいうるさい。
頭の中に直接響いてくるけん、そんな大声出さんと。

「道重さん、そんな大きな声出さないでくださいよぉ。
 頭が割れます!」

泣きそうな声で言ってみたら道重さんもわかってくれたみたい。


『あぁ、ごめんごめん!
 で、生田、あんた今の状況わかってる?
 今どこにいんのよ?』

それはえりが聞きたいです道重さん。
そう思ったけども直接そう言ったらまた叫ばれそうな気が…。

なのでえりはとりあえず、今見える景色について
説明することにしたと。

「えぇと、とりあえず知らない場所です。
 窓の外には高いビルが並んでいて…」

歩く人々から魔力は感じられない。
あんなにたくさんいるのに、だ。


130 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:54:23
『どう?ざっとはなしを聞いた限り…。』
道重さんが誰かと話してる。

誰やろ、里保?はるなん?様々な考えを巡らせたけど
全然アイデアが浮かばん。

『生田。』

再び道重さんの声が響いてくる。

『恐らくなんだけどね…』
そうして自分の考えを話し出す道重さん。
えりはとりあえず早く情報が欲しい!





「はっ?へ、平行?並行?」

『それはどっちでもいいんだけど…』


いやいや、大事なことだと思いますけど。

いやいや確かにそれよりも…。


話を整理するとこういうことっちゃろか。

「えりが今いる場所は、別の世界いうことですか?
 しかも、こっちの世界にもえりがいて魔法はつかえない。
 そしてその職業が?」

『アイドルグループ』

んーアイドル?って何ちゃろ?
そもそも仕事なんかいな。


131 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 22:58:57
「アイドルって何ですか?」
えりの質問に道重さんも言葉を探しとうみたい。

『まぁ、言うならば人々を幸せにするって仕事かなぁ。
 こっちにはない職業だもんね。』


人々を幸せにする。

そんなざっくりした仕事があることにえりは驚きです。

『で、大事なのはここから。
 どうやら今日、そっちでアイドルとしての仕事があるらしいの。
 だからそっちよろしく!』

えっっええええええええええーー

「えっっええええええええええーー」
いかん。
心の声が…。

慌てて口を抑えこむ。でもちょっと遅かったみたい。

案の定道重さんも怒りだす。

『うるさい!
 あんたねぇ、人のことぜんっぜん言えないじゃない。』

「すみません…。」

『とりあえず、こっちはこっちで対処法を探すから
 それまでの間、あんたはそっちで生田衣梨奈を演じなさい。』

こうしてえりの生田衣梨奈を演じるという1日がスタートしたのでした。


132 : 名無し募集中。。。 :2015/10/11(日) 23:00:03
ちょっと長いですね。
一回の更新量をこれからは調節してみます


133 : 名無し募集中。。。 :2015/10/12(月) 07:02:01
おぉ!面白いこれからの展開ワクワクする


134 : 名無し募集中。。。 :2015/10/13(火) 23:47:08
第一部 衣梨奈サイド2

「なんかいな……ここは……。」

道重さんの指示通り、えりは『東京』に向かったとね。
でも、そこにいる人の多さにまずびっくりしたと。

みんな黒いスーツを着てなんかの端末を手に黙々と歩き続けとう。
えりの育ったとことは比べ物にならんけん。

人が多すぎて、ちょっと気分も悪くなってきたと。


道重さんの話によるとどうやら駅の中にえりのよく知っとう人がいるらしい。
今日はその人と一緒に『握手会』なるものに『大阪』というとこに行くらしい。

「早く集合場所に行かんとね…。」

そう思って歩き出したはいいけんど、向こうがこっちを見てないせいか、よく人にぶつかりゆう。

「すみません…すみません…」

全く、『生田衣梨奈』はとんでもないとこに住んどると!

やっとの思いで駅の待ち合わせ場所に着いた。

「生田さん珍しいですね?私の方が早く着くなんて。」

はっ、はっ?はるなぁぁあああん!!

知っとう顔が見れてちょっとえりは嬉しかった。
急いで駆け寄ろうとしたっちゃけどその瞬間、道重さんの言葉を思い出したとね。

『いい?生田。あんたはそこでは『生田衣梨奈』なの。軽はずみな行動は控えなさい。』

……えり心折れそうです、道重さん。


…。


135 : 名無し募集中。。。 :2015/10/13(火) 23:48:04
知ってるはずなのに全然違ういうんもなかなかしんどい。

「えりぽん、今回は1人で旅しないんだね笑」

「サブリーダーズか、いいね!」

…すみません、あなた方の言ってることほぼえりわからんとです。

それでも少しずつ『握手会』なるものに慣れてきてえりも少しずつ対応を始めたと。

「ありがとうございます!」

「えり、ウサギ系なんで寂しいと死んじゃうんです。」

時々お客さんが「?」って顔してたけど気にしない。

ていうか、一体何回やるとね。そろそろガチで疲れてきたと。

そんなときやった。

「えりぽん、魔法かけてよ!」

あるお客さんから言われた一言。
その瞬間、会場の空気が一変したのをえりは感じた。
並んでたお客さんは「おぉ!」ってなっとるし、はるなんははるなんで「おぉ…。」ってなっとう。

なん?こっちのえりも魔法使えるっちゃん!

「ちちんぷいぷい、魔法にかーかれ!」

「……。」

???
えり魔法かけたとよ?

そのお客さん、不思議そうな顔して行っちゃった。

えりも不思議やったけど、まぁ次々と来るお客さんに対応してたらいつの間にか忘れちゃった!

そんなこんなでやっとこさ初めての『握手会』が終わってえりもうヘロヘロ。

やっと帰れる。とりあえず、道重さんに報告を…。


136 : 名無し募集中。。。 :2015/10/13(火) 23:49:37
「はるなん、どこ行くと?」

「やだなぁ生田さん、前に明日はオフだから大阪に泊まってこうって話し、したじゃないですか。」

えっっええええええええええーー

えり、帰りたい…。

でもそんなことは言えん…。

だってえりは『生田衣梨奈』やし。

たどり着いたホテルはなかなか豪華なとこやった。
えりひとりなら絶対泊まれん…。

「くぅっ……。」

こっちの『生田衣梨奈』はそんなにお金持っとるとね、うらやましかぁ!

部屋も豪勢でベッドもフカフカ。
横になってたらついウトウトしてきたと。


…。

『い…た…!いくた…!生田!!』

「はっはい!すみません!!!」

気づいたら寝とった。
頭の中の道重さんは呆れとる。

『あんたよく今の状況で寝れるわね。』
「ちょっと疲れちゃって。でもえり頑張ったと思いません?」

『はいはい。頑張った頑張った。それでね、一応あんたを戻す方法みっけたから今からやるけどいい?』

ヤターーー!
ついにもどれ…あれ?
はるなん、どこ?

『じゃあ、やるわよ。』
「待っ待ってください道重さん!」

『なによ。』
「はるなんがおらんです。」
『どっか出かけたんでしょ?そっちのはるなんだってもう大人なんだし。』

でも、えりはなんかそのとき言いようのない不安を感じたと。

そのとき、ふとベッドの横においてある端末の画面の中央に何か書かれてるのが見えたとね。

慌てて、端末をいじって緑色の場所を押す。

『生田さん…』

それははるなんから送信されたものやった。

「行かなくちゃ。」
道重さんは反対するかと思ったけんどはっきりと言ってくれた。

『やるからにはちゃんとやりなさい。しくじったら許さないわよ』

「はい!」


137 : 名無し募集中。。。 :2015/10/13(火) 23:51:03
えりぽんの博多弁はむずかしいですね
頑張ります


138 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/14(水) 00:14:37
新しい作品いいですね

と思ってたら避難1が削除されてるorz


139 : 名無し募集中。。。 :2015/10/14(水) 01:19:29
はるなんの身に一体なにが!?気になるねぇ

って避難所1消えたの?ここも落ちることあるのか…ログ消さないようにしないと


140 : 名無し募集中。。。 :2015/10/19(月) 23:36:18
第一部 はるなんサイド3

「はぁはぁ…はぁ…。」

くっ…。あのときこの道さえ選ばなければこんな事には…。

私は人通りの少ない暗い夜道を1人、ホテルに向かって
少し足取りも早く歩いていました。

何故早足かって?

聞こえるんです。
静寂に包まれた闇の中から近づいてくる足音が。
そして激しい息遣いが。


ひさびさに同級生に会い、その現在を知りました。
不平不満を言いながらも今の仕事について語るときの彼女の瞳が
とてもキラキラ輝いているのを見て私はふと自分がモーニング娘。になっていなかったら
ということに考えつきました。


141 : 名無し募集中。。。 :2015/10/19(月) 23:39:40
ふふっ、まぁでも考えても何かの足しになるわけでもないですからね。

実際、今の私はモーニング娘。15の飯窪春菜として生きているわけだし。

「2次会行こうよ、春菜。」

「いや今日は遠慮しておくよ。
 それよりもまた誘って!一回の時間よりも回数増やしていこ。」


私は二次会に行こうという同級生の誘いを断り、お店の前で別れました。

「さてと…」
私は時計をチラリと見ました。

時間的にはちょっと遅め。
タクシーで帰ろうかな。

しかし残念ながらそのとき近くを走っているタクシーは一台もなく、
私はひさびさの友人との再開で気分が高揚していたこともあり、生田さんへの
お土産を手に歩いてホテルまで戻ることにしました。


142 : 名無し募集中。。。 :2015/10/19(月) 23:42:20
背後の気配に気づいたのは歩き始めてしばらくしてから。

私と同じ角で曲がってくる存在に気づきました。
最初は偶然かと思い、気にしていなかったのですが、
次第に足音が聞こえ始めたのです。

「うそでしょ…。」

痴漢。私の頭に真っ先に浮かんだのはその言葉。

いやいやいや。冗談じゃない!
現役のアイドルが痴漢に襲われるとかあり得ないから!

でも、周りを伺っても相変わらず人通りは少ないまま。

襲うには絶好のポイント…。

焦った私は角を曲がるやいなや走り出してしまいました。
今考えるとこれは軽率な行動で、追うものは対象が逃げ出すと
追いたくなるものだそうです。


でもそんなことわかりませんから、私はとにかく早くホテルにとの思いで
必死に駆け出しました。

次の瞬間、足音が止まったと思いきや急にその音が大きくなりました。

このことを悟ったとき私はもうおしまいだと感じたのでした。


143 : 名無し募集中。。。 :2015/10/19(月) 23:43:38
スレッドの皆様、こんばんは
次回で第一部は終了です。


144 : 名無し募集中。。。 :2015/10/20(火) 13:33:05
更新乙です
また気になるところで引っ張るなぁw


145 : 名無し募集中。。。 :2015/10/21(水) 23:42:51
第一部 えりぽんサイド3

「あーっははははは!」
「んもう、笑いすぎですよ!
 本当にそのときは怖かったんですから!」
「いやでも面白すぎでしょ!」

その日、部屋の中からはメンバーの明るい笑い声が響いとった。

はるなんから握手会の夜の出来事を聞いているようやね。


当のはるなんも笑っとうし、本人もネタができてまんざらでもなさそうやね。

あの日の夜、ホテルを飛び出したえりはわき目もふらず駆け出した。
どこに行くか聞いていた訳でもないし、あてがあったわけでもなかった。

でもそん時は何か感じたとね。

しばらく走ると、遠くで見覚えのある影を見つけたけん、
しかもその影の近くにもう一つの影が見えたと。

「はるなん!!」
「い、生田さん!?」


146 : 名無し募集中。。。 :2015/10/21(水) 23:45:15

飛び出したえりの姿を見てはるなんはめっちゃびっくりしとった。

でもえりはそれ以上にそこでの出来事に驚いたと!

最初は2つの影が組んず解れつしとったけん、はるなんついに…とか思ったら

めっちゃでかいワンちゃんがはるなんにじゃれついとった。

「は、はるなん…こんな犬飼っとったとね。

 わざわざこんな夜中に散歩せんでも。」

「そうそう私の飼い犬、じゃれちゃって…って違うわ!」

えりのボケをこんな状況でものりつっこみするはるなん、さすがやね。
それにしても一体なんで…ってあれ?

「とりあえず、はるなん。
 右手の荷物、遠くに投げれば?」

「!!!」

明らかに犬が狙っとうのははるなんの右手の袋の中身。

何が入っとうかは知らんけどこの状況を切り抜けるにはそれが一番っぽい。


147 : 名無し募集中。。。 :2015/10/21(水) 23:47:34
でも、はるなんはその袋を手放そうとはしなかった。

「何してん、早く投げろし。」

「ダメです。
 これは生田さんへのお土産なんですから!」

「はぁ?いいよ、そんなん!えり気にせんとよ。」

そうえりが言ってもはるなんは決してそれを手放そうとはしなかった。

仕方ない。

あんましやりたくはないけど…。

えりは一つ息をついて右手に魔力をほんの少しまとわせる。
そして一つ指を鳴らした。

警告。

多分、その意図を察したんやろね。
犬はその場から逃げるようにかけていった。


148 : 名無し募集中。。。 :2015/10/21(水) 23:49:52

えりはそのときのことを思い出しつつ、部屋を出て1人屋上へと向かう。
道重さんからの連絡が入っとった。

『生田、誰もいないとこに移動して。
 そこであんたたちを入れ替えるわ。』


結局戻れに戻れず、数日間を『生田衣梨奈』として過ごした。
その数日を思い返しながらえりは1人屋上のフェンスへともたれかかる。

そん時やった。

「生田さん。」

後ろから声が聞こえる。
振り向くとそこにはなんとはるなんがおった。

「はっ、はるなん?」

はるなんは黙ったままにっこりと微笑むとえりに向かって話しかけた。

「元の世界にお戻りですか?『生田衣梨奈さん』。」


149 : 名無し募集中。。。 :2015/10/21(水) 23:51:43
「!!!なっ、なん!」

思いがけない一言。

「バレバレですよ。
 私たち、どんだけ一緒に過ごしていると思っているんですか?」
そういってはるなんはイタズラっぽく笑うのであった。

やられた…。

「向こうの世界でも皆さんによろしくお伝えください。」

そういってはるなんが手を差し出す。
あぁ握手か!

えりもすぐにその手を握りかえした。


その瞬間、えりの体が薄ぼんやりとし始め、周りの視界も霞始める。

と思ったのもつかの間、目の前に道重さんの姿が見えた。

「おかえり、生田。」


第一部 完


150 : 名無し募集中。。。 :2015/10/21(水) 23:54:52
という様な感じで『笑顔』編からの妄想は以上です
魔法要素なくてすみません

第一部とかいってますけど第二部には行かなそうです
書けそうなら全部書き上がってから書きます
皆さん、お付き合いいただきありがとうございました


151 : 名無し募集中。。。 :2015/10/22(木) 17:35:22
一部完乙ですって続きはないのか…向こうの世界に行ったえりぽんパートも読んでみたかったな


152 : 名無し募集中。。。 :2015/10/22(木) 19:45:19
言われてみればアイドル生田が入れ替わりで魔法世界に来てるんだね
確かにそっちも気になるんで第二部もあることを期待させてもらいます


153 : 名無し募集中。。。 :2015/10/23(金) 11:24:10
貴重なご意見ありがとうございます
最初はアイドルえりぽんも書こうかなと思ったんですけど
本編設定からよくよく考えると、魔道士はすぐにわかっちゃうなぁと思いまして
まぁズッキとふくちゃんをいかにだまし続けるかっていうのもいいんですけど…


154 : 名無し募集中。。。 :2015/10/23(金) 11:52:54
その二人にはすぐにバレちゃいそうだねw逆に魔法が使えないえりぽんを対等な立場になった二人はどう思うのか?ってのも読んでみたいかも?


155 : 名無し募集中。。。 :2015/10/23(金) 18:50:11
なぜか最後まで飯窪さんが黒幕だと思って読んでたわ…


156 : 名無し募集中。。。 :2015/10/24(土) 06:42:25
その気持ちなんとなく分かる…全ての現象の裏にはるなんの影ありみたいなw


157 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/26(月) 18:12:48
里保は目の前で繰り広げられている光景を
ただただみていることしかできなかった。

激しすぎる。

クジラに対しての戦い方はさゆみから聞いていたので、
ただそれを相手にするだけなら里保も加われたかもしれない。

だが、今里保の目に映るのはクジラを挟んだ三つ巴の戦いであった。


「雅はパワーとスピードに優れた戦士だが、少し頭が足りない。
 桃子は頭脳とパワーには優れてはいるが、スピードで少し劣る。
 愛理はパワーこそないが、スピードと頭脳はピカイチだ。」

舞美が隣で解説をしてくれている。
ただ動きが激しすぎてついていくのもやっと。


158 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/26(月) 18:17:28
「互いに足りないところを知らず知らずに補える強さが『ボーノ』の真髄さ。」


しかしあまりに目の前の戦いに夢中になりすぎて
里保はうっかりさゆみからの忠告を忘れた。

そしてそのことを思い出したのは奇しくも、愛理が奥義を放つために
魔力を解放した瞬間であった。

「(あれ、急に声がでなくなったぞ。
道重さんから聞いていたことを伝えんといかんのに。声が…)」

異変が起きたのは里保の声だけではなかった。

隣の舞美は何か口を開いて里保にしゃべっているようだが
その声は全く聞こえない。
それどころか、辺り一帯、水を打ったように静まり
ただ目の前に無音の空間が広がっているだけ。

そしてその中心には愛理がいた。

肩を叩かれ里保が振り返るとそこには舞美がいて
自分の耳を塞ぎ、口を動かしている。
しかしやはり声は聞こえてこない。


159 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/26(月) 18:24:36
里保が舞美の意図するところがわからず首を傾げると
今度はもっとゆっくりとした口の動きで伝えてくる。

「(み み を? ふ さ げ?…耳を塞げ!)」

里保が己の耳を塞いだのと愛理が手を挙げ、
その指をパチンと鳴らしたのはほぼ同時であった。

「『無音の爆発』」

次の瞬間、耳をつんざくような轟音が響く。
愛理は周囲の『音』を全て一カ所に集め、凝縮し、
自分の魔力とミックスさせそれを一気に解き放った。

「くぅー…この音は何度聞いても慣れないなぁ。
 だけど奥義に相応しい威力ではあるね。ほら!」

隣でしかめ面をしながら舞美はある場所を指差した。
里保はその指差す向きを見てあんぐりと口を開く。


そこには、倒れたまま動かない桃子と雅の姿があった。

愛理は満足そうに呟く。

「かっ、勝った…。」


続く。


160 : ◆JVrUn/uxnk :2015/10/26(月) 18:27:15
こんばんは
少しサボっていました

個人的に笑顔外伝?の第二部期待しちゃってます!

作者


161 : 名無し募集中。。。 :2015/10/27(火) 00:50:02
勝ったって…あれ?みやともも倒したのか?w


162 : 名無し募集中。。。 :2015/10/27(火) 10:54:43
クジラがどうなったのかは一言も触れられてないなw


163 : 名無し募集中。。。 :2015/11/01(日) 15:55:13
本スレ結局スレスト食らってお亡くなりに・・・
2ch全体が落ち着くまでしばらく避難所で待機が正解でしょうね


164 : 名無し募集中。。。 :2015/11/02(月) 18:46:45
スレ立て後のレス40はまだ頑張ればクリアできるだろうけど
15日間で落ちるってのはスレ消費に2か月とか費やす
ここのスレにとってはあまりに厳しすぎる設定だな

409 名前:名無し募集中。。。@転載は禁止[] 投稿日:2015/11/02(月) 18:13:21.97 0
狼住人向けに簡潔にまとめたよ

2ちゃんねるmorningcoffee板の現在の運用設定
【期限ルール】通常スレは15日間で落ちる
【完了ルール】完了スレ(1001超・容量超・スレスト等)は24時間で落ちる
【即死ルール】レス40未満のスレは最終書き込み時間から50分間たつと落ちる
【圧縮ルール】スレ数が1049を超えると最終書き込み時間が古いスレが落ちる


165 : 名無し募集中。。。 :2015/11/02(月) 22:19:47
今まさに何が起きているのかを尋ねようと思っていた

ありがとう!


166 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/02(月) 23:53:26
「かっ…勝った。」

そういう愛理の目の前には倒れたまま動かない桃子と雅がいた。

「愛理、意外と時間かかったね?」
「えっえっえええええええ!?」

里保は目の前の出来事についていけず、大声をあげる。

その声に愛理と舞美は何事かと里保の方を向いた。

「えっ?クジラは?」
パニック状態の里保は状況を整理することに
全力を注ぐことにする。

「えっ?クジラ?あぁー、そっか私今変な生物と戦ってたんだっけか。
今頃は木っ端みじんだろね。」

そうすまして答える愛理の言葉に里保は背筋を凍らせた。
ここに向かう前に聞いていた言葉が頭の中を駆け巡る。


さゆみからの忠告。


167 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/02(月) 23:57:26
『あのクジラ、バラバラにしないでそのままの形で倒さないと面倒くさいよ。
もし魔法でバラバラにしちゃうと…』

「ん?どうした、鞘師ちゃん?顔が青…」

愛理の言葉は最後まで聞くことができなかった。
舞美と里保の目の前を何かが高速で横切り、その場にいた愛理を吹き飛ばしたのだった。

「愛理!何だ、何が起きた!?」

里保はその言葉に応えず、先ほどまでクジラがいたと
思われる場所に目を向ける。

『魔法でバラバラにしちゃうと、ドラゴンの骨一つ一つが意思を持って攻撃してくるから大変なの。
 つまり、バラバラにした分だけ敵が倒す相手が増えるってこと。』


里保の視線の先で何かが煌めく。
それと同時に里保はそばに落ちていた舞の刀を横一文字に高速抜刀する。

鈍い金属音と共に人間くらいの大きさであろうか、
所々、白い骨の見えた金属が里保の足元に撃ち落とされる。


168 : 名無し募集中。。。 :2015/11/02(月) 23:59:12
こんな条件だともう狼でSSスレは出来ないよな…


169 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/02(月) 23:59:28

「鞘師ちゃん!これはいったい…。」

次々と襲いかかる敵を持ち前の動体視力でかわしながら舞美が叫ぶ。

「矢島さん!こいつら、クジラの分身体です!
 魔法攻撃でバラバラにしないように気をつけてください!」

「そんなん言われたってさ…。」

舞美は自身の横を通り過ぎようとしていた塊の尻尾を掴むと
思い切り地面に叩きつける。

「つまりは…こういうことか?」

その動きにまた一つ相手を撃ち落としながら里保は大きく頷いた。




170 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/03(火) 00:02:51
みなさんこんばんは
りほりほの件でこのまま書くべきなのかを少し考え内容を一部変更する事にしました。

本スレも落ちてしまい何が何やらという気持ちです

作者


171 : 名無し募集中。。。 :2015/11/03(火) 00:05:33
更新乙です…ごめん途中入っちゃった汗

クジラを粉砕ってBuono!スゲーな…まぁ結果として余計なことをしたわけだがw


172 : 名無し募集中。。。 :2015/11/03(火) 22:23:10
このスレの原点でもある世界一を目指す宣言きた

857 名無し募集中。。。@転載は禁止 2015/11/03(火) 21:08:41.77 0
娘。夜公演ラストMC。
生田が「まだキャラが定まってない所もありますけど世界一のアイドルを目指します!」と
18歳にもなって恥ずかしくて言ってられないと封印した世界一のアイドルをここに来て解禁。
聞いた周りのメンバーが物凄い驚く #morningmusume15
11月3日 20時58分 twiccaから


173 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/03(火) 22:50:08

その頃、家を飛び出し、目的地へと急いでいた生田は綿密に
舞波と連絡をとり、状況の把握に努めていた。

舞波の報告を聞く限り状況は最悪であった。
特殊チームのメンバーですら負傷して離脱している中
果たして、衣梨奈は無事でいるのか。

その焦りが生田の飛翔速度を速めていく。

そのときであった。

生田の視線の先で何かが煌めく。
危ないと頭が感じる前に自然と身体が動いていた。


紙一重で突撃をかわした生田。
「な、何が起きている?」

その正体は人の大きさはあろう機械の塊であった。
しかし明らかに自分に対する攻撃の意志を持っている。


174 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/03(火) 22:52:18
再度、謎の飛翔体が自分に向けて飛んできたのを確認すると
生田はその攻撃を後方への宙返りを使い紙一重でかわす。
それと同時に飛翔体を蹴り地面へと叩きつけた。

砂煙が立ちこめる中、生田は眼下を睨みつけつつ、様子をうかがった。

どうやら第二撃はなく無事しとめられたようだ。

地面へと降り立った生田はすぐさま舞波へと連絡をとる。

妙に胸騒ぎがするのだ。

数回のコール音のあと、緊迫した様子の舞波が出る。

「石村!そっちは大丈夫そうか?」

『きょ…う…、そ…が、きゅ……にむす……』

電波が悪い。

舞波の声がよく聞こえてこない。
だが、背後から聞こえてくる音はその場で戦闘が起きていることを物語っていた。


175 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/03(火) 22:55:46
生田は一瞬躊躇した。
このまま衣梨奈の元へと行くべきか、それとも部下を助けに行くべきなのか。

生田はグッと拳を握ると執行局の拠点へと向かうのであった。





「くっ……。何なのこいつら、得体もしれないし何より強い。」

その頃、執行局の拠点では舞波を中心に、
襲いかかってくる謎の飛翔体に立ち向かっていた。

最前線に執行局の精鋭を集めていたこともあり、
まさかここが襲撃されるとは思っていなかった協会員は
飛翔体の猛攻の前に浮き足立つ。

さらに自分の横で次々と仲間がやられているのを見ているわけなので
士気もどんどん下がっていった。


176 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/03(火) 22:59:36

「くっ…。このままじゃ……。」

街からはある程度距離をとってはいたが
こいつらの速さであればあっという間だろう。

「石村さん!後ろ!」
副局長が叫ぶ。

その声に舞波がハッとし振り向くと別の飛翔体が
眼前に迫っていた。

(あっ…死んだな…これ…。)

その時である。
乾いた音とともに小石ほどの粒が一直線に飛翔体を貫いた。
驚いた舞波がそちらへと目を向けると、石の飛んできた方向から
一台のロボットが、猛スピードで飛びながら次々と飛翔体を
破壊していく。

その後ろでは大きな犬に乗った少女が地面に落ちている石を
高速で打ち出しているのが見えた。

さらにその後ろには小柄な少女が飛翔体の攻撃をかわしつつ
その体に触れ、次々と凍らせていく。

突然現れたその一団はまるで戦い方を知っているかのように
縦横無尽に駆け巡る。

その姿に後押しをされるように現場の士気も次第に高まり攻勢を仕掛けた。


177 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/03(火) 23:03:57
ここで舞波はあることに気づいた。
その一団に知っている顔がいることに。

ひとりは執行局員である石田亜佑美。
確か彼女は氷系の魔法を得意としていたはず。

もう一人は……。

場が少しずつ落ち着きを取り戻し、安心した面もちを見せる人々。

その中のはにかんだ笑顔を見て舞波ははっきりとその顔を思い出した。

「あなたは………衣梨奈さん!」

「やっつー!石村さん!お久しぶりです!」

その舞波の声に反応して衣梨奈が目を切った瞬間である。

「えりちゃん!危ない!」

ロボットの攻撃をかわした一台が衣梨奈のもとへとつっこんできた。

響き渡る金属音。

思わず目を閉じてしまった衣梨奈であるが、恐る恐る
目を開いてみるとそこには懐かしい、でも、よく知った背中があった。


「戦場において目を切るとは何事だ!
 もっと気を引き締めろ!まだまだ来るぞ。」

「パパ!」
「局長!」

執行局局長、生田。堂々の登場である。

続く。


178 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/03(火) 23:05:57
今回の更新は以上です

ドンデンガエシを聞きながら書きました笑

作者


179 : 名無し募集中。。。 :2015/11/04(水) 19:53:13
父娘の再会キター!!


180 : 名無し募集中。。。 :2015/11/04(水) 20:12:41
生田局長カッケー!まさしく圧巻のドンデンガエシが始まるのかw
この勢いでアンジュも出てきそうだなw


181 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/04(水) 21:55:47
「そこは右だ!衣梨奈は左に散開。ロボット君は上空からみんなをサポート!!」

司令官ができたことで現場は息を吹き返し活気付く。
この窮地をみんなで脱しようと一人一人が効率よく動いていく。

衣梨奈はそんな様子を見ながらふとこれが父の仕事を見る初めての機会であることに気がついた。

幼い頃、何度か仕事場へと連れて行ってもらったことはある。
だが、その仕事場は執行局の本部でありそこに緊迫した空気はなかった。

実際に指示を下しながらも動き回り敵を撃破していく父の姿を衣梨奈は誇らしく思うのであった。

「よし、あともう一踏ん張りだ。みんながんばれ!」
「おう!!」



「う・・・・・ん、いてて・・・。ここはどこだ?」
どうやら気を失って倒れていたらしい。

だが体を起こしあたりを見回すとそこは小さな小屋の中であり自分の体には毛布がかけられていた。

「ここは・・・いったい?ハルは何をして・・・」
「目が覚めたみたいですね。」


182 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/04(水) 21:58:42
突然後ろから声をかけられる。
遥がバッと後ろを振り向くとそこに一人のローブ姿の人物が立っていた。

「誰だ・・・おまえ。」

警戒心を全開にする遥。

しかしその人物は遥の問いには答えず目の前にスープをそっと置いた。


「これを飲めば魔力はすぐ戻りますよ。
すぐ皆さんのところに戻らないとでしょ?工藤遥さん。」

名乗った覚えはなかったのに亜いてが自分の名前を知っている。
そのことにさらに警戒心を強める遥。


「おい、なぜハルの名前を知っている。おまえは何者だ。」

「うーん、何者かと言われると困っちゃうんですよね。
私、存在を消した身なので他所でペラペラしゃべられちゃうと。」


そう言って少女は遥にぐっと顔を近づける。

よく見るとまだ幼い少女で自分と同じ年くらいであろうか。

だが、
(こいつ・・・)

魔力こそは感じないが普通の人間の気配のものとも全く異なるものであった。
遥の背中に冷や汗が流れる。
しかし少女はパッと顔を離すとくるりと後ろを向きこういった。


183 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/04(水) 22:02:16
「いまはそうですねUTAとでも名乗っておきましょうか。」

(こいつ、うたっていうのか・・・アホなのか?)

「さっ、とりあえずスープ飲んでください。
 うちのお師匠さん特製レシピを見ながら作ったんで大丈夫なはずです。」


正体のわからないちょっとアホな少女の作った不思議なスープ。

そんなものは本来飲めるはずがないのだが、いかんせん少女が嬉々とした顔でこちらを見ているものだから断りづらい。
なので遥はスープに口をつけ一口だけ飲むことにした。

「!?」
たったの一口、一口飲んだだけなのに遥の体に今まで失われていた魔力がみるみる宿っていく。

「効果、抜群みたいですね。」

遥の驚く顔を見てUTAは満足そうにつぶやく。

「あんた・・・本当にいったい・・・。」

「ふふ、秘密、です。」
そういって少女はくるりと後ろを振り向くと思い出したかのようにこう付け加えた。

「あぁあとお師匠さんから伝言です。
 『かわいそうな飛竜を救ってくれ』だそうです。それと・・・」

言葉の意味がわからずきょとんとする遥に少女はいたずらっぽく笑う。
遥は瞼が重くなってきた。
少しずつ意識が遠のいていく。

「『後々めんどいからきょうのことは全部忘れてね!』だそうです。」

続く。


184 : 名無し募集中。。。 :2015/11/04(水) 22:25:01
うたちゃん?
なんか小説スレってロスを癒す感じだね


185 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/04(水) 22:58:44
うたちゃんとはいってないですあくまでもUTAで←

話のまとめに飛竜に携わる人が欲しかったのと
あとハルちゃんのことすっかり忘れてましたw

まぁ一瞬でも彼女がいてくれたことは事実ですしその間たくさん笑顔をくれましたから
少なくとも自分の作品の中では謎の人物として登場させたいと思っています

作者


186 : 名無し募集中。。。 :2015/11/04(水) 23:39:17
飛竜って出たっけ?師匠は誰だっけ?ちょっと忘れてたから前スレの最終回読み直してみたんだけどさぁ・・・泣いたw


187 : 名無し募集中。。。 :2015/11/05(木) 02:57:36
飛竜って小田ちゃんが乗ってたやつ?


188 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/05(木) 08:08:38
自分のなかでは小田ちゃんはゲド戦記の竜で
うたちゃんはレイア系に乗っているイメージです

飛竜っていう書き方がまずかったですね…
自分も読み返して『あっドラゴンじゃん…』てなってます


189 : 名無し募集中。。。 :2015/11/05(木) 20:51:58
UTAちゃん出たタイミングで『Can girl』に新メンバー!!作者さんは何か予感してたんだろうか?w


190 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/05(木) 23:21:03
なんと・・・むすぅが『Can Girl』に
これは想定外でした
もう一人の子はよく知らないのですが
2人とも輝けるといいですね

ということで続きです


191 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/05(木) 23:22:47
「あてて。あぁん?どこだここ?ていうかハルは何でこんなとこで寝ているわけ?」

遥が目を覚ますと、そこは森の中の開けた場所であった。

まだ起きかけの頭をフル回転させると不意に記憶が蘇ってくる。

遥の渾身の魔法。
離れていく優樹の背中。

迫り来るクジラ。

「ハル……助かったのか?」

優樹の背中から落ちた時に木々の間を通り抜けたのであろう。
身体に葉っぱがついていた。

とりあえず身体を起こそうと地面に腕をつく遥。

だが、
「ヨイッショ……あだだっ」

右肩に激痛がはしる。
身体の近くに置いていた時には気がつかなかったが、立ち上がってみると右腕に全く力が入らない。

どうやら地面に落ちた時の衝撃で右肩を脱臼したようだ。
しかたなく上着で簡易三角巾を作り、見よう見まねで応急処置を施す。

「ふう、これでよしっと!少しは楽になったかな…。」

ここまできて、遥はあることに気づいた。

魔力が溢れている。

それはどう考えてもおかしなことであった。
遥自身、体力にはあまり自信がなく、魔力の回復も衣梨奈や優樹に比べると遅め。


192 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/05(木) 23:25:46
にもかかわらず、今の遥は右肩の負傷以外ピンピンしているのである。

さらに辺りを見回すと自分が倒れていたすぐ側に何かが落ちている。

拾い上げてみるとそれは空っぽのマグカップであった。

「何なんだ……一体どうなってるんだよ。」

その時である。
少し離れた場所であろうか、魔力が急速に高まるのを感じた。
その大きさはとおくにいるはずの遥にも身の危険を感じさせるほどのものである。

「やっ、やばい!」
一瞬の空白のあと衝撃波が辺りを襲う。

その威力は凄まじく、遥も身構えていなければ、確実に吹き飛ばされていただろう。

その証拠に遥の周りの木々は根こそぎ吹き飛ばされてしまっていたのだ。

「な、なんだ……。」
突然の出来事に目をパチパチさせる遥。
しかし現状は遥に考えさせる暇を与えてはくれなかった。
今度はあちらこちらで高い魔力を感じる。

「鞘師さん…。」
その中には遥がよく知っているものもあった。

「なるほど…ね。事態は深刻ってか。」

遥は一言そう呟くと森の出口めがけて一目散に駆けていくのであった。

「いでっ…っくぅ…。右肩いたいよぉぉ。」


193 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/05(木) 23:29:35


「これでよかったんですか?お師匠さん。」

痛む右肩をかばいながら走り出す遥を見ながらUTAこと嬉唄は自分の横にいる人物に話しかける。

その人物はちらりと遥の方を見ると、嬉唄の方へ向き直りそのおでこを軽く指で弾いた。

「あだっ!もう何をするんですか〜?」

「呼び方。
師匠なんて呼ぶなっていつも言ってるでしょ。
あたしは付いてくる?とは言ったけどきみを弟子にした覚えはないし。
 ていうかレシピだって間違ってるよ。ネムリ草いれすぎ。
 起こす方が大変だったじゃん。」

その言葉に嬉唄は慌てて自分のポケットから紙を取り出し確認する。
「えっ…。あっ…単位が違う…。」

「まぁいいんじゃないの。結局あたしたちは俗世を離れてこうして旅をしている。
 極力介入もしない。次の世代に任せるのが一番なんだよ。」

「もうおししょ…『G.M』さんはいつもどんな世界の何を見ているのですか。
 私にも教えてくださいよ。」

その嬉唄の声に『G.M』は表情を変えずにこう答える。
「内緒だよ。
 あぁそれと回収よろしくね。それはきみの仕事」

そういって『G.M』はほおを膨らませている嬉唄を他所に再び手元のゲーム機に目を落とすのであった。

続く


194 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/05(木) 23:37:28
今晩はここまでです
風邪ひきました
最近は冷え込んできていますのでどうかご自愛を

作者


195 : 名無し募集中。。。 :2015/11/05(木) 23:55:39
早速工藤の右側負傷取り込んできたw
この師弟の組み合わせは現実ではあり得ないけど妙にしっくりくるね

作者さんも御大事に・・・


196 : 名無し募集中。。。 :2015/11/06(金) 06:20:01
ところで本スレはもうたたないの?某スレみたいにスレ立て予告してくれれば20(40?)到達するよう協力するよ


197 : 名無し募集中。。。 :2015/11/06(金) 12:19:03
本スレ立てたい気持ちはあるけど>>164にも書いたように
15日で落ちるルールが厳しすぎる

本スレ作者さんの更新がだいたい2週間に一度あるかどうかだから
下手すると保全レスだけでスレ落ちなんてことも十分あり得るわけで
そんなことを考えるとスレ立てに躊躇してしまうというのが現在の状況


198 : 名無し募集中。。。 :2015/11/06(金) 18:31:41
ここでいいんじゃね


199 : 名無し募集中。。。 :2015/11/06(金) 19:52:44
やっぱり本スレは欲しいなぁ


200 : 名無し募集中。。。 :2015/11/06(金) 21:28:16
本編作者さんがある程度書きためたらスレ立ててくれるかな?


201 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/10(火) 00:02:54
その頃里保はというと、舞美と共に襲いかかってくる無数の金属を相手に奮闘していた。

本来はこんなに苦戦する予定ではなかったのだが、
いかんせん愛理が桃子と雅をノックアウトしてしまったぶん、気にする対象が増えたので、受けに回らなくてはいけなくなってしまったのだった。

(それにしても……。)
里保は思う。

もとの姿にしろ、バラバラの姿にしろこの仕掛けは大したものである。

しかも、さゆみの話によればこれ自体が創られたのは相当昔の話。

少なくとも里保の知る限り、執行局内にそんな芸当ができそうな人物はいない。

M13地区でさゆみのそばにいたせいか、里保は最近『執行局』と外を比べる様になっていた。

確かに執行局は魔道士協会きっての戦闘を得意とする部署であり、執行魔道士と聞けば大半の魔道士は戦うことすら諦める。
『奪う』という考え方があるのだから無用な争いを避けることは至極当然である。
だから自分も当然のことながら執行魔道士として振舞ってきた。

しかし、里保はこの考え方そのものに疑問を抱くようになっていた。
いや、疑問というと言い過ぎかもしれない。
里保自身なにかこれといったはっきりとした考えがあるわけでもなかった。

ただ、今のままではきっと魔道士協会が主導を担う世界に終わりが来る、そんな風に思うのであった。

「これでもか!!」
舞美が手にしていた機械の残骸を他の機械にぶつけていく。
ここも大方、決着はついたようだ。


202 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/10(火) 00:05:13
「ふぅ…だいたいこんなもんかな。
 そしたら鞘師ちゃん、一回本部に戻ろうか。きっとそこで局長とかもいるはず。」

「はい!」

「ほら〜桃も雅もいつまでも寝てないで起きて!舞ちゃんも行くよ。」



本部へと戻る途中、里保はいたるところで戦いの跡を見た。
隣を飛ぶ舞美や雅、桃子たちもその様子を見て口を閉ざしている。

もっと自分たちがしっかりしていればという気持ちがあるのだろう。
本部へとたどり着くとそこでの戦いもすでに終了しており、負傷者の治療を行うための簡易テントが立てられ
医療チームがせわしなく動き回っていた。

「里保!!」
「鞘師さん!!」
着地と同時に衣梨奈と春菜が駆け寄ってくる。
二人とも数カ所擦り傷を負ってはいるがそれ以外に目立った外傷は無いようだ。
里保はほっと胸をなでおろす。

「「里保ちゃん!」」

「ふくちゃん!よかった無事だったんだね。……で、このロボットは?」

「いやだなぁ、あたしあたし。香音だよ。」
「えぇぇぇぇぇ!?ど、どうしたのその格好…。」

里保たちがわーきゃーしている一方で優樹と亜佑美は沈んだ顔をしていた。

そう、遥の所在だけ未だわかっていないのであった。
しかし、いつまでもぐずぐずとこの場に残っているわけにもいかなかった。
優樹は建前上、牢に繋がれているはずの身であるため誰か他の魔道士に見つかるわけにはいかないのであった。


203 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/10(火) 00:07:47
遥が口を開く。
「さっさと帰ろうぜ、ハルもうくたくただよ。」
「何言ってんだよ、どぅー。
 どぅーがまだ見つかってないのに帰れるわけないじゃ…ん!?」

一斉に一同が振り返る。

「「「どぅー???」」」

その視線の先には行方不明になっていた遥の姿があった。

「どぅー!!」
「うわっ!バカやめろよまーちゃん。なんだよいきなり。」

歓喜の声とともに優樹が遥に抱きつく。

「どぅー、いつの間に…。」
亜佑美もその輪に加わる。

「ともかく、いまはここを離れよう。優樹ちゃんのこともあるけん。」



M13地区へと帰る道すがら、遥が状況を説明し始めた。

里保を追おうと森を飛び出したのはいいが、そのあとすぐに自分も小さなかたまりに襲われたこと。
倒したのはいいが里保を見失ってしまい、途方に暮れて歩き回っているといつの間にかもともと倒れていた場所に戻ってしまっていたこと。

「その時、ちょうど側にマグカップが落ちていて、それを拾い上げたらいつの間にかみんなのとこに来てたんすよ。」

「へぇ〜」

「それにしても鈴木さん、すげぇ格好してますね。いつまで着てるんすかそれ」


遥の問いに少しだけ困惑の表情を見せる香音。
「それが…、脱げなくなっちゃったんだ…これ。」




何一つ音のしない広い大地に一人たたずむ少女。
その手には小さな小瓶が握られている。

少女は徐にその場へしゃがみこむと地面から何か銀色のかたまりを拾い上げた。
その小さなかたまりは一定の間隔で拍動を打っている。

少女はそれを傷がつかないようにそっと小瓶のなかへとしまった。
「いままで、ご苦労さま。あとはゆっくり休んでね。」

そう一言呟くと、少女の姿はまるで風にかき消されたかのようにふっと消える。
あたりには相変わらず静かな広い大地が広がるのみであった。




204 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/10(火) 00:12:08
スレの皆さまこんばんは

やっとたかが映画を見た勢いで書き始めた話を締めることができました
長々とすみません・・・

今度はりほりほの卒業ネタで一つ書きたいなぁとか『Can girl』編で何か書けないかなぁとか考えています
お付き合いいただきありがとうございました

作者


205 : 名無し募集中。。。 :2015/11/10(火) 01:26:28
完結お疲れさまでした

最後の少女が何者か気になる…そしてパワードスーツが脱げなくなった香音ちゃんの運命は!?w

鞘師卒業(執行局への不信感は兆しかな?)・『Can girl』と次回作も期待してます


206 : 名無し募集中。。。 :2015/11/10(火) 21:55:59
次回作も楽しみにしてるよ


207 : 名無し募集中。。。 :2015/11/13(金) 01:36:30
またちょっと面倒に改悪されたようだ

325 名前:名無し募集中。。。@転載は禁止[] 投稿日:2015/11/12(木) 15:40:57.68 0
新ルール


1a. レス数40未満のスレは50分以上放置されたら(判定10分毎)落ちる [即死]
1b. レス数61未満のスレは120分以上放置されたら(判定10分毎)落ちる [即死]
2. 1001スレは最終書込みから24時間で落ちる [完走]
3. どのスレも立ってから丸15日(24*15時間)経過したら落ちる [n日ルール]
4. スレ数が1050を超えたら(判定10分毎)最終書込みの古い順に約50スレが落ちる [圧縮]


208 : 名無し募集中。。。 :2015/11/14(土) 08:25:06
なんかもうよくわからんな
何がしたいんだろ…
本スレがどんどん遠くなっていく(泣)


209 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/15(日) 01:14:05
もうちょっと書きたまったら鞘師編スタートしたいと思います
明日あたりには行けそうな雰囲気


210 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 01:36:26
おお!楽しみにしてます


211 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 08:50:45
こちらは避難所ですか?
前に本来のスレッドに作品を投稿させてもらっていたのですが
続きをこちらに投稿しても大丈夫でしょうか?


212 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 09:30:47
こっちに続きの投稿は大歓迎ですよ

と思ったけどせっかくなんでこの機会に
久々に本スレを立ててみるのもありかな
なんてふと思ったけどどうでしょう
そろそろ本編作者さんの続きも来ていいタイミングだし

もし特に異論がなければ夜にでもスレ立てに挑戦してみます
(人がいる時間帯じゃないとまず61まで伸ばすのが厳しいので)


213 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 10:35:27
本スレ復活賛成だけど今日は1日にたったスレが一斉落ち→スレ立てラッシュだから明日以降にした方良いのでは?


214 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 14:05:09
以前RPG風動画を製作してた者です
魔法使いの要素ないのですが新しいゲームのデモ版公開しましたので報告
本スレでこのゲームの動画紹介してくれた方ありがとうございます!

http://www1.axfc.net/u/3567140/ookami

本スレ立てるのが難しくなっているようで残念です


215 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 14:06:07
わかりました ありがとうございます
では本来のスレッドが立つまではこちらに書かせていただきます

書きたい内容があってもどうしてもまとまらなくて
半年も放置してました 今もまとまっていません
なので思い付いた順に流していきます
見苦しい点が多々ありますが見逃してもらえると嬉しいです


216 : 『笑顔』真相編 :2015/11/15(日) 14:33:29
老人は、「並行世界」が存在してはいけないと考えていた。

なぜなら、別の「並行世界」の存在が、自分達のいるこの世界を消滅に導くと信じていたから。

「並行世界」が、自分達の世界の代わりに「本当」の世界に成り上がってしまうと信じていたから。


…あくまで、彼だけの持論よ。もしかしたら、宗教がかった思い込みの類い。

でも、その「思い込み」に全てを賭け、 その魔道士はひたすら研究を続けていたの。


…「並行世界」は、現実に存在しない。


長い研究の末、老人はついにそう確信した。

だけど…


彼は、あの日、あの絵に出会ってしまった。

あのコンクール表彰式で、あなたの『笑顔』に。


217 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 14:48:07
前までは書き貯めて投稿してましたが
今は端末がないのでスマホでひとつひとつ書いて出します

一度投稿したら間がしばらく空いたりするので
途中でも書き込んでいただけるとありがたいです


218 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 14:51:03
投稿する前と後に一言断ります

他の方と混じらないように気をつけます

今はこれまでです


219 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 16:43:32
>>213
なるほど立て直しのタイミングと被ることは考えていませんでした
では明日の夜にでも余裕があればスレ立てに挑戦してみます


>214
軽く触ってみたけどサクサク動いて楽しめる感じですね
デモ版ということは今後も進化していきそうで期待してます

>>218
続きというからもしかしてと思ったら
やっぱり『笑顔』作者さんでしたか
再始動楽しみにしてます!


220 : 『笑顔』真相編 :2015/11/15(日) 18:10:36
その絵を一目見て、その特異性と正体に気付いてしまった。

皮肉にも、「並行世界」の存在を否定するために研究し続けた彼は、
その絵の存在が「並行世界」の存在を証明してしまう事を悟ってしまったのよ。

そして同時に、その絵の作者であるあなたが、「並行世界」をこの世界に「表す」事ができる能力の持ち主だと悟った。


老人は、直ちに決心した。

あなたの描いた全ての絵を、この世界から消滅させる。

そして、あなたを殺す。


老人は素早く計画をたてた。

表彰式が終われば、あなたは家に帰ってしまう。
あなたの家は、M13地区にある。
そこは、協会の魔道士が手出しできない場所。
家に帰られたら、もうあなたに手出しできない。
更には、あなたの家にはこれまでに描いてきた無数の絵が存在している。
それらも全て始末しなければ、意味がない。


そして老人は、まもなく全てがうまくいく方法を思い付いた。


221 : 『笑顔』真相編 :2015/11/15(日) 18:13:56
ひとつひとつ書き込むのはやっぱりやりにくいですね

端末を調達してから投稿する事にします


222 : 『笑顔』真相編 :2015/11/15(日) 18:59:49
これは違う
やっとわかりました
決めました

皆さんありがとう


223 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 20:15:04
1レス分をメモかメール作成画面で書いて保存しておいてからコピペで一気に投下したら?


224 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/15(日) 20:27:44
おぉ笑顔作者さん!他の方はしりませんけど
自分は一度メールに書いたものをコピペしてます


225 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 21:05:19
>>219
ごめん今日じゃなくて一斉落ち明日だったorz今日はストスレテロ逃れたスレが一斉に落ちてた…


226 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/15(日) 21:35:19
いつまでも心は一緒①

中央の町から遠く離れた国境線。

この地は長い間、現在の政府のやり方を良しとしない武装勢力が居座り占領状態が続いていた。

幾度となく話し合いが双方の間で行われてきたが結局折り合いがつかず、交渉は決裂、
さらに武装勢力側の活動が活発になってきたこともあり地区当局は武装勢力の制圧に乗り出した。

所詮、寄せ集めの烏合の衆。
すぐに制圧は完了する。

そう高をくくっていた当局。
しかしながら差し向けた部隊はことごとく全滅。
焦りを見せた当局は大規模な軍事投入を行った。

しかし結果は変わらず敗走。

そのうち生き残った兵士に話を聞くと「目に見えない障壁に行く手を阻まれ、身動きが取れないうちに不思議な光に包まれ次々と仲間が倒れていった」とのことであった。

この話を聞き、当局上層部は自分たちのみで解決することを断念した。
そしてその兵士を連れ、中央へと赴き支援を要請したのであった。


227 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/15(日) 21:38:36
いつまでも心は一緒②

「どう思う?諸君」
午後に開かれる定例会議。
いつもならつまらない報告や予算の執行状況についての話がメインであるのだが
この日は違った。

魔導士協会の各局長がずらりと並ぶ中、生田も目の前の報告書に目を落とした。

『国境線の武装勢力に対する事案報告』

気づかれないように小さくため息をつく。

「明らかに魔道士が絡んでいるでしょう」
沈黙の中、そう口を開いたのは外務局の局長だ。

「あの地域は以前から協会の影響が届かない地域になっていました。
 M13地区ほど深刻ではありませんが。」

そう言って外務局の局長はちらりと生田の方を見た。
生田はその視線に対し心の中で舌を出す。

「制圧の良い機会だと思います。
 ここは我々が介入し一気にカタをつけるべきであると思います。」

何言ってやがる。
生田は心の中で毒づいた。

外務局は主に一般の世界と魔法の世界をつなぐ仕事を担っている。
持ち込まれた案件をここで受け、解決することができれば一般の世界に一つ貸しを作ることができる。
外務局の魂胆は丸見えだ。

しかし、そのこと自体悪いことではないと、その場にいたほとんどが思っていることもまた事実であった。
要は自分たちの手を汚さずに利益を得られるに越したことはない。

「みんな異論はないか。
 …ないならばこの案件は受諾するということでよろしいかな」

議長が議場にいる局長の顔を見渡す。誰も何も言わない。

「ならば、魔道士協会として正式にこの案件に介入をすると先方には伝える。
 それでこの案件についての担当であるが…。」

その先は聞くまでもなかった。
生田は椅子に深く座りなおし、大きくもう一度ため息をついた。


228 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 21:41:40
いつまでも心は一緒③

昨日までの晴天が嘘のようにM13地区は曇天の空であった。
(なんかやな感じの空だなぁ)
少し憂鬱な気分になりながらも聖は学校への道のりを歩いていた。

「おはよー、聖ちゃん。曇り空だねぇ」
「香音ちゃん。おはよー…。曇りだねぇ」

そう言いながら二人は学校への道のりをいつもより口数少なく歩く。
「そういえばさ。」
「ん?」
「えりちゃんのパパ、かっこよかったよねぇ。」
香音が思い出したかのように先日の騒動について話をふってきた。
聖もそのときの様子を思い返す。

「確かに!」
「ああいう人憧れちゃうなぁ。あっ、でも生田には全然憧れないけど。あはは」

そう言って笑う香音につられ聖も笑った。
思い返してみると不思議な出来事であった。
聖自身、未だにあれは夢であったのかと思うほどである。

だが実際に戦っている魔道士の姿を目の前で見た聖はかっこよさというよりも少し恐怖を感じていた。
ああいった世界が自分の知らないところにあふれていたということを考えると自分の無知さを思い知らされた気分であった。

程なくして、学校の正門を二人はくぐる。

定時の約15分ほど前。

足取りが重かったせいかいつもより到着が遅かった。
教室に着くと中は大半の生徒であふれていた。
来ていないのは、衣梨奈と里保。


229 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/15(日) 21:45:02
だがこれはいつものこと。
里保は基本、朝に弱い。
そのためしょっちゅう衣梨奈が迎えに行っている。

亜佑美がこの街に来てからは遅刻をすることはなくなったがそれでも朝のHRが始まるギリギリに駆け込んでくるのが恒例行事となっていた。
やがてチャイムの音がなる。

それと同時に誰かが教室へと駆け込んできた。
衣梨奈だ。

しかし、この日教室に駆け込んできた衣梨奈は一人であった。
若干イライラしているようにも見える。

そのまま聖達の元へくることもなく
衣梨奈は自分の席に着くと目をつぶって何かを考え込んでいるように見えた。

「こりゃ、里保ちゃんと喧嘩でもしたかな。」
小さく香音が聖の元へときて呟いた。

しばらくすると担任が教室に入ってきて朝のHRが始まり出席を取り始める。
里保の席は空席のままであった。

やがて里保のところまで出席がやってくる。

「鞘師…鞘師!なんだ、鞘師はきてないのか。
生田、お前、鞘師が来てないことについて何か知ってるか?」

担任の問いかけに一瞬迷うそぶりを見せた後、衣梨奈は小さく首を振る。

「そうか、まったくしょうがないなぁ」
そういって担任は引き続き出席を取り始めた。
その間衣梨奈は口を堅く結び、下を向いたままであった。

何かがおかしい。聖はそう感じた。
衣梨奈の性格上、どんなに喧嘩をしていても何かしら心配そうなアクションを取るはず。

すぐに顔に出るタイプなのだ。
しかし今日の衣梨奈は何かを必死で堪えているようなそんな風に見える。

そしてその違和感は同じように香音も感じているようであった。
衣梨奈と空席のままの里保の席を心配そうに見つめている。

やがて、朝のHRが終わり、教室の中が喧騒に包まれていたとき、教室の前のドアから誰かが駆け込んでくる。
里保か、と思ったがそこにいたのは違うクラスの亜佑美であった。

亜佑美の姿を見た途端、弾かれたかのように席を立つ衣梨奈。
その姿を見つけた亜佑美はダッシュで衣梨奈のもとへと駆け寄る。
「生田さん!!」
「亜佑美ちゃん…、里保は…?」

亜佑美と衣梨奈のただならぬ様子にクラスの中が静まり返る。
そんな空気も気にせず衣梨奈は亜佑美の肩を持ち大きく揺さぶった。

「里保は…、里保はどこに行ったと?」
「鞘師さんは…鞘師さんは……、もう……戻ってこれないかもしれないです。」

続く


230 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/15(日) 21:46:20
ということで鞘師編、始めます
更新ペースを守れるかは定かではありませんが頑張ります

作者


231 : 名無し募集中。。。 :2015/11/15(日) 22:43:20
笑顔編ようやく続きがキター!


232 : 『笑顔』真相編 :2015/11/15(日) 23:47:38
ちょっと書いてみてやはり違和感があります
皆さんに真相を伝えたいのですが、物語にするとどうしても腕が動きません
半年前もそれで書けなくなりました

すでに昔の表現や書き方と違っているし、どうしようか迷っています。

いっそのこと、真相のみを箇条書きにしてしまおうかとかも


233 : 名無し募集中。。。 :2015/11/16(月) 01:50:22
鞘師編も楽しみだし『笑顔』真相編も楽しみだし
なにより作品が増えて盛り上がってくれるのはありがたいわぁ

『笑顔』編の作者さんは苦戦してるようだけど
大変そうだから強要はできないけど
たとえ表現とか違ってきてもいいから
できれば最後まで書ききってほしいなぁ


234 : 名無し募集中。。。 :2015/11/16(月) 20:55:15
>>225
確かに15日ルールで続々落ちての立て直しがされてますね
改めて本スレ立てるのは明日に延期したいと思います

なんてここまで引っ張っておきながらスレ立てするの久しぶりなので
結局ちゃんと立てられなかったら恥ずかしいけどw


235 : 名無し募集中。。。 :2015/11/17(火) 19:51:48
事前告知通りに狼に本スレを復活させました
ピンポンスレにも協力をお願いしましたが
まずはなにより61までの即死回避保全にご協力お願いします

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 25
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1447756850/


236 : 名無し募集中。。。 :2015/11/17(火) 19:55:06
こっちにも現在の狼の設定まとめを貼っておきます
正直改悪が進んでかなり厳しい状況です

2ちゃんねるmorningcoffee板の現在の運用設定
【期限ルール】全てのスレはスレ立てから15日間たつと落ちる
【完了ルール】完了スレ(1001レス超・512kB容量超・スレスト)は最終書き込みから24時間たつと落ちる
【即死ルール】(その1)40レス以下のスレは最終書き込みから30分間たつと落ちる
【即死ルール】(その2)60レス以下のスレは最終書き込みから60分間たつと落ちる
【圧縮ルール】スレ数が750を超えるとスレ数700へと最終書き込み時間の古いスレが落ちる


237 : 名無し募集中。。。 :2015/11/17(火) 21:19:48
ピンポンスレ住人の協力もあり無事即死回避ラインの61レスを突破できました
ただスレ保持数が700に減ったこともあり気を抜いてしばらく書き込みが減ると
落ちる可能性が高いので今後もこまめな保全にご協力お願いします


238 : 名無し募集中。。。 :2015/11/18(水) 22:15:14
『笑顔』真相編どうしても作れませんでした申し訳ない
お伝えできなかった謎の答えをまとめましたので
気になっていた方がいたら読んでみてください


239 : 『笑顔』の真相 :2015/11/18(水) 22:17:48
※老魔道士の正体と思惑※

彩花がコンクール表彰式で出会った柔和な老人。

その正体は、魔道士協会で「並行世界」の事を研究していた魔道士。

「並行世界」が現実に存在する事で自分達のいる世界に多大な負の影響を及ぼすという持論があり、「並行世界」が存在しないことを証明するための研究をしていた。

彩花の父親とは、同じ魔道士協会員として面識があった。老魔道士はその研究対象の特異性からか魔道士協会内に親しい人間がおらず、むしろ他の魔法道士達を嫌っていたが、同じ研究対象を持つ彩花の父親の事だけは「仲間」だと認識していた。(彩花の父親の方はただの同僚だと思っていたようである)

絵画観賞が趣味で絵画展覧会などに足を向ける事が多く、彩花が出席した表彰式にいたのは全くの偶然であった。

展示されていた『笑顔』の絵を一目見て、それが「並行世界」の様子を表わした特殊な物である事、更にはそれが間違いなく本物だということも理解してしまった。

長年の研究成果を一瞬で覆された事による絶望感と「並行世界」の証明によるこの世界の危機に対する歪んだ使命感から、『笑顔』と彩花の描いた絵、そして彩花自身をこの世界から消滅させようとする。

だが、道重さゆみが統括するM13地区にある他の絵に手を出すことが出来ない。悪意を持ってその地区に侵入すれば、たちどころに阻止されてしまう。

表彰式の行われた短い時間での思慮の結果、M13地区の住人である彩花とその家にある全ての絵を同時に始末する方法を思い付く。

それは、『笑顔』に時限式の魔法をかけることだった。


240 : 『笑顔』の真相 :2015/11/18(水) 22:19:50
彩花が表彰式終了後自分の家に『笑顔』を持ち帰る事を見越して、頃合いに自然発火するように設定した。更にその絵の近くいる人間を強烈な眠気が襲うように仕向けた。
更に、念のため彩花の父親にはその設定した時間に家から離れさせるように急用を騙って手紙を送りつけ、邪魔をさせないように仕向けた。


※封印魔法とその「自我」※

老魔道士の計画は完全には成功しなかった。
家にあった彩花の絵は全てが燃え尽きてしまったが、彩花自身は福田花音の力によって火事から救出された。
更に発火の元になった『笑顔』の絵も、その発火魔法の力が裏目となり、無傷で残ってしまった。

彩花の父親は、表彰式で見かけた事と火事の直前に送られてきた手紙によって、彩花を狙った犯人とその理由に気付く。
その手口に狂気を感じ、事の重大さから娘を守るために彩花の「並行世界」を描き出す能力を一時的に封印する事を決意する。
火事の負傷で意識のない状態の彩花に封印魔法をかけ(これにより、彩花のその日の記憶が混乱している)、封印の「鍵」を焼け残った『笑顔』に設定した。
ほとぼりが冷める前に封印が解けるのを恐れ、『笑顔』は彩花と唯一親しい飯窪春菜に託す。彩花の安全が確保された後に春菜に再び会うことで封印が解けるようにと考えたのだ。そしてそのまま電車に乗り込み、彩花を周りの人間にも知られていない昔の生家へと隠す事にした。

しかし、まだ殆ど解明されていない未知の能力を無理に封印したことで、彼女の記憶の一部も封印されてしまった。
彩花の生き甲斐であったはずの今まで描いてきた絵画達の記憶を失うと共に、それを作成していた時の思い出と切り離す事が出来ない春菜の存在自体も忘れ去ってしまったのだ。

娘を守るためとはいえ、彩花の大切な物を奪ってしまった事の罪悪感からか、彩花の願いである絵画修行の旅を認める。それは、遠い外国に彩花を送ることで娘を狙う相手から守るためでもあった。
そして自分は、娘を狙った老魔道士と決着をつけようとした。

長い年月が流れ、最終的に彩花の父親は老魔道士を倒す事に成功する。
だがその代償に、彼は瀕死の深手を負ってしまった。
自分の死期を悟った彼は、自分の死後に彩花が旅から戻った時、封印魔法が解けるように仕掛けを施す。
『笑顔』を渡した時に春菜からもらった誕生日プレゼントであるブレスレットに魔法をかけておいたのだ。そのブレスレットに触れた者は、「飯窪春菜」を思い出す。

これによって、彩花は春菜の元を訪れる。そして『笑顔』と出会い、封印は解けるだろう。

しかし、実際は彼の思惑とは完全にかけ離れた事態が起きた。


241 : 『笑顔』の真相 :2015/11/18(水) 22:21:20
彩花の父親が「中途半端」に死亡した事で(後述)、彩花にかかっていた封印の魔法が、複雑に「絡まって」しまったのだ。その結果、封印魔法そのものが「自我」を持ってしまった。
その「自我」は魔法を解かれる事を恐れ、魔力で彩花を混乱させていく。絵を描く事自体を強制的に封印し、更にブレスレットの魔法を変化させ、自分が「飯窪春菜」という人間だと信じこませた。

こうして「絵を描けなくなった飯窪春菜」が誕生し、彼女は解決方法を探すことになる。

普通の人間の医者ではもちろん封印の存在すら解明できなかったが、魔道士協会の魔力医達は実は原因が封印に依るものだと気付いていた。しかし協会に箝口令を敷かれていた為に、彼女に真実を伝える事はなかった。
魔道士協会としては「並行世界」に関する事も、更には彩花の父親と老魔道士の闘いの事実も闇に葬る方針であった。

だが、魔法医の一人が彼女を不憫に思い、道重さゆみの元へ向かわせた事が解決へと導いたのだ。


※彩花の父親と明太子スパゲティ※

彩花の父親は魔道士協会に在籍中、「並行世界」の研究を行う魔道士だった。
実態が証明されない「並行世界」の存在を頑く信じ、その証明の為にただひたすら研究を続けていた。
その研究対象の特異性から、老魔道士と同じく仲間と思っていた魔道士はいなかった。

そんな彼の元に突然、ある女性が姿を現す。
「彼女」は自分の事を「異なる並行世界」から移動してきた存在だと主張し、元の「並行世界」へ帰る方法を探していると言う。自分が元の世界に戻らなければ、元の世界が大変な事になる、とも主張した。
「彼女」ははじめ魔道士協会に助けを求めたが、誰一人として彼女の話を本気にしなかった。しかし彩花の父親は「彼女」が本当に「並行世界」間を渡ってきたと信じ、研究の為もあって「彼女」が帰る為に協力する事を快諾する。

しかし、「並行世界」間を移動する為の理論や知識が足りず、計画はすぐに難航した。彼は悩んだ末、ある魔道士に協力を要請する事を決心した。

それは三大魔道士のひとり、道重さゆみだった。

彼からの手紙を受け取ったさゆみは、あっさり協力する事にした。後に春菜が理由を訊くと、いわく「暇つぶしだった」らしい…が、更には「彼、さゆみに似たところがあったからね」とも。

さゆみにとっても「並行世界」は未知の領域ではあったが、三人の努力とそれぞれの協力で、「並行世界間の移動」の研究が進むことになった。彼が彩花に語った「昔の仲間」とは、実はさゆみの事であった。一方で、若き日の彼と「彼女」の間には愛が芽生えはじめていた。


242 : 『笑顔』の真相 :2015/11/18(水) 22:22:37
ある日、さゆみが作った明太子スパゲティを味見した「彼女」は、あまりの美味に感動したらしい。「彼女」の世界には「明太子スパゲティ」は存在しないとの事だった。彼はさゆみに明太子スパゲティの作り方を教わり、研究の合間に懸命に練習して作れるようになった。

さゆみに協力を要請してから数年経ち、ついに研究は完成した。「彼女」を元の世界に戻す準備が完了し、いつでも実行可能となっていた。
しかし問題が発生していた。彼と「彼女」の間に娘、「彩花」が生まれていたのだ。
彼は彩花の為にと帰るのを引き留めるが、「彼女」は涙を流しながら自分の世界の為に、と戻るのを止めなかった。

ついに「彼女」を「並行世界」へ送る瞬間が来る。
だが、それを実行した後、何もないはずのその場所に「彼女」の亡骸が残されていたのだ。

研究は失敗に終わり、彼は「彼女」を「殺してしまった」事に絶望と失意に沈み、すぐに魔道士協会を脱退してしまう。その後、さゆみの助言もありそのまま娘の彩花を連れてM13地区に移り住んだ。

だが数年後、彩花の持つ特殊な能力に気付いた彼は、ある考えを持つ。
「彼女」は、自分の「並行世界」に帰る事を失敗して命を落としたのではなく実はちゃんと帰れたのではないか、と。
彩花が描いた絵には、異なる「並行世界」それぞれに別の存在として様々な彩花が存在していた。
ならば「彼女」も、この世界での姿である肉体を脱ぎ捨て、別の存在として元の世界で生きているのではないか。

その時から、彼はいつか自分も「彼女」のいる「並行世界」に旅立つ事を心に誓う。
彩花が大人となり自分の元を離れる時が来たら自らの肉体を捨てて「並行世界」を渡り、「彼女」と共に生きる。

そして、「彼女」の為に明太子スパゲティを作る。

彼は彩花の成長を見守りながら、「並行世界」の研究を密かに続けた。一方で明太子スパゲティの研究も怠らなかった。

時は流れ、彼は老魔道士によって受けた傷から、自分の死期を悟り、計画を実行に移すことにした。

彩花に春菜のブレスレットを託し、伝言を添えた。

伝言に記してあった「私を許してほしい」とは、封印魔法により人生を歪めてしまったことへの謝罪であったが、その後に続く「これで母さんに会える」とは、死後の世界に行くという事ではなく、文字通り「母さんのいる世界に行って会う」という意味だったのだ。

彼は肉体を残し「並行世界」へ旅立った。

しかし、肉体は死亡しているが魂は別の世界で生存しているという「中途半端」な死が、彩花にかかっていた封印魔法を異質なものへと変化させてしまったのだった。


243 : 『笑顔』の真相 :2015/11/18(水) 22:24:22
※福田花音の正体※

彩花が子供の頃に描いた『魔法少女あやか☆マギカ』に写っていた少女。シンデレラをモチーフにした出で立ちで、肩に白い生物を乗せて立っている様子が描かれている。

その正体は、異なる「並行世界」に旅立った「彼女」、つまり彩花の母親である。

だが彩花の世界で存在した「彼女」は福田花音本人ではなく、あくまで別人である。彩花達の世界にいた頃は全く別の人生を歩んでいて、更には人相も全く異なる。元の世界に戻った後も、前の世界での出来事は全く覚えていない。

「魔法少女」として生まれ、世界の危機を救う為にその人生をかけていた。その能力は、異なる「並行世界」へのアクセスであり、実戦的な戦闘能力を持っていない。
彩花は母親の能力を別の形で受け継いでおり、別の「並行世界」の自分を絵に描き出す事ができた。一方花音は更に直接的な「並行世界」への干渉が可能で、彩花の描いた絵を通して別世界の彩花と連絡を取ることができたり、遠隔的に魔力で彩花を火事から救出したりできた。
更には自分の肉体を離れ、魂のみ別の「並行世界」へ移動する事が可能だが、この能力は未完成であり初めてその能力を使用した時は渡った先から魂が戻って来れなくなった。しかし道重さゆみと彩花の父親の協力で戻って来る事に成功する。

彩花との面識の謎や、自分の世界での使命に関しては「魔法少女あやか☆マギカ 『笑顔』エピローグ」にて。


※ 道重さゆみとピンク色のお菓子

封印魔法を解くことに成功しM13地区を再び旅立った彩花。

しかし道重さゆみは、好奇心と直感から彩花に残された謎を解明しようとする。

さゆみは彩花の過去の記憶を調査し、彼女が「あの時の赤ん坊」であることに気づくと共に、全ての謎を解くことに成功する。(生田のヒントのお陰もあった。死んだ相手にパスタを作る理由は、相手が死んでない可能性を示唆したのだ)

さゆみは彩花に対する誤解で苦しむ春菜に全てを話し、彩花に対しても真実を告げる必要があると考えを伝えた。

それに対して春菜は、彩花が絵本作家になる夢を叶えた後に事実を知った方がいいと提案した。それは、今は何も邪魔されずに夢を追わせたいという気持ちからであった。さゆみはそれに賛同し、ある方法を取ることで将来彼女に真実が伝わるように仕向けた。

彩花が旅立つ時に渡したピンク色のお菓子の選別(餞別だが、数ある色のお菓子から選別した意)。それは魔法のかかった食べ物で、「明太子スパゲティ味」(彩花が食べた時、父親を思い出したのはそのせい)。効能は、「どこにいても私が見守ってる」。
これを食べた人間に対して、いつどこにいても把握でき、魔力の干渉もする事ができる。
彩花にこの魔法のお菓子を渡した本来の目的は封印魔法が再発しないように監視するためであったが、さゆみはこの効果を利用し、春菜と自分からの時限式メッセージメールを彩花に送ることに成功した。

『笑顔』真相編で彩花が「見た」のはそのメッセージであり、『笑顔』本編より数十年が経過した後だと思われる。


244 : 名無し募集中。。。 :2015/11/18(水) 22:31:23
以上になります
細かい設定の辻褄が合わないところはご容赦ください
ひっぱりたおした挙句こういう決着となりました

皆さんには多大な迷惑をおかけしましたが『笑顔』を読んでくれた方には
感謝しかありません本当にありがとうございました


245 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/18(水) 22:34:59
いやいやすごい引き込まれました
確かにこの設定を書いていくとなるとすごいなぁ…と思いつつ
十分物語になっていることに驚きを感じました

これからの作品も楽しみにしています
お疲れ様でした


246 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/18(水) 22:39:35
というわけで自分も作品投稿します


247 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/18(水) 22:41:34
いつまでも心は一緒④

執行局局長室。
そこでは、いつもであればコーヒーの香りが辺りを包んでいるのだがこの日は違った。

生田は自分のデスクに腰掛け目の前に置かれている一枚の紙をじっと見つめている。

『召集リスト』

「くそ…、わからない。なぜだ…。」
先日行われていた会議の後、国境線へと派遣される部隊のメンバーが発表されていた。

その内訳は協会魔道士や一般兵など数十人と執行魔道士数人。
執行魔道士が部隊長となり数グループを形成、作戦にあたることとなっていた。

ここまではいつもの流れと一緒。

しかし今回、大きく異なっていたのはその執行魔道士が全員若手であり、
その中になんと里保の名前も記されていたのであった。


248 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/18(水) 22:43:15
これにはさすがの生田も黙っているわけにはいかなかった。
というよりもそもそも里保は協会の任務の一環としてM13地区に駐在している。
しかも石田亜佑美という新しく部下も迎えている状態なのだ。

それにも関わらずそのメンバーの中に里保の名前が記されていること自体、生田には理解ができなく早速抗議をしに向かった。

しかしそこで聞いた事実は生田を大いに驚かせるものであった。

局長室の電話が鳴る。
電話を取った生田に交換手が外線からであることを伝えた。

この番号には見覚えがある。
生田は少し体を堅くして電話をつないだ。

「もしもし…。」
『パパ…。』
聞きなれた娘の声。
生田はあくまでも平静を装う。

「衣梨奈か。いきなりどうした。」

『亜佑美ちゃんから聞いたと。』

やはりその件か…。
せっかくの娘からの電話だったというのに生田の気持ちは一気に沈んでいく。

『どうして…どうして里保がそんな仕事しきゃいかんの』
娘の声は暗く沈んでいてそれが尚更に生田の心を締め付けた。
信じてはもらえないだろう、だがそんな娘の声を聞いて事実を隠すこともできなかった。


249 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/18(水) 22:44:37
「衣梨奈…よく聞きなさい。
じつは俺にもよくわからないんだ。
 この件が決まった時すでにリスト上に里保の名前は載っていた。
 もうどうしようもできなかったんだ。」


『じゃあ…じゃあ里保は本当に…』

「あぁ…、戦場に派遣されている。」

生田がそのことを伝えた瞬間、電話の向こうの声がすすり泣きに変わった。
「衣梨奈…。」

『許さんけんね、もし…もし…里保に何かあったら…』

『絶対に、パパを許さんけんね。』

そういって衣梨奈は電話を切った。
生田は静かに電話を置くとこのやりきれない気持ちをどこにぶつけていいかわからないまま椅子に深く腰掛けた。
そして頭を抱えて天を仰いだ。

「里保…なぜだ、なぜ自分からこんな任務を志願したんだ。」


続く


250 : 名無し募集中。。。 :2015/11/19(木) 15:22:39
りほりほが自分で志願とは・・・
最終回っぽい雰囲気のドキドキの導入やね


251 : 名無し募集中。。。 :2015/11/19(木) 19:22:58
笑顔編の箇条書き、昔読んでた魍魎戦記MADARAの巻末の設定資料集みたいで面白かったw


252 : 名無し募集中。。。 :2015/11/19(木) 20:01:49
『笑顔』編作者さんのことだから色々仕掛けを施してるんだろうと
思ってはいたけど予想以上のボリュームだった
途中まではまだフムフムなるほどと読んでたけど

>その正体は、異なる「並行世界」に旅立った「彼女」、つまり彩花の母親である。

はまったく想像もしておらずのけ反ったw


253 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/20(金) 00:50:48
いつまでも心は一緒⑤
中央の町から離れた砂漠地帯。
その中を数台の車がもうもうと砂埃を立てながら移動していく。

「もうすぐ目的地じゃけ、そしたら野営の準備をしましょう。」

里保は辺りの景色を見渡しながらそう運転手に伝えた。

「了解しました。」

里保たち討伐隊は一般人のふりをして目的の場所へと接近していた。
相手の素性が魔道士かもしれなく、さらにその実力もわからないため、下手に近づくと
今までの二の舞で全滅する可能性があった。

そのため少しでも魔力の消費を抑えるのといざという時の保険のために里保たちは数手に分れて行動することにしたのだ。

行程は順調で他のグループと連絡をとりつつ目的地へと少しずつその距離を縮めていく。
道すがら里保はなるべく任務のことだけを考えるようにしていた
特にM13地区のことは忘れていようと努めていた。

「鞘師さん、着きました。」

「OK、そしたら今夜はここで過ごしましょう。宿舎の準備をおねがいします。」

「了解しました。おい、みんな野営の準備だ。支度しろ!」


254 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/20(金) 00:53:05
そろそろ、武装勢力の縄張りに入る。
まだ日が沈むまで少し刻はあったが里保は夕闇に乗じた襲撃を懸念し、
離れた位置で余裕を持って一晩を明かすことにしていた。

てきぱきと準備をしていくメンバーをみて、里保もその輪に加わる。

チームは自分も含めて13人。
魔道士であるのはじぶんともう一人だけではあったがメンバーのいずれも腕に覚えのある人物ばかりであり経験も豊富であった。

その中で里保は一人執行魔道士としてチームの指揮をとる。

不安がないといえば嘘になる。
一つの判断ミスがチーム全体を危機へと追い込む恐怖もあった。
しかし自分でやると決めた以上、そんな様子は微塵も見せるわけにいかなかった。

しばらくすると幾つかの大型の簡易宿舎がたち、野営の準備が整ったようだ。
その時である。メンバーの一人が声を上げる。

「おい、あそこに誰かいるぞ!!こっちに向かって歩いてくる。」

辺りに緊張が走る。敵襲か。
里保を含めその場にいた全員が警戒態勢に入った。
数人がアイコンタクトをし、武器を構える。

そして里保の方を見た。里保はその動きに対し小さく頷く。
すると瞬く間にベージュ色の迷彩服は砂の中に溶け込んだ。
里保たち残ったメンバーも万一の場合に備え後方支援の態勢を怠らない。

やがて無線が入る。


255 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/20(金) 00:53:48

『鞘師さん。こちらA班。どうぞ。』
無線からの音はそこで何事も起きていないことを告げていた。安堵する里保。

「こちら鞘師、どうしました?どうぞ。」

『女の子です。女の子が一人気を失って倒れています。保護しますか?』

サブリーダーが声をかけてくる。
「どうしますか、鞘師さん。」
その問いかけに鞘師は一瞬考え込む。見ず知らずの少女。敵の罠かもしれない。
しかしまだ武装勢力の元からはだいぶ距離がある。そのことから里保は判断を下した。
「保護してください。」


256 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/20(金) 00:56:07
いつまでも心は一緒⑥

A班が連れて帰ってきたのは自分と同じくらいの年の女の子であった。
身体中、擦り傷が目立ち、髪はボサボサ。
衣服もあちらこちらが破れ見るからに痛々しい様子であった。


「とりあえず、この子を中へ。
 手当を行いましょう。他の皆さんはいつも通り持ち場についてください。
 4時間交代制で敵襲に備えましょう。」

里保はそう指示を出すと、その場を離れ、A班の後を追った。
宿舎内に運び込まれた少女は簡易ベッドの上にそっと降ろされ眠っていた。

「起きるまではしばらくかかりそうですね。それにしてもこの子は一体…。」
少女を運んできた隊員が里保に話しかけてくる。

「そうですね、もしかしたら武装勢力の襲撃か何かを受けたのかもしれません。
 目を覚まし次第、事情を聞いて見ましょう。」

「了解です。」

野営1日目に訪れた突然の事態。
それでもメンバーの誰もが特に浮き足立つこともなく淡々と与えられた仕事に取り組んでいた。
夕食を済まし、今後の計画を全員で共有したのち、見張りのメンバー以外は自分の寝床へと引き上げる。

里保は寝る前に一度少女の寝ている医療宿舎を覗き込む。


257 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/20(金) 00:59:02
しかし相変わらず、少女は死んだように眠っていた。
その様子を見て里保はそっと扉を閉じると自分の宿舎へと引きあげていくのであった。

深夜、静まりかえる宿舎内。
そんななか今まで眠っていたはずの少女はパチっと目をさますとそっとベッドを抜け出す。

そして監視の目を気にしながら一直線に里保の眠る宿舎の前に立つと音もなく内部へと侵入した。

宿舎のなかにはベッドが置かれこんもりとした様子が暗いなかでも確認できる。

少女はそっと忍び寄ると懐からナイフを取り出し、一気にそれを突き立てた。

手応えは十分。
じわじわと布団が赤色で染まっていく。

にんまりとした表情で布団をめくった少女。
しかし次の瞬間、驚きの表情へと変わる。

なんとそこで見たのは巨大な人形の姿であった。

「まずい、謀られた!!」
少女はあわてて部屋を出ようと後ろを振りかえる。
その瞬間、目の前に一本の刀が突き出された。

「どこへいくつもりかのぅ。」
自分がナイフを突き刺したはずの人物、鞘師里保がそこにいて、少女に向けて刀を突きつけていたのであった。


続く


258 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/20(金) 01:00:48
こんばんは
本日の更新はここまでです

作者


259 : 名無し募集中。。。 :2015/11/20(金) 03:28:19
新作キター


260 : 名無し募集中。。。 :2015/11/20(金) 09:49:19
はたして少女は誰なのやら?


261 : 名無し募集中。。。 :2015/11/21(土) 15:36:40
なんとなくちぇるっぽいwと言うかクラルスかな?イメージ的に


262 : 魔法少女あやか☆マギカ :2015/11/21(土) 22:25:17
『さあ、シンデレラ。思いっきり舞踏会を楽しんでおいで。でも、忘れるんじゃないよ?
夜の12時を回ったら、私の魔法は解けてしまう。カボチャの馬車も、ステキなドレスも、
全て元の姿に戻ってしまうからね!』


前世の、華やかで楽しかった記憶など消えてしまえばいいのに。

今の絶望が、より鮮明に感じられるだけだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


朋子「たっだいまー」

佳林「お帰りなさい!」
さゆべぇ「おかえり、朋子」

佳林「…どうだった?魔女は」
朋子「まあまあかな。ほら、ローズクォーツ三個」
佳林「怪我してない?」
朋子「大丈夫大丈夫!…ちょっと危ないとこもあったけど」
佳林「…朋」
朋子「平気だよ。ほら早く、そのローズクォーツを入れちゃってよ」
さゆべぇ「さあ、佳林」
佳林「…うん」


263 : 魔法少女あやか☆マギカ :2015/11/21(土) 22:26:57
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ああ、早く消えたい。

全てを消して、楽になりたい。

でも、あとどれくらい我慢すれば、私は終われるんだろう?

…そして終わった私は、またシンデレラに生まれ変われるんだろうか?


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


佳林「チャージ…ローズクォーツ!」


『世界寿命』 「659369」


朋子「…どれくらい回復した?」
さゆべぇ「約15000かな」

朋子「…それって、時間にしてどれくらい?」
佳林「………」
さゆべぇ「24時間。世界の寿命が、約一日伸びたってところだろうね」


264 : 魔法少女あやか☆マギカ :2015/11/21(土) 22:28:49
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


いや、わかってる。

私はシンデレラには、もうなれない。

この世界で魔法少女として生を受けた私が、どんなにそれに似せた格好をしても…

それは、シンデレラそのものじゃないんだ。

ここには、王子様も、魔法使いのおばあさんも、いない。

私は、もうプリンセスではないんだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


佳林「…ねえ、さゆべぇ」
さゆべぇ「なんだい?」
佳林「他に、方法はないのかな?」

さゆべぇ「世界を救う方法かい?」

佳林「…うん」
朋子「佳林、訊くだけ無駄無駄」
佳林「……」
朋子「もう何回も訊いたじゃん。この世界に溢れかえってる魔女達を私の力でエネルギー体に強制変換させて、それを使って世界を延命するしかないって」

佳林「でも、朋子一人に全てを託してしまうのは…」
朋子「んー佳林、私が心配?」
佳林「当たり前でしょ!」


265 : 魔法少女あやか☆マギカ :2015/11/21(土) 22:30:46
さゆべぇ「仕方ないさ。もうこの世界で魔女と戦えるのは、朋子、君しかいないからね。
魔法少女も、君ら二人の他はあと一人しか生き残ってない」
朋子「佳林は戦闘要因じゃないし、あの人も同じく。ならば私が戦うしかないじゃん」

佳林「でも例えば、前みたいに他の並行世界からエネルギーを集めてくるとか…」
朋子「!!」
さゆべぇ「それは、あまり有効ではないということで話が着いたはずだよ。確実性が低く、不安定要素が多い」

朋子「そうだ!私はあんなこと、もう嫌だからな!『ローズクォーツの夜』なんて…」
さゆべぇ「人間の心に頼った方法は、ハイリスクハイリターン。あの時それを思い知った。僕もあれ以上は勘弁願いたい」

佳林「じゃあ、やっぱり…」

さゆべぇ「ああ。後は、福田花音次第だ。彼女に身を委ねるしかない」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


世界を救う、か。

思えば、これまで色々頑張ってきた。

仲間たちと一緒に、魔女と戦ったり。
並行世界を行ったりきたりしたり。

…全て、無駄になったけど。

皆、本当にゴメンね。

まだ、頑張ってる仲間がいることはわかってる。
まだ、私を信じて待ってる仲間がいることも。

…でも、もうダメなんだ。

全て、終わりにするんだ。


…………………
…………………


266 : 魔法少女あやか☆マギカ :2015/11/21(土) 22:34:13
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


さゆべぇ「彼女が『この世界』を『説得』できるかどうか。それが、僕たちの命運さ」

佳林「うん…わかってる」

朋子「私達はあの人達を信じて、少しでも世界の寿命を延ばしとくしかないね」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


…………………


『嘘じゃない!私は、ひとりでも全然平気なんだから!今までだって、ずっとひとりで絵を描いてきたんだから!』


………だからあ。

せっかく友達ができたのに、なんですぐに諦めるかって言いたいのよ……


ちゃんとした人間の友達ができたのよ?

もっと、ちゃんと彼女としっかり向き合いなさいよね………


『私は!あなたの事を友達だと思ってたよ!花音ちゃん!!』



…………………

友達、ねえ…

私は、あんたの友達じゃなくて、あんたの………

なんだっけ???

………………


「仲間、でしょ?」


……………
……………


…何しに、来たの?


「何って、もちろん」

………………


「花音ちゃんを説得しに来たに、決まってるじゃない!」


267 : 魔法少女あやか☆マギカ :2015/11/21(土) 22:36:44
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


さゆべぇ「彩花、いいかい?君に、『この世界』の説得をしてもらわなければいけない。
そう、この世界そのものとなった、『福田花音』を。
彼女は、その魔力を全て使い、自らを犠牲にしてこの世界の心となった。
無限に続く魔女の排出を食い止めるためには、世界そのものになるしかなかった。
世界が新たに魔女を生み出す事はなくなったが、彼女はその負のエネルギーに抗えず、自らのエネルギーを大量に消費しはじめた。
つまり、世界が自殺しようとしている。
彼女の自殺を止める事ができるのは、世界と心を通わす能力を持つ君しかいない」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


…………………

仲間、ね。

この、おせっかい。


「ふふ。人の事、言えないでしょ?」


でも…

あやちょ、あなたに私を説得できるかしら?


「さあどうかしら?あや、今日は秘策を考えてきたからね!」


……………

ふふふ。

楽しみにしとくにょん………


268 : 魔法少女あやか☆マギカ :2015/11/21(土) 22:44:24
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


朋子「あー、魔女と戦ってお腹空いた!さゆべぇ、ご飯にしよう!」
佳林「全く、朋はのんきなんだから…」
さゆべぇ「そうだね。じゃあ今から準備するとしようか」

朋子「あのさ、今日のメニューも…あれなの?」
さゆべぇ「何か問題があるのかい?」
朋子「いや、たまには違うのも食べたいかなーって…」
さゆべぇ「文句があるなら、食べなければいい。でも言っておくよ。今日の『メンタイコスパゲッティ』は一味違うんだ」
朋子「うぇーい」



佳林「そういえば、いつか和田さんが福田さんを連れて帰ってきた時、さゆべぇはこれを
二人に食べさせたいって言ってたね」

さゆべぇ「僕にも、何故かはわからないよ。だけど、使命感のようなものを感じてね」

佳林「いつか、そんな日が来たらいいね」
さゆべぇ「来るさ。人間の心は、到底理解できないものだからね」



魔法少女あやか☆マギカ 『笑顔』エピローグ 完


269 : 名無し募集中。。。 :2015/11/21(土) 22:58:06
おまけ

さゆみ「彼、さゆみに似てるところがあったからね」
春菜「道重さんと、あやちょのお父さんに似てるところがありますか?」

さゆみ「例えば、名前とかね」

…………
ということで『笑顔』、そして魔法少女の物語は、これで全て完結です。
一年半もの間、ああでもないこうでもないと悩みながら、少しずつ作らせていただきました。
真相編は、未完となってしまい申し訳ありませんでした。
しかし、初めに考えていた謎は全てお伝えできたことを嬉しく思っています。

魔法使いえりぽんのRPG動画を見て、素敵なこちらのスレッドに参加させていただけた事を幸運に思います。
本編はまだまだ続くと思いますが、無理をなさらずに頑張ってくださいね!
では、またいずれ!


270 : 名無し募集中。。。 :2015/11/22(日) 01:34:22
>>269
完結お疲れ様でした!
笑顔編もあやかマギカも楽しませてもらいました


271 : 名無し募集中。。。 :2015/11/22(日) 15:39:02
おまけの内容に「どういうこと!?」とビックリして
もう一度真相から読み直してそこでようやく
「並行世界」へ旅立ったあやちょの父親がさゆべぇなのだと理解
最後の最後まで衝撃受けまくりでした

でも父親のこっちの世界での名前はなんだったんだろう?
男の名前っぽくはないけど「和田紗友希」でいいのかな??


272 : 名無し募集中。。。 :2015/11/22(日) 19:02:58
多分それで合ってます(笑)漢字は違うかも知れませんが。

最初あやちょの父親の設定を考えた時、メンバーの誰かにしようと思いましたが
(まろと恋に落ちる以上、一般男性じゃない方が抵抗がないかもとか考えたりして)、
男性の名前としても違和感がない彼女にしました。
さらに、魔法少女との接点や、道重さんとの接点の理由として都合がよかったので、さゆきちゃんに頑張ってもらいました。


273 : 名無し募集中。。。 :2015/11/22(日) 20:52:54
>>272
わざわざ回答ありがとうございます。
認識に間違いがなかったようでホッとしました。


せっかくなので、「並行世界」に同一人物がそれぞれ存在することと「魂の移動」の
整合性について、うまく理解ができていないので質問させてください。

花音は「自分の肉体を離れ、魂のみ別の「並行世界」へ移動する」能力によって、
「彩花の世界」に移動してそのまま戻れなくなってしまったわけですよね。
魂は移動してきたとして、その身体はどこから調達(?)してきたのでしょうか?

「彩花の世界」に事前に存在していた「並行世界」の花音に、
憑りつく(?)形で存在することになったのかなとも思ったのですが、
でもそうなると魂が戻った時に亡骸が残るというのが噛み合わない感じがします。
(いきなり別世界の自分の魂が憑りついてきて身体を奪われ、
その魂が出ていったと思ったらその巻き添えで自分も死んじゃったとなると、
あまりに可哀想すぎるし・・・)


274 : 名無し募集中。。。 :2015/11/22(日) 21:58:42
なるほど。なぜでしょう?(笑)

いや、説明が色々足りなくて申し訳ない。もう少し補足しますね。

多分並行世界を移動した魂は、魂だけのままでは存在できない。
このままだとその世界の輪廻転生に組み込まれてしまうために
急遽、能力でかりそめの肉体を作ったんだと思います。
見た目は完全に人間と相違ありませんが、元の世界での本来の顔や姿とは違うものになりました。

彼女が元の世界に帰った後に残された脱け殻は、あやちょのお父さんが土葬したと思いますが、
後で掘り起こしても、何も残っていないかもしれませんね。


275 : 名無し募集中。。。 :2015/11/22(日) 22:05:48
ちなみに最後に投稿させて頂いた魔法少女の話は、曖昧な部分を多く残しています。
読んで頂いた方がそれぞれに真実を想像して欲しいのですが、それでも質問があれば答えようと思います。
もちろん『笑顔』の方も何かあれば訊いてください。

…何も考えてなかったものもあるかもしれませんが、なんとか引き出して答えます(笑)


276 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/22(日) 23:30:32
いつまでも心は一緒⑦

少女はあまりのことに驚き、一歩後ろへと後退する。
それに合わせ里保も一歩前へ出る。

しばらくにらみ合いが続いた。
だが、分が悪いと感じたのか、少女はその場にナイフをすて、両手を上にあげた。

里保は相手から目を離さないよう刀を突きつけながらナイフを蹴り飛ばす。

続々と武器を持った人間が集まるのを見て少女はため息をついた。
「はいはい、降参降参。
 全くこんないたいけな少女を囲むなんてどうかしてるぜ。いつ気付いたの。」
少女が里保に尋ねてくる。

「最初からじゃ」
「えっ?」
「お前がここに来た瞬間から怪しいとは思っちょった」
「まさかそんなわけ…。せっかく身体中傷だらけの少女役を演じてみたのに。」

里保の返しに当惑の表情を見せる少女。
「唇じゃ。」
「唇?」
「長い距離を歩いてきた割にはお前の唇は乾いていなかった。
 ツヤツヤしちょった。だから何かあると思ったんじゃ。」

思いがけない里保の答えに少女は笑い出す。


277 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/22(日) 23:32:05
「あははは、なるほどねぇ唇かぁ。
 それは確かに盲点だったなぁ。まぁさすがは討伐隊の指揮してるだけあるね。
 すごいよ。」

ここまで言って少女の目つきが変わる。

「でもね、あたしたちはやられない。これは宣戦布告さ。
 ちょっとからかいに来ただけ。ま、仕方ないから一回戦はあんたの勝ちでいいよ。」

「おっと、ここから、この包囲から逃げられると思っちょるんか?」
少女を囲む輪がジリッジリッと狭くなる。

「そうだね、私だけじゃ無理かもね。でも条件さえ揃えば…さ」
そう言って少女はちらりと視線を上に向ける。

その様子に思わず里保も周りの隊員たちもつられた。
その一瞬の隙を少女は見逃さなかった。

隠し持っていた閃光弾を地面へと叩きつける。

「うわっ…。」
とっさに顔を腕で覆ったが、手遅れだった。眩しさで視界が奪われる。

「今度来るときは本気で相手してあげるよ。じゃ、まったねーん」

里保たちの視力が元に戻ったとき、その場に残されていたのはぼろ雑巾のような衣服だけであった。


278 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/22(日) 23:33:30
「鞘師さん、後を!」
周りの隊員たちはいきり立っていたが、里保は刀をしまいそれを制した。
周囲の被害確認が先だ。

しかし持ってこられた報告を聞く限り特に被害はなかった。

里保は思う。確かにこれは宣戦布告。
そして自分のこれから相手をするのが一筋縄でいかないことを思い知らされるのであった。


いつまでも心は一緒⑧

「いやぁ、参ったねこりゃ、うん。顔見た瞬間、唇見るとかあいつ変態か…。」

ボロボロの変装具をぬぎすて里保たちの宿舎を脱出した少女は、ひとりぶつくさと文句を言いながら
夜の砂漠を自分たちのアジトへ向かって走っていた。

今までに何度もなんどもこの討伐隊の宿舎に忍び込む儀式はやってきた。
しかし今回のようにあしらわれたのは初めての経験である。

「さやし、っつってたっけ。何者だあいつ。」
悔しい。必ずリベンジしてやる。そう心に決めるのであった。

夜が明ける頃、ようやく自分のアジトにたどり着いた少女はこっそりと自分の部屋へと戻ろうとした。
しかし、入ろうとした自分の部屋の前に人影がいるのを見て凍りつく。


279 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/22(日) 23:35:09
その人物は腰に手を当てて自分のことを睨みつけていた。

「りーかーこー!」
「たたた、田村さん。どどど、どうしたんですかこんな朝早くに…。」

莉佳子はあくまでも平静を装い、何事もなかったかのように振る舞う。

しかしながら目の前に立っている人物、田村芽実には全てお見通しであるようだった。

「今日という今日は許さないからね。和田さんに報告します。」
その言葉を聞き、莉佳子の表情は一気に青ざめた。

「えぇぇぇ…、それだけは…せめて福田さんに…和田さんだけは勘弁してください…。」
「許しません。しっかり絞られてきなさい。」

「彩がどうかしたって?」

突然聞こえてきたその声に二人が振り向くとそこにはひとりの女性が立っていた。
少し不機嫌そうな表情である。

「二人とも一体今何時だと思ってんの?うるさいから静かにしてくんない?」

「それが和田さん、莉佳子がまた勝手に外出して討伐隊に喧嘩を売ったそうで。
 しかも情報によると今回はばれて捕まりそうになったらしいんです。」

その話を聞き、みるみる女性の顔が険しくなっていく。


280 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/22(日) 23:36:30
「莉佳子!」
「は、はい!」
「今のメイの話は本当なの?」
「は、はい…。」
「捕まりそうになったっていうのも?」
「…はい。」
「そう、そしたらメイ!」
「は、はい!」
「今回の件について莉佳子の処分はメイに任せる。」
「は?」
「彩、もう眠いから寝るね。よろしく。」
助かった…。莉佳子はそんな気持ちでいっぱいだった。
芽実も確かに厳しい人ではあるが和田さんに比べればはるかにマシだ。

しかし、その安堵の気持ちと同時にフツフツと莉佳子の中で悔しさがこみ上げる。
そして思わずつぶやいていた。

「くそっ…、あの女さえいなきゃ完璧だったのに…。」
その声はその場を去ろうとしていた彩花の耳にも届く。

「女?莉佳子、あんた女に出し抜かれたの?」

しまった、余計なことを…。慌てて口を塞いだがもう遅い。
彩花は戻りかけた通路を引き返し再び莉佳子達の元へとやってきた。

仕方ないので莉佳子はことの顛末を説明する。

彩花はその話をじっくりと聞いていたがある言葉をきた瞬間ピクリと眉毛を動かし
反応する。


281 : 名無し募集中。。。 :2015/11/22(日) 23:39:04
「さやし…?」
「そうです、確か討伐隊の隊長の名前がそんなんでした。
 歳は田村さんとかとそう変わらないと思います。」

その言葉を聞いてつと黙り込む彩花。そして顎先に指を当てながら考え込む。

「和田さん?どうかしましたか?さやしという名前に聞き覚えが?」

芽実が恐る恐る尋ねると、彩花は指を一つ鳴らし顔を上げた。

「思い出した!鞘師。鞘師里保。協会執行局所属の若手魔道士だ。」
「執行局…。」
「執行局?」
莉佳子は聞きなれない言葉に首をかしげたが芽実の反応を見るとどうやらやっかいごとであるらしい。

「そうか…今回は本気っていうことだね。莉佳子!」
「は、はい!」
「よくやったね。この情報知ってるのと知らないのじゃ大違いだ。」

さっきまでの険しい表情から一変、彩花の表情は嬉々としていた。
「は、はぁ?」
「そしたら執行局が絡んでるとしたら、準備が必要だね。メイ!」
「は、はい!」
「午前中に幹部クラスを集めて今後の作戦会議をやって。
 ムロも参加させて。あと進行はメイに任せる。
 まぁまずはもっと細かな情報収集が必要だとは思うけど。」

矢継ぎ早に指示を飛ばす彩花。
「了解しました。そしたら和田さんは?」
「うん、莉佳子とあいあいをつれて、挨拶しに行こうと思う。」

「「へ!?」」
彩花の突然の発言に目を丸くする芽実と莉佳子。
「あ、挨拶って和田さん?だ、誰にですか?まさか…。」

「うん、鞘師里保のところ。メイ、だから留守番よろしくね。」
続く


282 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/22(日) 23:40:30
こんばんは
今回はここまでです

なんか笑顔編が盛り上がっているなかごめんなさい

作者


283 : 名無し募集中。。。 :2015/11/23(月) 08:28:44
>>269
完結お疲れさまでした毎回謎を推理しながら読むのが楽しみでした次回作も楽しみにしてます

>>271
気づかなかった・・・

>>282
まさかのアンジュルムだったとは!?予想が外れたw
『笑顔』編のあやちょ読んだ後にまた新たなあやちょが見れるとは嬉しい限り


284 : 名無し募集中。。。 :2015/11/23(月) 12:33:02
wktk


285 : 名無し募集中。。。 :2015/11/23(月) 13:09:39
アンジュきたか!

あやちょは本編に出てないメンバーで外伝最多登場かもw


286 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/27(金) 00:26:50
いつまでも心は一緒⑨

『関係者以外一切の立ち入りを禁ず』

そう張り紙のされた室内で複数の人物がヒソヒソと秘密裏に話し合いを続けている。
「そうか…。魔道士の率いる討伐隊が連中の縄張り近くについたか。」
「はっ。どうもそのようで。物見の兵と軍事衛星で位置を確認しております。」
「しかし、奴らも余計な真似を…。これではあの地区の秘密がばれかねん。」
「困りましたなぁ…。外部の者がしゃしゃり出てもらっては。」
「どうしますか。討伐隊。」

「ふむ、そうだな。確か明日あたり、こちらの軍事作戦の日だったよなぁ」
「はい、明日は武装勢力に対する攻撃の日。」
「そのような時にこちらに知らせもせず、そんな近いところに拠点を構えるなんて
もし我々の元に情報が入っていなかったら危ないところだったなぁ。」
「はぁ…?…はっ。」
「うっかり攻撃しないように気をつけないといかんなぁ。」
「はっ。仰せのままに…。」


287 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/27(金) 00:32:58
「ふえぇ、でっかい街じゃの!」
「本当ですね。これほどとは。」

里保は昨晩の出来事から自分たちが後手に回っていたことを悟っていた。
結果的には何事もなく済んだが隠密行動をしていたにも関わらず、こうも簡単に敵の侵入を許してしまったのは
決していいこととは言えなかった。

今回の任務では自分が思ってる以上に相手が洗練されている。
それに対抗するためにはもっと敵について知る必要があると判断した里保は近くにある大きな街へと行くことにした。

「武装勢力が近くにいる割には結構栄えていますよね。」
同行している協会員がいう。

実のところこの街に来るにあたり、部隊の隊員たちは難色を示していた。
M13地区ほどではないにしろここも十分協会の管轄外。

すなわち協会の定めたルールが通用しないということだ。
M13地区に就ている里保にとっては『協会のルールが通用しない』というのは当たり前のことであったが
やはり魔道士ではなくとも協会に所属する身にとっては恐怖以外の何物でもないようだった。

結局、自分に着いてきたのは、若い女性の協会員一人だけであった。
まぁ、偵察も兼ねていたのでそんなに大勢でぞろぞろというわけにいかないが
それでも里保はそのことに対して少し不満に思うのであった。


288 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/27(金) 00:34:51
それにしてもここは本当によく栄えていると思う。
ちらほら魔道士がいるっぽいがそれ以上に人や店、品物も豊富に揃っており近くに武装勢力がいるとは思えない。

「あの、お店でご飯を食べながら、お店の人に聞いてみましょう。」
「そうだね。」

協会員が指差す先は落ち着いた店構えの喫茶店であった。

『喫茶 庵珠瑠夢』

「なんて読むんだろ。これ。」
「確かに…。変わった名前ですね。あんじゅ…ろ?ゆめ?」
「とりあえずはいってみましょうか。」

扉を開け、中に入る。

「いらっしゃいませ。お二人さん?空いてる席にどうぞ。」
中も外見同様落ちついた雰囲気である。
店には里保たち以外客はおらず、カウンターに店主がいるのみであった。

「いま、お冷とメニューお持ちしますね。あいあい、お客様にお冷二つ!」

「はい!お待たせしました。こちら当店のメニューになります。ごゆっくりどうぞ。」
店主の声とともに出てきた若い女の子がお冷とメニューを置いてその場から離れる。

メニューを開くと喫茶店らしくコーヒーと軽食が幾つか載っていた。


289 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/27(金) 00:35:42
「いいお店ですね。」
「そうだね。すごく落ち着く。」

「お客さん、この街初めてですか?」
カウンターの向こうにいた店主が話しかけてきた。
そこで里保は初めて、店主が魔道士であることに気づく。

「そうなんです。ちょっと旅で。いいお店ですね。」
協会員がそう返すと店主はにっこりと微笑んだ。
その笑顔はどこかさゆみと似た美しさを持っていた。

「ありがとう。ゆっくりしていってね。」
「そういえば、このお店、なんて読むんですか。」

その問いかけに、店主は磨いていたコーヒーカップを置くとこう答えた。

「よく言われるんです、難しいって。」
「すみません…。」
「いいの、私は全然気にしてないから。この店はね…。」
一呼吸おいて店主は答えた。

「この店の名前は、アンジュルムっていうの。」


290 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/27(金) 00:42:35
こんばんは

まろが卒業するまでに何か一つ結末を書きたいなと思いながら
間に合いそうもないです…無念

というわけで今回はここまでです

作者


291 : 名無し募集中。。。 :2015/11/28(土) 11:15:08
一緒についてきた若い女性の協会員って誰なんだろう?


292 : 名無し募集中。。。 :2015/11/28(土) 12:58:30
>>290
まだ1日ある!wまろ卒業してからでも完結して欲しいな


293 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/28(土) 13:16:30
いつまでも心は一緒⑩

「アンジュル…ム?」

「そう。アンジュルム。
 この地方で昔から使われてる言葉で『天使の泪』を意味してるの。」

「へぇ、天使の泪とか奥深い響きですね。」

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい。
 私はこの店のオーナーをしています。和田彩花です。
 どうぞこれからもご贔屓に。あっでも、二人とも旅のお方でしたね。
 どうしてこの街に?」

「いやぁ何と無くですかね。」

「ふうん…なんとなくねぇ。こういうのもなんですけど、いまここら辺は物騒でね」
「物騒?」
「そう、最近戦いばかりなのよ。」

その言葉を聞き、里保は本来の目的に入ることにした。

「戦いってそんなに頻繁なんですか?」

「そうなのよ、もう本当にやんなっちゃう。
 当局は何度もなんどもやってくるし、その度に街は荒れ放題なんだから。」

「それは大変ですね、そう頻繁だと。」

「元々ここは、商人たちの街。
 当局の管理外にあって私たちが自治統括していたのよ。
 それがきゅーうに『資源が見つかったから我々が管理する』だなんて虫が良すぎると思わない?」

「は、はぁ。」
どうやらこの喫茶店の店主、相当腹に据えかねていることがあるのだろう。
まくし立てる勢いは里保の入る余地すらない。


294 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/28(土) 13:19:35
「で、でも、ひどいですね、武装勢力も。
 いきなりやってきて寄越せだなんて。横暴ですよね。」

里保がやっとのことでそう返すと、和田はきょとんとした顔をし、眉をひそめる。

「寄越せと言ったのは地区当局。
 なんでも中央に顔を効かせるためにその資源が必要なんだとかいう噂。
 相手をしているのはその採掘場のスタッフたち。」


「へっ!?武装勢力じゃないんですか?」

「なぁに?その武装勢力って。
 まぁあそこにいる人たちは確かにみんな腕は達者だけど。」

何ということか。もしこの話が事実なら、魔道士協会は民事に介入したことになる。
里保はさらに情報を引き出そうと話をしようとしたがその声は先ほどの若い女性にかき消される。

「和田さん!連中が!」

その声と同時に複数の男たちが店のなかへと入ってきた。
いずれも屈強な出で立ちである。服装から見るに当局の一行らしかった

その中のひとりがずいと前に出て和田へと話しかける。

「どうも、和田さん、そろそろ立ち退いてくれるかな?」

「なんども言わせるな。この街におまえたちにくれるもんなんて一つもないんだ。
 さっさと出て行ってくれる?」

そういって相手の男たちを睨みつける和田。


295 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/28(土) 13:24:19
「まったく…。強情なガキだ。おい、やれ。」
その男の一声で横にいた男たちが動き始め、店の中の机や椅子を持ち上げ始める。

「なっ…。何が起きとるんじゃ。」
突然の出来事に目を見開く里保。

「わぁ!鞘師さん、目、おっきぃ!」
「そんなこと言うちょる暇じ…。」

「放しな。」
からかってきた協会員に向かい怒ろうとした里保。
しかしその瞬間、複数の洗練された魔力と殺気が湧き上がるのを感じ、背筋を凍らせる。

「うぅ…。」
うめき声とともに男たちが次々と倒れていく。
数瞬のうちに決着はついた。気づくと店内は元どおりの落ち着きを取り戻す。

和田がため息まじりにつぶやく。
「これが当局のやり方。強引な手段で他にも悪事を働いている。」

「で、でもそんな、まさか…。」

「そのまさかなのさ。この地区ではね。」
突然聞こえてきた声。その方を見やり、里保は驚愕する。

「お、おまえは…。」

「いったでしょ?今度は本気で相手してあげるって。」
そこに立っていたのは昨日、自分たちの宿舎に侵入してきたあの少女だった。
「和田さーん、こいつらの記憶消しときますね」
「うん、よろしくー」


「うちの莉佳子が面倒かけたみたいだね。」

「て、てことは…。まさか…。」
里保の背中に冷や汗が流れる。
だが和田はにっこりと里保に向かって微笑むとこう続けた。

「安心して。今日はあなたに挨拶にきたんだよ。それと現実を知ってほしくてね。」


296 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/28(土) 13:26:18
昼はここまでにします
夜にもう一回更新できたらしたいと思います
まろ卒に間に合うかな…武道館行きたかったなぁ…

作者


297 : 名無し募集中。。。 :2015/11/28(土) 17:22:54
最近アンジュルムにプラチナを感じている身としては
続きが楽しみで仕方ないです

明日はまろ卒コンかぁ
まだ実感ないけど


298 : 名無し募集中。。。 :2015/11/28(土) 20:39:39
夜も更新くるのか!楽しみ〜
徐々に存在感が出てくる『一緒についてきた若い女性の協会員』w


299 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/29(日) 00:04:56
いつまでも心は一緒○11

「て、てことは…。」

「安心して今日はあなたに挨拶しにきたんだよ。鞘師里保さん。」

里保は突然自分の名前を呼ばれたことに驚きを隠せない。
だがそんな里保の様子に構う様子もなく和田は言葉を続ける。

「思っていた以上に若いね。それで百戦錬磨の執行魔道士ね。
 あなたが強いのか、それとも周りが弱いのか…。まぁどっちでもいいか。」
そういって和田は立ち尽くしたままの二人に着席を促す。

「ほら。早く飲まないと、コーヒー冷めちゃうよ?
 大丈夫、毒とかそんなもんは一切入れてないから。」

気づくといつの間にか自分たちの前にはほんのりの湯気の上がったコーヒーが置かれていた。
恐る恐る着席し、一口すする。

「お、おいしい…。」
「でしょ?彩の煎れたコーヒーはなかなかイケると思うんだ。
 いまはこの子たちのまぁ親代りってとこ。あやちょって呼んで。」

あまりにもくだけた表情で話す彩花。
しかしその裏には凄まじい魔力を秘めている。
そんな様子に里保は警戒を強めながらも幾つか質問をしていく。

だが、それに対する彩花の答えは里保の満足のいくようなものではなかった。


300 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/29(日) 00:07:54
「ふぅ、やっぱり中央の人間は固いね。
 そんなんじゃ見えてるものも見えなくなっちゃうよ。
 世界にはいくつも常識がある。
 その常識同士が相互に作用しあってバランスを保っている。
 でも、時々そのバランスは微妙なさじ加減で脆くも崩れ去るわ。」

そうとだけいうと彩花は2人ににっこりと微笑んだ。
その表情は悲しさとも怒りとも取れるようなそんな複雑な想いを秘めているようなものであった。

これ以上ここに長居をする意味はないと判断した里保は協会員を促し立ち上がる。
それを見て彩花は残念そうな表情を見せる。

「あれ、もう行っちゃうの。」
「えぇ、私たちの目的は半分達成できましたから。」
「そう…。残念。まっ、でもそろそろ時間だもんね…。」

時間?なんのことだろう。
最後の言葉が少し引っかかったが
コーヒーの代金をおき、店を出る里保たち。
その背中に彩花が声をかける。

「来たくなったらいつでも来てね。私はいつでも歓迎するよ。」

みせを出てしばらく歩きながらも里保たちは彩花に見られているようなそんな感覚に陥った。
彼女らを相手にするのは少々骨が折れそうだと里保が思ったその時、背後で爆音とともに複数の戦闘機が頭上を通過していく。
と同時に背後から巨大な爆発音が聞こえてきた。

空爆だ。


301 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/29(日) 00:09:25
「いこう。ここにいるとうちらも危な。」
「鞘師さん!何かおかしくないですか?」
協会員が歩き出した里保を制止する。

「何が?」
里保は歩みを止め、振り返る。
「この空爆ですよ。
 私たちは当局から依頼を受けてここにいるんですよね。
 でもこの攻撃は計画書に載ってない。」

「確かに…。」


「話しながらいきましょう。鞘師さんの言うようにここは危ないです。」
そう言って二人は宿舎へ向けて駆け出した。

「そもそも今回の討伐、情報統制されすぎていると思いませんか?」
「それはうちも思ってた。肝心なことがあまりにも隠されちょる。」
「これ、ひょっとして裏がある…?でも協会のルートは使えないですよね。」
「調べてみる必要がありそうだね。この手の情報収集に詳しい人にあてがある。
 とにかく急ごう!!」


宿舎へ戻ったら春菜に連絡を取ろう。
そう思いながらひたすら宿舎への道を急ぐ里保たち。その時であった。

不意に後ろから一機の戦闘機が里保たちの頭上を通過していく。
その方角には自分たちの宿舎がある。

嫌な予感がした。


302 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/29(日) 00:15:23
里保は魔力を解放し、自分の体と一緒に走る協会員の体に風をまとわせた。
「飛ぶよ。」

そう言って、里保は協会員の手を取ると地を蹴って空へと舞い上がった。
眼下には先ほどまで自分たちがいた街が映る。

そのあちこちから黒煙が立ち上り、時折炎も見えた。

その様子を見ながら里保はぐんぐん高度と速度を上げていく。

やがて、自分たちの宿舎がはっきりと見えてくる。
「見えた。しっかりつかまって。」
そういうと里保は一気に高度を下げ、地面へと降り立つ。

そして、宿舎の方へと駆け出した次の瞬間、空を切り裂くかのように落ちてきた
一筋のミサイルが、宿舎のすぐそばに着弾した。

「うわぁぁぁっ」
「きゃぁぁっ」

爆風をもろに受け吹き飛ぶ二人。
里保はかろうじて風を操りその爆風を制圧することができた。
しかし、勢いまでは殺せずにもろに地面に叩きつけられる。

衝撃で肺のなかの空気が全て押し出され里保は一瞬、呼吸ができなかった。

もうもうと立ち込める砂煙りのなか、よろよろと立ち上がった里保の目には
宿舎の形はおろか面影すらも写ることなく、ここで里保の意識は途絶え、再び砂地へと倒れ込むのであった。




だれもいない砂地の中一人の人影がむっくりと立ち上がる。


「ふぅ、あいつら本当にやるとかばくわら。さてと…行きますかね。」
そして、倒れている里保を魔法で浮かせると自分たちのアジトへと向かうのであった。


続く


303 : ◆JVrUn/uxnk :2015/11/29(日) 00:18:28
こんばんは

本日2回目の更新です
謎の協会員はばくわらでございました
最初はかみこちゃんにしようと思ったのですがりほりほにもの言えるのは
ばくわらぐらいかと笑

作者


304 : 名無し募集中。。。 :2015/11/29(日) 00:38:55
まさかのばくわら!?これは予想出来なかったw


305 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/01(火) 23:49:59
いつまでも心は一緒12

「な…なん…だと…!?」

生田は今しがた飛び込んできた一報を聞いて思わず言葉を失った。

「誤爆…。」
「はい、当局側からの説明によると勢力の縄張り内に周囲にカモフラージュするように
 建てられた小屋がありパイロットが敵の拠点と勘違い、空爆を行ったそうです。
 その後当局の人間が現地に向かったそうですが…。その…。」

舞波は報告文を読み上げる。

「担当者の話によると…。生存者は…0とのことです。」

「0…だと…。」
生田は目の前がまっ白になった。
自分が至らないばかりに娘である里保を戦場へと赴かせ、さらに死なせてしまった。
深い悲しみが生田を襲う。

「ここまでは地元当局からの報告です。
 ここからは…千奈美が極秘に調査を行ったものです。
 大丈夫です。少なくとも里保ちゃんは生きてますよ。」

舞波の声に生田は埋めていた顔をあげる。

「何!?ど どういうことだ。」
舞波は手にした報告書を一枚めくる。
「今回の案件、どうも何か裏があるような気がして私の一存で
 千奈美に動いてもらったんです。千奈美の報告によるとどう
 やらあの土地、魔法鉱物の埋蔵が昔から噂されていて、地元
 当局はそれを狙っているそうなんです。」


306 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/01(火) 23:51:50
「魔法鉱物?あの国際的に取引が制限されているあれか?」
生田は姿勢を正し、椅子に座り直す。

「あれは、高価なうえに危険物質でもあるから開発局と運輸局がかなりシビアに統制を
 している。一般人がどうこうできる話では……ってまさか!」
生田はある考えに行き当たり驚きの顔を浮かべる。

「恐らく、そのまさかです。癒着です。」
舞波はもう一枚報告書をめくる。

「あの佐藤優樹の件があって以来、協会全体で業務を細分化、
 特定の局の影響が強くなりすぎないようにしているのはご存知ですよね。」

「あぁ。執行局も必要な予算申請に四苦八苦しているからな。」

「来年度の予算概算請求の一覧です。」

そう言って舞波は一枚の紙を取り出し生田へと手渡す。
確かにそこには協会各局の来年度に向けた概算請求が記されている。

「お前…こんなものどうやって…?」
「出処は秘密です。ほらそこの開発局のところです。明らかに少なくないですか?」

確かに言われてみればその通りであった。
他の局に比べ1桁は少ない。
しかも書かれ方がかなり曖昧だ。

このような書き方では恐らく請求は通らないだろう。


307 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/01(火) 23:54:39
「なるほどな。確かに不自然だ。
 だがそれはそれとしてどうして里保が生きていることに繋がるんだ?」

「実はある人物からコンタクトがありまして…
 その人物がいうことには鞘師と勝田は生きていると。
 嘘だと思ったら人を派遣してご覧って、まぁ信じるか信じないかはあんた次第。と。」

舞波の言葉を聞き生田は考える。
コンタクトをとってきた人物は恐らくあの人。
「なるほど…道重さんか。」

「どうしますか局長、人を派遣しますか?
 ただ、本当に癒着が起きているとしたら誰が敵かはわかりません。
 執行局内部の動きは全て筒抜けであると思っていた方が…。」

「うーん。」
生田は腕組みをして考え込む。
そして一人の人物に思い当たった。

端末を取り出し番号を押す。

通信の相手はすぐに出た。
「私だ。鞘師里保を捜索任務を命じる。メンバー構成はお前に任せる。
 いいな石田。早急に見つけ出すんだ。」

『はい、局長』

つづく


308 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/02(水) 00:20:52
まろの卒コンすごくよかったみたいですね
さすがまろ

神童と言われるだけあります
この物語のまろはどう描きましょう…笑

作者


309 : 名無し募集中。。。 :2015/12/02(水) 06:30:54
おお!だーいし参戦!!しかもメンバー構成は任せるなんて生田局長も粋な計らいをしてくれるw


310 : 名無し募集中。。。 :2015/12/02(水) 20:11:15
狼の本スレが15日ルールによりスレ落ちしたため新スレを立てました
今回もピンポンスレに協力をお願いしましたが
61までの即死回避保全にご協力お願いします

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 26
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1449054035/


311 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/04(金) 01:16:02

いつまでも心は一緒13

「ちょっとー莉佳子!使ったものは片付けてって言ってるでしょ」
「ああぁぁぁ!だめそれまだ読み終わってない。」

「今あかりの悪口ゆったでしょ!」
「はぁ?タケの話なんてしてないから。」

騒がしい。とにかく騒がしい。
里保は周囲の喧騒に閉じていた目を開ける。

見えてきたのは白い天井。どうやら自分はどこかのベッドに寝ているらしい。
ゆっくりと体を起こす。

途端に激痛が走る。

「まだ立ち上がらない方がいいよ。治療はしたけどさ。
 それにしてもよく寝たねぇ。」

「り、りなぷー?」

自分の周りで動き回っている人物を見て里保は驚きの声を上げる。
なんとそこにいたのは先ほどまで自分とともに行動をしていた協会員、勝田里奈であった。

しかしよく見ると、服装が違う。
「り、りなぷー、ど、どうして…。」
「割と楽しかったよ。今回の『旅行』。
 でも和田さんも言ってたけどちょっとのほほんと生きすぎだよね。
 私が紛れ込んだのにも気付かないなんて」


312 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/04(金) 01:17:09

「ま、紛れ込んだ?」
「そ、莉佳子の情報からどんなやつかなと思って潜り込んだんだけどさ。
 あ、安心して。」

何かを言いかけた里保を制するように里奈が続ける。

「名簿は和田さんの知り合いに頼んで打ちかえてもらったし、人的被害は出してないよ。」
「ちょっとりなぷー、喋りすぎ。」

「あっ、まろさん。ちっす。」
「こら、相変わらず礼儀がなってないわね。ちゃんと『福田さん』って呼びなさい。」
「うっす。」
「はぁ、まったく…。」
やれやれといった口調で今しがたきた人物は頭を振る。
その人物は里保の方を向くとこう伝えてきた。

「あなたが鞘師里保ね。あやちょが呼んでる。付いてきな。」

先を歩く女性の後ろ姿を見ながら里保はどこかで見たような感覚に陥った。
「なに?」

振り向いた女性をみてすぐに気づく。
「な、なんでもない、です。」
「そう。」

(あぁ…氷の上で寝てそうなんじゃ。)

とても口に出しては言えない。


313 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/04(金) 01:19:33

女性の後をついていきながら里保は辺りの様子を伺う。
陽の光とは違う明るさが辺りをつつんでいた。

しばらく歩いて二人はとある部屋の前で止まった。

コンコン

「はーい。」
「あやちょ、連れてきたわよ。」
女性(まろ)が部屋の奥に向かって声をかけると返事が返ってくる。

「中に入れてー」
女性は一つため息をつくとドアを開け、里保を招き入れる。
里保が部屋に入るとそこには椅子に座ったあの喫茶店の店主、和田彩花が座っていた。

「やぁ、また会えたね。」

彩花は里保の顔を見るなりとても嬉しそうな表情をする。
その笑顔はやはりとても美しい。

里保が小さく会釈をすると、女性が部屋の扉を閉め、彩花の横の椅子に腰掛ける。
里保も彩花に勧められて正面の椅子に腰掛けた。

「よかった。動けるようになったんだね。1週間も寝てるから心配だったんだよ。」

「いっ、一週間!?」
里保が驚きの声を上げる。
まさか、ずっと寝たままだったというのか。

というよりそもそもなぜ自分はここにいるのか。
そしてこんなにWelcomeされているのか。
里保にはまったく見当がつかず、聞きたいことが山ほどあった。


314 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/04(金) 01:22:40
しかし彩花はそんな里保の様子を知ってか知らずか、ずっとニコニコした顔で里保を見つめている。
らちがあかないと思ったのか、横にいた女性が大きく咳払いをし彩花を突く。

「あぁそうだったね、自己紹介がまだだったか。
 こっちにいるのは花音ちゃん。彩の同期。」
「ちょっと、あやちょ!違うでしょ。」

目的と違ったのか花音は椅子からこけながら彩花にいう。

「ちゃんと説明してあげないと。何が起きたかを。
 それに一応こいつは敵なんだからニヤニヤしないの。」

「えーいいじゃん。だって久しぶりのお客さんなんだし。
 それになんてったってねぇ。」

注意をされてふてくされた表情の彩花を見て花音はため息をつく。

「だから、よその土地の人間をあんま信用するのは良くないってずっと言ってるじゃん。
 あいつからうちらの情報が漏れることもあるんだよ。」

「大丈夫だって。」

なにか頭の上でやりとりが展開されているが里保には皆目見当がつかなかった。

そのとき、彩花が里保の方を向きこう告げる。
「ずっと心配してたんだよ。はるなん、あなたのこと。」


つづく


315 : 名無し募集中。。。 :2015/12/04(金) 12:52:40
< 氷の上で寝てそうなんじゃ

ふいたw


316 : 名無し募集中。。。 :2015/12/07(月) 10:38:44
アザラシw


317 : 名無し募集中。。。 :2015/12/08(火) 23:19:55
新スレ

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 27 [無断転載禁止]
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1449579354/


318 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/08(火) 23:25:19
いつまでも心は一緒 14

「うっわ…何にもないや。」
「ひどいなぁ…。本当に鞘師さん生きてんのかなぁ。」
「ちょっとどぅー縁起でもないこと言わないの。だってあの鞘師さんだよ?」
「いやいや、あゆみん。いくら鞘師さんといえどもこれまともに食らってたら無理だって。」
「うっ…まぁそうなんだけどさ。」

「つべこべ言ってないでさっさと探せーや。鞘師すーーん!!」
「こら、まーちゃん!大きな声出さないの!!」


執行局の生田の元に里保の所属する討伐隊が地元当局の誤爆を受け全滅したとの知らせがはいって1週間。
亜佑美は局長から里保の捜索任務を受け現場に立っていた。

事前に提出されていた計画書をもとにその軌跡を辿ってきたのだが、
いかんせん隠密行動を取ってくれということもありほとんど魔力が使えなかった。

そのため、陸路をはるばる車や公共機関を使ってここまでたどり着いたのであった。


状況が全くわからないなか現地へと到着した亜佑美。
またそれとは亜佑美を悩ませていることがらがあった。

(なんで生田さん来るって言わなかったんだろ…。)


319 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/08(火) 23:28:06
話は亜佑美が局長から里保捜索依頼が出る二日前まで遡る。

「どういうこと!?里保が戻れんって。」
朝、いつものように里保の元へと向かっていた衣梨奈はマンションに着いてから里保がいないことに気付いた。
いつもなら確実に夢のなかにいる時間。

起きているだけでも珍しい時間であるのにもう家にいないことを
直感的に衣梨奈はなにかことが起きたのではということを悟った。

そこですでに学校へと向かっていた亜佑美に連絡を取り、協会から何か任務が出ていないかを
調べてもらっていたのだ。

「里保が…武装地帯に…。」

放課後、さゆみの家へと集まった一同は亜佑美からことの次第を聞く。

どうやら昨晩のうちに里保はM13地区を出ていたようだが、
任務そのもの自体が出ていたのはみんな知ってはいた。

しかしそれはもう2週間以上も前で亜佑美もその回覧を見た記憶がある。

任務内容は現在協会の影響が及ばない地区における武装解除業務。
M13地区での業務に従事している自分たちには縁のない話であるのは間違いないと思っていた。

しかし、その後も何回も回覧が回ってきたことを考えるともしかしたら志願する人間がいなかったのかもしれない。今はもうすっかり慣れたが、(というよりあまりにも里保の様子が普通なので)亜佑美もM13地区に初めて足を踏み入れた時には緊張したことを考えると『協会の保護下』というのが
どれほど多くの魔道士に安心と安全をもたらしているのかがわかる。


320 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/08(火) 23:29:28

とにもかくにも里保がどうやらその任務に秘密裏に参加していたことは間違いないようだった。
話を聞いて衣梨奈は真っ先に父親であり里保や亜佑美の上司である生田に電話をしてことの詳細を聞こうとした。
しかし局長からは具体的な内容は聞けなかったようだ。

悶々とした気持ちのまま時は過ぎ、事実を知った二日後、突然局長から通信が来た。
その話を聞いた亜佑美は早速任務遂行のための準備に取り掛かる。

しかしここで問題が起きた。

亜佑美は当然、衣梨奈は行くものだと思っていたのだが、なんと残ると言いだしたのだ。

「なんでですか?生田さん!鞘師さん、行方不明なんですよ。探しに行かないと。」
亜佑美は困惑し、衣梨奈へと訊ねるが衣梨奈は小さく首を振って行かないということを繰り返すのみだった。

そして最後に一言だけぼそりと呟いた。

「なんね……。里保だって、えりと同じやん…。」

(あれ…どういう意味なんだろ…)

結果として亜佑美は衣梨奈を連れて行くのを断念し、代わりに違うメンバーを選んだのであった。


321 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/08(火) 23:30:33
「どうする?亜佑美ちゃん。
 これから里保ちゃんを探すって言っても結構時間かかりそうだよ?」

「そうですね、鞘師さんここにいたのは間違いなさそうなので…。」

現場を見ながら一台のロボットが亜佑美に話しかける。

パワードスーツに身を包ん香音はある意味最強であることは間違いではなかった。
しかしながら現場を見て里保の捜索に時間がかかることもまた間違いなさそうであった。

亜佑美は一つため息をつく。

「そうですね、そしたら、地道に聞き込みでもしていきますか。」

つづく


322 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/08(火) 23:33:34
みなさまこんばんは

今日は武道館だったんですね…
完全に抜けてたorz
グッズ買いに行けばよかった

途中あれ変だなと思ってもスルーしていただけると嬉しいです
辻褄はそのうち合せます←

作者


323 : 名無し募集中。。。 :2015/12/09(水) 22:11:08
えりぽんの呟きが意味深だな・・・


324 : 名無し募集中。。。 :2015/12/09(水) 23:39:16
黙って行った事でしょ


325 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/10(木) 00:01:51
いつまでも心は一緒 15

一方その頃、捜索隊に加わらなかった衣梨奈は、春菜の元を訪れていた。
亜佑美から事実を聞いた時、一瞬、衣梨奈の思考は停止した。
それと同時に心の底からふつふつと怒りのような悲しみのような気持ちが沸き起こってきたのであった。


全く自分に相談もなく勝手にいなくなった里保。
自分の存在がそんなものであったのかと考えると衣梨奈の気持ちは沈んでいく。
亜佑美の話す声も周囲の人間の声もだんだんと遠くなっていく。
だが自分も3年前同じような事をしたのだ。
当時、自分は勝手に姿を消し結果的に里保に辛い思いをさせたのだ。

「なんね…。里保だってえりと同じやん…。」
思わず、そうこぼした。

そのときふと衣梨奈はあることに気づいた。春菜は知っていたのだろうか?

春菜の里保に対する情報収集は一時期異常なほどであった。

最近はそうでもないようだがそれでも里保がいなくなるという事態に対し
春菜ほどの人間が知らないはずはない。

そう考えた衣梨奈はちらりと春菜の顔を伺う。
すると春菜の顔は驚きと心配にあふれたものであった。

しかし口元はきつく結ばれている。

何かを隠している。

そう思った衣梨奈は自分は自分のやり方で里保に対するアプローチを仕掛けようと考え、
M13地区へと残ったのだった。


326 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/10(木) 00:04:29

「はるなーん?おるとねー?」
衣梨奈は亜佑美たちが旅立った日と同じ日に春菜の働く書店を訪ねた。
しかしながら書店には店主しかおらずどうやら春菜はどこかへ出かけているようであった。

仕方ない、また時間を改めよう
衣梨奈がそう考え店を出ようとしたとき、店内の奥の方から声が聞こえた。

「…様…はどう…」
「まぁ…って…こ…。」

はっきりと内容までは聞き取ることができないが、この声は間違いない。
春菜のものだ。

どうやら誰かと通信をしている様だ。

衣梨奈はそっとドアの元に忍び寄り聞き耳をそばだてる。

「そっちはうまくいってそう?鞘師さんの様子は?」
「まぁそこそこな感じだよ。あとどれくらいで迎えに来れそうなん?」
「うーん、なんとも言えないなぁそれは。
 なんてったって私からは一切情報流してないし」

「ふふっ、はるなんさっすが。」

(情報?亜佑美ちゃんとかのことも話とう…。誰と話しとるん…。)

春菜はやたら親密そうに通信を続けている。
さらに細かな情報を聞き出そうと衣梨奈がドアに耳をつけたとき、

「はるなん、だれかドアの外にいるみたい。」

其の声に衣梨奈は慌ててドアの元を離れその場から逃げ出そうとしたが、それより一瞬早くドアが開き
驚いた顔の春菜が立っていた。

「生田さん…。」


327 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/10(木) 00:06:53




「はるなんが!?ていうかはるなんは知ってるっていうのあなたのことを。」
突然聞き覚えのある名前を聞いたことにより里保は大層驚いた。

まさか春菜が武装勢力とつながっていたなんて…。
しかし、彩花は至極当然といった顔つきでりほを見ている。

「前も言ったじゃない。頭が硬いって。
 中央の組織にいたらできないことはいっぱいあるんだよ。
 あなたからみたら彩は当局に逆らう犯罪者かもしれないけど、それはそちらさんがかけている色眼鏡でしか見えないこと。
 彩から見ればそんながんじがらめで何が楽しいのって思っちゃう。」

まさに思っていたことをズバリ当てられた気分であった。
確かに言われてみれば其の通りであった。

常識の定義が異なるだけ。
それを全て自分と同じ型にはめ込もうとするのは違うと思う。

「はるなんは彩がここに来てからのずっと色々な相談に乗ってもらっていたんさー。
 彩たちが生きていく上で必要な『繋がり』をはるなんは教えてくれたんだよ。」

彩花は続ける。

「それでもお互いに立場は違うからもちあわせている部分はあるんだよね。
 今回の件だって事前に討伐隊が送られてくることは知ってたし。
 毎回毎回そのおかげで準備はできていた。
 でも今回のことは教えてくれなかッたんだけどさ。
 やっしーの事を聞いたのはたまたまだったし。
 でも今回の攻撃が起きたって知った時はるなん、いの一番で連絡をくれたんだよ。
 『鞘師さんを保護して。このままだと鞘師さん死んじゃうから』って。
 だから今きみはここにいる。」

そこまで言い終えるとまるで疲れたと言わんばかりに彩花は大きくため息をつく。
その後を受けて隣にいた花音が話し始める。


328 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/10(木) 00:11:24
「最初に莉佳子から執行魔道士がいるって情報が入った時に正直焦ったわ。
 だから早急に戦力分析をするために監視につけていた勝田をあなたの隊に忍びこませた。
 あの子そういうの何か知らないけど異常に得意なの。
 だから気づかないのは当たり前。
 あなたをあの街に引き込むには最適なタイミングだったわ。」

「ちょ、ちょっと待って。
 じゃあ最初からウチはここに連れてこられる予定じゃったんか?」

「はるなん的にはそうだったわね。あの子には気をつけたほうがいいわ。
 やたらいろんな情報筋持ってるし。だから私はすこしあやちょが心配。
 毎回はるなんには気をつけてって言ってるんだけど…。本人がこんな感じだからね…。」

なるほど。二人とも話があっちこっちへ飛ぶせいでなかなかわかりにくかったが、里保の中で少しづつ点と点が結ばれ、
全体像がイメージできるようになってきた。


「そもそも、魔道士協会があなたに任務依頼を持ってくる事自体おかしな事だって
 はるなんはいってた。あなたが寝ている間、毎日連絡を取ってきたもの。
 どうやらあなたは厄介な案件に巻き込まれたみたいね。」

花音はそう言って大きなため息を吐いた。

「それでね、はるなんがいう事には…。その時の映像残ってるかな。」

そう言って自前のパソコンを取り出す花音。

「『鞘師さんが起きたら伝えてください。迎えに行くまで絶対にそこで戦いに参加しないでくださいって。
 あやちょ、福田さん宜しくお願いします。』」

続く


329 : 名無し募集中。。。 :2015/12/10(木) 18:10:10
なる程鞘師を救ったのははるなんだったか…えりぽんがどう動くのかも気になるところ

って!普通に『アーマードズッキ』がいるのに誰もつっこま無いのか!?w


330 : 名無し募集中。。。 :2015/12/10(木) 18:51:59
まぁあのズッキに関してはいろいろ触れちゃいけないというか←

(せっかく脱げたパワードスーツがリバウンドで
また脱げなくなったなんて言えやしない…)


331 : 名無し募集中。。。 :2015/12/11(金) 07:23:45
ひどいw


332 : 名無し募集中。。。 :2015/12/16(水) 17:41:49
年末で忙しいとは思いますが
更新楽しみにしてます


333 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/16(水) 23:26:30
きづいたら前回からほぼ1週間経ってしまっていました
申し訳ない…

というわけで更新します

作者


334 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/16(水) 23:29:51
「ふぅ…。一体いつまでこうしとるんじゃろか。」

里保は石段の中腹に腰掛けながら、目の前の光景をぼんやりと眺めていた。

『戦うな。』

これが春菜から里保に対するメッセージだった。
これに関しては里保も同意見であった。

自分がここにいる事で状況は変わった。
協会は地元当局からの依頼を受けたものだと考えていたがどうも違うらしい。

いや、そういうと何か語弊があるように聞こえる。

おそらく協会は利用されるのだろう。
春菜の考えによれば少なくとも最初に依頼の知らせを受けた時、『武装解除』が任務のはずだった。
これは中央政府からの任務だったので間違いない。

しかし直前の地元当局の惨敗により現場は混乱、得体の知れない技を使うという事で一刻も早い制圧を目論んだ地元当局が
一般の政府を介さずに協会へと持ち込んだ。

結果として協会は任務を受け武装勢力、いわゆるアンジュルムの征討に乗り出したわけだが
一方で、これを良しとしない地元当局の一部と協会の人間が手を組み、隙をついて里保たちを闇に葬ろうとしたというのだ。


335 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/16(水) 23:32:59
いま自分が表に出てしまうと裏切り者として相手に、攻撃を加える口実を与えてしまう事になる。
だから春菜は里保に戦うなというメッセージを残したのだ。

「それにしてもさ…。待ってる間、何しとればええんじゃ…。」
里保は大きくため息をつく。春菜は明確な期間を言おうとはしなかった。

「やっしー、どうしたの、そんなに大きなため息ついちゃって。」


「和田さん…。」
「大丈夫だって、はるなんはこういうの得意なのはやっしーだって知ってるでしょ?」

「えぇ…まぁ。」

「じゃあ何にも心配いらないじゃん。
 てかやっしーやる事ないんならさ、あの子たちの面倒見てもらっていい?」

そう言って彩花の指差すほうにいたのは、莉佳子、瑞希、茉穂の三人であった。
「あの三人を?ウチが?」

突然の提案に驚く里保。
しかし彩花は大真面目であった。

「あの子たちまだ私たちの仲間になってからそんなに日がたってないの。
 まだまだ厳しさを知らないの。」

なるほど、確かにさっきから里保はずっとこの三人の訓練を見ているがどう見てもじゃれ合っているようにしか見えなかったのだ。
要はまだまだ子供だということ。

彩花は自分たちがこういった環境に置かれているからこそ人一倍自分にも他人にも厳しくあったのだ。


336 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/16(水) 23:35:18
「だからといって、なんでウチが…?
 特に莉佳子ちゃんはウチのこと絶対嫌っとるじゃろ。」

こう反論する里保に彩花は答える。

「だからこそだよ。お互いに刺激しあえた方が実践ぽくていいでしょ?
 莉佳子は隙あればやっしーを殺るだろうし。」

ここまで言って彩花はウインクをしながらいたずらっぽく笑う。

「まぁ単純に彩が楽しみたいだけなんだけどね。」

くっ…。不覚にもときめいてしまった。また一つため息をつく里保。

「よし!けってー!!それじゃ、やっしーよろしくね。」





「生田さん…。」

そう言ったはるなんの顔はとても驚いていた様子ではあったが、すぐにいつもの笑顔に戻る。

「ダメですよ、生田さん。出歯亀なんて。はしたないです。」

そういって再び部屋に戻るとパソコンに向かって話しかける。

「ごめんね。あやちょ。お客さん来ちゃったからまた後で。」
『うん、わかった。ばいばい』

そういってパソコンの画面を落とすと、部屋の入り口で立っている衣梨奈を部屋へと招き入れる。

「さて…。生田さん、何か聞きたそうな顔してますね。」

そういって微笑む春菜。一方で衣梨奈は緊張で少し掌が汗ばんでいた。


337 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/16(水) 23:37:42
おそらく聞いてはいけないものを自分は聞いてしまった。
春菜の顔はとてもにこやかではあるが有無を言わせないプレッシャーが衣梨奈に襲いかかる。

「どうしたんですか。聞きに来たんじゃないんですか、鞘師さんのこと。」

黙ったまま何も聞いてこない衣梨奈に春菜が言葉を続ける。

「私が何か知ってるかもって思ったからあゆみんたちの方に加わらずにこっちに来たんですよね。
 まぁその読みは間違っていませんよ。
 確かに私は鞘師さんがどこにいるかを知っていますし、どういった経緯なのかももちろん知っています。

 でもですね…。」

ここで春菜は少し悲しそうな顔をみせる。

「これは鞘師さん個人の問題なんです。
 形はどうであれ鞘師さんは自分からこの地区を一時的に離れる決意をした。
 しかも誰にも相談せずに。だから」

春菜はここで一呼吸を置いた。

「いい機会なのかなって。こことは違うまた違う世界を見るのもって思いまして。
 裏で糸を引いたんです。」


続く


338 : 名無し募集中。。。 :2015/12/18(金) 22:15:25
鞘師VSアンジュ3期か


339 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/19(土) 13:33:07
いつまでも心は一緒17

「小さいよ!声が。」
「おいっす。…なんであいつが。」

訓練施設の中に里保の怒号が響く。
その様子を見ながら彩花と芽実は満足そうに頷いた。

「へぇ。意外としっかりやってますね。鞘師さん。」
「そうだね。そう素質があるんだろうね。」

そういって、その場を二人は離れる。
里保はその気配を背中で感じながら引き続き指導に当たる。

ここに来て何度も思うことだが、とにかくレベルが高い。

莉佳子と瑞希はどこで学んだのかはしらないが、高い能力を示していた。
また茉穂も茉穂で喫茶店であった初見とはまた違う様子を醸し出していた。

(なるほど…。これは苦戦するわけだな…。)

里保は改めて気を引き締めると細かな指示をしていくのであった。


一方、その場を離れた、彩花と芽実はこれからのことについて話をしていた。

「ねぇ、メイ、そろそろあの子達にもあの仕事任せようかなと思うんだけど。」
「えぇー和田さん、いくらなんでも早すぎじゃ…。」
彩花の提案に渋い顔をみせる芽実。


340 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/19(土) 14:07:34
「よし、けってー。次回の輸送は3期のメンバーに任せる。
 大丈夫だって、当局の情報ははるなんとか花音ちゃんが出してくれるから。」

だが、この決定がのちに里保や花音、そしてアンジュルムのメンバーにとって忘れられないものになるとは
この時誰も想像していなかったのだった。





「へぇ、あんたたち魔道士なんかい。こりゃ心強いねぇ。なんでこんな辺鄙なところに?」
「それはですね…ふぅ…。」

亜佑美たちを見ながら人懐こそうな顔で語りかける老人。

かれこれ30分以上つかまった状態だ。
しかもぼけているのか何度もなんども同じ話を繰り返す。

優樹や遥はうんざりした顔持ちで聞いている。
香音も顔がマスクに隠れていて見えないが退屈そうである。

亜佑美だけが延々と続く無限ループに真剣に付き合っていた。
どうしてもこの人物に話を聞かなくてはならない。
なぜならこの人物はこの地区を統括する人物だから。

聞き込み活動は思っていた以上に難航していた。
そもそも、里保たちの姿を見ていた人物が皆無なのだ。

誰に聞いても答えは「知らない」のみ。日時ばかりが過ぎていく。

もうすでにこの街に来て2週間が過ぎていた。
地区の端から端まで渡り歩き情報の収集に努めていたが一向に有力な情報が手に入らなかった。


341 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/19(土) 14:09:00
結局この日であった老人からも有力な情報は得られずに終わってしまった。
もしかしたら本当に里保は死んでしまったのかもしれない。
いやひょっとしたら自分が不甲斐ない部下で嫌気がさしてしまったのだろうか。だからなにも言わずに…。

そんな思いすら浮かんでくる。

「ねぇあゆみん?」
「どぅー、なにどうしたの?」
その日の夕食後、一人思いつめた顔をしていた亜佑美の元に遥がやってくる。

亜佑美は自身の焦りを悟られないように努めて明るい声を出した。

しかし次の瞬間、遥は亜佑美の横に腰掛けると、肩を抱き寄せヨシヨシと頭を撫でる。

「ちょ!?バッ、バカ!なにすん…。」

「一人で抱え込むなよ。あゆみん。」
そういう遥の声はいつものような小馬鹿にした類ではなくもっとふんわりとした優しさに包まれていた。

「鞘師さんが突然消えて不安なのはわかるけどさ。
 その責任をあゆみんが感じるのは間違っていると思うぜ。
 まぁきっとあゆみんのことだからさ。」


342 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/19(土) 14:10:34
そういって亜佑美の顔を遥が覗き込む。
「どうせ、『自分が不甲斐ない部下だから嫌気がさした』とかでも思ってるんでしょ?
 ない無い。鞘師さんだって大概自分の仕事して無いで生田さんとのろけてるんだし。
 だからさ一人で我慢しないで思いっきり吐き出しちゃいなって。」

必死に自分の中の不安と戦い続けたこの2週間。
心のつかえがふっと軽くなった気がした。


「どぅー…ごめんね、ありがと。ちょっとだけ…、胸借りるね。」
そういって亜佑美は大きな声をあげて泣いた。

ずっと気張っていたのだろう。
遥は亜佑美の肩をしっかりと抱き寄せると強く強く抱きしめた。

その様子をそっと香音は物陰からみながら嫉妬モード全開の優樹をなだめているのであった。


続く


343 : 名無し募集中。。。 :2015/12/19(土) 19:14:57
嫉妬モード全開のまーかわえぇw


344 : 名無し募集中。。。 :2015/12/19(土) 20:48:31
まろが海に帰るのか


345 : 名無し募集中。。。 :2015/12/20(日) 00:14:09
やべー塊で間がごっそり抜けてるorz
まぁいっか
内容としてはあやちょとメイメイが
話し合いをしているぐらいなので…

作者


346 : 名無し募集中。。。 :2015/12/20(日) 00:28:33
工藤遥王選手権w


347 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/20(日) 01:19:17
いつまでも心は一緒18

「いやっほほい!初任務だーーー!」
「こら莉佳子。そんなにはしゃがないの。」
「だってさぁついについにうちらだけで任務だぜ。
これを嬉しいと言わずになんと言おうか!!ねぇあいあい?」
「…。」
「!!…あいあいが…、無視したぁぁTAT」

突然泣き出す莉佳子。
それにつられて泣き出す瑞希と茉穂。

砂漠のど真ん中。
大量の荷物を街に運ぶ役目を担った3期のメンバーたちは大声をあげて泣いているのであった。





途中様々なことはあったが、敵襲に会うこともなく予定通り荷物を街へと搬入する莉佳子たち。
「ふぅ、これで全部だね。なんだ案外ちょろいじゃん。」

出かける前、散々、芽実に任務の危険性について脅されていた三人はあっけなく任務が完了したことに拍子抜けしていた。

「気をつけて帰るんだよ。
 街までのルートは私らが見張れるが帰りは保証出来ない。
 ほれなんといったかな、『勝って兜の』だ。」

「はいはい!了解でっす。」


348 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/20(日) 01:20:37
街の人たちに見送られて莉佳子たちは街を出、自分たちのアジトへと歩を進めていく。
気の緩みからか朝、アジトを出た時にしていた周囲の警戒も疎かになっていた。

「へへーん、和田さんとかに褒めてもらえるかなぁ?」

そんなことを考えながら道程の半分ほど来た時であった。
前を歩いていた茉穂が突然立ち止まる。

「あだっ!!どうしたのあいあい。」
「シッ!音が、風が変なの。」

そう言うと茉穂は砂地に耳を押し当て、地の音を聞く。

「…うん、間違いない。当局の車両隊だ。こっちに近づいてる。」
「えっ!?」

「結構な数そうだね。こりゃ、まずいかも…。」
三人に緊張が走る。

当局の車両隊とやりあう時にはいつも必ず先輩が近くにいた。
だが、まだアジトまではだいぶ距離がある。

しかしこのままモタモタしていると確実に戦闘になることは間違いなかった。

「とりあえず逃げよう。田村さんからも無用な争いは避けろって言われてるし。」
「そ、そうだね。とりあえず奴らから離れよう。」
そうして今までの進路とは違う方向へ走りだす。


349 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/20(日) 01:22:15
なるべく音から遠くへ。

その時であった。
一筋の閃光が飛んできたかと思うとまっすぐに茉穂の胸を貫通していく。
「うっ…。」

その場に倒れこむ茉穂。

「「あいあい!」」

駆け寄る二人。その間にもいく筋もの閃光が二人をかすめていく。

「ど、どういうこと…。あいあい、しっかり!!」

実は茉穂が感じていた音というのは当局が三人を嵌めるための囮であった。
前々から音を察知して行動を読んでいるという情報を当局は掴んでいた。

そのためその力を逆に当局側が利用し、三人の横側に待ち伏せを構えていたのであった。

突然の襲撃に完全に二人はパニックになりその場を動くことができなかった。

グループで行動をする時に一番厄介なのは負傷者が出ること。
これは戦場で相手の士気を下げるために意図的に行われることもある。

まさに今回はそのパターンで茉穂はとてもではないが動かせるような状況ではなかった。
そしてついに衝突は避けられないほどの距離に迫られていた。


350 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/20(日) 01:23:39
「…どうする?瑞希。」
「やるしかないってことだよね。あいあい連れて帰んなきゃ…。」

莉佳子は懐からナイフを、瑞希はお手玉を取り出すと魔力を解放した。
そして向かってくる当局の部隊を待ち受けるのであった。



「和田さん!!大変です!!」

息を切らして芽実が彩花の部屋へと駆け込んでくる。
ただならぬ様子に彩花はまゆをひそめる。

「どうしたの?メイ。そんな慌てて…。」

「当局が…、待ち伏せを…、していた…、みたいで…。」

報告を聞く彩花の顔がみるみる険しくなっていく。

「三人は?無事なの?」
「それが…。敵方に拘束されたと…。」

それを聞いて、彩花は音を立てて椅子からたち上る。

「奪い返さなきゃ。メイ、2期を集めて。
 彩もいく。花音ちゃんにお留守番たの…。」

その時であった。遠くの方で扉が勢い良く閉まる音が聞こえた。
それと同時に朱莉が部屋に駆け込んでくる。


351 : 名無し募集中。。。 :2015/12/20(日) 01:24:50
「タケ、どうしたの?」
「鞘師さんが、3人が捕まったって聞いて部屋を飛び出して行きました!!」
「え?」
「必死に止めたんですよ。でもすごい勢いで…。あと…。」
「まだあるの?」
「ま…福田さんの部屋にこんなものが。」

そういって朱莉が一枚の紙を彩花に手渡す。
それを読んだ瞬間、今まで冷静を保っていた彩花の顔からその色が吹き飛んだ。

「まずい…。止めなきゃ…。花音ちゃん…。」
「そうですよね。早く鞘師さん止めないとって…えっ?
 ま…福田さんですか?」

「説明はあと。今すぐ二人を追いかけるよ!」




里保は飛びながら考えていた。

どうして自分は今あの三人の元へ向かっているのだろうと。
少しの時間しか関わっていない。
敵であるのも間違いなかった。


それでもあの三人といた時間は里保の中でもM13地区で過ごした時間と違ってまた新鮮であった。

「ウチどうかしちゃったのかな…。」

ぼそりと里保が呟く。


352 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/20(日) 01:26:06

ただ一つ言えること。

あの三人はアンジュルムにとって新しい希望なんだと。
彩花がそう感じていることは間違いなかった。
いつもニコニコとしている彩花も時折暗い表情を見せる時がある。

そんな時に決まって必ず彼女の周りには仲間がいた。
そして彩花もそれに上手に甘えていた。

里保は自分の姿とそれを重ね合わせていた。
衣梨奈や亜佑美、遥や春菜、優樹、聖や香音そしてさゆみ。
自分はあんな風にはできない。

だんだんとそんな自分に嫌気がさし、辛くなった。
だから今回の任務が来た時に少しホッとしたのだ。だがきっと反対される。

それが里保は怖かった。だから何も言わずにあの街を出たのだった。
見送りに来た春菜の目を里保は真っ直ぐ見つめることができなかった。

あの三人はこの街に、アンジュルムにとってなくてはならない。
そう考えたら、体が勝手に動いたのだった。

「さて、そしたら急がんとね。」

そうまた一人呟くと里保はさらに飛行スピードを上げるのであった。


353 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/20(日) 01:27:27
工藤遥王は少し意識しましたw
あとはあゆみんのことも

作者


354 : 名無し募集中。。。 :2015/12/20(日) 21:40:42
この作品は鞘師と福田の卒業を意識して書かれていると思うけど…まさかこのタイミングでの田村の卒業発表・・・作者さんどうするんだろ?


355 : 名無し募集中。。。 :2015/12/20(日) 22:38:19
あいあいが無視したぁ!

の所、サイコー(^^)b


356 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/20(日) 23:53:51
>>354

えっ…嘘でしょ…ちょっと待って
めいめい卒業?
割とショックなんですけど…


357 : 名無し募集中。。。 :2015/12/23(水) 22:08:08
新スレ

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 28
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1450875558/


358 : 名無し募集中。。。 :2015/12/29(火) 23:20:39
今年はもう更新ないみたいだね


359 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/31(木) 00:29:30
いつまでも心は一緒19

「どうなるんだろ…。」

湿っぽい拘束室で莉佳子はひとりぼっちだった。
小さな窓がついた部屋でたった一人きりだった。

最初はその窓から抜け出そうかとも考えたがいくら莉佳子が小柄といえどもその窓は人が通るにはあまりにも小さすぎたのだった。

どれくらいの時間が経ったのだろう。他の二人の身が案じられる。

やがて、いくつかの足音が近づいてくるのが聞こえた。
そして鍵が外れると乱暴にドアが開かれる。

複数の男たちがぞろぞろと部屋の中へ入ってくる。
「出ろ。」

莉佳子は隙を見て逃げ出せるかと考えていたが男たちの持つ装備を見てすぐにその考えを諦めた。

やがて、施設内の中庭のような広い場所に連れ出される。

「瑞希!あいあい!」

「莉佳子!」


360 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/31(木) 00:31:28

よかった。二人とも幾らか怪我をしているようであったが無事であった。
しかしこの感動の再会も次の瞬間悪夢に変わる。

「お前らは我々に羽向かいすぎた。よってこの場で処刑する。」

「「「!!」」」

気づくと完全に周囲を囲まれていた。一人一人が銃口を自分たちの方へと向けている。

終わった…。自分たちの命はここまでか。
そう思った三人は思わず目を閉じ天を仰いだ。

次の瞬間一発の銃声が鳴り響く。
痛みはない。恐る恐る目を開けてみると一人の兵士が自分たちの前に立っていた。

兵士の中に知り合いなどいないはず…。
そういぶかしんでいた三人。

だが兵士は黙って三人の拘束をとくと再び銃の照準を合わせる。
そして一言ぼそりと呟いた。

「まったく。みんなして私の邪魔をするのは本当に勘弁してほしいにょん。」

「ふ、福田さん…?」

「その問いには答えず、花音はもう一発銃弾を相手方に打ち込んだ。
 突然の出来事に混乱する当局。
 
 『なんだなんだ!?まさか我々の中に紛れ込んでいたというのか?』
 しかしそのようなことは決してなく、名簿とここにいる人数は一致しており誰かが紛れ込めばすぐにわかるような状態になっていた。
 
 では、花音はどのようにして怪しまれることなくこの場にいることができたのか。」

「福田さんが…。おかしくなっちゃった…。一人で何かぶつぶつ言ってる。」


361 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/31(木) 00:33:47



「ま…福田さんの力?ま…ええいめんどくさい。
 まろさんってそんなすごい力持ってるんですか?」

「なんや、タケちゃんしらんかったんかいな。
 まろさんの魔力『シンデレラ』は自分の思い通りに物語を作れる最強の技なんやで。
 でもこの技、最強なんやけどな弱点も当然あるんや。」

「何?その弱点って。ていうかなんでかななんそんなに詳しいんだよ。」

「当たり前や。うちはまろさんの側でずっとお世話してきたんや。
 まろさんが『作った』ようにことが運ぶのをまのあたりにしてる。」

「花音ちゃんの力はとてつもなく強力なことは確かだよ。
 でもその技を昇華させすぎた反面少しでもシナリオが崩れると『物語』そのものが崩壊する。
 だから早く行って止めないと。きっと花音ちゃん死ぬつもりなんだ。
 …もう彩、此れ以上仲間を失いたくない。」

彩花のつぶやきに一同は黙り込む。

リーダーの彩花はアンジュルムの前身時代から在籍していた。

しかしその時のオリジナルメンバーの中で残っているのはもはや彩花と花音のみ。

決して多くを語り合わない二人ではあったがそれでも強い絆で結ばれているようであった。
彩花はもうそれ以上何も口を開くことはなかった。


ただひたすら前だけを見て目的の地へと急ぐ。


つづく


362 : ◆JVrUn/uxnk :2015/12/31(木) 00:35:40
>>358さん

そんこと言わずに今年最後も読んでってくださいな

皆様、良いお年を!
自分はカウコンのLVで年越しします

作者


363 : 名無し募集中。。。 :2015/12/31(木) 09:00:53
読ませていただきました
大晦日になりましたね
皆さんにとって最高の1日になりますように


364 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/06(水) 00:27:14
すんません更新しばらく途絶えてしまいそうです…


身の回りが落ち着いたら再開します

作者


365 : 名無し募集中。。。 :2016/01/06(水) 00:35:32
いつまでもお待ちしてます。


366 : 名無し募集中。。。 :2016/01/08(金) 20:49:04
新スレ

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 29
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1452251386/


367 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 22:43:00

「やーね、隣町の保安当局で襲撃だって。」
「アンジュルムの子たちが捕まっちゃったらしいのよ。」
「あーそれで。」
その日、いつものように聞き込みをしていた亜佑美たちの元にこんな情報が入ってきた。

まぁ武装勢力の元にいるわけだからそれぐらいのことは起きて当然。
しかも隣町の話だ。自分たちには関係のない話。

そう思っていた矢先、ある単語が耳に飛び込んでくる。

「なんでも、若い女の子の魔道士が大暴れしているらしいわよ。
 とてつもなく強いんだって。」

女の子?魔道士?
亜佑美はその立ち話をしていた二人に近づくと話しかけた。

「そ、その話詳しく聞かせてもらってもいいですか?」




「ほらぼさっとしてないで早く走りなさい!!」

花音の怒鳴り声に三人はびくっとして慌てて立ち上がると一目散に出口めがけて駆け出す。

驚き慌てる兵士たちを倒しつつ入り組んだ施設の中へと再び戻る。

花音は銃を構え発砲しながらその後を追った。

「何これ、全然未知がわかんないんだけど。」
「そりゃ未知だもん。わかるわけないし。」
「そんな冗談かましてる場合かぁ!!」


368 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 22:48:15
天井を突き破って外に出ようかと目論んだがこの施設内ではうまく魔力がねれないようだった。
実はこの施設、対魔道士用に特別仕様が施された建物で、魔道士による襲撃、脱走といった
あらゆるシチュエーションを考慮した設計となっている。

強力な魔力を持った魔道士であればさほど影響はないかもしれないが、まだまだ三人にとっては厳しいものであった。


『緊急警報緊急警報。囚人が脱走した。至急応援に当たれ。』

「しゃーない。とりあえず走ろう!」
館内に鳴り響くサイレンの音を気にしながら、ひたすら出口を求めて三人は走り続けた。

やがて、少し広い空間に出る。

「なんだここは…。」

瑞季がそう呟いた瞬間だった。

目の前から火の玉が迫る。


「伏せなさい!」

背後から鋭い声がしたかと思うと花音が猛然と走りこみながら数発発砲する。

「『迎撃』!!」

弾はその場で弾け、飛んできた火の玉を相殺する。

「ほう、なかなかなもんだな。」

声とともに複数の魔道士が姿を現す。その数6人。

「お前たちに恨みつらみはないが俺たちは当局に雇われている身でね。
目の前にターゲットがいるのを見過ごすわけにはいかないんだよ」


369 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 22:51:39

いつまでも心は一緒 20

「というわけで生田さん。鞘師さんが戻ってくるかはどうかは私にもわからないんです。
 鞘師さん自身が…。すみません、ちょっと待ってください。」

そう言って春菜は席を立ちパソコンの元へと向かう。
だが、パソコンを見た瞬間、春菜の顔色が変わった。

慌ただしい音を立てて春菜が部屋へと戻ってくる。

「まずいですよ、生田さん…。
 鞘師さんが本当に戻ってこられなくなるかもです…。」

その一言は衣梨奈へ強い衝撃を与える。

「ど、どういうこと?」

「あんなに止めたのに……。地元当局と鞘師さんが…、やりあうみたいです…。」





「お前たちを逃すわけには、行かないんだよ。」

そういって6人が一斉に突っ込んでくる。

「あんたたち、下がってな。」

花音はそう一言言うと、腰につけていたもう一丁の銃を取り出すと同時に連続発砲をする。
その銃弾は、放たれた瞬間、巨大なミサイルとなり男たちの元へと向かっていく。

「ふん、こんなもん。」
男の一人が手に魔力を込め炎の塊を一つ一つにぶつけてゆく。
その瞬間に大爆発が起こりあたりは熱風と塵芥が立ち込め視界が利かなくなる。


370 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 22:53:30

「ぶわっ…!ゲホゲホ…あいあい、莉佳子…だいじょ…。」
瑞季が目の前を手のひらで払いながら他の二人に声をかけようとした瞬間、すぐそばから人の気配がした。

(やばい…背後に立たれた…。)


肌でかんじる魔力は自分のものに比べ圧倒的に大きい。
しかし、立ち向かわなければ…。

瑞季は手にしたお手玉に魔力を注ぎ込む。
その時であった。

「はい動かなーい!動いた瞬間あんたの頭は粉々になるからね。」
「ふ、福田さん!」

「ぐわぁ!」
音もなく倒れ込む男。

少しずつ視界が晴れてきてあたりの様子がわかってきた。
花音は巨大なミサイルが爆破させられるということは想定の範囲内だったようで
逆にそれをついて視界が悪いうちに瑞季の背後に立った男も含めて3名の男たちを
すでに戦闘不能の状態にしていた。

「ふぅ、まぁざっとこんなもんね。」
満足そうに髪をかきあげる花音。


「福田さんすごい…」
「いつの間に…」
「ただの海豹じゃなかった…」
瑞季たち3人はただただ圧倒されていた。

福田花音という人物の姿に。


371 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 22:56:13
普段はあまり動かず重要な仕事は大体、彩花や芽実が主だって動いている印象で花音はどちらかというとそういう二人を茶化すようなポジションにいた。

だが、いま自分たちの前に立っている花音の姿は全くの別人と言ってよかった。
まとう魔力の一つひとつが猛々しくギラギラとしたオーラが漂っており自信に満ち溢れていた。

「さすが『神童 福田花音』…。いまでもその腕は健在というわけか。」

ゆったりとした声が響いてくる。
次の瞬間、飛び出してきた男の右の拳と花音の手刀がぶつかり合い辺り魔法による衝撃波が広がった。
一度距離を取る二人。

息をつく暇もなく花音の横から植物のつるのようなものが飛び出し花音へと襲い掛かる。

花音はそれを身をひねり交わすと右手に持ったペンで何かを書き付ける。

次の瞬間、つるは折鶴となって消滅した。
その後もしばらく激しい魔力による応酬が続く。

男たちは躍起になって瑞季たち3人を狙おうとするがそれをことごとく花音が跳ね返していた。

初めは互角以上の戦いを見せていた。

しかし次第に花音が負う傷の数が増えていく。
最初に花音が倒した3人に比べ残った3人は実力者であった。


372 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 22:58:41
それでも本来であれば花音の想定の範囲内に収まるはずだったのだが今、瑞季たちがいることで
花音の描いていたストーリーに若干のほころびが生まれ始めていたのだ。

そしてそのほころびは少しずつ物語に影響を与え始める。
なんとかして花音は元のストーリーに戻そうと策を練るが次第に歯止めが利かなくなるのを感じていた。

(クソっ…このままじゃまずい。)

フィールド内を自由気ままに暴れるつるをかわした時だった。

不意に多くの人の気を感じて花音はとっさに3人に覆いかぶさった。

響き渡るいくつもの銃声。


「あ、あんたたち…ってやつはどこま…で、卑怯なの…。」
「ふ、福田さんその肩…!」

花音は自分の左肩を押さえていた。

そこからはポタリポタリと血が滴る。
いつの間にか一般兵にも包囲されていたようであった。

3人は花音の張る防壁の中にいて無事であったが花音は流れ弾を受け負傷していた。
さらに一筋のつるが花音の腹部に突き刺さり貫通していく。

「あぁぁぁぁ…がはっ!」

瑞季たちの目の前で花音は苦痛に顔を歪め、がっくりと膝をつくとその場に倒れこんだ。


373 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 23:01:10

「福田さん!」
「福田さん!!」
「しっかりしてください!」

慌てて3人は駆け寄り花音を抱きかかえるがその顔からはみるみるうちに生気が抜けていく。
「そんなぁ。福田さん。しっかりしてください。」

「どうやら、終わりのようだな。」
背後で声が響く。
気づくと3人の男たちがすぐそばまで来ていた。

「お前たち、許さない…きゃっ!」
茉穂と瑞季が武器を取り出し、攻撃を加えようとしたがその間もなく男たちに壁に叩きつけられる。

「いいから、黙って見てろ。」
そう言って男の中の一人が「奪う」魔法を発動させる。
花音の体が仄かなピンク色に光ったかと思うとすこしづつ魔力が男の方へと流れていく。


「やめろー、やめろー!」
莉佳子は声を限りに叫ぶがこのような状況でどうすることもできなかった。

(もっと…もっと…私に力があれば…くっそぉぉぉ!)


その時であった。
不意に窓の外が一瞬明るくなったかと思うと轟音を立てて天井が崩れ落ちてきた。
慌ててその場を飛び退く男たち。

その一瞬後に先ほどまで男たちがいた場所に巨大な岩塊が落ちてきていた。

「な、何事だ…。」


374 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 23:03:31
もうもうとたちのぼる土煙の中、莉佳子は瑞季や茉穂とともに花音の姿を必死で探す。
やがて一人の人物が砂煙りの中から姿を現した。

その腕の中には傷ついた花音が眠っている。

「福田さん!!…ってお前…。」
「遅くなってすまん。どうやって入るか迷っちょった。
 ウチは簡単な治癒魔法しかかけられん。早く福田さんを安全なところへ。」

「それは…そうしたいのは山々だけどここから出ないことには…。」

「大丈夫。ここはウチに任せといて。3人は早く。」

そういうとその人物はくるりと三人に背を向け、男たちと向き合った。
莉佳子はその背中に声をかけようとしたがあまりに攻撃的な魔力に開いた口を閉じた。


「テメェ、何もんだ?」
新たなる魔道士の出現に警戒心を見せる男たち。
その人物は長い髪からすっと刀を取り出すとこう高らかに言い放った。

「魔道士協会執行局執行魔道士 鞘師里保。」

「しっ、執行魔道士!?」

「今のはこの前のお返しじゃ。悪いけど、本気で行かせてもらう。
 覚悟するんじゃな。」

続く


375 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/12(火) 23:07:48
みなさま
こんばんはとりあえず続きになります

今後も不定期な更新が続くと思われます

作者


376 : 名無し募集中。。。 :2016/01/13(水) 05:14:51
更新乙です
まろ倒れるか…ついにりほりほ参戦!


377 : 名無し募集中。。。 :2016/01/13(水) 13:46:23
続ききたー
むろたんの瑞希
漢字こっちでお願いします


378 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/13(水) 20:26:41
ホントだ汗

これはすみません
むろたんにも丁重にお詫び申し上げます…
作者


379 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/13(水) 23:55:49
『小さな魔法』
この町を包む風は、どこか少し冷たい。

私はいつも一人だった。
それでいいと思っていたんだ。

でも…。

「ねぇ?名前なんていうの?お友達になろうよ!!」

あの日、君と出会ってから、私の世界は色を変えていった。
季節はまたすぎてくけど、色あせることはない。
決して届くことのない、遠い遠い君へと届けたくて…。

「もっと一緒に遊んでいたかった。
もっとずっと話していたかった…。
 なのになんで…。」

伝えたい言葉を集めて、小さな魔法をかけて、さぁ君の元へと送る。
ぬくもりが冷めないように一緒に閉じこめたら、思いは形になるんだ。



窓から差し込む光に眩しさを感じ舞は目を覚ます。
さっきまでなんだかとても不思議な夢を見ていた。

あれは自分が『Can girl』なりたての頃の夢。
自分は一体何を、誰に必死になって送ろうとしていたのだろうか。

思い出せない。

幸せな気持ちと同時に苦しみが心の中にある。
たかが、夢のことじゃないか。

舞はそう自分に言い聞かせ、ベッドから出て大きく伸びをする。
今日から本格的に新メンバーがチームに合流する。

初めての後輩だ。少しでも先輩らしく振舞わなければ。

また桃子や梨沙にからかわれてしまう。

「よし!今日も頑張るぞ!」




世界中で君だけに唄いたいウタがある。
想いが伝わるように。
魔法をかけて。


End.


380 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/13(水) 23:57:20
ステレオポニーの小さい魔法を聞いていたらなんか書きたくなったので短いのを一本

作者


381 : 名無し募集中。。。 :2016/01/15(金) 07:11:13
素晴らしい
嬉唄ちゃん…


382 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/16(土) 00:40:28
すみません

ちょっと暴走しました笑

本来の続き行きます


383 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/16(土) 00:41:31
いつまでも心は一緒 21

「すみません…ちょっとすみません…。待ってよあゆみん!」
遥が前を歩く亜佑美に声をかける。

「早く早く!!鞘師さんかもしれないんだよ。」

人々の波をかき分け4人は目的の場所へと急ぐ。
4人の視線の先にはもうもうと黒煙を吐く地方当局の建物。

少し前に、地元住民の話を聞いていた亜佑美たち。
しかし年恰好を聞く限り自分たちの知っている里保の特徴とは少し違った。

また、違った。

そんな失望感とともに話をしてくれた住民に感謝の言葉を伝えその場を離れる4人。

ここでふと優樹が異変に気付く。

「ねぇ、みんなあっちに向かって移動してるよ。なんでだろう?」

確かに人々の流れが先ほどまでとは異なりある一定の方向に流れている。
そしてその歩みは決して遅いとは言えるものではなかった。

まるで、何かから逃れるかのように。

しばらく考えたのちに香音が思いついたかのように口を開く。
「あぁ、あれじゃない?さっきの話の…。」
「あぁ。地元当局の件ですね。」


384 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/16(土) 00:42:58

言われてみればその通りだ。
おそらく攻防が激化しているのであろう。時折、魔力も感じる。
争いごとに巻き込まれたくないと感じれば自然とその場を離れるのは当然の選択であった。

「ハルたちもここから離れたほうが…」

“離れたほうがいい”そう遥が言おうとした瞬間であった。

西の空から一筋の光が飛んできて上空で2、3回旋回したかと思うと次の瞬間、大きな火の塊となって当局の建物へと突っ込んだ。

途端に熱風が街中へと吹き荒れる。


「キャー!」
「うわぁ!」

周囲の人間から悲鳴があがり、人々は一斉に駆け出した。


「うわっ!!言わんこっちゃない…。ここから離れよう。
 あれっ?あゆみん?どうしたの?」

その場から離れようとした遥たちであったが、ふとその場から動かない亜佑美の姿が眼に入る。

「亜佑美ちゃん?」

何かを確信したかのような顔つきの亜佑美。

「まちがいないこの感じ…。鞘師さんだ…。」

「はぁ!?あゆみなーに言っちゃってんだよ。
 さやしすんがあんなとこに突っ込むわけねーじゃんかよ。」


385 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/16(土) 00:44:52
「そうだよ。マーちゃんの言う通りだよ。
 あそこは地方当局の本部なんだぜ?あそこに突っ込むってことはつまりはさ…。
 ってまさかあゆみん?」

亜佑美の考えていることの意味に気づきハッとした表情を見せる遥。
「そんな…。いやまさか…。」

「えっ?えっ?どういうこと?話がさっぱり見えないんだけど。」
「そうだよどぅー。わかるように説明しろよぅ。」
香音や優樹の声を受けて遥はやや緊張した面持ちで説明を始める。

「ハルたち魔道士は昔犯してきた過ちを繰り返さないために普通の人々とは戦わない、『不戦協定』を結んでいるんです。
 お互いにお互いの世界には極力干渉しないように今までの慣習からしてきたんです。
 特に魔道士協会に所属する魔道士にはその原則がきつく当てはめられていて。
 やっぱり協会はハルたちの世界の絶対権力ですから。
 そこに所属する魔道士の一人でも何かトラブルを起こせば、それは協会の総意と見なされるおそれがある。
 たちまちバランスが崩れてしまうんです。
 もし仮にさっきのが鞘師さんだとすると…。」

「里保ちゃんだとすると…?」

遥は冷や汗をかきながら最後まで言い切った。
「鞘師さんは公の施設を急襲した。これは戦争になります。
 その責を負って鞘師さんは捕らえられたら最後、恐らく一生刑務所でしょう。」


386 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/16(土) 00:46:26



「この子らに手を出したこと、後悔させてやるけぇの。」

そういうと里保は足元に風を纏わせるとわずかに浮かびあがり、一気に間合いを詰める。
激しい金属音と共に二人の刃が交わる。

両者は刀越しににらみ合ったままお互いの出方を探っていた。
男の上唇がニヤリとめくり上がる。

里保が不審に思い、刀に力を込め一気に相手を突き放し距離を取った瞬間、
先ほどまで自分がいた位置を鋭い蔓が突き抜けていく。

(こいつら…。)

手慣れている。
人の命を奪うことに。
恐らく過去に何度もなんども同じような方法で様々な魔道士の命を奪ってきたのだろう。

相手から殺気を微塵も感じない。

むしろ自分の方がそういった類の魔力が出ている。

だが里保にとってそのことは無用な緊張感を与えた。

長くなりそうだ。
里保は小さくため息をつくと再び、刀を振るった。


387 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/16(土) 00:47:39

目の前で起きている光景に瑞希たち3人はただただあっけにとられていた。
鞘師里保。

執行魔道士であるが、日常はポンコツ、現在はアンジュルムの居候。
決して尊敬できるような存在ではなかった。

しかし、今目の前で戦っている姿を見ると、ただ純粋にかっこいい。
どう振る舞えばいいのかがはっきりとわかっているかのような動き方であった。

「ウゥゥ…ん…。」

花音が身じろぎをする。
里保が簡単な治癒魔法をかけてくれたおかげで出血自体は収まったようだ。
しかし危険な状態に変わりはない。

一刻も早くここを抜け出そうと考える三人であったが、いかんせん、こう包囲が強くては動くに動けない状態であった。

「紅㷔鎌鼬!」

何もできない自分たちが情けなくて泣きそうになる。
その時であった。

遠くから犬の遠吠えが聞こえる。
と同時に破れた天井から一機のロボットが飛び込んできた。

「な、なんだあれは!!」

突然の来客に瑞希たちはもちろん相手の兵士たちも仰天し、手にした銃の標準を一斉に合わせ警告する。


388 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/16(土) 00:49:12
だがそんなことは意に解さないようでそのロボットは空中で右手を前方に構えると縦横無尽に撃ちまくる。
そしてそれと同時に再び天井の穴から今度は巨大な犬が現れ、瑞希たちのすぐそばに着地した。

「鞘師さん!!やっぱり鞘師さんだ!」
「亜佑美ちゃん?どぅ?優樹ちゃん?それ香音ちゃんも…。」

犬の背中から降りてきた二人の少女をみて里保は驚きの声を上げる。

だが感動の再会を味わっているわけにはいかなかった。
状況は切迫している。

里保はすぐさま思案し考えを伝えていく。

「香音ちゃん!福田さんを、優樹ちゃんはその三人をアジトまで!」

「へっ?アジトってどこの?」

「いいから!早く!」

里保の剣幕に押され、二人は指示された通りに動く。
群がる兵士たちを蹴散らし、二人が外へ飛び出るのを確認すると
里保が大きく叫びをあげた。

「りなぷっ!後は頼んだ!」
「りょーかーい。あんたもね。死ぬんじゃないよ。」


続く


389 : 名無し募集中。。。 :2016/01/16(土) 11:38:09
>>379
うたちゃん・・・舞ちゃんの思いが届きますように


390 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/19(火) 23:34:57
だめだ
ごめんなさい全然まとまらん…
結末まで持って行けなさそう…


391 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/20(水) 23:55:04
生田は頭を悩ませていた。
秘密裏に進めていた調査の結果、想像していた以上に闇が深いことが分かったのだ。
このままでは迂闊に手を出すことすらできない。

(誰かいないか…。
 それ相応の力があり、かつ権力に縛られていない人物は…。)


生田の中ではさゆみ以外に思い浮かばなかった。
しかし、さゆみに依頼をすることはおそらく無理だろう。

今回の件は、さゆみはおそらく全貌を見抜いている。
その上でさゆみが解決するのではなく、自分に解決するように行ってきたのだ。

思案しながら生田が廊下を歩いていると、急に後ろから声をかけられる。

「きょーくちょ!どうしたんですか、そんな小難しい顔してー。
 あー分かった!ももちが可愛すぎるから。恋ってやつですね。
 でもすみません、そんな局長の気持ちには答えられないんです。
 だってももちはぁ。」

「嗣永…。お前ってやつは…。」

生田は目の前でブリブリのぶりっ子を演じる桃子をみて思わず苦笑する。
はじめは桃子にも協力を頼もうと思っていたのだが、今現在、桃子は『Can girl』のPMである。
最近また新しいメンバーが増えた現状で、この件に巻き込むわけにはいかなかった。

そんな時、ふと桃子の顔が急に真面目になる。

「局長、何か私に隠してるでしょ。
 最近キャプとか千奈美がやたらコソコソ動いてるんですけど。
 もしかして、ヤバイ案件掴んじゃったとか。」

この発言に生田は驚いた。
かなり秘密裏に進めているつもりではいたが、桃子の勘の良さに舌をまく。
生田はこのまま隠し通すことも考えたが、逆に桃子の性格を考えるといつかは真実に辿り着いてしまう。であるならば事実はある程度明かしておいたほうが得策かもしれない。

そう考えた、生田は桃子に事実の一部を語ろうとした。
しかしその行動は桃子自身によって阻止される。


392 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/20(水) 23:56:27

「ダメですよ、局長。
 それ喋っちゃ。局長が私に話さないってことは何かしらのリスクを恐れてでしょ?
 だとしたらもし仮に私が内容を知っていたとしてもそれを局長の口から伝えられたという事実は作っちゃダメです。」

その言葉に生田はハッとする。それと同時に心の中で桃子に感謝をした。
直接伝えないのは、調子に乗られると困るからだ。

「あっ。たいへーんこんな時間だー。さっさとトレーニングしないとね。
 あっ、それと局長。人選にお悩みでしたら一人うってつけの人がいますよ。
 局長の知り合いで、組織に属さず、縛られていない人。」

「なに!?」

「これ以上はおしえませーん。まぁ危ない橋をわざわざ渡る必要はないですからね。
 じゃ、私はここで。」

そういって桃子はその場から去っていった。その場に取り残された生田はしばらく桃子の入った人物について考えていた。自分の知り合いで組織に属さず、あの土地に出向いてもおかしくない人物。
なおかつ桃子も知っている。やがて一人の人物に行き当たる。

「そうか!あいつがいた!そうかそれならイケる。」

そういって端末を取り出すとその人物に連絡を取るのであった。


393 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/20(水) 23:58:05




「鞘師さん!無事でよかった…。本当に心配した…。」

「ごめんね亜佑美ちゃん。今それどころじゃないんだ。後にしてくれる?」

里保の鋭い口調に思わず亜佑美は口を閉ざす。
普段の里保からは考えられないほどのきつい言葉。

同じことを遥も感じていたようであるが周りの状況を見てすぐに納得する。

「確かにね。あゆみん。ハルたちとんでもないとこにいるぜ、いま。」

そういって遥は自分の魔力をフルに開放した。
亜佑美もそれに倣い、戦闘態勢をとる。


気づけば完全に周囲を包囲されていた。
自分たちは襲撃者の一味として扱われているに違いなかった。

「好き勝手やってくれるねぇ。お役所の方々は。お前ら『不戦協定』って知ってるか?」
ニヤニヤしながらそう言う男たち。
「捕まったらおしまいだねぇ。」

「とりあえず、あいつらぶっ飛ばさないとね。」

里保はそう言うと静かに目を閉じ、手にした刀を自分の目の前に構える。

その瞬間里保の姿が消える。

「ぐあっ!」

気づくと、亜佑美たちの視線の先で鼻頭を抑えながら悶えている男の姿があった。
その後ろでは里保が刀を肩の乗せ、男を睨みつけている。
まるで、獲物を見つけた狩人のように、その視線は冷たく殺気に満ちていた。

「さ…やしさん?」

「お前たち!覚悟はできとるんじゃろうな!」

(違う…いつもの鞘師さんじゃない…。)

目の前で刀を振るう里保は荒々しく、その姿に亜佑美や遥は恐怖すら覚えた。
敵の一般兵も同じような思いだったらしく、次々と倒されていく仲間の姿を見て我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「くそっ…。これでもくらえ!我流『八岐大蛇』」

苦し紛れに相手が放った魔法はフィールド内に展開された蔓が不規則に押し寄せるものであった。


394 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/20(水) 23:59:56

里保はそれに対し、大きく後方へ飛んで壁際まで下がる。
だが蔓は一緒くたになって里保の元へと押し寄せる。

「鞘師さん!あぶない!!」


里保はすっと刀をしまうと、風をまとい蔓へと飛び出した。
そして宙を舞いながら、蔓を交わすと男にめがけて一閃。

「鞘師流居合術 炎龍」

………。



「くそっ…。まさかアンジュルムの連中が襲撃してくるとは。
 それで奴らは無事なのか。」
「いまだ、連絡が取れていません。」
「何としても、あの土地を渡すな。計画がこんなところで破断してはいかん。」


協会本部。少し薄暗い会議室で複数の男たちが密談を行っている。

「何れにしても、生田が裏で嗅ぎ回っているという話も聞く。ここは早急に片を…」


コンコン。

不意に会議室のドアがノックされる。
その音に中にいる人物たちは一斉にドアの方を振り返った。

「失礼します。どうやら皆さん、お揃いで。」

「お、お前…。」

ドアを開け現れた人物の姿に一同は言葉を失う。

「手間かけさせないでくださいよ。皆さん。
 あの地区が当局が襲撃されるほどの危険な地区ならそうと早く言ってくださいよ。
 でも大丈夫安心してください。あの地区は執行局の『特別監視』に指定しましたので。」

「生田お前…。」

「それにしても魔法鉱石とは意外でした。
 あの土地にあんなに貴重なものがあるなんて知らなかったので早速運輸局に調査の依頼も出しておきましたから。」

そういって満面の笑みを見せる生田。

「貴様…。生田!」

「動くな。」
たち上がりかけた男たちを生田が一喝する。

「ことを荒立てたくないんだろ?
 こっちは娘の一人の命を危険にさらしてはらわた煮えくり返ってんだ。
 お前らをこの場で殺っちまいたいぐらいにな。」

生田の放つ攻撃的な魔力と殺気の前に開発局の面々はおとなしくする他になかった。

連行されていく男たちの姿を見ながら生田は心配そうにつぶやく。

「あいつ、ちゃんと片付けたかなぁ。」


395 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/21(木) 00:01:31




「鞘師流居合術 炎龍」

その声とともに里保はスラリと刀を振り抜いた。
燃え盛る刀身は怒り狂う龍が如く、男の魔力共々燃やし尽くした。

「お前の魔力、奪うにも値しないわ。」
軽蔑的な眼差しを向ける里保。

「すげっ…。鞘師さん…。」

技のあまりの威力に驚き、その場に立ち尽くす遥と亜佑美。

その時、

「やっしーー!大丈夫?」
「あぁ、鞘師さん無事やったんやね。」
「もう、無茶しないでくださいよ。心臓に悪いじゃないですか。」
「あぁぁぁぁー、よがったー。」

「和田さん!メイメイ!かななん!タケちゃん!」

天井の穴から4人の少女がやってきて、里保の周りに着地すると口々に里保に声をかけていった。

「みんな、きたんだね!…福田さんは?」
「大丈夫、マロさんならいまウチの回復魔法でスヤスヤ眠っとる。」
「そっか、よかったぁ。」

「で、こいつらが…。」

彩花の目が鋭くなる。一歩男たちの方へと近づいた。

「彩、しってるよ。ばいばい。」

そういうと、彩花は瞬時に魔力をまとい、巨大化させる。
その魔力がいまに男たちを包み込もうという時であった。

「そんなことせんくてもええで。」

不意に男性の声が響く。バッと振り向いたさきには見知らぬ一人の男が立っていた。
腕に犬とバラの刺青をした人物。だが、その奥底には桁違いの魔力を感じる。
里保は緊張で体を固くする。

しかし、
「「卓偉さん!」」

アンジュルムのメンバーはそう叫ぶと一目散へその人物の元へと向かっていく。
その一人一人に声をかけながら、いまだ警戒心を解かない里保と何が起きているか全く把握できていない亜佑美と遥に笑いかける。

「なんや、生田のやつ俺のこと、いうとらんのか。ダメなやつぅ。」


396 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/21(木) 00:02:59
「お前らのとうちゃん、執行局長にな、出張してこいって言われてきたけんね。
 この地区は執行局の『特別監視』対象になったってさ。」

その卓偉の言葉に里保と亜佑美はハッとする。
特別監視。
魔道士と魔道士との間で争いごとが起きた時、必要に応じて執行局は平和維持活動を行う特権を持っている。

「なるほど、さっすが局長!あれ…でもそうすると…?」
亜佑美が疑問を漏らす。
特別監視は平和が保たれているかどうかを監視するために駐留する執行局員が必要。
だが、ここは協会の影響の範囲外にありそう容易いことではない。

「ウチ、残ります。」
「えっ?」
里保の一言に思わず驚きの声を上げる亜佑美。

「えっ?えっ?ちょっと鞘師さん?何言ってるんですか?急に。」
「ごめんね、亜佑美ちゃん、どぅー。でもウチ決めた。ここで監視員の仕事をする。」

その言葉に大きく頷く卓偉。

「そういうと思っとった。生田も同じ意見やったな。
 『里保は残ると言うだろう。だが本人の意思を尊重させてやってほしい』ってな。」

一方で泣き出しそうな顔をしているのは亜佑美だ。

「どうしてですか、鞘師さん!」
そんな様子の亜佑美の肩に遥はそっと手を置く。

「もっと上を目指したくなったんですね?鞘師さん。」

遥の言葉に無言で頷く里保。

「ウチは自分の力をもっと試したい。たった一度きりの人生なんだもん。
 ここでなら肩書きも看板も関係無く、ありのままのウチが出せる気がする。」

そういって里保は空を見やる。
「特別監視の期間は2年半。その間にうちはもっと自分を磨きたい。
 もっと大きくなりたい。大丈夫、同じ空の下だもん。繋がってる。だから…。」

「笑って、またねってウチは言いたい。」


397 : ◆JVrUn/uxnk :2016/01/21(木) 00:03:35


「どうしたの?花音ちゃん、ニヤニヤして気持ち悪いよ?」
「じゃーん!みてみて新作!」

満面のドヤ顔で紙の束を見せる花音。
それを呆れ顔で見る彩花。

「またぁ?だって花音ちゃんのやつ話長いし、オチがないんだもん。
 しかも現実の世界に影響与えちゃうから他の人に迷惑かかるじゃん。」

「むふっ!それが楽しんじゃない。今回のは執行局のエースがね…。」

タイトル 「いつまでも心は一緒」


終わり。


398 : 名無し募集中。。。 :2016/01/21(木) 00:06:36
すみません
夢オチならぬ小説オチという最悪な結末で終わらせてしまいました

ちょっとSS書くのしばらく離れようと思います
また描きたくなったらひょっこり現れようかなと思います

それまでにもっと文章書けるようになりたい

今までお付き合いいただきありがとうございました

作者


399 : 名無し募集中。。。 :2016/01/21(木) 13:31:42
面白い作品だったよ!
また気が向いたら書いてください


400 : 名無し募集中。。。 :2016/01/21(木) 18:18:00
>>398
気長にお待ちしております


401 : 名無し募集中。。。 :2016/01/22(金) 18:30:41
楽しかったですよ
作品が無くなると寂しくなりますが
気長に待ちます


402 : 名無し募集中。。。 :2016/01/23(土) 20:20:24
新スレ

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 30
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1453547566/


403 : 名無し募集中。。。 :2016/01/25(月) 10:19:25
>>398
完結お疲れ様です
外伝作者さんのおかげで生田局長もベリもカンガル大好きになりました

ゆっくりと休んで下さい
でも次回作も楽しみに待ってます


404 : ◆JVrUn/uxnk :2016/02/06(土) 15:28:27
みなさま ありがとうございます

自分の書いた話を読み返すと色々思うところはありますね
まーどぅー戦国編、ベリ編、伝説の魔法使い、Can girl編、嬉唄ちゃん編…
なんか他にもあった気はしますが
どれもこれも皆さんの温かく見守ってくださってくれたことで成り立ってきました
本当にありがとうございます

一応何本か今妄想しているものはあるので身の回りが落ち着いたら
再開しようかなと考えています
皆さまからも「こういうテーマで書いてっ」ていうのがあれば遠慮なくリクしてください

ではごきげんよう

作者


405 : 名無し募集中。。。 :2016/02/06(土) 22:31:48
お疲れ様でした本編とはまた違った視点で描かれる物語は『魔法使いえりぽん』の世界観をひろげたんじゃないかと…特に生田局長最高!w

個人的には無茶なお願いに応えてべり編を書いて貰えたのが凄く嬉しかったです

577 名無し募集中。。。@転載は禁止 2014/08/03(日) 23:17:29.97 0
http://i.imgur.com/bUDfrks.jpg

これで外伝誰か書いてくれないだろうか?スレ違いなのは分かってるんだけど・・・


406 : 名無し募集中。。。 :2016/02/08(月) 19:56:43
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 31
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1454928493/


407 : ◆JVrUn/uxnk :2016/02/08(月) 22:20:06
「そっち行ったよ!よろしく!」
「OK!任せといて!」

ードクンッ ドクンッー


「この力は今の私の希望なの!」
「でも、そのままじゃ…」


ードクンッ ドクンッー

「何かを得ようとするならば、それ相応の対価がいる。」
「…等価交換か。」


ードクンッ
ードクンッ
ーズキンッ

………



「香音ちゃん!」
「またねっ、みんな先に行くから」



劇場版 アイアンカノン

あなたは今夜、ひとりの少女の覚悟を見る。 

~coming soon~(嘘)


408 : ◆JVrUn/uxnk :2016/02/08(月) 22:28:43
絶対に書かないと思うけど
どうしてこんなに最近のハロは安心できないんだろorz


409 : 名無し募集中。。。 :2016/02/09(火) 00:06:33
娘。だけでもさゆりほかのんと立て続けすぎるわ
試練の時なんかな


410 : ◆JVrUn/uxnk :2016/02/16(火) 22:33:30
ということで少し本スレに出張してきました
今度こそ本当に引退する

とりあえず目の前のレポート片付ける

作者


411 : 名無し募集中。。。 :2016/02/17(水) 08:01:22
>>410
本スレの作品感動しました!
乙です


412 : 名無し募集中。。。 :2016/02/23(火) 20:37:07
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 32
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1456227004/


413 : 名無し募集中。。。 :2016/03/09(水) 20:48:46
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 33
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1457523573/


414 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/24(木) 21:01:22
落ちたか
さすがに15日で完結する外伝を書くのは
厳しいんだよな…

とりあえず、書きためることはしてるけど


415 : 名無し募集中。。。 :2016/03/24(木) 22:29:42
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 34
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1458825154/


416 : 名無し募集中。。。 :2016/03/25(金) 20:50:28
15日で完結する話を書く必要ってあるのか
別に無理に完走させる必要はないでしょ


417 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/25(金) 20:59:43
すんません
確かにその通りですね
まぁ何というか気分的にその方が
自分にとって区切りがいいなぁと
思っていただけなんで深い意味はないっす


418 : 名無し募集中。。。 :2016/03/25(金) 21:39:54
区切りが気になるのなら長くなりそうなのは今まで通り
こっちの避難所で書けばいいんじゃないかな


419 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/26(土) 00:41:11
そうね
そうすることにする

ちょっと引退生活短かったけど(笑)


420 : 名無し募集中。。。 :2016/03/26(土) 14:25:33
復帰早!w本スレでお待ちしてます


421 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/27(日) 12:33:27
1. 旅の始まり

「バカバカバーカ!どぅーのばーか!」
「はぁ?なに?ハルが悪いっていうの?明らかにまーちゃんじゃん」
「うるさいなぁ。」

今日も優樹の叫び声がさゆみの家に響き渡る。
だが家の住民にとっては何度もなんども飽きるほど見てきた日常の光景。

だから誰も止めずに自然に収束するのを待っている。
今日もそろそろ優樹からあの言葉が出て終わるだろう。

「もう、どぅーなんてきらい!もうあっち行ってよ!!」

(出た…。)
衣梨奈は居間で成り行きを見届けながらこの言葉を聞いて思わず苦笑する。

まーどぅーコンビ。
二人の絆は強い。
なにがあっても切れるような絆ではないことは
この場にいる全員が理解している。

(うーん、今日はちっと長かったっちゃね。
どぅーがなかなか折れんかった。)

普段の喧嘩であればもっと早いタイミングで優樹からこの言葉が出て終わるはずだった。
しかし今日はなぜか遥からも売り言葉に買い言葉でヒートアップしていたのだ。


422 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/27(日) 12:36:12
(まぁ、そんな時もあるっちゃね。さて夕飯の支度でも…あれ?)

立ち上がった衣梨奈はふと異変に気付いた。
遥の様子がおかしい。

唇を噛み締め、俯き、目には何か暗い影が宿っている。
そしてそのままなにも言わずにくるりと振り向くと2階の自室へと向かっていったのだった。




「結局、どぅーご飯にも降りてこなかったね。
優樹ちゃん、謝ったほうがいいんじゃないの?」

食後、2階を見やりながら里保は優樹に声をかける。

しかしながら優樹はふくれっ面のままだ。

「いいの、どぅーが悪いんだもん。」
「はぁ…。しょうがないなぁ。亜佑美ちゃん、夕飯もっていってくれる?
ついでにどぅーの様子も見てきて。」

「はい、全く二人ともしょうがないんだから」

そう呟きながらラップをかけた皿を持って2階へと向かう亜佑美。
だが次の瞬間血相を変えた亜佑美が駆け下りてくる。

「みんな!!どぅーが!!」

その数秒後には、一同はただ呆然と部屋の中で丁寧に畳まれた遥の布団だけを見ていた。

『お世話になりました。探さないでください。もう疲れちゃった。遥』



「どぅーが…どぅーが…まさのせいだ…まさが…。」

そう言って泣き出す優樹。
衣梨奈たちはかける言葉が見つからずにただただその場に立ち尽くし泣いている優樹を見ていることしかできなかった。


423 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/27(日) 12:38:06
その時である。
「ただいまー。生田―。ご飯出来てる〜?」

玄関のほうから声がする。
さゆみが帰宅してきたのだった。

その場を弾かれたように立ち上がり1階へと走る4人。
その様子にただならぬ雰囲気を感じたのかさゆみが怪訝そうな顔をする。

「なぁに、みんなそんなに慌てちゃって…ってあれ工藤は?」

「それが…。」

昼間起きた出来事と、ことの次第を説明する亜佑美。
その話を聞きながらさゆみは周囲の魔力を探る。

しかし、やはり近くに遥の魔力は感じられなかった。

「そう…。佐藤と激しく喧嘩しちゃったのね。」

「あのー道重さん。どぅーの魔力は捕まえられませんか?」

「うーん。ちょっと無理みたい。どうやらもうこの街にはいないみたいね。」

さゆみのその言葉に再び泣き出す優樹。

「ごめん、どぅー…。まさが悪かったから戻ってきてよ……。」

その声が遥に届くことはない。
その場にいた全員がわかっていることだった。

一人を除いては。


424 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/27(日) 12:40:14
「佐藤。本当に自分が悪いと思ってる?」
「うん。」
「工藤に直接、謝りたい?」
「うん。」
「よし、じゃあ迎えに行かなきゃだね。工藤を。」
「「「えっ!」」」
さゆみの言葉に一同は驚く。
まるで遥がどこへ行ったのか知っているような口ぶりである。

目をぱちくりさせて状況の変化についていけていないのを尻目にさゆみは地下通路へと入っていく。
そこにはさゆみが長年コレクションしてきた魔法道具が数多くあった。

さゆみは家に入ってすぐさま、誰かが地下通路へと入ったことを見抜いていた。
そして話を聞き、その人物が何を目的にこの部屋へと入ったのかもわかった。

「やっぱりね…。また面倒なことに…。はぁ…。今回はどの時代に行ったのかなぁ。」

さゆみの視線の先には蓋が開けられ中身が取り出されたような箱が一つ。

『時の羅針盤』

おそらく遥はこれを持って時空を渡ったのだろう。
優樹と永遠にお別れをするために。

もともと、身寄りがなく協会の施設で優樹や亜佑美と共に育ってきた遥。

だからこそ、家族同然に思っていた優樹からの言葉は重く遥の心にのしかかっていたのだろう。
そして今回がその限界点だったというわけだ。

さゆみは小さくため息をつくと再び4人の元へと戻る。

「佐藤。責任を持って、工藤を連れて帰ってきなさい。いい?」
「はい。」

優樹はもう泣いていなかった。やるべきことははっきりした。遥を連れ戻す。
だがここで一つの疑問が一同に湧く。

遥が仮にさゆみの魔法道具を持ち出したとしても、時空を移動するにはそれ相応の魔力が必要であり、
またタイミングも重要だということはさきの騒動でさゆみが実証している。

体力的にあまり優れているとは言えないもやしっ子、遥がいかにして時空への扉を開いたのか。


425 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/27(日) 12:42:16
一同は考えを巡らせる。しかしなかなか妙案が出てこない。
そもそもどうやって遥が移動したのかがわからなければ、追いかけようもないのだ。

「ふふっ…。みんな考えてる考えてる。自分の頭で考えて行動に移すのは意外と難しいこと。
 また一つ成長のチャンスかな。」

さゆみは、あーでもないこーでもないと意見を交わす4人の少女の様子を微笑ましく眺めている。

そのとき、ふと誰かが窓の外を通り過ぎる。

「道重さん道重さん。道重さんのいう通り、たしかにくどぅーの部屋にありました。入り口。」

「「えっ!?」」
「ちょっとはるなん!少しはタイミングっていうのをわきまえようよ…。」
そういって、深くため息をつくさゆみ。

しかし、そう言われたはるなんは落ち込むいとまも与えられずに全員から質問攻めにあう。

「はるなん!どういうこと?」
「道重さんがあんなに苦労して作ったのをどぅーが?」
「意味わからん…。」
「はるにゃんこ!説明して!」
その勢いにたじたじとする春菜。
それを見かねてさゆみが横から助け船を出す。

「今回のは前回みたいに偶発的なものじゃないわ。おそらく工藤が望んだこと。
 そして、きっと『相手』からも望まれたのでしょうね。
 お互いの利害が一致した時に刻の羅針盤は威力を最大限に発揮するわ。
 それこそ道を開くぐらいはどうってことないくらいにね。」


さゆみの言葉を黙って聞く4人と一匹。ここでふと亜佑美が気づく。


426 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/27(日) 12:44:01
「ていうことは、その入り口をくぐれば私たちも後を追える、ということですか?」
「そうだね、その可能性は高いと思う。」
「じゃあ、すぐにでも!」
「待って、まーちゃん!」
さゆみの言葉に立ち上がりかけた優樹を里保が制止する。

何か引っかかったのだ。
里保は身長に言葉を選ぶ。
「道重さんのさっきの言い方だと、100%ではなさそう、ですよね。
 それこそ、むやみに飛び込んで違う世界に行ってしまったら私たちには羅針盤もない。
 もしそうなったら…。」

「さすがりほりほ。そうね、おそらく一生戻れないままでしょうね。
 何か本人たちを強く結ぶものがないと。」

その言葉に一同は黙り、再び考え込む。
しかし、優樹だけは違った。

「それでも、マサは行く。だめなんだよ、どぅーはマサの近くにいないと。」

そういって優樹は脱兎のごとく駆け出した。
そして一目散に自室へと入ると、若干魔力の乱れている部分を見つけそこに渾身の魔力を注いだまま飛び込んだ。

「優樹ちゃん!!」

里保たちが後を追って部屋にたどり着いたときには、すでに優樹の姿はなくそこには微かな魔力の気配のみが残っているだけだった。

「まーちゃん!」
あわてて亜佑美がその場所へと飛び込むが無残にも空を切って床に衝突しただけだった。

「あてて……。なんで?」
「大丈夫?亜佑美ちゃん。」
「はい…。」
「きっと閉じちゃったんだろうね。扉。今は信じるしかないよ。まーどぅーの絆を。」

1話 完


427 : 名無し募集中。。。 :2016/03/29(火) 19:19:58
新作きた!もしかして戦国編の続きなのかな?続き楽しみにしてます


428 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/30(水) 08:58:39
そういえばタイトルつけてなかったですね
『まーどぅー戦国物語2.1』です

更新ペースはかなり遅くなってしまうと思いますが
どうぞよろしくお願いいたします

作者


429 : 名無し募集中。。。 :2016/03/30(水) 12:55:34
2話をお待ちしております


430 : 名無し募集中。。。 :2016/03/30(水) 20:39:28
おー!やはり続編かーってあれ?前作完結してたっけ?


431 : ◆JVrUn/uxnk :2016/03/31(木) 00:52:40
まーどぅー戦国物語2はデータ消えてしまったので汗
こちらが正規の続きってことでお願いいたします


432 : 名無し募集中。。。 :2016/04/02(土) 10:49:29
あらら…じゃあ改めて楽しみにしてます


433 : 名無し募集中。。。 :2016/04/08(金) 20:40:50
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 35
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1460115267/


434 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/12(火) 22:14:53
2. 予期せぬ出会い
「かかれーー」
「おぉぉぉぉぉぉぉー」
辺りに響く怒声。馬の駆け足。せわしなく動く人影。
その振動は地面に倒れている遥の元にもしっかりと伝わっていた。

「あてててて…。着いたの…か?」
遥はゆっくりと身を起こし辺りを見渡す。
しかし周辺は朝霧なのだろうか、霧が立ち込め細かな情報を仕入れることができない。
なので、仕方なく遥は耳だけをしっかりと澄ませ、
いつなんどきでも不測の事態に対応できるように身構えながら、自分の持ってきた荷物の確認をする。

中身に何も損傷がないことを確認すると遥はそのリュックを背負い立ち上がる。

「さてと…まずはここがどこなのかを確認しないとだね。」
そう誰に言うとでもなく一人遥はつぶやくと、その場を後にするのであった。



他愛のない喧嘩。繰り返されてきた日常。だが今回のは違った。
遥の心が折れてしまったのだ。


435 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/12(火) 22:21:38
魔道士協会と優樹の一件があって遥は優樹のそばに居続けることを誓った。

しかし、もともと優樹は狗族の生まれであり、魔道士としての才能であれば優樹の方が優れているのは間違いなかった。
いわば遥は優樹の保護者役。少なくともM13地区に来るまではそうであった。

しかし現在、M13地区には優樹が心を許す人物が大勢いる。
そんな状況に知らず知らずのうち焦っていたのかもしれない。

自分は優樹にとっての一番であり続けたいと。
喧嘩をしたのはそんな矢先であった。

こんなにも遥が優樹のことを思っているのに自分の気持ちを汲んでくれない優樹に苛立ち、いつもより意固地になっていた。

そして優樹から出た一言。その瞬間、遥の心は折れた。

M13地区を出ようと決心した。

近くにいるから存在が気になってしまう。であるならば、なるべく遠くへ。
決して優樹の手の届かない場所へ行こうと決め、準備を始めた。

そんな時である。ふと声が聞こえた。

『くどぅー…助けて…。』

姿なき声。
一聞すると怪しさ極まりない現象であるが、なぜか遥はその声の主に聞き覚えがあった。


436 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/12(火) 22:29:09
「この声は…、譜久さん?」

以前、時空旅行をした時に、たどり着いた先で出会ったお姫様。
名前もそうであるがM13地区にいる聖と姿も瓜二つである。

ではなぜ、遥は譜久だとわかったのか。その答えは遥の目の前にあった。

何時ぞやに感じた魔力の違和感。まるで何もかも吸い込んでいくようそんな感覚。
「間違いない…。扉が…開いた…。」

そしてその近くにはいつ来たのかわからないが小さな時計のようなものが落ちていた。

そう、『刻の羅針盤』である。
それをそっと拾い上げた遥は、決心した。
行こう、再びあの世界へ。
戻ってこれなくなる可能性は十分に理解していた。
だがいい機会なのかもしれない。本当に遠くへという意味ならば申し分ないだろう。

そう考えた遥の行動は素早かった。リュックサックに一通りの荷物と魔法道具を詰め置手紙を残し、一気に飛び込んだのであった。



「とりあえず、譜久さんとこに行かなきゃだな。でも…ここはどこだ?」
戦いを避け森の中を歩く遥。来た時代は間違っていない。

以前来たときと同じ感覚があるからだ。

遥は水系の魔法を得意とする。はじめは遥自身この魔法を好いていたわけではない。
どちらかというとさゆみや里保のようにマルチに富んだ魔法に憧れを抱いていた。

そんな遥の考えが変わったのはつい最近のことである。


437 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/12(火) 22:42:57
こんばんは

間隔空きました
とりあえず続きです


作者


438 : 名無し募集中。。。 :2016/04/16(土) 07:36:31
お待ちしておりました


439 : 名無し募集中。。。 :2016/04/16(土) 12:50:54
譜久姫様がどぅーを呼んだのか…

可能なら前作はどうやって現在戻ってきたかラストどうなったかあらすじで良いから書いて欲しいな


440 : 名無し募集中。。。 :2016/04/19(火) 07:50:19
身体が疼いて仕方ない譜久姫様に呼ばれて時を越えたイケメン
二人は闇の中でナニをするのか


441 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/20(水) 23:01:08
ごめんなさい
前作のあ
らすじも含めてもう少しお待ちください
来週の頭にはメドがつきそうです


作者


442 : 名無し募集中。。。 :2016/04/21(木) 06:38:32
無理難題申し訳ないw

気長に待ってます


443 : 名無し募集中。。。 :2016/04/22(金) 20:48:17
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 36
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1461325253/


444 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/26(火) 22:30:40
一つの属性を極めること。
それが意外にも水属性に関してはレパートリーが多いことがわかったのだ。
水について多くのことを学び、そしてそれを魔法へと応用する。

現在の遥はどんな敵がいても十分に対処できる実力を兼ね備えていた。
しばらく木立のなかを進んでいると、ふと背後に気配を感じる。

(つけられてる…。)

そう感じた遥は少し歩く歩調を早めた。
だがしばらくたっても気配が消えることはない。
どうやら手練のようだ。

一体何の目的で自分のことをつけているのかはわからないが面倒なことになるのは御免だった。

遥はそっとポケットに忍ばせていた特製の手袋を両手にはめると瞬時に魔力を高め、
あたりの空気中の水分を凝結させた。

視界が曇る。

後ろから遥のことをつけていた人物はその現象に慌てた。
遥を見失わんとカモフラージュをしていた木の陰から飛び出す。

「そんなに慌ててどこ行くって言うんだい?」
その声に謎の人物は振り向く。

そこには両手をポケットに突っ込んだままたっている遥がいた。


445 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/26(火) 22:36:25

「あんた、一体何の目的でついてきてるんだい?」
「……。」
「ふーん、まぁいいや。とりあえずここであんたには眠ってて…。」

遥がそこまで言ったときだった。
不意に目の前の人物が消える。

本能的に身の危険を感じた遥は足元から水柱を突き出し防御する。
すると遥の左斜め後ろに手応えがあった。

遥が振り向くとそこには水流に押し負け弾き飛ばされた謎の人物が再度手にした苦無を構え
向かってくるところであった。
遥は手を前に突き出し、高圧のジェット水流を噴出する。

「!」

それをもろに受けた謎の人物は背後に木へと叩きつけられた。
それでもなお向かってこようとする謎の人物。
それに対し遥は噴出口を狭め、いとも簡単に木を切断して見せた。

「これであんたの首でも切断してみようか?」
「…。」
「さっきから黙ってばっかだな。あんた。」
「…見つけた。」

「えっ?」
「姫様。ついにやりました!見つけましたよー。」
突然叫び出した目の前の人物に遥は驚く。

だが覆面をとったその人物の顔を見てさらに驚く。


446 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/26(火) 22:44:52
「あ、あゆみん?」

まさにその顔は遥の友人でもある亜佑美とそっくりであったのだ。
だが、前回この世界に来た時も同じように香音や聖と同じ顔の人物がいたことを考えると、
それもありえない話ではなかった。

「私、宮本家が家臣、あゆみと申します。
譜久様の命にてお迎えにあがり参りました次第でございます。
国元で譜久様がお待ちです。ぜひ、ご助力願いたい。」

第2話 完


前作のあらすじ(駄文ですまん)

戦国時代へとタイムスリップをした遥と優樹。
遥が出会ったのは聖そっくりな譜久姫、その従者で香音そっくりな香、軍師の小田であった。

譜久の婚約を知り、小田は譜久とともに逃げることを計画する。
そしてそれに遥も同行することとなった。

一方、遥とはぐれた優樹は、村を襲撃された里保そっくりな保と衣梨奈そっくりな衣と出会う。
戦いの中で傷ついた保を救うため、衣は保を連れて逃亡する。

それに同行した優樹が目的地で出会ったのは何とさゆみであった。

さゆみは一目で優樹が異次元の人間であることを見破り元の世界へ優樹たちを戻すことに
協力してくれることを約束したのであった。


優樹や遥たちの姿が消えた。
その連絡を受け、里保たちはその原因を探り始める。
すると、そこにはある企業の存在があり、また政府の一部も絡んでいることが明らかとなった。

現代と戦国時代。

二人を戻すために時空を超えた二人のさゆみが立ち上がる。
その頃、遥は譜久たちととともに行動をしていたが、ある陰謀に巻き込まれ、無事に優樹と合流できたものの
譜久と香をさらわれてしまう。

二人を取り戻すため、敵地へと乗り込む二人。
しかし、優樹と遥の前に立ちはだかったのは自分たちと同じ時空を超えてきた魔道士であった。

一度は敗れ、全てが終わったかと思われたが、さゆみの助けにより刻を巻き戻し再度戦った末、
無事撃退することに成功する。

そして、現代のさゆみの力により無事に元の時代へと戻ったのであった。





447 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/26(火) 22:47:36
うん前作こんな感じだった気がする
作者自身があまり覚えていないという笑

間隔あけるとよくないですね
かきたいことがわからなくなってしまう

とりあえずプライベートが落ち着いたのでちょくちょく更新していきます

作者


448 : 名無し募集中。。。 :2016/04/27(水) 01:19:32
戦国編前回も面白かったので今回も楽しみにしてます


449 : 名無し募集中。。。 :2016/04/27(水) 13:42:05
>>447
あらすじありがとうございます!

最後そんな壮大な話になっていたなんて・・読みたかったorz
第二部も楽しみにしてます


450 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/30(土) 00:03:05
3. 戦国の世界

 遥がこの時代にやってくる少し前のことである。
時は戦国時代。
各地の領主たちは己の領地を広げ、天下を統一することを夢見、日々戦いに明け暮れていた。

この、宮本家もその一つである。
5カ国をその領地とする宮本家は周囲にも名の知れた一族であった。
それゆえにあたりの武将は『宮本家を手に入れれば』という考えを持つものも少なくはない。
そのために、しょっちゅう狙われているのであった。

今回も近隣の国が攻め寄せていた。
いつもであれば、国内の精鋭を引き連れ撃破できるのであるが今回はその規模が違った。

押し寄せる十万の敵兵を見て兵士たちは言葉を失った。

士気も下がり城内には敗戦の色が濃くなっていく。

日々、軍議が開かれるがこれといった妙案は出なかった。

降伏か、討ち死にか。

そのどちらにしろ、宮本家当主、佳ノ介の命は失われてしまう。

佳ノ介の元に嫁いでいた譜久はそのことを非常に恐れていた

何度自分の夫に訴えかけても佳ノ介はすでに覚悟を決めているようであった。

なんとかしてこの窮地を脱する方法はないのか。
必死で考えた譜久は、最後の望みに一縷の希望を託し、ただひたすら待つしかなかったのだった。


451 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/30(土) 00:08:31
一縷の希望。突然現れた不思議な力を持つ少女。
数年前、譜久の前に現れ、忽然と消えた。
だが必ずどこかにいるはずだと譜久は信じ、腹心の部下である石田に捜索を命じたのであった。

「譜久さま、石田めが戻りました。」
天井から声がする。

「おお、戻ったか!してどうだった?」
譜久は内心ドキドキしながら、石田にことの次第を尋ねる。

「申し訳ありません…。
ここに連れてくることはできませんでした。」
「えっ…。」

譜久の顔から血の気が引いて行く。

終わった…。
何もかもが…。
愛する領国も愛する領民もそして夫も全て失ってしまうのか。

そんな絶望感に打ちひしがれる譜久。


452 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/30(土) 06:19:50
「ただですね…。」
「なんじゃ。」
「『任せておけ』と」
「えっ?」
「『ハルに任してください。とりあえず、いろんな人に会ってきまーす』と。
  私もその支援に参りたいと思います。」

その言葉に譜久の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。

「うん、うん。いってらっしゃい。くどぅーに…くどぅーによろしくって。」

「かしこまりましてございます。では」

そういって天井から人の気配が消える。
譜久は涙を拭うと軽い足取りで部屋を後にした。

(くどぅーが参った。これで我が方にも希望が見えてきたぞ。)

弾む心を抑えつつ、譜久は城内を移動すると、譜久の夫である佳ノ介のもとへと向かっていた。
しかし現在は軍議の真っ最中だったようで、中に入ることはできなかった。

まぁいい。

遥の存在は大きいのだから、少しばかりの遅れがあろうともどうってことはない。


453 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/30(土) 08:35:20
譜久は今か今かという気持ちで軍議が終わるのを待ち続けるのであった。
それからしばらくして軍議は御開きとなり、中から重臣たちがずらずらと出てくる。
譜久が立っているのを見て前を通り過ぎる家臣たちは皆、会釈をしていく。
やがて、中から人がいなくなり、佳ノ介だけになったのを確認した譜久は部屋の中に入る。

「おぉ、どうした譜久?こんなところに。」
「至急、お耳に入れておきたいことがございまして。」

佳ノ介は突然現れた、譜久に驚いた様子であった。

その顔は疲労に満ちており、そこからも今回の戦いが難を極めていることがうかがえる。

今回の件は佳ノ介に秘密で動いたもの。下手に期待させては悪いと思ったのだ。
だがこうしてうまくいった以上、必ず佳ノ介は喜んでくれるはず。

ことの次第を語り始める譜久。当然喜んでくれるだろうと思って話をしていたのだが、
佳ノ介から返ってきた言葉は意外なものであった。






「えぇ!?協力できないって…どうして!!」

「私達も限界なんだよ。くどぅー。
 確かに譜久様を支援したいのは山々なのだが…。こちらも手一杯なんだ。」

譜久村領内の大きな館。


454 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/30(土) 08:43:17
その館内に遥の声が響き渡る。
あゆみの話を聞き、まず真っ先に遥が向かったのは、譜久の故郷である譜久村領であった。
遥の以前の記憶ではこの国は結構な兵力を持ち、また人望にも厚い。
今回の件で何か協力が得られないかと思っていたのだ。

突然現れた遥の姿に譜久村家軍師、小田桜乃守と譜久の付き人であった香はひどく驚いた。
しかし、遥の持ち込んだ案件について聞くと、途端に険しい表情をする。

そして、桜乃守は重々しく口を開いた。

「相手が悪い。敵兵力は物見の報告によれば十万近いという。」
「じゅ、十万?」
「そうだ。奴らも本気でこの地域全体を我が物にしようと考えているのであろう。」
「私達も当然その標的にはなっているのだ。国の守りを固めねばなるまい。」

桜乃守の後を受けて香も言葉を続ける。
あまりの規模の大きさに遥も驚きのあまり言葉を失う。
「まぁ…そうだよなぁ…。
十万か…一体どんな奴なんだそんなに大勢の人間を指揮するなんて…。」


確かにこの国に来る途中、遥は何度か敵に遭遇をしたが、まさかそれほどのものとは思ってもいなかった。
しかしうじうじと悩んでいるような時間はなかった。

ここは素早く動くことが肝要。

遥はこの辺り一帯の地図を取り出し、床に広げた。
この土地は川に取り囲まれた平地である。
おそらく敵も同じように水を使って攻撃を仕掛けてくるはずだ。

ならばそれを逆手にとってしまえば…。


455 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/30(土) 09:06:43
遥は一つの考えをまとめるとそれを桜乃守と香へと話す。
最初は驚いた顔をしていたが遥の綿密な作戦を聞き実現可能であることを確信する。
もし仮にうまくいけば、一時的に攻撃を凌ぐばかりかもしかしたら相手に大損害を与える可能性も十分にある。

だがそのためには情報が必要だった。そのため遥は自らの目で敵を知るために、変装をして譜久村領を後にするのであった。

遥は道中、自分が気づいた点をいちいちノートに書き留めていく。
木々の位置。土地の傾き。そして家屋の配置や土質。

こちら側に被害を出さずに効率良く策を実行するため。

途中合流したあゆみにも手伝ってもらいながら遥が満足のいく情報を集め宮本領へと足を踏み入れた時には、
遥がこの時代に来てから1月が経過していたのだった。

続く


456 : ◆JVrUn/uxnk :2016/04/30(土) 10:31:41
すんません
寝落ちしまくってました

そうですね
戦国編はまとめサイトにもあるわけではないので過去スレ追うしかないのが面倒ですね

作者


457 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/04(水) 21:19:55
4。遥の作戦と誤算

「えぇい!何をあんな小勢に手こずっておるのじゃ。
 さっさと攻め落とさんか!」

髭面の強面の武将が大声で叫ぶ。
その声に軍議に参加していた武将たちは思わず身をすくめる。

だが、男が苛立つのも無理はない。

広がりつつある天下統一の波を受け各地の武将たちは
より強い武将の元へと戦わずして属する道を選ぶものが増えてきた。

そのなかで、やはり「手土産」を持参したほうがより高待遇を受ける。

この男もそう考えた一人であった。

降伏をするのならより高い位置で迎えいれられたい。
そこで目をつけたのが宮本領であった。

しかし宮本領は小国といえども名の知れた名将が揃う。
下手に攻め入れば逆に自分の命が危ない。

そんななか、男はかぜの噂で有力大名の一人が攻め込んでくるという話をきいた。

(しまった…時を逃したか…。いや…、待てよ…。)

男はニヤリと笑うと早速、その有力大名の元へ馳せ参じた。
そして、対面の時、こう申し出たのである。

「私めに兵をおあずけください。
 必ずやこの一帯を丸ごと攻め取ってみせます。」




結局、男が借りることのできた兵は五千人ほどであったが、有力大名の下についたということで総勢十万の後押しを得ることができた。
おそらくこの兵数を見れば大概の武将は降伏してくるはず。


458 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/04(水) 21:23:15
男の目論見はそこにあった。
しかし、予想に反してなかなか宮本家は降伏をしてこない。

そうしている間にも食料は消費し、長い遠征により兵の士気は落ちていく。

たるんだ雰囲気が漂う中、季節はだんだんと雨季に近づき、天候の優れない日が多くなっていった。
そんなある日のことである。


この日も朝からぐずついた天候で雨が降ったり止んだ利を繰り返していた。
陣中の見回りに出た男は部下とともにこれ以上士気が下がらないように努めていた。

「しかし。よい手立てはないかのう。このままではわしの首が飛んでしまう。」
「なかなかしぶといでございますなぁ」

歩きながらそんなことを部下と話していた時である。
ふと男の足が止まる。

「殿?いかがなさいましたか?」
突然足を止めた男に部下が訝しげに尋ねる。

「あれを見よ!そうか、なぜ今まで気づかなんだ。」

男が指差す先、そこには窪地に溜まる水たまりがあった。

「図面を持てい!」
男はそう命令すると部下の一人が周囲の高低差を示した地図を手にして現れた。

その図面を板の上に広げると男は満足そうに頷く。

「これで我が軍は勝利を得たも同然。
 全軍に命令を出せ。陣を移す。屈強な男を集めよ。
 周囲の村に金をつかませ人手を集めよ。」

矢継ぎ早に指示を飛ばす男。
その内容を聞いて他の部下達も男が何をしようとするのか察しがついた。


459 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/04(水) 21:25:20
「殿。水攻めでございますか?」
「左様。この土地は周囲が川に囲まれている上、他に比べて低くなっている。
 高松城のように攻め落とすのじゃ。」





「そうかやっと動き始めたか。サンキュー!」

間者からの報告で相手軍が陣地を高い場所へと移し始めたこと。
そして土砂と麻袋を大量に集め始めたことを聞いて遥はかねてからの計画を実行に移し始めた。

すでに宮本家の軍議には譜久の計らいで顔を出し、自分の考えを佳乃助には伝えていた。

あとは期が熟すのを待つのみ。

遥はこの土地に来た際に真っ先に水攻めのリスクを恐れていた。
以前来た時も川の流れを利用したのだが、この土地は川に挟まれている上に水はけもあまり良くないことを
その後の行脚ですでに調査済みであった。

あとは期が熟すのを待つだけ。
敵軍は約五千。

広いスペースを確保するために敵軍は山の麓の平地に陣を構えていた。
そのため移動には時間が掛かる。

またいくら高い場所があって移っても一度にそんな人数を抱え込める場所はなかった。

そうなると必然的に兵を分散させなければならなくなる。
遥はそのことを見越して、あらかじめ策を練っていた。

少しずつではあるが川の水を堰き止め、各地に溜池を作る。

もちろん水のコントロールは遥が行った。


460 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/04(水) 21:26:30
あとは雨季が近づき、溜池が自然決壊すれば大量の水が麓の宮本領へと流れ込む。
高い場所へと移っているはずの相手勢は分断される。

遥の狙いは相手を殺すことになく士気を下げ撤退を促すというものであった。

「よし、そうしたら今晩作戦を決行しよう。」

あゆみの情報により、相手軍が移動を開始したとの情報を得た遥はその晩にこっそり城を出た。
この作戦は自分がいかに水をコントロールできるかにかかっている。

一歩間違えれば敵軍のみならず、譜久達の身も危ない。

そのため遥はあゆみを含めた少数精鋭を揃え、目的の場所へと向かった。

「そういえば。」
「ん?何?」

目的の場所へと向かう道すがらあゆみが遥へ声をかける。

「どぅー…さんは、」
「あー。どぅーでいいよ。その方がこっちも楽。
 ハルもあゆみんって呼ぶから。っでなにあゆみん?」

ひさびさにその愛称を出すとふと遥の頭にM13地区の面々の顔が浮かび上がる。
この1ヶ月、努めてそのことは考えないようにしていた。


『勝手にいなくならない』

それだけが頭の片隅にずっと引っかかって離れなかった。
さゆみとの約束。
結局破ることになってしまったが、それも仕方のないこと。


461 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/04(水) 21:27:50
「どぅーはなんで、ここへ?
 なぜ譜久さまとお知り合いなの?」

「あー、それはさ…。」

あゆみの疑問は至極もっともなもの。
今まで気になっていたのだが、おそらく聞けなかったのだろう。
遥は以前の出来事についてあゆみにかいつまんで話をした。
あゆみにとってはよく分からない御伽草子のようなものであろう。


それでもいい。

そう思って遥は話を進めた。

「金澤…朋乃�瀞?」

ふと遥の話を聞いていたあゆみの表情がこわばる。

「金澤朋ノ�瀞ってあの金澤様が?」
「えっ?あゆみん知ってんの?」

遥に緊張が走る。

金澤朋ノ�瀞。
以前遥がこの時代へと来た際に、苦しめられた魔道士。
しかし、あの時、朋ノ�瀞は他の時代へと移動したはず。

さゆみの話によれば。

同じ時代に戻ることは困難を極めるということであった。


「金澤様ならいま、上流の地域で人足の統括をしているけど。
 今回の作戦にも絡んで…。ねぇ何か聞こえない?」

耳を澄まして何かをきくあゆみ。
地響き。
土の匂い。

遥は瞬間的に事態を悟った。


462 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/04(水) 21:29:01
遥はあゆみの腕を掴み、元来た道の方へと引っ張る。

「あゆみん!こっからすぐに離れるぞ!」
「えっ、ちょっとなに?どうしたの。」

あゆみの疑問はすぐに答えとなって現れた。
二人の後方から轟々と音を立てて鉄砲水が大挙して押し寄せてきたのだ。


息つく暇もなく水は二人を押し流し、山の斜面を下り始めた。
濁流に流されながらも遥は素早く魔力を練り上げると自分の周りの水を操り這々の体で陸へと上がる。

「げほっげほっ…。くっそ…」

飲み込んだ水を吐き出しながら遥は悪態をつき、今しがたまで自分のいた場所を見る。
そこは完全に濁流の中であった。

そうしている間にも水かさはどんどん増していく。

いずれこの場所も沈む。
あゆみの姿はない。

その時であった。

新たに濁流が現れ、再び遥を襲う。

水の流れにもみくちゃにされ、薄れゆく意識の中、遥の頭の中に、ふと幼い頃、
両親が残してくれた一つの『呪文』が浮かんでいた。

『本当に誰かを守りたければ…』

遺されていたメモには『呪文』とその一言しか記されていなかった。

(ハルは…まだ死ねない…。みんなのためにも…)


遥はすっと魔力を全身に込めるとその『呪文』をつぶやいた。


「…タリンロ…メランテ。」


463 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/04(水) 21:29:51



高台から、ことの運びを見ていた朋乃�瀞は次々と濁流に飲み込まれていく、宮本領や譜久村領の様子を見て大きく高笑いをする。

「ふははは。これであとはあいつらを回収すれば最強の名を手にできる。
 わざわざ高い代償を払った甲斐があったわ。」

その時である。

濁流の闇の中に光が見えたかと思うと次の瞬間、一筋の光が立ち上り、辺り一面を包み込んだ。
光に照らされた部分の水は澄み、流れが穏やかになっていく。
穏やかになった水はどんどんとそのかさを増していく。

ふと気づくと自分の城もすでに水の中にあった。
 
「なな、何だこれは!!」

そうこうしている間に、あっというまに濁流は消えそして一面の水がそこに広がるのみとなった。


「くそっ。一体なんだというのだ。これは一体。うおっ!」

様子を伺いに、朋乃�瀞が外へ出ようとしたところ、見えない壁に行く手を阻まれた。

「これは…壁…か。」

いくら魔力を込めてもビクともしない。完全に水の壁の中に取り込まれてしまっていた。


こうして、一夜で宮本領をはじめとした周辺5カ国が完全に水の都と化してしまったのであった。
噂はたちどころに広がり、人々は珍しさからこぞって物見見物に訪れたが、だれ一人として戻ってくるものはなかった。

その不気味さからやがて誰も近寄らなくなり、その土地は人々から恐れられるようになったのだった。


第一部 遥の物語 完


464 : 名無し募集中。。。 :2016/05/05(木) 23:30:21
まさかの展開でビックリ!第二部は誰の話になるのかな?


465 : 名無し募集中。。。 :2016/05/06(金) 20:49:12
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 37
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1462534995/


466 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:08:52
戦国物語の途中ですがちょっと一休みがてら『Can girl』編をお届します
お付き合いください


467 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:09:59
「はぁ…はぁ…はぁ…」
人気のない鉄道のガード下。
一人の女性が、何かから逃げるように歩調をはやめて歩いていく。
その後ろから、黒いパーカーを着て、フードをかぶった男が女性の後を追うように歩いていく。

やがて、女性が走り出した。
それに合わせて男も走り出す。

「いやっ…何なの…。」
長いガード下を抜け、女性は次の角を曲がった瞬間、足を止めた。

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。」

目の前には先ほどまで自分の後ろにいた男が立っていた。

「…!」
驚く女性の表情を見てニヤリと男が不敵な笑みを見せる。
そして、後ずさりをし再び、背を向けた女性に向かって指を一つ鳴らす。

(か…体が…動かな…。)

男に背を向けた状態で固まる女性。足はおろか、声でさえ出すことができない。


468 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:11:43
「やっと、おとなしくなったなぁ。安心しろ、存分に可愛がってやるからな。」

背後に感じる男の気配が次第に強くなる。
ひたひたと迫り来る男に女性は何もすることができず、ただその恐怖から目を閉じることしかできなかった。



「へぇ〜、また女性誘拐事件だってさ。」

昼下がり、中央の街に位置する一軒のラーメン屋。
そこで昼食を食べていた生田は、その話題にピクリと耳を傾ける。

「えーと、なになに。『被害者は18歳女性で、帰宅しない娘を心配した両親からの通報で事件が明らかになった。
最近、同様の事件が相次いでおり今月に入ってから…』、ってまじかよ。
5件もか。全く、警察は何やっとるのかねぇ。」

「あいよ、ラーメンお待ち。近頃、物騒ですよね。」

「おう、大将。そうだよなぁ物騒だよなぁ。
 そういや、大将んとこにも一人娘がいたよなぁ。夜一人で出歩かせちゃだめだぜ。」

「ははは、そうですね、本当に他人事じゃないですからね。」

「本当に警察は何をやっているのかねぇ。」

「そうですねぇ、本当にしっかりしてもらいたいものです。『警察』にはね。」


469 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:13:17
そう言って、店の店主は生田の方をちらりと見た。
生田はそれに気づかないふりをしながら、チャーハンを黙々と食べていた。

「ごちそーさん。」
「ありがとうございます。」

先ほどの客が代金を置いて、店の外に出たのを確認すると、
店主は店の外にかかっている暖簾を外し、店の中に入れた。

「本当に笑い事じゃないぜ。全く、何やってんだよ。」

「そう棘のある言い方をするな。
 こっちだって一般警察と協力するのは骨が折れるんだ。」

生田は、店主の言い方に多少ムッとしながらそう返す。

「だいたい、お前が言えた身じゃないだろ?
 もう何年にも前に現役を引退したくせに。」

「そっ、俺は一般人。
 で、お前はこの世界の平和を守る魔道士協会最強の執行局局長さん。だろ?
 市民の耳には声を傾けなきゃ。」

「小関…。」
生田は軽くため息をつきながら、かつての同僚の顔を見た。


470 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:14:37
小関竜也。

カントリーガールズのメンバーである小関舞の父親で、現在はラーメン店の店主をしている。
しかしながら、かつては生田とともに執行局の執行魔道士としてともに働いていた。

今では完全に裏舞台からは身を引き、表の世界の住人となっている。

「実際のところはどうなんだ?捜査に進展はあるのか?」

クロスで食卓を拭きながら、小関が生田に尋ねる。

生田は難しい顔をしながらも答える。
「あまり、進展はないなぁ。
 さっきも言ったが、一般警察と一緒に捜査するのは大変なんだ。
 彼らにとっては俺たちの存在はなかなか理解し難いところがあるからな。」

「犯人の目星はどうなんだ?まさか、一般人ってことはないだろ?」

「あぁ、それは間違いなく魔道士だ。現場にはいつも微量ながら魔力が残存している。」

「ふぅん。まぁなんでもいいけどな。さっさと取っ捕まえてくれよ?」

「それはわかっているのだがな…」

小関の問いかけに言葉を濁す生田。


471 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:15:39
その様子に不審を抱いた小関が手を止め、こう尋ねた。

「なんだ、そのはっきりしない口ぶりは。」
「いや、なんでもない。チャーハンうまかったよ。
 お前腕あげたな。
 また何かあったら連絡する。」

生田は小関の問いかけに答えず、そう言って代金を置くと店の外へと出て行った。

その後ろ姿を見送りながら、小関はそっとつぶやいた。

「またあいつ、変な案件抱え込んでんな…。」





「ふなっき!ななみん!もっと真面目に!」
執行局のトレーニングルームではカントリーガールズの森戸知沙希が新規に加入した
新人二人に対して指導を行っていた。

その様子を端で見守るほかのメンバーたち。


472 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:16:54
「あれ、絶対なめられてるよねw」
「まなかんもそう思う?ちぃちゃん遊ばれてるよね。」

先ほどから知沙希が一生懸命指導をしているのだが、どこか締まりが無い。
知沙希もそれに薄々感づいているようで…。

「私、絶対なめられてる!」

休憩時間の合間に様子を伺いに来た桃子に相談する知沙希。
それに対し、桃子は少しにやけながら知沙希にこう聞き返した。

「舐められてるって自覚があるのw?」

「無いです!無いですけど、今後のために…悪化しないように…」

桃子の問いかけに少し耳を赤くしながらそう答える知沙希。

「ほうほう、そうねぇ、だったら…、船木ちゃーん、ななみちゃーん。」
「「はーい!」」

「こっちきて。」
同じく休憩中で、少し離れたところにいた2人を呼び、1人ずつ肩を組んで耳元で囁いた。

「どうなん?正直…?」
それに対し、2人はそっと答えた。


473 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:18:05
「耳がすぐ赤くなるなって…」
「おどおどしてるなって…」
その答えに対し、桃子は笑い出したいのをぐっとこらえながら知沙希に告げる。

「知沙希ちゃん言わせといていいの?」
「こら先輩だぞ」
知沙希は少しはにかみながらも、社会の厳しさを教えこむためにあえて強く出ることにした。

それに対し、2人は知沙希の決めポーズで答える。
「舐めてないゾ」
「舐めてないゾ」

知沙希が怒って耳を赤くしたのは言うまでもない。

「まぁまぁ、ちぃちゃん落ち着いて。それより、ももち先輩、珍しいですね。
わざわざトレーニングルームに来るだなんて。ちぃちゃん弄りに来たんですか?」

梨沙が暴れる知沙希を宥めながら、桃子に尋ねる。

「そんなわけないでしょ。仕事よ、仕事。」
桃子の答えに緩かった室内の空気が一変する。


474 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:19:48
桃子が統括をする『Can Girl』は執行局内の特殊チームであり、通常の協会魔道士では対処の難しい案件につくことが多い。
チーム自体が作られてからはまだ、日は浅いが、同じく執行局内で特殊チームであり
最強と謳われていた『Berryz』の元メンバーである桃子がいることもあり、少し背伸びどころでは足りないような案件が降ってくることも珍しくはなかった。

「今回の任務はね、極秘依頼なの。」
空気が変わり、仕事モードになったことを察知した桃子が任務の内容を話し出す。

「最近、世間で女性誘拐事件が頻発しているのはみんな知ってるよね。」

桃子の問いかけに一同は黙って頷く。
一般の世界での事件ではあるが、こう短期間に頻発していれば嫌でも目につく。
また、協会の刑事局が捜査協力をしているということからも通常の事件ではないこと、
つまり魔道士が絡んでいるということは想像できた。

しかし、この事件は直接、執行局には関係ないもの。
情報公開も最小限に限られ、実際に入ってくる情報といえば新聞以上のものはないに等しいと言っても過言ではなかった。

「あの事件ですよね、刑事局が出張ってるって。」
愛香が桃子に尋ねる。

「そう、あの事件。」
「あれがどうかしたんですか?」

その問いかけに、桃子は少し声を落としてこう言った。


475 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 21:21:32
「実はね、局長がやばい案件掴んじゃってね…。」

そうして、桃子の口から語られた情報は一同を大いに驚かせた。

「嘘…。ももち先輩、それ…。」

あまりの事実に梨沙は言葉を失う。

「もし、この情報が本当だとしたら、一般警察はもちろんだけど、刑事局では対処しきれないっていうのが局長の見解。
でも、下手に動くと、さらわれた人たちの命が危険。
 実際、情報統制も始まっていて新聞には載ってないけど、もう既に数十人の被害が出てる。」

「でも、一体何のために…。わざわざ一般人をさらって、魔道士なんかに…。」
「わからない。でも…」

桃子はここで言葉を切る。
「一つは自分の興味かもね。
 一般人を魔道士にする方法って実は割と昔から知られている黒魔法でそれこそ、何通りも方法があって、
 古代には普通に行われていたものなのよね。
 戦士を作るために。
 で、自分の研究意欲をそそられた。
 でも真の目的は、憶測だけど国家の転覆。世界の破滅。そこにあるんだと思う。」





続く


476 : 名無し募集中。。。 :2016/05/06(金) 21:58:44
まさかのおぜパパまでも


477 : 名無し募集中。。。 :2016/05/06(金) 22:21:20
小関パパでるとは思わなかったwでもラーメン屋やってるのっておじちゃんだったような?

女性連続誘拐事件か…嫌な予感がする。。。


478 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/06(金) 23:46:14
そうですね
皆さんのおっしゃる通りおぜジジがラーメン店のはずですが
作者の都合でおぜパパにラーメン店をやってもらうことにwww

外部キャラ大好きですごめんなさい

少なくとも『女児誘拐』ではないのでさゆとフクちゃんは容疑者ではないですね笑

作者


479 : 名無し募集中。。。 :2016/05/07(土) 07:25:14
外伝作者さんの外部キャラ(おじさん)好きなんで小関パパがどんな活躍するか楽しみ♪

魔導士作成って本編ともリンクするけど三大魔導士程の実力者がしないとなるとかなり凄惨な事になりそう。。。


480 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/07(土) 13:36:16
よく見たらがっつりカントリーガールズって書いちゃってますね汗

『Can girl』の小関舞の間違いです←


481 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/12(木) 23:23:28

轟々と鳴り響く機械音。

生命維持装置の音。
中央の町の地下に位置する巨大な空間で一人の男が、満足そうに新聞を読んでいる。
「『警察の大失態。犯人取り逃がす。』か。
うむ話題作りとしては上々じゃないか。」

そう一言呟くと、男は手に広げていた新聞をたたみ、机の上に置くと、その場から立ち上がり、研究室の方へと歩いていく。
研究室の扉は一見すると壁のようで、どこに入り口があるのか見分けがつかない。
実際、二日に一度は入り口の位置が変わるように細工してある。

男が入り口と思われる場所に立ち、特殊な鍵に暗証コードを入力すると音もなく、ぽっかりとした空間が現れる。
その中に入ると中には驚くべき、光景が広がっていた。

壁一面に広がる、人の背丈ほどある透明なパイプの一つ一つに女性ばかりが入っていたのだ。
誰もかれもが皆、目を閉じまるで眠っているかのようである。

男はそのパイプの一つ一つを確かめるように歩くと満足そうに頷き、奥の小部屋へと入っていく。
その部屋のなかには渦高く積まれた研究書が所狭しと置かれ、壁にはある人物の写真がびっしりと貼られていた。

男は不敵に笑うとそのなかの一枚を指で弾きながら話しかける。

「ふふふ、今回の件、お前はどう動く?」


482 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/12(木) 23:24:45
だが、写真を見ているうち、次第に男のなかにフツフツと怒りにも似た感情が湧き上がる。
どうにも抑えようのない感情の高まり。

「でやぁ!」

男が魔力を込めると、その指先から緑色の閃光が走り、写真は消し屑となって消えた。

「はぁ…はぁ…はぁ…。くそっ…。」

男は肩で息をしながら、忌々しげにそのチリとなった写真を見る。

「ふん、まぁいい。準備は整った。ゲームを始めよう。
あの時の仕返し、たっぷり味あわせてやる。」

そう吐き捨てると、男は部屋を後にするのであった。



483 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/12(木) 23:25:55
桃子から昼間に聞いた話が忘れられない舞は、ふと、父親の顔が見たくなり、外出許可を得て自宅に戻ることにした。

「ただいまー。」
「へい、いらっしゃ…おう、舞か。
珍しいな、どうしたんだ急に?」

突然、現れた娘に小関は驚いた表情をする。

「んー、なんとなくね。パパの顔が見たくなったの。」
まさか、任務のことを話すわけにもいかないので舞は当たり障りのない返事を返す。
そんな、娘の様子に小関は何かを言うことはなかった。

「そうか…。夕飯は?」

「まだー。そういえばお腹ペコペコかもー。」

「おっ、スープがまだ残ってるな。ラーメンでいいか?」

「本当?食べる食べる!やったぁ!!」

無邪気にはしゃぐ娘の姿をみて小関は少し安心する。
もともと、所属していた民間組織の中でうまくいかず、ふさぎこんでいた時期。

あの時、自分は父親として、苦しむ娘のためになにもしてやることができなかった。

そんな時に、たまたま魔道士協会から新チーム立ち上げの話を生田から聞き、今に至る。
今はこうして、普通に笑っていてくれる娘の姿がとても幸せそうであることに小関は心の底から感謝をしている。


484 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/12(木) 23:27:02
きっといい環境にいるに違いない。
であるならば自分がむやみに心配する必要はないのだろう。

それでも帰って来たい時には帰って来ればいい。

その時には最高のもてなしをする。

それが小関の考えであった。


「よしっ、出来上がり!特製チャーシューメンお待ち。」

「うわぁ!!ありがとう!!いっただきまーす!」

そう言って、一心不乱にラーメンをすする舞。
その様子を見て微笑みながら、厨房の片付けへと向かおうと思ったその時である。

店の扉が開く。

そこには、一人の女性が立っていた。

「すいません、今日はもうスープ切れちゃって。」

客の存在に気づいた小関が厨房から顔を出し、そう告げる。

しかし、女性は帰るそぶりも見せず、店先にぼうっと立ったままである。

舞はその様子を不審に思い箸を止め、その女性を見た。

次の瞬間。

「舞!!」

すさまじい閃光と轟音とともに店の扉が吹き飛ぶ。
舞が恐る恐る顔を上げてみると、自分の眼の前に小関が庇うように立っていた。

その左腕からは僅かながら出血が見られる。


485 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/12(木) 23:28:25
「パパ!?」

「舞、怪我はないか。」

振り向かずに小関はただ前を見据え睨みつけていた。
その視線の先には砂埃が濛々とたち、突然の出来事に騒然としている一般人たちの人だかりができていた。

そんななか、先ほどの女性がスクっと立ち上がり、小関の方を見た。

「ミツケタ……ハイジョスル…。」

魔力の急激な高まりを感じた小関はとっさに乾かしていた寸胴鍋に隠れこむ。

すると次の瞬間店のなかに無数の針がなだれ込み、各所に突き刺さっていく。

「何?何?一体どうなってるの?」

「舞!顔を出すな。」

カウンターの陰に隠れながら、小関は数度、相手の女性に向かいザルやおたまを投げつけるが効果はないようだった。

その間にも女性は店内のいたるところに攻撃を加え、破壊していく。


「くそっ、一体なんだってんだ。」

誰かに恨まれるような所業は…、幾つか覚えがあるが少なくとも命を狙われる筋合いはなかった。

このままではらちがあかない。
小関はそう考えると、ひっそりと呪文を唱え始める。

その時であった。


486 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/12(木) 23:30:09

「パパ、舞に任せて!!」
「舞!?」

敵襲だと認識した舞が隠れていた場所から一気に女性との間合いを詰める。

自分は執行局の特殊チームの一員。
これぐらいの相手はどうってことない。
だが、そう考えた舞の攻撃は隙だらけであった。

舞の攻撃をするりと女性はかわすと無防備になった舞のわき腹に魔力の籠った当て身を食らわせる。
その衝撃で舞は壁まで吹き飛ばされた。

痛みと衝撃で呻く舞に、女性はさらに強大な魔力を練り上げると、火球を出現させ、舞に向かってそれを放つ。

その存在に気づいた舞が回避行動をとろうとするが時すでに遅し。
目の前には火球が迫っていた。

大爆発とともに燃え盛る炎を見て、女性は満足げにあげていた右手を下ろす。
そして舞の遺体を確認しようと右足を踏み出した。

「そんなに人の店壊して楽しいか。」

突然、背後から低い男の声がする。

驚き振り向いた女性の目に映ったのは、意識を失った舞を抱えた小関の姿であった。

再度、火球を作ろうと女性が魔力を練り始めるが、それよりも早く、小関は舞の腰に刺さっているかつての愛刀『裟乃丸』を抜き放つと、
目にも留まらぬ速さで振り切った。

女性は、一言も発することもなく、その場に崩れ落ちる。

小関は未だ燃え盛る店の炎を一瞥しただけで消火するとそっと舞を床に降ろした。


487 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/12(木) 23:31:33
「舞ちゃん!!」

その時、激しい息づかいとともに複数の少女たちが店になだれ込み、舞の元へと駆け寄る。
小関はその少女たちの顔に見覚えがあった。

舞の同僚たち。『Can girl』だ。

その中でもひときわ強い魔力を持った女性がどこからともなく現れ、小関の元へと近寄る。

「説明してもらおうかな、嗣永。」

「小関さん…。実は…。」

桃子が口を開こうとした時である。聞き覚えのある声が響く。

「それは俺から話そう。」

気づくと、そこには執行局局長である生田がこちらに向かって歩いていた。

「生田。」

「ことの全容を話す。
 ことがことだけにできればお前を巻き込みたくなかったのだが…。
 しょうがない。執行局まで来てくれ。」


続く


488 : 名無し募集中。。。 :2016/05/20(金) 20:50:09
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 38
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1463744720/


489 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/20(金) 22:33:10
喧騒と怒号の塗れる執行局。
猫の手も借りたいほどの忙しさであった。
しかしながら廊下ですれ違う職員たちはその男の様子をみて思わず道を譲る。

小関はそんな周囲の目を気にすることなく局長室へとまっすぐ向かっていった。

「ここか。天下の執行局局長室だというの随分と質素な部屋だな。」

やがて局長室の前にたどり着いた小関はそう吐き捨てるとノックもせずに扉を乱暴に開く。

「おう。」

生田は乱暴に入ってきた小関を見てそう一言だけ言って迎え入れた。

「おいおいおい、せっかく来てやったのになんだその出むかえ…は。ってなんでお前が。」
文句を言おうと口を開いた小関はもう一人部屋にいた人物の姿を見て驚く。

「そんなにピリピリすんなや、小関。
そんなにカッカしてたら見えてくるもんも見えねぇぞ。」

「中島…。」

そこにいたのは、旧知の友人である中島卓偉であった。
しかし、卓偉は放浪の魔道士として知られ、魔道士協会に所属しているわけではない。

では一体なぜここに卓偉がいるのか。
だが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
まずことの全容をつかむことが大切。


490 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/20(金) 22:34:07
「よし、揃ったな。それではまず、小関すまない。警察連中がポカをやらかした。
結果、お前を巻き込む羽目になってしまった。本当にすまない。」

生田は、話の冒頭としてそう切り出した。

「ここ最近、頻発している誘拐事件に関係しているもので、重要参考人の所在を掴んで、乗り込んだんだ。
当然、刑事局の人間も数人それに同行した。」



「ここだ。」

中央の町の地下。一般人の目に触れないように入り口は巧妙に隠されていた。
その入り口付近に数人の捜査員と思われる人間が張り付いている。

「『総員、配置完了。いつでもいけます。』」
「よし、ゴーだ。」
合図とともに入り口を開け、捜査員が潜り込む。
その後ろから、刑事局の魔道士も警戒を強めながらついていく。

くらい長いトンネルを暗視スコープに頼りながら黙々と進んでいく。

どこまでも続くと思われたが、やがて、一同は巨大な空間へと到着する。
壁一面に並べられた機械類を見て、捜査員達は言葉を失った。
一方で、刑事局の魔道士達はいつ襲撃されてもいいように警戒を続ける。


491 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/20(金) 22:35:20
「おい、見てみろ!あれはなんだ?」

捜査員の一人が壁の一角を指差す。
その先にはいくつものパイプに閉じ込められた女性達の姿があった。
すかさず、手にした無線機で地上で待機している部隊に連絡をする。

「こちら、突入班。被害者と思われる女性達を発見。応援願う。どうぞ。」
「『了解。』」


無線機を使って地上の部隊に連絡をする捜査員。
その間に他の捜査員達はさらに地下へと通じる道を見つけ奥へと進んでいく。
しばらく歩くと、やがて金属製のドアが現れる。

耳を近づけると、中からは人の話し声のような音も聞こえる。

捜査員達はコクリと目で合図をすると、拳銃を抜き一気に部屋の内部へと突入した。
「警察だ。おとなしくしろ。」

中にいたのは中年の男であった。
肘掛椅子に深く腰掛け、こちらに背を向けたままゆっくりと喋り出す。

「無礼な客人だな。ノックもしないなんて。
まぁそれを言ったら入っていいとも言ってはいないがな。」

まるで、突入されるのかがわかっていたかのような男の口ぶりに捜査員達は気を緩めることもなく
男に銃の狙いを定めながらゆっくりと近づいていく。

「まぁ、そう焦りなさんな。俺は逃げも隠れもしない。
第一、ゲームは始まったばかりだ。もう少し楽しまないとエンディングまではほど遠い。」


続く


492 : 名無し募集中。。。 :2016/05/24(火) 01:42:35
なんか狼がひどいことになってんな
元通りになってくれることを願って
しばらく様子見するしかないか


493 : 名無し募集中。。。 :2016/05/24(火) 13:56:05
小関パパ格好良いなぁな流石元野球選手!続きが早く読みたいねぇ


494 : 名無し募集中。。。 :2016/05/25(水) 19:11:02
香音ちゃん卒業記念
タイムカプセル 10年後の私へ

つべ ttp://youtu.be/0chBXAMjoSU
にこにこ ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm28917209


本スレ落ちてたのでこちらに失礼します


495 : 名無し募集中。。。 :2016/05/25(水) 19:12:19
今回は本スレ31にあった作品を動画にさせてもらいました
作者さん勝手に拝借してすみませんm(_ _)m


496 : 名無し募集中。。。 :2016/05/25(水) 20:15:17
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 39
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1464173933/


497 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/27(金) 00:13:18
動画作者様
素敵な作品をありがとうございます
まさか自分のものが動画になるなんて夢にも思っていなかったので感激しています!

現実の香音ちゃんには後悔のない幸せな人生を歩んでほしいと心から応援していきたいです

外伝ですがまた少し私事が立て込んでましてCangirlも戦国編も一切続きが書けてません
もう少しお待ち願いますm(_ _)m

作者


498 : 名無し募集中。。。 :2016/05/27(金) 19:41:12
即死判定の変更により狼の本スレ終了

スレを立てなおそうにも即死回避だけならともかく
6時間投稿なしで突然死は今の書き込みが少ない状況だと
立て直してもあっさり落ちそうでスレ立てをためらっています

337 名前:名無し募集中。。。@無断転載は禁止[] 投稿日:2016/05/27(金) 11:39:16.14 0
1464310681(2016/05/27 09:58:01)184スレdat落ち
これより即死と突然死の設定変更
完走スレのdat落ち時間は不明

即死 48レス未満は、20分投稿がなければ、dat落ち
突然死 48レス以上のスレは、6時間投稿がなければ、dat落ち


499 : 名無し募集中。。。 :2016/05/27(金) 21:33:04
どっちをとるか難しいところだね


500 : ◆JVrUn/uxnk :2016/05/27(金) 23:44:16
難しいところですね…
なんで狼がこんなんになってしまったんだろう…


501 : 名無し募集中。。。 :2016/05/28(土) 01:30:49
本スレ落ちちゃったのか…6時間って厳しいね


502 : 名無し募集中。。。 :2016/05/28(土) 02:01:30
ちょくちょく落ちることも覚悟の上で狼でスレ立てし続けるか
狼に見切りをつけて新狼でまったり更新していくか

恋人ごっこも一段落したことだし
本編作者さんの意見を聞いてみたいところではある


503 : 名無し募集中。。。 :2016/05/29(日) 11:32:44

    ,,-'  _,,-''"      "''- ,,_   ̄"''-,,__  ''--,,__
           ,,-''"  ,, --''"ニ_―- _  ''-,,_    ゞ    "-
          て   / ,,-",-''i|   ̄|i''-、  ヾ   {
         ("  ./   i {;;;;;;;i|    .|i;;;;;;) ,ノ    ii
     ,,       (    l, `'-i|    |i;;-'     ,,-'"   _,,-"
     "'-,,     `-,,,,-'--''::: ̄:::::::''ニ;;-==,_____ '"  _,,--''"
         ̄"''-- _-'':::::" ̄::::::::::::::::;;;;----;;;;;;;;::::`::"''::---,,_  __,,-''"
        ._,,-'ニ-''ニ--''" ̄.i| ̄   |i-----,, ̄`"''-;;::''-`-,,
      ,,-''::::二-''"     ズゴゴゴゴゴ・・・・・・・      "- ;;:::`、
    ._,-"::::/    ̄"''---  i|     |i            ヽ::::i
    .(:::::{:(i(____         i|     .|i          _,,-':/:::}
     `''-,_ヽ:::::''- ,,__,,,, _______i|      .|i--__,,----..--'''":::::ノ,,-'
       "--;;;;;;;;;;;;;;;;;""''--;;i|      .|i二;;;;;::---;;;;;;;::--''"~
               ̄ ̄"..i|       .|i
                 .i|        |i
                 i|        |i
                 .i|          .|i
ちちんぷいぷいっ!!!━━━i|          .|i ━━━━━━━━ !!!!!
                .i|   oノノハヽo  |i
               .i|  ○|||9|‘_ゝ‘)○ |i
               i|    \   /トiヽ、_|i
           _,,  i|/"ヽ/:/   \Λ::::ヽ|i__n、ト、
     ,,/^ヽ,-''":::i/::::::::/:/ / ̄\ \ヽノ::::::::::::ヽ,_Λ
     ;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;;;;;;;:::/;;(__)   (__);;;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::;;:;;;;:::ヽ


504 : 名無し募集中。。。 :2016/05/31(火) 16:05:05
今まであまり保守はしなかったけど、次に立てるなら手伝うよ
午前2時まで書き込み可能です


505 : 名無し募集中。。。 :2016/05/31(火) 22:54:31
6時間空けると落ちる突然死を回避するために
基本5時間+書き込みの多い夜の時間帯3時間と計算して
1日に必要な保全の目安

7時前後 →(あいだ5時間)→ 12時前後 →(あいだ5時間)→ 17時前後 →
(あいだ3時間)→ 20時前後 →(あいだ3時間)→ 23時前後 →
(あいだ3時間)→ 2時前後 →(あいだ5時間)→ 7時前後 →

ざっくりとだけどこんな感じで毎日保全ができれば
狼で落とさずやっていけるはず

夜はそこまで不安はないだろうけど
ネックはやっぱり朝・昼・夕方そして夜中の4回かと


506 : 名無し募集中。。。 :2016/06/01(水) 19:11:45
魔法使いRPG風ver3.1公開させて頂きました
(変更点)
香音ちゃん卒業記念外伝追加

ttp://www1.axfc.net/uploader/so/3673416/ookami


507 : 名無し募集中。。。 :2016/06/01(水) 21:47:46
>>506
乙です動画見て涙しました……


508 : 名無し募集中。。。 :2016/06/02(木) 20:11:01
どこまで生き残れるかはわかりませんが新スレを立ててみました
即死回避及び突然死回避にご協力お願いします

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 40
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1464865345/


509 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/06(月) 00:20:42
大変長らくお待たせいたしました

続きです


そういって男は指を一つ鳴らす。
その瞬間、部屋の照明が落ち、あたりは暗闇に包まれた。

「くそっ!どこだどこいった。誰か明かりを…。」

捜査員の一人がそういった途端、部屋の片隅で不気味な緑色の光が浮かび上がる。

ぎょっとした捜査員。
だが、程なくして自分の体が全くと言っていいほど動かないことに気づく。

そして、暗闇の中から現れたのはやはりあの男であった。
ゆっくりと捜査員に近づいていく男。
捜査員はパニックに陥っていた。

まばたきをしようにも瞼が動かない。
助けを求めようにも口が動かない。

恐怖に震える、男はそんな捜査員の姿を面白そうに眺めていたが、やがて腕を前に突き出すと、小さく呪文を唱えた。

一方その頃、部屋の外で周囲を警戒していた刑事局の魔道士たちは薄々、今回の事件がかなり厄介な案件だということに気づき始めていた。
魔法の知識のない一般人にとってみればただの誘拐、監禁をくり返す犯人にしか見えないだろう。

しかし魔法研究という側面から見ると、容疑者の男が行っていることは非常に高度なものであり強力なものであった。


510 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/06(月) 00:22:08
(これは意地を張っている場合ではないな…。執行局へ応援を要請するか。)

刑事局は初めの作戦段階から、執行局を情報から遮断していた。
それはここ最近というものの、同じ犯罪人を取り締まる部署であるのに執行局ばかり手柄を立て、注目され、
逆に刑事局には不祥事の噂が付きまとっていた。

そうした背景から刑事局は今回の案件が持ち込まれた時に、汚名返上のため真っ先に名乗りを上げた。

そして、すべての情報を遮断し、外部に、特に執行局に漏れないように統制を始めたのであった。


現場に来ていた魔道士も当然そういった事情を知っている。
上官からも固く今回の作戦は他言無用であると言われていた。

しかし、現場には現場にしかわからない事情がある。
おそらくこのままいざ勝負となった時に自分たちが勝つ可能性は限りなく低いように思えたのだった。

そのときである。
魔道士たちは何か違和感を感じる。

具体的に何とは言えないが、魔導士としての勘で緊急事態が発生したことを悟っていた。


511 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/06(月) 00:23:40
それはまさに部屋の中で男が指を鳴らした瞬間であった。

「おい、この人生きているぞ。大丈夫ですか。警察です。」

広い空間に響き渡る捜査員の声。
魔道士たちがそちらへ目を向けると、確かに中で身じろぎする女性の姿が見える。

しかし次の瞬間、膨大な魔力が溢れ出し、一気に女性はガラスをつき破ったのだった。
その音を皮切りに、あちこちでパイプが爆発を起こし、中から女性が一人また一人とでてくる。

「うわっ!なんだ!?」

「離れろ!くそっ!」

その光景を見た魔道士たちは一気に魔力を解放し、中から出てきた女性と対峙する。
しかし、気づくと完全に自分たちは包囲されてしまっていた。

「やるしか…。ないってことか…。」

魔道士は自分の緊急連絡用通信機のボタンを押すと、目の前の女性の集団に突っ込んでいくのであった。


その数時間後、刑事局からの要請を受け、その場にいた桃子と茉麻を連れて現場に急行した生田であったが
そこに生きているものの反応はすでになかった。

床に倒れ、冷たくなった魔道士や捜査員たちの亡骸がここで何があったのかを、
そしてこれから何が起きるのかを物語っていた。


512 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/06(月) 00:25:40
「局長、どうします。これから。」

桃子の問いかけに、生田は固く口を閉ざしていた。
もっと早くに動けたはずだった。

仮に自分たちがいれば犠牲はでなかったのかもしれない。
そのとき、緊急連絡を告げる局長端末のアラーム音が響く。

「もしもし、石村か。どうした?」

『町中で魔道士による連続テロ事件です』

「了解、すぐに戻る。」

舞波の声からことの緊急性がうかがえる。
そこで生田はその場で執行局局長権限で命令を出す。

「『執行局員は直ちに現場に急行し、事態の収束に当たれ。
  TeamQならびにCan girlは敵組織の殲滅を実行せよ。』」

「局長!これ見て!」
緊迫した桃子の声に生田は振り向く。
舞波から送られてきた一連の事件の現場地図。

その場所を見て生田はすぐに相手の狙いがつかめた。

「ここは…!須藤、お前はすぐに局に戻って舞波と陣頭指揮に当たれ。
 嗣永!お前は…。」

「ご心配なく。言われるまでもなくCan girl。全員集合してます。」

「よし、そうしたら、いくぞ。被害をこれ以上広げるな。」

「「ラジャー」」

続く


513 : 名無し募集中。。。 :2016/06/08(水) 12:42:17
おぉ…緊迫の急展開!鳥肌が止まらない…


514 : 名無し募集中。。。 :2016/06/17(金) 03:12:58
完走したか
どうやらまだまだ狼でも行けるな


515 : 名無し募集中。。。 :2016/06/17(金) 16:47:20
RPG風 その44投稿しました!
本スレ持続なかなか難しいですね…

http://www.nicovideo.jp/watch/sm29066484
http://youtu.be/HEdBwtKh2nA


516 : 名無し募集中。。。 :2016/06/17(金) 19:48:30
新スレ
即死回避及び突然死回避にご協力お願いします

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 41
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1466160132/


517 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/22(水) 23:30:22
かなり間隔空きましたが
(個人的に体調崩して入院しとりました汗)
とりあえず続き


518 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/22(水) 23:31:30
「ここから先はお前も知っての通り。
 街中に溢れ出たやつの魔道士もどきが暴れるのを阻止できなかった。
 やつは姿を隠し現在逃走中だ。」

生田はここまでいうと大きくため息をついた。

「尻尾をつかめるチャンスはいくらでもあった。
 だが我々魔道士協会はつまらない矜持のせいでその機会をことごとく逃してきた。
 結果として無関係な人たちを巻き込む結果となった。本当に申し訳ない。」

こう言って生田は小関に向かって頭を下げた。

「おいおい、やめろって。」

そんな生田を小関が慌てて制す。

「確かに今回の件でははらわたが煮えくり返っているさ。
 協会の不手際といってもしょうがない。だがその責任をお前が全て負おうとするのはまた話が別だ。
 さっきのお前の話を聞く限り相当厄介な相手であることは間違いない。
 そんじょそこらの魔道士では太刀打ちできない技術と魔力を兼ね備えている。
 そいつがつくったものに舞が手も足も出なかったのは当然。
 あの子の力量不足のせいだ。」


519 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/22(水) 23:35:51
「で、生田。お前がわざわざ俺らをここに集めたのは何のためだ。
 こんな外モンふたり。まさか謝るためだけじゃないだろうな。」

今まで黙ってふたりのやりとりを見ていた卓偉がおもむろに口を開き生田へと尋ねる。
生田はその言葉につと顔を上げると、こう切り出した。

「今回の件は俺たちでカタをつけようと思う。」

その言葉に小関は半ばぎょっとした面持ちで生田を見た。

「カタをつけるってお前、まさか…。」
「あぁ、表ルートでは裁けない。もう手遅れだ。」
「何故だ。各局が後を追っているとお前さっき言ったじゃないか。
 逃げ続けるのは不可能だろう。そしたら正規のルートで…。」

「正規のルートで裁いてどうする。」

生田は重苦しく言い放った。

「お前も見ただろう。あの骨抜き状態となった女性の姿を。
 残念だがあの状態になってしまった人たちは我々の技術ではどうしようもない。
 救うことができないんだ。ならいっそのこと苦しませずに終わりを迎えさせてあげる、
 それが間違いを許してしまった我々の魔道士の責任であると思う。」


520 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/22(水) 23:37:54
「なるほどな。確かにこんな仕事あの子らぁには頼めないモンな。」

卓偉はある程度話の中身を予想していたようだ。
頷きながら生田に同調する。

「正直、俺は小関には頼みたくなかった。あの頃とはもう違う。
 すでに執行局を離れた身であるお前に頼むのは甚だ見当違いであることはわかっている。
 だが、とにかく人手が足りないんだ。奴に対抗しうる魔力と戦いのセンスを持った魔道士が。
 それにきっと奴はもう一度お前を狙ってくる。」

「どういうことだ?」

小関の問いに対し、生田は分厚い書類をドンと机の上に置いた。

「やになるよ。この世界は。
 お互いに情報も与えてくれないから自然と諜報活動が得意となる。」

小関は紙の束を取り上げると中身をペラペラとめくり始めた。
その時ある一つの単語が目に入り驚愕する。

「おい、まさか…。奴の息子だというのか。」

そこに書かれていたのは、小関が現役時代の最後に捕らえた人物の名前であった。
だがその時は正式に『勝負』をし、勝ったのだ。恨まれる筋合いはない。


521 : ◆JVrUn/uxnk :2016/06/22(水) 23:39:44
「じつはな、その事件続きがあったんだよ。
そいつを捕まえたことによってその時起きていた一連の事件は解決した。
 だがそれによって奴の家族が事件に関与していた他のグループに狙われ結果として
 家族の生活はグチャグチャになったそうだ。」


「そんなのは奴の事情だ、俺の知ったことじゃない。」
「小関!」

「もうええだろ、生田。小関は参加しない。
 それが今の小関の生き方だ。今更言ってもしょうがない。」

見かねた卓偉が二人を止めに入る。そしてその言葉が何よりも真を得ていた。

住んでいる世界がもう違う。

結局、小関はその後何も言わずに執行局を後にした。


続く


522 : 名無し募集中。。。 :2016/06/27(月) 21:44:50
続きに期待


523 : 名無し募集中。。。 :2016/07/01(金) 20:00:12
新スレ
即死回避及び突然死回避にご協力お願いします

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 42
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1467370339/


524 : 名無し募集中。。。 :2016/07/02(土) 21:04:05
小関を狙う相手とは一体・・・

続きは気になりますがお体無理なさらぬように


525 : 名無し募集中。。。 :2016/07/15(金) 20:11:24
新スレ
即死回避及び突然死回避にご協力お願いします

娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 43
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1468580689/


526 : 名無し募集中。。。 :2016/07/30(土) 20:10:56
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 44
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1469876792/


527 : 名無し募集中。。。 :2016/08/06(土) 22:20:53
本編の更新きたね


528 : 名無し募集中。。。 :2016/08/14(日) 19:58:15
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 45
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1471172003/


529 : 名無し募集中。。。 :2016/08/22(月) 20:10:13
本スレ落ちてる・・・

前回久々の本編2回更新があって流れは悪くなかったはずなのに
それでも大して人が増えた様子もなかったしなかなか厳しいな・・・


530 : 名無し募集中。。。 :2016/08/23(火) 19:56:09
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 46
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1471949530/


531 : 名無し募集中。。。 :2016/09/06(火) 20:17:26
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 47
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1473160358/


532 : 佐々木募集中。。。 :2016/09/07(水) 17:09:35
【こまっているひと、募集中っっっ】

みなさんんんんん!!!

何か、現在、おこまりなひと、いませんか???

ささき、何でも、やっちゃいますよーー\(^o^)/


庭のくさむしり\(^o^)/
しつこいスライムの駆除\(^o^)/
おこちゃまの子守り\(^o^)/
裏庭のドラゴン退治\(^o^)/

お礼は、ささき、銅貨一枚とて、もらいまっせえええん¥¥¥

どんどんどんどん、頼みにきてきてね\(^o^)/

連絡先
町外れの鍛冶屋の娘 佐々木莉佳子


533 : 名無し募集中。。。 :2016/09/07(水) 20:43:29
怪しいテンションのチラシだなwww


534 : 名無し募集中。。。 :2016/09/07(水) 23:29:43
新作来ないかな?


535 : 名無し募集中。。。 :2016/09/08(木) 18:27:15
スレ落ちちゃった?


536 : 名無し募集中。。。 :2016/09/08(木) 19:23:58
油断したな


537 : 名無し募集中。。。 :2016/09/08(木) 20:05:19
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 48
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1473332396/


538 : 佐々木募集中。。。 :2016/09/09(金) 09:41:48
町外れにある、小さな家。
入り口に掛けてある木製の看板には『鍛冶屋』とある。
中に入ってみると、たくさんの金属製の商品が目に入った。
「いらっしゃい」
声の主は、髭モジャの中年男性。多分店主で、奥のカウンターに座っている。
「いや、客ではありません」
そう答えると、店主の男はモジャ頭をかいた。
「じゃ、娘に用かい?」
「そう。娘さんは、どこに?」


539 : 佐々木募集中。。。 :2016/09/09(金) 10:41:53
「あいつは朝から出かけてるよ。昨日頼まれてた事があるからってよ。ここんとこ毎日さ」
店主はため息をつくと、こちらを軽く睨んだ。
「あんたも、娘に頼み事だろ?」
「まあ、そうです」
そう答えると、店主はもう一度ため息をついた。
また出直そうとすると、親切にも自分の娘の行き先を教えてくれた。
「…まったくよ、店の客よりも娘の客人の方が多くなってきやがって」
ぶつぶつ洩らす店主にお礼を言い、店を後にした。
教えられた場所に向かおうとして、ふと思った。
…今の店主、人間じゃなくてドワーフだった。
…なら、当然娘もドワーフだろう。
髭モジャモジャの女顔を想像しながら、歩き出した。


540 : 名無し募集中。。。 :2016/09/09(金) 20:33:47
新作きた!


541 : 名無し募集中。。。 :2016/09/14(水) 20:33:39
続きに期待


542 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/15(木) 23:17:38
気づいたらこんなにも放置してしまっていた。。。
ご無沙汰しています
どこまで書いたか怪しいものですが笑


543 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/15(木) 23:19:10
「おはよー。」
「おはよー。昨日は暑かったよね。」
「ほんとだよ。ももち先輩も勘弁してほしいわ。
 あんなにハードなトレーニングとか。」
「そういえば、今日から舞ちゃん復帰?」
「そうだね。それにしても変な事件だよね。
 あの日以来、ぱったり被害がなくなってるんだからさ。」
「みんなおはよー。…全員揃ってる?」

「「おはようございま、・・・ってももち先輩!?」」

部屋で談笑していたCan girlのメンバーたちは扉を開け、部屋に入ってきた桃子の顔を見て驚愕する。
その表情は疲れ果て、目の下には大きなクマができている。

寝ていないのだろうか。

どかっと自分の椅子に腰掛け、ブツブツと一人呟く桃子。
その様子を見て知沙希がおずおずと桃子に声をかける。

「あの、ももち先輩?」

「何?」

「…いえ、なんでもないです…。」


544 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/15(木) 23:20:18
桃子の話し方には普段のような優しい声ではなく棘があり、当たりもとても強かった。
それきり、桃子の様子に一同は触れずに、その日の朝のMTGは終わった。

MTGが終わると同時に桃子は今日自分に入っている依頼を確認しに事務へと向かう。
桃子の姿が完全に見えなくなったところで、まずは愛香が口火を切った。

「ももち先輩…あれやばくない?」
「確かに…。完全に徹夜してる顔だよね。」

梨沙が応じる。

何か自分たちの知らないところで、桃子が単独で動いていることは間違いなさそうであった。
では、桃子が単独で動かなければいけないような案件とは…?

「舞ちゃんの件かもね…。」

梨沙が腕組みをしながらぼそりと呟いた。
それに知沙希も同意する。

「だよねだよね。ももち先輩追ってるんだよ。あの事件!」

「おっはよー。すみません遅くなっちゃいました。」

「「舞ちゃん!」」

扉を開けて入ってきた久しぶりの舞の姿にメンバーは話をやめ駆け寄る。
そして舞の復帰を喜びつつも今しがた話していたことを舞にも伝える。


545 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/15(木) 23:21:46
「どうだったの?舞ちゃん、実際に戦ったんでしょ?」
「うーん、どうだったと言われてもね…。実際ボロ負けだったわけだし。」

舞は知沙希の言葉に頭をかきながらバツの悪そうな顔をしていた。

「それでも、相手は強いというか、ただ魔力が強いだけじゃない気はしたなぁ。」
「魔力だけじゃない?」
舞の言葉に梨沙が反応する。
「うん、実際に上級魔道士とそこまで戦ったことがないから正しいことは言えないんだけど、
 それでもなんか違和感というか、ももち先輩が本気を出した時とはまた違う感じだった。」

舞が腕組みをしながら考え込む。
「結局あの時はパパが倒してくれたけど、その後あの人がどうなったかについては私は知らないし、
 パパも話してはくれなかった。」
「舞ちゃんのパパって、あのラーメン屋の?」

愛香が驚きの声を上げる。
「それ以外に誰がいるのさ。
 パパああ見えても昔は執行局で生田局長とかとしのぎを削っていたらしいよ。」

「へぇ、人は見かけによらないもんだね」
一同はあの舞の父である小関の人当たりの良さそうな顔を思い浮かべる。
とてもではないが対魔道士戦の第一線にたっていたとは思えなかった。

桃子の怪しい動き。
相手の魔道士ならざる動き。
そして舞が狙われた理由。

なにやらきな臭い。
梨沙が切り出した。

「そうしたらさ、ももち先輩に内緒で調べてみない?」


546 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/15(木) 23:23:25



その頃、桃子は食堂に陣取っていた。
その隣には同じく、眠そうな顔をした佐紀がいた。

「キャプ〜。局長つかまんないね。本当にもう。」
「そりゃ、当たり前だよ。生田局長だよ?
 ていうか卓偉さんはもっとやばいから。」
「あ〜、卓偉さんもか〜。きついなー。
 絶対に二人で何かコソコソ動いているのは間違いないんだけどなー。」
「二人ともいい年なんだけどなぁ…。あぁ眠い…。」

そんなことを呟きながら二人はあくびをかみ殺す。
どうやら寝不足は、やはり夜に活動していたことによるものであった。

「でもさー、1個気をつけなきゃいけないのは…。」
おもむろに佐紀が切り出す。
「なに?」
「ももんとこの子達だよ。」
「あぁ…。確かに…。動きそう…。」
そう言って頭をかかえる桃子。

「若さなのかなぁ…。挑戦と無茶の線引きがまだまだなんだよなぁ…。」
時を違わずして、まさに桃子に内緒で調べようと提案をしている時分であった。

「ちょっとはこっちの苦労を考えてほしいっつうのに…。」
「そりゃ、無理でしょ。桃がリーダーやってる限りは。」

そう言って佐紀は笑う。

「嗣永桃子という魔道士がリーダーやってればある程度の無茶は無茶にならないからね。」
「それ、褒めてんの?けなしてんの?」
「もちろん褒めてる褒めてる。
 まぁいざって時にはTeamQもしばらく遠征ないし、市内緊急配備だったら、コブ・ツバもいるからなんとかなるっしょ?」

「そうだといいんだけど…。」

続く


547 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/15(木) 23:24:34
私事が立て込み過ぎてて書く暇がありませんでした
ちょっと落ち着いたらまた書きます


作者


548 : 名無し募集中。。。 :2016/09/16(金) 05:31:53
まなかんの行方を考えてしまって
悲しい結末に向かうのだろうか・・


549 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/19(月) 22:00:34



夕暮れ時。
生田は自分の仕事を片付けると荷物をまとまる。

「お疲れ、石村。先あがるからな。」
「お疲れ様です、局長。」
「おう、お前も早く上がれよ。」
「はい。」
「じゃ、お先!」

そう言って、生田は局長室を後にした。

守衛室でIDをかざし、外に出ると誰に言うまでもなく小さく呟く。

「さてと、今日もやりますかな。」


その日の晩。
市内を循環警備中であった一人の若い女性警官は、路地の片隅で一人の女性がうずくまっているのを見つけた。
何ごとかと思い近づく警官。

しかし声をかけようと、路地へ一歩足を踏み入れた瞬間、辺りの景色が真っ暗となる。

繁華街の中、ビルとビルの狭間にある路地のため、少し薄暗いのはわかる。

(おかしい、ここは市街地のはず…。
現にさっきまで私はここの道の様子が見えていた…。)

不測の事態を予想して、警官が手に取ったのは無線機でも警棒でもなく、腰に下げた拳銃であった。
彼女の本能が伝えていた。
このままではマズイと。

後ずさりをしようにも腰から下は全くもって力が入らない。
彼女は拳銃を構えながら周囲を警戒する。


550 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/19(月) 22:01:52
その時であった。
不意に先ほどまでうずくまっていると思っていた女性がズリズリと音を立てて少しずつ近づいてくる。

暗闇の中で聞こえてくる音に彼女の精神は限界に達していた。

指先に力を込める。

一発の銃声が夜の繁華街になり響いた。




時を同じくして、街の中心部では三人の警官が、一人の女性を取り囲んでいた。
この女性、先ほどから通行人に対し、通り魔的なことをしている。

見た所武器を持っていないようではあるが、すでに数人の通行人が被害に遭っている。

「おとなしく投降しろ。その場にゆっくりと跪くんだ。」

拳銃を構えながら一人の警官が叫ぶ。
ことと次第によっては撃つことも辞さないつもりである。

しかし、そんな様子を意に介さず、女性はじりじりと警官たちの方へと向かってくる。

「止まれ。止まらないと撃つぞ!」

拳銃を持つ警官の指先に力がこもる。

女性が一気に警官たちとの間合いを詰めようと駆け出した。

響き渡る一発の銃声。
撃った警官は女性の足元を狙っていた。

しかし弾は放たれた瞬間に不思議な軌道を描いて、宙へと消えていく。

次の瞬間、

「無理やね、そんな生半可じゃ。奴らは制圧できんと。」


551 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/19(月) 22:03:01
そう耳元で呟く声がしたかと思うと、警官の脇をすり抜けるように猛スピードで一人の中年の男性が駆け抜けていく。
そして女性を迎え撃つかのように女性に体当たりをかます。

その男の風体は不思議なものであった。
もじゃもじゃの髪にスーツ姿の男性は、体当たりをくらい倒れこんだ女性へと一歩一歩と近づいていく。

女性はすぐさま跳ね起きるとその右手を薄く光らせながら男性へと拳を繰り出す。
しかし一瞬早く、男の左腕が女性の頭を押さえつける。

「本当に、勘弁してほしいわ。お前らのボスが何考えよるかわからんけん、めんどくさくてしゃーないやん。」

そう言うと男の左腕が一瞬光る。
すると押さえつけられた女性は音もなくその場に崩れ落ちた。

突然現れた男の所業に周りにいた人々は言葉を失い、立ち尽くすのみであった。
その様子を見て男は、右手を突き上げると指を一つ鳴らす。

するとどうしたのだろうか、急にあたりにいた人々が倒れ出す。
男は人の動く気配がしなくなったのを確認すると倒れている女性を持ち上げる。
そしてこう呟くと、ふっとその場から姿を消すのであった。

「なぁ、生田。このままじゃ埒があかんとよ」




552 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/19(月) 22:05:15
引き金を引いた女性警官。
訓練以外で引き金を引いたのは初めてであった。
恐る恐る目を開く。

しかし、そこには人影はなく、なんの変哲もない路地の風景が広がっているのみだった。

「あ、あれ?おかしいな?たしかにさっきまであそこに人が…。」

そう首を傾げて、歩き出す女性。
そこでもう一つ違和感に気付く。

先ほど引き金を引いた拳銃。
たしかに撃ったはずなのに、残っている弾丸はパトロールに出る前と同じであった。

いよいよ頭の処理能力が追いつかなくなった女性の前に突然、一人の女性が空から「降って」着地する。

「んもうー、本当に局長、すばしっこいんだから!」

そういまいましげに呟くと女性はこちらにくるりと向き直る。
見た目は20歳前後といったとこだろうか。

小柄で若い女性であった。

女性は目をぱちくりぱちくりさせている女性警官にずんずんと近づくと両肩と両腰のあたりを2回ほど触ってきた。

「うんうん、怪我はないみたいね。
ならオッケー。そしたら今日のことは全部忘れてねw?」

女性はそう言って警官のおでこのあたりをツンと一突きする。
その瞬間、警官の意識は再び闇に落ちた。

落ちる瞬間に警官は女性の悔しそうな声を聞いたのだった。
「んもう!今日も逃げられちゃった・・・。局長のばかー!!」





「おっはよー…、…みんな揃ってるー?ってあれ?
知沙希ちゃんと梨沙ちゃん、ずいぶんと眠そうね。」

翌朝、執行局で朝のMTGを始めようとした桃子は、二人がたいそう眠そうな顔をしていることに気付く。
「ダメよ、二人とも。執行局っていう危険な任務を遂行する場所で寝不足なんて。
ちょっとたるんでるんじゃない?仲がいいのはいいことだけど節度は守らないと!」

そういう桃子もたいそう眠いのだがそれを噛み殺して、二人に説教を始める。


553 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/19(月) 22:16:18
「「はい…。すみません…。」」

「わかればよろしい。そしたら、朝のMTGが終了次第、先に今日の任務に入って!」
「ももち先輩は?」
「ももちは、ちょっと舞波とキャプのとこ行ってから追いかけるわ。」
「かしこまりです。」

だが、この日から奇妙なことが起きる。
翌日は舞と愛香が、その翌日には知沙希と舞が眠そうな顔をして朝のMTGに現れたのだ。

これにはさすがの桃子も語気が強くなる。

「もう、なにやってるのかなみんな。
 そんなんで執行局員としての仕事が務まると思ってんの?舐めてない?」

そう言い残して桃子は部屋を出て行った。

「うーん、ももち先輩めっちゃ怒ってたねぇ…。
 ねぇ梨沙ちん。もう限界じゃない?
 4人で回すのきついんじゃないかなぁやっぱり。」

「うーん、たしかにねぇ、ちょっとももち先輩相手だと分が悪すぎ。」
梨沙も腕組みをして考え込む。

「これ以上、ももち先輩怒らせると収集つかなくなりそうだから、今週でラストにしようか。」
梨沙の提案に一同は黙って頷く。

実は彼女たち、密かに何かを追っている桃子を毎晩尾行していたのだ。
単独では何かが起きた時に対処できないということから二人ずつペアを作って。

しかしながら、相手はあの嗣永桃子である。
平常時ですら敵わないのに、梨沙たちは知らないが
今回の桃子はさらに格上である局長の動きを掴もうとしている。
であるから、結局尾行にすらならないのである。

ならば続けるだけ体力の無駄、桃子に怒られ損である。
きっと時が来れば桃子が話してくれるであろう。
一同はそう思うことにしたのであった。

続く


554 : 名無し募集中。。。 :2016/09/20(火) 05:23:42
局長何やってるんだろう・・・
カントリーガールズというキャラの濃いメンツの登場も楽しみですな


555 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:38:30
「うーん、局長もなかなかやるなぁ…。さすがはって感じよね。」

今日も桃子は食堂で頭を抱えながら、今後の作戦を考える。
この2、3日、自分が局長のことを追うので精一杯であったが、どうやら若い子たちもなにやら感づいた様子。

それであの眠そうな顔も合点が行く。
おそらく、自分のことをつけていたのだろう。
ただ、あまりにも自分たちの動きが早すぎるので、きっと「尾行」なんて成り立たないにちがいない。
少なくとも桃子自身はあの子達に追いつかれるとは微塵も思っていないからだ。

それは今まで積み上げてきた経験からはっきりと言い切ることができる。


「ふふっ。そうだったらあの子たちにとってはチャンスかもね…。」

桃子はそう言って一人ニヤつく。

するとそこに一人の人物が現れ桃子の前に座る。

「ここ空いてるか?嗣永。」
「げっ!!局長…!」

なんと、あんなに必死になって毎晩追いかけている局長が桃子の正面に座ったのだ。

当然、局長は桃子が毎晩跡を追っていることを知っている。
その上でいけしゃあしゃあと現れたということは事態が解決したのだろうか。


そんな考えをぐるぐる巡らせている桃子の様子を見て生田は突然笑い出す。

「嗣永、お前なんつぅ顔してんだ。
 寝不足にしかめ面とか最高にブチャイクだぞ!」
「んなぁ!!局長!それは言い過ぎです!
 ももちはたとえ寝不足でもしかめ面でも、それを差っ引いても可愛いんです!」

未だ、爆笑している生田に対し、桃子は頬を膨らませる。
そしてフンだっと言ってそのまま席を立ち上がった。


556 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:41:06
その後ろ姿をひらひらと手を振りながら見送る生田。そしてコーヒーを一口すする。
「毎晩、毎晩あいつらも頑張るよなぁ。若いって羨ましいなぁ!」
「なにバカなこと言いゆう、生田。さっさとけりをつけんと!」

「まぁ、そうアセンなって卓偉。
 昔だってそんなに簡単にはうまくいかなかった。だろ?」
「あの時と今では時代が違う。法整備も進んどる。
 これ以上消し続けるとお前の地位まで危うくなるぞ。」
「まぁそんときゃそん時さ。」

「局長どうしたのかしら?コーヒーのカップに向けて独り言なんて…。」
はたから見ている人間には生田局長がコーヒーに向かってブツブツと独り言を言っているように見えていたが、
実際はコーヒーの液面に写っている卓偉と通信をしていたのであった。

「とにかくこのまま奴の部下である被害女性を『消し続ける』。
 今はまだ余裕ぶっこいてるが、そのうち手駒が少なくなって奴自身が出張ってくるだろう。
 その時に決着をつける。お前の方も頼んだぞ。」

そう言って、生田はまた一口コーヒーをすすった。




食堂を出た桃子は部屋には戻らずに、局をでて刑事局へと向かう。
普段は役に立たない刑事局ではあるが、事件の大小にかかわらず把握をしているので
桃子の今の目的にはぴったりであった。

いくら、局長が凄腕の魔道士でも桃子ほどの実力があれば一晩でなんどもなんども巻くのは難しい。
しかしながら、桃子は実際に局長に撒かれてしまっている。


557 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:42:52
その大きな要因は、魔力の残り香であった。
魔法を使う以上、その場にはなにかしらの魔力の痕跡が残るはず。
魔道士による犯罪の解決にはその残り香が非常に重要な手掛かりとなるのであるが、
今回、局長の後を追って現場に桃子が急行しても、『何一つ』痕跡を見つけられないのだ。
むしろ不自然すぎるくらいなにもないと言って過言ではなかった。

さすがの桃子も無の状態から何かを見つけるのは難しい。
そうしてまごついている間に局長に撒かれてしまうのだった。

今回、桃子がここまで局長の行方を追っているのはその不自然さゆえであった。

何か局長が世の掟に逆らうことをしているのではないかという一抹の不安。
もし仮にそうだとするのならば、この身がどうなろうとも局長を止めなければならない。

あんなおっさんでも桃子にとっては父親も同然。

道を踏み外そうとしているのならばその道を正してやるのが子の役目である。
桃子は知っていた。

若き頃の局長がどんなことをしていたのかを。

チーム名『d���lce』

桃子が雅、愛理と組んでいる『ボーノ』同様、執行局内で作られた派生ユニット。
しかし、『ボーノ』が伝説となっているのにたいし、『d���lce』は誰もその詳細について語ろうとはしない。

その手法は荒々しく、ターゲットの抹殺を第一目標とする闇の組織。

犯罪人が増え、協会が手に負えなくなっている時に突然現れた『d���lce』は隠密にかつ迅速にターゲットをこの世から消していた。

最初は手を打って喜んでいた協会であったが、次第にその方法を気にしないやり方に
自分たちがひっくり返されることを恐れて潰したのであった。


558 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:43:56
協会にとっては消したい過去。
いわば黒歴史。

協会内に『d���lce』に関する資料はほとんど残っていないが、偶然桃子は、町外れの資料館で『d���lce』のものと思われる写真を見つけた。

その中には、若き頃の局長を始め、風来坊であった卓偉やその時は執行局員であった舞の父親、竜也の姿もあった。

今回の件は、表立って協会が何かをしているわけではない。
しかし、もし局長がかつてのように『d���lce』として動いているのであれば、ターゲットの数人はすでにこの世から抹殺されていることになる。

いくら相手が悪人であるからといって、裁きも受けさせずに抹殺するのは今の時代が許さない。
ばれたら即刻生田はクビ。


止めなければ…。
表立って話を広めるわけにもいかない。

佐紀は「卓偉を追ってほしい」と頼み込んできた桃子に何も聞かず、ただ頷いてくれた。
ただ、いつまでもこの状態を続けることは不可能である。
であるから、桃子は少しでも手掛かりをつかむべく刑事局へと赴き、
この一週間に起きている事件を洗いざらい調べることにしたのであった。





559 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:44:43
「ふあぁぁ…。さすがに眠いね。こう毎日だとさ。」
「舞ちゃん、ダメだよ、一応任務中なんだからさ。」
知沙希は大あくびをかました舞に年上らしく注意をするが自分も眠いので説得力はない。

「それにしてもももち先輩はどこに行ったんだー?」
「今日、一回も見なかったねー。どこ行ったんだか。」
「ねぇねぇ…ちぃ…。」
「だいたいさ、自分だってたいそう眠そうなのにそれをほっぽって私たちに説教なんてねぇ。」
「ねぇ。ちぃ!」
「まぁ、ももち先輩ならさ、そんな簡単やられることはないからさいいけどさ。」
「ねぇっ!ちぃってば!!」
「およっ?」

ここまで来て知沙希はやっと隣に舞がいないことに気付く。

「ちょっと舞ちゃん。何やってんのさそんなとこ…。」

「シィー!ちょっとあれみてよ…。」

手招きする舞の方に知沙希が近づくと舞はほらっといってビルの屋上を指差す。
そこには二つの影があった。一つはしゃがみこんでいるのだろうか、頭の部分しか見えない。
そこにもう一つの影が近寄ると、小さい方の影を抱え、空へと飛び立った。

「間違いない…この感じ、私を襲ってきた奴らだ。」
「えっ?」
「魔力じゃないけどこの感じ、そうだ!絶対そうだ!」
「だとしたらやばいんじゃない?」
「大丈夫、姿は見られてないから。向こうも気づいてなさそうだったし。」

二人はひそひそ話しをしながらゆっくりと移動を開始する。


560 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:46:05
どうするの?舞ちゃん…。」
「さっきの様子からだとまだ人さらいは続いているみたい。
だとしたらこれはチャンスかもよ。」
「えっ!?まさか舞ちゃん…。」
「ちぃ、私たちでアジトをつかもう。敵の。」
「ええぇ。危ないよ…。ももち先輩たちに任せようよ…。」
「ちぃ、そんなことじゃ私たちは一生このままももち先輩におんぶにだっこだよ。
 私たちは確かに実力では劣るかもしれないけど、できることはあるはず。
 ここで見逃したらまた新たなる被害者が出るかもしれない。
 アジトをつかめればそこに全力を注ぎ込める。ちぃが行かなくても私はいく。」
「待って、行かないなんて言ってない。舞ちゃんだけじゃ危ないもん!ちぃも行く!」
ムッとした表情で言い返す知沙希に舞はぐっと拳を突き出す。

「さっすがちぃ!そう言うと思ってた。行こう!」

こうして二人は先を行く怪しい女性に気取られないように慎重に後をつけ始めた。
その女性はその様子にニヤリと笑うと気づかないふりをしながら飛行スピードを少し上げる。

姿を見失わんと、焦って追いかけた二人がたどり着いたのは、繁華街から少し外れた倉庫街であった。
「ここがアジト…。気味が悪いとこだね。」
知沙希がぼそりと呟く。


561 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:47:41
いつ敵襲があってもいいように二人は最大限に警戒を続けながら女性の跡を追っていくと、
やがて女性は一つの倉庫の前に降りたち、そこへ先ほど運んでいた影を入れると、再び飛び上がり夜の闇に消えた。

人の気配はない。
「今なら助けられるかも。」

そう言って舞と知沙希は周囲を警戒しながら先ほどの倉庫の中にそっと忍び込む。
中はほとんど明かりが刺さず、真っ暗な状態。

それでもしばらく目を凝らしているとぼんやりと屋内の様子がつかめてくる。
すると倉庫の真ん中に一つの影が横たわっているのが見えた。

やはり、誘拐されてきたのだ。
そう思い、二人はその影へと近づき、触れようとした次の瞬間、突然その影が消える。


「ふははははは、かかったな。」
突然、闇に響く声。
後ろをバッと振り向くとそこにはうずくまっていたはずの女性がそこにいた。

「しまった…。はめられた…。」

女性は囮。

自分たちをここに連れて来るための罠であったのだ。
協会の端末に手を伸ばすが、どうやら使えぬ模様。

妨害魔法の類であろう。
じりじりと下がる舞と知沙希。

「おっと、逃すと思うか?」
そう言った瞬間、女の姿が消える。
そして目にも留まらぬ速さで刀を取り出すと、それを舞めがけて切りつける。


562 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:49:49
だが、その一撃目を舞は躱した。

「!?」

舞は知沙希に向かい、伝える。

「ちぃ、はやくももち先輩に!」
「えっ、だって舞ちゃん。」
「ここは私が避け続けて、時間を作るから!
 伝えられるのはちぃの魔法しかない!」

二撃目も紙一重でかわしながら舞は叫ぶ。

「行って!ちぃ!」

その声とともに知沙希は駆け出した。

「ごめん!舞ちゃん、すぐに戻るから!」

知沙希は外へ飛び出すと、繁華街へと走り始める。
そして妨害魔法の範囲外に出ると、『伝える』イメージを魔力として放出する。

『助けて!!』





奇しくもこの急ごしらえで作った、テレパス染みた魔法はしっかりと発動し、二人の人物の元へと届いた。

「知沙希ちゃん?」

桃子は調べ物をしながら日頃の寝不足がたたり、ついうっかりうたた寝をしてしまっていた。
しかしそれでも、知沙希からのメッセージを受け取り、瞬時に跳ね起きる。

「しまった…!私のバカ!」

そして、端末を取り出すと口早に用件を伝える。

「キャプ、緊急配備!よろしく。」
「待って、もも、突然どうしたの?」
「ごめん、今時間ないんだ、あとで詳しく説明する!!」

そう言って端末を切るとすっかり暗くなった夜の街へと飛び出すのであった。


そして、もう一人。

『助けて!!』

「…ちぃ?」

一人の少女は手にしたゲーム機から目を離し、空を見上げる。

「ん?どした?」

横にいる金髪の女性が少女に尋ねる。

「お師匠様、ちょっと用事ができたのでこの続きまたあとでいいですか?」
「えーーいま、緑の悪魔クリアしそうなのに。まぁいいけど。」

「ありがとうございます。では。」

「あっ、ちょっと待って。」

「?」
席を立とうとした少女を金髪の女性が呼び止める。

「あんまり、やりすぎちゃ、ダメだからね。嬉唄」
その短い忠告に少女、嬉唄ははっきりと頷いた。

「行ってきます。お師匠様。」


続く


563 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/22(木) 22:52:48
そろそろ本スレの方も時間切れかな

ということでこんばんは
まなかんどうしましょうかね…
知らぬ間にまなかんが卒業していたのでどうしようかなと思いつつ
きっと普通に登場させると思います


564 : 名無し募集中。。。 :2016/09/23(金) 00:01:59
嬉唄ちゃんまで登場させますか・・
古傷が痛い


565 : 名無し募集中。。。 :2016/09/23(金) 01:34:52
>>563
更新乙でございます
卒業とか気にせず登場させていいと思う


566 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/23(金) 07:28:26
≫564さん

お気に障りましたらすみません…
恐らく今作が最後の登場になると思います


567 : 名無し募集中。。。 :2016/09/23(金) 12:28:03
>>566


568 : 名無し募集中。。。 :2016/09/23(金) 12:29:05
>>566
大丈夫です
続きお待ちしてます


569 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/29(木) 23:47:30
私事ですが…
就職決まりましたぁぁぁああ

これで作品に本腰入れられるm(__)m
すみません
はしゃぎました
明日更新しますね


570 : 名無し募集中。。。 :2016/09/30(金) 00:44:04
>>569
おめ!


571 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/30(金) 23:24:37
二人が知沙希からのSOSを受信した頃、舞は得体の知れない相手とほぼ互角に渡り合っていた。
舞は高速で動く相手の攻撃を見切り、躱していた。

本来であれば機動力の差は戦いの場面において致命的なものになるはず。
それをなぜ舞は埋め合わせができているのか。

それは舞が竜也によって鍛えられた『耳』に秘密があった。

舞は音の魔法を得意とする魔道士である。
音は空気中を約秒速340mの速さで進む。

舞は自身から微弱な音を放出させ、相手の動いたそのわずかな波の変化を聞き取り相手の位置を掴んでいるのであった。

また、広い倉庫内ということも幸いした。

適度に反響した音が距離感を舞に教えてくれる。
あとは打点を少しずらせば高速で動く相手よりはやく反応できるというわけだ。

(でも、このままじゃ…まずいよね…。)

この魔法、常に魔力を放出し続けるため、効率が非常に悪い。本来であれば敵の探査や偵察に使うための魔法。

戦いのための魔法には作られていない。

だんだんと避けきれなくなった舞の負う傷が増えていく。

「くそっ…またこのままじゃ…あっ!」

相手の一撃に思わず体勢が崩れる舞。
好機と見た相手の膝蹴りが舞の顔面にめり込む。

…かと思った瞬間、舞の体がその場から消え、相手の女の膝蹴りは空を切った。

「ふう、間に合った間に合った。あとで嗣永に大説教だな、これは。」


572 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/30(金) 23:25:19

暗闇の中から男の声がする。
女性がそちらへと向うとした瞬間、目の前に拳が突き出される。

「どこへ行く。お前の行き場所は決まっとうけん。」
「ぐっ…貴様ら…。」

「やっと動いてくれて感謝するよ。こちらは待ちくたびれたんだ。」

舞は自分を救ってくれた男性の声の響きに聞き覚えがあった。

「きょ、局長!」
「本当に無茶するぜ、『Can girl』案件はいつもこうだ。」

生田は舞のおでこをはねながら、そう呟く。
そして、舞の頭に手を乗せながら優しく撫でる。

「だがよくやってくれた、あいつが親玉だ。」

「また邪魔をする気か、生田。我が父の仇め」
「お前の父親なんて知らん、そんなものは他所でやってくれ。
 私はただ、うちの部下が世話になってみたいでね、それが気にくわないから来ただけさ。」
「減らず口は相変わらずのようだな。ならば少し私の『愛おしき』軍団と戦ってみるか。」


そう言って女性は指を一つ鳴らす。
すると左右の貨物の中から数十人の生気のない女性がヌッと現れた。

「お前ら手加減はいらない。あの三人を殺ってしまいな。」

その声とともに一斉に女性たちが舞たちの方へと向かってくる。
「ちっ!やっぱりこうなるか。卓偉!!」
「おう、任せとき。」


573 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/30(金) 23:26:59
生田は手にした傘を瞬く間に二本の小刀に変えると、その場から姿を消す。
と同時に自分達に向かっていた女性の後ろに現れると、寸分たがわず、首の付け目に小刀をさす。
その勢いのまま反転すると、後ろにいた女のおでこを深々とかっ裂いた。

舞はあまりの出来事に目を覆いたくなったが不思議なことに相手からは一滴の血も流れていなかった。
その後も生田は俊敏に次々と向かってくる相手の首や頭、顔などを切り裂いていく。
切られた女たちはその場で崩れ落ち、動くことはない。

卓偉の方はというと、こちらは対照的にその場から一歩も動かず、相手の攻撃をいなしている。
かと思うと拳や蹴りを相手の腹や顔に繰り出していく。

一見ただの拳であるが、舞はこの魔法の正体に気付く。

音だった。
それも様々な周波の音を使い分けて。

魔力の籠った音は、どんなものでも破壊できる。
同じく執行局所属の鈴木愛理も同様の魔法を使った奥義を取得しているが、
卓偉のものは一発一発がとてつもなく重い一撃であった。
こちらも同様に食らった相手はその場に崩れ落ち、動くことはなかった。
数人が一斉に卓偉を囲み飛びかかる。

「しゃらくせぇ」

卓偉は両腕を体の前でクロスさせ一気に左右へと魔力を放出する。
その衝撃によって微塵に跡形もなく人影は吹き飛ぶ。

戦闘はほぼ生田と卓偉が一方的に優勢のまま進んで行く。
相手も決して弱くはない。
おそらく、並みの協会魔道士であれば一対一で戦うのがやっとであろう。


574 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/30(金) 23:29:08
執行局のなかでもこれだけの数の敵と互角に渡り合える人間がいるかというと怪しい。

そのような状況のなか、縦横無尽に生田と卓偉は動き回っていた。
舞も黙って見ていたわけではない。

自分に向かってくる相手に対し、愛刀『裟乃丸』を振るい、応戦する。
しかし、どうしても相手が人間であるということを考えると思うように切りつけることができない。
そんな隙を狙われて相手に後ろに回り込まれた舞は、必死の思いで、刀で切りつける。

確かな手応えがあった。
恐る恐る目を向けた舞が見たものは一つの木片であった。

「なっ!?」

「小関!こいつらは人じゃない。
魔法構造物だ。遠慮はいらない。ぼさっとしているとどんどん数が増えるぞ。」

生田がまた一つ相手の鳩尾に小刀を突き刺しながら、舞に向かい叫ぶ。

「はい!!」

その時天井の一部が崩落し何ものかが飛び込んでくる。
その影は俊敏に動き相手の動きを次々と止めていく。

「ももち先輩!!」
「もう舞ちゃんったら!あとでお説教だからね。」

桃子はすぐさま相手の特性を見極めたらしい。
迷うことなく相手へ向かい、消失させていく。

「なるほどね、これはあとが残らないわけだ…。」

新たな援軍が加わったことで相手はみるみるその数を減らしていく。
だがその様子を見ても相手の女性は焦ることなく高みの見物をしている。


575 : ◆JVrUn/uxnk :2016/09/30(金) 23:30:42
「ふっ…。やはり『dólce』が相手ではいささか力不足か。ならば仕方あるまい。」

そう言ってもう一度女性は指を鳴らす。すると左右の壁から細かな飛来物が発射されるのを舞は感じ取った。刀を逆手に構え、防御の姿勢をとる。

「小関流剣術 『防』」

その瞬間、無数の周波数の音波が刀から放出され、舞の体をつつみこむ。
音の壁は見事にその飛来物を防いだ。

「ほう、なかなかやるやんけ、小関の娘ちゃん。」

「ああ見えても執行局員だからな。」

生田と卓偉は何事もなかったかのように談笑しながら次々と相手を殲滅していく。
それに合わせて舞も『防』の構えから『攻』の構えへと切り替えを行おうとしたその時、
舞は自分の体が震えるのを感じた。

その原因はその場の空気が一変したことにあった。
恐怖。
絶望。

その場にいる全ての魔道士が身を硬くし身構える。


「とうとうお出ましか…。さすがにこれは…。」
生田も身をさっと引き顔をしかめる。

「局長…。あれ…。」
桃子はその場から動けなくなっていた舞の元に近寄るとともに局長へと尋ねる。

「だから生田はお前たちを巻き込みたくなかったんよ。」
卓偉も魔力を全開に放出し、攻撃に備えながらそう語る。

「お前のことだろうからもう調べはついているだろう。
『dólce』のことは。一見バカなことをしていたと思うかもしれないが…。
世の中には悪一色で染まる奴がいる。それを淘汰できるのは闇でしかない。」

苦々しげに相手を見つめながら生田は話す。
その視線につられて桃子も相手を見上げた。

狂気と闇のオーラに包まれたその相手は禍々しいほどに魔力を放出していた。

「舞たちひょっとして…。」
舞は震える体を必死に抑えながら呟く。

「ひょっとして、死んじゃうんじゃない…。」

続く


576 : 名無し募集中。。。 :2016/10/02(日) 02:18:16
>>569
おめでとう


577 : 名無し募集中。。。 :2016/10/06(木) 20:23:28
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 50
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1475752770/


578 : 名無し募集中。。。 :2016/10/08(土) 12:22:08
連載復活してた!就職おめでとうございます。
いや〜一気読みしたら怒涛の急展開の連続で鳥肌たちったなしw


579 : 名無し募集中。。。 :2016/10/13(木) 20:07:43
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 51
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1476356628/


580 : 名無し募集中。。。 :2016/10/27(木) 20:37:50
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 52
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1477568027/


581 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/01(火) 22:23:07
舞ちゃん!ぼさっとしない。さっさとこっから離れるわよ!」
「ちょっ、わっ!ももち先輩!?」

桃子が舞の袖を掴み、一気に上昇する。
相手の力量を瞬時に見極め、この場に舞がいることの危険を感じたのだ。

それだけではない。
おそらく、この相手は自分たちの常識が通用する相手ではないことは間違いない。

だから、桃子は舞を連れて自分もこの場から離れることを判断したのであった。

最初の跳躍から数瞬後、目の前に迫ってきた倉庫の屋根を吹き飛ばそうと桃子がさらに魔力を込めとした瞬間、
ふと背筋に黒い気配を感じ慌てて桃子は込めていた魔力を防壁へと切り替える。


間一髪であった。


桃子が舞と自分に防壁を張り巡らせるのと同時に、黒い波状の魔力が過ぎ去り、天井を跡形もなく吹き飛ばした。

「…!?そんな…。」

桃子はぽっかりと開けた夜空を唖然とした表情で見つめながら、かろうじて残っていた防壁に再び魔力を注入し直す。

危ないところであった


582 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/01(火) 22:23:44
まともに食らえば自分たちも屋根同様、跡形もなく『消される』ところであった。

「これが『闇魔術』…。はっ、そういえば局長は!!」

慌てて桃子が下を見るとそこには、黒すすけた塊が二つあった。

「局長!卓偉さん!!」

しかし、桃子が二人に近づこうとした瞬間、目の前に黒い塊とともに相手の魔導士が現れる。

「くっ…。」

今、目の前にいるのは明らかに自分より格上の魔道士。
タイマンであればまだ、いくらか戦いようはあったが、現状、舞をこの場から逃すことが最優先な桃子に為す術はない。

相手の右手から放たれた魔力により、地面へと叩きつけられる桃子。

「が…っはっ…。」

全身を痛みが駆け抜け、意識を保つこともままならないが、それでも桃子は舞をかばうことをやめようとはしなかった。
「はぁはぁ…。こん…なとこ…で、はぁはぁ…、倒れるわけには…、私が護…る…。」

しかし、その思いを無残に打ち砕くように目の前の相手は再び桃子たちに対し魔力を放出する。

もうだめだ。
桃子は、最後の力を振り絞り、舞に覆いかぶさる。

つかの間の静寂。


来ると思っていた衝撃が何時までたってもこない。
恐る恐る桃子が顔を上げるとそこには一人の男性が立っていた。


583 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/01(火) 22:24:54
「嗣永。うちの娘なんかのためにこんなにもボロボロになってしまって申し訳ない。
だが、俺が来たからにはもう大丈夫だ。」

小関竜也。負けることを知らない男。

小関は辺りを見渡すと少し考え込む。

「ここは少し戦いづらい。場所を変えよう。」
そう一つ呟くと指を一つ鳴らす。

するとどうしたことだろうか、今までの景色がガラリと変わり、辺りは広大な荒地となっていた。


小関は腰に差した一振りの刀をスラリと抜くと正眼に構えをとる。
その刀は舞が持つ『裟乃丸』に姿形が酷似していた。

だが、まとう魔力が桁違いであった。
今は、小関自身の魔力と呼応し、複雑に絡み合っている。


「来たな。小関竜也。貴様を今ここで、葬り去る。さすれば我が父の無念も…。」

「何か言ったか、外道。」

気づくと、小関は何時の間にか相手のすぐ後ろにいた。
そして刀の切っ先を相手の首筋を向けている。

「疾い!!」

桃子はその姿を目で追うことはできなかった。
かろうじて魔力の残り香が数瞬後に動くのを認知できただけであった。


「ふん、後ろを取ったぐらいでいい気になるなよ。」
相手はそういうとともに再び黒い魔力を放出する。

その動きを察知し、小関は数m後ろへと回避した。

魔力の当たった場所は黒く抉れ、ぽっかりと穴が開いている。


584 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/01(火) 22:25:49
その間にも、相手は幾つもの黒い塊を小関に向かい放出する。
その一つ一つを小関は最小限の動きでかわし、いなしながら一歩一歩相手との距離を縮めていく。

「くそっ、ちょこまかと、お前なんて当てられさえすれば消せるのに。」
その言葉に小関はピタリと足を止め、突然自分の額を軽く指差す。

「ほう、言ったな。じゃあ当ててみろ。」

あまりにも挑発な言葉に、あいては一瞬たじろぐが、すぐに魔力をため鋭利なものを飛ばす。
その狙いは寸分たがわず、小関の指差した額へと直撃した。


一瞬、小関の頭が跳ね飛びそうに後ろへと弾かれるが、小関は何事もなかったかのように再び相手を見据える。
そして残像を残し、その目の前に迫ると低い姿勢から一気に切り上げた。

「がはっ…!」

そして息つく暇も与えず、飛び上がるとそのまま地上へと切り落とす。

もうもうと立ち込める砂煙り。
戦況は圧倒的に小関の優位な状況。


しかし舞は一瞬、自分の父が相手に攻撃を加えようとした瞬間に違和感を感じる。
それを桃子に伝えようとするが、意外にも桃子から同じ言葉が出てきた。


585 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/01(火) 22:28:44
「あれ、舞ちゃんのパパじゃないわね。」
「ももち先輩もそう思います?舞も実は…あれパパじゃない気がして。」

桃子は舞の言葉に頷きながら続ける。
「パパじゃないっていうと語弊があるわね。
姿カタチは完全に舞ちゃんのパパ。主を担っている魔力もおそらく彼自身のもの。
でもそれ以外に何か別の意志を感じる。しかも複数ね。」

「そうなんです。パパ以外の音が聞こえるんです。パパ自身の音を支えるかのように。」

「誰かが意図して、舞ちゃんのパパの魔力に干渉している…。
 しかも本人の意識の外で…。干渉…、複数…意図的…。」

桃子は自分の言った言葉を確認するかのようにつぶやいていく。

「干渉…、介在…、仲介…、意図して…。
 …意図して!!そうか!!」
桃子は何かに気付いたらしい。しかしそのことを舞に伝えようとしてやめた。

「ももち先輩?何かわかったんですか?」

「…いや、思い違いだったみたい。」


戦いはすでに終盤に入っていた。明らかに相手の動きが落ちている。

二人ともどこからそんなに出てくるのか不思議なくらい魔力を放出していたがどうやら先に使い切ったのは相手のようであった。


586 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/01(火) 22:29:29
その感にも小関の鋭い斬撃がまた一つ相手の体に加わる。
それが限界だったのだろう。

相手はがっくりと膝をつき肩で息をしていた。
小関がまた一つ指を鳴らす。

すると先ほどまでの景色がまた変わり、最初にいた場所に戻る。

「さて、そろそろ終いかの。選べ、お前のこの先を。大人しく奪われるか、それとも死ぬか。」

冷たい、低い声でそう告げる小関。

しかし相手は答える代わりに大声で笑い始めた。

「ぬははははは、ぬかったな小関。dólceの元幹部ともあろうお前が選択する猶予を与えるとはな。
 私は奪われるのはごめんだ。お前の手にかかるつもりもない。私の望みは…。」

そういうと相手は一気に膨張し始める。そしてくもぐった声で言い放った。

「お前たちの死、それだけだ。」

続く


587 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/01(火) 22:35:44
こんばんは

ご無沙汰してしまいましたが続きです
次回が最終回の予定です

作者


588 : 名無し募集中。。。 :2016/11/07(月) 17:08:05
更新乙です小関パパかっけー

てか本スレタッチの差で落としてしまった…


589 : 名無し募集中。。。 :2016/11/07(月) 21:25:10
落ちちゃったものは仕方ないです
さてももちどうしようかな

やはり書くしかないよな
間に合うかな


590 : 名無し募集中。。。 :2016/11/07(月) 22:48:10
書いてほしいね


591 : 名無し募集中。。。 :2016/11/07(月) 23:44:10
本スレ落ちとるorz


592 : 名無し募集中。。。 :2016/11/08(火) 20:09:57
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 53
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1478603203/


593 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/08(火) 23:21:34
「はぁ…はぁ…愛香ちゃん、梨沙ちゃん、早く早く!!」

知沙希から直接端末にて連絡を受けた愛香と梨沙。
知沙希の先導により、戦いの場へと急いでいる最中であった。

街全体が物々しい。

街中心部のいたるところに、一般人に溶け込んだ執行魔道士たちがピリピリとした空気を醸し出していた。

「待ってよ、ちぃ!今私たちが行ったところで何になるの?逆に足手まといになるだけだよ!」

そんな中、不意に梨沙が立ち止まり、先を行く知沙希の腕をつかむ。
自分たちが向かっている、あまりにも大きな魔力を感じ取ったのだ。


そんなことは百も承知。あの場にたとえ自分たちがいても邪魔になるだけで何かの役に立つことはない。

それでも、知沙希は逸る気持ちを抑えることはできなかった。

舞があの場で戦っている。
それなのに危険だからって指をくわえて見ていろというのはあまりにも酷な選択肢であった。

その時、愛香が何かに気づく。

「ねぇ、梨沙ちゃん、ちぃちゃん…。あそこに誰かいない?」

愛香が指をさす先に二人が視線を向けてみると、確かにそこに人影がある。

小柄な少女。背格好は小さく、知沙希並み。


594 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/08(火) 23:22:13
しかしながら、その少女の周りにだけ、何やら異質な空間がながれていた。
魔道士とも違う、何か不思議な力の流れ。

三人は不思議なその少女から目を離すことができなくなっていた。

どこか懐かしさを覚える雰囲気。
全く見ず知らずのはずなのになぜか三人の胸が苦しくなっていく。

忘れてはいけない何かを、まるで忘れてしまっているかのようなそんなもどかしさを三人は感じていた。

「行こう…。今は、時間がない。できないことがあってもそれでも私は舞ちゃんを、ももち先輩を助けたい。」

そう言って再び駆け出すのであった。


一人たたずむ少女は三人の視線とその魔力を感じ取っていた。

「みんな…。」

かつて別れを告げた仲間。向こうには彼女に関する一切の記憶がないが、逆に彼女はあの日以来、一時たりとも忘れたことはなかった。

彼女はふっと一息をついた。

そして再び、街じゅうの魔道士から少しづつ魔力を吸い上げ始める。

守らなければいけない。

戦場に向かう彼女たちを。
不条理に立ち向かう彼女たちを。
この世の理に反する存在から。

それができるのは俗世を離れた自分だけ。
この天から授かりし力で。


595 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/08(火) 23:23:20
先導者として、力を使うことは今までにも度々経験してきた。
しかし今回はそのスケールが違う。

すでに使い始めた力は過去とは比べ物にならない未知の領域に入っていた。
力を使いすぎるとどうなるのか。

(お師匠さん、結局教えてくれなかったなぁ)

だが、感覚的にわかる。
他者の魔力に干渉することは、負担であること。
体はもうヘトヘトであった。

それでも、嬉唄は力を使いつづける。

かけがえのない仲間を守るために。

その時、嬉唄は遠くから近づいてくる二つの魔力を感じ取った。




目の前の相手が急激に膨張し始める。それと呼応するかのように目の前の黒い魔力も上昇していく。

「私の望みは、お前たちの死、それだけだ」

これが最後の悪あがきであるとその場にいる誰しもが悟った。
しかし、その悪あがきはあまりにも強大であった。

もし、この魔力で道連れを図られたら間違いなく、自分たちは死ぬ。
それどころかこの周辺の街の幾つかは存在を消すだろう。


596 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/08(火) 23:24:31
小関の奮闘により、一時は勝ちムードであったその場の空気が一瞬にして諦めに変わる。
そんな空気を一蹴したのは、桃子の叫びであった。

「ざけんじゃないわよ。こんなところで終われるわけないじゃない!」

そう言って桃子は、自分の残っていた魔力を解放させ、目の前の黒い塊に突っ込んでいく。
しかし、その桃子の体は相手に届く前に、黒い瘴気によって跳ね飛ばされる。
その先にあったのは山積みにされたコンテナ。

「ももち先輩!!」


「ふぅ、危ない危ない。やっぱり桃は一人にしちゃいけないねぇ。」
「全くだよ、こっちの都合も少しは考えてほしいっつーか。」
コンテナに衝突する直前、桃子の体をかっさらうかのように二人の魔道士が桃子を抱きかかえる。

「愛理!みや!!」

「手酷くやられたねぇ桃。Bouno!リーダーとしてそれはちょっと…。」
「うるさいなぁ!だって仕方ないじゃない。敵、強いんだから。」


「はいはい。てか、局長たちもやられてるとか…。どんな案件だよ、これ。」


雅と愛理は膨らみ続ける黒い魔力に舌を出す。


597 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/08(火) 23:25:41

「これ、助けに来たはいいけど、そっこー死ぬフラグだよね。」
「みや、縁起でもないことって…まぁ確かに…来なきゃよかったかなぁ」

そうぶつくさと呟く二人。

「でも、ここで引くわけには行かないのがさ、辛いとこだよね。」
そう言って、愛理は桃子に治癒魔法をかけながら、自分の魔力を解放する。

「そうそう、なんだってそうだよ。特殊チームとしてというか一人の魔道士としてね。」
雅も桃子にツッコミを入れながら魔力を解放する。

「「「お前は2分以内に倒す!!」」」


絶体絶命のピンチ。そんな中でも弱気なところを見せずに立ち向かおうとする、若者の姿に小関はかつての自分の若い頃の姿を重ね合わせていた。

戦い始めた当初からこうなることはわかっていた。
必ず、相手は自分たちを道連れに死ぬだろうということを。


それはそれで、結構。

逆にここで自分たちがいなくなることで、憎しみの連鎖が絶たれるのであればそれは喜ばしい結果ではないか。
いつの間にか、そんな打算が頭の中をぐるぐると駆け巡る。

後世のため。

そんな思いが小関にはあった。
過去の自分が犯してきたことに対し、どうけじめをつけるか。

だが、考えが変わった。


598 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/08(火) 23:26:36
「生田、中島。やるで。」

その声とともに今まで黒い塊であった二つの影がモゾモゾと動き始める。

「お前が本当に変わるのを待っていたよ。」
「えらい時間かかるやっちゃな。」

そう言って何事もなかったかのように現われる二人。


「大事なのは未来だ、過去は確かに変えられない。だが未来は俺たち自身の手で変えることができる。
後世のために必要なこと。そんなものは大体いつの時代だってその時代に生きる人間のエゴにしかすぎん。」

そう言って生田はカラカラと笑う。

「さて、役者も揃ったところだし、片付けますか。」

その声に呼応するかのように、その場にいた全員の魔力が一つに練り上げられる。
不思議な調和を持った一つの魔力。

それを渾身の力で小関は相手へとぶつけた。







「いらっしゃいませ、カウンター席どうぞ。」

あの事件から一週間。

小関は店の修復を終え、ラーメン店を再開させた。
あの夜のことは協会側が箝口令を敷いているため、ごく少数の人間しか知らない。


「ふあぁぁ、パパおはよう!」
「とっくにおはようではないけどおはよう、舞。よく眠れたか?」
「まだ身体中がバキバキだよ。あーあ、今日もトレーニングとかももち先輩鬼だなぁ…。」

そう言って、舞は大きく伸びをする。

「行っってきます!」


この笑顔が守れてよかった。
そう心の底から思う小関であった。



終わり


599 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/08(火) 23:32:19
以上で今回の話は終了です
とりあえず桃子の卒業にかなりダメージを受けてます

あんなに小さかった桃子がもうこんなに大人に…と考えると
嬉しい反面寂しさがこみ上げますがそれでも彼女自身が選んだ
人生の新たな門出を祝うことができればいいなと思います


物語の最後はあえて省略をしています
この後に書こうと考えている桃子の物語で詳細を書こうと思っています

なるたけ早い所話を始めたいとは思います
その時はまたお付き合いください


作者


600 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 03:19:50
おつでした
ももち編も待ってます


601 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 20:18:48
ちょっと前にここにアンジュ3期+カミコ主役の外伝を作ろうとしたけど
数行で挫折しました

くやしいのであらすじだけのせますので興味あれば読んでください


602 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 21:14:18
本編の時代より、遥か昔。

ブルームーン王国のはずれに住む魔道士の少女リカコは、汚れを落とす「石鹸の魔法」しか使えない自分がこの世に必要とされていないと思い込み、悩んでいた。そのコンプレックスから「何でも屋」を名乗り、困っている人間に対して無償で奉仕しようと駆け回っていた。

ある日、リカコの元に依頼人が訪れる。森の奥の洋館に一人で住むミズキだった。彼女は普通の人間でありながらゾンビを引き寄せてしまう体質に悩んでいると打ち明け、洋館に住み着いたゾンビ達の退治を依頼しにきたのだ。

リカコは依頼を快く受け、ミズキと共に洋館へと出向く。退治を開始しようとするリカコだったが、ミズキに薬を飲まされて眠ってしまう。実はミズキの目的はリカコをゾンビにすることであった。長年一人孤独に暮らしてきたミズキは、ゾンビを引き寄せるうちに彼らを家族と思うようになり、さらに数を増やして孤独を紛らわせるつもりだった。


603 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 21:17:56
しかし利佳子の無自覚に発動された不可解な力によって、洋館にいたゾンビ達は全て消滅してしまう。失意に落ち込むミズキに、リカコは自分が代わりに友達になることを約束するのだった。それ以来、ミズキはリカコの「何でも屋」を手伝うようになった。


一方、ブルームーン王国の王女マホ=アインリバーは、生まれながらにして将来国王にならなければならない自分に嫌気がさし、自由を求めて王宮から逃亡を図る。しかし国境付近の森の中で謎の盗賊団に襲われ、偶然通りかかったリカコとミズキに助けられた。

リカコ達はマホの正体を知って驚きつつも彼女を助けたいと思い、しばらくの間かくまう事を決め、一緒に「何でも屋」の活動を始めた。最初はマホの傍若無人な性格が仕事に合わずに失敗ばかりだったが、徐々に息が合い始め絆が深まる三人。だが、その間も謎の盗賊団に幾度も襲われる。なんとか撃退していく三人だったが、盗賊団のリーダーであるアヤカに敗北し、マホを連れていかれてしまう。


604 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 21:21:09
実はアヤカ達盗賊団「スマイレイジ」は、王宮騎士団長であるモエの密かな依頼で、マホを無事に王宮に連れ戻そうとしていたのだ。モエはマホを姉妹のように慕っており、彼女を秘密裏に取り戻す為に裏組織である「スマイレイジ」に高報酬で依頼することにしたのだった。

王宮に連れ戻されたマホは、モエに自分の想いをぶつける。モエはマホの心を大切にしたいと思う一方で、自分の王宮騎士としての使命との間で揺れ動く。一方リカコとミズキは、マホを王宮から誘拐しようと考える。その為に「スマイレイジ」に対してその手伝いを依頼をするが、大仕事に対して報酬が微々たるものであり、アヤカは初め依頼を断ってしまう。しかしリカコ達の仲間を想う気持ちに心を動かされ、条件付きでなら協力をすると提案する。それは、王国に伝わる伝説の秘宝「天使の涙」を王宮より盗み出す事に協力することだった。リカコは良心を痛めるが、マホの為にしぶしぶ了承し、一行は王宮を目指すのだった。

夜の闇に紛れて王宮に忍び込んだ一行は、宝物庫を見つけ出し侵入する。そこには数々のトラップが仕掛けられていたが、全員が協力をすることで罠を掻い潜っていく。途中でアヤカはリカコ達に興味を持ち「スマイレイジ」の入団を勧めようとするが、リカコは人の物を盗む事に大きな抵抗があり提案を断る。残念がるアヤカを尻目に一行は最後の罠を打ち破り、ついに「天使の涙」を手に入れるのだった。


605 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 21:24:03
宝物庫を出た一行はそこで、モエの率いる王宮騎士団に取り囲まれてしまう。多勢に無勢は明らかで、アヤカ達は無駄な抵抗をせずに投降をしようとした。しかし捕まる直前でアヤカは「天使の涙」をこっそりリカコ達に託そうとした。「スマイレイジ」に比べ、リカコ達の罪の方が軽いと考え、彼女達ならろくに調べられずにすぐに釈放されるはずと予想した結果の行動だったが、それが不測の事態を引き起こしてしまう。

ミズキの手に「天使の涙」が渡った瞬間、彼女の体から不気味で強大な魔力が放たれ、そこにいた全員が身動きを取れなくなってしまったのだ。実は「天使の涙」には手にした者に秘められた魔力を無理やり引き出す効力があり、ミズキの力が暴走してしまったのだった。

普通の人間であるはずのミズキは、実は「因子」を持った特殊な存在だった。洋館でゾンビ達がミズキに引き寄せられていたのは、彼女の特殊な体質に牽かれていたからだったのだ。


606 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 21:26:07
「因子」の膨大な魔力が際限なく膨れ上がっていき、ミズキの意識も闇に落ちてしまう。誰もその力に逆らえずに動けない中、一人だけミズキに近付けたのは異変に気付いて駆けつけたマホだった。マホの持つ王家に代々伝わる月の魔力を借りる神秘の力でミズキの暴走を食い止める事に成功する。だがそれは一時的なもので時間がたてばまた暴走し、この王国全てが消滅する恐れがあるとマホは語った。

モエはマホに逃げるように進言するが、マホは自分がここから離れれば魔力の暴走が加速し国民全てが犠牲になり、また大切な仲間であるミズキを見捨てたくないから逃げないと言った。だが、ミズキの魔力を完全に止める方法がわからないままである為、マホはモエやアヤカに手分けして国民をできる限り避難させるよう頼んだ。その時マホは自分の中に国民を大切に想う気持ちがあることに気付き、国王になることへのわだかまりが薄れるのを感じた。

モエはマホの意思を尊重することを選び、王宮の兵士を総動員して国民を避難させようとする。一方アヤカ達も責任を感じて、手下達にモエを手伝うように指示した。その場に残ったリカコはあることを思いつき、マホに解決方法があるかもしれないと話す。それは以前ミズキのゾンビを消滅させた事から、自分の力で「因子」の魔力を打ち消せるのではとの事だった。マホはそれを聞いてリカコの力が「石鹸の魔法」ではなく、全てを洗い流せる「浄化の魔法」であることに気付き、その力に賭けてみることにした。


607 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 21:28:46
リカコはマホの補助を受けて魔力を解放しながらミズキに近付く。「因子」の魔力が徐々に消滅していくが、全てを浄化するにはリカコの魔力量が足りないという事に気づき、対策が無く万事休すの状況に。暴走が再び開始される寸前、リカコはとっさにミズキが手にした「天使の涙」を掴んだ。リカコの魔力が倍増し、「因子」の魔力を一気に消し去る事に成功。暴走は止まったのだった。

王国の危機は去り、一夜明けると国民は皆元の生活に戻った。マホはアヤカに感謝をし、アヤカ達が王宮に侵入したことは不問にすると言った。アヤカも自分達の行動に大きな責任があるとして、悪行から足を洗うべく「スマイレイジ」を解散すると宣言した。驚く手下達だったが、盗賊団をやめて弱きを助ける義賊団を即日結成するというアヤカの考えに賛同した。元々アヤカの人間性に惚れて集まっていた連中であり、皆異論はなかった。団名は転機となった「天使の涙」から名を借りて「アンジュルム」とした。(副リーダーのカナが考えた)


608 : 名無し募集中。。。 :2016/11/11(金) 21:30:24
「因子」が完全に体から消えて危機が去ったとはいえ、ミズキは自分の責任を重くとらえた。しかしリカコはミズキに提案し、「アンジュルム」に入団して世の中の為に働くことで謝罪の代わりにしようと誘った。ミズキはこれを快諾し、二人はアヤカに入団を申し出たのだった。リカコは自分の力が世界のためになったと実感し、喜びをかみしめ更に努力することを誓ったのだった。

モエは生涯をかけてマホを守ろうと誓ったが、マホの気持ちを考えると複雑だった。しかしマホはモエに国王になる運命を受け入れると言い、国民の為に自分を捧げる覚悟を示したのだった。

しかしリカコとミズキはマホとの別れ際に、いつか国王になってもいつでも王宮に侵入して会いに行く事を告げ、マホは心を救われると共に永遠の友情を誓うのだった。

終わりです


609 : 名無し募集中。。。 :2016/11/12(土) 02:06:16
ストーリーがしっかりしてて面白かったです。

個人的にFF風な感じがしたのがまた良くて、
因子も絡んできて、

あらすじだけでも楽しかったです


610 : 名無し募集中。。。 :2016/11/12(土) 07:50:20
感想ありがとうございます
嬉しかったです


611 : 名無し募集中。。。 :2016/11/12(土) 10:05:49
>>599
えー!何このジャンプ打ち切り漫画のような急な終わり方…うたちゃんの切ない思いで涙しこれからどうなるのか!?ってところで。。。

でもまぁももちの卒業はショックだよなぁ…完結お疲れ様でした

http://imgur.com/bUDfrks.jpg

この1枚の写真から始まった『果実の物語』は最後桃子の物語で終演を迎えるのか…


612 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/12(土) 12:16:34
以前にもそんなコメントをいただいて
本当に申し訳ないと思っています。。。

まとめるのが下手くそなもので

今度の桃子作品は今まで書いてきた作品の全部の設定と複線を使って仕上げたいと思います

作者さん


613 : ◆JVrUn/uxnk :2016/11/16(水) 08:34:17
今頃気づいたw

なんだ作者さんってwww


614 : テスト :2016/11/17(木) 20:46:04
♥


615 : 名無し募集中。。。 :2016/11/17(木) 20:51:54
どうして肝心な時にハートが出てくれなかったんだろう・・・



・・・なんて愚痴はともかくテストでのスレ汚し失礼しました


616 : 名無し募集中。。。 :2016/11/22(火) 20:12:30
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 54
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1479812811/


617 : 名無し募集中。。。 :2016/11/22(火) 23:01:09
>>613
どんまいw

桃子編…ベリーズ集大成楽しみにお待ちしてます


618 : ◆JVrUn/uxnk :2016/12/02(金) 13:47:44
まーどぅー戦国編続き書かなきゃ。。。
でもその前にももち編始めないと〜〜

でもそれより前に論文書かないと卒業が笑


619 : 名無し募集中。。。 :2016/12/05(月) 12:57:20
卒業の目処たってからで良いですよw


620 : 名無し募集中。。。 :2016/12/06(火) 19:50:54
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 55
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1481021396/


621 : 名無し募集中。。。 :2016/12/20(火) 19:46:28
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 56
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1482230561/


622 : 名無し募集中。。。 :2017/01/04(水) 23:56:52
新スレ立たない。。
いつも立ててくださる方に頼りきりだったからなぁ


623 : ◆JVrUn/uxnk :2017/01/05(木) 00:28:17
ピッ…ピッ…ピッ…。

薄く光の差し込む病室。
窓の外に見える景色は冬の装いを見せ、時折、冷たい北風がガタガタと窓を揺らす。

その病室に置かれたベッドの上では一人の女性が微動だにせず眠っている。
心臓が正常に動いていることを知らせるモニター音だけが部屋の中に小さく響いている。

ガラガラっ。

「失礼します。」

突然開かれた病室の扉。見舞客なのだろうか、数人のまだ幼い顔立ちをした少女と若い女性が連れ立って部屋の中へと入ってくる。

幾度なく彼女たちはその病室を訪問していた。
なぜなら、そこにいる人物は彼女たちにとってかけがえのない人物だから。

身を以て、自分たちに『生き方』を叩き込んでくれたから。

いつか目を覚ますはず。もう一度みんなで笑い合える日が来るはず。
そんな思いから、時間が開くたびに彼女たちは病室へと足を運び、その部屋の住人が目を覚ますのを待ち続けていた。


624 : ◆JVrUn/uxnk :2017/01/05(木) 00:28:59
他愛もない世間話をしながら、ひたすら待ち続けていた

「すみません。今日の面会時間は終了です。」

夕焼けが窓を赤く染める頃、担当の看護師が、今日の面会時間の終わりを告げに来る。

彼女たちはその言葉に素直に従い、それぞれの荷物を持って立ち上がった。
そして、病室の扉へと向かう前に、眠りから覚めない女性に声を掛ける。

「また、時間空いたら来ますね。ももち先輩


続く


625 : ◆JVrUn/uxnk :2017/01/05(木) 00:30:19
修論の気分転換にももち編をスタートさせます
かなりノロノロな更新になりますがお付き合いください


作者


626 : 名無し募集中。。。 :2017/01/05(木) 01:10:12
>>625
おつおつ
ももちの身に何が起きた


627 : 名無し募集中。。。 :2017/01/05(木) 05:09:43
>>625
待ってました!それにしてもいきなりの展開…


628 : 名無し募集中。。。 :2017/01/06(金) 19:55:39
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 57
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1483699894/


629 : 名無し募集中。。。 :2017/01/20(金) 19:49:19
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 58
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1484909103/


630 : 名無し募集中。。。 :2017/02/03(金) 20:22:10
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 59
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1486120695/


631 : 名無し募集中。。。 :2017/02/09(木) 21:05:56
スレが落ちてる・・・


632 : 名無し募集中。。。 :2017/02/09(木) 21:48:54
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 60
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1486642358/


633 : 名無し募集中。。。 :2017/02/23(木) 21:32:06
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 61
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1487852911/


634 : 名無し募集中。。。 :2017/02/25(土) 09:43:09
修論は無事提出できたかな


635 : ◆JVrUn/uxnk :2017/02/27(月) 12:21:00
ありがとうございます
おかげ様で修論 無事提出できました^ ^
今週あたりから続きを更新します

作者


636 : 名無し募集中。。。 :2017/03/09(木) 21:19:56
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 62
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1489061754/


637 : 名無し募集中。。。 :2017/03/22(水) 18:24:43
続かないのかな?


638 : 名無し募集中。。。 :2017/03/22(水) 22:11:31
どうなんだろうね
道重再生したし職人さんにも期待したい
俺はただ保全するしかできないや


639 : 名無し募集中。。。 :2017/03/23(木) 21:23:54
14日で落ちましたな


640 : 名無し募集中。。。 :2017/03/23(木) 21:33:00
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 63
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1490272179/


641 : ◆JVrUn/uxnk :2017/03/25(土) 11:02:23
ごめんなさい

しばらく書いていなかったせいで
なかなか思うように書かなくて。。。

浮かんだイメージの断片を今つなぎ合わせているので
ある程度まとまったら投下します
投下するする詐欺で本当に申し訳ない汗

作者


642 : 名無し募集中。。。 :2017/03/25(土) 13:29:29
>>641
のんびり保全しながら待ってるので大丈夫♪


643 : 名無し募集中。。。 :2017/04/06(木) 21:23:48
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 64
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1491481233/


644 : 名無し募集中。。。 :2017/04/19(水) 23:13:49
明日が14日っていうタイミングで落ちたのか・・・


645 : 名無し募集中。。。 :2017/04/20(木) 02:39:58
あれ、普通に落ちてたのか
てっきり2週間経ったのかと思った
今回のスレはネタも投下されてたし


646 : あぼ〜ん :あぼ〜ん
あぼ〜ん


647 : 名無し募集中。。。 :2017/04/22(土) 12:37:07
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 65
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1492832042/


648 : ◆JVrUn/uxnk :2017/04/23(日) 20:29:08
みなさまこんばんは

やはり繋がらないかけないということで苦戦しています
ですが始めてしまった以上頑張ります。
というわけでももちラスト編続きです


649 : ◆JVrUn/uxnk :2017/04/23(日) 20:29:52
「わああああぁぁ!すごいきれい!!ねえ見て!結!」
「そんなきれいきれい言ってたってどうせ大したことないん・・・ほんまや!めっちゃきれいやん!!」
「こらこら、二人とも。そんなにはしゃがないの!」
「そういうももち先輩もなんだかウキウキしてません?」

橙色の明かりが優しく広間を照らす。
人々が互いに会話を楽しむ中、6人の少女たちは周りの景色に目を奪われていた。

ここ中央の街、一番のホテルでは4年に一度に行われる国際会議が開催されていた。この会議は、魔道士と一般人の共生を目指す重要なもの。

当然、各界の要人が集まる。
それゆえに、襲撃のリスクが高く、魔道士協会も一般政府も会議の期間中は厳重体制をとっているのであった。

今日は会議の前夜祭として懇親会が行われる日。
人の出入りが激しくなるため、会場警備も一筋縄ではいかない。
特に、反乱を企むものたちからしたら一度に要人を葬り去るまたとない機会。
であるから、協会も多数の人員を動員して何事もないように努める必要があった。


650 : ◆JVrUn/uxnk :2017/04/23(日) 20:30:44
『Can girl』も発足から2年。やっと、実力が地位についてきた。
特に1年前に入局した二人の新人の成長が著しい。
それに触発されて、他のメンバーも各々のスキル磨きに余念がなかった。

桃子は会場をちらりと見ると、全員に指示を出す。
「よし、そしたら、やなみんと船木ちゃんで1階周辺を、
 梨沙ちゃんとちぃちゃんで、2階をまなかちゃんと舞ちゃんは3階の巡回に当たって。」
「了解です。ももち先輩は?」
「ももちは建物全体をカバーする。何かあったら必ず報告。いいわね?」
「はい!」

会場に続々と人が集まる中、6人の少女たちは指示を受け、各方面に散っていった。
桃子はそれを見届けると、小さく息をつく。

体が最近、思うように動かなくなっている。
おそらく、この前の事件の余韻だろう。


651 : ◆JVrUn/uxnk :2017/04/23(日) 20:31:41

Berryz時代とは異なり、桃子自身この2年で魔力をフルに解放させる機会が増えた。
そのせいか、魔力の回復が追いつかないまま、次の任務へと突入することが多い。

そのことは少しずつだが桃子の体を蝕んでいた。

「はぁぁ。ももも年かなぁ。。」

ネタではなく冗談でそんなことを思うようになっていた。
思えば、2年前、あんなに頼りなさげだったメンバーは一人一人が着実に力をつけ、
気づけば後輩も増えていた。

チームの地位も執行局内では盤石のものとなり行き先には一抹の不安もない。
過大評価をしすぎなのではという声もあるが、そんな意見はいつも任務成功と共に黙らせてきたのであった。


「ふふっ。ここいらが潮時なのかもね。」

誰に言うとでもなく一人桃子はそういうと気を引き締め直して建物全体に気を配り始めた。

局長からも言い含められていたが、今回の任務は桃子自身、Berryz時代に被害を出してしまった苦い経験がある。

若さゆえの過ちといったところだろうか。


652 : ◆JVrUn/uxnk :2017/04/23(日) 20:32:32
あの時と比べ、自分は変われているのだろうか。

そんなことが頭をよぎる。

だからこそ、過去の自分と向き合うためにもこの任務は成功させなければ。。。



一方、建物内に散会したCan girlのメンバーたちはペアになって周囲の警戒に当たっていた。
建物内には魔道士や一般人がひしめきあい、移動するのも一苦労である。

そして、周りのフワついた空気が彼女たちの邪魔をする。

「たしかにねぇ、これは何か起きたら大変だわ。舞ちゃん、しっかり聞いてね。」
「了解!!それにしても人がすごいなぁ。みんな大丈夫かなぁ?」


そんななか、パーティー会場から少し離れた場所で数人の影が内部の様子を伺っていた。

「どうだ、そっちは?」
『やはり内部には、嗣永がいるな。』
「そうか、執行局が出張っているか、めんどくせぇ。」
『どうする、あいつは相手にすると少し厄介だぞ?』
「仕方ない、こちらとしても執行局が出張るなか動くのはリスクが高いからな。」
「ではプランδで。」
『『了解!!』』


653 : ◆JVrUn/uxnk :2017/04/23(日) 20:33:10
その日のパーティーは、何事もなく無事終わった。
集合した一同はホッと心を撫で下ろす。

こんなにも各界の要人が集まるなかなにかあれば、大変であることは誰しもが共有していたことだ。
なにもないならそれに越したことはない。

「よしそしたら、みんな今日はおしまい。でも明日の会議が終わるまで油断しないこと!いい??」

「「「はい!」」」

「よし、解散!夜の見張りは3時間交代ね?最初の見張りは梨沙ちゃんと船木ちゃんね。」

「了解です。」

「何かあったら、すぐに知らせてね。」

しかしながら、誰もまだ知らなかった。
この日の任務が執行局史上最悪なものになることを。


654 : ◆JVrUn/uxnk :2017/04/23(日) 20:33:47
とりあえず今回はここまででお願いいたします


作者


655 : 名無し募集中。。。 :2017/04/23(日) 23:43:01
乙であります
今夜は寝なきゃならないので申し訳ないが明日読みます


656 : 名無し募集中。。。 :2017/05/06(土) 12:26:06
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 66
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1494040967/


657 : 名無し募集中。。。 :2017/05/13(土) 19:19:35
ももちラスト編が気になりながらも、
さゆ卒業から書いては空き、を繰り返していたやつを
再生のタイミングで掘り起こしてみました。

時系列的には、本編作者さん作の外伝で
さゆが忘却の魔法を使った1年後とかでしょうか。

カンガルや他のグループと、
今回も多くの設定を拝借してます。

久しぶりに読んだときにまなかん出てきたときは自分で驚きました(笑)

のんびり更新していきます


658 : 名無し募集中。。。 :2017/05/13(土) 19:21:13

うっそうとしたジャングルが広がる島、
いかにもな見た目の草木が生い茂る獣道を
3人の執行局員が走り抜ける。

ほどなくして、石造りの建物が見えてきた。

「A班、間もなく到着します。」
1人が無線で連絡を取る。

「は〜い、定刻通りですね〜。B班は〜?」

「はい、こっちももう着きます!」

「オーケ〜、じゃあ
40秒後に作戦開始ね」

「はい!」「了解です」

「いい返事〜。
若いっていいわねぇ〜。みんな元気が溢れてるわ。」

「ももち先輩も充分お若いですよ。」
「熟練の技とそのかわいさ、
そして美しさまで備えていらっしゃる方は
なかなかいないです。」

すかさずフォローを入れる稲場と梁川の言葉に
思わずまんざらでもない表情になる嗣永だったが、
すぐに気を取り直して作戦を確認しながら
フィールド全体へと意識を広げていく


659 : 名無し募集中。。。 :2017/05/13(土) 19:22:01

正面、右側、裏口と3ヵ所ある入り口には
見張りがそれぞれ2人ずつ。
武器は銃と警棒とのこと。
今のところ魔力は感じられない。


……3、2、1、


「作戦開始」

嗣永の合図とともに
A班 稲場・船木・森戸が魔力を開放、
正面から突っ込んでいく

慌てて警備員が正面に集まるのを見計らって
B班 山木・梁川・小関が裏口から侵入する

まずは第1段階クリア。


裏口から侵入したB班は敵に見つかることなく進行していく


660 : 名無し募集中。。。 :2017/05/13(土) 19:22:39

だが、それはすなわち
動ける全警備隊がA班へと向かうことを意味する。
そしてその中には魔導士も混ざっているだろう。

さて、うまく対処できるだろうか


「稲場さん、こっちはオッケーです!」
「やっぱり船木ちゃんは接近戦強いね〜。
まなかも反射神経鍛えないと。」

「二人とも、増援くるよ!」

「よし、じゃあ
ちょっこし戦ったら逃げるよ!」

直後、飛び出してきた数名を片付けると同時に知沙希が煙幕を放り、

三人はニンニンポーズで煙の中へ消えていった


661 : 名無し募集中。。。 :2017/05/14(日) 23:30:13



建物内、B班――


「よし、もう大丈夫。行ったみたい」

舞の声に隠れていた2人は姿を現し
再び通路を進み始める。

先ほど通り過ぎていった者達は魔導士だった。
だが愛香たちA班は正面入り口で交戦中のはず…

「A班、魔導士が3人裏口に向かって行ったよ。挟み撃ちかも」
「わかった。まなか達も今散開したところだから対応できそう」

「何かあったら言ってね。」
「うん、ありがと梨沙ちゃん」


662 : 名無し募集中。。。 :2017/05/14(日) 23:31:02


こちらも間もなく目的の部屋だ。
待ち伏せを警戒しながらドアへと近づく

「ねぇ梨沙ちゃん、絶対これさぁ
開けたらドーンとかガーンってくるやつだよね」

顔を見ずとも
舞の嫌そうな雰囲気がひしひしと伝わってくる。

扉の奥からは魔力は感じられない。

が、これは扉に何かしらの細工がされていると考えるべきだろう。


663 : 名無し募集中。。。 :2017/05/14(日) 23:32:35


「じゃあ、この辺りを突き破って突入するのはどうでしょう」

唐突に大胆な提案をしたのは新メンバーの奈々美だ

「ももち先輩も
たまにはド派手にいってみな
ってよくおっしゃってますし」

たしかに、的を射ている。
さらにこの案なら相手の裏をかくことができ、一石二鳥だ。

「よし、じゃあ舞ちゃんと私が先行して

梁川ちゃんは援護と見張りをお願い。

あと梁川ちゃん、最初、頼める?」

「はい!」

収録現場での子役ばりにいい返事をした奈々美は
手のひらを壁につけ、
静かに魔力を高める。


664 : 名無し募集中。。。 :2017/05/14(日) 23:33:30


「いきます。」

奈々美の合図とともに壁の1角がまばゆい光を放ち、
音を立てて粉砕される

すかさず梨沙が風に乗せて破片を吹き込んでいった

「なんだ!?」
「奇襲だ!!迎撃しろ!」

中には5人、全員が魔導士だ

…2人でやるには数が多い。
「A班、1人こっちに来られる?」
「ちぃたんに行ってもらう!」
「ありがとう!」

「梁川ちゃん、作戦変更。3人でいくよ!」
それを合図に魔力を開放した3人は別々に壁を突き破り
中へ突入していった


665 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:29:21


正面入り口――


「あいつらどこいった…?」
「きっと茂みの中に隠れ…ぐぁッ」

「!?どうし…た…」
振り返る間もなく崩れ落ちる


「2人制圧しました」
周囲を警戒しながら報告する

「おっけー、じゃあ船木ちゃん、愛香のところまで来れる?
 まなか、いまピストル持った人たちに狙われてて戦いにくいから。」
「了解です」

梨沙ちゃん達は今ごろ中心部あたりかな。
やっぱり先輩たちはみんな強いな—。

そんなことを考えながら愛香のもとへ進んでいる時だった

「ちょっと船木ちゃん!敵さん無線付けてたよー今!
 相手の情報を収集しながら進んでいきなさいって言ってるでしょー!」

突然の桃子からの注意に思わず姿勢を正す
「あっ、すいません!」

「はーい、じゃあここから気を付けてね〜」

今回、桃子は原則手を出さないことになっている。


666 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:30:07

「稲場さん、間もなく着きます!」
「じゃあ隠れてる人たちからお願いしてもいい?」
「了解です!」

見渡すと、茂みの中から銃口が2つ出ている。
結は気づかれないよう、そっと後ろに回り込む

「ぅグッ」「うわっ」

奇襲成功。この手の作戦は結の得意とするところだった

よし、今度こそ忘れずに無線を…

そう思ってかがみこんだ時だった
突如、木の上で魔力が解放される

やばい!


『振り向く前に防御と回避。もしできるならカウンターもね。
これが不意を突かれた時の鉄則。』

訓練中、これだけは、と何度も言われて
そして何度も抜き打ちテストを仕掛けてきた桃子の教え。

「ももち先輩に感謝だなホント…」

服がよごれた程度で済んだのはラッキーだった。
すかさず魔力で短剣を取り出し
相手との間合いを詰める

反撃はないだろうと油断していた相手の対応が遅れるが
そこは相手も手練れ、咄嗟に炎で幕を張る

「ソイヤッ!」

炎幕を突き破って飛んできた短剣が刺さると
相手からみるみる魔力が抜けていった

「あ、血とかは出ないので安心してください。
あと、無線もらっていきますね。おつかれんこんです」

そう言い残すと、結は愛香のもとへと走り去っていった。


667 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:31:18


建物内、B班――


「ここから先は、一本道だね。」

先程の部屋を無事に突破したB班は
建物中心部へとつながる広い通路までたどり着いていた。

「舞ちゃんとちぃ、どうかな?」

一本道ということは
隠れながらは進めない。
だが魔力の探知が得意な知沙希と音の感知が得意な舞、
この2人がいれば随分と楽に進んでいける。
特に、今回のように音を遮るものがない状況では
舞の感知能力が存分に発揮される。

「ん〜、通路は400mくらい続いて、
その先は広場みたいな感じかな。たぶんそこが目的地。
で、そこにいる相手の数は6人だね」

舞が冷静に分析する隣で
集中していた知沙希が「あっ」と顔を上げる


668 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:31:57

「どうしたの?ちぃ」

「梨沙ちゃん、この先にいるよ」

知沙希の緊張が高まっているのが分かる。
何が…
と聞きかけたところで梨沙はハッとした

「キソラが…、
つばきファクトリーがいるのね?」

「うん。どうしよう、愛香ちゃん呼んだほうがいいかなぁ?」

たしかに4対6では人数的に不利だ。
そして戦闘向きの愛香が居ないことも大きい。

だが、かといって結を1人にするわけにもいかないし、
全員が建物内に入ってしまうと
何かあったときに対処できない。
それにももち先輩から言われてることもあるし…

「ちぃがまなかんと代わるよ。外から魔力探ってたら
他の敵が来てもすぐわかるし。」

こういった判断をちゃんとシェアできるようになったのは
知沙希の大きな成長の1つと言えるだろう。
梨沙にはそれがちょっとうれしかった。


669 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:32:34


知沙希と愛香が動いている間、
B班は梨沙を中心にこれからの動きを確認していた。

まずはフォーメーション、そして相手の戦力分析。援護は…

「梨沙ちゃん!」

舞が”足音”を捉えた。こちらの動きに気付かれたようだ。
同時に結から無線が入る

「船木です。敵無線からの情報です。
防衛部隊が正面入り口と裏口に向かっています。
ばらばらになっているところを叩くつもりみたいです。」

続けて裏口付近の森戸からも連絡が入る
「魔力感知した!裏口と正面に魔導士がそれぞれ3人ずつ向かってる。
 魔力のない人はわかんないけど、たぶん何人かいると思う!」

甘かった。B班は動きが伝わっていないと思っていたが、
どうやら監視システムか何かが仕掛けられていたようだ。


670 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:33:09

現状、裏口付近に知沙希と愛香、そして正面に結がいるわけだが、
つばきとの交戦を考えるともう1人こちらに加わってほしい。
だが外に残る2人で魔導士6人とその他の警備兵を相手にするのは分が悪すぎる。
そうなると、もう愛香たちに任せるしかない。

「結は裏口へ。
3人とも、裏口の部隊をできるだけ早く倒してほしい。
終わり次第愛香ちゃんはこっちに合流して。
連携も技も全部使っていい。本気でお願い」

「なかなか大胆な作戦だね。
でも了解。がんばるね。」


「梨沙ちゃん、あと200m。そろそろ来るよ。

 って、梨沙ちゃんなんか嬉しそう。」


当たり前だ。

だって、キソラと戦えるんだから。


671 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:33:44


「みんな、人数的にはこっちが不利。でも、
 大切なのは数じゃない。全力でいこう。」

一度言葉を切り、友の顔を思い浮かべてからもう一度、
今度は力強く激励する

「絶対勝つよ!!」

両チームほぼ同時に魔力を開放する。

そしてお互いに走り出したまさにその時であった

突如、建物を突き破るドカァンという音と共に
前方に何かが出現する

「は〜い、そこまで。ちょっと急用できたから、
みんな任務に向かうよ〜」

そこには涼しい顔をした桃子がいた。

「え〜っ、ももち先輩、いまめちゃめちゃいいところじゃないですかぁ。

 梨沙ちゃんだってせっかく楽しみにしてたのに」

「ごめんね梨沙ちゃん。でもこの任務、うちが一番近いから。
 ほら、おとももちのみんなが困ってるのに見過ごせないでしょ?」


672 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:34:28

「ん〜、わかりました。
ちょっと残念ですけど、次の楽しみに取っておきます。」
キソラを横目に見ながら梨沙が答える。

「うん。それじゃあみんな、出るよ〜」



目を開けると、ちょうどカプセルが開くところだった。

ここは執行局の本部から少し離れた研究施設。

「どうでしたか、みなさん。」

白衣を着た技術者が優しく語りかける

「なんか、すっごくリアルで、舞もほんとにそこにいるみたいでした」
「わたしも、先輩方の戦いを間近で見られたり、
自分が魔法を使うときも
現実の世界と同じような感覚で使えたので
すごい技術力だなって驚きました」
「このカプセルもモフモフで肌触りいいし!」


673 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:35:06

興奮気味に話すメンバーにスタッフ達は満足そうだ。
「それはよかったです。
これは脳波をそのままバーチャルに投影してますからね、
加工のないオリジナルの信号をそのまま送ることで
より違和感を軽減して、いつも通りに近い感覚や動きを体感できるんです。」

「もしこれがパソコンの画面越しとかでこっち側から見れるようになれば
強い人の戦い方を見学できるし、
自分たちでも復習できるようになりますね」

「その通りです。今はまだ中の人にしか状況はわからないですが、
 ゆくゆくはこちら側からも見れるようにして、

さらには最大接続人数を増やすことで
模擬戦や合同演習へと幅を広げようと考えています。

また、今はまだ一部の方しかお試しいただけていませんが、
これからどんどん普及してデータが増えていけば
相手のバリエーションも増えますし、なにより戦術の勉強にもなりますよ。」

「はーい、感想も大事だけど、次の任務があるんだからね〜?」
桃子がハイハイとみんなを急かす

そして同行していた協会の技術局員にも別れを告げ、
メンバーの準備が整ったことを確認する。


674 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:35:41

「では本日はありがとうございました。

そして次回は是非、嗣永さんにもご参加いただけたらと思います。
 
やはり非常に強い魔導士のデータは
私どもをはじめ他の方々にとっても勉強になりますでしょうから。」

「またそんな〜、
ももちがかわいいからって持ち上げすぎですよ〜」
「一言もおっしゃってないです、ももち先輩」

梨沙の鋭いツッコミで和んだカントリーガールズは
笑顔で挨拶を済ませ、次の任務地へと向かって行った。


675 : 名無し募集中。。。 :2017/05/19(金) 22:36:24


ちょっと長くなっちゃいました。。


676 : 名無し募集中。。。 :2017/05/20(土) 19:58:22
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 67
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1495277592/


677 : 名無し募集中。。。 :2017/05/21(日) 13:03:23


「いやぁ、執行局の方々は引っ張りだこですな。」
「えぇ、最後までデータが取れず申し訳ないです」


協会の技術局員がここに残ったのは
研究所の職員とのこれからの打ち合わせを進めるためであった。

研究所からの売り込みを受けて始まったこのプロジェクトは
もともと研究所側の技術レベルに定評があったことや
装置自体が既に試験運用段階まで進んでいたことに加えて、
協会とその傘下外の研究所が組むという注目度の高さからも
通常よりもかなり速いスピードで進められてきた。

執行局協力のもと行われている実践演習試験も、ここまで
こぶしファクトリー、つばきファクトリー、
そして今日のカントリーガールズと
既に3つのチームが実験に参加している。


678 : 名無し募集中。。。 :2017/05/21(日) 13:03:56

「いやぁ、協会の皆さんのご協力には本当に感謝しています。」

そう笑顔で頭を下げるのはここの研究所長。
彼が協会にこのプロジェクトを売り込んできた張本人だ。

「今回もたくさんの貴重なデータが取れました。
それと前回ご指摘いただいていたポイントも
今回の試験できちんと改善が確認できました。」
そう言いながらまた頭を下げる

「それでですね、これまでチームでのデータを取らせていただいてきたんですが、

実は今度は単独任務のデータを取らせていただきたいと考えています。

執行局の中でもお強いかたの、その方の本気の魔力で性能実験ができればと…」

「う〜ん、そうですねぇ。たしかに大きな魔力と
少々荒々しい魔法なんかを使ってもらって
それがきちんとバーチャルに反映されるかとか、
またリアルの方に影響がないかとか、
そのあたりはテェックしたいですね。」

「ええ。まぁ私個人的には
鞘師里保さんが適任じゃないかと思うんですがね。

聞くところによると執行局局長さんの娘さんで、
単独任務の経験もかなりのものだと。」

「鞘師さんですか。いいですねぇ。
彼女なら実力も申し分ない。

わかりました、協会の方で調整してみます。」

「ありがとうございます。いやぁ、
同じ技術職の人だと本当に話が早い。
おっと、すぐにコーヒーを入れますので、
さあさあこちらへお座りください。

あ、お砂糖などは、どうしましょう?」

「おぉ、ありがとうございます。
では、砂糖増し増しでお願いします」


679 : 名無し募集中。。。 :2017/05/21(日) 13:04:46



「ももち先輩、なんでさっきあんな指示出されたんですか?」

任地へ向かう道中、梨沙は気になっていたことを質問してみた。

――「みんな、この訓練では
できるだけ基本戦術で対応すること。
   特にコンビネーションや魔法のバリエーションは極力控えて。
   使うのは本当に必要な時だけ。」――

ゆくゆくは協会本部での訓練装置に、
という技術局からの推薦があって行われているこの試験運転

性能実験や戦闘データ・パターンの蓄積が目的ならば、
これからのことを考えてもできるだけ多くの形を使った方が
協会や自分たちのためにもなるはずなのに。

「え〜?だって嫌じゃーん、いろいろ見られちゃうのってさ、
覗かれるみたいでー。」

キャーっとおどけて見せる桃子。

「やっぱりちょっと謎めいてるぐらいが魅力的なのよ。」
「子供ですか」

「なんだかんだ言ってもね、
やっぱり年下の子と馴染むためにはいろいろな努力が必要なの。
いくらみんなのアイドルももちと言えども、……」

こうなったらもう敵わない。
それが本音なのか、はたまた何か隠された意図があるのか、
それすらあやふやになってくる。

だが、おそらく何か思うところがあったのだろう。
梨沙はそれ以上考えることをやめた。


680 : 名無し募集中。。。 :2017/05/21(日) 13:05:31


「あ、梨沙ちゃん、
昨日グループトークで言ってた紅茶って何味だっけ?
ほら、ずっと飲みたかったって言ってたやつ」

知沙希たちとおしゃべりを楽しんでいた舞が
ふいに梨沙に話しかける。

だが梨沙が口を開くよりも先に声を上げたのは桃子であった

「え、舞ちゃんどういうこと?」

「梨沙ちゃんが昨日、グループトークで急に
『ずっと飲みたかった紅茶をキソラが探してきてくれた!』って
写真付きで送ってきたんです。」

「ううん。そこじゃなくて」

何かを確認する様子で桃子が続ける


681 : 名無し募集中。。。 :2017/05/21(日) 13:06:24

「“グループトークで”、送ってきたんだよね?」

梨沙はその開きかけた口のまま目を見開き、
他のメンバーも一瞬にして空気が変わる

「私そのトーク来てないんだけど。
 え、なに、そういうグループがあるの?」

全員が一斉にそっぽを向いてしらばっくれる中、
梨沙は止まらぬ汗にその脳をフル回転させていた

「い、いや、ももち先輩はお忙しいでしょうし、
そもそも私たちほんとくだらないことばっかり話してますから、
そんなしょうもない内容の話を送るのも遠慮があって…」

「そう!それに、舞たちほんとにずーっとしゃべってるからうるさいんですよ」

咄嗟にフォローした舞だったが、残念ながらそれは仇となった。

「え、じゃあなんで?
私が入ってる方ぜんぜん動いてないんだけど」

これには皆たまらず吹き出してしまう


682 : 名無し募集中。。。 :2017/05/21(日) 13:06:57

「もー、ほんっとやだぁー。

もうももち次の任務 魔力全っ開でいくから!」

「えっ、ももち先輩、次って言っても任務内容は情報収集ですよ?」

「そんなの締め上げて全部しゃべらせればいいのよ!
  ほら!みんなさっさと行くよ!」


その相手の姿を想像すると
梨沙は任務中に初めて相手に申し訳ない気持ちになった。


683 : 名無し募集中。。。 :2017/05/21(日) 13:07:44


ようやく、次からモーニングのメンツが出てきます


684 : 名無し募集中。。。 :2017/05/25(木) 23:25:59




もうこれで何度目だろうか

けたたましい目覚まし時計の音が部屋に鳴り響く。


眠い…

モゾモゾと動く布団から伸びた手は

目覚まし時計を止めると
再びぬくぬくとした楽園へ戻っていく

やっぱり布団が1番だな

ふかふかのベッドで至福の表情を浮かべる。

しかしながら
そんな幸せなひとときは
協会の端末アラートによって見事に吹き飛ばされた


685 : 名無し募集中。。。 :2017/05/25(木) 23:26:46

「里保、朝早くからすまんな」

「いえ、大丈夫です。

何かあったんですか?」

決して朝早いとは言えない時間だが、流石は父親。

敢えてこの時間まで待っていたのだろう。

… どうせ休日の朝早くには起きてないから


「いや、緊急というわけではないんだが、
技術局から里保宛に協力依頼が入ってな。」

協力依頼…、随分と久しぶりに聞いた気がした。
まぁ、今は本部ではなくM13地区にいるのだから
協力依頼なんてそうそう来るはずもないのだが。

「詳しいことはデータとして送っておくが、
内容は現在民間と共同開発中の
バーチャルトレーニングシステム、通称B.T.Sの性能実験だ。

既にうちからもいくつかのチームが協力しているが、
今度は単独任務を想定した試験運転をしたいらしい。


686 : 名無し募集中。。。 :2017/05/25(木) 23:27:20

まぁただの単独任務なら誰でもいいんだが、

なんでも実力のある魔導士で試したいらしくてな。
おそらく規模のでかい攻撃や反応スピードに
機械がついていけるかとかそこら辺を試すんだろう。」

実力のある魔導士。

指名理由に内心嬉しくなるのを隠しながら承諾する。

また、協会に顔を見せてほしいという要望にも快諾した。

そして例のごとく衣梨奈が元気であることを報告した後、
通話を終了させた。


トレーニングとはいえ、久しぶりの単独任務。
期待通りの働きをしなければ。

そんな想像を膨らませながら
里保は元気に布団を飛び出していった。


687 : 名無し募集中。。。 :2017/05/29(月) 13:46:25



「技術局からの協力要請ですか。
鞘師さんすごいですね!」

ここは衣梨奈の家。
みんなの横で 私もいつか…!と1人燃える亜佑美に
そんなことないよと里保が手を振る

「みなさん充実した夏を過ごされているみたいですね。

 実は私もこの夏に少し成長しようと思いまして、
これ、クッキー作ったんですけど、

みなさん味見してアドバイスしていただけませんか?」

「キャー!はるみー!」
「はるなんやるじゃん!」

一気に歓声がわき起こる。


688 : 名無し募集中。。。 :2017/05/29(月) 13:47:02

「はるなんは気づいてないだけで、実は女子力高いと思う」
生田も感心の声を上げる

「え〜、どこら辺がですか〜?具体的に教えてください」


「 …ん〜〜、」
「悩むなら言わなくていいですから!」
すかさず春菜がツッコミを入れる。

「…はるなんその答え、明日でもいいかな?」

そんな憎めない苦笑いを浮かべる衣梨奈

ここでは皆
いつもと変わらないにぎやかな毎日を過ごしていた。


689 : 名無し募集中。。。 :2017/05/29(月) 13:47:35

「そんなわけだから亜佑美ちゃん、
 うちがいないときはよろしくね。」

任せてください!
胸を張り目を輝かせる亜佑美に
「空回りしないようにね〜」

と周りが茶々を入れる

そうやって今日も平和に…
「あーーっ!! まずい!!!」

叫び声をあげたのは優樹だった。」
「ちょ、まーちゃん失礼でしょ! ハルに貸してみ」
「ぐあッ、これは…」

遥も口をおさえる


690 : 名無し募集中。。。 :2017/05/29(月) 13:48:13

「は、はるなん、これ何入れたの?」

「えー、何入れたかな…。おうちの台所にあったもので
 こんな感じかな〜って味を足したりしてみたんだけど…。」

「なんで料理できないのに感覚でつくるんだよ」
すかさず入る総ツッコミを
春菜はただただ受け入れることしかできなかった。


691 : 名無し募集中。。。 :2017/05/29(月) 13:48:45


「香音ちゃん、
 聖、今から古本屋さん行こうと思うんだ〜」

夕方、二人の帰り道。  

「相変わらず熱心だねぇ。
いいよ、あたしも行くよ。読みたい本あるし。」


魔法のことを勉強したい。

聖は突然そう言いだした。
魔法について詳しくなれば
何かしらみんなの手伝いができると思うから、とのことだった。

突然のことに里保たちは驚いていたけれど、
香音、春菜、そして衣梨奈の3人はそんなそぶりも見せず
いいんじゃない?と賛成した。


692 : 名無し募集中。。。 :2017/05/29(月) 13:49:18

もともとそういう性格の衣梨奈はともかく、
聖をずっと横で見てきた香音にとって
それは自然な流れだったし、
春菜に至ってはバイト先の店長という先例があるものだから
なにも特別なことではなかったようだ。

普段は衣梨奈の家でみんなに教えてもらったり
手伝ってもらったりしながら勉強を進めている聖だが、
最近は春菜の紹介もあって
時間があれば春菜のアルバイト先の古本屋で魔法書を読むようになっていた。

毎日みんなを付き合わせるのも悪いからと、
自分でできる部分は自分でやろうとしているようだ。


693 : 名無し募集中。。。 :2017/05/29(月) 13:49:54


「ねえ香音ちゃん」

香音が優しい笑顔を向ける

「聖、いつかえりぽん達の役に立てるかな。


 魔法が使えなくても、

里保ちゃんや亜佑美ちゃんのお仕事を手伝えるくらいになれるかな。」


「はるなんは努力次第って言ってたから、なれるんじゃないかな。

 聖ちゃんもこんなに頑張ってるわけだし。」

「うん、ありがとう。がんばるね。」


「応援してる。


ふ〜ぅ、あたしも頑張らなきゃだな〜。」

やる気に満ちた今の聖には
そう言って少し上を向く香音の表情に気付くことはできなかった。


真っ赤に燃える夕日は
そんな二人の上空を今日も美しく色付けていた


694 : 名無し募集中。。。 :2017/05/31(水) 21:09:42
板の仕様が変わったからかエラー表示が出てスレ立てできませんでした
もし立てられる人がいたらスレ立てお願いします

>ERROR: Sorry このホストでは、しばらくスレッドが立てられません。またの機会にどうぞ。


695 : 名無し募集中。。。 :2017/06/01(木) 21:25:54
一日空けて改めて挑戦してみたらなぜか立てられました

新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 68
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1496319620/


696 : 名無し募集中。。。 :2017/06/04(日) 07:56:24


「どうだ、みんな元気にやってるか?」

「相変わらずにぎやかですよ。えりぽんも楽しそうだし」

やはり直接会うと話も弾む。

友達の話をする里保の顔も眩しいくらいに楽しそうだ。


だが楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。

「じゃあ、そろそろ。」

そういって里保が立ち上がる

「気をつけてな。

…あぁ、そういえば里保に渡そうと思ってたものがあるんだ」


697 : 名無し募集中。。。 :2017/06/04(日) 07:56:56

そういって生田が渡してきたのは一冊の本だった。

「懐かしいだろう、これ」

それは、里保と衣梨奈が小さいころよく読んでもらった
思い出の読み物だった。

幼い頃の記憶に思いを馳せながらページをめくっていると、
最後のページに詩のような、見覚えのない文を見つけた。

どうやらペンで書き足されているようだが、これは…

「俺の字だと思うんだが、あんまり覚えていないんだ。

もしかしたら酔っぱらった勢いで書いたのかもしれんな。

それかどこかで聞いたのを気に入って二人に覚えさせようとしたか、
もしくは二人が言ってたのを親ばかで書き留めたか。

…それにしては深すぎるか。

まぁなんにせよ、

…俺、ボケ始めたかな?」

そう言って苦笑いを浮かべる生田の顔には
やはり衣梨奈の面影がある。

「えへへ。でもうちも覚えとらんけん、たぶん後から書き足したんだと思う。

 でも、ボケたら局長降ろされちゃいますよ?」

それは困ったと生田が笑う。


698 : 名無し募集中。。。 :2017/06/04(日) 07:57:30


「じゃあ、
…行ってきます!」

「あぁ、気を付けてな。」

見送る生田を背に、

里保はしっかりとした足取りで局長室を後にした。



―――夕方、魔導士協会執行局


「今の出動状況は?」

「はい、現在岡井千聖が単独任務へ、
グループではこぶしとつばきがそれぞれ調査任務に出ています。
また、鈴木愛理が明日からの警護任務のため
前泊するとの報告が入っています。

この後も数名が単独任務に向かいますが、
本日はどれも危険度の低い任務となっています。」

「そうか。まぁ油断は禁物だからな。
気を抜かんように。」

「伝えておきます。あぁ、それと、

 先程嗣永さんが先日のB.T.S協力任務報告書をお持ちになった時、

局長に何かお伝えしたいことがあるとおっしゃっていましたよ。
後ほどいらっしゃるそうです。」

何だろうか、誕生日はもう終わったはずだが…


699 : 名無し募集中。。。 :2017/06/04(日) 07:58:02



「いや違いますよ、フッツーに任務にかかわる真剣な話ですよ!

 いくらももちがかわいいからって
仕事中にプレゼントのことばっかり考えてたら支障出ますよー?」

そんないつものももち節に
スマンスマンと頭をかきながら本題に入る



「・・・・・・たしかにな。」

 これは技術局と先方には?」

「まだ伝えてません。この報告書で初めて伝わります。

 ただ、向こうもいくつかの項目については
いろいろと策を考案中みたいです。」


B.T.S使用のリスク。嗣永の指摘は的確だった。

そして生田は静かに内線を…
「その必要はありませんよー。

もう手配済みです。」

顔を上げた生田に
どや顔の桃子が腕組みをしてみせる。


700 : 名無し募集中。。。 :2017/06/04(日) 07:58:40

「局長〜、今、急〜に愛娘の鞘師ちゃんが心配になったんでしょ~?

『B.T.Sはトレーニング中に無防備になるから
いくらセキュリティが頑丈なラボと言えども
自分では攻撃を察知できず、
しかもカプセルに閉じ込められちゃってる鞘師ちゃん。

そんな時にスパイでも潜入してたら大変だ』って。

今の局長、
娘さん想いのい〜いお父さんの顔になってましたよ〜」

ニヤニヤしながら桃子が続ける

「そ、こ、で !
このももちは、局長の大事な娘さんをお守りするため
 内密に、鞘師里保の警護特殊部隊を派遣いたしました!」

桃子がピンと背を伸ばして敬礼をする。

「おぉ、そうか!

 さすがは嗣永だ、対応が早いな。」

でしょ〜?と桃子が胸を張る。

「で、それは一体どんなメンバー構成なんだ?」

その質問に
桃子は不敵な笑みを浮かべながら生田の方へと寄ってきた


701 : 名無し募集中。。。 :2017/06/04(日) 07:59:23

「もう誰もが認める適任中の適任ですよ。

たとえスパイがいたとしても、
きっとやる気なくしちゃうんじゃないですかねぇ〜。

ま、ももちのかわいさに見とれるよりは効果は低いですけど〜…」

「だから、それは一体誰なんだ」

生田は白い目で促す

「1人はあいりんで、明日合流する2人はヒ・ミ・ツです。

まぁ、久しぶりに入ったおしごとですから、
はりきっちゃってんじゃないですかぁ〜?」


桃子の意地悪な説明を終始白い目で聞いていた生田だったが、
その目は徐々に驚きへと変わっていった

「ま、まさか」


702 : 名無し募集中。。。 :2017/06/04(日) 08:00:13

「あの2人に行かせたのか?!」


そんな生田の反応にご満悦の桃子が
何か言いかけた生田を遮り声を上げる

「あ〜っ! そういえば〜!

 じつは〜、折り入って相談したいことがございまして〜…」


…わざとらしい。


「なんだ、言ってみろ」
諦め顔で生田が促すと、
桃子の表情は確信と勝利のそれへと変わった。

「実は~、最近近くにできたカフェのアイスセットが
すごぉ〜くおいしいらしくて~、
ももちも食べたいな~って、思ってたんですぅ〜。

なんでも〜、
さくらんぼの香りの上品な紅茶とアイスがベストマッチなんだとか!」

「…仕方ない。今度トレーニング終わりにでも差し入れしておく。」

やったぁ!と飛び跳ねる桃子に

やっぱりこうなった、と諦めモードの生田であった。


703 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:30:35



「……と、これが今回の概要です。」

「わかりました。この段取り通りにやればいいんですね。」

「よろしくお願いします。

事前の耐久テストでも安全性は実証されてますので、
思う存分、暴れてやってくださいね。

もし何か異常を感じた時でも、

ここで活動する意識を現実の世界に向けることで簡単に出ることができます。

まぁその分、集中が途切れると
バーチャルとの接続が切れてしまう可能性があるんですが…」

「わかりました、集中して取り組みます。」

里保はしっかりと頷き、カプセルを閉じた。


704 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:31:57

 目を開ける。ここがフィールドか。

緩い坂、小さな山の連なり。
草木が元気に生い茂る田舎の風景。
なんだか、M13地区に続くトンネルが見えてきそうだ。


一通り体を動かし
感覚に問題がないことを確かめると、
まずは魔力を放出してみる。

うん、感覚はさほど変わらない。

意識を集中し続けるというのも
慣れてくればそこまで気にならないだろう。

次に風の魔法を発動してみる

辺りの草木が風になびく音までしっかりと聞こえる。


705 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:32:35


…いける!

次の瞬間、里保は一気に青空へと飛び上がっていった

ぐんぐん速度を上げる。そして急旋回、急降下
誰にも邪魔されない大空をびゅんびゅん飛び回る


「ひゃっほ〜〜い!!!」

なんて開放的なんだろう。


その速度のまま地面すれすれまで降下し、刀を一振り。
そこに高く生い茂っていた雑草を一瞬で刈り取った。


次は炎の魔法。
練り上げた魔力を刀に込め、
空へ全力で振り払う

「とんでけ〜〜っ!!!」

巨大な炎球のその灼熱の炎で
上空に漂っていたわずかな雲はきれいに姿を消し、
空は文句なしの快晴へと表情を変えた


706 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:33:09

ふぅ、気持ちいい。


まぁ、ちょっと暑すぎるけれど。

そう額の汗をぬぐう里保だったが、

その顔はすぐにキリっと引き締まった。


魔力の気配。第三段階だ。


707 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:33:58

高速で突進してくる敵の手には刀。
こちらも刀を抜き、真正面から受ける。

相手は突進したその勢いのまま刀を押しのけようとしてくるが、
里保も巧みにそれらを流す

相手は一旦下がると、深く踏み込んで今度は激しく打ち込んできた

斜めに切り下してくるのを受け止め、突き飛ばしを踏ん張る
さらに全力で振り下ろしてきた刀を受け止めたところで膠着状態となった

両者押し合い、隙を伺う


708 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:35:28

と、里保が背後に気配を捉えた

咄嗟に暴風を巻き起こし、距離をとらせる

そして前方の敵が慌てて下がる一瞬の隙を逃さず
炎をまとった刀を横一文字に振りぬいた

意識はすぐさま背後の敵へ。

飛んでくる短刀にかがみこみながらグッと踏み込み、
一気に相手と間合いを詰める


709 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:36:17
――――――

「どうだ鈴木、里保は順調か?」

「はい、順調です。不審な動きもありません。

 鞘師ちゃん頑張ってますよ〜。」

「そうか、引き続き頼む。くれぐれも内密にな。
 
里保にも気づかれないように。」

「らじゃーです!」


710 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:37:01




「愛する娘さんは順調そうですねぇ〜。」

「うるさい。

 ったく、それにしてもこういうことは重なるもんだな。」

「警戒はしといたほうがいいんじゃないですか?」

「あぁ、そのつもりだ。俺の方でも手は回しておいたよ」

深く息を吐きながら椅子に腰かけ、天を仰ぐ。


「まったく、やなことが起きなければいいがな…」


711 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:37:31


一方こちらは衣梨奈の家。

親の苦労など知る由もなく、
生田は一同と仲良く食卓を囲んでいた。


「鞘師さんは順調ですかね~」

「やすしさんなら大丈夫でしょ。
しゅんしゅんっ!ってこなしてぱーーっって帰ってくるよ」

「相変わらず常人には絶対使いこなせない表現だね、まーちゃん」

「ま、優樹ちゃんの言う通り
里保ちゃんならささっと終わらせて帰ってくるだろうね。

まぁ、心配なのはお仕事よりもプライベートの方だけどね。」

一同から呆れ顔とともに同意の声が上がる。


712 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:38:07

「休憩中に仮眠したらそのまま起きなくなって
周りの人困らせてそうなイメージがあります。」

「やりそ〜〜。それで寝癖つけたまま再開しようとしたり」

「攻撃は華麗にかわすのに何にもない所でつまづいたり」

「絶対やってますよそれ。
あ、忘れ物してどこに忘れたかも忘れてそう!」
「寝過ごしてここまで帰ってきそう」

突如始まった大喜利大会が思いのほか盛り上がる


713 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:38:40

「いや〜、その場にいないのに
こんなに食卓を盛り上げてくださるなんて、
さすがは鞘師さんですね〜。

今日はひときわ白米が美味しく感じます。」

「うん、そうやね。」

「え、生田さん。

生田さん白米食べてないじゃないですか」

「みずきも思った。えりぽんまだ白米に一口も手つけてないよね?」

周囲の鋭いツッコミに思わず生田も笑い出す

「適当ばっかりじゃないですか生田さぁん!」


今日もこの家はにぎやかだ。


714 : 名無し募集中。。。 :2017/06/12(月) 03:43:56

明日までにもう少し進めたかったんですが…。


ちなみに月末まで消えます。
あと、タイトルをmessageってことにしようかと。

7月、暇潰しにでも使ってください。  message作者


715 : 名無し募集中。。。 :2017/06/15(木) 21:30:03
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 69
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1497529515/


716 : 名無し募集中。。。 :2017/06/25(日) 20:04:36
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 70
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1498388419/


717 : 名無し募集中。。。 :2017/07/09(日) 19:57:56
新スレ
娘。小説書く!『魔法使いえりぽん』 71
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1499597615/


718 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:08:32
Messageの続き書かせてもらいますー


719 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:09:05



夜――


雲が三日月を覆い隠し、影すら見えない森の中を
1人、周囲を気にしながら歩く登山姿の男がいた。

目的地まではあと少し…


尾行に備え
敢えて遠回りをしてきた男は、
ようやく近づいてきたゴールに自然と足が軽くなる。


ほどなくして、男は森のはずれにある合流地点にたどり着いた。

「水をくれ。」

そう暗闇に話しかけると、
木の陰から静かに男が現れ、飲み物を手渡す


720 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:10:47

「協会の様子はどうだ?」

勢いよく水を飲み干す男にもう一方が問いかける。



「まだこちらの目的には気づいていない。

が、おそらく俺達の存在には気づいているはずだ。

まだ『不審な動き』程度だろうがな。」


「そうか。

…お前はどう思う?」


721 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:11:23
問いかけられた男は辺りを気にしながら答える。

「俺は、まだうかつに大きな動きを起こすべきじゃないと思う。

なにせ情報が少なすぎるんだ。
あんな状態なのにほとんど何もしてないなんて、
リスクを考えたらありえないだろ。恐らく何か…」

続けようとした男に緊張が走る。
「何人だ?」

「…数は3。この魔力は…

…間違いない、相手は執行局だ。」

「クソッ、刑事局でもないのに
奴ら鼻まで利くのかよ!

おう、絶対捕まんじゃねぇぞ」

「あぁ、後で会おう。」

互いに静かな誓いを交わすと、
男達は闇夜が支配する森を2手に別れて走り出した。


722 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:12:43

「いました、あそこです!」

「待てっ!!」

協会の腕輪をした3人組が2人を追う

しかし、逃げる男達は突如暗闇の中に姿を消した

「ちょ、消えた!?

 なにあれめっちゃ便利じゃん!ずるいでしょ!」

「舞ちゃん、わかる?」

舞が素早く集中力を高め、音を探す

「11時と2時の方向!

姿が見えないだけで攻撃は当たるはず。」

それを聞いた1人、岡井千聖の魔力が一瞬のうちに増幅し、
その体を電気が走る。

「うぉりゃあっ!!!」

大きく振りぬいた拳から雷撃が放たれる


723 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:13:14

迫り来る電撃を見た男は焦りの苦笑いを隠しきれない。

即席の魔力でこれほどとは…、流石は執行局というだけある

練り上げていた魔力で電撃の壁をつくるも
相手の魔力が大きすぎて相殺しきれそうにない。

やっぱ無傷では帰れねぇか…

男は覚悟を決め、

とにかく致命傷だけは回避しようと
ありったけの魔力を防御壁に込め直した。



「どう?稲場ちゃん。やった!?」

「いや、ダメです!逃げられました!」

「くっそぉ〜、
でも手負いでしょ?

ってことは、あとは捕まえるだけってとこじゃない?」


724 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:13:51


「ん—、そうでもないみたいです。。」

舞が会話に加わる

「手負いには間違いないんですけど、

敵は二人とも、M13地区に入ったみたいです。」

「えっ、マジ!?」

「はい、間違いないです。」

「つまり、まなか達の襲撃に備えて
敢えてこの場所を選んだってことみたいですね。」

「見つかったら迷わずM13地区に逃げ込むつもりだったってことね。
なんか、まんまとやられたって感じだわ。」

「どうしますか?岡井さん」

「え—、どうしよっか。小関ちゃんはどう思う?」

「んー、舞は、とりあえず報告した方がいいと思います。

ムリしちゃったらももち先輩に怒られそうだし。」

「あぁ〜、千聖もももに色々言われるかなぁ?
イヤだな〜それ。

稲場ちゃんは?」


725 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:14:30

「まなかも報告した方がいいと思います。

M13地区に入られた以上は
もうまなか達が手出ししたらダメなんですよね?」

「そうだね〜。あとは鞘師と石田に任せるしかないわ。

あぁ〜、絶対舞美ちゃんと局長に怒られる〜

いやそれにしても二人とも優秀だねー。
千聖なんかよりぜんぜんしっかりしてるわ。

ももの教育がしっかり行き届いてて千聖は安心しました。


じゃあ、局長に報告いきますか。」

「はい!」


そして森は再び闇と静寂に包まれた。


726 : 名無し募集中。。。 :2017/07/12(水) 23:15:38

今日はここまでです


727 : 名無し募集中。。。 :2017/07/15(土) 16:51:06



「矢島ちゃん、緊張するね!」

「久しぶりのお仕事ですからね、お願いしますよ?」


それにしても本当に急な話だった。

事のいきさつは前日まで遡る―――


「はい、来週の金曜日ですね、確認します。

 え〜っと…、あれ?スケジュールどこやったっけ…

 あ、すみません、また確認したら折り返します。

はい、よろしくお願いします。失礼します」


728 : 名無し募集中。。。 :2017/07/15(土) 16:51:54

「やじまちゃーん、おはよう!

 
ねぇねぇやじまちゃん!」


「なんですか? ナキ子さん」



「おしごと、ちょーおだいっ!」「ないですよ。」

「食い気味!!そして即答!!

 ちょっとぉ〜、何でもいいからお願い敏腕マネージャー!」

「残念ながら、 ゼロ・ゼロ・ゼロ 仕事ゼロ♪ です。

 あ、私スケジュール探してるんだった。」

「もぉ—、やじまちゃん
そんなこと言わずにさぁ〜。

 どうせ今日は雨降っていないから、外でないんでしょ〜?」

「外に出なくても仕事はたくさんあるんです。てか、

雨とか関係ないですから。」

「ほんとに〜?」

「関係ないです。」

「ほらほらやじまちゃん、
 
ムキになりすぎてケータイ鳴ってるの気づいてないわよ〜?」


729 : 名無し募集中。。。 :2017/07/15(土) 16:52:59

慌てて確認すると、それは嗣永桃子からの着信だった。

「はいもしもし。」

「あ、もしもーし。みんなのアイドルももちで〜」「何の用?」

「え、早っ。なんでそんな食い気味?」

「私は今忙しいの。手短にお願い」

「はーい。

じつは〜、中禅寺ナキ子さんにお仕事のお願いがありまして〜」

「え、ナキ子さんに!?」

事務椅子でオレンジを眺めていたナキ子が顔を上げる

「そう、それもB.T.S研究所内での要人警護」

「いやいやいや、ムリでしょ!ナキ子さんにはそんなのムリだって!!」

思わず手が大振りになる

「やります!ナキ子、やります!!」

「いや話も聞いてないのに言わないでください!

 てか、もも!
そもそもナキ子さんは戦闘員じゃないからね?

できても広報だから!」


730 : 名無し募集中。。。 :2017/07/15(土) 16:54:14

「この中禅寺ナキ子、

仕事は逃げずにやりましょう。求められれば戦地でも!

聞いてください、『 恥ならとうに、かき捨てた』 」

「いやそーゆー問題じゃあ…」

「まぁナキ子さんもやる気みたいだし、資料は送っとくから。

 明日からよろしくね〜」

「え、明日から?! ちょっと急すぎない?」

「どうせスケジュールはゼロなんでしょー?」

「まぁ、そうだけど。」

「じゃ、よろしくー!」

言い返す暇もなく電話を切られてしまった。

諦めて送られてくる資料を手に取る

え、これって…

作戦はなんとも大胆なものであった。

今注目の研究所にナキ子がインタビューするという名目で
矢島と共に入り込み、異変があれば外で待機する愛理が突入する。

大胆だが、確かにナキ子なら内通者がいても牽制になる。


731 : 名無し募集中。。。 :2017/07/15(土) 16:54:47

「やじまちゃん、ナキ子におしごと?!」

矢島は覚悟を決め、ナキ子に向き直る

「はい、ナキ子さん。

 執行局から、インタビューのお仕事です。」

ナキ子の顔が華やぐ

「ほんとに!? 

…くぅ〜っ、 1ヶ月ぶりに、中禅寺ナキ子に、仕事がぁ〜っ、


きたぁーーーっ!!!」


「とても重要なお仕事ですからね、よろしくお願いしますよ?」

「うん!
演歌を歌って35年。 この中禅寺ナキ子、
全身全霊でインタビューさせていただきます!!

やじまちゃん、ありがとう!」


――――――


732 : 名無し募集中。。。 :2017/07/16(日) 17:22:27
――――――



「お二人とも、研究所へようこそ。

本日はどうぞ、よろしくお願いします。」

出迎えた所長に二人も丁寧に挨拶を返す。

局長よりは年上であろう所長は実に温和な顔立ちで、

最先端のプロジェクトである
B.T.Sを主導するトップとは思えないほど腰の低い、
まさに『良い人』であった。


「いやぁ、まさかあの中善寺ナキ子さんがインタビュアーだとは。

 私も夕暮れの中禅寺湖、良く聞いたものです。当時30代だった私の心に
スッとしみ込んでくるような歌でした。」

通路を歩きながら、
ニコニコと優しい笑みを浮かべた所長が語りかける。

「ありがとうございます!

日本の心を歌う演歌歌手、中禅寺ナキ子。

今回のインタビューも精いっぱいやらせていただきます!」


733 : 名無し募集中。。。 :2017/07/16(日) 17:23:00

ナキ子と所長は同年代ということもあって、
なかなか馬が合うようだ。

(これは意外と仕事の幅を広げるチャンスなんじゃ…)

矢島がそんなことを考えていると、
一行は再びセキュリティチェックのため足を止めた。

「御覧の通り、ここの警備はものすごく厳重なんです。

もちろん、所長の私も、
こうやって他の皆さんと同じチェックを受けますよ。」

金属探知機を通過しながら所長が説明する。

「じゃあ、ネズミ一匹入れない研究所なんですね!」
ナキ子がキラキラした目でうなずく。

「ええ、許可のない者の侵入は難しいでしょう。
 協会の技術局の方や警備の方々にもご協力いただいていますからね。」


734 : 名無し募集中。。。 :2017/07/16(日) 17:23:40

確かに矢島の目からしても、
許可証も偽造防止の細工が施してあるし、
協会の技術局の協力もあって非常に強固なセキュリティだと言える。

これだけ厳重なら仮に矢島でも強行突破に早くても4、5分はかかるだろう。

それだけあれば演習中止もできるだろうし、
目が覚めさえすれば執行局員の実力は折り紙付きだ。


矢島がそんな分析をしている間に
一行は中心部へと辿り着いた。

「そして、こちらがB.T.Sの実験を行っている部屋です」

ナキ子が感嘆の声を上げる。

そしてそこには、情報通りカプセルに入った里保がいた。

「今、鞘師さんが実践演習を行っているところです。」

一同は研究員たちに挨拶をしながら中へと入っていく。

「なんか、酸素カプセルみたいですね。」

「確かにそうですね。
まぁ中では頭に器具を付けたりしているので、
 どなただったかに、冷凍保存されそうと言われたこともあります」

その言葉に目を輝かせたナキ子が里保のもとに駆け寄り、
カプセルをのぞき込む。


735 : 名無し募集中。。。 :2017/07/16(日) 17:24:10

「お〜い、聞こえる〜?」

「ナキ子さん、みなさんのジャマは…」
だが、慌てて矢島が止めに入ろうとするのを所長が制止した。

「大丈夫です、外の話し声は聞こえませんよ。

集中力を保つためにも、
カプセルは防音・耐衝撃仕様になっていますからね。」

「ほぉ〜。」
ナキ子が大きく相づちをうつ。

「ナキ子さん、ついていけてないですよね」

「や、やじまちゃん!」

顔を赤くするナキ子に、所長はまた笑顔を浮かべる。

「いやいや、それは当然のことですよ。

 こう見えて私も若い方たちのパソコン操作にはついていくのがやっとです。」

「わかります。ナキ子もつくづく実感してます。」

ナキ子はしみじみとうなずくと、まっすぐと所長の目を見て言った。

「お互い、頑張りましょうね!!」


736 : 名無し募集中。。。 :2017/07/16(日) 17:24:51


いや仲良すぎだろ!
と突っ込みたいのを我慢しつつ、矢島は周囲を見渡す。


とはいえ矢島も機械とはあまり仲良くないため、
周りの研究員たちの作業はちんぷんかんぷんだった。


まぁ機械に関しては下手に触りでもしなければ問題ないだろう。

矢島はもう一度気を引き締めて監視に戻った



---------


737 : 名無し募集中。。。 :2017/07/17(月) 18:02:02




「石田、内密に頼みたいことがある」

亜佑美は端末越しに局長からの連絡を受けていた。

「内密に、ってことは極秘任務ですか?」

「そうだ、トップシークレットの極秘任務だ。」

トップシークレット……

それを聞いた亜佑美は背筋をピンと伸ばし、
前かがみで端末に耳を傾ける。


「実は昨日深夜、
何者かが密会しているところへ執行局が介入したんだが、

残念ながら取り逃がしてしまった。


で、今そいつらが隠れてるのがM13地区だ。」


738 : 名無し募集中。。。 :2017/07/17(月) 18:02:33


『この町にいる』


これがどれだけデリケートな話なのか、亜佑美はよくよく理解していた


M13地区は少し特殊な場所だ。

ここは古くから協会の勢力が及んでいないため
協会に属していない魔道師、
特に協会の手から逃れてきた魔道師が多く生活している。

無秩序ながら緩やかな繋がりを持つこの街は、
ある種の安定を保ちつつ徐々にその大きさを増し、

今や協会も下手に足を突っ込むことのできない
独特な存在となっている。



「ちなみに、何をした人達なんですか?」
やや声のトーンを下げた亜佑美が質問する。

「逃がした2人のうち1人は協会で内情を探っていたスパイだ。

 だが協会としては他にも仲間がいる可能性が高いと踏んでいる。」

「スパイ…。 じゃあ、協会の重要な秘密か何かが盗まれたんですか?」

思わずいつもの大きさで話してしまった亜佑美が
慌てて小さく縮こまる。

「いや、確認したところ、そのような痕跡はなかった。
もともとここは機密情報のセキュリティも堅いからな。ただ…」

生田の声が曇る。


739 : 名無し募集中。。。 :2017/07/17(月) 18:03:07

「そいつらはM13地区に関する情報を集めていたようなんだ。」


亜佑美の頭にはクエスチョンマークが踊っていた。

何故協会に潜入してまでM13地区のことを調べる必要があるのか、
亜佑美には全く見当がつかなかったからだ。

そもそもM13地区は協会の管轄外。
里保も亜佑美も、衣梨奈や優樹といったツテがあるからこそ入りこめているだけの例外的存在だ。


「とは言っても、どうやら奴らが求めていた情報は手に入らなかったようだ。

おそらく昨日の密会はその報告をするためだった、というところだろう。」


「それで、私はそれに関する調査を?」

「そうだ。

奴らはいったい何を知りたがっていたのか、そして何者なのか。
それらを調査・報告してくれ。

わかっているとは思うが、
くれぐれもそこがM13地区であることを忘れず、慎重にな。」

「わかりました。鞘師さんの分までしっかり調査しておきます!」

ビシッとどや顔を決めてから、

亜佑美は元気よく外へ飛び出していった



---------


740 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:54:32

ーーーーーーーーーーーーーー



亜佑美は困っていた。



執行局局長から直々に受けた任務に張りきって街へ繰り出したものの、

対象が手負いだということ以外にほとんど手がかりが無い中、

広い上にあまり目立った行動ができないこのM13地区。

亜佑美1人の力ではどうにも事態が進みそうにない。

「ん〜、やっぱ情報屋さんかなぁ〜」

情報と言えば、この街で情報屋として知られる春菜に相談するのが1番。

本当ならば自分1人だけで解決して
里保をあっと驚かせてやろうと意気込んでいた亜佑美には苦渋の決断であったが、

こんな状態ではもう他に選択肢はなかった。


「え〜っと、みんながいるのは…」

確か遥と優樹が今朝、
海岸でトレーニングをすると話していたのを思い出しながら

亜佑美は気持ちのいい海風が吹く坂道を下り始めた。


741 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:55:05


時を同じくして、一匹の黒猫が海岸沿いを歩いていた。

名前は飯窪春菜、魔道師だ。

春菜は亜佑美の予想通り、
朝から魔法の特訓に励む優樹と遥の元へと向かっていた。


最近、よく4人で特訓するようになった。

別段きっかけと言うような出来事もなかったが、

各々時間があるときは集まって研究・実践に励んでいた。

不思議と皆嫌がることもなく、皆それぞれに一生懸命だった。


…もちろん、飽きっぽい娘はいるけれど。


742 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:55:38

と、前方で地図を覗き込む見慣れない男の姿が目に留まる。

魔道師のようだが、
旅行者か旅人だろうか。大きなリュックサックを背負っている。

短髪に日焼けした肌、鍛え上げられた体。

魔法に頼りきりで体は弱いとされる一般的な魔道師とは随分イメージが違うようだ。

サーフィンでも楽しみに来たのだろうか?

そんなことを考えながら
黒猫はなに食わぬ顔で男の横を通りすぎていく。


743 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:56:08


「にゃーお」

突如、男がこちらに話しかけてきた。

えっ!?

突然のことに思わず男の方を見る

「にゃーお!」

…やはり聞き間違いではない。

この男、私に話しかけてきている。しかも猫語で。

「にゃ、にゃ〜…」

春菜は戸惑いながらもとりあえず鳴き返してみる。

だが男の反応は春菜の予想を大幅に超えるものだった。


744 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:56:40

「何なのその鳴きかた。

アンタさぁ、猫ならもっとしっかり声出しなさいよ!

ほら、 にぇあぁーーーお!!」


な、なんなんだ、この人は…

もう春菜の頭ではついていけない。整理しきれなかった。

「にゃーーお!」

もう訳が分からない状態で、
春菜は戸惑いながらもしっかりと鳴き返した。

「やればできるんなら最初からしなさい。

ところでアンタ、ここら辺のこと詳しい?」

今度は普通に話しかけてきた。いや、しゃべり方は全然普通ではないけれど。

「にゃー」

春菜の魔法を見抜かれているのか未だに判断できず、一応鳴き声で返す。

「アンタ猫の姿だとしゃべれないの?」

「あ、すみません、詳しいです。

一応この街で情報屋をやっておりまして…」

春菜はちょっとしたパニックに陥っていた。


745 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:57:11

男の言動は
春菜の猫の魔法を見抜くなどと言う以前の問題だったからだ。

春菜の猫の魔法は潜入時にも使う魔法。
とはいえこの男が里保のように強い魔導士だとしたら、
気配を察知できたのはまだわかる。

だが、ずっと地図を見ていたはずなのに、

通りすがりの魔道師に話しかけるかのように猫語で会話を始めたこの男。

一体何者なんだろう…

「あの〜、失礼ですが、あなたは…」

「私?
あぁ、ごめんなさい、
こんな変なのにいきなり話しかけられたらそりゃあ驚くわよね。

 私の名前は菅井英斗といいます。魔道師のトレーナーをしています。」

菅井英斗…

どこかで聞いたことがあるような、ないような…

「あなた、これから何か予定はあるの?」

「あ、はい。知り合いが魔法の練習をしているので、それを見に行こうかと。」

「そう。よかったらその後で街を案内してくれないかしら」

「いいですよ。私もあなたがどんな人なのか興味がありますし。

 あ、申し遅れました。私、飯窪春菜といいます。」

「飯窪ね、よろしく。」

「はい、よろしくお願いします。あ、あと、あの〜…」

春菜は一旦言葉を切り、つつましく続けた


746 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:57:54

「菅井さんはトレーナーをされているんですよね?

もしよろしかったら、
今練習している3人も含めて私達にレッスンしてもらえませんか?」

菅井は少々驚いた様子を見せたが、すぐに温和な笑みを見せた。

「アンタなかなか図々しいわね。
まぁ、アンタには初対面とは思えない懐かしさがあるし…。

いいわよ、やってあげる。」

思っていたより何倍も簡単にOKしてくれ、
春菜は若干拍子抜けしたのだが、次の言葉に背筋を再び伸ばすことになる。

「そのかわり、やるからには本気でやってもらわないと困りますからね。」

「はい!よろしくお願いします!!」


こうして二人は優樹と遥、そして亜佑美の元へと歩きだした。




――――――――


747 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 06:59:12


ちなみに、

菅井ちゃんはただ出したかっただけです。


748 : 名無し募集中。。。 :2017/07/23(日) 19:22:43
新スレ
娘。小説書いた!『魔法使いえりぽん』72
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1500804634/


749 : 名無し募集中。。。 :2017/07/24(月) 00:37:05
まさか、終わるとは思ってなかったKYです。

生田オタです。。

さっさと終わらせよう…


750 : 名無し募集中。。。 :2017/07/24(月) 00:38:08


「それではここで、クエスチョン!」

「それもパクリです」

「えー、ちょっとくらいいいでしょー!」

「ダメです。知名度にあやかる前に、まずは自分を磨いてください。」

「あいかわらず厳しいねぇ〜やじまちゃんは。」

ブー、とナキ子がそぶりを見せる。

「ナキ子さんがユルすぎるだけです」

それを舞美が冷たくあしらう。


「お二人とも、そろそろ鞘師さんが休憩に入られるはずですよ」

所長の声に、ナキ子が待ってましたとカプセルへ急ぐ

「ちょっとナキ子さん、あんまり鞘師ちゃんを驚かせないでくださいよ?」

忠告する矢島をよそに、
ナキ子はカプセルに顔を押し付け鞘師を待ち構えていた。


751 : 名無し募集中。。。 :2017/07/24(月) 00:38:40

「ふぅ〜、っとうおおい!」

突然のナキ子に里保は刀を抜きかけながらも、
なんとか状況を把握し、あいさつすることができた。


「鞘師ちゃん!この中って、どんな感じなの??」
ナキ子が興奮気味にマイクを向ける。

「ふかふかで気持ちいいです。
すごくリラックスできる作りになってると思います。」

ほうほう、とナキ子がうなづく。

「動作中の感覚は、イメージは夢に近いかもしれないです。

実際に動いてるような感覚があるんですけど、
でも汗とかの感覚はないかんじで、」

「まさにその通りです。最初のコンセプトは夢からでした。」

所長が解説に加わる

「あたかも体を動かしているような感覚なんだけれども、
実際には体は動いていない。

ですからB.T.Sではこちらから刺激を与えるのではなく、
そういう状態を作りあげる手助けをする所から始めるんです。

まぁ実際に疲労や感覚器官の働きを感じさせるためには
直接信号を送ってやることが必要になるのですが、

それは意思以外のコントロールできない要素や
他者などの外部環境をより論理的でかつ認識しやすくしたうえで、
それらを積極的に意識させることでリアリティを出しているんです。

そしてそれを可能にしているのが、
科学だけではなくて協会の方々の支援を含めた
魔法技術があってこそなんです。」


752 : 名無し募集中。。。 :2017/07/24(月) 00:39:12

「ナキ子さん、目が点になってます」

「ハハハ、少し難しかったですかね。

 あ、どうでしょう。ナキ子さんもカプセルに入ってみますか?」

「いいんですか?!」

ナキ子が目を輝かせる

「ナキ子、さっきからずっと気になってたんです、このモフモフ感!」


753 : 名無し募集中。。。 :2017/07/24(月) 00:39:45


ナキ子がカプセルに入って遊んでいるうちに、
里保は矢島に引っ張られ、別室へと移動した。

「矢島さんはB.T.Sの実験要員じゃないんですか?」

「今回は秘書だからね。」

矢島がシーっと人差し指を立てる。

「あと、これは機密情報だけど、

 昨日M13地区に協会が追ってる不審者が逃げ込んだらしいよ。」

里保の顔つきが変わる

「でも大丈夫、凶悪犯とかじゃないみたいだから。

 ただ、協会もその真意は探り切れてないみたいでね、
 今亜佑美ちゃんが調査を担当してるみたいだよ。」

「じゃあ、私もすぐに支度を…」

すぐにでも向かおうとする里保を舞美が制止する。

「いや、局長から
鞘師ちゃんは予定通り残るようにって言付かってるよ。

『向こうに感づかれたくないから、こちらはあくまでいつも通りに過ごす。

ついでに研究所の様子も探ってもらいたいしな』ってさ。」


754 : 名無し募集中。。。 :2017/07/24(月) 00:40:30

舞美は再び里保に笑顔を向けると、こう続けた。

「亜佑美ちゃんなら大丈夫だよ。お友達もついてるんでしょ?」

その言葉と舞美の包容力に、
里保は冷静を取り戻すと同時に何故か力が湧いてきた。

「そうですね、うちが居なくても強いですから。 大丈夫です。」

気にならない、と言ったら嘘になるが、

大丈夫だというのは本心だった。

みんなならきっと大丈夫。


里保は気合を入れ直すと、次の打ち合わせに取りかかった




―――――――――――――


755 : 名無し募集中。。。 :2017/07/25(火) 19:16:28



生田邸

「侵入者かぁ〜、パパも大変そうやね。」

「優雅だね〜、えりぽんは。」

「えりは常に他人事やけんね」

「さすがえりちゃん。

そしてどーした、4人とも。」

揃ってピンポン玉をくわえる遥たちにたまらず香音がツッコむ。

「なんか、力まず魔力を使うための訓練らしいです。

 ピンポン玉で慣れたら次は生卵でやる予定です。」

「ふ〜ん、魔導士も大変だねぇ〜。

 まぁアタシもマッサージぐらいならしてあげられるから言ってね」

「鈴木さん上手だから好きですー!」

「あー嬉しい!いくらでもやったげるー」


756 : 名無し募集中。。。 :2017/07/25(火) 19:16:59

そんな優樹達をよそに優雅なティータイムを送る衣梨奈達に亜佑美が話しかける。

「まだ情報はつかみきれてないんですけど、

みなさんも夜とか外を歩くときは充分気を付けてくださいね。」

「聖と香音ちゃんはえりが送るよ。」

「ありがとう、えりぽん。」

聖が笑顔を返す。

「まぁでも今日は泊っていくやろ?」

「うん、そうするー」

聖は遠慮なく衣梨奈に甘えながら紅茶に口をつける。


その後も特訓に励む4人にちょっかいを出しながら、
生田邸では今日もにぎやかな夜を過ごしていた。


757 : 名無し募集中。。。 :2017/07/25(火) 19:17:42



「いやー、今日は暑いね〜。」

「どぅー、鬼ごっこしよう!」

「いや、今さ、今日は暑いって話してたじゃん。」

「こーゆー日は外で走り回ったりせずに、
室内で漫画でも読んで過ごすのも楽しいよ。」

二人の忠告に優樹がほっぺを膨らませる。

「いいもんねー!まさひとりで虫と鬼ごっこしてるもん!」

「え」

ギャハハと笑う優樹に一同は全く思考が追い付かなかった。


758 : 名無し募集中。。。 :2017/07/25(火) 19:18:37



「今のところ動きはありません。
ナキ子さんの牽制も効いているんでしょう。

 …はい、引き続き注意します。」


ここまで、研究所に目立った異変はない。

だがもし動きを見せるなら、
所員達がナキ子に慣れてきたこのタイミングだ。

矢島は再び気を入れ直した


759 : 名無し募集中。。。 :2017/07/25(火) 19:19:21

そんな矢島の気合をよそに
ナキ子はここの副所長と話をしていた。

「ナキ子、感動です!何度聞いても勉強になります。

 ナキ子も矢島ちゃんも機械は全くダメですから。

 副所長さんはお若いのにすごいですね」

「いや、べつに大したことじゃないですよ。まぁナキ子さんは
古き良き日本の文化を歌い継いでるってことですし、

昔の人には機械はムリってだけじゃないですか?」


「はい、古き良き日本の文化を歌い継ぐ、中禅寺ナキ子です!

あ、でも所長さんは機械苦手らしいですね!」

「まぁ時代の流れでしょうね。別に困りませんけど。」


腰が低くいつも笑顔の所長とは対照的に、
副所長は若く、そして少し不愛想だ。


760 : 名無し募集中。。。 :2017/07/25(火) 19:20:01

「あ、ナキ子さん、ちょっと鞘師さんが入ってるカプセル、

おもいっきり叩いたら鞘師さんびっくりしてくれるんじゃないですかね。


見てみたいな〜、鞘師さんがびっくりしてるとこ。」

「えー、それはやってみたい!」

ナキ子が目を輝かせる。
だが、その目はすぐに迷ってうつむいた。

「でもナキ子、やじまちゃんから
皆さんのジャマしないように、って言われてるんです…。」

「まぁジャマっていうか、
いたずらは息抜きにもなりますからねぇ。

ナキ子さんが貢献できるって言ったらそれくらいだろうし、
 ちょっと頃合いをみて驚かせてみてくださいよ。」

副所長の若干からかいの込められた言葉を、
ナキ子はやはりストレートに受け止める。

「たしかに、リラックスも必要ですね!

 …ナキ子、鞘師さんのために頑張ります!」

それを聞いた副所長は
珍しく笑い声をあげて研究室へと戻っていった。


761 : 名無し募集中。。。 :2017/07/25(火) 19:21:02

―――――――――――


762 : 名無し募集中。。。 :2017/07/26(水) 16:36:45


それは愛理が研究所近くの木陰で雑誌を読んでいる時だった。


突然、研究所から警報音が鳴り、
愛理の端末にも異常事態の一報が入る。

愛理はすぐさま研究所へと飛んだ。


「執行局、鈴木愛理です。」

局長が手を回しておいた特別パスで足早に警備を抜ける。

そのまま急ぎ足で二振りの刀を抜き、
勢いよくB.T.S演習室の扉を開く

「状況は?!」


763 : 名無し募集中。。。 :2017/07/26(水) 16:37:34


だがそこにいたのは、ひたすら謝るナキ子と矢島だった。

「ごめんなさい、ナキ子、鞘師ちゃんを驚かせようと思って…」

「本当に申し訳ありません。

 …ナキ子さん!あれほど言ったじゃないですか!」

「ごめんなさい。でもナキ子・・」

「言い訳は聞きたくありません。

 …愛理もごめん、ナキ子さんが間違えて警報鳴らしちゃったみたいで…」

矢島の話で状況を察した愛理が表情を和らげる。
「あー、そっかぁ〜。じゃあみんな大丈夫なんだ!

 よかったよかったー。」

この状況にひとまずは安堵する愛理。

じゃあこれにて、と軽く挨拶をして扉に向かう


が、妙な視線を感じて咄嗟に振り返る。


764 : 名無し募集中。。。 :2017/07/26(水) 16:38:06


「どうした?愛理」


全員の顔とその周囲を確認するも、怪しい人間は誰もいない。

全員データにあった面々だ。


「ううん、なんでもない。

 じゃっ、がんばってね、マネージャー!」




ここまで来るのに1分を切ってくるか。流石、速いな…。

騒動を静観していた副所長は、
自分の予測よりもはるかに早い執行局の到着に驚いていた。


それにしても鈴木愛理が来るとは厄介だ。

鈴木愛理と直接殺り合うのは現実的じゃない。
これはやはり事故に見せかけてカプセルごと潰すか、
研究所の外で奇襲をかけるか…。

「…長!…副所長!」

「ん、なんだ。」

「どうしたんですか?

 安全確認の書類です。ここにサインをお願いします。」

「あぁ、悪い。ボーっとしてた」

首をかしげる研究員をよそに

サインを終えると副所長はさっさと自室に戻っていった。


765 : 名無し募集中。。。 :2017/07/26(水) 16:39:02


「勉強は順調?聖ちゃん」

「うん、今日はえりぽんにいろいろ教えてもらったんだ〜

 えりぽん優しいんだよ〜」

それを聞いた衣梨奈が胸を張る

「褒められるともっと教えたくなるっちゃんね。

 えり、ちっちゃい子やったらもっと優しいよ」

そう言って屈託のない笑顔を見せる衣梨奈の隣で香音がリビングを見渡す。

「そういえば優樹ちゃん達は?」

「午後はレッスンあるんだってさ。
例の謎のトレーナーのとこ。」

「ふ〜ん、

 案外その人が侵入者やったりしてね。」

衣梨奈がいたずらっぽく笑う


766 : 名無し募集中。。。 :2017/07/26(水) 16:39:35

「まぁ調べつつ、みたいな感じらしいよ。

 すっごく個性的なレッスンだけど、腕は確かなんだってさ。」

「まぁ卓球のピンポン玉くわえるくらいやもんね。
 えり最初口からタマゴ生む魔法かと思ったもん」

「なにそれ、ツッコミどころありすぎでしょ。」

「まぁみんな頑張ってるみたいってことで。」

「え、まとめかた雑すぎじゃない?」

そう?と笑う衣梨奈を横目に

まぁいっか、とティータイムを始める香音だった


767 : 名無し募集中。。。 :2017/07/26(水) 16:40:09



次の日、


亜佑美は春菜の協力もあり、
少しずつ『侵入者』の情報を掴み始めていた。

そのアジトは街の反対側、
昼でも日光の届かない路地裏にあった。


「左手の4軒目が少し前まで空き家だったみたい。

 『新入りだからかやたらと人目を気にしてる』

 って近所の人が言ってたよ。」

近くの路地を歩きながら猫の春菜が囁く

「ほ〜ん、人目ねぇ〜。」

亜佑美も横目でちらちらと確認してみる

「空き家って言われても信じちゃうけどね〜。」

「じゃあ私はこのまま偵察してくるから、
何かあったらあゆみんよろしく。」

「任せなさい!きをつけてね。」

返事の代わりに鳴き声を返した春菜が塀を登り、路地裏へと消えていった


768 : 名無し募集中。。。 :2017/07/26(水) 16:41:46
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まだまだ終わらない…


769 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:15:27

ーーーーーーーーーーーーー




研究所

矢島が電話で抜け、1人になったナキ子に副所長が近づく

「ナキ子さん、1つ作業をお願いしてもいいですか。

コードをつなぐだけの簡単な作業です。」

手を後ろに組んだ副所長がニッコリと笑う。

と言っても所長のそれとは大分違うが。


「え、でも、ナキ子…」

「大丈夫ですよ。すごく簡単ですから。それに、

失った信頼は行動でしか取り戻せませんからね。」

その言葉にナキ子は顔を上げる。


「はい! ナキ子、みなさんの信頼を取り戻せるよう頑張ります!」


なんてチョロいやつなんだ

とまらないニヤニヤを必死に隠しながらレクチャーする。

まぁ、作業といっても赤と青のコードをつなぐだけ。
どんな素人でも、子供でもできる作業だ。

「しっかり覚えてくださいよ、大事な作業ですからね。」

満面の笑みでナキ子に語り掛ける副所長だった。


770 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:16:06
・・・・・・・・


「では、本日は魔力解放時の耐衝撃実験を行います。

 鞘師さんにはB.T.Sで魔力を全開にして戦ってもらい、

 外からの衝撃が演習にどれほど影響を与えるかを検証します。

 …と言っても、そんなに大きな衝撃ではないのでご安心ください。

 身体的衝撃は、最大でも肩をポンと叩くぐらいです。」

「わかりました。」

「鞘師ちゃん、頑張ってね!」

「ありがとうございます、ナキ子さん。」


「では、準備にかかります。」

所長の号令で一同が作業にかかる。

里保は1度だけ小さな息を吐き、カプセルへ入った。


771 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:17:09

「測定器のコードには問題なし。動作も確認済みです。」

検査を終えた副所長が顔を上げる。


「よし、では始めましょうか。」


それを合図に、まずはカプセル外部からの衝撃を与える。


「そこ、すこし強めにしてみてください

 …はい、OKです。」


カプセルは安全面を優先して設計されているだけあり、

カプセル外からの振動にはかなり良い結果が出ているようだ。


「では、次はカプセルを開けた状態で実験します。

 このまま開けると安全装置と警報が鳴ってしまいますので、
 一端演習を終了し、改めて警報等を切って再接続します。」

カプセルは閉めていなくてもシステム自体に問題ないらしい。


772 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:17:43


研究員たちはB.T.Sが停止すると同時に再び点検に入る。

里保もここまでは全く違和感を感じていないようだ。

まぁ、ナキ子がカプセルを叩いても気づかなかったのだから
わかっていたことではあるが。

「警報、安全装置、共に確認しました。測定器も確認済みです」

「わかりました。では鞘師さん、お願いします」


「じゃあ君らはこれを、君はこの装置を片付けといて。

 次の実験に移る前にきれいにしておきたいから。」

副所長が機材の入れ替えを指揮する。

「あ、君たち、次の機材を持ってきてくれる?

 うん、そう。
あと、もう一回検品するのも忘れないようにね。」

他の研究員もテキパキと対応する


773 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:18:18

「じゃあ、俺はこっちの操作するから…

 あ、みんな今忙しいのか。

 ナキ子さん、ちょっと手伝ってもらえます?」

「は、はい!なんでしょう?」

ナキ子が駆け寄る

「ちょっとナキ子さん!走ったら危ないです!

 それに副所長さんも、ナキ子さんに任せるのはちょっと…」

「大丈夫です、そこのコードをつないでもらうだけですから。

 実は昨日の準備の時にもやってもらったんですよ。」

エッヘンとナキ子が胸を張る

「やじまちゃんがやると
やじまっちゃうからね。ナキ子に任せて!」


774 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:19:01


「それはできません。」

「うんうん、頼ってくれてナキ子嬉しい…って、えっ、なんで?!」

振り返った先にいた矢島の顔は毅然としていた。


「所長さん、そこを調べてもらえますか」

「えっ? えっ??」

事態が飲み込めないナキ子をよそに
所長がコードの接続を確認する


「これは…!

 すぐに演習を中断、鞘師さんは外に。」

現場が急に緊張感を増す。


「ど、どういうこと?矢島ちゃん…」

怯えた顔のナキ子に、所長が説明を代わる。

「ナキ子さんを使ってカプセルを爆発させる気だったようです。

 研究員なら誰でも気づくようなトリックですが、

 素人のナキ子さんを使えば
事故に見せかけることができると考えたんでしょう。」


やや早口で説明を終えた所長が副所長に向き直る。

そこにいつもの柔らかい表情はなかった。


775 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:19:44

「お前は…、

人を何だと思ってるんだ!!」

所長の剣幕にも副所長は顔色一つ変えず、床を見つめていた。

「なんで…、

なんでこんなことを…」

「うるせえ!!!!」

突如、副所長が制止を振り切り
里保に向かって突進する。

だが目にもとまらぬ速さで喉元に刀を向けたのは矢島だった。


「させませんよ。」

「クソッ、どけよ…!」

「どのみち、あなたでは鞘師ちゃんに勝てませんよ。

それに、ナキ子さんを利用したのも許せません。」

矢島は淡々と説明していたが、
その眼光は鋭く、怒りに燃えていた。

だが副所長はそれをあざ笑うかのように言葉を吐き捨てる。

「利用される方が悪いんだよ。バカだから。」

「ナキ子さんはそういう世界に生きる人とは違うんです。

 あの人にはあの人の世界があります。

 じゃないと日本の心なんて歌えませんよ。」

だが副所長は理解できんというように首を振るだけだった。


776 : 名無し募集中。。。 :2017/07/28(金) 01:20:37


「…てか、

お前らなんでわかったの?」

珍しいものを見るような目で副所長が周りを見渡す。

「このマネージャーはまだしも、

お前らやコイツはお前らの任務とか聞かされてなかったんだろ?」

副所長は軽蔑ともとれる笑みを浮かべながらナキ子を指さした。


「前回の騒動の時、愛理の助言で
 ナキ子さんからその時の状況を聞き取りしたんです。」

矢島は冷静に続ける。

「普通なら冗談を真に受けた『いつものバカな行動』だと流すところですが、

愛理のおかげで先入観を捨てて考えることができました。」

『いつもの』、そして『バカ』という言葉に反応したナキ子を横目に矢島は淡々と続ける。

ナキ子に職員との会話内容を逐一確認していたこと、
防犯カメラで片っ端から視線をチェックしていたこと、

そして明らかに敵意を持った目を見つけたこと。


「まぁ、会話の確認といっても
ナキ子さんは世間話程度にしか思っていませんでしたけどね。」

やれやれというように話を聞いていた副所長の姿は、

ようやく自らの負けを認めたようにも感じられた。


「執行局は鼻も効くってのは、どうやら本当らしいな。


 …だがなぁ、 俺を捕まえても同じことだ。

もう、手遅れなんだよ。」


「どういうことですか?」

矢島の表情が変わる。


「バカかよ、んなこと言うわけないだろう。


 …だが安心しろ、直にわかる。」

不敵な笑みを浮かべて副所長は連行されていった。


――――――――


777 : 名無し募集中。。。 :2017/07/31(月) 12:20:51


副所長が連行された後の所内は重い空気に包まれていた。


「まさか、本当に彼が犯人だったとは…。

 今でもまだ信じたくない気持ちと、
隣にいたのに気づいてやれなかった後悔と、

 本当に残念です。」

所長の表情は曇っていた。


ムリもないことだった。


「最後まで信じたいという気持ち、強かったですもんね…。

 
…ただ、ごめんなさい。

彼の最後の言葉が気になります。

手遅れ、というのがどういう意味なのか…。

 すみませんが、
引き続き調査をお願いします。」

「もちろんです。

彼を科学者として育ててきたのは私です。

責任をもって、務めさせていただきます。」

所長は深々と頭を下げた。


778 : 名無し募集中。。。 :2017/07/31(月) 12:23:30


協会の知らないところで何かが走り始めている。
舞美はそんな気がしていた。

副所長の発言が本当ならば、今回の事件に絡んでいるのは彼だけではない。

共犯者が別のプロジェクトにいるのだろうか。

…だが、「もう遅い」というのも引っかかる。

彼はあくまで小手調べで、
この先に彼よりも大きな事件が待っているということだろうか。



…状況が全く読めない。
それは非常に厄介であり、不安なことだった。


「矢島さん、ありがとうございました。」

額にしわを寄せて考え込んでいた舞美に声をかけたのは里保だった。

「あぁ、鞘師ちゃん。

異常はない?大丈夫?」

「はい、大丈夫です。」

「よかった。
これでようやくM13地区に戻れるね。

 たぶん戻ってからも調査とか大変になると思うけど、頑張ってね。」

「はい、矢島さんもありがとうございました。

 もし、足手まといじゃなかったら、
何かわかったら連絡してもらえませんか?

人手が必要なら力になりたいです。」

その目はまっすぐ舞美を見ていた。


「うん、鞘師ちゃんが手伝ってくれるなら心強いな。


じゃあ…、何かあったら頼っちゃうね!」

里保が力強くうなずく。


「じゃあ、気を付けてね。」

笑顔で手を振る矢島に、

里保は一瞬見惚れながらも
深く礼をして帰路へとついた。


779 : 名無し募集中。。。 :2017/07/31(月) 12:24:03


歩き進めるにつれ、里保の足取りは軽くなっていった。

いろいろと考えることは多いけれど、

でも今はそれよりも、

衣梨奈やみんなのことで里保の頭はいっぱいだった。


やっと帰れる。みんなのもとに。


…ウチのこと、忘れられてないかな?

ないない、と首を振って、
里保は帰り道を急いだ


780 : 名無し募集中。。。 :2017/07/31(月) 12:24:59
・・・・


「あ、みなさん!局長から連絡です。

 鞘師さんが帰ってくるみたいですよ!」

その言葉に皆が一斉に声を上げる

「ちゃんと帰ってこれますかね〜、鞘師さん」

「まぁ、家には着くっちゃろうけど傷だらけだったりして。」

「え、待ってどんだけコケんの里保ちゃん」

「まぁ鞘師さんは飛んで帰ってこれますからね〜。」

「でもやすしさん飛んでるうちに寝ちゃうんじゃない?」

「いやさすがにそれは、……あ〜でも、

いやぁ〜、ないでしょ〜。」

「あ、やっぱり悩むんですねそこは」


一同は話に花を咲かせながら
里保の帰りを心待ちにしていた。


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781 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:12:08




「さーあ、みんな。今日はこの地域のお掃除をしまーす。」

「おぉ〜、これはなかなかに大変そうですね、ももち先輩。」

帰路へ着く里保と時を同じく、

カントリーガールズの一同は
協会主催の地域清掃イベントへ駆り出されていた。

地域貢献と同時に、協会への親しみを持ってもらおうというこの企画だが、

今回の担当地区は少々寂れた街はずれ。
小さなごみだけでなくボロボロの車まで捨てられている始末だ。


「なーにいってんの、
こんなのトレーニング代わりにもってこいじゃないの。

じゃ、大きいのは皆に任せるから。

いつ任務が入るかわからないから魔力は使いすぎないこと!

じゃあよろしく〜」

そう残すと、ももちはさっさとちびっこ達のもとへ行ってしまった。


782 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:12:38

「魔力温存しながらって、ももち先輩じゃないのにムリでしょ〜。」

舞が頭を抱える。


「ん〜、どうしよっか…」


ドカン!

大きな音に顔を上げると、

「とりあえずパンチしてみた」

と知沙希が笑ってこちらを見ていた。

「チャレンジ精神、勉強になります!」

ウンウンとうなづく奈々美の横で
梨沙が「そっか」と声を上げた。

「ぺっちゃんこにする必要はないんだ。

 ただ、トラックに積み込みやすくすればいいんだよね。」

そうつぶやくと、車の周りをぐるぐると回りながら説明を始める。

「こことこの部分を壊しちゃえば屋根が取れるから、
 あとはここと、ここと・・・」


783 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:13:10


終わってみると、梨沙のおかげで魔力を大分セーブすることができた。

「いやー、頭を使うとこんなに楽になるとは、さすが梨沙ちゃんだね。」

「ももち先輩、ここまで考えて私たちに任せたのかな?

 やっぱりすごいな〜、ももち先輩は。」

「とか言って、実は何も考えてなかったりして」


「おつかれ〜、

わぁ〜、みんなすごいじゃ—ん、よくできたね〜。」

心地よい疲れを共有するメンバーのもとに、
桃子が軽い足取りで合流した。

「あ、ももち先輩、ちょうどいいところに!

 ももち先輩はこういうやり方を私たちに学ばせたかったんですか?」

「ん? やりかた?」

桃子が丸い目をしてメンバーと車を交互に見る。


「…あぁ!

そうだよー? よくできたね〜、みんな。」

「え、今最初ピンときてなかったですよね」

「いや、梨沙ちゃんの話が分かりにくかっただけ。」

「やっぱりももち先輩ちびっこ達と遊びたかっただけでしょ〜!」


784 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:13:52

「はいはい、じゃあももちはちょっと先に戻るから。

 みんなは気を付けて、注意を怠らないよう、帰ること!!」

「はい!!!!!!」


和気あいあいとにぎやかなチームが帰路につく。






「そういえば、鞘師さんがB.T.Sで単独試験やったらしいね、まなかん」

「うん、まなかも見学したかったなぁ〜」

「鞘師さんって、M13地区に石田さんと常駐されてるんですよね?」

奈々美が話に入る

「あ、知ってる!

M13地区って、もんのすごく怖いところだって聞いたことあります」

「あそこは協会の支部がないからね。

まなかも詳しくは知らないんだけど、特別な任務なんだと思うよ。」


785 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:14:53

「鞘師さんってお強いんですね。私も是非お話ししてみたいです。」

「まなかもまたお話ししたいなぁ〜。

 でも憧れの鞘師さんが目の前にいらっしゃったら
まなか緊張してしゃべれないかなぁ〜、
も〜うどうしよー梨沙ちゃあ〜ん」

デレデレしながら寄りかかってくる愛香に梨沙が笑顔を返す。

「じゃあ、稲場さんが思う鞘師さんのかっこいい瞬間ってどこですか?」

「えーー、そんなの決めらんないよ〜!

 ん〜〜、でも〜〜」

目をつぶってウンウンと悩んでから再び愛香が顔を上げる

「いっぱいあるんだけど、例えば〜で言うと、魔力を集中するときかな!」

愛香が実際にそぶりを見せながら説明する

「こうやってね、スッ! って感覚を研ぎ澄ませるときの鞘師さんが…」

と、愛香のテンションが変わる


786 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:15:55

「ちぃたん、後ろから何人か来てる?」

その声に全員が神経を集中させる

「後ろから7人、

 ……待って、右からも4人、微かだけど来てる!」

「2人1組で展開するよ。常に両方向に対応できる陣形で。

 適宜、お互いの連携を活かして行こう!」

「了解!!!!!」

梨沙と結、愛香と知沙希、舞と奈々美が
それぞれ魔力を高めながら展開する。

相手もこちらの動きに気づき、魔力を高める

その間に梨沙は手早く桃子にコンタクトを図っていた

「みんな、来るよ!」
知沙希の警告直後、

加速した相手7人が一気に梨沙との間合いを詰めていく


だがここは想定内、すかさず愛香・知沙希ペアがカバーに入り、
広く雷撃を張った知沙希の攻撃をかわした2人に愛香が接近戦を仕掛ける

「何者ですか?」

愛香の攻撃に対応しながらも、相手からの返事は無い


787 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:16:37

「後ろがガラ空きです」

愛香に引き付けられた2人の背後から結が急襲し、手早く片付ける


「梨沙ちゃん、左!」

大きく回り込んだ敵が梨沙に斬りかかる

と、横からの雷幕に寸でのところで急停止する

「ちぃさんきゅー!」

一瞬の隙をついた梨沙が華麗な回し蹴りを決めた


「おい、話とちげぇぞ」
ここで新たに4人の魔導士が敵に追いついた

「イレギュラーが考えられるって言ってたろ、勢いに飲まれるな」


「話、って何のことですか?」

「チッ、行くぞ!!」

再び態勢を整えた8人が分散する


788 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 13:18:23

「ちょっと、やなみんこれ相手本気で潰しに来てるよね、暗殺だよねこれ」

「はい、小関さん。かなり本気みたいです。

 向こうも訓練されたチームですね」

舞と奈々美は少々手こずっていた。

どうも相性が悪いようで、攻撃がいなされてしまう。

「ちぃ、舞ちゃんのカバーお願い!

みんな、連絡は取れたよ!」

素早く陣形を整え、敵の攻撃に応戦する

だが皆は敵が散開してからの戦いにやや苦戦を強いられていた。

結と愛香の接近戦も見切られ気味で充分に押せておらず、
その分カウンターを警戒して迂闊に攻められない状態だ。

舞と奈々美の方は知沙希との連携で若干押しているものの、
そこからの接近戦でやや粘られている所がある。

これが経験の差、というものだろうか。
だが、ならば尚更相手の経験を上回る攻めが必要…


789 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 14:44:02

「フォーメーション変える!

 ちぃ!!」

それを合図に梨沙と知沙希が飛び出し、
再びの雷幕で今度は相手4人の前に出る。

知沙希と梨沙が2対4で敵を引き付ける隙に
他のメンバーが残った敵2人に対して連携で猛攻を仕掛ける。

「俺らは足止めか…! ナメんなよクソガキ共が」

相手の魔力が高まる。ここからは持久戦だ。

梨沙は再び集中力を高めた

・・・・・・・・・・・・


同時刻、魔導士協会執行局


「局長!カントリーガールズに襲撃です!

 嗣永さんが連絡を受けてすぐ向かいました!」

「周囲に出動チームと協会支部がないか確認急げ。

他のチームにも警告を発令。警戒怠るな。

それと交戦地域で犯罪が起きてないか確認も忘れるな。
襲撃が囮だとしたら時間との戦いだぞ。」

局員たちが慌ただしく動く中、局長は努めて冷静に指示を出していた。


790 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 14:44:34

執行局員への襲撃は仕事がら有り得ることだ。
そしてそれに関連した被害を最小限に抑えるのが局長としての仕事である。

と、そこに再び協会への緊急連絡を知らせるアラートが鳴り響く

「山木か!?」
生田の頭を嫌な予感がよぎる

「いえ、違います。こぶしから緊急連絡!

 任務地周辺で襲撃を受け交戦中!相手の数は15です!」

局内の緊張感が一層高まる。

同時刻に2チームを襲撃。

偶然などと楽観視するものは誰もいなかった。

「本気で戦争仕掛けるつもりかコイツら…」

生田の表情が鋭さを増す

「局外にいる全ての構成員に緊急事態を宣言、

 全チームの現在地と支援ルートを策定しろ。

 協会内にも非常警報を出せ。協会内外の警備だ」

生田は嗣永へと連絡を繋いだ。

「嗣永、あとどれくらいで着く?

 あぁ、こぶしも襲撃を受けて交戦中だ。

 おそらく、B.T.Sでの一件が引き金だ。

 お前はチームに合流後、安全を確保した後こぶしのフォローに回れ。

 こっちからも行かせはするが、できるだけ急いでくれ。」


と、通信の最中に再び、緊急連絡を知らせるアラートが鳴り響く。


791 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 14:45:28

「つばきから、支援要請です。

 敵の数は15以上、チームは2つに分かれて交戦中。

 場所はG14地区22番地周辺です。

 状況は劣勢、早急な支援求むとのことです。」

「G14の支部に連絡!周囲の局員も回せ!」

やはり来た。

だが執行局の精鋭チームをこうも手こずらせる相手とはいったい何者だ…。

と、端末越しに連絡を聞いていた桃子が声を上げる。

「局長、待って今どこって言いました?!」

「G14地区22番地だ。協会からじゃ遠すぎる場所だ。」

「……あー、
じゃあ大丈夫かも」

予想外の返答に一瞬思考が停止する。

「局長、そっちは支部と私に任せてください。
執行局オタに任せますので。

…はい。なのでつばきのみんなには5分粘ってもらってください。

あと局長はこぶしと鞘師ちゃんのフォローを。では。」


要点を素早く伝えると、桃子は手早く電話をかけ直した。


792 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 14:46:07

「あ、急にごめんね。

うん、久しぶり〜。

あのさー、
ちょっと緊急で救出任務頼まれてくれない?」



・・・・・・・・


「次!閃光弾試すよ!」

言い終わると同時に辺りがまばゆい光に包まれる。

つばきファクトリーのメンバーたちは瞬時に散開し、フォーメーションを作る。


が、それを知っていたかのように相手は閃光の中でもメンバーの背後を取ってくる

「なんで…!?」

どの陣形もフォーメーションも攻勢に転じることができない。

それは最早経験の差云々の話ではなかった。


793 : 名無し募集中。。。 :2017/08/04(金) 14:47:59

「強すぎる…」

自分たちの連携が通じない状況で、
チームは防戦以外の術が見つけられなかった。


と、リーダー・山岸理子の端末に局長からの連絡が入る

「局長、攻撃が通じません!!」

理子に説明できるのはそれだけだった。

「落ち着いて聞け。

通じないのは実力の差じゃない。B.T.Sだ。」


B.T.S…?

最初、理子には全く見当がつかなかった。
だがその疑問はすぐに晴れた。

「B.T.Sの演習データが漏れた可能性がある。

 お前たちが演習で使った戦術はすべて研究されていると思え。

 だが5分もすればこっちからの支援が着く。

 5分粘れ、山岸。できるな?」

「やります。」

理子は通信を切り、小さく息を吐いた。

「演習でつかった戦略は全部使えない。

でも…」

理子はまっすぐに敵を見据える。

「がんばるよ、みんな!」


ーーーーーーーーーーーー


794 : 名無し募集中。。。 :2017/08/06(日) 15:31:10



演習で手の内をほぼ晒してしまっていたこぶしとつばき。

だが、それとは対照的に
ほとんど手の内を見せなかったチームもあった。


「みんな、ももち先輩から!」

梨沙が敵の足止めをしながら声を上げる

「敵はB.T.Sのデータでうちを研究してる!

 だから、私たちはチームワークで対応するよ。

 固まって、一気に行く!」

それを合図に足止め役の梨沙と知沙希が攻撃役に合流、挟み撃ちをかける

敵も二刀流で応戦するが、
前後が入り乱れる攻撃に次第にダメージが増えていく。

「無視すんなって!」

敵も慌ててカバーに入ろうとするが、
飛び出してきた舞の刀に気を取られて一瞬注意を怠った。

「後ろ!!!」

ハッと気づいた時には、もう既に結の術中。

振り返ることすらできず、その場に崩れ落ちた。


「こっちもオッケーだよ」

猛攻に耐え切れなくなった敵2人を片付けたまなか達が合流する。


795 : 名無し募集中。。。 :2017/08/06(日) 15:31:43

完全に勢いに乗ったカントリーガールズを前に、
残った相手はもはや戦意喪失していた。


「…撤退だ。」


じりじりとあとずさりする敵を
逃がすまいとタイミングをうかがう。



知沙希もメンバーと共に相手の出方をうかがっていたが、

知沙希の集中を強烈に乱す何かに気づいて神経を研ぎ澄ませる。


それは大きくて、まがまがしくて、
もの凄い勢いでこちらへ迫ってくる。


恐ろしい魔力。

だけど、
知沙希はこの災厄ともとれる魔力に
自分の胸が高鳴るのを感じていた。


知沙希の赤くなる顔に気づいた梨沙・愛香をはじめとして、
メンバーの表情がどんどん明るくなる。

その異変にようやく気付いた敵がなりふり構わず逃げ出すも、
『それ』は圧倒的なスピードで敵に振り掛かってきた。


衝撃と砂煙。


煙の晴れた先に立っていたのは、

とてつもなく冷たい目で敵を見下ろす桃子の姿だった。


「ももち先輩!!!!!!」


796 : 名無し募集中。。。 :2017/08/06(日) 15:32:18


みんなの声を聴いた桃子の表情は一瞬暖かくなったが
すぐに怒りをまとった災いへと姿を変えた。


「あんたたち、誰に手ぇだしてんのかわかってんでしょうね?」

心の中から凍ってしまうのではないかと思うぐらいに冷徹な、
何の容赦もないとはっきり分かるその桃子を、

メンバーの皆も真剣な表情で見守っていた。


「すいません、すいません…。

 も、もうしませんから…。二度と手ぇ出さないですから…」


必死に命乞いをする男に桃子がしゃがみ込む。


「当たり前でしょ。」



そのまがまがしい魔力を目の前にして、
男はもはや正気など保ってはいられなかった。


797 : 名無し募集中。。。 :2017/08/06(日) 15:32:51


梨沙たちはまじまじと見せつけられていた。

これが嗣永桃子の怒り。力。

魔法を使うまでもなく、
その圧倒的な魔力だけで相手を飲み込んでしまう。

自分たちとは途方もなくかけ離れた場所を歩いている存在。


だが、それを実感すると同時に、
皆それぞれに、自分が目指す先を再確認していた。


その巨大な力に憧れる者、頭の回転の速さと対応力に憧れる者、
桃子の内に秘める優しさに憧れる者、ストイックな姿に憧れる者。

それぞれが内に秘める桃子への、
理想の魔導士への熱い情熱が沸き上がっていることを感じていた。



「みんな、遅くなってごめんね。」


目の前には、優しい笑顔を向ける桃子がいた。


皆が一斉に走り出し、桃子に飛びつく。


それをまんざらでもない笑顔であやしながら、
桃子は一時の幸せをかみしめていた。


「みんな頑張ったね。ももちも感心!
 
こんなにみんなが頼もしくなるなんて、ももち思ってなかったよ…。」


桃子は再び皆を抱きしめ、大きく息を吐いた。


798 : 名無し募集中。。。 :2017/08/06(日) 15:58:28


「よ〜し、じゃあみんな、
他のチームは一応救援が行ってるみたいだけど、

でもやっぱりうちらが助けに行かなきゃだからね、急ぐよ!」

「はい!!!!!!」


一同は自然と軽くなった体でこぶしのもとへと向かっていった。




・・・・・・・・・・


同じ頃、つばきファクトリーもその勢いを増していた。

連携が見切られ焦りはしたが、
種が分かればこちらも執行局。

個々のスキルとチームワークを活かした即興の連携とで
徐々に主導権を握りつつあった。


「みんな、油断しないでね!」

心を緩めず相手を警戒していた理子達だったが、

こちらも急速に接近する魔力に表情が明るくなる。


「来た!!!」


もとは執行局員として、
そして今は魔法の開発研究見習いとして
研究にいそしんでいる魔導士。


「ごめんおまたせ。

 でもやっぱり押してるみたいで流石執行局だなぁ〜。」


799 : 名無し募集中。。。 :2017/08/06(日) 15:59:07

「福田さん!!」


つばきからの声援にまんざらでもないドヤ顔を見せた福田花音が
一気に相手の撃所へ入り込む。


氷を纏った一発を相手の腹に打ち込むと、

横から迫る刀を瞬時にかわして回し蹴りを放つ。

一発一発が力強く、そして重い攻撃だ。

「じゃあこれ試してみよっかなぁ。」

次々と攻撃を放ちながらも、
花音は魔法の属性・性質をさまざまに変化させている。


「ちょっとガード堅いな、じゃあこれでどう!」

囲まれながらも炎弾を放ち、爆発させる。

「あんたたち、
手の内知らない相手にはぜんっぜん張り合いないわね!」


いや、これは手の内の問題ではない。

おそらく敵が花音のデータを持っていたとしても、
全く対応できずに終わってしまうだろう。

それだけ福田花音が強いのだ。


これがかつて神童と呼ばれた魔導士の力。

Factoryの意思を知る者の実力。



戦いは瞬く間に終結した。

だがそのたった数分の戦いは、

つばきファクトリーの皆にとって
永遠に忘れられないほどの衝撃を残していた。


今度は、自分たちが。


皆が、その拳を固く握りしめていた。



――――――――――


800 : 名無し募集中。。。 :2017/08/06(日) 17:03:16
新スレ
娘。小説書いた!『魔法使いえりぽん』73
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1502005895/


801 : 名無し募集中。。。 :2017/08/08(火) 13:24:18
やっと追いついた…

>>714
新作来てて嬉しい!一気に読ませて貰いました…スピード感ある戦闘シーン良いですね〜
でも唐突のナキ子と菅井ちゃんに混乱w


>>654
ももち最終章…心待ちにしてます
物語の行く末をこの目にするまでは『8人の幼い魔女達』にかけられたら魔法は解けないのだから・・・


802 : 名無し募集中。。。 :2017/08/10(木) 22:09:31

ナキ子と菅井ちゃんはホントにただただ出したかっただけです。(笑)


803 : 名無し募集中。。。 :2017/08/10(木) 22:10:23
・・・・・・・・・


「鞘師ちゃん!」

「鈴木さん!状況は!?」

こぶしファクトリーのもとへ向かう道中、
里保と合流した鈴木愛理は現状を手短に説明する。


「…そうですか、じゃあ、あとはこぶしファクトリーだけですね。」

「いや、鞘師ちゃんとこぶしのみんなだと思うよ。

 鞘師ちゃんもB.T.S入ってたでしょ?」

「たしかに、そうですね。

 でも、鈴木さんと一緒にいるところを狙ってくる人なんて
なかなかいないですよ。」

警戒はつづけているが、
鈴木愛理と鞘師里保が揃う場面で襲撃などというのは
よっぽどの物好きだけだろう。


ほどなくして、二人はこぶしファクトリーの魔力をとらえた。

「みんな頑張ってるね。ほんとフナフガフナフガフガ…」

「あ、はい、そうですね。」

「じゃあ、ちょっとがんばろっか。」

二振りの刀を抜き、愛理の顔つきが変わる。

戦士の顔だ。

愛理の迫力に
里保の胸が大きく高鳴なる。

「はい。」


804 : 名無し募集中。。。 :2017/08/10(木) 22:10:59

里保は不謹慎にもこの状況に喜びを感じていた。

鈴木愛理の持つ技術全てを盗んでやろうと、
全てのシーンを見逃すまいと、

その小さな眼をハンターの如く鋭く見開いた。



・・・・・・・・


「増援来たよ!」


「鞘師さんと鈴木さんだ!!」


その名前に敵が動揺する。

だが逃げ出す暇もなく愛理が敵に突っ込み、

閃光の如きスピードで敵を切り抜く。

そこへ負けじと
里保が炎を纏った刀で敵を振り抜く。

こちらはパワフルに、勢いで敵を圧倒していく。


「鞘師ちゃんパワーあるね〜!

でもあんまり飛ばしすぎちゃうとバテちゃうよ〜?」

なめらかな刀さばきで敵を倒しながらも
愛理の動きは軽く、ムダがない。

「せっかく風を読むのが上手いから、
流れに上手く合わせたらもっと省エネで行けると思うよー。」


805 : 名無し募集中。。。 :2017/08/10(木) 22:11:31

そう話す愛理の立ち回りを今一度注視してみると、

なるほど、戦闘の衝撃や力の流れを上手く利用して
自身のスピードを上げているようだ。


太刀筋を完璧に見切ろうとするのはリスキーだが、
流れを利用するということなら風の魔法で鍛えている。

そうときたらまず風の魔法で補助をしながら
相手の攻撃に動きを順応させていく。

1人目は勢いを殺してしまって結局力で押し切りもしたが、

敵の動きから生じる微細な風に意識を傾けることで
だんだんとコツを掴んできた。

この調子でもう少し慣れていけば
完全にモノにできそうだ。

「やっぱりセンスいいね!

でも残念、続きは訓練でね!」


振り返ると、既に仕事を終えた愛理がこちらに笑顔を向けていた。


「みんなも無事みたいだし、こっちはこれで大丈夫そうかな。

 他のチームも制圧したよ。」

「はい、いろいろ教えていただいてありがとうございました。」

「鞘師ちゃんの覚えが良いからだよ〜。
また何かあったら頼っちゃうね〜!」

愛理の笑顔はいつ見ても癒される。

戦闘の疲れが吹き飛びそうだと里保は思った。


806 : 名無し募集中。。。 :2017/08/10(木) 22:12:10


「愛理〜!

 お、うちでももちの次ぐらいに人気のある鞘師ちゃんも!」

里保たち一同に合流したのは桃子だった。

と、笑顔で手を振りながら二人を通り過ぎて
拘束した敵の前に進む。


「あんんたたち、誰の差し金?

 てか次どこ狙うの?」

はぐらかそうとする敵を恐ろしい笑顔で黙らせる。

「ももちー、教えてほしいんだけど?」


後ろから見ている里保ですら背筋の凍る桃子の語りかけに
敵も顔面蒼白だ。

「ほらもも、かわいそうだから。」

仕方ないと言うように愛理が止めに入る。

「ごめんなさい、ももはキレると止めらんなくなっちゃうから、
 皆さんのためにもしゃべってもらってもいいですか?」


愛理の控えめなお願いに、
先ほどまでの抵抗がウソのように敵が一斉に口を割り出した。

桃子は少々不満そうだったが、

おそらく北風と太陽の効果でうまく話を聞きだしたのだろう。


807 : 名無し募集中。。。 :2017/08/10(木) 22:12:45


「あの、詳しくは知らないですけど、

 でも、協会を挑発してからM13地区におびき寄せるってことは聞いてます。」


……ん?


「そうそう、怒り狂って怒鳴り込んできたところを逆手に取るって。

 うちのボスがもう張り切っちゃって、めちゃくちゃでかいことやるんすよ俺ら。

 なんかもう国作るみたいな? やべーっしょ。」


桃子が男の胸ぐらをつかむ。

「知ってること全部話して。」

「いや、俺らも下っ端なんでこれぐらいしか知らないんですよ。

 …いやホントですって!勘弁してください!」


「鞘師ちゃん…!」

里保は既に亜佑美へと連絡を取っている所だった。

「鞘師ちゃん、危なくなったら撤退しなよ。」

「はい、でもできるだけ私達でやってみます。

 皆さんは、M13地区には…」

「悪いけど、ももちも愛理も
危ないと思ったらM13地区の敵全員倒すから。」

この二人ならやりかねない。でも…


808 : 名無し募集中。。。 :2017/08/10(木) 22:13:31


「ありがとうございます。でもすみません、

できるだけ任せてください。」


里保の決意は固かった。


「あ、亜佑美ちゃん、異常はない?

 …うん、警戒の連絡は行ってると思うけど、
 
次はM13地区かもしれん。

うちも急いで戻るけど、それまでみんなのことお願いね。」


通信を切ると、ちょうどカントリーガールズも合流したところだった。

「みんなも来たし、後は任せて。」

「はい、ありがとうございました。

 …失礼します!」


里保は再び魔力を開放すると、急いでM13地区へと飛び立った。



・・・・・・・・・・・・・・


809 : 名無し募集中。。。 :2017/08/14(月) 22:47:23






その頃、M13地区の生田邸では
里保からの突然の知らせで大騒ぎになっていた。


「ちょ、あゆみん狙われんの?

 ってなったらあゆみんがいるココに来るってことだよね?

 てことはハルたちも戦闘?!」


「私戦闘魔法は得意じゃないんですけど、
猫の姿で譜久村さんにだっこして頂いててもいいですかね。」

「でもなんでここなの?

 そんな狙うような理由なくない?」

「亜佑美なんかしたんでしょ。

 どーせまたどっかでケンカ売って来たんじゃないの?」

「いやケンカ売ったこと一度もないから。

 でもみんなホントに家から出ないでね。
 何かあったら、私がみんなを守るから。」

「いやあゆみんそれはないね。」

「え、なんで。」


「ハルたちだってみんな守りたいと思ってるし、

 大体あゆみん1人じゃ大群が来たらもたないでしょ。

 譜久村さんと鈴木さんはハルたちみんなで守るんだからね。」


たしかに、そうだ。

執行局員として自分が、と力んでいたが、

ちょっと空回りしていたようだ。


810 : 名無し募集中。。。 :2017/08/14(月) 22:47:55


「まぁでも、どぅーが言うと中二病っぽく聞こえるけどね。」

その一言で皆に笑顔が戻る。



「さぁ〜て、作戦会議といきますか!」


もう皆の表情に、先程までの慌てた様子はなかった。


いい顔してるな。

聖は皆の頼もしさに笑みがこぼれそうになるのを引き締めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・


春菜が敵の偵察へと向かう間、

他の皆は戦闘場所の選定と
協会や里保から送られてきた資料の分析を行っていた。


「…つまり向こうの目的は、ここに協会の魔導士を侵入させることで
 街の犯罪者の人たちと戦わせようってこと?」

「たぶんね。

 協会が負けるとは思えないけど、

 それでも本気で街を制圧しようと思ったら犠牲が出るから…。」

「たとえわたしと鞘師さんが無事だったとしても、

M13地区は協会と敵対する大きな組織になっちゃうってこと…?」

「でも、だからってハルはあゆみんを犠牲になんてしたくないから。

 この街全部が敵に回っても、
ハルは絶対あゆみんのこと守ってやるから。」

「大丈夫、それはここにいるみんなが同じ気持ちだよ。」

聖が遥の肩に手を置く。


811 : 名無し募集中。。。 :2017/08/14(月) 22:48:35


「…でも、そうなってくると厄介だよね。」

「…うん。」


誰も犠牲にすることなく亜佑美を守るためには
自分たちだけで敵を倒すしかない。

それも、相手の強さはおろかまだ数さえも分かっていない敵。


「でも、やるしかないっちゃろ?」

不意に衣梨奈が口を開く。

「みんなを守るための方法がそれしかないんやったら、
 
 もうその方法でやるしかないやん。


 心配せんでも、みんなが無理な相手は
えりが全部やっつけてあげるけん。」


衣梨奈が皆に笑顔を向ける。

これはその場しのぎのものではなく、
衣梨奈は本気で言っているのだ、と
皆はその笑顔を見て確信していた。


と、そこへ春菜から連絡が入る。


「おまたせしました。
みなさん、わかりましたよ。

敵の数は大体ですけど50はいます。

イメージとしては、ならず者と傭兵の中間ぐらいです。

それが私とあゆみんが見つけた複数のアジトに分かれて準備しているみたいです。

さすがにもうコソコソしていないので割と簡単に調べられました。

あまり時間は無いみたいで、
おそらく準備でき次第向かってくると思います。」


戦闘魔法をあまり得意としない春菜を抜いた現状の4人で戦うには数が多すぎる。


「1人当たり12人以上か。」

「じゃあえりはとりあえず半分くらい倒すね。」

「いや、いくらえりちゃんが強くても、

 後から増援とか来ちゃったらバテちゃうんじゃないの?

 それこそ、この街の人が加勢してくるかもしんないんだよね?」

「えり身体は丈夫やけん。」

衣梨奈が笑ってみせる。


812 : 名無し募集中。。。 :2017/08/14(月) 22:51:26


「あの、その話なんですけど…」

端末越しに春菜が会話を遮る。


「あの、そこは、

…ワタシに任せてみてもらえませんか?」

突然の提案に一同が首を傾げる。

「はるなん、なんかいい策でもあると?」


「確証はないんですけど、たぶん、

いやきっと、大丈夫だと思うんです。

それに上手くいけば、いろいろと事が上手く運ぶと思います」

遥や聖が策の内容を聞きたいという思いに駆られる中、
衣梨奈はいつも通りに応答していた。


「任せていいん?」

「はい。あ、これはまーちゃんにも手伝ってほしいんだけど、いい?」

「んー、いいよ〜。」

こちらもさらっと返事する。


このあまりにも軽々しいやり取りは
聖たちには到底理解できなかったが、

それでも彼女たちの間には
独特のリズム感というものがあるのだろうとみな理解することにした。


「じゃあ、みんな場所も策も当てができたことだし、

 そろそろ移動する?」

聖が遠慮がちに皆をまとめると、

なんとなくではあるが
皆が己の役割を確認しながら準備を始めたのだった。


まずは里保が来るまでの時間稼ぎ。

そして里保が到着次第一気に攻勢に出る。


そしてその他の懸念は春菜の策に据えて委ねる。


相当粗削りな戦略ではあるが、

それでも皆がのびのびしている分
それは適切なのだろうと聖は自分を納得させた。


「じゃあ、みんな。

 怪我、無いようにね…。」

「はい!!!!!」


それぞれが不安を抱えながらも、

皆は各々の準備にかかって行ったのだった。


・・・・・・・・・・


813 : 名無し募集中。。。 :2017/08/15(火) 01:14:57
はぁー次の展開が楽しみすぎるっす


814 : 名無し募集中。。。 :2017/08/15(火) 06:45:39
こっちの聖はただ守られるだけのお嬢様ではなくさり気なく皆をまとめてる感じが良いね


815 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 00:08:16
パーティーの終わった会場は人気もなく静かにその刻を進めていた。
もともとは100年前に政府高官が自身の別荘として使っていた建物。

それを家主がなくなると同時に国が買取り、国賓を招く際の施設として改築を行った。
そう言った理由もあり、建物の見てくれこそはモダンなものであるが一度熱気が覚めると一気に100年の歴史が立ち込める。

そんな中、Can girlのメンバーたちは、あたりに不審な人物や物がないか目を光らせていた。

「うぅ。。。やっぱ夜は寂しいね、梨沙ちゃん。なんか出たらどうしよぅ。」
「こら結!変なこと言わないでよ。本当に出たらどーすんのよ!」
「だって。。。怖いもんは怖いし。」
「あぁもう!結がそんなこと言うから私まで怖くなってきちゃったじゃない!」

大きな声で話をしているつもりはないのだが、もともとの建物の造りのせいなのか自分たちの話し声が
何重にもあたりに響き渡り、さらに恐怖感を煽る。
心なしか懐中電灯を掴む梨沙の手にも力がこもる。

時刻は零時をまわりそろそろ交代の時間が近づいてきた。
やっとこの空間から解放される。

二人が安堵の表情を浮かべたその時。


816 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 00:08:50
パリンッ

階下で何か割れる音がした。
反射的に身をすくめる結。
そして恐々と梨沙の顔を見る。

梨沙の顔は緊張に包まれていた。
「梨沙ちゃん。。。今のって聞こえた?」
「下の階からね。。。」

そう梨沙は言うと口をキっと結び、あたりの様子を探る。
魔道士の気配はない。

しかしそれは逆に梨沙に一つの考えを浮かび上がらせる。

「プロかもね。。。」


817 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 00:10:11
今回の任務が厄介なことの大きな点として、
襲撃者が魔道士であるとは限らないということがあった。

魔道士同士の戦いであれば、いくら熟練の魔道士でも攻撃を加えようと魔法を使った瞬間、
魔力を察知されたちどころに居場所が割れる。

そうなれば、当然警備に当たっているメンバーだけでなく他の休んでいるメンバーも
事態の異変を察知し駆けつけることができるであろう。

しかし、相手が魔力を持たない一般人、しかもプロであった場合、話が変わってくる。
下手なことをすれば自分たちの手には負えなくなるばかりか犠牲者も出かねない。

こうした背景があることから梨沙は音の正体を探りに行くのを一瞬躊躇した。

相方は、結である。

互いに気心の知れた仲であるから一緒に行動することは苦にならない。
しかし、戦力として捉えるとなると少し不安であるのも事実であった。

もう少し、時間が経てば、次のメンバーたちが起きてくる。
そこまで待てる猶予があれば梨沙はそうしたかった。

その時である。
廊下の先でぼんやりと光っていた非常灯が音もなく消えた。
それと同時に足元に何か硬いものが転がり、それは煙を吹きはじめた。


818 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 00:11:43
「まずい!!結、口を!」

そう言いかけた梨沙であったが、途端に強いめまいに襲われ、目の前の視界が暗くなる。
「むす…ぶ…。にげ…」

時を同じくして、見張りの交代のため部屋を出ていた、舞と奈々美もまた何者かによる襲撃を受けていた。

しかし、この二人は周囲の探査能力に優れた魔法を得意としているため,いち早く事態を察知することができた。
立ち込める煙を避け、階下に降りた瞬間、舞は頭に衝撃を受けた。

薄れゆく意識の中で舞が見たものは同じように地面に倒れていた奈々美の姿であった。


翌朝、騒ぎを聞きつけた魔道士協会が現場へと急行したが、
そこで彼らが見たものは、誰一人いないもぬけの殻となった建物であった。

その日、会議に参加をしていた各国首脳並びに魔法世界の有力者、
そして執行局から警備に出ていたCan girlメンバーの全員が忽然と姿を消したのであった。

すぐさま、捜査本部が置かれ行方不明者の捜索、犯人の手が掛かりについて懸命な捜査が行われたが、

結局見つけることはできず、未解決事件となってしまったのであった。

続く


819 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 00:14:08
こんばんは

ついに本編が終わってしまいましたね
ほのぼのとしたあの世界観がとても好きで
何度となく励まされたのがいい思い出です。

久々の更新になります

まだ読んでくれる人がいるかどうかはわかりませんが
一気に更新していきたいと思います

作者


820 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 00:18:51
おぉ、待ってました!


821 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 00:20:04

・・・・・・・・・・



「あー、アイス食べたい
クーラーガンガンに聞かせて。」


ここは魔導士協会。

事件の事後処理をするため、
福田花音は久しぶりに執行局を訪れていた。


「お待ちしておりました。

最近暑いですね。」

受付が笑顔で出迎える。


「ほんと溶けそう アイスないと。」

花音が暑さに顔をしかめる。


「ですよね〜、普段氷の上にいらっしゃるのにこんな暑いところに…」
「それアザラシな。」

「え、本日は地球温暖化防止フォーラムへのご出席では?」

「いや、アザラシじゃないです。

執行局に用があって来た元局員です。」

花音が遠慮がちに訂正する。


822 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 00:20:36

「大変失礼いたしました。 あ、じゃあ水槽と氷の手配は…」

「いやだからそれアザラシな。いらないです。

てか、逆にそこまで準備してくれようとしてたんですね、 
なんかありがとうございます。

いやお礼言うのもおかしな話ですけど。」


また局長のイタズラか、もしくはこの人が生粋の天然なのか…。

まぁ、だとしても局長の教育不足か。


そんなことを考えながら
花音はエレベーターへと向かったのだった。


823 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 00:21:11



「…ハックション!」

「風邪ですか?局長。」

端末越しの鈴木愛理が心配そうな顔をする。

「いや、鈴木。お前も知っての通り、

俺は身体だけは丈夫なんだ。」

生田が愛理に苦笑いを返す。

そこへ茶々を入れたのは
愛理の横から顔を出した桃子だった。


「局長〜、早まらないでくださいよ〜?」

「心配いらんさ。二人とも充分強いからな。

 だがもし、二人に何かあったときは…」

生田は1つ息を吐き、続けた。

「そん時は容赦しないがな。」


824 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 00:21:48

「奇遇ですね、私たちも同じ気持ちです。」

二人が笑って見せる。


「さて、私たちも一応準備しますか。」

「あぁ、よろしく頼むよ。」


通信を切ると、生田はため息交じりに呟いた。


「ばか野郎。心配せん訳ないだろうが。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





衣梨奈達が戦いの場に選んだのは、

海岸近くの開けた場所だった。


その理由は大きく3つ。

1つは遥の魔力消耗が少ないこと。

もう1つが、海からの襲撃は困難であること。

そして最後に、街への被害が最小限になること。


「譜久村さんたちは、予定通り地下に隠れててください。

 まぁこの家も無駄にセキュリティ厳しいですから大丈夫ですよ。

それに並の魔導士なら
地下室入った途端あそこの魔力でぶっ倒れますから。」

「いやほんと慣れないわあそこ。」


825 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 00:22:19


魔導士でない聖と香音は、
戦闘となればただの足手まといでしかない。

どれだけ作戦を立案しても、

実行する時、自分はこうして隠れている。

聖にはそれがもどかしくて仕方がなかった。

そんな聖の心を知ってか知らずか、香音は

「あたし達はあたし達の役割を全うしよう。

自分ができることをやればいいじゃん。」

と、聖に向日葵のような笑顔を向けた。


自分たちにできること…。

それは、みんなを全力でサポートすること。


自分の気持ちよりも、今は皆のことを…。


聖は心の底で渦巻くもどかしさに
半ば強引に蓋をするように地下室のドアを閉じたのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・


826 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 00:23:51

本来ならばさっさと戦いに入るべきところなんですが、

どーしても、まろのくだりがやりたくて。。


827 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 18:15:23
「ううぅん。。。ここは。。。?」

硬い床の感触に顔をしかめながら愛香が顔を上げる。
さっきまで自分は宿舎のベッドで仮眠を取っていたはず。

しかし、あたりを見回すと石造りの壁が広がるのみで
そこに今まで自分が寝ていた部屋の面影はなかった。

「ううん。愛香ちゃんもうちょっとだけ。。。えへへ。。」

ふと横から寝ぼけた聞き覚えのある声が聞こえてくる。
愛香がバッと下を見るとそこには知沙希がいた。

「ちぃちゃん!起きて!!ちぃったら!!」
愛香がその体を大きく揺すると、知沙希は寝ぼけ眼のまま体を起こす。
「どうしたんだよ愛きゃん?
 まだこんなに真っ暗だよ。今何時。。。?
 ってえっ…!?もう5時?やばいやばい寝坊したーーー。」

「ちぃ。落ち着いて!!どうやら私たち寝てる間に誘拐されたみたいなの。」
「えっ!?」

愛香の発言に急に目を覚ます知沙希。そして逆にパニックに陥る。


828 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 18:16:21
「えっえっ!?ここどこ?みんなは?
 てか、愛香ちゃんなんでそんなに落ち着いてんのさ!?」

愛香はその知沙希の質問には答えず、もう一度あたりを注意深く見渡す。
桃子の教え。

窮地の時こそ思考を止めない。
生き残りの可能性を常に求める。

今現在自分たちの置かれている状況がはっきりとわからないのであるならば
情報収集をする必要が有る。

しばらくすると次第に知沙希も落ち着きを取り戻し周囲の観察に加わった。

「ねぇ、ちぃ?」
「なに?」

「どう思う?この建物。」

愛香の問いに知沙希はゆっくりともう一度周囲を見渡す。
「そうだね。ここ、たぶん。。。愛香ちゃんが思ってるのと私も同じ意見だよ。」


829 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 18:18:39



「ええぃ、なんで何にも情報がないんだ!」
執行局の局長室では生田が複数の書類に目を通しながら
半ばイラついた表情で報告をしてきた局員にいう。

「お気持ちはわかりますが局長。
 時間帯も深夜で目撃情報もなく犯行の動機も犯行声明も出ていないので。。。」

「それを調べつくすのが諜報班のつとめだろ?」

「しかし、局長。今回は我々執行局にも嗣永さんが付いているという点から慢心があったのは事実です。
 現場の指揮、運用は全て彼女の判断に委ねられていましたから。
 それがCan girlだけでなくまさか嗣永さんまで。。。」

「待て。」
諜報班の言葉にふと引っかかるものを感じた生田は局員の言葉を遮る。

「そうか、てっきり全員さらわれたものだと思っていたのだが。
 確かに嗣永がいくら深夜帯の襲撃とはいえなにもこちらに痕跡を残さないというのは考えにくい。
 だとすると、答えは2つだ。」

「2つ?」

「切迫し痕跡を残せない状況下だったか。もしくは。。。」

「もしくは?」

局長は慎重に言葉を紡ぎだした。

「嗣永が黒幕かだ。」


続く


830 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/17(木) 18:19:10
時系列がバタバタしていて申し訳ない

作者


831 : 名無し募集中。。。 :2017/08/17(木) 21:34:36
気にしない気にしないw
それより続き待ってるよ


832 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 07:41:16
続き裸待機


833 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 14:08:51

・・・・・・・・・・・・・・・


衣梨奈達は優樹と別れた後、素早く移動しながら、
春菜、里保、そして協会との情報共有を行っていた。

「みなさん、間もなく敵が移動を開始します。

 おそらく家を襲撃する手筈になっていると思うので、

 準備ができ次第、生田さんが魔力を開放して目印になってください。

 私はほとんど加勢できないですが、

 まーちゃんはできるだけ急いでお返しします。」


「うん、そっちも気を付けてね。」


通信を切ると、一行は程なくして戦いの場へと到着した。


「みんな、準備いい?」

「はい。いつでも。」


834 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 14:09:23

みな緊張こそしているものの、
どこか高揚しているようにも見える。

「生田さん、私たちの特訓成果に
ビックリしすぎて見とれないでくださいね?」

「いや、流石にそこまでの変化はないやろ。」

「マジレスやめてください。いいトコなんだから。」


衣梨奈はカラカラと笑い声をあげた後、魔力を開放した。

「がんばって〜〜、」

「いくたーーー!!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



敵の反応は予想通りのもので、

魔力を感知するやいなや、
敵の大部分が衣梨奈のもとへと足を速めた。

里保がまだM13地区に着いていない今のうちに
衣梨奈を叩いておくチャンスだと判断したのだろう。


そんな敵の動きを後目に、
春菜と優樹は街の方へと急ぐ。


835 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 14:09:53


「あ、おじさん!」

優樹が見つけたのは、
優樹が学校帰りによく行くお店の主人だった。

「おぉ、優樹ちゃん。どうしたの、そんなに急いで。」

「今、優樹たち戦ってるところで、
 なんか敵が多すぎてやばいんですよ。

 だからおじさんたちにも手伝ってほしいなって。」

「戦い? あぁ、噂には聞いてるよ。

 執行局のチームが襲撃されたんでしょう?

 それで、優樹ちゃんのお友達の子も狙われてるのかい。」

「それが、そうも単純ではないみたいで…。」

春菜が話に入る。

「敵の目的は、M13地区に執行局を介入させ、

 それに反応した魔導士の皆さんを味方につけることみたいです。

 ご存知の通り、ここには協会を良く思わない方が多くいらっしゃるので、

 それを味方につけて、局に匹敵する勢力を作りたいみたいなんです。」

「さすがは情報屋さんだね。

たしかに、協会が入ってくるならそうなるだろうね。」

「ただ、そうなると私たちの大切な人が傷つくことになりますし、
 なにより、M13地区に多くの犠牲が出ます。だから…」

ここで、春菜は一旦話を切り、まっすぐ主人の目を見据えた。


「敵ではなく、私たちと組みませんか?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


836 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 14:10:28


「敵さんのおでましやね。」

衣梨奈達はまさに今、戦いを始めようとしていた。

「やっぱけっこういますね。」


目の前に立つ敵は60人ほど。

春菜の報告によると若干名の別動隊がいるようだが、

そちらは優樹と春菜に任せておけばいいだろう。

「亜佑美ちゃん、どぅー、

 まだ無理はせんでいいけんね。

 わかっとると思うけど、里保ももうすぐ来るけん。」

衣梨奈が敵を見据えながら二人に声をかける。

おそらく衣梨奈はほぼ一人で防ぎきるつもりだ。

だがそれは流石に無謀だし、

二人も「じゃあお言葉に甘えて」なんて
引き下がるつもりはさらさらなかった。


「生田さん執行局員ナメないでくださいよ?」

「あと、ハルはついでに鞘師さんも倒しちゃうつもりですから。」

二人が悪戯っぽく笑う。


837 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 14:11:05

衣梨奈はため息をつきながらも、
予想通りの結果に笑みを浮かべていた。

「危なくなったらえりを呼ぶっちゃよ。」


そう残すと、衣梨奈は勢いよく駆け出していく。

四肢に魔力を集中させると、
咄嗟にガードする相手の左腕をつかみ飛び上がり、

勢いそのまま右足を横に振り抜いて
周囲の敵をなぎ払った。

狼狽える敵を遥が水縄で拘束し、
それを亜佑美が次々に凍らせていく。

「こっちも負けてらんないねぇ、くどぅー!」

「あゆみんは空回りしてバテないようにね!」

敵は最初こそ不意をつかれたもののすぐに立て直し、
徐々に二人が離されていく。

それでも、遥は数本の水縄を駆使しながら複数と対峙し、

亜佑美は組み手に持ち込みながら
隙を見て局所的に敵を凍らせ、自由を奪う。


838 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 14:30:19

だが敵も手練れ、

複数を同時に相手取るとなかなか決め手を打ちづらい。

遥もとどめ用に待機させてある水柱を
ガードに使う場面が増えてくる。

飛び出してきた敵に変幻自在な水縄で敵の態勢を崩し
踏み込もうとするも、
左右からの同時攻撃に体を捻らせ、水縄で盾を作る。

「うぉりゃっ!!」

盾で一瞬動きが止まったところへ
頭上から水柱を叩き込み、すぐ前方からの攻撃をガードする。

「海が近いとはいえ、なかなか体力的にキツいなこりゃ…」

息をつく間もない猛攻に頭をフルで回転させる。


後方からの雷撃をなんとか躱し、
前方からの攻撃に盾を展開したところで

横から衣梨奈が弾丸のような飛び蹴りを入れた。

「どぅー、止まったら囲まれる!

 もっと足動かしていかんと!」

そう残すと、目の前の敵に強烈な一発を見舞ってから
元の位置へと戻っていく。

「そんな体力無いんすけど…」

遥は苦笑いを浮かべながらも、幾分冷静に頭を働かせた。

「体力は無くても海が近い分、
そっちのスタミナは充分でしたわ!」

大量の海水を周囲に流し込むと、水柱に乗って包囲を脱出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・


839 : 名無し募集中。。。 :2017/08/20(日) 21:59:49
新スレ
娘。小説書いた!『魔法使いえりぽん』74
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1503233327/


840 : 名無し募集中。。。 :2017/08/22(火) 18:40:34
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「やっぱ多いなぁ…」

完全に敵の渦が出来上がっている状態で戦うのは
執行局員である亜佑美にとっても初めての経験だった。

休む間もなく攻撃し、
その間にも迫る猛攻に対応していくのは
体力的にも精神的にも消耗が激しかった。

一旦、凍らせた足場を利用して大幅に後退する。

しかし、渦を抜ける前に炎で退路を妨げられる。

亜佑美も咄嗟に回し蹴りを決めるが、
その僅かな時間でも敵の包囲が固まってしまう。

「くそっ!!」

ストレスの溜まる戦いに嫌気がさした亜佑美は
地面に両手を付けると、ありったけの魔力を込める。

と、亜佑美の周囲に氷壁が出現し
攻撃を防いだかと思うと、
立て続けに無数の氷柱が周囲を襲った。


「体力も吸い取れたらいいのに…」

ついカッとなって魔力を使いすぎたことに反省しつつ、
一瞬でも立ち止まれたことをラッキーに思う。

とはいえ亜佑美の魔力は衣梨奈ほど大きくはないし、
氷の魔法は相手の体力と魔力を奪うものではあるが
亜佑美のものになるわけでもない。

長期戦ではペース配分が重要になる。


841 : 名無し募集中。。。 :2017/08/22(火) 18:41:12


「鞘師さん、まだかな…」

本当は頼りたくないが、
汗をかき肩で息をし始めている亜佑美の身体は
『鞘師里保』を求めていた。


「いや、亜佑美ちゃん、えりもおるんやけど。」


苦笑交じりの声がした方を見ると、
汗をかきながらも
まだ余裕の見える衣梨奈がこちらへ向かってきていた。

「亜佑美ちゃん座りよっていいけんちょっと手伝って。

 スベリーズの必殺技考えたけん。」

そう言って衣梨奈が
辺り一帯に無数の土の塊を浮かせる。

「近づいたやつ凍らせて。」

そう言い終わる前に土の塊が亜佑美の周囲を飛び回る。

それを半ば反射的に凍らせると、

もの凄い勢いで氷塊が暴れ始めた。

「寒くてイタい攻撃。えり達にぴったりやろ?!」

渾身の自虐ネタを思わず鼻で笑い飛ばしながら、

亜佑美は凍らせることだけに集中する。

遥が使う水が土にしみ込んでいるおかげで
魔力を幾分セーブできるのはありがたい。

相手がこの攻撃に対応するまで、
例え僅かでも身体を休めることができるのは大きかった。


842 : 名無し募集中。。。 :2017/08/22(火) 18:45:50

「生田さん、ありがとうございます。」


まだ衣梨奈がおしてはいるものの、

敵も徐々に炎と雷の魔法で攻撃に対応し始めている。

やはり数がいると魔法のバリエーションが増える分
陣形を変えるだけで対応されてしまうのが厄介だ。


だが逆に言えば、
この陣形が定まらない今攻撃することで
集団を大きく乱し、こちらの主導権を維持することができる。
衣梨奈は亜佑美の様子を確認すると、
「そろそろ里保が来る」とだけ残して再び敵に突進していった。


戦闘前の連絡によれば、里保は魔力温存のために
街の近くまで岡井千聖にアシストしてもらうとの話だった。

予定通りに進めば、間もなく到着する時間…。

「いいとこ見せないと…!」

そう意気込む亜佑美の顔に、
先程までの疲れはもう無くなっていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・


843 : ◆JVrUn/uxnk :2017/08/22(火) 22:57:00
ももち編、一気にと言いつつ更新サボり気味な作者です
そして長くなりそうな予感。。。

スベリーズネタ吹いた笑

作者


844 : 名無し募集中。。。 :2017/08/28(月) 13:53:46


・・・・・・・・・・・・・・・・・



遥と優樹は、敵の別働部隊を襲撃しながら
M13地区に住む魔導士達の説得を続けていた。

「まーちゃん、あとはまーちゃんの知らない人ばっかりだから、
 このままあゆみん達の所へ行ってもらってもいい?」

狗の姿をした優樹が「オッケー」とばかりに1つ吠えると、
疾風の如き速さで街を駆け抜けていった。


優樹の背中を見送った春菜は再び路地へと体を向ける。

ここからは、優樹の愛嬌に頼れない。


小さな胸がバクバク鳴っているのが聞こえる。

努めて冷静を装ってはいるが、

ちょっと気を抜こうものなら
今にもプレッシャーに押しつぶされてしまうだろう。


頑張れ、自分。

何とか自分を奮い立たせる。

自分のことはもちろん、

大切なみんなを守るためにも。


春菜はもう一度だけ
握った拳に力を込めて、

ゆっくりその足を踏み出した。


845 : 名無し募集中。。。 :2017/08/28(月) 13:54:31

・・・・・・・・・・・・・・・・


一方、戦闘中の3人も正念場を迎えていた。

ようやく敵の半分を片付けたと思っていたら
いつの間にか敵の数が増えているのだ。

「あゆみん、これ絶対増えてるって。」

「ちょっと、いつまで続くの…」

「さすがにえりも体力持たんかも…」

苦笑いを浮かべる衣梨奈の顔には
既に滝のような汗が流れていた。


だが敵は休憩時間など与えてはくれない。

底なしの魔力を持つ衣梨奈の体力を奪う為、
あえて接近戦を仕掛けてくる。

いくら組み手の得意な衣梨奈でも
途切れることのない猛攻に対処し続けるのは厳しい。

前方の敵をぶっ飛ばし、左右からの攻撃をいなしても
後方からの一撃には防御で対処する。

その際にできる一瞬に全方位から敵が迫り、
咄嗟に砂壁でガード、

その砂壁から続けざまにカウンターで砂弾を散発する。

砂の魔法をガードした敵は強烈な右ストレートと蹴りでK.Oする。

だがもうそれで怯む敵ではない。

周囲の敵を撃破した衣梨奈が一息つこうとした所へ
四方から火球が飛んでくる。

それを砂壁でガードした衣梨奈の頭上から火球と雷撃が襲う。

それを咄嗟に砂壁で防いだのが間違いだった。


846 : 名無し募集中。。。 :2017/08/28(月) 13:55:23

砂壁で周囲を完全にガードしたかに見えたが、

衣梨奈を囲う砂壁は一瞬にして凍り付いた。


しまった、と思ったのも束の間、

凍り付いた砂壁から幾重もの氷柱がせり出してくる。


強引に氷柱を粉砕して氷壁を破った衣梨奈に
敵が練り上げた魔力で集中砲火を浴びせる。


流石にすべては受けきれず
被弾しながら離脱を図る。

集中砲火の中でも接近戦を仕掛けてくる勢いは衰えず、

目の前の敵を倒す間に敵もろとも攻撃に被弾してしまう。


打たれ強い衣梨奈は少々の攻撃ではびくともしないが、

もしこの勢いが続くとダメージも響いてくる。


迫る敵の攻撃をいなし、敵を盾にしながら攻撃を防ぐ。


「くっ…、里保、まだ来んと?!」


847 : 名無し募集中。。。 :2017/08/28(月) 13:56:01

敵の集中砲火は
味方が盾になっていようと容赦することはなかった。

と、盾にしていた敵が攻撃の重みで
衣梨奈に覆いかぶさるように崩れ落ちてくる。

衣梨奈は咄嗟に回避したため巻き込まれずに済んだが、

その一瞬の隙をついて腹に強烈な一撃がヒットした。


「ぐっ…」

衝撃に動きを止めてしまいそうになる。

だがなんとか気力を振り絞って地面を蹴り上げ、離脱する。



と、疾風の如き速さでM13地区を駆ける魔力が1つ、
こちらに近づいてくるのを感じる。


それはグングンとスピードを上げ、あっという間に衣梨奈の視界に現れた。


「優樹ちゃん!!」



優樹はそのスピードのまま衣梨奈に向かう敵を蹴散らし、
驚いて陣形を崩した敵の中へ突っ込んでいく。

それを見た亜佑美と遥の表情も自然と明るくなる。

「じゃあうちらも…」

そう意気込む二人だったが、

そこへ衣梨奈から出された指示は意外なものだった。

「二人とも、いったん下がって休憩して。」

「えっ、ハルたちもまだ大丈夫ですよ、
まーちゃんの登場で力出てきましたし。

 それに生田さんも疲れてるんですから、二人じゃきついですよ。」

そう答えた遥に衣梨奈がニヤリと笑い返す。

「二人じゃないよ。」

遥は衣梨奈の言葉にハッとする。


「里保が来た。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


848 : 名無し募集中。。。 :2017/08/29(火) 13:38:00
おお!りほりほがヒーローのように颯爽と現れ・・・転ぶんだろうなw


849 : 名無し募集中。。。 :2017/08/31(木) 00:40:19

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「生田さん、少しだけ時間稼いでください。

 ハルが息を整える時間だけで充分です。」

「無理せんと、しっかり…」

衣梨奈は言いかけて続けるのをやめた。

「まーどぅーが揃えば無敵ですから。」


遥は笑顔で下がって行った。


敵は遥と亜佑美を追撃に向かったが、

疾風と共に何かが眼前に立ち塞がる。

先頭の敵は「それ」が何かを認識する前に力尽きていった。


「鞘師里保だ!!!」

慌てて下がろうとする敵を
里保が冷静かつ俊敏に倒すと、
数歩下がって衣梨奈に声をかけた。


「お待たせ!」

「遅い!!!」

「えっ、ごめん。」


その戸惑う顔に思わず吹き出した衣梨奈が里保に並ぶ。

「ちょっとの間、二人を休ませるけん。」


850 : 名無し募集中。。。 :2017/08/31(木) 00:41:06

「うん。あ、えりぽんも休んどっていいよ。」

「え、なんなんちょっとイラっと来たんやけど。

 てか里保かっこつけてから転んで自滅しそうやん?」

「いや転ばないから。」

「説得力なさすぎやろ。」


カラカラと笑った衣梨奈が飛び出し、次々と敵を倒していく。

それを見た里保も突っ込み、流れるような刀さばきで
次々に敵を斬り倒していく。



「二人って仲いいよね〜。」

「なんだかんだ言ってるけどちょうどいい関係性ってやつ?」

ふふふっ、と亜佑美が笑みを浮かべる。

「鞘師さんがここでコケてたらもっとアツい展開だったかもね。」

「言い訳する鞘師さんに生田さんがハイハイ、みたいな。」

「カレカノかよ。」


そんな話をされているとは露知らず、

里保は愛理から教わった立ち回りを着実に自分のものにしていた。

愛理に劣る戦闘の経験と勘は
自らの周囲で起きる「風」を感じることで補う。

風を纏った里保はそよ風からつむじ風まで
自在な速さで自身をコントロールしていた。

「えりぽん、鈴木さんから教わったんじゃけど…」

「その立ち回りはムリ。」

敵を蹴り飛ばしながら衣梨奈が即答する。

「えりは里保みたいにセンスないけん、

 すぐにやるのはできん。

 えりはえりらしくいくわ。」

向かってくる敵の拳に自らの拳を合わせ、吹き飛ばす。


たしかに、衣梨奈なら魔力の温存は必要ないかも。


851 : 名無し募集中。。。 :2017/08/31(木) 00:41:38

「亜佑美ちゃん、優樹ちゃん、どぅー!

 教える時間ないから、うちの戦い方見て学んで!」

なかなかのムチャぶりをしているのは自覚しているが、

きっと何かの役には立つはずだ。


単独任務ばかりだった自分が
こんな風に指示を出すなんて、
昔の里保は想像もしていなかっただろう。

こんな状況でも、危険な戦いの中でも、

里保にはそれが嬉しかった。



「見て学べ、って言われましても…」

遥が眉間にしわを寄せながら里保を凝視する。

「レベルが違いすぎて完コピするのは不可能じゃね?あゆみん。」

亜佑美も完コピができないという意見には賛同だった。しかし、

「でも待って、何かイメージとしてなら掴めそう。」


里保の動きを客観的に、様々な角度から注視する。

敵の攻撃を防いでからの流れるような切り返し、

敵を倒してからの次の動きへの無駄のなさ、


…いや、むしろ次のステップや手順に移っているといった方が正しいか…。


「鞘師さんの中では、何手か先までのイメージが全部できてるのかなぁ?」

「いや、あゆみんそれ超人じゃん。ハル達には無理すぎるでしょ。」

「だよねぇ、なんか違うよねぇ…。予知とかできないとわかんないよねぇ…」

「あ、でも。」

遥が声を上げる。


852 : 名無し募集中。。。 :2017/08/31(木) 00:42:16

「鞘師さんのあれさ、なんかダンスみたいじゃない?」

その言葉でようやく亜佑美は意図を理解した。


「そうか、流れを感じるんだ!

 ほら、菅井さんにも言われたじゃん!」

魔力を放出するというのは出力すること。
それは発声や運動とほとんど同じ。

だから出力をコントロールできれば、
歌のように流れを作り上げることもできる。


「だから魔力とか運動からできた流れを感じて、
それを読みながら戦えってことじゃない?」

「そういうことか!!

 …にしても鞘師さん、いきなりそれをやれって。」

「もしかしてうちら、期待されてる??」

「やってやろうよあゆみん、

 ハルたちへの信頼に応えなきゃ!!」


勝手に盛り上がった二人は
活力に満ち溢れた表情で作戦会議を始めた。



「やすしさーん、さっきのやつどうやるんですか?」

優樹は里保に直接アドバイスを求めに来ていた。

「ん〜、敵と自分の動きとか流れを感じて
それに乗るってイメージなんじゃけど、

うちは風でそれの補助をしてるかな。」

「はい、わかりました。」

そう残して優樹は再び敵の中へ飛び込んでいく。

なんとなく掴んだイメージを
実践の中で身に着けようとしているのだろう。

流石のセンスの持ち主だ。


「生田さん、そろそろ。」

遥が前線に戻ってくる。

「無理せんようにね。」

衣梨奈の忠告もそこそこに、
遥は意気揚々と優樹のもとへ向かう。


「久しぶりにまーどぅー戦線張っちゃいますよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・


853 : 名無し募集中。。。 :2017/08/31(木) 00:42:51

どうやら鞘師は転ばずに済んだようです。(笑)


854 : 名無し募集中。。。 :2017/08/31(木) 20:10:51
おかしい
この展開で鞘師が転ばないなんて
なにかの呪いがかかっているに違いない


855 : 名無し募集中。。。 :2017/09/01(金) 06:37:50
しっかり転ぶのネタにして頂きありがとうございます…でも転ばなかったかぁw
鞘師の教えを受けまーどぅーがどんな戦いを見せるのか楽しみ


856 : 名無し募集中。。。 :2017/09/01(金) 18:12:06

・・・・・・・・・・・・・・・


優樹は積極的に集団の中へ飛び込み、接近戦を仕掛けていた。

駆けるスピードに乗ったまま鉤爪で蹴散らしたり
敵の攻撃を上手くよけながら後ろ足で蹴り飛ばしたりと、
狗族の力を存分に発揮していた。


と、遠距離攻撃を仕掛けようとする敵の周囲を
フワフワとシャボン玉が取り巻いたかと思うと、

突然それらが爆発し、そこへ急襲を仕掛けた遥が登場した。


「おまたせ、まーちゃん。じゃあまーどぅー戦線張ろっか。」

「はいナルシスト〜。

ねぇ、どぅーって自分のこと王子様だと思ってんの?

 ホントそんなんだから学校でも勘違いされるんだよ。」

「え、なにまーちゃん嫉妬してんの?」

「するわけないじゃん!!

ほら行くよ、もう!」

ふてくされる優樹の後ろで
遥がやれやれという素振りを見せながら魔力を練り上げる。

「じゃあ、いっちょやりますか。」

その声とともに優樹が敵に突進していく。

敵もそれは想定内と言うように炎弾を浴びせるが、
それを見た優樹が横へ飛びのくと
後方から遥がいくつもの水球を放つ。

それを慌てて相殺する敵を横から優樹の鉤爪が襲った。


857 : 名無し募集中。。。 :2017/09/01(金) 18:12:45

「まーちゃんステップ軽くなったね。
 もう鞘師さんのアドバイス身に付けた?」

「いや、優樹ほんと鞘師さんのこと嫌いになっちゃう。」

突然の告白に一瞬驚くも、
それは優樹独特の表現だと遥には分かっていた。

「嫌いっていうか、だってさ、
やっさんは言われたことをポンってできるようになるんだよ?!

さっき教わったことが100だとしたら、
今もう75.5くらいできちゃってるの!」

文句を言いながらも里保からの教えを何とか実践しようと戦っている優樹を
遥はかわいいなと思いながら援護する。

「なんで小数点出てくんのかわかんないけど、
 二人で感覚掴むまで手伝うよ。」

センスの良い優樹を援護しながら
客観的に魔力との流を感じ取ることで、
遥にも亜佑美が言っていた『ダンスのような』動きが見えるようになっていた。

そして里保に追いつけないと悔しがっていた優樹も、
狗の姿を解いて鉤爪を用いるスタイルになることで
里保の動きを徐々にコピーしてきていた。

優樹の鉤爪を避けるため距離を取る敵に対し、
遥が魔力の高まりを感じ分けることで瞬時に順番を判断して
水縄で的確に仕留めていく。

敵が遥を接近戦に持ち込もうと包囲するが、

水柱で遥が包囲を抜けるのと同時に
優樹がそこへ飛び込み、

身体をしなやかに動かして攻撃を躱しながら鉤爪を繰り出していく。

「この調子ならハルたち無敵じゃん。」

そう遥が調子に乗っていた時だった。


858 : 名無し募集中。。。 :2017/09/01(金) 18:14:00

敵の中からひときわ強力な魔力を纏った相手が1人、
猛スピードで遥の懐に飛び込んでくる。

咄嗟に水柱でガードしつつ回避したが、
その水柱は強力な拳によって弾け飛んでしまった。


「やべ、フツーに強そうな人いんじゃん…」

遥は水縄と共に周囲に水柱を浮かせ、攻撃に備える。

だが敵は一人だけではない、

足を止めた遥には周囲の敵から雷撃が放たれ、
それを躱し、ガードするのにもかなりの気を遣う。

優樹も狗の姿になって周囲の敵を蹴散らすが、

もともと遠距離の攻撃とは相性が悪い為、
先程までの勢いにはどうしても劣ってしまう。

と、周囲に気を取られている間に
拳へ魔力を込めた敵が再び突進してくる。

今度もなんとかガードするが、
後方から来た別の敵の攻撃には対処しきれず食らってしまった。

「二人とも、援護するよ!」


二人の様子を見て亜佑美が飛び込んできた。

そして今一度フォーメーションを整えようとする3人だったが、

その3人のもとへ更に加勢に入ったのが衣梨奈だった。


「この敵はえりがやる。その代わり、周りは任せる。」

戦闘スタイルが似ているからという判断だろう、

そこは3人とも素直に従い、衣梨奈を囲むようにして周りの敵と対峙する。

「生田さん、たぶん本気出しても大丈夫な相手です。」

念のため、遥が衣梨奈に声をかける。

「ありがと、どぅー。」

衣梨奈は再び集中力を高めた。


859 : 名無し募集中。。。 :2017/09/01(金) 18:16:14


時間にしてほんの数秒、だが体感にして数分にも感じられる間の後、
二人はほぼ同時に走り出した。

まず仕掛けたのは敵。

衣梨奈は右から迫る拳を左腕でガードし、
衝撃を感じながらもすかさず右でカウンターをねらうが
相手も上手く体をひねって回避する。

両者は一旦距離を取るも、
今度は衣梨奈が鋭い蹴りを繰り出す。

しかし相手の反応も早い。

身体を低く丸めながら転身して衣梨奈の懐に入り、
そのまま衣梨奈の腹部にひじ打ちを入れる。

続けざまに顔へと迫る掌底を両腕でガードするも
全てを相殺することはできずに弾かれ、
その反動で後ろによろけた衣梨奈の足が地面から離れる。

しかしながら、そこは抜群の身体能力を誇る衣梨奈。

とっさに体をひねって地面に手をつき、
そのまま突進してきた相手のアゴを蹴りあげた。

その一撃で宙を舞う敵の腹へ渾身の一発を打ち込むと、

敵は完全に意識を失って崩れ落ちた。


「あの掌底は食らっとったらやばかったね。」

衣梨奈は涼しい顔で一息つくと、再び敵の中へと飛び込んでいった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


860 : 名無し募集中。。。 :2017/09/03(日) 21:28:30
新スレ
娘。小説書いた!『魔法使いえりぽん』75
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1504440929/


861 : 名無し募集中。。。 :2017/09/06(水) 16:57:52

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



衣梨奈は里保の元へ向かっていた。

どうせ今頃1人で敵を無双しているのだろうが、

やはりあれだけ余裕ぶっている里保は
コケる気がしてならなかったのだ。


と、向かってくる敵が3人。

衣梨奈は軽々と攻撃を避けてカウンターを食らわせるが、

その際、一瞬だけ感じた違和感に顔をしかめる。


魔力の流れが少し乱れたような、そんな感覚。


「…もしかして里保が決めポーズでもして転んだんやろうか。」

衣梨奈は絶対その姿を見逃すまいと走るスピードを上げた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


862 : 名無し募集中。。。 :2017/09/06(水) 16:58:26



「どうするよ。」

「どうしようかね。」


衣梨奈達が戦う広場から少し離れたところ、

物陰に隠れて先程春菜が勧誘した住民が様子をうかがっていた。


「他の奴らも出方を伺って、って感じか。」

春菜に誘われて近くまで来てみたものの、

協会に属する鞘師里保と石田亜佑美が
懸念材料であることは事実。

それが消えてくれるなら嬉しいというのが本音だ。

「あの二人が消えて、そのあと優樹ちゃん達が
あいつらを追い出してくれりゃあ万歳なんだがね。」

どっかりと座り込んだ男が隣に話を振る。

「いいのかよ。優樹ちゃんだって頑張ってるし、

情報屋にも普段世話になってるのにさ。

それに、クッキーだってもらっただろ?

不味かったけど。」

「ばか野郎、モノで釣られてんじゃねぇよ。

 俺達だってここが無くなったら終わりなんだ。

 情で協会に捕まっちまったらそれこそ笑いもんだわ。」

「てかあのクッキーって、
もしかして猫の餌じゃないです?」

「いや、あれを食わせるのは虐待だろ。」


863 : 名無し募集中。。。 :2017/09/06(水) 16:59:08


「まったく、アンタらもだらしないねぇ。」

「だがそいつの意見も一理あるけどな。

 それにクッキーは不味かった。」

「いや論点はそこじゃないから。

 それにちょっと味が悪い方が気持ちが伝わるときもあんのよ。」


徐々に住人がやってきて、話の輪に加わり始める。


「私は情報屋さんの話に乗るよ。

 彼女たちにはそれを実現するパイプがあるから。」

「俺はあんたと組んでみたいから乗る。

 情報屋によれば、俺とあんたは魔法の相性が良いらしい。」

横から入ってきた男も乗り気のようだ。

「じゃあワシも、この老体じゃが少しくらいは役に立とうかの。」

その勢いに、ボロを纏い腰の曲がった老人もそこへ加わる。

「よく言うぜ、あんた相当強いだろうに。」

「いやいや、若い頃に少しばかり血の気が多かっただけじゃよ。」

老人は優しく首を振った。


864 : 名無し募集中。。。 :2017/09/06(水) 16:59:41

「まぁお前さんらも聞いたとは思うが、

 衣梨奈ちゃんと里保ちゃんの立場を利用して
この街を協会の介入から遠ざけるのは悪くない話じゃと思うぞ。」

老人は周りをゆっくり見渡しながら続けた。

「人は不安を嫌い、安心していたい生き物じゃ。

それは協会もワシらも同じこと。ならばこういうのはどうじゃろう。


情報屋である春菜ちゃんに、この街を任せてはみんか?」

住民たちがどよめく中、老人は静かに続けた。

「里保ちゃんと衣梨奈ちゃんは執行局長の娘じゃから
 いざとなった時にまだ信用できん者もおるじゃろう。

じゃが春菜ちゃんなら…。
 
元来この街の繋がりは情報屋に頼ってきた節もある。

 その信頼度は、皆もよ〜く知っておると思うがの。」


住民たちはいつからか静かに話を聞いていた。

老人が話を終えると、
聞こえるのが戦いの喧騒だけという時間がしばし流れた。


「1つ、訂正がある。」

口を開いたのは、先程まで共闘に反対していた男だった。

「爺さん、これは他の奴らも同じ意見だと俺は確信しているが…」

男は一度周囲を見渡してから、つづけた。


「俺らは衣梨奈ちゃんが大好きだぜ。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・


865 : 名無し募集中。。。 :2017/09/06(水) 17:00:16


その頃、広場で衣梨奈が目にしていたのは
思いもよらない光景だった。



「あ、えりちゃん。順調?」


そこには居るはずのない2人がいた。


「香音ちゃん!えっ、聖も!?」


そこに居たのは、紛れもなく香音と聖であった。


「えっ、2人とも何しようと?

 地下室に隠れとるんやなかったん??」

このおかしな状況が飲み込めず、衣梨奈はとにかく混乱した。

「いや〜、あたし達も手伝いたいなって思って。」

「いや、2人とも危ないって…」

「まあ見ててよ、えりちゃん。」

そう言うと香音が緑色に光る魔力を開放し、一気にそれを練り上げる。


魔導士でないはずの香音が、なぜか目の前で魔力を練り上げている。

そこに居るのは、どこからどう見ても魔導士だった。


866 : 名無し募集中。。。 :2017/09/06(水) 17:01:25

驚く衣梨奈をよそに
香音はそのまま両腕を敵の集団がいる方へのばし、

両親指と人差し指で三角形を作って集団に照準を合わせた。

「これぞ必殺、カノン砲♪」

練り上げていた緑色の魔力が
指で作った三角の中心に高濃度で凝固し、小さな球を生成する。


「 乙・香音!!!! 」

球が弾けると同時に圧縮した魔力が一気に解放され、
その爆発的な魔力によって
香音の前方に居た敵は魔力共々一瞬にして吹き飛ばされていた。


あまりにもパワフルで驚異的な香音の魔法に、
衣梨奈はただただ呆気に取られていた。


「…えっ、どういうこと?

 香音ちゃん、魔法使えるん?」

今だ状況が飲み込めない衣梨奈に
香音はニッコリとした笑顔を向けていた。


「えっ、でも香音ちゃんって…、」

今一度問いかけようとしたところで衣梨奈に緊張が走る。

「香音ちゃん! 後ろ!!」

香音の背後から斬りかる敵と香音の間へ咄嗟に土の壁をつくる。

敵がたじろぐ一瞬の間に衣梨奈は距離を詰め、蹴りを放つも
敵はそれを上手くガードし、炎を纏った刀で間合いを取る。

なかなかの手練れのようだ。まるで里保のような魔法も使う。


え…、いや、この魔力は…


867 : 名無し募集中。。。 :2017/09/06(水) 17:01:56


「…里保?!」

ハッと気づくと、
里保がその小さな目をさらに小さくしながら怒っていた。

「もう!急に殴りかかってきてびっくりしたよ。」

「えっ、じゃあ聖と香音ちゃんは…」

「おるわけないじゃろ、相手の魔法!

 絶対えりぽん油断したじゃろ。」


そう言われて衣梨奈は漸く気が付いた。

ここへ向かう途中で感じた、あの違和感は魔法だったのだ。

「いや〜、でもそれはコケやすい里保を心配したことで起きたけん、

 ちょっとは里保にも責任あるってことになるやん?」

「ならんじゃろ。」


里保の厳しい指摘に、首をすぼめるしかない衣梨奈だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


868 : 名無し募集中。。。 :2017/09/07(木) 13:15:02
結局コケないんかい!w

それにしてもはるなんを街の代表って…急展開!

何気にモブじいさんも出てるのねw


869 : 名無し募集中。。。 :2017/09/11(月) 14:46:56

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「戦闘はどうなってる。里保たちに怪我はないか。」

「はい、途中で一度下がった鞘師里保より連絡があり、
戦況はこちらが押しているようです。

ただ、街に分散している増援が次々に加わってきている
とのことですので、魔力の消耗が気になりますね。」

「里保と衣梨奈の魔力ならまだ大丈夫だろうが、
他の子たちをかばって体力的に無理してないかが心配だな。」

「定期的に1人を下げることで休養しているみたいです。
まだ今のうちは大丈夫でしょう。」

「そうか。」

ならよかった、と言う気にもなれず、
生田はただただ悶々とする時間を過ごしていた。

「局の警備は問題ないか?」

「はい、嗣永桃子が陣頭指揮をとっています。
警備についている執行局員は
稲場を除くカントリーガールズと鈴木愛理、
そしてこぶしとつばきです。」

「アイス食ってる福田もいるからな、こっちは大丈夫そうか。」


…こっちは大丈夫というのも皮肉な話だがな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


870 : 名無し募集中。。。 :2017/09/11(月) 14:47:32



一方、生田邸で皆を待つ聖と香音は
静かに雑談をして時を紛らわせていた。

テレビの話、学校での話、
勉強の話、みんなとの笑い話(主に佐藤だが)、


こうやって過ごすのが最善だと思ったし、

実際、こうしている方がよっぽど時間の進みは早かった。


と、二人は誰かがリビングで叫んでいる声に会話を止めた。

敵か、それとも誰かが戦っているのか…。


二人はただ静かに、事の進展を待った。



声が近づいてくる。 女性の声。

「…て……と!」「…はや…て……る…!」


その声は地下への扉付近で、
ようやく聖たちにも聞き取れるようになった。


「はやく亜佑美ちゃんの手当せんと!」
「フクちゃん達に頼もう、えりぽん!」

「いや、地下の安全な所におるのに、怖いやろ」

「今はそんな場合じゃないよ!」


ギリギリ聞こえるくらいの音量。

だが、その声は間違いなく衣梨奈と里保のものだった。


「行かなきゃ…」

聖は慌てて扉を開け、階段を駆け上がった。

香音も一瞬迷ったが、聖に続いた。


だが階上へ出た香音はすぐに、
自分の懸念を聖に相談しなかったことを悔いることとなった。



「残念でした、変声の魔法です。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


871 : 名無し募集中。。。 :2017/09/11(月) 14:48:07


里保はのびのびと戦っていた。

愛理の教えを実践しながら、
その流れに蜘蛛の糸を乗せて周囲へ広げる。

魔力を練りこんだやや太めの糸だが、
敵は戦いに気を取られているため糸にかかっても気づいていない。

里保はそのまま縦横無尽に動き、

敵の攻撃をいなしながら自身の『巣』に絡めていく。


「こんなもんかな…。」

程よい頃合いを見て間合いを取った里保が刀に魔力を込めると、

握った刀から青白い電流が光り、
一瞬にして周囲を感電させていった。


やはり皆と戦うのは楽しい。

緊張感とはまた違う、頼もしさとか、いろんなことを感じれる。


里保も別に戦うことが好きというわけではないが、

里保は皆となら、もっともっとやれる気がしていた。


872 : 名無し募集中。。。 :2017/09/11(月) 14:48:39


一方、里保の部下である亜佑美は
里保の戦いを少しでも吸収しようと必死だった。

優樹たちとの連携は里保と同じような気持ちで戦っているが、

こと里保に関しては如何に技術を学んでその経験をも吸収するか
という所に重点を置いていた。

里保の近くで戦う分、自分の負担は軽減される。

また、里保が鈴木愛理から学んだという流れを感じながらの戦い方も、
菅井トレーナーの教えを活かすことで
割と使えるようになってきたという事が亜佑美に余裕を生んでいた。


だがまだ足りない。

まだ、里保には追い付けない。



亜佑美はふと空を見上げた。

時は間もなく夕暮れ。
心地よい風に太陽が傾き始めている。


そろそろ戦いが終焉に向かう。

そんな気がして、亜佑美は再び気合を入れ直した。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


873 : 名無し募集中。。。 :2017/09/17(日) 21:09:19
新スレ
娘。小説書いた!『魔法使いえりぽん』76
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1505649568/


874 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 03:18:41
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「まーちゃん!」

遥の声に優樹が体を沈めるとほぼ同時に
遥の水柱が頭上を通過し、眼前の敵にクリーンヒットする。

二人はすかさず左右に展開すると
間に挟んだ敵を遥が水縄で制止、
そこへ逃げる間もなく優樹の鉤爪が襲った。


序盤と比べて確実に敵は減っているのが分かる。

地の利を活かしているお陰で遥もまだ魔力の心配はない。

衣梨奈と里保も、
そして里保の近くでチラチラ視線を飛ばす亜佑美も、

このままいけば何とか押し切れそうだ。
それは衣梨奈と亜佑美も同感であった。

里保は唯一、多くの戦闘経験から
勝利を近くにして気を緩めることはしなかったが、
それでも客観的に見て戦況は詰めの段階に入っていると考えていた。



だが、その状況は突如として逆転した。


875 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 03:19:29


「お前ら!! 攻撃を止めろ!!!」

叫んできたのは敵の1人だった。

もちろん皆は「そんな挑発に乗るワケがない」と瞬時に判断したのだが、

次の言葉に皆は一斉に振り向いた。


「地下室に居た 譜久村聖 と 鈴木香音 を連れてきた!!!

 騒ぐようならコイツから殺す!!」



衣梨奈は耳を疑った。

二人は敵に見つかりっこない。今も家に居るはず。

でも、奴は今、確かに『地下室』と言った。


幻を見ているわけではない、今ここは魔法ではなく現実の世界。

居るはずがない。なのに……。



「みずき!!! 香音ちゃん!!!!」


「えりぽんごめん!! 聖バカだから!! ごめんなさい!!!」


そこには悔し涙を流す聖と敵を睨みつける香音がいた。


それを見た全員の魔力が一気に増幅する。


876 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 03:20:00

「おいおい、どっからそんな魔力出て来んだよ。

まぁそれにしても、あの魔法は本当に役に立つ。
こいつらの隠し場所までペラペラ吐いてくれるとは。

おかげで手間が省けたよ。」


敵の言葉に、衣梨奈は目を見開いた。


あの時だ。自分が香音ちゃん達の幻覚を見た時。

あの時、思わず「地下室にいるんじゃ…」と口走ったんだ…。


それは紛れもなく、衣梨奈の致命的なミス。

そのせいで、大切な二人を傷つけるなんて…。



「かえせ……。

 二人を……、

二人を返せ!!!!!!」



衣梨奈の魔力が爆発的に高まる。

放出される莫大な魔力は、彼女が完全にキレたことを
一瞬で周囲に知らしめた。


「えりぽん! 落ち着かんと!!!

 二人は人質じゃけん! 刺激せんで!!」

里保が慌てて衣梨奈を抑える。


877 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 03:20:38

敵の手には短刀が握られ、
衣梨奈の魔力に気圧されたその刃先は、聖の柔らかい首元を
今にも裂いてしまおうかと言わんばかりに食い込んでいた。


「コイツの首を落とされたくなきゃその魔力を抑えろ。あと鞘師里保、

 お前はとりあえず刀収めろ。」

「二人を放せ。」 「断る。」

「まず聖の首からナイフを放せ!!」

「断る!! お前達は指図できる立場じゃねぇんだよ。
 
いいから黙って従え馬鹿ども。」



「みんな、近くへ。」

里保が敵への鋭い視線はそのままに、皆へ声をかける。

反撃のままならない状態で
皆を孤立させるのは危険と判断した為だった。

幸い、敵も里保の指示を『大人しくするための行動』とみなしたようだ。


敵は里保達を取り囲むように近づき、

聖と香音は里保達から25メートル程離れた場所で止められた。



「…ハルの攻撃じゃ気づかれます。」

遥が小さく呟く。


目に見える物体では、まず周囲の敵に気づかれるだろう。

かと言って里保の蜘蛛糸の魔法も
動きを操ることまではできないため使えない。


ならば…


878 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 03:58:11

里保は左手に鞘を取り出した。


「それは…。

いくら何でも遠すぎます、鞘師さん。」


里保がやろうとしているのは風に乗った抜刀術。

風の魔法をブースターとして魔力解放と同時にトップスピードを出し、

敵までの25メートルを一気に強行突破するつもりだった。

だが風の魔法は発動を敵に気づかれ易いというデメリットがある。

里保が飛び出すよりも先に気づかれてしまえば
二人の元へたどり着く前に敵が間に入るだろう。
それだけ二人との距離は遠いのだ。


そしてコースを塞がれたら最後、

恐らく里保は大切な仲間を一人失うことになる。


だが里保にはそれ以上に確立の高い方法は考えられなかった。

どのみち敵の言う通りにしても今度は周りの皆が袋叩きに合うだろう。

脅迫に従って状況が良くなることなど無いに等しい。
それなら里保はリスクを取ってでも皆を助ける道を選びたかった。

今はダメだった時の事など考えている暇はない。


必ず助ける。里保が刀を鞘へ収め始めたその時だった。


「里保、ここはえりに任せて。」


不意に、衣梨奈が声を上げた。

それは、とても力強い声だった。


879 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 03:58:42

「何か思いついた?」

「うん。あのさ、


えりって物体移動が得意やん?

やけんその魔法でえり自身を動かせば
瞬間移動みたいに動けるやろ?」


「えりぽん自身をスケボーみたいに? 無茶だよ!!

そんな無茶苦茶なことして二人が殺されたらどうするん?!」

里保が思わず声を荒げる。

「でも、もうそれしか方法ないやろ?

それに、今のえりなら大丈夫やけん。」

「いや何が言いたいのかぜんぜん分からんのんじゃけど。」

「どのみち風の魔法は悟られるけん。」

「えりぽんの意味わからん魔法よりかはウチの方が絶対いいから。

 てかそもそもえりぽんの魔法、生き物はムリとか言っとったじゃん。」

「うん。でも今ならできる。 自身はある。」

どこからそんな自信が…、と呆れる里保に割って入ったのは亜佑美だった。


880 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 04:02:29

「じゃあ、お二人でやるっていうのはどうでしょう。」


里保は思わず亜佑美を睨みつけてしまったが、

衣梨奈はどうやら乗り気のようだ。


「直線は里保にあげる。

 えりは里保の隣でいいっちゃよ。」


里保は一瞬考えたが、返事は思ったよりもすぐに決まった。

「…いいよ。じゃあ亜佑美ちゃんはどぅー達の防御をお願い。

でもえりぽん、絶対二人には…」
「それはこっちのセリフっちゃよ。」

衣梨奈が小さな笑みを浮かべると、フーッと深い息を吐いた。


衣梨奈のこの自信、客観的に考えれば絶対に不可能なはずなのに、

…里保は心のどこかで、衣梨奈の言葉を信じていたのだろうか。


自分も随分と能天気になったな、
と自嘲しながら里保もゆっくりと息を整えた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


881 : 名無し募集中。。。 :2017/09/20(水) 04:03:42

さっさと終わらせるとか言いながらぜんぜん上げてないですが…

日曜日には終わります。多分。


882 : 名無し募集中。。。 :2017/09/21(木) 18:37:46
めっちゃ楽しみ


883 : 名無し募集中。。。 :2017/09/22(金) 08:22:54
二人の作戦がこの危機的な状況を覆す事が出きるのか!?流石にこの大事な場面で鞘師はこけたりはしないだろうな…決めるときは決める!それが『鞘師里保』

最後まで楽しみにしてます


884 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:38:01

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やっと大人しくなったか。

 それで、ちゃんと言う事聞いてくれる気になったか?」
 
「まぁどのみちこの状況じゃあ大人しくするしかないよな。」


敵のヤジをよそに
里保は刀を鞘に収めながらゆっくりと片膝をつき、

隣に立つ衣梨奈もまた
荒れていた魔力を整えながら全身に纏い、集中力を高める。

そしてその後ろでは、
亜佑美をはじめとした三人が静かに、
だが極限の集中を以ってタイミングを探っていた。


「…っておいおい、何止まってんだよ。

 さっさと刀を置けっての。」


敵に苛立ちの表情が出てくる。


だがまだ、二人は動かない。

里保は鞘に収めた刀を持って膝をついたまま。

衣梨奈にいたっては棒立ちだ。

このリラックスした状態が構えなのだろうか。


亜佑美はタイミングを計りかねていた。


885 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:38:31


と、衣梨奈からいつもと違う感覚を覚える。

それは頼もしく、そしてどこまでも幸せな魔力…。


「あれ、神社の…!」

遥が思わず声に出した。


そう、それは皆が大好きな神社で感じる
独特な感覚と同じだった。

和みスポット、だとか幸せスポット、などと呼んでいるが、

なぜそれが今、衣梨奈の魔力に混ざっているのか。


亜佑美は一瞬だけ思考を巡らせたが、
答えは出さず、直ぐに考えるのをやめた。


今は自分の役割を全うする時だ。



衣梨奈の魔力は、
荒々しさから徐々にリラックスしたものへと変わってきた。

それに呼応するかのように、
後ろでタイミングを計る3人の神経も冷静に、
水を打ったようなクリアな状態になっていた。


886 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:39:42


流れるように、風が1つ。


…来る。


それは一瞬、息を吸う間の出来事だった。


タイミングを掴んでいた亜佑美でさえ
反応が遅れたほどのスピード。


二人の魔力が光ったのを見た敵は
慌てて小刀を振りかぶる。

その鋭利な刃は、
二人の柔らかく温かい首へ入り込んでいく
手前でピタリと止まった。


「なっ…!?」


敵はこの状況を飲み込む間すら与えてはもらえなかった。


聖は自らの死を覚悟して目をつぶっていたが、

聖を押さえる手が離れるのと同時に
聖を包む優しい感覚に目を開ける。


「恐い思いさせてごめん。でも、もう大丈夫やけん」


聖の心へ流れ込んでくる温かい感覚。

思い出せないけれど、
楽しい夢を見た後のような、幸せな気分。

つい数秒前まで死を覚悟していたのが嘘のように、
聖の心はリラックスしていた。


「ありがとう、えりぽん。」

衣梨奈の笑顔は本当に癒される。


887 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:53:05


「えりぽん、来るよ。」

香音に声をかけていた里保が敵に向き直る。


「さっきの魔法、今も使える?」

「もう無理。」

「なんじゃそりゃ。」


「でも里保が来てくれとったお陰で
 刀を止めた後に敵倒すのがスムーズやったよ。」

「…嫌味に聞こえるんじゃけど。」


「お前ら調子乗ってんじゃねぇぞ…」

怒りに震える敵達の魔力が一気に高まり、

合図を待たずして突如皆に襲い掛かってきた。


待ち構えていた亜佑美が遠距離攻撃を防御しつつ、
スノードームを精製して聖と香音を覆う。



「怒っとるのはこっちも同じ。」

里保と衣梨奈は正面から突っ込んでいく。


亜佑美はスノードームに最大限の魔力を注ぎつつ周囲を防御し、

他の皆はそれを囲むようにして応戦する。


と、外円の敵が突然魔力を失っていく。


衣梨奈達がその方向を見ると、

M13地区の魔導士達がもの凄い勢いで流れ込んで来るのが見えた。

「てめぇらマジぶっ殺してやる!!」

「クズ共がぁ!!!」


聖や香音と交流のある魔導士を筆頭に、
皆がその怒りを敵にぶつけているのだ。


888 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:53:38


「みなさん、お待たせしました!

 ようやく街の魔導士全体がまとまりました。

 街のみなさんが、こちらの味方です!」

なだれ込む住民に紛れて春菜が合流する。


こうなったら後は駆逐するだけだ。

衣梨奈・里保を筆頭に
今まで以上の勢いで敵を圧倒していく。


衣梨奈が向かってくる水球と雷撃を砂壁でガードすれば
横から優樹がカウンターで襲い掛かり、

敵が遥を囲めば里保が炎を纏った刀で敵を薙ぎ払い、
遥がそれに合わせて水柱を叩き込む。

住民たちも互いに連携しながら次々に敵を片付けていき、
もはや完全に流れを掴んだと断言できるまでになっていた。



「お前が生田の娘か。」

不意に、男が衣梨奈の前に立ちはだかった。

おそらく、敵のリーダーであろう。

里保も近くでその男に注意を注いでいた。

前線に現れたという事は、やはり敵も策が尽きたという事か。


「そうですけど、あなたはここのリーダーですか?」

「だとしたら?」

「本気でやります。」

衣梨奈の魔力が再び跳ね上がる。


「…クソガキが。こちとら計画おじゃんでお先真っ暗なんだよ。

ぶっ殺してやる。」

敵の魔力は相当なもの。里保も衣梨奈の隣に立つ。


889 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:54:09

「里保、ここはえりが…」

言い終わらぬうちに、敵が突進してきた。

その速さは狗族に匹敵し、咄嗟にガードした衣梨奈は
あまりの衝撃に攻撃をはじいてしまう。

懐に入り込もうとする敵を慌てて蹴りで牽制し、
その隙に里保が刀で切り上げるがそれは空を切る。

身体を反った敵はそのまま瞬時に回転を利かせて
里保の肩へと蹴りを入れた。

「里保!!」

背後から殴りかかる衣梨奈の拳を左腕でガードすると、
その腕を払いつつ右拳で衣梨奈のみぞおちを狙う。

だが衣梨奈も咄嗟に掌底で拳を受け止め、
その右手を両腕で掴んだまま跳び上がって相手の顔に蹴りを入れた。

体勢の崩れた敵だがなんとかふんっばって里保の刀を受ける。

だが里保の刀が赤く光ったかと思うと、男の体を炎が包んだ。


「ぐぅっ…。 だが…、まだ!!!」

魔力を焼かれながらも火の手を脱した男は魔力で刀を取り出し、
里保と激しくぶつかり合う。

間を取るたびに仕掛けてくる衣梨奈は
炎や雷の魔法で牽制したり斬りかかったりすることで攻撃を防ぎ、

とにかく里保を仕留めようと
素早い太刀裁きと移動スピードで里保をジリジリと押していく。


敵はもう少々の被弾は捨てている。

今は執念だけで、とにかく目の前の里保を消そうとしている。

対する里保はかすり傷でも太刀を受けないよう立ち回っているため、
どうしてもその動きに差が出てしまう。

このままではいずれ手傷が増えていく。


どうすれば…


890 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:54:53


「里保、飛んで!」

衣梨奈の声で里保が風に乗ると、
衣梨奈の砂壁が敵の太刀を止め、飲み込んだ。


「今!!!」

衣梨奈の合図で疾風に乗った里保が
炎を纏った刀を振り抜く。


敵はうめき声を上げながらその場に倒れこんだ。



「大丈夫?里保。」

「うん。」

駆け寄る衣梨奈に返事を返す。

だが、里保の鋭い感覚はもう一人、異質な男の存在を捉えていた。


「ブラボー!  まさかやっつけちゃうとはね。びっくりした!」


40代後半だろうか、敵意のない魔力を纏った男が拍手をしていた。


891 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:55:23

「誰ですか。」

「そんな冷たい対応しないでよ。
俺さぁ、ちょっと君たちに惚れちゃったんだけど。」


と、倒れていた男の言葉に里保は警戒をさらに上げた。


「…おい、依頼主は出しゃばんねぇでくれないかね。

 これは俺たちの仕事なんだよ。」

「うるさいよ。てかそもそも俺の依頼と違うことやってんじゃん。

 それに人質なんて最悪だよ? もうあり得ないっての。」 

「黙れ。とにかくじゃまし…なぃ…、で…」

男は言い終わらないうちに気絶した。


いや、気絶させられた。

「もう、ほんと困っちゃうよな。

 ゴメンね?おれも傭兵雇うの初めてだったから
 こんないい子たちを攻撃するなんて思ってなかったわけよ。」


「あの〜、おじさん何者なんですか?」

まったく話についていけていない衣梨奈がしびれを切らせて質問してみる。


「あ、どうも。ユースケ・サンタマリアです。」


892 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:55:55


聞きなれない名前に戸惑うが、ユースケはお構いなしに話を続ける。

「いやオレはね、ここM13地区が協会と距離を置いてんのに
なんでこんな風にやっていけてんのかなぁって気になったわけよ。

でもさ、えりぽんだっけ?君みたいな子たちがいるんなら納得したよ。
オレもうファンになっちゃったもん。」

「えー、ほんとですかー?!」

素直に喜ぶ衣梨奈の横で、まだ里保はユースケを疑っていた。

「あの、協会の襲撃はなぜやったんですか? それにB.T.Sも。」

「それも彼らが全部勝手にやったことだよ。

 俺も様子見ようと思って話聞いてみたら
全然違う方向に進められちゃってたからびっくりしたんだよ。

だから人質になってた二人にはほんとごめんな!
俺のせいで危ない目に合わせちゃってほんと申し訳ない。」

敵の雇い主が頭を下げる。戦場においてなんとも異様な光景だった。


「でもほんとさぁ、これからもえりぽん達のこと応援してっから。

がんばってよ!」


嘘を言っているようには見えない。
だが、里保は執行局員として引き下がれなかった。

「すみませんが、このまま逃がすわけにはいきません。
 一緒に執行局へ来てください。」


だが、それを止めたのは意外にも衣梨奈だった。


893 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:58:21

「いいよ、里保。 ユースケさんは大丈夫。」

「えっ、何で?

 ここで引き下がるわけにはいかんじゃろ。

 局長になんて言う気?」

「パパには『解決したからもう大丈夫。』って言っとけばいいけん。」

衣梨奈が涼しい顔で話す。

「里保の任務は『相手の目的を探ること』やろ?

 それにここはM13地区やし。
勝負してもない相手を捕まえるのはタブーっちゃろ?」


考えていないようで痛いところをついてくる。

里保にはこれ以上食い下がることはできなかった。


「オレも執行局には行かないけど
えりぽん達の質問に答えたりするぐらいなら協力するよ。」

「じゃあユースケさん、こんどまた話聞かせてくださいね。」


初対面の相手をこんなにもあっさり信用するなど
里保には到底できなかったが、

優樹に目をやってみると、こちらも特に警戒している様子はない。

こういう場合は衣梨奈と優樹を信じる方が良いのだろう。


聖と香音を傷つけようとした敵は倒したし、

敵も既に戦意喪失している。


里保は赤く彩られた空に終局を受け入れた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


894 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 01:58:53


衣梨奈達の戦いを遠くから眺めていた菅井は、
柔らかい表情で神社へと入って行った。


「まったく、思い出すまでずいぶん苦労したわよ。」

そう毒づく菅井の身体をピンク色の魔力が包んだ。

――ありがとうございました、菅井先生――

優しいピンク色の魔力から、そんな声が聞こえた気がした。


いや、たぶんきっと聞こえたのだろう。

なんてったって彼女のことだから。


「いいのよ、あたしも久しぶりに教えることができて楽しかったわ。

まぁ、あなたの記憶が無いのはたいへんだったけどね。」

ピンク色の光が申し訳ないと言うように揺らめく


「伝承の魔法、我ながら良い魔法ね。

 無理矢理にでも引き寄せてくれて嬉しかったわよ。
 

感謝してます、ありがとう。」


その言葉に呼応するかのように
菅井を包む魔力が強い光を放つと、

光が消えた後、菅井の姿は無くなっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


895 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:13:54
まさかのユースケw

菅井ちゃんは…さゆが呼び出した魂だったって事なのかな?


896 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:28:19
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「…そうか、みんなケガはないんだな。

 …あぁ、わかった。今日はとにかく休んでくれ。ありがとう。」


通信を切った生田は、大きな安堵のため息を吐いた。



「じゃあ局長、行ってきます。」

「嗣永、俺は本当に居ない方がいいのか?」

「はい、やっぱりお別れはチーム水入らずで。」

桃子は少し力なく笑うと、
メンバーの元へ足を進めた。



稲場の離脱。

執行局の、もう1つの大事件だった。


カントリーガールズが襲撃に遭った後、

愛香は持病の発作により協会の警護任務から外れていた。

これは以前より懸念されていたことではあったが、
稲場の状態は想定より速いペースで悪化していた。


リスクを抱える人間を戦闘に出すわけにはいかない。

今の状態の稲場に、できることはなかった。


897 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:28:52


「…正直、すごく悔しいです。」

メンバーを前にしてまず出たのは、
愛香の率直な思いだった。

それからみんなに迷惑をかけて申し訳ないという謝罪、

でも新メンバーの成長やみんなを信頼していることを思うと
大丈夫だという確信があることが伝えられた。


「これからは、治療と共に一人の人間としても、
もっともっと様々な経験や勉強をして、
成長していかなくちゃいけないと思ってます。

みんなには、迷惑をお掛けしてしまいますが、
すみません。宜しくお願い致します。」


梨沙は感情をこらえきれず、愛香に抱きついた。


こうしないと、愛香がどこか遠くへ行ってしまうような、
また大切な何かを失ってしまうんじゃないかというような、

そんな気持ちが沸き起こって仕方がないのだった。


メンバーを失うのは、これが初めてのはずなのに。


898 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:29:24


「…待ってるから。待ってるからね。

絶対、帰ってきてね。」

それを聞く愛香の目からも涙が流れる。

「うん、ありがとう梨沙ちゃん。」

温かい、きれいな涙だった。

「まなかん!!」

他のメンバーも、もう誰一人溢れ出る涙をこらえようとせず
二人のもとへ駆け寄る。

「ありがとうみんな。

まなか、少しでも早く帰ってこられるように頑張るね。」


桃子も皆と同様、
愛香が絶対に執行局へ帰ってくることを信じていた。


今度こそ失わない。諦めない。
今度こそ、守り抜く。

桃子は静かに、だが断固とした誓いを立てた。


899 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:30:06


・・・・・・・・・・・・・・・・・



日が落ち、辺りが暗くなった頃、

M13地区の住民たちは続々と海岸に集まっていた。


衣梨奈達も同様に、海岸に集まっていた。

無事だった聖と香音も、ずいぶんと元気になっていた。

二人はそれを衣梨奈の魔法のおかげだと言っていたが、
衣梨奈は「そんな魔法は知らん」と、どや顔で笑っていた。


「はるなんすごいね、この戦いで一気に昇進しちゃったよね。」

集まった住民達への挨拶回りに奔走する春菜を見ながら皆が笑う。

「でもよかったよ。これでM13地区も安定しそうだから…ぁあっ!」

階段をおりる鞘師が突然声を上げたと思うと、

たった数段の階段を見事に踏み外し、
砂浜に突っ伏して体を震わせていた。

「いったぁい…」

「ヤダ!アッハッハッハッ!」
「大丈夫ですかぁ!?」

みな笑いながら鞘師に駆け寄る。

「はるなんにも見せてあげたかったね。」
「後から悔しがるだろうね〜。」

砂を払う里保をよそに春菜の姿を探すと、
春菜は初老の魔導士とにこやかに話をしている所だった。


900 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:30:36


「流石は情報屋さんですな、我々のような変わり者をご存じだとは。」

「いえ、変わり者ではなく才能に溢れた方々だと思いますよ。

でも恥ずかしながら、実はワタシも驚いてるんです。」

「ほう、というと?」


「私、皆さんの居場所を調べたことはないと思うんですけど、
何故か皆さんのことを知ってたんです。

誰かに教えてもらっていたような気もするんですけど、
でも覚えてなくて…。」

首を傾げる春菜に初老の魔導士が優しく笑いかけた。

「そうですか。ではこれも何かの巡り合わせということでしょうな。

いやはや、世の中は不思議なことだらけですなぁ。」

「はい。でもそのおかげで、
こうやって今日、皆で花火を見ることができるので。

その巡り合わせに感謝です。」

「そうですな。
 我々も全力で、ご期待に応えさせていただきますぞ。」


春菜は計画を練っていた時から、
今日のような日には魔法花火が必要だと思っていた。

今日のような日には、うってつけ。

以前見た時にでも、その印象が強く残っていたのだろうか。


901 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:31:15


「はるなーん! まだ〜?!」

優樹の催促に振り返ると、

もう皆、準備は万端のようだ。


「じゃあ、あとはお願いします。」

春菜はニコリと会釈をすると、優樹たちの中へ加わった。


「お待たせしました。」

「はるなん!さっきやっさん階段から落ちたんだよ!」

「えー、大丈夫だったんですかぁ〜?」

「いやウチこけてないし。」

「なんで急に白を切り始めるんですか鞘師さん」

「もう、鞘師さんもそんなことはいいから早く座りましょ!」

「いやどうでもよくないし! 大体…わあっ!!」

「ちょ、なんでまたコケてるんすか鞘師さん!」

「あたしたち何もしてないのに!」
「もうサイコー!」


902 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:31:51

ひとしきり騒いだ春菜たちがようやく腰をおろすと、

ちょうど大きな音を上げて、最初の花火が打ち上げられた。



不思議な花火。

衣梨奈達も、そして住民の皆も、
ただただ感嘆の声をあげながら花火を楽しんでいた。


「魔法花火って、お願い事したら叶うかなぁ?」

不意に、優樹が声を上げた。

「まーちゃんそれは流れ星だけだと思うよ。

 まぁでもお願いしといたらもしかしたら叶うかもね。」

「優樹ちゃんは何をお願いしようと思ったの?」

「まさね、優樹達のこと見ててくださいねってお願いした。」

「あ、もうしたんだ。」

「へぇ〜、神様とか?それとも天国の人?」

「いや、死んじゃった訳じゃないんですけど、
 でも神様にちょっと近いかもしんないけど多分違うんですよ。

 なんていうか、空の上と天国の間っていうか…」

「なんそれ、死にかけやない?」

「違いますよ〜!

 とにかく! まさき達のことを見てくれてる人です!!」

「ふ〜ん、そっか。」


「その人はまさき達に1本ずつ薔薇の花をくれてて、

まーたちはそれに金の粉をかけて、
みんなの薔薇を集めて、花束にしなきゃならないんですよ。」

「なにそれ、まーちゃんロマンチックだね。」

「もう、わかんない!? まーの言ってること!!」


「ん〜、なかなか難しい表現だけど、

でも正直、まーちゃんの言ってることを
どこかで素直に受け入れてる自分がいるのは事実だよ。」


メンバーたちは皆、同じ思いだった。


903 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:32:27


「みんなで、これから頑張っていこうね。」

「はるなんは代表になるわけだし。」

春菜は茶々に赤面しながらも、その眼はとても頼もしく見えた。


「じゃあ、気合入れでもしちゃおっか!」

聖の提案で皆が円になり、手を重ねる。

「まーちゃんの言う、聖たちを見ててくれる人に。

 一生懸命、がんばっていきまぁ〜〜っ…」

「 しょいっ!!!!!!!!」



見上げた空には、美しい花火が満開で皆を照らしていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


904 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:33:14
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


〇Epilogue 



たくさんの絵に囲まれた部屋。


「できた…。」

少女が一人、ちょうど1枚の絵を描き終えたところだった。


花火の絵なんて、初めて描いたなぁ。


急に思い立って描き始めたものだったが、
なんとか間に合わせることができたようだ。


― ピーンポーン ―

「は、はいっ!」

チャイムに思わず姿勢を正し、慌てて階段を下りる。

「あやちゃん、こんにちは。」

ドアを開けると、そこには春菜と、そして…

「こんにちは。」

柔らかな笑顔で微笑むさゆみの姿があった。


905 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:33:57

「あっ、お、お久しぶりです!」

二人を出迎えた少女、和田彩花は
やや緊張しながらも二人を部屋へと招いた。


「やっぱりいつ見てもあやちゃんの絵はきれいだなぁ〜。」

「あ、ありがとうはるなん。

 あ、あとこれ、さっき描き終わったばっかりなんだけど、
 道重さんに見せたいなって、思って…。」

彩花が恐る恐る見せた絵に、二人は感嘆の声を上げた。


「わぁ〜!魔法花火!! あの花火大会の時の絵ですかね!

 あ、ワタシもいる!」

興奮する春菜に、さゆみが優しく目配せをする。

「すごいね。ちなみにこれは、どういうきっかけで描いたの?」

「あ、なんというか、急に思い立ったんです。

 道重さんに見せたい! って。」

「わぁ、嬉しい! ありがとう!」

さゆみの笑顔に、彩花もようやくリラックスした笑顔を返した。


906 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:34:29


「あの、道重さんが、題名を考えてもらえませんか?」

「この絵の?」

「はい。 描いている時から、
この絵は道重さんのために描いていたので。」

「わかった、帰るまでには考えとくね。」





「…じゃあ、いまスパゲッティつくるので、ちょっと待っててください。」

「はるなんも少しは習ってくるといいよ。

 でもお手伝いは程々でいいからね。」

苦笑いの春菜を送り出し、さゆみは再び絵と向き合った。

その表情は清らかで、母性に溢れていた。


「頑張ったんだね、みんな。」


本当に頼もしくなった。さゆみも安心しちゃったなぁ。



さゆみはしばらくその絵を見て微笑んでいたが、

キッチンが騒がしくなってきたのに気づいてようやくペンを取った。



『Message』


そうタイトルをつけると、
さゆみは音程のおかしな鼻歌を歌いながらキッチンへと歩いて行った。




                             完


907 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 12:40:18

ちょいちょい端折ってるので回収してない所もありますが、
ようやく終わりました。

本編や他の外伝からいろいろ設定をもらったり
オマージュを入れたりしてます。

菅井ちゃんは、
さゆが消える前、自分の魔法の影響で
M13地区に何かあっても大丈夫なようにと唯一仕込んでいたものです。

あくまで本編作者さん作『卒業』の世界観とよく似た
パラレルワールドでの出来事ですが。


908 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 13:11:26
避難所の『Message』の結末きたぞ


909 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 13:12:01
誤爆しました


910 : 名無し募集中。。。 :2017/09/24(日) 23:35:12
>>909

いや、ありがとうございます。by作者


911 : 名無し募集中。。。 :2017/09/25(月) 11:21:44
完結お疲れ様でした


912 : 名無し募集中。。。 :2017/09/25(月) 13:51:26
そうか…すでさゆが旅立った後の世界だったのか
なぜ出てこないんだろうと思ってたからこれで納得w
完結お疲れ様でした!やはり鞘師はこけましたねw


913 : 名無し募集中。。。 :2017/09/27(水) 20:14:50
本スレ落ちてる・・・

そろそろこっちに移行する潮時かな


914 : 名無し募集中。。。 :2017/09/28(木) 07:28:44
本スレ終わりなの


915 : 名無し募集中。。。 :2017/09/30(土) 00:43:13
立てば保全の協力は惜しまないけど


916 : 名無し募集中。。。 :2017/09/30(土) 06:29:05
避難所の外伝もちょうど完結したし…本編作者さんや外伝作者さんが再開する時改めて立てても良いんじゃないかな?


917 : 名無し募集中。。。 :2017/09/30(土) 07:12:09
iテキストからDropboxにアクセス出来なくなった
鬱だ


918 : 名無し募集中。。。 :2017/10/16(月) 07:09:11
もうサポートやめたのかと諦めてたらiテキストのアップデート来てた
放置してたSSの続きを書いてみようかな


919 : 名無し募集中。。。 :2017/10/16(月) 10:32:53
続き待ってます


920 : 名無し募集中。。。 :2017/10/18(水) 07:29:30
待ってるよ


921 : 名無し募集中。。。 :2017/10/27(金) 01:39:07
やっつー漫画の人はどこに行くんだろ


922 : 名無し募集中。。。 :2017/11/04(土) 04:34:24
そろそろCHO DAI


923 : 名無し募集中。。。 :2017/11/19(日) 01:21:00
スプ水先生異聞

「スマホになりたい」


924 : スマホになりたい :2017/11/19(日) 01:21:38
目を覚ますと、私はスマホだった。

何でこんなことになってしまったのか、もちろん理由はさっぱりわからない。
……と、言いたいところだけれど、実は心当たりがないわけでもない。

考えられる可能性はただ一つ。
私自身が、スマホになりたいと願ったから。

それもただのスマホではなくて。
それは……。


♪We're BRAND NEW MORNING! 新時代の幕開け!!
♪We're BRAND NEW MORNING! 時間(とき)を超えて行くぞ!!

スマホになった私から、大音量で「BRAND NEW MORNING」が流れ出す。
セットされていた目覚ましが、設定時間になり稼働したためだ。

そして目覚ましを掛けた持ち主は、大音量にすぐに反応して起き上がる……こともなく、
まったく耳に入ってもいないかのように、スヤスヤと眠りの世界に浸り込んだままだった。

その安らかな横顔に私はそれだけで蕩けそうになりながら内心で小さくため息を吐く。
普段の凛々しさと無防備な寝顔のギャップがたまらない、その人物は……。


925 : スマホになりたい :2017/11/19(日) 01:22:22
加賀楓さん。

あれは確か、研修生発表会でしたトークの一場面。
「もし人間以外でなれるなら?」という質問に、

「加賀さんのスマホになりたいです!」

と答えたあの願いが、本当に叶ってしまったということらしい。


冷静に考えて、これはきっと夢を見ているだけなのだろう。
でもこんな素晴らしい夢が見れるのなら、もちろん大歓迎。

もしかしたら何かの拍子に本当にスマホになってしまった、
なんてこともあるのかもしれないけど、それならそれで構わない。

たとえ井上ひかるの人生がスマホとして終えることになるとしても、
ずっと加賀さんと一緒にいられるのであれば、これ以上幸せな一生はないのだから。


その時の私は、半ば本気でそんなことを思っていた。
そう、その時は……。


(つづく)


926 : 名無し募集中。。。 :2017/11/19(日) 01:22:52
※参照
@
人間以外でなれるなら

井上ひかる
加賀さんの携帯になりたい
加賀さんが使ったらずっと見つめあえるじゃないですか。


927 : 名無し募集中。。。 :2017/11/19(日) 01:24:35
※スプ水先生シリーズが一段落したらはーでぃーネタを書きたい
なんてことを言っておきながらズルズルと時ばかりが過ぎてしまい、
挙句の果てになぜだかパッと閃いてしまった
ほぼ出オチに近いネタを書き始めてしまいました。

これもきっと今のままでは途中で挫折すること請け合いのため、
とりあえず出だしだけ投下しておいて自らを背水に追い込み
たとえ時間はかかってもどうにか完結まで持っていきたいと思います。
(順調なら次回で完結予定)


なお一人称で書いておきながら井上ひかるんのキャラがよくわかってないという
ダメダメな状況のため、口調等はテキトーなものとなっています。
もしひかるんヲタの方も読む機会があれば申し訳ない限りですがご了承ください。


928 : スマホになりたい :2017/11/23(木) 22:19:28
私のことを真っすぐな瞳で見つめてくる加賀さん。
こんなに間近で加賀さんと見つめ合えるなんて、もちろん初めての経験だ。

とはいっても、加賀さんにとってはただスマホの画面を凝視しているだけなんだけど。

スマホのアプリに没頭する加賀さんは、真剣な表情から熱くなった表情、
悔しがる姿や無邪気に喜ぶ様子、果てはニヤついた笑顔まで、
普段はなかなか見せない一面を私だけにさらけ出してくれる。

こうなりたいと願った通りの光景に、私は完全に夢見心地だった。

もちろんスマホと向き合っていない時でも、
加賀さんが私のことを肌身離さず持ち歩いてくれている。
その事実だけで私の心はこれ以上ないほど満たされ、
「夢ならこのまま醒めないでほしい」と、この時ほど本気で祈ったことはない。

でも……。





929 : スマホになりたい :2017/11/23(木) 22:20:56
「……その時の宗谷名人が、ミステリアスですごい痺れるんだよね」

真夜中のホテル。
ベッドに寝っ転がった加賀さんが止まらないアニメトークを聞かせてる相手は、
隣りのベッドですでに限界に近い状態となっていた。

「零くんがまたいいんだ……って、聞いてる横山!?」

「……聞いてるよぉちゃんと」

「聞いてないじゃん、さっきから頭ガックンガックンさせてばかりで」

隣りのベッドに身体を乗り出して、完全に落ちかけてる横山玲奈ちゃんの肩を揺さぶり
無理やり話を聞かせようとする加賀さん。

加賀さんがこんなにも自分のワガママを押し付けようとする姿は
自制心の強い普段の様子からはなかなか見られないもので、
やっぱり飾らない素を見せていける同期というのはいいものだ。

なんてほっこり眺めてたけど、そんなワガママに巻き込まれた横山ちゃんにとっては
たまったものじゃないわけで、ついには堪忍袋の緒が切れて
おもむろに身体を起こすと加賀さんに思いっきり抗議をぶつけだした。


930 : スマホになりたい :2017/11/23(木) 22:22:12
「ああもう! いい加減にしてよかえでー!! 今何時だと思ってるのさ!! 
明日もライブで大変なんだからもう寝かせてよ!!!!」

「あと少しくらい大丈夫だって、今ちょうど話がいいところな……」

「れいなはもう眠いんだから邪魔しないでよ!!!!!」

怒り心頭に発した横山ちゃんが加賀さんに襲い掛かり、
不意を突かれた加賀さんの身体を仰向けに倒して押さえつける。

「かえでーもいい加減に静かに寝て!!!」

でも体格差は歴然、加賀さんがあっさりとひっくり返すと、
今度は加賀さんが横山ちゃんの身体を押さえつける体勢になった。

「だからもう少しだけ聞いてくれたら満足して寝るって……あうっ!!」

横山ちゃんにわき腹を強く突かれて怯んだところをもう一度ひっくり返され、
そのまま2人はベッドの上でもつれ合い攻守を交代しながらゴロゴロと転がる。

これも普段は見られない加賀さんの痴話喧嘩姿で、なんとも微笑ましい。

そんな風に、余裕を持って見ていられたのは最初だけ。
段々と息遣いが粗くなっていく2人の様子がおかしな熱を帯びてくると、
見ている私もなぜだか胸の鼓動が収まらなくなってきた。

そして……。


931 : スマホになりたい :2017/11/23(木) 22:23:29
「アニメばっかのその減らず口を塞いでやる!!」

えっ!? 嘘……。

私の目の前で、覆いかぶさった横山ちゃんが加賀さんの唇を塞いだ。
それも自分自身の唇によって……。

加賀さんのそれ以上の抵抗を許さない、激しくそして濃厚なキス。
動きを止めた加賀さんの手が横山ちゃんの背中に回ると、ギュッと身体を抱き締めた。

「これでもう……諦めて寝てくれるよね」

紅潮した顔でゆっくりと唇を離す横山ちゃん。
その額が薄らと汗ばんでいるのが、年齢に似合わぬ色気を醸し出している。

「……まだ寝ない。ううん、もう寝かさないし!」

「えっ!?」

ドヤ顔を向ける横山ちゃんに、放心状態だった加賀さんが突然牙をむく。
力づくで横山ちゃんを押し倒すと、強弱をつけて柔らかく身体中を愛撫していく。

「ちょっ……あぁっ! かえでーばかり……ズルいから!」

横山ちゃんも負けじと加賀さんに攻めかかり、そこからは2人とも言葉もなくなり、
お互いの身体を本能のままにまさぐりあい、口から洩れるのは悩ましい喘ぎ声だけ。


932 : スマホになりたい :2017/11/23(木) 22:24:26
なんで……なんで一体、こんなことに。

加賀さんと横山ちゃんがこんな関係だったなんて、一ミリたりとも考えもしなかった。
加賀さんとずっと一緒にいたい。加賀さんのことをずっと見つめていたい。
そう願っていた私だけど……。

こんなあられもない加賀さんの姿なんて、見たくない!!!!

沸騰した感情が爆発しそうになりながらも、
私は2人の激しい絡みから目を離すことができなかった。

だって、今の私はスマホだから。
電源が切られでもしない限り、目を閉じることも目を背けることもできない。

……もう限界。

もしこれが私の願いの結果だというのなら、加賀さんのスマホになりたいなんて、
こんなお願いをするんじゃなかった。
もしこれが夢だというのなら、この悪夢から早く醒めて!!!


血を吐くような哀願に神様が憐れみをかけてくれたのか、
私の視界が暗転しゆっくりと意識が遠のいていく。

そして……。


(つづく)


933 : 名無し募集中。。。 :2017/11/23(木) 22:25:30
※1回の更新で終わりませんでした……。
次回こそ完結予定……なはず。


参考


横山「わたしは加賀に謝りたくて。よく加賀と一緒の部屋になるんですけど、
寝ようとベッドに入る時に、加賀の好きなアニメの話をしだすんですよ。
それを『へぇーそうなんだー』って聞いてる風にしてるけど、実は全然ついていけてません」
石田「じゃあそろそろ準備終わったみたいなんで、加賀ぁー!」


ムッとした顔で出てくるかえでぃー

生田「じゃあ優しい先輩のわたしが聞いてあげる!」
加賀「ほんとですか!?'(*゚▽゚*)」
横山「生田さん、ほんとやめたほうがいいです、とんでもないことになりますから!」
譜久村「13期は仲良くやってねw」


ナルチカ抽選会でのフリートーク

野中「じゃあ横山ちゃんが聞いてくれなかったアニメの話する?」
加賀「いいんですか?!」
横山「違うんです!だって長いんです!2時まで話してるんですよ!」
加賀「じゃあマクロスの話しますね!Δも好きなんですけど、やっぱりフロンティアが音楽も…


934 : 名無し募集中。。。 :2017/12/09(土) 05:10:56
久しぶりに来たら新作が


935 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:34:29
目を覚ますと、私はスマホだった。

どうして……。
ようやく悪夢から脱することができたと思ったのに、
どうして私はまたスマホになっているの!?

混乱する私の目の前にいるのは、またしても加賀さん。
つまり今の私はまた、加賀さんのスマホだということ。

そしてそんな加賀さんにおずおずと話しかける人物が一人。
それは、尾形春水さんだった。

「なあかえでぃー。ホンマにはるなが相手でええの?」

「もちろんですよ。でもやるからにはただのゲームじゃなくて、
本気の真剣勝負ですからねこれは」

緊張と戸惑いで声がかすれがちの尾形さんとは対照的に、
加賀さんは不敵なまでの笑みを浮かべた余裕たっぷりの表情だった。

一体これから何が始まるというのだろう??

固唾を呑んで見守るしかない私の前で、尾形さんが震える指で一本のポッキーを取り出し、
躊躇しながらもその端を口に咥える。
そして加賀さんも、待ちかねたようにもう一方の端を口にした。

これは、ポッキーゲーム。
なんでこの2人が……。


936 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:35:09
端と端を咥えた状態で見つめ合う2人。
抜けるような白い肌を緊張でさくら色に染めた尾形さんの目は、
怯えた子犬のように泳いでいる。
一方の加賀さんの目は、獲物の存在を捕捉した猛禽類のような鋭い視線で
尾形さんを射すくめていた。

そのまま時が止まってしまったかのように動かなくなった2人。
でもスマホになっていた私には、はっきりわかってしまう。
それが実際はたった8秒間の見つめ合いでしかなかったことに。

加賀さんの口角がニヤリと上がるや否や、
ポッキーを前歯で細かく齧りつつジワジワと2人の距離を縮めていく。

それは亀のような微々たるスピードで、でも決して動きを止めることはなく、
時限爆弾の針が正確に時を刻んでいくように、
尾形さんを呑み込まんばかりの迫力で追い詰めていった。

本来は尾形さんの方からも距離を縮めていかないといけないのに、
完全に蛇に睨まれた蛙状態で固まってしまい、身動きも取れない。

その様子を見た加賀さんが突然ピタリと動きを止め、一拍の間を置くと、
一転してすごいスピードでポッキーを食べ進めだした。

尾形さんとの距離が瞬く間に狭められていき、このままだともう唇と唇が触れてしまう!
……という寸前。

「あぁぁぁ、もう無理やぁ!!!」

口元から零れ落ちるポッキーのかけら。
ギリギリで顔を背けた尾形さんが悲鳴のような声を上げた。


937 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:35:48
「フフ、尾形さんの負けですね」

「こんなん、はるなが勝てるわけないやん……」

「わかってて勝負したんだから、言い訳はなしですよ。
じゃあ約束通り、勝った方の言うことを何でも聞くということで……」

その時の加賀さんのドS全開の凄みのある笑みは、
私の脳裏に克明に刻み込まれ、もう二度と消し去ることができないだろう。

「甘党の私には、ポッキーだけじゃ全然物足りないんですよ。
だから……。尾形さんのことも、美味しく頂いちゃいますね」

尾形さんの肩を掴むと、抵抗する暇も与えずに荒々しく唇を奪う。

そこから先は、既視感のある、そして私にとって目を背けたくなるような光景が、
延々と展開されていった。

「いやぁ……。かえでぃ! あぁ!! 
かえでぃ、かえでぃ、かえでぃ……」

抗えない快楽の波に襲われながら、うわ言のように名前を連呼するしかできない尾形さん。
その恍惚の表情を前に、私は卒然として悟った。

尾形さんは内心で、最初からこうなることを望んでいたのだと。
そしてそんな2人をスマホとして眺めることしかできない私。

なんで……。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの!!!!

心の奥底からの叫びに支配されるとともに、
私の視界が再び暗転しゆっくりと意識が遠のいていく。

そして……。





938 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:36:31
目を覚ますと、私はスマホだった。

スマホになった私の視界が大きく揺れている。
持ち主の加賀さんは、スマホを握ったまま走っていた。

「待って! 待ってよ!!」

そして追いすがる加賀さんから必死の形相で逃げる人物が一人。
それは、山岸理子さんだった。

なんでこんな光景が繰り広げられているのか全く理解できないまま、
またしても悪夢から抜け出せずスマホになってしまった私は、
今回もただひたすらに2人のことを凝視することしかできない。

「待って! 逃げないで!!」

「嫌だ!!」

その追いかけっこも、加賀さんが腕を掴んだことで終わりを迎えた。
山岸さんはなおも抵抗しながら疲労困憊で逃げられず、
そのまま2人して息を切らせながら倒れ込む。

「なんで! かえでぃーは、私を探したの!?」

「どうしてるかなーって!!」

「どうも……してないよ!!」

「元気にしてるかなーって!!」

「元気だよ!!」

「良かった!!!!」


939 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:37:12
ハアハアと苦しげに息継ぎしながら、声を張り上げ魂をぶつけ合う2人。

「なんか……友達みたいなこと聞かないでよ!」

「私達友達じゃないの!?」

「いやどっちかっていうとかえでぃーの方が私のこと好きじゃん!」

「そうだよ! 好きだよ!! 好きだよ!!!!」

「どれくらい!?」

「……すっごい好き!!!!!!」

情熱的な加賀さんの告白が響き渡る。

「ホントに! ホントに理子ちゃんが好きだから!!
ねぇいいじゃん! 友達になってよ!!」

加賀さんの叫びに応えて膝立ちになった山岸さんが
座り込んでいる加賀さんの頭を両手で掴み、そこで初めて2人の視線が通じ合った。

「ゴメンね!!」

「もういいよ!!」

「私も好きだよ!!!」

「私も好きだよ!!!!」

「ありがとう!!!!!」


940 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:37:44
抱き合いながらお互いの気持ちを確かめ合う2人に、私はただただ圧倒されていた。

でもこのやり取り、私は見たことがある。
これは2人が出演した舞台、「ネガポジポジ」の一コマだ。

ただ全部が全部同じというわけではなく、色々と違うところがある。
第一呼び合っているのが役名じゃなくお互いの本名だし、それに……。

嫌な予感に襲われる私を嘲笑うかのように、次の瞬間、
山岸さんが加賀さんの顔を自らの豊満な胸に誘導して押し付けた。

柔らかな胸の魔力に囚われた加賀さんはあっさりと陥落し、
汗だくになりながら情熱の全てを山岸さんにぶつけていき、
山岸さんもまた加賀さんの想いを全て包み込むように受け止める。

やっぱりこんな展開になるのか……。

2人のあまりに官能的な絡みに釘付けになりながら、
理不尽と知りつつそれでも私は魂の叫びを上げずにはいられなかった。

友達というのはこんなことをする関係じゃないから!!!!

もちろんそんな抗議は受け入れられるはずもなく、
またしても私の視界が暗転しゆっくりと意識が遠のいていく。

そして……。





941 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:38:24
目を覚ますと、私はスマホだった。
次に目を覚ました時も、私はスマホだった。
その次も、そのまた次も、ずっとずっと、私はスマホだった。

そして目覚めるたび、私は加賀さんの濃厚な濡れ場を否応なく見せつけられた。
しかも相手は毎回変わっていき、それらはみんな私のよく見知っている、
普段から加賀さんのことを好きだと公言しているメンバーだった。

牧野真莉愛さん。小田さくらさん。佐々木莉佳子さん。和田桜子さん。小野瑞歩さん。
ついには金津美月ちゃんまで……。

もはや、なんでこんなことにと苦悩する思考能力すら消えかけ、
痛いほどの胸の鼓動を抱えながら、釘付けの視線だけは逸らすことができない私。

もしかして、本当は加賀さんのこんな姿を見るために
私はスマホになりたかったのかも……。

ふと浮かんだそんな思い。
甘美なまでの閃きに抗しきれずそのまま沈み込みかけたその時、
全てを吹き飛ばすように心の奥底のタガが外れ、熱い想いが溢れ出してきた。

私がスマホになりたかったのは、こんな加賀さんを見るためじゃない!!
……いや違う。
もしかして私は、本当はスマホになりたかったんじゃないのかもしれない。
本当の私は……。


942 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:39:05
『貴女の真の望みはなんなのか……。それを、教えてほしいの。
そうすれば、きっと……』

麻痺寸前の霞がかった脳裏に突如誰かの声が響く。
それはどこかで聞いたことのある特徴的なものだったけど、
いったい誰の声なのか、それを詮索する余裕はその時の私にはなかった。

真の望み。それは……。

その答えが全身を貫くとともに、私の視界が眩い光に覆われ、
ゆっくりと意識が遠のいていく。

そして……。









目を覚ますと、私はスマホ……ではなかった。

今の私は、確かに人間。私の名前は、井上ひかる。
そう。今の私は、間違いなく私なんだ!!

そんな喜びに浸っている余裕は、全くなかった。

私の目の前には加賀楓さんが、まっすぐな瞳で、
スマホではない人間の私のことを、ジッと見つめていた。


943 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:39:40
「ねえ教えて。ひかるんの本当の想いを。本当の願いを。
全部……私に聞かせて」

私はこれまで、加賀さんのそばでずっと加賀さんのことだけを見ていたいと、
それが私の望みだと思い続けてきた。
だからこそ加賀さんのスマホになりたいなんて口にしたんだけど、
でも、私の真の望みは……。

「私は……。加賀さんのことが好きです。
今の私はもう、加賀さんのことをただ見守っているだけじゃ我慢できない。
だから、私の身も心も、加賀さんに捧げます。
私の……全てを奪ってほしい。これまでみんなにしてきたように」

私の告白に応えて、無言で顔を寄せた加賀さんが優しく唇を重ねてくる。
たったそれだけで、全身に電流のような快感が駆け巡った。


加賀さんに全てを委ねながら、私はぼんやりと思う。
スマホとなって繰り返し見せつけられてきたみんなの姿は、
今までずっと押さえつけてきた願望が、歪んだ形で現れ出た結果なのかもしれない。
心の奥底で私はずっと、こうなることを望み続けてきたんだ。

加賀さんに抱かれ体験したことのない官能に酔いしれながら、
頭の片隅に小さく懺悔の言葉が浮かんだ。

ごめんなさい広瀬さん。私もう、「加賀さん同盟」を続けられない。
一足先に……脱退します。

でもそんな些事は一瞬にして泡と消え去ってしまい、
私はまた無我夢中で加賀さんに縋りつくと、尽きることのない快楽に耽溺していった。


(おしまい)


944 : スマホになりたい :2017/12/12(火) 19:40:25
※どうにかはーでぃーネタも詰め込んでみました

参考

渋谷個別 小田 3部
私「かえでぃーで最近キュンとした何かある?」
小「あ、さっきはーちんとポッキーゲームしてたんですけど
結構かえでぃーの方がグイグイ攻めてましたよ♪」
私「え?かえでぃーが?はーちんと?」
小「はい♪」
(その後即座に各ブース列に並んでる尾形、加賀推しに共有した)


追う加賀と逃げる山岸
https://www.youtube.com/watch?v=8ahp5JyS3LY


945 : 選ばれざりし者 :2017/12/13(水) 22:22:56
目を覚ますと、私はスマホとなった井上ひかるちゃんと意識を共有していた。

何故こんなことが起こりえたのか、まったく理解はできない。
でもそんな私の戸惑いを置きざりにして、事態は淡々と進み続けていった。

加賀さんのスマホになれた喜びを分かち合い、
加賀さんの濡れ場を否応なく見せつけられ、
人間に戻れない苦しみに悲鳴を上げる。

そんなサイクルを何度も何度も、ひかるんとともに味わってきた。


そしてついに……。

「私は……。加賀さんのことが好きです。
今の私はもう、加賀さんのことをただ見守っているだけじゃ我慢できない。
だから、私の身も心も、加賀さんに捧げます。
私の……全てを奪ってほしい。これまでみんなにしてきたように」

人間に戻れたひかるんの、秘められた想いを全て吐露した魂の告白。
その告白に応えた加賀さんからの優しい接吻。

そこから繰り広げられる2人の目くるめく艶事を、
独り加賀さんのスマホとして取り残された私は、
締め付けられるような痛みとともに見守るしかできなかった。


946 : 選ばれざりし者 :2017/12/13(水) 22:23:57
『ごめんなさい広瀬さん。私もう、「加賀さん同盟」を続けられない。
一足先に……脱退します』

自分だけ先に脱退するなんてズルいよ! 裏切り者!!

精一杯の私の抗議も、瞬時に懺悔の言葉を快楽の海に捨て去ったひかるんには
もちろん届くことはなかった。


何故私だけこんな目に……。
非道いよ!! 非道すぎるよ!!!
私だって……。私だってみんなのように加賀さんに抱かれたいのに、
どうして独りだけ仲間外れなのよ!!!!

心の奥底から湧き上がってきた隠しきれない本音。
それに答えるように、突然脳裏に誰かの声が響き渡った。

『ごめんね広瀬ちゃん。
これまで貴女達が見てきた光景、みんなが加賀ちゃんに抱かれるという未来は、
ここではないまったく別の平行世界でそれぞれ確かに起こった現実のモノ。
だけどね、さゆみがどんなに懸命に探しても、全宇宙どこの平行世界にも
「広瀬彩海が加賀楓に抱かれる」という未来はまったく存在しなかったの。
だから残念だけど、これも運命だと思って諦めてほしいの』

そ、そ、そんな〜!!!!


(おしまい)


947 : 名無し募集中。。。 :2017/12/13(水) 22:24:45
※以上で本当に終了です。
どうしてもわかりやすいオチを求めてしまうのが我ながら悲しいサガ(苦笑)


なお一応、「スプ水先生異聞」と題し、外伝の外伝として書ける下地だけは整えたので、
何かネタを閃いたら忘れた頃にまた新作を投下するかもしれません。


948 : ◆JVrUn/uxnk :2017/12/17(日) 20:55:33
久々に来た

くどぅーが卒業してしまった。。。

いつの日か続き書きたい


949 : 名無し募集中。。。 :2018/01/13(土) 14:30:30
>>947
いつの間にか更新が!なんども繰り返しスマホになるなんて…気が狂いそうw
そしてただ一人かえでぃーに抱かれないあやぱんww


950 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/21(日) 21:55:50


「ふぁぁぁ。一体いつまでここにいなきゃいけないんだ?」
「こら、仕事中だぞ。気を引き締めろ。」
「すまんすまん。だがなぁ。。。こんなとこに人なんてくんのか?
とうに調べ尽くされて今更現場になんて戻ってこないだろうに。」

「油断大敵だ。一般人だけならば話は簡単だが、今回は魔道士も一緒にさらってきちまった。
あいつら自体が危険極まりない。」

「だが、ボスはそんなこと百も承知だろ?だってボスだって魔道士、
しかもかなり遣り手で、教会にも顔が聞くレベルじゃないか。」

「まあな。」

通り過ぎる足音を確認しながら舞は小さくため息をつく。
どうにも変なところに連れてこられてしまった。
この空間に自分たちは生かされたまま軟禁状態にある。

おそらく奴らの言うボスは相当な手練れであるだろう。
この広い空間に少なくとも100人以上は軟禁されており、かつ自分たちのような魔道士がいるのにも関わらず
逃げ出す隙を与えない。

囚人の取り扱いに長けている。
それが舞の抱いた印象であった。

「ねぇ、やなみん?」
「はいなんですか、小関さん?」
「私たちどうなるんだろうね。」
「うーん。。。」


951 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/21(日) 21:56:58
舞はなんとなく思ったことを奈々美にぶつけてみたが、奈々美は額に小じわを寄せながら真剣に考え込む。
その様子を見ながら舞は先輩失格だなとふと思った。

ただ、舞も奈々美も事態を悲観的には捉えてはいなかった。
いつかは抜け出すチャンスはくる。
今はその時ではないからじっと待つ。

おそらく他のメンバーもそう思っているはず。

「まぁさ、ここの連中もすごいよね。てか命知らず。」
舞はなおも考え込む奈々美に半ば笑いながらいう。

「そうですね。それは間違いないですね。だって。。。」
奈々美も笑って応じる。

「「ももち先輩捕まえるなんて(笑)」」
自分たちには数々の修羅場を乗り越えた嗣永桃子が付いている。
そう思うだけで自然と気が楽になった。




952 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/21(日) 21:58:11
「へくちっ」

小さなくしゃみが建物の中に乾いた音を立てて響く。

「どうした。風邪か?」
「いえ、誰かが私の噂をしているのではないかと。」
「下の連中か?」
「恐らく。」
「こら二人ともボスの前で無駄口を叩くな。」

頭を剃髪した男性に咎められ、二人は慌てて視線を前方に移す。
しかし最初にくしゃみをした女性が前を向く瞬間に小さく舌を出したのを
横にいた男は見逃さなかった。

(全く、なんてやつだ。。。)

「話を戻そう。嗣永、お前の部下で脅威となりそうなやつはいるか?」
「うーん、そうですね。あの子たちはチームですから一人一人で動くことを想定したトレーニングはしていません。
ですから個々に閉じ込めておく分には問題ないかと。」

剃髪の男になげかけられた質問に淡々と答えるのは、桃子であった。
「そうか、ならあいつらはしばらくあのままにしておこう。
下手に動かして連絡されても面倒だ。
外部の動きはどうだ?
魔道士協会で今回の件について何か報告は上がっているか?」


953 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/21(日) 21:59:52
「協会内部では今回の一連の事件に関して躍起になって情報収集につとめていますね。
しかしながらまだ我々の存在には気づいておらず、具体的な動きはまだできていないと思われます。
しかしながら協会内部にも裏社会に精通しているものはおりますから。
そうした連中を潰しておくに越したことはないかと。」

「わかった。協会内部の役職者リストを早急にあげろ。」
「かしこまりました。」

進んでいく会議を聞きながら桃子は心の中で思わず舌を巻く。
(こいつら、予想以上にできるわね。。。長い任務になりそうだわ。)

今回の任務、実はかれこれ2年以上前からその準備が進められていた。
ことの発端は桃子がBerryz最後の任務として迎えた執行局襲撃事件で捕えた関係者からの証言であった。

裏に巨大な闇組織がいる。

聴取内容はそれだけであったが、それを聞いた生田はすぐさま事態を悟った。

「あいつらがついに。。。」


954 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/21(日) 22:02:39
桃子自体がこの任務に参加するようになったのは、『Can girl』が発足してからのこと。
しかしそれよりも前から生田は単独で任務遂行のために卓偉に声をかけたり執行局内の人員拡充に努めていたそうだ。

そして桃子に与えられた任務は潜入捜査であった。
生田は過去の経歴上、裏社会にも名を通していた。
その関係を通じて桃子に相手組織への潜入、そして協会内部情報の漏えいを指示したのであった。


「では、以上で本日の会議を終了する。各自持ち場に戻れ。」

進行役の男の声にふと我に帰る桃子。
ぞろぞろと他の男たちが席を立ち部屋を離れていく中で桃子は声をかけられる。

「嗣永、お前は残れ。」

「えー、なんでですかー私も早く帰りたいー。」


そんなことを言いながら内心桃子は嫌な汗をかいていた。

そもそも、今回の一連の事件は全く桃子の耳に入っていない、突発的な事件であった。
今までこの組織が関わると考えられてきた案件にはそれとなく『Can girl』を配置し、
他の執行局員が出張らないように(雅は除く)、最終的に桃子が肩をつけるよう仕向けてきた。

そして、計画の不備を組織に持ち帰り、報告することで計画失敗による組織の存在が明らかになることを防いできたのだ。
しかし、今回はその前情報が何もなく奴らの仕業だと気付いた時には遅かった。

やむなく桃子は自分の部下を襲撃し要人と一緒にさらってきたのだった。

近づいてくる男は組織の中でも5本の指に入る幹部。
疑われている。

緊張から自然と桃子の口は乾いていった。


続く


955 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/21(日) 22:07:41
すっかり季節が過ぎてしまいました
RPB動画作者さんの作品を見てもう一度書いてみようという気になったので
続きを書きます

休みの日にしか書けないのでかなり時間的制約はありますが。。。
おつきあい頂けると幸いです

作者


956 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/21(日) 22:08:14
すっかり季節が過ぎてしまいました
RPB動画作者さんの作品を見てもう一度書いてみようという気になったので
続きを書きます

休みの日にしか書けないのでかなり時間的制約はありますが。。。
おつきあい頂けると幸いです

作者


957 : 名無し募集中。。。 :2018/01/22(月) 05:37:15
久しぶりにのぞいたら続ききてるー
ゆったり更新してください
また楽しませてもらいます


958 : 名無し募集中。。。 :2018/01/23(火) 13:26:16
更新まってます


959 : 名無し募集中。。。 :2018/01/24(水) 12:26:12
おお!まさかのCan girl編の続編が!!続き楽しみに待ってます


960 : 名無し募集中。。。 :2018/01/24(水) 20:43:07
キッズの亡霊としては楽しみが増えてありがたいです


961 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:20:35
しかし、その男が言った一言は意外なものであった。

「そんなに警戒しないでくださいよ、ももち先輩!」
「!?」
「私です、加賀です。」
「か、かえ…ムググ」
思わず声を上げた、桃子の口を慌てて男が塞ぐ。

「しーっ!!声が大きいですよ。ももち先輩!!」
「ご、ごめん、でもなんでここに。。。」

桃子は目の前に立つ男を上から下まで見回した。
どう見ても幹部の男だ。

「私、執行局の諜報班所属になっていて、変身術が得意なんですよ私。」

そうドヤ顔ででもどこか少し恥ずかしげな顔で語る顔に桃子は昔の彼女の面影を見た。
執行魔道士を目指してただひたすらに努力を積み重ねてきた彼女の名は加賀楓。

教育訓練生の時代から実力をもち、何度か執行局の任務に同行していた。
彼女を知るものはなぜ彼女が選抜されないのか執行局の七不思議として語り継いでいたのだった。


962 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:21:47
桃子もBerryz時代に何度か任務に帯同させたことがあり、その実力は知っていたがここまで成長していたことに驚きを隠せなかった。


「いつからここにいたの?てか本物は?」
聞きたいことは山ほどあった。
諜報班に所属をしているということは必ず連絡の伝手があるはず。

桃子には残念ながらその伝手がなく、現在執行局内でどのような動きが取られているのか、
またこちらがどのように動こうとしているのかを知らせることができずにいた。

しかし、楓は小さく首を振ると、声を潜めて桃子にこう告げた。

「執行局はまだ何もつかめていません。
 私自身もももち先輩と同じで伝えるすべがないんです。
 いくら幹部になりすましていても下手を打つとすぐに抹殺されますから。
 しばらくは待ちです。」

「そう。でもよかったー。これで少しは動きやすくなるわねー。」

連絡手段がないことは残念なことであったが、少なくともひとりではないことがわかり桃子は安堵した。


963 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:22:40
「とにかくさ、気をつけてね。」
言うまでもないだろうが、桃子は楓にそう伝えた。
あまり長々と話しをして疑いの目を持たれるのも厄介だ。

話はこれで終わり。
その雰囲気を感じ取ったのか楓も小さく頷く。
「はい、ももち先輩もお気をつけて。」

二人で今後の作戦を練ることを約束し、部屋を出る桃子。
本来であれば自分の持ち場へともどらなければならないがその前に桃子は少し寄り道をすることにした。




「なぁ、梨沙ちゃん?」
「なによ、結。」
「なんか音せぇへん?」
「しないわよ。ていうか少し静かにしててくれない?」

他のメンバーと同じく閉じ込められている梨沙と結。
普段は仲が良く、お互いに下の名前で呼び合うほどの間柄の二人。
閉じ込められてからの二人の関係は最悪だった。


964 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:24:12
何かというとじっとしていられない行動派の結と思慮深く思考立ててから動く論理派の梨沙。

任務遂行中ではこのコンビネーションがとても上手くいく。
しかしながらこの狭い閉じ込められた環境下ではお互いの動きが邪魔でしかたなかったのだった。

「なんや、梨沙ちゃん。
 ずっと座り込んで考え込んでばかりやないか。」

ついに結が怒り始めた。
「捕まったんいうんはわかる。結たちの油断もあった。
 でもだったらちょっとでも早く抜け出さんと。いつまでもうじうじして…。」

「あぁもううるさいっわね。」

梨沙も負けずに応酬する。
静かだった石室の中に二人の声が響き渡る。

その声を聞きつけたのか、見張りが遠くから足音はたてて、駆け足気味にやってきた。

「おい、お前らうるさいぞ。なにを騒いでいる。」

外側からかけられた声にも構わず、室内の二人は本格的に喧嘩を始めた。
そこらに落ちている石の破片を投げ合い、当たらなかった破片が壁にぶつかり激しい音を立てる。


965 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:25:52
あまりに騒がしく音を立てる内部であるが窓はないので内部の状況はこの場ではわからない。

「まったく、こいつら本当に閉じ込められてる自覚あんのかよ。」

少々の諍いごとはいつものことであったので、見張りの男もまた今日も始まったか程度にしか捉えていなかった。
いつもしばらく外から様子をうかがっていると、次第に音は静かになり喧嘩は収束へ向かう。

今日もそのはずであった。
しかし、今日はいつまでたっても中は騒がしいまま。

収まるどころか激しさを増している。

このまま放置していても埒があかないので、男は一旦、監視室に戻り部屋の内部に睡眠導入剤を投入した。

しばらく、中で取っ組み合っていた二人も最初は土煙に紛れて薬の煙に気づかなかった。
だが次第に濃くなる睡眠導入剤の影響を受けてかその動きが緩慢となり、やがて突っ伏すように倒れてしまった。

「そろそろ薬が効いてきた頃か。」

部屋の内部を監視するカメラはない。
男は監視室から出ると再び部屋の前へと戻り、外から聞き耳を立てる。
中は静かになっていた。


966 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:27:59
「ふう、やっと寝たか。世話の焼けるやつらだ。」
そう言って男は部屋の前から立ち去っていった。


「どう?調子は?」
監視室に戻った男は室内からかけられた声に一瞬、体を固くさせ警戒をするが声の主が桃子であるとわかると
途端にホッとしたような顔をした。

「嗣永、おまえまたこんなところで油を売ってるのか。」
「いいじゃない別に。
 だってやることないんだもーん。
 どっかの誰かさんが勝手に作戦進めちゃうからももちの居場所なくなっちゃったしー。」

「まだ、おまえそんなに根に持ってるのか。
 おまえといい、あいつらといい協会はどんなしつけをしているのやら。。。」

「ベーだ!」

男は腰に手をあて、半ばあきれた様子で桃子を見下ろす。
まったくどいつもこいつもと言いながら、男は自分の椅子に腰掛けた。

「それであんたの方は何やってたのよ?
 お散歩ってわけじゃなさそうだし。」
「そうそれだ。おまえ連れてきた魔道士の一組の手が焼けること手が焼けること。
 閉じ込められていてイライラするのはわかるが、毎日喧嘩してうるさいったらありゃしない。」

「へぇー、意外ねぇ。イライラしてるってわかるんだ。」
「そりゃそうだ。
 俺たちだってここに閉じ込められているようなもんなんだから境遇は一緒さ。」


967 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:29:31
普段は、見張りとして仕事をしているこの男。
しかし一方でこの組織は組織としての大きさが大きいため、自分に与えられた仕事以外は出来ない。

「そういうもんなのねぇ。
 だから今日はとりあえず、薬で鎮めたわけね。あまりにもうるさいから。」

笑っていう桃子。
あの二人がそんなに仲が悪いとは思っていなかったが意外な一面もあるものだと軽く思う。

だが、その軽い思いは男の一言で吹き飛んだ。
「あまりにも騒がしいことが上にバレると、あいつら片付けないといけないんだよな。」

「えっ!?」
思わぬ一言に桃子の表情が固まる。
だが、そのように気づかない男は話を続ける。
「そりゃそうだろ。ボスにとっては興味のない連中だからな。
 今生かされているのが俺にとっては不思議なことだよ。
 まぁ、最終的には殺されるんだろうけどな。
 殺るなら早いトコしてほしいなぁまったく。」

桃子にはもう考える余裕がなくなっていた。
本当はここに来て捕まっている梨沙たちの様子でも知れればいいと思っていたのだが、
この話を聞いて桃子はのんびりと構えている時間はないことを思い知ったのだった。


続く


968 : ◆JVrUn/uxnk :2018/01/28(日) 17:30:42
こんにちは

桃子編続きです
長編になりそうな予感

だらだらと書いていて申し訳ない

作者


969 : 名無し募集中。。。 :2018/01/29(月) 12:59:35
その分楽しみは長く続くって事でしょ


970 : 名無し募集中。。。 :2018/01/30(火) 12:31:12
長編好きなんでありがたいです


971 : ◆JVrUn/uxnk :2018/02/07(水) 22:24:36




桃子たちCan girlが消息を絶ってから1週間が過ぎた。

魔道士協会所属の魔道士のみならず一般人の行方不明者を出したことで一般の警察、
協会の刑事局、執行局はフル稼働で連携をし事態の解決に向けて動いていたが収穫は
ほとんどないままであった。

この日もまた執行局局長の生田は、3者共同の捜査会議に出席をし、今後の捜査方針に
ついての会議に参加していたが、そこで得られた情報はなかった。

もちろん生田自身も部下に指示し他の2者とは別に諜報活動を行ってはいるが、何も情報を得られないまま

ただ徒らに時だけが過ぎていくのであった。

「お帰りなさい、局長。今日はどうでした?」
「何かわかりました?」
局へと戻った生田を秘書の石村舞波と捜査を中心に担っている清水佐紀が迎える。

しかし生田の疲れた表情を見て今日も何も情報が得られなかったことを悟った。


972 : ◆JVrUn/uxnk :2018/02/07(水) 22:37:14
「それにしても相手の目的はなんなんだ。」

椅子に深く腰掛け、机上に差し出されたコーヒーを一口すすると生田は腕組みをして考え込む。

「最初は桃が黒幕かと思いましたけど。。。
 嗣永桃子という魔道士のブランドを手に入れたのにも関わらず
 まったく目立った動きをしていないということは桃は完全に動きを封じられた状態に
 あるということですよね。」

「他の子達もそうですよね。
 あの子達ならまだまだ歴戦の戦士とはいかないですけど。
 なんらかのアクションを起こすはず。」

目の前の舞波と佐紀のやり取りを聞きながら生田はぼんやりとCan girl結成の夜に初めて桃子に自分の腹の中を明かし、
協力を依頼したことを思い出していた。

最初から生田は桃子に潜入を依頼した組織が裏にいることには感づいていた。

しかし動きがなければさすがの生田でもその尻尾を掴むことは出来ない。

「どうしたものか。。。」

生田が大きくため息をついた時であった。
局長室の電話が鳴る。


973 : ◆JVrUn/uxnk :2018/02/07(水) 22:41:00
沈んだ空気の中に乾いた電話音が鳴り響く。

電話を取ろうとした舞波を制して生田は受話器を取ろうとした。
しかし受話器に手をかけた生田は一瞬嫌な予感がし、撮るのを躊躇した。

「局長?」
「いや大丈夫だ。」

再び電話を取ろうとした舞波に声をかけると生田は受話器を取る。

「私だが。。。。何!?
 それは一体…。そうか。あぁ。
 ……わかった。連絡ご苦労。そっちでもうまくやっておいてくれ。
 よろしく頼む。」

受話器をおいた生田は二人が目の前にいることも忘れ、しばらく天井を見上げた。
「…長、…長。局長ってば!!」

生田は佐紀の声でふと我にかえり、自分のことを心配そうに見つめる二人を見た。

奴らが動き始めた。
だがその方向性は生田の考えから大きく外れているものであり、逆に最も起きて欲しくはないものであった。

「局長…。いまの電話って事件に関することですか?」

やはり話さなくてはいけない。
そう覚悟を決めた生田は大きくため息をつくと話し始めた。


974 : ◆JVrUn/uxnk :2018/02/07(水) 22:42:50
「いまのは刑事局の知り合いからの電話だ。
 刑事局で亡くなった方が出たそうだ。
 わりかしそいつとも昔からの知り合いであったからな。」

生田はここで一度言葉を切った。

「殺されたらしい。」
「「えっ!?」」

生田から出た一言に固まる舞波と佐紀。

「どうやら自宅にいたところを襲撃されたようだ。
 家の中は荒らされていなかったようだから怨恨だろう。」

「えっ、でもそれって。そんなに誰かに恨まれるような、そんなにあった方なんですか?」

「まあ刑事局だからな。恨みを募らせる奴がいないなんてことはない。
 我々も同様だ。」

「まぁそうですけど。」

「問題は恨みがあったどうこうじゃない。
 やつはそんなに貧弱な魔道士ではない。
 不意打ちしても殺すのには相当骨が折れるだろう。
 やつ自身が裏社会に精通しているからな。相当な警戒をしていたはずだ。
 それをかいくぐって殺されたとなると…。」

二人は息をするのも忘れ、生田の言葉の続きを待つ。

「相当な手練れが送り込まれたということだ。
 だから我々も気をつけなければな。。。」




975 : ◆JVrUn/uxnk :2018/02/07(水) 22:43:38
友人の葬式にこれから参列するという局長の言葉に局長室を後にした二人。

この後はそれぞれ仕事があるのでまた各々の部屋に戻らなければならない。

しかし、その前に佐紀はひとつ舞波に確認をしておきたいことがあった。
局長の話の中で引っかかった部分があったのだ。

「ねぇ、舞波?」
「なに、キャプ?」
「さっきの局長の話だけどさ、相当な手練れが送り込まれたって局長言ったよね。」
「うん、言った。」
「だよね。うんありがと!それだけ。またね。」

そう言って別れを告げる佐紀。その背中に舞波は声をかける。

「キャプ!気をつけてね。無茶はしないで!」

その言葉に佐紀はゆっくりと振り向くとにっこり笑って微笑むのであった。

「任せといて。さっさとケリつけなきゃね。」




続く


976 : 名無し募集中。。。 :2018/03/05(月) 16:57:39
マーサー王が復活したし、
こっちも復活して欲しいなー


977 : 名無し募集中。。。 :2018/03/05(月) 23:51:27
マーサー王ってなに?


978 : ◆JVrUn/uxnk :2018/03/08(木) 21:08:22
うわー

ずいぶんと放置してしまった
申し訳ない

続きです


979 : ◆JVrUn/uxnk :2018/03/08(木) 21:10:10
「うーん。。。動くとは言ったけど具体的になにをどうするかねぇ。」
「そうですねぇ。まずは局長に連絡を取る手段を作ることから始めないとですねぇ。」

地下石牢の一室。
密談をしているのは桃子と楓。

桃子は牢の監視役から聞いた話を早速楓にした。
リミットがいつ迫るかわからないので、半ば強引に事態の打開に努めなければという楓の意見に桃子は頷く。

一方その頃、牢の中では今日も変わらず梨沙と結が喧嘩を始めていた。
相変わらず派手な喧嘩である。

監視役の男も随分と慣れたもので、ひとつため息をつくと監視室に戻り
「いつも通り」に睡眠ガスのボタンを押した。

あとはいつものようにふたりが寝て、喧嘩が収まるまでまてば良いだけ。

そうしてしばらくしたのち、いつものように男は部屋の前に行き耳をそばだてる。
物音はしない。
いつもと同じように無事鎮圧できたようだ。


980 : ◆JVrUn/uxnk :2018/03/08(木) 21:11:27
「まったく、いつも片付けをするこっちの身にもなれってんだ。
 よいしょっと。」

そう言って男はガスマスクをし、隠し扉の認証キーに自分の指紋を合わせると部屋の扉を開けた。

中は喧嘩ででた埃とガスが充満し、ちょっと先も見えない。

「今日も派手にやってくれたな。やれやれ。」

ブツブツ文句を言いながら男は床に落ちている散乱物の片付けを始める。

倒れている2人には目もくれず黙々と部屋の片付けを進め、最後に床に落ちている本を拾い上げようと屈んだ瞬間、
背後から衝撃を覚える。

たまらず床に転がった男が何事かと正面を見上げた瞬間、男の目に映ったのは先ほど自分が片付けた椅子を
振り上げる少女の姿であった。

「うっ…。」

呻き声をひとつ漏らして男はその場に倒れた。

「ふう。」
「やったか梨沙ちゃん?」
「えぇ、上出来よ結。」


981 : ◆JVrUn/uxnk :2018/03/08(木) 21:13:15
肩で荒い息をしながら立ち上がったのは睡眠ガスを吸って寝ているはずの梨沙と結であった。

「私としたことがこうなんどもやられてしまうとはね。
 でもやっと抜け出せた。」

「梨沙ちゃんさすがやね。
 そいでこいつどないするん?」

「とりあえずこの中に入れときましょうか。」
「毎回掃除してくれたのに堪忍な。」

そういって2人は倒れたままの男をいままで自分たちがいた部屋に乱雑に放り込む。
この2人、実は途中の時期からほとんど喧嘩などしていなかったのだ。

初めて睡眠ガスで強制的に喧嘩を終わらせられたあと、目を覚ました2人は自分たちが
どのようにして眠らされているのかを明らかにするために演技をずっとしていたのだった。

調べることは山ほどあった。

ガスの出る場所、時間、どれくらいで効果が薄まるのか、そして防ぐ方法はないのか。


982 : ◆JVrUn/uxnk :2018/03/08(木) 21:19:26
繰り返し演技をしているうちに必ず男は喧嘩が終わったあと、自分たちが寝ている間にどうやら部屋の片付けをしてくれていることがわかった。

チャンスはその時しかない。

度重なるガス攻撃の解析の結果、ガスの噴出孔と出ている時間がわかった。
それさえわかればもう梨沙には十分であった。

いつものように喧嘩をして片付けに現れた男を襲撃する。
魔力はほとんど使えないから実力でやるのみ。

何度か失敗を重ねたのち、とうとう今日男が片付けをしている間に梨沙達は意識を取り戻すことができた。

兵は詭道なり。

騙し討ちも立派な戦術だ。

「さてと。」

部屋から出た瞬間、二人の体に魔力が満ちてきた。
やられたまんまじゃ終われない。

「反撃開始。」

続く。


983 : ◆JVrUn/uxnk :2018/03/08(木) 21:20:46
本当にノロノロ更新で申し訳ない

そしてゆっくり書きすぎているせいで自分がどんな伏線を張っていたかが
思い出せない。。。


作者


984 : 名無し募集中。。。 :2018/05/01(火) 22:12:52
支部に本編作者さんのはーちぃキテルー!!!!!!!!!!!


985 : 名無し募集中。。。 :2018/05/01(火) 23:53:34
>>984
どのスレですか?


986 : 名無し募集中。。。 :2018/05/02(水) 05:34:43
スレじゃなくてピクシブね
「はーちぃ」のタグで投下されてる一番新しい作品がそれ


987 : 名無し募集中。。。 :2018/05/02(水) 08:13:28
今本編作者さんは支部で書いてるのか…GW中に読みあさるかw


988 : 名無し募集中。。。 :2018/05/02(水) 13:38:43
>>986
ありがとうございます
ピクシブやってるので探してみます


989 : 名無し募集中。。。 :2018/05/03(木) 09:29:06
本編作者さんの12期編(はーちん主役)が読みたい!!!!


990 : 名無し募集中。。。 :2018/05/07(月) 15:44:07
はーちぃヤバい


991 : 名無し募集中。。。 :2018/06/04(月) 22:06:17
本編作者さんがTwitterで魔法使いえりぽんの諸々について呟いてる

続編じゃなくても外伝的な話でもいいからいつかまた書いてほしいなぁ


992 : 名無し募集中。。。 :2018/06/05(火) 00:12:56
Twitterやってるの?読んでみたいから探してみます
流石にここにリンク載せて貰うのは気が引けるので


993 : 名無し募集中。。。 :2018/06/05(火) 12:09:45
本人の許可なく直リンしていいのか悩むところではあるけど
実際のところTwitterで「魔法使いえりぽん」と検索かければ
すぐ見つかるんで探そうと思えばあっという間かとw







・・・それにしても本編作者さんが変態なのはわかってたことだけど
変態スレの有名どころを立ててたのもそうだったとはとんでもないなw

今でも先生スレで事あるごとに「はるまき○ッ○○!!」叫んでるのは
実は本編作者さんなのかもしれない!?w


994 : 名無し募集中。。。 :2018/06/05(火) 16:04:03
ありがと見つけたw12期13期の話も読んでみたかったなぁ
外伝作者さんが書いてくれるの期待するしか!w


995 : 名無し募集中。。。 :2018/06/18(月) 23:06:43
本編作者さんのかえれな新作もいいなぁ


996 : 名無し募集中。。。 :2018/08/09(木) 21:10:29
まあ女ヲタは喚き散らしてすぐどっかに去っていくから無視してりゃいい
金も落とさないし


997 : 名無し募集中。。。 :2018/08/09(木) 22:47:49
??

誤爆???


998 : 名無し募集中。。。 :2018/08/25(土) 02:06:08
>>993
「もしも佐藤まーちゃんと牧野まりあんLOVEりんがひっそり世界を守るスーパー姉妹だったら」
これも本編作者さんが建てたとのこと
ただ建てただけで小説は書いていないらしい


999 : 名無し募集中。。。 :2018/08/25(土) 18:22:26
スゲーなそれもなのか
小説の方は明らかに作風が違うから別人ってわかるけど

よくもまあそんな変た・・・もといw奇抜なアイディアが浮かぶものだと
発想力が羨ましくなるなw


1000 : 名無し募集中。。。 :2018/08/25(土) 18:27:57
次スレ

魔法使いえりぽん避難所Part3
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20619/1535189151/


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