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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

1 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:22:52
ずっと前にマーサー王や仮面ライダーイクタを書いてた者です。
マーサー王物語の数年後の世界が書きたくなったのでスレを立てました。

2007年ごろに書いた前作もリンク先に掲載しますが、
前作を知らなくても問題ないように書くつもりです。

SSログ置き場
http://jp.bloguru.com/masaoikuta/238553/top

2 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:23:43
【第一部:sayu-side】

我々の住む地球から時空を超え宇宙を超えたところにある、とある世界。
そこにはモーニング帝国と呼ばれる大国が存在していた。
この国の商業、工業は非常に発達しており、SATOYAMASATOUMIも美しい。
他にも、米がうまいぜ、お茶を飲め飲め最高茶葉、漢字最高、長寿大国、美人ぞろい・・・・・・などなど魅力は盛りだくさん。
そして何よりも、武力が強いことで周辺国には知られていた。
モーニング帝国を強豪国たらしめる理由は、やはり「モーニング帝国剣士」の存在が大きいだろう。
10代から20代の少女で構成された剣士集団は小柄ながらも大の大人より強かった。
一騎当千を地で行く彼女らのおかげで国が護られているといっても過言ではない。
平和であることは国民にとって何よりも喜ばしいはずなのだが、
ただ一人、モーニング城の主であるサユ王だけは何とも言えぬ不満を抱いていた。

「このままじゃ、ダメ・・・・・・だよね・・・・・・」

帝国一の美貌とも噂されるサユ王だったが、現在の彼女の表情はどこか物憂げだった。
サユの顔を曇らす悩みの種は、意外にもモーニング帝国剣士にあったのだ。

(私たちの時代と比べると、今の帝国剣士はあまりにも弱すぎる・・・・・・
 いつか本当の敵が現れたとき、あの子たちはちゃんと国を護れるの!?)

線が細く、いかにもか弱そうなサユ王だが、彼女も数年前までは帝国剣士の一員として戦いの日々に明け暮れていた。
鏡のように磨き上げられたレイピアとマンゴーシュを両手に握り、華麗に戦場を舞っていたのだ。
サユが活躍していた頃のモーニング帝国剣士らは「プラチナ剣士」とも呼ばれ、
史上最強と名高い「黄金剣士」にも匹敵するかもしれない、という専らの噂だった。
だが、今の帝国剣士がそのレベルに達しているとはお世辞にも言い難い。

「だからこそ、今日もあの子たちを見届けないと!」

サユ王は日々の業務よりも帝国剣士や研修生らの訓練をガン見、もとい視察すること重要視している。
この国の平和を本気で願っているからこそ、過密スケジュールの合間を縫ってでも訓練場へと足を運ぶのだ。

3 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:24:26
「・・・・・・これだけ?」

訓練場に入ったサユは愕然としてしまった。
汗を流す少女たちで賑わっているのを期待していたのだが、そこにはたった2人しか居なかったのだ。
モーニング帝国剣士は4+4+1の計9名で攻勢されているので、これではあまりにも物寂しい。

「あ、サユ王!」
「おはようございまーす!」

そんな中でも真面目に訓練していたのは、帝国剣士を代表する"剣士団長"の2人だ。
10代とは思えぬ貴賓と妖艶さを兼ね揃えた"実力派"のフク・アパトゥーマ。
国外に支持者が多数いるほど顔が広い"技巧派"のハルナン・シスター・ドラムホールド。
次期モーニング帝王の座はこの2人のどちらかが掴み取るだろうと噂されており、本人達もそのことは自覚していた。
だが、フクもハルナンもそれぞれの部下の扱いには手を焼いているようだった。

「2人ともご苦労様・・・・・・でもね、フクちゃん」
「はい!」
「まず、エリポンは?」
「エリポンは、今ごろ魔法の特訓をしていると思います。」
「あいつはまだそんな無駄なことを・・・・・・じゃあサヤシは?」
「寝てます。」
「やっぱりね、カノンは?」
「城下町に新しいカレー屋さんが出来たとかで、朝から並びにいってしまいました。」
「・・・・・・頭が痛いわ」

部下3名の不在理由を聞いたサユ王は頭を抱えてしまった。
フクが団長を務めるQ期団は高い身体能力を誇り、戦場ではとても頼りになるのだが
それぞれの個性が強すぎるためにこのようなことが多々あるのだ。
そしてそれは、ハルナンが団長を務める特殊戦法使い揃いの天気組団も例外ではなかった。

「サユ王、実は天気組団のアユミン、マーチャン、ハルも・・・・・・」
「言ってみなさい。ハルナン」
「今朝、3人で取っ組み合いの大喧嘩をしたようで、とても訓練に出れる状態では・・・・・・」
(この国の将来が本当に不安なの・・・・・・)

4 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:25:00
9人いるモーニング帝国剣士のうち6人が自分勝手な理由で訓練をサボったので、
サユ王は怒りを通り越して呆れ果ててしまう。

「あの子たちと比べるとフクとハルナンは真面目に訓練してて偉いわね。
 管理不届きとか言いたいことはたくさんあるけども、まぁそれは置いといて。」

叱られると思ってたところで褒められたので、フクとハルナンの表情は明るくなる。
フクがお礼の言葉を考えるより先に、ハルナンが舌を動かしだす。

「そんなことありませんよ!私の剣捌きはまだまだ未熟なので、人の10倍100倍努力しないといけません。
 剣士団長として相応しい実力を手に入れるために、お強いフクさんの胸を借りていたのです。大きな胸を。」
「そんなそんな〜ハルナンも凄いよ〜」
「いえいえ、フクさんの太刀筋をじっくり見させてもらいましたが、やはりまだまだ敵いません。流石です。」
「恥ずかしいな〜」

ハルナンが自称する通り、彼女は歴代の剣士団長の中でも最弱と言ってよいくらいに弱かった。
もちろん彼女にも彼女なりの強みというのがあるのだが、純粋なタイマン性能で言えば部下のアユミンに軍配が上がる。
では何故そんなハルナンが剣士団長というポジションに就けたのか・・・・・・それは卓越した政治力にあったのだ。
アンジュ王国や果実の国などがモーニング帝国の同盟国となったのは彼女の働きが大きく、
その功績を買われて現在のポストを獲得したのである。

(Q期団のフクと、天気組団のハルナン・・・・・・どちらにこの国を任すべきか、というのも難しい問題ね。)

難題にまたも頭を痛めるサユ王だったが、ここでふと気づく。
モーニング帝国剣士にはQ期団にも天気組団にも属していない"もう1人"がいたことを思い出したのだ。

「そういえばオダはどうしたの?」
「私ならここにいますよ。」
「ひゃ!」

前方から急に声が聞こえてきたので、サユは腰が抜けそうになるほどに驚く。
その声こそモーニング帝国剣士の新人、オダ・プロジドリのものだったのだ。

5 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:25:38
「びっくりした、いつからそこにいたの?」
「最初からいましたよ、王が来るずっと前から。」
「え、そうだった?気づかなくてごめんね。」
「いえ、ずっとここに隠れてましたので無理もないですよ。」
「・・・??」

オダがいるのは障害物も何もない、むしろ日あたりの良いくらいに開けた場所だったのでサユは不思議に思う。
そして同時に(相変わらず変な子だなぁ)という感想を抱く。
オダ・プロジドリはQ期団団長のフクや、天気組団のハルと同じく研修生の出身であり、
卓越した実力を買われ、鳴り物入りで帝国剣士に加入したのだが
あまりにも独特な感性を持っているために、サユはどこか苦手に感じていた。
話している言葉の意味がたまに分からなくなるのだ。

「ていうか居るなら挨拶くらいしてよね、一応私も王なんだから」
「それはすいませんでした、でも・・・・・・」
「でも?」
「どうしても見ておきたかったんです。窓からさす光が、サユ王にどのように当たるのか」
「???」
「とても美しかったです。ありがとうございました。」
「は、はぁ・・・・・・どういたしまして。」

期待のホープですらこんな調子なのでサユ王の頭痛はますます酷くなっていく。
訓練場を離れ、王の間に戻っても眉間の皺が取れることはない。
あれこれ思索してみた結果、今の帝国剣士の実力がまだまだであるのも、自分勝手が過ぎるのも、
すべては「危機感が足りていない」ところに理由があるという結論を出すことが出来たのだが、
ではどのようにすれば彼女らに危機感を与えることが出来るのか・・・・・・その策を出すのがまた難しかった。

(一応あるにはあるけど・・・・・・少し危険な賭けではあるのよね)

サユが思いついたのは荒療治だった。
思惑通りにことが運ばなければ、死人が出る可能性のある危険な策である。
だがしかし、これからこの国を背負っていくモーニング帝国剣士たるもの、
それ程度の壁くらい軽々と乗り越えていってもらわなくては困るのだ。
この策を早速実行するために、サユ王は研修生の指導教官を呼びつける。

「ねぇちょっと、研修生に字の上手い子がいたでしょ・・・・・・あの子、ちょっと借りてもいいかな?」

6 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:27:37
とりあえずここまでです。
長いお付き合いになるとは思いますが、どうかよろしくお願いします。

7名無し募集中。。。:2015/05/02(土) 20:51:55
マーサー王復活嬉しい!しかも過去ログまで・・・ありがとうございます

以前のマーサー王の時代とはかなりノリが軽いw今は平和な時代なんだねぇ

8名無し募集中。。。:2015/05/02(土) 22:39:44
作者さんお帰りなさい!
あの頃を思い出して懐かしくて懐かしくてたまりません!
またこのキャラクターたちに会えて本当に嬉しいです
これから生きる楽しみができました!

9名無し募集中。。。:2015/05/02(土) 22:44:46
ちゃゆうううううううううううううううう


みんなさゆが好きなんだね
やっぱりさゆはすごい
また出てきてほしいな

10 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 23:44:03
サユ王が策を練った翌日、王の間には件の"字の上手い研修生"が呼ばれていた。
その研修生は(大半がそうであるように)まだ年端もいかない少女であり、兵としての暦も短いため
王の間に足を踏み入れることはもちろん初めての経験だった。
その表情や小刻みに震える身体からも、不安と緊張がうかがえる。
サユはその研修生を落ち着かせるために、優しい口調で語りかける。
王は小さい女の子には優しいのだ。

「ふふふ、緊張しなくていいのよ」
「はい・・・・・・」
「ところであなた、お名前はなんて言うの?」

サユから名を聞かれた研修生は驚きのあまり、目を大きくしてしまう。
研修生にとって王とは神の如き存在であり、己の名前を知ってもらうことすらおこがましいと考えていたのだ。

「名前なんて恥ずかしいです。死んでも言えません。」
「えっ、じゃあなんて呼べばいいの?せめて苗字だけでも教えてくれないと」
「苗字ならいいです。"クールトーン"って言います。」
「クールトーン?おもしろい、ピッタリな苗字ね。」

サユの目の前にいる研修生は、見た目は小柄な少女ながらもなかなかに冷静な声色を持っている。
まさにクールトーンという苗字に相応しい。サユはそう感じていた。

「じゃあクールトーンちゃん、あなたに重要な任務を与えます。」
「は、はい!」
「その任務とは、なんと書記係でーす!」
「しょき?」

サユの思惑はこうだ。
こんど発刊される新聞に帝国剣士の訓練風景を掲載すると伝えれば、目立ちたがり屋の帝国剣士たちは全員集結するはず。
しかもその記事の元となる手記を研修生のクールトーンが書くとなれば、
なおさら恥ずかしいところは見せられないとやる気を出すことだろう。
そうなれば「サユの策」も実行しやすくなってくる。

「って言うわけなんだけど、引き受けてくれる?」
「・・・・・・」
「ふーん、なるほど」

今しがた説明した内容を高速でメモするクールトーンを見て、サユは感心する。
すべての言葉を漏れなく書き写す姿勢は素晴らしいし、字も見やすくて綺麗だ。
このクールトーンを計画に組み込んだのは正解だったことをサユ王は確信していく。

「分かりました、書記を頑張ります。でも、ちょっと不安です。」
「なにがどう不安なの?」
「メモを取るのはいいんですけど、私、文章力無いから新聞に載るのは恥ずかしいです・・・・・・」
「あーそういうこと?それなら心配しないで、優秀なライターにツテがあるから。」
「優秀なライター?」
「アンジュ王国に昔なじみがいるのよ、昔は素直で可愛かったんだけどねぇ・・・・・・」

11 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 23:48:08
コメント有難う御座います。
前作を知ってる方に見ていただけるのは嬉しいですね。
今作が前作と比べて平和かどうかは、続きを見て判断してくださいw

12名無し募集中。。。:2015/05/03(日) 00:17:11
今北!
職人さん乙です
続きを楽しみにしてます

13 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/03(日) 08:11:24
打ち合わせを終えたサユ王とクールトーンは、すぐさま訓練場へと向かった。
そしてサユの思惑通り、訓練場内には多くの帝国剣士が揃っていたのだった。

「「「「「「「「サユ王、おはようございます!」」」」」」」」

昨日とはうって変わって訓練に精を出している帝国剣士たちを見て、サユはニンマリとする。
そこには居合いの達人サヤシ・カレサスがいる。
"自称"魔法剣士エリポン・ノーリーダーもいる。
「舞う伊達娘。」と称されるアユミン・トルベント・トランワライもいる。
それ以外にも一癖も二癖もあるような現役帝国剣士がたち集結している、その様はまさに圧巻だ。
これだけのメンツを前にしてクールトーンが萎縮してしまわないかとサユは思ったが、
当の本人は思っていた以上に冷静だった。

「クールトーンちゃん、モーニング帝国剣士全員を前にしてどんな気持ち?」
「全員ではありません。」
「えっ?ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・・・あらほんと、8人しかいない。」
「はい、一番大事な人がここにはいないんです。」

クールトーンがそう言うが早いか、訓練場の扉がガチャリと開きだす。
一足遅れて登場したのは現モーニング帝国剣士の最年少、ハル・チェ・ドゥーであった。

「おはようございま〜す、はぁ〜貧血だぁ〜」

ハルの中性的なエンジェルフェイスは、女性支持率TOPだというのも頷けるほどに整っている。
すらっとした長身や、ぶっきらぼうな態度が男性の面をより強調しているのだろう。
だがこのハル、自分がモテているということを自覚しているがゆえに、ひとつ悪い癖があった。

「おや?今日は可愛いお客さんがいるなぁ」

クールトーンを視野に入れるなり、ハルはそちら側へと向かっていく。
そしてクールトーンの顎に軽く触れ、クイッと持ち上げたのだった。いわゆる顎クイだ。
自身の尖った八重歯を見せつけながら、常人なら赤面必至の言葉を平然とした顔で吐いていく。

「君みたいな子の血でも吸えたら僕の貧血も治るんだろうなぁ・・・・・・ねぇ、吸ってみてもいい?」
「あわわ、あわわわわわわ」

ハルの悪い癖、それは過剰なまでの女たらしだ。
上に書いた行為をまったく照れずに実行できてしまうのは凄いし、相手が拒否しない(できない)のも凄い。
他の帝国剣士を前にしても冷静だったクールトーンが、ハルに言い寄られた途端にひどく動揺してしまうほどだ。
恋する乙女の表情になりかけているクールトーンを見て、これはまずいと思ったサユ王がハルの頭にチョップをぶつける。

「やめなさい。」
「いでっ!」
「まったく相変わらずこの子は・・・・・・ほら、何か言うことないの?」
「ごめんなさいサユ王、本当に可愛いのはサユ王でした。」
「そうそう私が一番・・・・・・って違う!遅刻を謝りなさいってこと!!」

14名無し募集中。。。:2015/05/03(日) 11:12:59
このネタのブッコミがまさに作者さんだわ
これが真似できないんだよなぁ

15名無し募集中。。。:2015/05/03(日) 11:32:55
相変わらずのネーミングセンスw『クールトーン』とか…他の12期がどんな名前なるのか恐ろ…楽しみw

16 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/03(日) 13:35:20
ハルの遅刻などもあったため全てが順調という訳にはいかなかったが、
全員揃ってからの合同訓練は非常にスムーズであり、
今のモーニング帝国剣士の強みである、複雑なフォーメーションも合わせることが出来た。
クールトーンもクールトーンで、訓練や合間合間のインタビュー内容を正確に記録して、
王から任命された書記係としての役割を全うしていた。
(ハルへのインタビュー時間だけやたら長かったのが気になるが。)

久しぶりに真剣なムードだったので、3時間の訓練を終える頃には一同はヘトヘトだった。
クールトーンも記録疲れで地面にペタンと座り込んでしまっている。
よって、この場でまだまだ元気なのはサユ王ただ一人だけとなる。
むしろ朝よりも元気なように見える。若いエキスを取り入れたからだろうか?

「お腹空いたぁ、はやく食堂いってお昼食べようよ。」
「ダメよカノン、重要な話をするんだからもう少しだけ待って。」
「重要なお話?なんですか?」

突然始まる王からの大切なお知らせに、カノンだけでなくその場の全員がピリッとなる。
クールトーンもサユの言葉を聞き逃すまいと、紙とペンをしっかり構えている。
そしてこれからサユが話す内容は、帝国剣士らを驚かせるには十分なものだった。

「私サユは、今年の11月に王を引退します。」

サユ王の突然な引退発表、
それを聞いた帝国剣士らはハンマーで殴られるような衝撃を覚えた。
王を引退なんて言い回しはおかしいかもしれないが、モーニング帝国ではこれが通常。
帝王は自らの意思で王座を退くことができ、そして次の王が決められていく。
そう、帝国剣士団長の中から新たな王が生まれるのだ。

「次の王は、フクさんと私のどちらですか?」

帝国剣士らがかける言葉を見つけられない中で、ハルナンだけは声を絞り出すことが出来た。
それは候補者の2人のみならず、この場の誰もが気になっている質問だ。
そしてサユは、自身の検討した策の通りに、こう回答する。

「次期モーニング帝王は投票で決めます。一ヶ月後、この場で。」

17 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/03(日) 13:38:01
むしろネタを入れ続けないと書けませんw
今作の名前はあまりひどい悪口にならないようには気をつけますが、
ついついやりすぎちゃうかも><

18 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/03(日) 20:16:42
次期モーニング帝王は投票で決めること。
投票は30日後に、この訓練場で行われること。
投票の対象は現モーニング帝国剣士団長のフクとハルナンであること。
投票の権利を持つ者はフクとハルナンを含めた、現モーニング帝国剣士9名であること。
サユ王自身は投票の権利を持たないこと。
これらの内容をサユ王は説明した。

「どう?制度について何か質問はある?」

正直言って、サユ王には聞きたいことがたくさんあった。
何故このタイミングで引退を決意したのかとか、
王が居なくなったら自分たちはどうすれば良いのかとか、
王を辞めさせないためにはどうすれば良いのかとか、色々だ。
しかしそんな質問を今、この場でぶつけることなど出来やしない。
サユ王の決意を汚すわけにはいかないと皆が思っていたのである。
だが純粋に制度について疑問が有るのであれば話は別だ。
ハルナンは最も気になったことをサユ王のに尋ねていく。

「もしも期日にこの場に来れない場合は、票はどうなりますか?」

ハルナンの質問が期待していた通りのものだったので、サユは顔がにやけそうになる。
もちろんそんな顔をしては場が締まらないので、真面目な表情で返す。

「理由がどうあれ、投票に来れなければ票は無効よ。」
「では、代理投票などは許されますか?」
「許されません。本人による投票以外は決して認めないわ。」
「なるほど、よく分かりました。有難う御座います。」

19名無し募集中。。。:2015/05/03(日) 23:08:02
この話でははるなんだったりして
なんか面白そうだな

20 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/04(月) 11:22:38
「もう質問はないわね?じゃあクールトーンちゃん、そろそろいきましょ」
「あ、はい!」

用件が済むなり、サユ王はクールトーンを連れて訓練場の外へと出て行ってしまった。
現在の帝国剣士らはひどく混乱しているだろうが、いつまでも面倒を見てはいられない。
自分達で現状を把握して、適切な行動をとってくれなくては困るのである。

「さてと、クールトーンちゃん、まずは第一のお仕事お疲れ様。」
「ありがとうございます・・・・・・って第一のお仕事だったんですか?」
「うん、だってこれから1ヶ月間もっともっと忙しくなるんだもの」

クールトーンは不思議に思っていた。
1ヵ月後に投票があるということは、今後起こりうるイベントは「1ヵ月後」でしかないはず。
サユが言うように「1ヶ月間」忙しくなる意味が分からないのだ。
そんなクールトーンの考えを汲み取ったのか、サユ王が説明しだす。

「私の思惑・・・・・・もとい考えでは、この1ヶ月間は平穏無事じゃ済まないはずよ。」
「ええっ、そうなんですか?」
「ひょっとしたら誰か死んじゃうかもね、なんちゃって」

冗談風に言い放つサユだったが、その表情は真顔も真顔だった。
その雰囲気を感じ取ったクールトーンはなんだか怖くなり、涙目になってしまう。

「嫌です・・・・・・帝国剣士さんが死ぬのは嫌です・・・・・・」
「うん、私も嫌。だからこそクールトーンちゃんにはあの子たちを観察してもらいたいの」
「観察?」
「何かおかしいと感じることがあったら、メモに書き写して、すぐに私に伝えてね。
 会議中だろうと、食事中だろうと、お風呂中でもいつでもいいわ、好きな時に接触することを許可します。
 モーニング帝国剣士に密着することがあなたのお仕事なの。あなたにしか出来ないの。やってくれる?」

サユ王の勅令を受けたクールトーンは、今日一番の身体の震えを感じていた。
だが、ここで断れば大好きな帝国剣士が危険に晒されることを十分に理解することが出来た。
ならば、サユ王への返答は決まっている。

「やります!やらせてください。」
「そう言ってくれると思ったわ。」
「でも出来ればドゥーさんにずっと密着したい・・・・・・」
「そこはみんな平等にね?」

21名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 13:14:41
お風呂の中で接触って…クールトーン逃げてーw

ところでタイトルが帝国『剣士』ではなく『拳士』なのはもしかして…?

22名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 18:48:42
プロジドリw

23 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/04(月) 23:29:35
拳士の読み方やクールトーンの正体については秘密です。
秘密にする必要性は薄そうですがw

24 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/05(火) 07:56:23
「Q期会議〜〜!」

食堂に入ったQ期団の4人は、今後について話し合うために同じテーブル席に着席した。
天気組団も同様に全員で固まっているのを見るに、
声が聞こえないほど距離は遠いとは言え、考えは同じなのだろう。
(ちなみにオダ・プロジドリはテーブル席空いててもカウンター席に座っている。)

「さてみんな、まず聞きたいんだけど……みんなは私に投票してくれる?」

会議はフク・アパトゥーマによる不安げな問いかけから始まった。
同じ団員なので信じてはいるのだが、各個人の考えが分からないため心配になったのだ。
だがそんなモヤモヤも、サヤシ・カレサスの一言で解消されることとなる。

「フクちゃんは王になりたいんじゃろ?なら友達として後押しするのは当然じゃけのぉ」

細いながらも曇りのないサヤシの目を見て、フクは涙が出そうなくらいに喜ぶ。
正直言って友達になった覚えはあまり無いが、自身を慕ってくれることが嬉しいのだ。
そして、エリポン・ノーリーダーもサヤシに続いて支援する。

「もちろんエリも応援するっちゃん!あ、ひょっとして次のQ期団長はエリだったりして?」
「ない……それは絶対ない……」
「ちょっとサヤシー!?」

エリポンとサヤシはよく小競り合いをするがフクを思う気持ちは同じだ。
そしてそれはQ期最後の一人、カノン・トイ・レマーネも感じている。

「フクちゃんが導いてくれたから今の私たちがあるんだよ。
 フクちゃんが同期で良かったし、王になったら誇りに思う。
 だから、私たちQ期のためにも絶対に帝王になってほしい。」

フクと3人は団長と団員の関係ではあるが、それ以前に彼女らは同期だ。
団長として指示はするものの、この間柄に上下関係は無いと考えている。
そのような仲間の心からの支持を受けて、フクはいよいよ泣き出してしまった。
団員は一瞬驚くが、フクが泣くのはいつものことなので笑いながら慰める。

「うっ・・・・・・うっ・・・・・・みんな本当にありがとう。」
「また泣く〜!涙はまだとっとき。」
「王になった時が泣くときじゃろ。」
「ほんとほんと、このペースで泣いてたら涙枯れちゃうよ?」

25名無し募集中。。。:2015/05/05(火) 11:43:55
懐かしいスレを見つけてしまったw
続き楽しみにしてますね

26名無し募集中。。。:2015/05/05(火) 11:58:00
懐かしいな
あのときのようにまたちょっとグロめな描写かな

27 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/05(火) 15:15:19
Q期団が固く結束したことで、フク・アパトゥーマは4つ分の票を獲得した。
しかし帝国剣士の総数は9名。つまり過半数に到達するには「5票」を得る必要がある。
天気組団の4人も票をハルナンに集中してくることが予測されるので、
勝敗はQ期にも天気組にも属さないオダ・プロジドリに委ねられている。
何事も先手必勝。Q期団の皆はカウンター席にいるオダの元へと駆け寄っていく。

「オダちゃん!オダちゃんは誰に投票するの?」

急に先輩4人に囲まれたのでオダは少しぽかんとするが、
すぐに怪しい笑いを浮かべて、自身の考えを述べる。

「決まってるじゃないですか、私は強い人に投票しますよ。
 強い人じゃないと国を背負えませんし、そもそもついていく気がしません。」

オダの返答を聞いたQ期の4人は歓喜する。
彼女は「強い人」としか言っていないが、フクとハルナンのどちらか強いかは明らかだからだ。
2人は過去に何回か模擬戦で戦ったことがあったが、戦跡はなんとフクの全勝。
いくらハルナンが加入時期と比較して伸びたとは言え、研修生として十分な訓練を詰んだフクには敵わないのだ。
Q期は安心しながら元のテーブル席へと帰っていく。

「じゃあオダちゃん、投票日はよろしくね〜」

急に来たかと思えば、また急に帰っていくのでオダはキョトンとするが、
しばし経った後に、誰にも気づかれないように独り言を言い放つ。

「投票しますよ、真に強いと思った方に。」

28 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/05(火) 15:18:50
ところ変わって天気組団の座るテーブル席。
和やかだったQ期団の雰囲気とは異なり、こちらは何やら深刻なムードだ。

「ハルナン、それ本気で言ってるの?・・・・・・ちょっとやりすぎじゃない?」

天気組団の団長であるハルナン・シスター・ドラムホールドの策を聞いて、
団員のアユミン・トルベント・トランワライは心配と不安の入り混じったような表情をしていた。
同じくイケメン剣士ハル・チェ・ドゥーも引き気味だ。

「確かにそのやり方だったらハルナンは帝王になれると思うよ。ハルには思いつかなかった、凄いと思う。
 でもさぁ、Q期さん達と天気組以外を巻き込む必要ある?ハルたちだけでよくない?」
「作戦を実行するには一人でも多いほうがいいの、それに正直言って、天気組だけじゃQ期さんには勝てない。」
「なんだと!?ハルたちがQ期さんに劣ってるって言いたいのか!」
「いや、私がフクさんに勝てない。」
「あ、そうね。」

あっさりと納得するハルを見て複雑な心境になりながらも、ハルナンは自身の思いを伝えていく。

「やりすぎなのは分かってる。天気組団のメンツやプライドを傷つけてるのも分かってる。
 でも、私はなんとしてもモーニング帝国の帝王になりたいの。だから協力してほしい・・・・・・だめ、かな?」

ハルナンがいつになく真剣に願うのを見て、アユミンとハルは顔を見合わせる。
こうも真剣に頼まれたら、二人は断ることなど出来なかった。

「しょうがないなぁ〜じゃあちょっと頑張っちゃおうかな」
「一応組んであげるけど、結局はハルたちだけでなんとかなることを見せ付けてやるよ。」

2人がノってきてくれたのでハルナンは一安心だ。
だが不安が完全に解消されたという訳ではない。
もう一人の天気組団であるマーチャン・エコーチームが終始無言でうつむいているのがその理由だ。

「マーチャンどうしたの?」
「ハルナンが王になるのはやだ」
「えっ!」
「マーチャン、ミチョシゲさんが王がいいの、やめないでほしい。」
「ああそういうことね・・・・・・じゃあマーチャン、私とフクさんだったらどっちが帝王になってほしい?」
「う〜〜〜〜〜〜ん、じゃあハルナンでいいよ」
「ああ良かった、ここでフクさんって言い出したらややこしくなってたわ」

29 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/05(火) 15:20:17
今作はグロ描写は極力抑えようとは思ってますが、
気分がノってくるとついついやっちゃうかもですね〜^^

30名無し募集中。。。:2015/05/05(火) 15:55:23
気分が乗ってくるとグロとかやーね怖い

31名無し募集中。。。:2015/05/05(火) 16:08:24
イクタ位のグロさでお願いしますw
今マーサー王読み返してたけど前半はまだ大人しめだったのに後半はちょっとトラウマになりそうww

32名無し募集中。。。:2015/05/05(火) 16:36:48
ダメだ
カレサスとトルベントとプロジドリで噴くw

33 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/05(火) 22:55:19
「たいへんだぁ・・・・・・サユ王に報告しないと」

天気組会議をこっそり覗き見ていたクールトーンは慌てて王のもとへと向かう。
本当はもっとハルを凝視していたかったが、そんなことも言っていられない。
彼女が王の部屋に向かったとき、サユ王は風呂から上がった直後だった。
もっと長風呂しておけばよかったと後悔しながらも、サユはクールトーンを受け入れる。

「そんなに汗を流してどうしたの?お風呂入る?」
「いえ大丈夫です、実はかくかくしかじかで・・・・・・」
「へぇ・・・・・・さっそく動き出したようね。」

帝国剣士が自分の期待以上の動きを見せてくれたので、サユは嬉しそうな表情をする。
しかし、それとは対照的にクールトーンは悲しげな顔をしていた。
今後起こりうることを想像すると辛くてたまらないのだ。

「王様、なんでこんなことを始めたんですか?」
「え?」
「次の王を決めるだけならもっと優しい方法があると思います。
 でも、このままだと本当に誰かが、Q期団さんの誰かが死んじゃいます・・・・・・
 そんなの、嫌です・・・・・・」

ボロボロと涙を流すクールトーンに胸を痛めるサユ王だったが、
これもモーニング帝国のためだと割り切り、優しく諭しだす。

「あのねクールトーンちゃん、ここだけの話なんだけどね。
 モーニング帝国剣士には新たなメンバーが3人内定しているの。」
「え!!」
「一人は西部地方からやってきた"氷上(表情)の魔術師"と言われている子。
 もう一人は異国からの帰国子女である"音忍者"。あのガキ元帝王とも手合わせしたことがあるそうなの。
 そしてもう一人はクールトーンちゃんも知ってるでしょう。投打ともに怪物級の"二刀流"よ。」
「ああぁ〜!!同じ研修生だから知ってます!!やっぱり帝国剣士になるんですかぁ。」
「正直言って今あげた子たちは逸材揃いよ。今の帝国剣士を簡単に喰っちゃうかもしれない。
 その新人達の上に立つには死線をくぐり抜けた人物でないと難しいわ・・・・・・だから今回の策を練ったの。
 大丈夫、あの子たちならきっと今以上に強くなってくれるはず。だから信じてあげて。」

クールトーンは感激した。
次期モーニング帝国剣士内定者という超超機密情報まで教えてくれたことから、
サユ王の本気を感じ取ったのだ。

「分かりました。私、帝国剣士さんを信じます。」
「あ、ちなみにさっき言った内定者は確定情報じゃないから他言しないでね。
 もしかするとクールトーンちゃんが4人目として入るかもしれないしね。」
「あはは、それなら嬉しいですね。」

34 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/05(火) 23:00:25
銭湯描写については気をつけますw
話の流れ上やむをえない場所は仕方ないですけどね。

登場人物の名前は決めるまでに結構時間をかけているので、
面白いといわれると嬉しいですね。
カレサスは私も気に入っていますw

35 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/05(火) 23:06:39
銭湯描写じゃない、戦闘描写や・・・・・・
サユ王とクールトーンの銭湯描写とかはありません。

36名無し募集中。。。:2015/05/05(火) 23:17:45
ないのか(´・ω・`)

37名無し募集中。。。:2015/05/06(水) 02:38:48
銭湯描写ちょっと期待してしまったw新帝国剣士加入まで読めるのかな?

名前と言えば武器の名前も期待してます

38 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/06(水) 14:28:50
サユ王の引退発表を受けてから2週間、Q期団4人の結束力は日に日に高まっていた。
あれ以来、団員の誰もがサボることなく毎日のように合同訓練を行えている。
今日も今日とで、良い汗を流しているようだった。

「はぁ・・・はぁ・・・やっぱり皆は強いね。
 エリポンのパワー、サヤシちゃんのスピード、カノンちゃんのディフェンスには全然敵わないよ。」

肩で息しながら、湯上りタマゴのような顔でフクは団員たちの良い点をあげていく。
だが褒められた側の3人は素直に喜ぶことが出来ず、苦笑いをしていた。
フクが立っているのに、自分達は床に転がっていることが悔しいのだ。

「いやいや、フクの方が全然強いし!(まぁ、エリはまだ魔法使っとらんけんね)」
「模擬刀戦じゃフクちゃんにはまったく勝てん・・・・・・(まぁ、ウチには本物の刀があるけぇ)」
「あの猛攻を耐え切るのはちょっと無理かなぁ(まぁ、今日はただの訓練着だし)」
「え〜そんなことないよぉ(え〜そんなことないよぉ)」

ここ最近集中的に訓練を行ったおかげで、Q期団は己のストロングポイントとウィークポイントを知ることが出来た。
自身の成長を日に日に実感出来ているので、これまでサボりがちだったことを後悔するほどだ。
それゆえに、天気組団とオダ・プロジドリがしばらく訓練場に顔を出していないことを残念に思っている。

「あの子たちいったいどうしたんやろね、まったく何もしてないってことは無いっちゃろけど」
「天気組団だけやのうてオダちゃんも居ないとかどうかしちょる・・・・・・」
「そうだねぇ、オダちゃん真面目な子なのに」

みなが不思議に思っているところで訓練場のドアがバンと開く。
誰もが天気組団かオダのどちらかの登場かと思ったが、その正体はクールトーンであった。

「君は確かサユ王のお付きの人・・・・・・いったいどうしたの?」
「えっと、Q期の皆さん、サユ王から伝言です。」
「「「「?」」」」
「今から5分以内に城門前に来てください。以上です!」
「「「「?」」」」

39 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/06(水) 14:29:47
武器の名前も考えてますけど、登場はまだ先ですねw
キャラ名・武器の種類・武器名・必殺技名は1セットで考えてます。

40 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/06(水) 15:54:50
サユ王の頼みならば仕方ないと、Q期団はすぐに城門前へと向かう。
しかし呼び込んだ張本人であるサユの姿はそこにはなかった。

「王おらんやん、お付きの人に騙された?」
「あの子が人を騙すような子に見える?」
「うーん、思わん。」

時間指定したくせにサユがいないのはまったくもっておかしな話だが、
王も忙しい人なので予定通りに来れなかったのだろうとQ期らは納得する。
どうせ今日の訓練は終わったので、ここで王をのんびり待とうとした時
前方から"見慣れぬ客人"が現れたことにカノンが気づきだす。

「あの4人、誰なんだろうね?」

カノンが指差したのは、黒を基調とした衣装をまとった集団だった。
一人は巨大な弓を背負い、異様にギラギラしたオーラを発していた。
他の3人が「少女」であるのに対してこの人物だけは「女性」カテゴリに当てはめるのがしっくりくる。
その女性の右にいる少女も同様のギラギラオーラを発しているが、
顔の作りはどちらかと言えば猿、もとい赤ちゃんのように幼かった。
さらに右にいたのは長髪の美しい大女だ。
彼女からは禍々しい雰囲気はまったく感じられず、何が面白いのか分からないが、常に笑っている。
そして最後の一人がまた異様だった。
そのルックスを目にしたエリポンがつい声を漏らしてしまうほどである。

「ひっ・・・何あの子、アザだらけやん・・・・・・」

その少女は、並んで歩く「女性」、「赤ちゃん顔」、「大女」から3歩遅れてついていっていた。
エリポンの言うように彼女の首もと、二の腕、お腹、太ももには多数の青アザがあり、
小柄な体型も相まってとても痛々しく感じられる。
ずっと下を向いているため顔はよく見えないが、おそらく顔面もアザだらけなのだろう。
ショートカットが可愛らしくもあるが、それもよく見れば誰かに無理矢理切られたように揃っていない。
エリポン、サヤシ、カノンが同情の目を向ける中で、フクだけは異なることを考えていた。

(あれ?あの子、ひょっとして・・・)

41名無し募集中。。。:2015/05/06(水) 17:51:32
ジュースきたーー!!!!
連日の更新お疲れさまです!毎日読めて楽しいです!

42名無し募集中。。。:2015/05/06(水) 17:53:49
あの子ってガキ元帝王と絡みあったっけと思ったらあれかw

43 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/06(水) 23:16:29
「どうかしたの?フクちゃん」
「いや、なんでもない・・・と思う。」

アザだらけの少女が旧友に似ていると感じたフクだったが、
うつむいていたので顔はよく見えなかったし、すぐに通り過ぎてしまったため断定は出来なかった。
アザ少女を含めた黒衣装4人組についてQ期はよく知らなかったが
あまりにも堂々と歩いてきたので、ついつい城の中へと通してしまった。
(その後に門番に対してちゃんと手形を示していたので、正式な客人なのだろう。)

「変な感じの人たち。いったい何だったんやろ。」
「ちょっとまってエリちゃん、また来たよ!」

黒衣装を見送ると同じタイミングで、今度は白衣装の集団が現れてきた。
こちらも同様に若い少女の集まりであり、やはり只者ではないオーラが漂っている。
この白集団に関する情報もエリポン、サヤシ、カノンは持ち合わせていなかったが、
唯一、フク・アパトゥーマだけはその存在を知っていた。

「タケちゃん!!・・・・・・ってことは、アンジュ王国!?」

急に大声を出したので、白衣装の集団は何事かと思ってフクの方を見るが
すぐに視線を戻してまっすぐ門をくぐっていってしまった。
そう、"タケちゃん"と呼ばれた少年・・・少女?・・・少女以外は。

「お、フクちゃんじゃん、久しぶり。」
「やっぱりタケちゃん・・・・・・じゃあさっきの人たちは番長ってこと?いったい何しに来たの!?」

フクは目の前の相手が旧友であるタケ・ガキダナーであることを確信した。
しかしアンジュ王国の重鎮であるタケがわざわざ帝国まで出向く意味が分からない。
他のメンバーが問題なく城内に入っているということは通行手形を発行してもらっているということなのだが、
帝国剣士団長であるフクの耳にいれずに発行するには、サユ王かもう一人の団長であるハルナンの許可が必要なはず。
とにもかくにも分からないことだらけなのでフクはタケに対して質問をしまくるが、
当のタケの返事はそっけないものだった。

「悪いね、何も言えないや。」

そう言い残して他のメンバーに合流するタケを見て、フクはなんとも言えない不安に駆られてしまう。
「訓練場に顔を出さない天気組団とオダ・プロジドリ」「通行手形を持つ黒衣装集団とアンジュ王国の番長たち」
これらの違和感が入り混じることで、フクは考えられうる最悪の事態をイメージしてしまったのである。

「エリポン!サヤシちゃん!カノンちゃん!・・・・・・私たち、大変なことに巻き込まれているのかもしれない・・・・・・!」

44 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/06(水) 23:18:31
SSログ置き場にマーサー王物語「その6」「その7」を追加しました。

>>41
今日でGWは終わりなので更新頻度は落ちるかもですが
なんとか毎日更新は続けたいと思います。

>>42
正確には「ガキさん」と言うよりは「新垣さん」ですねw

45名無し募集中。。。:2015/05/06(水) 23:38:25
>>44
いえいえハロヲタ的には「ガキさん」で間違いないですw

あの方の身内のガキダナーもさすがのネーミングです
更新ゆっくり楽しみにお待ちしてます
頑張ってください

46 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/07(木) 00:00:08
「みんな、今日はマーチャンの誕生日パーティに集まってきてくれてありがとーーーー!!」

マーチャン・エコーチームの一言に、モーニング帝国城の作戦室はシーンとしてしまった。
せっかくアンジュ王国の番長たちと、果実の国の武装集団"KAST"を呼び寄せたというのに
開口一番マーチャンが突拍子もないことを言い出したので、天気組たちは焦りに焦ってしまう。

「何言ってんだよバカ!場を弁えろよ!」
「なんで?ドゥーはマーのこと祝ってくれないの?」
「ていうかサユ王の引退が11月なんだから、今日がマーチャンの誕生日だったらおかしいでしょ」
「むぅ〜ドゥー嫌い!」
「なっ・・・・・・!」

帝国剣士の最年少コンビであるマーチャンとハルの漫才のようなやり取りに
はじめはポカンとしていた客人たちだったが、聞いているうちについつい吹き出してしまう。
特にアンジュ王国の裏番長であり、8年前の大事件からサユ王と知り合いだった彼女は、こういうのが好みなようだった。

「ふふっ、あなたたち面白いのね。」
「すいませんカノン様・・・・・・すぐに辞めさせます。」
「いいのよこれで。私も正直言って堅苦しい会議とか嫌いなのよね。
 そんなことよりもハルナン。私のことをその名前で呼ぶのは辞めてもらえる?」
「えっと・・・・・・なんとお呼びすれば宜しいのですか?」
「"マロ・テスク"と呼んでね。過去の名前は捨てたの。」
「は、はい!失礼しました。マロ・テスク様」

仮にもモーニング帝国の剣士団長であるハルナンに対して横柄な態度を取るマロ・テスクだったが
天気団からも、KASTからも、そしてもちろん他の番長たちからも、それを批判するような声はあがらなかった。
これはマロが、今回来なかったアンジュ王国の表番長と並んで
「食卓の騎士とプラチナ剣士に最も実力が近い人物」と呼ばれているからに他ならなかった。
ヘルメットで殴ったら簡単に倒せそうな顔をしていながら、このマロ・テスクはこの場にいる誰よりも強いのだ。

47名無し募集中。。。:2015/05/07(木) 00:12:56
あれ?カノンって前新聞記者だったような・・・別人?

48名無し募集中。。。:2015/05/07(木) 00:30:58
ヘルメットで殴ったら簡単に〜でわろた

49名無し募集中。。。:2015/05/07(木) 01:04:15
前歯折れちゃうからな

50 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/07(木) 09:16:26
はい、前作の新聞記者カノンと同一人物ですよ。
8年という時が人を変えてしまったのですね……

51名無し募集中。。。:2015/05/07(木) 11:41:43
なんてこったい!「ペンは剣よりも強し」のカノンが武闘派になるなんて…なんて恐ろしいw

52 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/07(木) 23:48:19
「それでは皆さん改めまして、本日はお集まりいただき本当に、本っっ当っっに有難う御座いました!」

ハルナンは遠路はるばるやってきたアンジュ王国と果実の国の面々に向けて、深々とお辞儀する。
自身の夢を叶えるために、これだけの大物たちが集まってきてくれたことが本当に嬉しいのだ。
いくら両国の王に日頃から相応の恩を売ってきたとは言っても、喜ばしいことには変わりない。
ところがそんな中、ある人物がハルナンの悦びを遮っていく。

「感謝とかいいから早く作戦を教えてくれない?こっちはもう戦いたくてウズウズしてるんだけど!
 わー!!なんかムカついてきたーー!!」

その言葉の主はKASTのT担当、トモ・フェアリークォーツだった。
戦闘狂の彼女は周囲に帝国剣士や番長たちが居るせいか、滾る闘争心を抑えきれなくなってしまっている。
目がリンゴのように真っ赤に充血していることからも、その興奮度がうかがえるだろう。
そして気の短いトモは、近くのモノに当たることでフラストレーションを発散するのを常としていた。
そう、「アザだらけの少女」というモノに殴りかかったのだ。

「オラァッッッ!!」

スピードもパワーも迫力も100%なストレートパンチが放たれるのを見て、その場のほとんどが目を覆った。
アザ少女のようなか弱い子が何故この場にいるのかは分からないが、
そんな子が痛い目に合うのを見ていられなかったのだ。
だが、心の底から「見ていられない」と感じた人物は決して目をつぶることはしなかった。
タケ・ガキダナーはパンチの前に立ちはだかり、腹で受け止めたのだ。

「おい、イジメなんてつまらない真似してんじゃねぇよ。」
「あぁ?なに邪魔してくれちゃってるの?」

ストレス解消を妨害されたトモのイライラは最高潮だ。
もはやアザ少女など眼中にはなく、怒りの矛先は目の前のタケに集中している。
タケもタケとて、握った拳を引っ込めることなど出来やしない。
トモが来るならば全力で迎え撃つ覚悟でここに立っているのである。
一触即発な雰囲気をヤバいと感じたダーイシとハルは、喧嘩だけはさせまいと間に入っていったが、
生憎なことにタケもトモも、お互いに属する組織の中では(最強ではないとは言え)トップクラスの実力者だ。
とてもじゃないが、ダーイシとハルに止められる相手ではなかった。
二人は簡単に払い飛ばされ、地面に倒れ込んでしまう。

「痛い!」
「うわっ、なんてパワーなの……」

53名無し募集中。。。:2015/05/08(金) 02:52:56
タケちゃんに惚れてまうやろー

54名無し募集中。。。:2015/05/08(金) 09:23:50
カリンちゃんますますタケのこと好きになっちゃうw

55 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/08(金) 12:53:42
「ちょっとマロさん!はやくタケちゃんを止めたってくださいよ!」

この修羅場に、アンジュ王国の「勉強番長」カナナン・サイタチープは冷や汗を流す。
モーニング城内で問題を起こせば帝国との同盟関係破棄もありえると考えたのだ。
しかしカナナンが急かしてもマロは一向に動こうとしない。

「いくら私でもタケちゃんを止められやしないよ。」
「そんなぁ、マロさんは私たちの裏番長じゃないですか!」
「私、ペンより重いものもったことないくらい非力だし〜」

マロの言葉は、決して怠け心から来たものではなかった。
いくらマロが強いとは言っても純粋な身体能力は「運動番長」であるタケの方が上。
半端に何かしようものなら焼け石に水だと考えたのだ。
だがカナナンは諦めきれず、「文化番長」のメイ・オールウェイズ・コーダーに制止を依頼する。

「メイメイ!あなたならタケちゃんを止められるでしょう!?」

必死に頼み込むカナナンだったが、当のメイは上の空だ。
さっきから床に倒れこんでいるハル・チェ・ドゥーを品定めするのに必死になっている。

「あの人なかなかカッコいいわね…うん、合格だわ」
「メイメイ?…」

これまで男っ気の無かったメイが帝国のイケメン剣士を評価するので、カナナンはおかしく思う。
とうとう恋に恋するお年頃になったのかと思ったが、実際はそうではなかった。

「ねぇカナナン、王とあの人をお見合いさせましょ」
「はぁ!?」
「顔良いし、すきっと背が高いし、タケちゃんに飛び込む勇気も有る……王の夫として相応しいと思わない?」
「あのねメイメイ、今はそんなことをしてる場合じゃ…」

周りが見えていないメイに呆れた態度を取るカナナンだったが、それがメイの逆鱗に触れてしまう。

「そんなことってどういうこと!王が結婚出来なくてもいいの!!」
「えっ 、えっ、」
「いつも1人で仏像や絵画ばっかり見てる王に出会いがあると思う?無いでしょ!」
「そ、そやな」
「だからこそ私たち番長がきっかけを作ってあげなきゃならないの、わかる?」
「うん…」
「そうしないと、王は、婚期を?」
「……逃すなぁ」
「結婚が決まったら二人が主役の舞台を書くのー、リリウムなんてタイトルが素敵ね。」

56名無し募集中。。。:2015/05/08(金) 16:16:11
オールウェイズコーダーww

57名無し募集中。。。:2015/05/08(金) 20:54:59
サイタチープwやめたげてよぉ

58名無し募集中。。。:2015/05/08(金) 20:56:47
この作者さんのSSと言えば外伝だよな
いずれ出てくる外伝作者さんたちにも期待してますぜ!

59名無し募集中。。。:2015/05/08(金) 20:57:36
ところでアユミンとダーイシは別人なのかしら
不粋な突っ込みだったらごめんなさいね♪

60 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/09(土) 02:35:17
確かにダーイシが混ざってますね。アユミンの誤りでした・・・・・・
思えばプロトタイプ時点の名前が「ダーイシ・カネナイ・ムネナイ」だったので
混同しちゃったのかもしれません。

外伝を書いてくれる人は現れてほしいですね。
違った視点の話を楽しみにしてます。

61名無し募集中。。。:2015/05/09(土) 06:53:28
カネナイムネナイw

62 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/09(土) 08:11:28
(ドゥーさんが結婚!?ダメーーーー!!)

作戦室を覗き込みながら、クールトーンは心の中で叫んでいた。
ここはモーニング城にいくつか存在する隠し部屋。
こんなこともあろうかと、あらゆる部屋を覗き見る目的でサユ王が造り上げていたのだ。
いつでもどこでも部下を見守りたいという、王の立派な思いがうかがえる。

「あら、面白くなってきたじゃない。」

Q期に会う、という用事を済ませてきたサユ王が部屋に戻ってくる。
とは言っても会うこと自体はほんのオマケ。
番長とKASTの訪問を見せることこそが真の狙いだったのである。
そんな大仕事を終えた王に、クールトーンが泣きついていく。

「聞いてください!あの人がドゥーさんをお見合いに出すって言ってます!」

クールトーンは焦っていた。
法律上結婚できる16歳までハルはあともう少しだと言うのに、自分自身は11月現在でまだ12歳。
クールトーンが16歳になる前にハルが誰かに取られてしまうのではないかと、気が気でないのだ。
そんな彼女に対してサユ王は呆れた風に言い放つ。

「クールトーンちゃん、あなた結構おバカでしょ」
「ひどい・・・・・・」
「あのね、ハルとアンジュのアヤチョ王はどちらも女性なのよ、そもそも結婚できるわけないでしょ」
「あ!やったぁ」
「でもよく考えたら相手は王なのよね、その気になれば法律も捻じ曲げられるわけだ。
 じゃあハルがアンジュ国に婿入りしたら結婚できちゃうね、クールトーンちゃん残念。」
「!!!!」

サユはちょっとからかってみただけなのだが、クールトーンは間に受けてしまう。

「王になったら・・・・・・ドゥーさんと結婚できる・・・・・・」
「クールトーンちゃん?」
「王様、私帝国剣士を目指します。そしてずっとずっと頑張って剣士団長になって、王になります!」
「え、なんて?」
「でもサユ王の在籍記録を抜く前に卒業するので安心してください。」
「あ、お気遣いどうも」

63 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/09(土) 20:41:30
メイが王の相手を探したり、クールトーンが決意表明しているうちに
トモはタケに強烈なパンチをお見舞いするため、大きく振りかぶりだしていた。
番長とKASTは今後協力しないといけないのに、これでは先が思いやられるが、
パンチの勢いが急に弱まったので事無きを得る。
トモの腕に絡みついて突きの勢いを消したのはKASTのS担当、サユキ・サルベだ。

「チッ……サユキ、また私の力を消したね?」
「ほらほら頭を冷やして、ハルナン剣士団長に迷惑かけたらユカニャ王が困るよ」
「あれは年中困ってるでしょ……それよりさ」

さっきまでタケに怒ってたトモだったが、そんなタケを放っておいてサユキに耳打ちをし始める。
その様はどこか焦っているようだった。

「なんでアンタ、ジュースを飲んでるのよ!それこそ王に怒られるんじゃないの!?」
「だって私の実力じゃ、シラフでトモを止めることなんて出来ないもん。」
「この馬鹿……私が悪かったよ、反省する。だから戦場以外でジュースを飲むのはやめな。」
「はーい。」

何が起きたのかは知らないが、トモが落ち着いたのを見て一同は安心する。
これでやっと作戦会議を進められると思ったのだ。
ところが、タケの怒りがまだまだ収まっていない。
怖い目をしながら一歩一歩、トモの方へと歩み寄っていくが
突然「何もない場所」から頭をはたかれることで、タケは静止する。

「いてっ!……リナプーか!」
「空気読んでよ、恥ずかしい。」

アンジュ王国の「帰宅番長」リナプー・コワオールドはいつの間にかその「何もない場所」に立っていた。
あんなに強そうなタケもリナプーには弱いらしく、簡単に引き下がってしまう。

64名無し募集中。。。:2015/05/09(土) 22:46:01
この絶妙にみんな忘れてそうなとこからネタ持ってくるのが悔しいわw

65名無し募集中。。。:2015/05/10(日) 00:13:17
どれだけ隠されたネタを拾えるかってのも楽しみの一つw
ジュース飲んじゃダメって…何か秘密が…それともフルーツカラータブーネタからなのか?

66 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/10(日) 13:51:01
サユキとリナプーの活躍もあって、ようやく説明する場が整った。
アンジュ王国番長のマロ・テスク、カナナン・サイタチープ、タケ・ガキダナー、リナプー・コワオールド、メイ・オールウェイズ・コーダー。
果実の国KASTのカリン・ダンソラブ・シャーミン、アーリー・ザマシラン、サユキ・サルベ、トモ・フェアリークォーツ。
そして天気組団のハルナン・シスター・ドラムホールド、アユミン・トルベント・トランワライ、マーチャン・エコーチーム、ハル・チェ・ドゥー他の総勢14名。
これらのメンバーの意識を合わせるのが総指揮官ハルナンの役目だ。

「それでは皆さん、私を帝王にする作戦の説明を始めます。」

帝王という言葉を持ち出すことで空気が変わったのをアユミンとハルは感じる。
いくらハルナンの考えを事前に聞いてたとは言え、改めて聞くとピリッとするものだ。

「帝王を決める投票のルールについては、以前私が皆さんのもとに出向いた時に説明しましたよね。」
「ええ、期日前投票と代理投票が認められないんだったね。」

マロの確認にこくりと頷きながら、ハルナンは続ける。

「ということは、投票の場にQ期団の誰も居なければフクさんに票が入ることはありません。
 フク・アパトゥーマ、エリポン・ノーリーダー、サヤシ・カレサス、カノン・トイ・レマーネ。
 この4名を『投票できない身体』にするのが皆さんのお仕事です。
 作戦の決行は投票日の前日です。どうか宜しくお願いします。」

ハルナンの残酷とも思える策に、背筋が凍るものも何人かいた。
投票の抜け道を突くことや、たった4人に過剰な戦力をぶつけることもそうだが
何よりも自らの手を全く汚す気が無いのが最も恐ろしい。
そんな中、トモが質問を投げかける。

「投票出来ない身体っていうけどさ…殺すのはアリなの?
 帝国剣士を殺れる機会なんて滅多にないからさ、OKなら燃えちゃうよ、私。」

67 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/10(日) 13:54:28
フルーツカラーのタブーについては意識してませんでしたw
ジュースについてはいつか説明する時が来るはずです。

68名無し募集中。。。:2015/05/10(日) 14:36:42
真っ黒ハルナンきたあああああ

69名無し募集中。。。:2015/05/10(日) 15:28:11
黒い!黒すぎるぜダークハルナンw

70名無し募集中。。。:2015/05/10(日) 19:29:32
しかも自国のヤクザとか傭兵使わないで他国の人間使うとかw
また戦争がしたいのかあんたたちはーーっ!

71名無し募集中。。。:2015/05/10(日) 20:58:34
はるなん策士だなw今前作読み直してるけど当時のコンコンより黒いような?w

72 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/11(月) 01:09:10
Q期団を殺してもいいのか
そう問われたハルナンは一瞬口ごもったが、すぐに返す。

「相手を殺すのは、やめましょう。」

ハルナンの回答にアユミンとハルはホッとするが、
質問の主であるトモは納得いってないような顔をしていた。

「まぁそうなるだろうね、敵とは言ってもお仲間だもんね。
 ……ちょっとさ、覚悟足りてないんじゃないの?」

冷たく言い放つトモにハルナンはギクリとする。
確かにハルナン程度の実力で王になるには、余程の犠牲を払わなくてはならない。
此の期に及んでQ期を生かすだなんて、虫が良すぎることも分かっていた。
だがそれでも味方殺しという選択肢を選ぶことは出来ない。

(このまま全体の士気が下がるのはまずい。早く言い訳をしないと!)

心の中で滝のような汗をかくハルナンだったが、表情にはそれを全く出さなかった。
凛とした顔でトモに向き合い、Q期を生かすことの必要性を説いていく。

「Q期さんを殺すとですね、色々と厄介なんですよ。」
「だからそういう厄介ごとを気にするのが『覚悟が足りない』って言ってるの。」
「そういうレベルじゃないんです。サユ王を敵にまわす恐れがあることを言いたいんです。」
「サユ王…?」

突然出てきた王の名前に一同はキョトンとしてしまった。
なんなら覗き部屋にいるサユ王自身も驚いているくらいだ。
本人の意思はさておき、ハルナンは言葉を続けていく。

「私たちはただでさえ邪道で選挙に勝とうとしているんです。正直言ってギリギリスレスレでしょう。
 そんな状況で更にQ期さんの命までうばってしまったら……その時、王は激昂するかもしれませんよ。
 王は現役を退いて久しいですが、我々が束になってかかっても勝ち目はないでしょう。
 そんな強い王を敵に回すなんて、悪手極まりないと思いませんか?」

いかにも弱そうなサユを高く見るハルナンにトモは吹き出しそうになったが、
他の帝国剣士や、マロ・テスクが真剣な顔をするのを見て、ギャグなどでは無いかもと思い始める。

「おいおい本気か?こっちは14人もいるんだぞ?」
「それでも勝つよ、それがかつての戦いを生き抜いたプラチナ剣士、そして食卓の騎士なの。」

マロが食卓の騎士という言葉を使うので、トモはハッとする。
食卓の騎士とはマーサー王国の王を護るために結成された戦士集団だ。
トモはあまり人を敬うタイプではないが、そこにはいくら尊敬しても足らない人物が在籍している。

「私のヒーロー、アイリ様の属する食卓の騎士と同格なのか……そりゃ、確かに怒らせたら怖そうだね。」
「貴方も食卓の騎士ヲタなの?私のヒーローはクマイチャン様。あぁ、またお会いしたい……」

73名無し募集中。。。:2015/05/11(月) 06:34:18
お!ついに食卓の騎士の名前が!!王国は今一体どうなってるんだろ?

74名無し募集中。。。:2015/05/11(月) 08:22:31
前大戦で重篤な負傷した騎士も多かったからなぁ…
国力半減してそうだがどうなのか

75名無し募集中。。。:2015/05/11(月) 12:08:26
取りあえずマイミだけは元気なの確定w

76 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/11(月) 22:05:32
これから前作ネタが増えてくるかもしれません。
過去ログの方も更新しなきゃ・・・・・・

77名無し募集中。。。:2015/05/11(月) 22:13:49
取りあえず前昨まとめウィキの方で読んで復習中
過去ログの方が読みやすいけど…待てなかったw

78 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/12(火) 02:39:33
食卓の騎士を引き合いに出したおかげで、Q期を殺さない件についてはカタがついた。
マロとトモという両陣営のリーダー的存在が納得したのが大きかったのだろう。
窮地から一転して良いムードになったので、ハルナンは安心して話を進める。

「それでは当日の体勢について説明しますね。皆さんには現場・司令・連絡の3つに分かれてもらいます。」

"現場"はQ期らと直接戦うメンバーのこと、ここに多くの人員が割り当てられる。
"司令"は現場に対して作戦を指示する役割。状況変化に応じて的確な指示を出す必要がある。
"連絡"は現場と司令それぞれに最新情報を伝達する役割。フットワークの軽い人物が適任だろう。

「まずは司令ですが、これはそれぞれのリーダーが就くのが良いと思ってます。
 なので私ハルナンと、マロさんと・・・・・・KASTではトモさんということになるのでしょうか?」
「ちょっと待ってよ、確かに私はそういう立場だけどさ・・・・・・どっちかと言えば背中で引っ張るタイプなの。
 私から戦闘を奪わないでもらえる?」
「そうですよね・・・・・・ではどうしましょう。」

トモの性格から言ってこう来ることは分かっていたが、ではKASTから誰を司令部に置くべきだろうか
ハルナンが悩んでいると、元気な声で立候補する者が現れた。

「はいはい!ウチがやります!面白そう!」

精一杯の勢いで挙手してみせたのはKASTのA担当、アーリー・ザマシランだった。
大人っぽい顔つきをしてはいるが、その表情と元気さは子供そのものだ。
ハルナンには彼女が司令向きには到底見えなかったし、
アーリーの仲間であるトモやサユキが全力で首を振っていることからも、その判断が正しかったことが分かる。

「アーリーに司令はダメ。」
「そうそう、アーリーは現場向きなんだから」
「ええ〜そんなに向いてる?、そっかそっか、じゃあ現場やったるわ!」

立候補を簡単に取り下げるアーリーを見て、ハルナンはほっとする。

「えっと、じゃあKASTからは司令を選出しないってことでいいですかね?」
「いいよいいよ、私もサユキもアーリーもそんなガラじゃないしね。
 あと現場からの要望なんだけどさ、このカリンは私のすぐそばに配置してくれない?
 こいつが居れば私は最強になれるから。」

79 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/12(火) 02:42:01
はい、まとめwikiが実はどこかにあるんですよねw

ちなみに過去ログにはほぼ原文を掲載していますが、
誤字やどうしても変更したい点などは修正しています。

80 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/12(火) 12:45:24
「はい、最高のパフォーマンスを出せるのでしたら、是非そうしてもらいましょう。」

KASTのK担当、カリン・ダンソラブ・シャーミンと組みたいというトモの要望にハルナンは快く応じた。
というのも、元々ハルナンは果実の国のユカニャ王からKASTの能力について聞いていたのだ。
故に、元から想定した配置と大して変わらなかったのである。

「ですがトモさん、ユカニャ王から伝言を預かっています。」
「…いつものやつだろうけど、一応聞いとく。」
「"決してやりすぎないように"、とのことです。」
「はいはい、分かりましたよ。」

面白くなさそうに返事するトモは、カリンと呼ばれたアザ少女に軽くデコピンを喰らわせる。
くだらないことをしていると憤ったタケだったが、
被害者であるカリンの口元が笑みを浮かべているように見えたので、背筋を凍らす。

(カリン?……お前、なんで笑っているんだ?)

タケが異様に思っていることに気づくこともなく、ハルナンは新たな人事を発表していく。

「あとですね、連絡役としてはサユキさんを任命したいと思います。」
「えーー!?なんで?私も前線で戦いたいんだけど。」
「それはサユキさんの特技が連絡役として最適だからです。
 サユキさん、消せるのはパンチの力だけではないそうですね?」

またもユカニャ王からの受け売りを言うハルナンに、サユキはピクリとする。
そして観念したのか、人事を受け入れることにした。

「分かった、やるよ。そこから先は言わないで、秘密なんだ。お願い。」
「有り難う御座います!おかげで我々の勝率が格段にアップしました。」
「えへへ、そりゃ私の重力を消す能力は確かに凄いけどさ、ちょっと褒めすぎだよ〜」

81名無し募集中。。。:2015/05/12(火) 14:59:40
言うてる言うてるw

82名無し募集中。。。:2015/05/12(火) 20:24:30
www

83 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/12(火) 22:07:36
それから残りの役割が決まるのは早かった。
司令であるハルナン、マロ、連絡役であるサユキ以外は全員が現場担当だ。
当日誰が誰と戦うべきか決める必要も有るには有るが、
司令がこの2人なので天気組団と番長たちから反対意見が出ることはほとんど無かった。
結局、KAST(というかトモ)の要望を聞く程度で全て決まってしまったのだ。
全員が己の役割を把握したのを確認して、ハルナンが閉会を宣言する。

「これで終わりにしましょう。皆さん当日はよろしくお願いしますね。
 ところでアンジュ王国と果実の国の方々はこの2週間、どうなさるおつもりですか?
 モーニング帝国に滞在されるなら立派なお部屋とお食事を、
 お帰りになるのでしたら国一番の駿馬を用意しますが・・・・・・」
「私たちKASTは帰るよ、ユカニャ王を残すのは心配だからね。」
「じゃあ番長はお言葉に甘えてゆっくりしてようかな。
 アンジュ王国はあの3人が護ってるから大丈夫でしょう、ね?カナナン」
「はいマロさん、国防に関しては問題ないと思いますよ。
 でも、ウチら番長抜きでアヤチョ王がちゃんとお仕事できるかどうか・・・・・・」
「たまには馬車馬のように働かせとけばいいの。いつも遊んでる報いってやつよ。」
「ははは、そうですね。」

一仕事終えて作戦室から出る番長とKASTらの表情はにこやかだった。
ところがただ一人、タケ・ガキダナーだけは怖い顔をしていた。
アザ少女、カリンがいつものように仲間の数歩後を歩いているのを見つけては、
その細腕をおもむろに掴みだす。

「きゃっ!・・・・・・タケちゃん?」
「カリン!お前、苦しくないのか?」

急に呼び止められたので混乱するカリンだったが、
相手がタケだと気づくなり、すぐに可愛らしい笑顔を浮かべていく。

「苦しくなんかないよ、私、今がとても楽しいんだ。」
「楽しいってお前、さっき殴られそうになったじゃないか・・・・・・」
「あ、さっきはかばってくれて有難う、でもね、私は別に殴られてもよかったんだよ。」
「は?」
「皆に期待されるのがとても嬉しいの。だから何が起きても平気。痛いのも我慢できる。
 あ、そろそろ皆のところに行くね。じゃあねタケちゃん!」
「お、おい!」

傷つくことをなんとも思わない旧友を見て、タケはなんとも言えない気持ちになる。
アザだらけになりながらも悦びを感じる今のカリンに、どんな声をかければ良いのか分からなくなってしまう。

84名無し募集中。。。:2015/05/12(火) 22:50:05
カリンちゃんドM過ぎるwところでカリンとタケちゃん顔見知りみたいだけどエッグ七人衆以降のエッグや研修生はどういった扱いなんだろ?

85名無し募集中。。。:2015/05/13(水) 11:06:49
おへその国の国民なのでは

86名無し募集中。。。:2015/05/13(水) 12:15:26
この作者さんだからホントにおへその国出てきそうで怖いw

87 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/14(木) 08:29:32
番長とKASTらが会議室を出るとの同じタイミングで、サユ王らも覗き部屋から退出する。
そしてサユは、クールトーンを試すようにこんなことを質問する。

「これでハルナンの考えは大体分かったわね、ところでクールトーンちゃん。
 Q期を生かすためには誰をマークすれば良いと思った?」

ハルナンはQ期を殺さないと宣言したが、番長やKASTがそれを100%守るとは限らない。
血気盛んなトモや、力強いタケと応戦することで命を失うことも無くは無いのだ。
今後どのようなケースがありえるのか、サユ王は研修生の視点からの答えを知りたかったのだが……

「えっと、ごめんなさい分かりません。」

クールトーンの返答が期待ハズレだったのでサユはたいへんガッカリした。
これまで色んな出来事を目にしてきたので、正解でなくてもクールトーンなりの考えがあると思ったのだが、
萎縮しているのか、それとも頭が追いついていないのか……
ところが、次に続く言葉でサユは彼女を見直すことになる。

「今回のハルナンさんの作戦だとやっぱり誰も死なないような気がします。
 だってQ期さんはそんなに弱くないと思うんです。
 でも、あのマロって人はなんだか怖い感じがしました……
 なんか、Q期さんだけじゃなくてもっと大勢の人を危険な目にあわせるような……」

トモやタケじゃなくマロを評価したクールトーンに、サユは驚いた。
マロ自身は特に何もしていなかったが、その場にいる者全員を制圧したり、
他にも自国のアヤチョ王をぞんざいに扱う様を見てそう感じたのだろうか。

「うん、思った通り。クールトーンちゃんには見る目がある。」
「ええ!?」
「自慢じゃないけど、私はあの場にいる誰よりも強いわ、アユミンやタケ、トモよりもずっとね。
 だからもし仮に謀反を起こされたとしてもすぐに制圧しておしまい。
 でもね、マロ・テスクは戦争を起こす方法を知っている……彼女を倒して一件落着とはいかないの。
 正直言って、王として最も敵に回したくない人物ね。」

マロ・テスクは過去に何度も大きな争いを引き起こしたことがあった。
当時は天使のように純粋だった彼女の本意ではないとは言え、多くの人が血を流したのは事実だ。
果てには強大で恐ろしい存在を蘇らせるきっかけを作り、国どころか世界の危機をもたらした。

「でも安心して、今の彼女が戦争を起こす恐れははほとんど無いわ。
 かつて、とある食卓の騎士が己の剣で世界を救ったことがあったの。
 それからその騎士はマロのヒーローよ。詳しい説明は省くけど、最も救われたのはマロ自身だからね。
 そのヒーローがいる限りは、マロは裏切らない。」

88 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/14(木) 08:33:11
研修生の過去は考えてたり考えてなかったりですね。
確定しているのは、モーニング娘。の元エッグor研修生メンバーは帝国出身というくらいですか。

89 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/14(木) 20:17:19
客人らが全員出て行ったのを確認して、ハルナンは扉をバタンと閉める。
そして天気組団に向かってこう言ったのだ。

「さて、『司令』『連絡』『現場』に次ぐ最後の役割について話そうか。」

アユミンはコクリと頷くと、何も無いところに目を向けて怒鳴りつける。

「オダァ!いつまで隠れてるんだよ!!」

怒声を浴びるなり、スゥッと姿を現したのは帝国剣士の新人オダ・プロジドリだ。
実は彼女のは新人ながらにして「5人目の天気組団」だったのだ。
この事はサユ王でさえも知らない。5人だけの秘密なのである。

「私の役割……たしか『処刑』でしたね。」
「ええ、我々の中から出た裏切り者を容赦なく斬り捨てるのがオダちゃんの役割よ。
 この役割はポーカーフェースのオダちゃんにしか出来ないの。」
「アユミンさん達はすぐ顔に出ますしね。」
「おいオダ!馬鹿にしてるのか!」

普段は温厚なアユミンも何故かオダにだけは声を荒げてしまう。
とは言っても本気で怒っているわけではない。
仲の良さが普通な彼女たちなりのコミュニケーションなのだろう。
そんなアユミンとは違って比較的冷静なハルが質問を投げかける。

「でもさ、番長もKASTも想像以上に強そうだったじゃん。もしもあの中の誰かが裏切ったとして、オダちゃんにやれるの?」
「はい、ご褒美のためなら手足を失ってでも処刑しますよ。」
「手足って……怖いこと言うなぁ、ところでご褒美ってなんなの?」
「それはですね、ハルナンさんが約束してくれたんですよ。」
「なんて?」
「ハルナンさんが選挙に勝った暁には、すぐにでも帝王を斬らせてくれる……って言ってくれたんです。
 私より弱い人がこの国の王だなんて我慢なりませんからね。」

その冷たい声に、アユミンとハルは絶句した。
そんな事を考えるオダがまず怖いし、それを了承したハルナンも異端すぎる。
いくらオダを仲間に引き入れるためとはいえ、そんな約束をするなんてどうかしている。
ハルナンが顔色ひとつ変えないところを見るに、何か策でもあるのだろうか……

「ダメーーーーーー!いくらオダちゃんでもそれは許さないんだから!」

ここで大きな声を出したのはマーチャンだ。
普段はオダと仲良しだが、大切な仲間が危険に晒されるのは容赦できないのだろう。

「困りましたね、じゃあマーチャンさんが先に私とやります?」
「え、オダちゃんとマーが?」
「はい、マーチャンさんともいつか本気でやりあってみたかったんですよ。」
「うんいいよ!でもきっとマーが勝つよ。」
「ふふふ、楽しみが増えましたね。」

90名無し募集中。。。:2015/05/14(木) 20:55:58
ゾクゾクする

91名無し募集中。。。:2015/05/14(木) 21:59:36
うわぁ策士だな…それとも気付いた上で泳がせてるのか…これが最終的どう転ぶのか非常に気になる

92 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/15(金) 04:00:51
「はいはい、争うのは勝手だけど選挙の後にしてね。」

手をパンパンと叩きながらハルナンはマーチャンとオダを制する。
切磋琢磨するのはよいことだが、作戦決行の日までに怪我をされたら困るのだ。
なのでハルナンはなんとか話題を変えようとする。

「ところでハル、さっき番長やKASTが強そうって言ってたけど具体的に誰がそういう風に思えた?
 他のみんなも要注意だと思える人物を教えてくれないかな。それがオダちゃんの『処刑』に役立つかもしれないし。」

ハルナンに問われた天気組は、それぞれ思い思いの強者をイメージし始めた。
真っ先に回答したのはハルだ。マーチャンも続いていく。

「やっぱりトモでしょ、あんなにパンチが鋭いところを見るとボクサースタイルを得意としているのかな?
 あれ、でも弓を背負ってたっけ・・・・・・あれはなんだったんだろう。飾りなワケないよなぁ。」
「マーはタケって人が凄いと思ったよ。なんかフク濡らさんみたい」
「なんだよそれマーチャン」
「マーもわからん」

今挙がったトモとタケが強者だというのは誰が見ても明らかだった。
それに対して、アユミンとオダは意外な人物をピックアップする。

「私はサユキの言ってた"重力"を消すっていうのが気になるなあ・・・・・・
 本当に消しちゃったら大変じゃない?宙に浮くのかな?そうだとしたら、いくら私でも滑らせることは出来ないかも・・・・・・」
「私はリナプーと呼ばれてた人が気になりますね。だって私と同じく"透明"になれるんですから。
 でも透明化の手法は私とは少し違うみたいです。もう少しだけ観察が必要ですね。」

ハルナンはみなが挙げる要注意人物を、心のメモに記録する。
やはり各国で名を挙げた戦士たちだけあって、一筋縄も二筋縄もいかない曲者ばかりだ。
もしも一斉に裏切られたら天気組どころか、モーニング帝国自体がピンチになるだろう。
だが、そうはならないような策はすでに練ってある。
番長にKAST、そして目の前の天気組らがハルナンに牙を向いたとしても、例の助っ人さえ来れば護ってくれる。
そう、「従順なゲスト」の存在をハルナンは隠し持っていたのだ。これは味方にも明かしていない。

(天気組のみんなを騙す形になっちゃってごめんね。でも全ては私が帝王になるためなの。理解して。)

93名無し募集中。。。:2015/05/15(金) 10:10:48
あの人だろうなw

それにしても小田ちゃんの役がピッタリですごいわ

94 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/15(金) 14:35:39
フク・アパトゥーマは気づいていた。
アンジュ王国や黒衣装の面々を呼び寄せたのはサユ王ではなくハルナンであり、
その目的は十中八九、フクらQ期団を始末するためであると。

(仲間を疑うのはよくないことだけど、ハルナンならやりかねないよね・・・・・・)

フクは剣士団長として、エリポンとサヤシとカノンの3人に注意するよう伝えていた。
はじめのうちは3人ともピリッとしていたが、一週間経っても何も起きないので日に日に緊張感が薄れていく。
同じ帝国剣士であるハルナンがそんなことをするワケがないと思い始めているのだ。
フクもそう思うことが出来れば楽なのだが、団長と言う立場を考えるとそういうわけにはいかない。

(ハルナンが行動を起こすとしたら、今日から投票が始まるまでの一週間のはず。
 でも、私はどうすればQ期のみんな、そして私自身を護ることができるというの?
 サユ王にありのままを報告してハルナンを止めてもらう?
 ダメだわ、帝国剣士の団長として、確証なしにもう一人の団長を陥れることなんて出来ない。
 じゃあ一般の帝国兵や研修生たちにQ期側についてもらうように命令する?
 それもダメ。Q期を襲う敵が天気組だなんて口が裂けても言えない。」

フクは必死で対策を練ったが、考えは一向にまとまらなかった。
元来あれこれと作戦を考えるタイプではなかったという理由もあるが、
それ以上に「帝国剣士団長として」という誇りが邪魔をするのだ。
帝国剣士内のいざこざを当事者以外に知られることは恥だと考えているのである。
だがここでフクは考えを改めた。
この状況でフク・アパトゥーマが優先すべきはメンツなどではない、Q期団のメンバーの命なのだ。
「帝国剣士団長として」といった考えを捨て、「Q期みんなの同期として」ベストを尽くすために、フクは筆をとる。
普段は手紙などを書かないフクを見て、エリポンはおかしく思う。

「あれー?手紙なんか書いてなんしようとぉ?」
「ファンレターを書いてるの。私のヒーロー宛に。」

95 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/15(金) 14:38:32
まーちゃんや小田ちゃんらは仮面ライダーイクタにあまり登場しなかったので
それらのキャラが話に合っていると思われるのは嬉しいですね^^

さて、作戦シーンなどが非常に長くなりましたが、
次の更新から戦いが始まります。

96名無し募集中。。。:2015/05/15(金) 15:24:50
うおおおおおおお…
これは旧世代対新世代の大戦が始まるのか!

まぁマーサー王もその構図ではあったけどもw

97名無し募集中。。。:2015/05/15(金) 19:34:25
フクさん漢だな

98 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/16(土) 14:31:32
投票前日の朝。
フクはQ期合同訓練に備えて、今日も訓練場に赴いていた。
ほかのメンバーよりも早めにやってきて準備をするのが日課になっていたのだ。
ところが、今日だけは異なる人物に先を越されることになる。

「おはよう、フクちゃん」
「・・・・・・!」

先客の正体はアンジュ王国のスポーツ番長、タケ・ガキダナーだった。
突然の旧友にフクは一瞬たじろぐが、すぐに自身の考えが正しかったことを確信する。

「タケちゃん・・・・・・ハルナンに言われてきたの?」
「おっ、気づいてたんだ。」
「分かるよ。バレバレだからね。(本当は半信半疑だったけど)」
「じゃあ隠す必要はないな、やろうぜフクちゃん!」

そう言うとタケは先手必勝とばかりにフクに殴りかかる。
不意打ちの速攻は卑怯にも見えるが、タケはそんなことは思っていなかった。
こうでもしないと初撃を当てられないと考えるくらい、フクを認めているのだ。
そして実際に、その攻撃はフクには通用しなかった。
きらびやかに輝く装飾剣、その名も「サイリウム」でタケの拳を防いだのである。

「その剣は!・・・・・・フクちゃん、本気だな」
「うん、タケちゃん相手に模擬刀なんて使ってられないからね。」

いつ襲われても対応できるように、フクは訓練用ではなく「戦闘用」の装飾剣を帯刀していた。
そしてそれはフクだけでなく、ほかのQ期団員も同様だった。

同時刻、エリポンがよく魔法トレーニングをしている城外の広場。
ここには天気組アユミンの斬撃を、打刀「一瞬」で受け止めるエリポンの姿があった。

「ぐぐぐ・・・・・・エリポンさん、意外と反射神経あったんですね・・・・・・」
「当たり前っちゃろ?この刀より速い剣をエリは知らんよ。」

さらに時を同じくして宿舎と食堂の間にある通路。
KASTのトモが全力のパンチをカノンの腹にぶつけるが、むしろ己の拳を痛めていた。

「ぎっ!・・・・・・なんだこれ!あんた鎧着ながら朝ごはん食べるの!?」
「戦場なんだから、鎧着用は常識でしょ。」

99 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/16(土) 14:33:52
SSログ置き場にマーサー王物語のその8〜その10を追加しました。

>>96
今回もその構図になるかどうかは、続きを見てご確認くださいw

100名無し募集中。。。:2015/05/16(土) 17:59:43
エリポンがガキさんの『一瞬』受け継いでいる!?何て胸熱な…師弟絆良いな

逆にフクちゃんの『サイリウム』は普通すぎてちょっと意外だった…と思わせておいてきっと良い意味で裏切ってくるんだろうなぁw

101 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/16(土) 20:45:54
ハルナンとマロは、現場担当を4つのグループに分けてQ期のそれぞれに向かわせていた。
訓練場でフクと戦うのはカナナン、タケ、リナプー、メイの4名だ。
4人揃えばアヤチョ王も凌ぐというアンジュ王国最強のチームワークでフクを確実に仕留めるのが役目である。
城外ではエリポンとアユミンの一騎打ちが繰り広げられる。
アユミンは勝利することが目的ではない。エリポンを足止めし続けることが狙いなのだ。それならば一人で十分。
城内通路ではカノンとトモ、そしてサポート役としてカリンが対峙する。
帝国剣士随一の耐久力を誇るカノンを崩せるのは、トモとカリンの超火力コンビしか居ないとの判断である。
最後に、帝国剣士の宿舎に居るであろうサヤシにはマーチャン、ハル、アーリーの3名を向かわせている。
正統派なサヤシをマーチャンとアーリーの異次元殺法で翻弄することが期待される。(ハルは2人のお守り役)
これらは司令によって練りに練られた作戦ではあるが、開幕早々、想定外の事態が起きているようだった。

「なんで!?サヤシすんいないよ!」
「おかしいなぁ・・・・・・サヤシさんのことだからまだ寝てると思ったのに。」

その想定外は宿舎で起きていた。
いつもならサヤシはまだ夢の中にいる時間帯だと言うのに、ベッドは既にもぬけの殻だったのだ。
もしもサヤシが他のメンバーのところに居るのであれば、そのメンバーと戦う相手が不利になってしまう。
想定外がさらに新たな想定外を生むという負の連鎖を思うと、ハルは冷や汗を流す。

「くそっ!・・・・・・もしもエリポンさんのとこに居るとしたらまずいぞ、アユミンがピンチだ。」
「あ、このベッドまだサヤシさんの温もりがしますよ!匂いも。」
「本当かいアーリーちゃん!じゃあそう遠くには行ってないはずだ、3人で宿舎中を探すぞ!!」
「「おー!」」

3人は大慌てで部屋の外へと出て行った。計画の綻びをなんとかしようと必死なのだろう。
そんな3人が居なくなったのを確認して、サヤシがベッドの下からひょこっと顔を出す。
彼女はハル達が部屋に入る前にすばやく隠れていたのである。
普段は眠くてそんなことは出来やしないのだが、フクの必死な懇願がサヤシを変えたのかもしれない。

「フクちゃんの言ぅとった事は本当じゃった・・・・・・狙いはエリポン?
 じゃあどうせ城外の"魔法トレーニング場"におるんじゃろう・・・・・・助太刀せにゃいかん。」

そう言うとサヤシは壁にかけてある居合刀を掴んでは、腰にセットする。
この2週間手入れは十分に行っていたので、敵を斬る準備は万端だ。
たとえその対象がアユミンであろうとも。

102 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/16(土) 20:48:02
フクの装飾剣「サイリウム」の名前には意味がありますが
それはまだ伏せておきますね。
いつ頃明かされるかも、まだ言えません><

103名無し募集中。。。:2015/05/17(日) 00:13:10
今回は完成までどのくらいのスケジュールをお考えなんでしょ?

104名無し募集中。。。:2015/05/17(日) 00:29:37
やはり意味があるのか…楽しみに待つとしよう

105 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/17(日) 01:14:19
スケジュール感はかなり難しいですね
おそらく大きく外れるとは思いますが、ざっくり以下みたいなのを考えてます。

5月〜6月→第一部:sayu-side
7月〜8月→第二部
9月〜10月→第三部

ちなみに第一部と第二部の話は考えてますが、第三部は冒頭の少しだけで後は全然考えてません。
というのも、第一部は過去(2014年後半)、第二部は現在(2015年前半)、第三部は未来(2015年後半)を書こうとしているので
まだ決められないんですよね。
完結までまだまだ先ですが、どうかお付き合い願います。

106 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/17(日) 02:28:25
舞台はまた訓練場に戻る。
そこでは、応戦中のフクとタケの前に新たな刺客が登場し、今まさに飛び掛るところだった。

「タケちゃん助太刀するよ!」

新顔の正体はタケと同じアンジュ王国出身の文化番長メイ・オールウェイズ・コーダーだ。
前にも書いたように、番長4人はこの訓練場に集結していたのである。
タケとメイとで二人がかりなので番長側が圧倒的有利なはずなのだが、むしろタケは渋い顔をしていた。

「馬鹿!お前がなんとかなる相手じゃねぇよ!」

はじめはタケが何を言っているのか分からないメイだったが、
フクを殴ろうとするあたりでその意味に気づくことになる。

(え!?フクの顔が小さく・・・・・・)

突然小顔になったと思えるくらいに一瞬で、フクは後方へと跳んでいた。
そのせいでメイの攻撃は空振りに終わり、それどころか体勢までも崩してしまった。
そしてフクはメイがフラつくのを確認すると、それ目掛けて強烈な突進を喰らわせていく。
重量感と爆発力を兼ね揃えた体当たりに細身のメイが耐えられるはずもなく、壁際まで吹き飛ばされてしまう。

「痛っ!・・・・・・くそぉ・・・・・・」

自身の実力をほとんど出し切れずに膝をつくことになったのでメイは酷く悔しがる。
フクが強いということは聞いていたが、ここまでとは思ってなかったのだ。
メイが飛ばされた先に立っていた勉強番長カナナン・サイタチープと、体育座りをしていた帰宅番長リナプー・コワオールドも口を開く。

「アカンやろメイメイ、タケちゃんが一騎打ちでいく言うたんやから大人しく見守っとかんと」
「確かにハルナンって人は4人で戦えーって言ってたけどさ、マロさんは休んでいいって言ってたしタケちゃんに任せとこうよ。」
「せやで、ウチらみんなが本気を出すのはマロさんの合図が聞こえてからで十分や。
 それまでにフクって人のデータを取らなあかん・・・・・・"フク・バックステップ"も"フク・ダッシュ"も聞くより実物のがめっちゃ凄い。」
「うん、実際に受けてみてやっと分かったよ・・・・・・あれに対応出来るのはタケちゃんくらいだね。」

107名無し募集中。。。:2015/05/17(日) 07:50:45
バックステップとダッシュw上手いなぁ

108 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/17(日) 10:43:32
「タケちゃん、4人でかかってこなくてもいいの?」

フクは装飾剣を前方へと突き出しながらタケに問いかける。
タケも持ち前の動体視力と反射神経で剣を避けては、フクの横っ腹に突きを繰り出していく。
だがどんな攻撃も回避術"フク・バックステップ"の前では無意味。
タケのパンチは虚しくも空を切ってしまう。

「チッまた外した・・・・・・えっと、4人がかりだって?あいつら3人じゃフクちゃんに当てられないでしょ」
「フフ、タケちゃんだってそうでしょ・・・・・・まぁ私もなんだけどね」

二人の戦いがはじまってから数分たつが、まだお互いにクリーンヒットを決められないでいた。
基本的な身体スペックがどちらも高いがゆえに、回避あるいは防衛に長けているというのもあるが、
旧友ゆえに相手がどう出るのかなんとなく予測できてしまっているのである。

「単調な動きじゃ読まれちゃうか、じゃあパターンを変えるね。」

そう言うとフクは剣士の命とも言える剣を空へと投げ捨てた。
そしてタケが一瞬たじろぐ隙に移動術"フク・ダッシュ"で高速接近し、
大きな掌で相手の両腕をガッシリと掴んでしまったのだ。
これはフクが帝国剣士になって覚えた束縛術"フク・ロック"。タケにはまだ一度もみせたことのない技である。
"フク・ロック"による個別握手会を振りほどいた人物は、今までに片手で数えるほどしか存在しない。

「うっ・・・・・・離せよ!」
「離してあげるよ。すぐに!」

言い終わるがはやいかフクはタケに強烈な頭突きをぶつけていく。
そしてタケの力が抜ける一瞬を見極めて、素早く足を払い、豪快に転ばせてしまった。
脳と全身に大きな衝撃を受けたためにここからのタケは先ほどまでのような回避は不可能だろう。
やはりフクは強いなと思いながら、タケは懐から鉄球のようなものを取り出す。

(あちこち痛いけどこれで準備は整った。フクちゃん、さっきまでと同じと思うなよ?)

109名無し募集中。。。:2015/05/17(日) 11:10:59
>>105
これは1年ペースとみたw
楽しみにしてます!


フクちゃんは技が多彩でいいなぁ
バックステップまで入れてくるとはw

110 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/18(月) 02:19:36
先日の作戦会議ではターゲットであるQ期メンバーの特徴・特技について共有が行われたが
フク・アパトゥーマの基礎能力はエリポンのパワーやサヤシのスピード、カノンのディフェンスには及ばないという評価だった。
とは言ってもフクのスペックが著しく低いという訳ではない。全ての能力値が平均以上なのである。
掴んだら決して離さない握力や、キレのあるダッシュ&ステップ、クリーンヒットを貰わない防衛技術、
これら全ての要素が彼女を帝国剣士団長たらしめたのだ。
そしてフクの強さについてタケは、数年前に近隣諸国間で実施された「合同若手育成プログラム」の時点で気づいていた。
かつてのタケは尊敬する従姉妹にあやかってナックルダスターを用いたファイタースタイルをとっていたのだが、
当時プログラムで同じ班になったフクの戦い方を目の当たりにすることで、今のままではTOPに立てないことを悟ることになる。
だからこそタケはスタイルを変更し、鉄球を武器として扱うようになったのだ。
愛用する鉄球、その名も「ブイナイン」ならば勝てると信じてフクへと投げつける。

「フクちゃん、これが"新しい私"だよ。」
(ボール!?・・・・・・しかも速い!)

タケの放つ鉄球は160km/hを超える剛速球だ。
不意打ちに近い形で予想外の武器を登場させたタケに対応出来るはずもなく、フクは自身の胸に直撃してしまう。

「きゃっ!!」

幸いにもフクは人より胸の脂肪が厚いほうだったので一撃KOは免れることが出来たが
激しい勢いで鎧に衝突した鉄球の勢いが死ぬことはなく、上空へと打ち上げられていく。
そしてタケはボールの落下地点を瞬時に見極め、そこへと走っていった。
その行動の意味は、もちろん鉄球をキャッチして第二投を放つためだ。
だがフクだって同じ失敗を繰り返すつもりはさらさらない。

(それがタケちゃんの新しいスタイルなのね、でも結局はただの投てきでしょ?・・・・・・なら迎撃すれば良い!)

フライをキャッチしてはすぐに投球に移るタケに備えて、フクは装飾剣「サイリウム」を拾いなおしていた。
自分目掛けて飛んでくるボールを剣で叩き落してしまおうという考えなのだ。
ところがそんなフクの考えも、タケの球種がファストボールからスローボールへと変化することでおじゃんになってしまう。

(球が遅い!だめ、はやく振りすぎちゃう!!)

剛速球を期待していたところに105km/hの遅い球がやってきたので、フクはタイミングを取ることが出来なかった。
そして剣による妨害をかいくぐった鉄球は、そのまま腹部に衝突する。
苦しいながらもフクはタケより先にボールを拾うことで無力化を謀ろうとも思ったが、
鉄球が予測不可能なくらいに地面を跳ねまわるため、それも叶わなかった。

(フクちゃんは野球なんてやったことないだろ?戦う筋肉はあっても、スポーツする筋肉はないようだな!)

111 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/18(月) 12:57:55
野球というスポーツについて、フクは全く知らないというわけではなかった。
可愛いと思って目をつけていた、もとい、実力を評価していたとある研修生が
その野球について熱く語ってるところをよく目撃していたので、なんとなくは知っていたのだ。
しかしフクはモーニング帝国やマーサー王国の歴代戦士に関する文献を読み漁る事を趣味としていたため、
実際に野球をやってみたことは無かったのである。
それに対して、タケは野球をはじめとする多くのスポーツをプレイすることを仕事としていた。
それがアンジュ王国スポーツ番長の役目だったからだ。
アンジュ王国は「国王」兼「表番長」が仕事をしないことで有名であり、
業務をサポートすることが、本来戦闘の専門家であるはずの番長とたちの役目となっていたのである。
そんな中でタケの行っている業務は国内のスポーツの活性化だ。
かつての戦乱の時代と比較すると世は平和になりつつある。
国と国の戦いは、戦争からスポーツ大会に取って代わるかもしれないという有識者まで現れるくらいだ。
そこでアンジュ王国はタケを代表者として、いち早くスポーツを強化しようと考えたわけである。
様々なスポーツの複雑なルールを覚えるのは苦手だが、色々と経験したおかげでタケの運動神経は飛躍的に向上している。
特に好みのスポーツである野球ならば誰にも負けない。フクにだって、勝てると信じているのだ。

「そんな球、全部よけてあげる!!」

打ち返すのが不可能だと悟ったフクは、ダッシュとバックステップを多用して回避に専念することにした。
豪速球が到達するまでに避けきるのはなかなかに骨が折れるが、なんとか直撃を免れることは出来た。
ところがホッと一安心したその時、フクの脛に激痛が走る。

「!!……鉄球は避けたはずじゃ!?」
「隠し球だよ。私はルールには疎いんだ、ボールが一つなんて思うなよ?」

112名無し募集中。。。:2015/05/18(月) 23:38:38
そこ威張るんじゃねぇよw

113 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/19(火) 08:24:29
機動力を奪われることで自身の敗北を覚悟したフクだったが、
これから猛攻をしかけるべきであるタケがフラつき、その場で転倒することで状況は変化する。

「うぐっ……ハァ、ハァ、おかしいな……」
(タケちゃん、何もないところでどうして?)

ここでフクは、例の野球好き研修生の熱弁を思い出した。
ピッチャーというポジションは突っ立っているようで実はものすごい体力を消耗している。
本気の投球は全力で空を殴るのと同程度に疲れるし、
常にコントロールを意識すること自体、かなり精神をすり減らすという。
だからピッチャーは他の誰よりも走り込みをするのだと、フクは耳に入れていた。

(そうか、タケちゃんはボール拾いまで自分でやってるから特に疲労が溜まっているんだ。)

フクの思った通り、スローとダッシュ、そしてキャッチを繰り返すタケの体はもうボロボロだった。
9人分の仕事をたった1人でしてるのだから無理も無いだろう。
もちろんそれくらいでヘコたれるようなタケでは無いためまだまだタチアガールのだが、
その疲れきった表情はフクに対策を思いつかせてしまった。

(よし、もっともっと疲れてもらおう!!)

笑みを浮かべるフクを見て、カナナンは頭を抱える。
タケの戦法がスタミナを異常消費することは元から知っていたのだ。

「やっぱり野球スタイルだとこうなるか……タケちゃん、自分は従姉妹とは違うでって言うてもきかんもんな。」
「あの子、手の抜き方が下手なのよ。」
「それは言うたらあかんでリナプー。普通は真剣勝負で手を抜ける人なんかおらへん。
 ウチの知る限り、それで強くなるのはリナプーただ一人だけや。」
「ん、ありがと。」

114 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/19(火) 08:29:03
タケをスポーツ番長と書きましたが「運動番長」の誤りでした。
今後は記載を統一します。
アンジュの各番長の名前は正しくは以下です。

表番長:アヤチョ王(未登場)
裏番長:マロ
勉強番長:カナナン
運動番長:タケ
帰宅番長:リナプー
文化番長:メイ

カナナンは塾番長でもいいかなと思いましたが文字数合わせるために勉強でいきます。

115名無し募集中。。。:2015/05/19(火) 12:21:03
番長って言うと某不良漫画スレ思い出すなぁ

前作一気読み完了!やっぱ面白い!そして長かった…w
ところで『地下』は今作には登場するんだろうか…

116 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/19(火) 12:44:07
フク「地下を使ってハルナン達に対抗しよう。」
→第一部 完

となりますねw

117名無し募集中。。。:2015/05/19(火) 19:25:15
ひどい終わり方だwそれにまだ野望を諦めていないあの人が動き出すかもしれないww
てか・・・まだ地下にいるのか…恐

118 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/19(火) 20:29:14
場面は変わって城内のとある通路。
そこではKASTの1人、トモ・フェアリークォーツがカノン・トイ・レマーネに睨みをきかせていた。
カノンの鎧を殴って手を痛めたのが相当に悔しいのだろう。

「その鎧がある限りパンチは効かなさそうね。」
「うん、硬さには自信があるし、大抵の攻撃は無駄に終わるんだろうね。」
「それじゃあ私も本来のスタイルを見せるしか無いワケだ。」

そう言うとトモは背中にしょっていた大きな弓を取り出し、カノンの腹へと狙いをつける。
トモは果実の国を守る戦士というほかに、アーチェリー競技の選手という側面も持ち合わせていたのだ。
アンジュ国と同様に果実の国でもスポーツが盛んであり、その中の一つがアーチェリーという射撃競技なのである。
しかもトモは国内8位という優秀な成績を残しており、その実力は折り紙つきだ。
(競技人口についてはここでは触れないことにする。)
そんなトモが力いっぱいストリングを引いて、矢を放つのだから破壊力は想像に難くないだろう。
カノンもはじめは恐怖したのだが、すぐにそれが期待ハズレということに気づく。

「うわ!矢が当た………らない?」

なんとトモの放った矢はまったく見当違いの方向へ飛び、何もない壁に勢いよく突き刺さってしまったのだった。
深くまでめり込んでいるので威力が凄まじいということはよく分かるのだが、
トモとカノンの距離はたいして離れていないというのに、矢はカノンから3mはズレたところに命中している。
これも作戦のうちかもしれないとカノンは疑ってみたりもしたのだが、
トモが本気で悔しがっているのでそうでもないと分かる。

「くそっ!……まだ修行が足りないってのか……」
「え?キミ、ひょっとしてヘタクソ?」
「なんだと!私だって準備が整えばなあ!!」

トモは声を荒げたかと思うと、辺りをキョロキョロし始めた。
そしてとても大切な仲間を見つけるなり、ニヤリと笑いだす。

「カリンこっち来て!やっぱりあんたがいないと私はダメだ!」
「えっ、トモが頼ってくれてる……嬉しい。」

カノンにはそのカリンと呼ばれる戦士に見覚えがあった。
以前、門を通っていたアザだらけの少女その人だったのだ。
トモとカリンはいつの間にかショットグラスのようなものを手にしていて、
その中には色鮮やかなジュースのような液体が注がれていた。

「じゃあカリン、一杯やろうぜ。」
「うん!じゃあ、せーのっ」
「「ジュースで乾杯!」」

119 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/20(水) 08:43:20
「えっ、ジュース?」

これから戦うというのに乾杯なんて始められたので、カノンは驚く。
そして同時にさっきまで以上に警戒するようになった。
それだけトモとカリンを異様に思っているのである。

「あぁ〜やっぱり利くな、全身が火照って心臓がバクバクする!!」

ジュースを完飲したトモは急にテンションが上昇し、目の充血もいつも以上に酷くなる。
興奮しすぎるあまり顔が真っ赤に紅潮しているので、まるで大きなリンゴのようだ。
そしてその上昇したテンションのまま、ボウの弦をギリギリと引っ張り
カノンへと強烈な射撃を放っていく。
先ほどと違うと感じたカノンはその場に倒れこむようにして避けたが、それが正解だった。
今回の矢は真っ直ぐに、それでいて高速かつパワフルに飛んで行ったからだ。
壁にもさっきまで以上に深くめりこんでいる。
もしもその場に突っ立っていたら「痛い」では済まなかったかもしれない。

「何を飲んだの?……それ飲んでから変わったよね。」
「ただのリンゴジュースだよ。ちょびっと興奮するだけのね!」

そう言うとトモは第二の矢、第三の矢をどんどん撃っていく。
一撃でも貰うとダメージが大きいのは明らかなので、カノンも回避に必死だ。
しかしいくらトモの矢が高速とは言っても避けられないものではない。
自分目掛けて真っ直ぐ来ることは分かっているし、弓矢の性質からいって連射が難しいため
カノンの咄嗟の判断力と機転があれば十分回避可能なのだ。
だが、それは相手がトモ1人ならばの話。
グレープジュースを体内に取り入れたカリン・ダンソラブ・シャーミンの参戦によって
カノンは窮地に立たされることになる。

120名無し募集中。。。:2015/05/20(水) 22:32:55
さて時事ネタを取り込む作者さんはこの裏番長をどうしていくのだろうか…

121名無し募集中。。。:2015/05/20(水) 23:50:02
流石に卒業はすぐには取り込まないのでは?前作もウメサンは残ってたしカンナは・・・だったけど

122 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/21(木) 07:12:19
えらいことになりましたね。。。
マロはかなりのキーマンなので第一部で退場は難しいですが、
二部か三部では何かしら反映できるかも……

123 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/21(木) 12:57:34
「よし、じゃあそろそろ反撃を……」

十分に矢を回避可能であることが証明出来たので、カノンは守りから攻めへの転向を決意する。
遠距離攻撃使いは接近に弱いのが常なので、トモ目掛けて走ってやろうと考えたのだ。
そうすれば射撃を封じられるし、パンチも元々通用しない。つまり完封勝利が約束されることになる。
それに気づいているからこそ、カリンはカノンを全力で妨害した。

「トモに近寄るなっっ!」
「!?」

カリンが死角から体当たりをかましてきたので、カノンは一瞬だけフラつく。
ぽっちゃり系のカノンと小柄なカリンとでは重量に差があるため転倒することは無かったが、
それでも走行は止められてしまった。
そして現在のカリンの姿を見て、カノンはひどく驚くことになる。

「え!?その身体、大丈夫なの?……」

ジュースを飲む以前と比較して、カリンの全身はドス黒く変色していた。
もともと青アザだらけではあったが、ジュースの成分が内出血の進行を促進することによって
まさにグレープのような色になってしまったのだ。
こんな大怪我人のような姿をしているが、カリンは戦える。

「これでも喰らえ!!」

カリンは自らの腕に勢いよく噛み付き、そこから血を吹き出させた。
そしてその血液を口に含んでは、カノンの目に向けて唾ごと吐きかけたのだ。
一部のじっちゃんにはご褒美かもしれないが、カノンはたまったものじゃない。
相手の出方が分からない以上、目にかかった液体が毒である可能性もあるからだ。

「わわっ!なんだこれ!!」

思えばカリンの肌の色はとても凶々しいものだった。
それはまるで有毒生物が天敵に大して警戒色を示しているかのよう。
カリンが口にした紫色のジュースの正体は毒液で、カリンの身体にはその毒が蓄積されていると思えば筋は通る。
ならばそれを目で浴びたカノンは失明してしまうのではないか?
そのように考えたのたカノンは、必死で目を拭うほかに選択肢は無かった。
だがその選択が誤りであることはすぐ分かるようになる。

「失礼な人!私の血、そんなに汚い?……」

気づけばカリンはカノンの太めの脚にしがみついていた。
要するに彼女はカノンをこの場に縛りつけようとしているのだ。
では何故そのようにするのか?答えは簡単だ。
毒よりずっと恐ろしい、凶悪な弓矢から逃さない以外に理由はない。

「よくやったカリン!これでおしまいだ!!」

トモは「デコピン」と名付けられたボウの弦を引き、カノン目掛けて解き放つ。

124名無し募集中。。。:2015/05/21(木) 13:13:31
ご褒美わろた

125名無し募集中。。。:2015/05/21(木) 14:29:26
グレープ色のカリンってwどうも果実の戦士は色物が多いな
何となくマイハが裏にいるんじゃないかと疑いたくなるw

126 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/21(木) 21:19:53
「で、そのジュースってなんなの?」

作戦会議室ではマロ・テスクがKASTの秘密について問いかけていた。
マロの視線の先にいるのは同じ司令担当のハルナンではない。
KASTに声援を送りにやってきた、果実の国の王ユカニャ・アザート・コマテンテに質問をしたのだ。
ユカニャ王は少し困った顔をしながら、言葉を返す。

「どうしても言わなきゃダメですか?一応国家機密なんですけど……」
「ダメ。だって司令の私が知らなきゃ作戦を立てられないでしょ。」
「でもハルナンさんには教えましたので、それで良いではないですか?」

ユカニャ王のガードの硬さにマロはイラっとしたが、それも仕方のないことだと感じていた。
モーニング帝国の同盟国同士とは言っても、アンジュと果実の国は直接国交を結んでいる訳ではない。
言わば明日には敵同士になるかもしれない間柄なのだ。
そんな相手に手の内を晒すなんて馬鹿のやることだろう。
だからこそマロは大事なカードを切ることにした。

「じゃあカナナン、タケ、リナプー、カナナンの4番長の特徴を教えてあげる。だからそっちもジュースの秘密を教えてくれない?
 ハルナンを確実に王にするための協力よ、私を信じて。お願い。」

マロはアンジュの主力戦士の情報と引き換えにジュースの秘密を得ようとした。
高い買い物にも思えるが、実際はそうでもない。
何故ならマロは国内No.2である自分自身のこと教えるとは一言も口にしていないし、
最近若手で力を伸ばしている「3舎弟」のことも伏せているのだ。
なので、もしも近いうちに戦争が起きたとしても勝てると踏んでいるのである。

「しょうがないですね。そこまで言うなら教えましょう。」

まんまと騙されたユカニャはカバンから綺麗な小瓶を取り出した。
赤、紫、黄、緑、そして桃色の全5種類のジュースがその中には入っている。

「これは私の開発した、人間の潜在能力を引き起こす不思議なジュースなんです。」
「潜在能力?」
「はい。例えば赤色のリンゴジュースを飲めば集中力が飛躍的に強化されますし、黄色のレモンジュースは身体をとても軽くしてくれます。」
「ちょっ、ちょっと待って、リンゴジュースなのに赤色?」
「皮の色です。」
「そうなの。 まぁそれはどうでも良くてさ、集中力とか身体を軽くとか、ヤバい薬じゃないよね?」
「うふふ、100%安全で副作用も中毒性も何もありませんよ。
 私があの子達にそんな危険物を持たせるワケないじゃないですか。」
「そうなの?なんかすごく怪しいんだけど……」
「安心してください。まぁ、強いて言うなら効果が過ぎるのが副作用ですかね。」
「?」

127 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/21(木) 21:21:12
確かに前作を読まれたなら薬物=マイハを連想されるかもしれませんねw

128名無し募集中。。。:2015/05/21(木) 22:54:08
まさかこんなに早く種明かししてくれるとはwマイハじゃなかったのね

129名無し募集中。。。:2015/05/21(木) 23:09:16
ユカニャ王軽すぎないかw

130 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/22(金) 01:18:01
「副作用とかではありませんが、一番危険なのはグレープジュースですよね。」

遠巻きに見守っていたハルナンも会話に入ってくる。
実は彼女もおしゃべりをしたくてたまらなかったのだ。

「グレープジュース?これのこと?」

マロはユカニャの手から5本のジュース瓶を奪い取ると、真ん中の紫の瓶を指差した。
いきなり取られたのでムッとするユカニャだったが、 質問されたのでまずはそれに返す。

「はい。紫色のグレープジュースはリミッターを外す効能が有るんです。人間の脳は本来……」
「あー火事場の馬鹿力を引き出すってことね。」
「あ、そうです。ただ、使用後に激痛が全身を襲うのが玉に瑕ですけどね。」
「えっ、そういうのを副作用と言うんじゃ……」
「無茶しすぎると体を壊すのは人間本来の機能です!ジュースの副作用じゃありません」
「あぁはいはい、分かったから分かったから。」

急にプンプン怒り出すユカニャを見て、マロは苦笑いするしかなかった。
王の前でジュースを馬鹿にするのはもう止めようと決意する。

「ほらグレープジュースは怖いでしょう? その反面、メロンジュースは笑っちゃうくらい平和ですけどね。」

ハルナンが笑いながらそう言うので、マロは緑の特徴も気になりだした。
目の前になんでも教えてくれる先生がいるのでこれも尋ねることにする。

「メロンだっけ?これはどういうジュースなの?」
「飲むと眼がよくなります。」
「!」

他と比較すると視力改善というショボい効果なので、ハルナンは分かっていても吹き出してしまった。
だがマロ・テスクは笑うような気分にはとうていなれなかった。
むしろ今日一番の警戒を見せているようだ。

「眼、か……よくもまぁこんな代物を作ったものね。」
「はい、たくさん勉強しましたので。」

131 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/22(金) 13:30:21
侮れない技術力だと感じたマロは、最後の1杯をユカニャ王に突き出す。
桃色のピーチジュースについてもどれほど脅威か知っておきたかったのだ。
しかしユカニャ王も今回ばかりは首を縦には振らない。

「ダメです。番長4人の情報で教えられるのはジュース4杯までですよ。」
「え〜いいじゃない。なんならあの子たちのスリーサイズまで教えちゃうけど。」
「ははは、でも本当にダメなんです。このジュースはもう使わないって決めたんですから。」
「使わない?・・・・・・」

ユカニャ王の意味深な言動にマロが反応しないはずがなかった。
ここでマロは数ヶ月前の新聞記事を思い出す。

「それって"KAST"がまだ"KYAST"だった時代は使われていたってこと?
 そして、武装集団の名前が"KAST"になったのとほぼ同じ時期に、あなたが王に就任したことも関連している?」
「!!」

ユカニャ王は一瞬驚いたような顔をして、慌てて表情を戻す。
王座に就いた理由を国外に公表していないというのに、核心に迫られたので焦ってしまったのだ。
その焦りを察したハルナンは必死で話題を切り替える。

「まぁまぁ過去の話よりも今日の話をしましょうよ!気になるのはトモさんカリンさんのコンビですよね〜
 トモさんなんてただでさえ強そうなのに、ジュースを飲んだらいったいどうなってしまうんでしょうか!?
 さすがのカノンさんも分が悪いかもしれませんね〜。」

ハルナンのフォローにユカニャ王はほっとする。
そして作戦室らしく、このマッチアップについての見解を述べることにした。

「はい、タガの外れたカリンちゃんが動きを止めて、そこに集中したトモが矢を放つコンビネーションは鉄板です。
 いくらカノンさんの耐久力が凄いとは言っても、矢を何発も受けて無事という訳にはいかないでしょう。」

自信満々に言うユカニャ王だったが、ハルナンの頭には一つの懸念が浮かび始めた。
それが杞憂で済むことを願いながら、王に問いかける。

「止めると言いましたが、その止め方は、いったいどういうものなんでしょうか?」
「あ、それはまず相手の目を潰すんです。目隠しできればなんでもいいのですが、
 カリンちゃんは自分の血液を飛ばすことが多いみたいですね。
 その後はストッパーの外れた身体能力でその場から動かないように抑えつける、といった流れです。」
「それって、カリンさんを振り解けば動けるのでは?……」
「ふふふ、ジュースを飲んだカリンちゃんの見た目を知らないからそう言えるんですよ。
 あんな姿のカリンちゃんに乱暴するなんて、普通の人なら躊躇します。
 その躊躇っている隙にトモが撃つので問題ありません。」

聞けば聞くほどハルナンは不安になってくる。
今の戦法はフクやエリポン、サヤシには効いたとしても、カノンに通用するとは限らない。
カノンはディフェンスに優れていることで有名なのだが、ハルナンはそれ以外のある要素を前々から評価していたのだ。

(まずいわ……このままじゃトモさんとカリンさん、負けるかも。)

132 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/23(土) 20:13:19
場面は戻りカノンとトモたちの戦い。
そこでは渾身の射撃を回避されたトモが呆然自失としていた。

「どうして避けられたんだ?・・・・・・」

結論から言うと、カノンはカリンを振りほどいていた。
カリンのしがみついた側の脚をグッと持上げ、そのまま地面に叩きつけたのである。
常日頃から自重を支え続けているカノンの脚力は相当に発達しており、
体重の軽いカリンごと脚を動かすことくらい、わけなかったのだ。
ノーガードで床と衝突したためにカリンは激痛に苦しまされてしまう。

「ひぃっ!・・・・・・痛い、痛いよぉ!!」

血を拭うことで視力を改善したカノンは大きめの包丁を取り出すと、そのままカリンに切りかかった。
カリンは全身が腫れている上に痛みに耐え切れず泣き出すような少女にしか見えないが
そんなのお構いなしに、カノンは出刃包丁「血抜」で容赦なく捌いていく。

「はい、そこで寝ててね。」

カリンは斬られた胸からシュウシュウと血を流し、その場にガクッと崩れ落ちてしまう。
その出血量から察するに腫れ物の中の血液が流れでた程度で済んではいなく、血管の本流を傷つけられたようだ。
顔色一つ変えずここまでやってのけるカノンを見て、トモは弓矢を持ったままその場に立ちすくす。
カリンを突き放して、胸の深くまで切りかかったことについては体重差と剣の技術で説明がつくのだが、
観音のようなスマイルの似合うカノンが、こんなにも可哀想な見た目をしているカリンにここまでしたのが信じられないのだ。

「さて、次は君を切ればおしまいかな。」
「ま、待って、どうしてそんなことが出来るの!可哀想と思わないの!」
「何言ってるの?・・・・・・敵を斬るのは当たり前でしょ」
「だって、そんなに全身が腫れて、痛そうで、可哀想な女の子に対して・・・・・・」
「その子も戦士なんでしょ?そりゃ斬るよ」

顔色ひとつ変えず一歩一歩こちらに向かってくるカノンを見て、トモは相手の性格を見誤っていたことを痛感した。
モーニング帝国剣士は全員が平和ボケしている集団で虫も殺せないと思っていたのだが、
目の前にいるカノン・トイ・レマーネはそうではなかった。
帝国剣士屈指のリアリストであるカノンには、カリンを盾にした策は通用しないのだ。

133名無し募集中。。。:2015/05/23(土) 22:46:59
もう決着か!?
自重を支えすぎているという見方もできるが…

134名無し募集中。。。:2015/05/24(日) 02:26:57
笑顔でカリンを捌くカノン怖いw
まるでMVの怨みを晴らすかのような…

135 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/24(日) 02:31:21
直情タイプが多いQ期団だが、唯一カノン・トイ・レマーネだけは冷静な性格をしていた。
普段の日常会話ではおちゃらけてはいるものの、それはあくまで場を盛り上げるため。
フク、エリポン、サヤシがボケた時には瞬時にツッコミに回ることからもそれが分かるだろう。
何事にも惑わされず常に本質のみを捉えることが出来るのが彼女の利点なのである。
また、人はカノンの耐久力の高さを恵まれた体型や重厚な鎧のおかげだと言うが、実際はそうではない。
相手の行動や周りの状況を察知し、常に頭を働かせて次の行動を予測するからこそ無駄な負傷が少ないのだ。
考えすぎるあまり「グレープジュースは毒入り」のように思ってしまうのが唯一の欠点ではあるが、
そこまでとことん最悪の可能性を想定するからこそ、現に彼女は生き残っている。
予想外の事態には弱いが、予想内には十分な対処を行うことが出来る。
また、彼女にはトーク力もあった。

「いやね、君たちの戦い方は合理的だと思うよ?
 トモって呼ばれてたっけ、キミ。 本当は仲間思いなのにあえて虐めっ子のフリをしてるんでしょ。
 そうした方が、その、カリンちゃん?、がもっと可哀想に見えるもんね。」
「は!?・・・馬鹿いわないで!」

思いがけないカノンの分析にトモはギョッとした。
自分はただ勝利のためにカリンを利用していただけなので、そのように言われるとは思いもしてなかったのだ。
ジュースを飲んだ時以上に顔が火照ってくるトモを見ながら、カノンは続ける。

「自分のことは自分でも分からないもんだよ。じゃあ証拠を見えてあげようか」

そう言うとカノンは床に倒れていたカリンの首根っこを掴み、自身とトモの直線上に付きつけた。
つまりカリンをトモの弓から自身を守る盾にしたと言う訳だ。
とんでもないことを考えるカノンに、トモは恐怖する。

「な、何をやって・・・・・・」
「撃ってみなよ。本当の虐めっ子だったら躊躇しないで撃てるでしょ?」
「!?」
「鎧を貫通するくらいの威力が有るんだから、この子の薄い身体くらい貫けると思うんだけどね。
 これはね、キミが私を倒せる最後のチャンスなんだよ。 カリンちゃんを貫通して私に当ててみな。」

トモは電気のようにビリビリとしたものが全身に流れるのを感じる。
確かにカノンを倒すには今言った方法をとるしかないだろう。しかしそんなことを出来る訳がない。
ただでさえ胸から流血するカリンを射抜いてしまったら、命を奪うかもしれないからだ。
何も出来ず黙りこくるトモだったが、そこにカリンの叫び声が聞こえてくる。

「トモが虐めっ子じゃない訳ないだろ!!すぐに私ごとあなたを撃ち殺すんだから覚悟しな!!
 ねぇトモはやくしてよ、こいつがビビッて私を放す前に、強烈なのをお願い。
 トモなら、出来るよ!」

トモはさっきのカノンの言葉以上に、カリンの犠牲精神に衝撃を受けた。
何故カリンが自分の命を犠牲にしてまでカノンを倒したいのか、モチベーションはどこにあるのか、それは分からないが
ここで撃たなければ本当の戦士ではないということは分かったのだ。
そして、そう気づいたトモは弓と矢を床に落としてしまう。

「私は戦士じゃなかったや・・・・・・ごめんねカリン」

武器が捨てられるのを確認したカノンは、すぐにカリンを投げ捨ててからトモに接近し、ローキックをぶちこむ。
様々な思いが入り混じったトモの膝の震えは相当のものであり、強烈な蹴りには到底耐えられなかった。
骨から鈍い音をだし、その場に倒れこんでしまう。

136 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/24(日) 02:35:12
長くなりましたがカノンVSトモ・カリンは次回で終了です。
カノンがこんな性格になってはしまいましたが、フクらQ期を大事に思うゆえの行動ってことでご理解願います。

自重による脚の怪我は、起こるとしたら第二部ですかね・・・・・・w

137名無し募集中。。。:2015/05/24(日) 02:53:55
仰々しかったわりにあっさりだったなトモ

138 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/24(日) 09:31:36
「私の勝ちだね。じゃあ色々教えてもらおうか……」

カノンは出刃包丁をトモの喉元につきつけた。
自分同様に襲われているかもしれないフク達に加勢するため、情報を聞き出したいと考えているのだ。
だがそれも、カリンの突然の叫び声でかき消されることになる。

「トモが負けるはずがないだろ!絶対に負けないんだ!」

カリンはまだ立ち上がり、背後からカノンの後頭部にパンチを当ててきていた。
重傷のカリンが襲ってくるとは想定していなかったため、カノンは直撃をうけてしまうが
すぐに振り返り、応戦の体制をとる。

(やられた……頭がグワングワンする、吐きそう……でもなんとかしなきゃ!)

カノンは流血する胸に目掛けて出刃包丁を突き出した。
以前食らった恐怖でカリンが臆するのを期待して、同じ場所を狙ったのだ。
ところがカリンは臆するどころか激しい勢いで体当たりを仕掛けてくる。
自身の胸が切られるのも構わず、敵を倒すためにカリンは全力で衝突する。
とは言えカリンの体重はカノンを押すにはあまりにも軽すぎた。
カノンの体重と脚力さえ有れば問題なく耐えきることが可能である。
もっともそれは通常時の話。
今置かれている状況は少しばかり特殊だった。

(え!?足が、スベる!!)

踏ん張ろうと脚に力を入れるカノンだったが、床にはカリンの血液が多量にこぼれ落ちていた。
ゆえにカノンは持ちこたえることが出来ず転倒してしまう。
しかも、先ほど殴られた後頭部から落ちたので状況は最悪だ。

(凄い……ヤバい……頭が働かないんだけど……)

頭を二回も打って危険な状態にあるカノンだが、カリンは決して容赦しない。
最後までフルパワーで戦い抜くのが戦士としての礼儀だからだ。
戦士カリンは拳をぎゅっと握ると、床に転がるカノンへと振り落とす。
狙いは硬い鎧で覆われていない顔面だ。
腕の骨が全部折れてしまうほどの、ストッパーの外れた強烈な突きで、カノンの鼻をグシャグシャにする。

「ぐぁ!!……」
「やった!勝ったよトモ!!トモは負けなかったんだ!」

トモは信じられないといった顔でカリンの勝利を見ていた。
囮役でしか無いと思っていたカリンがこんなに強いなんて知らなかったし、
普段からストレス解消の道具にしていたカリンが自分のためにこんなに頑張ってくれることも意外だったのだ。
そして何よりも、カリンの勝利を心から喜んでいる自分に驚いている。

(カリン・ダンソラブ・シャーミン……お前はいったい何者なんだ?
 どうしてそんなに強くて、頑張れるんだ……)

トモには聞きたいことがたくさん有ったが、質問は許されなかった。
グレープジュースの効き目が切れ始めて、カリンがフラついてきたからだ。
活動を維持するには血が足りなすぎたのである。

「おいカリン!大丈夫か!?」
「あはは、ごめんトモ、ちょっと眠いかも……」

誰よりも敗者のような見た目をしている勝者は、安らかな顔で眠りに落ちていく。
その寝顔はとても満足気だった。

139名無し募集中。。。:2015/05/24(日) 11:06:00
大逆転!

140名無し募集中。。。:2015/05/24(日) 12:00:44
ちゃんさああああああん

141名無し募集中。。。:2015/05/24(日) 16:34:32
今度から顔面の守りも鉄壁になりそうなカノン

142 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/24(日) 22:47:06
後から見返してみたらまるでカリンが死んでるみたいですけど
ちゃんと生きてますw

143 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/25(月) 01:46:51
一方その頃、女子宿舎ではハル・チェ・ドゥーがサヤシ探しに必死になっていた。
無計画にあちこち探しても埒が明かないので、ハルは協力者を増やすことにする。

「ねぇ、サヤシさんを見つけたら僕に教えてくれないかな?」
「は、はい!」
「ふふ、良い子だね。」

その協力者とは研修生たちだった。
ハルは若い子を見つけるなり無差別に壁ドンをしてお願いしていく。
研修生はモーニング帝国剣士、特にハルに憧れている者が大多数なので、
エンジェルフェイスを近づけられて頼まれたら断ることなど出来るはずもなかった。
みんなハルに喜んでもらいたい一心で宿舎中を駆け回っている。
その光景を目の当たりにしたアーリー・ザマシランは興奮気味にに喋りだす。

「すごいですねぇ〜!ハルさんって人気者なんだなぁ〜」
「違うよアーリーちゃん、あれは女たらしって言うんだよ」
「へー女たらしなんですかー」

アーリーとマーチャンが働きもせずアレコレ言うので、ハルはイラついてくる。

「おいおいなんだよ、二人とも何もしてないじゃないか。
 ハルはちゃんと仕事してるんだぜ?ちょっとくらい褒めてくれてもさぁ」
「べー」
「マーチャン・・・・・・」

ここで怒りに任せて怒鳴りつけるのは簡単だった。
だがそれではいつまで経ってもハルはマーチャンに舐めらたままだ。。
なので今回はアプローチを変えて、マーチャンに壁ドンをしてみることにした。
オラオラ系の面を出せば従ってくれるかもしれないと思ったのだ。

「マーチャン、ハルに構ってもらえないからってすねてるんだろ?素直になれよ」
「うわぁ・・・・・・」
「ちょっ、普通にヒくのはやめて!」

いつも女子にモテモテなハルだが、同じ天気組からの扱いはとことん悪い。
おそらく普段のハルをずっと見てきたので恋愛のような感情は湧かないのだろう。
そうだというのに壁ドンをしてしまったので、ハルは自分で自分が恥ずかしくなってくる。

「もういい!次いこ次!女子寮にいないならきっと男子寮にいるんだろ!」
「サヤシすんが男子寮にいくかなー」
「うるさい!行くったら行くんだ!」

この時ハルは気づいていなかった。
怨念のこもった眼でハルを睨み続ける存在がいることを。

144名無し募集中。。。:2015/05/25(月) 10:26:02
うわぁw

145 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/25(月) 19:42:14
「ドゥーさん壁ドンを安売りしすぎ!」

ハルに送られた視線の主は、隠し部屋から覗いていたクールトーンだった。
研修生たちが次から次へとスキンシップをとるので、彼女の嫉妬心はとどまることを知らない。
だがクールトーンは王の書記係という大事な業務の真っ最中だ。我慢するしかない、

「くそぅ……サユ王さえ居なければ……」
「ちょっと!自分で何言ってるか分かってるの!?」

普段はしっかりしているのにハルのこととなると頭のネジが何本も外れるので、サユ王も困ってしまう。
このまま監視し続けると本気で命を狙わねかねないため、サユは場所の移動を提案する。

「はいもう女子寮は終わり。次はお城の子たちを追いましょ。」
「ドゥーさん達は男子寮に行くって……」
「あっちの宿舎はみんな平気で裸だったりするのよ。クールトーンちゃん、色んなものが見えちゃうかもしれないけどいいの?」
「う……遠慮します。」
「ていうかそもそもあっちには隠し部屋なんて作ってないの。女子寮は全員分の寝室を監視できるように頑張ったけどね。」
「えっ……私の部屋もですか?……」
「……はやくお城に行きましょう。みんなが無事か心配だわ。」
「え、え、」

宿舎を後にするサユだが、実は彼女は残念に思っていた。
可能であれば、アーリーの戦いをクールトーンに見せてやりたかったのだ。

「サヤシとの対決が実現してたら、アーリーの"眼"を使った戦い方を見れたのにね。」
「眼?……なんですかそれ」
「今はその言葉を使う人も減ってきたけど、普通の人とは違うものが見えることを"眼"を持つというのよ。」

サユの表情が真剣になってきたのでクールトーンは高速筆記を開始する。
これから話す内容は重要であると感じたのだ。

「超能力……ですか?」
「近いけどちょっと違う。"眼"は訓練次第で誰でも手に入れることのできる技能なの。
 何千、何万と同じことを繰り返し続けることで、悟りが開かれるのよ。
 だから"眼"で見えるものは個人によって様々。
 かつては相手の弱点が見えたり、他人の視線の先が見えたり、道具の脆いところが見えたりする人がいたわ。
 そんな彼女たちがみな例外なく強かったのは言うまでもないわね。」
「へぇ〜、私も"眼"が欲しいです!」
「頑張ればいけるかな?ただ、現役の帝国剣士に"眼"を持つ者は一人としていないけどね。」
「えーーー!じゃあ私には無理だぁ……」

ちょっぴり期待していたのでクールトーンはガックリする。
あんなに強い帝国剣士でも駄目なので、いち研修生の自分が"眼"を持つイメージなど到底浮かばない。

「じゃああのアーリーって人は凄いんですね……
 あれ?サユ王はどうしてアーリーさんが"眼"を持ってるって知ってるんですか?」
「さぁ?眼がいいんじゃない?」

146名無し募集中。。。:2015/05/25(月) 22:32:21
次期帝王は隠し部屋も引き継ぐのか…ってサユ王なにしてんねんw
“眼”ってアイカのとは別なのかな?

147名無し募集中。。。:2015/05/26(火) 08:23:32
まろ『作詞家』に転職!?まさか前作で新聞記者だったカノンが現実でもペンの力で勝負するなんて…ここの作者は予言者か?w

http://s.ameblo.jp/angerme-kanonfukuda/entry-12031119535.html

148 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/26(火) 12:17:16
男子宿舎にハル、マーチャン、アーリーがズカズカと入ってきたため一般兵たちはひどく驚く。
特にハルとマーチャンはこんなに若くても一応上官なので、失礼にならないよう必死だ。

「ハル様、マーチャン様、今日はいったい?……」
「サヤシさん来なかった?急いでるからさっさと答えて」
「いえ、サヤシ様は男子寮には来ないと思われますが……」
「お前の考えを聞いてるんじゃないんだよ!居たか居ないかだけ教えろ。
 それからお前ら全員僕についてこい!捜索隊の結成だ!!」
「ええ!?そんな急に……」
「言うことが聞けないのか?僕を誰だと思ってる?
 モーニング帝国剣士が一人、ハル・チェ・ドゥーだぞ。」
「は、はい!今すぐ人を集めます!」

ハルの兵士に接する態度は、女子へのそれとは大きく異なっていた。
研修生と話すときはとても優しいが、男に対しては鬼そのものである。
この権力を振りかざすやり方が目に余るので、ハルナンやアユミンがよく注意をするのだが
今は制するものが誰もいなかった。
そのため、兵士たちのフラストレーションはどんどん溜まっていく。

「くそっ、ガキのくせに偉そうに……」」
「おい聞こえるぞ!ハル様には従っておけ。さもなけりゃ……」

ハルの機嫌を損ねたら恐ろしい制裁が待っていることを彼らはよく知っていた。
老兵らをはじめ、男性兵の中にはハルに不満を抱いている者が大多数だが
暴力が怖いのでただただ従順になるしかなかったのである。
そんな光景を見て、アーリーが興奮気味に喋り出す。

「凄いんですねー。ハルさん偉いんですねー。」
「違うよアーリーちゃん。あれは横暴って言うんだよ。」

マーチャンの表現は今のハルを表すのに的確だった。
そのため、あろうことか一人の老兵が笑いを堪えきれず吹き出してしまったのだ。
慌てて口を抑えるがもう遅い。ハルにその姿を見られてしまった。
ハルは竹刀を老兵に突きつけては、怒鳴りだす。

「じっちゃん何笑ってるんだよ……教育的指導が必要なようだな!!!」

ハルは老兵の背中に何発も、何発も剣の振りをぶつけていった。
他の帝国剣士が扱う剣と違って、ハルの扱う竹刀には刃がない。
そのため老兵の背中が斬られることはないのだが、痛いことには変わりはない。

「おりゃ!おりゃ!おりゃ!うりゃ!僕は男の子だぞ!おりゃあああ!!!」

ハルは1分間、気が済むまで兵を叩きまくった。
このようや指導を受けた老兵が無事で済むはずもなく、グッタリとしてしまった。

149 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/26(火) 12:20:47
眼は前作ではアイカ以外にもリシャコやアイリらが持ってましたね。
アーリーの眼の効果は、また違ったものになると思います。

花音が作詞なんてビックリですね。素敵だな。
前作の時代からカリスマブロガーだったので、予言というよりはなるべくしてなった感じですかねw

150 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/27(水) 12:52:46
城外広場ではエリポン・ノーリーダーとアユミン・トルベント・トランワライが激闘を繰り広げていた。
この二人の剣技は全くの互角。
ゆえに開戦からかなりの時間が経つというのに勝負を決めきれていなかった。
エリポンとアユミンのどちらも、相手の予想外の奮闘に驚いているようだ。

(アユミンはチョロチョロするだけで剣は軽いと思っとったけど、意外とやりようやん。)
(エリポンさんただのパワー馬鹿じゃなかった。こんなに機敏に動けるなんて!)

Q期団と天気組団は協力して戦ったことが殆ど無いので、お互いの情報は日々の訓練でしか得ていなかった。
その場で剣士らが握るのは扱いやすい代わりに殺傷能力の低い模擬刀。
そのため、愛刀を扱った時の真のポテンシャルは把握していないのだ。
エリポンの愛刀は師匠(とは言っても向こうは弟子とは認めていないが)から譲り受けた打刀「一瞬」だ。
この刀は通常のものと比較するとやや小さく軽いため、とても振りやすい。
師匠のように「音速を超える」ことはさすがに出来ないが、
エリポンは持ち前のパワーと合わせることで強く速い一撃を振り続けることが出来るのだ。
対してアユミンの愛刀は、彼女の身長ほどもある大太刀だ。
北部出身の彼女は、地元の歴史上人物が扱っていた刀である「振分髪政宗」の名を自身の大太刀にもつけている。
これだけ得物が大きいと扱うのも大変だが、アユミンはお得意の舞踏のような体捌きによって
自身の体の一部のように自在に扱うことが出来ていた。
このようにしてエリポンは振りの遅さを、アユミンは非力さを愛刀によって補っている。
だがそのせいで二人の実力が妙に噛み合ってしまい、剣を押し切ることが出来なかったのだ。
こうなればもう実力を温存する意味は薄い。
アユミンは一旦後ろに退いては、エリポンを罠にかける準備を開始する。
彼女が天気組団の「雪の剣士」と呼ばれた由来でもある技を披露するつもりなのだ。

(行くよエリポンさん、私の前では誰もがスベってスベってスベりまくるんだ!!)

151名無し募集中。。。:2015/05/27(水) 21:01:53
振分やめたげてww

152名無し募集中。。。:2015/05/27(水) 22:59:31
そうだったんですか?

153名無し募集中。。。:2015/05/28(木) 01:03:21
そのネタだったかwあらかしこの武者だーいしイメージしてたのに…

154 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/28(木) 12:58:46
「逃げても無駄っちゃん!」

エリポンは後退したアユミンをすぐさま追いかけた。
彼女の足の速さがあればすぐに追いつき、また斬りかかることが出来るだろう。
だがアユミンも本気でエリポンから逃げようなどとは思っていなかった。
追いつかれると同時に、今度は逆にエリポンの側へと前進したのだ。
この後退と前進のコンビネーションを見て、エリポンは団長フクの戦い方を思い出す。

(これはフクのバックステップ&ダッシュ!?だったらまずい!)

エリポンは訓練にて何度もフク・ダッシュによる体当たりを受けていた。
その爆発力はそうとう泣かされたので、エリポンは必死で身構える。
だが、当然ながらアユミンの技はフクのそれとは違っていた。
前に来たかと思えば、またすぐに後ろに下がったのだ。
意味の無いように見える行動に混乱するエリポンだったが、他に道が無いために再度追いかける。

「もうなんなの!?待てーーー!」
(エリポンさんハマったな、よし、ここでキレ全開だ!)

アユミンは前後左右へのステップの回数とスピードを更に増加させる。
彼女の凄いところは大太刀を握りつつもこれだけの激しい移動が出来てしまう点だ。
刀の重量で比較すると軽いはずのエリポンの方が、めまぐるしく変化するダーイシの場位置に対応できず、疲労してしまう。

「はぁ…はぁ…もう動かんで!止まって!!」
「分かりました。」
「えっ、わっ!」

あれだけ動き回っていたアユミンが急に止まったので、エリポンは驚き、前方につんのめってしまう。
転んでたまるかと必死に踏ん張ろうとしたが、踏まれる側の地面がそれを許さなかった。
なんとエリポンとアユミン達の足下は、まるで誰かに整備されたかのようにツルツルだったのだ。

「うえぇ!!な、なにこれ〜」
「磨いたんですよ。たった今、私がやったんです。」

2人がいたのは屋内でもなんでもない広場のはずだった。
ところがアユミンは持ち前の足捌きによって大地を均してしまったのだ。
予測不能なアユミンの移動術に翻弄されたエリポンにこの摩擦の少ない環境で踏ん張ることなど出来るはずもなく、
盛大にスベってしまう。
まるで氷のようにスベりやすい地面を作るからこそ、
アユミンは天気組団の中で「雪の剣士」と呼ばれていたのだ。

(転んじゃったらもう私の刀を防げないよね?これで決める!!)

155 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/28(木) 13:00:04
振分親方と伊達政宗の要素は両方とも取り入れてます。
鎧姿のだーいしも想像しましたよw

156 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/29(金) 12:56:57
どんなに強い者でも体勢を崩されたら隙が生じる
アユミンは戦場を極端にスベりやすい場に作り変えることで、つけいる隙を増やしたのだ。
この状況でまともに立っていられるのはスベり慣れしているアユミンただ一人。
今回も圧倒的優位に立ってエリポンに勝とうとしたのだが、
エリポンが奇妙な動きを見せることでその計画は崩れてしまう。

(ここで転んでたまるかー!)

前方に倒れこんだエリポンは刀を持たぬ左手を伸ばして、ツルツルの地面に当てていく。
そしてそのままの勢いで逆立ちをし、腕の力で上方へと舞い上がったのだ。
転ぶかと思いきや逆に空を跳んだエリポンを見て、アユミンは目を丸くする。
あまりに驚きすぎて、空中からの打刀による斬撃に反応することが出来なかった
薄い胸板をサクッと斬られてしまう。

「アユミン隙あり!」
「ぎゃあ!」

フクやカノンならなんともない斬撃も、アユミンには不公平ながら致命傷。
激痛を感じながらも慌てて後ろに下がっていく。
空から地に落ちたエリポンはさすがにスベって転んでしまったが、そこに追い打ちをかける余裕は無かったのだ。

「はぁ…はぁ…今の動きはいったい……」

エリポンが行ったのは新体操というスポーツの技である、ハンドスプリングを応用したものだった。
アンジュや果実の国のようなスポーツに力を入れている国の者ならば見覚えもあっただろうが、
モーニング帝国はスポーツに割く予算が少ないため、アユミンは知らなかったのだ。
(余談だが数代前のヨッスィー帝王時代はフットサルやキックベースなどの競技が盛んだったらしい。
 国内に野球ファンが何人かいるのもキックベースの影響だとか。)

「ふふふアユミン、エリが何をしたのか分からんっちゃろ。」
「なんかちょっとだけ空を跳んでいたような……あんな舞踏技術あったっけ?……」
「アユミンが知らんのも無理もない。だってエリが使ったのは魔法だから!」
「ま、まほう!?」
「飛行魔法っちゃん。魔法剣士エリポンはまだまだたくさんの魔法を持っとるけん、楽しみにしといてね!」

エリポンは独学で世界各国のスポーツを学んでいた。
秘密特訓で得た知識と技術が彼女には備わっている。
スポーツを知らぬ者には、各競技の固有の動きはまるで魔法のように思えるだろう。

157 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/31(日) 09:46:33
この世界には舞踏、つまりはダンスの技術を戦闘に取り入れる者が多く存在した。
相手の攻撃を回避することはもちろん、自身の得意な間合いを保つのにもダンスのステップは役立つのだ。
またダンスは全身運動であるため「最後まで戦い抜く」ための体力も強化することが出来る。
ゆえに舞踏の専門家であるQ期団のサヤシと天気組団のアユミンは周囲から一目置かれていたのだった。
(話によるとマーサー王国の食卓の騎士にもダンスの達人が2人いて、どちらも只者ではないらしい。)
しかしアユミンはダンスを重視する反面、それ以外の身体を強化する手法に関してはとても疎い。
ましてやスポーツが戦闘能力に密接に関わっているなんて思いもしなかったのだ。
そんなアユミンにとって、エリポンのスポーツ戦法は魔法でしかない。
だからこそ嘘っぽい虚勢にも大きく反応してしまう。

「魔法って本当にあったんだ!!エリポンさんすごい!」

尊敬の眼差しに照れるエリポンだったが、ここで悦に浸っている場合ではない。
得意の魔法で畳み掛けて早々にアユミンを仕留めなくてならないからだ。

(足下が不安定すぎて、出来るスポーツの幅が狭かね。
 西部地方で流行ってるスケート競技ならツルツルの上でも問題無いっちゃろけど、エリには出来ん。
 じゃあこの状況で何をすれば……?)

エリポンが次の手を考えるより早く、アユミンが動きだした。
彼女はスベることを怖れず、エリポンのもとへと走っていく。
地面の摩擦が無いためにアユミンは常に前のめり。だがそのおかげで勢いがついて、高速移動を実現している。
このようにスベることを利用できるのはアユミンだけの特権なのだ。
アユミンは太刀をグッと構え、エリポンへとぶつけていく。

「魔法を使うヒマなんて与えない!喰らえ!!」

迎撃しようと打刀を構えるエリポンだったが、この地面ではどうしても力を出し切れなかった。
足下がスベりやすいので踏ん張ることができないのだ。
直撃は間逃れたものの、高速で迫る太刀を受け止めきれずに後方へと吹っ飛んでしまう。
無論受け身をとることもままならないため、着地時に背中を強打する。

「ぐぅ……痛ぁ……」
「おや?今度は空飛ぶ魔法を使わなかったんですね。」
「まぁね、同じ魔法ばかりじゃ芸がなかとよ。あえてよ、あえて。」

158名無し募集中。。。:2015/05/31(日) 17:05:19
食卓の騎士の達人はあの二人か…前作で国統一したのにあまり交流はないのかな?

159 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/01(月) 12:52:59
吹っ飛ばされはしたが、おかげでエリポンはアユミンのある特徴に気づくことが出来た。
アユミンは太刀による斬撃、つまりは接近することでしか攻撃出来ないと言うのに
1回当てるたびにエリポンからわざわざ距離をとっているのだ。
反撃を恐れている、とか、勢いをつけるために助走が必要、とか理由は様々だろうが
なんにせよ向こうが離れているのであればやりようはある。

「これがエリの地属性魔法!」

エリポンは腕の筋肉に力を入れて、掌を思いっきり地面へと叩きつけた。
これはバレーボールのアタックそのもの。一つ異なるのはエリポンの人間離れしたした怪力で放たれたという点だけだ。
いくらツルツルだろうと地面は地面。
激しい衝撃を受けた大地は、轟音とともに砕けていった。
半径2メートル弱の足場に亀裂を入れたエリポンを見て、アユミンはビビってしまう。

(なんて魔法だ!地割れを起こすなんて信じられない!
 どうしよう、あの魔法を使われると地面がザラザラになっちゃう……)

アユミンの考える通り、エリポンの足場はもうツルツルではなかった。
粉々になった土やら石やらのおかげで立つのに十分な摩擦を生んでいるのだ。
しかし、エリポンはこの魔法を多用するわけにはいかない。
硬く均された大地に力一杯のビンタを喰らわせるようなものなので、
いくらエリポンが屈強な肉体を持ってるとは言っても、骨や筋肉への負担が大きすぎるのだ。
ゆえに使えるのは足場を安定させる用途の今回限り。
本当にアユミンを仕留めるための魔法は別に用意している。

「次は風属性魔法っちゃん。エリの斬撃は風の刃を発生させる。」

そう言うとエリポンはゴルフのクラブを扱うかのように打刀「一瞬」を振りかぶった。
もちろんエリポンに風の刃など起こせるわけがない。
刀を足下の小石に当てて、それをゴルフボールのようにアユミンへと飛ばそうと考えているのだ。
しかし、アユミンだってただでもらう気はさらさらなかった。
風の魔法は本気で怖いが、ダンスで培った柔軟性を活かして避けてやろうと思ったのだ。

(私は天気組団の一員なんだ。どんなに見苦しい格好になったとしても、食らいついてみせる!)

160 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/01(月) 12:53:54
マーサー王国とモーニング帝国の関係性についてはいつかかきますが、
このペースだとまだまだ先かも……

161 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/01(月) 21:15:22
アユミンは先ほど見せたように、地面のスベりを活かしてエリポンへと接近した。
そのスピードはただ走るよりも速い。ゴールまで数秒で達してしまうだろう。
それでもエリポンの打刀の振りのほうがずっと速かった。
刀の切っ先はあっという間に地へと達し、狙い通りに石に衝突する。
このままアユミンにぶつかって試合終了。KO勝ちというのが狙いなのだ。
しかしアユミンも無策でスベっている訳では無かった。
ゴルフスイングのことは分からないが、風の刃は空の高いところを通るだろうと予測していたのだ。

(このタイミングで、低く!)

アユミンは頭をガクッと下げて、低い姿勢で滑走を続行する。
この姿勢ならば打ち上げられた石は当たらないし、より不安定な姿勢になることでスベりの速度も加速する。
言うならば攻守に優れた走行法をとっているのだ。
常人ならばなかなか無理のある動きだが、アユミンのしなやかな身体がこれを可能にしている。
エリポンがゴルフを元ネタにした魔法を使う限りはこの方法で防げるだろう。

(でも、これはゴルフじゃなかとよ。)

エリポンの打った石は、ゴルフボールとは全く異なる軌道を突き進んでいた。
それは天高くではなく、低く、低く。
まさに氷上をスベるかのように地面スレスレを直進していたのだ。
エリポンが行ったスイングはゴルフのものではない。
北部地方でしか行われていない、モーニング帝国ではマイナーなスポーツだったのである。

(氷上の格闘技アイスホッケー!ツルツルの上ならこれしかない!!)

162名無し募集中。。。:2015/06/01(月) 22:12:14
アイスホッケーをやっていた者としてはアイスホッケーネタが出るだけでもうれしい
なんせマイナースポーツなので

163名無し募集中。。。:2015/06/01(月) 23:29:25
アメリカ4大プロスポーツの1つでどこがマイナーかw
確かにやりたくても環境揃ったとこ探すのが難しいから逆にできる人が羨ましいくらいだけどなぁ

164名無し募集中。。。:2015/06/01(月) 23:33:25
>>163
国体だと沖縄代表もいるのですよ

千奈美に俺は大阪でやってましたが
地元のリンクに当時は東洋紡に所属していた大林素子さんがチームメイトとともに遊びに来たことがありました

165 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/02(火) 12:46:59
石はアユミンの膝こぞうにクリーンヒットした。
大抵の者は痛みに苦しむか、あるいは魔法の存在を痛感して退いてしまうのだろうが、
アユミンはそうはしなかった。
突然の痛みに驚きはしたものの、「前へ前へ」の精神を崩さなかったのだ。
もともと天気組ではアユミンは切り込み隊長のような役割を担っている。
条件が揃わないと強さを発揮出来ないハルナンや、
実力はあるものの気分にムラっ気のあるマーチャンや、
1人では弱すぎて何も出来ないハルや、
何を考えているのか分からない、油断ならないオダでは
真っ先に前線に立って勝ち星をあげることは難しい。
まさに「アユミンの代わりは居やしない」ことをアユミン自身が理解していたのである。
ならばいくらエリポンの魔法が怖かろうと、今にも決着のつきそうなこの正念場で逃げることは出来ない。

(私の任務はエリポンさんの足止め。でもそれだけじゃダメ!
 みんなを魔法から守るために、ここで決めなきゃ。)

アユミンの強い思いが天まで登ったのか、ここで奇跡が起こった。
結果的に石を膝に受けて転倒してしまったのだが、
摩擦の無い地面上で前傾姿勢を取っていたせいか、勢いよく前方に身体ごと突っ込んで行ったのだ。
超低空姿勢と、アユミンの空気抵抗のまったく無いフォルムが相まって、氷上をスベる以上の高速移動を実現していた。
その姿が何に似ているのか、エリポンはよく知っている。

(これは、ヘッドスライディング!!)

スポーツ素人のアユミンがここに来て野球の技術を見せてきたのでエリポンは驚愕した。
このままでは太刀で斬られてしまうので、持ち前の振りの速さで対抗するのだが
刀に刀をぶつけることは出来ても、今のアユミンの剣威を抑えることは出来なかった。
いくら両者の剣の実力が同等だろうと、迷わず一直線に振った斬撃と、慌てて合わせにいった斬撃とでは、重みが違うのだ。
足場はしっかりしているというのに、太刀が重すぎるあまり後方へと倒れ込んでしまう。
受け身を取る暇すらなかったのめ本日何度目かの背中打撲に見舞われる。

「あ゛あ゛っっ!!」

アユミンは起き上がり、呼吸することもままならないほど苦しんでいるエリポンの前に立つ。
そして、トドメだと言わんばかりに大太刀を振るうのだった。
とは言っても命まで奪うつもりは毛頭無い。
ハルナンからそういう指示があったという理由もあるが、アユミン自身、味方を手にかけることはしたくなかったのだ。
だがそれが仇となった。
殺す気で振っていれば、突如現れた刺客に剣を止められることもなかったはずなのだ。
アユミンが振り終えるよりずっと速く、正体不明の刃がぶつけられていく。

「え!?…あ、あなたは!」
「なんじゃその剣は?全く心がこもっちょらん。」

166 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/02(火) 12:49:37
まさかアイスホッケーにこんなに反響があるとは…w
マイナースポーツなのはモーニング帝国の話であって、現実世界とは全く関係ないということでご容赦ください><

167名無し募集中。。。:2015/06/02(火) 18:24:15
アイスホッケーでスレ伸びててビックリw
ついにリホリホきたー!

168 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/03(水) 15:06:56
「サヤシ……どうしてここに……」

エリポンは目の前に現れた仲間の名をかすれた声で呼ぶ。
その者こそQ期団の1人、サヤシ・カレサス。
奇しくもエリポンやアユミンと同じ「刀」を扱う剣士だった。
その腕前は凄まじく、彼女の通った後は草木も残らないと噂されている。

「どうしてって、そんなのエリポンを助けに来たからに決まっちょる。」
「サヤシ!」
「大体エリポンの戦い方はまったくなっとらん!なんじゃあの変な動きは。
 どうせまたボロ負けしよると思って、ウチが助太刀に来たんじゃ。」
「サヤシ……」

サヤシは前々からエリポンには厳しかった。
同期のフクやカノンには甘々な声で接するというのに、何故かエリポンにだけこうなのだ。
このように言い合っている二人を見て、ただならぬ心境なのがアユミンだ。
計画上ではハルとマーチャン、そしてアーリーがサヤシを抑えるはずなのに
それらを物ともせずここに来るサヤシが脅威でならなかった。

(あの3人がやられたってこと!?秒殺で?信じられない!
 サヤシさんは強いとは聞いてたけどここまでとは……
 怖いけど、今すぐここで仕留めなきゃならないんだ!!)

アユミンはサヤシがエリポンの方を向いているうちに、不意打ちに近い形で斬りかかった。
サヤシの刀はいつの間にか鞘に収められているので、仮に気付かれたとしても即時に対応出来ないと踏んだのだ。
これでサヤシを斬れば残りはエリポンただ一人。計画に何の問題もなくなる。
だがアユミンは恐怖と焦りで大事なことを失念していた。
サヤシはモーニング帝国剣士最速であることを、
そして、その最速と呼ばれている最大の理由が超高速の振りを実現する居合術であるということを忘れていたのだ。

「はぁ!!」

アユミンの気配を感じ取ったサヤシは鞘から刀を瞬時に抜き取った。
その抜刀のスピードは並ではない。
迫り来ていた大太刀をあっという間に受け止めたことからもそれが分かる。

「そ、そんな……」
「ほう?今回のはなかなか良い一撃じゃ。心が感じられよる。」

169名無し募集中。。。:2015/06/03(水) 20:11:25
グリーンデイがくるか…!

170名無し募集中。。。:2015/06/03(水) 23:16:49
カレサスかっけー

171名無し募集中。。。:2015/06/04(木) 00:16:09
サヤシの広島弁カッコエエのぅ

172 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/04(木) 11:00:13
サヤシの刀が速いだけではないことを、剣を通じてアユミンも理解する。
アユミンの大太刀「振分髪政宗」と比べると小ぶりだというのに、サヤシの刀はぶつけられてもビクともしない。
体幹がしっかりしているというのもあるが、要因としては居合術の精度が極まっていることの方が大きかった。
彼女は幼少の頃から地元ヒロシマ地方で、居合の達人である叔父に稽古をつけてもらっていた。
居合は鞘の中で刀を滑らせて、抜刀時にいかに強く速く引き抜くことが出来るかが大事なのだが
そのいろはを徹底的に叩き込まれたのだ。
免許皆伝し叔父にから居合刀「赤鯉」を譲り受けた時には、一族自慢の赤鯉女子になっていたと言う。
そして、サヤシの魅力はそれだけではなかった。

「次はこっちから行かせてもらうけぇの。」

そう言うとサヤシは一瞬にしてアユミンの視界から消え去った。
もちろん本当に消えた訳ではない。
地面に背中から倒れ込んでは、その勢いを回転力に変換し
起き上がるとともにアユミンの右側へと回り込んだのだ。
これはブレイクダンスと呼ばれる舞踏の一種を応用したもの。
サヤシはダンスによって予測不能なまでに動き回り、且つどの体勢からも抜刀することが出来るのだ。
アユミンがサヤシの存在に気づくより速く、胸に目掛けて刀を振るう。

「終わりじゃ!!」
「ひえっ!」

死に物狂いで避けるアユミンだったが、訓練時に模擬刀を扱うサヤシとはスタイルが異なりすぎたために
対応しきれず胸を斬られてしまう。
前にエリポンにもやられた箇所なので、ダメージの蓄積は相当なようだ。
だがサヤシ自身はこの一撃にあまり満足していなかった。

「ん?本気で胸を切り落とすつもりで斬ったんじゃが……久々の真剣で腕が落ちたか?
 訓練ではフクちゃんやカノンちゃんにちゃんと当てられるのに不思議じゃのう。
 まぁ、動けなくなったところを確実に仕留めればええ話じゃ。」

胸を切り落とすなどと、恐ろしいことを平気で言い放つサヤシにアユミンはゾッとする。
今まで自分は相手を殺さないように戦ってきたが、サヤシはそう思っていないと分かったのだ。
サヤシは異常なまでに真面目でストイック。お遊びで戦いなどしないタイプだ。
ゆえに仲間であるQ期に害をなすものは同じモーニング帝国剣士だろうと容赦しないのである。
それを理解して怯えるアユミンに気づいたサヤシは、ドヤ顔で大見得を切る。

「刀は心で振るうんじゃけぇ。
 ダンスも心で踊るんじゃけぇ。
 ヒロシマ女の根性……えっと教えたるけぇ。」

173名無し募集中。。。:2015/06/04(木) 12:11:17
wktk!
しかしその二人に当たるのは....

174名無し募集中。。。:2015/06/04(木) 21:15:30
アユミンは虚乳!

175 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/05(金) 12:38:57
いつの間にかアユミンは涙を流していた。
これからの自身の未来を考えると涙がこぼれてこぼれて止まらないのだ。

「勝ちたかったなぁ……」

そうポツリと呟くと、アユミンはサヤシたちに背を向けて
城の方を目掛けて一目散に走っていった。
つまりは逃走だ。この勝負に勝ち目は無いと思い、白旗を振ったのだ。
この決断は切り込み隊長であるアユミンのプライドを深く傷つけることとなった。
もしもエリポン戦での消耗が無かったら、もしも胸の傷がなければ、もしも膝が痛まなければ
ひょっとしたらサヤシと良い勝負が出来たかもしれない。
たが現実はこうなのだ。
今の状態でサヤシに挑んだらほぼ確実に敗北するだろう。
いや、敗北では済まず、殺されてしまうかもしれない。
アユミンだって自身の信念を貫き通したかった。
ハルナン団長にも「信念だけは貫き通せ」と励まされたこともあった。
でも、それでも死にたくないのだ。
死して守る矜持よりも生きることを選んだ自分が恥ずかしくて恥ずかしくて、アユミンは号泣しながら逃げていく。
そして、サヤシもそれを追うことはなかった。

「サヤシ?追わんでええの?」
「アユミンはなかなか冷静で、ちゃんとツルツルのところを走っとるけぇ。
 ウチが追いかけてもスベって転んでおしまいじゃろ。それに……」
「それに?」
「ウチが行ったらエリポンは一人になりよる。その怪我で単独行動は危険じゃ。
 その、一応、ギリギリ、本当に一応、エリポンはともだち……じゃけぇ。
 だから義理として守ってやらんこともないっていうか……」

気恥ずかしそうに言うサヤシにエリポンはクスッとする。
確かに今のエリポンは動くのも一苦労だ。
友達になった記憶は全くないが、感謝の気持ちをサヤシに伝える。

「ありがとうサヤシ。でもね、エリは大丈夫。」
「そんな!敵は天気組だけじゃないのを知っちょるんか!?」
「分かってる。だからサヤシはフクのところに行って欲しい。」
「!」
「エリが敵の立場ならフクを真っ先に倒すよ。3, 4人はぶつけるかな。
 エリは少し休めば大丈夫。やけん、サヤシとカノンちゃんの2人で守ってあげて!」
「エリポン……!」

176名無し募集中。。。:2015/06/05(金) 13:18:39
逃走したか

177名無し募集中。。。:2015/06/05(金) 17:38:05
また友達になった覚えは無い言われてるw

178名無し募集中。。。:2015/06/05(金) 17:53:54
サヤシとエリポン…現実でもこれ位熱く絡んで欲しいもんだな

179名無し募集中。。。:2015/06/05(金) 22:31:41
作者は生鞘派なの?

180名無し募集中。。。:2015/06/05(金) 23:17:18
>>179
そういう論争みたいなの持ち込むのはやめてくださらんか

181 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/06(土) 00:58:42
サヤシ・カレサスは地球上の全員が友達です。

182名無し募集中。。。:2015/06/06(土) 03:49:23
地球<友達になった覚えはない

183 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/06(土) 18:32:45
Q期の面々が決着をつけていく中、フクはまだタケと戦っていた。
消耗の激しいタケを疲労させるために、戦いを長引かせる方針にシフトしたのだ。
フクは常にタケから離れることを意識したポジション取りをしている。
こうすることで投球の軌道をギリギリまで見極めてから回避することが出来るし、
タケがボールを回収するために走る距離も増えるため、更に疲れさせることも可能だ。
ただし、フクには遠距離攻撃の手段が無いことは忘れてはならない。
この状況でタケが投球を止めたりしたら、せっかく疲労させた体を休ませてしまうことになるので
フク・ダッシュによって定期的にプレッシャーをかけることは欠かさなかった。
これらを完璧にこなしてしまうフク・アパトゥーマの実行力に、カナナンは感心する。

「タケちゃんをあそこまで追い詰めるなんて流石やな。
 変な言い方になるけど、タケちゃんがいつも自慢するのも分かる気がするわ。なぁメイメイ。」
「うん、タケちゃんってあの"合同若手育成プログラム"の話をよくしてたもんね。
 一緒の班だったメンバーの凄さを何回聞かされたか・・・・・・
 あ、そういえばリナプーもプログラムに参加してたんだっけ?誰と一緒の班だったの?」
「え?私参加してたっけ?」
「そうだよ!アンジュからはタケちゃんとリナプーが選ばれたんでしょ!」
「う〜ん・・・・・・なんかうっすら覚えている気がする。お猿さんと、泣き虫の子が2人いたような・・・」
「お猿さんってなんやねん、ほんまに覚えとらんのか」
「だって興味なかったし・・・・・・」

そうこう話しているうちにタケがまたしても派手に転倒する。
フクを倒したい思いで頭がいっぱいなのだが、疲労困憊な体がそれを許してくれないのだ。
これを勝機と感じたフクがダッシュで一気に攻めようとするが、
その前にカナナンが立ちはだかる。

「・・・・・・なに?今度はあなたが相手をするの?」
「待ったってください、少しカケヒキをしましょうよ。」
「?」
「私たち番長3人が黙ってみていたのはタケちゃんが一人でやるって言って聞かなかったからです。
 もしここでタケちゃんにトドメを刺すようなら、もう遠慮する必要はなくなります。
 当然、その時は3人がかかりで行かせてもらいますけど、その覚悟は出来てますか?
 もう少し適当に引き伸ばして、お仲間が助けに来るのを待ったほうが得策じゃあないですか?」

カナナンには時間を稼ぎたい事情があった。
今のカナナンにとっては、フクとタケに永遠に戦い続けてもらうことこそが理想だったのだ。
少なくとも裏番長マロ・テスクから合図が来るまではこの状況をキープしておきたかった。
しかし、フクはそれを良しとはしない。

「これ以上長引いたらね、その仲間の命が危ういの。だから私はすぐに駆けつけなきゃならないんだ。
 タケちゃんを倒したら3人がかかり?好都合じゃないの・・・・・・一網打尽できるからね!」

そう言うとフクはカナナンを跳ね除ける勢いでダッシュした。
まずはタケとの勝負に決着をつけるために。

184 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/06(土) 21:23:39
騒がしい訓練場とは違って、医務室はとても静かだった。
ベッドでは、激しい戦いを終えて負傷したカノン、トモ、カリンらが敵味方関係なく横たわっている。
かろうじて意識のあるトモが、自分達を運んでくれた"連絡担当"サユキ・サルベに礼を言う。

「ありがとうサユキ、でも帝国剣士まで運ぶ必要はなかったんじゃない?」
「いやいや、廊下に血だらけで倒れてたらみんなビックリしちゃうでしょ。」
「そりゃそうなんだけどさ、その、重くなかった?その人・・・・・・」
「・・・・・・うん、ぶっちゃけ何回も諦めそうになったね。」

トモとサユキは寝ているカノンの方をチラチラと見ながら小声で話す。
ジュースを飲んだサユキは重力を消すとは言え、カノンの体重を軽くすることは出来なかったのだ。

「ところでさサユキ」
「ん?」
「カリンについて教えてくれない?出来ればKYAST結成前の話が聞きたいの。
 私、カリンがあんなに強かったなんて知らなかったんだ・・・・・・
 サユキだったら昔のカリンのことも知ってるんでしょ?ねぇ、教えてよ!」

トモがカリンに興味を示すのが意外だったので、サユキは目を丸くして驚く。
もちろんここで教えない理由などない。かつてのプログラムを例にあげて説明を始める。

「そりゃ昔のカリンは強かったね。正統派のエリート戦士って感じだったよ。
 果実の国からは私とカリンがあの合同若手育成プログラムに参加したんだけどさ
 カリンのいた班は4人ともみんな強いって評判だったんだ。そこには帝国剣士のフクや、番長のタケも居たし。」
「タケ・・・・・・あのチビ、そんなに強かったんだ。」
「おかげで私たちの班はいくら頑張っても2位止まり。悔しかったなー。」
「へぇ、サユキの班も強かったんだ。やるじゃん。」
「思い出すだけで最悪のチームだったけどね。やる気ない子1人と、泣き虫2人だよ?私が頑張るしかないじゃない。」

サユキはハァと溜息をつくと、何かを思い出したかのように立ち上がる。

「さて、そろそろ仕事しないと!司令部に連絡しなきゃね。じゃ!」
「ちょっと!結局カリンのこと聞けてない!!」

185名無し募集中。。。:2015/06/07(日) 00:16:18
やる気ない子は分かったけど泣き虫二人は誰だろう?

186 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/07(日) 00:46:15
城の前には男性兵たちが大挙してやってきていた。
それらを率いていたのはハル、マーチャン、アーリーの3名だ。
どこかに消えたサヤシを見つけるべく、捜索範囲を寮から城内へと変更したのである。
しかしこれだけの人員を裂いてもサヤシは見つからなかった。
この時のサヤシはエリポンを助けに城外広場に行っていたため、見つかるはずが無いのだ。
時間と労働力の両方をかけても成果が出ないので、ハルはますますイライラしてくる。

「あーもう!こんなに上手くいかないのはプログラム以来だよ!」
「プログラム?なんですかそれ」

聞き慣れぬ単語について質問を投げ書けたのはアーリーだった。
ムシャクシャしているハルも、相手が女の子なので優しく返す。

「何年か前にあった、近隣国の若手戦士を集めた合同プログラムのことだよ。
 今で言うKASTのメンバーも何人か参加してたけど、アーリーちゃん知らない?」
「あーその頃はまだ戦士をやってませんでしたー。サユキとカリンちゃんが参加したんでしたっけ。」
「そうそう、カリンはフクさんやタケ、それともう一人とで"ゴールデンチャイルズ"っていう班を組んでたんだよ。
 直訳すると"金の子たち"だぜ?最初はどれだけ自画自賛してんだよって思ったけどさ、
 悔しいけど全員が全員強いんだよ。ハルたちの"73班"は1回も勝てなかった。」
「へー。ハルさんは"73班"ってチームにいたんですね。」
「最悪のチームだよ。チーム構成はアーリーちゃんとこのサユキ・サルべ、やる気ない奴、泣き虫班長。
 こんなメンバーじゃ"ゴールデンチャイルズ"達に勝てる訳無いっての、本当にイライラしたよ。
 ま、ハルが超頑張ったから2位の訓練成績を収めることが出来たけどさ。」

自慢風に言ってみせるハルを見て、近くにいたマーチャンは吹き出してしまう。
マーチャンも当時はまだ戦士になってはいなかったが、ハルが話を盛っていることには気づいたのだ。

「ふふふっ、フク濡らさんたちに勝てなかったのはドゥーが弱かったからじゃない?」
「・・・・・・は?」

馬鹿にされてカチンときたハルは竹刀を取り出して、マーチャンへと突きつける。

「おいマーチャン。ハルは女の子には手を出さないって決めてるけどさ、帝国剣士は別なんだぜ。
 対等とみなした相手は男だろうと女だろうと容赦しない。それがハルのポリシーだ。」
「え?対等?マーが?ドゥーと?」
「馬鹿にしてるのか!!」

ハルは怒りに任せて竹刀を振ったが、剣はマーチャンには届かなかった。
二人の争いを止めるために、アーリーがハルの腕を掴んでいたのだ。

「喧嘩はダメですよー!サヤシさんを探すまでは仲間割れしちゃいけません!」
(なんだよアーリーちゃんのこの力!!・・・・・・腕が全く動かない・・・・・・)

アーリーの巨体からなる怪力を前にして、ハルは何も出来なかった。
すぐに竹刀を引っ込めては、恥ずかしそうにポツリとつぶやく。

「分かったよ、アーリーちゃんの言うとおりだ。さっさとサヤシさんを探そう。」

187 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/07(日) 16:02:11
「こんちにはー、連絡に来ましたー。」

連絡担当サユキは現場で起きていることを伝えるために、会議室の扉を開く。
トモとカリンがカノンと相打ちに終わったこと、
タケとフクはまだ交戦中であり、他の番長が待機している理由は分からないこと、
ハル、マーチャン、アーリーが大勢連れて慌ただしくしていること、
アユミンが泣きながら城に帰ってきたこと等を報告する。
それを聞いた司令担当、ハルナンとマロの表情は渋かった。

「目に見えた成果はカノンさんを倒せたくらいですかね……」
「それもトモとカリンの2人を犠牲にしてでしょ?効率悪すぎ。」
「ハル達が大勢でいる理由はなんとなく想像つきます。サヤシさんをみつけられなかったんでしょうね。」
「そのサヤシがエリポンの加勢に行った可能性は?」
「十分にあります。ていうかきっとそうなんでしょう。
 じゃなきゃアユミンがエリポンさん相手に敗走するのは考えにくいです。」
「なるほどね、じゃあ警備を外向きに集中した方がいいかもね。」

最新状況に対して建設的な意見を出すマロだったが、ハルナンは不信感を抱かずにはいられなかった。
特に気になった点について突っ込んでいく。

「番長たちは何故一人ずつ戦ってるんでしょう?四人でかかればフクさんくらいすぐでしょうに。」

痛いところを突かれたのでマロはギクリとする。
マロにはカナナン、メイ、リナプーの三人を温存しておきたい理由があったのだ。
正直に白状する訳にも行かないのでマロは適当にはぐらかす。

「タケちゃんがフクとの一騎打ちにこだわってるのよねー。本当に手を焼くわ。」
「そんなタケさんをコントロールするのがマロさんの裏番長としての役割では?」
「……たまには部下のやりたい通りにさせるのも上司の務めと思ったの。
 でもタケが負けた後は残りの三人でフクを袋にするだろうから安心して。」
「まぁ、どっちみち我々の勝利が揺らぐことは無いんで良いんですけどね。
 今まで黙ってたんですが、昨日付けでスッペシャルな助っ人を味方につけることに成功したんですよ。
 きっとマロさんもお喜びになると思いますが。」
「助っ人?……誰のこと?」

188名無し募集中。。。:2015/06/07(日) 17:41:57
>アユミンが泣きながら城に帰ってきた
かわいい

189名無し募集中。。。:2015/06/07(日) 18:09:50
まろが喜ぶ助っ人と言えば…あの人かあの人か…もしくは前作の繋がりであの人達の誰かか?

190名無し募集中。。。:2015/06/07(日) 19:15:44
スッペシャルな助っ人だとあの人だろうなぁ〜

191名無し募集中。。。:2015/06/07(日) 21:52:54
ついにレジェンド登場か?

192名無し募集中。。。:2015/06/07(日) 23:02:37
もしスッペシャルな人達だとフクも喜んじゃうなw

ちなみに現実のエッグデビュー組はこの世界では『合同プログラム』に参加してたって事になってるのね…"黄金の子"の後一人と「泣き虫班長」ってもしかして…涙

193 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/08(月) 02:16:43
エリポンに託されたサヤシは、意気揚々と城内へと入っていった。
ハルの率いた一般兵が表にたくさんいたので裏口からの入場となるが、
今のサヤシは例えどんな敵が現れたとしても負ける気がしなかった。

(あのアユミンもこの刀一本で追っ払うことが出来た・・・・・・
 ウチの実力がありゃあ、どんな敵からもフクちゃんを護れる!)

サヤシには、味方を守るためなら相手を斬り殺す覚悟があった。
さすがに事情を知らぬ一般兵を殺害するのは気が引けるのでみねうち程度に済ませるが
確固たる意思で潰しにかかる天気組・番長・KASTの命を奪うことに躊躇は全くない。
サヤシの高速移動&高速抜刀ならば瞬時に相手の首をかっ切ることが可能だ。
首を斬り落とされて無事に済む人間なんていやしない。サヤシはそう確信していた。
そんな中、天高い位置からサヤシを呼ぶ声が聞こえてくる。

「君がサヤシちゃん?謀反を計画するなんて悪い子だね!」

高いところからの低い声に、サヤシは聞き覚えがなかった。
だが、一声聞くだけでサヤシの全身はまるで鉛に変化したかのように重くなる。
それだけの重圧を感じてしまったのだ。
これほどまでの恐怖心を植えつけられた経験はサヤシには殆どなく、
せいぜい現役時代のサユならびにプラチナ剣士と呼ばれる先輩方の戦闘を見た時くらいだ。
ということはこの声の主はプラチナ剣士と同等の存在ということ。
サヤシは恐る恐る後方を振り向くが、そこに顔は無い。
もしやと思い空高くを見上げることで、やっとその御顔を見ることが出来た。
本来ありえない高度にある顔を目撃することで、サヤシは思ったままのことを呟いてしまう。

「で、でっかい・・・・・・」

194 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/08(月) 02:32:17
はい、プログラム参加メンバーは全員エッグですね。
具体的には4期(吉川友より後)から13期(研修生になる直前)までを対象にしてます。
やや古いですが、以下の画像が分かりやすいですね。
http://livedoor.blogimg.jp/halosoku/imgs/0/5/056ce716.jpg


作中に登場した班はこんな感じ。
1位:ゴールデンチャイルズ:班長、フク、タケ、カリン
2位:73班:班長、リナプー、サユキ、ハル

どちらの班長も今後登場するかどうかは全くの未定ですので
誰なのかは想像にお任せしますw

195名無し募集中。。。:2015/06/08(月) 06:50:42
なるほど!分かり易い そっか登場は未定かぁ…班長いいこなのにw

196名無し募集中。。。:2015/06/08(月) 08:32:34
73てそういう意味かぁw

197名無し募集中。。。:2015/06/08(月) 09:34:25
てか作品更新した後に山木さんのブログにダイヤの先輩って…タイミング凄いなw

198 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/08(月) 13:04:02
美人顔だとか、眉毛が凛々しいだとか、怒った風な表情をしているだとか、感想はいろいろあったが
それらを全て抑え込むくらい、相手の身長は大きかった。
サヤシの身長が低めだからそう思っている訳ではない。とにかくでかいのだ。
彼女からしたら歴代帝国剣士では高身長の部類のサユ王だって子供みたいに見えるだろう。
しかも手に持つ刀がまた規格外のサイズをしている。
アユミンの大太刀も大きかったが、この巨人の握る刀はざっと3mはあった。
そんな長い刀が本当に有るのか、有ったとして実戦で使えるかは疑問だが、現にこうして存在しているのだ。
間合いが命である居合術の達人サヤシがそう見積もったのだから間違いはない。
そして、その刀はもちろん飾りなどではなかった。

「こらしめてあげる!てやぁっ!!」

巨人は相当の重量なはずの長刀を片手で軽々と持ち、狭い廊下でブンと振り回した。
振りの速度こそ並だが、この刀は障害物をすべて無きものにする破壊力を持っている。
長さゆえにしょっちゅう壁にぶつかるのだが、それすらもスパスパと斬ってしまうのだ。
長い得物を扱う戦士は狭い路地を苦手とする、といった常識を覆すのだから驚かされる。
これほどまでの突破力を持った異形の怪物に敵意を剥き出しにされたのだから、サヤシは恐怖せざるを得なかった。
床に倒れこむことでなんとか斬撃から逃れることが出来たが
一撃貰えば真っ二つ確定という状況下に、サヤシは情けなくも涙してしまった。

(な、なんなんじゃあいったい……)

サヤシは首さえ落とせばどんな相手でも殺すことが出来ると思っていたが
この化け物の首は遥か上空にある。サヤシが背伸びをしたって届きはしない。
では身体を斬れば良いか?それもダメだ。
攻撃を与えるより先に、長い刀による激しい破壊活動の餌食になってしまう。
つまりサヤシには万に一つも勝ち目など無かったのだ。
ここでサヤシはフクの言葉を思い出す。
モーニング帝国の最重要同盟国であるマーサー王国には、プラチナ剣士に匹敵した戦士がゴロゴロいることを。

「この人が……クマイチャン?」

そう確信したサヤシは猛ダッシュでクマイチャンから逃げていった。
当然のようにクマイチャンも追いかけてくるが、サヤシは気にせず走りまくる。
サヤシが目指すのはフクのいるであろう訓練場だ。
マーサー王国の食卓の騎士に詳しいフクならば対処法を知っていると思ったのだ。
元々はフクを護ろうと城にやってきたサヤシは
愚かしくもフクに害をなす化け物を連れてくることになってしまった。

199 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/08(月) 13:05:23
山木さんとたぬびょんが仲良しなのはビックリでしたね。
はぴぷれの共演がきっかけでしょうか

200名無し募集中。。。:2015/06/08(月) 16:10:11
まるで奇行種に追われてるかのような怖さだろうねサヤシ

201名無し募集中。。。:2015/06/08(月) 17:15:54
熊井ちゃんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

202名無し募集中。。。:2015/06/08(月) 19:31:42
熊井ちゃんどんだけでかいんだよww

203名無し募集中。。。:2015/06/08(月) 20:35:37
ランドマークガールだからな

204 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/09(火) 08:35:39
「クマイチャン様が…?」

ハルナンの言葉を聞いたマロは信じられないといった顔をしていた。
同席しているユカ王とサユキも驚きのあまり言葉を無くしている。
食卓の騎士を味方につけるということは、それだけ凄いことなのだ。
一仕事終えた風な口ぶりでハルナンが詳細を話す。

「食卓の騎士の中でも単純で扱いやすい……失礼、協力的なお二人を説得することに成功したんですよ。
 Q期が国家転覆を企てているので助けてほしい、とお願いしたら快く引き受けてくれました。
 さすがの正義感だなぁと思いましたよ。
 これで我が軍の勝利はもはや約束されたようなものですね。
 マロさんも嬉しいでしょう?憧れのクマイチャンさんと共に戦えるんですよ!」

抜け目のないハルナンはマロの尊敬する人物をちゃんと覚えていた。
正直言ってマロは放っておくと何をするか分からない程の危険人物なので
餌を与えて飼いならす方が得策だと考えたのだ。
プルプル震えて涙を流すマロを見て、ハルナンは確かな手応えを感じる。

「し、信じられない……」
「信じられないですか?でもこれが現実なんですよ!
 さぁマロさん、モーニングとアンジュと果実の国と、そして食卓の騎士と協力して
 我々の悲願を叶えようじゃないですか!」
「信じられないのはお前の頭だよ!この外道がっ!!」

気づけばマロは両手に二丁の拳銃を構え、ハルナンの顔と胸にそれぞれ突きつけていた。
あまりの早技に、そして意外だったマロの反応に、ハルナンの思考はフリーズしてしまう。

「え?……マロさん……?」
「食卓の騎士様はなぁ!お前みたいな三下がコントロールしていいお方達じゃねぇんだよ!!
 とってもピュアなクマイチャン様を騙すなんて万死に、いや、一億万死に値する。
 お前を王にするのはもう止めだ。司令部は解散!!」

そう言うとマロは両手の銃を壁に向け、二発同時にバキュンと発砲する。
この二撃は単なる威嚇射撃だが、飾りではなくちゃんと弾がこもっていることを教えてくれる。
この間、ハルナンは帝国剣士団長だというのに何も反応できなかった。
そしてそれはハルナンだけではない。ユカ王やサユキも同様だ。
以前も書いたが、マロはアンジュ王国に二人存在する「最も食卓の騎士とプラチナ剣士に近い存在」として周囲から恐れられている。
クマイチャン程ではないが、彼女の放つ殺気はこの場にいる全員を止める程の凄みがあったのだ。
やはりかつての大事件を経験しだけはあるのだろう。
そんなマロへの打開策をはかろうと、ハルナンが震えながら声を発する。

「本気で言ってるんですかマロさん!あなたは私たち全員を敵に回すことになるんですよ?」
「そうね。」
「それに、あなた程の重役が帝国剣士団長である私を撃って良いと思ってるんですか?
 これはもう国際問題ですよ?分かりますよね?同盟国解消、そして戦争が勃発します!」
「私がお前を撃てばの話でしょ?」
「は?……何を……」
「分からないの?私がお前を裏切るということは、つまりどういうことなのか。」

205 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/09(火) 08:42:25
クマイチャンの身長は176cm(自称)です。

206名無し募集中。。。:2015/06/09(火) 09:39:16
ヤバい鳥肌が…マロが格好いいなんて!?
自称wきっとクマイチャンが持つプレッシャーでサヤシにはさらに大きく見えたんだね(棒)

207名無し募集中。。。:2015/06/09(火) 12:13:12
シンデレラレボリューションの銃かな

クマイチャンはあれから成長しすぎて3号生筆頭並みになっていたのか(驚愕

208名無し募集中。。。:2015/06/09(火) 13:51:52
策士策に溺れる

209名無し募集中。。。:2015/06/09(火) 22:20:19
娘舞台 茉麻が王様役って噂あるけど…もしやついにリアル マーサー王が見れるんだろうか?

210名無し募集中。。。:2015/06/10(水) 09:12:59
書込みがどんどん現実化するスレ

211 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/10(水) 09:15:11
カナナンを吹き飛ばして道を作ったフクは、まばゆく光る装飾剣「サイリウム」を構えてタケに斬りかかった。
相手が旧知の中だろうと関係ない、むしろ、よく知った間柄だからこそ本気で剣を振り下ろす。
そして対するタケも負けてはいなかった。
不本意ではあるがカナナンが時間を稼いでくれたおかげで一投分の体力は回復している。
懐から第3の隠し球を取り出すと、勢いよく振りかぶる。

「行くよ!タケちゃん!」
「来い!フクちゃん!」

お互いがお互いを超えるために、渾身の一撃を繰り出さんとする。
このままあと数秒経てば、勝負の決着がついていたことだろう。
だが、それはまだお預けとなってしまった。
メイがフクに体当たりを、リナプーがタケにゲンコツを喰らわせることで真剣勝負が妨害されたのだ。

「やめてーーーー!」「やめろ!」
「「!?」」

傍観していた2人が急にやってきたので、フクとタケは対応しきれず攻撃を止めてしまう。
メイの行動はまだ理解できるが、ここで不可解なのはリナプーだ。
何故仲間であるタケの攻撃を止めたのか、フクにもタケにも分からなかった。

「おい何すんだよリナプー!お前、どっちの味方なんだよ!」
「どっちもだよ。」
「そうそうお前はどっちも……えぇ!?」

フクとタケ両方の味方などと意味の分からないことを言うのでタケは大混乱だ。
フクも同じように頭にクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。
リナプーと味方になった記憶など無いのだから無理もないだろう。
そんな2人の疑問を解消するべく、転倒していたカナナンがタチアガーり、説明を始める。

「驚かせてすいません。たった今、マロさんから戦闘を止めるという合図が有ったのです。」
「「合図?」」
「2人は勝負に集中していて聞こえなかったかもしれませんが
 遠くから、そう、司令部がある辺りから銃声が聞こえたんですよ。
 私たちの上司マロ・テスクからは、状況がどうあれ銃声が聞こえたら、即、Q期に加担しろと命令されています。
 フク・アパトゥーマ剣士団長さん、我々アンジュの番長はあなたを全力でサポートします。」

突然の協力宣言にフクとタケはポカンとしてしまった。
そして緊張の糸が切れたのか、フクはその場にドサッと倒れ込んでしまう。
タケほどではないが、彼女も相当に疲労していたのだ。
そして大粒の涙を流しながら、アンジュの番長たちに礼を言う。

「ありがとう……これで、みんなを助けられる……!」

さっきまでは敵だったカナナンもメイも、フクの心からの謝礼を微笑ましく見守っている。
ところが唯一タケだけはまだ腑に落ちない顔をしていた。
実はタケだけは今回の件についてマロから何も聞いていなかったのだ。

「ちょっとちょっとリナプー、わたし何も知らないんだけど。」
「すぐ顔に出るから教えてもらえなかったんでしょ。」
「……っ!!!!」

212 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/10(水) 09:17:28
リアルマーサー王の話は知りませんでした。
トライアングル見に行きたいな……

213名無し募集中。。。:2015/06/10(水) 09:32:47
まだキャスト発表されてないから王様か分からないけどね…でもマーサー王は見てみたい!

このタイミングでまさかアンジュがQ期に加勢とは!

214 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/10(水) 22:56:53
ハルナンに絶望を与えるために、マロは番長たちが裏切ることを表明する。

「私が裏切るということは、私の部下である4番長が全員裏切るということ。
 そして、フク・アパトゥーマを王にするために全力でサポートするわ。
 予言してあげる。お前を討つのは他でもない、フク次期モーニング帝国帝王よ。」

ハルナンは自身の計画が音を立てて崩れていくのを感じた。
マロを含めた番長5人が一気に向こう側に着くのは痛手どころの騒ぎではない。
無駄だとは分かっていても、マロを引き止めるためにあれこれと言葉を並べていく。

「いくらマロさんでも食卓の騎士相手に勝てるとは思ってないでしょう?
 クマイチャン様と対峙したらどうするつもりなんですか?無駄だと分かって銃を向けるんですか?」
「説得する。」
「説得って……」
「お前とは付き合いの長さが違うんだよ。
 考えてみな。昨日今日出会ったばかりの馬の骨と、昔馴染みの私。
 どっちの言葉を信じるのが自然だと思う?」
「くっ……!」
「じゃ、さっそく説得に行ってくるわ。」

席を立つマロを黙って見逃すわけには行かなかった。
ハルナンは己の剣を構えてマロに突き付けようとするが、
当のマロはまったく恐れていないようだった。

「斬るの?」
「クマイチャン様のところに向かう気ならそうせざるを得ません。」
「はぁ、お前程の重役がアンジュ王国裏番長である私を斬って良いと思ってるの?
 これはもう国際問題よ?分かるよね?同盟国解消、そして戦争が勃発するんだけど。」
「……!!」

ハルナンは、苦虫を噛みながら剣を引っ込める。
とても歯がゆいが、自身がマロを斬るのは不可能だと悟ったのだ。
だからと言ってユカニャ王やサユキに止めてもらうことも期待出来ない。
二人ともマロの凄みに怯えきってしまっているからだ。

「ハルナンさんすいませ〜ん!私は戦闘できない身体なんで……」
「あ、私も連絡の仕事しなきゃ……」

そそくさと逃げようとするサユキだったが、向かう先にマロが銃弾を撃ち込むことで阻止される。

「連絡担当はもう止めな。撃たれたくなかったらね。」
「ひぃぃ……」

もはやハルナン、ユカニャ王、サユキの3人にマロを止める術は無かった。
さすがは食卓の騎士とプラチナ剣士に最も近い存在。
彼女を止めるには、同等の実力者でも連れて来なくてはならないだろう。
だからこそ、ここにきてハルナンが笑顔になる。

「本当に良かった。親友がいてくれて。」
「は?何を言って…………うぐっ!!」

ハルナンの方を向くとほぼ同時に、マロの胸に激痛が走った。
「摩訶般若波羅密多心経」
この痛みは斬撃によるものだということはすぐ理解できた。
「観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五」
しかしいくらよそ見をしていたとは言え、マロの凄みに負けず斬りかかる人物がいるなんて考えにくい。
「蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不」
これほどの芸当が出来る達人はマロの知る限りではごく僅かしか存在しなかった。
「異色色即是空空即是色受想行識亦復如」
マロは自分を斬った主の方を向き、その名前を大声で叫ぶ。

「アヤチョ!!お前よくも!!」
「ハルナンを悲しませる奴は許さない。カノンちゃん死刑ね。」

215名無し募集中。。。:2015/06/10(水) 23:22:11
アヤチョ怖いよ…ってどっから出てきた!?w

216名無し募集中。。。:2015/06/11(木) 01:38:33
アヤチョ王は腹心の同僚相手にためらいゼロかよw

217名無し募集中。。。:2015/06/11(木) 01:57:38
阿修羅あやちょか

218 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/11(木) 13:00:20
ここではアンジュ国の国王兼、表番長であるアヤチョ王について説明する。
本名アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラーは他の番長と違って戦士の出ではなく、王となるべくして生まれ、王となるべく育ってきた。
親である先代の王はリトルプリンセス(通称りるプリ)を教養ある人物に育てたかったらしく
美術、宗教学、宇宙学、テストの花道、陸上競技、ダンス、犬の世話など様々なことを学ばせたのだが
逆にそれに大ハマりしてしまい、いまやアヤチョは国一番の奇人へと成長してしまった。
だがそういったバックボーンが有ったため、アヤチョは全国民に趣味の楽しさを教えてあげたいと考えるようになった。
勉強することの楽しさ、運動することの楽しさ、文化に触れることの楽しさ、帰宅してペットと触れ合う楽しさ
これらを国民全員が分かち合うことの出来るように、アヤチョは王になると同時に番長制度を導入したのだった。
難しい政治は知り合いのカノンに適当に任せて、4番長の育成に躍起になっていたのである。
その結果、アンジュ王国は類を見ない趣味王国としてせいちょうしたのだが
その形はアヤチョの思い描くものとは少し違っていた。
せっかく趣味について番長たちと話そうとしても、忙しいのだからと断られるようになったのだ。
ならば相手の都合の良い時間に読んでもらおうと本を執筆したりもしたが
タケは未だに3ページしか読んでいないという。
これではつまらなさすぎるのでアヤチョは次期番長候補として有望な新人に3舎弟というポストを与えて
自分とたくさんお話をさせようともしたのだが
新しい若い子はどうも自分とは感性が合わないようで、すぐに話してくれなくなってしまった。
アヤチョはただ趣味の話がしたいだけなのに、皆が自分から離れていく。
そう悲しく思っていたところに現れたのがモーニング帝国のハルナンだったのだ。
彼女はなんでも聞いてくれる。相槌を打ってくれる。褒めてくれる。喜んでくれる。
そして自分のことを大切に思ってくれている。
そんなハルナンの頼みをアヤチョがどうして断ることが出来ようか?
ハルナンのためなら、全番長を相手にしても構わない。

219名無し募集中。。。:2015/06/11(木) 16:24:28
シューティンカラーwww

アヤチョ王は悪い男に騙されるダメ女そのままじゃねーかw

220 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/12(金) 08:26:41
アヤチョは仏像が着ているような衣を纏い、マロの前に立ちはだかった。
攻撃から身を守るにはあまりにも頼りない衣装ではあるが、彼女はこれで大真面目。
アヤチョの特殊技能の一つとして、テンションが上がれば上がるほど強くなるというものがあり
自分を仏のように神々しい存在だと思い込むことで、潜在能力を最大限まで引き出すことが可能なのだ。
また、基礎体力も申し分ない。
アヤチョには何十回も滝に打たれることで鍛えた耐久力と、
何百体も木彫りの仏像を彫り続けることで鍛えた腕力と、
何千時間も各地の神社を歩き回ることで鍛えた脚力が備わっている。
ゆえにアヤチョは戦闘経験こそ少ないものの
マロと並んで「食卓の騎士とプラチナ剣士に最も近い存在」とまで呼ばれるようになったのである。
また、修行によって悟りを開いた彼女にはこんなことだって出来る。

「ハッ!!」

アヤチョはいきなり大声を出したかと思えば、急に無表情になってしまった。
そうなった彼女からは先ほどまでの強大なオーラを感じ取ることができない。
今のアヤチョは押せば倒れるようなただの少女と化してしまった。
だからこそマロは冷や汗を流す。
邪念を全て取っぱらった状態のアヤチョは次に何をするのか全く読めないのだ。
殺気むき出しの屈強な戦士より、殺気すらも殺すアヤチョの方が恐ろしいことをマロは知っていた。

(この状態のアヤチョを見るのは宇宙と交信とか言ってた時以来ね……
 くそっ!やりにくいったらありゃしない!!)

マロはアヤチョが敵に回ることなんて今更気に留めてもいなかった。
ハルナンを裏切るケースを想定した日から、アヤチョと衝突するであろうことは予想していたのだ。
(もっともこんなに早く戦うことになるとは思っていなかったが。)
マロは自分が王であるアヤチョに劣るとは微塵も考えていない。
むしろ何も考えないで戦うアヤチョより、考えて考えて戦い抜く自分の方が上だとも認識している。
久々に全力を出し切ることの出来る戦いに、マロが退く理由はひとつも無かった。

「行くよ。アヤチョを倒せるのは同格の私しか居ないんだから。」

221名無し募集中。。。:2015/06/12(金) 14:31:58
密かに騒がれてる地下アイドル
覗けば誰でもできちゃう即○○の見返り^ ^
ガチでスイートのジュリちゃんから頂きましたww

http://snn2ch.net/s16/783rion.jpg

222名無し募集中。。。:2015/06/13(土) 01:50:51
このスレにおいてはまだ出る前で良かったねうたちゃん…

223名無し募集中。。。:2015/06/13(土) 02:08:25
最近加入・卒業・改名・新ユニットとハロプロ変化激しくてSS書くのも大変そうだよね

224名無し募集中。。。:2015/06/13(土) 12:10:31
マーサー王キター!
http://kzho.net/jlab-giga/s/1434162837370.jpg

225 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/13(土) 16:19:58
うたちゃんの件はビックリしました。
第二部に登場予定だった、爬虫類を武器にして戦うウタ・ハッピーソングはお蔵入りですね。
そこまで設定を固めてなかったのでまだ良かったですw

マーサー王のビジュアルはこんな感じだったのか・・・・・・

226名無し募集中。。。:2015/06/13(土) 17:23:47
http://s.jlab2.net/s/1434164882223.jpg
サヤシ格好いい

227名無し募集中。。。:2015/06/13(土) 20:14:33
>>225
爬虫類が武器w それはそれで見たかったね
うたちゃんはモンハンで大剣使いって話だったからストレートにそっちくるかと予想してたわ

228名無し募集中。。。:2015/06/13(土) 22:17:51
ウタ・ハッピーソング相変わらずステキなネーミングwてか出る予定だったのか…ショック

ゼータ王はその写真微妙だけど紹介Vは凛々しかったよ

229 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/14(日) 12:50:27
マロは両手に握られた二丁の小型銃「ベビーカノンをアヤチョに向けて
相手が自国の王であるにも関わらず躊躇なく発砲した。
接近戦は分が悪いため、近づかれる前に決着をつけなくてはならないのだ。
その銃は破裂音だけは一丁前に大きいものの、サイズ自体はマロの掌に収まるくらいに小さい。
ゆえにそこから放たれる銃弾も米粒ほどしかなかった。
まるでおもちゃの拳銃。屈強な肉体を持つ戦士なら避けるのも億劫になるかもしれない。
それでもアヤチョは身体で受け止めるなんて愚かな真似はしなかった。
ヒラヒラとした衣装を強くはためかせ、そうして起こした風圧で弾の軌道を変えたのだ。
カノンの弾丸は極小サイズゆえに剣で弾くことは困難だが、こうすればいとも簡単に無力化出来る。

「知ってるよ。カノンちゃんの攻略法。」

アヤチョはマロと付き合いが長いため、嫌でもマロに詳しくなっていた。
その熟知の度合いはフクとタケのレベルを遥かに凌駕している。
常に背中を預けた関係性だからこそ、一挙手一投足を理解しているのである。
だがそれはマロだって同じこと。
宇宙と交信中のアヤチョは非常に読みにくいが、おおよその行動は理解出来る。
アヤチョの動きを支配するために、マロは次の行動へと移る。

「こうしたらアヤチョはどう動くのかな?」

アヤチョが風圧を起こしてガードする一瞬の隙をついて、マロは銃口をハルナンへと向ける。
突然ターゲットとなったハルナンは一瞬ドキリしたが、特に取り乱しはしなかった。
立場上、マロが帝国剣士団長であるハルナンを撃つことはありえないので
アヤチョの精神を揺さぶるためのブラフであるとすぐ分かったのだ。
ここでワーキャー騒いだらアヤチョを邪魔することになるため、ハルナンは凛とした表情を崩さなかった。
ところが予想は外れ、マロは容赦無く銃弾を発射する。
これには流石のハルナンも驚愕したが、意地でもその場を動こうとはしなかった。
以前アヤチョから聞いた話ではマロの銃弾には毒がたっぷりと塗られており、
傷口から侵入した毒が血管を巡り、全身を麻痺させる効果を持つらしいが
今更避けるのも難しいため、後はアヤチョに任せようと覚悟したのだ。
だが、ここでハルナンは己がアヤチョを真に理解していなかったことを痛感する。
なんとアヤチョはマロが銃口を向けた時点で走り込んでいて、ハルナンの前に立ちはだかることで毒から守ったのだ。
薄い衣は攻撃を防ぐことなど出来ず、アヤチョは腹に二発の弾丸をぶち込まれてしまう。

「アヤチョさん!……いや、アヤチョ!なんで!」
「知ってたよ……カノンちゃんは撃つってね……
 でもアヤ、もっと知ってるんだ。 これくらいがちょうど良いハンデだって……」
「え?……でもアヤチョとマロさんは同格じゃ……」
「同格?それは違うよ。絶対に違う。」

230 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/15(月) 13:32:43
アヤチョは毒に苦しみながらも、マロを怒りの表情で睨みつける。
その顔はまさに鬼神そのものであり、二十歳そこいらの女子がして良い顔では決して無かった。
実はアヤチョがこうなるのもマロの計算のうち。
最愛の親友であるハルナンを狙うことによって、アヤチョを怒り狂わせる作戦だったのだ。
激怒しつつも冷静でいられる人間なんて存在しないので、
ここから先のアヤチョの行動は分かりやすくなるとマロは踏んだのである。
ところが、奇人変人アヤチョ王を解明するのはそんなに易くはなかった。
アヤチョは衣のスカート部分をビリビリと破くと、長い手ぬぐい状にして両手で持ち始めた。
鬼のような顔と相まって、今のアヤチョの姿はとある神像を彷彿とさせる。

「風神の構え……!」

鬼気迫るその表情は、まるでアヤチョが本物の神様になったかのような錯覚をマロに起こさせた。
今のアヤチョのスカート丈はとんでもなく短くなってしまったが、彼女はそんなことを気にしない。
逆襲の超ミニスカートは裏切り者を打ちのめすことしか考えていないのだから。

「カノンちゃん、本気でアヤと同格だと思ってるのかな?」

アヤチョは切り取ったスカートをブンと振り回す。
そうして起きた風圧は人間の起こすことの出来るレベルを超越しており、
マロの体重を持ってしても吹き飛ばされそうになってしまう。
しかもその突風は一度では終わらない。
アヤチョが一歩進む度にスカートは振られ、その度に強風が巻き起こる。
ここでマロはようやく気付いた。この環境下では小型銃が全く役に立たないことを。

(くっ……弾が届かない!)
「これはね、風神雷神像をモチーフにしたアヤの新技だよ。
 カノンちゃんの戦い方はいやらしいからね、カノンちゃんを倒す構えを作ったんだ。
 ところでさ、アヤとカノンちゃんちゃんが同格っていうのはさ、文章力や大砲も含めた話でしょ?
 一対一の対決ならカノンちゃんはアヤの足元にも及ばない。」

少しずつプレッシャーをかけてくるアヤチョを前にして、マロは滝のような汗をかいてしまう。
このままではジリジリ迫られて、追いつかれて、負けてしまうだろう。
だが、マロにはまだ希望があった。
先ほど撃ちこんだ麻酔弾が効いて来る頃だと思ったのだ。

「残念ねアヤチョ。もうすぐおねんねの時間じゃないの?
 そんなに激しく動いたら、毒が回るスピードも……」
「それなら大丈夫。」
「え!?」
「言ったでしょ。カノンちゃんの攻略法は知ってるって。」

231名無し募集中。。。:2015/06/16(火) 11:44:13
マーサー王国式典の正装?
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/82/03/j/o0480064013338327258.jpg
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/b7/28/j/o0480036013338327301.jpg
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/da/5e/j/o0480064013338327126.jpg
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/e3/b8/j/o0480064013338326911.jpg
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/46/8f/j/o0480064013338327359.jpg
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/d5/9d/j/o0480036013338326990.jpg
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/3d/b1/j/o0480036013338327026.jpg
http://stat.ameba.jp/user_images/20150615/22/c-ute-official/4e/4b/j/o0480064013338327085.jpg

232 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/16(火) 21:38:34
衣装のクオリティが高いですね。
前作では二人とも上流階級の出だったのでイメージぴったりです。
さて、今作ではいつ出るかな、、、

233名無し募集中。。。:2015/06/16(火) 23:53:16
前作読み直してるときのマイミはラブテキ衣装が戦闘服のイメージだったなぁ

クマイチャン出てきたからきっと出てくると信じてる…今でもマイミはウメサンとラブラブ何だろうか?ナカサキに心変わりしてないだろうか?w

234 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/17(水) 08:44:28
「ハルナン、アヤを斬って!」
「!」

いきなり自分を斬れと言い出すアヤチョは、傍からはおかしくなったように見えるかもしれないが
ハルナンにはその意図するところがすぐに分かった。
要するにアヤチョは毒を抜いて欲しかったのだ。
毒ヘビに噛まれた探検家がナイフで切ることで指から血を流すように
剣で血液ごと麻痺毒を排出するのがマロ対策に繋がるのである。
もちろんハルナンの本心としてはそんなことをしたくはない。
彼女の扱うフランベルジュ「ウェーブヘアー」は通常の剣と違って刃が波打ったような形状をしている。
そのフォルムは一見美しくも見えるのだが、その本性はあまりにもえげつなかった。
ギザギザの刀身は相手の肉を斬るのではなく削ぎ落とすことに特化しているため、治療時に縫合することが困難なのである。
こんな剣で親友のアヤチョを斬るくらいなら自分を斬るほうが楽かもしれないが
毒に苦しませるよりは幾分マシだと判断して、心を鬼にして斬りかかる。

「分かったよアヤチョ!」

ハルナンは銃弾を受けたアヤチョの腹と、胸、そして首を一回ずつ傷つけた。
毒が脳に到達しないように、その経路から血液を噴出させたのだ。
実際これで毒を抜くことが出来たのかは分からないが、強烈な激痛は確実に気付けにはなっている。
血まみれになりながらも、アヤチョは依然変わらない闘志でマロを睨みつける。

「もう終わりだよカノンちゃん。すぐに殺してあげる。」
「……」

銃撃と毒殺の両方を無効化された今、自分に勝ち目がないことはマロ自身がもっとも自覚していた。
例え逃げたとしても、アヤチョの執念を持ってすれば必ず追いつかれてしまうだろう。
ならば殺されぬためには降伏すれば良いのか?
そんなことは許されない。
ここでアヤチョとハルナンに屈服したら、クマイチャンを騙し続けることになる。
かつて自分を救ってくれたヒーローを愛する気持ちだけは、どんなことがあっても守りたかった。

「……私の愛を軽く見るな。」

マロにはとっておきの策がある。
しかしそれには重大な副作用が伴うかもしれない。
ユカニャ王は危険など無いと言っていたが、信用できるか怪しいものだ。
だが、同格のアヤチョがここまでリスキーな行動を取り続けた以上、
もはやノーリスクで勝とうなんて甘い考えは捨てるべきなのだ。
マロはユカニャに(わざと)返却し忘れた五色の液体を取り出し、全ての同時に開封する。
そして、一気にジュースを飲み干したのだ。

「私はもう根性のない豚じゃない!!」

235 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/17(水) 08:46:33
食卓の騎士はマロほどは変貌してないとは思いますが
オカールはミヤビちゃんミヤビちゃん言ってるかもですね。

236 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/17(水) 22:26:52
ジュースを飲んだマロの身体は焼けるほど熱く火照り出す。
その異常なまでの即効性に少し怖くなったが、それも最初のうちだけ。
己の変化をすぐ実感出来たため、恐怖なんてどこかに吹っ飛んでしまう。

(身体が軽い!)

一番分かりやすいのはレモンジュースの効果だ。
身体が軽くなるジュースのおかげで、今のマロはまるで重力が無くなったような気分になっている。
普段から体重を気にするマロにとってこんなに嬉しいことはない。
更に戦闘で受けたダメージによる足取りの重さも消えていた。
アヤチョの起こす突風に衣装が引っ張られる感覚だって存在しない。
だからマロはこんな環境下でもダッシュでアヤチョまで接近することが出来る。
天使の羽が生えたようなマロにとって風神など全く怖くないのだ。

「なっ……カノンちゃんどうして!?」

接近戦が絶対的に苦手なマロが何も恐れずやってきたのがアヤチョには不思議でならなかった。
もちろんマロには考えがある。
リンゴジュースで頭の冴えたマロにとって、アヤチョを追い詰める策を考えることなど容易いのだ。

(ユカニャの言った通り、リンゴジュース飲むと確かに集中力が増すわ。
 風のせいで銃は撃てない。でもリンゴ、レモン、グレープ、メロンの効能を聞く限りでは
 接近戦でも十分戦える!アヤチョだって全然怖くない!!」

ダッシュで近づくや否や、マロは握り拳による左ストレートを繰り出す。
武闘派ではないマロの攻撃など片手で受け止められと思ったアヤチョは
破れたスカートから左手を離して、マロパンチに対するガードを試みるが
マロは高速高威力の突きでガードごと殴り飛ばしてしまった。
一撃でオジャンになった自分の左手を見てアヤチョは驚愕するが、それ以上に驚かされた
のはマロの腕だ。
殴りかかった側であるはずのマロの拳が、肉から骨が突き出るほどにボロボロになっていたのである。
マロがここまでの覚悟を持って攻撃できることを知らなかったこと、
そしてあのマロの行動に対して迂闊にも油断したことをアヤチョは深く悔いることとなる。
そんなアヤチョとは対照的に、マロの表情はどんどん笑顔になってくる。

(楽しい!腕は凄く痛いけどまだまだやれそうな気がする!
 アヤチョを倒せるなら、身体がダメになるのも全然怖くない。
 身体は軽いし、集中力は続くし、それに眼がよく見える。
 今の私は、世界で最強かもしれない。)

マロとアヤチョの戦いをヤキモキしながら見ていたのは本来のジュースの持ち主であるユカニャ王とサユキだ。
マロが五種のジュースを取り出した時からずっと青ざめている。
普段から困った顔をしているユカニャがより一層困り顔になりながら
近くにいたハルナンに嘆願する。

「戦いを止めてください!さもないと大変なことが起きます!
 あのまま戦いを続けたら、一生戦闘できない身体になっちゃうかもしれないんですよ!」

確かに、とハルナンは思った。
今のアヤチョの身体はひどくボロボロだ。
これ以上グレープジュースによるタガの外れた攻撃を受け続けたら、もう長くはないだろう。
一生戦闘できないどころか命を失うことだってありえるかもしれない。
しかしハルナンには二人の戦いを眺めることしか出来なかった。

「止められることなら止めたいですよ。
 でも、悔しいけど、あの二人の間に割って入る実力が私には無いんです……
 帝国剣士団長に相応しい強さをもっていないんですから……」

237 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/18(木) 15:13:03
これ以上、風神の構えを取り続けても無駄であることをアヤチョは理解した。
今のマロは何故か捨て身のインファイターと化している。
それならば電撃のように素早く攻撃できる、もう一つの構えが良い。

「雷神の構え!」

破ったスカートを捨てて、代わりに腰に差していた七支刀、その名も「神の宿る剣」を右手に持つ。
これは一番初めにマロの胸を斬った時に使用した剣だ。
この剣の形状は通常のものとは異なり、主となる刀身から更に6つの刃が枝のように突き出ている。
しかし制作された年代があまりに古い剣ため、切れ味はもはや無いに等しい。
こんな博物館に展示されるような剣で鋭い斬撃を放つなんてアヤチョにしか出来ない芸当だ。

(アヤの攻撃は雷みたいに速いよ!受け止められないでしょ!!)

雷神となったアヤチョは確かに速い。
接近戦でアヤチョの斬撃を捌ききることの出来る人間は世界に何人もいないだろう。
ところがマロはその高速剣が繰り出される前に、アヤチョの腕を掴むことで防いでしまう。
これはまるで以前ハルがマーチャンに向けた木刀をアーリーが止めた時のよう。
マロにメロンジュースの効果が出ている証拠だ。

「くっ……放してよ!」

自慢の構えまでも通用しないことに焦ったアヤチョは慌ててマロの手を振りほどき、一旦距離を取ろうとする。
しかしここで逃げることをマロは許さない。
アヤチョが逃げる先を事前に予測し、そちらに予め回り込むことで退路を断ったのだ。
完璧に次の動きを読むマロがアヤチョには信じられなかった。
それに、マロの顔が自分にやたらと近すぎるのがよく分からない。
まさに、思惑ある笑顔接近。物欲しそうな笑顔接近。
マロとこんな距離感で接したことが無いので、正直言って気持ち悪くもある。
何故マロがこうも近いのか、少し離れた場所でジュース開発者のユカニャがハルナンに解説する。

「メロンジュースを飲むと、とんな些細な動きも見えるほど視力が向上します。
 だから今のマロさんにはアヤチョ王が動き出す前の予備動作まで感知できちゃうんですよね。
 でもその代わり、視野はひどく狭くなっちゃうんです。せいぜい目の前の人間1人分くらいでしょうか。
 マロさんがベッタリくっついているのはそのせいです。」
「えっ、それって副作用なのでは……」
「ジュースの効果が切れたら元どおりになるので問題ありません。
 それにハルナンさん、飲むだけで強くなる魔法の薬なんて存在しませんよ。
 何かを犠牲にすることで、結果的に強くなることなら出来ますが。」
「……ということは、他のジュースも?」
「はい、視野を狭くすることでその範囲だけよく見えるメロンジュースと同じように、
 リンゴジュースは雑念を考える頭を潰すことで集中させています。
 レモンジュースは重さを感じる器官を殺すことで身体を軽く感じさせています。
 なので本当に軽くなる訳ではないのです。」

レモンに関しては本来の使用者であるサユキも補足して説明する。

「どんなものも重さを感じないで持てるから便利なんだけどさ
 力が強くなったりはしないから本当に重いものは持ち上げられないよ。
 帝国剣士のカノンさんとか担ぐの難しかったし。」
「なるほど……」

身近な具体例を挙げられたのでハルナンは納得する。
となるとカリンの飲んだグレープジュースについても解りかけてきた。

「グレープジュースはストッパーを外すことが出来るとおっしゃってましたね。
 それはジュースが、危機を感じる機能を一時的に止めることで実現しているということですか?」
「はい、その通りです。まぁ他人への危機は通常通り感じられますけどね。」
「なるほど、グレープが一番危険なジュースという意味かやっと分かりました。
 戦士から危機感を奪うのは恐ろしすぎますね……」
「あ、それが……さっきはグレープが一番危険と言いましたが……」
「?」
「本当に危険なのはピーチジュースなんです。まさかマロさんが飲むとは思ってなかったので黙ってました……」
「ピーチの効果は!?」
「ピーチジュースは飲むと勇気が湧きます。その代わり、恐怖心を失います。」

238名無し募集中。。。:2015/06/18(木) 19:57:25
なるほど全部飲むと人格を保ったままサユ王のマリコモードみたいになるわけね…アババ状態のリシャコとリロマロ対決見てみたいな

239名無し募集中。。。:2015/06/18(木) 22:22:14
拾ってきた・・・帝国剣士って感じだね
http://pbs.twimg.com/media/CHxFWrGUsAA4TrL.png

240名無し募集中。。。:2015/06/18(木) 22:27:23
身体が追いつかなくなるのかマロ

241 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/19(金) 20:16:44
>238
そう言えばマリコも似た戦い方をしてましたねw
当時の傷は数年経った今、完治したということにします。

>239
おお、かっこいい。
他のメンバー(敵陣営?)の絵も見てみたいですね。

>240
マロがどうなるかは次と次あたりの更新で書きます!

242 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/19(金) 22:41:48
果実の国にはかつて、ピーチジュースを飲みながら戦う者がいた。
彼女は戦士にしてはとても気が弱く、オドオドしていて、常に戦いを恐れていたが
ジュースをひとたび飲めば勇敢なリーダーへと変貌し、仲間たちを率いて前線に赴いたと言う。
その頼もしさはまるで桃から生まれた戦士が鬼を退治するおとぎ話のよう。
しかしその末路はおとぎ話通りとは言い難く、
無鉄砲に敵陣深くへと入り込みすぎた結果、袋叩きにされてひどく負傷したとのこと。
果実の国の発達した医療技術を持ってしても戦士の傷を癒すことは難しく、一生戦闘の出来ない身体となってしまった。
ピーチジュースは勇気を与えてくれるため一見便利そうに思えるが、
恐怖心を持ち続けることこそが生きるために最も大切なことであることを彼女が教えてくれたのだ。
だというのに今現在、マロ・テスクが同じ過ちを犯そうとしている。
彼女には毛ほどの恐怖心も残っていない。ゆえに破滅はすぐ先に見えている。
記者の宝とも言える右手で殴ろうとしていることからもそれが分かるだろう。

「おりゃあ!!」
「ぐっ……!」

マロは手の甲がグシャグシャになる勢いでアヤチョの右肩を殴った。
薄手の上からそれだけの衝撃をぶつけられたのでアヤチョの肩はもうバキバキだ。
あまりの激痛で七支刀を持ってられなくなり、床に転がしてしまう。
これではもう攻撃のしようがない。逃げようとしても回り込まれる。
もう後がないと考えたその時、アヤチョは無意識に脚を出していた。
彼女の脚はマロと比較してずっと長いので、リーチの面で有利だと直感的に感じたのかもしれない。
とは言えマロはメロンで発達した眼のおかげで蹴りの軌道は簡単に予測できる。
長期に渡る戦いで重くなったはずの脚も、レモンの効能で軽々上がる。
そしてグレープで外したストッパーは、超強力&超高速の踏み付けを実現する。
思いっきり足を踏まれたアヤチョは激痛に耐え切れず悲痛な叫びをあげてしまう。
ところが、ダメージを被ったのはアヤチョだけではなかった。
骨が壊れても良いくらいの勢いで踏み込んだので、マロは足のみでなく膝、腰までも負傷してしまったのだ。
そうなったら痛いだけでは済まない。もう立てなくなる。
マロは気持ちは前に有るというのに、その場に転倒してしまう。

「なんで?……立てない……」

マロはリンゴのおかげでアヤチョを倒すことだけに集中できたのだが、
それに専念するあまり自分のことを省みる発想が全く無くなっていた。
少しでも恐怖心が有れば骨折を恐れたのかもしれないが、その感情はピーチが根こそぎ奪っている。
よってマロはタチアガールことが出来ず、この体勢のままアヤチョの追撃を受けることになる。

「なんだかよく分からないけど流石にもう終わりだよ……アヤの必殺技で決める。」
「まだ終わってない!こっちにだって必殺技があるんだから!!」

アヤチョは激痛の走る右手で手刀を作り、下方のマロへと振り下ろす。
それに対してマロは懐から小型の爆弾を取り出しては、アヤチョへと投げつける。
これが両者の必殺技、「聖戦歌劇」と「爆弾ツブログ」。
どちらも本調子とは言い難いが、今の相手を倒すには十分の威力を備えている。

243 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/20(土) 18:02:34
(え?二人とも何を・・・・・・)

ハルナンは必殺技という響きに馴染みがなかった。
平和な時代を過ごしてきたゆえに、それを目の当たりにする機会に恵まれなかったのだ。
だとすればここでアヤチョとマロの激突を見れたのは幸運かもしれない。
絶対的に相手を仕留める自信があるからこそ「必殺技」と呼んでいる。
そうして繰り出される攻撃が強くないわけがない。
しかもマロの投げた「爆弾ツブログ」は文字通り「必」ず「殺」す爆弾だ。
かつては人を殺すほどの威力は無かったらしいが、数年に及ぶ改良により破壊力が増している。
虫の息のアヤチョを仕留める程度の仕事は問題なく完遂するだろう。
だがマロの爆弾には重大な構造的欠陥があった。
持ち運びに便利だったり、奇をてらいやすいという理由で小型にしているのだが
そのせいで重量がとても軽かったのだ。
つまりマロの爆弾は小型銃同様、風に弱い。
そして、アヤチョの必殺技「聖戦歌劇」は風を巻き起こす。
いや風だけではない、落雷のような衝撃まで発生させることが出来る。
アヤチョの構えは二つあったが、「雷神の構え」を「TRUTH」と定義すれば、「風神の構え」は「REVERSE」となる。
そしてそれらの要素をシャッフル&ミックスしたのが「MARBLE」と位置づけられる「聖戦歌劇」だ。
聖女と乙女の両方の面を持つアヤチョは雷神の如き速度で手刀を振り下ろしては、
途中で手の向きを変えて、掌を大気へと衝突させる。そうすることで風神の如き爆発的な突風を起こすとが出来るのだ。
「聖戦歌劇」は一瞬のうちに爆弾を吹き飛ばし、そのままの勢いでマロの胸に落雷する。
本来はこれを七支刀で行うのが有るべき姿であるのだが、その必要はなかった。
全身をジュースに蝕まれているマロの意識を打ち切るには、ただの掌底だけで十分だったのだ。
限界を迎えたマロは、さっきまで騒々しかったのが嘘のように静かになってしまう。

「・・・・・・気絶した?」

マロの性格からして気絶した振りをしている可能性も十分ありえるが
それについてはユカニャ王がきっぱりと否定してくれる。

「それはありません。ジュースの効果が効いているので、自分の身を守る考えは浮かばないはずです。
 そもそもマロさんはもう戦闘できる身体じゃ・・・・・・」
「そういうもんなんだ・・・・・・わかったよ、じゃあ。」

そう言うとアヤチョはマロにトドメを刺すためにもう一度右腕を上げる。
人体急所の集中している顔面に「聖戦歌劇」をぶつけることで息の根を止めようと考えたのだ。
そんなアヤチョを、見るに見かねたハルナンが必死に制止する。

「やめてアヤチョ!それ以上やったらマロさん死んじゃう!」
「うん、殺すつもりだよ。」
「そんなことする必要ありませんって!」
「なんで?ハルナンを裏切ったんだよ?このまま生かしておくとまた邪魔をするよ?
 ハルナンは王様になるのと、カノンちゃんを生かすのとどっちが大事なの?」
「アヤチョさんが・・・・・・いや、アヤチョが人殺しにならない方が大事です。」
「!!!」
「だからもう止めて。お願い。」

冷徹だったアヤチョの表情が、みるみるうちに柔和なものになってくる。
自分を気遣うハルナンの気持ちが心から嬉しかったのだ。

「分かった。ハルナンがそう言うならもう殺さない。」

244名無し募集中。。。:2015/06/20(土) 20:14:41
何でも言うこと聞くなw

245名無し募集中。。。:2015/06/20(土) 20:31:55
ジャンヌを上手く取り入れてるなぁ〜

これだけ依存してるとハルナンがアヤチョを裏切った時が怖い・・・ハルナンガワルインダカラネ…ザクッザクッ

246 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/21(日) 17:20:48
なんとか死は免れたマロだが、それでも重症には変わりない。
昔から理系女子で医学薬学に心得のあるユカニャ王がマロの状態を確認し、
サユキ・サルベに医務室へ運ばせるよう命令する。

「なるべく揺らさないように運んでね。サユキなら出来るでしょ。
「もちろん。」

時間の勝負なのでサユキは急いで医者のところに向かった。
彼女の走行技術ならマロに負担を与えず走ることが可能だ。
この分ならこれ以上悪化させずに治療に入ることが出来るだろう。
となると、心配なのはアヤチョの身体だ。

「アヤチョもひどい傷……お医者さんに診てもらったほうが……」
「大丈夫だよハルナン。瞑想したら治るよ。」
「え!?」

そう言うとアヤチョは座禅を組んで、目を閉じ始める。
アヤチョのことだから本当に治ってしまいそうな気はするが、流石にそれはない。
ハルナンは無理矢理にでも医者に連れてこうと腕を引っ張る。

「ほらアヤチョ、早く外に……あ!」

ここでハルナンはアヤチョの衣が服としての体をなさぬ程に裂けていることに気づく。
スカート部分の生地はもう無いに等しいし、取っ組み合いの末に胸元もひどく開いている。
このまま廊下に出て男性兵にでも見られたら大問題だ。
真っ先にすべきは衣装をコーデすることだとハルナンは理解する。

「大変!今すぐ代わりの服を持ってくるね。」
「えーこれでいいのに。」
「ダメよ!いろいろと見えちゃってるんだから!」
「でも薄い生地の方が仏像さんっぽくてテンション上がるよ。
 アヤ、テンション低くなったら戦えないし……」
「じゃあアヤチョの好みの服を選んであげる。どういうのが理想なの?」
「理想は全裸かな!絵画に描かれる女神様みたい!」
「ダメーーーー!」

服に無頓着すぎるアヤチョに、とうとうハルナンの堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。
年頃の女子が服を着ることの意義を熱弁し、アヤチョを説得する。
さすがのアヤチョも勢いに押されたようで、条件付きで承諾することにした。

「分かった、服を着るよ。でもその代わり、これからはアヤって呼んでほしいな。」
「アヤ……ちゃん、じゃダメ?」
「うん!それでもいいよ!」
「じゃあとびっきり似合う服を持ってくるから、アヤちゃん待っててね!」

ハルナンは早速、モーニング城の一設備であるクローゼットへと向かった。
そこは「ガールズライブ」と呼ばれており、カスタム可能な工作室まで備わっている。
多数の衣装や武具が備わっているため、アヤちゃんにピッタリなコーデも十分可能だろう。

247名無し募集中。。。:2015/06/21(日) 19:39:56
この非常時にマイペース過ぎるわ流石アヤチョw

248名無し募集中。。。:2015/06/21(日) 21:11:17
ハルナンの武器は糊の出る銃かw

249名無し募集中。。。:2015/06/21(日) 21:36:27
グルーガンかw

250名無し募集中。。。:2015/06/21(日) 23:53:43
一刻を争うのにこれからコーデかよw

251 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/22(月) 12:53:50
マロがアヤチョに敗北するとも知らず、アンジュの番長たちはフクに協力する準備を進めていた。
疲れて立ってられないフク、タケ、リナプーを休ませると同時に、カナナンが番長らの特徴について説明する。

「連携をとるには私たち番長のことを教えないといけませんね。
 詳しく説明する暇は無いんで、手短にはなりますが……」
「うん、お願い。」
「はい、まず運動番長タケちゃんについては説明するまでも無いですね。
 鉄球を武器にすることで近距離遠距離どちらも対応可能な、戦闘の要です。」
「うん、頼りにしてる。」

フクに褒められたのでタケは赤面してしまう。
フクを敵対視してはいたが、それは戦闘面でライバルとみなしていたからであって
性格はむしろ好きな方だったのだ。

「次に文化番長メイメイですが、彼女は類稀なる演技力でどんな人物でも演じることが出来ます。」
「演技力……?」

急に戦いとは関係ない特徴を説明されたのでフクはキョトンとしてしまう。
一応カナナンが説明を補足するが、それもよく分からないものだった。

「そのためにはある程度観察する必要がありますが。フクさんのコピーやったらもう十分と思いますよ。
 なぁメイメイ?」
「うん出来るよ!……"なんだか暑くなって来ちゃった……ハァ、鎧脱いじゃおうかな……"」
「私、そういうのじゃないもん……」

フクが不満顔なのも気にせず、カナナンは次のメンバーの説明をする。

「帰宅番長リナプーは国内一のブリーダーでありトリマーなんです。
 愛犬と一緒に戦うのが特徴なんですよ。ちょっと今は見えませんけどね。」
「まぁ素敵!私も犬を飼っているの。」
「戦いが終わったら毛並み整えてあげてもいいよ。」
「本当!?それと私はカニやイモリも飼ってて……」
「それは他あたって欲しいなぁ……」

252 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/22(月) 12:55:18
緊迫した回が続くと反動でノンビリした回を書きたくなっちゃうんですよw
コーデとか、自己紹介とか

253名無し募集中。。。:2015/06/22(月) 21:47:40
>>252
そういうの好きです(はぁと)

254名無し募集中。。。:2015/06/22(月) 23:08:56
そういうのじゃないもんが来たかw

255 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/23(火) 08:46:00
さっきまで敵だったというのに、フクは番長らと仲よさげに話している。
単純に話してて楽しいという理由もあるが
それ以上に、もう孤独じゃないという安心感がそう思わせたのだろう。
この新たな仲間たちとならば、どんな敵にも勝てそうな気がしてくる。

「カナナンさん、あなたはどんな戦士なの?」
「私ですか?私カナナンは勉強番長で……」

カナナンが自己紹介を始めようとしたその時、訓練場の扉が大きな音とともに開かれる。
そこから現れたのはフクと同じQ期の、サヤシ・カレサスだった。
大切な仲間の生存にフクは感激して、舞い上がってしまう。

「サヤシ!良かった、無事だったんだね!」

嬉しさのあまりフクはまたも涙する。どうやらサヤシも泣いているようだ。
もっとも、サヤシのそれは喜びからくるものでは無かったが。

「フクちゃん……助けて。」

いつもと違って弱気そうなサヤシの声にフクはドキリとした。
サヤシがそんなになってしまうほどの強敵とはいったい何者なのだろうか?
だが、今のフクの心持ちは「負ける気しない 今夜の勝負」だ。(日中だけど。)
そしてそれはアンジュの番長たちだって同じ。
ここにはモーニングとアンジュ両国の、そんじょそこらの女じゃない精鋭が6人も揃っているので
苦戦する方が逆に難しいだろう。

「安心してサヤシ、ここにいる全員が味方だよ。」

サヤシを勇気付けようとするフクだったが
次の瞬間、サヤシの感じる恐怖心をみなで共有することになる。

(!?……なにこれ、身体がとても重い!)

フクと番長らの身体は突如、鉛になったかのようにズッシリと重くなる。
こうなったらもう立ち上がることすら困難だ。全員が全員、床に膝をついてしまう。
もちろん人体が鉛になることなど有り得ないのだが
すぐそこまで迫ってきている"奴"が放つプレッシャーが彼女らにそう錯覚させたのだ。

「なんだよこの重圧……カナナン分かるか?」
「こんなん知らんわ……でも一つだけ分かる。
 アヤチョ王の本気を見た時ですらこんなプレッシャーを感じることは無かった。
 ということは、もっと上……」

まるで天空から巨大な手で押さえつけられたような感覚に6人は耐えきれなくなる。
可能であればここから今すぐ逃げ出したいところだが、それは不可能だろう。
この安心感と対をなす恐怖感の正体に、みな薄々と気づいていたのだから。

「サヤシ、あなた、誰に追われていたというの!?」
「クマ、クマ……クマイ……」

サヤシが名前を言うよりも速く、訓練場の扉がぶった切られる。
その扉のサイズは、出入りするにはあまりにも小さすぎたのだろう。
そんなに巨大な人間は世界に一人しか存在しない。
フクはゴクリと唾を飲み、その名前を口にする。

「クマイチャン様?……」

256名無し募集中。。。:2015/06/23(火) 11:23:22
進撃の熊井ちゃんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

257名無し募集中。。。:2015/06/23(火) 12:09:22
どんだけ巨人だよ!w
食卓の騎士達は前作当時の黄金騎士クラスの化け物になってるのか…

258 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/24(水) 18:10:04
訓練場に降臨したのはマーサー王国の食卓の騎士が一人、クマイチャンだ。
これだけ大きいのだから間違いようがない。
彼女がここにいる理由については全くわからないが、
少なくともクマイチャンのターゲットがサヤシだけでは無いということはすぐに分かることになる。

「ぬあああああ!!」

クマイチャンは一瞬にしてフクのいるところまで到達し、自慢の長刀を地へと振り下ろす。
でかい図体なので動きは鈍いかもと期待したが、そんなことはまるでなかった。
身体の大きさに比例して脚も規格外に長いため、ただの一歩が非常に大きいのだ。
そして斬撃による破壊力も化け物級。
全長3mに及ぶ長刀の総重量は人間が扱う剣の比ではなく、たった一撃で床をぶち抜いてしまう。
フクらが咄嗟に危険察知して回避していなければ、今頃は床と同じようにグシャグシャにされていたのかもしれない。
こんな恐ろしい化け物からは、さっきのサヤシのように逃げ続けるのが大正解なのだが
フクとタケは先の戦いで疲労しているため、それも難しそうだ。
クマイチャンの放つ重圧で身体が鉛同然に重くなったのもここで効いてきている。
では対話でなんとかするべきか?
平和的解決を望むのが得策なのだろうか?
おそらくはそれも無理だ。
何故かは知らないがクマイチャンは殺し屋のような眼で自分たちを睨みつけている。
そんな相手に何を言えば許してもらえるのか、フクには思いつかなかった。
憧れの食卓の騎士にやっと会えたというのに、その食卓の騎士にこれから殺されると思うと涙も出てくる。
フクに出来るのは死を受け入れる覚悟をすることくらいだ。
ところが、アンジュの面々は別の覚悟をしていたようだった。

「リナプーとメイメイは配置に!タケちゃんは身体を休める!」
「!?」

カナナンがクマイチャンに立ちはだかるのを見て、フクとサヤシは驚愕する。
見るからに勝てそうもない敵を相手にして、いったい何を考えているんだろうかと思ったが
カナナン以外の番長もやる気十分なのを見て、更に驚かされる。

「メイメイ、役に入る準備はええか!?」
「当然。私はプリマドンナよ?」
「リナプーは全力で脱力するんやで!」
「まったく無茶苦茶なことを……ま、やるけど。」

もはやアンジュの行動は信じられないどころの話ではない。
周辺国に生きる者であれば誰もが食卓の騎士の噂を耳に入れているはず。
そんな相手には自分たちが束になっても
敵わないことくらい、馬鹿でも分かるのだ。
頭がクラクラしてくるフクに対して、隣で座るタケも声をかける。

「フクちゃん、ラッキーだったね。」
「え!?」

この最恐最悪な状況でラッキーとか言い出すタケを見て、フクの混乱はますます加速する。
窮地に陥るあまりとうとうおかしくなったのかとも思ったが
タケにはそう言うだけの確固たる理由があった。

「マロさんのせいでさ、食卓の騎士の中でもクマイチャン様だけには詳しいんだよ。
 他の化け物と敵対するよりは対策しやすいと思わない?」

259名無し募集中。。。:2015/06/24(水) 23:55:03
役に入る 脱力
どんな策なのかねぇ

260名無し募集中。。。:2015/06/25(木) 00:56:19
トマトを演じれば・・・って無理があるなw

261 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/26(金) 12:58:35
タケの言葉を聞いて、フクはハッとした。
番長らがクマイチャンの話をたくさん聞いてきたことで策を練れるというのならば
食卓の騎士に関する調査をライフワークにしてきた自分ならばより良い案を出すことが可能だと気付いたのだ。
よくよく見てみればカナナンの脚は震えている。タケだってそうだ。怖くないわけがない。
この状況で生き残るためには戦うしかないと理解し、震える身体に鞭を打っているのだろう。
そんな彼女らに安心感を与えるためにも、フクは自らの力を貸すことに決める。

「クマイチャン様は目が悪いよ。それと、攻撃のモーションが大きい。」

フクのアドバイスが聞こえてきたので、カナナンは少し笑みを浮かべる。
それくらいの情報は知っていたし、これからまさにそこを突こうとしていたのだが
フクが協力的な姿勢を見せてくれたことがまず嬉しいのだ。
これで勝率はほんの少しアップする。

「フクさんおおきに。じゃあメイメイ、早速覚えたての技を見せたって!」
「分かったわ……"フク・ダッシュ"!」

メイは太ももにグッと力を溜めて、それを前進するための推進力へとすべて変換する。
爆発的なダッシュの行き先はクマイチャンの長い左脚だ。
身体ごと衝突することで、クマイチャンの体勢を少しグラつかせることに成功する。
食卓の騎士の相手に捨て身で飛び込む度胸は立派だが、それ以前にフクは別のことで驚かされていた。

「あれは私の!どうして!?」

メイのダッシュはフクの得意とする走行術フク・ダッシュそのものだった。
フクとメイの体型の違いからか威力までは真似できていないようだが
構えや発動のタイミング自体はオリジナルにかなり似せている。
まるでフクが乗り移ったかのようだ。

「メイは舞台女優だからね。フクちゃん、あいつに見せすぎちゃったな。」

メイ・オールウェイズコーダーはアンジュ王国の文化番長であり、舞台女優と舞台作家を兼ねている。
彼女の演技に対する執着心は異常であり、役作りのためならばどんなことでもするという気概がある。
そして何千もの役を演じる過程で得た能力が「観察と思考」だ。
演じたいと思う対象を集中的に観察し、そしてそれになりきる自分を繰り返しイメージすることによって
台本など無くとも役にはいりきることが出来るのである。
思い返してみれば一番初めにメイがフクとタケの戦いにチャチャを入れな時は簡単にいなされたが、
マロの合図で戦いを止めた時、メイは覚えたてのフク・ダッシュでフクを転倒させていた。
この短期間にメイが観察と思考を繰り返した証拠だろう。
しかしフクをコピーしたとは言ってもそれでクマイチャンに勝てる訳ではない。
メイの体躯はフクダッシュによる体当たりの衝撃に耐えられるようには出来ておらず、
クマイチャン以上にフラついてしまっている。
そんなメイにクマイチャンが上から手で押さえつけようとしているのだから事態は深刻だ。
だが心配は無用。
カナナンの一声でクマイチャンは転倒するのだから。

「はい、ここで倒れる!」
「!?」

カナナンの言葉を聞くだけで本当に倒れてしまったので、クマイチャンは驚いた。
痛みがある訳ではない。ダメージの蓄積もほとんどない。
ただ、倒されたのだ。
まるで魔法のような攻撃を経験して、この戦いが簡単には済まないことをクマイチャンは理解する。

262名無し募集中。。。:2015/06/27(土) 11:06:16
クマイチャン相手のフクダッシュとかもう立体機動で飛びかかるイメージにしかならないw

263 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/27(土) 12:28:37
クマイチャンが大転倒したおかげで、さっきまで遠かった顔が手の届くところにまで来ている。
今こそ刀で首を跳ね飛ばすチャンスであるとサヤシは頭で理解しているのだが
恐怖のせいかどうしても身体が動かなかった。
逃走中に何度も命を奪われかけたために戦意を喪失してしまったのだろう。
そんなサヤシの頭をカナナンがポンと叩く。

「ええんやで。」
「!」
「ぶっちゃけ私も怖くて一歩も動けへん。でもな、その代わり指示出しだけはキッチリやるつもりや。
 貴方は戦わなくてもいい。ただ、フクさんを護ることだけは気合入れてな。」
「ウチが……護る……」

サヤシを励ましたカナナンはすぐに次の指示に入る。
今が勝負の書き入れ時なので一秒も無駄には出来ないのだ。
4番長の中でアタッカーの役割を担うタケを欠いた現状でも、攻撃のしようはいくらでもある。
勉強番長カナナンは脳をフル回転させて、メイを動かしていく。

「フクさん!5時の方向10歩のところに"ブイナイン"有り!フク・バックステップは出来るか?」
「え?私?」
「フクちゃん、カナナンはメイに言ったんだよ。」
「あ……なるほど、私になりきってるのか。」

メイはカナナンの指示通りに素早くバックステップし、
タケが投げっぱなしにしていた鉄球「ブイナイン」を拾い上げた。
演技の自由度をあげる目的で普段武器を持たないメイだが、これなら敵に決定打を与えることが出来る。
もちろんフクの演技じゃボールは投げられないので、役をタケへと切り替える。

「うおおおおおお!アイラブベースボール!野球以外愛せないぜ!!」

誇張的表現にタケはイラっとしたが、これで勝機が見えてくる。
うまく頭にでもぶつけたらたいへん有利になるだろう。
しかしそれはクマイチャンも十分承知。
デッドボールを喰らうのは御免被るため、まずは上半身を起こそうとする。
ところが、カナナンの指示がそうはさせなかった。

「クマイチャン様は起き上がれない!」
「は!?」

馬鹿げたようなことではあるが、クマイチャンは本当に起き上がることが出来なかった。
頭が何故か重くなってるし、両腕もそれぞれ引っ張られているような感覚がある。
金縛りのようなものなので、フルパワーを出すことでなんとか動けたものの。
その時には既にメイによる速球が投げられていた。
タケのように豪速球とはいかないが、額に命中するには十分なスピードだった。

「あでっ!」

このように見事にペースを掴んでいるカナナンとメイを見て、フクは感心する。
それと同時に、番長に対して一つの疑問を浮かべていた。

(リナプーって人、さっきから見えないけどどこに行ったんだろう?)

264 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/27(土) 12:30:11
実は今、アンジュルムのイベントに来てますw
待ち時間にもっと更新できるかも。

265名無し募集中。。。:2015/06/27(土) 13:39:44
wktk

266名無し募集中。。。:2015/06/27(土) 14:06:35
ビグザムに立ち向かうガンダム想像したw
イベントとは羨ましい…

267 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/27(土) 21:34:33
結局書けず、こんな時間に・・・・・・これから続き書きます。

ただ、イベントのおかげでモチベーションは大幅に上がりました^^
特に3期メンバーとは初握手だったので、はやく第二部に入って登場させたいと思いましたね。

268名無し募集中。。。:2015/06/28(日) 00:55:14
モチベーション上がってこりゃ続きもクマイチャンばりに期待大です

269 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/28(日) 01:56:03
クマイチャンのイライラは相当なものだった。
おでこに受けた鉄球はまだ我慢できるのだが、
たまに身体が言うことを聞かなくなるのが鬱陶しすぎる。
まるで透明人間に転ばされたり、押さえつけられたりしているかのよう。

(まぁそんなワケ……ん?)

透明人間というワードに気づいたクマイチャンは、昔を思い出して背筋を凍らせる。
数年前の大事件で、クマイチャンは「己の姿を極力見えにくくする戦士」と戦ったことがあった。
クマイチャンはフク達から化け物のように思われているが、クマイチャンからしてみたらその戦士こそが本当の化け物。
そして今現在、自身を悩ませている存在が同じ手法を取っていることは十分に有り得る。

(だったら簡単だ。こうすりゃいい。)

クマイチャンはドンと床を叩き、訓練場内を強く揺らす。
そのインパクトは人間の起こしたものとは思えぬほど凄まじく、メイを簡単に転ばせることに成功する。
そしてメイ以外にももう3つ。あちこちから倒れる音が聞こえてきた。

「人間の倒れる音が1つ。あとの2つはなんだろう?小さいな。
 まぁいいや、居ると分かっただけでも十分。」

カナナンの焦りの表情が、クマイチャンの推理が正解であることを裏付けている。
透明人間の正体は4番長の一人、帰宅番長リナプー・コワオールドだったのだ。
彼女は、クマイチャンが化け物と考える戦士の透明化術をマロ・テスクから教わっていた。
もともと影の薄いリナプーにその術はピッタリ。すぐに使いこなすことが出来たという。
しかもダッシュやバックステップで素早く動くメイに対して、リナプーの動きは非常にスロー。
よって、目の悪いクマイチャンには必要以上に見え難かったのだ。
しかしそれもここまで。クマイチャンに同様の足止めは通用しないだろう。
透明人間の存在に気づいた今、クマイチャンはちょっとやそっと邪魔されようと怯みはしない。
メイがまた高速移動で錯乱しようとも、無視して前進する。
クマイチャンの一番の目的はフクを倒すことだったので
鉄球を投げつけられようとも、小さな何かに噛みつかれようとも、動きを止めず接近するのだった。
そしてフクを射程に捉えるなり、自慢の長刀を振るっていく。

「終わりだよ!」
「!!……」

どんなものでもぶち壊す長刀が襲いかかるのを見て、フクはまたも死を覚悟する。
だがそんなことはサヤシが許さなかった。
フクを護る任務を請け負った彼女は、持てる力の全てを居合刀に乗せて長刀へとぶつけたのだ。
破壊力こそクマイチャンに劣るが、それは抜刀の速さ、そして勢いがカバーしてくれる。
ただの一撃防ぐだけで全身がビリビリと痺れるが、なんにせよフクを護ることは出来た。

「サヤシ!」
「良かった……ウチも少しは戦えそう。」

サヤシの行動で状況が好転するのをフク、そしてカナナンは感じた。
ただ戦力が一つ増えただけではない。
メンタルをやられていたサヤシが立ち上がることによって、全体の士気が上がったのだ。
しかもフクとタケの疲労もやや収まってきている。
この状況ならば戦況を次の段階へと進めることが出来るだろう。
それを確実にするために、フクはクマイチャンのもう一つの弱点をカナナンに伝える。

「今のクマイチャン様は、必殺技を使えないはず!」
「そやな、条件が整ってない。てことは決定力に欠ける訳か。」
「そう。サヤシがすべての攻撃を防げば、私たちが負けることは無いよ!!」

270 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/28(日) 16:22:51
アヤチョやマロと同様に、クマイチャンも必殺技を持っていた。
ハルナンは知らなかったようだが、食卓の騎士に詳しいフクや番長らにとっては常識だった。
そしてクマイチャンの必殺技、その名も「ロングライトニングポール」にはとある制約がある事も知っている。
それは、馬に騎乗していない使えないということ。
馬の走行時に空気と肌が衝突することで電気のようなピリリとした感覚を受けるのだが
それによって感性が研ぎ澄まされ、相手を斬るべき道筋が柱のように見えるのがこの技の全貌だ。
つまり足をベタ付けしているクマイチャンには必殺技を放つことが出来ない、というのがフクの見解である。
その通りならば確かにクマイチャンはサヤシのガードを打ち破ることは難しかっただろう。
ただし、それは数年前の話。
今のクマイチャンが昔と比べて成長していないはずがなかった。

「そっか、必殺技を使って良かったんだ。」

クマイチャンのその一言が、フクの肝を冷やした。
普通の相手ならば苦し紛れのハッタリであることを疑ったかもしれないが、
相手は食卓の騎士のクマイチャンだ。嘘をつくメリットがない。
では馬なしでどうやって技を実現するのか?
その答えも、すぐに示してくれた。
「ロングライトニングポール、"派生・シューティングスター"!!」

"派生"。その単語はフクも番長らも聞いたことが無かった。
しかし、ただならぬ異質さは確かに感じられる。
クマイチャンは技の名を言いあげるやいなや、大きくジャンプをして
自身の元々の身長も相まってあっという間に訓練場の天井にまで届いてしまった。
もう十分高くにいるが、クマイチャンは満足しない。
長刀の一振りで天井を木っ端微塵にし、更に上へと上昇する。
それだけでも既に恐ろしいが、これから起こりうることを想像すると吐き気がしてくる。
カナナンの役割は指示出しであるが、こんな指示しか出せなかった。

「みんな……ここから逃げて。」

カナナンに言われるまでもなく一同は蜘蛛の子を散らす勢いで逃走していくが
次のクマイチャンの攻撃の方が速かった。
何故なら彼女は流星ガールだから。

「うおおおおおおお!!」

跳べるところまで跳び切ったクマイチャンは地上へと激しい勢いで落下していく。
その時のクマイチャンがピリリと感じる感覚は、騎乗時のものと同等。
つまり、今のクマイチャンには斬るべき場所を指し示す柱のイメージが見えるのだ。
クマイチャンの狙いは誰か一人ではない。全員だ。
さっきまで立っていた床に、流星の如きインパクトで斬りかかることで
訓練場中の床をグシャグシャにしてしまう。

「うわぁ!!」
「嘘でしょ……こんなことって……」

辺り一面が壊滅した様を見て、フクらは呆然とすることしか出来なかった。
こんな瓦礫だらけの床ではもう走ることは出来ない。
それに、どこに逃げたとしても流星から逃れることなど出来やしないのだ。

「格が……違いすぎる……」

本日何度目かは分からないが、フクはまたも涙を流してしまう。
一度でも伝説の存在であるクマイチャンに勝てると思ったことがそもそもの誤りだったのだ。
格の違いを痛感し、このまま一人一人殺されることしかあり得ないことを誰もが理解する。

271名無し募集中。。。:2015/06/28(日) 21:25:35
クマイチャン強すぎwでも今の世代は当時の食卓の騎士達と比べるとどうも弱腰だな…それだけ平和の時代が長かったって事か

272 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/29(月) 23:25:36
クマイチャンは一つ、また一つ瓦礫を踏みつけながら前へと進む。
長い脚からなる彼女の歩幅なら、フクのところに辿り着くのはあっという間だった。
そしてそれは同時にフクの死が近いことを意味する。
もはやフクも今更抵抗したところで無駄だということは承知しているのだが
ただ一つだけ、結末を変えたかった。

「クマイチャン様、一つだけ良いですか?」
「……なに?」

ここで問答無用で斬るのは簡単だが、それはクマイチャンの騎士道に反する。
殺戮が目的ではないので、辞世の句くらいは読ませてやりたいと考えているのだ。

「えっと、私の命と引き換えにそこにいる皆を見逃して欲しいんです。」
「……!」
「きっとハルナンに言われて遥々ここまでいらっしゃったんですよね?
 ハルナンの目的を叶えるには私の死だけで十分なはずです。
 だからサヤシと、アンジュの番長たちは助けてあげてください。」
「分かった。約束するよ。」
「良かった……」

フクは心から安心する。
未練がないといえば嘘にはなるが、最悪の事態からは抜け出すことが出来た。
もっとずっと長生きしたかったがこれも仕方のないこと。
戦士として生き、戦士として死ぬことが出来るなんて喜ばしいじゃないか。

(願わくば私のヒーローに再開したかったなぁ、生まれ変わったら会えるのかなぁ)

フクが大人しくなったので、クマイチャンは長剣を天高く掲げだす。
このまま一気に振り下ろし、一瞬で命を奪ってやろうと考えているのだ。
痛み無く殺してあげるのがせめてもの情けになるのだろう。
ところがここで事態は急変する。
クマイチャンの剣が突然重くなって、持っていることが出来なくなり、地面へと落としてしまったのだ。

「うわぁっ!!重い!!」

クマイチャンの長刀は元から重かったが、今の重さは通常時の倍はある。
その原因は刀身に十数個もこびりついている謎の石だった。
音も無く、衝撃もなく、いつのまにか剣にくっついていたのである。

「これは、まさか!」

次の瞬間、訓練場の室温が一気に下がったのをフクやサヤシ、そして番長らは感じる。
いくら秋とは言っても、いくら屋根が壊れたと言っても、この凍えるような寒さは異常だ。
それもそのはず。この冷気は錯覚なのだ。
クマイチャンの殺気が一同の身体を鉛のように変えたように、
新たにここに現れた人物は、全てを凍てつかせる程の存在感を放っていたのである。
とても嫌な空気ではあるが、フクは嫌いではなかった。
フクの目からはまた涙がこぼれ落ちてくるのだが
その涙はもう悲しみの涙ではなかった。
待ち望んでいた人物に会えたことによる、喜びの涙なのだ。

「来てくれたんですね……私のヒーロー……!!」
「うちのクマイチャンが迷惑かけちゃって……すぐ反省させるね。」

273 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/29(月) 23:27:10
今の戦士はまだまた弱いですけども
段々と強くなっていく様を描いていきたいですね。

274名無し募集中。。。:2015/06/30(火) 00:51:22
ヒーローあらわる!そしてクマイチャンの冥福を祈ろう…w

275名無し募集中。。。:2015/06/30(火) 11:06:19
そのヒーローは現在違う国の宰相じゃないのか

276 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/30(火) 12:59:21
その戦士はクマイチャンと比べるとあまりにチンチクリンだった。
脚はコンパクトだし、スタイルも良くないし、髪型も変な形のツインテールだし。
だというのに番長らもサヤシも、このチンチクリンからはクマイチャン以上の圧を感じていた。
その存在について僅かながら知っているタケが、隣のサヤシに話しかける。

「あれは、いや、あの方は食卓の騎士のモモコ様だよ、きっと。」
「食卓の騎士!?それにしてはあまり強そうには……」
「それは見た目の話。このオーラを感じてないワケじゃないだろ?」
「うん……全身の血が凍ってしまいそうじゃ……」
「従姉妹の姉ちゃんが言ってた。モモコ様は食卓の騎士で最も恐ろしいって。
 そんな人が助けに来てくれたんだ。フクちゃん助かるよ!」
(従姉妹?タケちゃんの従姉妹もフクちゃんみたいに食卓の騎士の調査をしとるんじゃろか。)

タケの言う通り、新たにこの場に現れたのは食卓の騎士が一人、モモコだ。
食卓の騎士はベリーズ戦士団とキュート戦士団の二つに分かれているのだが、
モモコはかつてベリーズの副団長を務めていたほどの猛者だと言う。
そんなモモコがクマイチャンを見上げながら口を開いていく。

「クマイチャン、あなた大人気ってものをねぇ……」
「モモ!モモは騙されてるよ!」
「はぁ!?」

食い気味にクマイチャンが反論してきたのでモモコは意表を突かれてしまう。

「そのフクって子はモーニング帝国を陥れようと計画してるんだよ!
 だからウチらは最重要同盟国として退治しなきゃならないんだ!そうでしょ?」
「クマイチャン、それ誰から聞いたの?」
「えっ、それは……」
「まさかだけど、団長や副団長の指示もなく勝手に動いてるんじゃないでしょうね……
 私たちのような存在が好き勝手に暴れたら国の一つや二つ簡単に滅んじゃうことを理解しているの?」
「うぅ……」

化け物のようなクマイチャンがモモコ相手に小さくなるのを見て、一同は目を丸くする。
やはり思った通りにモモコは只者では無かったのだ。

「まぁいいわクマイチャン、独断専行については私も人のこと言えないしね。
 で、クマイチャンはどうするの?」
「え?」
「これ以上モーニング帝国で暴れるなら私はクマイチャンを殺すしかないって言ってるの。
 最重要同盟国として、モーニングに害をなす巨人を退治するってこと。」

モモコの発言にクマイチャンは激昂した。
そっちがその気なら、クマイチャンにだって覚悟はあるのだ。

「まだ騙されてることに分からないのか!いくらモモでもウチは斬るよ!?
 もう副団長と団員の関係じゃない。二人は対等なんだ。
 自分だけ死なないとでも思ってるんじゃないの!?」

モモコは溜め息をつきながら、戦闘の準備を開始する。
やはりこうでもしないと事態解決は不可能だと理解したのだ。
そんなモモコに対して、フクが声をかける。

「モモコ様!微力ながら私もお手伝いを……」
「ん、邪魔かな。」
「えっ……」
「ファンレターありがと。嬉しかったよ。でも助太刀はいらない。
 人を庇いながら戦って勝てるほどクマイチャンは弱くないから、あなた達今すぐ出てってくれる?」

277 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/30(火) 13:00:49
モモコとカントリーの関係はゆっくりと明らかにしていきます。

278名無し募集中。。。:2015/06/30(火) 14:08:21
レジェンド対決か

279 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/30(火) 19:42:38
読み返してみたら誤りがあったので訂正します。
サヤシが心の中で「タケちゃん」と呼んでますが、この時点ではまだ親しくないので「このタケって人」に読み替えてください。

もしくは出会って数分で友達認定したということでもいいですw

280名無し募集中。。。:2015/06/30(火) 21:54:02
サヤシが速攻友達?ないないw脳内変換しときます
ってサラッとカントリーも構想に入ってるのか…

281 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/01(水) 21:10:44
フクが食卓の騎士の中で特にモモコを慕っていたことを知るだけに、
サヤシとタケにはモモコの物言いがとても冷たいように思えた。
ところが当のフクは気にするようなそぶりを全く見せておらず
モモコの仰せの通りに、一目散に出口へと向かっていくのだった。

「分かりました、頑張ってください!」
「あ!フクちゃん待って〜」

アッサリと退いたフクにあっけにとられる一同だったが、すぐに後を追いかける。
確かにフクは出来ることならモモコと共に戦いたかっただろう。
それが無理だとしても、憧れの戦士の戦いっぷりを拝見したかったに違いない。
でも、それでモモコが迷惑を被るのは本意ではないのだ。
フクは自分の書いた手紙をモモコが読んでくれるだけで十分に嬉しいと思っている。
ファンとは、そういうものなのかもしれない。

「さて、二人きりになったことだし始めようか。」
「うん。日頃のモモへの恨み、ここで晴らさしてもらうよ。」
「恨み?何かしたっけ。」
「私から大切なものを奪った!!モモに勝って、取り返すんだ!!」
「あぁそういうこと。だって私の方が上手く使えるじゃない。」

まさに二人は一触即発。
待った無しの殺し合いがすぐに始まることを両者とも理解していた。
ところが、此の期に及んでも邪魔者は現れる。
壁に仕込まれていた隠し扉を開けて、モーニング帝国の王であるサユがやってきたのだ。
嫌がるクールトーンを無理やり抱えながら。

「おひさ〜。」
「「サユ!」」

よりによって王が登場したのでモモコもクマイチャンもひどく驚いた。
思えば王国の城内で食卓の騎士が暴れるのは大問題なので、止めに来たのかもしれない。

「どうしたの?喧嘩は辞めろって?」
「とんでもない!続けて続けて。」
「「!?」」
「ベリーズ同士の決闘を止めるなんて勿体無い。じっくり見させてもらうわよ。ねぇクールトーンちゃん。」
「ひぇぇ……は、はい……」

はじめはおかしなことを言うと思ったが、モモコはすぐに意図を理解した。
要するに、サユの眼は未来を見ているのだ。

「そういうことね。別に見学くらい構わないけど、クマイチャンはどう?」
「いいよ!ただ、巻き添えを喰らっても知らないからね!」
「見くびられちゃった。邪魔になるほど衰えてないのにねー。」
(この人たち……怖い……)

282名無し募集中。。。:2015/07/01(水) 23:55:17
大事なものって…なるほどそりゃ納得だけどクマイチャン怒る訳だ

てかクールトーン巻き添えw

283 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/02(木) 12:57:24
「それじゃさっそく……」

クマイチャンはモモコの「謎の石」が十数個くっついた長刀を片手で持ち上げる。
先ほどは不意を打たれたので支えきれなかったが、重くなったことを知っていればなんてことはないのだ。
そしてせっかく持ち上げた刀を勢いよく床へと叩きつけた。
現在の床は瓦礫の山。そこに衝撃が加わったものだから瓦礫の破片は全方位へと飛散する。
攻撃の対象がモモコのみではないことにクールトーンは恐怖した。

「……!!」
「怖がらなくていいよ、これくらい余裕で捌けるから。」

クールトーンを左腕で強く抱きしめたまま、サユは右手のレイピアで全ての破片を叩き落す。
全くの無傷で済んだのでクールトーンは驚いたが、サユは当然と言ったような顔をしていた。
サユはプラチナ剣士時代から(自称)可愛い顔が傷つかぬように回避術を極めていたので
現役を退いた今でもこれくらいのことは容易く出来てしまうのだ。
そうでもなければこんな特等席で戦いを見ようなどとは思わなかっただろう。

「クールトーンちゃん、戦いから目を逸らしちゃダメ。ほらモモコを見て。」
「あっ!?」

サユやクマイチャンと同格であるモモコも当然のように無傷だった訳だが、おかしな点が一つあった。
それはまったく武器を持っていないということ。
破片から身を守る道具が見当たらないと言うのに、全弾防ぎきってしまったのである。

「なんですかあれは!?ひょっとして魔法とけ……」
「何言ってるの、この世に魔法は存在しないのよ?」
「えっ、でもエリポンさん……」
「クールトーンちゃんに課題を与えるわ。今から戦いが終わるまでにモモコの攻撃を一つは見破りなさい。
 それが出来なかったら、クールトーンちゃんはクビよ。」
「ええええ〜!?そんな、難しいです!」
「出来るわ。いつものようにモモコの行動を一つ一つメモするのよ。
 それが出来た時、あなたはただの書記係じゃなくなるはず。
 全ての脅威からは私が守ってあげる。だから、ちゃんとその眼で見なさい。」

284名無し募集中。。。:2015/07/02(木) 23:52:30
モモの攻撃って暗器か…色々恐ろしくバージョンアップしてるんだろうなぁw

285 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/03(金) 08:24:45
今からほんのちょっと前。
まっさきに訓練場から出たフクは、そこで思わぬ人物に遭遇していた。

「あれは……ハルナン?」

遠くてやや見えにくいが、その人物は確かにハルナン・シスター・ドラムホールド。
今回の事件の首謀者だ。
親友アヤチョの服を見繕って、ちょうど指令本部である作戦室に戻るところだったのである。
本来ならばフクはサヤシや番長らと合流するのを待つべきだったのかもしれないが
思わず身体がハルナンを追いかけてしまった。
彼女もマロ・テスク同様に食卓の騎士に熱い思いを寄せる信奉者であったため
クマイチャンを騙したことが許せなかったのだ。
ここで逃せばいつハルナンを討てる分からないため、勝手に身体が動いてしまったという訳なのである。
だが単騎で敵地に乗り込ませるようなことは運命が許さなかった。
フクの次に訓練場から出てきたサヤシはかろうじて走るフクに気づけたので
フクを護るためについていくことが出来たのだ。
しかし他のアンジュの番長らが出てくるのは残念なことに遅かった。
訓練場の床はご存知の通りクマイチャンがグシャグシャにして、非常に歩きにくくなっていたので
脱出時間にタイムラグが生じてしまったのである。
先に出たはずのフクとサヤシが消えていため、タケ達は混乱する。

「え!居ない。」
「ここに留まっててクマイチャン様の餌食になるのはたまらんからな、きっともう何処かに逃げたんやろ。」
「そっか!じゃあ私たちもはやく逃げようぜ!」

せっかく合流したというのに、番長らはもうフクと離れることになってしまった。
特にタケは出来ることならばフクに襲い来る火の粉を直接払ってやりたいと思っていたことだろう。
でも、近くにいなくたってそれは出来る。
城内にまだ多く存在するフクの敵を懲らしめるのが自分たち番長の役目だと理解しているのだ。
だが何かおかしい。
アンジュの4番長はその名の通り4人で構成されているのであるが
この場にはカナナン、タケ、メイの3人しか居なかったのだ。

「リナプーはどうした?」
「おーい、リナプーおるかー?」

返事が返ってこないことから、得意の透明化で消えている訳ではないことは分かった。
それではまだ訓練場に取り残されているのだろうか?
もしそうだとしたら一大事だ。

「どうする?戻る?」
「メイ、お前あそこに戻れるってのか?」
「ごめん無理……プレッシャーで吐いちゃうかも。」
「リナプーは馬鹿じゃないし、きっと一人で上手くやってるんだろ。
 ひょっとしたらフクちゃんのところにいたりしてな。」

286 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/03(金) 08:25:30
モモコの戦闘描写はまだ先になりそうですw

287 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/03(金) 21:07:19
「ヤバイことになってきた〜!!」

訓練場を覗き見ていた連絡担当サユキは焦りを隠せなかった。
流星ガールクマイチャンの落下音が凄かったので何だろうと向かってみれば
そこではモモコがフクに加担していたのだから、驚くなというのが無理な話。
この特ダネを司令担当に伝えるのが役目なので、サユキは急いで作戦室に戻ろうとする。

「モモコ様はクマイチャン様が食い止めるにしても、番長の対策はどうするんだろう。
 やっぱりそろそろ私も戦うべき?ユカニャ王が推薦してくれないかなー。」

サユキ・サルベは自分の実力に自信を持っていた。
純粋な破壊力なら弓矢使いのトモに劣るが、総合力なら負けていないと信じている。
とは言っても立場上、戦闘命令がない限りは連絡係に徹するしかない。
さっさと戻って、ハルナンにありのままを伝えることが最優先事項なのだから。

「ねー、止めてくれない?」

突如、何者かの声が聞こえるのをサユキは感じた。
しかし辺りを見ても誰の姿も見当たらない。
普通の人間ならば空耳かと思ってスルーするところだろうが
サユキはこの声を無視することは出来なかった。
何もないように見えるが、目を凝らすとそこには確かにいる。
サユキはビシッと指差しながら、声の主の名前を叫んでいく。

「リナプー!そこか!」
「!?」

いきなり名を呼ばれたのでリナプーは驚いてしまった。
リナプーは自らを見えにくくする透明化術を得意とするが
かつて共闘したことのあったサユキにはトリックのタネを知られていたのだ。

「こうやって会話するのは久しぶりだね。リナプー。」
「!?」
「数年前のプログラムみたいにまた協力出来ることを期待していたけれども、」
「!?」
「まさか私たちを裏切るなんてね。敵として出会うなんて思いもしなかったよ。」
「!?」
「でもリナプーは私には勝てない!何故なら私には透明化は通用しないから!」
「!?」
「そして私は長年の修行とジュースのおかげで重力を消せるようになったんだ。」
「!?」
「だからこの勝負は私が……って、いくらなんでも驚きすぎじゃない?」
「だって猿が喋ってるんだもん……」
「殺す。」

サユキは愛用するヌンチャク「シュガースポット」を取り出して、リナプーへと殴りかかった。
猿呼ばわりされた怒りと、これまで戦いを抑制されたことによるイラつきがこめられているため
繰り出される打撃はなかなか強力なものになっていた。
しかしその一撃はリナプーには届かない。
「何か透明なもの」がサユキの脚に噛み付くことで攻撃を妨害したのだ。それも2匹。

「痛ぁっ!?なにこれ、犬!?」

サユキを噛んだのはリナプーの武器であり、愛犬でもある「ププ」と「クラン」だ。
この2匹はリナプーと同様の透明化が施されており、しかも飼い主によく懐いている。
リナプーの頼みであれば相手がクマイチャンだろうと立ち向かう忠犬なのである。

「別に敵対心向けてもいいけどさ、司令に連絡だけは辞めてね。
 タケとか、みんなも、今すっごく必死になってるの。
 だからお猿さん、邪魔するようだったらここで寝てもらうよ。」

リナプー・コワオールドとサユキ・サルベ。
犬猿の戦いが今始まる。

288名無し募集中。。。:2015/07/03(金) 23:23:40
ププきたーーーww
犬猿ときましたかww

289名無し募集中。。。:2015/07/04(土) 00:35:56
なるほどそうきたか!w気がつきゃいつめんもいたりして?

290 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/04(土) 18:03:35
クマイチャンの落下音に興味を惹かれたのはサユキだけでは無かった。
捜索隊を引き連れたハル、マーチャン、アーリー達も近くまで来ていたのである。
爆音の件についてハルがアーリーに問いかける。

「なんだったんだろう?あの音。」
「さぁ?流れ星とかですかね。」
「ははは、そんな訳ないじゃん。面白いな。」

近くで一大事が起きているとも知らず、二人は呑気なものだった。
ところがただ一人、マーチャンだけは身体を小刻みに震えさせている。
大自然に囲まれて育ったという経歴を持つため、脅威に敏感なのかもしれない。

「どうしたマーチャン?怖いのか?」
「怖い……けどそれよりも、なんか身体がジンジンする……」
「ひょっとして病気!?」
「違うの!早く誰かと戦いたくてモヤモヤしてるの!」
「だって、サヤシさん居ないんだから仕方ないだろ……
 あのジッチャン達が役立たずだから見つからないんだ。」
「もういい!ドゥーと一緒じゃサヤシすん絶対見つからないよ!
 もうマーが一人で探してくるんだから!バイバイ!」
「お、おい!」

痺れを切らしたマーチャンは通路に向かって走って行ってしまった。
ハルとしては強く引き止めるべきなのだろうが、
サヤシの捜索が最優先なので放ってとくことにした。
そしてそれが結果的に功を奏する。

「ったく、マーチャンは……」
「ハルさん、ハルさん。」
「なに?ちょっと今たいへんなんだけど。」
「あれ、サヤシさんじゃないですか?」
「えええ〜〜!?うわ、フクさんまで!!」

マーチャンとは異なる通路を、サヤシ・カレサス、そしてフク・アパトゥーマが走って通過する。
この二人はまさにハルナンを追いかけている真っ最中だったのだ。
思わぬ収穫を得たので、ハルはニヤリとする。

「やったぞ。フクさんとサヤシさんを倒せば手柄はハルとアーリーちゃんの二人占めだ。」
「え?マーチャンさんは呼ばなくていいんですか? それに手柄は一般兵の人も……」
「マーチャンは単独行動してるからいいんだよ。
 ジッチャン達だってあの二人には手も足も出ないさ。戦力にならない。
 だから、手柄を貰うのはハルとアーリーちゃんの二人だけってこと!」
「はぁ〜〜なるほど。」

291 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/05(日) 12:41:58
「はぁ、私はとっても不幸者。」

周囲が慌しい中、オダ・プロジドリは独りでポツポツと歩いていた。
彼女がハルナンに任された役割は"処刑"。
つまり裏切り者を切り捨てる役目なのだが、その情報が耳に入らないので暇をしているのだ。
アンジュの番長が反旗を翻したので活躍どころはそろそろ来るはずだったが、
その報せよりも早く、思いがけぬ人物が登場する。

「オダちゃん!」
「マーチャンさん?そんなに息を切らしてどうしたんですか……」

ゼェゼェと肩で息するマーチャンを見て、裏切り者速報を届けてくれたのかもとオダは期待した。
だがマーチャンはいつも予想を越えてくれる。
今回もまた、オダの思惑通りには動いてくれないかった。

「もうサヤシすんじゃなくていい、オダちゃん、戦おうよ!」
「はっ!?」

マーチャンの口から飛び出たのは決闘のお誘いだ。
戦闘に飢えるあまり、もはや見境がつかなくなってるのだろう。
また、クマイチャン出現による得体の知れぬ不安感を晴らしたいという意味もあるのかもしれない。
とは言え、オダの立場上そう簡単に果たし状を受け取るわけにはいかない。

「待ってください、仲間同士で戦うのは命令違反ですよ。
 それじゃまるで裏切り者……んん?」

ここでオダ・プロジドリはハッとした。
もしもマーチャンがここで攻撃を仕掛けるのであれば、それは立派な裏切り行為だ。
そしてオダ・プロジドリの仕事は裏切り者を処刑すること。
何の問題も無いではないか。

「……いいですよ。やりましょう。」
「本当!?やったー!だからオダちゃん大好き。」
「私もこの右手の疼きを止めるのに苦労していたとこだったんですよ……」

戦闘に飢えているのはマーチャンだけではなく、オダも同じ。
元よりマーチャンとはどちらが強いか決着をつけたいと考えていたので、好都合だ。

「さぁ、やりましょうマーチャンさん。ルール無しの真剣勝負ですよ。」
「知ってる!!」

バトルが開幕するなり、マーチャンはすぐさまオダに体当たりを仕掛けた。
狙いはオダを背後の扉の向こうに連れていくこと。
自分がどこに運ばれたのか把握したオダは瞬間的に後悔する。
マーチャンは衝動的ではなく、計画的に勝負を仕掛けてきたことに気づいてしまったのだ。

「ここは!まさか……」
「オダちゃん言ったよね。ルールは無いよ。
 ここにあるすべての武器がマーの武器なんだよ。凄いでしょ。」

二人が入った部屋は、ガールズライブのような煌びやかな施設とは対照的だった。
その部屋の名は「モーニングラボ」。
帝国剣士ならびに兵士らが扱う武器や重火器を開発・テストする研究室なのだ。
開発最高責任者としての肩書きを持つマーチャン・エコーチームにとって、ここは庭のようなもの。

「マーチャンさん……少し大人気なくないですか……」
「だってマーチャンまだ子供だもん。」

292名無し募集中。。。:2015/07/05(日) 14:16:41
まーさく対決きた!ってマーチャン開発最高責任者だと!?しかも策士…

293名無し募集中。。。:2015/07/05(日) 16:25:44
マーチャンが肩書き持ちだったとは…

294 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/06(月) 00:39:03
まーちゃんがipadを使いこなしたり、12期にオリジナルCDを作ったりしたらしいので
モーニング帝国の開発役になってもらいましたw

295 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/06(月) 08:42:56
タケ、カナナン、メイの3人はフクを追うために城内を走り回っていた。
先ほどはバテバテだったタケも、もう体力をほぼ回復させている。
もともとフクからそんなに攻撃を受けたというわけではないので
疲労さえ無くなれば元気に戦うことが出来るのだ。

(よし、調子戻ってきたな。これならちゃんと戦えそう。
 天気組団や果実の国にはそこまでヤバそうな奴は居なかった。
 例えカリンが来たとしても問題ない。私はやれる。)

今のタケには迷いはなかった。
旧友フクを「倒す戦い」よりは、「護る戦い」の方が遥かにモチベーションが上がっているのである。
それに今の自分には頭の良いカナナンや、臨機応変に対応可能なメイがついている。
リナプーこそ居ないが、このメンツならばどんな敵でも対応可能と信じていた。
だが、その思いはすぐに断ち切られることになる。
はじめに異変を感じ始めたのはメイだった。

「ねぇ、なんか蒸し暑くない?」
「そやな……なんかジメジメしてるような」

季節はもう秋だというのに梅雨の時期のような湿度の高さだ。
さっきからこれが続いているのならまだ分かるが
急にムワッとしてきたのでおかしく感じるのも無理はない。
そして番長の中では唯一タケだけがこの異常の正体を知っていた。

「嘘……だろ……そんな馬鹿な……」

元気を取り戻しつつあったタケがいきなり腰を抜かしだすので、二人は驚いた。

「どうしたのタケちゃん!?」
「終わりだ。私たちはもうここで終わりなんだ……」
「弱気なこと言うなんてタケちゃんらしくもない!
 クマイチャン様のこと恐れとるんか?それならモモコ様がちゃんと……」
「違う!クマイチャン様よりもっとヤバいんだ!!
 残念だけど、もうフクちゃんを護れない……」

タケがそう言うと同時に、向こうの通路から強烈な暴風雨か襲いかかってくる。
雨粒が身を打つ痛みは非常にリアルなものだったが、これは現実ではない。
クマイチャンが全身を鉛に変えたように、モモコが冷気で体中の血を凍らせたように
この大雨も何者かによるプレッシャーが生んだイメージだったのだ。
まるで向こうから台風そのものが迫り来るような重圧に、カナナンとメイも恐怖する。

「タケちゃん!そこに居るのはひょっとして……」

言い終えるよりも早く、カナナンは何者かに鳩尾を殴られてしまった。
あまりの早業にタケもメイも全く追いつけない。
そして身構える前に、カナナン同様に2人も腹に強打を受けることになる。
まさに神速とも言えるその存在は、タケとメイが崩れ落ちるのを見届けながら口を開く。

「ついさっきハルナンから聞いたぞ、お前らも反乱軍に加担したんだってな!
 足腰立たなくなるまで性根を鍛え直してやるから覚悟しろ!!」

タケの身体の震えは最高潮になる。
過去にこの闘士から何度も何度もボコボコにされた記憶が蘇ってきたのだ。
この人にはもう勝てないと、遺伝子レベルで刷り込まれている。

「特にタケ!お前がついておきながら何をやってるんだ!」
「マイミ……姉ちゃん……」

その名はマイミ。
食卓の騎士に2人存在する騎士団長の1人だ。

296 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/06(月) 08:53:02
各所でのマッチアップは完了しましたので、
これからはそれぞれの戦いをひとつずつ書いていきたいと思います。
全部終わるのはいつ頃になるのだろう、、、

297名無し募集中。。。:2015/07/06(月) 09:19:23
助っ人二人ってもう一人はアヤチョ王かと思ってたらまさかのマイミ団長だったとは…そしていきなり腹筋チェック(腹パン)w

なんか食卓の騎士が敵になったときの絶望感…読んでて胃がキューっとなる

298名無し募集中。。。:2015/07/06(月) 14:33:45
ハルナンに騙されるのがクマイチャンとマイミてのが天然系てのが何ともリアリティーが有るなw

299名無し募集中。。。:2015/07/06(月) 16:15:48
うおー団長きたああああ

300 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/06(月) 17:54:41
術順なゲストがアヤチョ王で、
食卓の騎士の中でも扱いやすい2人がクマイミですね。

第一部にベリーズを出し過ぎてもちょっとアレなので
これ以上、食卓の騎士は登場しないと思います。

ちなみに腹筋チェックは意識してませんでしたw
面白いのでそういうことにします。

301 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/06(月) 18:06:08
位置関係が分かりにくいのでまとめました。
多分間違ってないはず。

・作戦室
 アヤチョ王、ユカニャ王

・作戦室へと続く通路
 ハルナン

・ハルナンへと続く通路
 フク、サヤシ
 ハル、アーリー、ジッチャン達

・どこかの通路
 タケ、カナナン、メイ
 マイミ

・訓練場
 モモコ、サユ王、クールトーン
 クマイチャン

・訓練場そばの通路
 リナプー
 サユキ

・モーニングラボ
 マーチャン、オダ

・医務室
 カノン、マロ
 トモ、カリン

・所在不明
 エリポン
 アユミン

302名無し募集中。。。:2015/07/06(月) 18:16:54
所在不明・・・夢のスベリーズ対決か!?

腹筋チェック狙ってたんじゃなかったのかw

303名無し募集中。。。:2015/07/06(月) 19:05:33
カノンとマロってややこしいなw

304 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/07(火) 08:37:26
ガチャン、ガチャンといった金属音を鳴らしながら闘士は接近してくる。
両手にはナックルダスター、両脚には金属製の義足。
そして鋼よりも硬く鍛えられた肉体美こそがキュート戦士団団長、マイミの武器なのだ。
脂肪を極限まで削ぎ落としたその肉体は他の誰もが追いつけないほどの瞬発力を産む。
一回の戦闘で特大ステーキ1枚分のカロリーを消費するほど燃費が悪いのが玉に瑕だが
それを差し引いてもマイミは強すぎた。
これだけの戦士を雇うことから、ハルナンの万に一つも王座を逃したくないという思いが伺える。

「やばいよタケちゃん……メイたち、ここで死んじゃうの?」
「それはない。私たちは全員生き残るよ。」
「ほんと!?」
「ただ、死んだ方がマシかもしれないけどな……」

タケの言うように、マイミは番長らの命を奪うつもりはさらさらなかった。
常に死を意識して強くなったクマイチャンと違って、彼女は味方と共に生きることで強くなることを信条としている。
苦しいサーキットトレーニングをみんなで乗り越えることを生きがいにもしているため、
出来ることならば番長らにもそれを強いて成長してもらいたいと思って来たのだ。
ただし、それはあまりにもスパルタすぎていた。
同じ食卓の騎士であるキュート戦士団の部下でさえもマイミとの訓練時には嘔吐するほどなので
それよりは明らかに弱い番長たちがどうなるのかは想像に難くない。

「私語を謹め!まだブートキャンプは始まったばっかりだぞ!」

マイミは倒れていたタケの胸倉を掴み、強制的に起き上がらせた。
理由はもちろん苦しんでもらうため。
立派に生きて欲しいという愛情をこめて、タケの腹へとラッシュを決める。

「100発!」

マイミは1秒間に10発という超高速の左ジャブをタケのポニョポニョのお腹に叩きつける。
途中で吹き飛ばされないように胸倉を掴み続けるあたりはさすが名トレーナーだ。
一撃一撃の威力を抑えているためタケの腹が突き破られることは無いのだが
10秒間も地獄の苦しみが続くのを思えば、一撃で殺してもらった方がずっと楽かもしれない。
全てのラッシュが完了した時、タケは胃の中の全てを完全に吐き出してしまう。
マイミの身体にもいくらか嘔吐物が付着してしまったが、彼女はそれを全く気にしない。
むしろ吐くほど頑張ってくれたことを嬉しく感じているのである。
これならば番長らの更生も近い。そう心から信じていた。

「よし!タケは休憩ーっ!!次はどいつだ!?」
「「うわあああああ!!」

305名無し募集中。。。:2015/07/07(火) 09:21:59
怖えええええ!

306名無し募集中。。。:2015/07/07(火) 09:30:16
ブートキャンプってwできっと満面の笑みでしてるんでしょこれ?トラウマになるわ・・・

307 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/07(火) 20:44:59
メイとカナナンは必死で逃げようとしたが、マイミの俊足の前では無意味だった。
手足に金属を装着しているというのに、あっという間に追いついてしまう。
そしてマイミがメイを目掛けて手を伸ばしたことから、次のターゲットも明らかだった。

(私ぃ!?やだやだやだ!!)

メイは頭をフル回転させて、誰に演技すればこの状況を回避できるか必死に考えた。
はじめに浮かんだのはマイミと同じ食卓の騎士のクマイチャンだったが、すぐに却下する。
クマイチャンの強さはあの巨体と長刀があってこそなので、メイが演じても何にもならないのである。
ではモモコはどうかとも思ったが、そもそも演じるのに十分なほど観察していない。
フクになってフクダッシュ……したところで俊足には勝てないだろう。
タケに変身……しても無意味だ。張本人が吐かされたばかりなのだから。
カナナン……頭の良さまでは真似できない。
リナプー……影の薄さはトレース出来ても透明化術は使えない。犬もいないし。
三舎弟の誰か……まだ早い。(メタ的にも)
マロ……むしろ弱くなりそう。あのスタイルで強いのはマロ本人だけだ。
アヤチョ王……行けるかも!?と思ったが、周りにはテンションを上げる美術仏像グッズが存在しない。

(うわあああ!誰を演じてもダメじゃない!)

気づけばメイはマイミに胸倉を掴まれていた。
このままタケのように100連ラッシュを受けるしかないのだろう。
気が重すぎるが受け入れるしか道はない。

(こうなったら仕方ない、覚悟を決めるか。)

メイは決心した。
とは言ってもただ諦めるという訳ではない。
全て受けきる覚悟を決めたのだ。

「ちょーっとだけ待ってもらえませんか!」
「なんだ?長くは待たないぞ。」
「ヘアメイクの時間だけください!」

メイはノーメイクだった。
演技の幅が狭まるのを嫌うため、いつでもフラットでいられるように常日頃からすっぴんで生活しているのである。
しかし、やらねばならない時だけは話は別。
ここぞという時にはマロ・テスクから教わった化粧をして気合を入れるのだ。
そのメイクの名は「ヤンキータイプ」。
スケバン風の塗りに加えて、髪型をオールバックにした今のメイは迫力満点。
まさに番長という肩書きに恥じぬ見た目へと変貌した。

「こっから本気で行かせてもらうんで、世露死苦ぅ!」
「お前、さては不良だな!更生しがいのある奴め!」

308 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/08(水) 07:46:39
今から数年前のとある日。
旧スマイル王国(現アンジュ王国)の裏番長カノン(現マロ)は他の番長らを呼び寄せていた。

「今日はあなた達にメイクを教えてあげる。お年頃の女の子はみんなするものよ。」
「アヤはメイクしたことないよ!」
「アヤチョは黙ってて!向こうでユーカとでも遊んでなさいよ!」
「ユーカちゃんはもういないよ……」
「あっ!……ま、まぁそれは置いといて、今から教えるメイクは特殊なメイクなの。
 かつて食卓の騎士が束になってようやく倒せたくらいの、超超強い剣士が得意としていたのよ。」
「あははは、食卓の騎士より強い人間がいるわけないじゃん!」
「ほんまやで、カノンさんたまにアホやわぁ」
「いたの!!」
「クマイチャン様よりー?」
「んー、クマイチャン様よりちょびっとだけ強かったかな。」
「カノンさん、この前クマイチャン様が世界で一番強いって言ってたのに。」
「うるさい!とにかく教えるわよ!
 まずタケちゃんにはスポーツタイプを教えてあげる。」
「スポーツ!?私にピッタリ!」
「カナナンにはガリ勉タイプかな。」
「なんですかそれー!」
「リナプーは道端タイプね。きっと使いこなせるはず。」
「み、道?……」
「それとメイメイは、消去法でヤンキータイプ!」
「消去法!?女優タイプとか歌手タイプとかないんですか!!」
「無いわ、我慢しなさい。」
「まぁいいですよ、私はプライベートでメイクなんて一生しませんもんね。
 私がする化粧は舞台化粧だけです!!」
「まぁいいから覚えるだけ覚えときなさい。いつか役に立つ日が来るんだから。」

時は戻って現代。
メイがヤンキータイプになったのを見て、タケとカナナンは当時のことを思い出していた。
そして、自分たちの化粧が汗で流れ落ちていたことにも気づきだす。

「あれ、フクちゃんと戦ったときはちゃんとしてたのに……」
「化粧直しせなあかんな。メイが時間を稼いでる今のうちに!」

今のメイは10秒間のラッシュをちょうど受け終えたところだった。
苦しさのあまり血反吐を吐いているし、膝もガクガクと笑っているが
マイミを睨む目だけはキッとしていた。

「自分まだ全然余裕なんスけどぉ!!」
「私の連打を耐えただと?……面白い奴だ!もうニ百発!!」

309名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 08:52:29
やっぱりあの人の技だったか…リナプー道端w番長達にピッタリなメイクだわ

310名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 12:33:26
なんだろ?

311 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/08(水) 13:00:36
メイの飛躍的な耐久力向上はマロから教わったメイクによるものだが、
体内に取り入れるジュースでもあるまいし、化粧自体に身体能力を強化させる効果は無かった。
では何かと言うと、メイクの真価は自己暗示にあったのだ。
スポーツ風、ガリ勉風、ヤンキー風のメイクを自らの手で行うことによって
自分の中のそういった面を平常時以上に脳が引き出しているのである。
ただ、リナプーの道端タイプに関しては他のメイクとは意味合いが異なってくるため、
これについてはいずれ説明することにする。

「押忍!もっと気合い入れたいんでぇ!これも着けていいっすかぁ!!」
「なんだそれは、ガラスで出来た仮面か?……
 これ以上やる気満々になるなんて素晴らしいじゃないか!着けてみろ!」
「押忍!でもそしたら顔はやばいよ、ボディーにしな!ボディーに!!」
「お、おう、割れたら危ないからな。」

メイは尊敬する70年代〜80年代女優のセリフを真似してみたが、マイミには伝わらないようだった。
それはさておき、メイミが持ち出したのは「キタジマヤヤ」と名付けられたガラスの仮面だ。
普段武器を持たないメイにとって、これが唯一の武器と呼べるかもしれない。
仮面自体には効果は何もないが、これを顔につけることでメイは自分を大女優だと思い込むことが出来る。
そう、メイクと似た効力を持っているのだ。
いつも他人の演技をするときもガラスの仮面を着けているのだが、
今回はそこに更にヤンキータイプが加わっているので、思い込みと思い込みの相乗効果が発生する。
ただでさえメイはアヤチョについていって一緒に滝に打たれるほど根性が有るというのに。
ここまでしたら彼女の忍耐力は留まることを知らない。
ヤンキーを通り越して伝説の総長クラスの演技になるだろう。

「よーし仮面をかぶったな!じゃあ改めて200発!」
「マイミさん、もう100とか200とかまどろっこしいのは辞めにしましゃうや。」
(なんだ?……また雰囲気が変わったな……)
「これは女と女の勝負っすよ。ぶっ倒れるまで思う存分やってくださいよ。
 死ぬ気で持ちこたえてみせますんで、
そこんとこ世露死苦。」

この時マイミに電撃が走る。
はじめは国を脅かす小悪党に見えたが、ここまでの男気、いや女気を魅せてくれるなんて思いもしなかった。
これほどの根性の持ち主は食卓の騎士にも珍しい。
だからこそマイミはその思いに応えることにした。

「よく言ったぞ!ならば無限のラッシュを見せてやる!!
 女と女、どっちが先に音を上げるかの勝負だ!!」

312名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 13:53:10
やめてー!メイメイ死んじゃうーw

313名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 13:55:21
マイミの背中に鬼の貌が!

314名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 14:14:49
マイミこえーよ

315名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 14:38:26
マイミの本気が見れる?

316 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/09(木) 02:57:07
マイミはさっき以上の高速連打をメイの腹筋にぶつけていく。
100発もらっても200発もらっても終わることのないラッシュパンチはさぞかし苦痛だろう。
実際、メイの表情はヤンキータイプになったにもかかわらず、どんどん曇っていっていた。
だがいくら苦しくても音を上げるわけにはいかない。
その理由は、タケとカナナンがまだここに留まっているからに他ならなかった。
いくらでも逃げられる隙はあったのだが、二人はメイの行動に心動かされたのだ。

「タケちゃん、身体休めながらでええから少し教えたって。」

カナナンは左手に大きなソロバンを掲げながらタケに問いかける。
このソロバンこそがカナナンの武器。その名も「ゴダン」と言う。
見た目の通り、この武器の攻撃力は全くの皆無であるが、
これを弾きながら考え事をする時のカナナンは百人力だとタケは思っていた。

「カナナン本気なんだな……分かった、なんでも聞いてよ。」
「じゃあ早速。マイミ様の攻撃法がパンチだけなのはどないして?
 あんなに立派な金属の脚をつけとるんやから、キックしたらええのに。」
「それはな、マイミ姉ちゃんの蹴りが強すぎて義足の方が持たないんだよ。
 うっかり壊して困ってるのをよく見たことある。」
「耐久性より軽さ重視ってことか?」
「いや、なんか鉄だとモモコ様を相手にする時に困るって言ってた。」
「ふぅん、なるほど……じゃあ次の質問いくで。
 タケちゃんが本気でマイミ様を殺すとしたら、どこを狙う?」
「殺せるわけない。」
「それは感情論?」
「いや本当に。あの肉体はマジで鋼だよ。私の鉄球を100回ぶつけてもピンピンしてると思う。」
「そうか、なら最後の質問や。タケちゃんの野球の師匠は誰やったっけ?」
「知ってるだろ。マイミ姉ちゃんだよ。野球の世界でもバケモノだぜ。」
「なるほど。じゃあタケちゃんと違って野球のルールには詳しいってこと?」
「なんだよ私と違ってって……まぁ、詳しいと思うよ。
 細かいのは把握してないっぽいけど、まったく知らなかったらあんなに上手いわけない。」
「そうかそうか、よし分かった。」
「分かった……って?」
「マイミ様を倒す方法、分かったで。作戦Uや!」

ソロバンの球をパチンと弾くと、カナナンはマイミを指差していく。
そこでは限界を迎えたメイがちょうど膝から崩れ落ちるところだった。
こうなったメイに対して追い打ちをかけることなどマイミは決してしたりしない。
次に鍛えるべきは他のメンバーだと思っているのだ。

「逃げずに待っていたのは立派だな。さすがあの不良の友達だ。
 次はソロバン少女、お前の番か!?」

カナナンにラッシュを仕掛けようと近寄るマイミだったが
その前に、先ほど打ちのめされたばかりのタケが立ちはだかる。
作戦名を聞いただけでタケはカナナンの意図を理解していたのだ。

「マイミ姉ちゃん!私と野球で勝負だ!」
「!?」

317 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/09(木) 13:26:31
タケが鉄球「ブイナイン」を握って振りかぶれば。そこはもうピッチャーマウンドだ。
マイミもバットが無いなんて野暮なことは言わない。
拳に装着したナックルダスターでホームランを決めてやろうと考えているのだ。
普通の人間なら鉄球をパンチで打つなんて無理な話だが、食卓の騎士であるマイミになら問題なく出来る。
なんなら頭や肩でも軽々と場外まで飛ばすことだって可能だろう。
それも全部承知の上で、タケが第1投を放っていく。

「おりゃぁっ!!」

久々の野球に胸を躍らせたマイミだったが、タケの投球を見てガッカリしてしまった。
その結果はなんと大暴投。球はあさっての方向に飛んで行ってしまったのである。
もしも審判が居ればボールの判定をするはずなので、マイミは深追いをしなかった。
そして、怒りの表情でタケへと詰め寄ってくる。

「なんだその気の抜けた投球は!従姉妹として、そんな風に教えたことは一度もないぞ!!
 あの不良の後だから何かやってくれると思ったが、とんだ期待外れだな。
 お仕置きに無限ラッシュを喰らわせてやる!!」
「気の抜けた?それは当然でしょ。遊びなんだから。」
「な、な、なんだと!真剣勝負に全力で挑まなかったというのか!」
「真剣勝負なんかじゃない。私がやったのはただのキャッチボールだよ。」
「……なに?」

この瞬間、マイミはあることに気づいた。
さっきまでタケの近くにいたはずのカナナンが消えているのだ。
こと戦闘においてマイミが敵を見逃すことはありえないのだが
バッターがピッチャーに集中しないのは失礼にあたるため、
マイミは周囲に対して一時的に注意を払っていなかったのだ。
ではカナナンはどこか?
タケのキャチボールの相手がカナナンだとしたら、その居場所は……

「後ろか!」

マイミが振り向いたその時、カナナンはタケから受け取った鉄球を投げようとしていたところだった。
さっきまで慌ただしかったマイミも、その様を見て少しホッとする。
いかにもか弱そうなカナナンの投球なんて全然怖くないし、
そもそもマイミの身体は鉄球を何発も受けようがビクともしないのだ。
第一、勉強ばかりやってそうなカナナンがボールを真っ直ぐ投げられるかどうかも怪しいものである。
そういったマイミの一つ一つの決めつけが、番長らに有利に働いていく。

(おや?このソロバン少女、投球フォームはなかなかどうして綺麗じゃないか。)

マイミが頭の中で思う通り、カナナンは完璧に近いフォームでボールを投げていた。
そしてそれに見惚れるあまり、自分にボールが迫ってきてもマイミは動けなかった。
近くまで来ても、すぐそこまで来ても
そして、ぶつかる寸前でボールの軌道が真下方向へと変化しても動くことが出来なかった。
気づいた時にはもう遅い。
マイミの身体の中で最も脆い、「義足」が鉄球との衝突で壊されてしまったのである。

「な、なんだと!こんな事が……!」

片足とは言え、脚を破壊されたのだからマイミはその場で転倒してしまう。
全てはカナナンの計画通り。
マイミが野球に真摯に向き合ってくれたからこそ、この成果があるのだ。
マイミは人を見た目で判断したことを恥じながら、カナナンに問いかける。

「待ってくれ、そのフォームはどこで習得したんだ!?」
「尊敬するプロからみっちり教えてもらいました。後は地道な反復練習の賜物です!」
「そうか……どうやら私はお前達を見誤っていたようだな……」

318名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 14:52:06
まさかの上原かw

319名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 15:32:34
上原フォームくるとはw

320 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/09(木) 21:02:41
カナナンは感激していた。
自分の考えた作戦で、伝説とも言うべき食卓の騎士を倒せたことがとても嬉しいのだ。
しかも相手はキュート戦士団長のマイミ。これはもういくら自慢してもし尽くせない。
だがこれも自分だけの成果ではないことをカナナンはよく分かっていた。
メイが苦しみに耐えながら時間を稼いでくれたこと。
タケがマイミを倒すための情報を教えてくれたこと。
どれ一つ欠けても勝つことは出来なかっただろう。
なので、カナナンは感謝の気持ちを伝えることにした。

「ありがとな、タケちゃん。」
「おう!で、次の作戦は?」
「ん?」
「焦らすなよ、時間はそんなに無いんだぜ。」

ここでカナナンは変だなと感じた。
たった今マイミを倒したばかりだと言うのに、何を言っているのだろうか。

「作戦ってなんのこと?マイミ様ならもう……あっ!」

ここでカナナンは見てはいけないものを見てしまった。
出来ることなら見間違いであって欲しかったがそうにもいかない。
マイミが片足で立ち上がり、ケンケンで接近してくる姿は紛れも無く現実だった。

「さぁお前達!これからラウンド2が始まるぞ!
 次は何をするんだ?フットサルなんか面白いかもな!!」

あまりの光景にカナナンは呆然としてしまった。
だが考えてみれば当たり前のことだった。
伝説の存在があの程度でリタイアする訳が無かったのだ。

「お、おいカナナン、ひょっとして策は無いんじゃ……」
「無いわ!こんなん逃げるしかあらへんやろ
!」

カナナンは白目で気絶するメイを担いでは、ソロバンを靴の裏にセットする。
そして地面を蹴ることで、あたかもローラースケートのように滑りだしたのだ。
そのスピードはソロバンだからと馬鹿にできるようなものではなく
タケの全力疾走に並走する程度は速かった。

「待てお前ら!もっと筋肉と語り合おうじゃないか!」

どうやらカナナン達はすっかりマイミに好かれてしまったようだ。
台風のような殺気を放たれるよりはマシかもしれないが、これはこれで逆に怖い。
しかもケンケンのテンポも段々と早くなっていっているような気もする。

「おいカナナン!このままじゃ追いつかれちゃう!」
「やばいな、とりあえずそこの部屋に逃げ込むんや!」

321名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 22:17:24
筋肉と語り合うってwだんだんマイミが松岡修造に見えてきたww

322名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 22:57:34
笑顔でケンケンして追いかけてくるのめっちゃ怖いわw

323名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 00:12:51
マイミ暑苦しいわw

>なんか鉄だとモモコ様を相手にする時に困る
これはどういうことだろう?
後々わかるのかな

324名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 00:18:43
>>323
>>272
鉄の義足でこれやられたらって考えたら…w

325 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 12:18:33
確かに修造化してますねw
違いは晴れ男か雨女かってとこくらいでしょうか、、、

鉄製ではないくだりはいつか話すとは思いますが
皆さんのご想像の通りです。

326 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 12:46:57
とある部屋に飛び込むや否や、カナナンは扉を施錠する。

「間一髪助かった……さすがにもうこれで安心やろ。
 いくらマイミ様とは言っても、扉を破るほどの破壊力は持ってへんはずや。
 何発も殴られたメイがまだ生きてるのがその証拠。」

そう言いながらカナナンはメイの頭をなでていく。
苦痛のあまり気を失ったメイだったが確かに息をしている。
マイミはスピードこそ脅威ではあるが、攻撃力自体は並だとカナナンは踏んだのだ。
しかし、タケはその意見に反発する。

「あれがマイミ姉ちゃんの本気なわけないだろ……本気の時は、もっと、こう。」

タケが説明しようとしたその時、扉からバリバリバリといった異音が聞こえ始める。
その音の正体がマイミによるものだということはすぐに気づくことが出来た。
だが、二人ともせいぜい怪力でドアノブを壊した程度を想像していたのだが
現実はもっと酷かった。

「ひぇぇ……ド、ドアが……」

なんとマイミは全力で扉を開けようとするあまり、ドアそのものを捻じ曲げてしまったのだ。
しっかりした構造の扉がグニャリと歪み出したのでカナナンとタケは恐怖した。
これがマイミのフルパワーなのである。
補足しておくが、タケやメイを殴るときは決して手を抜いていた訳ではない。
その際は相手の腹筋を鍛えるために力を微調整していたのだ。
流石は世が平和になった時に「いっそ就職をするとなったならインストラクター?」と思っただけはある。

「ど、ど、ど、どないしよタケちゃん!」
「待てカナナン!なんか音が止まってないか?」

タケの言うとおり、バリバリといった扉の捻じ切れる音はいつの間にかしなくなっていた。
おそらくはマイミ自身も扉を壊したことにショックを受けて、どこかに謝りに行ったのだろう。
マーサー王国の扉はマーサー王およびマイミ対策で頑丈に出来ているので、少し気の毒な話ではある。
なんにせよ、怪物から逃走することに成功した二人はホッとした。

「よかった〜ウチら助かったんやな。」
「あぁ、マイミ姉ちゃんさえ居なけりゃもう怖いものは無いぜ!」

一息つく二人だったが、その安息の時間も僅かなものだった。
もともとこの部屋にいた人物に話しかけられることで事態は急変する。

「タケちゃん、カナナン何やってるの? そこで倒れているのはメイメイ?」

声の主は、アンジュ王国の王、アヤチョだった。
同じく部屋にいたユカニャ王とともに目をパチクリさせている。
そう、タケとカナナンが逃げ込んだ部屋は作戦室だったのである。
マロの言葉を思い出したのか、アヤチョは鬼神の表情で二人を睨みつける。

「ハルナンを裏切ったんだってね!許さない!許さない!許さない!」
「「うわああああああああああ!!」

327 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 12:52:25
★おまけ

マイミ「参ったなぁ〜扉を壊してしまった。……ん!あそこで一人歩いているのは番長の誰かじゃないか?
 顔はよく覚えてないが背格好が似てるし間違いない!おーい!」
???「え、な、なんですか?」
マイミ「やっと捕まえたぞ!さぁ筋肉との対話だ!」
???「え、え、え、え」
マイミ「もうアンジュの番長は一人も逃がさん!朝までトレーニングだ!」
アユミン「わたし番長じゃないんですけど〜〜!?」

おしまい。

328名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 12:57:23
番長…不幸過ぎるw

アユミンも不幸…てかユー○と間違うって!wてか一時期王国で雇ってたはずなのに

329名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 13:11:03
アユミンが間違われるのは鉄板ネタ化しつつあるなw

330名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 13:20:44
なんか色々とカオスにw

331 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 21:29:48
ー モーニングラボ。
そこにはマーチャン・エコーチームの統括する技術開発部制作の最新武器がズラリと並んでいた。
ところが責任者であるマーチャンの武器は意外とローテク。
なんと彼女は木刀を使うのだ。
それを取り出したマーチャンを見て、オダは頭を抱えだす。

「分かってはいましたが本当にやるんですね……ここ、密室なんですけど。」
「うふふっ、だってマーチャンは曇りの剣士だもん。」

そう言うとマーチャンは木刀「カツオブシ」にマッチで火を点け始めた。
木製の剣はとてもよく燃えて、よく煙を焚いてくれる。
これこそがマーチャンが天気組の中で「曇りの剣士」と呼ばれる所以。
彼女は黒雲のごとき火煙で相手をいたぶることを得意としていたのだ。
特に今回のような密室ではマーチャンの攻撃は「熱い」「煙たい」では済まされない。
煙の充満が一定量を越えると、相手に一酸化中毒を引き起こすことも可能だ。
こんな武器が他に存在するだろうか?
だからこそマーチャンは剣士でいながら、切れない剣を好んで使用しているのである。

「あとねー、今日は試してみたい武器がいっぱいあるんだ。
 なんかミチョシゲさんにお願いされてね、マーチャン頑張って作ったんだよ。」

マーチャンは木刀を最も好んで使用する。
だが、使うのが木刀だけとは誰も言っていない。
試作品である「スケート靴」「忍刀」「両手剣と投げナイフのセット」をこの場でテストしようと考えているのだ。

「なんですかそれは……」
「知らない。いつか使うんじゃない?」

332名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 23:35:37
マーチャンはレイナの「カツオブシ」を使うのか!アレンジしてあの技の欠点を補ってるだと?

そしてついにあのメンバー達の武器(仮)が…イメージ通りだけどさてどんかカラクリがあるのやら

333 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/12(日) 14:26:23
はい、マーチャンの木刀は前作から受け継いだものになります。
他の武器についてはノーコメントでw

334 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/12(日) 15:54:36
火煙と、多種多様な武器。
それだけがマーチャンの強みではないことをオダ・プロジドリは知っていた。
取り返しのつかなくなる前にマーチャンを倒すために
オダは「レフ」と名づけられた幅広のブロードソードでマーチャンに斬りかかる。

「たぁ!」

研修生時代、トップクラスの成績を収めていただけあってオダの突き出しは見事なものだった。
基本に忠実なのはもちろんのこと、更にワンポイントのアレンジを加えている。
この一工夫によってオダの攻撃は「回避不可能の一撃」へと昇華されるのだ。
オダの狙いはマーチャンの首。
ブロードソードではギロチンのように切断することは難しいが
首を深く傷つけることによって戦意を喪失させることはできるだろう。
オダの「回避不可能の一撃」ならばそれは容易い作業だ。
ところが、マーチャンがそうはさせなかった。

「オダちゃんの攻撃、丸見えだよ。」
「あ!……」

マーチャンはスケート靴の片方を拾い上げると、素早くブロードソードにぶつけていく。
このスケート靴の裏側のエッジ部分は刀剣の刃のように鋭く、
斬撃を防ぐことが出来るようになっているのだ。
アテが外れて青ざめているオダを見ながら、マーチャンが問いかける。

「オダちゃん、オダちゃんの剣を作ったの誰だっけ?」
「マーチャンさんです・・・・・・」
「そう、マーチャン。だからその剣の弱点も全部知ってる。
 ちょっと部屋を暗くしたら、その剣はもうただの剣だよね。」
「・・・・・・」

確かに今のモーニングラボは薄暗かった。
これはマーチャンがオダの特殊技能対策として、あらかじめ照明を絞っていたためである。
現在のこの部屋の明かりはマーチャンの木刀で燃える火のみと言っても差し支えないレベルだ。
この程度の光では、オダ・プロジドリは輝かない。

「それとね、オダちゃんの攻撃、覚えたよ」
「くっ・・・・・・」

オダが危惧していたマーチャンの最大の特徴。
それは異常なまでの学習能力だった。
どんな攻撃だろうと、一回経験すればマーチャンは次からは対応出来てしまう。
そのためオダは真剣による攻撃を覚えさせる前に倒したかったのだが、それが叶わなかった。
毎回異なる攻撃法を繰り出さなければ、マーチャン・エコーチームを倒せない。

335名無し募集中。。。:2015/07/12(日) 18:07:39
チート杉だろw

336名無し募集中。。。:2015/07/12(日) 20:44:36
聖闘士マーチャンだなw一度見た技は通じないとか…さすが天才

337 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 02:47:15

(参ったわ、これじゃあ私はただの一流剣士・・・・・・)

得意技を封じられたオダは困り果ててしまった。
こうなってくると持ち前のセンスとテクニックで対応するしか無くなってくる。
だがオダ・プロジドリはここで敗北して、ハルナンとの約束を破るわけにはいかなかった。
"ハルナンが選挙に勝った暁には、すぐにでも帝王を斬らせてくれる"
この約束はオダにとってそれほどに魅力的なのだ。

(だから決してしくじるわけにはいかない。どんな手を使おうとも!)

オダは行儀悪くも棚をガン!と蹴飛ばし、そこに乗っていた武器を床へと落とした。
ここに並ぶ数々の剣はちょっとやそっとの衝撃を受けたくらいで壊れるようには出来ていないのだが
そこはやはり開発者のサガか、マーチャンはそちらに注意を向けずにはいられなかった。

「あ!オダちゃんなにするの!」

スケート靴にかけられた力が弱まったことを確認したオダは、
マーチャンが落下物に目を配っているうちに瞬時に背後へと回り込む。
そしてブロードソードをマーチャンの背中へと思いっきり振り落としたのだ。

(くらえ!)

「武器の乗った棚を蹴られた経験」は無いためにマーチャンは簡単に背後を許してしまったが
「背後に回りこまれて模擬刀を背中に当てられた経験」なら訓練中にあった。
少しでも過去の経験に該当していればマーチャンは記憶を辿って思い出すことが可能だ。
模擬刀と真剣の違いゆえに100%一致とはいかないが、斬撃の矛先を背中から脇腹へとズラすことが出来た。
それでも痛いことには変わりないが。

「痛い!!・・・・・・オダちゃんめ・・・・・・」

背後にいるオダを追っ払うためにマーチャンは左手の木刀をシュッと後ろに振る。
それによって火の粉が飛散し、オダの服の胸部が焼かれていく。
秘密の処刑係という立場上、硬い鎧を堂々と着れなかったのが仇になったのだ。
このまま炎を受け続けるのはまずいと、オダは慌てて後方へと下がる。

(後ろからの攻撃まで避けるなんて!・・・・・・一応当てはしたけど効果は薄いよなぁ。
 しかも、今の攻撃も絶対覚えられちゃってるし・・・・・・)

マーチャンは今回、「背後に回り込まれて真剣で脇腹を斬られた経験」を覚えた。
平和な時代ゆえに真剣で戦う機会の少なかったマーチャンにとって、
オダとの真剣勝負は、己を成長させるにはとても都合が良かったのだ。
しかもマーチャンが覚えるのは決して受動的なものだけではない。能動的なものもどんどん覚えている。
今回の例で言えば「スケート靴を持って攻撃を受け止める経験」などのことだ。
貪欲なマーチャンはもっともっと経験を詰みたいと考えている。

「右手に忍刀、左手に木刀、これでマーはどんな経験が出来るのかな?
 オダちゃん・・・・・・簡単に負けたら許さないよ。」

338 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 02:53:28
マーチャン・エコーチームの学習能力はとても強力ですが
主には以下のような弱点があります。

★覚える前に倒されると無意味。
 例)クマイチャンの強力な一撃を受けたら覚える前に死にます。

★攻撃方法が謎すぎると覚えられない。
 例)モモコの攻撃の正体を暴かないと、覚えることが出来ず死にます。

★身体的・物理的に不可能なことは対処できない。
 例)マイミの高速ラッシュを覚えたとしても、身体がついていかないため対処できず死にます。

たぶん他にも弱点あるかも・・・

339名無し募集中。。。:2015/07/13(月) 06:31:57
ようするに自分の能力を大きくかけ離れた攻撃は学習出来ないって事だね

340 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 15:49:45
忍刀と木刀を握ったマーチャンを前にして、オダは次の攻め方を考える。
マーチャンの新武器である忍刀については詳しくないが
刀にしてはやや短めの刀身を見るに、近距離専門の武器なのだろうと推測できる。
軽量化によって一撃の振りを軽くしているのかもしれない。
となれば遠く離れることが対策に繋がるかと思ったが、そういう訳にもいかなかった。
マーチャンはいざとなれば火のついた木刀を勢いよく振ることによって
火炎を遠距離の的に当てることが出来るからだ。
つまり今のマーチャンは遠近両方をカバーしていることになる。
これではかなり攻めにくい。

(木刀が燃え尽きるまで待つってのはダメだよね……
 その頃には部屋中に煙が充満してたいへんなことになっちゃう。
 じゃあどうやって攻めればいい?早く決断しないと!)

急がなければ一酸化炭素中毒でオダは御陀仏。
かと言って焦って中途半端な攻撃をすれば、覚えられてしまい取り返しのつかないことになる。
このジレンマにオダは相当悩まされていた。
マーチャン自身はパワーもスピードも体力も並程度だと言うのに
どんな屈強な戦士よりも切り崩しにくいと感じているのだ。
だがオダもオダでこれまでの蓄積がある。
窮地に岐路を見出すことくらい、何度も経験してきたのだ。

(常に新しく、かつ威力の高い攻撃……これしかない!!)

オダはダッシュでマーチャンの方へと接近していった。
とは言っても目的はマーチャンそのものではない。
マーチャン制作の新武器、「両手剣」を拾い上げることこそが狙いだったのだ。
本来この「両手剣」は「投げナイフ」とのセットを想定して作られているのだが
二つ同時に扱えるわけがないのでオダは両手剣のみを選択する。

「あ、ドロボー!」
「放火魔に言われたくないですよっ!」

オダは両手剣を持つと同時に、マーチャンのお腹へと思いっきり振り上げた。
かつてサユ王の同期が使っていたグレートソードほどの重量はないが
この両手剣もなかなかの重さを誇るため、オダの腕にかかる負担は相当のものだった。
だがこの攻撃が絶対的に有効だと知っているからこそ、力もみなぎってくるものだ。
マーチャンは覚えた攻撃への対応力はピカイチだが
逆に初見の攻撃にはめっぽう弱かった。
作ったばっかりの新武器で斬られた経験なんて当然ないため、モロに受けてしまう。

「!!!」
「どうですか!自分の作品の切れ味はっ!」

オダはマーチャンの腹の深くまで刃が入ることを期待していた。
いくら不安定な体勢から切り上げたとは言ってもダメージは相当なはずなのだ。
実際マーチャンの瞳孔が開ききっていることからも、ひどく痛がっていることがよく分かる。
ところが、おかしなことが一点あった。
それは斬られたはずのマーチャンが腹から出血していないということ。
オダはまたマーチャンが何か仕掛けたのかと思ったが、そうではなかった。
問題はオダの扱う両手剣にあったのだ。

「なにこれ……刃が鈍すぎて切れたもんじゃない!
 これじゃあまるで金属の棍棒……!」

オダの言う通り、その両手剣は剣と呼ぶには鋭さが足りなかった。
これでは相手を殴ることは出来ても、斬ることは出来ない。
そのためにオダの思ってたような結果を出せなかったのだ。
そして、イメージと違うのは両手剣だけではない。
マーチャンの右手に握られていたものが、忍刀ではなく長めの紐に変わっていたことにもオダは気づきだす。

「マーチャンさん……刀はいったい何処に!?」
「どこだと思う?」

こんな質問をしてはいたが、オダは忍刀の所在に気づいていた。
ただ、認めたくなかったのだ。
音もなく自分の左肩に突き刺さり、激痛を起こさせていることなど、気のせいであって欲しかったのである。

「どういうこと……」
「ふふふふふ、マーチャンを殴ったバチが当たったんだよ……」

341 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 15:50:35
339
はい、そのような理解で大丈夫です。

342名無し募集中。。。:2015/07/13(月) 22:05:45
まーちゃん強い!


さゆ王誕生日おめでとうございます

343 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/14(火) 12:58:23
ここでマーチャンの作った三組の武器について解説しなくてはならない。
一組目はスケート靴。
剣と呼んでよいのか怪しいが、ブレード部分は非常に鋭利になっていて、殺傷能力は申し分ない。
だがその特殊さゆえに、素人が履いたところですぐに転倒してしまうのがオチである。
幼少からスケートを訓練した者でなければ使いこなせないだろう。
二組目は忍刀。
小さく軽いその刃は、投てき武器としても使える優れものだ。投げたら付属の紐で回収すれば良い。
だがこの刀の真価は、あまりの軽さによって実現された「無音切り」にある。
どんな音も聞き分けられる才能を持った者でなければ使いこなせないだろう。
三組目は両手剣と投げナイフのセット。
重量感たっぷりの両手剣と、どこまでも飛んでいく投げナイフによって、遠近の両方をカバーしている。
しかし普通の人間は両手剣を持つだけで精一杯なので、両方を同時に扱うことなど出来やしない。
投打ともに優れた二刀流の怪物でなければ使いこなせないだろう。

「ま、マーチャンは全部使えるんだけどね。」

自称する通り、マーチャンは持ち前の学習能力で全ての武器をそれなりに扱うことが出来ていた。
本来の想定される持ち主と比べたらさすがに劣るが
どれもだいたい80点くらいのレベルで使いこなすことが出来るのである。
実際、今回もオダに気づかれずに忍刀を肩に突き刺していた。
これは忍刀の特色である「無音切り」を上手く引き出した証拠だろう。

「オダちゃん痛くない?可哀想!いま抜いてあげるね!」
「ちょっ!」

マーチャンは忍刀に付属の紐を容赦なく引っ張った。
もちろん親切心からの行動なわけがない。
刀を引き抜くことで、激痛と出血の両方をプレゼントしてやりたかったのだ。
ブシュウと湧き出る己の血液に、オダは青ざめる。

(まずい!クラクラしてきた……)

オダが眩暈を起こした理由は2つある。
一つは出血多量によるもの。
そしてもう一つは、部屋に溜まってきた煙によるものだ。
血液は身体中に酸素を送り込むのだが、この部屋にはその酸素が絶対的に足りていない。
そして僅かな酸素を運ぶ血液も、今のオダには足りていない。
まさに絶体絶命。
すぐに決着をつけなくては命が危ういだろう。

(すぐにマーチャンさんを倒さなきゃ……
 もっと意外で、もっと強力な攻撃……なにがあったっけ……」

344 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/14(火) 22:00:04
マーチャンは右手で紐をシュンシュンと回しながら、オダから距離を取っていく。
少しでも近づこうものなら紐の先に括り付けられた忍刀をぶつけるつもりなのだろう。
今のオダにとって、時間を稼がれているこの状況は非常にまずい。
なんせ立っているだけで気を失いそうなのだから。

「オダちゃん、これでもうマーには近づけないよ。」
「……」
「でも終わりじゃない。」
「……?」
「オダちゃんならきっとなんとか出来るよ!
 だってオダちゃんの強さ、よく知ってるもん。
 ねぇ、早く見せてよ!ここから逆転するところをマーに見せてよ!
 そしたらマーチャンもね、もっと強くなれるんだから!!」

誰よりもオダに期待しているのは、他でもないマーチャンだった。
八方塞がりの状況を突破する姿をしっかり見届けることで
その経験を持ち前の超学習能力で習得するのが狙いなのである。
つまるところ、ここでパタリと死なれてもらったら困るのだ。
そうは言いつつ、忍刀を振る速度は全く緩めないマーチャンを見て、オダは苦笑いする。

「まったく仕方ないですね。分かりましたよ。
 一流剣士の逆転劇、とくと目に焼き付けてください。」

オダに気力が戻ったのは、マーチャンに勇気付けられたというだけの理由ではなかった。
モーニングラボが、オダお得意の「必中の一撃」を放てる環境に変化したことが大きい。
では以前と今とでこの部屋の何が変わったのか。
答えは、明るさだ。
薄暗かった部屋の明かりはマーチャンの木刀に灯った炎のみであるが
時間が経つにつれて、火力が強くなっていったのである。
これだけ燃え広がれば、「必中の一撃」を放つには十分だ。
オダはブロードソード「レフ」の、鏡のように磨かれた刀身をマーチャンの側へと向ける。
こうすることで、炎の明かりをマーチャンの目へと反射させていく。

「うわっ!!」

わざわざ自分の炎をちゃんと見てはいなかったマーチャンにとって
薄暗い世界に舞い込む微弱な光は、目を焼くほどに眩しかった。
これこそがオダの「必中の一撃」の正体。
目をつぶる一瞬の隙に仕掛けることで、回避させずに斬ることが出来るのだ。
オダ・プロジドリは光を使役することにかけては帝国剣士随一だろう。

(でも、これだけじゃマーチャンさんには通用しない。)

マーチャンは過去にオダの「必中の一撃」を受けた経験があった。
目が見えないために回避行動をとることは難しいのだろうが
これまでの例を見る限り、なんらかの対応をしてくるのは確実だろう。
だからこそオダは決して気を緩めなかった。
常に新鮮な体験をマーチャンに味あわせるために、更にもう一工夫を加える。

345 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/15(水) 14:37:33
目を潰されたその瞬間、マーチャンは反射的に両手をグルグルと回していた。
この激しい回転によって、忍刀と火炎はあちらこちらに飛び回る。
入り込む余地の無いほど、メチャクチャにブン回すことが「必中の一撃」対策だったのだ。
視力の低下は一時的なものなので、少しの間だけ凌げば反撃へと転じることが出来る。
そうなったらマーチャンはもう無敵だ。
なんせ「火炎の光を反射される経験」も覚えたのだから。

(オダちゃん来なよ!もう時間ないんでしょ!?)

マーチャンは暗い世界の中でオダの攻撃を待ち構えた。
少しでも何かに当たる感覚があればそこに対して集中砲火することを考えているのだ。
そしてオダはマーチャンの期待通りにすぐ仕掛けてきてくれた。
長引くほどに不利になるので、当然と言えば当然だろう。
ところが、その攻撃はマーチャンが想定するものよりずっと「重い」一撃だった。

(ぎゃ!なんだこれ!)

何か硬くて大きいものが、忍刀や炎を跳ね除けながらマーチャンの胸へと飛んできた。
この重量感の正体はなんと両手剣。
オダは目の見えないマーチャンに対して、これを思いっきり投げつけたのである。
「真っ暗闇の中で両手剣を投げつけられた経験」なんてこれまでに無かったので
マーチャンは全く避けることが出来なかった。

「うぁ……あ……」

弱っているオダが投げたとは言え、やはり鉄の塊をぶつけられるのは非常に痛い。
これまでのダメージの蓄積も相まって、マーチャンの胸部の骨はポッキリと折れてしまった。
泣きたくなるほど辛いが、だからこそしっかりしなくてはならない。
やっと目も慣れてきたのだから、反撃はここから始まるのだ。
勝利を収めるためにマーチャンはカッと目を開く。

「あれ……オダちゃん……」

目の前すぐそばにオダが立っていたため、マーチャンは驚いた。
二刀流を投げたばかりなので遠くにいると思っていたが
実際はこんなにも近くにいたのだ。
これこそがオダの更なる一工夫。
両手剣がヒットしたとしてもそこでモタモタしたら、次にそこにいるのは新たに学習したマーチャンだ。
そうなったらさっき以上に攻撃を当てにくくなるだろう。
だからオダは両手剣を飛ばすと同時に、自分もマーチャンの方へと走っていったのだ。
両手剣が跳ね除けてくれたおかげで、今なら宙を舞う忍刀も火炎も存在しない。
ならばオダの一撃は通る。

「私の勝ちです!」

周到に練られた一閃を、マーチャンは回避することは出来なかった。
オダの肩以上の血を胸から吹き出し、ガクリと倒れこむ。
思えば経験のない攻撃についてはほとんど直撃を受けていた。
まだ息はあるとは言え、もう戦うことは出来ないだろう。

「はぁ……はぁ……オダちゃん、やっぱり強いね……」
「次、戦ったら分かりません……それに。」
「?」
「マーチャンさん、きっと木刀だけで戦った方が強いですよ。」
「えーーー!?……それ早く言ってよぉ……」

346 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/16(木) 12:53:31
名目上はオダ・プロジドリの勝利だろう。
処刑担当として見事に裏切り者のマーチャンを倒したことになる。

(勝ちはしたけど、もう戦えそうにないな……)

まだ身体が動くうちに、オダは出来る限りの対処をしなくてはならない。
まずは消火だ。転がる木刀を踏んづけることで火の出どころを断った。
次は部屋からの脱出。煙で朦朧とする意識の中、マーチャンを担いで外へと出て行った。

「オダちゃん、マーが重くてごめんね。」
「それ、カノンさんに聞かれたら怒られますよ……」

廊下の新鮮な空気を吸ったオダはいくらか楽になったが、それでもまだ身体の調子は戻らない。
だからオダはそこらにいる兵士に助けを求めることにした。
若い女性なので、おそらくは研修生なのだろう。

「すいません、そこの人、助けてくれませんか?」
「わぁ!大丈夫ですか!!とてもびっくりしました。」

帝国剣士であるオダとマーチャンが血まみれでHelp me!と言ってきたので、研修生は驚嘆する。
研修生だった時期がギリギリ被っていないのでオダはその子を知らないようだが、
研修生は有名人である2人のことをよく知っていた。
こうしてはいられないと思った研修生は背中にしょっていた両手剣と投げナイフを床に捨てて、
オダとマーチャンの2人を担ぎだした。

「ありがとうございます……細いように見えて意外と力持ちなんですね。」
「褒められて、とっても嬉しいです。大大大好きなサユ王様のためにいつも鍛えてるんです。」

そう言いながら研修生は2人を医療室にへと運んでいく。

347名無し募集中。。。:2015/07/16(木) 13:00:48
とってもさんきたー!てか普通にあの武器持ってるしw

348名無し募集中。。。:2015/07/16(木) 15:32:35
今ならケガした帝国剣士2人倒して成り上がれそうだがw

349 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/17(金) 12:58:58
マーチャンとオダを助けてあげた研修生が大大大好きなサユ王は今、
同じ研修生であるクールトーンをギュ〜ッと抱きしめていた。
目の前で繰り広げられる食卓の騎士の大激突から守るという名目で、だ。

「喰らえモモ!!」
「まったくクマイチャンは……私には通用しないってまだ分からないの?」

頭上高くから斬撃が降りかかってくるが、モモコは全く恐れずそこから離れない。
むしろ自身の小指を上へと突き出し、襲い来る長刀へと当てるのだった。
普通に考えれば小指は潰され、そのまま腕ごと切断されてしまうのだろうが、そうはならなかった。
斬撃は小指にぶつかる直前に軌道を逸らされ、床へと落下していく。
さっきからこれが何度も続いているのでクマイチャンもウンザリだ。

「また!?もう、しつこいなぁ!」

クマイチャンはモモコとは10年以上の長い付き合いにはなるが
その戦闘スタイルについては完全に把握しきれていなかった。
直線的で単純なクマイチャンに対し、モモコの戦い方は曲がりくねっていてゴチャゴチャしている。
戦士として恵まれた身体を持っているとは決して言えないが、知恵と暗器によってそれを補っているのである。
だがそんなモモコも人間だ。
完全無欠のロボットではないのでミスを犯すこともあるだろう。
暗器では防ぎきることの出来ない攻撃だって存在するだろう。
クマイチャンには流星のように強力な必殺技があった。それならば通用するかもしれない。

「これならどうだ!私の必殺!!」
「クマイチャン、辞めておいた方がいいと思うよ。」
「今さら命乞いなんてさせるか!たぁっ!!」

そう言うとクマイチャンは地面を蹴って空へと舞い上がった。
先ほど自分で開けた天井の穴を通過し、あっという間に最高点へと達する。
これでクマイチャンの必殺技、「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」の準備は整った。
隕石の如き勢いと速度で落下するのだから、ここから放たれる斬撃の威力はとてつもないものになる。
フク達と戦った時は床に攻撃をぶつけたが、モモコには何の遠慮もいらない。
そのまま直撃してやろうと流星ガールは降下していった。
ところがモモコはこの技に対する策も用意していたのだ。

「ツグナガ憲法……"派生・謝の構え"」

落下直前、クマイチャンは刀を振ってモモコへと叩きつけようとした。
ただ落ちるだけでも威力は十分すぎるのだが、
そこに更に剣の振りを加えることで殺傷能力を増加させているのである。
これを喰らえばどんな相手でもひとたまりもない。
当たらなくても周囲への被害は甚大なものになる……クマイチャンはそう思っていた。
ところがその時、クマイチャンの耳に不吉な声が入ってくる。

「許してニャン」

350 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/17(金) 13:00:23
マーオダを倒すとサユ王が悲しみますので、研修生は手を出せなかったというか
そもそもその発想がなかったというか、、、w

351 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/19(日) 20:50:56
今気づいたけど「ツグナガ憲法」じゃなくて「ツグナガ拳法」ですね・・・・・・
訂正します。

352名無し募集中。。。:2015/07/19(日) 22:12:33
脳内変換してたんで大丈夫w

それにしても前作にはなかった技が次々とww

353 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/19(日) 22:32:26
「!?」

剣を振り降ろそうとする先にモモコはいなかった。
地上へと落下する流星を撃ち落すために跳びあがっていたのだ。
長刀を握るクマイチャンの手に向けて、ビンタを当てていく。

「えいっ!」
「!!!」

モモコのビンタ自体はただのビンタだ。
ただし、それを当てられるクマイチャン自体が超高速で落下していたために
クマイチャンの手とモモコの掌が衝突するインパクトは凄まじかった。
味方していたはずの勢いやらスピードが、すべて自分に牙を向いたので
クマイチャンは耐え切れずに吹っ飛ばされてしまう。

「あ゛あ゛あ゛あああああああ!!!」

モモコの必殺技「ツグナガ拳法、"派生・謝の構え"」は相手の必殺技を無効化する。
むしろそれを利用して相手に反撃までするのだから驚きだ。
技を産むまでの過程を嘲笑うかのような技であるため、
使用者であるモモコも胸が痛いのか、事前に「許してニャン」と謝罪することからその名は来ている。

「クマイチャン様、すごく痛そう……」

ビンタをぶつけられたクマイチャンの右手はグシャグシャに潰れていた。
その様を見るだけでよほどの衝撃だったことが理解できるだろう。
あまりの痛々しさにクールトーンは目を覆いたくなってしまう。

「それにしても凄いですね、クマイチャン様の必殺技を素手で止めるなんて……」
「いや、モモコのことだから手に何か仕掛けているわ」
「仕掛け?……あ!だからモモコ様は無傷なんですね。」
「それも違う。モモコが負傷していないと考えるなら大間違いよ。」
「???」

354 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/19(日) 22:33:48
前作キャラの派生技が生み出されるまでの過程は、たぶん説明されないと思いますので
いろいろと想像してみてください。

355 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/20(月) 17:09:10
クールトーンにはサユ王の言うことが理解できなかった。
クマイチャンが床の上でのた打ち回っているのに対して、
モモコは平然な顔をして立っているために、負傷しているだなんて信じられない。

「普通に考えて、あの落下を直接受けて無事で済む訳が無いでしょう?
 きっと今頃モモコの腕の骨はバラバラになっているはずよ。」
「で、でも全然平気そうな……」
「そう、それがモモコの凄いところ。
 あの子はクマイチャンや他の食卓の騎士のような超人的身体能力をもたない代わりに
 人間離れした精神力とプロ根性を持ち合わせているの。
 きっと全身の骨を粉々にされたとしても、表情を崩すことはないはずよ。」

そんな人間が実在するなんて思いもしなかったので、クールトーンは驚いた。
きっと自分だったらちょっと怪我しただけで痛がってしまうだろう。
ただ、そんなモモコを凄いと思うと同時に、一つの疑問を浮かべていた。

「凄いと思います……でも……」
「でも?」
「表情を崩さないのって戦闘の役に立つんですか?……それってただの我慢じゃ……」

クールトーンの問いかけはもっともだった。
クマイチャンの超パワーや巨躯、マイミの超スピードやスタミナが戦闘に直結するのは理解できるが
モモコの強みが「表情を崩さない」と言われてもいまいちピンと来ない。
だが、サユは己の回答に自信を持っていた。

「効くの。相手が単純バカ……もとい、直情タイプの戦士なら特にね。」
「それって、クマイチャン様みたいなタイプのことですか?」
「そう、かつてモモコは私の同期と戦ったこともあったんだけど、その同期もクマイチャンに似ててね。
 無表情のモモコが何を考えているのか、次に何をしてくるのかほとんど読むことが出来なかったそうよ。
 ポーカーフェース。それがモモコの最も恐ろしいところなの。」
「は、はぁ……その同期さんより強いってことは、モモコ様はサユ王様より強かったってことですか?……」
「それはない。」
「え、でも」
「ありえない。」

356 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/21(火) 13:34:31
右手の激痛に苦しまされながらも、クマイチャンは立ち上がることが出来た。
剣だって左手さえ残っていれば持つことが可能だ。
モモコの放った謎の石が刀身に付着しているおかげでかなり重いが、
持ち前の超パワーならば剣を振るうのに問題はない。
むしろ、目の前の相手がまったくの無傷に見えることの方が問題だった。

(やっぱりモモコは強いな……血のにじむ努力をしてきたのに、まったく歯が立たない。)

このまま戦えば十中八九敗北するであろうことはクマイチャンも自覚していた。
モモコの謎の行動によって剣速は遅くされるし、
床の破片をブチまけても一つも当たらないし、
一方的に自分の右手だけを破壊されるし……と、散々な目に遭っている。
騎士としての位で言えばモモコとクマイチャンは同格であるが
実力差はかつての副団長と一団員だった頃と変わらないのかもしれない。
だが、いくら相手が格上だからと言って諦めるわけにはいかなかった。
その思いは食卓の騎士としての誇りから来るものではない。
ハルナンからの依頼に応えたいという理由でもない。
格下であるフクやサヤシ、そして番長らが自分に立ち向かったことに感銘を受けたからこそ
ここで負けてられないと考えたのだ。

「行くよ……」
「ん、どした?」
「必殺技行くよ!たぁっ!!」

クマイチャンは先ほどと同じように天高くへと跳び上がった。
本日3回目の「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」を行うのは誰の目にも明らかだった。
しかしその技はついさっきモモコに打ち破られたばかりだ。
まったく同じ攻撃をするとしたら、同様に打ち破られてしまうだろう。

「はぁ……またクマイチャンに謝らないといけないのね。
 どうか許して……ください!」

ベリーズの団長がこの場に居れば「そこ言わんのかい!」と思いたくなるような謝罪をしながら
モモコも「ツグナガ拳法"派生・謝の構え"」で流星ガールを迎撃しようとする。

357 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/22(水) 23:14:06
クマイチャンの飛翔が完了するまでに時間はそうかからなかった。
上昇時には敵対していた重力が、ここからは心強い味方へと変わっていく。
高さとは力。
圧倒的なまでの高度が生む破壊力は膨大であることを知らしめるため、流星は地に落ちる。

「ぬあああああああ!!」

常人ならば失神するかもしれない落下速度だってクマイチャンはへっちゃらだ。
幸いなことに高さには慣れているのである。
彼女に高所恐怖症は似合わない。
電気にも似たピリリとした空気摩擦を全身で浴びながら、
落下点にいるモモコへとジリリと迫っていく。

(行くぞモモコ!もうさっきまでとは違うんだ!)

地に落下する寸前、やはりモモコはクマイチャン目掛けて跳び上がってきた。
ビンタでクマイチャンの左手を潰したように、今度は右手を破壊しようとしているのだ。
いくらクマイチャンが化け物のような存在だとしても、両手を潰されたら剣を握ることは出来ない。
そうなればモモコの勝利は絶対的なものになるだろう。

(だったらそこを利用してやる!)

右手を狙うモモコのハイタッチを、クマイチャンは拒絶した。
衝突する直前に剣を上方向へとグイッと上げることによって
モモコの掌が叩き込まれる打点を少しズラしたのだ。
結果、モモコの手がぶつかった部位は「肘」。
右手を壊そうという思惑を打ち破っただけでなく、超高速落下の勢いのついた肘打ちまでお見舞いしたのである。
いつものように単調な攻撃が来ると思ったところで変化を見せてきたので、モモコは驚いた。
表情こそ変化はないものの、腕を壊され、床に撃ち落とされてしまう。

「くうっ……!!」

肘打ち、そして床への落下。
これはクマイチャンが今回の戦いで見せた初めてのクリーンヒットだった。
いくら超人的な肉体を持たないとはいっても、モモコも食卓の騎士であるため
この程度では命を落としたりなどはしない。
だが、そんなモモコも無敵ではないことが分かったたけでもクマイチャンにとっては大収穫だ。
痛む肘も気にならないほどに気分が高揚してくる。

「どうだ!」
「どうだって……ちょっと当たったくらいではしゃがないでよ!」
「あ、モモ動揺してる?」
「してない!」

358 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/22(水) 23:15:23
来週のナカイの窓が今から楽しみです。

359名無し募集中。。。:2015/07/23(木) 06:50:58
ついにクマイチャンメートルの謎が明かされるかw

モモコの謝罪3部作見事に取り込んでるなぁ〜

360 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/24(金) 12:56:44
クマイチャンは手応えを感じていた。
顔からモモコの状態を察することは非常に難しいが
肘打ちで骨を粉砕した感覚なら確かにあったのだ。
しかもよくよく観察してみたらモモコの腕は両方とも上がっていない。だらんとしている。
シューティングスターを1発防ぐにつき1本の腕を犠牲にした結果、こうなったのだろう。
クマイチャンは自身の肘にも相応のダメージを受けたためまともに剣を握ることも困難であるが
今が好機なのは間違いないため、すぐさま追撃を加える。

「もらった!」

負傷した片手による攻撃ながらも、その振りは好調なものだった。
流星の勢いには遠く及ばないが、ひと1人を殺めるには十分すぎるほどの勢いだ。
両腕を壊した結果ノーガードなモモコにこれを叩きつければ、その瞬間真っ二つにすることが出来るだろう。
己がそうなることを想像した者は誰もが震え上がり恐怖の表情を浮かべるはず。
ところが、モモコは此の期に及んでもその顔を崩さなかった。
この程度、窮地のうちには入らないのである。

「あれ?……体が動かない……」

刃がモモコの胸に突き刺さる直前、クマイチャンは自身に起きた異変に気づき始めた。
なんとクマイチャンの身体と、さっきまで振られていた刀がピタリと止まってしまったのだ。
不思議な現象ではあるが、その原因はハッキリしている。
モモコが何かした以外に考えられない。

「……なにした?」
「馬鹿正直に話すと思う?」
「……」
「それにしてもさすがクマイチャンね。そこいらの子とは鍛え方が違う。
 ここまでにもう6個も暗器を使わされちゃった。」
「!?」

モモコの武器は暗器7つ道具。
状況によって個数や種類が変動することもあるが、基本的には7つを使用している。
そのうち既に6つも使ったの言うのだから、クマイチャンは驚かされた。
いつ、どのタイミングで何をされたのかほとんど把握出来ていないのだ。

「そして今から最後の1個を使うね。特別だよ?」

361 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/25(土) 17:31:59
モモコはこれまで不思議なことを何回も起こしてきた。
鉄に貼り付く石を投げて剣を重くしたり、
自分に飛んでくる床の破片を棒立ちのまま回避したり、
斬撃の軌道を小指一本で逸らしたり、
クマイチャンの動きを完全に止めたり、と様々だ。
思えば流星ガールの位置まで到達した跳躍力もおかしいし、
それを受け止めても(骨折したとはいえ)腕が千切れず残る耐久力も異常だ。
おそらくそれらの全てがモモコの暗器'14によるものなのだと推測できる。
だが、上に挙げたものの中には直接相手にダメージを与えるようなものは無かった。
実際、モモコが用意した暗器のうち攻撃的な性質を持つものは一個しか用意されていないし、
今回はまだ使用していない。

「これ、準備が必要なのよね。スキが大きすぎるから。」
「!!……まさかアレを!」
「そう、クマイチャンの動きを封じた今、やっと"モモアタック"が使える。」

今のモモコに腕は使えない。
ただし、尻ならフリーだ。
以前に簡単な組み手で"モモアタック"を受けたことがあるため、クマイチャンは知っていた。
どういう攻撃かも、どれくらい危険かも。
これを喰らえばひとたまりもないことを理解しているため、クマイチャンは慌てて全身を動かそうとする。
今、自身を止めている暗器は透明のリナプーや犬らが抑えつけていた時と感じが似ていた。
つまりはフルパワーを出せば動けないこともないのだ。
早々にこの呪縛から逃れてモモアタックを回避しなければ敗北は必至。ならば必死にもなる。
しかし、体を動かそうと力を入れるほどに、節々に激痛が走り出す。
なんと肌の露出した面のいたる箇所に、無数の切り傷が発生していたのだ。
まるで何か細いものに食い込んで、千切れてしまったかのよう。

(これは……糸?)

見えない攻撃の正体に気付きかけたクマイチャンだったがもう遅い。
その一瞬の躊躇いをついて、モモコは跳躍していた。
狙いはクマイチャンの腹。武器は己の尻。
暗器によってコーティングされたお尻で無慈悲なまでのヒップアタックを叩き込む。

「モモアターーーック!!」
「あぐっ!!…………」

お尻なのに何故か鋭利で尖がったような感触。
それを受けたクマイチャンは激痛に耐え切れず、意識を飛ばしてしまう。

362名無し募集中。。。:2015/07/26(日) 00:31:02
最後はそれかいw

363 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/26(日) 21:55:00
「凄い……本当に倒しちゃった……」

クマイチャンがズシンと倒れゆく様を見て、クールトーンは思わず言葉を漏らす。
こんな大きい人間が敗北する光景なんて見たことないのだから無理もないだろう。
そんな良い経験をした少女を、サユ王は微笑ましく見守っている。
食卓の騎士同士の戦いは研修生には刺激が強すぎるため、
もしかしたら漏らしたり、嘔吐したりすることもありえると思っていた。
それらが自分にかかったとしても、サユは王としての寛大な心で受け入れようともしていた。
だが、クールトーンはそんな粗相などせず立派に最後まで見届けたのだ。
(ある意味では少し残念だが)これはとても喜ばしいことだと王は考える。

「さてと、決着がついてすぐのところ悪いんだけど」

サユ王はクールトーンを床に降ろしては、勝者モモコへと近づいていく。
大事な話をするためだ。

「なぁに?サユ王様。」
「弁償。」
「んー?」
「訓練場の床と扉と天井の修理代、請求しておくから」
「……えっと、なんで私に?どっちかと言えばクマイチャンじゃない?」
「いろいろ手を出して小金持ってるんでしょ?知ってるんだから。」
「え、え、それ誰に聞いたの?」
「あなたのところの団長(キャプテン)から。手紙で。」
「はぁ……やっぱりバレてたのね。侮れないわー。」
「だから、修理代。」
「それとこれとは別でしょ。クマイチャンに払わせなさいよ。」
「訓練場は早く修理しないといけないの。来月あたり使う予定があるのよ。
 だからすぐ入金できるモモコに払ってもらう方が助かるんだけど。」
「そっちの都合じゃないの!」
「あーあ。じゃあ今回の単独行動をシミハムに報告しようかなー。モーニング帝国帝王として。」
「ええー!?許してニャン許してニャン。」

サユ王とモモコが対等に話しているのもクールトーンにとっては不思議だった。
改めて元プラチナ剣士であるサユ王の凄さを思い知らされる。

364 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/27(月) 12:54:38
「そ、そんなことよりあの子のテストの結果はどうなったの?」

モモコは苦し紛れにクールトーンを指差した。
攻撃法を一つでも見破れなければクビ。その約束を覚えていたのだ。
ここで最もドキリとしたのはもちろんクールトーン本人。
速記したうちの一枚を取り出しては、おそるおそるサユに提出する。

「自信があるのは一つだけです……どうですか?」

サユとモモコはクールトーンのちぎった一枚に注目した。
そこには読みやすい綺麗な文字で「モモコ様がクマイチャン様の剣に磁石のようなものを投げつけた。」と書いていた。
実はこれは大正解。
モモコは超強力な磁力を発する電磁石を複数くっつけることで
クマイチャンの長刀の重量を重くしていたのである。
クマイチャンの馬鹿力だからなんとか持つことが出来たが
並みの剣士ならば5, 6個も付与されたら剣を振れなくなるだろう。
剣士でなくても鉄製の武具を扱う者であれば容易に無力化することも可能だ。

「おめでとうーよく私の暗器を見破ったねーパチパチー」
「えへへ、ありがとうございます。」

クビを免れた安堵感でクールトーンはホッとするが
課題を与えたサユ王はあまり面白くない顔をしていた。
というのも、モモコの戦法において磁石の使用は基本中の基本であったため
出来ればそれ以外の暗器についても解明して欲しかったのである。

(まだ研修生だし、まずはこんなもんか……)

サユの憂いとはうらはらに、モモコはクールトーンを必要以上に褒め称えた。
実はモモコは(サユ王とは違った意味で)子供好き。
子供に読み書きを教える資格までこっそりと取得したとの噂だ。
年端もいかない少女が頑張るのを見ると応援したくなってくる。

「この短時間によくこんなに書いたわね。見せてもらえる?」
「えっ、全部ですか?」
「うんうん。私の戦いをどんな風に見てくれたのか気になって。見せて見せて。」
「ちょっと恥ずかしいですけど……はい。」

そう言いながらクールトーンは数十枚単位のメモを手渡した。
はじめはにこやかなにそれらを眺めていたモモコだったが、
読んでくうちにその表情は真剣なものになってくる。

「あなた……気づいていたの?」
「えっ?」
「サユ。相変わらず油断出来ない人ね。ほんとに。
 今までこんな子を隠してきてなんて……」
「えっ?」

365 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 08:26:21
クールトーンが書いたメモには以下のように記されていた。

・モモコ様が強く地面を踏みつけるとブーツの上部から風が吹き出すようだけど、何かは分からない。
・モモコ様の小指の周りに半透明で見えにくい何かがついているようだけど、何かは分からない。
・モモコ様がジャンプする時は脚が急に伸びて少し背が高くなるようだけど、何かは分からない。
・モモコ様の掌に銀色の防具が付いていて、それがクマイチャン様の腕を壊したようだけど、何かは分からない。
・クマイチャン様を縛った糸は手じゃなくて足で操作しているように見えたけど、何かは分からない。
・モモコ様のお尻が急に尖ったように見えたけど、何かは分からない。

どれも「何かは分からない」で締められてはいるが、クールトーンは暗器の全てを認識していた。
知識不足ゆえに詳細まで突き止めたのは電磁石のみとなったが、眼で見た全てを速記する才能は、ありのままを紙に写していたのだ。
モモコはいつどのタイミングで仕掛けたのか分からないように戦ったつもりだというのに
全てが見透かされていたことに恐怖を覚える。
もっともクールトーンがこれだけ見えていたところで、モモコと一騎打ちで勝利できる確率はゼロパーセントだろう。
万に一つも勝ち星はあり得ない。
最悪全ての暗器を捨てたとしてもモモコは決して弱くはないからだ。
だが、もしもクールトーンがクマイチャンに肩入れしていたらどうなっていただろうか?
クマイチャンでなくてもいい、他の食卓の騎士クラスの戦士に情報を教えてしまえば
途端にモモコの強みは消え去ってしまう。
故に、モモコは手に取ったメモを容赦なく破り捨てた。

「あぁ!なにするんですか!」
「あーごめんごめん、手が滑っちゃった。」
「せっかく書いたのに……」

クールトーンはともかく、サユ王はモモコの発言を鵜呑みにしたりはしない。
珍しく焦りを見せるモモコを面白がりながらも、クールトーンの成長を実感する。

「へぇ、折れた手で破り捨てなきゃならないほど大事なことが書いてたんだ。」
「別に?……そもそも怪我なんてしてないしね」
「ふふ、ところでモモコ。うちの書記係は凄いでしょう。
 いろいろ経験させてきたけど、やっと食卓の騎士の戦いを見れる程度に成長したの。」
「はぁ……私とクマイチャンをダシにしたってこと?」
「ダシだなんてとんでもない。プレミアライブをアリーナ席で見せてくれてありがとね。」
「……ちょっと羨ましい。」
「え?何が?」
「私もいま何人か育ててるんだけどね、ワガママな子ばっかりで……
 すぐにルールを破るから罰としてセロリ食べさせたりとか工夫してるんだけど
 なかなかうまくいかないのよね。帝国の教育メソッドを教わりたいもんだわ。」
「へぇ、そっちも結構大変なんだ。」

366 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 08:32:47
オマケ

モモコ「教え子の中の一人にサユのファンがいて……」
サユ「まぁ嬉しい」
モモコ「1日何十枚もサユの絵を描いたり、サユと同じ服を収集してたりしてる。」
サユ「えっ怖い。その子、変態?」

クールトーン「そういえばこの前、見知らぬお姉さんに服をプレゼントされました。サユ王様と同じ服って言ってたような……」
モモコ、サユ「「え!?」」

367名無し募集中。。。:2015/07/28(火) 08:58:44
つゆ姉さんw

368名無し募集中。。。:2015/07/28(火) 20:31:16
メンツーユか

369名無し募集中。。。:2015/07/28(火) 21:52:41
今日のニコ生みたら「ワガママの子ばっかりで…」って言葉がリアルに実感できたわw

370 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 22:36:43
同時刻、訓練場近くの通路では犬と猿が喧嘩していた。

「くそっ……すばしっこい犬だなぁ!」
「ププとクラン!ちゃんと名前で呼んで。」
「くそっ……すばしっこいププとクランだなぁ!」
「よし。」

サユキ・サルベは二匹の小型犬ププとクランに手を焼いているようだった。
リナプーのように動きがゆっくりな相手ならば神経を研ぎ澄ますことで透明化を見破ることが出来るが
ププとクランは廊下中を縦横無尽に駆け回るために集中することが難しい。
小型犬ゆえに噛み付きの威力自体はさほど無いが、これが蓄積していくのは危険だろう。
現状を打破するため、サユキはジュースを出し惜しみせず使用することにした。

「よし、ジュースで乾杯だ。」
「お、バナナジュース?」
「レモンジュースだよ!!」

チャチャを入れられながらもサユキはジュースをゴクリと喉に通していく。
即効性抜群のジュースはすぐさまサユキの身体にある変化をもたらす。
その効力とは「身体が軽く感じる」というもの。
マロがアヤチョ戦でレモンジュースを飲んで喜んだように
サユキも自身が軽くなることが何よりも嬉しい。
これで毎朝サウナスーツを着てランニングをする必要はなくなった。

「身体が軽い……こうなった私は重力を消せる!!」

地面をバシッと蹴ると、サユキはふわりと浮いてしまった。
まさに「AH こうして無重力」。
とは言っても本当に重力を消したというわけではない。
長年鍛えたカンフー(自己流)の蹴りの力強さによって
身体ごと宙へと浮かせたのである。
自身を軽いと思い込んだサユキはぐんぐん高く上昇し、
やがて天井へと到達する。

「ここだ!ハァッ!!」

いつの間にか靴を脱いでいたサユキは、足の指で天井に設置された照明をつまむことに成功する。
通常の人間ならばそんなこと出来ないだろうが
カンフー(自己流)を極めた達人サユキならば可能なのだ。

「信じられない……」
「どうだ!犬はこんな高いところに登ってこれないでしょ。」
「似てるとは思ってたけど、本当にお猿さんだったんだ……進化できなかったの?」
「おいっ!!」

371 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 22:40:01
ニコ生やってたんですね。
カントリーのメンバーが桃子を心から尊敬する日はいつかくるのでしょうか、、、

372名無し募集中。。。:2015/07/29(水) 14:26:16
リナプー煽りまくりかw

373 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/29(水) 19:18:44
「思ったけど、そっちも私に攻撃できないんじゃないの?」

リナプーの言う通り、天井の照明にぶら下がるサユキの攻撃は下には届かない。
ヌンチャクを目一杯伸ばしたとしても子犬どころかリナプーの頭にすら到達しないだろう。
投てきのように武器を投げればヒットするかもしれないが、球数は1発のみなので後が無くなる。
ゆえに、今のサユキには何も出来ないとリナプーは考えたのである。
だがその程度はサユキも想定済みだ。

「当たるよ!こうすればね!」

サユキは照明を掴んでいない方の足で天井を思いっきり蹴り付け、
その勢いで人間大砲のようにリナプー目掛けて飛んで行った。
クマイチャンの流星ほどの迫力や威力はもちろん無いが、
同時にヌンチャクをブンブン振ることで十分なほど強力な特攻になっている。
この攻撃法を見るのは初めてだったので、リナプーは対応に遅れてしまう。

「いやっ!!」

逃げようとしても完全には避けきれず、リナプーの右肩はヌンチャクによる強打を受ける。
普段は透明化しているために、まともに負傷するのは久々だったのか
リナプーは必要以上に痛がってしまう。
だがその悲痛さが、かえってププとクランを燃え上がらせた。
主人に害をなす猿を退治するため、怒りながら二匹で突進したのだ。
小型犬とは言え、捨て身の体当たりを二発も貰ったらカンフー(自己流)の達人でもひとたまりもないだろう。

「でも、それは届かないよ。」

二匹が衝突するよりも速く、サユキはまたもや地面を蹴った。
理由は宙へ舞うことなのは言うまでもない。
サユキの得意戦法はヒットandアウェイ。
それも「天井」という安全圏から仕掛けるのだからタチが悪い。
高木に登って優位を主張する猿のように、サユキ・サルベは敵を見下すほどに強くなる。

(うう……さすが猿、次の行動が読みにくい……)

374 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/31(金) 08:42:33
数年前の合同演習プログラムでは、リナプーとサユキは同じ班に属していた。
そのため互いに認識はあったのだが、当時と今とでは戦闘スタイルが異なるので
まるでまったく違った人間と戦っているような感覚に陥っている。
過去のリナプーは犬を使わず素手で戦っていたし、サユキもジュースは飲んでいなかったのが主な違いだろう。
では何故リナプーよりもサユキの方が有利に戦いを進めているのか。
それはリナプーの強みである透明化術を知っていたからに他ならない。
リナプーはマロから教わった「道端タイプ」と言われるメイクを日頃からしているのだが
その化粧には「私を見るな」という本能に訴えかけるメッセージがサブリミナル的に刻まれている。
つまり姿の見えない彼女を見ようとすればするほど、脳が感知を拒否する仕組みという訳である。
それを知っていたサユキは、リナプーを見ることをはなから諦めていた。
そしてその代わりに音を聴くことに集中したのだ。
サユキには絶対的な音感が備わっているとは言えないが、KASTの中では非常に優秀な方であり、
ボイスを聞き分けるトレーニングを欠かしたことは一度もなかった。
かつて帝国のサユ王が世話になったトレーニング講師が、最近果実の国に来て指導をしているというのも役立っているだろう。
つまりサユキは「見ざる」代わりに「聞かざる」ことはしないことでリナプーの居場所を突き止めたのである。

(犬の音まで聞き分けるのは大変だけど、空にいたら問題ないよね。
 身体が軽くなった私に敵はいないんだ!)

音を聞き分けられて、且つ空間も自在に操るサユキを切り崩すのは困難だろう。
だがそんな彼女にも突け入る隙は存在した。
それは自慢気で、思ったことはなんでも口にしてしまう性格ゆえに
「言わざる」ことまでは徹底できなかった点にあった。

「番長ってのも大したことないね。強いのはアヤチョ王くらいかな?」
「……なんで王の話が出るの?それにマロさんだってアレでなかなか強いし。」
「え?マロさんならさっきアヤチョ王にボコボコにされてたけど。」
「!?」

375名無し募集中。。。:2015/08/02(日) 12:30:42
乙でありんす

読む時間が無くて30レス位放置してたが
いざ読み始めると引き込まれてあっという間に読み終えてしまった

376名無し募集中。。。:2015/08/02(日) 13:32:13
これを聞いてリナプーがどう動くのか?

377 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/03(月) 14:11:10
いろいろ立て込んでて最近書けてませんでした、、、これから書きます。

読むのを再開してくださる方がいるのは嬉しいですね。
ゆっくりゆっくりですが、まずは第一部完(帝王が決まるまで)を目指して書き続けます。

378 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/03(月) 14:43:01
姿は見えないが、リナプーが動揺するのは感じ取ることが出来た。
掴み所のない彼女の精神を揺さぶる唯一の手段であると判断したサユキは、
連絡担当として、作戦室で起きたありのままを伝えることにした。

「びっくりでしょ、アヤチョ王はこの城に来てたんだ。
 そして、ハルナンを裏切ったマロさんに激怒して、容赦なく切り捨ててたよ。
 他の番長たちも許さないって言ってた。怖いね。ウチのユカニャ王とは大違い。」

一国の王が自国の戦士たちに斬りかかるなんて普通はあり得ないが
アンジュ王国のアヤチョ王ならやりかねないと、リナプーは納得する。
むしろそうなって当然だろうとも思っていた。

「じゃあ、私も王にやられちゃうってことか」
「そうとも限らないんじゃない?」
「え?」
「アヤチョ王は裏切り者を許さないんであってさ、
 だったら裏切るのを辞めれば不問なんじゃないかな。」
「私がマロさんじゃなくて、王の方につけばいいって言ってる?」
「そう。」

サユキは戦闘に飢えてはいたが、あの時のようにリナプーとまた共闘したいとも思っていた。
隊長こそ居ないが、サユキ、リナプー、ハルが組めば「73隊」の復活だ。
当時最強の小隊だった「ゴールデンチャイルド」と呼ばれたフクやタケを、
73隊で倒せる日が来ると思うとワクワクしてくる。
リナプーを倒すよりも、味方につける方がずっと楽しいとサユキは考えたのだ。
ところが、リナプーの返答はノーだった。

「辞めとく。今日はマロさんにつくわ。」
「なんで!?マロさんはもう戦えないんだよ!つく意味ないじゃん!
 そんなに尊敬してるってこと?ちょっと意外……」
「いや、全然尊敬してないけど」
「え、じゃあなんで。」
「教えてもいいけど、これみんなにバラしたら怒るよ。」
「バラさない。」
「……カナナンが、タケが、メイが必死だから。それだけ。」

そう言うとリナプーは四つん這いになりだした。
特に脚部の負傷は見られないのに立つのを辞めたので、サユキには不思議に思えた。

「何やってるの」
「決着を急ぐ理由が出来た。本当はやりたくなかったけど、早く王を止めなきゃ……」

379 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/04(火) 03:13:33
サユキはリナプーの感じが何か変わったことには気づいたが
聴覚から取り入れる情報だけでは、具体的にどう変化したかまでは分からなかった。
いくらサユキが音を聞き分ける訓練をしたと言っても、
相手の心理状態や考えなどを読み取ることは不可能なのである。

(ダメだ、考えるのは苦手……私は私のできることをやるだけだよね!)

サユキは天井を蹴飛ばし、リナプー目掛けて落下する。
この攻撃は当たろうが外れようが大した問題ではない。
ヒットすればもちろんそれは嬉しいのだが、
例え外したとしても、もう一度天井に上がって、また下がればいいだけの話だ。
AH このままエンドレスさ、何度も何度も繰り返し天(井)まで登れ!
ブラックバタフライ、ブラックバタフライのように軽くなった自分は、
蹴りによって生じる風に吹かれてゆらりゆられて大空へと飛んでゆける

(根気と根気の勝負だよ!リナプーが急ぐってんなら全力で邪魔してやる!)

想定していた通り、サユキの初撃はリナプーには当たらなかった。
姿は見えないが、おそらくは直撃寸前で回避したのだろう。
もちろんそんな簡単に行くとは思ってなかったので、次当ててやろうと気持ちを切り替える。
ところが、ここでサユキの耳に異音が入ってくる。

(来てる!……2匹の犬か!)

サユキが地に着くタイミングでププとクランは体当たりを仕掛けていた。
また上に登られる前にぶつけてやろうと、虎視眈々と狙っていたのだ。
これが決まればリナプーに時間を与えることが出来る。そう2匹は考えていた。
しかし、カンフー(自己流)の達人サユキにはそれすらも通用しなかった。

「見くびられたもんだね。私が消せるのは重力だけじゃないよ。
 どんな力だって消せるんだ!!」

サユキは右手をププに、左手をクランに当て、衝突するタイミングで勢いを殺すように手を引いていた。
どんな攻撃でも当たる瞬間に対象物に逃げられたら威力は半減してしまう。
以前トモがタケを殴ろうとしたときも、この技術を応用したのである。
カンフー(自己流)は凄い。まさに攻防一体の万能格闘技だ。
その気になれば脚が地にぶつかる際の衝撃を消すことで、無音で走ることだって出来る。
アヤチョ戦でマロもレモンジュースを飲んでいたが、
「身体を軽く思い込むジュース」はカンフー(自己流)と組み合わせてこそ真価を発揮するのである。

(これで犬は私を邪魔出来ない。あとはゆっくりリナプーを倒すだけ!!)

380名無し募集中。。。:2015/08/07(金) 18:17:54
サユキの絶好調ぶりが不安にさせる
大きな落とし穴があるのではないかと楽し・・・いや心配

381 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/08(土) 13:19:26
最近更新滞りがちで申し訳ありません。
今日の夕方から夜にかけては書けそうです。

382名無し募集中。。。:2015/08/08(土) 18:46:13
無理しないでね

383 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/08(土) 19:05:07
もう一度天井へと跳びあがろうとした時だった。
子犬2匹ではない、それらとは全く異なる足音が聞こえるのをサユキは感じる。
2匹よりも速く、そして大きな足音は耳に入れるだけで恐ろしい。

(なんだこの音!?ひょっとして、3匹目の犬か!!)

新たな足音は小型なププとクランと比べて、明らかに「大型犬」だった。
かと言って機敏さに劣るわけではなく、スピードも据え置きだ。
このまま激しい勢いを保ったままサユキにぶつかるつもりなのだろう。

(私には力を消す技術がある。でもこの力強さ……消し切れるか?)

突如現れた援軍であるために、サユキには情報が不足していた。
いくらカンフー(自己流)に自信が有るとはいえ、このまま考えなしに突っ込むのは愚の骨頂だろう。
ならば少し様子を見ればいい。
サユキには自分の身体ごと天井へと連れて行く蹴りがあったのだ。

(しばらく観察させてもらうよ!えいっ!!)

空という安全圏がある限りサユキは優位に立つことが出来る。
好きな時に攻撃できて、好きな時に休めるなんてまるで理想郷だ。
だからこそ、「3匹目」はその理想郷を破壊することにした。
走りの勢いを全て上方向に変換し、サユキのいる天井へと飛び上がったのだ。
姿の見えにくい3匹目が迫ってきているなんて思いもしないサユキは、
無防備のまま横っ腹を食い千切られてしまう。

「ぎゃっ!!!!」

強烈な痛みを感じたサユキは思わず地へと落下する。
まさに猿も木から落ちるといった感じだ。
ププとクランがサユキを待ち構えているがその必要はない。
何故なら3匹目が渾身の突進をするだけで事足りるからだ。

「ひぃっ!!」

サユキは何をされたか分からないうちに地へと落とされ、
なにをされたか分からないうちに体当たりを貰い、
そのまま身体を壁にぶつけられてしまった。
全身打撲ゆえにもう立つこともままならない。
サユキは精一杯の力で顔を上げて、
いつの間にか透明化の解除されていたリナプーを見上げながら言葉を発する。

「リナプー……私は何をされたの……」
「教えない。」
「私を噛んだ犬はどこ?姿も音も無いんだけど……」
「教えない。」
「リナプー?なんでリナプーの口は血だらけになってるの……?」
「教えない!私もう急ぐの!!」

そう言うとリナプーは2匹の犬を連れて作戦室の方向へと走っていった。
自国の王、アヤチョをどうにかして止めるためだ。

384 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/09(日) 00:55:05
「ハルナン、待って!」

フクとサヤシは作戦室へと向かうハルナンを追いかけていた。
ハルナンさえ止めれば全ては終わる、そう信じて走っているのである。
あとちょっとで追いつくといったところで、フクは少し動きを止める。
もちろん、ただ停止した訳ではない。
お得意の移動術で一気に距離を詰めるために、下半身に力を入れだしたのだ。

「フク・ダッシュ!それならあっという間じゃ!」
「うん、私が抑えつけてるからサヤシも早く来てね。」

ハルナンが帝国剣士団長とは言っても、戦闘能力はフクに相当劣っている。
そこにサヤシまで加えたら完全に制圧することが出来るだろう。
それをフクとサヤシは十分理解していた。
そして、フクの背後に迫っている存在もそのことをよく分かっていた。

「させるかっ!!」

その存在の正体はハル・チェ・ドゥーだった。
手柄を総取りするため虎視眈々とチャンスを狙っていたハルが、
このタイミングでフクの背中に飛び蹴りをかましたのだ。
体重差ゆえにダメージは無いに等しいが、突然の一撃ゆえに体勢を崩してしまう。
こうなってはフク・ダッシュでハルナンを追う願いは叶わない。

「ハル!……私たちの邪魔をするというの?」
「邪魔?それどころじゃ済みませんよ。 二人の首、取りに来たんで。」
「……本気で言っちょるんか? 誰を前にしてそんな口が叩けるんじゃろうか。」
「……」

実際、ハルの感じる威圧感は半端なものではなかった。
相手はQ期組団の団長とエースの二人だ。怖くないはずがない。
だが、今日のミスを帳消しにするにはこれくらいのことをしないと釣り合わないのである。
それに、一人で二人を倒すわけではない。
ハルにだって味方はいる。

「紹介します。ハルの仲間、アーリーちゃんです。
 断言しますよ。アーリーちゃんはフクさんを完全無効化する力を持ってます。
 だから、ハルがサヤシさんさえ倒せばこっちの勝利なんだ。」
「ほぉ、一騎打ちなら勝てると?」
「はい、サヤシさんの決定的な弱点、知ってますよ。」
「なんじゃと……」

385 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/10(月) 15:27:05
柱の陰に隠れていたアーリーは、ハルの言葉に驚いていた。
確かに自分の力なら敵を拘束することが可能だが、
その相手がフクほどの達人であれば上手くいく保証が全くないのだ。
そんな不安そうなアーリーに対して、ハルが目配せをする。

(アーリーちゃん、やるしかないんだ。ハルが手本を見せてやるから見てな!!)

ハルは「タケゴロシ」と名付けられた竹刀を取り出しては、素早い速度でサヤシに斬りかかる。
天気組でハルナンが「雨の剣士」、アユミンが「雪の剣士」、マーチャンが「曇りの剣士」と呼ばれているのに対して、
このハル・チェ・ドゥーは「雷の剣士」と賞されている。
その強さの秘密は圧倒的なまでの「手の速さ」だ。
他の剣士らが扱う金属製の剣と比べると、ハルの竹刀は非常に軽い。
ゆえに振りのスピードは目視が困難なまでに速くなっている。
一撃一撃の威力はもちろん弱いのだが、その代わりハルは雷撃のような連打を実現しているのだ。
ピシャリピシャリといった破裂音もカミナリを彷彿とさせる。

「どうだサヤシさん!ハルの本気を受けきれるか!!」
「チッ、相変わらずうっとおしいのぉ……」

正直言ってこの攻撃でサヤシが簡単に負けることはありえないが、
さっさと片付けてハルナンを追うために、フクも助太刀することを決める。

「待っててサヤシ!今助けるね!」

ハルの背中はガラ空きなので、そこに装飾剣「サイリウム」で切りつければ対処は完了だ。
フクとハルの実力差を考えればそれは容易に終わるはずであった。
しかし、ハルの勇敢さに感銘を受けたアーリーが突進してきたからこそ、上手くはいかなくなる。

「か、覚悟〜〜〜!!」
「!?」

アーリーはフクに攻撃を仕掛けるでもなく、ただ抱きつきにやってきていた。
戦場でいきなりハグされたので、フクは正常な判断が出来ず、それを受け入れてしまう。
普段であればこんな美少女に抱きつかれるのはフクにとって喜ばしいことなのであるが、
アーリーのそれはそんなに良いものではなかった。

「ハルさん!私がフクさんを止めます!!」

そう言うとアーリーは全身全霊の力を込めてフクの骨を折りにかかった。
まるで万力のような圧迫感に、フクは激痛を感じてしまう。

「うぁっ……こ、この力は……」

アーリーは戦闘能力で言えばトモ、サユキ、カリンには遠く及ばない。
しかし、その怪力さに限って言えば誰もが認めるNo. 1だった。
一度ハグさえ成功すれば、食卓の騎士クラスの相手だろうとグルングルンに回してみせるだろう。

386名無し募集中。。。:2015/08/10(月) 16:17:10
あのシミサキやミヤビもグルングルンだったもんなぁw

387 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/11(火) 16:32:17
アーリーによる圧力は凄まじいが、決して耐え切れないレベルのものではなかった。
そこいらの兵であれば簡単に骨を折られてしまうのだろうが
フク・アパトゥーマは全モーニング帝国剣士の中でNo.2のパワーを誇っているために
抱きしめられる内側から押し込むことによって、ある程度耐えることが出来るのである。
しかしそれでもアーリーの腕を振りほどくことまでは出来ないし、
この状態をキープし続けるだけで疲労が溜まってくる。汗も滝のようだ。
せっかくタケとの戦いでの体力を回復したというのに、このままではまた消耗してしまう。

「フクちゃん!」

事態が緊迫しているフクへと目を向けるサヤシだったが
その瞬間、自分の鼻先を竹刀がかすめたので慌てて視線を戻す。

「余所見している暇なんてないですよ!」
「くっ……」

ハルは片手間で応対していい相手ではない。サヤシはそう認めざるをえなかった。
非力ゆえに決定力はゼロに等しいが、息をつかせぬ振りの乱打はなかなか馬鹿にできない。
もちろんサヤシの居合刀「赤鯉」の刃を竹刀に当てればそれだけでぶった切れるのだが
剣士というよりは剣道家のハルは小手や胴を狙ってくるのでそれも難しい。

(あくまで鍔迫り合いはしないつもりか……だったら!)

サヤシは足の力を一気に抜き、背中から床へと落ちた。
もちろんこれは降伏の意思表示などではない。得意のダンスでハルを翻弄しようとしているのだ。
ブレイクダンスの要領で自身に回転を加え、敵の背後に回りこめば切り込むことが出来る。
回転力の加わった居合いを受ければ、体の弱いハルはひとたまりもないだろう。
たったそれだけでサヤシはフクの元へ助けにいけるはずだった。
しかし、このタイミングで何故かハルまでも体勢を低くしたことでサヤシの思惑は外れることになる。

「そう来ると思いましたよ、サヤシさん」
「……!?」

ハルは寝っ転がったサヤシの肩の上あたりに掌を強く叩きつける。
この状態はまるで「床ドン」。
覆いかぶさるように、ハルはそのベイビィフェイスをサヤシの顔に近づけていく。

「焦らないでくださいよ、ゆっくりやりましょう?」
「ひ、ひ、ひやああああああああああ!」

ハルの考えるサヤシの決定的な弱点。それは異性に対する免疫力の低さだった。
異常なまでのストイックさゆえに居合いの達人として成長してきたのだが、
その代償か、男性とまともに話した経験が家族と親戚くらいしかなかったのだ。
よって、ハルが男性的な面をちょっとでも出せばこうも簡単に崩れてしまう。

「サヤシさん可愛いですよ、刀を捨てればもっと可愛いかも。」
「ひゃ、ひゃい……」

388 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/11(火) 16:34:18
はい、アーリーのグルグルはBerryz×Juiceのナルチカネタです。
バレバレですねw

389 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/12(水) 19:59:15
フクとサヤシは絶体絶命だった。
敵対するアーリーとハルはどちらも格下だというのに、相手のペースに完全に飲まれてしまっている。
こうも容易くリードを許す時点で、修行が足りていないのかもしれない。

「サヤシさん、さぁ、刀を床に捨てて。」
「……」

顔が火照って、頭がボーッとするサヤシは言われるがままに居合刀を置いてしまった。
刀は剣士の命だというのも忘れるくらいなのだから、よほど正常な判断が出来ていないのだろう。
それを見たハルはニヤリとした。
ここでサヤシの刀を奪い取ることを彼女は躊躇しない。罪悪感も感じない。
目の前のチャンスをただ見逃す方が戦士として二流以下だと考えているからだ。

(まともにやり合ったらサヤシさんには太刀打ちできない。それは認めるよ。
 でも使えるものを全部使えばハルだって勝てるんだ……この勝負、もらった!)

ハルはサヤシに覆いかぶさったまま刀を掴み、相手の脇腹へと突き刺そうとした。
手入れの行き届いている名刀なので、ほんの少し力を入れるだけでバターのように肉を切ってくれることだろう。
そうすればサヤシは戦闘不能、ハルの勝利……となるはずだった。
突然の乱入者が現れるまでは。

「させん!」

その者はこちらに走ってきては、刀を掴みかけたハルの手を思いっきり踏んづけた。
骨に異常をきたしたハルは激痛のあまり絶叫し、刀を奪うどころじゃなくなってしまう。
そして乱入者はそのまま走りを止めず、フクを拘束するアーリーの元へと急ぐ。

「え?え?……なんですか?」

アーリーが戸惑うのも構わず、その者はフクを縛る腕をギュウッと掴みだす。
そして信じられないことに、果実の国No.1の怪力の持ち主であるアーリーの腕をフクから剥がしていったのだ。
自分より力強い人間を見たことがないので、アーリーの混乱は益々促進する。

「やめたってください!誰!!誰なんですか貴方は!!」

アーリーは知らないようだが、ハルにはその正体が分かっていた。
そしてもちろん、フクとサヤシも彼女をよく知っている。
フクよりパワーのある帝国剣士はその人しか存在しないのだ。

「誰って?通りすがりの魔法剣士っちゃん。」
「「エリポン!!」」

390名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 08:40:24
エリポン颯爽に登場!こりゃサヤシのエリポンガーと奥様の惚気必須だなw

元ネタわかるのが嬉しい 前作読んだときはまだ詳しくなかったから過去動画見まくった思い出…w

391名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 12:40:02
心憎いコラボw

392名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 14:32:04
イクサじゃなくてディケイドだなw

チャラーって例の音楽が流れたw

393 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/13(木) 18:03:16
エリポン・ノーリーダーの登場に、フクは感謝の気持ちを抱かずにはいられなかった。
アーリーに抱きしめられていたままならサヤシを救うことが出来ず、ひどく後悔していたかもしれないからだ。

「エリポン……来てくれてありがとう!」
「エリはフクの右腕やけんね。いつどんな時でも助けに来るよ。」

そう言うと、エリポンはサヤシの方に視線を向ける。
己を恥じてうつむいてしまっている同期に、にやけながら声をかけるのだ。

「ちょっとサヤシー?結構ピンチやなかったー?」
「う、うるさい!」
「ガッカリさせんでよ。そんなもんだった?サヤシの実力は。」
「分かっちょる……もう、相手に飲まれたりしない。」

この状況にハルは危機感を覚えていた。
単純に敵の数が増えたというのもピンチなのだが、
それ以上にハルのハニートラップもアーリーの拘束も通用しなくなったことがまずいのだ。
特に、サヤシが完全に正気に戻ったのが痛すぎる。
おそらくはエリポンが居る限りは決して崩れたりはしないだろう。

(くそっ!アユミンのやつ、足止めに失敗したのか……
 エリポンさんも結構負傷しているみたいだけど、2対3でどうにかなるのか!?)

1人現れることでこうも形成が変わるなんて思ってもなかったので、ハルは冷や汗をかいてしまう。
そして不安に思っているのはアーリーも同じだった。
どうしていいのか分からずに、棒立ちのままハルの方をチラチラと見ている。
そのような焦りを感じ取ったのか、たたみ込むようにフクが鬨の声をあげだす。

「よし!3人で協力して2人を倒そう!みんなで力を合わせれば必ず勝てるよ!」

フクの言うことが正しいことは誰が聞いても明らかだった。
敵であるハルとアーリーでさえ不安に押しつぶされそうになっている程だ。
3人のチームワークを見せつければあっという間に制圧できることだろう。
だが、サヤシはフクの指示に反対だった。

「違うじゃろ。フクちゃん。」
「えっ!?」
「ここはウチとエリポンが抑える。だからフクはハルナンを今すぐ追いかけて!」
「!!」

サヤシの言葉にはエリポンも同感だ。
口には出していないが、その自信気な表情が物語っている。
カノンがフクの盾ならば、エリポンとサヤシは二本の刀。
その刀が主を先に行かせてくれると言うのだから、フクは信じるほかない。

「分かった!……任せるよ、二人とも。」
「「おう!」」

394 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/13(木) 18:04:52
はい、コラボレーションは意識して書いてますw

395 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/15(土) 22:29:50
ハルとアーリーはフクをみすみす通すことしか出来なかった。
追いかけようとしても、エリポンとサヤシがプレッシャーをかけるので簡単に阻止されてしまうだろう。
だが、ハルはある意味ではこれをよしとしていた。
自分たちの目的は「フクを倒すこと」や「ハルナンを守ること」ではなく、「フクの票を減らすこと」だ。
ならばフクを深追いせずとも、目の前の2人を確実に仕留めることが出来れば十分。
もっとも、それが難しいのだが……

(ハルさん!ハルさん!)
(どうした?アーリーちゃん。)

アーリーがハルに対してアイコンタクトを送り出した。
女性に対する気配りバッチリなハルは、それを100%解読することが出来る。

(このエリポンって人には私の力が通用しません!
 だから戦う相手を交換しませんか?サヤシさんならまだ抑える自信があります。)
(ダメだ!それはダメだ!)
(えっ、どうしてですか?)
(エリポンさんにはハルのイケメンパワーが全く効かないんだ……
 何故なら自分が一番カッコいいと思ってるからね。)
(そんな……!)

強靭な肉体を持ち、且つ自意識過剰気味なエリポンは2人の天敵とも言える存在だった。
また、エリポンの登場によって気を張り詰めたサヤシだって簡単な相手ではない。
2対2である限りは不利なのである。
では、どうするべきかというと。

(エリポンさんは怪我をしている!アユミンが残した成果だ。
 そこを一気に突こう!)
(二人掛かりってことですね!)

ハルとアーリーは同じタイミングでエリポンに飛びかかった。
手負いのエリポンを奇襲でさっさと片付けて、その次にサヤシを倒そうという策なのである。
だがハルは焦りのためか大事なことを忘れていた。
本気を出したサヤシはモーニング帝国剣士の中で「最速」であることを。

「これ以上好きにさせるかっ!!」

サヤシは不意打ちにも戸惑うことなく、ハルにの左脚にスライディングによる蹴りをぶつけた。
線の細いハルが突然の横槍に耐えられるはずもなく、その場で転倒してしまう。

「しまった!」

二人掛かりでエリポンに仕掛けるはずが、アーリー単騎で突っ込む形になってしまった。
すぐにでも続きたいハルだったが、それは無理な話だ。
激昂したサヤシが今すぐにでも刀を振り下ろそうしているのだから。

「安心せい、命までは奪わん!!」
「ひっ!!」

396 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/16(日) 13:25:43
サヤシの思想は変わりつつあった。
はじめは「自分たちに危害を与える者は殺してでも止める」というスタンスであったが、
今では「命まで奪う必要はない」と考えるようになった。
実際に食卓の騎士クマイチャンと対峙することで、死の恐怖を存分に味わったからこその変化だろう。
しかしいくら考えが変わったとしても、刀を振るう感覚まではそう簡単に変わらない。
ゆえに、元来の殺人剣をいかに弱めるかという点においてサヤシは苦労していた。

(これくらいか?えいっ!)

居合刀は一瞬にしてハルの胸を傷つける。
研ぎ澄まされた名刀による一撃なので、当然ハルは激痛を感じる。声も出ない。
だが上記の理由もあってか、斬撃がやや鈍っていたのがハルにとって不幸中の幸いだった。

(めっちゃ痛い!涙が出そうだ……でも生きてる!
 ハルの竹刀捌きでサヤシさんの刀を打ち落としてやれば勝てるんだ!)

ハルは寝っ転がった姿勢のまま上半身を起こし、
サヤシの小手に竹刀「タケゴロシ」を思いっきりぶつけようとした。
居合術こそ怖いが、刀さえ無ければ戦力を大幅に落とせるとの判断だ。
ところが、ハルが打った先には既にサヤシは居なかった。

「え!どこに……」
「後ろじゃ!!」

ハルが起き上がろうとする一瞬の隙に、サヤシは背後に回りこんでいた。
ダンスで鍛えた足捌きを活用すればこれくらいは容易い。
ましてや相手がハルのような若輩者であれば、威圧されてパフォーマンスを妨害されることもほとんど無い。
相手はクマイチャンではないのだ。
あれほどのプレッシャーを経験した今、サヤシはちょっとやそっとでビビったりはしない。

(刀は加減が難しいけぇ……じゃけん蹴りならどうじゃ!!)

サヤシはボールをキックするように、ハルの頭を思いっきり蹴飛ばした。
エリポンのようにスポーツが得意だったり、カノンのようにローキックに長けていたりする訳ではないが、
後頭部への強打が効くのは当たり前。
ハルは目が飛び出るような痛みを感じ、更に耐え難い吐き気まで催してしまう。

「ぐうっ……ハァ…ハァ……くそっ!苦しい……」

397 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 02:39:24
二人掛かりで飛び込んだはずが、気づけば自分一人だったためアーリーは焦りだす。
しかも標的であるエリポンはひどく好戦的な目をしている。
今更謝ったとしても逃してはくれないのだろう。
もっとも、逃げる気などさらさら無いのだが。

「どうする?力比べでもする?またエリが勝つっちゃけど。」
「それはしません!負けるのは嫌です。」
「ふぅん、じゃあ何をするって?」
「私本来のスタイルで戦わせてもらいます!!」
「ほぉ……」

アーリーが背中から取り出したのは二本で一組のトンファーだった。
右手と左手の両方に持つこの武器を、彼女は「トジファー」と名付けている。
トンファーを構えることによって、ただでさえ大柄のアーリーのリーチが更に伸びたので
エリポンは巨大な籠に囲まれたような感覚に陥ってしまう。

「なるほど動けん。エリ、閉じ込められとる?」
「はい、女性ならハグして拘束するんですが、男性にはいつもこうしてます。
 男の人に抱きつこうとするとメンバーに怒られちゃうんで……」
「いや、エリは女っちゃけど。」
「わー!そういう意味じゃないんです!あなたにはハグは効かないなって思っただけで……」
「いい、いい、分かっとるから。」

アーリー自身はこんな調子であるが、戦術自体は脅威だとエリポンは感じていた。
右に動けば右にトンファーを、左に動けば左にトンファーをぶつけてくると予測されるので、
エリポンはまったく動かずにアーリーを仕留めなくてはならない。
しかもエリポンのすぐ後ろには廊下の壁が迫っているため、後方移動だってさせてもらえない。
そして面倒なことに、此の期に及んでアーリーがまた奇妙なことをし始める。

「ジュースで乾杯!」
「は?……」

アーリーは他のKAST同様にジュースを飲むのだが、エリポンにはその意味が分からなかった。
だがそれがただの水分補給ではないことには勘付いている。

(ドーピングの類?この子が筋力強化とかしたらやばかね……)

となればエリポンの採るべき策は先手必勝しかなかった。
ドーピングが効く前にアーリーを斬り倒すのが最も有効だと考えたのだ。
エリポンの打刀「一瞬」による斬り込みの速さはその名の通り一瞬だ。
師匠の音速には届かなくても、それに近いだけの速度は出すことが出来る。

「お腹、ガラ空きっちゃん!!」

アーリーは両手を大きく広げていたため、胴体に隙があった。
そこに高速の刃を打ち込めば早々に決着はつくだろう。
ところが、自信満々に振られた一撃はアーリーには通用しなかった。
音速寸前の打刀より速く、右手のトンファーが護りに来ていたのだ。

(えっ!?速すぎる……!!)

ぼーっとしているように見えて俊敏なガードを繰り出すアーリーにエリポンは面食らう。
そして速いのはガードだけではなかった。
空いている方の左トンファーが既にエリポンの胸へと接近している。

「しまっ……」

今しがた攻撃体勢に移ったばかりのエリポンがすぐに防衛に回れるはずもなく、
シュルシュルと回転したトンファーを胸にぶつけられてしまう。
そう、アユミン戦で斬られた胸を更にえぐられてしまったのだ。

398 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 02:58:58
過去ログを見返しましたが、エリポンはアユミンに胸を斬られてませんね、、、
最後の一行は削除します。

399名無し募集中。。。:2015/08/17(月) 06:53:44
トジファーw結局あのトマトはどうなったのか…

400 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 13:00:12
アーリーの飲むジュースはメロンジュース。
マロが以前飲んだように、「どんな些細な動きも捉える眼」を得る効力を持っている。
視野が著しく狭くなるのが玉に瑕ではあるが、範囲内の動きは絶対に見逃さない。
例えエリポンが高速の斬撃を繰り出そうと思っても、アーリーは筋肉の動きから攻撃の初動をキャッチ出来るのだ。
こうなればスピードはまったく意味をなさなくなる。
どんな技だろうと発動する前に防御してしまうのだから。

「大人しくした方がいいですよ。抵抗しても無駄です。全部防ぎますから。」
「くっ……」

エリポンにはアーリーの防御術のカラクリは分からなかったが、単調な攻撃が通用しないことは理解できた。
となればお次は魔法だ。
各国のスポーツを取り入れたエリポンの魔法ならばアーリーを出し抜けるかもしれない。

「喰らえ!風の刃!!」

エリポンは床が砕けるような勢いで、打刀「一瞬」を足元に叩きつけた。
これはアユミンを攻撃した時のように、アイスホッケーを応用したもの。
どこから飛んでくるのか予測困難な攻撃ならば通用すると考えたのである。
ところが、これは悪手だった。

「魔法?ホッケーですよね、それ。」
「!?」

同じKASTのトモがアーチェリー競技を嗜んでいたことから分かるように、
果実の国では(アンジュ王国ほどではないが)スポーツが盛んだった。
アーリーもアイスホッケーには疎いが、エアホッケーなる遊戯は得意中の得意。
自身に破片が到達するよりも速く、右手のトンファーで打ち返してしまう。

「そりゃーー!!」

細かな破片とは言え、それら全てが勢いよく自分の身体に返ってきたので
エリポンは血反吐を吐いてしまう。
アユミンとの戦いのダメージも残っているため、どんな微弱な攻撃も致命傷に思えるのだろう。

「言ったじゃないですか!だから大人しくしましょう。」
「ハァ……ハァ……なんで?」
「え、何がですか?」
「なんで、君は自分から攻撃を仕掛けんと?さっきから受け身ばっかやん。
 エリ、こんなに虫の息なのに……チャンスと思わんの?」
「!」

エリポンの指摘にアーリーはドキリとした。
そして、エリポンはその表情の変化を見逃さない。

「なるほど……付け入る隙、そこにあるかな?」

401 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 13:00:46
トジファーは残念ながらお亡くなりに…

402 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/18(火) 12:58:35
アーリーはエリポンが視野の外に出ることを恐れていた。
メロンジュースで一時的に発達した「眼」ならば敵の動きを全て把握できるが、
何らかの拍子で相手を見失えばその通りではなくなってしまう。
いくら優秀な眼を持ったとしても、見えないものまで見ることは出来ないため
アーリーは常に相手から眼を離さない体勢を取り続けなくてはならないのである。
余計なことをせず、ただ相手を囲むことだけに専念する……
それが完全なるディフェンスの条件だったのだ。
そして、エリポンはなんとなくだがその事に気付き始めている。

「さすが果実の国の戦士。さすがの防御力っちゃん。やけん、弱点あるね。」
「!!……弱点、ですか?」

全ての攻撃を事前に防ぐアーリーではあるが、音速の攻撃までは防ぐ事は出来ないとエリポンは見抜いていた。
「音速の攻撃」とは言っても、師匠のように本当に音の速さで刀を振ることを指しているのではない。
エリポンは文字通り「音」。つまりは「声」で攻撃しようとしているのだ。
両手を広げた体勢ではアーリーは耳を塞ぐことは出来ない。
ならば精神的に追い詰めるような言葉を防ぐ手段はないということになる。

「君のやり方だと1人しか相手に出来んよ?エリしか囲めない。」
「十分です!エリポンさんを抑えるのが私の役目ですから!」
「ほんと?すぐ後ろからサヤシが刺そうとしとるけど。」
「!?……」

エリポンの言うことはでまかせだった。
あわよくばアーリーの注意を逸らせるかもと思って言ったのだ。
しかしまだ幼くてもさすがは戦士。恐怖こそ感じても決して後ろは振り向かなかった。
エリポンを抑えるのが役目、という言葉に嘘は無いようだ。

「ごめん今のは嘘。サヤシは来とらんよ。」
「はぁ……良かった。」
「でもね、そんなにビビったってことはハルが負けてると思ったってことやない?」
「え!?いや、その……」
「君の防御、凄いよ。でもそれは強いお仲間がいたらの話。
 いつもは果実の国の戦士たちと共に戦っとるんやろ?そりゃ信頼できようね。
 でもぶっちゃけ、ハルって信頼できる?」
「出来ますよぉ!」
「あの子、帝国剣士の中で最弱っちゃけど?」
「えっ……」
「ほら、君からは見えんかもしれんけど、今もこうしてサヤシにボコボコにされとる。
 うわ痛そう……泣いてる、可哀想可哀想」
「嘘をつかないでください!もう騙されませんよ!!」
「それが、今のだけは嘘じゃないんだよなぁ……」

403名無し募集中。。。:2015/08/19(水) 01:04:55
三味線を使いよるか

404 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/19(水) 12:58:44
エリポンの言う通り、ハルはサヤシにやられてボロ雑巾のようになっていた。
後頭部を強打された後に鳩尾への蹴りを3発も入れられ、
そうしてうずくまっているうちに自慢の木刀まで切断されてしまった。
それでも意地を見せようと手ぶらで立ち向かったが、
刀の峰で思いっきり鼻を叩かれて、大量の鼻血を流してしまう。
プライドの高いハルにとって、痛みよりも己の不甲斐なさが何よりも辛い。

「こんなに……こんなに遠いのかよ……」

サヤシと自分との距離が想像以上に離れすぎていたことに、ハルはショックを受ける。
受け入れがたいがこれは現実だ。
肩書き自体は同じモーニングを帝国剣士であるが、
実力にはこれだけの開きがあったのである。
そして、ハルはこれより更なる追い討ちをかけられることとなる。

「ハル様とサヤシ様が決闘している!こんな廊下で……」
「エリポン様もいるぞ!!」
「な、何が起きてるんだ!?」

ゾロゾロと大挙してやったきたのは、先ほどハルが結成したサヤシ捜索隊だった。
何やら騒々しかったのでやってきたのだが、
まさか帝国剣士同士が戦っているなんて思いもしなかったのでみながみな驚いている。
そして、ハルにとって己の無様な姿を見られるのが耐えがたい屈辱だった。
普段馬鹿にしているジッチャンら男性兵に嘲笑われているような気がして、顔が真っ赤になってくる。

「み、見るなぁ!!ジッチャン達あっち行けよ!!」
「でもハル様!お怪我が……」
「うるさいうるさいうるさい!!お前ら全員どこかに消えろ!!命令だぞ!!
 上官の言うことが聞けないのかぁぁぁぁぁ!!」

そして、物音に釣られてやってきたのは男性兵達だけでは無かった。
その者たちは、壁の向こうの隠し部屋からハルを心配そうに見守っている。

「ドゥーさん可哀想……出来ることならすぐにでも助太刀したい……」
「無駄よクールトーンちゃん、あなたサヤシに勝てないでしょ。」
「そうですね、サユ王様……」

モモコとクマイチャンの戦いを見終えたサユ王とクールトーンの二人は、次の見学先としてここを選んでいた。
サユはアーリーの眼を使った戦いを見せたいと思って来たのだが、
予想外に帝国剣士の恥部に直面してしまったので、ポリポリと頭をかく。

「ハルのダメなとこ出ちゃってるわね……クールトーンちゃん、アレでもカッコいいと思う?」
「思います!弱いのにサヤシさんに立ち向かう姿勢とか!」
「弱いって言っちゃってるじゃん」
「あわわわ、違うんです。」
「違わないわ。そもそもハルの魅力はカッコよさなんかじゃないの。
 クールトーンちゃんも、そしてハル自身もそこには気づいてないみたいだけども。」
「魅力……なんだと思うんですか?」
「かわいさ。」
「真面目にやってください!!」
「いやいや真面目よ大真面目。」

405 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/20(木) 13:00:11
泣きじゃくるだけならまだしも、一般兵らに当たり散らすハルの姿はあまりにも見苦しかった。
そして、サヤシ・カレサスはその態度にひどく憤っている。
モーニング帝国剣士に選ばれる者は例外なく一騎当千の実力を持つと言われているが
それにあぐらをかいて、あたかも自分が神の如き存在と錯覚するようでは三流だ。

「上に立っていいのはサユ王ただ一人じゃけぇ……勘違いも甚だしい。
 もう喋るな。喚くな。ハルが表に出るだけで帝国剣士のイメージが下がりよる。
 じゃから、ここで寝てろ。」

サヤシは腰につけた鞘に手を当て、居合の準備を始めた。
殺すつもりは無いが、穏便に済ますつもりもさらさらない。
これは脅しなどではないことは誰の目にも明らかだった。

(サヤシさん……マジかよ……)

腰の抜けたハルは避けたくても避けることが出来ない。
ゆえに、これから起こりうる悲劇を想像すると更に涙が溢れてくる。
そうして怯えた結果、ハルが絞り出したのはたった一言の懇願だった。

「……助けて、お願い。」

今更命乞いをしてももう遅い。サヤシの抜刀はもう止まらない。
ハルの薄皮を切り裂くために、居合刀は走り出している。
これさえ決まればもうハルは生意気な口を聞けなくなるだろう。
だが、サヤシは一つ勘違いをしていた。
「助けて」の言葉が自分への嘆願であると思い込んでいるが、
そのメッセージは実は他の人物へ送られたものであり、
その人物もしかと受け取ったことをサヤシは知らなかった。

「ハル様!危ない!!」
「!?」

ハルを護るために刀の前に立ちはだかったのは一人の男性兵だった。
実はこの人物は先ほどハルに竹刀で滅多打ちにされた老兵であり、
そんなハルを護るために立ち上がったのである。
意外すぎる邪魔者の登場にサヤシは慌ててしまう。
このままだと無関係の老兵を殺してしまうかもしれないので、必死に刃の軌道を修正する。

「な、なんじゃあ、いきなり!」

幸いにも斬撃は老兵の太ももを傷つける程度で済んだが、
目の前にはサヤシにとって信じられないような光景が広がっている。
なんと、ハルに馬鹿にされていた男性兵たちが集結して
ハルを護るように囲んでいたのである。

「ハル様を泣かせる者はサヤシ様でも許せません!」
「どうしてもと言うなら我々を全員倒してからにしてください!」
「ハル様のお役に立つのが我々の使命ですから!!」

サヤシは大混乱し、ハルもキョトンとしている。
帝国剣士同士の戦いに一般兵らが割って入ることなんて前代未聞。
それも嫌われていると思われたハルの側につくのだから事態は複雑だ。
だが、実情は案外シンプルなもの。
みんながみんな、ただハルを護りたいだけなのである。
小生意気だけど、ハルは可愛いのだから。

「ジッチャン達……ありがと。」

ハニカミながらも礼を言うハルを見て、彼らの士気は最高潮になる。

406名無し募集中。。。:2015/08/20(木) 14:11:15
なんじゃそりゃw

407名無し募集中。。。:2015/08/20(木) 14:41:05
何してんだよじっちゃん

408名無し募集中。。。:2015/08/20(木) 22:36:24
東京出張帰りの新幹線で一気に読みました

で、ジッチャン何やってるんだw

409名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 06:50:16
じっちゃん(´;ω;`)

410 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/21(金) 12:42:12
「これはいったい?……」

一般兵らの参戦にクールトーンは驚愕していた。
事情も何も知らぬであろう彼らが、サヤシ相手に立ち向かうことが驚きなのだ。
この光景を分析したサユが、クールトーンに語りだす。

「ハルは力が弱いし、刀剣も振れない、体力だって並以下。
 おまけにすぐに怒ったり泣いたり、性格も酷いもんよね。
 じゃあ、そんなハルが何故帝国剣士に採用されたと思う?」
「カッコよくて……可愛いから……ですか。」
「そう、男女問わず従えるカリスマ性こそハルの強み。
 おそらくは城内のほとんどがハルに味方したいと思っているはずよ。
 クールトーンちゃんだってそうでしょ?」
「はい!大好きです!」
「そう、その好きという感情はなかなか馬鹿にできないの。
 本当のファンなら自分がどうなったとしても、ハルを第一に考える。
 怒鳴られても、竹刀で殴られても、帝国剣士のエースを敵に回したとしても
 やっぱりハルのことが好きだから、ハルが可愛いから味方しちゃう。
 これは驚異であり、脅威よ。普通は真似できない。」

サユの発言には説得力があった。
ハルに限らずサユだって人気あるため、命をかけても惜しくないと思う者は大勢いるだろう。
サユ王が居なくなればきっとロスってしまうに違いない。
だが、クールトーンには一つ不安があった。

「でも、それで本当にサヤシさんに勝てるんでしょうか……」
「クールトーンちゃん、戦いは"数"よ。」
「えっ、でも一般兵が何人いたって帝国剣士には勝てないんじゃ……」
「そうね。黄金剣士やプラチナ剣士の時代はそうだったかもね。
 でも、悲しいことに今のは帝国剣士の力は弱体化してる。
 一騎当千でなんとかなる時代は終わったの。
 そういった意味では今の帝国剣士の三強はフク、ハルナン、そしてハルなのかもね。」
「え!サヤシさんやアユミンさんじゃなくてですか?」
「フクは国を愛するがゆえに多くの愛国兵の士気を高めることが出来る。
 ハルナンは他国から味方を大量に引っ張ってくる才能があるわね。
 そしてハルにはカリスマ性がある……これからの帝国を牽引するのに、この3人は欠かせないはず。」
「ドゥーさん凄いなぁ……さすがだなぁ……」
「とは言えサヤシがこのまま黙っているとは思えない。どうなるのか見ものよ。」
「はい!」

411 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/21(金) 12:44:43
まさかジッチャンの行動にこんなに反響があるとは……w

412名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 17:21:33
三強の内二人を擁する天気組勝ちじゃね?
ハルナン王誕生なるか?

413名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 19:40:24
俺は正直ガッカリしたよ
可愛さとか見た目の美醜について言及されたら工藤以外のメンバーのファンからすれば良い気はしないだろう
今まではそういうのなかったからフラットに見てこれたのに残念だよ

414名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 20:01:38
ドゥーへたれ過ぎる・・・なんか無性に帝国地下に叩き落としてあの方達に根性叩き直して欲しいわw

415名無し募集中。。。:2015/08/22(土) 01:34:36
人の捉え方は難しいね
ここのドゥーはすごくよく描けていると思いますよ

416名無し募集中。。。:2015/08/22(土) 02:54:08
作者が思う通りに書けばいいよ
書くのは作者なんだから

417名無し募集中。。。:2015/08/22(土) 04:41:32
SSにマジレスするなさ

418 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/22(土) 12:47:07
ルックスというよりは「守ってあげたい、なんか気になる」感じの可愛さを意識していましたが
確かに配慮が足りてなかったですね。申しわけございません。

第一部のストーリーは結末まで考えてあるため、話の大きな変更は有りませんが
それでもお付き合いいただけると嬉しいです。

419 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/22(土) 17:43:57
サヤシはちょっぴり落ち込んだ。
兵がハルの方にばかりつくので、自分には人望が無いのかもと思ってしまったのだ。
だが、そんなサヤシももう気持ちを切り替えている。
この状況に対処するには冷静でなければならないのだから。

(親衛隊を一瞬で結成するその能力は正直羨ましいのぉ……
 じゃけど、ウチの腕っぷしなら恐るるにたらんけぇ。)

サヤシの実力は抜けているが、それは決して個対個に限った話ではない。
個対多だろうとサヤシは強いのだ。
この事実はサユの「戦いは数」発言に矛盾しているように聞こえるかもしれないが、そうではない。
相手が数百数千であればサユの言う通りだが、今現在ハルについた男性兵らは数十人程度。
しかも念密な策の練られていない烏合の衆であれば、やりようはいくらでもある。

「まずは……3人。」

サヤシは最も近くにいる兵士に飛びかかり、到達すると同時に横っ腹に刀をぶつけだした。
峰打ちとは言え、サヤシほどの達人の振りからなる鉄棒の強打は激痛では済まない。
ボキバキといった音を鳴らしながら、兵はあばらを折り、倒れていく。
そしてサヤシの侵攻はこれでは留まらない。
またも近くにいる相手に対して、逃げ足よりも速く二撃目三撃目を繰り出していく。
派手な骨折音を鳴らしながら、あっという間に3人をのしてしまったサヤシに一般兵らは当然恐怖する。
このようにあえて悲痛な音を聞かせることによって、恐怖で足を止めてしまうのがサヤシの狙い。
この世の流れが一騎打ちから多勢での戦いに変遷していっているのは百も承知。
だからこそサヤシは相手が複数でも戦えるように努めてきたのである。

「怖すぎる……あれが帝国剣士エースの実力か……」
「俺たちの力ではハル様を守れないというのか!?」

たった3回の振りで敵の士気を下げたサヤシはさすがだった。
ハルだって閉口している。
だがハルが黙っているのは敗北を認めたからではない。
サヤシを倒す策をじっくりと考えていたのだ。

「ジッチャン達……怖くて動けない?」
「申し訳ありません……お守りしたい気持ちをは有るのですが。」
「じゃあ、許可する。」
「え?」
「サヤシさんを触るのを許可する。 胸でも、脚でもどこでも触っていいよ。」
「は?……」
「責任はハルが全部取ってやるって言ってるんだ!!
 お前達、サヤシさんを好きに触っちゃえ!!
 さっさと動け!上官の言うことが聞けないのか!!」

ハルの突拍子のない発言に一般兵らはポカンとしてしまった。
そして他でもないサヤシ・カレサス自身が、何が何だか分からないような顔をしている。

「え?え?ハル……今なんて言ったの?」

420 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/24(月) 02:02:11
冗談のようなことを言うハルだが、その表情は真剣そのものだった。
涙を拭って、ビシッとサヤシを指さすその姿勢に「嘘」などないことは明白だ。
こうなってくると兵らの士気は俄然あがってくる。

「うぉおおおおおお!!!」

男性兵らはハルの親衛隊だが、サヤシのことだってもちろん大好きだ。
自分たちにとってモーニング帝国剣士は雲の上の存在であるために、普段は手を触れることも恐れ多いが
今回に限りどこを触ってもOKだとハルが約束してくれている。
こんなチャンスは二度とないと断言しても良いだろう。
ならば達人の剣捌きに恐れおののいている場合ではない。特攻すべきは今なのだ。

「行くぞ!俺はやってやるぞ!!」
「させるか!サヤシ様に触るのはこの私だ!」
「いやいやこの俺が!!」

サヤシは絶句した。
屈強な男たちが自分の身体目当てで飛び掛かってくることは恐怖でしかなかった。
居合刀を握る時は「足を切られても構わない」「腕を落とされても構わない」といった覚悟で臨んでいるが
それとこれとでは話は別だ。
剣士である前に女性である自分を守るために、サヤシはなんとしてもこの局面をしのがなくてはならない。

「ば、ばかああああ!!」

顔をリンゴのように真っ赤にしてはいるが、剣の腕前はやはり確かだった。
自分に触れようとする愚か者たちに一発ずつ強烈な打撃をお見舞いしていっている。
しかしいくら敵の数を減らしても、残った兵らの士気が落ちることはなかった。
何が起きようと揺るがない目標は、烏合の衆だった彼らに力を与えてくれたのだ。
この思いの強さは、優位に立っているはずのサヤシをジリジリと消耗させていく。

「うそ、やだ、それだけはお願い、やめて……」

サヤシが極限まで精神をすり減らしたその時、雷は発生する。
その正体は天気組団の「雷の剣士」であり、親衛隊の指揮官であるハル・チェ・ドゥーだ。
男性兵の陰に隠れてサヤシの近くまで接近していたのである。
自分がサヤシの意識の外にいる今がチャンスであると、竹刀を構えている。
この竹刀は親衛隊が用意してくれた予備のもの。手入れはハルが自分で行う以上に万端だ。

(行くぞサヤシさん!これが本当の本当の最後の一撃だ!
 狙うのは"小手"じゃない。それじゃあ意識を断ち切れない。
 そして"面"でもない。サヤシさんの眼力で避けられちゃうだろう。
 だから!ハルが打ち込むべきは!)

ハルは腕と脚にグッと力を込めた。
非力な彼女が力を入れたところでたかが知れているかもしれないが、
決着をつけるための道しるべはジッチャンら一般兵らが作ってくれた。
指揮官ハルは期待に応えるため、電撃のごとき速さでサヤシへと竹刀をぶつける。

「"ドウ"!!!!」

421名無し募集中。。。:2015/08/24(月) 20:28:32
やっさんはどうなっちまうのやら

422 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/25(火) 09:02:18
「……ッ!!」

ハルの一撃はサヤシの腹にズシンと響いた。
通常であればこれくらい耐えきることは容易いのであるが、
いかんせん今は他に集中せざるを得なかった。
ゆえにハルの胴打ちに意識を飛ばしてしまう。
仮の話にはなるが、サヤシのお腹にもう少しだけ脂肪がついていればそれが防具の代わりになったかもしれない。
つまるところサヤシは細すぎたのだろう。

「やった……ハルが、ハルが勝った!」

絶対的な強者への勝利に、ハルは痛む拳をぎゅっと握った。
それだけにこの一勝が嬉しいのだ。
だがすぐに、自分一人で得た白星ではないことに気づく。

「ジッチャン達のおかげ、だよ。」

ハルはハニカミながら男性兵達に礼を伝えた。
彼らも雄叫びをあげながら今回の勝利を喜んでいるようだ。
始めは自分らの将の勝利に興奮しているかもと思ったが、
よく話を聞いてみるとそうではなかった。

「よし!これでサヤシ様はもう動けない!触りたい放題だ!」
「あぁ!責任は全部ハル様がとってくれるらしいからな!」

ハルは開いた口が塞がらなかった。
そして男の劣情を軽蔑するように怒鳴り散らす。

「ダメだダメだ!サヤシさんに指一本触れることはこのハルが許さないからな!!」
「ええ!?話が違うじゃないですか!」
「ハルが勝ったんだからその約束はおしまいなんだよ!普通わかるだろっ!」
「しかし……」
「上官の言うことが聞けないのか!もう口を聞いてやらないぞっ!」
「ぐ、ぐぅ……」

ハルは元よりサヤシの身体を男性兵に触れさせるつもりはなかった。
サヤシの剣術ならば当然凌ぎ切れると信じていたし、
勝利後はハルの鶴の一声でジッチャン達は止まると踏んでいたのだ。
そして実際にその通りになった。
ハルに「口を聞いてやらない」と言われたら彼らは従うほかないのだ。

「まったく、早くアーリーちゃんに加勢しなきゃならないってのに……」

ハルは同志であるアーリー・ザマシランのことを気にかけていた。
彼女の作り出す檻はどんな相手だろうと拘束するが
ジュースの効果が切れたら動体視力が戻ってしまって危険な状態になると聞いていたのだ。
まだタイムオーバーには遠いが、早期に助けるにこしたことはないとハルは考える。

だが、すでに遅かった。

「ハル、ちょ〜っと調子乗りすぎやなかと?」
「そ、そんな……」

ハルの目の前に立っていたのはエリポンただ一人だった。
血まみれになってはいるが、怖い顔をしてハルを睨みつけている。
そしてその足下には、刀で斬られたような傷を負ったアーリーがゴロンと倒れていた。

「うそ、だろ……どうやってアーリーちゃんの檻から抜け出したんだ……」
「決まっとぉやん、エリの実力、で。」

423名無し募集中。。。:2015/08/25(火) 12:58:13
だから身体作り(脂肪たっぷり)したのね

424名無し募集中。。。:2015/08/26(水) 12:48:43
オリを抜け出せたのは魔法か怪力か

425 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/26(水) 19:41:09
ハルがサヤシを討ち取る数分前。
何があっても体勢を崩さないアーリーにエリポンは難儀していた。
いくら耳障りの悪い言葉を聞かせても、顔を歪めるばかりで檻を解除しようとはしない。
むしろその意志の強さにエリポンの方が参っているくらいだ。

(この子、言われたことはキッチリとやり遂げるタイプか……
 自分でアレコレ考える敵よりも、こういう子の方がやりにくいっちゃね。
 しょうがない、ここは力技でぶち破るしかない。)

エリポンは一気に腰を落とし、アーリーの膝下に斬りかかった。
軽さが売りの打刀「一瞬」が振り下ろされる速度はとても速い。
そしていくらアーリーの腕が長いとは言え、トンファーによる防御はここまで届かないとエリポンは考える。
しかしアーリーの眼はエリポンの初動をしっかり捉えていた。
そのため、エリポンと同じタイミングでしゃがみこみ、不意打ちの刃を防ぐことが出来る。
しかもアーリーのトンファー「トジファー」は二本で一組。
左手のもう一本はエリポンの脳天をカチ割ろうと前進していた。

(やっぱりそう来る!?ならば!)

高速で迫るトンファーを回避することは難しい。
よって、エリポンは避けることを諦めた。
とは言ってもただで受ける気はさらさらない。彼女は頭突きで止める気だ。
トンファーがぶつかるポイントを頭頂部から額にズラす程度の猶予ならある。
後は覚悟を持って、気合いを入れれば耐えることが出来るのだ。
そしたらアーリーだって少しは怯むかもしれない。

「全部、見えてますよ。」

アーリーは衝突直前にトンファーの軌道をちょびっとだけ下げた。
狙いを頭ではなく鼻へと転換したのだ。
鼻への強打を受けたエリポンはたまらず後ずさりしてしまう。
明らかに骨は折れているし、鼻血は多量に吹き出ている。
結果的にエリポンは攻めきれず、反撃まで受ける形になってしまった。

「ぐ……」
「無駄です。血を見るのはあなただけです!」
「馬鹿にしてっ!」

エリポンは悔しくてたまらなかった。
打ち負けたからではない、アーリーが追い打ちをかけないことが悔しいのだ。

(エリにはそこまでする必要が無いってことやろ?
 確かにエリは弱い。アユミンにも競り負けとった。
 でもね、この刀だけは本物やけん……負ける訳にはいかん。)

エリポンは手に持つ刀をジッと見る。
この打刀「一瞬」は彼女が愛してやまない元帝王が使用していたもの。
どうしようもないエリポンに戦いの全てを叩き込んでくれた恩師から譲り受けたのだ。
師のためにも、刀のためにも、エリポンはこれ以上負けを重ねる訳にはいかない。

「使ってみるか……」
「何を、ですか?」
「ガキさんの技を!」

426 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/27(木) 13:00:17
エリポンは刀を鞘に入れ、アーリーをキッと睨みつける。
いつでも刀を抜けるこの構えは「居合術」のもの。
それがアーリーにはすぐ分かった。

「分かりますよ。居合ですよね。」
「うん、今から君を斬る。」
「そんな大事なことを教えてもいいんですか?」
「関係なかよ。これから出す技は分かっていても避けられん。」

エリポンはガキの超高速剣技を繰り出すつもりだった。
素早い振りであり、且つどこを狙うのか直前まで分からないために避けるのは難しい。
もっとも、居合の心得がなくてはこの技を扱うことは出来ないのだが、
幸いにもエリポンは「居合の達人」の剣技を間近で見る機会が多くあった。

「サヤシ、借りるよ!」

エリポン一人の力では師匠には及ぶはずがない。
だがしかし、同期のサヤシの剣術をイメージすれば近くまで迫ることが出来る。
持ち前の筋力と、華麗な居合術。
その二つが融合したからこそエリポンはガキを再現してみせたのだ。

「上段・飛流!!!」

鞘から解き放たれた刃は、上方向にあるアーリーの胸へと一直線に突っ走っていく。
抜刀の調子は上々、重力にも負けずどんどん加速していくのが手にとってわかる。
そして重要なのが、アーリーがトンファーによる防御をしていないということ。
剣が速すぎてガードが間に合わなかったのだと、エリポンは予測する。

「どうだ!これがガキさんの……」

想定通りならばここでアーリーを斬り捨てているはずだった。
だがおかしい。
刃が胸に届くよりも速く、エリポンの両肩に激痛が走っている。

「え!?……こ、これは……」
「諦めてください、全部見えてるんです。」

エリポンの肩を壊したのは、刀が放たれるより先に振り下ろされたトンファーだった。
右肩にトンファー1つ、左肩にトンファー1つ。
つまりはアーリーは両腕を使ってエリポンを攻撃したのである。
彼女には本当に全てが見えている。
筋肉の微妙な動きだけではない。眼球や、呼吸する口の動きだってキャッチしているのだ。
ならばどのタイミングでどこに攻撃するのかは手に取るように分かる。
アーリーの眼がそれ程までに優れていると思わなかったエリポンは、
上方向からの振り下ろしに勝てず、崩れ落ちてしまう。

427名無し募集中。。。:2015/08/27(木) 17:01:24
ビルw

428名無し募集中。。。:2015/08/28(金) 00:38:19
居合いまで止めるのか?アーリー強い!この状態からどうやってエリポン逆転したんだ?

429 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/28(金) 09:18:44
エリポンの視界は暗くなりつつあった。
確かに自分の技のキレはガキと比べてまだまだなのだろうが
こうも通用しないのかと思うと気が滅入ってくる。

(せっかく大見得切ってフクを助けに来たっていうのに、ダサすぎっちゃん……
 アユミンにも勝てない、この子にも勝てない……ダメダメすぎない?
 そういえばサヤシが言っとったっけ、Q期の次期団長がエリなのはありえんって。
 ……まったくその通り。返す言葉もない。こんなダサい団長がおったらいかんよね。)

この時エリポンは完全に勝利を諦めていた。
自分の力ではアーリーの檻をブチ破ることが出来ないと認めたのだ。
これまで痛む身体をなんとか支えてきていたが、心が折れればそうもいかなくなる。
床にグッタリと倒れこみ、瞳を閉じていく。

「こっち終わりましたよ!ハルさん大丈夫ですか!!」

エリポンが目を瞑ると同時にアーリーはハルのいる後方へと振り向いた。
これが、エリポンにとっての最後の好機となる。
アーリーはエリポンが確実に気を失うのを確認してからハルを見るべきだったのだ。
だが彼女にはそれを待ってられない理由があった。
先ほどエリポンに言葉責めで不安感を煽られた結果、ハルが気になってしょうがなかったのだ。
アーリーがエリポンから眼をはなしたということは、即ち檻が解除されたということ。
いや、檻とか関係なく剣士に背中を向けることは自殺行為だ。
エリポンは閉じかけの目に光りが差し込んできたことに気付く。

(うわ、背中ガラ空き……ここで斬ったらイチコロやない?
 でも、そしたら帝国剣士のプライドが……)

エリポンは一瞬のうちに激しく葛藤した。
自分は敗北した身。
そんな自分が勝者に卑怯な手で斬りかかるのはいかがなものなのだろうか?
それは敗北よりも惨めなことではないだろうか?

(いや違う!エリ自身の使命を思い出せ!!)

エリポン・ノーリーダーの使命。
それはQ期団団長フク・アパトゥーマを「刀」となって護ることだ。
刀が何故メンツを守る必要があろうか?
刀が何故プライドを気にする必要があろうか?
何も気にすることはない。フクに抗う敵を斬り倒せば良いのだ。
使命を果たすためにエリポンは立ち上がる。

「下段・降羅」
「えっ?」

エリポンは下向きの刃で、アーリーの両方のふくらはぎを斬りつける。
突然の凶刃に対処できるはずもなくアーリーは膝をついてしまう。

「戦闘中に余所見はいかんよ!」
「しまった!まだ息が……!」

アーリーはまた檻を作ろうとエリポンの方へと身体を向けるが
負傷したふくらはぎがそれを許さなかった。
拘束がはじまるよりも高速で、エリポンは追撃する。

「中段・野田ぁぁっ!!」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!」

エリポンは満身創痍だが、最後の中段斬りの勢いはなかなかだった。
アーリーの胸を深く傷つけ、地に寝っ転がらすことに成功する。

「ダサくてごめんね。でもこうしなきゃ勝てんのがエリの実力ったい。」

ここでアーリーを斬ったが、敵は1人ではないのは百も承知だ。
すぐにサヤシとハルの方へと視線を向ける。
その時がまさにサヤシがハルに倒されたところであったのはショックだったが
心の動揺を悟られないように、戦況を少しでも有利にするために、挑発をする。

「ハル、ちょ〜っと調子乗りすぎやなかと?」
「そ、そんな……」

ハルは面白いように狼狽していた。
怖い顔で睨みつけたのと、実際にアーリーが倒れ込んでいるのが効いているのかもしれない。
戦士として勝利したとは口が裂けても言えないが、
これは自分の実力なりにアレコレ手を尽くした結果だ。
ここは堂々と胸をはろうとエリは決意する。

「うそ、だろ……どうやってアーリーちゃんの檻から抜け出したんだ……」
「決まっとぉやん、エリの実力、で。」

430 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/28(金) 09:25:10
前作ネタになりますが、確かに飛流はビルですw
降羅はコラー!、野田は〜のだ。 といったようにガキさんが言いそうな言葉が元ネタですね。

また、アーリーが強すぎに見えるかもしれませんが、
「檻に入らないよう注意する」「二人掛かりで仕掛ける」などの対処で簡単に破れます。
食卓の騎士ならこんな感じですかね。

クマイチャン→そもそも檻に入りきらない。
マイミ→二発だと防がれるので10発100発1000発殴りまくる。
モモコ→アーリーの頭じゃ処理できない攻撃をする。

431名無し募集中。。。:2015/08/28(金) 10:30:40
技名にそんな意味があったなんて!「魁弾出飛我」とかもあるのかな?w

432名無し募集中。。。:2015/08/30(日) 20:57:02
アレコレしたいって曲あったよね
たしかあーりーセンター
ハルに真実を教えてあげたい

433 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/31(月) 12:43:04
>>431
エスカレーター式の話ですね。
ガキさんの再登場は怪しいですが、弟子が再現する可能性はあるかもです。

>>432
アレコレって表記する時はだいたいその歌をイメージしてますw


最近更新が滞っていてすみません。
今夜も遅くにならないと書けなさそうなので
簡単なオマケだけチャチャっと書いちゃいますね。

434 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/31(月) 12:49:04
オマケ

サユ「隠し部屋からサヤシ達の戦いを盗み見……もとい見守るわよ。」
クールトーン「はい!」

〜〜

ハル「……助けて、お願い。」
ジッチャン達「うおおおおお!!」
クールトーン「うおおおおお!!」
サユ「クールトーンちゃん落ち着いて!」

〜〜

ハル「サヤシさんを触るのを許可する。 胸でも、脚でもどこでも触っていいよ。」
ジッチャン達「うおおおおお!!」
サユ「うおおおおお!!」
クールトーン「サユ王様落ち着いて!」

おしまい

435名無し募集中。。。:2015/08/31(月) 15:56:13
>エスカレーター式
正解wちなみにOGは今何してるとか一応頭の中にあったりします?

裏でこんな事が起きてたとはww

436名無し募集中。。。:2015/09/01(火) 00:21:46
帝国剣士見参!って感じ?

http://www.hello-online.org/img/Hello_Project-574686.jpg

437 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/01(火) 02:55:08
サヤシを撃破して上り調子なハルだったが、
満身創痍ながらも不穏な空気を漂わすエリポンに完全に気圧されていた。

(全身血だらけだってのになんてオーラだよ、ジッチャン達だって怖がってるじゃん
 またサヤシさんを倒した時と同じやり方でいくか?……いや、ダメだろうな。
 エリポンさん、きっと何をされても止まらないはず……)

身体に触れていいという理由で男性兵たちをけしかける作戦は通用しないと、ハルは気づいていた。
そもそもサヤシとでは性格が違いすぎるという理由もあるが、
今の鬼気迫ったエリポンならば多少触られたところでまったく動じないと考えたのだ。
第一、当の老兵たちがエリポンに近寄るのを恐れている。
斬り捨てられたアーリーのようにはなりたくないと誰もが思っているのだろう。

(どうすればいい!?ハルが直接ガチンコで相手するのが正解なのか?
 ジッチャン達抜きで……勝てるか?
 やばい、分からない、今のエリポンさんはまったく分からない!怖い!
 どうしよう、近づいてきてる、早く決めないと!ハルはどうすればいい!?
 助けて!助けてよ、アーリーちゃん!)

極限まで追い詰められたハルは、あろうことか倒れているアーリーにすがってしまっていた。
ゾンビのように詰め寄ってくるエリポンのことがそれだけ恐ろしかったのだ。
本来であれば戦士としてとても情けないことであるのだが
結果的に、それが正解であることにすぐに気づかされることとなる。

「戦闘中に余所見はいけませんよ!」

その声が聞こえた途端、ゴッという鈍い音が聞こえてくる。
音の発生源はエリポンの右足のすね辺り。凶器はトンファーだ。
被害者エリポンは何が起きたか分からないような表情をしながら、その場に倒れこむ。

「!?」

エリポンも、ハルも、ジッチャン達も驚愕してはいるが、何も驚くことはない。
この場にトンファーを武器として扱う人物はただ一人しかいないのだから。

「アーリーちゃん!生きてたんだ!」
「ギリギリですけどね……もう、ダメかもです……」

エリポンの足を破壊したのは、地べたに這いつくばっているアーリー・ザマシランだった。
胸を斬られて気を失っていたように見えたが、最後の力を振り絞って打撃を繰り出したのだ。
この不意打ちが卑怯だと呼べないことはエリポンが最も痛感している。
何故ならそれはさっき己がやった行為とそっくり同じだからだ。だからこそ悔しい。叫びたくもなる。

「あああああああああああああ!!!!!」

いくら力んでも、いくら凄みを効かしても、壊れた足は動かない。
エリポン・ノーリーダーははフクを守る刀としての役目を果たせぬまま、心半ばに力尽きてしまう。

438 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/01(火) 02:57:54
>>435
二部以降に関連しそうなOGしか考えてませんね。
というわけで、今の段階では言えませんw

>>436
おおー殺陣道ですか。実はこれ行きたかったんですよ。
かっこいいですね。本作のイメージにも凄く合っています。
まだ本作に出ていない人が2人ほどいますがw

439名無し募集中。。。:2015/09/01(火) 18:09:35
勝利への執念をビシビシ感じます

440 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/02(水) 08:45:47
土壇場でエリポンを倒したアーリーは、今度こそ本当に気を失ってしまう。
刀による負傷がひどくて、もう戦えるほどの力が残っていないのだろう。
結果的にこの場で最後まで立っていたのは、ハル・チェ・ドゥーと男性兵たちのみとなった。

「ハルたち、勝ったのか……」

勝者であるハル自身も心身ともに疲労しているため、出来れば床にペタンと座り込みたいところだったが
フクを討つという大事な使命を果たすまではそうも言ってられなかった。

(票数を減らすって意味じゃエリポンさんとサヤシさんを倒せたのは大きい。
 でも、このままハルナンがフクさんにやられたら厳しいぞ……)

アユミンが敗北したのは明らかであるし、
マーチャンとオダ、そしてカノン・トイ・レマーネの動きもハルは気になっていた。
自分の知らないところで味方が軒並みやられていたとしたら、せっかくの戦功がパーになってしまう。

(結局、フクさんを追わざるを得ないんだよな。
 ハルはやれる。今の勢いならなんだって出来る気がする。
 でも、ジッチャンたちはどうする?)

これからの戦いは、帝国剣士の団長同士によるものへと突入するだろう。
我が軍の最高指揮官である二人の決闘を一般兵に見せてよいものかとハルは悩んでいた。
自分らとエリポン、サヤシが血を流しあっているのを見られただけでもギリギリだというのに
フクとハルナンの争いを目の当たりにされたら、その時に生じる不信感は相当のものになると予測される。
出来ればここからはハル一人で行動したい。
しかし、ハル一人じゃ戦力になるかどうかも怪しい。

(どうすりゃいいんだよ……連れてくか?置いてくか?)

こんな風に困惑するハルの耳に、とある呻き声が入ってくる。
それは床に横たわっているアーリーから発せられたものだった。
その苦しみの表情を見てハルは気づかされる。
何故自分は彼女をここまで放っておいていたのかと。

「ジッチャンたち!命令だ!」

男性兵たちはハルに注目した。
彼らには、ハルの言うことならどんなことも聞く覚悟が出来ていた。

「エリポンさん、サヤシさん、そしてアーリーちゃんを医務室に連れて行くんだ。
 3人とも結構な重体だからね、そっと運ぶんだぞ。でも急いでよね。
 あとこれ大事!ぜったい変なところ触ったりするなよ!
 もしそんなことしたら絶交だからな!!」
「「「はい!」」」

そこからの彼らの動きは迅速だった。
さすが日頃から訓練されているだけあって、タンカの用意などは手慣れている。
この分なら大事には至らなさそうなのでハルも一安心だ。

(問題は、ジッチャンたち抜きでやらなきゃならないことか……)

後ろ盾が無いと思うと途端に怖くなってくる。
しかしだからと言って逃げるわけにはいかない。
すぐにでもハルナンに加勢するために、ハル・チェ・ドゥーは一人で走り出していた。

441 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/03(木) 13:38:22
「なんなのこれ……」

ハルナンは途方に暮れていた。
アヤチョの服を見繕ったので早速プレゼントしてあげようと思って来たのだが
そのアヤチョのいる作戦室の扉が、グニャングニャンに曲げられていたのだ。
こんなことをできる人物は限られている。

「マイミ様がやったんだろうなぁ……どうしましょ、これじゃ中に入れない。」

マイミがこの扉を無理に開けようとした理由も気になるが
ひとまずハルナンはどうすれば室内に入れるかを考えた。
自分の剣の腕前では扉や壁を切り裂くことは出来ないし、素手でこじ開けることはなおさら不可能だ。
内側からなんとかしてもらおうにも、中にいるのは重体のアヤチョと、非力そうなユカニャ王だけのはず。
となればこの場で扉を開けてもらうことは期待できない。

「マイミ様を探して開けてもらうのが一番の早いのかなぁ。
 でも一体どこに………………ハッ!!」

この時、ハルナンは敵の気配を感じ取った。
戦闘能力では他に劣る彼女ではあるが、直感は割と冴えている。
来たる外敵に向けて剣を構えるスピードはなかなかのものだった。

「そこにいるのは誰ですか!……」

このように言ってはいるが、ハルナンにはこれから来る敵の正体がなんとなく分かっていた。
しかし、それを認めたくなかったのだ。
アンジュの番長らを刺客として送り込み、
その次は食卓の騎士であるマイミとクマイチャンを解き放った。
もちろん天気組やKASTといった頼れる仲間たちだって辺りをウロウロしていたはず。
それなのに、ヤツはここまでやってきている。
実力だけではない、それ以外のあらゆる力が彼女に味方していることを
ハルナンは決して認めたくはなかった。

「私だよ、ハルナン。」
「!!!……」

そこにいたのは案の定、フク・アパトゥーマだった。
Q期の力を借り、敵だったはずの番長らを味方につけ、
そして食卓の騎士モモコに助けられることによってここまでたどり着いたのだ。
数々の死線を抜けてきたというのに、フクの目はとても穏やかだった。
それがまたハルナンをイラつかせる。

「ハルナン、降伏して。」
「……」
「これ以上みんなが血を流すのを見たくないの。だから終わりにしよう。」
「そしたら王はフクさんになりますよね。」
「えっ?そ、そうなのかな、よく分からない。」

此の期に及んでカマトトぶるフクに、ハルナンはハラワタが煮えくり返る思いだった。
もしもここで敗北を認めたら帝国剣士内でのハルナンの求心力は急激に失われていく。
ひょっとしたら天気組からだってハルナンを見捨てる者が現れるかもしれない。
ならば票数はフクがハルナンを上回る。
次期モーニング帝国帝王は晴れてフクに決定だ。
……それだけはあってはならない。

「王になるのは私です。」
「ハルナン……」
「降伏なんてしませんよ。ここでフクさんを斬れば王になれるんですから!」

442名無し募集中。。。:2015/09/03(木) 19:38:40
ついに直接対決か…純粋な実力で言えばフクのようだけどハルナンは何してくるか分からない恐ろしさがあるね

443名無し募集中。。。:2015/09/04(金) 09:02:32
カーズ様のように結果のためには何でもやってきそうなとこがハルナンの魅力だわw

444 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/04(金) 14:42:25
フクに切りかかる時、ハルナンはちょっと前の出来事を思い出していた。
小さな村で暴れる悪漢を退治するという任務の後で、
同じ天気組団のアユミン・トルベント・トランワライと語り合った時の話。

「ねぇアユミン、どうしてモーニング帝国は一番強い人が帝王になるのかな?」
「えっ……なんでって、そりゃ一番強いからでしょ」

その時のアユミンのキョトンとした顔はとてもよく覚えている。
おそらくはこれまで母国の制度に疑問を抱かず生きてきたのだろう。

「それがおかしいと思うの、私は。」
「何が??今日のハルナンの方がおかしいよ。どうしたの?」
「だって考えてみて。帝王は戦場には赴かないのよ。」
「まぁ、王様だしね。」
「でもその王様はもともと帝国最強の剣士なんだよね?
 そんな人を王座に縛り付けてしまったら、軍の持つ力が弱まるのは必至よ。
 ガキ元帝王にしても、サユ帝王にしてもそう。
 帝王が新しく決まる度にわたしたち帝国剣士達は弱体化してきたじゃない。」
「うーん、それは分かるけどさ」
「分かるけど、なに?」
「別にその最強の人が居なくなっても、残った帝国剣士だけでなんとかやってるじゃん。
 平和な時代なんだし、仕事といえば犯罪者の取り締まりか、攻めてきた小国を制圧するくらいでしょ。」
「そうね、この国が平和で素晴らしいのは認める。」
「ハルナンがアンジュや果実の国の王と仲良くなったおかげだよね。」
「うふふ、ありがとアユミン……でもね、私は不安でならないの?」
「え、何が?」
「この平和はずっと続くのかなってね……そう思う時がたまにあるの。
 なんか予感がするんだ。近いうちに恐ろしいことが起きるんじゃないかなって」
「怖い……戦争とか?」
「いやいや、ただ思っただけ。なんでもないの。
 でも私たち帝国剣士は、国民を守るためにあらゆる手段を尽くさないといけないと思う。
 例えば帝国剣士最強候補であるフクさんを帝王なんかにせず、
 ずっと現役で戦ってもらうとか……」
「!?……ハルナン、なにを言ってるの……」
「例えばの話だってば。その方が軍事力を保てると思っただけ。」
「……じゃ、じゃあさ、その時に王座に座っているのは誰になるの?」
「わたし……だったりしたら面白くない?」
「笑えない。」
「ふふっ、そっか。笑えないか。」
「だって、ギャグにしちゃリアリティーがありすぎるんだもん。」

445 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/04(金) 14:46:51
おまけ

ハルナン「マーチャン……だったりしたら面白くない?」
アユミン「笑えない。」
ハルナン「うん。」
アユミン「国が滅ぶ。」
ハルナン「うん。」
アユミン「しかも数年後には本当に最強になってそうだし……」
ハルナン「事態は深刻ね……」

446 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/04(金) 14:49:14
書き始めて長く経ちましたが、やっとハルナンの戦いを書けますね。
何故か私の書く飯窪さんモチーフキャラは例外なく性格が悪くなるので
ちょっと気をつけるようにはしますw

447名無し募集中。。。:2015/09/04(金) 19:32:38
>>446
大悪魔様だし仕方あるまい

448名無し募集中。。。:2015/09/05(土) 11:36:22
>>445
ちょw

449名無し募集中。。。:2015/09/05(土) 15:25:47
>>447
(しーっ!それもしかしたら後に使う設定かもしれないから俺も言わなかったのに!)

450名無し募集中。。。:2015/09/05(土) 18:46:50
>>449
しまったぁ〜!
とはいえやっぱ思い浮かぶんだな

451 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/05(土) 21:30:29
ノハ ; ゚ゥ ゚)

452名無し募集中。。。:2015/09/06(日) 02:19:55
はるなん酷い言われようだなw

トライアングル見てるけどゼータ王がマーサー王に思えて仕方ない…普段は頼りないのにキメる時はキメる感じがイメージ通りだわ

453 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/06(日) 16:11:32
ハルナン・シスター・ドラムホールドは、波打つ刃のフランベルジュを右手に持ちながら
正面にいるフクのほうへと走っていった。
彼女がここですべき使命は全部で3つ。
1つは"フク・ダッシュ"を封じること。
1つは"フク・バックステップ"を封じること。
1つは"フク・ロック"を封じること。
要するにフクを強者たらしめる得意技をつぶすことが、勝利に繋がると考えたのである。
現にフク・アパトゥーマはアーリー・ザマシランの超パワーで拘束されることによって
上記の技を出すことができずに無力化されていた。
そこからもハルナンの考えが正しいことがわかるだろう。
そして、「ウェーブヘアー」と名付けられた彼女のフランベルジュならばそれを実行に移すことができる。

(脚をッ!削ぎ落すッ!)

ハルナンのフランベジュは「斬る剣」ではなく「削る剣」。
相手の肉を慈悲なく削り取ることによって、耐え難い苦痛を与えることを目的に造られている。
※製作者はマーチャン
これで太ももやふくらはぎをガリガリと削ぎ落されたらダッシュやバックステップはおろか、
歩くことすらままならなくなるだろう。
そのためにハルナンはフクにぶつかる寸前、姿勢を前傾へとシフトしていく。
走る勢いそのままに足の肉を持っていこうという考えなのだろう。
だが、こう来るであろうことはフクも十分承知していた。

「"フク・バックステップ"!」

きめ細やかな白肌に刃が入れられるよりも早く、フクは後退する。
考えてみればフクはタケの攻撃でさえも難なく回避していた。
となれば狙いのハッキリしているハルナンの攻撃から逃れることなど朝飯前。
しかもフクにはその先までもが見えている。

「隙だらけだよハルナン……"フク・ダッシュ"!!」

奇襲に失敗したハルナンは、帝国剣士団長とは思えぬほどに無警戒だった。
これではまるで攻めてくださいとでも言っているようなもの。
だからこそフクは容赦のない全力の体当たりをぶつけることにした。
二人の体重差からしてハルナンがその場に踏みとどまることなど当然できるはずもなく
大袈裟なほどに吹き飛ばされてしまう。
向かう先はフクとハルナンの延長線上にある「ねじれた鉄扉」。
結果、ハルナンの細身は硬い扉に激しい勢いで衝突し、ゴオンといった派手な音を鳴らしていく。

「くぁっ!……ぐぅぅぅ……あああああああぁああ!!」

フクに体当たりされたせいか、鉄扉にぶつかったせいか、それものその両方が辛いのか
ハルナンは必要以上に大きな叫び声をあげていた。
たった一瞬すれ違っただけでこれだけの醜態を見せるハルナンはやはり団長レベルとは言い難い。
そして、それは同時に帝王としての器でないということも示している。
フクは心を鬼にして、ハルナンに引導を渡す決意する。

「ハルナンもう終わりにしよう……私が終わらせてあげるから。」

454 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/06(日) 16:12:44
トライアングルはDVD出たんですよね。
はやく見たい……

455名無し募集中。。。:2015/09/06(日) 18:13:05
俺はハルナンを応援するッ!

456 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/07(月) 01:54:57
多くの帝国剣士らが訓練をサボっていた時期でも、フクとハルナンらは休まずに修練に励んでいた。
一騎打ちの模擬戦を数多くこなしてきたということもあって、フクはハルナンの実力を大体把握している。
どう仕掛ければどう動くのか、どれだけ痛めつければ気を失うのか、手に取るように分かるのだ。
そんなフクが、勝利が近いことを確信している。

(ハルナンじゃ私の突進に耐えられないことは分かっていたよ。
 その細身で鉄板に叩きつけられちゃ、もう自由には動き回れないよね。
 後は私の"サイリウム"で決めさせてもらう!)

フクは桃色に輝く装飾剣「サイリウム」を強く握りしめ、地を這うハルナンへと向かっていった。
動けぬところに確実に振り下ろせば勝利は確定。そのはずだった。
ところがここでハルナンは立ち上がる。
生まれたの小鹿のように頼りなさげではあるが、己の足で確かに自立していたのだ。
この時点で想定を越えられたわけだが、フクは特に狼狽したりはしなかった。

(そうか、ハルナンにも譲れないものがあるんだね……)

どんな人間でも窮地に立てば実力を越えた能力を発揮可能であることを、
フクはこれまでの戦いを経て学んでいたのだ。
となればここでハルナンが根性を見せて立ち上がろうと全く不思議ではない。
大事なのは、心の柱をへし折るだけの追い打ちを今から掛けることだ。

(凄いよその思い。感動する。でも私の思いだって全然負けてないんだよ!
 何回起き上がっても、何十回何百回立ち上がっても倒してあげるんだから!
 "フク・ダッシュ"!!!)

つま先に、足首に、すねに、ふくらはぎに、そして太ももに力を入れて
それを一瞬のうちに開放することで爆発的な加速力を発生させる。
これがフク・アパトゥーマの"フク・ダッシュ"
もはや本日何発目の発動かは覚えていないが、相手が耐える限りは何発も放つつもりだ。
真正面にいるハルナンめがけて超高速で突っ走って行く。

「そう来ると思いましたよ、フクさん」
「!?」

この時、フクの想定を大きく上回る出来事が起こった。
ダッシュで特攻した先にはすでにハルナンは居なかったのだ。
トリックのタネはなんでもなかった。フクとの衝突より先に回避行動に移っただけである。
実は思ったより普通に動けたハルナンが、思ったより早くスタートを切っただけのこと。
帝国剣士や一般兵らの間ではフクの"ダッシュ"ばかりが凄いと持て囃されているが、
実際のところハルナンの"スタート"もなかなかのもの。
瞬発力などではなく、頭の回転の速さで"スタート"を切れたからこそ、最悪の事態を回避できたのだ。

「しかも、その先はとても危険ですよ。」

ハルナンを打ちのめすことを第一に考えていたフクは、今回ばかりはその先が見えていなかった。
本来の目的地のちょっと先には「ねじれた鉄扉」が存在する。
超のつくほどの加速がついたフクのダッシュが急に止まれるはずもなく
そのまま全身でぶつかってしまう。
体重の違いか、衝突時の扉はハルナンの時よりも大きな音を響かせていた。

「あぁっ!!……」

フクはハルナンのことをよく知っているようだったが、
裏を返せばハルナンだってフクのことをよく知っている。
どのように振る舞えばコロッと騙されるかくらいは簡単に分かるのだ。
そして、慎重派のハルナンはフクを鉄扉に衝突させた程度ではよしとしなかった。
敵の攻撃を安全に避けたというのに、激痛に苦しむ演技をし始めたのだ。

「痛い痛い痛い痛い!!ああああああああ!!!いやああああああああ!!!」
「!?……ハルナン、何を……」

フクには狼狽えていた。
ハルナンの行動が意味不明すぎて、どうすれば良いのか処理しきれなくなってしまったのだ。
だが、じきにこの謎行動の真意に気づかされることになる。
背筋どころか全身が凍り付いてしまうくらいの絶望と引き換えに。

457名無し募集中。。。:2015/09/07(月) 02:43:10
ハルナンが怖いわマジでw

458名無し募集中。。。:2015/09/07(月) 23:23:25
さすがハルナン!ゾクゾクするww
作者さんも毎回飯窪さんメインの時は楽しんで書いてる気がするよw

459 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/07(月) 23:32:27
ハルナンは丁寧に条件を整えていた。
自分とフクの計2回も鉄扉に衝突するよう仕組んだのも、
大袈裟なほどに大きな声で周囲に苦しみを訴えたのも、
全てはあの人に知らせるため。
そして、SOSのメッセージは今まさに到達する。

「ハルナン!!!そこにいるの!!!」

扉の向こうから急に声が聞こえてきたのでフクは驚いてしまう。
そして同時に嫌な予感を感じていた。
その声の主が何やら凶悪な存在に思えてならなかったのだ。

「ハルナン!今行くからね!すぐ!すぐにこの扉をブチ破ってやるからね!!!」

興奮したような声が鳴り止むよりも早く、
ガン!ガン!ガン!と言った3つの音とともに扉の一部が盛り上がっていく。
フクには分かる。この硬い扉は素手で殴って凹むようには出来ていない。
このように形状を変化させるには鉄の塊をぶつける他に手段は無いだろう。
そう、まさにタケが武器とする鉄球のようなものが必要不可欠なのだ。

(じゃあ扉を壊そうとしているのはタケちゃん!?
 いや、タケちゃんはあんな声じゃ無い。
 なんだっけ、この声、どこかで聞いたことあるような……)

フクが考えるスピードよりも、扉がぶっ壊れるスピードの方が早かった。
鉄製の頑丈な扉ではあるが、考えてみればこうなるのも当然だ。
これまでマイミの怪力で捻じ曲げられたり、
フクダッシュで吹き飛ばされたハルナンがぶつかったり、
それより体重の重いフクが衝突してたりしていたのだ。
そこに何発も鉄球をぶつけられたら、流石に破損するに決まっている。
しかも球を投げた張本人は、食卓の騎士に最も近い存在と言われる怪物。
感情が爆発した時の投球は、タケ・ガキダナーの豪速球をも凌ぐと言われている。

「ハルナン!!怪我してるの!?誰にやられたの!!……こいつがやったの?」

その怪物に睨まれたフクの全身は凍りついてしまった。
ここで彼女は直感した。
今回の戦いでの最大の強敵はハルナンなどではなく
今しがた目の前に現れたこの相手だということを、理解する。

「あなたは……アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー……
 アンジュ王国のアヤチョ王……」
「あなたは……だれ?ハルナンを虐める子は死刑だよ。」

460 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/07(月) 23:35:09
確かに楽しんで書いているのは否定できませんw

461名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 00:01:29
アヤチョキター
ガンガンガンw

462名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 00:13:26
某鍋スレを彷彿させるなw
てかマジ恐ろしいのはハルナン知略…

463名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 16:36:14
ジョジョ3部でDIOがわざとブン殴られてジョセフのとこへ飛んだ時を彷彿とさせるね!

464名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 18:33:14
ハルナン恐ろしい娘・・・!!

465 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/09(水) 12:51:36
アヤチョの身なりはボロボロで酷いものだった。
肌を包む衣があちこち破けているのもそうだし、
何よりもマロ戦での負傷がとても痛々しい。
アザや腫れだらけの姿からは、扉をぶち壊したようには到底見えなかった。

(でも、凄い威圧感……!)

ハルナンがアヤチョと仲が良いことはフクも知っていた。
また、アヤチョ自身の武力の高さも耳に入れていた。
だが、ハルナンのためともなれば壊れた身体を酷使してまで戦おうとする執念までは
さすがのフクも知らなかったのだ。
先ほどアヤチョは死刑と言ったが、その言葉はただの脅しなどではないのだろう。
愛と狂気に満ちたその目が物語っている。

「ダメよアヤチョ、殺すのだけはやめて」
「ハルナン!」

さっきまで苦しんでいたハルナンが、平気な顔をしながらアヤチョにお願いをする。
ハルナンの驚異的な回復力にまったく疑問を抱くこともなく、
アヤチョはニコニコしながら返答する。

「うん、分かった!アヤとハルナンの約束だもんね。
 痛めつけて、懲らしめるくらいにしておくね。
 ほら、そこで寝てるあの子達みたいな感じ!見て見て!」

そう言いながらアヤチョが指差す先を見たフクは、心臓が破裂しそうなくらいに驚いた。
そこではフクの味方になったタケ、カナナン、メイの3名が血だらけで倒れていたのだ。
彼女らがどうして作戦室の中にいたのかは分からないが
アヤチョ1人の手でやったと思うと戦慄してくる。

「あの3人……アヤチョ王が傷つけたんですか」
「え?そうだよ!」
「どうしてそんなことを!」
「どうしてって?だってあの子たち裏切ったんだもん。」
「貴方の国の戦士じゃないんですか!仲間……そう!仲間なのに!」
「え〜?仲間じゃないよ〜」
「!?」
「アヤの仲間はこの世にハルナンただ1人。それ以外は全て敵。」
「そんな……!」

466名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 12:56:39
フルスロットルのアヤチョは恐ろしい

467名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 14:56:46
また鬼神あやちょがみれるのか!?

468名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 15:32:06
アヤチョこぇぇ

469名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 18:45:10
ぶっ壊れてる…
これで王なんだからすごいわ

470 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/10(木) 13:00:02
「許せない……」
「ん?」
「こんなことが許されていいわけありません!」

フクの年齢はアヤチョ王よりもやや下ではあるが
この時の激怒した姿は、まるで生徒らに指導をする監督生のような迫力があった。
(隣に鞭を構えたお姉様がいれば完璧だ。)
本来守らなくてはならないはずのタケ達を痛めつけたことが
普段滅多に怒らないフク・アパトゥーマの琴線に触れたのである。
もっとも、アヤチョの考えがすべて理解できないという訳ではない。
狂信的とはいえハルナンを愛することは良きことだし、
大切な存在のためなら何だってしてやろうと思うことはフクにだってある。
フクにとってのエリポン、サヤシ、カノンがアヤチョにとってのハルナンなのだろう。
だが、フクは自国民を憎むべき敵とみなしたことは一度たりともない。
形式上ハルナン達とは敵対してしまっているが、そこに悪意や殺意がある訳ではないのは明らかだ。
どちらかと言えば「守りたい」という思いが強いからこそ戦っている。
一方、アヤチョは自分の口からも言った通り、国民への愛情はこれっぽっちも無いようだ。
一国民ならばそういう考えを持つ人もいるかもしれないが
アヤチョはアンジュ王国の王なのだ。
王がそんな考えでは国が持たない。
大勢が不幸になる。

「アヤチョ王……あなたは私の越えるべき壁なんですね。」
「え?ん?何言ってるの?」
「あなたを正すこと、それが私が王になるための第一歩です!」

モーニング帝国の帝王になりたい。
フクがそう強く願うのは、これがはじめてのことだった。

471名無し募集中。。。:2015/09/10(木) 20:17:15
はい!お姉さま!

472名無し募集中。。。:2015/09/10(木) 20:27:53
フク覚醒だな…サユ卒コンを思い出す

473名無し募集中。。。:2015/09/11(金) 01:43:50
頂上決戦か

474名無し募集中。。。:2015/09/12(土) 13:03:12
作者さん大丈夫ですか

475 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/12(土) 15:07:52
すいません、今夜あたりには書けると思います。

476名無し募集中。。。:2015/09/12(土) 15:12:03
良かった
雨の被害にあわれたのかと

477 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/13(日) 02:29:26
次の瞬間、フクの身体は動き始めていた。
王として国民を愛することこそが何よりも大事であることを示すために
愛国心の象徴である装飾剣「サイリウム」で斬りかかる。

(私が国を思うときはいつでもこの剣を振ってきていた。
 愛する組織のために一心不乱に振り続けるこの思い、少しでも分かってほしい!)

フクは先手必勝とばかりに"ダッシュ"を仕掛けた。
いま彼女にできるのはダッシュしかない。だがそのダッシュに絶対的な信頼を抱いている。
目の前に立ちふさがるアヤチョ王がいくら「食卓の騎士に最も近い存在」と言われていようが
今現在のその姿は風が吹けば倒れるくらいに満身創痍に見えている。
全力ダッシュからのサイリウムの振りをぶつければ打ち破れるはずに違いない。

「フクさん、私もいること忘れてませんか?」
「!」

フクがアヤチョに到達するよりも早く、ハルナンは"スタート"を切っていた。
先ほど壁にぶつかった際の苦しむさまや、日ごろフクに見せていた極端な貧弱さは演技であったために
ハルナンにはまだ戦う余裕が残されていたのだ。
とは言っても激痛を感じたことや、骨に異常をきたしていることは事実であるために
一人でフクを迎撃するなんて大層なことは決して考えてはいなかった。

(私がすべきはフクさんを減速させること。ただそれだけ。)

アヤチョを守るように、フクの前に立ちはだかったハルナンは
また先刻と同じように相手の足を削り取るため、フランベルジュ「ウェーブヘアー」を低く構えている。
このまま足を破壊できれば上出来だし、例えここでバックステップをされてもフクを減速させること自体は成功する。
要はアヤチョへのMAXパワーの突進を防止することがハルナンの役目なのだ。
欲を言えばはじめに定めたようにダッシュ・バックステップ・ロックの3つを封じてからアヤチョに引き継ぎたかったが
いざ戦況がこうして進んでしまっているのだから仕方はない。
それにいざとなれば自らタックルでもぶつけてフクのスピードを低下させる覚悟だって持ち合わせている。
隙さえ作れば後はアヤチョがなんとかしてくれる……ハルナンはそう信じていたのだ。
だがハルナンは分かっていなかった。
アヤチョがどれだけ規格外の存在であるのか、
そして、どれだけハルナンを愛しているのかを、だ。

「ハルナン危ないよっっっ!!!!!!」

気づけばアヤチョはフクとハルナンの間に入っていた。
それはつまりフクのダッシュよりも、ハルナンのスタートよりも、速く動いたということ。
信じられるだろうか?いや、仮に信じられないとしても信じてほしい。
このアヤチョはハルナンを危機から守るためであれば、自分を守るよりも速く反射神経が働くのだ。
そしてその時は全身の痛みすらも忘れてしまう。
自国の裏番長との闘いで骨折したことも忘却して、折れた右腕をフクの胸へと強く叩きつける。
高速のダッシュに対して、それよりも速いカウンターを見事に決めた形になるので
その威力は甚大だった。

「あぁっ!!」

二人の体重差なんてなんのその。
フクは鎖の千切れたサンドバックのように遠方へと飛ばされてしまう。

478 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/13(日) 02:30:33
>>476
なるほど、確かにタイミングが一致してましたね><
これ以上ご心配をおかけしないためにも、更新頻度をあげたいと思いますw

479名無し募集中。。。:2015/09/13(日) 09:23:32
アヤチョの愛が重すぎる…そりゃ実際の体重さも関係ないねw

480名無し募集中。。。:2015/09/13(日) 14:32:47
アヤチョ「残影拳!」

481 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/14(月) 02:32:09
アヤチョが己の身を挺してハルナンを救ったのは、今回で二度目だ。
マロの放った凶弾を身代わりで受けた事件は記憶に新しいだろう。
テンションの上がり下がりによって強さが変動するアヤチョにとって
ハルナンの苦しみこそが最もテンションの下がる出来事であり、
何よりも回避したいと考えているのである。
つまり、彼女の頭の中が100%すべてハルナンである限りは
どんな攻撃からであろうと守る覚悟ができている。

「そういえばカノンちゃんがこんなことを言ってたっけ
 "私の愛を軽くみるな"……まさにその通りだよね。」

アヤチョは蹴り飛ばしたフクに向けて、己の思いをつぶやいた。
雷神の構えから放たれる蹴りは高速・高威力であるため、
余程のことがない限りはもう立ち上がることが出来ないはずなのだ。
しかし、アヤチョは一つの違和感を覚えていた。
蹴った時の感触が、どうやらいつもと異なっていたのだ。

(柔らかい?……なんか、すごく柔らかかった……)

普段はアンジュの番長らを蹴っ飛ばしているアヤチョにとって
敵の胸に、相当なクッション性があったのは初めての体験だった。
その秘密の正体は言うまでもなく、フクの胸の脂肪の厚さによるもの。
おかげでフクは激痛を感じながらもなんとか気を失わずに済んでいた。

「はぁ…はぁ…なんとか、耐えたかな……」

"耐えた"とは言ってもかなり息苦しいし、打った背中もひどく痛い。
だがフクは立ち上がることが出来た。
ここでギブアップしてしまえばすべてが終わることを理解しているからこそ、立てるのだ。
それを残念に思ったハルナンが、アヤチョに声をかける。

「へぇ……あの蹴りを受けても立てるんですね。」
「ハルナン、あいつ結構しぶといね。」
「でも大丈夫だよアヤチョ、いやアヤちゃん。立てなくさせる策はあるから。」
「え!やっぱりハルナンは凄い。どんな作戦!?」
「なんてことないよ、ただ私が足を削りにいくだけ。」

ハルナンは完璧に理解していた。
自分がどんな危険な行動をとろうと、アヤチョが必ず盾になってくれることを。

482名無し募集中。。。:2015/09/14(月) 06:38:11
なんかハルナンがどんどん邪悪になっていってるんだが…w

483 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/14(月) 12:55:11
あ!アヤチョは蹴りではなくてフクを殴り飛ばしてましたね。
すいません訂正します。
アヤチョの損傷箇所は大事なポイントなので……

484 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/14(月) 12:59:06
アヤチョとハルナンが次に取った行動は「並走」だった。
立つのがやっとなフクを仕留めるために、二人掛かりでやって来たのである。
どちらかが先に来てくれればフクも対処のしようがあるが、この二人の走行速度はまったくの同じ。
この完全なる並走を実現できているのはハルナンによる力が大きかった。
アヤチョを普通に走らせて、そこから少しの狂いもなくついていく技術をハルナンは持っている。
「人に合わせる」能力において、彼女の右に出るものはいないのだ。

(アヤチョ王とハルナン……どっちを気にしたらいいの!?)

2人が迫ってくるまでのわずかな時間ではあるが、フクは必死で考え抜いた。
一見したら血だらけ且つ素手のアヤチョよりは、フランベルジュを握るハルナンの方が脅威に見えるが
ご存知の通りアヤチョ王は何をしでかすのかまったく読めたものではない。
となればアヤチョの方をまず先に仕留めるのが得策だ。
フクは2人が近づいてきたタイミングで、アヤチョに装飾剣を振るう。

「はぁ!!」

斬撃を放つと同時にハルナンの刃が太ももをえぐる感触があったが、フクは気にしない。
激痛ではあるが今はアヤチョに集中すべきなのだ。
サイリウムによる一撃を叩き込みさえすれば、残りの敵はハルナンただ一人になるのだから。

485名無し募集中。。。:2015/09/14(月) 22:03:15
やっぱりハルナンのような権謀術数に長けたキャラがいないと盛り上がらんよね!

486 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/15(火) 13:14:18
結論から言って、アヤチョを切ることを選んだのは失敗だった。
盾も鎧も持ち合わせていないので、一見して斬撃から身を守れないようには見えるが
彼女には「折れた右腕」といった武具がちゃんと備わっていた。
もはや感覚の通っていない腕を鞭のようにしならせ、
雷神の速さで装飾剣の腹へと強く叩きつける。
こうすれば己への攻撃は全て遮断することが出来るのである。
こんな芸当、常人には当然不可能な動きではあるが、
自身を神と同化させている(と思い込んでいる)アヤチョには可能なのだ。

(素手で防がれた!?……じゃあ次は!)

このままアヤチョの攻撃を受けてはまずいと思ったフクは、バックステップで後退する。
つい先ほどハルナンに傷つけられた太ももが強烈な悲鳴をあげてはいるが、
少し退くくらいならばなんとか出来ていた。
そして後方に着地するや否や、痛む脚も気にせずハルナンの方へとダッシュし始める。
アヤチョには攻撃が簡単には通らないことは十分わかったので、標的をハルナンへと変えたのだ。
コンマ数秒のうちに切り替えられるバックステップとダッシュに対応できる人間なんてそうそういない。
これでひとまずはハルナンを撃退できるとフクは考えたのだろう。
だが、その判断はアヤチョの愛を軽く見すぎているとしか言えなかった。
どんな状況だろうとアヤチョの反射神経はハルナンを守ることを第一としている。
ほんの僅かな隙間しかないが、アヤチョはフクとハルナンの間へと入り込んでいく。

「危ない!!」
「ま、また!?」

アヤチョの表情は必死、フクの表情は驚愕。
そしてハルナンの顔には微かな笑みが浮かんでいた。
彼女はアヤチョと並走すれば絶対に自分が傷つくことはないと知っていたのである。
たとえフクがハルナンに攻撃を仕掛けたとしても、
とても信頼できるアヤチョが必ずや身を挺して守ってくれる。
よってハルナンはノーダメージで一方的にフクを切り付け続けることが可能なのだ。

(ありがとうアヤちゃん。でも苦しいでしょう?……すぐに終わらせてあげるからね。
 私の刃をもっと深くまでフクさんに入れれば……それでおしまい。)

487名無し募集中。。。:2015/09/15(火) 15:11:24
ハンナン恐ろしい子!!

488名無し募集中。。。:2015/09/15(火) 18:19:33
ハルナンこえーよw

489 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/15(火) 21:19:21
アヤチョに阻まれたことを理解したとき、フクは敗北を覚悟した。
どういう事情があるのか知らないが、アヤチョは完全にハルナンのことを守りきろうとしている。
ハルナンへのあらゆる攻撃はいとも容易くシャットアウトされて、
このままさっき胸を打たれた時のように、反撃を貰うのだろうと思ったのだ。
しかし、その反撃が今回は無かった。
アヤチョは腕を鞭のように振るうこともなく、ただただハルナンの盾になろうとしていたのである。

(ひょっとして、反撃をする余裕がない?……)

フクの回答は正解だった。
至近距離からハルナンにダッシュを仕掛けたために、
さすがの超反応を持つアヤチョでも間に入るのがやっとで、反撃などしていられなかったのである。
アヤチョに衝突するまで残りコンマ5秒。ここでフクに欲が生まれる。

(だったら……私の攻撃は通る!!)

フクはアヤチョの方へと肩を突き出した。
この姿勢で突っ込めば、フク・ダッシュはショルダータックルに変化する。
今更止めることの出来ないタックルは、アヤチョの胸へと鋭く突き刺さっていく。

「!!!」

興奮状態にあるアヤチョは痛みをほとんど感じていなかったが
その身体は確実にダメージを受けている。
このアヤチョ、自分に対する攻撃は完全に防ぎきってしまうというのに、
ハルナンを庇う時は途端にガードが疎かになるのだから不思議なものだ。
こうしてアヤチョに一撃与えただけでも表彰モノの成果ではあるのだが、
フクはこの程度の褒賞では決して満足していなかった。

「まだ!もっと先へ!!」

血がブシュウと吹き出る脚に力を込めて、フクは更なる前進をする。
それはつまり、タックルをぶつけたばかりのアヤチョをもっと前に押し出すということ。
この後に起こりうることを想像したアヤチョは泣きそうな顔でフクに嘆願する。

「やめてやめてやめてやめてやめて!!ほんとやめて!!」
「やめません!!」

アヤチョは押し切られ、そのまま自身の後ろにいる人物ごと倒れていく。
そう、アヤチョは自らの身体で親友ハルナンを押し倒してしまったのだ。
絶対的に安全だと思い込んでいたハルナンはこの事態にまったく対応することが出来ず、
後頭部から床へと落っこちる。

「!!!……アヤ……ちゃん……」
「ハルナン!ハルナン!うわああああああああああああああああ!!!」

490名無し募集中。。。:2015/09/15(火) 23:33:32
俺ハルナンの事好きだけど…よくやった!とフクちゃんを褒め称えたいw

491名無し募集中。。。:2015/09/16(水) 13:25:44
アヤチョ暴走待ったなし!

492 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/16(水) 19:51:21
「ああああああああああ!!あああああああああ!!!!」

アヤチョは叫びに叫んでいた。
自分の責任でハルナンを傷つけたことが、半身を失うよりも辛いのだ。
己の不甲斐なさをどこにぶつければ良いのかも分からず
戦闘中だというのに、ただただ大声を出している。

「ハルナン目を覚ましてよ!目を、目を、お願いお願いお願い!!!ぎゃあああああ!!」

完全に取り乱しているアヤチョに対して、フク・アパトゥーマは冷静だった。
激痛の走る足に負担をかけないように、地を這いながらゆっくりとアヤチョから離れていく。
今のアヤチョは隙だらけに見えるが、
そうとも限らないことをフクはこれまでの戦いで学習している。
むしろ激昂することで今まで以上に攻撃が激しくなることだってありえるのだ。
現在の足の状態ではダッシュやバックステップで猛攻を掻い潜ることは非常に難しいため、
今は距離を置くことにする。

(とは思ったけど……アヤチョ王の様子、なんだかおかしい。)

ハルナンの敵討ちのために怒り狂うと思われていたアヤチョだったが、
その予想に反して現在の姿はとても弱々しかった。
激しいのは泣き喚く声のみ。それ以外はどんどん萎れていっている。
その原因は、アヤチョのエネルギー源のほぼすべてがハルナンとの友情に起因していたからに他ならない。
アヤチョは自らの手でハルナンを傷つけたことで、友情が完全に消え去ってしまったと思っているのだ。
こんなことをしでかしたからには、どれだけ謝っても許してはもらえないだろうと、勝手に決め付けている。
この世でただ一人の友達を失ったアヤチョの胸の内は、もう空っぽ。
何もかもが虚しくなった結果、戦う気まで失せてしまったのである。

「ハルナン……ハルナン……涙が止まらないよ……」

そんなアヤチョを見て、フクは勝てるかもしれないと思い始めてきた。
壊れかけの足で床を踏みしめては、
廃人寸前のアヤチョの元へと近づいていく。

「アヤチョ王……覚悟してください。」
「?……あれ、あれ……身体が動かないや」

装飾剣「サイリウム」を握ったフクが接近してくるというのに、アヤチョは何も出来なかった。
彼女の精神はもはや己の身体すらも動かすことが出来ないほどにまいっているのだ。
アヤチョの胸が空っぽである限り、フクの脅威を免れることなど出来やしない。

493名無し募集中。。。:2015/09/16(水) 20:22:05
ついにアヤチョ敗退か・・・タイミング的にもう一波乱ありそう

494 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/17(木) 13:01:24
もはや無抵抗状態にあるアヤチョを斬るために足を進めるフクだったが
突然の乱入者によって、それを妨害されてしまう。

「ちょっと待ったぁ〜〜〜!!」

その声の主はハルナン属する天気組団の一人、ハル・チェ・ドゥーだった。
エリポンやサヤシらと戦っていた通路から走りに走って、やっとここまで辿り着いたのである。
床に転がるハルナンを見てすぐに事態を把握したのか
走る勢いのまま、フクへと飛び蹴りをぶちかます。

「あっ!!」

通常であればハルの軽い蹴りなんてへっちゃらなのだが
いかんせんハルナンにえぐられた脚が痛むので、その場に転げてしまう。
だが転倒したとは言っても、戦況が覆るほどのダメージを負ったわけではない。
これまでフクはアヤチョほどの大物と対峙し続けたのだから
この程度の攻撃はなんでもないのだ。

「ハル……ちょっと静かにしてもらえる?」
「え?え?……わっ!」

フクは左手でハルの足首を掴んでは、自分の側に強く引き寄せる。
そうして相手が体勢を崩したところに、装飾剣「サイリウム」をぶつけるのだ。
剣の切っ先ではなく、平たい腹の部分を叩きつけているため死にはしないが
フクの腕力からなる打撃はハルの肋骨を折るには十分すぎるほど強かった。

「いっっ!!……くそっ、苦しい……!」
「大人しくしてて。今、すべてが終わるところなんだから。」

部下を味方につけないハルの実力はこのレベル。
手負いとはいえ、フクの相手にはならないのだ。
これで、なんでもない戦いが終わった。
早くすべてを終わらせるために、フクは再度アヤチョの側を向く。

495名無し募集中。。。:2015/09/17(木) 14:42:47
ハルちゃんw

496 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/18(金) 07:58:39
「え……?」

うなだれているアヤチョの側を見たフクは当惑した。
いや、正確には「うなだれていたはず」のアヤチョを見て、
実際とのギャップに驚かされたと表現するのが正しいかもしれない。
なんと、アヤチョは立ち上がっていたのだ。

「助けてくれた君は誰?……かっこいい。」

萎びていたアヤチョの精神と肉体は、新鮮なエネルギー源に出会うことによって
これまでないくらいにキラキラと輝いていた。
その力の源はもはやハルナンではない……ハル・チェ・ドゥーに移り変わっていたのだ。
研修生や一般兵らをすぐに惚れさせるハルの能力がアヤチョにも働き、
これまでハルナンに対する友愛しか知らなかった王に対して、
恋愛感情という新たな素晴らしき感情を教植えつけたのである。

「なにこれドキドキする!……君のためなら、なんだって出来る!!」

コロッと簡単に惚れたのは、ハルの顔がイケメンだという以外にもう一つの理由がある。
なんとアヤチョは人生20年の中で、己の命を救われた経験が一度として無かったのだ。
つまり、ハルはフクという脅威から助けてくれたナイトということになる。
名前も知らないミステリーなナイトのことが、アヤチョは好きで好きでたまらなかった。

「なんでも言って!君の言葉がアヤの力になるんだよ!」
「???……じゃあ」
「じゃあ?」
「フクさんをやっつけて。」
「うん!」

アヤチョ王を動かす主導権(イニシアチブ)は完全にハルのものとなった。
愛する人の気持ちに応えるため、アヤチョはフクの喉元へと手を伸ばす。

497名無し募集中。。。:2015/09/18(金) 12:14:28
やっぱりハル来てアヤチョ復活wミステリー騎士に主導権…言葉のチョイスサイコーチョーイイネー

そして捨てられたハルナン・・・

498名無し募集中。。。:2015/09/18(金) 16:05:32
アヤチョは良いも悪いもリモコン次第な鉄人28号じゃねえかw

499 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/19(土) 18:08:36
ハル・チェ・ドゥーは天気組団の「雷の剣士」。
彼女の下した命令は、脳を伝わる電気信号と形を変えて人のココロを動かすことが出来る。
クラゲ使いに使役される電気クラゲのように、アヤチョ王はハルのために喜んで行動する。

「アヤの必殺技は凄いよ!あいつをやっつけちゃうから!」

奇しくもアヤチョはハル同様に「雷」をイメージした戦い方を得意としていた。
異なる点は、それに加えて「風」までも使えるといったところだろうか。
雷神と風神の力をマーブルして、アヤチョは必殺技を繰り出していく。

「"聖戦歌劇"!!!」

雷の如きスピードで放たれた手刀は、ぶつかる直前で向きを変える。
掌の広い面によって巻き起こる暴風は、非常に禍々しいものだった。
この直撃を受けるのはまずいと思ったフクは、愛国の象徴である"サイリウム"で防ごうとする。
だが残念なことに、フクの愛国よりもアヤチョの恋愛の方がより強大だった。

「そんなんじゃ防げないよ!!」

アヤチョの必殺技は装飾剣「サイリウム」の刀身を粉々に砕き
その上さらに、強風でフクを背後の壁まで吹き飛ばしてしまった。
国を思う時には常にそばにあったサイリウムが破壊されたのはとてもショックだが、
悔やんでいる暇は無いと、すぐに立ち上がろうとする。

(ダッシュなら!……あと一発ダッシュを当てれば!)

次にアテにしたのは絶対的な自信を誇る自らのダッシュ力だった。
立つのも辛いくらいにひどく損傷してはいるが、
最後の力を振り絞れば一矢報いることくらいは出来るかもしれない。
しかしそれも結局は無理な話だった。
踏ん張ろうとした足の太ももから、噴水のように血が噴き出したのだ。

「!!!……これは!」

あたり一帯に血の雨が降り注ぐ。
この凄惨な光景は、天気組団の「雨の剣士」しか出来ない芸当であることを、フクは知っていた。

500 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/19(土) 18:11:24
確かにアヤチョは機械的に書いていましたね。
規則的で、システマチックな感じに、、、

501名無し募集中。。。:2015/09/20(日) 01:03:18
サイリウムが砕け…た?

血の雨・・・ベルリンの赤い雨思い出した…ん?ベルリンの壁…壁?なる程(違)

502 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/20(日) 20:56:50
ノハ # ゚ゥ ゚)

503 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/21(月) 06:03:49
太鼓持ちなんて表向き
本当はするどい毒舌よ。
ニコニコ笑顔であなたを
滅多切りしちゃうわ。

ハルナン・シスター・ドラムホールドはこのような考えを常に胸に秘めていた。
自分の目的を果たすためなら、いくらでも本心を隠してみせる。
最後の一勝を確実に収めるためなら、親友だって欺いてみせる。
そう、ハルナンはフクの足を潰すこの瞬間のために、死んだふりをしていたのだ。
波打つ刃のフランベルジュはフクのももを深くまで傷つけている。
太い血管が傷つけられたというのが、"血の雨"が降り注いでいることからもよく分かるだろう。
この"血の雨"こそがハルナンが"雨の剣士"と呼ばれる最大の理由。
ハルナンは同じ天気組団の"雪の剣士"アユミンや"曇の剣士"マーチャンに実力面で劣るが、
この技を使うことによって部位破壊と戦意喪失を同時に引き起こすことが出来るため
国内外にわずかながら存在する反対勢力からは恐れられていたのだ。

「これでもう"ダッシュ"と"バックステップ"は使えませんね……」
「ハ……ルナン……」

ハルナンは自分がなすべき使命を忘れてはいなかった。
"フク・ダッシュ"と"フク・バックステップ"、そして"フク・ロック"の3つの得意技を潰すことで
アヤチョが敗北する可能性を少しでも減らすこと。それが彼女の使命だ。
そしてもう既にそのうちの2つを達成してしまっている。

「あとは"ロック"だけ……その手首、ちょうだいします。」

フク・アパトゥーマは絶体絶命だった。
脚の痛みが強烈すぎてもう少しも立てる気がしないし、
例えここでハルナンの斬撃を避けたとしても、すぐそこにいるアヤチョ王に勝てる気はもっとしない。
壊れた身体で、折れた剣で、いったいどう戦えというのだろうか。
国を、そして仲間を愛する自分のやり方では王にはなれなかったと思うと、悲しくなってくる。



いや、悲しむのはまだ早かった。
彼女にはまだ仲間が残されていたのだ。
ハルナンが死んだふりをしたように、味方陣営にも死んだふりをした人物が二人残されている。
フクと同じくらいに血まみれでまったく頼りなくはあるが、とても心強い味方がいるのだ。

「今やで!」
「おう!」

作戦室から2つの鉄球が飛んでくる。
そのうちの剛速球の方はフクを斬ろうとするハルナンへと、
そしてやや速度の遅い方は、何故か床でうずくまっているハル・チェ・ドゥーへと向かっていた。
突然の出来事にフクも、ハルナンも、ハルも混乱する。
そしてこの場にいる誰よりも戸惑っていたのがアヤチョ王だった。

「え!?え!?え!?ど、ど、どうしよう!?」

504名無し募集中。。。:2015/09/21(月) 09:43:19
すっかりアンジュ2期存在忘れてたー!wこれでまた勝敗が分からなくなった

505 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/22(火) 00:08:26
フクに味方したのは"運動番長"タケ・ガキダナーと"勉強番長"カナナン・サイタチープの2名だった。
自国の王であるアヤチョ王に殴る蹴るの暴行を受けてからしばらくは大人しくしていたが
今こそタチアガール時だと信じ、鉄球を投げたのだ。
ハルナンとハルを目がけて投球したのは決してアヤチョを恐れていたからではない。
こうすることこそがアヤチョを倒す唯一の方法であるとカナナンが考えたのだ。

「ハルナン!愛しの君!いま助けるからねっっっ!!」

アヤチョには「愛する者を絶対にかばう」超反射神経が備わっている。
いくら鉄球の速度が速かろうと、雷神のスピードで動けるアヤチョには無意味のはずだった。
ところが、今のアヤチョはピクリとも動いていない。
自身の身体の変化に、アヤチョは自分で自分が怖くなってくる。

(なんで!?なんで動かないの!!アヤの身体が変になっちゃった!!)

アヤチョの身体は決しておかしくなったわけではない。
反射神経だって依然変わらず正常だ。
ただし、守るべき対象が1名から2名に増えたことによって、脳が混乱しているのである。
遠くにいる親友ハルナンを剛速球から守るべきか、
近くにいる最愛の人ハルを低速球から守るべきか、
これまで複数の人間を同時に愛したことがないために、どうすればよいのか判断することが出来ない。
その結果、アヤチョはちょびっとだけ優先度の高いハルを守ることを選択してしまった。
となれば選ばれなかった側ハルナンに向かう球は止まらない。
勢いをまったく落とさぬまま、平らな胸へと衝突していく。

「はうっっっ!!!」

激しい回転のかかった鉄球はゴリゴリと言った音を鳴らしながらハルナンの骨を粉砕する。
もともと死んだふりをする程に追い詰められていたハルナンに、この攻撃に耐える気力があるはずもなく
フクを斬るより先に床にぶっ倒れてしまう。

「ハルナン!!」

友人がやられるのを見たアヤチョは心臓がえぐられる思いだったが
ここでさっきのように戦意喪失しても仕方がない。
ハルナンの犠牲を無駄にせぬためにも、最愛の人ハルの援護に全力を注ごうとする。
しかし、カナナンの投球はそれすらも許さなかった。

「ウチの弾道計算は完璧です……鉄球はそこで落下する。」

アヤチョが球を弾こうとする直前、低速球の軌道は変化した。
そのボールはなんとフォークボールだったのだ。
球が落ちる先にあるのはハルの脇腹……つまりは折れた肋骨部分にあたる。
フクがサイリウムを叩きつけていた個所に、さらなる追い打ちをかけていく。

「ぎゃああああ!」

スピードは遅くても、鉄球が骨折部にぶつかる痛みは気が遠くなるくらいに強烈だった。
白目をむいて苦しむ最愛の人の姿を目の当たりにして、
アヤチョは吐き気がするほどに気が滅入ってしまう。

「やだ……なんでこうなるの……やめてよ、やめてよ……」

506 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/22(火) 00:10:34
アンジュ2期の4人にはなるべく触れないように書いてましたからねw
カナナンとタケは死んだふりをしていましたが
メイは腹筋への負担が大きすぎて、今回の戦いではタチアガーれそうにもありません。

507名無し募集中。。。:2015/09/22(火) 06:43:14
カナナン某メジャーリーガー仕込みのフォークボールかw

まんまと騙されたわw

508 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/22(火) 18:27:30
ハルナンを自らの手で押し潰した時のアヤチョの意気消沈っぷりを見るに、
今回もハルナンとハルの二人を同時に倒せば、つまりは愛を注ぐ対象を一度に消すことが出来れば
また戦意喪失するのではないかとカナナンは考えていたのだ。
そして実際にその考えは正しかった。
アヤチョはすべての希望が潰えたような表情をして、膝をついている。
こうなればもう戦うことは出来ないだろう。
結果、今回の戦いはフク・アパトゥーマ陣営の大勝利。
これで次期モーニング帝国帝王が決まるはずだった。
……ハルの唸り声が聞こえるまでは。

「うぅ……うぅ〜……」

苦痛の中にはいるが、かろうじて意識を残している。
そしてその蚊のように小さなうなり声は、位置的に近いアヤチョの耳の中に、確実に入っていた。
それだけてアヤチョは息を吹き返す。
大切な存在にこんなひどいことをした、部下への怒りを添えて。

「タケェェェェェ!!カナナァァァァン!!」

アヤチョは鬼と化した。
全身ボロボロであるのもなんのその。
粛清対象である二人に罰を与えるため、あっという間に作戦室へと突入する。

「タケェ!よくもハルナンを!こうしてやる!こうしてやる!」

アヤチョは雷の如き迫力でタケの脛を蹴り上げた。
そして相手が転倒してからは、無防備なお腹を踏んづける。
踏んづける。踏んづける。何度も何度も踏んづける。
タケが口から血を吐いてもなお、粛清を続ける。

「ゲホッ!……うぅああ……」
「悪いヤツめ!悪いヤツめ!こうしてやる!」

509名無し募集中。。。:2015/09/22(火) 19:14:20
ひえぇぇぇ〜あやちょ怖い((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

510名無し募集中。。。:2015/09/22(火) 19:37:54
まるで菩薩が悪を懲らしてるため変化した明王のようだ…ガクガクブルブル

511名無し募集中。。。:2015/09/22(火) 21:39:28
もうこれ悪役やん…

512 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/23(水) 15:26:06
タケがやられているのを横目に、カナナンはフラフラの身体でフクの方へと向かおうとする。
仲間を見捨てているわけでは無い。
対アヤチョ王の必勝法を伝授することが何よりも大事だと判断しての行動なのだ。
しかし、そんなカナナンの目論見をアヤチョが見逃すはずかなかった。

「逃がさないよカナナン!!!!」

ギロリとカナナンを睨みつけ、さっきまでタケを折檻していた足で床を踏み向ける。
お遍路参りを何回も繰り返すことで鍛えたその脚力であれば、あっという間にカナナンに追いつくだろう。
ところが、ここで新手の邪魔が入る。
まるで透明の大型犬にしがみつかれたかのように、アヤチョの右脚がズシリと重くなっていく。
この大型犬の正体を、アヤチョ王は知ってた。

「リィィィィィィナプゥゥゥゥゥ!!!!」

アヤチョは力いっぱいに右脚を持ち上げると、近くにあった壁に勢いよく叩きつける。
タケを懲らしめた時と同様に、何度も何度も何度も叩きつける。
やがて血が滲み、透明だったリナプーの姿が露わになっても攻撃は止まらない。
いくらやりすぎようともアヤチョ王の怒りは止むことが無いのだ。

「なんてひどいことを……許せ無い……!」

少し離れたところで見ていたフクは這ったままの姿勢で鉄球を拾い上げた。
この鉄球は先ほどタケがハルナンに放った豪速球だったもの。
これをアヤチョにぶつけてやろうと、振り被る。

「待ってください!フクさん!」
「!?」

フクの投球を制止したのは、カナナンだった。
まだ距離が遠いため、声を張り上げながら訴えている。

「投げる場所を、よく考えてください!」
「投げる……場所?……」
「貴方なら分かるはずです!この戦いに終止符を打つ、唯一の場所が!!」

513名無し募集中。。。:2015/09/23(水) 16:09:16
いよいよ決着か!?

514名無し募集中。。。:2015/09/23(水) 22:25:50
ハルナンの壁にぶつけてさらにえぐれさせるんだなw

515 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/24(木) 12:57:14
カナナンにはフクがここで取るべき行動が分かっていた。
だがそれをストレートに伝えてしまえばアヤチョに気づかれ、防がれてしまう。
ゆえに湾曲的な言い回ししか出来なかったのだ。
もっとフクに接近して小声で伝えれば良いのかもしれないが、それもダメだった。
何故ならアヤチョはもうカナナンの背後に迫ってきていたのだから。

「カナナン、怒るよ。」

カナナンは頭を掴まれては、そのまま床へと叩きつけられる。
その様子を見たフクは思わずアヤチョに鉄球を投げつけようとするが、
カナナンが必死でヒントを与えてくれたのを思い出し、グッと堪える。

(私が投げるべき場所……それはどこなの!?)

フクは頭をフル回転させて、これまでの出来事を回想していく。



アヤチョの超反射神経、
アヤチョに防がれた攻撃、
ハルナンをかばう時だけ下がる回避力、
ハルナンを失う時の弱体化、
ハルが登場した時の回復力、
必殺技「聖戦歌劇」、
砕け散ったサイリウム、
飛んできた二つの鉄球、
動けないアヤチョ、
ハルをかばったアヤチョ
気を失うハルナン
小さな呻き声をあげるハル

……
………

「そうか……あそこに投げれば勝てるんだ……」

フクは理解した。
脚が壊れているため、もう立てはしないが
上半身の力だけで投球しようと上体を起こす。
だがここでノンビリはしていられない。
アヤチョもフクが投げるであろう場所に気づいてしまったのだ。

「!!!!!……やめて!それだけは、それだけはやめて!!」

516 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/24(木) 13:11:35
フクが投げるべき場所をクイズにします。
正解は二つのあって、
片方はひねりなしの答え、もう片方はひねった答えになってます、
特に賞品などはありませんが、当ててみてください。

517名無し募集中。。。:2015/09/24(木) 18:03:45
はるなん

518名無し募集中。。。:2015/09/24(木) 18:15:03
ここにきてクイズw某「〜の夜」スレのようにマルチエンディング期待しちゃうなww

普通に考えればハル一択なんだけどそのまま投げても傷付いたフクじゃアヤチョに防がれちゃう…

ここはハルに投げると見せかけてメイに鉄球をパス!事前に透明化したリナプーからもう一つの鉄球を預かっていたメイがハルナンとハルに両方に鉄球を投げる…タチアガーれなくても倒れてる二人なら転がして当てればダメージを与えられる筈

って流石にひねりすぎか?w

519名無し募集中。。。:2015/09/24(木) 21:34:23
天井に投げて崩してハルもハルナンも潰して終わりやん

520 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/25(金) 08:29:27
フクの視線の先にいるのは、ハル・チェ・ドゥーだった。
そう、ハルに球を投げることこそがアヤチョ打倒の唯一策だとカナナンは考えていたのである。
鉄球がヒットすれば、ハルナンとハルという"愛すべき相手"を失ったアヤチョは意気消沈するだろうし、
仮にアヤチョがハルをかばうことが出来たとしても、それで肉体にダメージを与えることが出来る。
どちらに転んでもコトは有利に運ぶし、そうしない手はないとフクも思っていた。
……球を投げる寸前までは。

(待って、もしここで投げたら、私は……)

フクはハッとした。
今から自分は、無抵抗の仲間を傷つけようとしていることに気づいたのだ。
それはまさにアヤチョがこれまでやってきたことと同じ。
正さなくてはならない存在と同じ過ちを犯そうとしている。
明確な意思を持ってこちらに攻撃してきた時のハルならともかく、
今のハルはか細い声で呻いているだけの無力な状態。
どうしてここで投げることが出来ようか。
ここで同志を傷付けて、どの口で立派な王になると言えるのか。
そう考えたフクは握っていた球を床へと落とす。
握るべきものは、他にあるのだから。

「え?え?……なに?なにがどうしたの?」

ここで困惑したのは、ハルを守ろうと飛び出したアヤチョだ。
絶対的な正解である投球を放棄することが彼女には理解不能だったのだ。
だからこそアヤチョはパニックを起こし、
フクが近くまで接近していることにも気付けなかった。

「アヤチョ王。」
「ぎゃあ!なに!?」
「握手を、しましょう。」
「え?え?え?」

混乱しているところにいきなり両手を掴まれたので、
アヤチョは何が何だか全くもって分からなくなってくる。
そしてフクはそんなアヤチョをなだめるように、言葉を続けていく。

「我がモーニング帝国では握手が最上級の愛情表現です。アンジュ王国もそうですよね?」
「そうだよ!国民はアヤと握手すると凄い喜ぶ!だからなに!?」
「良かった、分かっているじゃないですか。」
「はぁ!?」
「これからもハルナンやハルと同じくらい、国民に愛を与えてください。
 私もそうします。モーニング帝国帝王として。」
「!?」

ハルナンがこの戦いで果たしたいと考えていた使命を覚えているだろうか。
それはフクの得意とする3つの技を削ぎ落すこと。
フク・ダッシュは削れた。
フク・バックステップも削れた。
だが、この"フク・ロック"だけはあとちょっとのところで削りきることが出来なかった。
だからこそ、この局面で2人だけの個別握手会が開催されている。

521 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/25(金) 08:30:53
クイズにお付き合いくださりありがとうございました。
正解は「ハル」もしくは「投げない」になります。

アヤチョ戦は、次の話で最後になります。

522名無し募集中。。。:2015/09/25(金) 09:44:46
やられた…まさか「投げない」選択するとは

523名無し募集中。。。:2015/09/25(金) 16:22:10
いい解答だね

524名無し募集中。。。:2015/09/25(金) 21:37:11
個別握手会w

525名無し募集中。。。:2015/09/25(金) 21:39:56
ついにフクが自分の意志で王になる事を宣伝したね
もしかしたらハルナンはこうなるように仕向けたのかも?と思ったり…

526名無し募集中。。。:2015/09/26(土) 16:14:09
そろそろ始まって5ヶ月か
タイトルの「拳士たち」の登場はいつになるのやら…w

527 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/26(土) 17:30:49
"フク・ロック"は相手の手を掴むことで動きを制限する束縛術。
ここから逃れるにはフク以上のパワーで振りほどくしかないのだが
これまでの戦いによってアヤチョの腕の骨は折れに折れているため、どうすることも出来なかった。
ムチのようにしならせて叩こうにも、打点自体をホールドされているのでそれも叶わない。
この鬱陶しさにイラつくアヤチョだったが、まだ攻撃手段はいくらでも残されていた。

(手がダメでも足があるよ!頭突きもいいよね!
 気を失うくらい強烈なのをお見舞いしてあげる!!)

アヤチョは自身の額に、グググッと怨念を込めていく。
来たるべき未来、すなわちハルナンが帝王となる未来を実現するにはフクが邪魔なのだ。
そのフクをぶっ倒す意思をより強固にするために、アヤチョは幸せな未来を空想する。
ところが、その人並み外れた空想力がアダとなった。
先ほどのフクの言葉にあった「モーニング帝国帝王として」という言葉が心に引っかかった結果、
異なる未来を思い描いてしまったのだ。

(これは……なに!?)

アヤチョの瞳には少し未来のビジョンが映っていた。
目の前にいるフクの身なりは綺麗に着飾られていて、まるで王様になったかのように見える。
そしてそのフク王の後ろには12人の少女たちが集結している。
顔も知らない者も何人かいるが、これは未来の帝国剣士たちに違いない。
帝国剣士たちの誰もが例外なくフクを慕うように、剣を握っている。
ハルナンも、ハルも、アヤチョではなくフクを護るためにそこに立っているのだ。

(やだ!なんで!?二人ともアヤよりもそいつの方が大事なの!?
 どうしてそいつの周りにみんながいるの?どうして人が集まるの?
 じゃあ、アヤの周りには…………!!)

アヤチョは自分の後ろを見てしまった。
彼女の瞳に映る未来には、誰もいない。
フクの側についているハルナンとハルはもちろんのこと……

(カノンちゃんは!?カナナンは!?タケは!?リナプーは!?メイは!?
 ムロタンは!?マホちゃんは!?リカコは!?みんなどこにいったの!?
 アヤは、どうして、一人なの……)

自ら空想した未来があまりに絶望的だったためか、アヤチョは気を失ってしまう。
突然こんなことになったのでフクは面食らったが、握った手を放したりはしない。
もうアヤチョが倒すべき敵ではないことを心で理解したのだ。
アヤチョの身体はあの強さからは想像もできないほどに細くて、しかも衰弱しきっていた。
そんなアヤチョにこれ以上の衝撃を与えぬように、フクは腕をそっと引き寄せて、抱きしめる。

「もう無理しなくてもいいんですよ、ゆっくり休んでください。
 アンジュの戦士たちも、ハルナンも、ハルも、みんな休ませます。
 私も……すぐに休みます……」

528 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/26(土) 17:32:21
これでアヤチョ戦は終了です。
第一部完!!……は、実はまだ先になっちゃいそうですw

ハルナンの真意や、拳士の情報とかは近いうちに出せるんじゃないかな〜とは思ってます。

529 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/26(土) 17:45:50

おまけ

戦いも一区切りついたので、選挙戦での撃破数ランキングを書きます。
あいまいな決着も多くありましたが、完全に私の主観で勝ち負けを決めてます。
引き分けの場合は両者勝利・両者敗北って感じですね。

・1位 アヤチョ 4勝(マロ、カナナン、タケ、リナプー)

・2位 マイミ  2勝(アユミン、メイ)
    カノン  2勝(トモ、カリン)

・3位 モモコ  1勝(クマイチャン)
    フク   1勝(アヤチョ)
    エリポン 1勝(アーリー)
    マーチャン1勝(オダ)
    ハル   1勝(サヤシ)
    オダ   1勝(マーチャン)
    カナナン 1勝(ハル)
    タケ   1勝(ハルナン)
    リナプー 1勝(サユキ)
    カリン  1勝(カノン)
    アーリー 1勝(エリポン)

・そのほか0勝の登場人物
 サヤシ、ハルナン、アユミン、マロ、メイ、トモ、サユキ、クマイチャン

※サユ王やクールトーンは戦っていないため対象外

530 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/26(土) 17:50:53

おまけ

-数時間前

マロ「予言してあげる。お前を討つのは他でもない、フク次期モーニング帝国帝王よ。」
ハルナン「……」


-数時間後

> タケ   1勝(ハルナン)

タケ「マロさんサーセンwwwフクちゃんじゃなくて私がハルナン倒しちゃいましたwww」
マロ「てめぇ……」

531名無し募集中。。。:2015/09/26(土) 17:56:30
なんか色々とw

アヤチョ編お疲れ様でしたやっぱりハルナンの真意があるのか…

532名無し募集中。。。:2015/09/26(土) 22:45:04
・そのほか0勝の登場人物
 サヤシ、ハルナン、アユミン、マロ、メイ、トモ、サユキ、クマイチャン←←←←←


圧倒的なパワーを見せつけて登場したはずの前作主人公wwwwww

533名無し募集中。。。:2015/09/27(日) 05:50:27
アユミン結局朝までトレーニングしたのか….

534名無し募集中。。。:2015/09/27(日) 09:34:07
アヤチョ王の4勝が全部自国の者なのがひどいw

535 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/28(月) 03:40:18
すべてが終わったと確信していたフクだったが、ここで気の抜けない出来事が起こる。
なんと果実の国の王であるユカニャ・アザート・コマテンテが作戦室の中から出てきたのだ。
"ハルナン派"であるユカニャ王の登場に、フクはピリッとする。

「あなたはユカニャ王……私を倒すつもりですか」
「そ、そんなの無理です!戦う勇気なんてこれっぽっちも残ってませんよ!
 そもそも私は次期帝王はフクさんでも良いと思ってましたし……」
「え?」
「私の願いは果実の国の平和なんです。今回ハルナンさんについたのもそのためですね。
 モーニング帝国のような強い国に守ってもらえなければ、果実の国は簡単に攻め込まれちゃうんですよ。
 もしもフクさんが我が国を脅威から守ると約束してもらえるのであれば……ぜひ応援したいのですが……」

いかにもな困り顔で気弱そうに言うものだから、フクは少し面食らう。
同じ"ハルナン派"且つ"一国の王"であるアヤチョとは似ても似つかぬ性格であるため、少しおかしくもあった。
思い返してみればモーニング帝国の歴代帝王も、誰一人として似たような性格の者は存在しない。
直接仕えた面々だけでもタカーシャイ、ガキ、サユと三者三様だ。
王がそれぞれ違うからこそ、国の在り方も違ってくるのだということをフクは理解する。

「もちろんです。私が帝王になったら果実の国だけでなく、アンジュ王国もまとめて守りますよ。」
「本当ですかぁ!安心しました……では三国で力を合わせる時代が来るのですね。」

ユカニャ王の表情から敵対すべき存在でないことを悟ったフクは、心から安堵した。
そして緊張の糸が完全に切れたのか、急激にまぶたが重くなってくる。
今度こそ本当に戦わなくていいという安心感からか、安らかな顔で眠りについていく。
それを確認したユカニャ王は、フクを起こさない程度の小声でボソボソとつぶやきだす。

「本当に安心しましたよ。これで我々は"ファクトリー"の脅威に対抗できるんですね。
 この世の真なる悪。悪意なき悪。最も憎むべき悪。"ファクトリー"は三国の総力をあげて潰さなきゃなりませんからね。
 私は結果的に良かったと思いますが、ハルナンさんはどう思ってます?」

ユカニャ王は床に倒れるハルナンに対して声をかけるが、
当のハルナンは鉄球で打たれて気を失っているため、返事が返ることはない。

「ありゃ、死んだふりじゃなくて本当に寝ちゃってるんですね。じゃあ夢の中で聞いてください。
 私が見る限り、モーニング帝国次期帝王はフク・アパトゥーマさんですよ。
 でも、ハルナンさんはここで終わるような人じゃないですよね?……どう巻き返すのか、楽しみにしています。」

536 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/28(月) 03:45:42
>>531
ハルナンが帝王になりたい理由は名誉欲もありますが
それ以上にユカニャ王から聞いた"ファクトリー"に対抗したいという思いがあります。
自分が帝王になれば何かしら出来ると思ったんですね。

>>532
川#^∇^)ピキピキ

>>533
>>534
ハルナンの敵なら自国の者でも斬るアヤチョの異常性と、
ただトレーニングするだけで2人も倒すマイミの怖さが表現できたのではないでしょうかw

537名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 07:06:04
ファクトリー!?まさかの急展開…

ハルナンの真意はファクトリーが何かによって明かされるって事か

538名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 08:08:01
ユカニャ王が倒れたフクとハルナンの首を取って漁夫の利ENDかと思ってたのにw

しかし自国防衛のためにハルナンを焚きつけて他国を巻き込んだこんな内部分裂を起こさせるとか
実はユカニャ王こそが一番の策士黒幕なのでは…

539名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 11:52:00
あざといからな

540名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 12:12:24
果実の国の戦績はドーピングしても4人中半分が0
他国に頼りたくなるのも仕方ない

541名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 12:51:56
ファクトリー悪役?
はまちゃん…

542 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/28(月) 13:00:37
今回の戦いによって、モーニング帝国剣士9名全員が負傷することとなってしまった。
誰もが例外なく歩くのも困難なほどの大怪我であり、
その日のみならず次の日までも医療室のベッドから起き上がることは出来なかった。

だが、覚えているだろうか。
今回の帝王を決める選挙のルールは「期日前投票禁止」かつ「代理投票禁止」だ。
つまりは自らの足で投票に向かわねば、権利を行使することが出来ない。

「クールトーンちゃん、締め切りまであと何分?」
「……3分です。」
「もうダメかもね。」

激戦の日の翌日、すなわち投票期日。
サユ王はクマイチャンのせいで瓦礫の山となった訓練場に座り込みながら、
投票権を持つ帝国剣士が来るのを待ち構えていた。

「あっ、あっ、時間が……」
「どうなった?」
「過ぎちゃいました……投票の受付は締め切りです。」
「はぁ……やりすぎなのよ、あの子たち。」

Q期組団も、天気組団も、誰も姿を現すことはなかった。
おそらく彼女たちには医療室から訓練場までの道のりがひどく長く感じるのだろう。
しかしこれでは次期帝王を決めようがない。

「あの、この場合は誰が王になるんですか?優勢だったフクさんですか?」
「それはダメ。ルールはルールよ。」
「そんな……じゃあ王位は……」
「私が続投でーす。」
「えええっ」
「……って訳にもいかないのよ。なんとかしなきゃね。
 とりあえずみんなのいる病室にいきましょ。」
「は、はい!」

543 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/28(月) 13:10:15
ファクトリーが何者なのか、正義か悪かは当分言えそうにないですね。

今の段階で言えるのは
第一部はサユが事件を起こす物語。
第二部はベリーズが事件を起こす物語。
第三部は拳士たちが事件を起こす物語。
というだけです。

544名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 13:43:50
あと2年はかかるなw

545名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 17:47:43
とりあえず第二部が楽しみだ

546名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 19:03:16
なるほど
1 さゆ卒業
2 ベリーズ解散
3 こぶしデビュー
って感じですね

547名無し募集中。。。:2015/09/28(月) 19:38:27
サユが事件…1部はまだ続きそうだな

548 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/28(月) 23:21:50
あ、サユが起こした事件ってのは選挙のことですw
ですので第一部は収束に向かってますよ

>>546
さゆ卒業とベリーズ活動休止はその通りですね。
こぶし……デビュー?……ちょっと何のことか分かりません。
拳士の読み方とクールトーンの本名はよく分からないです。

549名無し募集中。。。:2015/09/29(火) 01:07:45
ほぼネタバレだしw3部になる頃には楓士?もできてると良いなぁ…

550 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/29(火) 08:47:29
昨日の戦いで大きく負傷したのは帝国剣士だけではない。
アンジュの番長や、果実の国のKASTたちだってあれだけ戦ったのだから安静が必要だ。
そのためモーニング帝国はその全員が身体を休めるのに十分なベッドと医療班を用意することにした。
また、昨日まで敵だった相手と極力顔を合わせぬよう、一国につき一つの部屋が充てられたのだが
アンジュ王国の面々に限ってはその配慮が嫌がらせのように感じられた。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

地獄かよ、とタケは思った。
アヤチョ王とマロ・テスクの2人が終始無言で険悪なムードを作り上げているため
他の四番長らにとっては声を掛けづらかったのだ。
もっともリナプーは構わず睡眠をとっているので、
実際に気を病んでいるのはカナナンとタケとメイの3人ではあるが。

「あっそうだ、王に良い縁談があるんですよ。」

空気を変えようとやっとの思いで切り出したのはメイだった。
とは言っても昨日のことを忘れるなんて無理なため、アヤチョとマロの視線が痛くはあるが
筋肉痛で張ったお腹をさすりながら、なんとか声を振り絞っていく。

「なかなかのイケメンですし!男気もあるし!しかもスタイルも舞台映えしてて」
「やだ。」
「ですよね〜……」

即答だった。
やはりアヤチョに恋愛話は縁遠かったのかとメイは後悔したが、実際はそうではない。

「アヤはね、心に決めた人がいるの。結婚はその人とする!」

この好きな人がいる宣言に、タケとカナナンは嫌な予感しかしなかった。
心当たりがありすぎて、その人物の顔しか頭に浮かんでこない。

「あの、王の好きな人ってまさか……」
「えーー?アヤチョがガチ恋してるの?へぇ〜え。」

ここでマロがにやけた顔をしながら話に割り込んでくる。
今までの鬱憤を晴らすために、アヤチョをからかおうと思っているのだ。

「なにカノンちゃん。アヤが恋しちゃダメなの?」
「いや別にー?」
「じゃあなに!」
「いやね、おめでたい話なんだから号外新聞の一部や二部でも書きたいんどけどさ
 今の私はペンも握れないんだよね。ざーんねん。
 ううん、今だけじゃなくこのさきずっと執筆は無理かも。」

マロはわざとらしく、グニャグニャに折れ曲がった腕を見せつける。
このような嫌味は決して褒められたものではないが
彼女の中でもまだ、執筆能力を奪われたことに対する心の整理がついていないために
愚痴の一つや二つでもこぼさなくてはやってられないのだろう。

「……」
「どした?アヤチョ?なんか言葉はないの?」

マロはアヤチョが怒ったり、喚いたりすることを期待していた。
そうなれば普段の番長たちの空気感を取り戻せるし、
後腐れなくやっていけると思ったのだ。
ところが、アヤチョの反応はマロの思っていないものだった。

「カノンちゃんごめん……」
「は?」
「ごめん!みんなごめん!だから、だからアヤの前から消えたりしないで!!」
「ちょ、ちょっとアヤチョどうしたの!おかしくなった!?なんか変だよ!」

551名無し募集中。。。:2015/09/29(火) 09:43:27
よくよく考えたら前作では新聞記者、現実はハロ卒業したら作詞家…本当に執筆活動に携わるんだな・・・

作者は預言者かよw

552名無し募集中。。。:2015/09/29(火) 13:41:51
クマイチャンが休める場所はあるのか?
しかも同室?で一緒なのはモモチでしょ?
危険なかおりがする

553 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/30(水) 13:01:05
アヤチョは自身が見たビジョンの話をみなにすることにした。
具体的にはフクの周りに未来の帝国剣士が集結していたことと、
自分の周りには誰もいなくてとても辛かったことの二点だ。
またも空気がズシリと重くなったので、カナナンもタケもかける言葉が見つからないようだが
唯一マロ・テスクだけは躊躇なく突っ込んでいっていた。

「馬鹿ね、アヤチョ。」
「なに!」
「アヤチョの周りに誰もいなくて当然でしょ。だって私たち番長は常に前進してるんだもん。」
「えっ……」

アヤチョがキョトンとするのも構わず、マロは講釈を続ける

「フクちゃんの周りに帝国剣士が大勢いるってのは、王を敵から守るためなんじゃない?
 その分、私ら番長は楽よ。だって王を護る必要が無いんだもん。ねぇカナナン?」
「は、はい、刺客の一人や二人、いや100人くらいはアヤチョさんだけで倒せちゃいます。」
「そ。だから番長はどんどん前に行ける。攻めの姿勢を最後まで貫ける。
 アヤチョに構ってる暇なんかないの。分かった?」
「そっかぁ……」

正直言ってマロの言うことは勢い任せのデタラメではあるが
不思議とアヤチョの心は穏やかになりつつあった。
ずっとずっと不安に思っていたことが解消されて、嬉しかったのだ。
そしてお次はマロが嬉しい思いをする番となる。

「うわ!なんだこれ!」
「身体が重い……!!」

バン!と部屋の扉が開くなり、アヤチョを含む番長全員の身体はズシリと重くなる。
これは空気やムードが重いとかの話ではない。本当に重量が増加するくらいのプレッシャーを一気に感じているのだ。
こんなプレッシャーを放つような人間は、この城内には一人しかいない。

「カノン!私のために戦ってくれたんだって!?ごめんよ〜!」
「あなたは……あなたは……!」

扉をくぐって現れたのは、マロ・テスクが最も憧れている存在だった。
先ほどはアヤチョをガチ恋どうのこうのと、からかっていたが
何を隠そう(隠す意味はないが)マロの方が誰よりもガチ恋していたのだ。

「この身体の重さ……とっても懐かしいですぅ……」

マロはジュースを飲み干した時の自分を愚かだと思った。
あの時自分は、身体が重さを感じないことに対して喜んでいたが
そんな身体でどうして憧れの存在の重圧を感じることが出来ようか。
効果の持続がなくて、本当に良かったと思っている。

「あ!ごめん!つい焦って殺気を出しっ放しにしてた!!」
「いいんですよ。クマイチャン様の重圧、大好きですから。」

554 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/30(水) 13:16:45
花音のブログはエッグ時代から凄かったので、なんとなくは予想できましたねw

食卓の騎士の部屋については考えてませんでした。
たぶんマイミとクマイチャンはずっとモモコに叱られるんだろうなとは思います。

555 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/01(木) 12:58:39
所変わって、KASTらが療養する病室。
そこでは今回の戦いの反省会が行われていた。

「うーん、分かってはいたけど、みんな散々な戦績ね。」

ユカニャ王は紙をペラリとめくりながら戦士たちへと視線を送る。
当人たちも不甲斐ない結果に終わったことは承知しているようで、後ろめたいような表情をしていた。

「トモとカリンちゃんの二人掛かりでカノンさんと引き分け……さすがにこれにはガッカリだね。」
「うん……ユカニャの言う通り。返す言葉もない。」
「トモに同感です……」

カリンはともかく、普段は横柄なトモ・フェアリークォーツがしおらしくなるのはめずらしい。
帝国剣士の一人も倒しきれなかったという事実が相当堪えているのだろう。

「サユキは番長のリナプーに競り負けたかぁ……
 まぁ、連絡担当の仕事は頑張ってくれたからよしとするかな。」
「よしとしちゃダメ。昨日の私はなんにも出来てなかった。」
「そう?」
「うん、明日からマラソンの距離増やす。」

サユキも、よりによってリナプーに負けたというのがショックなようだった。
しかもあのハルも大活躍をしたと聞いている。
元73班の中で唯一結果を残せなかったのは、とても悔しい。

「お、アーリーは結構頑張ったのね。ハルさんとタッグを組んでエリポンさんとサヤシさんを止めてる。」
「えへへへ。」
「うん、アーリーには及第点の評価をあげます。」
「やったー!」

彼女らの中で最も活躍したのがアーリーだというのもトモとサユキのプライドを傷つけた。
お互いのどちらかがKAST最強であると考えていたのだ
実力がやや劣るアーリーに出しぬかれるとは夢にも思っていなかっのだ。

「いや、こういう考え方自体がもうダメなのかもね……」

トモの呟きに対して他の四人が集中する。
らしくないことを言い出したので、不思議に思ったのだ。

「ねぇユカニャ、いやユカニャ王……新しい戦闘スタイルについて提案があるんだけど。」
「……なに?」
「ジュースはもう捨てない? そして、このカリンを中心に据えた陣形を組むのが一番良い気がするんだ。」

556 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/02(金) 18:46:47
「えぇーーーーっ!?」

カリンのセンター起用発言に最も驚いたのは他でもないカリン自身だった。
KASTとしては足止めなどのサポート役に徹してたので、今回の推薦が信じられないのである。

「どうして?いつものように私が敵を止めて、みんなが攻撃するやり方が良いんじゃ……」
「それじゃあカノンの奴に勝てなかったでしょ。」
「それは……」
「相打ちに持ち込めたのも、カリンが肉弾戦にシフトしたからだ。」
「……」

トモの言葉に、カリンはうつむいてしまった。
自分が表立って戦うことを恐れているのかもしれない。

「カリン、お前の本当の戦闘スタイルはどういうのなの?どんな武器を使うの?本当のカリンは何者なの?」
「私は私だよぉ……なんでそんな怖いこと聞くの?」
「私たちKASTが帝国剣士と番長に食らいつくためだよ!強くならなきゃならないでしょ!」
「ひぅぅ……」

カリンが精神的に限界だと感じたのか、ユカニャ王が間に入っていく。
王も王で言いたいことがあったのだ。

「強くなりたいならジュースを捨てちゃだめだよ?
 効能に不満があるなら改良するから……」
「王、ジュースの効果は確かに凄いけどさ、それは私たちをダメにする薬だよ。」
「えーーー!?なんてことを……」

ユカニャはひどくショックを受けているようだが
サユキとアーリーにも思いたる節がうくつかあった。

「なんか分かる気がする。 ジュースを飲むとやることの幅が減るんだよね。」
「うん、ウチもオリになって敵を囲むことしかできひん。」

ジュースを飲むことで、彼女らは一芸に秀でることが出来るが
それは裏を返せば、一芸以外のことが出来なくなってしまうということ。

「サユキとアーリーの言う通り。 本当に強い奴は臨機応変に何だって出来るもんだよ。
 だから私たちはジュースなしで戦えるようにならないといけない。
 帝国剣士や番長に肩を並べるためにはね。」
「……」

常人と比べて勇気の不足しているユカニャ王は、反論を恐れるあまり言葉を返すことが出来なかった。
出来ることならば思いのたけをブチ撒けたいところではあるのだが……

(分かってない!みんな分かってないよ!ただの人間がファクトリーに勝てるわけないでしょ!!
 バイ菌を退治するのは天然100%ジュースしかないってのに、なんで分かってくれないの!?)

557名無し募集中。。。:2015/10/02(金) 19:30:26
ファクトリーが何者なのか気になる
早く見たい

558名無し募集中。。。:2015/10/02(金) 20:12:34
ユカニャ王がそこまで怯えるファクトリーとは一体…

559名無し募集中。。。:2015/10/02(金) 21:23:23
しかもバイキンって…ファクトリーの謎は深まるばかりw

560 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/03(土) 18:35:17
「フクちゃん、起きて」

誰かの声に起こされたフクは、寝ぼけまなこで辺りを見回す。
寝起き直後ゆえに状況判断能力が著しく鈍ってはいるが
周囲のベッドに帝国剣士らが腰かけていることから、病室だということはすぐに理解できた。
問題はフクを起こしたその人物にある。

「サ、サユ王様!?」
「はーい。」

フクの前に立っていたのはサユ王その人だった。
よく見れば周りの帝国剣士らの表情もピリッとしている。あのマーチャンさえもだ。
これから始まることの重大さをみなが理解しているのだろう。

「フクちゃん、今何時か分かってる?」
「あぁ!!!……投票時刻はもう……」
「うん、過ぎてる。」
「では結果は……」

勝手に最悪の事態を想定して泣きそうな顔になるフクを見て気の毒に思ったのか
サユ王は側にいたクールトーンに説明をさせることにした。

「えっと、票はフクさんとハルナンさんのどちらにも一票も入りませんでした。
 誰も投票場に来れる身体じゃなかったんです。
 なので、次期モーニング帝国帝王はまだ決まっていません。」

それを聞いたフクは安堵のあまり涙を流してしまった。
結局泣くフクを横目に、ハルナンが挙手をした。
他のみんなと同様に今後どうなるのかを気にしているのだろう。

「それでサユ王……この場合、次期帝王は誰になるんでしょうか?」

その場の誰もがゴクリと唾を飲んだ。
サユもそれが分かっていたのか、勿体ぶらずに方針を告げる。

「次期帝王を決めるやり方は、あなた達9人で決めなさい。」
「「「「えっ!?」」」」
「私もね、いろいろ考えるのが疲れちゃった。
 9人全員が納得できる決め方ならなんでもいいよ。任せる。
 その代わり、一人でも納得できないようならずっとずっとずっとずっとやり直しだからね。」

561名無し募集中。。。:2015/10/03(土) 19:49:09
うわぁ一番困難な方法を選んだんだな…

562名無し募集中。。。:2015/10/04(日) 12:42:24
ここで投票すりゃいいのにね
決まるのか?

563 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/05(月) 03:19:52
9人全員が納得する決め方。それを定めるのはかなりの難題だった。
どれだけ公正に見える手段であろうと、不満は必ず出るに決まっている。
例えば多数決。一般的には平等であると言われてはいるが
オダ・プロジドリが天気組団の一員だと判明した今、それを採用することは出来ない。
結果は絶対に5対4でハルナンの勝利となるに決まっているし、
そうなれば仮にフクが敗北を認めたとしても、エリポン、サヤシ、カノンが黙っていないからだ。
では多数決ではなく、団長同士の決闘で決めるのはどうか。
……残念ながらこの案も採用はされないだろう。
ハルナンはフクには勝てないと確信しているアユミン、マーチャン、ハルが食い気味に反対するはずだ。
どんな決め方だろうとフク側、ハルナン側のどちらかに有利性が存在する。
それが目立って見えている限りは決して意見は通らないのである。

(そうか……サユ王様の伝えたいことは……)

ハルナンはサユの言葉の本質に気づいた。
この状況で自分の意見を通すためには2つのことが重要であり、
その両方が帝王として人の上に立つのに欠かせないファクターであることが分かったのだ。
一つは「人をまとめあげること」
自分が有利な条件を提示すれば相手側が納得しないし、
かといって相手が有利になるよう仕向けたとしても、その時は味方からの反発を受けてしまう。
そのバランスを保って両者の理解を得られるような最適案を考え抜くのが王の務めなのだ。
もう一つは「不利な条件を受け入れること」
正直言って、今回のルールでは100%有利な条件が採用されることはあり得ない。
となれば大なり小なり自分にとって不利な条件で戦わなくてはならなくなる。
それを許容し、かつ成果を出すような者こそ王に相応しいのである。

(まとめること、そして受け入れることか……私の器じゃどっちも満たせそうにないな……
 だからフクさん!ここであなたに協力してもらう!
 あなたの持つ器の大きさを、ここで利用させてもらう!!)

ハルナンは痛みに耐えながら、その場に立ち上がった。
そしてフクに対してこう言い放ったのだ。

「フクさん、ここは決闘で決めましょう!
 私たちは戦士です……全員が納得できるような白黒の付け方なんて、それしかないでしょう?」

いきなり"決闘"を持ち出したハルナンに、その場の誰もが驚いた。
これにはもちろんアユミンら天気組団の反発が来ると思われたが、
次の言葉でハルナンはそれすらも阻止する。

「決闘とは言っても私とフクさんとのタイマンでは無いですよ……"チーム戦"です。
 フクさん、エリポンさん、サヤシさん、カノンさんのQ期団4名と
 私ハルナン、アユミン、マーチャン、ハルの天気組団オリジナルメンバー4名で戦いましょう。
 より強い組織を作り上げた者こそが帝王に相応しい……というのはどうでしょうか?」

一騎打ちではなくチーム戦。しかも戦うのはQ期団と天気組団。
そう聞いたアユミンたちは反論することが出来なくなってしまった。
ここで不利だと騒げば自分たち天気組団の方が劣ると認める形になってしまうし
そもそもガチンコ勝負でQ期団に勝てないとは微塵も思っていないのだ。
ならばハルナンに反対する理由など一つもない。
そしてそう考えるのはQ期団たちも同じだった。

「そっちがそのつもりならええっちゃけど。」
「今度こそ本当に容赦はせんけぇ……」

自分の意見が通りつつあることに対してハルナンはニヤリとする。
だがこれではまだ足りない。100%勝利できるという確証がない。
王になるには「不利な条件を受け入れること」が大事だとは分かってはいるが
その不利は可能な限り小さく抑えたい。
だからこそハルナンはフクに更なる提案を持ち掛ける。

「フクさん……私とフクさんの二人でチーム戦のルールを決めませんか?
 お互いが納得できるような、気持ちの良い勝負ができるルールを制定しましょう!」

564名無し募集中。。。:2015/10/05(月) 05:43:53
再戦すんのか

565名無し募集中。。。:2015/10/05(月) 06:50:54
フクはハルナンから決闘の申し出を
→受ける
 受けない

これで命運が決まりそうだw

566 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/06(火) 12:58:47
ハルナンの提案は勢い任せにもほどがあったし、
Q期の慎重派、カノン・トイ・レマーネもその案をひどく怪しんでいた。
ここで承諾しなかったとしても、決して逃げたことにはならないのだが……

「いいよ、ハルナンの言う通りにしよう。」

フクはあまりにも簡単に意見を聞き入れてしまった。
いや、というよりは「不利な条件を受け入れる」心構えが出来ていたと表現するのが正しいのかもしれない。
ハルナンは表情こそにこやかだが、フクに王の素質があることを痛感して、内心穏やかではなかった。

(ほんと落ち込むわ……こうも差を見せ付けられると、ね。
 でも、これをチャンスと思わないとやってけない。
 隠すのよ!こちらの有利な条件を、甘い言葉の中に!!)

ハルナンはフクにぺこりとお辞儀をし、ルールの提案を開始する。

「まず日程ですが、ちょうど1ヶ月後というのはいかがでしょうか?
 今すぐ……というのは負傷の度合いから言って難しいでしょうし、
 かといって全員の完治を待つとなると、次期帝王の決定を先延ばしにする形になってしまいます。」
「先延ばしは……良くないね。」
「では1ヶ月でも?」
「うん、いいよ。そうしよう。」
「分かりました。お次は決闘の場所を決めましょうか……私は訓練場こそ相応しいとは思いますが。」
「えっ!?あそこはクマイチャン様の被害で瓦礫だらけになってるんじゃ……」
「はい、だからこそ我々への"戒め"になるんです。」
「???」
「今回私たちは味方同士だというのに争ってしまいました。
 しかも食卓の騎士を筆頭に、他国の戦士まで巻き込んで……」

ハルは「全員ハルナンが呼んだんじゃないか」とツッコミたくなったが
ここは黙っておくことにした。

「そのような醜い争いを今後しないと誓うために、今回の決闘を最後の戦いにするために
 投票場でもあった訓練場で決着をつけるのが最適だと思ったのです。」
「すごいね……そこまで考えてたんだ。」
「多少戦いにくいかもしれませんが、瓦礫はそのままにしておきましょう。これも戒めです。」
「天井の穴も?あれもクマイチャン様が開けたんだけど……」
「はい!その方がお天道様にも決着を見ていただけますしね!」
「なるほど〜そうしよう!」

567名無し募集中。。。:2015/10/06(火) 13:55:16
ハルナン「地の利を得たぞ!」

568名無し募集中。。。:2015/10/06(火) 16:34:20
オダ自身の心境が気になる

569名無し募集中。。。:2015/10/06(火) 17:25:26
前作ようやく読み終わった

570 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/07(水) 08:38:40
制定はまだまだ続く。

「肝心の決着の付け方ですが……勝利条件をどう定めれば全員納得しますかね?
 ポイント制の導入とかは、辞めた方が良いですよね?」
「うん、ダメだね。どちらかが戦えなくなるまで戦い抜くべきだと思う。
 決闘って、そういうものだから。」
「フクさんがそう言うならそうしましょう!
 ただ、そこに一つだけルールを追加してもいいですか?」
「なに?」
「武器は訓練用の模擬刀にしましょう。極力、血は流したくないですし、それに……」
「それに?」
「ほら、フクさんの剣……折れてしまったじゃないですか。」
「あ……」

フクの愛用する装飾剣「サイリウム」。
昨晩アヤチョ王に破壊されたばかりであるし、
あの壊れ方からいって1ヶ月そこいらで修復できるとは到底思えない。

「フクさんだけが持ち慣れない仮の剣を使うなんてフェアじゃないですよね。
 ですので、ここは全員一律で模擬刀と訓練着を使うのが良いと思ったんです!」
「ありがとう……そうしてもらえると助かる。」

話の流れに対してサヤシは少し思うところがあったが
自分たちの大将が良いと言うのだから、意見を引っ込めた。

「他に決めるべきは……うん、立会い人ですね。」
「立会い人?」
「次期帝王を決める戦いなんです。見届けるに相応しい人物をお呼びするべきでしょう。」
「なるほど……でも、サユ王以外に誰かいたっけ? あ、オダちゃんにも見て欲しいけども。」
「マーサー王です。」
「え?」
「マーサー王をお呼びするんです。」

フクにはハルナンの提案が信じられなかった。
確かにマーサー王国はモーニング帝国の最重要同盟国ではあるが……

「そんな、そこまでする必要って……」
「必要あります。 今回の勝者は王になるんですよ。つまりはマーサー王と肩を並べることになりますよね。
 ならば、次期帝王をいち早くお伝えできる場に招待しなくては失礼にあたります。」
「そ、そうか……」

コトが大きくなってきたので、フクのみならず他の帝国剣士らも冷や汗をかきだした。
そして、さすがのサユもこの件に関しては口を挟まずにはいられなかったようだ。

「ちょっと待って、マーサー王を招待する手はずは誰が整えるの?
 私は嫌よ?面倒くさいし……」
「私が全責任を持ちます!ですので、許可をください。」
「それと分かってる?マーサー王は一人じゃ外出できないの。
 いつ何が起きても良いように、マノちゃんって子が付き添うことになってるんだけど……」
「承知しています。マノエリナさんという方にも見届けていただくつもりでした。」
「そう?じゃあ何も言うことはないわ。」
「それと……食卓の騎士のキュート戦士団長であるマイミ様にも立会い人になっていただきたいのですが……」
「マイミも!?……理由は?」
「今回、私はマイミ様とクマイチャン様を私欲のために騙してしまいました……
 その罪滅ぼしとして、心を改めた私の戦いを見て欲しいんです。」
「はぁ……勝手に交渉しなさい。二人にはちゃんと謝っておくのよ。」
「はい!」

フクはやや置いてけぼりではあったが、
これでサユ王、オダ、マーサー王、マノエリナ、マイミの5名に立会い人になってもらうことが決定した。
他にも細々とした決め事はあるが、基本的な流れはみなが理解したことになる。
これで全員が納得すればおしまいだ。
フクがQ期団に、ハルナンが天気組団に確認を取る。

「みんな、これでいいよね?」
「納得出来ない人はいないよね?」

引っかかることが無いと言えば嘘にはなるが
お互いのリーダーが納得し合っているので、特に不満などが出ることはなかった。
ただ、一人を除いては……

「私、納得できません!!」

病室中に響き渡る大声に、一同驚いた。
特にハルナンはしまったと言うような顔をしながら汗をかいている。
何故なら意義を申し立てたその人は、天気組団の一人、オダ・プロジドリだったからだ。

「オダちゃん……?」
「ハルナンさん、約束が違いますよ!」

571 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/07(水) 08:40:00
前作を読まれた方にはタイムリーな展開かもしれませんねw
ログ整備は暇を見つけて頑張ります……

572名無し募集中。。。:2015/10/07(水) 11:47:42
さすが一筋縄ではいかない女!

573名無し募集中。。。:2015/10/07(水) 16:06:05
マノちゃんきたか
オダはやっぱり一筋縄じゃいかないよねw

574名無し募集中。。。:2015/10/07(水) 21:52:23
マーサー王までくるのか…天のお告げで舞踏会でフクとダンスを踊る事になるんだなw

575名無し募集中。。。:2015/10/07(水) 22:11:57
>>574
トライアングルかよw

576 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/08(木) 08:22:51
「何言ってるんだよオダァ!」

いつものように怒鳴りつけるアユミンだったが、内心ではオダの意図するところを分かっていた。
オダの言う約束とは、以前、作戦室で教えてくれたものに違いない。
もしもそれが実行されるとなれば大変なことになる。

「ハルナンさん、約束してくれましたよね?
 "ハルナンさんが選挙に勝ったらすぐにでも帝王を斬らせてくれる"って……」
「うん……」
「このままだと選挙をやらなくなるじゃないですか。私との約束、どうなるんですか?」

そんな約束をしたとは思いもしていなかったQ期たちは、揃いも揃って背筋を凍らせた。
オダが味方を斬りたいと考えていたことがそもそも驚きだし、
「選挙に勝ったら」という条件付きとは言え、帝王になった自分を危険に晒す約束をしたハルナンも恐ろしい。
それだけ今回の戦いに賭けていたということなのだろうか。

「オダちゃんダメ!!そんなのマーが許さないから!!」

ここでマーチャン・エコーチームが声を荒げたのも意外だった。
ハルナンのことを尊敬しているようには見えなかったが、やはり天気組団の一員といったところだろうか。
そんなマーチャンの成長に感涙しつつ、フクが話に割って入る。

「オダちゃん、そんな約束は私からも認められないよ。」
「!!!……フクさんは関係ないじゃないですか。」
「ううん、関係ある。 これ以上血が流れるのを黙って見逃すことはできない。」
「私は帝王を斬ることを目標にして、ハルナンさんに協力してきたんですよ!
 それなのに、全て終わったら約束を反故にするって……あんまりじゃないですか!
 斬らせてください!帝王が私の上に立つに値する人間なのか、確かめないと気が済みません!」

このように激昂する様はいつもの冷静なオダらしくなかった。
しかしここはなんとかして宥めないといけない。
実力から言って、ハルナンがオダに斬られたとしたら痛いでは済みそうもないからだ。

「だからそこをなんとか抑えて!きっとハルナンも他の褒賞を用意してくれるはずだから!」
「そんなの無価値ですよ!私が最も願うのは……」
「なんだっていうの!?」
「サユ帝王を斬る、それだけです。」
「…………ん?」

この場にいる殆どが頭の処理が追いつかず、ぽかんとしてしまった。
サユ王も「私?」と言った表情をしている。
その中でもオダの世界観についていけているのは、
頭を抱えているハルナンと、相変わらず食ってかかるマーチャンの2人のみだった。

「だーかーらー!ミチョシゲさんは斬らせないって!」
「マーチャンさんには口を挟む権利はありませんよ。
 とにかく、私はサユ王の実力を測らないといけないんです。
 私は私より強い人にしか従う気はありませんので。」
「オダちゃんひょっとして馬鹿?ミチョシゲそんの方が百万倍強いってみんな思ってるよ。」
「やってみなきゃ分からないじゃないですか!!」

オダの言う帝王とは、ハルナンではなくサユを示した言葉だった。
確かに選挙が終わった時点では、ハルナンはまだ王ではない。
その後の正式な手続きをすべて踏み終えるまではサユが王なのだ。
ひとまずハルナンが斬られる訳ではないと知った一同は安心したが
それでもまだ一件落着とは言い難い。

「身の程を知れよオダァ!王がお前なんか相手する訳ないだろ!」
「アユミンさんひどい!……私だってそれくらいわかってますよ……
 でも、ハルナンさんが約束してくれたんですもん……
 それを聞いて嬉しかったのに……ウッ……ウッ……」
「おいオダ……泣いてるのか?」

577 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/08(木) 08:24:34
トライアングルは私もやっとDVDを見れました!
色々とネタに使えそうな要素が多かったですね。

578名無し募集中。。。:2015/10/08(木) 10:03:11
おいおい…自分が次期帝王に決まったら即前王をオダに斬り捨てさせるってどんだけ冷徹なんだよハルナン!w

579名無し募集中。。。:2015/10/08(木) 11:28:29
さすがオダァ
ハルナンもハルナンだけどw

トライアングルネタも楽しみです

580名無し募集中。。。:2015/10/08(木) 12:07:27
これからはトライアングルネタも増えるかな?

邪魔者は全て排除する・・・ハルナン怖いわw

581名無し募集中。。。:2015/10/08(木) 18:46:55
ハルナンなんて約束を

582 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/08(木) 22:28:13
ハルナンは仕方ないといった表情で、サユの方へと顔を向ける。
無礼であることは承知しながらも打診することに決めたのだ。

「サユ王様、おヒマな時にでもオダと手合わせを……」
「イヤよ、どうせ真剣でやれってんでしょ?痛いのはイヤ。」
「ですよね……」

サユにあっさりと断られてしまったため、話はいよいよまとまらなくなってしまった。
次期帝王の決め方を定めるには全員の納得が必要なのだが
サユとの決闘が約束されない限りはオダが反対し続ける。
しかも、サユは決闘する気はさらさらない。
これでは決め事は一生締結されない。
先ほど定めたチーム戦のルールが承認されないことは、ハルナンにとって非常に都合が悪かった。

(仕方ない、この手は使いたくなかったけど……)

ハルナンは身体の痛みに耐えつつ、サユの元へと接近していく。
そして、他の誰にも聞こえないような声でサユに耳打ちするのだった。

「覗き部屋のこと、研修生たちにバラしてもいいですか?」

それを聞いた途端、サユの四肢はビリビリと痺れだす。
急に頭がクラクラするし、吐き気も催したような気がしてくる。
なぜハルナンがそのことを知っているのかは定かではないが
それはさておき、サユは次の言葉しか喋ることが出来なかった。

「いいよ、オダと戦ってあげる。」

サユがそう言うなり一同は驚き、ハルナンは安堵の表情を浮かべ、オダの顔はパアッと明るくなる。
そしてその勢いのままオダは早口で質問をするのだった。

「本当ですか!?い、いつですか?今ですか?剣を取ってきますね。」
「ちょ、落ち着いて!」

最大の懸念事項が吹っ飛んで気分の良くなったハルナンは
この件までもチーム戦へと絡めていく。

「オダちゃん!どうせなら怪我を治した健康体で王に臨みたいでしょ?
 だからこうしましょう。サユ王様とオダちゃんの戦いはエキビションマッチとして、
 Q期組さん対天気組が始まる前にやってもらいましょう。
 サユ王様、オダちゃん、それでいいですね?」
「……はぁい」
「はい!」

583 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/08(木) 22:30:01
念のため補足をしておきますが
ハルナンはオダがサユ王に勝てるとは微塵も思っていませんw
約束だけして、王に適当にあしらわれるのを期待してたんですね。

584名無し募集中。。。:2015/10/08(木) 23:32:02
しかしオダァは敗北を知らない女・・・

585名無し募集中。。。:2015/10/09(金) 07:59:37
最初オダの約束聞いたとき策士だなと思ったけど…やはりオダは己の欲望に忠実な女で安心したギンギン

586名無し募集中。。。:2015/10/09(金) 10:12:06
ハルナンの悪な魅力たまらん

587 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/09(金) 12:57:47
承諾はしてくれたものの、依頼が急すぎたことを反省しているのか
ハルナンは小声でサユ王に謝りだした。

「本当にすみませんでした……当日はサクッと済ませてもらえば結構ですので……」
「そんな気軽なものじゃないのよ、どこまでマリコを抑えられるか……」
「マリコ?どちら様ですか?」
「あぁ、いや、こっちの話。」

サユの言葉は少し不思議だったが
それはさておき、ひとまずこれで全員の納得を得ることが出来た。
日程は一ヶ月後、場所は訓練場、ルールは模擬刀を用いたチーム戦。
立会い人はサユ王とマーサー王、そしてマイミ、マノエリナ、オダ。
チーム戦の前にはサユ王とオダのスペシャルマッチ有り。
この場にいる全員が全員、これらのルールを受け入れることが出来た。
ここまで決まれば、後は各チームに別れて作戦会議でもしたいところだが……

「フクさんの怪我が一番ひどいですよね。
 どうしましょう。私たち天気組が別室に移りましょうか?」
「ううん、ちょっと用事があって、今から席を外すから大丈夫。
 Q期のみんな。一緒に付き合ってくれる?」

そう言うとフク・アパトゥーマは歩行器を利用して、エリポン達を連れながら部屋を出てしまった。
オダ以外の天気組の面々も、一つのベッドに集まって決闘当日のことを話し始める。
全員が全員、次期帝王を決めるために一丸となって動く様子を目の当たりにして、
クールトーンはなんだかワクワクしてくる。

「どうしたのクールトーンちゃん。鼻息荒いようだけど、興奮してるの?」
「はい!帝国剣士さん達の決闘が見られるのが、今から楽しみで……」
「あ、クールトーンちゃんに見る権利はないけど分かってる?」
「!?」

サユの発言に、クールトーンはショックを受けた。
確かに立会い人の名前にクールトーンの名は無かったが
いつものようにサユ王にくっついていれば観戦出来ると思い込んでいたのだ。

「そもそもクールトーンちゃんはもう書記でもなんでもないしね。」
「えええええええ!く、クビですか!?」
「クビっていうか、うーん、ちょっと合宿に行ってもらいたいの。」
「合宿?」
「そう。テラっていう施設で行われるから、向かってもらえる?
 私も用事を済ませたらすぐ行くから、先に3人となんとかやっといて。」
「3人?」

588名無し募集中。。。:2015/10/09(金) 16:19:14
いよいよ新戦士たちが動き出すか

589名無し募集中。。。:2015/10/09(金) 17:04:40
マリコきたー!作者さん設定忘れて無かったのねw

恐怖のテラ合宿…そういやQ期はアイ・天期はガキだったのかな?

590名無し募集中。。。:2015/10/11(日) 13:27:18
つい最近になって12期の顔と名前が一致する様になった俺はクールトーンの正体がやっと分かったw

591 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/12(月) 07:04:12
目的の部屋へと向かう道中、フクはQ期団の面々と多くの会話を交わすことが出来た。
昨日の戦いや、選挙不成立と知ったときの感想についても話したが
最もホットなトピックはやはり1か月後にせまったQ期団vs天気組団のチーム戦のことだった。
その話題について、まずカノンから突っ込みが入る。

「ねぇフクちゃん……その脚、1か月後までに治るの?」

ハルナンに抉られたフクの脚は、歩行器が無ければ移動もままならないほどに重症だ。
いくら本番まで多少の猶予があろうと完治が難しいことはフク自身も理解していた。

「う〜ん、良くて歩ける程度だろうね……」
「しかも訓練場はクマイチャン様の被害でガレキの山になっちょる……
 フクちゃんの"ダッシュ"と"バックステップ"は完全に封じられたと思ってええじゃろ……」
「ははは、サヤシの言う通りだね」
「じゃあどうしてあんなルールを飲んだと!?」

深刻な事態だというのに呑気なことを言うフクに対して、エリポンは声を荒げた。
先ほどの場で反対意見を言わなかった自分がここでフクを責める資格は無いと知りつつも
ついカッとなってしまったのだ。
だがフクはそんなエリポンに対して怒ったりはしない。
軽くぺこりと頭を下げて、自分の思いを伝えていく。

「エリポン、みんな……不利な勝負につき合わせちゃってごめんね。
 でもね、モーニング帝国の王となって世界と向き合う人物になるためには
 少なくともハルナンは絶対納得せないといけないと思ったんだ。」
「それはどうして?……」
「だって言うじゃない?、"たった一人を納得させられないで世界中口説けるの"ってね。」

フクの発言に、一同はクスッとする。
その言葉はTheory of Super Ultra Nice Kingdom(訳:超超素敵な王国論)という名の著書から引用されたもの。
略称TSUNKに書かれているのはどれもがヘンテコな言葉ではあるが、謎の説得力をはらんでいる。
ゆえにモーニング帝国のみならず、マーサー王国やアンジュ王国、果実の国にまでも熱狂的なファンが存在するという。

「だったらフク、なおさらエリ達を不安にさせたらいかんよ。」
「"たった一人を不安にさせたままで世界中幸せに出来るの"ってことだね?ごめん注意する。」

592 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/12(月) 07:09:03
>>589
第一部を書く前に前作をおさらいしたので大丈夫なはずですw
テラ合宿の教官は新メンバー加入時のリーダーが担当しますので
その認識で正しいです。

>>590
クールトーンの正体?……12期?……
よくわかりませんが、「そのメンバーの名前」+「クルトン」でググると由来がわかるかもです。

593名無し募集中。。。:2015/10/12(月) 08:01:44
天期のテラ合宿…ガキさん大変だったろうな

TSUNKww

594 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/13(火) 08:40:17
フクらQ期団は途中で捕まえた案内人を頼りに、とある部屋まで辿り着いた。
目当ての主は確かにその中にいる。それが扉越しでも感じ取ることが出来る。

「凄く寒い……血が凍っちゃいそう。」
「確かに以前サヤシが言ってた通り。この冷気は凄いっちゃね。」

部屋の中から発せられる冷たいプレッシャーにも負けず、フクはドアを開いた。
そこはベッドも何もないただの空き部屋。
通常と異なる点は、食卓の騎士が中にいることのみ。

「あら、貴方は昨日の……」

突然の来客に応えたのは食卓の騎士のモモコだった。
側には土下座のポーズのまま額を床につけている長髪の女性がいる。
彼女はおそらくは食卓の騎士であり、キュート戦士団長であるマイミなのだろうが
なんだか触れてはいけない気がして、Q期団は黙っていた。
それよりもフクは用事を済ませることを優先する。

「あのっ、モモコ様、この度は本当に有難う御座いました!」

フクの目的はモモコに対してお礼の言葉を伝えることだった。
モモコが助けに来てくれなければクマイチャンの脅威から逃れることは出来なかったので
命の恩人とも言える存在と思っているのである。
しかし、当のモモコの反応は冷たかった。

「感謝されるような覚えはないよ。私はこの馬鹿とあの馬鹿を止めにきただけだし。」

この馬鹿とはマイミ、あの馬鹿はクマイチャンのことだろう。
クマイチャンはどういうことかこの場で折檻を受けてはいないようだが……

「いえ、感謝します。おかげで今の私がありますし、帝王になる道も途切れませんでした!」
「ふぅん……貴方、帝王になるの。」
「はい!まだ候補ですが……」
「全然足りてないね、サユと比べると一目瞭然。」
「!」

モモコの口から放たれる冷たい言葉に、フクは身を裂かれる思いをした。
サユとの差について自覚してはいたが、憧れの存在に言われるとなるとショックも倍増だ。
そんなことを言うモモコにエリポンらは憤ったが
不甲斐ないことに、脚が凍りついたかのように一歩も動くことが出来なかった。

「王ってさ、椅子に座って踏ん反りかえるだけじゃダメなの。
 時には自ら敵陣に乗り込んで、辛さに堪え忍ぶくらいの気概が欲しいわね。
 例えばサユなら自分の必殺技を使ってクマイチャンの脚を止めてたと思うよ。
 貴方にはある?必殺技。」

595名無し募集中。。。:2015/10/13(火) 20:24:47
この流れはもしや・・・キューティーサーキットか?ってマイミが立会人だからないかwそれにそんな事したらQ期が壊れちゃうww

596 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/14(水) 18:54:43
「それじゃ、私たちはもう帰るから」

長髪の首元を掴むと、桃子はそのままズルズルと引っ張って行ってしまった。
昨日の怪我も癒えていないのに……といった心配は不要だろう。
歴戦の戦士なだけあって、体力も回復力も若手とは段違いなのだ。

「モモコ様……行っちゃった……」

先ほどのモモコの発言が効いたのか、フクは俯きながらプルプルと震えている。
それを見たエリポンらQ期の面々は、お互いに顔を見合わせた。
彼女らは知っていたのだ。
この震えが馬鹿にされたことに対するショックによるものでは無く、
憧れの存在にアドバイスを貰えたことの喜びに起因していることを。

「フクちゃん、やることが決まったんだね。」
「うん、私たち、必殺技を覚えなきゃ!」

必殺技。かつての大戦や大事件に居合わせた戦士は誰もがそれを扱えていた。
クマイチャンのロングライトニングポール、モモコのツグナガ拳法、マロの爆弾ツブログなどがそれに該当する。
(アヤチョの聖戦歌劇など、当時の戦いを経験しなくても習得可能なケースも無くはない。)
必殺技は文字通り、相手を必ず殺すくらいに強大な技。
己の特色を最大限に生かした者のみが放つことのできる奥義なのだ。

「ハルナン達に対抗するには、エリたち全員が必殺技を使えるようにならなきゃ……ってこと?」
「理想は全員だけど、誰か一人でも使えたら大きなアドバンテージになると思う。」
「でも、そんな大技をどうやって覚えりゃええんじゃ?」

サヤシの質問はもっともだった。
自分たちはこれまで何回も訓練してきたが、必殺技を覚える兆しさえも掴んできていない。
となればよりハードな訓練が必要になってくるのだろうが
そんな体力も時間も彼女らには残されていなかった。
だが、フクは激しい訓練は不要だと説く。

「大事なのはどういう技なのかイメージすることだよ。」
「「「イメージ?」」」
「昔、食卓の騎士様たちのインタビュー記事を読んだことがあるんだけど、
 必殺技は日頃の訓練や実践の延長戦上にあるものらしいんだよ。
 己の実力が極まった時、且つ、必殺技が本当に必要になった時に使えるようになるんだって。
 だから私たちは考え続けなけりゃならない。
 どういう時に必殺技が必要になるのか。具体的に、ハッキリと!」

イメージをすることが大事。そう考えると気が楽になってくる。
これから数日はベッドの上で過ごすのだろうが
想像だけなら身体を動かさ無くても十分に可能だ。

「まずは怪我を癒しながらイメージすることだけに専念しよう。
 そして、決戦の日が近くなったら、そのイメージを身体を使って形にしてみようか!」

597 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/14(水) 18:55:51
キューティーサーキット……とまでは行きませんでしたが
フク達なりのやり方で必殺技を編み出そうとするつもりですね。
実際に実現できるかはさておき。

598名無し募集中。。。:2015/10/14(水) 20:03:50
彼女達なりのQ期ーサーキットな訳ね

さてどんな必殺技&技名になるのか楽しみw

599 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/17(土) 12:53:25
次の更新は早くて日曜夜になりそうです、、、

600 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/19(月) 12:59:19
フクがモモコに必殺技に関するアドバイスを受け取っていたころ、
天気組団のアユミン、マーチャン、ハルの3人は番長らのいる病室に訪ねていた。
こちらの目的も、同様に必殺技について教わることだった。

「君は!!!!!」

最愛の人であるハルの登場に舞い上がったアヤチョは、
大怪我であるのもお構いなしにベッドから立ち上がっていく。
そして、ハルの登場に驚いたのはアヤチョだけではなかった。

「あーーー!この人ですよ!メイがアヤチョ王とお見合いさせようとした人はこの人です!」
「え!そうなの!」
「そうです!二人が主演の舞台を想像したら素敵だと思って……」
「メイは良い子だね……脚本はお願いするね。」

勝手に盛り上がるアヤチョとメイを前に、アユミンは呆然としてしまった。
アヤチョ王もハルも女なのに結婚だなんて、この人たちは何を言っているんだと思っている。
そんなアユミンとは対照的にハルは理解と対応が早いらしく
この流れを逆手にとるように、アヤチョに対して壁ドンを決めだした。

「ボクも愛してるよアヤチョ、だから頼みを聞いてくれないか?」
「ひゃああーーーなになに!?」

目の前の光景をもう見てられないと思ったのか、カナナンとタケはうつむいてしまった。
メイはパチパチと拍手しているし、リナプーは必死で笑いを堪えている。
そんな周りの反応も気にせずハルは言葉を続けていく。

「ボク達に必殺技を教えてくれよ。1か月でね。
 フクさん達に勝ってハルナンを国王にするにはそれが必要なんだ。」

さっきまでは浮かれていたアヤチョだったが、頼みを聞いてからの表情は真剣そのものだった。
そして目の前のハル、アユミン、マーチャンの顔を見ては、思ったままのことを言い放つ。

「全員に教えるのは無理だね。見込みがあるのは君だけ……そういえば名前はなんて言うの?」
「ボク?……ハル・チェ・ドゥーだよ。」
「ドゥーって言うんだ。アヤが頑張って教えても、必殺技を覚えられるのはドゥーだけだよ。」

その言葉にアユミンはショックを受けた。
自分は今まで必死に頑張ってきたのに、バッサリと切り捨てられたのがとても悲しいのだ。
そんなアユミンにフォローを入れるわけではないが、黙っていたマロが口を開いた。

「またアヤチョ、好みで選んでるんじゃないの?」
「違うよ!ドゥーの戦いを一瞬だけ見たけどアヤの雷神の構えに似てるの。
 あのスピードだったら未完成の技を扱えるかなって思って……」
「ふーん、そういうことにしとくわ」
「カノンちゃん、さっき(クマイチャンがいたとき)と比べてテンション低すぎじゃない!?
 そんなこと言うんだったらカノンちゃんが他の子に必殺技を教えてあげたらいいでしょ!」
「その子たちハルナンの部下なんでしょ?モチベーション上がるわけないじゃない」

結局自分は必殺技を覚えられないのだと知ったアユミンは気が重くなってくる。
同じ状況であるマーチャンもそう感じたと思ったのか、声をかける。

「マーチャン残念だね。私たち選外だってさ。」
「いいよ別に。あのひとに教わる気なかったもん。」
「え、じゃあ誰に教わるの?」
「アユミンには教えない。」
「えー!?」

601名無し募集中。。。:2015/10/19(月) 16:16:49
マーチャンが頼る人っていったらあの人以外考えられないけど…さて?w

602 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/20(火) 08:25:55
天気組団の面々が番長らの病室にいる一方で、
団長であるハルナンは今まさに帰還せんとする食卓の騎士を訪ねていた。
身体の痛みを無理矢理にでも抑えながら、ハルナンは声を掛ける。

「皆様!どうか私の話を聞いてもらえませんか!」

そう言った瞬間から、ハルナンの身体に異常が起こる。
まるで天高くから伸びる巨大な手で押し付けられたかのように身体が重いし、
全身を流れる血液がすべて凍りついたと思うくらいに寒気がするし、
突如発生した暴風雨に叩きつけられたと錯覚する程に息が苦しくなってくる。
これらの現象は食卓の騎士の3人が発したプレッシャーによるもの。
自分たちを利用したハルナンに怒っているのだ。

(やっぱり相手にしてもらえないか……でも!)

ハルナンは超攻撃的な視線を受け入れながら、自らその場に倒れこむ。
そして額を地へと強く擦り付け、伝説の英雄たちに懇願するのだった。

「お願いします……私の罪を、償わせてください……」

すぐに土下座だなんて安いプライドの持ち主だな、とモモコは思った。
ところが他の二人はそうは思っていなかったようで
マイミはそこまでするハルナンに興味を持ち始めていた。

「償い、と言ったが具体的に何をするつもりだ?」

ハルナンはこれをチャンスだと思った。
これから起こりうることを想像すれば非常に苦痛だし、今から吐き気もしてくるが
やり遂げなくてはならないという強い意志を持って返答する。

「これから一ヶ月間、マイミ様のお側に置いてください。
 雑務でもなんでもお申し付けください。すべて対応致します。
 決して逃げたりはしません。一ヶ月間、誠心誠意を持ってマイミ様に尽くします。
 それが私の償いです。」

ハルナンの言葉に一同は驚いた。
仮にもフクと並んで帝国No.2ともあろう者が自ら奴隷同然の扱いを買って出るなんて尋常ではない。
そもそもそんなことが簡単に許されないことをモモコは理解していた。

「あなたねぇ、もう良い大人なんだから立場ってものを……」
「許可なら、得ています。」
「ん?」
「サユ王には皆様にちゃんと謝っておけと言われています。
 そして、これが私の精一杯の謝罪です。
 皆様さえ良ければ、私は全力でマイミ様に尽くすつもりです。」

全力という言葉にマイミは弱かった。
正直ハルナンが何を企んでいるのかは分からないが
謝りたい、という思いにはこちらも全力で応えたいと考えている。

「良いだろう。そこまで言うなら付いて来い。
 ただし殺気は緩めないぞ。一秒たりとも油断はしないつもりだ。」
「願ったり叶ったりです!その嵐なようなオーラを常に私に向けてください!!」

603名無し募集中。。。:2015/10/20(火) 12:53:42
どんな裏があるのか…ゾクゾクするねぇ

604名無し募集中。。。:2015/10/20(火) 13:24:51
ハルナンMだからむしろご褒美のような?w

605 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/20(火) 21:21:41
各々が自分に合った鍛錬法を見つけた日から数えて、ちょうど一ヶ月。
モーニング帝国城には3名の客人が招き入れられていた。
いや、客人と言うよりは来賓と呼ぶのがより適切かもしれない。
何しろ彼女らが廊下を歩くだけで、みなが勧んでこうべを垂れるのだから。

「マノエリナ、今日も付き合わせてしまって申し訳ないとゆいたい。
 私が外出する時はいつもいつも迷惑をかける。」
「別に。予定も何もない干物女なんで気にしないでくださーい。
 それにマーサー王、もしも何か有った時に止めるのが私の役目なんですからね。」
「あはははは。あの事件以降、何か有ったことなんて無かったじゃないか。」
「油断大敵って言うじゃないですか!マイミさんはまったく……」

その3人はマーサー王国の重鎮も重鎮。
食卓の騎士に2名存在する戦士団長の一人であるマイミ。
国王直属の親衛隊長であるマノエリナ。
そしてマーサー王国を束ねる若き女王、マーサー王その人であった。
彼女らがモーニング帝国まで訪ねてきた理由は、わざわざ説明するまでもないだろう。

「王、ここが決闘の場ですよ!」

マイミが訓練場の扉をバン!と開けると、
そこには辺り一面ガレキだらけの光景が広がっていた。

「ははは……ここがクマイチャンが暴れたという訓練場か……これはひどい。」
「弁償しなきゃですね。クマイチャンさんのお給料から出しておきましょう。」

マーサー王の言葉は誇張などではなく、訓練場は本当にひどい有様だった。
床はガタガタになっていて、腰の位置まで突き出る木材も珍しくはないし
本来は屋根があるはずの天井を見上げれば、お天道様が顔を出している。
要するに、この施設は訓練場としての体をなしていないし
ましてや決闘なんて出来るような場所には到底見えないのだ。

「そこをあえて決着の場に選んだということは……彼女らの覚悟、並ではないのだな。」

マーサー王は視線を前へと移した。
そこには深く頭を下げる9名の剣士と、
おじぎ15度くらいしか頭を下げていない美女が待ち構えている。

「マーサー王、ご機嫌麗しゅう〜」
「サユ王!こうして出会えたのは久しぶりだなとゆいたい。」

606名無し募集中。。。:2015/10/20(火) 22:57:43
ついにマーサー王登場!だとゆいたい。

この口調を聞くと「マーサー王」って感じがするねw

607名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 08:29:32
前作からしてタイトルにあっても当のマーサー王が出てくるシーンめちゃ少ないけどねw

608 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/21(水) 08:38:22
マーサー王を前にした帝国剣士達は、全身が痺れるような思いだった。
その理由は王が煌びやかな装飾を身につけてるからでも、立派なマントをまとってるからでもない。
その存在感の大きさに押し潰されそうになっているのだ。
食卓の騎士であるマイミの台風のような圧も相当だが、
マーサー王は人当たりの良さそうな外見の内に、とんでもない化け物を仕舞い込んでいそうな迫力があるため
帝国剣士らは恐ろしく感じていたのである。
そんなマーサー王やマイミと共に現れたマノエリナなる人物も油断ならない。
放つプレッシャーが具現化して他者に襲い掛かる……と言ったレベルまでは達していないが
アヤチョやマロと対峙した時と同じくらいの緊張感は常に感じさせていた。
そんな傑物3名が、これからの戦いを見届けるために所定の位置についていく。

「ところでマイミ、マノエリナ」
「「はい!」」
「帝国剣士たちは我々を前に萎縮しているようだが、それでも二本の足でしっかり立っている。
 まだサユが現役だった頃の彼女らと比べると、かなり成長したように見えるとゆいたい。
 成る程たしかにサユを継いで帝王の座を勝ち取ってもおかしくない人物ばかりだ。
 そこでだ、二人は勝負の行き先をどのように見る?」

マーサー王には先祖の血が流れているせいか、少しばかり好戦的な性格をしていた。
とは言え戦争をするつもりは一切ない。ちょっとしたゲームを好む程度の"好戦的"だ。
そんな王の興味に、マノエリナはちょっとだけ付き合うことにした。

「下馬評通りならフク・アパトゥーマ率いるQ期団が勝利するでしょうね。
 個々の戦闘能力が高いし、それにフクはあのアヤチョ王も打ち破ったとか……
 今回の相手にアヤチョ王以上の実力者はいなさそうですし、確定と言ってもいいと思いますよ。」

マノエリナの予想を聞いたマーサー王は、そうかそうかと頷く。
確かに順当にいけばその通りになるだろう。
ところが、マイミはそうは思っていないようだった。

「マノちゃん、お前はハルナンを知らないな。」
「ハルナン?あぁ、最近マイミさんの周りにいたあの子ですか。
 いかにも貧弱そうだなぁと思いましたが、それが何か?」
「確かに身体は貧相だ。だがその小さな胸の奥に宿る執念は並ではないぞ。
 なんせこの一ヶ月間、私のトレーニングや防衛任務にすべて付いてきたのだからな。」
「「!?」」
「この勝負、どうなるのか全く先が読めないぞ。
 下馬評を覆すことだって十分にありえる!」

609 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/21(水) 08:39:23
確かにマーサー王登場まで半年かかりましたねw
この先も出番はあまり多くないかも………

610名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 11:12:29
貧相…小さな胸…マイミ誉めてるんだかけなしてるのやらw

マーサー王は例え出番少なくとも存在する事で充分…

611名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 11:51:45
マーサー王は存在感!

今後出てくるであろうみんなの必殺技とかも楽しみだ

サユとオダもどうなるかな?

612 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/21(水) 18:09:51
「メインイベントも良いけど、今はエキシビジョンマッチに注目してほしいな〜」

マーサー王たちにそう言い放ったのは、いつの間にか訓練場の中央辺りまで移動していたサユだった。
いつもの豪華なものとは異なった、動きやすい訓練着を着用しており
その両手には鏡のように美しく磨かれたレイピアとマンゴーシュが握られていた。
対戦相手であるオダ・プロジドリを負かすために、一時的に剣士に戻ったのである。
この極めて希少な光景に帝国剣士一同は湧き上がったが、
ここで、余計なことが頭をよぎってしまった。

「ねぇみんな……ちょっと思ったんだけど……」
「カノンちゃんも思ったと?……ぶっちゃけサユ王って……オーラ薄いよね。」

エリポンは決してサユに聞こえないくらいの小さな声でカノンに返した。
本来ならば一国の王に対してオーラが薄いなどとは到底言えないはずなのだが
フクもサヤシもそれに対して非難することなく、コクリと頷いてしまった。

「サユ王だってあの時代を戦い抜けた伝説の戦士のはず。
 でも、マーサー王様やマイミ様と比べると……」

帝国剣士らは食卓の騎士の放つプレッシャーの凄さを知ってしまっている。
時には身体を重くしたり、時には血を凍らせたり、時には嵐を起こしたりと
凄腕の戦士から滲み出るオーラは天変地異のようなビジョンを見せてくれていた。
ところが、サユにはそれが無いのだ。
もちろんサユにだって威圧感はある。だがそれは良いとこアヤチョやマロ、マノエリナ程度。
食卓の騎士には遠く及ばない。
では戦士を退いたブランクでそうなったのかとも思ったが
そもそも戦士では無いマーサー王があれだけ尊いオーラを纏ってるのだから、言い訳にもならない。
これまで尊敬していたサユ王が大したこと無いのかも……と思い始めた帝国剣士たちの心境は複雑だった。

「ひょっとしてオダちゃんにも負けたりして」
「エリポン!そんなバカなこと言っちゃダメ!」

言葉ではそう言うフクだったが、心から固く信じることは出来なかった。
決闘前にこんなに心を乱しては良く無いと思い
首をブンブン振ってから、改めて中心へと目をやった。

「あれ、そう言えばオダちゃんはどこにいるんだろう……」

もうエキシビジョンマッチが始まる時間だというのに、中央にはサユ王しかいなかった。
マーサー王に礼する時は確かにいたのに、いったいどこに消えたのだろうか?

「ちょっとオダー? あなたが戦いたいってい言い出したんだからさぁ……」

サユは呆れたような顔をして、剣を持つ腕をダラリと下げた。
せっかくこの日のために用意をしてきたのに、遅刻で無効試合だなんて締まらない。

「あと1分で約束の時間じゃない……本当にどこに行ったのあの子。」

決闘の場にサユだけ立っている、といった時間がしばらく続いた。
開始時間まで残り10秒といったところでもそれは変わらない。
残り3秒
残り2秒
残り1秒

約束の時が来た、まさにその時。
サユ王の右ももから間欠泉のように血が吹き出していく。

「……え?」

613名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 20:12:15
エキシビションキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

614名無し募集中。。。:2015/10/21(水) 21:24:03
サユの白く美しい太ももがー!!!
これじゃあサユの華麗な剣技が見れない…

615名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 00:13:04
サユ王は闘いそのものより精神面とかで引っ張ってきたんだろうね

616名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 00:27:17
今回サユ覚醒後はどうなるのかな〜

617名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 06:42:54
ちゃゆううううううううううううう

618 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/22(木) 08:22:45
「オダか……!!」

サユは何もないところから攻撃されたのではない。
非常に見え難くなっていたオダに、開始時刻きっかりに斬られたのである。
ではこんな開けた場所のどこにオダは隠れていたというのか?
その答えに、サユは辿り着いていた。

「太陽の光に隠れてたってこと?その剣を使って。」
「ご名答です。」

右ももを抑えながら苦痛の顔をするサユにオダは追撃を仕掛けなかった。
攻めと退きのタイミングを見極めることで、確実に王を仕留めるつもりなのだろう。
このようなヒットアンドアウェイを可能にするのがオダのブロードソード「レフ」だ。

「その鏡のような剣で光を屈折させることで、外から見え難くさせてる……ってところかしら。」

この訓練場の天井は、クマイチャンの必殺技によって大きな穴が開けられている。
つまり、オダの好む太陽光が直に注がれているのだ。
しかもあらゆる瓦礫が滅茶苦茶に散らばっていることから、
通常の人間では把握できないレベルで乱反射している。
これら全ての光を把握し、しかも自在に操ることのできる者は
光の当たり方を極めたプロであるオダ以外には数名しか存在しないだろう。

「オダ、あなたは正統派と聞いていたんだけど?」

溢れる血を無理矢理に抑え込んだ結果、手が真っ赤に染まったサユは
なんとかペースを掴もうとしてオダに質問する。
だが覚悟を決めてきたオダはその程度では流されなかった。

「黙っていてすいませんでした。 だって私は天気組団の……」

天気組団は全員が一つずつの天気に対応した戦い方を得意としている。
雨の剣士ハルナンは敵の肉を削ぐことで血の雨を降らせる。
雪の剣士アユミンは地面を慣らして敵を滑りやすくする。
曇の剣士マーチャンは火煙を起こして一酸化炭素中毒を狙う。
雷の剣士ハルは雷速の如き猛攻を得意とし、感情という名の電気信号も操る。
そしてオダは……

「晴の剣士、ですから。」

そう言うとオダはまた光の中にすうっと消えていった。
また見え難い位置からサユを攻撃するつもりなのだろう。
このような戦い方をするオダに対して、ハルはつい声を荒げてしまう。

「オダちゃんズルいぞ!光に隠れるのはともかく、不意打ちで王に切り掛かるなんて……」

確かにハルの言う通り、オダの初撃は卑怯ととられても仕方のないものだった。
決闘前から姿を見せずにいきなり喰らわす攻撃は、口が裂けても正々堂々とは言えない。
ところが、普段はオダに対してキツく当たるアユミン・トルベント・トランワライは
今回の戦法に理解を示していた。

「やめなよハル。」
「アユミン!お前は何も思わないのかよ!」
「オダは自分が卑怯だってことを全部理解している。そういうヤツだよ。
 凄いのは恥だと理解した上で実行しちゃうところなんだ。
 私は負けたくない一心でエリポンさんとサヤシさんから逃げたことがあるけど
 あれはとても恥ずかしかった……本当に辛かった。」
「アユミン……」
「なのにオダはすました顔をしながらあんな事を平気でしてる。本当にムカつくヤツだよ……」

アユミンの言葉に、隣で座っていたマーチャンも続けていく。

「オダベチカは卑怯じゃないよ。」
((オダベチカってなんだ……?))
「だってミチョシゲさんすっごく強いもん。だからオダベチカが何をやっても卑怯じゃないよ。」

619名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 08:32:50
ここにきてオダベチカw
もしかしてハルナンはオダの「晴れ」の能力も計算して訓練場を選んだんじゃないかと疑いたくなるなw
本当は観客席から目くらましとかの援護させる予定だったとか…

620名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 09:18:37
朝から更新キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
続きwktk

621 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/22(木) 19:45:18
オダが光に隠れたということは、またすぐにでも仕掛けてくるはず。
ところが狙われる側のサユはその場から動かなかった。
何か策でもあるのかと一同は思ったが、苦悶の表情がそれを物語ってはいない。
サユ王は動けないんだ、と皆が理解した。

「嘘じゃろ?……たった一撃もらっただけなのに……」

サユがこれまでに受けたのは右ももに受けた初撃のみ。
だというのに彼女はそこから動けなくなるほどに苦しんでいる。
いくらブランクが有るとは言っても、完全な棒立ちになるのはあまりに酷い。
仕掛け人のオダもコトがうまく運び過ぎているので少し不審に思ったが、
サユ王が歯を強く食いしばりながら耐えているのを見て、好機は本物であることを悟りだす。

(よく分からないけどこれは二度とないチャンス。
 ここで攻めきれなければ絶対に後悔する!)

オダは急ぎながらも、且つ物音を立てぬようゆっくりとサユに接近していく。
光の強く当たる部分を縫うように突き進み、
少し手を伸ばせば敵を切れるところにまで到達した。

(勝てる!私は王に勝てるんだ!)

オダは、自分が帝国一の剣士になったのかもしれないと思った。
まさに有頂天だった。
凶刃が目の前にまで突き出されるまでは。

「キャッ!?」

たった一瞬。まばたき一つくらいの隙を突いて
サユのレイピアはオダの眼球を貫こうと飛び出していた。
見えているわけのない相手からの攻撃に反応できるはずもなく
オダはその場に突っ立ったまま、回避行動をとれなかった。
しかし何か様子がおかしい。
あんなに勢いよく放たれた刃が、オダの目に当たる直前で停止していたのである。
脅しにしては鋭すぎた斬撃に、オダは何が何なのか分からなくなってしまう。
そして、その斬撃を放ったはずのサユを見て、オダは更に混乱していく。

「あなたは大人しくしてなさいよ……」
「!?」

混乱の原因は、右手のレイピアではない方の剣。
つまりは左手に握られたマンゴーシュの行き先にあった。

「え?そんな、サユ王……いったい何をしてるんですか」
「大人しくしてなさいって言ってるでしょ!!」
「ヒィッ!」

なんとサユは、左手のマンゴーシュで自身の右腕を刺していたのだ。
これでオダの目を貫く寸前で刃が止まった理由は分かった。
自身を痛めつけることでオダへの攻撃を強制的に止めたというワケである。
だが、こんな異常行動をとる理由まではまったくもって分からない。
オダだけでなく、他の帝国剣士らもパニックに陥ってしまう。

「なんだなんだ、サユは帝国剣士たちに秘密を打ち明けていないのか。」

辺りをキョロキョロ見回しながら呟いたのはマイミだった。
マイミに並んで、マーサー王とマノエリナも冷静な顔をしている。

「そりゃそうだとゆいたい。
 身体の中に化け物を飼っていることを知られたくない気持ちは、痛いほどよく分かる。」

622名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 21:01:16
王になったらアレを使わずに戦う方法を身につけてるかと思ったが…そうもいかないか

623名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 21:18:34
サユは愚直で不器用で変態だからなぁ〜

624 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 08:41:32
サユの秘密。
それは多重人格者であることだった。
彼女の器の中には「マリコ」という人格が同居していて、
数年前からはそのマリコとも対話できるようになっていたのだ。
しかしこのマリコ、非常に幼稚な性格をしており
気に入らないものを捻り潰すまで暴れることも珍しくはない。
美しく戦うことを信条とするサユとはまったくの大違い。
共通点といえば自分を好きなことだけ。
そのためサユはマリコを外に出さぬよう常に尽力していたのだ。
今もこうしてサユとマリコとで自問自答をしている。

(マリコ!大人しくしなさいってば!)
『やなの!やなの!あいつ生意気だから〆てやるの!』
(あなたが出たら本当に殺しちゃうでしょ……)
『それの何がダメなの?あいつはマリコの脚を斬ったの。万死なの。』
(帝国剣士は私の可愛い後輩たちなのよ。それを傷つけるなら例え自分でも許さない!)
『うるさいの。さっさと肉体よこせなの。』
(そっちがその気ならこっちにだって手が有るわ。)
『なんなの?』
(あなたがオダの命を奪ったら、私は自害する。)
『え?……』
(マリコ、あなたの活動時間はそう長くはないはずよ。
 肉体が私に返ってきたらすぐに心臓に刃を入れてやるわ。)
『なんでなの!?そんなことしたらマリコもサユも消えちゃうの!
 頭がおかしくなっちゃったの!?』
(嫌なら大人しく眠ってなさい。少なくともあの子たちの決闘が終わるまではね。)
『むぅ……最近表に出てないから暴れ足りないの。』
(それなら安心して。きっと大暴れできる日は近いはずよ。)
『そうなの?』
(もうすぐで帝王のお仕事はおしまい。そしたらエリチンやレイニャ達と毎日遊びましょう。
 だからちょっとの間だけ我慢して。)

ふぅ、と息を吐いてサユは腕に刺さったマンゴーシュを抜いていった。
かなりの損傷だというのに、今の彼女はもう苦悶していない。
とても晴れやかな表情をしている。

「失礼。それじゃ続きを始めましょう。」

凶悪な感じがすべて抜け切ったはずのサユだったが
オダはそんな彼女を見て、さっき以上に恐怖を感じてしまう。
そしてそれはオダだけではなく、他の帝国剣士たちも同様だった。

「サユ王の身体から……光が出てる……」

625名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 09:24:09
マリコと対話出来るようになったって…かなり凄い事だと思う
サユ王は光のオーラなのかな?

626名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 19:49:39
更新頻度が高いから続き読むのが益々楽しみ

627 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 21:25:49
サユから発せられる光は、後光と言ったレベルを遥かに凌駕していた。
明らかにサユの身体そのものが発光しているのだ。
人体がこうもまばゆく輝くことなんて本来ありえないため、
それがサユの放つプレッシャーが具現化したものだということは、すぐに分かった。

「凄いっちゃん……食卓の騎士に全然負けとらん……」

普段サユは、力の半分をマリコを抑え込むために費やしている。
つまり、マリコを説得して引っ込めた時だけは全力を発揮できるようになるのだ。
その時やっと、王は歴戦の戦士として相応しいオーラを纏っていく。

「オダ、どうせなら万全な私と戦いたかったでしょ?」
「……!」

より強い者を倒したいという思いは確かにオダも持っていたが
ここまでクッキリと視認できる形で威圧されたら敵わない。
しかもサユが見せるビジョンはよりにもよって「光」。
太陽光と複雑に入り混ざって、どれが本物の光なのか分かりにくくなっていた。

(でも!私には分かる!)

オダはブロードソードをぎゅっと握り直し、改めてサユに斬りかかった。
そして長年の経験を元にサユの光と太陽光を区別し、
本物の光だけをブロードソード「レフ」で反射させた。
とは言っても此の期に及んで光の下に隠れようとは思っていない。
狙いは「モーニングラボ」でマーチャンを撃破した時にやってみせた「回避不可能の一撃」だ。
あの時は真っ暗な室内で、炎の灯りをマーチャンの目に反射させることで目を潰したが
今回は本当の太陽光をサユの目に送り込もうとしているのだ。
いくらサユが光を纏う戦士だとしても、日光を目で受けて平気でいられる訳がない。
眩しさで苦しむうちに攻撃を仕掛ければ、サユは回避できずに斬られるはずだ。

(王が格上なのは認めるけど、この勝負だけは私が勝つ!)

この状況でも冷静さを保っていられたオダは、見事にサユの方へと光を飛ばすことが出来た。
残りは目の潰れたサユをゆっくり斬るだけで終わりのはずだった。
しかし、全力を取り戻したサユにはそれすらも通用しなかった。
右手のレイピアをピッと上げて、オダの放った光をどこかにはね返しててしまう。

「えっ!?」

あっさりと容易く対処したサユをみて、オダは信じられないといった顔をする。
サユのとった行動が超のつくほどの高等技術であることを彼女は知っていたのだ。
留まる光を反射するならともかく、飛んできた光を返したのだからその腕前は人間離れしている。

「残念だけど、鏡と光の扱いに関しては年期が違うのよね。」

ショックで一瞬止まったオダに対して反撃するため、サユは一歩踏み込んだ。
そして鏡のように綺麗なレイピアをオダの左ももに突き刺し、こう言ってのける。

「これが私の必殺技。 ヘビーロード"派生・レイ(一筋)"。」

628 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 21:26:39
最近の更新頻度をどこまで保てるかは分かりませんが……w
とにかく、やれるだけはやってみます。

629名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 21:40:28
戦闘シーンは更新頻度高い方が熱が冷めにくくてありがたいです
でも無理はなさらずにご自身の更新ペースで

630名無し募集中。。。:2015/10/24(土) 00:37:17
早くも更新が!テンポよく読めてありがたいわー

『ヘビーロード"派生・レイ』って名前格好いいなと思ったら『道重一筋』かwこのパターンだと派生いくつもありそう(誕生日の数だけ?)ww

631 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/24(土) 11:47:25
レイピアは一筋の光のように鋭く、オダの脚の中へと侵入していった。
ところが剣の切っ先は長く刺さることはなく、
すぐにサユの側へと引き戻されてしまう。
つまりは細い針がたった一瞬突き刺さっただけのこと。
健康診断で注射を受けるのと同程度の痛みしかない必殺技に、オダはまたも困惑する。

(これが必殺技って……サユ王、いったい何を考えてるの?)

訓練場を一撃で壊滅状態にしたクマイチャンの必殺に比べると、サユのヘビーロード"派生・レイ(一筋)"はあまりにも弱すぎる。
だがオダはもうサユの実力が劣ってるなどとは思わなかった。
必ず何かある。そう信じて一旦退くことに決めたのだ。
元気をとり戻したとはいえ、サユの脚からはまだ血が流れ続けている。
あの状態で瓦礫の山を移動するのは困難であるはずなので、
逃げ回りながら戦う作戦へのシフトを考えていた。
しかし、サユの必殺技はそれをさせなかった。

「えっ!?脚が重い……」

少し段の高いところに上がろうとしたオダだったが
急に脚が重くなったために中断せざるを得なくなってしまった。
原因は疑うまでもない。さっき喰らったサユの必殺技に決まっている。
そう思ってサユの側を振り向こうとした時には、既にふくらはぎを3回刺されていた。

「!?」
「重いでしょ?もっと重くしてあげる。
 ヘビーロード"派生・アフターオール(結局)"。」

このまま喰らい続けるのはまずいと考えたオダは必死で逃走しようとする。
すると意外にも彼女の脚は高くまで上がることが出来ていた。
これならばサユと距離を取ることも出来るかもと思ったが、
3、4歩ほど歩いたところで転倒してしまう。
結局、脚の重さには勝てなかったのだ。

「!?……なんで、なんで動けない……」
「オダ、あなたのことだからきっと毎日のように瓦礫の上を走る訓練をしてたんでしょ。」
「なんでそれを……!」
「疲れてるのよ、その脚。 針の感触から全部わかる。
 そんな脚ならね、ちょっといじめてやるだけで十分潰せるの。」
「!!」

サユの細いレイピアには二つの役割がある。
一つは相手の脚の状態を把握するための触診としての役割。
そしてもう一つは筋細胞を潰すための攻撃手段としての役割だ。
すぐに相手を殺せるような即効性は持ち合わせてはいないが
じわじわと相手をなぶるような、えげつない戦法を得意としている。

632名無し募集中。。。:2015/10/24(土) 22:36:08
圧倒的だな

633 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/25(日) 13:50:06
「脚がダメなら!」

オダは転倒したままの姿勢で、その辺に散らばる木片を拾い上げた。
サユに一度も針を入れられていない上半身の力で投げれば通用すると考えたのだ。
だがオダは剣士としての技能こそ優れているものの、パワーそのものは帝国剣士の中でも中位程度。
半端な力で投げつけた破片はサユのマンゴーシュによって簡単に弾かれてしまう。

「私はその気になれば銃弾も防げるのよ?もっと考えて戦いなさい。」
「くっ……」

うまく機能しない脚部を無理やり動かそうとするオダだったが、
それよりも速くサユは接近し、右脚と左脚のそれぞれにレイピアを数回突き刺していく。
赤い斑点が高速でポツポツと発生していく様はとても痛々しい。

「あっ……!!」
「今のはヘビロード"派生・スティール(今尚)"と"派生・トゥーレイト(今更)"。
 何かしようと考えて動き出そうとしたんだろうけど、ごめんね、きっと無駄になるよ。
 足取りの重さは今尚続いているし、今更すべてが手遅れ。」

オダの脚は生まれたての小鹿のようにプルプル小刻みに震えている。
こんな状態では例え立ち上がれたとしても、もう歩きまわることは出来ないだろう。
唯一の勝機と言えばサユが近くにいる今のうちに斬撃を当てることくらいだったが
それを見越していた王はすでにオダから距離をとっていた。
すました顔ですたすた歩くサユ王を見て、マノエリナは小さな声で呟いた。

「本当にペテンですよね、あの人。 派生がどうのこうの言ってるけど全部同じじゃないですか。
 マイミさんの動体視力で見ても違いなんか無いでしょう?」
「そうだなマノちゃん。全部脚を斬るだけの同じ技だ。」
「わざわざ名前を変えることで相手を惑わせる……っていう効果は認められますけどね。
 特にオダ・プロジドリのような頭で考えるタイプには必要以上に効いちゃうのかも……
 あ、じゃあマイミさんには通用しないのかな。」
「あははは、私の脚は鋼鉄製だからな。確かに通用しないだろう。」
「や、そういう意味じゃなくてですね。」

634名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 15:11:23
バカダナーw

635名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 15:50:12
マノちゃん酷いよ…w

636名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 17:54:00
うむ、さすがマイミだw

637 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/26(月) 12:50:44
サユとの差を見せつけられたオダの心は完全に折れかけていた。
いま思えばサユに宣戦布告した時のことがとても恥ずかしくなってくる。
可能であればこのまま消滅してしまいたいくらいだ。
ハルのような性格をしていれば黒歴史に気づかず平気な顔を出来るのかもしれないが、
それなりに周りの空気の読めるオダはそうもいかなかったのだ。
そうなった時のオダは大抵、開き直っている。
「自分は空気の読めない子ですよ〜」と言った態度を示すことで、羞恥心を軽減させてきたのである。
今回もサユ王に勝てなかったのは悔しいが、
「いやぁ、やっぱりまだまだでした。」とでも言えばなんとかプライドを傷つけずに場を収められるかもしれない。
だが、今のオダにはそう振舞うことは許されていなかった。

(先輩方の前座なのよね、これ。)

エキシビジョンが始まれば、お次は次期帝王を決める決闘が始まる。
絶対に勝利を手にするために努力してきた先輩たちを前にして、
「勝てそうもないので降参します。」なんてどの口が言えるだろうか。
最後の最後まで死闘をつくさねば、次へとバトンを渡すことなど出来やしない。

「サユ王、お気をつけて。」
「ん?」
「私の気持ち、まだ切れてませんから。」

オダはマーチャンとの戦いを思い出していた。
苦しい状況下で歯を喰いしばらねばならないのはあの時と一緒だ。
常に斬新な攻撃法を編み出さねばならないのもあの時と一緒だ。
そう、シチュエーションは大して変わらないのである。
あの時自分はどうやって勝ったのか、オダはそれを思い出しながら最後の一撃をぶちまける。

638名無し募集中。。。:2015/10/26(月) 13:27:51
オダが覚悟を決めた最後の攻撃はどうなるんだろ?まだ使われてない・・・とかがくるんだろうか?w

639名無し募集中。。。:2015/10/26(月) 18:30:31
ハルナンが帝王になる世界があってもええねんで
http://livedoor.sp.blogimg.jp/halopos/imgs/8/8/88ee6a19.jpg

640 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/27(火) 09:09:11
オダがマーチャンに勝つ時の決め手になったのは、
棍棒のように重く巨大な両手剣を投げつけた行為だった。
それが今回も有効だと考えたオダは、自身のブロードソードを這ったままブン投げる。
確かに瓦礫を放るよりは効き目が有りそうではあるが、
それがサユに通用するかどうかは疑問だ。
ハルとアユミンもつい言葉に出してしまう。

「ヤキが回ったか!?……あんなの簡単に弾かれるだろ……」
「しかもこれで自分の武器を失い形になる。オダは終わりだよ。マーチャンもそう思うでしょ?」
「うん、ミチョシゲさんには通用しない。」
「だよね。」
「でも……アイツには効く。」

この時サユは、オダの期待ハズレな行動に少しガッカリしていた。
最後まで諦めなかったのは評価できるが、いかんせん行動が幼稚すぎる。
さっき「銃弾も防げる」と言ったばかりだというのに、その銃弾よりもずっと遅い攻撃じゃ意味がないのだ。
もうこれ以上の成果は見込めないと思ったサユは、飛ぶ剣をさっさと撃ち落として、決着をつけようとする。

(あれ?……この軌道は。)

ここでサユは初めて気づいた。
剣はただ闇雲に投げられたのではなく、サユの顔に向けられていたことを。
確かに人間は顔面への攻撃を恐れるし、場合によってはパニックを起こす場合も考えられる。
オダはそれを狙ったのかもしれない、とサユは考えた。
もっとも、冷静なサユにはそんな攻撃は通用しない。
自分の顔面に迫る攻撃だろうと、顔色ひとつ変えず跳ね除ける自信がある。
だが、サユではない存在はそうもいかないようだった。

「やなのっ!!!」

サユ王は耳をつんざくような大声をあげながら、レイピアを飛んできたブロードソードに叩きつけた。
いや、これはサユではない。マリコだ。
他の何よりも大切な自分の顔が傷つくのを恐れて、前面に出てきてしまったのである。
そんな状態で出てきた訳なのだから、当然マリコは怒っている。

「お前……絶対に許さないの!!」

マリコは一心不乱にオダの元へと向かい、倒れ込んでいるオダに右手の剣を振り下ろした。
その憎しみと殺意がたっぷりと籠められた剣で斬られたら今度こそオダの命は失われてしまうだろう。
だからこそ、サユは必死で抵抗する。
暴走するマリコの刃を止めようと、左手の剣を右手の甲にぶっ刺したのだ。
もちろん激痛。だがこのまま後輩を失うよりはずっとマシ。
サユ王は苦しみの中でそう思っていた。

「いやぁ、やっぱりまだまだでした。」
「……?」

自分の命が危険に晒されていたのを知ってか知らずか、
ほとんど寝たままの姿勢でオダがそんなことを言うのだから、サユは不思議に思う。
しかもその言葉は、オダが自信のプライドを守るために用意された「開き直り用」の言葉だ。
もっとも、今回に限っては開き直りとしては使われていない。

「私の実力じゃサユ王には絶対に勝てないと思いました。
 ですので、王を傷つけるために王を利用させてもらいましたけど、いかがでした?
 よく分からないけど、王の中にはもう一人の王がいるんですよね?」

敗北確定の状況にもかかわらずニヤニヤと笑うオダを見て、サユはゾッとした。
そして、同時に嬉しくもあった。
最後まで戦い抜くだけではなく、ちゃんと敵を倒すために頭をフル回転……即ちブレインストーミングしたのが嬉しかったのだ。

「立派ねオダ。だから私も敬意を持って応えるわ。
 最強の技と最後の技、両方同時に味あわせてあげる。」

641名無し募集中。。。:2015/10/27(火) 11:38:14
もう見抜いたかオダ!さすがだな


サユ「『マリコは抑える』『部下も守る』
『両方』やらなくっちゃあならないってのが『帝王』のつらいところなの」

642 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/28(水) 18:28:16
もう少しで決着ではありますが、
次の更新は明日になりそうです、、、

>>641
サユラティですかw

643 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/29(木) 12:59:21
サユは秒間に十数回もの速さでオダの両脚を滅多刺しにした。
ここまで来るともう痛みや重さを感じるレベルを超越しており、
まるで脚そのものが無くなってしまったと錯覚するくらいに力が入らなくなる。
擬似的な下半身消失の影響はギリギリのところで起き上がらせていた上半身にも及び、
全身が床に吸い寄せられたかのようにうつ伏せてしまう。
即ちオダは地に依存せざるを得ない身体になったのだ。
これまで何回か抵抗してきたが、今度こそ本当に限界。

「ヘビーロード"派生・ディペンデンス(依存)"。
 そしてヘビーロード"派生・リミット(限界)"。
 これを受けて立ち上がった人間は1人も存在しないわ。
 よく頑張ってくれたけれど、これで決着ね。」

サユは喋る気力すら失ったオダを、そっと抱きかかえた。
このままお姫様抱っこの形で立ち会いの席に連れて行こうとしているのだ。
こうなると、オダの脚から吹き出る血液がサユ王の身体にベッタリと貼り付いてしまうので
フクやハルナン達が代わりにオダを運ぼうと慌てて立ち上がった。
ところが、サユ王はそれを良しとはしなかったようだ。

「何してるの?オダは私が運ぶのよ。あなた達は次の準備をしていなさい。」
「で、でも王にそんなことをさせる訳には……」
「フクちゃん!」
「う、うす!」

急に怒鳴られたので、フクは今までしたことの無いような返事をしてしまった。
それだけサユの怒号の迫力が凄まじかったのだ。

「オダは次の決闘を汚さないために最後まで諦めずに考え抜いたのよ。
 なのにここであなた達に負担がかかったら全て台無しになるじゃない!
 オダは私が運んで、私が応急処置をするの!ちゃんとメモっとけよハルナン!」
「はい!」

メモなんて持ち合わせていないのにハルナンはハイと言ってしまった。
そう言わざるを得なかった。

「分かったら宜しい。すぐに次期帝王を決めるチーム戦の準備を始めなさい。」

644名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 18:35:17
シャバダバドゥを織り込んできたかw

645名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 22:44:06
サヤシが・・・涙
まだ1部も完結してないのに…
現実の出来事を作品に反映させる事の多いマーサー王の場合マロ以上に修正が大変そう

646名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 22:51:28
帝国に激震走る

647名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 00:35:10
今回のは急過ぎだろう

648 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 07:37:33
今回の件には驚きました。
サヤシは二部の内容に大きく関わってくるので
うたちゃんのように出番自体が無くなることはありませんが、
何かしら影響される可能性はあるかもしれませんね。

649名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 08:47:33
卒業しても出したら良いじゃないかと思うんだが

650 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 12:32:48
その時に私がどう書きたいかによりますね、、、

サヤシの必殺技は絶対に出したいと考えているのでそこまでは書きますが
その後どうなるかは、アイデア次第だと思ってます。

651 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 12:56:49
サユがオダの脚に包帯を巻いている一方で、
Q期と天気組らは模擬刀の準備を行っていた。
1ヶ月前は真剣で斬り合った彼女達ではあるが
平和な時代であるために、どちらかと言えば訓練用のこの剣の方がよく手に馴染んでいる。
切れぬ剣ではあるが、力を示して相手を制圧するにはこれで事足りる。
特に、Q期の側にはそれをするのに十分すぎる程の技能が備わっていた。

「結局私たちの中で必殺技を習得できたのはフクちゃんとサヤシの2人だけだったね。
 でも、フクちゃんの技が決まれば戦況は大きく変わると信じてるよ。」
「うん。頑張る。 サヤシの技も使えたら良かったんだけど……」
「ウチの必殺技は真剣用じゃけぇ、今日は使えん。」
「なんでそんな技をイメージしたと?模擬刀を使うって決まっとったやん。」
「それは分かっちゃる、じゃけど、いくら頭を使っても居合術しか思いつかなくて……」
「ま、必殺技を覚えられなかったエリが言えることじゃないっちゃけどね。
 使えんなら使えんなりに工夫して戦おう。
 カノンちゃんも言うとったけどフクの技次第で勝ち目は大きく変わりよる。
 いかに必殺技を繰り出すチャンスを作りあげるか……それを意識して動くしかない。」

サヤシもカノンもエリポンの言葉に強く頷いた。
彼女らがフクの必殺技に対して絶対の信頼を寄せていることがよく分かる。
そして、それは天気組らも同じ。

「ハル、身体はもう大丈夫?」
「バッチリだよハルナン。もうアヤチョにやられた傷は痛くない。」
「文字通り死ぬ気で覚えた必殺技だもんね。」
「ああ、ここで決めなきゃ男が廃るってもんだ。」
「ドゥーは女の子だよ。」
「マーチャンちょっと黙ってよう。」

652名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 13:49:23
>>650
どんな結末になっても受け入れる覚悟は出来てますw

サヤシの必殺技は「真剣用」って事は御披露目はまだ先か…

653 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/31(土) 12:54:01
これから始まる戦いの配置につくために
Q期団は訓練場の西側へ、そして天気組団は東側へと移動した。
緊張感の漂っている彼女らの表情を見るに、開戦がすぐそこまで迫っていることがよく分かる。
立ち合い人という重要な立場であるはずのマーサー王も相当興奮しているようだった。

「なぁ二人とも、彼女らはまずどう動くと思う?」

王の問いかけに先に答えたのはマノエリナだ。
自分がQ期団あるいは天気組団の一員になったと想像し、最善策を予測する。

「リーダーを守るための陣形を組むでしょうね。
 "次期帝王候補"であるそれぞれの団長が今回の鍵となることは間違いありません。
 守り切れなかった時の士気の低下は想像に難くないでしょうから、両団必死に守りぬくはずです。」
「なるほどマノエリナはそう思うか、ではマイミは?」
「Q期団は確かにそうでしょう。」
「ん?……では天気組団はどうすると?」
「それと全く逆のことをすると思いますよ。ハルナンはそういう奴です。」

マーサー王らがそうこう言っているうちに、帝国剣士らは動き出した。
そしてその初動はマイミが予言した通りになっている。

「へぇ……天気組団ってなかなか元気者なんですね。」

リーダーを守るべきというセオリーに反して、天気組団はハルナン自ら前に走りだしていた。
団員のアユミン・トルベント・トランワライとハル・チェ・ドゥーも同じくハルナンに続いていっている。
ガレキの上をそこそこのスピードで移動しているのは、そういう特訓をしたということで納得できるが、
戦闘に特化したタイプではないハルナンが真っ先に前に出たことにQ期団の面々は驚愕していた。

「なに?……何か策があるっていうの?……」

Q期らは基本通りに防御をガチガチに固めていた。
防御の要であるカノンがフクの前に立ちはだかり、その横からエリポンとサヤシが叩くという陣を組んでいる。
そう簡単には崩されないと自負してはいるが、敵の考えが分からないため多少の不安は拭えない。

「一番分からんのはマーチャンやけん。なんでマーチャンだけ動かんと?……」

勢いよく飛び出したハルナン、アユミン、ハルに対して、マーチャン・エコーチームは初期配置に留まっていた。
つまらなさそうな顔をしながら、Q期たちをただただじっと見つめている。

654 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/02(月) 03:14:08
とは言え、遠くにいるマーチャンを気にしている場合ではない。
今しがた迫ってきているハルナン、アユミン、ハルに早急に対応することの方がよっぽど大事。
脚の故障が治りきっていないフクはダッシュやバックステップで敵から逃げることが出来ないので、
エリポン、サヤシ、カノンの3人がリーダーを守るための盾となる必要がある。
そして、その中でも特に防御の要と言えるのがカノン・トイ・レマーネだ。

「何か仕掛けてくるよ、でもやることは変わらないからね。」
「「うん!」」

カノンが何か呟くだけでエリポンとサヤシの顔つきが変わったことにハルナンは気づいていた。
体格に恵まれているだけでなく考え方まで慎重なカノンが指示を出すのであれば、Q期の守りは鉄壁なのだろう。
となれば考えなしにぶつかるだけでは突破出来ないに違いない。

(だったら、予測できないくらいトリッキーな技を決めてあげる。)

アユミンより少し先を走っていたハルナンとハルは、もう少しで敵の元へと到着するといったところで足を止める。
そして互いに向き合って、相手の両方の肩に手を置いたのだった。
これはまさにヤグラ。超のつくほど簡易的ではあるが、長身の2人からなるだけあってなかなかの高度が保たれている。
そして、走る勢いそのままにヤグラを駆け上がっていくのはアユミンだ。
最高点に達すると同時に、互いの肩に伸びた二人の腕を蹴り上げることによってアユミンは飛翔する。

「私は黄金の鷲になる!」

アユミンの故郷で盛んな「チア」と呼ばれる舞踏をイメージして編み出されたこの連携技は
ただ大きくジャンプして相手を驚かせるだけでは決してなかった。
空中には移動を妨げるガレキなど存在しないために、走るよりも速く前進することが出来るのだ。
そして鳥のように飛ぶアユミンの高さは、壁となっていたカノンらの身長を遥かに超えていた。
そこから導き出される天気組団の狙いは、ズバリ敵将への直接攻撃。
邪魔な壁をすべて乗り越えて、フクを叩こうとしているのである。
だが、帝国剣士一の慎重派とも言えるカノンがこの程度の奇策についていけないはずがなかった。

「エリちゃん、分かってるよね?」
「もちろん!あっちがイーグルならこっちはアルバトロスやけんね!」
(ホークスじゃないんけぇ……)

655名無し募集中。。。:2015/11/02(月) 08:11:19
走るより速い空中移動!

656 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 12:55:09
次更新は夜になります。
というのも、こぶしとチャオベッラの公開収録に来てまして、、、

657名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 14:55:48
楽しんで来て下さい夜の更新楽しみにしています

658名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 21:03:40
おー作者さん、僕も行きましたよー
はまちゃん大佐可愛かった

お話楽しみにしてます

659名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 23:02:12
アルバトロス=アホウドリってかっこつかない
さすがエリポンw

660 ◆JVrUn/uxnk:2015/11/03(火) 23:08:23
イーグルって聞いたからスコア的にアルバトロスなんだろなww

661 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 23:29:56
エリポンはその場で垂直に飛び上がった。
ただの一跳びでアユミンのヤグラ込みの高度にまで到達し、模擬刀を思いっきり叩きつける。

「近道はさせんよ!」
「ぎゃあ!」

下方向への力を加えられたアユミンはいとも簡単に床へと落とされてしまう。
自軍の将に危害を与えんとする敵は決して容赦しないというエリポンの覚悟がうかがえる。
今回このようにして飛翔と攻撃と同時に行ったのは、バレーボールをモチーフにしたエリポンの魔法によるもの。
彼女の強靭な脚力と背筋力が助走なしのジャンピングスマッシュを可能にしたのだ。
これには大物であるサユ王やマーサー王ですら舌を巻く。

「あら、エリポンったらあんなことも出来たのね。」
「あの跳躍力ならば我らがクマイチャンにもダメージを与えられるだろうか?……いや、まだ全然低いか。」

派手な特攻に対する派手な迎撃。否が応にも注目は空中での攻防に集まっていた。
傑物揃いの立ち合い人たちだってその範疇からは外れていない。
人間の目はどうしても目立ったイベントに行きがちなのだ。
それを理解しているハルナンは、今回のヤグラ特攻を二段構えの策としていた。

(ハル!鍵は貴方なのよ!)

誰もが空中での出来事に視線を移している隙に、ハル・チェ・ドゥーはエリポンの跳ぶ下をくぐっていた。
実はアユミンは完全なるオトリ。打ち上げロケットのように見せかけて、切り離し燃料タンク程度の役割しか担っていない。
真の特攻は目立たぬ場所を走り抜けるハルによるものだったのだ。

(エリポンさん側の守りはガラ空きだぜ!そこからフクさんを直接叩いてやる!!
 もう非力な剣士なんて言わせない……ハルには必殺技があるんだ!!)

従来のハルならば、例えフクと対峙したとしても決定打を与えることは出来なかっただろう。
フクとアヤチョの戦いに乱入した際に、簡単にあしらわれてしまったことからもそれが分かる。
だが今のハルには、そのアヤチョから伝授した必殺技が備わっていた。
一度殺して死ななければ二度殺す。
死にもの狂いの特訓で習得した技が決まれば相手がフク・アパトゥーマだろうと撃破可能だ。

「近道はさせんってエリポンが言うとるじゃろが」
「!?」

跳ぶエリポンの側を通ればそこにはフクしかいないはずだった。
ところが、ハルの目の前にはサヤシ・カレサスが立ちはだかっている。
空中戦でアユミンと叩き落したエリポンと同じように、
地上ではハルをぶちのめそうと待ち構えていたのだ。

「なんでだ……なんでハルの動きに気づけたんだ……」
「カノンちゃんの防衛策が優れてるからに決まっちょる。ハルナンの奇策よりもな!」

662 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 23:35:51
だいぶ遅くなりました。
明日からはなんとか一日二回更新のペースに戻したいですね。

しかし、このスレに今日の公開収録に行った方がいるとは……w
席が最前近いということもあって、内容は大満足でした。
ドスコイ!ケンキョにダイタンが見れなかったのは残念ですが、
念には念とラーメンを大迫力で見れたのは嬉しかったですね。
早くこぶしファクトリーのメンバーを作中に出したいです。

ただ、トーク・パフォーマンス共にチャオベッラの方が圧巻でした。
特に他ヲタまで全員巻き込んで盛り上げてしまうロビンは凄いですね。
今回参戦できて、本当によかったです。

663名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 00:47:47
楽しまれたようで良かったですね
CBCはメディア露出ほとんどない状態からライブだけでのし上がってきた歴戦のライブ番長ですからw

更新は無理せずマイペースでどうぞ

664名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 08:34:12
頑張れハル!
昨日は最前右端にいましたよー
はまちゃんはまちゃん
早く見たい

665 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/04(水) 12:57:49
少し離れたところからハル達を見ていたハルナンは、自身がフクにずっと見られていたことに気づきだす。
要するに、フクとサヤシは一度も空を見ることなくハルナンとハルの方に目をやり続けていたのだ。
エリポンがミスをすれば自身に危害が及ぶというのに、どれほど厚く信頼してたというのだろうか。

(そうか、カノンさんの防衛策はつまり・・・)

ハルのゲリラ特攻が簡単にサヤシに見抜かれた理由について、ハルナンはなんとなくだが分かり始めていた。
Q期のメンバーの一人一人が、ターゲットとして定められた相手を監視することによって
例え奇怪な行動を取られたとしても即時対応できるように構えていたのである。
視線の方向から察するに、フクはハルナン、エリポンはアユミン、サヤシはハルをマークしているように見える。
これらは全て一ヶ月前の選挙戦にてマッチアップした組み合わせの通りだ。
極限状態に取りうる行動を身をもって体験したからこそ、監視も上手くいくだろうと考えての割振りなのだろう。
そして、これらの策を考えたカノン本人だって監視役の一角を担っている。

(うぅ……カノンさん、しっかりとマーチャンを見てるじゃない……)

カノンは全体に目をやりつつも、初期配置から一歩も動いていないマーチャンにも気を配っていた。
何を考えているのかまったく分からない相手なだけに、一瞬たりとも警戒を外すことは出来ないと考えているのだ。
これはとてもやりにくい。
改めてカノンを筆頭としたQ期の鉄壁ぶりを痛感したハルナンは、既に特攻したアユミンとハルに指示を出す。

「二人とも退いて!」

地に落ちて肘を痛めたアユミンも、サヤシを前にビビっていたハルも
撤退命令を聞くや否やすぐさまその場から離れていった。
陣形を守ることを重視するため深追いをしないQ期から逃れるのは意外にも簡単であり、
すぐに安全圏へと退避することが出来た。
だが、ここからいったいどう攻めれば良いのだろうか。

「ハルナン気づいてるんでしょ?私たちの壁を突破することなんて出来ないって。」
「はい、カノンさん。近道を通るのは難しそうです。」
「ん……正攻法なら崩せるとでも?」
「そうですね!ガチンコでいってみましょうか!」

666 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/04(水) 23:31:54
ハルナン、アユミン、ハルといった戦力でQ期に対してガチンコ勝負だなんてにわかには信じられなかった。
元々の地力が違うというのもあるが、
そもそも彼女らは今の状況下で己の真価を発揮することが出来ないのだ。
雨の剣士ハルナンは肉をえぐる剣で血の雨を降らせて、意気消沈させる戦いを得意とするが
今の模擬刀ではえぐるどころか刺さりもしない。
雪の剣士アユミンは地面を均して氷面のように滑りやすくすることが出来るが、
瓦礫の山を真っ平らにすることなんて出来やしない。
雷の剣士ハルは一般兵らを従えて自在に操るカリスマ性を備えるが、
Q期団vs天気組団という条件ではそれは役立たない。
ついでに言えばマーチャンだって燃える木刀から発せられる煙によって相手を苦しめるが、
手に持つのは鉄製の模擬刀なので、火をつけることも出来ない。
つまり、特殊戦法頼りな天気組にとってガチンコ勝負は不利も不利なのである。
何故このようなルールをハルナンが推し進めたのか、フク達には分からないが
とにかく相手が白兵戦を望むのであれば好都合だ。

「フクちゃん、マークを変えよう。私はハルナンの相手をする。」
「うん、じゃあマーチャンを見ておくね。」
「エリポンとサヤシはさっき言った通り!相手がどう出ようが、やる事は変わらないよ!」

エリポン、サヤシ、カノンの3人でがフクを必死に守ろうとすることは想像に難くない。
となればわざわざその姿勢を崩す必要もないとハルナンは考える。
真の目的には、なんら影響しないのだから。

「アユミン、ハル、ここは全力でいきましょう。
 すべては最終的な勝利のために。」

667名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 23:42:57
Q期の実力か天気の奇策か勝負の行方が分からなくなってきたな

668 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/05(木) 13:00:20
敵将を討てばかなり有利になるこの状況において、
ハルナン自らガチンコ勝負に来てくれたのはQ期にとって大きなチャンスだった。
出来ればフクも含めた四人がかりで仕留めてしまいたいところだが
アユミンとハルは片手間で相手出来るほど弱くない。
それに、何をするか読めないハルナンの凶刃がフクに当たるのは何があっても避けたいため
ここはカノン一人で応対することにした。
とは言ってもカノン・トイ・レマーネは果実の国のトモとカリンの二人を終盤まで圧倒した実力者だ。
戦闘特化型ではないハルナンには簡単に負けないと自負している。

「来なよハルナン。私が立ってる限りはフクちゃんに触れさせないよ。」
「はい、では胸を借りるつもりで……えい!」

そう言うとハルナンはカノンの顔面目掛けて模擬刀を突き出した。
顔への攻撃がとても有効なのはサユとオダが戦ったときのことを思い返してみても明らかだ。
カノンはサユほど自身の顔に執着しているわけではないが
それでも人体急所が集中している部位であるために、避けるにこしたことはない。

(なにそれ?狙いが見え見えだよ!)

肉体の打たれ強さだけではなく、そもそも攻撃を貰わないための回避法を常に考えているカノンは
少し膝を曲げて体勢を低くするだけで、顔への刃を空振らせることに成功した。
カリンの飛ばした血液のような液体ならともかく、
はっきりと形の見える固体としての攻撃ならまず避けられるのである。
これには相対したいるハルナンも思わず感心する。

「流石の回避ですね、カノンさん。」
「こんな時まで太鼓持ち!?油断はしないからね!」

カノンは体勢を元に戻すのと同時に、強く握った拳をハルナンの鳩尾にぶつけていった。
重量級のパンチはハルナンの細身にはとても効いたらしく
たった一撃で吐き気を起こさせてしまう。

「くぁっ……」
「これくらい避けられないようじゃ話にならないよ?……王になりたいんでしょ?」
「……なりますよ、だから今は耐えるんです。」
「なに?どういうこと?」

669名無し募集中。。。:2015/11/05(木) 15:15:05
wkwk

670名無し募集中。。。:2015/11/05(木) 22:42:30
カントリー新メンバー…うたちゃん・まろ・サヤシとことごとく作者さんの構想を崩す展開w
モモコの気苦労も増えそうww

671 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/06(金) 09:01:36
カノンがハルナンに善戦している一方で、サヤシはやや苦戦していた。
ハルによる斬撃の乱れ打ちに対して、防戦一方になっていたのだ。
本来ならば剣の達人であるサヤシがハルに押されるなんて有ってはならない話だが、
当のサヤシは今回のルールを聞いた時からこうなることを予測していた。

(くっ……ウチの良さを完全に殺されちょる。)

武器は模擬刀。
この一点が最も大きく響くのは真剣による剣術を得意とするサヤシであり、
逆に大して影響を受けないのは普段から「切れない剣」である竹刀を愛用するハルだった。
真剣勝負の実戦では二人の差は途方も無いほどに広がるが、
訓練用の模擬刀ルールであれば、拮抗とまでは行かなくてもハルはそこそこ食らいつけるのだ。
そう言えば、とサヤシは思い出した。
ハルは研修生の中でも優れた逸材として鳴り物入りで帝国剣士に加入してきたのだが
いざ実戦に投入してみると呆気なくやられて泣いて帰ってきたことがあった。
その時は「何故こんな弱い奴が帝国剣士に?」とも思ったが、
つまりは模擬刀によるレッスン主体の研修生の中では天下無双だったという訳だ。
ならば今こうしてサヤシに匹敵した剣技を見せているのも納得できる。
そして、今回ハルが強い理由はそれだけではなかった。

「死線……どれだけくぐってきた?」

ハルによる乱打を剣で受け止めながら、サヤシは呟いた。
基本的には緊張したり、ビビったりしているハルの方から
時たま並々ならぬ殺気が発せられることに気づいたのだ。

「死線?それならめっちゃくぐってきましたよ。この一ヶ月で50回はくだらないんじゃないんですか!」

ハルは止められた剣を引き、そこから更に鋭い一閃を飛ばしていく。
ただの速攻ではなく、殺意まで込められた一撃は並の剣士では防ぎきれないことだろう。
だがサヤシだって一ヶ月前の選挙戦で死を目の前にしたことがある。
ハルの死線がどういったものかは知らないが、覚悟はサヤシも負けていない。

「ウチはサヤシ・カレサス。帝国最速の剣士……これくらい簡単に防げるんじゃ。」

苦戦しているとは書いたが、
サヤシはこれまで全ての攻撃を刀身で受け切っている。
フクを守るために、完全な防御体勢にシフトしているのだ。
今回もこうして刀をしっかりと止めていた。

(問題ない。殺気こそ有っても捌けないほどじゃない。
 じゃけど、何かがおかしく感じられよる……)

これだけ焦らせば、精神が不安定気味なハルはじきに崩れると思っていたが
その顔はいつの彼女と比べてずっとクールだった。
まるで今の状況を想定していたように見える。

「これも防がれるか……やっぱサヤシさん凄いな。」

672 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/06(金) 09:05:19
カントリーガールズに梁川奈々美と船木結
いやぁ驚きました。 ハロプロの情勢は目まぐるしく変わりますね。

ただ、今回の加入は話には影響ないと思います。
研修生のことは診断テストに毎年行くくらいにはチェックしてきているのでw

673 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/07(土) 08:36:16
カノンとサヤシの感じる違和感を、エリポンも同様に感じていた。
天気組の中では比較的正統派なアユミンの攻撃をいなすために
数多のスポーツから使えそうな技術……もとい魔法を使おうとしたのだが、
足場の悪さゆえに上手く動けないことも多々あった。
その時のエリポンは当然隙だらけなので、アユミンとしても攻めの好機なはずなのだが、
敵はあえて攻めの手を緩め、エリポンが体勢を整える時間を与えたのだ。
はじめはエリポンを舐めきっているのかもと思ったが、
それ以外の剣のキレや立ち回りは全力に見えるため、本気であることは間違いないらしい。

(なんなん?……気味が悪い)

ギリギリのところで生かされているような感覚。
それは決して心地の良いものではなかった。
アユミンが何を考えているのかは分からないが、
エリポンはフクを守るために全力で己の身体能力と魔法を活かす以外に道はない。
なのでチャンスさえあればすかさず胸、腹、肩へと模擬刀をぶつけていく。

(此の期に及んでその表情……ほんっとイラつく。
 ひょっとしてイラつかせるのが狙い?)

クリーンヒットを貰ったとしても、アユミンは冷静さを欠かなかった。
普段はオーバーリアクションなアユミンだからこそ
絶対何か策を隠していることが逆にバレバレになっている。
肝心な策の内容までは分からないが。

674 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/08(日) 07:37:02
護られながら一歩退いたところで全体を見ているフクも、この異常さに気づいていた。
形勢自体はQ期側の優勢。
天気組への攻撃はいくらかヒットしているし、
このままガチンコ勝負を続けても負ける見込みは殆どない。
そしてそれには天気組も気づいているはず。
なのに彼女らは依然として通用しない攻撃を続けているし、
仮に効いたとしても攻め切らずにいた。
全くもってその意図が掴めない。

(なんだと言うの?まるで決闘を無理矢理にでも長引かせたいように見える。
 あるいは、Q期の実力を測っている?……あ!)

後者の考えが浮かんだ時、フクはあることに気づいた。
Q期がどのような攻撃をするのか、どのような防御をするのか
それをこの場でしっかりと確認することによって
圧倒的優位に運ぶことの出来る手段が天気組には存在することを思い出したのだ。
フクは慌ててQ期達に退くように命ずる。

「みんな!ちょっと待……」
「あーもうダメだ!キツい!退却するよ!!」

フクが言い終わるより早く、ハルの方から対戦相手であるサヤシのもとを離れていった。
体中にできた青アザを見るに、サヤシから手痛い攻撃を何回か喰らったことが想像できる。
そして戦線離脱したのはハルだけでなく、
ハルナンとアユミンも一瞬アイコンタクトを交わしては、自陣へと逃げていく。
急な変わり身にエリポン、サヤシ、カノンの3人は不思議に思ったが
フクだけは青ざめた顔をしていた。

「どうしよう……遅すぎたんだ……」

フクの落胆の理由、そして天気組の撤退の真相はすぐに分かる。
ハルナン達は自らの誇りや負傷と引き換えに、あるものを完成させたのだ。
言うならばそれは、この状況下を完全に支配するバトルマシーン。

「マーチャン!出番よ!」
「はぁ、マーチャン疲れちゃったよ……でももう全部覚えた。」

675名無し募集中。。。:2015/11/08(日) 13:41:44
チート来たかw

676 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/09(月) 12:58:24
マーチャン・エコーチーム。
天気組の曇の剣士であり、技術開発部の最高責任者としての肩書きも持つ。
だが、彼女の真の恐ろしさは火煙を扱う戦法でも、次々と最新武器を作り出す技能でもなかった。

「超学習能力……それがあの子を帝国剣士にした決め手なの。」

サユ王がマーサー王らに説明した通り、マーチャンは異常なまでの学習能力を備えている。
一度食らった技であれば完全に覚えて対処法まで編み出してしまうため、
マーチャンを倒すには毎回違った攻撃手段を用いなくてはならない。
そして、そんなマーチャンが決闘の前半は戦いを見ることだけに徹していたのだ。
自分が直接受けるのと比べるとさすがに学習の精度は落ちるが、
それでも十分なほどにエリポン、サヤシ、カノンの動きを頭に入れている。
ガレキの上というマーチャンも経験の無い情報をインプット出来たという成果と比べれば、
それまでの過程で負ったハルナン、アユミン、ハルの怪我なんて安いものだ。

「マーチャン!飛べ!」

そう言うとハルはハルナンと向かい合って、肩を掴んでいった。
アユミンを鷲のように飛ばした時みたいに、ヤグラを作ったのだ。
その動きも学習していたマーチャンは、アユミンと遜色ないスピードで駆け上がっていく。

「あれを止めるのはエリしかおらん!」

本来アユミンのマークに付いているはずのエリポンが、
フクの前に立ちはだかって、天高くへと飛び上がった。
ヤグラによる高さからの攻撃に対処できるのは自身のジャンプ力しか無いとの判断だ。
フクに危害が有ってはまずいと思って慌ててジャンプした。
ところが、マーチャンの様子がおかしい。
なんとヤグラに上がるだけ上がって、そこに留まっていたのだ。
これにはエリポンも驚かされる。

「なっ!……」
「うふふふっ!引っかかってる。」

最高点に達したエリポンが今から落下せんとするタイミングで、マーチャンはようやく飛翔する。
誰もいない空を、水鳥みたいに飛び立っていく。

677名無し募集中。。。:2015/11/09(月) 18:04:55
水鳥 みたいにね そう 飛び立とう♪

マーチャンの『超学習能力』があったか!マーチャンを倒すには一撃必殺技が必要なのか…

678 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/10(火) 13:00:28
マーチャンがシュパッと着地したところのすぐ先には、フク・アパトゥーマが立っていた。
これまで天気組団が苦労しても突破出来なかった壁を簡単に飛び越えてしまったのだ。
これでマーチャンの剣先はフクの喉元に届くようになった。
もちろんフク自身も強いためそう簡単にはやられないだろうが、
マーチャンだってその他大勢として数えて良いような戦士では決してなかった。

「フク濡らさん、ごめんね。」

謝罪をしているとは思えぬ程の笑顔でマーチャンは模擬刀を振るう。
一見してただの剣のように見えるその振りには、マーチャンがこれまで積んできたノウハウが詰まっている。
ガレキの上の戦いではどこを狙えば避けにくいのかというデータを収集し、分析した上での攻撃なのだ。
それを意識的ではなく無自覚にやってしまうのがマーチャンの恐ろしいところなのである。
だがその恐ろしさについては敵であるQ期もよく理解していた。

「危ない!」

マーチャンの刃を、フクの陰にいたサヤシが受け止める。
ハルのマークについていたはずのサヤシだったが、
エリポンがミスをするといち早く気づき、勝手にマークの対象を変更したのである。
せっかく作ってくれたカノンの策を無視する行為ではあるが、おかげでフクを守ることが出来た。

「サヤシすん!……うふふふっ、来てくれたんだ。」

マーチャンは一ヶ月前から対決を望んでいたサヤシが来てくれたことに喜んでいた。
そして、目の前の敵を越えるために力強く剣を押し出していく。
だがサヤシだって負けるためにここに来たわけではない。
ちゃんとマーチャン対策を理解した上でフクを守りに来たのだ。

「マーチャン、遊ぶのはまた今度じゃ。」
「えっ?」

サヤシは足元のガレキを蹴り上げ、鍔迫り合いをしている自分とマーちゃんへの顔へと飛ばしていく。
小さな破片が互いの目元へと容赦なく突っ込んでいくため、マーチャンは目を閉じざるを得なかった。

「げぇ!なんだこれ!」
「いくら学習能力が凄くても見えなきゃ覚えられんじゃろ……いくぞ!」

目にゴミが入って苦しむマーチャンに対し、サヤシはいつものように平気に振舞っていた。
しじみのように小さな彼女の目にはゴミなど入る余地がなかったのだ。
剣を一旦自分の側へと引いては、マーチャンへの斬撃を繰り出していく。

679 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/10(火) 13:07:59
マーチャンの攻略法がバレかけている……w

680名無し募集中。。。:2015/11/10(火) 17:08:42
破片より小さいしじみ目w

681 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/11(水) 12:56:41
サヤシが剣を振る直前、マーチャンは一歩だけ後退した。
目をやられたのも関係なく一定の距離をサヤシからとっていく。
この距離はサヤシの剣の射程とピッタリ一致。まるで機具を用いて測ったかのような正確さだ。
ゆえに、斬撃は当たるべき対象には届かず空を切る。

「……!!」

サヤシの攻撃を完全に避けたこともそうだが、
それを眼を使わずやってのけたことに立会い人マイミは驚いた。

「学習能力とか言うからアイリのような眼を持つと思ったが……驚いたな。
 あれは眼とか関係ない、生まれ持った才能なのか。」

アーリー・ザマシランの「相手の動きを見切る眼」のようなものを備えているのではなく、
マーチャンは全身の感覚をフル稼働させて新たなことを学習している。
ゆえに目が見えない状況下でも変わらず対応することが出来るのだ。

「サヤシすんひどいなー、やっと見えるようになったよ。」
「くっ!……じゃったら!」

目を封じても超学習能力は機能するということは分かったが、
そもそも目を潰されてパフォーマンスの落ちない人間なんてのは存在しない。
なのでサヤシはまたも地面を蹴って、マーチャンの目に破片を飛ばそうとした。
それが悪手であることも忘れるくらい、必死に。

「サヤシ駄目!憶えられてる!」

フクの声が聞こえるころには、マーチャンはサヤシの側へと踏み込んでいた。
そして極限まで接近しては、蹴りの軸足となる左足をギュウッと踏んづける。
マーチャンは決して重いほうではないが、全体重を一本の足にかけられて痛くない訳がない。

「あぁっ!」

激痛でサヤシが天を仰いでいる隙に、マーチャンはサヤシの腹に模擬刀をぶつけていく。
以前、ハルの武器は竹刀であるために模擬刀に持ち替えても弱体化しないという話をしたが、
このマーチャンだって、普段は木刀を愛用していた。
切れぬ剣という意味ではまったく同じだ。
普段と変わらぬ剣威でぶちまけられる斬撃は、並の精神力では耐えられないものだった。

682名無し募集中。。。:2015/11/11(水) 18:30:24
がんばれまーちゃん
ハルナンに王の座を!
アンジュ王国に新人が!

683名無し募集中。。。:2015/11/11(水) 19:27:42
番長(初期・二期)→舎弟(三期)だから四期は何だろう?パシり?w

684 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/12(木) 08:38:09
久々に一般からの加入でしたね。
キャラを掴むまではなかなか時間がかかりそう……
舎弟になるのか、それとも別の呼び方になるのかは全くの未定ですw

685 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/12(木) 12:58:53
「これくらい……まだまだじゃ。」

並の精神力では耐えられぬ一撃ではあったが、
フクを守るという命題を抱えたサヤシの強さは並ではなかった。
腹への激痛を押し殺しながらマーチャンを睨みつける。
それを見てマーチャンは一瞬ビックリした顔をするが
すぐに笑顔を取り戻し、サヤシへの第二撃を放たんとする。
ところが、アユミンの声によってそれは制されることになる。

「サヤシさんに構うな!フクさんのところに行って!」

アユミンはハルナンと共にエリポンを地に押さえつけながら、指示を出した。
いくら耐えられたとは言え、サヤシへの攻撃は確かに効いている。
実際、膝がプルプルと震えているのがその証拠だ。
ならばそれを無視して敵の総大将を叩くのが良いと考えたのだ。
マーチャンはサヤシを倒せないことがちょっぴり残念ではあったが、
怒った時のアユミンは怖いことをよく知っているため渋々従う。

「しょーがないな。じゃあフク濡らさん倒すね!」

進行方向を変えたマーチャンを見て、カノンは焦りを加速させる。
サヤシとエリポンが動けぬ今、フクを守るべきは自分しか居ないのだが、
ここでどう動くべきか判断に迷ってしまったのだ。
一つはマーチャンと戦う案。もう一つはエリポンを助けにいく案。
前者をとればフクを直接守ることが出来るが、マーチャンを長く足止めすることは難しいだろう。
なんせ敵はサヤシをも圧倒した存在だ。一騎打ちで勝てる見込みは限りなく薄い。
後者の案ならエリポンと協力してマーチャンに対抗できる。
しかしその間はフクを放っておく形になるし、ハルナンとアユミンだって無視できない。
どちらも案も一長一短。よりリスクの少ない方を選択するのに時間をかけてしまった。
そしてその隙がカノンにとって命取り。
すぐ背後まで迫っていた雷への対応が遅れてしまう。

「カノンさん、ハルのこと忘れてない?」
「!!!」
「もう遅いよ!喰らえ!」

686名無し募集中。。。:2015/11/12(木) 14:50:46
天気組の策略にwktk

687 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/13(金) 13:00:32
ハル・チェ・ドゥーは数週間前からアンジュ王国に渡り、
アヤチョ王直々の特訓を受けていた。
その特訓方法は一言で言えば「殺し合い」。
アヤチョが本気の殺意を込めて斬りかかってくるので、ハルも殺す気で対抗するというものだった。
とは言っても相手はアンジュの頂点に立つアヤチョだ。まともにやって勝てるわけがない。
ゆえに特訓時にはタケやカナナンら四番長が常に待機しており、
アヤチョ王がやりすぎないよう、いざという時には静止する役割を任されていた。
ハルとアヤチョの実力差は思っていた通りに大きく開いており、
Q期との決着を一週間後に控えた日も番長らは大忙しだった。
ここではその時のことを回想する。

「ドゥー。トドメだよ。」
「「「わー!待って待って!!」」

一撃目がいきなりトドメだというのもしょっちゅうなので、
番長らは慌ててアヤチョ王の身体にしがみつく。
少しでも止めるのが遅ければ今ごろアヤチョの七支刀はハルの腹を突き破っていたことだろう。
青ざめた顔でペタンと座り込むハルを見るに、余程の殺気を当てられたのだろうことが理解できる。

「こ、こわすぎる……」

涙目になっているハルをだらしないとは誰も思わなかった。
何故なら自分が同じ境遇だったとして、気丈に振る舞える自信が無いからだ。
雷神の構えをとったアヤチョはそれほど恐ろしいのである。

「ドゥー……もう時間がないよ。何か掴めた?」
「一つ、分かったことがあります。」
「え、なになに!?」
「殺意のある攻撃って、普通の攻撃よりずっと威圧感があるんですね。
 身体がビリビリ痺れて全然動けなくなります……
 ハルもそんな攻撃が出来たら必殺技に近づけるのかな……」

ハルの考えを聞いたアヤチョはニコッと微笑むと、七支刀を地に落とした。
そして両手を開き、無防備な態勢をとる。

「ねぇドゥー!竹刀でアヤを叩いて!絶対避けないから。」
「ええ!?」
「もちろん殺す気でだよ。分かってるよね?」

冷たく言い放つアヤチョに、ハルはゾクっとした。
もはやここで日和る訳にはいかない。殺意を放つのは今なのだ。
ハルナンを王にするために……いや、自身が剣士として強くなるために、
殺す気の一撃を打ち込まなくてはならない。

「はぁっ!!」

アヤチョの胸に、ピシャン!と言った竹刀による炸裂音がぶつけられた。
とても聴き心地の良い音であり、クリーンヒットしたことが誰にも分かる。
ところが、アヤチョの顔からは苦しさの一つも感じ取れなかった。

「どうしよう……全然痛くない。」
「えぇー!?本気で打ちましたよ!」
「うん、気合とフォームは良かったよ。でもね、そのね。」
「ハルが非力だからっすか……」
「うーん……なんか、ごめんね。」
「いえ、ハルが未熟なんです……」

結局その日は必殺技は完成しなかった。
いくら殺意が十分でも破壊力が無ければ必殺技とは呼べないのである。
そして現在、ハルはカノンの背中にピシャリと良い一撃を打ち込むことが出来たが、
アヤチョとの特訓と同じように仕留めるまではいかなかった。

(痛っ……ハルったらこんな強い攻撃を出来るようになってたんだ。
 でも、この私にはそんなの通用しないよ。
 誰よりも厚いこの身体。たかが模擬刀が通るほどヤワじゃないからね!)

688 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/14(土) 14:48:23
カノンの背中に向けたハルの一撃は、紛れもなく十分な殺意の込められたものだった。
しかし、いかんせん威力が足りなさすぎる。
やはりハルの細腕ではカノンという壁をぶち破ることは出来なかったのだ。
一ヶ月とは、技を一つ覚えるには十分な期間だったかもしれないが、
そもそもの身体能力を強化するにはあまりに短すぎていた。
よって、ハルは一振りで必ず殺すような一撃必殺は習得できなかったのである。
このままではカノンはすぐに体勢を整えて、反撃してくることだろう。
ただでさえサヤシとのガチンコで消耗しているというのに、
そこにカノンのヘビーな攻撃を受けてしまったらひとたまりもない。
それを知っていたハルは、だからこそ体勢を整える暇を与えなかった。
敵がそうするよりも速く、カノンの後頭部に激痛を与える。

「!?」

ハルがやったのは、ただ背中と後頭部を連続で叩いただけのことだった。
普通の二連撃と異なるのは、一撃と一撃の間隔を限りなく小さくしたという点。
最初の一撃をもらった時点でカノンは無意識のうちに、背中を守ることに全神経を集中させていたのだが、
そのすぐ直後に後頭部への一撃を喰らったために
覚悟も身構えも何も出来ず、攻撃の100%すべてをダメージとして受け止めてしまったのである。
しかもカノンは一ヶ月前の戦いでカリンに後頭部を強くやられている。
その古傷が完全には治りかけていなかったというのも効いていた。
いくら頑強な肉体を持つカノンであろうと、
人類皆等しく肉のつきにくい箇所に対するダイレクトアタックまでは防げなかったらしく、
合計たった二撃で意識を飛ばし倒れ込んでしまう。
そう、ハルの必殺技は一撃必殺ではなく二撃必殺だったのだ。

「勝った……ハルの必殺技が効いたんだ……」

この必殺技はアヤチョが教えたものではあるが、アヤチョ本人は使いこなすことが出来ていなかった。
この技を完成させる鍵は連切りの早さにあったというのがその理由だ。
アヤチョも超スピードを誇る超人ではあり、その突っ走りは誰も付いていけないほどに速いが、
基本的には一途であるために二箇所同時に攻めるということが困難だ。
それに対して、ハルは異常までに手が速かった。
複数同時に攻めることにおいては右に出るものはいない。
一撃で殺せないようならもう一度、もう一度、何回でも連続で切ってみせる。
だからこそハルはアヤチョも使えぬ必殺技「再殺歌劇」を体現することが出来たのである。

689名無し募集中。。。:2015/11/14(土) 14:50:57
二重の極みw

690名無し募集中。。。:2015/11/14(土) 16:31:22
再殺…相変わらず名前付けるの上手いなw

691名無し募集中。。。:2015/11/15(日) 01:54:56
拾ってきた…もしオダがサユ王に勝っていたらこんな未来になっていたのかw

http://pbs.twimg.com/media/CTxLBSdUcAAIaOv.png

692名無し募集中。。。:2015/11/15(日) 09:27:37
有りやなw

693 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/16(月) 12:33:55
二重の極みに似てはいますが、異なる箇所を攻撃する点で違った技ということにしてください><

>>691
このイラストはいったい……
それにしてもかなりの風格ですねw

694 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/16(月) 12:56:52
守りの要であるカノン・トイ・レマーネが倒れたことは、Q期たちに大きな衝撃を与えた。
これからはカノンの指示なしにハルナンら天気組の策に対抗せねばならない。
それに、単純に頭数が減ったことで人数的に不利になったという問題もある。

「ハル!マーチャン!ここが攻め時だよ!」

アユミンは押さえつけていたエリポンをハルナンに任せて、フクの方へと歩みだした。
名を呼ばれたハルとマーチャンだってターゲット目掛けてすぐさま前進していく。
現在の彼女らにはマークは付いていない。言わばフリーの状態なのだ。
誰にも邪魔されることなくフクへと接近する。

「フク!」「フクちゃん!」

エリポンとサヤシは悲痛な声しか上げることが出来なかった。
エリポンはハルナンに羽交い締めにされているし、サヤシは早く歩けるほど回復しきっていない。
ゆえにフクを守りにいくことが出来ないのである。
それならそれでフクに逃げろとでも言えば良い気もするが、2人はそうしなかった。
アユミンはその点から察し、ある事実に気づいていく。

「ははっ、フクさんひょっとして歩けないんじゃないですか?」

Q期一同はギクリとした。
誰よりも強いはずのフクを過剰に守っていた理由がまさにそれだったのだ。
日常生活において歩く分には問題ないが、
真剣勝負の場で、しかも足場の悪い状況下で満足に動けるまでには至ってないのである。
天気組はフク・ダッシュやフク・バックステップが出来ない程度の怪我だと思っていたが、
これは思わぬ好都合だ。

「よし!フクさんにも再殺歌劇を決めてやるぜ!」
「ドゥーずるい!マーチャンがトドメさすんだからね!」
「ちょっと喧嘩しないでよ!ここは3人同時に行こう!」

695名無し募集中。。。:2015/11/16(月) 13:00:08
>>693
元ネタはこれネズミの国に行った時の写真らしい
http://stat.ameba.jp/user_images/20151004/20/morningmusume-10ki/da/8f/j/o0480064113444293221.jpg

反乱が失敗し地下に送られる写真w
http://i7.wimg.jp/coordinate/3yj9v8/20151004094139229/20151004094139229_1000.jpg

696名無し募集中。。。:2015/11/16(月) 20:47:11
ところでイクタ外伝の人はどうしちゃったのかな

697 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/17(火) 12:33:34
>>695
その件に関わってたんですね!
てっきり舞台かSSに関連しているかとw

>>696
長らく更新がないようですね( ; ; )
復活を期待しています。

698 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/17(火) 12:57:37
天気組の3人に同時に襲われるという危機的状況にもかかわらず、
Q期のリーダー、フクは意外にも冷静な顔をしていた。
まるでこの事態を予め想定していたかのような落ち着きっぷりだ。

「さっきのハル凄かったなぁ……私にもあんな殺気、出せるかな?」

独り言を呟き終えるのと同じタイミングで、マーチャンがフクの正面にやってきた。
もともと近い位置に来ていたために、3人の中で一番に到着したのである。
もちろんマーチャンは他の2人を待つ気などさらさら無く、早速攻撃を開始する。

「フク濡らさん!アユミンやドゥーが来る前に倒すからね!」

今日のマーチャンはまだフクの動きを見てはいなかったが、
日々の訓練から得た記憶を頼りに、避けにくい攻撃を何発も繰り出すことが出来ていた。
フクも模擬刀で必至に防御するが、その防御さえもあらたにマーチャンに覚えられてしまう。
次々とUpdatedされるマーチャンの剣技を捌ききれず、身体のあちこちに剣をぶつけられていく。
このままマーチャンと対峙し続けるのは分が悪い。
ならばとっておきをここで使ってしまおうとも思ったが、そうもいかなかった。

(まだダメ……今だったら一人しか殺せない。)

"必殺技を使うには殺人者であれ。"
フクは甘々な自分を戒めるために、そう強く思っていた。
だが自身を殺人者にするのはまだ早すぎる。
今のままでは、"Killer 1 "だ。
たった一人に対する殺人者では状況を変えることなどできやしない。
フクが目指すべきは、複数に対する殺人者なのである。

699名無し募集中。。。:2015/11/17(火) 20:17:35
なかなか物騒な考えだなwフクの必殺技がどんななのか楽しみだww

700 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/18(水) 12:59:17
動けぬフクとマーチャンがやり合っているところにアユミンも合流する。
本当は3人揃ってから仕掛けたいと考えていたアユミンだったが、
既にマーチャンが交戦を開始しているため、もはやハルの到着を待ってられなくなっていた。
アユミンはフクから見て右方向から攻め込み、模擬刀で切りかかってくる。

「あ、アユミンきちゃった……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ほらマーチャンいくよ!」

アユミンの手数は(ハルほどではないが)多かった。
一撃一撃の威力は微弱ではあるものの、こうも乱打されるとフクは受けるだけで精一杯になってくる。
そんな状況でマーチャンの攻撃まで防ぐことは難しい。
ゆえにフクはアユミンが来る前よりずっと多くの攻撃を身体で受けてしまう。

「フクちゃん!今助けに……」

少しは動けるようになったサヤシが、アユミンとマーチャンに袋叩きにされているフクを守るため前進を開始した。
ダッシュもバックステップも使えないフクにすぐさま助太刀しなくては、全てが終わってしまうと考えたのだ。
ところが、フクはそんなサヤシの助けを必要としていなかった。
無理して攻撃を受け続けながらも、カッと目を見開きサヤシを制止する。
それに対してサヤシは少し驚いたが、すぐに意図を理解して動きを止めた。

(フクちゃん……アレを使うんじゃな。)

フクの狙いは自身の編み出した必殺技を繰り出すことだった。
だが今はまだ時期が早すぎる。
マーチャン一人の時の"Killer 1"よりはアユミンも加わった今の"Killer 2"の方が効果的かもしれないが、
それでもまだなのだ。
すぐにやってくる彼女までも巻き込んでこそ、フクは殺人者としての真価を発揮することが出来る。

「お待たせアユミン!マーチャン!」

時は来た、とフクは感じた。
残りの一人であるハル・チェ・ドゥーがフクから見て左側から攻撃を仕掛けようとしている。
おそらくはさっきカノンを仕留めた必殺技である「再殺歌劇」を見せてくることだろう。
だが今来たばかりなので準備は整っていないはずだ。
それに対して、フクはしっかりと準備が出来ている。
この決闘が始まるずっとずっと前から、この瞬間をイメージしてきたのだ。

(モモコ様、私、必ず殺せる殺人者になります。)

ハルもやってきたので相手は計3名になった。
ではフクの必殺技は3人殺せる、言わば"Killer 3"を実現する技だったのか?
いや違う。
フクは相手が多ければ多いほど良いと思って技に命名している。
一人や二人や三人ではなく、N人。つまりは複数名を同時に殺す技という意味を込めて、
"Killer N"、と名付けていた。

701 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/18(水) 13:00:25
技名からか確かに物騒な考えになっちゃいましたね。
まぁ、それだけ本気だったということでお願いしますw

702名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 14:14:52
それかw

703名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 17:42:00
"Killer N"・・・やばいひさしぶりに元ネタが分からんwちょっと悔しい

704名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 17:46:22
ブログでよく見るキラーン☆じゃないのか

705名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 19:12:34
なるほど!
スッキリしたありがとうw

706名無し募集中。。。:2015/11/19(木) 02:27:47
ネーミングうまいなあ

707 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/20(金) 14:17:00
はい、確かに元ネタはキラーン☆です。
多少苦しかったかもしれませんがw

708 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/22(日) 13:15:09
諸事情により今日も続きを書けません><
今夜遅くか、明日の昼ごろに更新予定です。

709名無し募集中。。。:2015/11/22(日) 22:05:40
まさかこぶし富山行ったとか言わないよね?
僕昼行って楽しかった
早く大佐をこのスレで見たい

710 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/23(月) 02:43:58
こぶしイベは行ってませんでしたね。完全に私用でした。
でも来週はアンジュルム武道館に行きますよ!卒業見てきます^^

711 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/23(月) 04:50:53
フクは左手に握った模擬刀を、今まさに必殺技を放たんとするハルの脇腹にぶつけていく。
攻撃のみに集中しているハルに強打を当てるのはあまりにも簡単で、
線の細い彼女のアバラはただそれだけでバキバキに折れてしまうだろう。

「……ッ!!!!!」

普段ハルはアバラが二、三本折れてもヘッチャラみたいなことをよく口にするが
実際にそれを受けたら息も出来ぬほどに苦しいことが再確認できたに違いない。
これでハルは数分程度の戦線離脱は余儀なくされ、しばらくの無力化が約束された訳なのだが
フクはその程度でよしとはしなかった。

("甘さ"を捨てるのよフク・アパトゥーマ!殺す気で振り抜くの!)

アユミンとマーチャンによる攻撃を右腕ですべて受け止め、
さらに下半身にグッと力を入れてその場から仰け反らぬよう踏ん張った。
すべてはハルに当てた模擬刀を全力で最後まで振り切るため。
受け止めた右腕が壊れようとも、動かぬ脚が更に悪化しようとも構わない。
これから勝ち取る成果を考えればその程度の代償は払って当然なのだから。

「マーチャン!避け……」

位置関係からして、アユミンにはフクの狙いが見えていた。
だがここで気づいたとしてももう何もかもが遅い。
フクがハルに当てた斬撃を振り切ることにより、ハルの身体そのものが吹き飛ばれていく。
その先にいるのはフクの正面にいたマーチャンだ。
至近距離から相方の身体が飛んできた経験なんて、マーチャンはこれまでにしたことがない。
未経験には滅法弱いマーチャンは無抵抗でハルにぶつかってしまう。

「ぐぇっ!」

いくらハルが軽いとは言っても人と人が衝突して無事で済むはずがない。
しかも頭と頭もぶつかったので軽度の脳震盪まで引き起こしている。
これではマーチャンもすぐには起き上がることが出来なくなるだろう。
ここまで来ればもう十分かと思いきや、フクの振り切りは留まらなかった。
そう、アユミンを巻き込むまでこの技は止まらないのである。

「や、やめて」

アユミンの嘆願も虚しく、フクの左腕はハルとマーチャンごと模擬刀を押し込んだ。
先ほどハルがマーチャンに衝突した時のように、今度はマーチャンの身体を最右端にいるアユミンにぶつけたのだ。
人間二人分の重量が飛んできたのだからその衝撃の凄まじさは想像に難くない。
アユミンの体重でそれらを耐えきれる訳もなく、ガレキの床へと転げ落ちてしまった。
つまりアユミンは硬い地面に叩きつけられた上に二人にのしかかられ、
マーチャンはクッション性皆無の2人に挟み潰され、
ハルは最後までフクの強打を受け続けたことになる。
まさにどれもが致命傷。3人の誰もがその場にうずくまってしまう。
模擬刀ルールでなければ全員死んでもおかしくない程のダメージであったに違いない。
これこそがフクの必殺技「Killer N」の力なのだ。
見事な成果を見せたフクに対して、サヤシは歓喜の声をあげる。

「フクちゃん凄い!!3人も倒すなんて!!」

歩くことも困難なフクがピンチを大きなチャンスへと変えたのはとても素晴らしい。
立ち合い人だってこの光景に舌を巻いているのだから大したものだ。
ところが、当のフクはどこか浮かない顔をしていた。

「だめ……倒しきれなかった。」
「?」

フクは己の必殺技の弱点をよく知っていたのだ。
この技の仕組みならば2人は確実に倒すことが出来るのだろうが、1人の安否だけは不確定だ。
そしてその憂いが現実のものとなってしまった。

「ケホ、ケホ……ひどいことするなぁ……でももう覚えたよ。」

712名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 08:15:06
うわぁ…マーチャン討ち漏らしたのか…

713名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 11:13:05
クッション性皆無w

714名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 12:48:40
クッション性大事

715 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/24(火) 02:12:19
フクの必殺技「Killer N」を受けても立ち上がれたのはマーチャン・エコーチームだった。
未経験の攻撃を回避する術を持たぬ彼女は当然のように直撃を喰らった訳ではあるが
斬撃を身体で受けたハルや、地に叩きつけられたアユミンと比べるとまだ軽症で済んでいたのである。
頭はクラクラするし、体中の骨がひどく痛むけれども、なんとか立つことは出来ていた。
このように押せば簡単に倒れてしまいそうな相手を前にして、フクは恐怖する。

(まずい……とっておきを覚えられちゃった)

マーチャンの異常なまでの超学習能力。それをフクは恐れていた。
一度体験した技であれば次からは完全に対応してしまうマーチャンには、もう「Killer N」は通用しないだろう。
ならばそれ以外の技を繰り出そうにも、今のフクの身体は必殺技の代償でひどく痛んでいる。
攻撃を受け続けて骨折した右腕はもう上がらないし、もともと完治していなかった脚も動きそうにない。
この状況でどうやってマーチャンを止めろと言うのか。
おそらくはいくらあがいてもフクには倒すことなど出来ないのかもしれない。
味方の力を一切借りない、という条件付きではあるが。

「喰らえっ!」

フクを窮地から救うために、サヤシ・カレサスがマーチャンの後頭部めがけて模擬刀を振り上げた。
近いところに位置していたのでいち早く援護することが出来たのだ。
フラフラなマーチャンに対する不意打ちは傍からは卑怯に見えるかもしれないが、サヤシは恥じてはいなかった。
"本当に誰かを守りたけりゃ他人の目なんて気になんない"ってやつだ。
この一撃でフクを守ることが出来るのであれば何がどうなってもいいと考えていたのである。
しかしこの攻撃は、マーチャンを倒すにはあまりにも単調すぎていた。

「当たらないよっ!」

マーチャンはしゃがみこむことで体勢を低くし、コサックダンスでもするかのようにサヤシの右足を蹴っ飛ばした。
これまでの実践や訓練の経験から、急所攻撃への対処法は特にしっかりと学習してきていたのだ。
ゆえに頭がちゃんと回っていない時であろうと行動に移すことが出来る。
攻撃のほとんどが急所に対する一撃狙いなサヤシにとって、マーチャンという相手は分が悪すぎるのである。

(くっ、どうしたらええんじゃ……)

それでもサヤシは歯を食いしばって立ち向かおうとした。
攻撃が通用するまでストイックに攻撃し続けようという思いなのだ。
ところが、そんなサヤシの気が急に変わり始める。
そこまで無理する必要は無いと、考えを改めていく。
その理由は、マーチャンのすぐ背後まで迫っていた頼れる存在にあった。

「スマーーーッシュ!!」
「!?」

マーチャンの後頭部を強く叩いたその人物は、さっきまでハルナンに押さえつけられていたエリポンだ。
突然の不意打ちをもらったマーチャンは、鼻血を吹き出しながらひどく困惑する。
急所攻撃には完全に対応する自分の身体が、エリポンの攻撃には反応しないのである。

「え!?え!?なんでエリポンさん!?ハルナンはどうしたの!?」

基本的にニヤニヤと笑いながら戦っているマーチャンが、今は普段見ないほどに狼狽している。
というのも、マーチャンは日ごろからエリポンを怖いと思っていたのだ。
フクの攻撃も、サヤシの攻撃も、カノンも攻撃も、同期やオダの攻撃だってすべて学習できるのに
目の前に現れたエリポンの攻撃だけは何故か覚えることが出来ない。
言わばマーチャン・エコーチーム唯一の天敵なのである。

「マーチャン!これ以上好きにはさせんよ!」
「うわ〜〜〜エリポンさんホント嫌だ……」

716 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/25(水) 12:59:54
「マーチャンはエリポンの行動だけは覚えることは出来ない」と書いたが
実際はちゃんと学習可能であるし、一度見た技であれば問題なく対応することが出来る。
ヤグラから水鳥のように飛んだ時にエリポンの跳躍を軽々とかわしたことからもそれが分かるだろう。
それでは何故マーチャンはエリポンの攻撃を回避できなかったのか。
その理由は、エリポンの使う魔法の多彩さにあった。

「ほら!まだ終わらんけんね!」

エリポンはマーチャンの頭を鷲掴みにしては、グルリと腕を一回転させてぶん投げる。
これはソフトボールのウインドミルと言われる投球法に近い動きだ。
ソフトボールと言うスポーツ一つとっても、複数のピッチング法が存在する。
そしてこの球技には投げるだけではなく、効果的に打ったり走ったりする手段も確立されている。
一つのスポーツでそれだけの動作があるのだから、
あらゆる競技を極めたエリポンは何千何万種類もの技を扱えることになるのだろう。
相手が普通の戦士であれば、いくら多数の技を持とうとも、似た動きを一まとめにして対策されてしまうのかもしれないが、
マーチャンには少しでも動作の違った技はまったく異なる動きに見えてしまっていた。
ゆえにエリポンの攻撃は毎回毎回が未経験。
これこそがマーチャンがエリポンを天敵だとみなす理由だったのである。

「ハルナンどこ!はやくエリポンさんを止めてよぉ!」

頭の中でグワングワンと鳴り響く音に悩まされながら、マーチャンはハルナンの名を呼びあげる。
アユミンとハルが倒れた今、ハルナンしか頼る人物はいないと考えているのだ。
しかしそのハルナンから返事は返ってこない。
マーチャンには見えていないかもしれないが、ハルナンはすぐ側に倒れていたのだ。
全身にひどい打撲を負いながら、血だらけで。

「あの負傷は……ひょっとしてエリポンが!?」

気づかぬうちに敵将が倒れていたので、サヤシは両手を挙げて歓喜した。
思えばエリポンはあのアーリーでさえも力負するほどの戦士だ。
貧弱なハルナンに抑えられるわけがなかったのである。

「勝ちじゃ!マーチャンさえ倒せばウチらの勝利じゃ!!」

717名無し募集中。。。:2015/11/25(水) 18:22:29
血まみれのハルナン…嫌な予感しかしないなw

718名無し募集中。。。:2015/11/25(水) 18:35:14
ハルナン…ゾクゾクするねぇ

719 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/27(金) 12:57:42
マーチャン撃破という最終目標のためにエリポンに加勢しようとするサヤシだったが、
当のエリポンにそれを制されてしまった。

「サヤシとフクは休んでて。ここはエリだけでやる。」
「どうして!?今は全力でマーチャンを倒すべきじゃろが……」
「マーチャンを倒しても終わらんから言ってる。」
「あ……!」

エリポンの言葉の意味をサヤシはすぐに理解した。
無駄かもしれないが、敵側に気づかれないように小声で確認を取る。

「ハルナンは死んだふりをしちょる……ってこと?」

勝利のためならなんでもやるハルナンのことだから、死んだふりくらいは十分やりかねない。
一ヶ月前にフクと直接対決した時もその通りだったので、確証が無い限りは戦闘不能と決めつけるべきではないのだろう。
それによく見てみればエリポンの身体は思っていた以上のダメージを負っている。
おそらくハルナンの押さえつけから逃れる際にいくらか抵抗されたのだろうが
その負傷のどれもが出血や打撲を伴った痛々しいものとなっていた。
あと少しで気絶するくらい弱っていた者がこれだけの強い斬撃を放つことが出来るだろうか?
ハルナンの生存確率をあげるには十分すぎる材料だ。

「そういうこと。だから油断せんと、備えないかんよ。」

死んだふりに関しては、エリポンには苦い思い出があった。
アーリー戦で油断したばっかりに、勝てる勝負を落としたことを今でも悔いていたのだ。
だからもう決して相手の生き死にを決めつけたりはしない。
ましてや勝敗が仲間の進退に直結するのであれば尚更だ。

「マーチャン!そろそろ倒れてもらうけんね!」
「う〜〜……ヤだよ。マーチャン負けたくないもん。」

マーチャンは近くで横たわっていたハルの剣を拾い上げては、利き腕ではない方の右手で掴んんでいく。
元々所持していた模擬刀と合わせて、現在の得物の数は計2本。
即ち、二刀流だ。

「エリポンさんの攻撃は避けられないから、もう避けない。
 マーはずっとずっと攻撃だけするから。」

720 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/27(金) 12:58:36
ハルナンの気絶はやっぱり信じてもらえないみたいですねw

721 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/28(土) 18:57:32
以前からモーニング帝国ではすべての兵に模擬刀が支給されていたのだが、
その模擬刀を今の形状に改良して、より使いやすくしたのがマーチャンだった。
従来の模擬刀は個人の用途によって刀身の長さや重量が異なる"半オーダーメイド型"だったため、
一般兵や研修生が憧れの帝国剣士と同じスタイルの戦闘法をとるのには適していた。
しかしその反面、他の帝国剣士に心変わりした際には剣を一から作り直さなくてはならないため難儀したという。
(この現象を彼ら彼女らは推し変と呼んでいる。)
そこでマーチャンはどんなスタイルにも対応可能な扱いやすい剣を開発し、
汎用的な模擬刀として兵士たちに配布することを決めたのだ。
これによって兵士らは好きな時に好きなだけ戦闘スタイルの色を変更できるようになった。
これが現代の最新型の模擬刀なのである。
そんなマーチャンが作った模擬刀なのだから、性能を最大限に引き出すことが出来る。
二刀流がいかに効果的に相手を痛めつけることが出来るというのも、"覚え"済みだ。

「やぁーーー!!」

マーチャンは両腕をグルグルと回し、エリポンに斬りかかる。
子供が泣いた時に見せるグルグルパンチのような技ではあるが、これがなかなかに避けにくい。
だがそこは帝国剣士一の怪力を誇るエリポンだ。
二本の腕でマーチャンの両方の剣を白刃取り、完全に動きを止めてしまう。

(痛っったぁ……掌の骨がグチャグチャになっとる……でもここで気張らんと!)

激痛ではあるが耐えられない程ではない。
これでマーチャンを無効化出来たのだと思えば活力も湧いてくるものだ。
しかしそう思ってたところで、マーチャンは予想外の行動を取り出した。

「それあげます」
「えっ?」

なんとマーチャンは剣士の命とも言える剣を簡単に捨てては、
白刃取りをした時点で満足したエリポンの腹に目掛けて突進したのだ。
言うならばこれは無刀流。
武器に精通しているマーチャンは武器を失った時の戦い方も覚えていたのである。

「うぐっ……」

鳩尾にマーチャンの肩を打ち込まれたので、エリポンはひどく苦しんだ。
これまでの疲労やハルナンにやられた怪我も相まって、意識が飛びそうになってくる。

722名無し募集中。。。:2015/11/28(土) 20:27:59
そりゃハルナンだもの誰も信じないってwてか推し変ってww

723 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/29(日) 17:27:23
武道館待機中。。。
公演開始までに更新しようと思ってましたが難しそうです……

724名無し募集中。。。:2015/11/29(日) 21:58:41
マロ卒業おめ
作者さんは武道館行ってたんだね〜自分はLVで見てました

725 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/30(月) 02:32:52
卒コンは最高でした。福田花音という人の偉大さを再認識した日でしたね。
ライブ中盤の特殊なメドレーはこれまでのハローで(たぶん)見たことのない取り組みだし、
それを息切れもせずに普通にやってのけたのが凄かったです。

あと、関係者席にいる鞘師が開演前に転倒したのはちゃんと目撃しました。
あれもこれまでのハローにない取り組みでしたねw

726名無し募集中。。。:2015/11/30(月) 06:30:43
言葉ではなく歌の継承って感じがして娘。とはまた違った卒コンだったね

鞘師転倒は取り組みじゃねーw
LVだから見れなかったんだよな…

727 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/01(火) 12:29:08
次回更新遅れます。。。深夜頃の予定です。

728 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/02(水) 02:59:13
マーチャンは攻めの手を緩めなかった。
地団駄を踏むようにエリポンの足を何度も何度も連続的に踏みつけることによって
掌の骨だけでなく、足の甲の骨までも砕いていく。

「〜〜〜〜〜!!」

あまりにも非情な仕打ちを受けた結果、エリポンは声にならない声をあげることしか出来なかった
これではもうエリポンの手足は使い物にはならないため、今後はそれらを封じながら戦うこととなる。
しかし、手足を使わないスポーツなんて存在するのだろうか?
手が使えなければどんな器具も持つことが出来なくなる。
足が使えなければ走ることも跳ぶことも出来なくなる。
結論から言えば、こんな状況を覆すような魔法をエリポンは備えていない。
ひょっとしたらこの広い世界には手足を使わないスポーツも存在するのかもしれないが、
流石のエリポンもそこまではカバー仕切れていなかったのである。
だが、これで手も足も出ないと決めつけられるのはエリポンも心外に思っていた。
手も足も出ないならば、他のところを出せばいいのだ。

(頭突きならどうだ!)

エリポンがとった行動は、ただ頭を振り下ろすだけの行為だった。
折れた足では自重を支えることも跳躍することもままならないため、サッカーのヘディングとは大きく異なるが
フクやエリポンの強力な攻撃を受け続けてもうヘロヘロになっているマーチャンにとっては
とても効果的な攻撃手段に見えた。
ただ一撃だけでも良いので、エリポンの頭とマーチャンの頭を衝突させることが出来ればそれで十分なのだ。
エリポンの狙いは相打ち。
自らを犠牲にしてでもここでマーチャンを仕留めることが出来れば、戦況はかなり有利になる。
死んだふりをせざるを得ないほど切羽詰まっているハルナンを、フクとサヤシの二人がかりで倒せば良いのだから
ここでマーチャンを倒すことがどれだけ重要なのかはよく分かるだろう。
ところが、そんなエリポンの思いはあと一歩のところで届かなかった。

「それ、知ってるよ」

マーチャンはただ半歩だけ後退した。
それだけでエリポンの頭突きの軌道から外れることを、これまでの経験で知っていたのである。
エリポンがマーチャンに対してアドバンテージを持てていたのは「魔法」を使っていたからだ。
その「魔法」が封じられたのであれば、もはやマーチャンの敵では無いのである。
エリポンの頭突きは虚しくも回避されることとなる。

729 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/03(木) 12:57:59
頭突きが外れたと自覚したとき、エリポンはひどく絶望した。
もう彼女には体勢を整えるだけの余裕も残されていないので
後はマーチャンにやられるだけだと思ったのだ。
ところが、勝機は完全には途絶えていなかった。
自身の頭が地に落ちる直前、エリポンは股の間から後方を見ることが出来たのだが、
そこから希望とも呼べる存在が迫ってくることを確認したのだ。

「エリポン!そのまま持ちこたえて!」
「サヤシ!?」

すぐそこまで接近してきていたのは、Q期の味方サヤシ・カレサスだった。
ハルナン戦に備えて休めと念押ししたというのに、友だちを助けるため駆けつけてきたのである。
色々と思うことはあるが、エリポンはここでは素直に喜んだ。
そして、サヤシの出した指示に全力で応えようとする。

(そのまま持ちこたえる?……この体勢のままでいろってこと?)

頭突きを避けられて頭が地まで下りたその姿は、奇しくも馬跳びの馬の形に似ていた。
サヤシの声が無ければこのまま倒れこむところだったが、
エリポンは必死に馬の形をキープする。
この体勢こそがマーチャンに勝利する鍵なのである。

「エリポンごめん!ウチ跳ぶけぇ!」
「いっ!?」

サヤシは駆けつけた勢いのままエリポンの背中を強く叩き、その反動で跳躍した。
先ほど天気組が見せたヤグラと比べるとあまりにも低いが、
"馬跳びからの斬撃"という珍しい攻撃を敵に見せる目的は十分に果たしていた。
こんな攻撃、マーチャンにとってはもちろん初体験。
少しの回避行動もとることが出来ず、サヤシの模擬刀を脳天で受けてしまう。

「ぎゃあ!!」

フクの必殺技をはじめとして何度も強打を受け続けていたマーチャンには
今回の攻撃まで受けきることの出来る体力は残っていなかった。
アユミンやハルと同じように、床へと倒れていく。
そして気を失ったのはマーチャンだけではなく、エリポンも同様だった。
サヤシに背中を叩かれたのが決定打になったのか、頭から床にぶっ倒れてしまう。

「あぁ……エリポンがやられてしまった……」

サヤシはエリポンに軽く頭を下げると、ハルナンの方へと目線を移す。
現状は天気組全員が床に伏せる形となっているが
これで終わりだとは少しも考えていなかったのだ。

「ハルナン起きとるんじゃろ?……決着つけよう。」

730名無し募集中。。。:2015/12/03(木) 17:08:05
エリポンwww

731名無し募集中。。。:2015/12/03(木) 17:57:29
ドラマチックきた!!でもちょっとエリポン残念だなw

732 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/04(金) 13:00:19
この場に立っている者はフクとサヤシの2名のみ。
他の帝国剣士はオダも含めてみな倒れてしまっている訳だが、
その内のハルナンが死んだフリをしているという事実は、見届け人たちにもバレていた。
いくら気を失った風を装っても、勝利に対する執念までは隠せなかったのである。

「なかなかの胆力ですね。普通は私たちのような大物に見届けられたら、最後まで堂々と戦い抜くものですけど。」

マノエリナの声は皮肉のように聞こえるが、これは心からの褒め言葉だった。
どんな状況でも勝利のためなら泥を平気でかぶる精神を評価しているのだ。
その反面、厳しい意見も同じように飛び出していた。

「でも、ここからの逆転劇は期待できなさそうですよね。」

マノエリナの意見はもっともだった。
Q期側も満身創痍とはいえ、まだサヤシには普通に戦えるだけの余裕がある。
フクが動けないことを考慮に入れても俄然有利だろう。

「マノちゃん、まだ分からないじゃないか!ここから気合を入れて超パワーで相手を投げ飛ばせば……」
「それはマイミさんだから出来るんです。彼女には無理です。」
「う……」
「断言しますよ。天変地異でも起きない限り、天気組の勝利はあり得ません。 命を賭けてもいいです。」
「そんなに言うかぁ……」

マノエリナの言うことは極論ではあったが、マーサー王とサユ王も概ね同じことを感じていた。
そして、Q期が勝利に近いことはフクとサヤシも理解していたし、
何と言ってもハルナン自身がそうとしか思えていなかった。
全身から滝のような汗を流しながら、ハルナンは思考する。

(どうすれば……どうすれば私は王になれるの!?)

此の期に及んで、ハルナンには勝利するビジョンが描けていなかった。
ここで立ち上がろうとも、このまま死んだフリを続けようとも
サヤシに捕まって終わるイメージしか出来ていないのだ。
とは言え全くの無策という訳ではない。
ただ、「それ」が叶うための事象が発生する確率が限りなく低いのである。
決闘前、作戦を練る段階では「それ」はほぼ確定的に起こりうるものだと信じていたのだが、
ここまで来てもまだ来ないために、ハルナンの焦りが加速していく。

(どうして!?どうして来ないの!?……絶対に来るって信じていたのに……)

絶望に打ちひしがれたハルナンは、死んだフリの最中だというのにもかかわらず、天を仰いでしまった。
もうどうとでもなれと、ヤケになったのかもしれない。
ところがその時、ハルナンの頬へと朗報が舞い降りてくる。

「きた!!!!!」

突然ガバッと立ち上がったハルナンを見て、一同は驚いた。
戦闘中とは思えぬ喜びように、何が何だか分からなくなってくる。
そんな周囲の反応も構わず
ハルナンはフクを指さし、見栄を切る。

「やっと来ました。王の座、もらいます。」

733名無し募集中。。。:2015/12/04(金) 18:22:29
何が来たの?

734名無し募集中。。。:2015/12/04(金) 20:51:24
マイミが居ると言うことは荒れしかない←

735名無し募集中。。。:2015/12/05(土) 11:33:05
頑張れハルナン!

736名無し募集中。。。:2015/12/05(土) 12:43:33
マーサー王国の世界で作って欲しいな

三國志ツクールが発売されるのでハロプロ三國志のアイデアください [無断転載禁止]���2ch.net
http://hello.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1449236618/

737 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/07(月) 13:00:25
ポツリ、またポツリと水滴が落ちてくる。
それが雨粒だと気づくのには時間は要らなかった。
何故ならば、天候は10秒も経たぬうちに集中豪雨へと変わっていったのだから。

「な、なんなんだこの雨はっ!」

雨どころか強風も伴う暴風雨に打たれたことにサヤシは驚きを隠せなかった。
この訓練場の天井は以前クマイチャンがぶっ壊したために、雨風を防ぐ機能が失われていたことは知っていたが
こうも急に天気が変わるなんて異常にも程がある。
よりによって大事な決闘の時にこんな悪天候に見舞われるなんてとんだ災難だとも思ったが、
Q期の将、フク・アパトゥーマはこれが必然であったことに気付き始めていた。

「……そうか!なんで今まで忘れていたんだろう。」
「フクちゃん!?」
「サヤシ気をつけて!この雨は仕組まれている!!」

フクが叫ぶ位置から少し離れたところ、
見届け人の席ではマイミとマノエリナがバツの悪そうな顔をしながら俯いていた。
サユは自身の上着を動けぬオダに被せると、2人に対してチクリと言い放つ。

「この雨、あなた達のせいでしょ。」
「あぁ……」「おそらくそうかと……」

サヤシは知らなかったようだが、マーサー王国のマイミとマノエリナと言えば超のつくほどの雨女として有名だった。
それは迷信や噂話といったレベルを遥かに超えており、
催し物を延期させたり、移動の足を止めたりすることはしょっちゅうだ。
そんな雨女の2人が見届け人としてやってきたのだから、本日の天気が豪雨になることは決定付けられていたのである。

「そして、あなた達ふたりを見届け人にするよう扇動したのは……」

そう、こうなるように仕向けたのは他でもないハルナンだったのだ。
敵に対して有利に振る舞うには「地の利」を生かすことが鉄則ではあるが
決闘場が誰もが知る訓練場であるためにそれを有効活用することは難しい。
ゆえにハルナンは「地の利」ではなく「天の利」を生かすことを考えたのである。
今こうして雨が降ることはハルナンのみが知っていた。
これからハルナンは誰よりも有利に立ち振る舞えるのだ。

「でもっ!この雨の中じゃあハルナンだって上手く戦えんじゃろっ!」

息も出来ないほどの豪雨。しかも足場も悪いので少し歩くだけでも転倒しかねない。
普通の戦士であれば剣を振るうことすら困難なはずだ。
しかし、ハルナンには自分だけがただ一人動くことの出来る確固たる自信が備わっていた。

「私を誰だと思ってるんですかね……天気組の『雨の剣士』ですよ?」

738名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 13:18:47
最初なんでマノチャンが?って思ったけどそう言うことだったのか!?ハルナンオソロシイ…w

739 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/07(月) 13:18:54
>736
こんなのがあるのですね。
手を出してみたいが、時間が無いので断念しますw
続きを書く方に専念せねば、、、

740名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 20:34:34
たまんねー!頑張れハルナン!

741名無し募集中。。。:2015/12/07(月) 23:51:56
マーサー王完結したら期待してますw

742 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/08(火) 13:23:04
雨の剣士という通り名は、決して雨天に強いからという理由で付けられたわけでは無い。
敵の身体部位を機能停止させるほどに斬りまくった結果、
そこから発生する血の雨に由来していたのだ。
なのでハルナンも他の剣士同様に荒天ではパフォーマンスが落ちるはずなのだが、
今日の彼女の動きからはそれを全く感じさせなかった。

「サヤシさん、あなたさえ倒せば実質的な勝利なんですよ!」

大雨で足元の悪い中、ハルナンはまったく滑ることなくスイスイと前進していっている。
ただでさえ瓦礫の上は動きにくいというのに、そこに雨水も加わった状況でこうもスムーズに動けるのは異常だ。
訓練とかでどうこう出来るレベルを超えている。
まるで特殊能力者のように振る舞うハルナンを前にして、サヤシは焦らずにはいられなかった。
だが、それでサヤシが圧倒的に不利だと決めつけるのは早計だ。
何故ならサヤシとハルナンの実力には大きな開きがあったからだ。

「ウチは負けない……ハルナンの攻撃の威力はだいたい分かっちょる……
 ガチンコでやったら負けるはずがないんじゃあ!!」

サヤシは己を鼓舞するかのように叫びだした。
この足元の悪さではもはや一歩も動くことは出来ないが、
幸いにも敵であるハルナンの方からこちらにやってきていた。
ならばやるべきは模擬刀と模擬刀のぶつかり合い。
となればいくら雨が降っていようと、剣術に長けているサヤシが有利に違いない。
非力なハルナンの斬撃を受けながら、強烈な一撃をぶっ放せば良いのだ。
サヤシは、そう思っていた。

「まだ分からないんですか?サヤシさん。」
「!?」
「私の繰り出す攻撃は、全てが必殺技級の威力に変わるんですよ。」

ハルナンはサヤシの左肩を、コン、と軽く小突いた。
普通であればなんともない攻撃だ。
むしろ攻撃とすらみなされない行為かもしれない。
しかし、今は状況が異なっていた。
雨水で踏ん張ることの出来ないサヤシはただそれだけでバランスを崩してしまい
大袈裟に転倒し、顔面から地面に落ちてしまった。
それもただの地面ではない。尖ったものがたくさん転がる瓦礫の山にだ。
こうなれば、サヤシの顔は血まみれのグシャグシャになってしまう。

「あ……ああ……」
「女性の顔を潰すのは心苦しいですね。だからサヤシさん、そのまま寝転がることをオススメしますよ。」

743 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/08(火) 13:24:00
三部まで完結するのは来年末とかになってそうですねw

744名無し募集中。。。:2015/12/08(火) 14:15:45
乙女を顔をもぐしゃぐしゃに痛めつける作者はSだなw

745名無し募集中。。。:2015/12/08(火) 17:14:26
S描写には定評のある作者さんだからな

746 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/09(水) 12:58:11
転倒による顔面への強打は痛いなんてものではなかった。
出血量も尋常ではなく、雨水で流される暇もなく溢れかえっている。
ただ肩を軽く叩かれただけでこれだけの大怪我を負わされたため、当然サヤシはパニックに陥る。
ハルナンはその狼狽っぷりを見て満足したのか
くるりとフクの方を向いて歩きだしてしまった。
おそらくはサヤシにやったように、フクも滑らして転ばすつもりなのだろう。

(今のフクちゃんが転ばされたら……もう起き上がることは出来ない!)

サヤシはパニック状態にあるものの、仲間の危機についてはなんとか察知することが出来た。
先ほどハルナンは「寝ててください」などと言っていたが、そんなこと出来るはずもない。
例え自分の顔が傷つこうとも、血液を大量に失おうとも
フク・アパトゥーマの刀として働く使命だけは果たさねばならないのだ。

(背後からやるしかない!ハルナンを斬るんじゃ!)

サヤシは上半身を起こし、この場を去ろうとするハルナンには向かって斬りかかった。
不意打ちではあるが、真剣勝負に卑怯もへったくれもない。
悪いのは相手の状態もろくに確認しないまま背を向けたハルナンの方なのだから。
……と、サヤシは思っていたが
このすぐ後の行動でその認識を改めることとなる。

「やっぱりそう来ますよね。」

なんとハルナンはサヤシの方へと身体の向きを戻し、
低い体勢から攻撃を仕掛けるサヤシの額を強く踏みつけたのだ。

「がっ!!……」
「寝てるわけないですもんね。サヤシさんのストイックさ、本当に感服します。」

『サヤシは必ず起き上がって奇襲をかけてくる』
ハルナンはそう予想していたからこそ、このような行動を取れていた。
サヤシは逆境に立てば必ず死に物狂いで立ち向かってくると、心から信じていたのである。
そして、この時ハルナンが見せた凄技は行動予測のみではなかった。
この滑りやすい環境で、一時的とはいえ蹴りのために片足で立っていたことが既に妙技なのだ。
これにはマノエリナも不思議がる。

「あのバランス感覚はいったい?……まるで雨天の戦いに慣れきっているような……」

マノエリナの発言がヒントになったのか、サユ王は何かに気づき始めた。
そしてマイミの方を向き、自身の考えを述べていく。

「ハルナンはこの一ヶ月間のほとんど、マイミと行動を共にしてたのよね?」
「その通り。訓練中も防衛任務中もずっとついてきていたな。」
「その期間のマーサー王国……いや、マイミ周辺の天気はどうだったの?」
「……言わなくてはダメか?」
「言って。」
「毎日が雨天の連続だ。」
「やっぱり。」

747 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/09(水) 12:59:32
描写は前作比では抑えめにしてるつもりですw

748名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 18:05:50
ハルナンスゲー

勝っちゃうんじゃね?
ハルナン王のモーニング帝国も見てみたい

749名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 19:58:47
ハルナン王か…勝手なイメージだけどハルナンには参謀がよく似合うw
それか三国志の司馬懿のように国を乗っ取って自らが王となるような…w

750名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 20:40:02
>>749
すごく分かるわ

751名無し募集中。。。:2015/12/09(水) 22:01:34
いや俺マジでここのハルナンのファンになって現実の飯窪春菜も推すようになってしまった

勝利の為には手段を選ばず我が身も省みず全力なところはどこか飯窪さんらしいジョジョのキャラっぽくもあって
作者さんの動かし方には感心させられますわ

752 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/10(木) 12:53:37
私の書く飯窪さんモチーフキャラは何故か黒くなりがちなんですけども
好評のようで安心しました。
このまま第一部の終わりまで突っ走っていきます。

あ、今日の更新は夜になります> <

753名無し募集中。。。:2015/12/10(木) 13:08:57
なんか完結する頃にはホントはるなんハロプロリーダーとか就任してそうだよなw

754 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/11(金) 02:49:43
名目上では、ハルナンは罪を償うためにマイミの側につくということになっていたが、
彼女の本当の狙いは「雨に慣れる」ことであった。
超がつくほどの雨女であるマイミの近くにいれば、必ず豪雨に見舞われる。
戦闘中だろうと、食事中だろうと、睡眠中だろうと、雨女パワーが弱まることは無いのだ。
そうすることによってハルナンは雨水にも耐えうるバランス感覚を身に着けようとしたのである。
……とは言っても、四六時中すべてが雨という訳には流石にいかなかった。
今日この日だってハルナンを焦らせる程度には晴れ続けていただろう。
いくらマイミが雨女でも、せいぜい降水確率を大幅に上げることくらいしか出来ないのだ。
ところが、ハルナンは晴れの日にだって雨の経験を積む作戦を練っていた。
それは「マイミの台風のようなプレッシャー」を浴び続けることだった。
マイミが臨戦態勢に入るとき、まるで暴風雨の如き重圧を発することは
アンジュ王国の番長タケやカナナンが身をもって経験している。
特にマイミはハルナンのことを自分を騙した敵だとみなしていたために、
瞬間最大風速計測不能級の台風のようなプレッシャーを絶え間なく放ち続けていた。
それを至近距離で常に浴び続けたのだから、そんじょそこいらの雨に当たるより良い経験になったろう。
正直言って、負傷した身体で緊張し続けることは吐くほど辛かったし、
キュート戦士団の他の4名それぞれから受けたプレッシャーも苦痛だった。
気が狂いそうになった。逃げ出したい衝動に何度も駆られた。
だが、ハルナンはなんとか耐えきったのだ。信念だけは貫き通したのだ。
最終的には、あれほど敵意を抱いていたマイミから認められた程だ。

「雨が降り続ける限り、私は帝国剣士最強です。これは傲慢でもなんでも有りません。事実です。
 サヤシさんよりも……そして、フクさんよりも強いんですからね!!」

ハルナンはフクをキッと睨みつける。
豪雨が邪魔をしてその時のフクの表情はうまく読み取れなかったが、
相当に焦っているということは容易く理解できた。

「動けないんですよね?そこで黙って見ててください。
 サヤシさんにトドメを刺したらすぐに向かいますから。」

755名無し募集中。。。:2015/12/11(金) 06:36:52
キュート戦士団の四人はどんなプレッシャーなのか…そういやアイリも雨の日に強くなるんだよな

756名無し募集中。。。:2015/12/13(日) 01:51:27
>>594
自ら敵陣に乗り込んで、辛さに堪え忍ぶくらいの気概

ハルナンのことか

757 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:32:06
>>753
残りのベリキューのプレッシャーについては考えています。
前作ネタだったり、いまの活躍を参考にしたものだったりと様々ですが……

>>754
!!
とりあえずノーコメントでw

758 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:33:07
あ、アンカー間違えてました。
それぞれ>>755 >>756 に対するレスです。

759 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/14(月) 12:59:48
またか、とサヤシは思った。
格下扱いしていた相手に出し抜かれるという構図は、
一ヶ月前にハル・チェ・ドゥーにやられたのと全く同じ。
自分があまりにも成長していないため、落ち込みかけてしまう。

(いや、今は落ち込んでる場合じゃない!)

サヤシが思う通り、ここで落胆しても何も始まらなかった。
もしも諦めればハルナンはフクのところに行くだろう。
このハルナン圧倒的有利の環境で一対一の状況を作るのはまずい。
悔しいが、そうなればフクは長くは持たないだろう。
だからサヤシはここでハルナンを止めるしかないのだ。

(仕留める……までは出来んじゃろな。
 ハルナンは強い。ウチはまだ未熟……ちゃんと認めよう。
 じゃけど、削ることなら出来るはず!!)

サヤシは己の額を自ら地面に叩きつけ、
破片だらけの床であることもお構いなしにグリグリと擦り付けていく。
出血する傷口を更に痛めつけるのには理由があった。

「ウチの十八番は居合いだけじゃない!ダンスもじゃ!!」

サヤシは接地したおでこを起点にして、逆立ちするように両脚を上げていった。
これはヘッドスピンと言われるダンスの技。
本来は平らな床の上で行われるものではあるが、頭部を軸にして高速の回転力を発生させることが出来るのだ。
サヤシは自らが負傷するほどのリスクを負う代わりに、ハルナンに蹴りをぶつけようとしたのである。
ハルナンもサヤシが何かするとは思っていたが、それがダンスの技とまでは想像していなかったので
至近距離でサヤシの回転を受けてしまう。

「ああっ!!」

人間一人分が勢い付けてぶつかってきたので、ハルナンは耐えきれず転倒してしまう。
いくらハルナンが豪雨の中でも転倒しないバランス感覚を身につけたとは言え、
蹴りを受けても転ばない訓練をしてきた訳ではないので、当然の結果とも言える。

760 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/15(火) 12:54:45
転倒した結果、ハルナンは背中を強く打った。
それだけで呼吸が困難になるほどに苦しいし
その上、細かな破片が突き刺さったのか、あちこち出血していることも分かる。
自らが仕掛けた瓦礫だらけの戦場で、自分が傷つくとは皮肉なものだ。
なんとか意識を保ってはいられたが、もう少しサヤシの攻撃が重かったら正直言って危なかっただろう。
サヤシが小柄で細いのが幸いした。
今よりもう少しウェイトがあって、ポッチャリしてたら勝負は決していたのかもしれない。
それだけハルナンはギリギリだったのだ。
だが、そんなハルナンにもそれなりの成果は得られたようだった。

「あれ、サヤシさん……ひょっとして気を失ってます?」

ハルナンの目の前には、頭部から多量に血を流したサヤシが横たわっていた。
おそらくは出血多量と激痛に耐えきれず、気絶してしまったのだろう。
最後の強敵と思っていたサヤシがこうもあっけなく倒れたので、ハルナンはにやけそうになるが
ここは気を引き締めて、冷静に対処することにした。

「ちょっと分からないので、確認させてもらいますね!」

ハルナンはわざと大きな声を出しては
立ちあがって、サヤシの横っ腹を強く踏みつけた。

「念のためもう一発!」

一発と言っておきながら、ハルナンは二発、三発、四発もサヤシを蹴飛ばした。
この行為にはサヤシの安否を確かめるという理由の他に、
Q期最後の生き残りであるフク・アパトゥーマを刺激するという意味も込められていた。

(私の知っているフクさんは仲間を足蹴にされて黙っていられる人じゃないはず!
 さぁ!そのズタボロの脚でここまで来てみてください!!)

761名無し募集中。。。:2015/12/15(火) 15:27:44
ハルナンおっかねえよw

762名無し募集中。。。:2015/12/15(火) 19:20:08
心臓の音を聞くんじゃないのか
確認させてもらいます でDIOを期待したのにw

763名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 02:39:39
ハルナン…ゾクゾクするねぇ

764 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/16(水) 10:57:21
激昂したフクが瓦礫と豪雨に手こずっているところを叩くのがハルナンの勝ち筋だった。
味方であるサヤシがこんなにも酷い仕打ちを受けたのだから、
仲間思いのフクならいてもたってもいられなくなるだろうと考えていたのだ。
ところが、フクはハルナンの思った通りには動かなかった。
サヤシを幾度と踏みつけても、彼女は元の位置を離れようとはしない。

(おかしい……いつものフクさんじゃない?)

これ以上サヤシをいたぶるのが無駄だと感じたハルナンはすぐに攻撃を停止する。
サヤシが戦闘不能だというのは十分すぎるほど確認できたので、
黙りを決め込んでいるフクの方へと自ら向かうことにする。

「リスクを冒さないと利は得られないってことですね…
 分かりました。長い長い戦いに決着をつけに行きましょう。」

降りしきる大雨の中、ハルナンは敵将フク・アパトゥーマの元に一歩、また一歩と歩みを進めていく。

765 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/16(水) 10:58:07
ちょっと短めの更新ですが、、、


DIOネタは思いつかなかったですw

766名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 12:40:03
静かなるフクが恐ろしい…w

767名無し募集中。。。:2015/12/16(水) 17:25:07
いかに帝国剣士と言えどスタンドなしで心臓止めるのは厳しいやろw

768 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/18(金) 10:49:31
視覚的な情報が雨で遮られていたため、ハルナンは黙するフクを脅威に思っていた。
ところが実際は恐れることなど何もなく、
当のフクはただただ泣きそうな顔で絶望に打ちひしがれているだけだった。
まさに杞憂も杞憂。
限界を迎えた脚が本当に言うことを聞かないため、フクは動きたくても動くことが出来ないのである。
その上、必殺技Killer Nを放つ時に天気組三人から受けた傷が痛むので上半身も満足に動かない。
即ちフクはこれ以上ない程の満身創痍。
二発目の必殺技を繰り出すどころか、這って移動することすらままならないのだろう。
しかも雨風は継続して容赦なく降り注いでいる。
冷たく身にしみる雨粒は体力と熱量を次々と奪っていくため、
フクはあと数分も経過したら立てなくなるくらいに衰弱していた。
空が晴れれば少しは体力も回復するのかもしれないが、それがあり得ないことはフクが一番よく知っている。
食卓の騎士を尊敬しているだけに、マイミの雨女パワーの弱化を想像することすら出来ないのだ。
マイミとマノエリナを凌ぐほどの晴れ女が突然現れることなんてそう有り得た話ではないため、
そこに関してはフクも諦めていた。
だが、この場で立ち続けることだけは決して諦めてはいない。
歯を食いしばり、意識が飛びそうになるのを堪えて、気を引き締める。
もしもここで倒れてしまったらエリポンの、サヤシの、カノンの犠牲が無駄になることを分かっているからこそ
フクは恐ろしい強敵の前でも立つことが出来るのだ。
しかし、裏を返せばフクを支えるモチベーションはたったのそれだけ。
普段は応援という形で勇気を貰うのだが、今のこの状況ではそれが全くと言って良いほど期待できない。
唯一の仲間であるQ期はみな倒れているし、
立会い人は中立であるため、声に出してフクにエールを送ることはない。
つまりこの広い訓練場でフクはひとりぼっちなのである。
応援といった後押しもなく、弱った身体でハルナンに対抗するのは至難の技に違いない。
そうして困窮するフクに向かって、ハルナンがまた一歩近づいてくる。

769名無し募集中。。。:2015/12/18(金) 12:24:58
まさかもう何も打つ手が無かったとは・・・
雨女二人を覆す位の晴れ女なんて彼女達位しかいないけど…

770 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/19(土) 15:04:05
ハルナンがフクの元に到達したちょうどその時、
本来ならばありえないはずのことが起き始めた。

「晴れ……た?」

先ほどまで訓練場を局所的に叩きつけていた豪雨が、嘘のように消え去ったのだ。
黒々とした雨雲も、吹き飛ばされそうなくらいの強風も、今はもう何もない。
唯一存在するのは暖かな日差しのみ。

「ど、どういうこと!?ありえない!」

当然のようにハルナンはパニックに陥る。
マイミとマノエリナといった盤石の布陣を築き上げてきたはずだったので
こうも簡単に雨が止んだ事実を受け入れられていないのだ。
信じられないような顔をしているのはフクも同じ。
だが、フクは知っていた。
雨女二人のパワーをも覆すことの出来る晴れ女集団がマーサー王国に存在することを。

「来てくれたんですね……皆さんお揃いで。」

フクが感激の涙を流すのと同じタイミングで、マイミとマノエリナは互いに顔を見合わせる。

「なるほど!あいつら近くに来ているんだな。」
「はい、この感じからすると6人全員いるに違いありません。」

一連の光景を目にしたマーサー王は、大きな声をあげて笑い飛ばした。
結末が全くと言っていいほど予想のつかない決闘に、心から満足しているようだった。

「フク・アパトゥーマも、ハルナン・シスター・ドラムホールドも
 どちらも勝利のために食卓の騎士の力を利用するとは……なかなか面白いじゃあないか。
 この勝負、どちらが勝つのかいよいよ分からなくなってきたとゆいたい。」

771 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/19(土) 15:05:05
>>769
正解ですw

772名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 15:47:00
>>27
マーサ…6人…ハッ!?

松か?松なのか!?

773名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 15:47:45
安価ミス

774名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 18:40:17
>>771
当たっちゃった…って王国ほったらかしで何してるんだかw

775名無し募集中。。。:2015/12/19(土) 23:48:13
食卓の騎士4人いれば十分なほど強くなっているってことなのだろう

776名無し募集中。。。:2015/12/20(日) 21:46:12
文化番長メイメイがまさかの卒業・・・マーサー王始まってからすでに3人(幻の4人)卒業だなんて…変化激しくて構想狂いまくってそうw

777名無し募集中。。。:2015/12/20(日) 21:47:30
>>775
お留守番のキュート戦士団…今は4人か6人かも気になるな…

778 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/21(月) 13:26:36
モーニング帝国城の城門。
現在そこにはマーサー王国から来たとされる6名の騎士が居座っており、
帝国の門番や、警備研修の真っ只中にある研修生らを震え上がらせていた。

「モモ!本当に私たち全員がここまで来る必要あったのか!?」

モモ、と呼ばれる女性に対して怒鳴り声をあげたのは
鋭い目付き(と顎)が特徴的な女性だった。
怪物のようなオーラを放つ集団の中でも彼女のそれは特に殺人的であり、
兵士らはみな、全身の四肢が鋭利な刃物によって輪切りにされたかのような錯覚に陥っていた。
人体の「普段は見られない裏側」をオープンに晒す感覚は、イメージとは言え恐ろしい。

「あら、ミヤはマーサー王に何かあっても良いって言いたいの?
 私たち全員で帰路を護衛するべきだと思わなかった?」
「マイミとマノエリナがついてるじゃないか!どう考えても十分すぎる。」
「"あの時"みたいなことが無いとも言えないでしょ?」
「うっ……」

通称モモも、ミヤと呼ばれる女性に負けず劣らずの存在感を持っていた。
彼女が発するのは冷気。
戦士として位の低いものはすぐにでも凍死してしまうほどの寒気を感じてしまう。

「ちょっと二人とも!喧嘩はしないの!」
「ほんとだよ!マーサー王を護る私たちが仲間割れしちゃ意味が無いよ!」

二人の仲裁に入ったのは、「色黒の長身」と、「長身の域を超えた巨人」だった。
色黒はとても明るくて、戦いとは無縁のように見えたが
その太陽のような明るさが突出しすぎるあまり、兵士らは業火の如き熱に炙られる。
肌が焼けて真っ黒コゲになる苦痛は並大抵ではなかった。
そして巨人は巨人で、天空から押さえつけてくるかのような重力を発生させている。
門番と研修生の全員がここから逃げ出したいと思っているのに、
それが叶わないのはこのプレッシャーのせいだったのだ。
もう一人、さっきから退屈そうにしている美女もいるが
その美女のオーラも例外なく凶悪。
ゆえに一般兵らは5種類の殺人級オーラをグッチャグチャに浴び続けなくてはならなかった。

「よし分かった!モモの言い分を少しは認めよう!護衛の強化は必要だった。」
「少し?何よその引っかかる言い方は。」
「副団長である私ならびに、ベリーズの構成員4名が王を護るのは認める。
 でも、お忙しい団長のお手を煩わせる必要はなかったんじゃないか!?
 ですよね?シミハム団長!」

視線の先にいたのは、目を閉じて座禅を組んでいる小柄な女性だった。
派手な怪物集団の団長と言うにはあまりにも地味で、弱々しくも見える。
そして不思議なことに、その団長からは全くと言って良いほどオーラが感じららなかった。
他のメンバーが天変地異を起こしているのに対して、彼女は"無"そのものなのだ。
一見して弱き者だというのに、化け物らみなが注視してる。
目をパチリと開いた団長が首をちょっと横に振るだけで、大袈裟に反応をする。

「団長!……団長がそう言うのであれば……」
「ほら〜私の方がシミハムの気持ちを分かってたでしょ?」
「う、うるさい!」

779 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/21(月) 13:28:14
芽実の件も驚きましたね、、、
でも二部の内容にはほとんど影響ありません。
まだ固まって無い三部の内容は揺れてますけどねw

キュートの人数はまた今度に。

780名無し募集中。。。:2015/12/21(月) 16:40:28
オーラやべぇw
兵士達は失神して漏らすレベル

781名無し募集中。。。:2015/12/21(月) 20:50:02
団長のプレッシャーは『沈黙』かな?そうか…シミハムの声はもう。。。涙

そっか取り敢えずメイメイは話に影響ないのか〜

キュートはまだひっぱるのねw

782 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/22(火) 12:55:03
フク・アパトゥーマは、自身の身体が軽くなるのを確かに感じた。
体力を奪いつつあった豪雨が止んだというのもあるが
それ以上に「憧れのベリーズ戦士団が来てくれた」という事実が疲れを吹っ飛ばしてくれている。
しかもフクは、ベリーズが自分を応援してくれているということを微塵も疑っていない。

(有難う御座います!私、勝ちます!)

Q期の期待に応えるという使命感に加えて、歴戦の戦士らの応援パワーも加わったのだからフクはもう無敵だ。
激痛で動かせなかった腕だって、今なら動く。
これまでにない希望に満ちた一撃を、ハルナンへとぶつけていく。

(どうして!?こんなのありえない!!)

フクとは対照的に、ハルナンは絶望の奥底に立たされていた。
さっきまでの勝ちムードが180°ひっくり返されたので、動揺も半端ではない。

(フクさんはこれを狙っていたというの?……それとも全くの偶然?)

これまで豪雨でフクの表情が見えなかったため、ハルナンは相手の真意を掴めずにいた。
天候を晴れにする手段を握りながらハルナンを躍らせていたのかもしれないし、
あるいは何も考えずこうなることだけを信じて待っていたのかもしれない。
前者であればハルナンをも越える策略家となるし、
後者であれば神に愛された存在だと認めなくてはならない。
どっちにしろ、今のパニック状態にあるハルナンが相手するには強大すぎていた。

「う、うわああああ!」

ハルナンは模擬刀を構え、フクの放つ斬撃に力いっぱい当てていった。
もはや、それくらいしか出来なかったのだ。

783名無し募集中。。。:2015/12/22(火) 14:59:40
ハルナン策士の割には詰めが甘かったな
こんな形成逆転の一手を許すとは

784名無し募集中。。。:2015/12/22(火) 17:54:06
策士策に溺れる…ハルナンらしいなw

785 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/23(水) 12:59:11
フク・アパトゥーマとハルナン・シスター・ドラムホールド。
この時点でどちらがより負傷しているかと聞けば、誰もがフクを指さすだろう。
いくら元の膂力に差があるとは言っても、
この状況で普通に斬り合えばハルナンが勝利するはず。
しかし、精神の疲弊が段違いだった。
地から天に上がったばかりの者と、天から地に落とされたばかりの者とでは、勢いか違うのだ。
そして奇跡はまたもフクを味方する。

(えっ?……剣が何色にも輝いて……)

フクの剣が七色に輝くのを目撃したハルナンは、
いよいよ神の所業であることを疑わなくなってしまった。
普段フクが持つ装飾剣よりも煌びやかに輝く模擬刀を前に、
対抗せんとする意志さえも奪われたのだ。
もっとも、フクの剣が輝いた現象は神や仏の仕業とはまったく関係ない。
ただの光の反射。単なる物理現象である。
オダ・プロジドリやサユ王がやってみせたような刀身による反射がたまたま決まっただけのこと。
唯一違う点といえば、雨上がりの太陽光を跳ね返したために
その光が虹色に輝いたことくらい。
マーチャン・エコーチームが製作したこの模擬刀は、汎用的なためどんな色にも変えることが出来る。
サヤシにつけばサヤシの色に、アユミンにつけばアユミンの色に、
要するに推し変がとてもし易い仕様になっている、というのは以前説明した通りだろう。
だがいくら変えられるとは言っても、フクは単推し程度では満足出来なかったのかもしれない。
彼女の剣は7色の剣。
つまりは箱推し。
尊敬する人物を一人に絞るなんてナンセンス。
まったくもって勿体なさすぎるのだ。

「たあああああ!!」

その一撃は確かに弱々しかったかもしれない。
それでも、同期の思いを乗せて、尊敬する戦士らの応援を力にして、なんとか放つことができた。
だからこそ、考えすぎた結果として恐怖に飲まれたハルナンを打ち破れたのだ。
すべての結末を見届けたサユ王が立ち上がり、宣言する。

「勝者はフク!次期モーニング帝国帝王はフク・アパトゥーマであることを認める!」

勝利をおさめたフクは安心しきって、その場に倒れてしまう。
今はホッとしているが、これからが大変だろう。
なんせ、今後は七色では収まらない程の光を背負い続けなくてはならないのだから。

786 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/23(水) 13:01:21
決着はつきましたが、一部はあとちょっとだけ続きます。

現在はハロショで娘。の握手待ち。。。
参加メンバーは鞘師に加えて譜久村、飯窪、あかねちんです^^

787名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 13:35:52
ついに決着!新フク王万歳!ハルナンも頑張った!

そしてリアルに握手会に参加する作者さん…取り敢えず譜久村と飯窪さんに謝っとけwまた創作意欲湧くこと祈ってます

788名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 18:36:44
なんか最後の最後でハルナン情けないなあ

789 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:56:00
決着から数ヶ月後。
モーニング城では新たな帝王の就任式が始まるとして、たいへん賑わっていた。
この日の主役はもちろん、例の決闘で勝利したフク・アパトゥーマだ。
数時間後の就任スピーチに備えて、控え室で身体を休めている。

「フク王様、脚の方の調子はもう宜しいのですか?」
「うん、ハルナン。もうすっかり歩けるようになったよ。」

この控え室の中にはフク王の他にもう一名。
モーニング帝国に2人存在する帝国剣士団長のうちの1人であるハルナンが立っていた。
これから大舞台へと羽ばたくフクのサポートを務めているのだ。
もう1人の帝国剣士団長は部屋の外の警備に当たっているため、ここには2人しかいない。

「それにしてもフク王様。」
「なに?どうしたの?」
「やっぱりフク王様こそ前線で戦い続けるべきだと今でも思うんですよねぇ……
 王座は、戦闘の役に立たない私に譲ってみませんか?」
「ちょっと!まだ言ってるの!?」
「うふふふ、冗談ですよ。 緊張をほぐすためのギャグです。」
「笑い事じゃないよもう……それにね、ハルナン。」
「はい?」
「私はね、ハルナンの方がずっと前線向きだと思ってるよ。」
「……それはギャグですか?」
「ううん。冗談なんかじゃない。
 ハルナンの策で帝国剣士全員を動かしたら凄いことが起こるはず。
 ううん、モーニング帝国剣士だけじゃもったいない。
 アンジュの番長、果実の国のKAST達とも協力しよう。
 個性の強い戦士達をまとめる総指揮は、ハルナンにしか取れないんだよ。」
「お言葉は嬉しいですけど……結局、私が前線に立つのとは関係ないのでは……」
「ある。」
「ありますか?」
「ハルナンはいつも最後には自ら敵に立ち向かってるよね。
 その自己犠牲の精神があるからこそ、天気組のみんなは従ってきたんじゃないかな。」
「あはは、じゃあそう受け止めておきます。
 ただ、一つだけいいですか?」
「なに?」
「総指揮に立つってことはQ期さんも自由に使っていいんですよね?
 後輩の私から命令するのは難しいので、王の方から新任帝国剣士団長さんに言付けしてもらえませんか?」
「うん。言っておく。」
「それはどうも。」

790 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:59:07
マーチャンがやられた時点でハルナンには豪雨の中での戦いしか残されていなかったので、
雨が止むことでパニックになり、冷静さを欠いたということになっています。
ベリーズ全員がやって来るというのは、想定外だったんですね。

握手会行ってきました!みんな可愛かったです。
一瞬で終わったので謝罪は無理でしたw

791名無し募集中。。。:2015/12/24(木) 20:39:30
まぁベリーズが総出来るなんてそりゃ想定外だわなw
握手会楽しんで来たようで何より

792 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:13
式典が行われる会場には数え切れないほど多くの人々が収容されていた。
城に仕える者だけではなく、新たな王を一目見たいと望む国民たちも集っている。
おかげ様で一階席、二階席、アリーナ席のどれもが満席。満員御礼だ。
そして、関係者席には特に重要なVIPらが着席していた。
アンジュ王国のアヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー王ならびに8名の番長や、
果実の国のユカニャ・アザート・コマテンテ王と4名のKASTらも十分大物ではあるのだが、
特に来場客らからの視線を集めていたのはマーサー王と11名の食卓の騎士だった。
祝いの場なのでいつもの天変地異の如き殺人オーラを最小限に抑えてはいるが、
それでも彼女らはそこに居るだけで周囲を緊張させる。
この数ヶ月で大きく成長したモーニング帝国剣士らも、ベリーズ&キュートの放つプレッシャーだけはまだまだ苦手なようだった。
あの自由奔放なマーチャンでさえも、本能で危険を感じ取ったのか、大人しくなっている。
そんな中でビビっていないのはQ期団のサヤシ・カレサスくらいのものだ。
とは言っても、決してサヤシのメンタルが強くなったという訳ではない。
今は別件で頭がいっぱいなのである。

「認めない認めない認めない……」
「ちょっと、まだ落ち込んでるの?」
「カノンちゃん……ウチはもうダメなんじゃ。Q期としてやってく自信が無い……」
「気持ちは分かるけど決まったものはしょうがないでしょ。
 ほらお菓子あげる。ストレスは甘い物で吹き飛ばせばいいんだよ。」
「ありがとう……」
「まだたくさん残ってるからね。」

793 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:43
夜ごろにまた更新出来そうです。

794名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 15:51:05
やはり食卓の騎士は『11名』なのか…

夜の更新も楽しみにしてます

795名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:09:41
悪魔の誘惑やめーやw

796 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:16:31
トントン、と扉がノックされる音をフクとハルナンは耳にした。
警備を担当する新帝国剣士団長、兼新Q期団長には誰も通すなと伝えていたので
2人は少しだけ怪訝そうな顔をしたが、
部屋に入る客人の正体を知るや否やすぐに納得する。

「へぇ〜フクちゃんなかなか可愛く着飾ってるじゃないの。」
「「サユ王様!!」」
「王じゃないでしょ、もう。」
「いえ、私たちにとってはいつまでもサユ王です。」

フクを訪ねてきたのはモーニング帝国の先代の王、サユだった。
わざわざこうして訪ねてきてくれたのだから、現王フクはたいへん嬉しくなってくる。

「でもいったい何の御用で……ひょっとしてスピーチのアドバイスとか……」

サユは名演説家として他国にも有名だったので、
人前で話すのが苦手なフクはありがたい助言を期待していた。
ところが、サユの目的はそれではなかったようだ。

「ううん、初スピーチは自力でなんとかなさい。」
「ではいったい何用で…」
「私はね、自分の考えの正しさを確認しに来たの。
 いや〜我ながら完璧完璧」
「???」

フクにはサユの言葉の意味がまるで分からなかったが
ハルナンはすぐに気づいたようで、クスクス笑っていた。

「ふふふふ……スパルタにも程がありますよ。本当に。」
「え?え?ハルナンは何か知ってるの?」
「はい。サユ様は私たち帝国剣士に一人前になって欲しいがために引退を決意したんですよ。」
「ええ〜〜!?」

そこからサユはこれまでの選挙戦の裏で行われた、
数々の暗躍を白状していった。
わざと全員が血を流すように誘導したこと、
ハルナンが上手い具合に盛り上げてくれたこと、
そして最終的に素晴らしき新王と、立派な帝国剣士たちが誕生したことを告げていく。

「……ってワケ。なかなか満足いく結果だったわよ。」
「あ、有難う御座います!そんなに良くしてくれてたなんて……
 でも、ハルナンはこのことを初めから知ってたの?
 じゃあ今までのは全部演技……」
「違いますね。」
「!」
「演技なんかじゃありません。本気で帝王の座を勝ち取ろうとしてました。
 この期間、嘘をつくことはあっても手を抜いたことは一度とたりとも有りません。
 ですが、残念なことにフクさん達のほうが一歩上を行ってたのですよねぇ……」
「そ、そっか。」
「でもいいんです。おかげで"ファクトリー"に対抗できるかもしれない大戦力の指揮権を得ることが出来ました。
 いつまでも脅威に怯えるより、近々こちらから仕掛けていきましょう!!」
「「"ファクトリー"……!」

797 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:18:51
>>794
はい。ベリーズ6名+キュート5名の計11名となっています。
マノエリナは食卓の騎士には含まれません。念のため。

>>795
サヤシが誘惑に勝てたかどうかは二部以降をご確認くださいw

チャンスがあれば深夜にもう一回更新します。

798名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:49:47
やはりウメサン・メグ・マイハはいないんだな・・・分かっちゃいたが寂しいな

次回はついにファクトリーの謎が明らかになるのかな?サユ王も知らない感じだったけど…?

799名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 23:57:05
考えたらスケート靴とか忍刀の使い手が入るより先に王が代わるんだな

800 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:41:55
ハルナンは、王と剣士団長クラスの者にはファクトリーに関する情報を共有していた。
モーニング帝国に危険を及ぼすかもしれない存在ではあるが
その力が強大すぎるため、いたずらに恐怖を植え付けないよう公開範囲を狭めていたのである。

「ユカニャ王が"悪意なき悪"、"バイ菌"といった言葉で形容するファクトリーですが
 つい最近、マーサー王国の領土にて8名固まって行動しているのが確認されたみたいですね。」
「知ってる!確かベリーズの皆さんが対処したって聞いたよ。」
「はい。フク王様の言う通りです。」
「でも、シミハム様、ミヤビ様、モモコ様の力を合わせても追い払うのが精一杯だったらしいね……」
「はい。それもフク王様の言う通りです。」

あの怪物のように強い食卓の騎士3人の力を合わせても倒しきれなかったという事実は、
絶望を感じるには十分すぎるほどの情報だった。
そんな凶悪な存在が最低8人も周辺国をうろついていると考えると、王としては気が気でない。

「ハルナン。ファクトリーを倒す策はあるの?」
「……100%とは言えません。まだ足りていないんです。」
「足りていない、ってのは?」
「味方の伸びしろに関する情報ですね。特に新人が……」

完全に作戦会議モードに入るある室内に、外にいる新任剣士団長の声が飛び込んでくる。

「ちょっとちょっとー!そろそろ式が始まるけんねー急いで急いでー!」

はっとしたフクは時間を確認し、もう本番まで時間が無いことを理解する。

「あわわわっ、ほんとだ。急がなきゃ!」

フクとハルナンは急いで残りの支度を終わらせていく。
そんな慌ただしいフクに向かって、サユはくつろぎながら声をかけ始める。

「あ、そうだフクちゃん。」
「な、な、なんですか!?」
「合宿は全カリキュラム修了したから。」
「!!……それで、合否の方は……」
「安心していいよ。4人全員合格。」
「本当ですか!……ということは、残るは最終試験のみですね。」

801 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:43:20
>>799
ちゃんと忘れていませんよw
タイミング的にはほぼ同時ってとこですね。

802名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:27:51
ついに12期参戦か!寺合宿のシーンは描いてくれるのかな?

803名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:55:04
周辺国をうろちょろしてるってファクトリーは野盗かよw

804 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 17:33:43
舞台に主役が登場することで、会場は一気に静まり返る。
純白のドレスと、金色に輝くティアラで彩られた新王フク・アパトゥーマに目を奪われているのだ。
普段は軍服や訓練着ばかり着ているイメージが強いため、誰もがその美しさに息を飲む。
だが、しばらく経つと来場客はまたざわつき始めた。
フクではなく、その三歩後ろについている帝国剣士団長に注目している。
関係者席にいるサヤシも、その事実が公に晒されてしまったことにガックリきていた。

「はぁ〜……なんでエリポンなんかが剣士団長になってしまったんじゃ……」

王の後ろの帝国剣士団長は、新任のエリポン・ノーリーダーと、従来通りのハルナン・シスター・ドラムホールドの2名だった。
今後はそれぞれがQ期団と天気組団の団長をも兼ねることになる。
この時のエリポンの表情はドヤ顔にも程があり、
今すぐにでも「これが現実です。」と言いたそうな雰囲気を醸し出している。
このまま放っておけば会場はいつまでもざわついていたのだろうが、
フク王が拡声器に手を伸ばすことでそれもピタリと止む。
やはり主役はフク。みな彼女の演説を聞きに来たのだ。
最重要同盟国であるマーサー王国の面々もこれは見逃せない。

「ほらフクちゃんのスピーチが始まるよ。 あの時モモが晴れさせたおかげで王になれたんだよね。」
「え?クマイチャン何言ってるの?意味が分からないんだけど……」
「またまたぁ。」

誰もが新王フクの力強いスピーチを期待したのかもしれない。
先代サユがやってみせたように、人の心を鷲掴みにする話術を見たいと思うのは当然だろう。
だが、残念ながらフクにはそんなトークなどできやしない。
弱々しいかもしれないし、文量もサユと比べてずっと短いが、
フクは自分の思いの全てを言葉に詰め込んでいた。

「モーニング帝国史上、最も頼りない帝王だと思われてしまうかもしれません。
 でも、タカーシャイさん、ガキさん、レイニャさん、アイカさん、
 そしてサユさんに教わったことには誰よりも自信があります。
 サユさんのように背中で語ることは出来ないと思いますが、
 みんなで頑張っていくことは出来ると思うので、精一杯頑張りますので、
 これからのモーニング帝国をよろしくお願いします。」

本心を言葉にしたフクに対する反応は、文句無しの拍手喝采だった。
立ち上がりながら手を叩く人たちまで視界に入ってくる。
確かにサユのような名演説とは言えないかもしれないが、
この場にいる人々の心を掴むには十分すぎたのだ。

「さて、それでは仕上げですね。」

ハルナンが重厚そうな剣を取り出し、フク王に膝をついて手渡した。
王が剣を取り、力強く掲げることが恒例の儀式となっているのだ。
フクは宝石が贅沢に散りばめられた剣を見て、
剣士時代愛用していた装飾剣「サイリウム」のことを思い出した。

(懐かしいなぁ、確かにアヤチョ王に折られちゃったんだっけ……
 剣士だった私を支えてくれてありがとう。
 そして王となる私をこれからも支え続けて欲しい。」

フクは鞘から剣を引き抜くと、雲ひとつない天空へと突き上げた。
その剣は装飾剣「サイリウム」のようにピンク色単色には輝かない。
決闘の日の模擬刀のように虹色の7色にも輝かない。
新たなる剣は太陽に照らされることで13色に輝くのだ。
王が握るに相応しき装飾剣、その名も「キングブレード」。
その剣が放つPRISMのGRADATIONは、この国の全ての「かがやき」を表現している。

805名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 18:21:13
いいネタの盛込みだね

806名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 19:20:08
キンブレwついに『ミズキングダム』建国か…某スレのように変態王国にならないことを祈ろうw

807 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:01
式も終わり、各国の重鎮への挨拶も済んだところで
フク王はやっと帝国剣士らに会うことが出来た。
Q期団はもちろんのこと、天気組団も式の感想を言い合う場を設けたいと考えていたのだが
フク王にはそれよりももっと見て欲しいものがあったようだ。

「みんな、今日のイベントはまだ終わりじゃないよ。」
「え?」「それはどういう……」
「新しい帝国剣士のお披露目会が開催されるから、今すぐみんな広場に来て!」
「「「!!!」」」

フク、ハルナン、エリポンの3名に連れられた先にある大広場には
サユ前王が召集した500名の一般兵らがズラリと並んでいた。
それを見て、サヤシがごくりと唾を飲む。

「入団当時を思い出す……最終試験が行われるんじゃな。」

モーニング帝国剣士の最終試験。それはお披露目の場で500人斬りを達成することだった。
帝国剣士の新人は特殊な場合を除き、基本的には若き少女から選ばれるため、
屈強な男性兵達に舐められないように実力を示さねばならないのだ。
同期の力を合わせて500もの男を納得させる。
それが出来ねば帝国剣士としての資格はない。

「うわぁ〜アレ大変なんだよねぇ……」
「アユミンさん達は苦戦したんですか?私は1人で500人斬りを達成しましたが。」
「うるさいぞオダァ!!」

この試験、期にどんなタイプの戦士が揃っているのかによって難易度が大きく上下する。
Q期のような純粋な戦闘タイプなら楽勝なのだが、
天気組みたいに特殊戦法を使うようではなかなか難しいのかもしれない。
それでも、この試験は必ず乗り越えねばならない。
一切の言い訳は許されない。

「それでは新たな帝国剣士たち!前に!」

フクの号令とともに新メンバー4人が登場する。
4人の少女はさすが合宿を乗り越えただけあって、一癖も二癖もあるように見えるが
その中でも最も小柄な新人は、帝国剣士らの視線を多く集めていた。

「あれ?あの子は確か……」
「サユ様のお付きの……」

一同が質問を投げかける暇もなく、最終試験の時刻が迫ってくる。
フク王の呼びかけに応えることでお披露目は始まるのだ。

「ハーチン・キャストマスター!」
「はい!」
「ノナカ・チェルシー・マキコマレル!」
「はい!」
「マリア・ハムス・アルトイネ!」
「はい!」
「アカネチン・クールトーン!」
「はい!」
「今こそ力を合わせて、帝国剣士としての威厳を示すのだ!!」

808 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:37
ようやくここまで来たかーって感じです。

809名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 15:45:41
おお!いよいよですね…1部で一スレまるまる消費って感じですね

810名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:33:16
マキコマレルw

811名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:57:14
>>810に先を越された

812 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:16:04
「じゃあウチから行くわ。ノルマは100人なんやろ。余裕のよっちゃんやで。」

他の3人に先駆けて前に出たのは、新人の中では最年長であるハーチン・キャストマスターだった。
雪のように真っ白な肌と、折れてしまいそうなくらいに細い腕が特徴的な女性だ。
彼女ら新メンバーは最終試験を攻略するための作戦会議を事前に行っており、
各自が順番に100人ずつ計400人を撃破して、残る100人を4人のコンビネーションで始末しようと決めていたのだ。
ところが、先陣を切るはずのハーチンの両手には剣が握られていなかった。
帝国剣士は文字通り「剣士」であるため誰もが剣を武器にするのが道理だし、ハーチンもその例からは漏れていない。
そう。彼女の剣は手ではなく足に装備されているのである。

「あ!あれは……!!」

オダにはハーチンの履いている靴に見覚えがあった。
それは以前マーチャンがラボで試作品として使用していた刃付きの特注シューズだったのだ。
靴底にエッジが取り付けられたその見た目はまさに「スケート靴」そのもの。
おそらくはスケートの要領で滑りつつ、蹴り技で相手を斬りつけるための武器だと想像できる。

「でも、陸地じゃ滑れんっちゃろ?」

エリポンがそのような疑問を抱くのは至極当然のこと。
スケート靴は氷の上を移動するための道具。地上では満足に滑ることが出来ないはずだ。
だが、スケート靴の製作者であるマーチャンはそのことも折り込み済みだった。

「エリポンさん遅れてるなー」
「なん!?」
「ローラースケートですよ、あの子が履いてるのは。」
「!」

ハーチンはマーチャンの記述した説明書の通りに、かかと部分をコンと強く叩く。
それがギミックの起動スイッチとなり、靴内部に収納されていた車輪が外へと飛び出していく。
このスケート靴「アクセル」はアイススケートとローラースケートを切り替えることによって氷上と陸上の両方に対応可能なのである。
さっそくハーチンはローラーによる加速で敵の集団が固まっているところへと突撃する。

「ほらほら〜行くで〜!」

そこからはハーチンのオンステージだった。
高速移動からの勢いで繰り出される蹴り、すなわち斬撃を避けられる兵はそうそういなかった。
スケート競技の経験で培った柔軟性のおかげで彼女の脚は高くまで上がるため、
剣を手に持つ剣士と比べてまったく見劣りしない射程をもカバーしている。
そして特筆すべきは、攻撃にしょっちゅう組み込まれているスピンの回転力の凄まじさだ。
ハーチンはその細腕細足ゆえに一見して非力な戦士のように見えるのだが、
一っ跳びでダブル回転、トリプル回転くらいは簡単にしてしまうので、その回転力がスケート靴のブレードの破壊力をより一層高めてくれる。
ゆえに硬い装甲であっても簡単に切り崩すことが出来るのだ。
スケート技術を取り入れた戦法を巧みに操るため、ハーチン・キャストマスターは西部地方で「氷上の魔術師」と呼ばれていた。
だが、そんな彼女にも直すべき欠点はある。

「Ummm……ハーチンまた悪い癖が出てる……」
「女の子があんな顔をするなんて、マリア、信じられません。」
「ハーチーーーン!顔!顔!」

ハーチンの欠点。それは戦闘の悦びに浸るあまり、ついつい変顔になってしまうことだった。
白目を剥いた変顔で敵をバッタバッタと薙ぎ払う様は、傍から見れば恐怖でしかない。
それが由来となって、ハーチンは西部地方で「表情の魔術師」とも呼ばれていたという。

813 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:17:49
キャラ名や武器名はあとでまとめて由来を説明するつもりですが、
ノナカ・チェルシー・マキコマレルはそのまま「巻き込まれる」ですw

814名無し募集中。。。:2015/12/28(月) 07:58:57
氷上と表情w

815 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/29(火) 03:28:08
変顔はともかく、華麗に滑りながら攻撃する戦法はなかなか見事なものだ。
ハーチンのバランス感覚ならば、アユミンがツルツルに均した地面の上でも転倒せずに活躍出来るかもしれない。
先輩剣士と連携可能であれば技のバリエーションも増えるため、実戦が非情に楽しみになってくる。
そんなハーチンに続こうと、もう一人の新人剣士が準備をし始める。

「ハーチンの戦い方は本当にfabulousだなぁ……そろそろ私も行かなきゃ。
 あ、その前に先輩方にご挨拶か……」

二人目の新人は少しボーっとした、どこか田舎臭い雰囲気を残した少女だった。
彼女の名はノナカ・チェルシー・マキコマレル。異国での修行経験を誇りに思っている。
異国語を「覚えた」ことのあるマーチャンも、そこに興味を持ったようだ。

「外国の言葉話せるの?」
「Yes!」
「喋ってみて。」
「How are you doing? I am fine.
 I'm so happy to be a member of this team.
 Why don't we talk about the globalization of Moning empire's swordwoman together?
 I want to liven up the Military strength with you all!」
「What do you want? Is it necessary?」
「Oh! マーチャンさん、さすがです。」

異国語となると急に流暢に喋りだすノナカに、マーチャン以外の先輩剣士らは困惑してしまった。
その中でもエリポンだけはなんとか話に入ろうと頑張ってはみたものの、
語学力が足りないために「I am a pen!」としか言えなかった。
そうこうしているうちに、ハーチンがノルマの100人斬りを達成する。

「よっしゃ終わった!ノナカちゃん交代な〜……ってあれ?ノナカちゃんどこに消えた?」

もうすぐ出番だというのに、さっきまで先輩の前で自己紹介していたというのに、
ノナカは足音も無くその場から消え去ってしまっていた。
いや、正確には「足音が無い」というワケではない。非情に聞き取りにくいだけで有るには有るのだ。
帝国剣士の中でも特に優れた音感を備えたカノンとマーチャンだけが、一般兵の密集地帯へといち早く視線を向ける。

「あそこだ!ノナカちゃんはもう戦闘開始してるんだよ!」

カノンが叫んだころには既に、ノナカは柄の部分に紐のついた忍刀をぐるりと回して、周囲の敵をぶった切っていた。
音が鳴るよりも速く刀を投げつける芸当は、忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」がおもちゃのように軽いからこそ出来ることだ。
この「無音切り」を自身の代名詞としているノナカだが、彼女の特徴はそれだけではなかった。
次の行動が、特にエリポンを驚愕させる。

「アクロバットまでやりようと!?」

周りの兵をあらかた切り終えたノナカは、次の敵が集まるところへと前転で移動していた。。
他にもバク転や側宙など、エリポンを彷彿とさせるアクロバットで相手を翻弄する。
回転数や力強さなどは先駆者であるエリポンに軍配が上がるが、その代わりノナカの器械体操はとても静かだった。
音をほとんどたてずに縦横無尽に跳び回る様はまるで忍者のよう。
海外生活の長いノナカは、それが反動となって母国の文化に強い興味を持つようになっている。
その結果、はるか昔の暗殺者として実在したとされる忍者の戦闘スタイルを好んで取り入れたのだ。

「はぁ、やっぱりみんな西洋の鎧ばっかり着てるなぁ……忍者がいなくてちょっぴりSHOCK……」

816名無し募集中。。。:2015/12/29(火) 22:23:37
ノナカの謎の忍者推しは元ネタなんかあったっけ?まぁチェルのくのいちは似合うから良いけどw

817 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:33:34
次々と実力を示していくハーチンとノナカに続いて、3人目マリア・ハムス・アルトイネが登場する。
彼女が立ち上がるなり、残った300名の一般兵らもピリッとし始めた。
マリアは研修生の出身であり、その中でも優れた逸材として有名だったのだ。

「大大大好きなサユ様にひみつのマリアちゃんな修行を見てもらって、マリア、とっても嬉しかったです。
 だからマリアはもう、ややチビマリアじゃなくておとなマリアなんです!」

言葉のセンスはあまりに個性的すぎるが、研修生のTOPまで登りつめた実力は本物だ。
その強さの秘密は両方の手に異なる剣を握った「二刀流」スタイルにある。
左手には投てき用途で使われる小型の投げナイフ「有」。
右手には敵を叩き潰すに十分な重量を誇る両手剣「翔」。
この「投げナイフと両手剣」の2つを同時に扱う怪物のような強さが兵士らを怯えさせているのだ。

「両手剣?あの子、両手剣を片手で持っちゃってるけど……」

アユミン自身も「振分髪政宗」と名付けられた大太刀を愛用するが、やはり両手で握るのが精いっぱいだった。
マリアはこれまでとても辛い自主トレーニングや春季キャンプ、秋季キャンプをこなしてきたため
右手一本で両手剣をも持ち上げてしまうくらいのパワーを手に入れていたのだ。
新メンバーの中で最も長身、すなわち体格に恵まれているとは言ってもかなりの細身なので一見して弱そうだが、
実際に超重量の武器を軽々と持ち上げているところを見るに、筋肉がギュッと凝縮されているのだろう。
この厳しい修行もすべて、サユ(元)王をお守りしたいという一心で乗り越えてきた。
それだけマリアはサユのことを尊敬していたのである。

「それじゃあ行きます!20勝目指すので見ててください!」
「マリアちゃん!20勝じゃあかんで!100勝せな!」
「そうでした。100勝します!」

スケート術やアクロバットで動き回った同期とは対照的に、マリアは初期位置から動かなかった。
そう、彼女は投げナイフをぶん投げることによって、マウンドから一歩も下りずに敵を倒せるのだ。
これよりマリア・ハムス・アルトイネの始球式が開始される。
大きく振りかぶって第一球。今投げられた。

「あーーーーーーーー!?」

誰もが見事な投球を期待したものだが、それに反してマリアの投げナイフは上空高くにふっとんでしまった。
その先に敵がいれば良かったかもしれないが、残念ながらモーニング帝国の一般兵に空を飛べる者は存在しない。
普段の訓練や合宿では滅多に制球を乱したりはしないのに、ここぞという時で手元が狂ったのである。
あまりにショックすぎたマリアは、ガクッと項垂れて、地に手と膝をついて落胆する。

「汗ですっぽ抜けちゃいまりあ……ハンカチでちゃんと拭いておけばよかったです……」

ひどく落ち込んでいるマリアを見て、兵士らは「今なら倒せるんじゃないか?」と思い始める。
帝国剣士となる最終審査というプレッシャーに押しつぶされたマリアなら怖くないと考えて、大勢で押し寄せたのだ。
だがマリアの得意とするスタイルはご存知二刀流。
投げナイフ「有」がダメでもまだ両手剣「翔」がある。選手交代だ。
これ以上ミスをしたら帝国剣士になれない、つまりはサユを守れないと考えたマリアは必死で両手剣を振りまくった。
この剣は刃こそ鈍いが、かなりの重量であるためにヒットした敵をホームランのごとく遠くまで飛ばすことが出来る。
結果としてマリアは、マウンドから一歩も下りることなく次々と押し寄せる100名の命知らずを迎撃してみせた。

「勝てたけどイメージと違う……不甲斐なくてごめんちゃいまりあ……」

818 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:37:04
マリアは研修生TOPと書きましたが、
モーニング帝国の研修生のメンツは現実世界の研修生とは異なっています。
アンジュルム合格者がいない、カントリーがいない、こぶつばがいない、等々……ですね。
段原はいるかどうかは現実の動向次第ですねw

>>816
忍者推しに元ネタはありません!
音関連+器械体操=忍者っぽいというイメージだけで設定してますね。

819名無し募集中。。。:2015/12/30(水) 10:55:08
次はクールトーンちゃんか
どんな武器を使うんだろ

820 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:09:49
ハーチン、ノナカ、マリアの3人が見事100人斬りを達成した今、
残る最後の一人であるアカネチン・クールトーンに注目が集められた。
戦闘向きには到底見えないその風貌に、ハル・チェ・ドゥーも心配しているようだった。

「クールトーンちゃんだっけ?……大丈夫?戦える?」
「ハルさん、これから私のことは名前で呼んでほしいです。」
「えっと……アカネチン?」
「はい!せいいっぱい頑張るので見ててくださいね!」

憧れの先輩に並ぶため、アカネチンは意気揚々と戦場に向かっていった。
もう彼女は研修生でも書記係りでもない。いっぱしの帝国剣士なのだ。
剣をその手に握り、同期と同じように100人の一般兵を倒さんとしている。

「えっ、あれがアカネチンの剣?」
「ペンのように見える……いや、彫刻刀じゃろうか?」

カノンとサヤシだけでなく、帝国剣士の誰もがアカネチンの持つ剣に驚きを隠せなかった。
それもそのはず。その剣はたった10cm強しかない筆のような形状をしていたのだ。
彫刻刀のようなナリをしたその剣の正体は"印刀"。本来は木や石を彫って印鑑を作るための道具だ。
その印は書をかいた後に己の名を判するときに用いられるため、書道には欠かせない。
印刀「若木」をアカネチンなりに扱うのが、彼女が合宿で習得した戦闘スタイルなのである。
しかしそれをもってしても、アカネチンは殆どの一般兵らに舐められているようだった。

「アカネチンって研修生にいた子だろ?……強かったか?」
「実力は中の下ってところかな。マリア様と違って恐れるに足りない。」
「だったら手柄を立てるチャンスじゃないか。仮にも帝国剣士。痛い目を見せて、俺たちの力を示してやろう!」

残りの200人のうち、考えの浅い者どもは一斉にアカネチンに襲い掛かった。
帝国剣士の最底辺が相手ならば自分たちも勝利を収めることが出来ると思ったのだろう。
だがアカネチンだってサユ元王に認められ、修行を積んできた戦士だ。
この程度の逆境を乗り越えられないはずがなかった。

「全部、見えてます!」

複数の兵士らによる剣や槍の雨あられをアカネチンはすべて避けきってしまった。
どちらかと言えばどん臭いイメージだったはずのアカネチンがとても見事な回避を決めたので、一同は驚愕する。
一見して超常的な進化のように見えるが、これまでの経験を思い返してみればこれくらいは出来て当然だ。
クマイチャンとモモコの本気の戦いを間近で見たり、合宿でサユによる殺気の込められた斬撃を避け続けた彼女にとって
一般兵の攻撃を見極めることなんて容易いのである。

821 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:11:41
今日はあと一回更新をする予定です。
それで第一部は最終回となりますね。

こぶしファクトリーも最優秀新人賞をとったことですし、
登場を予定している第二部の準備を進めねば……

822名無し募集中。。。:2015/12/31(木) 09:16:20
アカネチンはやはり『眼』か…それにしても印刀とはマニアックなw
いよいよ一部も完結…約7ヶ月楽しい時間だった!二部も楽しみにしてます

823 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:17:58
アカネチンの得意技は見切りのみではない。
サユの書記係だった時に見せた高速筆記だって立派な個性の一つだ。
「筆」を「印刀」に、「紙」を「相手の肉体」に置き換えれば、特技は戦闘スキルへと変化する。

「うわあああああ!!」
「い、痛い……!」

相手の肉を掘るという行為は、アカネチンの可愛らしい見た目とはウラハラにあまりにもえげつなかった。
剣で四肢を斬りつけるのと比較するとダメージ量は明らかに少ないはずなのだが、
日常のそばにあるリアルな痛みという理由から、周囲にいる敵兵らの戦意を喪失させていく

(よし!この戦い方なら勝てる!)

戦士としての手応えを感じ始めたアカネチンは、恐怖で動きの鈍った相手を引き続き削り取ろうとする。
しかし、つい最近まで並程度の実力だった彼女がこんな戦い方を長く続けられる訳もなかった。
敵の肉をえぐる感触は己の手に直接伝わってくるし、悲痛な叫び声だって間近で耳にしなくてはならない。
おまけに今回のノルマを達成するには100回も同じ行為を繰り返す必要があるので、
まだ幼いアカネチンは精神的にも肉体的にもひどく苦しめられることになった。

「はぁ……はぁ……でも、ここで頑張らないといけないんだ……」

結果だけ書けば、アカネチン・クールトーンは100人切りを見事達成することができた。
だが先に述べた理由から疲労困憊になり、条件をクリアーするや否や地面に倒れこんでしまった。
心も体も限界なので、ここから先はもう戦うことなど出来ないだろう。
帝国剣士のほとんどが、ここまでよくやったとアカネチンを温かい目で見守ったが、
唯一ハルナンだけがあえて厳しい言葉を投げかけていた。

「あれ?たしか最後の100人は4人のコンビネーションで戦うんじゃなかったっけ?
 アカネチンがこんな状態なら、3人で戦うしか無いのね。」

同期の力を合わせて500人を倒す、という最終試験の条件自体を満たすことは出来るだろう。
しかし、それでは有言実行にならない。計画倒れとみなされてしまう。
実際の戦場では不測の事態などいくらでも起こりうるため、せめて試験や訓練の場ではトラブルなくこなさねばならないのだ。
それを新メンバーに知ってもらいたいため、ハルナンはあえて言葉にした。
ところが、ハーチンら3名はまったく落胆をしていないように見える。

「ハルナンさん、アカネチンは戦いながらこれを書いてたんですよ。見てやってください。」
「このメモは……!!」

ハーチンに手渡された紙には、残る100名の敵兵の特徴がびっしり記述されていた。それも血文字でだ。
アカネチンは持ち前の洞察力で戦況を見張り続け、同期に情報を共有する目的でメモを残したのである。
兵士の血液をインク代わりに印刀で書いた文章はとても読みやすく、
一目見るだけでハーチン、ノナカ、マリアの3人は残る100名の弱点を理解することが出来た。
嘘みたいに簡単に頭に入ってくるのである。
そして3人は自分たちが一人で戦うよりも圧倒的に早いスピードで残党を制圧するのに成功する。

「やったー!アカネチンのおかげやで!」
「Yes! やっと帝国剣士として認められるんだね。」
「嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね。」

とても嬉しそうに喜ぶ新メンバーから少し離れたところで、フク王がハルナンに声をかける。

「私はあれもコンビネーションの一つの形だと思ってるけど、ハルナンはどう思う?」
「王がそうおっしゃるのなら私が言うことは何もありませんよ。それに……」
「それに?」
「アカネチンの能力は非常に有用です。本人はまだ気づいていないのかもしれませんけどね。」
「そうなの?じゃあハルナンが新メンバーの教育係としてちゃんと教えてあげてね。」
「えっ?」

すべての帝国剣士が新たな仲間を受け入れたところで、この物語は完結する。
そして、新たな物語が始まる。

New Start
Morning Empire's Swordwoman。'15

第一部:sayu-side 完

824 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:20:40
昨日中に更新するつもりが新年になっちゃいましたね……
何はともあれ、これで第一部は終了です。

第二部はすぐには始めず、当分はおまけ更新が続くと思います。
それにしても一部は七か月もかかってたんですねw
すべて終わるのはいつになるやら……

825名無し募集中。。。:2016/01/01(金) 09:05:43
確かにアカネチン能力は使いようによっては強力だな
第一部完了お疲れ様でした
おまけも楽しみにしてます

826名無し募集中。。。:2016/01/02(土) 22:49:58
まさかの13期ww

827 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:34
13期。来るとは思ってましたが本当に来ましたねw
加入までには2部まで終わってるといいなぁ

さて、だいぶ空きましたがおまけ更新を行います。
まずはキャラ名+武器名+必殺技名の元ネタから。

828 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:53
■モーニング帝国剣士

フク・アパトゥーマ :団地妻
装飾剣「サイリウム」 :そのままサイリウム
装飾剣「キングブレード」 :複数色切り替え可能なサイリウム+王の剣
必殺技「Killer N」 :( ̄ー+ ̄*)キラーン

エリポン・ノーリーダー :空気読めない+リーダーではない+仮面ノリダー
打刀「一瞬」 :前作のガキの武器から。新垣里沙の写真集のタイトル

サヤシ・カレサス :植物を枯れさす
居合刀「赤鯉」 :広島カープのイメージ

カノン・トイ・レマーネ :トイレのモノマネ
出刃包丁「血抜」 :食事のイメージ

ハルナン・シスター・ドラムホールド :いもうと+太鼓持ちアイドル
フランベルジュ「ウェーブヘアー」 :ファッションのイメージ

アユミン・トルベント・トランワライ :れいなの好きな弁当を先にとったエピソード+すべりキャラ
大太刀「振分髪政宗」 :伊達政宗の愛刀+振分親方

マーチャン・エコーチーム :ヤッホータイ
木刀「カツオブシ」 :前作のレイニャの武器から。れいなの猫イメージ

ハル・チェ・ドゥー :ハルーチェ+どぅー
竹刀「タケゴロシ」 :タケちゃんとの因縁(やっちまったな等)
必殺技「再殺歌劇」 :ステーシーズ 少女再殺歌劇

オダ・プロジドリ :自撮りのプロ
ブロードソード「レフ」 :レフ板

ハーチン・キャストマスター :素人時代にツイキャスのキャス主
スケート靴「アクセル」 :トリプルアクセル

ノナカ・チェルシー・マキコマレル :チェル+巻き込まれる
忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」 :好物のカツ丼を我慢

マリア・ハムス・アルトイネ :ハー娘。+明日も嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね
投げナイフ「有」 :元日ハム投手のダルビッシュ有
両手剣「翔」 :日ハム打者の中田翔。有と翔でユウショウ=優勝

アカネチン・クールトーン :クルトンが好き
印刀「若木」 :あかねちんがブログに載せた習字

829名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 05:00:19
エコーチームってそれだったのかwww
包帯の印象だったから全然分かんなかった

830名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 12:45:23
「勝抜」ってカツ丼のことだったのか!w

831 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:08
■アンジュ王国の番長

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー:捨て犬+シューティングスター+唐揚げを投げたエピソード
七支刀「神の宿る剣」:博物館に飾ってそうな武器

マロ・テスク:そのままマロテスク
小型銃「ベビーカノン」:前作のカノンの武器から。

カナナン・サイタチープ:埼玉は安いイメージと発言したエピソード
ソロバン「ゴダン」:中西香菜がそろばん5段

タケ・ガキダナー:親戚マイミのキャラ名+子供っぽい
鉄球「ブイナイン」:巨人が黄金時代にV9達成

リナプー・コワオールド:ブログで昭和時代の人の名前に「子」が多いと発言
愛犬「ププ」:勝田里奈の愛犬
愛犬「クラン」:勝田里奈の愛犬

メイ・オールウェイズ・コーダー:スマイレージはいつもこうだ
ガラスの仮面「キタジマヤヤ」:ガラスの仮面に登場する北島マヤ+しゅごキャラミュージカルで芽実が演じた結木やや


■果実の国のK(Y)AST

ユカニャ・アザート・コマテンテ:あざとい+困り顔+石川県の方言「〜てんて」
※武器未登場

トモ・フェアリークォーツ:フェアリーズのファン+ローズクォーツ
ボウ「デコピン」:佳林にデコピンをよくする

サユキ・サルベ:さるべぇ
ヌンチャク「シュガースポット」:バナナの甘い箇所

カリン・ダンソラブ・シャーミン:男装好き+wonderful worldの時の髪型が社民党党首っぽい
※武器未登場

アーリー・ザマシラン:ハーモニーホール座間での公演に遅刻
トンファー「トジファー」:植村の育ててたトマトの名前

832 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:50
ヤッホータイはまーちゃん曰く「ヤッホー隊」らしいですよw

833 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 18:55:29
アンジュの必殺技を忘れていました。
以下に追記します。

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー
必殺技「聖戦歌劇」:我らジャンヌ 少女聖戦歌劇

マロ・テスク
必殺技「爆弾ツブログ」:前作のカノンの必殺技から。いちごのツブログ。

834名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 21:18:36
未発表の武器&技が気になる
そう言えば前に『フクのサイリウムの名前には秘密がある』って言ってたけど結局なんだったんだろう?

835 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:16:30
最後は前作キャラの元ネタです。
特別なことが無い限りは、今作では苗字と武器名を出すことはないと思います。


■食卓の騎士+サユ王

クマイチャン
武器は長刀
必殺技「ロングライトニングポール」:電柱
必殺技「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」:流星ボーイ
オーラ「重力」:高い所から下へと押さえつけるイメージ

モモコ
武器は暗器
必殺技「ツグナガ拳法」:ツグナガ憲法
必殺技「ツグナガ拳法"派生・謝の構え"」:許してにゃん
オーラ「冷気」:血の通ってないアイドルサイボーグのイメージ

マイミ
オーラ「嵐」:雨女のイメージ

ミヤと呼ばれた女性
オーラ「斬撃」:尖った顎のイメージ+普段は見られない裏側を見せるGreen Room

色黒の長身
オーラ「太陽」:明るいキャラのイメージ+日焼け

シミハム
オーラ「?」:?

サユ
武器はレイピアとマンゴーシュ
必殺技「ヘビーロード」:道重
必殺技「ヘビーロード"派生・レイ(一筋)"」:道重一筋
必殺技「ヘビーロード"派生・アフターオール(結局)"」:結局道重
必殺技「ヘビーロード"派生・スティール(今尚)"」:今尚道重
必殺技「ヘビーロード"派生・トゥーレイト(今更)"」:今更道重
必殺技「ヘビーロード"派生・ディペンデンス(依存)"」:道重依存
必殺技「ヘビーロード"派生・リミット(限界)"」:限界道重
オーラ「光」:鏡をよく見るイメージ

836 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:18:49
>>834
後の武器が「キングブレード」になる、というのが秘密でした。
サイリウム持ちのフクがいずれ王になることを暗に示してたんですね。

837名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 06:14:19
>>836
なるほど!何故気付かなかったんだorz
ミヤの「裏側」ってそっちかーてっきり表裏が分からない意味かと…w

838 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:38:26
おまけ更新「Q期のお披露目」

タカーシャイ王「うーん……エリポン、サヤシ、カノンのヤツら、最終試験だってのに相当緊張してるなぁ」

ガキ「実力は有るんですけどね。いかんせん実戦経験に乏しい……」

タカーシャイ王「よし!じゃあ経験豊富な子を追加しよう!」

ガキ「研修生からですか?」

タカーシャイ王「もちろん!フクちゃん降りといで!」

フク「ええええええええ!?」

839 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:43:11
おまけ更新「天気組のお披露目」

アユミン「大変だよハルナン!ハルが気絶した!」

ハルナン「ええっ!?ケンカ強いって自慢してたから前線に配置したのに!」

アユミン「ぶっちゃけ私もヤバいかも……ごめん、後は頑張って……」

ハルナン「そんなあ!まだ敵兵は200体以上も残ってるのよ?どうすれば……」

マーチャン「ねえねえハルナン」

ハルナン「なに!?今は話をしてる場合じゃ……」

マーチャン「マーチャンね、全部覚えたよ。」

840 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:44:49
おまけ更新「オダのお披露目」

オダ「最終試験って出来レースみたいなものですよね。あれで苦戦する人いるのかなぁ……」

アユミン「てめぇ……」

841名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 12:52:03
フクちゃんいきなりかよwって確かに合宿してないんだよなぁ…それで王になるとは

842名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:29:43
オダぁ!w

843名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:54:41
マーサー王の世界でやってみたいわ

ハロプロ三国志のゲーム作ってみたんだけど [無断転載禁止]���2ch.net
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1451441803/

844 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/08(金) 07:44:44
明日には二部に入れると思います。

845名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 19:06:35
2部まだかな
ドキドキ

846 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/09(土) 21:33:28
SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20619/1452342496/

次スレを立てました。
続きはそこで進めていきますので、移動をお願いします。

こっちのスレもおまけ更新は続けるつもりです。
たまにで良いので覗いてみてくださいね。

847名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 21:35:11
>>846
乙です

848名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:18:11

『外伝:もう一人のA』

849名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:19:14
 
「みんな、頑張って。そして死んではなりません。必ず生きて帰ってきて。これは命令です」

たった一人で見送りにきた果実の国国王、ユカニャ・アザート・コマテンテはいつもの困り顔の眉根を更に寄せ、そう告げた。

「心配すんなよ。あれだけ特訓を重ねたんだ。もう今までのKASTじゃねえよ」
「そうそう。それにあたしたちにはまだやることが沢山ある。夢にまで見た『例大祭』だって控えてるんだし」
「だからあたしらが帰るまでこの国のこと頼むで、ユカニャ王」
「うんうん。みんな、絶対勝とうね!」

『例大祭』というのは、ある程度以上の国力をもつ国にのみ開催が許される大掛かりで神聖な行事で、
最近ようやくこの国でもそれを取り行う許可が下りたのである。
これは王、KASTのみならず国民全員の夢でもあった。

死出の旅になる可能性もあるのに、帰ってきてからのことをもう考えている。
ユカニャ王は少し安心した。

捕らわれた隣国の王と元帝王を救うため。
強大な敵を倒すため。

それらもひいてはこの愛する自国の未来のため。

彼女たちは壮絶な闘いへと身を投じる。

その日、黒蝶の戦闘装束を纏った4人の少女たちは誰にも知られぬよう静かに国を出た。

850名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:20:13
果実の国を出て間もなく、4人は道で一人の旅人とすれ違う。
背格好からするに彼女たちと同世代の少女のようだが、その深くかぶったフードの奥の顔を見ることはできない。

「どうした、カリン?」

そのまま歩を進める一同だったが、
先頭のトモが振り返ると、カリンが立ち止まってその旅人の後姿を見つめていた。

「・・・今の子・・・?」
「ん?あの旅人がどうかしたのか?」
「みんなは気付かなかった?なんか、うまく言えないんだけど、あの子・・・」
「おいおい、合同作戦会議に遅れるわけにはいかないんだぞ?小さなことには構わず急げ!」
「う、うん、そうだね、ごめん」

カリンは自分の中の胸騒ぎを振り払うようにして再び歩き出した。

このカリンの予感は的中するのだが、
彼女たちKASTがそれを知るのはこれよりずっと後のことである。

フードの奥でニヤリと歪む旅人の口元を見た者は誰もいない。

851名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:21:33
果実の国は新興国である。
地理的に穏やかな気候で肥沃な大地を有しており、自給率100%を越える食料で他国と貿易関係を持つことで独立を保っている。
農業が盛んだった地域の領主たちをまとめ上げ、ひとつの国として形作らせたのはひとえにユカニャ王の功績だ。
戦士としての技量や科学者としての実績はもとより、特に政治的な手腕に長けていることがユカニャ王が王たる所以である。
「あざとい」とまで揶揄される彼女のロビイ活動により、
政治家だけでなく多くの資産家、投資家、そしてイイジマ氏やイシイ氏といった強大な荘園領主たちを味方に引き入れ、国を興すことができたのだ。

だが経済的に順調な一方、軍事力においてはまだ心許ないのが正直なところでもある。
元々が農民の多かった地域性もあり、人々は自分たちをファミリーのように思っており、平穏無事に暮らすことを一番に考えている。
実際、果実の国の兵士たちは他国に比べ平均年齢が高いという指摘もある。
食料に溢れていながら兵力の弱い国…そんなものは悪党たちの格好の獲物でしかない。

だからユカニャ王はジュースを使い、力を失うほどに自らの戦闘に力を入れてきたのだ。
果実の国において、軍事力の要となるKASTは欠かせないのである。

しかし今やKASTは3国合同作戦のために旅立ってしまい、いつ帰るともわからない。
こうなると今の果実の国はいつ攻め込まれてもおかしくない状態であるため、王の判断によりKAST不在の情報はトップシークレットとされた。
そのため4人は密かに出立したのである。

とはいえいつまでも隠し通すことはできないだろう。
侵略者がこの情報を掴んで攻めて来る前に防衛策を立てねばならない。
モーニング帝国の新王から屈強な防衛隊を派遣してもらう段取りにはなっているが、まだ数日かかるらしい。
帝国兵がいれば大きな抑止力となるはずだが、それまでの数日間の空白期間がユカニャ王には大きな懸念事項であった。

「急いで…今は一刻も早く…!」

4人を極秘で見送って帰ってきたユカニャ王の不安と焦燥感はつのるばかりであった。

852名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:22:27

だが王が帰城して間もなく、執務室の扉が音もなく開いた。

焦る気持ちで国内の防衛対策資料に目を通すユカニャ王は気付かない。

ひとつの影が忍び寄る。

ユカニャ王が資料から目を上げたとき、その人物は目の前の椅子にゆったりと腰掛けていた。

「!!!!何者!!??」

ユカニャ王は恐怖した。

果実の国とはいえ、一国の王である自分の部屋までこうも簡単に警備を突破して来ている時点で只者ではない。
王の部屋に部外者が侵入する目的はひとつしかない。
暗殺だ。

戦う術を持たぬユカニャ王は硬直している。
KASTを見送ってすぐにこんな事態になるとは。
死の匂いと王の責任は硬直するユカニャの体中を冷や汗となって覆った。

「おいおい、ずいぶんとご挨拶だな」

座った人物のフードの奥から聞こえた声に、ユカニャ王は聞き覚えがあった。

いや、覚えがある所ではない。
忘れようとしても忘れられぬ声。
まさか。

「オレだよ」

そう言ってゆっくりとフードを脱ぐ。

ユカニャ王が予感した通りの人物がそこにいた。

かつてKASTがKYASTだった頃。
本当のKYASTはKYAASTだった。

戦士は、「6人」いた。
そう、「A」はもう一人いたのだ。


「久しぶりだな、ユカニャ王」


アイナ・ツカポン・アグリーメントは、そう言ってニヤリと笑った。

853名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 06:30:08
おお外伝来てた!

良いよ良いよ楽しみ増えて

854 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/19(木) 08:47:34
外伝を書いてくれて有難うございます!
どこかで見たことあるような人たちが多数登場してますねw(いーいしさんとか)
例大祭は、今年の11月開催のアレにかかってるんでしょうか。

アイナの武器や戦闘スタイルが気になります。

855名無し募集中。。。:2016/05/22(日) 12:29:13
ツカポンきたー!握手会にしれっとファンとして紛れ込むくらいスムーズに入ってきたなw

856名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:07:12
 
「ア、アイナ・・・なぜここへ・・・?」

ユカニャ王は侵入者が思いもよらぬ相手だったことに驚き、困惑していた。

「王に直接話しに来たんだよ。その方が早いからな」

かつて突然KYASTの前から姿を消したアイナ。
その一件は果実の国に大きな混乱と失望をもたらし、果実の国の発展が遅れる一因ともなった。
そのアイナが、今ここに再び戻ってきた。
数年ぶりに会うアイナのショートカットは長い金髪になり、
平民の出で両親の愛に乏しかったことを跳ね返すように品性を磨いていたはずの言葉遣いはまるで男のものになっている。

「アイナ・・・ずいぶんと粗野になったのね」

「フン・・・色々あったんでね」

こちらも見ずにそう言うアイナは以前とは違ったオーラをまとっているように感じる。
かつて日差しを浴びる元気なフルーツのようだったオーラは今やどこか禍々しい。

「単刀直入に言うぜ。王の力でオレをこの国の…」

アイナの言葉が終わる前にユカニャ王は叫んでいた。

「ムリだよ!いくら謝ったって、もうムリ!」
「あの時、国民のことを考えなかったの?KYAASTの支援者のこととか、部下たちのこととか、全然考えなかったの?」
「一言もなく突然消えて…大切な『原液』まで持ち出して…あれからの研究がどれだけ遅れたか!」
「この国に貴女の居場所はないから!すぐに出て行って!!」

ユカニャ王はアイナから目を離さずに言い切った。
アイナは脱走者であり、犯罪者。いくら実力があっても、もう一度この国に関わらせるわけにはいかなかった。
それは王として、今ここでいくら謝られても許すことはできなかった。

だが、アイナの意図は王が思ったものとは違っていた。

「フッ…ハハハ…アッハッハッハ!そうだな、確かに『ユカニャ王の下では』そうなるわな」
「謝る?冗談はよせよ。話は最後まで聞きな、王様。オレが言いたかったのはな」
「『王の力でオレをこの国の王にしろ』ってことだよ」

「な、なんですって!!??」

「言葉の通りさ。オレがこの国の王になる。あんたは王位を譲って降りるんだ」

857名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:08:17

ユカニャ王はこの突拍子もない言い分…つまり『脅迫』に再び驚き、恐怖した。
そのタヌキのような垂れ目は大きく見開かれたままだ。

「オレの軍団はもう蜂起の準備をしている。断ればあんたも含め、現体制に関わる者は全員殺す」
「昔のよしみだ。今、王位を譲るんなら誰の血も流さないことを約束してやる」
「どうだ?イエスかノー、シンプルな答えだぜ」

旧友は国を裏切っただけでなく、王を脅迫し王位の強奪まで図る侵略者だった。
不敵に笑うアイナ。その袖から覗くジャマダハルの切っ先はこれが本気であることを示していた。
アイナの実力はユカニャ王が一番よく知っている。

「こんなことをしてどうなるかわかっているの?いくら貴女でもKAST全員を相手にして勝てるとでも?」

ごくりと生唾を飲む音が聞こえてしまわないか注意しながら、ユカニャ王は恐怖を押し殺して精一杯のブラフを仕掛ける。
本来このようなことがあればKASTが許すはずはない。

「フッ…無駄な抵抗はやめろ、ユカニャ王。オレがなぜ『このタイミングで』来たと思う?」

・・・バレている。
アイナはKASTが不在なことを知っている。そしてモーニング帝国の防衛隊がまだ来ていないことも知っている!
いったいどこから漏れた情報なのか、だが今はそれどころではない。
この状況、絶体絶命だ。

「・・・嫌だと言ったら・・?」
「いま、ここで…殺すの、私を…?」

「それが返事か?」

アイナはユカニャ王を見ずにスッと立ち上がると袖をめくり、自慢のジャマダハルを晒す。
次の瞬間にはその刃はユカニャ王の首に触れていた。

858名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:09:23

冷たい、それはそれは冷たい感触がその黒めの肌に伝わってくる。
ジャマダハル…ユカニャ王はかつてアイナが最も尊敬する戦士の武器を模して作ったものだと話してくれたことを思い出した。
共闘していた頃には何度も助けられた刃が、今やその首を切り裂かんとしている。
ユカニャ王は目を閉じた。

「・・・・・・フン」


ふいに首筋に感じる抵抗が消えた。

「やはりこれではつまらん。考え直すチャンスをやる」
「明日の正午にもう一度来る。準備をしておけ」
「よーく考えろよ?こっちも王になったはいいが兵士が全滅してますじゃあ困るからなあ!」

捨て台詞を残してアイナは執務室の窓から風のように消えていた。
侵入の手口を見るに追っても無駄だろう。

ユカニャ王はガクリとへたり込んで大きく息をついた。

自らの命の危機は脱した。だが国は大きな危機に陥っている。
たった数分の出来事なれど、事態は大きく変わってしまった。

KASTもいない、モーニング帝国の援軍もないこの状況で、
国を守るため、侵略者・アイナ軍団と戦わねばならない。

果たして勝てるのだろうか?もし負けたら果実の国はどうなる?

震える手をギュッと握り締め、ユカニャ王は立ち上がる。

すぐに側近を呼んで指示を出す。

決戦まではもう24時間を切っていた。

859名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 13:52:07
軍団って例の大塚軍団かw
外伝だと味方の使える駒が限られてるからユカニャ王がどう巻き返すのか楽しみ

860 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/24(火) 01:18:32
ユカニャ王がアイナに向かって叫ぶシーンを見て、
武道館最終話でつるりんが愛子に怒鳴るシーンを思い出しましたw

861名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:19:31
正午。

アイナ軍団は城門に集っていた。兵士崩れや山賊崩れの荒くれ者たちが約1000人。
皆、血に飢えたような目をしている。

閉ざされた城門はアイナへの返答を意味していた。

「ま、こうでなきゃあ面白くねえからな。よし、てめえら、突っ込め!!」

大きな柱で強引に城門をこじ開け、アイナ軍団は城内へとなだれ込む。
果実の国攻略戦が始まった。

862名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:22:46

一時間ほど経っただろうか。
アイナ軍団はようやく城内の大規模アトリウムへとたどり着く。

そこにはユカニャ王を守るように、果実の国の精鋭ばかりが1000人、命知らずが2000人、待ち構えていた。

あえて城内に敵を誘い込み、狭い通路での落とし穴や射撃窓からの矢攻撃などのトラップの雨あられで、
可能な限り自軍の戦力を温存しつつ敵戦力を削ぐ。
そして最後はバックアタックやサイドアタックされない部屋内で隊列を組んで迎え撃つ。
これがユカニャ王の作戦だった。

おかげでアトリウムまで来れたアイナ軍団は800人程度しかおらず、皆一様に疲弊していた。

「ここまでは上出来…ここからが正念場ですね…!」

最後にアイナが姿を現すとアトリウム内の空気がピシッと張り詰めた。

「ユカニャめ、せこいマネしやがって…オレたち相手にこの人数で勝てると思ってんのか?」

「貴女たちのような侵略者に屈する果実の国ではありません!」

「いいぜ、どれだけ無意味なことしてるのか教えてやる!かかれ!!」
「国王、ユカニャ・アザート・コマテンテの名において命じます!全軍、侵略者を撃滅せよ!!」

「「オオオオオーーーーー!!!」」

ドカーンという衝撃音とともに、アイナ軍団と果実の国軍は激突した。


数で勝る果実の国軍だが、地力はアイナ軍団に軍配が上がる。
陣形を組んで戦うも、果実の国軍は少しずつ押され始めていく。
ユカニャ王が後方からエールを送ることで、軍は何とか耐えていた。

「みんな、何とか持ちこたえて!」
「あともう少し頑張れば、強力な援軍が来てくれます!」

「おいおい、いつまで頑張るつもりだ?帝国の援軍ならあと2日は来ねえぞ〜」

アイナはそう言って嘲笑う。
ユカニャ王はそれを唇を噛みしめて睨みつけた。

(みんな、私を信じて…信じて今は耐えるのです…)


(そして…お願い、一秒でも早く来てこの国を救って…『2人とも』!)

863名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 06:20:02
そうか!あの『二人』かいたね!!ユカニャ王やローズクォーツとの関係を考えるとピッタリな助っ人だわ

864名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:18:18

このままでは守りきれない。
ユカニャ王の言葉を信じて戦う果実の国軍だったが、
敵と直に刀を交え、一人また一人と倒れていく味方を見る度に、兵士たちの心は少しずつ弱気に傾いていく。

「ハハッ!どうしたどうした果実の国よぉ?てめーらの兵士はもう残り半分だぞ?」

最後方で腕を組んでニヤニヤと戦況を見つめるアイナ。

兵士たちの心の炎が消えかかる。
悔しいがこのまま押し切られてしまうのか。
この平和な国がこのような邪悪な侵略者に…

その時、突然アイナは何かを感じて顔を上げる。

「!?」


アトリウムの天窓がバリンと割れ、二つの影が舞い降りる。

「ぐえっ」「ぐはぁっ」

落ちてくる影はクルクルと回転したかと思うと落下の勢いそのままにアイナ軍団を蹴り倒し、
反動で再びクルクルと回って綺麗に着地した。

「き、来た!!」

苦境に心底困り顔だったユカニャ王の顔は一気に光を取り戻す。
来た。来てくれた。ついに来てくれたのだ。

「な、なんだてめえらは!?」

突然の乱入者にアイナ軍団はひどく混乱している。

「おまたせ、ユカ!」
「ごめんねぇ、遅くなっちゃった〜」

865名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:22:55
二つの影は二人の乙女だった。
ユカニャ王をユカなどと馴れ馴れしく呼ぶこの二人はいったい何者なのか。

「も〜、この子が途中で道を間違えちゃうからさぁ〜」
「あわわわ、それは誰にもナイショって言ったじゃん〜」

一人は茶髪のショートボブで全身黒の衣装を身に着けている。
もう一人は黒髪のロングヘアーの毛先をゆるく巻いて、対照的な全身真っ白の衣装。
まるでこの世界の幼女たちが大好きなおとぎ話に出てくる伝説の戦士のようだ。

「来る途中に兵隊さんに聞いたし事情はわかったよ。あとは任せて」
「待たせちゃった分はここから取り返すから!」

「二人とも…よく来てくれたね、ありがとう、ありがとう…」

最大のピンチに助けに来てくれた親友たち。
二人を見つめるユカニャ王の目から涙がこぼれる。

乱入者に驚いたのは敵だけではない。
果実の国軍兵たちもこの二人にびっくりして動きが止まってしまっている。

「あら、完全アウェーだね、この状況?」
「それじゃあいつもの、いこう!」

二人は並んでスッと前に出ると、この戦場全体に対して大見得を切った。

「ガレリア所属!天空を満たす静かなる月輪!モエミー・レルヒ・マーキュリー!」
「同じくガレリア所属!大地を照らす燃え立つ日輪!アサヒ・シオン!」

「果実の国を狙う悪党ども!」
「この輝きを恐れぬなら、かかってきなさい!」

866名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:27:31
名乗り終わるとともに一分の隙もない構えを取る二人。
二人の纏う闘気が只者でないことはこの場にいる全員が感じていた。
ユカニャ王が頼りにしていた強力な援軍がこの二人であることは疑いようがなかった。

気圧されるアイナ軍団の何人かが、ここまできてようやく気付く。

「ガレリアのモエミー?アサヒ?…ま、まさか!?」
「通った後には何も残らないって話の、ガレリア1のダーティペア、あのビ、ビ、ビ??」
「ビター・スウィート!?」

「ちょっとちょっとぉ!ひどいこと言わないでよね、失礼しちゃう」
「そうだよぉ、私たちは任務を確実にこなしてるだけなんだから」

『ガレリア』とは、某財団が設立したこの大陸最大のミュージアムである。
どこの国からも独立を保ち、この世界全ての歴史的文化的遺産を保管することを使命としている。

モエミーとアサヒはそのガレリア所属のエージェント。
世界を股に掛け、秘宝を探し保護したり、盗掘者や悪質な美術品シンジケートを叩き潰すのが仕事だ。
だが真面目で正義感に溢れるこの二人は、特にその秀でた武力でやりすぎてしまうことも少なくない。
だから盗賊や密輸などの裏世界にいた者にはこの二人の悪名は轟いているのである。

美人の見た目だけで『甘く』見てかかり、結果、死ぬほどキツイ『苦い』思いをさせられる。
転じて『ビター・スウィート』というのが彼女たちの通り名なのだ。

「チッ…厄介な連中が来てくれたな。だが構うな、数で押し潰せ!!」

引き気味の軍団だったがアイナが一喝するとすぐに正気を取り戻して襲い掛かってくる。
国盗りをするのに輝きを恐れてはいられない。

「じゃあ私は右ね、アサヒちゃん」
「左行くね、モエミーちゃん」

向かってくる数百の大群相手に2人が左右に別れると、あっという間に敵が吹っ飛ばされ始める。
アウトロー組織に乗り込んで壊滅させるのが仕事の2人には数の暴力などお手の物。
使いこなす強力な武器に悲鳴が上がる。

「な、なんだあっちは…どうやったらあんなに色々な倒し方ができるんだ…?」
「こ、こっちは…なんだ?何が起きてるのかわかんねえぞ??」

果実の国軍の逆襲が始まった。

867名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 06:36:42
B&S予想あったったー…けど予想の斜め前いく設定wまさかプリキュアとダーティーペアぶっこんでくるとはww
確かに『萌』『あさひ』で月と太陽ピッタリ

868 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/26(木) 13:22:18
ビタスイ!
大塚さんもそうですが、絶妙に本編に出てこない人たちが多数登場しますね。
このまま果実の国軍優勢で終わるのか、それとも……

869名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 14:13:10
本編作者さん、いつもレス下さる方も本当にありがとうございます

870名無し募集中。。。:2016/05/27(金) 23:55:34
続きはまだかな〜気長に待ってますけどね

871名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:43:32

「ガレリアから来たなら昨日からたった一日で間に合うはずがない…」
「ユカニャめ、事前に手を回していやがったな…」

アイナはユカニャ王にしてやられたことに歯噛みした。
その通り、あざといユカニャ王はモーニング帝国からの援軍がKASTの出立に間に合わないと知り、
国防手段として2人を呼び寄せる手をアイナが宣戦布告に来訪する前から打っていたのだ。
ユカニャ王が待っていたのは始めからビター・スウィートだったのである。

もちろん通常ならこのような手続きには時間がかかるし、
何より独立を保つガレリアがそう簡単にエージェントを貸し出すはずもない。
そこを乗り越えて最短で助けに来たのは、ユカニャ王と2人が旧知の仲であったからに他ならない。

ユカニャ、モエミー、アサヒの3人はかつて大志を抱いてそれぞれ上京してきた新人同士だった。
モエミーとユカニャは隣国の出身で出生年月日が同じという縁があったり、ユカニャとアサヒは当時は雰囲気が似ていてよく間違われたものだ。
「森の泡戸」という冒険者ギルドで出会った3人はすぐに仲良くなり、
共に訓練したり、いつか大国に仕官して出世することを夢見て毎晩語らった同期であったのだ。

別の道に進んではいるが、当時の絆は今も変わっていない。
それにアサヒはKASTのトモ・フェアリークォーツの数少ない友人の一人でもある。
2人は果実の国のためならば、と全てを差し置いて駆けつけて来たのだ。

872名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:48:26

「Don't stop me now!私を止めてみな!」

モエミーが振り回す長柄の武器の前に、被害者たちが見る見るうちに積み上げられていく。
先端に付いた鋭い刃で矛のように斬り、槍のように突き、
両側に左右対称に付く「月牙」と呼ばれる三日月状の刃で斧のように叩き、大鎌のように薙ぎ、引っ掛けて投げ、足を払う。

これがモエミーが「九印」と名付けて愛用する武器、『方天戟(ほうてんげき)』である。
元々は別の大陸のもので、かつてモーニング帝国に来た大陸剣士が持参した物の一つと言われている。

複数の用法があってオールマイティーに戦えるが、それ故に常人にはその性能を完全には活かしきれぬ武器。
モエミーは敵の戦闘スタイルや弱点に合わせて、その全ての用法を使いこなす。
斬られ、突かれ、潰され、投げられ地に伏す敗者たちを見て、果実の国軍兵が驚くのも無理はなかった。


「火傷しても知らないから!その心の闇、私の光で照らしてみせる!」

こちらの果実の国軍兵も目を丸くした。
道に迷ったとか言う話だし、どちらかというと大人しく地味に見えるアサヒ。その手は空、剣や槍は持っていない。
だがアサヒに飛び掛っていくアイナ軍団はどういうわけか一瞬で体勢を崩し、床に叩きつけられたり、投げ飛ばされている。
そうかと思えば離れた敵は間合いを詰められ、拳や足刀を叩き込まれて一瞬で倒される。
これらはアサヒが使用する異国の格闘技「合気道」と「空手道」によるもの。そう、こう見えてアサヒは武術家なのだ。

この世界にいる徒手空拳で戦う戦士たちは、その多くが力に任せたファイトスタイル。
だがアサヒの武術は相手の力を利用したり、どうしたら効率的に倒せるかを極限まで突き詰めたもの。
荒々しいはずの徒手空拳でありながら、洗練された動きで的確に急所を突き、相手を倒すアサヒは珍しく映るのだ。

本来は徒手空拳相手に武器を使えば絶対的に有利なはず。
だが敵が振るう剣や槍はアサヒの両腕に備わった、肘まである金属製の白い籠手のようなもので防がれ、流される。
「特殊手甲・桜花」。自身の拳への負担も減らしつつ敵への攻撃力も高める、アサヒの防具であり武器だ。
オープンフィンガーのこの手甲のおかげで、アサヒは敵の武器を気にせず「打」「投」「極」の全てを相手に仕掛けられるのである。

873名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:50:40

「ひ、ひぃぃ…」「く、くそっ…」

気付けば敵全員が距離を取って逃げ腰になっていた。
アイナ軍団でまだ立っている者はもう300人にも満たない。形勢は逆転である。
妙な槍に近付けば訳もわからず切り伏せられ、徒手空拳には武器が全く役に立たずに殴られ投げられる。
まさにビター・スウィート。たった2人相手に、屈強な賊たちは完全に震え上がっていた。

尚も敵を睨みつけ、最後まで止める気配のないモエミーとアサヒ。
ユカニャ王と果実の国軍兵たちは勝ちムードを感じ始めていた。

「いける、いけるぞ…!」「これなら…!」


だが荒くれ者たちを率い、一国を獲ろうとするアイナがそう甘いはずがなかった。

「しょうがねえな…お前ら、アレを使え」

指示を聞いた残存アイナ軍団たちは、一斉に懐からアンプルを取り出し、ビキッと割って橙色の液体を飲み干す。

その光景を見たユカニャ王の表情が一気に強張った。

「…いけない!あれは『オレンジジュース』!!」

874名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:38:03

「これは!?」「どういうこと!?」

モエミーとアサヒは驚愕した。
さっきまで腰の引けていたアイナ軍団たちからおびただしい量の殺気が発せられていたからである。

「ククク…きたきたきたぁ…」「こっからはオレらのターンだぜぇ…」

血走った目でこちらを睨み返してくるアイナ軍団。一歩、また一歩と2人への距離を縮め出す。
ユカニャ王は必死に叫んだ。

「モエミー!アサヒちゃん!今のその人たちは危険すぎる!!」

875名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:40:18

ユカニャ王が開発した、人間の潜在能力を引き起こす不思議なジュース。

現存するジュースは、リンゴ、レモン、グレープ、メロン、そしてピーチの5種類。

だがそれらを開発するにあたって、ユカニャ王が最初に作り上げたプロトタイプのジュースがあった。
つまり全てのジュースの原点、それが「オレンジ」である。

オレンジは画期的だった。
動物実験の段階でも各能力を飛躍的に増大させ、果実の国の未来を担うものと期待された。

しかしオレンジは絶大なる力をもたらすものの、当然ながら身体への負担が大きすぎた。
そこでユカニャ王は総合的な能力アップよりも、負担を減らし各能力に特化させることへと運用方法を変更する。
オレンジの複合的な能力を5つに分散することにしたのである。
それが今の5種類のジュースなのだ。

そしてそこに至るまでの検証において、自ら治験に志願した者がいた。
それがKYAASTだったアイナ・ツカポン・アグリーメントだ。

アイナもかつては合同育成プログラムで優秀な成績を残した者の一人。
当時はカリン、サユキと並ぶKYAASTのもう一人のA(エース)。戦場での活躍はめざましいものがあった。

だがアイナは更なる力を求めた。国を、皆を守れるもっと強い力を得てもっと強い自分になる。
そのために躊躇するユカニャを押し切って、少々危険なオレンジを飲んだ。
もちろん戦績は連戦連勝。彼女のおかげで果実の国は独立を勝ち取ることができたといっても過言ではない。
全てがうまくいっているように見えた。

しかしあの日、アイナは突然姿を消した。
同時にオレンジの原液も保管庫から消えていた。

876名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:42:45


あれから数年。
ユカニャ王はこんな形でオレンジと再会することになるとは思いもしなかった。

「くっ!いったい何が…?」「つ、強くなった…!?」

一方的にやられるだけだったアイナ軍団は今やビター・スウィート相手に十分渡り合っている。
当然だ、軍団全員がオレンジの爆発的な効果を享受しているのだから。
一太刀、また一太刀と徐々に攻撃を受け出す2人。こうなれば戦力差は目に見えている。

形勢は再逆転した。

かつて果実の国を救ったオレンジは、今や最悪な災厄の劇薬となって果実の国に帰ってきたのである。

877名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 21:05:22
本作を上手く掘り下げてるなぁ〜次も楽しみに待ってるとゆいたいです

878名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 22:12:35
オレンジジュース…別名つかポンジュースw本編の設定を受け継ぎつつも独自の発想盛り込んでくるの上手いなぁ

879 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/30(月) 08:54:21
「森の泡戸」ってなんだろうと思いましたが
フォレストアワードだったんですねw

880名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:41:51

「な、なんなんだこいつらは!」「うわああーーーーー!!」

あちこちから果実の国軍兵の悲鳴が上がる。
剣は避けられ矢も当たらず、斬っても斬っても立ち向かってくる超人と化したアイナ軍団。
集中力と動体視力が増大し、恐怖心も重力さえも感じない、リミッターの外れた荒くれ者たちに適うはずがない。
あっという間に果実の国軍の数は減り、後は100人程度がユカニャ王を必死で護衛するのみになってしまった。
このまま壊滅してユカニャ王の首が獲られてしまうのも時間の問題だ。

だがビター・スウィートもこの状況を黙って見過ごすつもりはない。

「モエミーちゃん、こっちもアレをやるしかないね」
「しょうがない…またダーティペアって言われちゃうけど、背に腹は代えられない!」

2人は構えを解いて印を結び、目を閉じる。
周りの空気が大きく対流していく。
ガレリアで異文化の高僧より教えを受けた「月と太陽の呼吸法」。
朝日と月光をイメージしながら行う呼吸法で、腹部の丹田を意識して呼吸をすることにより、
身体・細胞のすべてに太陽と月のエネルギーが満ちていく。
呼吸は深くなり、脳内にα波が発生し、2人の秘められた力が解放されていくのだ。

カッと目を見開いたとき、2人の表情は別人のように変わる。

燃える太陽の暗示を持つアサヒは激情を伴って瞳に炎を宿し、
静かなる月の暗示を持つモエミーの目は据わり瞳に狂気が宿る。

リミッターの外れた連中に遠慮はしていられない。
全力の本気で一度で意識を断つのだ。

「いくよ、まずはドラゴン」

モエミーがそうつぶやくと、一瞬にして九印でアイナ軍団たちの肩を貫く。
血飛沫が間欠泉のように大きく、高く噴出する。激しく燃え盛る火花のようでもある。
敵はあっという間にバタバタと倒れていく。

「続いてナイアガラ」

今度は大きく振りかぶって、並んだアイナ軍団たちの上半身を横一列に薙ぎ払う。
噴き出した血がまるで横長の滝のように噴き出した。

「そしてスターマイン」

九印の切っ先にフックされた敵が上空へと投げ上げられる。
モエミーは高速で移動しながら槍を捌いて敵を逃がさない。
それは次々と放り上げられ、空中で激突していく。
アトリウムにドカンドカンと轟音が鳴り響く。

モエミーの必殺技「大花火」。
人間を使った、あまりに衝撃的なショーである。
これはモエミーが誇りとする、自らの出身地の祭典になぞらえたものだ。

西方では満月は狂気を増大させると言い伝えられている。
このような衝撃的な仕打ちをモエミーが表情一つ変えずに行うのは、彼女が月の力を持つからに他ならない。
アトリウムに血の雨が降る。

「怯まないか…なら続けるしかない」

大花火は多勢向けの技であり、恐怖心で敵を圧倒する意味合いも大きいのだが、オレンジを飲んで恐怖心のないアイナ軍団にそれは通用しない。
いかに非情な技であろうとも、向かってくる限りはモエミーは人間花火を打ち上げ続ける。

881名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:43:14

「はぁぁぁ〜〜〜〜…!」

一方のアサヒは大軍を前にして、両手の指をしっかり畳んでギュッと拳を固め、力を溜める。
すると白かった手甲の桜花が見る見るうちに赤くなっていき、まさに桜色に染まる。

「たあっ!」

そして向かってきた最初の敵の腹に溜めた正拳突きを叩き込む。
するとどうだ、爆発音とともに敵は十数メートルも吹っ飛んでしまった。
鎧は破壊され、何人か巻き込まれた者も同様に意識を飛ばされている。

「なンだそれは…?」

先程までとは桁違いの威力になった正拳に足が止まるアイナ軍団。
でもそれがまた命取りになる。

「隙あり!」

またもや爆発音とともに数人が吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
明らかに異常な攻撃力である。
近接単体攻撃だけだったアサヒが複数を巻き込めるようになったのだ。

これはアサヒの桜花がガレリア秘蔵のオーパーツ金属を使った手甲であることの表れである。
桜花はアサヒの燃え上がる太陽エネルギーを吸収し、拳で解放するという機能を持つ。
これにより、太陽の力を使ったアサヒの正拳は、それだけで大砲一撃分とも言われる衝撃を放つことができる。
アサヒの両手が真っ赤に燃えて、敵を倒せと轟き叫ぶのだ。


力を解放して多人数攻撃を仕掛けるビター・スウィート。
だがオレンジを飲んで異常な力を得たアイナ軍団との戦闘をいつまでも続けるわけにはいかない。

「モエミーちゃん、残りをお願い!私がヤツを引き受ける!」

そう叫ぶとアサヒは眼前の敵を一気に飛び越し、奥のアイナへとダッシュする。
多人数戦にはリーチも長く攻撃範囲が広いモエミーが有利なのは事実。
よって疲労してしまう前に、単体戦向きの自分が首魁を仕留めようというのがアサヒの考えであった。

「おっと…もうオレと1対1をやろうってのか?」

腕組みしながら嘲笑う金髪のアイナ。ゆっくりとジャマダハルを装着する。

邪魔する軍団員を吹き飛ばし、スルリスルリと駆け抜け、ついにアイナの元へと到達したアサヒ。
ダッシュの勢いのまま飛び上がり、全てに決着をつけんと拳を振り上げる。

「痛いよ!覚悟しなさい!」
「フン!やってみろ!」

ガキィンという金属音と共に、両雄の剣と拳が交わった。

・・・かに見えた。

「・・・・っ!」

膝をついて悔しそうに胸を押さえるアサヒ。その手の隙間から流血が見える。
しかし一方のアイナのジャマダハルには血は付いていなかった。

アイナとアサヒの数メートル先に、5本の爪に付いた血を眺める異民族の女がひとり。
彼女が一瞬で飛び込んで、アサヒの薄い胸を切り裂いたのである。

「おう、外の掃除は終わったのか?カ・カよ」

アイナ軍団の隠し玉。
辺境の地から来た異民族の戦士。
野趣溢れる顔立ちのその女は、カ・カといった。

882名無し募集中。。。:2016/06/01(水) 00:43:43
長岡花火wそしてまさかのカ・カww茂木だっけ?ふーちゃんは無事アイナ軍団から逃れられたのか

883 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/01(水) 23:10:24
茂木が出る予感はしてましたw
桜に月に、ビタスイ楽曲(田﨑名義含む)の歌詞がよく登場しますね。

884名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:12:09

「アサヒちゃん!大丈夫!?」

モエミーが方天戟で敵を斬り上げながら声をかける。

「大丈夫…まだ…やれる!」

アサヒは立ち上がると胸の痛みを堪えながら構えを取った。

そんなアサヒを横目で見ながらアイナはユカニャ王に残念なお知らせを伝える。

「おい、外に隠してた残りの兵はみんなこいつが片付けてくれたそうだぜ」
「当てが外れて悪かったなユカニャ!ハッハッハッハ」

ユカニャ王は下唇を噛んだ。
アトリウムで迎え撃ちつつ、後半戦で隠していた兵を投入して奇襲を仕掛ける予定を見抜かれ、阻止されてしまったのだ。
カ・カを既に外に放っていたことからして、ビター・スウィート乱入以外のユカニャ王の作戦は読まれていたのだろう。
悔しいがアイナの方が一枚上手だった。

王の作戦が阻止されたのならば、後はモエミーとアサヒに全てが託されていることになる。
アサヒは自分を急襲したこのカ・カと呼ばれた女を必ず倒さねばならないと理解した。

構えを取って対峙すると、アサヒはカ・カを観察する。
先程の両手の爪は鋭く発達していてまるで獣のよう。
さっき使わなかったことから武器は持っていない、これはスピードや身体能力で肉弾戦を挑むタイプと見た。
つまりは自分と似たタイプ。
ならば尚のこと自分が倒すべき相手だ。そして最短で倒す道は見えた。

既にオレンジを飲んだ軍団兵にやられたりカ・カにやられた傷で、白い服も桜色に染まり出しているアサヒ。
一方、両の爪をこちらに向けて威嚇してくるカ・カ。
お互いにジリジリと少しずつ間合いを詰めていく。

床の土煙がパッと上がって、飛び出した2人の間でバシバシと激しい連打の攻防が展開された。
アサヒの的確な急所への拳撃を、カ・カも同様の攻撃で相殺する。
カ・カの攻撃は系統立っていないナチュラルなものであったが、それゆえに軌道が読みにくく、次第にアサヒも防御に回っていく。
そしてカ・カは自分が優勢と見るや更に手数を増やして連撃を加えてくる。
アサヒの腕や腹が少しずつカ・カの爪によってダメージを受けていく。このまま押し切られてしまいそうだ。

885名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:15:31

だがアサヒはあきらめていなかった。防御の型・「蕾」で自らの急所はガッチリと守りつつ、ある一瞬を狙っている。
上段への攻撃を蕾で逸らしたアサヒはついにカ・カの右手を取った。

「!!??」

アサヒはそのままカ・カの後ろに回り込み、その回転を利用して手首を反し、取った手を振り下ろして後ろに引き倒す。
合気道の片手取り四方投げである。急に後方に身体を倒されるこの技に対応するのは困難。
もちろん、異民族でそのような「技術」を知らないカ・カには効果覿面だった。
驚き、訳もわからず受身も取れずに後頭部を床に強打するカ・カ。
そこを逃さず、アサヒは顔面に向かって拳を打ち下ろした。

ドゴォ、という破壊音がアトリウムに響く。
見守る果実の国軍兵たちはカ・カの顔が潰れた音だと思った。

だが破壊されたのは床のブロックだけ。
カ・カはすんでのところで思い切り顔を背け、直撃を避けたのである。

「は、外した…?」

アサヒは驚いていた。これまで四方投げを初めて喰らって混乱しない人間など一人もいなかった。
しかも確実に後頭部を床に叩きつけたのに追い討ちの拳すらかわすなんて…。
先程カ・カの実力を見立てた時に、ここまでやれば対応もできず、拳の初撃でKOできると踏んでいた。
だが実際は仕留め切れず、特殊手甲・桜花による一撃必殺の爆圧の存在すら知られてしまった。

戸惑うアサヒを跳ね飛ばし、カ・カが飛び上がって起き上がり距離をとる。
後頭部を打ったダメージはあるようだが、アサヒの拳を警戒する目つきで睨みつける。

非常にやりにくくなってしまった。
アサヒは果たしてこのタフで獣人のようなカ・カをどう攻略したら良いのだろうか。

886名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:40:51
一瞬でも隙を見せるとカ・カは飛び上がって手刀で斬りつけてくる。
アサヒが辛くもかわすと後ろの壁に一筋の裂け目が入る。
お互いが一撃必殺、クリーンヒットした時点で勝負が決まるのだ。

こうなるとアサヒの狙いは一つしかなかった。
だがそれに向けての布石を打つのも、カ・カの止まぬ攻撃を避けながらでは並大抵なことではない。

上下左右から、袈裟懸けに爪で切り裂いてくるカ・カ。
桜花で防いだり受け流して正拳に繋げても、勢いのあるカ・カ相手に拳は空を切った。
前蹴りで間合いを広げつつ応戦するも有効打が出ない。

ナイフのように突いてくるカ・カの手を取って引っ張り、体勢を崩させる。
そこに顔面へ向けて渾身の手刀を振り入れる。
だがそれでもカ・カは後ろに仰け反って避けてしまう。
空振ったアサヒにはわき腹に貫手を入れられ、足を払われて倒される。
次の瞬間、カ・カの鋭い爪は寝た状態のアサヒの顔をかすめて床に穴を開けた。
すぐに転身して脱するアサヒ。頬から一筋の血が流れ落ちる。

ダッシュで間合いを詰めて攻撃を再開するカ・カ。
無言で静かに、だが激しく攻めてくる。まさに殺し屋といったところか。
前進しながら連撃を止めないカ・カ。受けながら下がりつつ機会を伺うアサヒ。

その時、振り下ろす爪の向こうでカ・カの口元が一瞬ニヤリと歪んだ。

「(何か来る!?)」

アサヒは前面からの攻撃への防御に意識を集中させる。
だが読みは合っていたが対策は外れていた。

「1対1とは言ってないよなあ?」

後ろからの声。
一筋の光と共に肉が切られる音がした。

「ッ・・・しまった・・・」

背中を大きく斬り裂かれ、膝から崩れるアサヒ。
背後でアイナのジャマダハルが血にまみれて嗤っていた。

カ・カは単にゴリ押し攻撃をしていたのではない。
気付かれぬようにアイナと挟み撃ちにできる位置へと誘導していたのだ。

アサヒを見下ろすカ・カとアイナ。
2人は仲良く右手を振り上げた。後は打ち下ろして終わりだ。
アイナのジャマダハルがキラリと光る。

「させるかぁーーーーー!!!!」

叫びと同時に方天戟が振り下ろされ、辺りの床ブロックが粉々に砕け散る。
アイナとカ・カは反射的に左右へと飛び退いた。
ようやく最後のアイナ軍団兵を打ち倒したモエミーが割って入ってきたのだ。

「アサヒちゃん!?」
「う、うん、、ごめん、ちょっとやられちゃったみたい・・・」
「こっちこそごめん!あいつらに手間取っちゃったから…」

即座にアサヒを守るように立ちはだかるモエミーの後ろで、よろよろとアサヒは立ち上がった。

「まだ立てるの・・・?」
「ふふ…モエミーちゃんを不利にはさせないよ・・・」
「アサヒちゃん…」
「モエミーちゃん、お願いがあるの」

887名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:41:39

「フン…あいつらめ、オレンジ飲んだならもうちょい粘れるかと思ったのによ」

アイナはジャマダハルを撫でながら吐き捨てた。

「これで2対2、ようやくオレの出番ってワケだ。さっさとやろうぜぇ!」

言い終わらぬうちに飛び掛ってくるカ・カとアイナを、前に出たモエミーが九印を高速回転させて弾き飛ばす。
そしてすぐに離れたアイナに向かって突進しつつ刃を高速で突きまくる。

「おっ、おっ?オレとやろうってか?」

アイナも受けて立ち、飛び下がりつつキンキンと金属音を鳴り響かせながら刺突を捌く。

「ほぅ、なかなか鋭い攻撃だな!だがこれじゃあお前の負けだぜ?」
「えっ?」

アイナの言葉に反応したモエミー。その後ろで大きな影が飛んだ。

「やれ、カ・カ!」
「!!!!」

またもこの2人による挟み撃ちだった。
2対2なのだから、モエミーがアイナを攻めるならカ・カはアサヒに向かうと思っていた。
しかしそれは勝手な思い込みで、完全なミス。
重傷のアサヒなど後でゆっくり相手しても遅くはない。ならば動けるモエミーを先に潰すのは自明の理。
モエミーが乱入した時点でアイナとカ・カは考えを合わせていたのだ。


2対1ではモエミーに勝ち目はない。
上空から両爪で切り裂かんと迫るカ・カ。
背後の上空から、しかも予想外の攻撃なら普通は反応できるはずがない。

だが、モエミーは九印をひらりと翻すと上空のカ・カに向かって突き上げた。

「!?」

空中への予想外の反撃に、慌てて切っ先をかわすだけになるカ・カ。
しかしモエミーが相手ならそれだけでは済まない。
切っ先を回転させて、横の月牙をカ・カに引っ掛ける。

「てぇぇぇーーーーい!」

長柄をぐるりと回し、カ・カの勢いを利用して逆に上空に放り投げ返す。
方天戟ならではの反撃だった。

「なんだと!?」

一連の行為があまりにも流れるように行われたことにアイナは驚いた。
なぜここまでモエミーは綺麗に反撃できたのか。
それはカ・カのバックアタックがモエミーの罠だったからである。
カ・カは「仕掛けさせられた」のだ。

888名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:42:35

この2人がアサヒより自分を優先してくることはモエミーにもわかっていた。
だからあえてアイナに攻撃を集中させて距離を取ることで背後に隙を作り、カ・カを飛びかからせたのである。
だが、突くことができたのになぜ斬らずに放り投げたのか。

それは「時間稼ぎ」だった。

上空に飛ばされたカ・カは懸命にバランスを取り、着地に備えようとしていた。
しかし放り投げられた先で、既に攻撃対象から外していたアサヒの姿が目に入る。

アサヒは腰を落とし、両肘を横腹につけて何か力を溜めている。
アサヒの周りの空間が、まるでプロミネンスのように激しいオーラで歪んでいるように見えた。

この時、初めてカ・カは自らの窮地を自覚した。
アサヒと自分の着地点には5mほど距離がある。近接攻撃のアサヒでは射程範囲外だ。
だが、アサヒはあの傷で何か大それたことを間違いなく企んでいる…。
そして空中にいる限り自分は避けることはできないし受身も取れない。
寒気がゾワッと全身を走った。

強敵、カ・カを倒すにはもうこれしかなかった。
この技は発動前に体内の気を練りに練って極限まで洗練しなければならないため、時間が必要なのである。
それは鍛錬を積んだアサヒには数秒に過ぎなかったが、殺し屋カ・カにはその数秒が命取り。
何とか自分でその隙を作ろうとしたがその前にやられてしまい、後は発動させるのが精一杯。
だからアサヒは代わりにモエミーにその数秒の時間を作ってくれるように頼んだのだ。

「アサヒちゃん、決めて!!」

モエミーはアサヒを信じて、その時間を作った。
アサヒはモエミーの信頼に応える。

カ・カは焦った。
早く、コンマ数秒でも早く、技の発動より早く着地できれば回避できる。
懸命に足を伸ばし、大地を求める。
早く、早く。

アサヒは落ち行くカ・カから目を離さず、左拳を前に突き出し、右拳を思い切り後ろに引き絞る。
そして最大級の気合を発し、右の正拳を打ち出した。


光。
大きな爆発。
それはまさに太陽フレア。


一瞬でカ・カは壁に激突し、大きくめり込んで動かなくなっていた。


自らの太陽エネルギーを最大限に高めて爆発させ、拳気にして放つ。
それは錬気なれば、目には見えず、離れた相手でも打ち砕く。
そこに在るのに見えない、雨夜の月。

アサヒの最終奥義『神手』が、見事に炸裂した。


「やったよ・・・ありがとう、モエミーちゃん・・・」

アサヒは力尽き、ばたりと倒れた。

889名無し募集中。。。:2016/06/05(日) 11:18:23
凄いバトルだ…読んでて鳥肌たった…

890名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 06:13:03

「・・・チッ」

カ・カが倒され、アイナ軍団も後は頭領のアイナひとりとなった。
ついに1対1、最後の闘いだ。

モエミーはアイナに対峙しながらアサヒの状況を伺う。
倒れたアサヒにはユカニャ王と残りの護衛がすぐに介抱にあたっていて、何とか大丈夫そうだ。

アイナは背後の倒れた自軍兵の山を見て、改めてモエミーに目をやる。
さすがのモエミーも、あれだけの数のオレンジ使用者を相手にした後では満身創痍。
至る所から出血があり、肩で大きく息をしている。
アイナは無傷の自分が負けるはずがないと思っていたが、念を入れることにする。

だがその懐に手を入れようとするのをモエミーは許さなかった。
あっという間に間合いを詰めた九印の刃がアイナの手に伸びる。

「させないっ!」
「おっと!?」

モエミーにはバレていた。アイナの懐には自分用のオレンジがあったのだ。
モエミーも今まで散々苦労させられたあの液体を今アイナに使われたらまずいと分かっている。
それだけは阻止しながら倒さなくてはならない。

突き、薙ぎ、叩く。モエミーは大きく器用に九印を振り回して、休まずアイナを攻める。
アイナはなかなかオレンジを手にできない。
足を薙ぐように九印を振り、ジャンプでかわしたところを斧のように上段から叩き切る。
アイナはたまらずジャマダハルでガードし、膝をつく。

すぐにモエミーは九印を引き、回転してアイナの顔に斬りつける。
アイナは前転でかわすがモエミーは逃がさず柄の部分を殴り当てた。

「くッ・・・」

怯んだアイナにモエミーの刺突連打が襲い掛かる。
だがアイナも伊達にKYAASTだったわけではない。

「懐に入ればオレの勝ちだろ?」

アイナの戦闘スタイルもカ・カ同様、いや尊敬する戦士と同様に、俊敏に立ち回り接近戦を手数で圧倒するタイプ。
突きをジャマダハルでずらしてダッキング、スッとモエミーの目の前に躍り出た。
こうなると方天戟のリーチがデメリットとなる。隙だらけのモエミーがそこにいた。

「終わりだッ!」
「そうはいかない!」
「なにっ!?」

確実に喉を突き刺したはずのジャマダハルが金属音と共に弾かれる。
アイナが目にしたのは柄の短い手槍を持つモエミーだった。
そのまま上段中段下段とコンビネーションで斬りつけてくる。
突然のモエミーの近接対応に不意を突かれたアイナはガード一辺倒。
何とかモエミーの一撃を強く叩いて飛び下がって距離を取る。

が、モエミーはそれも許さない。
下がるアイナめがけてぶんっとその手槍を振る。
すると当たらない距離に飛んだはずのアイナの太ももがズバッと血を噴いた。

「ぐうぅっ…なんだ…?」

アイナの足を斬ったのは、リーチの長い方天戟・九印だ。
なぜモエミーが2つの槍を使っているのか?

891名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 06:14:10

だがこれは簡単なことだった。
九印の柄には伸縮自在のスイッチが付いているのだ。
モエミーはこれで近接戦闘の際には柄を短くして手槍として使い、対応するのである。

「チッ、小賢しい真似をしやがって!」

再びリーチを取ったモエミーはさらにアイナを攻め立てる。
攻勢のモエミーにアイナは少しずつ圧され、生傷が増え始めていた。

アサヒの介抱は衛生兵に任せ、戦況を固唾を呑んで見守るユカニャ王。
ここまではモエミーがリードしている。
まだ安心はできないが少しずつまた勝ちの目が出てきた、そう感じ始めていた矢先。
ユカニャ王の視界の端を何者かが横切る。

「…え!? モエミー、危ない!!」

だがその声は遅かった。
モエミーの九印がアイナのガードを弾き、ついにその胸に刺さろうかというその瞬間。
ひとりの人物が間に飛んで入った。
九印はその人物に突き刺さり、動きが止まる。

「!!?? なんで・・・はッ!!??」

それはもう動けないはずのカ・カだった。
カ・カが最後の力を振り絞り、身を挺してアイナを守ったのだ。

だがこのカ・カの働きは単にアイナへの直撃を防いだだけではなかった。
これが今回のカ・カ最大のファインプレー。

「ありがとうよ、カ・カ…おかげでちゃんと『飲めた』ぜ」

カ・カの身体がずるりと崩れ落ちる。
モエミーの顔が凍りつく。

そこには空になったオレンジのアンプルを持ったアイナがいた。

892名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 20:27:51

「あ・・・あぁ・・・そんな・・・」

オレンジを飲んだアイナの強さをユカニャ王が知らぬはずがない。
またもや形勢は逆転してしまった。

「ぐはぁっ!」

反応もできずにモエミーの胸から血が噴出した。
今のアイナのジャマダハルより速く動ける者はこの場には存在しない。
モエミーの胸のサイズはアサヒより上ではあるが、ジャマダハルの斬撃をまともにくらえばひとたまりもないのだ。

「ぐ・・・がはぁっ・・・」
「モエミー!」

膝をつくモエミーの口から血がこぼれる。
ユカニャ王は震えながらも懸命に見守ることしかできない。

「フン・・・頑張ってくれたが、ここまでだな!」

モエミーの周囲にアイナの残像がババッと表れて消えると、更にモエミーの体中から鮮血が飛び散った。

「・・・くッ・・」

ここまでオレンジを飲んだ大軍を相手に立ち回って全滅させただけでも驚異的な粘りだというのに、
攻勢から一転、逆襲を受けたモエミーの体力も精神力も限界だった。

ここで自分が倒れたらユカニャ王の命が、果実の国が奪われてしまう。
しかし必死に意識を繋ぎ止めても、ボロボロの身体で振る方天戟には、威力も怖さも、もうない。
アイナはやれやれ、と言った表情で方天戟を受け止めると大きく遠くへ蹴り飛ばす。

「ここで見てな・・・果実の国の王位継承をな!」

そう言い放つとアイナは素早くモエミーの背後に回り、強烈な肘打ちを落とす。
モエミーは床面に叩きつけられ、もう立ち上がることはできなかった。

893 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/06(月) 22:54:39
緊迫したシーンなのにアサヒより上という一文が気になってしまう……

894名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:52:07

希望は潰えた。
絶望へのカウントダウンが始まる。

震えるユカニャ王に向かって一歩、また一歩と金髪のアイナが近付いてくる。

「う、うわああああああああああ!!!」

最後の護衛兵などアイナの敵ではなかった。ましてやオレンジを飲んでいるのだ。
為す術もなく斬られ倒れていく護衛たち。
ユカニャ王を守る最後の壁はあっという間に消えていった。

するとアイナの前に出る影がひとつ。
ひとりの護衛兵がブルブル震えながらアイナに話しかける。

「アイナ様・・・私のことをお忘れですか・・・?」
「新兵の頃より貴女に従い、貴女に育てて頂いた者です・・!」

それはアイナがKYAASTだった頃の部下の一人だった。
アイナの強さに憧れ、果実の国とアイナのために尽くしてきた一介の兵だ。

「お願いです、もうお止めください、このようなことは・・・」
「まだ間に合います、もう一度あの頃を思い出してください・・・!」
「貴女はそんな女性ではなかったはず・・・私は信じています、貴女g」

「うるせえよ」

言い終わらぬ内に兵は無残に斬り捨てられた。
それは氷。どこまでも凍てつく氷のように冷たいアイナの眼。
もう誰もアイナを止めることはできない。
流血の水たまりに足を踏み入れるアイナの靴に、黒い血がピチャリと跳ねる。

最後の護衛もあっけなく斬られ、この場に立つ者はいよいよユカニャ王とアイナの2人だけとなった。

「やめなさい・・!」
「ん?何の真似だそれは」

ピーチジュースが無くとも、ユカニャ王は王であった。
ガタガタと震えながらも、隠し持っていた護身用の小型拳銃デリンジャーを構えている。
意地でも、このままタダではやられない。

「そんな生まれたての小鹿みたいに震えてて、弾丸が当てられるのか?ははは」
「やめて・・これ以上近付かないで・・私にこれを撃たせないで・・!」

「アイナ・・やめましょう、こんなこと・・」
「泣き落としか?さすがあざといなユカニャ。だがここまで来てやめられるわけねぇだろ!」
「それでも・・・私は・・・!」
「やってみろ!!オレンジを飲んだこのオレが、そんなヘナチョコ拳銃を避けられないとでも思ってるのか?」

ユカニャ王は覚悟した。
ぎゅっと目を瞑って思い切り引き金を引く。

ぱん。

だがその結果は大方の予想通り。
アイナは余裕でかわし、ついでにデリンジャーも手から叩き落としていた。

万策尽きたユカニャ王は、力なく床に膝をついた。
昨日同様に、王の首に冷たく当たるアイナのジャマダハル。
もはやユカニャ王の命と果実の国の命運は風前の灯。
その首筋には、震えすぎて刃に当たった皮膚から薄く血が垂れ始めていた。

アイナは大きく息をつく。

「ふぅ・・・招かれざるゲストが2人も来やがったから手間取っちまったが、ようやくオレの望みが叶うってわけだ」
「ユカニャ!さぁ国民どもと、てめぇの胴体にお別れしな!」

ユカニャ王は今度こそ最期を感じ、強く目を瞑る。
国民たち、そして遠く戦いに赴いたKASTのみんな・・・ごめん。

「ユカ・・・」「ユカちゃん・・・」
「ユカニャ王…」「王様…」

わずかに意識のある全ての戦士が、ことの成り行きを歯を食いしばって見つめていた。

アイナはジャマダハルを大きく振りかぶると、
ユカニャ王の首めがけて斬り落とした。

895名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:53:57


金属音。

それも強い意志のこもった、抵抗の刃の音。



ユカニャ王は恐る恐る目を開いた。
まだ自分は死んではいない。

見上げると、ローブを深くかぶった人物が、アイナのジャマダハルをギリギリで受け止めていた。

「な、なんだ!?」

最後の最後に、予想もしなかった乱入に驚くアイナ。
だが本当の驚きはこの後にやってくる。

「悪いな・・・招かれざるゲスト、3人目だ」

まさかまだ奥の手を残していたのかと、アイナはユカニャ王を見た。
だがユカニャ王も何がなんだかわかっていない顔をしている。

「誰だてめ・・・ハッ!!??」

アイナは気付いた。
ジャマダハルを受け止めるその刃。裾からのぞく腕。
そして醸し出すこの空気。
アイナの表情が一瞬で強張り、急いで飛び下がる。

「つれないことを言うな。私が誰だかわからないか?」
 

アイナの身体中から、冷や汗がじっとりとにじみ出る。

知らないわけが無かった。
まさか。こいつは。こいつだけは。

その人物がゆっくりとローブを外し、素顔を見せる。


そこにいた全員が声を失った。


果実の国軍も、アイナ軍団さえも。
言い尽くせぬ衝撃が一帯を貫いた。


「私は・・・お前だよ」


なぜなら、

ローブを脱いだその人物、

その人もまた、アイナ・ツカポン・アグリーメントだったのだから。

896名無し募集中。。。:2016/06/06(月) 23:59:47
やばい…鳥肌がだった!いったいどういう事なんだ!?

てか本編作者さんどこ気にしてんのさw

897名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 21:20:35
??
助けに来た方が本物のツカポン?全然先がよめない

898名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:47:15

もう一人のA INA。

まったく同じ顔の2人のアイナ。


「て、てめぇは・・・!!」

飛び下がったアイナはようやく言葉を発した。

だがアイナ以外の人物たちは未だに状況が理解できていない。

なぜ同じ顔の人物が2人いるのか??
最初からいた方は金髪ロング、今来た方が黒髪ショート。かろうじて見分けは付く。

果実の国の国民たちが知っているかつてのアイナは黒髪ショートだった。
それにずっと共に戦ってきたユカニャ王だけは、黒髪の方からどこか懐かしい空気を感じていた。

となると、金髪の方が偽者のアイナなのだろうか??

「ど、どっちが本物なの…?」

先程まで生死の境目にいたユカニャ王が、止まらぬ震えを押さえながら聞く。

黒髪のアイナは落ち着いて答える。

「どちらも本物さ、ユカニャ王」

899名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:53:47

一同はますますわからなくなってしまう。
だが混乱する皆を前に、黒髪のアイナがゆっくりと口を開いた。

「わからなくて当然だ、私だって今も信じられないのだから」

そして金髪アイナをけん制しつつ、淡々と語り出す。

「今こそ語ろう、あの日に何が起きたのか・・・」



アイナがKYAASTにいた頃。
オレンジを飲むことでアイナは無双の活躍をしていた。
新しい力。国を守る力。KYAASTの大黒柱とまで呼ばれた。
仲間でありライバルでもあった、サユキやカリンをも凌駕する力、そして自分。
アイナは幸せだった。何もかもがうまくいっていた。

だがオレンジの強大な力の影響は、少しずつアイナの身体を蝕んでいく。
普段の自分とオレンジを飲んだ自分。その乖離に悩み始めた。
自分はこのままでいいのか、本当の自分の実力が追いついていないまま、戦い続けていいのだろうかと。

オレンジによる各能力の飛躍的な増強は、肉体は耐えられても、常人では精神が耐えられない。
よって脳は自己防衛的に、本人の中にオレンジを制御するための、もうひとつの仮想人格を作る。
そのおかげでアイナは戦場でもオレンジの力をいかんなく発揮することができたのだ。

アイナが本来の自分との乖離に悩むうちに、少しずつ、仮想人格の力が強まってくる。
オレンジをうまく扱い、成功を手にし続ける攻撃的な人格。
それはアイナの中にいる、もうひとりのアイナ。Aina I N Aina。
アイナは徐々にその人格を抑え続けられなくなりつつあることに怯えていた。
だがオレンジなしで戦場に出れば元の自分のまま。苦しかったが飲まないわけにいかなかった。

そしてあの日。
アイナが目覚めた時、もう一人の自分が『現実世界に存在』していたのである。
それが今目の前にいる、金髪のアイナだったのだ。

とても信じられない現象だったが、猛烈に悪い予感がした。結果はその通りだった。
金髪のアイナはオレンジの原液を盗んで遁走し、黒髪のアイナは事態を収拾しようと単身で追いかけた。

そして国境山中の崖まで追い詰めたものの、オレンジを飲んだ金髪アイナに返り討ちにされ、突き落とされてしまう。
こうして黒髪アイナは滝に飲まれ、行方知れずとなったのだった。

900名無し募集中。。。:2016/06/07(火) 22:59:31

驚愕の真実。
誰もが一言も漏らさず、黒髪のアイナの言葉に耳を傾けた。
だがその内容を疑う者はひとりもいない。
現にこうして目の前に2人のアイナが存在しているのだから。


「それから河に流されて、気付いたときにはアンジュ国の外れにあるサナトリウムにいた」
「そこのフユカという女性に助けられ、傷を治して、今までずっと暗躍するそいつを追っていたんだ」

「アイナ・・・あなた・・・ずっと一人で・・・ずっと独りで戦っていたのね・・・」

全てを知ったユカニャ王は、溢れる涙を抑えられなかった。

「どうして、どうして話してくれなかったの・・もっと早くに知っていれば・・・うぅ」

誤解だった。不幸な出来事に襲われただけ。脱走者でも犯罪者でもない。
黒髪のアイナはKYAASTだったあの頃と何も変わっていなかったのだ。

「報告が遅くなってすまない、ユカニャ王」
「そしてたくさん迷惑をかけてすまなかった・・・いくら謝っても許されることではないが」
「私は責任を取らなくてはならない・・・!」

黒髪のアイナはそう言うと、改めて金髪のアイナの方に向き直った。

「やっと会えたな、もう一人の私。この日をどれだけ待ち焦がれたことか」
「今日でこの運命ともお別れだ!私は私を取り戻す!」

「まさか生きていたとはな…あの時に死体を確認しておくんだったぜ」
「だが昨日までと何も変わらねぇよ。あの日からもこれからも、アイナ・ツカポン・アグリーメントはずっとオレだけだ!」
「今度こそ完全に存在を消してやる!」

金髪のアイナがジャマダハルを構える。
同時に黒髪のアイナもジャマダハルをその右腕に装着する。

ユカニャ王の心は震えた。
この姿。あれから何年経っても、今も忘れぬこの雄姿。
戦場を駆け抜けた、あのアイナとジャマダハル「梅茶香」。
希望が、もう一度この国に帰ってきたのだ。

「アイナ・・・!」

ユカニャ王を見て、強く頷く黒髪のアイナ。

正真正銘の、最後の闘いが始まった。

901名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 06:52:10
あぁ・・・俺達のつかぽんが帰ってきた
しかもここでふーちゃんの名前が出てくるなんて…アンジュ国にまだいたんだね
「梅茶香」=ばいちゃーこかw1本づつのジャマダハル…前作のチサトとアスナの戦いを思い出す

902名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:27:36

金髪のアイナが素早く踏み込み、足を刈るように斬りつける。
バックステップでかわし、即座にダッシュで距離を詰める黒髪のアイナ。
ドシュドシュッと風を切る重い音がアトリウムに響く。
金髪のアイナも負けじとしゃがみこんで避け、アッパー気味に突き上げる。
背中を反らせて最小限の動きでかわした黒髪のアイナが右腕で突くと、金髪が数本、風に舞った。

「ケッ…ちったぁ鍛えたようだが、まだまだ十分『見える』ぜ」
「オレンジが欲しくなったんじゃねえのか?クックック」

「私はオレンジは使わない。私自身の力でお前に打ち勝ってみせる!」

「面白れぇ、やってみやがれ!」

そう言うと一気にギアを上げる金髪のアイナ。
そのスピードは先程モエミーを斬り刻んだ時のように残像が出るレベルである。
高速で黒髪のアイナの周囲を飛び回り、かく乱する金髪のアイナ。
一瞬でも隙ができれば斬撃が襲ってくる。

「ハァッ!」
「くッ!!」

キンキン、と刃が交錯する音がする。
だがそれすら、倒れている一般兵では目が追いつかない。

かろうじて見えているユカニャ王だったが、心境は穏やかでない。
幼少より蹴球で鍛えた強靭な脚力もアイナの武器の一つなのだが、
やはりオレンジを飲んだ金髪のアイナの方が、スピードも力も優勢なのだ。
元々の力に加えて、重力も感じずリミッターも外れているのだから当然である。

徐々に凶刃は黒髪のアイナの身体に届き始めた。
黒髪のアイナの攻撃はほとんど当たらず、当てても防がれていた。

意を決したように金髪のアイナの移動先を呼んで足払いを仕掛けるも、
直前で空中に逃げられ、一回転した金髪アイナに肩を斬られる。

意表をついた裏拳で急襲しても、金髪アイナには払い流され、腹に思い切り膝を入れられてしまう。

「ぐふっ…かはっ…」

黒髪のアイナは明らかに劣勢だった。希望に暗雲が立ちこめる。
やはりオレンジの力は圧倒的なのだ。今の金髪アイナに勝てる者などいるのだろうか。

黒髪のアイナは集中が切れたかのように、大振りで何度もジャマダハル「梅茶香」を振り下ろす。
もちろんそれらは全てかわされ、逆に落ち切った右手を蹴り上げられ、梅茶香は外れて地に落ちた。

武器すら失った、黒髪のアイナ。既に負傷箇所も多く、肩で息をしている。
金髪のアイナが動きを止めてゆっくりと近付いてくる。

「ここまでだな…ノコノコ出てこなければそのまま生きていけたのに、馬鹿な真似しやがって」
「もう終わりにしようや。お前はオレに勝てない。潔く死にな、もうひとりの自分の手に掛かってなぁ!」

金髪のアイナはジャマダハルを引き、腰を落としていく。
最大スピードで一気に駆け抜けながら斬る、いや構えからして心臓を貫くつもりだろう。

今度こそ終わりだ。
武器すらない黒髪のアイナに防ぐ手立てなど残されていない。
最後の希望が、目の前で消え行く・・・。

だがユカニャ王は気付く。
黒髪のアイナの瞳の光が、まだ消えていないことに。
ダメージでフラつく身体の、その瞳の奥に確かな闘志を見た。

黒髪のアイナは、丸腰でも何か考えている。
ユカニャ王はその瞳の光に殉じることにした。
指を組んで、祈る気持ちで最期の攻防を見届ける。

(アイナ・・・あなたを信じてる!)

903名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:29:15

ここからの出来事は全て一瞬だった。
見えたのは、2人のアイナとユカニャ王、倒れたビター・スウィートの2人だけ。

黒髪のアイナが軽く腕を上げて構えると、金髪のアイナの脚に力が入る。
力は足の親指から発して膝、大腿、腰で前進する力に変換され、爆発的なスピードが生まれる。

もう次の瞬間には金髪アイナのジャマダハルの切っ先は、黒髪アイナの左胸に到達していた。

胸当てを貫き、服の繊維を切り裂いて進むジャマダハル。
その切っ先は、服を抜けて肌に触れ、表層組織を掻き分ける。
毛細血管が破壊され、鮮血が外へと溢れ出す。

だがその刹那、黒髪のアイナの目がカッと見開かれる。

何年も待ちわびたこの瞬間。
忌まわしき運命を越えて、今アイナの闘志が燃え上がる。
 

両手で胸を刺すジャマダハルごと腕を取る。

切っ先を外し、そのまま飛びつくように地面を蹴る。

右足は大きく振り上げて踵落としを後頭部へ、

同時に下からは渾身の左蹴り上げが、顎を目がけて加速する。

全力で腕を取られた金髪のアイナに避けることは不可能。

天と地から迫りくる、殺気をはらんだ風圧と戦慄。

次の瞬間、金髪のアイナの頭部は上下同時に、最大級の衝撃と共に蹴り込まれた。

因縁も、運命も、思い出も、後悔も、執念も、責任も、全て乗せて、

まるで大顎を開けたワニの如く、強烈で残酷に頭蓋骨を噛み砕く。

そして両脚は頭部を挟んだまま、体重を預けて身体ごと地に落とす。

それは因縁を断ち切る、とどめのギロチンであった。



素手だからこそできた、一度きりの大技。

仕掛けられた相手は問答無用で夢の世界へと連れ去られ、二度と戻ることはない。

黒髪のアイナが研鑽に研鑽を重ね、この日、このチャンスのために、磨き抜いてきた秘奥義。

その名も「夢王」、ここに完了。

904名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:31:23


終わった。
長い戦いが、今終わった。

ユカニャ王は未だ信じられないといった表情で目を見開いている。
それは倒れたままのモエミーとアサヒも同じだった。

黒髪のアイナは、ずっと、ずっと、この一撃に賭けていた。

いくら鍛えても、常人がオレンジに長期戦を挑むのが不利なのは自分が良く分かっていた。
集中力と動体視力が増大し恐怖心もないのだから、一度外してしまえば最後、2度目は通用しない。
だからこそ、オレンジの隙をついて一撃で確実に葬り去る必要があった。

ユカニャ王が悲しい事件でその力を失ったように、
オレンジの弱点は恐怖心のなさと、その力への驕りにあるとアイナは考えた。
特に使い続けている金髪のアイナなら尚更だ。

だからあえて攻撃を受け、自分の方が強いと自覚させ、愛用の武器すらわざと捨てて丸腰になったのだ。
そうすれば金髪のアイナには必ず油断が出る。
だが、それは一度きり。そのチャンスに決めきらなければ自分の負けであり、死だった。

果たして、金髪のアイナはフェイクも入れずに全力で心臓を狙ってきた。
突進の狙いさえ分かれば、ベクトルをずらして一瞬なら隙を作ることができる。

そして一撃必殺の「夢王」を叩き込んだのだった。


それは怖ろしい賭け。まさに命懸けの作戦だった。
勝負が終わっても、未だに黒髪のアイナは全身から冷や汗が止まらず、荒い息を吐いている。

どんなに怖くても、あきらめない。

最期まで希望を捨てず、心で勝つ。

これが黒髪のアイナの、たったひとつの作戦だった。


倒れた金髪のアイナ。もう動くことはできない。
ユカニャ王が近付くと、その身体はサラサラと灰になって崩れてゆく。
アトリウムに一陣の風が吹くと、その灰も風に乗って散っていった。

こうして、数年前からの因縁の全てが終わったのだった。

905名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:35:02



「アイナはこれからどうするの・・・?」
「さあ、まだ何も決めていないな」
「もし、もし良かったら・・もう一度・・」
「いや、それはダメだよ、ユカニャ王」

ユカニャ王の申し出に、アイナは首を振ってきっぱりと断った。

「一連の事件の原因は全て私にある。迷惑をかけた責任は取らなくてはならない」
「・・・その気持ちだけ頂いておくよ、ありがとう」

そしてアイナはいずこかへと旅に出た。

ユカニャ王は忘れないだろう。
オレンジの運命に翻弄された一人の戦士のことを。
そして本当の実力を身につけ、オレンジの運命に打ち勝った、誇るべき友のことを。

さようなら。
そしてありがとう、アイナ。




全てを終えて、ユカニャ王は玉座で物思いに耽る。

今回の一連の事件のこと。
奇しくも、「ジュースへの決別」という同じ選択をしたアイナとKAST。
開発中の"NEXT YOU"。
そして宿敵"ファクトリー"。

KASTと、果実の国の未来のために、
王として取るべき選択は。

窓の外には曇り空が広がっている。

大きく息をつくと、ユカニャ王はゆっくりと目を閉じた。


(終)

906名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 22:38:37
以上です
お付き合い頂きましてありがとうございました

907名無し募集中。。。:2016/06/08(水) 23:59:34
何故ユカニャ王は力を失ったのか?
開発中の"NEXT YOU"とは?
アイナと再び出会う事はあるの?

気になることは沢山あるけどまずは完結乙でした本編の物語が進めばまた新たな外伝も出てくるのかな?

908名無し募集中。。。:2016/06/09(木) 22:04:19
上二つは本編に記述がありますね
最後のはどうでしょうね



ちなみにつかぽんには「オレンジジュース」という持ち歌が本当にありますw

909 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/10(金) 01:23:53
外伝さん、お疲れ様でした。
緊迫感のあるバトルシーンが楽しめただけでなく、
「KASTが居なくなったら国防はどうなるの?」という本編のツッコミ所を補っていただいたことについても嬉しく思ってます。

アイナやビタスイが本編に出る事は有りませんが、ユカニャ王は重要な役回りで再登場する予定です。
その際には今回のお話を意識してしまうかもしれませんね。


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